(小鳥遊銅拍子)
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一 始まりとヒカリ

Count The Power
[ー ー ー ー
ー ー ー ー]


 (こう)(ふう)(よう)()(ひょう)(らい)(すい)(えん)……

 

 かつてこの世界には、『怪』と呼ばれる八つの強大な力が存在していた。

 八つの怪はそれぞれで均衡を保っていたが、ある時一つが纏まりから抜け、新たな怪が生まれ、纏まりに入り込んだ。

 抜けた怪は、「(こう)」。新たな怪は「(てん)」。

 怪はその後何者かによって、限定的な封印をされた。

 そして、現代。

 怪の封印はひとつ、またひとつと解かれていたのだった…。

 

 

   ☆

 

 

 朝。

 

 「ん…」

 

 俺は和泉光琉(いずみひかる)。ごく普通のフリーター(20)。

 毎日夕方までバイトして、来年受験予定の某資格試験に向けて少しずつ勉強をしている独り身。

 んー…なんか部屋がきたないな…なんでももったいなく思って、物が捨てられないからだな…うーむ…。

 …うわ、あんまりゆっくりしてる時間も無いな、バイト行かなきゃ。

 俺は適当に朝飯を食べ、家を出た。

 

 

 とある道端。

 

 「そこのお前」

 

「……?」

 

「お前だ、和泉」

 

「…ん?」

 

 変な声が出た。そりゃそうだ、見ず知らずの男にいきなり名前で呼ばれたんだから。

 青いコートに身を包んだ長身の男…。

 

 「あんた…誰だ?」

 

「そんなことはどうでもいい。…お前、『眩しい力』には気を付けろよ」

 

「…は?力?何のことだ…」

 

 気付くと男の姿は消えていた。

 ホント、何の話だ…?

 

 

 夕方、帰り道。

 あー疲れた。さて帰りますかね…。

 その時だった。

 

 『グゲガエアアグ!!』

 

 向こうの道に、バケモノが見えた。

 ………。

 なんだあれなんだあれなんだあれ!!!?

 頭、胴、足、全部めちゃくちゃじゃないか!

 まるでそこらへんの生き物を適当に合成したみたいな…!

 ジー…。

 やっべ目が合ったぞ!?逃げねえと殺される!!

 俺はダッシュで来た道を走った。

 が、奴の走るスピードの方が上だ!まずい!このままだと…。

 …そうだ、ここを曲がれば路地裏があるはずだ!そこに逃げれば……!

 俺は路地裏に隠れた。

 

 

 「はあ…はぁ…なんだあのバケモノは…」

 

 [あれはクク。僕たちと同じ頃に、僕たちより強力に封印されたはずなんだけどな…]

 

 どこからか、いきなり声がした。

 

 「な…誰だ!?」

 

 辺りを見渡すが、誰もいない。

 

 [僕は(こう)。和泉くんの中に存在する者だ]

 

「こ、(こう)…?俺の中…?どういうことだ?」

 

[細かい説明は後だ。今はあのバケモノ、ククをなんとかしなきゃ、でしょ?あいつ鼻良いからたぶんすぐ見つかるよ]

 

「な…やばいじゃんかそれ!」

 

[…僕と契約してくれ。応じてくれれば力を授ける]

 

「ち、力?」

 

[さあ。どうする?]

 

 なんだそのめちゃくちゃな話…でも乗らないと殺されるよな……。

 …背に腹は変えられない、か。

 

 「…わかった。……乗ろう」

 

[よし!]

 

 光がそう言うと…。

 ゴトッ。

 俺の体の中から、二つの腕輪と一つの宝石が出てきた!

 

 「な、なんだこれ!」

 

[腕輪は『サスペスバンド』、宝石が『エナジージェム』。バンドを両腕に装着して、左腕の方にこのジェムを嵌めて回してごらん。役に立つものが出てくる]

 

 バンド…ジェム…?

 

 「…もうなんかよくわからんけど…やるしかないか!やってやるよ!!」

 

 俺は半ばヤケで、腕輪を装着してジェムを差し込み捻った!

 

 〈Evol Boost〉

 〈Flash Blade〉

 

 なんか腕輪から音が聞こえた。

 と同時に、腕輪から黄色い剣が出てきた!

 

 「なんだこの剣?」

 

[僕の力の一つ、『フラッシュブレード』。こいつであのククに立ち向かえるよ!]

 

 立ち向かえるってそんな……いや、でも…。

 

 「どうせこのままじゃ助からんだろうし…やってやるか!」

 

 

 俺は剣でバケモノに斬りかかる!

 

 『グエアアア』

 

 なんかよくわかんないけど、ダメージは通ってるっぽい!

 

 [良いね、そしたら柄の部分にある赤いボタンを押してみて]

 

 ボタン?…これか。

 

 〈SPEED〉

 

 さっきの音声がまた聞こえて…。

 

 「うわっ!?」

 

 なんか体が勝手に動き出したぞ!?

 

 [赤いボタンはスピード、つまり移動速度が倍になる。制限時間付きだけどね]

 

 …なるほど。

 よし、やってやる!

 

 「うぉら!てりゃ!そうら!!」

 

『グエ…ゲウア……』

 

 弱ってる!…案外弱いか?

 

 [最後にスピードボタンの下の白ボタンを押してごらん]

 

 俺は丸い、大きめの白いボタンを押した。

 

 〈Evolution Boost〉

 

「…うわっ!?なんか力が溢れてくる…!?」

 

[白ボタンは必殺技、『エヴォリューションブースト』。一瞬だけパワー、スピード、ジャンプ力、耐性、その他諸々が倍加する。さあ、ケリをつけて!]

 

 よ、よし…!

 俺は高く飛び上がり、上空から勢いをつけてバケモノに斬りかかった!!

 

 「せぇい!!」

 

『ガオグゲ……ガア!!』

 

 バケモノの姿は、消えた。

 

 [よし、クク撃破だ!]

 

「なんなんだこの力…凄い…」

 

 しかし…ふー…中々疲れるなこれ……。

 

 

 所変わって俺の家。

 俺は、俺の中にいる(こう)とやらに話しかける。

 

 「なあ、お前… (こう)とか言ったっけ?お前の話を聞かせてくれ」

 

[良いよ。まずは僕のことについて]

 

 そう言うと、(こう)は話を始めた。

 

 [僕は…いや、正しくは僕たち、だな。僕たちは『怪』と呼ばれる『大きな力』。世の中に八つほど存在している。実体はなくて、自我だけはあるエネルギー体だと考えて。僕たちは数百年前に生まれ、色々あって、封印された。でも最近蘇り始めている]

 

 えーと?

 

 [で、その怪が自身の力を結晶化させた物がさっきのエナジージェム]

 

 エネルギー体、ね…。

 

 「じゃ、じゃあ腕輪は?」

 

[あれも僕の力の一部を使って作ったもの。左右の腕輪で形が違うよね?]

 

 …たしかに。左腕用の方がなんていうか…簡素で、右腕の方がちょっとだけ装飾が豪華だ。

 

 [左腕は『プレーンバンド』。ジェムの基本的な能力を具現化できる。対して右腕は『ダイナミックバンド』。プレーンとは違い、大規模でスペシャルな能力を解放できる]

 

 なるほど。

 

 [でも基本はプレーンバンドを使ってほしいな、ダイナミックは体力の消耗も激しいから]

 

 …基本?

 

 「基本って…またあんなバケモノが現れるのか?」

 

 俺は疑問を口に出す。

 

 […もちろんそれも十分考えられるけど…。まあ、聞いて。僕の、いや僕たちのこれからに関係する話だ]

 

「俺たちの、これから?」

 

 光は小さく頷き、続ける。

 

 [『天』……僕の宿敵にして、人類の敵。奴は今にもこの世界を我が手に収めようとしている…]

 

 ん?どうした急に声色変えて…?

 

 [良い?さっき僕は、怪という力はこの世界に八つあると言ったよね。この力全てを味方につければ、天を打ち倒せるかもしれないんだ!]

 

 …えーと?

 

 [だからさ光琉くん、力を貸してくれ!っていうか、それが僕との契約だ!]

 

 ……。

 そうして俺は、この奇怪な力を巡る物語に付き合うこととなったのだった。




Remaining 19…


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