クロスレコード (253)
しおりを挟む

プロローグ

 

 

とある場所に教会があった。特に変わったようなところは無いが、そこでおおよそ神とは縁がなさそうな若い男が中央の十字架を見ながら立っていた。

「どうしたの?こんなとこで?」

そこへやって来たのは長髪の少女だった。髪飾りなどはつけていないが右半分が青色左半分が緑色という奇妙な髪色をしており、目のオッドアイはその色の左右が逆になっている。

「なぁ本当にこのまま続けるべきなのか?本当にこれしか方法はないのか?」

「今更止められない。ここまでどれだけ多くの時間を費やしたかはあなたにも分かるはず。それにこれが叶えばまさしく全人類が理想郷へとたどり着ける。ほら、頼まれた水」

そう言って少女は男に水を投げ渡す。水を受け取った男は長椅子に座り、蓋を開ける。

「その理想郷にたどり着くために何人が犠牲になる?」

「少なくとも未来にはそれ以上の人間が救われることになる。そしてあなたは長年望んだ願いを、決して叶えることが出来なかった願いをようやく叶えることができる」

「それは本当に正しいことなのか?今ある命を犠牲にすることが本当に?」

男は足元の床を見ながら問う。その様子は少女というよりまるで自分自身に問いかけているようだった。

「そうね。たとえこの先どうなっても殺すという行為は正しくはないのかも」

「なら…うっ!?」

飲んでいた水を落とし、座っていた男は床に転がり落ちる。

「だから私が全部やってあげる。あなたが望んだ願いを、あなたが背負う罪を私が代わりに背負う」

「お前水に…!?何でっ…!?」

信じられないといった様子で男は少女を見る。

「この先に進んだらあなたは戻れなくなってしまう。いつか誰かを犠牲にすることに耐えられず、自分を見失って今度こそ本当に壊れてしまう。だからこの先には連れていくことは出来ない」

「安心して。毒が入っているわけじゃないから。だけどこれであなたと私は終わり。もうあなたが苦しまなくてもいい世界を私が作る」

それを聞いた男は何か言いたげに口を開こうとするがその前に意識が途切れてしまった。するとその体の下に突如穴が開きその体は沈んでいった。

それを見た少女は扉を開け、決意を秘めた目をしながら誰もいなくなった教会を後にする。

 

後にこの少女が起こした騒動は文字どうり世界を巻き込み、定められた人々の運命を大きく変えることになる。そしてこれは世界を変えようとした者達と世界を守ろうとした者達の、あり得なかった運命をめぐる物語である。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

霧雨魔法少女店 
1話 神浜の傭兵と白黒の魔法使い


その世界には魔女という名の怪物がいた。魔女は人々を襲い災厄をまき散らす。そんな魔女たちを倒すために、願いを代価に戦う運命を強いられた少女達がいた。それが魔法少女と呼ばれる存在だった。

 

ここは新興都市神浜。この都市の暗い夜の中、電灯の下で茶色の髪をした美人であるが少し冷たい印象を受ける少女と明るそうな黒い髪の少女が二人ベンチに座っていた。

「あとどれぐらい?」

「5分。まぁいくらあの子でも時間は守ってくれるでしょ」

「いや、別にそういうことじゃないんだけど…」

「…ねぇ広美、あの子には悪いけどさ、もう行かない?」

「えっ!?何で!?」

まさかの発言に大人しそうな少女、広美が驚く。

「だってあの子が来たって正直迷惑じゃない」

「でもそれはいくらなんでも…」

「あなたお人よしすぎるわよ!あの子のせいで何度私達が危ない目にあったか…!ここに書き置きの紙と今回の契約料置いていったら納得するわよ!」

「でも菊ちゃん!約束破るのは良くないよ!」

「もともと評判だって最悪だったのよ!あなたが可愛そうだっていうから我慢してきたけど、これ以上一緒にいたら何が起きるか…!」

そんな言い合いをしていると、二人の耳に誰かが走って向かってくるような足音が聞こえてきた。

「よー!待たせたな!」

「フェリシアちゃん!」

そこに現れたのはまだ小学校を卒業したかどうかの瀬戸際にいるであろうオーバーオールを着た金髪の少女だった。

「何かでかい声が聞こえたけどどうかしたのか?」

「ううん何でもない。とにかく、みんな揃ったしもう行こう!」

「ちょっとまだ話は終わって…」

広美は話を切りだそうとした菊の手を引き歩き出す。

なんのことだか分からないフェリシアはそれに着いていく。

「で、どこにあるか分かってんの?」

「うん、さっき見つけたんだ」

「じゃあいこうぜ」

広美はこのときのフェリシアの声が低くなったように聞こえた。

そして三人は目的の場所へと向かうため町の通りを歩く。もう夜になるが、新興都市であるこの場所は所々に明かりが見える。

(ねえ、ちょっと)

菊が()()()()()()、広美に話しかける。

(どうしたの?)

広美も声を出さずにそれに応える。

(やっぱりこの子雇い続けるの考えなおさない?)

(もう菊ちゃんたら。そんなにフェリシアちゃんと組むのやなの?)

(当たり前でしょ!この子がチームがいると…)

「おい!あったぞ!」

いつの間にか広美達を追い越していたのか、先頭にいたフェリシアの怒鳴るような声にハッとなり、二人は前を確認する。小さなビルの陰。そこを奥に行くと光る門のようなものが見えた。見づらい位置にあるが彼女たちにはそれがそこにあることを感じることが出来た。

そして門の前に立つと彼女たちの手に宝石のようなものが現れる。

次の瞬間彼女たちの姿は普段着から全く違う姿へと変わった。

牛のような角とゴーグルを付けた帽子を被り、スカートを履いた姿になったフェリシアは自身の背丈よりも大きなハンマーを手に携える。

菊はバレエのような衣装に双剣、広美はレンジャーの姿にブーメランとそれぞれ劇の舞台でするような恰好をしながら何かを倒すための武器を持った姿へと変わった。

そう、彼女たちこそ人々に災厄をまき散らす魔女を倒すための存在、魔法少女なのである。

「じゃさっさと行こうぜ」

そしてフェリシアが門に触れるとその体はどこかへと消えていった。

それに続き成美と菊が門に入る。こうして三人は魔女の潜む結界の中へと入っていった。

 

「ねえ、どうする?」

不気味な絵の中のような光景が広がる中、結界に入った三人目の前には巨大な()()がいた。まだそれは遠くにいるが、確かにこちらを見つめながらゆっくりと近付いてくる。それを見やりながら、広美が二人に尋ねた。

「そうね…広美がここから攻撃して崩したところで私達が一気に詰める。崩せなくてもちょっとした隙はできるだろうからそのまま攻撃。その後広美は一歩引いたところで援護。そんなとこでどう?」

広美の手にはブーメラン、菊の手には双剣がそれぞれ握られている。巨大な魔女に対してそれらは小さく見えるが魔法少女である彼女たちに限っては話は別だ。

「分かった。それでいいよ」

「フェリシアもそれでいいわね?」

「魔女…」

「え?」

見るとフェリシアは怒りで満ちた表情で魔女を睨んでいた。

「魔女!!」

そう言い放つとフェリシアは一人で魔女のもとへと突っ込んでいった。

「ちょっと!フェリシアちゃん!」

「待ちなさい!あぁまたっ…!」

慌ててフェリシアを追って菊が前に出る。広美もそれに続く。

三人が出ると同時に周辺に小さな悪魔のようなもの達が現れた。魔女の使い魔だ。

使い魔達は爆弾を投げてフェリシア達を攻撃する。投げられた爆弾は地面に当たるのと同時に爆発し、辺りを巻き込む。数多く投げられた爆弾により辺りはすっかり土煙に包み込まれた。

「てりゃ!」

しかしそんな中フェリシアは爆弾を回避し、握りしめたハンマーで使い魔を薙ぎ払いながら魔女のもとへと突っ走る。

「邪魔すんな!お前ら雑魚に様はねぇんだよ!」

「フェリシア止まって!危ない!」

「フェリシアちゃん!私たちの話を聞いて!」

二人はなんとかフェリシアを引き留めようとする。がフェリシアは二人の声に全く聞く耳を貸さず、フェリシアは暴走し続ける。

「菊ちゃん!」

「っ!?」

空を飛ぶ使い魔達が現れ、上から爆弾を落とす。小規模の空爆のようにも見えるそれらを避けようと菊は急いでその場から離れようとする。しかしギリギリ間に合いそうにない。

「間に合わない…!」

もはやこれまでと菊が諦めかける。

「私に任せて!!」

広美は持っていたブーメランを空へと投げる。投げられたブーメランは文の上にある爆弾に当たり、爆弾を空中で爆発させた。

「大丈夫!?」

広美が菊に駆け寄る。

「ええ…大丈夫よ。ありがとう。助かったわ」

「ううん、いいよ。だって菊ちゃん達をサポートするのが私の役目だもん」

一方フェリシアは勢いそのままに魔女へと突っ込んでいた。

魔女はフェリシアをとらえようと大きな腕を伸ばすが、その小さな見た目からは考えられない力を持つ魔法少女のハンマーにより弾かれた。

「フェリシアちゃん逃げて!」

爆弾を投げ終えた使い魔達がフェリシアに襲いかかる。

次の瞬間突如現れた双剣が使い魔の襲撃を阻んだ。

「無茶しないでよ!こっちまで危ないじゃない!」

一瞬でフェリシアの元に現れた菊は使い魔達を切り裂く。だがフェリシアは助けてくれた菊などお構いなしに突っ込んでいく。

「あのね!止まれって言ってるでしょ!」

「うるせぇ!オレ一人で十分なんだよ!」

フェリシアとその前にまで来た菊、二人が走っていると中央に佇む魔女の目の前にまでたどり着いた。

「りぁぁぁ!」

「ちょっ!?ストップ!」

興奮しているのか、フェリシアは菊ごと巻き込み魔女にハンマーを叩きこもうとしていた。

急いでかわし、なんとか巻き込みを喰らわずにすむ。

「セーフ…!何よあの子!私ごと潰す気なの!?」

だが魔女にハンマーは当たりその体勢が崩れる。

「魔女…お前は…!お前らだけは!」

フェリシアは思いっきり踏み込んで何メートルもあろう魔女の頭上まで飛び上がった。そして手に持つ大きなハンマーを振りかぶる。

「オレが全部ぶっ潰す!!」

振り下ろされたハンマーは魔女の頭をたたき魔女は崩れ落ちる。そしてそのまま起き上がることなくその巨体は消滅していき、その跡には黒い宝石のようなものを残していった。

そして魔女の結界は消滅し、中にいた三人はもといたビルの陰に放り出された。

そして先程まで3人は気づかなったが結界の中にいた人々も同時に倒れながら現われた。

「救急車呼んどいたわ。誰か来ると面倒だからここから早く離れましょ」

3人はすぐさまその場を離れ、暗い公園に辿り着く。

「へへへ、これで魔女は倒したぞ!」

先程までの剣幕はどこへやら、結界からでるとフェリシアは気の良さそうな明るい少女に戻っていた。

魔女を倒したことを確信し、三人は変身を解く。すると広美と菊が目配せをし始めた。

「なんだオマエら?こそこそなんか話してんのか?」

魔法少女なら誰でも出来る念話で話してると分かったフェリシアが尋ねる。

「…ねぇフェリシアちゃん」

「なんだ?」

「これ菊ちゃんが今回払うお礼の千円。それとこれ私の千円。あとあの魔女が落としたグリーフシード。全部上げる」

「えっ!?いいのか!?」

フェリシアはグリーフシードと呼ばれた宝石と普段よりも多くの報酬金を驚きながら受け取る。

「うんいいよ。ただその代わりに…」

そこまで言って広美が視線を逸らす。

「なんだよ?早く言えよ」

「…フェリシアちゃんには今日で契約を終わりに欲しいの」

「はっ!?なんでだよ!?」

いきなりの発言にフェリシアが怒鳴る。

「ごめんね…でもこれ以上組んでると私達が危ないと思って…」

「別にお前たちが怪我したりしたことはねーだろ!?」

「あのね、あなたが自分勝手な行動するのが悪いのよ」

菊が口を開く。

「何回言っても全然止まらないし、あなた一人で飛び出したせいでさっき私は危ない目にあった。それにあなたのハンマーに私潰されそうになったのよ」

そういいながら菊は語気を強める。

「それは…悪かったよ。つい周りが見えなくなっちまって…。でも別に良いだろ!勝てたんだから!」

「とにかく!私たちはあなたと組む気はもうないから!一緒に魔女倒してももう何も上げないから!」

「っ!そんなに言わなくていいだろ!」

フェリシアと菊は互いににらみ合う。

「フェリシアちゃん…。菊ちゃん…」

広美はどうにか場を収めたいがその方法が分からない。

「分かったよ!そんなに言うんなら抜けてやるよ!」

そう捨て台詞を残してフェリシアは走り去っていった。

「フェリシアちゃん!」

「ほっときなさい。追ったとこで何にもならないわよ」

そう言われて広美は足を止める。行ったところでチームを追い出す決断は変えられない。広美も今回の戦いでフェリシアをチームに入れておく危険性がよく分かってしまった。そうなった以上もう共に戦うことは出来ない。

だが目の前の状況を見ていることしか出来なかった彼女は、走り去るフェリシアを見ながらただその場に立ち尽くすことしかできなかった。

 

「ちぇっ!なんだよ!魔女さえ倒せりゃいいじゃんか!」

フェリシアは先程の怒りも収まらぬまま街を歩いていた。

「いっつもこーだよ!魔女は倒せるのになんでこーなるんだよ!」

神浜には他の街と比べ、非常に多くの魔法少女が住んでいる。そんな場所でフェリシアは魔法少女であることを活かし他の魔法少女を手伝う傭兵をやっていた。具体的な仕事内容は千円をもらうか、もしくは魔女を倒すことで手に入り、魔法少女の魔力の回復に必要な宝石であるグリーフシードを報酬とし、魔女退治に協力するというものだ。

だがほとんどは一回切りの契約で、それ以降フェリシアを雇い続ようとするチームはほとんどいなかった。大抵の場合先程のようなフェリシアの暴走にリスクを感じチームから追い出してしまうのだ。そのため神浜の魔法少女の間の評判も悪い。

そんなフェリシアは不機嫌なまま道をうろついていた。もう遅くだというのに家に帰らないのは彼女には帰る家も帰りを待つ親もいないからだ。

故に日々の食事は収入も大して入らない傭兵の仕事で賄っている。

そしてフェリシアがもらった二千円で何か食べようかと思い立ったときだった。

「おい」

後ろから誰がフェリシアを呼びかける。

「あぁん!?」

フェリシア不機嫌を隠そうともせずそれに応える。

そこにいたのはフェリシアと同じ金髪をした少女で、絵本でよく出てきそうな方の魔女の黒い帽子を被っていた。肩にかけた藁箒がそれっぽさを強調している。服装は白黒のメイド服のようなものを着ており、背丈は大体同じで年はそう変わらないようだ。

「随分荒れてるみたいだな。何かあったのか?」

「オマエには関係ねーし!てか誰だよオマエ!」

「お前深月フェリシアだろ?」

どうやら相手はフェリシアのことを知ってるようだ。

「そうだけど何?あっ、もしかして魔法少女?」

「傭兵やっているって聞いてきたんだが本当なのか?」

「あぁ本当だぞ。オレと契約しに来たのか?」

新しい契約への期待に先程までの不機嫌を忘れ、フェリシアは笑顔になる。

「まぁそんなところだ。といってもお前が思ってるのとは違うかもしれないけどな」

「ん?どういうことだ?」

「長くなるから今から家に来ないか?こんな夜更けに外で立ち話ってのもあれだろう?」

いかにも怪しい誘い方だがフェリシアはこうしたことに対する疑いを知らない。

「いいよ。どうせ誰かと契約しなきゃなんねーしな」

「…おまえ怪しいと思わないのか?」

「あ?もしかしてオマエ悪いやつなのか?」

フェリシアの目が釣り上がる。

「いや話がこじれそうだからもういい。ついてきな、案内するぜ」

しばらく連れられてやってきたのはある住宅街だった。そこまで遅くもないのに電気の明かりも見えないせいか閑静な場所に感じる。

「ついたぜ」

そういって少女が指さしたのは大分年季の入った洋風の家だった。ドアにかけられた板に七文字の漢字で何かが書いてある。

「きりあめ…?」

霧雨(きりさめ)。霧雨魔理沙ってのが私の名前だ。そして霧雨魔法少女店ってのがここの名前だぜ」

魔理沙は鍵を開け中に入る。スイッチを入れ電気を点ける。

「うおっ!?」

中に入って目に入るのは本や紙などの散乱物の数々。生ごみなどはないが、それでも片付けが得意でないフェリシアが驚くほどに中は物であふれていた。

「おっと、少し汚いかもしれないが気にしないでくれ」

「いくらなんでも酷すぎるぞ…!」

「昔っからこういうのは苦手でな。やる気にもならないんだよな」

「全然少しじゃねーぞこれ!足置けるとこほとんどねーじゃねーか!」

そう文句を言われながらも魔理沙は紙や本同士の隙間などを踏みながら奥に進んでいく。フェリシアもいつまでも文句を言ってもしょうがないのでそれにならい進んでいった。

歩く際中、床に散らばる本のタイトルを見ると魔法や化学に関するものが多く、何やら難しそうなものばかりなのでフェリシアは興味をもたなかった。奥にテーブルが見えると魔理沙は二つあった椅子の片方に座った。

「お前も座れ」

向かいの席にフェリシアも座る。

「で?結局何の用だよ?」

「そうだな早速本題に入るか。まずお前には傭兵をやめてもらうぜ」

「は?」

唐突に言われたことを呑み込めず少しの間フリーズする。しかしだんだんその意味を理解し、あまり高くないフェリシアの胸の中に怒りがふつふつ湧いてくる。

「なんで俺が傭兵やめなきゃないんだよ!」

フェリシアからしてみれば今は傭兵をやっているおかげで暮らしていけているのだ。それを突然やめろと言われて黙ってはいられない。

「お前仕事相手に相当迷惑かけてるらしいじゃないか。それで相当悪評が広がってるぞ」

「そんなのオマエには関係ないだろ!」

「いやそうでもなくてな。お前私とよく似てるとこあるだろ?おかげで私のことをお前だと勘違いする奴がいるんだ。ようはお前さんの悪評がこっちの商売にまで影響してるんだぜ」

そう言われてフェリシアは自分と魔理沙を見比べてみる。確かに二人はよく似ていた。金髪といい、どこか男っぽい口調といい二人をよく知らない人間が見れば勘違いしても仕方がないのかもしれない。

「でもそれはオレの悪口言ってる奴らが悪いんだろ!なのになんで俺が傭兵辞めなきゃないんだよ!」

「お前がまともに戦ってくれるならいいんだがな。聞いたとこによると何度言っても無茶な戦い方するらしいじゃないか?それでチームメイトを危険にさらす」

「別にいいだろ!それで勝ててんだから!オレは何言われても絶対に傭兵辞めねーからな!」

「最後まで話を聞け。今から私がお前を雇う」

「は?」

フェリシアはまた隙をつかれたような声を出す。傭兵をやめろと言われているのに言った本人に雇うと言われ当人は何が何だか分からなくなっていた。

「まさかお前の食い扶持を潰そうなんて思っちゃない。けどうち評判が下がるのは困るし、それに人手が欲しくてな。だから私とお前、両方の評判が良くなるまで家で働いてみないか?」

「オマエ突然何言ってんだよ…」

「何、こっちとしても強引に辞めさせるだけだと後味が悪い。お前宿無しらしいじゃないか?だったらこの家に住めばいい。飯も出すし必要なグリーフシードも渡すぜ」

確かにフェリシアには家も無いし、傭兵稼業では日々の食事にさえありつけるかは分からない。だが突然こんなことを言われては流石に困惑する。

「もちろんその代わり私の下で魔女退治とか手伝ってもらうけどな。だから勝手に他の奴の魔女退治を手伝うような傭兵業はやめてもらうぜ。どうする?」

フェリシアは考えた。元々傭兵業の報酬は半分ついでのようなもので、それより魔女を倒すことがフェリシアの主目的だった。その魔女狩りができるなら傭兵として雇われるのとそう変わりはしない。

それにいつまでもこんな状態ではいられない。悪評が広まっていることは自覚していた。いずれ変わらなければならないときが来る。フェリシアにもそれは分かっていた。

ならこの誘い、もとい契約はその変化のきっかけになるかもしれない。

「肉…」

「ん?」

「飯。肉は出るのか?」

「たまにならいいぜ」

「分かった。その話乗ってやるよ」

こうして深月フェリシアは霧雨魔理沙魔法少女店で働くこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 




10月5日 追記
一応知らない方に補足しておくと広美と菊はオリキャラの魔法少女です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話 願いと後悔

41UAありがとうございます
ペースは遅いかもしれませんが頑張って書いて行くのでどうかよろしくお願いします


フェリシアは魔理沙と契約した後、二階にある自分の部屋へと案内された。

部屋には机とベッドだけが置かれた質素な部屋だ。そこまで大きくはないが一人暮らすのには十分だった。意外にもその部屋だけは散らかっていなかった。ひょっとしたら気を使って片づけてくれたのかもしれない。

そして今フェリシアはその部屋のベッドの上で寝っ転がっていた。

「…なんなんだよアイツ」

ぽつりと呟く。フェリシアは本当に思いもしなかったのだ。突然家に住めなどといわれることなど。その日暮らしのような生活をしていたフェリシアにとっては願ってもない話だったが、こうも突然だと素直に喜べない。何か違和感のようなものを覚える。

「おーいフェリシア!夕飯の支度ができたぜ!」

フェリシアは下からのその声に応じ部屋を出る。一階に降りると家であるにも関わらず帽子を被ったままの魔理沙と並べられた料理が目に入る。フェリシアの目で見る分にはそれらは料理というより、スーパーか何かで買ってきた出来合いもののようだった。

「なぁ」

「なんだ?」

「肉ねぇの?」

並べられているのは米、野菜だけだった。

「悪いが今日はない。そのうち買ってやるから我慢してもらうぜ」

「ってことはしばらく食えねーってことじゃねぇか!牛肉出すってのは嘘だったのかよ!」

「たまにって言ったはずだぜ。そんな毎日出せるか」

フェリシアがさらに抗議の声を上げたそうな顔をするのを無視して魔理沙は席に着く。フェリシアもこのまま抗議しても仕方ないのでそのまま席に着いた。そして並べられた野菜を箸で適当につまんで口に運ぶ。

「どうだ?」

「悪くない」

「そいつは良かった」

それからいくつかのものを食べたが特に悪いということもなく普通の味だ。

しかしこうして家で何かを食べるのは久々で、フェリシアはどこか懐かしい気持ちになった。

「なぁ、お前なんで魔法少女になったんだ?」

「あ?」

「お前何の願いを叶えて魔法少女になった?」

そう魔理沙が尋ねるとフェリシアの箸を動かす手が止まる。

「オレは魔女を倒すために魔法少女になった」

「魔女を倒すことが願いってことか?そいつはまた何で?」

「殺されたんだよ。父ちゃんも母ちゃんも魔女に。そのときキュウベェがオレの所に来た」

キュウベェとは魔法少女の素質があるものの願いを叶え、その少女を魔法少女にする力を持つ喋る小動物のようなものだ。

「それでその魔女に復讐を?」

「あぁ、そいつを倒すためにオレは魔法少女になったんだ。けどオレはそいつがどんな奴だったか覚えてねぇ。だから全部の魔女を殺していつか絶対にそいつを倒す!」

魔理沙は思った。魔女に両親を奪われた復讐心。それが生半可なものでないのだろう。だが魔女は世界中にいくつもいる存在だ。それら全てを倒すことはどう考えても不可能なのは言うまでもない。当人にそれが分かっているのかは分からないが、もしこのままフェリシアが一生魔女を憎み続けるとしたらいつか無念のうちに復讐をあきらめることになるだろう。

(もしそうなったらそのときが…いや、やめよう)

嫌な未来を想像しようとしたところで思いとどまる。何故ならそれはおそらくもっと未来のことであり今考えるべきことではないからだ。

魔理沙はここで一旦話を切り上げる。流石にこのことについて安易に話を続けるべきないと思ったのだ。

だがしばらくたった後、ふと何かに気づいたかのように今度は魔理沙がその手を止めた。

「なぁフェリシア。さっきの願いについて何か迷ったりしなかったのか?」

「あぁ?どういう意味だよ?」

「お前の願い本当にそれで良かったのかってことだよ」

「ふざけんな!当ったり前だろ!なんでそんなこと聞くんだよ!」

フェリシアが強く怒鳴る。フェリシアにとって今の問いは自身の復讐の念を侮辱されたようで我慢ならなかったのだ。

「…いやいいぜ。悪かったな変なこと聞いて。今のは気にせず食べてくれ。あぁでも最後に一つだけ言わせてもらうぜ」

魔理沙が声のトーンを変える。

「お前これからどんなことがあっても後悔だけはするなよ。お前達は絶望したらそこで終わりなんだからな」

「はぁ?何言ってんだオマエ?」

「いつか分かるぜ」

そう言い残すと魔理沙はすぐに料理を食べ終え、食器を片付けその場を去る。

フェリシアにはそのときの魔理沙の顔が物凄く重い表情をしているように見えた。

 

「だー!全然分かんねぇ!」

フェリシアは食事の後、久々の風呂に入って自室に戻っていた。ちなみに寝間着は魔理沙のものを借りている。

そして先程魔理沙に言われたことについてずっと考えていた。

「何なんだよ!何を後悔しろっていうんだよ!」

フェリシアは魔女への復讐を誓って魔法少女になった。そこに何の未練も後悔もない。少なくともフェリシア自身はそう思っている。

「本とにアイツ何考えてんだ…」

まさか今までのことは自分をはめる罠で、このベッドに何か仕掛けられているのだろうか。

ふとそんなことが頭に思い浮かび乗っていた布団をひっくり返す。しかしやはりというべきかそこには何もなかった。

フェリシアも、んなわけないかといった感じで横になる。いくら考えても分からないものは分からないのでその日はもう魔理沙のいったことなど考えないようにした。

そして目を閉じてリラックスし、眠る態勢へと入っていった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話 暴走、再び

「おーい!」

「…」

「おい、起きろ」

「むにゃ…。何だよ…」

「もう十時だ!」

「もう少し…」

「いい加減起きろ!」

本当は寝ていたいが魔理沙があまりにしつこいので仕方なく起きることにした。

「お前どんな生活習慣してんだ。あのままだったら昼まで寝てただろ」

「うるせー…。少し位遅くなったっていいだろ」

「うちが客来るときは大体夕方辺りなんだ。それまでに仕入れに行くんだよ」

「仕入れって…どこ行くんだよ?」

「魔女退治」

その一言で寝ぼけていたフェリシアの目つきが一気に変わる。

「今日はグリーフシードを回収するついでにお前の腕前を見せてもらう。とりあえず仕度しとけよ」

フェリシアは身支度を整える。そして箒を持った魔理沙と共に外に出る。

「一つ言っとくが私にもし何かあっても病院?とやらに連れて行くなよ」

「どうしてだよ?」

魔理沙の妙な言い方を無視して尋ねる。

「色々事情があるのさ。まぁ血が止まらなかったり、見るからにやばい状況だったらいいが」

はっきりと疑問には答えなかったがフェリシアは気にせず頷いた。

「よし。じゃ早速探すか」

「なんだまだどこかにいるか分かってねぇのかよ」

「探すのも仕事のうちさ。それに全く見当がついてないわけじゃない」

そういうと魔理沙はポケットから何かを取り出す。

「なんだそれ?」

「簡単に説明するなら魔女のいるところを指し示すコンパスってとこだな。私達の分からない距離でも反応するんだぜ」

「すげぇ!めちゃくちゃ便利じゃねーか!」

フェリシアが羨ましそうにコンパスを見る。

「なぁなぁ俺にも一個くれよ!」

「こいつは作るのに手間取るんだ。そう簡単には渡せない」

「ケチ。そういやお前の仕事って何すんの?グリーフシード売るとか?」

「ま、それも一つだが全体としてざっくりいうんなら魔法少女専門の何でも屋ってとこだ」

「何でも屋?」

「まぁ、来るのは大体グリーフシード目当ての奴らだけだけどな。あとは魔法少女のレスキューなんかもやってる」

「へぇ…儲かんの?」

「いや全然。金のやり取りもやるがうちじゃ代わりに情報をもらってるな」

「情報?そんなもんもらってどうすんだ?」

その言葉を発したときだった。フェリシアは何かの気配があるのを感じた。

「その話はまた今度だ。分かるだろ?」

「魔女の反応…!」

そのままコンパスに従い魔女の結界に向かう。

すると突然フェリシア達の周りは先程までいた場所とは別の不気味なものへと変わった。

「どうやら魔女の結界に取り込まれたみたいだな」

フェリシアは魔法少女へと姿を変え、その手にハンマーが握られる。

「変身したか。じゃ先に進むぜ」

「おい!ちょっと待てよ!」

「ん?何だ?」

「お前変身してねーじゃん!そのまま行ったら危ねぇぞ!」

魔法少女は変身することで力を発揮する。だが魔理沙はフェリシアが言うように変身もせずに先に進もうとしていた。

「そういえば言ってなかったな。私は変身する必要がない。というか私は変身なんてできないんだよ」

「はぁ!?そんな魔法少女いるわけないだろ!?」

力を発揮するために戦うときには変身するはある意味絶対の共通ルールである。それをしないという魔理沙の発言がフェリシアには到底信じられなかった。

「ま、そんな奴がいても別にいいだろ。それに戦うぶんには問題ない」

「マジかよ…。そういやオマエ、ソウルジェムは?」

ソウルジェムとは近くの魔女に反応し、魔力の源にもなる魔法少女にとって欠かせない宝石である。大体の魔法少女は普段は指輪に変化させてつけ、魔法少女に変身したときなにかしらのアクセサリーにして付けている。

フェリシアは今その宝石を胸元と腰をつなぐチェーンに付けているが、魔理沙の方はそれらしきものつけているように見えなかった。

「ソウルジェムはない。言って見れば私の体そのものがソウルジェムの代わりをしてるんだ。だから本当はグリーフシードも必要ないんだよな」

「嘘だろ!?」

フェリシアが驚くのも無理はない。魔法少女にソウルジェムがあることも共通ルールなのだ。

というより魔法少女にしてみれば変身のことよりもよっぽど重要なことである。なぜならソウルジェム戦うための魔力の源であり、さらにその魔力を回復するためのグリーフシードは本来魔法少女同士が争うレベルで必要なものなのだ。

故に他の魔法少女からしてみればそれを必要としない魔理沙の存在はとんでもないイレギュラーなのだ。

「だから私は神浜の魔法少女達にグリーフシードを渡すことで魔女退治を許されてるんだ。さっき言ったとおりタダじゃないけどな。そんなことよりもほら、来るぞ」

言われるがまま前方を見るとそこには両手が大きなニードルになった大きな怪物… 魔女が現れる。そしてその周りを大勢の使い魔が囲っていた。

「よし、とりあえず一人であの使い魔達を倒してみてくれ。代わりに魔女は私がやる。いいな?」

そう聞いたが返事が返ってこない。不自然に思った魔理沙がフェリシアの方を見るとそこには憎悪の目で魔女を睨みつけているフェリシアの顔があった。

「魔女は…」

「おい待てフェリシア!」

「オレがぶっ潰す!」

魔理沙の制止も聞かずフェリシアが魔女の下へと駆け出す。周りの使い魔がフェリシアを襲うが、そんなものはただの邪魔といわんばかりに薙ぎ払っていく。

「無茶ってのはこういうことか…!フェリシア止まれ!」

だがフェリシアにその声は届かない。使い魔達を振り切り魔女へと向かう。近付くフェリシアに魔女がニードルを振り下ろす。しかしフェリシアのハンマーに打ち負けそれは弾かれる。フェリシアはその隙をつき一気に懐に飛び込む。そして渾身の一撃を入れんとばかりにその腹にハンマーを叩き込もうとした。

「これで…っ!?」

その瞬間だった。魔女の口の中にその大きさに見合うほどの大きいニードルがみえた。

フェリシアは本能的にそれがこちらに射出されるものだと察した。

「やべ…!」

慌てて回避に移ろうとする。

「うおっ!?」

急に後ろを何かに掴まれフェリシアの体は宙へと連れていかれた。

「バカ!勝手に一人で突っ込むな!」

フェリシアを宙へと連れて行ったのは魔理沙だった。箒にまたがり、フェリシアをつかみながら飛んでいる。

「うるせー!魔女は全部俺が倒す!」

「あっ!」

魔理沙の手を振りほどき魔女の下へと降下する。それを見た魔女は今度こそ逃がすまいと再び口のニードルを射出しようとする。

「二度同じ手が通じるかよ!」

フェリシアは空中でハンマーを振りかぶり魔女の頭へと投げつけた。魔女はとっさにハンマーを叩き落とそうとするが間に合わない。そのままハンマーは脳天に当たり、魔女は大きくバランスを崩し、動かなくなる。

そして地上に降りたフェリシアは落ちたハンマーを拾う。

「てりゃぁぁぁ!」

そのまま魔女の胴体にハンマーを叩き込み今度こそ渾身の一撃を食らわせる。その一撃を受け止めきれず、魔女は地に伏せ、そのまま消滅してしまった。

「ふー…ふー…。どうだみたか!?」

そう言って拾ったグリーフシードを魔理沙に見せつけた。

だが地上に降りた魔理沙の反応は片手で頭を抱え首を振るのみだった。

 

「魔理沙!」

「…なんだ?」

「なんでそんなに機嫌悪そうなんだよ!ちゃんと魔女は倒しただろ!?」

ニードルの魔女を倒した帰り道、魔理沙はずっと浮かない顔をしていた。

「なぁ、魔女が憎いのは分かるがお前どうにかしてあの暴走する癖治らないか?評判悪いのもあれのせいなんだろ?あそこまでだと後方支援もしにくい」

「別に倒せればいいじゃん!」

「一人で倒せない奴と会ったらどうする?大体今日も私が割って入らなきゃどうなってたか…」

「あんなの一人でよけられた!」

「とにかく次は私の話をきけよ?」

「フン!」

フェリシアは拗ねてそっぽを向いてしまう。

「言って治るなら今頃こんなことにはなってないか…」

二人はそのまま家へと帰った。

 

「ったく!なんだよあいつ!オレが魔女倒したのがそんなに気に入らねーのかよ!」

フェリシアは家に帰った後、昨日と同じく自室で魔理沙に対するいら立ちを募らせていた。

「大体なんだってオレの好きなようにやっちゃダメなんだよ!悪いのは全部父ちゃんと母ちゃんを殺した魔女じゃねぇか!なのにどうしてオレばっかそんな好き勝手されなきゃならないんだよ!」

フェリシアは思い出す。両親を魔女に殺されたときのことを。魔女に全てを奪われたときのことを。その怒りを。そして胸の中で魔女に対する憎悪の炎がたぎりだす。

「魔女は全部俺がぶっ潰す…!」

その夜、再びフェリシアは心の中で魔女に復讐を誓うのであった。

 

 

「ってことがあってな。正直あそこまでとは予想外だった」

一方魔理沙はあるところに携帯で電話をかけ、自室の机の椅子に座りながら今日のことを話していた。

「あなた大丈夫なの?戦いのこともそうだけど本当に彼女の面倒見てあげられるの?」

「おいおい別に世話してやるために引き取ったわけじゃないんだぜ。あいつにも色々手伝ってもらうさ」

「まぁあなたのことだし私からは何も口出し出来ないけど…。でもやっぱり大変そうね」

今魔理沙と話しているのは七海やちよ。神浜のベテラン魔法少女で、同時に神浜西の魔法少女達のリーダー的存在でもある。リーダーといっても代表のようなもので、今は誰かと組んで魔女退治をすることはしない。

「前にも言ったが食うもんには当分困らない。けどやっぱ一人で突っ込んでいくのはどうにかする必要があるな」

「それにしてもやっぱり本当だったのね。話も聞かず勝手に行動するって」

「あぁ。けど親を殺された恨みってのはそれ位強いもんなのかもな」

「え?どういうこと?」

「ん、まだ話してなかったか。まぁお前になら話していいだろ」

フェリシアが過去に何があったか魔理沙は伝える。

「そうだったの…でも魔法少女はみんな必死で命を懸けて魔女と戦っている。いかなる理由であれ他の魔法少女を危険にさらす行為は許されるべきではないわ」

やちよはあくまで一人の魔法少女としての意見を述べる。

「まぁどうにかできるように頑張るさ」

「何度もこういうこと言うのは気が引けるけど生半可なことじゃ多分どうにもならないわよ。両親を殺された恨みなんて一生かかっても忘れられないかもしれないだろうから」

「正直家出した私に同じことが起きてもそこまでになるか分からないけどな」

「大切な人を失った悔しさや悲しみなんて失って初めて分かるものよ」

「…悪い、無神経だったな。そういやみふゆの方はどうだ?あれからどうなった?」

「特に進展はないわ。やっぱりショックは大きいみたい。いつ立ち直れるか私にも分からない」

「そうか…。仕方ないな、立ち直るのを待つしかない」

「魔理沙。あなたはあの子に伝えるつもりなの?あのことを」

その質問に魔理沙はうーんと困ったような声を出す。

「少し悩む話だが、機会があれば話すつもりだぜ。魔法少女ならいつか必ずぶつかる壁だ。ならそのとき誰かが話してやらなきゃないだろ。まぁあいつはそれよりも…」

「他に何かあるの?」

「いや何でもない。報告はこんなもんでいいだろ。じゃあな、そのうちお前も誰か気の合う仲間を見つけろよ」

そう言って電話を切る。

「やっぱり慣れないなこういう機械には。魔法も使ってないのにどう動いてるのやら」

電源も切り携帯を机に置く。

「さて、どうしたもんかね」

天井を見上げながら魔理沙は考えていた。フェリシアがいずれぶつかることになるかもしれない残酷な真実。果たして本当に伝えるべきなのか。

その思考に身をゆだねている間にも段々とその夜は更けていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話 理解

ニードルの魔女を倒した翌日、朝に魔理沙とフェリシアはまた魔女退治へと繰り出していた。

「じゃ、今度はこっちの話を聞いてくれよ」

「…」

(やっぱり今回も言うこと聞いてくれそうにないな…)

元より魔理沙は話を聞いてくれることなど期待してなかった。だが少しでも動きを合わせられるようにするために一緒に行った方が良いと考えたのだ。

「フェリシア」

コンパスを出し、歩きながら話しかける。

「…なんだ?」

「そんなにあいつらが憎いのか?」

「父ちゃんと母ちゃんは魔女に殺されたんだ。だからどんなことがあっても絶対許さないし、許せねー」

フェリシアは拳を握りしめる。

「別に連携に拘ってる訳じゃないがあの暴走癖、お前に治す気があろうがなかろうがいつかはどうにかしなきゃならなくなるぜ」

「なんでだよ?」

「私はいつかここからいなくなる。そのときどうする?収入源が他の魔法少女と来たらそいつらと上手くやってかなきゃ食べるもんにも困るだろ。盗みでもやるなら別だけどな」

「それは絶対駄目だ!」

フェリシアが強く否定する。

「どうして?」

「だってそれじゃ同じじゃねぇか…!オレから全部奪っていった魔女と…!」

「なら、せめて話を聞くだけでもできるようになった方がいい。じゃなきゃお前の言うこともやることもただの自分勝手にしかならないぜ」

フェリシアが魔理沙をにらむ。そのとき二人は魔女の反応を察知した。

「この近くだな」

今度は魔女に取り込まれることはなく二人は結界の入口まで歩いて来た。

無言でフェリシアが変身する。

「じゃあ行くか」

「やっぱ変身しねーのかよ」

自分だけ変身して結界に入るということにフェリシアは違和感を覚えずにいられなかったが、魔理沙は普段から魔法少女のような姿をしているので格好自体は自然に感じる。

二人は結界に入る。まず最初に目に入ったのがあたりに散らばる魔理沙達の身を隠せるほど大きなおもちゃ箱だ。

そして中央には例のごとく魔女がいた。それは大きな丸い球体に羽を生やし、口さけ女のようにパックリと開いた口をこちらに向けて宙に浮いていた。

「さてと…」

魔理沙はチラリとフェリシアの方を見るとやはり怒りに顔を歪ませたフェリシアの姿があった。

「りゃぁぁぁ!」

またフェリシアが魔女の元へと飛び出す。

「まぁこうなるよな」

箒に跨り、飛んで魔理沙がそれを追う。

それを見た魔女は周りにサッカーボールほどの大きさのカラフルな色をした岩を浮かせた。一つだけでなく数十個はあるようにみえる。

「おい!来るぞ!」

岩は二人めがけ突進して来る。

「こんなもん!」

フェリシアはハンマーで振り払い一部を壊しながらかわすことで、魔理沙は空を飛び回りながら岩たちの突進に対処する。

そして近づくにつれ魔理沙たちを攻撃する岩の数が増えていった。

(妙だな…)

魔理沙は段々使い魔達の攻撃が避けづらくなっていくのを感じた。無論数が増えたせいでもあるが、それだけではない。

(私がよけた先に岩が来すぎている…偶然か?)

ただの偶然ならば問題ない。もしこちらの動きを読み、魔理沙の行く先に攻撃しているとしても空中にいるならばどうにかなる。さらにまだ迎撃もしていないので、すればさらに楽になるだろう。

だが問題は地上にいるフェリシアの方だ。

今のところどうにかなっているようだが、動きが読まれているとなるとこの先さらにきつくなるだろう。というより怒りのままに動くフェリシアの動きはかなり単純なもので、動きを読んでくる相手とは相性が悪い。

「下がれフェリシア!こっちの動き読まれてるかもしれない!」

「ハァハァ…この位…」

息を切らしてるところをみるに大部疲れてきているようだ。

(不味いな、このままだと最悪やられかねない…)

だがフェリシアは一歩も引く気はない。無理にでも突っ込んで魔女を倒すつもりだ。

「うおっ…!?」

そんな無理がたたったせいかフェリシアは転んでしまう。

「フェリシア!」

岩が迫る中フェリシアに気をとられたつい魔理沙は止まってしまう。だが岩達は幸いにも魔理沙をかすめるだけで当たることはなかった。

フェリシアの方も岩は全て外れ、当たった様子はない。

ひとまずそれにホッとする。

フェリシアは立ち上がり怒りのままに魔女へと突撃する。そしてハンマーを構え、岩の群れを向かい撃とうとしたときだった。突如光の弾が現れ岩とぶつかり、岩を破壊して消滅した。さらに光弾は次々と弾幕のように現れ、フェリシアを襲いくる岩達をまとめて破壊してしまった。

「何だ!?」

「私の魔法だ。ここは一旦引くぜ」

魔理沙がフェリシアの下に降りて来る。

「駄目だ!」

「無理するなよ。結構きついだろ。お前が復讐したいのは分かるがここは…」

「駄目だ!!」

フェリシアが叫ぶ。

「あいつが父ちゃんと母ちゃんを殺した魔女かもしれない…!ここで逃がしたらオレに一生あいつを倒すチャンスが来ないかもしれない…!だからここで倒さなくちゃダメなんだ!」

そのあまりに強い怒りと憎しみの込められた訴えに魔理沙は言葉に詰まってしまった。

ふと思ったのだ。大切な人を奪われ、突如たった一人になってしまった少女。さらに抑えきれないほどの怒りと憎しみをもったフェリシアをただ言い聞かせるだけで本当に良いのだろうか。もっとその心に寄り添ってやらなければならないのではないか。

そんな迷いが魔理沙の中で生じたのだ。

その隙をつきフェリシアは一気に魔女の方向へと駆け出した。

「しまっ…!」

「おりゃああ!」

突っ込んで来るフェリシアを向かい撃つため魔女は岩を突撃させる。フェリシアはそれをかわすがその先には別の岩が突撃しに来ていた。

「くっ…!」

無理やりかわす方向を変える。今度はそこに岩は来ない。

そのときだった。魔女の方を見たフェリシアの目に奇妙なものが映った。

(使い魔…?)

魔女をそのまま小さくしたような使い魔が魔女の近くに浮かんでいた。

そしてそれは今までの岩とは比べ程にならないくらいの速さでフェリシアに突っ込んで来た。

「なっ…!」

「よけろフェリシア!」

それは普段のフェリシアなら避けられただろう。しかし無理に攻撃をよけた直後だったので、体勢を変えるのが間に合わない。

次の瞬間、フェリシアは体にぶつかってきたものによって吹き飛ばされる。

「痛てて…あれ?なんともねぇぞ」

フェリシアは吹き飛ばされたものの大したけがもなく動く分には全然問題なさそうだった。立ち上がり、辺りを見回す。すると自分が吹き飛ばされる前より斜め前側に来ていることに気が付いた。

(おかしいぞ。前からきたやつに吹っ飛ばされたはずなのになんで前の方に来てるんだ?)

身体の痛みも背中の右側からぶつかったような感じだ。フェリシアは妙に思い自分が先程までいた地点を見てみる。するとその先に何か妙なものが転がっているのが見えた。

「っ!?魔理沙!」

そこに倒れていたのは魔理沙だった。フェリシアよりも大きく吹き飛ばされ、頭から血を流し、部屋の中ですら被っていた帽子さえも落とし気を失っているようだった。

フェリシアは急いで魔理沙の下へ向かい、担いで近くあった大きなおもちゃ箱の陰に隠れた。

「おい!しっかりしろ!おい!」

フェリシアが必死に呼びかける。

「そうだ出口…出口は!?」

フェリシアは先程まで気にもかけなかった出口を探す。しかし隠されてしまったのかそれらしきものは見当たらなかった。

すると呼びかけのおかげか魔理沙は目を覚ます。

「…おおフェリシア。良かった、無事だったんだな」

「何言ってんだよ!オレをかばったせいで…!どうしてこんな無茶したんだよ!」

「ついほっとけなくてな。気づいたら体が動いてたんだ…」

「何だよそれ…!なんだってそんな…!」

フェリシアには分からなかった。何故この間会ったばかりの自分を身を挺してまでかばってくれたのか。なぜいうことを聞かない自分にここまでしてくれるのか。その理由が全く分からなかったのだ。

魔理沙はそんなフェリシアの肩に手をおく。

「ごめんな。私はお前がどれだけ魔女を憎んでいるか、分かってなかった。なのに私は自分の主張をお前に押し付けてたんだ。勝手にするなって言いながら私の勝手を押し付けてた」

「こんなときに何言ってんだよ!」

「だからもう全部勝手にするな、何て言わない。けど一瞬、ほんの少しだけ我慢してくれないか?」

「だから何言って…!」

「あいつはこっちの動きを全部読み切って攻撃しに来てる。けどそれだけだ。こっちが止まったりすることを考えていない」

「!」

「どれだけ動きが分かってもあいつはピンポイントで遅い攻撃しかできない。だから攻撃して来る直前、それか最中、動きの途中適当なとこで一瞬だけ止まれ。それであいつの攻撃はほとんど外れる。そして近付いたら我慢した分思いっ切りあいつにぶつけてやれ。これなら聞いてくれるか?」

フェリシアはその問いかけに無言で頷いた。それを見ると笑顔を残し魔理沙は意識を失った。フェリシアは慌てるが気絶しただけのようだった。それを確認したフェリシアはひとまず安心する。

「フー…ハー…」

深呼吸をして気持ちを切り替える。

 

このときフェリシアは思った。

自分をかばい、守ってくれた魔理沙を今度は自分が守るために戦いたいと。

復讐のためだけに戦ってきた少女が初めて誰かを守るために戦いたいと思ったのだ。

 

角の帽子を被り直し再びハンマーを握り締め魔女の前へと躍り出る。

そして三度魔女の元へと突っ込んでいった。それを見た魔女は周囲の岩をフェリシアに向けて放つ。

(一瞬だけ止まる…!)

魔理沙に言われた通り魔女の攻撃の直前フェリシアは止まる。このときのフェリシアは自分でも驚くほど冷静だった。怒りを抱きながらもそれに促されるままでなくそれを抑えながらまるで機械にでもなったかのように動くことが出来ていた。そして魔理沙の言うようにフェリシアに向かっていった岩達の突進は岩の方から避けていくように外れていった。それに慌てたのか魔女は次々と岩を送り出す。だがフェリシアは動きの中で止まることを繰り返し岩をかわしていく。ついにフェリシアが目の前まで接近し後がなくなった魔女は岩の代わりに何十もの使い魔を呼び出しフェリシアに向けて放つ。

だがフェリシアにとってそれらは何の脅威にもならなかった。かわし、止まり、ときにはハンマーで薙ぎ払い使い魔の群れを突破する。

「ここまで我慢したぞ。もう良いよな」

フェリシアの中の感情が爆発する。魔女の元まで飛び上がりハンマーを振り上げる。そしてそこまで我慢してきた怒りを思いっ切り込めたそれが魔女へと振り下ろされた。

「これで、終わりだぁぁぁ!!」

フェリシアの感情の限りが込められた一撃。

平常時でさえ強大な威力を誇るそれは魔女を一撃で葬るには十分だった。

空中からフェリシアを見下ろしていた魔女は撃墜し、その体は消滅した。

結界が消えフェリシア達は結界の外へと戻ってきた。

 

 

「んん…ここは…?」

魔理沙が目を覚ましたのは夕暮れ時だった。周りを見渡し辺りに散乱している本や紙から自分のベッドの上にいることに気付く。頭など怪我した部分には包帯が巻かれ、出血は止まっていた。そこまで確認したとき、部屋のドアがガチャリと開く音がした。

「魔理沙」

部屋に入ってきたフェリシアが声をかける。その声はいつもより暗くしんとしているようだった。

「あの魔女はどうなった?」

「倒したよ。お前が倒し方を教えてくれたおかげで」

「そうか。ま、あれは半分賭けだったけどな」

「え?」

「私が止まってお前が転んだとき、攻撃を外したからひょっとしたらって思ったんだ。最悪その予想が外れてもあの魔女自体は大したやつじゃない。冷静に見ながら攻めていけばどんな魔法少女でも勝てる。だから一旦止まってしっかり攻撃を見極めるのが大切だったのさ。後はお前がしっかり落ち着けるかどうか、それだけが問題だった」

それを聞いてフェリシアはうつむく。

「ごめん…」

「ん?」

「ごめん魔理沙…。オレ、オレが勝手に暴れるせいで誰かが傷つくなんて考えてなかった…!」

「いや、今回のことは連れて行った私のミスだぜ。お前がいくら暴走しても大丈夫だろうとたかをくくってた」

「でも、それはオレが暴走しなきゃ…」

「いいんだよ。私の方こそ謝る必要がある。私はお前の気持ちを分かってなかったんだ。お前がどれだけ魔女を憎いのか、どれだけ親を大切に思ってたのか全然分かってなかった」

「謝らなくていい!悪いのはオレだ!魔理沙は勝手につっこんでったオレのせいで危ない目にあった!全部オレなんだ…!オレのせいで…!」

「私のことはもういいさ。こうして生きてるし、体もちゃんと動く」

そう言いながらベッドから起き上がり、立ってみせる。

「でも…!」

「なぁフェリシア、私は早くお前の暴走癖を治そうとちょっと急ぎすぎたんだ。お前のそれはそう簡単に治るはずないのにな」

「だからいいんだよ…!そんなことは…!」

「嫌なら治さなくていい。無理強いしないし、それでもここにいられる限りはお前を雇う。だからさ…お前はお前のやりたいようにやっていい」

「魔理沙…」

自分のことをここまで考えてくれる魔理沙をもう危ない目に合わせたくない。

そして二度と大切な人を失いたくない。

そんな想いがフェリシアの中に芽生えつつあった。

「オレ、暴れないようになるため頑張るよ!話もちゃんと聞けるようになって、もう絶対魔理沙を怪我させたりしない!」

新たな決意を秘めた目で宣言する。

「そうか…分かった。じゃ改めてよろしくなフェリシア」

そう言って魔理沙が手を差し出す。フェリシアはその手を取り、握りしめた。

「さて夕飯の支度でもするか。材料今から買いに行くぜ」

「いやオレがいくよ!お前怪我してんだから!」

「大丈夫、大丈夫。これ位なんともない。そうだ、ならお前も一緒に行かないか?荷物持ちがいると助かるんだが…」

「…分かった、オレも一緒に行くぞ!」

「よし、じゃ今日はお前の好きなものを作ろう。一応料理は出来るが何がいい?」

「マジで!?じゃあハンバーグ!」

「いいぜ。ただ作り慣れてないからお前も手伝えよ」

フェリシアはそれに笑顔でうなずいた。

こうして改めてコンビを結成した二人は今日の夕飯を作るため買い物へと向かうのであった。

そしてその日の夕食は久々の楽しい食事としてフェリシアの心に残り続けるのだった。




今回出てきた魔女はハロウィンシアターのときに出てきた魔女によく似ていますが、設定上はなんのつながりもないで、ご了承下さい。
次回からは他作品のキャラも出していきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話 混沌を呼ぶ少女

私は帰らなくちゃいけない。

あそこにはまだやらなきゃいけないことがある。

会わなきゃいけない人がいる。

だからここで待つだけなんて許されない。

なのになんで思ってしまうのだろう。

私が帰ればあの子に会える。

私の大切な、かけがいのない友達に。

でも私が帰ればあの人は永遠にどこかへ行ってしまう。

一人ぼっちになった私を拾ってくれたあの人が。

帰るしかない。なのに私は迷っている。

あの子に会いたい。

あの人とずっと離れ離れになんてなりたくない。

…ああ、あの人がずっとあの場所にいてくれればいいのに。

 

 

 

 

 

 

閑静な住宅街の昼下がり、木でできたドアプレートに霧雨魔理沙魔法少女店と書いた家があった。そしてその中では絵本に出てくる魔女のような帽子を被った少女――――霧雨魔理沙が一人、自室で本を読んでいた。

紅茶を飲みながらページをめくるとピンポン、と家のインターフォンが鳴る。魔理沙は読んでいた本を机に置き玄関まで行きドアを開く。

「よっ久々だな」

そこにいたのは魔理沙より背の高い一人の少年だった。上部の白を青で囲んだような配色をしたパーカーにジーンズを履いており、顔も悪くはないが良くもないが良いということないという黒髪の普通の少年だった。左手にはほうたいを巻いている。

「あんたか、確かに久々だな。とりあえず入っていいぜ」

魔理沙は扉を開け少年を家へ入れる。

そして少年が目にしたのは整理整頓という言葉をどこかへ置いてきたように散乱物が広がった光景だった。

「おい、前来たときよりひどくなってないかこれ?」

「仕方ないだろ。最近住人が増えたんだから散らかる量も倍になるんだよ」

「ちょっと待て!?こんなゴミ屋敷に人を住ませてるのか!?」

「ゴミ屋敷とは失礼な。匂うようなものは処分してるぜ」

「いやあったらやばいって!ないのが当たり前だから!」

「とりあえず奥まで行こうぜ。話はそこでだ」

二人は足の踏み場を探しながら奥へと行くとテーブルの椅子に座る。

「ちょうどさっき入れた紅茶があるんだ。飲め」

「お、おうサンキュ」

魔理沙は二人分のティーカップに紅茶を入れ、片方を少年に渡す。

「しっかしお前紅茶なんて飲むのか。意外だな」

「別にいいだろ。それよりわざわざここに来たってことは何かいい情報持って来たんだよな?」

「そんな大したもんじゃないだけどな…最近この町でちょっと気になるやつを見たんだよ」

「気になるやつ?」

「まだ爺さんでもないのに髭と髪を伸ばしたようなやつなんだが、そいつは俺が知ってる顔なんだ」

「それはつまり…」

「ああ、俺…いや()()()()()()にいたやつだ。貴族(メイジ)…じゃなくて魔法使いって言ったほうがいいか。とにかく魔法が使えるやつだ。ひょっとしたらお前が追ってる奴と関係あるんじゃないか?」

「ほぼ間違いないぜ。お前らみたいに簡単に世界を渡り歩けるような奴はそうそういないからな」

「別に簡単ってわけでもないけど…」

「それにしても大したことないっていう割には随分でかい情報くれたな。その情報だけでも私なら百万は渡すぜ」

「じゃあくれ」

「あいよ」

魔理沙はポンと札束を少年の目の前に置く。

「本気で渡すやつがいるか!っていうかこんなに渡していいのか!?」

「おいおい私は本気で感謝してるんだぜ。それにこの金はもらいものみたいなもんだし、その程度のならまだいくらでもある」

「お前どんだけ金持ってんだよ…」

「っていうかあんたの方こそ大丈夫なのか。他で働けないから生活きついだろ?必要ならもっと渡すぜ」

「いやこれ以上もこの金も受け取れねえ。俺だってプライドがある。大したことしてねぇのにこんなには受け取れねえよ」

「はぁ?やっぱり変な奴だなあんた。ならどうせもうすぐ渡す日だし、こいつは受け取れ」

そう言って百万から数十万ほどぬいて渡す。

「これでも大分多くないか?」

「十分すぎる成果出したんだ。せめてこれくらいは受け取れ」

「…分かった。ありがたくもらっとく。いつも悪いな」

「別に気にすることないぜ。色々と情報集めてもらってるし、いざとなったとき腹減って戦えないんじゃこっちが困るぜ。そのときが来たら役に立ってもらうさ。そうだ、あんたの恋人のことだが…」

「いや、あいつ恋人じゃないって…」

「へぇ、じゃ全くそんな気はないのか」

「それは…」

「まだ片思いってやつか」

「…」

「まぁとにかくルイズだったけ?そいつかも知れない奴の情報が入ってきたぜ」

「本当か!?」

「何でも桃色の髪の小さい女が絡んできたチンピラをぶっ飛ばしてるらしい。小さな見た目にそぐわず、かなり腕が立つんだとか」

「…多分そいつだな。ルイズの奴、あれでも結構腕っぷし強いんだよな…」

何かやられた覚えでもあるのか、少年は天を仰ぐ。

「今は見滝原ってところにいるらしいぜ」

「そっか。まぁあのルイズのことだ。しばらくは一人でもやってける」

「うん?すぐに行かないのか?」

「ああ、今のルイズには俺はもう必要ないからな…」

そう言うと、少年は寂しそうに笑った。

「おい、会いたいってのが隠れてないぜ」

「えっマジ?」

「別に会いたいなら会いに行けばいいんじゃないか?近くはないが行けないほど遠いわけじゃないぜ。心配なんだろ?」

「いやあいつが…ワルドが来てるなら簡単にこの町から離れるわけにはいかない。あいつが何するか俺にも分かんねえ」

「やばい奴なのか?」

「完全に悪い奴ってわけでもないみたいだけど…前に人を殺したことがある。そのせいですっげぇ悲しんだ人がいた。もう同じようなことをさせるわけにはいかねえ」

「そうか。そいつはお前のガンダールヴとやらでどうにかなる相手なのか?」

「大丈夫だ。あいつの強さが変わってないなら…いやもし少しくらい強くなっていても倒せるはずだ」

「そうか。じゃあ最悪一人でも戦えるんだな?」

「あぁ。俺はしばらくあいつを探してみることにするよ。なんかあったらこっちから連絡する。それじゃあ今日はこの辺で」

「こっちもなんかあったら連絡するぜ。それじゃまたな才人。気をつけろよ」

「おう、そっちも気をつけろよ魔理沙」

そのやり取りの後才人は魔法少女店を去った。

 

 

公園のベンチに緑髪の大人しそうな少女が座っていた。そこに活発そうな金髪の少女がやって来る。

「かこ!ジュース買って来たぞ!」

「ありがとう、フェリシアちゃん。これお代だよ」

「いいって、これはオレの奢りってやつだ」

「でもただもらうっていうのも悪いよ。せめてなにかお返ししなきゃ」

「本当にいいんだって!最近はそんなに金にも困ってないし!」

フェリシアも公園のベンチに座る。

「そうだ…魔理沙さんとは上手くいってる?」

「別になんともねーぞ」

「そう、良かった…」

「ん?なんでだ?」

「私ずっと心配だった。フェリシアちゃんがずっと一人でいるの。だから一緒にいてくれる人がいて本当に良かった」

「なんだ。かこはそんなこと思ってたのかよ」

「嫌だった…?」

「ちげー。お前もオレのこと心配してくれるんだなってそう思っただけだ。…ありがとな」

「うんうん、フェリシアちゃんは友達だから心配するのは当然だよ」

かこはそう笑顔でそう答える。

(そっか。オレのことそう思ってくれるやつ他にもいたんだな)

フェリシアはかこに自分の笑顔を返す。

この少女夏目かこはフェリシアが以前傭兵をやっていた頃に知り合った魔法少女の一人だ。フェリシアは傭兵としてかこのチームと組んでいたが当時暴れていたフェリシアは危険だという決定により破局した。しかしかこだけはその後も接し続けフェリシアにとって数少ない親しい友達になっていた。

「そういえば魔理沙さんってどんな人なの?」

「どんなやつかって…そうだな…なんかオレみたいに男みたいに話して、ちょっと頭がいいかもしれねーけど、なんかいつもえらそーにしてるって感じだな」

「えっとじゃあどこから来たのかとか分かる?」

「え?あいつずっと神浜にいるんじゃないのか?」

「少し前にいきなり現れてあの店をたてたんだって。当時は魔法少女の間で話題になったとか…」

「へー。よそものだったってことか」

「それで今でも結構謎が多くてソウルジェムもないから魔女なんじゃないかなんて話もあって…」

「あいつがか?んなわけねーだろ」

「でも不思議じゃない?ソウルジェムもない魔法少女って」

そう言われると確かにそうである。というよりそう思うのは当たり前である。ソウルジェムは魔法少女ならあって当たり前の物。それがないというのははっきり言って魔法少女ではないということだ。

「でもあいつちゃんと魔法使えんだよな…だからって魔女ってことはねーだろ」

「流石に私もそれはないと思うけど…」

岩の魔女の戦いから一ヶ月、フェリシアは魔理沙と共に仕事をしていた。

だが良く考えてみるとフェリシアは魔理沙のことを全く知らないことに気がついた。

一体どうしてソウルジェムが必要ない体になったのか、神浜に来る前は何をしていたのか、何故神浜に来たのか、両親はどうしたのか。色々と謎だらけだ。

「ま、別に気にすることねーよ。悪りーやつじゃねーし」

が、それらについて深く考えるようなことはしない。一か月、魔理沙は怪しい魔法の研究をしたり、軽くフェリシアといがみあったりしたが、魔理沙が到底悪人だとは思えなかった。何よりフェリシアは自分を拾い、身を呈して守ってくれた魔理沙をなんだかんだ信用している。故にフェリシアが魔理沙を疑うようなことはなかった。

「フェリシアちゃんがそういうなら大丈夫かな…ごめん余計なこと聞いて…」

「いいっていいって。でももしあいつが悪いやつだったらオレがぶっ飛ばすからさ」

「けど魔理沙さんってすごく強いんでしょ?それこそやちよさんくらい…」

「やちよって七海やちよか!?そうは見えねーけど…」

神浜最強の魔法少女は誰か。そう聞かれたら神浜中の魔法少女はまず七海やちよの名前をあげるだろう。フェリシアは直接やちよに会ったことがあるわけではないが魔理沙にそれだけの強さがあるとは思えなかった。フェリシアから見て魔理沙は確かに強いし、レベルの高い魔法少女が集うこの神浜でも上位の実力者であるのは間違いないだろう。だが最強クラスかといえば一つ物足りない、そんな気がしていた。

(何か力が出せねーワケでもあんのかな?)

「…ん?おっ、もう昼だ!なぁなぁ今日店で食べるけどどうだ?」

「ごめんフェリシアちゃんこの後用事があるからもう行かないと…」

「そっか。じゃあまた今度な!」

「うんじゃあね、フェリシアちゃん!」

挨拶をすませフェリシアは公園を出る。

「良かった…フェリシアちゃんのそばにいてあげられる人ができて…。本当のこと知ったときそばにいてくれる人が出来て…」

 

 

 

 

 

かこと別れた後、お腹が減ってきたのでフェリシアもすぐどこかで何か食べることにことにした。

「帰ったら魔理沙のこと色々聞いてみっか」

今まで魔理沙の謎など気にもしなかったが流石にあそこまで疑問が出てくるとフェリシアも気になる。だから色々聞いてみることにした。

「まぁどうせ大したことないだろうけどな」

公園から出て十分ほどたった頃、ファミレスが見えた。それを見てフェリシアはポケットに入った千円札を取り出した。

この千円は今日昼に使う食材がないからと魔理沙から渡されたものだった。

ファミレスならハンバーグくらいはあるだろう。大好きな肉が食べられる。そう思いフェリシアはすっかりご機嫌になった。そしてそのままルンルン気分でファミレスに入ろうとしたときだった。

ふとファミレスの前に立つ小さなバッグをかけたブロンドの髪をした少女に目が留まった。どうやらショウウィンドウの中にあるパンケーキのレプリカを見ているようだった。

その少女はフェリシアと同じ位の背丈で小さな黒いシルクハットを被り、まだ袖から手が出ない黒いワンピースのようなものを着ているというあまり見慣れない格好だった。

少し見ていると全体の配色や、時代に合わない格好をしているところが魔理沙と少しだけ似ていることに気付く。おそらくそれが理由で目に留まったのだろうとフェリシアは思った。

少女のことが気になったフェリシアがそのまま少女を見続けるとと後ろから不審な格好をした人物が現れるのが見えた。

「何だあいつ?」

少女は振り返りそれを見ると急いで駆け出した。不審者もそれを追い、二人はフェリシアの目の前から走り去る。

「…タダ事じゃねーみてーだな」

 

 

 

ブロンド色の髪をたなびかせながら少女は必死になって黒服の少女は走っていた。そしてその後ろからは追いかけてくる足音が響かせながら走る男の姿があった。

動かし続けた少女の足はもう限界が近づいており到底大人から逃げ切れるほどの速さは出せない。それでもなお少女は全力で走り続ける。

が、とうとう限界が来たのであろう。少女の足はもつれ転んでしまった。慌てて立ち上がろうとするが追いついた男に腕を掴まれる。

「いや!離して!」

「大人しくすれば何もしない。さあ大人しくに一緒に来い」

必死に抵抗するが振りほどけそうにない。それでも少女は捕まるわけにはいかなかった。

ここで捕まってしまったら故郷に帰れない、もう二度と大切な人達に会えないかもしれない。

そう思った少女はますます必死になり男の手を振りほどこうとする。

「くそ!大人しくしろ!」

諦めずに逃げようとする少女に業を煮やし男が完全に捕らえるためさらにもう片方の腕でつかみかかろうとしたときだった。

「ぐぇ」

うめき声をあげ、男が突然倒れた。

「え…?」

突然の自体に少女は状況を飲み込めなかった。

「おい!大丈夫か!?」

そう声をかけたのは追われる彼女を見ていたフェリシアだった。

「え、えぇ…大丈夫よ。もしかしてあなたが私を助けてくれたの?」

黒服の少女がフェリシアに尋ねる。

「おう!何かやばそうだったからドカンっと殴ったんだけどやっぱこいつ悪りーやつだったんだんだな」

倒れた男を見ながら言う。魔法少女は変身せずともずば抜けた身体能力を発揮できる。後ろから殴られたりすればたまったものではないだろう。

「あなたお名前は?」

「オレはフェリシア!」

「フェリシア…。ありがとうフェリシア!あなたがいなかったら私は捕まってしまうところだったわ!」

明るい元気な声で少女はフェリシアに感謝を述べる。

「別に気にしなくていいぜ。それよりオマエなんでこいつに追っかけられてたんだ?」

「私にも分からないの。それにこの人だけじゃなくてもう随分と前からいろんな人から追いかけられていて。本当どうしてなのかしら…」

「それじゃ今までずっとそいつらから逃げてきたってことか!?めちゃくちゃヤベーじゃん!危ねーことになったりしなかったのか!?」

「いえ、前まで一緒にいてくれた人がいてその人が私を守ってくれたの。だから全然大丈夫よ。今はもうその人もどこかに行ってしまわれたのだけれど」

そう言うとその少女は少し悲しそうな顔をした。それを見たフェリシアは今この少女は一人なんだなと察した。

「なーこれから昼に行かねぇか?」

「え?」

「元気なさそうだしさ、とりあえば何か食えば元気になるぞ!」

「えっと…遠慮しておくわ。またいつ追いかけられることになるかわからないもの。そうなったら今度はフェリシアが危ないわ」

「いいよいいよ。オレ強えーからさ、とりあえず行こうぜ」

「あっ、ちょっと…」

フェリシアは少女をこのまま一人にしては駄目だ、少しでも力にやってなければならない、と思った。だからまずは何か食べさせるのがいいだろうと自分なりに励ますことにした。

こうして黒服の少女はフェリシアに半ば強引に食事へと連れて行かれた。

 

 

 

 

休日の昼下りということもあるのだろう。そのファミレスの席は満員。家族連れやカップルが料理に舌鼓をうちながらそれぞれ休日を楽しんでいる。

そんな中まだ幼さの残る少女二人がテーブルを囲っていた。その様子が珍しいのか、通り過ぎる客は毎度毎度そのテーブルに目をやっていた。

「なぁ、オマエ何にも頼まねーでいいのか?」

従業員を呼んだにも関わらず何も頼もうとしない少女にフェリシアが食べるように促す。

「あっ、金がないならオレが奢るぞ!」

「いえ、お金はあるの。ただお腹が空いている訳じゃないし…」

「そうなのか?でもよー、せっかく来たんだからなんか食ったほうがいいんじゃねーの?」

「それじゃあパンケーキをいただこうかしら」

注文をし、何分かした後二人にはそれぞれパンケーキとハンバーグが運ばれて来た。

「やっと昼だ!腹減ったー!」

フェリシアは見た目通りの無邪気な子供のように喜ぶ。黒服の少女もパンケーキを前に笑顔を見せる。

「やっぱパンケーキ、好きなんだな!」

「えぇ!とっても!」

その笑顔のまま手早い手付きでパンケーキを切り、口元にまで運ぶ。その味にも満足したようで黒服の少女はパンケーキを口に入れながら何度も一人で頷いていた。

対するフェリシアもハンバーグに満足しており、二人は各々幸せな食事を楽しむ。

「なぁ」

「どうしたの?」

「お前家出してきたのか?」

少女は横に首を振る。

「じゃあ、家には帰らないのか?」

「私のお家は遠くの場所にあって、帰りたくてもすぐには帰れないの。実は今どうやって帰るか方法を探しているのよ」

「父ちゃんと母ちゃんは心配してるんじゃねぇのか?」

「…もういないわ。お父様も、お母様も」

少女は先程よりもさらに悲しげな表情を見せる。

「でも叔父様が私の面倒をみてくださっているの!きっと今頃心配しているわ!早く帰らなきゃ!」

つい見せてしまった表情をごまかすように少女は明るく振る舞う。

「そっか…。なぁ、一回うちに来いよ!変な研究しているやついるし、もしかしたら力になれるかもしれねぇぞ!」

「…駄目よ。あなたに迷惑をかけることになるわ。私を追いかけてくる人があなた達を傷つけてしまう…」

「でもよー、このまま逃げたっていつか捕まっちまうじゃねーの?」

「それは…」

フェリシアの言うとおりだったのだろう。少女は少し悩むような素振りをみせる。

「オレ達強えーからさ、どんな奴が来たってぶっ飛ばしてやるよ!」

フェリシアはなんとなく前までの自分とこの黒服の少女を重ねていた。年が近いのもあるが、帰ることができる家がないこと、両親がいないことにシンパシーのようなものを感じていたのだ。

そうなるとフェリシアにはこの少女をただ放っておくことなど出来なかった。

「…じゃあお言葉に甘えて訪ねさせていただくわ。でも迷惑になったらすぐ言ってね」

「ヘヘ、誰も迷惑だなんて思わねーよ。そういやお前名前は?」

「私はアビゲイル·ウィリアムズ。アビーって呼んでくださいな」

黒い服の少女はそう名乗った。




どうも皆さん。作者です。大分間が空き、時間も取れなかったので中々執筆が進みませんでしたがマギレコアニメ2期までには、と思っていたので小説投稿を再開させていただきたいと思います。待ってくださった方、もしいらっしゃったらお待たせして申し訳ございませんでした。そして待って下さりありがとうございました。今後は出来る限り投稿ペースを早めていきたいと思うのでどうか見守っていただければと思います。
あと少しかこちゃんの口調に違和感があるのでどうおかしいか教えてくださる方がいたら感想欄にお願いします。他にも何かあったらご自由にお書きください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話 その少女をめぐって

「おーい魔理沙。いるかー?」

帰るなりフェリシアが呼びかける。

すると魔女のような帽子をかぶり本を持った魔理沙が玄関までやって来た。

「お前まだ本読んでたのか?」

「まあな。それよりそいつは?」

魔理沙が隣にいたアビゲイルに目を向ける。

「こいつはアビー。ちょっと色々あってそこで知り合ったんだ」

「初めまして。私アビゲイル·ウィリアムズ。よろしくお願いします魔理沙さん」

礼儀正しく、けれど子供らしくアビゲイルが挨拶をする。

すると魔理沙が帽子のてっぺんをなでた。

(なんだ?)

フェリシアが魔理沙に念話を送る。魔理沙は念話ができないらしいので帽子をなでたときフェリシアが念話を始めることになっていた。

(魔法少女か?)

(いや違うじゃねーの?指輪もしてねーし、ただのおっちゃんに捕まりそうになってたし)

(なら魔法については黙っとくか)

「アビゲイルか。よろしくな。で、うちに何かようか?」

「あぁ、こいつ何か変な奴らに追っかけられてて困ってるらしいんだよ。だからどうにかしてやろうって」

「ここに連れて来たってわけか。ま、とりあえずあがりな」

家に上がりまず見えるのは廊下に広がる散乱物の数々。流石にこれにはアビゲイルも目を丸くした。

「…悪いな。どうにもこういうのは苦手で」

「い、いえ大丈夫よ。気にしてない、気にしてないから…」

「やっぱ片づけた方がいんじゃねーか?」

「お前の部屋も大概だし、なんならお前がやればいいんだぜ」

「えぇ…オレだってやだよ…」

この二人、どうやら片付けるということを知らないらしい。

足を器用に使いながら3人は未だ足場の見えないリビングまであがる。イスはまだ客用を買ってないため2つしかない。

「イスはお前らが座れ。少し歩き疲れたろ」

「私は大丈夫よ。だから魔理沙さんが…」

「お前遠くから来たんだろ。なら少しでも体を休めた方がいい」

「…ありがとう。フェリシアと一緒で優しいのね」

「いやぁ、さっきまで本を読んでいたからな。単に座り疲れてただけさ。さて、もう少し詳しく話を聞かせてもらおうか」

といってもアビゲイルが話した内容はフェリシアに話した内容と相違ないもので全部話すのに5分もかからなかった。

「じゃあお前は追われる理由に全く心当たりがないって訳だ」

「えぇ…いえあることにはあるのだけど…」

「話したくない?」

アビゲイルは黙ってうなずく。

「分かった。なら言わなくていい」

「ごめんなさい…助けていただくのに…」

「別にいいさ。ちなみに追いかけてくるやつの素性とかどんな手段を使って追ってくるとかの心当たりは?」

「それも…」

やはりいい思い出がないのか追手について語るアビゲイルは少し暗い。

「いまいち手掛かりが掴めないな…。さっきおまえを追ってたってやつは?」

「そいつなら多分もう捕まっていると思うぞ。さっき警察につうほーしといたからな」

フェリシアはアビゲイルを連れて行ったあと魔理沙に買ってもらった携帯でとりあえず通報だけしておいた。本来その場に戻るべきだったのだがアビゲイルの要望でそのまま戻ることはしなかった。

「あーそれでいい。今後も警察にいうときはそんな感じで頼む。関わると少し面倒なことになりかねない」

「ん?いいぞ」

ちょっとした引っかかりを覚えながらもフェリシアは了承する。

「でもそいつからもう話を聞けそうにないな…」

「あの…魔理沙さんは何をやっている方なのかしら?」

「ん?」

「いえ、扉にかけてあった魔法少女店って言うのがよく分からなくて、つい何のお店なのかなって思ってしまって」

「あー、あれは気にしなくていい。うちは大抵のことは何でもやる店だと思えばいいぜ」

あえて魔法少女専門のという部分を省く。大抵の魔法少女は自分の正体を無関係な人々に隠している。なので世間的にその存在が認知されているわけではない。

「だからお前のこともできる限り協力してやるさ」

「…ありがとう。本当に。でもやっぱりあまり長くここにはいられそうにないわ」

「なんだ?危険だからってことか?別にそこいらの奴らなら私達の相手には…」

「そうじゃないの。私を追いかけてくる人には時々魔法みたいな力を使う人達がいるの。もしそういう人が来たらきっと魔理沙さんたちでも危ないわ」

魔法という言葉に魔理沙とフェリシアが顔を見合わせる。

「おい!そいつらもしかして魔法少女じゃねーか!?」

「魔法少女…?」

「えっと…、オレ達と同じぐれーの女じゃねーかってことだ!」

フェリシアはこの質問に絶対yesが返ってくるものと思っていた。当然だが魔法少女は少女しかなれないものだからだ。

「いえ、多分違うわ」

「えっ」

「魔法少女っていうのが何なのか分からないけど私が見た限りでは男の方もいらっしゃったわ」

思わぬ答えフェリシアは面食らう。

「じゃあそいつらは何なんだよ!?」

「何って…私もよく知らないわ」

魔法少女じゃないとするならあと魔法を使えるのは魔女位だがアビゲイルの話を聞く限りどうやら相手は人間らしい。

どうなってるんだと頭に疑問符を浮かべるフェリシアに対し、魔理沙は目を細めまるで何かを察したような目をしていた。

「なぁ、アビゲイル。お前今が何年か言えるか?」

何故か年数を聞く魔理沙にアビゲイルは顔を険しくする。

その表情は意図の分からない質問に対する顔というよりかは、何か図星をつかれたようなものだった。

「それはどういう意味なの…?」

「…なるほどな」

「な、なぁどういうことだ。話がさっぱりわかねぇんだけど…」

あまりに突拍子のない会話にフェリシアは困惑する。

「さてアビー、私はお前さんからもうちょい話が聞きたくなった。帰る場所もないんだろ?しばらくうちに泊まれ」

「でも…」

「何、魔法なら私達にも使える」

「っ!やっぱり…!」

途端にアビゲイルの目つきがこちらを警戒するものへと変わる。

「おっと別に()()()()の仲間って訳じゃないぜ。私があいつらだったらお前をとっと捕まえてるんじゃないか?それにこんなこともわざわざ話さないだろう?」

魔理沙がそう言うとアビゲイルが押し黙る。

「おい、魔法のこと言っちまっていいのかよ」

「問題ないだろ。大体魔法使うやつを相手するならこっちも魔法使わなきゃならんし、知ってるやつにわざわざ隠す必要ないぜ」

「っていうかさっきからお前ら何の話してるんだ?なんかオレだけ置いてけぼりにされてる気がすんだけど…」

「まぁその内分かるように話してやるさ。でアビゲイル、どうする?」

「…泊めていただくことにするわ。あなた達が悪い人だとは思えないし」

「よし、決まりだな。フェリシア、お前の部屋に泊めてやれ」

「なんかまだよく分かんねーけど…いいぜ!よろしくな!」

「改めてよろしくね。フェリシア」

かくしてアビゲイルはしばらくこの魔法少女店で過ごすこととなった。

 

「おお…!」

感嘆とするフェリシアの前に広がるのは散乱物が整理され、すっかりきれいになったリビングだった。

リビングだけではない。今やこの家の中は魔理沙の部屋以外はきれいになっていた。

「どうかしら。とりあえず何かできることはないかと思って掃除をしてみたのだけれど」

「すげーよ!あんなに散らかってた部屋がこんなにきれーになるなんてさ!ここで寝るの初めてだ!」

フェリシアは今まで散らかっていたせいで見えなかった床に寝転がる。

「ふふ、喜んでくれたみたいで良かったわ」

「へぇ、随分ときれいになったみたいだな」

外に出ていた魔理沙が帰ってきた。

「えぇ、これからお世話になるしからこれ位はしないとって思って」

「別に気にしなくてもいいぜ。っていっても私もあいつも片付けが苦手みたいだからなぁ…結構助かるぜ」

するとアビゲイルは魔理沙の両腕に大きな袋がかけてあるのに気がつく。

「あの、ひょっとしてそれは今日の食材なのかしら?随分と大きいけど…?」

「ああ、さっきそこまで行って買ってきたんだ。食材も切れてたし多めになったんだぜ」

「ちょっとごめんなさい」

そう言ってアビゲイルは魔理沙の手にかけてある袋を覗き込む。袋の中には多くの食材が入っており色んなレパートリーの料理が作れそうだった。

「よければ夕食は私に作らせてもらえないかしら?多分悪いものは作らないと思うのだけど…」

「別に無理して作らなくていいぜ。あんだけ片付けたあとじゃ疲れてるだろ」

「いえ、実はしばらく料理はしてなかったからどこかでしておかないと下手になってしまいそうで…不安をなくすためにも今何か作っておきたいの」

「そうか。じゃあ頼む」

こうしてアビゲイルが料理を作ることになった。

そしてその晩、出てきたのはご飯、味噌汁、焼魚、かぼちゃの煮物などアビゲイルの洋風の容姿に反した和風の質素な料理だった。

「意外だな…もっと油っこいのが出てくるのかと思った」

「その方が良かったかしら?」

「いや私はこっちの方が馴染みがあるし構わないぜ」

「なぁ…肉ねーのか?」

「買ってくるとお前が使えってうるさいから買って来なかったんだよ。今日は肉の日でもないしな」

「はぁ!?お前が肉全然出さねーのが悪いんだろ!?」

「週2で出してるしどうせ今日も食べて来たんだろ?我慢しろ」

「嫌だ!肉食いてー!」

「買っても買って来なくても同じか…」

二人が言い合いをしているのを見てアビゲイルは少し困り気味の笑顔を浮かべていた。

「あぁ、悪かったな。いつものことだ。あまり気にしないでくれ」

「いえ大丈夫!ちょっとどうしたらいいか分からなかっただけだから。でもお二人は本当に仲がいいのね」

「そうか?」

「じゃなきゃそんな風に言い合いできないもの」

「そうゆうもんかね…よしフェリシア、せっかくアビーが作ったんだ。早く食べるぞ」

「うぅ…」

流石にこれ以上何か言う気になれなかったのかフェリシア大人しく食べ始めることにした。まずは魚から手を付ける。

「うめー!魔理沙のと全然ちげー!」

「そいつはどういう意味だ?でもまぁ確かにこいつは美味いな…」

「ふふっ、お口にあったみたいでうれしいわ」

「しっかしどこで作り方覚えたんだ?まさかずいぶん長いことここにいるのか?」

「いえ、前までよくお料理を作らせていただいてね、少しでも美味しいものを食べてもらおうとしていろんな本を読んだりしてたら作れるようになったの」

「ん?こっちに来てから誰か一緒に暮らしたやつがいるのか?」

アビゲイルの口振りに違和感を持った魔理沙が尋ねる。

「そうよ。ずっと私を守ってくれた人。その人のためにちょっと頑張っちゃって」

「そういやさっきも言ってたけどよー。そいつは魔法少女なのか?」

興味を持ったフェリシアが会話に入り混んでくる。

「違うと思うわ。えっと魔法少女というのがまだ何か良くわかっていないのだけれど、私たちと同じ年ごろの女の子って言ってたわよね…?だったら多分違うと思うわ」

「あ?そいつ魔法とか使わねーのか?」

「魔法かどうか分からないけど、不思議な力を持っててとっても強いのよ」

少し自慢げにアビゲイルが語る。

「でもよーそいつは何なんだ?魔法少女以外に魔法が使えるやつなんていんのか?魔理沙、オマエ何か知ってんだろ?」

「なんでそう思うんだ?」

「さっきよく分かんねーこと喋ってたじゃねーか。絶対オレの知らねーこと何か知ってんだろ?」

「さぁ、どうだろうな?」

「喋るつもりねーのかよ。あっそうだオマエ何でソウルジェムがいらねーんだ?」

公園でかこと話しているときに出た疑問を訪ねてみる。

「なんでだろうな?」

「おい、答えになってねーぞ。それも喋りたくねーのかよ」

「それより食べ終わったならとっとと風呂入って来な。そしたら冷蔵庫にあるアイス食べていいぜ」

「マジ!?よっしゃ!」

フェリシアはすぐさま風呂場に直行した。

「あいつ風呂苦手なくせに…思ったより効果てきめんだな。次から面倒なことがありゃこれでいこう。…あれ?そういえばアイスなんてあったけ?」

「さっき買い物袋をみたときそれらしきものは見当たらなかったけれど…」

魔理沙が冷蔵庫を開ける。

「ハハハ!まぁいいや!後で適当にごまかそう!…ところでお前がいたところにはこんな便利な箱あったのか」

冷蔵庫に手をかけながら魔理沙は尋ねる。

「いいえ、私のいたところはここほど豊かな場所ではなかったから。初めて見たときはびっくりしたわ」

「私もだ。こんな便利なもの少なくとも里の人間はもってなかったぜ。一体どんな仕組みで動いてんのかねぇ」

「…やっぱりあなたもそうなのね」

「多分お前のいたところとは別のところから来たと思うけどな」

「そう…フェリシアは私達がどこから来たのか知らないの?」

「そうだぜ。お前かなりやっかいな事情を抱えてるんだろ?こっちも中々やっかいな事情を抱えていてな、下手に話して巻き込んでいいのかって思ってな」

「フェリシアが心配なの?」

「本当は面倒見てくれるやつをさっさと見つけてここから出ていくつもりだったんだが…そうはいかなくなったみたいだ」

「ひょっとして私のせい?」

申し訳なさそうな目をしてアビゲイルが尋ねる。

「別に気にすることはないぜ。()()()()が来た時点でこの街の魔法少女はいずれ巻き込まれることになる。どっちにしろ関わる運命だったわけだ。それに私にとってはお前は僥倖なんだぜ」

「僥倖…?」

「お前を追いかけている奴らは私がずっと探してた奴らだ。そいつらを利用して()()()…私の故郷に帰る。だからそのためにお前のこともせいぜい利用させてもらうぜ。」

だから謝ることなんてない、魔理沙がそう言っているようにアビゲイルには感じられた。

 

 

 

 

「じゃあお邪魔させていただくわ。フェリシア」

「おう!好きにしていーぞ!」

あれからフェリシアとアビゲイルは風呂に入った後、二人はフェリシアの部屋まで来た。魔理沙が言った通りアビゲイルはフェリシアの部屋で寝泊まりすることになった。ちなみにフェリシアの部屋もアビゲイルが掃除したので入るのは初めてではない。

フェリシアが寝ているベッドとは別に布団が敷かれている。フェリシアはそこに寝ることになっている。

「誰かと一緒に寝るの久しぶり。ふふ、少し楽しみだわ」

「オレも誰かと眠るのも久々だな」

カーテンを閉めようとフェリシアが窓に近づく。すると点々と夜空に星が浮かんでいるのが見えた。

「おっ、来てみろよ。今日は星が見えるぞ」

「あら、本当。星をみるのも久しぶりだわ」

二人はお互い顔見合せながら話し出す。アビゲイルがフェリシアを見るとフェリシアは牛のぬいぐるみを抱いていた。

「それは?」

「これか?これはさ、父ちゃんと母ちゃんからもらったんだ」

「そういえばフェリシアのご両親はどうなさってるの?」

「お前と同じだよ」

「…っ!ごめんなさい…」

「気にすんなよ。オレもさっき聞いたしな。じゃあ次はオレが聞くんだけどさ、魔理沙のやつ何隠してんだ?おまえも何か知ってんだろ?」

「それは…魔理沙さんから聞いた方がいいんじゃないかしら」

「魔理沙の奴は何も教えてくれなさそうなさそーだしよー、オマエに聞くしかねーんだよ。いいだろ?」

「私が話すのはいいけど、魔理沙さんも色々考えあって言わないでいるみたいだし…」

「あいつが話すのを待てってことか?」

「えぇ、きっといつか話してくれるはずよ」

「そーか?ま、いっか。よく考えたら話したくねーことまで聞く必要ねーしな。あいつから話してくれるのを待つか」

「それがいいと思うわ」

「じゃあさ、じゃあさ、オマエのいたところどんなとこだったか聞かせてくれよ!外国から来たんだろ!?」

日本から出たことのないフェリシアにとって、外国の話はとても興味をそそられるものだった。

「私がいたところ…。そうね…名前はセイレムっていうところでね、大きな港、広いライ麦畑、神様を祀る教会…他にもいろんなものがあるところだったわ」

「へー神浜よりでかいのか?」

「ううん、そこまでじゃないわ。でもあの場所は私が生まれ育った大切な故郷なの」

「だから帰りたいのか?」

「…それもあるけど、あの場所には私にとって大切な人達がいるの。私を育ててくれたカーター伯父様、大好きな親友のラヴィニア、きっと私が帰ってこないのを心配しているわ。それに私にはまだあそこでやらなきゃいけないこともある。だから絶対に帰らなきゃいけないの」

その大切な人たちはアビゲイルがここに来てるのを知らないのか、とフェリシアは聞こうとしたが辞めた。故郷のことを語るアビゲイルの顔が段々と寂しげなものになっていくように感じたからだ。

「なぁ、どうにかそのセイレムってところに帰れねーのか?」

「…詳しくは話せないけど今はまだ帰れないわ。帰れるとしても私は()()()が来るまで待たなくちゃいけないの」

「あの人?」

「この場所に来てから私を守ってくれた人。私を元の場所に帰してくれるって約束してくれたの。今はいないけどいつかきっとここに戻って来てくれるわ。そのときに私がいなかったら困ってしまうでしょう?」

先程とはうって代わってあの人と呼ばれる人物の話をするアビゲイルは少し明るい顔をしていた。

「そのあの人ってのはどんな奴なんだ?お前の故郷の奴じゃないんだろ?」

「優しい人よ。私は初めてここに来たとき右も左も分からなくて…初めて来たセイレムの外がすごく怖くて…どうしたらいいのか分からなくなってたの」

「でもそんな私をあの人は救ってくれた。追いかけてくる人から守ってくれた。他にもいろんなことをしてくれたわ。日本語だってあの人から教わったのよ」

アビゲイルは外国から来た割には日本語がすごく流暢だ。そのことにフェリシアは今更気がついた。

「料理もね、私が最初に作ったのはあまり良いといえるものではなかったの。けれど私が心をこめて自分のために作ってくれた料理が一番美味しいって喜んで食べてくれたのよ。その言葉があったから私は頑張って料理を作れたの」

「いいやつなんだな。そいつ」

「えぇ、そして私の大切なかけがえのないお友達よ。だから私は待たなくちゃいけないの。あの人が帰ってくるまで」

「…じゃあさ、オレがお前を守ってやるよ」

「え?」

「お前そいつと会いたいんだろ?だったら追っかけてくる奴らに捕まるわけにはいかないよな。そんなやつらオレがぶっ飛ばしてやるよ!」

両親を失っているということもあるのだろう。その痛みがよく分かっていたフェリシアはアビゲイルの話を聞いているうちにアビゲイルにもう悲しんで欲しくないと思うようになっていた。そしてそのためにアビゲイルを守ってやりたいと思ったのだ。

「…私は大丈夫よ。無理してそんなこと言わなくていいわ」

「無理なんてしてねーって。オレが守りてーと思ったからお前を守るんだ」

そのときアビゲイルの表情が少し動く。

「ふふっ、今ちょっとドキッとしちゃった」

「ん?なんでだ?」

「だって今のフェリシア、ちょっとカッコよかったもの」

「そーなのか!へへ!」

褒められたフェリシアは嬉しそうに笑う。

「…ありがとね。そういってもらえて私とっても嬉しいわ」

「別に大したこと言ってねーよ」

「でもね、もしフェリシアが私のこと嫌になったならそのときは私から離れていいから」

「さっきも言ったろ。お前を嫌になるやつなんていないって。だからさ、どんなことがあってもオレの側いていていいからな」

「ありがとう。本当に…」

心から感謝しながら、アビゲイルは静かな微笑みを浮かべた。

 

 

 

神浜の誰も寄りつかないような廃ビル。その暗がりに一人の男がいた。

「…またしくじったのか。やはり魔法も使えないもの達に任せるべきではないな」

男は一枚の写真を捨てる。それは昼間フェリシアが殴り倒した男の写真だった。そしてもう一枚の写真を取り出す。

「しかしここまで精巧な絵を作り異様なからくりを作る人間達がどんなものかと思えば…なんら平民と変わりないではないか。所詮()()()には遠く及ばない」

もう一枚の写真、そこに写っていたのはアビゲイルだった。

「しかしこの小娘は何者なんだ…?一体何故奴らはここまで追いかける…?」

男が写真を訝しげに見ていると、コツ、コツ、コツと段々誰かが近づいてくる音がした。

「アレ、まだウィッチガールは来てないワケ?もしかしてまたしくじった?」

そこに現れたのは黄緑の髪をし、シャツにチェックのスカートを履いた少女だった。

「そのようだ」

「ふーん、またスティールボールにやられたってワケ?」

「さぁな。誘拐のプロというから任せてみたがとんだ似非だったということだろう。だがおかげで小娘がこの街にいるのがほぼ確かになった。それだけでもよしとしよう」

「もっとマシなのハイアーしたほうがいいんじゃない?こっちも早くクリエイトをスタートさせたいんデスケド」

「お前は一体彼女を捕まえてどうするつもりなんだ?」

「ウィッチガールがサモンするアートを見せてもらうダケ。そっちに渡しても会わせてもらえるって約束だヨネ。それだけでこっちはOKだカラ」

アートとは何のことか引っかかったが気にしないふりをして話を続ける。

「…では奴の方は?」

そう男が聞くと少女はどす黒く邪悪な笑みを浮かべる。

「…首が欲しいんだヨネ。スティールボールが死んだときにどんな表情をするのか、それを見てみたい。スティールボールなら絶対新しいインスピレーションを与えてくれる!そしてアリナのアートは新たなステージへと進化するってワケ!」

男は思った。こいつは何を言っているんだ、と。

この絵描きらしい魔法少女――――アリナ・グレイは男がアビゲイルを探す途中で出会った。少女もアビゲイルを探しているらしく男は条件付きで手を組むことになったのだが…

(この女…やはり狂っている…)

「ん?どうしたの?そんな面倒くさそうな顔しちゃって?」

「いや…何でもない。貴様と付き合っていくのはいろいろ苦労しそうだと思っただけだ」

「ワッツ?意味分かんないですケド?」

「失言だった。気にするな」

「…まっいっか。それで、ウィッチガールはどうするワケ?」

「まだ遠くには行ってないらしい。明日は俺が直接探してみる」

「遠くにいってないって何の根拠があってそんなこといえるワケ?」

「どうでもいいだろう。ともかく次は俺が直接出る」

「へー。一緒に行く?」

「いや俺一人でいい。見つけたら連絡しよう」

「そ。あぁスティールボールは見つけても手は出さないでね。死んでいくときどんな顔するのか見れなくなるカラ。まぁあなたがウィン出来るとは思えないケド」

そう言い残すとアリナはその場を去った。

「…悪いな。貴様のその望みは叶えられそうにない」

連絡するというのは男の嘘だった。男にはどうしてもアリナ抜きで果たさなければならないことがあったからだ。

「とうとう巡り合うときが来たか…?もしここにいるのなら…ガンダールヴ、今度こそ貴様とケリをつけてやる!」

静寂の夜、ビルを吹き抜ける風の中、男はかつての敵と決着を誓った。

 




アリナ先輩口調といいキャラクターといいやっぱ色々難しいですね…。正直書くのに一番苦労するかも。
追記
クレイジーボール→スティールボールに変更させていただきました。
その他文章をいろいろ修正しました。
冒頭から~目をむけるの文章が消えているのを確認しましたすいませんでした。(5月7日修正)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話 囮

ちょっと色々考え事してました。投稿少し遅れてすみません。
ところでマギレコやってる人はいろまど、お目当ての限定引けましたか?引けた人はおめでとう、そうでない人はドンマイです!
ちなみに私はいろまど120連爆死しました、はい。(天井涼子ちゃんでした)
あと今回オリキャラ出します。


「おーい、さっさと起きるんだぜ」

アビゲイルが店に来た次の日の朝、魔理沙はフェリシアを叩き起こすべくフェリシアの部屋までやって来た。

「…なんだよ話って…まだ起きる時間じゃねーだろ…」

「少しはしゃきっとしたらどうだ?アビゲイルは3時間は前に起きたのに朝まで用意してくれたぜ」

見ると隣で寝ていたアビゲイルはいつの間にかベッドからいなくなっていた。

「お前も少しは見習え」

「別にいーだろ!オレにはオレのセイカツシュウカンがあんだよ!」

「にしたってもう少し早く起きれるようになってもいいと思うんだが…いや、そんなことより話がある。下に来い」

フェリシアは着替えて下に降りる。すると部屋を掃除するアビゲイルの姿が見える。

「おはようフェリシア。お加減はどう?」

「おう、オレは全然元気だぞ!」

「ふふ、それは良かったわ。ちょっと待ってね、今朝食を用意するから」

テーブルに座ったフェリシアの前に朝の和食のラインナップが用意される。

「さて、そろそろ話を始めようか。アビゲイル、お前も座れ」

アビゲイルも席に着き、フェリシアは米から食べ始める。

「お前ちゃんと話し聞く気あるのか?」

「んあ?別に食べながらでも話位聞けんだろ?」

「…いいぜ。けど後から聞いてなかったってのは無しだからな?」

「いいから、早く話せよ。オレ本当はもう少し寝てるつもりだったんだぞ!」

「じゃあ今度こそ始めるぞ。さっきアビゲイルと話したんだが昨日頼まれたように私達はとりあえずこいつを追ってくる奴をどうにかすることにした。これに異論はないよな?」

「もひろんひぃぞ!」

食べながらフェリシアが答える。もとよりアビゲイルを守るつもりだったので当然拒否する理由はない。

「でだ、そのためにまずアビゲイルをおとりにして追ってをおびき出す。そして追手をひっとらえて情報を吐かせるぜ」

「はっ!?けほっ!けほっ!」

唐突な提案に驚いたフェリシアがむせる。

「フェリシア大丈夫!?」

「あぁ、平気だぞ…。それより魔理沙!オマエ何言ってんだよ!それじゃアビーが危ねーだろ!?」

「まぁ聞け。実は昨日お前たちが来る前にある男の情報が入ってな。それがアビゲイルを追っていそうなやつの手がかりになりそうなんだぜ。それで追手をどうにかするためにまずこいつのこと…例えば魔法を使う仲間がどれくらいいるかとかを知る必要がある」

「調べる方法は二つ。一つはさっき言ったようにアビーをおとりに敵をおびき出す方法。もう一つが地道に足で調べる方法だぜ」

「だったら地道に調べればいーじゃねーか!面倒だけどこいつが危ねー目にあうことねーよ!」

「話を最後まで聞くんだぜ。そっちの方法だと確かに一時的なリスクは減るかもしれない。でも敵はアビーを執拗に追い回しさらに魔法を使うようなやつだぜ。この男も多分使って来るだろう。だからそのうちここをかぎつけて来る。つまりおとりに使うにしろ使わないにせよ追手の奴らはアビゲイルを狙いに来る危険は変わらないってことだぜ」

「だからってこっちから危険にさらす必要ねーって!」

「いやある。多分相手もここに来てから日は浅いし、流石にまだ私たちのことを特定出来てないだろう。なら街を一緒に歩いていても偶然知り合った程度にしか思わないし、まして魔法少女だなんて分かってないだろう。だったら特定されてしっかり準備されるよりいきなり襲って来たのを迎え撃つ方がまだましなんだぜ」

「で、でもよ。それならしっかり調べて何も分かんなかったときにそれやればいーんじゃねーか!?」

「…その場合少なくとも私達のうちどちらかがアビゲイルから離れる時間が増える。その間に襲われたらかなり危険じゃないか?」

「そうかもしれねーけどよ…」

フェリシアは迷っていた。確かに魔理沙の言う通りにも思える。しかし守ると決めたアビゲイルを自分から危険にさらすようなことをしていいのか判断しかねていた。

「私は大丈夫よフェリシア」

「アビー…」

「おとりになるっていうのはね、元々私が考えたことなの」

「っ!?そうなのか!?」

思いもしなかった事実に驚く。

「うん、そうすれば追いかけてくる人達もやって来ると思ったのだけれど…」

「なんでそんなことすんだよ!危ねーだろ!」

「…フェリシアと魔理沙さん、これから私を助けるために危険なことするのでしょう?二人が私のためにそんなことをしていただくのに私だけが何もしないのはおかしいわ。だからせめてこれくらいはしないと駄目だと思ったの」

「でもよ、でもよ…」

フェリシアが困ったような声を出す。

「ま、別に必ず襲ってくるとは限らない。ただそれでも尾行ぐらいはしてくるだろう。そいつらをあぶりだすだけでも出来れば十分だぜ」

「それに決行するときはお前と私、それともう一人腕に覚えのあるやつがお前とアビゲイルの近くにいる。もし追手が攫いに来るようなことがあれば3人の内の一人か二人が時間を稼ぎつつアビゲイルを逃がす。これなら安全を確保できる」

「…分かったよ。けど攫いに来る奴来たらすぐアビーを逃がすからな」

フェリシアは渋々魔理沙たちの提案を承諾した。

「あぁもちろんだぜ。にしても随分アビゲイルを心配するな?気持ちは分からなくないがちょっとお前らしくないんじゃないか?」

「うるせー!別にいいだろ!」

その後さっさと朝食を食べ終えてフェリシアは2階へと登っていった。

「あの、ごめんなさい。私がこんな無理言ったせいでフェリシアが…」

「別にいいんだぜ。決行するのを決めたのは私だしな。それに私の方こそお前を利用しようとしているのにこんな方法しか思いつかなかった。謝るべきなのは私の方だ」

「魔理沙さんは私のために色々考えてくださった。それは謝るべきことじゃないわ」

「そういってもらえると助かるぜ。あと気になったんだがフェリシアの奴かなりお前を心配していたけど何かあったのか?」

「さぁ…?でも昨日フェリシアが私を守ってくれるって言ってくれたの。もしかしたらそれが関係してるのかもしれないわ」

「なるほどな。わざわざ危険にはさらしたくないってわけか…」

(アビゲイルの境遇はフェリシアと少し似ているからな…あいつにとって新しく妹が出来たように感じてるんだろう。だから絶対に失いたくないんだ)

「なら絶対守ってやらないとな…」

「え?」

「何でもない。お前も早く外に行く仕度をするといいぜ。あと何か必要なものがあったら言ってくれ」

「あっ、うん。わかったわ」

アビゲイルは自分の持ってきたバッグの元へ向かった。

「一応やちよの奴にも声かけておくか。さて、これで上手くいけばいいんだが…」

 

 

フェリシアとアビゲイルは街へと繰り出していた。先程話した通り相手をおびき出すためだ。具体的な作戦はフェリシアとアビゲイルが遊ぶふりをしながら町をうろつきまわり、魔理沙とあともう一人の人物が離れたところで見守る、そして不審な人物をあぶりだすというものだ。そしてもしアビゲイルを攫いに来る輩が確認されるもしくは二人に接近した場合フェリシアがアビゲイルと逃げ、そして離れている二人が時間稼ぎをする算段となっている。

ちなみにフェリシアとアビゲイルは魔理沙と同じ役割のもう一人については詳しくは知らない。魔理沙曰くそちらの方がフェリシア達が自然にふるまいやすいからとのことだ。

「なぁアビー」

隣を歩くアビゲイルにフェリシアが話しかける。

「何フェリシア?」

「オマエ怖くねーの?」

「え?」

「オマエ自分から狙われに行ってんだぞ。なのに全然怖くねーのかよ」

「…正直ちょっと怖いわ。でも危ないことを乗り越えればそれに見合うものが手に入ると思うから」

「すげーなオマエ。オレそんな風に考えたことねーぞ…」

そんなやりとりを交わしながら店のある通りにたどり着いた。

「あ、クレープ…」

「食いてーのか?」

「えと、実は食べたこと無くて…」

「えっ?一度もか?」

「…私のいたところにはなかったし、こっちに来てからはあまり外で過ごしたくなかったから食べる機会が無かったの」

「追ってくる奴らに捕まるかもしれねーからってことか。でもお前が言ってたあの人とかいう奴と一緒だったら大丈夫なんじゃねーのか?」

「あの人にあまり無理はさせられないわ…だから私のわがままで連れまわすわけにはいかなかったの。あの人がいなくなってからもずっと逃げることばかり考えていたから」

「…ずっと遊んでなかったってことか」

(そっか。アビーはずっと苦しい思いをしてきたんだ。なら少しくらい楽しいことをしてもいいよな)

「…しょーがねーな。おとりって言ってもどうせ遊ぶんだ。今日はオレがいろんなとこに連れてってやるよ!」

「ふふ、お願いするわ」

その後フェリシアはアビゲイルをいろんな場所に連れて行った。ショッピングモールを見て回り、ゲームセンターで遊び、映画を見る。普通生きていれば誰もがするであろう経験を、楽しんでいるように見えた。しかしフェリシアは何故か本当にアビゲイルが楽しんでるように思えなかった。

(どっか具合でも悪りーのか…?とりあえず昼でも食べるか)

フェリシアが周りを見渡すと一軒のレストランを見つける。

「次はあそこで昼食べようぜ」

そういってレストランに入ると二人は昨日と同じくそれぞれハンバーグとパンケーキを頼んだ。

「おまえって本当にパンケーキ好きだよなー」

「ふふ、そういうフェリシアだってまたハンバーグ頼んでるじゃない」

「へへ、まぁな」

二人は出された料理を食べ始める。先程のことが気になったフェリシアはアビゲイルを見るが特に具合が悪い様子は見られない。

(緊張してるのか?いつ襲ってくんのか分かんねーし)

「ねぇフェリシア、あなたは魔法少女なんでしょう?良ければ魔法少女ってどういうものなのか教えてくださらない?」

「いいぞ。魔法少女ってのはな、悪りー魔女をぼっこぼこにする奴らのことだな」

「魔女…!?」

その言葉にアビゲイルの顔がこわばる。

「ん?どうかしたのか?」

「いえ、大丈夫よ。ごめんなさい。ということは…その…魔法少女は誰かの命を奪ってしまうこともあるの?」

「は!?なんでそうなるんだよ!?」

「だって魔女を懲らしめるのでしょう?だったらそういうこともあるんじゃないかって…」

ここでフェリシアは自分が想像している魔女とアビゲイルが想像している魔女が別物であることに気付く。

魔法少女にとって魔女は大きな怪物だが、アビゲイルは人間の…魔理沙のような恰好をした魔女を想像しているのだ。

「おい、言っとけど魔女ってのはでっけー怪獣みたいなやつらのことだからな」

「え!?そうなの!?私、てっきり人のことだと…」

「ま、まぁとにかくそういう怪獣見て―な奴をやっつけるのが魔法少女ってわけ。別に誰か殺したりしてるわけじゃねーぞ…」

「そうだったのね…」

アビゲイルがほっとしたような顔になる。

「ごめんなさい、魔女という言葉には少し敏感になってしまうの」

「嫌いなのか?」

「そうね…あまり好きではないわ。セイレムでは魔女扱いされた人が殺されてしまうこともあったから…」

「は!?それって何か悪りーことしたからか!?」

「いえ、異教を信仰したり、儀式を行ったり魔術…魔法を使ったり…異端とみなされた人達は皆魔女扱いされてしまうの」

「何だよそれ…。何も悪りーことしてなくても殺されるってことかよ…。そんなのおかしいだろ…」

「その、もしかしてフェリシアも魔法が使えるの?」

「ああ、使えるぞ。でもオレは魔女じゃねーからな!?」

「ふふ、分かってるわよ。よければどんな魔法を使えるのか教えてもらえないかしら」

「あぁ、そういうことか…いいぞ。ほら」

フェリシアはアビゲイルの頭を軽くチョップする。

「な、何?」

「お前ここに来る前、店で最初に何食ったか言えるか?」

「え?それは…」

アビゲイルは思い出そうとする。そのお菓子を食べたときのモチモチの生地に包まれたクリームとフルーツの甘みが口いっぱいに広がるその味はすぐに思い出すことが出来た。

(でもなんで…どうして名前が出てこないの…?)

「思い出せねーだろ?」

「え、ええ…」

「それがオレの魔法。頭叩いたやつの記憶を忘れさせることが出来るってわけ。こいつを魔女の頭に食らわせてやると動かなくなるんだぜ!」

「…すごい!本当にフェリシアは魔法が使えるのね!」

「そりゃ魔法少女だからな。ちなみにオマエが食べたのはクレープだぞ」

「そうクレープ…クレープだったわ!」

「ま、他にも色々できるけどそんな大したもんじゃねーな。そろそろ食い終わりそうだしこの後行きたいとこ決めとこーぜ。なんかあるか?」

「ええと、じゃあ海の見える場所なんていうのはどう?」

「いーぞ!」

その後店を出た後二人は海の見える広場へと向かっていった。

 

 

「あいつら自分達がおとりだってこと忘れてないか?」

色々と楽しむ二人を観察しながら魔理沙はつぶやいた。ビルの上、肩に箒とカバンをかけながら双眼鏡でフェリシア達を観察しながらその周りを見回す。

「周りにはまだ誰も怪しいやつはいないみたいだが…一応発破かけとくか」

自然な演技をするため出かけるのを楽しむのは構わないが気を抜きすぎてもらっても困る。

そう思い携帯を取り出す。すると誰かからメッセージが送られてきたことに気づく。

(ん?フェリシアたちもうどこかに行くのか?)

よく見ようとした瞬間だった。魔理沙が手に持っていた携帯が粉々に砕け散った。

「…随分なご挨拶じゃないか。犬だって吠えるところから入るんだぜ」

後ろを振り向き投げナイフで携帯を砕いたであろう人物を見る。

「あら、ごめんなさい。あなたのような野良猫はきづかないうちに殺して差し上げた方が良いかと思いまして。まさか首で躱されるとは思いませんでしたけど」

その丁寧な言葉遣いでありながら他者を見下すような声色と共にいたのは魔理沙よりも背の高い女だった。見たところ年齢は十代後半。茶色の髪に黒いドレスを着ていた。

「知り合いにあんたみたいな攻撃をする奴がいてな。ま、あまり関係ないかもしれないが」

と言葉では言ってみたが

(危ない危ない…魔力の感知が遅れてたら完全にやられたぜ…)

というのが本音だった。

それからよく見ると黒ドレスの少女が首から似合わない骸骨の首飾りをつけていることに気づいた。

(あの首飾り…!)

「あんた魔法少女か?この辺の奴じゃないな?何者だ?目的はアビゲイルか?」

「さぁ?それらの質問にお答えする義務はありませんわ」

「…魔法少女にしては魔力が変だな。けど近くはある…。それにその首飾り…。まさかあんたドクロの奴らの一人か…?」

赤い服の女の眉が動く。

「あら。その言葉を知ってらっしゃるということはあなたもただの魔法少女じゃありませんわね。お名前お聞きしても?」

「霧雨魔理沙だ。あんたは?」

「生憎私は過去に名前は捨ててしまって…ですがこのようなとき、ベラ、と名乗らせていただいておりますわ」

名乗りを交わしお互いににらみ合う。ベラと名乗った女は小さなナイフを構える。

(こいつがドクロなら少しまずいな。あっちに腕利きの奴が向かってる可能性がある。フェリシア、早く気づいてくれよ…!)

 

 

 




キャラ紹介
オリジナル魔法少女 ベラ
魔理沙のもとに突如現れ、観測者と呼ばれた魔法少女。
他者を見下すような話し方で喋りながらもその上品で優雅な立ち振る舞いは、整った茶色い髪に綺麗な黒いドレスも合わさりどこか高貴な家柄を想起させる。
追記
観測者→ドクロに変更しました。それに伴いベラに骸骨の首飾りをつけさせていただきました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話 襲撃

「わぁ…綺麗ね」

アビゲイルとフェリシアは先程決めた通り海の見える広場へとやってきていた。柵に身を乗せアビゲイルは海を眺める。

「お前の故郷じゃ海見えなかったのか?」

「海は見えるわ。大きな港もあったし。でもこの神浜の海はセイレムの海とは違う美しさがあると思うわ」

「そっか?海なんて全部同じじゃねーの?」

「上手く言えないけど。なんとなくそう思う。フェリシアも見れば分かると思うわ」

話しながらフェリシアは海を見るアビゲイルの顔を覗く。

「な、何?」

それにアビゲイルが気づく。

「なぁ、オマエ無理してねーか?」

アビゲイルにレストラン行ったころから感じた疑問をぶつける。

「そ、そんなことないわ!なんでそう思うの?」

「なんでって…なんとなく!」

「えぇ…」

思わぬ返答にアビゲイルは戸惑う。

「なんか違うんだよ!楽しんでるって感じじゃねーっていうか…おとりで緊張してるってわけじゃねーんだろ?」

ここまで聞かれ流石に楽しむ振り続ける気力は無かったのだろう。アビゲイルは観念することにした。

「フェリシアって勘が鋭いのね。あなたに嘘はつけそうにないわ」

「そんなんじゃねーよ…多分オマエだから分かったんだ」

「そうなの?長く一緒にいるわけでもないのに…。本当にそうだとしたら不思議なことね」

「…フェリシアの言う通りだわ。私心の底から今日を楽しめてないの。いまこうして海を眺めているときも私こんなことしてていいのかって思って…セイレムでやらなければならないことがあるのに」

「故郷でやり残したことがが気になるってことか?でも帰れねーんだろ?しょうがねーじゃん。気にすることじゃねーって」

「…駄目よ。そんなこと許されないわ。だってそれは()()ですもの」

フェリシアは償い、という言葉からアビゲイルの雰囲気が変わったように感じた。

「償いってなんだよ?オマエなんか悪りーことでもしたのか?」

「えぇ…それこそ命を捧げても償いきれないほどの罪を私はあの地で犯したわ。だから何かを楽しむなんてしてはいけない。許されないの」

暗く、しかしはっきりとした声で語るアビゲイルの様子がこの話が如何に真剣なものであるか、そしてそれがアビゲイル自身をどれだけ苦しめているかを示す。

(でもだからって苦しむ必要ねーよな…)

「オマエが何やったのか分かんねーけどさ…別にそんな深く考えなくてもいーんじゃねーの?多分オマエが苦しんだって何も変わんねーぞ」

「…励ましてくれているのは分かるわ。でもね、大きな罪を犯した人は自分を許すことが出来なくなくなってしまうのよ。だから償いっていうのは自分のせいで苦しめた人たちのために…そして自分自身のためにしなきゃいけないのよ」

自分を苦しめてしまうほどの大きな罪。どんなことをしたらそんなものを背負うことになるのだろう。それがどれほどのものなのかフェリシアには想像が着かない。

しかしフェリシアは心のどこかで何故かアビゲイルの話に聞き入っていた。

(なんでこんなにこいつの話聞きたくなっちまうんだろう…もう少し聞けば分かんのかな…)

「っ!危ねー!」

「え…?」

フェリシアがアビゲイルを引っ張りその場から離れる。するとアビゲイル達がいた場所にズドン!と大きな衝撃が打ち付けられる音がした。

「な、何!?」

「アビー下がってろ!」

フェリシアは牛の角のついた帽子を被った魔法少女へと変身し、ハンマーを握る。

「おいどこにいやがる!出てきやがれ!」

するとその呼び声に応じ、木の陰から大きな帽子を被り、髭を生やした若い男現れる。

「今の一撃をかわすとはな。完全に不意をついたつもりだったんだが…」

「魔力の反応くらい分かるっつーの。当たりめーだろ」

「魔法少女は魔力を感じることが出来るのか。ふむ、もう少し奴に話を聞いておくべきだったな」

「コイツ魔理沙が言ってた怪しい奴に似てるぞ…」

フェリシアは魔理沙から例の不審な男の特徴を聞いていた。なので目の前の男が例の追手であることがすぐに分かった。

「オマエ何者だ?魔力もなんか変だし、ぜってー魔法少女じゃねーよな?あと一応聞くけどアビーを追ってるってやつか?」

「分かっているなら話が早い。その小娘をこっちに渡してもらおうか」

「何でこいつ攫おうとするんだ?」

「さぁな。個人的な用もあるが俺はただの雇われだ。連れていった後のことなど知らん」

「そんな奴らにアビ―を渡せるわけねーだろ!」

「…言っておくが俺は女子供でも容赦はしないぞ」

「そうかよ!」

フェリシアは男に迫り、薙ぎ払うようにしてハンマーを叩きつける。男は杖で重たいハンマーを受け流す。

「大したパワーだ。しかし当たらなければ意味はない」

「くそ!」

今度は上にハンマーを振りかぶり今度は上から叩きつける。

「てりゃ!」

しかし避けられる。そして男は一気に距離を詰め、杖をレイピアのように突いてきた。

「くっ!」

咄嗟にハンマーで守るが無理に守ったせいで体制が崩れる。

その隙を男は見逃さなかった。容赦のないみだれ突きがフェリシアを襲う。フェリシアは素早い突きの連打に対しガードに専念するが、防御のしにくいハンマーではそれだけで手一杯。反撃のチャンスをうかがうことも出来ず一方的に攻撃されるばかりだ。

次第に男は呪文のようなものを唱え始める。だがフェリシアにそんなことを気にする余裕はない。この状況を打開すべくどうにか隙を作ろうとする。

「だりゃぁ!」

思い切って打った一撃、杖で身を守った男は大きく後退する。

「今だ!」

そして男に一気に接近したときだった。

(っ!魔力!?)

男の手前で踏みとどまる。

直後フェリシアを謎の衝撃が襲った。

「うわっ!」

まるで空気が大きな質量を持って襲いかかってきたようだった。正面からの衝撃をハンマーで防ぐが視認できない一撃をこらえきれずフェリシアは後方に吹っ飛ばされてしまった。

「フェリシア大丈夫!?」

後方に下がっていたアビゲイルが駆け寄る。

「来るんじゃねー!危ねーぞ!」

「こちらの魔力を感知して踏みとどまったか。その感知、思ったより厄介そうだ。もっとも貴様相手なら問題ないみたいだがな」

(つ、強えー。なんなんだよこいつ…!)

男が歩いて近付いてくる。それを見てフェリシアは立ち上がり、ハンマーを握りなおす。

「大人しくその小娘さえ渡せばこれ以上傷つかずに済むぞ。俺としても勝敗の分かりきった勝負をするつもりはない」

「言ったろ…!オマエみてーなやつにアビーは渡せねー…!」

「最後のチャンスを捨てるか。いいだろう、こうなれば貴様が動けなくなるまで徹底的に痛ぶってやる」

フェリシアには分かっていた。この男は格上。まともにやりあえば負けるのは自分の方だと。

当初の予定通り逃げても魔理沙達が来ない限りこの男に追いつかれてしまうだろう。

(けどここ倒れるわけにはいかねー…!)

後ろのアビゲイルを見る。もしここで負ければアビゲイルは連れ去られてしまう。そうなればアビゲイルは永遠に帰れなくなり、ずっと会いたがっている人達にも会えなくなってしまうかもしれない。

(それだけじゃねー…オレのそばから誰かがいなくなるのは…もう嫌なんだよ!)

絶対にアビゲイル守る。その想いの強さを示すかのように瞳に力が宿る。

「ほう、これはもう少し楽しめそうだな…行くぞ」

男はまたもや呪文のようなものを唱え杖に魔法をかける。魔法をかけられた杖は蒼白く光り、それを構えフェリシアに急接近して来た。向かい打つべくフェリシアはハンマーを上に構え待ち受ける。

インファイトに持ち込まれたら確実に負ける。ならそれに入る直前ハンマーで叩くしか勝機はない。それをフェリシアはそれを理屈ではなく本能で理解していた。

チャンスは一回のみ。

男がハンマーの射程に入るまで5歩、4歩、3歩、2歩、

(ここで決める!)

残り1歩、男は杖を突き、フェリシアはハンマーを振り下ろす。

そのときだった。

二人の間に一本の剣が割って入った。

「何だと!」

「え…?」

そしてその剣先は男の杖を捉えていた。

「チッ!」

男が下がる。

そしてその場にいた三人は新たに現れた四人目の人物に目を向ける。

「よう。遅くなったな」

そこにいたのは青と白のパーカーを着た高校生くらいの少年だった。

「誰だお前…?」

「俺は魔理沙の知り合いだ」

「魔理沙が?…ってことはオマエがもう一人の協力者ってやつか!?」

「あぁ。さっきいきなり襲われてな。多分こいつの仲間だろう。ところで魔理沙はどうした?あいつに連絡をいれたはずだけど…」

「分かんねーけどまだ来てねーぞ!」

「俺もさっきいきなり襲われたからな…あいつも誰かと戦ってるのかも…」

「!じゃあ早く助けに行かねーと…!」

「いや、お前はその子を連れて逃げろ。その間俺がこいつの相手をする」

少年は謎の男に剣を突きつける。すると少年の左手が光輝く。見ると左手の甲には文字が刻まれ、その文字が輝きを放っていた。

「何故…何故貴様にやつと同じ文字が…()()()()()()()()()が刻まれている!?」

驚愕した表情で男が叫ぶように尋ねる。

「…そっか。やっぱ俺のこと分かんねーか…。当たり前だよな…」

「俺の質問に答えろ!」

男はフェリシアとやりあってたときよりもさらに速く少年を突く。しかし少年はその一撃を難なく剣で受け止める。

「はぁぁぁ!」

そして少年は目にも留まらぬ速さで剣を振るい男を圧倒する。男はそれを杖でさばく。

「くっ!」

男がたまらず大きく退がる。

「すげー…!」

「どうよ!俺の相棒中々やるだろ!」

「ん?」

今まで聞いたこともない誰かの声にフェリシアは周りを見渡す。

「おい、ここだよここ!」

声のする方を見た先には少年によって握られた剣があるのみだ。

「おいまだ気づいてねぇのか!ったく最近の若い奴らは耳が遠くていけねぇ!」

「まさか…そいつが…剣が喋ってんのか!?」

「おうよ!天下一の名剣、ガンダールヴの相棒デルフリンガー様とは俺のことよ!」

「意志を持った剣…まさかインジェンテリスソード!?貴様俺と同じ世界の人間か!?」

「まぁそんなところかな。ちょっと違うけど…」

少しはっきりしないような声で少年が答える。

「おい兄ちゃん、オレも戦うぞ。二人がかりなら絶対こいつ倒せるぞ」

「いやそれよりこっから逃げろ。近くにさっき俺を襲ってきたやつがいるかもしれねえ。そいつが来たら厄介なことになる。だからお前は早くここから離れろ。その子を守りたいんだろ?」

「でも…!」

「さっきの見たろ?あいつに遅れは取らねえよ。魔理沙だってそう簡単にやられるやつじゃねえだろ?」

「…分かったよ。サンキュー兄ちゃん、後で会おうぜ!行くぞアビー!」

「なんで…?」

「あ?」

「なんであの人と同じ左手を持っているの…?」

アビゲイルは先程の男と同じ驚愕した表情で少年の左手を見つめていた。

「おい、どうしちまったんだよ!?」

「っ!ご、ごめんなさい。大丈夫よ…」

「しっかりしろ!ボーっとしてたら危ねーぞ!」

「え、えぇ…」

「じゃ行くぞ!」

「きゃ!」

アビゲイルを抱きかかえ、フェリシアは走り出す。

「逃がすか!」

「おっとワルド、お前の相手は俺だ」

フェリシアを追おうとした男の前に少年が立ちふさがる。

「なぜ俺の名前を知っている…!一体貴様は何者なんだ!?」

剣をワルドに向かって構え少年は名乗る。

「俺は平賀才人…ルイズの使い魔だ!」

 

フェリシアは謎の男ワルドから逃げた後、人目の着かない裏道へとたどり着いた。

「もう大丈夫か…?」

フェリシアは抱えていたアビゲイルを降ろす。

「ありがとう…フェリシア。私またあなたに助けられたわ」

「気にすんなよ。これ位平気だ。それに助けてくれたのはあの兄ちゃんだしな。にしても良く考えたらあのひげ親父と兄ちゃんはなんなんだ…?。魔法少女でもねーのになんであんなに強えーんだ…?」

「えっと、それは…」

何かを言おうとしたアビゲイルだが途中で言いよどむ。

「ん?オマエなんか知ってんのか?」

「…こんなことになってしまったもの。もう話してしまってもかまわないわよね。実は…」

「アーッハッハッ!」

そのとき突如不気味な笑い声が辺りに響く。

周りを見回すと突如二人の前に一人の少女が降り立った。

そこに現れたのはスカートの着いた軍服風の服を着て、司令官のような帽子を被った黄緑の髪の少女だった。

「…!あいつ魔法少女だ!」

フェリシアは再びハンマーを構える。

「ウィッチガール…ようやく見つけた。今度こそあなたのアートを私のものにしてあげるカラ」

 

 

 




後日7話と8話統合するかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話 魔女と償い

早く投稿すると言っておきながら一年近く放置してすいませんでした!
正直気分屋なところがあるので書くペースにはどうしてもムラが出てしまいます。
ただどんなに時間がかかってもこの小説は絶対に完結させると決めているのでそれでも良ければ今後ともご愛読いただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。
読んでいただいた方で覚えていない方もいると思うのでアビゲイル登場からの流れをまとめると
フェリシアとアビゲイルが出会う→一緒に住むことになる→囮作戦でフェリシアとアビゲイルが街に出かける→フェリシアの知らぬところで魔理沙とオリジナル魔法少女ベラが戦闘開始→ワルドとフェリシア戦闘開始→才人の救援によりフェリシアとアビゲイル離脱→アリナ登場
という流れになっています。
それでは本文どうぞ。



謎の男ワルドから逃げたフェリシアの前に現れたのは黄緑色の髪の魔法少女だった。

それを見たアビゲイルは険しい顔をしながらその少女を見つめる。

「アリナさん…あなた魔法少女だったのね…」

「知り合いなのか!?」

「えぇ…私を攫おうとした人の一人よ」

「ってことはやっぱ敵か!」

「別にアリナがあなたのエネミーになるとは限らないんですケド。アリナはウィッチガールさえゲットできればそれでオーケー。あなたもデリートされずにすむってワケ」

「何か英語ばっかでよく分かんねーけどアビーは絶ってー渡さねー!」

「じゃあデリートするしかないヨネ」

いきなりアリナは何かキューブのようなものをフェリシア達の目の前に投げる。

するとフェリシア達の周りの光景が何やら不気味な絵のようなものへと変化していった。

「魔女の結界!?ってことは…!」

すると何か巨大なものが落ちてくる大きな音が辺りに響き、思わず目を閉じてしまうような強風が起こる。

「魔女…!」

フェリシアは今にも魔女に今にも飛びかからんとする剣幕で魔女を睨みつけている。だが飛び掛かりたい衝動を抑えその場でとどまっていた。

(今はアビーがいる。魔女を倒すよりこいつを守らねーと!)

岩の魔女と戦って以降、フェリシアは自分の感情の制御ができるようになっていた。憎しみこそ消えはしないがその場に合わせてある程度は判断が出来るようになっていた。

「これが魔女…」

いきなり現れた巨大な魔女を見てアビゲイルは呆然としていた。そんなアビゲイルを守らんとすべくフェリシアは前へと立ちはだかる。

「どう?この魔女、適当に拾ってきた割には中々ビューティフルだと思わない?」

「は?何言ってんだオマエ?」

「えっとフェリシア、ビューティフルっていうのは美しいって意味よ」

「いやますます意味分かんねーよ!?魔女に美しいとかねーだろ!?」

「アナタにはこの魔女の美しさが分からないってワケ…?まぁ別に分かってもらう必要もないケド」

そしてフェリシアがその場で身構えていると魔女が棒のような腕で振り払うように攻撃を仕掛けてきた。

それをハンマーで受け止める。

「へへ、大したことねーぞ…。これなら…っ!」

攻撃を受け止めたフェリシアに突如いくつもの小さなキューブのようなものが弾丸のように飛んでくる。

「アリナもいること忘れないヨネ」

咄嗟にかわし事なきを得る。

「くそっ…!」

続き、魔女が再び攻撃を仕掛けてくる。またしてもハンマーで防ぐが攻撃は一撃にとどまらず連続で仕掛けてくる。

攻撃がやんだ瞬間腕にハンマーを振るうがかわされる。

「さっきのひげ親父と同じことしやがって…!」

その素早い動きからフェリシアは先ほど戦ったワルドのことを思い出す。

続きアリナのキューブが飛んでくる。それをかわすとその先に魔女が回りこんで攻撃をしかけてくる。それに対しフェリシアはいったん距離をとる。

(くそっ!このままじゃやべーぞ…!)

フェリシアは追い込まれていた。

素早い攻撃を仕掛けてくる魔女、離れた場所からしかけてくるアリナ。

攻撃をあてることの難しい二人の敵。せめてどちらかならまだ戦いになるが1対2ではかなり厳しい。

(こうなりゃ…!)

今フェリシアが考えていること。それはワルド戦の再現。つまり接近してくる魔女に一撃を叩き込み一気に倒すというものだった。

フェリシアはハンマーを持ち上げ、待ちの構えを取ろうとする。

「うおっ!?」

しかし横から放たれたキューブに妨害される。

「何?ストップしたからギブアップしたのかと思ったんですケド」

(少し遅れてたらやられてた…!)

先程と違い今度の相手は一人ではない。魔女に集中すればアリナに隙を見せることになる。

アリナの様子を見つつキューブを躱しながら待ち構えるという手もある。しかしそれではいざ魔女と一騎打ちになるとき相手より先に攻撃を叩き込めるか、フェリシアは不安を感じていた。

(やるしかねー!オレがやらなきゃ誰があいつを守んだよ!)

アビゲイルは怯えた表情で、しかし目を逸らすことなく、逃げることなく戦いを見守っていた。

それが彼女なりにできる精一杯だった。力になれないならせめて見守るだけでもしなければならない。

そんな想いでアビゲイルはこの場で立っているのだろうとフェリシアは感じた。

ならそれに応えない訳にはいかない。

覚悟を決める中フェリシアはある策を思いつく。

(これしかねぇ…一か八かだ!)

そうこうしているうちに魔女が走り出す。その長い手足を動かし、獲物を追い立てる獣のごとくフェリシアに迫る。

一方フェリシアは動かずボールを待つバッターのようにハンマー持ち構える。

(フーン、先に魔女を仕留めるってワケ?)

見ていたアリナがそう分析する。

「でもやっぱりアリナを無視するのはベリーバッドだヨネ」

アリナは手元にキューブを出現させる。

しかしすぐには撃たない。アリナは狙っていた。フェリシアが最も集中する瞬間を。

そして魔女の腕の射程に入る直前、小さくバラバラになったキューブを解き放つ。

魔女とアリナの二方向からの攻撃。どちらの攻撃も躱すことができない。かと言ってどちらかを防げばどちらかの攻撃を受けることになるだろう。

「これでジ・エンド。バイバイ」

二つの攻撃がフェリシアに迫る。

「それを待ってたぜ!」

フェリシアはキューブの方に向き直りハンマーを振るう。

振るったハンマーはアリナのキューブ達を捉える。

「いっけぇぇぇ!」

そして魔女に向かって思いっきりキューブを打ち返す。

「ワッツ!?」

突っ込もうとしてきた魔女にそれが避けられるはずもなくそれをもろに食らう。

思わぬ攻撃を食らった魔女の体勢が崩れ動きが止まる。

その隙をフェリシアは逃さない。

「りゃぁぁぁ!」

魔女に全力の一撃が叩き込まれる。

結界中に音が響きわたるほど強烈な一撃を受けた魔女は再び立ち上がることも出来ずそのまま消えていった。

「へへ、どうだ…!」

「フェリシア!危ない!」

「あ…?」

アビゲイルの声にフェリシアが振り向くとそこにはフェリシア目掛け飛んでくるキューブ達が目に入る。

「くそっ!」

急いでハンマーで受ける形をとり、どうにか防ぐ。

「っ…!」

「まさかアリナのキューブを利用するなんて…ちょっとしたサプライズだったんですケド」

フェリシアは少し離れた位置にいるアリナを睨みつける。

「まだやんのかよ」

「オフコース。だってアナタもうろくに動くことも出来ないヨネ」

「!」

フェリシアは先程大半のキューブを防ぐことが出来たが一つだけ防ぐことはできず足にダメージを受けていた。

もう走ったりすることもできるかどうか。

「だから弱ってるエネミーを怖がることもないってワケ」

アリナはゆっくりとフェリシアに近付く。

「やめて!」

「アビー!?」

二人の間にアビゲイルが割って入る。

「ウィッチガール…何のつもり?」

「お願い…!私を連れて行っていいから…もうフェリシアを傷つけないで!」

「おいアビー!辞めろ!オレは大丈夫だ!」

思わぬ行動をとったアビゲイルをフェリシアが止める。

「ごめんなさいフェリシア…私がいけなかったわ。私が頼ったせいであなたが傷ついて…その上命まで落としてしまうなんて絶対あってはならないことだわ。だからこれでいいの」

「アナタがこの結界にいる限りエスケープすることはできない。だから別にそこのキンパツを見逃す理由にはならないんですケド」

「私に出来ることなら何でもするわ!だからお願い…!」

もうこれ以上フェリシアを傷つけまいと必死に叫ぶ。

「フーン…じゃあスティールボールを連れて来て。アナタがいるってことは近くにいるってことだヨネ」

アビゲイルは難しい顔をする。

「それは…ごめんなさい…それだけはできないわ。あの人は遠いところに行ってしまわれたもの…私の手が届かないほどに」

「じゃあキンパツはデリートするしかないヨネ。ほら、邪魔」

「キャッ!」

アリナがアビゲイルを強引にどかす。

「まぁアナタがいればスティールボールは必ずやって来る。わざわざ頼むようなことでもないヨネ」

「お願い…!他のことならなんでもやるから…!だからこれ以上フェリシアを傷つけないで…!」

アリナはアビゲイルの声を無視してフェリシアの元へ近付く。

「これでアナタをヘルプできる人間はいなくなった…今度こそデリートしてアゲル」

「やれるもんならやってみやがれ…!」

フェリシアは自身の敗北を悟りながらもまだあきらめていない。たとえ自分が命を落としてもせめてアビゲイルだけでも逃がす。そのためにただで命をくれてやるつもりはなかった。

「アハッ!そう!ただ死なれるだけじゃ大したインスピレーションにならないヨネ!どうせならあがいて!もがいて!命の輝きを見せてから死んでヨネ!」

フェリシアはハンマーを構え、アリナが手の上にキューブを出現させる。

アビゲイルはその勝敗の決まった勝負をただ見ていることしかできない。

(あぁ…あのときと…セイレムのときと同じ…また私のせいで命が失われてしまう)

このままではフェリシアを、自分を守るとまで言ってくれた友達を失ってしまう。

「駄目よ…そんなの駄目っ!」

突如強く何かがぶつかる音がする。そして二人の目の前からアリナの姿が消えた。

「は…?」

一瞬フェリシアには何が起きたか分からなかった。わずかに見えたアリナの残像を目で追うとそこには壁に叩きつけられ血まみれになったアリナの姿がそこにあった。

「なっ…!?一体何が起きたんだよ…!?」

次にフェリシアが確認したのはアビゲイルの様子だった。するとフェリシアの前の眼に飛び込んで来たのはとても信じられないようなものだった。

「おい…なんだよそれ!?」

アビゲイルを見るとそのそばに一本の触手が浮かんでいた。魔女にも匹敵するような巨大で作り物であるかと疑ってしまうほどに生々しい触手。

そのあまりにもグロデスクな形容に吐き気すらこみあげてくる。

「あぁ…やっと見られた」

血まみれのアリナが触手を見つめる。

「ビューティフル…。これが魔女とは違う新しいアート…。そうだスケッチしなきゃ…スケッチブックは…ペンは…」

痙攣させながら何かを探すように腕を動かす。しかしそれらを掴むことが叶わないと理解するとアリナは心底悔しそうな顔をしながら瞳を閉じた。

「あぁ…あぁ…」

一方アビゲイルは震えながら血まみれになったアリナを見つめていた。

「アビー大丈夫か!?」

触手を警戒しながらフェリシアが近づく。

「私が願ったから…?助けたいと思ってしまったからアリナさんは…」

「何言ってんだ!オマエは何もしてねーだろ!」

「ごめんなさい…!ごめんなさい…!ごめんなさい…!」

フェリシアが声をかけてもアビゲイルはまるで聞こえていない。ただごめんなさいと繰り返す。

そしてそれが何度か繰り返された後フェリシアはあることに気づく。

(魔力…!?なんでアビーから…?)

今までに感じたことのないワルドとも違う魔力。だがその邪悪で禍々しさをも感じさせる魔力はフェリシアに何かがやばいと予感させる。

「おい辞めろよ!それ以上いったら戻れなくなる!」

段々とアビゲイルの中でその邪悪な魔力は高まっていく。

「あぁ…やっぱりそうなのね。やっぱり私は…」

 

魔女なんだ

 

そのとき邪悪な光がアビゲイルを包み込む。

その結界の端から端まで照らすようなまばゆい光にフェリシアは思わず目をつむり、やむを得ずその場から離れる。

光が収まり目を開けるとそこに先程までいた巨大な触手はなくなりどこかに消えてしまったようだった。

そして先程まで光のあった場所には少女が一人佇んでいた。

「アビー…?アビーなんだよな…?」

その少女はワンピースの代わりに黒いツタを首元から何枚か張り付けた服といっていいのかすら怪しい衣装に、シルクハットの代わりに魔理沙のような、絵本に出てくる魔女のような三角の帽子を被っていた。そしてその綺麗で純粋な青い目は血のような赤い目をした冷たい目へと変わりフェリシアを見つめていた。

しかしその顔立ちやブロンドの髪は紛れもなくアビゲイルのものだった。

「…フェリシア」

「っ!」

少女がフェリシアの名を呼ぶ。それによりフェリシアは目の前の少女が確かにアビゲイルであることを確信する。

「やっぱりオマエはアビーなんだな…!」

目の前の少女が確かにアビゲイルであったこと。

それがフェリシアにとって決して良いことであったかは分からない。

この少女は危険だ。たとえどんなことをしても止めなければならない。

そう本能が訴えるのだ。

「なぁ…オマエ別に何もしないよな…?何か悪りーことしたりしねーよな…?」

アビゲイルはその質問に対して何も答えない。

代わりに返したのは笑みだった。

年相応の無邪気で悪戯っぽい、それでいてその笑みは確かに悪意を孕んでいた。

瞬間フェリシアはアビゲイルに向かって走り出していた。

もしここで止めなければ取り返しのつかないことになる。

その確信にも似た予感が足の痛みをも忘れさせフェリシアを突き動かす。

だが同時にアビゲイルの近くの空間に穴が開き、そこから触腕が現れる。

そして触腕は薙ぎ払うように動き、フェリシアはそれにハンマーを打ち込む。

―――その瞬間フェリシアのハンマーが折れた。

「なっ…!?」

決してハンマーの強度が甘かったわけではない。

フェリシアは一旦下がり、魔法で新たなハンマーを出現させる。

(何だよあの力…!?魔女とか魔法少女と全然レベルがちげーぞ…!?)

「フフ…」

アビゲイルが不気味に笑い出す。

「ねぇフェリシア、あなた勘違いしてるわ。私はただ償いがしたいだけよ」

優しく、それでいて誘惑するような声でアビゲイルが語りだす。

「償い…?」

「そうよ…父なる神は私に力を貸してくださった。罪深き私に。なら私もそれに応えなくていけないわ」

「何言ってんだよ…!神ってのはそのぐにょぐにょした変なやつのことなのかよ!?オマエのやろうとしている償いって何なんだよ!?」

「…言えば必ずあなたは止めようとする。でもこの償いが終われば最後にはみんな救われるわ。もちろんあなたも含めて」

「あん…?」

「あなたは私によく似ている。だから分かるの。あなたも私と同じ救いを求める子羊の一人だって」

「オレに救いなんていらねー!オマエが間違ったことしようとしてんならオレはそれを止めるだけだ!」

「…そう。じゃあしばらくそこで眠っていて。大丈夫。次目覚めるとききっとあなたも救われるから」

そのときフェリシアは後ろからまた感じたことのないような魔力が近づいてくるのが分かった。

「くそ!誰だよこんな時に!」

「誰だとは失礼な。もう私のことを忘れたのか?」

自分を小馬鹿にしてくるようなその声はフェリシアにとってとても聞き覚えのあるものだった。

「魔理沙!」

「悪い。ちょっとトラブルがあってそれで遅れた。あのベラってやつ二度と戦いたくないぜ…。っと今はそんなこと話してる場合じゃないみたいだな…」

「魔理沙さん。ようやくいらしたのね。あなたも私の邪魔をするのかしら?」

「私は平和主義者だからな。無用な争いはするつもりないぜ」

「…ならどうしてそんなに私を睨みつけるのかしら?とても争いを好まない人がする目だとは思えないのだけれど」

「ハハハ!じゃあお前もその魔力はなんだ?放っておいたらろくでもないことになりそうなんだが…間違ってるか?」

あきれたようにアビゲイルはため息をつく。

「やっぱりあなたも私の邪魔をされるのね」

「フェリシア足を見せてみろ」

フェリシアが怪我をした足に魔理沙が触れる。すると足の痛みが段々と引いていった。

「お前こんなこともできたのかよ!?」

「治療魔法なんてあんまり趣味じゃないけどな…。動けるか?」

「おうこれなら…!」

「じゃあそこでじっとしてろ」

「は!?おい!オレはもう戦えるぞ!」

そう言うと魔理沙は帽子をなでる。

(念話の合図…!)

「ってわけでしばらくお前の相手私がやらせてもらうぜ。文句はないよな?」

「いいわ。私の邪魔をするなら皆どいてもらうだけ。あなたも、フェリシアも」

箒にまたがり魔理沙は宙へと飛び立つ。

触手は自らをうならせながら魔理沙を追う。

そして魔理沙に向かって叩きつけるように触腕を振るうが、魔理沙はそれをひらりとかわす。

結界の壁に触手がぶつかり天井から床までヒビが入る。

「おいおいなんて馬鹿力だよ!幻想郷にもこんなのそうはいないぜ…?」

お返しとばかりに触手に弾幕の雨を降らす。

だが触手には傷一つ着いた様子はなく、それを見て魔理沙は眉をしかめる。

(…よし!つながってるよな!?)

そのタイミングでフェリシアは魔理沙と念話を開始する。

(つながってるぜ。それであいつはなんでこうなった!?)

(分かんねー…オレが魔法少女に殺されそうになったらあのタコみてーな足が出てきてそいつをふっ飛ばしたんだ。それでアビーのやつ自分のせいで傷つけたって言ってから様子がおかしくなって…)

(あいつ自身の力が暴走してるってことか…?誰かに洗脳されたりしているわけじゃなさそうだな…)

(どうすりゃあいつを助けられる…!?)

(それ以前にアビゲイルに対して手加減してる余裕はあるのか?少なくとも私にはないぜ)

(あん?どういう意味だよ?)

(つまり本気でやらなきゃこいつは倒せないってことだ。たとえアビゲイルがどうなってもな)

(っ!オマエ何いってんだよ!?)

思わぬ魔理沙の言葉にフェリシアは驚きと怒りがフェリシアの顔は入り混じったような顔になる。

(気づいているか?こいつの魔力少しずつ上昇してる。今でさえこんな触手のバケモノを操るんだ。このまま放っておいたら次何をしでかすか分かったもんじゃないぜ)

(でもだからって…!)

(あの触手が神浜に出ればただじゃすまない。いつまでこの結界がもつか分からないが絶対にあいつはここで止めなきゃならない。分かるよな?)

(でも…)

(もしこいつが外にでれば間違いなく多くの死人がでるぜ。こんなこと言いたくないが今のアビゲイルはもう災害…もっと言うなら同じだぜ。お前が死ぬほど憎んでる魔女とな)

その言葉に一瞬フェリシアの思考が止まる。

「あいつが魔女と同じ…?」

自分たちに対し容赦なく力を振るう少女。

外にでれば邪魔をしようとするもの全てを傷つけ、かつてフェリシアがされたように誰かの大切なものを奪うだろう。

そんな少女と魔女に一体なんの違いがあるのだろうか。

「違う…違う!あいつは魔女なんかじゃねぇ!」

フェリシアが叫ぶ。

「アイツは父ちゃんも母ちゃんも死んで…知らねーところで一人ボッチになって…その上でっかい罪ってやつに苦しんで…今はちょっとおかしくなってるだけだ!だからあいつがこれ以上ひでー目にあうなんて駄目なんだ!」

フェリシアは両親を失う苦しみも、一人になる苦しみも、大きな罪を背負う苦しみまでもアビゲイルが背負う苦しみ全てが分かるようだった。

だからこそ助け出したいと、守りたいと願ったのだ。

「待ってろアビー!オレがオマエを止めてやる!絶対オマエを魔女になんかさせねぇ!」

その言葉にアビゲイルは何も答えない。ただ冷淡な瞳を向けるのみ。

(何か考えがあるんだな?)

魔理沙が問う。

(いつ手遅れになるか分からない。やって欲しいことだけ教えてくれ)

(オレがアビーをぶん殴れるくれー近くに行かせてくれ!それだけでいい!)

(助けたいってやつの言うようなセリフじゃないぜ…。分かった。バケモノは私が惹きつける。だからその隙にあいつの元に行って来い!)

フェリシアがアビゲイルに向って走り出す。それを防ぐため触手はフェリシアの元へ向かう。

「おっとそうはさせないぜ!」

魔理沙が弾幕を生み出し結界の空を埋め尽くす。そしてアビゲイルに向けてそれらが一斉に放たれる。

それら一つ一つはかすり傷すらつけられないハリボテみたいなもの。だが触手を引き付けるには十分。

触手はアビゲイルに覆いかぶさるようにして光弾を防ぐ。

その間にフェリシアはアビゲイルのもとへと急接近する。

「これで…!」

あと少し、というところで想定外のハプニングが起きる。

「なっ…!?」

なんと新たな触手がもう一本フェリシアの目の前に出現したのだ。

「マジか…!」

箒にまたがった魔理沙が全速で向かうが弾幕を防ぎ切った触手がそれを阻む。

「フェリシア!」

「くそっ!」

フェリシアは走った勢いそのままにハンマーを振りかぶり、触手はフェリシアに迫る。

場は触手とフェリシアの一騎打ち。

パワーで敵わないフェリシアはハンマーから触手に絡めとられてしまうだろう。

「フェリシア、こんどこそ眠っていてね。大丈夫。少し痛いかもしれないけどその痛みも最後にはあなたを救ってくれるから」

このとき魔理沙はフェリシアの敗北を、アビゲイルもフェリシア捕らえたと確信していた。

真っ向からぶつかってはフェリシアに勝ち目はない。どう考えてもそれは明らかだったからだ。

フェリシアもそれは分かっていたのだろう。

だからハンマーが衝突する直前その手を離した。

「!?」

思わぬ行動に目を見開くアビゲイル。

そしてハンマーに絡みついた触手はフェリシアを取り逃がす。

触手をかわし再びフェリシアはアビゲイルのもとへと駆け出す。

触手も一瞬遅れて追いかける。

「邪魔させないって言ったはずだぜ!」

目の前の触手をよけるように魔理沙は最後の魔力を込めた一撃をフェリシアを追う触手へ放つ。

その一撃は見事に当たり、わずかに触手の動きが鈍る。

フェリシアが目の前に迫りアビゲイルも手に持った大きな鍵で自分の身を守ろうとする。

あと少しというところまで来たフェリシア。ここを逃せばチャンスは二度と訪れない。

(ここで決める!)

触手もあと数ミリのところまで迫る。一瞬の遅れも許されないこの状況でフェリシアはアビゲイルに向けて手を伸ばす。

「届け!」

伸ばした手アビゲイルの額に触れる。

「っ!」

そしてそのまま強くアビゲイルの頭をはたいた。

「何を…!?」

はたかれたアビゲイルはフェリシアに向き直り鍵を構えようとする。

「…あれ?」

だが突如力が抜けたように鍵を落とし、触手も完全にその動きを止める。

「あぁ…なんてこと…フェリシアあなたまさか…!」

「ごめんな。オマエを止めるにはこれしか思いつかなかったんだ」

このときのアビゲイルの顔はフェリシアにとってとても印象に残るものだった。

まるで解放されたような、でもどこか空っぽになってしまったような不思議な表情。

そしてそのままアビゲイルは膝をつき崩れるようにその場で倒れた。服も元に戻り、周囲を覆っていた結界は消え、周りは裏路地へと戻った。

辺りはすっかり日が暮れ夜になっていた。

「終わったのか…?」

魔理沙の問いにフェリシアがうなずく。

「正直言って私には何が起きたのかさっぱりわからないんだが…お前アビゲイルに何をしたんだ?」

「こいつはずっと苦しんでた。俺と一緒に遊んでる時も、戦ってる時も自分の罪ってやつに。多分その罪から解放されたくてあんなことやったんだと思う。だからそいつを忘れさせたんだ。オレの魔法で」

「つまりこいつの罪悪感を忘れさせたってことか…?」

アビゲイルがここに来る前話した多くの人を殺したという話。

そしてその罪を背負った者の苦しみ。

フェリシアはそれがどういったものなのか、事実なのかさえ分からない。

しかし似たもの同士であるからこそアビゲイルが抱えた苦しみを理解し、忘却の魔法を扱えたからこそフェリシアはアビゲイルを止めることができたのだ。もし違う誰かであればこうはいかなかっただろう。

「ていうか待て、忘れさせたってそれ()()()()か?そんなことできるなんて聞いてないぜ?

固有魔法とは他の魔法少女には使えないその魔法少女だけが使える魔法である。

「オマエいつもガンガン攻撃するから使うとこなかったんだよ!魔女に使えば動けなくなるのによ!」

「そいつはお互い様だぜ…とにかくこいつは罪悪感を忘れたからもうあんな風に暴れないってことでいいんだな?」

「それは…」

そこでフェリシアは顔を曇らせる。

「おしゃべりはその辺にしてしていただけませんか?あなた達にさくような無駄な時間はございませんので」

二人ははっとなって後ろを振り向くとそこには茶色髪に黒いドレスを着た魔法少女がたたずんでいた。

「ベラ…!」

その瞳は追い詰められた獲物を見るかのように確かな殺意をもってフェリシア達を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




触手が弱すぎでは?と思う方がいらしゃっるかもしれませんが諸々の事情で弱体化しております。またわかりづらいと思いますが触手は最初の一本と最後の方で出てきたもう一本の二つしか出てきてません。
また他にも突っ込みどころがあると思いますがもしどうしても聞きたいことがある方はぜひ感想などお送りください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話 優しいあなた

マギレコメインストーリー終わっちゃいましたね。
正直最終章の結末がショックすぎて今もまだ引きずってます。
思ってた以上に私はあの子のことが好きだったんだなって終わった後に気づきました。
今回の話は推敲が少し足りてないような気がしますがこれ以上遅くするとまた一年待たせる気がするので投稿させてもらいます。
それではご覧ください。






アビゲイルを止めたフェリシア達の前に現れたのはアビゲイルを狙う魔法少女ベラだった。

「こいつもう追いついてきたのかよ!?」

「流石に空を飛んで行ったあなたの追うのには苦労しました。ですがそのおかげで目的の少女の元へとたどり着けましたわ」

「随分と煽ってくれるな…!」

「魔理沙、こいつ誰だ?」

「話すと長くなるがとりあえず敵だぜ!ここに来る前私はこいつに邪魔されたんだ!」

その言葉でフェリシアは再び臨戦態勢をとり、ハンマーを構える。

「私としてはそこの少女を渡していただけるだけでよいのです。特に争う必要はありませんよ?」

「誰がそんなことするかよ!オマエにやるもんなんて何にもねーぞ!」

「抵抗されるのは構いませんが…本当によろしいのですか?」

「あ?」

「見たところ私がここに来る前に何かあったとお見受けします。魔法少女のあなたはずいぶん疲弊されているようですし、魔理沙さんも私との戦いで魔力を使っていらした。それにここでは空を飛ぶ力の消耗も馬鹿にならないはずですし、実はもう満身創痍といった状態では?」

「…まいったな。ブラフも使えなさそうだ」

魔理沙が困ったような顔をする。その表情からは疲れと焦りも交じっており、本当にまずい状況であるのがフェリシアにも分かった。

「だからってアビーを渡すわけにいかねーだろ!」

フェリシアはハンマーを握りしめ戦意を示す。

「そこまでよ!」

突然上から落ちてくるようにが下りて一人の女が現れる。青をベースにした布に胸部と肩部を守る軽装のようなものをつけたその青髪の女はフェリシア達を守るようにベラの前に立ちはだかる。

「オマエは…七海やちよ!?」

その場に現れたのは神浜一のベテラン魔法少女七海やちよだった。

「あらあら誰かと思えば神浜の最年長たる魔法少女七海やちよさんではありませんか?こんなところまで何を?」

「あなたがどこの魔法少女知らないけどここは神浜。あなたのテリトリーではないはずよ!今すぐここから立ち去りなさい!」

相手を威圧するような剣幕で警告を言い放つ。

「なるほど魔理沙さんたちの応援というわけですか。ふむ…ここであなたに挑むのも一興ではありますね。しかしほとんど残りかすとはいえ()()使()()二人も一緒となるとまた話は別…」

「異能使い?」

聞きなれぬ単語にフェリシアが思わず聞き返す。やちよも気になったのか眉がピクリと動く。

「おっと失言。とにかくこの状況は予想外ですし私も万全ではございません。ここは一時撤退とさせていただきましょう。それでは皆さん、もう会うことのないよう願ってますわ」

あなたたちに会う価値などないといわんばかりのセリフを残し、ベラは建物の屋上までジャンプする。フェリシア達はそのまま数秒警戒を解かなかったが、辺りは静寂に包まれるばかりだった。

「…とりあえずこの場はしのいだみたいだな」

「そうみたいね。あなた達何があったの?ずいぶんとボロボロだけど痛いところはない?」

「お、おう、このとーり平気…痛てっ!」

手足を伸ばしてアピールしようとしたところ足に痛みが走る。

「治療魔法は趣味じゃないって言ったろ?完全には治せないからあまり無茶するな」

「けどアビーのときは全然痛くなかったぞ…」

「やばい状況だったから感覚が麻痺してたんだろ。火事場の馬鹿力ってやつか?少し意味合いが違うきがするけど…」

やちよは地面に寝かせているアビゲイルに目を向ける。

「その子があなたの言ってたアビゲイルね」

「あぁそうだぜ。さっきの魔法少女みたいな変な奴らに狙われているらしい」

「みたいなって…そういえばさっきの子妙な魔力だったけど本当に魔法少女なの?」

「なぁオマエ知達り合いなのか?」

魔理沙とやちよ、二人で話しているところにフェリシアが割り込む。

「あぁちょっとしたな」

「私はあなたのことも知っているわよ。神浜の傭兵さん」

「おお…オレってゆーめーじんなのか!?」

「他の魔法少女に迷惑をかける暴れん坊としてね」

「あ?」

あからさまにフェリシアの顔が不機嫌になる。

「まぁ事情があるみたいだし、今は魔理沙が手綱をにぎっているみたいだから今は見逃しておくわ。でもまた他の魔法少女に迷惑かけるようなことしたらたたじゃすまないわよ」

「なんだと!」

「まぁまぁ、やちよは西の代表として釘さしときたいんだよ。別にお前が嫌いってわけじゃない。そうだろ?」

「…そうね」

けんか腰だったフェリシアは一旦落ち着く。しかし自分を悪者扱いするような発言をしたやちよと素直に打ち解けようとは思わない。

「フンだ」

「おっとやちよ。お前の方が嫌われたみたいぜ」

「別に構わないわ。それより一体あの魔法少女は何者なの?それにその子もなんだか不思議な魔力を感じるけど魔法少女ではないのでしょう?」

「あぁ。アビゲイルは魔法少女じゃないぜ。詳しいことはまた後で…」

「そうだあの緑髪のやつ!」

突然何かを思い出したようにフェリシアが叫ぶ。

「ん?」

「ほらさっきも言っただろ!オレを殺そうとした魔法少女!」

フェリシアはベラの登場によって重傷を負った緑髪の魔法少女アリナのことをすっかり忘れていたことに気づいた。

「そういや言ってたな。どこにいるんだ?」

三人は辺りを見渡すがそれらしき人物は見当たらない。

代わりに決して少なくない血液の跡を見つけた。そしてフェリシア達のいた場所と反対方向にその跡は伸びていた。

「あいつ逃げたのかよ!」

「すごい出血量だけど大丈夫かしら…」

「フェリシア、そいつのソウルジェム割れたりしてなかったか?」

「えっと、多分割れてなかったと思うぞ。どうしてそんなこと聞くんだよ?」

「そうか。ふむ…」

魔理沙が何か考え込むそぶりを見せる。

「とりあえずそれなら大丈夫だろ。魔法少女なら体がある程度怪我してもどうにかなるはずだぜ」

「私が追いかけましょうか。随分物騒な子みたいだけど万が一のことがあったら…」

「ちょっと待ってくれ。フェリシア、才人って奴知らないか?」

「才人?」

「ほら私が言った協力者っていたろ?」

フェリシアは自分達を助けてくれた男のことを思い出す。

「…そうだ!あの兄ちゃん助けに行かねーと!」

フェリシアは才人の元へ走ろうとするが再び足に痛みが走る。

「っ~!」

「だから無理すんなって言っただろ?」

「ねぇその才人って人、男の人みたいだけど…魔法少女でもない人が戦っているの?」

「詳しい事情は後でまとめて話す。やちよ、お前はこの才人って奴を助けにいってくれないか。死ぬようなことはないだろうがそれこそ万が一ってこともある。その魔法少女には悪いが才人の方を優先して欲しい」

「…分かったわ。場所を教えて」

フェリシアはやちよに場所を教える。

「…ねぇここってさっきの魔法少女が向かっていった方向じゃない?」

「おいそれって少しやばくねーか!?」

「あいつと二対一だと流石に分からなくなるな…。やちよ、すぐに頼む!」

やちよ頷きすぐに才人の元へと向かった。

「やっぱりオレも…」

「怪我してるくせに何言ってんだ。行っても足手まといになるだけだぜ」

「…ちぇ」

「まぁ気持ちは分かるけどな。私ももう少し体力と魔力があったらなぁ」

そう言ってため息をつく。

「けどまぁ、あいつなら心配することないぜ」

「…あの兄ちゃんも髭おやじもさ、何者なんだ?」

「ん?」

「魔法少女でもねーのに魔法使うしあんなにつえーし…それにアビーの奴が呼び出したあの変な奴、魔女じゃねーんだろ?オマエは話したくなねーかみてーだけどさ、もう何か教えてくれてもいいんじゃねーのか?」

そう言われると魔理沙は一瞬何か考え込むような仕草を見せる。

すると冗談めかしたような声でこんなことを言った。

「アビゲイルもあいつらも魔法少女と魔女のいない他の世界からやって来た奴だ。で、私もそうだって言ったら信じるか?」

「…そうかよ」

対するフェリシアの答えは素っ気ない。

「本当に信じるのか?いつもは信じてもらうのに苦労するんだけどな」

それからしばらく二人の間に沈黙が流れる。

「なぁ」

「ん?」

「ひょっとしてアビーは元の世界に戻りたがってんのか?」

膝に寝かせたアビゲイルを見ながら尋ねる。

「そういうことになるな。けどそう簡単にはいかないぜ。何せ私だってその方法を探している最中なんだからな」

「オマエも帰りたがっているのか?」

「私にもやり残したことがある。だから絶対に帰らなきゃいけない」

二人はいつか元の場所に帰らなければいけない。フェリシアはそう思うとなんだか寂しくなってしまう。

「ひょっとして寂しがってるのか?」

からかうように魔理沙が尋ねる。

「ち、違げーよ!」

「ハハ、そうか。正直どうすればいいか検討ついてないから当分ここを去るのは先になるだろうけどな」

だが寂しいという感情とは対照的にフェリシアは二人が元の場所に戻る方法を探してやりたいと考えていた。

家族を失ったフェリシアだからこそその大切さが分かっていたし、アビゲイルはそこでなければ救われないと考えたからだ。

「アビーは元の場所に戻らねー限りずっと苦しんだままだ。だから今は帰れなくても方法だけでも見つけてやりたい」

「こいつを苦しめる罪悪感は消したんじゃないのか?」

「あのときは魔力も込められなかったからあんま魔法を強くかけられなかった。だからそのうち罪悪感を思い出しちまう。でももう一度忘れさせてやるべきなのかな?」

「ん?」

「アビーが自分の罪で苦しんでるならずっと思い出せねーようにしてやるべきなのかな?」

「お前はどう思ってるんだ?」

「…あいつが本当に何かしたなら、忘れちまったとしてもいつかそいつと向き合わなくちゃいけねー。そんな気がするんだ」

「でもなんかそれはオレの勝手みてーで…どうすりゃいいのか分かんねーんだよ…」

たとえ逃げたとしても自分のやったことに向き合わなければならないときがいつか来る。

だが苦しみを取り除けるのにそれをしないのは間違ったことではないのだろうか。

そんな迷いがフェリシアの中にあった。

「それは私じゃなく本人に聞くべきなんじゃないか?本当に忘れたいって思うんならきれいさっぱり忘れさせてやれ。でも向き合うことを選んだならオマエが支えてやればいい。元の場所に戻るまで」

「…ありがとな。オレ何すりゃいいのか分かった。それで、頼みてーことがあんだけど…」

 

 

夜も更けた広場。本来静かで穏やかな空間であるはずのその場所では一人の少年と男が杖と剣を激しくぶつけ会いながら互いに一歩も譲らない戦いを繰り広げていた。

「ハァッ!」

「…!」

杖で剣を受け止めワルドは後ずさる。

「少しはやるようだな。さすがガンダルーヴを騙るだけはある」

「そりゃどうも。お前のほうこそやっぱり衰えてちゃいないみたいだな」

「知った風な口をきくな。それに貴様のことを認めたわけではない。貴様ではやつには…本物のカンダールヴには到底は及ばない」

「…そうかもな」

何も気にならなかったわけではないのか、才人は少し目を細める。

「だが俺が奴に通用するかどうか、それを確かめる腕試しぐらいになりそうだ」

ワルドが浅く呼吸をする。

「相棒、次全力で来るぜ」

剣のデルフリンガーが警告する。

「じゃあこっちもそれに応えてやる」

お互いに神経を研ぎ澄まし静かな集中へと入る。

一切動きのない、それでいて近づきがたい空気が二人を包む。

「あらあら今日はどうしても水を差してしまう日のようです」

「っ!誰だ!?」

才人はワルドの背後に現れた謎の人影に気づく。

「貴様か、ドクロ」

「これはこれはワルド様いつもお世話になっております」

そこにいたのは先ほどまでフェリシア達と対峙していた魔法少女ベラだった。

「対象の捕縛に失敗しました。騒ぎになると厄介ですし、ここは一時撤退してくださいませ」

「すぐにこいつと決着をつける。邪魔するなら貴様とて容赦はせんぞ」

「正直、私はあなたがどうなろうと構わないのですが…あなたはこの世界で活動できているのは我々の支援によるものだということをお忘れなきをお願いします」

「俺を脅しているつもりか?」

ワルドがベラを睨む。

「いえいえ滅相ありません!ただ私はこのことを上に報告せざるを得ません。そうすると場合によってあなたへの支援も打ち切りということになりかねません。あなたの目的は我々が()()()A()と称した人物との決着をつけることであるはず。私が言いたいのはあの猿のようなお方と戦うことがその目的を放棄することに対し見合っているのかと言うことです」

「誰が猿だコラ」

「失礼、思ったことをそのまま言ってしまう性分でして」

「もっと酷えじゃねぇか。謝る気ねえだろ」

「…ふん、いいだろう。そのペラペラと回る口に免じて今日のところは貴様の口車に乗ってやる」

「ご了承いただきありがとうございます。ではまいりましょう」

「待て!お前らには聞きたいことが…!」

「あなたがどなたが存じませんがもしかして魔理沙さん達のお仲間ですか?」

「何?」

「もしそうなら彼女たちのもとへと行ったほうがよろしいのでは?随分と消耗されていらっしゃるようですし」

「っ!魔理沙達に何しやがった!?」

「いえいえとんでもない。私は事実を申しただけ。私は特に関わっては…あ、一応魔理沙さんとは戦っていました。がっつり関わってましたわ」

「てめぇ…!」

人をなめたような態度に才人の怒りがふつふつとわいてくる。

「ともかく急いで行った方がよろしいのでは?彼女たちも誰かの助けが欲しいところでしょうし、私たちに構っている暇はないのでは?」

「…くそっ!」

あたかも魔理沙たちに危険が迫っているような物言いだがベラが離れた以上すでに差し迫った状況ではない。

しかし現状を知らない才人は不安をぬぐい切れない。

「それでは今度こそまいりましょうワルド様」

「貴様ことを覚えておくぞ。もう一人のガンダールヴ。次こそは決着をつけてやる」

とたんにあたりに暴風が吹き荒れる。思わず才人が身をかがめるとその一瞬でワルドたちはいなくなり暴風は止んだ。

「…逃げられたか」

ワルド達が去ったあと周りを見渡していると新たに青い髪の女が現れる。

「…あなたが才人よね?」

「そういうあんたは?」

才人は警戒の色が混じった声で尋ねる。

「私は七海やちよ。魔理沙に頼まれて援護に来たの」

「なんだ魔理沙の仲間か。もしかしたらまた敵が来たかと思ったぜ…」

仲間、という部分に反応してやちよの顔が少し怪訝なものになる。

「ん?なんか変なこと言ったか?」

「いえ、何でもないわ。あなた怪我はない?」

「ああ、特に異常なしってやつだ。そうだ!それより魔理沙達は!?無事か!?」

先ほどベラに言われたことを思い出し、慌てて魔理沙達の安否を確認する。

「大丈夫。大分消耗しているけどみんなもう安全よ」

「…良かった」

才人はほっと胸をなでおろす。

「にしてもあいつ脅かしやがって…」

才人は悔しそうに顔をしかめる。

「もしかしてドクロの魔法少女にあったの?」

「あぁ。あいつらに聞きたいことがあったんだが魔理沙達が危ないっていうから追えなかったんだ」

「そう…口が上手いのね。あなたはこれからどうするの?良ければ魔理沙達を運ぶのを手伝って欲しいのだけれど。聞きたいこともあるし」

「…そっか。魔法少女じゃないやつが戦えるのはお前らからしたらおかしいんだよな。でもそういうことは魔理沙に全部聞いてくれ。あいつらには悪いが俺はさっきの奴らを追ってみたい」

「…分かったわ。まだどんな事情があるのか分からないけど無茶はしないでね。まだ高校生でしょ」

すると才人がおかしそうに笑う。

「久しぶりだ!高校生扱いされたの!」

「…変なことで笑うのね」

「いや本当に久しぶりだったからさ、そういうの…。とにかく気を付けるよ」

「あなたも色々苦労してるのね。それじゃあ、縁があったらまた会いましょう」

そう言い残すとやちよは魔理沙達の元へと戻っていった。

「そんじゃこっちも探してみるとするか」

「…そうだな」

黙っていたデルフがしゃべりだす。

「珍しいなお前があんなに黙ってるなんて。何かあったのか」

「いや、さっきのワルドの奴のやつが言ってたことが気になってよ。本当に相棒たちのやったことはなかったことになってんだなって思っちまったんだよ」

「そうだな…やっぱ少し寂しいのか?お前も?」

「俺はいいさ。何百年も主人がいないときもあったんだからな。だがよぉ、その主人が()()()()のガンダールヴなんて言われるとなぁ…本物はおまえだってのによ」

「いいよ別に。それにワルド言うことだって何も間違ってねぇ。今のカンダールヴはあいつなんだから」

「主人放って、一人旅するようなやつなんかガンダールヴの風上にもおけねぇさ。ルイズを守ってやれるのはサイト、おめぇだけだ」

デルフのその言葉に、才人は何も返さなかった。

 

 

 

コンコンコン

叩いた家の扉が開く。扉から出てきたのは魔理沙の顔だ。

「やちよ!よく来たな!」

「あなた達の方こそよく戻れたわね…飛んできたの?」

「いやガス欠だっただからあれは使えなかったぜ。けど回復した魔力全部使ってあいつの足をもう少しだけ使えるようにした」

「グリーフシードは要らないのよね。正直すごくうらやましいわ」

魔理沙にソウルジェムがないことをやちよは知っていた。

「グリーフシードで回復もできないけどな」

「足を直したって言ったけどそれ大丈夫なの?そんな繊細なことできるイメージないけど…」

「失礼だな。少なくとも痛みは感じてない」

「まぁいいわ。それよりこれ」

やちよは手に持った袋を魔理沙に渡す。

「おっどれどれ…まぁお前が買ってきたなら間違いないか」

「随分と適当なのね」

「何せ作ったことないからな。この紙箱に入ってる奴なんかどう扱うのかさっぱりだぜ」

一瞬やちよは不審なものを見るようなめで魔理沙を見つめるがすぐに元の表情に戻る。

「悪いな、面倒なことに巻き込んだ挙句買い物まで頼んで。そういや才人はどうだった?」

「あなたの言う通り何事もなかったわ。随分と信用してるのね」

「私はあいつの大丈夫って言葉を信じただけだ」

「それはそれで信頼してるってことじゃない?」

「そうか?それよりフェリシアの言ってた魔法少女はいたか?」

「ここに来る途中、あのあたりを見回ってみたけどそれらしき子は見かけなかったわ。無事だといいのだけれど…」

「おい!材料来たんだよな!早く作るぞ!」

いきなり現れたフェリシアは魔理沙に渡された袋を奪うように持って行ってしまった。

「そんな焦んなくてもいいのに…突っ走って何かやらかさないだろうな?」

魔理沙は呆れたような声を出す。

「良ければ私も手伝いましょうか?」

「いいのか?」

「あの子のために作るんでしょう?小さい子に変なものは食べさせられないし、力になれると思うわ」

「じゃあ頼むぜ。私は部屋にいるから終わったら言ってくれ」

「あなたは手伝わないの?」

「疲れた。少し寝る。魔力もすっからかんだしな」

「大丈夫なの?あなたの体の仕組みは分からないけど簡単に魔力がなくなるようなこと前はなかったじゃない」

「今日は色々予想外の事態が起こったからそれで疲れてるんだ。約束の話はまた今度にしてくれ。ってわけで後は頼んだぜ」

そういって魔理沙は自室へと入っていった。

「さてと、やりましょうか」

魔理沙を見送りやちよは台所へと向かった。

 

 

 

「ここは…?」

アビゲイルが目を覚ますとそこはベッドの上だった。

「アビー!起きたのか!?」

様子を見に来たフェリシアが部屋に入ってくる。

「フェリシア…?」

その顔を見てアビゲイルは自分のやったことを思い出す。

「ごめんなさいフェリシア…!私あなたを傷つけて…!」

「へへ、気にすんなよ。あれは変な奴におかしくさせられただけなんだろ?だからオマエのせいじゃねーって」

「…」

アビゲイルは目をそらす。

ふとフェリシアはあの暴走は完全にアビゲイルの意思を離れたものではなかったのではないのかと思った。

あのときのやったことや言ったことはどこかにアビゲイル自身の意思が混ざっていたのではないのだろうか。

(…そんなわけねーよな)

フェリシアはあえてその部分には触れないことにした。

「それより体は大丈夫か?いてーとこないか?」

「うん…大丈夫…」

アビゲイルの声にいつもの明るさはない。

「その、苦しくはねーか?」

「ううん全然…やっぱりあのときあなたは私の罪悪感を忘れさせたのね」

「あぁ。でもそんなに強くかけたわけじゃねーから多分そのうち思い出しちまうぞ」

「そう…」

興味がなさそうな声で言葉を返す。

「…オマエはどうしたい?」

「え?」

「オマエが思い出したくねーなら、ずっと忘れさせてやることもできるんだぞ!…もう苦しまなくてもいいんだぞ」

「…そうね、それならあなたの言う通り私は苦しみから解放されるのでしょう。でも私が苦しみを忘れてしまったら私が不幸にしてしまった人達は永遠に浮かばれないわ。だから償いを終えるまで私はこの苦しみから解放されるわけにはいかないの」

「…やっぱりオマエは逃げないんだな。何をやったのか知らねーけどさ、そうやって自分のやったことと向き合うオマエは強えーよ。でも一人で抱えて無理すんな。力になれることがあったら何でも言えよ!」

その言葉にアビゲイルは頷いた。

「そうだ!ちょっと待ってろ!」

ドタドタとフェリシアは台所へと向かう。すると何かが乗った皿を持って帰って来た。

「これ…パンケーキ?」

「おう!さっき作ったんだんだぞ!」

「どうして…?」

「オマエにかけた魔法が解けたら美味いもんも本当に美味いって思えねーだろ。だからさ、せめて今だけでも好きなもの食えればなって。デコボコだけど味は大丈夫なはずだぞ」

ベッドに座ったまま皿に添えられたフォークとナイフを使い、切ったパンケーキを口に運ぶ。

砂糖の味が強く、少し硬い。一口で初めて作ったのだと分かる出来だ。

だが食べるたびに胸が暖かくなり、優しい何かに包み込まれるようだった。

食べ進めるうちにアビゲイルは涙を流し始める。

「お、おいそんなに不味かったのか…?」

「違うの…!すごくあったかくて…!とても美味しいの…!」

涙を流しながらゆっくりとパンケーキを食べていく。

「ありがとうフェリシア。今まで食べたパンケーキで一番美味しかった」

「本当か!?へへ、オレの自信作だったんだぜ!」

「…一つお願いをしてもいいかしら」

「なんだ?」

「いつか私が罪を償って…全てが終わったら、もう一度このパンケーキを作ってくださらない?」

「…もちろんいいぞ!何度だって作ってやる!」

そう宣言をすると突如フェリシアはベッドに突っ伏した。

慌ててアビゲイルが近づく。どうにも疲れて眠ってしまったようだった。

「話しながら眠ってしまうなんて。私のせいでとても疲れてしまったのね」

アビゲイルは毛布をそっとかけ、穏やかな寝顔を見つめる。

「優しいあなたにいつか救いが訪れますように」

眠りについたフェリシアの横で静かに祈りを捧げた。

 

 

 

翌朝フェリシアが目を覚ますとすでに日は高くなっていた。

体を起こし、伸びをする。ベッドを見るとそこにいたはずのアビゲイルの姿がない。

ベッドの上に一通の手紙があった。

慣れていないであろう日本語で書かれた手紙を読むとそこには謝罪の言葉と感謝の言葉が書かれていた。

そして最後にまた会えることを楽しみにしていると一言添えられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これでこのアビゲイルパートは終わりになります。
一か月ぐらいで終わらせるつもりだったのに全部投稿するのに一年かかっちゃいました。
次投稿するのがいつになるか分かりませんが、今後見て頂ける方はよろしくお願いいたします。
追記
魔理沙が魔法少女はいない発言しましたけど一応幻想郷に魔法少女いましたね…
ものの例えってことでよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。