デート・ア・ライブ 黒姫ofクレイジー (ゴア・マガラ好き)
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始まり

こんばんは。
よろしくお願いします


────何も見えない。

 

それは生まれてからだったが。

 

────何も聞こえない。

 

さっきまでは戦っていた人間の声がしていたはずなのに。

 

────身体が動かない。

 

そこで気づいた。

 

────ああ、敗けたのだ、あのたった一人の人間に。

 

その人間は「私」の攻撃に怖気付かず、立ち向かってきた。

何度か合間見えた人間だったが、あんな短時間でかなりの成長を遂げていた。

 

最初に戦ったのは船の上。

その時は他の船の乱入があり、存分に戦えなかったが、あの時は弱いと確信していた。

 

次に戦ったのは謎の密林だった。

そこであの人間は、仲間を逃がそうと「私」を足止めした。

その時点で警戒していた。

 

そして最後────今回の戦いだ。

遺跡が残っている平原で、「私」は本気で戦った。

しかし、あの人間は「私」に勝った。

本気を出しても勝てない、そんな人間がいるとは思わなかった。

 

────出来なかった。

あの地に帰り、君臨することは。

 

諦められない、が────もうどうしようもない。

「私」は敗け、死ぬのだ。

 

────ああ、もし次があるのなら······。

 

次こそは、あの地に帰りたい。

 

最期に何かが入ってくるような感覚がして意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ────

 

······なんだ、この音は。

······何故音が聞こえている?「私」は死に、全ての感覚を失ったはずだ。

······いや、動かせる、身体が動かせる。が、何故か違和感を感じる。

動かせるということは、鱗粉を撒くこともできるはずだ。

「私」はそう思い、「腕を振る」。

······?何故腕を振っているのだ?翼脚を動かせば鱗粉は撒けるだろう?

そう考えていると、あらゆることが鱗粉から伝わってくる。

地形と周りの状況、それに、自身の姿────。

 

「は?」

 

思わず声を漏らす。

······いや、おかしい。

何故「私」は人間の声を発しているのだ?それに、何故「私」は人間になっている?「私」は竜だ。決して人間ではない。

そう考えていると、様々な情報が頭の中に入ってくる。

 

「っ······なんだ······?」

 

「私」の中に入ってきた情報はこの「世界」の情報、「精霊」という存在の情報、そして────「私」の状態に関する情報だった。

 

どうやら、「ゴア・マガラ」と呼ばれていたらしい私は、「精霊」とかいう存在になったらしい。

天使と霊装というものは、私が扱える武器と装備らしい。

天使は〈黒蝕竜(ゴア)〉と呼べば顕現するらしい。

顕現させれば·········なるほど、面白い。

そして霊装とは今身に着けているものらしい。

何故か、フルフェイスの装備を着用していることや黒いドレスで紫色の模様が入っており翼脚が破れたマントのようになっているといういらない情報まで入ってきた。

そして名前は〈神威霊装・厄災(ブラック・ディザスター)〉。

······完全に理解した。ここは私のいた世界とは全く別の世界なのだと。

 

「精霊を発見!」

 

······誰だ?私の邪魔をするのは。

いつの間にか私の周りに一〇体ほど人間がいたようだ。

 

「見たことの無い精霊です、どうしますか?隊長」

 

「······一度様子見を──」

 

「関係ない」

 

隊長と呼ばれていた女の声を無視し、女が私に向かって攻撃を始めた。

······別に受けてもどうもしないだろうが、一応防いでおくか。

私は前から迫ってくる物を翼脚で防いだ。

······やはり、大したものでは無いようだ。

 

「折紙!あんた何やって──」

 

そんな声が聞こえているが、折紙と呼ばれている女が前にも空にもいない。

となると────。

私は扱えるようになった武器の一つである双剣「クロウofキャリアー」の片方の剣で横からの攻撃を防ぐ。

そしてもう片方の剣で、攻撃が来た方を斬りつける。

······掠りはしたか。しかし······弱い。

 

「ふ、こんなものか。私が知っている人間に比べて、随分軽い攻撃に遅い判断だ」

 

私がそう言うと、少し離れたところに気配がする折紙の顔が少し歪んた。

見える訳では無いが、鱗粉がそれを伝えてくれる。

······少しくらい、私の情報を渡しても構わないだろう。

 

「私は目が全く見えない。だが別の方法でお前たちを見ている。それだけは言っておこう」

 

具体的に何で見ているかは言わず、存在だけを感じさせる。

それだけでいい。

そうすれば勝手に鱗粉に気づくだろうし、それの性質を知れば二度と私に近づくこともないだろう。

あの人間とは違うのだから。

 

「私は精霊という存在らしい。が、人を襲う気は今はない。人間の身体というのは、慣れれば実に楽なものだ。小さいし、咄嗟に動くこともできる」

 

これは本心だ。

前の姿であれば攻撃を避けることは難しいだろうが、この姿であれば避けられる。

しかし、今話したことも自分のことを教えることになっているかもしれない。

 

「······どういう意味かわからない」

 

正面に立っている折紙が言う。

 

「意味がわからない?簡単なことだ。私が人を襲う気がないということを言っただけ」

 

「······信じられるとでも?空間震を起こす精霊の言葉を」

 

「信じてもらえないか。まあわかっていたけど」

 

私はそう言い、小さく息を吐く。

実際、私は空間震を起こす気はない。

起こせないことはないが、やる意味がない。

 

「さて、それでは私はお暇させていただくよ。お前らとは違う人間が近くにいるようだしね」

 

私はそう言い、その気配がする方を見る。

見られたことに気づいたのか、そこにいた人間は少し後ずさる。

 

「······させるとでも?」

 

「無理矢理逃げだすよ」

 

私はそう言い、翼脚を広げる。

そしてそれで地面を殴りつけ、穴を開ける。

下に下水道というものがあるのは鱗粉で察知済みだ。

 

「さらばだ、弱い人間」

 

最後に私はそう言い、穴に落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『完全にバレてたわね······何なのかしら、顔も隠しているし、目が見えないとか言ってたし······』

 

少年、五河士道の耳につけている小型機器からそのような声が聴こえる。

 

「さぁ······だけど、俺たちに敵意はない······と思う」

 

誰もいなくなったので、士道は彼女が落ちていった穴を間近で見る。

 

「なんだか、あの子が言ってた言葉に少しだけ違和感があったような······」

 

『違和感?何かしら』

 

「いや、なんて言うか······」

 

士道は言葉につまる。

確かに違和感があったのだが、それが何なのかがわかっていないのだ。

実に簡単なことなのに、だ。

 

「······ごめん、説明は難しそうだ」

 

『まったく、使えないわねぇ。自分の語彙力くらいどうにかしなさいよね』

 

「うぐ······」

 

妹にして〈ラタトスク機関〉に所属する空中艦〈フラクシナス〉の司令、五河琴里からの突然の罵倒に、士道は小さく唸ることしか出来なかった。

 

『でもまぁ、確かに私も違和感はあったわ。未知な相手だから難しく考えすぎてるのかもしれないわね。もっと簡単なところにあるような······』

 

「どうなんだろう······ん?あれは······」

 

士道は穴の近くにあった黒い粉のようなものを見つけた。

 

『ちょっと、どうしたのよ士道』

 

「いや、なんか変なものが······」

 

士道はそう言い、黒い粉に触れる。

触れるとその黒い粉は小さくなって消えていった。

 

「なんだったんだ?あれ······」

 

『······どうやら、僅かだが霊力反応があるようだ。彼女が使っているのかもしれない』

 

そう言うのは〈フラクシナス〉の解析官、村雨令音である。

 

「使っている?どうやって······」

 

『······目が見えない彼女が、周りを見るために使っているのかもしれないね』

 

「さすがにそれは······」

 

士道は玲音の言葉を否定する。

確かにあの粉で周りを見ているなんて、簡単に信じられることではない。

 

『······まあ、私の一意見だ』

 

『とにかく撤収よ。今乗せるわ』

 

琴里がそう言うと、士道は浮遊感を覚える。

そして先程まで士道がいた場所には、何も無くなっていた。




時系列は原作の士道と琴里がデートする前くらいです。
体調悪いですが指揮執ってます(ゴリ押し)
折紙が結構荒れてる(?)時期なので今回のような行動もあるかなと······。
これからよろしくお願いします!


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理解

ちょっとした能力説明回のようなものです。


────臭い。

私が下水道に逃げてから最初に思ったことがそれだ。

私は大抵の事は鱗粉を通じて感じ取っているので痛覚以外は良いとは言えない。

目に至ってはそもそも見えないし。ただ、そんなに良くない鼻でも臭いと思ってしまう。

ゴミだらけなうえに水は汚れている。

何故ここにそんなものかあるのか、私はわからない。

さて、まずは入ってきた情報を整理しよう。

まず、この場所だ。

地球の日本の東京都にある天宮市という場所らしい。

どうやらここには私が帰るべき場所がないようだ。

······少しショックだが、薄々関していたことだ。

私はどうやら、人間の性別である男と女、どちらにも属さないらしい。

確かに元々性別なんてものはなかったし、問題ないだろう。

しかし、自分の見た目はどちらかと言うと女と見られるらしい。

まあそこはどうでもいいだろう。

次は私にとって一番重要なことだ。

ここは真っ先に目を通し、既に試してもいる。

私の鱗粉──「狂竜ウィルス」についてだ。

前の私は狂竜ウィルスを適当にばら撒いて周りの竜を狂わせたり、地形の把握をしたりしていたのだが、それと同時にあることができるようになった。

それは───

 

『──完全にバレてたわね······何なのかしら、顔も隠しているし──』

 

────ちょうどいいタイミングだ。

これが狂竜ウィルスでできるようになったことの一つ、盗聴だ。

ウィルスを介して私に音を届けている。

そしてもう一つは、盗視だ。

これは元々できていた地形と生物の把握の応用で、ウィルスを撒ける範囲が広くなったことでできるようになったことだ。

盗聴だけ使えていればいいのだが、盗視も使うことはあるだろう。

······なるほど、あそこにいた人間はシドウというのか。

しかし鱗粉に直接触れたようだが、何故平気なのだろう。

人間なら少しくらい苦しくなるものだろうに。

実際、あの人間もそうだったようだしな。

······そういえば、この服装では少し動きづらい。

確か霊装を解除すれば他の服に帰ることもできるらしい。

では早速やってみるか。

できるだけ動きやすく、そしてこの時代でも目立たないような服は······お、ちょうどそれっぽいのが落ちているな。

私は落ちていた服を拾う。

臭い······が、我慢するしかない。

······よし、やるか。

私は拾った服を投げ捨て、霊装を解除する。

そして形を変えてその身に纏わせる。

······よし、上手くいった。

それでは地上に出るか。

さすがに自分で空けた穴から出るのは不味いだろうし、上に続いている梯子を登るしかないだろう。

そう考えた私は、上に続く梯子を探すために、その場から離れた。

 

後で知ったのだが、私が参考にした服はジャージというようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、早速作戦を立てるわよ」

 

琴里はそう言うが、士道はそれを聞いて言う。

 

「大丈夫なのか?その······」

 

「大丈夫よ。私のことよりあの精霊よ」

 

琴里がそう言うと、巨大なモニターに折紙が精霊に攻撃を開始した瞬間から映像が流れた。

そして精霊が背中から何かを広げた瞬間に映像を止める。

 

「······彼女はこれでミサイルを防いでいたね。それほど耐久性に優れているということかな」

 

玲音がそう言う。

 

「でもこれ、何かに見えないか?」

 

士道がそう言い、琴里は背中から広げられたそれを見る。

 

「これは······手のように見えるわね。指が四本づつしかないようだけど」

 

「背中から手がもう二本······ますますわからなくなってきたな······」

 

「とりあえず、映像を続けるわ」

 

琴里がそう言うと、モニターに映っている映像が動き始める。

そして次は折紙の剣による攻撃が防がれたところで映像が止まる。

 

「あの防いでいる突然現れた武器、気味が悪いわね······」

 

手のような形をした黒紫色の武器を見て琴里は言う。

 

「確かにな······あれって天使なのか?」

 

「······いや、あれは天使とは別のようだ」

 

士道の疑問に玲音が答える。

 

「ということは、まだまだ本気になっていないようね」

 

琴里はそう言い、口にくわえているチュパチャップスの棒をピコピコを動かす。

 

「彼女の顔が見えていないし、これから人間としてこの街に紛れる可能性も考えた方が良さそうね」

 

「······紛れられるとしたら、厄介なことになるね」

 

「確かにそうだな······確か人間を襲う気はないって言ってたし、次は現れないかもしれない······」

 

士道はそう言い、それならそれでいいのではないのか?と考えたが、その考えをすぐに捨てた。

 

「何かの拍子でASTに目をつけられるかもしれないし、早く探しださないと······ッ!」

 

そう言うと、琴里は頭を押さえて椅子から落ちる。

 

「琴里!」

 

「······大丈夫かい?琴里」

 

「ええ······それより、精霊のことを······」

 

琴里は立ち上がりながらそう言うが、体がフラフラとしていて、足もおぼつかない様子だ。

 

「······さすがにこれ以上は危険だ、琴里」

 

「琴里······」

 

「······わかったわよ、今日の会議は終了よ」

 

琴里はそう言い、部屋から出ていく。

 

「······シン、明日は頼んだよ」

 

「······はい、わかってます」

 

士道はそう言い、決意する。

明日の戦争(デート)は、必ず成功させると。




ある程度の知識は情報と共に入ってきてます。
まさかのまるまる一話主人公が言葉を発しないという······。
そして次は琴里と士道のデートです。
未だに琴里以外の精霊は登場していませんが、次回は出てくると思います。


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五河シスター
接触


嘘吐きました()
すみません!


下水道から脱出すると、既に夜だった。

······では、生きるために必要なことをやってみよう。

人間として生きていくのであれば、やはり金と言うものが必要だろう。

そこで私は考えていた。

安全に、確実に、大量に金を手に入れられる方法を。

そして思いついた。

私が精霊であるということを活かし、安全に、確実に、大量に金を手に入れられる方法を。

 

「〈神威霊装・厄災(ブラック・ディザスター)〉」

 

私はそう呟き、霊装を身に纏う。

そしてあることをする。

それは······空間震である。

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ─────

 

私が小さい空間震を起こした瞬間、音が響く。

さて、ひと狩り行こうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果を言おう。

大成功としか言いようがない。

盗聴で聴いたASTとかいう連中が来たが、少し攻撃すれば退路を開いてくれた。

やはりこの世界の人間は弱いな。

そういえばシドウも来ていたな。

わけのわからないことを言っていた。

手に入れた金額は────三億円だ。

色々な店を回って札を盗っていた時、銀行というものを見つけた。

銀行に金があるというのは知っている。

だからできるだけ多く盗った。

その結果が三億円だ。

これなら私の考えていたことの一つ、学校というものに通うことができる。

私が学校に通おうと思ったのは、単純に興味を持ったからである。

人間の学はこの世界に来てある程度入っている。

だから問題はないだろう。

どの学校にしようかも既に決めてある。

昼頃に僅かながら精霊の気配がした学校───来禅高校である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『······今回は私が指揮を執らせてもらうよ。大丈夫かい?シン』

 

士道の耳には、玲音の声が聴こえていた。

 

「ふぁ〜······大丈夫です······」

 

欠伸をした後、士道はそう返す。

 

『······精霊はどうやら、銀行に向かっているようだ』

 

「銀行?」

 

士道は走りながらそう言う。

 

『······あくまで、私の仮説なのだが、もしかするとお金が必要なのかもしれない』

 

「どうして······ってまさか」

 

『······おそらく、シンが考えていることだろうね』

 

士道はこっちで暮らすためにお金が必要なのでは?と考え、玲音も同意見だと言った。

ただ、何故暮らそうとするのかはわからなかった。

 

『······とにかく、早く向かった方がいいだろう』

 

「了解!」

 

士道はそう言い、銀行に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「······ッ!玲音さん、見つけました」

 

銀行に入ってすぐ、士道は精霊を発見し、小声で言う。

 

『······こちらでも姿を捉えた』

 

「で、どうしますか?」

 

『······シン、ASTが近づいている。一旦隠れたまえ』

 

「わかりました」

 

士道はそう返事すると、トイレに入って身を潜める。

その瞬間、銀行の天井が吹き飛び、その衝撃が士道を襲う。

 

「うおっ!」

 

士道は思わず声を漏らす。

 

『······大丈夫かい?』

 

「大丈夫です。それより何が······」

 

『······どうやら、精霊が持っていた武器が手から滑って天井を破壊したようだ』

 

「武器?あの手のような?」

 

『······いや、巨大な髑髏のような武器だ。それで金庫を叩き、こじ開けたようだ』

 

「えぇ······」

 

士道は思わず声に出してしまう。

 

『······精霊が銀行を出るようだ。接触するなら今しかない』

 

「了解」

 

士道はトイレから出て、精霊に声をかける。

 

「待ってくれ!」

 

士道がそう言うと、精霊は士道を見る。

 

「何の用だ?人間」

 

『······選択肢だ。少し待ちたまえ』

 

フラクシナスのモニターに映し出された選択肢は、

 

①ご機嫌いかがですか、お姫様

②もしかして······強盗!?

③こんばんは!下着くれないかな?

 

それを見た船員は、それぞれ一つ選んだ。

 

「······①が多いようだね」

 

「相手は少し人間を下に見ているところがあるので、機嫌を取るにはこれが最善かと」

 

そういうのは、〈早すぎた倦怠期(バッドマリッジ)〉川越だ。

 

「······一人だけ③を選んでいる者がいるようだね」

 

「私です」

 

そう言って手を挙げたのは、副司令の神無月恭平だ。

 

「あの態度は明らかにS!下着をくださいなんて言えばおしおきは確実!ああ!その細い足で私を!」

 

神無月は体をくねくねとさせながら言う。

それを聞いた船員は、「やっぱりダメだこいつ」と思った。

 

『······シン、①だ』

 

「了解」

 

士道は小声で答え、精霊の方を頭を軽く下げて言う。

 

「ご機嫌いかがですか、お嬢様」

 

「······何をしているのだ、シドウとやら」

 

「!?なんで俺の······」

 

士道は精霊に自分の名前を言われたことに驚く。

 

「何、昼頃の会話を盗聴し(聴い)ていただけだ」

 

「いつの間に······」

 

「私を呼び止めて何の用だ?つまらない用だった場合────殺す」

 

士道はその言葉を聞いて一歩後ずさる。

 

『······シン、気を強く持つんだ』

 

「······っ、はい」

 

「で、何の用だ?これ聞くの三回目だぞ?」

 

「ご、ごめん······」

 

「謝らなくていい。用件を言え」

 

「あ、ああ、えっと······俺とデートしないか?」

 

「デート?シドウとやら、それは明日コトリとやらとするのではないのか?」

 

「な、なんでそれも······」

 

そこまで言い、士道は思い出した。

聴いていた、と言っていたことを。

 

「······とにかく、来週に駅前のパチ公前で────」

 

「ふむ一つ問おう。デートというものに何の意味がある?」

 

「え······っと······俺は精霊の力を封印できるんだ」

 

「ほう、それに何の意味が?」

 

「······襲われずに生きて────」

 

「ふん、返り討ちにしてやる」

 

「······」

 

士道は言葉に詰まってしまう。

確かに、彼女はASTの攻撃に傷一つついていないし、確かに強いのだろう。

 

「それに、だ。この力を無くすのだけは、私にとって損害でしかない。故に、人間ごときに封印されるわけにはいかない」

 

「······どうして君は、人間を下に見ているような言い方をするんだ?」

 

「何を言うか、当たり前ではないか。人間など、私にとっては餌にもならん小さすぎる存在だ」

 

「は······?」

 

士道は理解できないと言いたげに、精霊を見る。

何故そのようなことを言うのだ?と思っているのだ。

 

「私は絶対、あの地に舞い戻る。そしてあの人間と再び戦い、次こそ勝つ」

 

あの地?あの人間?次こそ勝つ?あの地とはどこだ?あの人間とは誰だ?次こそ?一度負けたのか?

そのような考えが、士道の頭を支配する。

 

「······少し話しすぎたな。それでは私は失礼する」

 

精霊はそう言うと、銀行を出る。

 

「待っ······!」

 

士道が追いかけて外を見ると、精霊が笛のような物を演奏していた。

その音を聴いたASTは、次々と地面に落ちている。

それを見ている士道も、耳を押え、手を壁につけている。

 

『······シン、さすがにまずい。撤退だ』

 

「わかり······ました······ッ」

 

士道が答えると、浮遊感を覚える。

そして次の瞬間には、〈フラクシナス〉の中にいた。

 

「はぁ······はぁ······なんなんだ······一体······」

 

「······お疲れ、シン。早く休むといい。明日は······」

 

「······はい」

 

「······家の前で降ろすよ」

 

こうして、何もかもが謎のままで、さらに謎が増え、今回の作戦は失敗した。




琴里とのデートに突っ込む予定でしたが、士道にある程度どんな性格か知らせておく方が良いと思ったのです······。
次回こそ、デート回に突っ込むと思います。

p.s:ゴア・マガラ実写映画登場決定おめでとう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


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アンノウンVSイフリート 前編

前後編に分けました。
長くなりそうだったので······。


私は来禅高校から外に出る。

たった今、入学の手続きをしてきたところだ。

私は腕を上に挙げて背中を伸ばす。

色々訊かれたが、適当に答え、転校生として入学することになった。

さて、これからどうしようか。

そう考えている時、空に何かが飛んでいるのを感知した。

あれは······折紙とかいう人間か?

······面白い、追いかけてみるか。

私は一度人目につかない場所に隠れ、霊装を纏って空を飛ぶ。

 

「この姿で飛ぶのは初めてか······慣れておくか」

 

そう呟き、私は人間を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、折紙······」

 

「────士道。ここは危険。離れていて」

 

士道は琴里とのデートに、オーシャンパークに来ていた。

そこで士道は琴里の好感度を上げるために────琴里を救うために、二人で遊んでいた。

そんな時だった。

空から突然、鳶一折紙が現れたのだ。

そして、現れたと同時に琴里に攻撃した。

 

「ほう、なかなか面白いことになっているではないか」

 

そんな時に現れたのは、謎の精霊。

 

「······〈アンノウン〉······!」

 

折紙は精霊を見て言う。

〈アンノウン〉というのが、あの精霊の認識名なのだろう。

 

「あんのうん?ああ、確か未知、とかそんな意味だったな。くくっ、確かに私には似合った名前だな」

 

〈アンノウン〉は笑いながらそう言う。

 

「だが、私の名前は既に決めているのだ。だからその名前を名乗るはやめておこう」

 

「······何の用?」

 

「何、たまたま飛んでいるのお前を見つけたのでな。何か面白そうなことが起きそうだと思ってついてきた」

 

「······今すぐ帰って。あなたに構ってる暇はない」

 

「あーあー、連れないね。私も遊びたいのだよ」

 

〈アンノウン〉がそう言うと、大きな目の模様の大きな盾と少し変わった形をした槍が現れた。

 

「さあ、来な。お前は弱いが、他のやつよりマシだ。せいぜい暇つぶし程度にはなってくれ」

 

「······私を、舐めないで!」

 

折紙はそう言い、〈アンノウン〉に向かって突撃しながらミサイルを放つ。

〈アンノウン〉は盾でそれらを全て防ぎ、一瞬で折紙との距離を詰める。

 

「ッ!」

 

「まだまだだ」

 

〈アンノウン〉は折紙に向かって槍を振り下ろす。

折紙はそれを随意領域(テリトリー)で防ぐ。

だが────。

 

「私の勝ちだ」

 

「何を······」

 

〈アンノウン〉は槍の持ち手についている引き金を引く。

すると、槍の先端から連続で五回の爆発が起きる。

すると、随意領域(テリトリー)が破壊される。

破壊された反動で、折紙は動きが止まってしまう。

その瞬間を見逃すはずもなく、〈アンノウン〉は槍で切り上げ、折紙の顔に傷をつける。

 

「なかなか扱いにくい武器だ······。少々練習が必要か?」

 

士道から見ればあの折紙を圧倒しているし、練習が必要とは思えなかった。

 

「初めて使ううえに、手加減しているのにこれか······」

 

信じられない、と士道は思った。

圧倒的な力を見せつけておきながら、手加減していると言うのだ。

 

「どうやら、少し疲れているみたいだな。動きが止まっているぞ」

 

「······くっ······!」

 

「さて、これ以上伸び代もなさそうだ。さっさと殺してしまおう」

 

〈アンノウン〉は折紙に向かって槍を構える。

そしてエネルギーをチャージする。

 

「お前との戦い。やはりつまらん」

 

「や、やめ────」

 

そしてエネルギーチャージが完了し、一気に放出され────。

 

「────私を置いて、楽しそうね」

 

───ることはなかった。

下から聞こえてきた言葉に、視線が向く。

 

「ん?お前は······ああ、コトリとやらか。そうかお前は精霊だったか」

 

「ええ、〈アンノウン〉。それより、売られた喧嘩は───買わないとねッ!〈神威霊装・五番(エロヒム・ギボール)〉!」

 

琴里がそう言うと、琴里の周りに炎が現れる。

その炎が琴里を包み、琴里が霊装を纏う。

 

「〈灼爛殲鬼(カマエル)〉!」

 

琴里が言うと、琴里手に機械的な巨大な斧が現れた。

 

「火、か。······私の苦手なものだな」

 

ここで、初めて〈アンノウン〉の情報が手に入った。

しかし、だからといってどうにかなる訳でもない。

 

「ッ······もう限界······!」

 

琴里は急に頭を押さえて片膝をつく。

そして次の瞬間。

 

「────ははは、あなた、強いわよね?私と────戦いましょうよッ!」

 

琴里はそう言い、〈アンノウン〉に斧を振り下ろす。

〈アンノウン〉はそれを盾で防ぐ。

 

「苦手なくらいがちょうどいいか」

 

〈アンノウン〉はそう言い、盾と槍を消す。

そして次は刃がついている棍と、腕についている虫を出現させた。

〈アンノウン〉は棍をしばらく振り回した後言う。

 

「ふむ、なかなか使いやすそうだ。早速やってやろう」

 

〈アンノウン〉は棍の先端を琴里に向けると、そこから光の玉を発射する。

それは琴里の胴体に命中した。

 

「行ってこい」

 

〈アンノウン〉が棍を振ると、虫は光の玉が命中した胴体に向かった。

 

「そんなもの、落としてやるわ」

 

琴里はそう言い、斧を振り下ろす。

が、虫はそれを避けて琴里の胴体に激突する。

 

「ちっ······何よこれ······」

 

「それは猟虫というようだ。さっきの光弾が当たった場所に集中的に向かうんだ」

 

「あっそう。······あー、イライラする!」

 

琴里はそう言うと、炎で虫を撃ち始めた。

虫はそれらを全て避けていく。

 

「そろそろいいだろう。戻ってこい」

 

そう言って棍を振ると、虫は〈アンノウン〉の腕に戻った。

 

「······さて、直接攻撃をさせてもらおう」

 

そう言うと、棍で琴里を斬りつける。

縦に、横に、斜めに、何度も斬りつける。

 

「ぐっ······!」

 

「最初の方の威勢はどこに行った?楽しませてくれよ?」

 

そう言い、琴里を突き飛ばす。

攻撃から逃れた琴里の傷は、炎が発生して傷が消える。

 

「もう······やめろ······」

 

「傷が······?ははっ、面白いじゃないか。もっと私を楽しませてくれ!」

 

そう言って琴里に近づく〈アンノウン〉の周りに、何か黒いものが発生した。

なんだあれは?と士道は思う。

 

「〈灼爛殲鬼(カマエル)〉──【(メギド)】」

 

琴里が言うと、斧の刃が収納され、大砲のようになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シドー!」

 

「士道、さん」

 

「十香!四糸乃!無事だったか!」

 

士道を呼んだのは、精霊である夜刀神十香と四糸乃である。

何故か二人とも霊装を纏っており、天使も顕現している。

 

「シドーこそ、無事だったか!」

 

「俺は大丈夫だ、それより琴里が······!」

 

士道はそう言い、空に飛んでいる琴里と精霊、通称〈アンノウン〉を見た。

 

「あれは琴里······と誰だ?」

 

「精霊だ······くそっ、もうやめてくれ!」

 

士道は必死に叫ぶが、その声は届かない。

 

「シドー·······ッ!危ない!」

 

そう言い、十香は士道を突き飛ばす。

そして先程まで士道がいた場所に、炎が飛んでくる。

 

「大丈夫か?シドー」

 

「あ、ありがとう、十香······」

 

「琴里······どうしたのだ······」

 

十香は琴里を悲しそうな目で見る。

 

「十香······俺が、止める」

 

「シドー?危険だ!」

 

「大丈夫だ······ここで待っててくれ」

 

士道はそう言って走り出す。

琴里を助けるために。




後編に続く!
······はい。
アンノウン(仮)さんは結構、というかかなり気分屋です。
本気で戦えないのなら、せめて楽しみたいという気持ちがありますが、楽しくないと感じてしまうと······はい。


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アンノウンVSイフリート 後編

朝におはようございます


コトリとやらは大砲のようなものを私にむける。

······ほう、なかなか強力なものを放つようだな。

一つ、私も試してみようか。

〈狩技〉というものを。

私は操虫棍の「エイムofマジック」を消し、再びガンランスの「アームofアロガン」を出現させる。

そして私は一気に距離を詰める。

コトリもエネルギーをチャージしているな。

私もやるか。

私はそう考え、ガンランスを構え、〈狩技〉のチャージを始める。

─────チャージ完了。

「くらいなさいッ!」

 

「〈覇山竜撃砲〉」

 

同時に技を発動する。

────思っていたより弱い。

これならば、普通に翼脚で防げてしまう。

······この勝負────

 

「────私の勝ちだ」

 

「何?······ぐあッ······!」

 

私が勝ちを宣言した瞬間、コトリの技を押し切り、私の〈覇山竜撃砲〉がコトリに直撃し、コトリは後ろに吹き飛ばされる。

 

「苦手な火を使う相手なら敗けるか楽しめるかはしそうだと思っていたが······飽きた。消えろ」

 

私はそう言い、ガンランスを構える。

そして〈狩技〉の「AAフレア」を使おうとする。

チャージ開始。

コトリはさっきより落ち着いたのか、私を怯えるような目で見ている。

しかし、私はチャージをやめない。

そして─────チャージ完了。

 

私は技の名前を言い、放とうとする。

 

「AAフレ───」

 

「待ってくれ!」

 

私はその声を聞き、発射を中断する。

 

「ほう、いたのかシドウ」

 

「待ってくれ、ええっと······」

 

「?ああ、別に〈アンノウン〉でいいよ」

 

「わかった。待ってくれ、〈アンノウン〉」

 

「で、なんだ?わざわざ呼び止めたということは、何か用があるのだろう?」

 

私がそう問うと、シドウは真剣な顔で私を見て言う。

 

「ああ、俺の用はただ一つだ。琴里を殺さないでくれ」

 

「······ははっ、面白いことを言うな。コトリから喧嘩売ってきておいて、私にやめろというのは、おかしいではないか」

 

「······その時の琴里は、正気じゃなかった」

 

「ほう、正気じゃなくなるようなやつなのか。尚更殺さなければな」

 

私がそう言うと、シドウは顔を歪める。

 

「······だけど、俺には止める方法がある!」

 

「どんな方法だ?今実際にやってみろ」

 

そう言うと、シドウの顔が少しだけ赤くなる。

が、すぐに元に戻る。

 

「······わかった。やってやる」

 

シドウはそう言うと、コトリの元に歩く。

 

「琴里!大丈夫か?琴里!」

 

「し、どう······?」

 

「琴里、俺のこと、好きか?」

 

「と、突然、何を······!」

 

「答えてくれ、頼む」

 

「だ、大好きよ······!おにーちゃん!」

 

シドウはコトリの言葉を聞くと、自身の唇をコトリの唇に押し付けた。

つまり、キスをした。

すると、コトリの霊装が消失し、裸になった。

疲れているからか、コトリはそのまま気を失っている。

 

「────驚いた。面白い。正気じゃなかったのは暴走だろうが、元を断つ───いや、減少させることができるとは」

 

私はコトリから精霊の感覚がほとんどしなくなったことに気づいた。

その代わり、コトリから感じた感覚の大半がシドウに移っている。

シドウはコトリに上着を被せた後、こちらを向いて言う。

 

「これが、言った方法だ」

 

「······面白い。昨日は全く興味を感じなかったが、今は興味しかない」

 

「······それは光栄だよ」

 

本当に興味が湧いてきた。

そんな力────警戒しなくてはならない。

だが、力を奪う、なんて、必ず発動に条件があるはずだ。

その一つがキスというのはわかった。

でなければする必要がないからな。

あとは······好意か?

コトリに自身への好意を確認していたし、十分にありえる。

もし、その二つが条件ならば、全く問題ない。

 

「さて、実際に止めてくれたわけだ。コトリのことは見逃そう。だが────」

 

そこまで言い、私は頭を押え、膝をついている折紙を見る。

 

「こいつは、もう伸び代もないだろう。自身の鍛錬ではなく、兵器に頼るとは。もう興味は失せた」

 

私はそう言い、双剣の「クロウofキャリアー」を出現させ、折紙の首元に突きつける。

 

「殺させろ。そして、我が苗床にでもなれ」

 

そう言い、斬りつけようとした時だった。

 

「待ってくれ!」

 

「シドウ、さすがにこいつを庇うことは無理だろう?」

 

「······いや、折紙は俺の······友達だ。友達が殺されるのは、悲しい。だから、やめてくれ」

 

シドウは必死に言う。

 

「そこまで言われれば、執行猶予?をやろう」

 

「······どれくらいだ?」

 

「私に殺意が芽生えるまで、だ。私が殺意を持つなんて、よっぽどのことだ。だからかなり優しいものだと思うが」

 

「······ありがとう······〈アンノウン〉······」

 

「さて、私は帰るとするよ。今日の午前は手続きだらけでうんざりだったからね。買ったばかりの巣で休むとするよ」

 

私はそう言い、空を飛んで新居に向かう。

適当な巣を選んで買ったから、どんなものなのかはよくわからない。

とにかく、早く眠りたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士道は〈アンノウン〉が去っていくのを眺める。

 

「シドー!琴里は無事か?」

 

「十香······ああ、無事だよ」

 

今回は、場を荒らすだけ荒らして帰っていった。

あの嵐のような、いや、それよりもっと酷いものは、何がしたかったのだろうか。

いくら考えてもわからない。

 

「シドー、結局もう一人の精霊はなんだったのだ?」

 

「······わからない。何も」

 

十香からの純粋な問いに、そう答えるしかできない。

今回の作戦、精霊〈アンノウン〉の乱入があったものの、成功。

そのはずなのだが、士道はどうしても喜べる心境ではなかった。

 

「シドー?」

 

「······いや、なんでもない。今日は帰ろうか」

 

士道はそう言い、気絶している琴里を抱えて歩きだす。

 

「次ば絶対に······」

 

聞きたいこと全部聞いてやる、と士道は心に誓った。




なんか終わり方が不自然な気もしますが、大丈夫でしょう()
狩技ってロマンですよね。
使わせてみたくなっただけです。


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学舎へ通う竜

特に事件もありません。


琴里とのデートから数日後、士道は学校に来ていた。

士道はキスをした直後に流れるように思い出した記憶と、謎の精霊〈アンノウン〉について考えていた。

────あの大火事の日のノイズは、一体何なのか。

────あの精霊は、何を目的としているのだ。

そんなことを考えていた。

 

「よう、五河。どうしたんだ、そんな顔して」

 

そう士道に声をかけたのは、殿町宏人。

士道の親友といえる人間だ。

 

「ああ、殿町。まあ、ちょっとな······」

 

「最近そんな顔ばっかりしてるぞ?何かあれば、相談には乗るぞ」

 

「······サンキューな、殿町。おかげで少しだけ楽になったよ」

 

「いつでも話し相手にはなるぜ」

 

殿町はそう言い、サムズアップする。

士道も気分が晴れ、少しだけスッキリしたような感覚になる。

その時、教室にこのクラスの担任である。岡峰珠恵、通称タマちゃん先生が入ってきた。

 

「みなさーん、席についてくださーい!今日はなんと、転校生がやってきましたよー!」

 

転校生?最近狂三が来たばかりなのに、また転校生か?と士道は思う。

 

「入ってきてくださーい!」

 

先生がそう言うと、扉が開き、そこから一人の女子が入ってくる。

真っ黒の長髪に、それとは対象的な真っ白な裸、そしてどんな光も通さないような真っ黒な目の少女。

 

「それでは、自己紹介をお願いします!」

 

「うむ。私は黒禍黒姫(くろまがくろひめ)という。実は私は────竜なのだ」

 

入ってきた少女は、顔に似合わない口調で言った。

彼女が言ったことに、みんなが困惑の色を浮かべる。

だが黒姫と名乗った少女は、全く気にしていない様子で、教室内を見ている。

ふと士道と目が合うと、黒姫は笑みを浮かべる。

それを見た士道は、何か恐ろしいものを感じた。

 

「こ、個性的な自己紹介ですね!黒禍さんの席は······夜刀神さんの隣に座ってください!」

 

「うむ、了解した」

 

黒姫はそう言うと、指定された席に向かい、座った。

 

「これからよろしく頼む、夜刀神」

 

「私は十香だ!よろしくな、黒姫!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は黒禍黒姫として、学校に通うことになった。

目が見えないことは教師にも言っていない。

言う必要はないだろう。

どうせ見えるのだから。

さて、もう昼休みか。

自己紹介で竜と名乗ったからか、休み時間にはそれについて質問責めされる。

その時は「私はこことは違う、遠くから来た。そこで竜と呼ばれていた」と言った。

男女構わずその言葉で盛り上がったが、事実を伝えただけだ。

ま、昼休みになったし、シドウにでも学校案内を頼むとするか。

 

「シドウよ。ついてきてくれないか」

 

「え?お、俺?」

 

「そう、お前だ」

 

私がそう言うと、教室内がざわざわとし始める。

 

「ち、ちょっと待ってくれ!どうして俺なんだ?」

 

「ふむ······ま、どこかで見かけたことがあるような気がするから、というのでは駄目か?」

 

私がそう言うと、士道は頭を押えてため息をつく。

 

「······わかった。ついてきてくれ」

 

シドウはそう言い席を立つ。

そして教室を出る。

 

「なあ、朝の私の言葉。どう思った?」

 

「え?あ、ああ、黒禍さんが竜っていう······」

 

「そうだ。それを聞いて、シドウはどう思った?」

 

「······特に何も。それよりも俺は、黒禍さんの笑顔が怖かったよ」

 

おや、ついつい顔を向けてしまったか。

それより、怖いとはどういうことだ。

私が精霊〈アンノウン〉だとは話していないはずだ。

顔も装備で隠れていたし、霊力とやらも抑えている。

気づかれるはずはない。

 

「女に向かって笑顔が怖い、とは。私以外の女に言うなよ?どうなるかわからんぞ」

 

私はそう言い、小さく笑う。

 

「確かに失礼だったよ。ごめん」

 

「いいや、全然気にしていないさ。寧ろ、もっと恐れてほしいくらいさ」

 

皆が私を恐れている様子を見るのは面白そうだ。

それに、恐れられているということは、私が目指している「龍」に近づいているということだろうしな。

 

「そうか······。とりあえず、食堂を紹介するよ」

 

「ははは、よろしく頼むよ」

 

その後、私はシドウに学校を案内してもらい、放課後になった後はすぐに巣に帰った。

······さて、明日にでもあの精霊に近づいておくか。

噂では、そいつは大量の人間を殺しているという。

······楽しめそうだ······!




次回はあの精霊と直接話します。
クラスは同じはずなので、顔は合わせていますが話してはいません。
ちなみに、折紙のことを全く書いていないのは、黒姫が折紙に興味がないから眼中に無い、ということです。


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不明と悪夢

少し短いかと······。


時は放課後、私は屋上で人を待っていた。

屋上の扉が開かれる音を聞き、私は扉の方を見る。

そこに現れたのは時崎狂三。

何故こいつがここにいるのかというと、私が朝、呼び出したのだ。

教室で堂々と、正面から。

 

「黒姫さん、でしたわよね?一体何のご用ですの?」

 

「狂三よ。私はお前にこう問おう。お前、精霊だろう?」

 

「ええ、そうですわよ。それがどうかなさいまして?」

 

「時崎狂三、通称〈ナイトメア〉······お前、どうやら人間を大量に殺しているようではないか」

 

この情報は私が直接ASTから盗み出したものだ。

学校が始まる前に、暇つぶしで侵入した時に手に入れた。

 

「確かにそうですわね」

 

「お前、楽しいことをしているではないか」

 

「楽しい······ですの?」

 

「ああ。理由はともかく、そのような行動をするとは······!お前なら、私を滾らせてくれるだろう······!」

 

「つまり、わたくしと戦いたい、ということでございますの?」

 

「その通りだ」

 

私がそう言うと、狂三は少し悩む素振りをし、その後笑みを浮かべて言う。

 

「構いませんわ。ただし、一つ条件がございますの」

 

「言ってみろ」

 

「わたくしが勝った場合────黒姫さんを食べさせてください」

 

ほう、私を食べる、か。

 

「面白いことを言うな。いいだろう。その条件をのもう」

 

「ありがとうございます。それでは早速────〈神威霊装・三番(エロヒム)〉!」

 

「〈神威霊装・厄災(ブラック・ディザスター)〉!」

 

私と狂三はそう言い、霊装を身に纏う。

 

「さて、始めるか!」

 

私はそう言い、双剣を出現させる。

 

「ええ、行きますわよ。わたくしたち!」

 

狂三がそう言うと、影から大量の狂三が現れる。

 

「きひひ」

「きひひひ」

「あらあら」

「わたくしたちに」

「あなたは」

「勝てますの?」

 

大量の狂三が、一人一人違うことを言っている。

現れた狂三たちは、一気に私に迫ってくる。

 

「返り討ちにしてやる。〈血風独楽〉!」

 

私は双剣の〈狩技〉、〈血風独楽〉を使用する。

私に集まってきた狂三たちは、私の前進しながらの回転斬りに当たっていく。

当たって死んだ狂三たちは、影に沈んでいく。

そして狂三たちが近づいてきていないのを確認し、回転を止める。

 

「あらあらあら、すごい技をお持ちですのね」

 

「まだまだある───さッ!」

 

私はそう言い、屋上のフェンスに向かって走り出す。

そしてジャンプしてフェンスの上に乗り、技名を言いながら狂三に飛びかかる。

 

「〈天翔空破断〉!」

 

「っ!わたくしたち!」

 

狂三がそう言うと、狂三が狂三を庇うように前に立つ。

 

「······一歩判断が遅れていたら、危なかったですわ」

 

「······ははははっ!いいぞ、楽しい、楽しいぞ!」

 

私は狂三に向けてそう言う。

ああ、もっと暴れたい。

暴れて、もっと狂三と戦い(殺し合い)たい。

 

「わたくしたちの数が······っ。仕方ありませんわ。〈刻々帝(ザフキエル)〉、〈八の弾(ヘット)〉」

 

狂三がそう言うと、狂三の手元に二丁の銃と、後ろに大きな時計が現れる。

そして時計のⅧの字が、銃に吸い込まれると、狂三は自分に向けて銃を撃った。

すると、どこからかもう一人の狂三が現れた。

 

「ほう、自身を増やすとは······面白い!」

 

私はそう言い、狂三に向かって走り出す。

 

「〈刻々帝(ザフキエル)〉、〈七の弾(ザイン)〉」

 

狂三がそう言うと、次はⅦの字が銃に吸い込まれる。

そして、それを私に向かって撃つ。

私はそれを双剣で防いだ。

────が。

私の身体が、動かなくなった。

 

「いきなさい、わたくしたち!」

 

狂三がそう言うと、大量の狂三が私に向かってくる。

近づいてくると、狂三たちは銃を私に向け、引き金を引く。

射出された弾は、私の心臓に向かっていた。

弾は全て私に命中する。

が、全て弾いた。

 

「ッ!?一体、どういうこと、ですの?」

 

「はあ、動けるようになったか」

 

「今、何をしましたの?」

 

「何もしていないさ。私は精霊ではなく、「竜」だ。そのような銃の弾、私の心臓に届くはずもないだろう」

 

私がそう言うと、狂三は一歩後ずさる。

次の瞬間には、笑い始めた。

 

「きひ、きひひひひひひひひひ!」

 

「どうした?気でもふれたか?」

 

「いいえェ、そうではありませんわァ」

 

「ならばどうした?」

 

「少し······滾ってきたのですわァ!〈刻々帝(ザアアアアアアフキエエエエエエル)〉!〈一の弾(アレフ)〉!」

 

狂三が言うと、Ⅰの字が銃に吸い込まれる。

そして、銃口を自身に向け、引き金を引く。

その瞬間、狂三の姿が消え────目の前に現れる。

 

「ほう、超高速で動く技、ということか」

 

私が言った瞬間、狂三は私の胸に銃口を当て、引き金を引く。

射出された弾は、私に軽い傷をつける。

 

「この距離でもダメですのねェ」

 

「はははっ!私にその銃は効かんと伝えたはずだ。それより私は─────」

 

私はそこまで言い、翼脚を広げて空を飛ぶ。

そして続きを言う。

 

「────もう、抑えきれんッ!」

 

その瞬間、私の頭から紫色に光る触角が生える。

その触角は、装備に穴を開け、外に出る。

そして、空は黒く染まり、日の光は弱くなる。

狂竜化────人間はそう呼んでいたらしい。

私は狂竜化し、力の制限を外す。

武器など使わない。

 

「はは、ははははははははッ!もう、私は止められないッ!」

 

ここから先は、狂気と狂気の殺し合いだ。




黒姫が狂三と戦って滾っているのは、手数が多く、読めない手な多いからです。
ゲームとかで初見の敵の技とかわくわくしますよね?それと似た感覚です。
ゴア・マガラの狂竜化は、興奮状態でなると思ったのでこのようにしてます。
怒り=興奮状態という考え方です。

p.s:大量狂三の原作再現無理でした······


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狂竜化

狂三VS黒姫が終わります。
今回はさらに短いです······すみません。


「なんなんですの······あれは?」

 

狂三は狂竜化した黒姫を見て、思わずそう漏らす。

あの姿になるだけで、空が黒く染っている。

日の光は、届いているかもわからない。

 

「Gaaaaaaaaaaaa!」

 

黒姫は叫び、翼脚で狂三を叩きつける。

 

「が······っ」

 

狂三は小さく声を出す。

狂三は倒れたまま、銃を構える。

 

「〈刻々帝(ザフキエル)〉、〈四の弾(ダレット)〉······!」

 

狂三が言うと、時計からⅣの字が時計に吸い込まれる。

そして銃を自身に向け、引き金を引く。

すると、狂三の傷が消えていく。

 

「なんですの······その馬鹿げた力は······!?」

 

狂三はそう言うが、黒姫は何も返さない。

そして狂三は体の異変に気がつく。

いや、正確には、自身の周りの異変に気がついた。

狂三の周りには、黒いモヤのようなものが周りにあったのだ。

 

「これは······?」

 

狂三はそれを見て、恐ろしいものを感じた。

すぐに離れたが、既に遅い。

狂三はもう、感染してしまった。

たが、狂三はそれに気づかない。

 

「逃げに徹するしかないようですわね······〈一の弾(アレフ)〉!」

 

時計のⅠの字が銃に吸い込まれ、狂三は自身に向けて引き金を引く。

そして高速で動き始める。

 

「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

黒姫は叫び、翼脚を振り回し、叩きつける。

その衝撃で、床にヒビが入る。

 

「このままでは······っ!」

 

狂三はそう呟き、空間震を起こす。

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ─────

 

音が響き、街の住人は避難する。

狂三は一瞬だけ安心したような顔をする。

が、次の瞬間、狂三の顔は苦しみで歪んだ。

 

「ぐ······っ、なん、ですの······?」

 

狂三は膝をつく。

気持ち悪い、痛い、自分が自分でなくなってしまう。

そのような考えが、狂三の頭に浮かんだ。

膝をついた狂三に、黒姫は近づき、翼脚を上にあげ、おもいきり叩きつけ────。

 

「狂三!」

 

その瞬間、声が聞こえた。

その声で、黒姫の動きが止まる。

 

「士道、さん······?来て、くださいましたのね······」

 

狂三はそう言い、床に倒れる。

 

「狂三!〈アンノウン〉、どうして狂三を!」

 

士道は黒姫に叫ぶ。

それを見た黒姫は、翼脚を閉じ、触角を消した。

 

「······冷めた。つまらんことをしてくれたな。狂三。空間震で警報を鳴らし、士道をここに呼ぶとは」

 

「答えろよ······!〈アンノウン〉!」

 

「はあ、大量の人間を殺したと知り、戦ったのだが······」

 

黒姫はそう言い、首を横に振って続ける。

 

「この地の人間は弱く、それを大量に殺している程度で、強いはずもなかったか」

 

「おい!」

 

士道は黒姫に近づく。

 

「なんだ?シドウよ。私はもう冷めた。戦う気も失せた」

 

「お前は、なんで戦いを望む!なんで精霊を殺そうとするんだ!」

 

「ああ、そんな質問か。私は竜だ。そして「龍」になる。そのために強くならねばいけないのだ」

 

「お前、何を言って────」

 

士道が言い切る前に、狂三が苦しそうな声をあげる。

 

「うっ、ああああああっ!」

 

「狂三!大丈夫か、狂三!」

 

士道は狂三に駆け寄り、声をかける。

 

「ああ、一つ言っておこう。そいつ、放っておくと、死ぬぞ」

 

「は······?なん、で······」

 

「よく覚えておらんが、私の鱗粉を吸いすぎたのだろう。私の鱗粉は、私以外には有害でな。そやつは私に反撃せず、逃げ続けたのだろう。だから克服できず、その身を蝕まれている」

 

「ならどうにかしてくれ!お前の力なんだろ!?」

 

「私の力は蝕むのみだ。どうにもできん」

 

黒姫が言うと、士道は膝をつく。

 

「ま、私の鱗粉、狂気ウイルスを少しだけ分けてやる。研究でもして、特効薬でも作ればよいだろう」

 

黒姫はそう言い、士道に鱗粉と思われるものが入った小瓶を投げる。

士道はそれを受け取る。

 

「······お前は、何がしたいんだ」

 

士道は、一度小瓶を見て、再び黒姫を見て言う。

 

「言っただろう。「龍」になる。と」

 

黒姫は最後にそう言い、翼脚を広げて空を飛ぶ。

士道はそれを、目で追うことしか出来なかった。

その後、士道と狂三はフラクシナスに回収され、士道は小瓶を渡し、狂三はベッドに横になった。

 

「······本当に、何がしたいんだよ······!」

 

誰もいない部屋で、士道は小さな声で、そう言った。




楽しんでいる時に突然誰かが乱入してくると冷めますよね。
それに似たような感覚です。
狂竜化がゴア・マガラ本人の意思で解除できるかわかりませんが、できるようにしています。
叩きつけで壊れなかった学校は······再開発された街の学校なので、耐久性に優れていたのでしょう()
そういえばUAが1000を突破していました。
ありがとうございます!


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翌日

こんばんは。
今夜は寒いですね。
絶賛風邪をひいております。
鼻がムズムズします。


狂竜化して狂三と戦った翌日。

狂三は学校に来ていない。

······まあ、理由など明白なのだが。

鱗粉の研究はまだ進んでいないのだろう。

ま、そんな短期間で解明されるようなものではないだろう。

何しろ、私自身もよくわからないのだ。

生まれた時から使えていたし、私にとっての目でもある。

それ以上でもそれ以下でもなく、全てを知る必要などないのだ。

私が知っているのは、せいぜい他の竜を狂わせる、という程度のことだ。

 

「黒禍さん、少しいいか?」

 

そう考えていると、シドウが私に話しかけてきた。

 

「黒姫でよいぞ。で、何の用だ?」

 

「放課後、話がある。屋上に来てくれ」

 

ほう、私に気がついたか?

なかなか早かったな。

あと一〇年はかかると思っていたが······さすがに情報を漏らしすぎたか?

 

「どんな話か気になるところだ。ああ、放課後に屋上だな?」

 

「······ああ、ありがとう」

 

そう言うと、シドウは自分の席に戻っていく。

 

「シドーと何の話をしていたのだ?」

 

そう話しかけてきたのは、十香。

休み時間に話をすることが多い。

私は最近知った。

十香も精霊なのだと。

しかしシドウに力を封印されているようだ。

······ああ、戦ってみたい。

殺して(たたかって)惨殺して(たたかって)虐殺し(たたかい)たい。

私が強くなるのに適した精霊かもしれん。

確か〈プリンセス〉、剣を使う精霊という。

あの人間は確か操虫棍を使っていたが、剣を持った相手とは戦ってみたい。

 

「ああ、少し放課後に用があると言われただけだ」

 

「そうか······なあ、黒姫。少しついてきてくれ」

 

十香はそう言うと、教室を出る。

私は断る理由もないし、ついていった。

 

「最近、シドーの様子がおかしいのだ······」

 

教室を出てすぐ、十香は話を始める。

 

「様子が?そうなのか」

 

「ああ。ずっと何かを考えているのだ。昨日も夕飯の時、ぼーっとしていてな······」

 

私、いや、〈アンノウン〉のことを考えているのだろう。

私の行動は全て「龍」になることに通じている。

が、人間には理解できぬのだろう。

そして知らぬのだろう。

強き竜こそが、「龍」になれるということを。

 

「何故か訊いてみたのか?」

 

「訊いたのだが、なんでもないと言って誤魔化すのだ」

 

十香はそう言い、しょんぼりとした顔になる。

正直どうでもいいのだが、適当な知識で誤魔化しておくか。

 

「十香、シドウも男だ。男には男なりの悩みがあるのだろう。そして、それは女には話しにくいのだよ。きっと」

 

「そうだったのか······」

 

ちょろい。

十香は純粋すぎる。

だがそれは、私と戦うにあたって、都合がいい。

一度でも私を十香に敵と認識させれば、純粋故に全力でぶつかってくるだろう。

今は交友を深めても良いかもしれんな。

 

「きっとそうだ。放っておいてやれ」

 

「······わかった。黒姫はいい人だから、信じるぞ!」

 

十香はそう言うと、「ありがとう!」と言って教室の中に戻る。

······はは、いつか、楽しませてほしいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、私は言われたとおり、屋上に向かっていた。

扉の前に立ち、扉を開け、屋上に出る。

 

「······来たな」

 

屋上には、シドウがいた。

······おや、屋上は結構荒れていたはずだが。

ASTとやらが直したのか?

 

「で、何の用だ?シドウ」

 

シドウにこう問うのも、これで何回目だろうか。

思わず笑ってしまいそうだ。

 

「単刀直入に、訊きたい。黒姫、あんたは精霊、なんだろ?」

 

「精霊、ね。私は竜だと言ったはずだが」

 

「とぼけるな!あんたが精霊〈アンノウン〉なんだろ!」

 

シドウは私に向かって叫ぶ。

 

「いつ、そう思った?」

 

「最初に疑い始めたのは、黒姫が教室で自己紹介をした時だ。〈アンノウン〉も何度か竜だと言っていたし、お前も言った。だから何かあると思った」

 

やはり、少しあのセリフを使いすぎたか。

自分でもそう思っていたのだ。

 

「そして次は、昨日のことだ。狂三は黒姫に屋上に呼び出された。でも、昨日屋上にいたのは狂三と〈アンノウン〉だった。ここで俺は、黒姫を〈アンノウン〉だと思うようになった」

 

「ならその時点では確信ではなかったのだな?」

 

「ああ、俺が確信を得たのは、狂三の言葉だ。あんたが飛んでいったあと、狂三は言ったんだ。黒姫が〈アンノウン〉だって」

 

ああ、最初から霊装を纏っていればよかったか······。

失敗だったな、反省しなければ。

 

「······なるほど、四〇点やろう」

 

「っ!ということは、やっぱり······」

 

「ああ、そうだ。私は精霊〈アンノウン〉と呼ばれている、黒禍黒姫······という名を使っている竜。黒蝕竜ゴア・マガラだ」

 

「黒蝕竜······ゴア・マガラ······」

 

「自分から名乗ったわけではないが、どうやら人間は、私をそのような名で呼んだらしい」

 

ここまで言う必要はないだろうが、もう言ってやろう。

隠す必要など、ないしな。

 

「黒姫······結局、あんたの目的はなんなんだ······?「龍」になるってなんだ?」

 

どうしたものか。

私自身、よくわかっていないことだ。

私たちゴア・マガラは、誰があの地に先に帰るか、勝負しているのだ。

しかし、誰が強いとか、誰が弱いとかはない。

皆、同じ私なのだ。

ゴア・マガラは皆同じで、あの地に帰れるのは生き残った竜のみ。

生き残るには、強くならねばいけない。

だから戦い、強くなろうとするのだ。

 

「言ってもわからんだろう。この世界の人間に、私たちを研究し尽くし、対策し、戦える人間も、竜も、いないのだから」

 

だから私はそう言う。

人間に、私たちゴア・マガラは、厄災でしかない。

それは龍になっても同じことだ。

私たちを理解できる人間は、どの世界であろうといないのだ。

どのようにしても、結局は厄災なのだから。

 

「······そうかよ······」

 

「で、それを聞いてどうする?私の力を封印するか?ま、不可能だと思うが」

 

私がそう言うと、シドウは顔を歪める。

やはり不可能なのだろう。

 

「······何も無いのであれば、私は巣に帰らねばならぬ。この三日で、私には亜衣麻衣美衣という友ができたのだ。巣に共に帰るため、待たせているのだ」

 

昼休みに特に絡んできたのが、この三人だ。

話は面白く、見ていて飽きぬ三人だ。

友になろうと持ちかけられた時は、多少驚いたが、面白いので了承した。

 

「······時間をとらせて悪かった」

 

「別によいぞ。竜にとって、この程度の時間、瞬き程度の時間だ、ま、私に目はなかったがな」

 

私はそう言い、小さく笑う。

扉の方に向かい、扉を開け、最後に言う、

 

「もし、私の邪魔をしたいのなら、死を覚悟する程度では駄目だぞ。人間」

 

そう言い、中に入った。

はははっ、これからの生活、どのようになるか楽しみだ。




黒姫にとっての十年は、人間換算で約数日です。
竜と人間って、時間の感覚違いそうですしね()
強い竜が「龍」となる。というのは、黒姫がゴア・マガラだからこその考えです。
黒姫がもしゴア・マガラじゃなければ、この考えではありません。
ティガだった場合、ただ暴れたい。になります。
一つ思ったのですが、バッドエンドとハッピーエンド、どちらが先にみたいですか?
黒姫の設定で、どちらにも行きつくものがあるので、どちらも書く気なんですが、どちらから書こうかなぁと。
なので、アンケートとります。


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狂い竜の平穏

短い日常回です。
小さな幸せというものだと思います(?)


私は楽しい戦いが好きだ。

一体のボスが子分を率いて私に挑んできた時、それは少し楽しかった。

群れの統率もできていて、なかなかやるじゃないか、と今になって思う。

暴れまわる竜と戦った時は、実に楽しかった。

辺りを走り回り、岩を投げ、大きな咆哮をあげていた。

そいつは後で私の鱗粉を吸いすぎたのか、狂ってしまったが、今はどうしているのだろうか。

そんな私だが、常に戦いたいとは思わない。

戦えばそれ相応に疲れるし、怪我もする。

まあ、この地でそんなことはないだろうが。

とにかく、万全の状態で全力で戦うのが楽しいのだ。

そんなことができる相手がいない今、私は何をするのか。

決まっている────。

 

「黒姫ちゃん、行くよ!」

 

「ああ、待たせてすまないな」

 

────遊戯(おでかけ)である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は今、友である亜衣麻衣美衣と友に、ショッピングモールというところに来ている。

どうやら、買い物や食事、ゲームというものができる場所らしい。

来る意味もなかったので来なかったが、なかなか楽しめそうだ。

 

「昼も近いし、まずはご飯食べに行こうよ!」

 

「そうだな。その後、ゆっくりと遊べばよいな」

 

亜衣の言葉に、私はそう返す。

そして、ショッピングモール内にあるファミレスという場所に向かう。

ファミレスに到着した私たちは、それぞれ飯を注文する。

私は正直なんでもよかったが、ハンバーグを注文した。

待ってる間は、雑談を楽しんだ。

どこから来たのか、何故このような話し方をしているのか、というようなことを訊かれた。

どこから来たかに対しては、頭に浮かんだ地名を言った。

話し方については、竜としての威厳を保つためと言った。

 

「お待たせしました」

 

店員がそう言い、私の前にハンバーグを出す。

亜衣麻衣美衣も、それぞれ頼んだものが出されている。

 

「いただきます」

 

私はそう言い、ハンバーグを食べ始める。

······うむ、美味である。

一度だけ草食獣の舌を食ったが、それと比べられるほど美味である。

これは、あの暴れまわる竜共がいれば、かぶりついたかもしれんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食を終えた私たちは、次に服屋に来ていた。

普段巣で過ごす時は、ジャージを着ている。

それを聞いた三人は、目の色が変わり、私をこの店に引っ張ってきたのだ。

 

「黒姫ちゃんにはこっちでしょ!」

 

「いや、こっちじゃない?」

 

「マジ引くわー」

 

亜衣麻衣美衣は、私の服を選んでいるようだ。

しばらく話し合い、三人は、私に服を渡す。

 

「これ、私たちが選んだの!着てみてくれる?」

 

「······わかった、着てみよう。暫し待っていろ」

 

亜衣に言われ、私は試着室に服を持って入る。

今来ている服を脱ぎ、渡された白いワンピースを着る。

そして、試着室から出る。

 

「おぉ······」

 

私の姿を見ると、そう声を漏らす。

 

「どうだ?」

 

「!最高だよ!」

 

「うんうん!」

 

「マジ引くわー!」

 

どうやら、好評らしい。

しかし、私に白は、まだ早い気がする。

 

「ならよかった。しかし、私に白い服はまだ早い。これの黒い服を買うよ」

 

「え?十分似合ってると思うけど」

 

私の言葉に、麻衣はそう言う。

 

「似合う似合わないの問題ではなく、早いのだ。私はそう思う」

 

「そう······なら、私たちは止めないわ!」

 

亜衣の言葉を聞き、私は微笑む。

その後、私は服を元の服に着替え、黒いワンピースを買い、店を出た。

······なかなか、楽しいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────今日は、とても楽しかった。

あの人間との戦いほどではなかったが、十分に楽しめた。

このような平穏も、悪くはない。

が、私は竜であり、「龍」になる存在。

いくら平穏に身を預けようと、闘争からは逃れられない。

そもそも、逃れようとなどしない。

私は我慢できない性格らしい。

待ちはするが、戦いたいと思えば、どうしても戦いたくなる。

だから、平穏な生活を送ろうと、私の本能が、戦いを望む。

それを苦とは思わない。

むしろ、戦っている時こそ、確実に「龍」に近づいているという「安心感」がある。

だから、私は戦い続ける。

そして「龍」となり、あわよくば────あの人間と、もう一度戦いたい。




黒姫の亜衣麻衣美衣とのおでかけです。
黒姫は「龍」になった自身の姿を知りませんが、白はまだ早いと直感で思ったのでしょう。
所々にあるモンスターを思わせる表記があるので(二箇所ほどですが)探してみてください!

そういえばアンケートについてですが、ハッピーエンドとバッドエンド、どちらも黒姫(ゴア・マガラ)にとってのハッピーとバッドです。
決して、全てが救われるとか、全てが滅びるとか、そんなものではありません。
そして、先に書くほうがストーリーの終わりになります。
あとから書く方は、ifという扱いになります。


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八舞テンペスト
発つ竜、翼を伸ばせず


今回、会話がかなり少ないです。



私は空を飛んでいる。

ただ、自分では飛んでいない。

ただ、快適な空間で、目的の地まで身を委ねている。

つまり、何が言いたいのかと言うと─────。

 

「鳶一折紙、貴様、謀ったな!」

 

「そんなことはない」

 

「落ち着けって二人とも······」

 

「······ふむ。自分で飛ぶのではなく、ただ揺られるだけというのも良いものだ」

 

─────修学旅行、ということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みなさーん、集まってくださーい!」

 

教師がそう言うと、皆がそこに集まる。

が、シドウと十香だけは、どこかへ行ってしまった。

一応、いつでも追えるように、鱗粉は忍ばせているが、追う必要もないだろう。

にしても、だ。

 

「風が、強いな」

 

風といえば、思い出すことがある。

嵐を操る「龍」の話を。

私が目指す姿とは異なるが、そいつも「龍」だ。

今の私では太刀打ちできぬが、私が「龍」となった時、あの人間との再戦後にでも挑んでみたいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「士道よ、我を選ぶが良い」

 

「誘惑、私を選ぶべきです。士道」

 

帰ってきたシドウは、背中に十香を背負い、両腕に女を二人つけて帰ってきた。

にしてもこの女······精霊か?

全く同じ気配がするが······。

とりあえず戦ってみたいが、シドウが私を睨んでいる。

後で誘い出して戦うのはやめておくか。

にしても、何故皆は騒いでいるのだ。

シドウが女に囲まれているなど、前からのことなのだろう?

慣れればよいのだ。

どうせこれからも増えるだろうし、その度に騒いでいてはキリがない。

 

「······シン、ついてきたまえ」

 

その声に、私は驚いた。

何故だ?気配が一切しなかった。

教師として学校にいるが、シドウがいる組織の仲間なのだろう。

しかし、だ。

何故こいつは────。

そこまで考え、私はその先を考えるのをやめた。

私の邪魔さえしなければ、後はどうでもいい。

その声の主に、シドウたちはついていった。

盗聴しておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

盗聴の結果、あの二人の女は精霊ということが確定した。

そして、元は一人の精霊だったことも。

私としては、弱い二人を相手にするより強い一人と戦いたいのだが、シドウはどちらか片方を選ぶことはしないだろう。

実に残念だ。

あの風の強さなら、一つの存在になればかの「鋼龍」の、一つ手前並の風の力を手に入れただろうに。

もしそうなっていれば、私は〈天使〉を使ってでも戦い尽くしたのだが。

 

「ねー黒姫ちゃん。一緒にお風呂行かない?」

 

「む?そうだな······」

 

風呂か。

裸になるのは少々不味い。

私の体は男女のどちらの特徴も持ち合わせていない。

見られてしまえば、私の交友関係は壊れる恐れがある。

いつかは壊すが、今はまだそのときではない。

 

「······いや、私は後で入るよ」

 

「そう?なら私たちは入って来るからねー」

 

亜衣はそう言うと、麻衣と美衣を連れて風呂に向かった。

さて、私は何をしよう。

そうだ、武器の手入れをしよう。

確か使った武器は、双剣、ハンマー、狩猟笛、ガンランス、操虫棍だったはずだ。ハンマーは金庫を壊す為に、狩猟笛は逃げる為に演奏した程度だから問題ないだろう。

となれば双剣とガンランスと操虫棍だ。

双剣はこの中で一番使用しているし、ガンランスは少々無茶な使い方をした。

操虫棍も硬いもの相手に、無理やり切りつけた。

そのため、どの武器もボロボロになっている。

さて、まずは双剣から直すか。

確か、砥石を使えばよいのだよな。

何度か使えば······ふむ、最初に見た時のような見た目に戻ったな。

ガンランスは砥石も使い、弾を装填しておくか。

一度ガンランスを折り、空になった薬莢を取り出す。

そして、新しい弾を五発装填する。

元に戻し、砥石を使う。

最後に操虫棍だ。

まずは猟虫の餌をやる。

猟虫がそれを食べている間に、棍の手入れを始める。

これは双剣と同様に、砥石を使えばいいだろう。

全て、三〇分程度で終わった。

休憩していると、廊下から足音が聞こえてきた。

なんだ?皆は風呂に入っているはずだが。

私はそう思い、廊下に出てみる。

そこにいたのは、腰にタオルを巻き、自身を抱くようにし、ガタガタと震えているシドウだった。

それを見た私は、つい笑ってしまう。

 

「なっ、何が、おかしいんだ······」

 

「いや、そのように震えている人間は初めて見るのでな。面白く思ったまでだ」

 

私がそう言うと、シドウはくしゃみをする。

 

「······俺は行くところがあるんだ。どいてくれないか?」

 

「ついていってやろうか?」

 

「いや、そんな必要はない」

 

シドウの言葉を聞き、私は道をあける。

ま、大抵あの女教師のところだろうな。

明らかに生徒と教師という関係だけではない。

まあいい、あれも直接は私の邪魔をしないだろう。

邪魔さえしなければ、それでいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、私は一人で湯船に浸かっていた。

風呂というのはいいものだと、入っていると実感させられる。

竜の姿で入ったことはないし、そもそも近くにそんなものはなかった。

 

「月、か」

 

私は一人でそうつぶやく。

私は、ある話を思い出したのだ。

────ある場所に、月の竜と太陽の竜がいる。

そのようなものだったが、私はそれに興味を惹かれていた。

一時はずっと探していた。

が、見つけられることはなく、諦めることにした。

探していた理由は、勿論戦うためだ。

二体の竜は、強力な力を秘めているらしく、「龍」には劣るが、それでも強者として人間の間では名を残しているらしい。

 

「······さて、そろそろあがるか」

 

私はそう呟き、脱衣所に向かう。

身体を拭き、浴衣を身につける。

部屋に戻る途中、甲高い叫び声がしたが、私は無視して部屋に戻った。

部屋では枕投げが行われており、私も参戦した。

勿論、私は勝利した。




さて、今回から八舞テンペストに突入します。
ちなみに、黒姫は士道にかなり警戒されています。

アンケートについてですが、期間を10月23日の0時とさせていただきます。
かなり票が来ていて、かなり驚いていますw

p.s:UA3000、お気に入り70突破、ありがとうございます!
少しぼーっとしてたらこんななっていましたw
これからもよろしくお願いします!


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求メルモノ

ある人が酷い目にあいます。


海水浴場があるからか、皆が水着に着替えている。

しかし、私は持ってきていない。

理由は簡単だ。

忘れていた、これにつきる。

だから私は制服でそこらを歩き回るしかできない。

······シドウと精霊二人がおらぬな。

盗視でもするか。

······ほう、なかなか面白いことになっているではないか。

にしても、プライベートビーチ、か。

あの女教師にそれを買える財力があったのか。

それとも、組織がこれのためにわざわざ買ったのか。

 

「黒姫ちゃん、こっち来てみて!」

 

「なんだ?亜衣」

 

「見て欲しいものがあるのよ。······ププッ」

 

笑いが盛れているぞ、亜衣よ。

私が亜衣について行くと、そこには体が埋められ、頭しか出ていない殿町と、カメラマンとしてついてきたエレン・メイザースがいた。

そして、二人の頭の位置は、砂に描かれている絵にぴったりになっている。

 

「ほう、これはなかなか······」

 

「でしょ!」

 

「ププッ」

 

「マジ、引くわー!」

 

三人の顔は喜びで満ちている。

 

「カメラマンよ、カメラを渡せ。撮ってやろう」

 

「え、ええ······?」

 

私の言葉に、エレンは困惑している。

 

「黒姫ちゃん、カメラは既に!」

 

「よくやった。それでは撮るぞ。三、二、一」

 

私はそう言い、シャッターを切る。

殿町は笑顔で、エレンは苦渋を飲んでいるような顔をしている。

 

「なかなか良い顔をするな、カメラマンよ」

 

「くっ······!今すぐここから出しなさい!」

 

「どうする?あ────」

 

私がそう言い、三人がいた方に意識を向ける。

が、そこに三人はいなかった。

そこから離れ、私を手招きしている。

 

「なるほど、それではさらばだ。殿町、カメラマンよ」

 

「ち、ちょっと待ちなさい!」

 

「エレンさん、これも、運命ってやつなんでしょうね」

 

私をよぶエレンに、キザなことを言う殿町。

さよならだ、少し強い人間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、私は不穏な気配を感じ、外に出ていた。

 

「······ほう、やはりお前が来たか。カメラマンよ」

 

「あなたは······早く戻った方が良いのでは?」

 

「いや、必要ない。私はお前を待っていた、と言っても過言ではない」

 

私がそう言った瞬間、辺りに強い風がは発生する。

 

「なんというタイミングなのか······まあ良い。私と戦わないか?エレン・メイザースよ」

 

「······何故、あなたと戦う必要が?」

 

「人間如きが、私に理由を用意しろと?」

 

私はそう言い、霊装を呼び出す。

 

「〈神威霊装・厄災(ブラック・ディザスター)〉」

 

私は霊装を纏い、エレンと対峙する。

 

「······なるほど、あなたが〈アンノウン〉でしたか」

 

「これくらいも見抜けぬようじゃ、楽しめぬかもしれんな」

 

挑発するように言うと、エレンは私を睨みつける。

 

「それは、私に対する挑発ですか?」

 

「当たり前だろう」

 

「······そうですか。〈バンダースナッチ〉隊、行ってください」

 

エレンがそう言うと、どこからか人型の機械が現れ、私と隠れていたもう二人を囲む。

 

「隠れているのは知っていましたよ」

 

「くっ······こんなことをしている場合じゃねぇのに······」

 

エレンの言葉で現れたのは、シドウと十香だった。

 

「私も知っていたぞ、シドウ」

 

「······そうかよ」

 

おや、やはり私は嫌われてしまっているのか。

なら安心だ。

 

「シドウ、そして十香よ。自分たちの分は、自分たちで片付けろ」

 

私はそう言い、片手剣の「アンクofシーカー」を出現させ、〈狩技〉の名前を言い、使用する。

 

「〈ラウンドフォース〉」

 

そう言い、その場で横に回転し、囲んでいる機械を破壊する。

 

「さて、手加減はしてやろう。せめてもの慈悲だ。ありがたく受け取れ」

 

「慈悲を受けるのは、あなたです〈アンノウン〉!」

 

エレンはそう言い、私に剣を振り下ろす。

私は片手剣を消し、双剣を出現させる。

そして左側で防ぎ、右側で反撃に出る。

 

「軽いな」

 

私はそう言い、エレンに向かって歩く。

 

「くっ······私に傷をつけた精霊は、あなたが初めてです」

 

「ほう、まだ強がれるか。人間」

 

何故だろう。

私は戦っているのに、楽しくない。

 

「今なら見逃してやろう。退け」

 

「······精霊如きが、調子に乗るんじゃありません!」

 

エレンはそう言い、近づいてくる私に剣を振る。

私はそれを後ろに飛ぶことで避ける。

 

「私は世界最強の〈魔術師(ウィザード)〉、エレン・(ミラ)・メイザース!精霊如きに負けるはずがありません!」

 

その言葉を聞き、私の中にあった最後の希望まで消え失せた。

 

「そうか────なら死ね」

 

そう言い、エレンに双剣を投げつける。

それは弾き返されたが、私は翼脚を広げ、エレンを叩きつけた。

 

「がはっ······!」

 

「面白くない、楽しくない、戦いたいとも思えない。つまらないつまらないつまらない。こんな実力に見合っていない称号を持った人間は、私を不機嫌にさせるだけだ。そんな人間、今すぐ殺してやろう。自分を最強だと思い込んだ愚かな人間に、成長の余地などない。思い直す機会も与えない。私は手加減しない。惨殺し、私の苗床としてくれる」

 

私はそう言い、翼脚でエレンの頭を掴む。

そして力を入れ、そのまま頭を潰し────。

 

「やめろぉぉぉ!」

 

その声と同時に、横から剣が振り下ろされる。

私はそれを、翼脚で弾き返す。

 

「ぐあ······っ」

 

「十香!」

 

十香は近くの木にぶつかる。

それを見たシドウが、十香の名前を呼ぶ。

 

「邪魔をしないでほしいところだ。十香よ」

 

「何故、その人間を殺そうと、するのだ?」

 

何を言っているのだ。

それは先程全て言ったはずだ。

 

「つまらないからだ。そんな人間、私の前から消してやる」

 

私はそう言い、翼脚に力を込める。

 

「ぎっ······!」

 

エレンから苦しむ様な声がする。

 

「何故、つまらないのだ?」

 

まだ言うのか、この精霊は。

 

「弱いからだ。そして、これから先、一生こいつは強くなれない。これなら、折紙とかいうやつの方が、数千倍マシだ」

 

「そうか······なあ、何故、戦うのだ?」

 

「「龍」になるためだ。そして、あの地に帰り、あの人間と再び戦う」

 

それが、今の私にとって、「ゴア・マガラ」にとっての全てだ。

「龍」として君臨しても、あの人間に勝たない限り、私は「龍」と名乗れない。

 

「なら、その人間を殺す意味は、ないのではないか?」

 

「何故だ?」

 

「お前が戦いたいのは、お前の言う人間なのだろう?なら······周りを傷つける必要なんて、ないではないか」

 

「闘争を求める。これは本能だ。それに傷つける程度で終わらせるはずもあるまい。徹底的に殺す」

 

本能には、簡単には抗えない。

それに、私は抗う気などさらさらない。

私は本能に身を委ね、それを快楽として生きてきた。

そして、これからもそう生きる。

 

「もう話すのも無駄だ。このような傲慢なゴミは、さっさと廃棄してくれる」

 

私はそう言い、翼脚にさらに力を入れる。

 

「が······っ、あ、あ······」

 

エレンはそう小さく漏らし、気絶した。

 

「······ふん、殺す気まで失せさせるとはな。どこまでも愚かなままでいるのだな」

 

私はそう言い、エレンを木に向かって投げつける。

そして私は、その場を去ろうとする。

 

「待て、〈アンノウン〉!」

 

「······シドウか、その名で呼ぶのだな」

 

「······十香の前だからな」

 

なるほど、シドウは私が十香と仲がいいと知っているのか。

 

「で、何の用だ」

 

「お前が戦いたいのはわかった。誰かに勝ちたいというのもわかった。でも、その勝ちたい相手はどんな人間なんだ?お前を相手に勝てる人間なんて······」

 

「────わかっていない」

 

「え?」

 

「全くわかっていない。戦いたい?確かにそうだ。楽しい戦いをしたい。勝ちたい?違うな。私はあの人間と「戦いたい」のだ。その結果、敗けようが勝とうが、どっちでもいい。確かに敗北は悔しい。だが、それ以上に戦いたい。そのために戦い、強くなるのだ。私のことをわかった気になどなるなよ、人間」

 

「······」

 

「それでもわかりたい、とでも言うのなら、まずはこの風をどうにかしてこい。それくらいしなければ、わかる価値はない」

 

「······わかった。この風を止めればいいんだな?」

 

「ああ、そうだ。嘘は言わん」

 

私が言うと、シドウは二人の精霊が戦っている方に走る。

さて、どう止めるのか見ものだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人とも、やめてくれ!」

 

士道は二人の精霊、八舞耶倶矢と八舞夕弦に向けて言う。

しかし、二人にその声は届かない。

 

「やめてくれ!やめろ!」

 

士道は必死に叫び続ける。

それでも二人には届かない。

 

「頼むから······やめてくれぇぇぇ!」

 

その瞬間、風が真っ二つに斬り裂かれた。

戦っていた二人は、斬撃が飛んできた方を見る。

 

「これ、は······〈鏖殺公(サンダルフォン)〉······?」

 

士道の手元にあったのは、十香の天使、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉。

 

「士道······!?まさか今の······あんたが······?」

 

「驚愕。まさか。凄まじい霊力でした」

 

やっとこっちを見たか。

士道はそう思う。

 

「頼む······戦いを、やめてくれ!」

 

士道は二人に向かい、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、己の中にある力を使ったか」

 

私はシドウを見てそう呟く。

そして、新しい疑問を得た。

もし、私の天使をシドウが使えば、どうなるのだろう、と。

ただの興味だ。

実際に力をくれてやる気なんてない。

それに、見せてやる気もない。

少なくとも、シドウ一人に対して、天使は使わないだろう。

使わずとも、楽しめれば自然と勝てる。

 

「ん?あれは······」

 

風が止むと、空から鉄の塊が落ちてきた。

······私にはどうでもいいか。

どうせ、あいつらが止めるだろう。

ここで止められなければそれまでだ。

 

「さて、部屋に戻って寝るとするか」

 

私はそう言い、霊装を解除する。

そして欠伸をしながら旅館に帰った。




はい。
エレンさんに対して言っていることは、全て黒姫の性格だったら言うだろうなぁというものなので、僕がそう思っているわけではありません。
今回は長いセリフが多くなりましたね。
黒姫のだけですが。
エレンさん······次登場する時が怖いです。
夕弦の最初に漢字二文字言うあれ、考えるの難しいですね()

アンケート······かなり面白い票の変動具合です。
どうなるか楽しみですw。


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ある種の戦い

かなり短いです。


修学旅行も終わり、また、いつのも日常が始まる。

修学旅行から数日後、私は学校にいる。

あの時の精霊、耶倶矢と夕弦が隣のクラスに入ったと聞いた。

そして今、実際に目の前にいる。

 

「クックック、我は八舞耶倶矢という。貴様が望むのであれば、眷属にしてらやらぬこともないぞ?」

 

「翻訳。耶倶矢はあなたと友達になりたいようです」

 

「ちょっ、それ言わないでよ······!」

 

「挨拶。私は八舞夕弦です。以後、よろしくお願いします」

 

さて、どういえばいいのか。

片方は脆い仮面を被っているし、片方は脆い仮面を壊している。

なかなか面白い。

 

「私は黒禍黒姫という。私は竜なのだ。これからよろしく頼む」

 

「ほう。竜、とな?」

 

やはり反応したか、耶倶矢。

 

「そうだ。これは嘘でもなんでもなく、本当に竜だ」

 

「おお!」

 

「困惑。意味がわかりません」

 

なるほど、夕弦はこういう発言を真実ではなく、嘘、もしくは作った設定だと思っているわけか。

 

「ま、嘘だと思ってくれても構わんよ。精霊」

 

私が言うと、明らかに二人が反応する。

 

「貴様、何故それを······」

 

「追及。どういうことですか?」

 

「シドウにでも訊けばわかるさ。それより、もう昼休みも終わりが近い。帰っておいた方がいいんじゃないか?」

 

私がそう言うと、二人は、教室に戻っていく。

ああ、この学校に精霊が五人。

誰が私を一番楽しませてくれるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、私は一人で巣に帰っていた。

────のだが、誰かがついてきている。

まあその誰かというのは、十香と耶倶矢と夕弦の三人なのだが。

せっかくだ、遊びに付き合ってやろう。

 

「はあ、最近なんだか暇だな。何か、楽しめるものでもないものか」

 

私はわざと大きい声で言い、三人に聞こえるようにする。

ははは、全ての行動は見えているのだ。

 

「そうだ、ゲームセンターという場所にでも行こうか」

 

私はそう言い、ショッピングモールに向かって歩きだす。

さて、どこまで私に話しかけずについてこられるのか、見ものだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ゲームセンターに来たが、何をしようか。

目が見えない故、画面に映っているゲームはできないな。

鱗粉を撒いて把握できるのは、地形の高低差や形、人物の輪郭だけだ。

故に、画面に映るものはわからない。

となると、やはり無難なのはクレーンゲームか。

私は適当な台を選び、金を入れる。

よし、早速······お、掴んだな。

ダメだったか。

だが、諦めないぞ。

次だ。

······お、掴んだな。

······よし、ゲットだ。

これは······アイルーか?

そういえば、あの人間もアイルーを連れていたな。

私がいくら傷つけようと、すぐに治していた。

何度倒しても、しばらくすれば帰ってくる。

なかなか厄介な奴らだった。

ま、これはカバンにでもつけておけばよいか。

せっかく手に入れたのだしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、だ。

結局、あの三人は何故私をつけてきたのか。

それが帰るまでわからなかった。

巣の前までずっとつけてきたが······まさか、私の巣を探っていたな?

これはやられてしまった。

だが、楽しかったな。

これもまた、戦いということだったか。




ある意味で戦いです。
はい。
少なくとも、黒姫にとっては戦いでした。


さて、アンケートですが······。
かなり驚いています。
まさかの逆転来ますかね、この伸び方は。
最終日が楽しみですw


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追憶

少し説明的な回になってるかもしれません。


私の竜だった時の話をしよう。

私は様々な竜と戦った。

大抵の相手には勝てたが、相手は生き残った。

私の鱗粉を吸いすぎた結果、狂ってしまったのだ。正直、こうなってしまった相手には、理性を保ったまま戦って勝つ、というのは困難になる。

そのため、私は狂った竜から離れた。

そうするしかないのだ。

そもそも、私は自身の鱗粉を目として使っているだけなのだ。

それを勝手に吸い込み、狂う方が悪い。

とにかく、私は戦い続け、狂った竜を何体も作った。

最終的に、ほとんど倒されてしまっていたが。

倒したのは、私を倒した人間というのも、言うまでもないだろう。

今思い返せば、様々なことをしていたものだ。

おとぎ話のような竜を追い、竜を狂わせ、戦って。

大半が戦いだったがな。

そんな生き方を私が、今や一人間として学校に通っている。

奇妙なものだな。

そして、精霊という謎の存在でもある。

私は死に、この世界に来た。

この世界でも、私の本能は戦いを求める。

戦うことを快楽とした私には、必ず必要だった。

だから嬉しいよ。

見た目以外は、私は何も変わっていない。

 

「······くっ······」

 

しかし、些か戦いすぎてしまったようだ。

傷こそ負ってないが、一つ一つの攻撃は、確実にダメージとして入っている。

だが、いい。

この痛みを感じ、やっと、私は生きているのだと実感した。

そうならば────。

 

「────私は、戦い続ける。最期まで」

 

私は、誰もいない巣で、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「琴里ー、そろそろ飯だぞー」

 

「わかったー!」

 

士道は料理を運びながら考える。

俺は、あの精霊に······〈アンノウン〉に、黒禍黒姫の何が気になっているのだと。

最初に現れた時は、助けようと心から思えた。

しかし、話せば話すほど、その気は薄れていってしまう。

彼女は強い。

だが、本当に力を扱えているのだろうか?

狂三との戦いではかなり暴れていた。

それは、力に振り回されているのだろうか。

そう、琴里のように。

 

「······いや、違う······そこじゃないんだ。もっと別の、何かが······」

 

士道は誰にも聞こえないような声で呟く。

暴れてはいるが、琴里の暴走とはどこか違うように感じてしまう。

その異質さに、士道は恐怖している。

黒姫の前に精霊を一人にさせればどうなる?

黒姫は話でもするのか?

いや、違う。

絶対に戦い始める。

それが怖い。

或美島で耶倶矢と夕弦に出会った時、真っ先に浮かんだのは恐怖だった。

二人に対してではない。

二人が黒姫と戦うのではないかと思ってしまったのだ。

だからか、旅館に行った時に無意識に睨んでしまっていたし、変に素っ気ない態度で接してしまった。

別に嫌いではないのだ。

しかし、どうにも好きになれない。

十香と約束はしたが、正直、自信が削ぎ落とされている。

彼女との接し方がわからない。

最初に出会って以降、〈フラクシナス〉の選択が、彼女に対してだけ表示されなくなってしまった。

原因不明なうえ、どうにかなりそうにもない。

だから、自分で考えて話さなければならない。

しかし、彼女と話をしようとすると、足が竦んでしまう。

俺は、黒姫に対して恐怖を感じていると実感する瞬間だ。

そんな時、家のインターフォンが鳴った。

 

「はいはーい······耶倶矢に夕弦?どうしたんだ?」

 

「士道よ。一つ問わねばならぬことがある」

 

「質問。黒姫は、何故精霊のことを知っているのですか?」

 

その言葉を聞き、士道は目を見開く。

 

「なっ······二人は何もされなかったよな!?」

 

「ど、どうした士道よ。いきなり大声を出しおって」

 

「疑問。それはどういう意味ですか?」

 

二人の言葉を聞き、士道は内心ほっとする。

しかし、二人が黒姫と接触してしまった。

安心はできない。

 

「いや······なんでもない。どうして精霊を知っているか、だったよな」

 

「その通りだ。先日、黒姫に訊いたのだが、士道に訊けと言われてしまいな」

 

「肯定。それが知りたいのです」

 

士道はその言葉を聞き、周りを確認する。

そして、十香がいないことを確認し、問いに答える。

 

「実は······黒姫も精霊、なんだ」

 

「おお、そうだったか!」

 

「驚愕。驚きです」

 

「だけど······」

 

「だけど、なんだ?」

 

「······いや、なんでもない。でも、十香にだけは秘密にしておいてくれ」

 

「疑問。何故ですか?」

 

「······理由はまた今度話す。とにかく頼む。このとおりだ」

 

士道はそう言い、二人に頭を下げる。

 

「士道がそこまで言うのなら、仕方ないな」

 

「同調。黙っておきます」

 

「······ありがとう······」

 

士道は、十香にだけは知られたくなかった。

黒姫が精霊であり、琴里や狂三を傷つけた〈アンノウン〉だということを。

だから隠し続ける。

これは俺が死のうと、十香には秘密にする。

そう、心の中で誓った。




黒姫も無敵ではない、というのと士道の黒姫に対して感じていることです。
黒姫だって生きています。
ダメージが入っていないわけがありません。
にしても話の進み方が遅い気がしてなりません。
書きたいところがぽんぽん浮かんでくる······。


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美九リリィ
謎、ナゾ、なぞ


またまたまたまた短いです、


夏休みという期間があった。

しかしそれもすぐに終わった。

まあ、ほぼ全ての時間、空をどれだけ速く飛べるかと、どのくらいなら滞空していられるのかを試していたのだが。

結果をいえば、速さは変わっていなかった。

滞空時間は、まる一日はできるようになっていた。

なかなか有意義な検証となった。

そういえば、朝に何か言っていたな。

天央祭やらなんやら。

それの代表?にシドウが選ばれた。

どうやら地獄の仕事だとか言われているようだ。

私としては、気の毒だなとしか言えん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、空間震が発生した。

せっかくだ、出現した精霊でも探すか。

 

「〈神威霊装・厄災(ブラック・ディザスター)〉」

 

私は霊装を見に纏い、翼脚を広げ空を飛ぶ。

そして精霊の気配がする場所まで飛んでいく。

 

「む、あいつらは·······」

 

私の前に、同じような装備を身につけた集団がいた。

確かAST(明日は・集団で・遊び隊)とかいう奴らだったな。

ふむ、暇つぶしに使ってやるか。

 

「久しぶりだな。ASTよ」

 

私が後ろから声をかけると、集団は私の方を見て驚いているような顔をする。

 

「息災であったか?私はこのとおり、怪我一つない健康体だ」

 

「〈アンノウン〉······!」

 

見覚えのある隊員が言うと、そいつが私に向かってくる。

 

「待ちなさい、折紙!」

 

隊長と思われる人間が言うが、折紙はそれを聞かずに私に向かってくる。

近づいてくると、私に向かって剣を振り下ろす。

 

「相変らずだな、折紙よ」

 

私はそれを双剣で防いで言う。

 

「周りに精霊がいる生活はどうだ?」

 

「!······〈アンノウン〉、何故あなたがそれを」

 

「さてな。私が答えてやる義理もないだろう?」

 

私が言うと、折紙は私を睨む。

そうだ、一つ伝えてもらおう。

 

「折紙よ、シドウにこう伝えてくれ。「自分の犬にはきちんと竜の危険性を教えておけ」とな」

 

「!どうして士道のことを······!」

 

「それでは私は失礼するよ。ああ、最後に一つ」

 

私はそう言い双剣を消す。

そして、ASTたちの前まで飛んで言う。

 

「お前らのような奴らには、精霊を殺すどころか傷を負わせることすらできぬ。死にたくなければ、早々に手を引くことだ」

 

私はそう言い、精霊の気配がする方に飛ぶ。

さて、これで何人減るだろうか。

一人でも減ったら基地ごと潰してやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

精霊がいる場所に到着したが······なんだこれは?歌か?

とりあえず近づいてみるか。

そう思った時、その空間に音が響いた。

 

「誰かいるんですかぁ?」

 

歌を歌っていた精霊が歌うのを止めて言う。

 

「どこにいるんですかぁ?姿を見せてくださいよぉ」

 

さて、どうしようか。

とりあえず弓でも使ってみるか。

私はそう考え、弓の「ビジョンofヴァニシュ」を出現させ、〈強撃ビン〉をセットして矢を放つ。

 

「ちっ、外したか」

 

「誰ですかぁ?こんなものを撃ってくるのはぁ」

 

さて、姿を見せるとするか。

私は一度飛び、精霊がいるステージに下りた。

 

「私が放った。私は精霊で、〈アンノウン〉と呼ばれている」

 

「あなただったんですねー。······あれ?その声は······もしかして黒姫さんですかぁ?」

 

は?何故この精霊は私の名前を知っている?

 

「貴様、何者だ」

 

「あれぇ?黒姫さんってそんな口調でしたかぁ?」

 

「口調などどうでもいい。答えろ」

 

「まさか······私のこと忘れちゃったんですかぁ?」

 

「さっさと答えろ!」

 

私の声が空間に響く。

······つい感情的になってしまった。

 

「······すまない」

 

「いえいえー、大丈夫ですよぉ。それより私でしたよね。誘宵美九ですよぉ。本当に覚えてないんですかぁ?」

 

どういうことだ?私はこの美九とかいうやつと面識があるのか?

だが、私の記憶にこの精霊の影は微塵もない。

 

「確かに私は黒姫だ。だが、美九という名前は聞いたどころか見たこともない」

 

「どうしちゃったんですかぁ。行方不明になったって聞いて心配したんですよぉ?」

 

行方不明······?何を言っている?私がこの世界に来たのは本の数ヶ月前だが······。

そんなことを考えていると、屋根が破壊される。

そこにいたのはASTだった。

······ほう、誰もいなくなっていないな。

 

「まぁ!可愛い女の子がたくさんいるじゃありませんかぁ!」

 

美九はそう言うと、ASTの元に飛んでいく。

 

「待て!······ちっ······」

 

結局なんだったのだ。

美九······お前は何故、私を知っている?

何故、私を見て喜んでいるのだ?

何故────私を見て懐かしそうな顔をしているのだ?




これが書きたかった!(笑顔)
まだまだ書きたいものはありますが、一つ書けただけで嬉しいです!


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黒禍黒姫という「人間」

短めになりがちですねぇ······。


私はなんなんだ?

私は放課後の学校で、昨日の夜のことを思いだしながらそう考える。

あの美九とかいう精霊。

少し調べてみると、アイドルとして活動しているらしい。

しかし、私はそういうのに一切興味はない。

ならどこで知り合ったのだろうか。

そんなことを考えながら、適当な場所を歩く。

 

「······ん······?あれは······」

 

私が歩いていると、見覚えのある顔の女(?)がいた。

しかし······メイクはしているが、私にはわかる。

少し遊んでやるか。

 

「そこの女、少し良いか」

 

「えっ?え、あ、はい。なんですか······?」

 

声は変えているようだな。

 

「私は黒姫というのだが、シドウという男を探しているのだ。特徴は······そうだな、お前と似たような顔をしている」

 

私がそう言うと、女(?)は明らかに焦る。

 

「え、ええと······見ていませんよ······?」

 

「ほう、それはすまなかった。して、お前の名は?」

 

「ええと、私は五河士織です」

 

「ほう、五河か。シドウも同じ姓なのだ。もしかして双子か?」

 

「い、いえ。私は士道君の従兄弟なんですよ」

 

ほう、なかなか面白い言い分だな。

士織がシドウ本人であるということに気づいているのだがな。

 

「従兄弟か。私もシドウとはそこそこの仲でね。士織とも仲良くしたいのだが、いいだろうか?」

 

私はそう言い、手を差し出す。

 

「え?あ、え、っと······はい。よろしくお願いしますね」

 

士織はそう言い笑みを浮かべて私の手をとる。

私はその手を握る。

そして引っ張って、士織を私に近づける。

 

「お前の犬から伝言は聞いたか?シドウよ」

 

私がそう言うと、シドウは私から離れる。

 

「お、お前まさか······最初から······!?」

 

「ああ。当たり前であろう」

 

私が言うと、シドウは顔を赤くする。

なかなか面白かったな。

 

「それで、伝言は聞いたのか?」

 

「······犬っていうのは?」

 

「折紙のことだが。いつもお前につきまとっているうえ、欲情しているだろう。犬ではないか」

 

「っ······聞いたよ。朝に」

 

「ほう。なら躾ておけよ。飼い主」

 

私はそう言い、近くにある美九の気配に向かって歩く。

さて······昨日のことを問い詰めねばな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美九よ。今は構わんか?」

 

私は女に囲まれている美九に声をかける。

 

「あなた、お姉様に何か用ですか?」

 

「今はプライベートですよ。お引き取り下さい」

 

何だこのハエは。

 

「死にたくないのであれば、今すぐその口を閉じろ」

 

私がそう言うと、女たちは何も言わなくなる。

 

「あらぁ?黒姫じゃありませんかぁ」

 

「美九、二人きりにさせてくれ」

 

私が言うと、美九は嬉しそうに答える。

 

「ええ!いいですよぉ!皆さん【どこかに行ってください】」

 

美九が言うと、周りにいた女たちは美九から離れていく。

 

「それが精霊としての力か」

 

「ええ、そうですよぉ。こっちにステージがあるので、そこに行きましょうよぉ」

 

私は「ああ」と言って頷いて答える。

ステージに向かう美九に、私はついていく。

しばらく歩くと、ステージに入れるだろう扉があった。

私たちはその扉を開け、中に入る。

······見られていたな。

それもシドウだ。

首を突っ込まれては困る。

話が終わるまで開けられないようにしておくか。

 

「で、何を話したいんですかぁ?」

 

「私のことについてだ。美九は私の何を知っている?」

 

「何って言われてもぉ。家庭の事情とかぁ、顔とか声とかくらいですよぉ」

 

「構わん。全て話せ」

 

「わかりましたぁ」

 

美九はそう言うと、一度咳払いをして話を始める。

 

「黒禍黒姫。確か父親がカルト宗教の教祖で、黒姫さんはそれが原因でいじめられてたんですよねぇ。それに、父親が黒姫さんを「竜の巫女」とか言ってましたね。黒姫さんはそういうのは嫌だったんですけどねぇ」

 

······何だそれは。

私にそのような記憶はない。

だが、デタラメとは思えない。

 

「いじめられ続けた結果、黒姫さんは遂に耐えきれなくなり、姿を消してしまったのです。それが、ほんの数ヶ月前の出来事です」

 

······ちょうど私が現れた時期と姿を消した時期と近いな。

 

「私も黒姫さんのことは気に入ってたんですよねぇ。でもまさか、精霊さんだったなんてぇ」

 

「······ありがとう。私の用はこれで終わりだ」

 

竜の巫女、という言葉に何かあるのだろうか。

聞いた時から何か引っかかっていた。

 

「お役に立てたのなら良かったですー」

 

美九は笑顔でそう言う。

 

「それでは私は下がることにするよ。もう一人いることだしな」

 

私はそう言い、扉の細工を解く。

すると扉が勢いよく開く。

 

「おわっ!」

 

シドウは高い声でそう言いながら倒れる。

私は扉の方に歩く。

シドウとすれ違う瞬間、私は小さい声で言う。

 

「何もしていない」

 

「······わかってる」

 

ほう。

少しは私への理解が深まったということか。

シドウの言葉を聞いた私は、軽い笑みを浮かべて扉から外に出る。

さて、少し調べなければいけないな。




美九が話したことは真実なんでしょうか······?
ここら辺の話、かなりノリノリで書いてます。
楽しいんですよねぇ!


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謎に対する更なる謎

楽しいパートが長ーく続きます。


私は何者か。

美九と出会ってから、ずっとそう考えてしまう。

やはり私ではない「私」。

ゴア・マガラという呼ばれている竜ではない「黒禍黒姫」を知りたい。

それさえ知れば、私の疑問は消えるはずなのだ。

しかし、私にそんなことを調べることができるような力はない。

一つ一つ、小さなことから見つけなければいけない。

 

「さて、祭りの始まり、か」

 

話を聞いて数日。

明日には天央祭が開催される。

まあ、そんなことはどうでもいい。

「黒禍黒姫」のことを独自で調べたが、家族構成は両親と私、弟の三人。

私以外の全員が宗教に入っており、今では全員謎の死亡。

死因は身体の至る所に大きな傷があるため、多量出血として処理されているようだ。

だが────私にはわかる。

おそらく、本当の死因は、私の鱗粉を吸いすぎた故の感染。

それにより死んだと考えられる。

死体の特徴として、目が赤くなっていた、というものと、肌が紫がかっている、という情報がある。

それは、狂竜化した竜の特徴であり、三人は克服できず、身を蝕まれ、死んだのだ。

しかし、私にこの三人と直接あったことはない。

ということは、やはり「黒禍黒姫」がやったのだろうか。

しかし、三人が死んだのは、私がこの世界に来る前の話だ。

いくら考えても、今の情報では噛み合わない。

探りを続けていくしかないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天央祭当日。

私は「メイドってキャラじゃない」と言われ、暇を持て余していた。

 

「む、美九とシドウか?」

 

適当に歩いていると、何か言い争っている美九と女装したシドウを見つけた。

美九は最後に何か言い、シドウから離れる。

さて、何を話していたのか少し聞いてみるか。

 

「久方ぶりだな。士織と呼んだ方がいいか?」

 

「!······黒姫か······お前この数日なんで無断欠席してたんだ?」

 

「どうしても調べないといけないことがあってな。なかなか辿り着けず、今は羽を伸ばしているのだよ」

 

「その調べたいことってのは気になるけど、何の用だ?」

 

「いや何、美九と言い争っていたようなのでな」

 

私がそう言うと、シドウはつばの悪そうな顔をする。

 

「見られていたのか······ちょっと勝負することになっただけだ」

 

「ほう?勝負、とな?」

 

「ああ。演し物で票を多く獲得した方の勝ちってルールだ」

 

なるほど、殴り合うわけではないのだな。

 

「ではその勝負、私も参戦しても良いか?」

 

「······は?」

 

シドウは理解できないというような顔をする。

 

「何、ちょっとした羽休めの延長だ」

 

「······なら、非常時には頼む」

 

「ああ。任された」

 

私はそう言うと、その場を離れた。

さて、殺し合い以外の勝負はあまりしないから楽しみだ。

何で競うのか、それだけでも聞いておけば良かったか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「歌······だと?」

 

「ああ。緊急事態なんだ······頼む、このとおりだ」

 

シドウはそう言って私に頭を下げる。

なんと決戦のステージは、そのままステージの上だった。

 

「ふむ、なるほど。その歌を聴かせろ」

 

「え?あ、ああ、わかった」

 

シドウはそう言い、機械のボタンを押して歌を流す。

······なるほど、このような感じか。

 

「覚えた。これで参戦しても良いな?」

 

私は歌が終わってすぐシドウに言う。

 

「た、たった一回で覚えたのか······!?」

 

「ああ。しかし、歌というものに興味はなかったが······なかなか良いものだな。覚えたという証に歌ってやろうか?」

 

「······いや、俺は黒姫を信じるよ」

 

「ほう。して、その根拠は?」

 

「お前はこんな嘘はつかないだろう?なんて言ったって────」

 

『面白くない』

 

私とシドウの声が被る。

そうだ。

こんな所で嘘をついても、面白くなるはずがないのだ。

そこまで考えが行っているかわからないが、わかったとか抜かした日よりは理解してきたようだな。

 

「はははっ。その調子で精進するがいい」

 

「······はいはい」

 

「それで、私と十香以外のメンバーはいないのか?」

 

「それなら、耶倶矢と夕弦が手伝ってくれることになった」

 

「ほう。で、勿論シドウも「士織」として参戦するのだろう?」

 

「ま、まあな······」

 

やはりそうであったか。

戦いを持ってくるだけで参加しないのであれば、今ここで鱗粉を吸わせていた。

 

「では、お互い頑張ろうぞ。士織」

 

「あ、ああ。黒姫」

 

この戦いが終われば、私がやることはなくなるな。

であれば、私は「黒禍黒姫」のことを知らなければならない。

私の目的とは離れるが、気になるのなら調べねば。

そう、生きてきたのだから。




最初の方の情報が謎すぎますね(すっとぼけ)
この話とは全く関係ありませんが、XXをゼロから始めました。
一人でG級まで上がってみせますよ(ドヤ顔)
最初から始めるにあたって、弓を初めて使いましたが、なかなか楽しいですね。


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ライブ

モンハンが楽しいです。(3DSの民)


美九のライブが終わり、次は私たちの番だ。

美九のライブに一つだけ言うのなら、楽しそうだな、と言っておこう。

 

「さてさて次は、来禅高校によるバンド演奏です!」

 

おっと、呼ばれてしまったか。

それではステージに上がらねばな。

 

「よしみんな、頑張るぞ!」

 

『おー!』

 

そう言い、全員で手を挙げる。

これが、青春というものか。

なるほどな。

私たちがステージに上がると、一気に歓声が起こる。

そして、私たちは演奏を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてさてー、三位は────」

 

結果発表の途中、私は変な感じがした。

何故なら、来禅高校が出店している「メイド喫茶 RAIZEN 」が、かなりの人気を誇っていたからだ。

美九は勝った気になっているが、本当にそうなるのだろうか。

私としては勝てばよいのだが、その結果、美九が何をするかわからない。

 

「二位は、あと一歩届かず!来禅高校!」

 

やはりこうなるか。

歌で素人がプロに勝てるなどありえない。

プロはプロで努力してその地位を獲たのだ。

素人が数日練習したところで、それは不可能な話だ。

私以外の四人は落ち込んでいる。

まさか忘れているのか?何も歌だけが武器じゃないということを。

 

「そして、やはり強かった!一位は王者・竜胆寺女学院です!」

 

そう発表された瞬間、美九が得意げな顔をして近づいてきた。

 

「どうですかぁ?これが私の力ですよ。士織さん?」

 

「くっ······」

 

はあ、見ておれんな。

切羽詰まって最後の可能性を忘れるとはな。

仕方ない、言ってやるか。

 

「士織に美九よ、まだ勝負はついておらん。言ってしまえば、次が本番だ」

 

「え······?」

 

「黒姫さん?何を言ってるんですかぁ?私はちゃーんと勝ちましたよぉ?」

 

「まさかお前ら全員が忘れっぽい性格だったとはな。私はびっくり仰天だ」

 

「だから何を言って───」

 

「そして第一位は、来禅高校です!」

 

「─────は?」

 

「こういうことだ。残念だが、私たちの勝ちだ」

 

私は驚いて固まっている美九にそう言ってやる。

これが、他人を崖から突き落として獲た勝利というものか。

勝利を確信している者の顔が驚きに染まるのは、なかなかの快感だ。

 

「そ、そんな······う、嘘です!」

 

「美九、現実を見ろ。確かに歌では敵わないだろう。だが、それ以外ならどうにでもなる。本気で勝ちたかったのなら、出店も畳ませれば良かっただろう」

 

それをされていれば、勝ち目などなかったな。

それをしなかったあたり、相当自信があったのだろう。

もしくはただの馬鹿か。

 

「わ、私は、勝ったんです······」

 

「確かに勝ったな。ただ、こちら側がそれを上回っただけだ」

 

私が言うと、美九は涙目になる。

 

「私が······負けるはずありませんッ!」

 

「······美九、これはみんなが頑張ってくれて······いや、絆で繋がっているから勝てたんだ。だから美九も────」

 

「絆?いい加減にしてください。そんなもの······私の前では無意味だって教えてあげますッ!────〈破軍歌姫(ガブリエル)〉!」

 

美九が言うと、美九の背後に大量のパイプが現れる。

そして美九の前には鍵盤が並んでいた。

 

「歌え、詠え、謳え────〈破軍歌姫(ガブリエエエエエエル)〉ッ!!」

 

おっと、天使を使うか。

私には効かぬだろうが、この場からは離れるとしよう。

私は素早くステージから下り、誰にも見つからない場所に隠れ、霊装を身に纏う。

 

「······む?空から何が来るな。この反応は────」

 

その瞬間、私は顔から表情を消した。

────つくづく不快にさせてくれるな。

エレンよ。

私は翼脚を広げて空を飛び、天井を突き破って外に出る。

そして、外にいるエレンに話しかける。

 

「おい。女」

 

「ッ!あなたは······〈アンノウン〉······」

 

「お前は私を不快にさせることしかできないのか?」

 

「······今はあなたに用はありません。邪魔をするというのなら、容赦はしません」

 

「お前が言うな。だが、私はお前に構ってやる義理もない。好きにしろ」

 

私が言うと、エレンは無言で会場の屋根を破壊して中に入る。

そして数分後、エレンは誰かを担いで建物から出ていった。

あれは······まさか。

 

「十香······?」

 

何故十香が連れていかれているのだ?

何故だ?

そもそもあいつはASTなのか?

装備が明らかに違うし、非常に癪に障るが、強いことには変わりない。

いや、違う。

あいつはASTじゃない。

あいつは、まさか────。

 

「DEM······か······?」

 

私がそう口に出した瞬間、頭に激痛が走る。

 

「う······ぐっ······」

 

私はDEMのことは名前と〈顕現装置(リアライザ)〉をASTに使わせている会社だということしか知らない。

だが、この「身体」が拒絶している。

本当に、何があったのだ。

私の「黒禍黒姫」に対する疑問は、どうしても増える一方だった。




今回も謎は増えただけでした()
次かその次辺りにずっと考えていたものが出せると思います。

最初から集会所のクエはかなりきついですね······。
それでも諦めませんよぉ!


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厄災顕現

最初から考えていた展開です^^


美九の天使によって操られた人間が、街を徘徊し始めて数時間たった。

私はシドウの気配を探しながら飛んでいた。

お、見つけた······が、まさかこの反応は······狂三か?

なるほど、完治しているようだし、研究はとりあえず終わったのか。

褒めてやる必要があるな。

私はシドウがいる方に向かって飛び、目の前に下りる。

 

「久方ぶりだな、狂三よ」

 

「っ───あなたは、黒姫さんではありませんの」

 

「く、黒姫!?無事だったのか!」

 

「当たり前だ。私は歌如きに惑わされぬ。それより、狂三は完治したのだな。あれの研究をしたやつは褒めてやろう」

 

「······それで、黒姫はどうしてここに来たんだ?」

 

「何となくだ。逃げているシドウに、救いの手。いや、厄災の手を伸ばしてやろうと思ってな」

 

「······狂三、大丈夫か?」

 

「······ええ、大丈夫、ですわ」

 

狂三は明らかに調子が悪いようだ。

私に対する恐怖が染み付いているのだろうか。

そうであれば、脅して無理やり「あれ」をさせることもできそうだな。

 

「よし、決まったな。で、どこに行くのだ?DEMか?美九がいる場所か?」

 

「ち、ちょっと待ってくれ!美九がいる場所を知っているのか······!?」

 

「ああ。私の目の代わりは人間と精霊の違いを微妙に感じることができる」

 

この世界に来て現れた効果の一つである。

これを使えば、精霊、もしくは精霊だった人間の感知ができる。

私にとってはとても嬉しい能力だ。

 

「なるほど。それで居場所を探った、ということですわね」

 

「その通りだ。ちなみに、学校に通い始めてすぐに十香と狂三が精霊だと気づいていたぞ」

 

「やはりそうでしたのね······」

 

私が言うと、狂三が力なく言う。

まさか精霊だと言っていない相手に知られるとは思っていなかったのだろう。

 

「それでどうする?」

 

「······いや、まずは美九の家に行く。美九の過去に何があったのかを知りたい」

 

なるほど、シドウは優しいのだな。

 

「ではそうするか」

 

私はそう言い、翼脚を広げる。

 

「掴まれ。その方が早い」

 

「わ、わかった······」

 

「狂三も掴まるといい。治ったばかりであまり体力もないだろう?」

 

「······では、お言葉に甘えますわ」

 

二人が私の手を掴んだのを見て、私は空を飛ぶ。

 

「案内頼めるか?」

 

「ああ。向こうの方だ!」

 

「承知した。しっかり掴まっておけ」

 

私はそう言い、美九の家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここが美九の家か。

勝手に中に入っているが、別にいいだろう。

······さて、私はどうしようか。

正直、美九の過去に興味はないし、知る気もない。

となれば、やることは一つだろう。

DEM社に襲撃だ。

そうと決まれば早速行くか。

私は翼脚でDEM社に向かって飛ぶ。

······くっ、頭が痛いな。

何故かDEMのことを考えると頭が痛くなる。

「黒禍黒姫」と間接的にでも関係があるのだろう。

そして、身体が拒絶している。

考えることを、向かうことを拒絶している。

 

「······この程度の痛み。これから起きるだろう戦いの楽しさに比べれば、どうってことない」

 

私は自分に言いつけるような言う。

こうでもしなければ、身体が動かなくなってしまいそうだ。

何故、ここまで拒絶するのかわからない。

あんなやつを最強としている程度の会社に、私が止められるはずがない。

そうだ。

私は止められてはダメだ。

 

「······よし」

 

頭の痛みが引いてきた。

これなら暴れ尽くすことができる。

さて、どう暴れてやろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私がDEM社に行くと、大量の狂三がASTと戦っていた。

ちっ、先回りされたか。

······いや、私がモタモタしすぎたな。

私がそう思っていると、狂三が近づいてきた。

 

「黒姫さん。随分遅かったですわね。士道さんなら十香さんを助けに行きましたわ」

 

「わかっている。で、あの建物は壊しても────」

 

その瞬間、建物から黒い光が発生した。

待て、この反応は······!

私は急いで光の元へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十、香······?」

 

「どこだ、ここは」

 

士道は十香の変化に困惑している。

十香の霊装と似た黒い霊装を見に纏った少女。

だが、雰囲気が十香とは全く違う。

 

「────素晴らしい」

 

そう発したのは誰だろうか。

士道が声がした方を見ると、そこには黒姫がいた。

 

「ああ。十香十香十香十香十香!そのような力を持っていたとはなァ!」

 

士道は黒姫を見て恐怖する。

いつも十香と仲良く話をしていたのに、今では対戦相手としてしか見ていないからだ。

 

「誰だ?貴様。十香というのは私のことか?」

 

「私は黒姫。そしてお前は十香と呼ばれている。ああ!私は今、拒絶する自分の身体を無理やり持ってきてとても良かったと思っているよ!何故なら────」

 

黒姫はそう言い、身体から大量の黒い粉───狂竜ウイルスを発生させる。

そしてそれは、元々暗かった周りをさらに暗くした。

 

「────今、お前と戦えるからだ!十香ァ!」

 

黒姫は言い、名を叫ぶ。

誰にも見せていない、〈天使〉の名を。

 

「〈黒蝕竜(ゴアアアアア)〉ッ!」

 

黒姫が〈天使〉の名を叫んだ瞬間。

黒姫が黒い球体に包まれ、床に落ちる。

そしてすぐにその球体にヒビが入る。

そしてそれが割れた瞬間、狂竜ウイルスが大量に撒かれる。

 

「ぐっ······!」

 

士道は咄嗟に手で口と鼻を覆い、それを吸わないようにした。

そして視界を覆っているそれが晴れ、球体があった場所を見る。

そこにいたのは────

 

「な、んだ。あれ······」

 

────一体の黒い竜だった。




これがやりたかった!!!!
······つまり、ここから先はあまり考えてないです()
最初とこの展開と最後の場面しか考えてなかったんですよね()
もちろんここで終わりにはしません。
最後まで書きます。


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黒き衣を纏う竜

やはりゴア・マガラといえばこの名前でしょう!


【Gaaaaaaaaaaaa!!】

 

黒い竜は咆哮し、暴れ始める。

士道は耳を塞ぐが、衝撃で吹き飛ばされる。

 

「がは······っ」

 

その時、耳につけている機器から琴里の声がする。

 

『士道、大丈夫!?何が起こっているの?』

 

「ぐう······っ!わから、ない······黒姫がいなくなって······竜が······」

 

『······その竜から強い霊力反応がある。さらに言えば、天使の反応がある』

 

令音の言葉を聞き、士道は黒姫を探し始める。

 

『まさか、これが天使ってわけ!?士道、さっさとあいつを見つけて止めさせなさい!』

 

「さっきから探してる!でもどこにもいない······!」

 

『······まさか、あの竜が彼女なのかもしれないね』

 

「まじかよ······」

 

士道は令音の言葉に驚愕する。

仕方もないことだろう。

何故なら、黒姫は今まで天使を使わずに折紙や琴里、狂三、そしてエレンを圧倒したということだ。

使用していたあの武器が天使だと思っていた士道らにとって、それは黒姫の規格外すぎる力を思い知らすことになった。

 

「じ、じゃあ、今まで手加減してた······ってことですか······?」

 

『······狂三との戦いではそうでもなかったようだね』

 

「っ······そうですか······」

 

狂三との戦いは、黒姫にとってやっと本気になれると思った相手だったのだろう。

令音の言葉からは、それ以前は手加減していたと言っているようなものだった。

 

『とにかく、あれを止めなさい!反転しているとはいえどうなるかわからないわ!』

 

「わ、わかった!」

 

士道はそう言い、近くにいた美九に駆け寄る。

 

「大丈夫か!美九!」

 

「あ、ああ、あ、れは······く、黒姫さん······?」

 

「しっかりしろ!美九!」

 

「し、士道さん?」

 

「待っててくれ、今すぐ止めてやるからな······!」

 

士道はそう言い、竜に向かって走る。

が、狂竜ウイルスによって阻まれる。

 

「くっ······近づけない······」

 

士道がそう呟いた時だった。

 

【Gaaaaaaaaaaaa!!】

 

竜が再び咆哮し、十香に飛びかかる。

 

「〈暴虐公(ナヘマー)〉」

 

十香は天使を顕現させ、それで防ぐ。

が、竜の攻撃は止まらない。

竜は床に脚をつけると、すぐに翼脚を広げて空を飛ぶ。

そして口から紫色のブレスを出す。

十香はそれを避けるが、ブレスは十香を追尾し、やがて命中した。

 

「十香ッ!」

 

士道が心配そうに言うが、その言葉は届かなかった。

 

「くっ······なんだ······これは?」

 

ブレスを受けた十香は、頭を押えて言う。

あのブレスには、狂竜ウイルスが含まれており、それを受けた十香はウイルスの感染が進んでいた。

 

「十香!今すぐ逃げ────」

 

それに気づいた士道は十香に声をかける。

が、間に合わなかった。

竜は苦しんでいる十香を翼脚で掴み、そのまま床に叩きつけた。

 

「ぐは······っ」

 

「十香ぁぁあ!」

 

士道は叫ぶ。

が、竜には届かない。

今竜に見えているのは十香だけだった。

 

『士道!聴こえてる!?』

 

「少し待ってくれ!今は話してる暇なんか────」

 

『ASTと狂三、それに〈バンダースナッチ〉が全部落ちたわ!今すぐそこから離れなさい!』

 

琴里の言葉で士道は驚愕する。

まさか狂竜ウイルスで?

真那は大丈夫なのか?狂三の本体は?四糸乃は?耶倶矢は?夕弦は?

士道は驚きを隠せない。

 

「そんな!それじゃあ十香は······!」

 

『そっちは大丈夫!今その竜を抑えるためにみんながそっちに向かってるわ!だから士道だけでも撤退して!』

 

琴里の言葉は士道を少しだけ落ち着かせた。

とりあえず狂三以外は無事だとわかったからだ。

 

「······ごめん。俺は退かない」

 

『何言ってるの!?これは本当に危険よ!今までの危険とは比べものにならない!』

 

「だとしても、俺は十香を救いたい!」

 

士道が言うと、琴里は黙る。

しばらくすると、機器から声がする。

 

『仕方ないわね······だけど、今回だけは本当に危険よ。次私が退けって言ったら絶対に退きなさい』

 

「······!ああ、わかった!」

 

士道はそう言い、十香を押さえている竜に向かって走る。

目の前にウイルスが集まってくる。

 

「邪魔すんじゃねぇ!」

 

士道は〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を振り、集まったウイルスを斬り、道をひらく。

 

「やめろぉぉ!!」

 

そう叫び、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を竜に向かって振り下ろす、

すると、竜からは赤紫色の血が噴き出す。

その瞬間、竜が叫ぶ。

 

【Gaaaaaaッ!!】

 

「ッ······十香を······!離せ!」

 

士道はもう一度〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を振る。

赤紫の血がさらに噴き出る。

 

【Guaaaaaa!!】

 

竜が叫び、尻尾を士道に叩きつける。

 

「ぐあっ······!」

 

士道は壁まで吹き飛ばされ、小さく声を漏らす。

竜は血を流しながらも十香を離さない。

士道の傷に炎が発生し、傷を癒していく。

傷が治るとすぐに立ち上がり、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を振り下ろして斬撃を飛ばす。

が、その斬撃は竜に当たると傷もつけずに消えた。

 

「なっ!どうして······」

 

『······おそらく、直接的な攻撃しか通らないのだろう。その斬撃は霊力の塊だから、あの竜には、効かなかったのだろう』

 

「嘘だろ······」

 

近づいて攻撃するしか手段はない。

それを知った士道は顔を歪める。

諦めるしかないのか?

士道がそう思った時、強い風が吹いた。

 

「かかか、諦めようとするとは、らしくないな。士道よ」

 

「同調。全くです」

 

「耶倶矢······夕弦······!」

 

さらに、巨大な兎が降りてくる。

 

『僕たちのことも忘れないでよね〜』

 

「士道、さん······一緒に、頑張りましょう······!」

 

「四糸乃に、よしのん······!」

 

『士道!間に合ったようね』

 

「琴里······!」

 

『感動してる場合?来るわよ!』

 

琴里が言った瞬間、竜がブレスを撃つ。

 

「我らに任せるが良い!」

 

「協力。やります」

 

二人は言うと、風をブレスにぶつける。

すると、ブレスは破裂し、その場から消えた。

 

「ありがとう!耶倶矢、夕弦!」

 

「必ず我が従僕を救うのだぞ。士道!」

 

「応援。頑張ってください」

 

士道はその言葉はを聞き、竜に向かって走り出す。

士道が正面まで近づくと、竜は飛びあがる。

その時、竜に向かって氷が落下する。

竜はその氷によって墜落させられる。

 

「やって······ください······!」

 

『やっちゃえ〜士道く〜ん!』

 

「おう!」

 

士道は起き上がろうとしている竜の頭に向かって〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を突き出す。

 

「これで······終わりだぁぁぁぁ!!」

 

鏖殺公(サンダルフォン)〉は竜の頭に突き刺さる。

 

【Ga······guaaa······】

 

竜は小さく鳴き、身体から黒い粉が散る。

そして竜の姿が消え、そこには頭の装備がなくなった黒姫がいた。

 

「ぐ······っ、なるほど、な。あれの利点と欠点をしれただけ、良かったか······」

 

黒姫はそう言い、片膝をつく。

 

「黒姫。俺の······いや、俺たちの勝ちだ」

 

士道が言うと、黒姫は小さく笑みを浮かべて言う。

 

「ふっ······そう、だな。確かにお前たちの勝ちだ。だが、次は負けぬぞ」

 

「次······だって?」

 

「······生きている限り、私は目的のために、戦い続ける」

 

「······そうかよ」

 

士道が言うと、黒姫は翼脚を広げて飛ぶ。

 

「一旦さらばだ、お前ら。また戦おうぞ」

 

黒姫はそう言うと、どこかに去ってしまう。

 

「······!十香!」

 

士道は十香に近づく。

 

「大丈夫か?十香」

 

「貴様······は、誰だ······」

 

「俺だ、士道だ!」

 

士道は倒れている十香を起こす。

 

「貴様······何を────」

 

そして、十香の唇に自身の唇を押し付ける。

そして、十香は思い出す。

いつも一緒にいてくれた者を。

自分を絶望の縁から救ってくれた者を。

そして、自分の名をつけてくれた者を。

 

「シ、ドー······?」

 

「十香······おう、帰ろうぜ」

 

士道が言った瞬間、十香の纏っていた霊装が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は巣に帰ってすぐ、倒れてしまう。

ああ、久しぶりに本気で、気を保って戦った。

そして────負けた。

だが、この敗北は次に繋げられる。

使ったおかげでメリットとデメリットを知ることができた。

メリットは、前の世界での戦い方ができること。

そして力が使用前とは比べものにならないほど強くなっていた。

ただ、デメリットが多すぎる。

まず、肉体が軟化している。

それに頭の中に自分以外の霊力を纏ったものが入ると強制的に解除されてしまう。

そして、霊力の使用量が多すぎる。

正直、ここに帰ってこれただけで奇跡だ。

······それより、「黒禍黒姫」だ。

天使を使った時、何故かあいつの記憶が流れ込んできた。

一部だけだがな。

それによると、やはり私の力を使って家族を殺したらしい。

何故そのようなことをしたのかは容易く想像できるが、確証がない。

だが────。

 

「────私は諦めない。全てを知り、「龍」として君臨する」

 

私は何度も頭の中で繰り返した言葉を口に出す。

そして私は眠りについた。




さて、黒姫の天使の利点と弱点が判明しましたね。
天使に関しては予想していた人が多いかと思います。
やっぱりゴア・マガラといえばこうじゃなきゃね!()


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黒き姫の語り

振り返り的なやつですね。


あの戦いから数日。

あのあと、士道は美九の霊力の封印に成功した。

そして今、士道は黒姫の席を見ていた。

いつもなら既に来ている時間のはずなのだが、ここ数日の間、一度も登校していない。

 

「シドー?どうかしたのか?」

 

「······え?い、いや。なんでもない······」

 

十香の問いに士道はそう答える。

だが、黒姫が心配なのは十香も同じはずだ。

あのあと一体何が────。

 

「みなさーん。席についてくださーい!」

 

担任のタマちゃん先生の声で思考は中断される。

 

「えーっとですね。今日も黒姫さんから伝言があります」

 

そう、最初の休みからずっと、黒姫からの伝言が先生の口から聞かせられる。

今までは亜衣麻衣美衣や十香の心配をしているようなものだったのだが······。

 

「えっと······『イツカシドウよ。いい加減私の巣に来るがいい。これからについて話をしよう。責任はきちんととってもらう』······ということなんですが······どういうことですか?五河くん?」

 

先生が言った瞬間、教室内にざわめきが起こる。

 

「あいつまさか黒禍さんにまで······!?」「それに責任とってもらうって······」「最近休んでたのってそういうこと!?」「クズだ!こいつは人間のクズだ!」

 

「ち、ちょっと待ってくれ!誤解だ!」

 

士道は言うが、誰も信用しているとは思えない顔をしている。

その時、士道に折紙が抱きつく。

 

「お、折紙サン······?」

 

「黒禍黒姫にもしたのなら。私にもしてほしい」

 

「してないからな!?」

 

士道は言うが、折紙は士道を離さない。

 

「ああもう!誤解を招くことを言うなぁ!」

 

士道はその場にいない黒姫に向かって叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、士道は十香の案内で黒姫の家に来ていた。

 

「十香は先に帰っててくれないか?」

 

「うむ、わかったぞ士道!」

 

十香は言うと、家に向かって走っていった。

 

「よし······」

 

士道は意気込み、インターホンを鳴らす。

 

『誰だ?』

 

「俺だよ。五河士道」

 

『そうか。では入るがいい。鍵は開けてある』

 

黒姫の言葉を聴き、扉を開けて家の中に入る。

 

「暗いな······電気は······」

 

士道は壁に手をつけて歩く。

 

「息災であったか?シドウよ」

 

「く、黒姫?どこにいるんだ?」

 

「ん?ああ。今電気をつける。普段つけていないのでな」

 

黒姫が言うと、部屋の電気がつけられる。

それにより、士道は壁に手をついて立っている黒姫の姿を確認した。

よく見てみると、白い肌のところどころに傷があった。

 

「お前たちのおかげで、こんな身体になってしまった」

 

「······それはすまん」

 

「いや、謝る必要なぞ微塵もないぞ。むしろ感謝したい」

 

「なんでだ?」

 

「私が元いたところでは、敗ければ死のみだった。私も殺す気で戦ったのだが······そんな私を生かしておいてくれるとはな······感謝しかない」

 

「······なぁ、教えてくれないか?お前のことについて」

 

士道が言うと、黒姫は少し悩むような動作をしたあと言った。

 

「他言無用で頼む。それだけが話をする条件だ」

 

いつになく真剣な顔で言う。

 

「ああ。わかった」

 

「────では座ってくれ。今から話そう。私が体験した過去と、記憶にしかない過去を────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────私は竜だった。

それは何度も何度も言ったことだ。

数日前の出来事で、シドウも信じているだろう。

あの姿は私の元の姿だ。

今の姿は私のものじゃない。

「黒禍黒姫」という人間のもの、と私は考えている。

ま、今はその名を使っているわけだがな。

私は元いた場所······いや、元いた「世界」で、多くの生物を死の淵に立たせた。

魚に虫、鳥に竜。

そして人間。

直接的にではないにしろ、だ。

直接殺したこともあるがね。

私の鱗粉には竜を狂わせる作用があってね。

それを吸った竜は狂い暴れ、人間に処理された。

私の同胞も、その中にいたかもしれんな。

そして次はお前が最も気になっていることだろう。

私を殺した人間についてだ。

あの人間とは何度か戦った。

一度は気まぐれで。

二度目は私が襲った人間を助けるために。

そして三度目、私とあの人間の最終決戦。

そこで私は死んだ。

それからすぐのことだった。

私がこの世界で目覚めたのは。

そしてお前たちと出会い、暮らしてきたわけだ。

次の話、「黒禍黒姫」の話をしよう。

私が疑問を感じ、調べるに至った理由は美九だった。

私はつい数ヶ月前に来たばかりのはずだ。

なのに、私の名前を知っていた。

それに、あったのは私が目覚めるより前という。

そして私は調べ尽くした。

色々わかったが、それよりも謎が多い。

家庭は竜を信仰しているカルト宗教の一家だということ。

「黒禍黒姫」は私と入れ違いで行方不明になっていること。

そして、そいつが私の力を使って家族を殺したこと。

今わかっていることはこれだけだ────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────私はこれからも探っていくつもりだが······その過程で何があろうと、私の邪魔はさせんぞ」

 

「────」

 

士道は驚きを隠せない。

別の世界での戦い。

そしてあの竜に一人で勝利した人間。

黒姫の話は士道に受け入れられるようなものではなかった。

そもそもあの竜を一人で倒せるというのが信じられない。

多くの精霊の力を借り、やっと落ち着かせることができたのだ。

それに、黒姫が黒姫じゃないという話も、簡単に信じられる話ではない。

 

「······なあ、黒姫。これからもその······黒姫のことを調べるんだろ?なら、何か協力を────」

 

「いらん」

 

「は······?」

 

「いらんと言っている。自分のことは自分でやる。それが私の生き方だ」

 

士道はその言葉を聞いて黙る。

 

「とにかくそういうことだ。私の伝言の意図を汲んで来てくれたのは感謝する。だが、それだけだ。私は助けを乞わないし、助けを受けない」

 

「······そうか······」

 

士道は思う。

何故そこまで手を拒むのか。

そうやって生きてきたのは承知している。

だが、それでも、何か悩んでいるのであれば、手を取り助けたい。

 

「それじゃあ俺はそろそろ帰るよ」

 

「そうか。ではまたな。近々学校に向かえるようになると、亜衣麻衣美衣と十香に伝えておいてくれ」

 

「わかった。それじゃあな」

 

士道はそう言い、出口に向かう。

そして士道は思う。

何度でも手を伸ばすと。




情報整理回でした。
あの戦いでかなり霊力消費してるので回復にかなり時間がかかってます。
しばらく戦いはないですかねぇ······


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黒姫ティミッド
探る者


「黒禍黒姫」について探っていきます。


私の傷はまだ癒えない。

それほど〈天使〉が霊力を消費したということだ。

そんな私だが、壁に手をつかずとも歩けるようになった。

それでもかなり辛いのだが。

それはともかく、だ。

せっかく動けるようになったのだ。

調べに行こうではないか。

「黒禍黒姫」が住んでいた山奥の家に。

私はそう決め霊力を纏うと、すぐに翼脚を広げて飛びたった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ······はぁ······ちっ、まさか、ここまで消耗するとはな······」

 

黒禍家の前に到着した私は、木に手をつけてそう言う。

まずいな、これは泊まった方が良いな。

帰ろうとすれば霊力が尽きてしまう。

 

「······さて、始めるか」

 

私はそう言い、扉を開け、家の中に入る。

家の中は埃まみれで、人が入った気配は全くしない。

私はまず、目に入った本棚の本を手に取った。

タイトルは『黒龍伝説』。

······なん、だと。

黒龍だと?何故その名が出てくるのだ。

そもそもここは「龍」ではなく「竜」

を────。

そこまで考え、私は思い出した。

人間とは、「竜」と「龍」を同じものと考えると。

······にしても、黒龍、か。

その名はあの世界で耳にしたことがある。

曰く、そいつは人類の敵。

曰く、そいつは『運命の戦争』の名を冠している。

曰く、そいつはさまざまな姿を見せることがある。

私が聞いたのはこの程度のことだ。

人間たちは何か知っていると思うがな。

······とりあえず、見てみるか。

私はそう考え、本を開く。

 

『キョダイリュウノゼツメイニヨリ、デンセツハヨミガエル』

 

最初の頁にはそう書かれている。

私は次々と読み進める。

 

『数多の飛竜を駆逐せし時

伝説はよみがえらん

数多の肉を裂き 骨を砕き 血を啜った時

彼の者はあらわれん

(くろがね)を溶かす者

水を煮立たす者

風を起こす者

炎を生み出す者

その者の名は ミラボレアス

その者の名は 宿命の戦い

その者の名は 避けられぬ死

喉あらば叫べ

耳あらば聞け

心あらば折れ

ミラボレアス

天と地とを覆い尽くす

彼の者の名を

天と地とを覆い尽くす

彼の者の名を

彼の者の名を』

 

······最後の一頁は破られている。

これは、なんだ?

ミラボレアス······?

そんな竜······いや、龍がいるのか······?

御伽噺のようだが、実際にあったかのようにも思える。

······だが、何故このような本がここに?

私は疑問に思うが、答えに辿り着きそうもない。

私は再び本棚に目をやる。

よく見ると、側面にタイトルが書いてある。

『幻獣』に『老山龍』、『鋼龍』に『炎妃龍/炎王龍』、『霞龍』に『浮岳龍』など、さまざまな「龍」についての本が並べられていた。

どれもこれも聞いたことのある名ばかりだ。

······まさか、無差別に「龍」を信仰していたのか······?

だとすれば、どこからこの本と情報を?

この世界に「龍」はいないはずだ。

なのに、何故それらについて記されている本があるのだ。

私は考えるが、やはり答えには辿り着きそうにない。

私は諦め、別の部屋に入った。

 

「な────」

 

部屋に入った瞬間、私は絶句した。

何故なら、そこにはあったのだ。

私────いや、霊装を纏った「黒禍黒姫」の死体が。

 

「どういう、ことだ?何故、死んでいるのだ······?」

 

私はある仮説をたてていた。

その仮説は、私が「黒禍黒姫」の身体に乗り移り、今の私となったと。

そして精霊になったのは、竜が存在しないため、人間と似たような形をした精霊とされたと思っていた。

だが、死体があるせいで全てが崩れた。

私の死体は傷一つない状態だ。

しかし、頭からは触角が生えていた。

そして死に顔は、とても穏やかなものだった。

まるで死を悟っているような、こうなることを望んでいたような顔をしている。

そんな死体を見て、私は────

 

「食べ、たい······」

 

私はそう呟いた。

何故か、異様に食欲がそそられる。

本当は食べたいなんて思っていない。

だが、身体が求めている。

一つになろうと、求めている。

私は膝をつき、死体に口を近づけ────。

 

「······!な、ぜ······!止まら、ない······!」

 

口に含んでしまった。

もう、止まらない。

私自身は拒絶している。

だが、止められない。

グチャグチャと音をたたせながら食べる。

味なんてわからない。

食べる度に力と記憶が流れ込んでくる。

そして数十分後。

あったはずの死体は、骨だけが残り、肉は全てなくなった。

······いや、食ったのだ、私が。

そして、霊力が回復······いや、増えた。

どうやら私の霊力は、最初から半減していたようで、「黒禍黒姫」の死体を食うことによって元に戻ったようだ。

しかし、霊力量以外は変わっていない。

通りで燃費が悪いわけだ。

あの天使は、この万全の状態での使用を考えられているのだから。

······それより、気になることがある。

流れ込んできた記憶の中に、何かの手がかりになりそうなものが何一つない。

流れ込んできた記憶は、いじめられている光景と、家族がしていたことだけだ。

そこに私が必要とする記憶はない。

······予定通り、今日はここに泊まるとするか。

明日は山から下りて、私が目覚めた時期について聞き込みをするとするか。




ここから先の展開もしっかり思いつきました。
なので問題はないはず······。

UA7000とお気に入り登録120突破ありがとうございます!
まさかここまでいくとは思ってませんでしたw
これからもよろしくお願いします!


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竜の消失

不穏なタイトルですね。


死体を食べてしまった私は、気分が悪くなりそのまま寝てしまった。

そして翌日。

私は山を下りた。

勿論聞き込みをするためだ。

学校には実家に帰ると伝えてあるし、それを皆に伝えてくれとも言っている。

おそらく、シドウは私が調べはじめたと気づいているだろう。

さて、そこら辺に歩いている人間に話を訊くか。

 

「そこの者、少し尋ねたいのだが良いか?」

 

「なんだい?あん······た······」

 

人間が私を見ると、明らかに驚いたような顔をしている。

 

「わ、私は宗教なんて、興味ないからね!」

 

なるほど、黒禍家らも頭のおかしい宗教一家、という認識だったのか。

 

「私はそいつとは他人だ。よく似てる、とは言われるがね」

 

「そ、そうかい······そりゃ失礼したよ。で、訊きたいことってなんだい?」

 

「ここ半年の間に何か奇妙なことは起こらなかったか?例えば、空が暗くなったり、動物が暴れだしたり」

 

「うーん······そんなことはなかったねぇ······あ、でもそれ以外の奇妙なことならあったよ」

 

「ふむ。してそれは?」

 

「確か、五ヶ月前くらいかねぇ。確か、山の方から鳴き声が聞こえたんだよ」

 

鳴き声······?まさか、な。

 

「なるほど、情報提供感謝する」

 

私は言い、その場から離れる。

······正直、私はこれ以上探りたくなくなった。

これ以上知ったところで、何かあると思えない。

······いや、恐ろしいのだ。

何か、知ってはいけないことに足を踏み入れることになってしまいそうだ。

それでも、私は知りたい。

恐怖を乗り越え、全てを知りたい。

······良く考えれば、聞き込みで手に入る情報はあれが限界だろう。

だが、これ以上どうすれば······。

 

【そんなに知りたい?】

 

「ッ!誰だ!」

 

声が聞こえた方を見ると、そこにはノイズがあった。

なんだこいつは。

······いや、わかった。

誰かはわからないが、精霊ということはわかった。

 

【······ああ、記憶がなくなってるんだったね】

 

「お前······私の何を知っている?」

 

【それは「黒禍黒姫」のこと?それとも「ゴア・マガラ」のこと?】

 

「な────」

 

何故知っている。

それはシドウにしか話していないはずだ。

まさか話したか?

いや、約束を破るような人間ではないはずだ。

 

「貴様、どこでそれを······!」

 

【そう熱くならないでよ。教えてあげるからさ】

 

「何を────」

 

言葉を続ける前に、ノイズが近づいてくる。

そして私に触れる。

その瞬間、私の意識は薄れ────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ここは?

私は······「黒禍黒姫」。

だけど、私は「死んだ」はず······。

······なんで?私はこの街に住んでるんじゃないの?

なんで私に別の記憶があるの?

誰の記憶なの?

······でも、行ってみようかな。

よくわからないけど、何かから解放されたような気がする。

これなら、楽しく暮らせるかも。




ど、どうしたんだー()

さて、今夜アンケート終了です。
まだまだ変わりそうですね。
さてさてどうなるのか······。


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少女「黒禍黒姫」

不自然なところがあるかもしれません。


黒姫が学校を休み始めてから、一週間経った。

 

「みなさーん。席についてくださーい!」

 

士道はいつも通り、黒姫からの伝言があると思っていた。

 

「ええと······出席をとりまーす!」

 

「え?」

 

士道は思わず声を出す。

どういうことだ?と思っていると、隣の十香が言う。

 

「黒姫の伝言はどうしたのだ?タマちゃん先生よ」

 

「えっと······それが、その······連絡がなかったんですよ!」

 

それを聞き、士道はおかしいと思う。

黒姫は、続けていたことを突然止めるような性格とは思えない。

きっと何かあったに違いない。

そう思考をめぐらせた時だった。

 

「すみません、遅れました!」

 

「え────」

 

士道は声がした方を見る。

誰の声かはわかっている。

だが、ありえないのだ。

彼女がそんな話し方をするような人じゃなかった。

 

「······?皆さん、どうかしましたか?」

 

「く、黒姫さん?」

 

「ええ、そうですよ?どうかしました?」

 

「い、いいえ!席についてください!」

 

確かにそこにいたのだ。

黒禍黒姫が。

いつものような何か含んだような笑みではなく、純粋な、美しい笑顔を見せ、立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ貴様、本当に黒姫なのか?」

 

「どうしたの?十香ちゃん」

 

「な────十香ちゃん、だと!?」

 

黒姫の言ったことに、十香は驚く。

いつも「十香」と呼ばれていたのに、「十香ちゃん」と呼ばれたことに驚いたのだ。

 

「ちょ、どうしたの黒姫ちゃん!」

 

「そうだよ!そんな話し方じゃなかったよね!?」

 

「だよね!?」

 

「えっと······どうしたの?亜衣ちゃん、麻衣ちゃん、美衣ちゃん」

 

『な────』

 

亜衣麻衣美衣もその変化に驚く。

いつものようなイタイ話し方はどうしたの?と言いたげな顔をしている。

 

「な、なあ、黒姫······」

 

「何?士道くん」

 

「······えっと、ちょっと付き合ってくれないか?」

 

「?いいよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋上で、士道と黒姫は向かい合っていた。

 

「黒姫······今から言うことに答えてくれ」

 

「質問によるけど······いいよ」

 

「······どうしちまったんだよ······この二日の間に、一体何があったんだ?教えてくれ!」

 

「え?」

 

「お前は「黒禍黒姫」を調べると言った。それと今のお前に何か関係が────」

 

「ちょっと待って!」

 

士道の言葉の途中で黒姫が言う。

 

「さっきから士道くんが何を言ってるのかわからないよ?私を調べるって何?」

 

「な────」

 

おかしい。

黒姫は自身の目的のためなら誰であろうと殺すと言った。

そんな黒姫が、自身の目的を忘れるのか?

 

「お前は、誰だ······?」

 

「え?私は黒姫だよ?」

 

士道はそう言う少女の顔を見て、ただ困惑することしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み。

士道は誰も使っていないトイレにいた。

そして、妹の琴里に電話していた。

 

『なんなのだー?おにーちゃん!』

 

「······大事な話がある」

 

士道が言うと、シュルシュルと布が擦れるような音がする。

 

『何?いつになく辛気臭いわね』

 

「黒姫に異変が起きた」

 

『黒姫?ああ、〈アンノウン〉ね。それがどうかしたの?』

 

「今日学校に来た。そしたら、何もかも違ってた。口調も、雰囲気も、表情も」

 

『······確かに異変といえば異変ね。で、どうして私に?』

 

琴里が言った時、士道は考える。

頼んでもいいのだろうか?と。

あの時約束した。

他言無用だと言われ、それを承諾した。

これを頼む以上、その約束は守れない。

だけど────。

 

「頼む、「黒禍黒姫」という人間を、調べてくれ」

 

────俺は何があったのか、知りたい。

 

『······それはどうして?そう言うのなら、何か訳があるんでしょう?』

 

「ああ、全部話す。二日前────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒姫。放課後ちょっといいか?」

 

「士道くん······いいよ。気が済むまで付き合ってあげる」

 

昼休みが終わり、士道は教室に戻ってすぐ、黒姫に言う。

黒姫は一瞬困ったような顔をしたが、次の瞬間には笑顔になっていた。

 

「ならまた屋上で」

 

「うん」

 

この結果により、士道がやるべきことが決まる。

そして時は流れ、放課後。

二人はまた屋上で向かい合っていた。

 

「黒姫、まずは一つ謝らさせてくれ」

 

「何か、謝られるようなことがあったの?」

 

「······すまない。お前との約束、破っちまった。本当に、すまない」

 

士道は言い、頭を下げる。

 

「え?何か約束してたの?」

 

「······やっぱり、そうなんだな。黒禍黒姫······」

 

「え?」

 

「黒姫······覚えてるか?お前が話してくれたこと」

 

「私が、話した······?さ、さっきから何を言ってるの?士道くん······?」

 

「黒姫の家庭の事情だ」

 

「え─────」

 

その瞬間、黒姫の顔から表情が消えた。

 

「俺はそのことでお前に何か思ったわけじゃないんだ。ただお前と話を────」

 

「やめて!」

 

士道の言葉の途中で黒姫が叫ぶ。

 

「どうせ士道くんも、私を拒絶するんでしょう······?なら、私のことなんて放っておいて!」

 

「黒姫······俺は拒絶なんてしない。ただ話を────」

 

士道は言いながら手を伸ばす。

が、その手は黒姫に拒まれた。

 

「もう······なんなのよ······私は、あなた達のことなんて知らないのに······どうして私は知っているの······?どうしてあなた達は私を知っているの······?」

 

それは、黒禍黒姫という少女の本音だった。

今日彼女は、久しぶりに学校に来たからか、みんなが黒姫の周りに集まった。

少女は誰も知らないのに、何故か知っている。

誰とも知らぬ存在()が知っていることの、情報だけを知ったのだ。

そこに思い出なんてない。

名前と年齢、口調に性格。

そのような事務的な情報のみだった。

だが、それでも少女は笑顔だった。

思い出がないなら作ればいい、と。

そう思って来た学校で、まさかの初日で家庭の事情が知られた。

しかも、自分から話したかのように。

 

「ねぇ、教えてよ······ねぇ、士道くん······!」

 

少女は涙を流して言う。

こんな少女に、全てを伝えていいのか?と士道は思う。

何もわからず涙を流している少女に、教えてしまってもいいのか?

けど、伝えないといけない。

士道は決心し、話し始める。

 

「黒姫。お前は、竜に身体を使われていたんだ。そしてその竜が話してくれた」

 

「竜······?」

 

「そうだ。そして二日前に、お前のことを調べるって─────」

 

「ふざけないで!」

 

少女の叫びに士道は話を止める。

その叫びは、悲しむようなものではなく、怒りを感じる。

顔も、士道を睨んでいる。

 

「私の周りには竜竜竜竜─────うるさいんですよ!鬱陶しいんですよ!何が竜ですか。そんなもの、いるなら今すぐ持ってきてくださいよ!」

 

士道は唖然とする。

やはり少女は苦しんでいる。

この状況で、それだけは理解していた。

 

「あの変な人だって、竜の力をあげるとか────」

 

そう言った瞬間、少女は頭を押えて膝をつく。

 

「だ、大丈夫か!?」

 

士道が問いかけるが、苦しそうな声を出すだけで答えない。

 

「え────」

 

士道は少女が口に出した言葉で、言葉を失う。

確かに少女は言った。

掠れた声で。

弱々しい声で。

「私は死んだ」と。




一体どうなってしまったんですかね······
ちゃんと終わらせるつもりなので、大丈夫、だと思います······


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調査結果

何度も同じ説明ですまない······すまない······。


あれから数日。

士道は今、学校にいた。

黒姫は元に戻らないままだった。

やはり竜である彼女は消え、ただの少女である彼女が元に戻ったのだろうか。

だが、だとすればあの言葉はなんなのだろうか。

そう悩んでいた時だった。

 

「······シン、少しいいかい?」

 

「なんですか?令音さん」

 

「······ついてきてくれ」

 

「わかりました」

 

士道は席をたち、令音についていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物理準備室に呼び出され、そこには妹である琴里がいた。

まだ昼休みなのだが、早退したのだろうか。

 

「······これを見てくれ」

 

令音に言われ、士道はモニターを見る。

そこには様々な情報と、黒姫の画像が映った。

 

「調べてみたけど、なかなか黒いわね。山奥に家があるし、その家を少し調べてみれば白骨死体があるし」

 

「し、死体······?」

 

「ええ。それに、最近誰かが入ったみたいよ。埃がないところが足跡のようになってたし」

 

それを聞き、士道は黒姫が行ったのだと考える。

おそらく、そこで何かあったのだ。

 

「その家には本があったけど······よくわからないものばかりだったわ。それぞれ生物の絵と説明が記されてたわ。読んではみたけど、生物というより災害そのものね」

 

「······どんなことが書かれてたんだ?」

 

「え?ああ、『歩くだけで地が揺れる』とか、『現れるだけで嵐が吹き荒れる』とか。そんな非現実的なことよ」

 

「······」

 

士道は考える。

それはまさか、黒姫が話していた世界の生物か?

 

「次は黒姫本人についてね。数ヶ月前、黒姫を除いた家族三人が変死。怪我はあったけど、死因ではない。血と肌は謎の変色あり。その日には黒姫が行方不明に。その数日後に精霊として現れたわ」

 

「······一体、何が······」

 

「······一つ、いいかい?」

 

「どうしたの?令音」

 

「······一つ実験してね。狂竜ウイルスを動物に投与してみたんだ」

 

「で、どうなったの?」

 

「······暴れだした後、血を吐いて死んだ。よく見てみれば、血も毛も紫っぽく変色していたよ」

 

それを聞き、琴里はモニターを見て言う。

 

「······家族の死体の状態と一致してるわね。死因は狂竜ウイルスとみて間違いなさそうね」

 

「······でも、黒姫が現れた時期より前だよな?ならどうして······」

 

「······もしかして、行方不明になる前から精霊だったのかもしれないね。それなら不自然ではない」

 

今はそう考えるしかない。

 

「そういえば士道。一つ言っておくことがあるわ」

 

「ん?なんだ?」

 

「黒姫の好感度と感情値が表示されるようになったわ。だから今のうちにデレさせなさい」

 

「え······?」

 

「だから、言ってるでしょ?デレさせて、霊力を封印しておきなさい。今の彼女が精霊かどうかわからないけど、一応ね」

 

「で、でもそれって······」

 

大丈夫なのだろうか。

もし前の性格に戻れば、霊力の逆流は免れない。

結局意味はないだろう。

 

「何?チャンスは今しかないの。〈ラタトスク〉の総力を尽くして前のように戻らないようにするわ」

 

士道はそれでも心配だった。

琴里にも言っていない、昨日言ったことだ。

「私は死んだ」······これはどういう意味なのだろうか。

そのままの意味ととらえてもいいだろうか。

 

「······はぁ······わかったよ。できるだけやってみるよ」

 

「そう。なら今すぐ行ってきなさい」

 

「······え······?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なぁ黒姫。土曜にでも遊びに行かないか?昨日のお詫びで······」

 

「え······」

 

教室に戻り、士道が言うと、黒姫は少し困ったような顔をする。

 

『士道、何してるのよ。もっと押しなさいよ』

 

「き、気まずいんだよ······」

 

耳につけている機器からする琴里の声に、小さな声で返す。

やはり、昨日のことがあったからか、お互い距離がある。

 

「ご、ごめんなさい······最近調子が悪くって······」

 

「そ、そうか。すまなかったな······」

 

士道はそう言い、その場から離れる。

 

『ちょっと士道!何退いちゃってんのよ!』

 

「仕方ないだろ!無理やり誘うなんて無理だって!」

 

士道は小さい声で言う。

黒姫の言うことが嘘だろうが本当だろうが、気まずいものは気まずい。

いくら妹に言われようと、無理なものは無理なのだ。

 

『何人も精霊落としてるから忘れてたわ······士道がヘタレだって······』

 

「余計なお世話だ!」

 

士道はそう言い、頭を押さえる。

本当にどこで言葉を覚えたんだ。

と、士道は思う。

 

『はぁ······とにかく、今月中にはどうにかしなさいよね』

 

「······ああもう、わかったよ······」

 

士道は折れてしまう。

しかし、拒めば何をされるかわからないのだ。

琴里は士道の過去の秘密(黒歴史)を握っている。

拒んでしまえば流される可能性は十二分にある。

というか、少し前にやられている。

 

「はぁ······どうすれば······」

 

士道は悩むしかないのだ。

しかし、黒姫が本当の不調で断っているということは、誰も知らない。




少しゲームをやりすぎてました······。
今日ゲームで贋造魔女という名前の人がいたんですよね。
少しテンション上がりました。
他には三人ほどジョジョがいました。
野生のジョジョでした。

アンケートの投票ありがとうございました!
ハッピーエンドから書きます。
途中バッドエンドと票が同数になって驚きましたw


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黒姫の変化

何かあったようですよ。


最近体調が悪い。

士道くんと話して、頭が痛くなってからずっと。

日が経つにつれ、気持ち悪くなってくる。

みんなに心配させたくない。

だから学校には行っている。

だけど、それももう限界。

ベッドに横になったまま、身体は動かせなくなってしまった。

あ、学校に連絡してないな······しなくちゃいけないのに······。

 

【······ねぇ、大丈夫?】

 

どうしてだろう、幻聴が聞こえてきた。

 

【あ、幻聴って思ってる?そんなことないよ。顔を横に向けてみて】

 

······?なんだろう······。

私は言われたとおり、顔を横に向ける。

そこには、見覚えのあるノイズがいた。

 

「えっと······あなたは······」

 

【久しぶりだね、黒姫】

 

「あ······あなたは、あの時の······」

 

【そう、思い出してくれた?】

 

思い出した。

確か······あれ?どこであったんだっけ?

どんな人(?)だったかは覚えてるんだけど······。

 

【どこで会ったかは覚えてないよね?当たり前だよ。記憶が混乱してるからね】

 

「どういうことですか?」

 

【それはいつかわかるよ】

 

むぅ······何か訊いてもいつもそう言いますよね······。

 

【······ねぇ、覚えてる?君にあげた力】

 

「え······?なんのことですか?」

 

【······やっぱり、覚えてないんだね】

 

?何を言っているんだろう。

確かに私はこの人を知っているけど、何かを貰った記憶はない。

 

【家族のこと。覚えてる?】

 

「······覚えてますよ。今は知りませんが」

 

【じゃあ知りたい?】

 

「······どっちでもいいですよ」

 

【じゃあ簡単に教えてあげるよ。殺されたんだよ】

 

「······え?」

 

今、なんて言ったの?

 

【三人とも原因不明なんだって。でも傷があったから殺されたって結論になってるんだ】

 

「······そう、なんですね······」

 

嫌いな家族だったけど、いざ死んだって言われると、少しだけ悲しいな······。

 

【うん。でも、これでいいんでしょう?変な束縛から解放されて】

 

「······うん······」

 

お父さんは言った。

私は竜を降ろすことができるって。

意味がわからなかった。

色んな竜について書かれた本を読まされ、変なことを言わされて······でも、これで解放されたんだ。

 

【で、どうするの?これから。今の生活を続けるの?】

 

「······どうでしょう。このままだと、できるかわからないです······」

 

何故なら、もう身体は動かないからだ。

······でも、できることなら、このまま平穏な生活を続けたい。

 

【そんな君に、これを飲んでほしいんだ】

 

そう言い、ノイズが見せてきたのは白い錠剤。

 

「なんですか?それ」

 

【君の体調がとても良くなる薬だよ。はい、あーん】

 

そう言われ、私は口を開ける。

口の中に錠剤を入れられ、水を流し込まれる。

すると、少しだけ気分が良くなった。

というか、すっかり元気になった。

 

【どう?元気になったでしょう?】

 

「うん······本当に何なんですか?これ」

 

【今は秘密。でも、今の君はこれを飲み続けないとさっきみたいになっちゃうんだ。だから、一日一回、一錠だけ飲めばいいよ】

 

またはぐらかされた気がする······でも、本当に心配してくれてるんだな······。

こんな薬までくれて、感謝しきれない。

 

【あ、でも今日は休んだ方がいいよ。いま動きまわると、またさっきみたいになるからね】

 

「わかりました。でもどうしましょう。一応連絡しておきましょうか?」

 

【それでもいいんじゃないかな?】

 

「ならそうしておきます」

 

私はそう言い、学校に連絡する。

電話にはタマちゃん先生が出てきて、体調が悪いということを伝え、休みにしてもらった。

 

「これで大丈夫かな······あれ?」

 

あの人がいない。

どこに行ったんだろう。

机の上に薬と手紙が置かれている。

手紙には、『私のことは誰にも言わないでね』と書かれていた。

ノイズの知り合いがいるなんて誰も信じないだろうし、言うつもりもない。

でも、あの人は本当になんなんだろう。

突然現れては突然消えて······本当に不思議な人。

でも、いつかまたお話したいな。

お話していると、少しだけ気が腫れるから。




ちらりと見える黒禍家の闇。
一体あの人と黒姫にどんな関係が······。
そして黒姫は一体······。


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知らない自分

短めです。


私は何?

それは小学生の時から考えてた。

一番身近な人からは、変なことを言われ、学校では相手にされない。

私は自分がわからなかった。

家族から言われてたことは絶対に違う。

でも、それ以外の場所で私を形作ってくれるものがなかった。

だから私は、あの人に会えてしまったのだろう。

あの人に出会って、私は少しだけ変われた。

だって、できた(・・・)から。

あの人に出会って、私は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休みの日。

私は街を歩いていた。

よく考えてみれば、街をよく見たことはない。

この機会に、色んな場所に行こうと思っている。

例えば······どうしよう······どこに行こうかな······

歩くだけでもいいかな······

結局、ただの散歩にすることにした。

その時、頭の中に声が響いた。

 

『────お前は、何者だ?』

 

「えっ······」

 

私は思わず、小さく声を漏らす。

この声は、私も全く同じ······

でも、どこか違う。

 

『ああ、確かに違うな。私はお前のような人間とは全く違う』

 

どういう、こと?

意味がわからない。

 

『そのままの意味だ。私はお前を調べてたのだが······何故か、お前が私の身体に入ってきた。あのノイズはなんだ?お前はなんで────いた?』

 

一部だけ聞き取れなかったが、結局何が言いたいのかわからない。

 

『ふむ。フィルターがかけられているのか。私は────だ。わかるか?』

 

······わからない。

何が言いたいの?

 

『やはりダメか。では、できるだけ言葉を選んで話すとするか』

 

······何を?

 

『まず言おう。お前は普通の人間じゃない』

 

え?

 

『ああ、お前の家族が言っているようなことではない。それだけは覚えておいてくれ』

 

······そう。

だとしても何?結局なんなの?

 

『私が何か、か。それはさっき言ったのだが、フィルターに邪魔されてしまった』

 

そのフィルターって何······

 

『お前の頭が受け付けない言葉を自動的に聞こえなくするものだ。ま、確かに私はお前が大嫌いなものだな』

 

······そうなんだ。

話したいことがあるんじゃないの?

 

『ああ。今話してやるさ。今のお前はかなり不安定だ。お前が飲んでる薬で安定してはいるが、薬が酷い。どうせこれもフィルターをかけられるだろうから言わないがな』

 

そう······でも、話したいことってそれだけ?

 

『そんなことあるわけないだろう?正直これはかなり疲れるんだ。さて次の話といこう。次の話というのは、お前が精霊というものということだ』

 

精霊······?何それ······

 

『精霊というのはだな······ま、シドウ辺りに訊いてくれ。間違っても折紙には訊くなよ?』

 

······わかった。

でもその後どうすれば?

 

『その後はシドウが率先してくれるだろう。キスされるだろうし、覚悟はしておけよ』

 

な······っ!き、ききき、キス!?

私の顔が熱くなる。

な、なんで、そんな話に!?

 

『それは知らんでいい。されるままにされておけ』

 

え、えぇ······何よ、それ······

 

『······さすがにきつい。また回復するか全部終わったあとに出てくる』

 

な、えっ、ちょっと待って!

······聴こえない。

······本当にどうすれば······

とりあえず明日。

明日、話してみよう。

そうすれば、わかるかもしれないから······

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、これでいいだろう。

私が身体の主導権を奪われ取り返せないとは······

たった数分の会話にこれほどまでに消耗するとはな。

やれやれ、次話せるのはいつになるやら······




さてさて、ここから始まっていきますよ!


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疑問

短めの話が続きます。


「士道、くん。今日、放課後······屋上に来てくれませんか······?」

 

恥ずかしそうに言ったのは、黒姫。

何が起こっているのか。

数日前から話していなかった女子に、屋上に誘われた。

 

「え······あ、ああ、わかった。放課後な」

 

士道が言うと、黒姫はすぐにその場から離れる。

······一応、琴里に伝えておくか······。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、屋上に出る扉の前。

士道は機器からする琴里の話を聴いていた。

 

『いい?彼女は他の精霊とは違うと思いなさい。それと、多分選択肢は出せないから、自分で頑張ってちょうだい』

 

「え?選択肢が出ない?」

 

『ええ。 原因は不明。でも彼女に対してだけよ』

 

彼女を前にすると〈フラクシナス〉の機能が一部動作しないのは何故だろう。

 

『とにかく行ってきなさい。この状況は願ってもないことよ』

 

「······ああ、わかった」

 

士道は言い、扉を開けて屋上に出る。

屋上には黒姫が校庭を見て立っていた。

 

「待たせて悪い」

 

「ううん、大丈夫。少しだけ訊きたいことがあるんです」

 

「······?何を訊きたいんだ?」

 

「えっと······精霊というものについてです。士道さんが知っていると······」

 

誰から聞いたんだと言いたいが、それは後にしよう。

とにかく話を進めるのが先だ。

 

「······精霊というのはだな······空間震を起こしている存在のことだ」

 

「えっ?」

 

「いや、本人たちに悪気があるわけじゃないんだ。ただ、現れた時に自然と起こるみたいで······」

 

「そうなんですね······」

 

黒姫は俯いて言う。

少し元気がない気がするが、体調が悪いというわけでもなさそうだ。

 

「で、どうしてこんなことを?」

 

「私、精霊らしいんです」

 

······?何を言っているのだろう。

そんなことは既に知っているし、そもそも本人から伝えてきたのだ。

知らないはずがない。

だが目の前にいる黒姫は、そんなことは知らなかった様子だ。

 

「······なんでそれを俺に言うんだ?」

 

「え?えっと、その······分かりません······」

 

「え?」

 

「精霊のことを訊いたあとは士道くんが率先してくれるって······」

 

本当に誰がそんなことを言ったのだ。

心当たりが何一つない。

 

『チャンスじゃない。デートに誘ってキスしちゃいなさいよ』

 

琴里は言うが、本当にいいのだろうか。

みたところ何も知らなさそうだ。

だけど······何かを期待して言ってくれたのなら、応えなくちゃならない。

 

「わかった」

 

士道は小さい声で言う。

そして黒姫の目を見て言う。

 

「なあ、この間のお詫び、まだできてないからさ、次の休みにでも遊びに行かないか?」

 

士道が言うと、黒姫は少しだけ顔を赤くして答える。

 

「いいですよ。では、時間と集合場所はどうします?」

 

「そうだな······なら一〇時にパチ公前でどう?」

 

「パチ公······ああ、あのお犬さんの像ですね。わかりました。また後日」

 

黒姫はそう言いお辞儀すると、学校の中に戻っていった。

 

『よくやったわね。今回は褒めてあげるわ』

 

「珍しいな。いつもは罵ってるところだろう?」

 

『あら?そっちの方が好みだったかしら?』

 

士道はそれを聴き、少しだけ笑う。

 

「いいや、褒めてくれて嬉しいよ。琴里」

 

『そう。デートの時、一応状況を確認するから通信器は着けていってちょうだい』

 

「ああ、わかった」

 

指示は出せないだろうが、何かあった時には必要になるだろう。

 

「······それより、琴里はどう思った?」

 

『どう、ってどういうこと?』

 

「黒姫のこと。精霊について訊いてくるなんて、まるで自分が精霊だと知らなかったみたいじゃないか」

 

『······性格も前と全然違うし、もしかして記憶喪失······?』

 

「でも、みんなのことは覚えてたぞ?」

 

『······記憶喪失は全ての記憶がなくなるわけじゃない。思い出は消えても、情報だけは残るパターンもある』

 

士道が言うと、令音がそう答える。

確かにそれなら辻褄はあう。

けど、それも少し違う気がする。

 

『今はそうだと思うしかないわね』

 

「······そうだな」

 

とにかく今は黒姫とのデートについて考えないといけない。

黒姫の好みが全くわからない以上、途中で知っていくしかない。

士道はそう考えながら、学校の中に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほう、シドウもなかなか言うようになったじゃないか。

ただのヘタレではなくなったか。

ま、私の前でどうなるかだな。

キスされて霊力を封印されたとして、簡単に取り返せるし問題はない。

私だってただでくれてやるわけにはいかない。

私の霊力が欲しいなら、一人で私に勝つことだな。

······ま、そんなことは一生ありえないがな。




最近アニメばかりみてます。
あるアニメをみて自分に修羅場とかのギスギスした展開は苦手なんだなぁと思いました。


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不穏な空気

短めです。


デートの日。

士道はパチ公前で黒姫を待っていた。

曇り空で、何か不穏な空気を感じる。

天気予報では晴れのはずだったのだが······。

 

「おまたせ、士道くん」

 

「ああ、黒姫────」

 

士道は現れた黒姫の姿を見て驚き、そのあと少し顔を赤くする。

白の大きい帽子に白いワンピース、手にはピンクのバッグを持っていた。

それらにより、少し前までの印象とは全く違うものを感じさせられた。

 

「どう、なんて訊くのは変だよね。そこまで仲がいいってわけでもないし······」

 

「────!い、いや、変じゃない。すごく似合ってる」

 

士道が言うと、黒姫は頬を少しだけ赤くして、笑顔で言う。

 

「ありがとう······」

 

「じゃあ行こうぜ。こっちにいい店があるんだ」

 

士道はそう言い、黒姫の隣で店に向かって歩く。

黒姫は周りをきょろきょろと見ながら歩いている。

······やはり数日前とは全く違う。

士道はそう思いながら店に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士道くんに連れられて、見たことのない店に来た。

どうやらカフェのようで、店内に入るとコーヒーの匂いがした。

店員さんに案内され席に座ると、士道くんが話しかけてきた。

 

「今日はなんでも頼んでくれ。全部奢るからさ」

 

「わ、悪いですよ!私も少しくらいは······」

 

私はそう言うが、士道くんは「大丈夫だ」と言い、私にメニュー表を渡してきた。

 

「······では、お言葉に甘えて······」

 

私はそう言い、渡されたメニュー表を見る。

······こういう店に来たことないから全くわからないや······。

でもこのきなこパフェってなんだろう。

最近よく教室とかでも名前聞いてる気がするなあ。

 

「じゃあ、このきなこパフェが気になるからこれで」

 

「きなこパフェ······?ああ、わかった。すみませーん、このきなこパフェを二つ」

 

私が言うと、士道くんは店員さんに伝える。

······あ、今日はまだ薬飲んでなかった。

今のうちに飲んで────

そこまで考えると、頭の中で声が響いた。

 

『その必要はないな』

 

······っ、どういう意味······?

 

『簡単だ。今日でお前はお役御免ということだ』

 

······え?ちょっと待ってよ。

それってどういう意味?答えて。

 

『そのままの意味だ······おっと、さすがに出てくるには早かったか。ではな』

 

「待ってよ!」

 

私はつい口に出してしまう。

私の声を聞き、士道くんは驚いている。

 

「あ······ご、ごめんね······」

 

「······いや、大丈夫だ」

 

士道くんはそう言うと、片耳を押えて小さな声で何か言いはじめた。

私にその声は聞こえなかったが、独り言じゃないことだけはわかった。

······それよりも、あの声が私に何を伝えたいのか全くわからない。

お役御免?まさか私を殺すとかそんな意味じゃないよね?

私にはそんなことをされることをした記憶はない。

 

「なあ黒姫、もしかして体調悪いのか?」

 

「え?······ううん、そんなことはないよ」

 

士道の言葉に私がそう返すと、士道は「それならよかった」と言う。

······士道くんと別れるまで薬は飲まなくていいかな。

私がそう考えていると、店員さんがきなこパフェを持ってきた。

下の方にはフレークがあり、その上にはクリームやチョコがのせられ、その上からきなこがかけられている。

 

『いただきます』

 

同時に言うと、それぞれスプーンでパフェを食べ始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてさて、私の意識も完全に目覚めたし、あとはシドウがアレをしてくれれば、表に出ることができるのだが······ちゃんとタイミングを見極めねばな。

少しでもズレれば霊力を持っていかれてしまううえに、表に出られるかどうかわからん。

黒禍黒姫よ、お前の出番は終わりだ。

元通りに(・・・・)ひとつになろうではないか。




お久しぶりです。
長い間モンハン4Gやってました。
師匠は絶対に許さない(怒り)
レギオス棍の最終強化ができたりクシャル棍が作れたり色々ありましたが、スターナイトが一式揃ったということがとても嬉しかったです。
一人では無理だったので協力してもらいましたが、協力者には感謝です。
そして次も遅くなると思います。
すまない······本当にすまない······
できるだけ早く出せるようにしますので······


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目覚めつつある竜

最近ずっと短いですね······。


パフェも食べ終わり店から出た私は、士道くんに「もう少し時間をくれないか?」と言われ、そのまま一緒にいた。

歩き続けショッピングモールに着くと、士道くんが口を開いた。

 

「まだお詫びを続けさせてくれ。自分がまだ納得できてないんだ」

 

「え?······いいけど······さすがにお金とか大丈夫?あのきなこパフェも結構······」

 

きなこパフェは、なんと一つ一七〇〇円という学生にとってはかなりハードルの高いものになっていた。

士道くんはそれを二つ分払っていたし、心配になった。

 

「それは全然大丈夫だ。なんでも言ってくれ」

 

「······いや、やっぱり私が自分で買うよ。だから、荷物を持ってくれない?」

 

「そんなので良ければ、喜んで受けるさ」

 

士道くんは言い、笑顔を見せる。

······少しだけドキッとしちゃった。

男の子にこう思うのも失礼かもしれないけど、可愛いと思ってしまった。

 

「じゃあ服かな。何故か家には制服とこの服とその黒色しかなかったし、もう少し色んな服を······」

 

「じゃあ行くか。服屋はこっちだ」

 

士道くんはそう言い歩き始める。

私はそれについていく。

······私たちって、周りから見てどう思われているんだろう。

兄妹かな?でも髪の色とか全然違うし、それはないかな?

友達かな?私はこれが一番いい。

でも、もしかすると······恋人、なんて思われてたり······。

······い、いやいや、そんなこと、ないよね。

十香ちゃんがいるし、私がそう思われてちゃ迷惑だよね。

そんなことを考えていると、いつの間にか服屋に到着していた。

 

「あれ······?ここって······」

 

初めて来たはずなのに、前にも来た気がする。

確かその時にこの服を······。

 

「どうしたんだ?」

 

「······え?······いや、ちょっと変な感じが────」

 

そこまで言うと、頭の中に再び声が響く。

 

『私が来たことあるからな。······お、霊力の回復が早くなったか?』

 

っ······またあなた······しばらく出てこれないんじゃなかったの?

 

『知らんが早く出てこれるようになった。ま、原因もだいたい掴んではいるがな』

 

余裕そうな声色で言う。

······やっぱり、この声は嫌い。

 

『嫌い、か。結構結構、この回復の早さなら、無理やりフィルターを壊すことも可能か』

 

······後にしてよ。

今は士道くんと一緒にいるんだから。

 

『おっとまずい。これ以上煽るのは危険か。ではな、今日中にまた会おう』

 

最後にそう言い、声は聴こえなくなった。

······本当に嫌。

 

「どうした?黒姫」

 

「······ううん、なんでもない」

 

私はそう言い店に入る。

どんな服が売ってるんだろう。

楽しみだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒姫がシドウを意識してくれるならそれでいい。

そうでなくては私が困るのだから。

シドウに私の霊力が流れる瞬間。

そこが狙い目だ。

〇・一秒でもズレれば持っていかれる。

ははは、楽しいギャンブルだ。

戻れるか、取られるか、消え去るか。

早くその時が来てほしいものだ。

その日さえ来れば、また目指せる。

龍を。




最近短めにしか書けないことが悩みです。
なので戦闘街に出てきたテオ叩きます。
テオを叩いて悩みも叩きます(?)


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舞い戻る竜

多分長いです。
そんなことなかったです。


さて、デートもそろそろ終わりが近くなってきたか。

ここは一つ、私の憶測を黒姫に叩きつける時間でもとってみようか。

黒姫を精神世界に引きずり込み、そこで話をつける。

それなら問題ないだろう。

これならば、霊力を持っていかれる心配もない。

さてさて、言葉を纏めておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

服屋で買い物を済ませた士道と黒姫は今、それぞれ荷物を持って黒姫の家に向かって歩いていた。

 

「ごめんね、服持たせちゃって」

 

「これくらいなら全然大丈夫だ。家ってこっちだったよな?」

 

士道は言い、黒姫を見る。

黒姫は「うん」と言い首を縦に振る。

結局、今日一日ずっと曇りだった。

最近の天気予報が外れるなんて珍しいな、なんて士道は考えながら歩く。

しばらく歩いていると、黒姫の家が見えてきた。

 

「本当にありがとうね。お茶でも飲んでいく?今日のお礼に······」

 

「あー······うん、お邪魔させてもらう」

 

士道が答えると、黒姫は家には向かって走り、鍵を開けて中に入った。

士道は歩いて家に向かう。

家の前に立っていると、黒姫が家から出てきて言う。

 

「じゃあ上がって。今用意するから」

 

「ああ、お邪魔します」

 

士道は靴を脱いで上がり、黒姫が向かった方に歩く。

よく家を見てみると、汚れが一つもない。

どうやって掃除しているんだ?と士道は思う。

家事をする士道にとって、汚れをなくす方法は知りたいものだ。

後で訊いてみようと士道は考える。

 

「あ、適当に座っていいよ」

 

「ああ、わかった」

 

黒姫は机にコップを置きながら言い、士道はそれに答える。

コップを置いた黒姫は床に座り、口を開く。

 

「改めて、本当にありがとうね。買い物にまで付き合ってくれて」

 

黒姫は言い、頭を下げる。

 

「いやいや、元はと言えば俺が迷惑かけたんだしさ」

 

「それでもありがとう。······そういえば、一つ聞き忘れたことがあるんだよね」

 

黒姫の言葉に士道は首を傾げる。

 

「聞き忘れたこと?なんだ?」

 

「えっと······私って精霊、なんですよね?とても危険な力を持ってるんですよね?」

 

「······ああ、そうだな」

 

士道は少し悩んで言う。

 

「······その力って、どうにかできないんですか······?私に力を持っている自覚なんてありませんけど、私にはきっと必要のないものなので······」

 

士道はその言葉を聞き、少しだけ考え、黒姫に伝える。

 

「······できないことは、ないけど······その方法がちょっと、な······」

 

「その方法ってなんですか?」

 

「······キスするんだ」

 

士道は少しだけ頬を赤くして言う。

その言葉を聞いた黒姫は、顔を真っ赤にしている。

 

「き、き、キス······?」

 

「ああ。でも、したくなければそれでも────」

 

士道が言葉を言い終える前に、士道の口が塞がれる。

······黒姫の唇で。

その瞬間、士道は何かが流れ込んでくるような感じがした。

······が、それはすぐになくなった。

 

「お、おい······?黒姫?」

 

唇を離し、士道は声をかけるが、黒姫からの返事がない。

体を揺さぶっても反応は一切なかった。

 

「だ、大丈夫か!?黒姫!」

 

士道は大きな声でそう叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────あれ?ここは、どこ?

 

「顔を合わせるのは初めてか。黒禍黒姫」

 

「その声は······っ!」

 

私はその声がする方を見る。

そして私は驚く。

そこにいたのは、紛れもなく私自身だった。

 

「どういう、こと······?」

 

「さて、少しそこを動くなよ」

 

目の前の私はそう言い、私に近づく。

そして私に触れる。

その瞬間、私の中に何かが流れ込む。

それは記憶。

どうしても思い出せなかった過去の記憶。

両親の死の理由、学校のこと、そして精霊の力。

······なんで、忘れちゃってたんだろう。

 

「その顔だと思い出したようだな。黒禍黒姫よ」

 

「······うん。全部、思い出しちゃった」

 

「そうか。では私は私の考えをお前に話そうと思う」

 

「考え?」

 

私はそう言い首を傾げる。

 

「そうだ。お前の身体と私の身体が同時に存在していた理由と、私の存在する原因を考えた。それを今、お前に伝える」

 

「どうして?」

 

「理由、か。そうだな、ひとつ言うとすれば······頭の体操と言ったところか。考えを話し、正解を知る。最近まで眠っていたのでな。暇だったのだ」

 

「······わかったよ、話してみて。答え合わせ、してあげるよ」

 

私が言うと、目の前の私はニヤリと笑う。

 

「ははは、いいじゃないか。では、私の演説を始めよう」

 

あの私は言うと、話を始める。

 

「まず、前提として私とお前の遺伝子情報は全く同じものだと言っておこう」

 

「それはどうして?」

 

「質問は最後に全て受けつける。······とにかくそういうことだ。私とお前の身体が同時に存在した理由。それは、お前と私が完全に離された存在だからだ。本来はもっと多かったのだろうがな」

 

彼女は言うと、次の話を始める。

 

「次の話と行こう。どうして私が存在するのか。それは、我ら黒蝕竜の鱗粉、狂竜ウイルスを使用したのだろう。これについては、少し説明が厄介だ。この世界に来て、私の鱗粉はかなり変化した。遠くを感知でき、音を運び······そして、その変化の中には『霊力を含ませ感染させることで個体を増やす』という変化もあった。これならば、私の霊力とお前の霊力が半分ずつなのも説明がつく。ここで、面白い話をしよう」

 

彼女は言い、私の周りを歩く。

 

「最初は私と同じような個体が何体かいたのだろう。だが、こっちの世界で生まれた個体はすぐに臨界へと送られた。そしてそこで殺しあった。そして生き残った個体に私の意識が乗り移った······という話だ。面白いだろう?」

 

「······確かに、そうだね」

 

「で、どうだ?質問はあるか?」

 

「······どうして、そう考えたの?」

 

「簡単だ。この世界に来た時に流れてきた情報を整理したんだ。すると鱗粉の変化について詳しいことが記されていてな。そこから考え始めたのだ」

 

「······すごいね。そんなちっぽけな情報からそこまで考えることができるなんて」

 

「これくらい造作もない」

 

私がそう言ってやると、黒姫は苦笑いする。

正解かどうかはどうでもいいのだが、頭の体操にはなっただろう。

なかなか楽しい考えだった。

一つとなることで完全となる。

ということは、あと少しということだ。

あの姿になれるのは。

 

「話はこれで終わりだ。さよならだ、黒禍黒姫。これからは眠っていろ。永遠に、な」

 

私が言うと、黒禍黒姫は粒子となって消えた。

最期に「二度と起きたくない。竜なんて見たくないから」と言って。

······ちっ、少し取られたか。

これくらいなら狂竜化すれば取り戻せるが······そうなるほどに楽しめることはあるのだろうか。

······いや、探そう。

幸いにも、取られた分では武器の召喚すらできまい。

さて、そろそろ身体に戻るとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒姫!おい、黒姫!」

 

士道は叫び続ける。

しかし目を覚まさない。

諦めかけたその時、小さな声がした。

それは黒姫から聴こえた。

 

「黒姫······?」

 

「は、ははは、帰ってきたぞ。私は、完全な状態で!」

 

士道はその言葉を聞いて驚く。

この言動は、まさに竜の彼女そのものではないか。

 

「さてシドウよ。今はその霊力はくれてやる。だが、すぐに取り返してみせる」

 

「え······?あ、お、おう······」

 

士道はそう返すが、状況を理解していなかった。

 

「今日は帰るがいい。もう日も暮れる」

 

「······ああ、そうさせてもらうよ。今日はありがとな、黒姫」

 

「ああ、シドウ」

 

士道はその言葉を聞き、靴を履いて家から出る。

元に戻ったのかわからぬまま、士道は家に帰ることになった。




黒姫の説明が長すぎるので省略すると、
・狂竜ウイルスに霊力含ませないと増やせないよ!
・本当は自分と似たようなやつがもっと沢山いたよ!
・そいつらは全部死んで、私だけが残ったよ!
・そして私は何故かこの身体に乗り移ったよ!
ということです。
そういえばテオ叩けました。
クシャル棍強いですね。
猟虫の強化はまだできてないですけどね。
餌が足りない······!


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リハビリ

案の定遅くなりましたね······


帰ってきた。

私は力を手に入れて。

今の私なら、何かきっかけがあるだけで龍に到達できるだろう。

······取られた霊力を取り戻すのが先だろうが······これがわからない。

だが何故かシドウと繋がっているような感覚がある。

これが何かのヒントになるような気がする。

······まあいい、久しぶりに身体を動かす故、訛っていないか確認したい。

そろそろ夜か。

······久しぶりに暴れるか。

私はそう考え、霊装を身に纏う。

 

「〈神威霊装・厄災(ブラック・ディザスター)〉」

 

そして私は上空でできるだけ小さい空間震を起こす。

するとサイレンが鳴り響く。

 

「さてさて······私がいなかった数日の間にどのように変わったか······楽しませてくれよ」

 

私はそう呟き空を飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりに飛ぶ空ばいいものだな。

歌でも歌いたい気分だ。

そんなことを考えながら飛んでいると、後ろから誰かが近づいてくる気配を感じた。

その誰かは私に剣で攻撃してくる。

それを私は避ける。

そして私は攻撃してきた誰か······折紙の方を向く。

 

「久しぶりだな、折紙。他の奴らはどうした?」

 

「············」

 

私の問いに何も返さない。

ふむ、前はもう少し会話もしてくれていたはずなのだが。

まあいいか。

 

「たった数日の間いなかっただけだが、どのように変わったか見せてもらうぞ」

 

私は言い、双剣を構える。

それを見た折紙は私に斬りかかって来るが、それを受け止め弾く。

 

「ふむ、少しだけ重くなったか?この調子で精進すればいい」

 

「······あなたに言われる筋合いはない」

 

「ははは、確かにその通りだ。それと、やっと会話してくれる気になったか。仲間はどこに行った?」

 

「······話す必要はない」

 

「······そうか、それでは探すとするか」

 

私は言い、鱗粉を辺りに散らす。

······ほう、ちょうど私とタイミングが重なった精霊がいたのか。

いくら折紙が強いとはいえ、私相手に一人とは。

せめて平等に分ければ良いものを。

 

「理解した。酷いものだな。お前の実力を過信しすぎた編成だ」

 

「······これでいい」

 

折紙は言い、少しの間何も言わずしばらくすると「わかった」と言った。

 

「連絡でも来たか?」

 

「······次は殺す」

 

折紙は言い、そのままどこかに飛んでいった。

······はぁ、結局リハビリにはならなかったか。

······そういえば、黒姫から答えを聞くのを忘れていた。

確認しに行くか。

どうせあいつができるだろう。

私はそう考え、鱗粉をできるだけ広範囲に散らす。

そして探していたものを見つけ、そこに向かって飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

······やはりいたな、時崎狂三。

私は狂三の目の前に降りる。

 

「久しぶりだな、元気か?」

 

「ッ!あなたは······なんの用ですの?」

 

「そう警戒するな。話をする前に一つ、確認したいことがある。お前は本物か?」

 

「······教える必要はありませんわ」

 

「そうか······じゃあ殺して確認するか」

 

私はそう言い、翼脚を広げる。

 

「······なんの用ですの?」

 

そうした瞬間、影から狂三が現れる。

 

「本物か?」

 

「ええ、確かにわたくしは本物です。······下がっていなさい『わたくし』」

 

「······わかりましたわ、『わたくし』」

 

最初に見つけた狂三はそう言うと、影に入った。

 

「さて、早速だが要件を話そう。過去に私を飛ばせ」

 

「!······どうして、あなたが〈一二の弾(ユッド・ベート)〉のことを······」

 

「できるのだな?ではやれ」

 

「······何故、過去に行きたいんですの?」

 

「何、答え合わせだ」

 

私が言うと、狂三は困惑しているような顔をする。

 

「意味がわかりませんわ」

 

「だろうな。私の個人的なことだ」

 

「······そもそも、わたくしがあなたに従う理由がありませんわ」

 

「次は本当に苗床にしてやる、と言ってもか?」

 

私が言うと、狂三の顔が目に見えて強ばる。

苗床ななったする、という意味はわかっていないだろうが、前のようにされるということはわかっているのだろう。

 

「脅し、ということですのね······」

 

「ああ。どうだ?やってくれるか?」

 

そう言うと、狂三はしばらく悩み、ため息を吐いて答える。

 

「仕方ありませんわ。ただし、過去に戻る為の霊力はあなたの霊力を使用させていただきますわ」

 

「うむ、構わん」

 

「それで、いつ、どこに戻るんですの?」

 

「少し待て、思い出す···········そうだ、八か月と三日前の午後六時だ」

 

「細かい時間までよく覚えてますわね」

 

「まぁな。それではやってくれ」

 

「わかりましたわ。〈刻々帝(ザフキエル)〉──〈一二の弾(ユッド・ベート)〉」

 

狂三の手に二丁の銃、背後に時計が現れ、時計のⅩⅡの字が銃に吸い込まれた。

次に狂三は私に銃を向ける。

 

「では、いきますわ」

 

「ああ、こい」

 

私が言うと、狂三は引き金を引く。

放たれた銃弾は私に触れると────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開くと景色が変わっていた。

いや、雰囲気が変わっていた。

戻ったのか?

······では、早く見に行くとするか。

私は翼脚を広げ、目的地に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山中の家。

そこには四人家族の一家が暮らしていた。

しかし、普通の一家ではない。

町の住民からは厄介者扱いされている。

理由はただ一つ。

その一家が怪しい宗教一家だったからだ。

父親と母親、そして長男は毎日毎日勧誘を続けている。

長女は無口で表情もない。

それらが原因で、家族全員が迫害されている。

それを気にしている者などその一家にはいない······いや、長女だけは嫌だった。

ただ普通に生きたいのに。

ただみんなと話したいのに。

なのに家族の評判がそれを邪魔する。

彼女が家族と信仰の対象を恨むのも、無理はない話だった。

そんなある時、彼女が森を歩いていると、目の前に何かが現れた。

彼女は驚いたが、次の瞬間に何かは言った。

────全てを変えたいかい?と。

彼女はそれを聞くと、小さく頷いた。

すると何かは彼女に結晶のようなものを差し出した。

白と黒が混じりあっている途中のような色をしているそれに、彼女は触れた。

その瞬間、彼女の服装は変わった。

彼女は驚いたが、何かは言う。

────変えてきなよ、その力で と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は変わった姿のまま家の前にいた。

何も言わずに中に入ると、そこには彼女の弟である長男がいた。

 

「おかえり、姉様。······どうしたのですか?その服装は」

 

長男は言うが、彼女は何も言わずに翼脚の爪で長男を引っ掻いた。

 

「がぁぁぁぁッ!い、痛いぃ······!姉様ぁ······!何をぉ······!」

 

「なんだ今の声は!」

 

声を聞いて来たであろう父親と母親にも、長男と同じように引っ掻く。

 

「ぐあ······ッ!み、巫女よ······何故、こんなことを······」

 

「あぁ······どうして、こんな······」

 

全員何か言っているが、彼女の耳に届くことはなかった。

しばらくは何か言っていたが、少しすれば何も言わなくなった。

彼女は思う。

これで普通の生活ができる と。

しかし、すぐにその考えは消えた。

今までの評判が消えるわけがないし、それなら変わらないのでは?と。

彼女はその場に座り込んだ。

そして生きる気力を失った。

だから力を使い切るように振り撒いた。

そして彼女は、目を閉じた。

 

「······ただいま」

 

最後に呟き、笑みを浮かべたまま動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、そういう事か」

 

私は振り撒かれた鱗粉を見ながら呟く。

鱗粉は全て森にいた獣に感染したようだ。

そこから私と同じ気配がする。

なるほど、こうやって私たちは生まれたのか。

本人が意図して行っていなかった、という点を除けば、私の推理は当たっていたということだ。

 

『答え合わせとやらは済みまして?』

 

私が考えていると、突然狂三の声が聴こえてきた。

 

「狂三か。ああ、十分なほどにな」

 

『そうですのね。そろそろ時間切れですわ』

 

「わかった」

 

私が答えると、狂三の声は聴こえなくなった。

······龍には確かに近づいている。

だが何故だ?何故龍に至ることができない?

やはり好敵手とぶつからないことには先に進めぬのだろうか。

好敵手といえる存在、か。

折紙はそれに近いといえる が、足りない。

何かわからないが、たりない。

······いや、いい。

このまま時が経てば、折紙は私と渡り合える強さにはなるだろう。

そんなことを考えていた時、景色が変わった。

 

「······戻った、か」

 

「おかえりなさいまし」

 

「感謝するぞ、狂三」

 

「いえいえ、苗床にされるのは嫌ですもの」

 

逆になりたい者などいるのだろうか。

そう考えた時、ある気配が近づいてきた。

 

「······精霊が近づいてきたか。これで失礼させてもらおう。さらばだ」

 

私はそう言うと、翼脚を広げて気配の方まで飛んでいった。




やっぱりモンハンって楽しいですね。
レア素材に悩まされ、何とか入手して手に入れる武器、防具は本当に嬉しいです。
そういえば最近気がついたのですが、混沌ゴアの操虫棍を強化せずに使っていたという······
しかし、今日完成した装備でゴアもシャガルもボコボコにしてやります。
······ミズハじゃないですよ?


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番外:あったかもしれない過去体験 前編

お久しぶりです。


「────む?ここは······」

 

私が目覚めると、そこは全く見知らぬ場所だった。

······否、正確には知っているが見たことのない場所だったようだ。

ここは遥か上空に浮かんでいる空中艦、〈フラクシナス〉の内部だからだ。

何故わかるのかだって?簡単な事だ。

私の周りには常に鱗粉がある。

それらが伝えてきた周りの情報を整理すれば自然とそうなる。

······しかし、何故私はこんな所にいるのだろうか。

それに、身体の調子が悪い。

力が普段の二割程しか出せない。

それに、鱗粉が伝えてくる情報が少なすぎる。

この姿になってからは、形以外にも音や色まで伝えてきていたというのに、形しか伝えられない。

······嫌な予感がする。

とりあえず適当に歩くか。

そう考え、私は廊下を歩き出した。

歩き出して数分もしないうちに、見覚えのある人間とであった。

 

「あら?」

 

その人間は私を見ると、そのまま近づいてきた。

そして私の前に立つと、変なことを言い始めた。

 

「おはよう。黒姫。朝早いわね」

 

「······何故お前が私に話しかけてくるのだ?そもそも何故私はここにいる。説明しろ、コトリ」

 

私は目の前に立つ人間、いや、精霊だったか。

精霊のコトリに言う。

 

「······?おかしなことを言うのね、黒姫。私たちの仲じゃない」

 

「······殺し合った仲の精霊に何故話しかけてくる。私からすればおかしなことを言っているのはお前だ」

 

私が言うと、コトリは首を傾げる。

 

「何言ってるのよ。私たちはそんなことしてないじゃない。······確かに私が暴れちゃった時は戦ったけど、殺し合いっていうほどじゃなかったじゃない」

 

······おかしい。

殺し合いっていうほどじゃない?

こいつにとってあれはそこまで退屈な戦いだったのか?

私がほぼ一方的に攻撃し続けたのにか?

 

「それに、なんでここにいるかって言われても、あなたの家がないからとしか言えないわ」

 

「······何を言っている。私はしっかり巣を買った。ローンとやらは組まずに一括で払った」

 

「え?ちゃんと調べたはずよ?」

 

「私にはちゃんと家があるし、ここにいる必要など一切ない。帰らせてもらうぞ」

 

私はそう言い、鱗粉から伝わってくる道を歩き、地上に降りた。

そしていつものように霊装を呼び出す。

 

「〈神威霊装・厄災(ブラック・ディザスター)〉」

 

そして私は翼脚を広げて空を───。

 

「······何故だ、何故飛べない」

 

私は一度霊装を確認する。

その霊装はいつものようなものではなく、私が来ていた服を元にしたような形だった。

翼脚の翼膜はボロボロで飛べそうにもない。

 

「何が、起こっているのだ······?」

 

私は思わずそう呟く。

目覚めてから何もかもが変わっている。

······いや、変わっていないものが一つでもあるはずだ。

私はそう考え、霊装を解除し、巣に向かって歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん······だと······?」

 

私が家に着いて見たものは、『空き家』と書かれた板を門につけられていた我が巣の姿だった。

······ありえない。

私は誰かと関わるより前に巣を得たはずだ。

だというのにどういうことだ。

私は巣もなくどこで安らいでいたのだ。

······しかし、これからどうするべきか······。

巣も無いとなれば、どうやって学校に通えば────む?そういえば、何故私は制服を着ているのだ。

巣も無いのであれば、学校に通っていないはずだ。

住所というものは必要になるはずだからだ。

ということは、私はどこかしらの住所を使っているはずだ。

······どうやら力の低下と同時に身体能力まで低下したようだな。

少し歩いただけで足が痛い。

まあ無理もないか。

私そのものが力の塊なのだから。

とりあえず調べるの明日からだな。

今日は動けそうにない。

······だが、どうすればいいのか······。

私がそんなことを考えていると、突然私の体が浮遊し始めた。

······なるほど、これが〈フラクシナス〉への転送ということか。

私はそのまま〈フラクシナス〉の内部に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、どうだった?家はあったかしら?」

 

帰った私の目の前にいたのはコトリ。

コトリは私の方を見て言う。

 

「······いや、巣はあった。だが、私の巣ではなかった」

 

「まあそうでしょうね」

 

「ところで一つ問おう。何故私の力が二割程しか出せないのだ?」

 

「?どういうこと?」

 

「そのままの意味だ。そのせいで少々面倒な体質になってしまった」

 

「······何言ってるのよ。当たり前じゃない」

 

······?意味がわからないな。

 

「何を言っている?」

 

「力があんまり出ないんでしょ?そりゃそうよ。だって黒姫も「士道に力を封印された」でしょ?」

 

·········は?

私の力が、封印された、だと?

······ふざけるな。

 

「!ちょっと黒姫!落ち着きなさい!」

 

「司令!このままでは霊力が逆流してしまいます!」

 

コトリの元へ駆けつけてきた乗組員らしき人間が言う。

······霊力の逆流?

······それだ

 

「黒姫!······ッこのままじゃ本当に······!」

 

さあ、帰ってこい、私の力!

私は霊装を纏い、力が返ってくるのを待つ。

しかし────

 

「······ッ!何故だ、何故だ何故だ何故だ!何故返ってこない!」

 

「······?逆流、していない?どうして······」

 

コトリが何か言っているが、どうでもいい。

それよりも力はどうした。

何故返ってこない。

元々私の力だ。

なのに何故、何故。

······ああ、そうだ。

返ってこないなら、奪い返せばいい(・・・・・・・)

私は再び地上に降りる。

 

「ッ!待ちなさい!」

 

コトリのその言葉は、私には届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は痛む体を引きずるように歩いた。

何故かすれ違う人間共に見られていたが、どうでもいい。

それより、私は向かわなければならない。

 

「─────!」

 

────いや、その必要もなくなった。

私は武器を呼び出し、手に持つ。

その武器は片手剣「アンクofチェッカー」

······武器も弱くなっているが、問題ない。

私は走り出し、ターゲットであるシドウに近づき、その剣を振り下ろす。




本当にお久しぶりです。
モンハンとかファンリビとかやってました。
クリスマス十香は来ましたか?
自分は来ました。
今回は番外ですが、後もう一回だけあります。
次で番外は終わらせますので······。
そういえば3Gと4と4Gは本体変えてもデータそのままですが、XとXXは消えてしまうんですよね······。
そのせいでランクを1から上げ直しに······。
次も遅くなると思いますが、よろしくお願いします。


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番外:あったかもしれない過去体験 後編

お久しぶりですとしか言えない······


─────

世界が崩れる。

目の前の人間から始まり、地面、建物、空と、次々と崩れて消える。

───そして再構築される。

 

「────は」

 

私は周りを見る。

そこは先程までいた場所ではなく、機械的な、壁と天井。

 

「────」

 

私は悟った。

私の行動が制限され、ここまで戻されたことを理解し、何も出来ないのだと、悟った。

ペタリ、と床に私の手と膝がつく。

何故────。

何故、何故、何故。

私はこんなに弱くなり、行動を制限されているのだ。

そう考えた時。

 

『────』

 

「────ちっ······」

 

聴こえるはずのない声が聴こえた。

私はその声で冷静さを取り戻し、嫌々その声に意識を向ける。

そして、あの人間が表に出ていた時にやっていたように、話しかけるように思考する。

 

お前の仕業か、黒禍黒姫。

 

そして、私の中で眠った意識の名前を告げる。

 

『そうだよ。········ま、正確には少し違うよ。頼んでやってもらったの』

 

誰に────いや、わかった。眠ったはずのお前の意識に語りかけるなんて異常をやってのけるなど、あの女しかいない。そうだろう?

 

どうやったかは別として、だ。

 

『······女かどうかわからないけど、多分そう』

 

やはりか。で、どうしてこんなことをした?

 

『あなたに忠告するためよ、竜』

 

忠告?竜が大っ嫌いなお前らしくない。

 

そう煽るが、無視されてしまった。

 

『······あなたが気づいていないからよ。いつまでたっても、ね』

 

······何に、気がついていないと?

 

『あなたの身体は私が霊力を込めて飛ばした鱗粉が成長したもの』

 

·······まさか

 

『そう、あなたの力が奪われることがあれば、奪われた分だけ弱くなる。そして、力が逆流したとして、あなたに力が返ってくることはない』

 

······奪われた分だけ弱くなる、それはわかった。しかし、何故私の元に力が帰ってこないのだ。

 

『あなたが本体ではなく鱗粉による分裂体だから。分裂体である以上、奪われることがあっても霊力のパスは繋がらない』

 

パスが繋がっていなければこの船の連中が気づきそうなものだが。

 

『分裂体というもの自体がイレギュラーだから、機械が誤作動を起こす。だから誰も繋がっていないことに気づかない』

 

ふむ······

 

おおよそ理解できた。

しかし、最後に訊かねばならない。

 

何故そんなことを私に教える?教えるためだけにこんな世界を創ったのか?

 

『······教えるのはあなたが消えると私も同時に消えるから。この空間は────』

 

黒姫は何かを躊躇うように黙る。

 

早く言え。

 

『······あなたが彼らと敵対せずに、普通に暮らしているところが見たかったから』

 

────驚いた。そうか、ならばその願いに答える必要があるだろう。

 

『······え?』

 

では、私は奴らと「普通の生活」とやらをしてやろう。一日だけだ。それが終わり次第、この夢から覚めさせてくれ。

 

『······わかった』

 

その言葉を聴き、私は意識を周りに向ける。

まだ自分が床に手をつけたままだと気づき起き上がる。

さて、待っていればコトリが来るはずだ。

 

「黒姫じゃない。おはよう。朝早いわね」

 

「ん、おはようコトリ。お前も人の事は言えぬな」

 

私は最初と違い、できるだけ友好的な態度で返す。

あの人間の最後の願いだ。

叶えてやるのも悪くない。

 

「これから学校か?」

 

「ええ、そうね」

 

「なら放課後、皆で遊びにでも行かないか?」

 

コトリにそう言うと、目を大きくして驚く。

 

「珍しいわね。いつも遊びに誘っても断ってるのに」

 

「何。私のこの貧弱さをどうにかする方法が見つかったのでな」

 

どうにかする方法。

それは現実でもやった黒姫の死体を食べること。

それをすれば霊力が追加されるはずだ。

最初のコトリの話から、私はその時には既にシドウに落とされていたようだ。

でなければ本気で戦っていたはずだ。

······いや待て、こんなに弱くなった私はどうやってコトリと戦ったのだ?

戦えるはずが────

 

「本当?じゃあ今からする?時間ならまだあるし」

 

私の考えはコトリの言葉に中断された。

······まあ、後で考えるか。

 

「いや、大丈夫だ。行くのに時間はかかるだろうが、戻ってくるは早くなるからな」

 

「そう?じゃあ私は士道を起こしに行ってくるわ」

 

あの人間は妹に起こされているのか。

 

「行ってこい。私もそろそろ出る。じゃあな」

 

「ええ、また放課後」

 

コトリは言うと、そのまま歩いて行った。

さて、登山の準備······いや、支えの棒を持っていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は山にある黒姫の家の前にいる。

 

「はぁ······はぁ······ふぅ······やはり、疲れるもの、だな」

 

息を切らしながら言う。

まあ、この疲れからもこれからさよならだ。

私は家の中に入る。

少し探すと、現実と全く同じ場所に死体はあった。

······さて、不愉快極まりないが、この身体をどうにかするためだ。

食うしかない。

私は覚悟を決め、その死体に口を近づけ────

────いつの間にか食べ終えていた。

前のような感覚はなく、しかし食べたと実感出来る。

疲れが消え、普通に歩くことが出来る。

 

「試してみるか。『神威霊装・厄災(ブラック・ディザスター)』」

 

霊装を纏い、翼脚を確認する。

······よし、大丈夫だ。

これなら飛べる。

となれば早く帰らねば。

家から出て、翼脚を広げる。

そして出来るだけ速度を上げ、フラクシナスに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私がフラクシナスに戻った時には全員が揃っていた。

十香に四糸乃、耶倶矢に夕弦、美九にコトリ、そしてシドウ。

まずは全員でカラオケに行った。

歌など歌ったこともなかったが、初めてにしてはなかなかだと思っている。

しかし、皆が口を揃えて「二度と歌わないでくれ」と言う。

何故だ。

カラオケが終わると次はゲームセンターに向かった。

どうやら私の「眼」については説明されているらしく、シューティングゲームを指示を受けながらすることになった。

ゾンビを銃で撃つやつだ。

なかなか難しかったが、なかなか楽しかった。

他にはクレーンゲームもやった。

全員お揃いのストラップを入手することができた。

そして夜。

全員でシドウの家に集まって鍋を食べた。

皆それぞれが好きな素材を持ち寄ったため、なかなかに混沌とした鍋が出来上がった。

皆がそれぞれ何を持ち寄ったのか、それは言わなくてもわかるだろう。

ちなみに私は適当に肉を持って行った。

まともな材料ということで、シドウが泣いて喜んでいた。

ちなみに味は見た目に反して美味かった。

そして食べ終え、解散する。

私はフラクシナスに用意されていた自分の部屋のベッドで横になっていた。

そして私はあいつに話しかけるように思考する。

 

どうだったか?今日一日の出来事は。

 

『······あれが私の憧れたもの······』

 

そうだ。

あれが人間の日常、その一端だ。

 

『······じゃあ、約束通り元に戻すわ』

 

待て、最後に一つ答えろ。

 

『何?』

 

何故、私に日常を体験させようとした?

お前自身がこの世界にいれば良かったのではないか?

 

『······こんな夢にいても、私はきっと普通に暮らせない。暮らし方が、わからないから』

 

────そうか。

 

『······それじゃあ、さようなら。今度こそ、二度と合わないはず』

 

ああ、さらばだ。

 

────私の意識が身体から離れる。

下を見れば目を瞑った私がいる。

これから私は夢から覚める。

床が崩れる。

壁が崩れる。

家具が崩れる。

人が崩れる。

そして、世界が崩れる────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────夢から覚めたと、私は自覚する。

ベッドから降り、服を着替え、身支度を整える。

何かを呟くことも無く、ただ黙々と。

だが、鏡を見て、私は思わず口を開く。

 

「────おはよう。私」

 

そう言い口を歪め、笑顔を作る。

返事は帰ってこないが、私は巣の出口に向かう。

そして、今日も私なりの日常を過ごす。

明るい内は学生として。

時々精霊として。

さて、今日は何をしようか。

ASTにでも喧嘩を売るか。

折紙を私の理想に育てあげるために、な。




お久しぶりです。
最後に投稿したのはいつでしたっけ。
それすら忘れましたよ······。
さて、これで番外編は終わりです。
一応時系列的には黒姫が復活した日の夜の夢、というところです。
つまりまだ先のことですね()
番外編はリハビリで書くので、これから長い期間が空いた時、「あっ次は番外編だな」と思っていただければ······。
それでは次は本編です。
誰が出てくるかは······デート・ア・ライブを知ってる方なら、わかりますね?


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七罪サーチ&キル
一方的な裁判


夕暮れ時。

士道は過去に起きた火災によって廃れた遊園地だった廃墟を歩いていた。

 

「あんなことがあった直後だってのに······」

 

あんなこと、というのはもちろん黒姫のことだ。

結局、元に戻っているのかそうでないのかわからないままだ。

 

『文句言わない。精霊はその辺りにいるはずよ』

 

「了解······っ」

 

周りを見ながら歩いていると、奇妙な物を見つけて足を止めた。

 

「······は?」

 

『ちょっと?何してるの?精霊の反応はもっと先────』

 

ボロボロだった建築物は、一定の地点から先だけが綺麗に────いや、作り替えられたかのように大きく変わっている。

ゴシック建築と十字の墓標。

その二つによって悪趣味な空間になっていた。

 

「な、なんだ······これ」

 

夢かと思い、士道は自分の頬をつねる。

しかし痛みがあり、これが夢ではないと実感させられる。

 

「遊園地のアトラクションが生きてた······わけはないよな······」

 

『────ええ。微弱ながら、周囲に霊波反応があるわ。詳しいことはわからないけれど、恐らく精霊の能力に関係しているんでしょう』

 

琴里の分析を聞き、士道はごくりとのどを鳴らす。

そんな時。

 

「あらぁん?」

 

上方からそんな声が聞こえた。

声のした方を見ると、目の前にあった協会の屋根の上────そこにあった十字架に、一人の女性が腰掛けていた。

その女性────精霊の服装は、まるで物語に出てくる魔女を思わせる姿だった。

 

「うふふ、珍しいわね、こちらに引っ張られた(・・・・・・)ときに、AST以外の人間に会うだなんて」

 

精霊はくすくすと笑い、十字架から飛び降りる。

ふわふわと空中を漂い、士道の前に降り立つ。

そして、エメラルドを思わせるその目で士道を見つめる。

 

「ふぅん······?」

 

精霊は士道に顔を近づける。

思わず身体を震えさてしまったが、女性はその反応が面白かったのか、女性は再びくすくすと笑う。

 

「ふふ、別にそんなに怖がらなくても、取って食べたりしないわよ」

 

「あ、あの、俺は────」

 

士道が言葉を返そうとするも、精霊がくいと士道の顎を持ち上げたことで止められる。

 

「へぇ······なかなかカワイイじゃない。どうしたの、僕?確か私が現界するときって、こっちの世界には警報が鳴ってるんじゃあなかったっけ?」

 

「そ、それは······」

 

完全にペースを握られた士道が言葉を返そうとすると、右耳から琴里の焦ったような声が響いた。

 

『士道、そっちに向かって精霊が近づいているわ!この反応は······〈アンノウン〉よ!』

 

「な────ッ」

 

やはり、あの時元に戻っていたのか。

士道はそんなことを考えるが、すぐに目の前の精霊のことを考える。

黒姫が向かってくるということは、それは確実にこの精霊と戦うため。

この精霊の実力を知らないため、逃がすことを考えるしかない。

 

「?どうしたのかしら?」

 

「っ······今すぐここから逃げてください!」

 

士道が言うが、精霊は疑問を浮かべている。

 

「どうして?」

 

「ここにいると、えっと······」

 

士道が言葉を詰まらせていると、精霊は微笑む。

 

「私は七罪よ。あなたたちには〈ウィッチ〉って呼ばれているみたいだけど」

 

「七罪、さん。俺は五河士道······じゃなくて!ここにいるとあなたが危険なんです!」

 

「?どうして?」

 

「それは────」

 

今からあなたに向かって精霊が襲いかかってくるから。

────そう言おうとするが。

 

「ほう、私が危険、そう言いたいのか?シドウ」

 

「ッ!」

 

上方から聞こえた声で中断される。

声がした方を見ると、そこには翼を羽ばたかせ、空に浮かんでいる精霊〈アンノウン〉────黒姫の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう、私が危険、そう言いたいのか?シドウ」

 

私は空からシドウに向けて言う。

シドウは恐れているような、そうでないような顔で私を睨む。

 

「さて、シドウ。ここから消えてもらおう。それとも死にたいか?」

 

「······いや、ここから離れるわけにはいかない」

 

ふむ······そうか、そうなるなら仕方ない。

私は下に降りて口を開く。

 

「では二人でかかってこい。私は〈天使〉を使わない。この武器一つでお前達を殺す」

 

そう言って私が見せたのは操虫棍「エイムof マジック」。

それを見た精霊はくすくすと笑う。

 

「うふふ、そんなもの一つでどうすると言いの?どうやら私と同じ精霊のようだけど、私にかかればどうってことないわ────〈贋造魔女(ハニエル)〉!」

 

精霊が右手を掲げて言うと、その手には箒のようなものが現れた。

そして箒の柄尻を地面に突き立て先端部を開く。

すると、私の手にあった操虫棍が一本のにんじんにわかった。

猟虫はクワガタムシのような着ぐるみを着せられていた。

 

「ふむ、なるほど。これがお前の天使、ということか」

 

「そうよ。で、どうするの?そのにんじん一本で」

 

精霊が煽るように言ってくる。

······さすがに少しイラッとした。

よし、こいつはここで必ず消し炭にしてやる。

私はにんじんとなった操虫棍を消す。

 

「武器は使わんと今決めた。この身体一つでお前を消し炭にしてやろう。精霊」

 

「ふぅん」

 

再び〈天使〉を地面に突き立てる精霊。

そして私を見ると、その顔はありえないものを見ているような表情だった。

 

「どうして······どうして変わっていないのよ!」

 

「ふむ?変える、変える······なるほど、今お前は私の姿を変えようとしたのか」

 

なるほど、ならその表情にも納得だ。

 

「私の身体は力の塊。つまり、私の力が消えることでもなければ、私の体はこのままだ」

 

「なん、ですって······」

 

精霊は表情を変えずに言った。

さて、それでは始めようか。

 

「一つ話をしよう。これは何百年か前の話なのだが、この世界では「魔女裁判」というものがあったらしい」

 

「······それがどうしたのよ」

 

少し落ち着いたのか、精霊は私を睨みながら言う。

 

「今から裁判を始める。そして判決は有罪。そして死刑だ」

 

私はその言葉と同時に精霊に向かって翼脚を叩きつける。




色々あって遅くなってました。
個人的な都合や話を忘れたので読み直しているなど······
そういえば昨日、デート・ア・ライブ19から22巻まで買いました。
これで本編は全部揃いました。
それでは次回もよろしくお願いします!


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ふざけている

私はただ翼脚を叩きつけ、薙ぎ払う。

それでシドウと精霊は吹き飛ぶ。

 

「きゃあ!」

 

「ぐ······ッ!」

 

小さく声を上げているが────

 

「────つまらん」

 

「······は?」

 

シドウが声を漏らす。

それはこっちが言いたいことなのだがな。

 

「シドウ。お前は不完全だったとはいえ天使を使った私に勝利した。だというのにこれはどういうことだ?私の攻撃を避けるだけで反撃はしない。その精霊は逃げ続けるだけ。それなのに私の攻撃に当たる。避けるだけならせめて完璧に避けろ。今の私は、一切楽しくない」

 

あの時のシドウはほかの精霊の支援があったとはいえ、戦っていて確かに楽しかった。

だというのに······。

 

「反撃の一つでもしてみろ。なぁ、シドウ」

 

「······今は、お前とぶつかる気はない」

 

······はぁ······。

 

「······そうか。······では私は去るとしよう。あぁそうだ、ASTはここに来ないから安心しろ」

 

「······ありがとう」

 

私はその言葉に何も返さずに翼脚を広げて飛ぶ。

ただ護るだけ(・・・・・・)の敵と戦っても面白くない。

一撃でも入れようとしてくるなら話は別だったが······そんな気配はなかった。

故に私はこの場から去る。

あの精霊を護るだけ。

そんなアイツと戦う理由もない。

あの時の、助けるため(・・・・・)に振るってきた剣を求めているのだ。

アイツは誰かを助けるために······護る戦いではなく助け、救う戦いで真の力を見せる······そう思っている。

それを引き出させるために、色々考えなくてはな。

······まだ早いだろうが、今日はもう休もう。

まだ完全には調子が戻っていないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奇妙な夢を見た。

それは日常だった。

でも私のではなく、別の誰かのものと言えるだろう。

と、昼にそんなことを考えながら教室に戻ると────

 

『きゃああああああああ!』

 

······悲鳴が聞こえた。

声の方に目を向けると、そこには最低最悪の変態(いつもと違ったシドウ)がいた。

悲鳴の主は、亜衣、麻衣、美衣の三人。

······皆の前であるが、最も(むご)い殺し方をしてやろう。

まずは腕を引きちぎり、次に足を、最後に頭を三六〇度回転させた後に潰す。

私の友に手を出したのだ。

それに、本人ではなさそうだしやっても構わんだろう。

そう考え、私は偽シドウに近づいて声をかける。

 

「おい」

 

「ん?その声は────」

 

偽シドウは私の顔を見てすぐに顔を青くし、一目散に逃げていった。

 

「······チッ······必ず殺してやる」

 

私は日常シドウが逃げてた方を見ながら言う。

そんな時、教室の扉が開いた。

そして入ってきた人間は────

 

「来たか、シドウ」

 

「っ······黒姫······ってなんか変な雰囲気じゃないか?」

 

シドウは教室を見て言う。

 

「まぁ、そうだな。つい先程までお前と瓜二つの親戚(・・・・・・・・・)が来ていてな。そこの私の友に手を出したのだ」

 

「俺の親戚······?あ、ああ、アイツか!」

 

何とかフォローしたが、乗ってくれたようだ。

ま、アイツの正体は昨日の精霊だろう。

物の見た目を変えていたが、それを自分自身にも使えると考えるのは普通だ。

 

「どこ行ったかわかるか?」

 

「さてな。向こうの方に走っていったから屋上ではないかと考えるが」

 

私が言うと、シドウは教室のなんとも言えない空気から抜け出したいのか、すぐに教室から出ようとする。

 

「ありがとない黒姫!」

 

「礼には及ばん。······が、捕まえることが出来たらここに持ってきてくれ」

 

「······どうしてだ?」

 

「殺すと決めたからな」

 

「······ちょっと笑えない冗談だな」

 

「······ふっ······ま、そうかもしれんな」

 

私が最後に言うと、シドウは屋上に向かって走り出した。

さて、あの愚か者にはどのような制裁を与えようか。

そんなことを考えながら、私は自分の席に座った。




かなり短いです。
すみません。
まだ調子が戻っていないようです。


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ゲーム プロローグ

何ヶ月ぶりですか。
そうですか約5ヶ月ぶりですか()


昨日の精霊と思わしき輩が逃げてから数分後、シドウが教室の外から私に手招きしているのに気づいた。

あの精霊に関することだろう。そう思い、私は教室の外に出てシドウに話しかける。

 

「あの精霊に関することか?」

 

「ああ、そうだ。七罪────あの精霊が去っていく時、こう言ったんだ。『絶対に一泡吹かしてやる』って」

 

「······それがどうした?まさかとは思わぬが······」

 

「いやいやいや!護ってもらおうとかそんなのじゃなくてさ······ただ、気をつけておいて欲しいんだ」

 

ここで護ってほしい、などと言っていたらここで殺していた。

だが、そこまで下に見るべきではなかったか。

しかし、気をつけろ?意味がわからない。

私が遅れを取るとでも思っているのか?

 

「別に俺は黒姫が負けるとか、そんな風に思ってるわけじゃない。ただ······」

 

「······なんだ?」

 

「······七罪は黒姫に相当怯えていた。だからこそ何か仕掛けてくるかもしれない」

 

「ふむ、あやつは変装······いや、化かす、というのが適切か。それが能力だろう。だが、私はあの程度のものなら気づかぬはずがない」

 

「······その根拠は?」

 

「人やら動物やら精霊やら、そういった生きたものが動かない物になっているだけで雰囲気が違う。視線や臭いなどな」

 

私が言うと、シドウはぼーっとしていたがすぐに頭を振り、私に言った。

 

「······とにかく、警戒はしておいてくれ」

 

そうだ、いいことを思いついた。

あの精霊と共にいる時は護る戦いしかしないというのなら、精霊を人質に取ればいい。

 

「私が七罪、とやらと接触した場合。殺しても構わんな?」

 

「ッ!それは────」

 

「何、さすがに冗談だ。だが、私が先に見つけたらお前に連絡してやろう」

 

「······どういうつもりだ?」

 

「まあ話は聞け。連絡して一時間以内に私の元へ辿り着けなければ精霊は殺す。だが、間に合えば半殺しで留める。」

 

「······挑発、しているのか?」

 

「そう捉えても良いぞ。ま、あの精霊は弱すぎる。故に、間に合わなかったとしても逃がしてしまうかもしれないな」

 

何故なら私は相当な気分屋だからだ。

夢の中での感情の起伏の激しさは今でもはっきり覚えている。

気分屋故に冷めてしまうこともあるかもしれない。

自分で思いついたゲームだとしても、な。

それに、私はこのゲームで実験をするつもりだ。

少し前から前もって考えていたから今すぐにでも使えるだろうがな。

 

「······とにかく、俺が伝えたかったのはその事だ」

 

「ああ、何かあれば言ってきても構わんぞ。知恵を貸す程度のことはしてやろう」

 

「······?あ、ああ、わかった」

 

そう言うと、シドウは教室の中に入っていった。

······シドウが最後に何か疑問に思うような顔をしていた。

ああ、私にも疑問がある。

私はいつの間にこんなに甘くなっていたのだろうか。

知恵を貸す程度、か。馬鹿馬鹿しい。確かに貸してやらんでもないが、私が自ら言うことはおかしい。求められれば与えただろうが、先に選択肢として与えるように言うようになったのがおかしい。

······あの夢は、私の無意識の内に大きすぎるものになっているのかもしれないな。

そんなことを考えていると、昼休みも終わりを迎える時間になっていた。

私は教室に戻り、自分の席についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時と場面は変わり十月二十一日、五河士道は義妹である琴里から手渡された封筒の中に入っていたものを見ていた。

 

「これは······」

 

「写真、みたいね······」

 

琴里はそう言い、多くある写真の中から一枚の写真を手に取って言った。

 

「······これ、もしかして私?」

 

確かに写真には琴里が写っていた。

しかし距離も遠ければカメラの方を向いている訳でもない。つまり盗撮である。

他の写真も似たようなもので、そのような写真が十三枚あった。

夜刀神十香。鳶一折紙。五河琴里。四糸乃。八舞耶倶矢。八舞夕弦。誘宵美九。山吹亜衣。葉桜麻衣。藤袴美衣。岡峰珠恵。殿町宏人。そして、黒禍黒姫の十三人がそれぞれ写っていた。

その中でも折紙と黒姫の二人はカメラに気づいているように顔を向けている。

特に黒姫は完全にポーズを決めていた。

 

「な、なんだ、この写真は······」

 

士道は気味悪がってそう言う。

 

「入っていたのは写真だけ?他には?」

 

「あ、ああ······」

 

士道が封筒を探ると、そこにはカードがあった。

そのカードには短い文章が書かれていた。

 

『この中に、私がいる。

 誰が私か、当てられる?

 誰も、いなくなる前に。

             七罪』

 

この日から、二つのゲームが同時に進行し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、私はどうすればいいのだろうか。

七罪とやらが私の写真を撮ろうとしていたのでバッチリポーズを決めた。

一緒にいた亜衣、麻衣、美衣に変な顔をされたが、ま、それはいい。

あの写真の使い道も何となくわかるし、どうせ私以外の物もあるだろう。私以外の写真を見れば何となく何かわかるだろう。

それよりもゲームのための最終調整をしなければ。

これが成功するかどうかで、私の行動は大きく変わることになる。

できるだけ慎重に進めていかなければ。

最悪の場合、それは私の首を食いちぎる可能性もあるのだからな。




待ってくださっていた方がいたと思って謝罪します。
色々立て込んでいまして考える暇すらほぼありませんでした。
······バッチリゲームはしてたんですけどね!()
まずモンハンRISE。ゴア・マガラ追加待ってます!
次にストーリーズ2。ゴア・マガラ追加待ってます!()
正直ゲームする時間を取るのですらギリギリでした。
次は待たせないように頑張ります······!


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ゲーム Day1 Day2

しばらく短いものが続きます


目覚めた時。そこは何も無い空間だった。

自分に視力はない故、色はわからない。

だが、変わりに目となるものがこの空間にあるものの情報を伝えてくる。

人間になっている自分の容姿でさえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十月二十二日七時頃。

士道はこれからのこともあり、早く目が覚めていた。

前日の夜、五河琴里と話したことを思い出す。

写真に写っていた13人とデートする────。

そして、その中から七罪を見つけだす。

それが、昨夜決まったことだ。

写真を見た瞬間、一人は絶対に違うだろうと士道は思った。

それは黒禍黒姫。

七罪は黒姫を恐れていた。

七罪が写真の人物になるのなら、本人は監禁するなりして見つからない場所に居させなければいけない。

となると、近づきたくないだろう黒姫は自然と除外される。

 

「············」

 

士道は考えていた。黒姫は確実に白。

なら、知恵を借りる、という手もあるのか────?

 

「······いや、まずはちゃんと自分の目で確かめないとな······」

 

そう呟き、士道は身支度を整え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく学校は休みだ。

となれば、私は実験を進める。

私の実験は失敗······いや、ある意味成功ともいえるが······もし、そうなってしまい、少しでも歯車が狂えば、私は────

············ま、心配はないだろう。

私がしっかりしていればそれは防げることだ。

······それはそれとして、七罪とやらは既に動いているのだろうか。

写真はシドウに送り付けているのだろうが、細かいことはわからない。

ま、能力的に考えれば誰かに成り代わっているからそれを見つけろ。とかだろう。

写真に写っている人物を直接見ればわかる事だ。

写真を見るだけで八割はわかるだろう。

シドウのことだ。まず自分で確認してから悩みに悩んだ末に私に知恵を借りに来るだろう。

そうでなくては面白くない。

······さて、こんなことを考えている暇もないな。

取り掛からなければ。

 

「······全て、あの人間と戦うためだ」

 

思わずそう呟いた。

そして私は明日にでも実行できるように、██に霊力を流していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七罪のゲーム開始してから、一日目が終わったそれと同時に八舞夕弦が消えてしまった。

その事を八舞耶倶矢から聞いた時、士道は驚いた。

耶倶矢と夕弦の部屋にあったカメラの映像を観てみると、七罪の精霊<贋造魔女(ハニエル)>が現れ、夕弦が消えてしまう瞬間の映像が残されていた。

一日目の時点で夜刀神十香。四糸乃。殿町宏人。夕弦と既にデートしている。

二日目。

士道は、五河琴里。耶倶矢とのデートを終え、次の対象である山吹亜衣とのデートを始めようとしている────のだが。

 

「······やっぱり」

 

待ち合わせ場所の喫茶店に行くと、そこには山吹亜衣。葉桜麻衣。藤袴美衣。そして黒禍黒姫がいた。

 

「何がやっぱりなのよー」

 

「何か文句あるのー」

 

「何だコノヤロー」

 

「何の用だー」

 

この状況を予想してはいた。

二人きりで話がしたい、という手紙に警戒しないわけがないと思っていた。

だが、黒姫が着いてくるとは予想していなかった。

関わってくるにしても、もう少し後からだろう、と思っていた。

 

『······ふむ、容疑者が四人も揃ってしまったか。仕方ない。少し難易度は高いが、全員の調査をしてしまおう』

 

「······了解」

 

令音の言葉に士道は小声で答える。

四人には士道の奢りで好みのケーキセットを注文しているので少しだけ機嫌は良くなっている。

ちなみに黒姫は元から機嫌が悪いわけではなかった。

特に当たり障りのない話を続け、時間が過ぎた。

結局本人かどうかなんてわからなかった。

······だが、帰ろうとした次の瞬間。

黒姫が思い出したかのような顔をして言った。

 

「そういえば、お前の親戚はどうした」

 

「······は?」

 

妙に心配そうに言った黒姫を見て、士道はつい口から声が出ていた。

 

「先日学校に忍び込んでいたあの屑だ。わかるだろう?」

 

士道はわからない。

何故今このようなことを言うのか。

 

「······実は、あの後取り逃しちまってな······しばらく見てないんだ」

 

「それは······なるほど、いくら変態の屑であったとしても、行方不明になれば心配もしてしまうものだな。······見つかったら連絡してくれ。これが私の番号だ」

 

黒姫はそう言うと、電話番号が書かれた紙を渡してきた。

まさか、これで相談しろってことか?

そんなことを考えながら、士道は紙をポケットに入れる。

 

「一度くらい絞めておく必要があるからな」

 

「そ、そんなことしなくても······」

 

「何を言っている亜衣。壊れたら叩いて直す。それと似たようなものだ。気にすることはない」

 

「うーん······?そうなのかなぁ······」

 

亜衣が黒姫に言いくるめられている場面を見た士道は苦笑して言う。

 

「まあ、程々にしてやってくれ。······結構時間も過ぎたし、帰った方がいいんじゃないか?」

 

「む······そうだな。亜衣、麻衣、美衣、帰るぞ」

 

「あ、そうね。······とりあえず、親戚くんにはちゃんと言っておいてよね!」

 

「行方不明なのは心配だけど、それはそれ、これはこれよね」

 

「次会ったら覚悟しとけ、って伝えておいてね」

 

「お、おう······」

 

士道が言うと、四人は店から出ていった。

それを見送った士道は、今日の黒姫の様子が少しおかしかったと思った。

具体的には、少し、柔らかい印象があった。

普段使わないような士道を心配しているような声色。

それが士道にとっては違和感でしかなかった。

あの三人がいたからそう感じただけかもしれない。

士道はそう考え、会計を済ませて店を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、私は独りで反省していた。

昼にシドウに対してしてしまった対応。

心配してしまうという行為。

私が何故、彼奴を心配せねばならぬのか。

······理由はわかっている。

あの夢のせいだ。

あの夢は私の本能に『自衛』というものを深く植え付けた。

元から生物的な自衛本能はあった。

だが、植え付けられた自衛本能は私の竜としての「生き残って『龍』になる」というものと違い、「消えたくない。生きていたい」という人間のものに近いものだ。

シドウは精霊の力を奪うことができる。

私が心を開かない限り奪われることは無いが、あの夢のせいで私が無意識に心を開いてしまっている、という可能性ができてしまった。

奪われた後、私は抜け殻のような存在になってしまう。

力を失い、満足に動けず、その場に倒れ込むしかない。

そんなのは、嫌だ。

だからといってシドウを殺そうにも、殺してしまえば私の計画は破綻する。

確定ではないが、おそらく、そうなる。

シドウを心配してしまったのは、計画が破綻する、というのもあるのだろう。

だが、いや、やはり────




原作の8巻を読んだものもう結構前。
なので読みながら書いてます。
大雑把な見せ場(?)はずっと考えていましたのでそこにどうやって繋げるかを考えます。


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