ウルトラウーマンラピス (ラピス・ラズリ)
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群青の若き女戦士

M78星雲──

様々な星でヒーロービジネスが起こる中、この星も例外ではなかった。

派遣ヒーローとしてのウルトラマンはブランド化され、M78星雲のウルトラマンが様々な星を渡り歩いていた。

昨日も今日も平和である。

「はぁ……はぁ……(は、早く報告書を提出に行かないと…!)」

彼女の名は「ウルトラウーマンラピス」。

U40で生まれたウルトラ戦士である。

好奇心旺盛でとても慈悲深いウーマンではあるが、仕事真面目で頑張りすぎるところがあり、無茶をすることもしばしば…そして今日も……

「ッ…!はぁー…はぁー…」

視界がフラつき、走るのが限界に近かった。

だがラピスは足を止めずに報告書の提出に向かった。

 

「失礼します…!ウルトラの父」

3回ノックをし、入室していいのか確認の合図が聞こえるのを待って数秒で帰ってきた返事とともにドアを開けた。

「ウルトラの父……報告書の提出に来ました。ゾフィーさんにも出しました」

「うむ、ご苦労。いつも動き回って大丈夫なのか、ラピス」

「……いいえ、大丈夫ですよ。よくこんな風に動いていたはず、ですから…」

ラピスは働き者だった。そう、昔からそうだった…

ラピスには昔の記憶を失っていて、微かな記憶しかない。働き者なのは身体が覚えているからだろう…

「……それなら良いが、無茶はいけないからね?」

ウルトラの父が報告書を受け取り、軽く頭を撫でた。

「……!!」

ラピスの脳裏に何かが蘇る。失った記憶の一部が闇と一緒に浮かび上がる。だが、その記憶は一瞬で消えた…ウルトラの父が頭を撫でられるのをやめたからだ。

「……大丈夫かい?」

「あ、はい…大丈夫です。では、失礼しました」

ラピスは会釈をして部屋を出た。ドア越しからでは分からない、小さな溜息を吐いた。

「………まだ、やるべきことは…ある…」

自分に言い聞かせるような口調で呟き、通路を歩き出した。

 

「……はぁー…」

ようやく仕事が全て終わり、ひと段落をしたようだ。疲れた溜息を吐きながら家族の元へ帰宅した。

「ただいま〜……」

「よぉ、おかえり!お疲れさんだ」

迎え入れたのはラピスの兄、ウルトラマンゼロだった。どうやら今日は非番だったようで家で休んでいたようだ。

「お帰り、ラピス。お前を待っていたぞ。飯が出来上がってるからな」

ゼロの後ろから赤い戦士、ウルトラセブンが姿を見せてラピスを迎え入れた。セブンはラピスの父親だ。

「ただいま、父さん」

「ラピス、ちゃんと休んでいるか?ここのところずっと任務に…」

「大丈夫。こんくらい平気だよ」

ラピスは笑顔を絶やさずそう言った。

「お前…無理するなよ?」

「分かってるよ兄さん。大丈夫だから……ッ」

それでも身体が正直だった。それでもラピスは休まず、任務に遂行、仕事を続けていた。

今日も今日とで疲れた身体を倒すためにベットの上に横になった。

「はぁー……疲れた…(明日のために休まないと…)」

このような毎日が続く。そして明日に備えて、今日もゆっくりと眠った。

そんな日々が毎日続く、続くはずだったー

 

ラピスは今日も仕事に没頭していた。

「なぁ、あのウーマンって…」

「あぁ、そうだ…」

ラピスを見ながらヒソヒソと話す2人のモブトラがいた。

「あのウーマン…あのセブンとゼロの養女なんだろ?」

「でもアイツ…本当は相当ヤバい力を待っているんだろ…?」

「あぁ、なんでも…レイブラットらしいぞ?」

「ッ……」

モブトラ2人はワザとラピスに聞かせるように小声で話しているように見えた。それでもラピスは気にせずに仕事を続けた。自分の息を殺して耐えるように…

「レイブラット…あのベリアルのような感じか?」

「そうだ……怪獣を操る力を持つアレだ。アイツ、噂によれば一部の怪獣とは仲が良くて仲間にするらしいぞ」

「ならヤバくない…?アイツも同じことを…」

「いやいや、大丈夫だろ…普通に働くウーマンだ。暴走とかそういうのはないだろう…」

ラピスは背を向けたまま仕事を続けた。話はそこで途切れた。

 

「……はぁ…」

溜息を吐き続ける。よほど疲れているのだろう…

いや、それだけではない…先程の話が頭に残り、脳裏に無意識に蘇ってしまい、頭を抱える仕草を何度もした。疲れと自分の記憶の片隅で頭痛に襲われているからだ。

「っふぅ〜……帰ろう…」

ゆっくりと立ち上がり、家に向かった。完全にフラめいて、今にも不味い状態だった。

「はぁー……疲れてるのかな?(それでも…それでもボクは……)」

「ちゃんと休めバカ」

「イダッ」

帰宅早々にゼロにチョップを喰らった。

それもそうだ…ここんところ寝てはいたが睡眠時間が少ない、正確には不眠不休でずっと仕事をしているせいでさらに心配をかけたようだ。

「ごめん…」

「ったく、これ以上心配かけるなっつーの…」

「そうだぞ、ラピス…俺たちも無理をする時はある。だが…無理をすればそれ以上に迷惑をかける。分かったな?」

案の定、2人に叱られた。心配する気持ちは分かるが…と、ラピスは思った。

だが、ラピスにとってはこのような日々が毎日あるのが嬉しかった。

天涯孤独だった彼女を救ったのがこの2人だったからだ。このような日々が続けばラピスは幸せだった。

あの任務を頼まれることになってしまうまでは…

 

いつもの仕事にいつもの任務…ラピスにとっては当たり前のような光景になっていた。

今は仕事がひと段落がしたようで、休んでいるようだ。

「………プラズマスパークタワーが…今日も眩しい…」

完全に上の空で独り言を呟いていた。

そんな時だった。

上を見上げると、ウルトラの父からのウルトラメッセージが届いた。

『話したいことがある。私の元へ来なさい』

ラピスは何か任務なのかと思い、ウルトラの父のところへ向かった。

「失礼します…ウルトラの父」

「よく来てくれたラピス。君に話したいことがあって呼んだんだ。君だけの任務だ」

ラピスは軽く頷いて用件を聞いた。

「実は…私たちウルトラ族の第二の故郷である地球の危機なんだ。そこでだ、君に地球に行ってもらい、守ってもらいたいんだ」

「地球に……ですか?」

ラピスは当然のごとく驚いた。突然地球に行ってほしい、地球を守ってほしい、と…ラピスは承諾して良いのか思考回路を回していた。

「ボクでよろしいのですか?ボクはまだ若い身で、半人前…ですよ?(それにボクの事体に流れる血は…ッ)」

「…君だからこそ、行ってきてほしい。君は確かにまだ若い身だ。ゼロと同じくらいに…ゼロも若い身で地球に何度も行ったんだ。君でも守ることは出来る。だから、頼む」

ラピスはあまり理解が出来なかった。頭の良いラピスには珍しいことだったが、言われたからには受け入れることにした。

「分かりました。ボクはその任務を…受け入れます」

「ありがとう。幸運を祈る」

ウルトラの父はそう告げてラピスを退室させた。だがラピスは…顔が真っ青になり、人形のように動かなくなった。

自分が本当に地球で活躍して良いのか…自分の血は……

 

()()()()の血だからー



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怪獣使いのウーマン

暗黒怪盗アルセーヌ 登場


地球へ向かう時間が来た。

セブンとゼロはラピスを見送りに来てくれたようだ。

「……まさか父さんと兄さんと同じように地球へ行くことになるとはね…」

「安心しろ。俺たちは遠くに離れていても家族は家族。兄妹は兄妹だからな」

ゼロは安心させるようにラピスの頭を撫でる。

「ちょ、兄さん…恥ずかしいから」

ラピスは少し顔を赤くしながら照れ顔でそう言った。

「だがゼロの言う通りだ。地球は私たちウルトラ族にとっては第二の故郷だ。お前はお前らしく地球を守ってくれ」

セブンはラピスの肩に手を乗せて安心させるように微笑んだ。

「……うん、分かった。頑張るよ」

「達者でな!」

「健闘を祈る」

ゼロとセブンはラピスを応援し、ラピスは笑いながら背を向けて地球に向かって飛び去った。

「ハァッ!」

「……アイツ、前より変わったな…親父」

「だな…だがラピス。気をつけろよ……お前の心奥底にしまっているモノは…絶対に誰にも見せるな」

姿が見えなくなったラピスをセブンは忠告をした。

 

「ふぅー……アレが、地球…か」

光の国を離れて数分…地球に向けて飛び続けていたラピスはようやく地球が見えてきたようだ。

「……青くて、緑色…白いのは…雲?」

初めて見る地球を見たままのことを独り言のように呟き続けた。

ゆっくりと地球の地面に足をつけた。

セブンから教わった人間体になる方法を思い出しながらラピスは人間となる。

「………これが…人間のボク」

ラピスの人間体は普通の女子…にはあまり見えなかった。髪色か黒で血のように赤いメッシュがかかり、胸は巨乳で体全体が細い。何よりの問題が…右目だった。白いところが闇のように黒く、瞳孔が血のように真っ赤だった。

紗和は近くで見つけたトイレの鏡で確認していた。

隠すために右目は前髪を下ろして隠すことにした。

「……はぁー…」

紗和は溜息を吐いた。()()()()()()()()()()()()からだ。

右目を上手く隠せているのか警戒するように街を歩いた。前髪で隠した右目を見せないように近くて街に来る前に手にしたオレンジ色の半袖パーカーのフードを被って顔を隠していた。

「なんて悪運だ…」

本人は落胆していた。それでも街を歩き続けていた。

 

街を歩き続けて数時間、街の構造や道は大半覚えたようだ。歩き疲れたのか近くの喫茶店に入って休むことにした。

休みながら自分の名前も考えることにした。

コーヒーは美味いとセブンが言っていたが本人は飲めないため、メロンソーダフロートとパンケーキを頼んだ。

初めて食べるパンケーキに感激しながら名前を考えて続けていた。

ふと、窓の外から見えるビルに付けられたテレビに宝石に関する番組が流れていた。

食べていた手が止まる。瞳が宝石のように輝いていた。そう、彼女は誰よりも宝石に詳しく、大好きなのだ。

ここに来る前に、とある惑星に行って資金調達のためやコレクションのために宝石に数個も入手していた。それには理由がある、何故か宝石を見る度に謎のフラッシュバックが起き、脳内の消えた失った記憶の一部一部が闇から薄く蘇り、再び消えてしまうが…自分の記憶を取り戻すために様々な宝石を目にしては記憶を探し、自分の宝石箱の中にコレクションをしている。

テレビを見ながらついに名前が思いつく。

『宝』石のように輝かしく『生』きたい、そして名前が決まった。人間体では"宝生(ほうせい)紗和《さわ》|"と名乗ることにした。

紗和の由来は偶然、その名前を付けた何故か不明。

名前を決め、喫茶店での会計を済ませたあと、再び街を歩く。自分の家が欲しいと思い、ついでながら色々と建物や土地を確認している。

「………平和…」

紗和は小声で呟いた。

だが、その平和はすぐに崩れた。街中に響く、突然現れた怪獣の雄叫び。その雄叫びを方向へ駆け足で向かった。

 

紗和は駆け足で怪獣の近くまで来た。

「はぁ…はぁ……アレ、は……ッ」

『ピガァアアアアアン』

宇宙怪獣リルギアス。

身長60m、体重39000t。

鋭い鍵爪が特徴の怪物である。

「どこから湧いて出てきたの…!?」

紗和は自分の変身アイテムを取り出した。地球ではよく見るスマホだった。しかし機能は地球とは違い、かなり未来のような別機能が満載だった。

画面を起動すると変身コードを入力し、空に向かって構えた。

「ラピスゥ!!」

紗和は変身をした。ゆっくりと拳を構えた。

「ハァッ!」

『キラキラKILLER!!ウルトラウーマンラピス!』

そんな電子音を掻き鳴らしながら、ラピスが降臨したのである。

『ピガァアアアアアン!』

リルギアスはそれに気づくや否や、頭部から生えた刃を飛ばした。

「ハッ!」

ラピスは刃を避けて殴りだす。拳より足を動かした。

ラピスは蹴り技が得意なのだ。膝蹴りをすればかかと落としもした。

しかし流石は宇宙怪獣、そんじょそこらの格闘術じゃ痛くも痒くもないらしく。グラりと一つ地を揺らしたかと思えばラピスの頭部めがけ胴回し回転蹴りが炸裂!

「グアッ…!?」

頭を抑えながら少しずつ距離を置くように下がった。

「ハァア…!」

ラピスは即座にスマホを取り出して、とあるコードを入力し始めた。

『OKAY、3,2,1...』

スマホがそう叫ぶ。

「ハァア!!『やるよ!アルセーヌ!』」

ラピスは再び空に向けてスマホの画面を上げると背後から怪獣が現れた。

「我は汝、汝は我…我が主のために、私も戦う」

『ピガァアアアアアン!?』

これには流石のリルギアスも心底たまげたろう。

リルギアスの動きが止まった。

「やるよ。アルセーヌ」

「御意!」

暗黒怪盗 アルセーヌ

ラピスのバトルナイザーに眠る怪獣。意志を持ち、ラピスの命令に従って行動する。言わば、ラピスのパートナーである。

何故だと、不可解だと、そう憔悴したように乱雑な突きを放つリルギアス。

「我がウルトラ族に味方になるのがおかしいか?」

アルセーヌは翼を広げて大きく羽ばたいた。

「ハァッ!!」

ラピスは勢いよく顎を蹴り飛ばした。

リルギアスにも脳味噌はある。それがグラグラと頭蓋骨内で揺れている。

脳震盪だ。

「アルセーヌ!」

「御意!」

アルセーヌは勢いよく下降してスラッシュを放った。

硬い皮膚であろうと、魔力的攻撃には叶わない。

大きく吹き飛ぶリルギアス。その時だ。

「(これで終わらせる…!)ハァ!」

ラピスはトドメを誘うとL字に腕を構えた。

その寸前、リルギアスはラピスたち目掛けて口からリルギバスターを照射した。

「ッ…!?」

「主ッ」

アルセーヌはラピスの前に立って庇おうとする。

リルギバスター、ウルバトで例えるならば『必殺技の直接対象となった相手の防御力を破滅的ダウンする、自身の必殺攻撃力が永続でウルトラアップする、発動後移動がアップする(+1)』の効果がある激強スキルである。恐らく(執筆当時ではあるが)現在のハイパーゼットンクエストでは高火力を叩き出すに違いない。

「アルセーヌ…ッ」

「ぐぅ…!無駄だ」

アルセーヌは確かにラピスを庇って直撃した。だがしかし、まだ健全の状態だった。

リルギアスはさらにヒートアップ!お得意の突進でラピスたちを襲う。

「ッ…!アルセーヌ!」

「御意!」

もはや何も言われなくてもすぐに行動するアルセーヌ。即座に背後に回って【夢見針】を放った。

『ピガァアアアアアン!』

リルギアスは痛みで動きを止めた。

「ハァア…!(チャンスはこれだけ!)」

ラピスは即座に腕をL字に構えて光線を放った。

「スターライト光線!」

ラピスの必殺技である【スターライト光線】は流星のような星の弾幕と夜空のような青い光線で、その光線はリルギアスに直撃する。

リルギアスはわけも分からずにもがき、爆発した。

「ハァア…」

「主…」

「アルセーヌ。ご苦労様」

ラピスは軽くアルセーヌの頭を撫でるとバトルナイザーに戻した。そしてそのまま空に向かって飛んで行った。

 

「地球での初討伐で肩が凝った…」

軽く肩を回しながら人気のない路地裏で変身を解除し、人間に戻った。

誰もいないか確認しながら紗和は再び街を散策しようとする。

その時、背後から自分を呼ぶ誰かの声が聞こえてきた。

「────誰?」

咄嗟に紗和は振り返った。しかし、誰もいなかった。周りにいるのは街を歩く人間だけだった。

だが確かに名を呼ぶ声が聞こえた。人間の時の名前ではなく────本当の名前を。

その答えは即わかった。自分専用のスマホを確認する。

アルセーヌが画面越しで笑っていた。名を呼ぶ声はアルセーヌだったのだ。

「アルセーヌ…人を騙すのが本当に上手いね」

「我は怪盗だ。他人の目を誤魔化し、ポーかフェイスを忘れないのだ」

「アルセーヌらしいね」

「我はいつまでも主の味方さ。あの日、主と戦い認められた時からな」

紗和はスマホの画面越しを見つめながら笑った。喜びを感じる笑みだった。

「主はそろそろ決めないのか?自分の住まいを」

「すぐに決めるよ。じゃないと来て早々に野宿は勘弁だよ」

「あの建物はなんだ?」

「高い建物だね。父さんはアレをマンションって言ってた。アレは高層マンションかな?」

「……主、金はいくらあるんだ?」

「高額じゃないけどかなりあるよ?」

周りから見れば画面越しで誰かと話しているように見えるが、紗和が今話しているのは怪獣なのは誰も分かるはずがない…

2人で話し合った結果、1つの一軒家を買うことにした。都会ハズレの住宅地にあるが、とても良い家だった。

こうして───宝生紗和、もといウルトラウーマンラピスは相棒のアルセーヌと共に、地球での暮らしが始まった。



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好奇心の銀の毒

ラピスは昔から好奇心が強いとよく言われていた。ゼロとセブンにはもちろん、ほかのウルトラマン達にもよく言われていた。

だがその好奇心によって良いことと悪いことになる可能性もある。ラピス自身も好奇心によって正しい選択肢を選んで決める。それはそれで問題ないが…たまに危険な方向へ行くこともあるので多少心配なところもある。だが彼女の好奇心は少しずつ、善から悪に変わることもあるのだ。

地球に来て早くも数ヶ月が経とうとしていた。一人暮らしに最初は慣れてなかったが今では寂しさは減り、問題なく生活をしていた。

お金には余裕があるので問題なく、そこそこ楽しい生活ができて満足していた。今日も今日で平和に暮らしていた。だが、その平和は時間が経つに連れて破壊されていった。

「ギシャァァァァァ!!」

火山怪獣 バードンが突然現れた。バードンから口から吐く炎で街中を焼き尽くし始めた。

紗和は即座にラピスに変身して変身して数秒で拳で殴り飛ばした。

「ギシャアア!?」

「ハァッ!」

ラピスは押し込みながらバードンを殴りに殴りながら倒していく。それでもなお、バードンは怯まずにラピスを嘴で突くように攻撃をした。

「ッ…ァァ!」

「ギシャア!ギシャアア!!」

バードンは何かを訴えながら叫んでいるようにも見えた。ラピスは首を傾げながらも攻撃をやめなかった。拳で殴り、膝蹴りで腹部に直撃させた。だがバードンは未だに健在状態だった。

ラピスは少しずつ苛立ちが増えてきた。

「ふぅー…ふぅー…デェリャ!ハァッ!」

力任せにバードンを蹴り続けた。バードンの動きは至って単純だとラピスの考察をし結論がついた。そして最後の考察は…動きが遅い。ラピスはこれに関して疑問を抱いた。罠なのか、歳をとっているのか、ラピスは戦いながらも考えを続けた。

「ギシャアア…!ギシャア…」

バードンは激しい動きをしているわけでもなく、何故か突然、弱り始めた。

ラピスもこれには動揺し、拳をそっと身体の横に下ろした。ふと、何かに気づいてラピスは左手に光エネルギーを集めた。

「ギシャアア…ギシャアア!!」

バードンが弱りながらもラピスに突進し始めた。至近距離になった瞬間、ラピスは左手に貯めた光エネルギーをバードンの嘴に当て、口の中に左手の拳を入れた。

「ギシャッ!?」

「バードン、君は…お腹空いているんでしょ?」

ラピスはそう言いながらバードンの体内に光エネルギーを注入した。その瞬間、バードンはラピスを襲うことをやめ、大人しくなった。ラピスはそっと左手の拳を口の中から取り除いた。ラピスはクスッと笑みを見せていた。

「これで充分でしょ?そろそろこの地球から離れてくれないかな?」

ラピスがそう言って人間に戻ろうとした瞬間、バードンが突然、ラピスに甘え始めたのだ。いや戯れ始めたというべきだろう。

「ん?ちょ、痛い痛い…どうしたの?」

バードンは嘴でラピスのバトルナイザーを指した。ラピスはすぐ察してバトルナイザーを取り出した。

「良いの?君がボクの仲間になるってことを…」

バードンは頷きながらラピスに戯れ続けた。

「ん…分かった分かった。君はボクのことを受け入れてくれるんだね。良いよ、これからよろしく」

ラピスはバードンを優しく撫でながらバトルナイザーに登録させた瞬間、バードンがバトルナイザーに吸い込まれるように画面の中に入っていった。

 

「……仲間が増えた」

ラピスから紗和に戻り、人気のないところへバードンが登録されたバトルナイザーを見つめて笑いながらそう言った。好奇心からの行動ではあるが、紗和は興奮の喜びの笑みを浮かばせ続けた。ふと、バードンによって破壊された一部光景を目にした。

焦土と化した街であった。

哀しい現実がのしかかっていた。

紗和からは笑みが消え、静かに手を合わせた。

「(バードンがごめんなさい…一部の人間は避難されていたから問題はありませんでしたが、もし思い出の一部を破壊してたのなら…ごめんなさい…)」

そう思いながら、両手を下ろして自宅へと戻って行った。

ぱき、ぱき。

踏みしめる度に枯れ枝が折れる。

ざふっ、ざふっ。

余波で落ちた葉が鳴いた。

「……(クッソ寒い!!真冬の寒さには慣れない!今なら父さんと兄さんの気持ちが超分かる!)」

紗和は寒さに弱かった。恐らく、あの親子の影響だろう。それでも耐えながら賃貸で住んでる自宅へとようやく着いた。

マナーモードのようにめっちゃ震えていた。

U40出身とはいえ、やはり腐ってもウルトラ族だ。寒さが骨身に染みる。有り体に言おう、マジで凍死の五秒前である。

「あ〜〜〜……死ぬところだった…」

紗和は慌てて暖を取るように部屋中を温め始めた。

「……地球の真冬…なんでこんなに寒いんだろう?」

少しずつ冷えきった部屋が暖まる。

エネルギーが回復して来た。

「はぁー…」

暖かい部屋に溜息が響く。そう、この部屋には紗和しかいない。虚しさが増すが、暖かさも増していった。

もし自分が猫だったならば、今頃地面に寝そべって蕩けていただろう。

このような日々が続き、気がつけば自分は人間の生活に馴染んでいた。1人で暮らす日々は寂しいが、人間での生活は光の国での生活とは違い、好奇心が増す程の楽しさだった。

紗和はバトルナイザーを取り出してバードンに人間での生活を見せようと画面を外に向けた。

バトルナイザーの中では、どうやらアルセーヌともなんとか意気投合が出来たようだ。

「~~~~~~」

「………………」

内部での会話は届かない。

しかし楽しそうだ。

「……何を話しているんだろう?」

そう呟いた瞬間、壁に何か液体が付いていることに気づいた。何かの拍子で水が跳ねて付いたのかはと思ったが、その液体は銀色だった。

紗和は何かに気付いてバードンを人間サイズにし、召喚をした。

「ギョィイイァ」

「バードン……君はここで毒を放った?」

鋭い目つきで見つめながらそう言った。

「……」

バードンは何も言わなかった。

「………違うの?」

それにもまた沈黙で返答をする。

紗和は何も言えず、ただ疑ってしまったことに反省をしていたが、毒がどこから現れたのか気になり、周りを見始めた。

突然、バードンが紗和の両手を両手の羽根で指し始めた。紗和の両手に異変が起きていた。

どろり。

猫だったならば溶けているといったそばからこれだ。

「え?……どうし、て…?」

自分の両手を見つめて呟いた。毒の正体は、自分の指先から出ていた水銀だった。だが紗和自身には毒を操るような力を持っていない。本来の姿であるラピスの時でもだ。

「バードン……もしかして…君が…ボクに?」

バードンを方を振り向いた時、バードンは強く頷いた。

それを知り、ラピスは目眩がしたかのように思えた。

これはひどい。

よりにもよって猛毒だ。それなら炎の方がまだマシだ。

「……どうしてボクに猛毒の力を?…空腹で助けてくれたお礼として?」

そう話してるうちに部屋の中が水銀によって汚れていった。元は賃貸なので汚さないようにしていたが、これはどうすることもできずにいた。

バードンは、何も答えなかった。

「バードン…何か言いなよ。どうして?」

ふと紗和は自分の好奇心が壊れたような気分になった。紗和の好奇心は噂されるほど強く、そしてちゃんとした判断で行動するため自分の好奇心が好きだった。この日に限って判断を間違えた気分になった。バードンを助け、仲間にしたのが良かったのか悪かったのか、自分に自問自答し始めた。

紗和は何も言わずにバードンをバトルナイザーに戻し、暖を止め、部屋中を闇のように暗くし、逃げ出すかのように夜の街へ飛び出した。紗和はここが汚れたくない気持ちが高まり、街灯に照らされた街を駆け出した。

物言わぬ瓦礫の山となった街……ではない。

別の町である。

柔らかくもない、むしろどぎつい光が、今の傷心の───────あるいはメンヘラの紗和にはむしろ心地よかった。

「…………家…どうしよう…」

闇のように光を失った瞳になった紗和は明るい街灯の真下にあるベンチに座って呟いた。周りは誰もいなかった。聞こえるのは、真冬の風の音だけだった。

下手すればこのまま凍死してしまう、そんな気持ちになり、飛び出した家から持ってきた黒い手袋を身につけて毒の制御を抑えた。

寒い夜の中を紗和は歩き出した。そして毒を操るようになってしまったため、人間から避けれる場所を探した。誰もいない、1人で過ごせそうな場所を探し求めた。

行く先行く先で門前払い。

紗和に居場所はないように思えた。

地球に来てから仲間という人物を作っていなかった。いや、作らずにいたのだ。紗和は昔から孤独に生きていたからだ。気がつけば紗和は人気のない、街外れの森林の中にいた。一気に気温が下がり、暖が取れそうな場所を求めて歩き続けた。何も成果を果たせず、死ぬのはまっぴらごめんだと、自分に言い聞かせながら。ふと、奥から微かな光が見えた。街灯かなにかと思い、紗和は駆け足でその光の元へ向かった。光の元は微かな月の光で反射した窓ガラスだった。森林の中に家があったのだ。しかも運良く空き家である。

「……誰かがそのまま放置したのかな?」

独り言を呟き、その空き家の扉に手をかけた。鍵はかかっておらず、灯りはついていなかった。

「……こんばんは…誰か、いますか?玄関の扉の鍵、開いていましたが…その、夜分遅くに申し訳ないです、が……お邪魔…し……」

こんなことを言ってる自分がアホらしく思い、途中からは何も言わずに1人で家の中へ黙々と入って行った。

灯りのスイッチを見つけ、点けようとすると、部屋全体が明るくなった。利用している人はいないはずが、設備とかは残っているのだろうか…

辺りを見渡すのに夢中になった紗和は自分の両手から毒が出ていることさえも忘れていた。幸いにも動きやすい手袋をしていたおかげで物に触れることは出来る。本当なら素手で触りたいが、それはもう不可能になってしまった。

 

一通り部屋中を見渡した後、幸いにも水道や電気などの設備は止まってなかったようだ。家具も全部残されており、寒かった外とは大違いに暖かい家だった。

なんとか暖を取ることができた紗和は安心したのか今いる部屋のソファーに勢いよく座り、横になった。

「……(ここでなら、誰にも気づかれず…1人でいられる。誰も何も、汚さずに…傷つけず…何も問題はない。決めた…ここに、隠れながら暮らして過ごそう)」

そう思いながら紗和は寒さの中歩き疲れたのかゆっくりと目を閉じ、そのまま眠りについた。

バトルナイザーにいるアルセーヌとバードンは心配に思いながら紗和を見守り続けた。部屋中は暖かいが、音も何もなく、聞こえてくるのは外からする風の音だけであり、紗和の心は虚しさが増していった。そして紗和はまるで心が黒い毒に染まってしまったかのように…

 

────心を閉ざしてしまったのだった

 



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毒に汚れ闇に堕ちてゆく心

森の中に暮らし始めて数日が経ち、紗和は自分の毒の制御を抑えるための日々が続いたが、未だに上手くいかず、毎日手袋をつける日々が続くようになってしまった。自分の素手が見ることが出来なくなってしまった。下手に素手でモノに触れてしまうと無意識に毒で汚染させてしまい、汚し、傷つけてしまう。紗和はウルトラマンとしての光を失いかけていた。怪獣が現れた時は必ず戦う。しかし、自分の自信を失い始め、アルセーヌ達の声も聞かなくなった。紗和の瞳は、闇に染まり始めていた。

「………食材が少ない。仕方ない…買いに行こう」

小声でそう呟き、手袋が外れないようにしっかりと身につけて外へ出た。

外に出る時はあるが、紗和にとって外出は警戒心が増すように歩いた。

今日も外は寒さは変わらないが太陽の光が暖かく、風が無い心地よい天気だった。それでも紗和は顔色を変えず、ただ歩き続けた。

「……今日はいい天気…雲一つも無い…眩しい、太陽…」

紗和は小声で呟きだから歩み続けた。さっさと帰りたい、という気持ちが増しながらも歩み続けた。

「あーっ!!風船が!」

その言葉を耳にして紗和は足を止めてその方向を向いた。小さい男の子が風船を離してしまい、哀しんでいるのが見えた。

紗和は取りに行こうとしたが、自分の手で風船を汚して泣いてしまうところを見たくはないと思ったが、幸いにも手袋をしているため素手ではなくても触れることは可能だと気づき、壁を使いながら勢いよく飛び越えて風船の紐を掴んだ。

「はい、しっかり持っているんだよ」

「お姉さんありがとう!」

男の子は笑みを浮かべながらバイバイと手を振って去って行った。紗和は安心しながら再び歩み始めた。紗和の中には何か《嬉しさ》が込み上がっていた。無意識にも、紗和は笑みを浮かばせていた。

 

やることは終え、手荷物が毒で汚れないように注意しながら家に向かった。手袋をしているとはいえ、油断は出来なかった。トボトボを歩き、『早く帰りたい』そんな思いを消さずに家に向かった。

歩いて数十分、ようやく家に着き紗和は疲れた顔を浮かばせながらドサッとベッドの上に横になった。家が遠いせいか疲労が溜まってしまうからだ。本来の姿が常人とはいえ、人間の姿では疲労というのはすぐに溜まってしまう。今なら人間社会はストレスがキツいということを実感したようだ。紗和は静かな部屋で1人、天井を見つめ続けた。物静かである。聞こえてくるのは外の寒い風の音が窓に当たって窓がガタガタと少し揺れている音が響いた。虚しさが増していく、自分が本当に地球にいて良いのかが分からなくなるほど、紗和は徐々に自信と信頼を失いかけていた。人間不信になり始めていくのであった…

 

時間は刻々と過ぎていった。気がつけば紗和は昼食を食べずに眠りについてしまっていた。アルセーヌとバードンはバトルナイザーの中で心配していた。元々ではあるが、紗和は普通より身体が細すぎるのだ。それは食べなさ過ぎだからである。ろくに食事をしないのに怪獣と戦えるのが奇跡である。

「あ……寝てた。今日は…どうしよう?」

ゆっくりと起き上がり、外を見てみた。辺りは夕日の光に包まれていた。赤い光にだ。

「今日の夜も……快晴のような夜になるかも、ね…星がたくさん見れると良いなぁ…」

唯一の楽しみである満点の星空を見上げること、それが紗和の楽しみであった。1人で見る星は闇に堕ちそうになった心を光照らし、元気を与えてくれる。

今見ている星がもし、光の国であり、兄のゼロと父のセブンが見てくれてるのなら、どんな気分をして見ているのだろうと…そんな思いが強くなる。

「………ボク、は…本当に…」

その瞬間、地響きが鳴り始めた。周りは揺れ始め、謎の雄叫びが聞こえ、悲鳴も聞こえた。

「……楽しい時間を減らさないでほしいなぁ…」

窓を開け、外を見れば怪獣が夜の街で暴れていた。

超古代怪獣 ゴルザが現れたのだ。

「ゴシュイィイイッ!!」

大地を揺るがす進撃。超古代の闇が現れた瞬間であった。

「はぁー……」

ため息を吐きながらラピスへと変身した。

「ハァッ!」

変身した直後、空中から蹴りで大打撃を当てた。ラピス流の先手必勝法である。

「ゴシュイィイイッ!!?」

頭から廃屋に突っ込むゴルザ。

ゴキャッ!という音が良く似合う。

「先手必勝、これがボク流の戦い方なんだよね」

言い方がどことなくウルトラマンゼロに似ており、ラピスはお構いなく攻撃を続けた。

「ゴシュイィイイッ!!」

その太い剛腕を振るうゴルザ。

目の前に来た瞬間、腕を掴み上げ勢いよく投げ飛ばし地面に叩き落とした。あんな巨体を軽々と持ち上げて投げ飛ばしたのだ。ろくに食事をせず、身体が細さとは正反対である。

「ゴシュァッ!?」

頭から落っこちるゴルザ。

「どうしたの?もう終わりかい?」

ラピスはクスクスと嘲笑うようにそう言った。

ゴルザは無言で『超音波光線』を放つ。

「うわぁ…!ッ…」

油断したのかもろ喰らってしまい、その場に倒れ込んだ。

そこに太い尻尾を打ち込むゴルザ。

「ッ…!」

咄嗟に身につけていた手袋を外し、尻尾を掴んで水銀毒で濡らした。

しかし、ゴルザには()()()()()

「ッ…効かないのか…(周りを汚したくないのに…ッ)」

ラピスは両足でゴルザを蹴り飛ばし、即座に立ち上がった。

ゴルザはまるでカンガルーのようにしっぽでからだを支え、そしてそのままぐいんと身体を戻して殴りつけた。

「ダァッ!?」

攻撃を喰らいながらも即座に立ち上がり、反撃を続けた。だが状況は変わらず、押されているのはよく分かっている。

ゴルザは蹴りを放つ。そしてさらに剛腕を振るうのだ。

「ッ……バードン!燃やして!」

バトルナイザーを取り出し、バードンを召喚した。

「ゴシュイィイイッ!?」

「ギィョイイイヤァアア!!」

バードンは言われた通りに口から炎を放った。

「ハァァッ!!」

炎で攻撃を喰らっている隙を見てラピスは拳一つでゴルザを吹き飛ばした。

「ゴシュァ」

ゴルザは簡単に吹っ飛んでいた。

「はい!おしまい!!」

そう叫んだ瞬間、一瞬で腕をL字にし、必殺技である『スターリウム光線』を放ちトドメを刺した。

「ゴシュイィイイッ!?」

どうすることもできず、ただ叫び声を上げてゴルザは爆発四散したのだった。

 

「うーん……疲れた…」

紗和は軽く伸びをしながら夜空を見上げた。雲一つ無い快晴のような夜空であった。紗和の汚れた心を綺麗に輝かせてくれる唯一の時間、そして故郷にいる父と兄との日々を思い出す。

紗和にとって故郷にいる2人がどんな思いで自分のことを思っているのかわからない。だが、見守っていてほしい…その気持ちだけは変わらなかった。

肌寒い風が全身を凍らすように冷えて寒い。そんな夜を見上げて星空を眺め続けた。だがその冷たさと寒さは、紗和の心をさらに冷たく凍らせ、閉ざすようにも感じた。誰が紗和の心を温め、開かせてくれるのだろうか…



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本好きの叛逆の覚醒

冬の寒さが減り、春の訪れのような暖かさが増す地球。だが紗和はそんなことも気にせず1人で読書をしていた。趣味なだけあって沢山の本を買ってはすぐに読んでいた。元々本好きなので光の国でも任務前などでよく読んでいた。そして紗和は誰とも話さない天涯孤独の少女だからか、暇潰しや気分転換として唯一の時間は読書だった。所謂、読書家である。

そんなある日、紗和は新たに買った小説を物静かな部屋で1人読んでいた。タイトルは《アルセーヌルパン》と書かれていた。バトルナイザーに眠っているアルセーヌと同じ名であり、怪獣と人間だが同一人物でもある。

最近では推理小説にハマり、読み終えたらまた新しい本を買いに行く。それが紗和にとって何よりの楽しさであった。いつの間にか家は本の山で溜まっていた。本が好きだ、これが紗和にとって唯一の長所でもあった。

 

翌日、紗和は新たな本を購入するために外へ出た。この日は、冬の寒さが減り、春の暖かさを少し感じる日だった。それでも紗和は手袋を取り外すことはなかった。いまだに制御が出来ず、さらには大切な本を汚したくないと思い、外すことはなかった。唯一外すとしたら自分自身が風呂に入っている時だけだ。風呂の湯を汚さないために苦労はしている。

外を歩く紗和はいつもの書店に向かって歩いていた。

ふと、いつもの書店に入った入り口の前で足を止めて新刊の文庫本に目が入った。新着の本には必ずしも目を通すのがクセになるくらい確認していた。今では常連のようによく来るようになった書店で紗和は今日も自分好みの本を探し求めた。だが紗和の中には不思議と《何か》が満たされていた。それは自分でさえ気づいていなかった。

 

「ただいま〜」

書店からようやく帰ってきた紗和だが、家の中は自分の声しか響かなかった。虚しさが増す、紗和の心は少しずつ寂しさと虚しさが増し続け、さらには地球での活動にも嫌気が刺してきた。それでもなお、この地球に現れる怪獣が人間を傷つけないためにはやるしかなかった。

真面目な紗和にとっては断ろうにも断れない気持ちになるので、どんな気持ちであろうとも戦いからは逃れないというのは分かっていた。今までこの地球を守っていた歴代のウルトラマン達のことを故郷である光の国で師範の1人に学んだ時、紗和は分かった。どんな理由であろうとも人間を守るためなら戦い、守る。それだけが紗和の中に取り留める唯一の目的でもあった。とはいえ、今は心が闇に堕ち続けているせいでその目的も失いそうになっていた。

そんな紗和を闇に堕とさないために出会ったのが読書であった。

だが紗和が好む本は殆どが推理やスパイ小説だった。それを読むほど紗和の中に何かが覚醒するような、謎の気持ちに満ちていた。だがそれがなんなのか紗和自身もよく分からなかった。

 

 

気がつけば本を読んでる途中で眠ってしまったのか、ベットの上で眠っていた。

紗和はゆっくりと身体を起こして窓の外を見た。辺りは木々で囲まれてよくわからないが、夕日に包まれていて、眩しかった。

「うぅん……寝過ぎた…」

ベットから降りて水を飲もうとキッチンへ向かった。

冷蔵庫を開き、お茶をコップに注いで口にする。

ふと、冷蔵庫の中を見てみた。大量の食料が並べてあり、どれもまだ一度も開封されてない食料ばかりだ。紗和はここのところロクに食べていなかった。こうやって今生きているのも奇跡であるくらいに栄養をとってない。何故食事をしないのかは本人しか分からない。だが流石にマズいと思ったのか、久々に食料を手にした。

「…今晩は………ハンバーグにしよう」

手にした食料は牛肉のひき肉だった。玉ねぎなどの材料を取り出して作り始めた。材料を揉み込む間、紗和の脳内に故郷での家族と仲間との食事を思い出した。

光の国には自分のことを見守ってくれている家族と仲間がいる。振り返ると家にいると笑顔が絶やさず、毎日が楽しかった。いつも誰かが側にいてくれたせいか、いつの間にか紗和には孤独というモノが再び浮かんでしまったのだろう。紗和の心は少しずつ闇に染まり始めていたが、完全に染まってしまったわけではない。心の奥には懐かしい思い出が残っていた。それが闇を浄化してくれていた。

そんなことを思いながら形が整ったハンバーグを焼き始めた。じゅ〜…と油の音と共にハンバーグが茶色く焼けていった。

ふと、料理する手が止まる。ろくに食べてないせいか料理するのも久々だったので料理本を取り出して作り方を読み直した。

今時ならネットで検索して作るかもしれないが、紗和は本を読むことが習慣になっているのでカンマ2秒でページを開いて作り始めた。何度も読んだ本はページ数を覚えて即開くことが出来るようになった。

読みながらハンバーグの調理を続ける紗和の手は止まらなかった。

数分後、綺麗に焼けたハンバーグを皿に乗せてソースをかけた。一緒に白米と色々と用意した。

手を合わせ、『いただきます』と言い、口の中に入れた。味は美味しかった。文句のない美味しさだった。

だが食べてる紗和の顔はどこか暗かった。無言で食べ続けるが顔は浮かない顔だった。

寂しいのだ…1人で食べる料理には未だに慣れず、食べる料理は美味しさを感じなかったり。静かで食事する音が部屋だけに響き、その日の夜は怪獣が出ることなく孤独で静かな平和な夜だった…

「……ごちそうさまでした」

そして寂しさや孤独の恐怖に心を殺されそうになっていた紗和の声も、部屋中に響いたのだった。

 

なんの変哲もない朝がやってきた。日差しに顔を照らされて目を覚ました紗和。

ベットから出るのを嫌がるように体制を変えて日差しを避けた。目に写ったのは読みかけの本だった。読んでる最中に眠ってしまったのか、紗和は本を手にして続きを読もうとした。その本は宝石に関する本で、写真でも分かるくらい神々しく輝いていた。紗和は星や本が好きであり、宝石も好きなのだ。

眠気を覚まそうと、今も起動出来るテレビを付けた。テレビには朝のニュースばかりやっていて朝から退屈を感じたが、我慢して観ることにした。ニュースには都内の中心に設立されている美術館で宝石展が開催されているという内容だった。

その瞬間、紗和の鼓動が突然勢いよく速くなった。それはまるでテレビに映っている美術館に展示されている宝石に導かれているような、それとも…自分の欲望という何かが込み上がったのだろうか…

スマホのバトルナイザーを強く握りしめた。その瞬間、紗和に眠る《叛逆の意志》が覚醒した。慌てて本棚から全ての推理小説などを読み始めた。そしてその顔は…ニヤニヤとした、獲物を求めるような…

 

 

────悪党の笑みだった

 




最近ネタが尽きてようやく投稿することが出来ました


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罪という名の覚悟

「………」

地球の空を見上げる。青い空、そして白い雲。その空を飛行機が飛ぶ。ウルトラ族である紗和は大きくなればそれが間近に見えて、雲もただの煙に見えてしまう。だから、地球の空は不思議でたまらない。何故地球の空は青くなればただの真っ白になり、さらには黒くなるのだろう…と。そんな思いと共に紗和は街を散策する。

今日も本屋で気に入った作者の本を購入し、最近は生活のために裁縫や料理に関する本や雑誌を購入して読んでいた。

「………好みの味や好みの服はあるが…」

独り言を呟きながら本を読み続ける。他人から見ればヤバい奴かもしれないが、紗和の日常生活はこんな感じである。

だが今日の紗和はいつもと雰囲気が違った。ある覚悟を持ちながら、夜を待っていた。頭元に置いてある本は宝石に関する図鑑と、都内の中心にある美術館のパンフレットだった。

そして紗和の顔には…笑みが少しだけ溢れていた。

 

満月の夜が光り輝くものの、都会の光でその光は殺されているが星の光は光っていた。

その夜が、世間を騒がせるような事件が起きるとは、人々は知る由もない…

「…………フフッ」

謎の笑い声が、夜の街に響く…その瞬間だった。美術館から、警報が鳴り響く。

そこには…証拠も何も無く、ガラスの割れる音が聞こえないまま、展示ケースに置かれていた宝石が消えてしまっていた。

「これが…デンマークのイングリッド王妃が身につけたルビーのリング」

1人の少女は月の光に照らされながらそのルビーのリングを見つめていた。

「………初めてなのに…なんて豪華な成功」

少女は笑みを浮かべ、手にした獲物を月の光に照らす。美術館の入り口では警察と美術館の館長や警備員などが騒いでいた。

少女は美術館の屋上でその光景を眺めていた。

「予告状を置いておいたから、驚くだろうね…」

そう言って少女は─────怪盗少女シンシャは闇の中へと消えていった。

 

 

予告状

お初目にかかります。この世に存在する美しい宝石を我が物にする為に、怪盗少女シンシャがこの世界にやってきた。

今宵、ルビーのリングを手にする。 

怪盗少女 シンシャ

 

 

 

怪盗少女シンシャは逃げるかのように闇のように暗い森の中を歩み続けた。獲物(ターゲット)を手にした嬉しさから笑みが消えることは無かった。

さらに森の奥へ進む、身につけていた黒い外套を一瞬で脱ぎ、本来の姿に戻る。

赤いメッシュがかかった黒髪が月の光に照らされると宝石のように輝き、そして一瞬にしてその輝きは闇のように暗くなる。

「家に着いた。さっさと寝て次に備えよう」

そういうシンシャは─────紗和は森に隠された家に入り、その日の夜は幕を閉じたのだった。

 

翌日、メディアは昨夜の怪盗少女シンシャのことで報道され世間は騒ぎ始めていた。

それをテレビのニュースで見ている紗和は満足げに笑っていた。

「聞いたことも見たこともない謎の怪盗少女が突然現れたらそりゃあこんなに騒ぎになるよね〜」

椅子に座って本を読みながらニュースを観ながら誰かに話しているかのようにそう言った。

「ああ、我ながら驚きだ。主は初めての怪盗を完璧(パーフェクト)に出来て我も驚いたぞ」

「アルセーヌが怪盗だから知識とか色々と教えてくれたおかげだよ」

流石古くからの相棒(パートナー)が教え、身につけた技術と知恵を磨いて怪盗になっただけある。しかし、紗和の胸は突如胸騒ぎが起きた。

脳内からは喜びから不安へと突如変わっていき、視界が真っ白になり出した。

「………主?」

アルセーヌの言葉に紗和は何も応答しない。脳内の不安という思考回路が回りに回り、心臓の鼓動も速くなっていた。

「アルセーヌ……ボクは……ボクは……」

「………」

 

「ボクは───────悪党になっちゃったんだね」

 

その瞬間、外は何やらひと騒ぎが起きていた。

息を整えながらカーテンを開いた瞬間、紗和の目の色は変わる。

「……やっぱ平和にさせるには時間かかるね…」

そう呟きながら外へ飛び出した。

「グィャァアアッンォェアア」

ベラムーが突如現れ、街を破壊していった。ペイル光線を放ち、辺りを燃やしていった。

『認証!ウルトラウーマンラピス!』

そんな機械音と共に青い光が現れる。紗和がラピスへと変身したのだ。

「ハァッ!」

顔面に蹴りをお見舞いさせ、戦闘は開始する。

「グィャァアア」

ラピスに向けてペイル光線を放つベラムーだが、バク転して回避された。そのままラピスは突撃して殴り続ける。

「ッ…デリャ!ハァ!」

「グィャァアアッンォェアア」

その隙を狙い、ベラムーが尾でラピスの腹部を叩いて吹き飛ばした。

「ダァッ!…ッ……デリャァ!ハァッ!」

何度も顔面に蹴りを当て続ける。痛みで叫びまくるベラムー。それで追い討ちを続けるラピスの蹴りは止まらない。

相手が怯んだ瞬間を狙い、ラピスはトドメのスターライト光線を放った。

「グィャァアアッンォェアア」

ベラムーの叫び声をと共に爆散した。

そして見届けたラピスはカラータイマーの点滅と共に青空へ飛び立った。

 

「……ふぅ…」と息を吐く紗和。自分のベットの上に倒れて溜めてしまった疲労を無くすために眠りにつく。

瞳を閉じると、闇の中…何もかもが暗い。

その闇の中から声が聞こえる。紗和のことを罵る…何かの声が。

「何故義賊に…」

「義賊なんかただの悪人じゃねぇか」

「光でもなんでもない」

「お前なんか……」

 

「いない方が良かったよ」

 

「ハッ…!?」

汗をかきながら上半を起こし、荒れた呼吸を整えるために深く息を吸ったり吐いたりする。

「………酷い夢だ…」

そう呟き、ベットから降りながら呼吸を整え続ける。だが、呼吸を整える度に鼓動の動きが増し、脳裏に夢の記憶が蘇ってくる。整えた呼吸も再び荒くなっていき、胸元を抑えた。

「主ッ」

紗和の身の危険を感じたのかアルセーヌが自分の意志でスマホから現れ、紗和の背中をさすった。そのおかげが少しずつ過呼吸が治まり始めた。

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ………ありがとう…アルセーヌ」

アルセーヌに向けて笑みを浮かべて見せる紗和。だがアルセーヌはその笑みを見てギョッとした。笑顔が…本当の笑みではなく、瞳が漆黒に染まっていたが、微かなその漆黒の奥底には、叛逆の意志を意味する黄色い瞳が隠れていたのだった。



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邪悪なる闇の出現

今回はりゅーど様とクロスオーバーしました。
ウルトラマンアバドンも是非読んでみてください。きっとりゅーど様も喜ぶと思います。
クロスオーバー先→ https://syosetu.org/novel/197813/



黒い火球と赤い火球がぶつかり合いながら地球へと向かっていた。

黒い火球は、鳥肌が立つような闇の力で溢れていた。

赤い火球は、血のような歴戦をやり続けたどこかの戦士の力で溢れていた。

その2人は戦っているように見えた。そしてそのまま…紗和がいる地球へと向かい続けたのだった。

 

大量の本が布団の上に置かれたベットの上で眠る。至福の時なのか、それとも疲れたからそのまま寝たのか、紗和はもう覚えていない。

「ふぁあ……」

欠伸をして目元を擦る。そして自分の部屋に戻ろうと立ち上がろうとした時だった。

「んっ」

身体が重い。何かが紗和の中を蓄積しているような感じだった。

「………また、あの夢か」

《あの夢》を見るたびに、紗和の心は抉られ、光がなんなのか分からなくなってしまう。それでもなお、起きないといけないことを分かっているため、ベットから降りて水を飲みに行った。

(ボクもまだまだだな)

そう思いながら水を飲んだ後、もう一度部屋に戻りベットの上に置かれたままの本を棚に戻してから朝食を食べに行くことにした。

 

今日も平和な日が続きますようにと願う紗和。本を読む時の時間が何より至福の時だった。だが、紗和の瞳は何故か…疑心暗鬼に包まれた闇の目に染まっていた。

そのせいでいつも通り過ごしているはずなのにどこか違和感を感じてしまう。

「…………ボクが間違っているのか、それとも…」

小声で独り言を呟いたが、その声は虚しくも部屋に響き、そして消えたのだった。

 

本を読み終えたあと、新しい本が欲しいのと、食材を購入するために外へ出る支度をした。生活にも慣れてきたなと思いながら玄関を開ける。雲1つもない快晴だった。太陽を見つめようとしても、眩しさのあまりに視界を手で塞いで目を閉じる。

森林に隠されていた家から街まで離れているがずっと歩くとあっという間に街へ到着した。

いつもの本屋へ向かう途中、人気ない路地裏で何かを感じたのか顔を向けた。そこには、全身黒い服を着た男の人が倒れていた。

「大丈夫ですか!?」

急いで駆け寄り脈を測る。とりあえず今は家に連れて帰ることにして背中に乗せて歩き出そうとした時だった。

後ろから誰かの声が聞こえる。振り返ると、誰もいない。気のせいかと思い、再び歩き出そうとした瞬間、いつの間にか首を絞められたまま壁に激突していた。

「これが……ウルトラマンの中に眠る闇…ほぉ、悪くない」

男の顔を見た時、紗和は驚愕する。何故なら、光がない闇なような顔と気配。間違いない、闇の巨人だと気づいた。

「君は……誰?!」

苦しさに耐えながらも必死に問う。すると男はニヤリとした表情を浮かべながら答えてくれた。

「私は…そうだな、名前など無い。ただの人間ではないことだけは言っておこう。まぁ、私が何者かはどうでもいいことだ。それよりも、ここで殺しておくべきか、それとも……」

何を言っているのか分からない。しかし、このままでは死ぬことは分かった。どうにかして逃げないと。そう思ったその時、背後から殺気が伝わってくる。

殺される!そう直感的に感じた直後、目の前にいた男が横に吹き飛んだ。

何が起きたのか分からず困惑したが、すぐに理解できた。

「あれは……」

「無事か?」

そう、そこに立っていたの右目を前髪で隠した目つきの悪い高身長の青年だった。

「え……あ…はい」

紗和は戸惑いながら返事をする。

「あの人もウルトラマンなのかな。でも、あの時はそんな力なかったような……」

紗和は、自分が知る限りのことを思い出していた。

自分の両手にある毒を操ること。これは、この闇のように黒い手袋を嵌めて抑えているが、実際は危険な力である。

だが、自分は選ばれたわけじゃない。たまたま運良く取得してしまっただけ。だから、自分は何もできない。

「ボクには、何もできない。だってボクは……ボク自身にすらも認められていないんだから」

自分に問いかけるように呟く。その言葉は、誰にも届くことなく消えた。

 

いつの間にかまたベットの上で仰向けになって眠っていた。どれくらい寝ていたのだろう…と、紗和は考えながら身体を起こした。窓の外を見るとまだ太陽は真上にいた。昼頃だと思われる。

「うわっもうこんな時間……今何時かな」

スマホを手に取って画面を見る。

「14:06って……アレから2時間以上も寝ちゃったのか」

紗和は大きな欠伸をしながら背伸びをして立ち上がる。

「ん〜!よく眠れた〜」

軽くストレッチしてから部屋を出る。

昼ごはんは何を作ろうかと考えながら廊下に出て階段を下る。

キッチンに着くと、冷蔵庫の中を見て食材を確認する。

「………あるにはあるけど…さっきのせいで買いに行けなかったからなぁ…」

外へ出ようにもまた遭遇したら今度こそ殺されると思い、諦めて食べないことにした。実は冷蔵庫はいつも確認しているが、それは飲み物を確認する時だけで実際には食べてない。ここのところ欠食気味なのだ。

何も食べずにソファーに勢いよく腰をかけ、ゆっくりとため息を吐いた。

「………本当、なんだったんだろ…アレ」

1人で呟いていると、身体がゾワッと何かを感じたように鳥肌が立った。

慌てて窓の外を見ると誰もいなかった。気のせいかと思い、窓を閉めたその時だった。

「……ピャッ!?」

いつの間にか目の前に先ほど出会った青年が窓の外で立っていた。驚きのあまりに勢いよく距離を置くように後ろに下がった。

「お邪魔します(男塾名物)」

悲しいかな、青年にとって窓ガラスは紙にも劣る強度であった。

「ダイナミックに侵入するのやめてもらえませんか?!」

鋭いツッコミを喰わらせながら少しずつ後ろに下がって距離を置き続けた。

「んなもん知るか、俺の目的はひとつだ」

「な……なんでしょうか?」

この青年、紗和のことを相当睨んでいた。だが紗和自身は睨まれている理由がよく分かっていない。

「お前を殺す」

……ある意味時が止まった。

驚いた表情をしたまま後ろへ距離を置き続ける。だが目の前の青年、いや…殺人鬼のような人物は少しずつ近づいてくる。

「…………………君、誰?」

その一言で周りの空気が変わる。

「……なんだと?」

「だから……君は…誰?あの時名前聞いてない…誰?後窓ガラス代弁償してね?」

目の前の殺人鬼は紗和のことを知っているのだろうか。だが紗和は赤い目に黒がかかった光のない闇の瞳になって首を傾げながら見つめ続けた。

「……つまんね」

そう言って青年は九四式拳銃を取り出す。銃口を向け、引き金の近くに指を置き。

「……あの、名前…聞いているのになんで銃を取り出すの?ボク…君のこと知らない。ボクの名前は宝星紗和」

この状況で自分の名前を教える紗和も紗和で凄いが、今はそれところではない。

「俺は諸星慎太郎 素晴らしい提案をしよう」

そう言って慎太郎は復讐に狂った目を向けた。

「お前、ここで死なないか?」

「死ねるなら、死にたい」

即答で答えた紗和。慎太郎にとっては違和感を感じるようだが…

「……あ゛?」

慎太郎は一瞥した。

「でも…慎太郎さんとは初対面ですよ?ボクのこと、知ってるの?」

この言葉を聞いた瞬間、慎太郎の何かが切れたらしい…

「忘れてんのか?さては忘れちまったな?お前の頭はパスワード打たねぇと続きも読み込めねぇのか?調子乗んな淫売がよ」

「いや……あの…慎太郎さん、君はさっきから何を言っているのですか?」

これ以上話すと無限ループが続きそうだ。いや、続いた。

「ボクは…誰かに恨まれるようなことしましたっけ?」

「は?」

「何度も言いますが、ボクら初対面ですよ?ボクらどこかでお会いしました?それとも…あの時助けてくれたのは罠で後ろから後を追って金の要求ですか?……()()じゃないですか」

その言葉を聞いた瞬間、慎太郎の何かを切ってしまったな音が聞こえた。

瞬間、紗和の肩から勢いよく血液が吹き出た。

「……へ?」

肩を抑えながらその場に膝をつきながら状況に混乱してきた紗和。それでも、光のない目のままだった。

「……あの…何か癪に触るような発言をしてしまったのなら…すみません。気をつけます…それと……何度も言いますが、ボクら初対面ですよ?」

その言葉を聞いた瞬間、慎太郎の中で何か別の思考回路が見つかった。

「……平行世界?」

「…あ…もしかして……ウルトラマンなのですか?」

平行世界という言葉で即座に察した紗和は肩を抑えたままゆっくりと立ち上がり、慎太郎に近づいて目の前に現れた。

慎太郎が高身長だったので高いものを見つめるように顔を上げながら見つめた。

「……ウルトラマン…ですか?」

「……おう」

慎太郎は、銃を一回転させて仕舞った。

「やはり…さっきから感じるこのエネルギーはもしかしてとは思いましたが…」

肩を抑えながら普通に話す紗和には驚かず、慎太郎は別のことに驚いた。

紗和の異常な両腕の細さ。折れそうな両足の細さ。そして普通の小顔よりさらに小さい顔。

違和感を感じるのか、それとも驚愕したのか、慎太郎は勢いよく紗和の両腕を掴んだ。

「お…………折れ…折れます…折れてしまいますよ…離してください…ど、どうしましたか?」

「……!!」

瞬間、慎太郎の脳裏に浮かんだのは『栄養失調』の四文字。

調理師免許の他にも栄養学にも精通している彼は、鬼気迫る表情で叫ぶ。

「何日食事をしていない!?」

「え……まぁ…今日合わせて…………10日程食べてませんね。唯一食べている…正確には飲んでいるですけど、お茶のみです」

これだけで生存しているのは最早ウルトラ族だからなのか何なのか…不明である。

瞬間、慎太郎の平手が飛んだ。

パァン、と小気味いい音を鳴らし。

「栄養価がなってない」

ズカズカと上がり込み、冷蔵庫を開ける。

いきなりの平手打ちで驚愕してしまい、部屋に入れることを許してしまった紗和だった。

そして冷蔵庫の中は予想を超えて綺麗に整頓されてあり、食材が豊富だった。多すぎと言っても過言ではない。

「(さてまずは)」

おもむろに取り出したは、愛用の包丁キットだ。

まずは大きな鍋を用意し、次に野菜を菜切り包丁で切っていく。

ザクザクといい音を鳴らし、白菜やネギが等間隔に切れていく。

その一方で慎太郎はつくねのタネを作り、出汁を取っていく。

カウンターから見物している紗和は何が作られているのか気になりながら見つめ続けていた。

「(どうやってその包丁を持ち歩いているのだろうか…)」

充分に出汁が取れたところで、つくねを投入。つくねからの出汁を出しつつ火を通す。その間に、次はピーマンのヘタやワタを取り除き始めた。それが終われば、ハンバーグのタネを作る。

流石は調理師免許を持つだけはある、淀みない調理である。

「……地球では料理人でもしてるのですか?」

いつの間にかカウンターからいなくなっていて慎太郎がダイナミックに侵入した時に散らばったガラスの破片を除去していた。大きいのは手で取り、細かいのは箒で取っていた。

「こちとらふぐ刺しが喰いたいばっかに調理師免許取った変態だよ」

「なんですかその理由…」

手袋しているからと言って手でガラスの破片を拾う紗和も紗和ではあるが…

「知るか、公式設定だ」

「そのような設定なんですね…」

メタ話はしばらく続いた…

 

「ホイ、できたぞ」

「……これは?」

できる前に椅子に座って待機させられた紗和の目の前には慎太郎が作ってくれた料理がテーブルの上に置かれていた。

「これは雪見つみれ汁。メインディッシュにはピーマンの肉埋めを。小鉢には各種野菜の浅漬け。で、柔らかめの白米だ。食え」

「こんなに沢山の料理を1人で……い、いただきます」

両手を合わせながら言った後、ゆっくりと口の中に入れて味わった。

「あ……美味しいです」

「だろ?」

「は、はい…美味しいです……そして…このようなまともな食事が久々です」

一応伝えると紗和は料理は出来る。ただ単に本能的に食べないのである。それだけだ。

慎太郎はふうと息を吐き、自分の肩を触ってみろと言った。

首を傾げながらソッと自分の肩に触れた紗和はすぐに驚きの顔になった。

「傷、ねぇだろ?」

「は…はい。ありません…」

「俺はこの地球のウルトラマンじゃない。俺が作った飯を食えば大抵の怪我は治せる」

「そ、そんな凄いお方でしたか…」

「はい……?」

紗和は不思議そうな顔をしながら、腕を差し出した。

すると、慎太郎は紗和の腕に触れてきた。

「っ!?︎」

「……やっぱり。水銀毒…バードンを持っているな」

驚きのあまり、勢いよく手を振り払う紗和。だが慎太郎の表情は無表情のままだった。

「……何故、分かったのですか?」

「見れば分かる。あと、それは『持ってる』んじゃなくて体内に取り込んでいるんだ。体の中で生成されて、身体の機能を蝕む猛毒だ」

「……そうですか」

「まぁ…別にいいけどよ。お前がそのままで良いならな」

「……」

しばらく沈黙が続いたが、それを破ったのは意外にも紗和だった。

「あなたは……一体何者ですか?」

「ん?ああ……」

一瞬だけ考えたような素振りを見せたがすぐに答えてくれた。

「俺は………後で教えてやるよ」

「………」

「………」

沈黙は更に続いたのだった。

 

あの紗和が珍しく完食した食事後、慎太郎に真剣な眼差しで見つめ始めた。

「………」

「あ?」

「いえ…ようやく食事を終えたので、ボクが話したかったことを話そうかなと…先程の人物は……何者なのてすか?」

路地裏で突然首を絞められ、さらには命を狙った男性のことについて聞き始めた。

「あれは『愛憎戦士』のケィアン。平行世界で製造された、12体の戦士シリーズ……その一体だ」

「戦士……闇の戦士ですか?」

「ああ」

そういうと慎太郎は、ストロングゼロの缶を開けた。

「何故にストロングゼロ……ここにお酒はどこにもないのに…」

いつから持ってたんだという顔をしながらそう言った。

「さっきコンビニで買った。……さて。戦士シリーズというものは、ウルトラマンに対抗するように──もしくはウルトラマンの代わりとして──設計された戦士のことだ」

「ウルティノイドのような感じでしょうか?」

立ち上がって冷蔵庫から唯一よく飲む三ツ矢サイダーを飲みながら話を続けた。

「そんな感じさね」

「なるほど……ですが、何故この地球にそのような人物が突然現れたのか、ボクはそこが未だに解明されません…」

それからケィアンに関する話を聞き続けた紗和。だが紗和はある疑問に思った。

「……慎太郎さんは別の世界線(タイムライン)から来たのに…何故、ケィアンに詳しいのですか?」

「……まあ、うん。気にすんなよ」

「……左様、ですか」

首を傾げながら慎太郎のことを見続ける。

「……あの、ケィアンは…何故ボクを狙ったのでしょう?そこが思いつかなくて…」

紗和は分かっていないが、慎太郎ならすぐに答えは出てきた。

「あいつは多分女を嫌ってる」

「女嫌い…なのですか。そういえば今朝、無差別殺人事件のことがニュースになっていましたね。しかも被害者は全員女性…なら、あり得ますね。ですが……何故、突然こっちの地球に現れたのでしょう?」

真面目に話している紗和はいつも通りだが、慎太郎にとってはどことなく苛立ちが増す。

「……チッ」

舌打ちをした。

「え…ボク、何かしましたか?」

特に敬語なのが苛立つようだ。

「いや、違う。ただ、面倒なことに巻き込まれたなって思ってな」

「面倒事ですか?」

「まぁな。だから俺はこれからお前を狙う奴を探しに行く」

「……はい!?︎」

そして、慎太郎は紗和を見ずにこう言い放った。

「お前は今日一日外出するな。分かったな?」

それだけ言って、玄関から出て行った。

「ちょっ!慎太郎さん!?︎」

呼び止めようとしたが、すでに外に出ていたらしくドアの向こうには誰もいなかった。

「……一体どういうことなんだろう」

一人残された部屋の中で呟く紗和だった。

 

それから数時間後。慎太郎が帰ってきた。

「おかえりなさい……って、どうしたんですか!?︎その怪我!」

そこには全身血まみれになった慎太郎がいたのだ。

「これくらい大丈夫だ」

そう言うと、自分の寝室に入っていった。

「手当しましょうか?あ、それとも病院に行きますか?」

「いい、それより早く飯を作ってくれ」

「分かりましたけど……ちゃんと教えてくださいよ?」

「ああ」

そうして二人は夕食の準備を始めたのだった。

ちなみに、ケィアンがなぜ紗和を狙ったのか。それは『愛憎戦士』という存在そのものが女を嫌うように設定されているからだ。

つまり、ケィアンにとって『愛憎戦士』とは敵であり、同時に邪魔者なのだ。

そのため、ケィアンは紗和を殺そうとしていたのだ。

(しかし、ケィアンは俺が倒したはず……まさか、蘇ったのか?)

「あの……本当に大丈夫ですか?なんか顔色が悪い気がしますが……」

心配そうな顔で見る紗和。

「問題ない。ほら、さっさと作れ」

「えぇ…あ、はい」

紗和は少し納得がいっていない様子だったが、それ以上は何も言わなかった。

それからしばらくすると、夕食が出来上がった。

「おお、美味そうだな。お前作れるんだったらちゃんと飯食えよバカ」

「は、はぁ……」

「じゃ、いただきまーす」

そう言って、食べ始める二人。

だが、慎太郎は箸を持ったまま動かなかった。

「……?慎太郎さん?」

「……」

「もしかして、どこか痛むところがあるんですか?」

「……」

何も喋らない慎太郎に痺れを切らせた紗和がこう言った。

「……はぁ、仕方ありませんね。はい、アーン」

そう言って一口サイズにしたハンバーグを差し出した。

「……は?」

「お腹空いてるんでしょう?さ、遠慮せずに」

「どつくぞテメェ」

「ちょっとした優しさじゃないですか…それに、慎太郎さんは食べないと傷や体力など回復できないじゃないですか」

「……」

確かに正論だった。慎太郎は食べ物を食べないと傷や体力が治らない特異体質だったからだ。

「では、はい。アーン」

再び差し出された。

「自分で食べるから貸せ」

「ダメです。はい、アーン」

またもや紗和は引かない。仕方なく慎太郎はそれを食べた。

「……うぐぅ」

「美味しいですか?」

「……不味くはない」

「素直に言ってくれればいいのに」

「うるさい」

そんなやり取りをしながら食事を済ませていく。

「ごちそーさん」

「はい、お粗末様です」

食事が終わると、慎太郎が立ち上がった。

「どこ行くんですか?」

「風呂に入る。お前は先に寝てろ」

「一緒に入りますか?」

「一人で入るわボケ」

「ですよねぇ……じゃあお言葉に甘えて」

そう言って、紗和は自分の部屋に入って行った。

(ふぅ……)

ドサッと勢いよくベットの上に座った瞬間だった。

(っ!!︎!?︎)

突然背後に気配を感じた。慌てて振り返った。だがそこには誰も何もいなかった。

(今のは……!?︎気のせい?)

その時だった。部屋のドアの向こう側から声が聞こえた。

「慎太郎さん……いますよね?」

紗和の声だった。

「あぁいるぞ」

「ならいいんですけど……どうして私の部屋に入らないんですか?」

「別にいいだろ。部屋たくさんあるんだろ?」

「私は構わないのです。それにあるみたいですけど…」

「なんだっていいだろ」

「はい。あ、ボク今日はここで寝ようと思うんですけどいいですか?」

「あぁ好きにしな」

「ありがとうございます」

それから数分後、紗和は眠りについたようだ。

だが、その眠りはすぐに掻き消された。鳴き声と地響きで紗和は目を覚ました。

(ッ!!?この気配……まさかッ)

慌てて起きて窓の外を見る。だがそこには何もいなかった。

その瞬間、地面が大きく揺れた。

「ゴシュィイイイイッ!!」

怪獣の咆哮であった。

「え……あれ…ゴルザァ!?なんでここにいるの!!?」

勢いよくガラスが割れた窓を開け、ゴルザを見上げた。というか窓ガラスの修理はいつになったらするのやら…

ぎょろり、とその大きな目が動く。その視線は紗和に──────ではなく、その近くにいる圧倒的強者に向けられていた。

「あちゃあ、前時代の遺物が目覚めおった」

慎太郎はそう言うと、割れた窓から外に出る。

「テメエ如き、パンチだけで充分じゃい!!」

刹那、慎太郎は朱殷色の光に包まれた。

「…(なんか物凄い殺意を感じる…)」

隣から感じた不穏な空気に耐えながらも、スマホを取り出し、青い光に包まれる。

瞬間、朱殷の光はゴルザの左目を刺し貫いた。

「雑魚乙」

貫手である。

「……うわ…」

開幕早々に殺戮が始まってラピスは既に引いていた。

その朱殷の光は、炎を纏って人の形へと変貌していく。そしてそこに銀色の光、まるでそれは鎧のようであった。

「冥土の土産に教えてやろう。俺の名はアバドン。ウルトラマンアバドン。地獄を描き出す者だ」

そう言って、朱殷の光は────ウルトラマンアバドンは、その姿を現した。

鈍く光る朱殷の体、ぎらりと閃く銀色の表皮。実に作り物らしい右眼、深々と刻まれたマゼンタの傷痕。

筋張った拳、隆起した筋肉、鋸が如くギザギザな背鰭、そしてぎょろぎょろと忙しなく動く目。

ウルトラマンアバドンが、朱殷色の殺戮者がそこにいた。

「……ボ、ボクは…ラピスと…言います。ウルトラウーマン…ラピス」

少しだけ身体を震わせながら軽く自己紹介をした。胸元のカラータイマーで本当の出身は即座にバレてはいるが…

「U40か」

「……はい?」

しかもこの2人、会話しながらゴルザを無慈悲に殴っていた。ラピスに至っては顔面を拳で1つで殴った。

アバドンはその左拳をゴルザの土手っ腹にぶちかます。さらに左目目掛けてチョップ、間髪入れず右目に目掛けて指を突き立て、血液を撒き散らしながら目玉を抉りとる。

「ゴルザはどこを食ってもまずいハズレ食材。残念ながら廃棄処分だ」

「え?怪獣食べるんですか?」

驚きながらも勢いよく顎蹴りをし、そのまま踵落としをした。ゴルザは成す術もなく脳震盪を起こした。これは可哀想なのか2人が無慈悲に攻撃を続けているからなのか…

アバドンは静かに頷くと、ゴルザの頭を掴み大きな岩に叩き付ける。何度も何度も、執拗に。その頭蓋を確実に破壊し、死に至らしめる為に。

……幾度叩いただろう、いよいよ額はザクロのようにパックリと割れ、砕けた頭蓋骨の破片からは脳漿が覗いている。しかしアバドンはさらに続けた。

「このクズどもめ」

そう言って、後頭部と背中を当てるようにゴルザの首を曲げていく。

嫌な音が鳴り響く。

いつの間にかラピスは耳を塞いでいた。だがそのまま銀色の手袋を外し、ゴルザに水銀を浴びせた。

だがこれは…大きな誤算だった。

「おいおい何やってんだこのクソガイジ!!!!!!」

「あ…し、しまっ、た…」

死ぬ寸前だったゴルザはラピスが放った水銀を吸収し、生命力が復活。さらには水銀のパワーを会得してしまった。

「テメエのせいで強化されたじゃあねえか!!殺すぞ!!」

「確かに毒殺する気持ちで出しましたけどまさか死ぬ寸前で強化するなんて都合の良いことあります!!!??」

口喧嘩しながらも2人の攻撃は止まらなかった。時々、ゴルザは水銀を吐いて飛ばすが2人は軽々と避ける。

「ちっ、こいつァマグマエネルギーで強化されたって前例もある!だから撲殺するしか無かったのに、ああ畜生!あいつもう治りやがった!!てめえごと死ねよ!!」

「理不尽だぁ!!」

理不尽と言ったが原因はコイツ(ラピス)である。だがラピスは素手で水銀に触り逆に吸収するように跳ね返していた。

同時に、アバドンは姿を変えた。

「ツキクサフローズ」

水色の体はまるで美しい氷のようだった。

ゴルザはいきなり地面を掘り始めた。その地面に水銀を吐き出した。

「汚ッ」

「逃がすか」

瞬間、辺りを冷気が包み込む。そして、ゴルザの足元に-39℃の液体を生成、ボトンと落としてやった。

「ゴッカンボトン────。水温は驚くなかれ-39℃、体内に取り込んだ水銀は固形になる。さあ苦しみながら死ね!」

「……粉砕の許可は可能ですか?」

「テメエにやらせる訳には行かねえ、そもそもオレの世界線で主人公パクリやがって。コイツは俺の獲物だ」

アバドンはそう言ってラピスを氷漬けにすると、氷の塊を降らせ、ゴルザに深い衝撃を与えた。

「コゴエク・ダケロ!!」

びし、びし。

ゴルザの肉体はひび割れていき、そして肉片へと変わった。

「!!?……バ、バードン!」

困惑しながらも突然バードンの名を叫び、何故か右目がオレンジ色に変わった。だが目の前にバードンはいない。そして攻撃したのはゴルザではない。そもそも手は出そうにも出せないので諦めてた。

「次はお前だ」

アバドンは、氷を強く締め上げる。

「ッ…!?」

まだ微かに動ける腕から炎が出てきた。それを氷に直撃させて溶け、その瞬時に距離を取った。

「………あの〜…ボクが一体何をしたのですか?」

ラピスにとってはよく分かっていないことだった。それもそのはず、ここは()()()()()()()という平行線だったから。

「お前は存在してはいけないんだ。この世に生まれたことが消えない罪なんだよ、死ねぇっ!!」

アバドンは、今度は体を猩々緋色に変える。

「ショウジョウヒマグマ!!ラピスゥ!!『溶岩で死ね』ェッ!!」

ラピスの体を溶岩が襲う。

ラピスはバク転をしながら溶岩を避けた。

「ちょ、ちょっ!?ちょっとぉ!!?」

避けながらも何度か止めようとした。その時、背後から異様な雰囲気を感じた。2人のことを狙う何かがそこにいた。

「邪ァッッ」

─────瞬間、辺りを閉ざすは暗黒。

「………まさか、アイツが…ケィアンですか?」

「うっわ……出やがったよ」

ずず、と闇を纏う悪夢。

「────ケィアン」

ゴクリッと唾を飲むラピスと嫌々そうに見つめるアバドンをニヤニヤ顔をしながら見るケィアン。

「あの………な、何が…目的なの、ですか?本当ならしんた………じゃなかったらアバドンと戦っていたんですよね?そしてこの地球に来た…何が、目的なんですか?」

「─────抹殺」



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決着と別れ

リアルの多忙とネタ切れ三昧でも遅くなりましたが、遂に完成です。
コラボもここまでです。
慌てて書いたので文章めちゃくちゃな可能性もあります…(汗)


「抹殺……だと!?」

アバドンは拳を握り締め、ケィアンの顎目掛けてストレートを放つ。ケィアンはそれを回避し、互いに距離をとる形になった。

膠着状態。

互いに圧をかけ続けている。気を抜けば殺す事が出来る、達人同士の読み合いである。

格闘技に関してはてんで素人のラピスにもよくわかる光景であった。もしこの二人の間に割り込んだならば───。

脳裏を過ぎる明確な死のイメージ。

殴り殺されバラバラにされ、撃ち殺され呪われ。様々な殺害のイメージを送り続けている。

もしもここに心を読む者がいるのならば、確実に精神崩壊しているくらいの殺気をびしびしと感じていた。

そんな中、ラピスは何故か少しずつ後ずさっていた。初めて見る光景に驚きながら、胸元のカラータイマーを強く握りしめながら下がっていた。

静かに、しかし確かに二人の巨人の間では見えぬ戦いが起きている。

ケィアンは6度死に、アバドンも6度死んだ。

互いに実力伯仲、これこそが地獄絵図だ。

手助けができないラピスは状況に混乱していて棒立ち状態だった。今の状態が命取りになることも忘れている…

その静寂を切ったのはケィアン。ラピスに銃口を向け、撃ち抜いた。

撃ち抜かれた痛みが身体全体に通った途端、我に帰るラピス。その場で膝をついて痛みを抑え続けた。ふと、ラピスはケィアンの目的を思い出す。        

「あ、アバドンさん……少しお願いが…」

「……あ?」

「えと……ケィアンの目的が闇と憎悪が目当てなら…ボクの闇を利用して倒すのはどうでしょうか?」         

耳元で囁きながらケィアンをチラ見する。上手くいくかは分からない一か八かの作戦だった。

瞬間、アバドンの口元は酷く歪んだ。

「いいな、それ」

アバドンはケィアンの懐に潜り込み、肘鉄をかました。

「(本当は凄く嫌なんだけどね…)」   

ラピスは静かに力を溜め始めた。それは光の力ではなく、ラピスに隠された闇の力だった。

その一方、アバドンとケィアンは一進一退の工房を繰り広げていた。

ケィアンの左の正拳突き似合わせるように内受けからの膝蹴り、直後に飛燕の変化で回し蹴りから下段蹴り。

足を止め互いにラッシュをかければもう目にも止まらぬ早さである。

その時だった。後ろからケィアンの首筋に向かって蹴りが飛んできた。その蹴り足は片手で止められた。その握る力と目付きが変わる。

「……お前は……」

「闇が目当てなんでしょ?なら…ボクの闇、存分に味わっていいよ」

明らかに雰囲気が変わったラピスがその場にいた。姿が変わっていない。唯一変わっているのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「この闇…ッ……その闇だ!その闇を俺に!!」

ケィアンは歓喜の声を上げ、ラピスに飛びかかる。だがそれを阻む者がいた。

「おいこら、俺を無視しんなやクソガキ」

「邪魔をするな!」

ラピスの前に割り込み、ケィアンの前蹴りを受け止めるアバドン。そのまま掴みかかり、背負い投げを仕掛けた。ケィアンはそれに反応して受け身を取り、即座に反撃に出る。アバドンの顔面に向けてフックを放つが、アバドンはそれを紙一重で避け、カウンター気味にアッパーを放った。

ケィアンは腕を交差させガードするが、威力を殺しきれずに後ろに吹き飛ばされてしまう。

その隙を逃さずアバドンは追撃をかけた。

「おらぁ!!」

ケィアンの腹にめり込む程の一撃を叩きこむ。しかしケィアンは怯まず、逆にカウンターパンチを繰り出す。

アバドンはその拳を掴み取り、一本背負いで地面に叩きつけた。背中を強く打ち付けた衝撃で呼吸が出来なくなり、ケィアンの動きが一瞬止まる。

最早主人公がアバドンになりかけているがラピスはその一瞬を見逃さなかった。ラピスは勢いよく拳を叩きつけた。

「ガハァ…ッ」

息が止まるような衝撃が走る。ラピスらしくない攻撃だが、ダメージは大きかった。

「………ふぅ…」

「……すげぇな、お前…」

アバドンは立ち上がり、構えを取る。

ケィアンはゆっくりと立ち上がると、再び構えを取った。

ラピスはケィアンを見つめながら呟く。

「ねぇ……君もボクと同じなんだよね?」

「…………何の話だ」

ラピスの言葉に怪しそうな表情を浮かべるケィアン。

「……君は闇が好きなんだろ?だから……ボクのこの力は君の為にあると思うんだ」

「…………」

「でも、この力を使ったら…今度こそ終わりになっちゃう……だから、終わり…」

ラピスは目を閉じて深呼吸した。

その瞬間、ラピスの全身から闇の力が溢れ出た。それはまるで、ラピスの身体を包み込んでいるように見えた。

そして次の瞬間…『ダメだ!主!!』と叫ぶ声が聞こえてきた。

その声はアバドンも気付き、ラピスの腹に勢いよく拳を直撃させ、吹き飛ばした。ラピスの身体は壁に激突、意識を失いかけていた。

「テメェ、一体何を考えてやがる!?死ぬ気か!!?」

「……そ、そんなつもりじゃ……ただ、アバドンさんとケィアンさんの戦いを見てたら……ボクが止めないとって思って……あ、あれ?なんでボク、こんなこと……」

ふらつきながらも立ち上がろうとするラピス。その姿を見たアバドンは溜息を吐いて言った。

「ったく……なんつーか、お前さんは危なかっしい奴だよなぁ……ま、そういうところが気に入ったんだろうけどよ」

「え……それってどういう意味ですか……?」

「んなもん自分で考えな……それより、もうちょい手伝ってくれや。まだ終わってねえぞ」

「は、はい!」

アバドンとラピスは再び戦い始めた。

「そんなに闇の力で戦いたければ、己の力と気持ちに勝ってから使えやクソメスガキ!!」

「そんなの…分かってる!!」

「ぐは……ッ」

ケィアンの頬にアバドンの蹴りが炸裂する。その隙にラピスは勢いよく腹蹴りをした。

ケィアンは口の中に血を流し、それを吐き出すと、今度は2人の正拳突きで殴りかかった。

「オラァ!!」

「ハァッ!」

「チィ……ッ」

2人は互いの攻撃を捌き、カウンターを狙う。

だが、その動きは先程より速くなっていた。

「………やるじゃねーか。お前…」

「これでも……一応頑張ってたみたいなので…」

「ハッ……そうかい」

互いに笑い合うと、2人同時に蹴りを放ち、距離を取った。

その時だった。ケィアンの足が何かを踏んだ感覚が伝わった。足元を見ると、そこには小さな瓶が落ちていた。それを拾い上げようとした時、ラピスが素早く近付いてきた。

「……!これは……ッ」

「ボクには効かないよ」

「……ちぃ!!」

ケィアンは咄嵯に後ろに飛び退いた。その判断が功を奏したのか、ラピスの拳は空振りに終わった。

「……やっぱり、キミは凄いなぁ……」

ラピスの瞳の色は元に戻りつつあった。

「……お前は何者なんだ?どうして俺の力を知ってる?」

「簡単さ……アバドンが耳打ちで教えてくれた」

数秒の攻撃の間に2人は勝利への道筋を考え、実行していた。

「なるほど……確かに俺は闇が好きだぜ。だがな……自分の力だけで戦うことにこだわってる訳じゃないんでね」

「……えっ」

ラピスの背後から気配を感じ取った。

振り返ると、そこにはケィアンの姿があった。

「な……ッ」

「これで終わりだ……ッ」

ケィアンはラピスの首を掴み、持ち上げた。

そのまま地面に叩きつけようとするが、寸前で手を止め、首を掴んだまま宙に浮かせた。

「俺のこと忘れてるんじゃねぇぇよなァ!!!???」

そんな叫び声と共にケィアンの腹に痛感が走る。アバドンのお得意の中段蹴りだった。ラピスは首を絞められたままだが宙に浮かんで止まったままだった。その瞬間、ケィアンの腹は隙だらけだった。

「オラアアアッ!!!」

気合の籠った雄たけびを上げ、アバドンは思いっきりケィアンの顔に膝を叩きこんだ。勢いよく地面へと転がる。

「ごふぅ……ッ!!」

「……おい、いつまでやられてんだよ。もうエネルギー切れになってんだからコレで終わらせるぞ」

「ゲホゲホ…!は、はい…ッ」

2人のカラータイマーが点滅し、音が鳴り響く。

「させるかぁ…!!俺は、こんなところで死なん!!」

ケィアンは最後の力で特大の必殺技を放つ。そして2人も同時に力を溜めて両腕をL字にし、光線を放つ。

3つの光線がぶつかり合い、ビルから倒壊し、地面にはヒビが入る。

「くそぉ……!!」

「おらあああっ!!!」

2人の技は拮抗していたが、徐々にアバドンの技が押し始める。

「負けるかぁああっ!!!」

「ぐ……うおおおっっ!!!」

遂に2つの光線がケィアンを吹き飛ばした。

「ぐああぁぁぁぁぁぁ!!!!何故だ!!!何故()()こんな奴らにぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

そんな叫び声と共にケィアンは爆散したのだった。

「へへ、やったな……」

「は……はい…」

2人は既に疲労困憊だった。立つことも難しいくらい疲れが溜まっていた。

「……ラピス、お前さんはまだ強くなれそうだ。いつか()()戦おうぜ」

「えっ……それってどういう意味ですか?」

「そん時は、今よりもっといい勝負になるだろうよ」

「……」

ラピスは少し考えた後、笑みを浮かべた。

「…その時はよろしくお願いします」

「……おう」

2人は拳をぶつけ合った。それが戦いの終わりを告げる合図でもあった。

****

「…………ところで、慎太郎さんはコレからどうするのですか?」

「あ?あー…本来ならケィアンを追いかけてここまで来ちまったからなぁ…」

「………コレで、お別れですか?」

「……まぁ、用済みだからそうなるな」

「そう……ですよね……」

ラピスは寂しげに呟いた。

「……あのさ、もし良かったら俺と一緒に来るか?」

「え……ッ」

「お前も……闇として生きることに疑問を抱いてただろ」

「それは……」

「……あー…やっぱやめとく。なんかお前の顔見てると腹立ってくる」

「なんですかその理不尽は…」

慎太郎は苦笑いすると、紗和はそれを返すかのように少しだけ笑みを浮かべた。仲は良いのかは分からない。慎太郎は紗和の顔を見るとすぐに苛立ちを見せてるかのような顔になるが紗和は気にせずに慎太郎と接していた。

そのおかげか、別時空のウルトラマン同士の絆が深まった…

「んじゃ、俺は元の世界に帰るからな」

「はい、お元気で」

絆は、お互いの手を握り、握手をして結ばれた。




コラボ相手のりゅーど様、ありがとうございました。今回はここまでとなりますが、もしまた許可を頂けたらよろしくお願いします。

りゅーど様の作品→ https://syosetu.org/user/270562/
りゅーど様のTwitter→@Ultramanvita


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唯一の弱点

いつも通りの生活に戻った紗和は、何もない時間を過ごしていた。暇があれば本を読み、アルセーヌとバードンを人間サイズにして召喚させ、一緒に時間を過ごした。

そして、ある日のことだ。

「ふぅ……」

紗和が一息つくと、部屋の扉がノックされた。

「ん?」

誰だろう? と思いながら、紗和はドアを開ける。だが、そこには誰もいなかった。最初は悪戯かと思ったが、紗和の家は人気のない森林の中に建てられた謎の家。人が来ることはまず無い。

ふと、足元を見るとそこには小さな箱が置かれていた。

「これは……手紙?」

その箱には手紙と食材が入っていた。封筒には何も書かれていないシンプルなもの。中を確認すると、そこにはこう書かれていた。

"飯を食わなすぎなお前のためだ" たったそれだけの文字。しかし、この文字を見た瞬間、紗和の心は大きく揺れ動いた。

「……慎太郎さん…そんな脅しみたいに言わなくても…」

クスッと笑みを浮かべる紗和。どうやら、自分のことを気にかけてくれたようだ。

紗和は早速料理を始めることにした。今回は簡単な焼きそばを作ることにした。

フライパンに油を引き、豚肉を入れる。肉から出る脂身で焼いていく。そして、麺を入れ、炒めた野菜も入れる。最後にソースを入れて完成! 紗和はテーブルに皿を置き、焼きそばを食べ始める。

「うん、美味しい」

差し入れの食材で作った焼きそばは、今まで食べた焼きそばの中で一番美味しかった。

さて、食事も済ませていつも通りに本に囲まれた時間を過ごす。だが、今日は少し違った。

(あーあ、もっとお話ししたいなぁ)

アルセーヌ達との会話を思い出しながら、紗和はそう思った。だが、今宵は満月の夜……ひと暴れする刻、素顔ではない裏の自分を表す刻だ。

◇◆◇◆◇

満月の光に照らされながら外套が風に揺らされる。慎太郎はもうこの地球の時空にはいない。だから、出来るのだ。宝石泥棒を───────怪盗少女シンシャになることが出来るのだ。

「よし!」

準備万端。後は仮面を被るだけ。そう思い、紗和はクローゼットの中に隠していた水銀色の仮面を取り出し、顔に付ける。すると、その姿は一瞬にして変わる。

これが怪盗少女シンシャの姿だった。

全身を隠すような黒い外套に身を包み、真っ黒の手袋を付ける。黒髪に赤が染まる美少女。それが今のシンシャの正体だ。

「行こうかな」

シンシャは窓から外に出ると、そのまま屋根の上へと飛び乗った。そこから屋根を伝って目的地へと向かう。向かうは───────星のように光輝く()()()()()()()()()()()だ。

数分後、シンシャは目的の場所に到着した。ここはとある豪邸。その豪邸には一人の男性が住んでいる。名前は《夜神総一郎》。資産家であり、様々な会社を経営する社長でもある男だ。そんな男の寝室では、総一郎が眠っていた。

「…………」

シンシャは気配を殺しながら窓の鍵を開けると、静かに部屋に入り込む。そして、音を立てずにカーテンを開くと、そこには美しい女性がいた。その女性は眠っている総一郎の隣にいた。彼女は総一郎の妻である《夜神由美子》だ。

シンシャはゆっくりと近づくと、ポケットからある物を取り出す。それは────────《ラピスラズリのブローチ》だ。

シンシャはそれをそっと手に取ると、懐にしまう。これで任務完了。ブローチさえ手に入れば、この場所からは立ち去るだけだ。

だが、ここで予想外のことが起きた。突如、周りから極寒と言える冷気が流れ始めた。その瞬間、シンシャは素早く後ろに下がった。

「あら、逃げられると思った?」

声の主は総一郎の妻、由美子だった。どうやら、彼女の能力によって、周りの温度を下げたらしい。

「……まさか……ここまで……」

「残念だけど、私は普通の人間じゃないわ。私は…怪獣を飼っているのよ?」

「ッ!?」

背後から感じる異常なくらいの冷気、足元は凍りつき、砕け始めていた。

咄嗟に後ろを振り向く。冷凍怪獣、ラゴラスがシンシャを狙って-240度の冷凍光線を口から吐き出した。

「うぐっ!!」

シンシャは両手を前に出して水銀で防ごうとするが、あまりの威力と冷気に耐え切れず、そのまま吹き飛ばされる。地面を転がりながらも何とか受け身を取ると、シンシャはすぐさま立ち上がり、走り出す。

「逃がさないわ!」

逃げるシンシャを追いかける由美子は背中から白い翼を生やし、空を飛ぶ。そして、追いつくと、シンシャに向かって手をかざす。

「喰らいなさい!! フロスト・バーストッ!!!」

由美子の手から放たれたのは氷柱のような鋭い槍状のエネルギー弾。それが次々と発射されていく。

シンシャはその攻撃を必死に避けていく。

「……ッ(あの攻撃、最早…人、じゃない…何かを利用している?)」

由美子の力にシンシャは驚くと同時に疑問に思っていた。何故なら、普通に考えて、あんな化け物を操れるわけがないからだ。恐らく、由美子が使っているのは自分の中にいる怪獣の力だろう。

「……厄介だ」

そう呟きながら、シンシャは両手から水銀を飛ばす。しかし、それを難なく避ける由美子。

「無駄よ! そんなもので私を止められない」

「どうかな?」

次の瞬間、水銀がまるで意志を持っているかのように動き出した。そして、水銀は形を変えていき、巨大な剣となる。

「これは……水銀? いえ、違う。これは……」

「さぁ、これでも耐えられるか試してみるんだね」

「なるほど……そういうこと」

由美子はシンシャの意図を理解し、すぐにその場から離れる。だが、逃げた先には別の武器が迫っていた。

「これは……鎌かしら?」

「そうだよ。これも水銀だ」

「水銀は斬れないはずじゃなかったのかしら?」

「確かに水銀は柔らかい。液体の毒だからね。だけど、君の能力は氷を操るだけのものなのかい? 」

そのセリフを吐いたシンシャは既に勝ち誇っていた。何故なら、周りに氷が放たられたせいで周りは極寒となり、水銀は液体から固体化されていた。そしてその水銀は、完全なる鎌となっていた。

「なっ…!?」

「誤算だよ。ご婦人様」

シンシャの言葉通り、由美子の周りには無数の銀の刃があった。この距離では由美子に逃げる術はない。

「くっ……まだよ!」

だが、由美子は諦めず、再び羽を広げて飛び上がる。だが、その行動はシンシャの予想範囲内だった。由美子の中に怪獣を解き放つように、シンシャは腕を大きく広げる。すると、水銀が一斉に動き出し、由美子を拘束する。

「しまッ!?」

「終わりだ」

シンシャはゆっくりと歩きながら由美子に近づく。由美子もなんとか抜け出そうとするが、上手く力が入らない様子だ。そんな彼女にシンシャはゆっくりと手を伸ばす。その時、由美子はニヤリと笑みを浮かべた。

「何がおかしいのかな?」

「ふっ……私の負けね。でも、これで勝ったと思うんじゃないわよ。私が死ねば、私の中の怪獣も死ぬことになる。そうなれば…」

「その方が…この地球は平和さ。なんで人間の中に怪獣が眠っているのかは不明だが……ボクは、怪獣を討伐しなきゃならないのでね」

静かな威圧に押されて、由美子は何も言えなかった。だが、その顔はまだ勝利を諦めていなかった。

「……あなた……名前は?」

「名前? ボクの名前なんて聞いてどうするつもりだい?」

「いいじゃない。最期くらい教えてくれても」

「……シンシャ」

「そう。シンシャ……ラゴラスと楽しみなさい」

その瞬間、肺が凍る勢いで全体的に冷気が漂った。それと同時にラゴラスは口から冷気を吐き出した。

「ッ!?」

咄嵯にシンシャは両手を前に出して水銀の壁を作る。だが、それでも完全に防ぐことはできず、そのまま吹き飛ばされてしまう。

「くっ……こ、れは……」

全身を襲う痛みに耐え、寒さに耐えながら空を見上げた。

冷凍怪獣ラゴラスは口から冷気を放ち、街全体を凍らせていた。

シンシャは息を呑み、スマホを取り出した。

「ラピスゥ!!!」

青い光に包まれながら、ラピスに変身する。冷たい空気がラピスを襲った。

「うぅ…寒い」

そう言いながらも、ラピスは空を飛び、空中から冷凍光線を放ってくるラゴラスに向かっていく。

ラピスは氷の柱を足場にして蹴り飛ばし、ラゴラスに近づいて拳を叩きつける。しかし、その攻撃は硬い皮膚によって防がれてしまい、逆に弾き返されてしまう。

「冷てぇー!?」

あまりの冷たさに思わず叫んでしまうラピス。その隙を狙って、ラゴラスは再び冷凍光線を放つ。

「ちょ、ちょっとタンマ!!」

ラピスは慌てて水銀で壁を作り、それを防ぐ。

「あ、危ねぇ~」

冷や汗をかきながら、ホッとするラピス。だが、次の瞬間には、氷柱が迫ってきていた。

「げっ! マジかよ!」

次々と飛んで来る氷柱を必死に避けていく。そして、最後の一本を避けることに成功した。だが、それは囮だったようで、その背後から冷凍ガスが迫ってきた。

「やべっ!」

咄嵯の判断で、ラピスは横に飛び込んで回避に成功する。だが、そこに追い打ちをかけるように、冷凍ガスが襲いかかってきた。

「ヤバいって!! ボク寒いのは弱点なんだからぁ〜!」

叫びながら、なんとか冷凍ガスを回避することに成功する。しかし、すぐに第二波が襲ってくる。

「もう! しつこい!!」

文句を言いながらも、ラピスは水銀を使って氷の塊を作っていく。それをラゴラスに投げつけ、直撃した。

「キシャァァァァァァァァ!!」

流石に効いたのか、悲鳴をあげるラゴラス。その声に耳を傾けることなく、ラピスは氷の塊を投げ続ける。

「これでどうだぁ!!」

まるでプロ野球選手のような豪速球を投げ、ラゴラスに直撃した。

「キシャァァ!!キシャァァァァァァ!!!」

直撃したダメージで頭を掻くラゴラス。だが、少しずつ様子が変わっていく。何故かラゴラスは大人しくなり始めたのだ。最初は何かの罠かと疑うラピス。だが、ラゴラスの様子を見ている内に、その理由が分かった。

「……寝てる?」

そう。ラゴラスは目を瞑りながら眠っていた。その姿を見て、ラピスは唖然としてしまう。

「ど、どういうことだよ……」

疑問に思いながら、ラピスは考える。そして、ある一つの結論に至った。

「まさか……睡眠が足りないんじゃ……」

ラゴラスの生態について詳しく知っているわけではないが、由美子の中にラゴラスがいて散々こき使われていたのなら、かなり疲労しているはずだ。

「だから……睡眠不足で活動が鈍くなった?」

ラピスは自分の考えが正しいのか確かめるため、再び氷の塊を投げる。すると、冷凍ガスで相殺されてしまった。

「やっぱり……」

自分の予想が正しかったことを確信するラピス。ならば、とラゴラスを優しく撫で始める。

「よしよーし……ほら、おねんねしようねぇ〜」

子供をあやすような口調で言うラピス。そんな彼女の言葉に反応してなのか、突然、ラゴラスは飛び上がり、ラピスに甘え始める。

「ちょ、ちょっと!?」

ラゴラスはラピスに抱きつき、頬擦りする。その行動を見て、ラピスは納得した。

「あ、ああ。そういうこと……」

どうやら、ラゴラスはラピスに懐かれてしまったらしい。その証拠に、ラゴラスは嬉しそうな鳴き声をあげている。

「あーはいはい。可愛い奴め」

仕方なく、ラピスはそのままラゴラスを抱き締めながら、冷凍ガスを避けつつ、ラゴラスと共に地上に降り立った。

「さてと……じゃあ、ボクと一緒に来る?」

「キシャー♪」

ラゴラスは元気よく返事をする。その様子を見て、ラピスは微笑んだ。

「うん。良い子だ」

ラピスはラゴラスを連れて、空へと飛んだ。

その頃……

「くそっ! まだ見つからないのか!」

警察は宝石を盗まれた挙句、シンシャが見つからないことに苛立っていた。由美子は家の庭で倒れているのを発見され、命に問題なく、本人は何故か庭で倒れていたことを覚えていなかった。そして、シンシャに宝石を盗まれたことさえも…

何故ならシンシャは…今回は返したからだ。その証拠に、夫妻が眠っていた部屋には、書き置きとラピスラズリのブローチが床に転げ落ちていたのだった。

 

今回はご婦人が色々と大変な目に遭ったらしいので、情けものとして宝石はお返しします。 怪盗少女シンシャ

 

翌日、紗和はそのことをニュースで見ていた。何かを悩むような顔をしながら…

そしてバトルナイザーの中では、炎を吐くバードンと氷を吐くラゴラスが何故か喧嘩していた。それを止めるアルセーヌは途方に暮れていた。それでも、紗和は楽しそうにその光景を見ていた。脳裏に浮かぶ、謎の不安を抱き締めながら…




新たなバトルナイザーの相棒!ラゴラス参戦!!


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弟子と姉御

お久しぶりです。
ようやく投稿できる…忙し過ぎて最早読み専になってたしネタ切れが凄かった…

今回は彼が登場です!


宇宙に響く爆発音と光線の音。そして星人の手によって掴まれている動かないロボット。バロッサ星人だ。バロッサ星人は大人数いるらしく今のバロッサ星人は恐らく4代目だろう。バロッサ星人はキングジョーに似たロボットを盗むような仕草で飛び続ける。それを追いかける1人のウルトラマン。そして少しボロいロボット。

「待ちやがれぇぇぇ!!!」

ウルトラマンゼットがバロッサ星人を追いかける。バロッサ星人が投げてくるモノをベリアロクで跳ね返しながら追いかけ続ける。その後ろから突撃するロボット。中から女性の声が聞こえてくる。恐らくロボットを操作している本人だろう。

「今すぐ止まりなさい!!じゃないと撃つわよ!!」

その言葉を聞いて止まるわけもなく、そのまま進んでいく。すると、バロッサ星人の投げたビーム砲が直撃して吹き飛ぶロボット。だが、それでも諦めずバロッサ星人を追いかけていく。そしてバロッサ星人を追い越し、ゼットが目の前に現れる。その瞬間、バロッサ星人が突然時空空間を開き、ゼットを巻き込んでしまった。

「ゼット様!ハルキィィ!!!」

ナツカワハルキことウルトラマンゼットを飲み込んだまま、バロッサ星人は何処かへ行ってしまった。

 

いつもの朝だった。紗和は目を覚ましてベットの上でのんびりしている。昨日の夢のような出来事を思い出してまた眠くなる。昨日は怪盗になる刻。展示会の目玉であるエメラルドグリーンの冠を手に入れて見事に逃げ切り、成功した。だが、宝石を目にしても紗和の中に突然浮かぶフラッシュバックはすぐに消える。溜息を吐きながら、ベットから降りて着替える。その時、いつもの朝は突然変わった。

部屋の窓の外で光輝くものが見えたのだ。それはまるで太陽のように眩しく、光っていた。

「え?なに?」

慌てて外を見てみるとそこには巨大な光の時空空間があった。

「……は?」

光が消えたと思ったらそこには地面に落ちた巨大ロボットだった。キングジョーに似ているロボットだ。幸いにも家より遠くに落ちた為被害は受けなかったが、突然現れた謎の物体に驚きを隠せない。気になって仕方なく、調査員とかが来ない内にロボットに近づいて見てみることにした。恐る恐る近づき、観察してみるとどこか見覚えのある機体だった。やはりキングジョーに似たロボットだった。しかし、何故ここに落ちてきたのか不思議でしょうがない。すると、入り口らしきものが開き、人の気配を感じた。紗和は警戒しながらその入り口に顔を入れて覗き込む。そこにいたのは武装した男が入って内部の調査をしていた。

「……」

「……」

2人は無言でお互いを見つめ合い、そして…

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!?????」」

2人の叫び声が響いたのだった…

 

「オッス!自分、ナツカワハルキと申します!ストレイジのパイロットでございます!!」

「あ、う、うん…よろしくね」

紗和は突然のことで驚いているが家の中に招き入れ、お茶を渡した。

「ありがとうございます!」

元気よくお礼を言うハルキ。どうやら礼儀正しい好青年のようだ。

「あのさ、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「はい!なんでも聞いてください!!」

ハルキの言葉を聞いて紗和は質問をした。

「なんでここに来たの?」

「実はバロッサ星人にキングジョーに奪われてしまいまして……それで追いかけていたんですけど……」

「じゃあどうしてこの世界に?」

「それが…バロッサ星人が時空空間を開いた時に一緒に入っちゃったんだと思いますけど……まぁなんとかなるっしょ!!」

そう言って笑い飛ばすハルキ。紗和はそれを見て苦笑を浮かべた。

「ところで紗和さん。紗和さんは…ウルトラマンですか?」

「え?あ、いや…ボクは…」

すると突然、光り輝くゲートが現れた。

「ハルキ!この人をこの中に!今すぐに頼む!!」

「え!?あ、わ、分かりました!」

ハルキが急いで中に入るとそこには1人の巨人がいた。ウルトラマンゼット。あのウルトラマンゼロの弟子と名乗る青年ウルトラマンだ。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!やはりそうだ!!!お久しぶりです!ラピスの()()!!」

「姉御って言わないで…」

「え!?お、お二人とも知り合いですか!?」

「このお方はな、俺の師匠であるウルトラマンゼロの妹でございまするよ!」

「ええええええええええっ!!!??」

ハルキは2人の関係を聞いて驚く。まさか紗和の正体がウルトラウーマンラピスだとは思わなかった。

「えっと、あなたがウルトラウーマンラピスなんですね!?」

「うん、そうだよ。ボクは宝星紗和。ウルトラウーマンラピス本人さ」

「あ、は、はい!よろしくお願いします!!」

「そんなに畏まらないで大丈夫だよ。それより、さっさとバロッサ星人を見つけないとだね」

「そうでございます。ラピス姉さんがいるのはとても心強いです!」

「姉さんって…」

紗和(ラピス)は初めてゼットと出会ってからよく『姉御』や『姉さん』と呼ばれていた。ゼロの妹だから、尚更なのだろう。

「でも、バロッサ星人か……厄介な相手だよね……」

「はい。しかもバロッサ星人の奴はかなりの手練れでして……」

「それなら早く見つけよう。ボクも探すよ」

「流石姉御!感謝します!!」

「姉御じゃなくて……"紗和"だよ」

「お、押忍!」

 

2人は街中を走りながら探し回ったがバロッサ星人はなかなか見つからない。自分からゲートを開いた為、飲み込まれてこの地球に来たのは変わらないはずだった。

「やはり、そう簡単には見つかりませんね〜…」

「バロッサ星人なだけあるさ…アイツちょこまかと逃げるからね〜」

「紗和さんも地球に来る前に戦ったことあるのですか?」

「もちろんだよ。地球に来る前に任務で討伐あったんだけど…結構苦戦したね〜」

宇宙での任務をしみじみ思い出しながら空を見上げる。地球の空は青く雲がかかっている。そして、太陽に照らされて眩しいがどことなく、温かみを感じた。

「そういえば、ラピスさんのメダルってありませんよね。作らなかったのですか?」

「え?あ〜……メダル作る前に地球に来ちゃったからね。ボクのはないんだ」

「そういうことだハルキ。早く見つけるぞ」

「お、押忍!」

2人で協力し合いながらバロッサ星人を見つけようにも相手の方が1枚上手なのは紗和は分かっていた。そのため、なかなか見つからない。

「……ふむ、1つ…提案が思いついたんだけど」

合流したハルキにそう言う。片手には何故か本物のダイヤモンドを手にしてる。

「うぇ!?な、なんですかそのダイヤモンド!?」

「まぁまぁ…」

ポロリと地面にそのダイヤモンドを落とす。その瞬間、ガサガサと目の前の茂みが揺れ始め…

「バロバロ〜!!!なんて美しい宝石だぁー!!」

まんまと古典的な罠にかかるバロッサ星人。そしてそのまま…紗和とハルキの手で倒されてしまう。

「バ、バロォ…」

「アホ過ぎないか?」

さりげなくダイヤモンドを取り返し、バロッサ星人からウルトラメダルも取り返す。

「ありがとうございます!紗和の姉御!!」

「それは禁止」

「お、押忍!!」

「バ、バロバロバロバロバロ!!こうなったら…力ずくでぇぇ!!!」

バロッサ星人が巨大化し、街で暴れ始める。これを見て止めれるのは、2人だけ

「ハルキさん…やるよ!」

「押忍!!」

紗和はスマホを構え、ハルキはゼットライザーのスイッチを押して構える。

「宇宙拳法!秘伝の神業!」

ハルキはライザーに装填したメダルを入れる。

「ゼロ師匠!」「セブン師匠!」「レオ師匠!」

メダルを装填した瞬間、背後からゼットが現れる。

「押忍!!!」

「ご唱和ください!我の名を!ウルトラマンゼェト!」

「ウルトラマン!ゼェェエト!」

ハルキはボタンを押し、白く光り輝き始める。

紗和は自分のスマホで変身コードを入力する。その瞬間、周りを包むように青く輝く光が現れる。

『認証 ウルトラウーマンラピス』

「ラピスゥ!!!」

ウルトラウーマンラピスへと変身した紗和。そしてゼットの隣に並び立つ。

地球にウルトラマンとウルトラウーマンが現れた。

「うぉぉぉおおおお!!!ラピスの姉御ォ!!ご一緒に戦えて光栄でありまする!!」

ゼットは大興奮しながらラピスの両手を握りしめる。

「大袈裟だよ……」

そう言いながらも悪い気はしなかった。そして、バロッサ星人に向かって構える。

「バロバロバロバロォ!!」

バロッサ成人は叫びながら全力でジャンプして飛び蹴りをする。だが、ラピスは体を仰け反らせ、ギリギリで避けた。その隙にゼットが追撃として空手技で攻撃する。

バロッサ星人も負けじと反撃し、さらに街の被害が拡大してしまう。

「はぁ……街への被害が大きすぎる…」

「もうトドメを刺してしまいましょう!」

ラピスは飛び上がる。そして空中で高速回転し始める。その周りにはラピスの宝石のような光線『ラピスラッガー』が大量に現れ、回転している2人に引き寄せられていく。

「ゼスティウム光輪!!」

ゼットが腕を十字に組んで光線をはなつ。2つの攻撃はバロッサ星人に直撃し、大爆発した。

「バロバロバロロォオ!!」

叫び声を上げながら倒れたバロッサ星人はそのまま消えた。ラピスは空へ飛び去って行き、ゼットは空に大きくZの文字を書いて空の彼方へ飛んで行った……

 

「ありがとうございます紗和さん!!」

大きい声で深々と頭を下げるハルキ。問題なくウルトラメダルを取り戻せたことが相当嬉しいようた。

「そ、そんなに大きい声をあげないで…大丈夫だから」

「俺、ゼットさんとこれからも宇宙を守っていきます!」

「……ああ、そっか。一体化してるから実質ウルトラ戦士だったね。君達なら大丈夫さ」

「ありがとうございます!!」

笑い合いながらお互いの手を握りしめる。ふと、紗和は何か思いつく。

「そういえば………元の時空に帰れるの?」

数秒の沈黙…そしてハルキは「あっ」という言葉を上げた。

『大丈夫ですよラピスの姉御!アイツがここに来れば俺たちは帰れますよ!』

「………アイツ?」

「あ、そういえばどこに行ったんでしょうね?」

 

 

 

ベリアロクさんは…

 




久しぶりの投稿だから文章がちょいちょいおかしかったな…


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