信用度0から始まる異世界生活〜魔王討伐したくない〜 (京 けい)
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はじまり
目覚め


 さっきから言い争う声が聞こえている

「できるだけ多くの人を救え! とにかく生き返らせろ!」

 野太い男の声。

「ダメです! この世界はもう崩壊寸前です!」

 そう答える可愛らしい女の声。

 

 

 しかし、俺は目も開けられないし、体も動かない。

 というかフワフワしている。聞こえるのは音だけ。

 あとはなんの感覚もない。

 ここはどこだ? 俺は死んだのか? 

 

 そう考える間にも会話は進んでいく。

 

「何か方法はないのですか?」

 女からの問いかけに男の声が答える

「やむを得ぬ。あの世界に飛ばせ」

 

 その直後意識は途切れ無音の世界へと落ちていく。

 ────────────────

 

 

 

 

「おい、マコト。早く起きろ!」

 聞き慣れた友達の声が聞こえる。

 俺の体が揺さぶられている。

「あともう少し……5分だけ……ムニャムニャ……」

「そんなことしてる場合じゃねぇ」

 目を開けるとそこには友達の顔があった。

 

「男友達に起こされるとか気持ち悪すぎだろ」

「そんなこと言ってる場合じゃねぇ! 周りを見ろ」

 

 太陽がもう天頂にある。遅刻したか? 

 そう考えて周りを見る。

 

 

 言葉を失った。

 いつもの河川敷にいるのに見慣れた町がボロボロになっている。

 

 

「なんだよ…………これ」

 ようやく出てきた言葉はそれだった。

 

 

 地震? 火事? いや、それにしては街の建物がボロボロすぎる。

 救助も来てない。

 頭をフル回転させて、記憶を探る。

 

 

 

 

 まず、自分のことは思い出せるか? 

 ★★★★★★

 俺の名前は神崎(かんざき)(まこと)。17歳。

 ごく普通の高校3年生。

 自他共に認める陰キャ。

 異世界転生小説が大好き。

 

 

 横にいた友達は山崎(やまざき)(みつる)。18歳。

 俺の友達の高校3年生。

 彼も異世界転生小説が大好き。

 ★★★★★★

 

 よし。大丈夫だ。ちゃんと覚えている。

 

 

 

 

「眠る前の記憶はあるか?」

 ミツルに問いかけられる。

(そうだ。俺は何をしていた?)

 記憶を辿る。

「今日は文化祭だ。昨日まで課題に追われていて、遅刻ギリギリで学校に向かって自転車で爆走してた」

 胸を張って答える。

 

「俺も同じだ」

 間髪入れずにミツルが応える。

 

 

 となると、今の状況はなんだ? 

 思考の海に落ちていく。

 

 

 

 

 

 

 

 どれくらいの時間が経っただろうか。

 思考の海から抜け出してハッと我に帰る。

「そうだ! 何が起きた? ここはどこだ? 他の人は?」

 矢継ぎ早に問いかける。

「俺もさっき目を覚ましたところだ。すまない」

 ミツルはそう答えながら、空を見て固まる。

 もう夕暮れ時だ。

「いつの間にこんなに時間が過ぎてんだ!!!」

 そう叫んだ。

 

 彼もまた時間を忘れて思考の海に潜り込んでいたのだった。

 




2020年10月21日 感嘆符表現を修正しました。
2020年10月30日 文末表現を整形しました


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最初に確保したいもの
持ち物確認①


 日は完全に落ち、夜になっていた。

 

 今の季節は春。

 幸い制服とリュックと自転車は最後に記憶がある状態のまま、ここにある。

 今はまだ、衣替えの前。つまり冬服。

 さらに今日は文化祭の日。

 仮装ができるうちの学校では、

 文化祭は私服で楽しむのが定番だった。

 だから、2人とも私服を持っていたのだった。

 だけれども、登校は制服という謎ルール。

 このルールのおかげで着替えを確保できていた。

 ブラック校則がこんなところで役に立つとは…….

 だが、夜の気温はまだまだ低く、顔に当たる風は冷たかった。

 だからこそ、2人は我にかえって動き出した。

 もし、気温が高かったら2人はそのまま思考の海を彷徨っていただろう。

 

 

(まずは水の確保だ)

 2人は言葉を交わさずともまずやるべきことをわかっていた。

 

 生物が活動を行うには水が必要である。

 特に人間は、水と睡眠さえとっていれば食料がなかったとしても2~3週間は生きられる。

 だが、水を一滴も飲まないと、4~5日程度で死んでしまう。

 

 

 

 河川敷を下りて川へと向かう。

「この水は飲めるのか?」

 そう言いながらミツルは水をすくう。

 

 それに倣って俺も水をすくう。

(冷たい……)

 元の世界ではこの川は清流で、ほとんど加工なしで飲めるし透き通っていた。が、やはり沢の水の独特の匂いがしている。

「このまま飲むのは危なくないか?」

 未だに匂いを嗅いでいるミツルにそう答える。

「しかし、どうする。ろ過するには道具がない」

「いや、作ろう」俺はそう言った。

 

 

「まず、持ち物を確認しよう」

 そう言って、立ち上がる。と、そこでふと気づく。

(あれ、どうしてミツルが遅刻ギリギリなんだ?)

 歩きながら考える。

 ミツルは普段から授業開始10分前には必ず学校についていた。

 それが俺と同じ遅刻ギリギリなんてありえないはずだ。

「ミツル、どうして今日はギリギリだったんだ?」

「いや、持ち物を忘れてさ」

 言われてみればミツルのリュックは、パンパンだ。

「何を入れてるんだ?」

 そう尋ねるとミツルはおもむろにリュックから鍋を取り出した。

「いや、なんでそんなもん持ってんだよ! そんな高校生いねぇよ!」

 と突っ込むと

「ほら、うちのクラス文化祭でうどん作るだろ。だから鍋が必要だろうと持ってきたんだよ」

 と誇らしげに応える。

 

 

「なるほど。でも、今日は『1時間早く行く』とか言ってなかったか?」

「差し入れ買ったりしながら学校に行って、着く直前に鍋を忘れたことに気づいて家に取りに帰ってた」

「そこまでする必要ないだろ……」

 鍋のために片道30分かけて往復する彼に呆れたのは言うまでもない。

 

 そして、彼のリュックの中身はバラエティーに富んでいた。

 

 ────────────

 ミツルのリュック

 ・私服(Tシャツ・ジーンズ・上着・靴下・帽子)

 ・時計

 ・スマホ

 ・鍋

 ・プラコップ×12

 ・割り箸×100が3袋

 ・プラスチックのお椀×4

 ・トング

 ・お玉

 ・1.5Lペットボトル3本

 ・タオル

 ・ライター

 ・ハンカチ

 ・ティッシュ

 ・お菓子の外装

 ・お弁当容器

 ・水筒

 ・筆記用具

 ・ノート×5

 ────────────

「なんでこんなに入ってるんだよ」

 俺が聞くと、ミツルはこう答えた。

「いや、実は昨日の準備の後に買ってきて欲しいと言われていろいろ持ってきてたんだ」

「要するにパシリにされたのか」

「誰がパシリだ! 俺は自分から手を挙げたのだよ」

「社畜か」

「社畜じゃねぇよ!!!」

 そんなやりとりをしながら、お弁当や菓子、ペットボトルを見るのだが……

 

「中身は……空?」

「いや、来る時はちゃんと入っていた」

 それもそうだろう。

 飴を入れてあったと思われる袋は中身が空気でパンパンに膨らんでいる。

 袋が軽すぎるので試しに一つ開封してみたが中身は空。

 どれだけ探しても食品はきれいさっぱりなくなっていて、ペットボトルも空。残っていたのは空の容器だけだった。

 でも唯一水筒には水が入っていた。

「おぉ、あるじゃないか」

 そう喜ぶとミツルは、

「美味しい自家製麦茶が入ってるぜ」

 と嬉しそうに言っていた。

(じゃあなんでペットボトルは空なんだ。金属の中にあるものだけが残ったのか? どういう仕組みだ?)

 俺は深く考えて、無言のままペットボトルを調べること5分。

 それを見かねたミツルは言いにくそうに、

「あ、すまん。ペットボトルは装飾用だから元から空だわ」

 

 

「最初からそれを言え〜〜」

 思わず手元のペットボトルで殴りそうになった。




2020.10.21 感嘆符・疑問符を追加しました
2020.11.01 文章を整形しました。


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持ち物確認②

 続いて自分の荷物を確認する

 今日は寝坊をしかけて、

 その辺にあるものを全て突っ込んできた。

(さぁ、何が入っているのだろうか)

 リュックを開けて、中身を取り出すと……

 

 

 まず、有名なキャラクターのぬいぐるみと少女漫画が出てきた。

 しかもぬいぐるみにはご丁寧に「まこと」と名前が書かれている。

(解せぬ。なぜこんなものが入っている)

 それをみたミツルは

「お前にそんな趣味があったのか……。大丈夫だ。俺は気にしないぞ」

「そんな趣味はない!」

 即座に反論した。 

 

 おそらく、妹が入れたのだろう。

 そう推測する。

 

 まだ保育園に通う妹は俺のお下がりのぬいぐるみが大好きだ。

 だから、いつも保育園にぬいぐるみを持っていく。

 だが、あのおっちょこちょいな妹のことだ。

 少女漫画とともに俺のリュックに間違えて入れてしまったのだろう。

 

「いいんだ、少女漫画をお前が読んでいたって。隠さなくていいぞ。思う存分楽しめ」

「ちが──ーう!!!!」

 全力で否定した。

 

 

 

 

 

 さぁ、気を取り直して次に行こう。

 数学の課題プリント30枚。

 昨日帰ってきたテスト10枚。

 

 課題プリントはどれもこれも白紙である上、

 テストにはどれも大きく赤く書かれた【赤点再試】の文字が踊っていた。

 

「なるほどなるほど」

 ミツルが覗き込んでニヤニヤしている。

「見るなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「見てない、見てない。僕の半分も(点数が)ないことなんて見てない」

「見てんじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 ちなみにミツルは頭がいいので

 常にテストで90点以上をキープしている。

 

 

 

 ロクなものが出てこない。

 

 

 

 今度こそ。

 

 

 

 そして出てきたのは……

 

 

 

 

 

 

 大量のマスク。

 

 そうだった。

 現実世界では新型のウイルスが蔓延していて一時緊急事態宣言も出されたくらいだ。

 そんな時、値上がりした活性炭マスクを

 買い込んで粗悪品を掴まされた僕は、キャンプファイヤーでどさくさに紛れて燃やそうと100枚近く持ってきていたのだった。

 

 だが、ここは外。

 その上、この地域には駅がなく観光客が来ないこともあり、一度も感染者は出ていない。

 粗悪品のマスクなんているはずもない。

「使えねぇな」

 そう呟いてマスクを捨てようとした瞬間に閃いた。

 

 ミツルも同じ考えに行き着く。

「「ろ過フィルター」」

 そうだ。これで水を作る算段が立てられる。

 

 

 

 でもその前に荷物の確認をせねば……

 そうしてリュックの中身を出していくと最終的には、これだけのものが出てきた。

 ────────────

 マコトのリュック

 

 ・私服(Tシャツ・ジーンズ・上着・帽子)

 ・エプロン

 ・マスク

 ・三角巾

 ・活性炭マスク×100(箱入り)

 ・手提げ袋

 ・スマホ

 ・時計

 ・筆記用具

 ・お弁当箱

 ・水筒

 ・ノート×5冊

 ・数学の教科書

 ・地図帳

 ・ティッシュ

 ・ハンカチ

 ・タオル

 ・ぬいぐるみ

 ・少女漫画

 ・テスト×10枚

 ・プリント×30枚

 ・ガムテープ

 

 ──────────ー

 

「通りでリュックがいつもより重たいわけだ」

 僕は納得した。

「お前……こんなん学校に持っていったら、

 1発で生活指導反省文コースだぞ」

 ミツルは、唖然としつつも僕に問いかける。

「なんで数学の教科書と地図帳?」

 

「大嫌いな教科の本をキャンプファイヤーで

 一緒に燃やそうと思ってね。ふふふ」

 

「お前、またそんなことを企んでたのか」

 ミツルは呆れ顔だ。

 

 生徒指導室の常連となりつつあるマコトは先生など怖くないのである。

 そんなマコトがやらかす度に何かと助けてきた優等生のミツルは、

「なぜマコトと絡むのか」とよく聞かれる。

 しかし、まさか「異世界転生小説好きの同士」

 などと言えるはずもなく、

「同じクラスメイトじゃないか。助けるのは当然だろ」と言って周りからの評価はうなぎのぼりなのだが、本人は知る由もない。

 

 そんな話はさておき、これで荷物の確認が終わった。まずは飲み水を得なければ。




2020.10.21 感嘆符・疑問符を追加しました。
2020.11.01 文章を整形しました。


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ろ過

「飲み水を得よう」

 

 

 

 どうやって得るか。その方法を2人は考えていた。

 川の水を生で飲むと細菌の危険性があるのは知っている。ところが「それをどう殺菌するか」という点で、

 2人の知識は一般人のそれをこえることはない。

 

「ろ過」と「煮沸」

 検討を重ねた2人は両方を実践することにした。

 

 空には満点の星空。

 月は天頂にさしかかろうとしていた。

 

 何も飲まず食わずの二人は、

 不思議と空腹も、のどの渇きも感じていなかった。

 ────────────ー

 

 

 

「まずはろ過装置を作ろう」

 

 

 そう言ってミツルはリュックからティッシュと1.5Lペットボトルを取り出した。それを見て、俺はリュックからはさみとマスクを取り出す。

 まず、ミツルは俺からはさみを受け取ると

 ペットボトルの底を切り始める。

 俺は自分のおぼろげな記憶をたどりつつ、

 丸くきれいな小石を集める。

 

 下流であることも幸いし、すぐに必要な量が集まる。

 俺が小石を川の水ですすぎ洗いをして間に

 ミツルはペットボトルを逆さまにして

 キャップ側を下にし、ティッシュを敷き詰め始める。

 

 そこで俺はミツルに声をかける。

「おい! それは水に流せるティッシュだ!」

「しまった!」

 ミツルはすぐにその意図に気づく。

 ろ過装置の最下層部のティッシュが水にとけやすくては、不純物が混ざりかねない。

 

 

 俺は自分のリュックから箱ティッシュを取り出し渡す。

「なんでお前箱ティッシュ持ってるんだ?」

 ミツルの問いに笑いながら返答する。

内職(しゅくだい)を隠すためさ」

「お前本当にぶれないな」

 

 そんな会話の間にミツルはティッシュを詰め終わる。

 ミツルからペットボトルを受け取り、小石を入れると俺は思った。

(これでは隙間がありすぎる。何かが足りない)

 最初はこの上にマスクをかぶせれば完成だと思っていた。だが、それでは明らかに隙間が広く不純物は取り除けない。

 

「ミツル、何が足りないと思う?」

「『砂』じゃないか?」

「そうか。俺は砂利だと思うのだが……どっちにしよう?」

「両方入れてみたらどうだ?」

 言われてみれば、どちらかに絞る必要はない。

 両方入れることにした。

 

 

 そうして探して詰めること30分。

 ろ過装置の中身は下から順にティッシュ→小石→砂利→活性炭マスク→砂→活性炭マスクの順になっている。

「マコト、何かで蓋できないか?」

 そういわれて、ハンカチをぎゅうぎゅうと押し込む。

「よし。完成だ」

 こうして、ろ過装置らしきものが出来上がった。

 

 

 ろ過装置に水を注いで自転車のまえかごにくくりつけて放置する。朝までにはろ過装置の中身もきれいになるだろう。こうしてろ過装置を完成させた俺たちは眠気を感じる。

 

 ミツルに「交代で寝よう」と提案する。

 

 

 ミツルは、「先に寝ろ」と俺に言って

 何かを考え始めたようだ。

 お言葉に甘えて寝させてもらおう。

 寝ようとしてまた気づく。

(どこに寝よう)

 アスファルトは固い。

 草むらで寝れば朝露にやられる。

 

 とりあえず、少女漫画を枕にしてぬいぐるみを腰に添えて、寝る。アスファルトの上で何もなしに寝るよりは幾分かましだろう。

 そうして僕は深い眠りへ落ちていく。



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思考

ミツル視点ですが、本編に大きく関係があります。


 ふぅ。やっと寝たか。

 マコトが寝て、1人で考える時間を持った俺は

 今日起きたことを整理し始める。

 朝、確かに文化祭の準備を持って、俺は自転車を漕いでいた。だが、気づいた時にはここにいて、そばにはマコトが倒れていた。

 

 

 マコトを起こしてからのことは省略しよう、

 

 

 

 ココはいつもの見慣れた河川敷。

 だが、一つ、決定的に違うことがある。

 それは明らかに街がボロボロであること。

 というか、ほとんど原型を留めていない。

 それが何なのか分からないレベルで崩壊し、

 瓦礫の山となっている。

 マコトも俺も正直現状を受け入れられていない。

 

 

 

 だから、今日は現実に目を背けながら軽口を叩き合っていた。作業を始めてからも街のことには触れないようにしていた。

 

 

 だが、これからはそんなことを言ってられない。

 現実逃避もここまでだ。

 朝になったらしっかりと話し合おう。

 

 

 

 自転車のカゴにくくりつけたペットボトルを見る。

 もう水は消えている。

 ペットボトルの下に鍋を置き、上から水を入れる。

 これで朝までには水を貯められるだろう。

 

 次は煮沸をしなければならない。

 加熱設備を作る必要がある。

 

 大きめの石をいくつか積んで

 鍋が置けるようにした。

 

 ライターで火はつけられる。

 燃やせる紙もある。

 その辺に生えている草を使えば

 短時間は持つ。

 だが、長時間燃やすなら薪が必要だ。

 

 だが、見える範囲にある木は

 対岸の山にあるものだけ。

 

 今、俺たちのいる場所は河川敷だ。

 目の前にある川は浅いものの

 川幅は200m近くある。

 

 浅いものの毎年死者が出ているこの川を

 不用意に渡ることは避けたい。

 見える範囲の橋は崩壊している。

 どうしたものか。

 

 増してや今は夜。

 視界も暗い。

 不用意に離れてもいいことはない。

 もうそろそろ俺も寝るか。

 

 

 そこまで考えたところで、

 あることに気づいた。

(俺のスマホを確認していない)

 

 マコトと夜の初めに荷物を確認した時、電源をいれようとしてもマコトのスマホは画面が黒いまま変わらなかった。

 

 だから、「自分のスマホもつかないだろう」と考えていた。

 でも、確認はするべきだ。

 スマホの電源を押す。

 

 

 

 何も変化はおきない。

 

 

 今度は20秒くらい長押しする。

 

 

 

 だが変化は起きない。

 

 と、ここで違和感を感じてスマホをよくみる。

(充電ケーブルの差し込み口がない?)

(となるとこれは俺のスマホとは異なるのか?)

 

 もう一度画面を見てみる。

 すると薄く、本当に薄くではあるがスマホの周囲が明るい。

 どうやら起動したようだ。

 

 しかし、そこから先どれだけボタンを押しても画面を触っても画面が変化することはなかった。

 

 そして、マコトを起こすことを忘れて、ミツルは眠りに落ちていった。



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煮沸

「ふわぁぁ」

 もうすっかり朝だ。

 

 

「なんでこんなところで寝てるんだ?」

 とつぶやきが漏れる。

 

 そうして考えること10秒。昨日の記憶が蘇る

 完全に覚醒した。そうだ、ミツルはどこだ? 

 あたりを見渡す。

 

 すると少し離れたところで寝ているミツルがいた。

 起こしに行こうと歩き始めると、

 ミツルのそばに石が積んであることに気づく。

 

 なるほど、煮沸の準備か。

 

 ライターと俺のプリントを使って火は簡単におこせる。

 あとはその火をキープする方法。

 

 

 薪? いや、簡単には入手できない。

 小枝を集めるしかないのか。

 視線は、川の向こうの山に向かう。

 

 

 

 渡ろうとは思わない。

 

 

 それは、この地域の川の浅さに慢心して

 毎年多くの人が命を落としていることを

 マコトたちは、学校の先生から耳にタコができるほど

 聞いていたからである。

 

 

 となると、草か。

 

 

 河川敷には雑草が生えている。

 ど田舎の街では、河川敷の草刈りに出す金などない。

 放置されるのは必然だった。

 

 

 その辺に生えている草は腰くらいの高さがあるのに簡単に引き抜ける。

 このあたりの地面は柔らかい。

 

 草の根は川で洗って泥を落とす。

 積まれた石の隣に草を積み上げる。

 

 抜いて洗って運んで積み上げる。

 この動きを繰り返すこと数十回。

 身長くらいの高さまで草が、積み上がっていた。

 

 

 多すぎたな。

 

 そう結論づけて川に向かったその瞬間、

「ざぁ〜」と音を立てて草の山が崩壊する。

 

 

 

 ミツルが下敷きになる。

 急いで掘り起こす。

「おはよう」ミツルに声をかける。

「寝起きの男の顔ほど気色悪いものはない」

 と返答しながらミツルは起き上がる。

「なんだ、この草は」

「いや、火を使うんだろ」

「長すぎるし多すぎるだろ」

 確かに言われてみれば、

 この草の長さでははみ出してしまう。

「半分に切るか」と俺が呟くと

 ミツルは、「この量をか!?」と驚きの声を上げる。

 そう言いつつも、ミツルは黙々と大量の草を切ってくれた。

 

 

 

 そうして切ること1時間。

 ようやく最後の束を切り終え、腕に巻いた時計を見ると時間は朝10時。

 

 

 自転車の横にある鍋には8割くらいの水が入っていた。

 ミツルが鍋を持ち

 それを石の横へと運ぶ。

 

「沸かした水は、どこに入れる?」

 ミツルは俺に問いかける。

 

「どこって水筒に決まってるだろ」

 俺がそう答えるとミツルは

「ダメに決まってるだろ。俺の大好きな麦茶が入っているんだぞ」.

 と憤慨する。

「透明な麦茶とは珍しいもんな」

 そう答えると、

「透明? 俺の大好きな麦茶は焦げ茶色だぜ」

 そう言いながら、水筒を取り出すが、その中身は透明。

「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ」

 どうやら彼は、昨日水筒をちゃんとみていなかったらしい。

 

 

 

 

 俺の水筒の中身も見える限り透明。

 2人とも謎の透明な液体を飲むには、抵抗があったし、幸い喉は乾いていない。

 川へとその液体を流して2人は鍋を見る。

 

「よし、加熱しよう」

 ミツルがリュックからライターを取り出し、

 俺は、10枚のテストを取り出す。

 見たくもないテストをクシャクシャに丸めて積んだ石のところに放り込む。

 ミツルがそれに火をつける。

 カチャッという乾いた音と共に火がつく。

 先程の草を少しずつ放り込んでいくと火が安定してきた。

 その上に鍋を置いて待つこと数分。

 グツグツと音がしてきた。

 

「少しは殺菌になるだろう」

 沸騰する水の上で先程の水筒の口を下にして蒸気を水筒の中に入れる。

 それが終わると沸騰して2〜3分経ったお湯を水筒に少し注ぎ入れ、一度捨てた。洗浄の代わりだろうか。

 

 

 次にミツルは

 お湯を水筒に注いで鍋に戻す動作を何度か繰り返した。

「何をしているんだ?」俺が聞くとミツルは

「冷ましているんだ」と答えた。

 

 

 そうして水が完成した。

 

 喉が不思議と渇いていない俺とミツルはまだ飲んではいないが飲料水の完成を喜んだ。

 

 

 



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今後の相談
計画


「今後のことを考えよう」

 そう言って、ミツルはリュックからノートとシャーペンを取り出す。

 

 自転車の横に座りかけた瞬間。

 

 

 視界が揺れて周りの世界がスローモーションになる。

 立っていることができなくなる。

 

 地面に膝をつく。

 ゴォォォォと耳鳴りもする。

 

 俺は死ぬのか? 

 そう考えて、ミツルを見る。

 するとミツルも同じように地面に転がっている。

 

 俺だけじゃなくて、世界が揺れている??? 

 

「地震だ!」

 ミツルの声にハッとする。

 

 自転車が大きな音を立てて倒れる。

 かなり大きい。

 そして長い。

 

 永遠にも感じる揺れはしばらくするとおさまる。

 

 無事乗り切れたことに安心して地面に突っ伏す。

「大丈夫か?」

 ミツルに問いかけるが返答がない。

「ミツル?」

 彼のみている方向には川がある。

 

 何かおかしなところは?? 

 

 川の方を見ると血の気が引いた。

「ボ、ボーッとしてる暇はねぇ。逃げるぞ」

 ミツルの肩を叩くと、彼も正気に戻る。

 ミツルは鍋を、俺は枕にしていた少女漫画とぬいぐるみをリュックに突っ込む。

 

 

 

 何が起きたのか。

 

 川の水が引いていた。

 下流に向かって、凄い勢いで引いている、

 川底が見えそうだ。

 

 

 そう。これは津波の前兆だ。

 

 川の向こう岸にある山に今ならいける。

 走って逃げようとする俺にミツルは

「移動手段は持っておくべきだ」

 と言う。

 幸い、二人の自転車はマウンテンバイク。

 通学路に坂道が多い彼らの学校は、

 通学用の自転車に制限をかけていなかった。

 

 邪魔にはならないだろうーそう判断して山へと急ぐ。

 段差に苦戦しながら自転車を押して川を走り抜ける。

 川の水は、もうほとんどない。

 

 

 山の前で立ち止まる。

 

 登山道は、ここから1キロほど下流にある。

「どうする?」

「そこまでいく余裕はない」

 俺の言葉にそう答えたミツルは山へと入っていく。

「マジか」と言いながら俺は追いかける。

 山は、鬱蒼と生い茂る。

 ひたすら高いところへとミツルは無言で登り続ける。

 

 そうして登ること5分。

 

 

 ゴォォォォォ。

 

 聞いたことのないような音とともに水の音が聞こえてきた。

 木々の隙間から見えた波の大きさは想像よりも遥かに高かった。

「まだ俺たちのいる場所は低い。走れぇぇぇぇぇぇぇ」

 ミツルが絶叫する。

 山頂を目指して俺たちは走る走る。

 

 

 そうして走ることさらに3分。

 山頂に達した。

 山頂は開けた丘のようになっている。

 周囲を見渡すとそこにはこの世のものとは思えないような光景が広がっていた。

 

 

 見渡す限り濁流しかない。

 街全体が黒く高い波に覆われていた。

 

 

 その日見慣れた街は消滅した。

 



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会議

 俺たちは、山頂にある丘で街の様子を眺めていた。

 

 昨日は本当に疲れた。

 ★★★★★★

 

 濁流は次々と木々を飲み込み、山の上にいる俺たちに

 あと10mというところでようやく止まった

 この山の標高は、おそらく50mはあった。

 それだけの津波だったということだ。

 もし、ミツルの判断が遅ければ、

 途中で走るのをやめていれば……

 考えるのも恐ろしい。

 

 

 俺とミツルの目には街が波に飲み込まれ、

 消えてゆく様子が焼き付いていた。

 どれくらいの時間眺めていただろうか。

 水位が徐々に低くなっていく。

 ミツルの「計画を、練ろう」

 その言葉でようやく俺たちは動き出した。

 

 

 

 

「今後のことを考えよう」

 そう言って、ミツルはリュックからノートとシャーペンを取り出す。

 

 自転車の横に座りかけた瞬間。

 

 

 視界が揺れて周りの世界がスローモーションになる。

「またか」

 ミツルが叫ぶ。

 

 今度の揺れは大きいが短かった。

 10秒ほどで収まる。

「終わっ…………たのか?」

 そう呟いて立ちあがる。

「おそらく余震だろう」

 そう言って、ミツルは埃だらけの制服をはたく。

 

 再度ノートを開けようとしたミツルに

「もう、何も起きないよな」と尋ねる。

「何も起きないと信じたい」

 そういってミツルがノートを開ける。

 

「何も起きないな」

 安心した表情を浮かべるミツル。

 

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ…………

 不穏な音が聞こえる。

 周りを見渡し、不足の事態に備える。

 ズザザザザザザァァァァ

 

 

 

 土砂崩れが起きた。

 山の斜面が崩れていく。

「ほら、言ったじゃないか」

 

「そんなこと言ってる場合か?」

 さっき登ってきた方の斜面が崩壊していく。

 慌てて、山頂の向こう側へと逃げる。

「まったく、ひどい目にあった」

 そういう、ミツルの手にはノートが広がられていた。

「これで話が進められる」

「よくこの状況で、そんな器用なことができるな」

 思わず突っ込んだ。

 この状況でノートを閉じない方が不思議だ。

 

 

「話をしよう」

 ミツルがそう言って、俺たち2人は地面に腰を下ろした。

「まず、この状況からして、俺たちがいるのは……」

「「異世界」」

 2人の声が揃う。

「さすがだな」

 と、俺にいうミツルだが、

 彼もおそらく気づいている。

「不思議なことがいくつかある」

 そう言ってミツルは俺にノートを見せる。

 ────────────

 身体

 ・何も食べていないのに腹が空かない。

 ・何も飲んでいないのに喉が渇かない。

 ・体力の向上

 物質

 ・食品だけが消えている。

 ・スマホの充電口がない。

 建物

 ・全てがボロボロ。というか瓦礫。

 ・火災にしては破片が大きい。

 ・河川敷から見えるはずの自宅マンションがない。

 ・橋も倒壊している

 ・建物の周囲に内部のものがない。

 ・自動車が一台も無い。

 ・街灯がつかない。

 

 その他

 ・虫が1匹もいない

 ・空気が美味しい。

 

 

 ────────────

 ミツルのノートにはびっしりといろんな推測が書いてある。

「まぁ、今気づいていることはこんな感じだな」

「俺が寝てる間にこんなことしてたのかよ」

 少し呆れた顔で返す。

「まぁ、夢にまで見た異世界だ。興奮していたのもある」

「そうか」

 と、話しているうちに日が暮れる。

「続きは明日」

 そう言って、眠りにつく。

 あまりにたくさんのことがありすぎた。

 

 ★★★★★★

 そして、異世界に来て3日目の朝を2人は迎える。

「おはよう」

 そんな会話を短くして、2人は山頂に向かう。

 そこに広がっていたのは、津波が引いて何も無くなった更地の街であった。

 そうして冒頭の部分に時は戻る。

 



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疑問

 街の様子を見終えると2人はノートを見て、話を再開する。

「さぁ、これからどうする?」

 ミツルに聞かれるが俺の目はノートのとある箇所に釘付けになっていた。

 〈スマホ、起動??? 〉

 そう書かれていた。

「一昨日調べた時、スマホは起動しなかったよな」

 と問いかけると

「いや、実は俺のスマホはうっすらとだが光っていて起動していると思われる」

 とミツルが答える。

「嘘だろ!」

「いや、もしかしたらお前のスマホも起動できるかもしれん」

 そういうとミツルは、俺のスマホの電源ボタンを20秒ほど長押しする。

「ほら、見てくれ」

 確かに本当にわからないレベルでうっすらと光っている。

「お前よくこんなの気づいたな!」

「あの時は夜だったからな」

 ミツルの気づきに感心しながらも

「これ、ここからどうするんだ?」

 起動しても使えなければ意味がない。

「わからない」

 その返答は予想通りである。

 充電プラグの差し込み口がないスマホ。

 それは、元いた世界のそれとは明らかに別物である。

 

 

 起動方法がわかっただけでも大きい。

 

 

「まぁ、これについては後々考えて行こう」

 そう言って、スマホをリュックに入れて、会話を終える。

 

 ミツルのことだ。

 俺が思いつくようなことは、実践しているだろう。

 となると、使うには何か特殊な条件が必要なのだろう。

 

 その特殊な何かを今考えるのは、得策ではない。

 

 現実的に考えて、雨風を凌げる拠点作りや、食糧生産の方が先であろう。

「そういえば、なぜ俺たちは腹が空かない?」

 これだけ食べていないのに空腹にならないのは明らかにおかしい。

 満腹というわけではないのが、特段食べ物を欲しているわけでもない。

 

「考えられる可能性は2つ。

 ・俺たちが栄養のいらない体になった。

 ・体は栄養が必要だが、空腹を感じない体になった。

 前者だった場合はいいが、後者だった場合はまずい」

 

 

 生物が活動を行うには水が必要である。

 特に人間は、水と睡眠さえとっていれば、

 

 食料がなかったとしても2~3週間は生きられる。

 だが、水を一滴も飲まないと、4~5日程度で死んでしまう。

 

 

 俺たちがこの世界に来てから、2日が経つ。

 

 脱水症状が起きているのであれば、肌の乾燥、唇の乾燥、頭痛なにかの症状があるだろう。だがまだそのような症状はない。

 

 しかし、気づかないうちに脱水症状が進んでいたら……

 突然動けなくなっていたら……

 

 

 もしもの時のことを考えて水は、飲んでおくべきだろう。そう判断した。

 

 が、実のところを言えば、水を飲むのにまだ少し抵抗があった。

 この世界は、俺たちが今まで生きていた世界とは確実に異なる。

 俺たちの常識は通用しない。

 加熱で死なない細菌がいる可能性もある。

 

 もしものことを考えると多くの不安が襲う。

 だが、覚悟を決めなければならない。

「水を飲もう」




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能力

2人はリュックから水を取り出す。

「よし、飲むぞ」

一気に喉に流し込む。

ゴクッゴクッゴクッ

喉の奥から身体中に水が行き渡る。

(こんなに美味しいものだったんだ)

そう感傷に浸っていると突然女性のような感情のこもっていない声が聞こえる。

「『潤い』を失効しました」

 

ミツルを見る。

彼も同じ声が聞こえたようだ。

俺は立ち上がり、

「いつか言ってみたいセリフNo.1のあれをいう時が来たようだ。」

そう言って、正面に手を突き出す。

「ステータス、オープン」

 

 

 

 

 

何も起きない。おかしい。

ミツルは腹を抱えて笑っている。

気を取り直して、もう一度。

今度は大きな声で

「ステータス、オープン」

 

 

 

 

 

 

 

何も起きない。

ミツルは笑い転げている。

 

 

「アビリティ」

「スキル」

「マジック」

「ステータス」

「魔法」

「魔術」

「能力値」

様々な言葉を言う。

 

 

 

 

 

 

何も起きない。

ミツルが笑いすぎて苦しそうにしている。

これ以上は僕のメンタルがやられる。

やめよう。

 

 

 

 

 

喉が渇いた。ペットボトルの水を飲む。

 

 

 

しばらくするとミツルが落ち着いたので話しかける。

「『[潤い]を失効した』ってどういう事だ。」

「そういう事だろ。喉が渇くようになった。」

ペットボトルの水を見つめる。

2人の間に沈黙が訪れる。

飲まなければ、水分補給の必要はなかった。

水を得るにはかなりの時間がかかる上、

元となる水を得る手段を考えなければ。

そのことを考えると今回の間違った決断はあまりに重い。

 

考えをまとめようとリュックからシャーペンとノートを出そうとするとスマホが青白く光っているのに気づく。

 

 

 

 

 

その画面のおよそ1/6を「ステータス」というアプリが占めていた。

「ミツル、これを見ろ」

スマホ画面をミツルの方に向ける。

「俺のスマホも…」

ミツルも自分のスマホをリュックから取り出す。

 

 

しかし画面は黒いままだった。

「ステータス、オープン」

ミツルが呟くと画面が青白く光り、

そこには「ステータス」のアプリが現れていた。

 

 

まず、俺のを見よう。

ミツルにそう言って、アプリを開ける。

すると、まず画面に現れたのは

 

ーーーーーーーー

HP:100/100

MP:100/0

ーーーーーーーー

異世界が溢れるこの表示に心が躍るが、

おかしい。とすぐ気づく。

MPの表示がバグっているのだろうか?

しかし、これだけしか表示がないのはなんとも悲しい。 

下にスクロールするがこれ以上いけない。

右にスクロールすると、ぬるっと動く。

「おぉ」

ミツルが声を上げる

次のページにはこんな表示が。

ーーーーーーーー

名前:マコト

職:無職

信用度:0

レベル:1

ーーーーーーーー

 

学生ではなく、無職だと…

「もっと勇者とか冒険者とか、異世界めいた何かはないのか?」

と嘆くが、ミツルは冷静に

「実際問題無職なんだし、どうしようも無い。」

という。確かに。。。

 

「信用度とはなんだ?」

そう呟く。

0というのはどういうことだろうか。

「信用0とは悲しいな。」ミツルが憐れんだ目で見る。

「お前はどうなんだ!」

ミツルのスマホを奪い取り、ステータスの

アプリを押す。

だが押せない。

どうやら本人だけしか使えないようだ。

ミツルが俺の手からスマホを取り戻し、

ステータスを開く。

ーーーーーーーー

HP:100/100

MP:100/0

ーーーーーーーー

やはりMPの表示がおかしい。

そして次のページ

ーーーーーーーー

名前:ミツル

職:無職

信用度:0

レベル:1

ーーーーーーーー

なんだ。ミツルも同じじゃないか。

安心した。

俺は自分のスマホに目を落とす。

再度右にスクロールすると、驚きの表示が出てきた。



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魔法

 ────────

 スキル

 

 固有スキル(常時起動)

 ⚪︎転移セット30日パック(解除不可)残668h

 ・1kmシールド

 ⚪︎転移セット15日パック(解除不可)残308h

 ・腹八分目

 ・潤い※失効

 ・毒無効

 ・鑑定

 ・頭の潤い

 

 魔法スキル

 なし

 

 固有スキル

 →ポイント割り振り

 

 魔法スキル

 →ポイント割り振り

 ────────

 

 画面をタップすると詳細が開く。

 一つずつ見ていこう。

 ────────

 転移セット30日パック

 ▶︎神様が与えてくれた生き残るために必要なもの。

 1kmシールド

 ▶︎半径1kmに侵入不可のシールドを貼る。自らの意思を持つ虫・動物・人間などの生物は、この中に侵入することはできない。なお、同時に転移してきたもの同士にはこのシールドが通用しない。

 

 転移セット15日パック

 ▶︎神様が与えてくれた生き残るために必要なもの。

 ・腹八分目

 ▶︎常に足りない栄養が補給され、空腹になることはない。

 ・潤い※失効

 ▶︎喉が渇かない。

 ・毒無効

 ▶︎毒効かない。

 ・鑑定

 ▶︎スマホを向けると食べられるかどうかを判定してくれるアプリ。

 ・頭の潤い

 ▶︎森

 ────────

 うん。ツッコミどころが多すぎる。

 何から行こうか。

 

「やはりここは異世界か」マコトが呟く。

「『転移パック』だしな。疑いようもない」

「なぁ、さらっと「神様が与えてくれた」とか書いてあるが……」

「神は実在したのか。」

 2人は言葉を失う。

 2人とも無宗教で神の実在は信じていないほうだ。

 初詣や、冠婚葬祭などにはもちろん行くがそれはあくまで社会的な慣習として倣っているだけで、信心なんか持ち合わせてもいない。だが、こうして転移させられた。神が実在することは証明されてしまった。これは少しは神に感謝しておくべきなのだろうか。今まで神を信じてこなかったことを考えると救われたのは奇跡かもしれない。だが、この広い世界のことだ。実際に神に会えることなどないだろう。

 

 とりあえず神について論じるのはやめておこう。

 問題は中身である。

「まず、1kmシールドか」

 そう言って画面をミツルに向けると彼はその効能に驚く。

「生物が侵入できないシールド⁉最強じゃないか!」

 その効能は意思を持つ生物に限られているため、微生物や細菌植物などは、おそらく対象外だろう。

「だが、これだと食糧の確保が難しい」

「そのための腹八分目じゃないか?」

 食料を入手する見込みを15日以内に立てろということか? 

 それとも15日目以降の食料確保の見込みが立っているから15日パックなのか? 

 そこのところは不明だが、腹八分目というのはなかなか使い勝手がいい。

 満腹だと動きにくい。

 かと言って、五割を切ると腹が空いてくる。

 だからこそこの量はピッタリである。

 

 そして、潤いは失効している。

 おそらく水を飲んだことが失効の原因だろう。

 ということは……

 

「おそらく何かを食べれば腹八分目は失効する!」

 ミツルが悲痛な声を上げる。

 ミツルは甘いものに目がないため、マイお菓子を常に持ち歩いている。

 しかし、ここにきた瞬間それは失われてしまった。

 

 ミツルは、甘いものを求めていた。

 その辺の木苺を食べようとしていたくらいだ。

 しかし、現実的に考えるとこれから12日間は何も食べない方が効率的だ。

「甘いものが食べたい。砂糖をたっぷりかけたフレンチトーストが食べたい。体に悪そうなくらい甘い炭酸飲料が飲みたい……」

 何かぶつぶつ言っているがほっておこう。

 

 毒無効はあると安心だ。

 だが、接続語が抜けているのはなぜだろうか。

 

 まぁ、そんなことはどうでもいい。

 気になるのは「鑑定」だ。

 

 早速アプリを開けるとそこには驚きの表示があった。



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鑑定

 鑑定のアプリを開けるとそこには驚きの光景が広がっていた。

 自分の見える範囲にあるものがスマホを通して見ると全く別の意味を持つ。

 ミツルが食べるか悩んでいた木苺への表示がこれ。

 ────────────

 ◀︎食用不可。甘い香りが漂うが猛毒である。食べるとこの世のものとは思えないくらい美味しく感じるが、食後1時間で意識を失って死ぬ。

 食品ではなく暗殺用の薬である。

 正式名称 ストロングベリー

 別名 死のいちご 刺激が強すぎるいちご

 ────────────

 危ない危ない。死ぬところだ。

 毒イチゴなんて食えるか! 

 いや、危なくないのか? 

 俺たちには毒無効がついている。

 食べても死なないのではないか? 

 しかも食品じゃないから腹八分目にはなんの影響もない。

 

「ミツル、こいつは食品じゃないぞ」

 そう言った瞬間ミツルは目を輝かせる。

「だが毒だ」

 そう言った瞬間ミツルは本気で悩み始める。

「これは食うべきか?」

「いや、悩むなよ」

「食うか」

「いや、食うなよ」

 鑑定で毒だと出ているのだ。

 わざわざ食べにいく危険を冒す必要はないだろう。

 

 地面に生える草を見るとポツポツと食用可の表示がされているものがある。甘いものはともかく食べるものがなければそれを食べることにしよう。

 

 

 

 まぁ、それはそうと最後に謎の表示が出ている。

「頭の潤い」説明は「森」

 なんだろうか。この表示は。

 頭が潤う……森……

 逆に考えてみよう。

 頭が寂しい……

「あっ」

 ピンときてしまったかもしれない。

 自分の頭を押さえる。

 大丈夫だ。ちゃんとある。

 

 となると、これが切れたらどうなってしまうんだ? 

 頭が寂しくなってしまうのか? 

 

 そんなことを考えていると

 ミツルが「これはもしかして、神様がハg……」

 慌てて口を塞ぐ。

 勢いでミツルを押し倒してしまった。

 大丈夫。最後まで言っていない。

「この世界には触れてはいけないことがあると思うんだ」

 俺はそう言うと、ミツルは

「男を押し倒すような趣味は、どうかと思うぞ」

 と、言いながら俺の肩をポンポンと叩く。

「ちが────ーう!!!」

 全く何を言い出すのだこの男は。

「俺はお前が少女漫画を枕にぬいぐるみを抱きしめて寝ていることだって知っている。安心しろ。誰にも言わねぇよ」

「違うわっ! 寝心地が悪いから、下に敷いてるだけだ」

 そんな会話で時間は過ぎていく。

 

 

 

 さてと。

 やはり気になるのはこのポイント割り振り。

 タップしたら何か開くだろう。

「いよいよ魔法を見る時が来たか」

 そう呟いて、押そうとするとミツルが止めた。

「待て。何かあるといけない。先にパーティ登録をしておこう」

 どうやらミツルは先に次のページを見ていたようだ。

 次のページを見るとこのような表示が現れる

 ────────────

 パーティー登録欄

 登録者ID

 登録者パスワード

 指紋認証

 

 ──自分のID──

 登録者ID 264188762mdatg65

 登録者パスワード 93182254287tm659

 ────────

 ────────────

 

 お互いにIDパスワードを打ち込み指紋認証で2人の指紋を認識させる。

 どうやら登録されたようだ。

 ────────────

 パーティーメンバー

 ・ミツル

 HP100/100

 MP100/0

 ▶︎登録解除はこちら

 ────────────

 パーティー登録欄

 登録者ID

 登録者パスワード

 指紋認証

 

 ──自分のID──

 登録者ID 264186828328d695

 登録者パスワード 931822562tm624

 ────────

 ────────────

 IDが少し変化している。

 互いに登録しないといけないし、

 これなら他人に見られても大丈夫そうだ。

 

 こうして、ミツルとマコトはパーティーを組んだ。




この先の展開は頭の中でできているのですが、文字にして打ち込む時間がなかなか取れないため、少しお休みさせていただきます。
ブックマークしてお待ちいただけると幸いです。
追記11月13日に文法上の修正を行いました。


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神様

お待たせいたしました


「ちーがーうーだろーっ! 違うだろ!」

「このハゲー!」

 着衣を乱し、胸ぐらを掴まれてハゲのおっさんが目の前で怒鳴られている。

 背中が無茶苦茶小さく見える。

 いい歳をしたおっさんなのにひどい言われようだ。

「申し訳ございません」

 平謝りである。

「うん、死ねば? 生きてる価値ないだろ、もうお前とか」

 ひどい暴言である。

 怒鳴っている美少女の顔はあんなに清楚で可愛らしいのに台無しだ。

 

 時は遡ること5分ほど前。

 魔法の割り振りボタンを押した後、気が付いたら神殿のような場所にいた。

 周りには、誰もいなかったため神殿の中を歩き回っていると何か叫び声が聞こえてきた。それで来てみればこれである。柱の影から覗く、僕の視線に気づく様子はない。

 

 

「鉄パイプでお前の頭を砕いてやろうか!」

 なんか怖いこと言ってる。

 おっさんの顔を見るとなんか恍惚とした表情を浮かべている。

「あぁ、そういう人か……」

 ドン引きしながら美少女の顔を見るとこれまた恍惚とした表情をしている。「ハァハァ」と2人が荒い息をあげはじめた。(この人たちとは永遠と分かり合えないだろう)と思った瞬間、美少女と目が合う。

 

 2人の間で時が止まること3秒。

 

 気づいた時には彼女らの格好は、正装へと変化していた。

 そして、おっさんの声が聞こえてきた。

「我は神である。敬え」

 

 

「敬えるかぁぁぁ!!!!」

 そう叫んだ瞬間目の前が真っ暗に変わっていく。

 

 

 

 

 そして俺はパニックになる。

 体はバタつきながらも頭は至極冷静だった。

 一つずつ考えをまとめていく。

 真っ暗闇の中にいる。

 地面に足がついていない。

 呼吸は出来ている。

 どういう状況だ? 

 

 落下しているのか? 

 そう考えた瞬間半端ない風の力を感じて体が落下するのを感じる。

 嫌な感覚だ。

「止まれぇぇぇぇぇぇ」

 全力で叫ぶと落下が止まる。

 もしかしてとここでひらめく。

「明るくなれ」

 そう言うと暗闇が明るい空間になる。思わずまぶしさに目を閉じる。

 しばらくすると、目がさえてくる。

 

 地面よ出ろ。重力よ出でよ。

 すごい。この空間なんでもできる。

 

 とりあえず地面をマシュマロのようにふっかふかにして寝てみる。

 あぁ……気持ちいい。永遠に寝ていたい。

 そんなことを考えていると、上からミツルが落ちてきた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ」そう言って地面に激突する。

 が、マシュマロ地面に助けられる。

 ぽよんと一回バウンドして着地に成功した。

 ミツルは無事そうだ。

 「全くひどい目にあった」

 そう言ったミツルをみて思い出す。

 重力作ったの俺だなと。

 そんなことを思っていると突然目の前にパソコンが現れた。




作者遅筆ですのでブックマークでもして待っていてくれると嬉しいです。


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