転移高校生は転生魔王の甥っ子だった件 (Many56)
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プロローグ&設定
プロローグ


とりあえず思いついたので投稿。
ああ、処女作の方が進まない…

11/1 設定を一部変更しました。


 

 

 

2月某日

 

気温3℃のとても寒い東京のとある交差点前に一人の顔立ちの整った男が佇んでいた。

 

男の名は、三上(みかみ)(あゆむ)

教員志望の高校ニ年生である。

今日はとある人物と待ち合わせだ。

 

「歩くん」

 

振り向くと、二人の男女がこちらに向かって歩いて来る。

 

一人は叔父の後輩の田村さん、もう一人は叔父と同じ会社に勤めていた沢渡美穂さん  いや、今は田村美穂さんだな。

歩の叔父の最期を看取った二人だ。

そして美穂さんのお腹の中には子供がいる。

 

「お久しぶりですね、田村さん。お盆以来ですね」

 

歩は歩いてくる二人にそう挨拶した。

歩道の端に花束を置いて黙祷する三人。

明日は歩の叔父であり、2年前に刺されて亡くなった三上(みかみ)(さとる)の命日である。なので、今日、彼を弔いに来たのだ。

 

「先輩、ありがとうございます。あの時、先輩が庇ってくれてなかったら死んでいたのは俺でした」

「三上さん  

「お二人が幸せなのを見れて叔父は向こうで喜んでいると思います。まあ、先に結婚してその上子供まで授かっている事は軽く恨んでいる気がしますが  

そんなからかいに「ちょっとひどくないかな…」と田村さんが返したが聞こえないフリをした。

 

「それじゃあ、俺はこれで」

「もう帰るのかい?」

「ええ。明日、実家に帰ったりとか、準備しなくちゃいけない事があるので」

「そうなんですか」

「それじゃあ、またね」

 

そう言った田村さんに別れの言葉を返し、僕は去った。

 

 

 

大通りの交差点を渡り始めた時、それは突然起きた。

歩に暴走車が突っ込んで来たのだ。

車種はプ○ウスだ。いわゆるプ○ウスミサイルだがそんなことは関係ない。

 

(あっ、死んだ…)

 

死の間際だからか、歩には世界がゆっくりに見えた。

 

(ああ、轢かれて死ぬのか…ものすごく痛いだろうなあ)

 

《確認しました。『物理攻撃耐性』『痛覚無効』を獲得…成功しました》

 

(はあ、レーダーみたいに全方位見えたら避けれたのに…)

 

《確認しました。エクストラスキル『魔力感知』を獲得…成功しました》

 

(そういえばこないだ買ったプラモ、完成前だったのに死ぬなんて。製作ペース上げれば良かった)

 

《確認しました。ユニークスキル『製作者(ツクリダスモノ)』を獲得…成功しました》

 

(もし来世があったら、今度はもっと勉強してちゃんと学者目指そ)

 

《確認しました。ユニークスキル『学術者(マナブモノ)』を獲得…成功しました》

 

(ああ、あと十数センチ…死んだ  

 

そう考えて目を瞑った   なのに何故かいつまで経っても衝撃が来ない。

おかしいと思い目を開いたら、見たこともない世界  異世界が眼前に広がっていた。

 


 

主人公設定

 

三上(あゆむ)

種族:人間“異世界人”

 

ユニークスキル

学術者(マナブモノ)

思考加速…知覚速度を1000倍に加速する。

解析鑑定…対象の解析及び鑑定を行う。

予測演算…様々な事象の発生や動きを予測する。

並列演算…解析したい事象と自分の思考を切り離して演算可能にする。

詠唱破棄…魔法などを行使する際、呪文の詠唱を不要にする。

森羅万象…この世界において隠されていないあらゆる事象を網羅する。

複写…対象の力を学びとる。成功させるには、一度でも認識する必要がある。

強化成長…自身のスキルや技能の性能・練度を上昇させる。

 

製作者(ツクリダスモノ)

形状操作…物体の形状を操作する。

物質変換…物質を変化させる。

法則操作…様々な事象を操作する。

 

エクストラスキル

『魔力感知』

 

耐性

『痛覚無効』『物理攻撃耐性』

 

本作のオリ主。

三上悟の甥。悟が死んで2年後に転移してくる。

ちょっとしたミリオタ。

知的な雰囲気を持っているそこそこのイケメン。

身長175センチ程。

小学生の時は空手、中学高校と剣道を経験しており、転移時に身体能力が大幅に上昇したこともあり、めちゃくちゃ強い。

 

 



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主人公設定(第2章終了時点)

三上歩(アユム・ミカミ)

種族:人間(聖人)

称号:魔王(リムル)の甥っ子

 

魔法

〈元素魔法〉〈精霊魔法〉〈幻覚魔法〉〈神聖魔法〉〈気闘法〉

 

究極能力(アルティメットスキル)

学術之王(ラジエル)

思考加速…知覚速度を100万倍にまで加速させる。

解析鑑定…あらゆる物体や事象を解析及び鑑定する。

予測演算…様々な事象の発生や動きを予測する。

並列演算…解析したい事象と自分の思考を切り離して演算可能にする。

詠唱破棄…魔法などを行使する際、呪文の詠唱を不要にする。

森羅万象…この世界において隠されていないあらゆる事象を網羅する。

複写…対象の力を学びとる。究極能力(アルティメットスキル)へと進化した結果、一度でも見たユニーク以下のスキルなら確実に一発で複写成功可能になった。ただし、究極能力(アルティメットスキル)の複写はほぼ不可能。仮に成功しても、ユニークレベルへと劣化する。

強化成長…自分のスキルや技能の性能・練度を上げる。

 

ルベリオスでの戦いにおいて、ユニークスキル『学術者(マナブモノ)』から進化した能力。単純な解析能力自体はリムルの究極能力(アルティメットスキル)智慧之王(ラファエル)』にやや劣るものの、『複写』を考慮すれば実質的に上回る。量子コンピューターすら足元にも及ばず、『智慧之王(ラファエル)』とほぼ同等の演算能力を誇る。

 

製作之王(ヘファイストス)

物質創造…あらゆる物質を創造する。また、自身が創り出した物質を完全に支配下に置くことが可能。

物質変換…あらゆる物質を変化させる。魔素や霊子へと変化させることも可能。

法則操作…様々な事象を操作する。

形状支配…物体の形状を操作する。

 

ルベリオスでの戦いにおいて、ユニークスキル『製作者(ツクリダスモノ)』から進化した能力。凄まじい製作能力を持つ。

 

ユニークスキル

『絶対防御(万能結界)』『絶対切断』

 

エクストラスキル

『英雄覇気』『無限再生』『万能感知』etc

 

耐性

『痛覚無効』『物理攻撃無効』『状態異常無効』『自然影響無効』『精神攻撃耐性』『聖魔攻撃耐性』

 

必殺技

戦神之槍(グングニル)

穂先は反物質、柄は圧縮した霊子と魔素でできた槍を投じて攻撃する。敵に当たる際、魔素と霊子が打ち消し合い発生する干渉波で魂に攻撃し、反物質による対消滅反応で物理的に全てを破壊する。また、槍を覆うように特殊反発空間を発生させることで穂先の反物質が周囲の空気やチリと反応するのを防ぐことができる。また、この特殊空間には空間断絶を利用した防御結界を中和する効果があり、『絶対切断』も利用することであらゆる結界を貫通させる。

 

武器

直刀“晴嵐(セイラン)

伝説級(レジェンド)の直刀。

ルベリオスにおけるロッゾ一族との戦いに於いて、アユムが究極能力(アルティメットスキル)製作之王(ヘファイストス)』で魔改造した結果、刀身が白銀色の神鋼:白玉之鋼(シラタマノハガネ)へと変化している。

聖属性と魔属性を併せ持つ。

 

 



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第1章 転移、そして再会
第1話 同郷の少年と初陣


第1話です
内容はかなり薄いかな…


 

 

イングラシア王国

王都ルーラ

自由組合本部

 

異世界へと転移してしまったアユムの前には同い年か少し下くらいの少年が座っている。

 

「はじめまして、この自由組合の総帥(グランドマスター)をしている神楽坂優樹(ユウキ・カグラザカ)だ」

「こちらこそはじめまして、三上歩(アユム・ミカミ)です。それにしても、俺より若そうなのにこんな大きな組織のトップだなんて、驚きました」

「ああ、僕はこっちに来てから成長が止まってしまってて、こう見えてそれなりの歳なんだよね…」

「えっ、そうなんですか⁉︎いや、でも凄いですって!」

「あはは…褒められてるのかな?」

 

そんなやりとりの後、アユムはここに来た経緯を軽く話した。

 

「なるほどね。事故死しなかったことを喜ぶべきか、おかしな所に来てしまったと嘆くべきか…」

「俺、これからどうすればいいんでしょう…」

「うーん、ならうちで冒険者をやらないかい?最近、討伐系が少し不足気味でね。もちろん、僕も出来る限りのサポートはするよ」

 

そんなユウキの言葉がきっかけでアユムは冒険者になることになったのだ。

 

 

 

一ヶ月後

 

アユムは冒険者になった。

それもAランクである。

ユウキから元冒険者の人を紹介してもらい、その人から冒険者の心得や、剣術や気闘法をはじめとした戦闘技術を教えてもらったのだ。

二週間ほどで教えられたことはマスターしてしまった。

そこからさらに二週間は魔法のことやこの世界のことについてを学ぶため、図書館で本を読み漁った。

その結果、元素魔法と幻覚魔法、あと精霊魔法もマスターしてしまった。

こうなった理由は何もかも   

 

「『学術者(マナブモノ)』ヤベェな…」

 

この言葉から分かる通り、全てはアユムの手に入れたユニークスキル『学術者(マナブモノ)』による影響だった。

ユニークスキル『学術者(マナブモノ)』はあらゆる事象から様々な物事を学びとり自身の糧とする能力である。

これにより、短期間で凄まじい成長を見せたのだった。

 

「いやぁ、驚いたよ。まさかこんなに早くAランクになるなんてね…」

「ははは、スキルのおかげですよ。俺自身Aランクって聞いて脱帽しましたから…」

「そうだね。同郷のよしみだから、装備はあげるよ」

「ありがとうございます!」

 

その言葉に頷くとユウキは顔の色を変えた。

 

「さて、そんな新人Aランク冒険者に早速仕事だ。ここのリメア王国という国で最近、一角熊(ホーンベア)の目撃情報が多く上がって来ていてね、かなり危険だから討伐しないといけない。そこで、君に行ってもらいたいんだ」

「なるほど、分かりました。引き受けます」

 

翌日、アユムはリメア王国に向かった。

リメア王国はブルムンド王国の南にある辺境の小国でジュラの大森林に接している。

一角熊(ホーンベア)はA-のかなり危険な魔獣だが、リメア王国にいるのは高くてもB+程度の冒険者がほとんどのため対処出来ないでいたのだ。

 

 

一ヶ月後

リメア王国王都近郊

 

「ギャアアアア‼︎」

 

吠えて大暴れしているのは一角熊(ホーンベア)だ。

商人の一団が襲われている。

複数のBランク冒険者が立ち向かっているが、どうしようもない状況だった。

 

「クソッ、俺たちじゃ対処できねえってのに!Aランクのやつはいつ来るん  グワッ」

「ぎゃっ」

 

冒険者達が吹き飛ばされて、一人の商人に突っ込んできた。

 

「ヒィ、助けてくれ!」

 

無残にも殺されるその時だった。

 

魔法障壁(マジックバリア)!」

 

鈍い音を立てて一角熊(ホーンベア)魔法障壁(マジックバリア)に弾かれた。

 

「ふう、間一髪だった…」

 

商人を助けたのは到着したばかりのアユムだった。

 

「あんたは…」

三上歩(アユム・ミカミ)って言います。新人のAランク冒険者です」

「新人なのかよ…」

「いやでも、Aランクって…」

 

そんな風に困惑しているのを横目にアユムは一気に距離を詰めた。

 

「食らえ、極炎獄霊覇(インフェルノフレイム)!」

 

アユムの魔法を受けた一角熊(ホーンベア)は呆気なく消炭にされて倒された。

 

「うーん、オーバーキルだったかな…」

「す、すげぇ。一角熊(ホーンベア)を一瞬で…!」

「なんて魔法だ…」

「あっ、ありがとうございますぅ!死ぬかと思ったぁ!」

「いえいえ、冒険者として当然の事をしたまでですから」

 

困惑している冒険者とぐしゃぐしゃな顔になりながらお礼を言う商人を見て少し得意な気分になった。

その後、報告のためにアユムは自由組合リメア支部に向かった。

 

 

 

「では、これで」

「ああ、ご苦労様」

 

リメア支部の支部長(ギルドマスター)へ報告し、部屋を後にすると、噂話をしている冒険者達がいた。

 

「聞いたか、魔国連邦(テンペスト)のこと」

「聞いた聞いた。なんでもデカイお祭りやるみたいだな」

「お前、行くか?」

「いや、だって魔物の国だしな。ちょっと気が引けるんだよな」

「でも、かなり良い所らしいぞ。街道もイングラシアの王都並みに整備されてるとか、宿舎じゃメチャクチャ美味い飯が食えるとか。その上、あそこを治めている魔王リムルは元異世界人の転生者らしいし」

 

そんな風に話し合っている。

 

(へえ、元異世界人か。もしかしたら日本出身だったりして…。お祭りってのも気になるし、行ってみようか)

こうしてアユムは魔国連邦(テンペスト)へと向かうことにした。

 

 

 




ああああああ〜
早く転スラ第二期見たい!
ヒナタを誰がやるんだろう…


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第2話 魔国連邦(テンペスト)開国祭

開国祭です!
次回かその次に再会エピソードを書く予定です!
内容がかなり適当になってしまった…
まあ、9000文字という過去最高の文字数になったのは嬉しいが。


 

 

ジュラ・テンペスト連邦国

中央都市リムル

 

今日は開国祭2日目。

とてつもない活気で溢れている。

 

(まあ当然だわな)

 

それがここに着いた時のアユムの感想だった。

理由は数日前に遡る。

ブルムンド王国と魔国連邦(テンペスト)を繋ぐ街道沿いのとある宿舎に泊まった日のことだ。

 

宿舎の隣にある食堂はとても混み合っていた。

やっとの思いで席を確保し、メニュー表を見ると驚愕の内容だった。

 

(“ラーメン”に“ギョウザ”とか、久しぶりに見たわ…。他にも見覚えのある料理がたくさんある。これは魔王リムルが同郷と考えて間違い無さそうだ)

 

そしてそれを注文した。

とても美味かった。

懐かしい故郷の味をしっかり堪能したのだ。

因みに、それ以降街道沿いの宿舎は利用していない。

拠点移動(ワープポータル)でブルムンド王国まで戻ってそこの自由組合支部で泊まり、翌日の朝また拠点移動(ワープポータル)で昨日行った所まで行き  というのを繰り返したのだ。

別にケチった訳では無い。

そもそも、前回の一角熊(ホーンベア)の討伐でかなり稼いでいる。

Aランクを超えていた特殊個体(ユニークモンスター)だった上、体内から大量の魔晶石が手に入った。

その結果、現在の所持金は金貨5枚。日本円にしておよそ50万円である。

アユムは()()()()()()()のではなく、()()()()()()()のだ。異常なまでの混雑がその原因である。

 

そんな事はさて置き、アユムは直ぐに宿を取った。

幸いにもまだ空室があった。一番安い部屋を選んだ。

部屋にトイレが取り付けられている。

因みに、イングラシア王国ではかなり高級な宿でやっとトイレがあるか無いかである。

アユムとしては半ば当然なのだが、他の宿泊客の反応を見るとかなり驚いていた。

 

(よく考えてみれば、こっちの世界ってほとんどインフラ整備されていないんだよな。そりゃ驚くのが普通か)

 

街に出て、すぐ円形闘技場(コロッセオ)へと向かった。

近くの屋台でポテトとジュースを購入し、入場する。

今日は武闘大会本戦である。

入ってみると客席には直射日光を防ぐためと思われる張り出した屋根があった。

ただ、雰囲気はかなり不気味である。

客席はほとんど埋まっており、座れるスペースは無さそうだった。

という訳で立ち見である。

その後、龍人族(ドラゴニュート)の女性のアナウンスが始まった。

 

『ではこれより、第一回テンペスト武闘会本戦の開会式を始めます!まず、紹介するのは一番人気のこの人!その名は、“勇者”マ〜サ〜ユ〜キ〜‼︎その美しい剣技は誰も見たことが無い!何故ならば、剣が抜かれたその時、既に相手は死んでいるからだ‼︎』

 

(うん、おかしいよね?一瞬で相手を倒したとしても、それなりの実力者がいれば一人二人には見られるでしょ)

 

『圧倒的な強さで名を馳せ、若くして“勇者”を名のるマサユキだが、今日は一体どんな試合を見せてくれるのか⁉︎その甘いマスクに見惚れる者が後を絶たず、その目で見つめられて落ちない女はいないという、マサユキ‼︎今日、その本戦でその勇姿を見られる者は、その幸運を噛みしめろ‼︎』

 

「「「ウオォーー‼︎」」」

 

凄まじい歓声である。だがしかし…

 

(それ、ただの誉め殺しでしょ…。確かに顔はイケメンだよ!ジャニーズにでも所属してそうな雰囲気あるし。でも、ねえ…)

 

『続いては、昨日の第二試合にて次々と選手を屠った“狂狼”のジンライ!圧倒的なパワーであらゆる敵をなぎ倒す、歴戦の勇士‼︎“勇者”マサユキの相棒の力は如何に‼︎』

 

(勇者の相棒って割にはガラ悪そう…。凄いモヒカンだし)

 

『三人目は“流麗なる剣闘士”ガイ!舞を舞う様に美しく、みる者の心を奪う‼︎果たして今日の試合でも鮮やかな血飛沫の中、流麗な舞を見られるのか⁉︎』

 

(ちょっと紹介が怖すぎない?脚色がエグい…)

 

『続く選手は昨日の第四試合の覇者、ゴズール‼︎そして、ゴズールの永遠のライバル、メズール‼︎100年の争いは未だ決着がつかず‼︎果たして、この本戦にて勝敗は決するのだろうか⁉︎このメズール、あるいはゴズールこそ明日公開される地下迷宮(ダンジョン)の主となる‼︎その強さに刮目せよ!そして、我こそはと倒す自信のある勇気ある者達、栄光と富を求めて迷宮へ向かうがいい‼︎』

 

地下迷宮(ダンジョン)⁉︎気になるな!)

 

『六人目は、昨日凄まじい強さを見せた、謎の覆面男の登場だぁ‼︎正体不明の獅子仮面(ライオンマスク)、正義の味方か悪魔の使者か⁉︎今日はどの様な戦いぶりを魅せてくれるのか⁉︎あーっと、ここでとある匿名の人物より伝言(メッセージ)です!「ワタシの代わりに頑張るのだぞ!分かっているだろうが、正体がバレるのは阻止するのだぞ。それでは、健闘を祈る‼︎」との事でーす!これは獅子仮面(ライオンマスク)選手への激励みたいですね‼︎』

 

(ああ、実況のお姉さんは知っているんだな…)

 

『さて、ここからは特別出場枠。魔国連邦(テンペスト)の誇る幹部達の内、二名が今大会に出場して下さいます。その実力は一騎当千、優勝すれば魔王リムル陛下の“四天王”としての地位が約束されている‼︎先ずは最初の一人、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)の隊長ゴ〜ブ〜タ〜‼︎そのニヒルなマスクに憧れる者も多く天才の名を欲しいままにする、若き戦士長!果たして、今回はどんな戦いぶりを魅せてくれるのでしょう⁉︎』

 

「や、やめるっすよー!恥ずかしいっす‼︎」

 

『前座は終わり、最後に紹介するのは真打です!猪人族(ハイオーク)の救世主、“猪人王(オークキング)”のゲルド殿‼︎鉄壁の守りを誇る魔国連邦(テンペスト)の守護神です‼︎』

 

(急に真面目!俺が解析した限りだと獅子仮面(ライオンマスク)って人と互角か少し劣るくらいなんだが、それ以前の全員を前座って…)

 

『さて、八人の選手が出揃いました!一体誰が優勝するのか、運命の時はもう間もなくです‼︎』

 

アナウンスが終わると舞台の中央に転移門が開いた。

そして、そこから現れるのは、青みがかった銀髪に金瞳の美少女と深い紫のスーツを着た悪鬼(オニ)の美女だ。

これに観客たちは大興奮で、凄まじい大歓声が巻き起こった。

アユムはこの時、別の意味で驚いていた。

 

(スーツの女性、下手したら魔王なんじゃないかってくらいとんでもない力持ってるな…。間違いなく俺より強い。そしてそれより恐ろしいのは銀髪の美少女。『学術者(マナブモノ)』で解析しても“人間”としか出ないんですけど⁉︎俺のスキルを上回る隠蔽能力を持っているって事だろう。もう勝負にもならないだろうな…!)

 

観客達に応じた後、銀髪の美少女がマイクを受け取って話し始めた。

 

『さて、諸君。今日の試合に勝ち抜き、明日の決勝で勝利すれば、我が国での栄光を授けよう』

 

そう言って選手達への激励の言葉を述べ始めた。

 

『“勇者”マサユキよ。君が優勝すれば、俺への挑戦権を授けよう』

 

マサユキはちっとも嬉しくなさそうだ。

恐らく、魔王とは戦いを望んでいないようだ。

 

『君は“狂狼”のジンライだったかな?君は何か望みあるかな?』

 

『おっと、この俺様にも声を掛けてくれるのかい。俺の望みはマサユキさんの助けになる事さ。悪いな、俺が優勝することは絶対無いんだよ。だが、俺様の代わりにマサユキさんがアンタを倒してくれるだろうぜ‼︎』

 

『分かった。その潔さに免じて、どういう結果になろうと君には新しい武具を用意させよう。勇敢なる戦士への敬意だと思って、素直に受け取ってくれて構わない』

 

『フンッ、くれるってんなら貰うがよ、それで俺様は懐柔できねえぜ』

 

ジンライがマイクを返した後、魔王リムルへ文句を言う者が現れた。

 

「おい、魔王。俺の方がそこの勇者より強い!俺が優勝したら、俺とも勝負するんだろうな⁉︎」

 

マイクを貰う前に発言したのは“流麗なる剣闘士”ガイである。

魔王リムルは一瞬戸惑ったように見えたが、その直後、舞台袖から審判と思われる執事服を着た男が現れた。

 

「リムル様に対し無礼ですよ。そこまでいうのなら、貴方が優勝したら私が相手になりましょう。もし勝てたなら、私がリムル様にお願いして差し上げます」

 

『今回は勇者との約束がある。だが、他にも俺との戦いを望む者がいれば、まずは“四天王”に勝利し、その力を示すが良い。その時は、俺への挑戦を認めようじゃないか!』

 

『フッ、上手く逃げたものだ。まあいい、“勇者”も、そこの“悪魔”も、そして“魔王”も、この俺の前にひれ伏すと知れ‼︎』

 

(うわぁ、凄い大見得切ったよ…。とんでもない馬鹿、もしくは自殺志願者だな…)

 

『“流麗なる剣闘士”ガイ、お前が優勝したら、特別に俺への挑戦権を与えよう』

 

『フッ、その言葉忘れるなよ?』

 

魔王リムルはそれを無視して次の選手の方へ向く。

 

『お前達には期待している。この大会で勝てなかったとしても、迷宮の支配者の一人となる自覚を持って、決して無様な戦いをするなよ?』

 

『御意!頂いた“ゴズールの名にかけて、全力を持って戦うことを誓います‼︎』

 

『我らもこの国の一員として恥じぬ戦いを見せることをこの“メズール”がお約束致します‼︎』

 

それに頷くと、次の選手には適当になった。

 

『えーっと、獅子仮面(ライオンマスク)さん。とりあえず無茶はしないように』

 

『おい、俺に対して適当すぎないか?』

 

(魔王リムルも正体知っているんだな。明らかに雑になってる)

 

『ゴブタ。そして、ゲルド。お前達は強い!その武威をこの試合で存分に発揮してくれ!』

 

『はいっす!』

 

『御意!』

 

選手紹介が終わると、アナウンスが幹部二人からマイクを受け取った。

 

『では、これより対戦相手の選定です!それぞれ、クジを引いて下さい!」

 

その後、トーナメント表に名前が記入され、早速第一試合が始まった。

ゴズールVSメズールだ。

互いに罵り合った後、ゴングが鳴った瞬間とてつもない戦いが始まった。

観客はその激しい接近戦(インファイト)に興奮している。

だが、アユムは違う。

冷静な分析と『複写』によるスキルのコピーを行なっていた。

 

(二人とも、ややパワーに頼っているな。俺なら高威力の魔法を一発ぶち込んで終わらせるな。でも、今盗んだゴズールの『超速再生』は厄介だな)

 

そして、ゴズールの雷撃角(ライトニングホーン)という技で勝負がついた。

観客からは拍手喝采である。

 

第二試合はマサユキとジンライである。

予定通り、マサユキの不戦勝である。

 

(なるほど。普通戦わなかったら罵詈雑言が浴びせられるのに、観客が大喜びしているのはマサユキのスキルの影響か。俺としても『英雄覇気』ってかなり凄いスキルが手に入ったし、不満は無いんだけどね)

 

第三試合はガイとゴブタだ。

ゴブタは場外負け狙い、ガイはそんなゴブタを場外にさせないようにしつつ、いたぶっている。

そんな中とある者からゴブタへ声援が送られた。

 

「ゴブタ!根性見せてそいつに勝って見せろ!そしたら小遣いアップだ!優勝できたら、お前が欲しがっていた釣竿もやるぞ!」

 

魔王リムルである。

 

(完全に物で釣ってる、釣竿なだけに…。それにしても二人はすごい技術を持っているな。『複写』していてかなり楽しい。一方はいたぶる、一方は場外負けを狙うと明らかにクソだけど…)

 

ゴブタはリムルの言葉でやる気になり、奥の手を発動した。

 

「召喚!さあ、来るっす!」

 

現れたのは黒牙狼(ブラックファング)   に似たとんでもない魔物だった。

 

「召喚術か。だが、黒牙狼(ブラックファング)ごとき俺の敵では…」

 

と言っている内に、その狼が一瞬でガイを吹き飛ばした。

 

(え?ちょっとアレ、ヤバすぎないか?見た目はC、Dランクの黒牙狼(ブラックファング)だけど、間違いなくAランクオーバーのバケモンじゃん!下手したら特A級…?)

 

どうやらゴブタも予定外という反応である。

 

『ガイ選手の意識を奪う、見事な一撃でした。勝負アリです』

 

『勝者、ゴ〜ブ〜タ〜‼︎』

 

アナウンスから勝利宣言が響き、観客からは拍手喝采。

アユムとしては少し思うところがあったが、よしとすることにした。

 

第四試合はこのトーナメントで間違いなく最強の二人、獅子仮面(ライオンマスク)と“猪人王(オークキング)”のゲルドだ。

ゴングが鳴ると、両者共に凄まじい技の打ち込み合いである。

 

(とんでもないな。ゲルドって人はまるで重戦車だな。圧倒的な防御力と砲弾じみた威力のパンチ、ヤバイ…。獅子仮面(ライオンマスク)は様々なタイプの攻撃の雨あられ、あんなラッシュ食らったらひとたまりもないな…)

 

この間、何度も複写を発動しているがほとんど失敗続きである。

何とか、ゲルドから『多重結界』『剛力』というスキルを盗めたくらいだ。

最終的には獅子仮面(ライオンマスク)の獅子咆拳という技で勝負がついた。

 

その後、昼休みを挟んで準決勝を行う。

だがアユムは円形闘技場(コロッセオ)に戻る気は無い。

 

(『魔力感知』で中は観れるし、何より他の屋台を見て廻りたいから、入らなくても良いだろう)

 

そう思い、屋台巡りを始めた。

昼食として買ったハンバーガーを頬張り、次の店へ向かう。

【ギメイのたこ焼き】という長い行列がある店が目に入った。

 

(変わった名前だな。もしかして、本当に偽名だったりして…)

 

そんなことを思いつつ並んだ。

円形闘技場(コロッセオ)へと客が戻っていたこともあり、街道の宿舎に比べれば、かなり待ち時間は少なく済んだ。

店主は金髪に褐色の肌の大柄な男だった。

 

「クアハハハ!何が欲しい?」

 

(なんか偉そうだな…)

 

そう思いつつ注文をする。

 

「たこ焼き一つ」

 

「うむ、ホレ」

 

あっという間に紙皿にたこ焼きを詰めて渡してくれる男にお礼を言った後、一つアユムは質問をした。

 

「あの、お名前を聞いてもよろしいですか?」

 

「我の名前か?我が名はヴェル…いや、違う。“ギメイ”という。よく憶えておけ」

 

それを聞いた後、屋台を後にした。

 

(うん、本当に偽名でした。それにしても、さっき『ヴェル…』って言ったよな…。まさか、“暴風竜”ヴェルドラ⁉︎それにしては意外な感じだったな。もっとヤバイ感じだと思ったのだが、結構気さくな感じなんだな)

 

そう思いながらたこ焼きを食べた。

外はカリカリ、中はトロトロで元いた世界でも食べたことが無いほどに美味かった。

その後、アユムは様々な屋台を巡った。

そして夕方になり、宿へと戻っていった。

 

開国祭3日目

アユムは商工業エリアにいた。

様々なブティックや武具店が立ち並んでいる。

ブティックでいくつか新しい服を買い出てくる。

 

(さて、次はどこの店を見ようかな〜)

 

そう考えながら歩いていると、ある武具店が目に止まった。

クロベエという名の妖鬼(オニ)の店主が出迎えてくれた。

 

「何が欲しいだべか?」

 

「うーん、まだハッキリとは決めて無いんですよ。実際に見て、欲しいのがあったら買おうかなと」

 

「そうだべか。なら、好きに見ていくのいいべ」

 

アユムは一つ一つ、武器や防具を見ていく。

武器は片手剣や槍、弓矢など多種多様。防具も胸当てや小手、具足などこちらも様々な物が揃っている。

その中で、アユムは一振りの直刀に目を止めた。

 

「これは?」

 

「ああ、これはリムル様にプレゼントとした物の練習で打った物だべ。言ってみれば、プロトタイプだよ」

 

「ちょっと、持ってみても良いですか?」

 

「そのくらいならいいだ」

 

アユムは鞘から刀を抜き、実際に構えてみる。

解析してみると、特質級(ユニーク)の一品であった。

何より、持てば持つほどしっくりきた。

アユムは即座に購入することにした。

 

「これいくらですか?」

 

「それは、売り物じゃ無いんだべ」

 

「そんな⁉︎せっかくしっくりきたのに…。なんとかなりませんか?」

 

「オラとしてはあまり売りたく無いだよ。まあ、どうしてもと言うなら金貨3枚で  

 

「買います!」

 

半ば強引に直刀を購入した後、昼食をとり円形闘技場(コロッセオ)へと向かった。

 

『さあ、時間となりました。それでは開国祭3日目、最後の催しをご紹介します』

 

『ご来場の皆様、大変お待たせ致しました。これより一部をお見せするのは、魔国連邦(テンペスト)の誇る難攻不落の地下迷宮(ダンジョン)に御座います。魔王リムル陛下が冒険者達へ開放する、最難問。果たして、これをクリアできる者は現れるのでしょうか⁉︎では早速、挑戦者を募集したいと思います!我が国が誇る地下迷宮(ダンジョン)を攻略してみようという、勇敢な者はいませんでしょうか⁉︎』

 

そうアナウンスが声を張り上げると、舞台上に巨大な扉が現れた。

 

「「「おおーー‼︎」」」

 

観客が驚いている中、一際大きな声が響いた。

 

「はい!俺、参加します‼︎」

 

アユムである。

 

「昨日からずーっとこれを待っていたんですよ!」

 

そんなアユムに声を掛ける者もいた。

 

「おう、こないだはありがとうな!」

 

「頑張れよ!」

 

リメアでアユムが助けた冒険者達だ。

彼らの言葉に頷きつつ、舞台上に出るアユム。

その後も挑戦者は続いた。

バッソンというスキンヘッドの戦士をリーダーとした、チーム“豪雷”、エレン、ギド、カバルというB+の冒険者三人組、“勇者”マサユキ率いるチーム“閃光”、“流麗なる剣闘士”ガイ。

これにアユムを含めた、計5組が参加することになった。

 

『こちらの5名が迷宮の管理者です。普段は付き添いませんが、今回は皆様の攻略情報をお伝えする為、各パーティーに1名が付き添います』

 

アナウンスのルール解説が始まった。

 

『これらは、迷宮に入る際に売り出す予定のアイテムです。まずは、こちらの腕輪から説明します。“復活の腕輪”と名で、入場する際は必ず購入して頂きたいものです。そして、その効果はなんと、死からの復活となっております!』

 

「そんな馬鹿な!」「信じられるか!」

 

あちこちからそういった声が聞こえた。

 

『落ち着いて下さ〜い!重要なことですので、よく聞いて下さい!このアイテムが効果を発揮するのは我が国の地下迷宮(ダンジョン)の中のみとなっております‼︎外では効果がありませんし、内容が内容だけに間違った使用遠されては大事になります。その点についてご理解下さるよう伏してお願い申し上げますね‼︎それでは、実際に体験してみたい方は?』

 

(いや、いるとは思わないけど…)

 

アユムがそう思うと同時に文句を言う者が出た。

 

「フン、面白い冗談だぜ。それを信じて死ぬなんざまっぴらゴメンだ!そこのお前、手本を見せろ!」

 

ガイがそう言って指差したのは、もう一人の小太りの中年くらいの男だった。

 

『ワシですか?その提案ももっともですし、宜しいでしょう』

 

そう言ってその男は腕輪を嵌めて迷宮に入った。

 

『それではこちらのミョルマイルさんに攻撃して…』

 

言い切る前にガイが動く。

 

「騙されるものか。キエイッ!」

 

そういうなりミョルマイルの腕を斬り落とした。

 

『ちょっと…!』

 

アナウンスの女性が止めようとするも、手遅れである。

 

『ウギャア!』

 

「ハハハハッ!そろそろトドメをくれてやる!」

 

そう言ってミョルマイルの首をはね飛ばした。

その後、ミョルマイルの身体が光の粒子となってその場から消えた。

そして、何事もなかったように舞台中央に姿を現した。

 

『ホレ、このようにワシは五体満足ですぞ!』

 

「「「おおおーー!」」」

 

観客から大歓声が上がる。

 

(解析してみても、特におかしな点は無い。あのおじさんが殺られたとき、あの腕輪が反応したみたいだ。迷宮内で復活できるとか、ヤバイな…)

 

そして、1チームにつき一人の樹妖精(ドライアド)がつく。

アユムにはトレイニーという名の樹妖精(ドライアド)がついた。

アユムは迷宮に入り、攻略を始める。

 

(とりあえず、『魔力感知』と『地図作成(オートマッピング)』でどんな感じになっているかって…)

 

「なんじゃこりゃ⁉︎広すぎるだろ‼︎」

 

アユムは驚愕の余りに思わず叫んでしまった。

1階層だけでも250メートル四方の広大な空間が広がっていた。

 

(と、とにかく下の階層を目指そう…)

 

アユムは『地図作成(オートマッピング)』と『魔力感知』で情報収集、『学術者(マナブモノ)』で情報精査と最適ルートの検索を行い、攻略に向け走りだした。

 

(上手くすれば、10階層あたりまでいけるかな)

 

1階層では、回復薬(ポーション)などを回収し、早々に階段で2階層へ向かう。その後も順調に攻略を進め、何故かショートカットになっている落とし穴も使い、様々な宝箱を開け、アイテムを回収しながら一気に下の階層へと向かう。

4階層で、扉を開けるとスケルトンが5体いた。

 

「邪魔!」

 

あっという間にスケルトンはアユムが新たに購入した、直刀によって粉々に粉砕される。

そして、アユムは銀の宝箱を開けた。

中はなんと金貨が入っていた。

 

「お、ラッキー」

 

さらに下の階層へと進み、6階層。

 

「今度は、吸血蝙蝠(ジャイアントバット)三体か、楽勝だな。火炎大魔球(ファイアボール)!」

 

あっという間に消炭と化した吸血蝙蝠(ジャイアントバット)から魔晶石を回収し、宝箱を開ける。

 

「うお、希少級(レア)の小手だ!」

 

すぐ様それを相場して、さらにペースを上げた。

そして、遂に10階層へと到着した。

 

「あれ、この部屋は?」

 

そんな疑問にトレイニーが答えた。

 

「ここは、ボスの部屋です」

 

「ボス?ボスらしきモンスターなんていないけど…」

 

「先程、チーム“閃光”が倒したそうです。ボスは30分程で復活します」

 

「たしか、残り時間ってあと20分くらいだったよね?ってことは、俺はボスに挑戦できないってこと?」

 

「そうなりますね」

 

「クッソー!折角ここまで来たのに…!まあ、かなり稼げたしいいか」

 

そう言って、帰還の呼子笛で入り口まで戻った。

既に3人組のチームとチーム“閃光”ガイ戻って来ていた

それから5分程経つと、ガイが気絶した状態で戻ってきた。

迷宮内でのルールを破ったので、罰則を食らったらしい。

最後にチーム“豪雷”が帰還した。

2名倒され、1名が負傷していたが、帰還したときに2人が既に復活して、怪我も完全回復薬(フルポーション)にて治せた事に驚き、喜んでいた。

最後に魔王リムルからの挨拶だ。

 

『どうだったかな?楽しんでくれただろうか?この地下迷宮(ダンジョン)は、もう間もなくしたら正式に開放する予定だ。安全性は保証するので、興味があれば是非とも挑戦してみてくれ。そして、見事に地下100階層を制覇した者には、この俺に挑戦する権限をやろう‼︎』

 

こうして、開国祭の全てのイベントが終了した。

 

(いやあ、楽しかったけど最後は疲れたな。早くイングラシアに帰ろう)

 

 

 




早く11/8にならないかなぁ…
ヒナタの声優が気になって仕方がない。


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第3話 古代遺跡

第二弾PV良かったですね!
ヒナタ役は沼倉愛美さんでしたね。似合い過ぎてちょっと驚きました!
あと、どん兵衛とのコラボはかなりヤバ過ぎましたね…‼︎もう爆笑しましたw
OPに何故かチキンラーメン出てきたし、「月見ポケット真似するなぁ‼︎」ってwww
さて、10巻ラストを前後編でお届けするの予定で、今回はその前半です!
是非楽しんで下さい‼︎


 

 

 

イングラシア王国

王都ルーラ

自由組合本部

 

テンペスト開国祭から1ヶ月が経過したある日のことだ。

 

  という訳で、君にはカガリ達の調査隊に同行してもらいたいんだ」

 

軽い感じにユウキはアユムに頼んだ。

 

「なるほど。それにしても魔王を狙うとか、頭のネジ何百本外れてんだって思うんですが…」

 

1週間後、ユウキの部下である副総帥(サブマスター)のカガリ率いる古代遺跡調査隊が、魔王リムルと共に傀儡国ジスターヴにて発見された古代遺跡の調査に赴く予定だ。

だが、魔王リムルが何者かに狙われているとのことなので、いざという時に調査隊を護衛する者が必要になった。

そこで、白羽の矢が立ったのがアユムなのだ。

 

「まあ、魔王だからか敵が多いのかもね」

 

「だからといって、武力使って襲う奴なんてそうそう居ないと思いますけど、了解しました。いざって時はカガリさん達をしっかり守り通します!それに、魔国連邦(テンペスト)地下迷宮(ダンジョン)でかなり強くてなったんで、それを試したいって思っていたんですよ!」

 

そう言って、アユムは不敵に笑う。

 

「はは、僕としてはそうなって欲しくはないが、宜しく頼むよ」

 

アユムは何度も挑み、そこで稼ぎつつ実力を向上させていた。

学術者(マナブモノ)』のおかげで現在では、既に“仙人”と呼ばれる半精神生命体へと至っており、魔王級の実力者が相手でも互角の戦いができるほどになっていたのだっだ。

 

 

 

1週間後

 

約束の日がきた。

アユムは必要な物を整えて、本部前の広場は向かう。

カガリ達と合流して、暫くすると4人の魔人と1匹の妖獣がやって来た。

魔王リムル達である。

 

「お久しぶりです。今日から暫く、お世話になりますね!」

 

「初めまして!ミリムだぞ。宜しくなのだ!」

 

「初めまして、カガリと申します。こちらこそ宜しくお願いしますわ」

 

そんな挨拶を交わしている間、アユムは解析を行なっていた。

 

(魔王リムルは安定の解析不能か…。魔王ミリムも底が見えない。やっぱり、魔王ってとんでもない奴ばかりなんだな…)

 

そう考えていると、リムルがアユムへと視線を向けた。

 

「君…」

 

「開国祭以来ですね、リムル陛下。と言っても顔を合わせたくらいですが…。初めまして、異世界人の三上歩(アユム・ミカミ)です。宜しくお願い致します」

 

「あ、ああ…。こちらこそ初めまして、魔王リムルだ。それと、陛下呼ばわりは良いよ。同じ異世界人同士なんだし、そう呼ばれるとむず痒いんだ」

 

「噂は本当だったんですね!もしかして、同じ日本人だったらします?」

 

「ああ、同じくね」

 

「あの、ワタクシのチームの紹介をさせて頂きたいのですが…」

 

「おっと、すいません。つい話が弾んでしまって」

 

そんなやり取りの後、カガリはチームメンバーの紹介を終えて、質問をした。

 

「それで、リムル様。荷物を運ばせますが、どちらに置いてあるのです?」

 

「いや、特に用意してないよ」

 

「ご冗談を…」

 

少し怒りを含めてそう言うカガリ。

 

「ミリム、やっぱり素肌を見せるのは良くないって。虫刺されとか怪我とかしたら危ないよ」

 

「そうなのか?だが、私は常に妖気(オーラ)で守られているから大丈夫なのだぞ!」

 

「いや、でもカガリさん怒ってるし…」

 

「一緒ですよ!ワタクシから見れば、アナタ方は軽装過ぎ!どちらも探索というものを舐めています‼︎」

 

カガリは我慢出来なくなり、声を挙げた。

 

「まあまあ、大丈夫ですって。こう見えて、俺も冒険の経験は豊富ですから」

 

「そこまで仰るなら…。ですが、困った事が有れば、直ぐに言って下さい。では、馬車を用意しておりますので  

 

「馬車なんて要らないでしょう?」

 

そうリムルがカガリの言葉を塞ぐ。

 

「どういう意味でしょう?」

 

「なるほど。あらかじめ拠点移動(ワープポータル)でも設置しているんですね?」

 

カガリの疑問に答えたのはアユムだ。

 

「まあ、そんなとこかな」

 

その後、王都郊外に出るとリムルは転移門を開いた。

 

「どうぞ通って下さい。直ぐに消えたりしないので、落ち着いてどうぞ」

 

リムルがそう声をかけると、唖然として成り行きを見守っていた隊員達が騒ぎ始めた。

 

「嘘でしょ⁉︎ここからどれだけ離れていると…」

「魔王…凄すぎる…!」

「ありえん。俺たちの準備はこれで大半が無駄になったぞ…」

 

そんな中、アユムはというと  

 

「そう来たか…。こんなのを当たり前に扱うなんて…。一体どんだけの魔力をもっているんだ⁉︎」

 

アユムの発言に他の隊員は「そこ⁉︎」と言った具合に驚いていた。

そして、彼等は門をくぐり傀儡国ジスターヴへと足を踏み入れた。

 

「ようこそ、ジスターヴへ!長旅でお疲れでしょう」

 

到着すると直ぐに黒妖耳長族(ダークエルフ)達がアユム達を出迎えた。

 

「いや、そうでもないけどね。とりあえず、部屋の準備はできてる?」

 

「勿論で御座います!各々方に個室を用意しておりますが、必要でしたら大部屋も御座います」

 

「それじゃあ、荷物を大部屋に運んだ後、城内を案内してもらおうかな」

 

「承知しました。では、案内致します」

 

その声に導かれて一行は案内された。

部屋に着くと、隊員達はロボットのようにぎこちない動きで荷物を下ろした。

 

「って、どうなんですか、コレ⁉︎まだ集合して1時間も経ってないのに既に目的地に着いてるんですけどぉ‼︎」

「おかしいだろ!絶対おかしいよな⁉︎」

「個室って、え?私達、この城でお客様待遇で宿泊できるんですか⁉︎」

 

口々に言葉を発し始める隊員達。

 

「リムル様より、皆様の面倒を見るように仰せつかっております。何か不便な点が御座いましたら、遠慮なく申し付けて下さい」

 

驚愕している隊員達に長老は柔らかな笑み浮かべてそう言った。

これにより、隊員達も現実を受け入れる事にしたようだ。

その後、黒妖耳長族(ダークエルフ)達に城を案内してもらい、そうこうする内に、遺跡の入り口に着いた。

 

「上層階の構造は判明しているのかしら?」

 

「はい。上層部の宝物は全て回収して、現在は私共の居住区として利用させてもらっております」

 

カガリの問いに長老が答えた。

扉を開けて、中へと入る。中は柔らかな光に満ちていた。

 

「この光は?」

 

「魔法による永続効果です。太陽の運行と連動しており、夜にはくらくなります」

 

「これだけでも大発見ですよ。当たり前のように利用されていますけど、徹底的に調査したいです!」

 

「中層以下にもこの魔法が?」

 

「はい、クレイマン様をお見送りする際に見えたのですが、中層も明るかったですわ」

 

カガリや隊員達が質問をして、長老がそれに答えるというやり取りが暫く続いた。

 

「ここで生活してるって事は、地下から魔物とか出てきたりしないんすね?墳墓と聞くと、幽霊とか出てきそうっすけど…」

 

「いいえ、そんな心配は無用ですわ。地下への扉は一つしかなく、それを開けられるのはクレイマン様だけでしたので」

 

ゴブタの質問に長老が苦笑して答えた。

 

「開かないなら、壊してしまえばいいのだ」

 

「お任せを。私が切り捨ててみせましょう!」

 

「ダメです!ちゃんと調査して壊さないようにするんだよ‼︎」

 

「そうですよ!トラップとか発動したりしたら危ないですよ‼︎」

 

そんな過激な発言をするシオンとミリムに対し、リムルとアユムが慌てて止めた。

そして、歩いている内に大きな扉が見えてきた。

中層に入る為の扉であり、魔法術式が仕掛けられていた。

 

  なるほど。これは古代魔法による防衛機構の一種みたいですね。下手に触ると、都市の防衛機構が目覚める仕掛けみたいですわ」

 

「まだ生きているのでしょうか?」

 

「ええ、くれぐれも注意しなさい。作動させてしまえば調査どころではなくなるでしょう」

 

カガリの忠告に隊員全員が表情を引き締めた。

 

「クレイマンは遺跡の関係者だったのかな?」

 

「アヤツが台頭したのはここ最近だし、そんな昔の遺跡と関係があったとは思えんぞ」

 

「恐らく、この術式を解いたのでしょう。正解の手順を踏めば、扉が開くのだと思いますわ」

 

リムルとミリムの疑問にカガリが答えた。

 

「長期戦だな」

「いきなり難問ですね。でも、今までに比べて環境は良い。じっくりと解析に当たりましょう!」

 

やる気を見せる隊員達を横目にリムルが扉に手を触れた

 

「なるほど。これは扉を壊したらこの階層を照らす光も消える仕組みだな。侵入者の排除に全エネルギーが回されて、安全が確保されたら自己修復されるみたいだ。1000年以上も劣化せず稼働するとか、かなり高度な魔法文明だったみたいだね」

 

そう言ってどんどんとリムルは解析を進めた。

 

「あ、これだよ。ここに魔力を流し込むと、暗唱呪文の入力窓が開くみたいだ」

 

「…えっ?もう解析し終わったんですか⁉︎」

 

アユムは驚愕して、他の隊員達も口をポカンと開けて唖然としている。

一方のリムルは、やり過ぎた  という表情であった。

 

「ゴメン、つい…」

 

「い、いえいえ、謝る事などございませんわ」

 

謝るリムルをカガリが慰めた。

リムルは、出しゃばり過ぎたと感じたのか、大人しくランガという狼の毛繕いを始めた。

 

(嘘だろ…。こんなにも早く解析しちまうなんて…)

 

リムルを尻目に驚きつつ、アユムも『学術者(マナブモノ)』で解析を進めた。

 

「ああ、なるほど。そういうことか」

 

「わはははは、分かったのだ!」

 

「うーん、自分にはさっぱりっすね」

 

アユムが解析に成功すると同時に、ミリムも答えにたどり着く。

一方、ゴブタは分からず頭を抱えていた。

他の隊員達は、明るい雰囲気で活発に議論を繰り広げる。

そんな中、カガリがランガの毛繕いをしていたリムルに質問をした。

 

「リムル様、どうやって解析したのか教えて下さいませんか?」

 

それに答えるリムル。説明を挟みつつ、解析の実演をしてみて、実際に扉を開封したのだ。

それからミリムやアユムが扉を開封し、それに何名かが続いたところで長老が声を掛けてきた。

 

「皆様、お食事の用意が整いました。本日はここまでになさってはどうでしょう?」

 

その時点で、既に夕方となっていた。

 

「そうだな。今日はここまでにしようか」

 

「そうですわね。本格的な調査は明日からにしましょう」

 

リムルの発言にカガリが同意して、1日目は終了したのだった。

 

 

 

翌日

カガリが代表して扉を開封する。

青い光が明滅しながら、扉は音もなく開いた。

 

中層部は上層部に比べて薄暗い。

石壁に掲げられた燭台に、常に消えない薄明かりが灯っている。

また通路も狭く、高さも幅もおよそ2メートル程度しかない。

 

「一気に圧迫感が増したな」

 

「そうだな。一種の迷路になっていそうだぞ」

 

「リムル様、先頭はどういたしましょう?」

 

カガリがリムルに問うてきた。

 

「俺達が行きますよ。罠があったら察知できますし」

 

「宜しいでしょうか?」

 

「まかせるのだ!ワタシが居れば何が起こっても安心なのだぞ!」

 

自信満々にミリムがカガリに応えた。

 

「じゃあ、俺は最後尾で隊員の皆さんを守ります」

 

「分かった。シオンとゴブタはアユムと一緒に後ろを頼む」

 

誰からも文句は出ずに、決定となった。

 

一同は薄暗い通路の中を通って行く。

隊員達はどこか緊張しているが、魔王2人はのんびりとした雰囲気だ。

通路は無機質な石壁であるが、たまに美しい壁画が描かれている。

 

「凄いな。この壁画だけでも美術品としての価値があるよ」

 

そうリムルが感嘆する。

 

「そうなのか?」

 

「ああ。当時の生活を描いているみたいだし、これを調べれば古代文明の一端に触れられる。それだけでも価値が高いってものさ」

 

「ふむ。言われてみると、遙か昔に見た光景を思い出すのだ」

 

暫く歩き続けて3時間程が経過した。

お昼時である。

 

「では、食事の準備を   

 

「ああ、ちょっと待って。弁当を作って貰ったから、それを食べよう」

 

リムルが火を起こそうとした隊員やカガリを止めた。

リムルは手のひらを下にかざす。

そこに一瞬黒い渦が現れたと思うと、渦の中から人数分の弁当とスープポッドが現れた。

 

「えぇ…」

「そんなのアリ…?」

 

そういった囁きが隊員達から聞こえる。

 

「うむ、美味しそうだな」

 

ミリムは蓋を開けると嬉しそうにはしゃいだ。

そして、昼食タイムが始まる。

全員がその楽しいひと時を味わう。

 

「おかわりが欲しい人は、遠慮なくどうぞ」

 

そうリムルが言うなり、隊員達が殺到する。

勿論、アユムもその中に含まれる。

 

「野外でこんなに美味しい食事は滅多にないので、皆も喜んでますわ」

 

嫌味も交えながら、リムルはカガリにそう言われた。

 

「本当は、この場所で火を使って欲しくなかったんだ」

 

「火、ですか?」

 

「ああ。万が一にも火事を起こしてしまったら、地下で逃げ場が無い。空気の流れがあるから大丈夫だと思うけど、念のためさ」

 

「なるほど、そこまでお考えだったのですね」

 

リリムルがそう答えると、カガリは感心したように頷いた。

 

「あ、トイレに行きたい人がいるだろうから、転移門を繋ぐよ。今の内に済ませておいてくれ」

 

そう言うなり、トイレへの転移門が現れる。

嘘だろ、という視線がリムルに降り注ぐ。

 

「いや、何しろここは墳墓に続く道だから、通路の陰でこっそり済ますなんて、流石に冒涜が過ぎると思うからね。気にしすぎかもしれないけど」

 

「確かに、その通りですね」

 

「見習いたいものです」

 

リムルの言葉にアユムとカガリが賛同した。

 

 

 

何人かがトイレに行っている中だ。

 

「そうだ!試したいことがあるんだけど、いいかな?」

 

「なんでしょう?」

 

「ウチが運営している地下迷宮(ダンジョン)で、『精霊交信』って攻略法が流行しているんだ。呪術師(シャーマン)精霊使役者(エレメンタラー)にしか扱えない魔法なんだけど、知りたい道が直ぐに分かるんだ」

 

「そんな便利な魔法が?」

 

「あの、私、呪術師(シャーマン)です!その『精霊交信』について、詳しく教えて下さいませんか⁉︎」

 

1人の女性が名乗りを上げた。

彼女に対してリムルは『精霊交信』をレクチャーする。

 

「あ、分かる。分かります!これなら迷わなくて済みますね。でも、これを地図に記すのは大変ですね…」

 

「そういえば、頭で見た図式を紙に記す魔法があったような…」

 

「幻覚魔法『想像念写(ソートグラフィー)』のことですか?」

 

「そう、それそれ!」

 

リムルの疑問にアユムが答えた。

 

「俺、見習いだけど幻術師(マーヤー)です!」

 

そして、その会話にしか反応したのが1人の隊員の男性である。

 

「じゃあ、この魔法を覚えてもらおう。ついでに幻覚魔法『想像共有(チャンネリング)』も」

 

リムルはその男性に二つの魔法を教えた。

すると、先程の女性隊員との連携であっという間に地図が完成した。

 

「うわあ、凄すぎませんか?」

「この魔法を駆使したら、地図にどころか遺跡の構造も簡単に模写出来そうだ…」

 

浮かれている隊員達だが、そんな彼らをカガリが一喝する。

 

「地図があっても、罠や魔法の仕掛けが判明した訳ではないのよ!気を緩めないように‼︎」

 

どうやら、危険性に気付いたようだ。

そして、夕方になる前に目的地である最下層への入り口へと辿り着くことが出来た。

 

 

 

三日目

調査隊一行は二手に別れていた。

一方は最下層の扉の解析だ。こちらにはリムルとシオンがいる。

もう一方は中層のまだ調査していない場所へと向かった。こちら側はミリム、ゴブタ、ランガ、そしてアユムがついていた。

 

とある通路にて中層調査チームが止まった。

 

「ストップなのだ。どうやら罠が仕掛けられているみたいだぞ」

 

ミリムが罠を察知したのだ。

 

「しかもコレ、解除出来ないパターンみたいですね。引き返しますか?」

 

「うーむ。せっかく来たのにここで引き返すのはな勿体なくないか?」

 

アユムは引き返すべきだと言うが、ミリムはその意見に対し、あまり気が乗らないみたいだ。

 

「でも、危ないですよ」

 

「アユム、罠が発動したら何が起こるか分かるか?」

 

「えーっと、多分魔人形(ゴーレム)が殺到して、俺達を襲いに来るタイプだと思いますよ」

 

ミリムの質問にアユムが答えると、すぐさまミリムは前に出た。

 

「全部叩き潰して強行突破なのだ!」

 

「マジか…!仕方ない、付き合いましょう!」

 

「では我も!」

 

「オイラも行くっす!」

 

ミリムの言葉に他の3人も応えた。

直後、大量の魔人形(ゴーレム)が殺到してきた。

だが、4人相手には無力だった。5分もかからず、50体近くいた魔人形(ゴーレム)達は全て木っ端微塵にされたのだった。

その後、先へと向かうが、特に何も無かった。

 

「何も無かったですね」

 

「そうだったな。だが、魔人形(ゴーレム)達から戦利品も確保したし、問題なかろう。リムルもきっと喜ぶぞ!」

 

ミリムはそう言って、一同は扉の解析をしているチームと合流しに戻った。

因みに、ミリムはその武器は全てゴブタや他の隊員達に持たせたのだった。

 

 

「リムルよ見るのだ!戦利品がいっぱいあるのだぞ!これなんて良い感じに魔素が馴染んで、特質級(ユニーク)なのだ‼︎」

 

「おお、本当だ。美術品としての価値は低いけど実用的なのが多いな。ところで、これらはどこにあったんだ?これ程の品をクレイマンが理由も無く放置していたとは思えないけど…」

 

「実はだな   

 

ミリムはアユムやゴブタと一緒に事の端末を説明した。

 

「なるほど、そんなの複雑な仕掛けがあるのか」

 

「うむ、とても勉強になったのだ。我らの迷宮にも、このような仕掛けを設置しようではないか」

 

「となると、特質級(ユニーク)の武器で武装した魔人形(ゴーレム)が他にも沢山あると考えるべきですわね。まさか、長い年月手付かずだったばかりに、()()()()()()()とは驚きですわ…」

 

「昨日は何も無かったから安心してたけど、この階層には他にも色々な罠がありそうだ。もっと慎重に行動するようにしよう」

 

「そうですわね。扉の解析はまだまだ時間がかかりそうですし、明日は   

 

リムルの言葉にカガリが同意しかけたその時だった。

ドゴン   という衝撃が一同を襲い、天井からパラパラと石片が落ちてくる。

 

「一体何が⁉︎」

「早く逃げないと、崩れるんじゃ…!」

 

そう慄く隊員達をカガリが一喝した。

 

「静かに‼︎揺れは一瞬、地震ではないわ。これだけ頑丈な建造物なら、簡単には崩れたりしません。落ち着いて避難行動を取りなさい!」

 

その言葉に隊員達は平常心を取り戻す。

 

「今のは何だったんすかね?」

 

逆に、呑気なゴブタはリムルに聞いた。

 

「衝撃波が地上に吹き荒れたみたいだ。かなりの規模だったし、城にも影響が出たかも…」

 

「間違いなく人為的の物ですね。一体誰が…?」

 

冷静に分析してアユムは意見を述べる。

 

「一旦外に出て、様子を見に   

 

リムルがそうを言いかけた時、機械音声が鳴り響く

 

『アムリタへの侵入者を確認、排除せよ‼︎アムリタへの侵入者を確認、排除せよ‼︎』

 

「そんな馬鹿な⁉︎この遺跡の   アムリタの防衛機構が勝手に動いたというの⁉︎」

 

カガリから余裕が消え失せる。

 

「侵入者がいるみたいだ。ソイツらが罠に引っかかったのかもな。でも、俺達は別口だと言っても、魔人形(ゴーレム)には理解できないだろうな。状況は悪い、間違いなく俺を狙った組織だろうね」

 

リムルは緊張したおもむきでそう言った。

 

「ああ、まさか本当に…」

「じゃあ、さっきの地震も…⁉︎」

「だが、魔王様を狙うなんて、どんな馬鹿が…?」

 

隊員達も口々に言う。

 

「安心してくれ。君達は俺が責任を持って守り通すから」

 

その言葉に隊員達は少し驚いた様子だ。

 

「リムルよ、お前の狙い通りなんだな?」

 

「ああ。釣られたのか、釣ったのか、キッチリ白黒つけようじゃないか!」

 

リムルはそう不敵に笑みを浮かべた。

 

 

 



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第4話 強欲の少女(マリアベル)

10巻後半戦です!


 

 

二度目の衝撃が来た。

その頃、アユムとリムルは顔を青ざめさせていた。

『魔力感知』でとんでもないモノが見えてしまったのだ。

空から迫りくる巨大で邪悪な(ドラゴン)の姿が。

 

「どうしたんすか?」

 

ゴブタが2人に聞いてくるが2人には答える余裕など無い。

 

「オイオイ…、ウソだろ…⁉︎」

 

「ヤバいな…、アレはかなりヤバいぞ…!」

 

「そんなにっすか?」

 

「ああ。ドラゴンっぽいけど、竜王(ドラゴンロード)なんて目じゃない。多分、ヴェルドラの兄弟かも…」

 

「竜種ならあの言葉に出来ない程巨大な魔素(エネルギー)量にも納得ですね…。最悪じゃあないですか…」

 

そんな中、ミリムがハッとした様な顔をした。

 

「リムルよ、ワタシには急用ができたのだ!アレは、あのドラゴンは   !」

 

そう言うと、虚空を睨みつけ空間転移した。

 

「そうか、どうやらアレは大昔にミリム封印したっていう友達だったドラゴンみたいだな。敵さんはとんでもないのを引っ張り出してきたな。何者かに操られているみたいだ」

 

「何ですって⁉︎リムル様、それは本当ですか⁉︎」

 

リムルの言葉に反応したのはカガリだ。

 

「ああ、滅茶苦茶強い波動を感じる。多分、俺でも勝てない」

 

混沌竜(カオスドラゴン)…!この時代に、あの暴君が…」

 

リムルの話しを聞いて、カガリは青ざめた。

だが、彼らにはそんな悠長にしている暇は無かった。

数十メートル先の通路からは大量のゴーレムが襲って来る。

 

「シオン、ゴブタ!お客さんがお出だぞ!」

 

シオンとゴブタはすぐに迎撃態勢に入る。

一方のアユムは地面から何かを取り出した。

ユニークスキル『製作者(ツクリダスモノ)』で形成したM60(ピストル)である。

アユムは銃を構えて、的確にゴーレムを撃ち抜いていく。

ゴブタもリムルからプレゼントされた拳銃(ピストル)でゴーレムを倒していく。

一方、シオンは大太刀を振り下ろそうとするが、天井につっかえている様子だ。

敵の数は多く、いくら撃破してもあっという間に距離を詰められていく。

 

「このままじゃまずいな。狭いし、最下層に降りた方がいいかも」

 

「では、扉の開封を急がせて   

 

「いや、こうなった以上俺がやるよ」

 

リムルはそう言うとあっという間に扉を開封した。

 

「さあ、早く中へ!」

 

リムルの合図で隊員達が一斉に階段を駆け下りる。

最下層には明るい光が溢れており、大地には草原が広がっている。

その後、アユム達が転がり落ちてくる様に階段を下ってきた。

先程の狭い空間とは違い、シオンが自由に動けるようになり、状況は持ち直し、次々とゴーレムを撃破し出した。

一方、リムルは禍々しい渦に包まれる。

そして、黒いコートを身に纏い、凄まじい覇気を発している魔王(リムル)の姿が現れた。

 

「本当に襲撃が起きたことは驚きなのですが、魔王2人を相手に仕掛けるなど、相手は何者なのでしょう?」

 

カガリがリムルへと問う。

 

「すまないね、巻き込んで」

 

「とんでもない!寧ろ、混沌竜(カオスドラゴン)が復活した今、リムル様方が味方で安心しておりますわ」

 

その言葉に隊員達もうなずく。

 

「…リムル様には敵が多いのですね」

 

「まあ、俺としては不本意なんだけどな」

 

「何故でしょう?」

 

「ファルムス王国は俺の逆鱗に触れた。魔王クレイマンの時は向こうが先に手を出してきたから。西方聖教会の時は、相手の誤解が発端で。いずれも相手から先に仕掛けてきたから相手をしただけ。要するに正当防衛だよ」

 

「では、リムル様からは仕掛けないと?」

 

「そうとも言えないかな。今回の相手は、利害が対立したから。互いの主義が食い違っていたから、遅かれ早かれこうなっていただろうね」

 

「武力に頼らぬ解決法は無かったのですか?」

 

「可能ではあったよ。ただし、俺達が相手を飲み込む形でしか決着はつかなかっただろう。それが嫌なら相手の出方は正しいのかもね」

 

「それでは、相手の正義を認めると?」

 

「うーん、それとはちょっと違うかな。立場の違いで正義なんて無数にある。俺が絶対正しいとは言わないが、ここで退いたら俺達の立場が危うくなる。だったら、全力でぶつかり合う道しか無くなる訳で…」

 

「…それでも、相手の立場を尊重して、もっと意見を交えてより良い関係を模索すれば、敵対せずに済んだのではないでしょうか?」

 

その質問に答えたのは少女の声だ。

 

「無理ね、無理なの。人の欲望は果てしなく、自分が我慢すれば良いというものじゃないのよ。相手が折れれば、より要求が大きくなるのが人間なのよ」

 

ゴーレムが全て壊された頃、扉の奥から金髪の幼女が現れた。

 

「俺も同意見だよ。俺は魔王リムルだ。君は?」

 

リムルに対し幼女が答える。

 

「初めまして、私は“強欲”のマリアベル、貴方の敵なの」

 

マリアベルの後ろには、3人の男が居た。

1人目は変わり果てた姿となった“流麗なる剣闘士”ガイ。

2人目は騎士の服を着た男。

そして、最後の1人は   

 

「ぐ、グラマス⁉︎どうして貴方がここに?」

「まさか、魔王を狙ったのは貴方なのか?」

「嘘でしょ?どうして私達に遺跡調査を命じたのですか⁉︎」

 

自由組合の総帥たる神楽坂優樹(ユウキ・カグラザカ)だった。

口々に疑問を投げかける隊員達だが、ユウキは反応しない。

 

「ユウキ様、これは一体どういうことなのです?貴方は、ワタクシ達を裏切ったのですか⁉︎」

 

カガリから怒りに満ちた声が聞こえる。

だが、ユウキはそれにも無反応である。

 

「カガリさん、ユウキさんは裏切った訳じゃない。ユウキさんは今、あのマリアベルって奴に操られているんだ」

 

答えたのはアユムであった。

 

「何ですって?そんな馬鹿な…!」

 

その言葉にカガリや隊員達が驚愕する。

リムルはそんな彼らを尻目にマリアベルへと話しかける。

 

「なあ、戦う前に一つ聞きたいことがあるんだが、いいかな?」

 

「何かしら?」

 

「俺の傘下に入れ。そうすれば無用な争いは回避できる」

 

「笑止、笑止なのよ。それは私のセリフなの。魔王リムル、貴方はここで敗北する、それが嫌なら私の支配下に入るのよ」

 

「お前の方針は、俺のやり方とは相入れない。そのやり方では、それこそ無用な争いが生じる。一部の者達の為に、多くの罪なき人々が苦しむじゃないか」

 

「そうね、認めるわ。でも、それがなんだと言うのかしら?力無き者は搾取されるのは自然なことなの。魔物だって弱肉強食でしょう?」

 

「そうだな。だが、俺はそういうのは嫌いなんだ」

 

「馬鹿ね、馬鹿なのよ。誰もが平等だなんて、そんな甘いことを信じているの?」

 

「いいや、俺もそこまで馬鹿じゃない。だが、誰もが一度は機会を与えられるべきだ。何をやっても駄目な奴もいるが、人の価値はそう簡単に捨てていいものじゃないだろう?」

 

「くだらない、クダラナイのよ。まさか、こんな子供じみた夢想家が魔王だなんて、信じられないの」

 

リムルとマリアベルの交渉は決裂した。

 

「そうか。なら、仕方ない。たった一つの簡単な方法で決着をつけよう」

 

「望むところなの。現実を教えてあげるのよ」

 

交渉を終えたリムルにアユムが話しかけた。

 

「リムルさん、1人受け持ちます」

 

「いや、お前は後ろの調査隊の人達を守ってくれ」

 

「いいんですか、相手は4人ですよ?」

 

「敵の狙いは俺だ。それに俺は強いからな!」

 

「分かりました、絶対勝って下さいよ?」

 

そう言うと、アユムは引き下がった。

 

「叩きのめすのよ!」

 

マリアベルの合図でガイが真っ先に動いた。

 

「ふん、貴様如きがリムル様に挑むなど  

 

「君の相手は僕がしよう」

 

シオンの前に立ち塞がるのはユウキだ。

 

「ほう、面白い。そこの女に支配されるような軟弱者など私が成敗してくれる!」

 

そして、ゴブタも  

 

魔狼合一(ヘンシン)!」

 

ランガと合体し、騎士服男の相手に立ち向かい、戦闘が始まる。

 

「死ネ!魔王リムル‼︎」

 

「ほれ」

 

「ギヤァァァァァ!」

 

リムルに対し凄まじい憎悪を向けて攻撃してくるガイだったが、リムルによって一瞬にしてチリも残さず消し飛ばされた。

 

「俺と戦いがっていたよな?良かったな、死ぬ前に念願が叶って」

 

「嘘っ‼︎何よ、何なのよ、その力は⁉︎」

 

マリアベルがこれに驚く。

自身の力によって限界まで強化したガイが鎧袖一触にされたからだ。

そんなマリアベルに対し、リムルは何でもないことのように告げる。

 

「何って?これが俺の本気だよ。次はお前だ。お前が誰を敵に回したのか理解する必要は無い。二度と転生出来ないよう喰らい尽くしてやるから、精々俺の糧となれ」

 

リムルはマリアベルに向けて前に出た。

 

「そう、ガイがやられたのには驚かされたの。でも、大口を叩く前に知るといいのよ、人間と魔物の知恵の差を!」

 

マリアベルは魔法通話で外にいる部下に何かを命じた。

すると周囲の魔素が一瞬にして消滅した。

神聖魔法『聖浄化結界(ホーリーフィールド)』だ。

 

「あれ、何か身体が重いっすね?」

 

「この感覚、覚えがあります。あの時よりも強力、これが本物ですか」

 

ゴブタは少し戸惑い、シオンは不敵に笑う。

それを見て、マリアベルは心底忌々しく思った。

 

(この2人以外にも多くの上位魔人がいる。馬鹿げた戦力なの。正面からではヴェルドラが出なくても勝ち目はないのよ。でも、自らを過信しすぎなの。こんな無防備に姿を晒すなんて、それが命取りになるのよ!)

 

だがしかし、それは余りに甘い考えだった。

 

「やっぱりな。こんな手は当然取るだろうと思っていたらさ。だから、俺がその対策をしない訳がないだろう?」

 

リムルはそう言って、不敵に笑う。

直後、展開したばかりの『聖浄化結界(ホーリーフィールド)』消滅した。

 

「な、何をしたの⁉︎」

 

「何って、簡単な話さ。外にいる俺の配下達がお前の部下を倒して、結界を破壊したんだよ。こんなあからさまに襲撃して下さいとばかりに出歩くんだから、城の周囲を配下に警戒させるなんて当たり前だろう。お前は俺を罠に嵌めたつもりだったんだろうが、それは逆だ。こっちが、俺をエサ(おとり)にしてお前を釣った(誘き出した)んだよ。俺を支配するには、“強欲”の能力者たるお前自身が出向かなきゃならないだろうからね」

 

「そう、なら仕方ないないわね。本気でいくわ。私の全てを懸けて、貴方を殺す‼︎」

 

「ああ、俺も全力では応じるさ」

 

マリアベルは魂の力を削り、自身を強化する。

そして地面を蹴り、一瞬でリムルと距離を詰める。

そして、戦車砲の如き威力の蹴りをリムルへと打ち込んだ。

しかし、それは何の痛痒をも与えずその勢いを利用して投げ飛ばされた。

マリアベルは手をつき、その反動でリムルと距離を取り、リムルの追撃を回避する。

そして、自身のユニークスキル『強欲者(グリード)』を発動した。

 

「死ね!『死を渇望せよ』」

 

黒い波動がリムルを襲う。

このマリアベルの奥義は生きとし生ける者が本能的に持つ生への渇望を反転させるという技だ。

その技を受けたリムルは、抗う様子も無く立ち尽くしている。

 

「呆気ないものね。どんな強者も生への渇望は捨てられないのよ。だから私は無敵なの」

 

だがしかし   

 

「残念だったな、解析終了だ。俺に精神系の攻撃はほとんど通用しないんだ」

 

アユムはその戦闘が余りに規格外な事に衝撃を受けていた。

 

(アレを無効化するとかどんな能力(スキル)だよ!参加しなくて良かった…)

 

「さて、どうする?お前じゃ俺は倒せないぞ」

 

リムルは最後の警告としてマリアベルに告げた。

 

「ふざけないで!もっと、もっとなのよ!わたしの全てを費やしてでも、ここで勝利をもぎ取るのよ‼︎」

 

しかし、マリアベルはそれを拒んだ。

 

「そうか。それじゃあ俺の中で反省しろ   

 

リムルがマリアベルにトドメを刺そうとした時だった。

ドゴン!という凄まじい音を立てて、シオンが蹴り飛ばされた。

 

「シオン⁉︎」

 

「「あははははははは‼︎」」

 

リムルの呼び掛けをかき消すように、マリアベルとユウキの狂った笑い声が同調する。

 

「流石ね、流石なのよ。魔王リムル、完全に見縊っていたわ。まさか、これ程の化け物だとは思っていなかったのよ」

 

「本当だよ。マリアベルに勝つとは思わなかった。でも、僕がいる事を忘れてもらっちゃあ困るぜ?」

 

シオンを下したユウキが、リムルの前に立つ。

その上、マリアベルの放っている波動がユウキへと降り注ぎ、その力を跳ね上げていた。

これに対し、アユムが動く。

製作者(ツクリダスモノ)』でユウキを牢獄の中に閉じ込めた。

 

「俺特製のカーボン素材を利用した牢獄です。リムルさん、マリアベルにさっさとトドメを刺しちゃって下さい!そうすれば、ユウキさんも元どおりになるはず!」

 

しかし、バキャッ!という音を立てて牢獄が一瞬にして破られた。

 

「なん…だと?」

 

「アユム君、死にたくないなら、そこで大人しくしてるんだね」

 

「チッ、死んでも恨むなよ?」

 

「コッチのセリフさ!」

 

そして、リムルとユウキによる一対一の戦いが始まった。

2人は猛烈な打撃の応酬をするも、リムルの方には余裕がある様子だった。

しかし、それは一瞬にして崩れ去った。

 

「本気でいくよ?」

 

その言葉と共に放たれた蹴りがリムルの左腕を砕いた。

 

「は?」

 

ユウキから距離を取ると、唖然とした様子で自身の左腕を見つめた。

 

「お前、こっちに来る時に特殊能力は手に入らなかったって言ってなかったか?」

 

「嘘はついてませんよ。身体能力は異常に発達したって言ったじゃないですか」

 

「はあ、手加減して勝てそうにはないな」

 

リムルはそう言うと、腰に下げていた直刀を抜いた。

 

「へえ…、凄い刀だね」

 

ユウキはそう言いながら、自身も腰に刺していたナイフを右手に、小ぶりの片刃剣を左手に持った。

そして、腰を落とした独特の構えをとる。

そこからは斬撃と刺突の応酬が始まった。

打ち合う事十数回、リムルが隙を見せた。

 

「はは、油断したねリムルさん!」

 

リムルの胸にユウキはナイフを突き出す。

その上、ナイフは伸縮して間合いを狂わせてリムルへと迫った。

しかし、ナイフはリムルの胸の前でピタリと静止した。

 

「はい残念!蹴られた方が痛かったよ‼︎」

 

「嘘だろ⁉︎」

 

計画通りと言わんばかりの笑みを浮かべてリムルはユウキに問答無用の一撃を叩き込んだ。

 

暴風黒魔斬(ストームブレイク)!」

 

その斬撃によって、ユウキの胸は大きく切り裂かれた。

 

「うっ…」

 

ユウキは呻きながらもリムルを睨む。

 

「俺の勝ちだ。マリアベルの支配を解いてやりたいが、できそうもない。少し強くいくぞ」

 

リムルは刀の背を前にして持ち替えた。

そして、気絶させようとしたその時、カガリがリムルの前に立ち塞がった。

 

「お、お待ち下さい‼︎ユウキ様を殺すのは御一考して頂きませんか⁉︎」

 

「おい、危ないって!ユウキはマリアベルに操られているんだよ!アユムだってそう言ってただろう?」

 

「そうですよ!それに、リムルさんは殺すつもりなんか   

 

「いいえ、大丈夫です!あれほど意志の強いユウキ様ならば、あの様な少女に心の強さで負けるなんてあり得ませんわ!」

 

リムルやアユムの忠告を無視して、カガリはユウキに縋り付いた。

そして、調査隊員達もそれに追随する。

 

「そうだとも!グラマスはそんな柔な人じゃねーって!」

「そうですよ!いつも飄々として、絶対に弱みを見せない人なんですから!」

「俺達の前でカッコつける為ならドラゴンにだって倒しちまう人なんだよ!」

 

そんな彼らの言葉にユウキが反応した。

 

「お…お前…ら…」

 

ユウキからは黒い波動が少しづつ消え始め、そして綺麗さっぱり無くなった。

 

「迷惑かけてすいません。でも、助かりましたよリムルさん」

 

「お、おう。無事で何より…」

 

急展開だったがためか、リムルは動揺する。

 

「自力で解除できるなら、さっさとそうして欲しかったですよ」

 

一方、アユムはユウキに対してそう愚痴る。

 

「無茶言うなよ。カガリ達がいたからこそなんだからな」

 

その後、ゴブタと騎士服の男   元“三武仙”のラーマとの戦闘も終了する。

リムルが支配を解除したのだ。

ラーマは自身の元上官であるグレンダの敵討ちに燃えていた。

しかし、グレンダが今は魔国の諜報部の一員になっていると聞くと、グレンダの無事を喜んだのだ。

 

「さて、あとは逃げたマリアベルと外で暴れている混沌竜(カオスドラゴン)ですね」

 

アユムが切り替えるように言う。

 

「リムルさん、マリアベルは僕が追いますよ」

 

カガリの治癒魔法で全快になったユウキがリムルに提案した。

それをジト目で見つめながらアユムが言いつのる。

 

「何で怪我治ってんすか?どう考えてもユウキさん『能力封殺(アンチスキル)』っていう特異体質ですよね?でなきゃ俺の牢獄が破られた瞬間文字通り土に帰るなんてあり得ないと思うんですが」

 

カーボン牢獄だった土を指しながら言った。

 

「ああ、これはオンとオフの切り替えができるんだよ」

 

「……」

 

その回答に、アユムは言葉を失った。

それを横目にリムルが質問する。

 

「それで、勝てるのか?」

 

「油断しなければ余裕ですよ。というか、勝手に操られたなんて自由組合総帥(グランドマスター)の名が泣きますし、僕のプライドにかけても許せませんし」

 

「リムル様、ワタクシからもお願いします。マリアベルの狙いは恐らくこの遺跡の破壊かと。“ソーマ”にも、遺跡の運用のために使用したと思われる魔法の動力炉があったのです。この都市も似た構造のようですし、それを暴走させれば下手をすればこの地方一帯が消滅するでしょう。ワタクシならば、それを阻止できます!」

 

「マリアベルはそれを暴走させられると?」

 

「あれは、魔力を過剰に供給するだけでも不安定になります。長らく使用されていなかった遺物では、どのような作用が生じるのやら…」

 

「分かった、任せる。ユウキ、頼むぞ!」

 

「ああ、この屈辱は倍返しさ」

 

ユウキは自信満々という感じで頷いた。

 

「シオン、ゴブタ、アユムは隊員の皆さんと一緒にダークエルフ達と合流して、そのまま護衛しろ!」

 

「分かりました」

 

「了解っす」

 

「それで、リムル様は?」

 

「俺はミリムの援護さ。早くしないと被害がとんでもいことになるだろうからな」

 

シオンはそれについて行くと言ったが、リムルに却下される。

自身のスキルと隊員の魔法によって傷は治ったものの、内面にはダメージが残っていることを指摘されたのだ。

 

そこからは早かった。

ユウキとカガリは、すぐさまマリアベルを追った。

リムルは空間転移で外に出て、ミリムの援護へと向かう。

アユム達はそのままダークエルフ達との合流へと動いた。

アユムは出口へと向かいつつ、『魔力感知』で2人の美少女魔王(リムル&ミリム)VS混沌竜(カオスドラゴン)を眺めていた。

 

(ミリムさんの魔素(エネルギー)量半端ねえ…。そんでもってリムルさんのアレ何?ベルゼビュートって叫びながら発動してたけど、そのスキルだか魔法だかで混沌竜(カオスドラゴン)を飲み込んだんですけど…)

 

内心でそんなことを毒づきながら、マリアベルを倒したユウキやとダークエルフ達と合流を果たした。

城の外に出ると戦いを終えたリムルとミリムが遠くに見えた。

 

「リムルさん!」

 

叫びながら手を振ると、リムルもそれに応じた。

これをもって、マリアベルとの戦いは終わったのだ。

 

 

 

 

 

深夜

アユムはリムルに呼び出された。

 

(多分、今の日本のことだろうな)

 

そう考えながら、城の中のとある部屋に案内された。

 

「やあ、待ってたよ」

 

「それで、2人きりで話したいって何のことです?やっぱり向こうのことですか?」

 

「まあ、それもそうなんだが…。なんだか照れ臭いな。こうやってお前と2人きりで話すなんて久々だから」

 

「はい?」

 

そんな口ぶりを疑問に思うアユム。

 

「ほら、よく漫画とかゲームの話で盛り上がっただろう?」

 

「えっ、え…まさか…」

 

「改めて自己紹介しておこうか。俺はリムル=テンペスト、前世の名は三上悟。まあ要するに、お前の叔父さんだ」

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 




とりあえず書きたいとこまで来ました!
次回は新章です!


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第2章 覚醒
第5話 教師就任


転スラ第二期放送開始されましたね!
魔王化エピソード楽しみです!
今回からは主人公視点中心でやっていきます。


 

 

 

「改めて自己紹介しておこうか。俺はリムル=テンペスト、前世の名は三上悟。まあ要するに、お前の叔父さんだ」

 

「はあぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

俺はあまりにショッキングなカミングアウトに叫び散らかした。

 

「はは、まあ驚くのも無理は   

 

「いやいやいやいや待て待て待て待て! そう、これは夢だ! 夢に違いない‼︎ 異世界転移したことまではともかく、そこで死んだ叔父さんに会って、しかも魔王になっているなんて夢に違いない‼︎ ほら、頬をつねっても全然痛くないし、そもそも異世界転移したこと自体が夢で   

 

 

 

 

 

30分経過

叔父さんに宥められ、俺はやっとその事実を受け入れた。

 

「受け入れられたか?」

 

「はい…」

 

「やれやれ。お前、いくらなんでも騒ぎすぎだろ?」

 

「騒ぎますよ、そんな話聞いたら。それに、そんな都合の良い話をすぐ信じられる方がおかしいですよ」

 

「まあ、確かに……」

 

「さて、とりあえず話して貰いましょうか、こうなった経緯を」

 

俺の言葉に叔父(リムル)さんは頷いた。

そして、魔王になるまでの2年間に何があったのか話し始めた。

“暴風竜”ヴェルドラと出会った事。

ゴブリン達の守護者となって、まちづくりを始めた事。

これがきっかけとなり、今の国が出来上がった事。

初めて出会った同郷の人であるシズとの出会いと別れ。

シズの未練であった、異世界人の子供達を救った事。

人間の国(ファルムス王国)から襲撃を受け、守るべき多くの市民を死なせてしまった事。

そして、殺されてしまった彼らを生き返らせるために魔王になった事。

 

   こうして、俺は魔王へとなったのさ」

 

その言葉でリムルの話は締め括られた。

 

「なるほど。だから魔王に……」

 

「やっぱり、2万人を殺した事が気になるのか」

 

「まあ、思う所はありますよ。自分の叔父さんが戦争とはいえ、仲間達を救うためとはいえ、とんでもない数の人々を虐殺したんですから。でも、責める気にはならないですね。俺も身内を失う喪失感も再会できた喜びも良く分かりますからね。俺だって、叔父さんを殺したあのクソ野郎を殺して、叔父さんを生き返らせるのであれば、そうするかもですしね」

 

「そうか。さて、辛気臭い話しはこれまでにしよう。聞かせてくれないか、今の地球(向こう)のこと」

 

「ええ。漫画やアニメの話をモリモリで、ですよね」

 

「分かってるじゃねーか!」

 

そこからは明るい空気が広がった。

叔父(リムル)さんが転生した2年前から起こった事、特に漫画やアニメの話で盛り上がった。

1時間程、そんな楽しい時間を過ごした頃、気付いたら涙が溢れた。

 

「おい、どうした?」

 

「あ、いや。ちょっと嬉しくて思わず……。うぐ、死んだって聞いた時、本当に悲しくて、けど今、こうしてまた出会えて、こういう事で盛り上がって…」

 

そこから様々な思いがこみ上げ、エグエグと泣き出し、俺の涙は止まらなくなった。

リムルは、またしても俺を宥めるのに苦心したのだった。

 

 

 

俺が泣き止むと、リムルは顔色を変えた。

 

「さて、一つお前に頼みたい事があるんだが、聞いてくれるか?」

 

「ええ、俺にできることなら」

 

「異世界人の子供達の事は話しただろう?アイツらの先生になって欲しいんだ」

 

「先生、ですか?」

 

「ああ。最近、魔国連邦(テンペスト)に新設された学校で学ばせているんだが、アイツらはかなり強くて、開国祭の時点でA-の人が負けそうになるレベルなんだ。戦闘訓練の相手は大体、軍の指南役を任せているハクロウか西方聖教会の聖騎士団長をしているヒナタに頼んでいる。だけど、2人は他の仕事で忙しいから、いつも面倒を見てやれるって訳じゃないんだよ」

 

「だから、教師として学校に赴任してほしい、と」

 

「頼めるか?」

 

「勿論ですよ。あ、ついでに自由組合の冒険者登録を本部から魔国連邦(テンペスト)支部に移しておきます」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 

 

 

数日後、俺は所属を本部から魔国連邦(テンペスト)へと移した。

そして、魔国連邦(テンペスト)へと移住した。

叔父さんが手を回していたおかげで、かなりスムーズに移住と学校への教員登録が済んだ。

 

職員室

 

「初めまして、今日からここで働かせてもらう三上 歩(アユム・ミカミ)です。宜しくお願いします!」

 

アユムの爽やかな声が職員室内に響いた。

 

「おう!」

「こちらこそ宜しく」

 

そういった声がちらほらと聞こえる。中には   

 

「ホッホッホ、こんな若い子が入って来るとはね」

 

そう。この学校の教師は商人や引退した冒険者達なので、中高年者ばかりなのだ。

だが、俺はそんな彼らにあっさり受け入れられた。

礼儀正しかったのが1番の要因だろう。

 

 

 

翌日、アユムは地下迷宮(ダンジョン)に向かった。

待っていたのは騎士服を着た女性と、6人の子供達だ。

 

「待っていたわ。貴方が三上 歩(アユム・ミカミ)君ね。私は坂口 日向(ヒナタ・サカグチ)。宜しく」

 

「こちらこそ宜しくお願いします」

 

その後、ヒナタは俺に子供達を紹介してくれた。

やんちゃな性格の三崎 剣也(ケンヤ・ミサキ)、大人しい性格をした関口 良太(リョウタ・セキグチ)、勝ち気な性格のアリス・ロンド、最年長で子供達のまとめ役をしているゲイル・ギブスン、絵本が好きなクロエ・オベール、地下迷宮(ダンジョン)の90階層の階層守護者(ガーディアン)をしているというクマラの6人だ。

その後、アユムと子供達で一対一の訓練が始まった。

訓練を終えた俺から出た第一声は、

 

「皆強過ぎない⁉︎ 叔父(リムル)さんからA-くらいって聞いていたんですけど、明らかにAランクに匹敵しているよ‼︎」

 

一応、全員に勝った。

勝ったのは良いのだが予想以上に苦戦させられたら。本気でなかったからまあ当然なのだが。

ケンヤは光の精霊と変幻自在の剣技のコンビネーションによる攻め主体の戦い方、リョウタは水と風の精霊魔法を使い分ける攻防一体の器用な戦い方、ゲイルは盾と剣に土の精霊魔法を駆使した鉄壁の守りが中心、人形使役者(ゴーレムマスター)のアリスは魔鋼製の人形や大量の剣の操作といった戦法で相手を撹乱させる戦い方、クロエは細剣(レイピア)による正統派剣術、クマラは尾獣を使役すると様々な戦い方であり、全員がAランクに匹敵していた。

特に俺を驚かせたのはクロエとクマラだ。

クロエの剣術はヒナタが扱っているのを目で見て真似たものらしい。しかも、剣を本格的に始めてからまだ1ヶ月ほどしか経っていないとの事だ。にも関わらず大分前から剣を使って戦っていたというケンヤを上回りかけてる。

嘘だろ、オイ…!

1ヶ月とかどうなってんだよ‼︎

そしてクマラは間違いなく特A級(カラミティ)であった。

どうやら地下迷宮(ダンジョン)の下の方の階層はシャレになって無いらしい。

下手したら魔王に匹敵する実力者なのでは……いや、やっぱり違う。

叔父(アレ)を見たら、“真なる魔王”がどんだけヤバいかが分かる。

だが、それでも希少な魔物である九頭獣(ナインヘッド)の実力というのは伊達ではない。

という訳でクロエとクマラが大人気なく全力で相手をした。

そうしなければ、大人としてのプライドが保てなかっただろう。

因みに、ヒナタさんもクロエと戦う時は本気になるらしい。

俺と同じく、下らないプライドのために大人気なくなっているそうだ。

 

「いやいや、アユム兄ちゃんもすげえって!」

 

「そうよ、多分リムル先生と同じくらい強いと思うよ!」

 

「そうか、そりゃどうも」

 

顔には出してないけど、ちょっと戦慄した。

俺が叔父(アレ)と同じくらい? んな訳あるかボケ‼︎

戦ったら、一瞬でチリも残さず消し飛ばされるわ‼︎

その後、“勇者”マサユキを含めた4人の強さ比べに発展した。

子供達としては、

マサユキ<俺≦叔父さん<ヒナタさん、らしい。

俺としては、というか間違いなく

マサユキ<俺<ヒナタさん<叔父さん、なんだけど。

そんなやりとりをした後、子供達は教室に戻って行った。

 

 

 

子供達が去った後、俺はヒナタさんと2人きりになった。

 

「それで、どういう用なの?」

 

ヒナタさんが、俺が2人きりになりたかった理由を聞いてきた。

 

「単刀直入に言います。俺と手合わせして頂けませんか?」

 

「別に構わないけれど、どうして?」

 

「人類最強と呼ばれるヒナタさんの実力がどれほどのものか、この目で見て、肌で感じたいんです」

 

「私は貴方より強いわよ」

 

「百も承知ですよ」

 

「そう。分かったわ」

 

そう言うと、ヒナタさんは腰に下げていた細剣(レイピア)を抜いた。そして、彼女から凄まじい覇気が発せられる。

俺も対抗する様に直刀を抜いて、『英雄覇気』を発動する。

 

「では、行きますよ!」

 

俺のその言葉が開戦の合図となった。

 

 

 

数分後

ギャイィン、という音を立てて直刀が弾き飛ばされる。

そして直刀を振るっていた青年が倒れ伏す。

 

「ゼェ…ゼェ…ゼェ…」

 

息を上げているのは言うまでもなく俺だ。

ヒナタさんクソ強えじゃねえか!

そして魔王リムル(あの美少女と化したオッサン)はコレに勝ったと言うのだから恐ろしい。

まあ、遺跡での戦いの時点でヤバ過ぎるとは思っていたけどね…。

 

「私の勝ちね」

 

ヒナタさんはそう俺に告げると、レイピアを収めた。

苦悶の表情を浮かべる俺だが、内心ではほくそ笑んでいた。

俺としてはむしろこっちの勝ちなのだ。

確かにこの手合わせは俺の負けだし、そもそも勝つつもりなど毛頭無かった。だって明らかに実力差が天と地ほどにあったからね。

俺の本当の目的、それはヒナタさんの剣術を盗む(パクる)事だ。

何しろとてつもなく高い学習能力を持つユニークスキル『学術者(マナブモノ)』が俺にはある。

『複写』で技を盗み、『強化成長』でものにする。

これで俺はかなり強くなれる。

あわよくばヒナタさんを超えたいものである。

 

「それにして、本当に凄いわね。間違い無く聖騎士団(クルセイダーズ)の隊長格と互角だわ」

 

「ハハハ。ありがとうございます」

 

「私と同系統のスキルを持っているわね」

 

「はい?」

 

「だって貴方、こっちに来てまだ半年も経っていないでしょう?それなのに既に“仙人”級の実力。私にはね、『簒奪者(コエルモノ)』という相手のスキルやアーツを奪うユニークスキルがあるのよ。貴方にも似たようなスキルがあるのでしょう?」

 

「‼︎」

 

思わず凍りついた。

 

「あら、図星かしら?」

 

「よく気付きましたね……! 俺には、『学術者(マナブモノ)』というユニークスキルがあります。その名の通り、学習能力に秀でたスキルです」

 

「手合わせをお願いしたのは、私から力を学び取る為でもあったのね」

 

「ええ。という訳で、空いた時間に俺を鍛えてくれませんか」

 

ダメ元でのお願いである。

OKは多分出ない   

 

「構わないわよ」

 

「まあ、無理ですよねって……えっ?いいんですか⁉︎」

 

「あら、まさか嫌って言うと思っていたの?私は教えるのは割と好きよ。ただし、かなり厳しめでいくけど」

 

「ありがとうございます!」

 

こうして、俺はヒナタさんから剣術を学ぶことになった。

しかも、後日ハクロウさんまでも仕事の合間に剣術を教えてくれることになった。

 

 

 

 

 

学校で授業をしつつ、子供達の訓練の相手をし、時々ヒナタさんやハクロウさんに扱かれる生活が始まって2ヶ月ほどが経過した。

おかげさまで、既に聖騎士団(クルセイダーズ)の隊長格より遥かに強くなった。

もうね、隊長格が2人がかりでいい勝負ってとこまで来ちゃいました。ヤバいよねw

俺も人外への領域に足を踏み入れ出したという事だろう。

だけど、これでもまだヒナタさんには勝てないんだけどね…。

でも、ヒナタさん曰く『もう直ぐ、“仙人”から“聖人”の領域に入りそうね』との事だ。

さて、今日はなんと、リムル様(叔父さん)が学校に来るのだ!

 

「どうも、待ってましたよ」

 

「うむ、子供達の様子は?」

 

「相変わらず元気ですよ。ところで、校長先生あたりには今日来ること言ってますよね?」

 

「いや、言ってないけど」

 

「は? 言ってないんですか⁉︎ いきなりこの国の王様が来たら絶対大騒ぎになりますよ!」

 

「ははは。すまんすまん」

 

「もうちょっと国王としての自覚持って下さいよ…。まあ、それは置いておいて、案内しますよ」

 

苦笑いを浮かべている叔父私をジト目で見ながらも、俺はケンヤ達のいる教室へと案内した。

 

「ちょっと男子!遊んでないで、教室の掃除を手伝ってよ‼︎」

 

教室内からアリスの怒った声が聞こえた。

最近では完全に委員長キャラが定着している。

クラス内じゃあ最年少なのにね。

 

「あん?何で俺らがそんな面倒なことをしなきゃいけないんだよ⁉︎」

 

それに対してガキ大将のケンヤが反発している。

こういう感じのやり取りは、もう日常茶飯事と化している。

 

「ちょっとケンちゃん、アリスちゃん怒らせるのはマズいよ!」

 

「うるせえ、リョウタ!今日こそ俺がアリスを倒して真のボスになってやらあ!」

 

騒がしくなってきた。

やれやれ、相変わらず大人しくできない子供達である。

普段からのやり取りだから、周囲の子供達も慣れた反応である。

 

「今日はどっちが勝つと思う?」

「女帝アリスだろ」

「だよな。ケンヤも強いが、女帝相手じゃ分が悪いよな」

 

と、好き放題言われている。

 

「へえ、クラスのボスはケンヤじゃなくてアリスなんだな」

 

俺の隣でクラスの様子を眺めている叔父さんはちょっと意外そうな雰囲気だ。

 

「気づいたら、アリスが委員長兼ボス、ケンヤがガキ大将って関係性が出来上がってましたね」

 

「それにしてもケンヤの奴、アリスに食って掛かっているけど、もしや…」

 

「ええ、ケンヤってアリスのこといつの間にか好きになってるっぽいですね」

 

「アレだな。好きな女の子にチョッカイ出して、興味を持たせたいってあれ」

 

それを聞くと、俺としては半年程の間だけ週間少年ジャ○プで連載されていた、学○法廷という漫画の第4話を思い出す。

少年漫画なのに、少女漫画じみた絵になると、魚澄泳介というキャラの吐き気がする程メルヘンチックな愛の告白がもう爆笑だった。

気になったのなら、実際に読んで欲しい。

さて、話が脱線してしまったな。

こんなたわいも無い話を叔父としている間にも子供達はギャーギャーしている。

こうして見ていると楽しいのだが、そろそろ止めなければならない。

もう直ぐヒナタさんが来るのだ。

という訳で   

 

「お前ら、教室で暴れるのは禁止な」

 

そう言いながら教室に入る。

そして、俺に続いて叔父さんが入ってくる。

 

「先生!」

 

ゑ?

ちょっと待って、クロエじゃないか!

何処にもいないなあって思っていたけど、まさかガッツリ気配を消して隠れていたとは…!

しかも、俺達が来ていた事にかなり前から気付いていたみたいだ。

つくづくこの子には驚かされる…。

それはそれとして、コレはどうなんだろう?

少女が姉に抱きついているように見えるが、リムル(この人)の中身は俺の叔父(アラフォーのオッサン)なのだ。

それを考えると、中々ヤバいくないか…?

 

「あっ、アユム兄ちゃん、それにリムル先生! クロエ、抜け駆けズルイ!」

 

遅れて、アリスも気付いたようだ。

そして、こちらも叔父さんに抱きついて来る。

さらにヤバい状況と化したな。

 

「リムル様! お久しぶりでありんす!」

 

続いてクマラも叔父さんに近づいていく。

クマラに一瞬戸惑っていたが、すぐに気付いたみたいだ。

もしかして、幼女姿は初めてだったのかな?

 

「ちょ、リムル先生来てたのかよ!」

 

ケンヤ達男子勢も気付いたようだが   

 

「わぁ!リムル様だぁ‼︎」

 

「スゲェー!本物だ!」

 

「家に帰ったら、父さんに自慢しよ!」

 

教室の子供達が大騒ぎになり、その声は遮られた。

だから連絡すべきだって言ったんだ。

そして、廊下からはドタバタという音が聞こえる。

他の先生方が猛ダッシュで教室に入ってきた。

廊下は走ってはいけませんって子供達を叱る立場ですよね?

それが走ってきてるよ、オイ……!

 

「こ、これはこれはリムル陛下⁉︎事前にお知らせして頂ければ、私がご案内致しましたのに」

 

「何を言う!リムル陛下を案内するのは、教頭であるこのワシだ!」

 

「勝手な事を!教頭風情は引っ込んでおれ!私は陛下から校長という名誉を賜ってあるのだぞ‼︎」

 

教師達は子供達以上の大騒ぎだ。

だから連絡すべきだって(ry

 

「ちょっと皆、静かに!先生方も落ち着いて下さい!」

 

とりあえず、この騒動を止めなければならない。

それなのにだ。

 

「せっかくですので、私のクラスの子供達の学習風景をご覧になってはいかがでしょう?」

 

「いいや、私が先です!完璧な授業をお見せしますぞ‼︎」

 

ドウシテコウナッタ?

一向に収まる気配が無い。

だから連絡(ry

 

「おいおい、リムル陛下が困ってるぜ」

 

現れたのは、フリッツさんだ。

こうして、フリッツさんと一緒になんとかして皆を宥めた。

フリッツさんがいなければ、もうしばらく続いただろうな。

俺1人じゃ止められそうに無かったから。

 

「ああ、やっと落ち着いた」

 

「今日はフリッツさんが教師を?」

 

「“さん”はやめて下さいよ。リムル陛下、呼び捨てで構いませんって」

 

「あ、そう?それじゃあフリッツ、お前も陛下呼ばわりはやめてくれ」

 

「そんな訳にはいかんでしょ!」

 

思わず叫んでしまった。

何言ってんだよこの人!

アナタ、この国の王様だよ⁉︎

誰もいない所ならともかく、こんな所でそれを実行した瞬間、不敬罪で一発アウトだっての!

 

「そうですよ。せめて“様”くらいつけないとこの国の住人から白い目で見られちまいますよ」

 

フリッツさんも同意見らしい。

一番身分とか気にしない感じなのにね。

 

「はは、それもそうか」

 

「ご理解、ありがとうございます」

 

「まあ、それはそれとして。学校行事への協力、感謝するよ」

 

「よして下さい。ぶっちゃけ、ヒナタ様の過酷な訓練に比べて、ここの任務は天国なんですって。飯は出るし、子供達からは尊敬されるしでね。実は、団員の中でも取り合いなんですよ?」

 

「「……」」

 

俺と叔父さんは無言でフリッツを見やる。

へえ、要らない情報どうもありがとう。

なんだろう?急に気温が下がった気がする。

『魔力感知』を使わずとも分かる、液体窒素並の冷た〜い怒気を感じ取ったからだろうな。

 

「ほう、それは良かったわね、フリッツ。私の過酷な訓練?あなた達の力量に合わせて手加減してあげていたのだけど、要らないお節介だったみたいね」

 

ヒナタさんが来た瞬間、その場に緊張が走った。

子供達のみならず、大人達までも背筋をピンと伸ばして直立不動になったのだ。

やっぱり気温は下がっていた。

 

「げぇ、ヒナタ様⁉︎誤解、そう、誤解です!これは言葉の綾と申しますか…」

 

言い訳を始めた哀れなフリッツさんに対し、俺はこう言った。

 

「フリッツ君、君の事は忘れない」

 

えっ? 俺死ぬの⁉︎   という顔をフリッツさんはしていた。

すまない、貴方を助ける事はできそうにないのだ。

 

 

 

学校から場所を移して、地下迷宮(ダンジョン)に来た。

因みに、フリッツさんについては余り触れないであげてね。

俺達を出迎えたのはハクロウさんだ。

 

「お待ちしておりましたぞ。リムル様、ヒナタ殿、アユム様」

 

ハクロウさんって俺のこと“様”って呼ぶんだよね。

何度かやめて下さいよと言っているんだけど   

 

『いえいえ。リムル様の甥御様なのですから、そういう訳にはいきますまい』

 

いつもそう返されるので諦めた。

 

「これはこれは御老体、お元気そうで何よりです」

 

ヒナタさんはハクロウさんに言葉を返す。

“御老体”って、高齢の方を敬う言葉らしいね。

初めて知った時は少し驚いたね。

 

「忙しいのに時間を取ってくれてありがとうございます」

 

俺は叔父さんに礼を言う。

 

「いや、いいって。大きな問題は片付いたし」

 

「そういえば、誰を評議会に送り出すか決まったの?」

 

「ああ。ディアブロが勧誘してきた有望な新人さんに任せたんだ。テスタロッサって名付けたんだけど、今度紹介するよ」

 

「名付けた? それにディアブロが勧誘してきた? ……ってことは悪魔族(デーモン)かな」

 

「お、よく分かったな」

 

「「はあ」」

 

俺とヒナタさんの溜息が一致した。

 

「やっぱり、貴方は本当に非常識ね。まあいいわ」

 

本当にね!

ツッコミ出したらキリが無い…。

なんでこんな事簡単にできるんだろう?

災禍級(ディザスター)だからかな?

魔王だからかな?

 

「それよりも、今日時間を取って貰ったのは、この子達の成長ぶりを見て欲しかったからなのよ。ハクロウ殿やアユムと一緒に指導していたのだけど、貴方にも現状を知っておいて欲しいのよ」

 

「そこまで言うって事は、かなり成長したのかな?」

 

「かなり、ね」

 

もうさ、呆れ果てるよね。

かなりなんてもんじゃ無いんだよ。

それを身をもって感じて貰おう!

 

「実際に戦ってみれば分かるでしょう。迷宮って便利よね。全力で戦っても死なないもの」

 

相変わらず笑顔が怖い。

ヒナタさんって、間違いなくドSだよね…。

この人にも呆れさせられるよね。

 

「分かった。それじゃあ、『分身体』で相手をしよう」

 

叔父さんはそう言って、スライムの身体を分離させる。

そういえば、この人スライムだったね。

 

「よっしゃ、久々にリムル先生と戦えるぜ!」

 

「私がどれだけ成長したのか、見て貰うんだから!」

 

ケンヤとアリスがはしゃいでいる。

ゲイルも準備体操を始めているし、リョウタも目を輝かせている。

クロエとクマラはと言うと。

 

「わっちが先にリムル様と戦うでありんす!」

 

「えー、私が先よ!」

 

こっちもやる気満々だ。

 

「うーん。全員同時でもいいが、どうせなら一対一でやろうか」

 

子供達がその言葉に笑顔を見せる。

そして、模擬戦が始まった。

 

 

 

一時間後

「お前ら、強くなり過ぎだろ‼︎」

 

叔父さんの叫び声が迷宮内に響き渡る。

そりゃそうだ。だって俺も同じ反応したもん。

 

「かなりって言ってましたけど、かなりなんてもんじゃ無いでしょ?」

 

叔父さんは俺の言葉に頷いた。

 

「いや、本当に凄いよ!」

 

「だろ? 先生に言ってもらえると自信が出るぜ!」

 

「でもさ、本当に凄いのはクロちゃんよね。私、女帝とか呼ばれていても、まだ一度も勝てた事ないもん」

 

「まあ、クロっちは別格だよな。普段は大人しいけどさ、怒らせたら怖いもん。アリスは怒ってもあんま怖くないけど、クロっちだったら土下座もんだぜ」

 

何ですってと怒るアリスを尻目に、ゲイルとリョウタがケンヤの言葉に頷いた。

 

「ケンヤはやっぱり構えだな。アレが剣術と合致して無いのがネックだな。もっと上手く取り込めれば、連携が繋がると思うんだけど」

 

ずーっと言い続けているんだけどね。変えないんだよな、ケンヤの奴。

カッコいいんだけど、無駄でしか無い。

これを言うといつもこう返ってくる。

 

「だって仕方ないだろ?アレはマサユキさんの直伝なんだからさ!」

 

それを聞いた叔父さんは呆れた顔を浮かべた。

スキルを除けば、“勇者”マサユキの戦闘力は一般人並みだもんね。

それを考えるとダメな構えとしか思えないよね。実際そうだろうし。

俺としても、正直やめてほしい。

武道には“守破離”という言葉がある。

第一段階の“守”は師から教わった型を忠実に守り、それをきっちり身につける事。

第二段階の“破”は師から教わった型を崩したり、他流の技と照らし合わせたりすることで自分に合った型を研究する事。

最終段階の“離”は師から離れ、既存の型に囚われず自分の技を磨く事。

この順で行う事で、初めて道を極めることができるというものだ。

ケンヤは強くはなったが、まだ剣術に拙いところがある。“破”や“離”の段階には早すぎるので、変な方向に行って欲しく無いのだ。

 

「まあ、言ってもせんなき事でしょうな。変な癖を無くすように指導して、連携を磨くように鍛え上げるとしましょう」

 

ハクロウさんはあんまりこだわりを持っている感じでは無いみたいだな。

 

「クロエの剣術はヒナタにソックリだな。綺麗な型で、お手本みたいだ」

 

「うん!シズ先生と同じだったから、頑張って真似したの!」

 

クロエは本当に凄い。既に聖騎士団(クルセイダーズ)の隊長格と互角で、条件次第では勝てるだろう。

しかも、『真似して覚えた』だよ。

“学ぶ”の語源を完璧行っている。

油断してたら、その内抜かされるな。

 

「真似って言っても、簡単にできるものではないのだけれど。私やアユムのように能力(スキル)に頼っているならともかく、才能だけで学んでいるのだから。誇っていいと思うわよ」

 

「そうですな。ワシも色々な者を指導してきましたが、この()ほどに才能を持つ者は初めてです。末恐ろしいばかりですじゃ」

 

「さてと、そろそろ全員での訓練ですね。今日は俺が相手するので、お三方は離れて下さい」

 

という訳で、ここから本番である。

ケンヤ、リョウタ、アリス、ゲイル、そしてクロエの5人を同時に相手するのだ。

凄く大変なんだよ〜。

特にクロエがヤバい。

クロエ以外の4人ならともかく、クロエを入れた5人には本気でやらないとガチで負けるのだ。

そして始まる地獄の時間。

『魔力感知』で周囲の子供達の動きを把握し、『予測演算』で先読み。さらに『思考加速』で反応速度と判断速度を強化して全力で相手する。

迷宮内には剣撃と踏み込みの音が立ち込める。

5分程で模擬戦は終了する。

この後、遠目で見ていたハクロウさんのアドバイスが子供達にあるのだ。

そんな中、叔父さんとヒナタさんが何かを話している。

興味本位で盗み聞きした。

 

「今日来た本題はね、ルミナス様が『音楽交流会まだか』って煩いのよ。あの様子だとよっぽど気に入ったみたいで、それを伝えたかったのよ」

 

ルミナス様?

まさか、ルミナス教の神ルミナス⁉︎

実在してんの⁉︎

 

「ああ、ルミナスは俺達の開国祭での演奏会をかなり気に入ってくれてたからな。タクト達には練習を続けさせているし、レパートリーも増えていると思うよ。ルミナスがそう言うなら、近い内にお邪魔させてもらおうか」

 

叔父さんも当たり前のようにはなしているし、実在するんだろうな…!

宗教の神様が実在するってどうなの?

おっと、神ルミナスが実在する事に驚き過ぎて重要なところを聞き落とすところだった。

どこか行くみたいだね!旅行だね!俺も行きたいよね‼︎

子供達も、2人の話が気になるようだし、ちょっと話を切り出してみよう。

 

「何処か行くんですか?」

 

「ん、ああ。近い内にルベリオスで音楽交流会を行う予定になっているんだ」

 

その言葉に子供達が反応する。

 

「私も行きたい!」

 

「私だって!」

 

「クロっちやアリスが行くなら俺も行くぜ!」

 

「僕も!」

 

「そういう事なら、自分もです。コイツらだけ行かせたら、何をし出すか不安ですし」

 

「わ、わっちも行きたいでありんす…!」

 

クロエを始め、全員が行きたいと言い出した。

クマラは少しおずおずとした感じだ。

階層守護者(ガーディアン)としての仕事があるから、あまりそういう要求をしては駄目だと考えているのだろう。

しかし、子供心としては友達と一緒に旅行したいと思うのは自然な事だ。

 

「そんなに遠慮することないぞ。ちょっとくらいのワガママなら、どんどん口にしても許すからさ」

 

叔父さんがクマラを撫でてそう言った。

子供達が行くのは確定だな。

これをダシにしない手はない!

 

「それじゃあ、俺も行きますよ」

 

「え、なんでそうなるの?」

 

「ほら、子供達が行くなら引率の教師がいた方がいいんじゃないですか?」

 

「それは俺がやるからいいよ」

 

「でも貴方、魔国連邦(この国)の国王陛下ですよ。そんなことやってる暇は無いんじゃないですか?」

 

「……。お前、本当は行きたいだけじゃ…」

 

ジト目で叔父さんがこっちを見てくる。

チッ、バレたか。

だがしかし、行かないという手は無いのだよ!

 

「いいえ、全く」

 

「はあ、分かった。お前も子供達も連れて行く事にしよう」

 

「やったあ!旅行する間は堂々と学校をサボれるぜ!」

 

「ケンちゃん、あれだけ楽しそうなのに、学校サボりたかったの?」

 

「違えよ。学校は楽しいけどさ、皆が勉強している時に自分達が遊んでるだけなんて、特別感があるだろう!」

 

「アンタが言いたい事、私も分かるわ。同レベルと思われるのは嫌だけど、ワクワクするのよね」

 

「だろ?そういうもんなんだって!」

 

そんな楽しそうな子供達を見ていると微笑ましいのだが、学校をサボりたいとは聞き捨てならんな。

 

「なるほどなるほどよく分かりました。では、   

 

そこからは声色を変えて

 

「明日出す宿題を二倍にします」

 

と、子供達にそう告げた。

俺が教師を目指した理由となる、某黄色いタコ型超生物の真似をしてみた。

それを聞いた叔父さんは、思わず吹き出している。

 

「げえ⁉︎アユム兄ちゃんそりゃないよ!」

 

当然である。

数日休むだけでも、結構な遅れになるのだ。

 

「私は、リムル先生と一緒がいいだけ」

 

泣き言を言うケンヤに対し、クロエは御満悦のようだ。

 

「本当に甘いわね、貴方」

 

「あ、ヒナタさんは反対ですか?」

 

叔父さんがヒナタさんを煽る。

冷たいですねって顔が言ってる。

 

「チッ、そうは言ってないわよ」

 

不機嫌そうだが、反対ではないようだ。

そして一週間後、俺達はルベリオスへと向かう事になった。

 

 

 




突発的に思いついたヤツ

ベニマル「(爽やかな笑顔で)コイツ、殺して、イイですか?」

リムル「(こっちも爽やかな笑顔で)うん、いいよ」

ベニマル「ヘルフレア」

鬼舞辻無惨「ギャァァァァァァ‼︎」


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第6話 ルベリオスde観光

スキル募集を終了します。
投稿して下さりありがとうございました。
そして、お気に入り100人超えました。ありがとうございます!


 

 

 

あれから1週間経過した。

今、俺達は神聖法皇国ルベリオスにいる。

いやぁ、音楽交流会楽しみだな。

 

「ようこそ、ルベリオスへ。法皇猊下も歓迎して下さるそうよ」

 

うん。全く敬ってないな。まあ、当然か。

 

一週間前

リムルの庵

 

執務館の裏手にある叔父さんの別邸に来た。

The茶室という感じでとても落ち着く(о´∀`о)

最近では、叔父さんと一緒にここでよく向こうの話しをする。

因みに、この庵には地下室がある。

そこには叔父さんや俺が複写(コピー)した大量の漫画本が収められている。

そんなユッタリマッタリできる空間で気になる事を聞いてみた。

 

「ねえ、叔父さん。ルミナス教の神ルミナスって実在するの?」

 

叔父さんが急に油の切れたロボットみたいになった。

 

「ナンノコトカワカラナイナ」

 

棒読みじゃねーか‼︎

半角カタカナで言われても説得力無いから。

 

「いるんですね? 分かります」

 

そう言うと、叔父さんは溜息を一つついた。

 

「どうして気づいたんだ?」

 

「いやだって、ヒナタさんと音楽交流会の話をしていたじゃあないですか。その時にヒナタさん『ルミナス様が音楽交流会を楽しみにしている』みたいな発言をしていたじゃないですか」

 

「最初から聞いてたのね」

 

「そりゃ『魔力感知』あれば耳に入りますよ」

 

「はあ、そうだな」

 

そう言って一拍置いた。

 

「神ルミナス、その正体は“夜魔の女王(クイーン・オブ・ナイトメア)”の異名で知られている魔王バレンタイン。彼女こそ、神聖法皇国ルベリオスの真の支配者だ」

 

「それってもしかしてマッチポンプってやつですか?」

 

「言ってしまえばそうだな。でも、あの国ではこれのおかげで吸血鬼族(ヴァンパイア)達は質の良い血液を得られ、人々は安寧を享受できる、Win-Winの関係が成り立っているんだ。この事は内密にな」

 

という訳で口止めされた。

正直、思う所はある。けれど、ヒナタさんや叔父さんが許容しているなら俺が文句を言う事では無い。首を突っ込むのは野暮の様だし。

 

現在

 

「今日の夜は、貴方達を歓迎する晩餐会が開かれるわ。明日は1日、会場で音の調律を行なって貰い、明後日が練習日となる予定よ。本番は3日後、問題ないかしら?」

 

「どうなんだ、タクト?」

 

「は、はい! 大丈夫です、リムル様! 移動は魔法で運んで貰えましたし、器材も問題ありません。会場の広さによっては微調整が必要でしょうが、こちらにも楽団があるとの事ですので、問題ないかと」

 

「練習日は1日しか無いが、大丈夫か?」

 

「こちらではそうですが、我々はこの日のために毎日練習を欠かしてなどおりません。ご期待にに添えるものと、全員が心を一つにしております!」

 

楽団の指揮者であるタクトさんの言葉を聞いて、叔父さんは満足げに頷いた。

 

 

 

そして夜、高級ホテル顔負けの豪華なおもてなしを受けた。

叔父さんや楽団員はともかく、俺や生徒達まで良いんだろうか?

超高級サロンがフリーパスで使えるわ、個々人に個室が用意されているわ、極め付けは部屋付きのメイドさんがいるわ。

完全に王侯貴族レベルが受けるようなレベルだ。

晩餐会も豪華絢爛だった。

スプーンの上に載った一口サイズの料理が運ばれてきて、視覚と味覚を刺激する。

味付けも考えられており、とても美味しかった。

魔国連邦(テンペスト)にも美味しいものは溢れているが、これ程のものはそうそうお目にかかれない。

実際、楽団員達はかなり緊張していた。

叔父さんや子供達は気楽な感じだったけど。

そんな感じで、楽しい一夜が過ぎた。

 

 

 

翌日

今日はヒナタさんに案内されて、子供達や叔父さんと一緒にルベリオスの営みを見て回る。

今、俺達の目の前には長閑な田園風景が広がっている。

心が静まる良い景色だが   

 

「なんだか、つまんないわね」

 

「そうだな。ここじゃあ、俺達と同い年くらいのやつも働いている。学校とか無いのかな」

 

アリスがポツリと呟き、ケンヤもそれに続く。

残りの子供達も、勝手の違う景色に戸惑いを覚えているようだ。

国民は、決められた仕事を決められた手順で繰り返すだけといった感じだ。

幸福そうではあるものの、自由は無い。

 

「この国には学校はないのよ。ここは管理された国。神の名の下に平等で、誰もが平穏に暮らせるの」

 

ヒナタさんは誇らしそうに説明した。

 

「確かに、どんなに頑張って努力したって手に入らない物はある。最初からそれを知らなければ、それを欲して苦しむ事も無いからな」

 

なるほど、確かに平等だ。

叔父さんが言う事も尤もであるし、ここには少なくとも飢えや苦しみは無い。

だがしかし   

 

「良く言えば、宗教と管理経済によって平等を担保された幸福な社会。悪く言えば宗教国家の皮を被った共産主義国家(アカイ国)って訳ですか」

 

ヒナタさんがジト目でこっちを見てきた。

だがしかし、これは事実のはずだ。

宗教を折り込んでいるからか、この国の形態はソビエト社会主義共和国連邦(向こうで失敗したでっかいアカイ国)に比べて遥かに高い完成度だと言える。

だが、指導者層が腐ったら一発アウトなのは変わらない。

 

「確かに、否定はできないわね。けれど、この管理された国の中では、国民の幸福指数がとても高いレベルになっているわ。だからこそ、他国と国交を開く際は、西方聖教会を通す必要があるのだけど」

 

確かに、知らなければ欲する事も無いだろうな。

ソ連の場合、知らなかったが故に不幸になり、それを欲した人が大勢できてしまったのが国家崩壊の要因の一つになった訳だし。

それでも、知ればもっと幸せになる事だってある。

良くも悪くも完成されてるよ、この国。

 

「本人達が幸せなら、僕達が口を挟む問題じゃあないね」

 

「そうだな。人の幸せは、物質的な物だけでは満たされない。精神的な幸福を追い求めるなら、こういう社会もアリなんだろうな」

 

「それって何だか、水槽の中に飼われたお魚さんみたい。ここの人達は自分達だけじゃあ生きていけない。誰かに守ってもらわないと、この生活を守る事も出来ないみたい」

 

正にその通りと返したくなる回答をクロエが呟いた。

子供の観察眼も侮れないね。

完成されてはいるものの、それは歪な形で、だ。

何も知らない人々は管理する人が消えれば何も出来なくなる。

自由が無ければ、自分の生殺与奪権すら持つ事が出来ない。

家畜と大した変わらず、言ってしまえば“人畜”だ。

 

「……そうね。そうならないように、私達が頑張っているのよ」

 

「そうなんだ。私なら、皆で協力して、一緒に頑張る方がいいと思うな。そうすれば、ヒナタお姉ちゃん達だけが頑張らなくても助け合えると思うもの!」

 

本当にな。でも、そう上手くいかないから苦労しているのだろうな。

この世は無慈悲で出来上がっているから……。

今日は本当に考えさせられる1日だった。

この事をよく覚えておこう、と俺は思った。

 

 

 

翌日

今日は早朝から大聖堂に来た。

もうね、子供達が朝から元気すぎるんだよね……。

そんなこんなで、楽団のリハの見学しに来たという訳だ。

因みに、楽団の護衛として周囲には悪魔族(デーモン)がおよそ100名いる。しかも、全員上位悪魔(グレーターデーモン)、中には上位魔将(アークデーモン)が混じっている。

正直言って落ち着かない。

そして何より、嫌な予感がする。

   嫌な予感というのはよく当たる。

リハーサルが始まろうとした時だった。

ドゴンッ!   という衝撃が走った。

近くにいた聖騎士の1人が叫んだ。

 

 

 

「敵襲‼︎敵襲‼︎」

 

 

 



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第7話 天上の世界

書きたかった所その2まで来ました。
お待ちかねの覚醒タイムです。
これってご都合主義入れた方がいいかな?


 

 

 

「敵襲‼︎敵襲‼︎」

 

何者かが襲撃して来た。

護衛として来ていた悪魔達は直ぐに楽団員を守る態勢を整えた。

当然、俺も子供達を守る構えだ。

聖騎士団(クルセイダーズ)法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)のメンバーが襲撃して来た一団を相手取っている。

敵は少なくとも100人で、全員B+ランク以上の実力者達で味方にかなりの被害が出ている様子だ。

そんな中、転移門が出現して4人の人影が現れた。

叔父さん、ヒナタさん、シオン、ディアブロだ。

あ、あと1人いる。高級そうな聖職衣を着ている神父みたいな人だ。

転移してくるなり、シオンが楽団に向けて大音声を飛ばした。

 

「狼狽えるな! お前達の安全は私達が守る! だから練習の手を止めるな‼︎」

 

おい、ちょっと待てシオン!

何つう無理ゲー押し付けてんだ!

だって、今ここ戦場と化したんだよ?

楽団員は全員非戦闘員だよ?

怯えない方が逆におかしいって!

 

「シオン様、申し訳ございません! ちょっと動揺してしまいました」

 

へ?

 

「練習を再開する!」

 

ゑ? いや、ええっ⁉︎

この状況で練習すんの!!!?

俺が動揺している内に練習が再開される。

タクトさん達の肝っ玉は相当だな……!

とりあえず、子供達を悪魔達の護衛の中に入れる。

 

「ここから動くなよ! 先生は襲撃して来た奴らの相手をする!」

 

「わっちも行くでありんす!」

 

クマラがそう意気込むも俺は却下した。

 

「ダメだ! 八部衆がいないんじゃあ、お前は戦えないだろう?」

 

「そういう事だ、クマラ。シオン、ディアブロ、子供達を守れ!」

 

叔父さんも同意した後、部下2人に子供達の守護を命じた。

 

「分かりました」

 

「リムル様は如何なさるのです?」

 

「俺はお邪魔虫共を排除してくるよ」

 

「承知しました」

 

「じゃあ、後は任せた」

 

駆け出す叔父さんに俺はついて行った。

 

 

 

大聖堂の入り口には、敵味方が入り乱れて激しく交戦していた。

大扉は完全に壊され、見る影もない。

100人以上の敵の中には1人目立つ存在がいた。

見た目は60〜70くらいの老人だが、背筋はピンと綺麗な姿勢をしており、眼光は鋭く、高級そうなスーツを着ている。

そして何より、纏っている覇気が凄まじく、尋常じゃない力の持ち主だと一目で分かった。

 

「あのお爺さんが敵の首魁みたいですね」

 

「グランベル・ロッゾ。五大老の長にして、ロッゾ一族の総帥よ」

 

ヒナタさんが答えた。

なるほど、マリアベルと同族ですか。

そりゃ厄介そうだな。

 

「マリア、お前はルミナス様を探し出し、ここに連れて来なさい。抵抗するなら殺しても構わん」

 

グランベルの言葉に反応したのは、1人の妙齢の女性だ。

それも、マリアベルによく似ている。

 

「承知しました。命令を実行に移します」

 

マリアと呼ばれた人物はそう答えた後、俺達には目もくれず歩き出した。

まるでロボットだ。いや、身体は人間と変わらないってだけで、本質的にはロボットと変わらないんだろうな。

 

「初めまして、グランベルさん。俺が魔王リムルだ」

 

叔父さんは気さくな感じで話し掛けた。

 

「貴様が魔王リムルか。よくもワシのマリアベルを……‼︎」

 

どうやらあの件について恨みを買っている様子だった。

 

「おいおい、それはそっちから……いや、言っても無駄か。ならば、どっちが正しいか、力で証明してやろう」

 

「クックック、抜かしよるわ。たかが新参の魔王の分際で、ワシに勝てるとでも? 貴様の相手は後でしてやるが故、大人しくそこで仲間達がやられるのを見ておくが良い」

 

うわぁ、す〜ごい舐めてる。

 

「たかが新参の魔王、だと? 言ってくれるね」

 

叔父さん、殺る気モード。

だが、叔父さんの出る幕は無いそうだ。

 

「ヒナタ様や魔王リムル殿の出番などありません! グラン、貴様の相手は私達です‼︎」

 

叔父さん達と一緒に来た神父みたいな格好の人   ニコラウスさんがそう叫んだ。

そして、それに続くは聖騎士団(クルセイダーズ)の隊長格3名だ。

副団長のレナードさんとアルノーさんとリティスさんだ。

 

「ヒナタ様、そこで我等の活躍をご覧になって下さい!」

 

ニコラウスさんの命令でレナードさんとアルノーさんが動く。

リティスさんは精霊魔法で2人のサポートを行う。

その間、ニコラウスさんは魔法の詠唱をしている。

隊長格3人が詠唱の時間を稼ぎ、ニコラウスさんの魔法でトドメを刺すつもりの様だ。

普通なら隊長格3人の攻撃で終わらせられるだろう。

しかし、グランベルには余裕があった。しかも、ニコラウスさんの詠唱を邪魔する訳でも無い。

嫌な予感しかしない。

グランベルを中心に積層型魔法陣が形成されていく。

そして、魔法の最後の一節が唱えられる。

 

「万物よ尽きよ。霊子崩壊(ディスインテグレーション)‼︎」

 

強烈な光の噴流がグランベルを襲う   かに見えた。

光の噴流は突如として軌道を変えて、グランベルの剣へと集中していく。

ああ、嫌な予感というのは外れないらしい。

 

「まさか……!」

 

ヒナタさんも青ざめている。

どうやら心当たりがあるらしい。

 

「中々良い詠唱だったな。魔法の流れを読み取るにはこれ以上ないほどにの」

 

そう言うと、グランベルは剣を掲げた。

 

「散開‼︎」

 

ヒナタさんの指示で隊長3人が一気に後退する。

そしてヒナタさんが前へと出る。

 

崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)!」

 

グランベルが剣を薙いだ。

その瞬間、扇状に衝撃波が広がった。

ヒナタさんはグランベルの剣を受け止めるも、それだけで攻撃を防ぎ切れる物では無かった様だ。

ヒナタさんは無事だが、ニコラウスさんは重傷、レナードさん達も気絶してしまっている。

距離のあった俺自身、思いの他ダメージを受けた。

しかも、『多重結界』が完全に壊された。

その割には大したレベルじゃあ無いけど。

何せ   

 

「ふむ。1人も殺せなかったとは、ワシも腕が落ちたか。そこの魔王に感謝するのだな」

 

先程、『崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)』が放たれる直前に薄皮一枚分何かが身体を覆ったのだ。

やはり、叔父さんの仕業だったらしい。

これが無かったら、俺も重傷だっただろう。

ヒナタさんが、チラリと叔父さんに視線を向ける。

 

「そう。感謝するわ、リムル」

 

叔父さんはヒナタさんに向けて、軽く頷いた。

さて、この少しばかりの戦いを見ていて分かった事がある。

グランベル(このクソジジイ)は俺のことなど眼中に無い。

実際、実力差は明白にある。

だが、奇襲すれば倒せるだろう。

ここで俺を舐めたことを後悔させてやる。

そう考え、一瞬で()()()()()()の準備を済ませる。

そして、気闘法を使って一気に距離を詰めた。

 

「メルト   ウオッ⁉︎」

 

グランベルへと『崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)』を撃ち込もうとした瞬間、中年のおっさんに邪魔された。

 

「グランベル様の邪魔はさせぬ」

 

「やれやれ、奇襲は失敗か。今のでワンチャンいけると思ったんだが」

 

「シードルよ、そこの小童(こわっぱ)の相手をしてやれ」

 

「御意」

 

そう言うと、中年のおっさん   シードル辺境伯が前に出た。

どうやら、コイツを先に倒す必要がありそうだ。

そう思い、俺は離れた場所へと走り出した。

無論、シードルもついて来る。

 

 

 

 

 

 

「シードル辺境伯、以前は英雄として名を馳せた人物だったけ」

 

「ほう、よく知っておるな。言っておくが、私は人間相手にも敵なら容赦しないぞ?」

 

「こっちのセリフだ!」

 

アユムとシードル辺境伯との戦いが始まった。

そして繰り広げられるのは超高レベルの剣撃の応酬だ。

シードルが刺突を放つと、アユムが受け流し、そのまま斬撃へと持っていく。

その斬撃をシードルは紙一重で回避する。

一見互角に見える戦いだが、アユムの方は内心で凄まじく焦っていた。

 

(どうして。どうして『学術者(マナブモノ)』と『製作者(ツクリダスモノ)』が機能しない⁉︎)

 

自身のスキルがほとんど発動できなくなっていた。

製作者(ツクリダスモノ)』はともかく、『学術者(マナブモノ)』の機能不全はかなり危険だった。

『思考加速』の権能は使えるものの、強敵を倒すのに絶対的に必要な権能である、『予測演算』と『複写』が全く使えないのだ。

 

「フフフ。お主、焦っておるな。スキルが使えないのが不思議か?」

 

図星を突かれて一瞬動揺するも、すぐに表情を戻す。

 

「なるほど、な。今のスキルの機能不全、やっぱりアンタが妨害していたのか」

 

「ほう、よく見破ったな。私にはな、ユニークスキル『邪魔者(サマタゲルモノ)』がある。これには、他者のスキルや魔法を妨害する権能をあるのだよ」

 

「そりゃ厄介だな。でも、弱点もあるみたいだな。外に出るものや、他者に干渉して発動するタイプのみ妨害できるってところか。俺自身へと影響を及ぼす物は無理みたいだね」

 

アユムは太々しく言った。

 

「そこまで見破るとは大したものだ。良かろう。少し本気で相手してやろう」

 

「いいぜ、ここからが本番だ!」

 

そう不敵に笑うも、内心ではかなり焦っていた。

 

(クッソ! かつて英雄として名を馳せただけのことはある。しかもスキルの妨害だ? ふざけんなよ! これじゃあ、八方塞がり……いや、今までやってこなかった方法はあるが……博打に出なきゃ勝てないか)

 

そう考え、覚悟を決める。

アユムが考えたのは『強化成長』による自身の強化だ。

この権能は凄まじく、これのおかげで今までのアユムは指数関数的な成長速度を見せていた。

だが、強力な権能であるが故に弱点がある。

それは、使用時に体力を消耗する事だ。

転移したばかりの頃は、これによって歩くのがやっとというレベルまで消耗したことが度々あった。

仙人へと成長したともなれば、その消耗量は大したレベルでは無くなる。

しかし、全開戦闘中に発動するともなれば話しは別だった。

そのため、これはかなり危険な賭けなのだ。

 

シードルの攻撃はより熾烈になっていく。

アユムもそれに対応していくと同時に、体力の消耗も増えていく。

その代わり、剣術の精度やスキルの力も大きくなっていく。

シードルはそれに気づき、面白いと笑みを浮かべた。

そして、その弱点もしっかり把握していた。

 

「面白い力だが、ぬるい。この程度ではまだまだだ。さて、そろそろ終わらせよう」

 

そう言うと、シードルは更に苛烈な剣撃をこれでもかとお見舞いする。

アユムも限界になり、傷が増えていく。

そして、何十何百と剣を交わせたときだった。

 

「アグッ!」

 

シードルの剣が、アユムの腹部を大きく斬り裂く。

 

「トドメだ」

 

その時、アユムの脳裏に飛来のはのは過去の記憶   走馬灯だ。

叔父である悟と楽しく語り合った事。その悟が死んで、絶望感と悲壮感に襲われた事。そして、自分が転移して、リムルとして再開した事。さらに、そこからの楽しい毎日がその一瞬で去来する。

 

 

   そして、覚醒する。

 

 

(こんなところでくたばったら、叔父さんに顔見せできなくなるじゃねえか‼︎)

 

アユムは全力で自身の直刀を振るい、シードルの剣を弾き飛ばす。

驚いたシードルは、直ぐに距離を取った。

 

「一体何が?」

 

一方、アユムからは凄まじい力が湯水の如く溢れ出した。

そして、そのエネルギーが闘気(オーラ)となって身体から漏れ出る。

 

(これじゃダメだ)

 

アユムはそう考えると、漏れ出るエネルギーを抑え込み、代わりに自身のスキルへと流し込んでいく。

そして、天上のチカラを手に入れたアユムへと“世界の声”が響き渡る。

 

 

《確認しました。条件を満たしました。ユニークスキル『学術者(マナブモノ)』が究極能力(アルティメットスキル)学術之王(ラジエル)』へと進化しました》

 

アユムの進化は止まらない。

1つの大きな超克は、更なる超克をもたらしていく。

 

《確認しました。条件を満たしました。ユニークスキル『製作者(ツクリダスモノ)』が究極能力(アルティメットスキル)製作之王(ヘファイストス)』へと進化しました》

 

シードルはアユムが尋常じゃない速度で強くなるのをただ見ていることしか出来なかった。

 

「さあ、終わらせよう」

 

アユムは、シードルに向けてそう告げた。

 

「まさか、この土壇場で聖人へと覚醒するとはな。良かろう、私も全身全霊を持ってして相手をしよう」

 

そう言って、上段の構えをとる。

アユムも『製作之王(ヘファイストス)』にて形成したエネルギーの結晶体でできた、光の槍を作り出した。

そして、勝負は一瞬で決まる。

 

爆烈撃斬(インパクトブレイド)‼︎」

 

戦神之槍(グングニル)‼︎」

 

光の槍と炎の斬撃が交差し、凄まじい衝撃波を撒き散らす。

斬撃の方は霧散し、光の槍がシードルに突き刺さる。

 

「見事……だったぞ……!」

 

それがシードルの最後の言葉となった。

その瞬間、周囲を眩しい光が包み込む。

光が収まると、シードルの身体は跡形もなく消え去っていた。

 

 

 




ケツアゴさんありがとうございます。

最近、感想とお気に入り登録者数の上昇率が下がってるのが小さな悩みです。


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第8話 騒乱極まれり

いやあ、アニメ転スラ面白くなってきましたね!
ただ、この感じだと小説7巻までは行かないかな?
とりあえず、第一部はリムルが魔王になるところ、上手くいけばヴェルドラ復活まで行って、第二部でクレイマンとの決戦ですかね。
個人的には3期とか4期とか劇場版とか作って、11巻まではアニメでやって欲しいですね。


 

 

 

なんとかして、シードル辺境伯を倒すことができた。

正直言って、マジで俺より強かっただろう。

この土壇場で聖人へと覚醒してなければ、殺られてたのは俺の方だ。

それにしてもヤバいな、究極能力(アルティメットスキル)って。

そして、今なら分かる。叔父さんやミリムさんの桁違いな戦闘力はこの究極能力(アルティメットスキル)によるものだ。

混沌竜(カオスドラゴン)に向けて放った吸引技は、おそらく究極能力(アルティメットスキル)暴食之王(ベルゼビュート)』といったところかな。

今までのユニークスキルとは性能の次元が違う。エネルギー量が桁違いだった混沌竜(カオスドラゴン)相手に勝てる訳だ。

さて、どうでもいい思考を終わらせよう。

そろそろ戻ってヒナタさんや叔父さんを手伝わなければ!

 

 

 

戻っている最中、大聖堂前から凄まじい熱線が上がる。

発生源は地中奥深くからのようだ。

大聖堂前へと戻ると、1人の美少女がヒナタさんと戦闘中のグランベルと対面していた。

ゴスロリ系の漆黒のドレスを身に纏い、美しい銀髪を持った金銀妖瞳(ヘテロクロミア)の人物だ。

そして何より、解析しなくても分かる程の凄まじい覇気を放ち、絶大なエネルギー量を持っている。多分、叔父さんと同等だろう。

彼女こそがこの地の真の主であり“夜魔の女王(クイーン・オブ・ナイトメア)”の異名を持つ魔王ルミナス・バレンタインで間違いない。

そして、怒る彼女の腕にはマリアと呼ばれた女性が抱えられている。

 

「クックック、流石はルミナス様です。私の使い魔(サーヴァント)でさえ貴女の足止めにすらなりませんか。数多の異世界人達から抜き取った力を注ぎ込んだ最高傑作だったのですが」

 

「痴れ者が! 紛い物の力を意志なき人形にどれだけ注ぎ込もうと本物には敵わぬ。お主なら百も承知であろう!」

 

「勿論、存じておりますとも」

 

他にも、美女と見まごうかというほどの長い金髪(プラチナブロンド)の美丈夫が叔父さん相手に互角の勝負をしている。

こちらからもエゲツない力を感じる。間違いなく魔王級の実力者だ。

 

「強いな。元勇者というのは伊達では無いようだ」

 

「ああ。アレはちょっと予想以上だ」

 

『魔力感知』が進化した『万能感知』を介してそんなやり取りが聞こえた。

多分、敵対しているのではなく何かしらの理由で戦っている演技をしているのだろう。

ルミナス様とグランベルの方へと視線を戻す。

 

「ならば、貴様は何故このような事を。マリアを死後も貶めるような真似をしたのじゃ⁉︎」

 

「必要だったからです。今、この時のために」

 

グランベルは左手の手袋を脱いだ。

掌に刻まれた謎の文様が輝きを放つ。

そして、それに呼応するようにマリアの亡骸も輝きはじめ、光の粒子となって、グランベルへと流れ込んだ。

叔父さんや金髪の誰かさんも演技をやめて状況に見入っている。

光が収まると、グランベルの身体には力が漲った。

単にエネルギーが上昇しただけでなく、細胞が活性化し、若々しさを取り戻している。

そこに顕現したのは、往年の“勇者”グランベル・ロッゾだった。

 

「貴様は妾の与えた愛の接吻(ラブエナジー)も全てマリアに注ぎ込んでおったのじゃな!」

 

激昂するルミナス様の言葉にグランベルは頷いた。

 

「ルミナス様……いや、ルミナスよ。貴女との決着がまだだったな。それを果たすまでは死なないのだ。マリアベルが死んだ今、ワシの野望は潰えた。だが、それでも望まずにはいられないのだよ!」

 

「貴様!」

 

「私を舐めるな!」

 

グランベルに向けて、ルミナス様とヒナタさんが同時に返事する。

グランベルはヒナタさんへと振り向いた。

 

「そうだったな、ヒナタよ。お前への指導も残っておった。お前はワシが手掛けた弟子の中でも最高の才能を持っておる。その上、強い向上心を持ち、自己研鑽を怠らない。素晴らしく優秀じゃと褒めて良い。だがしかし   

 

グランベルが剣を振り抜く。

凄まじい威力を持った閃光の斬撃『崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)』だった。

 

「嘘でしょ? 呪文の詠唱無しに霊子を操ったとでもいうの⁉︎」

 

「ヒナタよ、お前がそれだけの才覚を有して何故勇者になれぬのかワシは疑問だった。才能や努力だけでなく、精霊にも愛されていなければ勇者たる資格は得られない。だが、お前は才覚だけでなく精霊にも愛されておった。それなのに……」

 

「残念だったわね。精霊に愛されていようが、なれないものにはなれないのよ」

 

「貴様が勇者として覚醒すれば、ワシの野望にも役立てるだろう。それ故に助言してやる。お前は心に闇を抱え込み、光の精霊を拒んだのだろう? 近しい者を殺しでもしたか?」

 

「黙れ‼︎」

 

ヒナタさんは激昂する。

グランベルに心の傷を抉られたのが原因のようだ。

崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)から逃げるために距離を取っていたが、一気にグランベルへと迫る。

甲高い音を立てて剣と剣がぶつかり合うが、グランベルは微動だにせず、ヒナタさんの方が吹き飛ばされる。

技量(レベル)が段違いだ。

今の俺ならばヒナタさん相手でも余裕で勝てると思うが、ヒナタさんを子供扱い出来るほどでは無い。

だがしかし、グランベルはそれを目の前でやってのけている。目を疑う光景だ。

 

「闇を克服するのだ。闇とは、自分の心が生み出した幻影に過ぎない。過去の自分を許容し、今の自分を誇れ。そうすればお前も光を受け入れられる筈だ」

 

「黙れと言っている‼︎」

 

「ああ、残念だよ、ヒナタ。もっと時間があれば、お前を導けてやれたのだがな。理解できぬのなら、現実をもって体感するがいい。守りたいものを守れぬようでは、世界を救うなど夢のまた夢だという事を」

 

その瞬間、とんでもない未来が『学術之王(ラジエル)』の『予測演算』を通して見えた。

グランベルのクソ野郎め!

 

「クロエ、逃げろ‼︎」

 

俺が叫ぶと同時に、その一撃は放たれた。

崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)、いや、斬撃というより刺突なので“崩魔霊子突(メルトストライク)”と言うべきか。

ほぼ光速でクロエに向かって光の噴流が進み行く。

その瞬間、動いたのはヒナタさんだ。

何の迷いも見せずにクロエとグランベルの射線上に割り込んで、崩魔霊子突(メルトストライク)を直に受けたのだ。

胸を貫かれたヒナタさんは、そのまま吐血しながら倒れ込む。

だが、光の噴流は少しばかり威力を落としただけで、そのままクロエへと迫る。

次に、100人ほどいる悪魔の護衛部隊の隊長   ヴェノムが動く。

 

「グハッ! 痛ってぇ‼︎」

 

こちらは元気そうだ。悪魔だからだろうか?

いや、そんな事はどうでもいい。

2人が立ちはだかったというのに、崩魔霊子突(メルトストライク)の勢いはほとんど死んでいない。

このままではクロエが!

そう思った時にクロエの目の前に現れたのは、リムル(叔父さん)だった。

叔父さんに直撃すると同時に光の噴流は霧散した。

 

「え、リムル先生? ヒナタ……お姉ちゃん?」

 

「ヒナタ、無事か⁉︎」

 

ルミナス様がヒナタさんへと駆け寄っている。

 

「ヒナタお姉ちゃん、死んじゃダメェ‼︎」

 

「クロエ、ストップ!」

 

止める暇も無くクロエが走り出す。

他の子供達もそれに続こうとしたのを慌てて叔父さんが麻痺ガスを撒いて眠らせる。

ヴェノムの方へは完全回復薬(フルポーション)を渡して、子供達を守るよう命じた。

俺も気付いた時にはヒナタさんへと駆け寄っていた。

 

「クロエだと⁉︎ 本当に、クロエなのか⁉︎」

 

長い金髪(プラチナブロンド)さんが挙動不審になっているけど、無視だ無視。

 

「おい、ルミナス!」

 

そう叔父さんが話し掛ける。

 

「黙れ! 霊子の浸食が早い、早過ぎるのじゃ!」

 

精神体(スピリチュアルボディ)への攻撃らしく、見た目以上にダメージは深刻だった。

その時、ヒナタさんの目がうっすらと開いた。

 

「よ、良し! ヒナタよ、そのまま意識をしっかり保つのじゃ!」

 

「い、いえ、ルミナス……様。わ、私は……コフッ」

 

ヤバい、このままではヒナタさんが……!

肉体はほとんど修復されているのに、ヒナタさんはどんどん衰弱していく。

とんでもなくグランベルの技が厄介という事だろう。

 

「ク……クロエ、貴女が無事で……良かったわ」

 

吐血しながらも鋼のような意志でヒナタさんは起き上がろうとする。

そして、震える手をクロエへと差し出した。

手に握られているのは細剣(レイピア)と腕輪だ。

解析してみると、どちらも伝説級(レジェンド)の武具“月光の細剣(ムーンライト)”と“聖霊武装”だ。

 

「貴女に、預けるわ。ま、まだ……師匠らしい事、何も……出来なかったけれど、貴女なら、私を……超えられるから……」

 

掠れるような声だったけれど、それは泣きじゃくるクロエへと確かに届いた。

 

「ヒナタ……お姉ちゃん……」

 

恐る恐る、クロエはヒナタさんへと触れた。

直後、ヒナタさんの身体が輝き、その光がクロエへと流れ込んでいくように見えた。

どういう事だ?

誰もこの事に反応していない。

それに、思考加速を使用してる訳でもないのに、まるで周囲の時が止まっているようにしか感じない。

というか、本当に止まっている⁉︎

 

「う、嘘でしょ⁉︎ こんなの知らない! 何で、早過ぎるじゃない‼︎」

 

クロエがそう叫ぶ。

そして、クロエへと呼びかけようとした瞬間、その場からクロエの姿が掻き消えた。

まるで、そこに初めから居なかったかの様に。

一体何が……?

そんな事を気にせず、ルミナス様はヒナタさんへと死者蘇生(リザレクション)を掛けている。

だが、全くもって効果が無い。

 

「何故じゃ? 死んでから幾ばくも経っておらぬのに……」

 

この人の力をもってしても蘇生できない……

クロエの消滅にヒナタさんの死。

もう、思考が纏まらず放心状態になりかけた時だった。

 

「ククク、そう悲しまないで欲しいな、ルミナス。全てはワシの狙い通り、最後の計画は実に順調なのだから」

 

そんな中、グランベルだけ楽しそうに笑っている。

 

「許さぬ、絶対に許さん! 貴様は八つ裂きにしてくれる‼︎」

 

周囲にはルミナス様の怒りが撒き散らされる。

そして、静かに、確実に大きな力の結晶体が創り出されたのが僅かながらに見えた。

 

「今さらどうでも良い! 今となってはもう遅い、遅すぎる……。こんな肝心な時に役に立たぬなど、妾にとってはどうでもいい力なのじゃぁ‼︎」

 

そして、憎悪をもってグランベルを睨みつける。

 

()()()()()話とは違うが、そんな事はどうでも良い。あの世に送ってくれるわ、グランベル‼︎」

 

そんな絶叫を聞いて、目を覚ました。

切り替えるために、一呼吸おく。

クロエの事や、ヒナタさんの死の事は今は後回しだ。とにかく、今は敵を倒す事に集中しなければならないのだ。

切り替えると同時に、大聖堂が大爆発を引き起こす。

そして、爆心から発せられているとても異様で巨大な妖気(オーラ)を感じ取れた。

混沌竜(カオスドラゴン)すら目じゃないレベルの強力かつ凶悪な圧力(プレッシャー)だ。

爆煙が晴れると、とんでもない美少女が目に入った。

一糸纏わぬ姿で、静かに佇んでいる。

見惚れそうなまでに美しい姿だったが、俺は()()1()()()()へと視線が釘付けになっていた。

 

「ゆ、ユウキさん……? なんで……」

 

ユウキさんへと罵声を飛ばすのはルミナス様だ。

 

「貴様か、妾の聖櫃を奪い、破滅の意志(クロノア)を目覚めさせたのは‼︎」

 

「やっぱりお前が絡んでいたのか……」

 

「チェ、バレてたのか。まあ、それならそれで好都合だね」

 

ユウキさんは怒気のこもった叔父さんの質問に対して、悪びれるわけでもなく飄々と言い放った。

どうやら、こっちが本性のようだ。

信じていたのに……。

正直言って、今すぐ泣きたいくらいだ。

 

「貴女がルミナスかい? 僕は神楽坂優樹(ユウキ・カグラザカ)、会えて光栄だよ」

 

「黙れ! どうやってクロノアの封印を解いた⁉︎」

 

「その質問だけど、僕は『能力封殺(アンチスキル)』という超特異体質なんだ。これの前ではどんな魔法や特殊能力も意味を成さないのさ」

 

「ほう、自らタネ明かしとは豪気なことよな」

 

「まあね。そこのリムルさんやアユム君には知られているから、隠す意味なんて無いのさ」

 

ルミナス様への回答も飄々としたものだった。

それを見ていると、だんだん悲しみ以上に怒りが沸々と湧き上がってくる。

今にも斬りかかりたいくらいだ。

 

「まあ、そんな事より僕も聞きたい事があってね。貴女ではなく、そっちのグランベルさんになんだけど」

 

「クックック、想像はつくが言ってみろ」

 

「聖櫃に封じられていた“勇者”だけど、制御どころじゃなかったぜ。一体どういう事なんだ?」

 

は、勇者?

あの少女が勇者?

ただでさえ混乱している脳みそに衝撃的な単語が入ってきた。

余計に混乱してきたぞ。

魔王が勇者を封印するとか意味が分からない。

 

「当然じゃ! あれは“勇者”であって勇者ではない。今の彼女はクロノアと名付けられた邪悪の化身とも言うべきものなのじゃ!」

 

ユウキさん   いや、ユウキの質問に答えたのはルミナス様だ。

その声は激しい怒りと焦燥がない混ぜになったものだった。

邪悪の化身クロノア、か。

やはりとんでもなく危険な存在らしい。

 

「大義であったぞ、ユウキ。聖櫃の封印はワシでも破れなかった。故に貴様を利用したのだ。封印から解かれた彼女ならば、何者にも負けはせぬ。全員ここで死ぬがいい‼︎」

グランベルは哄笑しながらそう叫ぶ。

腹は立つが、親切な人だ。全部喋ってくれたおかげで冷静になれたよ。

状況は、相変わらず最悪だけど……。

 

「やれやれ、化かし合いで負けるとはね」

 

ユウキがそうぼやく。

そろそろ膠着状態は終わる。

クロノアが軽く頭を振り、その目が開かれる。

そこから大混戦の幕開けとなった。



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第9話 目覚める時の勇者(クロノア)

今週のアニメ転スラ最高だ!
特に、挿入歌の「黎明」が流れたな!
そして、次回のサブタイが「魔王誕生」だった!
次回がもう楽しみで仕方ないです!


 

 

 

クロノアの腕輪から光が放たれ、漆黒の鎧衣がクロノアを覆っていく。

ヒナタさんの“聖霊武装”とよく似た代物だが、性能はこちらの方が上のようだ。

更に、一振りの剣を召喚した。

形状は月光の細剣(ムーンライト)と良く似ているが、漆黒の刀身であり、何より月光の細剣(ムーンライト)よりも性能は遥かに上だ。

どちらも、叔父さんの言っていた伝説級(レジェンド)より上の神話級(ゴッズ)と呼ばれる領域の武具だろう。

身の毛がよだつほどヤバい雰囲気がひしひしと伝わってくる。

直後、『予測演算』によって凄まじい未来が見えた。

俺は咄嗟に反応して回避行動を取った。

その瞬間、黒い閃光が駆け抜けていく。

あんなもんもろに食らったら一発でジエンドである。

多分、『多重結界』が進化した『絶対防御』も容易く破られただろう。『超速再生』が進化した『無限再生』があっても、耐えられないな。

因みに、ユウキは回避し損ねて頬に傷ができている。ザマァ。

どうやら、純粋な物理攻撃の前には『能力封殺(アンチスキル)』も意味を成さないようだ。そしてそのまま、クロノアの攻撃目標(ターゲット)がユウキへと固定されている。ザマァ。

だが、他者をバカにしていたからか、俺に不幸が舞い降りる。

後ろから魔力弾が放たれた。

それは俺の横を通り過ぎてクロノアへと向かっていく。

そんな物が当たったところでクロノアには効かない。

だが、そのせいで攻撃目標(ターゲット)が俺へと移ってしまった。

当然、クロノアは俺へと突っ込んで来て、細剣(レイピア)を振りかざす。

叔父さんが逃げろとか言ってるけど、もう間に合わない。

という訳で俺は、一瞬の内に準備を整える。

まず、自身の直刀“晴嵐”を『製作之王(ヘファイストス)』によって特質級(ユニーク)から伝説級(レジェンド)へと至らしめる。

同時に、クロノアから『学術之王(ラジエル)』で『複写』したユニークスキル『絶対切断』と『強化成長』によって『多重結界』を進化させて得たユニークスキル『絶対防御』を一緒に“晴嵐”へと付与し、クロノアの一撃を防いだ。

クロノアは更に攻撃を加えてくる。

俺には余裕などない。

だが、ほぼ全てを捌き切ることは出来そうだった。

剣速やキレ、パワーなんかはヒナタさん以上だが、その太刀筋はヒナタさんから教わった物と瓜二つどころかまるっきり同一の代物だったからだ。

見知っているためどう来るか簡単に予測ができる。

そのため、防戦に徹すればなんとかなりそうだった。

あとは金髪さんと叔父さんが協力してくれれば倒せるかも。

そう思いつつ、しばらくの間俺はクロノアの攻撃を防ぐことに専念した。

 

 

 

 

 

 

リムルはヴェルドラを召喚してクロノアへと対処しようとしたが、直後に心が絶望感に塗りつぶされた。

 

「アユム! 逃げろ‼︎」

 

そう叫ぶが、間に合うはずもない。既にクロノアがアユムの目と鼻の先のところまで接近している。

いざ斬られると思った瞬間、なんとアユムがクロノアの攻撃を弾き返したのだ。そしてそのまま、クロノアの攻撃を全て避けるか捌くかして防ぎ切っている。

 

(は? 何でアイツがクロノアの攻撃に対応できているんだ?)

 

一瞬そんな思考をしたが、答えは自身の究極能力(アルティメットスキル)智慧之王(ラファエル)』によって直ぐに出た。

 

(嘘だろ。アユムの奴、聖人に覚醒していやがる……! しかも、あの感じだと究極能力(アルティメットスキル)まで獲得してるみたいだな。それでもあの猛攻を全て捌くとか、どうなってるんだ? まあいいや、アユムが時間を稼いでいる内に、早くヴェルドラを呼び出さないと!)

 

リムルは直ぐに思考を変えて、魂の回廊を通してヴェルドラに呼びかけた。

そして、目の前に暴風が吹き荒れてヴェルドラが現れた。

 

「クァーッハッハッハ! 我、見参‼︎」

 

「来てくれてありがとな」

 

「我と貴様との仲だ、助けに来るのは当然だろう? それよりも、アレは我を封じた“勇者”ではないか?」

 

「みたいだな」

 

「やはりか。仮面はしておらぬが、チラリと見えた口元が同じだったからな。我が目に狂いなく、美しいではないか!」

 

ヴェルドラは来るなり、早口で自慢気に語る。

そんなこと言ってる場合じゃない!   というツッコミを飲み込みつつ、リムルはヴェルドラに告げる。

 

「美人なのは同意だが、今は敵だ。ルミナスが封じていたらしいんだか、どうやら暴走状態になっているらしい。お前への対策だったみたいだし、責任取ってなんとかしてくれ」

 

「失敬な。我のように品行方正な者に対して何を大袈裟に対策する必要があるのだ?」

 

(どの口がそんなことを……まあいいや。突っ込む時間も惜しい)

 

「冗談はさておき、アイツの相手をして時間を稼いでくれ!」

 

「クァーーーッハッハッハ! 任せろ、この者とは因縁もある。もう一度戦いたいと思っておったのだ。なんなら、我が倒してしまってもいいのだろう?」

 

(今フラグが立った気がするが、まあいいや)

 

「勿論さ。それじゃあ頼む!」

 

「うむ、成長した我の力を見せつけてくれる‼︎」

 

そんな会話をした後、リムルはアユムへと駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

「アユム!」

 

そう言いながら駆け寄って来るのは叔父さんだ。

 

「じぬがと思っだぁ〜」

 

そう言って俺は叔父さんに泣きついた。

だが、冷めた反応が返ってくる。

 

「そう言う割には、上手く対応していたじゃないか?」

 

チッ、気付いていたか。

 

「いやでも怖かったのはマジだから。メチャクチャギリギリだったんだから」

 

「はいはい」

 

「何ですか、その冷めた反応! ちょっとくらい慰めてくれてもいいでしょうに……」

 

そして、俺達がそんなやり取りをしているのと同時にもう一組が会話をしている。

 

「レオン様、ご無沙汰しております」

 

「お前は……イフリート、なのか?」

 

「はい。今は“カリス”の名を頂き、ヴェルドラ様に仕えております」

 

「そうか、健勝そうで何よりだ」

 

「私は、レオン様の真意に気づけず、井沢静江(シズエ・イザワ)と理解し合えることができませんでした。ヴェルドラ様に導かれ、自分の愚かさに気付いたのです」

 

カリスの言葉にレオンさんは無言で頷いた。

 

「リムルよ、時間を稼いでくれ。奥の手を用意する」

 

「分かった。俺はアユムと一緒にヴェルドラの援護に向かう。カリス、お前はレオンの準備が整うまで守ってやってくれ」

 

「承知!」

 

「すまん、助かる」

 

「それじゃあアユム、行くぞ!」

 

「分かった!」

 

 

 

 

 

「ギャワー! き、斬られたぁ! リムルよ、斬られてしまったぞ!」

 

そんなマヌケな叫び声が聞こえる。

ヴェルドラさんだ。

素手で剣を受け止めるとか何考えてんだこの人?

いくら竜種といえども、そんなことしたらスッパリ斬られるに決まっているのに。

全然頼れねえな。

 

「お前ねえ、油断しすぎにも程があるだろうが! 神話級(ゴッズ)の剣を素手で受けるとか無策すぎるだろ!」

 

叔父さんも呆れ果ててる。竜種の威厳はどこいった?

 

「だ、だがな、リムルよ。前に戦ったよりも切れ味が……」

 

「勇者の攻撃って『絶対切断』だったんだろ? それで斬られたらそりゃ腕がスッパリと持っていかれるに決まっているだろ」

 

「いや、でも斬られても無事で……」

 

「サイズ差の問題じゃないですか? 巨大な身体の竜形態を剣で斬れる範囲なんてたかが知れてますよ。小さな身体の人間形態じゃぶった斬られますね、はい」

 

そうツッコミを入れるとヴェルドラさんは押し黙った。

ぐうの音も出ないとは正にこのことだろう。

かなり落ち込んでる様子だ。

そんなタイミングでレオンさんの準備も整ったようだ。

今までやっていたのは武器の召喚だったらしい。

 

「待たせた。持って来ていた剣では心許なかったからな。私も、勇者時代に愛用していた聖炎細剣(フレイムピラー)を使わせてもらおう」

 

どうやら神話級(ゴッズ)の武器らしい。

流石は元勇者にして魔王である。

さて、これで準備が整った。

ここから反撃開始じゃい!

そう思った瞬間、ルミナス様が叔父さん目掛けて吹っ飛んで来た。

そして、思念で何かを伝えている様子だ。

驚き戸惑ったけれど、直ぐに行動した。

 

「レオン、クロノアには攻撃を加えず、防御に専念してくれ」

 

「何か考えがあるんだな?」

 

「ああ、いきなり信じろと言われても戸惑うだろうが……」

 

「いや、信じるさ。お前も俺のことを信じてくれたからな」

 

「ヴェルドラ!」

 

「うむ!」

 

「お前は俺の合図でクロノアを抑え込んでくれ! 分かっているだろうが、かなり危険だ」

 

「任せろ、リムルよ。我は貴様を信じている。だから、必ずその策を成功させるが良い!」

 

「アユムは2人のサポートを頼む」

 

「ラジャー!」

 

「3人とも付き合わせて悪いな」

 

「気にするな。いつもの事だ」

 

「俺は気になっていることがある。それを確かめるために、お前の策に乗った。それだけだ」

 

「俺もヴェルドラさんと同じですよ。叔父さんを疑う理由なんて無いし、こういう時の叔父さんほど頼れる人はいないから信じるまでです!」

 

そう返して、俺は2人の援護をする。

とりあえず、俺の『予測演算』によるクロノアの動きの予測を『思念伝達』で2人に伝える。

更に、クロノアの足元を『製作之王(ヘファイストス)』の『形状支配』で不安定にさせる。

ついでに、疲労回復とダメージの回復、身体能力強化の魔法をレオンさんに付与する。

クロノア相手には気休め程度だが、無いよりはマシだろう。

ともかく、これで多少は戦い易くなったはずだ。

だが、それでもレオンさんはかなりギリギリみたいだ。

かすり傷すら無いが、紙一重といった印象だ。

俺のサポートとがなかったらどうなっていた事やら……。

流石はヴェルドラさんを封印しただけのことはある。

このままでは敗北必至である。

だが、これは叔父さんの立てた作戦だ。

必ずや成功する   いや、させてみせるのだ!

 

「ヴェルドラ、今だ!」

 

その合図と共に、ヴェルドラさんがクロノアの動きを封じて、俺も『製作之王(ヘファイストス)』の『形状支配』で地面を動かして、クロノアの足を固定した。

すると叔父さんは、いつの間にか手にした仮面をクロノアへと被せた。

アレは確か、叔父さんの運命の人であるシズさんから渡された仮面だったっけ。

ともかく、後は叔父さんに任せるのみだな。

 

俺は、大聖堂の奥へと目を向けた。

シオンとランガが、ラズルという蟲型魔人相手に戦っていた。

ランガはボロボロだ。シオンは傷は無いが、余裕も無い。それに、残っているエネルギー量を見ればかなりヤバい状態だ。

 

「俺も加勢しようか?」

 

「いえ、アユム様。今、私は力を手に入れました。これは遥かな高みへと至るための第一歩。ここで勝てなければ、ディアブロにバカにされるだけでなく、リムル様のお役に立つこともできません! 次の一撃で決めてみせます。ですので、任せて頂けませんか?」

 

どうやら無策では無いらしい。

それに、今まさに新たな力を手に入れたのは事実だろう。

ダメだったなら俺が出れば良い。

 

「分かった。ただし、それが効かなかったら、そこからは俺が相手をする」

 

そうシオンに告げて、傍観する事にした。

 

「何を言ってイル? お前の攻撃ハ、俺には届かぬゾ」

 

「笑止。お前に教えてやろう。勝利の女神は、最後まで諦めない者へと微笑むのだと! 闘神解放ッ‼︎」

 

その瞬間、シオンから凄まじい力が溢れ出す。

身体へのダメージは深刻だから、あと一発が限度だろう。

だが、これならば一撃を当てるだけでも勝てるかもしれない。

 

「今です、ランガ!」

 

「承知!」

 

シオンの掲げた大太刀にランガの“黒き稲妻”が振り注がれる。

この稲妻で更に破壊力を上げる気らしい。

 

「小癪ナ! 俺の外殻ヲ……」

 

ラズルがそう言うも、シオンは耳を貸さない。

そして、最大威力の一撃を叩き込んだ。

 

天地活殺崩誕(カオティックフェイト)‼︎」

 

紫電が瞬き、折れた刃が宙を舞う。

だが、ラズルは倒れた。

身体の中央線を真っ二つに切り裂いた大きな傷から破壊の電撃が、ラズルの重要器官を焼き尽くしていた。

この一撃が決め手となり、シオンとランガのコンビが勝利したのだ。

 

視線を大聖堂の外へと向ける。

戦っているのは、ルミナス様とグランベルだ。

ルミナス様は、叔父さんがクロノアに仮面を被せたのを見て、小さくガッツポーズをしていた。

 

「嬉しそうですね、ルミナス様。クロエが戻ると本気で信じているのです?」

 

「何?」

 

「クロノアとは、破壊の意思そのもの。それを封じていた聖櫃が消えた今、彼女を止めるにはクロエを呼び覚ます他無い。しかし、クロノアの中にクロエの魂が眠っていると、本当にお考えなのですか?」

 

やっぱりグランベルは、腹立つけど親切だ。

今の発言でどういう事か全て繋がった。

クロノアの顔、どこかで見たような気がしたと思っていたのだ。

言われてみれば、クロエの面影を残している。

それに、あの時クロエが消えたのは過去に飛んだからだと考えれば合点がいく。

封印していたのは、こちら側にクロエが転移してくるためだろう。

 

「何故それを……いや、そうか。それで貴様は……」

 

「ええ、貴女様の想像通り、世界を滅ぼすのにこれほど手っ取り早い方法は無い。私よりも遥かに強い者に全て任せてしまえばいいのですから!」

 

哄笑するグランベルの目は澱んだ狂気に染まって見える。

 

「黙れ。貴様の思い通りになると思うでない!」

 

「そう、この世界は常に私の願いを踏み躙る。今も、私の友が逝きました。だから、こんな世界など滅んでしまえばいいのです」

 

「勝手な事を言うでない。絶望するなら自分1人で勝手にしろ!」

 

ルミナス様はそう叫び返すと、一振りの刀を取り出した。

それも神話級(ゴッズ)である。

 

「絶望? いいえ違います。私はたった今、心が希望で満たされているのです!」

 

グランベルも、応じて新たな剣を取り出す。

こっちも神話級(ゴッズ)だ。

しかも、ラズルのエネルギーも取り込んだグランベルには、新たな究極能力(アルティメットスキル)が生み出された。

どちらも、今まさに究極能力(アルティメットスキル)を獲得して、その手には神話級(ゴッズ)の武器。

条件は全く持って互角だ。

そして、決着する。

 

死せる者への鎮魂歌(メモリーエンドレクイエム)‼︎」

 

堅忍不抜(フォーティデュード)‼︎」

 

交わる剣から凄まじい閃光が放たれる。

そして、閃光が収まった時、その場に立っていたのはルミナス様だった。

 

叔父さん達の方へと視線を戻す。

どうやら何とかなったみたいだ。

 

「無事だったか、リムルよ」

 

「どうなった? クロノアが急に動きを止めてたおれたが……」

 

「説明は後だ。引き続き、周囲を警戒してくれ」

 

「任せろ」

 

「了解です」

 

「良かろう。ただし、後でしっかりと説明してもらうぞ?」

 

叔父さんに俺たちは応じる。

一方、叔父さんは倒れたクロノアの隣にヒナタさんの遺体を横並びにした。

そして、ルミナスさんへと向き直った。

 

「ルミナス、ヒナタの蘇生に手を貸してくれ!」

 

ルミナス様はグランベルと何か話しをしているみたいだ。

しばらくすると、グランベルの身体は光の粒子となって消えた。

 

「待たせたな」

 

メチャクチャ尊大な態度だ。

まあ、魔王で神様だから、むしろこのくらい尊大なくらいが丁度良いのだろうね。

 

「なんじゃ? 文句でもあるのか?」

 

叔父さんの顔面が『もっと早く来て欲しかったよね』という心境を表している。

まあ、俺もそれは思ったもん。

 

「いいえ」

 

口には出さないのか。

同じ魔王なんだから言っても問題ないだろうに。

 

「俺がクロノアの『無限牢獄』に干渉するから、その間にヒナタの魂を回収してくれ。足りないエネルギーに関してだが   

 

「そこは妾が何とかしよう」

 

「助かる。それじゃあ、始めるぞ」

 

2人が作業を始めた。

因みに、どちらも究極能力(アルティメットスキル)をフル稼働させての作業のようだ。

『解析鑑定』にガッツリ失敗しているのがその証拠。

流石は魔王である。

しばらくすると、クロノア   いや、クロエが目を覚ました。

同時に、ヒナタさんの蘇生も完了する。

 

「リムルさん!」

 

そう言って叔父さんに抱きつくのはクロエだ。

何故か“先生”から“さん”に変わっている上に、幼い姿に戻っている。

が、そんな事はどうでもいい。

俺にとってこれは、少女が中年のオッサンに抱きつく絵図なのだ。

もうね、ヤバい絵にしか見えないんだわ。

 

「どういうつもりだ、リムルよ?」

 

「詳しく聞かせてもらえるかしら?」

 

レオンさんとヒナタさんが殺気立って言う。

俺も続かせて貰おう。

 

「良い覚悟してますよね?」

 

叔父さんには汗一滴たりとも出ていないが、内心は冷や汗がびっしょりになっていそうだ。

 

「お、落ち着こう? ここじゃあなんだし、今日は疲れた。時と場所を変えて、ゆっくり状況整理しよう」

 

とりあえずは解散になった。

 

因みに、タクトさん達は戦闘が終わるまでっていうか終わってからもずっと練習していた。驚愕物である。

叔父さんは、彼らを褒め称えた後、解散を命じた。

 

「さっきから思ってたんだが、クロエの存在力が増えてない?」

 

その質問をしたのは叔父さんだ。

そういえば、増えてますね。

蘇生させる時にルミナス様が大量のエネルギーを加えたから……いや、違う。

この気配は、究極能力(アルティメットスキル)だ。

 

「気のせいであろう」

 

にも関わらず、そうルミナス様から返ってきた。

だが、ヴェルドラさんが叔父さんの発言に同意した。

 

「いや、リムルの言う通りであろう。間違いなく   

 

「黙れ! トカゲの意見など聞いておらぬわ!」

 

ルミナス様が突然不機嫌になった。

明らかに増えているのだが、この話題はそろそろやめておくべきみたいだ。

 

「いや、リムルやヴェルドラ殿の言う通りだ。見た目は相変わらず超絶的な美少女だが、その本質はクロノアよりも上だろう」

 

衝撃的な発言が聞こえた。

しかも、声の主はレオンさんだ。

この人、こんな事言う人なの⁉︎

こんな事言うなど絶対あり得ない人だと思っていた。空いた口が塞がらないよ。

『超絶的な美少女』とかクロエに甘すぎる……ってそういえばずっとこの人クロエにくっついて離れないな。

 

「レオンお兄ちゃん、昔からそうだったけど、私に構いすぎ。そんなんじゃ彼女出来ないって、いつも忠告してたでしょう!」

 

クロエはレオンさんに対して厳しいな。

とりあえず、どうしても気になる事をクロエに聞いてみた。

 

「く、クロエ。もしかして、レオンさんと兄妹なの?」

 

「ん、いや。そうじゃなくて、レオンお兄ちゃんとは幼馴染なの」

 

自分で言っといてなんだが、頭上に核爆弾が落とされた様な衝撃が俺を襲った。

空いた口が塞がらないどころか、顎が外れそうな勢いである。

逆トラバサミが無くとも口パッカーン状態になりそうだ。

クロエは周囲をクルリと見回した後、口を開いた。

 

「今なら大丈夫みたいだから言っておくね。私、“勇者”として本当の意味で覚醒したみたいなの。自分の中で育っていた卵と、ヒナタの持っていた卵がくっついたみたいなの。他の人には秘密だよ?」

 

はい、核爆弾2発目投下されました!

もう頭がついてこない。

もうヤバいわ……。

そして何より、クロエという1人の人間に驚きだ。

今のクロエは見た目通りの少女ではなく、本物の“勇者”なのだ。

それも、これまでに無いほど凄まじい実力を持った勇者だ。

生徒の成長は嬉しくも、寂しいものである。

 

「よく頑張ったな、クロエ。俺もお前を見習って、何があっても諦めないと誓うよ」

 

というのは叔父さんの発言だ。

叔父さんも同じ心境のようだ。

 

こうして、戦いは終わった。

とにかく、凄く疲れた。

肉体以上に精神的にだ。

今日はさっさと部屋に戻って休みたいものだ。

 

 

 



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第10話 魔王会談(前編)

転スラ原作小説18巻を読んだのですが、カガリとラプラスの過去が衝撃でしたね。
それにしても究極能力出すぎじゃね?
さらに言うと、天使達や中庸道化連のメンツの存在値高すぎない?
アニメはリムルのスライム状態での表情ってかリアクションがたくさん増えて面白かったですね。
あと、ディアブロが可哀想だった。面白かったけど。
さて、こちらの会談エピソードは3回に分けてお送りする予定です。
その後、番外編を挟んで第3章突入します!


 

 

 

その後、軽い情報交換を行った。

クロエは、大人の姿にも戻れるらしい。

暴れていたクロノアの自我も健在だが、もう暴走する心配は無いらしい。

あの時、叔父さんがクロエの精神内部に潜り込んで、心象風景で出会って落ち着いたんだと。

本気で戦う時にはクロノアの意識も融合させることで、本来の姿に戻るのだと。

まあ、突然大人になったら他の子供達が混乱するだろうから、普段は子供の姿で過ごすそうだ。

ルミナス様から聞いたのはグランベルのことだ。

 

「彼奴は、妻のマリアが死んでしまった時点で狂っておったのじゃろう。そして、希望だったマリアベルが死んで再び狂った。そして恐らくは正常に戻ったのじゃ」

 

グランベルは、生真面目で不器用な人物だったそうだ。

妻が死に、愛する者を守れなかったという自責で狂った。

その希望となったマリアベルも叔父さんに敗れた。そして恐らくはユウキに殺された。

その喪失感が、グランベルを正気に戻した。

正気に戻ったグランベルが最後に考えたのが、クロエを“真なる勇者”へと覚醒させる計画だったのだ。

失敗すれば、世界が崩壊してもおかしくなかった。

だが、実行に移した。

それは、凄まじい覚悟を持って決断したのだろう。

グランベルは人類への愛が大きく、それ故に狂気に染まった時の反動も大きかった。

俺や叔父さんだって他人事ではない。

俺も、叔父さんが死んだ時は茫然自失となった。叔父さんだって、2万人の人間を殺して100人の仲間を生き返らせた。

 

「なるほどな。愚かだ、とは言えないな」

 

「そうだね」

 

 

 

翌日、予定通り音楽交流会が開催された。

青空の下で、大勢の観客を前に響くのは物悲しい音色だ。

それは、未来に希望を託した者達への葬送曲となった。

 

 

 

さらに翌日

魔国連邦(テンペスト) 中央都市リムル

今日、この場で会談がある。

勿論、ルベリオスで起きた事の情報整理の為だ。

特に最重要なのは、クロエとヒナタさんの話だな。

因みに、子供達は1週間のお休みを与えている。

訓練と実戦との差を目に焼き付けたようで、普段の元気が無かったからだ。

まあ、ね。

あの場には魔王が3人、勇者が2人、聖人が2人、他にも仙人級や魔王種が複数人にAランク以上がゴロゴロ集まっていた。

そんな奴らの戦いを見て正常な方が異常だ。

 

さて、場所は執務館にある豪華な応接間。

魔王リムル(叔父さん)、魔王ルミナス、魔王レオン。

3人の魔王が集まっている。

さらに、叔父さんの配下のシオンとディアブロ、ルミナス様の配下のルイさんとギュンターさん、レオンさんの配下のクロードさんとアルロスさんがいる。

最後に今回における最重要人物であるクロエ、ヒナタさん。

ついでにヴェルドラさん。

色々頼み込んだ結果、俺も参加させてもらうことになった。

今回は事が事だけに、それぞれの大半の配下にも秘匿するため、参加人数は少なくなっているのだ。

 

さて、まずはクロエからの説明だ。

あの時、何が起きたのかを説明してもらった。

クロエはヒナタさんの魂を取り込んで、同時に2000年過去に飛んだ。

そして、ルミナス様と出会い助けた。その後、1700年もの間勇者として活動して、ヴェルドラさんを封印。

その後クロエが転移してくるため、入れ替わってヒナタさんが活動して、叔父さんの運命の人であるシズさんを助け出し、眠りについたのだそうだ。

因みに、クロエはこの2000年のループを何度も何度も繰り返しているのだそう。

理由としては、叔父さんが何かしらの原因でいなくなったのだそうだ。

前回は、イングラシア王国首都郊外におけるヒナタさんと叔父さんとのバトルは起こらなかった。

叔父さんは帰ってファルムスの異世界人を叩きのめし、人類と友好関係を結べるようあの手この手を試したものの、ファルムスの妨害などで上手くいかず、ヒナタさん率いる討伐隊が派遣される。

だが、クロエをはじめとした子供達が介入して違和感を抱いたヒナタさんがファルムスを調査して、ファルムスの悪事を暴き、ヒナタさんは叔父さんの事を信用するようになる。

しかし5年後、帝国との戦争で叔父さんがいなくなり、ヴェルドラさんが暴走。それをルミナス様、ヒナタさん、クロエ、そして俺の4人が止めるために戦ったのたが、ヒナタさんが何者かに殺されて、それをきっかけにクロエが過去に飛ぶというものだったらしい。

 

   こうして、私は無事に“無限の輪廻”から抜け出せたの」

 

その言葉でクロエの説明は絞められた。

誰もが何かを言いたそうな顔をしつつも、周囲の出方を窺っている。

そんな空気を読まずに口火を切るのはヴェルドラさんだ。

 

「という事は、我を封じた“勇者”というのは……」

 

重要じゃなくない、ソレ。

 

「ええ、私よ。これで貴方とは一勝一敗ね。敗北を味わえて良かったじゃない」

 

ヒナタさんがそれに反応した。中々にウザいドヤ顔を浮かべている。

 

「な、何ぃ⁉︎」

 

「あら、何か文句でもあるのかしら? なんなら、ここで決着をつける?」

 

「ぐぬ、いいだろう。そこまでいうのなら、我の真の力を   

 

やれやれ、話が外れ始めた。それにしても思ったのだが……

 

「決着をつけるって、戦わなくても結果は見え見えじゃあ……」

 

「どういう事かしら?」

 

ヒナタさんが俺の言葉にキレ気味で反応した。

 

「だって、300年前にヒナタさんが勝てたのはクロエの『絶対切断』と『無限牢獄』があったからでしょ? 今回やったところで勝つのはヴェルドラさんでは?」

 

「言ってくれるわね……」

 

「クァーッハッハッハ! 確かにそうであるな」

 

「お前ら、その辺にしろ」

 

そんなやり取りをしていると、叔父さんが仲裁に入った。

このままでは話は脱線し続けただろうし、ナイスタイミングである。

 

「まあ、とにもかくにも結果オーライだな。それで気になっていたんだけどさ、俺って未来で殺されたそうじゃん? やっぱり帝国の人間が犯人なのかな?」

 

それはとても重要である。

最近の帝国の動向は怪しいので、叔父さんが殺されたのであれば、余計に警戒が必要だ。

 

「多分ね。それに、ヒナタを殺したのも同一人物だと思う。帝国にはかなりの実力者がいたみたいだし、複数名によるものかもしれないけど、ヒナタを貫いた閃光は私には見えなかったもの」

 

「なるほど。今の俺は魔王になっているけど、油断は禁物だな」

 

「それがいいと思うよ。帝国は、リムルさんが思っている以上に危険な相手なの。リムルさんが殺された後、ヴェルドラさんが暴走したんだけど、それを撃退したのも帝国だし」

 

クロエの話では、ヴェルドラさんと戦っている最中にヒナタさんが殺され、クロエが過去に飛んだとのことだ。その後の記憶は、クロノアの覚えている断片的なものだけだそう。

それでも、暴走する2人が激突し、その隙を突いたのが帝国であるのは間違いないとのことだ。

それにしても、そんな戦いに介入するとか絶句ものだね。

どうやら、帝国の戦力の想定はかなり上方修正する必要がありそうだ。

そして、それについては魔王3人も同意のようだ。

重苦しい空気が漂う中、余りにも見当違いな発言が出た。

 

「我が暴走するなど信じられんな」

 

ドヤ顔でヴェルドラさんがそう言う。

 

(((何言ってんだ、お前)))

 

この場にいた全員がそう思った。

うーむ、空気が読めない人だとは思っていたが、まさかここまでだとは……。

 

「待て待て! 何故我をそんな目で見る⁉︎ 我のようなジェントルマンがそうそう暴走するはずなど無い!」

 

全く信憑性のない言葉だ。

大昔は各地を暴れ回っていたそうだし、その時も感情のまま暴れ回ったのだろうと、誰でも想像できるのだから。

まあ、復活したら叔父さんが殺されたと知ってブチ切れたのかもしれないが。

 

「はいはい、そういう事にしておくよ」

 

叔父さんは、そう言ってヴェルドラさんを宥めた。

次に、クロノアの覚えている記憶についてだ。

ヴェルドラさんが帝国に倒された後、世界は戦乱の時を迎えた。西と東の戦争は、帝国有利に進められた。

そんな中、ミリムさんが動いたのだ。

叔父さんの死を引き金に帝国へと敵意を剥き出しにしたそうだが、魔王ギィが介入して、ミリムさんと衝突する事になった。

ルミナス様と魔王ダグリュールも軍事衝突し、世界中に戦火が拡大した。

そして、クロノアは何者かとの戦いで命を落とした。

戦いのある所へと駆けつけては命ある限り戦い続けたそうだ。

彼女に残っていたのは“破壊の意思”のみであり、誰彼問わず強者を倒しまくったとのことだ。

だから、誰に殺されたのかは覚えてないとのこと。

しかし、アレを倒すなんてどんなバケモンだよ!

もしかして、他の竜種とか? いや、でもクロノアは竜種のヴェルドラさんですら敵う相手ではないのだ。

となると一体誰が……?

 

「クロノアを倒せるとなると、ギィくらいかな?」

 

「ギィであろうよ」

 

「ギィしかいないだろう」

 

なんと、魔王3人の答えが一致した。

 

「ギィって、“暗黒皇帝(ロード・オブ・ダークネス)”ギィ・クリムゾンだよね? そんなに強いの?」

 

「ああ。魔王達の宴(ワルプルギス)で会ったが、見てすぐ分かったよ。アレは魔王の中でも別格に強い」

 

俺の言葉に叔父さんが答えた。

そして、叔父さんの言葉にルミナス様とレオンさんが同意する。

この3人は、俺から見ても無茶苦茶強い。

その人達が別格と言い放つとは、驚愕である。

 

「それで、クロノアが俺に好意的だったのは?」

 

「それはね   

 

『私がリムルに助けられたからよ。未来で暴れるだけだった私を救ってくれたのは、間違いなく貴方だった』

 

クロエの言葉をクロノアが引き継いだ。

 

「ちょっと、私が説明しようと思っていたのに!」

 

『いいじゃない。どうせ私も貴女なんだから、一緒でしょ?』

 

うーむ、側から見てるとクロエが一人二役を演じているかのようだ。

そこからは、クロエとクロノアが交互に語ってくれた。

どうやら、未来では叔父さんは死んでいなかったそうだ。

帝国によって倒されたものの、復活を果たしたとのことだ。

ただし、その頃には世界は大きく変貌していた。

ヴェルドラさんが消滅して、魔国連邦(テンペスト)は崩壊。

東西の大戦勃発し、魔王同士でも壮絶な勢力争いが生じていた。

となると、その時の叔父さんは、縁のあった者達の生き残りを探すだろう。

そして、クロエ=クロノアとで会ったのだ。

クロノアの記憶から肝心な点が抜け落ちていたが、大まかな流れは読み取れた。

叔父さんはクロノアと出会い、何度も何度も戦い、最終的にクロノアの心を取り戻す事に成功した。

だが、既に世界情勢は決していた。

 

『皆の予想通り、私は魔王ギィと戦った。どうしてそうなったかは覚えていないけど、その時にリムルがいなかったのは確か。そして、私が死ぬ間際にリムルに抱きしめられた。『昔の俺を頼む』って言われて、気づいたら昔のリムルと自分(クロエ)の姿が見えたって感じね』

 

なるほどね。

クロエは『時間旅行(トキノタビビト)』というユニークスキルを持っている。

それによって、今の時代から2000年前に戻ったとの事だし、今のクロノアの話からもそれが発動したと予想がつく。

ただ、このスキルは制御が効くものではないらしい。

となると、どうしてそこに辿り着けたのだろうか?

まぐれの可能性もあるが、やはり叔父さんがその時何かしたと考えるのが自然だ。

 

「なあ、その時の俺って、魔王に進化してたか?」

 

『してたわ。私と出会った時は、今のリムルよりも強かったわよ。それに、アユムも生きていて聖人に覚醒していたわ。2人が連携したら私が5分と持たない程に強かったわよ』

 

あ、てことは俺も生きていたのね。

となると、俺も究極能力(アルティメットスキル)を手に入れてたのだろうね。

しかし、そんなに強かったのか。

今の俺や叔父さんも大概な強さだと思うのだが……。

 

「まあ、結果オーライだな」

 

「軽いわね」

 

「そう言うなって。クロエは無事だし、ヴェルドラは既に復活済み。ちゃんと見てれば暴走する事なんてないだろう。残る心配は、帝国だけだな」

 

「そうじゃな。ダグリュールが攻めてくるのなら、そちらは妾が対処しよう。クロエを助けてくれたのじゃ。そのくらいの礼はさせてもらおう」

 

そういえば、それもあったな。

でもまあ、ルミナス様は信頼できるから大丈夫だろう。

元々、西側諸国はルミナス様の支配領域であり、北部の一部地域では魔王ギィとの抗争が生じているそうだが、それは魔王ギィにとってはお遊びのような事らしいので、気にしても仕方がないとの事だ。

それ以上に魔王ダグリュールの事が問題で、いつか戦端が開かれるのではと警戒していたそうだ。

 

「未来で戦争になったというし、帝国が動けば便乗するやもしれぬな」

 

「でもさ、ダグリュールの息子三兄弟は、今この国に身を寄せているんだぜ? そう簡単に武力行使をしてくるだろうか?」

 

そういえば、シオン親衛隊とか言うファンクラブにその3人が居ましたね。

 

「ダグリュールの息子達が? それは本当か?」

 

「本当だよ。シオンの部下になっていて、訓練を頑張っているよ」

 

「はい。あの者共もまだまだですが、最近ではかなり良くなってきました。中々可愛い奴らですよ」

 

「本当のようじゃな」

 

「前回のループではその三兄弟もこの国に居なかったから武力行使をしても、今回は無いのでは?」

 

「うむ、そこの者が言う通りやもしれぬな。他にも、何者かに踊らされた……いや、未来の話だから、何者かに踊らされる可能性があるという事じゃな」

 

ルミナス様は思案しながらそう述べた。

未来では戦争になっても、現在は平和である。

 

「その件については、こっちでも調べてみるよ。あいつらに聞けば、何か分かるかもしれない」

 

「では頼むとしよう。妾としても、無理に戦をする気は無い」

 

魔王ダグリュールについては大体決まった。

 

「後はギィに関してだが……」

 

「そこは、俺から話しておこう」

 

「そうか、そいつは助かる」

 

一応、魔王ギィにも事情を話すようだ。

どこまで話すかは、ちょっと悩ましいところかな。

 

「ギィは“調停者”だからな。今の我にとっては眼中に無いが、大昔、奴に滅ぼされた事があったような無かったような。まあ、覚えてないからノーカンだな」

 

突然訳の分からない告白をヴェルドラさんがした。

 

「ほう、ギィも中々良い事をするものじゃ」

 

ところで……

 

「“調停者”って?」

 

叔父さんも俺と同じ疑問を持ったようだ。

 

「“調停者”というのは、勇者や魔王とは別枠で存在する仕組み(システム)じゃ。この世界の崩壊を阻止するのが目的であり、創造主たる“星王竜”ヴェルダナーヴァの代弁者とも呼ばれている」

 

「その通り。我が兄たるヴェルダナーヴァが創った世界が壊れないようにと定めたのだよ」

 

あらら、それでヴェルドラさんは魔王ギィに潰されたわけね。

 

「未来でギィがクロノアを殺した理由は、“破壊の意思”そのものであるクロノアを放置すると、世界が崩壊に繋がると警戒したからだろうな」

 

レオンさんが、そう締めくくった。

 

「となると、魔王ギィが今のクロエを狙う事は恐らく無いわね」

 

「うん。私も、クロノアが暴れていた記憶があるし、魔王ギィ、さんには恨みとかは無いよ」

 

ヒナタさんやクロエも納得した様子だ。

暴走さえしなければ、魔王ギィとは戦わずにすみそうだ。

 

「そういう事なら、ギィへの説明の方はレオンに頼んでいいかな」

 

「任せろ。俺とクロエの未来が関わっているからな」

 

「レオンお兄ちゃんは関係ないでしょ?」

 

キリっとしたレオンさんの発言にクロエが突っ込んだ。

それにしても、レオンさんが不憫でならない。

この人多分、心の底からクロエLOVEなんだろうな。

けど、クロエはレオンさんの事を、近所に住んでいる親切だけどちょっと鬱陶しいお兄ちゃんという扱いで、恋愛感情などかけらも無いどころかレオンさんの気持ちに全く気付いていない。

しかも、クロエはリムル(叔父さん)LOVEだから、気付いたとしてもその思いは絶対届かない。

余りにも哀れすぎる。

 

そんな中、この町へととんでもない人物が現れる。

 

 

 




かなり遅れましたが、総合評価200超えとお気に入り150件超えありがとございます!


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第11話 魔王会談(中編)

ガルパン最終章第3話観てきました!
メチャ面白かったです! やっぱりガルパンはいいぞ!
大洗VS知波単の戦闘シーン最高! 
あと、エリカさんなりの戦車道のシーンも良かった。まさかプラウダVS黒森峰があんな決着になるとは……!
そして、継続が色んな意味で怖い……!
そして最後に……
あんこうチームがッ‼︎

さて、会談エピソード2話目です。
それでは、楽しんで下さい! Panzer vor(パンツァー・フォー)‼︎


 

 

 

『万能感知』がとんでもない何かが転移して来たのを捉えた。

敵意なんかは感じ取れないが、マジでヤバいとしか言いようが無い。

一見、大した事無いように見える。

エネルギー量は魔王種程度で、しかも妖気(オーラ)の波長にムラがある。

つまり、一見すると未熟者であるという事だ。

が、『学術之王(ラジエル)』の解析では欺瞞(ダミー)だと分かる。

外に出している情報だけでも解析能力を持っている大概の奴をビビらせる事ができる。

にも関わらず、この人物にとってはこのレベルは雑魚という感覚なのだろう。

本当の実力は、遥か上の次元であると見て取れる。

 

「それじゃあ、会議はこれで   

 

「お待ち下さいませ! 今はお客様がお見えになっており、重要な会議の最中なのです」

 

シュナさんの声だ。

急に来たヤバそうな人物を止めている。

 

「オレに気付くとは大したモンだが、せっかく来てやったんだからちょっとばかし挨拶させてもらうぜ」

 

やって来たとんでも人物は、メチャクチャ尊大な態度で廊下を歩いてくる。

すると、ディアブロが不愉快そうな顔をして扉へと向かった。

 

ガチャッ

 

「よお!」

 

「帰れ!」

 

パタン

 

「「「………」」」

 

なんというか、吉○新喜劇でありそうな展開だった。

あまりにもな出来事に、その場にいた全員がフリーズした。

そして再び扉が開く。

 

「オイオイ、そりゃあねぇだろうディアブロ」

 

「チッ、重要な会議の邪魔です。昨日の今日で、まだ準備すらできていません。貴方とはゆっくり語り合いたいので、招待するまで来ないで下さい」

 

ディアブロはヤバそうな赤髪さんに対して、言葉遣いは丁寧だが、スゲェ強気に出ている。

あの感じだと知り合いみたいだな。

因みに、これに対してルミナス様やレオンさん、叔父さんも驚いている。

 

「信じられん。ギィ相手に一歩も引かぬとは、流石は原初の黒(ノワール)だな」

 

原初の黒(ノワール)だと⁉︎ 何故そんな大物がリムルの配下に⁉︎」

 

どうやらヤバそうな赤髪さんが魔王ギィらしい。通りでヤバい気配がした訳だ。

そして、もっと不穏な単語が聞こえたぞ……!

原初の黒(ノワール)ってアレだよね? 7(にん)いる始まりの悪魔の内の1人だよね?

とりあえず、叔父さん(KONOBAKA)を問い詰めよう。

と思ったら更に新たな人物が乱入して来た。

 

「リムル様、無事ですか⁉︎ 今、妹から   

 

「我が君、“赤”の気配を感じたんだが!」

 

「戦争なの? やるならボク頑張っちゃうよ!」

 

入って来たのはベニマルさん、ソウエイ、後は最近配下になったという3人娘の内の2人だ。

確か、カレラとウルティマだっけ?

 

「皆、落ち着け。ディアブロも控えるように!」

 

とりあえず叔父さんが、騒いでいた者達を大人しくさせる。

 

「予定には無かったけど、ギィにも話があったから丁度いい。せっかく来てくれたんだから、このまま会談に参加してもらおう」

 

「ああ、オレもお前に聞きたい事があったからな」

 

「って事だから心配ない。何かあったら呼ぶから、仕事に戻ってくれ」

 

叔父さんはそう言ってやって来た者達を撤収させた。

シュナさんがお茶を入れに退室した後だった。

 

「おい、リムル。どうしてここに原初の黄(ジョーヌ)がいるんだ?」

 

「もう1人は原初の紫(ヴィオレ)だったように思うのじゃが、妾の気のせいか? もっと陰気で陰湿な性格だと聞いておった故、自信がないのだが……」

 

レオンさんとルミナス様が質問して来た。

もしかして2人は“原初”なの⁉︎

いや、待てよ。

確か叔父さんは3人って言っていた。その内の2人が“原初”なら、外交武官に就任して、現在“西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウェスト)”に出向しているというテスタロッサも“原初”と考えられる。

って事はアレか? 叔父さん(KONOBAKA)は7(にん)いる“原初”の内の4(にん)を配下に加えたって事⁉︎

 

「もしかして、カレラやウルティマの事か? 彼女達ならディアブロが勧誘してきたんだけど、中々優秀で   

 

「まさか、貴様はあの者達に“名前”を付けたのか⁉︎」

 

「信じられん。ディアブロだけでは無いとは……!」

 

レオンさんやルミナス様が驚愕している。

だって俺もそうだもん。

 

「ね、ねえ叔父さん。俺の計算が正しければ、アンタ7(にん)いる“原初”の内の4(にん)を配下に加えてるって事なんだけど、間違いだよね? ていうか、間違いって言ってくれ」

 

「ん、“原初”? “原初”って確か始まりの悪魔と定義されている者達の事……って始まりの悪魔っ⁉︎ ディアブロ、もしかしてお前って始まりの悪魔の1柱(ひとり)だったりするのか⁉︎」

 

まさか……知らなかったのか?

知らずに配下に加えていたのか?

レオンさんやルミナス様も、俺と全く同じ反応だ。

 

「まあ、そうですね。確かに私は、この世界に誕生した、7系統の悪魔族の1柱です。ウルティマやカレラ、テスタロッサも私と同格の原初ですね」

 

ディアブロが事なげに答えた。

そして、これで確定である。

間違いなく、この人は“原初”を4(にん)従えている。

しかも、それを本人が知らなかったと来た。

抜けすぎにも程がある。

そして、驚いている俺達をよそに、ディアブロの話は続く。

何でも、ディアブロは叔父さんの運命の人であるシズさんと縁があり、彼女の最期を感じた時に叔父さんと一方的な出会いをしたのだと。

更に話を続けようとするディアブロを、叔父さんが止めた。

 

「ディ、ディアブロ! そこら辺で終わらせろ。そろそろ会議を再開するから」

 

「それよりもよ、ここにディーノも来ているだろう? 呼んできてくれねーか?」

 

そういえば、叔父さんから来ているって聞いたな。

 

「それでは、私がディーノ様を呼んで参ります」

 

退出のタイミングを失くしていたシュナさんがお辞儀をして去って行った。

 

「これからがいい所なのですが……」

 

まだまだ語りたそうにしているディアブロだったが、全員でスルーした。

とりあえず、シオンとディアブロがすべき事をやっていないから、それを代わりにやろう。

 

「どこ行くんだ?」

 

叔父さんが尋ねてくる。

 

「魔王ギィさんにも椅子が必要でしょ?」

 

「おう、気がきくじゃねえか」

 

という訳で、隣の部屋から一つ椅子を取って来た。

同時にシュナさんが魔王ディーノを連れてくる。

何故かラミリスさんも来ていた。

 

「さて、ディーノよ。言い訳を聞こうか」

 

「言い訳って何の?」

 

「ふっざけんなよ! 何でコイツが、あの3(にん)に名付けするのを止めなかったんだ⁉︎」

 

「えっと、それは……」

 

「お前を何のためにここへと送り込んだと思っている?」

 

「……観光?」

 

「んな訳あるか! 偵察だよ、偵察!」

 

へえ、そうだったんだ。

でも、この人って“眠る支配者(スリーピング・ルーラー)”の異名を持つ程堕落した人らしいし、真面目にやるとは思えないな。

 

「って、お前もだよ! 他人事みたいな顔してんじゃねえ!」

 

ギィさんが叔父さんへと怒鳴る。

それな。

 

「クアハハハ! ギィよ、小さな事で怒るでない。コヤツがホイホイ名付けするのは今に始まった事ではないからな」

 

「黙れ! 大人の会話に口を挟むでない」

 

叔父さんをフォローするヴェルドラさんがルミナス様に怒られた。

だが、ギィさんの注意がヴェルドラさんへと移った隙に、叔父さんはギィさんへと話しかける。

 

「まあまあ。ディーノがここに来た目的は、俺の監視のためなんだろ? それに関する苦情は措いておくとして、俺を止めなかったディーノも悪いし、そのディーノを信頼して派遣した人物にも監督責任があるとは思わないかい、ギィさん?」

 

うわぁ、叔父さん(このオッサン)ギィさんに責任を擦り付ける気だ。

 

「そうだぜ、ギィ。だいたい、俺に監視なんか出来ないって。まさかお前が俺を働かせようとしていたなんて驚きだよ」

 

「お前ら……」

 

「というかそもそも、俺に止める間なんて無かったんだ。俺はリムルが原初達を連れているのを見て、絶句するほど驚いたんだ。だって、3(にん)だぜ? ディアブロはまあ、変人らしいから納得できたが、まさかテスタロッサ達が他者に従うなんて、誰に想像出来るんだよ!」

 

「まあな」

 

お、この流れは擦りつけ失敗かな?

 

「俺もさ、ディアブロが役に立つと言って連れて来たから、それを素直に受け入れたんだよ。まさかそんな大物だったとは思わなかったし、彼女達も行儀よく俺の部下になる事を納得してくれていたしね。ようは、責任はディアブロにある。何かあれば俺も責任を負う事になるが、部下の事を信じるのは当然だろ?」

 

方針転換して、無理くりディアブロに押し付けたな。

そして、ディアブロはむしろ嬉しそうだ。

 

「クフフフフ、リムル様からの信頼、その言葉だけでも私は満たされます。それに応えるためにも、より一層精進しなければ」

 

そんなディアブロを見て、ギィさんは疲れたような顔をした。

 

「つまりは、ディアブロが悪いのか?」

 

ギィさんは尊大に言った。

 

「悪いっていうか……」

 

「俺達も被害者っていうか……」

 

叔父さんとディーノさんが口ごもっている。

 

「ディアブロが変人なのは昔からだ。今更文句を言っても仕方がない。ディーノよ、お前がリムルを止められなかったのも、状況的に理解は出来る。で、だ。リムル、お前だよ!」

 

「俺が何なんだ?」

 

太々(ふてぶて)しく、叔父さんが答える。

 

「何もクソもねーんだよ‼︎」

 

そこからは、ギィさんのガチ説教が待っていた。

 

「お前のせいで、世界の勢力バランスが完全に崩壊した! そのせいで世界情勢がどう転ぶか、全く予想ができなくなった! しかも、お前のせいでミザリーの作戦も失敗。その責任を取って貰うぜ」

 

「……はあ、分かったよ」

 

はい、これで叔父さんが責任を取る事確定しました〜。

説教が終わっても、ギィさんの話は続いた。

なんでも、ギィさんは定期的に災禍を引き起こし、人類共通の敵として認識させていたらしい。その目的は、身内同士で潰し合いが発生しないようにする事だったそうだ。

グランベルがいる間は、様子見に徹して、大胆な行動は慎んでいたらしい。しかし、グランベルがルミナス様へと総力戦を仕掛けたため、その均衡が崩れ去った。

なので、ギィさんは人類が恐怖で纏まるように、彼の配下であるミザリーへと命じたそうだ。

そしてミザリーの発案したのが、“西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウェスト)”の議員達の死をもって、各国の首脳陣が魔王の脅威を再認識させる、というかなり物騒な作戦だった。

 

「だが、ミザリーが襲撃した会場には“白”……いや、テスタロッサがいた訳だ。ミザリーはテスタロッサとの衝突を避けて、作戦を中断した。そこまではいい。問題はその後だ。小賢しい人間達を恐怖で支配出来なかったとなると、アイツらは小競り合いを始めるだろう。ロッゾ一族による支配体制が無くなった今、権力闘争が激化する。それがいつもの流れだ。東の帝国が動き出そうって時にそんなバカな事をしてたら、西側諸国の敗北は必至だ。リムル、お前はどうするつもりなんだ?」

 

なるほど、ギィさんは人類の味方ではないが、滅亡しないように気にはかけているのか。というか、それが“調停者”としての役割って事かな。

問題は、叔父さんが取る西方諸国への対応だな。

 

「どうするもこうするも、リムル様の理想の実現を目指すまでです」

 

ギィさんの質問に対して、ディアブロが答え出した。

 

「どういう意味だ?」

 

「簡単な話です。恐怖で人を縛るなど、そのような面白みの無い事をしても仕方ないのです。確かに、人は恐怖で従順になるでしょうが、それでは人の力を十全に活かせません。その上、恐怖というのは、時間が経てば薄れます。貴方がどれほどの悲劇を撒き散らしたところで、彼らはそれを忘却してしまう。そして、恨みのみが残されます」

 

「ふむ、続けろ」

 

「恨みはやがて憎しみへと変わり、自分達を虐げる者への復讐へと走らせます。それこそ、小賢しいだけで知恵の足りない人類では、我々との絶対的な力の差に気づく事は出来ないでしょう。魔族などに扇動されれば、直ぐに愚かな行為へと手を染めるでしょう」

 

「まあ、それを許さぬために、血の粛清を行う訳だが」

 

「クフフフフ、それが無駄な事だと先程言ったではありませんか。人が愚かである以上、恐怖の記憶は薄れます。世代交代を重ねるのだから、どうしようもありません。ですが、ロッゾ一族による一極集中とは異なり富の再分配を行う事で、ある程度の公平性を保ちつつ各国の関係が再構築されます。それによって、新たな経済原理が誕生します」

 

「それで?」

 

「新たな経済原理   すなわち選択肢を残し、自分達で未来を選択したのだと錯覚させる事で、愚かな人類は自分達の手で創り上げたのだと信じ込むでしょう。こういった仕組み(システム)は、人の記憶とは異なり失われはしない。半永久的に、人の世を支配するようになる。そして、それを管理するのがリムル様であり、我々の仕事なのです」

 

「なるほどな。経済を掌握し、安全保障を無料(タダ)で与えてやれば、自然と弱者達はお前達に依存するようになるって訳か。血の流れない戦争によって、全てが解決される社会。確かに、ロッゾ一族の支配よりも優れていそうだな」

 

うーむ、叔父さんの思考回路でそこまで考えられるのか疑問だが、方針としてはそんな感じなんだろうな。

 

「当然です。一部の者達が富むより、大勢の者が幸せになる世界。それが生み出す需要と供給は、新たな可能性を創出するでしょう。それこそがリムル様の願いなのです」

 

そりゃそうだろうな。

叔父さん、イングラシアなどの一部を除いて、文化レベルが低いと文句を言ってたし。

 

「幸福な平和を知り、享受すれば、それを失うのが怖くなると?」

 

「その通りです。一言で言い表すなら、“感謝”という概念ですね。人々を守るリムル様へと感謝し、世界の安寧に協力的になるでしょう。貴方の考える、恐怖による支配よりも効率的であるかと」

 

ディアブロの語る未来を聞いたルミナス様やレオンさん、そしてその配下達までも感銘を受けた様子だ。

 

「だが、それを実行に移すには、長期的な視野と緻密な計算が必要になるだろう? しっかり管理しねえと、増えすぎて図に乗る人類の様子が目に浮かぶな。そこまで面倒を見てやれるのか?」

 

「フッ、その程度の未来を見通せぬリムル様ではありません。貴方にとっては大袈裟でも、リムル様にとっては片手間で済む問題です。なので、要らぬ心配は無用ですよ」

 

「そうかよ。それなら、お前に任せるとしよう。そこまで上手く事が運ぶとは思えねえが、失敗しても俺に害は及ぶ事は無い。その時は、いつも通り俺の手で、愚かなバカ共を間引くだけだ。お前の責任の取り方を見せてもらうとするぜ」

 

「まあ、ディアブロが話した内容は少し大袈裟だが、概ね当たっている。ちょっと理想的だが、そうなったらいいなと思っているんだ。お前に言われるまでなく、俺のやり方で世界平和を目指すよ」

 

そう言って、叔父さんは約束した。

だが、これで終わりではないらしい。

 

「リムルよ、一応忠告しておこう。原初の黄(ジョーヌ)ことカレラだが、奴は気の向くままに核撃魔法をブッ放す、気性の荒い面を持ち合わせている。ちゃんと手綱を握っておかねば、せっかくの都が灰塵に帰すぞ」

 

「ならば、妾からも教えておこう。先程も述べた通り、原初の紫(ヴィオレ)ことウルティマは陰気で陰湿。そして、残虐非道の代名詞的な存在じゃ。魔族とは違い、人類を根絶やしにしようとは考えておらなんだようじゃが、とても気まぐれで移ろいやすい性格をしておったようじゃ。貴様の前では明るい少女を演じてあるようじゃが、決して油断するでないぞ」

 

という、レオンさんとルミナス様からの有り難く、そして不安になる話を聞かされた。

そして、言葉が濁されているものの、そんな2人よりヤバいのがテスタロッサらしい。

これだから叔父さん(このオッサン)は……。

 

 

 



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第12話 魔王会談(後編)

魔王会談最終回です。
第二章最終回時点での主人公設定もついでに載せておきます!
お気に入り登録者数200人突破しました。ありがとうございます!


 

 

 

ヴェルドラさんや、ラミリスさん、ディーノさんが迷宮へと去っていた。

因みに、ギィさんはディーノさんが働いているのを知って、かなり驚いていた。

叔父さんに「どんな魔法を使いやがった⁉︎」って聞いたくらいだったしね。

そして、叔父さんは話題を変えた。

 

「ここに来たのは、テスタロッサ達の事を聞く為だけか?」

 

「それもあるが、もう一つ別で用件がある」

 

そう言ってふんぞり返ると、レオンさんへと視線を移した。

 

「“中庸道化連”って奴らに会って来たぜ。お前が取引していた相手は、そいつらだろう?」

 

「ああ、そうだ」

 

ギィさんの発言にレオンさんが頷いた。

ところでだ。

 

「えっと、“中庸道化連”って?」

 

そう聞くと、叔父さんから回答が返って来た。

 

「“中庸道化連”は今まで、森でオークロード計画とか色々やっていた組織だ。クレイマンも属していたみたいで、そこの親分がユウキだ」

 

そして、叔父さんはギィさんへと視線を移した。

 

「それで、ユウキには会ったのか?」

 

「ああ。あの野郎共が東に逃げようとしていたから、軽くお仕置きしてやったのさ」

 

「殺していないのか?」

 

レオンさんがそう聞く。

それにしても、西側での立場を捨てて東に逃げるとか、とんでもなく大胆だな。

そして、最強の魔王たるギィさんに狙われるとは不運だな。ま、今となってはザマーミロカスって気分だけど。

 

「殺しちゃあいないさ。最初は捕まえて、お前への貸にでもするつもりだったんだが、事情が変わったのさ」

 

そう言って、ギィさんはユウキと何があったかを話してくれた。

その結果、ユウキが行った偉業から悪事まで、様々な事が分かった。

 

冒険者互助組合を発展させ、自由組合を発足した事。

評議会を支配するロッゾ一族と繋がり、裏の仕事を請け負っていた事。レオンさんとの取引仲介もその一つのようだ。

クレイマンを魔王として擁立し、陰からそれを操っていた事。

東の帝国の裏社会を支配していた闇の母(エキドナ)を潰し、さらに秘密結社“三巨頭(ケルベロス)”を組織した事。

 

他にも色々あるが、重要なのはこのくらいだ。

表向きは自由組合をまとめ上げ、裏では秘密結社の総帥をしていた。

これほどの大規模な事を10年程度でやっていたとなると、かなりの傑物だったみたいだね。

でも、自信過剰になりすぎのようだな。

ユウキは人の好さそうな態度を演じながら、裏ではロッゾ一族やレオンさんを手玉に取り、叔父さんやヒナタさんを争いへと巻き込んだ。

しかも、その夢が世界征服とかいう子供じみた物だから笑えない。

 

「ところで、ユウキを逃して何を企んでいるんだ?」

 

叔父さんが聞く。

確かに、ユウキの目標を聞く限りギィさんがユウキを逃してやる理由は思い当たらない。

 

「ああ、ゲームのためさ。間もなく東の帝国が動くだろう。アイツはそれに乗じて帝国を撹乱すると取引を持ちかけたのさ」

 

「ギィは西側諸国を滅ぼされたくないみたいだが、それはどうしてなんだ?」

 

「滅ばないよう管理するのが、俺の役目だからさ。ま、増えすぎは困るとも思っちゃいるがな。人類全体を魔王達で支配する事。それが俺の最終目標だ」

 

なるほど、それがゲームの内容みたいだね。

 

「いやいや、それならどうして評議会を潰させようとしたんだ?」

 

「ミザリーの作戦に許可を出したのは、西側を一致団結させるためさ」

 

一瞬、叔父さんは「どういう意味だ?」という顔をしたが、直ぐに答えを導き出した。

 

「えっと、つまりはこういう事か? 評議会の議員が虐殺される事で恐怖心を擦り込み、そこに俺に手を差し伸べさせて、人類を俺の庇護下に入れるために手を出したと」

 

「ああ、そういう事だ」

 

ギィさんは叔父さんの質問に同意した。

過激な上にマッチポンプもいいとこだ。

叔父さんを利用して、西側諸国の管理を任せようと考えたらしい。

しかし、ギィさんの予測を遥かに上回る速度で、叔父さんの手が西側諸国へと伸びていた。

テスタロッサはかなり有能みたいだね。

ギィさんの目的は人類を滅ぼす事でなく、人類が自らの愚かな行為で滅亡しないようにする事なのだ。

でも、大雑把だな。

これなら、叔父さんが手を下す方がマシだ。

 

「なら、俺が西側を掌握した事については文句がないんだな?」

 

「ああ、バカが調子に乗って暴れたりしない限りは口出しする気はねえ」

 

「そういう事なら、遠慮なくやらせて貰おう。ところで、イングラシア王国の北方にチョッカイ出すのもやめてほしいな」

 

「ご安心を。そういう雑事はテスタロッサ達に任せれば良いかと」

 

叔父さんの文句に、ディアブロが笑顔で返した。

 

「そうだぜ。アイツらにも息抜きは必要だろうし、好きにさせればいいのさ」

 

ギィさんもディアブロと同意見みたい。

俺としても、倫理的にはアレだが政治的な安定感を上げるには重要かと思う。

 

「寧ろ、被害が出ない程度のチョッカイはあった方がいいのでは? 程よい緊張感が出て、今の平和と幸せを失うのがより怖くなって、纏めやすくなるでしょう」

 

「おい、アユム?」

 

「倫理的にはどうかと思いますけど、魔王なんだしいいでしょ?」

 

俺の意見を聞くと、叔父さんは疲れた溜息を吐いた。

 

「ではリムルよ、東の帝国については任せても良いのじゃな?」

 

「一応確認なんだが、東の帝国が動くっていうのは軍事行動を起こすという認識で問題ないな?」

 

「当たり前だろ?」

 

そうギィさんが頷いた。

 

「ここ最近、帝国では軍事演習が盛んに行われているそうよ。評議会でも話題になっていたわね」

 

ヒナタさんが続けて言う。

 

「正直、予測侵攻ルートを考えると、どこも突破出来ないし、出来たとしても軍の損耗が激しくなりそうなんだが……。それでヒナタ、頼んでいた事なんだが」

 

「分かっているわ。貴方から依頼されてた、ドワーフ王国の構造ね。結論から言って、大軍の運用は可能よ」

 

「無いと思って切り捨てていたが、ドワーフ王国を先に侵攻する可能性もあるな」

 

「白々しいわね。疑ってなければ、私に依頼なんかしなかったくせに」

 

「はは、バレたか。まあ、その可能性がある以上、先に対処するとしよう」

 

「お前がいなけりゃ、グランベルとルミナスが帝国を迎え撃つ形になってただろうぜ」

 

他人事のように、ギィさんが呟く。

 

「私も協力はするけど、貴方の指揮下には入らないわよ?」

 

それは当然だろうな。

 

「戦争になるっていうのがピンとこないけど、まずは俺達で何とかするよ。ヒナタは俺達の意表を突いた形で侵攻して来た場合に備えて欲しい」

 

「了解よ。商人に化けた工作員の始末も、こちらで引き受けるわ」

 

中々に怖い笑みを浮かべて、ヒナタさんはそういった。

 

「リムルよ、貴様が敗北した時には、妾が戦う事になる。そうならぬよう、しっかり励むが良い」

 

億劫そうにルミナス様が言った。

 

「分かっているさ。気になるのは、ユウキと協力できるかなんだが……」

 

「リムル様、もしかして、私達に気を遣っておられますか?」

 

「まあな。今までが今までだから、いきなり信用は出来ないかなって」

 

「逃げたユウキがどう動くのかは、俺も知らねえぜ。興味も無いし、そっちで上手くやってくれ」

 

「クフフフフ。ソウエイ殿に頼んで、動向を探らせておきましょう」

 

「そうしてくれ。アイツの出方にやっては和解も考慮する。シオンもそれでいいな?」

 

「勿論です! 敵対するなら潰しますし、和解するなら一発殴って許します!」

 

「それじゃあ、これで会議は   

 

「待て、まだ用件はある。というか、こっちが本命だな。ルミナスが封印していたヤツの事さ。グランベルの目的は、あの地でルミナスが必死に隠していたモノの解放だってのは分かっていたんだ。だからよ、そいつが暴走しないか監視していた訳だが、ディアブロの野郎がリムルに任せろって言うからよ」

 

なるほど、あの時確かにヤバそうな気配があったけど、それはギィさんの物だったみたいだね。

 

「さっきまでそれを話してたんだ。もう一度おさらいがてら、俺の口から説明するよ」

 

そう言って、叔父さんが説明し始めた。

因みに、クロエが何度も時間跳躍をしてループを繰り返していたとか、重要な話は隠した内容だった。

 

   という訳で、暴走するクロノアを倒して、一件落着となったのさ」

 

「なるほど、そいつは大儀だったな。ところで一つ質問があるんだが」

 

「ああ、何でも聞いてくれ」

 

「そこのソイツ、どう見ても“勇者”なんだが、それについてはどう説明してくれるんだ?」

 

ですよね〜。

やっぱり、時間跳躍くらい話すべきじゃ……。

でないと、納得しないと思うな。

 

「えっと、それはだな……」

 

「私が“特定召喚”で探し求めていた人物、それこそがこのクロエなのだよ。何の因果かあの場にいたのだが、そのおかげで我々は助かったのだ」

 

どう言い繕うか迷っていた叔父さんに代わって、レオンさんが口を開いた。

どう持っていくのか分からないが、これに乗っかる以外誤魔化す道は無さそうだ。

 

「その通りじゃ。妾も驚いたのじゃが、そこのクロエという少女は、封印の器として最適だったのじゃ」

 

「封印の器? 何だ、それは?」

 

ギィさんが怪訝そうな顔をして叔父さんを見た。

 

「ああ。レオンが言うには、クロエはどんな相手だろうがその力を奪って封印する特殊体質の持ち主らしい。俺も半信半疑だったんだが、その効果を目の前で見せられると、信じない訳にはいかなくてね」

 

お、上手く繋げたな。

 

「全くじゃな。妾の切り札が奪われてしまったが、制御できぬままに暴れられるよりはマシじゃろうて」

 

とても苦々しい表情でルミナス様がさらに乗っかる。

 

「まあな、ギィ。お前を含めて、この世界には強者が多い。いざという脅威に備えてクロエを保護しておきたかったのだが、出会って早々にその力を使う事になるとは、私も運がない」

 

憂鬱そうな顔を浮かべて、レオンさんが締めくくった。

いやはや、この魔王2人の演技力には凄まじいな。

それに比べて叔父さんはというと……。

まあ、ともかくこれで話の辻褄は合ったな。

 

「ふむ、お前ら、俺を騙そうとしてねえか?」

 

「いや、全然」

 

「気にしすぎだ。お前の悪いクセだぞ」

 

「そうじゃぞ。小さな事を気にするでない」

 

驚愕するほどのファインプレーだ。

ギィさんの疑念を息ぴったりに否定した。

 

「だがよ、ソイツが“勇者”の力を手に入れたのは確か何だろ? さて、放置すべきかどうか」

 

「オイ!」

 

ギィさんの言葉にレオンさんが抗議する。

 

「安心しろ、手は出さねえって」

 

そう言ってレオンさんを落ち着かせる。

 

「それならいい。貴様がクロエに刃を向けるのなら、先に俺が相手になると覚えておけ」

 

何かするのではと警戒したが、意外と和やかだ。

だが、安心しきった俺達は一瞬で全員肝を冷やす事となった。

ギィさんの手には長剣が握られ、それがクロエの首筋へと振り下ろされていた。

神速の一撃で、今から動いても間に合わないとすぐに悟る。

それは俺だけでなく、他の魔王達も同じだった。

誰もが絶望感に満ちた表情を浮かべた。

しかし   

次の瞬間、『キィンッ』という澄んだ音が部屋中を響き渡る。

いつの間にか、クロエは大人の姿となり、いつ抜いたのか分からない細剣(レイピア)でギィさんの剣撃を受け止めていた。

 

「初めまして、魔王ギィさん。初めて見るけど、やっぱり強いわね」

 

「あっははは、お前もやるじゃねえか! クロエだったな、()()()を使いこなせるのは、俺を含めて数えるほどしかいねえぜ」

 

 

和気あいあいと挨拶を交わす2人を他所に、俺は平常心を失った。

今、何が起こったのか全く分からなかった。

少なくとも、空間転移や超加速なんてチンケなモノではない。

学術之王(ラジエル)』の権能によって、100万倍へと加速した知覚速度でも、量子コンピューターさえ凌ぐ演算能力でも、あらゆる物事を見抜く解析能力でも、理解出来なかった。

究極の学習能力を持つ『学術之王(ラジエル)』をもってしても読み取れないとはどういう事だ⁉︎

他の魔王達3人も俺と同じく、青ざめた表情をしている。

ギィさんの行動に憤る以上に、目の前の出来事を理解しようと必死になっている。

他の者達に至っては、剣の動きすら認識できないようで、事態を理解できないでいる様子だ。

そんな事を無視して、ギィさんとクロエは剣撃の応酬をしている   らしい。

コマ送りのように連続性が無くて、まるで認識できない。

 

「ストップ! ストーップ‼︎」

 

無理矢理叔父さんが2人を止めた。

 

「おい、無茶すんなよ。ちょっと間違えたら、斬り捨てていたじゃねえか」

 

「そうよ、リムル。ギィは本気じゃなくて、私を試していただけなんだから。でも、心配してくれて嬉しい」

 

そう言うなり、クロエは叔父さんへと抱きついてキスした。

うん、やっぱりヤバい映像にしか見えない。

 

そして元の少女の姿に戻るなり。

 

「もう! 勝手にリムルさんに抱きついて、き、キスをするなんて!」

 

真っ赤になってプリプリ怒ってる。

どうやら、先程まで戦っていたのはクロノアらしい。

見た目が同じだから、違いを見抜くのは多分無理だな。

 

「リムルよ、クロエを助けようとしてくれたのは評価するが、それ以上馴れ馴れしくするのは許可できんな」

 

そうレオンさんが言うと、クロエを抱き上げて椅子へと座らせる。

 

「レオンお兄ちゃん、心配しすぎ」

 

「ギィよ、クロエに手を出さないという約束ではなかったのか?」

 

凍えそうな顔を浮かべて、ギィを睨むレオンさん。

 

「悪い悪い、ちょっと試したかったのさ。勿論、殺す気なんて無かったぜ」

 

「だとしてもだ。お前の場合は殺意のあるなしに関わらず、その力が洒落で済むレベルではないからな」

 

相当怒ってるな、レオンさん。

そんなやり取りの間、先程の現象に一つの予想ができた。

恐らくは、“時間停止”と呼ぶべき現象だ。

クロエは『時間旅行(トキノタビビト)』というユニークスキルを持っていた。

そして、現在クロエは究極能力(アルティメットスキル)を保有している。

時間旅行(トキノタビビト)』から進化したスキルならば、時間へと干渉でき、時間を止める事もできるだろう。

コマ送りに見えたのは、ところどころで時間停止が発動され、認識が出来なくなったからだと考えれば辻褄が合う。

この仮説が正しければ、俺は絶対ギィさんやクロエには勝てないという事だ。

何故なら、時間停止した状態でも動けなければ、それは時間停止が使える相手には絶対勝てないという事だ。

実際、あのクロノアでさえギィさんに殺されたというのだから。時間を止められたら手も足も出ないので、当然の結果だった。

 

結局のところ、抗議はレオンさんが折れる形で終わった。

 

「お前がラミリスを大切にしているように、私もクロエを大切にしている。それを心に留めて置くがいい」

 

「妾もじゃ。ギィよ、貴様が最強なのは認めるが、それでも妾達の協力を失うのは痛手じゃろう? 本気で敵対したいというならば別じゃが、クロエに手を出すのは妾達を敵に回す行為だと知るがいい」

 

「分かった分かった。俺だって面倒事は御免だ。俺の邪魔さえしなければ、お前らの大切なモノに手を出したりしねえさ」

 

そして、魔王会談は終了した。

会談が終わったのは夕方だったので、簡単な晩餐会が開かれた。

魔国連邦(テンペスト)の料理は概ね好評だった。

特に、ヒナタさんなんか軽く嬉し泣きしていた。

多分、2000年間まともに味わう事も出来なかったからだろうな。

食べ終えるなり、魔王達はバタバタと帰り支度を始めた。

そんな中、ギィさんが直接俺に質問してきた。

 

「そういえば、お前は何者なんだ? リムルと親しそうだったが、配下って感じじゃないだろう?」

 

「ああ、自己紹介がまだでしたね。俺は三上 歩(アユム・ミカミ)。異世界人です。リムルは俺の叔父に当たります」

 

「は?」

 

驚愕のあまり、素っ頓狂な声がギィさんから漏れ出る。

 

「正確には、俺の前世における甥っ子なんだけどな」

 

叔父さんが補足説明をする。

聞き耳を立てていたレオンさんとルミナス様は納得した表情だが、ギィさんは余計に訳が分からないといった感じだ。

 

「は、前世? って事はお前って“転生者”なのか?」

 

「あれ、知らなかったのか? てっきり知ってるもんだと思ってた。俺って、こっちとは別の世界で死んで、その心を持ったままスライムに転生したんだよ」

 

「いやほんと、初めて聞かされた時は、驚きのあまり叫び散らかしましたからね」

 

「マジで?」

 

「「マジで」」

 

俺と叔父さんの声が同期した。

 

「あっはははははは! スゲェな! 魔物の癖に変わったやつだとは思っていたが、そんな事情だったとはな。界を渡っての転生ってだけでも珍しいのに、魔物に転生したのかよ。しかも、最弱種族のスライムとか。お前もトコトンついてねえな!」

 

そう言ってゲラゲラ笑い出した。

 

「だが、これで色々合点がいったぜ。普通、スライムは喋らないどころかろくな自我も持っていない。だが、お前は喋るしちゃんとした自我も持っている。それに、ヴェルドラを懐柔したのも、この街の急速な発展ぶりも、全て異世界で得た知識と経験があったからだと説明がつく。異常な速さで進化して魔王になったり究極能力(アルティメットスキル)を獲得したのは、“魂”だけで界を渡って自我と記憶を保った結果、心核(ココロ)が鍛えられたからだろうな」

 

「納得してくれたかな?」

 

「ああ。怪しいヤツだと思っていたが、これでお前の事を信用していいと思えたぜ」

 

「ひでぇな。失礼しちゃうわ」

 

「全くです。まあそれは後程言及するとして、先程の語らいの続きでも致しましょう」

 

突然、ディアブロが割り込んできた。

 

「いや、それはもう十分堪能したから……」

 

「クフフフフ、遠慮などなさらずに」

 

「俺にまで変な勧誘してんじゃねえ!」

 

やれやれ、何をやっているんだかディアブロは。

 

「チッ、そういう事なら仕方ありません。では、話題を変えて貴方が聞きたがっていたテスタロッサ達の仕事ぶりや、リムル様の逸話についてを   

 

「いやいや、お前達は今、とても忙しそうだしよ、また落ち着いた頃にでも遊びに来るぜ」

 

そう言って、ギィさんはそそくさと逃げ帰った。

 

「落ち着くところに落ち着いたものよな。クロエよ、お前は妾にとって大切な友じゃ。困った事があれば何でも相談に乗る故、気兼ねなく妾を頼るが良かろう。元気でな」

 

ルミナス様はそう言い残して、ヒナタさんと一緒にルベリオスへと帰っていった。

 

「クロエ、ここが嫌になったなら、遠慮せずに連絡してくれ。直ぐに迎えに来てやろう」

 

レオンさんは、まだ諦められないようだな。

クロエをどちらが引き取るか、あれから一悶着あったのだ。

 

「ここには友達もいるし、リムルさんのトコがいい」

 

というクロエの意思を尊重する事になったのだが、レオンさんは絶対納得してないな。

クロエへの執着を隠そうともしてない。

 

「お兄ちゃん、私を心配してくれてありがとう。凄く嬉しかった。でも、大丈夫。私はもう子供じゃないから!」

 

そう言って微笑むと、大人の姿へと変化した。

 

「ほらね? クロノアの力を借りれば、成長した姿に戻れるから。だから、お兄ちゃんも気にしないでね」

 

それは、儚げでありながら、心強さを感じられる。そんな魅力を秘めた笑みだった。

 

「そうだな、君はとても素敵な女性になった。だが、君を大切に思う私の気持ちに変わりはない。いつでも頼ってくれて構わないよ」

 

笑みを見せて、レオンさんはクロエへと語りかけた。大人の余裕というか、とても様になっている。

直後、レオンさんが叔父さんへと振り向いた。

そして、冷たい視線を向けている。落差が激しいな。

 

「クロエが大人になったと言ったが、まさか貴様……」

 

「違うっての! 俺は無性だし、そんな訳ねーだろうが‼︎」

 

叔父さんに対してはなんか辛辣なんだよな、この人。

まあ、俺も最近はそうなってきているけど。

 

「レオンお兄ちゃん!」

 

直後、クロエに怒られた。

だが、全く諦めてない。

 

「分かっているだろうが、クロエを危険な目に遭わせるような真似はするなよ?」

 

叔父さんに向けて、そう囁いて帰ったそうだ。

 

魔王達が帰った後だった。

 

「戦争か……」

 

叔父さんがそう呟いた。

一難去ってまた一難。

叔父さんとしては憂鬱な気持ちだろうな。

 

「そんな顔しないで下さいよ。俺や頼れる仲間が貴方にはいるんですから」

 

「ああ、そうだな」

 

俺の言葉に、叔父さんは笑みを浮かべた。

 

 

 




次回は番外編です。
思ったよりネタ集まらなかった……


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第2.5章 嵐の前の静けさ
番外編その1 “閃光の勇者”と“魔王の甥っ子”


霧くまs見て思いついたコラボ

「あのイントネーション 〜転スラコラボver〜」

急速潜航(きゅーそくせんこー)
  ↓
暴食之王(べるぜびゅーとー)


 

 

僕の名前は本条 正幸(マサユキ・ホンジョウ)

周りからは、“閃光の勇者”マサユキと呼ばれている。

だけど、僕自身は大した力を持っていないんだよね。

“勇者”と持て囃されるようになった原因は、僕のユニークスキル『英雄覇道(エラバレシモノ)』にある。

このスキルの影響で、皆が僕の行動を都合良く解釈して、英雄と崇めるんだよね。

しかも、自分の意思でコントロールが出来ないからタチが悪い。

仲間達も英雄だ勇者だと崇めてくるから、本音で語り合う事ができない。

一応、三上……じゃなくてリムルさんには僕のスキルが効かないから、本音で話し合える。

でも、あの人とは中々会えないし、仕事の話になりがちだ。

ビジネスな関係って感じなんだよね。

何が言いたいかって、友達と呼べる存在がこっちの世界にはいない事が悩みだったんだ。

でも、そう呼べる存在とようやく出会えた。

それが、アユムだ。

 

 

 

 

 

某日

スナック樹羅(ジュラ)

 

ここは、リムルさんが労いの為に渡す特別チケットが無ければ入れない、特別な店だ。

 

「はあ、僕はただの高校生だったのに、どうしてこうなった……」

 

僕は、数少ない1人になれるこのスナックで飲みながら愚痴を吐いていた。

勿論、未成年だからお酒ではないよ。

そんな時、新しい来客が来た。

 

「あ、“閃光の勇者”マサユキだ」

 

それが彼の第一声だった。

 

「君は確か、開国祭の時の……」

 

「ああ。君と同じく、日本からやって来た異世界人の三上歩(アユム・ミカミ)だ。宜しく」

 

「うん、宜しく」

 

あれ今、三上って言ったよな?

もしかして、リムルさんの親族……ってそんな訳ないか。

たまたま偶然同姓だったってだけだろうな。

 

「もしかして、ここのママさんってトレイニーさん? 開国祭以来ですね」

 

彼の言葉にスナックのママのトレイニーさんが笑顔で返した。

 

「それにしても、あの日は本当に疲れた。どうせなら、この店のチケット100枚くらいくれってんだよ」

 

そう愚痴りながら、炭酸を凄い勢いで飲み干していく。

ミカミ君、相当溜まっていそうだな。

 

「そういえば、マサユキ、さんってどうして勇者って呼ばれているんだ?」

 

彼がふと気付いたように尋ねてきた。

 

「ああ、それはね……」

 

「やっぱり、そのスキルの影響だったり?」

 

えっ? もしかして、スキルの影響が出てない?

 

「ね、ねえ。一つ聞きたいんだけどさ、君から見て僕はどう見えてる?」

 

「えーっと、そうだな。ジャ○ーズとかにいそうなイケメン高校生って所かな」

 

「凄い輝かしい雰囲気があるとか、そういうのじゃなくて?」

 

「うーん。確かに君からは『英雄覇気』とか『英雄魅了』とか言う特殊なオーラが出ているけどさ、俺にそういうのは基本的に効かないからな。というか、君からパクったおかげで俺も『英雄覇気』使えるしね。

 

確信した。彼は僕のスキルの影響が効かない。

 

「ああ、やっぱり。分かるんだ!」

 

「えっと、まあ一応は。それで、俺の質問は……」

 

「君の言う通りなんだよ! 僕のスキルは『英雄覇道(エラバレシモノ)』とか言うふざけたものなんだ! この能力のせいで、皆が僕の事を英雄だな勇者だのと囃し立てるのさ。しかも、自分の意思とは関係ナシでさ」

 

「つまりは自分の意思でスキルをコントロールできないって事?」

 

「ああ、その通りだよ」

 

「マジか……。どおりで大した力を感じない訳だ。あれ、でも冒険者として色々仕事を請け負っているでしょ? その時はどうしてるんだ?」

 

「ああ。それはね、僕の仲間達が凄く強くて、大抵どんな相手でも勝てるんだよ」

 

「ああ、そういう事ね」

 

「ところで、さっきパクったって言っていたけど、あれはどういう意味?」

 

「文字通りさ。俺はこっちに来る際、『学術者(マナブモノ)』っていうユニークスキルを手に入れたんだけど、これには能力(スキル)技術(アーツ)複写(コピー)できる権能があるんだ」

 

「何それ⁉︎ 羨ましい!」

 

「そのおかげで、メチャクチャ強くなったな」

 

「いいなあ、僕もそんな能力があれば……」

 

「あはは……。それで、いつ頃こっちに?」

 

「高校一年の時、もう2年近く前になるかな」

 

「同い年じゃん! 俺は、半年くらい前の高二の二月くらいの時にに来てさ」

 

「え、本当? あ、趣味とかは?」

 

「アニメとか漫画だな。特に暗○教室とかが一番好きだな」

 

「ああ、僕も漫画が大好きなんだよ」

 

そして、そこからは漫画やラノベ、アニメの話で盛り上がり、小一時間ほど語り合う事となった。

 

「いやあ、こんなに楽しい話ができたのは久しぶりだよ」

 

「スキルの影響で、まともに話せる相手がいなかったからか?」

 

「うん。まあ、リムルさんにも僕の能力は効かないから、本音で話せるんだけどね。でも、リムルさんと話せる機会ってあまり多くないからさ。そういえば、リムルさんの前世の苗字って、君と同じ三上なんだよね」

 

「知ってるよ。だってあの人、俺の叔父さんだし」

 

「……え?」

 

「初めて教えられた時は、マジで驚いたな」

 

「えええええ‼︎」

 

「……びっくりした。いきなり大きな声出すなよ」

 

「そんな事聞いたら、大きな声も出したくなるって!」

 

「それもそうか。それはそうと、最近の叔父さん人使いが荒くなってんだよねー。こっちに来る前はそうでも無かったんだけどね」

 

「本当にね! 凄く荒いよね! 僕も色々と無茶振りされてさ、この間だって   

 

そこからはリムルさんに対する愚痴が始まった。

彼も、好き放題やりすぎてるって思っているらしく、それなりに不満があったそうだ。

 

「いや〜。ありがとう、アユム君。かなり気が晴れたよ」

 

「こっちこそ、ありがとう。ああ、俺の事は呼び捨てでいいよ」

 

「そう? それじゃあアユム、僕の事も呼び捨てで呼んでくれないか」

 

「分かった。そうさせて貰うよ、マサユキ」

 

 

 

 

 

とまあ、これが僕にとっての親友である、アユムとの出会いだった。

彼のおかげで、心の中にあったモヤモヤがかなり晴れて、一日一日が少し楽しくなった。

今では、漫画やアニメの話で盛り上がったり、リムルさんの愚痴を言い合ったりと、凄く仲良くなった。

 

彼と出会って1ヶ月ほどが経った頃だ。

この前と同じく、スナック樹羅でアユムと話をしていた時だった。

 

「あれ? 珍しい組み合わせだな」

 

入店して来たのはリムルさんだ。

 

「いよーっす、叔父さん」

 

アユムが軽い感じに挨拶をした。

僕もそれに続く。

 

「どうも、リムルさん」

 

「ああ、にしてもいつ仲良くなったんだ?」

 

「つい最近だよ。同郷で同年代でしかも趣味が同じ。あっという間に意気投合したよな」

 

「そうだね」

 

「なるほど」

 

リムルさんはそう言って席に座ると、ビールを注文した。

 

「あ〜、やっぱりビールは美味い!」

 

そんな風にしているリムルさんをアユムはジト目で見つめている。

 

「思ったんだけどさ、叔父さんってお酒飲んだらダメじゃね?」

 

「何言ってんだ? ダメな訳ないだろ」

 

「いやだってさ、貴方転生してまだ2年かそこらだよね?」

 

「そうだけど……」

 

「はいOUT」

 

「ハア⁉︎」

 

「精神年齢アラフォーでも、肉体年齢2歳児じゃダメでしょ!」

 

なるほど、確かにダメかもね。

 

「初めて言われたよ、そんな事! ていうか、最近のお前辛辣じゃないか?」

 

「そんな事ありませんとも。転生して楽しそうだなとか、好き放題やってるなとか、そんな事思って嫉妬してるとかありませんよ」

 

「いや、絶対それだろ‼︎」

 

そんな2人の会話を聞いていると、流石に笑いが堪え切れなくなってきた。

 

「マサユキからも何か言ってやってくれ、って何笑ってんだよ?」

 

「いや、すみません。どうしても面白くて」

 

「叔父さん、面白いだって」

 

「このヤロー!」

 

 

 

 

 

そんな明るい会話しながら、夜はふけていった。

もうすぐ、帝国との戦争が始まるとの事だ。

その時どうなるのか、正直全くイメージできないけど、起きてほしくは無い。

けれど、多分起こるとリムルさんは言っている。

だから願わくば、この平和が少しでも続いてほしいな。

 

 



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番外編その2 テンペスト復活祭

ギィ役が石田彰さんか……個人的にちょっと意外ですね。
岡本信彦さんや松岡禎丞さんあたりかなって思っていました。
そういえば、親バカ公爵は誰が演じてんの?
声は出たのに声優明かさないって……
あと、他の魔王は誰が演じるのか教えて欲しいです。
特にルミナス様!
さて、これの次から第3章です。
はんたーさん申し訳ありません。
リムルがアユムを紹介するエピソードは上手く構築できませんでした。
それ以外のリクエストにはお応えできているかと思います。


 

 

 

テンペスト復活祭   それは、この国における一大イベントの一つ。

この国の盟主たるリムル=テンペストの魔王への進化、そして、多くの仲間達の復活を祝う祭りだ。

そんな時お祝いの日にも、小さなトラブルは付き物である   

 

某日

魔国連邦(テンペスト)迎賓館

 

「ではこれより、テンペスト復活祭を開催する!」

 

「「「ウオォォォォッ‼︎」」」

 

叔父さんの配下の魔物達が大騒ぎだ。

そして、このカオスな空間の中には1人当惑している人物の姿があった。

勿論、俺である。

 

「……えっと、叔父さん。何コレ? ドユコト?」

 

「さっきリグルドが言っていただろう? テンペスト復活祭だよ」

 

「いや、だからね。そのテンペスト復活祭って何?」

 

俺の質問に答えてくれたのはシュナさんだ。

 

「昨年、リムル様が魔王になられ、シオン達を蘇生したのはご存知ですね? それを記念して、毎年この日に開催する事になったのがテンペスト復活祭なのですよ」

 

「へ、へえ……」

 

「ま、何で毎年恒例になったのかは俺にも分からないが、せっかく皆が楽しめるイベントだから楽しまないとな」

 

自分でも分かってないのかよ!

まあいいや。実際楽しいイベントなのは間違いない。

招待されたからには隅々まで楽しまないとな。

 

ホール内にはいくつものテーブルが並べられ、その上にはシュナさんやその部下達が腕を振るった各種料理が並べられている。

それを、取り皿で取っていくビュッフェ形式だ。

勿論、酒類も豊富だ。俺は飲めないけどね。

まあ、そんな訳で俺は色々なテーブルを回って片っ端から食べていった。

中には、開国祭で人気を博したハクロウさんの寿司やヴェルドラさんのお好み焼きなんかもある。

久々の寿司はメチャクチャ美味かったし、ヴェルドラさんのお好み焼きも初めての美味しさだった。

そんな風に楽しんでいたところに水を注される事態が起きた。

 

「リムル様〜、アユム様〜」

 

叔父さんと俺に呼び掛けてきたのはシオンだ。

 

「なんだ、シオン?」

 

「私も一皿作ってみたので、良かったら食べて下さい!」

 

ニコニコ笑顔でそう誘ってくるシオン。

それに対し、叔父さんはこの世の終わりみたいに青褪めた表情をしている。

 

「え、えーっと……また今度にしておこうかな。色々食べてて、もう結構お腹いっぱいだからさ」

 

シオンにそう返す叔父さん。

すげえイヤそうな顔してる。

そんなにヤバいのか?

逆に気になるよね?

そんなにイヤそうにしていると、逆に食べたくなるよね?

 

「じゃあ、俺は頂こうかな」

 

「!?!?!?」

 

「分かりました。では、すぐお持ちしますね!」

 

そう言って、シオンはその場から立ち去った。

それを見届けると、叔父さんが心配そうに話しかけてくる。

 

「お、おいアユム。正気か? シオンの料理ってかなりヤバいぞ」

 

「大丈夫ですよ。クサヤとかシュールストレミングとか食べた事があるんで。なんなら、『食○のソーマ』で主人公やその父親が作ったヤバい代物も試した事ありますし、ゲテモノにはそこそこ耐性ありますから」

 

「いや、そんなレベルの話じゃないんだが……まあいいや。後悔しても知らないぞ?」

 

叔父さんはそう言い残して立ち去った。

しばらくすると、シオンが自身の手料理を持ってきた。

 

「どうぞ、私特製のカレーライスです♪」

 

一点の曇りもない純粋な笑顔でシオンがそれを渡してきた。

ナニコレ? いやホント、ナニコレ⁇

カレーライスだと? コレのどこがカレーライスだと言うんだ‼︎

パッと見の印象は、ギャグアニメとかに出てくるどう考えても不味い料理のソレだ。

(ライス)が真っ黒なのはまだイイ。多分、魔国米とか言う魔国連邦(テンペスト)で生産されている魔素をたっぷり取り込んだ、この国の住民達に人気のお米だからだ。

問題はカレーの方だ。

見るからに毒々しい紫色をしていて、マグマのようにボコボコしており、そこからどう考えてもヤバそうな緑色のガスが湧き出ている。

試しに、スプーンですくってみた。

あ、うん。コレ、アカンやつですわ。

スプーンの上に乗っかっているのは料理ではなく、何かの生命体なのではないか?

顔がついていて、「グルォォォォォ」とかなんか呻き声みたいなのを上げている。

いや、落ち着け俺。

確かに見た目はアレだが、シオンは料理と言ったのだ。

顔に見えるのはいわゆる『シミュラクラ現象』ってやつだ。人間の目は3つの点が集まったものを人の顔として認識してしまうというアレだ。

呻き声のようなものが聞こえたのは、空耳だろう。周りはドンチャン騒ぎだし、聞き間違いに違いない。

そう自分に言い聞かせてスプーンを口の中へと運んだ。

思わず口から虹色のキラキラを放出するところだった。

味だけは美味かった。

そう、()()()()

それ以外はメチャクチャだ。

食感とか香りとか風味とか、その辺がこの世のものとは思えない。

それをなんとか根性で喉の奥へと押し込んでいく。

アレレ〜、おっかしいなあ?

なんだか急に寒気とダルさ、吐き気や頭痛がしてきたぞ?

聖人は一種の精神生命体だから体調不良とかとは無縁のはずだが……

 

「どうです? 美味しいですか?」

 

自信満々という顔を向けてくるシオン。

正直、総合的に考えればこの世の物とは思えないくらい不味い。

コレは断じて料理ではない。劇薬を通り越したリサールウェポンである。それも、『状態異常無効』ですら無効化できないほどのヤバい代物だ。

だがしかし、気配りができる俺は決してそんな事を言わない。

いくらなんでも、こんな顔で迫られたら「クソ不味い」なんて言えない。

 

「う〜ん。取り敢えず俺の好みの味じゃないな。もしかしたら、他の人は気にいるかもよ」

 

そう言ってシオンに皿を返すと、俺はそそくさとその場から逃げていった。

 

いやはや、ヒドイ目にあった。

シオンの料理はこれっきりにしよう。

製作之王(ヘファイストス)』を使って、体内で解毒剤を製作した後、また別のテーブルへと向かった。

そこからは口論が聞こえる。

どうやら、残り一つのケーキを巡っているようだ。

言い争いをしているのは軍服姿の金髪女子高生みたいな奴と紫髪にサイドテールのボクっ娘少女だ。

言わずと知れたカレラとウルティマである。

口論は激しさを増しており、いい加減止めないとヤバそうだ。

 

「ほらお二人さん、その辺にしとかないと……」

 

「アユム様は黙ってて!」

 

「そうだ、甥君。コレは私とウルの問題なんだから、口を挟まないで頂きたい!」

 

何この息の合い方。

やっぱり悪魔だから喧嘩でさえ楽しんでいるのかな?

 

「ちょっと貴女達、リムル様が魔王になられた記念すべき日にコレはどうなの?」

 

「クフフフフ、テスタの言う通りです。リムル様の前で諍いなど不敬でしょう」

 

お、テスタロッサとディアブロも仲裁に入ってきた。

 

「そんなに喧嘩がしたいなら、私が相手になりましょう」

 

あ、コレアカンやつ。

 

「いいだろう、今日こそはお前を倒す」

 

「そうだね、引き分け続きだしそろそろ決着つけないとね」

 

うわ〜い、嬉々として挑んじゃってるよ。

テスタロッサも黙認する感じだし、ここは俺が入らないと。

 

「はいそこまで。せっかくのお祝いの日にそれはダメだろ」

 

「いえ、アユム様。私がこの者共をまとめて   

 

「だから、ダメだろ。こんなんじゃあ叔父さんに怒られるかもよ。『帰っていいよ』とか言われても知らないよ」

 

叔父さん出した瞬間、ディアブロが涙目になってガクブルし出した。

ウケる。最強の悪魔が叔父さん出した瞬間怯えてる。

どうやら、叔父さん自身がディアブロを召喚したことを忘れていた事が想像以上にトラウマになっているようだ。

 

「カレラにウルティマもいい加減にしろよ。こんなの叔父さんが見たら、気分を害すると思うけど。それに、ゴブイチやハルナ達が新しい分を作ってくれるだろうからそれを待っていればいいだろ」

 

「「……確かに」」

 

俺の言葉に2人は同意し、大人しくなった。

 

騒ぎが終わった後だった。

悪魔3人娘が話しかけてきた。

 

「ねえアユム様、昔のリムル様ってどんな人だったの?」

 

「あら、それは気になりますわね」

 

「確かに、良かったらお聞かせ願えるだろうか?」

 

「別にいいけど、面白い話じゃないと思うよ」

 

そう言って、俺は昔のリムル(叔父さん)   三上悟について彼女達に話した。

ちょっと顔立の整っていて、そこそこ人徳があった事以外何の変哲もない普通のサラリーマンだった事。

そして、通り魔に刺されて死に、今の世界へと来た事。

 

   とまあ、あとは3人が知っての通りだね」

 

「そうなのですね。ところで、リムル様を殺した通り魔はどうなったのです?」

 

「叔父さん殺した数日後に捕まって無期懲役刑にされたはずだよ」

 

「うーむ、私だったら今すぐソイツを殺しに行ってやりたいところだな。まあ、判決としては妥当だろうが」

 

「そう? ボクは死刑にするべきだと思うけど」

 

「恨みがあっても、私怨を混ぜたらいかんだろ。一応私は最高裁判所の長官だから、その辺はしっかりやらないとな。ウルもこういったことは学べ」

 

「ええ〜、ボクに説教してんの?」

 

少しピリピリした空気になってきた。

このままではまた始まるな。

 

「はいはい貴女達、そこら辺にしなさい」

 

「そうそう、宴会の中で喧嘩はダメだろ」

 

そう言って、忠告しておいた。

 

 

 

復活祭が終わって少し

リムルの庵

 

「いや〜、ああいうパーティーは初めてだったな。楽しませてもらいました」

 

「そうか、そいつは良かった」

 

それにしても楽しいひと時は名残惜しいものだ。

近い内に帝国と戦争が始まる。

そのための準備やら何やらをまた明日からやらなければならない。

だが、憂鬱になっている暇はない。

二度とあんな辛い思い、大切な人を失うのは御免である。

そのために、やれる準備は全てやるのだ!

 

 

 




「あのイントネーション〜転スラコラボverその2〜」

急速潜航(きゅーそくせんこー)』→『色欲之王(あすもでうすー)


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第3章 Ready to War
第13話 開発と不穏な気配


最近、夜桜さんちの大作戦という漫画の二次小説考えているんですが、上手く書けない。
設定は大体決まっているけど、第一話の内容が定まらないんだよなあ……


 

 

 

俺がこの世界へと転移して、1年が経過した。早いものである。

最近は迷宮内にて色々と研究開発を頼まれたのだ。

無論、戦争準備のためのね。

因みに、学校の方でも教師として働いているよ。

ただし、非常勤講師としてだけどね。

 

さて、未来で魔国連邦(テンペスト)が崩壊したとなると、帝国側はが勝利した要因は質か戦術戦略だと思われる。

量も考えたが、この世界では量より質なのは明らかだし、帝国の人口的にも考えにくい。

そこで考えついたのが、近現代兵器とそれを利用した戦術戦略である。

叔父さんはこの世界でそういった兵器はどうなんだろうと言っていたけど、あった方が楽に終わらせられるはずだ。

少なくとも帝国にも異世界人はいるはずだし、そこから得た知識で作っていたとしてもおかしくないのだ。

そういう事を力説して、叔父さんからOKを貰ったのだ。

という訳で、俺は現在絶賛現代兵器を製作中である。

基本的には、俺の記憶の中にある物を魔法やスキルで強化したものだ。

それにしても、こういう時の『製作之王(ヘファイストス)』はメチャクチャ頼れる。

イメージした瞬間、あっという間に製作が完了する。

そのおかげで、かなり色々と試せている。

最近では、ちょっとふざけた物なんかも作っている。

FV4005(アルティメットゴミ箱)とかBV141(左右非対称機)とかXF5U(フライングパンケーキ)とか戦艦扶桑(違法建築戦艦)(模型)とか戦艦ネルソン(タンカーみたいな戦艦)(模型)とかね。

というか、最早俺のミリオタ空間と化し始めているな……

 

「よう、どんな感じだ?」

 

そう言って研究所内に入って来る叔父さん。

ついでにヴェルドラさんやラミリスさんまでいる。

 

「どうも、待ってましたよ。それじゃあ案内します」

 

俺はそう言って、3人を案内する。

 

「まずは戦車からです」

 

そう、現代陸上戦の花形である戦車だ。

様々な形状の戦車が並べられているが、その前に俺が作った戦車に共通する事を解説しておこう。

まず、主砲は全て滑腔砲となっております。

滑腔砲というのは、現代戦車に多く採用されている形式の砲である。

通常、銃身や砲身の内部には施条(ライフリング)と呼ばれる溝が彫られており、これに沿って弾が回転することによって、コマの要領で弾道を安定させている。

しかし、施条(ライフリング)の摩擦抵抗によって弾速が落ちて、装甲貫徹力が低下したり、射程が短くなってしまうという欠点もある。

そこで、砲身内部の施条(ライフリング)を取っ払う代わりに弾自体に安定翼を搭載させて弾道を安定させるというのが滑腔砲である。

これに加えて、砲身に弾速を強化させる刻印魔法も折り込んでいるため、モノによってはマッハ10を超える弾速を弾き出すし、弾自体にも気流制御の刻印魔法を取り付け、凄まじい射撃精度を誇る。

次に、装甲には俺が開発した魔化炭素繊維素材(マジックカーボン)を利用した特殊複合装甲になっている点だ。

勿論、向こうの複合装甲とはまるで内容は別物である。

魔化炭素繊維素材(マジックカーボン)とは、その名の通り大量の魔素を注入した炭素繊維強化プラスチックだ。

叔父さんが開発したという神輝金鋼(オリハルコン)から着想を得た素材で、神輝金鋼(オリハルコン)とほぼ同等の強度硬度を保有していながら、それを遥かに凌ぐ軽さを持っているヤバい素材となっている。

これを利用した特殊複合装甲ならば、厚さによっては核撃魔法『熱収束砲(ニュークリアカノン)』や戦艦大和の46センチ砲にすら余裕で耐えられるのだ。

 

   とまあ、共通点はこんな感じですかね」

 

「ふむ。それで、違いは?」

 

そう叔父さんが聞いてくる。

 

「主砲性能から走行性能まで色々ですね。まあ、基本的に見た目は向こうの世界の戦車となっています。性能はまるで別物ですがね。第二次世界大戦時にイギリスの17ポンド砲が登場するまで連合国軍では撃破不能だったが故に“無敵戦車”と恐れられたティーガー、大戦末期に登場して一度も撃破されなかったケーニッヒスティーガーことティーガーⅡ、パンターやティーガーが無かった頃の大戦初期にてドイツの戦車部隊を一夜で無力化したT-34、街道上にてたった一両でドイツ軍の侵攻を抑え込んだ“街道上の怪物”ことKV-2、大戦末期に開発され現代のMBT(主力戦車)の草分け的存在となったセンチュリオン、NATOの戦車競技会にて卓越した性能で2位以下を軽々突き放し優勝を掻っ攫った90(キュウマル)式戦車、その90式からさらなる性能向上を果たし、世界で初めての第4世代MBT(主力戦車)となった10(ヒトマル)式戦車   

 

「待て待て待て!」

 

叔父さんが説明中に止めてきた。

ここからが面白いというのに。

 

「何ですか? まだあと100近くの種類があるんですけど?」

 

「お前の悪癖が出てるぞ。一度ハマりだしたら止まらないところ。ヴェルドラやラミリスなんか、もうポカーンってなってるぞ」

 

「あ、すいませんね。戦車が兵器の中では大好物なもんでして……」

 

「う、うむ。構わないぞ」

 

「そ、そうだね。取り敢えず、凄いモノが作れたっていうのは分かったのよさ」

 

ヴェルドラさんとラミリスさんがフォローしてくれた。

 

「話は変わりますが、カタログスペック的にはやはり10式が一番高性能ですね。これを元に色々改良を施したのが、コイツですね。開戦して、相手側に戦車があった場合はコイツで対応する事になります」

 

俺は一両の戦車の前へと出た。

見た目は大して変わっていないが、中身は色々と手を加えてある。

まず、主砲を44口径120ミリ砲からより砲身の長い55口径120ミリ砲へと換装している。

刻印魔法の付与もあり、弾速はマッハ12.5を叩き出す。

また、ガスタービンエンジンやターボプロップエンジンを参考に製作した魔導制御動力炉を採用しており、44トンから40トンへの軽量化によって、最高速125km/hとなっている。

流石に森の中でそんな速度は出せないけどね。

しかし加減速性能はかなり向上しており、殺人ブレーキに至っては、もうヤバい。人を乗せて走る際にはレーシングマシンに使われてる4点式シートベルトが必要になるのではと思えるレベルだ。

因みに燃料は魔素であり、車両自体が魔素を貯め込めるように設計してある。

転送魔法は物が異空間を通る際、大量の魔素を取り込むので有機物や生物の転送に向いていないとされる。

これを逆手に取って、戦場に転送すると同時に戦車の燃料となる魔素を大量に確保するのだ。

基本的に俺による遠隔操作で運用する予定なので乗員に関しては問題ない。

まあ、数を作りすぎると操作が難しくなるので、一度に運用できるのはせいぜい20両までという欠点もあるけどね。

 

「まあ、相手が戦車を使ってくるとは限らないけどな……。というか、相手がヤバそうな兵器を使って来なかったら使わせないから」

 

叔父さんの言葉通り、帝国が戦車を使用してくるかどうかは分からない。

それに、相手がヤバそうな兵器を導入しない限り、こっちもこれらは使わないというのが叔父さんの方針だ。

だが、『備えあれば憂いなし』と言うように準備しておけば対策は取れる。

だから予め作っておくのだ。

 

「次に、歩兵装備を紹介しますよ」

 

俺は次に、3人を倉庫の銃火器が並べられた一角まで案内した。

 

「こっちも色々あるけど、戦車ほどではないな」

 

「まあ、歩兵装備はあんまり詳しくないのでね」

 

自動小銃(アサルトライフル)、ロケットランチャー、拳銃(ピストル)などが置いてあるが、種類は少ない。

多くて3、4種類だ。

ロケランなんかRPG-7の1種類くらいしかない。

まあ、こっち側には興味が薄かったからどうしようもないんだけどね。

 

「ロケランはともかく、銃は基本的に不採用かな。魔法の方が強いと思うし、お前の手を借りなくても作れるからな」

 

「了解です。じゃあ最後に、航空機及びミサイル   

 

「はいはい、そろそろ俺の方の手伝いに来てくれないかな?」

 

このオッサン面倒くさがって話を切りやがったな!

せっかく“平成の零戦”ことF-2とかF-35ライトニングⅡとか作ったのに!

そう思いつつも、俺は叔父さんと一緒に執務室へと向かった。

 

執務館に着くと、待っていたのはディアブロだ。

 

「すまん、待たせたな」

 

「いえいえ、お気になさらないで下さい」

 

今、叔父さんが開発しているのは情報収集のための監視魔法だ。

この魔国連邦(テンペスト)には多くの諜報員がいる。

だが、敵が攻めてきた際の動向を完璧に掴むには足りないのだ。

どうしても生まれてしまう“監視の穴”を埋めるために現在監視魔法を作ってるって訳だ。

一応、呪術系魔法の中に遠見魔法がある。

しかし、対象の姿を確認する程度と伝達される情報量が少ないし、効果範囲も狭い。

さらに、切り替えに時間がかかるし、相手が通り過ぎれば意味なくなる。

魔法障壁に簡単に弾かれ、魔法が消失さえする。

弱点が多い、というか弱点しかなくて使い物にならない。

これじゃあ話にならないからね。

さて、現在開発中の魔法はそんな弱点の多すぎる呪術系とは全く異なる発想のものだ。

叔父さんが開発した物理魔法『神之怒(メギド)』を元としたらものだ。

高高度に巨大な水のレンズを作り、これによって映像を拡大して転写するというものだ。

とどのつまり、軍事偵察衛星を魔法で作り出すってところだ。

理論的には可能だし、大まかに構築も済んでいるので、後は細かいところだけだ。

因みに俺は衛星の制御システム担当で、刻印魔法と向こうの技術を噛み合わせた、魔鋼製のボックスを製作している。

叔父さんはモニターやらその他必要な部分を担当している。

さて、ディアブロも手伝ってくれたおかげでシステムもほぼ完成した。

叔父さんも既に魔法発動に必要な事は終わらせているので、後は試験運用だ。

その前に一息入れる。

いやホント、最近忙しすぎて疲れ気味なんだよね。

あ〜、シュナさんが淹れてくれた紅茶が身に沁みますなぁ。

そんな事をやっている中で、迷宮の司令室から一報だ。

何でも、50階層を突破した者が現れたらしい。

因みに、今回の件の者達を除いて50階層を突破したのは、マサユキ率いるチーム“閃光”と暇な時間にチマチマと迷宮攻略をしている俺くらいだ。

50階層の階層守護者(ガーディアン)であるゴズールとメズールはAランクオーバーの実力者なので、それを倒せるならばこの魔国連邦(テンペスト)にてスカウトする予定なのだそう。

スカウトに応じてくれなかったら敵対すると厄介になるので監視対象にするそうだ。

そういった理由で、彼らが倒されたら連絡するようにと叔父さんが命じたんだと。

 

という訳で、迷宮司令室に転移した。

 

「お、来たね司令! 状況は今のところ変化なしであります!」

 

ラミリスさんがそれっぽい事言っているけどドユコト?

いや、この人の頭は基本子供なので理解するだけ無駄だ。

 

「状況は?」

 

「はい。50階層を突破したのは3名。それも、全員がユニークスキル保持者です。

 

叔父さんの質問に答えたのは“迷宮統括者(と書いて「ラミリスのパシリ」と読む。可哀想すぎ……)”のベレッタだ。

 

大画面モニターには3人の若者達が映し出されている。

破竹の勢いで迷宮を踏破しているけど、その戦いぶりは特殊を極めていた。

1人目はガッシリとした大柄の男で、茶髪に彫りの深い顔立ち、おまけにタンクトップにジーパンという出立ちだ。

どう考えても俺らと同じ“異世界人”だと思える。

2人目は黒ずくめのローブで全身を隠した、小柄で痩せた男。

3人目は鎖帷子の上から白衣を着ている男。

研究室や病院とかでよく見かける白衣だ。

これらは、こっちの世界ではあまり流通してないし、日本人っぽい顔立ちをしている。

こいつも“異世界人”だと思えるな。

3人中、少なくとも2人が“異世界人”だと思う。

いや、あの黒ローブも“異世界人”である可能性は高そうだ。

そんな事を考えている中でも戦いは続いている。

新たに6体の死霊狼(デスウルフ)が現れ、3人を襲撃していた。

普通の人間には反応できない速さで距離を一気に詰める。

因みに、死霊狼(デスウルフ)は一体でさえB+ランクであり、数体でも群れれば厄介極まりない存在だ。

しかも、死霊系の魔物なので魔法武器(マジックウェポン)聖属武器(ホーリーウェポン)でない限り、物理的なダメージは受けないというクソみたいな特徴を持っているのだ。

油断しようものならAランクの冒険者でさえあっさり食い殺されるのだが……。

 

「舐めるなよ、犬ッコロが! うおりゃぁぁ‼︎」

 

そう叫び、背負っていた戦斧(バルディッシュ)を振り抜く大柄タンクトップ。

その一振りで、3匹の死霊狼(デスウルフ)が光の粒子となって消え去ってしまった。

 

「あ、それ! 見覚えがあると思ったら牛頭魔人の戦斧(ミノスバルディッシュ)だ」

 

叔父さんがそう口にする。

確か、叔父さんが話していた50階層でドロップする特質級(ユニーク)の武器だったはず。

しかも、魔銀(ミスリル)製の聖属武器(ホーリーウェポン)だから、不死系や死霊系に大ダメージを与えられるらしい。

 

「なるほど、牛頭魔人の戦斧(ミノスバルディッシュ)なら死霊狼(デスウルフ)は一撃ですね」

 

「うむ、あの武器はゴズールが落としたものだな。馴染みの武器のように使いこなしておる。あの者の戦闘センスも中々のものだな」

 

俺の呟きにヴェルドラさんも頷く。

彼らの戦いぶりを観ながら、今までの経過について話を聞いた。

今までの戦闘はほぼ全て大柄タンクトップが倒してきたらしい。

実際、そいつの実力は間違いなくAランクオーバーの実力者のようだし、納得である。

各種罠類はどうなったかというと、黒ローブによって発見され全て回避されている。

51階層以降は巧妙な罠や初見殺しの陰険な罠も配置されているというのに、的確に位置を指し示している。

これは間違いなく、探知系のユニークスキルだ。

迷宮攻略には欠かせない人物だろう。

最後の白衣は、50階層でゴズールと戦った時の1度だけしか出番が無かったそうだ。

ヴェルドラさん達もよく分かっておらず、上手く説明出来なかったので過去の記録映像を見せてもらった。

懐から注射器のような物を取り出して仲間2人にそれを打つ。

直後、ゴズールの動きが急速に鈍くなった。

恐らく、毒ガスの類いだ。

しかも、その場で自由自在に調合できるようだ。

動きが鈍ったゴズールはその後、タンクトップにボコボコにされた。

そして、白衣がトドメに首筋をメスのような物でバッサリと言った感じだった。

どうやらこの白衣はチームリーダーで、司令塔の役割を果たしているようだ。

しかも腕も良いので、いざという時の戦力にもなる。

そのため、前衛のタンクトップも自由に動けるという様子だ。

バランスの取れた良いパーティである。

その時、扉をノックする音が聞こえた。

扉が開かれ、シュナさんが部屋に入ってきた。

この3人の登録情報の書かれた用紙を持って来てくれたのだ。

 

「どうぞ。こちらが入国時の登録情報になります」

 

シンジー

年齢:23歳 職業:魔術師(マジシャン)

マーク

年齢:26歳 職業:戦闘士(ウォーリア)

シン

年齢:17歳 職業:狩猟家(ハンター)

 

出身地の欄には、帝国側の小国である『アフモン』と書かれていた。

入国目的の欄には「地下迷宮(ダンジョン)の噂を商人から聞き、腕試しにやって来た」と書かれていた。

うん。嘘ですね、どう考えても。

ユニークスキルを持った3人がパーティを組んでやって来るなど、普通じゃない。

また、彼らの職業にも気になる点がある。というか気になる点しかない。

まずシンジーの魔術師(マジシャン)だが、これは2系統の魔法をマスターした上位職だ。

シンジーの場合は〈元素魔法〉と〈精霊魔法〉を習得している。

マークの戦闘士(ウォーリア)も同様で、武器術と素手の格闘術の両方をマスターする必要がある。この場合、基礎として格闘術、扱う武器は最低1種類だ。

剣なら剣術、弓なら弓術、投げナイフや投石なら投擲術といったところだ。

マークの場合、格闘術に投擲術と矛術に長けているようで、かなりの多才っぷりだ。

シンの狩猟家(ハンター)に至っては、魔物を狩る者の最高峰と言われている。

弓術を極め、会得の難易度が高い“隠行法”を扱えなければならない上に、『危険察知』のスキルを習得していなければならない。

討伐ギルドでは最も頼りにされる職業なのだ。

この世界において、探索系で必須の罠や魔物を発見する技能を持つ者は少なく、狩猟家(ハンター)を名乗れるのは狩猟民族出身者くらいしかいない、とても難易度の高い職業なのだ。

こんな珍しい職業の者が3名がパーティを組んでやって来た。

疑って下さいって言っているようなものだ。

 

「やはり、この3人がエサに食い付いたスパイに思えるんだよな」

 

「はい。ですが、このように堂々と自分の身分をひけらかすとは思えませんね」

 

叔父さんが呟くと、ディアブロがそれを拾った。

新型監視魔法の実験をとても楽しみにしていたらしく、今回の招集で中断されたのでかなり不機嫌そうだ。

 

「それは俺も疑問だったんだよね」

 

「リムルよ、考えすぎなのではないか? 正直が一番であると、貴様も常々言っておったであろう」

 

「師匠の言う通りだよ。そんな事よりさ、今は挑戦者達をどうもてなすかが大事だと思うのワケ」

 

叔父さんの疑念に対し、能天気にヴェルドラさんとラミリスさんが答える。

 

「スパイかどうかはともかく、3人とも“異世界人”と考えられる能力と出立ちだから、どっちみち油断は出来ない。要注意なんじゃないですか?」

 

「そうだな」

 

俺の意見に叔父さんが賛同した。

因みに、この間に彼らのスキルを複写(パク)っておいた。

黒髪白衣のシンジー   というか顔立ちと名前から考えて日本出身で本名シンジだな   は『医療師(ナオスヒト)』というユニークスキルを持っていた。ウイルスや細菌、薬品、毒を生み出し、操作するとんでもなく強力なスキルだった。精神生命体や無生物以外が相手ならほぼ無敵だろう。

当然、薬品などによって治癒もできる。医療用のナノマシンよりも優秀なので、汎用性の面でも凄まじく優秀なスキルだった。

マークのユニークスキルは『投擲者(ナゲルモノ)』という。

文字通り、手に持てる物ならなんでも投げることができ、空気弾や魔物の死体、その辺に転がっている石だろうと持ち上げられるモノはなんでも投げることができる。

最後のシンは『観察者(ミエルヒト)』というユニークスキルを持っていて、権能は『直感回避』『危険察知』『罠察知』『魔物察知』『気配察知』と感知系スキルのオンパレードだった。

シンジーのウイルスまで探知できるようで、しかも個人の高い戦闘力も加わり、逃げるのがメッチャ上手い。

素早い上に罠にかからないという、迷宮の天敵とも言える存在だった。

しかも、51階層以降は魔物の強さ以上に凶悪な罠の方が脅威。

無酸素部屋とか毒水、酸性沼、腐食ガス等々肉体だけでなく装備にもダメージが入るエグすぎる罠が大量に仕掛けられている。

製作者(ここにいる3人組)の陰湿かつ悪辣な性格が透けて見えるヤバい罠で攻略を妨げるそうだが、シンの能力で完全に無力化されてしまっている。

これでは上層階より少し難易度が高い程度だ。

方向感覚も良く、回転床にも騙されずに最短の道を進んでいる。

多少の怪我もシンジーの『医療師(ナオスヒト)』が治癒してしまい、毒も無効化してしまう。

正に迷宮攻略に特化したような者達だった。

 

 

 




「あのイントネーション〜転スラコラボverその3〜」

急速潜航(きゅーそくせんこー)』→『怠惰之王(べるふぇごーるー)


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第14話 迷宮、ヤバない?

転スラ日記って何話までやるんだろう?
DVD的に12話で終わらせるんだろうけど、そうなると29日は閑話とかになるのかな?
総合評価300突破ありがとうございます!
次はお気に入り300件と総合評価400!


 

 

 

異世界人らしき3人組の報告から3日が過ぎた。

俺は学園での仕事を手短に終えて、すぐに迷宮司令室に向かった。

例の3人組パーティの攻略っぷりを叔父さん達と一緒に眺めるためだ。

 

「どんな感じですか?」

 

「おう、来たかアユム。相変わらずこいつらスゲェよ」

 

俺の質問に叔父さんが嬉々として答えた。

確かに、相変わらず中々のペースで攻略している。

因みに、ディアブロは部屋の隅っこで読書している。

執事の仕事はどこ行った。

ダメっ子秘書のシオンはシュナさんからお菓子作りを教わっている。

そして、そのシュナさんが叔父さん達のお茶のお代わりを注いでいる。

勿論、俺にも一杯淹れてくれる。

いやホント、シュナさんマジ有能!

これに比べて正規の秘書2人はと言うと……やれやれ、どうしてこんなに差があるのやら。

 

「ところでリムルよ。3日前にあの者共がエサに食い付いたと言っておったが、どういう意味だ?」

 

叔父さんに聞くのはヴェルドラさんだ。

何というか、今更だな。

叔父さんが話していたエサというのは、最近この国で行われている()()()()のことだろう。

 

「それは気にしなくていいよ」

 

「水臭いではないか。我に話すがいい」

 

「それじゃあ言うけど、実はな   

 

そう言って叔父さんは説明を始めた。

避難訓練というのは、この中央都市リムルを地下迷宮(ダンジョン)内へと隔離するというとんでもない荒技だ。

ラミリスさんの固有能力(スキル)である『迷宮創造(チイサナセカイ)』は本当に凄まじい。階層の入れ替えができるそうだが、地上の都市さえも、その階層の一つに含まれるので入れ替えができるそう。

一度入れ替えれば24時間固定になるものの、水や空気の心配はないし太陽だって見えるので、住民の心的負担も小さい。

ただし、それを行うにはとんでもなく莫大な力を要するので、ラミリスさんの力では不可能である。

だが、ヴェルドラさんのエネルギーを借りれば可能となる。

そのため、戦時には迷宮に町を隔離するとのことだ。

まあ、何で自分のエネルギー使ってんのに気付いてないのというツッコミをしたくはなったが、俺はそのまま飲み込んだ。

そして、それの練習がスパイに対するエサにもなっていたという訳だ。

しかも、地上には迷宮への入り口の巨大な門だけ残るので怪しい事この上ない。

必ず敵側の調査が入るという訳だ。

 

「師匠のおかげで、私もパワーアップしたもんね! それが役に立って何よりさ」

 

「そうか、我のおかげか。なるほどな」

 

ヴェルドラさんが褒めて欲しそうな顔してる。

面倒だし煽てますか。

 

「いやホント。助かってるよ、ヴェルドラ」

 

「そうですね。戦争になったとしても、ヴェルドラさんのおかげで負ける気がしませんからね」

 

「クァーッハッハッハ! そうだろう、そうであろうとも。では、そのケーキは我が貰って良いな?」

 

叔父さんが「良くねーよ!」という顔してる。

俺は先に食べ切ったので狙われずに済んだ。

 

「それでは、私の分を代わりに」

 

「悪いな、ディアブロ」

 

「いえいえ。リムル様のためでしたら、このくらいはどうという事もありません」

 

そんなやり取りをしている内に、挑戦者達がついに60階層のボス部屋の前まで到達した。

 

「スパイと分かっているんならさ、捕まえた方がいいんじゃないの?」

 

と、心配するラミリスさん。

だが、叔父さんは気にしている様子はない。

 

「いや、彼らの実力も試したいし、どこまで行けるか見ておこうと思ってね。賞金を支払うのはちょっと痛いけど、結構盛り上がっているし問題ないかなって」

 

「流石はリムルよな」

 

「汚い! アンタって本当に発想が凄いよね!」

 

「やれやれ。前世からさらに悪辣な思考回路になりましたよね」

 

「………」

 

俺達の言葉に叔父さんが嬉しくなさそうにする。

そして、それをシュナさんが呆れ顔で眺めている。

 

「それにしても、失敗したな。まさか、牛頭魔人の戦斧(ミノスバルディッシュ)が一発で出るとはね。アレって聖属性だから、不死系や死霊系の魔物に対して効果抜群なんだよな」

 

「初回限定サービスとか、ちょっと調子に乗り過ぎてたのよさ……」

 

やれやれ、呆れ果てるばかりだな。

これじゃあ60階層なんか簡単に突破されるだろう。

60階層の階層守護者(ガーディアン)であるアダルマンは死霊(ワイト)らしい。

以前は死霊王(ワイトキング)だったらしいが、力を失ってかなり弱くなってしまったそうだ。

それに、アダルマンの本領は軍勢を率いる事にあり、単体ではゴズールやメズールよりも弱いらしい。

しかも、相手は聖属性の武器を完璧に使いこなしている。

まあ叔父さん達としても、罠が簡単に突破されるなんて予想外だったんだろう。

60階層は諦めて、70階層に期待する他なさそうだ。

 

そう考えてた時期が俺にも有りました。

あまりにも呆気なく、挑戦者達が鎧袖一触に葬り去られたのだから。

ボス部屋内が映し出された辺りからおかしいとは思ったんだけどさ、流石に秒で3人が倒されるなんて思ってもいなかった。

しかも、ボスであるアダルマンは一歩も動かず、3人を倒したのはアダルマンの従者であるアルベルトだ。

 

「ど、どういう事だ⁉︎ どうしてアダルマン達があんなに強くなっているんだよ⁉︎」

 

叔父さんもどうやら彼らの強さがここまで高いとは知らなかった様子だ。

 

「えへへ、ビックリしたでしょう! 内緒にしてたけど、リムルがあの子達に新しい装備をあげたじゃん? それがすっごく嬉しかったみたいで、メチャクチャ頑張って修行してたのよさ! それでねそれでね、迷宮の中って魔素濃度が凄く高いじゃん? それを取り込んで、アダルマンとアルベルトは以前の力を取り戻したって訳なのよさ‼︎」

 

ドッキリ大成功みたいなノリでラミリスさんが俺と叔父さんに告げた。

なるほど、どおりで2人から異様な強さを感じた訳だ。

アダルマンは死霊(ワイト)から死霊王(ワイトキング)へと進化している。

アルベルトは、元は死霊騎士(デスナイト)だったそうだが、力を失って骸骨剣士(スケルトン)になったそう。

だがしかし、迷宮内で進化を重ねて死霊王(ワイトキング)と同等の力を持つ死霊聖騎士(デス・パラディン)へと至ったようだ。

っていうか死霊なのに名前に“聖”騎士って、何その冗談。

 

死霊王(ワイトキング)とか死霊聖騎士(デス・パラディン)って、上位魔将(アークデーモン)と同等以上の魔素(エネルギー)量なんだな……」

 

叔父さんが驚きの言葉を洩らす。

 

「クァーッハッハッハ! 小物は小物なりに、我らの役に立とうと頑張っておるわ!」

 

「それで、あの竜は?」

 

「あれ、リムルは知らなかったの? アレはアダルマンのペットだよ」

 

ペットなの?

あのドラゴンって死せる魔物の頂点って言われている死霊竜(デス・ドラゴン)だよね?

ヤバすぎない⁉︎

まあ、そんな事より肝心の戦いの内容だ。

先程も話した通り、アダルマン側の圧勝だ。

アダルマンは玉座に座して動かず、死霊竜(デス・ドラゴン)もアダルマンの左手に鎮座したまま。

右手に控えていたアルベルトが前へと出ると、戦闘が開始された。

マークが特質級(ユニーク)の武器である牛頭魔人の戦斧(ミノスバルディッシュ)でアルベルトを攻撃するも、アルベルトの持つ特質級(ユニーク)の片手剣である怨念の剣(カースソード)によって防がれ、直後に斬り捨てられる。

シンはその光景を見て唖然となり、その隙に超高速で距離を詰めたアルベルトの剣撃がシンを小間切れ状態にする。

シンジーはそれを見て驚愕するも、大慌てで神聖魔法『霊子聖砲(ホーリーカノン)』をぶっ放した。

神聖魔法は扱える者が少ない。

それが使えるとなると、シンジーの本来の役職は魔術師(マジシャン)ではなく聖魔導士(セントウィザード)だろう。

まあそんな事は置いておいて、この攻撃はアルベルトへと直撃した。

しかし、アルベルトに対して全く通用しなかったのだ。

 

「嘘だろ……⁉︎」

 

驚きのあまりに動きが止まったシンジーに対し、アルベルトが剣を振り下ろした。

これで終了である。

さて、いくら進化してたってアルベルトは不死系魔物(アンデッド)だ。

聖属性の攻撃は弱点である。

だがしかし、それが通用しなかった。

その理由はアダルマンの生み出した奥の手であるエクストラスキル『聖魔反転』によって聖属性が効かなくなってしまったからだ。

しかもアダルマン達は死霊なので、大抵の攻撃に対する耐性は持ち合わせている。

これに加えて、弱点である聖属性の攻撃が効かないとなると、普通の挑戦者達ではもう手の施しようが無くなってしまった。

 

アダルマンが記録映像を撮っているカメラへと向いた。

そして、その視線の先には俺達がいる。

 

「我らが神リムル様、御覧に頂けましたでしょうか? 我らが勝利は貴方様のために!」

 

そう声高にアダルマンが叫ぶ。

アダルマンは少し勘違いが激しい奴らしく、叔父さんのことを神だと崇め立てているそうだ。

しかも、シュナさんのことを神様(叔父さん)に仕える巫女姫扱いしているし。

あながち間違ってはいないが……少々面倒なヤツである。

それにしても、過剰戦力だよね……。

コイツら、1人1人が特A級   災厄級(カラミティ)に匹敵する程の実力者だ。それが3体とか、小国の一つや二つくらい簡単に落とせるだろう。

 

「よくやったな、アダルマン。離れているとアレだ。今から司令室まで来てくれ」

 

「お、おおおおお! ありがたき幸せ、直ぐに御身の側まで馳せ参じましょう!」

 

う〜む、暑苦しい上に固っ苦しい。

まあ、頼れる部下ではあるけど

 

「ついでに、アルベルトにも一緒に連れて来てくれ」

 

「ハハッ! それで、死霊竜(デス・ドラゴン)は?」

 

死霊竜(デス・ドラゴン)君は流石に留守番で。流石に、司令室は死霊竜(デス・ドラゴン)君が来れる程広くはないからね」

 

「承知いたしました」

 

それを聞いて、死霊竜(デス・ドラゴン)が泣きそうな顔をした。

こればかりは仕方ないよね。

ここに体長10メートルもあるようなドラゴンが入る訳がない。

可哀想ではあるけど諦める他ない。

 

「シオン、アダルマンとアルベルトに紅茶を用意してやってくれ」

 

「あ、はい。しかし、骨なのに飲めるのでしょうか?」

 

「……あ」

 

珍しく尤もなシオンの意見に叔父さんが今更気付いたような反応をした。

そうなんだよね。

飲もうとしたところで、飲めるわけないんだよ。

どこぞの海賊漫画に登場する骨の音楽家じゃああるまいしね。

 

「こういうのは、その、気持ちだよ。ほら、香りとか楽しめるでしょ」

 

「そうですか、承知いたしました」

 

「いや、ちょっと無理があると思うな……」

 

そんな会話をしながら、しばらくするとアダルマン達が到着した。

 

「お待たせ致しました、リムル様」

 

「御尊顔拝謁できます事、心より感謝しております」

 

2人が叔父さんの前に跪いた。

いやはや、直に見ればえげつない力を内包しているよ。

 

「大儀であったぞ。アルベルトといったな、貴様の剣の腕前は中々のものであった。そしてアダルマンよ、階層守護者(ガーディアン)としての働き、実に見事だったぞ。これからも励むが良い!」

 

「うんうん、凄かったのよさ。これからも頼んだよ!」

 

「いやホント、久々にお前達を見たから余りの成長ぶり……というか進化ぶりに驚いたよ」

 

「「ハハァー‼︎」」

 

3人の言葉に感極まるアルベルトとアダルマン。

その後やっぱりアダルマン紅茶飲めない問題が起きたが、彼自身気にしてなかったので全然問題ではなかった。

 

「ところで、エクストラスキル『聖魔反転』だけど、素晴らしい着眼点だよな。アレを開発しただけでも、お前の頑張りがよく分かる」

 

「お褒め頂き光栄でございます! あのスキルはベレッタ殿に協力して頂いたのです。ルミナス様が『詫びじゃ』と申されまして、秘儀の一つである『昼夜反転』を授けて下さったのです。これをベレッタ殿のユニークスキル『天邪鬼(ウラガエルモノ)』によって改造を施した結果、会得に至ったのです」

 

「そうか、ルミナスにも後でお礼をするとして、アダルマン!」

 

「はっ!」

 

「今のお前ならば、現在70階層を任せている階層守護者(ガーディアン)に勝てるな?」

 

「……と、申されますと?」

 

どうやらアダルマンは叔父さんの意図が読めていないらしい。

そこからは俺が言葉を継いだ。

 

「61〜70階層はゴーレムが蔓延っているエリアになっていてな、魔法的な物ではなくて、機械的なトラップや兵器が中心なんだ。そして、そこの階層守護者(ガーディアン)をしているのが、ラミリスさんの開発した聖霊の守護巨像(エレメンタルコロッサス)を改造した新型の戦闘ゴーレムである魔王の守護巨像(デモンコロッサス)なんだよ」

 

「俺としては、今のお前達は魔王の守護巨像(デモンコロッサス)以上に70階層の階層守護者(ガーディアン)に相応しいと思っているんだ。アユムもそう思うだろ?」

 

「ええ、間違いなくアダルマン達の方が強いですからね」

 

「うむ、リムルやアユムの言う通りだな」

 

「だろ? という訳だ、アダルマン。お前には60階層から70階層の守護者へと昇格する事にした」

 

「お、おおおおおっ! ありがとうございます、リムル様‼︎ リムル様からの期待に応えるべく、このアダルマン、更なる努力を惜しむつもりありません‼︎」

 

「不肖アルベルト、アダルマンを全力で支える所存です!」

 

2人が跪き、叔父さんに対してそう宣言した。

確かに魔王の守護巨像(デモンコロッサス)だって弱くはない。

しかし、ボスとしての貫禄はあまりに弱いってのもあるよね。

何より、今回の件でアダルマンの方が強い事が分かった。

これで入れ替えない方がおかしいのだ。

 

「よし! それじゃあ、ラミリス。今日付で51〜60階層と61〜70階層の入れ替えを行なってくれ!」

 

「オッケー、任せてよ!」

 

こうして階層の入れ替えが決定した後、ずっと大人しかったディアブロが発言した。

 

「お話の区切りが良いようですので、報告したい事が御座います」

 

「なんだ?」

 

「我が下僕たるラーゼンから魔法通話が入りまして、リムル様に至急申し上げたき儀があるとの事。何でも、ラーゼンの古い師匠がとやらがやって来たらしく、その者がリムル様への謁見を願い出ているらしいのです。その者の名はガドラと言うそうですよ」

 

西側諸国で、特に魔法使い界隈じゃ知らぬ者はいない大魔導士ラーゼンの師匠か。ガドラというと確か、イングラシアの図書館にあったいくつかの魔導書の著者だったかな。

というか、下僕って単語使う奴初めてだわ。

そういえば、ラーゼンを部下にしたとか何とかって話してた記憶があるな。

最初聞いた時は驚いたけど、ディアブロが原初だったって考えると、さもありなんって思うよね。

そんな事は置いておいて、本人ならば会ってみたいよね。

ほら、剣術だけでなく魔法も極められれば、技術的な面で隙が無くせるでしょ。

だが、この時期に来るとなると。

 

「それって、いかにも罠っぽくないか? 帝国との決戦まで近いこの時期に面会って、疑わしい事この上ないって言うかさ」

 

「その通りです! そんな怪しい人物などに、リムル様がわざわざ会う必要などありません!」

 

シオンの警戒心がMAXである。

まあ、叔父さんの護衛としては当然だよね。

護衛の役割は危険に立ち向かう事ではなく、危険から護衛対象を遠ざける事だし。

それに、叔父さんは警戒感の薄いところがある。

 

「そりゃそうだよね。会ってみたいとは思うけど、あまりにも怪し過ぎる。って事で叔父さん、この件は却下でいいと思うよ」

 

「クフフフフ、アユム様の言う通りですね。ラーゼン如きの意見などにイチイチ耳を貸す必要はありません。私が話を聞いてやる事もないでしょう」

 

「そうだな。じゃあこの事は……ってアダルマン、どうしたんだ? もう退出してくれて構わないよ」

 

「あ、いえ。我らへの気遣いなど不要なのですが、それよりもですね……」

 

「うん」

 

「今の話にあったガドラと申す者なのですが……」

 

「ほう」

 

「私の古い友人なのではないかと……そう思った次第でして」

 

「……え?」

 

思わず叔父さんが見つめると、焦ったように挙動不審になるアダルマン。

 

「いや、お前が裏切り者とかそういう風に思った訳じゃないよ。ディアブロ、取り敢えず返事は保留だ。それで、お前の知るガドラという人物について教えてくれないか?」

 

そういう訳で、とりあえずアダルマンから話を聞こう。

 

「はい。まず、私とガドラの関係ですが、1000年以上前、私がまだ人間だった頃の親友でして、当時の私にも引けを取らぬ大魔法使いでした。既に寿命で亡くなっていると思ったのですが、あの者は神秘奥義『輪廻転生(リインカーネーション)』という秘法を編み出しており、それを以て生き延びていたとしても不思議ではありません。そもそも、その『輪廻転生(リインカーネーション)』を施し、我らを救ってくれたのが、そのガドラなのです。また、ラーゼンという名にも心当たりがありまして、ガドラの古い弟子の1人であるかと」

 

そこからもいくつか話を聞いてみたが、どうやら謁見を願い出ているガドラとアダルマンの友人であるガドラは同一人物であると考えて間違いなさそうだ。

そして、叔父さんも同じ結論に至ったようだ。

 

「ディアブロ」

 

「承知致しました。日時を調整の上、会談の準備を整えます」

 

 

 




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第15話 スパイさんいらっしゃ〜い!

Happy Birthday 俺!
という訳で今日は僕の誕生日です。
これから先も頑張っていきますのでよろしくお願いします!


 

 

 

数日後

魔国連邦(テンペスト)執務館

 

ガドラと名乗る人物がやってきた。

派手ではないものの、高級そうな魔法服に身を包み、老人とは思えない鋭い眼光を持っている。

そして、その後ろには見覚えのある3人の男が並んでいる。

この前、迷宮で暴れ倒していた異世界人3人組だ。

この3人は、どうもこのガドラという大魔導士の弟子であり部下なのだと。元々はゲス野郎   もとい、ユウキの下で働いていたそうだが、今回のガドラ老師による魔国連邦(テンペスト)調査の助っ人として、ガドラが預かる事になったそうだ。

そして、その話をガドラが語り終えるなり平伏したのだ。

そして、後ろの3人組もそれに倣って平伏する。

 

「面を上げなさい」

 

何故かシオンが偉そうに告げる。

やれやれ、謁見形式って色々とややこしいみたいだな。

 

「ははぁ‼︎」

 

ガドラさんも大袈裟に返事をする。

これからの話し合いも面倒な事になりそうだな。

 

場所は安い方の応接間だ。

部屋の中の装飾品は割と安い物で、その代わりかなり頑丈に設計されている。

高い方にしようともなったらしいのだが、どうやら異世界人3人組が緊張していたようだし、叔父さんも高い方はあまり使いたがらないのでコッチになった。

因みに俺は、隣の部屋で聞き耳を立てている。

万が一、叔父さんが襲われても直ぐに守れるようにするため   というのは建前で、実際はどんな話が聞けるのか気になったからだ。

そもそも、叔父さんの強さならば護衛なんて必要ないしね。

 

「飲み物、コーヒーと紅茶があるんだけど、どっちがいい?」

 

軽い感じに質問する叔父さん。

いくら何でも軽すぎだと思うが、まあこの人に威厳を持った態度とか無理だもんね。

元々はただのサラリーマンで、そこから3年ぽっちしか経っていないもんね。

 

「じゃ、じゃあコーヒーで」

 

同じようなノリでシンジさんから言葉が返ってきた。

 

「おい、シンジィ⁉︎」

 

それを聞いたガドラさんが血相を変えて叫ぶ。

そりゃまあ、そうだよね。

魔王に気安く接するなんて、普通は自殺行為だもんね。

それを叔父さんが宥める。

 

「まあまあ。それで、ガドラさんは?」

 

「ワ、ワシですか? それじゃあ、その、シンジと同じ物でお願いします」

 

そして、残り2人も脂汗を垂らしながら無言でコクコクと頷いている。

同じ物で良いらしい。

 

「シュナ、アメリカンを4つ!」

 

「はい」

 

シュナさんは返事をすると、コーヒーの準備を始めた。

3人組がそれに過剰に反応している。

そんなに驚く事か?

 

「え? あ、アメリカン⁉︎」

 

「もしかして、薄くない方が良かった? じゃあ、ブレンド? それとも、我が国自慢の“テンペスト”にする?」

 

“テンペスト”か。

アレ美味いんだよね。

だから、個人的には“テンペスト”を推すね。

だが、3人はそういう問題じゃあないと言った様子だ。

 

「いやいや、そういう意味ではないんです。あの、ですね……」

 

「うん?」

 

「その、リムル陛下ってもしかして“異世界人”だったりします?」

 

「そうだけど? ていうか、今更だな。西側諸国じゃもう有名な話なのに、知らなかったのか?」

 

どうやら叔父さんが“異世界人”なのではという疑問を持ったようだな。

しかし、本当に今更だな。叔父さんも言った通り西側諸国じゃあ、もう有名な話なのに。

そういや、ギィさんも知らなかったね。

思いの外、知れ渡ってないのかな?

だが、ガドラさんが「しまった、伝えるの忘れておった!」という表情を浮かべている。

なるほど、知ってはいたんだろうけど3人には伝えていなかったという事なのだろう。

その後、シュナさんの淹れたコーヒーが全員へと行き渡る。

そして、それを見てシンジさん達が感動の表情を浮かべているのが分かる。

もしかして、帝国にはコーヒーは無いのだろうか?

シンジなんか、一口飲んで「これ美味しいですね」と明るい表情を浮かべているし。

まあ、それをガドラさんに睨まれてしまっているけど。

それを宥めた後、叔父さんは表情を変えた。

 

「さて、それでは詳しい話を聞かせて貰おうか」

 

その言葉で、一瞬ピリリとした空気が走った。

 

「実はワシ、転生者なのですじゃ」

 

でしょうね。

どうやら3人は初耳だったようで目を丸くしていたが、アダルマンの言葉から察するに転生したのであろうと考えるのが自然だった。

ただし、叔父さんのように異世界から転生したものではなく、魔法を使用してこちら側の世界の中で転生を繰り返しているといった感じだ。

ガドラ老師は、大昔から魔導を極めようと欲しており、何度も転生を『輪廻転生(リインカーネーション)』にて繰り返し行っていたそうだ。

そして、生まれ変わっては各王宮にて秘蔵されている魔導書を読み漁って、膨大な知識を蓄えたんだと。

そんな中、隠れて魔法研究を行っていた時に知り合ったのがアダルマンで、あっという間に意気投合して親友になったそうだ。

 

「先程も申しましたが、ワシは西方聖教会に恨みがありました。我が友であるアダルマンを殺された恨みが。そこで、何百年と計画を練り、東の帝国を扇動して西側に攻め込ませる事にしたのです」

 

うん、なるほど。

つまりはこの爺さんが原因であると。

まあ、それは後で問い詰めるとして、ガドラ老師は自分の身の上話を始めた。

ガドラ老師は、アダルマンが七曜の老師の罠に嵌められたのを知り復讐を誓った。

そのまま単身で帝国へと向かい、そのまま信用を積み重ねたのだそう。

300年前にはヴェルドラさんとの戦いも経験していたらしく、中々にぶっ飛んだ経歴を持っていた。

 

「いやはや、事前に転生の儀式を済ませておいて正解でしたわい。この目で、自然に生み出された“魔”の力の極限というのを見ておきたかったのです」

 

ガドラは実際に戦った経験から、帝国軍がヴェルドラさんに勝てるとは思えないとの事だ。

因みに、ヴェルドラさんは俺の隣に座っているのだが、その事を言われてかなり嬉しそうだ。

まあ確かに、この人の強さは凄いもんね。

直ぐに調子に乗りやすいなど性格面が残念だけど……。

そういえば、ガビルも直ぐに調子に乗る事が多いし、ミリムさんもちょっと煽てると直ぐ鼻高状態になるし。

あれか? ドラゴン系種族は調子に乗りやすい奴が多いのか?

おっと、話が脱線した。

俺がそんな事を考えている間にも、ガドラ老師の話は続いた。

 

「戦術的には勝てるやも知れませぬが、あのバカ共はヴェルドラ様を支配しようと考えておるようでしたな。ハッキリ言ってワシ、そんな事は無駄だし、何より不可能なのだから諦めろと何度も何度も忠告したのですじゃ。第一、ワシの目的はルミナス教に対する復讐ですので、ヴェルドラ様と戦って無駄に戦力を割くような事はしたくなかったのですじゃ」

 

一応、その辺の見る目は持ち合わせていたみたい。

それで必死に現実を説き伏せようとしたそうだが、自分達を過大評価している軍団長を始めとする帝国軍将校は聞く耳を持たなかったらしい。

でもまあ、そうなる原因作ったバカは誰でしょう?

そう、ガドラ老師です!

 

「つまり、帝国が戦争を始めようとしているのは、主に貴方のせいであるという事ですかね?」

 

叔父さんがその事について冷めた表情をしてガドラ老師を問い詰めている。

 

「ま、まあ、それもある、と言いますか……」

 

言葉を濁しているが、逃げ場なんてないと思うよ。

無駄な言い訳しない方が自分のためじゃない?

叔父さんも、ガドラ老師をジト目で見つめている。

そりゃそうだよね。

この人がいなければ、戦争なんてせずに済んだのであろうから。

 

「違うのですじゃ! 帝国は元々覇権主義でしてな、方向性を定めてやらねば、各地に戦火が飛び火するのです。そこでワシは、西方へと目を向けさせただけでして。まあ、ワシの目的ともがっちりしましたし、都合がいいかな……なんて」

 

いや、良くねーよ!

こちとら完全にとばっちりなんだよ‼︎

それにしても、この人こんなにヤンチャで軽い人だとは思わなかったな。

もっと厳格な人物だと思っていたのだが、人は見た目で判断してはいけないというのは本当にその通りだな。

 

「ワシとしても、ジュラの大森林への侵攻は反対だったのですじゃ。この森には“暴風竜”ヴェルドラ様がおりますし、今となっては新参とはいえ油断ならない魔王リムル陛下が治めております。前回のような失敗をしないためにも、ドワーフ王国の調略に力を入れるよう進言しておったのですが、なにぶん頭の固い者が多くてですな、武力で全てを解決しようとしておりまして……」

 

あれ、今ヤバい事言わなかったか?

 

「おい、ちょっと待て! 帝国ってやっぱりらドワーフ王国にも手を出すつもりなのか?」

 

叔父さんが急に質問した。

今のはやはり空耳じゃなかった。

 

「お気づきでしたか。手を出すという程の具体的なものではないのですじゃ。ワシの案としては、ガゼル王に同盟の申し入れを行い、軍事行動を見逃してもらうというものでした。ワシの恨みは西方聖教会にのみ向けたものでしたので」

 

アダルマンが無事なのは、既にガドラ老師も知っている。叔父さんはこの面会が終わったら会わせる約束をしたとのこと。

だからこそ、ガドラ老師は自分の計画の空回りっぷりを自覚しており、今となっては反戦派の立場に転向しているという訳だ。

向こうの皇帝とも懇意にしているそうだが、侵攻計画撤回を奏上できる程の立場にはいないらしい。

そこで、帝国の御前会議では反戦を主張してくれる事になった。

あまりに都合が良すぎる態度だが、叔父さんとしては戦争回避が最優先である以上、その辺の文句は控えていた。

それに、この際とばかりに叔父さんは聞き出せるだけ情報を聞いている。

俺のいる別室には、俺の他にもベニマルや紅炎衆(クレナイ)はじめとしたテンペスト軍の幹部達が待機して、聞き耳を立てながら作戦会議中である。

 

「でもさ、同盟の申し入れをガゼル王は了承しなかっただろう」

 

「当然ですな。そこで、暗殺するという手段も検討されておりましたが、それにはワシは反対だったのです。どうせやるなら、正面から打ち破れ、とね!」

 

それが難しいから暗殺とか考えるんじゃないの?

そして、その事を誇らしそうに話すんじゃない!

ていうか正面から打ち破ろうとしたら余計に戦力割かないといけなくなるんじゃない?

まあ、して欲しくないけど。

うーむ……イメージ像とどんどんかけ離れていく。

もうさ、呆れを超えて逆に感心するわ。

叔父さんも呆れつつではあるが、しっかり情報を引き出していく。

帝国軍の内訳や、上層部の考え方。中には、ユウキのクーデター計画など驚きの情報も含まれていた。

そして最後に、軽い感じで本音を語った。

 

「ワシ、これといって帝国に義理や忠誠心など無いのですよ。ワシが手塩にかけて育て上げた魔法軍団も解体され、部下まで取り上げられてしまいましたのです。シンジ達はワシの弟子だったので、借り受けておるのです。アダルマンが無事……とは言い難いですが、元気にしてあるのであれば、向こうに未練はありませんな」

 

根っからの自己中心主義者(ナルシシスト)じゃねーか!

自分から忠誠心など無いと言い切るとはもう衝撃だよね。

 

「そんな訳ですので、これからはリムル陛下の配下の末席にでも加えて頂けましたら、粉骨砕身働く所存です!」

 

どの口が言う!

さっき忠誠心など無いって言い切ってたよね?

それを聞いて、俺の同じ部屋にいるベニマルに至っては今にもブチ切れそうである。

こりゃ早く鎮火しないとヤバそう……。

 

「お、おーい、ベニマル。落ち着けって……」

 

「これが落ち着いていられますか……!」

 

「な、なんなら利用するだけ利用して、最後にポイ捨てするという手段もあるし、多少はね……」

 

「なるほど、それは名案ですね」

 

俺の言葉に冷徹な笑みを浮かべるベニマル。

半分冗談のつもりで言ったのだが、コイツは本気でやりそうだ。

本当にやらかさないように気を付けないと。

 

そして後日、ガドラさんは客分扱いとして仮雇用する事になった。

まあ、自分で配下になりたいと言ったんだから、存分に働いてもらわないとね。忠誠心無いとか言ってたけど。

ちなみに、あの3人組はこのまま魔国連邦(テンペスト)に移住する事になった。

少しゆっくりした上で、今後の身の振り方を考えるそうだ。

まあ、裏切ってくれたら真っ先に追放だけどね。でもまあ、それは多分しないだろうね。

追放されるのは絶対に嫌だったそうで、3人組は誓約までしてくれた。

ただし、ユウキの事を尊敬しているらしく、ユウキへの敵対行動はしたくないとの事だ。

だけど大した問題ではないね。

 

「そもそも、俺達とユウキ一派はややこしいんだよ。今は休戦中というか、そんな感じ。腹の立つ事も多いし、仕返ししたいのもあるんだけど、何となくアイツの事は憎めなくてね」

 

叔父さんが3人組に対してそう話していた。

これには俺も思うところがある。

実際、数少ない同郷者で助けてもらった恩もある。

俺としても完全にはユウキは憎め切れないのだ。

だからこそ、裏切られたショックもデカかったのだけど。

 

「でもさ、お前達もアイツの事は信用しすぎるなよ」

 

最後に叔父さんは3人組に向けてこう言った。

そりゃそうだな。

あんなゲス野郎を信用してたら命がいくつあっても足りない。

そして、何故かガドラさんがその言葉に頷いていた。

ガドラさんも、ユウキと何かあったんだろうね。

その後、叔父さんは約束通りアダルマンとガドラさんを引き合わせた。

かなり嬉しそうに互いを懐かしんでいたね。

そして、ガドラさんは当分の間はアダルマンが預かる事になった。

だが、それは帝国での仕事を終えてもらってからだ。

まずは反戦活動をしてもらう。

だがまあ、これはガドラさんの話から失敗する公算が高い。

未来でも戦争になった訳だし。

そこで、二の策として敵を迷宮に誘い込んでくれるようにしてもらった。

あそこなら聖人級や仙人級がまとまってやって来ない限り、打ち崩す事はできやしない。

それに、迷宮内であれば仲間を復活させることができる。

なので、叔父さんはガドラさんに“復活の腕輪”や魔国連邦(テンペスト)で新開発した穴空き武器を始めとした迷宮で獲得できる装備品をいくつか渡した。

これを餌に誘い込んでもらう。

戦略的に考えてこの町や迷宮を素通りするなど考えにくいが、更に富が手に入るとなると間違いなく食いつくだろう。

そしてそれを利用すれば、敵に同情するレベルで圧勝できるはずだ。

そして、それをガドラさんは快く了承してくれた。

強欲な指揮官にも心当たりがあるらしく、かなり自信満々だ。

こうして、亡命してきた4人仲間を新たに加え、帝国戦に備えることとなった。

 

 

 




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第16話 戦争準備(前編)

お久しぶりです。
先週投稿するつもりでしたが、色々あって今日になりました
先週からアニメ転生したらスライムだった件第二期第二部が放送開始しましたが、やっぱり転スラはいいぞ!
カガリ役は石川由依さんでしたね。
個人的には中々いい具合にハマっていると思います。
次回かさらにその次くらいに白氷宮のメンバーが登場でしょうか?
レインとミザリーとヴェルザードの声優が気になります。


 

 

 

ガドラさんが帝国へと向かって数日が経った。

今日は監視魔法お披露目の日だ。

場所は迷宮内に新設された“軍事管制司令室”だ。

ネーミングについては一悶着あり、叔父さん、ヴェルドラさん、ラミリスさんの3人だけで考えたら“戦略級軍事管制戦闘指揮所”というあまりにも長すぎる名前になってしまったので、半ば強引に俺が変更した。

そもそも、戦略というのは目的を達成するための長期的かつ総合的な計画、ようはシナリオのようなものだ。

それに、ここでは戦略レベルだけでなく戦術レベルでの命令を出す事の方が多いと思われるので戦略という言葉はよろしくないだろう。

また、戦闘指揮所というのは、大抵は艦艇の司令室を意味する言葉だ。

なので、この場には相応しくないと思う。

という訳でこの名前になった。

まあ、軍事管制司令室でも少々長いので、皆は大抵管制室と呼んでいる。

その内正式名称を知らない人の方が多くなりそう。

さて、話が逸れたな。

新型監視魔法の運用結果は上々で、かなり満足のいく物だった。

武道大会の時に使用した大スクリーンが複数セットされ、それぞれ異なる場所を映し出している。

ジュラの大森林各地や帝国との国境周辺、ファルメナス王国に接する海路にカナート大山脈山頂付近などが綺麗に映し出されている。

成層圏界面付近に巨大な水のレンズを展開して、目的地点の拡大した光景を映し出す。それを反射し、俺の作ったシステムで情報化して転送している訳だ。

叔父さんの能力で画像処理も行われているので、精度も高い。

テスタロッサの部下であるモスの小型分身体能力を参考に、叔父さんの小さなスライム分身を派遣して、これらが魔法発動媒体となっている。

しかも、これらは叔父さんの『空間支配』の権能で繋がっており、一瞬のズレもなくデータリンクしている。

分身を運ぶのには、ソウエイやモス達が頑張ってくれた。

一言で言えば、異世界版軍事偵察衛星と呼べるほど優れている。

その名も、物理魔法『神之瞳(アルゴス)』だ。

暖かい司令室で現地情報を得られる。素晴らしい魔法が完成したと皆大喜びだった。

特にディアブロなんかは少々はしゃぎすぎな気がしたな。

 

「クフフフフ、流石はリムル様です! 必要な魔素がごく僅かだというのに、これほど絶大な効果を発揮する魔法は私も初めてです。制御に必要な演算能力やスキルは想像を絶するというのに、さも当然のようにコントロールなさるとは(以下略)」

 

まあ、右から左に全て聞き流したけど。

さて、この魔法は思わぬ副産物を生み出した。

叔父さんが開発し、ファルムス軍を殲滅するのに使った物理魔法『神之怒(メギド)』を映像の映る地点に向けて発動させる事が可能となったので、この魔法の実質的な射程が世界全体に及んだのだ。

試しに、広場で訓練中だったゴブタの足下に向けて発射したら本当に成功した。

ビックリして飛び上がった彼の顔は中々面白かった。

また、『神之怒(メギド)』の性能も上がったとの事。

ついでに改良を施した結果、常にいくつかのレンズを上空に展開できるシステムが完成したのだ。

神之瞳(アルゴス)』と連動する事で、衛星間を中継して夜間でも『神之怒(メギド)』が発動可能となったし、昼間は熱線砲の如き威力を発揮するなど、かなりえげつないシロモノになった。

多分、相手が普通の人間の軍隊ならば、これだけで殲滅できるだろう。

操作には複雑な演算能力が必要だが、叔父さんには俺の『学術之王(ラジエル)』と同じような解析演算系の究極能力(アルティメットスキル)があるとのことなので心配不要だそう。

 

さて、迷宮の仕事に戻る前にやっておきたい事がある。

 

「ヴェルドラさん、ラミリスさん、今の迷宮の現状教えて下さい!」

 

俺は、迷宮の95階層にあるヴェルドラさんとラミリスさんの研究所へ殴り込みに来た。それに2人は激しく狼狽えていた。

 

「げ、現状とは?」

 

「今の階層守護者(ガーディアン)達ですよ。どうせ今では、叔父さんが俺に教えてくれた情報とは結構変わっているんでしょう? アダルマンやアルベルトが良い例です」

 

「うーん、そうだね。折角だからアユムちゃんにも教えてあげるのよさ!」

 

そう言って、ラミリスさんが解説をしてくれた。

まず、上階層はほとんど変わりはないそうだ。

まあ、それはそうだろうね。

強いて言えばゴズールとメズールで、武闘大会以降2人は競って戦闘訓練を繰り返しており、以前は力任せだったが技術面がかなり上昇して自分の力を上手く活かせるようになったそうだ。

60階層と70階層は、以前話した通りだ。

無茶苦茶な戦闘力を誇る魔王の守護巨像(デモンコロッサス)が60階層を、進化を重ねて異常な戦闘力を獲得し、ボスとして昇格したアダルマン達が70階層を守っている。

80階層はというと、ゼギオンという体長50〜60センチくらいでカブトムシとクワガタを足して2で割ったような見た目をしている蟲魔族(インセクト)が守っていたはずだ。

しかし、今のゼギオンは人型へと進化した。

ルベリオスでシオンが戦ったラズルと似た姿になり、近接戦闘ならばヴェルドラさんと良い勝負ができるくらいになったらしい。

今では“蟲皇帝(インセクトカイザー)”の称号を得ているそう。

因みに、その称号がどこぞの小型ロボットによるバトルが世界中で人気になったが、それを悪用する奴らと主人公達との戦いを描いたアニメに出てくる“秒殺の皇帝”の異名を持つ主人公のライバルが操る小型ロボットの必殺技みたいな名前だと思ったのは秘密だ。

そして、79階層の領域守護者(フロアボス)をしているアピトもヤバかった。

彼女もゼギオンと同じ蟲魔族(インセクト)らしく、蜂に近い姿をした女王麗蜂(クイーンワスプ)だったのだ。

そしてこちらも人型に進化して、しかもヒナタさんから戦闘技術を学んだときている。

魔物の中でもトップクラスのスピードと洗練された動きで敵を翻弄するスタイルのようだ。

さらにゼギオンと共に戦闘訓練を繰り返し、双方高い技術(レベル)を身につけていた。

事実、聖騎士団(クルセイダーズ)の訓練の一環で隊長格であるアルノーさん率いるチームが挑んだが、あっという間に返り討ちにされたらしい。

そして、クマラは聞かなくても知っている。

彼女は尾獣の力を全て取り込む事で、大人の姿になる。

その時の戦闘力たるや絶句ものである。

聖人に至っていなかったら間違いなく負けていた。

そして、地下迷宮(ダンジョン)では迷宮十傑という10人の強者が誕生していた。

それぞれが96〜99階層を守護している、4体の竜王(ドラゴンロード)達。

99階層の領域守護者(フロアボス)   火炎竜王(ファイアドラゴンロード)

98階層の領域守護者(フロアボス)   氷雪竜王(アイスドラゴンロード)

97階層の領域守護者(フロアボス)   烈風竜王(ウィンドドラゴンロード)

96階層の領域守護者(フロアボス)   地砕竜王(アースドラゴンロード)

そして、それよりも強いのが先程話題に出た彼らだ。

90階層の階層守護者(ガーディアン)   九頭獣(ナインヘッド)”クマラ

80階層の階層守護者(ガーディアン)   蟲皇帝(インセクトカイザー)”ゼギオン

79階層の領域守護者(フロアボス)   蟲女王(インセクトクイーン)”アピト

70階層の階層守護者(ガーディアン)   不死王(イモータルキング)”アダルマン

70階層の前衛   死霊聖騎士(デス・パラディン)”アルベルト

そして最後に、十傑のまとめ役である“迷宮統括者”ベレッタ

これが迷宮十傑の全容である。

うん、ヤバすぎるわ。

竜王(ドラゴンロード)達だけでも1体1対が特A級(カラミティ)だというのに、さらにそれより強い魔王種クラスが6人……。

こんなの倒すの無理だわ。

敵が知ったら絶望感が半端ないだろうな……。

 

話を聞いて唖然としていると、叔父さんが研究所へと入ってきた。

そして、その後ろにはあの3人組が続く。

 

「ラミリス、シンジ達なんだけどお前のところで働かせてみるか?」

 

「あ、リムル! この前の子達でしょ?」

 

「そうそう」

 

ラミリスさんには自分の助手と呼べる研究員が居ない。

ここに来ている他国の研究員をそうする訳にはいかないし、我が国の住民でも知識が低すぎると問題だ。

そこで、シンジさん達を研究員として採用する事になったそうだ。

 

「ヤッホー! アタシはラミリス。君達、私の助手として働いてくれないかな?」

 

「え、えっと……」

 

「ファンタスティック! おい、シンジ! 本物の妖精がいるぜ‼︎」

 

シンジさんは返答に困っている様子だが、マークさんは初めての妖精で大喜びしている。

 

「アタシはちゃんと役に立つ助手を探していたのよさ。ちゃんとお給料も払うし色々面倒も見てあげるから、どうかな? 研究員は人手不足だし、ちゃんと教育された“異世界人”は凄く良い人材だってリムルも言ってたんだよ!」

 

「……僕は賛成かな。研究している方が平和だし、良いと思う」

 

「そうだね。それじゃあ、お願いします」

 

その返事を聞いて、ラミリスさんは嬉しそうだ。

そして、偉そうにふんぞり返ってこう言った。

 

「ふふん! アンタ達、中々見所があるわね。採用してあげるわ。でもね、アタシの命令には絶対服従で仕事して貰うわよ!」

 

うわぁ、さっきまでのが嘘のよう。

なんなんだ、この変わり身の早さは……。

 

「ちょっと、ラミリスさん?」

 

ジト目で突っ込むと、また変わり身した。

 

「えっへへ。冗談よ、冗談。でも、ウチの研究員になるからにはキッチリ働いてもらうわよ」

 

まあ、こちらとしても無駄飯食らいは雇いたくないしね。

当然っちゃ当然である。

ラミリスさんはあっという間に条件をまとめていく。

月給金貨3枚で、ボーナス有り。

もっとも、ラミリスさんは割と気分で払うだろうから、ボーナスはあまり当てにしない方がいいだろうね。

 

「それじゃあアユムちゃん、3人を案内してあげて」

 

何故、俺?

一応、研究所の中は大体把握しているけど、どうして俺が?

まあ、いいや。

 

「えっと、初めまして。迷宮研究員兼テンペスト学園非常勤講師の三上歩(アユム・ミカミ)です。どうぞ宜しく」

 

「うん。僕は谷村真治(シンジ・タニムラ)、宜しく」

 

「おう。マーク・ローレンだ、こっちこそ宜しくな」

 

「……シン・リュウセイ。宜しく」

 

互いに自己紹介し合った後、シンジさんから質問が来た。

 

「君も、やっぱり異世界人なの?」

 

「ええ。1年くらい前、高2の時にこっちの世界に」

 

「そっか。やっぱり、大変だったよね?」

 

「うーん。自由組合や叔父さんのおかげで、そこまで困りませんでしたけどね」

 

「叔父さん?」

 

「ああ、魔王リムルは俺の叔父さんですね。因みに、この事を知っているのは、この国の幹部とか一部の人だけなんで、内密に」

 

「「「……え?」」」

 

はあ、またこの反応か。

この事話すと、大抵皆こういう反応になる。

 

「おい、それ本当か⁉︎」

 

と、マークさんが聞いてくる。

 

「ええ。マジですよ」

 

一瞬疑った様子だが、本当だと分かったようで絶句している。

 

「まあ、ね。分かりますよ。俺もそれを叔父さん自身から教えられた時は驚きましたもん」

 

「スゲェことになってるな。異世界転移したら叔父が転生してて、しかも魔王って……」

 

「凄くカオスだね……」

 

マークさんとシンがそれぞれ口にする。

 

「まさかとは思うけど、リムル陛下と同じくらい強かったり……?」

 

「それは無いですね。叔父が戦っているところを見ましたけど、アレはもう勝負になりませんから」

 

シンジさんの質問に、そう答えておいた。

実際は叔父さんといい勝負できるくらいには強いんだけど、言わぬが花だろう。

そりゃね、ここで叔父さんと同等の力持ってるとか言おうもんなら、面倒な事が起こる気しかしないからね。

そんな他愛もない会話をしながら、俺は研究所を案内した。

 

シンジさん達が加わって、数日が経った。

様子を見る限り、あの人達も仕事に慣れてきたみたいだ。

さて、今日も今日とて管制室内にて『神之瞳(アルゴス)』で上空から敵の動きを監視中である。

ジュラの森の各地やカナート大山脈などだが、異常はない。

そして帝国との軍事境界線付近が映し出されている。

そこにある帝国軍の最前線基地は、大勢の兵士が集まりかなり慌しい様子だ。

数日前から慌しくなっているが、それ以上の変化はない。

 

「今日も動きは無いか」

 

「相変わらずですね」

 

叔父さんの言葉に俺は同意した。

 

「そうだな。それにしても、便利な魔法だ。ここ最近、リムル様とアユム様が研究していたのはこの魔法だったんだな」

 

今日は俺達だけなのでベニマルも口調がラフな感じだ。

流石に、人前ではきっちり敬語を使っているそうだけどね。

ただ、叔父さん的にはこっちのラフはな口調の方が好きらしいけど。

 

「その通りです! この魔法の素晴らしさは、その発想の柔軟さにあります。エネルギーコストは僅かながら、絶大な効果を発揮します。その利便性は言うまでもなく、発動を支える為の演算の複雑さは、美しい芸術品の様に無駄がありません。ですので   

 

「ストップ、ストーップ! ディアブロ、その辺で。お前の自慢は長いから、俺のいないところで付き合ってもらえ」

 

ディアブロの自慢話を叔父さんが速攻で止めた。

そして、それにベニマルも追随する。

 

「そうだ、ディアブロ。お前はもう少し自重しないと、リムル様に迷惑だ」

 

「うんうん、興奮するのは分かるがな。ちょっと鬱陶しい」

 

「何を言うのですか、ベニマル殿にアユム様。そんな事ありませんよね、リムル様?」

 

「いや、ベニマルの言う通りだ。お前はさすリムさすリムって大袈裟なんだよ」

 

叔父さんの言葉を受けて、ディアブロはショックを受けた表情で項垂れている。

やれやれ、コレが原初の悪魔と聞いて呆れる。

だがしかしだ。

 

「戦争が始まる前に完成して良かった。あらゆる物事において、情報収集は最重要。情報は、何をすべきかを判断するのにおいて、唯一の指標になる。それに、“兵は詭道なり”といいますしね。相手を騙すために、相手に騙されないようにするするために、余計に情報は重要です。そして、これは情報収集の手段の中では最も有効だから、かなり優位に戦えますね」

 

ボソッと呟いた言葉に、叔父さんとベニマルが感心している。

ディアブロも「流石はアユム様、分かっておられる」って顔から出ている。

そんなほのぼのとした会話をしている中、叔父さんが表情を変えた。

 

「ラミリスから、ガドラが戻って来たって報告が入った。何かあったみたいだから、確認しに行くぞ」

 

「了解です、俺はここで引き続き帝国の動向を警戒しておきます」

 

「それでは、私がリムル様の護衛に」

 

叔父さんの言葉に、ベニマルとディアブロが応じた。

 

「俺も、ベニマルと一緒に警戒しておきます」

 

「ああ、頼む!」

 

そう言って、叔父さんは去って行った。

後で聞いた話によると、以下の通りだ。

ガドラさんは御前会議で言われた通りに反戦を主張した。

しかし、結果としては予想通り開戦へと傾いたそうだ。

そこまではいいのだが、問題はその後だ。

ガドラさんは帝国の皇帝ルドラに、最後の奉公がてら直訴しに行ったそうだ。

そして今日、皇帝に面会しに行ったところ、皇帝の居城の中で何者かに刺されたそうだ。

まあ、あらかじめ用意しておいた緊急脱出用の転移魔法で迷宮まで跳び、叔父さんから渡されていた復活の腕輪で事無きを得たそうだけど。

それにしても、誰がやったのだろうか?

ガドラさんは輪廻転生(リインカーネーション)を何度も行う事で、凄まじい経験値と技量(レベル)を持つ。

その上、常に警戒を怠らず、徹底した魔法による防御術式を常に発動していたにも関わらずだ。

そんな人に不意打ちを成功させられる人物など限られているだろう。

ガドラさん自身は思い当たる人物がいるそうだが、信じ難い相手なのだそう。

やはり、帝国は侮れない。

魔王になる前の叔父さんを殺せるほどの実力者いたはずなのだが、他にもいると考えるべきだろうな。

 

さて、ガドラさんの話によると、帝国は本格的に開戦に向けて動き出した。

帝国が戦争を行う際、宣戦布告は行わず降伏勧告が行われる。

皇帝を、そして帝国を唯一無二の存在と定めており、他国の存在は認めていないからだ。

まあ、それはあくまでも建前であり、実際はドワーフ王国なんかとも国交があり、その統治に口出しなどはしていない。

帝国が他国を侵略する時、それは全ての準備が整った事を示すものであり、それ故に宣戦布告ではなく降伏勧告が行われる。

それも、たった1度だけだ。

それに従えば良し、逆らうならば開戦。

その後は一切容赦しないとの事。

やれやれ、上から目線にも程がある。

どれだけ傲慢な国家なのだろうか?

勿論、“西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウェスト)の定めた国際法も批准していないので、戦争になったら問答無用で何でもやる。

敗戦時の取り決めや捕虜の扱い、戦時中の禁止行為などの取り決めが無いので、西側諸国は東の帝国を非常に恐れていた。

まあ確かに、そりゃ怖いわな。

最悪の場合、戦略爆撃など第二次世界大戦に敢行された敵国の民間人に対する無差別殺戮まで行われそうだ。

帝国相手に敗北する事は、全てを失う事と同義である。

何故なら、全てが帝国の所有物にされて敗戦国の権利など何も残らなくなる。

最低でも引き分けに持ち込まないと、帝国に話は通せないとの事だ。

という訳で、こちらも一切の手加減は必要無い。

一気に勝負を片付けて禍根を断ち切る。

帝国の動向が確定した今、魔国連邦(テンペスト)も戦時体制へと切り替える。

まずは管制室内に作戦司令部を設置する。

ここから『神之瞳(アルゴス)』で得た情報に加え、ソウエイやモス達の集めた情報を元に命令を出すのだ。

さて、この時点でこちら側の優位性はかなりのものになった。

この世界では、軍隊と軍隊が遭遇してからが本番らしい。

流石に、斥候を出したり遠距離魔法での監視などによって敵軍の動向を探る事は当然行われているが、戦う直前に行われるのが普通らしい。

まあ、近代以前における向こうの戦争でも割とそんな感じだった気がするしね。

こちらの世界にも情報戦の概念はあるが、これほどの警戒網と監視能力を持っているのはありえないらしい。

そして、『神之瞳(アルゴス)』の映像を見て、ガドラさんが驚きのあまり凍りついてる。

 

「こ、これは、空からの映像……⁉︎」

 

「クフフフフ。これはリムル様の魔法によるものです。消費する魔素量は極少量であるにも関わらず絶大な効果を誇る。その上、その反応は大気圏の外側にあります。これを感知できる者など、ほんの僅かしかいないでしょう。それこそ、『超直感』のような危険予知能力を持つ者くらいでしょうか?」

 

「さ、左様ですな。ワシも魔法の感知には自信がありましたが、この魔法は自然すぎて、何者かの意思が介在しているなどとはとても思えません出したわい……」

 

「そうでしょうとも! 魔法に長けている上位魔将(アークデーモン)であろうと、ヒヨッコレベルでは気付けないでしょうね。実に素晴らしいと思いませんか?」

 

「思いますとも! これは本当に素晴らしい魔法ですわい‼︎」

 

ガドラさんとディアブロ(魔法バカ2人)が騒ぎ始めた。

何故かディアブロがドヤ顔で自慢し、ガドラさんもしきりに興奮している。

正直言って、鬱陶しい。

 

「アユム、シオン、よろしく」

 

「へーい」

 

「承知しました」

 

俺は叔父さんの言葉に頷き、シオンと一緒にバカ2人を別室に追い出した。

さて、静かになったところで話を戻す事にしよう。

宇宙空間からの監視映像とか、この世界においては反則技もいいところだろう。

どのくらい反則かというと、一部を除いてせいぜい20世紀中期レベル(魔法込み)の技術力しかないこの世界において、現代の最新鋭兵器を我が国は持っているという事だ。

情報戦では圧倒的な優位に立て、敵を掌の上で転がすなど造作もないだろう。

相手が一方的に侵略してくるのはかなりの恐怖だが、侵攻のタイミングにルート、大まかな戦力まで分かってしまえば、そこまで怖くはない。

その上、単純な戦力でもこちら側には魔王種クラスがゴロゴロいるので問題無い。

さらに、迷宮があるので民間人の犠牲は相当な事がない限りほぼ出ない。

手筈通り、帝国軍をボコボコにするだけである。

さて、この戦争にはルールなど無いが、叔父さんは2つルールを定めた。

その1『民間人には手出ししない』

その2『こちら側からは仕掛けない』

まあ、当然である。

これが為されなければ、第二次世界大戦のような地獄が待ち構えているはずだから。

さて現在、この国の幹部達が管制室に集合している。

こうして見ると、かなり壮観だ。

そんな中、遅れてやって来た人物が1人。

俺の親友であるマサユキだ。

彼は現在、義勇兵団の軍団長になっている。

だがまあ、ほとんどただの御輿なんだけどね。

そして、彼が軍団長に任命された際に泣きつかれて俺がその義勇兵団副軍団長としてマサユキをサポートする事になった。

やれやれである。

教師、研究者に加え軍の幹部とか、もう大変だよ全く……。

因みに、俺が副軍団長になる事については所属している冒険者や傭兵達から文句が出るどころかむしろ喜ばれた。

何故なら、俺はときどき迷宮攻略に勤しんでおり、そのペースが1人での攻略にも関わらずかなりの速さなので、最近では“電光石火”の異名が付くくらいだ。

そのせいで、マサユキやヒナタさんに次ぐ西側屈指の実力者なんて言われている。

まあ、聖騎士団(クルセイダーズ)の隊長格よりかは上くらいって評価なんだと思う。

まあ、悪い気はしないけどね。

 

「待ってたよ、マサユキ。今やお前は人民の心の支えだから、ちゃんと参加してね」

 

と、叔父さんがボサリと呟いた。

その言葉にマサユキがツッコミを入れる。

 

「ちょっと待って下さいよ! どうして僕が人民の心の支えなんですか⁉︎ テキトーな事言わないで下さいよ、まったく!」

 

マサユキもマサユキで苦労してるんだよね。

やれやれ、叔父さんはどうしてこんなに人使いが荒いのやら?

前世の三上悟だった頃でも大概だったが、こっちに来てから間違いなく悪化している。

まあ、マサユキが人民の心の支えというのには異論無いけど。

 

「ははは、悪い悪い」

 

そして、叔父さんは部屋の中を見渡す。

そして、真面目な顔をして言い放った。

 

「さて、今日集まってもらったのは言うまでもなく、帝国に対抗するための会議を行うためだ。作戦の概要は既に考えてはあるが、皆の意見も聞きたいのでどしどし発言してくれ!」

 

「「「ハッ!」」」

 

かくして会議は始まった。

 

 

 



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第17話 戦争準備(後編)

唐突なのですが、読者の方々に質問があります。
アユム君の能力にはモデルがあります。
多分気づかない人がほとんどだと思いますが。
ヒントはあるSF作品で、前書き後書きのパートでネタを使った事もあります
分かったらメッセージ機能でメッセージをお願いします。(感想稼ぎの防止と答えが他者にバレるのを防ぐためにも、感想蘭への返信は行わないで下さい)
正解したところで何かある訳でもありませんが、答えてくれたら嬉しいです。モチベ維持に繋がります。
正解は次回のエピソードの中に入れる予定です。
さて、アニメ転スラですが、ヤムザとミッドレイとヘルメスが登場しましたね。
まあ、ミッドレイとヘルメスは日記で先行登場してましたが。
次回はやっと白氷宮の面子が登場ですね。
ヴァルザード姉さんやメイド2人は誰が演じるのでしょうね?


 

 

 

叔父さんの言葉で、会議が開始された。

モニターには、現在の帝国軍の動向が映し出されている。

その中でも、特に目立つ兵器が2種類あった。

まず一つ目。

土煙と轟音を立てながら走行するデカい鉄の塊。

戦車である。

 

「まさか、戦車があるとはな……」

 

叔父さんがそう呟く。

やはり俺の想像通りだったようだ。

ガドラさん曰く、帝国では“異世界人”の知識   科学技術による近代兵器の開発が推し進められていた。

ガソリンなどの代わりに魔素を利用した内燃機関を搭載し、大気を循環させてエネルギーを得るシステムらしい。

汎用性も高く、単純なカタログスペックならば現代の最新鋭戦車も軽く凌いでいるとの事だ。

しかも、エネルギーを消耗するが、軽く地面から浮き上がる事もできるらしい。

そしてそんなヤバいやつがおよそ2000台ある。

俺や叔父さんの記憶から、戦車というものを全員に共有する。

 

「なるほど。俺達なら問題になりませんが、下っ端の兵達では厳しそうですね」

 

というのはベニマルの言葉だ。

確かに、下っ端兵では相手にならないな。

 

「アユムに感謝だな。お前のおかげでアレ相手でも問題なく対応できる」

 

「だから言ったでしょ?」

 

俺は叔父さんにそう返した。

やはり作っておいて良かった。

数は100倍もあるけどね……。

まあ、そこはあの手この手を駆使してカバーするとしましょうか。

2つ目は、空飛ぶ船   飛空船だ。

こいつも中々ぶっ飛んでいる。

最高速は音速を超えており、魔法増強砲という兵器が搭載されている。これは、10人の魔法使いが魔力を流し込み、大魔法を操るというものだ。

これを5門搭載している他、副兵装として多数の機関銃が配備されている。

そして輸送能力もかなり高い。

戦闘も行える輸送機と言ったイメージだ。

アレがあれば、輸送が格段に楽になるし兵站の問題も簡単に片付く。

というか、この世界には領空や制空権という概念が無いので、対空兵器が無いし、対空警戒もされてないので北の海の上空を通ってイングラシア王国あたりでも攻めに来れるだろう。

案の定、北の海を目指している飛空船が200隻ほど確認できた。

それにしても油断していた。

制空権はこちらが一方的に確保できると楽観視していたのだ。

テンペスト軍の第3軍団はガビル率いる航空部隊が空を制圧し、一方的に攻撃ができると思っていたのだが、それは間違いだったと思い知らされた。

だが、それは俺がいなければの話である。

既にトマホークやハープーン、スタンダードなどの各種ミサイルも製作済みだ。

充分対処できるだろう。

だがしかし、圧巻の戦力だ。

初めて目の当たりする者達は、唖然とした表情でモニターを眺めている。

 

「帝国軍の総数だが、推定で100万! まあ、見ての通りだ。帝国側の戦力や兵器群に驚いたと思うが、俺達が優位なのは変わらない。だから、安心してくれ」

 

そりゃそうだ。

こちら側は帝国軍の大まかな戦力を既に丸裸している上に、侵攻ルートもバレバレなのだ。

一方、帝国軍はこちら側の戦力の完全把握はできていないだろうし、気付かれてないから奇襲できるだろうとさえ考えているだろう。

敵を掌の上で転がすというのはこれほど気持ちいいとは思わなかった。

 

「ガドラからの情報だと、帝国軍には三大軍団が存在する。その内の一つ、機甲軍団に中に、この映像の戦車部隊がある。『魔導戦車師団』の通称で呼ばれていて、敵の主力部隊と考えて間違いない」

 

そこから、叔父さんは戦車部隊の内情を説明していく。

ガドラさんは作戦会議にもしっかりと参加し、その内容も全て教えてくれたらしい。

ガドラさんの逃亡は向こうも把握しているだろうから、作戦変更されているかもしれないが、大筋での変更はないだろう。

また、ユウキがクーデターを企んでいるらしく、他の軍団長をかき回すためにも、ガドラは死んだから警戒の必要は無いと主張するはずだ。

そしてガドラさん曰く、機甲軍団の軍団長であるカリギュリオ大将という人物が、叔父さんのエサに食い付いたんだと。

地下迷宮(ダンジョン)には多くの宝があると思い込んで抜け駆けしようと企んでいるようだ。

ならば、余計に作戦の変更されない確率は上がる。

思い込みで行動するのは危険だが、カリギュリオの差配を見れば敵の行動目的も推測できるだろうというものだった。

そして叔父さんの説明が終わった辺りで、ゴブタからの質問だ。

 

「あのう、宿場町に待機させている自分の軍団っすけど、あの戦車ってやつの部隊と戦う事になるんすか?」

 

宿場町というのは、テンペストからドワルゴンに向かう街道と、シス湖に流れるアメルド大河の重なる地点にある、大きな町だ。

現在、そこには第1軍団が待機しており、いつでも動けるように準備している。

また、そこに住んでいる住民達は魔導列車で首都リムルまで避難中である。

 

「何を聞いているんだ、当たり前だろう? お前の率いる第1軍団で、この戦車部隊を潰す事になるんだぞ」

 

「き、聞いて無いっすよ……」

 

ショックでフラフラになりながら、ゴブタは呟いた。

 

「もしかして、自分達が宿場町を死守しなければならないんすか?」

 

ゴブタがもう可哀想な顔をしている。

今にも死にそうな雰囲気だ。

 

「んな訳ねーだろ⁉︎ 聞いた限りの戦車の性能じゃあ、第1軍団でもやりようによっては勝てるが、どれだけ被害が出るか想像がつかん。そもそも、攻めるより守る方が難しいし、実戦経験の少ない緑色軍団(グリーンナンバーズ)ではほとんど戦車の的にしかならないから、死守は作戦に無い」

 

ゴブタを安心させるために、叔父さんがそう話した。

ゴブタのサポートであるハクロウさんは、ウンウンと頷きながら聞いていた。

最初から考えは分かっていたようだ。

 

「それじゃあ、どうするんすか?」

 

「それを考えるのが軍団長の役割なんだが、最初からは無理だよな。ベニマル、説明よろしく」

 

叔父さんの言葉をベニマルが引き継いだ。

 

「宿場町は重要拠点ではあるが、失ったところで困りはしない。壊されたなら、再建すればいい。奪われたなら、奪い返せばいい。問題となるのは、住民に被害が出る事だ。しかし、これについてはリムル様が予め対策済みだ。あそこの住民には、首都への避難命令を発布させている」

 

「あ、そういえば人は少なかったっすね」

 

「そういう事だ。お前の任務は、残った住民も安全に避難させる事だ。そして、それが終わったらここに向かえ」

 

そう言ってベニマルが指し示したのはテーブルの上に広げられた大きな地図のとある地点だ。

武装国家ドワルゴンの中央都市セントラルだ。

 

「へ?」

 

「この映像を見てみろ。帝国軍は部隊を分けて、いくつかのルートで侵攻中するつもりらしい。既にジュラの大森林内に突入した部隊もあるが、戦車部隊に大きな動きは無い。侵攻ルートを見るに、カナート大山脈の麓に沿って移動するつもりなのが明白だ。戦車はデカい図体を持っている。密集した樹木の場所を通ると、部隊の進軍に何かと不便だからだろうな。その結果、木々の密度が少ないこのルートという訳だろう」

 

「な、なるほどっす……」

 

「お前、本当に分かっているのか? まあいい。お前の目的はドワーフ王国の防衛だ」

 

そう言いながら、ベニマルはゴブタを模したコマをドワーフ王国の前に置く。そして、次に取り出したドワーフ軍を表すコマをゴブタのコマと並べて置いた。

 

「ドワーフ軍との共闘だ」

 

「おお‼︎」

 

ゴブタもようやく理解して、興奮している様子だ。

ガドラさんの情報では、帝国はドワーフ王国を狙っている。

既に叔父さんはその事を伝達しており、ドワーフ王国側も援軍に向かうと約束してくれたそうだ。

 

「帝国軍の狙いは、目立つ場所を通る事で、そこから攻めますよと俺たちに知らせるためだ。これだけ派手に動けば、誰でも気付くからな」

 

「えっと、確か示威行為って言うヤツっすね」

 

ゴブタのくせに難しい言葉を知っている。

どうやら、彼なりに勉強はしているようだ。

 

「その通り。このルートは、ドワルゴンとテンペストの境界線上に当たる。両国は必ず気付く。そして、ここはその出方を伺うのに最適な地点だ。下手にチョッカイを掛けようものなら即開戦だろう。もっとも、こちらからの手出しは厳禁だから、まずは警告から入る。ここまではいいな?」

 

「はいっす!」

 

「俺達から手出ししなければ、帝国軍はアメルド大河を越えて、ドワーフ王国の正面入り口を俯瞰する場所に出るだろう。その場所は樹木の無い平野部が広がっているから、軍を展開するには最適だ」

 

「なるほど……」

 

「ここまでされると、ガゼル王も黙っていられないだろう。向かい合う形で軍を展開させて、相手との交渉に入る訳だ。それは俺達も同様で、帝国は我らテンペストとドワルゴンを敵に回すことになる」

 

ベニマルはそう言いつつ、地図上のコマを動かしていく。

視覚的にも分かりやすい。

 

「ガドラ殿の説明だと、帝国はドワーフ王国軍とテンペスト軍な挟撃を恐れていたとの事だが、この地点を抑えられた以上それは成立しない。相手が待ち構えているところへの奇襲は、戦術的に意味を持たない。だから、最初から迎え撃つんだ。そして、正面から叩く!」

 

「おおっ‼︎」

 

ゴブタから感心した声が出る。

他の皆も声には出してはいないが、かなり興奮している。

 

「アユムも極秘に戦車の開発を進めていてくれた。数は少ないが、それをゴブタ達のサポートに回そう」

 

「え、そうなんすか⁉︎」

 

俺の新兵器開発は結構知られていない。

実際、敵に戦車などがなければこちらも運用する予定は無かったからだ。

話を聞いていた皆も驚いている。

 

「ああ。俺の遠隔操作だから、使えるのは20両が限界なんだけどな。だが、性能はこちらの方が上だ。数の差が大きいものの、性能差と第1軍団の戦力を考えれば充分対抗できる」

 

特に、防御装甲が段違いになっているはずだ。

帝国の戦車もかなりの防御性能を誇るが、弓矢や投石、通常の魔法程度の対策しか講じられていないと思われる。

しかし、こっちの戦車の正面装甲は核撃魔法『熱収束砲(ニュークリアカノン)』を食らってもびくともしないし、側面も超高等爆炎術式に耐えられるだけの防御性能を持っている。帝国軍の戦車でこちらの戦車を撃破するには、装甲の薄い背面や天板を狙う必要があるだろう。

また、最高速は同等だが、加速と減速は優っているだろう。

その上、俺が元いた世界の最新鋭戦車が搭載しているような滑腔砲や砲安定装置、射撃統制装置も導入している。

単純な性能面では確実に優っているはずだ。

 

「まさかそんな物が用意されているとは。こいつは頼もしいっすよ!」

 

「ゴブア!」

 

「ハッ!」

 

ベニマルに呼ばれたゴブアが跪く。

 

「お前には、アユム様の護衛をしてもらう」

 

「承知しました」

 

「おいちょっと待て、ベニマル。護衛なんか要らないって」

 

「そういう訳にもいきませんよ。そもそも、アユム様ご自身が戦場に出向かれる事自体、許容し難いのですから」

 

それもそうだよね。

勝つためには戦車の戦力は欲しいが、機密情報だったために運用できる人員が俺しかいない。

だから俺が戦場に出向く必要がある訳だが、正直俺に戦わせたくないというのは普通か。

何が何でも護衛つけられるだろうから、ここは諦めよう。

 

「分かったよ」

 

「ご理解頂きありがとうございます」

 

ベニマルはそう言うと、ガビルに視線を向けた。

 

「第3軍団長ガビル!」

 

「ハッ!」

 

「お前の役目は避難する住民達を警護する事だ。上空から遅れている者や遭難しそうな者がいないかを監視し、適切なサポートをしてくれ」

 

「承知ですぞ!」

 

「そして避難誘導が完了し次第、第1軍団の応援に向かえ。上手くいけば、帝国軍の到着する前に合流できるだろう」

 

「吾輩の第3軍団はテンペスト一の機動力を誇ります。間に合わせて見せましょう!」

 

ベニマルの言葉に対し、ガビルが自信満々に答える。

しかし、現実的に見て少々厳しいと思われる。

住民達の避難の際には列車をフル稼働させる予定ではあるが、それでも数万人もの人数を移動させるには時間がかかる。

それに対して、帝国軍は軍団魔法(レギオンマジック)の効果を含めて考えると、1日に80kmは進むとの事。

現在、帝国軍は国境線付近に留まっているが、そこから開戦予定地までは1500km程だ。20日もかからずに、帝国軍は開戦予定地に到達できる。

何故これ程の行軍速度が出せるかと言うと、兵士の1人1人に改造手術というのが施されているからだ。1週間は飲まず食わずで活動可能らしい。

また、戦車が補給無しで走行可能な速度がおよそ10km/hらしい。

魔素を取り込むのは夜間でも可能なので、戦車のエネルギー補給に合わせて休息を取るだろう。

 

   という事だから、こちらの想定以上の速度で帝国軍が到着する可能性がある。各々油断しないように!」

 

そして一拍置いて、ベニマルは次の説明に入る。

 

「さて、ここで帝国軍の主力が展開する訳だが、これはゴブタの言う通り示威行為。即ち、陽動だ。本命の部隊は、ここを直接狙って動いている!」

 

そう言いながら、ベニマルは新たな帝国軍のコマを取り出し、ジュラの大森林上にバラバラに置いていく。

戦車部隊を主力に見せて、本隊は別に配置する。

森の中に拡散している上、隠密行動を取っているので通常では見つけるのは至難だ。しかし、『神之瞳(アルゴス)』で敵の初動を確認し、森の中に入る前からソウエイやモスなどの諜報部隊がマークしているので、動きは完全に丸見えだ。

なんなら、分散している今の内に各個撃破するという策も取れる。

だが、人的損害を0にするには迷宮に誘うのが確実だし、後続の本隊がやってきたり、こちらの策がバレて一気に合流され、時間稼ぎされてる内に包囲されても厄介だ。

 

「万が一、こちらの想定を上回る事態が発生したとしても、この地の守りにはゲルドがいる。ゲルド、お前は早急に各地から配下を呼び戻しておいてくれ」

 

「既に『思念伝達』で通達済みだ。間もなく、全員が俺の下に集結する」

 

「よし。こちらの本命部隊は隠れ潜むように行動を続けるだろう。残念な事に、リムル様の編み出した物理監視魔法『神之瞳(アルゴス)』では、森の中の様子までは分からない。そこで、ソウエイの出番だ」

 

その言葉にソウエイが頷き立ち上がった。

 

「森の中では木々が深々と生い茂っているため、上空からの監視は難しい。配下を潜ませるにも、範囲が広大すぎる上に発見される危険性がある。そこで、モスの力を頼る。モスは極小サイズの『分身体』を大量に放ち、情報収集ができる。『分身体』に戦闘面では期待出来んが、やられたところで問題はない。また、アユム様の開発した小型ステルス警戒装置も大森林の各地にばら撒いたので、『神之瞳(アルゴス)』の弱点を充分にカバーできる」

 

ソウエイが言った通り、『神之瞳(アルゴス)』の弱点を補うために、小型の警戒装置を大量に生産したのだ。

小型でステルス性が高く、人の存在に反応してこちらに警告してくれる素晴らしいシステムだ。

 

「これらの情報によると、小隊規模に分かれた帝国軍がこの町を目指して進軍中である事が分かっている。それ故に、個別に潰すのも我々の意のままだ」

 

ソウエイがうすら笑みを浮かべている。

中々怖い顔だ。

本当に味方で良かった。

ベニマルの作戦は、あえてある程度纏まるまで待つとの事だ。

 

「帝国軍の狙いが地下迷宮(ダンジョン)ならば、誘い込んだ上で始末する。地上に残った部隊があれば、ゲルドの第2軍団と俺の第4軍団でこれを撃破する。以上だ!」

 

「「「おう‼︎」」」

 

ベニマルの言葉に全員が頷いた。

 

「よーっし! アユム様の戦車にガビルさん達が来てくれるなら安心ってものっす! これで勝利はオイラ達の物っすね‼︎」

 

「そう言ってくれると嬉しいものである。必ずや帝国軍を蹴散らして見せましょうぞ!」

 

「出番が無いのではと心配したが、流石は総大将ベニマル殿。本国の守りという、最大の栄誉を残しておいてくれるとはな。我らの力、存分に振るわせてもらうとしよう」

 

各軍団長がベニマルの檄にそれぞれ応える。

文官の皆も興奮しながら意見交換をしている。

悲壮感の欠片もなく、悪魔3人娘達も楽しそうに会話している。

そんな中、1人不安そうな顔をしている人物がいる。

リムル(叔父さん)だ。

それを察したベニマルが叔父さんに言った。

 

「ご安心下さい、リムル様。俺達は負ける心配などしてはいません。ですが、それは負けると思っていないからではなく、全力を尽くして戦うためにです。勝てるだけの理由があり、華々しい戦場がある。これで負けたのであれば、自分達が無能だったのだと、弱肉強食の掟に従うまでです」

 

爽やかな笑顔でそう言った。

他の皆も同じ考えのようだ。

 

「そうか、分かった。テスタロッサ、ウルティマ、カレラ!」

 

「「「ハッ‼︎」」」

 

叔父さんに名前を呼ばれた3名が立ち上がった。

 

「お前達は各軍団長に付き従って、その行動をサポートしろ!」

 

「承知致しました、リムル様。評議会の方については、既にシエンに任せております。この戦争が終結するまではわたくしも戦いに参加させて頂きますわ」

 

「やっとボクの出番だね。任せて下さい、リムル様!」

 

「ふふふ。我が君、期待してくれ。私の力、存分に発揮しようじゃないか!」

 

三者三様に答える。

彼女達も活躍の場を与えられて嬉しそうだ。

それに叔父さんは頷き、3人をそれぞれ紹介する。

ゴブタにはテスタロッサが、ガビルにはウルティマが、ゲルドにはカレラがそれぞれついた。

 

「大丈夫っすかね? こんな戦った事も無いような女性には第1軍団は務まらないっすよ?」

 

ゴブタが怖い事を言う。

流石は考え無しに地雷を踏み抜く天才である。

 

「あら、頼もしいですわね」

 

テスタロッサの目を直視できない。

顔は笑っているけど、その目は……いや、これ以上はよそう。

はてさて、ゴブタが彼女の正体を知ったらどうなる事やら。

一方、ゴブタ以上に調子に乗りやすいガビルは意外にも礼儀正しく接している。

 

「我輩には至らぬ点が多い故、宜しく頼むのである」

 

ウルティマに頭を下げてそう言った。

ディアブロや他の魔王の方々曰く、悪魔の中でも一番残忍な性格をしているのがウルティマらしい。暴走しやすい面ではカレラだが、一番恐ろしいのはウルティマなのだと。

叔父さんの命令に従いつつも、抜け目を探して報復しそうなんだよね。

なので、ガビルの行動は正解だった。

 

「ボクの方こそ宜しくね!」

 

ウルティマは可愛らしく返した。

最近のガビルは、調子に乗らないように戒めている。

それが功を奏したな。

ゲルドの方は、何の問題もなくカレラと打ち解けている。

どちらも武人気質なので、それが上手く噛み合ったようだ。

さて、悪魔3人娘の正体を知っている者は少ない。

叔父さんが緘口令を敷いたし、3人にも自重するように申し付けているしね。

でも今回の戦争で、話す必要が出てくるだろう。

だってコイツら何かやりそうだもん。

戦いにおいて、この3人ならば何があっても問題ない。

だが、それが逆に問題になりそうなんだよな。

まあ、配置しなかったが故に犠牲が出るよりかはマシである。

 

「さて、これで会議は終了だが、他に何かある者はいるか?」

 

叔父さんの言葉に対し、勢いよく挙手する者が1人。

マサユキである。

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

「何かな、マサユキ君?」

 

「ええとですね、僕が軍団長なのかってのは置いておいて、僕に預けられた軍団   義勇兵団の出番っていうか役割というか、その辺りの説明が何も無かったんですが……」

 

ああ、そこか。

そういえば言って無いなこのオッサン。

 

「悪いな、いきなり大役を押し付けちゃって」

 

「え、いや……」

 

「だが、町の住民の心を落ち着かせるには、俺よりマサユキの方が向いてるんだよ」

 

叔父さんは、マサユキに説明した。

まだちょっと分かっていなさそうだ。

 

「魔物達は、士気が高いし治安を乱したりしないだろうけど、移住してきた者達は違うからね。戦争となると、不安になる者も多いと思う。そういった者達の心の拠り所になって欲しいって事さ」

 

俺はマサユキに耳打ちした。

 

「ああ。それなら、僕の力も役に立ちそうだね」

 

俺の説明で納得してくれたようだ。

 

「ワッハッハ、ご謙遜を! マサユキ様は“勇者”の立場でいらっしゃれる。一国に与するのを望んではおられぬ事は、このミョルマイル以下、誰もが理解しておりますとも! しかし、ここは力無き民達のため、是非ともそのお力をお貸し下さい!」

 

ミョルマイルさんがキラキラした目でマサユキを見ながら、そんな事を言い出した。

未だに、マサユキの実力を勘違いしたままだ。

そういえば、ヒナタさんもマサユキの事を勘違いしている節があるみたいだしね。

やっぱり『英雄覇道(エラバレシモノ)』の影響って凄いね。

実質的に、究極能力(アルティメットスキル)じみてるもんね。

マサユキ、恐るべし。

 

「あはは……そうですね」

 

嫌そうなのを必死に堪えながら答えるマサユキ。

もうウンザリという心情がありありと見て取れる。

哀れにも思うが、俺だってサポートするので頑張って欲しいな。

 

「では、僕の預かっている義勇兵団で、治安維持に努めます」

 

「ああ、頼む。知っていると思うが、ラミリスの力のおかげで町への被害は最小限で済む。戦争が始まったら、地上の都市部も迷宮に隔離される手筈なんだよ」

 

これについては、幹部や関係各所に通達済み。

取り締まったりとかはしていないから、避難訓練の際に逃げ遅れた者達から噂話が流れているだろう。

そうやって、少しでも不安解消に繋げようという思惑もあった。

 

「まあね! アタシの力も凄いけど、それは師匠のおかげってワケなのよさ!」

 

「うむ。我の強大すぎる魔素(エネルギー)をラミリスに貸し与える事で、この大技を成し得ているのだ。言ってみれば、友情の勝利というヤツだ」

 

「2人ともありがとう。本当に助かってるよ」

 

叔父さんは2人に礼を言った。

だが、そんな事しようもんなら。

 

「え、そう? まあね、まあね、当然なのよさ! もっと褒めてくれてもいいんだよ!」

 

「クァーッハッハッハ! そうだぞ。もっと我らを褒め称えるが良かろう」

 

やはりすぐ調子に乗る。

 

「ハイハイ、アリガトウゴザイマス」

 

叔父さんもウンザリというのがありありと伝わってくる。

まあ助かっているのは本当だけどさ、調子に乗られても困るよね。

迷宮内に隔離すると言っても、外の空間と大して変わらない。

空だって見えるし、何が起きたか気付かない住民もいるくらいだ。

帝国軍の脅威に晒されることがないのは本当にありがたい限りである。

 

「しかしリムルよ、心するのだぞ?」

 

「ん?」

 

「万が一、いや、億が一の場合だけどね、師匠が倒されて100階層が突破されたら、その時は一気に町が迷宮の外に放り出されちゃうのよさ。無理してる反動ってやつなのよ」

 

「なるほど、そういう心配もあるのか。だが、それはヴェルドラが倒されたらだろう? そんな状況に陥ったら、町がどうとか言ってる場合じゃないだろうな」

 

「まあ、我が負けるなどあり得ぬがな」

 

「だよね! 迷宮十傑もいるし、その辺りの心配はいらないと思うワケ!」

 

「まあ、万が一の時にはマサユキもいるしね」

 

「ファッ⁉︎ ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 治安維持だけならともかく、そんな状況で僕に何が出来るって言うんですか‼︎」

 

「ちょっと叔父さん、冗談が過ぎるでしょ⁉︎」

 

マサユキに軍の指揮なんて無理ゲーである。

俺だって意見出すのが限界であり、指揮なんて出来ないだろうからね。

他の皆もさもありなんと頷いている。

あのミョルマイルさんも、それはそうだろうという感じだ。

 

「安心しろって、マサユキ。お前が軍団の指揮を取れるなんて思っていないさ。今ヒナタと相談しているとこなんだが、聖騎士団(クルセイダーズ)から補佐官を派遣してもらうよう頼んでいる。多分了承されるから、君の副官になってもらう予定だ。アユムもそこそこ軍事に精通しているし、大丈夫だよ」

 

「それなら安心できますね」

 

「それにだ! 子供達も護衛に……じゃなくて守ってやれよ!」

 

おい!

急に何吹っかけてんだよ。

 

「も、勿論ですよ」

 

マサユキは叔父さんの言葉に脂汗を流している。

マサユキも子供達の実力を知っている。

ようは、マサユキは守られる側なのだ。

安心しろ、まとめて俺が守るから。

それに、最悪の場合は俺より強いクロエがいるから問題無い。

 

これで会議は終了である。

万全の態勢を取ってはいるが、何が起こるか最後まで分からない。

何より不安なのが、叔父さんの死だ。

クロエの記憶の中   かつて存在した未来で、叔父さんは死んでいる。

帝国には、叔父さんを殺せるほどの強者が存在する。

それは紛れもない事実だ。

だからこそ、覚悟を決める。

何がなんでも、この人を守り抜くのだ。

俺のために、この国のために。

俺は決意を改めて、最後の準備を始めた。

 

さて、その後の住民説得は簡単に上手くいった。

流石はマサユキだ。

住民の間では、『魔王リムルを勇者マサユキが説き伏せて、町を守るように確約させた』という感じの話になっている。

 

「流石は勇者様だ!」

「頼もしい限りよな!」

 

という冒険者や移民達からの賛辞を、マサユキは一身に受けて複雑な心境のようだ。

2人きりの時の愚痴が、さらに勢いを増している。

そして、そんな表情さえも評価の原因になっている。

 

「勇者様な憂いの表情も萌えますね」

「あれだけの譲歩を魔王から引き出せたというのに、まだマサユキ様は満足されておらぬな」

「ああ、奥ゆかしい人よ」

「この町は勇者様が守って下さっている! ついでに魔王リムルだっているんだし、帝国軍が来ようと怖くねーぜ!」

「おう、全て任せていれば安心だ!」

 

そんな感じで解釈されてる。

閃光のパーティメンバーもそんな感じなので、さらにマサユキの心労がさらに重なる。

マサユキの苦悩に気付いているのは俺くらいなのだ。

 

そして平和な日々は終わりを告げ、戦争が始まろうとしていた。

 

 

 




最近投稿ペースが落ちてるのがネック。
しかも、以前投稿していた作品のリメイクが全然進まない……


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第4章 Tempest VS Empire of East
第18話 開戦


どうも、前回やった質問の返信が全くなくて少しショックしてます……
(´・ω・`)<ショボン
答えは後書きの方にあります。
さて、アニメでヴァルザード役が井口裕香さんでしたが、私的にはちょっと意外でした。
ガルパンの冷泉麻子役やとあるシリーズのインディックス役のイメージが強かったので。
あとレインが喋らなかったんですよね……
ワルプルギス開催まで持ち越しでしょうか。
最近東方ダンマクカグラというゲームが配信されて、今ハマっているんですが、転スラではシズさん役の花守さんが演じてるフランちゃんがマジでカワイイです。
因みにアイコンは花守さんの事務所の先輩が演じているアリスになっています。
前書き長くてスイマセン。
それでは第18話開幕です‼︎



 

 

 

開戦に向けての会議から1ヶ月が経過した。

今日も今日とて管制室内にて帝国の動向を監視中である。

管制室には常に数名のスタッフが張り付いていて、24時間態勢の3交代制ですシフトを組んでいた。

さて、20日ほどで開戦すると言ったな? あれは嘘だ。←やりたかっただけ

嘘というか、予想外だった。

帝国軍はあえて速度を遅らせることで、自分達の威容を見せつけるように進軍している。

戦車など見たことない者達からすれば、その威容は凶悪な魔獣のように思えるだろう。

事実、森に住んでいるAランク以下の魔獣達だって、帝国軍を恐れて侵攻ルートから退避していた。

また、戦車部隊の侵攻が遅いのには、もう1つ理由がある。

それは、現在首都目掛けて侵攻中の歩兵部隊に足並みを合わせ、歩兵部隊が集結するまでこちら側の目を引きつけるためだ。

こっちは全力で隠密行動に徹している。

しかし、初動を『神之瞳(アルゴス)』で把握しているし森に入ってからはモスとソウエイの分身体が常にマークしている。

また、俺の作った警戒システムでも帝国軍の動きは把握している。

という訳で、帝国軍の隠密行動は徒労に終わっている。

さて、帝国軍の現在地は既に魔国連邦(テンペスト)領内だ。

西側諸国評議会(カウンシル・オブ・ウェスト)の定めた国際法では、他国への無断での立ち入りは勿論完全にアウトの案件だ。

というか、そんな法律が無くとも統治国側の許可無く他国の軍隊が軍事行動を起こしていたらどの国も黙っちゃいない。

何されても文句は言えないのだ。

こちらから奇襲を仕掛ける案もあったが、叔父さんの方針上それはナシ。

1度は交渉に臨むとの事だ。

 

「甘すぎるとも思いますが、こちら側の準備も整ってません。どの道、会戦して決着をつける以上、コソコソする必要もないでしょう」

 

ベニマルも余裕な態度で了承している。

という訳で、こちらも着々と準備を進めていたのだ。

 

そして、そんな日々が終わりを告げる。

帝国軍が進軍を止めて、布陣を開始したのだ。

さて、今一度おさらいしておこう。

 

「やはり、こっちが本隊で間違いなさそうだな」

 

叔父さんが指し示している森の中の歩兵部隊の総数はおよそ70万。

これは、侵攻中の敵軍総兵力のおよそ7割だ。

 

「そうですね。戦車部隊は囮であると同時に、ドワーフ王国を抑え込むのが目的なのでしょう」

 

俺もベニマルの意見に同意する。

 

魔国連邦(テンペスト)を攻めている隙に、ドワーフ軍に背後へ回られて挟み撃ちを受けないようにするため、ですね」

 

「これだけの大軍勢を用意しているというのに、随分と慎重な事だな」

 

「当然ですよ、叔父さん。何せ帝国はドワーフ王国と俺達、魔国連邦(テンペスト)を同時に相手しようとしているんですよ? 勝てるとは踏んでも、真正面からのガチ当たりでは勝機は薄いと判断しますよ」

 

まあ、策を張り巡らせたところで情報収集力のレベルが違うし、原初の悪魔や迷宮十傑といった魔王級の隠し戦力があるから結局意味ないんだけどね。

 

「まあ、そうした相手側の思惑の全てが俺達には筒抜けなんですがね。それにしても、情報を制すると、これほど優位に立てるとは思ってませんでしたよ」

 

ベニマルが苦笑しながら言った。

 

「クフフフフ、流石はリムル様です。全てはその手の平の上という事ですね!」

 

すかさず合いの手を入れるディアブロ。

相変わらず面倒くさい奴だ。

蒼き鋼の○ルペジオに登場する、あの面倒くさがりな“霧の艦隊”東洋方面第一巡航艦隊旗艦じゃなくてもコイツを相手にしてたら『面倒くさい』が口癖になりそうである。

 

「敵の歩兵共ですが、少々脅威度を甘く見ておりました。全員がそれなりに腕が立つようで、脱落者も無く首都リムルから30kmほど離れた地点に集合しております。そこに陣を張り、指揮所を設置していますね」

 

ソウエイが注意を促すように説明している。

叔父さんの『神之瞳(アルゴス)』や俺の警戒システムだけでは得られない情報をしっかりと補完している。

 

「ここまで接近されたら、俺達が反応しないのはかえって不自然かな?」

 

ふと思い出したように叔父さんが言った。

だが、それについては問題ないだろう。

 

「いや、そうでもないでしょう。奴らは自分達が優秀であると自認している上に、隠密行動を取っているつもりでしょう。我々を甘く見て、降伏勧告後に直ぐ動けるよう準備しているはずです」

 

「クフフフフ、私もベニマル殿の意見に賛成です。それに付け加えるならば、この30kmというのは絶妙な距離なのです。魔法による監視も、距離が離れれば精度も落ちますし、軍団魔法(レギオンマジック)による妨害によって、あの一帯は完全に無害。そう演出出来ていると思い込んでいるはずです。滑稽ではありますが、それがあの者達の限界でしょう」

 

叔父さんの心配に対して、ベニマルとディアブロが返す。

第二次世界大戦時に日本で開発された二二号電探の最大有効範囲も大型戦艦相手で約35kmだったし、それを考えれば魔法妨害込みでの30kmという距離は絶妙なのは間違いない。

 

「それでソウエイ、敵兵の強さはどれほどなんだ?」

 

叔父さんがソウエイに聞いた。

確かにそれは重要である。

戦力を見誤ったらヤバいからな。

 

「平均的な評価で、Bランク相当ですね。上位者ともなればAランクオーバーですし、下位者でもC+ランク以上はあります。西側諸国の騎士団と比べても、非常に優秀であると言えそうです」

 

「臨時徴兵された雑兵は皆無で、全て職業軍人で構成されているって事だな?」

 

「その通りだ、ベニマル。練度の高さ、武器や防具の質、そして戦術。どれを取っても、西側諸国の騎士団を上回っている。お前の『黒炎獄(ヘルフレア)』でも、奴らの魔法防御を貫くのは困難だろう」

 

それはまあ何と厄介な。

ベニマルの『黒炎獄(ヘルフレア)』はえげつない破壊力を持つ広範囲焼却攻撃だ。

その威力たるや、Aランク以下の魔物なら細胞1つ残らず一瞬で消し炭になるほどで、特A級(カラミティ)の魔物である暴風大妖渦(カリュブディス)でさえ一撃で屠る程だ。

それを防ぐとはかなりヤバい。

ソウエイ曰く、敵の軍勢には常に防御用の軍団魔法(レギオンマジック)が発動されているそうだ。その練度の高さはかなりのもので、小隊規模の総合力ではAランクに相当するとの事だ。

連携の取れた部隊は厄介な事この上ない。

ただ単に個々の力を足し合わせるのではなく、掛け合わせる事だって普通にある。

実際、パーティの連携によって強力な魔物が倒された例は山ほどあるし、某生徒が先生を暗殺する教室を描いた漫画の終盤でも27人の生徒達が遥かに格上の軍人相手に一撃離脱戦法と完璧な連携で勝利を収めている。

20名でAランク相当ならば、単純計算で3万5000名ものAランクを相手取らねばならない事になる。

正直言って、かなり……いや、ドチャクソヤバい。

だがしかし、これはまともに戦った場合だ。

 

「まあ、迷宮があるから大丈夫だろ」

 

「クフフフフ。迷宮内にて敵を分散させれば、敵が実力を出し切る前に撃破するのも容易いでしょう。全てはリムル様の想定通り、という訳ですね」

 

いやはや全くもってその通りだ。

迷宮内ならば、結構簡単に敵戦力を分散させ、こちらは戦力を集中させる事が出来る。

また、味方が倒されたとしてもあっさり復活させられる。

敵からしてみれば悪夢そのものだろう。

 

「本当、ラミリスがいてくれて助かったな」

 

「そうですね。町への被害も防げますし、戦況を有利に運ぶ事も容易い。軍の司令官としては、これ以上に頼もしい存在はありませんよ。敵だったらと考えたら、ゾッとします」

 

「そうだな。それはそうと、ゴブタ達の方の状況はどうかな?」

 

ドワーフ王国近隣を映し出してあるモニターに目を移すと、そこには戦車部隊が映し出されていた。

2000台の戦車達は、綺麗に整列している。

これだけの数となると、やはり圧巻である。

こちらの部隊も、ドワルゴンの中央都市セントラルの入り口から約30kmの地点に布陣している。

そして、戦車の主砲は全てその入り口へと向けられている。

 

「まさかとは思うが、あそこから入り口まで弾が届いたりしないよな?」

 

ポツリとそんな事を呟く叔父さん。

 

「一応、届かせようと思えば可能だと思いますよ。第二次世界大戦時に開発された九八式65口径10cm高角砲(長10センチ高角砲)でさえ最大射程19.5kmでした。また、海上自衛隊の最新鋭護衛艦に搭載されているMk.45 62口径5インチ砲の最大射程が37kmですので」

 

「おいちょっと待て。それってかなりヤバくないか?」

 

「最後まで話を聞いて下さいよ。あくまでこれらは全て()()()であり戦車砲ではありません。そして、この最大射程も()()()()()()()()()()()()距離ではないので、問題ありません。有効射程は良くて3〜4kmくらいじゃないですか?」

 

実際、艦載砲は基本的に曲射する事を想定して作られているので、仰角はしっかり取られ、射程も長い。

一方の戦車砲はほぼ真っ直ぐ狙う事を想定しているので、仰角はそこまで高くなく、射程も砲身の長さに対しては短い。

実際、俺の製作した戦車の主砲の有効射程も最大で4kmくらいだ。

 

「なら問題無いか」

 

俺の説明を聞いた叔父さんは落ち着いた。

入り口を入って直ぐにある広場には、ゴブタやガビル達が待機している。

それぞれの軍団を率いて避難民の護衛任務に当たり、宿場町の住民達の避難も完了していた。

現在は予定通り、ドワーフ王国への援軍として合流していた。

 

「ドワーフ王国にて両軍団長は受け入れられています。あくまで共闘関係という事なので、指揮権までは奪われていません。ドワーフ王国軍との連携について不安はありますが、我々テンペスト軍が攻めて、ドワーフ王国軍は守りに徹するという役割分担を行えば、まあ大丈夫でしょう」

 

ベニマルがそう説明してくれた。

 

「そうだな。念のために、ガゼルともう一度話し合っておこうか」

 

「そうですね。帝国が陣を張り出した今、開戦までの残り時間も少ない。こちらもそろそろ出陣する頃合いですし、最終確認のためにもガゼル王と連絡を取りましょう」

 

叔父さんの言葉にベニマルが了承した。

そこで叔父さんは新開発した連絡器に手を伸ばした。

これはベスターさんが開発した魔力念話機器の事で、パソコンのような形状をしている。

音声だけでなく、映像をも伝達できる優れものだ。

そして、その場でガゼル王と叔父さんの最後の確認が行われる。

武装国家ドワルゴンはジュラ・テンペスト連邦国の同盟国として参戦する事。ドワルゴンは守勢に回り、テンペストが攻撃を担当する事。

それと、戦車についてもある程度説明した。

特に主砲火力が脅威であり、何重にも防御を固めるべきであると説明してある。

その上、あの図体のデカさにも関わらず馬の全力疾走より少し遅いレベルで速い。

というか、魔法のあるこっちの世界ならば馬より速くなるだろう。

また、生半可な物理攻撃や魔法攻撃も通用しないだろう。

大雑把ではあるが、こんな感じに説明した。

 

『ふむ、誰しも考える事は同じであったか。新たな時代に対応すべく、我々も“魔装兵”の開発に取り組んでいたからな』

 

戦車の話を聞いたガゼル王は、そう頷いた。

そして、こう聞いてきた。

 

『それで、勝てるのか?』

 

『勝てる勝てないなんて話じゃない。何が何でも勝つ! それだけだ』

 

ガゼル王の質問に対し、叔父さんはそう決意を固めた表情で返した。

 

『フハハハハハッ! 頼もしい奴だ。それでは、武運を祈る!』

 

『ああ、任せとけ!』

 

そして、そのやり取りを最後に通信が切られた。

さて、舞台は整った。

あとは戦いの火蓋を切るだけだ。

そのために、叔父さんはドワーフ王国に派遣した幹部達に『思念伝達』を繋げた。

 

 

 

 

 

 

ドワルゴン正面入り口前

 

情報武官として出向いたテスタロッサは、2人の軍団長と話をしていた。

その内の1人であるゴブタのお馬鹿っぷりに半ば呆れていた。

そんな時、彼女にリムルの『思念伝達』が届く。

 

『テスタロッサ、今話しても大丈夫か?』

 

『これはリムル様、何も問題ございませんわ。それで、どのような御用で?』

 

テスタロッサはリムルの『思念伝達』を受け取ると、すぐさまそこに跪いた。

周囲にいた者達も、テスタロッサがリムルの『思念伝達』を受け取った事を悟り、テスタロッサと同じように跪く。

 

『少し待ってろ、ゴブタとガビルにも繋ぐ』

 

リムルはすぐに2人とも『思念伝達』を繋げた。

 

『さて、ガゼル王との最後の打ち合わせが終わった。帝国に対する先陣は我々テンペスト軍が担う事になったんだが、その前に帝国と交渉しなければならない』

 

そして、リムルはガゼル王との取り決めを説明していき、テスタロッサは口を挟まず全てを聞き終えた。

 

『なるほど、承知致しましたわ。それでリムル様、その交渉にわたくしが出向けば良いのですね?』

 

『その通りだ。お前にはここでも外交武官として、俺の全権代理としての権限を与えておく。いつでも俺に相談   『思念伝達』を繋げる事を許可するし、軍団長に比肩する立場も適応させるから、ゴブタやガビル達と一緒に協力して上手くやって欲しい』

 

『御心のままに』

 

今回は監察官として派遣されているテスタロッサだが、『西方配備軍』という西側諸国にて様々な支援を行っている部隊の軍団長でもある。

立場的にゴブタやガビルと同列であり、外交武官でもあるため帝国に対する使者としてこれ以上の人物はいないだろう。

 

『うむ。それで、帝国への使者として出向くのには危険が伴うが、大丈夫だよな?』

 

『何も問題ございませんわ。わたくしが帝国の身の程知らず共に、リムル様の御威光を教授してご覧に入れましょう』

 

冷たい笑みを浮かべ、テスタロッサは頷いた。

その反応に、リムルは少し慄いた。

 

『そ、そうだな。出来れば戦争回避が1番望ましいんだが、それは叶わないだろう。ならば後は   

 

『帝国軍を敵と見做し、殲滅すればよろしいのですね』

 

『お、おう。まあ、そうなんだが……』

 

『お任せ下さいませ。リムル様の慈悲である最後通告を無視するような愚か者共を1人残らず、ことごとくを滅してやりますわ』

 

テスタロッサは()る気満々であり、その残虐性を隠そうともしていない。

これにはリムルやガビルもドン引きであった。

 

(このような恐ろしい女子は吾輩ちょっとご遠慮したいものであるぞ)

 

特にガビルはそのように感じていた。

しかし、約1名何とも思わない(バカ)がいた。

ゴブタである。

 

『リムル様、大丈夫っすよ。テスタロッサさんは初めての戦場に張り切って、威勢のいい事を言っちゃってるだけっす。自分がちゃんと付き添ってサポートするっすから、大船に乗った気でいて欲しいっす!』

 

ゴブタは、空気を読まずにリムルに宣言した。

あまりの馬鹿発言にリムルも驚く。

 

『え、は、お前が⁉︎』

 

『勿論っすよ。自分も軍団長として責任ある立場になったっすからね。か弱い女性を守るのも、自分の役目っすよ!』

 

そう言ってゴブタは胸を張った。

 

(少なくとも変身前のお前よりかは遥かに強いだろうし、万が一の際にはお前らを守るために派遣したんだが……)

 

リムルはゴブタの馬鹿な発言に少し心配になった。

そして、テスタロッサも苦笑いしていた。

 

(この子……目も当てられないくらいのバカだけど、嫌いじゃないわ)

 

テスタロッサとしても、これほど自分の事を勘違いされるというのは初めてであった。

それ故に彼女も呆れ果てる他なかった。

自身の残忍さを隠そうともしていないのに、ゴブタはそれに全く気づかない。

その図太さは認めてもいいと思えてきたのである。

 

『わ、分かった。それじゃあランガも派遣するから、お前とランガでテスタロッサの護衛をしてくれ。帝国がこちらの要望に応じたらそれで良し。応じない場合にはそのまま開戦となるから、絶対に死ぬんじゃないぞ!』

 

『任せて欲しいっす。自分、逃げるのは得意っすからね!』

 

『そうか、それじゃあ任せた!』

 

リムルはそう告げて『思念伝達』を終了した。

 

誰もが静まり、その様子を見守る。

 

「よし、ようやく出番っすね! さっさと片付けてして、出陣するっすよ‼︎」

 

「「「うぉおおおおお!!!!!」」」

 

ゴブタの号令がその場に轟き、第1軍団もそれに応える。

そして、魔物の軍勢が一気に動き出した。

 

 

 

 

 

 

「うーん……」

 

「どうしたんです、叔父さん?」

 

「いや、こっちが慌てて対応しているようにって伝えようかなと思ったんだけど……」

 

「相手を油断させるためにですか? 必要ないでしょ。そんな中途半端な事するくらいなら最初っから奇襲かけた方がいいですって」

 

「そうだよな。わざわざそんな事する必要無いよな」

 

「そうそう。魔王なんですから、堂々とやりましょう」

 

それにしても、こういう時の原初達は頼もしいね。

 

「しかし、ゴブタも成長したもんだな。やっぱり責任ある立場になったおかげからかな」

 

「まあ、真面目ではなかったですよね」

 

叔父さんと一緒にバカやっている印象が強い。

1年前の開国祭での武闘大会ではあんなバカやってたゴブタが、今では軍団長である。

だが、不安要素もある、

 

「まあ、変わらないところは相変わらずですが……。それでヤバい事になったらって思うと」

 

おバカなのは相変わらずなのでその内地雷をぽんぽん踏み抜くだろうから、ちょっとそこら辺が怖い。

 

「別にいいだろ。痛い目みた方が分かるって。それに、その方が面白そうだしな」

 

「それはまあ、確かに」

 

「ランガ、いるか?」

 

「ここに!」

 

叔父さんの言葉に反応して、影から飛び出てくるランガ。

尻尾をフリフリさせている。

これを見ると、狼じゃなくてデカい犬に見えてくるんだよなあ。

 

「ランガ、お前はゴブタについてなんかあったら守ってやってくれ」

 

それを聞いた瞬間、ランガの尻尾がピタリと止まる。

 

「……承知しました、主よ。それで、いつ向かえば……?」

 

それは正に、飼い主から離れるのを嫌がるペットの子犬さながらである。

 

「今すぐお願い」

 

「それでは、出発します……」

 

しょぼ〜んとした様子で去ろうとするランガ。

 

「頼むぞ、ランガ。ゴブタも頼もしくなってきてはいるが、やっぱりお前がいてくれた方が安心なんだ」

 

その言葉を聞いた途端やる気に満ちた返事が返ってきた。

 

「お任せ下さい、我が主!」

 

そして、颯爽と転移していった。

うん。やっぱ犬だわ、アイツ。

渋谷駅前のハチ公に負けず劣らずの忠犬だわ。

 

「さて、帝国との交渉は間違いなく決裂するだろう。その場で宣戦布告して即開戦となる。問題は布陣についてだ」

 

叔父さんの本音としては回避したいのだろうが、ここまで進軍しといて何もせずに帰るなどありえないだろう。

 

「テスタロッサの交渉で開戦と決まり次第、首都は直ちに迷宮内へと隔離させます」

 

「ああ、そうだ。そろそろラミリスを呼んでおこうか」

 

「ええ。ここまで来たら開戦間近ですし、退屈はしないでしょう」

 

「それで、ゴブタ達の方は?」

 

「普通に考えれば、戦力比が大きすぎます。しかし、敵は大きな鉄の塊、戦車を1体の魔物として考える事もできます。それならば、こっちが有利ですね。それに付随する補給部隊など数の内にも入りません」

 

自信に満ち溢れた態度でベニマルは言った。

一応、補給部隊も自衛ができる程度には実力はあるだろうし多少は警戒すべきなんじゃないかと思うが、ベニマルの言葉にはどこか説得力があった。

 

「ただし、部隊を大きく展開させすぎると、戦車の主砲の餌食でしょう。リムル様とアユム様の知識から推定威力を算出しましたが、緑色軍団(グリーンナンバーズ)では耐えられません。なので、最初は狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)とアユム様の戦車隊のみで相対させ、相手の実力を伺います」

 

「たったそれだけの戦力で挑ませるのか?」

 

「そうですね。最初は様子見ですから。敵方の戦車の性能が予想通りならば、全軍突入させても勝てるでしょう。想定を上回るようであれば、作戦の見直しが必要となります。ですが、どちらにしても戦ってみなければ分かりません。その場合、犠牲者が増えるのは面白くありませんから」

 

「兵法第十三計『打草驚蛇』、戦地や敵の状況がよく分からない場合には偵察を出して反応を探る事。どの道、敵戦車の性能を探らないといけないんですって」

 

「そうか、そうだな。最悪の場合、ゴブタ達はどうなる?」

 

「各自の判断で『影移動』で逃亡するように言い含めてあります。それに、アユム様の戦車も盾として使えますしね」

 

俺が一度に運用できる数は20両が限界である。

流石にその程度の数で1万2000もの軍勢である緑色軍団(グリーンナンバーズ)の盾として使うには少なすぎる。

だが、100騎程度の狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)ならこのくらいの数でも十分盾として活躍できるだろう。

そういう意味でも、緑色軍団(グリーンナンバーズ)を動かすべきではないのだ。

さて、ベニマルの作戦計画はこんな感じだ。

戦いが始まると同時に、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)と戦車隊が一斉に突撃する。高速機動を生かして不規則な動きで戦車砲の照準を合わせる隙を与えない。

最悪、戦車を盾として活躍する。

これで直撃を喰らう事はない。

少数精鋭だからこそ、どんな事態にも対応が可能という事なのだ。

上手くハマれば、一撃離脱で敵を撹乱できるはずだ。

しかし、戦場では不測の事態だって起きうる。

敵が無茶な行動を取ったり、まぐれで命中する事だってあるだろう。

それに、直撃しなければ大丈夫とか言ってるけど、敵の攻撃の威力によっては爆風や砲弾の破片でダメージを受ける。

というか、向こうの戦車の設計思想を予想すると、直撃でなくても十分ダメージを受けうるのだ。

だからこそ、いざという際には逃げるべきなのだ。

 

「でもまあ、逃げるのは最後の手段ですよ。リムル様の威光に泥を塗るような真似は、俺が許しません」

 

「まあ、その辺にこだわるのはほどほどにな。そもそも叔父さんに威厳とか威光とかないし、『三十六計逃げるに如かず』って言うし」

 

「ええ、分かっています。ですが、威厳と威光は  

 

「無いでしょう、叔父さん?」

 

「無いな。仲間が傷つくくらいなら、そんなもん捨てた方がマシって考えてる」

 

俺の質問に即答する叔父さん。

やはりこの人に威厳だの威光だのは似合わん。

 

「………」

 

俺と叔父さんの会話にベニマルが呆れ顔になった。

 

「という訳で、無茶はさせるなよ」

 

「最悪、その無茶は俺の戦車が引き受けるから」

 

「……はあ。でも、勝つためには全力を尽くすのが礼儀である以上、多少の無茶は必要ですから」

 

諦めたようにベニマルはそう言った。

 

 

 

 

 

 

テスタロッサはランガの背に揺られて、敵の戦車部隊のいる方へと向かっていた。

整った顔立ちに、美しい白髪が風になびかれている。

ゴブタは思わず見惚れそうになるが、自分は交渉に向かう同胞の護衛であるという事を意識がある以上、考えないようにしている。

そして、目の前には巨大な鉄の塊   戦車が街道上で綺麗に整列している。

そして、戦車の砲口は真っ直ぐこちらに向いていた。

 

(うわ、おっかないっすね)

 

それがゴブタの率直な感想であった。

映像で見るよりも威圧感を感じた。

だが、自身が敬愛する主であり悪友でもあるリムルのため、その気持ちを押し殺す。

そして、その部隊の目の前、およそ10メートルのところでランガは止まった。

そこまで来て、テスタロッサはランガの背から優雅に音もなく飛び降りた。

そして、目の前にいる司令官らしき精悍な男と話し始める。

先に話しかけたのは、敵の司令官の方だ。

 

「貴様は魔王リムルからの使いかな? 思っていたよりも素早い接触だ。魔王の配下達は優秀なのだな」

 

そう聞いてくる敵の司令官に対し、テスタロッサは嫣然とした笑みを返し、話し始めた。

 

「お初にお目にかかります、皆様。わたくしの“名”はテスタロッサ。このジュラの大森林の支配者であらせられる偉大なる魔王、リムル=テンペスト様の腹心で御座いますわ。」

 

「私はガスター中将、この魔導戦車師団の師団長よ。それで、どのような用件なのかね?」

 

「この度、ここに出向きましたの用件は   

 

そこまで告げたところで、テスタロッサの笑みはさらに深まった。

側から見れば、それは邪悪と称するに相応しい笑みだ。

だが、テスタロッサにとっては恍惚の笑みである。

リムルの命によって、その愚物の軍勢を無に帰させる事を思い浮かべると笑みを浮かべずにはいられないのだ。

 

「『このまま立ち去るなら見逃そう。だが、それ以上この地を侵すようであれば、容赦しない』という我が主君のお言葉を伝えるためで御座います」

 

真紅の瞳を輝かせながら、テスタロッサは目の前にいる愚物達に対して宣告した。

目の前にいる司令官は、驚き大きく目を見開いている。

だが、テスタロッサはそんな事を気にはしない。

すぐに次の行動へと移った。

軽く手を振り、戦車の目の前に炎の壁を立ち上がらせた。

そして、一瞬でそれを消す。

地面には溶解し焼けた砂石がガラス状となり、一条の直線を描き出していた。

 

「もうお分かりでしょう? その線を越えると、あなた方の命は消え失せます。覚悟の無き方は立ち入りませぬようご忠告致します。それではご機嫌よう」

 

優雅に一礼し、テスタロッサはそう告げた。

そして、そのまま踵を返し、ランガの方に戻っていった。

それが交渉終了の合図である。

ランガもそれが当然とばかりの表情を浮かべ、尻尾を振っている。

そして、その態度に帝国軍戦車部隊の司令官であるガスターは激昂する。

すぐさま自身のユニークスキル『演奏者(カナデルモノ)』で、部下達に命令を密やかに下す。

 

『狙撃兵、あの生意気な女の頭を撃ち抜いてやれ。その後、反転して前列となった20両の戦車で、砲撃を開始するのだ。森の中に潜む魔物共に、我らが帝国の威を見せつけてやるのだ‼︎』

 

その命令に最初に反応したのは指揮車両専属の狙撃兵だ。

素早くテスタロッサに狙撃銃の銃口を向け、狙いを定める。

そして、テスタロッサが最前列の戦車とランガの中間地点に来た頃、無音の弾丸が狙撃兵の持つ長距離用魔銃(スペルガン)から放たれる。

弾丸に込められた魔法は元素魔法『火炎大魔球(ファイアボール)』だ。

弾丸が貫通し、体内で魔法が発動すればどうなるかなど、考えるまでもないだろう。

対象は内部から焼き尽くされ、爆発炎上する。

どんなに魔法への耐性が高い魔物であっても、体内は無防備である。

マッハ3以上の弾速を出す凶弾から逃れる術などなく、テスタロッサは死ぬとガスターは信じて疑わなかった。

しかし、テスタロッサにとってはそれを防ぐなど児戯にも等しかった。

弾丸が境界線上を通過したのをテスタロッサは確認した。

嬉しさで思わず笑みを浮かべながら振り向き、その繊細な人差し指で弾丸を受け止めた。

そして軽くつまみ取り、捨てる。

 

「ウフフ、それが答えですのね。いいわあ。とても良い返事でしたわよ。それでは、正々堂々と戦いましょうね」

 

邪悪な笑みを浮かべながら言い残し、テスタロッサはランガの背に戻る。

そして、何事も無かったかのようにその場から立ち去って行った。

 

「ガスター中将、い、如何致しましょう?」

 

副官が聞いてくる。

 

「狼狽えるでないわ! あのような幻術に惑わされるでない! 我らは栄光ある帝国軍。皇帝陛下に勝利を捧げるのだ。予定通り、砲撃を開始する!」

 

「ハハッ!」

 

ガスターの大音声に応え、展開していた戦車部隊が一斉に行動を開始する。

あっさりと警告は無視され、戦車部隊は前進し、テスタロッサの引いた境界線(デッドライン)は躊躇なく踏み越えられたのだった。

 

 

 




前回の質問の答えは蒼き鋼のアルペジオに登場するメンタルモデル達です。
学術者(マナブモノ)』は驚異的な演算能力から、『製作者(ツクリダスモノ)』はナノマテリアルの制御能力から来ています。
やっぱり難しすぎたかな?
難易度がいい具合になるようヒントはばら撒いたつもりだったんですが……


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第19話 イセカイ&パンツァー(前編)

アニメ転スラ2期も佳境ですね。
アダルマンの声優が杉田智和さんでしたね。やっぱりアダルマン面白いわ。
声優だけ見ると暗殺教室(というかころQ)っぽくなってきてるなと思うのは僕だけでしょうか?
そしてにルミナス様早く喋って欲しい。
声優が気になる所です。


 

 

 

予想通り交渉は決裂。

帝国軍はテスタロッサの引いた境界線(デッドライン)を躊躇う事なく踏み越した。

 

「始まったわね」

 

「うむ。全てはこれからだぞ」

 

ラミリスさんとヴェルドラさんが偉そうに、高い位置にある椅子でふんぞり返って会話している。

正直、2人は緊張感が欠けすぎだと思う。

叔父さんも溜息ついてるし。

 

「それはいいから、早く町を避難させてくれ」

 

「オッケー。このラミリスさんにお任せあれ!」

 

直後、地上の首都は瞬く間に迷宮内へと隔離された。

 

「そうそう、トレイニーちゃんから連絡があったよ。なんか怪しいヤツの気配があるから挨拶してくるってさ」

 

「何だそれ? どういう事?」

 

ラミリスさんの言葉に首をかしげる叔父さん。

ラミリスさん自身もよく分かってないようだった。

トレイニーさん自身も時々いい加減なところがあるし、気にしても無駄だろう。

 

「そういえば、ソウエイ。侵入者への対策は?」

 

「問題ありません。何名かのスパイが紛れ込んでおりましたが、全て処理済みです。あとは予定通り、地上の大門だけを警戒すればよろしいかと」

 

うーん、余裕の笑み。

ちょっと怖い。忘れることにしよう。

さて、今回の戦争を行うに当たって迷宮内の構造を通常営業時とは変更している。

まず、普段は奥に進むにつれて狭くなるよう、逆ピラミッド型の構造となっているが、今回は全ての階層が同じ広さになるよう拡張されている。

そして、本来なら91〜95階層となっている研究設備や迷宮都市などのエリアは96〜100階層へと移転している。代わりに、96〜100階層が91〜95階層へと入れ替わっている。

そして、地上の都市は戦争時のみに設立される101階層へと丸々移されている。

そしてもちろん、迷宮内のサービスは全て停止である。

復活の腕輪を配布はしないし、宿舎やトイレ、水場なども使用不可である。

西側諸国にあるいくつかの騎士団でシミュレーションしてみたが、迷宮の攻略に成功する可能性は皆無であった。

帝国軍が如何に優秀とて、これを突破するには最低でも仙人級や聖人級の実力者がいなければ不可能であるとの結論に至っている。

まあ、迷宮を素通りするなどの可能性もあるし、油断せずに敵の出方に合わせて対処する必要があるけど。

でもまあ、とりあえずの準備は整っている。

西側諸国にも帝国が侵攻を開始したことを既に通達しているそうだし、今頃はテンペストの勝利を祈願していることだろう。

 

さて、戦場に意識を戻すと、テスタロッサはランガと合流して撤退していた。それを追うように戦車部隊が展開している。

どうやら早速主砲を盛大にブッ放すつもりらしい。

 

「大丈夫かな?」

 

「当たれば危険でしょうが、直撃さえしなければ問題ありません」

 

叔父さんが不安そうにしているが、ベニマルは自信満々と言った様子だ。

だが、正直なところ俺も少し不安だ。

それは、敵の戦車の設計思想によるものだ。

向こうの世界で、初めて戦車が登場したのは第一次世界大戦の頃、イギリスで生み出されたMk.Ⅰ戦車が始まりである。

当時の戦車は現在とは似ても似つかない姿をしていて、無限軌道は車体をグルリと一周しており、砲は横に1基ずつの計2門。

横から見た時に菱形だったので、菱形戦車とも呼ばれている。

当時の戦争は、塹壕や鉄条網と機関銃や迫撃砲の防衛戦線が構築され、これを突破するのが困難だったが故に戦争がマンネリ化していた。

これを打破するために生み出されたのが戦車だ。

機関銃や砲弾の破片を防げる装甲や歩兵を薙ぎ倒す主砲、塹壕を乗り越える超壕能力による活躍によってあっという間に広まった。

だが、戦車が広まるにつれて、いつしか戦車対戦車の戦いが発生し出した。

その結果、第二次世界大戦頃から敵戦車を撃破する能力が求められ、装甲はより強固になり、戦車砲も高初速化され、弾も装甲を貫くのに適したものが使用されるようになった。

そして、現在でもそれは同じ。

強固な装甲であらゆる攻撃を防ぎ、強力な主砲であらゆるものを破壊する。正に、現代陸上戦の花形となっている。

さて、ここで重要なのが設計思想だ。

第一次世界大戦期と第二次世界大戦以降の戦車では設計思想がまるで異なる。

第一次世界大戦で戦車に求められたのは、塹壕を乗り越える超壕能力と機関銃や砲弾の破片を防ぐ防御力、そして敵の歩兵を薙ぎ倒す攻撃力だ。

一方、第二次世界大戦以降の戦車に求められたのは、敵戦車の砲撃を防ぐ防御力と敵戦車を破壊する攻撃力、そして速やかに移動できる機動性だ。

では、敵の戦車には何が求められているか考えてみよう。

攻撃面は、歩兵や騎兵を薙ぎ倒し、城塞や城門を破壊する攻撃力だろう。

防御面では、弓矢や投石、強力な魔法を防げるだけの防御力。

少なくとも、この2つは確定であろう。

そうなってくると、装甲貫徹力が高いAP(徹甲弾)ではなく爆発で弾着した地点の周囲に被害を与えるHE(榴弾)となる可能性が高い。

要するに、当たらなければどうということはない弾ではなく、当たらなくてもヤバい弾が飛んでくるのだ。

なので俺はそれが心配なのだ。

一応それは話してあるが、それでもベニマルは問題ないと考えているようだ。

ベニマルは自身のユニークスキル『大元帥(スベルモノ)』で指示を出す。

それを受けて、テンペスト軍は一斉に動き出した。

緑色軍団(グリーンナンバーズ)は慎重に、敵後方へと進軍している。

敵の目を避けて、森に入り木々を盾にしつつ隠密行動を取っている。

勝てるようなら突撃、危険と判断したなら撤退、それを見極めるまでは大きく動かしはしない。

ガビルは飛竜衆(ヒリュウ)の100名と青色軍団(ブルーナンバーズ)から選出した飛空竜部隊(ワイバーンライダー)300名を率いて上空へと上がる。

動きの鈍い戦車を上空から攻撃を仕掛けるようだ。

ただし、敵方にも飛空船という航空戦力があるので、それが来るまでどれだけダメージを与えられるかと、飛空船が出て来てからどうするかが重要だ。

さて、そろそろ俺も準備を始めるとしよう。

敵に一番近いゴブタ達だが、前列にいる車両の主砲はゴブタ達のいる方向を向いている。

それも、かなり正確に狙っている。

どうやら、レーダーの類いでも積んでいるのかもしれないな。

 

「敵は何らかの方法でゴブタ達の位置を特定しているみたいだぞ、ベニマル!」

 

「了解です。しかし、心配ありません。そういう可能性を考慮して、先遣隊をゴブタ達のみにしたんですよ」

 

まあ、これについては俺も想定内だ。

魔法を使った索敵方法がこちらの世界にはあるしね。

こっちの戦車にも赤外線センサーや魔素レーダーを取り付けてあるしね。

それに、最新鋭のMBT(主力戦車)なら各種センサー類が搭載されるのが当然だ。

なので別に驚く理由にはならない。

敵の戦車で特徴的なのは、T-34のような球状砲塔となっており、短砲身の主砲を取り付けられていることだろうか。

あの主砲の長さでは40口径もないだろう。

山脈の麓とはいえ、樹木の生い茂っていたエリアもあった。

そこを問題なく通過できたのは、これのおかげだろう。

その代わり、主砲の弾速や射程は短くなっているだろうけど。

まあ、魔法を刻印しておけばその辺は実用レベルに上げられるだろう。

さて、ゴブタ達は既に部隊と合流している。

ゴブタの顔が青ざめているが、戦車にビビったのではなく、テスタロッサの実力の一端を見た結果、ようやく自身の立場がヤバい事に気付いたからだろう。

そのテスタロッサは、ランガの背に横座りしており、優雅に髪をすいている。

そんな中、敵戦車の主砲がからオレンジ色の火炎が轟音と共に飛び出した。

ゴブタ達に向けて、21発の砲弾が飛来する。

直ちににベニマルが命令する。

 

『ゴブタ、潜影しろ!』

 

『了解、潜影するっす!』

 

一瞬の迷いもなく狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)の全員が『影移動』にてその場から消えた。

直後、その地点に21発の砲弾が弾着した。

その場には激しい衝撃波と爆風が荒れ狂う。

そして最後の1発が弾着した瞬間、凄まじい業火がその地点を包み込んだ。

加害範囲は半径30メートルは下らない。

よくもまあ、核撃魔法に匹敵するような砲弾を作ったもんである。

 

『無事でよかったな』

 

『いや、そうでもないっすよ。こっちの影空間にまで衝撃波が来たっす』

 

『誰か怪我でもしたのか?』

 

『それは大丈夫っす。ベニマルさんの指示のおかげで全員無事っすよ。でもちょっと痛かったっす』

 

大丈夫そうで何よりだ。

そして、叔父さんが『思念伝達』によるネットワークを構築した。

思考加速も併用し、短時間で作戦会議を行う。

参加者は叔父さん、ベニマル、テスタロッサ、そして俺だ。

 

『さて、どうする?』

 

叔父さんがベニマルに聞く。

 

『現在、ガビル率いる航空部隊が敵戦車部隊に強襲を仕掛けるべく向かっています。これと挟撃するように、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)とアユム様の戦車隊には動いてもらいたいです』

 

『それって危険じゃないか?』

 

『危険ですが、ガビル達の陽動を行います。その隙に、ゴブタ達が接近戦を仕掛けるんですよ。戦車の主砲の威力は予想以上でしたが、機動性は想定内です。十分に勝算はありますよ』

 

『無駄に強固にしておいた戦車の装甲が役立ちそうだ』

 

戦車は対空戦闘は苦手だ。

その最大の理由が、仰角の狭さにある。

その結果、真上に陣取られると攻撃のしようがないからだ。

その代わり、地上にいるゴブタ達には攻撃できるけどね。

 

『じ、自分達もつっこむんすか?』

 

『お前達の方が主役だが、安心しろ。一旦懐まで潜り込んでしまえば、敵は友軍誤射を恐れて動きが鈍るだろうさ』

 

戦車などの近現代兵器は接近戦に弱いからね。

近接戦に持ち込む前に長射程の兵器でボコボコにされるから、現代では剣などの近接戦用の武器が廃れているわけだからね。

しかし、こっちでは向こうの通りには行かないだろう。

 

『それって、このまま『影移動』で行くんすよね?』

 

バカかこいつは?

 

『いや、それはない。敵も流石に、魔物探知や防御結界などの様々な防衛手段を用意しているはずだ。だから、そういった小細工はナシの方がいい』

 

軍団魔法(レギオンマジック)にも、界面結界というものがございますわね。異空間からの不意打ちを防ぐ魔法ですが、これによってこちらの動きが封じられる危険性があります。ベニマル殿のおっしゃる通り、正面突破が一番安全でしょう』

 

テスタロッサの説明にゴブタも納得の様子だ。

その代わりメチャクチャビビってる。

 

『わ、分かったっす。その、テスタロッサ、さんがそう言うなら、オイラも文句は無いっす……』

 

まあ、はるかに自分より強い相手にあんな口の聞き方をしたんだからね。

ちょっと落ち着かせるためにも俺はこう言った。

 

『大丈夫だ。俺の戦車隊を盾にすればいい』

 

だが、叔父さんは心配そうだ。

 

『撃破されたりしないか? 敵戦車の主砲の威力はかなりのものだったぞ』

 

『弾速は予想以上に速かったけど、背面や天板への直撃さえなければ問題無いと思います』

 

弾速は約2000m/sと予想以上に高かった。

だが、敵の戦車の砲弾は鉄の塊に刻印魔法を施し、強烈な爆発を発生させる程度の物だった。

つまりは、予想通り装甲貫徹を重視した弾ではなく、弾着地点の周囲に被害をもたらす弾だった。

ならば、こちらの戦車の装甲が破られることはない。

アレがもしAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)とかだったらちょっとヤバかったけどね。

そうなってくると、側面装甲は確実に貫通してしまうし、正面装甲もちょっと危うくなってくるからだ。

しかし、予想通り敵が対戦車戦を想定してなければ、装甲が抜かれることはない。

 

『そうか、安心した。ああ、ゴブタ君。人は見かけじゃあないんだよ。その事をもう一度心に刻んで、同じ失敗を繰り返さないようにね!』

 

俺の言葉に頷き、ゴブタへ注意する叔父さん。

テスタロッサ達悪魔3人娘についてはアンタも気付いていなかったけどね。

 

『はいっす。次から気をつけるっすよ……』

 

「何の話です?」

 

ベニマルが聞いてくる。

 

「秘密って事もないけど、ゴブタの勘違いについてね」

 

「ああ、テスタロッサに対してのですか。アイツ、成長しているのに肝心のところが抜けてますからね。たまには痛い目に遭った方がいいでしょう。ところで、ディアブロが連れてきたあの者達は何者なんです? 特に、リーダー格の3人娘からはただならぬ気配を感じるんですが?」

 

だよねー。そう思うよねー。

この国の者達なら言っても納得するだろうけど、叔父さんが緘口令出してるし。

 

「……それはまあ、おいおいね」

 

「まあ確かに、戦争中に聞く話題じゃあないですよね」

 

『という訳で、ゴブタ。反省は戦いが終わった後だ』

 

『勿論っす!』

 

『作戦概要はちゃんと理解しているな?』

 

『大丈夫っすよ、ベニマルさん。森の端まで移動しておいて、ガビルさんが攻撃を始めたタイミングでアユム様の戦車と一緒に突っ込むっす』

 

『上等だ。気合い入れろよ!』

 

そして、俺達は『思念伝達』を切った。

 

数分後、俺はゴブアを連れて狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)と合流した。

同時に、戦車20両も一緒に転送する。

そして、ガビル率いる第3軍団が、戦車部隊を強襲した。

 

「グワハハハ! 吾輩の活躍をとくと見よ! 動きの鈍い貴様らなど、我らの敵ではない‼︎」

 

大見得を切っているが、あの様子なら問題無さそうだ。

実際、戦車部隊は即座に対応できていない。

照準がガビル達の動きについていけてない。

戦車砲の動きからして、照準は完全に手動で行われている様子。

となると、射撃統制装置は積んでいないみたいだな。

だがそれでも、ガビルの功績も大きい。

見事な指揮で完璧な連撃を取っている。

相当訓練を積んだみたいだな。

ガビル達は陽動だが、攻撃してない訳ではない。

目眩しのために、飛空竜(ワイバーン)に火球を撃たせている。

飛空竜(ワイバーン)はB+ランクの魔物だ。

並の魔法使いが操る元素魔法『火炎大魔球(ファイアボール)』に匹敵する威力だ。

戦車の対魔法防御能力を破るほどではないが、取り巻きの歩兵には十分有効打を与えられるだろう。

また、飛空竜部隊(ワイバーンライダー)にRPG-7を持たせてある。これらで敵の頭上からHEAT(成形炸薬弾)をぶち込む事によって、いくつかの敵戦車は既に撃破されている。

上空からの対地攻撃という、ガビル達の真骨頂であった。

そして、俺の戦車隊も狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)と共に突撃していく。

敵の戦車部隊はこちら側に砲口を向けてきた。

だが、俺達は止まるつもりはない。残り500メートルといったところで、敵の戦車が発砲した。

ズドドドドォ   という凄まじい轟音を立てて、戦車に何発もの砲弾が命中した。

だが、偽装として取り付けた枝葉と迷彩塗装が剥げたくらいで、全くもってダメージは無かった。

そもそも、大半の砲弾が直撃した部分は砲塔正面であり、残りも車体正面上部である。

戦車の中でも一番硬い部分だ。

だから、撃破されるなどあり得ないのだ。

勿論、戦車の陰に隠れていた狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)にも損害は皆無だった。

そして、お返しとばかりにこちらも撃ち返した。

しかもこちらはただの鉄の塊ではなく、APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)という装甲を撃ち抜くのに特化した弾だ。

そして、砲安定装置や射撃統制装置も積んでいる。

当然全弾命中し、弾が直撃した戦車からは火の手が上がる。

今ので20両がスクラップと化したのだ。

そして、300メートルを切ったところで俺の戦車隊は狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)と別れた。

敵部隊の側面へ回るように、戦車隊を展開させる。

そして、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)を狙っている戦車を優先して、的確に撃破していった。

勿論こちらも狙われるが、そこは10式譲りの殺人ブレーキ&超絶加速でほぼ全て避けてやった。

何発かは直撃したものの、そこは俺の開発し、戦車に取り付けた特殊複合装甲によって容易く無効化した。

フフフ、完璧である。

一方の狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)は洗練された動きで、行く手を遮る障害となる歩兵部隊を的確に処分していた。

歩兵達は、完全に狼達の餌となっている。

そして速度を落とさず、そのまま戦車部隊の中へと潜り込んで行った。

とりあえず、作戦のフェイズ1は成功である。

ここからはフェイズ2である。

戦闘をランガに乗って走るゴブタは、2番手を走る副官のゴブチにで合図をした。

 

「ゴブチ、今っす!」

 

「了解!」

 

ゴブチはそれに頷くと、戦車の砲塔の上部にある展望塔(キューポラ)のハッチに何かを投げ入れた。

それは、赤く光る宝玉   炎爆玉(フレアボム)である。

クロベエと俺の用意した空っぽの魔玉(コア)にカリスが大量の魔力を流し込んだ即席の小型爆弾である。

それが放り込まれた瞬間、戦車が爆発し、砲塔が吹っ飛んだ。

想像以上の破壊力である。

密閉空間内での爆発は、内部で衝撃波や爆弾の破片などが反射することによって、実質的な威力が上がる。

実際、大口径のAP(徹甲弾)も内部に少量の炸薬を詰めて、装甲を貫通し内部に砲弾が侵入したところで爆発させダメージを与えるという物が多い。

炎爆玉(フレアボム)は元々炸薬の塊のような物なので内部で爆発すれば、それはもうえげつない威力になる。

因みに、発案者は叔父さんだ。

上手くいくか心配そうにしてたけど、ここまで接近すれば爆弾の不発でも起きない限り成功するに決まってる。

そして、カリスの言から不発はほぼあり得ない。

むしろ、暴発しないか心配になってくる。

いやはや、戦車の乗員が哀れになってくる。

だが、相手が正当な理由もなしに侵攻してきた以上、手加減など必要ない。

後で心を痛めるかもしれないが、大切な人を失うのよりかは遥かにマシである。

だからこそ、全力で相手をしなければならないのだ。

さて、ここまで前哨戦である。

まだまだ気は抜けない。

俺の戦車部隊は、適宜HE(榴弾)を織り交ぜたり機銃掃射を行って敵部隊を混乱させる。

そして、その隙にゴブタ率いる狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)が敵部隊の奥へと突っ込む。

戦車部隊には目もくれず、中央を叩く。

戦車の死角を守るように配置されている歩兵部隊に打撃を与えつつ、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)は駆け抜けていく。

その動きは洗練されており、美しいとさえ思える。

このままいけば勝てるとおもえるだろうが、そうは問屋が卸さないだろう。

なぜならば、敵の航空戦力   飛空船がまだ到着していないからだ。

飛空船が到着すれば、ガビル率いる第3軍団がその対処に追われ、俺の戦車隊とゴブタ率いる狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)が孤立無縁となる。

それまでにできる限り戦果を挙げる必要がある。

つまり、ここからが本番なのだ。

 

 

 



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第20話 イセカイ&パンツァー(後編)

お気に入り登録300人と総合評価400ptありがとうございます!
最初はせいぜい150人で、200人も行かないだろうなと思っていたのですが、あれよあれよという内に想定をはるかに超える方々に評価して頂きました。
今後も読んで頂けると幸いです!
さて、アニメ転スラでレインが喋りましたね!
転スラで特に好きなキャラの1人なので嬉しかったです。
声優は幸村恵里さんという方ですね。
恐らく知らない方がほとんどでしょうが、僕はナインヘッド役の鈴代紗弓さんと合わせて一瞬「コトブキかよっ!」って思いました。
知らない方は『荒野のコトブキ飛行隊』で調べてみてください。ようつべとニコニコに第一話が無料公開されてます。
因みにこちらでも幸村さんの演じるキャラは青がパーソナルカラーです。
そういえばリムル役の岡咲美保さんも出演されてますね。
(というか改めて調べてみると結構声優が共通してる。何故?)


 

 

 

帝国軍魔導戦車師団師団長のガスター中将は驚いていた。

それもそのはずである。

鉄壁の防御力を持つ戦車の装甲がいとも容易く撃ち抜かれ、撃破されたのだ。

いくら装甲の薄い天板に直撃したとしても、飛空竜(ワイバーン)の火球程度では撃破は不可能なのにだ。

だが、直ぐに理由は判明した。

飛空竜(ワイバーン)に乗っている蜥蜴人族(リザードマン)達が使用している兵器が理由だった。

それによって、部隊には動揺が走る。

さらに追い討ちをかけるように、新たな敵部隊が現れた。

 

「あ、あれは!」

 

「戦車じゃないか! どうして敵軍に戦車があるんだ!」

 

森の中からは、敵部隊が戦車と共に現れたのだ。

帝国の物とは形状は異なり、枝葉が大量に付いていたが、それは間違いなく戦車であった。

更なる衝撃によって部隊は混乱し始めたが、ガスターはこれを一喝した。

 

「狼狽えるでないわ! 敵の戦車はたかだか20両、それ以上あるならもっと来ているはず。敵の数少ない切り札の1つであろうよ!」

 

それに副官が同調する。

 

「なるほど、言われてみればその通りですな」

 

「砲塔を旋回し、あの戦車隊を狙え。たった20両ごとき蹴散らしてくれる!」

 

そして、ガスターの号令でテンペスト軍の戦車に向けておよそ50両が発砲した。

ほぼ全てが直撃した。

しかし、テンペスト軍の戦車は動きを止めない。

まるで効いていなかったのだ。

そして、お返しとばかりに敵軍の戦車が砲撃した。

その一斉射撃で味方戦車の20両に直撃し、それらからは火の手が上がり動きを止めた。

 

「なんだと⁉︎」

 

これにはガスターも驚きを隠せなかった。

帝国軍の戦車砲の砲弾は、刻印魔法によって超高等爆炎術式にも匹敵する破壊力を誇る。

にも関わらず、敵の戦車はそれに耐えたのだ。

どんな防御も嘲笑うかのように破壊する帝国軍魔導戦車の戦車砲が効かなかった。

その上、敵の戦車はこちらの戦車の装甲を容易く撃ち抜く性能を持っていた。

それだけでなく、行進間射撃にも関わらず的確に命中させられるだけの射撃精度をも誇っていた。

ガスターが驚いていた間にも敵戦車が第2射を放った。

それによって、さらに20両が鉄のガラクタと化す。

因みに、テンペスト軍の戦車の第1射から第2射までのこの間、約6秒である。

この“射撃の早さ”にもガスターは驚かされた。

因みに、帝国軍の魔導戦車の射撃レートは分間5発   つまり、弾薬の再装填に12秒かかる。

つまり、帝国軍の戦車が1発撃つ間にテンペスト軍の戦車は2発撃つ計算となる訳だ。

さらに不味い事に、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)には懐に入り込まれたのだ。

これによって友軍誤射の可能性が遥かに高まり、迂闊に発砲が出来なくなったのだ。

その上、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)の使用した爆弾によって新たに戦車が破壊される。

この僅かな間に、既に50両近くの戦車が撃破されている。

このままでは、テンペスト軍の連携によって帝国軍魔導戦車師団は壊滅的な被害を受けるだろう。

そう考えたガスターに焦りが募る。

 

(まさか、ここまで手こずる事になるとはな。だが、勝利するのは俺達だ!)

 

そう心を決め、焦りを押し殺す。

そして、瞬時に思考を行う。

 

(要警戒なのは、上空のトカゲ共の兵器、敵の戦車、ゴブリン共の爆弾だろう。だが、トカゲ共の兵器では、装甲を貫通したとしてもそれで撃破に至る訳ではない。敵の戦車とて、いくら堅牢な装甲を持っていようと後背面や天板などの装甲の薄い部分があるはずだ。それにゴブリン共の爆弾も、後続の者達が使わないのを見るに数は少ないはずだ)

 

警戒すべきは新兵器のみであり、それもそれぞれ欠点がある事を考える。

ガスターの読みはほぼほぼ当たっていたが、1つ重大な間違いをしていた。

それは炎爆玉(フレアボム)の総数で、実際には3000発を超える。

狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)飛竜衆(ヒリュウ)には各々に10発ずつ渡されていた。

また、飛空竜部隊(ワイバーンライダー)にも各々に数発渡されていた。

ガビル達が炎爆玉(フレアボム)を使用しないのは、ベニマルが戦車の撃破を優先しているからだ。

火薬は密閉空間内では実質的な威力が倍増するが、それは炎爆玉(フレアボム)とて同じである。

そして、そうしなければ炎爆玉(フレアボム)による戦車の撃破は困難である。

一応周囲の歩兵ならば炎爆玉(フレアボム)でも倒す事は出来るが、戦車の撃破を優先する以上、歩兵相手に炎爆玉(フレアボム)を使用する訳にはいかないのだ。

そうとは知らずに、ガスターは命令を下す。

 

「密集型対空戦陣形を取れ!」

 

その命令に、副官が意を唱える。

 

「中将、それは危険です! 敵戦力と混戦状態の者もいる中では同士討ちになる恐れが‼︎」

 

「そんな事は分かっておる。このまま被害が拡大するくらいなら、多少の同士討ちを覚悟してでも敵の撃破を優先すべきだ。そもそも、味方の足を引っ張るような無能など、栄光ある我ら帝国軍には不要であろう!」

 

「!」

 

ガスターの言葉に、副官は言葉を失った。

 

「法規的な問題でもあるのかね?」

 

「いえ、閣下。何も問題ございません」

 

参謀も、ガスターの判断に同意した。

そして、ガスターは『演奏者(カナデルモノ)』によって全隊に命令を飛ばす。

 

『左翼大隊、密集型対空戦陣形を取れ!』

 

それを聞いた左翼大隊は今まで以上の早さで急速に陣形を整えていく。

狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)に追い抜かれた者達を無視し、残る戦車で道を塞いでいく。

そして、砲塔を旋回させて、前後の車両が連結されていった。

 

「うおっ、マジっすか! そんな無茶な動きをするなんて!」

 

ゴブタが驚くのも当然である。

帝国軍の戦車はその巨大な車体を利用して、隙間を潰していくように密集していく。

そんな無茶な真似をしたら、自分達も身動きが取れなくなるのだから。

だが、高速で肉薄し近接戦を仕掛ける戦法を得意とする狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)には有効であった。

これによって、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)は隙間を駆け抜けて中央本隊への襲撃が困難になったのだから。

ゴブタ達が驚いている間にも、帝国軍は次の一手を加える。

左翼大隊が輪を広げていき、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)を取り囲むように戦車のバリケードを築いていく。

それに加えて、中央本隊の内の半数も動き出す。

中央本隊の戦車は空中へと浮遊し、前列の戦車の後ろに降り立つ。

そして、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)の行手を遮る巨大な壁が完成した。

帝国軍魔導戦車師団の内の約半数の戦車が連結し、巨大な要塞を生み出したのだ。

 

「そういう動きが出来るとは聞いていやしたが、こんな手に出るとは……!」

 

副官のゴブチも、目の前の光景に唖然となる。

 

『機銃掃射! 弾幕を張り、敵の動きを封じるのだ!』

 

立体的な弾幕を展開された事により、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)の得意とする高速機動が封じられる。

狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)の周囲には、味方であるはずの戦車や付随する歩兵部隊がいたのだが、一切お構いなしに攻撃された。

 

「ちょ、これは不味いっす。これはもう作戦どうこうの話じゃないっすよ⁉︎」

 

ベニマルの作戦の綻びが、ゴブタを動揺させる。

帝国兵が味方に撃たれているのを見て、危険を感じ取った。

 

「ぐぬぬぬ……! ゴブタよ、すまぬ。助けに向かいたいが、こちらも手一杯なのだ」

 

ガビル達はガビル達で、機関銃による対空砲火にさらされていた。

砲撃は当たらないものの戦車に搭載されている機関銃の弾幕は馬鹿にできず、それによって牽制されていたのだ。

指揮官のガスターがすぐに冷静さを取り戻したことによって、数の差が優劣を決めていた。

その上、更に悪い事は重なる。

ガスターに特殊回線による通信が繋がった。

 

『お待たせしました、ガスター殿!』

 

声の主は、帝国軍空戦飛行兵団を率いるファラガ少将だ。

飛空船100隻が現れた事によって、ガビル達はそちら側の対応を行わねばならなくなり、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)はますます窮地に立たされる事となる。

 

『遅いではないか、ファラガよ。だが、これで魔物どもは詰みだな。極秘兵器である魔素撹乱放射(マジックキャンセラー)の試運転には持ってこいの舞台であろう?』

 

『ハハハ。敵いませんなあ、ガスター殿には。それでは早速、我々も参加させてもらうとしましょう』

 

『手柄を分けてやるのだ。ぬかるなよ?』

 

『承知しておりますとも。それでは、ご武運を!』

 

そして、通信は切られた。

ガスターとしては作戦をより盤石なものにするために。

ファラガは決戦前のシミュレーションと同時に、実戦で役立てるという事をアピールするためである。

こうして、ファラガ率いる空戦飛行兵団が参戦し、より一層テンペスト軍には不利な状況に陥った。

 

 

 

 

 

 

「嘘だろ……」

 

思わず俺はそう呟いた。

敵が味方の損害を度外視した戦法に切り替えたのだ。

友軍誤射(フレンドリーファイア)お構いなしかよ……!

まあ、今回の場合はそれが正解なんだろうけどさ、一切の躊躇なく実行に移せるとは驚かされた。

しかもこのタイミングで敵の航空部隊が到着してしまった。

このままでは狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)は壊滅する。

 

『ベニマル、このままでは狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)が壊滅する。一旦引かせた方がいい』

 

『分かっています。ゴブタも同じ判断をしているでしょう。直ぐに撤退命令を出します。アユム様は、ゴブタ達が後退するのを援護して頂けませんか?』

 

『分かった。任せろ!』

 

俺の戦車隊は一気に敵に肉薄しつつ、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)の逃げ道を作るように敵を撃破していく。

だが、これは地味に危険だ。

まず、接近することで回り込まれやすくなる。

いくら俺が製作した戦車でも、後背からあれだけの威力を誇る戦車砲をブチ込まれたら、まず間違いなく装甲が抜かれる。

そして、爆発四散するのがオチだ。

まあ、密集型の楔形陣形(パンツァーカイル)を取っているから、多少それは難しくなっているが。

というか、それ以上に恐ろしいのは足回りをやられる事だ。

履帯を切られるだけで、戦車は移動できなくなるという弱点がある。

まあ、戦場でもすぐに修理できるような作りになっているのだが。

しかし、今は俺と護衛のゴブアくらいしかいない。

人員があまりに少ないから、履帯が切られると修理するのに時間がかかり、あっという間に蜂の巣である。

一応多少の攻撃に耐えられるだけの強度は確保してあるが、それでも戦車砲の直撃を受ければ間違いなくアウトだし、至近弾でさえ履帯が切られる危険性がある。

そう言う点で余り敵に近づきたくはないが、今回は致し方無い。

狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)に犠牲者が出るくらいなら、戦車がスクラップになった方がマシである。

狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)もこちら側に合流できるよう上手く動いている。

そして、俺達は合流を果たす。

 

「ひぃー、メチャクチャおっかない手を使ってきましたね」

 

「愚痴る暇があるなら撤退に集中しろ」

 

ゴブタが愚痴ったのを突っ込んだが、正直俺も同じ感想である。

それに加えて、敵の界面結界のせいで『影移動』が封じられたのが痛い。

敵ながら天晴れだ。素直に敵の司令官が有能である事を認めよう。

しかも、この間に1両履帯が切られて動けなくなってしまった。

まあ、撤退して距離が離れたら『物質変換』で爆弾にして、大量に敵戦力を削ぐつもりだけど。

10トン爆弾(グランドスラム)×4発分の破壊力を食らったら、付近にいる敵戦車はほぼお陀仏だろう。

さて、合流した訳だし、さっさと下がらねばならない。

信地旋回で一気に反転し、そのまま全速力で撤退する。

森までの距離はそう長くない。

狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)ならばすぐである。

が、後ろから狙い撃ちされる状況となるのが芳しくない。

それに、接近できたのはガビル率いる第3軍団があってこそ。

その援護が無い今、この長さでさえ途方もない距離に感じてしまう。

そして、敵戦車による砲撃の雨が降り注ぐ。

一体何両の戦車がこちらに攻撃を仕掛けているのだろうか。

数えたくもない。

この大量放火を受けた結果、最初は20両いた戦車があっという間に半分の10両になってしまった。

それによって狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)のカバーが出来なくなり、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)にも大量放火が向いている。

それに巻き込まれて吹き飛ばされてしまっている。

上空の戦況も厳しい様子だ。

どうも、敵の飛空船には魔素の流れを乱す装置が搭載されているらしく、ガビル達が思うように飛べていない。

特に実戦経験の乏しい飛空竜部隊(ワイバーンライダー)には致命的であった。

そして、そんなガビル達に対して、魔法増強砲によって強化された数々の魔法が撃ち込まれている。

逆に、飛竜衆(ヒリュウ)のブレス攻撃や飛空竜(ワイバーン)の火球による攻撃は、敵の対魔法結界に阻まれて意味を為していない。

こちらは、敵の攻撃はなんとか回避しているものの、まだ序の口といった感じがする。

そして、俺の直感は的中した。

飛空船から放たれる魔法が、一気に熾烈なものとなったのだ。

それこそ、超高等爆炎術式に匹敵するようなヤバいものが雨あられと撃ち込まれている。

そして、それに晒されてガビルの部下達が撃墜され始める。

戦況は悪化するばかりであった。

 

 

 



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第21話 \カーニバルダヨ!!/

先週は完全にヴェルドラ回でしたねw
波動拳に昇龍拳、竜巻旋風脚に鉄山靠、極め付けはかめはめ波。
もう遊びすぎでしょw
面白すぎて腹筋がぶっ壊れましたわ。
そして今週、遂にルミナスがキェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!
ルミナス役の声優はLynnさんでしたね、めっちゃ合ってて良かったです!
そして劇場版製作決定おめでとう‼︎
劇場版の内容は書籍7巻のエピソードでしょうかね。
そして3期で8〜10巻あたりと予測します!


 

 

 

戦況を食い入るように見ていたリムルは茫然となり、思わず立ち上がった。

狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)は、戦車の砲撃の餌食となっている。

ガビルの部下達は、大規模魔法に晒されて次々と撃墜されている。

戦況の悪化が、味方への被害を引き起こしていた。

リムルとしても多少の被害が出る事は予想していたものの、楽観視していた。

 

(何のかんの言って結局は勝てるだろうって考えるとか、流石に甘すぎだよな。今やっているのは戦争なんだから……)

 

リムルは、自身の見通しの甘さに怒りと焦り、そして後悔の念を感じていた。

 

「座っていて下さい、リムル様。このくらいは想定内ですので、何の問題もありません」

 

涼やかな顔でベニマルがリムルに対して言う。

だが、リムルの心中は穏やかではなかった。

 

「いや……お前、犠牲者が出ているじゃねえか! クソッ、こうなるんだったら俺も何かしら援護をするべきだったんじゃ   

 

「いえ、そういう訳にはいきません」

 

ベニマルが言葉を挟んだ。

 

「以前にも話したではありませんか。国家として歩み始めた以上、いつまでもリムル様に頼る訳にはいきません。配下の庇護は魔王たるリムル様の役目ではあります。しかし、国家を守るのは我ら配下の務めです」

 

「お兄様の言う通りです。リムル様が全てを背負う必要は無いのですから」

 

ベニマルに続き、シュナも言葉を紡ぐ。

リムルはその言葉を受けて、嬉しく感じた。

しかし、だからといって焦りと焦燥が拭われるわけもない。

 

「やっぱり、俺も戦場に出て   

 

そう言いかけたリムルの言葉は、途中で遮られた。

 

「それは絶対にダメですよ。総大将として、王を危険に晒すなど認められません。何より、勇者クロエの話が気になります。別の時間軸では、リムル様を殺害した何者かが帝国にいた。そんな危険人物の存在を知りながらリムル様に戦場に出てもらうなどあり得ません」

 

険しい表情でベニマルが言った。

敵方に危険人物がいることは幹部全員が共有しており、起こりうる最悪の未来として危険視されていた。

 

「現時点で脅威と考えられるのは、三大軍団の軍団長と、帝国皇帝近衛騎士団(インペリアルガーディアン)に属する100名でしょう。その他にも隠れた強者がいる可能性を考え、目下調査中です。不甲斐ない我等をお許し下さい」

 

ソウエイ達は、主たるリムルのために命がけで情報収集を行なっている。

リムルの脅威となりうる敵を排除するために。

 

「敵の戦力が不明である今、我らが王たるリムル様に前線に出てもらうなど論外です。作戦は問題なく進行中ですので、どうか俺を、そして、戦場に出ている皆を信じて下さい」

 

その言葉にリムルは力なく座り込んだ。

だが、焦りや怒りは落ち着いていくどころか、むしろますます大きくなるばかりであった。

 

(ベニマルは問題なく作戦は進行中だとか言ってるけど、これは俺の不安感を少しでも落ち着かせるためのウソだろう。何か……何かないのか!)

 

だが、ここで『思念伝達』が届いた。

 

 

 

 

 

 

さて、現在碁盤の目を狙い撃ちするような精度で12秒ごとに敵戦車の砲撃が定期的に降り注ぐ。

射線の通りにくい森の中とか関係なしである。

よくもまあ、ここまで正確に狙えるもんだ。

まあ、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)には直撃してないし、爆風と衝撃波にやられても大量に持ってきた上位回復薬(ハイポーション)完全回復薬(フルポーション)でどうとでもなる。

まだ本気でヤバい状況ではない。

それにこっちもまだ全力じゃないしね。

さて、そろそろフェイズ3といったところかな。

その前にベニマルの戦略の再確認を行おう。

ベニマルは、こちら側が負けたように見せる“負けたフリ作戦”を考えていた。

危機に陥ったように見せかけて、その隙に緑色軍団(グリーンナンバーズ)で退路を塞ぎ、一気に反撃を行うのだ。

また、戦車の弾薬が底を尽くまで待てば、敵の強者がトドメを刺しに来るだろうとベニマルは考えていた。

まあ、戦車の弾薬が底を尽くなど考えられないけどね。

まず、装弾数の問題だ。

ガドラさんの説明によると、敵戦車の装弾数は50発だ。

現代の最新鋭戦車の装弾数は40〜60発のものがほとんどである事を考えると、妥当な数字である。

そして、敵戦車の砲撃の間隔から、射撃レートは分間5発といったところだろう。

そして、敵戦車の装弾数から単純計算して、弾を撃ち尽くすのには最低でも10分は必要だ。

同じ目標に対して10分間も撃ち続けるバカがどこにいるだろうか。

また、仮に撃ち尽くしたとしても、補給部隊がすぐに補給するだろう。

帝国軍の目的は、ジュラの大森林を抜けて西側諸国に戦争を仕掛ける事。

最終的に、東の帝国が世界を支配するために。

それを考えれば、弾薬はかなりの量が必要になる。

こんなところで弾薬が底を尽くようであれば、敵の補給部隊のレベルの低さが目に見える。

もしそうだとしたら、補給不足で西側諸国への侵攻作戦は失敗に終わるに違いない。

だが、敵の指揮官はそれなりに優秀だ。

それも、こちらの動きにすぐさま対応し、冷徹な判断が下せるくらいには。

そんな相手が、補給の重要性を理解していないはずがない。

当然、弾薬も西側諸国まで持つようにかなりの数を用意させているはずだ。

そこら辺についてツッコミ入れておいたし、そろそろフェイズ3の命令が来てもおかしくないんだが……。

これはアレか?

まさかとは思うが、ワンチャン敵の強者がトドメを刺しに来るのを期待してない?

いや、流石にベニマルに限ってそんな事はないよな。

でも、もしそうだとしたら希望的観測にも程がある……。

念のためという意味も込めて、俺はベニマルに『思念伝達』を繋いだ。

 

『おーい、ベニマル。そろそろ頃合いじゃないか? いい加減緑色軍団(グリーンナンバーズ)が敵の後背に回り込んだ頃だと思うが』

 

『その通りですが、敵の強者が割れていません。それが分かるまでは……』

 

ああ、だからフェイズ3へ移行しなかった訳ね。

あれ、そういえば伝えてなかったっけ?

伝えてなかったな、とっくの前にヤバそうな強者を把握していたこと。

 

『大丈夫。取り敢えず、ドワルゴン攻めてきている部隊の解析は既に済ませておいた。情報を送るよ。少なくとも気になる奴は、戦車部隊には司令官以外にいない。補給部隊や歩兵部隊には何人かいたけど、約1名を除いて問題はない。ハクロウとかに任せておけば大丈夫だと思うぞ』

 

俺の解析能力を舐めてもらっては困る。

解析不能なのは、それこそ覚醒魔王や聖人級のバケモンじみた実力者くらいだ。

実際、俺は叔父さんの実力をある程度予測はできているが、完全に把握できている訳では無い。

要するに、見立ては立てれても結局は解析不能領域にいるって事だ。

せいぜい、究極能力(アルティメットスキル)を保有している事と、俺と同等かそれ以上の魔素(エネルギー)を持っている事くらいだ。

裏を返せば、そこまでの情報ならばどんなに格上でも読み取れる。

逆に、ベニマルをはじめとした配下達の保有スキルや魔素(エネルギー)量は手に取る様に分かる。

こいつらがいくら隠蔽しようとしても見抜けないことはない。

そして、今回は解析不能の相手がいなかった。

つまり、こっちに攻めてきている敵には聖人級の実力者はいないという事だ。

そう考えている俺に、驚いたような様子の叔父さんが話しかけてきた。

 

『お、おいアユム。なんか余裕そうな雰囲気だけど、本当に大丈夫なのか?』

 

『誰に向かって聞いてるんです? 何の問題もありませんよ。ゴブタ達も致命傷は食らわずに、上手く立ち回っています。どれだけ攻撃を受けようと、直撃さえなければ致命傷にはならないので、上位回復薬(ハイポーション)完全回復薬(フルポーション)で回復しています』

 

『ああ、そう』

 

俺の軽い反応にかなり驚いている様子だ。

一方ベニマルは、すぐに敵の強者を割り出したことに驚いているみたい。

 

『そ、それで、その1名に対する対処については……』

 

『わたくしにお任せ頂けないでしょうか?』

 

涼やかな声が聞こえる。

テスタロッサだ。

 

『お前が?』

 

ベニマルから驚いたような声が漏れる。

 

『心配ありませんわ、ベニマル殿。その者とは1度戦ったことがありますし、何より、リムル様の御心を乱すような輩には、わたくしが地獄を見せてあげましょう。よろしいでしょうか、リムル様?』

 

うーん、大した自信だ。ちょっと引きそう。

でもまあ、原初の悪魔なんだから当然っちゃ当然だよな。

 

『……そうだな。テスタロッサがやるなら問題ないだろう。少なくとも、ゴブタなんかよりは間違いなく強い。それに、テスタロッサとウルティマを向かわせたのは、万が一の際には戦力になってもらうためでもあったし、だから問題ない』

 

叔父さんもGOサインを出したし、問題ない。

 

『分かりました。ではそのように』

 

『ああ、それとベニマル。俺の言葉を全員に伝えたい。お前のスキルで繋いでくれないか?』

 

『是非とも!』

 

そして、ベニマルの協力で、全ての配下に叔父さんの言葉が伝わった。

 

『聞け! 全力で敵を叩き潰せ。手加減の必要はない。お前達の全ての力を持って、可及的速やかに敵を排除しろ‼︎』

 

その言葉で、全員に笑みが浮かんだ。

そして、それは俺も同じである。

ここから魔国連邦(テンペスト)の反撃によって、帝国軍は地獄を見るのだ。その宣言のために、俺はこう言い放った。

 

「\カーニバルダヨ!!/」

 

そして、抑制されていた力が解放されて、戦況は大きく様変わりした。

 

 

 

 

 

 

そこからは早かった。

まず俺が超大型爆弾と化した戦車を爆裂させた。

味方へ犠牲を出さないように40トン全てを炸薬へと物質変換はしなかったが、それでも数トンは炸薬化したので被害は言うまでもない。

これで、半数の戦車が行動不能に陥った。

ヒヤッホォォォウ!最高だぜぇぇぇぇ!!

さらには、ランガと合体して人狼状態となったゴブタの新技『疾風魔狼演舞(ダンス・ウィズ・ウルブズ)』でさらに追い討ちをかける。

これらと並行して、後方の補給部隊には緑色軍団(グリーンナンバーズ)による奇襲攻撃が仕掛けられた。

一応銃などで反撃してきたが、暴風大妖禍(カリュブディス)の楯鱗で作られた特質級(ユニーク)の盾で完全に無効化し、あとは接近戦を仕掛けて全滅させた。

また、俺の解析した情報を元に、ハクロウやヴェイロン、ゾンダをが紛れ込んでいる強者達を屠っていった。

 

「クソッ、俺は序列97位の   !」

 

とかなんか口上しようとしていた奴もいたけど、言い切る前にハクロウがバッサリである。

多分、帝国皇帝近衛騎士団(インペリアルガーディアン)とかいう精鋭の1人だったんだろうけど、この状況で口上とか無能の極みである。

こちとら、そんなもんを聞いてやる筋合いなど無い。このバカは自分が強者であると自ら暴露した上に、狙って下さいと言わんばかりの隙を見せただけである。

上空の戦いも、こちらが圧倒していた。

飛竜衆(ヒリュウ)が全員、奥の手の固有スキル『竜戦士化(ドラゴンボディ)』を発動したことで、一気に全員の戦闘力が向上した。

飛竜衆(ヒリュウ)は魔素の流れを乱す攻撃をものともせず、高速で肉薄する。

そして、ガビルが自身の必殺技『渦槍水流撃(ボルテクスクラッシュ)』を撃ち込んで一隻撃破したのに始まり、飛竜衆(ヒリュウ)が次々と飛空船の撃破していった。

あらら、どうやらミサイル必要なかったようだ。

と思ったのだが、敵はどうやら魔素の流れを乱す装置の出力を上げ、味方の飛空船が墜落するのもお構いなしの手段を取った。

しかも、それをガビル1人に集中するようにしてだ。

流石のガビルも、これを受けて動きが止まった。

これでは飛空船部隊の撃破が厳しくなってしまうが、とある少女の乱入によって、あっという間に片がついた。

原初の紫(ヴィオレ)”ことウルティマである。

こいつが敵旗艦の艦橋内でメチャクチャに暴れ散らかした挙句、最後には核撃魔法『破滅の炎(ニュークリアフレイム)』を発動し、残存していた飛空船を全て消しとばした。

爆心の旗艦は数万度の超高温に晒されて文字通り蒸発した。

また、周囲の飛空船も跡形もなく木っ端微塵になった。

爆炎に晒されなかった飛空船もタダでは済まず、強烈な爆風と衝撃波に加え、かつて飛空船だった金属破片が超高速で飛び散り、残りの飛空船をズタズタに引き裂いた。

この結果、空中にいた飛空船は全て完全に破壊され、飛空船部隊は全滅した。

流石にこれを受けて、戦車部隊の司令官も撤退を決意したようだ。

だが判断が遅すぎる。

俺が爆弾化した戦車を爆発させて、さらにゴブタとランガの新技で重大な損害を被っている時点で撤退すべきだったんだ。

兵法第三十六計『走為上』と言う。勝ち目のない状況では無理をせず撤退すべきなのだ。

どうも敵軍の司令官は、撤退してしまえばドワルゴンの抑え込みが出来ず本隊が包囲殲滅されると考えたようだ。

確かにここで撤退すれば、ドワルゴンの押さえ込みという目的が達成出来ずに首都を攻め込もうとしている本隊を見捨てるようなものだろう。

だが、それで損害が出るくらいなら俺は撤退を選ぶね。

殲滅されるか撤退するかの違いで、ドワルゴンを押さえ込む戦力が消えるのは変わらないんだから。

ならば、戦力が残るよう撤退すべきだ。

そして早急に態勢を整えさせ、再び攻勢に出るのだ。

上手くいけば、本隊と協力してドワルゴンから来る敵の援軍を挟撃することもできるだろう。

普通なら間に合わないだろうが、補給部隊にはトラックがあることを確認したし、残存した飛空船などを考えれば、帝国軍の機動力はかなりのものとなる。

十分間に合わせられるはずだ。

あとは的確に魔国連邦(テンペスト)、ひいては西側諸国を攻略していくのだ。

だがしかし、これらはタラレバ話だ。

今となってはもう遅いだろう。

まあ、仮にもっと早く判断していたとしても、こちらは神之瞳(アルゴス)で完全に動向を把握できる上に単純な戦力でも勝っている。

どうやっても勝てやしない。

そして、敵からしてみればどうあがいても絶望と言える状況になった。

()()()が敵の司令官の前に現れたのだ。

()()()とはもちろん“原初の白(ブラン)”ことテスタロッサのことである。

戦車部隊の司令官は恐怖でかなり引き攣った顔をしていたが、すぐに気になる奴らのの内の3人が現れた。

しかもそのうちの1人は、俺が警戒するよう伝えておいた()1()()だ。

そして、敵の司令官と3人組を合わせた4人とテスタロッサとの戦いが始まったが、予想通りというか、こちらもあっという間に終わった。

まず、司令官と3人組の内の2番目の強さの奴が首をゴキリとへし折られて即死。

それを見た残りの2人は転移魔法で撤退しようしたみたいだけど、テスタロッサが魔素の流れを乱す装置を魔法で再現してそれを阻止。

さらにそこにウルティマが現れて、生き残った2人はウルティマがテスタロッサと同等の力を持っていると悟ったのか、完全に戦意喪失。

最後に、テスタロッサがぶっ放した核撃魔法『死の祝福(デスストリーク)』でトドメである。

こいつは物理的な破壊力はほぼ皆無だが、生物の遺伝子をメチャクチャにして魂を破壊するという、ウルティマが使用した『破滅の炎(ニュークリアフレイム)』以上に凶悪極まりない魔法だった。

僅かに残っていた帝国兵も、これで全員お陀仏である。

今ここに、ドワルゴン方面の戦いは魔国連邦(テンペスト)の完全勝利という形で終わった。

 

 

 



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第22話 迷宮戦開始

久々の投稿です。
最近、頭文字Dの方ばっか投稿してたので、そろそろ書かないとと思いまして……。(またアルペジオの方が進んでねえ〜……)
早く11月22日になってまおりゅうリリースしてくれ!
さて、本作を連載始めて1年経ちました。
今までありがとうございます!
そして、これからもよろしくお願いします!


 

 

 

「ただいま、ってどうしたんです?」

 

迷宮の管制室に戻ってきたら、複雑そうな表情を浮かべている叔父さんがいた。

 

「お、おう。いや、別に何でもない。ただちょっと、アイツらの暴れっぷりに少し驚いただけだ。特に、テスタロッサとウルティマがな……」

 

なるほど、確かに彼女らが戦うところを初めて見たが、アレはちょっと衝撃だよね。

だがしかし   

 

「もしかして、あの命令を出したのを後悔してます?」

 

「……ああ」

 

溜息のような声が叔父さんから漏れ出る。

やりすぎたというのが叔父さんとしての心境なんだろう。

 

「でも負けて仲間を大勢失うよりはいいでしょ。それに、あの2人を配置したのも正解ですよ。そうでなければ、ガビルとゴブタが危険でした。多分、あの約1名に倒されていたでしょうね」

 

「そうだな。そうだった」

 

これで叔父さんは納得した。

だが、納得していない者が1人いた。

 

「嘘だろ……。こんな結末だと俺の練った作戦が全く意味がなかったじゃねーか! 何なんだ、あの情報武官って奴らは⁉︎ ウルティマは俺の『黒炎獄(ヘルフレア)』を遥かに凌ぐ大爆発で敵の航空部隊を殲滅したし、テスタロッサはとんでもない光線を撃って敵の強者をあっという間に殺して、リムル様の直属って言ってましたけど、説明してくれますよね!」

 

半ギレしながらこちらに聞いてくるベニマル。

叔父さんとは別の内容だが、これは納得させるのは大変そうだ。

 

「いやいや、話してあっただろ? アレはディアブロが勧誘してきた新しい……」

 

「ディアブロの部下なのは知ってますよ」

 

叔父さんが誤魔化そうとしたけど、無理だよと言いたい。

ヴェルドラさんやラミリスさんに目配せしてたけど、どちらにもスッと目を逸らされているし。

ここはもう俺が話そうかな。

責任については叔父さんが取ることになってるし。

 

「ベニマル、“原初の悪魔”って聞いたことあるか?」

 

「“原初の悪魔”ですか? いえ、聞いたことありません」

 

どうやらベニマルは初耳だったらしい。

だが、シュナが言葉を挟んできた。

 

「悪魔の源流となった七王、七君主の事ですよね? この前の会話を聞いてしまって、気になって調べてしまいました。ディアブロさんがその内の1柱(ひとり)だったなんて、驚きでした」

 

俺らよりも詳しく知ってんのかよ!

しかもそれを穏やかな表情でサラッと言えるのがすごい。

そこにシビレもしないしあこがれもしないが、ちょっと尊敬するよ。

 

「えっと、つまり……?」

 

「テスタロッサ、ウルティマ、カレラの3人もそれなんだよ。因みに、ギィさんもその7柱の内の1柱だ」

 

シュナの言葉を引き継ぎ、俺が言った。

 

「そう、なのか?」

 

「はい」

 

シュナが眩しい笑顔をもって答えた。

ヤバい秘密を打ち明けると身構えたのに。なんだろう、この肩透かしは。

まあ、そのおかげで幾分楽な気持ちになったけど。

 

「ディアブロ、お前からも説明してやってくれ」

 

叔父さんがそう言い、ディアブロが説明を始めた。

 

「承知しました、リムル様。ベニマル殿、先ほど説明された通り、私は原初の1柱でして   

 

ディアブロの説明を聞き流しながら、俺は戦いが終わったドワルゴン正面入口前の様子を眺めていた。

いやはや、中々の惨劇である。

1ヶ所、エゲツない爆発の痕跡が地面にある。

うん、俺がやったやつだな。

だが後悔はしていない。

そもそも、向こうが攻めてきたのだ。

容赦する方が失礼ってもんである。

……どこかしらに罪悪感が残るが。

 

「なるほど、事情は理解した。それならあの強さにも納得がいきます。しかし、それならそうと最初から教えて欲しかったですね」

 

「ははは、悪いな。知ったら怖くなるんじゃないかと思ったんだ。俺やヴェルドラ、アユムとかはともかく、ベニマル達には余計な心配はさせたくなくてさ」

 

心配させたくなかった……ね。

確かにそれもあるだろうけど、一番はドデカいやらかしをやったからじゃないですかね?

そんな視線を送ったら、サッと目を逸らされた。

こりゃ確定ですね。

だが流石に、コレをバラしたら面倒ごとになりそうだから黙っておこう。

 

「アタシだって怖くなかったもんね」

 

「ま、要らぬ心配ですよ。俺達はリムル様が認めた者であれば、仲間として受け入れますよ」

 

「うむ、ベニマル殿の言う通りです。見た目や強さで差別をするような者など、オレ達の仲間にはいません」

 

ベニマルは苦笑し、ゲルドも至極当然といった感じで答えた。

まあ、彼等が差別なんて考えられないよな。

そもそも、この国には多くの種族がいる。

そんな多民族国家が成り立つのに、種族間や実力による差別があってはならないだろう。

 

「そうだな、それなら良かった。心配して損したよ」

 

「ははは、もっと俺達のことを信用して下さいよ」

 

「ええ。もっとも、リムル様がオレ達を心配して、カレラ殿達を配置して下さったのは感謝しかありませんがね」

 

事情説明を終わらせて、状況確認と反省会が始まった。

 

「皆も気付いている通り、テスタロッサ達を配置したのは敵軍に魔王クラスの実力者がいても対処できるようにするためだったんだ。そしたら、少し張り切りすぎたみたいだな……」

 

張り切りすぎというかやり過ぎというか……とにかく凄まじい暴れっぷりだった。

なんの躊躇いもなく、あっさり敵軍を殲滅しやがった。

 

「クフフフフ。張り切りすぎるとは、少し調子に乗っていたようですね。後でしっかり教育して(シメテ)おかねばなりませんね」

 

とか不穏な事を言うディアブロ。ちょっと怖い。

叔父さんは「ほどほどにな」と注意はしていたけど、あんまり意味ない気がする。

というか、シメなくていいだろ。

 

「その必要はないんじゃないかな、ディアブロ。魔王クラスの実力者を潰すっていう仕事はちゃんと果たしてくれた訳だし。なんなら残りの雑魚も処理してくれた訳だしね」

 

俺はそう言った。

何でこんな事を言ったかというと、テスタロッサとウルティマの次にヤバい事をしたのは俺だからだ。

流石に核撃魔法をぶっ放したりしてないが、敵軍のど真ん中で超大型爆弾を爆裂させたのだ。

先ほども思った事だが、地面に分かりやすくエゲツない爆発の跡がある。

この流れで、俺も叱られるのはごめんである。

 

「そう、でしょうか……?」

 

「うーん……。でもまあ、お前の判断に任せるよ。ただ、やるにしてもほどほどが一番だからな」

 

俺の言葉で戸惑ったディアブロに叔父さんが言った。

さて、この話題はこの辺にして、次の損害確認に移る。

傍目から見ればかなりの損害被ったように見えるだろう。

叔父さんも、損害についてはかなり心配そうだしね。

 

「現在、怪我人は回復薬(ポーション)を使用して全員回復したとの事です!」

 

そのオペレーターの声を聞いて、管制室内には安堵の声が響いた。

当然である。

出撃した者達には全員、上位回復薬(ハイポーション)を10個ずつ与えていた。

また、完全回復薬(フルポーション)も用意したので、四肢の欠損からの回復も容易である。

この結果、人的被害は皆無であった。

回復薬を大量に消費したが、魔国連邦(この国)ならば回復薬を湯水の如く生産できるし、何より犠牲者が出るよりかはマシである。

という訳で、死者や怪我人はいない。

まあ、動けなくなってしまった者達がいるけどね。

それは、ガビルを始めとした“飛竜衆(ヒリュウ)”だ。

コイツらは奥の手の固有スキル『竜戦士化(ドラゴンボディ)』を使用して暴れまわってくれた訳だが、強力な力にはもちろん代償が伴う。

周囲の魔素を取り込んで戦闘能力を大幅に強化する能力だったらしいが、その反動で全身を麻痺したかのように動けなくなってしまったのだ。

ポ○モンにおける『ギガイ○パクト』あたりをイメージしてくれれば分かりやすいかもな。

もちろん怪我ではないので回復薬も意味を成さない。

因みにこの反動は、約24時間続いた。

使い所を間違えたら自滅してしまう諸刃の剣だったのだ。

なので、その後叔父さんがその辺の事を注意することとなった。

 

戦闘が終わったので、現在はゴブタ達は回収作業を行なっている。

もちろん、墜落した飛空船や無事な戦車を後で調べるためだ。

まあ、すでにスキャンは済ませておいたんだけどね。

動けなくなってしまった飛竜衆(ヒリュウ)は、飛空龍部隊(ワイバーンライダー)にドワルゴンに運んでもらった。

今から戻っても間に合わないだろうから、戻ってくる必要はないとベニマルが指示を出した。

その後、ドワルゴンから援軍の必要を問う申し入れがあったが、やっぱり間に合わないだろうとの事なので断ったそう。

それに、まだドワルゴンの東側入口のイースト付近にはユウキ率いる混成軍団が展開している。

まあこちらは陽動だし、ユウキとは一時休戦して手を組んでいる。

だがそれでも油断できないので、そこをドワルゴンに任せるとの事だ。

もちろんこちら側のこともちゃんと考えなければならない。

こちらにはおよそ70万の大戦力が向かってきている。

数だけ見れば圧倒的に不利だ。

だが緒戦の大勝利を受けたからか、幹部達の士気はかなり高い。

まあ高すぎるのも考えものなんだけどね。

 

「あの悪魔共、自分達ばかり目立ちまくるなんて! 私も出て、真の強さというものを見せつけやりましょう‼︎」

 

そんな事をシオンが悔しそうに呟いている。

お前は一体何と戦っているんだ?

士気が高くなりすぎて叔父さんの秘書兼護衛って事を忘れてない?

 

「お前は俺の護衛だろうが!」

 

という叔父さんのツッコミを受けて冷静さを取り戻したようだけど、まだ他にも高すぎる士気の持ち主がいた。

 

「我が君! ウルから自慢されたよ、ドワルゴンでの緒戦は大勝利だったそうじゃないか!ああ、早く私にも出番を用意してくれないだろうか。なんなら、今から敵軍の方に出向いて軽く挨拶したいのだが!」

 

興奮しながら管制室に飛び込んできたのはカレラだ。

第2軍団と共に待機していたのだが、どうやらウルティマあたりに自慢話をされた様子だ。

それで我慢ができなくなったようだが、勝手に動かれるのは困るんだよな……

 

「挨拶?」

 

ベニマルがカレラに問い返した。

 

「ああ、奴らにちょっと核撃魔法でもプレゼントしてやろうかと思ってね」

 

その笑顔は女子高生のように可愛らしいものだが、発言の内容がエグすぎる。

 

「却下だ!」

 

速攻でベニマルが答えた。

そりゃそうだ。折角立てた作戦がいきなりパアになってしまう。

 

「カレラ殿、ここは命令が下るまでは我慢して頂きたい。ここぞというときに働いてこそ、その行動に意味が生まれることもあるものですよ」

 

カレラは不満そうではあるが、渋々それに頷いた。

 

「分かったよ。私の活躍を我が君にお見せしたかったのだが、効果的な“機”というものがあるのなら、大人しくそれを待つとしよう」

 

カレラが落ち着いてくれた。

意外にもゲルドとカレラの組み合わせは良いみたいだ。

さて、皆のやる気   というか()る気は十分だ。

こちらの戦力は、迷宮十傑をはじめとした迷宮内の戦力にとゲルド率いる第2軍団だ。

幹部達はもちろん、末端の兵士達の士気もかなり高い。

自分達の主である叔父さんの言葉を聞いて、士気旺盛となっているようだ。

数では遥かに劣るものの、質においてはかなり自信を持てる水準だ。

それに、敵に強者が隠れ潜んでいたとしても、迷宮という切り札があれば問題ない。

 

「勝負のカギは、迷宮にかかっている。ヴェルドラにラミリス、頼んだぞ!」

 

「無論だ。安心して我に任せるが良い!」

 

「そういう事よね。アタシ達がいる限り絶対負けない。大船に乗ったつもりで構えてて欲しいワケ!」

 

普段の2人だとアレだが、今回ばかりは本当に頼もしい限りだ。

迷宮の中ならば犠牲をゼロにできる上に大量の雑魚魔物もいるので、これも数に計上すれば数十万に達する。

 

「あとはユウキの口車に帝国がどれだけ乗ってくれたか、だな」

 

叔父さんがポツリと呟いた。

 

「いや、それは逆だと思いますよ。信用出来ないからこそ、上手く自分を疑うように誘導してこちら側の思い通りになるようにしたんじゃないですか?」

 

「ああ、なるほど。それならすごく納得出来る!」

 

確かにベニマルの推測が正しいかもな。

ユウキは敵として非常に厄介な相手だ。

そして、味方としても信用することが出来ない人物でもある。

これは帝国としても同じ感覚のはずだ。

 

「ああいう胡散臭い手合いは、味方として共に戦うよりも敵の中に潜り込んでくれた方が安心ですからね」

 

珍しくシオンが的を得た発言をした。

 

「裏切られる心配がない分、余計な労力を割かずに済むからな」

 

ベニマルも頷いている。

 

「帝国も、ユウキ達のことを完全に味方だとは考えていないだろうな。警戒もするし、その発言にも疑ってかかるという事だ。となると、ドワーフ王国のイースト前に展開している6万の軍勢も、どう動くか不明となる。帝国がこれを叩く可能性もあるし、ガゼルには要注意するように伝えておこう」

 

「まあ、ガゼル王の事です。そういった心配は無用かと。しかし、信用できない味方ほど厄介な相手はいません。俺なら、真っ先に叩き潰しますよ」

 

「ベニマルは事実上の敵として考えるんだな。俺だったら敵でもなく味方でもない第三勢力として考えるけどね」

 

「なるほど、第三勢力……か。アユムの考え方はかなり的確かもな」

 

さて、そろそろ話を帝国軍本隊に戻そう。

現在、敵軍はこの中央都市リムルを目指して攻めてきている。

一番心配だったのは、こちらを無視してファルメナス王国を攻められる事だった。

あの国は、先代のバカ王様のせいで滅び、新しく生まれ変わった国だ。

現状、戦争をする余力などない。

もし帝国軍がこちらを攻める選択をしていたら、迷宮戦が起きなくなり、分が悪い戦いを強いられていただろうね。

ただ、まだ心配な要素はある。

それは、帝国軍がこの国を素通りする可能性だ。

そうなれば後背から仕掛ければ良い話なのだが、それでもやはり分が悪くなる。

やはりこの戦いに勝つには、絶大な迷宮の恩恵を受けられる状況でなければいけない。

実際、ベニマルもいくつか他の作戦を立てているようだが、最善は迷宮に敵がハマってくれる事だった。

帝国がファルメナスに向かうにしろ、この国を素通りするにしろ、地上戦になってしまうとわざわざ互角の条件で戦わなくてはならない。

本来ならそれが普通なのだが、兵法第十五計『調虎離山』というように味方に有利な状況を作るのが戦争の定石である。

だが地上戦となると、せっかく絶対的に有利な状況を生み出せるリサールウェポンがあるのに、それを使えないという事になる。

願わくば、上手くこちらの策にハマって欲しいものである。

地上戦になった場合は、最優先に敵の中の強者を探る事になる。

何せクロエからの事前情報で、叔父さんやヒナタさんを殺せるほどの強者が帝国にはいると分かっているからだ。

ベニマルをはじめとして、皆にとって最も大切なのはリムル(叔父さん)だ。

もちろん、俺もこの人にまた死んでもらうなんてごめんである。

この1年、そのために腕を磨き続けてきたのだから。

 

さて、帝国軍本隊はドワルゴンでの戦闘が始まってから動き出したのを既に確認していた。

そして、森の中からその軍勢が姿を現した。

 

「敵軍、地上の大門前にて展開しています!」

 

オペレーターから報告が上がってくる。

スクリーンには、整然と並ぶ帝国軍将兵の姿が映し出されている。

流石は70万、壮観である。

叔父さんの『神之瞳(アルゴス)』に俺の監視装置に加え、外からソウエイの部下が直接監視も行なっているので、幻覚魔法などによる欺瞞ではもちろんない。

上手いことエサに食いついてくれたようだ。

状況は完全に理想的な形となった。

 

「勝ったな」

 

「ええ、最早勝利は確定しましたよ」

 

叔父さんの言葉にノリよくベニマルが答える。

あとは想定外の強者でもいない限り、絶対的な優位が覆ることはない。

 

「強欲なアホが迷宮に釣られてくれて良かったよ」

 

「リムル様の撒いたエサはあからさますぎるとも思いましたが、上手く食いついてくれたみたいですね」

 

と、叔父さんとベニマルは安堵した様子だ。

それにしても、どうしてこんな思い通りに進むんだ?

まさかとは思うが……

 

「帝国軍の指揮官は脳味噌チンチクリンが多いのかな? 戦車部隊の指揮官もそれなりに優秀だったけど、肝心の引き際を分かっていなかった。もしかして、自分達よりも自力が強い相手との戦い方を知らないんだろうか?」

 

ふと俺はそう呟いた。

 

「まあ、引く時間を与える前に殲滅したんだけどね」

 

「だとしても、あの棒立ちの仕方は酷かったです。いくらなんでも、こちらが猛攻を開始してからの対応が焼け石に水程度すら無かった」

 

「アユム様の言う通り、周囲の国々の中では自力が最も高かったが故に、他国を圧倒していたのでしょう。最終的にはゴリ押しでもすれば勝てますしね」

 

やっぱりそうなのかもね。

最初的に自力の差でゴリ押したのであれば納得である。

 

「でもまあ、ガドラが上手く仕事をしてくれたからってのもあるだろうね」

 

確かにあの人にも感謝だね。

話を戻そう。

帝国軍本隊は、その全容を見せつけている。

戦力の分散をされると強者の特定が難しくなってしまうが、基本的には戦力の分散は悪手のためにしていないらしい。

問題は、相手が地上にどれだけ戦力を残すつもりなのかという事だ。

 

「一番厄介なのは、このまま地上の大門を封鎖して、そのまま西側諸国に向かわれる事なんだよな」

 

「ええ。70万の内、10万も残せば十分包囲出来ますからね」

 

叔父さんとベニマルの言う通りなんだよな

ほぼあり得ないとは思うが、地上に一部戦力を残して門を包囲し、残りの戦力で西側諸国へと向かうという策を取られる可能性もある。

これをやられたら、無理にでも出撃する必要が出てくる。

ま、対策済みなんだけどね。

 

「アユム、頼んだいたやつの仕込みは万全か?」

 

「ええ、各地に20mm多銃身回転機関砲(ファランクス)や地雷はは設置済み。それなりに時間稼ぎは出来ると思いますよ」

 

今言った通り、中央都市リムル以西には、万が一にも帝国軍がこの国の迷宮攻略に乗り出さなかった場合に備えておいた。

これらで時間稼ぎをしている間に、無理にでも出撃して帝国軍を打倒するという訳だ。

だがそれでも、結局は地上戦にはなる。

迷宮でごっそり戦力を削ぎ落とした後ならば問題ないが、西に向かわれたら削ぎ落とせる戦力が余りにしょっぱいものになる。

願わくば、無駄に戦力を迷宮に投じて欲しいものである。

 

「地上にいる帝国の者共に警告などはしないのか?」

 

「煽って怒らせれば、ムキになって戦力を多めに投入してくれるんじゃない?」

 

ヴェルドラさんとラミリスさんがそんな意見を出してくれた。

 

「警告はナシさ。ラミリス、代わりに門に文言を書き記しただろ?」

 

「あ! そういえばそうだったね」

 

地上には、あるメッセージを刻んで置いたらしい。

 

  弱き者、この門をくぐる資格無し  

 

だとさ。

 

「アレを見た敵の反応を知りたくてな」

 

「俺なら切れて突っ込みますね。もっとも、部下は下げますが」

 

ベニマルがそう答えた。

こいつは罠だと分かっていても突っ込むタイプだろう。

 

「我は気にせぬな。強いから」

 

でしょうね。

ヴェルドラさんは別に答えなくても良かったと思うよ。

 

「アタシはアレかな。トレイニーちゃんやベレッタちゃんが行きたいって言ったら、ついて行く感じ?」

 

うん、怖いんだね、ラミリスさん。

ちなみに、あんたの配下で行きたいと言う者はいないと思うよ。

 

「俺の場合は行かないかな。そんな『入ってきてください。中に罠がありますからw』って匂いがプンプンするような場所に突っ込みたくないですね」

 

「クフフ。リムル様の慈悲、その警告を無視するような愚か者は、どのような目に遭っても文句は言えませんね」

 

何故か嬉しそうにディアブロが言っている。

 

「まあもっとも、門をくぐれぬような臆病者には戦場に立つ資格などありません。容赦なく殲滅し、リムル様に敵対した愚かさを理解させなければ!」

 

それを言っちゃダメでしょ、シオン。

これじゃ帝国軍に救いようがない……いや、そもそも敵だから救いようがない方がいいのか?

まあいいや。皆がやる気ならそれでいいです、ハイ。

倒した敵の魂を献上するとか言い出してるしね。

なんでも、テスタロッサ達がやったのを真似しようと考えてるらしい。

叔父さんの持ってる究極能力(アルティメットスキル)暴食之王(ベルゼビュート)』は、魂を喰らい完全にエネルギーに還元することができる。

そうなるとおよそ100万人か……。

確か、魔王種が覚醒魔王に至るためには大量の魂を糧にする必要があると前に叔父さんから聞いたな。

叔父さんが覚醒するの時で約2万人だったから、それのおよそ50倍……あ、コレ想像しちゃアカンやつや。

俺は思考を放棄してスクリーンに視線を移した。

 

「動き出したな」

 

叔父さんが言ったように、帝国軍が隊列を組み、迷宮の門に突入し始めた。

 

「取り敢えずは計画通りだな。門を塞がれて西側諸国に攻められるという最悪のシナリオは無くなった。半数以上突入してくれれば、後々かなり楽になるんだが……」

 

「安心して下さい、リムル様。一兵たりとも逃がしはしません。状況次第では、俺も出撃しますよ」

 

ベニマルが不敵に笑った。

 

「俺の第2軍団の実働数は1万7000ほどであり、数の上では劣ります。しかし、実力では負けません。地形を変えて、敵軍の動きを封じ込めて見せましょう」

 

それにゲルドが頷いた。

 

「流石はゲルド、頼もしいな。あとは、俺がその内側を焼き尽くせば、残った者達が戦うに値する強者という事になる」

 

「それについては、カレラ殿も喜んで協力してくれるだろう。先程から暴れたがっている様子だし、その実力を遺憾無く発揮してくれるだろう」

 

何この勝ち確ムード。

いやまあ、これだけ優位な状況になった以上勝って当然なんだけどね。

それでも多少不安になったりしないのかな?

 

「ズルいですよ、2人とも。殲滅戦なら私の出番でしょう!」

 

いやだからシオンさん、あんた叔父さんの護衛だろ?

というか、他の皆も白熱しすぎだ。

 

「落ち着け、シオン。今は敵がどう動くのか見極めるのが先決だ。場合によっては、お前にも出撃してもらうからな」

 

と、叔父さんがシオンを宥めた。

 

「クフフフフ。リムル様の護衛ならば、私がいれば十分でしょう」

 

「ディアブロもこう言ってるし、最悪の場合はテスタロッサやウルティマを呼び戻せばいいさ」

 

「なるほど、リムル様がそう仰るなら。よし、その時はお前にも出撃してもらうぞ、シオン!」

 

「うむ。ベニマル、任せておくといい!」

 

皆、気合い充分といった様子だ。

少し不安は残るが、士気は高い方がいい。

彼らの活躍に期待しよう。

 

「さてと、それではリムルよ。我はそろそろ準備に取り掛かるぞ!」

 

「アタシも行くよ。迷宮の恐ろしさを帝国の奴らに教えてやるのよさ!」

 

「うむ、最後の守りには我がいる故、安心するがいい」

 

「ああ、期待してる」

 

気合いが入った様子で、ヴェルドラさんとラミリスさんが管制室を去った。

その後ろ姿は頼もしく思えるものだった。

 

「さてと、それでは敵のお手並み拝見といこう」

 

叔父さんの言葉に全員が頷く。

かくして、迷宮の攻防戦が始まった。

 

 

 




そういや『とあるif』が転スラとコラボしてたけど、リムルの必殺技が黒炎てどう言う事?
使用頻度と威力から考えて、通常技って感じじゃね?
もうちょいあるでしょう、神之怒とか暴食之王とか。
ミリムの竜星拡散爆はまだ納得できるけどさ。


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第23話 Empire Idiots

どうも、最近の転スラのインフレっぷりに付いてけないMany56です。
小説19巻購入して早速読んだのですが、「ゑ……?」というのが率直な感想です。
だってもう色々とオカシイもん!
マサユキ君がバランスブレイカーどころの話じゃなくなってるもん!
チートという言葉さえ生易しいレベルだったもん!
シエルさんも相変わらずエグい……というかエグすぎるしね。
そして、レインがやっぱり面白い。
それにしても、まさかラストでああなるとは……。
15巻16巻以降の展開ホントにどうしようかな?
さて、お待たせしました、23話です。
今回はほぼ帝国軍視点です。


 

 

 

帝国軍機甲軍団軍団長のカリギュリオ大将は、予定通りに進む状況に笑みを浮かべずにはいられなかった。

絶対的な自信を持って、自軍を眺めている。

迷宮へと向かう精鋭達は、莫大な富をカリギュリオにもたらすだろうと。

そして未だに本隊に気付いていない魔物達は、新時代の軍事力に蹂躙され、その力に気付いた頃には趨勢は決しているはずだと。

それはどれも、入念に考えた侵攻計画とそれに応える将兵達の実力の賜物だ。

悠然と構えたカリギュリオは、部下達に想いを馳せていた。

 

(英雄王ガゼルの首をガスターにやるのはもったいないが、飴を与えねば部下はついては来ぬ)

 

そんな頃、魔導戦車師団や空戦飛行兵団との通信を行っている通信士から報告が来た。

 

「ガスター中将より報告! 先程、魔物共の使者が訪れ、これと交渉したものの決裂。交戦状態に入ったとの事です!」

 

待ち望んでいた報告であった。

それを聞いたカリギュリオは、不敵な笑みを浮かべた。

 

「ふむ、予定通りだな。これより進軍を再開する! 目標、魔国連邦(テンペスト)首都!」

 

「「「ハッ‼︎」」」

 

そして、帝国軍の本隊は陣地を畳み、首都リムルを目指し始めた。

だがその直後、再び報告が入った。

それも、余りに衝撃的すぎて自身の耳を疑った。

 

「何⁉︎ それは本当か!」

 

「は、はい! 何度も問い直しましたが、敵軍に戦車を確認したとの事。また、飛空龍(ワイバーン)に騎乗している敵の飛行部隊に、ロケットランチャーらしき物を使用している者がいたとの報告がありました!」

 

これは余りに想定外であった。

帝国が得た異世界の技術体系である科学という概念は、帝国に新たな力を与えた。

それが帝国軍機甲軍団の強さの根幹であり、事実上の専売特許であったが、相手も科学技術から得た兵器を使ってくるとなると話は別だった。

特にロケットランチャーを使用してきたというのが最悪だった。

帝国の運用する魔導戦車には常に対魔法結界が張られ、生半可な魔法やスキルによる攻撃を一切通すことはない。

物理的な攻撃をしてきたとしても、剣や槍、弓矢程度だと考えており、それならば戦車の装甲を撃ち抜くのは不可能だろうと考えていた。

だがしかし、報告にあったロケットランチャーは、異世界において戦車の装甲を撃ち抜くためだけに作られたような兵器である。

もちろん魔法的な物ではなく物理的な攻撃なので、これに対して対魔法結界は意味を為さない。

ロケットランチャーに対して、所謂複合装甲や爆発反応装甲を搭載すれば防御する事も可能であった。

しかし、敵が異世界の兵器で攻撃してくるなどと想定していた訳もなく、もちろんそんな物は非搭載であった。

つまり、少なくとも空戦飛行兵団が到着するまでは、ほぼ一方的に部隊を潰される事を意味していた。

 

(どうする。魔導戦車師団は一度引かせて、空戦飛行兵団のみで仕掛けるべきか? いや、ロケットランチャーを使用してきたとなると、最悪ミサイルの類もあるやもしれん……)

 

そんな事を考えていたカリギュリオに通信士が言葉を紡ぐ。

 

「あの、閣下。報告には、まだ続きがございます。戦車は20両と数が少なく、ロケットランチャーも同様に数は多くないので、さほど問題ではないと思われるとの事です」

 

その言葉で、カリギュリオは冷静さを取り戻した。

 

「ふむ。となると、敵の数少ない切り札という事か。つまり、敵も異世界の技術体系を手に入れたが、開戦まで間に合わせる事が出来なかったという事だろう」

 

実際、魔国連邦(テンペスト)は新参の魔王が興した国だ。

国家として成り立ってからまだ日が浅い。

早い段階で科学の有用性に自力で気付けた事は賞賛に値するが、間に合ってないのであれば問題無い。

そのまま魔物共は抵抗虚しく蹂躙されるだけであろうと、カリギュリオは考えた。

 

「それならば問題無い。予定通り、このまま進軍する」

 

そして、この後の地獄を知らぬまま、帝国軍の本隊は歩みを続けるのだった。

そして今、帝国軍本隊は魔王リムルの本拠地、魔国連邦(テンペスト)首都リムルを制圧した。

今頃迷宮の中の魔物共は、予想外の大軍の出現に大慌てしているだろう。

 

(だが、今更気付いたところで遅い。ドワーフ王国は魔導戦車師団と空戦飛行兵団によって蹂躙され、この迷宮も我らが頂く!)

 

ドワーフ王国へと向かったガスター中将やファラガ少将は機甲軍団の中でも屈指の実力者の為、必ず勝利してくるだろうと疑っていない。

この時点では、既に魔導戦車師団も空戦飛行兵団も全滅して、その司令官である2人も戦死しているのだが、それを察するなどカリギュリオには到底不可能であった。

 

「それで、ガスターから続報はあったかね?」

 

「いえ、まだ連絡は取れておりません」

 

「ふむ、腐っても魔王軍という事か。数が少ないとはいえ異世界の科学技術体系を組み込んでおるし、配下の魔物共もそれなりの強者という事か。思いの外、手こずっているのやもしれんな。ならば、ファラガからの報告は?」

 

その問いに通信士は答えられない。

今必死に連絡を取ろうとしている。

良い気分だったカリギュリオは水を刺されて不機嫌になる。

それに焦った情報将校が答えた。

 

「ファラガ少将からですが、邪竜ヴェルドラらしき魔物と遭遇したとの報告がありました! 確認でき次第、続報を上げるとの事でしたが……その後、連絡は取れておりません」

 

一度目の報告以降、ファラガとは通信が通じなくなっていたのだ。

それはガスターも同様であった。

部下の通信魔導士曰く、ジュラの大森林は魔素濃度が高いため、通信念波が阻害されやすいとの事だった。

実際、ジュラの大森林は宿敵たる邪竜ヴェルドラが生み出した森であり、現在では魔王リムルの支配下となっている。

通常よりも魔素濃度が高くなるのはむしろ自然であった。

さもありなんと、納得する他なかった。

通信魔導士の言う通り、周囲の魔素濃度が影響して魔法通話が通じなくなる事態は考えられた。

その上、現在はドワルゴン方面で戦闘中。それも、当のヴェルドラ戦場にいるのならば報告などままならないだろうし、仮に出来たとしても魔法による通話など不可能であろう。

その考えに至ったカリギュリオはすぐさま思考を切り替えた。

 

「フンッ! 邪竜ヴェルドラと遭遇したのであれば、向こうから連絡がないのも頷ける。ならばいずれ、勝利の吉報が来るだろうから、それを待てば良い。こちらも負けてはおれぬな。さっさと迷宮の攻略をしてしまえ!」

 

(いくらあの邪竜ヴェルドラが相手だろうと、ドワーフ王国に向かった軍勢は合計24万人。それも帝国の技術の粋を集めた部隊だ。魔物共が我らと同じ異世界の技術による兵器を使ってきたのは予想外だったが、大した問題ではない。多少手こずる事になるやもしれんが、少なくとも負けるはずはあるまいて。むしろ、好都合だ。囮にヴェルドラが食いついたのであれば、魔王が迷宮の中にいる最高戦力だろう。それに次ぐ実力者であろう四天王とやらも、機甲改造兵団の精鋭達ならば問題あるまい)

 

カリギュリオはそう考えて、迷宮攻略に集中する事にした。

 

現在、機甲改造兵団が陣を引いている場所は、何も無い更地となってい。

それも、都市1つがスッポリ入ってしまう程の広大さを誇る。

そして、その中心部には迷宮へと繋がるであろう大門が聳え立っている。

正に、カリギュリオ達帝国軍の挑戦を待ち受けているかの様だ。

報告通りの内容であった。

そして、その大門に刻まれて言葉を読む。

 

  弱き者、この門をくぐる資格無し  

 

(やはり俺の考えは正しかった。それにしても、我々に略奪(現地調達)されるのを恐れて全てを迷宮の中に隠すとは、魔物のくせに小賢しい知恵を働かせるものだ)

 

実際、戦争を行う際は現地調達という名の略奪を行う国家はそこかしこにある。

事実、第二次世界大戦中の日本陸軍も中国などで食糧を略奪していたし、人材さえも略奪されていた程だ。

そして、それを恐れるというのも全ての国家で共通であった。

そして、何故にそうも略奪が行われるかというと、補給物資の不足など戦時下では当然のように起きるからだ。

大部隊であれば、なおさら多くの補給物資を必要とする。

近世以前の戦争では、食料は略奪(現地調達)して得るのが当たり前だった事もあるくらいだ。

なので、70万の大部隊である帝国軍本隊に対して()()()()()有効な策であると言えた。

 

(だがしかし、その程度で我々を止められると思うなよ)

 

機甲改造兵団の兵士はほぼ全員が科学と魔法を融合した技術によって、1週間は飲まず食わずで活動が可能であった。

さらに、帝国で新開発された携行食は1つあるだけで1日分活動するだけのエネルギーが確保出来る。

小型軽量化されたそれは、兵站を限りなく容易なものにしていた。

飲料水においても、魔法で容易く生成が可能であった。

この結果、大軍での軍事行動における最大の弱点たる、補給不足への対策は万全であった。

 

「まさか、我らの補給を絶ったくらいで勝った気になった訳ではあるまいな? もしそうだとしたら、余りにも愚かな事よ」

 

その言葉に参謀の1人が同調する。

 

「ハッハッハ! そのような可哀想な事を仰る物ではありませんぞ、カリギュリオ様。魔王リムルは、初手から間違ってしまったのです。我らが栄光の機甲改造兵団を見落とし、囮部隊に向けて最強の切り札である邪竜ヴェルドラを向かわせてしまった。それに気付いた頃にはこれだけの英雄に囲まれてしまったのですからな」

 

そして、その言葉に他の参謀達も追従する。

 

「まあ、その考えも責められませんな。囮とはいえ、あちらも大部隊であるのは間違いありません」

 

「しかも、あちらは我が軍の最新兵器を集中運用しております。数少ない異世界の兵器も持ち出さなければと考えたのでしょう」

 

「最大戦力で対処しようという気持ちは、私にも理解はできます」

 

「フンッ! 魔王だなんだと息巻いても、所詮はその程度という事だ。今頃、迷宮の奥で小さく縮こまっておるやもしれんな!」

 

「その通りですな! あとはカリギュリオ様の目の前にまで魔王を引き摺り出し、その首を刎ねるのみ。これでカリギュリオ様も魔王殺しの英雄ですぞ!」

 

その会話で、カリギュリオも気分を良くした。

先ずは迷宮を陥落させ、西側に攻め込むための土台を作る。

そして、そこからは勢いに任せて西側諸国を蹂躙するのだ。

急がなければ、イングラシア王国北方を目指している魔獣軍団に先を越されて、西側諸国を蹂躙し尽くされてしまう。

その前にジュラの大森林を突破したいのが本音であったが、それでも問題無いとカリギュリオは考えていた。

自分達の功績が減ってしまうのは確かだが、暴風竜ヴェルドラの討伐という功績があれば、他の武勲など大した物ではない。

その上魔王リムルの首も上げれば、間違いなくカリギュリオが最大功労者になるだろう。

カリギュリオはもちろん、他の参謀達も敗北するなど微塵も思っていない。

70万の大軍の威容を見れば、誰もがそうなるというものだった。

 

「では予定通り、この地に結界を張り巡らせて宿営地とする。その後、迷宮内に逐次部隊を投入せよ!」

 

「「「ハッ!」」」

 

この場にいる全員がカリギュリオの言葉に呼応する。

反対意見など出るはずも無かった。

西側攻略の武勲はグラティム達の魔獣軍団にくれてやれば良いというのが、この場にいる者達の共通認識であった。

むしろ、迷宮内で手に入るであろう金品に対する欲求が大きかった。

物量で迷宮内を埋め尽くし、全てを根こそぎ奪うという単純明快な作戦だ。

それに対して反対意見が出ないというのは、目先の利益に目が眩んでる証拠であった。

かくして迷宮攻略が始まった。

愚かな者達は、二度と上る事ができない階段を嬉々として降っていく。

その先に待っているのは、この世の地獄である事を知らずに。

 

 

 

 

 

 

開戦初日深夜

スナック樹羅

 

「馬鹿め」

 

どこぞの世界最大の戦艦の形をした宇宙戦艦の艦長っぽく、カッコつけてそう言ってみた。

ただの独り言だけどね。

現在首都リムルは迷宮内に避難していて、地上は更地になっている訳だが、迷宮内に隔離される範囲外の地中にはいくつか盗聴装置を仕組んで置いたのだ。

帝国軍本隊司令部のメンツの考えが知りたくてね。

因みに、敵さんが罠が仕組まれてないかを調べるために魔法による探査を行ったんだけど、その時には俺の究極能力(アルティメットスキル)製作之王(ヘファイストス)』の権能である『物質変換』の力で砂とか石ころにして欺瞞しました。

さて、それで帝国軍本隊の司令官や参謀達の会話を録音して盗み聞きした訳だが、どうやら負けるなんて微塵も思っていないようだ。

無知とはなんと哀れな事か……。

どうも迷宮に都市を移動させた理由を、補給不足の状態に陥らせるためと考えているようだ。

こっちはそんな事微塵も考えていなかったんだけど、なるほど確かに補給不足の状態に陥った時に現地調達できないというのは致命的だな。

まあ、それについての対策はかなりしっかりしているみたいだね。

まあ、どうでも良いけど。

こっちが考えているのは、日本海軍が考えていた漸減邀撃戦術に比較的近いかな。

アメリカ軍の主力艦隊に対して、駆逐艦や潜水艦などでじわりじわりと削っていき、最終的に戦艦などの主力艦隊で殲滅するという考え方だ。

俺達の場合は迷宮が駆逐艦や潜水艦の役割を、第2軍団と第4軍団が戦艦の役割を果たす感じかな。

向こうでは成功しなかったが、こっちならば間違いなく成功するだろう。

そんな風に考えていたら、隣の席に座る者が現れた。

 

「イヤホン? 何か聞いてるの?」

 

話しかけてきたのはマサユキだった。

どこか疲れたような顔をしてる。

 

「聞くか?」

 

俺はそう言うと、イヤホンをマサユキに渡した。

録音の内容を聞いたマサユキはかなり驚いていた。

 

「え、これって……?」

 

「帝国軍本隊司令部の会話を録音したやつだよ。地面に予め盗聴装置を仕込んでおいて、さっき転送魔法で回収したんだ」

 

「ええ……。あ、もしかしてもう戦いは始まってるの?」

 

「ああ、今日戦いが始まった。上の階層では帝国軍の頭数を減らしてるとこ」

 

「そうなんだ。そういえば、ドワルゴンには戦車や飛空船の部隊が来てたけど、どうなったの? アユムも行くって話だったけど」

 

「ドワルゴン方面の戦いは圧勝したよ。俺の兵器で上手いこと数を減らして、最後にゴブタとガビルが大暴れして殲滅した。というか、俺がいなくても勝てたと思うな、アレ」

 

特に、最後の方はテスタロッサとウルティマが核撃魔法ぶっ放してくれたからね。

俺らが手を出さなくても、あっという間に殲滅出来ただろう。

 

「あ、そう……」

 

マサユキはそれ以上は聞かなかった。

何となく悟ったんだろうな。

 

帝国軍の皆様へ。

この度は我が軍の災禍級の戦力に見舞われました事をお悔やみ申し上げます。

どんなに強力な兵器だろうと、こういった自我を持った災禍の前では無力ということですので、本隊のクソッタレ共もさっさと諦めて迷宮内にて早急にくたばって下さいますようお願い申し上げます。

貴方方が消えていなくなって下さったならば我々はとても幸福です。

 

俺はそう心の中でのみ、お悔やみの言葉を述べた。

とことん帝国軍(地上のバカ共)が哀れだ。

敵であるにも関わらず、俺がそう考える程なんだから大概だ。

というか、叔父さんって新参の魔王のはずなのに、配下に旧魔王クラスがゴロゴロいるのはどういう事なんだ?

ドワルゴン方面に行ったメンツだけで4人、迷宮内に6人、他にもベニマルやディアブロなんかもいるし。

うん、やっぱ頭おかしいわ、あのオッサン。

そう考えて、俺はちょっと途方もない気持ちになった。

 

 

 




アニメ転スラ終わってから大分モチベ下がってきたな。
次回投稿いつになるのだろうか……。


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第24話 戦時下の日常

どうも、Many56です。
またしても1ヶ月ぶりの投稿となりました。
ただでさえモチベ下がっているのに、最近は頭文字Dの方メインになってるわ、リアルでも色々とあるわで、こっち側が全く進まないんですよね。
一応ストックを何話か用意してそれを投稿していましたが、それももう尽きかけている状況。
次回は2〜3ヶ月以上かかるかもしれません。
さて、迷宮内で激戦が繰り広げられている中、隔離された街ではどうなっているのでしょうか?
それでは24話お楽しみ下さい。


 

 

 

帝国との開戦から1週間が経った。

今日、俺は町の治安維持をしている。

今の俺の立ち位置は義勇兵団の副団長だ。

このくらいは当然である。

と言っても、マサユキと一緒にパトロールとかしてるくらいでそれ以外大した事はしてないけど。

 

「ああ、マサユキ様だ!」

 

「常に町で何か起きていないか自ら見て回って下さるとは」

 

道端でそんな噂話をしている人達がいる。

マサユキの顔を見ると、どこかバツの悪そうな表情だ。

うん、毎度お疲れ様です。

 

「隣にいるのは、勇者様に次いで迷宮50階層を突破したっていう三上 歩(アユム・ミカミ)じゃない?」

 

「ああ、義勇兵団副団長としてマサユキ様を支えている凄い人だ。噂じゃ、聖騎士団(クルセイダーズ)の隊長格より強いとか」

 

「マジかよ?」

 

「それじゃあ実質西側のナンバー3じゃねえか!」

 

おっと、俺の事も噂しているようだ。

まあ、俺もこの町じゃそれなりに知られているからね。

ただ、まさかそこまで言われるとは思っていなかった。

これはちょっと照れますね。

 

「最強の勇者に、それと同郷の英雄。ついでに魔王リムル」

 

「帝国軍が攻めてくるって話だけど、これならどんなに強い相手でも蹴散らしてくれるだろうさ」

 

「心配しなくても、勝利は間違い無いな!」

 

戦うのは俺やマサユキじゃなくて、叔父さんの軍なんだけどね。

まあそれは置いておいて、今心配すべきは町の治安状況である。

とは言うものの、これが意外にもかなり良い。

むしろ良すぎるくらいだ。

戦争になってトラブルが増えるんじゃないかとも思ったが、杞憂だったようだ。

どうやら市民、特に外の国から移住してきた人に対してマサユキのユニークスキル『英雄覇道(エラバレシモノ)』の影響力がハンパじゃない。

これのおかげで市民にはかなりの安心感が生まれ、それがトラブルの抑制になっているようだ。

実際、戦争が始まる前と現在の犯罪やトラブルの件数を比較してみたら、ここ1週間はそれ以前の平均と比べて明らかに犯罪やトラブルの件数が少ない事が分かった。

 

「さすがは勇者マサユキ」

 

「揶揄うのはよしてくれよ。これ、結構しんどいんだから」

 

「ははは、確かにな」

 

犯罪やトラブルはマサユキの影響力でかなり抑制出来ている。

しかし、問題が無い訳ではない。

 

「おーい、マサユキ君」

 

前からやって来るのらマサユキのパーティ“閃光”のメンバーであるバーニィとジンライだ。

 

「どうしたんだい、2人とも」

 

「それが、ちょっと困った事になってね」

 

「……もしかして、また?」

 

「うん、またなんだ」

 

バーニィの言葉にマサユキの顔がさらに悪くなる。

 

「戦争への志願者、これで何件目だっけ?」

 

「さあ、30件越えたあたりから数えてない」

 

トラブルはないものの、問題はある。

実は、戦争が始まる前から結構志願者が集まっている。

特にここ2、3日にはかなり増えており、その整理だけでもかなり苦労しているのだ。

いやほんと、なんなんだろうね?

この国の奴らには戦闘狂があまりに多すぎるのか?

などとやるせない気持ちになりながら、新たな志願者の所へと向かった。

 

 

 

スナック樹羅

俺とマサユキは、なんとか志願者達を宥めて、今休憩中である。

 

「やっと片付いた……」

 

ぼやくマサユキ。

まあ、ここ最近ずっとこんな感じだからな。

疲れるのも当然だ。

俺自身、精神的疲労がかなり溜まってきている。

聖人になったおかげで肉体的疲労とは無縁になったけど。

しかし、マサユキはそうはいかない。

かなりゲッソリしており、肉体的にも精神的にも疲労が蓄積されているのがよく分かる。

この調子だと、最悪過労で倒れかねんぞ……。

 

「はあ、これなら志願者全員に出てもらった方が良いかもね。今じゃ万単位の人数いるし、皆そこそこ強いみたいだし、僕のスキルの補正もあれば……」

 

「やめとけ。それが足引っ張って、最悪こっちが負ける」

 

やれやれ、こいつ疲労で頭おかしくなってるな。

 

「どうして? 確かに数の差はかなりものだったけど、迷宮なら劣勢でも数はかなり減らせられるだろうし、僕のスキルも合わされば……」

 

「量より質という言葉を甘く見過ぎだ。確かに俺らが元いた世界じゃ質より量だったけどな、それは質が同等になりやすかったからであり、質で量に勝った事例なんて記録を漁ればアホほど出てくるぞ」

 

そう言って俺は説明を始めた。

 

「まず第二次世界大戦において、フランス対ドイツでドイツが圧勝しただろ? でもな、兵員や兵器の数だけ見ればそこまで大きな差は無かったんだよ。でも、結果を見ればドイツの圧勝。犠牲者数で比べても、戦死や戦傷、行方不明合わせてドイツは15万強に対し、フランスは36万だった。それは、ドイツの技術的な質や電撃戦のドクトリンによるものだ。エグい物量を持つソ連相手にスターリングラードまで勝てていたのも、やはり技術的な質と電撃戦ドクトリンがあったからこそ」

 

「は、はあ」

 

多分『空の魔王』も要因の1つだろうけど、あの人の事例を上げたらキリがなくなるからちょっと省こう。

もっと分かりやすいし、俺も説明しやすい例がある。

 

「なんなら、ソ連対フィンランドの冬戦争じゃ、フィンランドのたった32人の部隊がソ連の4000人の部隊を撃退したことさえある」

 

「……は?」

 

「フィンランドにおける極寒の環境もあったが、それ以上に『史上最強のスナイパー』とか『白い死神』って異名を持っているシモ・ヘイヘっていうリアルチート(実在した漫画の主人公みたいな人)をはじめとした腕利きの狙撃手が多数いたのが大きい。というかこの人いなかったらフィンランドはソ連の支配下に置かれてたと思う」

 

この言葉にマサユキはポカンと口を開けた状態で硬直した。

確かにね。漫画みたいな話だよね。

でも実際にあった話なんだよね。

 

「嘘でしょ……?」

 

「いや、これがマジ。公式戦果500人超えてるらしい。しかも参加してから負傷して戦線離脱するまでの僅か100日間でコレを出した」

 

再び硬直するマサユキ。

まあ『空の魔王』はもっとやばいんだけどね。

第二次世界大戦中に赤軍戦車の1%強を1人で破壊するわ、負傷してもすぐ病院を抜け出して前線に紛れ込んで戦車のスクラップを量産するわ、その結果軍の公式戦果より信憑性の高い戦果の方が多いわ(普通、戦果は多少盛られて報告されるため、信憑性の高い戦果の方が少なくなる)30回撃墜されても徒歩で帰還するわ、挙げ句の果てには粛清大好き髭面オッサンから名指しでソ連人民最大の敵と言われるわと、本当に頭おかしいエピソードだらけである。

だからあの人の存在出すと説明がダレるから置いておく。

 

「他にも、卓越した戦略や戦闘技術、兵器といった質の差で数の差を埋めた例は多数存在する。質の差が極端になりやすいこちらの世界なら尚更質の重要性が高まる。だから中途半端に質の低い戦力を組み込むより、正規軍だけで戦った方がいい」

 

「分かったよ」

 

マサユキも納得してくれたみたいだ。

さて、そろそろ休憩も終えて仕事に戻るとしますかね。

そう考えていると、店の中に入って来る人影が2つ。

ジンライとバーニィだ。

 

「大変ですぜ、マサユキさん。魔王の軍勢に慌ただしい動きがあったってんで、志願者達が騒ぎ出してます」

 

「他にも、魔王配下の研究者って人達も参加させて欲しいってさ」

 

ああ、もう面倒くさい。

 

「分かった、止めに行こうか」

 

俺たちは迷宮都市内にある研究施設に向かった。

中に入ると、話し声が聞こえてきた。

ルベリオスから派遣されてきたバッカスと“閃光”のパーティメンバーのジウが吸血鬼(ヴァンパイア)の研究者達を止めている。

 

「だから、それは出来ません」

 

「良いじゃないか。ミー達だってそこそこ強いし、リムル様にはお世話になってるし、こんな時くらい恩返ししたいのネ」

 

「一体どういう事?」

 

部屋に入るとジウがマサユキの方に駆け寄ってきた。

 

「マサユキ様、この方々が戦いに参加したいと言って聞かないんです」

 

「どうも、この地に残っていた戦力も出撃する様子なのを見て触発されたようで」

 

はあ、どいつもこいつも面倒だ。

とりあえずバッカスさんに耳打ちする。

 

「同じルベリオスの人なんだから、説得くらい簡単じゃないんですか?」

 

「いや、無理ですよ。さすがに吸血鬼達は知らない人がほとんどだし、かれこれ30分近くこのやり取りやってるんですよ」

 

マジかよ。

 

「ね、少しだけでいいから手伝わせて欲しいのネ」

 

ああ、こりゃもう全然諦めるつもりはないらしい。

 

「どうする、マサユキ?」

 

……あれ、反応が無い?

ってこれ、魂抜けかけてね⁉︎

 

「おーい、戻ってこいマサユキ!」

 

「あ、ごめん。ちょっとボーッとしちゃってた」

 

ヤバい、こりゃほんとに限界近いな。

 

「仕方ないな。取り敢えず、バッカスさんとジウは皆さんの説得を続けておいて。ちょっとリムルさんに掛け合ってくる」

 

「そうだな、それがいい」

 

1週間経って、戦況がどんな感じなのかも聞きたいしね。

そうして、俺達は叔父さんの所に向かった。

 

「おーい、リムルさーん!」

 

叔父さんの隣にいるのはベニマルである。

珍しいな。普段ならシオンやランガ、ディアブロが護衛として隣についているのに。

 

「おう、マサユキ。どうしたんだ?」

 

「どうしたんだ、じゃないですよ! 僕を勝手に軍団長に任命するもんだから、かなり迷惑してるんですよ!」

 

かなり本気で訴えてるマサユキ。

俺も見てられないし、ここはマサユキに加勢させてもらうよ。

 

「リムルさん、血の気の多い奴らが戦いに参加したいって騒ぎ始めてまして、吸血鬼(ヴァンパイア)の研究者達さえ参加させて欲しいって言ってるんですよ」

 

因みに、今俺が“叔父さん”ではなく“リムルさん”と呼んだのは後ろのジンライとバーニィは俺と叔父さんの関係を知らないからだ。

当事者以外でこの場で知ってるのはマサユキとベニマルだけだからね。

 

「ここ数日、志願者がどんどん増えてて、整理だけでも大変なんですから! このままだと収集がつかなくなるから、なんとかしてくれませんか、リムルさん?」

 

「ははは、それは大変だったな……」

 

「でしょう?」

 

「でもまあ、安心してくれ。もう少しで戦争は終わるから、それまでのらりくらりと言い逃れをしててくれれば大丈夫」

 

「いやいや、他人事だと思ってそんな簡単に……」

 

そう情けない文句を言ってるが、完全にスルーされてるわ。

 

「ちょっと、絶対逃げようとしてるでしょ!」

 

「ハッハッハ!」

 

「ハッハッハ、じゃないですって!」

 

ダメだこりゃ。

完全にスルーモードに入ってる。

 

「やれやれ、大人の処世術ってやつですか。さすがリムルさん、手段が小汚いですね」

 

反応なし。

俺の言葉もスルーですか、そうですか。

このまま地面凹ませて埋めてやろうかな?

 

「ともかく、用件はそれだけか?」

 

「ええ、まあ。本当にもうすぐ戦争が終わるんですか?」

 

「今日中には決着をつけるつもりだ」

 

「僕達は何もしてないし、まるで実感が湧きませんね」

 

「一般市民には悟らせない、それが俺の理想とする戦いのあり方さ。という訳で、安心してくれ」

 

そう言うと、叔父さんは笑顔を浮かべた。

やれやれ、今回は見逃してやるか。

その分負担はこっちにかかるが、あと1日の辛抱だ。

そう考えてると不満をぶち撒ける者が現れた。

 

「おいおい、ちょっと待ってくれよ。マサユキさんがアンタに気を遣ってるから俺も我慢してたんだが、俺達はアンタを倒す事を諦めた訳じゃねーんだぜ? それを忘れて俺達をいいように利用するなんざ、さすがにふざけがすぎるだろうが」

 

ジンライがそう言った。

こりゃ叔父さん分が悪いぞ。

 

「嫌だな、それは誤解だよ。利用しようだなんて人聞きの悪い……」

 

叔父さん内心ちょっと焦ってるな。

ここはちょっと止めないと。

 

「ストップ、ジンライ。それは言い過ぎだと思うぞ」

 

「そうでもねえだろ、アユム。ここはガツンと言ってやらねえと」

 

アカン、これちょっと止められないかも。

 

「いや、アユムの言う通りだよ、ジンライ! リムルさんだって、今は町の人達のために頑張ってくれてるんだからさ!」

 

さらにマサユキが加わってくれた。

一応、一国の王として民を守るためにやるべき事をちゃんとやってる。

ジンライも、マサユキの言葉でそれ以上の文句は止めてくれた。

良かった、これで一件落着である。

そう思ったが、そうは問屋がおろさなかった。

 

「いやいや、ジンライの言う通りだよ、マサユキ君! 本来ならば、勇者と魔王は敵対する定めだ。いつまでも我慢してないで、こんな奴なんかさっさと倒してしまおう!」

 

普段なら一歩引いた立ち位置のバーニィがこんな事を言うなんてね。

はい、さっさと止めましょう。

 

「おいバーニィ、何言ってんだ? 戦う理由も倒す必要もないだろう。マサユキもそれを分かっているからそうしないんじゃないのか?」

 

「だからさ、本来の定めというものがあるじゃないか」

 

「別に例外があってもいいでしょ。そもそも、その定めとやらは誰が決めたんだよ?」

 

ほんとコイツいい加減に止まれよ。

何で今日に限ってこんなんになってんの?

一方のバーニィは俺の事を無言で見やる。

 

「……はあ、このままじゃあ話は平行線だ。マサユキ君もやる気がないみたいだし、君に至っては魔王の味方をする。こうなったら僕が君ごと魔王を成敗してやる!」

 

そしてバーニィは魔法の詠唱を始めた。

そんな馬鹿な   そう言いかけた俺は直後、衝撃を受けた。

 

聖浄化結界(ホーリーフィールド)

 

1人で発動するなど困難な魔法結界が周囲を取り囲み、一瞬にして周囲の魔素が浄化される。

そしてその直後、俺は反射的に超速の一撃を放った。

 

『朧流水斬』

 

下手なAランク冒険者などでは動きを捉える事さえ不可能な一撃だった。防げるとすれば、それは最低でも仙人級以上の実力者くらいで、本来ならばバーニィに防げる代物ではなかった。にも関わらず、それをバーニィはいつの間にか握っていた剣を使ってアッサリと防いだ。

その瞬間、甲高い音が鳴り響き、それが周囲の空気を張り詰めたものへと一変させた。

 

「なるほど、そういうことか。驚いたよ。まさかこんな所にリムルさんを狙う刺客がいたとはね」

 

「それは僕の台詞(セリフ)さ。君がそれほどの実力を隠していたなんてね」

 

俺の言葉に対し、バーニィはそう返した。

そして、俺はバーニィと距離を取り、そのまま睨み合いの状態になる。

しかし、本当に予想外だった。

平静を装ってはいるが、内心ちょっとしたパニック状態になっているのが本音だ。

そして、バーニィと付き合いの長いマサユキやジンライにとっては俺以上に衝撃だったようだ。

 

「バーニィ、お前……剣も扱えたのかよ⁉︎」

 

ジンライがそう呟く。

ああ、やっぱり。

知らなかったという事は、初めから完全に騙してたんだ。

 

「フッ、手の内を簡単に曝け出すなんて、そんな馬鹿な真似をするとでも?」

 

「クソッタレ! テメエ、俺だけでなくマサユキさんまで騙していやがったのか‼︎」

 

「騙す? 人聞きが悪い事を言うなよ。魔王に接近するために利用していただけさ」

 

「利用……だと?」

 

「ああ。マサユキ君は都合良く踊ってくれたよ。そのおかげで、今こうして最高の機会が訪れた。本当に感謝してるよ」

 

その態度が本当に腹立たしい。

しかも、コイツの実力は間違いなく聖人級だ。

少しでも気を緩めたら即ジエンドである。

 

「アユム、手を貸すよ」

 

「それは何がなんでも却下で。コイツの狙いはリムルさん、貴方だ。それに、俺の親友(ダチ)を騙してくれたお礼もしたいし。だから、コイツの相手は俺がやります」

 

バーニィの狙いが叔父さんである以上、この人に戦わせちゃいけない。

まあ確かに叔父さんの実力は凄まじい、というかエゲツないレベルだが、それでも危険すぎる。

 

「だが……!」

 

まだ言うか、この人は!

 

「2回も自分の叔父に死んでもらいたい甥っ子なんている訳ないでしょうが!」

 

ちょっと強めに言った。

これが一番の本音だ。この人にはもう2度と死んでほしくない。

絶対にだ。

この人は、何がなんでも守り切る。

クロエに未来で叔父さんが殺された話を聞いた時から、俺はそう誓ったのだ。

 

「分かった……」

 

叔父さんも納得してくれたみたいで何より。

一方、バーニィとジンライは俺と叔父さんとの会話に驚いていた。

 

「叔父さん? おいアユム、どういう事だ?」

 

「言葉通りさ。この人が生まれ変わる前の三上悟は俺の叔父にあたる。転生しようと、俺にとってその人は俺の大切な叔父さんだ」

 

「そうだったのかよ……!」

 

「なるほど、どおりで魔王リムルにべったりだった訳だ」

 

話を戻そう。

 

「ところで、バーニィ。マサユキが都合良く踊ってくれたとか、ふざけた事言ってくれたな?」

 

「ああ、この上ない最高の道具になってくれたさ」

 

「何だと、テメエ‼︎」

 

ジンライが再び激昂する。

 

「そう言うなよ、ジンライ。それに、君だって薄々気付いているんじゃないか? ソイツの実力は、本当は大した事ない。ハッタリだけで生きているエセ勇者だって」

 

それを聞いて、マサユキは一気に顔色を悪くした。

 

「おい、バーニィ。マサユキの事を悪く言うのは大概にしろよ……!」

 

今にも爆発しそうだが、ここでキレたらコイツの思う壺だ。落ち着け、俺。

しかし、これはマサユキにとっては死活問題だ。

本気でマズイ。

だが、ジンライからは意外な反応が返ってきた。

 

「ハッタリだってのは、薄々どころか、ずっと前から確信してたさ。だがよ、それが何だって言うんだ? ハッタリだろうが何だろうが、マサユキさんは凄いんだよ! この人はな、俺の期待を一度でも裏切った事がねえんだ‼︎」

 

コイツ、見た目の割に中身イケメンじゃねえか。

本気で見直したよ。

マサユキも、信じられないという反応をしている。

しかし、バーニィはそんなジンライの返答が気に入らなかったようだ。

 

「チッ、気付いていたのにくっついていたのかよ。しかも、そんなザコを尊敬するなんて、笑わせるなよ」

 

バーニィはマサユキの事をそう吐き捨てた。

コイツ、ここまで言うか。

だが、この言葉に対して俺以上にキレた人がいた。

 

「ハッタリの何が悪い。俺だってハッタリで生きているんだよ!」

 

叔父さんだった。

そして、その言葉に1番驚いているのはマサユキだ。

 

「り、リムルさん……!」

 

「だってそうだろ? 俺は元々ただのサラリーマンだったんだ。魔王だとか勇者だとか、そんな世界で生きちゃいなかった。それでもな、なってしまった以上やるしかないんだよ。だから、頑張ってやってるんだ。それを、何も知らないヤツに笑われたくはねえ‼︎」

 

その言葉に動かされて、マサユキは頷き、ジンライも戸惑った風だ。

そして、叔父さんはさらに続ける。

 

「自分のやってる事は正しいんだと、自分に言い聞かせなけりゃ王様なんてやってられないんだよ。誰だって生きるのに精一杯だ。だから俺は、皆が楽しく暮らせる国を、世界を目指して頑張っているんだ。そして、マサユキはそんな俺に力を貸してくれている。凄く助かってる。だから、マサユキを馬鹿にするのは許さん‼︎」

 

叔父さんはマサユキの隣まで行き、そう言い切った。

そのおかげで、マサユキはさっきまで狼狽えていたのが嘘のように自信が戻った様子だ。

 

「バーニィ、君は最初から僕を利用するつもりだったんだね?」

 

「そう言ってるだろ」

 

俺との睨み合いを続けながら、バーニィは太々しく答えた。

 

「それは、ユウキさんからの命令だったのか?」

 

「はあ? ああ、そうか。フフフ、教えてやってもいいが、僕にメリットがない」

 

人を馬鹿にしたような言葉を紡ぐバーニィ。

だが、一応会話は続けるつもりのようだ。

それにしても、違和感を感じる。

コイツに、ここで会話を継続する理由はない。

自分が優位だと思っている?

いや、いくら聖人に至っているとしても、魔王である叔父さんに、その配下の中でトップクラスの実力者であるベニマル、そして同じく聖人の俺がいる。

どう考えても、不利と考えるはずだ。

となると、時間稼ぎとか?

そういえば、もう1人のメンバーのジウは今どうして   

って……おいちょっと待てよ?

まさかコイツは、俺達の気を引くための囮か⁉︎

そうなると、まさか()()1()()   

咄嗟に叔父さんの方を振り向くと、既に刺客が現れていた。

 

「死ね!」

 

殺意のこもった声と共に、黒い閃光が叔父さんへと迫った。

間に合わない   そう考えたが、俺が気付くよりも早く叔父さんは回避行動を取っており、紙一重のところで攻撃を避けていた。

フッと胸を撫で下ろしたい気持ちだが、そんな悠長な事はやってられない。

マジでヤバい。

俺でさえ気付けなかったし、叔父さんの余裕のなさからも、ついさっきまで気付くことが出来なかった事が伺えた。

究極能力(アルティメットスキル)保有者が2人いるにも関わらず、暗殺者を察知出来なかった訳だ。

究極能力(アルティメットスキル)に対抗できるのは究極能力(アルティメットスキル)のみ。

すなわち、相手は究極能力(アルティメットスキル)を持っているという事だ。

そして、暗殺者の正体はやはりジウだった。

しかし、纏っている雰囲気は以前とは比べ物にならないほど冷酷で鋭かった。

 

「驚いた。まさか、私に気付かせずに尾行していただなんてね」

 

ジウは叔父さんの暗殺に失敗したというのに、動揺する事はなかった。そして、手に持ったペンダントから伸びる刃を同時に現れたクロエに向けていた。

どうやらクロエは、早い段階でジウが暗殺者だという事を看破していたようだ。

 

「あれだけ堂々と戦っていたからね。気配に気付くのは当然よ」

 

「優秀なのね、おチビちゃん」

 

「貴女なんかに言われたくないし、私はおチビじゃない!」

 

クロエはそう言うと、大人の姿へと変身する。

そして月光の細剣(ムーンライト)を引き抜き、ピタリとジウに向けて止まる。

“仮面の勇者”クロノアが、そこにいた。

 

「完璧にお膳立てした絶好のチャンスで、まさかこんな失敗を犯すとはな。大失態にもほどがあるぞ、ジウ!」

 

バーニィが不愉快そうに告げる。

 

「悪かった。邪魔が入らないようにしたつもりだったんだけど、こんな伏兵がいたなんてね。さすがに計算外だった」

 

欠片も悪びれずにジウが答える。

なるほど。この2人は叔父さんを殺すために来たみたいだ。

互角の立場である事から考えて、バーニィも究極能力(アルティメットスキル)を保有していると考えられるな。

 

「こうなっては仕方ない。正体をバラした作戦が失敗した以上、実力を隠しておく意味もないな」

 

「その判断に同意する。速やかに敵を殲滅しましょ」

 

そう言うと、2人はペンダントを握った

ペンダントからは眩い光が放たれ、直後2人は独特の鎧に身を包んでいた。

同じような装備に見覚えがあった。

1週間前、ドワルゴン方面の戦いでテスタロッサが戦った3人組が使っていたものとよく似ていた。

確か、アイツらはガドラさんの言っていた帝国皇帝近衛騎士団(インペリアルガーディアン)の一員だった。

という事はつまり   

 

「そうか。お前達は帝国皇帝近衛騎士団(インペリアルガーディアン)なんだな」

 

同じ答えに叔父さんも行き着いたようだ。

そして、それを聞いたバーニィがやれやれとばかりに答えた。

 

「やはり既に、本国の連中との戦争は始まっていたんだな。だが、僕達を他の近衛騎士(ロイヤルナイト)と同じだとは思わない事だ」

 

確かに、テスタロッサに殺された奴らより遥かに高い実力を持っているのは確かだ。

 

「確か、帝国皇帝近衛騎士団(インペリアルガーディアン)には序列があるらしいな? お前らはいくつなんだ?」

 

そう聞いたら、答えが返ってきた。

 

「へえ、よく知っているな。まあ隠す意味もないし、教えてやるよ。僕が第7位で、ジウが第9位。僕らは帝国皇帝近衛騎士団(インペリアルガーディアン)最強の9人、一桁数字(ダブルオーナンバー)さ」

 

「お喋りはそこまで、さっさと殺す!」

 

まさかコイツらが帝国皇帝近衛騎士団(インペリアルガーディアン)上位1割とはな。

これは骨が折れそうだ。

しかも、纏っている武装は間違いなく伝説級(レジェンド)以上の代物。

厄介極まりないな。

 

「ジウ……まさか、君も僕の事を?」

 

マサユキの問いに、ジウの冷たい答えが返ってきた。

 

「当然。それが任務だから、貴方を守っていただけ」

 

あまりに端的である。

そこには、それ以上の意味など含まれておらず、それが理解出来るだけにマサユキがどれほど傷ついた事か。

慰めの言葉でも送ってやりたいが、そんな暇は無さそうだ。

 

こうして、迷宮内の最後の戦いが始まった。

 

 

 




さて、今回が今年最後の投稿となります。
それでは皆さん、良いお年を。


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