ATLUS版マギアレコードRTA 難易度MANIACS ペルソナ使いルート 全コミュMAXチャート (めめん)
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Part1 東京が死んでないけど、走者が生まれた
マギレコとペルソナおよびメガテン原作のSSを書くのは初めてなので初投稿です。
ペルソナ使いが魔法少女や魔女やウワサに終始ボコられながらコミュMAXを目指すRTA、はーじまーるよー。
えー、今回走るのはですね……こちら、ATLUS版マギアレコードこと『マギアレコード Re:Incarnation』です。
同名のソーシャルゲームを原作とした学園伝奇ジュブナイルRPGで、あのATLUSが開発・発売したことで色々と話題になった作品ですね。
神浜市を駆け巡り、原作の世界を様々な形で味わうことができる自由度の高さからただのキャラゲーとは思えない完成度を誇り、現在は原作のファンのみならず、ゲーマーの方からも高い評価を得ております。
このあたりはさすがATLUSといったところですね。
このゲームの最大の特徴は、やはり2種類用意されているその圧倒的ボリュームのシナリオにあります。
ひとつは『Puella Magi編』。
こちらは原作のソシャゲとほぼ同じストーリーと世界観で物語が展開されるシナリオです。
マギレコだけでなく、まどマギをはじめとしたマギカシリーズ各作品のエピソードや要素も盛り込まれており、シリーズのファンであればあるほどニヤリとするネタが多々あります。
もちろん、原作未見の方でも十分楽しめる内容になっており、このゲームがきっかけで各作品の原作に興味を持ったというプレイヤーは多いです。
先駆者兄貴たちがRTAで走っているのは、ほぼ必ずと言っていいほどこちらのシナリオとなります。
そしてもうひとつが、ある意味このゲームの最大の目玉である『Reincarnation編』です!
こちらは先述した『Puella Magi編』にATLUSの看板タイトルである『女神転生シリーズ』とその派生作品の要素をふんだんにぶち込んだクロスオーバーシナリオとなります。
この時点でカオスな内容のシナリオであることが容易に想像できると思いますが、それに反して自由度の高さは『Puella Magi編』以上です。
具体的な例を挙げると、こちらのシナリオでは主人公が魔法少女だけでなく、悪魔召喚師やペルソナ使い、さらには人修羅などになることができます。
マギレコでありながらプレイヤーは悪魔召喚師やペルソナ使いとして原作の物語に介入したり、逆に物語そっちのけで悪魔と戦い続ける神浜ライフを送ることも可能なわけですね。
今回走者はこちらのシナリオを走っていくことになります。
それでは、早速始めていきましょう。
タイトル画面で「NEW GAME」を選択と同時にタイマースタートです。
まずシナリオ選択画面が出るので、先も述べたとおり『Reincarnation編』を選択します。
シナリオを選択後、主人公となるプレイヤーキャラのメイキングが始まりますので、ぱっぱと進めていきましょう。
先駆者兄貴たちの動画をご覧になったことがある方はご存知だと思いますが、このゲームはこの時点で自由にプレイヤーの設定を作り出すことが可能です。
しかし、これは(一応)RTA。ひとつひとつの設定をいちいち作っていたらタイムロスなので、必要最低限の設定だけこちらで作成し、残りはランダムもしくは保留とします。
最初に決定する主人公の性別は迷わず「女性」を選択。これにはもちろん理由があります。
今回のレギュレーションでRTAをする場合、プレイヤーキャラが男性だと必ずと言っていいほど女性キャラとのコミュニティの中盤以降に恋愛絡みのイベントが発生するのですが、コミュランクをMAXにするためにこれをこなしていくとタァイムが死にますので、それを省略するためです。
さらに言うと、コミュ対象が魔法少女だった場合、主人公の二股などが原因で致命的なガバが発生してコミュ対象の魔女化や、最悪コミュ対象同士の殺し合いなどに発展する可能性がありますので、それを回避する意味もあります。
男性主人公でプレイ時、かもれトライアングルが
ガンギマリかえでちゃんやべぇよ……やべぇよ……
次にゲームの難易度を設定します。
ここで決定した難易度はクリアして2周目を開始するまで変更できないので、新たに走者を目指す兄貴たちはご注意を。
『Reincarnation編』は選択できる難易度が5段階あるのですが、今回はこのシナリオのみで選択できる超上級者向けの最高難易度である「MANIACS」でいきます。
ここは数多くの先駆者兄貴たちのように「HARD」で挑むべきなのでしょうが、せっかく走るのなら最速で駆け抜けたいので、あえていまだ完走者が確認されていない「MANIACS」で挑みます!(無謀)
したがって、無事完走すればこのチャレンジは必然的に世界最速です。当たり前だよなぁ?
続いてゲーム開始時点における作中の時間を設定いたしますが、ここは先駆者兄貴たちに倣って原作1年前からスタートで。
この後は主人公の年齢、学校、そして出身地の設定となりますが、この3つは時間短縮のためランダムにします。
今回のチャートでは特に設定しなくてもプレイに影響はありませんので(ほんとぉ?)。
ここまで設定できれば後はフヨウラ!
名前など残りの設定は全て「後で決める」か「ランダム」を選択してオープニングです。
主人公のキャラ生成時間も兼ねた飛ばせないオープニングムービーが始まったので、ここで今回のチャートについて軽くご説明を。
タイトルのとおり、主人公はペルソナ使いとして原作の物語にちまちまと介入しつつ、第1部のエンディングまでに全コミュニティを解放し、同時にその全てのランクをMAXにすることを目指します。
そのため、キュゥべえと契約して魔法少女にはなりません。悪魔召喚プログラムを用いたり、人修羅化することなども禁止です。
また、エンディングは必ずTRUE END以上で迎えることもクリア条件といたします。BAD ENDでも完走扱いにしたらエンディングを迎えること自体は簡単にできちゃいますからね。
――なお、予め言っておきますが、ペルソナ使いとはいえ魔法少女ではないため、主人公の生身の戦闘能力はクソザコを通り越して雑魚・オブ・雑魚です。
魔女や使い魔はおろか、モブの魔法少女や黒羽根の攻撃を1発食らっただけでも致命傷になりかねません。
おまけに難易度が「MANIACS」なので、戦闘では気がついたら次の瞬間にはイゴってるなんてこともザラです(11敗)。
ただでさえ神浜市は難易度「HARD」で修羅の国と化すのに……あーもうめちゃくちゃだよ。
クソレズシティKMHMでは魔法少女ではない者が生き残るのは難しい。はっきりわかんだね。救いはないんですか!?
イベントの発生や成否判定自体は「HARD」と変わらないことが唯一の救いなんだよなぁ……
ちなみに、難易度が「HARD」以上だとペルソナ使いにとって重要なコミュニティの対象となるキャラクターも完全にランダムになります。
そのため、主人公の初期設定によっては重要なアルカナのコミュの対象キャラが混沌だったりおガキ様だったりアリナだったりするので、そうなりそうな場合は即リセットです(4敗)。
一応、原作1年前スタートだとミスドや時女一族などがコミュ対象になることはほぼ100%ないことが有志たちの検証の結果判明しているので、そこは安心ですが……(100%とは言っていない)
――っと、ムービーが終わりましたね。
それでは、いよいよ本格的にゲームスタートです!
で、できるだけあまり死なないように頑張ります……(早くも白目)
イクゾー!
デッデッデデデデ!(カーン)
今回のスタート地点は――電車の中ですね。
混んでいるわけでも空いているわけでもない車内の座席に腰かけて両目を閉じている黒髪の少女が画面に映りました。どうやらこの子が主人公のようです。
車窓に映っている外の景色的に時間は昼間。
夕方や夜だったらゲーム開始早々いきなり魔女や使い魔に襲われる可能性もあったので、まずは第一関門突破といったところでしょうか?(1敗)
ちなみに、難易度「MANIACS」で夕方や夜の街中でスタートだった場合、必ずと言っていいほど魔女か魔法少女との戦闘がありますのでリセット推奨です(4敗)。
その戦闘自体がただの負けイベントである可能性も高いのですが、たま~に閣下が介入してきて主人公が人修羅やベル神になってしまうパターンがあるため、これらのチャートを走る予定の人以外には正直オヌヌメしません(2敗)。
難易度「MANIACS」最序盤における最大のチャートクラッシャーはYKKじゃなくて閣下って、それ一番言われているから。
いやー、修羅の国と化している神浜において、メインストーリー第1部の時点でコトワリを巡る戦いやベルの王座争いまで起きてしまったらもうRTAどころじゃねーっす(一度試走して挫折した走者の屑)。
――おっと。いきなり画面が暗転してなにやら選択肢が発生いたしました。
どうやら眠りかけている主人公の脳裏に浮かんでいる“なにか”の正体を選ぶもののようです。
いくつかの選択肢がありますが、ここは「ひらひらと宙を舞う蝶」を選びます。
これはあれですね。ゲームスタート時点ではまだ主人公がキュゥべえと未契約――魔法少女ではない場合に発生する、最序盤の主要イベントの内容およびルートを決定する選択肢です。
ここで選んだもの次第で主人公が序盤に魔法少女となるか、悪魔召喚師やペルソナ使いとなるか、はたまたそれ以外のものになるかが決まります。
当然保留することも可能ですが、ここは急いでペルソナを目覚めさせるためにも先に述べた蝶を選ぶのが今回は正解です。
なお、言わずもがなゲーム開始時点ですでに主人公が魔法少女だった場合はリセットとなります(2敗)。
先駆者兄貴たちのRTAを見ればよくわかりますが、先ほどのメイキングの時点で主人公の一部の設定を保留にしていたのは、あそこで決めてしまうと高確率で最初から魔法少女になってしまうためです。
だから「後で決める」を選択する必要があったんですね(例の構文)。
――はい。暗転していた画面にチョウチョが飛んでいくショートムービーが流れると同時に、いきなり主人公がいる場所が昼間の電車内から薄暗い青い部屋に変わりました。
クォクォア……もはや説明する必要はございませんね。ペルソナシリーズの定番『ベルベットルーム』です。
ペルソナシリーズの原作にあやかって主人公の設定次第でその外見・内装は大きく変わりますが、今回はどうやら寝台特急の車内のようです。
電車の中からまた別の電車の中って――主人公は鉄ヲタかな?(小並感)
「ようこそ……我がベルベットルームへ」
そしてこちらもペルソナファンにはお馴染み。ベルベットルームの主『イゴール』です。
ゲーム中では名前が明らかになるまで名前欄が「奇怪な顔の男」と表記されておりますが、明らかに奇怪なのは顔ではなく鼻だと思います。
原作でもエリザベスやマーガレットやマリーから散々ネタにされているしな!
ちなみに、ファンの方は声を聞かれてすでにお気づきかもしれませんが、このゲームのイゴールの中の人は『3』『4』の人です。ライブラリ出演ですね。
『5』の中の人変更に伴うストーリー上の演出は何度プレイしても本当に上手いと思います。終盤のあの展開はね……ファンなら涙がで、出ますよ。
「どれ、まずはお名前をうかがっておくといたしましょうか……」
さて、イゴールから自己紹介とベルベットルームの簡単な説明をされたところで、最初のメイキング時に飛ばしていた主人公の名前入力画面になります。
最初のメイキングで名前を決めなかったのは、実はこのイベントを起こすためだったりします。
ここでプレイヤーが主人公の名前を決める――もとい「主人公が自らの名前を名乗る」ことによって、ペルソナを覚醒させるきっかけが生まれることになるからです。
だから名前もメイキングの時点では決めずに保留する必要があったんですね(例の構文2回目)。
主人公の名前は伝統と格式に則り『ほも』でもいいのですが、さすがに女の子にその名前はどうなんだということと、せっかくのペルソナ使いチャートということで『
「きりえ のあ」→「Kirie Noa」→「Noa Kirie」→「No K」→「ノーケー」→「ノンケ」というわけで、略してノン気ちゃんです。
クソレズシティを舞台とする物語の主人公がノン気とか、この先本当に大丈夫か……?
名前を決め、イゴールからそう遠くない未来に主人公がベルベットルームに辿り着いた理由が明らかになるであろうことを告げられると、場面は再び現実世界へと戻ります。
クォクォア……新西区の新西中央駅ですね。
神浜市の魔法少女は大雑把に分けると市の西と東、そして中央の3つの勢力に分かれ混沌を極めているのですが、新西区はその名のとおり西の勢力のテリトリーとなっております。
西側には原作の物語の主要登場人物となる魔法少女が多く属している、または属すことになるので、原作に少なからず介入する予定のノン気ちゃん的にはうまあじです。
逆に言うと、コミュ対象の候補者が序盤から大量にいるので、ひとつのコミュニティが解放されるまでに時間がかかる可能性もあるというわけですが――まぁ、大丈夫でしょう(ほんとぉ?)。
さぁ、いよいよ魔法少女と魔女とウワサとその他諸々がどったんばったん大騒ぎな魔境を舞台に、精子をかけた――失礼。生死を賭けた戦いが幕を開けます!
通行人はどいてたほうがいいぜ! 今日から神浜は
イクゾー(CV.杉田智和)。
デッデッデデ――って、あれ?
プレイヤー操作ができません……
どうやらまだイベントが進行中のようで、しばらくはオートで進んでいくようです。
まぁ、いきなり魔法少女や魔女との戦いになったりするよりははるかにマシなので、このまま操作ができるようになるまでノン気ちゃんもとい乃彩ちゃんの様子を見守ることにいたしましょう。
ボストンバッグを提げ、右手になにやら地図と思わしきものを持ちながら新西区の街並みを歩いていっていますね。
――あ。これもしかして乃彩ちゃん神浜市じゃなくて市外の出身か?
それで神浜に今日引っ越してきたばかりと――
あ~……そうなると乃彩ちゃんの交流関係は、スタート時点ではオフ会0人ならぬ知り合い0人ですね。
1人でも知り合いがいればそのキャラは高確率でコミュ対象候補か対象となるキャラのヒントとなる情報を持っていたりするのですが……
まぁ、先も述べましたが、いきなり重要なアルカナのコミュニティの対象がアリナとか地雷率が高い奴という可能性は低くなったので良しとしましょう。
「HARD」以上の難易度でこの程度のことをガバなんて言っていたら、この先マジでやっていけませんので……
――お。乃彩ちゃんがとある建物の前に来たところで足を止めました。
目の前の建物と手にしている地図を見比べ、さらにはスマホまで取り出したりして確認しています。
どうやら目的地である引っ越し先に無事到着したようです。
いやぁ、オート進行のイベントとはいえ、道中何事もなくてよかったよかった……
では早速建物の中に――って、ん……?
…………
……
ここ、『みかづき荘』じゃねーか!
ま、まさかのみかづき荘スタートとは……
これ、ガバることなくチャートどおりに進んだとしても、原作のストーリーに否が応でも巻き込まれるの確定ですよクォレハ……
で、ですがこれは逆に原作の主要キャラと出会いやすくなったと考えれば十分プラスです!
とりあえず、現在のみかづき荘の状況を確認しましょう!
難易度「HARD」以上で原作1年前スタートの場合、みかづき荘の初期状態は以下の3つのパターンのいずれかとなります。
ひとつは原作メインストーリー開始時同様、みかづき荘にいるのは家主であるやちよさん1人だけという状況。
要は「メルの魔女化があった後、やちよさんがチームを解散した後のみかづき荘」ですね。
もうひとつがその逆で、「メルがまだ魔女化しておらず、チームも解散していない」パターンです。
そして最後がかなりのレアケースですが――「メルの魔女化が発生した直後、魔法少女の真実を知ったやちよさんたちが家の中で完全にお葬式ムードになっている状況」となります。
これらを見分けるのは非常に簡単で、最初にみかづき荘を訪ねた際にやちよさん以外の魔法少女の誰か――つまり、みふゆさん、ももこ、鶴乃、メルのいずれかが滞在しているか否かで判断できます。
いるのがやちよさん1人だけだった場合はチーム解散後、やちよさん以外の魔法少女が1人でもいればチーム解散前というわけですね。
また、先に述べた3つのパターンのうち、最後のものは基本的に時間帯が夕方か夜の時かつ魔女化して死亡したメルと実家の手伝いをしている鶴乃の両名が不在でなければならないため、条件的にまず発生しません。
そのため、現在の時刻が昼間である今回のチャレンジでは、1番目か2番目のパターンのどちらかということになります。
ただし、1番目の場合は「メルの魔女化からどれだけの月日が経過しているか」によって、やちよさんとみふゆさん、そしてももこの3人の初期の精神状態がかなり違ってきます。
もしメルの魔女化から数日程度しか経過していない状況だった場合、ファーストコンタクトをミスるなどのアクシデントが起きると、上述した3名は最悪精神がポッキリへし折れて魔女化してしまうおそれがあるので注意が必要です。
特にみふゆさんは3人の中でメンタル面が一番貧弱なので、いきなりずけずけと彼女に近づくのは得策ではありません。
――お。
乃彩ちゃんがみかづき荘の玄関の前に立ちました。
インターホンを押して数秒後、玄関の扉がゆっくりと開きます。
出迎えてくれたのは当然やちよさんです。
オッス! オラノン気! いっちょヤってみっか!?
――はい冗談です。そんな気はまったくもってございません。
出会い頭の人をいきなり誘ってそんなことができるのは、公園のベンチに座っているツナギを着たいい男くらいです。
軽く自己紹介も済ませたところで、早速中にあがらせていただきます。ぬわああああん疲れたもおおおおおおん。
さて、みかづき荘の中に足を踏み入れましたが――誰もいませんね。
しかも昼間なのにかなり静まり返っています。
これは間違いなくメルが魔女化しチームが解散した後のみかづき荘とみて間違いないでしょう。
時間的にチーム解散前ならみふゆさんか鶴乃のいずれかがいる可能性が高いですから――
――ん?
どうしましたやちよさん?
えっ?
事前にこっちが送った荷物が少なかったから、すでに引っ越しの荷ほどきは済ませておいてくれた?
おおっ! それはありがたい!
間違いなく1分くらいはタァイムが短縮できましたよ! サンキューやっち!
お礼も兼ねて握手しようZE!
こちらが差し出した手を特に躊躇いもなく握ってくれましたね。
どうやらファーストコンタクトは成功のようです。よかよか。
――って、あれ?
よく見るとやちよさん、どこか表情が曇っていますね。
これはひょっとして、まだメルの死とチームの解散からそれほど日数が経過していないパターンですかね?
現実をいまだ完全に受け入れられないって感じでしょうか?
……もしそうだとすると、今はこれ以上のスキンシップはしないほうがよさそうですね。
自室に案内してもらいましょう。
――というわけで、乃彩ちゃんの部屋です。
ベッドなど一通りの家具は揃っていますね。さすがにテレビやパソコンなどはありませんが……
まぁ、スマホを所持していることは先ほど判明しておりますので、最序盤における情報収集に苦戦することはないでしょう。
とりあえず部屋の中を少し探ってみましょう。
机の引き出しの中とかになにか入っていないかな?
――と、言ったそばから机の引き出しの中から早速アイテム発見です!
クォレハ……おおっ!?
ど、どうしましょう!?
いきなりレアアイテムを入手してしまいました!
『メルのタロットカード』です!
これはメルの魔女化イベント後から一定期間中にみかづき荘を訪れ、家の中を探索すると稀に入手できるレアアイテムとなります。
その名のとおりメルの遺品なのですが、占い好きだった彼女にちなみ1日1回簡単なタロット占いをその場で行うことが可能です。
しかもその占いの効果がなかなか強力で、占ったその日の間だけ獲得できる経験値や資金、仲間からの信頼度の上昇率がアップするなど様々なバフがかかります。
しかし、どのような効果が付与されているのかはゲーム上では表示されなかったり、引いたカードによってはバフではなくデバフがかかってしまうなどの欠点もあるので、乱用や過信はできません。
なお、有志たちによる調査の結果、引いたカードが『死神』か『塔』だった場合はほぼ100%デバフがかかり、後者は特にその効果が酷いものであることが判明しております。
常に死と隣り合わせと言ってもいい難易度「MANIACS」においては、正直これを入手しても使うのはあまりオススメしないのですが……
まだ物語始まったばかりだし、この状況で戦闘などが発生することはまずないでしょうから今は占ってもいいやろ?(慢心)
というわけで、ちょっと試しにやってみまーす。
…………
……
ど゛う゛し゛て゛な゛ん゛だ゛よ゛お゛お゛ぉ゛お゛!(CV.藤原竜也)
え、えー……説明したそばからいきなり『塔』を引いてしまい、先行きが不安になったところで今回はここまでです。
ご視聴ありがとうございました。
◆
――不思議な夢を見た。
なにもない真っ暗な闇の中を、光り輝く綺麗な蝶がひらひらと舞っている夢だ。
私は目の前を横切ったそれをなんとなく目で追ってみる。
すると、その先の暗闇の中からいくつもの奇妙な光景がテレビか映画ように映り出されては消えていった。
見知らぬ街並み――
見知らぬ人々――
蠢く巨大な“なにか”――
そして、私自身――
『これは夢であり、未来――』
――最後に映った自分の姿が消え去ると同時に、なにやら声が聞こえてきた。
『今は人の心の奥深く、無意識の領域が生み出したおぼろげな情景――』
『しかし、あなたに必ず訪れることになる運命――“必然”と呼ばれるものの確かな姿』
――再び私の前を蝶が横切る。
『そして、この運命と向き合うにはあなたはあまりにも無防備。
例えるなら、大海を渡るわけでもなく、ただ漂うだけの小舟――』
『大海原を揺蕩うのにも、それ相応の術が必要』
――蝶が闇の奥深くへと進んでいくように目の前を舞っていき、そして消えていった。
『幸いなことに、海では必ず波風がたつことをあなたは知っている』
『それこそ、進むにしろ、進まぬにしろ――』
やがて、蝶が消えていった闇の中から、ゆっくりと“なにか”がこちらへ向かってきた。
――それは、青い扉だった。
『ならばきっと、あなたは“術”を見つけられるはず――』
…………
……
声に導かれるかのように、私はゆっくりとその扉に触れて、そして開いた。
――扉の先にあったのは、青い部屋だった。
ここは……電車の中?
しかし、現実で私が乗っていた電車とは明らかに違う。
いわゆる「特急列車」というやつの中だ。
『ようこそ……我がベルベットルームへ』
そして、私の目の前にはテーブルを挟んで1人の奇怪な外見をした老人が椅子に座っていた。
――それにしても、実に奇妙な夢だ。
夢なのに、まるで現実のように全身から様々な感覚がする。
いつの間にか自分も座っていたお高そうな椅子の感触――
青く薄暗くて不気味な部屋ではあるのに、全体から感じるやすらぎとも安心感とも呼べる雰囲気――
自分の息遣い――
…………
……
本当にこれは夢なのだろうか?
夢にしては明らかに生々しいというか、リアルすぎるというか……
ちょっと自分の頬でもつねってみようか?
『ご案じめさるな。ここはいまだ夢の中……
現実の貴方は眠りの中にいらっしゃる』
私の考えていたことを察したのか、目の前の老人がこちらを制止するように語り始めた。
『
この部屋――夢と現実、精神と物質の狭間の場所、“ベルベットルーム”の主をいたしております』
『本来ならば、ここは“契約”を果たされた客人のみをお招きする部屋。
しかし、貴方は夢のさなかとはいえ、ご自身でこちらに辿り着かれた――
フフ……実に興味深い……』
『どれ、まずはお名前をうかがっておくといたしましょうか……?』
……どうせ夢の中だ。
何も言わずに終始黙り続けている必要もないだろう。
そう考えた私は、老人に対して自分の名前を告げた。
――『切江 乃彩』と。
『……ふむ。なるほど』
『恐らくは、先ほど貴方がご覧になっていた夢――
そこにこちらへいらした“訳”が隠されているのやもしれません』
夢――先ほど見えたあのいくつもの光景のことだろうか?
しかし、夢の中で夢の話をされるとは思わなかった。
『詳しくは、追々にいたしましょう』
『近く、貴方は何らか“契約”を果たされ、再びこちらへおいでになることでしょう』
『ではその時まで、ごきげんよう――』
――先ほど電車の中で見た奇妙な夢の内容が脳裏に浮かぶ。
夢の中に出てきた奇怪な老人――『イゴール』が口にしていた「契約」という言葉。
それがどうしても頭の中から離れない。
いったいこの神浜の地になにがあるというのだろう――?
……いや。所詮は夢の話。気にする必要はないか。
一方的に現実に引き戻されてしまったがために、気になってしまっていただけかもしれない。
――ここだ。
目的地である新西区のとある一件の屋敷の前で足を止める。
念のため地図とスマホで確認しておくが、ここが『みかづき荘』で間違いない。
――というより、門の横に『みかづき荘』と書かれた看板がかけられているので、もしこれで間違っていたらそれはそれで別の問題だ。
元下宿屋で現在は違うらしいが、亡き祖母がここの管理人だった人と色々と付き合いがあった縁で、今日から私はここで暮らすことになった。
赤の他人同然な見ず知らずの遠縁の家や施設に引き取られるよりは楽だろう、という生前の祖母の計らいである。
私自身は別にどうでもよかったのだが――
…………
現在の時刻を確認する。予め伝えておいた到着予定時刻より30分ほど早く着いてしまったようだ。
しかし、こちらの荷物は数日前に業者に送ってもらっていたためすでに届いているはずだ。それなら別に問題はないだろう。
門を通り抜けて階段を上り、玄関前に立った私は、備え付けられていたインターホンをゆっくりと押した。
「そちらが送ってきた荷物だけど……その……
思っていたよりもあまりに少なかったから、こっちで荷ほどきしちゃったの。
ごめんなさい、勝手に……」
――家主である『
別に勝手に見られて嫌なものや恥ずかしいものなどなにもなかったので気にしない。むしろこちらが荷ほどきする手間が省けたので助かった。
私がそう返すと、彼女はそれでもどこか申し訳なさそうな顔をしていた。
――私は七海さんの眼前に黙って右手を差し出す。
同年代――事前に聞いた話だと確か私よりも2つ上で高校3年生だったはずだ――とはいえ彼女はこの家の主であり、これから色々とお世話になる相手だ。挨拶は大事である。
こちらなりの親愛の意味を込めて握手を求めた。
「えっ?」
それを見た彼女は、一瞬訳が分からないと言いたげな表情を浮かべたが、すぐに理解してくれたようでゆっくりとこちらに右手を伸ばしてきた。
――七海さんの手が私の手を軽く握る。
申し訳ないが、こちらが思っていたよりもその手は冷たかった。
「――ッ!」
――?
私の手を握った七海さんの顔が一瞬だけ歪んだような気がした。
力が強すぎた?
いや、そんなはずはない――と思う。
七海さんに案内された部屋に入ると、先ほど言われていたとおりすでに荷ほどきは済まされ部屋は片付いていた。
改めて私は彼女に感謝の意思を示す。
まぁ、たったダンボール数箱分の荷物だ。家具などの類は一切送っていなかったから彼女も助かっただろう。
とりあえず備えられていたベッドの上にボストンバッグを放り投げるように置いて、部屋の中を軽く物色してみる。
といっても、私自身が無趣味な人間であるせいか、今部屋にあるのはこちらに予め用意されていたベッドと机と椅子、そしてタンスくらいだ。
――手始めに机の引き出しを開けてみたら、中になぜか数十枚のカードが入っていた。
こんなものに覚えはない。
七海さんが荷ほどきの際に間違えて入れてしまい、そのまま放置されていたのだろうか?
――とりあえず中からそれらを取り出してみると、カードの中に混ざる形でメモ書きらしき紙が1枚あった。
そこに書かれている文字に目を通してみる。
『ボクから一足早くお引っ越し祝いのプレゼントです!
よかったら大事にしてください』
『――メルより』
……どうやらカードはここに書かれている「メル」という人物から私に対するプレゼントのようだ。
何者かは知らないが、こうしてここにこれがあるということは七海さんの知り合い――それも結構親しい人なのだろう。
カードを調べてみると、それは占いなどで使われるタロットカードだった。
占いは詳しくないが、おそらく全種類揃っている。
…………
なんとなくそれを全て揃えて裏返しにした後、ゆっくりと切った。
そして、切り終わると同時に一番上になったカードを取り、表向きにする。
――『塔』のカードだった。
先も述べたが、占いは詳しくないのでカードが示す意味はわからないが、崩れ去る塔が描かれているその絵柄的に、あまり良い結果ではなさそうだ。
まぁ、別にどうでもいいのだけれど――
◆
――『切江 乃彩』。彼女の存在を知ったのは、今から数カ月前のことだ。
このみかづき荘が下宿屋だった頃、その管理人だった祖母の親しい友人であったとあるおばあさんから、ある日突然連絡がきた。
『うちの孫をそちらに住まわせてほしい』
連絡の内容は要約してしまうとそういうことだった。
その人は老いと患っていた病が原因で、ついに医者から余命数カ月の宣告を受けたらしい。
そして、唯一親族で残されている孫と今は2人で暮らしているのだという。
自分が死んだ後にその孫に色々と窮屈な思いはさせたくはないとして、私――厳密には祖母だが、この時点ですでに祖母は亡くなっている――に頼みこんできたのである。
私も幼少時からその人には度々お世話になっていたし、なにより祖母ならばそうするだろうと思い、その頼みを了承することにした。
そして、その人の訃報が私のもとに届いたのは先月のことで、荷物と一緒にその孫――乃彩から手紙と写真が届いたのが一週間ほど前のことである。
『やちよさんゴメン!
空き部屋に置かれていたダンボール箱どかそうと思ったら落として中身ぶちまけちゃった!』
『ちょっと!?
ももこなにやっているの!?』
『す、すいません七海先輩……
実はボクがこっそり新しく思いついた占いを試してみようと部屋に入ったら見知らぬダンボールがどんと置かれていたので……』
『メル……占いは禁止だって私言ったわよね……?』
『まあまあやちよ、今回は未遂で終わったみたいだからよかったじゃん』
『そうですよやっちゃん。とりあえず今はももこさんが散らかしてしまった部屋を片付けたほうがいいんじゃないですか?
――あら?
やっちゃん、その手に持っている写真は……?』
『ああ、実はね――』
――数日前の出来事が思い返される。
結局あの後、鶴乃が「もういっそのこと、わたしたちで荷ほどきしちゃっていいんじゃない?」と言い出してみふゆもそれに同調、そのまま5人で荷ほどきを済ませることになった。
こんなことを言うのもなんだが、送られてきたダンボール箱が数箱だけだったこと、入っていたのが服など生活必需品ばかりだったのは幸いだった。
『七海先輩、その写真の乃彩さんってどんな人なんですか?』
『さぁ……?
写真と一緒に手紙も送られてきたけど、そこまでは書かれていなかったわ。
ただ、年齢は鶴乃と同い年だったはずよ』
『えっ?
じゃあアタシやメルはいきなり気安く話しかけないほうがいいのかな……?』
『同い年ならわたしは問題ないね!』
『やっちゃん、これは食器棚の中のマグカップをひとつ増やさないといけませんね?』
『……そうね』
…………
壁にかけられた時計に目を向ける。
事前に受けた予定だとあと30分ほどで彼女――乃彩はここにやってくるはずだ。
何事もなければ――
『大丈夫ですよ!
なんたって今日はボクの千年に一度のラッキーデイなんですから!
だから手早くその魔女を倒して乃彩さんの歓迎パーティーの準備も始めましょう!』
「っ……!」
どうして……?
本当に――どうしてこんなことになってしまったの?
玄関のチャイムが鳴った。
「――!?」
完全に不意討ちだった。
はっと顔を上げると同時に、体も一瞬だけ浮き上がってしまう。
まさか、もう来たの――!?
いや……時間を考えればいつ切江さんが到着してもおかしくはなかった。
その点がまったく頭に浮かばなかったあたり、どうやら今の私は自分が思っている以上に参っているみたいね……
――どうか切江さんが魔法少女ではありませんように。
そのようなことを思いながら重い足取りで玄関へ赴き、ゆっくりと扉を開ける。
その先にいたのは――やはり切江さんだった。
服装こそ違うが、先日送られてきた写真同様、前後ともにそこそこ伸ばされた黒髪と前髪の間からのぞいている瞳から文学少女のような――悪く言えば地味で暗そうな雰囲気をその身にまとっていた。
「いらっしゃ――」
「んちゃ」
「えっ……?」
思わずすっとんきょうな声をあげてしまったけど、それも仕方ないことよね?
見た目からくるイメージとは明らかに真逆な、ものすごく気さくそう――というより、どこか馴れ馴れしそうな声を相手がいきなり口にしたのだから。それもこちらが言葉を言い終える前に。
「…………」
「…………」
――いきなり間の抜けた空気が辺り一面に充満したような気がする。
「……すいません。冗談です」
「そ、そう……」
「切江……乃彩です。はじめまして」
どうやら今のは切江さんなりにウケを狙ったものだったらしい。
すぐにこちらのイメージしていたとおりの喋り方で彼女は自らの名前を名乗り、軽く頭を下げてきた。
「え、ええ……七海やちよよ。
立ち話もなんだから、とりあえず中に入ってちょうだい」
私の言葉に、切江さんは今度は何も言わず、黙ってまた軽く頭を下げる。
やはり彼女はこちらのイメージどおりの人のようだ。
――切江さんを家の中にあげる傍ら、私は彼女の左手に目を向ける。
白い肌に加えて綺麗に指が伸びているその手には、傷も汚れも、そして
よかった……切江さんは魔法少女ではなかった。
もし切江さんも魔法少女だったら、私はいきなり何を言い出すか自分でもわからなかったでしょうね――
しかし、そうなると今度は今度で魔法少女のことを彼女にはどうするべきかを考えなければいけない。
黙っておく――隠していても問題はないでしょうけど、もしかしたら知らぬところで彼女が魔女や使い魔、さらには他の魔法少女やキュゥべえと遭遇してしまったり、関係を持ってしまう可能性もある。
――というより、今日から私と同じ屋根の下で暮らすことになるのだから、少なからず魔法少女絡みの事柄にこの先彼女が巻き込まれることになるのは必然だわ。これでも私は西側の魔法少女たちの代表的な立場なのだから。
これは早めに何らかの対策は施しておいたほうがよさそうね。十七夜や都さんにも相談しておいたほうがいいかも。
「――広いですね」
「えっ?
あ……そ、そうね。今は私しか住んでいなかったけど、数年前までは下宿屋だったから――」
――ああいけない。
またしても目の前のことをそっちのけで思考の海に沈んでしまっていた。
やはり
しっかりしなければと思ってはいるのだけれど、体のほうがそれについてきてくれない――
「そちらが送ってきた荷物だけど……その……
思っていたよりもあまりに少なかったから、こっちで荷ほどきしちゃったの。
ごめんなさい、勝手に……」
「構いませんよ。特になにも入れてませんでしたから」
むしろ手間が省けました、と切江さんは真顔で私に言葉を返してきた。
そしてそのまま何も言わず、黙って私のほうをじっと見つめてくる。
…………
……
……まいったわね。なんと切り出せばいいかわからない。
切江さんはこちらが思っていた以上に寡黙な人らしい。完全に受身――自分から他人に会話を持ちかけることはまずないみたい。
――一瞬出会った当初のかなえの姿が脳裏に浮かんだが、あの時の彼女ともまた異なるタイプの人間だと思う。
「えっ?」
「…………」
――突然、切江さんが私の目の前に黙って右手を差し出してきた。
思わず数度、その手と彼女の目を交互に見比べてしまう。
(手を握ればいいのかしら――?)
状況から握手を求めていると私は判断した。
少なくとも切江さんの目からは何らかの意図的なものは読めなかったから。
――私も黙って右手を伸ばし、やがて切江さんが差し出してきたその手をゆっくりと握った。
ほんのわずかだが、彼女の顔に笑みが浮かんだ――気がした。
同時に、私の全身に悪寒のような感覚が奔った。
「――ッ!」
思わず握っていたその手を離して後ずさりそうになる。
しかし、なんとかそれは耐えた。
「……?」
――切江さんが明らかに不思議そうな顔をしてこちらを見ている。
顔に出てしまっていたのだろうか?
「……どうかしました?」
「い、いえ……なにも……」
どこか申し訳なさそうな様子の彼女を尻目に、私はゆっくりと握っていた手を離した。
そして、こちらの思っていることを悟られぬよう、そそくさと彼女を部屋に案内することにするのだった。
…………
……
切江さんを彼女の部屋に送った後、再び1人になった私は黙って右手を見やる。
先ほど彼女の手を握った時に全身で感じた悪寒――あの奇妙な感覚は偶然?
――だけど、似ていた。
そう。先ほどの悪寒は、私にとって何年も前から慣れ親しんだもの――それと非常に類似していた。
――実際はあの感覚に「親しみ」など一切感じないけれど。
魔女や使い魔の魔力をキャッチした時や、奴らを前にした時に感じる、あの言葉には表現しづらい禍々しい不快感――あれにそっくりだ。
…………
……本当にただの偶然。そう思いたいけれど、私は自分の中で不安が渦巻き始めたのをはっきりと感じた。
「かなえ……メル……」
不安からか、思わずもうこの世にはいない2人の名前を口にしてしまったのも仕方のないことだった。
『真III HD REMASTER』欲しいけど、ニンテンドーSWITCH持ってないので失踪します!
■TIPS
●マギアレコード Re:Incarnation
通称「ATLUS版マギアレコード」。
202X年にATLUSから発売された学園伝奇ジュブナイルRPG。
マギレコの世界観とメガテンやペルソナのシステムが悪魔合体して誕生した「令和史上最大の合体事故ゲー」。
RPGだが戦闘システムは『葛葉ライドウシリーズ』や『P5S』のようなアクション系。
●Reincarnation編
ATLUS版マギレコ最大の華にして「合体事故ゲー」と呼ばれる最大の要因。
マギレコのストーリーにメガテン要素をぶち込みまくった究極のカオスシナリオ。
プレイヤーの選択や行動次第で、神浜市がメギドアークで焼き払われたり、魔界に堕ちたり、人修羅が暴れ回ったり、ベル神の王位争いが起きたりする。
エンディングの種類も豊富で、当然のごとく「皆殺しEND」も完備しているメガテニスト大歓喜仕様。
ペルソナ使いルートは比較的マトモ――と思いきや、色々と間違えると這い寄る混沌によって神浜市以外が消し飛ばされることもあるので、やはり安心できない。
しょーがねーだろ、ATLUSなんだから。
●難易度「MANIACS」
『Reincarnation編』でのみ選択できる超上級者向け難易度。
難易度「HARD」で『Reincarnation編』のメインストーリー第1章をTRUE END以上でクリアしたら解禁される。
「HARD」の要素に加えて以下のような鬼畜仕様。
1:プレイヤーキャラが受けるダメージが他の難易度の1.5倍
2:前周からのクリア要素が一切引き継げない
3:全書から召喚できる仲魔、ペルソナのコストが「NORMAL」の2倍(「HARD」は1.5倍)
戦闘中はちょっとした流れ弾1発でプレイヤーキャラが瀕死になったり即死するのはザラ。
人修羅やベルの魔王がみたまの料理を食わされてパトる光景も日常茶飯事。
そんな死にゲー難易度から“難易度「マゾヒズム」”などとネタにされている。
――しかし、この難易度をクリアし、かつこの難易度に楽しみを見出せた者は、間違いなく真のメガテニスト。
●
『Reincarnation編』で主人公を男性にした場合に発生しやすい状況の通称。
「かもれトライアングル」ことチームももこのメンバー3人のうち2人以上と主人公が恋愛関係になっており、かつ二股(三股)がバレている状態のことを指す。
それまでどおり3人で一緒に行動こそしているが、明らかにギスギスした空気が常に漂っており非常にヤバい。
ペルソナ使いルートだとコミュニティの関係上、他のルートよりも発生しやすいため、同ルートのプレイヤーたちには一種のトラウマとなっている。
主人公が3人に対して堂々と謝れば一応状況は改善するが、直後に主人公が3人によって半殺しにされる戦闘イベント(負けイベント)が発生し、3人の信頼度が最低値まで下がる。
加えて、ペルソナ使いルートかつ3人のうちのいずれか、もしくは全員とコミュニティが成立している場合、そのコミュニティは「BROKEN」状態になってしまう。
そのため、発生してしまった場合は、以降3人と接触せずに放置するのが最善の選択とされているのだが――
●ガンギマリかえでちゃん
主人公とかえでが恋愛関係かつ上述した「魔の三角地帯」が発生している状態で3人を放置していると発生することがある究極のトラウマイベントの通称。
思い詰めた果てに主人公と恋愛関係にある他のメンバーをかえでが殺害してしまい、その直後に主人公も殺して自分も死のうと無理心中を図り戦闘になる。
この戦闘時のかえでは全ステータスが最大になっていることに加えて、「敵全体に特大ダメージ+必中」の効果がある万能属性魔法スキル『地母の晩餐』を使用してくる。
戦闘に敗れた場合はBAD ENDとなり、勝利した場合はかえでは死亡するが主人公が『地母の晩餐』を習得できる(ペルソナ使いルートの場合スキルカードが手に入る)。
しかし、後者の場合は以降主人公は他の魔法少女たちからかえでたちを殺した仇として付け狙われることになるため、必然的にカオスルートか皆殺しルートに突入してしまう。
かえでとの戦闘の難易度の高さも相まって、周回プレイかつカオスルートENDか皆殺しEND目的でない場合は発生させるメリットがまったくないイベント。
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Part2 住めば都か、みかづき荘
秋華賞で1万円くらいトリガミしたので初投稿です。
Once, I dreamt I was a butterfly.
I forget myself and knew only my happiness as a butterfly.
Soon, I awoke, and I was myself again.
Did I dream that I was a butterfly?
Or do I now dream that I am a man?
Yet there is a distinction between myself and the butterfly.
This is the transformation of the physical.
ある時、私は蝶になった夢を見た。
私は蝶になりきっていたらしく、それが自分の夢だと自覚できなかったが、ふと目が覚めてみれば、まぎれもなく私は私であって蝶ではない。
蝶になった夢を私が見ていたのか。
私になった夢を蝶が見ているのか。
きっと私と蝶との間には区別があっても絶対的な違いと呼べるものではなく、そこに因果の関係は成立しないのだろう。
◆
早くペルソナを覚醒させたいRTA、はーじまーるよー。
前回いきなり占いで最悪の結果を出してしまったところからの再開ですが、あの後は特にやるべきことがなかったので、一度ベッドで寝てコンディションを回復しました。
――で、その結果が冒頭の1シーンです。
先ほどの一文は、ペルソナシリーズ全体の共通テーマでもある古代中国の自由思想家・荘子の有名な漢詩『胡蝶の夢』ですね。
要約すると「今の自分が本当の俺なのかはわからんけど、どんな姿形であっても結局は俺なんだから別に気にすることじゃねーな!」という超ポジティブ思考な詩です。
これが出たということは、予定どおりこのチャレンジはペルソナルートに突入したということになります。
ペルソナルートでは基本的に敵は原作マギレコ同様魔女と使い魔のみとなるので、悪魔召喚師ルートや人修羅ルートなどのように「一歩でも家の外に出たら常に死の危険がつきまとう」なんてことにはなりません。
――というか、魔女や使い魔のみならず悪魔たちがそこら中に溢れかえっている神浜市とか、マギウスの翼が結成されるよりも前に一般人が死に絶えてしまうのでは? ボブは訝しんだ。
まぁ、実際それらのルートに突入しても一般人は普通に生活しているので、そこは唯一神や天使たちといったロウ陣営の方々が色々と裏で手を回しているのでしょう。うん。そういうことにしておこう。
というわけで、プレイ再開じゃあ!
自室を出て1階のリビングに戻ると、早速やちよさんに声をかけられました。
おう、どうしたやっちゃん!?
なに? これから出かけてくるとな? もう夕方だぞ?
……まぁ、走者はわかっていますけどね。
魔女や使い魔を探しに1人パトロールに行くんですよね? それかスーパーの特売でしょ?
乃彩ちゃんはまだなんの能力も持たない無力な一般ピーポーなので、大人しくお留守番してまーす。いってらー。
「それで夕飯なんだけど、切江さんなにか嫌いなものとか――」
「やちよー!」
おっ?
玄関の扉を勢いよくぶち開けて誰か入ってきましたね。
この時期にみかづき荘に来る人といえば、だいたい予想はつきますが――
「――どうやら夕飯の支度はしなくてもよさそうね」
「どうもー。中華飯店“万々歳”で~す♪」
つ~るのちゃぁ~ん!(某ふ~じこちゃ~ん的なニュアンスで)
はい。予想どおり、やって来たのは『最強さん』こと鶴乃ちゃんです。
みかづき荘関係者と敵対しないチャートの場合、基本的にどのルートでもお世話になる子ですね。
先駆者兄貴たちの動画でも散々紹介されていますが、安定した基本能力のみならず固有魔法の『幸運』が非常に強力で重宝します。
ちなみに、『Reincarnation編』では魔法少女の固有魔法は悪魔やペルソナのそれと同様、『特性』としてゲーム中に反映されますので、これからプレイする方は覚えておきましょう。
また、鶴乃ちゃんはペルソナルートにおいては難易度「HARD」以上でもコミュニティの対象になりやすいキャラクターの1人です。
そのため、「HARD」以上でペルソナルートに挑戦する場合は、可能ならば最序盤から積極的に交流することをオヌヌメします。
今回はみかづき荘スタートだったため、向こうからこうして早々に来てくれたのはありがたいですね。(幸先が)いいゾ~コレ。
比較的出会ったり遭遇したりしやすいキャラクターでも意外とエンカウントできないのが難易度「HARD」および「MANIACS」ですから(2敗)。
さて、すでに先駆者兄貴たちの動画でストーリーやキャラクター設定をご存知の方もいると思いますので詳細は省きますが、この鶴乃ちゃんは本家ペルソナシリーズに登場していても違和感なさそうなくらい、表の顔と本心のギャップがある子です。
ゆえに、原作マギレコの登場人物のように意識的にしろ無意識的にしろ鶴乃ちゃんに頼ったり甘えてばかりいると、原作中盤のようにマギウスの翼に洗脳されて敵になりウワサと融合してしまった場合、盛大なしっぺ返しを食らうことになります(1敗)。
ですので、今回のチャレンジでは鶴乃ちゃんとは対等な仲間――こちらだけでなく、逆に鶴乃ちゃんのほうも乃彩ちゃんを頼ったり、乃彩ちゃんに甘えるような関係を序盤から積極的に築き上げようと思います。
こうすると原作よりも鶴乃ちゃんの精神的な負担が軽くなるため、上手くいけば原作のようにマギウスの翼に洗脳されたりすることがなくなり、相当なタイム短縮が狙えますので。
なお、そんな鶴乃ちゃんと良好かつ対等な関係を築くための術ですが――ゲーム中の選択肢や行動で、とにかく鶴乃ちゃんをイジり倒せば問題ありません!
一言「イジる」といっても、『マギア☆レポート』での鶴乃ちゃんのように、彼女の実家が経営している中華料理屋『万々歳』関連のネタを振りまくるのではなく、あくまでもイジる対象は鶴乃ちゃん個人です。
万々歳でイジることもできますが、原作同様実家絡みのネタは自らの精神的負担に内心で変換してしまいますので、可能な限りやらないようにしましょう。
――というわけで、早速選択肢が出ましたので、鶴乃ちゃんとのファーストコンタクトに挑んでみようと思います。
1:……誰?
2:……頼んでない
3:(何も言わず叩き出す)
草ァ!
3番が酷すぎませんかね!?
こういうネタ選択肢が一番最後にあるあたり、実にATLUSゲーらしいですが……
ここは無難に2番を選択して――おおっと! 手が滑って3番を間違って選択してしまったぁ!(ゲス顔)
無言かつ真顔でいきなりやって来た鶴乃ちゃんの腕を掴むと、そのまま玄関まで連行して外へポーイ!
そして即ドアを閉めて施錠する乃彩ちゃん。ヨシ!(現場猫)
「ちょっ!?
ちょ、ちょっとーっ! 問答無用で外に放り出すのは失礼じゃないのーっ!」
鶴乃ちゃん、無理矢理玄関を開けようとしたり、扉を叩きまくってますね。当然ではありますが。
うるせえ! 出前なんて頼んでねえんだよ!
朝●新聞よろしく引っ越し初日から人ンちに押し売りかけてくるとか良い度胸だなテメエ! 警察呼ぶぞ!?
「き、切江さん、今の子は私の知り合いよ!
この家にも前々から頻繁に来ていた子だから押し売りでも怪しい人でもないわ!」
アッハイ(知ってるけど)。
やちよさんにそう言われたので、ドアを開けて改めて鶴乃ちゃんを家の中に入れます。
でも、頼んでもいないのにいきなり出前に来たうえに、チャイムも鳴らさずに人の家に勝手に上り込むコイツが悪いんですよ?(まったく自分の非を認める気がないプレイヤーの屑)
「い、いや、確かにそれはそうだけどさ……」
「――それよりも鶴乃、どうして家に来たの?
先日言ったはずだけど、私もみふゆたちも今は1人にして――」
「どうしてって……そんなの乃彩ちゃんのお引っ越し祝いをしにきたに決まっているじゃない!?」
い゛い゛こ゛だ゛な゛ぁ゛つ゛る゛の゛ち゛ゃ゛ん゛!゛
いやホント、いい子過ぎるでしょ鶴乃ちゃん。
誰だよ、こんな優しい子をいきなり問答無用で外に叩き出した酷い奴は!?(お前だ!)
「切江乃彩ちゃんだよね?
わたしは
オイオイオイオイ。
乃彩ちゃん自己紹介してないのに、自分のこと魔法少女って言っちまっているぞコイツ。
おハーブ生えますわ。
――あ。また選択肢出た。
1:よろしく
2:弟子?
3:魔法少女?
4:……頭大丈夫?
だから最後の選択肢ィ!(爆笑)
ちょっと乃彩ちゃん、いくら選択肢とはいえ初っ端から飛ばし過ぎじゃないですかね!?
もしかして鶴乃とは別のベクトルで人格の表と裏のギャップがとんでもない子なんでしょうか!?
見た感じペルソナシリーズの歴代男主人公のようなクールっぽい雰囲気ですが、実は結構やべーやつなんじゃ……?
後で詳細なステータスを確認しておきましょう(さっきやっておけよ)。
さすがに4番は信頼度上昇に響きそうなので、ここはまた3番を選択します。
すると、やちよさんからさらりと指摘されて乃彩ちゃんが魔法少女ではないことに気づいた鶴乃ちゃんが慌てて訂正します。
乃彩ちゃんはほんのわずか――それこそ雀の涙程度の疑念を抱きますが、やちよさんのフォローもあってなんとかごまかせたみたいですね。
画面が変わり、またリビングに戻りました。
結局、鶴乃ちゃんに押される形でやちよさんも含んだ3人で乃彩ちゃんの引っ越し祝いをすることになったようですね。
しかし、食べ物のボリュームが軒並み半端ないぞ万々歳……
見るからにラーメンもチャーハンもその他諸々も「大盛」ってレベルじゃないんですがクォレハ……
「乃彩ちゃんのお引っ越しのお祝いも兼ねたサービスだよ!」
お、おう……
これは食後は腹が苦しくなってなにもできずに1日が終わりそうですね。
まぁ、占いで『塔』のカードも引いちゃっているし、そうなってくれたほうがありがたいかもしれませんが……
――あ。もしかして『塔』のカードを引いたことによるデバフってそれか?
「――それじゃあ、私は少し出かけてくるから。
鶴乃は切江さんと一緒に留守番お願いね?」
「うん。いってらっしゃい」
――って、やちよさんホント食うの早いな!
ラーメンだけしか食ってないとはいえ、あの量をこの短時間で完食するとか……
さすが隠れ大食いキャラは格が違った。
その後は鶴乃ちゃんと特に他愛もない駄弁りを繰り広げて、特に何事もなく食事シーンは終了。
ちなみに、この会話で乃彩ちゃんは鶴乃ちゃんと同い年で同学年であることがわかりました。現在は高校1年生。原作ストーリー開始時には高校2年生ということですね。
高校生なら私生活の行動でアルバイトなども行えるので、これは行動の幅が広がったことになります。進級したら原付免許を取得するのもありかもしれません。
――で、案の定、乃彩ちゃんは食後に腹が苦しくなってまともに動くこともできず、そのまま1日が終了してしまいました。
ハハッ、ワロス。でも、あれだけの量を完食しただけでもすごいわ。
というわけで、1日目は特になんのイベントもなく終了――ん?
『――“
『目を開けよ。
我が声が届いているのならば――』
おっと。1日目と2日目の間にイベントが発生しました。
クォレハ……ペルソナルートで主人公のペルソナの覚醒が近いと発生する予兆イベントの一種ですね。
乃彩ちゃんが目を開けるとそこは――なんじゃこりゃ? 全面鏡張りみたいな迷宮なんですケド? ミラーズか?
試走やこれまでのプレイではこんなところ来たことなかったぞ?
とりあえず、動かせるようになったので、先に進んでみましょう。
――あ。全面鏡張りといっても、足元は水面になっているようで乃彩ちゃんのスカートの中とか歪んで映らないな。チッ。
「鏡は映し方によって、その面を見ている者の様々な姿を映し出す――
それはさながら人の心のようじゃ。
少し見方を変えるだけで、あたかも違う存在であるかのように映る……」
道中なにも起こらず迷宮の最奥まで進むと、そこには銀髪の和装幼女が待っておりました。こちらには背を向けてですが。
誰だよお前? コッチヲ見ロォ!(SHA並感)
「――そして、お主の中でまさに今、目覚めようとしておる」
「偽りの仮面によって封じられた、お主自身――」
「“ペルソナ”が――」
ようやく振り向いたと思ったら、狐面被っていました。
最後にようやくその仮面を取ったと思ったら、影がかかっていて素顔見えませんでしたし……
ホント誰よ、この銀髪和装幼女? 『真・女神転生if...』のチェフェイの亜種か?
まぁ、ともかく、このイベントが起きたということは乃彩ちゃんがペルソナを覚醒させるのはそう遠い未来ではないでしょう。
たま~に、この予兆イベントがぜんぜん発生せずに日々を過ごすこともある(2敗)ので、1日目の終了の時点で発生してくれたのは幸先は良いほうです。
では、1日の終了と同時に一度セーブして2日目に入りましょう。
本来のRTAならばセーブはタイムロスになるのでやらないほうがいいのですが、これは難易度「MANIACS」。いつ死ぬかもわからないのでセーブはこまめに行います。
そのほうが走者も精神的に余裕も生まれて些細なミスも少なくなり、結果的にタイムの短縮に繋がるなんてことは結構ありますからね。
GC版『バイオハザード』でナイフクリアRTAに挑戦した人とかは、この気持ちわかるんじゃないですか?
おはようございます! さわやかな朝ですね!
というわけで、2日目イクゾー!
乃彩ちゃん、早速今日から転校先の学校に通うようです。
昨日神浜に来たばかりなのにいきなり登校とか、道迷ってもおかしくなさそうなんですけど、それは大丈夫なんですかね?
まぁ、引っ越して2日目に早々学校に通い始めるのは本家ペルソナシリーズではお約束なので、たぶん大丈夫でしょうけど……
さて、昨日の時点では転校先はわかりませんでしたが、はたして乃彩ちゃんどの学校に通うのでしょうか?
みかづき荘スタートなので、一番可能性が高そうなのは当然やちよさんや鶴乃ちゃんと同じ『神浜市立大附属学校』ですが……
――ん?
この紫色の上着とスカートは……
『水名女学園』じゃねえかよ!(CV.鉄華団団長)
こ、これは……別の意味で大丈夫なのか!?
水名だぞ!? 伝統と格式云々とか謳っておきながら在学しているネームドキャラが総じて一癖も二癖もある濃さで「芸人養成所」なんてファンからネタにされているあの水名だぞ!?
そこに乃彩ちゃんという昨日の選択肢でやべーやつ疑惑まで浮上してきた子を投入してもいいのか!? ますますネタ化が加速しない!?
――お、オーケイ。とりあえず落ち着こう。
まさか水名女学園とは思いませんでしたが、考えてみれば同校は高等部にネームドキャラが多いので、何人かコミュニティ対象となる子が見つかるかもしれません。
乃彩ちゃんの年齢的に今後のストーリーにも関わってくる月夜やドア様が同級生ということになるので、可能ならこの2人には今日中に会っておきたいですね。出会いたい!(出会い厨)
やちよさんの前妻もとい親友のみふゆさんも現時点ではまだ在学中ですし、狙えるなら会ってみるのもありでしょうね。
前回説明しましたが、現時点ではみふゆさんは精神面で相当参っている状況なので、あまり積極的に関わるのは危険ですが……
また、みふゆさんの現在の精神状態だけでなく、水名は「走者の天敵」「チャートブレイカー」などの異名でマギレコRTA界隈で恐れられているYKKこと『
下手をしたら転校初日にこいつらと遭遇して最悪目をつけられる可能性があります。そうなった場合はリセットです。
現時点ではゆきかは中等部、帆奈も中等部でなおかつ基本的に不登校なので、中等部の校舎や教室、その近くに行かなければ危険を回避できるのが幸いですが、難易度が難易度なので油断はできません。
校門前でバッタリ遭遇して目が合っちゃうなんてこともあり得るのが難易度「HARD」や「MANIACS」の恐ろしいところです……
ともかく、学校に行かなきゃストーリーが進まないので、早速登校します。
ヘイ、やっちゃん! 乃彩ちゃんは先に行くぜ!
「あ……切江さん。
その……もし水名女学園でみふ――」
おっ? どうしたどうした?
「……ごめんなさい。なんでもないわ」
あっ、そーっすか。
どうやらみふゆさんのことは心配しているみたいですけど、お互い状況や心境がアレなので顔を合わせ辛いようですね。しゃーないっすけど。
それでは、気を取り直して乃彩ちゃんは学校にいってきまーす!
――といったところで、今回はここまでです。
ご視聴ありがとうございました。
◆
メルが死んで早くも数日が経過した。
あの日を境にみかづき荘は――わたしたちの日々は変わってしまったと言っていい。
メルの死の翌日、なにも知らなかったわたしはいつもどおりみかづき荘に赴き、昨日までとは明らかに空気が一変していたことに気がついた。
そして、やちよししょーの口からメルが死んだことを聞かされ、当面の間は1人にしてほしいと言われてその日は家に帰らされた。
突然聞かされた仲間の死。
わたしはわけがわからず、すぐさまみふゆやももこに電話してみたが、みふゆが電話に出ることはなく、ももこのほうは電話にこそ出てくれたが、その声からは明らかに戸惑いが隠しきれておらず、魔女との戦いでなにがあったのかも教えてくれなかった。
――みふゆにはその後何度も連絡を取ろうとしているが、いまだに取れず今日までに至っている。
だけど、わたしにはそれだけでひとつだけわかったことがある。
やちよもみふゆもももこも、各々が「自分のせいでメルが死んだ」と思っている。メルの死にみんなが責任を感じているんだ。
――メルの死に責任を感じているのは、わたしだって同じなのに。
あの日は珍しく万々歳に団体のお客さんの予約が入っていたため、やちよたちから許しを貰ってわたしは魔女退治に参加せず家の手伝いに行った。
その結果がこれだ。
もしわたしが「由比家の娘」ではなく、「魔法少女」としての自分を優先していれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに――
少しだけワガママな子供になっていれば、大切な仲間を失うことはなかったかもしれないのに――
それなのにわたしは、「由比家の娘」であることを選んでしまった。
魔法少女として魔女と戦うことがどれだけ危険で、命がけであることをわかっていながら――
そうだ。
わたしは……無意識に自分の命が脅かされない楽なほうを選択したんだ。
メルややちよたちの命と自分の命を、自分でも知らずうちに天秤にかけていたんだ。
――なにが「最強の魔法少女」だ!
結局は我が身大事で、安全な所から楽をしようとしている最低な奴じゃないか!
そんな奴がやちよの弟子を自称して、みかづき荘の仲間ぶっていたなんて……!
この数日間は、そんな自己嫌悪に苛まれる日々だった。
正直、我ながらよく表向きはこれまでどおりの「由比鶴乃」を保っていられたなと思う。
おそらくだけど、これも彼女の存在があったからかもしれない。
――『切江 乃彩』。
先日知った、みかづき荘の新たな住人になるというわたしと同い年の女の子。
写真に写っていたその姿は、申し訳ないけど「地味」の一言につきた。
わたしやももこたちとは明らかに正反対なイメージを抱かせる――明るくも活発でもなさそうな印象の子だった。
だからだろうか、同じ感想を抱いていたメルが「乃彩さんが引っ越してきた当日に、みかづき荘でお祝いのサプライズパーティーをしましょう」と言い出した時は、我先に賛成した。
みかづき荘に集うメンバーは、住んでいるところも通っている学校も違うけれど「家族」なんだから――そんなことをメルと2人で言っていたことを覚えている。
――今思えば実に白々しい話だ。
わたしはそんな「家族」を見捨てたようなものなのに。
本当によく平気でそんなことが言えたものだ。
――だからだろうか、数日ぶりにみかづき荘を訪れた直後、わたしの腕を掴んで何も言わずにいきなり外に放り出した彼女の行動に、わたしは内心どこか嬉しさを感じていた。
別にそういう性癖に目覚めてしまったわけじゃない――と思う。
ただわたしは――たぶん誰かにわたしという存在を非難してほしかったんだ。
由比鶴乃はみかづき荘のメンバーにふさわしくない――
由比鶴乃が七海やちよの弟子を自称するなどおこがましい――
そう言われたかったのかもしれない。
「き、切江さん、今の子は私の知り合いよ!
この家にも前々から頻繁に来ていた子だから押し売りでも怪しい人でもないわ!」
「……出前、頼んでません。
勝手に他人の家にいきなり上り込んでくるのも……正直怪しすぎます」
扉越しにそんな会話が聞こえながら、閉ざされた玄関のドアが再びゆっくりと開く。
その先にいたのは、数日前に写真に写っていた姿と寸分変わらぬ彼女――乃彩ちゃんだ。
どこか気だるげそうな、それでいて無気力そうで、目に映るものすべてに興味がなさそうな感じの瞳がわたしの姿をとらえている。
――ああ、そうだよ。わたしはこれを求めていたんだ。
その瞳を見た瞬間、わたしの中で“なにか”がふつふつと沸き上がってくるのを感じた。
わたしという存在を「どうでもいい」とも「心底興味ない」とでも言いたそうな目。
「由比鶴乃」という存在が内に秘めた罪を見透かし、責め立て続けているかのようなその瞳。
この子こそ――切江乃彩こそ今の由比鶴乃が必要としていた存在だ、とその時わたしは確信した。
「切江乃彩ちゃんだよね?
わたしは由比鶴乃! やちよししょーの弟子で最強の魔法少女だよ!」
――それがわたしの一方的な自己満足だとしても構わない。
わたしは
「……魔法少女?」
『鶴乃、切江さんの左手をよく見なさい』
「えっ?」
やちよからの念話を受け、わたしは思わず声を漏らしながら乃彩ちゃんの左手に目を向ける。
そこには魔法少女の証であるソウルジェムの待機状態である指輪は存在しなかった。
つまり、乃彩ちゃんはわたしたちとは違い、魔法少女ではないということで――
「……あーっ!
ちょ、ちょっと今のはなし! “最強の魔法少女”っていうのはなし!」
「あ……はい……」
「はぁ……まったく……」
――いきなりポカしちゃった。ちょっと恥ずかしい。
みかづき荘の新しい住人というから、魔法少女だとばかり思ってしまっていた。
「あ、改めて……由比鶴乃だよ!
よろしくね、乃彩ちゃん!」
「よろしく」
乃彩ちゃんはこちらが差し出した手を躊躇う様子もなくすんなりと握り返してくれた。
わたしを見ているその目は、やはりわたしを見ていないように思えた。
――だけど、今のわたしにはそのほうが嬉しいなんて口が裂けても言えないよね?
その後はわたしが半ば強引に押し切った形ではあるけれど、やちよも交えて3人で乃彩ちゃんの引っ越し祝いをすることになった。
テーブルの上に並べられた料理はわたしややちよにはすっかりお馴染みの万々歳の中華という質素なお祝いの席だったけど、その時は少しだけ数日前のみかづき荘の雰囲気に戻ったような気がする。
「……ボリュームすごいですね」
「乃彩ちゃんのお引っ越しのお祝いも兼ねたサービスだよ!
それに、そんな畏まらなくていいよ! わたしと同い年で同学年なんでしょ!?」
「あ、は――うん……」
「中華飯店“万々歳”! 参京区で元気よく営業中! うちの実家がやってて、わたしも結構手伝ってるんだ!」
「そ、そう……」
目の前の料理のボリュームに乃彩ちゃんが少なからず圧倒されているのがわかった。
やがて彼女は箸を手にすると、ゆっくりと自身の前に置かれたラーメンに手を付け始める。
一口麺をすすったりレンゲでスープをちびちびと飲む度に、うんうんと軽く首を上下に動かす乃彩ちゃんの姿が目に映った。
「どうかな、味は?
それ、わたしが作ったやつなんだけど……?」
「…………」
――ピタリと箸とレンゲが止まる。
それと同時に、乃彩ちゃんが明らかに申し訳なさそうな目をこちらに向けてきた。
あっ……これは――
「しょ、正直に言ってくれていいからね!?
マズいならマズいって言ってくれたほうが作っているこっちとしても――!」
「マズくはない。
だけど……その……美味しいかと言われると、首を縦に触れない……」
「だぁーーっ!
やっぱりそうかーーっ!」
やはり今回も100点満点中50点の味だったようだ。
それから10分もしないうちにやちよは自分のラーメンを完食すると席を立った。
『鶴乃、悪いけど留守をお願い』
『パトロール? それならわたしも――』
『切江さんを1人にするわけにはいかないでしょ?』
『だ、だったらわたしが1人で……』
『お願い……今は1人でいたいの……』
『…………』
――念話で軽く言葉を交わしたが、やはりやちよもわたしのように自分が許せないみたいだ。
1人孤独に日々を過ごすことがやちよが自分に科した罰なのかもしれない。
『わかったよ……』
『……ごめんなさい』
「……?」
突然何も言わずに席を立ったやちよに乃彩ちゃんが不思議そうな目を向ける。
やちよもそれに気がついて口を開いた。
「――それじゃあ、私は少し出かけてくるから。
鶴乃は切江さんと一緒に留守番お願いね?」
「うん。いってらっしゃい」
作り笑いを浮かべて、わたしはひらひらと軽く手を振ってやちよを見送った。
やちよに限ってメルの後を追うような真似はしないと思うけど――大丈夫だよね?
乃彩ちゃんもいるんだし……
「……買い物?」
「ああ、違うよ。この時間に外出するのはししょーの日課。
やちよは現役のモデルだから、日々の健康とか、その……体形とか人には言わないけど結構気にしているから……」
「ふぅん……」
わたしの小嘘――ただし、半分くらいは本当だ――に乃彩ちゃんが適当に相槌を打つ。
わたしたちくらいの年頃の女の子だと、やちよがモデルだと言うと少なからず興味を抱くものだけど――乃彩ちゃんは違うのかな?
その後もいくらか言葉を交わしたけれど、やはり乃彩ちゃんはわたしが最初に抱いた印象どおり地味な子だった。
喋り方も淡々としていて、必要最低限の言葉しか発しようとしない。
また、自分からこちらに話しかけてくる様子も見られなかった。
なんというか……どこか機械的で、さながら中身が空洞のマネキンか人形みたいだ。
このままだと空気が重くなりそうだったのでとりあえずテレビをつけたけど、この時間はろくな番組をやっていなかった。
ひととおりチャンネルを変えてみたが、結局地元神浜の情報を配信するニュース番組に落ち着いてしまう。
『北養区にある老舗洋食店“ウォールナッツ”に、この度新しいメニューが――』
『黒須サトル市議会議員が来年行われる市長選に出馬する意向を正式に――』
『リスナーのみんなに神浜の
…………
……
マズい。ネタ振りにできそうな話題がなくなっちゃった……
こんな時にメルやみふゆたちがいてくれたら……
「――なにか悩み事?」
「えっ?」
視線を向けると、そこにはいつの間にかすべての料理を平らげていた乃彩ちゃんが、これまでと同様の瞳をわたしに向けていた。
――その瞳は今ははっきりとわたしの姿を映している。
「なにか思い悩んでいるように見えた」
「ふえっ!? そ、そんなことないよ!?
た、ただちょっと、なにを話そうかなって思っていただけで――」
――なにを話せばいいかわからなかったのは本当のこと。
だけど、思い悩んでいることも間違いじゃない。
顔に出ちゃっていたのかな?
それとも――見透かされちゃった?
……まさかね。
それはそれで構わないけれど……
「そ、そういえば、乃彩ちゃんって転校先の学校はどこなの?
神浜市立大附属? それならわたしややちよとも――」
「水名女学園」
こちらが言い終わる前にさらりと返された。
――あ。
水名ならもしかしたらみふゆと会うことがあるかもしれない。
やっぱりここはみふゆのことを教えたほうがいいのかな?
「――苦しい」
「えっ?」
「お腹……食べ過ぎた……」
「え……ええっ!? だ、大丈夫!?」
みふゆのことを乃彩ちゃんに伝えようと思ったけれど、その前に乃彩ちゃんが食べ過ぎによる腹痛を訴えたので結局言うことができなかった。
――次からうちの料理を持ってくる時は量は普通にしよう。
◆
――まだ少しお腹が苦しい。
由比さんから振る舞われた中華は、見た目も実際の量も相当なボリュームだった。
自分のために出されたものだし、食べ物を粗末にするのはよくないので完食したのはいいが、さすがにもう少し時間をかけて食べるべきだったかもしれない。
しかし、腹部にこうして窮屈さこそ感じてはいるが、「お腹が膨れると眠くなる」などと言われているとおり、こうして自室のベッドで横になっていると、自然と意識がまどろみの中に少しずつ沈んでいくのがわかる。
明日から早速水名女学園に通学することになるが、はたして今度の学校ではどうなるだろうか?
前の学校では――少なくとも酷い学生生活ではなかったと思う。逆に良くもなかったが。
ただ1日1日を特に意義も感じず無駄に過ごしていくだけの日々――
自分が生きているのか、はたまた死んでいるのかも実感がない人生――
おそらくこれからもそうなっていくだろう。
私の中には「これでいいのか」と疑問に思う自分も確かにいるが、同時に「このままでいい」という自分や「どうでもいい」という自分なども存在するのがわかる。
だからどうすればいいのかわからず、結局今のまま――「現状維持」という形で自己完結してしまい時間だけが流れていく。
きっと私という存在はそういうものなのだ。
「切江乃彩」という存在は――
『――“
――!?
『目を開けよ。
我が声が届いているのならば――』
――突然聞こえた言葉に従い目を開く。
気がつけば私は――見知らぬ場所に立っていた。
上も下も、左も右も、一面が鏡張りの奇妙な空間――遊園地のミラーハウスのような場所。
そのちょうど真ん中あたりに私はいた。
――よく見ると、下は表面に十数ミリほど水が張っている。
――これは夢?
昼間に電車の中で見た夢といい、今日はおかしな夢ばかり見る。
『こっちだ。
我がもとまで来るといい……』
再び聞こえた声。
その声がしたと思わしき方向へ目を向けると、いつの間にか道のようなものができていた。
この空間同様、その道も全面が鏡張りのようであった。
…………
……
このままここにいても仕方がない。
それに、これはおそらく夢だ。
私は声に従うように、その道に向かって歩き始めた。
――なにもない、ただ真っ直ぐな一本道を延々と進んでいく。
その間、私の耳には足下に張られている水が足を動かす度に跳ねるピチャピチャという音だけが響き渡った。
やがて――どれくらいの時間歩いたのかもわからなくなった頃に、一本道が終わって新たな空間に出た。
――そこはさながら宇宙だった。
足下以外の前後左右一面に――気がつけば先ほど歩いてきた道は消えていた――果てしない漆黒の空が浮かび、その中を無数の光が輝き、瞬き、動き、時には消えていく――
そんな神秘的な場所だった。
――気がつくと、私の周囲にいくつもの鏡が浮かんでいた。
その面をのぞいてみると、当然のごとく私の姿がそこに映っている。
さらによく見ると、先ほどからあたり一面に見える星かと思えた光の正体は全て鏡だった。
ここは宇宙ではなく、無数の鏡が飾られた空間だったのだ。
「――来たか。“
――!
目の前から声がしたので、鏡からそちらに目を移す。
そこには、見知らぬ少女が1人、私に背を向けて立っていた。
一見白髪にも見える銀色の髪を腰のあたりまで伸ばし、浴衣のような服を着ている。
おそらく、この少女が先ほどから聞こえている声の主に違いない。
「鏡は映し方によって、その面を見ている者の様々な姿を映し出す――
それはさながら人の心のようじゃ。
少し見方を変えるだけで、あたかも違う存在であるかのように映る……」
そのような言葉を述べる少女の手元に、また1枚新たな鏡が現れる。
それとほぼ同時に、彼女は私のほうへと振り向いた。
――その顔は狐の面で隠されており、素顔は拝めなかった。
「言い方を変えれば、それは“可能性”――
人の心には宇宙のごとき無限の可能性が秘められ、そして目覚める時を常に待ち続けておる」
……言っていることの意味がわからない。
「これは人の心――
そして、これが失われるということは、人の心の中に秘められた可能性が失われているということじゃ」
――少女の手元に浮かんでいた鏡が一瞬で音もなく粉々に砕け、やがて消えた。
「可能性が失われ続けると、人はやがて己に“偽りの仮面”をまとわせ、心に光を灯すのを止めてしまう。
そして仮面の内側から影を生じさせ、その影はいずれ世界すらも呑み込む闇を生み出すことになる――」
しかし、とつぶやいて少女は話を続ける。
「己がまとっている偽りの仮面の存在を自覚し、それを打ち破ることができれば、再び心に光を灯すことができる。
それを人は“希望”と呼んだりする――
そしてそれこそ世界を呑み込まんとする闇に抗うことができる唯一の手段じゃ」
少女の足が一歩一歩前に進み、私のほうへと向かってくる。
「今、お主がいる地では幾万もの人々から内なる可能性が失われ、
偽りの仮面を打ち破り、己が内なる可能性を目覚めさせる者が現れぬ限り――」
少女の足が止まり、狐面をまとったその顔が私のすぐそばまできた。
「――そして、お主の中でまさに今、目覚めようとしておる」
そう言いながら少女がその顔にまとった狐面を取る。
――しかし、その顔はなぜか黒い影とも靄ともとれる“なにか”に覆われており、素顔や表情はわからなかった。
「偽りの仮面によって封じられた、お主自身――」
「“ペルソナ”が――」
最後に少女が口にした言葉はなぜか聞き取ることができなかった。
――だが、私はその言葉を口にした時の少女の顔が、穏やかな笑みを浮かべているように見えた。
――目を開ける。
そこは先ほどまでいた神秘的とも奇妙ともとれる空間とは違い、みかづき荘の自室だった。
窓から見える景色はすっかり暗くなり、街灯だけが辺りをうっすらと照らしている。
時計を見ると、真夜中でこそないがすでに時刻は外の景色同様夜を示していた。
どうやら結構な時間眠ってしまっていたらしい。
それにしても昼間といい今といい、本当におかしな夢だった。
――ふと、ここでまだお風呂にも入っておらず、
いけない。明日から学校だというのに、前日にお風呂に入っていないというのはマズすぎる。
私はベッドの近くに放置していたボストンバッグから寝間着と変えの下着、そして使い慣れた洗剤一式を取り出すと、それを持って部屋を出た。
――そういえば、七海さんからお風呂場の使い方を聞くのを忘れていた。
………
……
まあいいか。
アズレンのミニイベントをまだクリアしていないので失踪します。
■TIPS
●
主人公。
難易度が難易度ゆえにRTAのプレイヤーキャラでありながら行動は比較的慎重派。
しかし、当然のごとく珍行動や奇行に走る時があるのはお約束。
おまけにATLUSゲーの主人公キャラの宿命か、選択肢のせいでさらりととんでもない爆弾発言やネタ発言をすることもしばしば。
イメージとしては初期キタローとクーほむを足して50点引いたような奴。つまりまな板。水名女学園なのに……
●
ご存知、自分のことを異能生存体だと思い込んでいる魔法少女。
現時点ではまだ高校生なので「少女」と称してもぜんぜん問題ない。
メルの魔女化があったばかりなので精神的にかなり参っちゃってる。でも食べる時は食べる。
食事は大事。古事記にもそう書いてある。
●
最強さん。素の能力もさることながら、固有魔法の『幸運』がすっげえ強力。
しかし本人の人生は決して幸運ではない。魔境神浜における親に恵まれなかった子供その1。
乃彩ちゃんの存在で、原作より若干精神面に変化あり。もちろんアカン意味で。
たぶん今の精神状態のままウワサと融合したら隷属願望持ちのドMになる。それはそれで見てみたい。
●謎の幼女
乃彩ちゃんの夢の中に現れた銀髪和装のじゃロリ狐面娘。
なんとなくぶん殴りたくなる人は、おそらく『ペルソナ2罪』プレイヤー。
先に言っておくとフィレモンでもババアでもない。
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Part3 転校初日
ニンテンドーSWITCHを購入して『真III HD REMASTER』にドハマりしていたので初投稿です。
水名女学園に新たな芸人が降臨するかもしれないRTA、はーじまるよー。
はい。というわけで今回は、乃彩ちゃんの水名女学園転校初日の学園生活を中心にやっていきます。
みかづき荘から水名女学園までの移動は勝手に行われるので、道中なにかイベントが発生しない限りは倍速です。
通学中にすれ違う民衆もといモブたちの些細な日常会話を横目に、徒歩と電車で新西区から水名区へ。
――ん?
今モブたちの会話の中に「昏睡事件」ってワードが出てきたような……
…………
……
まあええやろ(よくねーよ!)。
すでに何らかのイベントが発生しそうなふいんき(なぜか変換できない)ですが、無事に水名女学園へ到着です。
ではまずは職員室へ行きましょう。
職員室に行くとクラスの担任となる先生との会話イベントが発生しますが、大した選択肢も発生しませんのでここも倍速です。
ちなみに担任となる先生は他のモブ教師勢とは違い専用グラフィックと固有ネームがありますが、ペルソナルートにおけるコミュニティ対象となる可能性は極めて低いです。
ぶっちゃけ、まどマギ原作の早乙女先生のほうがコミュ対象になる確立のほうが高いという……
誰が主人公の担任になるかは候補者の中からランダムで決められて、中には原作キャラよりも印象に残る人もいるんですけど……悲しいなぁ……
――で、今回乃彩ちゃんのクラスの担任となった人は、キャラも見た目も普通の人でした。
クォレハ今後も特に出番はなさそうですね。別の世界線ではヒロインになれるといいね!(無慈悲)
なお学校が変わらない限り主人公のクラスの担任は進級後も同じ人になります。
「やぁ、君が噂の転校生かな?」
おっ?
職員室を出た途端、いきなり誰かが話しかけてきましたね。
乃彩ちゃんが声のしたほうへ目を向けると、そこにいたのは金髪で白い肌をしたスーツ姿の女性――あっ……(察し)
「突然失礼……
私の名前は
へー、そうっすかー(棒)。
じゃあそのうち乃彩ちゃんのクラスで授業する機会があるかもしれないっすねー。
あ。そろそろホームルーム始まると思うんで失礼しまーす。
――って、おい馬鹿やめろ!
意味深そうな問いを投げかけてくるんじゃねえ!
どさくさに紛れてさり気なくマガタマ渡そうとするなぁ!
これペルソナルートだから!
ついでに言うと人修羅化もとい魔人化禁止縛りってレギュレーションなの!
初っ端から乃彩ちゃんを魔道に誘おうとするのはヤメルォ!
馬鹿野郎お前、(人修羅にならなくても)俺は(ガバに)勝つぞお前!
――はい。謎の女教師(笑)をなんとか振り切って教室までやってきました。
才羽瑠依……いったい何シファーだったんだ……?
しかし、難易度「HARD」以上で登場する場合、どのような姿と名前になるかはランダムなのですが、まさか学校の先生とは思いませんでした。
――あ。ちなみに、今の人もとい閣下もコミュニティ対象になることはありません。
こちらは先ほど登場した担任の先生と違って100%なりません。当たり前だよなぁ?
というか、なったらなったで別の意味で問題ですよ。
では、気を取り直して教室に向かいましょう。
教室に到着すると同時に朝のホームルームもとい主人公の自己紹介イベントが発生します。
このイベントはプレイヤーキャラが転校生設定で物語がスタートした場合、最初に学校に通った時に必ず発生するのですが、通うことになる学校によって選択肢の種類および正解的な選択肢が違います。
今回は水名女学園なので、選択肢の中から比較的普通の自己紹介を選ぶのが正解です。
ウケを狙ってネタ的な選択肢を選ぶと、いきなりスクールカーストの底辺に叩き落されて、最悪モブたちからいじめ対象にされる可能性があるので……
高等部はまだマシなほうですが、中等部だとかつてのみたまさんや混沌みたいなことになって毎日がガバのオンパレードになることこのうえないです。
まさかに水名女学園の伝統と格式の暗部。そんなことしなくていいから(良心)。
――まぁ、最初からカオスルートや皆殺しルートでいく予定の場合は、スクールカーストの底辺から圧倒的な暴力でのし上がっていくほうが全体的なタイムの短縮に繋がるんですけどね。
特に創世ルートでヨスガENDを狙うなら水名の中等部からスタートするとめちゃくちゃ楽です。無駄にマガツヒだけは持ってますからね、ここのモブ。
今回は全コミュMAXのTRUE END以上でのクリアを目指すので、そちらの道には決して進みませんが。モブ共運が良かったな!
さて、乃彩ちゃんの自己紹介も無事に終わったので、与えられた席につく前に教室内の面々を確認しておきしましょう。
もしかしたら原作のネームドキャラがいるかもしれませんので。
……うん。当然ですが、見事にモブばっかで――お?
乃彩ちゃんの席の隣に座っている子ってもしかして……
「はじめまして切江さん。私は
なにかわからないことや困ったことがあれば、遠慮なく私を頼ってほしいのでございます」
やっぱり、月夜ちゃん! 月夜ちゃんじゃないか!
や、やっべえ!
本編のストーリーで結構重要なポジションにいるネームドキャラと同じクラスでしかも席が隣とか、運良すぎるわこれ!
本当にこれは難易度「MANIACS」か!?
間違えて「BEGINNER」か「EASY」か「NORMAL」を選んじゃっていたなんてことないよな!?
…………(確認中)
……うん。確かに難易度は「MANIACS」だわ。
失礼。喜びのあまり少し取り乱しました。
すでに原作や先駆者兄貴たちの動画でご存知の方も多いと思いますが、一応彼女――月夜ちゃんについて簡単にご説明させていただきます。
月夜ちゃんは原作および本編のストーリーでは『
「天音」は離婚した父親の姓で、普段は今のように本姓である「明槻」――母方の姓を名乗っています。
『天音
天音姉妹は原作のストーリーではやちよさんたちと敵対する組織『マギウスの翼』に所属し、揃って同組織の幹部『白羽根』としてたびたびやちよさんたちと戦うことになります。
――しかし、それは月夜ちゃんならびに月咲ちゃんがキュゥべえと契約して魔法少女となり、さらにその後マギウスの翼が組織された後の話。
原作1年前スタートである現時点では月夜ちゃんたちはまだ魔法少女にはなっておらず、加えてお互いの存在を知りません。
原作ではみふゆさんの高等部卒業前――おそらく2月くらいに月夜ちゃんは月咲ちゃんと出会い、キュゥべえと契約するきっかけを作ることになります。
そのため、今乃彩ちゃんの目の前にいる月咲ちゃんも現時点では一般ピープルです。
――そう。「
もはや説明不要ですが、このゲームは難易度が「HARD」以上だとイベントの発生時期が完全にランダムとなる仕様なので、1年前スタートでもすでに月夜ちゃんたちが契約して魔法少女化している可能性は十分あり得ます。
さすがにマギウスの翼は「HARD」以上でもこの時点では組織されてはおりませんので白羽根にこそなってはいませんが、彼女が魔法少女となっているか否かで今後の物語およびチャートの進行に少なからず影響が出るため、急いで確認しましょう。
というわけだから月夜ちゃん、握手をしよう!
ついでに左手も見~せて!
……はい。左手に指輪もとい待機状態のソウルジェムはありませんでした。
つまり、原作同様キュゥべえとはまだ契約しておりません。ヨシ!(現場猫)
月夜ちゃんが契約するのは月咲ちゃんと出会って幾分か月日が経過し、姉妹としての絆を完全に結んだ後なので、おそらく現時点では月咲ちゃんと出会ってもいない可能性が高そうです。
そのあたりに関しては、これからの学園生活における交流で信頼度を少しずつ上げつつ調べていきましょう。
ちなみに、契約する時は月咲ちゃんも一緒に契約しておりますので、今後月夜ちゃんが魔法少女になったら月咲ちゃんも魔法少女になったと判断してOKです。
稀にどちらか片方が先に契約してしまうというパターンが発生してしまうこともありますが、本当にこれは稀かつその後すぐにもう片方も契約するので問題はありません。
時間が進んで昼休みになりました。
早速月夜ちゃんと交流をしようと思いま――したが、現在彼女は教室におりません。
仕方がないので別のことをします。
何をするかと申しますと、ズバリ「他のネームドキャラの捜索」です。
今回は同級生であるズェア様もとい『
彼女は月夜ちゃんと比べると本編のストーリーには大して絡みませんが、彼女の固有魔法『隠蔽』がほぼオワタ式な今回のチャレンジにおける戦闘で非常に役立ちます。
その効果は「戦闘中に敵からタゲられなくなる」というものなのですが、なんとこれ敵からの単体攻撃だけでなく全体攻撃にも適応されるのです。
詳しく説明いたしますと、このゲームにおける全体攻撃は「攻撃範囲内にいる全ての敵をロックオンして放つ」という仕様のため、「タゲられなければロックオンされたことにならない」ので全体攻撃に対して事実上完全回避ができるというわけなんですね。
その代わり範囲攻撃――いわゆる「敵ではなく指定したエリアを攻撃する」仕様のスキルや、乱舞系と呼ばれる「一定時間同じ攻撃を続け、それに当たった敵にダメージを与える」ものに対しては効果がないため、必ずしも強力な固有魔法というわけではありません。
ですが、先も述べたとおり、どのような攻撃でも一発食らったら致命傷な状況では「ダメージを食らう攻撃の種類をある程度絞り込める」だけでも十分ありがたいのです。
そういうわけなので、メア様とは早めにお知り合いになって絆を深めておきます。
それでは、早速レア様を探しにイクゾー!
デッデッデデデデ!(カーン)
教室を出たらまずは隣の教室へ!
イベント同様、学校におけるネームドキャラが所属しているクラスもランダムなので、とにかく見つかるまで同学年の他の教室を1クラスずつ片っ端から調べていきます。
たのもーう!
……いない!
よし次!
ちわー。ノン気ちゃんでーす!
うん。次だ!
ハロー!
そして、グッバイ!
エミリア様~♪
――いないぞ(怒)。
オラァ!
出てこいやファミリア!
だから出てこいって言ってるダルォ!?
お、おかしい……普通なら2、3回目で見つかるはずなのに……
5回連続でいないなんて……
――も、もしかしてアレか?
昼休みは教室じゃなくて別の場所で昼飯食ってるのかファミリーマート様?
1年前スタートならすでにまなか先生とは知り合っているから、彼女のいる中等部の校舎のほうに行っているとか?
それとも学年が1つ上である魔性の女もとい麻友のところにいるのか?
「ちょっと……」
や、やべえ……
このまま残りの教室にもいなかったらどうしよう……?
「ちょっとそこのあなた」
――ん?
なんか乃彩ちゃんの背後から声がしたような……
「あなた、聞こえてますの!?」
ファッ!?
突然後ろから誰かに腕掴まれたんですけど!?
だ、誰ですか!? 乃彩ちゃんまだなにも悪いことも奇行もしていませんよ!?
「先ほどからそんなところに立たれていたら私が教室の外に出られないじゃないの!
どいてくださらない!?」
…………
……
ベア様いたああああああああああっ!
いました! いましたよギア様!
というか、向こうから現れてくださりましたよ!
――って、気がついたら乃彩ちゃん次の教室の前に来ていました。
どうやらこちらがリス様を発見できずに悩んでいる間に移動していたようです。
それで、中に入らず扉の前でなにもせずに突っ立っていたために、ちょうど教室から廊下に出ようとしたリラ様の進路を妨害してしまっていたと……
てへっ♪
うっかりしちゃったZE☆
でもこうしてレラ様は見つかったから結果オーライだな!
――ん?
でもこれちょっとマズくないですかね?
ご存知のとおりレミリア様は、その契約時の願いにより神浜市中にその名が知れ渡っている――ただし固有魔法の副作用で結構間違われている――超絶美少女かつ学園のアイドル、おまけにファッションモデルです。
すなわち、この水名女学園におけるスクールカーストの最上位クラスに君臨する存在ということになります。
ギャー様本人にはまったくその気はないとしても、周りの者たちがそう定義してしまえば彼女は勝手にそう位置づけられてしまうのです。それだけ彼女の美貌はパネェんですよ!
――で、そんなウェア様に対して現在乃彩ちゃんのしていることは、明らかに第三者から見れば敵対行為!
奴隷が王様にたてついているような光景にしか見えません!
……現にちょっと周りを見てみると、モブの生徒たちから負の感情が込められた視線が乃彩ちゃんに対して飛んできてきております。
やべえよ……やべえよ……
こ、このままでは乃彩ちゃんはスクールカーストの最底辺に位置づけられ、クズ共を文字どおりわからせる手間が――もとい、学園生活で余計なガバが生じてしまう可能性が出てきてしまう……!
すぐさまリカバリーを試みます!
お前ら、見とけよ見とけよ~。
オォウ、ソーリー。悪気があったわけじゃないんDAZE、マドモアゼル。
アイアム切江乃彩。コールミー「ノン気」。
ワッツユアネーム?
……阿見莉愛?
ふぁ~、良い名前ですね~!
「アミリア」って全部まとめてファーストネームっぽいところとか特に良いっす!
いや~、実は今日転校してきたばかりなんすよ~。
そんなわけだから仲良くしようぜ
シェイクハンドしようシェイクハンド! 握手! オーケイ?
オォウ、サンキュー!
これでユーとミーはフレンドよ!
よろしくお願いさしすせそ!
あ。よく見るとすっげえお綺麗ですね!
この左手の指輪とかもめっちゃハイカラでイカしてますな~!
――じゃ、そういうことで!(脱兎)
「えっ……?
ちょ、ちょっと! 待ちなさい!」
いやぁ、我ながら実に見事なリカバリーでしたね!
まさにパーフェクトコミュニケーション! 完璧だったぜ!
さて、まだ昼休みの残り時間には若干の余裕があるので、今後に備えてアイテムの補充でもしておきましょうか。
一度校舎から校庭――外に出ます。
そして校舎裏にある裏門へと向かい、その近くにある職員用の駐車場へ最短最速、一直線でGO!
――はい。到着しました。
なぜここに来たかと申しますと、この駐車場の隅っこ――ここですね。
見てのとおりここに古ぼけた自動販売機が一台設置されているわけですが、ここで売られている飲み物を購入するためです。
この自販機では他の商店や自販機では購入できないレアな回復アイテムが安値で購入できます。
ただし、中には使用するとデメリットが生じるものもあるため、ここで購入するのは実質ひとつだけです。
――『カフェシャキーンZ』。
こいつですね。
このアイテムの効果は「HP・SPを10回復する」という平凡なものなのですが、先に述べたとおりここでしか購入できず、なおかつコスパが非常に良いのです!
この効果で値段がなんと1つ100円!
他の自販機で売っている飲み物が値段100円~130円で、その効果が「HPを10回復する」か「SPを5回復する」のいずれかだと説明すれば、これがどれだけすごいことかわかると思います!
これ、制作スタッフによってさり気なく用意された救済措置のひとつかもしれませんね。初見プレイではまず目に留まらない場所にあるところも実にらしいですし……
というわけで、早速こいつを買えるだけ買っておきます。
しかし、今後のことも考えてさすがに有り金全部つぎ込むというのは危険かもしれませんので、ここは10――いや、20個買っておきましょう。
現段階でこれだけあれば仮にペルソナ覚醒前に魔女や使い魔に襲われることになってもなんとかなるはずです。逃げるだけですからね。
では、予定どおり20個購入しましたので教室に戻りましょう。
時間にはまだ余裕がありますが、戻る途中でネームドキャラとの遭遇など何らかのイベントが発生する可能性もありますし、欲出して校舎のあちこちを歩き回っていたらゆきかとエンカウントしていきなりチャート崩壊とかしたくないしね(1敗)。
――って、なんかいきなり乃彩ちゃん倒れたんですけどぉ!?
なにがあったぁ!?
急いでステータスを確認しますが……ダメージや異常などはありませんね。
本当にただ倒れた――というよりコケただけみたいです。お前、一応主人公なんだから人騒がせなことするな!
……ん?
なんか乃彩ちゃんの前で光っているものが落ちて――あ。浮いた。
…………
……
クォレハ……
もしかして……もしかすると……
目の前で浮き上がっているもの――猫のキーホルダーの周囲を探ってみましょう。
――うん。なにかいますね。
……ハハッ。
こ゛ん゛な゛と゛こ゛ろ゛で゛あ゛え゛る゛と゛は゛お゛も゛わ゛な゛か゛っ゛た゛よ゛さ゛な゛ち゛ゃ゛ん゛!゛
な、なんという幸運でしょう!
ガァ様に次いで、非魔法少女スタートだとまず出会えないとされるさなちゃんとこんな最序盤にエンカウントしてしまいました!
えー、今さら視聴者の皆さんの中で「さなちゃんって誰や?」なんて言う人はいないと思いますが、一応解説を。
さなちゃんこと『
彼女の姿と声、さらには気配を感知できるのは、このゲームでは魔法少女と悪魔のみで、ただの人間はまったく彼女の存在を見ることも知ることもできません。
また、悪魔と契約している悪魔召喚師やペルソナを覚醒させたペルソナ使いも彼女の気配こそ感じられますが、姿と声だけはどれだけ頑張っても認知できなかったりします。
人修羅やベル神となった者は人間でもあり悪魔でもあるので姿や声も感知でき、普通に会話も可能です。
一応ゲーム中では人間でもさなちゃんの姿や声がわかるようになる方法はあるのはあるのですが、結構回りくどいチャートを巡っていく必要があるため、RTAではほとんど行われません。
今回のチャレンジでも今のところそのチャートを巡る予定は(タァイムを圧倒的にロスすることになるので)ないです。
そんなさなちゃんですが、魔法少女としての固有武装が盾であるとおり、本作の魔法少女の中でも屈指のタンクもとい壁要因です。
それも、固有魔法の『透明化』のおかげで敵にタゲられにくいという特性を利用した「削り訳も兼任するタンク」という敵に回すとかなりいやらしい存在だったりします。
ビャー様の『隠蔽』との差別化として「透明化している間は敵から受けるダメージが一定量カットされる」という効果もあるので、とにかく戦闘中は死ににくいことも特徴です。
こうした理由から、ある程度レベルと能力値が上がるまでは主人公はチキン戦法が主体となる難易度「MANIACS」においては、レア様と並んで序盤から優先的に仲間にしたい魔法少女の1人として候補に挙がります。
いやぁ、そのさなちゃんがどうしてこんなところにいるのか理由はわかりませんが、とにかく出会えたのは本当にラッキーです。
ペルソナ使いルートなので姿が見えたり――戦闘中はシステムの仕様上、プレイヤーには半透明で姿が見えますが――会話をすることこそできませんが、ここで出会ったことで以降「透明人間の存在」を他キャラとの会話で話題にすることができます。
さなちゃんも鶴乃ちゃん同様、本編のストーリーにおいて重要な局面が存在するキャラなので、予め彼女の存在を知っておくことで後々原作どおりウワサに引きこもってしまった場合も、やちよさんたちに情報を提供してタイムの短縮を狙うことが可能となるため、走者的にうまあじです。
また、運よく信頼度を本編のストーリー上のイベント発生前までにある程度上げておくことができれば、これまた鶴乃同様マギウスの翼に洗脳されることもなくなるので、やはりタイムを短縮できます。
原作だと洗脳されてもみふゆさんがすぐに解いてくれるため大してタイムロスにはなりませんが、このゲームだと難易度「HARD」以上だと洗脳が解かれず最後まで敵のままなんてこともありますので、過信してはいけません(2敗)。
――というわけなので、今回はこの幸運を最大限に利用し、さなちゃんからの信頼度アップを試みます。
先述のとおりペルソナ使いルートだと彼女の姿と声がわからないのでうまくいくかはわかりませんが、やらずに後悔するよりもやって後悔したほうが良いに決まっているので、早速コミュニケーション開始です!
……ん? どうしたさなちゃん?
さっきから宙に浮いているもとい君が手にしているキーホルダーをこっちに押し付けてきて……
あ。もしかして、それって乃彩ちゃんのやつなのか?
あー、いいよいいよ。それお前にやるやる。
ぶつかっちゃったお詫びだと思って受け取ってくれや!
たぶん持っていても大した効果はないアクセサリー系の装備アイテムだろうしな!
HAHAHA! 躊躇わなくていいんだZE!?
乃彩ちゃんがやると言っているんだ。遠慮なく受け取りなさい。
――うん。いい子だ。頭をなでなでしてやろう。
本当にここが頭かわからんけど。
よし。昼休みの残り時間のこともあるし、今回はこれくらいでええやろ。
別れ際にさり気なくまた会いたいという旨のメッセージを伝えた後、何事もなかったかのように乃彩ちゃんはクールに去るぜ!
じゃあな! (この時点では間違いなくエンカウントしないだろうけど)アリナ・グレイって女には気をつけろよ!
――はい! 昼休みが終わった直後、一気に時間が飛んで放課後になりました!
今度こそ月夜ちゃんと交流してやるぜ、と意気込んでいましたが、またしても月夜ちゃんは教室にいません……
たぶん部活か習い事でしょうね。本当に月夜ちゃん、魔法少女になる前から多忙な生活送ってますなぁ……
これも絵に描いたような老害ババアである彼女の祖母が原因なんですけど。
まぁ、ババアは月夜ちゃんと月咲ちゃんが魔法少女になったらいつの間にか物語から文字どおりフェードアウトしているどうでもいい存在なので、こちらから干渉する必要はありません。一応やろうと思えばできますが。
さて、月夜ちゃんとコミュりたいけど、肝心の月夜ちゃんがいない。
そんな時はどうすればいいかといいますと――
実は、魔法少女になる前の月夜ちゃんとほぼ確実にエンカウントすることができる場所が水名区内に1箇所存在するのです!(確実とは言っていない)
早速そこへ向かおうと思います!
――ただ、月夜ちゃんとエンカウントできるのは時間帯が夜の時限定なので、魔女や使い魔と遭遇する危険性もあるため注意が必要です。
まぁ、その時は最悪リセットしますが(リセットすること前提でチャートを進行させる走者の屑)。
一応やちよさんには帰りが遅くなりそうだとメールを送り、教室内にあるセーブポイントでセーブも済ませたら――イクゾー!
――で、道中何事もなく到着いたしました。
現在乃彩ちゃんがいるここは、水名区内にあるとある小さな神社でございます。
明槻家の近くにあるこの神社は、夜になると月夜ちゃんが父親から貰った篠笛を吹きに訪れるため、彼女と確実に出会うことができるプレイヤー救済スポットです。
原作メインストーリー開始前のスタートで天音姉妹と関りたい場合は、ここを訪れればほぼ100%月夜ちゃんか月咲ちゃんとエンカウントできます。
先もちょろっと述べたとおり、時期や難易度によっては天音姉妹がすでに魔法少女となっているため出会えない場合があるので、“
現在の時刻ですが、まだ夕方なので当然境内に月夜ちゃんの姿はありません。
また、時間も時間なうえに本当に小さい神社なので他に参拝者もいるはずがなく、今境内に足を踏み入れているのは乃彩ちゃんただ1人です。
とはいえ、何らかのガバが発生する可能性もあるため「じゃあ夜になるまでどこかで時間を潰すか~」というわけにもいきません。ここは境内を軽く散策して夜になるまで待つことにします。
夜になればその瞬間月夜ちゃんが境内にやって来るので、せいぜい数分の辛抱です。
あっ、そうだ(唐突)。
せっかくだから、暇つぶしも兼ねてメルのタロットカード引いてみますか。
昨日は「塔」だったから、今日はその分良いカードが引けるんじゃないですかね?(フラグ)
――はい! 「星」のカードでした!
オラッ! 誰だよ、フラグだとか言っていた奴は!? 出てこいよ!?
確か「星」のカードはレアアイテムのドロップ率が上昇したり、ネームドキャラとのエンカウント率が上昇したりといった運要素関連でプラスの効果があったはずです。
ここでこれが引けたのは運が良いかもしれません。
いや、今日はここまで運が良かったからこそこのカードが引けたのかな?
ともかく、今日の乃彩ちゃんはツイているようなので、早速境内を色々と探ってみましょう。
まずは近くに生えていた木の根元や周りを軽く調べて――
「わああああああああああーーーーッ!?」
What!?
(ズドォーーーーン!)
…………
……
あ、ありのまま今ゲーム中で起こったことを話すぜ!
俺はアイテムかなにか見つからないかなと乃彩ちゃんに木の根元を調べさせていたら、いきなり木から『
な、なにを言っているのかわからねーと思うが、俺も最初なにが起きたのかわからなかった……
頭がどうにかなりそうだった……
なんでお前がこんなところにいるんだとか、お前は「あち死」する側でさせる側じゃねーだろとか、ツッコミが追いつかねえなんてレベルじゃねえ……
難易度「MANIACS」の恐ろしい理不尽さの一片を味わったぜ……
ど゛う゛し゛て゛こ゛う゛な゛る゛ん゛だ゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!゛
ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!゛
――というわけで、今回はここまでです。
ご視聴ありがとうございました。
◆
「切江乃彩さんね。
私はあなたのクラスの担任の
担当教科は現代文だから、ホームルーム以外でも顔を合わせることが結構あると思うからよろしくね?」
「はい。よろしくお願いします」
――職員室で出会った担当教師の第一印象はまさに「普通」だった。
見た目も名前も、そして雰囲気も、いかにも平凡な女性教師というイメージがする。
「――あら?
お母さんは神浜市の出身なのね」
「母方の祖父母と母がそうだと聞いています。
詳しい出身地などは聞いたことがないのでわかりませんが……」
「ふぅん……」
手にした資料――おそらく私のこれまでの学歴や家族のことなどが書かれているのだろう――を左に右にといった具合に山田先生は目を通していく。
――事前に目を通していなかったのだろうか?
「あ……ごめんね?
なにぶん私のクラスに切江さんが割り当てられたのが本当に突然のことだったから、詳細までは調べていなくって……」
思っていたことが顔に出ていたのか、山田先生は私と目が合った瞬間そう言って軽く頭を下げてきた。
そちらの事情なんて別にどうでもいいので、謝られる必要もないのだが……
……?
ふと、周囲から視線を感じたので、チラリとそちらのほうへと目を向ける。
――他の教師たちが老若男女問わず私に対して奇妙な目を向けていた。
それも明らかに普通の目ではない。
なにか腫れ物でも見つけたかのような――そんな目だった。
人数はだいたい7、8人といったところだろうか?
――突然の転校だったこともあり、私が思っていた以上に学園側もバタバタしていたのかもしれない。
その元凶である私に対して文句のひとつやふたつも言ってやりたい――といったところか?
まぁ、繰り返すが私にはそちらの事情など関係ないので別にどうでもいい。
「やぁ、君が噂の転校生かな?」
山田先生に言われて職員室を出て先に教室へ向かおうとしたところで、ふいに声をかけられた。
今度はなんだ、と思いつつ振り返ってみると、そこには明らかに日本人離れした長く伸ばされた金髪に白い肌をしたスーツ姿の女が立っていた。
「突然失礼……
私の名前は才羽瑠依。この学園で教師をしているものだ」
サイバと名乗ったの女――名前からして見た目に反して一応日本人らしい――は、そう言いながら私に近づくと、まるで珍しいものでも見るように私の体のあちらこちらに目を向けてきた。
――正直、不快だ。
こうしてじろじろと見られていることにではなく、理由はよくわからないが私はこの女に近づいてはいけない気がした。勘というやつだろう。
「すいません……教室に行かなければならないので……」
そう言って私は才羽から離れようとしたが、なぜか彼女は私の隣を並んで歩きながら私に話しかけてきた。
「ああ、これは失礼。別に悪気とかがあったわけじゃないんだ。
ただ……ちょっと君にひとつふたつ聞いておきたいことがあってね……」
「はぁ……?」
思わずまた才羽のほうに目を向けてしまった。
なんなのだろう、この女は?
「切江乃彩――君は、“決められたルールの中で生きる”か“自らの手でゼロから道を切り開いて生きていく”かの二者択一を迫られた場合、どちらを選ぶ?
“安定した生涯を送ることが約束されるが、そこに君自身の意思はない窮屈な人生”と、“無限に等しい可能性が秘められているが、力がなければなにも成せずに終わってしまう人生”――
そのどちらかを選択しなければならない状況に陥ってしまったら……君ならどうする?」
「……なにを言っているんですか?
いや……いったいなにが言いたいんですか……?」
「なに、未来ある若者に対する一教師のちょっとした興味本位による問いかけだよ。
別にどちらが正解で、どちらが間違いというわけでもない……」
才羽はそう言いながら私の顔をのぞき込み、その口を僅かばかりだがニヤリと歪めた。
――私にはその顔がさながら蛇のように見えた。
「――もし“どちらも選ぶことができない”というのなら、私が少しばかり力を貸してあげよう。
ああ、別に見返りなんかは求めていないさ。
しいて言うなら、君がこれからなにを成していき、どのような結果をもたらすのか――それを見せてもらえればいい」
耳元でそう呟きながら、才羽は私に“なにか”を手渡そうとしたが、私は彼女から後ずさるように――いや、実際は本当に後ずさった――数歩分距離を空けてはっきりと言った。
「――ごめんなさい。
まだ進路とか将来のこととか、そういうことはまったく考えていないので、その質問には今はお答えできません。
まずは今の自分の力でどこまでできて、どこまでいけるのか――それをはっきりさせてから改めて考えてみようと思います」
――正直、自分でもここまではっきりと他人に自らが思っていることを口にしたことは初めてだったかもしれない。
いや、そもそも私はこんな堂々とした発言ができた人間だっただろうか?
私のその言葉を聞いた才羽は、数秒ほどキョトンとした顔を私に向けていたが、すぐさま先ほどまでと同じどこか不快感を与える笑みを浮かべて再び口を開いた。
「ああ……それでいい。今はそれで構わないとも。
君のその意思を尊重しよう、切江乃彩。
正直に言わせてもらうと、私は君のような人間が大好きなんだ」
――なぜかわからないが、才羽はどこか嬉しそうだ。
「いやはや……これで私が望んだ道に進むことはなくなったが、どうやら退屈することはしなくて済みそうだ。
「……進路指導でしたら、必要となったらこちらから改めてお尋ねさせていただきます。
では……ホームルームが始まってしまいますので、これで失礼します……」
そう言って私はなにかぶつぶつとつぶやいていた才羽に対して一礼した後、きびすを返して教室へと向かって歩き始めた。
――今度は才羽はついてこなかった。
「私はこれ以上は口出しも手出しもしない。自らの意思に従い、選び、そして責任を果たしたまえ」
「だが、せっかくだ。お節介ながらも最後にひとつ君に助言させてもらうとしよう」
「いまだに虚ろではあるが、君は私が思っていた以上に“心”を有していた――
もし機会があれば、一度己の内――己の奥底を覗いてみるといい。
そこにあるのが常闇に通ずる深淵でなければ、君はきっと君自身も知り得なかった“何者か”になることができるだろうさ」
――教室に通じる廊下を1人歩いていた時、才羽のそんな声が背後から聞こえたような気がした。
◆
「ど、どうしよう……」
今あちしの目の前にはこの地区の学校――着ている制服的に『水名女学園』とかいう名前の学校だった気がする――の生徒がうつ伏せで倒れている。
うつ伏せなのでその顔や表情はわからないが、その体はピクリとも動かないところからして非常にヤバい状態だっていうのはさすがのあちしでもわかる。
――あちしたちが神浜市に戻ってきたのとほぼ同時期に、市内では奇妙な噂が広まり始めた。
「人知れず街の住民が誰かに襲われている」とか、「襲われた人は死んだように眠ったまま目を覚まさない」とか、そんな噂だ。
その程度ならただの噂で聞き流していたけれど、その中に「住民を襲っているのは市外から来た存在」とか「その犯人は人ではなく悪魔」とか「犯人の正体は人の姿をした悪魔」なんてものまで流れているとなると話は別。
噂になっている事件が本当に起きているのかはともかく、仮に噂どおりだとすれば、犯人は魔女――もしくはあちしたちと同じ魔法少女ということになる。
そして、その容疑者として白羽の矢――で、あってるよね?――が立てられてしまうのは、噂が広まり始めたのとほぼ同時期に神浜市に戻ってきたあちしたちだ。
このはと葉月が言うには、この神浜市はもともと大勢の魔法少女が暮らしている街らしい。
おまけに、自分たちの狩り場――テリトリーに対する意識が他の都市の魔法少女たちよりも敏感で、ひとたび市内のどこかで魔女や魔法少女絡みの事件が起こると、主要な魔法少女のほぼ全員がそれを解決しようと動くんだとか。
――つまり、下手をするとあちしたちは神浜市に住むすべての魔法少女から「敵」と認識される可能性があるということだ。
当然それは困る。
完全に無実だし、なによりあちしたちは神浜に戻ってきてからはまだろくに魔女や使い魔とも戦っていないんだから。
このままだと魔法少女としてろくに活動することもできなくなって、いずれ手持ちのグリーフシードが底を尽いちゃう。
グリーフシードがなくなったせいで「魔法少女だけど魔法は使えません」なんてことになったら――想像するだけでもめちゃくちゃカッコ悪い!
葉月も以前「魔力がゼロになったらヤバい」とかそんなこと言っていた気がするし、ソウルジェムは常にピカピカにしておいたほうがいいに決まっている! 綺麗だし!
そんなわけなので、あちしは葉月と2人で街に広まっている噂について調べてみることにした。
――このはは「余計な行動をしたらかえってこちらが怪しまれるからやめたほうがいい」と言っていたけど、「自分たちの身の潔白を証明できる証拠が見つかるかもしれない」という葉月の言葉に押される形でしぶしぶではあるけど許してくれた。
ただ、「他の魔法少女と会うのはダメ」と言われた。そうすることでかえってあちしたちが他の魔法少女たちから怪しまれるかもしれないから、だそうだ。
ともかく、こうしてあちしたちの噂調査は始まった。
最初はあちしたちが暮らしている参京区内で調べてみたけれど、手がかりはゼロ。
噂こそ耳にすることはあるけれど、それの詳細な内容まではこれまで同様わからず仕舞いだった。
そこで、今度はお隣の水名区で調べてみることになった。
――でも、こっちでも有力な情報はまったくもって見つからない。
今日も最初は葉月と2人で調査を行っていたけれど、今までどおりなんの手がかりも掴めなかった。
さすがに半月以上もこのようなことを続けてくると飽きてくる。
だから途中で葉月から許可をもらったあちしは、1人水名区内をぶらぶらしながら遊ぶことにした。
――そして偶然見かけた小さな神社に足を踏み入れて、そこに植えてあったでっかい木になんとなく登ってみた結果、足を滑らせて転落して今に至る。
まさかあちし以外にも人が――それもあちしが登っていた木の根元かつ落下した先にいたなんて……!
「ほ、本当にどうしよう……!
誰かに助けを――いや、こういう時は救急車を呼んだほうが……!
あ、ああ、でも、そんなことしたら、葉月やこのはにも迷惑をかけちゃうかも……!
ただでさえこのはには“怪しまれるようなことはしちゃダメ”って言われていたのに……!」
――ああ、こういう時は本当にどうすればいいの!?
自分でもわかるくらい頭の中がぐるぐるしてきて混乱してる!
『あ、あやめ、なにかあったの!?』
『――!』
――と、ここで葉月から念話が飛んできた。
どうやら混乱のあまり周囲へ念話をダダ洩れさせていたのかもしれない。
葉月から返事が来たということは、葉月は今あちしのいるこの神社の近くにいるということ!
よかった……葉月が来てくれるならたぶんなんとかなる――!
『は、葉月ーーッ! どうしよう!
あちし、人を殺しちゃった!』
『はあっ!?』
「う……」
――念話で葉月の驚きの声が返ってきたのと、目の前で倒れている人がかすかにうめき声をあげてピクリとその指先を少しだけ動かしたのはほぼ同時だった。
今年のジャパンカップが楽しみなので失踪します。
ちなみに本命はコントレイルです。
■TIPS
●切江 乃彩
突然落ちてきたあちしによって「あち死」して今走最初のパト――と、思いきや生きていた。
リアル『食いしばり』発動。死ななきゃ安い。
●
ご存知、ぽんこつピーヒョロ姉妹の姉のほう。原作では天音姓。
魔法少女になる前は老害ババアに苦しめられ、魔法少女になった後は所属した組織のパワハラ上司に苦しめられる可哀想な子。
原作における水名区が抱えている「闇」の被害者の1人なのは間違いない。
●
ドア様。契約時の願いにより天然物美少女に生まれ変わったが、それによる過去改編の代償で「魔法少女からは名前を間違われやすい」というデバフが付いた。
常日頃からお嬢様ムーブをしているけど、根は努力家かつめちゃくちゃいい子。水名女学園の良心その1。
――でもそれ以上にネタキャラとしての印象が強すぎる。それがアマリリス様なのだ。
●
謎の女教師(笑)。もはや説明不要だが、今走における閣下。たぶんCVは某17歳。
ペルソナルートでは完全に傍観者に徹することになるので、以降はほぼ出番なし確定。
なお、ペルソナルートでも条件さえ満たせば隠しボスとして戦うことが可能だが、RTAでは当然そんなことをしている暇はない。
●
透明人間さん。魔境神浜における親に恵まれなかった子供その2。
家は勝ち組人生を歩んできたがゆえに「優秀な者以外は認めない」というバリバリ「ヨスガ」な思想の家庭。
その影響もあってか、原作では初登場の時点で結構「ムスビ」っていた。
後付けゆえに仕方ないこととはいえ、この子から「居場所」と認定されていなかったまなか先生は泣いていいと思う。
このチャレンジにおける彼女は、はたしてどうなってしまうのやら……
●
いわゆる「アザレア組」の末っ子兼マスコット担当。「
原作のイベントのBAD ENDではかなり投げやりな扱いをされて死ぬ。通称「あち死」。あやめーーーーっ!(by このは)
なぜか水名区にいたうえに、突然乃彩ちゃんの上に落ちてきた。新ジャンル「逆あち死」(死んでないけど)。あやめーーーーっ!(by 走者)
本人が木から落ちても怪我ひとつしていなかったのは、魔法少女であることに加えて、固有魔法の『無敵化』によるもの。
●
乃彩ちゃんたちのクラスの担任教師。担当教科は現代文。
名前も外見も存在感もすべてのおいて平凡で普通な人。普通・オブ・普通。
おそらく今後出番はない。名前を貰えただけ他のモブキャラたちよりはマシってレベル。
●昏睡事件
作中の神浜市で噂になっている事件。神浜市の住民が何者かに襲われ、昏睡状態に陥ってしまうというもの。
――しかし、噂になっているだけで実際に発生しているのかどうかは不明。
色々と尾ひれがついて噂だけがひとり歩きしており、「犯人は市外から来た」といったもののほか、「悪魔の仕業」など明らかにおかしなものまで広まっている。
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Part4 An Encounter
2021年最初の投稿なので初投稿です。
「死ななきゃ安い」を地で行くRTA、はーじまーるよー。
え~……その……
前回は突然落ちてきたあちしに「あち死」されて終わった――と、思ったのですが、乃彩ちゃんイゴってませんでした!
まさかのリアル『食いしばり』発動でギリギリHP残ってましたよ! やったぜ!
というわけで、実は気絶しただけだった乃彩ちゃんが目を覚ますところからスタートです!
イクゾー!
デッデッデデデデ!(カーン)
クォクォア……どこかの家の中のようですね。誰のお宅でしょうか?
「あっ! 起きたー!」
「はあぁ~……よかった~……
最初あやめがいきなり“人殺しちゃった”なんて言ってきた時はどうしようかと……」
目を覚ますと同時に目の前にあちしこと『三栗 あやめ』と『
――ん? 葉月? なんで葉月までいるんでしょう?
あやめが呼び出したのかな?
それとも、この家は今走におけるアザレア組のお宅だったりとか……?
え~……今回も一応軽くご説明いたします。
あやめと葉月の2人は原作メインストーリー前の時系列にあたるアザレアイベントことイベント『そしてアザレアの花咲く』のシナリオにおいてメインキャラクターとなる3人の魔法少女のうちの2人です。
この2人と最後の1人『
まぁ、厳密には「チーム」というより「家族」なんですが、そのあたりの詳細や葉月たちの魔法少女としての能力に関してはアザレアイベントが始まった時か必要になった時に改めてご説明します。
「失礼しま――あっ!?
き、切江さん、お体のほうは大丈夫でございますか!?」
アルェー?
なんか月夜ちゃんまでいるんですけど? どういうこっちゃ?
ぶっちゃけ原作における繋がりはまったくない組み合わせなんですが?
――なるほど。
3人から軽く話を聞いたところによると、乃彩ちゃんがあやめに「逆あち死(未遂)」された後、あやめが近くにいた葉月を呼んで魔法で乃彩ちゃんに治療を施し、その直後に月夜ちゃんが神社を訪れて葉月たちと出会ったために今に至ると。
そんでもって、現在乃彩ちゃんたちがいるのは神社の近くにある明槻家――つまり月夜ちゃんの実家だそうです。
……うん。なんだこの展開?
月夜ちゃんがキュゥべえと出会って契約することはおろか、月咲ちゃんの存在を知るよりも前に魔法少女と関わりを持ってしまったんですが?
いや、葉月もあやめも魔法少女や魔法の存在は隠しているので、乃彩ちゃんも月夜ちゃんも魔法少女のことは一切知りませんけど……
――待て。これ下手したら後々とんでもないガバを呼び込むフラグにならないか?
最悪アザレア組がマギウスの翼に参加しちゃったり、洗脳されて無理矢理黒羽根にされてしまう可能性もあり得なくはないぞ?
……やべえ。
そうなると、これ以上乃彩ちゃんがここにいる――月夜ちゃんと葉月たちを関わらせるのは危険だ。
難易度「MANIACS」で走っている以上、些細なきっかけでチャートどころかRTA自体が崩壊することだけは避けなければ……!
おう月夜ちゃん、起きて早々悪いが、乃彩ちゃんはこれで失礼するゾー?
「ええっ!? だ、大丈夫なのでございますか!?
もう少し休んでいかれたほうが……!」
「う、うん! そうだよ!
怪我こそしていなかったとはいえ……!」
平気へーき!
ステータス画面見たけど、HPは最大値まで回復しているし、なんのバッドステータスも付いてないから問題ないぜ!(メメタァ!)
……というか葉月、早くも月夜ちゃんに馴染んでないかい?
そのコミュ力の高さはアザレアイベント始まってからは本当にありがたいけど、今はガバを呼び込む厄介なスキルにしか感じられないんだよなぁ……
それに、あまりここに長居していると余計なイベントまで起きてしまいそうだしね。
主にババアとかBBAとか婆とか……
というわけで、お邪魔しましたー!
月夜ちゃん明日また学校でな!
――さて、外はすっかり夕方から夜になっております。
急いで水名区の駅に向かい、電車で新西区まで帰りましょう。
一応神社に行く前に連絡はしておいたとはいえ、あまり帰りが遅過ぎたらやちよさんに心配されてしまいます。
ただでさえメルが魔女化した直後で参っちゃっている状態ですからね。あまり精神的な負担をかけさせたくはありません。
ちなみに葉月とあやめも乃彩ちゃんと同行して駅に向かっております。
乃彩ちゃんが明槻家をそそくさと後にした以上、あそこに2人が留まる理由は特にないですからね。
表向きかつ半分は乃彩ちゃんの体を心配して、そして本心と残り半分は乃彩ちゃんが魔女や使い魔に襲われないかを心配しての行動です。いや~、2人とも優しいなぁ。
――なお、駅までの道中で本当に魔女や使い魔が現れた場合、走者は2人を見捨てて逃げる気満々の模様(人間の屑)。
いちいち戦闘終わるまで待っていたらタイムロスになっちゃうからね。仕方ないね。
「――えっ?
それじゃあ乃彩さんも最近神浜に来たばっかりなんですか?」
現在は葉月とお互いの簡単な身の上話をしながら歩いている最中です。
さすがに『つつじの家』のことやこのはのことを聞きだすことなどはできませんが、今のうちにアザレア組に関する情報を手に入れられるだけ手に入れておきましょう。
こうしておけばそう遠くないうちに発生するであろうアザレアイベントにおいて攻略の時間を大幅に短縮できる可能性がありますので。
情報は力。はっきりわかんだね。
――しかし、こうして乃彩ちゃんと並んで歩いていると葉月の背の高さを改めて実感するわ。女子中学生で身長175cmとか普通に成人男性並みやろ……
閑話休題。
葉月との会話に戻りましょう。
おう。乃彩ちゃんは最近どころか昨日神浜に引っ越してきたばかりやぞ。今日でクソレズシティ生活2日目や!
ついでに言っておくとノン気だかんな!
「昨日!? 2日目!?
あ、あの……引っ越してきて早々に暗くなるまで家に帰らないって、ご家族の方に心配されませんか……?
連絡くらいはしたほうがいいんじゃ……」
HAHAHA! 心配ご無用! 下宿先で事実上の一人暮らしDA☆ZE!
一応そこの家主にも事前に連絡済みさ!
――と、そんな感じの返答をしようとしたところで、なんか選択肢が出てきましたね。
1:問題ない
2:そっちこそ家族に心配されない?
3:家族はみんな死んでる
ファッ!?
3番ッ! ちょっと待って3番ッ!
どういうことだクォレハ!? 乃彩ちゃんただの1人暮らしじゃなかったの!?
あれか!? これまで多くの先駆者兄貴たちを苦しめてきたマギレコRTA名物の『主人公の経歴ガバ』のフラグか!?
乃彩ちゃんにもそれが襲いかかるの!?
ああ畜生ッ!
2番を選択すれば絶対にこのはのことを聞きだせると思うけど、3番を選ばなかったら後々とんでもないガバが発生する臭いがプンプンするわ!
ここは3番を選択するしかねえ!
難易度「MANIACS」における経歴ガバとか放っておいたらとんでもない爆弾になる予感しかしねえもん!
「えっ……?」
さすがの葉月やその隣で話を聞いていたあやめも驚いていますね。
わかるよ。俺もすっげえ驚いているもん。
……ふむふむ。
乃彩ちゃんは物覚えのある頃から父親がおらず、母親は10年以上前に事故でお亡くなりになっているそうです。
その後、母方の祖母に育てられたけど、その人もついに亡くなって身寄りがなくなってしまった。
みかづき荘に引っ越したのは母や祖母が神浜出身で、かつ祖母がやちよさんのおばあちゃんややちよさんと面識がありそれなりに親しい関係だったことが理由。
現在はそんな母と祖母の遺産を少しずつ食いつぶしつつ生きている――と……
乃彩ちゃん、なんか経歴が結構重かったゾ……(白目)
しかし乃彩ちゃんのおばあちゃん、いったいどんな人だったんでしょうね?
やちよさんややちよさんのおばあちゃんと面識があるってことは、生前はそれなりに神浜にも足を運んでいたってことでしょうし……
個人的には詳細一切不明の父親も気にはなりますが――こちらは回収されずに以降は完全にスルーされそうではありますね。
さすがに「実は父親は閣下でした!」なんていうまさかのデビルチルドレンルート突入とかになったりはない――よな?(一抹の不安)
あのルート突入しちゃうとラストはホシガミやジャシンのみならず、まど神やデビほむまで出てくる文字どおりのボスラッシュになるから難易度的にもタイム的にもキツイのよね……
頼むから父親の設定回収されることがあっても閣下がパパではありませんように……!
――おっ?
葉月とあやめが自分たちの経歴もちょっとだけ話してくれました。
乃彩ちゃんが身寄りがないことを知って親近感を抱いたのかもしれません。
ちょっとだけこのはのことも話してくれましたね。さすがに名前までは教えてくれませんでしたが。
そっかー。お姉ちゃん的立場の子と3人で施設を出て一緒に暮らし始めたんだー。そっちも大変そうだねー。
あっ、そうだ(唐突)。せっかくだから連絡先交換しないかい?
お互い今後またなにかあったら相談なり助け合えるかもしれないし~……
OK?
やったぜ。
もしよかったら今度お姉ちゃんのことも紹介してな~。
まあ、今のこのはは自分と葉月たち以外の存在には壁作っているから仲良くなるのは無理だろうけど……
いやぁ、こんな早々にアザレア組と関りが持てるとは、まさに禍を転じてなんとやらですね。
うまくいけばこのはのみならず、アザレアイベント中に彼女たちを通じてフェリシアやかこ、さらには組長ことななかと関りが持てるかもしれません。
純粋にストーリーを攻略していくのみならず、コミュをこなしていくためにも交友関係を広げていくことは重要ですからね。
その後、無事に水名区の駅に到着して葉月とあやめとはここでお別れとなりました。
じゃあな! 更紗帆奈って奴に気をつけろよ! アザレアイベントで狙われるのはこのはだから2人に今言っても意味ないけどな!
はい。電車に乗って新西区の新西中央駅に到着です。
ここまで来ればもうみかづき荘まではそう遠くないので、今日も魔女や使い魔に襲われるようなことはなく1日を終えられそうですね。
――って、なんでまだ真夜中じゃないのに駅の構内がこんなに真っ暗で人っ子1人いないんですかね?
おまけに改札口を出る前に目立つようにセーブポイントがあるんですが……
…………
……
あっ……(察し)
うん。これぜってー固定エンカウントだわ。
改札口出た瞬間、使い魔か魔女が出てくるやつだわ。
メガテンのお約束だわ。
状況的にすでにイベントは発生していると思われるので、もう一度電車に乗って回避もといエンカウントする前から逃げるという手段は使えないでしょうし……これは進む以外選択肢はないですよねえ……
それにこれRTAだからね、このまま考えている時間的余裕はないからしょうがないね(諦め)。
というわけで、セーブして早速改札を出ます。
オラオラこいよオラァ!(半ばヤケクソ)
『やあ、切江乃彩。待っていたよ』
ファッ!?
魔女や使い魔ではなく、出てきたのはキュゥべえ!?
待て! なんでお前がここで現れる!? 敵どこよ敵は!?
いや、こいつも十分人間からすれば敵なんですが……
『一応“はじめまして”と言っておくべきなのかな?
こうして君と面と向かって話し合うのは初めてなわけだし……』
『ボクの名前はキュゥべえ!
切江乃彩、ボクと契約して魔法少女になってほしいんだ!』
やだよ(即答)。
これ魔法少女化禁止縛りなんで悪いけど諦めてください。他の走者を当たってくれ。
『契約しないと君の身が危ないよ?』
白い奴をスルーして駅を出ようとしたところ、そんな言葉を背後から投げかけられたうえにいきなり奇妙な場所にワープしました。
あ……魔女の結界だわここ。
Fuck!
キュゥべえ、お前結界があるとわかったうえで待ち構えてやがったな!
ホンマ悪質営業マンやなお前!
『乃彩、願い事を決めるんだ!』
うるせえ! ねえよそんなもん!
レギュレーションでお前との契約は禁止にしてるって言ってるダルォォォォ!?
それとも「お前を消す方法」とでも願ってほしいんか!?
白い奴は無視してとにかくダッシュで移動します。
ボーっとしていたら使い魔や魔女が出てきて間違いなく即ヌッコロされますからね。
ペルソナを覚醒させていない今の乃彩ちゃんは雑魚・オブ・雑魚なんてレベルではありません。それ以下です。
魔女の攻撃なんて一発でもモロに受けたら即イゴります。なんの力もない一般人なんてモブ同然だからね。仕方ないね。
一応、ペルソナ未覚醒だったり、魔法少女ではない人間キャラは破魔属性が無効なのですが、そんなもの宝の持ち腐れです。
ちなみにこのゲーム、難易度が「HARD」以上だと魔女の結界は自動生成ダンジョンと化し、内部の構造が完全ランダムとなります。
そのため、とにかく逃げたい場合は魔女や使い魔とのエンカウントを避けながら自力で出口を見つけるしかありません。
マギレコなのに気分はメタルギアです。ダンボール箱が欲しくなるな……
現状ですが、結界内に魔女はおろか使い魔の姿もまったく見当たりません。
まあ、難易度「MANIACS」とはいえ固定エンカウントで事実上イベント戦闘ですから、最初はこんなもんでしょう。
もちろん、最後までなにが起きるかわからない以上油断はできませんが。
――って、言っているそばから魔女がPOPしたーーっ!
せめて最初の相手は使い魔程度にしてくれませんかねえ!?
と、とりあえず、目の前に現れた魔女の姿を確認しましょう。
相手によっては逃げられる場合もありますので……
Shin
ハハッ。ワロス。
――って、笑い事じゃねええええええええっ!
アイエエエエ! 子守りの魔女!? 『子守りの魔女』ナンデ!?
こいつ確か原作だとメインストーリー第7章で登場する魔女だろ!? なんでいきなりこいつが出てくるんだよ!?
というか、結界内の道中に使い魔が出てこなかったのもそういうことか!
こいつの使い魔は常に魔女に引っ付いて行動しているからな!
難易度「MANIACS」とはいえプレイヤーを確実に殺しにきすぎだろ、いい加減にしろ!
これもしかして負けイベント!? 負けイベントなのか!?
なんか何度もイゴりそうな予感がするので今回はここまでです。
ご視聴ありがとうございました。
◆
『は、葉月ーーッ! どうしよう!
あちし、人を殺しちゃった!』
――正直、念話であやめのそんな悲鳴を聞いた時は、一瞬だけど思考が完全に停止しちゃったね。
本当になにがあったのって感じだった。
その後、「木から足を滑らせて落ちた先にいた人を押し潰してしまった」と聞いた時は、あたしもさすがに焦ったけど……
大急ぎであやめの魔力を辿り小さな神社へたどり着くと、そこには目に涙を浮かべるあやめと彼女に抱きかかえられている水名女学園の制服を着た女の子がいた。
女の子は背の高さからして、たぶん歳はあたしと同じくらいだと思う。
――あたしは同年代の子よりも身長が頭一つ分くらい高いが。
「は、葉月~……
生きてる……この人まだ生きてるよぉ~……」
「うん。そうみたいだね。
それじゃあ、ここから先はあたしに任せて」
あやめを落ち着かせつつ女の子の身をその場に横たえさせると、あたしは早速自らの固有魔法である『身体スキャン』を使ってその子の体の状態を調べてみることにした。
――女の子に外傷はなく、気を失っているだけのように見える。あやめが魔法で軽く応急処置的な治療を施したのかもしれない。
しかし、体の内側――骨や内臓などに何らかのダメージが残っている可能性はあるため、頭の先から足の先まで、体の隅々までスキャニングを行っていく。
さすがにあたしの家族が原因で見知らぬ人がその体に障害を負ったなんて、想像しだけでも嫌な話だもの。
――幸い女の子は体の内側にもなんの傷も負っていなかった。本当にただ気を失っていただけらしい。
あやめの応急処置が上手くいったのか、当たりどころが悪くなかったのか、この子がもとから丈夫だったのかはわからないけれど、とにかく幸いだ。
(……あれ?)
――だけど、最後にもう一度その子の体を軽くスキャニングした時、あたしは彼女の胸元からほんの一瞬だけ“奇妙なもの”を感じた。
その違和感が生じたのは本当に一瞬だけだったため、それがなんであるのかははっきりとしなかったけれど、どこかそれは魔女退治中、魔女をスキャニングした際に抱く“嫌な感じ”に似ていたような気がした。
……いや、まさかね。
さすがにそれはただの気のせいだろう。
この子はどこからどう見ても人間だし、そもそも人間の姿で外を出歩く魔女なんて聞いたことがない。
「――えっ!?
き、切江さん……!?」
「ん……?」
ふいに背後から声がしたため振り返ってみると、そこには長い髪をポニーテールにした水名女学園の制服姿の女の子が立っていた。
その様子とたった今彼女が口にした言葉から、あたしたちの前で横たえている子の知り合いとみて間違いなさそうだ。
「あなた、この子の知り合い?」
「あ……はい……」
ポニーテールの子――明槻月夜さんから話を聞いてみたところ、横たえた子は切江乃彩さんといって彼女のクラスメイトらしい。
――ついでに言うと、2人とも高校生であたしたちよりも年上だった。現在は1年生とのことなので、このはと同い年ということになる。
月夜さんは時々この時間帯になると、この神社にプライベートで篠笛を吹きに訪れるのだそうだ。
一方、どうして乃彩さんがここにいるのかはわからないとのことだった。
あたしもあやめを交えて、乃彩さんになにが起きたのかを月夜さんに軽く説明する。
もちろん、魔法や魔法少女のこと、さらには魔女や使い魔のことは伏せてだ。
――月夜さんも乃彩さんもキュゥべえと契約した証である指輪もといソウルジェムを身に着けていなかったので、魔法少女ではないと判断した。
「木から落ちた三栗さんの下敷きに……!?
あ、あの……それは本当に大丈夫なんでございますか!?」
……ただ、乃彩さんが気を失っている理由を知って当然の反応をした月夜さんに、魔法抜きで乃彩さんの体がまったく問題ないことを説明するのは少し強引だったかも。
その後、月夜さんの勧めで彼女の家に乃彩さんを運び込むことになり、月夜さんと月夜さんのお母さんの手を借りて無事に乃彩さんを明槻家の一室まで運ぶことができた。
一緒に住んでいるおばあさんが水名の風習にどっぷり浸かった厳格な人らしく、見つかったら大変だなどと言いながらも見ず知らずのあたしたちまで家の中に上がらせてくれた月夜さんたちには正直頭が下がる思いだったね。
――いや、実際にその時下げたよ、頭?
その後、しばらくして乃彩さんは無事に目を覚ましたのだけれど、それからの彼女の行動は正直あたしたちの予想の斜め上をいっていた。
だってさ、目を覚まして少しだけ周囲を軽く見回して現在の状況を確認したと思ったら、いきなり「帰らなきゃ」と呟いてそのまま何も言わずに家を出ようとするんだよ?
なんでそうなる、と思わずツッコまずにはいられないでしょ?
慌てて止めようとしていた月夜さんに対して「大丈夫」と言っていたけど、本当に大丈夫なの体のほうは!?
――で、結局月夜さんの制止の声に耳を傾けることもなく乃彩さんは飛び出すようにそそくさと明槻家を後にして帰路についてしまった。
外はすっかり日が沈みかけ、魔女や使い魔の活動が本格化する夜になろうとしていたこともあり、彼女のことが少しばかり心配だったあたしとあやめは駅まで同行することを提案し了承された。即答で。
――まだ出会って少ししか時間は経っていないけど、なんとなくあたしは乃彩さんという人がわかってきた気がした。
この人は――言い方は悪いことは承知の上で言うが――まるで機械のような人だ。
見た目に反して人間らしさがないというか……一度自分でそうと決めたら、それを実行することを最優先にして他に目を向けようとする気がまったく感じられない。
先に述べた提案の時もあたしたちのほうには目もくれなかったし……
現に、こうして駅に向かって歩きながら、とりあえずなにか話そうと思って他愛のない話を続けているけれど、やはり乃彩さんがあたしたちのほうに目を向けることはなかった。
ちなみに今は、あたしたちが最近神浜市に引っ越してきたばかり――厳密には戻ってきたばかりなんだけど――という話をして、そこから乃彩さんもこちらに引っ越してきたばかりだということを知ったところだ。
「――えっ?
それじゃあ乃彩さんも最近神浜に来たばっかりなんですか?」
「うん。実を言うと、昨日引っ越してきたばかり。
今日で2日目」
「昨日!? 2日目!?」
「うえぇ~!?
それじゃあ、この辺りに来るのは初めてだったんじゃないの!?」
――だけど、さすがに神浜市に来てまだ2日目だったなんて想像できないって。
というか、それならなんであんな神社にいたんだろう?
「あ、あの……引っ越してきて早々に暗くなるまで家に帰らないって、ご家族の方に心配されませんか……?
連絡くらいはしたほうがいいんじゃ……」
「――――」
「あれ? 乃彩さん?」
「ん? どしたの?」
突然今まで隣を黙々と歩き続けていた乃彩さんがピタリと足を止めた。
思わずあたしとあやめが振り返ると、先ほどまでとは違い――本当によく見ないと表情の変化がわからなかったが――少しだけ困ったような表情を浮かべた乃彩さんの顔がそこにはあった。
乃彩さんは数秒ほど何も言わずその場に静止していたが、やがてあたしたちのほうに目を向けると――ここにきてようやく目を合わせてくれたが今は置いておく――ゆっくりと口を開いてこう言った。
「家族はみんな死んでる」
あ……
……
どうやらあたしは知らぬ間に彼女にとっての最大級の地雷を踏み抜いてしまったらしい。
これは完全にあたしの落ち度だ。
「ご、ごめんなさい……!
悪気があって聞いたわけじゃないんだ……!」
「大丈夫。慣れてるから。気にしなくていい」
「そ、そう言われても……」
「せっかくだから――聞いて」
そう言うと、乃彩さんはこちらが返答する間も与えず、淡々とこれまでの自らの
――乃彩さんには物覚えがある頃から父親と呼べる存在がおらず、お母さんは今から10年ほど前に事故で亡くなったのだという。
その後はおばあちゃんと2人で暮らしていたそうだけど、そのおばあちゃんもついに先月亡くなってしまった。
残された親族はお互いのことなどまったく知らない遠縁の人たちばかりだったため、おばあちゃんと生前縁があった人の伝手でこの神浜に引っ越してきて下宿生活を始めたのだそうだ。
そして、乃彩さん自身もお母さんが亡くなった事故が原因で10年前より昔の記憶をまったくと言っていいほど覚えていないとも――
「あの……どうしてそんなことをあたしたちに話したんですか?」
――正直、反応に困る。
同情すればいいのか、それとも哀れめばいいのか――
あたしたちも「家族」と呼べる存在がもう自分たちしか残されていないため、乃彩さんの気持ちもわからなくはないのだけれど……
「そっか~……乃彩もあちしたちとおんなじだったんだな~……」
「え……?」
「あ、あやめ?」
――しかし、あたしと違ってあやめのほうは純粋に、そしてまっすぐ乃彩さんの話を受け止めていたようだ。
「あちしや葉月もお父さんやお母さんいないから」
「――――」
乃彩さんの目がほんの一瞬だけだが見開かれる。
こちらはよく見ていなくてもはっきりとわかった。
「うん……実はそうなんだ……」
――気がつけば、あたしは知らぬ間に口を開いて語り始めていた。
あたしは幼い頃に家族との旅行中に事故に遭い、自分だけが生き残ったこと――
あやめは捨て子で実の両親が誰で、どんな人だったのかも知らないこと――
そして、同じ施設に引き取られてそこで同じような境遇の子たちと一緒に生活していたが、今は訳あってその施設を出てあたしとあやめとこのはの3人で暮らしていること――
とにかく、あたしたちのこれまでのことを大雑把ではあるが、一通り乃彩さんに話した。
さすがに『つつじの家』やこのはの名前こそ出さなかったけれど。
「――どうしてそれをわざわざ私に?」
あたしたちが話し終えた後に乃彩さんが返してきた言葉がそれだった。
――いや、それさっきあたしも乃彩さんに対して同じようなこと言っていたよね?
でも、本当にどうしてあたしたちも自分たちの
「ん~……わかんない!
でも、乃彩の話を聞いていたらはなんか他人のような気がしなかったから、たぶんそれが理由じゃないかな?」
あたしの代わりにあやめが乃彩さんにそう答えた。
こういう時あまり物事を考えないあやめの性格はプラスに働くな、などと思ってしまった自分が少し情けなくなる。
「そう……」
乃彩さんは納得したのか軽く頷くと、手にしていた学生鞄の中から“なにか”を取り出した。
それはケータイ――スマートフォンだった。
「それじゃあ、よかったらお互いの連絡先交換しない?」
「えっ?」
「ふぇっ?」
――あまりの突然の提案に、思わず口から変な声が漏れてしまった。
「え、え~っと……どうして?」
「他人のような気がしないんでしょ?」
多少困惑気味なあやめに対して、乃彩さんが軽く微笑みながらそのように問い返す。
『は、葉月、どうしよう……?』
念話を飛ばしながら、あやめがあたしのほうに目を向けて選択を委ねてきた。
――おそらく、このはからの言いつけを理由に、これにOKしていいのかわからないといったところだろう。
あたしたちの保護者的存在にして姉的存在であるこのはは、これまでの――『つつじの家』での一件から他人に対して「心を開く」とか「心を許す」ということを捨て去ってしまった。
この世界で本当に信頼できる存在はあたしたち3人だけ――それ以外の者たちとは決して関わるな、というのがこのはの弁だ。
――実際にそう言ったわけではないのだが、意味を要約するとそういうことである。
乃彩さんからの提案は、このこのはからの言いつけを破ることになる――
だからあやめは本来の彼女の性格なら二つ返事で承諾することにも躊躇いが生じてしまっている。
「家族」であるこのはのことは大切だけど、目の前にいる乃彩さんを傷つけたくもない――そんなジレンマが今あやめの中で生まれているのだ。
だからあたしは――
「――いいんじゃないかな?」
あやめの背中を押すことを選択した。
――確かに、このはが嫌な顔したりショックを受ける姿はあたしも見たくはないけれど、同時にあやめが苦しむ姿も見たくはないからだ。
「い、いいの……?」
『うん。このはには――まぁ、黙っておけばバレないでしょ』
あたしは苦笑い気味にあやめに対して微笑みながら頷いた。
――結局、あの後あたしも乃彩さんとお互いの連絡先を交換して再び駅に向かって歩き始めた。
そして何事もなく駅に到着し、そこで乃彩さんとはお別れとなってあたしたちはそれぞれの帰路につくこととなった。
「――ねえ、葉月」
「ん?」
その道中、隣を歩いていたあやめが不意に話しかけてきた。
「乃彩はさ……もしかして、居場所がほしいのかな?」
「はい?」
あやめが口にした言葉の意味があたしには一瞬理解できなかった。
「乃彩はお母さんが死んじゃってからずっとおばあちゃんと一緒に暮らしていたんでしょ?
それってさ、あちしたちとは違って“
「あ――」
その言葉にあたしは納得した。
乃彩さんがこれまで歩んできた人生は、あたしたちと似ているけれど厳密には違う――
あの人には「家族」はいたけれど、自らの「孤独」という苦しみを共有できる人が――心を許せる人が今まで誰1人としていなかった。
逆に、あたしたちは『つつじの家』の子たちと互いが互いに無意識にその苦しみを理解して分かち合うことができたし、なおかつ「家族」がいた。
――乃彩さんが家族の話になるまであたしたちに目もくれなかったのは、直感的にあたしたちがそんな「自分とは似て非なる存在」であることを悟っていたからなのだろうか?
だとすれば、あの時そそくさと月夜さんの家を後にしたのも、急いで家に帰ろうとしたのもどこか納得がいく。
もしかしたら、あやめに「自分たちと同じだ」と言われた時、あの人は内心すごく嬉しかったのかもしれない――
「――乃彩があの神社にいたのも、もしかしたら探していたのかもね」
あちしたちにとっての『つつじの家』に当たる居場所を――
あやめのその呟きは、すでに日が沈んで星々が輝いている空に吸い込まれるように消えていった。
乃彩ちゃんのキャラクターデザインをを描いていただけたので失踪します。
■TIPS
●切江 乃彩
この後イゴる(確定事項)。
現実とATLUSゲーの高難易度は非情である。
●明槻 月夜
転校生が転校初日の放課後に自宅近所の神社で気絶していたとか、ミステリー以外の何物でもない。
今後も走者によって引き起こされる乃彩ちゃんの謎ムーブに色々と振り回されることになるのは確定的に明らか。
ちなみに、まだ月咲とは出会っていない。
●三栗 あやめ
物事を深く考えない――というより考えるのが苦手なおかげか、早くも乃彩ちゃんに親近感を抱きつつある。
同時に、かこちゃんと出会う前に乃彩ちゃんと出会ってしまったがために、アザレアイベントの内容が原作とは違ったものになる可能性が濃厚と早くもガバの気配。
なお走者はそのことに気づいていない模様。気づけ。
●
たびたびプレイヤー間で「アザレア組」の真のリーダー説が流れる中学生(身長175cm)。
いきなり一糸まとわぬ姿での胸元ドアップから始まる原作の変身シーンや、その体形はとにかくエロいの一言。
しかし、それ以上に声がエロい。
マギレコRTA界隈では組長と並んで「この子と仲良くしておけば序盤のシナリオ攻略はとりあえずなんとかなる」的な扱いをされている印象。
●キュゥべえ
お馴染み白いあいつ。マスコットという名の外道。
しかし、なんだかんだ言って契約対象の願いは
実際「お前を消す方法」的な願いで契約されたらどうなってしまうのか非常に気になる。
●子守りの魔女
その性質は困窮。
原作では登場時に赤ん坊の声のような音を発するというその外見以上に不気味な演出で知られる。
また、設定とデザインの元ネタを知るとその不気味さが跳ね上がるというオマケ付き。
意外にも使い魔である手下とは壊滅的に仲が悪い。
●イゴる
『P3』と『P4』におけるゲームオーバーおよびその演出の通称。動詞。名詞として用いる場合は単に「イゴ」と表記される。
主人公が死亡する(戦闘不能になる)と画面がベルベットルームに移り、意味深なメッセージが流れてタイトル画面に戻される。
メインの制作スタッフが共通している『真III』のゲームオーバーの通称「パトる」にちなむが、ベルベットルームの主であるイゴールにもちなんでいるダブルミーニング。
なお『P5』のゲームオーバーも基本的に同様の演出だが、諸々の理由から「イゴる」と呼ぶプレイヤーは少ない。
●パトる
『真・女神転生III』のゲームオーバーおよびその演出の通称。動詞。名詞として用いる場合の表記は「パト」。
アニメ『フランダースの犬』のラストにおけるネロとパトラッシュの昇天シーンを彷彿させることからそう呼ばれるようになった。
「ネロる」と呼ばれないのは、たぶん語呂が悪いから。
パーティーの全滅ではなく、主人公である人修羅が死亡した(戦闘不能になった)時点でゲームオーバーとなる仕様や、プレスターンバトルシステムによる些細なミスからでも即死に繋がる戦闘、ATLUSゲー特有の難易度の高さなどの理由からクリアするまでにプレイヤーがこれを拝む機会は非常に多い。
特にノクマニ以降の難易度「HARD」だとチュートリアルにあたる最初のウィルオウィスプやガキとの戦いでいきなりパトることも珍しくない。いや、むしろそれが普通かもしれない。
今日における「メガテンおよび派生作品のゲームオーバー」というと真っ先に挙がるのがこれであるため、今では『真III』以外のナンバリングタイトルや派生作品のゲームオーバーですらプレイヤーから「パトる」と呼ばれることも。
似たようなものとして、同じくATLUSのRPG『世界樹の迷宮シリーズ』のゲームオーバーの通称「植林」または「hageる」がある。
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Part5 Awakening Legend
最近競馬で馬券を外しまくっているので初投稿です。
死の安らぎとガバは等しく訪れるRTA、はーじまーるよー。
……はい。それでは前回のラストに『子守りの魔女』とエンカウントした直後からのスタートです。
正直生き残れる気がしませんが、とにかくゲームを進めていきます。
このゲームの戦闘はシンボルエンカウント方式ですが、魔女やボスは敵が画面上に表示されず、プレイヤーが指定されたエリアに足を踏み入れることで強制エンカウントとなります。
戦闘画面に突入後、まず最初にプレイヤーキャラの初手の行動を選択することで戦闘が開始されるというシステムです。
今回の初手ですが――「
これで逃走に成功すれば再びフィールド画面に戻り、なおかつ一定時間魔女の動きが止まりますので、その隙にさらに逃げます。
>……ダメだ! 逃げられそうにない!
知ってた。
え~……このゲーム、難易度が高いほど戦闘時の逃走の成功率が低くなるのですが、難易度「MANIACS」だと成功率は10%以下と言われています。
ノクマニ以降の『真III』のHARDモードのように「ESCAPE」による逃走不可能ではないだけマシですが、それでもきっついねんな。
――で、逃走に失敗すると一定時間「ESCAPE」のコマンドが選択できなくなります。
この時間も高難易度であるほど長時間になるのですが、今回は……120秒、(この難易度では)普通だな!
うん。終わったわこれ。
こうなってしまった場合、諦めて普通に戦い敵を37564にするところですが、今の乃彩ちゃんに戦う術はありません。
魔女と使い魔に一方的にボコられてイゴるのがオチです。
……しかし、これは初戦闘かつ事実上のイベント戦闘。
もしかしたら戦闘中に何らかのイベントが発生する可能性もありますので、リセットはせずにこのままゲームは続行します。
戦闘が始まりましたので、とにかく魔女から離れるだけ離れます。
逃げるんだよォォォーーーーッ!(CV.ジョジョ第二部主人公)
あ。早速敵の増援が現れましたね。言わずもがな『子守りの魔女の手下』たちです。
数は3体。難易度「MANIACS」で3体はかなり有情な数ではありますが、この状況で敵が1体でも増えるのはこちらからすれば十分「やめろォ!」と言いたくなります。
ちなみに、この『子守りの魔女の手下』たちですが、鳥のような外見をしているとおり空を飛んでいるうえにすばしっこく、おまけに万能属性のスキル『吸血』まで持っているというこのゲームに登場する使い魔きっての強敵です。
――というか、こいつら通常攻撃そっちのけで『吸血』ばかり使ってきます。そのため、使い魔でありながら妙にしぶといです。確実にこちらの体力をじわじわと削ってきます。
そんな奴が初めての戦闘でいきなり複数体現れて襲いかかってくるとか、乃彩ちゃんになにか恨みでもあるんですか?(白目)
とにかく、魔女や使い魔の動きをよく見ながら距離をとり時間を稼ぎます。
難易度「MANIACS」の主人公は一発でも攻撃を食らえば致命傷なので、敵の攻撃の射程内に入らないことが重要かつ基本戦術です。
――って、言っているそばからこっちくんな使い魔ァ!
ぎゃああああああああ!
早速『吸血』されたああああああああああっ!
最大HPの4割くらい吸われたんですケドぉ!?
これだから難易度「MANIACS」はぁ!
ヤバいヤバい! マジでヤバい!
このままだと乃彩ちゃんの血どころか体内の汁という汁を使い魔に吸いつくされてしまう……!
離れないと……とにかく敵から離れないと……!
『子守りの魔女の手下が5体現れた!』
\(^o^)/
ここでさらに増援とかやめてクレメンス……
――あ。子守りの魔女の通常攻撃がこっちに飛んできた。
わぁい♪ クリティカルだぁ。
残りのHPが今の一撃で全部消し飛んだぞぉ♪
……やっぱり今回は駄目だったよ。
HPが0になったので、乃彩ちゃんがその場で倒れ込みました。戦闘不能です。
普通ならこのまま画面が暗転してイゴるところですが……画面が変わりませんね。
やっぱり負けイベントだったっぽいなクォレハ……
倒れた乃彩ちゃんの周りにどんどん使い魔が集まってきてますね。
さて、いったいどうなるのか――
『乃彩、今すぐにボクと契約を!
魔法少女となって魔女と戦うんだ!』
お前はお呼びじゃねえわ、淫獣! すっこんでろ!
契約はしねーって言ってるダルォ!?
おぉ……使い魔たちが乃彩ちゃんに群がって……
死からの逃避に非ず。
もとより誰もが知る……
“命”とは、即ち航路を見出すもの。
それを成してこそ、死の先にも“道”が示される。
過去と未来を繋ぐ線と成る。
されど大海を揺蕩いし船は、
いま深淵へと沈みいき、
航跡を遺すことも叶わず……
…………
……
イゴりました。
おいィ!?
なんか思わせぶりな演出しておいて、キュゥべえとの契約蹴ったらGAME OVERとかどういうことじゃい!?
ゲームシステムからも魔法少女になることを強いられるとか、縛りプレイができねーじゃねーか! ふざけんな!(声だけ迫真)
これは再走? 再走すべきなの?
い、いや待て。さっきは陰獣の奴を無視してしまったからこんな結果になってしまった可能性もある……
そんなわけなので、ここは一度先ほどセーブしたところからリトライします。
――それでも駄目だったら?
その時はその時だよ!
――はい。そんなわけで、駅の改札を出る直前から再スタートです。
早速改札を出てキュゥべえとファッキンエンカウントします。
おう、白いの。こっちは急いでるんじゃ。言いたいことがあるんならさっさと全部話せ。
『ボクの名前はキュゥべえ!
切江乃彩、ボクと契約して魔法少女になってほしいんだ!』
1:話を聞く
2:無視する
先ほどは2を選んで失敗したので、今回は1を選択します。
これでイベントの内容も少し変化すると思うのですが……
『ボクは君たちの願いごとをなんでもひとつ叶えてあげる。
なんだって構わない。どんな奇跡も起こしてあげられるよ』
へー。そーっすかー。すごいっすねー。
とりあえず話は最後まで聞いてあげますよ。契約はしないけどなァ!(ゲス顔)
『……というわけなんだ。
乃彩、だからボクと契約して魔法少女となって魔女と戦って――』
嫌で~す♪
――と、言い返してやろうと思いましたが、陰獣の説明が終わる前に場所が魔女の結界に変わりました。
お?
なんだか先ほどとは結界の雰囲気が違いますね。
やはりこっちを選択するのが正解だったか?
『マズい! 魔女の結界だ!
どうやら魔女に見つかってしまったらしい……!
乃彩、急いでボクと契約を!』
だから嫌だっての。
操作が可能になったので、再び白いのは無視して結界内の探索を始めます。
――って、ついてくるんじゃねえよキュゥべえ!
『万が一の時、ボクがそばにいればいつでも契約できるだろう?
魔法少女になる決心がついたらいつでもボクに声をかけてくれ』
やだよ(即答)。
しかしこの流れ、また陰獣からの契約断ったらGAME OVERなんてことないですよね……?(震え)
せっかくここまで比較的順調だったのに、レギュレーション違反的な意味で積んで再走確定とかやめたくなりますよ~RTA~。
――って、そんなこと言っていると目の前から使い魔がやって来ましたね。
あのモコモコした外見とナイスなおヒゲは……Anthony君! Anthony君じゃないか!
はい。というわけで、現れたのは『薔薇園の魔女の手下』ことAnthony君です。
『魔法少女まどか☆マギカ』の原作アニメでも以降の派生作品でも親である魔女と共にやられ役やチュートリアル担当にされることが多いちょっと可哀想な奴ですね。
どうやら今回もその白羽の矢が立ってしまった模様。悲しいなぁ……
なお名前の読み方はアンソニーかアントニーかお好きなほうをお選びください。ちなみに走者は前者派だ!
さて、そんなAnthony君ですが、このゲームでも使い魔の中では最低ランクのステータスの雑魚敵です。
しかし、戦闘手段がない乃彩ちゃんにとっては当然脅威以外のなにものでもありません。
おまけに難易度「MANIACS」はプレイヤーキャラが受けるダメージが1.5倍なので、Anthony君の攻撃1発食らうだけでも十分致命傷です。
本当に誰ですか!?
この難易度で走ろうなんて思った大馬鹿野郎は!?(お前だ!)
――で、この状況、すでにあちらには完全に見つかってますね。こっちに向かってきます。
これじゃあ今さら身を隠しても意味がありません。
というわけで、接触して戦闘に突入したらまたイゴりかねないので、華麗に戦闘を回避します!
見とけよ見とけよ~。
Anthony君がこっちにある程度近づいてきたところで……後ろからついてきていたキュゥべえを掴んでシュゥゥゥゥーーーーッ!
はい。命中して怯みましたね。超エキサイティング!
この隙に後ろに向かって全速前進DA!(CV.海馬コーポレーション社長)
『いきなり酷いじゃないか』
陰獣が後ろから文句言いながら追いかけてきてますけど、無視だ無視。
こっちの事情も考えてよ(棒読み)。
…………
……
後ろに向かって突っ走っていたら、結界の出口ではなく最深部まで来てしまいました。
ドンマイ☆
――じゃねーよ!
道中ぜんぜん使い魔の姿なかったのに、なんでこっちが最奥なんじゃ!?
そんなわけで、魔女の結界の最深部に来てしまったため、『薔薇園の魔女』と強制エンカウント&戦闘突入です……(すでに諦めムード)
これはまたイゴかな? イゴだろうなぁ……
一応、今のうちに『薔薇園の魔女』についても解説しておきましょう。
手下であるAnthony君同様、こいつもこのゲームの魔女の中では最低ランクのステータスの敵です。
先述しましたが、これも原作でやられ役兼チュートリアル担当だったせいでしょうな。
アニメ版マギレコで登場した際も戦闘シーンはキングクリムゾンされてましたし……
そんな薔薇園の魔女ですが、原作の時点で「シリーズ通して唯一使い魔が自らに従順な魔女」という設定があります。
そのため、このゲームにおけるこいつとの戦闘は、倒して戦闘が終了するまで手下たちが無限湧きし、それによる数の暴力でプレイヤーを苦しめてくるのです。
ただ、それでも1体1体は雑魚なので、経験値と資金を稼ぐためのいいカモなのですが……もちろん、それは通常のプレイでの話! このチャレンジにおいてそれはまさに地獄!
常に死と隣り合わせな状況をさらに危機的状況へと陥れんとする恐ろしい存在――それが薔薇園の魔女なのです!
最弱クラスとはいえ魔女は魔女。ただの人間にとっては脅威だってはっきりわかんだね。
『乃彩、今すぐにボクと契約を!
願いごとを決めるんだ!』
だから黙ってろって言ってるダルォ!?
死んでもお前とは契約なんかしないっつーの!
しかし、このままだと確実にまたイゴります。
なんとか逃げられることを祈るしか――
「そこまでだ!」
ひょ?
「よかった……やっぱり結界に引きずり込まれた人がいた……
キミ! 危ないからここはアタシに任せてさがってて!
説明は後でしてあげるから……!」
…………
……
も、ももこおおおおおおおおおおっ!
なんと、ここでまさかの救援!
しかも現れたのはみかづき荘とも縁が深い――というか元チームみかづき荘メンバーの『
いや、今走では時期的にやちよさんがまだ解散宣言をしていないっぽいから元メンバーというのはおかしいか?
ともかく、これはツイてる! ツイています! 間違いなく乃彩ちゃんが生き残れる確率が大幅に上がりましたよこれは!
メルか!? メルのタロットカードで『星』のカード引いたからか!? だからこの局面で現れてくれたのか!?
ちなみにこのゲーム、属性相性はマギレコではなくメガテン準拠なのですが、薔薇園の魔女とその手下はどちらも火炎属性が弱点で、ももこは火炎属性攻撃スキル持ちです!
そして、戦闘中スキルは一度使うと一定時間スキルが使用できないというシステムなのですが、相手の弱点となる属性の攻撃スキルを食らわせた場合か、スキルによる攻撃がクリティカルとなった場合はその制約が発生しません。
要は『真III』以降のメガテンのプレスターンバトルや『P3』以降のペルソナシリーズのワンモアプレスを再現した戦闘システムです。
つまり、この状況――「ずっとももこのターン!」となることがほぼ確定しました!
勝ったな。風呂入ってくる。
へっへっへ……ももこさん、そんな雑魚魔女と使い魔なんてさっさとやっちまってください。
乃彩ちゃんは経験値と資金のおこぼれだけいただければ結構なんで……(小者ぶりが際立つ走者の屑)
では、スーパーももこタイムに突入しそうな予感というところで、今回はここまでです。
ご視聴ありがとうございました。
◆
『この国では成長途中の女性のことを“少女”って呼ぶんだろう?
だったら、やがて魔女になる君たちのことは“魔法少女”と呼ぶべきだよね?』
『そんなに嘆くようなことじゃないよ。すべてはこの宇宙の寿命を延ばすためなんだ。
長い目で見ればこれは君たち人類にとっても特になる取引だってわかってもらえるはずだよ?』
知りたくもない、知らないほうがよかった真実を、その日アタシたちは知ってしまった。
ソウルジェムが穢れに満ちて黒く染まり切った時、それはグリーフシードへと姿を変えて魔女を生む。
そして魔法少女の命そのものであるソウルジェムが失われたことで、魔法少女はその生を終えて死ぬ――
言い方を変えてしまえば、「魔女は魔法少女の慣れの果て」ということだ。
つまり、これまでアタシたち魔法少女がしてきたことは――
「魔女を倒す」というその使命は――
メルが魔女となって死んで早数日、あの日以来アタシはなにもする気にはなれなかった。
鶴乃やレナたちに悟られぬよう学校には通って普段どおりの日常こそ過ごしてはいたが、それも表向きのこと。
心の内ではあの日になにがあったのかと鶴乃から問い詰められるのを恐れて彼女を避けるように行動していたし、みかづき荘にもあの日から足を運んでいない。
――後者に関しては、あの日の最後にやちよさんから「しばらくは1人にさせてほしい」と言われたからでもあるが。
「……うわ。マズいな、コレ」
そしてアタシのソウルジェムに一目見てもわかるくらいの穢れが溜まっていたことに気がついたのがつい先ほど。
ソウルジェムがなにもしていなくても自然と黒く濁っていくことは前々から知ってはいたが、魔法少女の真実を知ってしまった今ではそれが迫りくる死の宣告のように思えてならない。
――というか、明らかに以前よりも穢れによって濁るのが速くなっている。
どうやらアタシの今の心境がそのままソウルジェムにもダイレクトで反映されているらしい。
なるほど、そう考えるとこれが魔法少女の魂そのものだというのにも納得できる。
真実を知ってしまったショックや、いずれ自分も魔女になってしまうという不安や恐怖が今まで以上にアタシの心に穢れを溜め込ませているんだろう。
「グリーフシード見つけないと……」
あの日の戦いで手持ちのグリーフシードは全て使い切ってしまった。
ソウルジェムの穢れを取り除くために――魔女にならないために、一刻も早く魔女を見つけ出して倒し、グリーフシードを手に入れなければならない。
……正直、今の状態で魔女とまともに戦えるのかはわからない。
それでも、まだアタシはメルのように魔女になるわけには――死ぬわけにはいかない。
たぶん今アタシまで死ぬようなことになったら、あの日同じく真実を知ってしまったやちよさんやみふゆさんもきっと――
「ああもう!
とりあえず今は余計なことは考えないで魔女だけ探そう!」
がむしゃらに頭を振って雑念を無理矢理振り払うと、アタシは以前までのように魔女を見つけ出すため市街に足を運ぶことにした。
魔女や使い魔は普段は結界ごと隠れ潜んで人前に姿を現さないものだが、この時間帯なら人が多い場所にも結構な確率で湧くことはこれまでの経験から知っている。
――運が良いのか、市街に足を踏み入れるとすぐさまソウルジェムに魔女の反応があった。それもかなり近い。
「この近くで人が多い場所というと……駅かな?」
とりあえず魔女や使い魔が獲物としそうな人が多くいそうな場所に目星をつけ、早速そこへ向かって駆け出す。
数分もしないうちに慣れ親しんだ新西中央駅の前までやって来たが、そこには異様な光景が広がっていた。
「なんだ……これ?」
駅前の広場には大勢の人が溢れかえっていた。
――しかし、そこにいた人たちは皆その場でボーっと突っ立っているだけで、誰一人としてピクリとも動こうとしていない。
会社や学校帰りと思わしき人たち、駅の職員、駅前で客待ちをしていたタクシーの運転手――老若男女、誰もが上の空といった状態だった。
「魔女の仕業……なのか?」
「ももこ」
「――っ!?
あ……やちよさん……」
ふいに声をかけられたので驚いて振り返ると、そこには数日ぶりに見た頼れるアタシらのリーダーの――やちよさんの姿があった。
すでに彼女は神浜市立大附属学校の制服から魔法少女としての姿に変身済みで、その様子からアタシよりも先にここに到着していたであろうことは容易に把握できた。
「あの……これってどういう状況?」
「残念だけど私にもよくわからないわ。
駅の改札の前に魔女の結界があったからおそらくは魔女の仕業なんでしょうけど……それにしては妙だと思わない?
どうして結界の中に引きずり込まず、こんなところに駅やその周りにいた人たちを放置しているのか――」
「言われてみれば……」
アタシはもう一度周囲に目を向ける。
やはり先ほど同様、誰もが虚ろな目であさっての方向を見てその場で直立不動だ。
――ん?
よく見るとこの人たち、体のどこにも「魔女の口づけ」が見当たらないような……
「とにかく、いつまでもここで油を売っているわけにはいかないわ。
結界の中に入り込んでしまった人がいるかもしれないし、急いで結界内の魔女を倒しましょう」
「えっ……?
――う、うん。そうだね」
気にはなるが、やちよさんの言うとおり今は魔女を倒すことが先決だ。早速2人で駅の構内へと足を踏み入れる。
――確かに、駅に入ってすぐ、アタシもよく利用している改札の目の前に魔女の結界があった。
それを確認すると、アタシもこれまでどおり制服から魔法少女の姿に変身する。そしてやちよさんと一緒に結界の中へと飛び込んだ。
「ああもう! これじゃあキリがないよ!」
結界は思ったほど深くはなさそうだが、それに反して使い魔の数が異様に多かった。
これまでの経験から魔女にも色々な奴が存在することは知ってはいるけど、いったいこの結界の主はどういうタイプの魔女なんだ?
「大量の使い魔たちによって自分の
もしそうだとすると、急いで倒さないと駅全体が魔女の住処にされるおそれがあるわ」
あたしが思っていたことを察したのか、隣で使い魔を次々と掃討していくやちよさんがそう口にした。
もしこの結界の魔女が彼女が言ったとおりの存在であるのならば、急いで倒さなくてはいけない。
終電の時間はまだまだ先。つまり、駅にはこれからも多くの電車が――利用者がやって来る。
それは必然的に魔女や使い魔による被害者が増えるということだ。
「――ももこ、あなたは先に結界の最深部に向かって。
使い魔たちは私が可能な限り引きつけておくから……」
「えっ!? この数相手に1人で大丈夫なの!?」
「――何年魔法少女をやってると思っているの?
大丈夫よこれくらい」
「……それ、先日も言ってましたよね?」
「…………」
アタシの言葉にやちよさんはほんの一瞬だけ眉間にしわを寄せると、なにも答えずに目の前の使い魔の群れへと突っ込んでいった。
「やちよさん!?」
「いいからあなたは先に行って!」
「…………!
無茶だけは――先走るような真似だけはしないでよ!?
なにかあったらみふゆさんだって悲しむからね!」
こうなってしまった以上は仕方ない。
アタシは言われたとおり群がる使い魔たちの間をすり抜けるように駆け抜け、結界の奥へと向かうことにした。
「――それでいいわ。
1人でいるほうがきっとあなたは死なない――」
やちよさんの横を通り過ぎた時、そのような声が聞こえたような気がしたが、たぶん気のせいだ。
――結果的にやちよさんの判断は正しかったようで、その後は難なく結界の最深部まで踏み込むことができた。
結界の奥に行けば行くほど使い魔と遭遇しなくなったので、もしかしたら本当に使い魔たちによって結界を広げていくタイプの魔女だったのかもしれない。
「よかった……やっぱり結界に引きずり込まれた人がいた……
キミ! 危ないからここはアタシに任せてさがってて!
説明は後でしてあげるから……!」
そして、そこには魔女と水名女学園の制服を着た見知らぬ女の子の姿があった。
女の子の素顔は長く伸ばされたその髪に隠されて見えなかったが、おそらくはアタシと同年代だろう。
見たところ怪我などはしていない。赤の他人とはいえ無事だったのは幸いだ。
「――よし。いくよ!」
言われたとおり女の子が徐々に後ろにさがっていくのを確認すると、アタシは目の前の魔女に向かって突撃した。
ここまでの戦いで使い魔たちはアタシの使う魔法――炎に弱いことは確認済みだ。使い魔は魔女の親であり分身。それならば本体である魔女も炎が弱点のはず。
相性や結界が存在する場所などから考えても、小細工などは使わずに真っ正面から挑んで速攻で片をつけるのがここは正解だろう。
――というより、やちよさんやみふゆさんと違ってアタシはそういう戦い方のほうが性に合っている。
やちよさんたちからは「もっと頭を使って行動しないさい」などと言われそうだが……
アタシが突っ込んでくるのを見て、魔女のほうも巨大なハサミと思わしきものを取り出してこちらを攻撃してきた。
しかし遅い。軽く横にステップを踏む要領でそれをかわす。
使い魔たちが姿を現し、親である魔女を守らんとアタシの前に躍り出る。
だけどさっきとは違って、その数は指を使わなくても数え切れるほど。武器である手にした大剣に炎をまとわせ横薙ぎに一度振り払うだけで一掃された。
直後、再び魔女からハサミが繰り出されるがこれも難なく回避する。
そしてアタシは完全に魔女のすぐそばまで近づいた。
「これで終わりっ!」
先ほどより激しく炎を剣にまとわせて飛び上がる。
両手でしっかりと剣を握りしめて頭上に掲げるように振りかぶった。
後はこいつを魔女の脳天――本当にそこが頭なのかはわからないが――に振り下ろせばアタシの勝ちだ。
今できる最大の一撃を魔女に叩きこむ!
『この国では成長途中の女性のことを“少女”って呼ぶんだろう?
だったら、やがて魔女になる君たちのことは“魔法少女”と呼ぶべきだよね?』
「――ッ!?」
――こんな時に、あの日キュゥべえがアタシたちに真実を告げた光景がふと脳裏に浮かび上がった。
『もしそれが本当ならさ……
アタシらが今まで倒してたのは魔法少女ってことだろう……?』
『ももこさん!』
『だってみふゆさん……
願いを叶えた結果、アタシらは人殺しになるんだろ……?』
『ももこ』
――次の瞬間、アタシはやちよさんに思いっきり顔をはたかれていた。
『――メルは、あの子は精一杯魔法少女として生きたわ。
それを勝手に人殺しになんてしないで……!』
『……ごめん』
『ももこ、そんなに嘆くようなことじゃないよ』
――こちらの心境などまるでわかってはいないかのごとく、再びキュゥべえが普段どおりの口調でアタシに語りかけてくる。
『すべてはこの宇宙の寿命を延ばすためなんだ。
長い目で見ればこれは君たち人類にとっても特になる取引だってわかってもらえるはずだよ?』
『なっ……!?』
『――キュゥべえ、あなた本気で言ってるの?』
『本気もなにも、ボクにはそもそも君たち人類のように“感情”というものを持ち合わせていない。
ボクたちインキュベーターは最初からそういう存在として生み出されたのだからね』
『…………』
――訂正。本当に、いや、はじめからキュゥべえはアタシたちの心など理解していなかった。
この宇宙――この世界が滅びるのを防ぐために人間の感情から生まれ出るエネルギーを回収することを目的とした存在『インキュベーター』――それがキュゥべえの正体。
そして契約によって魔法少女を生み出していたのは、魔法少女が魔女と化す際に大量の感情エネルギーを一度に回収できるから――
キュゥべえに――あいつらにとってアタシたちはいわば使い捨ての電池のようなものに過ぎなかったんだ。
――気づくと魔女の巨体がアタシの目の前にものすごい勢いで突っ込んできていた。
「しまっ――!」
完全に不意を突かれた。
こんな時にあの日のことを思い出してしまうなんて――
魔女からカウンターとして放たれた体当たりをモロに受け、アタシの体は後方へ吹き飛ばされる。
ちょうどひとつの巨大なフロア状になっていた結界最深部の壁に勢いよく叩きつけられた後、そのまま重力に引っ張られる形で床に落っこちた。
「がはッ……!」
全身に感じた痛みから思わず肺の中に溜め込んでいた空気を一瞬で全て口から体外に放出してしまう。
魔法少女じゃなかったら即死していてもおかしくないほどの衝撃――我ながら派手に壁に突っ込んでしまった。
すぐさま体内に酸素を取り込もうと、無意識に口が大量の息を吸い、そして吐く。
「くそっ……ドジった。
――ん?」
すぐに体勢を立て直そうと起き上がるが、それと同時に突然足下から違和感が生じた。
目を向けるとアタシの足下には小さな使い魔たちが大量に群がっていた。
「なっ……!?
いつの間に――!?」
そして次の瞬間、その小さな使い魔たちは合体して数本の黒い
「ぐあっ……!」
そのまま激しく締め上げられて床に大の字で磔にされる。
――あ。これ、ちょっとマズいかもしれない。
魔女のほうに目を向ける。
こちらが動けなくなったのをいいことに、先ほどと同様巨大なハサミを取り出してこちらにじりじりと近づいてきているのが見えた。
前言撤回!
これはちょっとマズいどころじゃない。間違いなくピンチだ!
「くっそ……!」
すぐさま両手に巻き付いた蔦を焼き切るために、手のひらから炎を出そうと試みる。
――しかし、それを察知されたのか、蔦の締め付ける力がさらに強くなった。
「ぐうぅ……!」
ヤバい! これは本当にヤバい!
このままだとアタシ本当に――
「――動かないで」
「っ!?」
突然頭上から見知らぬ声がした。
目を向けると、なんとそこにはアタシの剣――さきほど壁に叩きつけられた時に手放してしまった――を手にした先ほどの女の子の姿があった。
その子はアタシの剣を引きずりながら、しかし両手でしっかりとグリップを握りしめてこちらに近づいてくる。
「だ、駄目だ……! こっちに来ちゃ……!」
「見過ごしてはおけない」
首を今だ蔦に激しく締め付けられながらもアタシは必死に声を出してもう一度女の子にさがるよう促したが、聞く耳持たずと言わんばかりに彼女はこれを拒否する。
そして、アタシの首に巻き付いていた蔦のそばまで近づいたと思うと、力の限りに剣を持ち上げた後、それを勢いよく蔦に対して振り下ろした。
女の子は魔法少女ではないとはいえ、剣自体はアタシの魔力によって作り出されたもの。当然魔女や使い魔には効果がある。
物理法則に従って刃の部分から落ちてきた剣によって、アタシの首に巻き付いて蔦はいとも簡単に寸断された。
直後に首が解放されたことでアタシはまたしても大きく息を吸い込んで、また吐き出してと深呼吸する。今度は鼻からだ。
頭の中に酸素が回ってきたからか、いまだピンチなことには変わりはしないけれど、少しだけ精神的に余裕ができた気がする。
もう一度魔女のほうに目を向けてみると、どうやら魔女もこの予想外の乱入者に驚いているようで、その足をピッタリと止めていた。
「ふっ……!」
「えっ?」
視線を戻すと、女の子が再びアタシの剣を握り、今度はそれを横薙ぎに大きく振り回す姿が見えた。
そして剣の側面から白い“なにか”が野球のボールのごとく魔女に向かって打ち込まれて――
「――って、キュゥべえ!?」
意外なことに、魔女に向かって打ち込まれた白いものの正体はキュゥべえだった。
真っ直ぐ魔女に向かって飛んでいったキュゥべえは魔女の頭と思わしき部分に激突すると、そのままグシャッともゴキッともとれる鈍い音をわずかに響かせて、そのままゆっくりと床に落ちていった。
――あの日のことがあったせいか、そんなキュゥべえの惨状を目にしてもアタシはまったく同情や哀れみなどは抱かなかった。
むしろ少しばかりスカっとした気がする。
「――っ!?」
「あっ――!?」
自分たちや魔女を攻撃されたことに腹を立てたのか、また新たに小さい使い魔たちが現れる。
そしてそいつらは再び合体して数本の蔦になると、今度は女の子の両足と体、そして首に巻き付いて締め上げ始めた。
「があッ……!」
「やめろ!」
すぐさまアタシは両手から炎を出して自らの両手を今だ拘束している蔦を焼き切ろうとした。
――しかし、思っていた以上に炎の勢いが弱い。
「まさか――」
アタシは思わず胸元へと目を向けた。
その視線の先にあるのは変身に伴い普段とは形を変えたアタシのソウルジェム。
普段は綺麗な朱色に輝いているはずのそれは、今は穢れによって見るからにドス黒く染まり、穢れによる濁りの中でわずかに朱色をのぞかせていた。
(魔力が尽きかけている――!?)
アタシの中で再び焦りが生まる。
落ち着け。考えろ。この状況を脱してあの子を救い出す方法を――!
「ぐぎぎぎ……!」
力ずくで無理矢理蔦を引きちぎろうと両腕と両足に力をこめるが、蔦はビクともしない。
同時に、アタシがそうこうしている間にも目の前で1人の女の子の命が少しずつ使い魔によって削り取られていく。
急げ――!
もう一度手から炎を出してみるが、やはり勢いが弱い。
それでもなんとか蔦を焼き切ろうと両手にさらに力をこめて炎の勢いを増そうと試みる。
――ダメ押しと言わんばかりに、さらに小さい使い魔たちが現れて蔦となってアタシの腕や体に巻き付いてきた。
「あ……」
終わった――完全に積みだ。
体や両腕を締め付けられる痛みと同時に、アタシの脳裏にそのような言葉が浮かぶ。
見ると、両手をだらんと下にさげて力なく俯いている女の子と、いつの間にかすぐそこまで迫ってきていた魔女の姿が目に映った。
「ああ……」
もう駄目だ――
頭の中が、心がそんな言葉や思いに支配されていく。
あの時、メルもこんな感じだったのだろうか――?
「やちよさん……みふゆさん……ごめん。
アタシもここまでみたい……」
思わず口からそのような言葉が漏れる。
視界も涙で滲んできた。
意識が少しずつ“どこか”へと沈んでいくかのような感じがする。
あ。せめてレナたちにも最期に一言謝っておかないと――
「ペ――」
「え……?」
――暗転しそうになった視界と意識が、ふいに聞こえてきた声によって再び呼び戻された。
声がしたほうに目を向けると、先ほどまでは力なく垂れ下がっていた女の子の両手が強く握りしめられ、右手が少しずつ上へ上へと上がっていく様子が見える。
「ル――」
そして彼女の足下から突然青い光が発したと思うと、同時にそこを中心として突風のような衝撃が周囲に吹き荒れた。
そのあまりの勢いに、アタシも魔女も思わず吹き飛ばされそうになるが、なんとか耐える。
――魔女のほうは少し仰け反ってしまい、慌てて体勢をもとに戻そうとしていた。
今ばかりは全身を蔦で拘束されて床に磔にされていたことに感謝するべきかもしれない。
「ソ――」
女の子の背後に青く光り輝く“なにか”がゆっくりと浮かび上がってくる。
それは陽炎のようにぼんやりとしているが、確かに人の形を――いや、女の子とまったく同じ姿をしていた。
その両目は深く閉ざされ、さながら眠っているように見える。
「ナ――!」
青く光り輝く“もう1人の女の子”の目がかっと開かれ、その
そして女の子が右手をさらに上に上げて拳を握りしめたかと思うと、それを背後に向かって思いっきり振り下ろしてその先に浮かんでいた青く光り輝く“もう1人の女の子”を一瞬で
――そこから先は、本当に信じられない光景が広がった。
先日のメルの死と彼女から魔女が生まれた光景も信じられないものだったが、今アタシの目に映っているものもそれと同じくらい衝撃的なものだ。
女の子の手によって“もう1人の女の子”が粉々に砕かれたかと思うと、ソレを形作っていた青く光り輝く無数の欠片が少しずつ集まって別の形へと姿を変えていく。
それと同時に、なぜか周囲が熱くなってきたかと思うと、いきなりあたり一面から火の手が上がり、女の子やアタシの体に巻き付いていた蔦や床を一瞬にして焼き尽くして灰にしてしまった。
当然、これには魔女やその周りにいた使い魔たちも大慌てで後ずさるように女の子とアタシから距離をとる。
やがて火の手は治まり、周囲から熱が引いていくのを感じながらアタシはゆっくりとその体を起き上がらせた。
「あれは……」
――そして見た。
周囲に火の粉をまといながら、紅蓮に染まった長い髪を伸ばし、その顔は鉛のような漆黒の仮面をつけた人型――
胴体には丸い空洞があり、その中心では赤い炎がめらめらと燃えていてさながらランタンか暖炉のようだ。
その姿はアタシたち――人間よりも一回りも二回りも大きく、全長は軽く数メートルはある。
一見すると魔女のようにも思えるが、その発している気配には禍々しさは感じられず、むしろ逆に安心感というか安らぎというか、そのような心地よさを抱かせる。
――そのような存在が、アタシの前に、そして女の子の背後に、まるでアタシたちを守るようかのように浮かんでいるのを。
そろそろ狩猟が解禁されるので失踪します。
■TIPS
●切江 乃彩
早くも今走1回目のイゴり。
そしてついにペルソナ覚醒。
魔法少女でもないのに、ももこの大剣を持ち上げて二度も振り回したやべーやつ。
火事場のクソ力というやつだよ。言わせんな恥ずかしい。
●
原作では元チームみかづき荘の1人。
この世界線ではまだやちよによるチーム解散宣言がされていないので、まだみかづき荘メンバー。
でもレナやかえでともすでにチームは組んでいる。このあたりは原作どおり。
時期が時期なので精神的なショックなどから魔女化しかけていて結構ヤバい状況。というか魔女化しかけた。
余談かつ蛇足だが、Googleのサジェストでは「咎目ももこ」と苗字を誤植されている。
●七海 やちよ
早くも自分の固有魔法を勘違いし始めている。
ここから原作どおりやさぐれモードに突入するか否かは走者次第。
言い方を変えれば、ガバって原作以上に面白おかしいキャラになる可能性も否定できないということ。
別の意味で変なフラグ立っちゃってますよ、やっちゃん!
●キュゥべえ
早速ぞんざいな扱いをされる。
まぁ、変わりはいくらでもいるんだから別に問題ないよネ♪
「わけがわからないよ」
●薔薇園の魔女
通称「チュートリアル担当」。
まどマギを原作としたゲーム作品の多くはこいつを倒すことから物語が本格的に始まる。
この世界線では結界内に侵入したやちよさんとももこの迎撃のために戦力を集中してしまったせいで、乃彩やももこにあっさり最深部への到達を許してしまった。
もしかして意外とぽんこつなのでは? ボブは訝しんだ。
●薔薇園の魔女の手下
Anthony君。薔薇園の魔女の使い魔の一種。
薔薇園の魔女の手下には他にも数種類の使い魔がいるのだが、「薔薇園の魔女の使い魔」というとだいたいこいつのことを指す。
アニメの最終話でもちゃっかり登場していたり、『叛逆の物語』にも姿こそ若干変わってはいるが
というか、親である薔薇園の魔女よりも扱いが良くないか?
●子守りの魔女の手下
ファッキンクソバード。子守りの魔女の使い魔。
親である魔女を困らせることを生き甲斐としている畜生。
こいつに限らず使い魔たちは一度Anthony君の爪の垢を煎じて飲むべき。
外見が小鳥のような姿をしていることにはいくつかの考察がされているが――良い子は興味本位でググらないほうがいいゾ?(戒め)
●今回のイゴり
子守りの魔女の攻撃を受けて戦闘不能になったところで、使い魔たちに体中の血を吸いつくされて死亡。
現在の通算死亡(GAME OVER)回数:1。
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神話覚醒 -I am thou, thou are I.-
Q:RTAパートは?
A:(今回は乃彩ちゃん視点の小説パートなので)ないです。
What choices have I?
I can't let this end, live a different life.
◆
『近く、貴方は何らか“契約”を果たされ、再びこちらへおいでになることでしょう』
――あの奇妙な夢を見た時からこうなることは決まっていたのかもしれない。
『やあ、切江乃彩。待っていたよ』
『ボクの名前はキュゥべえ!』
やけに静まり返っていた駅で突然私の前に現れた、『キュゥべえ』と名乗る謎の存在。
――最初はなにかの生き物かと思ったが、ゆらゆらと揺れている尻尾に対してその顔には一切の変化がなかったため、おそらく違うと判断した。
『切江乃彩、ボクと契約して魔法少女になってほしいんだ!』
そして、そんなキュゥべえからいきなり持ち掛けられた「契約」――
『ボクは君たちの願いごとをなんでもひとつ叶えてあげる。
なんだって構わない。どんな奇跡も起こしてあげられるよ』
曰く、「こちらの願いをひとつ叶える代わりに“魔法少女”なる存在となって“魔女”と呼ばれる厄災と戦ってほしい」とのこと。
私にはそれだけの素質と資格があるのだという。
これが昨日見た夢の中で奇怪な老人から言われた「契約」なのだろうか――?
『マズい! 魔女の結界だ!
どうやら魔女に見つかってしまったらしい……!』
そんなことを考えていたら、いつの間にか私たちは駅の中ではなく珍妙でありながら気味が悪く、ユーモラスだが不気味な場所にいた。
キュゥべえが言うには魔女という存在の住処である結界の中に私たちは引きずり込まれてしまったのだそうだ。
一瞬、またおかしな夢でも見てしまっているのかと思ったが、なぜかこの時はすぐに「違う」と断言できた。
昨日、老人と青い部屋の夢や、狐面で素顔を隠した少女と無数の鏡の夢を立て続けに見たせいかもしれない。
「キミ! 危ないからここはアタシに任せてさがってて!
説明は後でしてあげるから……!」
魔女の手下だという使い魔から逃れるように結界の中を走り回っているうちに、気がつけばその最奥地に巡りついていた。
――道中、使い魔に対してキュゥべえを思わず投げつけてしまったが、なぜか罪悪感などはなかった。
そこで私は「魔女」、そして「魔法少女」という存在を初めて目撃することになった。
――そして今に至る。
「――よし。いくよ!」
私と同年代と思わしき大きな剣を手にした女の子――魔法少女が魔女に向かってまっすぐ駆け出す。
剣は自身の身長と同じくらいの大きさがあるというのに、その子はまったく問題なさそうにそれを軽々と持ち上げており、走り方にも剣の重さを感じさせるような様子は見られない。
その見た目に反して剣がこちらの想像以上に軽いものなのか――
それとも、彼女が「魔法少女」なる存在だからなのか――
『まさかももこが来てくれるとはね……
乃彩、いい機会だ。ここで実際に見ておくといい。魔法少女の戦いがどういうものかをね』
足下にいたキュゥべえがその赤い瞳を私に向けながらそう語りかけてくる。
その顔は先ほどまでと同様、一切の変化はなかった。
――戦いはキュゥべえが「ももこ」と呼んでいた魔法少女有利に進んだ。
魔女が繰り出した巨大なハサミによる攻撃も、襲いかかる使い魔たちも難なく対処し、彼女は当初20~30メートルくらいは余裕で離れていた距離をあっさりと詰めて魔女のすぐそばにまで近づく。
魔法少女や魔女なるもののことはまったくわからない私でも、「あ。決まったな」と思ってしまうほどの優勢っぷりだ。
だが、魔女も黙ってやられるわけにはいかないとばかりに、ももこが渾身の一撃を放とうと飛び上がったところで動いた。
それまではその場から動こうともしなかった魔女が、突然自らもその場から跳ねるように飛び上がる。
「しまっ――!」
相手の攻撃の隙を突くかのように放たれた体当たり――
ももこにとってそれは想定外だったのか、彼女は自動車にはねられた人のごとく弾き飛ばされる。
そして、そのまま結界の壁に叩きつけられて落ちるように床に転がった。
「あ……」
その様子を見ていた私の口から思わず声が漏れる。
あれほどまで激しく叩きつけられたら間違いなく無事では済まない。
もしかしたら、死――
『大丈夫。魔法少女はそんなにヤワじゃないよ』
再び足下からキュゥべえの声。
彼――で、いいのかはわからないけれど、自分のことを「ボク」と言っていたから以降もそう呼ぶ――の言うとおり、ももこは激しく息をしながらゆっくりとその身を起き上がらせた。
見たところ、本当に大丈夫そうである。
「なっ……!?
いつの間に――!?」
――しかし、そんな彼女に追い打ちとばかりに黒い蔦が複数本巻き付いたのを目にした瞬間、そうも思っていられなくなった。
『マズい!』
キュゥべえもこれまでとは違ってどこか慌てている様子の声を発する。
それもそのはずだ。蔦はももこの両手と両足、そして首に巻き付いたのだ。
いくら魔法少女という存在であってもあれでは身動きがとれなくなるだろうし、なにより――
「ぐあっ……!」
あのように首を絞められる。
あれは本当にマズい――!
「ぐうぅ……!」
蔦は少しずつももこを締め上げる力を強めているようで、少し離れた場所にいる私たちにもギシギシという音が確かに聞こえてくる。
さらに目線を変えると、魔女が再び巨大なハサミを取り出して彼女のほうへとゆっくりと近づいていく姿が目に入った。
『乃彩! 願いをボクに言ってくれ!
魔法少女となって魔女と戦うんだ!』
同時に、足下からキュゥべえのそのような叫び声が聞こえてきたため目をそちらに向ける。
――声は明らかに慌てている様子なのにその顔はやはりこれまでと変わらず無表情で、丸いふたつの赤い瞳が私の姿をはっきりとその内に映し出していた。
「契約……」
『そうだよ乃彩!
今すぐボクと契約を!』
「…………」
『本来ならば、ここは“契約”を果たされた客人のみをお招きする部屋。
しかし、貴方は夢のさなかとはいえご自身でこちらに辿り着かれた――
フフ……実に興味深い……』
『恐らくは現実の貴方がこれから向かわれる場所――
そこにこちらへいらした“訳”が隠されているのやもしれません』
…………
……
昨日見た夢の中で老人が口にしていた言葉が蘇ってくる。
思えばあの時、彼は私が向かう地――神浜市でなんらかの出来事が起きることを示唆していた。
昨日は所詮は夢の話だと気にしていなかったが、今の状況から考えるとあれは本当に夢だったのかとすら思えてくる。
もし、あの言葉が今の状況を意味するものであったとするならば――
「――私に叶えたい願いなんて、ない」
はっきりと口にする。
そうだ。私には叶えたい願いなんてものはない。
将来の夢もなければ、望んでいる生き方すら存在しない。
正直に言ってしまうが、私は死んでいるのと大して変わらない存在だ。
ただこの世界に生まれて生きている――存在しているだけ。
そして、どうして今もこの世界に存在し続けているのかすら自分でもわからない。
生きている意味が、理由がはっきりとせず、かつそんなことを一切考えていないし、興味もない。
――だってそうだろう?
『切江乃彩』という人間は10年前の“あの日”に死んでしまったのだから。
親も、それまでの記憶も、環境も、なにもかもあの日、あの場所で事故と炎によって全て消えた。消えてしまった。
『切江乃彩』は偶然、ただ形だけを維持したままそこに――この世界に残された。
中身は一切合切失われたのに、人間として存在していたからその後も人間として――『切江乃彩』として生きることを強いられた。
人に、環境に、世界に――
だから唯一の肉親だという祖母に対しても、家族だとか近親者だとかそういう感情を最後まで抱くことができなかった。
私自身が自分を『切江乃彩』だとはっきりと認識していなかった――確信できなかったのだから、それも仕方のないことだと思う。
彼女が亡くなった時も、その後の葬儀の時も、結局私は涙を流すことも、彼女に対する何らかの情が湧くこともなく、抱いたのはただ「ああ、ばあちゃん死んだんだな」といった程度の感想だった。
もしも誰かにそんな私を「薄情だ」と非難しても、私は「そうね」と即答で肯定するしかできないだろう。本当にそれ以外なにも浮かばなかったのだから――
『――なんだって?
乃彩、このままだとももこは魔女に殺されてしまう!
君は彼女を見殺しにするというのかい!?
いや、ももこだけじゃない、彼女がやられたら君だって殺されてしまうんだよ!?』
私の言葉に驚いた――ただし、やはりその表情は変わらない――のか、キュゥべえがさらに私に問いかけてくる。
しかし、本当に私には願いがないのだから、そう言われても他に答えようがない。というか困る。
――それに、考え方によってはここで殺されてしまったほうがいいんじゃないか?
どうせこのまま生きていてもただ時間だけが流れていき、私はそれに沿って生きていくだけだろう。
そんなつまらないことを無駄に過ごしていくくらいならば、いっそここで終わらせてしまったほうがいいに決まっている。
現にあれから10年間、なにも変わることなく生きてきたんだ。今さら「これから」に期待したところで――未来に希望を抱いたところでなんになる?
『――本当にそう思っていますか?』
――!?
頭の中に突然、聞き覚えのない――いや、
これは幻聴……?
――いいや違う。間違いなく今のは「声」だった。
そう――「声」が聞こえた。
はっきりと確信をもって言える。
確かに今、
『本当に“自らは希望を抱いていない”と――
あなたは思っているのですか?』
――再び声がした。
やはり私の頭の中に“誰か”が語りかけてきている。
『希望を抱いていないのならば、あなたはこのような場所にはいないはず――
思い出しなさい。“あの時”のことを』
――“あの時”?
『そう。あなたはあの時、自らの意思で選んだはずです。
“生かされる道”ではなく、“生きる道”を。
その選択を、あなたはあの時彼女に確かに告げた――』
「あ……」
――そうだ。思い出した。
確かに私は“あの時”――
『――今、なんて言ったの?』
『……“引っ越す”って言った。
知ってると思うけど、ばあちゃんもう長くないから……死んだら別の街に引っ越す。
ばあちゃんの昔からの知り合いに下宿屋を営んでいる人がいるらしくて……』
『だからその下宿屋のある街に引っ越すっていうのぉ?』
『うん……今住んでいるアパートよりも家賃安いらしいし……』
『…………』
数秒ほどの沈黙。
その後、先に口を開いたのは彼女だった。
『学校は――?
これまでどおりここに通うのかしらぁ?』
『いや……その……
転校することになる……』
『――!』
転校――私がその言葉を口にした瞬間、彼女の両目がかっと見開かれた。
そして、それと同時に彼女の顔に浮かんだのは明らかに「驚愕」という表情だった。
――こう言ってはなんだが、私は彼女がこんな顔をするのを始めてみた。
『なぜ……?
なぜもっと早く言ってくれなかったのぉ……?』
彼女の両手が力強くはないが、しかしはっきりと私の左右の肩をそれぞれ掴んだ。
――その手は震えていた。
『少しでも相談してくれれば……
ある程度の無茶もすることになったでしょうけど、あなた1人が住む場所くらい用意することは……』
『…………』
『なんとか言いなさいよぉ!?
なんで相談するなりしてくれなかったのぉ!?』
目の前でそう叫ぶ彼女の顔に次に浮かんだ表情は「怒り」。
しかし、「驚愕」の表情もいまだに浮かべ続けているため、妙に中途半端でおかしな顔になっている。
――思っていることを口にしようとしたところで躊躇いが生じる。
本当に言ってしまっていいのか?
おそらくこれを口にしてしまえば、目の前にいる彼女とはもうこれまでの関係ではいられなくなる。それは間違いない。
世間一般的にいうところの「幼馴染」という関係で、もう10年近くの付き合いがある彼女に一方的に絶縁を突きつけることになるのだから。
――だけど、それでも言わなければならない。
そうしなければ、おそらく私は今後も一生このままであろうから――
「……このままじゃ、いけないと思った」
「!?」
「このままあなたに引っ張られ続けて……ただあなたの言うとおりに生きていくだけじゃいけないと思った。
自分で考えて……自分でどう生きていくか選んでいかないとダメだって……気づいたの……」
「バカなこと言わないでちょうだい!
あなたにそんなことできないってことぐらい、自分が一番わかっているでしょう!?
考え直しなさい、乃彩!」
私の肩を掴んでいる彼女の両手に少しずつ力がこもっていく。
これは私のことを本当に思ってくれているからか、それとも――
「それでも……それでも私はあなたから離れないといけない……」
「なぜ!?」
「…………」
――再びほんの一瞬だけ言葉を口にするのを躊躇する。
そして――
覚悟を決めて私は再び口を開き、彼女にはっきりと告げた。
「私はあなたの“犬”じゃないから」
――その言葉を私が口にしたのとほぼ同時に、彼女の顔がまるで「この世の終わり」のような表情に変わる。
やがて、全身から力が抜けたかのようにずるずるとその場に崩れ落ちて尻もちをついた。
「犬……」
私のほうに目を向けながらも、その瞳に私の姿を映すことなく彼女の口からそのような言葉がぽつりと漏れる。
そんな彼女の姿を見た私はなぜか急に息苦しさのようなものを感じ、右手で胸元をぐしゃりと握った。
「違う……違うのよぉ……
そんなつもりで……私は……ただ……」
…………
……
まさか彼女がこのような姿を私に見せることになるとは思わなかった。
おそらく誰にもここまで弱々しさを感じる姿を曝したことはなかっただろう。
それでも、私は彼女に言わなければならなかった。
私が「私」となるためには、彼女のそばから離れなければいけないから――
――だが、彼女にこのような言葉を投げつけてしまった自分が少しばかり嫌になる。
10年近くも世話になっていた相手にいきなりなんて酷いことを言うんだ、と自分自身に対してしっ責する声が聞こえた気がした。
だから私は目線を彼女に合わせると続けざまにこう言った。
「だけど、私がこうしてこの世界に在り続けられたのはあなたがいたから。
あの時からあなたが私を繋ぎ止めてくれていたから……私は今もこうして生きてこれた――
そのことには本当に感謝してる……」
「ありがとう……
こうして私は、「生かされる」のではなく「生きる」ことを選んだ。
『切江乃彩』が再びこの世界に産声を上げるためのきっかけを作り出した。
――そして同時に、私は自らに「仮面」をまとわせた。
彼女を――結菜を傷つけてしまったという罪悪感から逃れたいがために、“あの時”以前の「私」という仮面を被り、“あの時”の記憶を自ずと心の奥底に封印した。
忘れようとしたのだ。
それだけ結菜の存在が今の『切江乃彩』にとって大きかったということでもあるのだが、我ながら本当に酷い人間だ。
自らが犯した「罪」から逃れたいがあまりに生み出した、それまでの自分を再現した人格――
それが私の――『切江乃彩』の偽りの仮面。
しかし、罪の意識が自分でも気づかないくらい強すぎたのか、生きる道を選んでおきながら同時に生きることを諦めていたというのは、我ながら滑稽な話だ。
――はっと我に返ったかのように、視界が再び目の前の現実に引き戻される。
先ほどと変わらず、ももこという魔法少女が床に大の字に磔にされた状態で手足や首を蔦に締め付けられており、魔女がそんな彼女にじりじりと近づいていく姿が目に映った。
『今、お主がいる地では幾万もの人々から内なる可能性が失われ、
偽りの仮面を打ち破り、己が内なる可能性を目覚めさせる者が現れぬ限り――』
またしても夢の中で聞いた言葉が脳裏に響く。
『――そして、お主の中でまさに今、目覚めようとしておる』
『偽りの仮面によって封じられた、お主自身――』
…………
……ふと足下に目を向ける。
そこには相変わらずその赤い瞳を私に向けているキュゥべえと、“あるもの”の姿があった。
――ももこが先ほどまで手にしていた大きな剣。
それが私の足下の近くに転がっていた。
「……偽りの仮面を打ち破る」
無意識にそのような声が漏れる。
自分が今やるべきことはなにか――考えるまでもなかった。
――転がっていた剣に近づき、両手でしっかりと柄の部分を握って持ち上げる。
やはりその大きさから非常に重かった。
『乃彩、さすがに無茶だよ!
魔法少女でもない子が魔法少女の武器を扱おうなんて!』
そして、それを引きずりながら私はゆっくりとももこのほうへと歩いていく。
キュゥべえの声が頭の中に響いてくるが、関係はない。
「だ、駄目だ……! こっちに来ちゃ……!」
私に気がついたももこが静止を促してきたが、見過ごせるわけがないので当然拒否する。
彼女の首に巻き付いていた蔦のそばまで近づいたところで、剣を力の限りに持ち上げて振り下ろした。
ぶつりと糸が切れたかのような感触がほんの一瞬剣を通して両手に伝わる。
ももこの首を締め上げていた蔦は、剣によって容易く断ち切られた。
「よし。次は手を……」
『乃彩! いくらなんでも無謀すぎる!
魔女と戦おうというのならボクと契約を――!』
――この状況でもまだキュゥべえは私に「契約」を要求してきた。
しつこいにもほどがある。
私は言ったはずだ。「願いなんてない」と。
――気がついたら、私は足下にいたキュゥべえの頭を鷲掴みにして持ち上げていた。
「言ったはず……“私に叶えたい願いなんてない”って……
この胸に抱いているのは“願い”じゃない――」
キュゥべえを掴んでいた手を放す。
重力に従ってその体がゆっくりと落ちていく。
「“希望”だけよ!」
そしてバットのように剣を思いっきり横に振り、野球のノックよろしくキュゥべえを魔女に向かって打ち込んだ。
――正直、自分でも信じられないような行動をしている。
明らかに動物虐待だ。
しかし、どういうわけか私には
――思いたくなかったともいうが。
「があッ……!」
そんなことを考えていたからか、気づいた時には私の首や体にも蔦が巻き付いてきた。
一瞬で全身を締め上げられた痛みと苦しみが襲いかかってくる。
特に首を絞められたことで息ができないのが本当に苦しい――
「やめろ!」
背後からももこのそのような声が聞こえてきたが、彼女は今も両手と両足に蔦が巻き付いているはずなので、助けてもらえる可能性は低いだろう。
――少しずつ視界がぼやけていき、意識が
見ると、魔女が巨大なハサミを掲げて、もうすぐそこまで迫ってきていた。
(ああ、さすがにダメかな……?)
命の危機に瀕しているというのに、私の頭の中は妙に冷静だった。
そう思うと同時に全身からふっと力が抜け、視界と意識が暗転する。
これが……「死ぬ」ってこと……?
――ああ、嫌だな。
――暗く、深く、何も聞こえない闇の中に私はゆっくりと沈んでいく。
なにかをすることもなく、ただそれに身を任せ、「自分」という存在が消えていく時をただ待ち続ける。
このまま何も考えず――眠るように全てを放棄していけば、いずれそれは訪れるだろう。
――いや、「沈んでいく」という表現は間違っているかもしれない。
実際に私は沈んでいるのか、逆にこの闇の中を浮かんでいるだけなのかわからないからだ。
そもそも――ここは本当に闇の中なのだろうか?
ただ視界が真っ暗で黒一色だから私がそう思っているだけで、本当は違う色をしているのかもしれない。
…………
……
何も考えるなと思っておきながら、いきなり私は何を考えているのだろう。
……余計なことを考えてしまったせいか、気になって目を開けたくなってきた。
――目?
そうだ。
考えてみたら、私は今目を開けているのか?
視界が黒一色に染まっているのは、単に私が目を閉じているだけなのではないか?
――そう思った瞬間、私の視界から闇はあっさりと消え去った。
代わり広がった色は青。
私は青い海の中を、沈んでいるわけでも浮かんでいるわけでもなく、クラゲのように漂っていた。
ふと見上げてみると、月明かりに照らされているのか海面がきらきらと光り輝き、穏やかに揺れている。
「あ……」
無意識に口が開き、そんな声が漏れる。
――海の中にいるはずなのに、声が出ると言うのは不思議だが、なぜかそのことは気にならなかった。
人だ。
海面の上から人が――誰かが私のことを見下ろしている。
その姿はゆらゆらと揺れる海面のせいかはっきりとはわからないが、人であることは間違いない。
「死ぬ?」
――その人は私に対していきなりそんなことを聞いてきた。
その言葉は確認?
それとも――
「手を――」
私が問いかけようとする前に、その人は再び私に声をかけてくる。
「手を――取って。
そして認めて。私を――」
そう言いながら、その人は海面越しに私に向かってゆっくりと手を伸ばしてきた。
――その人の金色の瞳が、揺れている海面越しでも私の目とはっきりと合う。
そして、私は気づいた。
ああ、そうか……
ここはすべての始まりであり、終わりなんだ。
そして、海面の上から私に対して手を伸ばしているのは――
「あなたは……」
私は海面に向かってゆっくりと手を伸ばした。
やがて、海面越しに相手の手と指先同士が接触する。
視界がガラスか鏡のようにひび割れて、そして音をたてて砕け散った。
――気がつくと、私は海の上に立っていた。
いつの間に海中から浮上したのかわからない。
周囲を見渡してみると、夜空――いや、宇宙が一面に広がっていた。
――似ている。
昨日夢で見た場所と。
「――いや、あれは夢じゃなかったんだ」
『そう』
ふいに足下から声がした。
視線を下に向けると、海面に映る私の姿だけがそこにある。
幻聴だろうか?
――いや、確かにいるじゃないか。
足下に広がる海の中に、“もう1人の私”が。
『ここはすべての始まり。そして終わりでもある。
あなたもすでに気づいていると思うけど――』
「うん」
『あなたは選ばないといけない。
このまま終わるか、それとも終わらない――いいえ、ここから始めるか』
「私は……まだ終わりたくない。まだ死にたくはない。
だって、私は――“切江乃彩”はまだ世界に生まれてすらいないんだから……」
私のその言葉に、海面に映っている“もう1人の私”は再びその瞳を金色に輝かせながら穏やかに微笑んだ。
『それなら……認めてくれる? 私のことを?
これは“契約”――私のことを認めてくれたら、私はあなたに力を貸してあげる。
あなたがこれから先自分自身と、そして世界と向き合っていくために必要な力を――』
「――認める、認めない以前に、答えは初めから決まってる。
あなただってわかっているでしょ?」
――あなたは私なんだから。
私がそう言うと同時に、視界が再びガラスか鏡のようにひび割れ、音をたてて砕け散る。
そして、砕け散ったその向こう側からまばゆい光が一気に差し込んできて、すべてを白一色に染め上げた。
――また「声」が聞こえる。
『そう。我は汝、汝は我――
我は汝の心の海より出でし者――』
『灯火を守護することが我が使命――』
『我が
偽りの仮面を打ち破り、その胸に“希望”という灯火を宿した今こそ、我が力をあなたにお貸ししましょう』
「ペ――」
――自然とその名前が、一文字ずつはっきりと脳裏に浮かび、口から紡がれていく。
「ル――」
――全身に徐々に力と感覚が戻ってくることがはっきりとわかる。
いつの間にか両手はしっかりと握りしめられていた。
「ソ――」
――全身、特に首がまた苦しくなってきた。
どうやらまだ蔦に締め上げているらしい。
いや、あれからまだ時間は数秒も経過していなかったのだろう。
「ナ――!」
――三度目を開き、意識が完全に現実へと戻る。
そして、それは『切江乃彩』がこの世界に二度目の産声を上げた瞬間でもあった。
――魔女や使い魔と自分たちの距離を軽く確認すると、私はチラリと後ろに目を向ける。
そこには私の数倍はあるだろう大きさの人型の存在が浮かんでいた。
魔女や使い魔とはまた違う異形――しかし、わかる。
空洞になっている胴体の中で赤い炎を燃え滾らせているこれは、“もう1人の私”だ。
その顔はフルフェイスの仮面に覆われていて表情は見えないが、間違いなくこいつも今私のことを見つめている。
「…………」
私は何も言わず頷くと、再び魔女と使い魔のほうに視線を戻す。
そして、右手を前に掲げて“もう1人の私”に命じた。
「こいつらを倒せ!」
私のその言葉と同時に、“もう1人の私”が勢いよく魔女たちに向かって突っ込んでいく。
その様子を見た魔女と使い魔は、慌てて迎え撃とうと身構えた。
――でも、遅いな。
手始めに一番手前にいた1体の使い魔に対して、“もう1人の私”がその手から炎を放った。
一瞬のうちに使い魔はその炎に呑み込まれ、チリも灰のひとかけらも残さずに消滅する。
さらに追い打ちをかけるかのように“もう1人の私”は別の使い魔にも炎を放ち、これもまた焼き尽くした。
――すごい!
それを見た私の中で高揚感が沸き上がる。
あたりまえだろう。私の力が――いや、「私自身」が、先ほどまでは手も足も出なかったであろうバケモノを易々と蹴散らしているのだから。
――また1体、使い魔が炎で焼かれて消え失せる。
よし。このまま一気に――!
「危ない!」
「――ッ!?」
背後からももこの叫び声が聞こえたのと同時に、死角から1体の使い魔が私の視界の中に飛び込んできた。
その手には小さいながらも鋭利なハサミが握られている。
とっさに後ろに飛び退けようとするよりも早く、私と使い魔の間に“もう1人の私”が滑り込む。
そして、“もう1人の私”のその細い体にハサミの刃の先端がブスリと音をたてて深々と突き刺さった。
「う、ぐぅっ……!?」
それと同時に、私の脇腹から激痛がほとばしる。
思わずそこを手で押さえながらその場でうずくまってしまった。
「えっ……?
ちょ、ちょっと、大丈夫!?」
そんな私の姿を見たももこが私のそばに駆け寄ってくる。
私は手で軽く「大丈夫」と答えつつ、視線を“もう1人の私”のほうに向ける。
“もう1人の私”は、片手で己の体に刃を突き立てた使い魔を軽く払い除けつつ、もう片方の手でハサミを引き抜いていた。
――同時に、私の脇腹にまた痛みが奔る。
「そう……
あなたが受けた痛みは私にも伝わるってこと……」
すぐさま理解する。
なるほど、確かに“もう1人の私”だ。
姿形はぜんぜん違うし、私自身はここにいるとしても、あれも紛れもなく私――『切江乃彩』の一部であり、そのものでもある。
ゆえに、痛みを共有したってなにもおかしくはない。
――しかし、そうなるとこのまま戦い続けるのはマズい。
数は明らかにあちらのほうが勝っている。いちいち敵を1体1体倒していくほどの余裕はさすがにない。
「戦いは数」なんて言葉があるように、そのような戦い方をしていたらこちらが先に音を上げるのは明らかだ。
――それなら、親玉を最優先で倒す。
私はいまだ目の前でその巨体をたたずませている魔女を睨む。
彼我との間隔は直線距離では走れば数秒で到達できるほどだが、そこにはまだ多くの使い魔たちがいる。
明らかに主である魔女を守ろうという陣取りだ。
「厄介……」
ついポロリとつぶやくように愚痴を吐いてしまう。
どうすれば最短最速で魔女のもとにたどり着けるだろうか――?
私の頭の中でそのような疑問が浮上する。
「ももこ!」
――と同時に、背後からすでに聞き慣れつつある声。
そして、それとほぼ同じタイミングで頭上から大量の槍が雨のように降り注いできた。
槍は次々と目の前にいる使い魔たちを貫き、やがてそれらは私たちと魔女を隔てる柵か壁のように床に突き刺さる。
――さり気なく、“もう1人の私”のほうにも何本か槍が降ってきたが、これはなんとか回避させた。
「ももこ、大丈夫!?」
「やちよさん!」
隣にいたももこがどこか嬉しそうな声を上げたので、つられて私もそちらに目を向けてみる。
「えっ……!?
き、切江さん……?」
そこには、昨日や朝に見た姿とは明らかに雰囲気が違う、一見するとコスプレかと思ってしまう――というか思ってしまった――装いをした七海さんの姿があった。
彼女の手には、ちょうど今大量に振ってきたものと同じ槍が1本握られている。
「切江さん?
――って、ああっ!?
よ、よく見たら、確かにこの間の写真の……!」
「ももこ、今はそれどころじゃないでしょ!? 状況は!?
というか……どうして魔女が2体もいるのよ!?」
そう叫びながら七海さんは険しい表情を浮かべながら魔女と“もう1人の私”を見比べるかのように交互に見やる。
――あ。
これ間違いなく勘違いされている。
さっき降り注いできた槍が七海さんの手によるものだとすると、さっき“もう1人の私”のほうにも槍が降ってきたのはそういうことか。
まぁ、外見的にも状況的にもそう考えられても仕方ないけど……
だけど、今のももことの会話やその姿から確信した。
七海さんも魔法少女だったのだ。
「七海さん、あれは魔女じゃないです」
「魔女じゃない……?
それじゃあ、いったいあれはなんだっていうの?」
「――見てもらえばわかります」
説明している余裕なんてない。
だから実際に見てもらったほうが速いとばかりに、口を動かすよりも先に足が動いた。
「すいません。使い魔はお願いします」
背後から聞こえてくる七海さんの制止を促す声に淡々と答えつつ、私は大量の槍で作られた即席の柵や壁をくぐり抜けると魔女に向かって駆け出した。
もちろん、そのそばに“もう1人の私”を連れて。
そんな私を前にした魔女は、獲物が自ら飛び込んできたことを喜んでいるのか、それとも脅威が目の前に迫ってきていることに恐怖しているのかはわからないが、全身を激しく、そして派手に震わせる。
そして、体中からいくつもの長く伸びた茨と巨大なハサミを取り出すと、それをこちらに向かって今まさに振り下ろさんと身構えた。
――でも、遅い。
すでにこちらは攻撃の射程に入った。
私がそう思うと同時に、“もう1人の私”から再び炎が放たれる。
炎は魔女の体のド真ん中に吸い込まれると、直後にボンという音とともに爆ぜ、一瞬で魔女の体のいたるところを炎上させた。
突然自らの身に起きた惨状に魔女は慌ててこちらに対する攻撃を止め、急いで火を消さんとその場でどったんばったんと暴れ、もがき始める。
周囲にいた使い魔たちも主のその様子に混乱しているのか、その周りをぐるぐると不揃いな速度で駆けまわっている。
――そんな姿に心の中で少しばかり申し訳なさも感じたが、こちらは命がけだし敵である以上情けはかけられない。
私は再度攻撃の意思を抱くと、それに合わせて“もう1人の私”が再び魔女に対して炎を放つ。
魔女の体中に灯っていた火がさらに激しさを増し、その姿を不気味なデザインのロウソクから轟々と燃え上がるキャンプファイヤーへと変貌させた。
――しかし、まだ足りない。
確実にこれを倒すにはもう一撃は必要だ。
なぜそう思ったのかは自分でもわからないが、そんなことを頭の中に浮かべつつ私は昼休みに大量に購入していた『カフェシャキーンZ』なるエナジードリンク――これを大量購入した理由もやはりわからない。しかし、買わなければならない気がした――を1本取り出してそれを一気にあおる。
口、喉、そして胃を通して体中に力がみなぎってくる――ような気がした。
飲み終えた缶から口を放すと同時に、私は“もう1人の私”に最後の一撃を魔女に放つ意思を伝えると同時に叫ぶ。
私に目覚めた「力」――
この胸にようやく宿った「希望」という灯火を守護する者――
“もう1人の私”――
その名前を。
「ヘスティア!」
“もう1人の私”――ヘスティアから三度放たれた炎が魔女を、そしてその周囲にいた使い魔たちを呑み込み、やがてそれらをまとめて焼き尽くして消滅させた。
――終わった。
そんな言葉が頭の中で浮かぶのと同時に、全身から安心感と疲労感がまとめてどっと湧き上がってきた。
それとともに視界がゆっくりと暗転していき、また体が前へと傾いていくのを感じる。
「あ……まず――」
まずい。
そう言い終わるよりも先に、私の意識は再び闇の中へと沈んでいった。
――だけど、今度は「嫌だな」という思いは抱くことはなかった。
なぜなら、意識が途切れる直前、私の名前を叫ぶ七海さんたちの声がかすかに――いや、しっかりと聞こえたからだ。
すべてを等しく、終わりへと運んでいく。
限りある未来の輝きを守らんとする者よ。
汝に与えられたその幾ばくかの時を往くがいい。
己が心の信ずるまま、
緩やかなる日々にも、揺るぎなく進むのだ――
――わずかに聞こえてくるガタンガタンという音と、ほんの少しばかり上下に体が揺さぶられる感覚にゆっくりと目を開いた。
そこは少しレトロな雰囲気の内装をした特急列車の車内だった。
そして、そんな車両のほぼ真ん中のあたりに不自然にぽんと置かれていた椅子の上に私は腰かけていた。
「ここって……」
軽く車両内を見回してみる。
――照明こそいたるところに灯されてこそいるが、車内はやや薄暗い。
私から見て左右両方の壁にはそれほど大きくはないが窓も存在している――が、そこからはなにも見えず、その先はただ真っ暗な闇だけが広がっていた。
そして、床も壁も天井も――車両のほぼすべてが青かった。
青くないのは照明のほかに車内に設置されている座席やテーブル、それと何に使うのかわからない数枚の大きな姿見くらいだ。
…………
……
知っている。
この場所は以前――いや、つい昨日訪れたことがある。
夢の中で、だが。
そう。確かここは――
「再び、お目にかかりましたな」
「あ……」
気がつくと、目の前に私と向かい合うような形で1人の老人がテーブルを挟んで椅子に座っていた。
大きく見開かれ血走っている目、見るだけでわかるとんでもない猫背、戦端が細く尖った耳、そして明らかに人間離れしている長い長い鼻――
この老人のことも知っている。
というより、この人も昨日見た夢の中でこの場所にいた。
名前は――『イゴール』だったっけ?
そして、この場所は『ベルベットルーム』。
――どうやら私は、昨日に続いてまた奇妙な夢の世界へと誘われてしまったようだ。
マギレコのコミカライズ版最新刊の発売が近いので失踪します。
■TIPS
●切江 乃彩
二木市虎屋町出身。転校前に通っていた学校は虎屋町学園。
10年前に発生した事故が原因で、なにもない空っぽで無気力な人間になっていた。
そんな彼女を見かねて手を差し伸べた――というか、鎖で繋いで無理矢理引っ張り出したのが紅晴結菜。
その後は彼女に引っ張られ――もとい言われるがままに生きてきたが、歳月を重ねていくうちに自我が芽生え、自分を縛りつける結菜を無意識に「ウザい」と思うようになった。
結果、祖母の余命発覚が引き金となり2人の主従とも「飼い主と犬」ともいえる関係は完全に崩壊。
しかし、幼馴染との関係を自ら断ち切り、かつ結菜の精神を深く傷つけてしまった罪悪感から「忘却」と「逃避」の偽りの仮面をまとうようになり、かつての無気力な自分に戻ってしまった。
そんな自分の「罪」を思い出し、そして自覚した時、彼女は偽りの仮面を打ち破り、真の己を目覚めさせる。
余談だが、当時の結菜とは某鉄血1期第1話時点での団長とミカのような関係だった。
つまり、乃彩が結菜と決別する道を選ばずにそのままの人生を歩んでいたら、原作メインストーリー第2部にて神浜の魔法少女を容赦なく
●
原作のメインストーリー第2部の主要登場人物。
ストーリーが進むたびに「お前の組織、ガバガバじゃねえかよ!」とツッコまずにはいられない魔法少女グループの長女――になる予定の人。
この時点ではまだ魔法少女でもなく、ただの1人の女子高生。
(何らかの打算もあってのことだが)10年ほど前に「人の形をした空虚ななにか」と化していた乃彩を無理矢理人の世界に引きずり出して繋ぎ止めた。
要は今の乃彩があるのはこの人のおかげ。さすがっす結菜さん!
だが、無意識に「乃彩は自分がいなければなにもできない」と思い込んでいた――悪く言えば見下していた――ため、その乃彩から決別を宣告されたのは非常にショックだった。
同時に自分の「歪み」にもすぐに気づけたようだが……
なお、乃彩との上記の一件がきっかけで「犬」という言葉が半ばトラウマになった模様。ひかるが「犬」じゃなくて「馬」なのもたぶんそのせい。
蛇足だが、結菜がこのまま原作と同じ道を歩んだ場合、第2部で神浜市にカチコミをかけるとほぼ100%ヨシツネをはじめとした公式チートペルソナを多く引っさげた乃彩と相まみえることになり、心身ともにフルボッコされることになる。
「引っ越し先が神浜だったなんて聞いてないわよぉ!」
「いや、だって結菜引っ越し先聞いてこなかったじゃん……」
●ヘスティア
乃彩の初期ペルソナ。アルカナは愚者。
属性相性は火炎吸収、水撃弱点。
特性は、火炎属性スキルの消費HP・SPが半分になる『聖火の炉』。
ギリシャ神話における炉や
炉は古代ギリシャにおいて家屋の中心に設けられていたことから家庭や日常を守護する女神ともされ、原典ではこれといったエピソードがなく非常に目立たない神でありながらも非常に多くの人々から信仰された。
意外なことだが、2021年現在メガテンにおいては――ペルソナシリーズをはじめとした派生作品も含んで――いまだに一度も登場していない。
一応、ヘスティアと同一視されているローマ神話の女神ウェスタが、英語読みの「ヴェスタ」名義で『if...』と『偽典・女神転生』に地母神カテゴリーの悪魔として、『女神異聞録』と『罪罰』で黛ゆきののペルソナとして登場してはいる。
●イゴール
ペルソナシリーズに登場する奇怪な外見をした老人。鼻。
ベルベットルームの主。シリーズでは派生タイトルを除くと皆勤賞。
実は人間ではなく何者かによって作り出された人格を有する人形であり、ゲーム中彼が常に椅子に座っているのは「自分は何者なのか?」という自問自答を延々と続けているため。
普遍的無意識(集合的無意識)の正の側面「ポジティヴマインド」の化身フィレモンの従者であるが、フィレモンが登場しない『P3』以降のシリーズではそのことについてゲームや設定中では言及されていない。
名前の由来は映画『Son of Frankenstein』(邦題『フランケンシュタインの復活』)に登場する同名の老人。
ちなみに、ペルソナシリーズのベルベットルームの住人をはじめ、メガテン派生作品において悪魔の合体に携わる者は、ほぼ全員がフランケンシュタインの映画の登場人物に由来する名前だったりする。
――というか、デビルサマナーシリーズではフランケンシュタイン博士本人、デビチルではフランケンシュタインの怪物自身が悪魔合体を行う。
●ベルベットルーム
ペルソナシリーズに登場する青い部屋。
夢と現実、精神と物質の狭間にある場所。要するに世界の外側。
この部屋の住人や客人となった者は、現実世界に存在する青い扉から自由に出入りすることができる。
客人となる条件は、現実世界で何らかの契約を結び、ペルソナ能力に目覚めること。
基本的にこの条件を満たした者は、部屋の主であるイゴールによって「夢」という形で招かれ、客人の証である『契約者の鍵』を与えられる。
そのため、条件さえ満たせば誰でも客人になれるというわけではない。
ただし、『P4』やアニメ『トリニティ・ソウル』の主人公のように契約を結ぶ前やペルソナが覚醒する前に偶然部屋に入ってしまう――夢という個人の無意識の領域が偶然部屋と一時的に繋がってしまう――者も少なからずいる。
部屋の存在、出入り口である扉は住人と客人にしか認知することができない。
時間とも切り離されているようで、客人が扉からこの部屋に入っている間の様子は、現実の者たちからは「客人がその場で一瞬から数秒ほどぼーっと突っ立っている」ように見えるらしい。
部屋に訪れる者の精神の在り方によって形や内装はその都度変わり、『女神異聞録』と『罪罰』ではジャズバー、『P3』ではエレベーター、『P4』ではリムジン、『P5』では監獄となっている。
乃彩の場合は特急列車。「定められた運命を往くことも良しするが、それをどこまで続けるか、どれほどの速さで進むかは自分が決める」という彼女のそれまでの10年間の生涯の表れである。
●心の海
一般的には「普遍的無意識」または「集合的無意識」と呼ばれる領域。
この宇宙に存在するすべての生命の精神が繋がっている場所。
ペルソナシリーズにおいては、派生タイトルも含むほぼ全ての作品の世界観とストーリーにおいて重要な役割を果たす概念。
ぶっちゃけると、某型月作品における「根源の渦」のようなもの。
マギカシリーズでいえば「円環の理」も間違いなくこの一部。
●十咎 ももこ
今回はこれといって活躍の機会がなかった。
しょーがねーだろ、ソウルジェム真っ黒なんだから。
●七海 やちよ
ヘスティアを魔女と勘違いしてAnthony君もろとも串刺しにしかける。
危ないですよ、やっちゃん!
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Part6 はじめてのたたかい(Take2)
マギレコのアニメ版第2期の放送が始まったので初投稿です。
我は走者、走者は我なRTA、はーじまーるよー。
それでは、前回ラストに神様仏様ももこ様が助けに来てくれた直後からのスタートです。
見てください、ももこ様のあの華麗――とまではいきませんが見事な戦いっぷりを。
属性相性的に超有利というのもありますが、薔薇園の魔女程度の存在がももこ様を相手取ろうなど1万光年お早いでしてよ!
あまりの余裕っぷりに走者も画面の前で思わずベガ立ちお嬢様モードですわ。
――あ。魔女から1発カウンターもらって吹っ飛ばされた。
まぁ、こういうこともあるか。
格ゲーの対戦とかでも暴発的にぶっぱしちゃった技が意外にも直撃したってこと結構あるし……
あの程度ならすぐに体制を立て直せるでしょう。
――ん?
ちょっと待ってください。
ももこ様の胸元がなんか黒いような……
――って、ももこォ!?
お前のソウルジェム、よく見たらまっくろくろすけじゃねえかよ!
どうしてそんな黒くなるまで放っておいたんだ!?
グリーフシード持ってなかったのか!?
あっ……(察し)
そういえば今の時期ってメルが死んでからあまり日時が経過していないっぽかったですね。
確かももこたちはその時の戦いでそれまで持っていたグリーフシードを全て消費してしまっていたはず。
おまけにメルの死をきっかけに「魔法少女はいずれ魔女になってしまう」という事実を知ってしまったので、精神的に大ダメージを食らっています。
それならソウルジェムがあれくらい黒くなっているのも納得です。
――って、ダメじゃん!
これ下手したら薔薇園の魔女との戦いが終わった直後にももこが魔女化しちゃうって!
畜生! 魔女撃破時に「1万光年は時間じゃなくて距離でしてよ」とセルフツッコミしようとしていた予定がご破算だよ!
ああ、ほら!
原作でマミさんも食らっていた使い魔の蔦に全身ギチギチに締め上げられちゃってるし!
早く助けないとマジでヤバいわあれ!
『乃彩! 願いをボクに言ってくれ!
魔法少女となって魔女と戦うんだ!』
絶対にノゥ!
俺は
というわけで、早速ももこを救出しようと思います。
ももこは……(みかづき荘の)ファミリーみたいなもんやし。
おっ。ちょうどいいところにももこの剣落ちてんじゃーん。これ使お。
このように魔法少女の武器は床などに落ちていた場合はプレイヤーキャラが拾って一時的に使用することが可能です。
これを使えば魔法少女ではない乃彩ちゃんでも使い魔や魔女に雀の涙程度ですがダメージを与えることができます。
まどマギ原作序盤にマミさんの魔法で強化された金属バットをさやかが振るっていたシーンなどを思い出す人もいるのではないでしょうか?
とはいえ、魔法少女の武器を持っているとはいえ、今の乃彩ちゃんで魔女や使い魔を相手取るのは自殺行為に等しいどころではありません。自殺です。
なので、ここはももこの体に巻き付いている蔦を切る程度に留めておきます。そうすればももこが魔女との戦闘を再開してくれますからね。
――ももこのソウルジェムが濁り切ってしまった場合?
そんときゃリセットだよ(白い目)。
おう、ももこ! 大変そうだな!
乃彩ちゃんが助けにきてやったZE!
「だ、駄目だ……! こっちに来ちゃ……!」
俺だって本当は近づきたくなんかねえよ!(マジレス)
動くと切れないだろ?
動くと切れないだろぉ!?
そぉい!
はい。まずは首に巻き付いていた蔦の切断に成功しました。
これで締め付けによるダメージが軽減します。
続いて腕に巻き付いている蔦を――
『乃彩! いくらなんでも無謀すぎる!
魔女と戦おうというのならボクと契約を――!』
うっせえわ!
もうお前目障りだし耳障りだから消えちまえ!
キュゥべえを薔薇園の魔女に向かってホムーランじゃあ!
ダメージは――1。
チッ。あいつ本当に使えねえな。
――って、うわああああああああああ!?
蔦が乃彩ちゃんにまで巻き付いてきやがったああああああああああっ!
ヤメロー! シニタクナーイ! シニタクナーイ!(CV.ダメギ)
「やめろ!」
ほら! ももこだってそう言ってるダルォ!?
やめろよホント!
またイゴったらタァイムの大幅なロスになっちまうからさ、マジで!
……落ちたな(確信)。
はぁ~……(クソデカため息)
早くも2回目のイゴりとか、もうやめたくなりますよ~RTA~。
……あれ?
画面が暗転したのに画面がベルベットルームに変わりませんね。
これはもしかして――
ヒャッホーウ!
乃彩ちゃんまだ生きてるー!
というか、これ完全にペルソナ覚醒イベントだ!
ktkr!
おっ。ちょっとだけ乃彩ちゃんの過去の回想も入っていますね。
今後経歴ガバが起きる可能性もゼロではないので、ここは倍速せずに確認しておきましょう。
…………
……
――は?
今流れた回想シーンでの乃彩ちゃんの着ていた服、あれ明らかに虎屋町学園の制服でしたね。
しかも顔は映っていませんでしたが、乃彩ちゃんと話していたのは間違いなく……
おいィ!?
乃彩ちゃん、あんた二木市の人間で『紅晴 結菜』の知り合いなのかよぉ!?
しかも結構仲良さそうな感じだったんですけどォ!?
やべえよ……やべえよ……
これ下手したら結菜や二木市の連中がコミュ対象になる可能性出てきちまった……
い、いや、原作1年前スタートならほぼ100%(100%とは言っていない)メインストーリー第2部の主要キャラはコミュ対象にならないと調べがついているはず。
ここは恐れずにプレイ続行だ!
『そう。我は汝、汝は我――
我は汝の心の海より出でし者――』
――というわけで、己の「影」と向き合い、それを受け入れたことで乃彩ちゃんペルソナ覚醒です。ヤッター!
これで以降は乃彩ちゃんも魔女や使い魔、そして魔法少女と渡り合うことができます(倒せるとは言っていない)。
よっしゃ! 見てろよ薔薇園の魔女!
この走者様のスーパープレイと乃彩ちゃんの力で秒殺してやるからな!
あとAnthony君、悪いが経験値と資金のために君たちにもある程度犠牲になってもらおう。死ぬがよい。
記念すべき乃彩ちゃんの初期ペルソナは――ヘスティア!
…………
……
アカン! ハズレだ!
え~……知らない方のために解説させていただきますと、主人公の初期ペルソナは難易度「HARD」以上だとキャラメイクの結果などをもとに数種類の中からランダムで決定される仕様なんですね。
そして、ヘスティアは主人公が女性だった場合の初期ペルソナ候補の1体なのですが、総合的な性能が候補中ぶっちぎり最弱という雑魚ペルソナでして……
それも男性主人公、女性主人公双方の初期ペルソナ候補全体における、文字どおりの「最弱」……
よりによってなんでお前なんだよぉ……
ヘスティアが初期ペルソナ候補中最弱とされる理由は、大きく挙げると5つあり――
1・能力値が耐久寄り
2・レベルアップで習得するスキルが回復と補助
3・攻撃スキルは最初から使える『アギ』だけ
4・弱点である水撃属性のスキルを使う敵が序盤から多く出現する
5・高難易度だとその耐久寄りのステータスが完全に死ぬ
――というわけなので、難易度「HARD」以上でプレイする場合は完全にハズレ扱いされているわけです。
一応、特性とスキルを継承させるための合体素材としては悪くないということと、最初から火炎属性に対する相性が「吸収」であるという長所もあるので、リセット必須というほど弱くはないのですが……
それでもこの状況でヘスティアはなぁ……
――まあ、今回は相手が火炎属性が弱点の薔薇園の魔女とAnthony君なので、このまま続けようと思います。
他のペルソナが手に入ったら即お役目御免なので、今のうちに酷使してやりましょう。
はい。ペルソナ覚醒イベントが終わり再び操作可能となったところで戦闘再開です。
早速近くにいたAnthony君にアギをぶち込みます。
チュートリアル的な戦闘なのでヘスティアでも弱点を突けば1発で倒せました。
――で、前回も説明しましたが、このゲームはスキルによる攻撃で相手の弱点である属性のものを叩き込むかクリティカルが出ると次にスキルを使えるようになるまでに必要な時間が0となるシステムです。
この恩恵を最大に利用して近くにいるAnthony君たちに根こそぎアギをぶち込んで殲滅していきます。
こちらを攻撃する隙なんて与えません。「ずっと俺のターン!」と言わんばかりに
「危ない!」
とか言ってるそばから死角からすっ飛んでくるように現れたAnthony君のハサミがヘスティアにヒットしちまったああああああああああっ!
いてええええええええええっ!
ももこ、見ていたならもっと早く教えろ!
このようにペルソナ使いルートの場合、顕現させているペルソナにも当たり判定があり、敵の攻撃を受けると本体であるキャラがダメージを受けてしまうので注意が必要です。
そのため、必要な時以外はペルソナは引っ込めておきましょう(自戒)。
一度攻撃を中断して『ディア』でHPを回復しておきます。
ついでに昼休みに購入していた『カフェシャキーンZ』も1つ使って――
「ももこ!」
おお! やちよさんじゃないか!
ここで救援が来てくれるのは助か――って、あぶねえ!
あの女、魔女や使い魔だけじゃなくてヘスティアにまで槍飛ばしてきやがりましたよ!?
なにやってんのお前!?
まだ味方判定出てないから、あんたの攻撃もヘスティアに当たったら普通に乃彩ちゃんにダメージ入るんだよ!?
乃彩ちゃんをイゴらせ――殺す気か!?
あっ、そっかぁ……やちよさんはペルソナなんて知るわけないから、外見的にヘスティアも魔女か使い魔に見えるわな。
そうとわかれば、急いでやちよさんに状況を説明しなくてはなりません。
こういう状況説明や説得などには人間パラメータの「伝達力」のランクが重要になってきますが、やちよさんなどは敵対でもしていない限りこちらの話はちゃんと聞いてくれます。
ヘイ、やっちゃん!
あれは魔女じゃなくてこちらの味方――というか、乃彩ちゃんの能力だぜ!
……OK?
それじゃあ、乃彩ちゃんはこれから魔女をボコるから周りにいるAnthony君は任せるぞい。
火炎属性の攻撃スキル持ってないとはいえ、やっちゃんならあれくれいは一撃で倒せるっしょ?
そんなわけでシクヨロ~☆
「なっ……!?
ま、待ちなさい!」
さぁ、いくぜ!(BGM・クリティウスの牙)
目の前にいるAnthony君たちの間をすり抜けるように最短最速で駆け抜けて薔薇園の魔女がアギの射程に入るまで近づきます。
Anthony君たちは――うん。予定どおりやちよさんが槍飛ばして撃破およびタゲ取りしてくれていますね。ヨシ!
そして、薔薇園の魔女が射程に入った瞬間、即アギぶっぱ!
よっしゃ! 弱点突いただけでなくクリティカルも出て、おまけに「炎上」の状態異常にさせることに成功しました!
これはおいしい!
「炎上」は一部の火炎属性の攻撃スキルをぶち込んだ際に付与させることができるバッドステータスで、30秒間1秒ごとにHPが1減少していきます。
さらに、この状態異常の時は火炎属性の攻撃スキルによって受けるダメージが15%上昇するうえに、火炎属性の攻撃スキルを受けるたびにバッドステータス付与時間が30秒延長するという、なかなか恐ろしい性能を誇る状態異常です。
反面、炎上中に水撃属性の魔法攻撃を受けたり、一部の水撃属性の攻撃スキルを使用するとフィールド上にできあがる水たまりの上に5秒間いるだけであっさり取り除かれるという欠点もあります。
先のヘスティアの解説の際にも述べましたが、このゲームは水撃属性の攻撃スキルを有する敵が序盤から多いため、この状態異常が猛威を振るえる機会は今回を含んで非常に限られることは覚えておきましょう。
こちらが「炎上」対策を疎かにしてしまい、敵による火炎地獄を味わうことは結構ありますが……(3敗)
――と、話が少しそれてしまいましたね。戦闘に戻りましょう。
炎上した薔薇園の魔女に対してもう1発アギを叩き込み、火の勢いを増します。
乃彩ちゃん、派手にやるじゃねえか! これから毎日魔女を焼こうぜ?
あ。そういえばさっきやちよさんのログインで『カフェシャキーンZ』を飲むの忘れてたわ。飲んどこ。
飲んどる場合かーッ!(CV.シュトロハイム)
――などと思う方もいるといるかもしれませんが、大丈夫です。
画面のこ↑こ↓、乃彩ちゃんのHPとSPのゲージの下を見てください。別のゲージがありますね。
これはMG――「マギアゲージ」です。マスターグレードじゃないゾ?
原作マギレコをプレイしている方にはすっかりお馴染みですが、このゲームにもマギアが実装されています。
しかも、『Reincarnation編』では魔法少女だけでなく悪魔やペルソナたちにも各々マギアが用意されているんですね。
このゲージが満タン――100%になったキャラは、マギレコ原作同様マギアを任意で発動できます。
そういえば、『真・女神転生V』にもこれに似た「マガツヒゲージ」と「マガツヒスキル」ってシステムがありますね。ゲーム中の表記が一貫して「MG」なのは、もしかしたらそれも含んだ略称なのかもしれません。
さて、現在は画面を見てもらえばわかるとおり、乃彩ちゃんのMGはすでに100%です。
最初にAnthony君を燃やしまくっていたのは、実は経験値と資金を稼ぐ以外にもMGを溜めるためでもありました。
というわけで、早速マギアをパナします!
――はい。無事に薔薇園の魔女を撃破しました。
今見てもらったのがヘスティアのマギアである『不浄を払う焔』です。
ヘスティアもとい乃彩ちゃんを中心にした一定範囲内にいる敵全体に火炎属性でダメージを与えます。
一見カッコいい演出をしていますが、初期段階では『マハラギ』相当の威力しかありません。悲しいなぁ……
一応補足しておきますと、このゲームでのマギアはキャラのレベルが一定値に達することでランクが上がっていき、最大で5段階まで強化されます。
ヘスティアの『不浄を払う焔』も最大ランクまで強化されれば強力なのですが、RTAでこいつをそこまで育て上げる意味もうまあじもないのでやりません(無慈悲)。
……しかし、ようやくペルソナ覚醒までこぎ着けましたね。
まだここまでタァイムも総プレイ時間もそんなに経過していないのに、めちゃくちゃ長かったような気がします……
ぬわああああああああああん疲れたもおおおおおおおおおおん!
乃彩ちゃんにもこちらの意思が伝わっているのか、RTAにおける伝家の宝刀「気絶ワープ」を発動させました。ナイスゥ!(本音)
(また画面が)暗くなってんぜ?
ベルベットルームからおはよーございまーす!
無事にペルソナに覚醒したので、『P3』以降のペルソナシリーズではすっかりお馴染みとなったイゴールからのペルソナとコミュニティに対する説明タイムです。
途中でいくつか選択肢が出てきますが、会話の内容が若干変化するくらいなので適当に選んでぱっぱと進めていきます。
そして今走におけるベルベットルームの住人との顔合わせと『契約者の鍵』の受け取りも済ませたら、さっさと現実世界へログアウトしましょう。
じゃあな! ヤルダバオトって悪神に気をつけろよ! このゲームのベルベットルーム時系列的には『P5』の後っぽいけどな!
――そんなわけで、ベルベットルームから現実世界に戻ってまいりました。
クォクォア……みかづき荘の乃彩ちゃんの部屋ですね。あの後やちよさんたちにここまで運ばれたのでしょう。
どうやらまだ先ほどの戦いから時間はそんなに流れていないようなので、部屋を出てやちよさんたちがいるかどうか確認しましょう。
いたらペルソナのことを改めて説明しておかなければならないでしょうからね。
「ようやく目を覚ましたか、“
ファッ!?
乃彩ちゃんが寝ているベッドの枕元になんかいるんですけど!?
お、お前は……昨夜の夢の中に出てきた銀髪和装狐面幼女! 銀髪和装狐面幼女じゃないか!
――いや、お前なんでここにおる?
長かった1日がようやく終わるって前に、なにやらもう一騒動ありそうな気がしてきたので今回はここまでです。
ご視聴ありがとうございました。
◆
――あれはなに?
目の前で紅蓮の炎に焼かれていく魔女と使い魔たちの姿をよそに、私の目は“それ”にくぎ付けになっていた。
切江さんが魔女の結界に引きずり込まれていたことにも驚きはしたが、あれはそれ以上だと断言せざるを得ない。
切江さんのそばに浮かぶ巨大な人型の異形――
一見魔女にしか見えないが魔女ではないという“それ”は、確かに終始彼女を守るように魔女と戦っていた。
魔法少女となってすでに6年ほどになるが、少なくとも今まであのようなものは見たことも聞いたこともなかった。
――切江さんもキュゥべえと契約して魔法少女となった?
最初はそう思ったが、彼女が現在身にまとっているのは朝に見た時と同じ水名女学園の制服だ。魔法少女の装束じゃない。
もし切江さんも魔法少女になったというのならば、あれは彼女の固有魔法による産物だということで説明がつくのだけれど――
「本当に……あれはなんなのかしら?」
私の口から思わずそのような言葉が漏れるのとほぼ同じタイミングで、魔女たちがその身を焼いていた炎ごと消滅し、結界全体がぐにゃぐにゃと歪み始める。
やがて結界は消えて、駅の改札前のホールへと私たちは戻ってきた。
――切江さんのそばにいた異形は、結界が消えるのと同時に姿を消していた。
「いない……?」
隣に立っていたももこもあれがいなくなったことに不思議に思い、周囲を見回し始める。
気持ちはわかるが、魔女も倒した以上ここに留まっている理由はない。正気に戻った人たちが戻ってくる前に切江さんを連れてここを離れよう。
あれについては帰りながら聞けば――
「――!?
切江さん!?」
「えっ……?」
――突然、目の前に立っていた切江さんの体が前へと傾むいていった。
いけない。
あのままでは勢いよく床に――!
「よっと。
はぁ……危なかった……」
――倒れた切江さんの体が床に叩きつけられそうになったギリギリのところで、いち早く動いていたももこが間に滑り込む形で切江さんの体を抱きとめた。
おそらく私と違って考えるよりも先に体が動いたのだろう。今回は彼女のそんな性質がプラスに働いた。
「――よかった。気を失っているだけだ。
たぶん緊張の糸が切れて疲れちゃったんじゃないかな?」
「そう。それなら安し――ッ!?
ももこ……あなたソウルジェムが……!」
「あ……」
――ももこが振り返ったその時、私は彼女のソウルジェムが今にも限界を迎えそうなほど真っ黒になっていることに気がついた。
「まさかグリーフシードを……!」
「……うん。あの日から今までずっと魔女退治していなかったんだ。
あんなことがあっていろいろとショックだったから……」
ももこがそう言いながら苦笑いを浮かべる。
その顔は明らかに黙っていたことを詫びる意味合いが含まれているのが見て取れた。
――って、今はそんなことを考えている場合じゃない!
急いでももこのソウルジェムから穢れを取り除かないと!
このままでは彼女まで――
「――!」
その時、私の視界の隅に黒光りする小さなものが床の上に転がっているのが映った。
見間違えるはずがない。グリーフシードだ!
おそらく先ほどあの異形に倒された魔女が落としたもの――私は大急ぎでそれを拾い上げると、慌ててももこの胸元にそれを押し当てた。
「やちよさん……それ……」
「いいから。今は黙っていて」
グリーフシードはももこの胸元にある彼女のソウルジェムから次々と穢れを吸い取っていき、あっという間に穢れを完全に取り除いた。
ももこのソウルジェムが再び普段どおりのまばゆい輝きを放つのを確認すると、私はゆっくりとグリーフシードを離し、それを自分の懐に入れた。
さすがにこれはもう穢れを吸い取ることはできないだろう。後で私からキュゥべえに処理させよう。
「……ごめん。
最初に言わなくて……」
「別に謝らなくていいわ。あなたまで――」
――魔女にならなくてよかった。
そんな言葉が私の口から出る前に――
「とぅおおおおおおおおおおう!
最強の魔法少女、由比鶴乃ただ今とうちゃーーーーく!」
――うるさいのが来た。
「やっぱり、やちよとももこだ!
魔女の気配と一緒に魔力を感じたから急いで飛んできたよ!
それで、魔女はどこに――!?」
「もう終わったよ」
「鶴乃、うるさいから黙ってて」
「えぇ~……?
――あれ? 乃彩ちゃん?」
いまだにももこの胸に抱かれている気を失った切江さんの存在に気がついた鶴乃が、彼女の顔をのぞき込むように近づいてくる。
「――魔女の結界に引きずり込まれていたの。
今は安心したのか気を失っているだけ」
「そっか~。
何事もなかったようで安心した~」
「…………」
「…………」
「――え?
も、もしかして、なにかあったの?」
何事もなかった――その一言に思わず私とももこは口を閉ざして目を泳がせてしまう。
そして察しのいい鶴乃は、そんな私たちの様子からなにかがあったことに気づいてしまった。
――困った。
先ほどのあれについてなんと説明すればいいのかしら?
私たちですらあれがなんであったのかさっぱりわからないのに……
結局、その後すぐにももこが「誰かに見つかったら大変だ」とフォローを入れてくれたため、私たちはいまだ目を覚まさない切江さんも連れて駅を後にすることになった。
思わず私も「なにがあったかはみかづき荘に戻ってからする」などとと言ってしまったけれど、正直切江さんが目を覚ましてくれないことにはあれの説明のしようがない。
――しかし、本当にあれはなんだったのだろう?
そして、あれを魔女ではないと言い放ち、明らかに意のままに操っていた切江さんは――
みかづき荘への帰路につきながら、私は自分の胸の中に疑念と同時に一抹の不安が生まれているのを確かに感じていた。
◆
「――なんだったの、アレ?」
先ほどまでと違って騒がしくなった新西中央駅をビルの屋上から見下ろしながら、あたしは先ほどの光景を思い返していた。
水名女学園の制服を着た見知らぬ女――背格好からしてたぶん高等部だろう。あたしが通っていた中等部ではあんなやつ見かけたことなかったし――がキュゥべえと一緒に魔女の結界に呑み込まれたと思いきや、その後そのキュゥべえを使い魔に投げつけるわ、魔女に叩き込むはのやりたい放題。
そして、おまけとばかりに魔女のような人型のバケモノを喚び出しての大暴れ――
本当になんだったんだ?
キュゥべえとの会話の内容からして、あの女が魔法少女だったとか契約をしたとは考えにくい。
「――そういえば」
思い出す。
確かあの女、あのバケモノを喚び出す時になんか叫んでいたな。
確か――「ペルソナ」だったっけ?
「“ペルソナ”か……」
少しの間視線を上げて思考にふける。
ペルソナ――おそらくそれがあのバケモノの名前だ。
魔女や使い魔を相手取れたのだから、たぶん使う魔法と似て非なる力なんだろうね。
それなら外見や雰囲気が魔女と似ているのにも説明がつくし納得もいく。
魔法少女を相手取ることも、へたすりゃ殺すことだって――
…………
……
「少し調べてみるか……」
視線を再び駅のほうに戻したあたしは、そう結論づけると早速今度の行動について頭の中で計画を立てていく。
――まずはあの女、そしてその近辺から探っていこう。
可能ならばそれと並行してあの「ペルソナ」というものについても調べていく。
そして、ある程度情報が集まったらその次は――
「あっは……♪
なんかますます楽しくなってきたかも……!」
思いついたことは全部やって、そして最後にバーンと弾けてやろうと思ってここまでいろいろとやってきたけどさ――
まさかここにきてさらに面白くなりそうなものが見つかるとは思わないじゃん!?
あはははははははは! いいねいいね!
最後の最後になってようやく神様があたしにお恵みをくださったのかな!?
――まあ、神様なんているとはこれっぽっちも思っちゃいねーけど。
仮に本当にいるとすれば、それはきっと誰よりも悪い奴でとんでもねーほどのゲスだろうね。
あたしみたいな奴にツキを回してくれるんだからさ。
はぁ~……
しかし、グリーフシードを貯めておこうと魔女を狩るついでに、ちょっといたずらでもするかと駅にいた人間たちに片っ端から『暗示』をかけていたらまさかこんなことになるとはね。
世の中なにが起こるか本当にわからないもんだ。だからこそ面白いんだろうけどさ。
――余談だが、「駅構内で放火による
これなら他の魔法少女たちにあたしの存在を感づかれることもない。魔女の仕業だと思うだろう。
ああ本当、人生がこんなにも楽しめるものだともっと早く気づいていれば、また別の楽しみ方も見つけられたかもしれないのに――
「……まっ。もうどうでもいいことだけど」
遠くからパトカーと消防車のものと思わしきサイレンの音が聞こえてくるのを耳にしながら、あたしはその場を後にする。
「――あ。確か最近おかしな噂があちこちで流れていたっけ?
昏睡事件だかなんだか知らないけど、せっかくだしちょこ~っと便乗させてもらおうかな?」
楽しみだ。
これから今までよりももっと楽しいことが起きる――
そして、すべてが明るみになってそれが終わりを告げる時、最後に笑っているのはあたしか、それとも――
「……あっは」
◆
「再び、お目にかかりましたな」
>気がつくと、見知らぬ青い部屋にいた。
ここは確か――“ベルベットルーム”だっけ?
>……どうやら、また奇妙な夢の世界へと誘われてしまったようだ。
「貴方は“力”を覚醒したショックで意識を失われたのです」
「しかし、ご心配にはおよびません。
少し休まれるといい」
>――イゴールが口にした“力”というワードに思わず体が反応してしまう。
3:(黙って話を聞く)
「左様」
「貴方が手に入れられた“ペルソナ”――
それは、貴方が貴方の外側の事物と向き合った時、表に現れ出る“人格”――」
「様々な困難と相対するため自らを鎧う、“覚悟の仮面”とでも申しましょうか?」
>……“偽りの仮面”を打ち破ったことで得た“覚悟の仮面”か。
>ペルソナ――ヘスティアが“もう1人の自分”だということはなんとなくわかってはいたけれど……
「――とはいえ、今の貴方の力はまだ弱い」
「だからこそ、進まれる前に知っておかれるがよろしい。
ご自身の“力の性質”というものをね」
1:どういうこと?
「貴方の“力”は、他者とは異なる特別なものだ」
「からっぽに過ぎないが、無限の可能性も宿る――
そう。いわば、数字のゼロのようなもの」
「ペルソナ能力とは、“心”を御する力――
“心”とは“絆”によって満ちるものです」
「他者と関り、絆を育み、貴方だけの“コミュニティ”を築かれるがよろしい。
“コミュニティ”の力こそが、ペルソナ能力を伸ばしていくのです」
1:コミュニティ?
「“コミュニティ”――他者との間に絆を育むことは、単にペルソナを強くしていくだけではございません」
「育まれた絆は、お客様がこの先進んでいくべき未来を示す道しるべともなってくれるでしょう」
>……?
>気がつくと、イゴールのそばに1人の青年が立っていた。
前回この部屋に来た時は、あのような人はいなかったはずだが……?
「おっと、ご紹介が遅れましたな」
>イゴールの視線が私から青年のほうに向くと、青年がこちらに対して一礼する。
「主ににお仕えさせていただいております、ウィリアムと申します。
どうぞお気軽に“ビル”とお呼びください」
「主と共にお客様へのご支援をさせていただきます。
以後、お見知りおきを……」
1:よろしく
2:ご支援?
「はい。
お客様は見事、内なる声の呼び掛けに応じて“契約”を果たし、そして“力”を覚醒されました。
ゆえに、主は貴方様をこの部屋に招くに足る者――客人とお認めになられたのです」
「これをお持ちなさい」
>――!?
>イゴールの言葉とともに、突然目の前に青色の鍵が姿を現した。
>……言われたとおり、それを手に取る。
>“契約者の鍵”を手に入れた。
「今宵から貴方は、この“ベルベットルーム”のお客人だ」
「貴方は“力”を磨くべき運命にあり、必ずや私共の手助けが必要となるでしょう」
「貴方が支払うべき代価はひとつ――
“契約”に従い、ご自身の選択に相応の責任をもっていただくことです」
3:……正直自信がないです
「結構」
>私の返事にイゴールが満足気に頷いた。
「貴方に覚醒した“ワイルド”の力は、
ご一緒に旅をしてまいりましょう。ふふ……」
>イゴールはどこか嬉しそうだ。
>しかし、今彼が口にした“ワイルド”とはいったい――?
「さて……
いよいよ私も忙しくなりますな」
「次からはご自分の意思で扉を開けて、ここへ来られるといい」
「その時こそ、私の本当の役割――
貴方への手助けについてお話しましょう」
「では、再び見えます時まで……ごきげんよう」
>……目が覚めた。
>ここは……“みかづき荘”の私の部屋だ。
どうやらあの後、七海さんたちに運び込まれたらしい。
>――時計を見る。
まだあれから時間はそれほど経過していないようだ。
>部屋の外――下の階からかすかにだが人の声が聞こえる。
おそらく七海さんたちだろう。
>心配させてしまったかもしれない。
急いで部屋を出て無事であることを伝えにいこう。
「ようやく目を覚ましたか、“
>――!?
>気がつくと、ベッドの枕元に誰かが立っていた。
「――ふむ。どうやら無事に偽りの仮面を打ち破り、ペルソナを目覚めさせることができたようじゃな。
結構結構!」
>――よく見たらその正体は昨夜の夢の中に出てきた少女だった。
>昨夜の夢の時と同様、その顔は狐面をしているためどのような表情を浮かべているのかはわからない。
少なくとも見た感じ嬉しそうな様子だが……
「――ん?
どうした? ぼーっとして?」
1:あなたは誰?
2:どうしてここに?
「そんなわけあるか!
ここはとっくに現実じゃ!」
「前回はこちらからお主を招いたからな。
じゃから今回は逆にこっちからお主のところへ来たんじゃよ」
>…………
>……
>どうやら、今夜は長くなりそうだ……
『真・女神転生V』の予約したので失踪します。
■TIPS
●切江 乃彩
『契約者の鍵』を手に入れて本格的にペルソナルートに突入。
(RTA的な意味で)ここからが本当の地獄だ……
●ヘスティア
初期レベルは1。アルカナは愚者。
初期スキルはアギ、ディア、ラクカジャ。
習得スキルはレベル2でパトラ、レベル3でスクカジャ、レベル4で紅蓮のベール、レベル5で破魔耐性。
特性『聖火の炉』の効果と『破魔耐性』を低レベルで習得できることから合体用の素材としては非常に優秀。それ以外は全体的にイマイチな性能。
まあ、主人公の初期ペルソナが弱っちいのはペルソナシリーズではよくあること。ぶっちゃけ『P4』のイザナギだけ妙に強かった。そして『P5』のアルセーヌは弱すぎる……
●不浄を払う焔
ヘスティアのマギア。
初期性能(ランク1)では自身を中心とした範囲内の敵全体に火炎属性の小ダメージを与える魔法攻撃。
レベル15でランク2になり、威力が中ダメージにアップ。
レベル20でランク3になり、自身を含む範囲内の味方全体にかかったンダ系魔法の効果を取り除く効果が追加。
レベル30でランク4になり、威力が大ダメージにアップ。
レベル45でランク5(最高性能)になり、味方全体のHPを中回復する効果と戦闘不能を除く全ての状態異常を治療する効果が追加される。
こうして効果だけを並べてみると非常に強力に見えるが、ヘスティアをレベル45まで育てること自体に大したメリットがないうえに、同様の効果のスキル一式を揃えたほうが明らかに効率がいい。
それでもヘスティアにとっては貴重な攻撃手段なので、攻略の最序盤ではそこそこお世話になる。
●紅蓮のベール
このゲームオリジナルの補助スキル。
一定時間味方全体の火炎属性攻撃の威力を上昇させ、火炎属性攻撃から受けるダメージを軽減する。
スキル効果の持続時間と威力上昇および被ダメージ軽減の割合は、スキル使用者のレベルによって変わる。
●水撃属性
文字どおり水の流れや波などを操ることで対象を攻撃する属性。
基本的に氷結属性と被る面が多いため、原作では『罪罰』とデビチルにしか登場せず、本家メガテンには一度も登場していなかったりと結構レア。
このゲームではATLUSのマギレコ側に対する配慮から久々に復活したが、悲しいことにマギレコの水タイプキャラは魔法をパナすよりも物理で殴る奴らばかりなのである。
●ウィリアム
今走におけるベルベットルームの住人。通称および愛称はビル。本作オリジナルキャラクター。
金髪に白磁器かと思いたくなるような真っ白い肌、金色の瞳に青い服の青年。
ベルベットルームが特急列車ゆえか、その外見のイメージは鉄道員。
名前の由来は原作同様フランケンシュタインの映画の登場人物――ではなく、フランケンシュタインの怪物を始めて演じた俳優ボリス・カーロフの本名ウィリアム・ヘンリー・プラットから。
●謎の幼女
なんかいつの間にか乃彩ちゃんの枕元に立っていた銀髪和装のじゃロリ狐面娘。こえーよ!
なお、みかづき荘には不法侵入の模様。
正体は次回明らかになる――かなぁ?
●???
乃彩ちゃんたちのことを隠れて様子見していた魔法少女。
いったい何者もとい何紗帆奈なんだ……?
●昏睡事件
原作では某混沌のせいで魔法少女の間で広まった噂だが、今走ではまさかの無関係。
なん……だと……
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Part7 ネームエントリー
前回から1年以上間が開いてしまったので実質初投稿です。
>夢の中に出てきた少女がなぜ現実に――私の目の前にこうして存在しているのだろう?
>……気にはなるが、今は七海さんたちに心配かけてしまったことを詫びにいくのが先だ。
>急いで1階のリビングへ向かおう。
「――む?
下にいる者たちのもとへ行くのか?」
>黙って頷く。
「そうか。それならわしもいこう。
彼の者たちがどのような人間であるのか、わしもちと興味があるしの」
1:みんなと話とかしていないの?
「ん?
そんなもの、この部屋に直接こう……すーっと現れたんじゃが?」
>…………
「な、なんじゃ、その顔は?
なにかマズかったか?」
「じゃ、じゃがな、わしの場合は普通に玄関から堂々と入っても意味ないんじゃよ」
「なぜなら、わしの姿や声を認知できる者はお主のような“
「それに、わしの姿をよく見てみよ。
自分で言うのもなんじゃが、このような恰好かつこんな小さな存在が
>……そう言われて、少女の姿を改めて確認してみる。
>長く伸ばされた白髪に近い銀髪に和装、そして顔に被っている狐面という服装――
身長は1メートルあるかないかというくらい小さい。
>そして――そんな目立つ格好をした小さな子が、私と同じ目線の高さになるように
>――うん。確かにこれは目立つ。
>というより、この子は――
1:あなた、本当に何者?
「…………」
「ああ……
確かに、わしはこんな姿をしておるが人間ではない――」
「このような姿でいるのは、お主ら人間と円滑にやり取りができるようにするため。
そして、わし自身が人間に憧れておるがゆえよ――」
>私の問いにそう答えた少女の声は、どこか悲しそうだ。
「――わしの素性についてはおいおい話そう。
今は下にいる者たちのもとへ向かうとしよう」
>……この少女(?)が何者なのか気にはなるが、今はこれ以上は話してくれなさそうだ。
>仕方がないので、言われたとおり七海さんたちがいるであろう1階のリビングに向かうことにしよう。
「――あっ! 乃彩ちゃん!
大丈夫!? どこか痛いとか気分が悪いとかない!?」
>リビングに足を踏み入れると同時に、由比さんが私の存在に気がついて駆け寄ってきた。
どうやら今日もみかづき荘に来ていたようだ。
>大丈夫、と軽く返しつつ、私はリビングの奥へと向かう。
>――そこには、やはり七海さんとももこの姿があった。
「切江さん……」
>七海さんは私のほうを見るや、なにか言いたげな――そして、どこか申し訳なさそうな顔をした。
3:……酷い顔だ
「……別に謝る必要はないわ。
あなたはどちらかというと被害者なのだから――」
>七海さんはそう言いながら、私に空いているソファーに座るように促してきた。
>それに応じるように、七海さんと向かい合う形で空いているソファーのひとつに腰をかける。
「あ……
そ、その……乃彩――さん?」
>――隣のソファーに座っていたももこがどこかぎこちなく声をかけてくる。
「今さっき鶴乃からも聞かれたと思う――いや、思いますけど……
体とか大丈夫、ですか?」
>…………
>先ほど魔女の結界の中で出会った時とは明らかに様子が違う。
というか、変だ。
>私が目を覚ますまでの間になにかあったのだろうか?
「もう……
ももこ、乃彩ちゃんが年上だからって無理に敬語で話そうとする必要ないって。
わたしに対してもそんな風に話したりしていないでしょ?」
「い、いや、確かにそうだけどさ……
さっきは仕方がなかったとはいえ、やっぱりこういうのは……」
>――ああ。なるほど。
>どうやらももこは私や由比さんよりも年下らしい。
だからそれがわかった今、年上の人に対する畏まった話し方で話をしようとしているということか。
>思わず口元が軽く歪んでしまう。
「あ……乃彩、さん?」
>私が笑ったことに気がついたのか、ももこたちの目が再び私のほうを向いた。
1:乃彩でいいよ
「え……?
――あ、ああ。わかったよ。乃彩さん」
>私の言葉を理解してくれたももこの身から重苦しそうな雰囲気が消え、喋り方も先ほどと同じ軽いものに変わった。
>ついでに「無理に“さん付け”しなくてもいい」と言うと、さらに気が楽になったようだ。
「はは……ありがとう。
それじゃあ、これからは鶴乃たちと同じように接しさせてもらうよ、乃彩?」
>ももこのその言葉に、私はまた軽く口を歪めながら頷いた。
「――切江さん、目を覚ましたばかりで悪いけど、私たちはあなたに少し聞きたいことがあるの」
>ももことの話が一段落ついたことを確認した七海さんが、再び私に話しかけてきた。
>聞きたいこと――
おそらく“ペルソナ”のことだろう。
>――しかし、なんと説明しよう?
正直に言ってしまうと、私もペルソナがどういうものなのかまだはっきりとわかっていない。
>というより、あれが“もう1人の自分”であると言ったところで、はたして信じてもらえるかどうか――
「心配するな“
これからわしが言ったとおりにこの者たちに説明してやれば問題ない!」
>――私の視界のド真ん中に、またしても突然狐面の少女が姿を現した。
>まさか本当になにもなかったところから音もたてずにパッと出てくるとは――
>しかし、ありがたい話ではある。
七海さんたちに説明をするついでに、私もペルソナについて詳しく知ることができるのだから。
「…………」
「…………」
「…………」
>……おや?
>急にリビングが静かになった。
目の前の少女を除くとこの場には4人の人間がいるのに、まるで人っ気がなくなったかのようにだ。
「だ……」
「だ……」
「だ――」
>その静寂を打ち破るかのように、七海さんと由比さんとももこの口がほぼ同時に動き、同じ言葉を発した。
>――“だ”?
「誰ええええええええええっ!?」
「誰だお前ええええええええええっ!?」
「誰よあなた――?」
>数秒前とは打って変わって、今度はリビングが一気に騒がしさに支配された。
「うおおおおっ!?
なんじゃ!? びっくりした!」
>狐面の少女も突然大声を上げた由比さんたちに驚いたようで、彼女たちのほうに目――というか顔を向ける。
「びっくりしたのはこっちのほうだよ!」
「そうだ! 突然アタシらの目の前に現れて……!
何者だよあんた!?」
「魔法少女――?
いや、それにしてはどこか雰囲気が私たちのそれとは違う――」
>由比さんとももこが少女に詰め寄り、七海さんがそんな様子を見ながらなにやら考え込んでいる。
1:みんな、ひとまず落ち着いて
「あ、ああ……そのようじゃな。
どういうことじゃ?」
「知らないよ!
というか、なんの話しているの!?」
「だぁーっ! お主らはちょっと黙っておれ!
わしは今、“
>由比さんに対して抗議の声をあげようとしていた少女の声がピタリと止まる。
「…………」
「…………」
>そして、そのまま何も言わずに黙ってももこや七海さんのほうにも顔を向けていく。
「――そうか。
お主ら、“
>やがて、なにか納得したかのようにポツリとそう呟いた。
「カンナギ?」
「ん?
――ああ。これはお主らにとってはもはや馴染みのない呼び名であったな。
確か今は――“マホーショージョ”と称しておるんじゃったか?」
「――!
あなた……魔法少女を知っているの?」
「そりゃあ……まあ……知っているというか……
その……なんと言うべきか……」
>……?
>七海さんからの問いに、少女は明らかに困った様子で言い淀んでいる。
『お困りのようだね?
それなら、ボクが代わりに説明しようか?』
>――!
>突然背後から声がしたので、思わず振り返る。
>そこにいたのは――
「キュゥべえ……」
「お前……なんでここに……?」
『なにやら興味深い話をしようとしているようだったからね。お邪魔させてもらうよ。
それに……興味深いモノもいるからね』
「……ッ!」
>キュゥべえが少女のほうに目を向けると、彼女の様子がまたしても変わった。
>……おまけにそれは、これまでとは違って明らかに良いものではない。
1:どこから入ってきたの?
2:生きてたんだ……
『わかっているよ、乃彩。ボクも無理強いをするつもりはない。
だけど、ボクの力が――契約が必要となった時はいつでも呼んでほしい』
「えっ?
乃彩ちゃん、キュゥべえから勧誘されたの?」
>由比さんからの問いに「叶えたい願いなんて別になかったから断ったけど……」などと返しながら頷く。
「――必要ない。
“
貴様がこれ以上彼の者に干渉する意味はない。失せよ」
『ボクの力が必要か否か――それは君が決めることではないだろう?』
「“無理強いはしない”などと言っておきながら、相手が契約せざるを得ない状況に追い込むことは平気で行う奴がなにを言うか。
貴様がどれだけ邪悪な存在であるかを理解すれば、人は貴様の力など借りようともせんだろうよ」
>――と、その横で少女がキュゥべえと勝手に話を進めている。
>しかも、明らかに険悪なムードだ。
『ボクのことをどう思うかも、それは人間1人1人の価値観や判断による。
現に君がボクのことを“邪悪”と呼ぶのも、君の価値観に基づいた判断でしかないわけだしね』
『――それに、君がボクをそのように呼ぶ資格がはたしてあるのかな?』
「……!」
『自ら繋がりを断ったとはいえ、ボクたちと同じインキュベーターである君が』
>――!?
「えっ……!?」
「なんだって!? こいつも――!?」
「え? どういうこと?」
>キュゥべえの少女に向けたその言葉に、七海さんたちは驚きの声をあげつつも文字どおり三者三葉な反応を見せた。
>かくいう私も驚いている。
>彼女がキュゥべえと同じ――?
『言葉どおりの意味さ。
「…………」
>私たちに対して説明をするように、キュゥべえが少女の足下にまで歩み寄った。
>少女はそんなキュゥべえを睨みつけるようにも、私たちに顔を合わせるのを躊躇うかのようにも見える仕草で、そちらに顔を向ける。
『しかし……こうして見ると実に興味深い。
“全”を捨てて“個”であろうとするなんて、ボクたちインキュベーターからすれば重大な欠陥もいいところだけど――』
>キュゥべえが少女の姿をじっくりと観察するようにその足下をぐるぐると回る。
『ボクであってボクでない存在が――同類でありながら異種でもある存在がこうして生まれ出でた。
どうしてこのようなことになったのか、その原因や経緯をじっくりと調べてみたいものだね』
「…………」
『なぜこのような姿になってしまっているのかまでは、今のところわからないけれど……
「――――」
『ボクたちの使命を果たすため、今までよりもより効率的な方法が見つけ出せる可能性は十分あ――』
「黙れ」
>――ぐしゃりとも、ごきりとも聞こえた鈍い音が部屋に響き渡った。
>少女がキュゥべえの身体を勢いよく踏みつぶしたからだ。
>……踏みつぶされたキュゥべえはその瞬間ピタリとその動きを止め、なにも喋らなくなった。
「ひ、酷い……
なにも殺さなくても……」
「…………」
「…………」
>突然の出来事に由比さんが少女を咎めるように口を震わせながらつぶやいた。
>一方で、七海さんとももこは冷めたような目で少女の足下のキュゥべえを見ている。
『やれやれ……
そんなことをしても無駄なことは君が一番よくわかっているだろう?』
「えっ!?」
>――またしても背後から声がした。
>私と由比さんが慌ててそちらのほうに目を向けると、そこには新たにもう1匹のキュゥべえの姿があった。
「きゅ、キュゥべえがもう1匹……?」
『ボクたちインキュベーターは種全体でひとつの意識と情報を共有しているんだ。
そうやって端末をひとつ潰されても、すぐにこうして新たな
自らその繋がりを断ったそちらの
「…………」
『しかし、無意味に
代わりはいくらでもあるとはいえ、もったいないじゃないか。
それがどれだけ非効率的な行いであるかは、君だってよくわかっているはずだ』
「…………」
『しかし、
君にとって
「――!」
>今度はガシャンともカランともとれる音が部屋に響いた。
>少女が自らの顔に被っていた狐面をキュゥべえに向かって投げつけたために生じた音だ。
>ただし、投げつけられた狐面はキュゥべえ自身がさっと身をかわしてしまったために当たることはなく、家の床に転がった。
>さすがにこれ以上ここに留まるのは危険と判断したのか、それとも効率が悪いと思ったのかはわからないが、キュゥべえは次の瞬間にはだっと部屋の外へと駆け出してそのまま姿を消してしまった。
『ボクたちとの繋がりを断ったとしても、どれだけ人間を真似たとしても、君もインキュベーターであることに変わりはない。
非効率的としか思えない行為を続けるのは、君自身のためにもすぐにやめるべきだと言っておくよ』
>ご丁寧にもそのような言葉を少女に残して――
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
>――また部屋がシンと静まり返ってしまった。
>どうしようかと思っていると、少女が私たちに背中を向けたまま再び話し始めた。
「すまぬ……
話がおかしな方向にそれてしまった……」
「いや、構わないわ。
結果的にはあなたが何者であるのかがわかったわけだし……」
「ああ。とりあえず、あんたもこっちに座ったらどうだ?」
>先ほどのやり取りを見て少女が少なくとも自分たちの敵ではないと判断したのか、七海さんとももこがソファーに座るように促した。
「……そうじゃな。
では、お言葉に甘えて失礼しよう」
>そう言って少女がこちらに振り返る。
「え――?」
「は……?」
「――っ!
あなた……!」
「あ……」
>――だから私たちは見てしまった。
>少女のその顔は、絵の具かペンキで徹底的に塗りつぶされたかのように真っ黒なものに覆われて
>目も口も、鼻もなにも存在しない完全な“黒”――闇か影がそこには広がっていた。
>――昨日夢で見たときもそうだったけど、まさか本当に真っ黒だったなんて。
「……先ほど
インキュベーターには“個”という概念が存在しない。
それゆえに、こうして人の姿形や仕草こそ人間のそれを模倣できても“感情”だけは――“心”だけはいまだに得ることができん。
他の個体たちとは違う、わしという完全な“個”を得ていないがゆえに、その存在を示す“
>そう言いながら、少女は床に転がっている狐面を拾いに行く。
>その時の彼女の背中には、明らかに哀愁が漂っていた。
「――さて、では気を取り直して本来の話に戻るとしよう。
まずは、やはり“ペルソナ”について説明しなければならんな」
◆
「――わしが知っているペルソナに関する知識は、まあこれくらいか?
なにか気になったことなどはあるかのう?
わしでもわかる範疇のものであるならば答えるぞ?」
ひととおり話を終えて、目の前にいるその子はソファーに深く腰を下ろした。
キュゥべえの仲間でありながら彼らと縁を切ったという彼女――で、いいのだろうか?――の話は、私やももこ、そして鶴乃にとって驚かざるを得ないものだった。
『ペルソナ能力』。
人の心の別側面――表層人格の裏側に存在する「普段の自分とは異なる自我」に神話や伝承、都市伝説などに登場する神や悪魔などの名前と姿を与えて「形あるもの」として顕現させて使役する力――
人や「心ある存在」ならば誰しもが持っている「可能性」を体現した能力であり、心さえあれば誰もが目覚めさせることができるという、いわゆる「超能力」と称されるもの――
それを切江さんは覚醒させ、そして魔女と使い魔を倒した――
…………
……実際に目にしたことなのに、私にはいまだに信じられない。
それは当然だろう。
私たち魔法少女は今までずっと「魔女や使い魔を倒すことができるのは魔法少女だけ」だと思い、そしてそれを信じ続けて戦っていたのだから。
それなのに、「実は魔女や使い魔に対抗する手段は他にもありました。というか、魔法少女じゃなくても魔女や使い魔倒せます」なんて言われたら――
『この国では成長途中の女性のことを“少女”って呼ぶんだろう?
だったら、やがて魔女になる君たちのことは“魔法少女”と呼ぶべきだよね?』
『すべてはこの宇宙の寿命を延ばすためなんだ。
長い目で見ればこれは君たち人類にとっても特になる取引だってわかってもらえるはずだよ?』
――ッ!
先日のキュゥべえの言葉が脳裏に蘇る。
魔法少女じゃなくても魔女や使い魔を倒すことができるというのなら、私たち魔法少女の存在する意味は――
そして、それを知らずにこれまで戦い続け、死んでいった魔法少女たちは――
かなえやメルの死は――
「すっごいや、乃彩ちゃん!」
「……は?」
――思わず私らしくない声が口から漏れてしまった。
我に返って視線を前に戻すと、鶴乃がその瞳を輝かせながら切江さんの両手をがっしりと掴んでいた。
手を掴まれている切江さんも――表情自体は先ほどと変わっていないが――さすがにこれには少し困惑気味だ。
「魔法少女じゃないのに魔女をやっつけちゃうなんて!
わたしも実際に見てみたかった~!
やちよししょーやももこは目の前で見れたんでしょ? ズルいよ~?」
「いや……ズルいって……」
話を振られたももこが呆れたような声を口にし、私のほうに目を向けてきた。
――いや、私に助けを求められても困るわ。
「ねえねえ乃彩ちゃん。
そのペルソナっていうもの今ここで出すことってできるの?」
――!?
い、いけない!
鶴乃のその言葉を耳にした瞬間、私の全身と思考が同時に危険を察知した。
先ほどの戦いの場にいなかった鶴乃は、ペルソナがどのような姿形をしているか――そして、その大きさがどれほどのものであるのかを知らない!
(魔女もそのサイズはまちまちだけれど)魔女にも匹敵するサイズであるソレが室内で――この場で喚び出されでもしたら……!
「つ、鶴乃……!?
それはさすがに……!」
「……そういえば、まだ試してなかった」
「じゃあさじゃあさ! 今ここで出してみてよ!?」
「やってみる」
「ま、待ちなさい2人とも――!」
同じく危機を察したらしいももこと共に、急いで切江さんを制止させようと私は慌てて座っていたソファーから立ち上がる。
――けれど、残念ながらそれは遅かった。
「ペルソナッ!」
立ち上がると同時に、かっと目を見開きながら切江さんがその力の名を叫んだ。
…………
……
「…………」
「……?
ちょっと乃彩ちゃん、なにも起きてないよ?」
「えっ? どういうこと?
さっきはアタシの前でそう叫んだらブワーって勢いよく飛び出してきたのに……」
「確かに……なにも起きて起きていないわね……」
そう。本当になにも起きていない。
思わず切江さんのほうに目を向けると、彼女は私と目が合った瞬間ゆっくりとその目を横に流し、そしてそのまま再びソファーに腰を下ろしてしまった。
――さすがに恥ずかしかったみたい。
しかし、この様子だとわざと出さなかったとは考えづらい。
どうして先ほどと違ってペルソナが――あの燃え盛る炎をその身に宿していた人型の異形は姿を現さなかったのかしら?
「ここで出せるわけがなかろう。
ペルソナを形あるモノとして喚び出すことができるのは精神と物質の領域のうちの前者――すなわち、“意識や認知によって形作られた世界”の中だけじゃ。
物質によって形作られておるこちら側の世界でも喚び出せたら、この世界はとっくにペルソナ使いとそのペルソナで埋め尽くされておるわ」
私たちの様子を見ながら、狐面の少女がため息をつきながらそう言った。
――正直、そういうのは先に言いなさいよ。
こういう「重要なことは言わない」ところは、確かにキュゥべえの同類ね……
「……先に言ってほしかった」
やや俯き気味にソファーに座る切江さんもそうつぶやいていた。
「え~っと……どういうこと?」
「この世界にはな、ふたつの領域――ふたつの世界が隣り合わせに存在するんじゃよ。
ひとつはこちら側――お主たちからは一般的に“現実”と呼ばれる物質によって構築される世界。
そしてもうひとつが、精神――知的生命体の心によって構築される世界じゃ。
このふたつは常に近くて遠く、遠くありながらも密接した距離間を保ち、並行して互いの領域に影響を与えあいながら存在しておる」
「それはつまり――ふたつの世界が共存しているってこと?」
「簡単に言ってしまえばそうじゃ。
そして、ペルソナやお主ら
ペルソナは自らの
「そう言われてみれば……魔女が結界の外に出てきて人を襲っているところなんて見たことないし、聞いたこともなかったな」
ももこのその言葉には私も頷かざるを得なかった。
しかし、今まではぜんぜん気にしていなかったことではあるけれど、こうして言われてみると確かにしっくりくる。
魔女や使い魔が自分たちの結界の中に身を潜めて獲物とする人間を引きずり込んでいるのは、単に姿を隠しているためだけではなかったということだ。
魔女は魔法少女の成れの果て――いわば、魔法少女の現実に対する未練や恨みといった負の感情そのものである。
それはまぎれもなく精神の領域の存在だ。
そんな魔女が現実に――精神が満ち溢れていない領域に直接姿を曝せばどうなるか。
当然、自らを構成するものが存在しないので、その形、その存在を維持できなくなる。
存在は徐々に希薄となり、やがて消えてしまうだろう。
ゆえに、魔女たちは結界の中で
現実に対して私たちでは測り切れないほどの呪いを持っていながら――
そう考えると、魔女は実に悲しい存在に思えてくる。
かといって、それで魔女や使い魔を放置しておけば無関係の人たちに被害が出るし、なにより私たちが生きていけないから倒さねばならない。
「ジレンマに陥りそうね……」
私は誰の耳にも聞こえないようにそう漏らすと、軽くため息をついた。
「――そんなわけじゃから、普段ペルソナ能力を行使することはできん。
あれはいわば眼前に迫った困難に立ち向かう時だけに表出る仮面のようなものじゃ」
「要するに、“
「うむ。そう思ってくれて構わん。
まあ、
正直これはなにが起きるかわからんからおすすめはしない。というかやめておけ」
「わかった」
切江さんがそう言って頷くと同時に、少女の話は今度こそ終わりを告げた。
「いやしかし……我ながら珍しく長話をしたからか、なんか喉が渇いてきたな……
すまんが、水でも構わんからなにか飲み物を一杯もらえんか?」
「――飲めるの?」
「あたりまえじゃ! 貌がなくともそれくらいはできるわい!」
思わず口にしてしまった私の問いに、少女は少し怒ったような素振りを見せる。
それを横目に、切江さんが台所のほうへと歩いていった。
「……なにかありましたっけ?」
冷蔵庫の扉を開きながら、切江さんが私のほうに目を向けながら尋ねてきた。
――確か今冷蔵庫にはお茶が冷やしてあったはず。
私が答えると、無言で頷いた切江さんが再び冷蔵庫の中へ視線を向ける。
そしてそれから数十秒後、茶色い液体が入ったグラスを5つ載せたおぼんを手にして私たちのほうに戻ってきた。
……えっ? 茶色?
「お茶」って「緑茶」のことだけど……
――渡されたグラスを手に取る。
グラスの中からはほんのわずかだが、鰹節のものと思わしき香りがした。
……間違いないわ。
これはお茶じゃなくて――
「ぶっふぉっ!?」
「の、乃彩ちゃん、これ……お茶じゃなくてめんつゆだよぉ……」
「……麦茶かと思った」
――時すでに遅し。
私がグラスの中のそれが「めんつゆ」であることを告げる前に、切江さんと鶴乃、そして狐面の少女はそれを口にしてしまっていた。
特に少女にいたっては一気にそれを口にあおったのか、盛大に床とテーブルに向かって吹き出してしまっている。
「よ、よかった……
なんかお茶っぽくない臭いがした気がしたから飲まなくって……」
冷や汗を垂らしながらグラスを見つめて苦笑いを浮かべるももこのそんな声が隣から聞こえてくる。
「容器にちゃんとラベル貼ってあったでしょ?
なんで間違えるのよ……?」
私はまたしてもため息をつくと、吹き出されためんつゆまみれになった床とテーブルを掃除するために台所へ拭きものを取りにいった。
――そういえば、あの子あの狐面をした状態でどうやってめんつゆを飲んだのかしら?
……ちょっと気になるわね。
戻るついでに水も持っていきましょう。
◆
「――ところで、ひとつ気になったことがあるんだけど、いいかな?」
口の中に広がっていためんつゆの味が消えたところで、わたしは目の前でソファーに座っているその子に声をかけた。
「ん? なんじゃ?
ペルソナに関する話ならこれ以上は説明できんぞ?
わしだってこれ以上は知らんのじゃから……」
その顔に白い狐面を被っているちっちゃい――それなのにその口調はお婆ちゃん染みた女の子。
キュゥべえの仲間(?)だったらしい彼女のことで、わたしにはどうしても気になることがひとつあった。
それは――
「君の名前いったいなんていうの?」
そう。名前。
その外見からして明らかにキュゥべえとは違うのだから、この子にもなんらかの名前があるはず。
だからわたしは聞いてみたのだけれど――
「…………」
「……あ、あれ?」
「……すまん。先も言ったがインキュベーターには“個”の概念がない。
ゆえに、わしにもわしであることを示す明確な個体名は――名前は持っておらんのじゃ……」
ええっ!?
ど、どうしよう……わたし地雷踏んじゃった?
ああ……
せっかくさっきのめんつゆ騒動で少し和やかになった雰囲気がまた重くなってきた――
「ご、ごめん。悪気がって聞いたわけじゃ……」
「わかっておる。気にするな」
「その返し方は逆に気にしちゃうやつだよぉ……」
「じゃあ、今つける? 名前?」
「えっ?」
「は?」
わたしたちの会話の間に突然乃彩ちゃんが割って入った。
つける?
名前?
それって――
「今後のことも考えると、なにか名前がないと不便だと思う」
「確かに……
あんたももともとはキュゥべえだったらしいけど、その外見で“キュゥべえ”っていうのは違和感あるよな」
「そうね。キュゥべえと区別するためにもなにか呼び名くらいはほしいところだわ」
乃彩ちゃんのその提案に、ももことやちよも同意する。
言われてみれば、名前がないというのは呼ぶほうも呼ばれるほうもいろいろと大変だ。
わたしにも反対する理由がなかった。
「わ、わしに名前をつけてくれるというのか……?」
「うん」
「そ、そうか……!
それはありがたい。では早速考えてくれ!」
「謎の狐面少女ミス・フォックス」
「えっ……?」
「謎の狐面少女ミス・フォックス」
乃彩ちゃんが即興で思いついたのであろう名前案を真顔で口にする。それも2回も。
だけど乃彩ちゃん、さすがにそれは……
「……すまん。別のものにしてくれ」
「ああ。さすがにそれは……」
「ええ……さすがにね……」
うん。ダサすぎる。
というか、その名前だと名前がなかった時よりも不便だと思う。
「う~ん……ちっちゃいから“おチビ”とか?」
「いや……わしだって別に好きでこんなちっこい体をしているわけではないからな?」
「そ、そうか……」
「……コンちゃん?」
「この仮面から連想したんじゃろうけど、それ以外にわしには狐要素皆無じゃぞ?」
ももことやちよも自分たちが思いついた名前を挙げるけど、彼女のお気に召さないみたい。
「鶴乃はなにか思いつかない?」
やちよのその一言に、みんなの視線が一斉にわたしのほうに向いた。
ちょ、ちょっとまって!
頼ってくれるのは嬉しいけど、この状況ではそんなパッといい案は浮かんでこないって!
ええっと……
かつてはキュゥべえの仲間だったわけだから、それっぽい感じの名前のほうがいいかな?
う~ん……
キュゥべえ……キュゥべえ……キュゥ……
あっ……!
「キュゥべえの“キュゥ”を数字の“9”に見立てて、そのひとつ先の数字……“10”にちなんで“ジュゥべえ”なんてどうかな?」
「お。なんか人の名前っぽい」
そうジュゥべえ。
我ながらなかなかいい名前だと思う。
ももこが言ったように人の名前っぽい響きもするし。
――だけど、これも採用されることはなかった。
なんでも、「自分でもよくわからんが……その名前はダメな気がするんじゃ。悪くはないんじゃが……」とのことらしい。
「それなら、逆に9のひとつ前の数字の“8”にちなんで“ハチべえ”はどう?」
「鶴乃……それはさっきのやつとは別の意味でダメな気がするわ……」
もうひとつ案を即興で出してみたけど、これはやちよに却下されてしまった。
どうしよう……
さすがに“ナナべえ”はさすがに語呂が悪いし、“ジュゥイチべえ”なんてもっと語呂が悪い。
……そうなると“ロクべえ”かな?
わたしがそう思ったのと同時に、乃彩ちゃんが再び口を開いた。
「じゃあ、単に“ハチ”は?」
「えっ?」
「“ハチべえ”がダメなら“べえ”をとって“ハチ”。
そもそも、彼女は本人がキュゥべえとはもう無関係だと言っているんだから、わざわざ“べえ”まで付ける必要はないはず――」
――言われてみるとそうだ。
彼女は「キュゥべえとの繋がりを自ら断った」と言っていた。
それなら、キュゥべえを連想する要素を名前に入れるのは、彼女にはかえって悪い気がする。
完全にそれを失念していた。
「うん……それなら悪くはないんじゃないかな?」
「わたしも悪くないと思う」
なんとなく犬っぽい気がするけど――とはあえて口にせず、わたしはももこと共にやちよに同意を求めるように目を向ける。
やちよも同意してくれたのか、それとも他に案が浮かばなかったのか、これ以上考え続けるのが面倒くさくなったのかはわからないけど、黙って頷くと狐面の少女のほうを見た。
わたしたちもつられるように彼女のほうを向く。
「――“ハチ”。確かに……悪くはないな。
インキュベーターにとって感情を持つことは重大な欠陥――それは種とすれば“退化”と呼んでもいい。
しかし、わしはあえてそれを望み、こうして今に至っておる――
“9”のひとつ前……自ら退化を望んだ者……わしという存在にはピッタリかもしれんな」
――なにかよくわからないことをぶつぶつとつぶやいた後、彼女はうんと頷くと顔を上げて言った。
「あいわかった!
では、わしは今後その名を――“ハチ”を名乗ろう!
よろしく頼むぞ!」
「よろしくハチ」
「うむ!」
どうやらその名前がお気に召したらしい彼女――ハチといつの間にか彼女のそばに歩み寄っていた乃彩ちゃんが握手を交わした。
「あ……」
――と、乃彩ちゃんの体がほんの一瞬だけピタリと止まる。
ただし、本当にほんの一瞬だけで、すぐに何事もなかったかのようにまた動き始め、ハチと握手を交わしている手を上下に振った。
「どうかした?」
「いや……べつに……」
わたしは思わず乃彩ちゃんになにかあったのか聞いてみたけど、乃彩ちゃんは答えてくれなかった。
◆
銀髪和装狐面幼女に勝手に部屋に上り込まれているRTA、はーじまーるよー。
はい。というわけで、前回みかづき荘の自分の部屋で目を覚ましたところからスタートです。
さっさと部屋を出て1階に行ってストーリーを進めていきましょう。
なんか狐面幼女もついてくるそうですが、まあええやろ。
おはよーございまーす!
おっと、今日も鶴乃ちゃんがいますねー。
そんなに乃彩ちゃんに会いたかったのかい?
やっちゃんとももこもいるな。
見たところももこはソウルジェムから無事に穢れを取り除けたようで元気そうです。ヨシ!
さて、それじゃあ3人にぱっぱとペルソナについての説明を済ませてしまいましょう。
――って、なんか早々に狐面幼女がやちよさんたちに言いくるめられてますね。
まあ、見るからに怪しい不法侵入者だもんな。そりゃそうだ。
――ん?
今こいつ魔法少女のことを「
な、なんかちょっと嫌な予感がしてきたゾ……?
『お困りのようだね?
それなら、ボクが代わりに説明しようか?』
呼んでねーよ、帰れ。
お前にだけはペルソナに関する情報は与えてたまるかってんだ。
ほら、狐面幼女だって怒っているジャマイカ。
というか、こいつら知り合いなのか?
なんかお互いのことを知っているかのような物言いをしているが……?
『自ら繋がりを断ったとはいえ、ボクたちと同じインキュベーターである君が』
ファッ!?
狐面幼女、知り合いどころかお仲間だったのかよぉ!?
でも本当になんで人間の姿になっとるんじゃ?
――あ。狐面幼女にキュゥべえが踏みつぶされた。ざまぁ。
まあ、相も変わらずすぐに次の個体が現れて復活するんですけどね。
で、その新しい個体はなんかすぐさま逃げていきましたけど、結局なにがしたかったんだアイツは?
そして、狐面幼女の仮面の下の素顔が披露されましたが、夢の中で見た時と同様真っ黒ですね。
(本当に顔が)ないです。
では、やっちゃんたちに対するペルソナについての説明は狐面幼女に押し付けて(自分でする気ゼロの走者の屑)、ここから先は倍速だヒャッハー!
途中で選択肢が何度か出てきましたが、好感度などに影響するものはないのでここは適当に選びました。
ペルソナを喚び出そうとしたり、めんつゆを麦茶と偽って飲ませたりとやりたい放題です。
「――ところで、ひとつ気になったことがあるんだけど、いいかな?」
おっと、なにやらイベントの気配。ここで倍速はストップです。
おう。どうしたんだ鶴乃ちゃん。
――なに? 狐面幼女の名前?
ああ、言われてみれば、名前がないとこの先いろいろと不便ですよね。
この先もいちいち狐面幼女と呼ぶのもなんか面倒だし……
そこに気づくとは――鶴乃ちゃんは本当に賢いなぁ。
――というわけで、狐面幼女に名前をつけることになりました。
あまり長ったらしい名前にすると、今後のタァイムや動画にも影響が出ちゃいますので、ここは短くシンプルな名前にしましょう。
やはりここは『ほも』だな(確信)。
――って、クォラァ!
お前ら、乃彩ちゃんそっちのけで勝手に名前をつけようとするんじゃあないよ!
特に鶴乃! 『ジュゥべえ』はもう使われてっから! たぶん!
……うん。たぶんもう本格的に活動開始しているはずだよな悲鳴合唱団。どうせ海香とカオル以外は神浜市に来ないだろうから知らんけど。
「それなら、逆に9のひとつ前の数字の“8”にちなんで“ハチべえ”はどう?」
「鶴乃……それはさっきのやつとは別の意味でダメな気がするわ……」
うん。確かに。それはなんかうっかりしそうだから駄目だ。
――ん?
ハチ……?
いやまて。いいじゃないか『ハチ』! それでいこうぜ!
なんか忠犬――もといお利口さんになってくれそうな名前だしな!
そんなわけだから、ハチはどうよ!?
……OK? ヨシ!
そんなわけで、今後は狐面幼女のことは『ハチ』と呼びます。
名前決定おめでとーう。ドンドンパフパフ~。
へっへっへ……ジュゥべえとはまた別のベクトルで人間に従順なインキュベーターにしてやるぜ(ゲス顔)。
そんなわけだからよろしくなハチ! 握手しようぜ!
我ハ主人公切江乃彩、コンゴトモヨロシク……
……おっ?
汝、ここに
新たなる絆を見出したり。
絆は
即ち、進むべき
航路を示す星の灯火なり。
汝、“愚者”のペルソナの
生誕に祝福の海風を得たり。我ら、汝の船
旅の更なる力とならん……
やったぜ。
というわけで、記念すべき最初のコミュニティ解放です。
まあ、『愚者』と『審判』はストーリー進めていけば勝手に解放&ランクアップしていくんですけどね。
「――では、申し訳ないが今宵はこれで失礼するとしよう」
「帰っちゃうの?」
「さすがにそこまで世話になるわけにはいかんよ。
それに、人には人の、わしにはわしの生きるべき世界があるしな――」
「そう……」
――と、ハチはやるべきことが済んだみたいなので帰るみたいですね。
普段どこに住んでいるのかはわかりませんが、じゃあな! 里見灯花っておガキ様に気をつけろよ! 今はまだ入院中だと思うけどな!
「鶴乃、ももこ、あなたたちも今日はもう帰りなさい。
気になることはまだあるけど、詳しい話はまた今度にしましょう」
「そうだな……
今日はいろいろとあったからか、言われてみるとやけに疲れた……」
「そう?
わたしはぜんぜん大丈夫だけど?」
「そりゃ鶴乃はな……」
続いてももこと鶴乃もやちよさんに促されてみかづき荘からログアウトです。もう夜だし仕方ないね。
乃彩ちゃんと明日からコミュってくれよな~頼むよ~。
「……切江さん、ちょっといいかしら?」
おっと?
ももこたちをゴーホームさせた途端、やちよさんが真剣な顔で話しかけてきましたよ?
どうしたやっちゃん?
「今さら魔法少女や魔女のことをあなたに隠すつもりはないわ。
キュゥべえに目をつけられたというのならなおさらね……
だけど、これだけは約束して」
あ、いいっすよ(話は最後まで聞け)。
「もし魔法少女になるつもりなら、決して安直な願いでキュゥべえと契約しないで。
魔法少女になってしまえばもう後戻りはできなくなる……
だから、それが本当に契約で叶えなければならない願いなのかどうか、最後までよく考えて」
そんな心配しないでいいから(レギュレーション的な意味で)。
「それと……ペルソナ能力があるからといって、軽はずみに魔法少女に関わろうとしちゃダメよ?
魔女や使い魔と戦うのは私たち魔法少女の役目だもの……」
おう。考えてやるよ(関わる気はないとは言ってない)。
なんかやちよさんから一方的にいろいろと言われましたが、気を取り直して再び自分の部屋に戻ってきました。
というわけで、もうやるべきことは特にないんで寝ま~す!
おやすみなさ~い。
…………
……
……って、おい。
乃彩ちゃん?
乃彩さん?
乃彩!
紅晴結菜に電話するなああああああああああっ!
ベッドイン直前になに勝手に動いてんだてめええええええええええっ!?
あ~もう、なんかすっげー嫌な予感しかしないんで今回はここまでです。
ご視聴ありがとうございました。
マギレコRTA界の偉大な先駆者兄貴が帰還したので失踪します。
■TIPS
●切江 乃彩
「謎の狐面少女ミス・フォックス」という名前は素で浮かんだ。
もしかしたらネーミングセンスは壊滅的なのかもしれない。
●ハチ
名前決定!
今回のサブタイトルはこれに由来する。
かつてインキュベーターであった者。
現在は住所不定無職の銀髪和装狐面幼女。
ちなみに狐面には任意で物体をすり抜ける効果があるので飲食時は外す必要がない。便利。
●七海 やちよ
魔法少女にならなくても魔女や使い魔を倒す術が存在していたことを知り、内心ちょっとショック。
●愚者
タロットカードの第0番目の大アルカナ。
正位置では「自由」「純粋」「可能性」「天才」などを意味し、逆位置では「軽率」「わがまま」「ネガティブ」「意気消沈」などを意味するとされる。
『P3』以降のペルソナシリーズでは主人公の初期ペルソナは必ずこのアルカナに属する。
このアルカナのペルソナを覚醒させることがワイルドの条件とも云われているが詳細は不明。
コミュおよびコープはストーリーの進行により自動的にランクアップしていく。
●めんつゆ
『P4』ネタ。
元ネタでは作中の7月25日の堂島家の冷蔵庫に「麦茶」として入っている。
飲むとその日の夜の行動が終了してしまうので迂闊に飲むのはやめようね!
ちなみに11月2日には「アイスコーヒー」として同じく堂島家の冷蔵庫に入っている。
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