Witch Defense Forces(WDF)(完結) (ハヤモ)
しおりを挟む

戦略情報部
Category: EDF


当作品内での設定等。
その為、原作とは異なる場合があります。 ご注意下さい。


戦略情報部 Category: EDF

多くの隊員は知っていると思いますが、新兵や魔女の為に随時、情報を公開していこうと思います。

 

 

「今更、そんな情報が何だというんだ!」

 

「互いに人類共通の敵がいる。 以上」

 

 

いやいやいや。

ベテラン隊員さんも多いですが、知らない人もいるかも知れないでしょ?

 

 

「どうせ少佐の部下のコトよ。 間違った情報や役に立たない情報を提供するだけさ」

 

「違いねぇ」

 

 

ええい、黙りなさい! そんなコトないもん。

ちゃんと出来るもん。

……たぶん。

 

 

「はいはいリョーカイだ。 誰も見やしないだろうし、心配するな」

 

「間違えるのがオハコなのは皆知ってるし。 とりま、さっさと仕事をしてくれよ」

 

 

ぐぬぬ。 わ、分かりましたよぉ……。

(以下説明)

 

 

《EDF》(いーでぃえふ)

《全地球防衛機構軍》(ぜんちきゅうぼうえいきこうぐん)

《Earth Defense Forces》(あーす でふぇんす ふぉーす)の略。

 

世界中に存在する、地球規模の軍事組織。

設立は17年前(開戦した2022年から遡るなら2005年)、インドの山中で発掘された宇宙船の残骸がキッカケ。 数千年前に墜落したと思われている。

プライマー(エイリアン)の存在を知った者は各国に働きかけ、結果、EDFが設立。

人類の叡智を結集し最高の兵器を開発、世界中に前線基地を設置するなど、過剰とも言えることをやっていた。

そのせいで、市民の反発もあった模様。 少なくとも228基地はそうだったらしく、市民の理解を得る為に見学の受け入れなど、交流に力を注いでいた。

 

エイリアンとの戦争が始まると、敵の圧倒的な文明差と戦力を前に段々と疲弊。 戦力も底をつき始めていく。

しかし、日本に残っていた僅かな残存戦力がコマンドシップの撃墜に成功。 その後、現れた《かの者》をストームチームが倒し、一応の終戦へ。

その後、暗黒時代に突入してしまった人類の統制や治安維持の為に奮闘していった。

 

EDFその後の世界

奇跡的に敵司令官と思われる敵を倒し、合わせるようにエイリアン本隊が撤退。 しかし使役していた侵略生物群や別種のエイリアンが残存。

復興もままならず、物資や土地の略奪が人間同士、残存エイリアンとの間で続いている。

続く戦争。 消え逝く人類。 EDFは瓦解寸前まで追い込まれている。

 

EDFと異世界

そんな中、エイリアンの転送技術を応用する事で、異世界への往来が可能になる。

EDFは新天地を、希望を求めて異世界へ部隊を送り込む計画を立てる。

守護者が侵略者に成り果てるとしても。

計画を遂行する前の実験中、不幸にも巻き込まれた者がいる。 それが欧州に取り残された兵士である。

 

operationΩ

EDF最後の作戦。 戦略情報部が発動。

残された民間人等をEDFの兵士とし、戦わせる。 EDF残存戦力が敵司令官と思われる『かの者』との戦闘中に実行された。

かの者を守る様に、世界中から巨大円盤『マザーシップ』が集結しようとしており、これらを足止めする為だった。

本来守るべき人々。 神風を信じて生き延びていた者達。

彼等を戦わせ皆死に、誰もいなくなる。 作戦内容を知った司令官は、EDF隊員らはあの日、悲痛の叫びを上げた…………。

 

それぞれの欧州

EDF5の世界では侵略生物駆除の為、駆除に実績のある日本の隊員らが派兵されている。

しかし、時が経つと欧州は壊滅状態に。 救援要請を受けて欧州の地に再度立った兵士が見たモノは、怪物に支配された街だった……。

ウィッチーズも似た様な感じで、世界から優秀なウィッチーズが欧州に派兵されていた。

この世界では、EDFの世界同様に壊滅的被害を受けている。

 

ネウロイ

異世界(EDFから見て)の人類共通の敵。

正確には怪異のネウロイ。 見た目は黒かったり灰色だったり。 形や能力も様々。

目的や正体等、一切が不明。

ネウロイと思われる怪異自体は、昔からあったようだ。 当時は生物的な形をしていたらしい。

しかし、多くは一般の人間でも対応出来る大きさ、レベルであったり、当時のウィッチが倒していたと思われる。

しかしこの年代で、突然力をつけ人類領に怒涛の侵攻を開始。 実弾、ビーム的なもので攻撃してきて、圧倒的な戦闘能力、防御力を誇る事が多い。 形も機械風で、押されている。

金属や兵器を取り込み、瘴気を撒き散らす。 その為、普通の人間では近寄れず、侵攻された土地は生物が住めない土地になってしまう。

ダメージを与えても、コアと呼ばれる核が無事な限り、再生を繰り返す。 コレを破壊すると四散する。

海、水や山が苦手なのか、これらを越えては移動しない、または あまり移動しない。

この世界の通常兵器では対処が困難。 しかし魔力には弱いらしく、ウィッチの攻撃が有効。

EDFの兵器でも、なんとか対処可能。 如何に迅速に核を砕けるかが重要である。

 

EDF隊員メモ:

この世界にもエイリアンの様な存在がいる。 黄金の装甲の様な、絶対的な防御力は無い。

魔力とやらに弱いらしいが、EDFの兵器でも対処可能だ。

 

 

ウィッチ(魔女)

この世界には魔力とやらがあって、その魔力を発揮でき、唯一ストライカーユニットと呼ばれる飛行脚等(陸上兵器もある)を使うことが出来る少女達の総称。

普段は魔力のフィールドを張ったり、ちょっとした質量の物を動かしたり、ごく稀にほうきで空を飛ぶ程度。

しかし、ストライカーユニットを装着した時は魔力の増幅で様々な能力を発揮出来る。

魔力を使える人間は圧倒的に女性が多く、しかも魔力の影響か容姿に優れた女性が多い。ところが10代をピークに年齢と共に魔力を失うことが多い。 中でも魔法シールドを失うことでネウロイと戦う戦士としての寿命が終わってしまうという。

このため兵役期間がとても短く、人々から「儚い花」さながらの憧れの象徴とされている。

それ故か、男達は機材整備担当の部門にこぞって志願するほど。

しかし「女性」として見てしまう事が多く、性的な問題が発生。 ウィッチの階級が「軍曹」からなのは、その解決策。

ウィッチの存在は古代より知られているそうだ。

この世界の人類にとって僅かな希望。 戦線は、彼女達によって支えられている。

 

EDF隊員メモ:

あの少女達含め、この欧州には、まだ人がいる。 守るべき人々が。 だが世界が違う。 俺には関係ない。 ないはずだ。

保身に走り、また生き延びる事だけを考えれば良い。 そのはずなのに。

 

 

EDF機密情報038

?????

アクセス出来るのは総司令部のみ。

軌道上に残るEDF攻撃用衛星。 ■■■■■■■■■■搭載。 最大出力は■■■■■■をも貫通する威力を誇る。

 




戦略情報部の少佐の部下絡みだから、誤情報は多少は、ね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【台本式無線集】PA-11

無線内容:
レンジャー装備
アサルトライフル:PA-11及び改修型
交信相手:
説明:【EDF】Storm1
聞手:【501JFW】バルクホルン

本編とは関係ない話です。
飛ばしても問題ありません。
読者は好きな話を摘んだり飛ばして読めるから、こういうのあっても良いよねというMGSの影響を受けての無線集。
ほら、スト魔女世界にもラジオがあるし(謎の言い訳)。

ただし。
これらは作者の解釈や妄想が含まれます。
にわか なのもあり、誤字脱字、間違いが混ざる可能性があります。
ご注意下さい。


バルクホルン:

ストームさん。 EDFの皆が持っているブラックライフル……歩兵銃についてなんだが

 

Storm1:

【PA-11】か。

EDFの主力である高性能自動小銃だ。

俺らの西暦で2018年に採用されたアサルトライフルで、安定性が高く、フルオート時のコントロールにも優れる。

撃ち続けても銃身が焼ける事は無いし、砂塵の多い地域や寒冷地、湿地帯でも確実に動作するのも強みだ。

大型目標、装甲目標には威力不足だが、信頼性の高さから今も使われ続けている。

命を預けるに値する、頼れる相棒で有り続けているってワケだ。

LS、SLSと呼ばれる改修型も存在する。

部品の見直しによる性能の底上げからの、倍率スコープ等のオプションパーツの付与により戦闘力を上げているタイプだ。

ただ、それらも基本性能の底上げには限界があり、レイヴンやストークと呼ばれる次世代銃に取って代わられた。

それでも使われ続けるのは、それだけ手に馴染んだ隊員や信頼性が高い事の証拠に他ならない。

オートマチックで、動作手順が簡単なのも良い。

ウチにいる連合兵やウィッチにも支給されているのも、そういった側面がある為だ。

 

バルクホルン:

アサルトライフル?

歩兵銃との違いは。

突撃銃といった、言い方の違いか?

 

Storm1:

この世界じゃ、まだ馴染みが無いか。

なに。 歩兵銃に違いは無い。

ただ、この世界のと比べると差異は大きいというだけだ。

制圧銃……いや、そうだな。

塹壕戦等や室内等の閉所で取り回しの効く短機関銃と、射程があり開けた場所での戦闘に適した歩兵銃並びに狙撃銃の間に位置するのがアサルトライルだ。

501で言うと……シャーリーの持っているBARと似ているかも知れない。

オートマチック。

フル・セミで射撃を選択できる面とかな。

軽機関銃、分隊支援火器としては火力不足だが。

そこは別の銃の出番だな。

とまあ、説明したが。

隊員の皆は、もっぱらフルオートオンリーで射撃している。

トリガーコントロールは指と感覚だ。

だが、歩兵が個人携行出来る火器であり、様々な戦局で使い回せるのは大きな強みだぞ。

その為、俺たちの世界の軍隊は、このアサルトライフルと呼ばれる銃種が歩兵の基本的な主力兵装になっている。

 

バルクホルン:

木製部品が無いんだな。

 

Storm1:

ああ。

プラスチックや樹脂製が使われる。

軽量化や強度確保の為だな。

兵士の負担を減らすのは勿論、携行弾薬を増やせるようにする為や、取り回しの確保。

それから、木製だと過酷な環境下では変形や腐食が起きるのもある。

 

バルクホルン:

あまり馴染みの無い言葉があるが……。

 

Storm1:

気にするな。

そのうち慣れる。

生きていれば、聞く機会も増えるさ。

大切なのは、武器の本質や運用方法だ。

仕組みを知るのも大切だがな。

 

バルクホルン:

だが、どうしても気になる事があるんだが。

 

Storm1:

なんだ。

 

バルクホルン:

見たところ箱型弾倉を使用しているようだが。

あの中に どうやって100発以上の弾薬を収めているんだ!?

 

Storm1:

バルクホルン。

細かい事を気にしてはいけない。

 




これらには指摘や間違いもあると思います。
一部は作者の妄想も含まれますので ご注意下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【台本式無線集】グラントM31

無線内容:
レンジャー装備
ロケットランチャー:グラントM31
交信相手:
説明:【EDF】Storm1
聞手:【EDF】只野



Storm1:

【グラントM31】を装備しているな。

ロケット弾の発射筒。

EDFの基本的なロケットランチャーだ。

普及していたモノだ、只野ほどのEDF隊員に改めて説明する事も無いだろう。

ましてや、レンジャーの武器は俺より詳しいはずだ。

 

只野:

一応、お願いします。

俺、ロクに訓練してませんし。

 

Storm1:

分かった。 俺で良ければ説明しよう。

 

グラントシリーズは、レンジャーが扱うロケットランチャーだ。

基本的なロケランで、全体的なバランスが整っているのが特徴。

ロケット弾も筒の中に何個か入れられるようになっている、継戦能力も多少あると見える。

 

発射時は安定した姿勢で構え、撃った時に後方の噴射口から出る高温の煙が他の人や自分の身体に当たらないか等に気をつけるべきだが。

屈強なEDF隊員に、その心配はない。

 

只野:

それは本当に大丈夫なのか……。

 

Storm1:

ナニか言ったか?

 

只野:

何でもないです、続けて下さい。

 

Storm1:

分かった。

 

弾頭は接触信管で、着弾すると爆発。

爆発、つまり範囲攻撃となるから、エイムが多少雑でも大丈夫だ。

と言っても命中精度は特別悪くなく、照準器で狙った場所には大体飛んでいく筈だ。

ライフルの弾丸と違って、距離による威力減衰は無いが、弾速は遅いからライフルの感覚で狙撃するのは無理だろうな。

運用方法としては、遠距離から中距離の敵に対しての攻撃、装甲目標の破壊、群れている敵軍を吹き飛ばしたり、障害物の破壊。

他にも状況次第で様々な使い方があるだろう。

 

只野:

空を飛ぶのに使っている隊員がいると聞きましたが……。

 

Storm1:

自爆か?

戦場で空高く待っている隊員は見た事あるが、アレがそうだったのか?

意図しての事か分からないが、身体が持たないだろう。

やるのは個人の自由だが、アーマーが強くないなら、オススメはしない。

それと下手に仲間を巻き込むなよ。

 

只野:

否定はしないんですか……。

 

ロケランで空を飛ぶとか頭オカシイって。

やっぱEDFは変人が多い……。

 

Storm1:

ナニか言ったか?

 

只野:

ナニも。

 

Storm1:

そうか。

 

そうだ、自爆で思い出した。

分かっていると思うが近距離や閉所での使用はやめておけ。

爆発に巻き込まれるからな、乱戦時での使用も注意が必要だ。

味方や自分も巻き込まれるぞ。

 

只野:

分かりました。 気を付けます。

ところで、このM31は旧式なんですか?

 

Storm1:

ああ。

M31は大戦前や初期から広く配備されていたもので、その意味で悪く言えば旧式とも取れるからだろうな。

これ以降は32、33、飛んで40、改修型等がある。

完成形や決戦仕様になると姿形も変わる。

それらは戦局を大きく変えるほどの威力があるようだが、戦争の混乱で生産が困難であったり行方不明になってしまったモノもあるようだ。

 

只野:

元々、EDFの管理体制がガバガバな気もするけれど……。

 

Storm1:

ナニか言ったか?

 

只野:

ナニも。

 

Storm1:

そうか。

 

まあ、完成形や決戦仕様が配備される可能性は低かったとしても、他の32等が手元に来る可能性はある。

それは見た目や使い方は同じ筈だ、M31に使い慣れた状態でも同じ感覚で使えるだろう。

気をつけるべきは、威力や命中精度の変化だな。

その時は、その点にも注意して使用してくれ。

 

只野:

分かりました。

 

Storm1:

この世界のロケラン、或いは似た兵器を持つ事もあるかも知れない。

501のサーニャが使用するフリーガーハマーが存在するからな。

パンツァーファーストなんてものも、あるかもな。

 

ネウロイに有効かは分からないが……。

なんにせよ、使い方や勝手も違ってくる。

全てに言える事だが、武器の取り扱いには十分に気をつけてくれ。

 

只野:

了解です。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【台本式無線集】ミニオンバスター

無線内容:
レンジャー装備
アサルトライフル:ミニオンバスター
交信相手:
説明:【EDF】Storm1
聞手:【501JFW】バルクホルン



バルクホルン:

EDFの歩兵銃は色々あるようだが、緑色のゴツいのは?

 

Storm1:

【ミニオンバスター】か。

徹甲榴弾を発射するライフルだな。

目標物の装甲にめり込み内部で爆発、二段階の損害を与えられる。

他のライフルのように振り回せる上に、装甲目標に有効なのは大きな強みだ。

よほど装甲が強力か特殊でなければ、装甲の内側に食い込んで内部で炸裂、装甲の無い内部にダメージを与えられるし、上手くいけば着弾点付近の装甲を内側から吹き飛ばし、裸にしてやれる可能性もある。

 

弾丸による損傷、爆発による追加損傷を加味してベテランは無駄撃ちを避けたり、わざと地面に撃ち込んでの爆発に巻き込ませるといった芸当をする隊員もいる。

その意味では距離による威力減衰を気にしなくて済む。

ただ爆発半径は小さい。

ロケット弾や手榴弾のような広範囲は期待出来ないから、慣れが必要だ。

それに爆発するから、近距離での使用は自爆の恐れがある、避けるべきだな。

 

バルクホルン:

徹甲榴弾、か。

EDFの世界にも、ネウロイのような強靭な装甲を持つ敵がいたのか?

 

Storm1:

まあな。

逆に そんなヤツばかりだったよ。

 

ただ、ミニオンバスター自体は対コンバットフレーム用に開発されたとされる。

……レールガンの件といい、開発経緯が必ずしも"ソレ"用だったかは怪しいが。

 

バルクホルン:

???

 

Storm1:

こっちの話だ。

 

バルクホルン:

コンバットフレームって、あの巨人か?

 

Storm1:

そうだ。

 

略してニクスと言ったりする。

テロリスト……犯罪者との市街戦を想定して造られた搭乗式強化外骨格で、人間同様の活動が可能という触れ込みだ。

爆発物による攻撃から身を守る為に、装甲でパイロットを覆っている。

 

ただ昔、紛争に使われたらしくてな。

どのような事情で、ニクスという軍用ビークルが使われたのか分からん。

ただもし、ニクスという強力な装甲を持つビークルと対峙しなければならない時に備えて、そのミニオンバスターが開発されたのではと考えられる。

その紛争に、その武器が投入されたのか、それとも紛争がキッカケで開発されたのかは調べた事がなくてな……すまない。

 

バルクホルン:

謝らなくて良い。

寧ろ、色々と教えて貰っている側だ、ありがとう。

 

そのミニオンバスターにも、種類があるのか?

EDFの作戦行動に従事するウィッチが持つのと、正規隊員が持つモノは違うようだが。

 

Storm1:

良く気が付いたな、褒めてやる。

 

恐らく、正規隊員が使っているのはフルオート機構が取り付けられている初期型か改良されたものだ。

見た目が違うタイプもあるがな。

一方でウィッチが持っているモノはバーストタイプのようだ、3点バーストだろう。

 

バルクホルン:

なんだその、3点バーストって。

 

Storm1:

トリガーを引ききっても、3発までしか出ないモノだ。

トリガーコントロールが出来ない新兵が、弾倉を空になるまで撃ち尽くす事があるから、その対策だな。

だから この機構は、他の銃にも付いている事がある。

人によっては3発じゃ多いから、2発に規制するべきという意見もある。

 

バルクホルン:

くだらん機能だ。

 

Storm1:

そう言うな。

確かに、フルオートに慣れたベテランには不評かも知れないが、継戦能力や兵站事情もある。

なに、慣れてからバーストを止めても遅くあるまい。

逆に慣れた兵士でも、指折り数える手間が軽くなるんだ、使う事もあるんじゃないか?

 

バルクホルン:

規律正しく精強なカールスラント軍人には必要ない。

 

Storm1:

キッパリ言う……。

柔軟に対応するのも大切だぞ。

 

あー、銃に施されている迷彩はどうだ。

必要な場面もあるんじゃないか?

その緑の模様は、平原や緑のある地帯では溶け込む筈だ。

特に迷彩というと、ドイツ……カールスラントでは迷彩は有効という話が出ているんじゃないのか?

 

バルクホルン:

私たちは航空ウィッチだからな……。

陸戦の兵士らは そうかも知れないが。

 

Storm1:

だろう?

 

バルクホルン:

いや分からん。

 

Storm1:

そうか……。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【台本式無線集】KFF50

無線内容:
レンジャー装備
スナイパーライフル:KFF50
交信相手:
説明:【EDF】ブルージャケット(以下:Blue)
聞手:【501JFW】リネット

ブルージャケットはEDFの狙撃部隊。

作者は にわか、無知勢です。
間違いもあるかも知れません、ご了承下さい……(殴)。


リネット:

私も狙撃銃を使うのですが。

お持ちの銃は、狙撃銃なんですね。

 

Blue:

【KFF50】か。

見た目は特別大きくないが、大口径の対物スナイパーライフル。

KFF狙撃銃はEDFの基本的なスナイパーライフルで、50は初期……普及していたものさ。

射程と精度に優れ、はるか遠方の敵を狙い撃つことが出来る。

見た目はこうだが、スペック上の威力は装甲車を一撃で破壊するんだ。

 

ボルト・アクション式は連射は出来ないが撃鉄に撃針を打たせるという過程が存在しない。

引金を引けばすぐに撃針がまっすぐ前進、タマの底に埋め込まれた点火装置(雷管)を打って撃発、銃のブレを最小限に抑えられる。

大口径とはいうが、君の持つ銃、もしくはEDFの更に強力な狙撃銃ライサンダーのように銃口から出る発射ガスを拡散させる……銃の先に付いている扇形のパーツ、マズル・ブレーキ(銃口制退器)は無いが命中率は高い。

また、ボルト・アクション式の多くは材質がなんであれ、肩当ての部分と銃身を載せている部分の銃床が一体であることも、射撃の際のブレを軽減する事に役に立っている。

 

(注意:間違いがあるかも知れません。 ご注意下さい、すいません)

 

後方からじっくり狙いを定めて一撃必殺を狙う。

逆に乱戦には向かない、突撃にもだ。

大量の敵を捌くのも向かない。

そこは味方との連携が必要だ。

まぁ……趣味なのか狂ったのか、凸砂(突スナ。 突撃スナイパーの略)なんて事をする隊員がいるがな。

 

……β型の大群の侵攻を止める戦闘では酷い目に遭ったな、長篠の戦いかと思ったら本能寺だった。

Storm1の空爆誘導が無かったら、やられていたのは俺たちだったよ。

 

リネット:

???

味方との連携は大切ですよね。

 

Blue:

そうだな。

君は見学で、ここに?

 

リネット:

狙撃をする上で、なにか参考になればと思いましてEDFの狙撃練習を見ていました。

 

Blue:

銃によってクセがあるから、ひたすら撃って練習するしかないかもな。

温度、湿度、風、弾速、落下速度。

様々な事を気にしないとならない。

 

リネットは航空ウィッチのようだが、狙撃銃を扱うのか。

空の事は分からないが、スゴいな。

姿勢のバランスも陸より難しそうだ。

 

リネット:

いえ、そんな。

固有魔法が射撃弾道安定ですし……。

 

Blue:

だが厳しい訓練をしてきたEDF隊員も負けていない!

スコープで狙った場所には大抵はイくだろう!

それこそ立ち姿勢、走りながら、ジャンプしながらな!

 

リネット:

え、えーと……それは、すごく、スゴいですね……。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【台本式無線集】人員と狼の縄張り争い。

無線内容:
EDFの兵站事情
今回は人員など。
交信相手:
説明:【EDF】オペ子
聞手:【501JFW】ミーナ
聞手:【502JFW】グンドュラ・ラル

注意:509JFW結成後。
人員や物資、利益の争奪戦。
その為、有利な立ち位置を取れるよう、大げさな言い方をしたり、攻撃的な言い方をしています。


ミーナ:

初めまして。

501JFW隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケです。

先ずは509JFW結成、おめでとうございます。

 

オペ子:

ありがとうございます。

 

ミーナ:

早速ですが、補給事情をお聞かせ下さい。

 

統合戦闘航空団は どこも10名前後、多国籍である為に政治的な事情が絡んだり、お偉方の事情で補給が減らされたり、人員移動が起きる事が多々あります。

ですが509JFWは結成が特殊、人員もウィッチだけで───名、倍以上。

陸戦も合わせると───、総合的な戦力は小さな国家戦力を超えています。

当然、これだけの戦力を維持するには必要物資も多くなると思われますが大丈夫でしょうか。

 

オペ子:

正直、厳しい時もありますね。

連合からの横槍も増えましたし。

人員に関しては作戦行動中に救出した兵士を取り込んできた結果、今の戦力にまで膨れ上がりました。

連合からはEDFとコンタクトを取り始めた初期の頃から、その件で文句を言われてきましたね。

元々はウチの国の兵士だ返せー、って。

まだ連合に組み込まれてない時は、救命行為だと突っぱねてきましたが。

509JFWとして連合に組み込まれてからは、補給を受ける以上、無視を続けるのも難しくなってしまいました。

それでも、拒否出来るところは拒否、結果として減らされた補給分は元の世界に残っている兵站……糧秣を分けて貰って食い繋いでます。

軍隊は胃袋で動く、とはナポレオンの言葉みたいですが、本当にそうだと思います。

食べ物の切れ目が軍隊の切れ目、元の世界との調整も苦労しています。

 

ミーナ:

もし人員削減を考えているのでしたら、リストアップ表を見せて欲しいのです。

人員移動先にお困りなら、501に少し分けてくれませんか。

"規律乱れる"原隊より、EDFのように"自由な"部隊にいた方が能力を発揮出来ると思います。

ジークフリート線での戦闘で、EDFの為に"多大なる損失"を被りました、その補填が欲しく思います。

 

ラル:

待った、困ってるなら502にも分けてくれ。

 

ミーナ:

グンドュラ!?

 

オペ子:

502の隊長さん!?

 

ラル:

502もEDFの為に"多大なる損失"を被った。

この補填の為に見返りを要求する。

そうだな、原隊に返す予定の者のリストアップ表を見せてくれ、それと異動嘆願書にサインをだな。

 

ミーナ:

ちょっとグンドュラ。

今は私と"二者面談"中なのだけど?

 

ラル:

おー。 ミーナ、いたのか気が付かなかった、失敬したな。

 

ミーナ:

しらじらしい……。

 

オペ子:

えーと。

そういえば、502からの書類が来てましたね、今見てみます。

なになに……509から以下の者を502に異動するものとする!?

ナニ勝手に決めてるんですか!

駄目に決まってますよ!

 

ラル:

勝手にじゃない、サインされれば認められた事になるというだけだ。

 

ミーナ:

サインされる前に気が付いて良かったわね。

 

ラル:

チッ。

EDFの人事や管理部は人手不足から緩いと思っていたが……。

クルピンスキーの引き抜きもストーム隊の隊長の妨害で失敗したようだしな、甘くはなかったか。

 

オペ子:

聞こえてますよー。

 

ミーナ:

さすがネウロイ以下の悪党ね。

 

ラル:

もっと罵ってくれ。 感じてきた。

 

ミーナ:

無線越しに拳銃を撃ちたくなってきたわ。

 

ラル:

やって良いぞ、無線が壊れて私と"二者面談"だ。

 

ミーナ:

それは許せない。

 

オペ子:

あのー。

 

ミーナ:

ごめんなさい。

 

ラル:

なんだ。

 

オペ子:

人員移動は成る可くしない方針ですので。

維持する為の兵站は、最悪はEDF側の世界で何とか出来ますし。

それに、EDFにいる子たちは今のところ心地良いみたいですし。

 

ラル:

なんだと。

 

ミーナ:

それは……限界もあるんじゃないかしら?

 

オペ子:

問題なのは兵站部隊、輸送部隊の人員です。

備蓄物資はシェルターに沢山残ってますので。

使う人間が"いなくなっちゃった"ので。

戦闘員をそちらに転属させれば、なんとか暫くはやっていけます。

 

ラル:

だとして、我々への謝礼は?

ボランティアで助けているつもりはないのでな。

 

ミーナ:

単刀直入ね……。

 

ラル:

ミーナだってそうだろう?

 

ミーナ:

私は……。

 

オペ子:

大丈夫です。

EDFの無線技術提供の他、一部の装備や物資を送らせて頂きます。

 

ラル:

気に入らないモノだったら、これ以降に届くモノは空襲という名の焚火で燃えて、お偉いさんからの電話は突然不通になるという"常套手段"を取らせて頂く。

 

オペ子:

それ、堂々と言う事ですかね……。

 

ミーナ:

人事どころか、みんなひっくり返るわね。

それこそ"ドルフィン"ちゃんも。

 

ラル:

……なぜ知ってる。

 

ミーナ:

家族の不祥事は、"お隣さん"に漏れないように気を付ける事ね。

"シャワー室"の水とか。

 

オペ子:

ま、まぁその。

そういう事ですので。

また次のテレワーク、じゃなかった、無線会議で会いましょうサヨナラ〜!

(2人がいる条件下は、もう勘弁ですっ!)

 

【無線終了後】

 

オペ子:

ミーナ中佐はジークフリート線での惨劇部分の記憶が無いのでしょう。

ラル少佐は、そもそも知らない。

知らない方が幸せです。

 

私だって……耐えられないのですから。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【台本式無線集】軍用糧食

無線内容:
EDFでの軍用糧食など。
交信相手:
説明:【EDF】只野
聞手:【501JFW】ルッキーニ

注意:内容はイメージや作中での設定、妄想です。
実際のレーション等の話を参考にしている部分もありますが、EDFでも同じかは分かりません。


只野:

配給される軍隊の飯、レーションの味には慣れたか?

 

ルッキーニ:

慣れない!

なにあれマズい!

 

只野:

ははっ、お子さまランチの方が好きか。

 

ルッキーニ:

EDFの人だって、マズいって言ってたもん!

 

只野:

まぁ俺も苦手なモノは苦手だよ。

下手に大味にしてあるヤツとか、ジャガイモを茹でただけみたいなヤツ、ゴムみたいな弾力のあるモノ、粘土みたいにモソモソしてるモノとかな。

だが、モノによるんだ。

和食缶は美味しいのもあったし。

 

ただレーション自体、国によって食文化が違う以上、一概にコレがレーションだと言えないからな。

 

ルッキーニ:

でも、リベリオンの缶詰も飽きたし……。

 

只野:

ランチョンミートか?

茹で過ぎたスパゲッティ?

或いはMRE?

アレはミステリーだの、誰もが拒否した食べ物だの、食べ物に似た何かだのと言われたそうだが。

いや、それは1940年代には無いか?

 

EDF駐屯地にいる間のギャリソン・レーション、兵食は良い方だろう。

まあ、ミーナの手料理はアレだったが。

 

俺は夢にまで出て魘された……カマキリの頭のシロップ漬けとか、頭オカシイだろ。

(作者が見た、おおよその悍ましい悪夢。 なおスト魔女は関係ない)

 

いや、現実のミーナは そんな事はしない筈だと願いたい。

とにかく、あんな悪夢は二度と御免だ。

 

ルッキーニ:

へ?

 

只野:

なんでもない。

ルッキーニはミーナの方が好きか?

 

ルッキーニ:

それはもっとヤダー!

芳佳のが良い!

 

只野:

なら我慢しろ……とは可愛いそうだから、コレをやる。

 

ルッキーニ:

やった! チョコレートだぁ!

おお、しかも分厚い!

 

只野:

チョコレートもレーションとして支給される事がある。

カロリー面を補う為だ。

因みにソレは溶けたり腐ったりしないように工夫された軍用チョコレートだ、しかも携帯非常食のもの。

 

ルッキーニ:

うっ……マズいぃ……。

 

只野:

はっ! ひっかかったな!

そりゃ、わざとそうしてるからな!

 

ルッキーニ:

なんで!? 意味分かんない!

 

只野:

言ったろう、非常用だからだ。

美味しいと俺ら兵士がオヤツにして食べてしまうからな、その対策らしい。

味は茹でたジャガイモよりややマシな程度だ。

 

ルッキーニ:

それ、本当にチョコレート?

 

只野:

一応な。

山の中だとか、或いは食べ物に困った非常事態の中で食うモノだ、高カロリーなら味は二の次で良かったんだろう。

 

まあ、非常用だからそうしたってのは分かるんだが。

これ、大量生産し過ぎたみたいでな……そうなると簡単に兵士の手元に来るし、被る。

そうなれば食う機会が増えるのは想像に難しくない。

そんで俺の手元にも来た、食った、不味かった……。

チョコレートという甘い言葉に騙されたよ。

 

これは他の兵士も同様の感想で、不味いで満場一致するシロモノだ。

非常用なのは分かるが、そんな味が大量に出回ったので"エイリアンの秘密兵器"とかあだ名されていたぞ。

 

ただ開発部もマズいと思っていたのか、改良したモノや代用したモノも出た。

改良版の評価はマチマチだったが、代用品は評価は悪くない。

時にソレら娯楽品となるものは、兵士同士の物々交換に使われる事もある。

それをやろう、ほれ。 袋を開けてみろ。

今度は大丈夫だぞ。

 

ルッキーニ:

カラフルな、丸い粒?

 

只野:

糖衣チョコレートってヤツだね。

粒状にしたチョコレートを砂糖でコーティングしてるんだ。

さっきのヤツより溶けやすくはあるが、例えチョコが溶けても砂糖の殻は無事だから、手をベトつかせる事なく手軽に食べられる。

 

ルッキーニ:

さっきより美味しい!

それに面白い!

 

只野:

それは良かった。

小さくカラフル、子ども受けも良いだろうと思ったが、気に入ってくれて良かった。

まあ、民間に出回っていたモノをそのままレーションに入れてるのもあるか。

 

無骨なレーションの箱を開けると、カラフルな色が飛び出す事もある。

ギャップが激しいが、食事が兵士たちの娯楽、癒しになり、士気が上がるなら良い事だ。

俺も好きだしな。

 

もちろん、チョコレートのみならず、ちゃんとした食事は大切だ。

これなんてどうだ、お湯を入れたり水と石灰の化学反応を利用する事で温かい食事を取れるようにしたレーションだよ。

 

ルッキーニ:

袋から湯気が出てる!

 

只野:

缶詰より美味そうだろ?

後方とか、安全な場所で食うならソレが良い。

お湯を入れる余裕があるならな。

水が貴重な時、湯気を立てられない時、そもそものんびり食ってられない時は無理だろうが。

 

…………水不足の砂漠でパスタを茹でたとか、そんな話を聞いた事はあるが。

アレは都市伝説の類だと思うが……。

まさか、この世界ではマジでやった兵士が?

アフリカ戦線あたりは、どうなんだ?

 

ルッキーニ:

砂漠? パスタ?

 

只野:

何でもないよ。

 

さて、ソレらはカップ麺みたいに、お湯を入れて解れていくようなモノもあるけれど。

加熱殺菌処理された、予め調理されたモノを温め直して食うモノもある。

それらは俺らの世界じゃ、民間でも出回っていたが……開発経緯には様々な苦労があったという。

保存が効いて直ぐに食える事、大量生産、安全に輸送が出来る様にする為とか。

 

支給されているモノには、使い捨てスプーンなどの簡易的な食器が付属する事もある。

それはカレーのルゥだ、あげるよ。

 

ルッキーニ:

美味しい!

野菜の甘さが滲み出て……パスタに合うかな……。

 

只野:

やっぱそっち?

 

ルッキーニ:

 

只野:

いや、美味いなら良かった。

 

あとは缶詰か。

ある程度は頑丈なのと、保存期間の長さに違いがあるかな?

こっちの世界でも、兵士の飯として出回ってるだろう、美味いかどうかは別にして。

 

食う時は、缶詰を開けて そのまま食えるようになってる事が多いかな。

でなきゃ困るし。

ただ直ぐ食えるかは、モノによるかも知れない。

食器が無いだけならともかく、缶切が必要なタイプなのに開ける道具が無いとか。

その場合、前線の兵士は銃剣で抉ったり、時には撃って開けるしかない。

ただ、それをやると危ないし、中身が漏れ出す他、銃剣を使えば刃こぼれするなど、武器を痛めてしまう。

飢えるよりマシだが、良い事とは言えないな。

それでいて量が少なくマズかったら……嫌すぎる。

 

ルッキーニ:

美味しいのは大切だよね(パクパク)。

 

只野:

そうだな。

兵士の士気に関わる。

美味いものを お腹いっぱい食べられるなら、元気も出るしな。

 

腹が減っては戦は出来ぬ、ってね。

 

ルッキーニ:

(パクパク)

 

只野:

……軍隊と飯の関係は古来より切っても切れない難しい関係であり続けた。

場合によっては武器弾薬より重要な分野だ。

軍隊は沢山の兵士で運営維持されるが、そこには沢山の胃袋。

それらを満たすには大量の食糧が必要。

でなきゃ空きっ腹、それだと戦えないし、そもそもナニも動けない。

 

今も、そういう時は少なくないが……かつてはほぼ現地調達。

敵国からの略奪、商人からの購入。

食う物に困り、犯罪に手を染めるような事態に発展することも。

それを防ぐためにも、軍隊を機能させる為にもレーションの開発は行われてきた。

だが保存や輸送、過酷な戦場の環境、カロリーの問題など、多くの壁が立ちはだかる。

勿論、さっき言った味の問題もある。

マズ飯で反乱が起きたなんて話もチラッと聞いた事があるくらいだ。

それらに対処するべく、開発陣は涙ぐましい努力を重ねて俺ら兵士の胃袋を満たそうとしてくれている。

様々な味、携行の良さ、手軽さ、美味さ。

それらは大切だ。

それは、きっとこれからも。

この世界も、きっとそうだ。

 

マズいモノはマズいがな!

 

とにかく。

食事とは、それだけ兵士の士気などを左右するキャパシティだと言える。

食い扶持を求めて軍隊に入る者もいる。

俺らの世界は特に……いや、その話はやめておくが、その意味でも生きる為に軍に入る者は、この世界でも少なくないだろう。

509JFWに来た兵士らも。

せめて、美味い飯を食っていて欲しい。

それは生きている間でしか味わえないからな。

 

ルッキーニ:

ごちそーさま!

 

只野:

飯の重要性、聞いてなかったな?

 

ルッキーニ:

だって長いんだもん。

 

只野:

……自覚はあるが、言われるとヘコむな。

orz

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

欧州に芋ってます。
1.欧州から欧州へ。


ストパン。 続く戦争と敵の謎。 作者はにわか。
でも色々な解釈やモブ的視線の数々を作れそうですよね。
オリジナル展開。 この世界の欧州は恐らく、壊滅的。

軍事的、歴史的な解釈や話は苦手。 EDF的なノリ。
駄文。 見切り発車です……。


これは俺の、元EDF兵士の独り言だとでも思ってくれ。

赦しを乞うにも、相手もいないからさ。

 

単刀直入に言う。

欧州に取り残されました、はい。

 

今は建物の中に潜み、外の怪物の声や音に怯える日々を過ごしてる。

 

俺は日本から欧州救援の為に派兵された兵士なのだが、気が付けばこのザマだ。

 

ああ、いや。 俺が悪いんだけどさ。

 

地球を攻めて来たクソッタレな怪物共に人類は押されに押されていた時、欧州から救援要請がきたのが始まり。

遥か遠くの欧州。

行ったって、間に合わないのはアホでも分かっていた。 でも見捨てられないと派兵されて……案の定といった光景。

 

本部は馬鹿か。

日本支部に派兵する余力は無いというのに。

 

いや……もう、希望を渇望して祈る毎日だったのだ。

だからこそ、同じ境遇者である人類を見捨てられなかったのだろう。

 

俺は必死に戦った。

 

ストーム・ワン隊長の指揮下、守るべき者がいない街で銃声を響かせた。

でも、怖くなった。

ひとり、またひとりと仲間が斃れ、次は俺かも知れないと思ったのだ。

いくら頑張っても、怪物やドローンは減る様子を見せない。

それどころか、増援とばかりにクイーンまでやってきた。

 

俺は、逃げた。

 

敵前逃亡。

重罪だ。 射殺されても仕方ない。

でも、あの状況じゃ仕方ないだろう?

怪物が多過ぎる。

そも、俺に構える暇人は あの場にいない。

乱戦による混乱に乗じて、俺は走った。

アンダーアシストを装備していたから、人外の速度で一気に戦線を離脱。

幸いにも、いや、不幸にも俺は生き延びた。

生き延びて、しまった。

 

今じゃ、後悔ばかりだ。

 

あの場で、皆と死ぬべきだったかも知れない。

いや、ひょっとしたら運良く生き延びれたかも知れない。 生きて日本に帰れたかも知れない。

 

だが現実は逃げた身だし今頃、欧州から脱出してEDFと合流しようと思わない。

合わす顔がない。

そう言い訳して日々欧州の建物内に身を隠し、かつての仲間の亡骸や残骸を漁っては物資を拠点にしている建物に持ち帰る。

 

時々聞こえる怪物の這い回る音や鳴き声に怯えながら、悪夢に魘されて過ごす日々。

もう兵士とは言えない、情けない今。

 

 

「ハハッ……どうなるんだよ、俺」

 

 

そう自傷気味に呟いた時。

俺は、俺のいる建物は光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クソ共の光学兵器?

ああ、だとしたら凄いな。 またも新兵器かも知れない。

 

だって。

 

俺は1940年代の欧州に、飛ばされたんだからな。

 

それもタダのタイムスリップじゃない。

人類共通の敵ネウロイとかいうバケモノがいて、可愛い魔女が魔法を駆使して戦ってるんだからな!

 

 

「……えぇ」

 

 

頭がおかしくなった、と思われても仕方ない。 だが全俺公式である。

残念ながら……俺は正気だ。

とか、かつてのEDF総司令官の放送を思い出しながらボケてみた。 まだボケる歳じゃないと思っていたが無理だった。

 

 

「コレはアレですかい。 罪を犯したから、償えと? この欧州の人々を守って見せろよEDFと?」

 

 

第二次世界大戦の旧式兵器群に、俺の時代でも見たような形をした怪物共。

後、パンツ丸出しで戦う10代の空飛ぶ変態ビッチ……じゃなかった、編隊を組むウィッチーズ

 

 

「もうヤダこの星」

 

 

戦う前から敗北ムード。

だけど戦います。 戦えば良いんでしょ?

 

アレだ。

名前が変わっただけだと思おう。

 

ウィッチーズはウィングダイバー。

降下翼兵だと思おう。 空飛ぶウィッチは機械化航空歩兵とかいうらしいが。

空飛ぶし。 陸戦ウィッチもいる様だけどね。

パンツも……ウィングダイバーの短パンだと思おう。 航続距離も全然違う様だけど!

 

ネウロイは、いつもの怪物。

コロニストやコスモノーツ、その文明兵器の類や侵略性外来生物だと思おう。

 

おお…………何とかなりそうだぞ。

 

 

「そんなワケねぇだろ! 元の世界でも散々苦戦したんだぞ馬鹿かコンチクショウ!?」

 

 

なんだかんだ、戦場に再度立つ。

溜め込んだ武器弾薬装備で、謎の敵を何とか出来るか分からない。

 

拠点の建物を要塞化させつつ、迷い込んだウィッチをカバーし、ネウロイを倒す。

無理なら逃げる。 それは昔と同じだよね。 でも逃げる。 命大事。

 

地球防衛機構陸軍 日本支部 欧州救援隊。

只野 仁 二等兵。

兵科は特戦歩兵、レンジャー

 

防衛に邁進させて頂きます!

無理なら逃げる。

所詮、俺は英雄じゃない。

消耗品の最下級の二等兵、モブルーキーさ。

 




軍団ひとりは厳しいだろうから、EDF兵士の増援を要請。
続かないかも……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2.ウィッチ救出。

作戦内容:
拠点の側に墜落した航空ウィッチの救助。
備考:
周囲は戦闘中。 敵味方の詳細不明。 孤立無支援状態下である事を踏まえ、速やかに回収、拠点に撤退する。

装備:
PA-11(自動小銃)
説明:
EDF主力自動小銃(アサルトライフル)。
現代で見られるような、一般的なシルエットをした小銃。
多くの隊員が使用する。 しかし、対人なら兎も角、群れを成し強固な対弾性を持つ侵略性外来生物には効果が薄かった。
ボルトアクションや、セミオート等の単発式がまだ主力である時代からしたら、フルオート可能の携行容易な歩兵銃であり性能も段違い。
またEDF製に見られる特徴として、ボックスマガジン系でありながらワンマグ3桁の装填数を誇る。 銃身が焼ける事もない。
謎の技術。 初期装備から既にややチート。


外を見て、俺は唖然とした。

ナニかが燃える臭い。 風。 銃声。 叫び。 緊張。

久し振りの戦場の肌触りは そのままに、違和感を感じたのは光景だった。

先ず、知らない街並みだ。

いや欧州に見られる洋風な街は同じよ?

戦時中だから、崩れてボロボロなのも分かる。

でも、明らかに建物の配置が違う。

時代も古い感じがする。

 

振り返る。

 

ココは変わらない。

芋ってる、拠点にしてる建物だ。

間仕切壁は崩壊し、ちょっとした広場になっている。

お陰で、物資を転がしやすい。

集積した物資が転がり、俺の寝床も見える。

奥には鈍い光を反射する、万が一の切り札だけど、修理中な搭乗式強化外骨格コンバットフレーム。

それと兵員輸送車グレイプ、急造品小型戦車105ミリ榴弾砲のブラッカーE1型。

これらもボロボロだが、動きはする。

そんなビークルが、なんとか収まるレベルには広い。

 

もう一度、外を見る。

 

うん。 知らない街並みだ。

なんなら銃声も聞き慣れない。

EDF製じゃないのは分かる。

 

 

「欧州、だよな?」

 

 

答えてくれるヤツがいないのに質問する俺。

独り暮らしが続いたからか、独り言が増えた気がする。

空に高い声が響いた。

釣られて見れば、女の子が空を飛んでいた。

ケモ耳、ケモ尻尾を生やし、パンツ丸出しで両足にレシプロ機みたいなのを着けている。

それが何人もいて、手には世界大戦時の銃火器を持っているときた。

スカウト程の観察眼は持ち合わせてないが、間違いない。

いや、間違いであって欲しかった。

 

 

「ッべー、マジヤッベーわ」

 

 

頭がイッてしまったようだ。

狂気の戦場でイカレるのは珍しくないが、自覚しているタイプっているのだろうか。

もしいるなら、それは俺だろう。

 

 

「だってそうだろう。 ケモ耳生やした美少女戦隊が、世界大戦時代の武器持って空飛んでるんだぜ?」

 

 

タイムスリップしたと言われるより、非現実的な光景にテンパる。

異世界物小説とか、萌え萌えアニメを見ていたダチなら順応出来ただろうが、俺には不慣れなモノだった。

 

 

「落ち着け。 俺にはEDFの防弾着と武器がある」

 

 

取り敢えず、アサルトライフルを抱き寄せる。

EDFの主力自動小銃PA-11。

使い慣れた銃だ。

細かい傷だらけの黒い銃身は、一見歴戦の武器で強そうだが侵略性外来生物には威力不足。

その代わり安定しており、確実な動作から信頼性が高い。

戦場で武器の動作は、そのまま生死に直結するからな。

戦前から生産されていたのもあり、予備部品や弾薬が多くある。

それは欧州でもそうだった。

その為、芋生活では信用出来る護身用として装備する。

レーザーサイトやスコープを載せた改修型もあるにはあるが、壊れたら嫌なので出し惜しむ。

別に外に出るワケじゃなければ、それで良い。

センサー機能が生きているサングラス・ディスプレイもある。

薄汚れた、だけど十分な防弾性のヘルメットと、アーマーも着用している。

 

大丈夫。 大丈夫だ。

俺は死なない。

今日も、生きている。

明日になれば、いつもの欧州さ。

 

とか思っていたからか。

 

すぐ外の通りで、デカい音。

何かが落ちてきた、墜落音。

 

 

「ッ!」

 

 

反射で銃口を外に構えた。

外では黒煙をばら撒きながら、地面を滑るように移動するナニか。

まるで飛行機が落ちたかのような、しかし明らかに人間サイズ。 色々悟る。

 

 

「さっきの女の子か!?」

 

 

それ以外ナニがあるのか。 ドローンか?

確認しには行かない。

女の子にしろ、ドローンにしろ、関わるのは御免だ。

 

 

「可愛そうだが……俺はもう、EDFじゃない」

 

 

危険を犯してまで見に行く価値は無い。

頭がイッて、妙な幻覚を見てるだけかも知れない。

きっとそうだ。

一晩眠って、そうしたら いつもの欧州。

怪物が跋扈する、クソッタレな世界に戻っている。

 

それも嫌だ。

でも、今の状況は。

 

…………守るべき人類が、存在している。

 

 

 

「ああっ! 分かったよクソッ!!」

 

 

気が付いた時には駆け出していた。

罪の意識からは逃げられない。

なにより、隊長の影響が強かったかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ………うぅ」

 

 

ひとりの可愛らしい女の子が、崩れた欧州の町に横たわる。

背が低く、まだ10代やそこらと思わせる体格。

擦りむいたのか、あちこちから、赤黒い色が滲んで見えて痛々しい。

ただ妙なのは軍服と思われるモノを着用しており、両足には第二次世界大戦で使用されていた戦闘機のデザインをした筒を履いている事だ。

こんな兵装はEDFには存在しない。

近いモノでウィングダイバー装備があるが、あちらは背中に着け、鳥のような大きな翼を携えるが、彼女は足のみだ。

先程、空を飛んでいた女の子で、ウィッチと呼ばれる魔女のひとりだ。

恐らく戦闘中、被弾したか何かで墜落したと思われる。

何とか生きているが、武器は何処かへ行ってしまい、当の本人も怪我で思うように動けない。

そんな無防備な彼女に集るように蟻の様な形をした怪物がにじり寄る。

 

 

「ネウロイッ!」

 

 

金属のような生命体のような、なんとも言えないソイツら。

α型を思わすソレは、少なくとも友好的な様子ではない。

 

 

「い、いや……!」

 

 

彼女は怪物に気がつくと、腕で這って離れようと もがく。

匍匐前進と言うには粗末が過ぎる、ナメクジのような動き。

対して蟻モドキの方がずっと速い。

このままでは彼女は餌食になる。

喰われるのか刺し殺されるのか、はたまたビームでも撃たれての射殺や爆散か。

どんな惨い死に方かは分からないが、絶命する事には変わらない。

 

 

(死にたくないっ、死にたくないよぉっ!)

 

 

いつ襲って来るか分からない苦しみに怯え、絶望に挫けそうになった、その時。

 

 

この世界にもα型がいるのかよ畜生がああああッ!!

 

 

若い男の雄叫び。

撃ち鳴らす銃声は、戦場のドラム奏者。

 

その小銃弾は、吸い込まれるように怪物の群れに飛び込んでいく。

無数の火花や怪物の欠片が激しく飛び散り、突然の攻撃に怪物は怯んだ。

 

 

(味方!?)

 

 

見捨てられていない事に刹那の喜びを感じ、音のする方を見やると、

 

 

「えっ!?」

 

 

そこにいたのは、見た事も無い格好の兵士。

 

薄汚れたヘルメットやプロテクターにアーマー類。 目には黒い眼鏡みたいなもの。

武装は見た事も無い歩兵銃。 激しくマズルフラッシュを焚いており、機関銃さながらである。

なのに手ブレなく、しかも走りながらの射撃で怪物に攻撃を当てまくっていた。

ウィッチなら兎も角、一般兵にしては かなり……いや、達人かと思わせる腕前だ。

或いは銃が良いのだろうか。

 

絶望を忘れて疑問と驚愕で、ぽかんとしていると。

その兵士はあっという間に女の子の側までやって来た。

身構える女の子。 対して、兵士は優しい声色で語り掛ける。

 

 

「助けに来た! もう大丈夫だから!」

 

 

戦場で、それも戦闘中で こんな優しい言葉を出せるものかと、再び驚いてしまう。

兵士は、返答を待たずに左腕で少女を肩で担ぐ。

残る右手で、小銃のトリガーに指をかけ、肩に当てて銃を安定させる。

すぐさま怪物に銃弾を浴びせつつ、兵士は後退。

建物の陰まで退避すると次の瞬間には、

 

 

「きゃっ!?」

 

 

激しい風。 激しく変わる光景。

空を飛んでいる時とは違う感覚。

 

陸を高速で移動していたと気が付くのに、少し遅れた。

 

だって。

人外の速度で、兵士は走っていたのだから。

 

 

「えっ? えぇ!?」

 

 

担がれた少女が、進行方向とは逆を向く。

追手の怪物……ネウロイが、一瞬だけ見えて、すぐに見えなくなった。

 

あっという間だった。

 

 

「突然ごめんな! でも、俺の拠点に着いたら治療出来るから! 少し我慢して?」

 

 

そう言われつつ、どこかの建物に入る兵士。

怪我の痛みも忘れて驚きっぱなしの少女だったが。

 

その建物の中にある異界の兵器群を見て、またも驚愕するのであった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? これって少女誘拐? 拉致?」

 




第1モブウィッチ。 にわか故に、キャラを出せない……。
続くか未定。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3.そして、なんとなく情勢を知ったのさ。

作戦内容:
ウィッチの治療及び事情聴取。
今後の行動目標の確認。
備考:
ウィッチは10代。 殆どが女の子だが、戦闘に参加している。
装備:
リバーサー
説明:
ナノマシンを噴霧する特殊機器。 見た目はグリースガンを派手にした様な形。 上部や下部にナノマシンを収めているのか、缶かボトルの様な部分が見て取れる。
ナノマシンは付着すると硬質化。 付着物の周囲に不可視の装甲を形成。 破損したアーマーを一時的に修復するために用いられ、乗り物の耐久度や兵士の体力を回復することが可能。
ナノマシンに長時間接することは有害であるため、使用者自身には効果がないよう処理されている。
ナノマシンは生成が難しく、装備量が限られる。
なお、このリバーサーはプロトタイプを経て、実用レベルまで上がったもの。 更なる改良型も存在する。
欧州に配備されていたのだろうが、残量がある状態で手に入れたのを考えると……。
どっちにしろEDFの技術はチート。


 

 

「ここまで来れば、大丈夫だよ」

 

 

拠点に少女を拉致……じゃなかった、救助した俺は、優しい声色で語り掛ける。

子どもの扱い方なんて知らない。

でも、やらなきゃな事はしてみるつもりだ。

 

 

「今から簡単な手当てをする」

 

「……はい」

 

 

少女は困惑顔をしながらも、受け入れてくれた様だ。

少女をボロのベッドに寝かせて、医療品を取り出す。

早速治療モドキを始めよう。

衛生兵じゃないが、基地や仲間から習った簡単治療なら出来るからな。

それに、幸いにもアレがある。 女の子が好みそうなアレもあるワケだし。

 

 

「患部を見せて」

 

 

先ず寝床に寝かせ、どこぞの軍服みたいのを脱がそうとして、

 

 

「……あ」

 

 

手で服を抑えられた。

頰を染めている。

え、ナニ。 俺が悪いの?

謎の犯罪臭。

 

 

「イヤ……だよね?」

 

「…………」

 

無言。

俯く視線。

分かっているけど、やりたくない。

知らん男に肌を見せたくないという事を暗に語る。

 

めんどくせーマジで!

 

思春期の子ども。 ザ・女の子。

軍人ぽい服をしているといっても、心はドライに出来ないか。

雰囲気が新兵ぽいしな。

 

いや、逆に考えるんだ。 都合が良いと。

 

訓練不足な分、懐柔出来る余地がある。

アレコレと世話すれば、心を開いてくれるかも知れない。

そうしたら情報を引き出そう。

何でも良い。

この世界そのものも知らんのだ。

さっきのα型に酷似した化け物の話くらいは聞けるだろう。

 

 

「分かった。 じゃあ、服は着たままで。 消毒液と包帯渡したら、俺は背中を向く。 そうしたら出来るかい?」

 

「はい。 その……ごめんなさい」

 

「良いんだ。 女の子だもんな」

 

 

ぽんと頭を撫でて、貴重な医療品を渡し背後を向く。

そうすると、直ぐに声を掛けられた。

 

 

「あの」

 

「どうした?」

 

「これ、どうやって使うのでしょうか?」

 

 

は?

俺、間違えた物を渡したか?

心配になって再度少女を見やる。

小さく可愛い手には渡した消毒薬と包帯。

消毒薬はプッシュ式。

薬局でも見かけるだろうものだ。

 

 

「いや、普通に使えば良いよ」

 

「包帯は分かるのですが、消毒薬の使い方が」

 

そう言うと、消毒薬のプラ容器をひっくり返す。

フタは空いてるのに、出ないのは変だという主張らしい。

マジかよ。 いや、仕方ないのか?

ひょっとしたら、この世界には このデザインが馴染みないのかも知れない。

 

 

「ココを押せば、消毒液が出るから……そう。 怪我してる所に塗って、包帯巻いて」

 

「す、すいません」

 

 

教えて、また背後を向く。

直ぐに手当てを始めたのか「うっ」とか「ひゃっ」とか聞こえてきた。

痛いのだろう。

結構、擦りむいていたからな。

逆にあの程度で済んでるのが不思議だ。

あんなに派手に堕ちただろうに。

俺らEDF隊員なら、分かるのだが。

 

……何を考えてるんだ。

 

俺は仲間を見捨てた。

逃げた。

だから、もう俺は。

 

 

「兵士じゃないよな」

 

「えっ?」

 

 

女の子が疑問の声を上げた。

しまった。 声に出したか。

 

 

「ああ、いや…………君は兵士かい?」

 

「はい。 カールスラント空軍の……」

 

「カールスラント?」

 

 

は?

本日何度目かの「は?」だよコレ。

 

カールスラントって、どこだよ。

欧州にそんな国があったか?

地理に詳しくないから分からないぞ。

 

 

「待って。 今、地図を持ってくるから」

 

 

そう言って、どっかの住居で拾った世界地図を引っ張り出す。

その時には治療は済んでいて、軍服の隙間から包帯が巻いてあるのが分かる。

うん。 良かった。

うっかり裸を見たら互いに最悪だからね。

 

 

「カールスラントって、この地図のどこ?」

 

「え、えと……この地図、私の知っている地図と少し違いますね」

 

 

しまった。

世界が違うのだ。

地形も異なる可能性を考慮していなかった。

 

 

「あ、でも。 この辺り……です」

 

 

そう言って、人差し指で教えてくれる。

そこは、ドイツ……かな。

やはりココは一応欧州と言っても大丈夫か。

まるで世界や時代が違うようだが。

 

 

「そうか。 ありがとう」

 

「はい。 貴方も、兵士なのですか?」

 

 

まあ、聞かれるよな。

一方的なのはフェアじゃない。

それに信用も獲得しなければ。

でも兵士、ねぇ。

逃げた身としては……それを言うのは気が引ける。

 

どうする?

 

話を円滑にする為に言うべきか。

俺の格好、ここの武器や装備を見られてる。

下手に否定して「じゃあ、これらの装備は?」と聞かれたら言葉に詰まるぞ。

 

 

「そうだよ」

 

 

結局、そう答えた。

 

 

「EDF……地球防衛機構陸軍 日本支部 欧州救援隊の只野 仁 二等兵」

 

「EDF?」

 

 

これも知らないか。

元の世界では世界規模の軍隊だったから、知らない人は少なかったと思っているが。

コッチの世界にEDFは存在しないようだ。

 

 

「地球を守る軍隊さ」

 

「連合軍?」

 

「そんなところ。 信じるのは難しいよね、名前だけで怪しいでしょ。 ははは……はぁ」

 

 

結局、言っても駄目だった系じゃね?

チープな名前だもんな、地球防衛軍とか。

でも実際に存在しているんだもん。

EDFはいるんだもん。

 

 

「いえ、信じます。 貴方の持つ銃や後ろにある武器なんて、今まで聞いたことも見たこともありませんから」

 

 

やべぇ良い子じゃん。

将来、悪い大人に騙されないと良いが。

 

 

「そうか……ありがとう」

 

「はい。 その、他の仲間は?」

 

 

言葉に詰まった。

痛いところ突いてくるねチクキョウ!

見捨てたとは言えない。

生き残りがいたとしても、どこにいるのか分からない。

欧州現地空軍は壊滅していたと言うし。

生存者はゼロではないらしいが、陸戦隊等の部隊がいるのかどうか……。

適当に、言っておこう。 軽蔑されたくない。

 

 

「はぐれちゃってさ。 今はひとりぼっち」

 

 

なんなら世界とはぐれたからね俺。

どういう理屈なのか。

エイリアンの新兵器だったのだろうか?

 

 

「私と一緒ですね」

 

 

君も逃げたのかい?

そんな事を言いそうになって、直ぐ口を閉ざす。

そんな侮辱は出来ない。 する価値は俺に無い。

 

 

「タダノさん?」

 

「あ、ああ。 ごめん、大丈夫」

 

 

ネガティブになっている場合じゃない。

質問を続けよう。

この世界の事を知らなくては。

 

 

「その足の筒は、なんだ?」

 

 

第二次世界大戦時代に使用されていた、戦闘機を思わすデザインの筒を指差して聞く。

こんな装備は、恐らくEDFには無い。

どのようにして飛んでいるのだ。

ウィングダイバー装備も大概だが。

 

 

「これはストライカーユニットです。 話くらいは聞いてませんか?」

 

 

また妙な単語が……。

 

 

「いんや全然」

 

「これに魔力を込めて、空を飛ぶんです。 それで私たちウィッチは戦って」

 

「は? 魔力? ウィッチ?」

 

 

魔女じゃんそれ。

箒が戦闘機風になったの?

そういう時代なの?

お兄さん、ついていけない。

 

 

「ウィッチ、ご存知でない?」

 

「分からん。 全然分からん!」

 

 

頭が痛い。

なにか。 現代にファンタジー要素をスパイスしている世界に来たのか俺は。

 

 

「じゃ、じゃあ……さっきのα型は?」

 

「あるふぁー?」

 

「ごめん。 さっきのバケモノの事」

 

 

あのバケモノは、なんだ。

この世界にもエイリアンがいるのか。

それで人類は侵略されている?

 

 

「あれはネウロイです」

 

 

もう頭が壊れちゃう。

 

 

「人類の敵です。 突然欧州に現れて、侵略を始めました。 多くの国が占領され、住んでいる人々が疎開を余儀なくされています」

 

「エイリアンが侵略してきたと思おう、うん。 それが第二次世界大戦時代に起きたって事にしよ」

 

「え、えーと?」

 

「コッチの話だよ。 気にしないで」

 

 

これが夢だったら、どれだけ良かったでしょう。

絶望に絶望を重ねられている気分だよ。

 

いや……元の世界よりマシだと願いたい。

 

ココには溜め込んだ物資がある。

それに弱い部類のライフルに当たるPA-11でも、奴等は怯んだ。

なんなら、表面装甲を削っていた。

ならば他の武器を駆使すれば、個人でネウロイに対処する事は十分可能。

流石に群れや新型に、どこまで有効かは分からないが、ココでひっそり芋る分には何とかなる……か?

 

 

「しかし、君は若過ぎないか。 まだ16かそこらにしか見えないぞ」

 

 

この世界の兵士の年齢って、こんなにも若いのか?

 

 

「ウィッチですから」

 

 

さも当然のようにマジックワードを言い放ちやがった。

 

 

「ウィッチは、魔法を使える年齢が10代くらいまでなんです。 20歳になる頃には、もう魔法は使えないとされています。 皆が皆ではないらしいのですが」

 

 

そんな情報が何だというのだ。

もう俺は俺。 魔女は魔女だ。

無理に理解しようとすると、頭のイカれ具合が加速しそうだよ。

 

 

「あ、あー。 君の部隊がどこにいるかは分からないけど。 その飛行機モドキで帰れそう?」

 

 

助けておいてなんだが、手元に置いておく余裕は無い。

主に精神面で。

彼女も兵士だというなら、部隊に戻るべきだ。

俺が言えた話じゃないがな。

この歳で逃走兵な扱いをされるのも可哀想だ。

国や家族に攻撃される心配もあるし……。

俺の世界には、そんなヤツは殆ど残っていないが。

 

 

「すいません。 ユニットは、故障してしまって。 魔力を込めても動かないんです」

 

 

ですよねー。

黒煙上げてたもんね。 堕ちる時。

今は煙を上げてないが、表面に穴が空いていたりと素人目に見ても明らかに壊れている。

 

 

「俺も隊長みたいに、元整備士だったら少しは直せたかも知れないが……悪い」

 

「いえいえ。 タダノさんは何も悪くないです。 寧ろ助けていただいて、ありがとうございます」

 

「でも……アレを使えば、直るか?」

 

「アレ?」

 

 

今度は、リバーサーを引っ張り出す。

グリースガンみたいな見た目で、清潔感を漂わす白いボディ。

 

 

「油指し?」

 

「まあ、見てて」

 

 

彼女のユニットとやらに構えると、トリガーを引く。

すると煙のようなものが出て、ユニットを包み込む。

次に、軽く穴を指でつつく。

 

 

「うん。 塞がった」

 

 

透明で見難いが、穴をナノマシンが塞いでくれた。

 

 

「す、すごい。 タダノさん、ひょっとしてウィザード? 固有魔法?」

 

 

また頭が痛くなる言葉が。

 

 

「違うよ、こういう道具なんだ。 破損した部分を一時的に直す為のモノでね……といっても、透明の装甲を表面に作るだけだから機械的に直るワケじゃない」

 

 

簡単に説明する。

乗り物やアーマーの修復に使われるが、見えない装甲を表面に作るだけであり、身体が治るとか回路が直るとかの効果は無い。

 

 

「動かせる?」

 

「…………ダメみたいですね」

 

 

やっぱダメかぁ。

穴を塞ぐだけで直るワケないか。

 

 

「ごめん。 チカラになれなかった」

 

「そんな、謝らないで下さい」

 

 

そう言いつつ、彼女は筒を脱いでいく。

大変そうだから抑えてやったり、軽く手伝いをする。

 

 

「ありがとうございます。 私は、これから後方の防衛線に後退しようと思います」

 

「それなんだが、今はよした方が良いと思う」

 

「えっ?」

 

 

サングラス・ディスプレイを軽くコンコンしつつ、俺は言う。

今、ディスプレイに映るセンサーを真に受けるなら……外は、あのバケモノだらけだから。

 

 

「もうこの街は、バケモノの占領下だ」

 

「そんな……! まだ、味方もいました!」

 

「残念だけど撤退したか、居ても俺らと同じように篭ってるだろうね」

 

 

街を渡すまい、侵攻させまいと奮闘していた兵士には悪いが、そう言い放つ。

こんな時、どうするかって?

昔みたいな事をしようと思いますよ、ハイ。

 

 

「今は建物に隠れてるんだ。 そのうちチャンスが来る」

 

「で、でも! いつまでここに?」

 

 

昔だったら、隊長が生存者を集めてクソ共を一掃したんだがな。

残念ながら、今EDF隊員は俺だけだろう。

でも、きっと何とかなる。 生きていれば。

 

 

「生きていれば、何とかなる」

 

 

だから、今は そう言うしかない。

でも敵勢力下のど真ん中に取り残されているワケだ。

 

守らなくては。

 

せめて この子だけでも。

 

俺は久し振りに、熱く滾る血を感じている。

守るべき者がいる。

その事実が、俺に生きる気力を与えてくれた。

 




更新未定。

モブ兵士達は、今後どうなるのか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4.EDFのノリ、欧州上陸。

作戦内容:
異世界へ突入、迷い込んだと思われるEDF隊員の回収。
スカウトが先行調査をしたところ、我々と同じ様に人類共通の敵がいるのが判明。
戦力に余裕が無い我々としては、行かない選択肢を取りたいところですが……。
どうやらセンサー反応からしてEDF隊員がいる様です。 居場所は欧州。 直ちに回収します。
備考:
回収目標は欧州のどこかとしか分からず、無数の敵が跋扈している。
陸軍は残存するコンバットフレームやブラッカー、レールガンを投入。
空軍、海軍からの支援は期待出来ない。
装備:
PA-11
その他多数。


 

 

「くたばれバケモノどもッ!」

 

 

激しい銃声。 激しい爆音。

硝煙弾雨の嵐。

閃光弾や、この世界の怪物……ネウロイによるビームが激しく交差。

近くの建物はドミノ倒しのように簡単に崩れていき、大量の砂埃を立てる。

が、それすらも直ぐに弾丸やビームが消しとばしていく程に譲らぬ激戦。

テレビの砂嵐をカラーにした光景は、見るものによって感激を与えるが、現場はそれどころではない。

 

EDFは この世界にいる隊員……只野二等兵を回収するという、表向きの任務を遂行中。

その為に異世界の欧州に来たのだが、到着した途端にネウロイと鉢合わせ。

 

まさかの事態である。

 

それは双方同じようで、突然目の前に現れた異界の軍隊にネウロイはビームを乱射。 ビックリ仰天といったサマ。

EDFも、いきなり目の前に現れたバケモノにビームを放たれたので、直ぐに発砲。

騒ぎに駆けつける両軍。

ゾロゾロと互いに増援部隊がやってきて、この始末。

 

 

「ダメだ! 遮蔽物が無くなる!」

 

「歩兵はAFVの側を離れるなッ! 砲撃に頼れ!」

 

「フェンサー前進ッ! 盾を構えろッ!」

 

「EDF歩兵のチカラを舐めるなあぁッ!!」

 

 

ボロボロの、だけど闘志が滾るEDF歩兵が蟻型ネウロイにフルオート。

対するネウロイも、負けるかとビームを発射。 地面や周囲の建物が爆散していくも、誰も怯む事なく爆炎の中でトリガーを引き続ける。

そんな歩兵を援護するべく、コンパクトな戦車や装甲車が歩兵の盾になる様に前進。

主砲による砲撃音を響かせた。

榴弾による爆発で、蟻型ネウロイの群れが怯む。

その隙に、全身に鎧を纏ったような兵士……フェンサーが前進。

歩兵隊を守りつつ、通常歩兵だけでは反動だけで死にかねないキャノン砲を、片手でブチかます。

 

が、しかし。

 

 

「くっ!? エイリアン共と同じで再生してやがるぜ!」

 

 

歩兵には携行不可能な大火力を持ってしても、ネウロイは中々倒せない。

それもそのはず。

ネウロイは核を破壊しないと、延々と再生してしまうのだ。

その様子は、エイリアンの歩兵部隊を相手にしてきたEDF隊員に苦い思い出を蘇らせる。

 

 

「撃ち続けろ! 怯みはするんだ、倒せる筈だ!」

 

「むっ! 装甲内に赤い石を確認!」

 

「赤いって? ならソコが弱点だァ!」

 

「全隊、集中砲火! 赤い石を撃てェッ!」

 

 

が、そこは歴戦のEDF。

テレポーションシップを何隻も相手にしてきた経験から「赤い所が弱点じゃね」と悟り、ネウロイ装甲内部にある赤い核に攻撃を加えていく。

すると、どうだろう。

赤石は砕け散り、もれなくネウロイは光の粒子になって消えていく。

 

 

「やはりな! 赤い部分が弱点だ!」

 

「やっぱ赤いヤツか!」

 

「赤いヤツは相手にしたくないが、弱点が赤なら撃つしかねぇか!」

 

「赤だ!」

 

「赤だな!」

 

「撃って撃って撃ちまくれ!」

 

 

元の地球が世紀末でも、EDF隊員らはいつものノリだった。

そんなノリではあるが、それで絶望を生き延びてきたので馬鹿に出来ない。

逆に、そのノリでネウロイを片付け始める彼らこそがバケモノ染みている。

 

 

「おい! ありゃなんだ!?」

 

 

だがネウロイは陸戦型ばかりではない。

陸戦型を殲滅したと同時、空が暗くなる。

 

雲か?

 

そう思った隊員が、空を見上げ……次には叫ぶ。

そこにはテレポーションシップよりデカく、マザーシップより やや小さい黒き物体が飛んでいた。

巨大な質量を持つ兵器群は幾度となく見てきた隊員だが、異界でもあんのかよと口々に叫び始めた。

 

 

「マジかよ!」

 

「街くらいは あるぜ!」

 

「アレもバケモノの仲間か!」

 

「テレポーションシップよりデケェ!」

 

「マザーシップよりは小さいな!」

 

「ハッチはあるのか?」

 

「あ? ねぇよそんなモン」

 

 

空を飛んでいる以上、空軍に相手してもらいたいところだが、そうも言ってられない。

今は陸軍しかおらず、陸軍の兵器で何とかするしかない。

 

 

「いつもの事だ!」

 

 

だが、隊員は狼狽えない。

こんな場面、過去幾度となく経験している。

なんなら敵母艦直下で作戦行動とかいう、ヒデェ作戦を数回は繰り返している。

今頃なんだといった態度だ。

 

 

「幸い低高度だ!」

 

「ウィングダイバー頼む!」

 

「任せて!」

 

 

歩兵隊から分かれるようにして、機械的な翼を背負う女性達が飛んで行く。

ウイングダイバーだ。

女性のみで構成された、空を飛ぶ装備で飛行しつつ光学兵器で攻撃する。

この世界のウィッチと似て非なる存在である。

空を飛べる時間は長くないし、ウィッチのように早くは飛べない。

しかし小回りが利くし、陸戦も出来る。

今回のように低高度の敵なら、飛んで行って空中戦に持ち込む事も出来る。

 

 

「うおおおおッ!」

 

 

そんな女性兵士達。

いつかの前哨基地でやったように、大型ネウロイからのビームを踊るように回避しつつ接近。

それぞれが持つ光線銃で、色鮮やかなビームをお返しし、表面を削っていく。

こうも大型だと、核を見つけるのに苦労しそうだが、幸運にも直ぐに見つかった。

 

 

「よし! 赤石確認!」

 

「砕け散れ!」

 

 

ランサーを持ったウイングダイバーが、チャージビームを放つ。

一閃が石を貫くと、たくさんの輝く粒子と共に大型ネウロイは消え去った。

 

 

「うおおおおおお! EDF! EDF!」

 

「EDFッ!! EDFッッ!!」

 

「イヤッホー!」

 

「EDF歩兵のチカラを見たかぁ!」

 

 

そして、いつもの雄叫びを上げる隊員ら。

とても強く、どこに行っても何をしても騒がしい兵隊である。

 

 

「報告ッ! 他の場所に転送された部隊も、周囲の安全確保との事!」

 

「よしっ。 我々はこの放棄された街の建物を間借りしつつ、目標の捜索に入る!」

 

「それと本部に対空兵器を要請! 出来たら空軍にも連絡だ!」

 

「サー! イエッサー!」

 

 

戦闘後も慌しく駆け回る隊員。

彼らがいれば欧州解放も夢ではなさそうだが、残念ながら そこまでの余裕はない。

 

EDF。

本当の目的は、まだ平和な世界と繋がりを持ち、希望を掴む事にある。

たかだか二等兵1人の回収に、貴重な兵力を割くなんて事は、しないのである……。

 

名誉の為に敢えて言おう。

EDFは、兵士は仲間を見捨てない。

 

だがその仲間が……助ける予定の兵士が他を見捨てたというのは皮肉である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん? この音、EDFの……いや、まさかな」

 

「どうしました?」

 

「何か聞こえた?」

 

「いえ。 私には……調べに行きますか?」

 

「いや、ジッとしていよう。 君も怪我している事だし。 それよりチョコレート、食べる?」

 

「えっ!? そんな貴重な甘味を!? 良いのですか!?」

 

「まぁ……沢山あるから」

 

「いただきますっ♪」

 

 

当の兵士は、女の子を助けて仲良くイチャついて……じゃなく、希望を持ち直す。

 

チョコレートを笑顔満開でパクパクする女の子。

その光景に癒されつつ、兵士は頭を撫でた。

 

守らねば。

 

それは、この兵士の自己満足だ。

自覚はある。

でも、女の子を見捨てられない。

それが生きる希望になっている以上、兵士は兵士でいられるのだろう。

 

かくして、モブ兵士達は二等兵を見つけられるのか。

 

EDFは、どうするのか。

 

二等兵は、どう生き延びるのか。

 

世界を見捨てるにせよ、大を捨て小に生きるも逆をするのも。

一貫性に欠けているが、やがて一本の束になる時。

 

小さな欲望は、世界の希望となるのだ。

 




短めの話数が続いています。
駄文続きの作品ですが、読んでくれている方々。 ありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5.依存。

作戦内容:
拠点周囲の哨戒。
備考:
女の子は戦力外なので、拠点に置いておく。
狙撃銃を持って、拠点から離れた建物屋上に登り、周囲を見回す。
やむを得ない場合のみ発砲。 撃ったら位置を悟られる前に移動。
装備:
KFF50
説明:
大口径の対物狙撃銃。 射程と精度に優れ、はるか遠方の敵を狙い撃つことが可能。
その威力は装甲車を一撃で破壊するほど。
射程距離内では、空気抵抗による威力の減少はほぼ無い。
ボルトアクション式。 射撃毎に手動での装填が必要。
EDF狙撃兵が主に使用する狙撃銃。 改良型が存在する。
対物狙撃銃の類は、ウィッチの世界にもあるようだが、EDF側は一般歩兵が個人携行可能な重量である。
EDFの兵器という事で、とても強い。
スコープや二脚が付属しているのが確認出来る。
が、EDF隊員が匍匐姿勢で射撃しているところは見たことがない。
なんならジャンプしながら発砲し、遠方の敵を狙い当てている。 兵士もチート。


タダノ二等兵。

私を助けてくれた、不思議な兵隊さん。

見たことも聞いたこともない武器を使い、とても強く、とても足が速かった。

貴重なハズの医療品を分けてくれるばかりか、女の子だと気を遣ってくれる。

貴重な甘味、チョコレートすら分け与えてくれた。

 

 

「えへへッ♪」

 

 

優しい兵隊さん。

頭を撫でてくれた。

まるで、お父さんみたいな。

戦場という過酷な環境下でも、人間は優しく出来るのだろうかと疑いたくなる程に。

 

そんな彼はEDFと呼ばれる軍事組織に所属しているという。

地球を守る軍隊だって。

そんな事を言ったら、兵隊さんは皆そうだろうし、欧州軍なんて特にそう。

私が子どもだからって、言葉選びをされたのかな。

お子さま扱いは嫌だけれど。

そりゃ軍人といっても徴兵されたばかりで、新人だし。

階級は彼より高い軍曹……それはウィッチだからで……。

それを言うのは、私には出来ない。

変にギクシャクしたくないから。

 

特殊部隊だろうか。

統合戦闘団のような優秀な人材を集めて、新兵器を運用しているとか?

そう考えれば、見たこともない兵器群やタダノさんの強さも分かる。

なのに、国やネウロイやウィッチを知らないとか疑問は多いけれど。

でも、タダノさんは良い人だ。

私を守ってくれようとしてくれる。

それに、今の私は……。

 

 

「タダノさんがいないと、生きていけない」

 

 

兵器群が物言わず鎮座する拠点内に、私ひとり。

タダノさんは哨戒に出て、私はケガを理由に置き去り。

 

帰ってこないのでは?

見捨てられたのでは?

いや、そんな事は。

ネウロイにやられたら?

ネウロイが、ココに今来たら?

タダノさんは、また助けてくれる?

 

 

「イヤ。 イヤよ! ひとりなんて!」

 

 

孤独の冷たさ。

私は、タダノさんがいないと無力だ。

 

 

「早く……早く帰ってきて」

 

 

帰りを待つ。

またあの温もりを感じたい。

あの温もりを少しでも持たせたくて、毛布に包まる。

ひとりは、イヤ。

甘えたい。 帰ってきたら、思いっきり。

 

 

「……何か、お礼が出来たらな」

 

 

今の私には、身ひとつしかない。

それも怪我をした、薄汚れた身体───。

 

 

 

 

 

───タダノさん。 抱き締めて?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵だらけだ」

 

 

拠点から離れた建物の屋上。

狙撃銃を構えて、スコープ越しに周囲を観察している。

地上、空中と大中小様々なネウロイがいて、とても突破出来る雰囲気ではない。

 

俺のいた欧州の街とは全然地理が違うのもある。

万が一、逃走する時は 装甲車を全力で走らせなくては。

いや、それも上手くいくか分からない。

あの子が言っていた後方の防衛線も、方角がサッパリだ。

 

 

「さっきの爆音や銃声の正体が分かればな。 この世界の欧州軍なら、女の子を引き渡す事が出来るだろうが」

 

 

スコープで見渡しつつ、ボヤく。

センサーは不調。 遠方までの反応は拾ってくれない。

 

 

「引き渡したら俺はまた自由さ、うん」

 

 

女の子をいつまでも、守り続けられるか微妙だ。

最悪、あの子を原隊に。 その方が為になるのでは?

 

なのに。

 

 

「この世界の欧州軍は押されている筈だ。 また あの子を戦場に投げ出すに違いない」

 

 

そんな事をされるなら、俺が守るべきだ。

16やそこらの、まだ甘えたい年頃の子を戦場に投げ出すなんて。

俺らの世界じゃ、それこそ甘えと化したが、ココでは俺のルールで良いだろう。

 

EDFだって……俺以外、いないんだ。

 

 

「俺が。 俺が守らないと」

 

 

1匹、拠点側に移動している蟻みたいなネウロイを確認。

スコープの十字を合わせて───引き金を絞る。

バァンッ、という重い音と反動を体感しつつ目標からは目を離さない。

ソイツは装甲破片を散らし、横に転がる様に怯む。 ネウロイの影で土柱が立った事から貫通したと理解する。

核の位置を推測して撃ったが、狙い通り。

一撃で光の粒子になって四散。

やはりEDF製は、この世界では強力だ。

 

俺はボルトアクションを行い次弾を装填しつつ、建物を離れる。

ネウロイの知能は知らないが、位置がバレた可能性が高い。

空にも地上にも、沢山いるのだ。

監視の目は無数にある。

全部を相手にする余裕は無い。

だが芋るぞ。 それしか無い。

俺は あの子も、守らなくてはならないんだ。

 

 

「俺は狙撃兵じゃないが、これくらいなら二等兵でも出来る……EDF歩兵を舐めるなよ」

 

 

その後、屋上を点々としながら哨戒を続けた。

何匹かを葬った後、日が暮れ視界が悪化したので拠点に戻る。

 

ああ、あの子に食べさす夕飯どうしようかな。

火を起こすと、ネウロイにバレるかも知れない。

前の時は、マズいレーションで我慢出来たが、あの子には酷だろうな。

 

 

「あのレーションはミステリーだろ」

 

 

ハハッ、と苦笑。

確か紐を引けば、温かい飯にありつけるパック飯が残っている。

良い味付けの缶詰もある。

シュールストレミングを拾った事があるが……アレは止めよう。 危険だ。 色んな意味で。

 

 

「ただいま」

 

 

薄暗い拠点に、控えめな声を響かせた。

いつもなら、返事がない虚しい響になるところだが。

 

 

「お帰りなさい」

 

 

今は、あの子がいる。

返事があるだけで、こうも喜ばしいなんて。

少し、涙が出そう。 というか出た。

 

 

「タダノさん、わ、私を……た、食べて?

 

「ファッ!?」

 

 

ベッドで赤らめながらセクシーポーズを取る、包帯巻きの少女の光景に、涙は引っ込んだが。

 




心が壊れないと良いですね(ゲス顔


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6.絶望の深淵で。

作戦内容:
センサーに味方の反応。 1箇所に多数。
警戒しつつ、確認に向かう。
備考:
センサーは不調。 敵味方の識別に誤認が生じている可能性。
依然、周囲は敵の勢力下にある。 直ちに確認、臨機応変に対応する。
装備:
ミニオンバスター
説明:
対コンバットフレーム用に開発された特殊ライフル。 徹甲榴弾をフルオートで発射出来る。
徹甲榴弾は爆薬と遅延信管を内蔵。 標的の装甲を貫通し、内部で炸裂。
弾頭が大きいため、弾速は遅く、射程距離も短いが、破壊力は凄まじい。


昨日の夜は驚いた。

お子さま扱いしていたのが、不服だったのだろう。

淫らなポーズを取って誘惑してきた。

一体どこで覚えたのだよ……。

教育上宜しくないと思い、デコピンしておいたが。

 

戦場は過酷だ。

精神的に参ってるのもあるだろう。

狂わずとも、本能が温もりを求めるのは理解出来る。

俺も、そうだ。

だが、やはり規律や風紀はある程度守らなくては。

相手は子どもだし。

世紀末ヒャッハー連中みたいには、なりたくないんでな。

 

 

「また、外に出るの?」

 

 

おでこを未だに さすりながら、少女が聞いてきた。

潤んだ目で見上げてくる。

行って欲しくないのか。

そう思うと可愛くて、つい頭を撫でた。

 

 

「ごめんな。 でも、近くに生存者がいるかも知れないのが分かったんだ」

 

「えっ! 本当ですか!?」

 

「ああ。 ちょっと調べに行ってくるよ」

 

「なら私も!」

 

「危ないから、ついて来ちゃダメ」

 

「私だって軍人ですっ。 戦闘訓練は受けています!」

 

「怪我が完治してないでしょ。 それに君の武器が無いじゃないか」

 

 

それに空軍なんだっけ、君。

陸戦隊じゃなければ、陸での戦闘は不慣れじゃなかろうか。

どんな訓練を受けているかは分からんが。

空にしても新兵ぽいから、どっちにしても不慣れだろう。

 

 

「ここに、いっぱいあるじゃないですか。 少し教えてくれれば」

 

 

どうしても、役に立ちたいのか。

食い下がってくる。

でもな、戦場に投げ出すなんて俺には出来ない。

せっかく助けたのに、君に何かあったらと思うと困るんだ。

 

 

「ダメダメ。 EDFの銃火器は並大抵じゃ扱えないよ」

 

 

少し嘘をついた。

PA-11のように、操作が簡単なら引き金を引けば良いだけだ。

低反動に確実な動作性。

命中率には目を瞑ろう。

民間警備員でも扱えるんじゃないか。

でも、やっぱり彼女には戦場に出て欲しくない。

 

 

「そんな」

 

「こうしよう。 君はここの拠点で飯の用意でもしていてくれ」

 

「用意といっても、ヒモ引くだけとか缶詰を開けるだけです」

 

「それでもだよ。 待ってくれている人がいるってだけでも、かなり助かるんだ」

 

 

しゅん、としながらも渋々了承してくれた。

ごめんな。

俺にとっては、君は民間人なんだ。

 

 

「じゃ、行ってくる。 留守は宜しくな」

 

 

もう一度、ぽんと頭を撫でて出発する。

何が起きるか分からない。

装甲持ちに囲まれても、抵抗出来るように今回はミニオンバスターを装備した。

時間稼ぎや突破口を開く糸口にはなるさ。

 

大丈夫。

大丈夫だ。

今日も、俺は生き残る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

建物の影や内部を通り、接敵を避けつつ目的地へ到着。

そこは大きな役所のような建物だった。

周囲と比べて破損が激しい。

原型はあるが、廃墟のソレだ。

だが、こうもココだけ崩れているのは不自然である。

やはり、生存者がいるのだろうか。

もしくは、敵か。

もし生存者を見つけても、助けられるか分からない。

それでも、かつて仲間を見捨てた罪の意識から、只野二等兵は意を決して内部に入る。

 

 

(な、なんだよ……これ!?)

 

 

中の光景を見た只野二等兵は、絶句した。

 

そこには、"まだ"人間と呼べる状態の兵士達が多く寝かされていた。

いや。 "転がされていた"というべきか。

ぎっしりと転がる兵士達からは、まるでゾンビのような唸りを上げ、木霊し不気味だ。

替えの包帯も消毒液も止血剤も無い為、頭や腕に巻かれた包帯は出血を抑えきれず、血が滴り落ちている。

中には肉がゴッソリと無い、何故生きてるのか不思議な兵士までいた。

床は泥と血が混ざり、エゲツないドス黒い色が広がる。

勿論シャワーなんて、あるわけない。

建物内は"まだ"人間である塊が放つ悪臭と湿気に満ちており、不衛生極まりない。

死者は埋葬もされず端っこに集め、無造作に積み上げられていた。

軍人と共に立て籠もっていたのか。

民間人と思われる人達もいたが、傷ついた兵士の手当てに、唾液程度しかない貴重な飲み水を使用している。

 

戦争の悲惨さ、絶望を体現した地獄絵図のひとコマ。

只野二等兵も経験のある、最悪の光景だ。

 

 

(なんて事だ! これじゃ助けられないかも知れない!)

 

 

そんな光景を次には呆然と見てしまった只野二等兵だが、生存者らは侵入者である彼に気付くのが遅れる。

それ程までに、皆の目は絶望に沈んでいるのだ。

 

 

「……ッ! あ、あ…………う……あぁ…………」

 

 

ようやく彼らが外からやってきた只野二等兵を見た時、暗い建物内に籠っていた所為もあって眩しかった。

だが、外の光が後光のように只野二等兵の背後より差し込む光景は、誰もが神様かと思わずにはいられない。

兵士と共に転がされていた1人の少女兵……ウィッチは、意識が朦朧とする中、その光の方へ向かって這った。

 

彼女は、既にあの世にいるのだと思ったのだろう。

 

若しくは敵だと思って、最後の気力で立ち向かったのかは分からない。

 

だが、気づけば彼女は這っておらず、誰かに支えられている感触を感じた。

只野二等兵だ。

こんな、まだ小さな少女が、命の灯火が消える瞬間まで戦い続けている事に、深い哀しみと怒りが込み上げる。

同時に絶望を和らげようと掬い上げたのだ。

息も絶え絶えな状態である少女に、只野二等兵は言葉をかけた。

下手な慰めの言葉だ。

だが蹴り飛ばすなんて事は、彼には出来なかった。

 

 

「……よく頑張った。 辛かったな、もう大丈夫だよ」

 

 

彼の声を聴いた少女は、薄れゆく意識を再び興すと、途切れ途切れではあるものの、彼に向かって口を開いた。

 

 

「救………援……ッ。 ハァハァ…グッ…感謝…………いた……し……ま…す……」

 

 

消えるような声。

でも確かに、只野二等兵へ届く。

少女は相手の所属と階級も聞かず、とにかく救援部隊だと勘違いして礼を言う。

だがそれで絶望を和らげられるならと、只野二等兵は安らぎの言葉を並べ立てた。

 

 

「ごめんね……遅くなった。 でももう、大丈夫だよ、安心して。 家族のもとへ帰ろう。 君は、君達は、まだ生きなくちゃ駄目だ。 こんな所で死んじゃ駄目なんだよ」

 

 

只野二等兵は、軍隊の階級としては最下級だ。 権限は何もない。

しかも孤立無支援のはぐれ兵。 なんなら逃走兵で処刑されても文句は言えない。 技術も何もない。

そんな彼が、皆を救うなんて夢物語。

だがその声は、まさしく父親のような感情と安心感を少女に与える。

その言葉を聞くと、少女は安らかな笑みと共に意識を失った。

死んだ訳ではなく、少女が気付かない内に只野二等兵が鎮痛剤を使用したため、副作用として眠りについたのだった。

只野二等兵は彼女をゆっくり寝かせると、再び周りを見渡した。

やる事は、決まった。

 

 

「今から僅かですが、医療品を運搬してきますっ! 重傷者優先ッ! 助かる見込みが無い者は、せめての安楽死の選択を考えます! 動ける者は手を貸して下さいッ!!」

 

 

貴重な、溜め込んだ物資を提供する。

それは本来、自分だけが生き残れば良いと集め続けていた物。

 

でも今は、彼らの為に使いたい。

 

罪は消えない。

だが罪を背負い続けるからこそ、人間は行動出来る事があるのだ。




街に取り残されていた瀕死の生存者たち。
そして、罪の意識から行動する只野二等兵。

他の作者様の作品を参考にしつつ書いています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7.見捨てた者、拾う者。

作戦内容:
生存者の今後を考える。
備考:
これ以上、死者を増やさない為にも何とかしなければ。
後方にいるだろう、この国の正規軍に頼れれば良いが……。
装備:
リバーサー
ミニオンバスター


※ストパン世界の、実際の戦史や設定とは異なります。 でも、ひょっとしたらのモブ兵士達の話。
生きてるのが謎とか、作戦と、その時期に突っ込みをいれてはいけない(暴論)。


只野二等兵による全力の救援活動は、EDF副装備力を使いつつ行われた。

食事も取らず、拠点を行き来し、溜め込んだ物資を運び込む。

それを何往復も、何往復も。

拠点で缶詰を用意していたウィッチは驚いたが、事情を理解し、荷作りを手伝った。

一方で現地では殆どの者が動けなかったが、その姿に感化された民間人が手当てを手伝ってくれた。

大変有難いが誰もが医療の知識は無く、家庭レベルの粗末な治療しか出来ない。

只野二等兵はリバーサーのナノマシン残量を気にせず、止血剤代わりにと無理矢理傷口を塞ぐ等の荒治療。

だが、何もしないより絶対マシだ。

輸血が必要な兵士、感染症が進行した者は助ける手段が無く…………辛かったが、多くは安楽死用の薬品を投与。

せめてもの救いをと、眠らせていった。

だが只野二等兵のお陰で、多くの民間人や兵士が助かったのは確かである。

 

 

「……天国で、エンドウ豆のベーコン添えをたらふく食べてくれ。 俺もそのうち行く。 そしたら……うぅっ……みんなでまた……食べような」

 

 

苦痛から解放され、安らかに旅立った仲間達を前に、涙を拭うカールスラント軍人達。

治療の甲斐あって、小康状態になった兵士達だ。

軍服は血や泥でボロボロで、擦り傷も多い。

だが血泥の包帯は綺麗で清潔な包帯に変えられており、白い部分が多く見受けられる。

 

だが殆どの仲間が死んでしまった。

元凶はカールスラント撤退作戦であった。

本土に侵攻してきたネウロイから多くの民間人を逃す為、軍は足止めするべく交戦。

勿論、ウィッチも投入されて激しい戦闘が巻き起こった。

しかし奮戦虚しく、あまりの力の差に押されていき、逃げ切れなかった民間人や部隊が街に取り残される。

それが、只野二等兵が見つけた生存者達だ。

退路が断たれたこの部隊は、まともに戦って撤退出来る体力は残されていない。

ならばと当時の部隊長の命令で、民間人と共に建物に立て籠もる。

時間を稼ぎ、救援部隊を待つ事にしたのだ。

絶望を受け入れるのは難しい。 誰にとっても。

来るかも分からない希望に、皆が縋った。

しかし、ネウロイは容赦をしない。

瘴気の問題もあるが、位置がバレたのだ。

建物は激しい攻撃を受け、多くの民間人や兵士が崩れてきた瓦礫で負傷、或いは死亡。

このままでは建物は全壊。 全滅は免れない。

部隊は動ける兵士と使える武器を引っ張り、ネウロイを建物から遠ざけるべく、自らを囮として外に飛び出し、誘導。

鬼ごっこのような戦闘を繰り返し……更なる負傷兵と死者を生み出した。

だが、それをしたからこそ、今の生存者達である。

他に手はあったかも知れないが、少なくとも意味はあったと思いたい。

こうして"救援隊"が来てくれたのだから。

 

 

「感傷に浸っているところ、申し訳ありません。 俺はEDF陸軍欧州救援隊、只野二等兵です」

 

 

その"たったひとり"の救援隊である只野二等兵が、彼らに敬礼。

カールスラント兵も返礼する。 やつれてるが、まだ生きようとする気力が目に宿る。

 

 

「そうか……タダノ、ありがとう」

 

「救援隊と言っても、今は俺しかいませんが。 物資は……かつての仲間の物ですが、遠慮せず使って下さい」

 

「すまない。 互いに色々あっただろうが……お前には助けられた。 本当にありがとう」

 

 

地獄で得た微かな安らぎ。

薄笑いだが、久し振りに笑みをこぼす兵士達。

普段は軍規がどうと煩いのが多いカールスラント軍人も、今は所属も階級も関係なかった。

 

 

「しかし、よくココが分かったな」

 

「ネウロイの群れの中を来たのか? 凄いとしか言いようがない」

 

「お前は勇敢だ。 俺達よりもな」

 

「EDF? 部隊名か? 見たところ扶桑人だが、その装備は……いや、今は良い」

 

 

口々に褒めたり、疑問の声も出たりはしたが、それより今後の事を考えねばならない。

 

 

「後方の防衛線に救援を要請出来ないのでしょうか?」

 

「無線が通じないんだ。 本隊は撤退出来たと思うから、最悪の事態にはなっていないと願いたいが…………」

 

「ネウロイによる電子妨害?」

 

「可能性はあるな。 或いは無線域に味方がいないのかも知れん」

 

 

聞いて、只野二等兵の表情は暗くなる。

援軍が来ないとなると、自力での脱出か此処で生き残らなくてはならない。

しかし物資は限られているし、敵の勢力圏のど真ん中に取り残されている。

只野二等兵自らがEDFの兵器で、ヤツらを殲滅出来れば良いが……そんなワンマンアーミーな芸当は無理だろう。

小康状態の彼らも、こんな不衛生でストレスが凄まじい環境下だ。

いつ具合が悪化するか分からない。

依然、状況は最悪。

 

はっきり言って、絶望的だ。

 

 

(諦めちゃダメだ。 後方にいるカールスラント軍が、ここにいる生存者に気付いて貰えれば、或いは)

 

 

兵士達とウンウン唸るも、良い案が出ない。

だが、ここに籠るのは現実的ではなくなってきた。

何とかしなくては。

 

 

「俺が後方の防衛線まで直接救援要請をしに向かうのは、どうでしょう?」

 

「やめとけ、距離が遠過ぎる。 移動中に見つかって、殺されるのがオチだ」

 

 

コレは否定された。

兵士の言う事は最もである。

 

 

「そうするくらいなら、そうだな。 他の残存部隊と情報交換した方が良いだろう」

 

「残存部隊?」

 

 

只野二等兵は首を傾げた。

ココの他に生存者がいるのだろうか。

だとしたら、更に重い事態だ。

危険に晒されている命が増えたと思うと、気が減ってしまう。

 

 

「そう遠くない所でな、昨日辺り戦闘があった。 激しい爆音と銃声だった……かなり景気が良く元気なんだ。 物資の蓄えもあるかも知れないし、そっちを頼る方が現実的だろう」

 

 

この崩壊した街で、元気の良い部隊?

そんな元気があるなら撤退してるか、ネウロイを殲滅して街を奪還していても良いのではないか?

 

ナニか妙なモノを感じながら、しかし他に頼る場所も無い。

只野二等兵は、その情報を頼りに向かう事にした。

 

 

「そうですか。 分かりました、そっちへ行ってみます」

 

「俺らも付いて行こう」

 

「いえ。 少ない人数の方が、見つかる危険が減ります。 それに、ここを守る兵士が減るのはマズいでしょう」

 

「わかった……すまない、世話になりっぱなしだな……気を付けて行ってくれ。 頼んだぞ」

 

「はい。 行ってきます」

 

 

只野二等兵は、再度敬礼をすると建物を後にする。

 

いつだって希望に縋って生きてきた。

今も、これからもそうする。

 

だが、そんな姿勢は哀れだと言わんばかりに、現実が襲ってきた。

 

 

「わぷっ!?」

 

 

不意に新聞が只野二等兵の顔を覆う。

どこからか流れてきたのだろう。

驚いた只野二等兵だったが、新聞だと気づくと、苦笑しながら手に取った。

 

 

「新聞か、驚かすなよ…………ネットが普及していた俺らの時代じゃ、需要は減っていたんだろうな」

 

 

直ぐ捨てようと思ったがしかし、貴重な情報源だと思い立ち、見出しを読み始める。

カールスラント語が読めるのかとか、突っ込んではいけない。

そんな事を言っていたら、現地の人達と普通に会話してるし。

 

 

「なになに……カールスラント撤退作戦成功。 全ての民間人及び軍隊は本土より後方の防衛線まで避難完了だあァァアアッ!?」

 

 

思わず叫んでしまった。

書いてあることは、虚実も良いところだ。

都合の良い文章が纏められており、書いた記者や出版社をヌッ殺したくなる。

いや、半分は嘘で塗り固められていると訂正しておこう。

実際、大部分で見れば撤退に成功している。

逆に細かく見れば、戦闘を行った以上、書いてなくても死者が出ているのは子どもでも分かる話だし、ああいった取り残されている生存者がいるのも分かるだろう。

だが新聞社は、その辺は書かず、さも全員助かったという過去形で綺麗に締めくくっている。

いつの世も、新聞はこうなのかと怒りと悲しさが込み上げる。 マスゴミめ。

 

 

「ぐっ…………落ち着け俺。 戦時中なら検閲も入るだろう。 民間人の不安を助長させない為にな……軍の大本営発表的なのを鵜呑みにしてはいけない」

 

 

なんとか、理性でこれ以上の怒りを抑えつつ、目的地周辺へ向かう。

向かいつつ、現実に打ちのめされそうになる。

あの新聞内容は、兵士達は見たのだろうか。

もし見てないなら、見ない方が良い。

何故なら、あの書き方が軍の考えだとしたら、暗に生存者は見捨てると言ってるものだろうから。

只野二等兵も、軍人だ。

大の為に小を切り捨てる思考は分かる。

なんなら、彼は仲間を見捨てたのだ。

保身の為に。

カールスラント軍の本心は分からないが、自身の経緯と照らし合わせると……やはり、軍は見捨てたのだと考えてしまう。

 

 

「国を守る為、か。 上層部は小の為に貴重な戦力を減らしたくない筈だ。 やはり、絶望的……だな」

 

 

先が真っ暗になっていく感覚に襲われながら、それでも前に歩き続ける。

八つ当たりするように、只野二等兵は新聞をビリビリに破いて、捨ててやった。

この世界の情勢を知れば知るほど、嫌になるのは否定出来ない。

だが、見つけた人々だけでも救いたいと思う。

それが、今の生きる理由にもなっている。

 

 

「…………よし。 話だと、この辺だな」

 

 

ネウロイをセンサー反応や今までの経験をアテにしつつ避けて移動し、やがて目的地周辺に辿り着いた。

何か目立った地形も建物も無い場所だったが、明らかに激しい戦闘後である。

建物の多くが倒壊し、未だプスプスと黒煙を上げているナニかがある。

空薬莢が大量に地面に撒かれており、気を付けないと、うっかり足を滑らしそうだ。

 

 

「むっ、アレは!」

 

 

只野二等兵は、何かを見つける。

大きな鉄の塊のようだ。

駆け寄って行くと、それは戦車だった。

大破しており、砲塔は歪み、履帯は外れてしまっている。

しかし、現代的な平べったいデザインで、かなり小型である。

人がひとり、寝そべって入れるかというくらいしかない。

 

だが、このデザインは大変見覚えがあった。

だって、それは拠点にもあるビークルだったのだから。

 

 

EDFブラッカー戦車!? なんでこんな所に!?」

 

 

そう。

それはEDFのAFV……戦闘車両のひとつ。

市街戦を想定して開発された、小回りの効くEDF主力戦車。

 

この世界に、本来は無い種類の戦車。

ブラッカー戦車だったのである。

 




ツッコミどころもあるかもですが、お兄さん許して。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8.コンバットフレーム起動。

作戦内容:
残存(?)部隊の捜索。
備考:
大破したEDF戦車を確認。 他に隊員がいるのだろうか?
センサー不調。 周囲への警戒怠るな。
装備:
ミニオンバスター
インパルスY8
説明:
インパルスY8
新型の指向性地雷。 只。
敵が有効範囲に入ると自動的に起爆。 正面方向に大量のボールベアリングを射出して、広範囲の敵を破壊する。


 

只野二等兵は放棄されたブラッカーを調べたが、特に役立つモノは無かった。

装甲や部品を剥ぎ取れば拠点のブラッカーに役立つだろうが、今はそれどころではない。

 

 

「なんでブラッカーが? 俺と同じ境遇で、この世界に飛ばされたのか?」

 

 

などと呟くが、聞いた話だと戦闘があった筈。

戦車単独で動いていたとは思えない。

周囲には大量の空薬莢が転がっているし、戦車1両が暴れたにしては全壊した建物が瓦礫の山を形成している。

もうデカい爆弾が落ちたと言われた方が理解出来るレベルにヒドイ。

 

 

「隊員もいたと考えるべきだな。 それにこの様子だ、分隊規模ってレベルじゃない」

 

 

恐らく大きな部隊がいたと予想する只野二等兵。

ワンマグ3桁の小銃やら光学兵器やら強化外骨格でキャノン砲や機関砲をブチかますEDF隊員達だ。

単独でも装備次第で街を崩壊されられるから、必ずしも部隊が来たとは言えない。

だけど、たぶん、部隊である。

只野二等兵が今まで見てきた仲間を見た限りは。

 

 

「隊長のような、空爆誘導兵でもいたのか? でも遮蔽物をわざわざ壊す事もないだろうし……ネウロイの攻撃が激しかったのか」

 

 

考えても仕方ない。

パッと見、死体は転がっていないし、部隊

は移動したのだろう。

センサーが不調で敵味方を上手く拾えないのは痛いが、捜索を開始する。

 

 

「行くか」

 

 

ミニオンバスターを構えつつ、只野二等兵は歩き出す。

その足取りは、少し重い。

只野二等兵は仲間を見捨てたのだ。

その、仲間に再び会う可能性。

 

怨まれているだろう。

憎まれているだろう。

呪っているだろう。

殺したいと考えているだろう。

 

怖い。 仲間に会うのが。

だけど甘んじて受け入れよう。

それで許してくれるなら。

 

だが、その前に。

只野二等兵は頭を地面に擦り付けてでも、懇願する事があった。

 

 

「あの子達は、生存者は助けてくれ。 こんな人生だったけど、頼むよ神様」

 

 

絶望の淵で、祈っていた事を言葉に言えた。

 

だが希望を願い、見えた時。

いつだって絶望はやって来る。

それはEDFの宿命。 呪いとも言える。

 

だって。

ヌッと大中小の異形のバケモノ……ネウロイが、言葉に反応するように彼方此方から現れ始めたのだから。

 

 

「ネウロイッ!?」

 

 

絶望は、孤独に立つ只野二等兵も見逃してくれない。

 

ネウロイが先手必勝だと言わんばかりに、赤いビームを一斉射。

只野二等兵は弾かれるように、ローリングによる緊急回避を行う。

彼がいた地面は盛り上がり、次には爆発した。

まるで榴弾を大量に叩き込まれたようだ。

 

 

「チクショウ!?」

 

 

爆煙に隠れるようにして、まだ無事な建物の影へ退避。

周囲を確認。 敵影多数。 センサーは、今になって反応。 囲まれているのが分かる。

 

 

「ポンコツセンサーめッ!! 今仕事しても、遅えんだよ!?」

 

 

悪態を吐く只野二等兵。

戦時中にも経験した事があるが、センサーとは元より万能ではない。

整備されていても、地中深くを移動しているヤツ、高高度を飛んでるヤツ、悪天候やシグナル不発信、地形の影響で拾わない事もある。

が、今回は普通にセンサーの不備だ。

只野二等兵に整備の知識なんてある訳がない。

ある意味仕方がなかったが、こうして戦場では生死に直結するから恐ろしい。

 

戦闘は避けられそうにない。

囲まれているなら、一点突破するかココに篭って反撃するしかない。

 

 

「こんな所で死ねるかぁっ!」

 

 

只野二等兵は、ミニオンバスターを構え身近にいる敵にフルオート。

無数の徹甲榴弾がネウロイ装甲に食い込む。

次には信管が作動、内部で炸裂。

装甲を内側からズタズタに破壊し、ネウロイは姿勢を崩していく。

中には、破片や爆発で核まで破壊出来たヤツもいた。

この時代の、世界の通常兵器だったら到底不可能な威力と戦績。

それをEDFの兵士と武器は、いとも容易く叩き出していく。

 

 

(多過ぎる! 一点突破、退却するべきか!?)

 

 

だがネウロイは戦いは数だよ兄貴と、ゾロゾロ寄って来る。

その様子は津波だ。

センサーは、敵を示す赤で染まりきり、染まってないエリアは只野二等兵のいる現在位置のみ。

このままでは圧死してしまいそうな勢いに、只野二等兵は焦る。

ネウロイはジワジワと距離を詰め、放つビームは確実に只野二等兵の隠れる壁を抉り取っていく。

 

 

(落ち着け……ッ! 落ち着け俺……ッ!)

 

 

建物の壁に隠れつつフルオートし、作戦を練る。

下っ端二等兵とはいえ、伊達に戦場に放り出されていない。

それに、逃げ隠れして生き延びてきたのだ。

今まで養ってきた知識を動員し、今ある装備、地形、敵数から生き延びる道を打算していく。

 

 

(俺ひとり、ミニオンバスターだけじゃ殲滅は不可能だ! 退却する……何処へ!?)

 

 

弾倉が空になる。

直ぐに予備弾倉を手に取り、訓練された動きで空弾倉を飛ばすように抜き、予備弾倉を挿し込んで、銃身に新鮮な徹甲榴弾を送り込む。

緊張と冷静さの不思議な感覚は、時間の流れを遅く感じさせた。

スローモーションに動くネウロイの群れ、やたら遅く感じる呼吸、セミオートじゃないかと疑いたくなるフルオート音。

それでも、頭だけは回転していた。

やがて、ひとつの結論を出す。

 

 

(生存者がいる建物には行けない! 俺の拠点に撤退! コンバットフレームを使う!)

 

 

善は急げ。

いや、吉と出るか凶と出るか。

拠点までの最短ルートを脳内で描き、ネウロイへの遅延行動も考える。

 

 

(あの子がいるが、グレイプの中に入れさせる! 問題はニクス起動までの時間……ッ! 何とか時間を稼がなくては!)

 

 

拠点方角を確認すると、只野二等兵は踵を返した。

そこにもネウロイがいる。

構わず只野二等兵は、走り出す。

 

 

「邪魔だァ…………どけぇっ!!」

 

 

フルオートで徹甲榴弾をたらふく喰らわしながら、必死の撤退を開始した。

 

そこには かつて、ただ逃げていた頃の彼はいない。

闘志に燃える、ひとりの兵士がいるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァハァ……ッ!」

 

 

ネウロイの壁をミニオンバスターでこじ開け、アンダーアシストで撤退していた只野二等兵。

振り返れば、ネウロイが金魚の糞の如く ついてくる。

逃してはくれないらしい。

 

だが、只野二等兵も逃げ続けているだけではない。

時々、何かが弾ける音が聞こえる度に、ネウロイが怯んだりひっくり返る。

そのネウロイにつっかえて、後続は進行が遅れていた。

その様を見て只野二等兵は、ニヤリと笑う。

 

 

「は、ははっ! どうだネウロイめ! そのまま寝てろ!」

 

 

手には箱状の物体。

足が生えており、地面に置ける様になっている。

それを走りながら、ネウロイの進行方向にばら撒いており、ネウロイがソレに近付く度に箱が起爆。

殺傷性の高い大量のボールベアリングが、ネウロイの群れを襲う。

EDFの指向性地雷インパルスY8だ。

拠点防衛に使えるかと温存していたが、整備もロクに出来ない環境下で、生存者や自分に誤反応したら嫌だと今日まで使用しなかった。

だが、今は遅延行動に大いに貢献を果たしている。

消耗品故、使えば消えて無くなるが、出し惜しみをしている場合ではない。

 

やがて、拠点に辿り着く。

待機中のウイッチが驚くも、事は一刻を要する。

 

 

「た、タダノさん!? どうしたんですか!?」

 

「ネウロイが来る! 君はソコの装甲車の中に隠れて!」

 

 

只野二等兵が叫ぶように指示を出すと、お守り程度にとPA-11を彼女に押し付けた。

 

 

「えっ!? なら、私も戦いますっ!」

 

「それは最後の手段にしてくれ! 俺は、今からアレの起動準備にかかる!」

 

 

足を止めずに、大きな人型ロボット……搭乗式強化外骨格コンバットフレームに乗り込む只野二等兵。

ライセンスなんて無いが、簡単な説明書なら見た。

見様見真似のぶっつけ本番だ。

 

 

「その機械人形は、なんなんです!? そんなので戦えるんですか!?」

 

「良いから隠れていて!」

 

 

スイッチを押し、コックピット・ハッチを閉める。

暗闇が一瞬のみ訪れるが、直ぐに各種センサーカメラによる外部の様子がモニターされて明るくなる。

モニターでは、女の子がカメラ起動音やニクス表面の各種センサーカメラが光ったのに驚いて、慌てて装甲車……グレイプに乗り込んでいるのが見えた。

 

 

「装甲は削れて、ボロボロだが各動力は生きている……イける! イけなきゃ困るぞ! 余剰弾薬確認、出力全開、コンバットモードに切り替え、全セーフティ解除!」

 

 

不慣れに、だけど急いでスイッチ群をパチパチパチと上げていく。

メインカメラには砂埃を立てて、拠点の壁を壊して侵入してくるネウロイが映る。

 

同時に機械兵が、両足でしっかりと異界の地に立った。

 

刹那。

 

 

「クタバレ ネウロイッ!!」

 

 

機械兵、コンバットフレームの左腕からロケット弾が放たれた。

それは寸分違わず、ネウロイの群れのど真ん中に飛翔し。

 

爆発。

ネウロイの群れの先頭を、爆炎が包み込んだ。

 

 

「コンバットフレーム、バトルオペレーションッ!」

 

 

只野二等兵が叫び、操縦桿のトリガーを引く。

今度は右手に持つ、巨大なマシンガンが火を噴いた。

その大口径弾は爆炎を消しとばし、その先にいる後続を抉り潰していく。

真っ赤だったセンサーが、その攻撃のみで大きく減った。

直線上に敵が消えており、薙ぎ払われたのが分かる。

同時に、如何にコンバットフレームの火力が高いかが分かる。

 

 

「コンバットフレームの力を見せてやる……!」

 

 

ガシャン、ガシャンと大きな両足で前進を始めるロボット。

 

たったひとり。 されどひとり。

 

コンバットフレーム・ニクス。

見た目は人型の大きなロボット。

EDFの搭乗式強化外骨格。

堅牢な装甲でパイロットを保護しつつ、大火力で圧倒するバトルマシン。

只野二等兵が使用するのは、A型と呼ばれる、装甲が薄く、武装は歩兵が持てない大きなニクス用マシンガンと、ロケット砲のみ。

 

だが、そんな簡易武装のA型であっても……コンバットフレームは強い。

如何にEDFの技術や武器が、この世界にとって強力か。

 

ネウロイのビームに物ともせず、爆炎の海を突き進む機械兵。

 

ウイッチは、装甲車のスリット……のぞき窓から見て恐怖した。

 

ひとりで、二等兵で、この強さ。

一体、EDFは どんな化け物集団なのかと。

 

ネウロイも怖いが、今はEDFも怖い。

 

でも。

頼もしい事に違いはない。

それにタダノさんは、私の味方。

私を守ってくれるナイト様。

潤んだ目で、機械兵の背中を見つめる彼女。

 

そんな、こっ恥ずかしい妄想すらするようになった彼女を後方に、只野二等兵は奮闘する。

 

死ぬ訳にはいかない。

生存者を助ける為にも、数少ない希望だと頼ってくれた兵士を助けねばならないのだから。

 




誤字脱字があったら、ごめんなさい……。
EDFとは合流ならず。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9.再会。

作戦内容:
偵察隊が戦闘を観測しました。
銃撃音や機械音からして、コンバットフレームの様です。
その方向には部隊を展開していません。
恐らく回収目標が危機に晒されていると思われます。
直ちに救援。 最寄りの部隊から向かって下さい。
備考:
今回は砲兵隊もいる他、空軍や海軍の支援を受けられる。
その為、空爆誘導兵がいる。 砲撃や空爆、ミサイル群、ガンシップの機銃掃射等に巻き込まれない様に注意。
装備:
CX特殊爆弾
ミニオンバスター
その他
説明:
CX特殊爆弾
特殊工作用爆弾。 設置可能数が非常に多く、運用の幅が広い。 破壊力も高く、強力な武器だといえる。 見た目は箱状で、電子機器やコード類が見て取れる。 起爆用リモコンを使用し、任意で起爆。


たくさんの評価、感想ありがとうございます。 励みになります。


激しい爆音。

激しい銃声。

兵士の雄叫び。

 

カールスラント本土の とある街にて、それは響き渡る。

現地正規軍が撤退した筈なのに、ネウロイが占拠した筈なのに。

 

 

「誰かが……誰かが戦っている。 誰かは分からない…………」

 

 

取り残された生存者は、確かに聞いた。

皆が諦め、静かになった筈の この街で。

 

 

「タダノか!?」

 

「分からないが、助けに行かなくては」

 

「よせ……じきに聞こえなくなる」

 

 

兵士は恩人かも知れないと考えたが、助けに行く事を躊躇った。

もはや片手で数える程度しか、動ける兵士がいない。

武器も歩兵銃のみで弾薬も少なく、ネウロイに到底太刀打ち出来る武装ではない。

 

結局、保身を優先して彼らは耳を塞いだ。

絶望の声を聞きたくない。

恐怖からの現実逃避は、身に巻いた綺麗な包帯を汚していく。

 

見捨てたんじゃない。

すまないタダノ。

俺らは、無力だ。

だが、ココを守らなくては。

 

矛盾した言い訳を、心で復唱する。

ネウロイというバケモノ。

普通の歩兵じゃ、良くて時間稼ぎしか出来ない圧倒的な敵。

相手をし、その力を見せられた。

人間なんて、無力だと。 勝てやしないと。

俺らに、何が出来るってんだ。

 

どうせ聞こえなくなる声、止んで欲しいようで欲しくない勇ましい声。

それが兵士の鼓膜を震わせ続ける。

 

 

(くそっ、幻聴か! 声が聞こえ続ける!)

 

(やめてくれ……俺らを責めないでくれ!)

 

(許せ許せ許せ許せ許してくれ……ッ!)

 

 

そんな兵士達を責める声は、聞こえ続ける。

本当にそれで良いのかと。

後悔は無いのかと。

 

互いに顔を上げ、仲間を見合った。

民間人も同じだったのか、お互いの顔色を見合っている。

やがて震える声を掛け合う。

 

 

「幻聴……じゃないよな」

 

「まだ……まだ戦ってるのか?」

 

「ネウロイ相手に……たったひとりで?」

 

 

答えるように、遠くからの爆音と共にパラパラと埃が落ちてくる。

時々、聞いた声の兵士の雄叫びが聞こえる。

銃声が聞こえる。

現実のようだ。

 

 

「兵隊さん」

 

 

背後の民間人らが、声を掛けた。

皆もボロボロで、今にも消えてしまいそうな衰弱した様子の子もいる。

それでも、目にはしっかりとした気力が見て取れた。

かつての絶望の目をした者は、誰もいない。

 

 

「私たちは大丈夫です。 どうか、行ってあげてください」

 

「しかし」

 

 

言い淀む兵士たち。

対してボロボロの少女兵が前に出る。

ウィッチだ。

 

 

「私も、後悔はしたくない。 ここで死ぬくらいなら、戦いの中で死にたい」

 

 

それが総意だったのか。

皮切りに、皆は声を出していく。

 

 

「そうだ! あの扶桑軍人が、唯一の希望なんだろ!? なら行くべきだ!」

 

「賛成だ! 俺だって、グッ、まだ戦える!」

 

「ネウロイに教えてやれ! 簡単に勝てやしないとな!」

 

「……みんな」

 

 

絶望の淵にいておきながら、自らを鼓舞し立ち向かう姿勢を見せる面々。

それは、あの兵士の為した事だ。

大したヤツだと、カールスラント軍人は鉄帽を深く被りなおす。

目元は暗く見えない。

だが、口元はニヤリ、と笑みを見せている。

もう恐怖は消えた。

ならやる事をやるだけだ。

 

 

「ここまで言われて やらないのは男じゃねえ!」

 

「カールスラント軍の誇りにかけて!」

 

「やってやる! 直ちに援護に向かうぞ!」

 

「シールドなら、まだ張れます!」

 

「頼む!」

 

 

勝てる勝てないじゃない。 やるんだ。

歩兵銃に弾を込め、ウイッチを背負い、兵士は音のある方へ走っていく。

無力だ。

無駄だ。

そんなの、分かりきっている。

それでも向かう。

タダノの為、希望を掴む為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 

只野二等兵は、狭いコックピット内に雄叫びを響かせながら、ニクスで暴れていた。

コックピット内の音声はスピーカーを伝い外部に増幅して漏れ出し、街中に響いている。

だが、それを上回るロケット弾による爆音、大口径マシンガン(ニクス用なので、機関砲といっても良いかも知れない)による銃撃音が世界を支配していた。

対するネウロイの群勢は臆する事なく、たかだか1匹の機械人形を圧殺せんと攻めに攻める。

近いネウロイから爆散、ニクスが圧倒している様に見えるが、その防衛範囲は確実に狭まってきた。

数が多いのもあるが、問題はニクス側にあった。

 

 

(くそっ! 動きがッ!?)

 

 

鈍くなるニクス。

滝の様に出していた空薬莢の排出量も、明らかに減っている。

原因は知れている。

ニクス・バトルシステムのダメージ・コントロールが、教えてくれた。

複数の警報がコックピット内で鳴り始めているが、診断パネルでは残弾警報と装甲耐久の低下、動力の低下とある。

この為、転回速度や移動速度の低下を招いているのだ。

残弾の低下もあり、節約する為にバーストショットとなり、それがネウロイの前進を許してしまっている。

装甲もビームを散々乱射されたのだ、融解してしまい、一部は稼働部が剥き出しだ。

 

 

「流石に中古品か!?」

 

 

只野二等兵の言う通り、これは中古品。

それに彼はニクスの訓練を受けていない。

だから、仕方ない部分もある。

欧州の街に放棄されていた拾い物であり、その時点で装甲も削れていたし、残弾も多くは残っていなかった。

知識の無い只野二等兵は、それでも使えるようにと半ばスクラップ同然の、ブラッカー戦車の装甲板等をガスバーナーで溶接。

追加装甲モドキをしたり、稼働部を隠したり。

修理とは名ばかりの、誤魔化しをしていたに過ぎない。

いくら仕方ないとはいえ、こうして命掛けになると笑えなかった。

 

 

(ダメだ! 押されてる! 何とか、何とかしなくては!)

 

 

背後にはウィッチの女の子がいるのだ。

そして、待ってくれてる生存者達。

ここで死ねない。

背面のブーストは生きている。

これで飛べば、逃げられるかも知れない。

だが、それは許されない。

只野二等兵自身が、何より許せない。

 

 

「まだだ! ニクスだけがEDFじゃない!」

 

 

空になったマシンガンをネウロイに投げつけ、ドゴンッドゴンと残ったロケット弾を全て叩き込む。

ネウロイが噴き出し花火のように、景気良くあがり、ボトボトと落ちては周りを巻きこんだ。

 

 

「まだだッ!」

 

 

ペダルを踏み込み、ニクス背面で青白い炎が上がる。

 

 

(ごめんな、ニクス。 そしてありがとう)

 

 

瞬間、ニクスの足が地面から離れ、勢い良くネウロイに突っ込んだ。

自らを弾丸とした、捨て身の攻撃。

地面スレスレを飛行する質量ある金属の塊。

特攻としか見えない行為は、人間相手なら轢き殺せただろうが、ネウロイを倒せるとは思っていない。

だが、考えはあった。

 

 

「ッ!」

 

 

只野二等兵は、ネウロイの群れに衝突する瞬間に脱出。

ニクスはパイロットと生き別れ、慣性で群れに突っ込んだ。

ネウロイは、その質量に多少はよろけたが、それだけだ。

直ぐに態勢を立て直し、飛び出た中身を殺そうと向き直った……その時。

 

 

ドゴォンッ!!

 

 

ニクスが大爆発、炎上。

衝撃波と爆炎、破片がネウロイをズタズタに引き裂いた!

 

 

「どうだ! CX特殊爆弾の味は!?」

 

 

只野二等兵が爆炎に消えるネウロイに叫ぶ。

手には爆弾起爆用のリモコンが。

ニクスに取り付けた爆弾が爆発したのである。

 

ゲームでも似た経験のある隊員は多いと思うが、只野二等兵は脱出した瞬間、ニクスに素早くCX特殊爆弾という、箱状の爆弾を取り付け、起爆したのだ。

威力は同系統な爆弾と比べると低いものの、EDFの爆弾である。

ネウロイを吹き飛ばすには十分で、この攻撃で多くのネウロイが減った。

 

 

「センサー反応をアテにすれば、もう少しで殲滅出来る……!」

 

 

後退し、別のビークルに乗り換えようと踏み出した時。

 

 

「ガァッ!?」

 

 

強烈な痛みが片足を襲い、地面に転がる。

生き残ったネウロイが、爆炎の中からビームを撃ち当てたのだ。

通常の兵士なら吹き飛んだだろうが、EDFの強靭な戦闘服だ。

ボロボロとはいえ、そう簡単には千切れやしないし、死ぬ事もない。

だが衝撃は凄まじく、痛いものは痛い。

只野二等兵は激痛に苦しみながらも、上体を起こして反撃した。

 

 

「イテェぞ、クソネウロイがァッ!!」

 

 

ミニオンバスターで徹甲榴弾をばら撒く。

いくつかは爆散し、いくつかは死なずに突っ込んでくる。

仲間の仇を討たんと、道連れにしてやると死兵と化した様だ。

 

 

「止まれ止まれ止まれッてんだクソッ!!」

 

 

猪突猛進。 絶対ブッ殺す。

ビームも撃たずに特攻してくる1体のネウロイ。

只野二等兵は恐怖に目を見開きながら、全弾を叩きこむ!

 

 

「来るな! 来るなッ!! 来るなぁッ!!」

 

 

表面に火花を散らし、内側で爆発が無数に起き、装甲を弾き飛ばしながらも、尚もネウロイは止まらない。

 

もう駄目だ!!

 

只野二等兵は、死を悟る。

覚悟した。

せめての抵抗で、空になったミニオンバスターを投げ捨てると。

CX特殊爆弾を自らに括り付けリモコンを手に持ち……目を閉じる。

 

 

「ふぅッ! ふぅ……ッ!」

 

 

死を前に、息が荒くなる。

守れなかった。

みんなを。

 

後悔の念と共に、只野二等兵は自ら命を散らそうとした時。

 

 

「撃ちまくれえええええッ!!」

 

 

雄叫び。

旧式歩兵銃の、銃撃音。

ネウロイに火花が散る。

驚き、視線をやる只野二等兵。

そこには、只野二等兵が助けた生き延びた兵士達。

ここに駆けつけ、援護をしてくれたのである。

しかし、この世界の銃ではネウロイに損傷を与えるのは難しく、ネウロイは止まらない。

 

 

「駄目だ、間に合わねぇ!?」

 

 

只野二等兵は、笑みを浮かべた。

微かな満足感を得たから。

仲間を見捨てたが、この世界に新たな仲間が出来て、こうして助け合った事実。

出来れば皆を救いたかった。

だが、ちょっとは……満足。

最期は、俺の勇姿を見せて終わろう。

 

フッと笑い。

スイッチを押そうとして。

 

 

「タダノさぁああんッ!!」

 

 

聞き覚えのある、女の子の声。

運命は、簡単に死という安らぎを与えない。

 

只野二等兵とネウロイの間。

グレイプに隠れていた筈のウィッチが割って入り、魔法陣……シールドを展開。

 

 

「くうッ……!」

 

 

ネウロイはシールドに阻まれたが、怨念からなのか。

ネウロイはシールドを突き破り、ウィッチと只野二等兵を弾き飛ばす。

かつての侵略性生物γ型を思わす光景だった。

 

 

「きゃあああッ!?」「がはっ!?」

 

 

ふたりの悲鳴が上がり、吹き飛ばされる。

だが、シールドによって威力が減衰した事で命を取り留めたウィッチと只野二等兵。

しかし以前、状況は最悪だ。

ネウロイは只野二等兵が生きてるのを確認し、再び突撃を敢行。

駆け付けた兵士が、せめて注意を逸らそうと必死の銃撃を喰らわしているが、気にも留めない。

 

 

「グッ……に、逃げるんだ……ッ!」

 

「いや……イヤですッ! タダノさんが死んじゃう!」

 

 

首を横に振り、ワガママを言う女の子。

そんなドラマも気に留めず、ネウロイは走り続ける。

このままではふたり揃って あの世行き。

 

今度こそ駄目だ!

 

只野二等兵は、女の子を庇う様に抱いてうずくまる。

せめて、女の子の生存率だけは上げようとしての行動。

きたる衝撃に全身の筋肉を強張らせ、再び目を閉じた、その時。

 

再び誰かの声。

だけど、懐かしい声がした。

 

 

『バルカン砲、ファイヤッ!』

 

 

久し振りの無線音声と共に、空から弾丸の雨が降り注ぐ!

それは突撃をかましていたネウロイの脳天や周囲にバラつきをもって着弾。

ネウロイを一瞬でバラバラにしてしまった。

 

 

「な、なんだ!?」

 

「カールスラント空軍か!?」

 

「い、いや違う! 知らない攻撃だ!」

 

 

兵士の驚く声に顔を上げる只野二等兵と、庇われた女の子。

その驚いた正体。

EDF隊員である只野二等兵は知っている。

それを理解するより早く、無線音声と空からの攻撃は続いた。

 

 

『ロケット弾、ファイヤ!』

 

 

今度は離れたところにいた、ネウロイの群れが爆発と共に吹き飛んでしまう。

ロケット弾による攻撃だ。

して、この威力と精度。

この世界の、技術の攻撃ではない。

 

 

「カールスラント軍の、新兵器?」

 

「…………DE202……」

 

 

只野二等兵は、空を見上げながら言う。

釣られて見る面々だが、そこには何も見えない。

ネウロイが形成したのか、黒い暗雲が立ち込めているだけだ。

 

 

「え?」

 

「地上制圧機、ガンシップの攻撃だ」

 

 

嗚呼。

やはりEDFがこの世界にいる。

 

して、EDFがこの攻撃を出来るという事は、空爆誘導兵がいるという事。

その誘導兵は、只野二等兵が知る人物であり、伝説の英雄。

 

 

「待たせたな」

 

 

懐かしく、頼もしい若い男の声。

振り返る。

 

そこには、自身のレンジャー装備とは、大きく異なるEDFの兵士が立っていた。

 

 

「あぁ……ああ!」

 

 

フルフェイスヘルメット。

剣道の防具のような、やや丸みを帯びた防弾着を着用。

大きな無線機器を背負い、腰道具類や様々な無線機が付いている。

 

空爆誘導兵の装備だ。

そして、かつての隊長。

 

 

「ストーム・ワン隊長……ッ!」

 

 

まさか、この世界で再会するなんて。

そして生きて会えた喜びと、罪の意識からの困惑。

 

返答に困っていると、隊長から声を掛けられた。

決して責める言葉ではない。

寧ろ、労う言葉だった。

 

 

「よく頑張った。 後は任せろ」

 

 

そして、隊長は振り返る。

そこには、未だ攻撃の意思を感じさせるネウロイの群勢。

 

 

「さて」

 

 

そして隊長は、そいつらにビーコンガンを構えて……冷酷に言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「部下が世話になったな。 礼はたっぷりしてやる。 覚悟しろ」

 

 

 

 

 




作中設定では空爆誘導兵であり。 主人公の隊長。
伝説の兵士、ストーム・ワン登場。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10.「仲間を見捨てない」

作戦内容:
敵の殲滅及び生存者救出。
備考:
EDFは仲間を見捨てない。 本当だな。
装備:
PA-11
T4ストーク
その他
説明:
T4ストーク
次世代型高性能ライフル。 抜本的な構造の見直しが図られた結果、総合的な性能向上に成功。 欠点のない優秀なアサルトライフル。
レーザーサイト装備。 SFぽいデザインをしている。
戦争で生産能力が著しく低下したであろうEDFだが、使用可能な武器を投入しようとしたのか、今回はモブ隊員も使う。


歩兵隊に随行し、空軍や砲兵隊、基地や衛星、潜水艦等に座標を伝達して部隊を援護するのが主任務の兵科エアレイダー。

日本語で言うなら、空爆誘導兵。

その兵科には、伝説の男が属している。

 

コードネームはストーム・ワン。

 

EDFの世界にて数ヶ月以上前に派遣された、欧州救援隊の隊長を務め、当時の只野二等兵にとっては上官であり見捨てた ひとり に当たる。

欧州を辛くも生き延び撤退した隊長らは、その後、敵司令船コマンドシップを撃墜し、エイリアンの神……かの者を倒した伝説の遊撃部隊ストームの、ストーム・リーダーとなっていた。

 

そんなEDFの生きる伝説である隊長は只野二等兵を責める事はなく、寧ろ労う。

そして今、不倶戴天の敵と対峙する。

恐怖を感じさせない、勇ましい勇姿。

最後にあった時と変わらない。

して、彼の勇姿に呼応するように、多くのEDF隊員が集合していく。

 

 

「ストーム・ワンに続けェッ!」

 

「うおおおおおおおおおお!!」

 

「ストーム・ワンがいれば敵なしだァ!」

 

「ヤツらを包囲しろッ!」

 

「第3隊は後方に回り込めッ!」

 

「キャリバン救護車両、前進して負傷者を収容せよ!」

 

「間も無くAFV他、イプシロン自走レールガン及びコンバットフレーム隊が指定座標に到達ッ!」

 

「EDFの力を思い知れ!」

 

「EDFッ! EDFッ!!」

 

 

雄叫びを口々に上げながら、銃撃を喰らわしていく隊員ら。

只野二等兵のセンサーには、ネウロイを囲い込むように味方表示の無数の青丸が浮かび上がる。

それらは増えに増えて津波となり押し寄せ、群がるネウロイを飲み込んだ。

PA-11以外にも、新型アサルトライフルT4ストークを所持している隊員もいる。

SFぽく、銃に似つかわしくない鮮やかな水色が配色されており、しかし従来のライフルを上回る性能を遺憾無く発揮中。

本気度が伺える戦力だ。

鳴り止まぬ銃撃音。

勇ましい数多の雄叫び。

数の暴力。 EDFの力。

戦時では時に虐殺レベルで圧倒されていたEDFが、この世界では立場が逆転していた。

 

 

「立てるか?」

 

 

不意に声を掛けられた。

隊長だった。

只野二等兵は、慌てて立ち上がる。

 

 

「ッ! は、はい……くっ!」

 

「タダノさん!」

 

「タダノ!」

 

 

立ち上がるも、痛みでよろける只野二等兵。

それを脇にいるウィッチが支える。

それに合わせるように、駆け付けたカールスラント兵も駆け寄った。

 

 

「……グッ……すみません、俺なんかの為に」

 

「そんな事ないですっ」

 

「それはこっちのセリフだ」

 

「助けられたんだ、助けもするさ」

 

 

その"仲間たち"の様子に、隊長はヘルメットの下で口角を上げて頷く。

 

 

(ふっ。 頼もしい仲間が出来たな)

 

 

部下が孤独に苦しんでるかと心配していただけに、妙な安心感を覚える隊長。

 

欧州での戦闘で行方不明になった只野二等兵。

欧州から撤退する時、斃れる屍の中に彼の姿を確認出来なかった隊長ら救援隊員。

きっと爆散したり、喰われてしまったのだろうと諦めムードが漂っていた。

だが、隊長は心のどこかで生存していると思った。

生き恥を晒そうとも、この絶望を生き延びて欲しい。

そう願い、彼は日本へ帰還した。

 

その願いは、どうやら届いたようだ。

 

まさか別世界に飛ばされていたとは想像出来なかったが、生きて再会出来たのは大変喜ばしい事に違いはない。

 

だが、今は戦闘中。

この世界の仲間に、只野を任せて集中しなければ。

隊長は見ず知らずの兵士に"お願い"する。

 

 

「すまないが、只野を連れて安全な場所に退避してくれ」

 

「りょ、了解!」

 

 

突如現れた隊長の、堂々と勇ましい雰囲気に圧倒される兵士たち。

それが上官による"命令"ではなく"お願い"だとしても、本能的に上官"命令"だと身体が反応してしまう。

 

ただ者ではない。

そう思った。

 

だが、只野二等兵は曇った顔になる。

見捨てた件、その罪の意識。

隊長は、みんなは、どう思っているのだろうか。

 

恨んでないのか。

何故助けるのか。

何か利己的な理由が絡んでいるのでは?

 

 

「……隊長、俺は」

 

 

言い淀む只野。

気持ちは分かる。

だからこそ勇気づけ、安心させねば。

部下を安心させるように、隊長は優しくも力強い言葉を返していく。

まるで父親の様な、そんな声だ。

 

 

「良いんだ只野。 良く生き延びてくれた。 これからも生き延びろ、命令だ」

 

 

赦された。

瞬間、涙が溢れそうになる。

 

 

「……ッ! りょ……!」

 

「聞こえないぞ。 はっきり言え」

 

「了解ッ!!」

 

 

頷いて見せる隊長。

ヘルメット越しに、ニコリと笑う。

 

 

「早く行け。 ここは戦場だ」

 

 

只野は、支えられながらも敬礼。

支える兵士も倣って敬礼する。

その後、直ぐに兵士たちが後方の建物の中に退避したのを見届けると、おもむろに無線機を取り出した。

 

 

「展開中の全部隊へ! 空爆を開始する! 敵の群れから離れていろ!」

 

 

そして"いつも通りの空爆誘導"が始まった。

しゃがみこみ、無線に早口で何かを言い始める隊長。

早く、冷静に、正確に、効率良く、絶望の戦局をひっくり返してきた魔法の呪文。

 

 

「フォボス編隊プラン10、指定座標───、突入角度───」

 

 

言い終わるのが遅いか早いか。

隊長が立ち上がると、空に大きなエイのような航空機の群れが轟音を立てて戦闘領域上空に突入してきた。

この世界には無い、ありえない、重爆撃機の群れである。

その数、10機。

 

 

「な、なんだアレは!?」

 

「ネウロイか!?」

 

「い、いや……EDFの航空機か!?」

 

「速い……!」

 

 

兵士たちが驚く中。

やがてネウロイの群れ頭上に差し掛かると、

 

 

「空爆開始! アタック!」

 

 

またも只野二等兵を始めとする、EDF隊員らに無線越しの若い男の声がする。

重爆撃機フォボスのパイロットの声だ。

只野二等兵は、その声を聞いてニヤリと笑んだ。

その声は、痛みなんて忘れさせてくれる。

絶望を勝利への希望に変わる合図だから。

 

 

「勝ったな」

 

 

それを合図にして、フォボスから無数の爆弾が投下。

ネウロイや建物、地面に着弾すると次々と爆発。

 

 

「うわああああ!?」

 

 

その威力や凄まじく、地面を揺らし、轟音は街を包み込む。

同じ座標に10機が規則正しく直列して突入しては、爆弾をひたすらに投下して、4秒、5秒と爆撃は終わらない。

 

 

「なんて威力だ……ッ!」

 

「乱戦の中なのに、敵の群れだけに攻撃を当てている!」

 

「す、すごい……!」

 

「EDFは……何者なんだ!?」

 

 

残存するネウロイは街ごと吹き飛び、塵も許さぬ猛爆撃。

ネウロイに制空権を握られ、中々出来なかったソレ。

いや、出来てもネウロイには威力不足だった爆撃。

痒いところを掻いてくれた、圧倒的で快感の攻撃に皆は勝利の雄叫びを上げ始める。

 

 

「うおおおおおお!!」

 

「空爆万歳だッ!」

 

「空軍万歳!」

 

「ストーム・ワン万歳!」

 

「最高だぜエアレイダー!」

 

「さすがは我らが隊長!」

 

 

纏まりのない隊員らの歓喜の声は、やがて爆音の増加と共に ひとまとまりになっていく。

 

 

「「「「EDF! EDFッ!!」」」」

 

 

全地球防衛機構軍。

魔女とネウロイがいる異世界の1940年代欧州の地にて。

 

著名な魔女達が知らない所で密かに、だけど派手で大きな勝利を、この地にて納めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ、只野! 無事だったか!」

 

 

戦闘終了後。

設営された医療テントに担ぎ込まれた只野二等兵のところに行く隊員ら。

皆、笑い掛けながら肩を叩く。

 

 

「……みんな」

 

 

そこには憎悪や怨念はない。

階級による上下関係も無い。

ただただ、仲間を案ずる陽気な声が響く。

軍隊というよりサークル仲間のような、家族のような、軽い、互いに気兼ねなく話せる友人にすら感じさせるやり取り。

EDFはそういう者が多い。

人によっては規律の緩さに(カールスラントの機関銃二丁持ちお姉ちゃんウィッチとか)眉間に皺を寄せる組織だが、思いやりがある良い集まりなのだ。

 

 

「俺を……恨んでないんですか?」

 

「はぁ? なんで恨む必要があるんだ?」

 

「いや、だって……欧州で俺は、皆を見捨てて逃げて」

 

 

只野は俯いた。

隊長には許してもらえたが、他の隊員は きっと違う……そう思ったのだ。

だが、隊員らは肩をすぼめて ケラケラ笑う。

全然大した話じゃないと、笑い飛ばす。

 

 

「なんだ。 そんな事を ずっと気にしてたのか」

 

「へ?」

 

「あの絶望を、戦場を生き延びた。 お前も必死に戦ってたのを知っている」

 

「誰だって怖い。 逃げる気持ちは分かる」

 

 

同情してくれる仲間達。

だが、只野としては罰してくれた方が、気が楽だった。

それは、ある種の逃げである。

だから求めるように意を唱えてしまう。

 

 

「で、ですが」

 

「逃げたのが罪って思うなら、そうだろうな。 だがな、役に立ったぞ?」

 

 

それを察してか否か。

隊員は言う。

只野の知らない戦場の続きを。

 

 

「怪物が お前の後を追って、敵の勢力が分散したんだ。 お陰で対処しやすくなった」

 

「ストーム・ワン隊長も褒めてたぜ? 生きて帰って来ると信じてもいた」

 

「……隊長が」

 

 

どうやら、只野の行動は完全にマイナスではなかったらしい。

結果の話だったが、少し明るくなる只野。

そんな彼をさらに励ますように、隊員らも明るく話を続けた。

 

 

「それに! 隊長はエイリアンの司令船を撃墜したんだぜ? プロパガンダの類じゃないぞ、マジだかんな?」

 

「死神みてぇな、ヤベェ強さを持つエイリアンの司令官的なのも倒したぞ!」

 

「えっ!? じゃあ戦争は!?」

 

「あー……、エイリアンの本隊は消え失せたんだがな。 使役していたクローンエイリアン共や侵略性外来生物は、まだいるな」

 

「そう、ですか」

 

 

励ましの言葉を続けるつもりが、少し暗い事実を言う羽目になる隊員ら。

戦争は完全に終わらない。

残された戦力では、人類はかつての栄光を取り戻すのは困難だ。

寧ろ滅ぼされかけているとも言える。

operationΩも言おうかと考えたが、悪いニュースを続ける事もないだろうと言わなかった。

いずれ、知ってしまう時がくるだろうが……それは今ではない。

そんな判断だ。

 

 

「なに安心しろ。 EDFが、隊長がいる限り大丈夫だ!」

 

「お前と一緒にいた兵士や、教えてくれた生存者も仲間が治療してくれているし!」

 

「それは……ありがとうございます。 助かりました。 正直、俺ひとりじゃ何も出来ず」

 

「お前は頑張った。 そう言うな」

 

「あそこにいた兵士達に聞いたが、勇敢だったそうじゃないか」

 

「良くやった。 今は休め」

 

「…………了解っす、ありがとうございました」

 

 

そう"先輩"らに言うと、テントを後にする隊員。

隣近所のベッドは空いていて、只野の他には誰もいない。

外からは、今や珍しく感じてしまうビークルの音や、EDF隊員の喧しくも懐かしい声が響いていた。

 

 

「そうか。 "EDFに帰れた"のか俺は」

 

 

うっうっ、と女々しく嗚咽する声がテントに響く。

サングラスを退かして、片手で涙を何度も何度も拭い、深呼吸して自身を落ち着かせる。

 

皆に、EDFに赦された。

俺は帰れたんだ。 皆の所へ。

 

今後、どうなるのかは分からない。

でも、分かった事がある。

それは。

 

 

「EDFは仲間を見捨てない。 本当だな」

 

 

そう、呟いた。

久し振りの温かさが、只野二等兵の心にこんこんと湧いたのであった。

 




EDFと合流。 今後どうなるのか(未定)。

沢山の評価、感想ありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EDF、ウィッチ世界の欧州に出撃中。
11.EDF(ネウロイ以上の未知)との邂逅


作戦内容:
前回救出した兵士達の話では、大規模な撤退作戦中だったとの事です。
民間人及び政治家や軍部は、より西側や北南の国々へと逃れたと思われます。
また敵対勢力は以後、この世界の人々に倣い、ネウロイと呼称します。
どうやら黒海から欧州各国へ侵攻を始めた様ですが……。
元の世界の地形や名称とは異なる点が多く、EDFも人員不足から諜報活動に限界があります。
ですが足踏みをしていても仕方ありません。
偵察隊を編成、欧州軍などへのコンタクトを試みます。
これは互いに疲弊した我々や地球を救う為です。
備考:
救出した兵士を足かせにするのは勿論だが、今は治療中。
装備:
PA-11
その他


黒海にて発生した怪異のネウロイ。

仕組みも目的も不明な異質な存在は、少なくとも人類にとっては害悪であった。

ビームを撃ち人類を攻撃して街を焼き払い、瘴気をばら撒いて人々が住めない土地へと変えていったのだから。

 

そんなネウロイは瞬く間に周囲の国々に侵攻、占拠していく。

通常兵器が効かないといっても過言ではない防御力と攻撃力を備えるソイツら。

軍隊の必死の抵抗も虚しく、次から次へと都市が、国が陥落していった。

その魔の手は、確実に人類の活動圏を狭めており、このままでは欧州全てが飲み込まれ、やがては世界を飲み込む。

想像に難しくない、最悪のシナリオだ。

 

だが希望はあった。

 

ウィッチだ。

 

魔力を込めた攻撃に弱いネウロイは、ウィッチによる攻撃が有効とされる。

研究、開発されたウィッチ用の装備……飛行脚……ストライカーユニット等を装備して、戦場へと彼女達を投入。

まだ10代の、未来ある女の子を犠牲にして。

そうする事でしか……辛うじて、人類は戦線の維持を……いや。

 

侵攻の遅延、時間稼ぎをする事しか出来なかった。

 

そんな状況下。

大きな国、帝政カールスラント(ドイツ)が陥落寸前まで追い込まれており、続いてガリア(フランス)のパリ陥落も。

 

人類側は民間人の人命と、今後の防衛、反攻作戦に備えて大規模な撤退作戦を開始。

ダイナモ作戦等、ブリタニアへの撤退。 他、撤退作戦が複数。

戦力の温存、撤退してきた民間人の受け入れ、他国の軍隊への対処や再編成、防衛線構築が残された各国に求められた。

 

その切迫した戦局の中で、ブリタニアのダウディング空軍大将はブリアニア防衛とガリア奪還を目的とした統合戦闘航空団の結成をミーナ中佐(ウィッチ。 カールスラント空軍 第3戦闘航空団の司令。 501JFW結成時は、そこの司令官に)と共に説き、ついに認められる。

これは多国籍のウィッチで編成されていたスオムス義勇独立飛行中隊(スオムスいらん子中隊)の活躍や、ブリタニアに優秀なウィッチが集まったのも影響している。

(ただし人員集めに無茶をして、各国の不審を買ってしまい、失墜に繋がってしまう。 代わりになったのが、トレヴァー・マロニー空軍大将。 このオッサンの所為で501JFWは酷い目に遭う。 なんならアニメ開始前の時系列から色々酷い目に遭わせてたっぽいが)

統合戦闘航空団には500番台のナンバーが与えられ、1桁は設立順を表す。

 

ブリタニアは欧州の補給線の要衝で最後の生命線であり、絶対に失陥されてはならない。

欧州には、もう後がなかったのだ。

 

そんな所に、ポンとEDFの登場。

 

ネウロイが占拠したてのカールスラントに神出鬼没に現れ、ネウロイの勢力圏のど真ん中で暴れては殲滅。

今度はEDFがカールスラント(一部の街のみだが)を不法占拠。

国民がいないのを良い事に、人の家(国と、その街)の土地を勝手に使っていた。

間借り、間借りだから(言い訳)。

 

撤退や再編成に忙しい各国は、EDFの存在に気付くのが遅れ、EDF側の偵察隊が防衛線に出張り、兵士らにコンタクトを取った事で……やっと「ファッ!? なんだこの軍隊!?」となる。

 

怪しいが、ネウロイじゃないなら……と、互いに示談を進めていく事になった。

技術格差や価値観の違いもあり司令部同士、無線を繋ぐのに苦労したが、何とか会話をする事が出来た。

以下、要略。

 

 

「ネウロイから、"うっかり"カールスラントの一部を掠奪……じゃなくて"解放"したんですが。 土地や資源を分けてくれるなら、受け渡しとか、おう考えてやるよ。 おたくら、どうします? アクしろよ」

 

「ガ、ガリアを解放しないといけないので……501JFWも結成したし……そ、そうだ。 位置的に挟み撃ちが出来ますよ。 同じ人類同士、協力しましょうよ。 ね? ね?」

 

「えー、どうしましょう。 人的資源がなぁEDFもなぁ(黒海側からもネウロイが来るので)」

 

「おのれぇ。 偵察隊を人質に……じゃなくて、保護してるから迎えに来る感じで、どう?」

 

「は? コッチにはおたくらが取り残した民間人や兵隊を預かってるんで。 オマイらが迎えに来て、どうぞ(来たら"保護"しちゃおうね★)」

 

「ネウロイに占拠されたガリアを挟んでいるのに、なんで迎えに行く必要があるんですか(半ギレ)」

 

「あれれぇ。 おじさーん、どうして自国民を切り捨てる発言しちゃうのかなぁ?」

 

「軍隊は撤退したばかりで、再編成中なんで!」

 

「なお、この無線は録音されており、君たち疎開先の国にいつでも爆音で流せます。 それと預かっている生存者リストも流します。 これを避難した家族や親族が知ったら喜ぶよね。 でも、国が見捨てたと知ったら士気が激オチちゃんだよね。 ウィッチとか、クーデターとか起こしちゃうんじゃーないの?」

 

「そんな事出来るワケないだろ!」

 

「馬鹿野郎EDFは勝つぞお前」

 

「終了! 終わり! 解散! 閉廷!」

 

 

要略終了。

つまり、いきなり化かし合うどころか喧嘩をして交渉決裂。

異界のヤベェ存在だし、仕方ないね。

取り敢えず互いに中立を保ち、501JFWら連合軍がガリアを何とかして進軍してきてから考えましょうかねぇと作戦司令部が思案。

言い訳としては、陸軍が多大な損失を被ったので(ブラッカー戦車等のAFV数両。 生産、修理、整備能力が低下したEDFなので強ち間違いではない)、現地空軍にも頑張って貰わなければ困りますというものだ。

なんというか、いつかの陸軍と空軍の関係の様である。

今回は世界が違う軍隊とはいえ、共通の敵がいる人類同士仲良く出来ないのかと言いたい者もいるだろう。

でも人類は愚かだから多少は、ね?

 

 

「…………と、言うわけだ」

 

「いや分かりませんよ!? 突然、ナニをシてヤッちゃってるんスかEDFは!?」

 

 

見舞いに来たストーム・ワン隊長に今のEDFの状況を教えられた只野二等兵は思わずツッこんだ。

足が痛むのも気にしない、心の底からの叫びだった。

 

 

「どうやら上層部は只野を助けたついでに、この世界からの支援を受けたいらしい」

 

「支援をお願いする言い方じゃなかったですよね、本部の言い草!?」

 

「そこは要略したからな。 真に受けるな」

 

「でも本音は?」

 

「その通りだと思えば良いんじゃないか?」

 

「EDFゥッ!?」

 

 

只野二等兵は頭を抱える。

面倒臭い事に巻き込まれてないか、コレは。

そりゃ元の地球がヤバいのに、他の世界を救ってる余裕なんてない。

それでも干渉する理由があるなら、そういう利益を求めての事だろう。

なんなら地球を見捨てて、こっちの世界に居座る可能性すらある。

 

下っ端の只野二等兵が知らなくても良い情報だったが、この世界に来た第1隊員として教えてくれたようだ。

その好意は素直に嬉しく……ない。

世の中、知らない方が幸せな事もあるんだねやっぱと只野二等兵は改めて思う。

 

 

「何とかなるさ」

 

「いやぁ、帰った方が幸せなのか、俺には判断出来ませんね。 ハハハ……ハァ」

 

「元気出せ。 ほら、君に懐いているウィッチがやってきたぞ?」

 

 

言われて、テントの入り口を見やる。

すると初日に助けたウィッチが、お椀を持ってやって来た。

服はEDFがクリーニングしてくれたのか、綺麗な軍服になっている。

が、ズボンが無い。

純白パンツ丸出しの格好、恥ずかしくないの?

 

 

「タダノさん、調子はどうですか?」

 

「大丈夫だよ。 ところで…………その…………ズボン、無いの?」

 

「え? 履いてますよ?」

 

「あぁ……その事なんだが、ウィッチは この格好が普通らしい」

 

「マジっスか。 世界の精神状態おかしいよ」

 

「ウィングダイバーも中々際どいラインだと思うが、こちらの世界はダイレクトだな。 ナニ、そのうち慣れるさ」

 

「だといいんスがね」

 

「それじゃ、お邪魔虫は消えるとしよう。 後はウィッチと仲良くな」

 

 

ゲンナリする只野。

対してウィッチの気持ちを考えてか、テントを後にするストーム・ワン。

後に残るはウィッチと只野二等兵のみ。

また初日と同じく、ふたりきりだ。

 

 

「あの……EDFにとっては、この格好は良くないのでしょうか」

 

「い、いや。 気にしないで。 この世界で普通なら普通の格好をしてるのが良い。 EDFもオカシイところがあるから。 病気だから」

 

「う、うーん? 病気だとしても、きっと良い人達ですよ!」

 

「半分間違いだよ。 EDFは病気だし、良い人達でもないから」

 

 

過去や今を振り返り、事実を述べる。

EDFの変態ぶりは戦前からである。

移動にダッシュではなくローリングを繰り返したり、ガードレールや街灯、放置車両をローリングのみで破壊。

高層ビルから落下してもピンピンしているし、ビークルに轢かれても同様。

ヘリのローターの軸に起立するという変態ぶりすら見せる。

アンチマテリアルライフルを立った状態で撃つだけじゃ飽き足らず、時に飛び跳ねながら撃っている隊員もいる。

兵器の中にも、槍やランスといった、接近しなくてはならないモノもあり、銃撃戦では不利だろソレとかある。

気でも狂ったのか、中には銃ではなくガスバーナーを振り回しているレンジャーもいた。

抱き枕の見た目をした、ハンマーを振り回すフェンサーもいた。

装甲車を痛車にする隊員もいた。

厳しい訓練や技術研究の果て、そのようなスキルを体得したとも考えたが、ナニかオカシイ。

改めて考えると、自分自身も変態だったかと思う。

思ったら悲しくなってきた。

これ以上はいけない。

 

 

「まあ、良い人ってところは間違いじゃないかな。 そう願いたい」

 

「……は、ははは」

 

 

乾いた笑みを浮かべるウィッチ。

少しはEDFのヤバさを理解してくれたのだろうか。

 

 

「そ、そうだ! ごはん作って来たんですよ私! 食べて下さい!」

 

「そうなんだ。 ありがとう」

 

「食べさせてあげます。 あーん♪」

 

「いやいや、自分で 出来……る?」

 

 

お椀の中にスプーンを突っ込み、差し向けてくる、笑顔純度100%のウィッチ。

が、スプーンに乗せられたモノは紫色の謎の液体。

未知の変色した物体が具材として混ざり、変な臭いもする。

ジャイ●ンシチューかな、コレ。

 

 

「ごめん。 闇鍋ならぬ魔女鍋的な?」

 

「あははは。 タダノさんってば、面白い事を言うんですね」

 

「いやいや全然面白くないと思う。 それから色々悟ってお願い!?」

 

「良いから食べて下さい。 食べないと身体が弱りますよ!」

 

「寧ろ弱まるわ!? 誰か助け、ごぷっ!?

 

 

無理矢理、只野二等兵の口にスプーンをねじ込むウィッチ。

そして、

 

 

「ゴファッ!?」

 

「キャー!? タダノさんが吐血したー!?」

 

 

メシマズとかいうレベルじゃねぇ。

理解不能の味である。

実は毒薬なんじゃないか。 兵器すらある。

 

その後、騒ぎに駆け付けた衛生兵らの懸命な蘇生活動により只野二等兵は一命を取り留めた。

 

同時に当ウィッチには料理禁止命令が下されたとさ。

 

 

「あの料理、スプラッシュグレネードとかに混ぜたらどうだ?」

 

「ナニソレ凶悪」

 

「やめて差し上げろ」

 

 

そんな変態開発班を、ストーム・ワンが止めたとか止めなかったとか。

 




ギャグ回。
実際のストパン世界の歴史と矛盾、異なる点があると思います。 不勉強故に。 すいません。

今後、EDFはどうなるのか(未定)。
読んでくれている方々、評価者の皆さま、ありがとうございます。
アドバイスや感想も嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12.只野、対空戦闘。

作戦内容:
本日もネウロイが、我が軍の防衛線に侵攻して来ています。
各部隊はこれを迎撃、駆除して下さい。
なお、防衛線は拠点を囲む様に展開している都合や、一部地域への派兵の影響で戦力が低下しています。
動く戦局に気を付け、臨機応変な対応をお願いします。
備考:
敵は空からもやってくる。 注意せよ。
装備:
PA-11
グラントM31
MEX5エメロード
その他
説明:
(レンジャーのみ)
グラントM31
ロケット弾を発射する個人用火砲。
見た目は大型の筒状。 多分モブ兵士も使っているヤツ。
単発かと思いきや、数発発射出来る。 構造は謎。
MEX5エメロード
個人用ミサイルランチャー"エメロード"の最終作戦仕様。
5つの目標をロックオンすることが可能。
見た目は箱状で、サイドにロックオン表示の電子機器らしき部品が付いている。
飛行するネウロイもいるので、持ち込まれた対空用の兵器。
地上目標にも使える。
最終作戦仕様なのもあって威力は凄まじく、小型であれば核を狙わなくてもボディ丸ごと爆散させられる。
配備数は少ない筈だが……モブも使用する。

PA-11とグラントM31は初期装備。
だから二等兵が所持していても変じゃない……筈。
エメロード? 知らん。


 

怪我が治癒した俺は、即戦場に放り出された。

二等兵だし人員不足だから、仕方ないと思う。

 

理不尽だって?

 

そんな事を言って何になる?

EDFは無茶な作戦を平気でやる組織だぞ。

巨大砲台が現れたから、逃げようとしたら偵察優先だからって退避を許されないとか。

象のような大きさのある、侵略生物の群れを掻き分けて、テレポーションシップ直下に進んで撃墜してこいとかはザラ。

空爆が効かないシールドベアラーの作り出す光の壁に突入を命じられたり。

敵母船直下で作戦行動も普通にあった。

当然のようにドローンを繰り出させたり、砲撃されて多くの死傷者が出たな。

 

今回は随分マシな方だろう。

マシ過ぎて、空から槍が降ってくるかと疑うくらいだ。

 

…………ああ、いや。

 

もう後がなくなってきて、本部も必死だったのだろうな。

この世界では、比較的余裕があるという事か。

それでも戦場に変わりないが。

 

位置は最前の第1防衛線より下がった第2防衛線、黒海側の塹壕内。

黒海側は、ネウロイの根城方向。

故に最も警戒され、戦力が多い。

しかしストーム・ワン隊長は別の戦線へ派兵されてしまい、ここにはいない。

 

今までのノリなら、ボコられるフラグが立ったな。

 

といっても。

EDFの強力なビークルが配備されているし、各兵科の兵士、銃火器もバランス良く配備されている。

それに病み上がりの俺を、最前線に置かなかったのはEDFなりの配慮だったのかも知れない。

EDFに、そんな配慮が出来るとは逆にスゲェと改めて疑いたい。 本部の罠なんじゃないかな、コレ。

 

因みに。

俺が拠点に溜め込んでいた物資や、ウィッチの壊れたユニットはEDFが回収してしまった。

使える資源も未知の装備も貴重だからさ、仕方ないんだけど。

チョコレートとか、娯楽も回収されたのは悲しい……悲しい……。

 

 

「……今は戦闘に集中だ、集中」

 

 

渡された量産普及型の、良くも悪くも普通のライフルPA-11やロケランのグラントM31をチェック。

 

 

「部品ガタ無し、装填良し、初弾込め、セーフティ解除、と」

 

 

他の仲間も同じ事をしており、準備は整っていく。

後方は のんびりしているが、既に第1防衛線では戦闘が始まっており、ここにも爆音や銃声が聞こえてくる。

それは四方八方からだ。

防衛線は拠点を囲む様に、円を描いているからな。

真逆の防衛線からも、激しく音が聞こえてくる。

 

 

「ネウロイも、必死だな」

 

 

俺はボヤきながらも、準備を終わらした。

 

ここの真逆方面は、ガリアという国だったな。

俺らの世界でいうとフランスに当たる国らしい。

そっちの一部がネウロイに陥落、占拠されている都合、一部の戦力が転進してEDFの拠点に攻め入れてる。

さらに奥、人類領では欧州の連合軍ともドンパチしているらしい。

 

それに対してEDFは、放置し切るワケにはいかなかったのか派兵された部隊がいて、連合軍を地味に援護している様子。

 

 

『べ、別に連合軍の為じゃないんだからね! 良い顔してれば、資源分けてくれるかも知れないでしょ!』

 

 

とまあ、結局は そうなったそうな。

防衛線から戦力を割けないので、ガンガンとネウロイを駆除しているわけじゃないらしいがな。

 

 

「本部同士は揉めていた筈なんだけどなぁ。 なんかツンデレみたいな事をしてんな」

 

 

俺が苦笑していると。

隣の可愛い女の子……ウィッチが反応してきた。

首を傾げてる。 可愛い。

でも、油断していると痛い目に遭う。

俺は知っているんだ。

あのポイズンクッキングはヤバい。

一歩間違えれば、ネウロイではなく料理に殺されるのが先になりそうだよ。

 

 

「ツンデレってなんですか?」

 

 

ニコニコと尋ねるウィッチ。

なんか怖い。

人も生き物だからね、怖い目に遭わされると本能がね……。

 

 

「と、特定の人間関係に攻撃的な態度を取りつつ好意的な態度を取る……みたいな?」

 

「うーん?」

 

「気にしないで、大した話じゃないさ。 それより……なんで君も戦場に?」

 

「私も兵士です、手伝いますって言ったらここに配属されました」

 

 

そう言って、PA-11を見せてくる。

お揃いですね、なんて喜びながら。

おいおい本部……なんて事を。

いくら人員不足だからって、こんな小さな女の子を戦場に出すなよ。

 

 

「大丈夫なのか?」

 

「大丈夫です、怪我も治りましたし。 私はタダノさんや皆さんの役に立ちたいです」

 

「それは嬉しいけどさ。 何も戦場にいなくても良いんだよ? 後方で料理……じゃなくて荷物持ちとかさ」

 

 

ウィッチは、魔法力で重い銃器を持てる様になるそうだし。

料理はやめろ。

出来る子もいるのだろうが、少なくとも目の前の子には して欲しくない。

そう思いながら言ったら、機嫌を損ねてしまった。

 

 

「むぅ。 タダノさん、信用してませんね?」

 

「そんな事ないよ……たぶん」

 

 

料理は……料理以外なら出来るのかな?

 

 

「たぶんってなんですかっ! 私だってやれば出来るところを見せてあげますよ!」

 

 

まぁ、うん。

軍隊にいる以上、大なり小なり戦闘訓練は受けているとは思うけど。

問題は、そこではない。

軍隊という事は、規律とか命令系統の話も出て来る筈。

彼女はカールスラント空軍だ。

そして、俺らは地球防衛機構陸軍。

その日本支部だ。

この世界には日本に当たる扶桑皇国はあっても、EDFは存在しないし時代も違う。

EDFは多国籍軍だから大丈夫とかではない。

空軍、陸軍と管轄がそれぞれ違う。

根本的な問題、世界すら違う。

そんな彼女を勝手に戦力として取り込んで良いのかとも思う。

もちろん、こんな小さな女の子を戦場に出す事が、いちばん問題だと思っている。

 

 

「原隊に帰れないから留まるのは分かるよ。 でも、君はEDFと一緒にいて大丈夫かい?」

 

「タダノさんには、恩があります」

 

「戦いに出なくても、役に立つ事は たくさんあるんだよ?」

 

「タダノさんの側にいたいんです」

 

 

この子、引いてくれないんだけど。

会話が続くに従って、ハイライトの無い目になっていってるし。

銃口も自然と俺の方に持ち上がってるし。

 

なんか…………ヤバい。 ヤバくない?

 

どう言ってお引き取り願おうか。

下手な事言うと、命を引き取りそう。

などと焦っていると。

 

 

「空から敵が!?」

 

「対空戦闘!」

 

「なんだとっ!?」

 

 

同じ塹壕内にいた隊員が、空を見上げて口々に叫ぶ。

 

サンキューネウロイ!

 

じゃなかった。

戦闘開始だ、集中しなくては。

塹壕から空を見上げれば、空覆う黒い点々。

それがたくさん。

センサー反応を見ると、またも今頃になって敵表示の赤丸が大量に浮かび上がる。

センサーは修理して貰ったのだが、たぶん高高度でも飛んでいて拾わなかったのだ。

 

 

「くそっ、第1防衛線を飛び越えて、ここに来てしまったか!」

 

 

いつかの、飛行型もそうだった。

あの時も空を飛んでる所為で防衛線を飛び越えてしまい、街が被害に遭った。

空軍が普通にいればな……今は要請以外で駆け付けるのは無理か。

 

 

「飛行型の外来生物より楽だと良いが」

 

「えと? とにかく、攻撃しますっ」

 

 

ピョコッと猫耳を頭から生やし、しなやかな尻尾をパンツ……じゃなくてズボンの上辺りから生やすウィッチ。

それ、なんなん?

可愛いし、えっちい。

萌えというヤツ?

 

疑問を浮かべてる俺の横で、次にはPA-11を空に向かって撃ちまくる、セミオートで。

 

 

「ふむ」

 

 

手ブレがある。

構え方も、少し雑。

特に足の位置とか。

 

そして、当然のように当たらない。

 

そりゃそうだ。

この子は、遠くで空飛ぶ敵がいたらライフルで戦えと学んだのか?

モノによっては、ライフルに対空用の照準器があったとかなかったとかだが……。

彼女は教わってないだろう。

いや……航空ウィッチだから、学んだ可能性が?

だとしても、それは空での話。

陸では、話は違ってくる。

陸から ちょこまかと飛び廻る害虫を叩き落とすのは容易では無いのだ。

誘導兵器でないなら、距離や飛んで行く先を先読みして予測射撃をしなければならない。

難しい。 少なくとも俺は。

かつて飛行型と交戦する際に「真面目に射撃練習をしていれば良かった」的な事を叫んでいた隊員がいた気がする。

彼女の場合、そんなノリだったのだろうか。

それともEDFの兵器を盲信したのかな。

 

 

「うぅ……当たらない」

 

「このライフルに、アイツらまで届く射程距離は ないよ。 無駄撃ちはやめなさい」

 

「す、ストライカーユニットがあれば!」

 

「戦意旺盛なのは良いけど、今この場に無いでしょ。 仮に飛べたとして、君ひとりが空に上がったところで捌けないよ」

 

「そんなぁ」

 

 

素直に諦めて、塹壕にしゃがみこむ。

しゅん、と猫耳が垂れるウィッチ。

可愛い。

 

そんな、戦場で呑気な事を思った罰か。

空覆い、押し寄せるネウロイの群勢から無数の赤き閃光。

 

 

「伏せろォッ!!」

 

 

隊員が叫ぶ。

くそっ、この距離からか!?

 

 

「伏せるんだ!」

 

 

俺は咄嗟にウィッチを庇いながら、塹壕に深く伏せる!

 

 

「え、え!?」

 

 

ウィッチを覆うようにうずくまった刹那。

 

 

ドゴォンッ! ドゴォンッ! ドゴォンッ!!

 

 

無数の爆音。

大量の土砂が何本もの柱を形成し、すぐ崩れては土砂の雨となり塹壕内に降り注いだ。

ヘルメットや防弾着に入ってきて気持ち悪い。

ああ、慣れてる。

こんなの珍しくもなんともない。

仲間の血や臓器が入ってくるより良い。

 

 

「きゃあッ!?」

 

 

一方で悲鳴を上げるウィッチ。

慣れてない。

空軍じゃ、こんな泥臭い経験は無いだろうからな。

陸戦隊じゃなさそうだし、仕方ない。

 

でも安心させないと。

そう思って、軽く頭を撫でつつ慰める。

 

 

「大丈夫! 塹壕に直撃しなければ持ち堪えられる!」

 

 

ネウロイどものビームによる威力を推察、そう決めつけて言う。

 

間断なく地面で炸裂するビームの雨は、EDFの塹壕陣地全体に響き渡る地震となり、俺たち隊員やウィッチの心身を抉り蝕む。

頭越しに飛び交う無数の石破片。

恐怖に足を竦ませ、体を震わせ、想像を超える極限状態に導かれそうになる。

だがしかし。

 

 

「EDFの塹壕は堅牢に構築されているんだよ。 塹壕を破壊するには威力が物足りない」

 

 

俺やウィッチを安心させるように、強がりを言った。

だけど、間違いではないはず。

空飛ぶ小型のネウロイだからか、ビームの破壊力が劣っているように感じるからだ。

ぼっちで陸戦ネウロイを相手にしたんだ、何となく分かる。

 

 

「そ、そうなんですか?」

 

「ああ。 それに、この戦線に来襲したネウロイのビーム精度は粗い!」

 

 

ただ自慢気に速射して物言わせるだけで、景気付けに撃ってるだけなのかと思ってしまう程にだ。

 

一見すれば大地を抉る弾幕は、一個の部隊を丸々壊滅させるのも造作も無く見える。

だが、EDF製コンクリートで構築された鉄、材木で固められた深い斜傾塹壕線と厚い屋根に保護された掩蔽壕、地中に深く築かれた退避壕に身を潜めれば、俺たちは案外生き延びられるもんだ。

マザーシップの砲撃や、DE202の持つ120ミリを超える重砲の猛撃を喰らえば、話は別だろうけど……。

事幸いにして空と地で対峙する敵に、そんな重砲は確認出来ない。

あってたまるか。

そんな俺に答えるかのように、一筋の閃光が塹壕に飛び込んだ!

 

 

ドゴォンッ!

 

 

「きゃあああッ!?」

 

「ぐっ!?」

 

 

破片と爆風で軽く転がされる俺とウィッチ。

くそっ、まさかの直撃弾かよ!?

運が悪いな俺も!

 

 

「だ、大丈夫か!?」

 

「はい……私は大丈夫です」

 

 

そうだ、他の仲間は!?

同じ塹壕内にいた仲間は、俺らより着弾点に近い!

俺は爆煙の向こうに、狂気の砲撃音に負けないよう大声で叫んだ!

 

 

「おい! おいッ!! そっちは無事か!?」

 

 

返事がない。

マズい、"吹き飛ばされた"か!?

 

 

「……ぐぅッ……」

 

 

微かに声が聞こえる。

良かった、死んじゃいない。

ボロとはいえEDF製アーマーだ、陸戦ネウロイのビームに耐えられた強度が小型に負けるワケがない!

 

 

「しっかりしろ! 今行く!」

 

「た、只野……すまねぇ」

 

 

俺らと転がされ、泥まみれのPA-11を持ち、グラントM31を背負って塹壕を駆ける。

破片が頭上を飛び交うが、塹壕から飛び出ない限り大丈夫だ。

ヘルメットだってある。

 

大丈夫……大丈夫だ。

 

塹壕に溜まる爆煙を掻き分けて、やがて壁や地面に横たわる隊員たちを見つける。

皆ヘルメットの内側から血を流し、腕や脚があらぬ方向を向いている隊員もいる。

 

 

「うっ……!?」

 

 

ウィッチが、思わず口を覆う。

こんなのマシな方だ。

内臓や血の雨、ヒクつく肉塊が散らばるスプラッターシーンでなくて良かったよ本当に。

 

 

「わ、私、衛生兵を呼んで来ます!」

 

 

それでも健気に、行動を起こそうとするウィッチ。

うむ。 良い子だ。

 

 

「頼む!」

 

 

駆け出すウィッチ。

ウィッチは頑丈らしいし、ユニット無しでもシールドを張れる。

きっと大丈夫だ。

爆煙で見えなくなる背中は、決して小さいものではない。

 

 

「只野……ッ!」

 

 

仲間が息も絶え絶えに、必死に何かを訴えてくる。

 

 

「どうした!?」

 

「俺の、ハァハァ……エメロードを使え!」

 

 

そう言って脇から箱状の、ミサイルランチャーを出してくる。

EDFの誘導兵器エメロードシリーズの、それもZ計画的な兵器だった。

 

 

「これは"最終作戦仕様"のMEX5エメロード!?」

 

「使える物は何でも使えって本部がな……! それより、エメロードは使った事あるな?」

 

「ありますけど、いくら最終作戦仕様でも あの数は……配備されていたネグリング自走ミサイルは!?」

 

「この攻撃だ。 ハァハァッ、潰されたはずだ……地対空ミサイルが飛翔している様子もないしな……グッ、援軍が来るまで、コレで足掻け! "いつも通り"だ!」

 

「りょ、了解ッ!」

 

 

エメロードを受け取り、直ぐに空へ構える。

本体の電子制御とサングラス・ディスプレイが瞬時に同期。

トリガーを弾き続ければ、視界一杯にロックオン範囲を表す、四角く囲まれた赤線が出現。

その四角にネウロイの群れを収めると、5つのロックオン音と表示がモニタリング。

 

 

「墜ちろォッ!」

 

 

俺は直ぐにトリガーを離す。

刹那。

 

 

バシュッ!

バシュッバシュッバシュッバシュッ!

 

 

最終作戦仕様のミサイルが、後尾に白煙を伸ばしながら、5つ連続発射。

ネウロイの群れへと突っ込む。

回避行動を取るネウロイ連中だが、そこは追尾性能の高い最終作戦仕様ミサイル!

容赦なく追いかけ回し、空中で派手な爆発が戦場を照らす。

5つ全ての命中を確認、撃墜する!

 

 

「どうだネウロイ! この時代には殆ど無いだろ? 追尾してくる弾なんて! それもEDF最終作戦仕様! 威力はハンパないから、核を狙わなくても済むぜおい!」

 

 

叫びながら、素早くミサイルパックを交換、リロード。

同様に撃ちまくる。

しかし。

 

 

「さすがに数が多過ぎるな! 何時もの事だが!」

 

 

撃墜してもしても、空覆うネウロイが減らない。

こちらの兵器に怖気ついて退散する様子もなく、ビームを乱射しながら突っ込んで来る。

ヤツらにも恐怖がないのかよ!?

 

 

「特攻する勢いだなクソッ!?」

 

 

ビームが辺りに弾着、揺れる中。

負けじと 撃ちまくる俺。

 

焦る。

エメロードを持つ手が、汗で濡れる。

いくら最終作戦仕様で威力があっても、ロックオンは5つまで。

しかも対空戦闘を他にしている隊員が、俺以外いない!

 

これでは捌き切れない!

 

ついこの間の、陸戦ネウロイの特攻が脳裏を過ぎた。

このまま突っ込まれれば、ビームが直撃しなくても、俺や負傷した仲間が全滅しちまう!

 

 

「やらせるか……! 同じ手に負けてたまるかぁ!」

 

 

距離がもうない!

肉眼でネウロイの表面模様が判別出来る程に!

 

ここで更に俺の精神を追い詰める事が起きる。

 

予備のミサイルパックが、切れたのだ。

 

 

「ああッ、くそっ! 予備のミサイルありますか!?」

 

「もうない……! 渡したので全部だ……」

 

「くそっ、こうなったら!」

 

 

俺はエメロードを投げ捨て、背負っていた筒状の重火器グラントM31を構える。

ロケット弾で誘導性はない。

それに普及量産型で、威力は劣る。

それでも、それでもやらねば!

 

 

「もう良い! お前は良くやった! 退避しろ急げ……ッ!」

 

「もう嫌ですよ! 見捨てるのは!」

 

 

仲間の言葉を拒否しながら、俺はロケット弾を発射。

近い敵に運良く当たり、爆風で周囲のネウロイがよろける。

俺は間髪入れず連続でトリガーを引き、ロケット弾を撃ち続けた。

 

グラントM31はゴリアスシリーズと違い単発ではない。

筒の中には複数のロケット弾が入っており、コッキング動作のようなモノなしで連続発射可能。

幸い予備のロケット弾もある。

エメロード同様にリロードしては、発射を繰り返した。

 

 

「只野二等兵、これは上官命令だ……ッ!」

 

「都合の良い格好付けの"上官命令"なら、俺も格好付けますよ! 俺もEDFですからね!」

 

 

あってないような軍規に背きながら、戦闘を続行する。

本当は怖い。 逃げたい。

俺だけ退避するのは簡単だ。

だが、ここで動けない仲間を見捨てるなんて出来るか!

 

敵がいよいよ近い。

ビームが塹壕内に何発も叩き込まれる。

爆風が塹壕内を川のようにうねりながら襲ってくる。

だが、俺もEDF隊員。

足に力を入れて踏みとどまる。

ここに着弾しないのはラッキーだと思えば、なんて事はない……!

 

敵も必死。 俺も必死。

 

距離が更に縮まる!

グラントM31は爆風での自爆を懸念、不利と判断、投げ捨てPA-11を流れる動作でフルオートにセレクト、構え、空に撃ちまくる!

 

 

「うおおおおおおッ!!」

 

 

ネウロイが表面に火花を散らしながら、ビームを乱射。

負けじと俺も撃ちまくる。

小銃弾では、直ぐにネウロイを倒せない。

それでも一体くらいは道連れに……!

そのネウロイの闇が視界に埋め尽くす、刹那。

 

 

「ゴーン・ワン、対空戦闘開始!」

 

「ゴーン・ツー、対空戦闘開始!」

 

 

無線で若い声が聞こえたと思ったら。

次には大きな光弾の川が、目の前に広がっていたネウロイを押し流してしまった。

 

 

「うおっ!?」

 

 

目の前のネウロイが爆発四散していき、思わず尻餅をついた。

苦労していたネウロイが消えた。 あっという間に。

 

 

『よろしい! ニクス リボルバーカスタム隊、戦闘を開始せよ!』

 

 

久しぶりに本部からの、渋いオジサマボイスが無線越しに聞こえ。

直ぐに隊員の返答が聞こえた。

 

 

「了解! ネウロイ野郎どもにミサイルを叩き込んでやる!」

 

「ネグリングのツケを返して貰おう!」

 

 

援軍!? 来てくれたのか!

 

思わず振り返れば、丁度コンバットフレームが2機、機械の足で俺の上を跨いで通過していった。

両腕に長く多砲身の機関砲、リボルバーカノンを装備。

両肩にはミサイルポッドを備え、それぞれから絶え間なく大口径弾やミサイルを景気良く撃ちまくっている。

その様は暴風だ。

金色に輝く廃莢が、それぞれの腕から滝のように流れ落ち、戦場に金の道を作り続けていた。

 

空を覆っていたネウロイは、あっという間に数を減らしていく。

センサー反応でも、敵性反応を示す赤色が消えていく。

 

 

「す、すげぇ。 いつ見ても、ニクスの火力はすげぇよ」

 

 

アホみたいに、すげぇすげぇとしか言えない俺。

ひと個人の、兵士の……俺の必死の努力なんて、比ではないのだから。

 

たった2機。 されど2機。

 

"隊"とはいっていたが、ニクスは たった2機である。 しつこいようだが。

しかし、その2機のみでネウロイを一掃してしまう。

最終作戦仕様を持ってしても、捌けない数を捌けるんだもんな……。

 

ニクスが強すぎる。

そりゃ歩兵だけじゃ敵わない相手だと、言われるワケだよ。

 

笑うしかねぇ。

 

それとアレはリボルバーカスタムといったか。

従来より上半身の回転速度は速く、高速で移動する物体が狙いやすくなっている。

両肩にはミサイルポッドを搭載。

ロックオンした物体に発射、追いかけ回す。

これらの利点から、対空とは言わず、通常の地上戦闘、素早い敵に大いに役に立つらしい。

ただし。 このコンバットフレーム、重量が増しているのか、機動性が悪い。 素早い機動は難しい。 移動手段としては向かない。

だが、そんなの気にならないくらいにニクスはネウロイを押していた。

強い。 ただただ、そう思う。

 

 

「衛生兵を連れて来ました! それから援軍も!」

 

 

戦場に似つかわしくない、可愛い声。

再度、振り返ると、EDFの軍服じゃない、猫耳と尻尾を生やした女の子。

その背後には、たくさんの隊員たち。

 

 

「みんな……!」

 

 

皆、ボロボロなのに、笑顔で肩を叩いてきたり、サムズアップしたりと励ましの言葉を掛けてくれた。

 

 

「お嬢ちゃんが、ココがヤベェって教えてくれてな! 駆けつけたぜ!」

 

「衛生兵! 負傷者を運べ!」

 

「良く持ち堪えたな只野二等兵!」

 

「よくぞココを守った!」

 

「後は任せろ!」

 

「べ、別に只野二等兵の為じゃないんだからね! みんなの為よ、勘違いしないで!」

 

「本部も貴重なニクスさんをココに回してくれたしな! 余裕よ!」

 

「美人の お願いには本部も弱いってな!」

 

「違いねぇ!」

 

 

笑いながら、俺と入れ替わるように塹壕を進み、負傷者を運んだり、塹壕から身を乗り出して発砲、残党を片付け始める隊員ら。

 

本当……みんな、EDFは良いヤツらだよ。

バカやアホや変態が多いと思っていたけど、良いヤツらだ!

 

 

「うぅっ、みんな……ありがとう」

 

「タダノさん!? どこか痛むんですか!?」

 

「い、いや大丈夫だよ。 助けを呼んで来てくれて本当にありがとうな」

 

「はい! タダノさんや皆さんの役に立てて、私も嬉しいです!」

 

 

そんな可愛い事を言うもんだから、また頭を撫でて褒めてやる。

えへへ、とウィッチは笑った。

こんな、怖い目に遭っているのに良い子だ。

 

 

「ああ、そうだ」

 

 

場も落ち着いてきた。

少し笑い話でもして、気持ちも落ち着かせよう。

 

 

「はい?」

 

「さっきの隊員の中に、ツンデレみたいなヤツがいたんだが、分かった?」

 

「えーと、あっ!」

 

 

ポッと頬を赤らめて。

 

 

「美人のお願い……のところですか?」

 

 

違う。

てか、自分でソコを言っちゃう?

否定しないけどね。

 

そんなウィッチが可愛いもんだから、また頭を撫でてやる。

 

えへへ、とまた喜んでくれた。

俺も釣られて笑顔になる。

 

ありがとう。

俺はまた、心の中で礼を述べた。

 




少し長めになりました……。
申し訳程度のウィッチ要素。 今後、どうなるのか(未定)。

ツッコミどころもあると思いますが、お兄さん許して。
誤字脱字報告や、評価、お気に入り登録ありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13.オペ子の苦悩

作戦内容:
連合軍との調整
書類作業
備考:
誰か助けて下さい〜(泣)!
装備:
通信機器とかペン。


 

みなさん、おはこんばんちわ、です。

ストーム・ワンのオペレーターです。

オペ子と呼ぶ隊員もいますが、私は気にしてませんよ?

 

それより今、何時でしょう。 眠いです。

 

でも寝るのは許可されていません。

このデスクにある、天井まで届く勢いのペーパータワーを処理するまで撤退は許可出来ないそうです!

 

うわあああんッ!?

 

本部も少佐もヒドイ!

こんなの、私ひとりで終わるワケないじゃないですか!

そりゃ、異世界に来るのに色んな移動や調査、会議は ありましたよ。

それで書類仕事が発生するのは分かりますよ。

 

でも多過ぎですって!

 

何ですか! もう!

私が歪んだ希望を求めちゃって「神を探しています」とか、戦時に言ったのがマズかったですか!?

 

ポンコツオペレーターだからです!?

 

眠い目をこすりこすり、書類に目を通します。

 

情報部の私ですが、本部の人手不足から、そこの仕事も一部受けてます。

人事とか、承認とか……。

でもこれ、一部じゃなくないですか?

とか訴えても、黙ってやれとか言われるのでやるしかありません。

 

人類の為、地球の為です。 ぐすん。

 

 

「なになに……ビークルの現地改修の許可ですか? 除籍してないものも? 必要なら自分達でやっちゃって下さいよ、という訳で許可のポンッと」

 

 

ポンッとハンコを押して次の書類へ。

 

 

「…………フェンサーの機関砲を、グレイプの砲塔に搭載したい? 運用と安全性に問題無いなら良いですよ、ポンッと」

 

 

次の書類へ。

 

 

「現地で救助した兵士や魔女を戦場に送り出す許可? この世界の、特殊な女の子達の事ですかね?」

 

 

魔女……ウィッチ。

主に10代の女の子達で、魔法を使える特殊な女の子たち。

 

お伽話に出てくるような子たちが、この世界では当たり前なんだそうです。

そして、若くして戦場へ…………。

 

既に防衛線に試験的に投入されたようですが、本格的に投げ出すつもりなのでしょう。

 

 

「許可、出来ませんよね……普通は」

 

 

少佐が発動した、operationΩを思い出します。

 

生き延びた全人類を、EDFの兵士として戦わせる、最後の作戦を。

辛い出来事の、悲劇のひとつでした。

 

あの後も、EDFには戦力らしい戦力は殆ど残っていません。

いえ……少しは回復しましたけれど。

それは生き延びた民間人を基地に連れて来たりして、戦力化している話です。

良い話じゃありません。

 

 

「うぅ……戦力は無い、でも欲しい……ウィッチはでも、軍人で……うぅ」

 

 

頭を抱えて悩みます。

今度は、本部の言葉を思い出します。

 

我々は軍人だ。 現実と戦う、と。

 

 

「現実……これも、この世界も現実ですよね」

 

 

ウィッチが軍人として、戦う世界。

軍人なら、当たり前なら、良いのではないか?

 

 

「許可……しましょう」

 

 

震える手でポンッ、と押してしまう。

逃げるように、私はポイと その紙を投げました。

 

つぎ、つぎです!

 

 

「ウィッチの魔法料理をスプラッシュグレネードに混ぜる許可? 何を書いているのか理解不能なのですが」

 

 

これは開発班からの申請ですね。

料理を兵器に混ぜる?

 

意味が分かりません。

嫌な予感もするので、コレは……。

 

 

「不許可!」

 

 

ダメー! と、バッテンを書いて次へ進みます。

 

意味不明なものに、許可は出せませんね。

 

 

「次は……うん?」

 

 

通信機器から音が。

もう。 忙しいのに、誰ですか。

 

 

「はい。 オペ子です」

 

 

しまった間違えた!

 

寝不足であだ名を言ってしまったぁ!

うぅ……恥ずかしい!

 

 

「こちら本部だ。 オペ子、頼みがある」

 

 

ツッコミ無しかよ!?

普通にオペ子とか言ってきやがりましたよ本部のオジサマ!?

 

 

「はい。 なんでしょうか?」

 

 

落ち着いて、対応。

さすが私。

 

もう昔の私じゃないのよアピールもしなくては!

 

 

「この世界の連合軍上層部から、色々とイタ電が来るんだ。 回線を回す、適当な対応を頼む。 以上」

 

 

は? え?

 

いきなり言われて、いきなり切られましたよ!?

 

ねぇ私に拒否権は!?

選ぶ権利はないんですかー!?

 

私だって忙しいんですよぉ!

 

ひぃっ!?

再び通信機器から音が!

 

どうしましょどうしましょ!?

 

 

「は、はい〜お電話代わりました、戦略情報部のオペ子ですぅ」

 

 

意味不明過ぎるのに、意味不明な話し方で通信に出ちゃったよ私!

 

うわ〜ん! だれかたすけてぇ!

 

 

『ふざけてるのかね? まあ良い。 EDFのオペ子さんとやら、EDFは我々を助ける気はあるのか聞きたいのだ』

 

 

うぅ。

下手な事を言えないですよ!

 

 

「え、えと……我々EDFも欧州を救えるほどの戦力が無いんです」

 

『だから物資や土地を分けてくれと?』

 

「は、はい……そうして頂ければ、EDFも幾分かは助けに行けるかと」

 

『異世界から来たのかなんなのか知らんがね、はいそうですかと連合国も貴重な物資を分けられないのだよ』

 

 

高圧的な声で、怖いです!

でも挫けちゃ駄目!

ストーム・ワンから学んだでしょ私!

 

 

「ガリアが占拠されているから、ですよね?」

 

『それもあるがね、敵か味方かも分からない軍隊を助けたいと思うかね?』

 

 

うっ。

確かに。

昔、攻めて来た最初のエイリアンが、人間と酷似しているから意思の疎通を取ろうとしたら、交渉団が全滅しましたし。

そんなパターンを、この世界の連合軍は恐れているのかもです。

 

 

『それに君達EDFはカールスラントを占拠している。 これはもう立派な領土侵犯だ』

 

 

なっ!?

EDFを侵略者扱いだなんて!

 

反論しなくちゃ!

EDFの名誉の為です!

 

 

「そ、そんなぁ! カールスラントに偶然、我々とこの世界を繋ぐゲートが出来ただけですっ!」

 

『ほぅ? ゲートとな?』

 

 

し、しまった……!

これは機密情報だったっけ!?

 

 

「言葉のアヤですよぉ、ははは」

 

『そうですかな。 ただそれなら、自分達の世界から物資を運べば良いではないか』

 

「そんな人員は いないんです」

 

『ほうほう。 "そんな人員もいない"ほどEDFは疲弊していると』

 

 

うぐぅっ!?

またも情報を抜かれました!

 

情報部なのに、私は何してるの!

もうやだぁ!

 

 

「うわーん! ナニが望みですかー!?」

 

『単刀直入に言えば、EDFの技術を寄越して欲しいのだ』

 

 

EDFの技術を!?

そんな、駄目です!

この世界にとって、我々の技術はオーバーテクノロジーなのが分かってます!

 

 

「ダメよ、ダメダメですっ! 我々の技術は使い方を誤れば、世界を掌握出来ちゃいます!」

 

『掌握ですか。 ネウロイに苦しめられているので、ますます欲しいですな。 なのにEDFはソレをやる人員が足りない……可哀想に。 連合軍には、人員がいるというのに』

 

「……うぐぐっ」

 

『ならこうしましょう。 我々連合軍から人員を送ります。 その代わり技術を提供して頂きたい。 これはヨコシマな願いではありません、人類、互いの為です"対等な"取引ですよ、悪いようにはしません』

 

 

くっくっくっ。

そんな笑い声が聞こえて来ます。

 

もう完全に悪者じゃないですかヤダー!

ネウロイに苦しめられている筈の連合軍なのに、なんで そんな企める余裕があるんですかねもう!?

 

うぅ……昔、storm2の軍曹が少佐に「安全な場所から何が出来る」と言った事があるそうですが。

ひょっとして、今の私と同じ気持ちだったのでしょうか。

 

私の心は折れかけてました。

大量の書類の山。

何故か対応させられている、連合軍との調整。

 

少佐や本部からも、見捨てられてる気がして、もう嫌になってしまいました。

 

 

「は、はい…………じゃあ、偵察隊を通じて……」

 

 

その時。

バァンッと私の部屋が勢い良く開かれました。

 

驚いて受話器を落としそうになります。

 

 

「だ、だ、誰ですか!? ノックもなしに!?」

 

 

慌てて引き出しから拳銃を、あれ?

どこだっけ、あれれ?

 

って、うわぁ!

書類の山が倒れて来ます!?

 

 

「キャー!?」

 

『な、何事かね!? 大丈夫ですかな!?』

 

 

ドササッと音と共に、書類の山に埋もれる私。

 

何者かが近付いてくる音。

 

うわーん!

人類の神さま、私を助けて下さーい!

 

 

「……通信を代わった、ストーム・ワンだ」

 

 

えっ!?

ストーム・ワン!?

 

書類の山から顔だけ出して、外を見ます。

整備士の格好をした、だけど確かにストーム・ワンがいました!

 

私が使っていた通信機器で、連合軍の偉い人と話をしています!

 

え、え!?

なんで!?

 

なんでストーム・ワンが!?

なんで当たり前のように連合軍と!?

 

 

『誰だね、君は』

 

「EDFでは"大将"だ。 上と話すのに問題があるか?」

 

『い、いや。 しかし、突然変わるとは……人員が足りてなければ統制がなってませんな』

 

 

お、おお?

高圧的な立場が逆転しましたよ!

 

さすがエイリアンの神、かの者を倒したストーム・ワン!

 

でもストーム・ワンの階級って大将でしたっけ?

 

storm2の隊員や一部が、そう言っているのは知ってますが。

 

なんだか私も怖くなって来ました。

書類の山に引っ込みましょう。

 

モゾモゾモゾモゾ………………。

 

 

「そうだな、その人員と統制で大きな土地を保有する"帝政カールスラントをネウロイから奪還"出来たがな」

 

『そ、それは連合軍にネウロイが釘付けになっていたからだろう。 EDFは我々をオトリにしたのだ、恥も知らずにな』

 

「だとしたら? 我々からしたら連合軍は足並み揃わぬ烏合の衆だ。 数だけ揃えられれば良いのなら、撤退戦なんてなかった。 カールスラントも陥落しなかった。 EDFが占拠する事もなかったな。 ああ、生存者を取り残す事も無かったか」

 

『貴様ッ! 先程から聞いていれば……!』

 

「実力行使をするか? だが気付いているだろう。 ネウロイに占拠されたガリアと黒海側、その間のカールスラント。 そこを"維持出来ているEDFの強さ"を」

 

『ぐぬぅッ……!』

 

「逆にガリアに部隊を送ってもいる。 地味な嫌がらせ程度にはネウロイを攻撃しているよ。 それで連合軍側の戦線は少しは余裕が出来ている筈だ。 それなのに行動を起こしている素ぶりがないな。 如何に連合司令部が無能か疑うな」

 

 

淡々と煽ってますね……。

ストーム・ワンって、あんな事も出来るんですね。

怒らせないようにしなきゃ……。

 

ああ、でも。

あの堂々と受話器を持つ姿勢、英雄です、格好良いですぅ……!

 

 

『501JFWがガリア奪還の為に動いておるわッ! 奪還した次はカールスラント、そしてEDFだ覚悟しておけぇ!』

 

「ほう501。 統合戦闘航空団だったか、そこも定員割れしていると聞くが」

 

『精鋭部隊だ、問題は無い!』

 

「随分と反対意見を唱える軍人や政治家もいるそうだが。 501の司令官が可哀想だよ」

 

『黙れ! とにかくだ! EDFが技術提供をしないなら、支援は しない!』

 

「あー、それは困るなー、待ってくれー」

 

 

うわっ。

急にストーム・ワンがわざとらしい声を!

 

 

『く、くくっ。 なら、どうするのだね? 最後のチャンスをくれてやる、技術を寄越すなら考えてやる』

 

 

そんで引っかかるんかーい!?

チョロいなオイ!?

 

それだけ必死なの? 冷静を欠いたの!?

 

 

「ああ、良いぞ。 取り敢えず簡易的なモノを送る事にするよ」

 

 

え、ええっ!?

ちょっと、勝手に決めて良いのですか!?

 

ナニか、ナニかアテがあるんですかー!?

 

 

『くくっ、分かった。 待っておるぞ』

 

「遠慮せず受け取ってくれ。 以上、通信終了」

 

 

がちゃん、と受話器を置くストーム・ワン。

 

えぇ……止めなかった私も悪いですが、どうしてそんな事を……。

 

 

「オペ子、いつまで隠れている?」

 

「ひゃいっ!?」

 

 

さ、さすがにバレてました。

このまま隠れていたら、怖い目に遭いそうです。

 

観念して、モゾモゾと書類の山から出ます。

 

 

「あぅ……対応、ありがとうございます。 でも、なんでストーム・ワンが?」

 

「本部と少佐に頼まれた」

 

 

へ?

本部と少佐が?

 

 

「オペ子が連合と話す。 たぶん、墓穴掘りまくって連合側の機嫌が良くなって油断するから、そこを俺が畳み掛ける、上げて落とす作戦をしろと」

 

「本部ぅ……少佐ぁ……」

 

 

私、信用されてるの? されてないの?

ねぇどっちなの!?

 

 

「俺もアッチ側に世話になるからな、挨拶がてら引き受けた」

 

「へ? ストーム・ワン、連合に下るんですか!?」

 

「なんだ下るって……裏切る訳じゃないぞ。 501JFWの整備士として潜伏するだけだ」

 

「ほうほう501に……って、えええ!?」

 

 

まさかの事実。

伝説の兵士が整備士として潜伏って、どういう事なの!?

 

 

「な、な、なんでストーム・ワンが!? 戦略情報部のスカウトもいるのに!」

 

「501は定員割れしているが、精鋭のウィッチが集まっている事に違いない。 すると、最新鋭の機材やレベルが高い整備士も集まっている。 それを見て盗む、或いはパクる」

 

 

伝説の兵士がパクるとか言っているんですがそれは……。

 

 

「でもストーム・ワンが行く理由は!?」

 

「俺が元整備士だからと、アッチでEDFが作戦行動を取る場合、誘導兵兼、指揮官となる者がいた方が有利だからだ」

 

 

そうだったんですね。

なんか、ストーム・ワンのオペレーターなのに、その辺を全く知らされてない私って、なんなんだろう。

 

 

「そうですか……ふふふ……頑張って下さいね、応援してます……ふふふ……」

 

「ありがとう。 だが、EDFと定期的に連絡を取り合う必要があってな。 それはオペ子、君にする事になっている」

 

「えっ!?」

 

 

おお!

私、信用を完全に失ってる訳じゃないんですね!

 

やった! やったやったー!

 

 

「ぐへへー、分かりました、私も頑張りますねっ!」

 

「うむ。 よろしく頼む。 それと、先程の連合の屑との件だが」

 

 

く、くず……。

屑呼ばわりしちゃうのかよストーム・ワン。

 

いや、私も思います。

もっと言え。 言って良い。

 

 

「土産はそうだな、ウィッチと共同開発したグレネードを送るから心配するな」

 

「へ? ナニソレ怖い。 そも、さきほど私、たぶんソレの開発を却下した筈なんですけど。 提出まだなんですけど」

 

「……開発班が無許可で制作したんだ。 俺も止めたんだが」

 

 

あーもう!

なんでそーいう事しちゃうのー!?

 

スプライトフォールの女科学者絡みも面倒なのに、開発班は言う事聞かない変態しかいない!

 

 

「倉庫に"危険物"と張り紙をして保管されていてな、異臭が周りの兵器を溶かして迷惑しているんだ」

 

「溶かす!? なんですかソレ!? アシッドガンですか!? 起爆してるんじゃないですかー!?」

 

「容器がウィッチの料……毒物に耐えられないのだ。 早めに処分する意味で連合に送りつける。 なに、ネウロイにも有効かも知れない、連合なら役立ててくれる。 無理ならEDFの技術を扱うのも無理だって言える」

 

「今、料理って言いかけましたよね。 それと容器が耐えられない時点でEDFも管理出来てないですよね!?」

 

 

その後。

とにかく危険物を処分してくれるのは有難いのでお願いする事にしました……。

 

また、ストーム・ワンは501JFWへと潜伏するべく旅立ち、私はオペレーターを続ける事になりました。

 

書類処理と並列してですがね。

……ふ、ふふふ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「EDFから送られてきた箱から、毒ガスがああああ!?」

 

「うおおおおお!?」

 

「おのれEDFッ!?」

 

 

…………連合から、例の件についてクレームがきましたが、それが扱えないならウチの技術も扱えないと言っときました。

 

EDFも、それ……扱えませんでしたがね。

 

それと少佐に軽い始末書を書かされました。

ふ、ふふふ……私、体持つかなぁ?

 




ギャグ回。 それと見切り発車的な。
オペ子を可愛く登場させたかった……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14.曹長ちゃんと軍曹ちゃん。

作戦内容:
ガリアのネウロイ陣地に定期砲撃を行います。
砲撃終了まで、砲兵隊の護衛をお願いします。
備考:
危なくなったら砲兵陣地を放棄するが、今のところは一方的である。
装備:
PA-11
その他


グレイプに乗せられたと思ったら、今度はガリア方面へと拉致られた。

二等兵だからさ、コキ使われるのは仕方ないと思うよ。

 

でもさ、ポンポンと人員移動させるか?

ここ、黒海と真逆だぞ。

 

 

「不満そうだな只野」

 

 

運転席から声を掛けられた。

舗装されてない道なき道故、揺れる車内。

 

吐きやしないが、イライラを助長させるには十分だ。

 

 

「休む間も無くガリア方面に拉致されてんです、そりゃ不機嫌になりますよ」

 

「そう言うな。 可愛いウィッチも同行してるじゃないか」

 

 

言われて"缶詰"を見る。

むさ苦しい各陸軍兵科の隊員らに混ざり、紅一点な、いや。

 

二点の女の子が目に止まる。

 

 

「どうしましたタダノさん?」

 

「何をジロジロ見ている」

 

 

 

ウィッチとウィッチ。

 

付き合いある子と、生存者に混ざっていた子だ。

 

同じ軍服に綺麗な子だけど、性格も容姿も違う。

前者は礼儀正しく、後者はツリ目で厳しそうだ。

成長期なのか、胸はツリ目の方が大きい。

軍服を持ち上げる双山がセクシー。

まだ10代なんだろうが、女の片鱗を見せ始めているっていうね。 目に毒。

 

どうやら怪我が治ったから、戦線に放り込まれたらしい。

それはウィッチ以外の兵士も同様とのこと。

本部連中はヒドイと思うが、本人達は気にしてなさそうだから複雑だ。

 

それと相変わらずのパンツ丸出しである。

ズボンじゃないだろソレ。

戦場に出る格好じゃないだろ絶対。

 

 

「いや、怪我してないかなって」

 

 

誤魔化そう。

すると、二者それぞれ別の態度を示した。

 

 

「相変わらず優しいですね。 ありがとうございます」

 

「ふんっ、問題ない。 それより貴様、イヤラシイ目で見ていたな?」

 

 

は?

確かにそうだが、メスガキに高圧的に言われるとイラッとくるね。

 

 

「只野、お前はウィッチをそんな目で見てんのか?」

 

「えっちだな」

 

「いやらしぃ〜?」

 

「ははっ、戦場で気が緩み過ぎだぞ?」

 

 

笑う隊員たち。

 

お前らまで……ッ!

小学生じゃないんだぞ!?

 

でも大人の対応をしてあげよう。

俺は優しいんだ。

 

 

「いやいや見ていないよ。 まだ子どもなんだし、背伸びしたい気持ちは分かる。 でも、大人をからかっちゃ駄目だよ?」

 

 

嘘である。

胸とかパンツとか見てました、ハイ。

 

でもグヘヘな目線じゃないぞ。

本当だぞ。

 

 

「軍や国が違えどウィッチは上官だ。 私は曹長、お前は二等兵。 不埒な振る舞いをしてきたら、ただじゃおかないからな」

 

「だから、そんなんじゃ」

 

「言い訳無用!」

 

 

うへぇ。

なんてカタブツ。

階級や規律にうるさいヤツかよ。

 

EDFには、そういうヤツは少ないから余計に面倒に感じる。

子ども相手だけどさ……苦手だなぁ。

 

ほら、周りの隊員も苦笑したり、肩をすぼめて見せている。

共通して、子どもの背伸びくらいにしか感じていない様だがな。

 

 

「あ、あのぉ」

 

 

付き合いのある子がふるふると手を上げて主張する。

 

 

「タダノさんは良い人ですよ。 何度も私を助けてくれました」

 

「それはその男の策略だ! 良い感じになったところを……その、その……パクって行くに決まってる!」

 

「パクって?」

 

「言わせる気か!? 純潔を穢されるのだ! そんな事になれば、ウィッチとしての生命は終わるのだぞ! 軍曹、もっと危機感を持て!」

 

 

赤くなりながら、俺を悪党扱いして最悪の事態を説明する"曹長ちゃん"。

これには俺や周りの隊員もニンマリである。

 

 

「へぇ? 曹長ちゃんはナニを妄想してるのかなぁ?」

 

「曹長ちゃん!? 上官を馬鹿にしているのか!」

 

「"上"官じゃなくて年"下"を からかってるんだよなぁ。 それより教えてよ、ナニしたらウィッチが終わるって?」

 

 

答えは、だいたい知っている。

他の隊員もだ。

皆に周知されてる情報に含まれていたからね。

 

これ普通にセクハラでアウトだけど、調子乗ってる曹長ちゃんの弱点を見たら……ねぇ?

 

 

「そ、それは……20になる前でも男と女の関係を作ると、それも……えっ、えっ……えっち……すると……例外あれど魔法が使えなくなると言われていてだな……」

 

 

真っ赤になって、段々と蚊の鳴く声みたいになる曹長ちゃん。

 

可愛い。

戦場に着くまで精々俺らのオモチャに、

 

 

タ ダ ノ さ ん ?

 

 

可愛くも冷たい声が当たる。

肩に手を置かれた。

 

あ、ヤバ……?

 

本能から振り返れば、そこには馴染みのウィッチ。

ぴょこっと猫耳と尻尾を出していて可愛い。

だけど目元が暗く怒ってる雰囲気。

それでいて笑みを浮かべてるとか、器用。

 

その謎の気迫に、俺は背筋が震え上がる。

 

怖えええええ!?

ヤベェよヤベェよ!?

 

 

その辺にしましょうね? ()()()()

 

「「「「サー! イエッサー!?」」」」

 

 

涙目になる曹長ちゃんを横にして。

俺も皆も、思わず"上官"に敬礼をしてしまったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぅ、お前らが俺らの護衛か。 なんかやつれてるが輸送車で酔ったのか? 全くだらしねぇなぁ!」

 

 

どっかんどっかん吼えている、 迫撃砲が並ぶ砲兵陣地。

ここで降車し、俺らの顔を見たオッサン砲兵が笑ってきた。

 

いや、酔ったワケじゃねーよ。

色々あったんだよ、俺らが悪いんだけど。

 

 

「ご覧の通り、お前らが来る前から やらせて貰ってるぜ」

 

「そうみたいですね。 でも俺らが来るまで待った方が良かったのでは?」

 

「馬鹿野郎、来るまで待つ時間が勿体ねぇ! それに襲撃が怖くて砲兵やってられるかよ!」

 

 

勇ましい事で。

取り敢えず、頷いて肯定しておく。

 

砲兵隊は後方で大砲等でのアウトレンジ攻撃を行うとはいえ、絶対安全ではない。

同じ陣地にいると、砲撃位置を逆算されて攻撃される事もある。

発砲炎やら煙やら、音やらでな。

 

エイリアンとのドンパチ中は、そんな話は聞かなかったが、想定するべき警戒事項だ。

この世界でも然り。

故に護衛隊が編成されたのは、想像に難しくない。

その辺は砲兵隊も理解している。

それでも危険を犯して、先走っている。

時間が勿体ねぇと言ったが、急ぎたい事でもあったのか?

 

 

「俺が砲撃にとやかく言う権限はないのですが、なんで始めたか聞いても?」

 

 

視界で少数の隊員らが、各方向へと展開していくのが見える。

曹長ちゃんも軍曹ちゃんも、隊員の背中をついて行っているな。

背後から上官命令とやらでも出しているのかも知れないが、見た目は大人に ついて行く子どものソレ。

可愛い。 料理と冷酷な笑顔やカタブツモードは嫌いだが!

 

 

「本部の命令だ。 ガリアのパリを占拠している、ネウロイ野郎どもに嫌がらせをしろってな」

 

「いえ、それは知っているんですが。 砲撃時間とか、その辺は?」

 

「俺がヤりたい時にヤる。 ネウロイも滅多に陣地に来ねぇし、急な要請じゃないんでな」

 

「あぁ……そうですか、はい」

 

 

随分テキトーだな、おい。

定期砲撃と聞いたから、時刻通りに決まった砲弾数をパリに撃ち込むかと思っていたよ。

 

 

「まぁせっかく来たんだ。 仕事はしてくれよ。 砲撃眺めて終わると思うがな! はっはっはっ!」

 

「りょーかいッス」

 

 

軽く敬礼をして、軍曹ちゃん達の元へ行く。

本当に砲撃を眺めて終わるなら良いが、いちおう警戒しておかないとな。

 

そう思いながら、側まで行くと。

またも曹長ちゃんが絡んできた。

面倒くせぇ。

 

 

「タダノ二等兵、何をサボっていた! 砲兵隊を守るのが我々の任務だろう!」

 

「守るよ、モチロン」

 

「全く! EDFは皆、こうなのか? よくこんなんでカールスラントを維持出来ているな!?」

 

「こんなんだから、維持できている面もあると思うよ」

 

「ほぅ。 理由を聞かせて貰おうか」

 

 

仁王立ちする曹長ちゃん。

腕を組み、ツリ目で俺を睨む。

でも、腕を組んで持ち上がった胸が目に毒ですよ……目を逸らそ。

 

 

「あ、あぁ……アレだよ。 アレ。 技術力と仲間想いな面が結束を固めてるからだよ」

 

「精神論は嫌いじゃないが、お前の言う事は言い訳に聞こえるな」

 

 

胸から目を逸らしたのを、特に理由がないと思われたか。

鼻で笑ってるもん、うざ可愛い。

 

俺は素直に負けたアピールの表情をして、そっぽを向く。

すると可愛そうだと思ったのか、付き合いのあるウィッチ……軍曹ちゃんが声を上げた。

 

 

「そ、曹長さん! タダノさんが言っている事も間違いじゃないですよ! 私も目の前で見ましたもん! 曹長さんだって見た事あるでしょう?」

 

「うぐっ……確かに。 あの未知の兵器群による攻撃、それを扱えるEDF。 それは認めよう、だがタダノ二等兵は」

 

「タダノさんは、生存者を救う為に自分を犠牲にしようとしたんですよ? ネウロイの群れを相手に、たったひとりで。 それを弱い? そう言うなら、曹長さんでも、私は怒ります!」

 

「す、すまなかった……そういう意味で言ったんじゃないんだ」

 

「だったら、どういう意味なんですか?」

 

「そ、それは……軍規を乱す発言や行動な気がするから」

 

「気がするだけですよね? 実際どうですか、乱れてます?」

 

「乱れてるようにしか見えん!」

 

「その"乱れ"で祖国をネウロイから奪還したんです。 非難するのは簡単ですが、学ぶべきところは多いのでは?」

 

「……うむむ」

 

「それに何より、お世話になっているのは私達なんです。 お礼を言っても、文句は駄目ですよ」

 

「…………」

 

 

なんか、俺が入る余地がなかった。

しばし砲撃音だけが鳴り響く。

やがて、曹長ちゃんが俺に向き直ると、

 

 

「…………タダノ二等兵」

 

「うん?」

 

「すまなかったな」

 

 

それだけ言って、今度は曹長が そっぽを向いた。

 

可愛い。

それと軍曹ちゃん、強い。

 

 

「タダノさんっ」

 

 

そんな軍曹ちゃんからも、お声がかかった。

ヤダ、ナニを言われるの俺。

 

 

「改めて。 祖国を守ってくれていて、ありがとうございます!」

 

「おう…………俺じゃなくて、EDFだがな」

 

「タダノさんもEDFです!」

 

「は、はは……そうだな、うん」

 

 

利益があるから、EDFは守ってるんだろうけども。

 

それでも、こうして礼を言われると恥ずかしいな…………。

 

またも俺は、そっぽを向く。

向き過ぎて、どこ見てるのか分からなくなったよ。

 




平和回。 新たな女の子、曹長ちゃんを出してみました。
リアルがシンドイ……俺も可愛い子に褒められたり励まされたい
(妄想


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15.ストーム・ワンからの報告動画

作戦内容:
501JFW基地に潜伏しているストーム・ワンからの報告が来ました。
EDFのサングラスディスプレイ、もしくはヘルメットディスプレイに備わる機能で録画した動画のようです。
本部と情報部が共同で観閲します。
この世界とのコネクションの意味でも、得られるものは得なければなりません。
備考:
動画なのは、文面にするより楽なのと、時間短縮、技術格差の都合で周りから怪しまれない様にする為と思われる。
敵を騙すには味方から。
装備:
ポップコーンとコーラ類。
説明:
代替品可。
映画鑑賞じゃないけど、許されるなら。
目に見えるモノを鵜呑みにしては、ならない。


どうも皆さん、オペ子です。

501JFWに潜伏しているストーム・ワンから、早速報告が来ましたよ!

 

データを読み込んだら、何故か動画だったのですが。

 

つい流れで再生したくなりましたが、そこは成長した私。

私は抜け駆けせずに、少佐と本部に直ぐに報告。 みんなで視聴する事になりました。

 

ふふん? エラいでしょう?

 

どんな情報であれ、貴重な事に変わりはありません。

それにあの伝説の兵士であるストーム・ワンからのデータです!

 

絶対面白い……じゃなかった、良い情報だと願います!

 

 

「揃いましたね。 早速、見てみましょう!」

 

「うむ。 再生してくれ」

 

「ええ。 どのような情報か、共有しましょう」

 

 

そう言うは本部のおじさまと、お姉さんな少佐です。

 

別々の部が、こうして一緒に並んで座るのは、不思議な感覚がありますね。

今まで、通信越しに話をしていたので。

 

それに、なにより。

 

 

「なんで手にポップコーンとコーラがあるんですかー!?」

 

 

2人が手に持つ映画鑑賞セットがいっちばん不思議ッ!!

なんで!?

報告動画は、エンタメの様な感覚なの!?

 

 

「希望溢れる報告は、希望を持って聞かねばならないからな」

 

「情報の受け取り方は、受取手にも左右されるの」

 

「なんですかその理屈!? 私が変なんですか!? そうなんですか!?」

 

 

絶望の中で、おかしくなかったんですかね!?

人の事、言えませんけど!

 

 

「ポップコーン如きに狼狽えてどうする。 そんなメンタルだから歪んだ心になるんだ」

 

「強い心を持ちなさい」

 

 

そう言って、またポリポリするお二方。

おいコラ、良い感じにポップコーンポリポリしてんじゃねーですよ!?

私も食べたくなるんですけど!

 

 

「良いから再生してくれ。 時間は有限だ」

 

「うぅ……分かりましたよぉ」

 

 

納得出来ないながらも、大きなモニターを起動。

横一列になって、私達は視聴を開始したのでした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……こちらストーム・ワン。 501JFW基地に潜伏する手筈は整った。 肩書きは予定通り整備士だ』

 

 

おお。 一人称視点です。

動画には海に浮かぶ、出島に作られた大きなお城が映ります。

 

滑走路らしきものが映っているので、基地に改造して使ってる感じですかね。

 

 

『見えている城のような建物が、501統合戦闘航空団の基地だ。 これから潜入するのだが、周りにバレるのを防止する為に私語が多分に含まれるのは許してくれ』

 

 

それは仕方ないですね。

でも、どうやって整備士として潜り込んだのでしょうか。

 

 

『技術提供というエサに釣られて、入れさせてくれた連合に感謝だな!』

 

「また提供詐欺ですか!? それに何度も引っ掛かる連合は何なんですかー!?」

 

 

思わず叫びました。

見えなくても分かる、笑顔で語るストーム・ワンと動画にツッコミを入れます。

連合チョロ過ぎです!

 

こんなんでは、仮にEDFの技術を得てもロクな事にならなそうです!

 

 

「騒がしいぞ。 映……資料観閲は静かにしろ」

 

「落ち着いて映……情報を分析しなさい」

 

「映画って言いかけてません!?」

 

 

2人にもツッコミしてる間も、動画は進んでいきました。

 

場所が変わり、今度は薄暗い空間に。

周りは機械的で、ウィッチが履くストライカーユニットが何脚も見えますね。

 

そして、それらを整備している整備士の皆さんがコチラを向いて声を荒げています。

 

 

『そんな腕で良くユニットの整備班に入れたな!』

 

『連合の偉いさんの命令だかなんだか知らねえが、半端な仕事はさせられねえぞ、あぁ!?』

 

『ウィッチの命は整備に掛かっているんだぞ、分かっているのか!?』

 

『出来ねぇなら帰れや』

 

『『『『かーえれ! かーえれ!』』』』

 

 

うわぁ……。

これ、まるでイジメの現場みたいですね。

 

でも仕方ない部分もあるかもです。

EDFもユニットを回収、分析中ですが、分からない事も多いですし。

ストーム・ワンも元整備士、当時からEDFから信用されて軍の無線使用を許可させていた程の腕とはいえ、未知の技術は無理という事でしょう……。

 

 

『すまない。 これで勘弁してくれ』

 

『なんだこりゃ』

 

『丸い機械?』

 

『スピードスターだ』

 

「なんか持ち込んでるぅ!? 大丈夫なんですかこれ!? というか詫びの品に、なんでそれをチョイスしたのおおおお!?」

 

 

ストーム・ワンはあろう事か、凄まじい速度で走行する丸いお掃除ロボット的な機械、スピードスターを提供しました!

 

この時代でも、私達の世界でもオーバースペックなオモチャなんですけど。

非殺傷とは疑わしい、ピカピカ光りながら時速200kmくらい出るヤバいヤツです。

なんでそれを出した、言え!?

 

 

『うおおおおお!? 格納庫中を動き回ってやがる!?』

 

『捕まえろ!?』

 

『装備品が荒れる!』

 

『ミーナ中佐に怒られちまうぜ!?』

 

『ヤベェよヤベェよ!』

 

『よしっ、今の内にユニットを勉強するか』

 

 

薄暗い格納庫を、明るいピカピカライトで照らしながら縦横無尽に動き回るスピードスターとストーム・ワン。

 

混乱を生んでるんですけど!

詫びの品じゃなかったんかい!?

 

それに、新顔が こんな事したら普通叩き出されるでしょーよ!?

 

 

『はぁはぁ……新入り、お前、明日までにこれ全部覚えとけよ』

 

『ついでに掃除していけ』

 

『じゃ、俺らはコレ貰って帰るから』

 

「結局スピードスター貰うんかい!? でも許しては貰えた方なのかな!?」

 

 

捕まえたスピードスターを抱えて、去っていく整備士達。

そして残るはストーム・ワン。

 

 

『ふっ。 整備の勉強に後掃除。 民間人時代の頃を思い出すな』

 

 

微笑んでるかのような、優しい口調をしながらモップで床を掃除します。

うう、伝説の兵士がこんな事を。

 

でも、民間人時代は そんな経験をしていたんですね。

ちょっと親近感が湧きましたよ。

 

一旦動画が途切れ、次には朝日が眩しく映りました。

 

翌日のようです。

目の前には整備士の皆さん。

でも、なんか顔色が悪いですね。

コチラをチラチラ見るだけで、顔を合わせようとしません。

 

昨日とは真逆の態度。

大丈夫でしょうか。

 

 

『おい、お前達…………散々俺に調子の良い事を言っていたが、アレもコレも整備するのに余地が有りまくりだったぞ! それをチンタラチンタラ何時間も掛けやがって! 説教垂れるのは1人前で、整備は三流? それでも整備士かぁ!!』

 

 

まさかのストーム・ワン、魂の叫び。

コレには整備士の皆さんも悲鳴を上げます。

 

 

『『『『はひぃいいぃ!? すみませんでしたあぁ!?』』』』

 

「立場が逆転してるうううう!? どんだけ向上が早いの!? 伝説の兵士は整備も伝説級なのおおおお!?」

 

 

しかも、ジャパニーズDOGEZAを強要されてますよ整備士の皆さん!?

コチラでいうと扶桑式になるんですかね、これ!?

 

 

『すまなかった……! アンタを見くびっていた……ッ!』

 

『これからはアンタが班長だ!』

 

『宜しい! 以後、俺の班はストワンと呼称する! 俺の言った通りに行動しろ!』

 

『『りょ、了解ッ!!』』

 

「乗っ取りやがりましたよ!? しかも現地でチーム ストーム・ワンならぬストワンを勝手に新生しましたよぉ!? 誰もソコはツッコミ入れないの!?」

 

 

動画内で、整備士達がこちらに敬礼。

すぐさま、ストーム・ワンは指示を出します。

 

 

『やる事リストは、このボードに書いておいた! 俺が戻るまですべて終わらせろ!』

 

『ぜ、全部!?』

 

『理に適った整備や修理方法だ。 何か問題があるか?』

 

『ヒィッ!? なんでもありません!』

 

『なら、すぐさま取り掛かれッ!』

 

『了解ッ!』

 

 

慌てて作業に取り掛かる面々。

対してストーム・ワンは一瞥すると、何処かへと移動します。

 

皆、忙しくてコチラに気付かないようです。

おお……こうして皆の目を欺き、基地を調査ですか!

 

良いよ良いよストーム・ワン!

なんか潜入任務ぽい!

 

 

『あら、何処へ行くのかしら……整備士さん。 ここは男子禁制よ』

 

 

と、思ったのもつかの間!

すぐに見つかりました!

 

目の前には赤毛の女の子。

少し大人びていて、やっぱりズボン履いてません。

 

ああいえ……この世界ではズボンらしいですが、やっぱパンツにしか見えない……。

 

縦に長い軍服で、中途半端にパンツが隠れてますが、それが更なる"えっち"を生み出してしまっています……。

この世界は痴女だらけなんですかね……?

 

いやいや、それよりもこの状況!

大ピンチですよ! 追放されちゃいます!

 

 

『501司令官のミーナ中佐だな? 俺はストーム・ワンだ。 ストームでもストワンでもワンちゃんでも良いぞ』

 

「この状況でナニ言ってるんですかー!? てかイキナリ司令官にエンカウントォ!? ラスボス的な、負けイベントじゃないですかこれ!?」

 

『ではストワンさん。 何か申し開き、あるかしら。 なければ直ぐに持ち場に戻りなさい。 そうすれば今回だけ不問にします』

 

「普通にストワンとか言ったー!? そして不問にするとか優しいなおい!」

 

 

笑顔が怖いですけどね!

しかし、そこは伝説の兵士。

ミーナ中佐の命令を無視、怯む事なく進んでいきます。

 

 

「って、おいいいい!? 許してくれるのに進むヤツがいるかああ!?」

 

 

戦時も思いましたが、怖いもの知らず過ぎる!?

 

して、それをされたミーナ中佐。 今度は怒気を含んだ声で止めにかかりました。

 

 

『聞こえなかったかしら。 上官命令よ、直ぐに戻りなさい』

 

『俺は"大将"だ』

 

「整備士がヤベェ事を名乗りましたー!? 潜入任務どこいった!? ストーム・ワンは死にたいの!?」

 

 

これ営倉入り、いや死罪じゃないですか!?

ヤベェよヤベェよ!?

 

 

『…………そこまでして進みたい理由を聞いても?』

 

 

振り返るストーム・ワン。

そこには、こめかみを抑えて、ぷるぷるしているミーナ中佐が。

 

ナニを言うんです?

この状況を打開する言葉ですか!?

 

 

『君は意図的に男性……整備士に、冷酷に接しているな。 昔、何かあったのだろうが、その理由探りの為に、俺は前に進むんだ』

 

「格好良く意味不明な事を口走った!? そりゃ冷酷に接するだろうよ、こんな事をされるんだもん!?」

 

 

するとミーナ中佐。

キッと睨みつけてから、

 

 

『貴方には関係ないわ。 これが最後です、直ぐに持ち場に戻りなさい! 聞けないなら501から追放します!』

 

『関係あるぞ』

 

『なんですって?』

 

 

お、おお?

流れが変わりましたよ。

 

ストーム・ワン、真っ直ぐミーナ中佐を見つめて語り始めます。

 

 

『整備士と兵士は別々のようで、同じ家族なんだ。 だが男と女としての齟齬はある。 戦場に身を置く以上、余計に感情移入は甘美な猛毒になるのも分かる。 だから別々に棲み分けるのは分かるが……だがな、謂れもなく差別されるのだけは許せないな』

 

『…………別に、私は……ッ!』

 

『誤魔化すな、俺には分かる。 伊達に隊長を務めていない。 君のような、若く美しい女性が司令官を務めているんだ、並ならぬ努力や修羅場を潜り抜け、そして数多の犠牲があった筈だ』

 

『…………何を、知った気に……』

 

『話したくなったら、話してくれ。 聞く事くらいなら、俺にも出来る。 話せば、楽になる事もある。 嫌なら話さなくても良い』

 

『…………』

 

『美人を虐めて、悲しませる趣味は無いのでな。 今日は下がらせて貰う……すまなかったな』

 

 

ぷつん。

動画が、切れました。

 

ミーナ中佐のキレる音じゃないですよ、ハイ。

 

キレて良いと思いますが。

これ、ストーム・ワン無事ですよね?

 

動画が送られてきた以上、無事ですよね!?

 

 

「ふむ……ストーム・ワンは上手くやっているようだな」

 

「そのようです。 引き続き、潜入して貰いましょう」

 

「今のをどう見たら上手くいっているんですかー!?」

 

 

またもツッコミを入れる私。

今日だけで、すんごく疲れたんですけど……。

 

ストーム・ワン……どうか、ご無事で!

 




にわかで駄文……。

本部と情報部は、わざとふざけてます。 オペ子の前なので。
ストワンは真面目です。 たぶん。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16.本部の思惑と襲撃

作戦内容:
レーダーで敵影を多数捉えました!
ガリアに立て籠るネウロイが、転進してきた模様です!
同時に、黒海側でもネウロイが攻勢を仕掛け挟み撃ちを受けている状況です!
その為、各戦線の兵士を移動しての増援は出来ません。 現状戦力で迎撃します!
なお、連合には伝えましたが、連合でも交戦状態との事で支援は期待出来ません。

にわか なので、間違いがあるかも知れません。 説明多め。


連合軍、撤退作戦終了から約1週間後〜カールスラントEDF仮設本部

 

EDFが突如として、帝政カールスラントに現れてから約1週間。

東の黒海と西のガリア、ネウロイの占領地に挟まれ続けるEDF。

持ち得る高火力の武器で、両端から来襲する半端なネウロイを返り討ちにし続けているが悪い状況に変わりはない。

 

元の世界で疲弊したEDFは、この世界から人員や土地等を確保しようと考えていたが、バケモノが跋扈する世界だったとは思いもしなかった。

只野二等兵を回収するという表向きの任務を投げて撤退する選択肢も考えた。

しかし、今後の士気への悪影響や言い出しっぺなのもあり、結局は遂行、回収に成功させる。

 

その後、撤退するか本部は逡巡する。

全盛期と比べられない程に疲弊した兵力で、ネウロイを倒しつつ土地の維持や交渉なんて無理だと思ったからだ。

 

今回のEDFには、幸いにも物資はある。 あるのだが……人員がいない。 とにかくいない。

 

武器弾薬があっても、扱う人員がいないのでは、戦線の維持すら困難だ。

本部すら軍として、組織として未だに機能しているのが不思議だとすら思った。

同様に間借りしている帝政カールスラント領を維持出来ている件も。

 

その点を踏まえ、いちおう本部は連合との交渉を試みる(オペ子には"本番"をやらせていない)。

ネウロイというバケモノに苦しめられている欧州だ、ウィッチのチカラナシでも対抗出来るなら、その技術は欲しい筈だと。

EDFの持ち得る技術ならば、現状のネウロイを圧倒出来る。

その技術を与える代わりに、人員と土地を寄越して欲しいと。

 

ところが、どうだ。

 

連合はEDFの技術を欲するのは予想通りだったが、見返りに人員や物資等の支援をすると"口約束"をしてきた。

 

大抵の場合、それらは約束ではない。

欲しいモノだけ奪うだけ奪い、与えるものはない、というオチだろう。

 

まだ"会話が出来る相手"だから良いが、元の世界で交渉団が全滅した経験を持つEDFだ。

特に"同じ人間"を怪しむのは何もオカシイ事じゃない。

 

だが、その腹が分かるなら、逆に利用してやろうとも考えた。

 

そんなワケで。

EDFは"連合そのもの"に期待するのは早々に諦め始めており、ただ一応、この世界の世論や同じ人類を"油断"させる為の簡易な支援はしているのである。

 

ストーム・ワンを501JFWに潜伏させているのも、その一環。

主導権を握り、EDFというチカラを徐々に世界に見せしめ、連合から予算や人員、土地を確保する計画なのだ。

 

その足掛かりとして本部は先ず、西部のガリア解放を目指す。

現在、砲兵隊がガリアのネウロイ陣地に軽迫撃砲を喰らわせている程度だが、EDFの技術力で行われる長距離砲撃は、一方的にダメージを与えていた。

その様子から、本部はガリアを制圧出来ると判断。

砲兵陣地を基点とし、稼働戦力を西部に集結させていく。

 

 

「黒海側の戦線から人員を割いたが……我々の世界から直ちに補填しなくてはな」

 

 

ダンディなおじさま……EDF司令官が机をペンで叩きながら、ボヤく。

その机の上には、この世界の簡易的な地図。

カールスラントと書かれた大きな場所に【EDF】とあり、東側に黒海、西側にガリア。

それぞれから矢印で【EDF】に目掛けており、それを阻むように扇状の線が引かれている。

西側のガリアの向こうにはヒスパニア(スペイン)、そこまで行く間には北南にも国々があり【連合軍】の文字、そしてガリア側に対して扇状の線。

北側にはブリタニア連邦(イギリス)で、ここには【501JFW】とある他【storm1】ともある。

 

このように、分かっているだけで多くの国と戦線があり、EDFのみで対処するのは困難。

元の世界から増援を呼ぶにも、向こうの治安維持問題もある。 限界があるのだ。

司令官も、先の分からぬ異界の戦争に介入するべきだったのかと思わず溜息をつく。

 

 

「なんにせよ、この世界の者の協力は必要不可欠だ。 10代のウィッチといえど、EDFの為に戦って貰うぞ」

 

欧州に後がないように、EDFにも後がない。

使える者は、なんでも使う腹だった。

 

砲兵隊の護衛として派兵された只野二等兵や助けたカールスラント空軍ウィッチや陸軍兵士も例外ではない。

救助した民間人もEDFの人員として組み込んでいる他、連合とのコネに使えればという意味で原隊や疎開先には向かわせていない。

本人達には、人類領と分断されていて戦線を押し上げないと原隊や家族の元に帰るのは無理と言い訳している。

勿論、ぞんざいには扱っていない。

余る物資を持ってして、丁重に扱っているつもりだ。

特に民間人に関しては、無償で衣食住を提供している。 風呂だって入れるし、欲しいものがあれば与えている。

 

保護、避難民への待遇としては破格の待遇。

貴重な甘味や衛生用品、この世界には無い高品質な物品の数々。

これには皆、目を白黒させつつ驚き、大変喜ばれた。

保護民らの評価は上々である。

 

少なくとも、EDFにはソレをやる余裕くらいならあった。

物資を消費する人員がいないから、という皮肉付きではあるが。

 

 

「しかし、10代の女の子も戦場に投げ出さなければならない状況だというのに、連合には呆れるな……利権争いをしているそうだし、本気で人類領を守る気があるのか?」

 

 

EDFの世界も仲良しこよしではなかったし、一枚岩ではなかった。

だから、あまり連合の事も強くは言えないが……それにしたって、もう少し足並みを揃えられないかと思ってしまう司令官であった。

 

何度目か分からぬ溜息をついた、その時。

 

 

「大変です!」

 

 

机の上に置いていた無線機から、女性の声が。

 

戦略情報部の少佐からだ。

随分と慌てている様子。

 

 

「どうした? 何があった?」

 

「ガリア方面のネウロイが攻勢に出てきました! その数、千を超えています!」

 

「なんだと!?」

 

「同時に黒海方面でもネウロイが同じ戦力で攻勢に出ています!」

 

「くっ! ネウロイめ、我々を挟み撃ちにするつもりだな!?」

 

 

その報告に、思わず声を上げてしまう。

連日砲撃を喰らわせていたが、それがマズかったか。

どうやら蜂の巣を突いてしまったようだと司令官は若干の後悔をする。

 

だが、幸か不幸か。

ガリア方面隊にはガリア解放の為に、戦力を配備していたところである。

ブラッカー戦車、コンバットフレームの配備は間に合っていない。

だが、レンジャーやフェンサー部隊といった歩兵隊が現地に到着している他、砲兵隊に迫撃砲と砲兵を増員させたばかりだ。

それで対処出来ると願う。

 

「ガリア方面隊は現状戦力で対処させる! 黒海方面隊が気掛かりだ! 空軍に爆撃要請!」

 

「しかし、空爆誘導兵が現地にいません! 乱戦状態に突入した場合、正確な誘導による爆撃が必要不可欠です!」

 

「構わん! 防衛戦線ギリギリを爆撃させ、残りは陸軍で対処する! コンバットフレームも現地には配備されている、戦線を持たせる様に伝える!」

 

「了解しました」

 

 

司令官は素早く無線を切り替えて、今度は各方面隊に繋ぐ。

 

 

「聞こえるか? こちら本部、かなりの数のネウロイが押し寄せてくる。 各自、これを迎え撃ち、絶対に陣地を守れ! これより戦闘の指揮を執るッ!!」

 

 

叫ぶように言うと、周囲の本部人員や大きなモニターが降下、慌しく動き回る。

やがて簡易な戦闘指揮所が完成すると、本部は指揮を執り始める。

 

 

「くっ……こんな時、あの男達……ストームチームがいてくれれば……!」

 

 

誰にも聞こえない声で、欲しい者を言う。

だが無い物ねだりをしても仕方ない。

 

あの伝説の遊撃部隊は、今はこの世界にいない。

 

その部隊所属の ひとり、ストーム・ワンはいるものの、遠方に出払っており、手元に置いとくべきだったかと後悔すらする。

だが、あの男でなければ、この世界の人員掌握は無理だ。

だから501に潜伏されたのだ。 スカウトではなく、伝説の男に。

 

だが、いないならば。

いるEDF隊員で生き残らねばならない!

 

 

「全兵士へ! 撃って撃って撃ちまくれ!」

 

 

だから、本部はそう言うのだ。

生き残りたければ、希望を掴みたければ戦えと。

 




続くか未定。
間違いがあれば、ごめんなさい……。

お気に入り登録、評価者の皆様、ありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17.二刀装甲兵前進! ディフレクション・シールドを構えろ!

作戦内容:
ネウロイの軍勢を迎え撃ちます!
砲兵隊やウィッチ、フェンサー部隊と協力して撃滅して下さい!
備考:
只野二等兵にPA-11SLS配備。
緊急修理したストライカーユニット配備。
ウィッチが偵察や弾着観測。
砲兵隊やフェンサー部隊と協力し、陣地を守れ!
装備:
PA-11SLS
ゴリアスD1
MG11
その他
説明:
PA-11SLS
PA-11を改良したPA-11LSの改良型。
レーザーサイトとスコープが装備された。
また、基本性能も向上している。
ゴリアスD1
凄まじい破壊力を持つ大型ロケットランチャー。 見た目はスコープの付いた大筒。
広範囲に大きなダメージを与える事が出来る。
精度が高く、スコープ装備。
遠距離攻撃用として運用可能。
MG11
ハンドグレネード(手榴弾)。
接触起爆機構が組み込まれており、投げた後、物体に接触する事で爆発する。
初期(レベル0)の手榴弾なので、普及しているタイプなのではないかと思う。


EDFカールスラント西部防衛戦

 

突如として起きた激戦だった。

本部からネウロイ野郎が押し寄せてくるのが伝えられた時、頭を強く殴られた感覚に陥る。

これはEDFの呪いだ。 行く所、こんな目に遭ってばかりだよ。

 

 

『全兵士へ! 撃って撃って撃ちまくれ!』

 

 

本部からの無線が耳に入る。

EDFは、そんなばかり。 今更だが。

なんにせよ応戦だ。

 

 

「総員戦闘配置ッ!」

 

 

赤ヘルを被ったレンジャー、ガリア方面隊長が声を響かせる。

俺らは直ぐに態勢を整え、迎え撃つ用意を整えた。

続けて本部からの無線。 指揮系統がある安心感がある。

 

 

『砲兵隊は砲撃を続行! 押し寄せるネウロイを少しでも減らせ! フェンサー部隊は前進、陣地の盾となれ!』

 

「おい聞いた野郎ども! 俺らフェンサーの出番だぜ!」

 

「フェンサーの力をネウロイ野郎に見せる時だ!」

 

 

遠くで強化外骨格、パワードスケルトンを纏うフェンサー部隊が前進しているのが見えた。

 

この防衛戦の主役だな。

 

中世の騎士を近代化させたような兵科は、見た目相応に重厚で動きが鈍い。

だが、人間が持てない重火器を片手で扱える。

皆の左手には超合金の盾。 右手には機関砲。

肩に迫撃砲や高高度強襲ミサイルポッドを背負う者もいた。

 

相変わらずの凄まじさ。

俺らレンジャーには、到底扱えないモノばかり。 さながら人間戦車である。

 

 

「タダノ二等兵!」

 

 

唐突に曹長ちゃんが尋ねてきた。

犬耳と尻尾を出して、脚にはユニット。 手には支給されたPA-11。

今回、修理したユニットで飛行し、偵察や弾着観測を行ってもらうのだ。

軍曹ちゃんも僚機として上がっている。

上としては、動ける者は戦闘に参加させる腹らしい。

 

 

「なんだい?」

 

「なんだじゃない! なんだ、あの騎士の鎧みたいなのを着ている兵士は!」

 

「フェンサーだよ。 そういう兵科」

 

 

簡単に説明しつつ、土嚢の裏に隠れる。

俺に支給されたPA-11SLSを立て掛け、普及量産型ハンドグレネードMG11を何個も転がす。

最後にグラントM31より強力な重火器の大筒、ゴリアスD1を構える。

来たる敵を爆散させるべく、スコープで遠方を見つめた。

二等兵の俺なんかに、これだけの支給。

継戦能力を高めたいのだろう。

今回の防衛。 激戦になるな……勘弁してくれ。

 

 

「無視するな!」

 

「してないよ。 それより、敵が来る前に早く上がって。 軍曹ちゃんなんて、とっくに空の上じゃないか」

 

「ネウロイの大群相手だぞ。 兵士の数も少ないのも不安だが、あんな時代遅れな兵士らもいて大丈夫なのか!?」

 

 

勘違いをしているね、曹長ちゃん。

見た目で判断しては いけないよ。

 

 

「パワードスケルトンって言ってね、スゴいパワーを出せる鎧なんだよ。 歩く戦車だと思えば良い」

 

 

言葉を選びつつ、説明を続けた。

納得しないと空に上がってくれなさそうなので。

 

 

「確かにウィッチでもなしに、あんな重火器を片手で扱えるものな。 だが、ネウロイの火力を前に耐えられるのか?」

 

「盾があるからね。 大丈夫だよ」

 

「本当か」

 

「楽しみにしていて。 だから」

 

「なんだ」

 

「早く上がって」

 

 

ほんとソレ。

切迫しているのだ。 無駄口は減らしたい。

 

 

「そうだな。 行ってくる」

 

 

そう言うと、ブーンという音と共に空へと舞い上がった。

EDFが修理したユニットだが、大丈夫そうだ。 良かった。

パンツの見える後姿には、まだ慣れそうにないが。

 

 

『こちら曹長。 これより、軍曹と共に弾着観測を行う。 砲兵隊は言われた通りに撃て』

 

 

言葉遣いには慣れたがな。

階級は上。 でも俺らには関係ない。

年齢も。 経験も。 強さ的な意味でも。

俺らは仲間。 家族だ。

 

 

『曹長さん、やっと来ましたね! 切迫しているんですから、早く来て下さいよ!』

 

『うっ……すまない』

 

『はっはっはっ! お嬢さん、言われてやんの!』

 

『ええい! 私語は慎め!』

 

『りょーかいだ曹長ちゃん』

 

『"ちゃん"はやめろ!』

 

『なんでも良いさ。 それよか、弾着観測頼むぜ』

 

『出来るのかぁ?』

 

『馬鹿にするな』

 

『チビって逃げるなよ』

 

『だ、だれがチビるか!』

 

 

賑やかな無線越しに分かる。

EDF色に染まっていくウィッチを。

既に立派な仲間であり家族である。

俺はそう思い、こんな状況なのに嬉しく思う。

 

笑みを浮かべつつ、スコープで遠方を見つめ続ける。

不思議な高揚感は、麻薬の一種。

なんでも出来る感覚。 皆がいる安心感。

危険なのは分かる。 それ故に繋がりを深く感じる。

 

BGMの砲撃が、遂に始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如始まったカールスラント西部防衛戦。

暗雲立ち込めるガリアの土地の、ネウロイの動きが読めなかった事への不意打ちは確かにあった。

だが、誤算という程でもない。 敵地から襲撃がある事は誰でも予想出来た。

だから貴重な兵力を集中運用。 前哨の防衛戦力は高く、十分に勝算がある。

あるのだが……司令官は良い顔をしなかった。

 

 

「装備では我々に分があるが、問題は数だな。 襲撃をしてくる中で、その戦法を学んだとでも言うのか?」

 

 

数で押して来るという、いつかの侵略性外来生物の戦法に危機を感じ取る司令官。

それは人海戦術の様な戦法。 兵力不足のEDFには、かなり辛い。

どんなにEDFの装備品が強力でも、大群相手では捌ききれず押し流されてしまう為である。

かつて、狙撃部隊ブルージャケットのみでβ型の群れを対処しようとした時が良い例か。

あの作戦は失敗だった。 数に押されて部隊は飲み込まれた。

ストーム・ワンが作戦に参加していなければ、確実に全滅していただろう。

 

 

「東と西。 同時攻撃も偶然ではない。 タイミングが良過ぎる」

 

 

奴らネウロイには意思がないとされる。

だが、それはこの世界の研究者の意見。

戦略情報部の考察では、真逆の意見を唱えている者が多い。

 

 

「ネウロイの中には、明らかに人類が考案したデザインの報告があった。 形の模倣に過ぎないにしても、警戒するべきだろう」

 

 

EDFなりにも観察や研究を始め、その報告に警戒心を抱く司令官。

小さな戦線では、オトリを使う戦術を取ったなどという報告もチラホラと入ってきている。

 

 

「エイリアンの歩兵隊以上の脅威だと見なした方が良さそうだ。 だが、奴らの誤算はガリア解放の為に戦力を増強させていた事だろうな」

 

 

司令官は、うすらと笑みを浮かべた。

ネウロイも、早くに転進していれば被害を最小限にEDFを倒せただろう。

だが、もう遅い。 ガリア解放の為に戦力を高めていたところに、ホイホイ攻めて来たのだから。

特にガリア側は焦ったか。 カールスラントを陥落させて後顧の憂いを無くしたネウロイ。

そのままガリアのパリに侵攻。

占拠して振り返ったら……まさかのポッと出の軍隊にカールスラントの仲間が惨殺されており、挙句にソイツらは砲口を向けてきたのだから。

 

カールスラントが仮にも人類領に戻ったという事実。

それはガリアに侵攻したネウロイが後方と寸断され、孤立してしまったことを意味する。

これには連合も反応。

軍隊や防衛線を再構築中の連合だったが、この機を逃す人類ではない。

連合側は雑に、しかし大急ぎでガリアを包囲。 カールスラントへの撤退穴は、EDF砲兵隊陣地が塞ぐ。

これに焦ったネウロイは、攻勢に出たと思われる。 浮き輪の空気穴から空気が逃げる様に、点である砲兵陣地に押し掛けたのだろう。

そこには万全の状態ではないものの、増強された戦力があるとも知らずに。

 

 

「ガリア解放前の前哨戦といく! 戦力をここで削り取り、我々はココで勝利する!」

 

「「了解ッ!!」」

 

 

司令官が激励するように言うと、部下達も叫ぶように返答。

前線のみならず、本部の士気も高い。

そんな本部に舞い込んでくる情報を部下達が随時報告していく。

 

 

『ガリア方面隊は進軍してきたネウロイに砲撃中。 ウィッチの弾着観測の下、確実に戦力を削いでいます!』

 

『空戦域拡大! 全ての戦線で戦闘状態に入りつつあり!』

 

『黒海方面の空爆完了! ネウロイの多くを撃滅したとの事! 我が軍への被害軽微! 一部の地上部隊は掃討戦に入ります!』

 

『司令官! 余剰戦力を今からでもガリア方面隊の救援に向かわせますか?』

 

 

どうやら黒海方面隊には既に余裕が出来たようだ。

だが罠かも知れない。 敵を侮ってはならない。 司令官は首を横に振り、現状戦力で対処させる。

 

 

『ガリア方面隊、偵察ウィッチから報告! 砲撃最終弾着! ネウロイの勢い衰えず! 砲兵隊は後方に退避、展開中の歩兵隊による地上戦に入ります!』

 

「殲滅するよう伝えろ! ウィッチは引き続き空から援護だ! 連携怠るな!」

 

『了解!』

 

 

EDFの歩兵隊はヤワではない。

今日まで絶望を生き延びて来た屈強な兵士達だ。 この程度、かつての絶望程ではない。

ガリア方面隊は乗り越えられると信じている。

 

 

『ああっ!?』

 

 

ひとりの通信士が叫ぶ。

 

 

「どうした? 報告せよ」

 

『ガリアから高エネルギー反応ッ! マザーシップの巨大砲台ほどではありませんが、酷似していまぁすッ!?』

 

「なんだと!?」

 

 

これには思わず司令官も叫び、他の通信士も振り返ってしまう。

かつて、マザーシップの砲撃や弾幕を経験したEDF。 あの絶望の砲撃が再び。

 

 

「くそっ!? 方面隊を砲撃するつもりか、撤退命令を出す! ここで全滅させるワケにはいかない!」

 

『ダメです! 間に合いません!?』

 

 

騒然とする司令部。

ネウロイ。

それは謎の敵。

日々模倣し、進化し、人類を苦しめる。

人類が出来る事はネウロイにも出来ると言わんばかりに。

お前らなんて、いつか簡単に捻り潰してくれると。 滅ぼしてくれると。

 

砲撃も、砲兵隊の攻撃からヒントを得たのだろうか。

 

だとしても。

EDFは屈強な戦士の集まりだ。

 

その程度で絶望するのは、まだ早い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネウロイからの砲撃が来るぞ!」

 

「皆さん、逃げて下さい! 出来るだけ遠くへ!」

 

 

曹長ちゃんと軍曹ちゃんが、悲鳴にも似た声で叫ぶ。

視界には巨大な赤い光の玉が、ガリア方面隊陣地へと飛んで来るのが見える。

ネウロイからの高出力ビームの一種だ。 あんなの喰らったら、辺り一面吹き飛んでしまう。

いくらEDF隊員が強くても、耐えられるエネルギーではない。

 

だが、隊員からの返答は勇ましいモノだった。

 

 

『何を言っている? フェンサーには盾がある』

 

「盾だと? 馬鹿言うな! そんなんで耐えられるビームじゃない!」

 

 

曹長ちゃんは怒る様に叫ぶ。

盾で何とかなるなら、人類はカールスラントを含めた多くの領土を失わなかった。

だが、曹長ちゃんは ひとつ、失念していた。

広大な帝政カールスラント領の維持を可能にしているEDFの技術力を。

 

 

『アレくらいなら平気だ』

 

「平気なもんか!」

 

『誰も耐えるなんて言ってないぜ』

 

 

その通信を最後に、地上のフェンサー部隊が両手それぞれに盾を構えた。

その盾は長方形の大板で、ライフル弾から歩兵ひとりを守る程度にしか感じられない。

とてもネウロイの高出力ビームに耐えられる見た目ではない。

 

 

『フェンサー前進! 横一列に並べ! ディフレクション・シールド構えェッ!』

 

「何を言ってるんだ!?」

 

「た、タダノさん……ッ!」

 

 

曹長ちゃんと軍曹ちゃんは困惑。

軍曹ちゃんに限っては、共に過ごして来た只野二等兵の名を言う。

不安故に、安心出来て頼れる、男の名を言ってしまったのだ。

 

 

『大丈夫だよ。 フェンサーに任せて良い』

 

 

しかし只野二等兵からの言葉から、変化が起きるように感じない。

不安になるふたり。

その雰囲気を悟ってか否か。 続けて言葉が送信されてくる。

 

 

『フェンサーの盾はね。 耐えるだけの設計じゃないんだよ』

 

「えっ?」

 

『まあ見てて。 たぶん、大丈夫』

 

「たぶんって!」

 

『仲間を信じよう』

 

 

只野二等兵からの通信も切れてしまった。

迫る赤玉。 逃げない隊員ら。

中には狂ったのか、笑みを浮かべて「勝ったな」とかほざく隊員もいた。

正気ではない。

 

 

「EDF兵士は狂ってる! 軍曹、私とお前でシールドを張るんだ! それでビームが減衰すれば助かる命が」

 

「曹長さん」

 

 

自らを犠牲に、皆を助けようとする姿勢の曹長の言葉を遮り、軍曹は静かに言う。

 

 

「信じましょう。 EDFを」

 

「お前まで!」

 

「祖国カールスラントを奪還し、私達の代わりに守ってくれてるのです。 そのチカラ、信じるに値しませんか?」

 

「くっ……!」

 

「きっと大丈夫です」

 

「…………わかった」

 

 

曹長ちゃんは不安や感情を抑え込み、軍曹ちゃんの言葉を信じた。

EDFの技術や兵器は謎だ。 そして強い。

自分は、そのチカラの片鱗しか見ていないのだ。

きっと、あのビームに対抗する術がある。

そう信じるしかない。

そして、答えを知る事になる。

 

 

『今だァッ! ディフレクター起動ッ!!』

 

 

隊長が叫ぶと、

 

 

『『『『フンッ!!!!』』』』

 

 

フェンサーが一斉に盾をビームに突き出して、気合いの声を出した!

そして、盾から波動のようなものが放たれると、それはビームに当たり……なんと、ビームがガリアへと跳ね返った!!

 

 

「「ええっ!?」」

 

 

これにはウィッチも驚き。

私達が使う魔法より、魔法だよ……そんな感想を抱いてしまうほどに。

 

 

『ね? 大丈夫だったでしょ?』

 

 

只野二等兵から柔らかな声が掛けられ、ハッと我に帰るウィッチ。

 

 

「な、なにが起きたんだ!?」

 

『簡単な説明しか出来ないけど。 あの盾はディフレクション・シールドというんだ。 中にディフレクターという装置が組み込まれていてね。 それを起動させると、物理運動が180度回転、綺麗に跳ね返るらしいよ。 実弾や、ご覧の通りビームも跳ね返せる。 あまりにデカい攻撃は無理だけどね。 今回は皆のチカラではね返せたみたい』

 

 

ぽかーんとしてしまう曹長ちゃんと軍曹ちゃん。

 

あっさりと説明された言葉を噛み砕く前に、跳ね返ったビームは発射された地点……ガリアのパリに弾着。

凄まじい音と火球が生まれ、衝撃波はカールスラント西部のここにも届く。

空飛ぶウィッチらは危うく墜落しそうになった。

 

 

「きゃっ!?」「ぐっ!?」

 

『おい!? 大丈夫かい!?』

 

「え、ええ。 何とか」

 

「日々の訓練が功を奏した」

 

『そうか……良かった』

 

 

砲撃が決め手になったか。

陸戦ネウロイの姿も確認出来なくなり、只野二等兵達は警戒態勢へと移行していく。

その中、不意にフェンサー部隊の誰かから通信。

勝利への喜びが感じ取れる一方、それはウィッチにとって恐怖を感じされるには十分だった。

 

 

「で、曹長ちゃん」

 

『ちゃんはやめろ』

 

「パリは燃えているか?」

 

『…………燃えるレベルを超えているぞ』

 

 

何とか、それだけを返した。

 

視界には、パリを飲み込む火球が未だにメラメラと燃えている。

さながらミニチュアの太陽だ。

 

EDF。 ネウロイ以上の恐怖。

 

曹長ちゃんは戦慄と共に身を震わす他ない。

謎の技術。 恐ろしいまでのチカラ。

 

もし、もしEDFを敵に回したら。

きっと連合軍は勝てない。

 

ネウロイ共々滅ぼされる。

 

火球からの熱気を浴びながら。

そう思ってしまった。

 




駄文。
フェンサーを登場させてみました。 盾メインですが。

感想、お気に入り登録、評価者の皆様。 ありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エトワール作戦発動! ガリアを解放せよ!
18.EDF進軍。 パリで凱旋パレードを!


作戦内容:
激戦を制し、EDFは敵を退けただけでなく戦力を大きく削りました。
後方と寸断されたガリアに立て籠る残存戦力は、連合軍とEDFが包囲中。
チェックメイトの時が近付いています。
連合軍とネウロイのミリタリーバランスを逆転させる為、ガリアに進軍。 連合軍と共同でネウロイの巣を叩きます。
当作戦をエトワール作戦と呼称。 ガリア奪還を目指します。
備考:
カールスラント側はEDF、他は連合軍がガリアを包囲している。
501JFWとストーム・ワンが作戦に参加。
ガリア、特にパリは前回の砲撃でほぼ焦土化。 遮蔽物がない。 注意せよ。
装備:
PA-11SLS
ゴリアスD1
その他

にわか知識なので、間違いやオリジナルだらけ。


エトワール作戦。

EDFと連合の共同で行われる、ガリア奪還という欧州大反抗作戦である。

カールスラントがEDFによって早々に奪還され、連合はガリアを包囲する事に成功。

EDFは当初、連合とは仲良くないので、丸投げされるかと司令部は思った。

しかし、ガリア奪還は連合にとって重大な事であった。 ガリアを奪還出来れば、そのままネウロイが居ないカールスラントに拠点を置ける。

欧州の補給線、生命線を守れる事にもなる。

そこを足掛かりに北南に分散したネウロイや、黒海方面に銃口を向ける事が出来るようになれば、早期ネウロイ殲滅も夢ではない。

また、EDFに丸投げして万が一、ガリアを奪還されるとなると、連合軍とEDFが直接銃口を向け合う距離になるという危惧も強かった。

仮にカールスラントを返還してくれなくても、ガリアまでEDFに占拠されるのは避けたかったのである。

そんなワケで。

連合と共同戦線を張る事になったEDF。

ネウロイからの反撃により、多少の痛手と作戦遅延を喰らったが、得られるモノを天秤にかければ些細な被害だ。

EDFとしても連合から得られるモノは得たい。

互いにとってただの足掛かりとしての作戦は、様々な思惑と希望と欲望を混ぜつつ一大決戦の様相を呈していた。

 

ストーム・ワンが潜伏する501統合戦闘航空団も、この作戦に投入される。

元々ガリア解放を目的として組織されたのだから、当たり前ではある。

が、しかし。

撤退戦から時間が経ってないのに、足並み揃わぬ連合軍が、良くガリアを包囲出来たなと隊内では疑問や歓喜の雰囲気が流れていた。

特にカールスラント出身メンバーのミーナ中佐、バルクホルン大尉、ハルトマン中尉は疑問符を出す。

彼女らは祖国が、EDFに占拠……じゃなくて奪還されている事を知らさせていない。

まさか「異世界からやってきた軍隊が"うっかり"ネウロイを殲滅して祖国を不法占拠しちゃってるぜテヘペロ☆」なんて言えないのである。 それこそ頭がオカシイと思われる。

事実、そうなのだから仕方ない。 どこぞの空軍大将も頭を痛めている。

そんなワケで、3人は基地内で疑問の声を出し合っていたのであった。

 

 

「ガリアを包囲したって、本当なのか?」

 

「ええ。 司令部からは、そう通達されてるわ」

 

「でもさー、私たちの祖国にはネウロイがいるんだろ?」

 

 

A.いません。 EDFがいます。

 

 

「ガリアを包囲するには、カールスラントに背中を見せなければならない」

 

「ええ。 でも、私たちの祖国には……やっぱりネウロイがいる筈よね」

 

 

A.いません。 EDFが(ry。

 

 

「なにか おかしくない?」

 

「そうね」「そうだな」

 

「まあ"包囲出来た"事もだけど。 カールスラントからたくさんの発砲炎を見たとか、そこからガリアを砲撃しているなんて話もあるんだよ」

 

「ネウロイじゃないのか?」

 

「ネウロイが、ネウロイの巣を攻撃する?」

 

「いんや、人間の部隊と見たね」

 

「まさか、生き残ったカールスラント軍?」

 

 

A.いません。 E(ry。

 

 

「あり得ないわ。 撤退は完了しているし、生き残ってもネウロイの瘴気にやられてしまう……まさか、ウィッチが?」

 

「いくらウィッチでも、何人規模って話だ。 物資弾薬の問題もあるが、ガリアまで相当の距離だぞ。 そこから砲弾を正確に弾着させられる兵器や人員なんてない」

 

「変な話だよねー。 まっ、ガリアを奪還出来たら確かめに行けるんじゃない?」

 

「そうね。 今はエトワール作戦に集中しましょう」

 

 

疑問はあれど、彼女らはベテランの軍人だ。

今は今に集中しようと締めくくり、話は終わる。

 

ガリア奪還に成功すれば501JFWは解散、各国の原隊に戻るだろう。

その時、カールスラント軍である彼女らは祖国奪還の為に戦い、再び領土へ戻る機会もある筈だ。

その時になったら確かめれば良い。 そう考えて、各自の持ち場に着こうとした時。

 

 

「なんの話だ?」

 

 

不意に若い男の声が。

男子禁制の場所を平然と歩く奴なんて、アイツしかいない。

 

 

「「ストーム・ワン!」」

 

 

EDF伝説の兵士である。

この人も随分な立場だが、いつのまにか謎のカリスマ性で501JFWを掌握していた。

3人は自然と背筋を伸ばして直立不動の姿勢をとる。

特に驚くべきはハルトマン中尉か。

彼女は私生活がだらしなく、階級を気にしないが、仲間を助ける邪魔になるなら将軍閣下にだって楯突く性格だ。

そんな彼女すら、表向きは整備士のストーム・ワンを上の人間だと認めている。

ストーム・ワンは最初こそ、ミーナ中佐と一触即発の危機だったのに、この短期間で相当である。

絶望を乗り越えて、エイリアンの神、指導者と思われる かの者を倒したのだ。

普通の人間枠に収まらないのだろう。

 

 

「はい。 カールスラントに友軍がいるのでは、と」

 

「本来、それは有り得えませんが、兵士の間で噂になっていると聞きます」

 

 

ストーム・ワンは「成る程」と頷いた後、莞爾として微笑んだ。

 

 

「俺がいなくとも、EDFは上手くやっている様だな」

 

「えっ?」「EDF?」「それは?」

 

「エトワール作戦で知る事になるだろう。 なに、安心して良い」

 

「何かご存知なのですか?」

 

「ああ。 だが、今は内緒だ。 楽しみにしていなさい」

 

 

そういって、彼は職場となる格納庫へと言ってしまった。

まるで父の様な、威風堂々とした頼もしい背中だった。

何か知っている様子でもある後ろ姿に、しかし楽しみにしていろと言われては年頃の子としては気になるし、ワクワクしてしまう。

 

 

「なんだろ!? なんだと思う、トゥルーデ!?」

 

 

ハルトマンが、プレゼントを喜ぶ子どものように、バルクホルンを愛称で呼ぶ。

対して2人は、少しの困惑を交えつつ、言葉を発するのだった。

 

 

「私が知る訳ないだろう!」

 

「極秘任務中の部隊が?」

 

 

考えても仕方ない。

なんにせよ、エトワール作戦に参加する日は近い。

 

立て籠るネウロイからの熾烈な抵抗で、激戦になる事が予想される。

連合軍も稼働戦力の大半を注ぎ込む決戦だ。

戦死者も半端な数では済まない。

だが、勝算はある。

勝てば、人類は初めてネウロイの巣を破壊し、領土を奪還出来る事になる。

それは人に希望をもたらす事になるだろう。

 

ミーナ中佐は願う。

501の全員が生きて、この作戦を成功させられる事を。

 

でも彼女は、まだ知らない。

人類は既に勝った事があるのを。

カールスラントは既に、取り戻している事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「EDFッ! EDFッッ!!」

 

 

EDF、ガリアに進軍開始。

いつもの雄叫びと共に、決して多くはない稼働戦力を持ってして前に進む。

只野二等兵や、ウィッチの軍曹、曹長も引き連れて。

 

絶望を乗り越えてきた精鋭たちだ。

きっと今度も、乗り越えられる。

 

 

「大丈夫……大丈夫だ」

 

 

今日も生き延びる。

生き延びてみせる。

 

只野二等兵は思った。

でも、それは皆も思った事だった。

 

その為に。

隊員らは、今日も銃を握り前に歩き続ける。

勝利を掴む為。 希望を掴む為に。

 




にわか知識なので、間違いやオリジナルだらけ。
エトワール凱旋門?
あっても、EDFの砲撃で全壊しています。
守るのは地球であって建物ではない(言い訳


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19.砲弾の雨

作戦内容:
501JFW含むウィッチーズによる制空権確保並びに巣への攻撃に合わせ、陸軍は砲撃による弾幕戦法を取りつつ、ガリア領内に突入。
ゆっくりと前進、確実に王手をかけます。
誤射を防ぐ為、連合軍との連携が重要です。
各指揮所とEDF本部からの無線に気を配り、味方の砲撃範囲に入らないよう注意して前進して下さい。
備考:
一部戦線での連合軍砲兵隊練度が低い。
補う為に、予め決められた地区に決められた砲弾数を撃つだけに留めている。
ストーム・ワンが遅れて合流。
装備:
PA-11SLS
ゴリアスD1
MG11
その他

戦術とか、詳しくない素人作者ですので、ご容赦を……。


連合軍並びにEDF、ガリア領内パリへ総攻撃を開始す。

 

遂に人類の反抗作戦、エトワール作戦が発動。

ガリアを包囲する連合軍とEDFの戦力は膨らみ続け、砲兵陣地からは、ひっきりなしに砲弾が放たれている。

その数に比例して、遠くガリアの地で土柱が無数に立つのが見えた。

それは弾雨の嵐。 その弾幕で進軍の為の露払いだと、手前にいるネウロイを吹き飛ばす。

 

一方、その様子に興奮していく兵士たち。

今まで敗走を繰り返していたのが嘘のように、兵士達の士気は高く殺気立っていく。

 

 

「ネウロイめ! 今日こそ引導を渡してやるッッ!!」

 

「よくも仲間を! 家族を! 仇をとってやるぜッ!」

 

「欧州からネウロイを一掃しろッ!」

 

「砲兵隊ィッ! もっとだ、もっと撃てェ!」

 

「ガリアを! 祖国を! 家を取り返してやるぞォッ!」

 

「駆逐してやる! 1匹残らず!」

 

「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」

 

 

特に"外側"で再編成されたガリア軍の若い連中は、命令違反を起こしてでも飛び出したり、銃弾がなくなれば銃剣突撃やスコップで突貫も辞さない姿勢だった。

当たり前だが、そんな事してネウロイは倒せない。 殺されるだけだ。

そんな無謀な若僧を、先輩たちがブン殴っては陣地に引き摺り戻している始末。

その様子を無線越しに知ったEDF隊員らは「頼れるのは俺たちだけか」と溜息をつく。

 

さりとて、エトワール作戦は成功させねばならない。

散々犠牲を払って失敗しましたは許されない。

包囲しているから、一見は人類優勢に見える。 しかし、それは見た目だけだ。

ネウロイ個々の戦力は均一とは限らない。 戦術をとるのも確認した。

かつてのエイリアン歩兵部隊が そうであったように、EDFもそうしたし、ネウロイもする可能性はある。

敵を侮るな。 γ型がそうだったように。

追い詰められたEDFが意地を見せたように、追い詰められたネウロイは今まで以上に凶暴だ。

 

 

「こちら本部。 全兵士へ、油断するな。 敵は戦術を知っている。 無謀な突撃は禁止する。 先ずウィッチーズに空を任せ、その後は連合軍と我々の砲兵隊が砲撃。 少しずつ弾着地点を前にズラし、合わせて地上部隊が前進する。 確実に行くぞ」

 

 

EDF司令官が、説明するように無線を流した。 釘を打たないと、勝確ムードのまま突撃しそうだったからだ。

一部の部隊がやらかしただけで、下手すると総崩れになる危険性を孕む。

それは避けたい。 苦労が無駄になる。

 

まずは兵士達の空の上を、パンツ丸出し……じゃなくて、短いズボンを見せつつ各国の飛行隊、ウィッチーズが飛んで行った。

空飛び交うネウロイを片付けて貰うのだ。

でなければ、安全な空から無防備な陸軍が惨殺される。

対空兵器は持ち込んでいるが、それだけで対処は不可能だ。

 

 

「眼福だな」「可愛いな」

 

「10代の女の子を真っ先に向かわすのかよ」

 

「貴重な戦力だ。 人類には後がないんだよ」

 

「やっぱパンツだろアレ」

 

 

EDF隊員らが口々に感想を呟きながら、連合軍の戦線から飛来していく魔女達を見送る。

歩兵隊の活躍は、この後だ。

先ず先行したウィッチーズが、制空権確保並びに巣への直接攻撃を開始。

ガリア上空へと差し掛かった際、陸戦ネウロイがビームを対空乱射したが、そこは機動力の高いウィッチーズ。

当たらないし、当たりそうになっても回避。

もし当たっても、シールドで防いでいる。

ウィングダイバーには無い利点の数々に、女性隊員らは羨ましそうに見つめたとか。

 

 

「ところで、EDF空軍は手伝ってくれないのか?」

 

「要請拒否だって。 海軍もね」

 

「俺ら側の世界での戦闘で、戦力を割けないんだとさ」

 

「使える航空機や艦艇が少ないからなぁ」

 

「カールスラント防衛戦の時みたいに、ピンチなら助けるらしいが。 そうじゃなきゃ、コッチの世界の問題だからな」

 

 

因みに501JFWの隊員は、EDF……カールスラント側からは見えない。 基地の位置的にも巣へのダイレクトアタック的にも戦線が違う為である。

しかし、しっかり全員参戦しているので心配ご無用です(VC:EDF広告官)。

ストーム・ワンも参戦しますとも。 今や巻き返しの時です。

 

 

《空戦域拡大! 全哨線で戦闘状態に入ります!》

《落伍者の救助を禁ず! 繰り返す! 落伍者の救助を禁ず!》

《くそっ!? 空のネウロイが多い!》

《撃てェ! 撃てェッ!!(ダダダダダッ!》

《おい! 本当に連合軍が圧倒しているのか!? この数はまるで(プツッ》

《おいどうした返事をしろ! くそっ、左翼からの連絡途絶!》

《右翼に展開中のウィッチ飛行隊、被害甚大! 負傷者多数!》

《怯むな! 制空権を確保しろ!》

《地上部隊の道をこじ開けるんだ!》

《隊長が! 隊長が撃墜された!》

《501統合戦闘航空団、担当空域の制空権を確保!》

《他の空域への援護に向かわせますか?》

《構わん! 予定通りネウロイの巣本体を潰させろ! これ以上敵に時間を与えてはならん!》

《了解。 501は予定通り作戦を続行せよ》

《こちら───飛行隊! ネウロイの抵抗激しく制空権確保は困難な状況!》

《───担当地区のネウロイ殲滅なれど、我が隊の被害甚大……撤退の許可求む》

《許可出来ない。 戦闘を続行せよ》

《増援を要請します!》

《墜落した……陸戦ネウロイが来る! 誰か! 誰か助けて! 死にたくない!》

《編隊が維持出来ません!》

《救援要請多数!》

《構うな! ネウロイ以外、目もくれるな!》

《お願い! 見捨てないで……誰か……》

《こちらEDF救援隊。 失礼ながら無線に割り込ませてもらう》

《落ち着け お嬢さん方。 EDFが救助する》

《EDF?》《後で説明してやる。 今は生き残ることに全力で集中しろ!》

《キャリバン救護車両前進!》

《負傷者収容急げ!》

《連合軍から退去勧告ッ!》

《無視しろ! 収容優先!》

《砲弾の雨は気にするな! 救護車両の走破性と装甲はヤワじゃねえ!》

 

《第1線、最終弾着!》

《諸元修正!》

《第2線地区への砲撃よーい!》

《歩兵隊に前進指示を出せ!》

《弾種榴弾! 次弾も同じ!》

《なに違う弾持ってきてんだ!》

《数が違うぞ! 用意した馬鹿は誰だ!?》

《おい! 砲の角度が高すぎる!》

《馬鹿野郎! それじゃ低い!》

《兵科訓練を終えたばかりのガキが多いんだよ!?》

《殴ってでも言う事聞かせろ! 味方を撃ちかねないぞ!?》

《ちんたら装填するなぁ!》

《訓練をやり直せガキどもめ!?》

《射程の足りねぇ短小砲兵は前進しろォ!》《タマナシは引っ込んでな!》

《誰が短小だ馬鹿野郎!》

 

 

怒涛の勢いで無線から声がする。

悲鳴や命令等が複重して犇めき合う。

EDFと連合軍、それぞれからの声だ。

中には華麗なウィッチーズには聞かせられない下品なのもあったが。

 

 

「ヨォし、みんな前進! 先走るなよ!」

 

「了解ッ!」

 

 

赤ヘルの隊長が指示を出す。

その声は只野二等兵の耳にも届き、皆と共に歩き出す。

歩兵隊といっても、ビークルと混成だ。

只野二等兵の横で量産型ブラッカーE1、ニクスB型が動いている。

だが、それ以上に圧倒的な存在が。

それに驚愕するは、ウィッチである。

 

 

「な、なんだ あの馬鹿デカい戦車!?」

 

 

言うのは曹長ちゃん。

軍曹ちゃんも驚き、目を白黒。

 

只野二等兵は視線の先を追いかけて「ああ」と声を漏らす。

そこにはデザートタンカラーの、巨大な戦車が。

 

全長25m。

巨大な履帯。 巨大な砲塔。

地面を揺るがすように蠢いていた。

ブラッカーの何倍だよというソレは、まさに動く要塞。

歩兵の走る速度で、だけど しっかりと自分のチカラで前進中。

 

それが何台も並列して走っている。

初めて見れば、そりゃ驚くか。

 

 

「B651……タイタンだね」

 

「タイタン?」

 

 

只野二等兵は説明する。

タイタンは、全長25メートルの巨大戦闘車両だよと。

要はEDFの重戦車。 動く要塞というワケだが、やはり見た目通り機動性は悪い。

装甲と火力は高いのだが。

主砲は本来、艦砲として開発されたという、レクイエム砲を搭載。

搭載する為に砲身短縮をした影響で、初速がやや低下している。 だが当たればビルをも吹き飛ばす威力である。

 

 

「ガリアは砲撃の影響で、遮蔽物がないからね。 身を隠す場所がない。 だから歩兵隊の盾としてタイタンを用意したんだよ」

 

「そ、そうなんですね」「ほ、ほぅ?」

 

「遮蔽物の無い平原で活躍したなぁ。 それと敵前哨基地を破壊する時とか」

 

 

砲撃音をBGMに、歩きながら懐かしむ只野二等兵。

EDF隊員らにとって激戦となった戦いであるが、ウィッチたちは知らないので首を傾げるしかない。

 

 

「あの……タダノさんたちの世界で、なにが───」

 

『こちら本部。 ウィッチの曹長と軍曹、観測員として空に上がってくれ』

 

「……ッ」

 

 

何か言いかけた軍曹ちゃん。

しかし、本部からの無線指示で遮られてしまう。

 

 

「ほら、行くぞ軍曹!」

 

「は、はい! 了解です!」

 

 

曹長ちゃんに言われて、慌てて空へ飛ぶ。

名残惜しく地上を振り返る軍曹ちゃん。

只野二等兵は、何か言いかけた事に気付かなかったのか、優しく手を振って見送るだけだった。

 

 

「帰ったら……聞かなくちゃ」

 

 

PA-11を握り締め、心に決めた。

もっと。 もっとタダノさんの事を、EDFを知りたい。

 

 

「こちら軍曹です。 曹長さんと共に空からの観測を開始します」

 

 

今は、エトワール作戦に集中だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここからが本番だ! ビークルを盾にしながら決められた場所まで前進! 出てきたネウロイを各個撃破! 砲撃が終わったらまた前進を繰り返す! 慌てて前に出れば味方の砲弾でバラバラだと思え! 足並みを揃えるぞ!」

 

「「了解ッ!」」

 

 

生温く焦げた風。 ピリピリとした肌触り。

これこそが戦場だ。

 

とか、ふざけている場合じゃないよな。

連合軍側の501統合戦闘航空団、通称ストライクウィッチーズは早々に制空権を確保したようだが……他の飛行隊は苦戦している。

 

制空権を確保出来ていない地区もあり、被害は甚大。

 

軍曹ちゃんたちからの報告だと、墜落したウィッチが たくさん見えるらしい。

彼女らは陸戦ネウロイに集られており、危機的状況。

しかし、連合軍の無線では落伍者の救助は禁止。 墜落した子は見捨てるという。

 

流石に本部は幼き女の子らを見捨てられないのか、砲撃中にも関わらず救助敢行を指示。

キャリバン救護車両部隊を向かわせる。 位置は軍曹ちゃんと曹長さんが空から誘導。

低空を低時間飛ぶしか出来ないウィングダイバーには出来ない事だ。

 

 

「12時方向! ネウロイ2!」

 

 

隊長が叫ぶ。

即座に銃口を構えれば、そこにはα型に似たネウロイ2匹。

 

 

「ザコ2匹に我々は止められん!」

 

 

フェンサーが勇ましく言う。

返答するように、健気にビームを撃ってくるネウロイ。

 

しかし、フェンサーのシールドで跳ね返されたり、タイタンの重装甲に阻まれる。

俺が発砲する間も無く、武運拙く核を破壊され……光の粒子となって消えていった。

 

 

「遮蔽物がないからな! ネウロイは身を晒すしかない!」

 

「この勝負、我々の勝ちよ!」

 

「空は苦戦しているが、地上は圧勝!」

 

「余裕の勝利だ! 火力が違いますよ!」

 

「基地に帰ったら、キンキンに冷えたビールで乾杯しようぜ!」

 

「良いなソレ!」

 

「EDFッ! EDFッ!!」

 

 

おいおいおい!?

ナニ思いっきりフラグを乱立させてるんだ先輩たちは!?

 

俺らがソレを立てた時、ロクな目に遭わなかっただろうが!?

 

 

「こち…本部………後……せよ……げ!」

 

「うん? なんか無線の調子が悪いな」

 

 

ほら見ろ!?

嫌な予感がしてきたぞ!?

 

そう思った刹那。

 

 

ヒューッ!!

 

 

「この音!?」

 

 

砲弾が落ちてくる音!?

近過ぎるぞ!?

 

 

「総員タイタンの下に隠れろ急げェッ!!」

 

 

隊長が叫んだ次の瞬間!

 

 

ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!

ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!

ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!

 

 

「砲撃!?」「実弾だと!?」「うわぁ!?」「マジかよクソッ!?」「どこからだ!?」「良いから隠れろ!」「タイタンの下に伏せるんだ!」「急げ急げ急げッ!?」「馬鹿な!」「この地区への砲撃は終わったハズなのに!?」

 

 

砲弾の雨が降ってきやがった!

 

俺は先輩に倣って、タイタンの下に潜り込む。 タイタン搭乗員も状況を飲み込み、停車。 皆を守る。

タイタンから離れていて隠れきれない隊員は、フェンサーが庇う。

それでも溢れた隊員は、ニクスが覆うように守った。

 

しかし、面積が小さい。

匍匐姿勢で外を見れば、守りきれなかった何人かは吹き飛んでいた。

 

 

「くそっ、何が起きてる!」

 

「本部! 本部! くそっ、故障か!?」

 

 

先輩が慌てるように本部に連絡しようとするが、繋がらない。

俺も試したが、ダメだ。 他も同じだ。

こうも一斉に壊れるのは変過ぎる。

 

だとしたら……。

 

 

「そうだ!」

 

 

カールスラントの兵士が言っていたぞ!

ネウロイは無線障害を起こせると!

 

ならば。 あくまで可能性だが、今試めせる事はある!

 

 

「チャンネルを切り替えてみて下さい!」

 

「分かった……よし、繋がったぞ!」

 

 

アッサリ成功だ!

チャンネルを切り替える程度で繋がって良かった。

 

普通、無線の一切がイかれるもんだと思ったが……理屈は知らん。

 

繋がったから良い。

とにかく、本部に連絡だと赤ヘルの隊長が声を出した。

 

 

「こちらEDF───隊! 本部、聞こえますか!?」

 

『こちら本部! 無事か!?』

 

「はい! ですが、砲撃と思われる攻撃を喰らい、身動きが取れなくなりました! 被害拡大中!」

 

『くそっ! 間に合わなかったか!』

 

 

え、ナニ。

本部はナニか知ってるの? 本部の罠?

 

 

「何が起きてるんです!?」

 

 

砲撃の爆音に負けないように隊長は話す。

先輩たちは、匍匐姿勢でタイタンの外に銃口を向けて警戒中。 俺も同じく銃を構える。

 

 

『ネウロイの仕業と思われる無線障害を受けた。 連合軍との連絡も取れなくなり、既に足並みがバラバラになりつつある。 特に連合軍の砲兵隊が独自の判断で砲撃を始めたのが痛い。 恐らく、その砲弾が我々の部隊を襲っている』

 

 

おいマジかよ。

そこは砲撃止めようよ。

ナニしてくれてんだ連合の砲兵隊。

 

 

『直ちに後退せよ……と言ったのだが、使用チャンネルが障害に遭って伝わらなかった様だ。 すまない』

 

「いえ、無線がきて直ぐに砲弾が来ましたから、どちらにせよ間に合わなかったかと。 これから我々はどうすれば?」

 

『後退出来れば下がれ』

 

「了解」

 

 

そう言うと無線が切れた。

後退するって、この砲弾の雨の中をかよ。

 

 

「隊長! 砲弾が止むまで待機しては?」

 

『いや。 話しながら弾着数を数えていたが、明らかに定められた弾数を超える量を投射している。 いつ止むかも分からんから後退する』

 

「しかし、タイタンから身を晒すのは」

 

『身を晒さない。 タイタンをゆっくり後退させ、同じように匍匐前進で後退する』

 

 

ああ、成る程。

いやでもさ、どこまで匍匐前進……後退するんだよ。

 

 

「文句言うな」

 

「え? 言ってました?」

 

「顔が」

 

「えぇ」

 

「匍匐訓練だと思えば良い。 よし、みんな後退するぞ!」

 

「「了解」」

 

「タイタン後進!」

 

「はーい。 匍匐後退の時間よー!」

 

「そんなー!」

 

 

砲弾からの傘から出ないように、みんなで仲良く匍匐後退の お時間となりました。

 

ああ……ネウロイめ。

いや、連合軍め。

 

本当の敵は無能な味方……とかいう格言があった気がするが。

 

それはナポレオンの言葉だったかな?

やれやれ。 パリで凱旋パレードは、まだ出来そうにない。

 




見捨てらていくモブウィッチーズ。
助けに向かうEDF。
連合軍からの砲撃を喰らう只野二等兵たち。
後退して、仕切り直しへ。

助けてストーム・ワン!

作者のリアルもシンドイので、助けて(哀。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20.EDF引継ぎ。 ストーム・ワン、敵の本拠地へ。

作戦内容:
ネウロイの無線妨害により、連合軍とEDFは混乱状態です。
後退し、態勢を整えます。
連合軍に飛行隊を除く全ての攻撃を中断させ、EDFによる攻撃のみに限定。
他の地区からネウロイが来る前に短期決戦を挑みます。
備考:
連合軍の各陣地に、スカウトがフリージャーバイクを走らせて、直接攻撃中止を要請して回っている。
ストーム・ワンが間も無く合流。
短期決戦の為、イプシロン自走レールガン投入。 いろんな意味で電撃戦。


勉強不足なので、突っ込みどころ満載。
ネウロイやビークルの設定とか、時系列とかキャラ崩壊とか。 なにとぞ ご容赦を……(殴


ネウロイによる無線妨害。

連合軍の独断砲撃。

ふたつはEDFを苦しめ、特に後者は人的被害を被った。

砲兵隊の練度不足が原因だった。

兵科訓練を終えたばかりの若僧らが勝手に自己判断、バカスカと撃ちまくった結果だ。

その砲弾はネウロイよりも、前線の味方兵士を吹き飛ばす事態となってしまう。

これ以上被害が拡大するのを防ぐ為、EDFは後退。

連合軍に攻撃中止を要請、態勢を整え直す。

 

一方で空での戦い。

無線妨害で指揮所と寸断されたモブウィッチーズ。

元々軍人ではない子が多かったのも災いし、経験不足から混乱や被弾による墜落が相次いぐ事態に。

大半は戦火の拡大に伴い、工場や農作業に従事させられていた子らだ。

魔力適正等から兵士として見出されてしまい、徴兵。

ロクな訓練ナシ。 10代の女の子は、死地へ放り出されていたのである。

それでも各々が守りたいものの為、幼き小さな手で、銃を自ら握ってはいた。

それでも。 残酷と言って良い事態だ。

中には絶望した子もいる。

戦いは数。 それは重要な要素。

エトワール作戦は、人類の希望を賭けた……失敗の許されない作戦だ。

失敗すれば、最悪 投入可能戦力は失われ、継戦能力がなくなる。

そのまま欧州が王手をかけられてしまう。

だから連合軍は、未熟でも頭数を揃えたかったのだろう。

 

理解は出来る。

人命を数として割り切り、戦争に勝たねばならない。

EDFも徴兵してでも戦い続けた。

絶望を前に逃げ出したい兵士らに、踏み留まれと命令した。

それらは非情だろう。

非難されても仕方ない。

 

だがしかし。

まだネウロイという敵に対して、EDFは余裕がある。

して、墜落したウィッチーズを助けられる余力がある。

 

かつて犯した罪の意識。

贖罪というには烏滸がましい欲望。

 

戦力として貴重なウィッチーズを確保し、EDFの戦力として組み込む。

同時に連合に対する交渉カードにする。

返して欲しけりゃ土地寄越せ、などと。

 

連合は捨てたのだ。

EDFが拾っても、良いだろう。

後は持ち主の好きにして良いはずだ。

 

EDFもまた、組織であり軍である。

数や材料として、どうしても見てしまう節がある。

 

もちろん人の情が無いワケじゃない。

だからって、連合よりマシだとは考えない。

EDFがこの世界にいる理由が、理由なだけに。

 

 

「エトワール作戦はEDFが引き継ぐ。 連合にはウィッチ以外、黙っていて貰うぞ」

 

「しかし、著しい戦力の低下が予想されます。 そうなればEDFがネウロイからの総攻撃を」

 

「そうなる前に短期決戦を挑む。 待機させていたレールガンを投入しろ」

 

「了解!」

 

「ストーム・ワンも来る。 砲兵隊には、あの男の指示に素早く対応出来るように準備させよ!」

 

「分かりました!」

 

 

エトワール作戦もまた、EDFとウィッチの手柄に。

そしてより存在をアピールする。

ウィッチの1番偉い人……カールスラント空軍ウィッチ隊総監、アドルフィーネ・ガランド少将の存在も気になる。

EDFの存在をどう思っているか不安だが仲良く出来るなら、その方が得だ。

それに戦略情報部の話では、501JFWの上官に当たるマロニー空軍大将に不穏な気配ありとの事。

それをダシに、EDFは501JFWを掌握、あわよくば戦力化させたい。

その為にもココで勝利し発言力を高め、この世界にEDFの居場所を切り取るのだ!

 

 

「ウィッチ含む負傷者の収容急げ! 誰も死なすな!」

 

 

司令官の号令の優しさ、そこに埋もれた欲に気付く人間は……どれくらい いただろう。

 

 

 

 

 

ーーーーーー EDFーーーーーー

 

 

 

 

 

501JFWが暗雲立ち込めるネウロイの巣へ突入。

ストライクウィッチーズは烏合の集ではない。 他の寄せ集め飛行隊が苦戦する中、手際よく担当区域の制空権を確保。

ネウロイの巣中心へ向かい親玉となる大型ネウロイと交戦状態に入った頃。

 

只野二等兵含むEDF地上部隊は、砲兵陣地まで匍匐前進(後退)という苦行の末に逆戻りしていた。

殆ど振り出しに戻ったと言って良い。

連合軍の砲撃のお陰でメチャクチャだ。

EDFが担当する戦域に、連合軍の砲弾が落ちて来る事自体オカシイ。

それも砲撃角度や使用弾種、陣地場所も予定にない事ばかり。

そりゃEDF部隊にも砲弾が飛んでくるわと怒りと呆れがEDF隊員らの感想だった。

 

 

「連合軍の戦線じゃ、今も味方が吹き飛んでるってよ」

 

「状況は最悪だ」

 

「笑えないぞ」

 

 

待機中の隊員らがボヤく。

パリの方向を傍観する只野二等兵。

土柱がバラバラの間隔で上がっていた。 それも同じ形ではない。

膨らみのようなもの、縦に長いもの。

連合軍の砲撃が、弾も距離も出鱈目なのが分かる。

素人目の只野二等兵から見ても、だ。

 

 

「連合軍は勝つ気があるんですか?」

 

 

思わず口に出たのがソレだった。

隊員らは「さぁ」と肩をすぼめて見せる。

下っ端には連合軍の考えなんて分からない。

 

 

「船やら車やら民間のを接収、大急ぎで掻き集めていたらしいが」

 

「兵士も徴兵してでも集めたんだと」

 

「だからじゃね。 こんな事になってるの」

 

 

EDFも、そういった経験はある。

だから少し同情した。 今いる部隊には、似た経緯で徴兵された者もいる。

とはいえだ。

ソイツらが味方を撃ち始めるのは許し難い。

そんな事になるなら、最初から徴兵なんかするなと言いたい。

ロクな訓練もしないなら尚更だ。

せめて配属先を考えろ。

後の祭りだが。

 

 

「時間がなかったんだろう」

 

 

酌量の余地ありと、そういう隊員も。

でもやっぱ味方を吹き飛ばすのは度し難い。

全て客観的に見られるなら良い。

だが無理だ。

EDF隊員も、何人かやられた。

無線妨害に気付いた軍曹ちゃんらが、直ぐにキャリバン救護車両を呼んできてくれたから助かったけれど。

もし死人が出ていたら連合も逝って良しである。

 

 

「だからって、未熟なウィッチを見捨てます?」

 

 

続けて言う只野二等兵。

イライラは募るばかり。 皆もそうだった。

 

 

「只野の言う通りだ」

 

「あんまりだよな」

 

「そうだな」

 

 

うんうんと同意する面々。

そんな中でも、未だに続いている砲撃音。

上がる土柱。

薄らと、違う戦線から悲鳴が聞こえる。

砲撃を喰らっている連合軍兵士の声。

或いはウィッチか。

悲惨な光景は幾度と見てきた隊員達だが、これは別の意味で酷いと言わざるを得ない。

くどいが、その感想が頭の中で反復する只野二等兵たちであった。

 

 

「軍曹ちゃんと曹長ちゃん、救護部隊が頑張っている。 アイツらに任せよう」

 

「それより今後だ。 このまま砲弾の雨に突っ込むのは勘弁だぞ」

 

「本部は、なんて?」

 

「待機命令だ。 砲弾の雨が止んだら前進だろうな」

 

「全然、砲撃が止まらないぞ」

 

「この作戦、大丈夫なのか?」

 

 

不安になるEDF隊員。

ネウロイではなく、人類側のポカで作戦失敗か。

そう思い始めた、その時。

 

 

『こちらストーム・ワン。 誰か援護に来れるか?』

 

 

久しぶりに我らが総大将の声を、只野二等兵たちは聞いたのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーEDFーーーーーー

 

 

 

 

おお……!

久しぶりに隊長の声を聞いたぞ!

501JFWに潜伏していたらしいが、戦場に来てくれたのか!

 

だが喜んでいられない。

声色から緊迫した状況だと悟り、俺らは援護に向かう事にした。

 

 

「こちら地上部隊です。 座標データ取得。 直ちに向かいます」

 

『頼む』

 

 

赤ヘルの現隊長が短くやり取りを終えた。

ストーム・ワン隊長の無線は強いなぁ。

妨害を受けないとは。

とにかく、向かわねばならない。

 

 

「とはいえ、砲弾の雨だ。 身を守る必要があるだろう」

 

 

そう言うは赤ヘルの現隊長。

ごもっともである。

 

 

「タイタンを使いますか?」

 

「いや、それだと遅い。 只野、お前はブラッカーで先行しろ」

 

「隊長たちは?」

 

「グレイプに乗る」

 

 

は?

俺も乗せろよ。

俺、戦車兵じゃないんだけど。

しかも流れ的に、俺1人で先行?

死んで来いってか。

砲弾を喰らえば無傷とはならないぞ。

ブラッカー戦車は小型でありながら、従来の戦車と同等の火力と耐久性があるが、流石にタイタン程ではない。

それに、主砲1門のみでネウロイの大群相手とか無理だと思われ。

よし、言ってやろうじゃないか。

 

 

「分かりました。 何処へ向かえば?」

 

 

はい断れない俺ですよチクショウ!?

悲しいなぁ。 俺は弱い。 強くなりたい。

具体的には「NO!」と言える隊員に。

 

 

「パリ中心部だ」

 

「へ? そこ敵の本拠地」

 

「その通り。 では逝って良し」

 

 

酷いッ!?

戦場も本部も酷いが、現隊長も十分酷い!

 

 

「てか、なんでストーム隊長が本拠地に!?」

 

「俺が知りたい。 予定では連合軍側の戦線から援護する手筈だったが。 無線障害と砲撃で予定を変更したんだろう」

 

 

うーん?

だとしても、本拠地に向かうか?

ストーム隊長は空爆誘導兵。

エアレイダーだ。

装備の都合、乱戦に巻き込まれるのは苦手とされる。

それなら先行して本拠地に殴り込みに行くのは愚行だ。

それとも、EDFの装備なら勝てると踏んだのだろうか。

 

いや……隊長がそんな事をする筈がない。

 

何か考えがあっての行動だ。

場合によっては緊急事態。

ならば早く向かわねばならない。

 

 

「とにかく向かいます」

 

「頼んだ」

 

 

やむを得ない。

俺は砲兵陣地に置いてあるブラッカーに乗り込んだ。

 

 

「狭いなチクショウ」

 

 

相変わらず狭い車内だ。

市街地戦闘を想定した造りだからな。

戦車が小型なのだ。

だけど砲撃で焦土になった、遮蔽物の無い場所だからなぁ……。

いや、小回りが利く。 被弾も少ないはず。

それは開けた場所でも変わらない。

うん。 ポジティブに行こう。

 

 

「てか臭ッ!? 掃除しとけよ!」

 

 

男の汗臭い! 臭う!

狭さ以上に苦痛!

野郎の臭いを嗅ぐ趣味はねぇよ!

 

嫌がらせかコレ。

整備出来なかったとしても掃除しとけよもう!

脱臭、換気! 戦場だから呑気な事は出来ないけどさ!

 

 

「只野二等兵、出ますよー!」

 

 

文句を言っても仕方ない。

ブラッカー発進。

 

待ってて下さい、ストーム隊長。

直ぐ向かいますから。

そして、出来る事をやらせていただきます!

 

と、意気揚々と操縦桿を前に倒して(ブラッカーはペダル式ではない)前進していたら。

 

 

「うん?」

 

 

弾薬表示パネルに違和感。

そこには115ミリ長距離榴弾砲とある。

 

 

「これ、E1じゃねぇのかよ!?」

 

 

急造品のE1かと思ったが違う!

E1なら105ミリ榴弾砲だからな。

だが、これは長距離砲撃仕様の戦車。

 

 

「こりゃブラッカーSPCだ!」

 

 

弾速が早く、長距離への正確な砲撃が可能とされるものだった。

が、しかし。 普通にブレる。

真っ直ぐ砲弾が飛ばない。

砲安定装置?

たぶん、そんなものは無いです。

行進間射撃とか、地面に影響してブレブレです。

結局最後は、射手の腕と運次第。

俺は戦車兵じゃないんだが。

もっと言えば狙撃手ですらない。

 

 

「だけどレンジャーだ。 やってやんよ!」

 

 

砲撃の雨の中、装甲に守られながら戦場を駆ける。

途中、救護車両や班とすれ違う。

空には彼らを誘導しているウィッチーズ、軍曹ちゃんと曹長ちゃんが見えた。

 

 

「頑張れよ。 俺も頑張ってくるから」

 

「その声、只野か!?」

 

「おう逝って来い!」

 

「タダノさん!? そっちは危険ですよ!」

 

「仕事が出来たんだ。 そっちは頼んだ!」

 

「大丈夫だ軍曹。 タダノ二等兵は強いんだろう?」

 

「……はい」

 

 

軍曹ちゃんの心配そうな声が聞こえた。

宥める曹長ちゃんの声も。

すまない。 だが、俺はEDFなんだ。

無茶な作戦や命令に付き合ってきた。

欧州救援隊の時は、逃げたけどさ。

その時だって使えるものはなんでも使い、逃げ隠れし、敵と戦って絶望に抗った。

そして生き延びた。

いつだって、そうしてきた。

今も そうするだけだ。

 

 

 

 

ーーーーーー EDFーーーーーー

 

 

 

 

 

ストーム・ワンがネウロイの根城、パリ中心部にいる理由。

それは仲間の為だった。

仲間、とはEDF隊員の事ではない。

501JFWの子どもたちだ。

 

無線妨害と、それに伴い発生した滅茶苦茶な砲撃。

砲撃予定地区外への弾着、弾種のバラつき。

響き渡る断末魔の叫び。

戦場の異常に気付いたストーム・ワンは、兵士らを救う為に予定を変更。

後方からの援護ではなく、前進して救護活動を開始。

混乱と絶望に染まる戦場へと身を乗り出た。

 

 

「みな、この光の壁の内側に隠れていろ!」

 

「アンタは!?」

 

「EDFのストーム・ワンだ!」

 

「EDF?」「なんだこれ!?」

 

「良いから隠れろ! 死にたいのか!」

 

「わ、わかった。 俺らはアンタに従う!」

 

 

混乱の中にある連合軍兵士やウィッチーズを謎のカリスマ性で纏め上げ、EDFの防御フィールド……光の壁を発生させるシェルターの中へ誘導。

兵士たちの安全を確保していく。

そんな中、巣の中心で戦闘中の501JFWからの無線をキャッチした。

 

 

「うわあああああ!?」

 

「宮藤!」「芳佳ちゃん!?」

 

「宮藤が墜落した!」

 

「陸戦ネウロイに集られる!」

 

「宮藤さん逃げなさい!」

 

「援護しますわ!」

 

 

悲鳴。 叫び。

激しい銃撃音。

 

501JFWの新人、宮藤 芳佳軍曹が墜落したと思われる声と音。

ストーム・ワンは直ちに急行。

501、ウィッチは、ストーム・ワンにとって我が子の様なもの。

見捨てるなんて出来ない。

それに最も近く助けに行ける歩兵は、恐らく自分しかいない。 ならば悩む必要はない。

軍や兵科は関係ない。

だが、考えなしには行動しない。

砲弾の雨の中。

ストーム・ワンは重装備で緊急回避のローリングで移動しつつ、器用に無線を繋いで最低限の言葉を述べていく。

 

 

「こちらストーム・ワン。 誰か援護に来れるか?」

 

『こちら地上部隊です。 座標データ取得。 直ちに向かいます』

 

「頼む」

 

 

転がりながら無線交信。

側から見たら謎の光景である。

それを見て、生き延びた兵士らは後に「戦場で転がりながら移動する、通信兵らしき者を見た」と証言。

が、誰も信じてくれなかったそうな。

混乱した戦場で見た幻覚だろうという扱いに。 カワイソラス。

 

 

「ミーナ、聞こえるか?」

 

『ストーム・ワン!? なんで無線に!?』

 

「俺も戦場にいるからな」

 

『えっ!?』

 

「宮藤の救援に向かう。 持ち堪えろ」

 

『ちょっ───』

 

 

相手の有無を確認せず、ローリング移動を続けるストーム・ワン。

砲弾の雨の中を転がるシュールな光景は、しばらく続いたという…………。

 

やがてネウロイが集っているのが見えてきた。

宮藤を喰らおうと囲い込んでいるように見える。

かなりの数。 加えて素早い。

いつか見た、α型の緑の変異体を彷彿とさせる光景だ。

その上空では、501のメンバーが必死に陸戦ネウロイに銃弾の雨を降らせている。

が、数が多過ぎる。

航空ネウロイは親玉含めて殲滅した様だが、長くは持たない。

だがストーム・ワンは無闇に攻撃や突撃はせず、大型の工具箱のような運搬ケースを手に持った。

 

 

「しばらく耐えてくれ」

 

 

そう言うと、ケースを辺り一面に投げ始めた。

その数、10個以上。

それからデコイを設置し、起動。

人間を模したバルーンを展開。

このバルーンからは熱や微弱な音、粒子などが放出されている。

ネウロイに有効かは分からないが、元の世界でドローンにも有効だったのだ。

して、案の定というべきか。

宮藤に集っていたネウロイは、デコイに標的を変更。

怒涛の勢いで向かっていく。

 

 

「ネウロイが!」

 

「どこへ向かう気ですの!?」

 

「あっ! あそこにいるのって!」

 

「ストーム・ワン!?」

 

「逃げて!?」

 

 

ストーム・ワンに気付き、口々に声を出すストライクウィッチーズ。

だが、ストーム・ワンは背を向けるどころか堂々としている。

その手前には、ばら撒いた箱が鎮座していた。

 

そして。

 

 

「頼んだぞ」

 

 

手に持つスイッチを押す。

すると、箱から脚が生えて立ち上がると同時に、多砲身の銃身がニョキッと生えた!

 

 

「えっ!?」

 

「なにあれ!?」

 

「箱から脚が生えた!」

 

「先に飛び出てるの、銃身だよな!?」

 

 

カメラとセンサーがネウロイを検知、すぐさま多砲身が向いて高速回転。

瞬間、大量の弾丸が吐き出されていく!

 

 

「なんだってー!?」

 

 

それは弾幕。

弾丸の嵐。

ウィッチーズと殆ど同じ数でありながら、威力が高いそれら。

その暴風は、沢山いたネウロイを光の粒子にして消し去っていく!

 

 

「なんてモノもってやがる……ハハ」

 

「只者じゃないと思っていたけど」

 

「……なんなんだ、アレ」

 

「本当に整備士なの?」

 

 

一瞬にして、防衛線がネウロイの巣に構築された出来事。

ウィッチーズが見たのは、設置型の自動追尾歩哨銃(セントリーガン)だ。

カメラとセンサーで敵を認識、自動的に射撃を行うという兵器である。

それも《ZEーGUN10》である。

軽量化により、防衛線が構築出来る程大量の銃座を設置出来るのだ。

思わずぽかんとしてしまう面々。

そんな彼女らに指示を出すは、ストーム・ワン。

 

 

「今だ! 宮藤を連れて行け!」

 

「は、はい!」

 

「後方に退却しろ! ここからはEDFが引き継ぐ!」

 

「EDF?」

 

「良いから行くんだ!」

 

「は、はい! リーネさんとペリーヌさんは宮藤さんを抱えて。 他は援護しつつ後方に退却します!」

 

「了解ッ」

 

 

宮藤は仲間に抱えられるようにして、後方へと飛んで行った。

巣に残るは陸戦ネウロイと、その親玉、そしてストーム・ワン。

 

 

「うちの子達が世話になったな。 覚悟しろ」

 

 

やがて銃弾を撃ち尽くして、空撃ちになった銃座。

それを轢き倒し、波となって襲って来るネウロイ。

 

なおも逃げ隠れしないストーム・ワン。

 

手には無線機のみ。

だが、何もしない。

決して諦めた訳じゃない。

だって、そうするべきなのだから。

 

 

───ズドォンッ!

 

 

目の前で爆発。

吹き飛ぶネウロイの群れ。

 

 

「EDFは、俺だけじゃないぞ?」

 

 

ヘルメットの下で、ニヤリと笑う。

ネウロイは、どこから来た砲撃か分からず、慌てふためいている様に見える。

 

続けて爆発。 爆発。 爆発。

 

 

その度にネウロイは、吹き出し花火の様に吹き飛んだ。

今度はネウロイが混乱する番だった。

 

 

「良い腕だ!」

 

 

笑顔のまま、仲間を褒めた。

 

 

 

 

 

その砲撃の正体は115ミリ長距離榴弾。

 

只野二等兵が操るブラッカーSPCである。

 




書くの、難しい……。
ツッコミどころ満載かもです……。

評価、感想、お気に入り登録ありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21.SPC奮闘。 レールガン間も無く到着!

作戦内容:
連合軍は砲撃中止要請を受諾しましたが、各砲兵隊との無線交信が困難。
未だに砲撃を続けている部隊がいます。
EDFは被害を受ける懸念から歩兵隊を前進させるのを諦め、ビークルによる攻撃を敢行。
レールガンが到着次第、巣に突入。 籠る残存戦力を一掃。
パリを、ガリアを解放します!
備考:
ストーム・ワン指揮下の兵士は、彼に従え。
遮蔽物の無い場所でこそ、レールガンは真価を発揮する。


我々の勝ちだ。


 

 

「当たった! 当たったぞぉ!」

 

 

ブラッカーSPCによる長距離砲撃。

俺はロクな訓練ナシで、初弾含めた全弾を命中させた!

 

 

「イヤッホーッ!」

 

 

思わずガッツポーズ!

笑顔も溢れるというもの!

やべぇ。 この距離での戦車砲を当てたのは、何気に初めて。

いや、本当はもっと寄りたかったよ。

命中率を高めるために。

でもストーム・ワン隊長がピンチだったからさ。

もう間に合わないと思って砲撃。

そしたら群れを吹き飛ばせた。 連続で。

俺スゲェ。 誰か褒めて。

 

 

「だけど、まだまだ いやがるな!」

 

 

カメラ越しに外を見れば、まぁウジャウジャいやがる。 ネウロイが。

パリ中心はネウロイの基地みたいなモンらしいからな。

まさか移動しないよな?

しないと言え。

 

 

「前進はダメだ。 ブラッカー1台に群れを相手に出来る兵装は無い」

 

 

ひとりでブツブツ言いながら、戦術を練る。

となれば、スナイパーの真似事だ。

俺はブラッカーを移動。

位置を特定される前にセカンドトレンチに移動する。

トレンチっていても、塹壕は無いが。

EDFと連合の砲撃で建物のことごとくは破壊され、だだっ広いからな。

少しでも近寄られたら場所がバレる。

しかし、距離を開ければ当て辛い。

そこのさじ加減が難しい。

 

 

「でも逃げ隠れは得意だろ、俺」

 

 

自虐気味に自分を鼓舞しながら、別の場所から砲撃開始。

ドォンッ、と心地良い砲撃音。

弾着。 遠くで爆煙。

弾着位置がさっきよりズレた。

射撃支援システムの弾道予測線とは異なる弾道だったぞ。

 

 

「素直じゃない」

 

 

温まった砲身に、制御が追いついていない。

いや。 単にEDFのシステムがポンコツか。

だが、沢山いるネウロイだ。

榴弾なのもあり、狙っていない何体ものネウロイを吹き飛ばせた。

 

 

「よし、このまま……なんだと!?」

 

 

ちょっ。

ネウロイがワラワラとコッチに向かってきたんだけど。

 

 

「バレたか!?」

 

 

慌てて操縦桿を手前に倒し、後退。

侵略性生物の群れと対峙していた頃を思い出す。

懐かしめない、嫌な記憶が蘇ってくる。

逃げながら撃つか。

残弾は多くない。

全てを相手には出来ない。

だけど後続の歩兵隊が来てくれる。

そうすれば、少しはマシだ。

 

そう考えていると。

無線からストーム隊長の声が。

 

 

「そこのブラッカー。 真っ直ぐ俺の所まで来い」

 

 

すげぇ。 無線妨害の発信源にいる筈なのに、この短時間で繋ぎ直したのかよ。

流石、隊長。 すげぇ。

でも言っていることは不安になって、つい意見してしまう。

 

 

「それだと隊長が危険です!」

 

「その声、只野か? 大丈夫だ。 俺を信じろ」

 

 

そうは言うけど!

あのネウロイの大群は戦車1両、歩兵ひとりが何とかなる数じゃない。

いくらEDFの兵器が強くてもだ。

 

いや……落ち着け俺。

 

やり方次第で、何とかなる。

ストーム隊長は、いつも兵力差をひっくり返して来たじゃないか。

何か考えがあるのだ。

それに欧州救援隊の時、逃げた俺なんかを信じてくれていたという。

ならば。 俺も信じなくてどうするんだ!

 

 

「了解ッ!」

 

 

逡巡のちに返答。

俺はブラッカーを隊長の方向へ走らせた。

走りながらも、砲塔旋回。

背後に砲身を向け、群れに砲撃。

何発かは群れの手前に落ちたり、頭上を通り越してしまう。

 

 

「勿体ないが、どうせオマケだ。 全弾命中させたって殲滅出来る数じゃないからな」

 

 

地面がデコボコしているし。

ブラッカーの命中精度、良くないし。

言い訳。 でも、心に余裕を持たせる為だ。

大丈夫、大丈夫だ俺。

ストーム隊長が何とかしてくれる。

後続も来る……!

 

行進間射撃を続行。

群れの前列を吹き飛ばす。

ビームなんて撃たせない。

 

 

「死ぬとしても、あの世に弾は持っていけない。 全部くれてやる」

 

 

トリガーを引く。

砲撃音と振動が車体を震わせ、続く爆発と後退故の揺れが続いていく。

一方向に進みながらなのでジグザグ走行しながらのスラローム射撃とは違うかもだが。

それでもガタガタと車体は揺れる。

焦土化したパリの地とはいえ、砲撃で瓦礫の山やクレーターだらけ。

安定しない。 乗り心地は最悪。

だけど履帯と馬力のチカラがある。

走る分には大丈夫だ。

 

 

「あと5秒以内に来い」

 

「ファッ!?」

 

 

隊長から突然の命令が。

いきなり難題じゃね?

センサーの距離から考えて言う。

 

 

「ギリギリですよ!」

 

「それで良い……2」

 

 

意味わからん!

 

 

「いーち」

 

 

あー、くそっ!

間に合え!

操縦桿を限界まで下げ続けながら、後方に砲撃、反動のまま加速。

ネウロイの群れを引き連れたまま、隊長の方へ向かい続けて。

 

 

「へ?」

 

 

視界に、赤いスモークが見えた。

 

 

「だんちゃーく、いま」

 

 

隊長が言った刹那。

 

 

───ドゴォンッ!!

 

 

「ぬおおおおッ!?」

 

 

目の前で激しい爆煙。

ブラッカーは危うく転がされそうになる程に、デカい衝撃。

 

だが爆発じゃない。 威力ある砲弾による土柱だ!

 

それも無数に立ち上がっていく。

その位置に来ていた、俺を追い掛けていたネウロイの群れは木っ端微塵。

 

 

「良くやった只野」

 

 

隊長が褒めてきた。

 

へ、ナニ。

ナニしたん?

 

それに答えてくれる様に、続けて語ってくれる。

 

 

「砲兵隊にカノン砲を要請した。 爆発する榴弾じゃないからな、砲撃位置への正確な誘導が必要だった」

 

 

ああ……カノン砲の砲撃か!

赤いスモークは弾着地点の指示だ。

砲兵隊も、良くこの位置が分かるな。

濃霧の中でも撃ってくれるみたいだし。

連合軍も見習って欲しい。

技術格差で無理か?

 

ここでいうEDFのカノン砲は、貫通力に優れた砲弾を使う。

その為、目標に高いダメージを与えられる。

しかし、このブラッカーの榴弾と異なり爆発するものではない。

その為、砲撃位置に、もっといえば弾着位置に敵を誘導する必要があったのだ。

 

 

「さすがです、隊長!」

 

「ネウロイには、堅牢なヤツもいる。 ここはネウロイの巣だ、確実に殲滅させる為に要請したが……只野、立派な誘導兵だったぞ」

 

「そんな。 俺は逃げていただけです」

 

「それで良い。 立派な戦術のひとつだよ」

 

 

そうこう話をしている間にも。

生き残ったネウロイが、土柱を突き破って やってきた。

まだまだいそうだな。

なんか奥には山みたいな、デカいヤツが見えるし。

クイーン的なヤツかな?

歩兵が何とか出来ない戦力。

だけど今の砲撃で、改めて思う。

誘導兵が、ストーム隊長がいれば勝てると。

 

 

「まだ戦えるか?」

 

「はい。 後続も来ますし……あっ!」

 

 

噂をすれば。

武装装甲車両グレイプが やって来た。

砲塔から連続で火を噴いて、違う方面にいるネウロイを吹き飛ばしつつ。

側まで来ると、ゾロゾロと仲間たちが降車。

 

 

「みんな!」

 

「よぉ、只野。 生きていたか」

 

「しぶといな。 くたばったかと思ったぜ」

 

 

笑顔で言われた。

ひ、ひどい。

 

 

「ストーム・ワン隊長! 助けに来ました!」

 

「助かる。 ネウロイを殲滅だ」

 

「了解。 ネウロイを殲滅します!」

 

 

ショットガン……スローターE20を持つ隊員は、突撃しつつネウロイに発砲。

ネウロイ装甲を貫通し、巨体を吹き飛ばしていく。

発射間隔を補うように、他の隊員はPA-11をフルオート。

 

 

「俺も撃ちます!」

 

「頼む」

 

 

俺も気を取り直す。

負けじと、残弾を吐き出す!

皆で敵の群れを切り崩す。

だがしかし。

それでも敵の数が多過ぎる。

ネウロイは、EDFの数が少ないと判断したのか、包囲するように展開を始めた。

 

 

「ネウロイめ、悪知恵が働きやがる!」

 

 

ストーム隊長を守るように、俺のブラッカーとグレイプを盾にしつつ、円型陣形で四方八方に発砲。

だが、敵が多くて捌き切れない。

ひと部隊に過ぎない、俺たちだけじゃ対処しきれないか!

 

 

「ダメです。 このままだと包囲され、殲滅される恐れが!」

 

「仕方ない。 砲兵隊も次弾装填中だし、空軍も海軍もいない。 やむを得ん、全員グレイプに乗り込め。 退路がなくなる前に撤退する」

 

「いつもの事になり、すみません!」

 

「俺のワガママに付き合ってくれたんだ。 謝るのは俺だよ」

 

 

俺も合わせて謝った。

それでも、隊長は冷静に撤退命令を出す。

 

 

「それに」

 

「はい?」

 

「見てみろ。 もう大丈夫だ」

 

 

指をさす方向。

砂埃を立てて、やってくる青い車両群。

 

 

「あ、ああ……ああ!」

 

 

戦場に目立つブルーカラー。

俺は知っている。

いや、俺じゃなくても知っている。

あのビークルはEDFの新兵器!

 

 

「「「レールガン!」」」

 

 

皆が叫ぶ。

 

そう。

電磁誘導砲を積んだ、超兵器。

レールガンである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらイプシロン自走レールガン隊。 戦闘中の部隊、ただちに退避されたし! 後は我々に任せてくれ!」

 

 

無線がダメだからか。

大きなスピーカーで、俺たちに指示を出してくるレールガン隊。

特徴的な砲身は、既にネウロイ野郎に向けられている。

 

更に後ろから随伴歩兵か……いや、連合軍の生き残りか。

 

ガスマスクをしたカールスラント兵、それと連合に加盟している、どっかの国の兵士が続いている。 そっちもガスマスク。

 

それからフェンサーモドキみたいなヤツもいるな。 こっちはマスク無し。

ケモノ耳と尻尾を生やした、それとパンツな格好からウィッチだと分かる。

何だろう。 陸戦ウィッチというヤツか?

 

 

「EDFを助けるんだ!」

 

「助けられたんだ! 助けもする!」

 

「アンタに拾われた命だ! アンタの為に使いたい!」

 

「ストーム・ワン! 今度は俺たちがアンタを助ける番だ!」

 

 

なんか言ってるんだけど。

隊長、ナニしたの?

 

あ、いや。 それより今だ。

退避しなくちゃ。

 

 

「そのつもりだ。 みんな乗り込め!」

 

「了解!」

 

「後は任せた!」

 

 

して直ぐに隊長含む隊員らは、グレイプに乗り込んで、レールガンの射線外へと走っていく。

俺もSPCを走らせて撤退。

撤退しつつ、レールガン隊を見る。

 

 

「任された! 電磁誘導砲スタンバイ、照準合わせ! 隊列は崩して良い、横並びに砲撃を喰らわせろ!」

 

「展開終了」

「照準合わせ用意ヨシ」

 

「いつでも撃てます」「命令待機中」

 

「全機、発射用意完了」

「テェッ!!」

 

 

砲撃より軽いか どうかな音が響いた。

発砲炎は大きくない。

だけど斉射されたのは分かる。

 

その結果は、ネウロイの群れを見れば明らかだ。

 

あれだけいたネウロイが、デカい風穴を開けて一掃されていったのだから。

 

 

「ケッ。 相変わらずの貫通力だぜ」

 

「射程もな」

 

「敵が湯水の如く消えていく」

 

 

仲間の声が聞こえてくるようだ。

俺も、また見てもスゲェとしか思えない。

 

レールガン。

電磁誘導の……まあ、よく分からないが、電気のチカラで砲弾を撃つ兵器。

EDFのは威力もだが、貫通力が高い。

射程もある。

1発で、背後にいるヤツらも纏めて消し飛ばすのだ。

場合によっては、対空にも使えるだろう。

俺の乗るSPCなんかじゃ、比べ物にならない。

それだけ、圧倒的な兵器だ。

コンバットフレームも強力だが、これは別のベクトルで強い。

運用方法が違うだけだ。

 

 

「ザコは片付けた!」

 

「あの奥にいるデカブツをやるぞ!」

 

「敵さんは射程外か! だが、こっちは射程内だ! 容赦は せん!」

 

「全機目標、前方の超大型陸戦ネウロイ! 撃たれる前に撃つ!」

 

「集中砲火!」

 

「照準合わせー!」「用意ヨシ!」

「撃ち方よーい!」「全機ヨシ!」

「テェッ!」

 

 

目にも留まらぬ速さで、弾丸が斉射。

遠くに見える大型ネウロイに、瞬時に無数の風穴が開いていくのが分かる。

やがて核を貫かれたのか、光の粒子になって消えてしまった。

同時に。 空の暗雲が消えていく。

久しぶりの青空が、顔を覗き始めた。

 

 

「センサーに感なし」

 

「周囲に敵影なし」

 

「戦闘終了!」

 

「帰投する!」

 

「歩兵隊。 我々が来るまで良く耐えたな。 各自の持ち場に戻ると良い」

 

 

直った無線で、一方通信をしてくると。

そのまま青い車両群はクールに去った。

 

後に残るは、俺らの部隊と取り残された連合軍兵士たち。

 

ポカーンとしている。

 

まぁ……うん。

あっという間だったからね。

俺らは兎も角、彼らはナニもしてない。

 

 

「やれやれ。 俺のカノン砲要請の意味が、薄れてしまったな」

 

「い、いえ! おかげで助かりました」

 

「そう言ってくれると、嬉しいな」

 

 

無線越しに、隣のグレイプにいる隊長と会話する。

 

戦闘が終わった。

呆気なかったな、最後は。

まだ実感が湧かない。

 

 

「ところで、隊長」

 

「どうした」

 

「なんで、ここにいたんですか?」

 

「連合軍兵士を助けていたら、501がピンチだと知ってな。 そっちも助ける為に移動して……気が付けばココにいた」

 

 

ああ……だから連合軍兵士が、恩返しだとばかりに助けに来たのね。

でも、ナニも出来なかった。

仕方ない。

レールガンには敵わない。

仮に戦闘に参加しても、苦戦していただろうな。

俺らも、人のこと言えないが。

 

 

「なんにせよ、戦闘終了だ。 帰ろう」

 

「ついてきた連合軍兵士は?」

 

「後方の防衛線に輸送してやろう。 タンクデサントは危険だが、敵がいないから大丈夫だ。 只野、乗せてやれ」

 

「……了解です」

 

 

なんか、余計な事を言っちまった。

まあ、でも。

可哀想だからな。

乗せてやろう。

彼ら、彼女らもまた、俺らと戦った仲間なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

連合軍兵士は、見た。

 

放たれたのは電撃か。

発砲したこと、着弾したことすら遅れて気付く雷撃の如く。

電撃は強大なネウロイの群れを貫き、地平線を埋め尽くさんばかりのネウロイを霹靂の速さで消し去った。

 

常人には理解出来ない光景に、慄き固まるよりなかった。

 

神のイカズチ。

いや、まさか。

 

俺は聞いたぞ、ヤツらはEDFだと!

 

EDF?

ヤツらは、コイツらは何者なんだ!?

 

見てしまった者は、ガリア解放を手放しで喜べない。

それ程の、雷にでも打たれた錯覚に陥るほどの衝撃だった。

 

やがて噂が噂を呼び、電撃というワードから、あのウィッチの偉業ではないかと勘違いが起きてしまう。

501統合戦闘航空団にいる ガリアの魔女、ペリーヌ・クロステルマン中尉。

 

固有魔法が電撃(トネール)だから。

記録では、あの場で戦っていたワケだし。

 

なんか気が付いた頃には、ガリア救国の大英雄として拝められた…………。

 

 

「わたくし、記憶にございませんわ!?」

 

 

ご謙遜を。

 

EDFとしては、まあ、連合軍に恩を売るのも悪くないから言及しなかった。

そんなワケで、多くの人は真実を知らないままになったとさ。

 

取り敢えず、なんだ……。

名誉の為に言っておこう。

 

ペリーヌさん含めて、501JFWもガリア解放に大きく貢献したよ、と。

その意味では、英雄として拝められるのは間違いない……筈である。

 




申し訳程度のウィッチ要素。
誤字脱字、間違い情報とか、あればすみません……。

読んでくれる方々、報告、感想、お気に入り登録ありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22.エトワール作戦成功の裏で。

作戦内容:
ネウロイの巣は消え去り、ガリアは解放したと言って良いでしょう。
後始末は連合軍に任せます。
現地にいる歩兵隊は帰投して下さい。
お疲れ様でした。
備考:
ガリア、特にパリは焦土化。
何も残っていない。 ネウロイ含めて。
滞在していても仕方ない。 基地に帰ろう。


EDF、ストライクウィッチーズ含めた多くの連合軍兵士の活躍で、ガリアは解放。

これにより連合軍とEDFはダイレクトに会う事が出来るようになり、同時にカールスラントまで一気に前進可能となる。

 

だが代償は大きかった。

 

投入可能な稼働戦力の半数とは行かないが、それに近い戦死者と損害を被った連合軍。

だが、人類は初めてネウロイから領土を奪還し、犠牲を遥かに上回る戦果だったと新聞に記載された。

EDFの戦果は載っていない。

それを見たEDF司令官は、都合良く文章が纏められている事に苦笑した。

いつの世も、世界違えど新聞は半分が嘘で塗り固められていると感じた。

戦死者に関しては、連合軍の独断砲撃に巻き込まれた割合が大半だ。

ウィッチと思われる死体は幸か不幸か確認していないが、墜落した航空ウィッチは皆 重傷者ばかり。

空中での被弾や墜落時の怪我もあるが、連合軍の雨霰な砲弾に晒されたのが1番の原因であり、陸戦ウィッチも同様、無傷の子なんて皆無である。

 

しかも更なる悲しい事実が判明した。

 

戦力化を図る為、彼女らを回収、治療しつつの事情聴取をしたのだが、なんと徴兵された者が大半なばかりか、ロクな訓練をしていない事が分かったのである。

これでは即戦力化は難しい。

疎開していた難民が、少しずつガリアやカールスラントに戻ろうとする動きがある事などから、いっそ民間人として家に返そうと提案してみたのだが、

 

 

「私たちには、もう家も家族もいません」

 

 

といった返答をされてしまった。

枕を涙で濡らしながら。

原隊についても、名前だけでとっくに瓦解、解散、消滅していたり、家に関してはEDFも悪いところがある。

砲撃で建物のことごとくを吹き飛ばしたからだ。

いくら守るのは建物じゃなくて、地球ですといっても、それを馬鹿正直に彼女らに伝える気は起きない。

似た境遇の者が多いEDFとしては、同情してしまうし、その絶望も知っている。

だから、希望する者はEDFが保護者代わりとなり、衣食住を提供、何かしらの作業員として組み込む事にしたのであった。

 

悪い話は続く。

 

今度は連合上層部との話だ。

先程述べた建物に関してのお咎めが、EDFにクレームとして入ってきやがりました。

ガリアの人々の生活基盤である建物のことごとくを破壊し、また、歴史ある建造物……エトワール凱旋門やエッフェル塔が微塵にされた事である。 「この落とし前、どうつける気だあぁん!?(要約)」と言われたEDFは「守るのは建物じゃありません。 地球です(キリッ」と突っぱねた。

 

え? ウィッチには言わないのに、連合には言うって?

 

ウィッチは子ども。

連合は大人だからね(言い訳)。

 

その後も、賠償金払えとか無理なら技術寄越せとか、いつから連合とEDFは戦争をして負けたんだよな敗戦処理モドキをさせられたEDF(主にオペ子に押し付けた)であった。

勿論、返事は「NO!」である。

仕返しとしては、回収したウィッチや兵士たちを返さないという事だ。

別に本人達も嫌がっていないので、別に良いよね★

それと言い返した件を話すと、連合軍の砲撃の件で人的被害が出たから、「オイゴルワァッ! どうしてくれんのコレ」と聞いたところ、

 

 

「は? 無線妨害受けたから仕方ないよね。 その前からEDFは砲撃エリアに入っていったよね? 退避するように言ったのに、無視したよね? 救護活動とか言って言い訳しちゃうの? ヤダモー!」

 

 

ってな感じで煽られ終了。

連合とEDFは、ガリアを解放したというのに互いに喜ばず、いがみ合っていた。

連合は そのくせに、互いに連帯力を高めたいなら無線技術の提供しても良くねと言ってきやがりました。

イラッときたが、この件で無線妨害を理由にナニされるか分からない。

EDFもこれ以上技術提供を渋って、寝込みを襲われても困る。

直接会える距離になったようなものだし。

 

 

「しょうがない。 無線技術を提供しよう」

 

 

そんなワケで渋々、ネウロイに妨害されないよう、もっと言えば連合に妨害されないように無線技術を提供することにしたEDF。

だが、簡単には渡さなかった。

先ずは「信用に値する組織から渡します」として、501統合戦闘航空団にのみ提供。

ここにはまだ、ストーム・ワンが潜伏しているのもあるし、501は融通が利くとの判断。

将来的にはEDFに組み込みたい野望もある。

提供先を知った連合、軽くキレる……かと思いきや、そうでもない。

501の上官に当たるマロニー空軍大将(以下、マロニーちゃん)が、喜んだからだ。

政治家や他の上層部からの横槍で、仕事量が増えると思っていた司令官のミーナ中佐は、少しは安堵した。

だが、一方でマロニーちゃんへの不信感から不安でもあった。

元々ウィッチを良く思っておらず、色々と501に嫌がらせ……人員移動とかイチャモンとか兵站の量を減らそうとしたりとかするし。

軍事的主導権を握りたがっているし、不穏な噂も絶えない。

だが、それはEDFも知るところにある。

戦略情報部の直属の偵察部隊、スカウトの働きや、連合軍総司令部のカールスラント ウィッチ総監ガランド少将からの協力話もあった。

だからこそ、わざと提供したのだ。

501の設立に一役買った、ガランド少将にも根回ししつつ、マロニーちゃんの鼻を明かすべく、無線技術提供というエサを撒きつつ、ひっそりと包囲網を構築していっているところである…………。

 

良い話もあった。

 

ガリア解放は、言うまでもない。

EDFに占拠されたら困るからか、連合軍が直ぐにガリアに進駐してきたのは嫌な感じだったが、それは仕方ない。

ガリア解放によって、人類は希望を取り戻し、疎開していたガリア人、解放の為に戦い続けていたガリア軍は特に喜んだ。

ただ、うん……焦土化した光景を見て、沈んだ者も多かったが……それも仕方ないんや!

501のウィッチ、ペリーヌも「ああ……なんてこと」と落ち込んだが、直ぐに気を取り直し復興の為に意欲を示している。

民たちは無事なのだ、無事ならやり直せる。

建物だって、土地だって。

EDFの世界はさ……人類、あまり生き延びていないからね……。

それと比べたら……いや、比べたらいけないかもだけど。

 

それと、カールスラントでも。

 

EDFがウィッチーズの世界に来た頃、保護したカールスラント人。

疎開していた彼らの親族と、再会を果たしていったことは、良い話だ。

互いに涙を流し、抱き合い喜ぶ姿はEDF広報部含むカメラ持ちが写真に収め、焼き増し、印刷して歴史に残る感動シーンとして人類領にばら撒かれた。

勿論、EDF広報の事なのでEDFの功績として紹介文が添えられている。

これにてEDFの知名度は一気に上がった。

連合軍の検閲とか、情報統制なんてEDFには関係なかった。

やりたいようにやるんだよ(半ギレ)。

 

とまぁ、EDFも連合も どっちもどっちな事をしていたりするのだが、一部を除いて仲良く出来そうにもない。

 

兵士同士は仲良く出来ている方なのに。

結局は、上の考えひとつで、いがみ合いや殺し合いが起きてしまう。

それが人間の世界なのかも知れない。

 

だが、ネウロイという共通の敵がいるからこそ、本格的な国家間戦争は起きず、こんな軽い小競り合いで済んでいるのだろう。

勿論、仲良く出来た方が良いけれど。

 

 

 

夕陽をバックに、たくさんの兵士たちのシルエットが、ガリアに向いていた。

ストーム・ワンが1番端に立ち、それを基点にして綺麗に整列している。

その黒い影の形からして、EDFのみならず、連合軍兵士、ウィッチも含まれているのが分かった。

 

して、ストーム・ワンが号令をかけるのだ。

 

 

 

「エトワール作戦に参加した全ての戦死者に哀悼の意を表して、全員、敬礼ッ!!」

 

 

 

 

その言葉と共に、全ての者が敬礼。

 

それは連合軍もEDFも関係ない。

皆、平等に同じである。

 

軍曹ちゃんに曹長ちゃん。

只野二等兵も想う。

 

どうか、安らかに。

 

して、いつの日か。

この世界に安息が訪れますように。

 

俺たちの世界、EDFの世界にも……。

 




駄文と妄想設定とか……。
続くか未定(殴。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仮初めの平和、EDFの日常
23.EDF式は変だろうか?


作戦内容:
回収したウィッチや兵士を訓練したり、基地の警備を行います。
ストーム・ワン指揮下の隊員は、彼に従って下さい。
備考:
EDF式。
ウィッチに関しては、運用のノウハウがない為、試行錯誤になりそうだ。


連合軍及びEDF、ガリア解放を宣言。

 

同時にエトワール作戦成功を伝え、世界中の人々は歓喜に包まれた。

ガリアを奪還し、カールスラントも含めれば一気に一転攻勢の状況になったことで、絶望しかけていた欧州の人々は再び顔を上げ、希望を取り戻していったのである。

 

勿論、戦争はエトワール作戦で終わりではない。

 

しかし、この一大反抗作戦が大きな意味を持った事は間違いなかった。

人類はまだ、戦える。 勝てるんだと。

まだネウロイに屈するのは早いと。

 

戦いの主導権を人類側に傾け続けるべく、

連合各国は、たくさんの犠牲と悲しみを乗り越えて、軍隊を再編成、東の黒海やオラーシャ帝国(ロシア)、北南に散っているネウロイを倒すべく態勢を整えていく。

その態勢のひとつとして、エトワール作戦での第501統合戦闘航空団の功績から、第508までの統合戦闘航空団が結成される運びとなる。

 

そんな中、カールスラントの治安維持という題目で方面隊を散らせ、領内に基地を置き続けているEDF。

さすがに連合から「カールスラント返せ」だの「基地を退かせ」と文句を言われる頻度は多くなり、特にカールスラント上層部には言われたが、クレームは戦前から慣れている。

戦前も過剰ともいえる戦力拡大に対して民間人らが抗議していたから。

結局、あの時も今回もEDFが悪いところはあるのだが。

戦力がなくなった後も、別世界とはいえ文句を言われるとは。

内容違えど皮肉というか違うというか。

 

兎に角、本部は適当にあしらいつつ、基地にいる隊員らは仕事や任務に追われる日々を送っていた。

書類仕事や雑用系だと、回収した兵士や民間人の対応、仕事の割り振り。

元の世界や連合との調整。

今後の作戦行動。 兵站の手配などなど。

作戦成功を祝う暇なく、オペ子は作業に追われているのは言うまでもない。

 

 

「本部も少佐もヒドイです(TxT)」

 

 

がんばれオペ子!

書類仕事をこなして、立派な戦略情報部になるんだ!

 

一方で現場側。

ガリア解放に伴い、ガリア方面隊の戦力は別方面隊へと割り振られた。

一応、警備隊として多少の隊員を残し、戦力に組み込んだ回収した兵士を配置。

只野二等兵やストーム・ワン、ウィッチの軍曹ちゃんや曹長ちゃんも、一時的に警備隊に組み込まれている。

ガリアに進駐してきた連合軍に睨みを利かせるのもあるが、カールスラント難民を受け入れる連絡所の警備や対応もある。

その辺は、EDF側にカールスラント軍人がいた為に大きな問題は起きなかった。

難民側とカールスラントに取り残されていた保護民が、目の前で再会を喜ぶ光景は、見ていて喜ばしい。

エトワール作戦が成功して本当に良かったと、只野二等兵たちは染み染み思う。

 

だけど。

EDFはこのままで良いのだろうか。

この世界に留まり続け、いつか双方を傷付ける結果にならないのか。

下っ端の只野二等兵には分からない。

考えても仕方ないかも知れない。

 

 

(俺は……俺たちは、この先どうなる?)

 

 

隣のストーム・ワン隊長を見やる。

フルフェイス・ヘルメットの下、どんな表情をしているのか読み取れない。

でも。 それでも。

最も身近でありながら、エイリアンの神な存在、かの者を倒し、EDFの象徴であり総大将となった隊長がいれば。

きっと、なんとかなる。

そう願う。

 

 

「どうした只野」

 

「はい……いえ。 人類は大丈夫かなと」

 

「大丈夫だ。 お互いにな」

 

 

そう言ってくれる隊長。

口調は柔らかい。

不思議と安心できるものだ。

 

 

「そうですよね。 変な事聞いて、すみません」

 

「お前の気持ちは分かる。 だが安心しろ。 俺や仲間達がいる。 この世界で新たな仲間も増えていっていることだしな」

 

 

後方を指さす隊長。

そこには仲間になったカールスラント軍人、エトワール作戦中に回収されたウィッチがEDF式の訓練を受けていた。

ランニングに筋トレ、ヒイヒイ息を上げて苦しそうだ。

 

 

「どうした! まだ50往復しかしていないぞ!」

 

「か、カールスラント軍も厳しい訓練を積んできたが、それ以上だ……ッ!」

 

「なんで隊員は息切れひとつしないのっ」

 

「規律が緩い連中なのに、強いッ」

 

「喋る余裕があるようだな! 10往復追加だ!」

 

「「「ひいいぃ!?」」」

 

 

共に走る隊員が、兵士やウィッチをしごく。

只野二等兵も、厳しい訓練を受けてきたから、その気持ちは良く分かって、つい苦笑してしまった。

だが、あんなのは序の口で、様々な兵器群の訓練を受ける事になると思うと、あの兵士たちの身が持つか心配だ。

EDFの訓練は厳しいのだ。

だが、中には理解し難い変なのが混ざっていたので聞いてしまう。

 

 

「あの隊長」

 

「どうした」

 

「ランニングに筋トレは分かります。 でも、アレはなんなんです?」

 

 

目の前を緊急回避のローリングを連続で行いながら、地面を転がるように移動していく隊員がいる。

さながら西部劇ものの、転がる干し草。

その後ろを見様見真似で、でんぐり返しをしながら進んでいるウィッチや兵士がいた。

引き攣った表情をしているのは、気の所為ではないだろう。

 

 

「早く移動する訓練だな」

 

「いやいやいやオカシイでしょ!? 緊急回避のローリングを移動方法にするの!?」

 

「ナニがオカシイんだ。 走り出すよりタイムラグがないぶん、直ぐに移動出来る。 俺のように装備の都合で早く走れない兵士にも重宝するぞ」

 

「俺ですか? 俺がオカシイんですか!?」

 

 

EDFの伝統芸な、ローリング移動にツッコミを入れる只野二等兵。

ストーム・ワンは普通に答えたし、他の隊員もアレが普通の光景に見えている。

只野二等兵に同意する隊員もいるのだが、残念ながら、この場に味方はいなかった。

 

 

「それと」

 

「どうした」

 

「アレもなんなんです?」

 

 

空を見やる。

そこにはEDFの大型ヘリ【HU04ブルートSA9】が、バリバリバリとホバリングしている。

ヘリなのだが大型なのと重装甲で機動力は高くなく、左右に外付け搭載されているデカい機関砲【ドーントレスSA重機関砲】は、大砲にしか見えない。

そりゃ機動力ないよ、寧ろ その条件で良く飛んで良く動くEDF謎の技術力。

ガンナーとして、パイロットとは別に隊員を2人載せられる。

頑張れば、もう何人かは乗れるだろう。

輸送ヘリとしても運用出来るかも知れない。

 

いや……問題はソコじゃない。

 

 

「機関砲の操作訓練と」

 

「はい」

 

「降下訓練だ」

 

「それですよ!? なんで飛び降りる必要があるんですか! パラシュートないし!」

 

 

思わず叫ぶ只野二等兵。

もういち度見やれば、サイドドアから、隊員がパラシュート無しで自由落下、なのに猫の様に地面に着地、無傷!

普通の人間だったら、鍛えてようが即死レベルである。

EDF隊員にしか出来ない芸当。

それをやらされようとしている、フェンサーモドキな陸戦ウィッチ。

ヘリの中で涙目になりながら、必死に首を横に振って拒否ってる。

 

 

「度胸試しだな」

 

「度胸試して死ぬのは駄目でしょう!」

 

「ナニを言っている。 EDF隊員は、それくらいじゃ死なん」

 

「あの子たちは駄目でしょ……いやいや、ソコで不思議そうに首を傾げないで!?」

 

 

そんな事を言う只野二等兵もまた、ヘリから自由落下をしても耐えられる人外の肉体をしていたりするのだが。

それを知っている上で、隊長は「あぁ」と頷いて、

 

 

「お前は優しいな」

 

 

そう言って、ヘルメットの下で微笑んだ。

違う、そうじゃない。

 

 

「だが安心しろ。 ウィッチは頑丈だし、シールドを張れる。 あの高度で落下しても何とかなる」

 

「俺の気持ち、本当に分かってます? いや色々と」

 

 

ゲンナリする只野二等兵。

EDFがこんなノリだから、上同士、連合と仲良く出来ないのではないだろうか。

政治的な理由もあるだろうけれども。

 

 

「ナニ、本当に危険なら止めるさ。 ほら、アッチの訓練は平和だぞ」

 

「隊員がローリングでスクラップの車とかガードレール、街灯を吹き飛ばしてますね。 ウィッチと兵士の皆さん、跳ね返って痛そうにしてますが」

 

「はっはっはっ! アレは俺も無理だ! だが、レンジャー訓練を受けているなら、そのうち吹き飛ばせるだろう!」

 

「えぇ」

 

 

そう言う只野二等兵もまた、その気になれば吹き飛ばせるのだが。

 

 

「奥じゃ射撃訓練をしているな。 教授しているのは……《ハンマーズ》と《ブルージャケット》か」

 

「どちらも狙撃部隊ですね」

 

「EDF製の銃火器を扱うなら、大切な訓練だな」

 

「同意します。 ですが……アレも、必要ですか?」

 

 

指をさす只野二等兵。

そこには、物干し竿くらいはある大きな狙撃銃【ライサンダー】を走りながら撃ってる隊員が。

隣では、ジャンプしながら撃っている隊員もいる。

それで約1キロ先の標的に連続で当てまくる変態技を披露中。

それを見ているウィッチや兵士たちは、ポカンと口を開けて驚愕。

魔法でも見ている気分なんだろうか。

だとしてもEDF隊員は魔法使いではない、多くは変態である。

 

 

「訓練を続ければ、いつかは走りながらでも、当てられるだろうな」

 

「まぁ……さっき見たヤツよりマトモ……だと思いたいです」

 

 

EDFの変態技をやらせようとして、死人出ない? 大丈夫?

只野二等兵はEDF隊員でありながら、EDF式の訓練に不安である。

下っ端だし、自身も受けてきた身ではあるが……この世界の住民が真似出来る保証は全くない。

見た目こそ同じ人間だが、魔女がいる時点で色々と互いの常識が通じないだろうから。

 

 

「もっと平和なのは、ビークルの運転練習だな」

 

 

そんな只野二等兵を安心させようと思ってか、別の訓練先を見せる隊長。

そっちには、【武装車両グレイプ】を運転している兵士もいれば【フリージャー】バイクを練習している兵士もいる。

それから【ブラッカー】戦車などなど。

コンバットフレームを操縦している兵士もいた……あ、コケた。

 

 

「いちばん平和ですね」

 

 

その光景に少し安堵する。

アレならこの世界の住民がやっても、問題なさそうだ。

 

 

「そうだろう。 歩兵も必要だが、操縦出来る人員も欲しい。 そちらの方が即戦力になりそうだしな」

 

 

うんうんと頷くふたり。

ちょっと、というか かなり不安な場面が多いけれど、上手くやれる部分もありそうだ。

 

 

「ところで」

 

「はい」

 

「俺はまた、第501統合戦闘航空団に潜伏しなければならない」

 

「えっ?」

 

 

突然言われ、疑問の声を出してしまった。

 

 

「ガリアは解放しましたよ? 基地のあるブリタニアも比較的安全になったし、目的は達成して解散するのでは?」

 

「あぁ、少し事情があってな。 解散は先送りなんだ」

 

「事情?」

 

「詳しくは言えん。 だが、俺は再び皆と別行動だ」

 

「……そんな」

 

 

ストーム隊長が、またいなくなる。

EDFの象徴のような存在でもあり、総大将の彼がいない。

それだけで不安な気持ちが出てしまう只野二等兵。

だが、隊長は陽気に励ました。

 

 

「心配そうな顔をするな。 EDFには お前もいる、大丈夫だ」

 

「いや、俺は下っ端二等兵ですよ?」

 

「謙遜するな、自信を持て。 二等兵と言うが、俺が入隊する前からいるんだろ"先輩"?」

 

「やめて下さいよ。 入隊して直ぐに開戦したんですよ? 訓練はしてましたけど」

 

「228基地が勤務地だろ?」

 

「えっ!? ご存知でしたか!?」

 

 

まさか、開戦時の勤務地を知っているとは。

驚く只野二等兵だったが、理由は分かりやすいものだった。

 

 

「いやナニ。 俺も偶然、228基地にいたんだ」

 

「え、でも当時は軍人ではないと」

 

「民間人として、仕事に訪れていたんだ。 ビークルの修理でな」

 

「そうだったんですね……知りませんでした」

 

 

そんな偶然もあるもんだと、只野二等兵は感傷に浸る。

 

 

「でも、そんな隊長は……今や総大将。 俺なんて、ずっと二等兵です」

 

 

そういう只野二等兵。

こうして最下級と最上級とも言える人が会話しているのが不思議ではある。

だが、それに答えるように、ストーム隊長は言う。

 

 

「階級なんて関係ないさ。 俺なんて、士官の試験なんて受けてないのに、勝手にアレよアレよと名誉総大将って感じさ」

 

「いやいやいや! そう言われるのに恥じない戦果を上げてますって! EDFは隊長がいるからこそ、今も保てています!」

 

「そう褒められたもんじゃない。 たくさんの犠牲の上に、俺は立っている」

 

「…………隊長」

 

 

ストーム隊長は寂しそうに言う。

 

EDFの、元の世界ではエイリアンとの戦争で約9割の人口が死亡したとされる。

EDF最後の作戦とされた《operation:Ω》の事もある。

あの作戦で世界中の、生き延びた人々が時間を稼ぎ、その間にストーム・ワンは【かの者】を倒す事が出来た。

その意味では、彼は全人類の犠牲の上に立っているとも言えるかも知れない。

 

直ぐに明るくなり、

 

 

「すまんな。 だが、俺の目が黒いウチは戦い続けるつもりだ」

 

「仲間が、みんながいます。 それに、新しい仲間も増えつつあります。 そう思い詰めないで下さい」

 

「そうか、お前はoperationの事を…………いや、そうだな。 ありがとう」

 

 

小声でナニか言いかけたが、言葉を飲み込んで礼を言うストーム隊長。

対して、只野二等兵は敬礼で答えた。

 

 

「俺には勿体ない言葉です」

 

「素直に受け取れ。 "命令"だ」

 

「了解! 有り難く受け取ります!」

 

 

ニッと笑う只野二等兵。

ストーム・ワンも微笑んで、肩を軽く叩いてやる。

 

平和なひとコマ。

この先、また命懸けの任務があるのだろう。

だけど、この時くらいは。

 

そう思ったのは只野二等兵だけではない筈だ。

 




駄文。
続くか未定(殴。

アニメの、胸が大きくなる呪い話のインパクトが強かったです……。
前の話との落差ェ……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24.vs暴走ニクス

作戦内容:
開発班が暴走中です。
付近にいる警備隊は、現場に急行。
被害が出る前に止めて下さい。
最悪、兵器群を破壊。
発砲許可は下りています。
備考:
開発班には困った。


戦場で壊れたビークル。

直せるなら良いが、元の形に直せない事は今や珍しく無い。

只野がEDFに合流する前にコンバットフレームにやっていたように、装甲板をガスバーナーで溶接して貼り付けて誤魔化す事もある。

 

戦場では、簡単に欲しい部品が手に入らない。

EDF的には人手不足で、整備士も少なければ物資の搬入が遅れている。

ウィッチ世界の部品を使おうにも、連合と仲悪いのもあって手に入り難いし、そもそもEDFの兵器群と互換性がない。

戦力化を図っている、回収した兵士やウィッチに整備させようにも、やはり同じような理由で上手くいかない。

新たに生産しようにも、設備が十分に整っていない。

だから、代用品で改造したり誤魔化す方法も必要なのだ。

前にオペ子が書類上で許可出した、グレイプにフェンサーの機関砲を取り付ける話も、そのひとつである。

 

 

「だからって……コレ、イジメじゃね?」

 

 

通報を受けて、現地に来た只野は頭を抱えた。

目の前では、レールガンの砲塔をカタパルトに改造したビークルが。

航空ウィッチ……ユニット装着の猫耳軍曹ちゃんが、白衣の開発班に無理矢理載せられ、射角を上げられている。

明らかに射出されそうになっている。

 

 

「いやあああ!? 助けてタダノさーん!」

 

「大袈裟だなぁ、お嬢さん。 君もEDFにいるなら、これくらい耐えて貰わないと」

 

「待てやオイ!? EDFでも こんな話聞いたことねぇよ!?」

 

 

駆け寄りながら、ツッコむ只野。

レールガンモドキの車体に登り、開発班をローリングで吹き飛ばす。

素早く軍曹ちゃんを抱え、引き下ろした。

 

 

「ぐすっ……ありがとうございます」

 

 

泣きながら、只野の胸板に顔を埋める軍曹ちゃん。

相当、怖い目に遭ったらしい。

対して開発班。 全く悪びれる様子なく、むしろ呆れ顔で只野にモノを言う。

 

 

「只野くーん。 開発にはね、尊い犠牲が必要なのだよ」

 

「黙れ変態開発班! こんな事をしている暇があるなら、ビークルのひとつでも直せよ!?」

 

 

吠える只野。

最もである。

エトワール作戦で、量産型のブラッカーE1やニクスB型が複数 壊れている。

タイタンなどの修理は難しいだろうが、普及量産型なら部品の余剰はあるはずだ。

比較的、直しやすいだろう。

今後の防衛や作戦行動を考えれば、オモチャ作りなんかしてないで、これらを早急に直すべきなのだが、

 

 

「我々の本分は開発だよ? 限られた物資を有効活用し、新たな模索をする事に、ナニが問題あるというのだね?」

 

 

あくまで開発優先、修理なんて眼中にない発言。

人手不足なので、少しでも技術があるなら修理に回ってくれよと思う。

だが、そのより言いたいことがある。

ウィッチとはいえ、女の子を実験台にしていた件だ。

軍曹ちゃんを背中に隠しながら、只野は変態どもに訴えた。

 

 

「問題だろうが!? こんな小さな女の子を実験台にするとか、酷過ぎだろう!」

 

「彼女はウィッチだ。 して、ウィッチでなければならない」

 

「なんだと?」

 

 

どうやら、一応の理由があるらしい。

怒りの感情から言い訳に感じてしまうが、只野は聞いてやる事にする。

 

 

「このビークルは見ての通り、ベースは自走レールガンの車体。 その砲塔であった電磁誘導砲をウィッチのストライカーユニット用のカタパルトに換装した」

 

「だから?」

 

「そうする事で、狭い市街地や乱戦状態でも素早くウィッチを上空に上げられる。 自走式だから、好きな場所から上がれるぞ。 魔力とやらの消費も抑えられる筈だ。 応用すればウィングダイバーにも使える。 だが実証するにはウィッチがどうしても必要でね。 彼女には、その実験台になって貰ったのだよ」

 

 

理由は分かった。

だが許せない。

はいそうですか、とはならない。

軍曹ちゃんは嫌がっていたし、そうじゃなくても危険な実験だ。

へんてこな部分はEDFらしい兵器とも言えるが、この世界でのEDFの印象が悪くなってしまう。

 

 

「成る程、だが嫌がっている子を無理矢理ってのは良くないよな? それに本部からの許可は貰ってないらしいな?」

 

「いちいち お上の許可を求めていたら、間に合うものも間に合わない」

 

「事故が起きたら責任取れるのか」

 

「必要な犠牲だ。 それに、我々は経験を無駄にしない」

 

 

鼻で笑う開発班。

聞く耳持たない。

只野は止む無しと、コイン状の小さな物体を鷲掴みにして見せた。

 

 

「ならコイツを見てどう思う?」

 

「それは【スプラッシュグレネード】!」

 

「ご名答。 さすが開発班。 じゃ、とことん喜ばせてやるからな?」

 

 

スプラッシュグレネード。

小さなグレネードで、元は暴徒鎮圧用の兵器である。

御誂え向き、といったところだ。

これを鷲掴みにして沢山持ち、豆撒きの要領でばら撒いて広範囲を攻撃するのが運用方法である。

群れなす暴徒に使用する事を想定したのだろう。

只野が持ち込んだのは、流石に殺傷能力のないものだが、痛い事に違いはない。

只野はこれで脅し、あわよくば開発を辞めさせようとした。

が、しかし。

 

 

「ふっ。 言っただろう? 経験を無駄にしないと」

 

「まさか前にも制裁を?」

 

「その通り。 だから護衛を連れてきた」

 

「なんだと!?」

 

「カモン、ニクスさん!」

 

 

そう言うと、コンバットフレームが只野の前に立ち塞がった!

中古品らしく汚れて、被弾により装甲がヘコんでいる。

他の特徴としては、両肩に大きなショルダー・シールドをつけている。

これ、元々は緑塗装の機体で、シールドに白文字で【EDF】と書かれた格好良いヤツだ。

武装は両腕に多砲身のリボルバーカノン。

他は見当たらない。

これはプレイヤーが要請出来ないタイプである。 なんでや。

 

 

「ナニィッ!?」

 

「コンバットフレーム……ニクスという兵器ですよね、これ?」

 

「フワーッハッハッハッ! その通りだお嬢さん! 良くEDFの勉強をしている。 だが、ただのニクスさんにあらず。 なんとAI搭載によりパイロット無しでも動くオートパイロットモードなのだぁ!!」

 

 

なんと無人機と化したニクスさん!

人手不足のEDFには有り難い技術になりそうだが、敵となるなら迷惑だった。

 

 

「脚が故障したヤツもあるが、ソッチは上半身をトラックの荷台に乗せて運用させる予定だがね。 開発班としては泣きたい苦肉の策だが、歩行システムは複雑で金もかかるし、部品点数も多くメンテも大変だから仕方あるまい」

 

「それは兎も角、AI……自立行動可能なニクスだと!?」「えーあい?」

 

「さあヤッておしまいなさいニクスさん! 只野を倒し、軍曹ちゃんをカタパルトに載せるんだ!」

 

「くっ! 下がって軍曹ちゃん!」

 

「で、でも! あのニクスさん、とても強そうです!」

 

「なんとかする!」

 

 

するとニクスさん。

マニピュレーター……機械の手で変態開発班を鷲掴みにしてしまう。

 

 

「「「へ?」」」

 

 

この場にいる人類が理解する間もなく、ニクスさんは そのままカタパルトに素早く載せ、シュコーンと変態開発班を射出してしまった!

 

 

「ぎゃあああああッ!?」

 

「ああ!? 開発班の人が!」

 

「やったな、実験出来て。 同時に被害者の気持ちも分かっただろうよ」

 

 

キラーン、と星になる変態。

ある意味、お約束な光景。

只野は同情はしない。 報告が面倒だと思っただけである。

それより目の前のニクスさんだ。

 

 

「コマンドミスか? 搭載されているAIも、そこまで高性能じゃないのか。 てか、カタパルトは自動発射なのか。 だとしたら軍曹ちゃんが射出されなかったのは……何か安全装置があったのか。 いや、あの変態開発班に安全装置なんて概念があるのか」

 

 

ブツブツ言いながら、取り敢えずスプラッシュグレネードを投げつける。

表面装甲でパチパチと弾けるグレネード。

だがしかし、非殺傷まで抑えられた威力でニクスさんを倒せる筈もない。

 

 

「やっぱダメだよなぁ」

 

 

ニクスは市街地でのテロリストとの戦闘を考慮し、堅牢な装甲が施されている。

小銃弾、一般的なハンドグレネード程度ではビクともしない。

こんな時は対コンバットフレーム用に開発された、徹甲榴弾を撃てる小銃【ミニオンバスター】が有効だろうが、今はない。

 

 

「中に入って!」

 

「はい!」

 

 

軍曹ちゃんと共にレールガンモドキに搭乗する只野。

遮蔽物がないなら、ここに隠れる他ない。

だがレールガンの車体は装甲に覆われている。

狭いから互いに身体が密着してしまうが、仕方ない。

その光景をカメラの目で見ていたニクスさん。

イラッときたのか両腕をこちらに突き出し、リボルバーカノンを回転、情け容赦なしのフルオートを浴びせてきた!

 

 

「うおっ!?」「きゃあっ!?」

 

 

だが、ペチペチペチと音が車内に響くだけ。

多少揺れるが、実弾を受けるのとは違うそれに、只野は気付く。

 

 

「模擬弾か。 助かった」

 

「そうですか……良かった」

 

 

安堵する只野と軍曹ちゃん。

だが、これではニクスを倒せない。

 

 

「タダノさん! このまま運転して、救援を呼びましょう!」

 

「いや、それだとニクスが連絡所や難民キャンプを襲ってしまうかも知れない」

 

 

いくら実弾ナシでも、質量あるビークルだ。

暴れたら簡単な建物は吹き飛ぶし、人間は薙ぎ払われてしまう。

 

 

「じゃあ、どうすれば」

 

「コイツに武装は……自衛用のマシンガンはそのままだが、こんなんで何とかなる相手じゃない」

 

 

どうしたものか。

無線を繋いで、救援を呼ぼうか考えていたとき、

 

 

「あっ! トラックが来ますよ!?」

 

 

外部モニターを見ていた軍曹ちゃんが、声をあげた。

 

 

『助けに来たぞ、只野!』

 

 

無線越しの声。

それは我らが隊長、ストーム・ワン!

まだ501基地に再出発するべく荷造りしていたのだが、助けに来てくれたらしい。

 

 

「隊長!」

 

 

遅れて外を見る只野。

そこにはトラックに乗って やってくるフルフェイス・ヘルメットの、エアレイダーの姿。

荷台には大きな機械を載せている。

例によって汚れており、ボロボロで整備されているようには見えない。

下手すればスクラップな見た目だ。

 

 

「荷台のは、ニクスの上半身!?」

 

『ああ。 歩行機能を失ったニクスを戦場で運用する為に、無理矢理トラックの荷台に乗せている。 バランスも悪い。 反動や重心の問題で、ニクス用マシンガン一丁のみ。 元整備士目線から見ても色々と粗末だが、今は役に立つだろう』

 

 

どうやら開発班の言っていた、苦肉の策なニクスの様だ。

 

 

『だが、運転席からは操作出来ない。 只野、乗り込めそうか?』

 

「模擬弾を我慢すれば、なんとか」

 

「タダノさん、私を背負って下さい。 シールドを張って援護します!」

 

 

汚れて欲しくないからか、演習だと思っているのか、提案する軍曹ちゃん。

只野は甘んじて受け入れた。

 

 

「頼む」

 

「はい!」

 

 

せーの、で飛び出すふたり。

只野はすぐさま軍曹ちゃんを背負う。

カメラ越しにふたりを捉えたニクスさん、ビークルからふたりへ砲を向けフルオート。

だが、そこはウィッチ……軍曹ちゃんが展開した魔法陣……シールドに阻まれ、1発も被弾する事なくトラックへと駆け寄る。

その様子を見た隊長、ニクスの銃身が暴走ニクスさんに向けられる角度で停車。

直ぐに降りて、赤い銃【リムペットガン】を構えた!

 

 

「援護する。 ニクスに乗り込め」

 

 

そう言って、トリガーを引く隊長。

大きな銃口からは、赤く点滅する缶ジュースのようなものが射出され、ニクスさんにへばりついた。

 

 

「アレは?」

 

 

シールドを張りながら、それを見た軍曹ちゃんが疑問の声。

只野は走りながら答えてあげた。

 

 

「吸着爆弾だよ」

 

「起爆する。 爆風や破片に気を付けろ」

 

 

隊長が言うと、リムペットガンの下部にある、別のトリガーを引く。 刹那。

 

ボカンッと爆発。

表面装甲がヘコみ、怯むニクスさん!

 

 

「きゃっ……あんな武器もあるんですね」

 

「レンジャーの武器じゃないけどね……隊長、軍曹ちゃんを頼みます!」

 

「わかった」

 

 

トラック手前で、背負っていた軍曹ちゃんを下ろしてニクスモドキに乗り込む只野。

イスも使い込まれていたのか、ボロボロだが、まぁそれは良い。

コックピットハッチを素早く閉めてスイッチ群をパチパチパチと上げていく。

ウィーンと鈍く、外部カメラによって外部の光景がコックピット内にモニタリングされる。

そこにはニクスさんが隊長に銃撃を浴びせている映像が出されたが、軍曹ちゃんのシールドや、隊長の持つ……光の壁を作り出してくれるトーチカに阻まれていた。

模擬弾で威力もない。 破られる心配は無さそうだ。

 

 

「コックピット内は、そのままニクス共通か。 操作も同じようで助かる」

 

 

言いながらニクスを操作、機械の右腕がノロノロと持ち上がる。

その手にはニクス用のマシンガンが握られていた。

 

 

「チッ。 動力が弱っているのか、動きが遅いな。 【BMX10プロテウス】以下か……火力も低いが。 安定性も最悪だ。 流石に無理矢理使っている感が否めない。 歩兵よりかは火力が高いのと、腰回転と弾道予測線が生きているからマシか」

 

 

ブツブツ言いながら、操縦桿のトリガーに手を掛けて、

 

 

「撃ちます!」

「撃ってよし」「お願いしますっ!」

 

 

許可を貰って、絞り切る。

瞬間。 マシンガンが火を噴き、大量の空薬莢が金の雨のように排出、トラックの荷台に溜まっていく。

撃った時の振動のまま、震えるトラックとニクス。

放たれた無数の弾丸は、ニクスさんの表面装甲に大量の火花を散らせ、やがては内部にも貫通したのか。

黒煙を胴体から上げて、後ろ向きにバタンと倒れて動かなくなった。

頭部のメインカメラの光も消え失せ、無力化した事を告げる。

 

 

「目標沈黙。 よくやった只野」

 

「はい……いえ。 アッサリいって良かった……隊長と軍曹ちゃんがいたからこそです」

 

「俺は援護に過ぎんよ」「えへへ」

 

「しかし、開発班には困りましたね。 こんな騒ぎを起こして。 また起こさないと良いんですが……ああ、報告が面倒です」

 

「なに、これで少しは懲りただろう。 本部も何かしらは対策してくれるさ」

 

「そうだと良いんですが」

 

 

そう言う隊長だったが、前にもやらかしたらしいので、ちっとも安心出来ない。

隊長はゲンナリする只野に苦笑しつつ、今度は軍曹ちゃんに向き直る。

 

 

「軍曹ちゃん、といったか」

 

「はい。 貴方が、ストーム・ワン?」

 

「知っているのか」

 

「有名だと聞きました。 え、えと……EDFの総大将なんです?」

 

 

総大将だとして、普通の顔で尋ねる軍曹ちゃんである。

徴兵されて間もないので、軍隊の階級とか詳しくないのだ。

 

 

「俺の場合、飾りの階級だ。 偉くも何ともないから、普通にストーム・ワンでもワンちゃんでも良い」

 

「いや隊長ナニ言ってんスか」

 

 

ニクスから降りて、ツッコミを入れる只野。

隊長のお茶目な一面を見て、妙な気持ちになる只野であった。

 

 

「それじゃワンちゃんで♪」

 

「まあ隊長が良いなら良いですが」

 

 

笑顔純度100%軍曹ちゃん、恐ろしい子!

只野も、最早ツッコむまいと諦めた。

 

 

「はっはっはっ! 良いぞ。 しかし、君と只野の協力は素晴らしかった。 良きパートナーだな!」

 

「パートナーだなんて! もう!」

 

 

赤らめて、両手を頬に添えてきゃーきゃー恥ずかしがる軍曹ちゃん。 可愛い。

 

 

「あ……そうだ。 EDFって、別の世界から来た軍隊なんですよね」

 

 

ふと思い出し、聞いてくる軍曹ちゃん。

その話題に、少し顔を曇らせてしまう隊長と只野。

 

 

「あ、その! ごめんなさい」

 

「いや良いんだ。 いつかは話そうと思っていた」

 

「そうですね。 仲間なら、情報は共有した方が良いですし」

 

「…………そうだな。 その意味では、只野。 お前にも聞かせないとな」

 

「えっ?」

 

 

ストーム・ワンはヘルメット越しに、真っ直ぐ見つめ直し……真剣な声で言うのだった。

 

 

 

「軍曹ちゃんには俺たちの地球の事を、そして只野にはEDF最後の作戦【operation:Ω】の事を」

 

 

 




次回、EDFの世界の話(予定は未定)。
軍曹ちゃんに、絶望を君に(話だけ)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

25.EDFの世界

作戦内容:
話をしよう。 我々の世界の。
備考:
EDFの話をこの世界の人々に話すのは、別に禁止されていない。


誤字脱字、間違い等があれば すいません……。


ストーム1は重く、しっかりとした口調で話を始めた。

それはEDFの世界の話。

隊員が体験した、絶望の世界。

 

 

 

 

 

昔、とある山の中から、宇宙船の残骸が発見された。

人類にとって、それは未知の領域。

同時に 未だ見ぬ脅威が来る可能性を危惧した偉い人達は、各国に呼びかけて世界規模の軍隊を設立。

 

それが地球防衛機構軍。 EDFである。

 

人類は未知の脅威に備えた。

備えた、つもりだった。

 

しかし、その人類に怒ったのか。

宇宙人が何処からともなくやってきて、世界中を同時攻撃。

優先されたのは各国の主要都市と空軍基地である。 明らかに敵意があった。

 

228基地は空軍基地ではないが、襲われた基地のひとつである。

その時、只野とストーム1(ストームのコードネームは この時にはなく、228基地奪還作戦時に付けられた)は この基地にいた。

武器を取り、隊員達は押し寄せる怪物の群れに必死に抵抗したものの、敵の圧倒的な戦力に基地を放棄、撤退。

その後は各地を転々としながら戦い続け、ストーム1は入隊、只野と同様に戦い続けた。

 

しかし、敵は圧倒的である。

未知のテクノロジーと数を前に、人類は破竹の勢いで殺されていく。

 

 

ある者は食い殺され。

ある者は溶かされて。

ある者は糸に巻かれて死んでいった。

 

ある者は撃たれて。

ある者は爆散して。

 

時には踏み潰されて。

時には轢き殺されて。

 

大きな針に串刺しにされて、死んだ者も。

 

血のような赤い濁流の酸で、目の前の部隊が溶かされた。

怪物の群れが津波のように押し寄せて、飲み込まれて消えた部隊もいた。

 

今も夢で魘される。

聞こえなくなる銃声。 悲鳴。

気が付けば、仲間の死体に囲まれて立っていたのは自分のみ。

 

やがて人類にトドメを刺そうとしたのか。

敵の司令船がやって来た。

 

生き延びた者は、一箇所に集まり、これを攻撃。

 

もはや作戦なんて呼べるものはない。

無謀な特攻とも呼べるもの。

それでも、生きている者がやらなければならない。

 

多くの犠牲と敵の圧倒的な弾幕の先、EDFは奇跡的にも司令船を撃墜した。

 

だが、その後も戦いは続いた。

 

司令船からひとりの銀の巨人が現れたからだ。

 

それは空に浮いており、武器もなしに手からビームを撃ち、空からは隕石を降らせ、仲間を召喚。

 

圧倒的。 圧倒的なチカラだった。

 

戦略情報部のオペ子は神と呼んだ。

隊員たちは【かの者】を死神と呼んだ。

 

あまりに、あまりに反則的で圧倒的なチカラを前に、隊員は無力だった。

 

それでもストーム1と、重症だった筈のストーム遊撃部隊の面々が駆けつけ抗った。

戦略情報部の少佐は、敵司令官と思われる かの者を倒す為、そして孤立させる為の誘導作戦として集結しつつあったエイリアンの母船を足止めさせる。

その足止めとして発動されたのが。

 

【operation:Ω】である。

 

生き延びた世界中の人々をEDFの兵士として、母船と戦わせる。 そうして時間を稼ぐ。

 

正真正銘、EDF最後の作戦とされた。

本部もオペ子も嘆き、少佐は そうするしかないとした。

 

そうして世界中の生存者が時間を稼ぎ。

ストーム1は神を、銀の巨人を。

 

 

 

【かの者】を殺した。

 

 

 

やがて宇宙人は それを知り、狼狽え、動揺し……我に帰ると武器を捨てて地球を去った。

 

静寂が戻った地球。

人の声が響かない地球。

 

残されたのは僅かな人類。

かつて60億いた人々は、その1割以下にまで減少。

使役されていた、そして置いてかれたクローンのエイリアンたち。

そして、大量の侵略性外来生物。

 

暗黒時代がやって来た。

人類と残存エイリアンとの間で小競り合いが続き、双方に被害が出ている。

侵略性外来生物は繁殖を続け、数だけでも人類を圧倒しているだろう。

 

EDFは、人類は今も足掻いていた。

 

 

今も我々の地球では、絶望の未来を生きている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ストーム1が話し終える。

難民キャンプからの喧騒が聞こえ、訓練場からの叱咤と悲鳴が聞こえた。

 

それまで世界が止まっていたような、そんな錯覚がある。

 

 

「俺が逃げ隠れしている間に、そんな事が」

 

 

只野が息を吐くように、何とかそれだけを述べた。

ストーム1が、心配そうに声をかける。

 

 

「大丈夫か?」

 

「はい。 人類が絶望的なのは分かっていましたから……operation:Ωはショックですが、司令官を倒した事、本隊が撤退した事、まだ人類がいる、仲間がいる事実が救いです」

 

 

絶望の中の希望です、と只野。

悪い状況なんて毎日起こり得た。 これからもだ。

それを思えば、自分は恵まれている。 別世界に飛ばされたとはいえ、衣食住を確保出来た。

この世界の敵であるネウロイだって、EDFの技術力が優っている。 エイリアン連中より遥かに倒しやすい。

笑顔だって、ここ連絡所や難民キャンプ、EDF基地では毎日のように見る事が出来る。

 

そうポジティブに考えられるのは、ストーム1や仲間がいる事実もあるし、この世界の絶望を遥かに上回る絶望を体験してきたからだ。

 

だが、それを知らないウィッチの軍曹ちゃんは、目を見開き、冷や汗を出して子鹿のように震えていた。

 

 

「そ、そん……な。 EDFの世界は……」

 

 

口を手で覆う。

目の当たりにした訳じゃない。

だけど、この世界で少人数でネウロイの軍勢を圧倒出来るEDF。

そんなEDFを追い込める程の相手。

どんな圧倒的な存在だったのだろうか。

して、人類は殆ど殺されたという。

考えただけで恐ろしく、そんな怪物の相手をしてきた隊員らの絶望は計り知れない。

 

 

「すまない軍曹ちゃん。 大丈夫か?」

 

「医療テントに行く?」

 

「大丈夫です。 少し、驚いただけです」

 

 

努めて笑顔を見える軍曹ちゃん。

子どもには、刺激が強かったかとストーム1は反省した。

 

 

「では……EDFは、この世界には移住目的で?」

 

 

では、絶望続く世界から どんな目的で この欧州に、世界に来たのか問う軍曹ちゃん。

ボランティア目的で来た訳じゃない事くらいは分かる。

そこまで子どもではない。

だけど、余裕がない筈のEDFが、わざわざ世界を超えて来たのだ。 目的がある筈であると。

して、ストーム1はアッサリと教えてくれたのであった。

 

 

「それも視野に入れている。 他には物資や人員などだな。 我々がネウロイ撲滅にチカラを貸す代わりに、それらを恵んで欲しい、といったところだ。 この世界に繋がったのは偶然だよ」

 

「……そうですか」

 

 

聞いた軍曹ちゃんは、少し寂しくなった。

やはり利益目的で戦っているんだなと。

でも、そんなものだと軍曹ちゃんは割り切れる子でもあった。

だけど、タダノさんや目の前のワンちゃん、多くの隊員は温かい人たちだと信じている。

決して組織の利益のみで戦い続けている訳じゃないのだろう。

絶望の中でも笑顔になれて、その温もりを他者に与えられる隊員らは やはり強い人達だ。

 

 

「私や連合のみんなも、強かったらな」

 

 

そんな強い隊員みたいに、なりたい。

私は弱いから。

こんな事を言ったり、聞いてしまうんだもの。

 

 

「強くなれるさ。 訓練するか?」

 

「隊長。 EDF式はヤバいかと」

 

「カタパルトじゃなきゃ大丈夫だろう」

 

「いや、そういう問題じゃなく」

 

 

目の前で日常会話っぽく、やり取りする強い人たち。

 

軍曹ちゃんは苦笑しつつ。

だけど どこか眩しそうに、寂しそうな表情を浮かべるのであった。

 




知識不足で、501などのウィッチの話が出来てないですね……。

評価者、お気に入り登録、感想、誤字脱字報告等
ありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

26.とある南の島へ。 501とサバイバル!

作戦内容:
第501統合航空戦闘団が、南の島で野外演習を行います。
その間、501基地はブリタニアのマロニー空軍大将が駐在。 実験部隊の運用を行うようです。
スカウトがコレの動向を観察します。
ストーム1と只野二等兵は南の島へと赴き、501と合流。
表向きは共同演習ですが、有事の際は出動出来る態勢をお願いします。
なお、今回は海軍と空軍の協力を得ました。
必要なら要請が可能です。
備考:
サバイバルなので、基本は現地調達。
食糧や水が痛んでいないか注意。
ウィッチとは仲良くして下さい。


本部の命令で南に島流し。

 

ストーム1だけじゃなく、まさかの俺もかよ、とは只野二等兵の感想である。

 

 

「本部連中は酷過ぎます」

 

「そう怒るな」

 

「怒ります。 突然ヘリに乗せられて、目標の島上空で蹴り落とされたんですよ?」

 

 

青空広がる浜辺で、只野は荒ぶる。

比喩でもなんでもなく彼が言った通りで、突然拉致られて、ヘリに詰め込まれたと思ったら、南の島上空で「逝ってヨシ!」と蹴られての自由落下。

彼もEDF隊員なので死ななかったが、浜辺に垂直にハマった。 ギャグである。

そこを先行していたストーム1に発見され、引き抜かれ……今に至っていた。

 

 

「狼狽えるな」

 

「狼狽えます」

 

「鍛えれば、浜辺にハマる事なく綺麗に着地出来る」

 

「ツッコむところ、そこですか」

 

「本部は お前に強くなって欲しくて、この任務に従事させたのだろう」

 

「強くなる前に殺されそうです」

 

 

なんにせよ、任務を遂行しよう。

EDFの無茶振りは今に始まらない。

それにストーム1がいるなら、何とかなるだろう。

 

 

「任務を確認する。 我々はこの島に演習しに来ている第501統合航空戦闘団と合流して、野外訓練を行う」

 

「会うのは初めてです」

 

「皆、良い子たちだぞ」

 

「メンバーは11名と聞きました」

 

「司令官はミーナ。 副官兼戦闘隊長が坂本。 補佐でバルクホルン。 ハルトマンに、シャーリー、ルッキーニ、ペリーヌ、サーニャ、エイラ、リネット、宮藤だ」

 

「詳しくないのですが、少なく感じます」

 

「俺も詳しくないが……この世界の戦闘航空団は本来3個飛行隊があり、それぞれに36機で計108機。 だからウィッチ1人で約10機分。 1人で1個中隊に相当する戦力だ」

 

「スゴいんですね」

 

 

へぇ、と反応する只野。

γ型もそうだったが、見た目じゃ判断出来ないんだなと思う。

基地にいる軍曹ちゃん達も、ああ見えてスゴいのだろうか。

シールドもそうだし、毒料理を作れる辺りからして普通じゃないのだろう。

 

 

「ウィッチはそれだけ、この世界の希望なのだ」

 

「…………いつの日か、彼女たちが戦わずに済む日が来ると良いですね」

 

「そうだな」

 

 

尚、後に坂本は魔法を使えなくなり《上がり》を迎え離隊。 代わりにバルクホルンが戦闘隊長を務め、空いた席には服部という子が入るのだが、それは先の話である。

また、研修で他の子が来たりはしていない。

陸軍ウィッチの中島や諏訪とか。

 

 

「呼び捨てっぽいですけど、階級とか大丈夫ですか」

 

「大丈夫だ。 俺もいるし《サー》はいらない」

 

「イエッサー!」

 

「俺にも使わなくて良い」

 

 

ふざけつつ、浜辺を歩く野郎2人。

とても戦時中とは思えないし華がないが、平和な時間である。 来た経緯はアレだが。

 

 

「センサー反応を見つつ合流だ」

 

「しかし、何故ココで演習を」

 

「ソレは表向きだな。 実際は基地を空けて、そこにマロニーちゃんを入れるのが目的だ」

 

「空軍大将を"ちゃん"扱いですか」

 

 

ストーム1は恐れを知らない。

たぶん、直接会ってもマロニーちゃん呼びしそうである。

俺だったら出来そうにないな、と只野は思った。

 

 

「今の内に、もう少し説明しておこう」

 

「はい」

 

「マロニーちゃんは"クズ"だ」

 

「今度はクズ呼ばわりですか」

 

 

ツッコむ只野。

ちゃん付けだから、良い奴かと思ったら違うらしい。

 

 

「兵站削減、人員削減、ウィッチ嫌いに極秘実験、不穏な噂が絶えない」

 

「裏は取れないのですか」

 

「取れた。 後はスカウトが現行犯逮捕だ、その為に501基地を空けた」

 

「そんな事情でしたか」

 

 

正史では勿論異なるので注意されたし。

作中ではEDFの活躍で早々に欧州から多くのネウロイを蹴散らせたこと、政治的なやり取りがあったこと等で こうなった。

 

実際はウィッチ型ネウロイと接触した宮藤を基点に色々な問題が起きて、501をマロニーちゃんによって解散されたり、ヤツの某兵器の所為で扶桑海軍の艦艇がピンチになったりする。

 

だがこの世界ではEDFの所業でその辺はズレた。

主に宮藤が不名誉除隊にならず、501もマロニーちゃんに解散されていない。

南の島に押し込めたりはしたものの、それはEDFらマロニーちゃん包囲網が そうなるように差し向けたからである。

 

計画通り(暗黒微笑)。

 

 

「しかし、EDFが連合軍の大将を逮捕なんて。 現行犯とはいえ、出来るのでしょうか」

 

「連合軍総司令部からは承認済みだ」

 

「良く承認してくれましたね」

 

「マロニーちゃんを続投させる危険性とEDFを天秤に掛けたら、此方に傾いた、それだけだ」

 

「証拠収集は戦略情報部ですか」

 

「そうだ」

 

「引き渡しは?」

 

「する。 始末は連合だ」

 

「してEDFのメリットは?」

 

「501を実質EDFの傘下に置けること、連合への発言力が高くなる事だ」

 

「隊長が501の上官に?」

 

「形式だと総司令部のカールスラントウィッチ総監ガランド少将が上官に。 だが俺も委託された上官みたいになって、多少は動かせるようになる」

 

 

そうですか、と只野。

下っ端には分からない話だ。

だがしかし、EDFも色々と手を回している事に感心する。

人手不足で大変だろうに、頑張っているなぁと。

その頑張りの中にはオペ子が「ぴえん」と泣きながらの書類仕事も含まれている。

 

頑張れオペ子!

君の書類仕事はEDFを支えているぞ!

 

 

「見えてきたぞ。 501の皆だ」

 

 

前方を見やると。

そこには砂浜で群れている女の子たちが。

まだ上陸した ばかりらしい。

荷物を各自、背負っていたり浜辺に置いている。

軍服はバラバラで、各国から集められたのだと再認識させられた。

見たもの、似たものとしては青っぽい服を着た者と緑や黒っぽい服の子らか。

となれば。 ガリア軍とカールスラント軍だろうかと予想する。

後は赤く目立つ服や白の服。

旧日本海軍の、お偉いさんの服らしき者もいる。

だが共通して大凡、10代か。

 

 

「EDF基地にいるウィッチと大凡同い年ですかね」

 

「だがエリートだ」

 

「エリート。 俺には縁のない言葉です」

 

「隊員は皆、精鋭だ」

 

「変態と言った方が理解が早いです」

 

「ならお前も俺も変態かな」

 

 

男同士で「変態」と呼び合いながら、女の子の集団に近付く両名。 変態である。

そんな変態に気が付いた501の面子のひとり、ミーナが声を掛けてきた。

艶のある赤毛のロングで、スラリとした体格。 お姉さんのような風格があり、抱擁力もありそうな人。

只野を魅了するには十分な威力だ。

 

 

「久し振りです、ストーム1。 予定通り合流ね」

 

「ああ。 異常無いか?」

 

「ええ、大丈夫よ」

 

 

ミーナは、穏やかな声で言う。

どうやら輸送艦がネウロイの攻撃を受けた、なんて事は無いらしい。

これもEDFがネウロイをボコボコにしている結果だろう。 主に陸軍しか活動していないが、陸のみならず空すら"晴れた"。

EDFの戦力がもう少しあれば、オラーシャや黒海を攻略していただろうか。

 

 

「そちらの方は?」

 

「俺の部下で只野だ」

 

「は、はい! 只野二等兵です! 宜しくお願いします!」

 

 

言葉を震わせながら敬礼をする只野。

頰を染めて、初々しい。

 

 

「ふふ。 こちらこそ、宜しくお願いします」

 

「はい!」

 

 

ミーナに笑顔を向けられて、照れてしまう只野。

そんな彼をからかう様に、背後から様子を見ていたウィッチたちが前に出てきた。

 

 

「夜は気を付けた方が良いよー? 寝込みを襲われちゃうかも」

 

 

イタズラっ子な、黒い軍服の悪魔が笑う。

ハルトマンである。 金髪で、やや小柄な気もする。

カールスラント軍人なのだが私生活がダラシない子。 だが、仲間をフォローしたりと、結構周りを見ているエースのひとりである。

 

 

「いや、しませんって」

 

 

そんなハルトマンに対して直ぐに否定。

そんな恐ろしい事出来るか。 ヘタレじゃないよ。

そんな彼に反応して厳しそうな子が声を出してくる。 バルクホルンだ。

 

 

「もしそうなら、私が1発殴ってやる」

 

「だからしませんって」

 

 

バルクホルンは固有魔法が怪力だ。

流石に死なない程度に加減はしてくれるだろうが、EDF隊員とて入院してしまうかも知れない。

こうしてカールスラント組に早速絡ませてしまう只野は、幸か不幸か。

 

 

「はっはっはっ! 熱烈歓迎されるとは、只野も幸せだな!」

 

 

豪快な声が響いた。

坂本だ。 501の上官達に絡まれた只野は、幸先良いか判断がつかない。

後々面倒事に巻き込まれないか不安だった。

 

そんな只野を置いて、ストーム1はミーナと話をする。

 

 

「盛り上がっているところ すまんが、寝泊まりは別々にする予定だ。 それと、俺達の事やカールスラントの話も聞きたいだろう」

 

「そうね。 一体何が起きているのか現状を把握しておきたいわ」

 

「総司令部から、聞かされてないのか」

 

「なにも。 何か隠す事でもあるのかしら」

 

 

ミーナが思案顔。

隠すというのは、マロニーちゃん逮捕劇の事やEDFの事だろう。

後者に関しては、馬鹿正直に伝えても頭オカシイと思われるから言えないだけだろうが。

 

 

「なら話そう。 迎えの船が来るのは2週間後か」

 

「時間はあるわ。 教えて。 知っている事を」

 

「分かった。 その前に、野営準備だ」

 

「そうしましょう」

 

 

普通に会話し、普通に皆に指示を出していくストーム1。

その様子を只野は見て、何故隊長が501に派遣されたのか、少しだけ分かった気がしたのであった。

 




無知ゆえに、上手く書けないかも……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

27.Food Defense Forces!

作戦内容:
どうやら生き延びた様だな。
生還を喜びたいところだが、そうも言っていられない。
思い出せ。 魔女の料理を。 アレが再び口に捻じ込まれ胃袋に到達した時、俺は今度こそ お終いだ!
俺は魔女料理を"食い止める"。
もし生き延びられたなら仲間に伝えてくれ。
「魔女に料理を作らせるな!」と。
備考:
軽食を各自に作って貰ったところ、魔女の料理は危険な事が判明した。
死守せよ! 魔女から食べ物を守れ!


 

 

「はっ!?」

 

 

気が付いた時、俺はどこかの家に転がっていた。

隣には俺同様、寝かされている子がいる。

この子は……バルクホルンだったか。

白目を向いているが、大丈夫か?

 

 

「ナニが起きて……くッ!」

 

 

何故だか、記憶が曖昧だ。

それに腹が微妙に痛い。

 

 

「落ち着け俺。 思い出すんだ」

 

 

俺は確か、浜辺で501の皆と自己紹介しあって、野営準備に入った。

ストーム1の的確な指示で、全てが順調だった筈だ。

して、島にあった空家を間借りして、台所で魔女の皆が料理を始めて……。

ダメだ。 そこから先が思い出さない。

 

 

「生き延びた様だな」

 

 

声がしたので起き上がれば、ストーム1だった。

最も信頼出来る隊長がいた事で、一先ずの安心感を得る。

 

 

「隊長! ナニがどうなって、むぐっ!?」

 

「しっ。 声が大きい」

 

 

グローブの手で口を押さえられた。

声色からただ事ではないと悟る。

 

 

「……すいません。 記憶が曖昧で」

 

「無理もない」

 

「一体ナニが」

 

「魔女の料理を喰らったのだ、お前は」

 

 

なん…………だと。

瞬時に記憶がフラッシュバック。

そうだ。 俺は美しく可愛いウィッチが共同で作った【なんか得体の知れないもの】を笑顔で強制的に摂取させられたんだ!

 

 

うわああああッ!?

 

「落ち着け只野!」

 

魔女料理!? いやああああ!

 

 

錯乱!

頭を抱え、床を転がり悶え苦しむ!

俺は勘違いをしていた。 騙されていた。

見た目に騙されてはいけない事は、戦時中に学んだ筈だというのに。

美しき魔女達と南の島でギャルゲな展開を心のどこかで妄想していたのかも知れない。

だが、俺たちはEDF。 ある意味で呪われている組織。

行く先々で不幸な目に遭う。 盲点だった。

 

 

「俺は死ぬ! 今度こそシヌゥ! 俺は知っているんだ!」

 

「お前は生きている」

 

「隊長は魔女料理の恐ろしさを知らない! あの理解不能で死臭のする、地獄の深淵を!」

 

「喰った事はないが、兵器足り得る危険物なのは承知している。 お前を幾度と救ってやれず、すまない」

 

「すまないで済んだらバルガはいらないんだよおおおお! 作業用クレーンを兵器に転用する様な事をせずに済んだんだァアアアァァアアア!」

 

 

錯乱のまま、意味不明な言葉を口走らせてしまう俺。

でも仕方ないでしょうよ。

ナニをナニしたら食材から即効性の猛毒を生み出せるのだ。

ネウロイの瘴気は耐えられるのに、料理が駄目とか。 ある意味、魔女が1番の敵。

 

 

「うぅ……もうヤダァ……基地に帰りたい」

 

「俺たちがナニしに来たか思い出せ。 サバイバルだろう?」

 

「その意味が かなり違います!」

 

 

サバイバルって、島で食糧を現地調達するとかテントを設営する事だと思った。

それなら、俺が欧州で逃げ回っていた時より楽かと。

だが現実はコレだ。 魔女から生き残る意味だったとは。 料理に殺される。 ホラーかよ。

 

 

「あの……じゃあ、ココで白目剥いているバルクホルンは?」

 

 

倒れている真面目魔女を指さす。

魔女が敵なら、この子は隊長が倒したのだろうか。

 

 

「お前と同じだ」

 

「は?」

 

「毒を喰らい、気絶した。 あのままだと更に喰わされて危険だから、ここまで背負って退避した」

 

 

違った。 被害者だった。

 

 

「まさか魔女が魔女に殺されるなんて」

 

「死んでない。 気絶しているだけだ」

 

 

いや、そうだろうけど。

後遺症残らない?

俺も心配なんだけど。 軍曹ちゃんの時は何とかなったが。

 

 

「料理を作れる数少ない1名だった。 惜しい子を失くした」

 

 

くっ、と手で頭を抑える隊長。

まるで戦死者を嘆く姿である。

いや、それよりも。

マトモに料理が出来る子がいるってマ?

 

 

「料理を作れる子がいるんですか」

 

「いる。 バルクホルン以外だと、宮藤とリネットが代表だな。 後はサーニャか。 他は破滅的だろう。 ミーナは味音痴だし無自覚で、消化に良いからと希塩酸で軽く溶かした料理を振る舞う程に酷い。 お酒と称して薬用エタノールを使おうとした時は全力で止めた」

 

「料理に希塩酸とか初めて聞いたんですが!?」

 

 

とんでもねぇ話だなオイ!?

どんな気持ちで料理してんだよ!?

 

 

「ハルトマンは書面で禁止されている程。 坂本はオニギリを綺麗に作れない、ペリーヌは塩と砂糖を間違えていたか。 リネットはまあ……作れるんだが、英国面だから……日本人好みでは無いな。 他の子は知らん」

 

「他は分かりますがハルトマンは一体、どんな酷いモノを」

 

「聞いた話だが良くて病人、悪くて死人だ」

 

「ヤベェ。 魔女料理ヤベェよヤベェよ」

 

「エイラも。 固有魔法が未来予知なんだが、悲惨な未来を予知出来ないのか」

 

「どうしたんです」

 

「シュールストレミングを持ち出した」

 

 

おう…………。

世界一臭いとされる缶詰か……。

でも、それは"食べ物"だ。

食べたことはないが。

 

 

「それだけで兵器、爆発物扱い出来そうですが……まぁ魔女料理よりマシでは」

 

 

逆に爆発物がマトモに感じるとか末期だなハハッ!

 

 

「それが、ナニをトチ狂ったのか。 納豆やらチーズやら発酵食品と混ぜ始めたんだ」

 

「ファッ!?」

 

 

いやいやいやナンデ!?

臭いモノ同士を合体させて、どうしたのさエイラちゃん!?

 

 

「どうやら日本の……ああ、こちらでいう扶桑の発酵食品からヒントを得て」

 

「どう受け止めたのおおお!? 場合によっては異世界な日本人も怒るよ!?」

 

「"臭いは美味い"と。 それが美味い料理を作る真髄だとしたらしい」

 

「結末は知りたくありません。 もうお腹いっぱいです」

 

「気持ちは分かる。 そんな子たちが、俺や宮藤という子が来るまで持ち回りだったんだ。 良く死人が出なかったよ」

 

 

なんて悪夢なんだ……。

コレが夢なら覚めてくれ。

 

 

「今後も死人を出さない為にも作戦を立てる」

 

「この島で逃げ回るんですか」

 

「無理ダナ。 相手はエリート軍人11人、いや7人だ」

 

 

うん?

ひとりはバルクホルンが殉職(気絶)したから分かる。 後の3人は?

そんな疑問を言葉にする前に、隊長が答えてくれた。

 

 

「宮藤とリネット、サーニャは味方と仮定している」

 

「やはり」

 

「なお料理未確認のシャーリー、ルッキーニは敵だ」

 

「何故」

 

「両名は面白い事に協力するような性格だからな。 今頃、ミーナ達による捕獲作戦に悪ノリしているだろう」

 

「怖ッ!?」

 

 

ブルッちまうよ……。

でも、なんで半部外者な俺たちを捕獲しようと?

 

 

「何故 捕まえに?」

 

「アレの所為だ」

 

 

アレとは。

バルクホルンを回収するとかなら、分かるんだが。

 

 

「アレ?」

 

「アレだ。 501の食糧」

 

 

指さす先は部屋の隅。

そこには大きな袋。

隙間から缶詰がコロリと落ちた。

 

 

「そりゃ追われるでしょうが!? なんで持ってきたんですか!?」

 

 

ふざけんな!

食べ物の怨みは恐ろしいぞ。

例え壊滅的料理スキル者でも、食う事に変わりないからね!

 

 

「委託したら、この島が食材の墓場になりそうでな……つい」

 

「ついで持ってこれる量じゃないでしょうよ!? 1個戦闘航空団+αの2週間分の食糧じゃないですか!」

 

「いや、実際は少ない。 元々サバイバルが目的だったからな、向こうも現地調達が基本なんだ」

 

「だとしても非常食でしょ!? あくまで訓練なんだし!」

 

「あの子達は逞しい。 何とかするさ」

 

「何とかするでしょうね!? 俺たちを捕まえようと!」

 

 

最悪やでぇEDF……。

別のベクトルで絶望の未来を生きている。

体育座りをする俺。

そんな姿を見た隊長、いつも通りの勇ましい声で励ましてきた。

 

 

「絶望するには まだ早い。 作戦を立てると言っただろう?」

 

 

勘違いするな。

一部はアンタの所為です。

でも他に道はない。

生き残る為には協力しなければ。

 

 

「作戦とは」

 

「逃げ回るのは却下だ」

 

「数に劣り、地理に明るくないからですね」

 

「それもある。 だがミーナがいるからな」

 

「優れた指揮官なのですか」

 

「ああ。 加えて固有魔法が感知系でな、三次元空間把握能力がある」

 

「我々のセンサーみたいなもので?」

 

「三次元だ、性能はもっと良い筈だ。 範囲の限界はあるようだが、詳細は不明」

 

 

それは厄介だな。

と言うことは、下手すると俺たちの居場所もバレているのでは。

 

 

「ココも危ないですね」

 

「すぐに移動する。 隠れていても助かる保証はない」

 

 

そう言うと、俺にPA-11SLSを渡してくる。

魔女相手に銃口向けるの!? マジで!?

 

 

「戦え。 その銃で」

 

「ちょっと隊長! 仲間に銃を向けるのは!」

 

「心配するな。 魔女はシールドを張れるし、頑丈。 なによりソレは全部模擬弾。 実弾じゃない……だが、急所は外せ」

 

 

言われてマガジンを外して確認。

本当だ。 模擬弾である。

いやでもさ……戦うのは気が引ける。

 

 

「迷いは捨てろ。 初めてエイリアンの歩兵部隊と対峙した時もそうだ。 撃たなきゃ殺られるぞ」

 

 

そうだ……撃たなきゃ殺られる(料理に)。

あの時、初めて見たエイリアンは人間そっくりだから撃ちたくなかった。

そんな甘い理由でトリガーを引く瞬間が遅れて……それだけで死んだ仲間は少なくない。

交渉団も全滅。

平和的解決を望む者もいたが、ヤツらは破壊破壊の虐殺オンリーなデストロイ。

今回、相手は魔女。

だからって交渉出来るとは限らない。

最悪は撃たなければ。

俺は生き延びたい。 もうオゾマシイモノを口に入れたくないんや!

 

 

「了解!」

 

 

初弾を込めてセーフティ解除。

やってやる……やってやるぞ!

 

 

「最悪は空軍や海軍に支援を要請する」

 

 

無線機を持つ隊長。

まさか魔女料理如きで要請されるとは、空軍も海軍も予想出来ないだろう。

でも それくらいヤバいんです。

許せ。 航空ドローンやら歩く前哨基地やらを破壊してきた陸軍歩兵隊だけど、もうダメかも知れない。

 

 

「いや……生きるんだ! 2週間の辛抱! 今までも欧州でも生き延びてきたんだ、今度も大丈夫……大丈夫だ!」

 

「その意気だ。 先ず現在地の建物を放棄。 食糧を持って島中央部、山奥へ向かう」

 

「ゲリラ戦ですか?」

 

「そうなるかな。 相手は陸戦に慣れていないだろう。 それは向こうも分かっている。 代わりに得意とする空中から索敵、攻撃する可能性が高い。 だが森や洞窟に入れば空からは見つからない。 ミーナや……サーニャの全方位広域探査能力が厄介だが、果たして501が"陸"相手に 何処までやれるかな?」

 

 

フッ、と笑う隊長。

なんか楽しんでるね。

俺は捕まったらナニされるか分からなくて怖いんだけど。

 

 

「バルクホルンは?」

 

「申し訳ないが、ココに置いていく。 そうだな、置き手紙と少しの食糧を置いていこう」

 

「争いを避けるためにも、いっそ全部 置いていくのは?」

 

「これも演習だよ」

 

 

やっぱ楽しんでるよ隊長殿……。

俺は楽しめないんですがソレは。

 

 

「ではこれより、operation:Food Defense Forcesを開始する」

 

 

本当にこんなんで良いのかよ!?

いや、もうどうにでもなーれ。

 

魔女料理を食わされるよりマシだと願って。

 




にわか知識なので、間違いやツッコミがあるかも。
EDFの武器とかウィッチ要素を出さないとと思ったり。

お気に入り、感想、評価者の皆様。
ありがとうございます、励みになります。

次回。
魔女料理から逃れる為、食糧を守る為。 只野達は武器を取り、空軍や海軍を巻き込んでウィッチと対峙する……!(未定)

本部「空軍大将の逮捕に当たっての、予備戦力的な立ち位置だからね君たち? 有事の際は頼むよ〜」

どうなることやら(他人事)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

28.魔女も 美味しい食べ物が欲しい。

作戦内容:
バルクホルンの犠牲を無駄にしない為にも、我々は食糧を持って山奥に退避している。
だが、501JFWの行動は素早い。
見つかれば、集られて あの世行き(死因:料理)だろう。
だが魔女にもマトモな子はいる。
彼女らを仲間に引き込めれば良いが。
備考:
戦闘は極力避けたい。

にわかなので、ツッコミどころもあるかも。
評価者、お気に入り登録、感想等など。
いつもありがとうございます。 励みになります。


ストーム1が501の食糧を強奪。

 

振る舞った料理にオーバーリアクションで倒れた只野二等兵とバルクホルンも、彼の肩に担がれて 何処かへと運ばれてしまった。

迷いのない素早さ。 謎のローリング移動。

死闘の陸戦経験豊富な彼。

逃げる時も闇雲に逃げるのではなく、遮蔽物を縫うように移動。

ユニットも無い……それも陸戦経験が少ないウィッチは、コレを追跡するのは困難だった。

ミーナやサーニャが感知魔法を使い追い詰めたつもりになったが……そこにはEDF製のバルーン……熱や粒子を発するデコイがあるだけ。

その位置はストーム1が逃げた先とは逆方向である。

 

 

「風船を感知するなんて」

 

「ただの風船じゃないのでしょう」

 

 

まんまと時間を稼がれた501だったが、彼女らも軍属。

自ら思考し、拠点に戻ると彼を追い詰める作戦を練っていた。

 

 

「これよりストーム1の捕縛作戦会議を始めます」

 

 

そう言うは501の隊長、ミーナ中佐。

会議場所として島にある、広めの空き家を使用している。

ここに大学の講義みたいに椅子を同じ方向に向けて、面々は話を聞いていた。

 

 

「ストーム1は、バルクホルン大尉と只野二等兵を拉致。 加えて食糧を奪いました。 この行動の真意は不明ですが野外訓練に著しく支障をきたすと判断。 彼を追跡、位置を特定して捕縛。 バルクホルン大尉と只野二等兵 両名を救出し、食糧を奪還します」

 

 

キリッと軍人らしく言うミーナ中佐。

真意は不明と言うが。

それは彼女を除く面々は知っており、皆は苦虫を噛み潰したようような顔をする。

間違いなく、アレが原因としか考えられないからだ。

紫色に染まった液体がナミナミ注がれた皿。

 

ミーナの お吸物(汚水物)

ポイズンクッキングだ(悲鳴)!

 

501最恐の料理を生み出す司令塔の頂は、皆が口を揃えて頂きたくないブツであり、口に出すだけで震え上がる悍ましさがあった。

勿論、ミーナだけが悪いワケじゃない。

鍋が焦げないようにとだけ頼んでしまった宮藤軍曹も悪い。

その見張りを投げ出して逃走したリネット軍曹にも少なからずの非がある。

そうなる事態は安易に予想出来ただろう他の面々もだ。

配膳当番を確認しなかったのも悪い。

して、皆を守る様に口にして吐血したバルクホルン大尉と只野二等兵。

死体蹴りをしようとするミーナから守る為、ストーム1が亡骸(気絶)を運んだ。

それは勇敢な姿であった。

501の面々は彼を心で称賛。

ミーナ以外。

だが、食糧まで持って行かれたのは痛い。

それは501の生命線に成り得るもので、それがないとミーナのブツを振る舞われる危険性を常に孕むからだった。

そんなに軍規に厳しくないから止めれば良いのだが、変なところで気遣ってしまったり、怒ると1番怖いとされるミーナにソレを言うのは、何というか……やっぱ怖くて言えないのである。

そんな事もあって皆はミーナに従い、ストーム1と食糧を奪還しようと躍起になっていたのであった。

許して。 ストーム1。

ほら。 軍人だからね、上官命令だから(言い訳)。

 

 

「私達は島に来たばかりで地形を把握していませんが、島中央部は山になっているのは分かっています。 麓周辺から森になっており、ストーム1は恐らくココに向かっていると考えました」

 

 

壁に貼られた大きな紙に棒を当てる。

そこに書かれた島の大雑把な図。

中央部に大雑把な絵で「森」が書かれていた。

補足するように、隣の坂本少佐が声を出す。

 

 

「我々がストライカーユニットを使う事を想定すれば、自然と向かうだろう。 森に入られては、見つけるのは困難だ」

 

 

分かりやすい理由。

誰もが考え付くだろう思考。

しかし、効果的な戦略である。

航空機は素早く移動出来て、海や川、標高の低い山などの地形を無視して見通し良く地上を見られそうではある。

だが、木々生い茂る森や空なき洞窟、地下の探索は無理だ。

 

 

「そこで、地上班と空からの索敵班で分かれる事にした。 可能なら森に入る前に見つけ出し、包囲する」

 

 

坂本とミーナの話は続く。

大きな荷物を抱えている以上、何らかの痕跡が残る。

また、隠れる場所も決まってくる。

地上班がソレを探索し、空の班と連絡を取り合う。

怪しい場所を見つけたら、空の班は現場に急行、地上と連帯して囲い込み、少しずつ範囲を狭めて捕獲する。

勿論、感知系の魔法を使えるミーナとサーニャは魔法を使うし、他の面々が持つ魔法も使える時は使っていく腹だ。

 

 

「───今、言われた者は直ちに編成、出撃。 他の者は食糧の現地調達だ」

 

「以上、解散」

 

 

2人が言い終わる。

皆は起立し、建物から出て行く501の隊員たち。

して仲の良い者同士……その1組、胸が大きくグラマラスなシャーロット・E・イェーガー大尉(島に来る前に辞令が届き昇進した)……シャーリーと501最年少のルッキーニ少尉は歩きながらヒソヒソ話。

並んでいると、親子の様にも見えるが今は非常事態。

周囲を気にしながら、今後を話す。

 

 

「なぁルッキーニ。 このままワンちゃんが捕まれば、空腹の方がマシな事になりそうだぞ」

 

「そんなのヤダ!」

 

「そこでだ。 私たちが先に見つけたら、報告はしないで食糧だけ回収しよう。 そうすればワンちゃんも助けられるし、私達の胃袋も守られる」

 

「そんなこと、出来るのー?」

 

「出来るかじゃない。 ヤるんだ! 私達の未来の為に。 南の島でバカンスを楽しむ為に!」

 

「おー!」

 

 

なんだか上手く行くのか分からない離反者モドキが既に出始めているが、ストーム1の想定内には収まっている。

こうして501の捜索が始まったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言う子もいるだろう」

 

 

山奥目指して歩きながら、隊長は言った。

魔女にマトモな舌を持つ子がいるなら、そうなんだろう。

お前の中ではな(混乱)!

 

 

「仮に来たら、どうするんですか」

 

 

501に潜伏していた隊長だ、詳しいだろうから信じる事にしよう。

 

 

「周囲を警戒、罠じゃないか用心する」

 

「はい」

 

「相手の要求次第では拒否。 直ぐに移動だ」

 

 

そんなんで2週間も生き延びられるのだろうか。

今まで絶望の戦線を生き延びては来たが。

この移動は228基地を放棄した後の撤退行動と似ている。

あの時も街に撤退、本隊と合流しようとしたけれど行く先々で襲撃に遭ったしな。

今回も なりそうで怖い。

来るのは侵略性外来生物ではなく魔女だが。

 

 

「……ところで501は、何故持ち回りなんですか。 炊事兵は?」

 

「いない」

 

「最新の機材や優秀な人材が集まっているのに」

 

「ミーナがな」

 

「501の隊長が?」

 

「ああ。 最初の頃、男性との接触を禁じていた影響だろう」

 

「何故でしょう。 俺と会った時は、そんなに嫌な顔をしていた様に見えませんでしたし」

 

 

あくまで個人の主観だけど。

ひょっとして内心嫌われてる?

男性恐怖症?

 

 

「…………昔、大切な人を失ったそうだ」

 

 

重く、それだけ言った。

ああ……成る程。 理解した。

ミーナは大切な人を失う辛さを知っている。

して、2度と味わう事が無いように予防線を張っているのだ。

それは仲間にも。

風紀の問題もあるだろう。

だが、それは表向き。 言い訳だ。

 

 

「……その辛さは分かります」

 

 

俺はそれだけ返す。

俺を含むEDF隊員の殆どは、大切な人を失っているからな。

いや。 生き延びた人類皆が そうと言える。

戦争とは悲劇だ。

全てを壊し、悲しみを生んでいく。

それでも戦わないといけない。

その苦しみも……俺は。

俺たちEDFは知っている。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 

暫く無言で歩いて、やがて静寂を隊長から破った。

 

 

「俺が潜伏している間に価値観は変わった様だがな。 軍規に囚われない宮藤らの影響だろう」

 

「宮藤?」

 

 

白いセーラー服に、スク水を着用した日本人……じゃなくて扶桑の子か。

して数少ない料理が出来る子。

 

 

「真面目で良い子そうでしたね」

 

「実際に良い子だぞ」

 

 

隊長嬉しそう。

まるで親である。

俺は親じゃないから分からないけど。

 

 

「俺と同じで民間人の時に戦闘に巻き込まれたそうだ。 して決意し、軍に入った。 最も501でしか活動をしていなくて、原隊で動いた事は無い」

 

 

と言う事は。

その子も隊長みたいに将来ヤベェ強さになるのだろうか。

 

 

「料理も出来るし、将来有望そうですか」

 

「魔法の事は不勉強だが皆、有望……伏せろ」

 

「ッ!」

 

 

言われて弾かれた様に伏せ、ジッとする。

もう考えるより先に動くね。

下手すると生死に直結するから。

 

 

「聞こえるか?」

 

「はい。 行動が早いですね」

 

 

聞こえる……プロペラ音。

正確にはユニット音か。

倒れた姿勢から空を見やる。

草木の合間から、僅かに飛翔体が見えた。

数は2つ。

けも耳と尻尾のシルエットから、ウィッチに間違いない。

 

 

「早い、か。 これでも時間を稼いだつもりだったが」

 

「歩き続けましたからね」

 

「それもあるが。 ところどころデコイを設置していたんだ」

 

 

いつの間に。

俺が気絶している間の話だろうな。

 

 

「まだ見つかっていないのもあるだろうが……少なくとも、歩いて行ける距離のは見つけ出したな。 隠して設置したが、やはり察知系の魔法を使ってきたか」

 

「ココもヤバいのでは?」

 

「皆が察知系の魔法を使うワケじゃない。 今は下手に動くな。 銃のレーザーポイントも切れ。 位置がバレる」

 

 

言われて切る。

迂闊だった。

もっと用心しなければ。

倍率スコープによるレンズ反射光は、軍用なので起きにくい様になっているが……一応、蓋をしておこう。

 

 

「…………通り過ぎましたね」

 

 

影と音が遠ざかり、一先ずの安心感を得る。

たぶん、此方には気付いていない。

 

 

「センサー反応からして、向かった先はバルクホルンの安置所か」

 

「まだ死んでいないでしょう」

 

「これで回収される。 安心して山奥へ行けるな」

 

「ナニも安心出来る要素がないんですがそれは」

 

 

言いつつ、再び進軍……じゃなかった。

撤退開始。

無意識に、PA-11SLSを持つ手にチカラが入る。

刹那。

 

 

「むっ!」「なっ」

 

 

センサーに反応!

高高度から現在地直上より急降下!

速い! 位置がバレた!?

 

 

「耐衝撃体勢ッ!」

 

 

言われるより早く、俺は再度伏せた!

 

高高度降下低高度開傘!?

いや、アンカー!?

いやいやココにエイリアンはいない筈!

 

 

「くっ!」

 

 

それは、俺の目の前に突っ込んで来た。

大量の砂埃が舞い上がり、視界を遮る。

それは地上に到達して……いなかった。

 

 

「…………へ?」

 

 

それは筒。

そこの下側には、プロペラのようなモノが回っており、砂を巻き上げ宙を浮く。

俺はコレを見た事がある。

基地でだ。

そう……軍曹ちゃんや曹長ちゃんらウィッチが着けていた……。

飛行脚……ストライカーユニットだ。

 

 

「よぉ! また会えて良かった!」

 

 

恐る恐る上を見た。

白いパンツ……じゃなくてズボン。

赤い軍服、ソレを持ち上げる大きな双子山。

綺麗に整った顔立ちと、綺麗な目。

頭部にはウサギと思われる長い耳。

その笑顔は破壊力抜群だった。

 

 

「あ……あぁ」

 

 

エロいバニーガール。

自己紹介の中にいた子。

こちらでいうアメリカ……リベリオン合衆国の軍人。

 

シャーロット・E・イェーガー大尉。

 

 

「イェア"ア"ア"ア"ッッ!!?」

 

 

ウィッチ

その事実に奇声を上げ、腹を抱える!

 

 

「どうした、大丈夫か!?」

 

 

覗き込むな、余計に腹が痛くなる。

ウィッチ恐怖症ってヤツだよ。

 




早期★発見された只野二等兵。
腹を抱え蹲り悶え苦しみ、シャーリーは追い討ちの覗き込みを行う。
彼女の笑顔は果たして、バニーガールの皮を被った悪魔の嘲笑か救いの天使の微笑みか。
数々の絶望を生き延びてきた只野二等兵も、遂にここまでか?

そんな絶望の中、座標伝達の声が轟く……!


次回「plan:X18」(いつも通り未定)


スクランブル、機銃の雨、濡れぬ予報は魔法にあらず。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

29.vsシャーリー。 要請はplan:X18!

作戦内容:
501のメンバーのひとり、シャーリーに発見された。
敵か味方か分からない。
最悪は発砲。
備考:
ストーム1は身を隠した。

バトル回。
にわかなので、キャラ崩壊が不安。
いつも通りですが。


チクショウ!

 

まさかこんなにも早く見つかるとは!

痛む腹を抱えながら、されど負けるかとPA-11SLSを構える。

熟す目にも止まらぬ神速でセーフティ解除、レーザポイントオン、場所は容赦なしの胴体真ん中。

念の為に倍率スコープの蓋を取る。

 

 

「早ッ!?」

 

「うるせぇ。 俺は殺りたい様に殺るんだよ」

 

「おいおい落ち着けって! 何もしない!」

 

 

嘘だッッ!!

喰う側から喰わす側になっただけだ!

捕まえて魔女料理を喰わす気なんだろう!

俺は詳しいんだ!

 

 

「また汚水物を飲ませる気だろう、知っているんだぞ! 仲間まで手に掛けておきながら、まだ足りぬと言うか!」

 

「違う違う。 アレは不幸な事故だった」

 

 

同情する様に声を掛けるシャーリー。

スタイル抜群の彼女の表情は、憂いを帯びた美少女である。

溢れ日と重なり美しい。

前までの俺なら即オチだったな。

だがなぁ!

もう俺は騙されないんだよ!

 

 

「大きなまん丸(な侵略性外来生物γ型)は可愛いが、もう騙されないぞ! お前の中身だってナニか分かったモンじゃない!」

 

「シツレイだな! コレ(胸)はホンモノだ!」

 

 

そう反論して、自慢気に豊満な胸部を両手で掬い上げて見せた。

まん丸が ふたつ浮き上がる。

それは501トップクラスの大きさだ。

スタイルと合わさって、俺のも大きくナリそうだが、

 

 

「ふふん。 触りたいか? 男だもんな♪」

 

「魔女め……!」

 

 

三下の様に見下してくる!

男の敵でもあったか!

だが俺を見つけた観察眼と、他のウィッチの追随を許さない速度。

緑の変異種を超えている。

固有魔法か。

ユニットも弄っているかもな。

 

 

「そのユニット」

 

「うん?」

 

「かなり速かったがシャーリー専用機かい?」

 

「唐突だね」

 

「お互い様だ」

 

「そうだよ。 私が自ら調整して、スピード重視にしているんだ。 凄いだろ?」

 

 

やはりか。

"ただの"二等兵には倒せない!

だがなぁ"地球防衛機構陸軍"の二等兵を舐めるなよ。

空ではアンタが上でも、陸はどうだ?

空の大尉殿はEDF陸の二等兵に勝てるか?

弱者を甚振っているつもりになれるのも、今だけだ。

このウサギの悪魔め……!

 

 

「俺はモブ兵士だ、だがなぁ……!」

 

 

トリガーの遊びを殺す。

 

 

「さっきから何の話だよ。 それより聞いてくれ、食べ物を」

 

 

食べ物。

それがトリガーになった!

 

 

「食べ物の話をするんじゃねぇえええ!」

 

 

情け容赦無しの近距離フルオート!

模擬弾なのと相手が魔女なので遠慮しない。

 

 

「うわっ!?」

 

 

さすが魔女。

魔法陣……シールドを展開して模擬弾を防ぐ。

だがなぁ、そんなの織り込み済みなんだよ!

 

 

「フッ!」「ッ!?」

 

 

右腕のみで銃を撃ちながら。

空いた左腕で所持していた手榴弾MG11の安全ピンを歯で外し、レバーを弾き飛ばしてシャーリーのユニット下に投げる。

普通は手榴弾のピンを歯で外すなんてのは、無理と言われるが……俺らEDF隊員なら出来る。

EDFに不可能は無い(暴論)。

 

 

「やり過ぎだろッ!?」

 

 

高速で急上昇するシャーリー。

 

刹那、彼女がいた辺りで小規模な爆発。

 

爆風と破片が彼女を襲おうとするが、既に高い高度に達しており無事であった。

基地にいるウィッチより、凄い高機動だ。

やはりユニットが他と違う。

それと、やはり固有魔法も疑う余地有り。

恐らく加速する系の魔法じゃないか?

 

 

「逃がさんッ!」

 

 

倍率スコープでズーム、空中に浮かぶシャーリーを捉えてフルオート。

 

 

「落ち着けって!」

 

 

シールドで防がれた。

くそっ。 模擬弾じゃ魔女のシールドは抜けないか。

このままでは勝てない。

次の手を考え始めた刹那。

 

 

『只野、そこを動くな』

 

 

ストーム・1隊長からの無線が聞こえたと思えば、

 

 

『機銃掃射、開始ッ!』

 

 

無線と共に、空中を高速飛行するナニかが。

シャーリーがいる場所を中心に、スクランブル交差点の光景を早送りしたような動き。

その物体ひとつひとつから、弾丸が放たれていた。

 

 

「ヒィッ!?」

 

 

悲鳴を上げたのは俺だったかシャーリーか。

すぐ脇を土砂が舞う。

俺とシャーリーがいる場所以外からモウモウと土煙が舞い上がり、視界が遮られた。

 

 

『今だ。 ユニットのみを撃て』

 

「ッ!」

 

 

何故とは考えない。

頭で理解するより早く、俺は銃を構えた。

センサー、ユニットの発する音。

彼女を取り巻く風、その流れを読む。

幸い今の謎の攻撃で呆けているのか、敵を前に……いや、下にしてホバリング。

当てやすい。

 

 

「迂闊なヤツめ」

 

 

容赦なく撃つ。

カァンッと煙の中で金属音と火花が散ったと思えば、次にはシャーリーの悲鳴が。

 

 

「うおおおッ!?」

 

 

煙を更に濃くする黒煙を撒き散らして、シャーリーは墜ちていった。

模擬弾だから精々バランスを崩せる程度と思っていたんだが。

どうやら当たりどころが良かったらしい。

 

 

「やり過ぎたでしょうか」

 

 

隣に隊長が来たのを確認し、ふと言う。

いくら演習、ウィッチとはいえ撃墜だろコレというのが正直な感想だ。

 

 

「問題ない」

 

「ですか」

 

「ウィッチは頑丈だ。 シールドも張れる。 ユニットの故障で文句を言われたら俺が直す」

 

「直せるんで?」

 

「場合によるが直せる。 501に潜伏している間に色々学んだ」

 

「そ、そうなんですね。 流石です」

 

 

エトワール作戦までだよな?

短期間だった筈なんだけど、"魔法の箒"の整備をもう覚えたの?

EDFの一部の開発班や整備班は"魔法の放棄"をしたというのに。

 

 

「まぁシャーリーも整備や改造の知識は高い。 自力で直して復帰してくるかもな」

 

「あぁ、ユニットを自分で弄っているとか言ってました」

 

「そうか。 遠くから観察していたがスピード重視にしていたようだな。 固有魔法も使っていただろうが、偵察ならスピードを抑えるカスタムが良かっただろう。 する余裕が無かったか、或いは急ぎたい理由があったか。 何にせよ最後は迂闊だったな」

 

「あの、何か要請したんですか」

 

「plan:X18だ。 指定座標に戦闘爆撃機KM6 18機が突入、スクランブル交差点のように飛び交い機銃掃射を行う」

 

 

えぇ……。

俺よりヤり過ぎィ!

 

 

「オーバーじゃないですか、それ」

 

「相手は魔女だ。油断は出来ない。 それに、ここで我々の強さを認識させる事で抑止力にもなる」

 

「徒党を組んでやって来たらヤバいと思いますが」

 

 

1機だけで結構大変だったぞ。

それも低高度にいたから倒せたものの、高度を上げられたら倒せない可能性が高い。

それこそ空軍案件だ。

対空兵器があれば抵抗出来そうだが。

 

 

「やりようはある」

 

「はぁ」

 

「とにかく、直ぐに移動だ。 今の戦闘で他の魔女が集ってくる」

 

 

いや、1番音を派手に立てたのは隊長だと思うんですがそれは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

圧倒的な火力!

圧倒的な正確!

圧倒的な速度!

 

シャーロット・E・イェーガー大尉は驚きと喜びの感情に満ちていた。

撃墜されたのにも関わらず、である。

 

 

「ははっ! いやぁ、ストーム1は何者なんだろうな!」

 

 

仰向けになり、広大な青空を眺める。

スピード狂である彼女。

故に興味は あの戦闘機群。

して、関わりのあるストーム・1。

 

ストーム・1は新人整備士として501基地に来たヤツだった。

その時は興味は大して無かった。

そもそも男性との接触を禁じられていて接点も無かったから。

でも、ある時。

私を含めてユニットの調子が とても良いのに気付く。

明らかにいつもと違う。

素直に動き、扱い易く、魔力の消費も少ない。

それも各々のメンバーの性格や戦闘スタイルを考慮した調整もされていた。

そこからだ。 興味が湧いたのは。

でも男性とは接触出来ない。

直接会って話を聞きたかった。

でも、きっと叶わない。

だから夜な夜な格納庫へ行って、せめて自分のユニットにどのような工夫や整備がされているか見てやろうと思った。

 

その時だ。 ストーム・1と出会ったのは。

 

突然だったから、私は慌てた。

別にヤマシイ事をしている訳じゃないと弁解したり、男性との接触は禁じられているのを理由に逃げようと思った。

でも、ストーム・1は笑って許してくれた。

それからというものの。

整備の話や効率強化、部品や調整の技術的な話を互いに交換し、頷き合い、共感して笑いあう仲になった。

嬉しかった。 同じ話を出来る仲間がいる事が。

でも時々不思議なヤツとは思った。

優秀な人材を集められているのは知っているけれど、こう……なんというか。

カリスマ性が高いというか。

思わず背筋を伸ばしてしまう、そんなヤツ。

きっと その頃から 只者ではないと本能で感じていたのだろう。

して、エトワール作戦。

ネウロイの巣の中で、まさかストーム・1を見る事になろうとは。

やはり ただの整備士じゃない。

 

彼は噂の……EDFという組織の者なのか。

 

あの戦闘機、ジェット機だろう。

それもEDF関係か。

速い。 とても。

また会ったら、その事も聞かないとな。

あわよくば。

乗せてくれないかな?

 

 

「それと、只野ってヤツも」

 

 

私を撃墜せしめた、只野二等兵。

油断もあった。

だが、相手の技量が高かったのも事実。

武器だけの所為じゃないだろう。

歩兵は詳しくないが、皆があんな感じじゃない筈だ。

二等兵、最下級。

でも強さと階級は必ずしも比例しない。

新人なんかじゃない。

幾多の修羅場を潜り抜けた、歴戦の戦士だ。

逆に何故、二等兵なのか不思議なくらい。

 

 

「勘違いされちゃったけど。 ああさて、食糧奪還は失敗したし。 ミーナとルッキーニに何て言い訳しよう」

 

 

綺麗な青空の下。

そう言うシャーリーだったが。

やっぱり その表情は、どこか嬉しそうだった。

 




描写って難しいですよね。
EDFメインだとしても、魔女も絡ませないと世界的にも……な。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

30.WDF計画の噂

作戦内容:
祖国の家や親戚の元へ行く難民が増えました。
ですが身寄りがなく基地に身を置く子もいます。
または身寄りがあっても、帰りたくない子も。
そんな彼女らを戦力化していますが、まだ10代の女の子。 無理させないようにして下さいね。
備考:
正義は いくつある?


ストーム・1と只野が食糧を巡り死闘(笑)のFDFをしている頃。

 

基地では回収されたウィッチが様々な分野で戦力化されていた。

徴兵前に工場や農業に従事していた子の1部は、戦闘訓練もソコソコに武器より工具や農具を握らせたり、希望する分野があれば 其方に従事させている。

 

連合軍だったら兵士不足から戦場に投げるだろうが、EDFはネウロイ相手に現状戦力で対処可能域である、との判断の結果だ。

 

東の広大なユーラシア大陸、その一帯を領土とするオラーシャ帝国のネウロイを倒そうとしたり、戦争勃発の元凶にしてネウロイの根城な黒海の巣を潰そうとするなら話は別だが、現状、EDFにそうする積極性は見られない。

 

EDFの目的は あくまでも、この世界からの物資や土地、人員の搾取……じゃなかった、支援であるからだ。

エトワール作戦でガリアを解放したのだって、連合に良い顔見せて権力や資源を有利に貰えるようにする為だし、不法占拠中……じゃなくて、守りを固めているカールスラントだって連合への交渉カードにする為だ。

 

だが しかし!

 

連合は土地を不法占拠している事への非難や技術寄越せと言うばかりで人員や物資を寄越す気配がない。

 

それしか言えないのか、この猿ゥ!

 

挙句に負傷したウィッチを回収した件等は魔女狩りと罵ってきた次第である。

 

ふざけんな! いい加減にしろ!

どの口がソレを言うかぁ!

徴兵という名の魔女狩りをしていたのは連合ダルォ〜!?

 

そんなワケで。

連合とEDFは相変わらず仲悪く、カールスラントも交渉カードとして弱いなら、少しづつ基地機能を南の島かどっかに移設しようかしらとも考えていた。

そうすると連合軍は東から来るネウロイから自力でカールスラントを守らないとならないが、そんなの関係ねぇ!

このままだと、カールスラントの民から非難されるし、マロニー空軍大将を逮捕して傘下に入れたい501にもカールスラント軍人はいる。

印象が悪くなって、ドンパチ騒ぎは困る。

そっちの方が重要だった。

してオペ子の書類作業という犠牲の果て、基地では荷造りが行われたのであった……。

 

 

「うぅ、いくらユニットがあるからって魔女使い荒いよぉ」

 

「で、でも! これが終わればチョコレート貰えるよ!」

 

「ジュースも!」

 

「お酒も 貰える!」

 

「ツマミだって!」

 

「タバコも」

 

「頑張るぞー!」

 

 

木箱やコンテナを運ぶ幼き少女らモブウィッチーズ。

陸戦も空戦も関係なく荷物を運んでいて、忙しそうだ。

フェンサー等、パワードスケルトンを装着するEDF隊員も手伝っているのだが、なにせ人手不足だ。

幼い少女にも手伝える範囲で手伝わせている。

そんな中で聞こえてくるチョコレートや酒、タバコの名前。

それが少女達の活力の源のひとつであり、少ない楽しみのひとつだった。

 

この戦時、チョコレートや酒は中々手に入らない嗜好品。

それは生産工場が機能していないEDFの世界もそうなのだが、備蓄物資を使う人類が残っていない。

だから、余る嗜好品をウィッチに給与の様に支給している。

酒やタバコを未成年に渡すのは気が引けるが、時代的にガバガバなので、まぁ要望があれば……としている。

彼女達にも命を懸けて戦場に出て貰うのだ。

それくらいの自由、許してやろうと。

 

そんな光景を見て、もはや地球で見る事叶わぬ少女たちの笑顔を見守り微笑む隊員ら。

だが、直ぐに隊員を曇らせてしまう。

 

 

「俺たちEDF隊員だけじゃ、この世界は守り切れないだろうな」

 

「ああ。 この世界のウィッチや兵士を訓練してはいるが、微々たる戦力だ」

 

 

警備隊が話し合う。

ネウロイが消えて青空広がる下、似合わない暗い会話だった。

 

 

「連合もEDFに良い顔をしない」

 

「互いに利益を求めるのは仕方ないが。 もう少し足並みを揃えてくれても良いのに」

 

「結局は人間って事だ。 愚かだよな」

 

「EDFも含まれるのか?」

 

「勿論」

 

「悲しいなぁ」

 

 

はぁ……とため息を吐く警備隊。

仮にも任務中なのに、こうやって話し合っても怒られないのはEDFだからか。

 

 

「それで……EDFは人造人間を造っている噂があるんだ」

 

「なんだって!?」

 

「しっ! 声が大きい」

 

 

慌てて周囲を確認する隊員。

ウィッチが「チョコレート♪」と鼻歌交じりに荷物を運んでいるだけだった。

 

 

「……それはエイリアン連中のクローンみたいなモンか?」

 

「いや。 でも可能であれば するだろう」

 

「いくら人手不足だからって……ドローンを生産する方が良いんじゃないか?」

 

「人間を造った方が都合が良い事もある。 "増やせる"からな」

 

「生物兵器……αやβかよ」

 

「噂だがな。 あとこれも続きだが」

 

「うん?」

 

「遺伝子情報やモデルはウィッチと……【かの者】らしい」

 

「なっ……!?」

 

 

絶句。

 

 

「馬鹿な。 俺は信じないぞ……ぶっ飛び過ぎだ……【かの者】をモデル……EDFは この世界を滅ぼしたいのか!? 神を、死神を造りたいのか!?」

 

 

そこまで言ってハッとする。

突然怒鳴ったから、ウィッチが不安そうに 此方を見ていた。

慌てて、愛想笑いで手を振って誤魔化す。

 

 

「落ち着け。 あくまで噂だと言っただろう」

 

「…………あぁ。 そうだな、すまん」

 

 

そうだ。 あくまで噂だ。

EDFが そんな事をする筈ない……。

 

確証は何も無い。

嘘か本当かも分からない。

 

 

「でも……なんでまた」

 

「圧倒的なチカラを持ちたいのもあるだろう。 崇拝する者を。 して世界を、あの子達……ウィッチーズを守るチカラを」

 

 

一拍おいて、言葉を繋げる。

世界は不穏な話と裏腹に、明るく綺麗な光で包まれている。

 

 

「【WDF計画】。 どこからともなく風で流れてきた、EDFの噂さ」

 

 

誰も信じないだろう。

それこそ、この世界の人々には理解出来ない話だろう。

だが、エイリアン連中の圧倒的なチカラや技術力を まざまざと見せつけられた隊員らは。

特に【かの者】のチカラを見た者は。

EDFの技術で、金の装甲を破るフーリガン砲を開発出来たEDFが、あの死神を再現する可能性を必ずしも否定出来なかった。

 

 

「正義ってなんだろうな。 EDFって。 地球の守り方って、いくつある?」

 

「人の数だけ正義がある。 正義の反対は正義なんだ。 悪じゃない」

 

「ならエイリアン連中も……怪物の体液に環境改善するチカラがある話からして、ヤツもまたEDFだったのだろうか」

 

「今頃考えて、何になる。 今は今を生きるしかない。 それに下っ端の俺たちに何が出来る……今は、ここを、あの子たちの笑顔を守ってやる事くらいだ」

 

「……そうだな」

 

 

言われて前を見る。

丁度 とてて、とウィッチーズが笑顔で駆け寄って来たところだった。

 

 

「荷物運び、終わりました!」

 

「チョコレート下さいなっ♪」

 

 

みゃあみゃあと子猫達がギブミーチョコレートとねだってくる。

裏の世界、大人同士のドロドロした世界を知らない純粋な笑顔な女の子たちが、ただ そこにいた。

 

隊員は癒されながらも、して この子たちの笑顔を絶やしたくなくて。

持っていたチョコレートを皆に渡していったのであった……。

 




終わりを模索中。
正義って色々ありますが。 認められるかどうかは別問題です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

31. 〜【プロミネンスM1】トップアタック! 少女はクワガタに騙される〜

作戦内容:
隠れる事が出来ないなら戦うしかない。
だが2週間も逃げ隠れするのは弾薬や数が不利。
転進。 短期決戦に挑む。
互いの被害を軽減する為だ。
これ以上、(料理の)犠牲者を出す訳にはいかない。
その為には敵陣地を抑え、特に料理出来る子を確保、敵の戦意を削ぐ事にある。
二手に分かれよう。
長距離攻撃用の武器を渡す。
射程は俺が稼ぐ。
それも誘導兵の仕事だからな。
健闘を祈る。
備考:
魔法は万能じゃない。 使うのは同じ人間の少女だしな。
突破口があるものだ。


タイトルが……。
評価者、お気に入り登録、ありがとうございます!
励みになります!


話は南の島に戻る。

 

バルクホルン(気絶中)発見とシャーリー撃墜(回収済)を受けて、ミーナと坂本は計画を立て直す。

 

 

「シャーリーさんが撃墜されたのは森の近くね」

 

「ああ。 予想通り、森に入ったか」

 

 

テーブルの上には大雑把な地図が広がって、森に入る境界辺りでバッテン印が描かれている。

シャーリーが撃墜されたポイントだ。

周囲には小さな丸が いくつも描かれていたが、それらはストーム・1がバラ撒いた風船……ダミーである。

感知系の魔法に引っかかり、地味に探知を妨害してくるので厄介だ。

 

 

「周囲にストームさんがいる可能性があるわね。 でも、最初に見つけたダミーは島中央とは真逆」

 

「うむ。 コレを利用して、予想に反して森に入らない、なんて事もあるかもな」

 

 

悩むポイントは他にもあった。

直接撒くタイプなら、ダミー周囲にストームさんがいる可能性が高い。

しかし、遠隔操作で起動可能なら厄介だ。

使い方次第で誘導させられる。

仮に罠だからと動かなくても、相手の正確な位置が分からないのでは詰んでしまう。

また、シャーリーを撃墜せしめたのはストームさんではなく、只野だという。

これで敵は1人ではなく2人だと判明。

ストームさんの底知れぬ能力と二等兵とは思えない練度の兵士が合わされば、捕獲どころか殲滅される危険性も有り得た。

 

 

「森から出るなら、空から安易に見つけられる筈よ」

 

「油断大敵だぞ。 なにせストーム・1は底が知れない男だ」

 

「そうね。 皆には必ずロッテ(2機1組)以上で飛んで貰うのと、見つけたら皆が集まるまで接触しないことを伝えるわ」

 

 

シャーリーが単独で突っ込んだのを反省して、そう言うミーナ。

 

 

「頼んだ」

 

「でも」

 

 

ここで思案顔になる。

 

 

「何故、只野さんが敵になったのかしら。 トゥルーデも気を失っていたそうだし」

 

(それはミーナが悪い!)

 

 

目を閉じて歯をくいしばる!

坂本は心からの声を堪えるのに、必死になったそうだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言う感じに警戒されたな」

 

 

山の麓、森の中。

派手な音を立てたストーム隊長が言うなら、きっとそうなのだろう。

シャーリーの件は敵か味方か判別する前に倒してしまったが、隊長が攻撃したなら敵だ。

そういう事にしておく。

今頃過ぎるし。

 

 

「このまま2週間は厳しく思います」

 

「同意する。 デコイも弾薬も2週間バラ撒く数は無い。 空軍や海軍も そこまで付き合ってくれない」

 

 

逆に料理如きで要請される空海軍ェ……。

いや仕方ないんや。

生死に直結するんだって。

 

 

「当初は山に籠るつもりだったが、デコイをしらみ潰しされたら いずれバレる。 1週間も掛からないな」

 

「こちらから打って出ますか」

 

「うむ、攻撃は最大の防御。 今がその時だ」

 

「殲滅?」

 

「いや、拠点を制圧する」

 

 

そう言うと、何処からともなく大砲のような大筒と、ロックオン時間短縮&距離を稼ぐ補助装置の【E2レーダー支援システム】を俺に渡してきた。

へ。 何処にしまってたの?

ド●え●んのポケットでもあるの?

いやEDF隊員全体に言えるけど。

あ、俺もか。

 

 

「装置は分かりますが、これは」

 

「レンジャー用の大型誘導ミサイルランチャー【プロミネンスM1】だ。 約1kmのロックオン距離がある。 ロックオン時間は2秒。 爆破範囲は半径約16m。 改良型は威力が高くなったがロックオン時間が長くなったからな、初期の方を持ってきた。 目的が目的だから、これで十分だろう。 撃つ時は空に向けて砲口を上げろ」

 

 

普通に説明されたんですがそれは。

話は続く。

 

 

「お前は森に籠り、501が拠点にしている方向に構え続けていれば良い」

 

「え? でも海岸側の拠点まで1kmは超えています。 たぶん4倍、4kmくらいじゃないですか」

 

「ギリ行ける」

 

「へ?」

 

 

またも変な声を出すと、今度は別の物を取り出して見せてきた。

 

 

「この【パワービーコンガン】を使う。 これはロックオン速度2倍、距離を4倍にしてくれるものだ」

 

 

銃のような、ビーコンを射出するサポート装置を見せられた。

おお、それなら射程内に収まるかも。

あれ……いやいや待てよ。

 

 

「あの隊長、このプロミネンスのミサイルってガチのヤツですか?」

 

 

一応聞いておく。

ガチなら半径16mは吹き飛んでしまう。

 

 

「安心しろ。 ミサイルの炸薬量は少なくされ、代わりにスモークが同じ半径で撒かれるように改造した」

 

「そ、そうですか。 安心しました」

 

 

信じる事にしよう。

隊長が言うなら、そうなんだろう。

 

 

「ではビーコンを設置しに行ってくる。 スニーキングミッションごっこ だな。 お前は撃ってくれるだけで良いからな、はっはっはっ!」

 

「隊長だけで? 危険です!」

 

「大丈夫だ。 1人の方が見つかる危険も少ない。 それに、俺は誘導兵だ。 上手くやるさ」

 

 

そうは言うけど。

いくらストーム隊長でも……いや。

幾多の絶望を乗り越えて来たストーム・1なら大丈夫だろう。

戦時と比べたら、このくらいイージーモードといったところだ。

我らが隊長を信じよう。

 

 

「隊長、ご武運を」

 

 

大きな隊長の背中に敬礼!

片手を上げて去って行く隊長。

これが俺が見た最期の姿……に、ならない事を願う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ストーム・1……ワンちゃんを探しに行ったメンバーは恐らくミーナ、ハルトマン、坂本、ペリーヌ、ルッキーニ。

バルクホルンは気絶中でシャーリーはユニット修理中。

残りの宮藤、リーネ、サーニャは食事の用意で、サーニャにベッタリなエイラは自然と拠点にしている建物の台所にいた。

 

コレは概ね予想通りだった。

料理が出来る者まで捜索隊に加える時間、食糧的な余裕はない。

気絶したバルクホルンの看病もある。

となれば。

治癒魔法が使え、料理も出来る宮藤は残るだろう。

合わせて親友のリーネも。

サーニャは夜間哨戒に備えて待機。

或いは料理の手伝い。

他の料理が出来ない子が捜索隊に回される。

司令塔のミーナや坂本が拠点に残る可能性があったが、動いているセンサー反応からして、いないと結論付けた。

恐らく森を出て攻勢に出ないだろうと判断だ。

または早期発見の為に人手を増やしたかったか。

 

だが、実際は拠点に近付くワンちゃん。

 

空から見えない様に木の陰を伝い、拠点に侵攻する。

だがこれ以上は遮蔽物がない。

空から丸見えだ。

ビーコンを設置するには、もう少し近付きたいところだが、出ればバレるだろう。

 

 

「地底で空がないと嘆いたものだが、今度は空があると嘆くか。 何でも都合良く行かんな」

 

 

苦笑するワンちゃん。

ヘルメット・ディスプレイに映るセンサー反応を伺いながら、飛び出るタイミングを見計らう。

1度でも動けば感知魔法に引っかかり、飛行型侵略生物の群れの如く襲って来るだろう。

なので、チャンスは1度きり。

 

 

「パワービーコンガンの射程は約1km。 長距離射撃は苦手だが、何にせよ最低1km圏内に入らないと話にならない」

 

 

ビーコンガンを構えて言う。

 

今回使用するパワービーコンガン。

見た目こそサブマシンガンサイズかコンパクトにしたアサルトライフルといった具合だが、こんなナリで射程は1kmもある。

銃身は短いのに、弾道も安定している。

EDF謎の技術である。

が、しかし。

コレの装弾数は1発のみ。

リロードする時間が無いのを考慮すれば、失敗は許されない。

 

 

「スナイパーや暗殺者も、こんな気持ちだろうか」

 

 

プレッシャーを肌で感じ、しかし戦時と比べ可愛らしいと笑う。

改めて自分が過酷な戦場に身を置いてきたか実感。

龍とハムスターの差かな?

考えたら またも変な笑みが溢れる。

 

 

「いかんな。 集中だ」

 

 

遠く見える拠点は小さく、レーザポイントも射程外で確認出来ない。

ビーコンガンのスコープを拡大して窓辺りを確認。

小さいが確認出来た。

宮藤とリーネが鍋を用意しており、白百合なサーニャ、彼女と共にいる未来予測出来るエイラの4人。

バルクホルンとシャーリーは未確認。

そちらは戦力外で良い。

拳銃や護身術を身に付けていても、その間合いまで入る予定はないので脅威ではない。

 

 

「空の捜索隊は良い。 問題はサーニャの探知能力、エイラの未来予測ダナ」

 

 

大人気なくエイラの口調を真似つつ、チャンスを伺う。

室内まで魔法を使っているとは考え難いが、警戒しているなら可能性はある。

未来予測をされた場合、退避される可能性があるが、予測出来るのは数秒後の未来。

プロミネンスミサイルが最大高度まで達してからの位置エネルギー、急降下による加速を適当に考えても、スモーク圏内 半径約16mから脱出する時間は あまりない。

その間にセンサーを頼りに全員を制圧。

サーニャは、どうしたものか。

探知出来る範囲は とても広い。

EDF隊員 個人が使用するセンサー範囲を軽く超えている。

ミサイルを探知されるくらいなら良い。

それより誘導兵……ワンちゃんの考えを読まれた場合、退避されてからの逆制圧も有り得る。

ワンちゃんは時々死神、バケモノ扱いされるがネウロイではないので、反応が遅れるかも知れないが……位置がバレるのは危険。

やはり一気に畳み掛けるしかない。

 

 

「油断出来ない相手だ」

 

 

誘導ビーコンを撃ち込むだけなのに、こんなにも気を使う。

センサーを再度見る。

低高度を飛んでいるモノを探知、確認。

高高度だとセンサーが拾わない危険性があったが、501の面々は地上の捜索の為に低空を飛んでいた。

お陰でどの辺にいるか分かりやすくて助かる。

また、センサー上から判断するに、最低でも2人1組で飛んでいるようだ。

片方にナニか問題があっても対処出来るし、連携する事で火力が上がる。

シャーリーが単騎でヤられたので、そうしたのだろうなと思う。

 

 

「むっ」

 

 

センサー上、捜索隊が拠点から遠く森へ向かう。

それは良い。 只野は上手く隠れる。

発射後、位置がバレて交戦状態に入るかも知れないが。

その場合、再発射は困難だ。

その意味でも1発で決めねば。

問題は。

 

 

「数は4、2組……あと1人はどこだ?」

 

 

センサー反応が足りない事だ。

気絶中のバルクホルンと思われる反応を足しても10人。

501は全員で11人。

あと1人、確認が出来ない。

つまり。

 

 

「なるほど」

 

 

不敵に笑い、手に新たなモノを持つ。

大きなクワガタ ロボット【スタグビートル】を。

ビートルとあるがカブトムシじゃない、クワガタである。

陽の光に反射し輝く青いボディ。

その立派なツノは、鹿のツノのよう。

 

 

「シャーリーの相棒かな。 部隊最年少の、天真爛漫な あの子なら喜ぶだろう」

 

 

ストーム・1は拠点に駆け出した。

手に持つは決してオモチャでは無い。

EDF科学班が4年もの月日と膨大な研究費を掛けて制作したモノ。

なのだが、所要時間と研究費に見合わないからか変なところ(飛行能力は兎も角、ツノとかデザインとか)に金を掛けたのか知らないが、本機を最後に後継機は開発されなかった。

まぁ……作者も あまり使わなかったし、使い勝手の問題もあったのかも知れない。

 

 

「EDF!」

 

 

自身を鼓舞する様に叫ぶと、連続ローリングで突撃を敢行!

して案の定と言うべきか。

センサーに突如として現れる赤丸表示。

これで11人。

ワンちゃんの予想通りだった。

 

 

「やはり来たな」

 

 

それはセンサーに反応しない、高高度より急加速で接近。

シールドを固有魔法の光熱で超高温、多重にし、猫科な耳と尻尾、縞々パンツ……じゃなかった、ズボンを丸出しにしながら単騎で突っ込む少女。

 

 

「シャーリーのかたきー! 覚悟しろー!」

 

「来いルッキーニ。 遊んでやる」

 

 

高高度、センサーに反応しない位置から拠点を自主防衛していた子。

501最年少、ロマーニャ公国の軍人。

フランチェスカ・ルッキーニ少尉である。

 

 

「うりゃー!」

 

 

赤いボディの演習用の銃で、ペイント弾を撃ってくる。

流石にワンちゃん相手とはいえ、実弾携行許可は下されていなかったようだ。

だが、そのペイント弾は恐ろしく正確。

ワンちゃんに吸い込まれるように当たろうとして───。

 

 

「なら防げば良い」

 

 

素早くプラネタリウムの装置みたいなモノを設置、起動。

光の青白い半透明な壁が発生。

その壁にペイント弾が阻まれ、ワンちゃんは無事だった。

電磁トーチカだ。

真上は防げないが、ルッキーニは真上から撃ってるワケじゃなかったので普通に防げた。

 

 

「シールド!? ワンちゃんもウィッチだなんて聞いてないー!」

 

 

未知の技術を魔法だと勘違い。

それを扱うワンちゃんはウィッチだとも。

ズルい、聞いてない、反則だと幼い子ども(実際に子どもだが)の様にゴネるルッキーニ。

 

 

「オーバーテクノロジーは魔法に見えるよな。 俺も転送装置のアンカーを見た時は驚いたものだ」

 

 

民間人時代、初めてアンカーを見た時を思い出して言うワンちゃん。

228基地、開戦した あの日。

巨大な柱の様なモノが空から大量に降ってきて地面に突き刺さり、そこから怪物が大量に転送されてきた。

突然の事にワンちゃんや隊員らは驚愕し、それでも必死に抗い破壊した。

なのに、更にアンカーが降下。

謎の技術と物量で圧倒してくる敵性勢力に228基地司令官の命令で直ぐに撤退。

ワンちゃんは軍曹チーム……後のストーム・2ら隊員と共に撤退する事になった。

 

謎の技術は魔法に見える。

それこそ【かの者】なんて装置もナシに宙を浮き、手から光弾を放ち、装置ナシでエイリアンの歩兵を空間転移させ、しまいには隕石まで降らしてきた。

あの銀の巨人、死神に勝てたのは奇跡だ。

駆け付けてくれたストームチームの面々、あの場にいた隊員、地球の皆の奮闘が無ければ負けていたのはEDF……人類。

ワンちゃんだった。

 

 

「だとしたら、この世界にとって俺たちは侵略者だな」

 

 

悲しくなったが、しかし。

やらなければ(料理に)やられる現状、心を鬼にしてルッキーニにクワガタロボットを見せる。

 

 

「このクワガタが目に入らぬか」

 

「お、おぉ!?」

 

 

どこぞの お偉いさんの 紋所のように【スタグビートル】を見せびらかすワンちゃん。

して面白い様に攻撃中断、ゴネるの中断。

ルッキーニは目を輝かせて角が立派なクワガタを見る。

 

 

「欲しいか?」

 

「欲しい!」

 

「近くに来るんだ」

 

「わかったー!」

 

 

金属光沢を放つソレに、なんの疑いもなくホイホイ降下してしまうルッキーニ。

ペイント銃は その辺にポイしてしまった。

 

 

「おぉー! 大きい! 凄い! 立派!」

 

「大きくて掴み辛いからな、気を付けて掴むんだぞ」

 

「わぁ硬い! テカテカしてて滑る!」

 

オット、イッチャイソウダ(棒読み)」

 

「あー! イッちゃヤダー!」

 

 

ワンちゃんは、ワザと【スタグビートル】を手放し、空へ飛ばしてしまう。

慌てて追い掛けるルッキーニ。

スタグビートルは従来型と異なり飛翔能力があり、飛んで行くのである。

それはそうと…………他の面子が会話を聞いたらエロいナニかかと勘違いのままミーナ達に実弾を叩き込まれそうである。

いや、手遅れかもだが。

ルッキーニの無線がフルオープンだったから……。

 

 

「つっかまえたー! うん、あれ!? 胸に くっついて離れない!?」

 

 

してルッキーニは空中キャッチ、クワガタが胸に吸着して離れないのに気付く。

場所は偶然である。

ワンちゃんのヘルメットが妖しく光った刹那。

 

 

「墜ちろ」

 

 

間髪入れず起爆スイッチを押す。

ボカンッと爆発音と共に空中で煙玉が出来上がり、ルッキーニは包まれてしまう。

非殺傷の睡眠爆弾なので安心して欲しい。

流石に危険な炸薬等は使えないので、代わりに即効性の睡眠剤に詰め変えていたのである。

 

 

「……うみゅぅ」

 

 

して墜落していくルッキーニ。

低高度だし彼女もウィッチなので、大丈夫だろう。 たぶん。

 

 

「墜ちたな」

 

 

パワービーコンガンに切り替えて、再びローリング進撃を開始。

時間を喰った。

センサーではフルスロットルで向かって来る反応が2つある。

捜索隊。

此方の位置がバレたのだ。

 

 

「派手な音と煙だったからな。 そりゃ来るか」

 

 

ローリングしながら進み続ける。

想定内だが、ビーコンを設置する時間はギリギリだ。

 

 

「只野が気掛かりだ。 半分は只野のいる空域に留まっている」

 

 

戦力を只野用に分けられた。

賢い判断だ。

2人だけでも、位置さえ分かれば空中のアドバンテージを使い、地上の目標を相手に出来る。

そういう判断だ。

 

 

「だがな、俺たちはEDFだ。 空飛ぶ敵を幾度と倒してきた。 今回もな」

 

 

射程の1km圏内までもう少し。

ワンちゃんはウィッチから逃げる様に転がり続け、只野は残された2人のウィッチから身を隠し続ける……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、な、なな……!?」

 

 

顔を羞恥心から、自身の赤毛より真っ赤に染める501司令官ミーナ。

えっちな無線が聞こえてきたから、仕方ない事だ。

 

 

「おぉー! 大きい! 凄い! 立派!」

 

「大きくて掴み辛いからな、気を付けて掴むんだぞ」

 

「わぁ硬い! テカテカしてて滑る!」

 

オット、イッチャイソウダ

 

「あー! イッちゃヤダー!」

 

 

一体、ナニをナニしたの!?

なんて破廉恥な!

あの男は女の敵よ!

 

 

「見損なったわストーム・1……!」

 

「ミーナ、どうし……ひっ!?」

 

 

ハルトマンが顔を覗き込んで、後悔した。

そこには赤鬼がいたんだから。

怒ると とっても怖いミーナだが、未だかつてない形相である。

付き合いの長いハルトマンも見た事がない。

 

 

「───美緒、ペリーヌさんは只野さんを引き続き探して。 フラウ(ハルトマン)は私と来なさい」

 

「急にどうした」「ミーナ中佐?」

 

「命令です、一刻も猶予は ありません」

 

 

そう言うと、最大速度で拠点方向へ飛んで行くミーナ。

慌てて続くハルトマン。

残された坂本とペリーヌは、命令なら仕方ないと捜索を続行する。

 

 

「ストーム・1を見つけたのか。 なら、後は只野だけだな」

 

「お供しますわ、坂本少佐!」

 

 

慕っている坂本と2人きりになれて、ウキウキなペリーヌ(ペリ犬)。

目下 森であり、そう簡単に只野は見つかりそうにないが、ペリーヌは その方が都合が良かった。

坂本と一緒にいられる時間が増えた方が良いからだ。

 

どうにも不純な子なのか純粋な子なのか分からない501と化しているが、只野たちにとっては今は敵である。

森の中、只野は早く どっか行けと手汗をかいて願っていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宮藤ー、ナニか聞こえなかったか?」

 

「いえ。 リーネちゃんは?」

 

「ううん。 聞こえなかったよ」

 

「私も」

 

「そうか……なら良いんダ」

 

 

501が拠点にしている建物内。

台所を中心に、4人は談笑しながら料理を作っていた。

水色軍服のエイラは、未来予測が出来ても料理が出来ないので見ているだけだが、楽しそうだ。

 

 

(サーニャの手料理♪ 宮藤とリーネのが混ざっちゃうけど、それでも楽しみなんダナ♪)

 

 

なんか失礼な事を思っているが、出来上がっていく料理に上機嫌だ。

ワンちゃんによって食糧が強奪されたが、バルクホルンと共に置かれていた食糧で調理している次第である。

尚、当のバルクホルンは絶賛気絶中で、撃墜されたシャーリーはガレージでユニットを修理中。

 

 

(ミーナ中佐の時は酷い目に遭ったけど、お陰でサーニャの手料理が食べられる。 ワンちゃんには感謝なんダナ)

 

 

ストーム・1も、人を救い食糧を奪い勘違いされ見損なわれ感謝されてと忙しい男なんダナ。

 

 

(ちょっと未来予測するか。 いや、料理が心配なんじゃないゾ。 このメンバーで失敗は有り得ないからナ。 ちょっと、そう、ちょっと結果が心配だから。 サーニャが包丁で怪我したりとか、そういう心配ダ)

 

 

ケモ耳と尻尾を生やして、固有魔法で未来予測をする。

只野とバルクホルンが吐血するというショッキングなスプラッターシーンを見せられた身として、色々と落ち着かないのは仕方ない。

 

 

「え……?」

 

 

して見えたのは。

 

 

「みんな! 今すぐココから逃げるんダー!!」

 

 

建物が爆煙に飲み込まれるビジョンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう遅い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ストーム・1は冷たく言う。

 

 

 

 

 

目線の先。

台所の外壁面には玉の様なモノがへばり付いていた。

 

高出力のビーコンだ。

発せられるシグナルは、約4km離れた只野まで届いている。

 

間に合った。

 

ミーナ達は……間に合わなかった。

 

 

───刹那。

 

 

 

 

 

ドゴォオオオオオオオオオオオンッッ!!!

 

 

 

 

 

拠点が巨大な煙で包まれた。

 

半径約16m。

プロミネンスミサイルのトップアタック。

それが台所の外壁のビーコン目掛けて急降下、着弾。

 

大爆発を起こしたのだ。

 

それは あくまでも、煙玉。

されど大きな音と煙。

圧倒的に加減されている……不思議と、いや本能でソレが分かった。

 

ストーム・1が勝ったのも分かる。

 

実戦だったら、大切な家族を1度に失っていた事も分かる。

 

 

「続けるか?」

 

 

背後で茫然とするミーナとハルトマンに言った。

 

 

「…………いいえ、降伏します……私たちの負けです」

 

 

2人は武装放棄。

 

して ミーナは なんとか。

なんとか震える声で言ったのであった……。

 




描写、難しいです……。
只野 成分、魔女絡み成分が足りないかもな回。
拠点を煙で包んだだけでありますし。

次回、停戦からの大惨事料理対戦(未定)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

32.ワールドギャップ、カエルにミエル。

作戦内容:
501を制し、取り敢えず落ち着いた。
次はEDFの話をしよう。
501にはまだ、話をしていないからな。
備考:
世界違えば、見え方も違うという事か。


大惨事料理大戦は、まだでした……。


ストーム・1と只野、501に勝利す。

 

圧倒的な武器を見せつけ、501の司令官ミーナは降伏。

他の面々も投降。

料理で血を見る阿鼻叫喚の悲劇から始まった戦闘は、これ以上の犠牲者を出す事なく平和的(?)に終結した。

遠く只野とも合流し、一同は拠点のブリーフィングルームとする部屋に集結していた。

プロミネンスによる大きな煙は風で流されて、とうに消えている。

建物の中にも少なからず入っていたが、換気して排除。

拠点運用に支障はない。

そんな中、着席する501の面々の表情は様々だ。

 

未知の片鱗を見せられ、未だ恐怖する者。

これから どうなるのか不安になる者。

ナニがなんだか理解出来ていない者。

騙されてショックを受けた者。

好きな人の料理の手が止まり、睨む者。

 

色々な感情が渦巻く部屋。

敗北者と勝者がいると、こんなにも息苦しいのかと只野は思った。

 

 

「皆、よく聞け。 無線で知らされたと思うが演習はEDFの勝利となった」

 

 

ストーム・1……ワンちゃんが宣言。

牽強付会である。

一応、野外演習として南の島に来ているので、軍規違反等の問題にしない為の言い回しだった。

 

だが……たった2人に負けた なんて。

 

改めてEDFとは。

ワンちゃんは、只野は何者なのか。

皆は疑問に思い、恐れ慄いた。

しかし怖くて誰も聞けない。

それを知ってか知らずか、ワンちゃんは話を続ける。

 

 

「さて演習の反省会を開きたいところだが、それよりEDFとは何者なのか、カールスラントの現状等を話したい」

 

「カールスラントッ!」

 

 

ここでガバッと起きるは、バルクホルン。

部屋の隅に寝かされていたが、祖国の名前に反応した様子である。

 

 

「バルクホルンさんっ、安静にしていて下さい!」

 

 

宮藤が慌てて寝かせに行くが、バルクホルンは構わず声を荒げた。

 

 

「ストーム・1! 私たちの祖国は、カールスラントは どうなっている!? エトワール作戦の時から……いや、その前から妙な噂が立っている!」

 

「トゥルーデ落ち着きなよ」

 

「お前は平気なのか!」

 

「平気なワケないじゃん」

 

「バルクホルン大尉、落ち着きなさい」

 

 

同国のハルトマンとミーナが宥めた。

ワンちゃんも、腕を組んで佇む。

静かにならなきゃ話さないぞー、という姿勢。

 

 

「ッ、すまない」

 

 

冷静を取り戻し、力なく座り込む。

国を、家を、家族を。

大切な者を傷付けられ、奪われてきた。

故に奪還への気持ちも強い。

 

 

「……バルクホルン大尉」

 

 

胸元を抑え、呟くペリーヌ。

家族を失い、国を追われる苦しみを。

祖国ガリアをネウロイに奪われ、皆が絶望と隣り合わせに生きた日々。

それでもガリアを奪還すると焦る様に戦い続けた。

だから、痛い程に気持ちが分かる。

 

 

「はい、静かになるまで15秒掛かりました」

 

 

シリアスを校長ネタで濁すワンちゃん。

1940年代の欧州で通じないだろオメーと只野は内心ツッコミを入れたが、

 

 

「……ッ! すまなかった……ッ!」

 

 

真面目魔女に効果は抜群だった!

目を伏せ、表情を暗くするバルクホルン。

通じるとこでは通じるもんだと、不思議な気持ちになる只野であった。

 

 

「カールスラントは現在、EDFの占拠下にある」

 

 

からの テンペスト直撃発言!

占拠下などと、ネガティブな単語を何故出したんだ!

只野は部屋の隅で荒ぶった。

皆はワンちゃんに集中していたので、見えなかったが、見えていたら狂乱者として距離を置かれていた だろう。

 

 

「占拠!?」「なんですって?」「どういうこと?」

 

 

案の定、カールスラント組が厳しい目を向ける。

EDFの印象が侵略者になったよ。 最悪だよ。

 

 

「EDFは異世界から来た軍隊なのだが、偶然にもカールスラント領に入り口が出来てしまってな。 そのままカールスラントを占拠していたネウロイを殲滅、土地を間借りしている状況だ」

 

 

テンペスト追加直撃!

異世界から来た軍隊という、頭がオカシイ発言に皆は硬直!

ヘッドバンギングする只野二等兵!

 

 

「その後はガリアのパリにいるネウロイに嫌がらせの砲撃をしたり、転進してくるネウロイを倒していたぞ。 エトワール作戦ではカールスラントにネウロイが逃げない様、栓の役割をしつつパリへ攻撃。 連合軍と共にガリアを解放した次第だ」

 

 

噛み砕けず、硬直しっぱなしの501!

ヘドバンが加速する只野二等兵!

その状況から、再びネタに走り場を和ませようと試みて無駄吠えする駄犬。

 

 

「いやぁな? 元の世界が宇宙人の侵略を受けてね。 お陰で世紀末で暗黒時代に突入して困窮し、厭世に感じている絶望世界なので。 この世界から糧秣等を分けて貰おうと侵略、じゃなかった、守りに来た次第なんだ。 笑えるだろう?」

 

 

笑えねえよ!?

侵略とか口を滑らせてるし!

宇宙人という単語が出て来てるし!

絶望世界を説明されて、笑えるか!

 

 

「あわよくば、この世界に移住しようとも考えている者もいるが。 ネウロイがいるからなぁ、それ以前にEDFに物資や土地を貰えるか怪しい。 でも安心してくれ、本部からはカールスラントからは近々出て行くと聞いたからな! カールスラントの民もボチボチ戻って来ているし、君たちも帰れるぞ! はっはっはっ!」

 

 

坂本少佐のように、高笑いする駄犬!

501、メデューサに見られたのか石化!

只野二等兵、ゲッタン状態!

あー、もう滅茶苦茶だよ。

どうしてくれんの、コレ。

 

 

「……ぷっ。 あははっ!」

 

 

そんな状態を破ったのは、新人枠の宮藤。

場を和ませようとするワンちゃんに吹き出してしまった。

皆の石化を解き、注目を浴びるも、笑みは溢れっぱなしだ。

 

 

「ご、ごめんなさい……ストームさんが頑張って説明してるのに……ふふっ」

 

 

身体を震わせて、笑いを堪える宮藤。

その様子にハッとして、皆も口が軽くなった。

 

 

「そうですわよ宮藤さん。 人が説明しているのに、笑うのは良くないですわ」

 

「そう言うツンツン眼鏡も、今は笑ってるじゃんか」

 

「これは宮藤さんに釣られて!」

 

「でもさ、宇宙人が侵略とか嘘だろ?」

 

「そうだー! 証拠を見せろー!」

 

「異世界からきたって言われてもねぇ?」

 

「で、でも。 武器や装備は見たこともないモノばかりだし」

 

「そうね。 エトワール作戦の話も、本当なら辻褄が合う部分もあるわ」

 

「そうだな。 どこまでが本当なんだ?」

 

 

皆が思っている事を言い合う。

只野もバグった動きを止め、苦笑した。

全部本当なのだが、信じてくれるかは微妙だった。

 

 

「全部本当だぞ。 証拠写真を見せる」

 

 

素直に言うワンちゃん。

証拠を提示しようと、宇宙人の歩兵部隊の写真を皆に見せた。

最初に地球に降下した、第1次地球降下部隊にもいたヤツらだった。

只野も、これで少しは信じてくれるかと思ったが、

 

 

「色付きの写真?」

 

「綺麗。 まるで世界を切り取ったみたい」

 

「でも……二足歩行のカエルじゃん、コレ」

 

「建物ぐらいの大きさがあるぞ」

 

「これが宇宙人?」

 

「はっはっはっ! 宇宙人はカエルの姿をしているのか! 泳ぎも上手そうだな!」

 

「おもしろーい!」

 

「ストームさん。 さすがにコレを信じろと言うのは……ちょっと」

 

 

皆、半信半疑というより……信じていない。

寧ろ笑われてしまった。

残念ながら、この世界の人間にはヤツらはカエルに見えるのだ。

しかし、ワンちゃん達EDF隊員には人間そっくりに見えている。

ジェネレーションギャップならぬ、ワールドギャップ。

 

 

「本当なんだがなぁ……俺たちの世界じゃ、コイツらや持ち込まれた侵略性外来生物、ロボット群と戦っていたんだが」

 

「外来生物?」

 

「象くらいの大きさがある怪物だ。 種類や亜種がいる」

 

 

そう言って別の写真を見せた。

そこにはαやβ、γ、飛行型と呼ばれる、象程の大きな怪物の群れが写っていたが、

 

 

「うわっ! 虫じゃんか!」

 

「デカッ!」

 

「気持ち悪い」

 

「大きなアリンコとクモ?」

 

「こっちのはダンゴムシか?」

 

「これは……ハチ?」

 

「捕まえるのはムズかしそー!」

 

 

アリだのクモだのダンゴムシ、ハチだのと言う。

気持ち悪い、怪物だと思うのは共通出来る様子だが、虫の話をする辺りから微妙にEDF隊員らとはズレていそうだ。

 

 

「……とにかく。 俺たちの地球はソイツらに侵略を受けた。 俺や只野が所属する組織であるEDFは地球を守る軍隊だから、戦った。 沢山の犠牲の果て、何とかエイリアン本隊は撤退してくれたが、まだ残存戦力が地球に残っている状態でな。 今も同志が戦い続けている」

 

 

憂いを帯びた口調に、皆は静かになる。

写真を見ても嘘や冗談だと思っていた501だったが、今の雰囲気から そうは思えなくなってきた。

 

 

「あの」

 

 

遠慮がちに手を挙げるリーネ。

 

 

「どうした?」

 

「EDFは、この世界に助けを求めに来たんですよね?」

 

「そうなるな」

 

「でも、寧ろEDFは私たちを助けてくれている気がします……連合軍は、何か助けてくれているのでしょうか?」

 

「リーネさん!」

 

 

少し のめり込んだ質問に、ミーナが咎める声を上げ「す、すいません」と謝るリーネ。

だが皆も気になってはいる。

話が本当ならEDFはエトワール作戦含めて、色々と欧州の為に戦ってくれている。

ネウロイの侵攻を食い止めたばかりか、カールスラントを奪還、ガリアも解放。

電撃的に一転攻勢、欧州を解放した。

なのに、知っている筈の連合軍はEDFを公にしていない気がする。

あくまで兵士の噂で止まる。

少なくとも501は知らない。

対してワンちゃんは、連合と違って濁す事なく答えてくれた。

 

 

「連合軍はEDFに良い顔をしていない。 我々の技術を寄越す様に言う他、カールスラントを占拠している批判、負傷兵を"無断で救助

"した事への文句ばかりだ」

 

「そんな!」「あんまりですわ!」

「ひどいよ!」「薄情だな」「恩を仇で返してる」「どうして」「助けるのが、そんなにいけないことなの!?」

 

 

ひどい、あんまりだと連合への怒りが湧き出す501の面々。

ブリーフィングルームは、ワイワイガヤガヤと騒がしくなった。

 

 

「お前たち、静かにしろ!」

 

 

坂本が一喝、静かにさせる。

自分たちも連合軍であり、その上層部に不信感を膨らませすぎるのは良くない。

今後の連携や集中力が乱れる。

そうなる前に早めに止めた坂本も、司令のミーナも思うところは あった。

あったが……上に立つからこそ、我慢した。

 

上にいる立場だからこそ、連合の欲望を痛感してしまう。

だからと、どうする事も出来ない。

501は、あくまで 連合軍の ひとつの部隊に過ぎないのだから。

ミーナも多少の人員、物資確保の為に書類上で根回し、工作する事はあるが、それらは連合の上層部が嫌がらせをしてくるからだ。

それらは子どもがするイジメではない。

大人のイジメだ。

何かとイチャモンを付けて、兵站削減、人員削減、厄介払いの捌け口にしてきたりするワケである。

だが、それは まだ理解出来る。

大人のイジメとは、如何に こじつけて反論出来ない様にするか という要素がある所為だ。

 

そうでなくても、自国からわざわざ貴重な戦力を手放す行為はしたくない。

故に統合戦闘航空団に人員を送りたくないのだし、物資も そうだ。

人員が送られても、政治的、問題児だから厄介払いで来た子もいる。

リーネは、訓練を終えたばかりの新人なのに政治的な理由で"エースを集めた"501に送られた。

シャーリーは勝手にユニットを弄る問題児で軍を除隊されかけていたところ、501への要請が来た為に送られる。

ルッキーニも、お母さんに会う為に軍を抜け出したりと問題児であり、同じように501に送られてきた。

また、設立時は別のウィッチが所属していた事もあるが、性格の問題や人間関係、政治家や上層部の横槍で離隊した。

 

EDFに関してはワンちゃんの話から想像するしかないが、今までの経験から似た様な嫌がらせをされていると安易に予想出来る。

最も、謎の技術を使う異界の軍隊とか危険だから関わりたくないと言う気持ちもあるだろうが。

 

ワンちゃんは、坂本が静かにしてくれた事に感謝しつつ、話を再開した。

 

 

「皆の気持ちは嬉しい。 だが、連合に迷惑を掛けているのは事実だ」

 

「そんな」

 

 

あくまで受け身な姿勢のワンちゃんに、皆から同情を買う。

余計に連合が憎たらしく、EDFが優しい……悪く言えばお人好しな軍隊な気がして来た。

 

 

「だからEDFは、カールスラントから別の場所に移動しようとしている。 技術提供も少しずつ行う。 それらを扱えるように訓練も施す」

 

 

それを聞いた只野は変な表情に。

基地で訓練をしていた兵士を思い出しての事だ。

EDF式の訓練はハードというよりカオスだ。

そも、難易度インフェルノで死者が出ないか心配なレベル。

 

もうあれ、自殺じゃね?

人間卒業試験じゃね?

 

そんな只野も人の事は言えない身体である。

この場合、同情するべきは訓練という名の自殺行為をやらされる連合軍兵士だろう。

 

 

「まぁEDFは連合軍じゃないからな。 互いに助けなきゃ ならないなんてルールは無い」

 

 

それでもきっと、ピンチの時。

EDFは。

この男は、何かを得る打算もなしに救いの手を差し伸べるだろう。

 

皆は何の確証もなしに、そう感じた。

 

 

「すまんな、暗い話をした。 それより今後の話をしよう。 料理だ」

 

 

ここに来て料理の話。

されど料理である。

 

トラウマを植え付けられた只野や一部のウィッチは、別の意味で黙り込む。

 

大惨事料理大戦。

 

そんな予感がして、只野は今すぐ無条件降伏をしたい気持ちになったとさ…………。

 




次回、またも悲劇の予感?

して噂のWDF計画は どうなるのか……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

33.火力で解決★大惨事料理大戦

作戦内容:
料理が出来る子に主菜等を任せた。
出来ない子には料理を教える。
いや……やった事は無い。
なんとかなるさ。 今までも そうだった。
備考:
EDF式ギャグ話。


誤字脱字報告、お気に入り登録、感想、いつもありがとうございます。 励みになります。


悪夢なら覚めて欲しい。

 

 

 

 

 

「料理が出来ないウィッチの為に、俺が基本を教えるから」

 

 

浜辺に集合させられた、料理出来ない面子。 俺も出来ないが隊長は出来るのか?

 

 

「分かりました」「サーニャの為なんだからナ」「男料理か」「ワンちゃん、出来るの?」

 

 

そう言うストーム隊長。

返事をする魔女たち。 なんかもうね、嫌な予感。

 

 

「只野、これを持て」

 

 

言われてグレランを渡された。

【ヴァラトル・ナパームZD】。

最終作戦仕様の、歩兵用ナパーム弾を発射する兵器だった。

 

 

「隊長」

 

「どうした」

 

「料理ですよね?」

 

「そうだ」

 

「なんでグレランがいるんですか」

 

 

聞きたくないが聞いてしまう。

未知とは恐怖である。

知らぬが仏という言葉もあるが、悲しいかな、人は知りたいと思う割合が高いのだろう。

 

 

「そりゃ火を通さないと危ないだろう」

 

 

予測可能、回避不能。

 

 

「オカシイでしょ!?」

 

「ナニが」

 

「ナニもかもです! 普通にメタルマッチとかで火を起こしましょうよ!」

 

「火力が足りなかったら危険だ」

 

 

オーバー過ぎる!

料理にナパーム弾使うのか。 聞いたことがない! 消し炭になるわ!

下手したらナニも残らんゾイ!

 

 

「そうだナ。 火を通すのは大切だと私も思うんダ!」

 

「そうね!」

 

「……ねぇ、坂本少佐。 あれって武器だよね?」

 

「ああ。 ストームから聞いたが、擲弾銃というヤツだな。 個人携行可能な、榴弾を遠くに飛ばす為の火器だそうだ。 アレもその一種だろう」

 

 

エイラとミーナが疑問に思わない!

対してハルトマンと坂本は首を傾げた。

半分はアウト、半分はセーフな魔女で綺麗に分かれたなオイ。

全滅よりマシだがな、隊長がアウトなので皆アウトだ!

 

 

「宮藤やリーネ、バルクホルンを連れて来ましょうよ! ね、ね!?」

 

「料理が出来る子をか? その子達は今、主菜を作っている。 邪魔しちゃ悪い」

 

 

邪魔してでも この場の邪悪を消したいんだよ!?

 

 

「俺たちが料理しなくて良いでしょう!」

 

「いつやるか。 今だろう」

 

 

殺られるッ!

それはハルトマンと坂本も分かる筈!

 

 

「ハルトマン、坂本、ウチの隊長を止めてくれないか!?」

 

 

そう言って振り返るも、誰もいない。

待て。 どこに消えた!?

 

 

「ああ、2人は腹を抱え始めたからな。 女性に詮索したら悪いと思い、そのまま転進させたよ」

 

 

逃げやがった……!

後で覚えてろよハルトマンに坂本!

 

 

「さあ只野! ヴァラトル・ナパームZDで適当な場所に着弾させて火を起こしてくれ!」

 

 

着火ではない、着弾である。

色々オカシイだろ、料理の域じゃねぇ。

 

 

「くそっ! どうにでもなれ!」

 

 

俺は可燃物の無い浜辺に発射。

ナパーム弾により、轟々と浜辺で燃え始める炎。

世界の照度を遥かに上げ、温度も上げていく。

汗が出てくるが、冷や汗だろうなコレ。

 

 

「これだけの火力だ。 負ける気がしない」

 

 

ナニと戦っているんですか隊長!?

火力の意味、戦闘と混ぜ混ぜしてない!?

 

 

「もう少し火力を上げた方が安心じゃないかしら?」

 

「ミーナ中佐? アレは料理に使う火力じゃないと思うんダ」

 

 

エイラの言う通り、意味が分からないです!

あのさぁ、料理に使う食材選びがガバガバなだけでなく、火の調整もメラメラなの?

出来上がるのが汚物から炭になっただけだよね?

 

 

「分かった。 【フレイム・カイザー】を渡す、それで」

 

「火炎噴射器を射出する銃でしょそれ!? 必要あるんですかね!?」

 

「じゃあ【火炎放射器】を渡す」

 

「じゃあってなんですか!?」

 

「フェンサーの火炎放射器は使えないだろう?」

 

「バーナーで炙る方が健全ですよ!」

 

「なら【FZ-GUN MD】を使う」

 

「凄まじい火炎を放射するセントリーガンでしょソレ!? 火力の問題を指摘しているんですよ俺は!」

 

「仕方ない。 空軍に要請する」

 

「料理を作るのに空軍呼ぶなよッ!?」

 

 

火力を上げるな。 下げろやおい。

俺の叫びも虚しく。 無線機を取り出して、素早く座標伝達を行うウチの隊長。

技術は凄いのに。 ここが変だよEDF。

 

 

「重爆撃機ウェスタにナパーム弾を投下して貰う。 【プランW2】だ。 火力の問題はコレで解決だ」

 

「上げるな落とせ!?」

 

「落ちるぞ」

 

「ナパーム弾がな!」

 

 

言い終わるが早いか、上空を大型の爆撃機が2機横切る。

 

 

『投下ッ!』

 

 

無線からパイロットの声が。

その流れで大きなフットボールのようなナパーム弾が投下、着弾。 劫火かと思わす炎が轟々と生まれた。

 

 

『突入には危険が伴う。 気安く呼ぶんじゃないぞ』

 

 

去っていく空爆機。 ごめんよ。 料理の為に呼ばれたんだよ君。 気安い英雄でごめん。

 

 

「おお! EDFの航空機や爆弾、練度ってスゴいんだナ。 只野が着弾させた場所を中心に燃える正確な投下ダ」

 

 

エイラが褒める。

うん。 それは嬉しい。 EDFのパイロットの腕や機体のシステムは凄いと、俺も思う。

減速しているだろうが、高速で飛行しながら爆弾の正確な投下だもの。 きっと至難の業ではないだろうか。

してエアレイダーの、ストーム・1の空爆座標伝達技術も。 ソレに関しては無線機越しに口頭だからな。

それなのに一瞬で、早口で座標を正確に伝える。 結果はコレだ。 狙った場所に しっかりと投下。 改めて空軍とストーム・1の連帯は凄まじいと感じるね。

でもさ。 これ、料理なんだぜ。 信じられるか?

 

 

「そうだね、俺もそう思うよ……ハハッ」

 

 

炎に乾かされた笑みが零れる。 水分下さい。

 

 

「こんなの見せられたら、いよいよEDFを信じるしかないわね」

 

 

ミーナが言う。

そうだね。 信じてくれ。 でも料理と認めるのは止めろ。

 

 

「他にも火力を上げる術はあるが、ここまでにしておこう。 早く料理を作り、消化に良いものを作らねばならない」

 

「なら希塩酸を用意しなくちゃ」

 

「中佐、それはマズいと思う色々と」

 

 

笑顔のミーナ。 噂の希塩酸料理。

これにはエイラもドン引き。 僅かな良心を感じたよ。

だが殺される。 本能が警報を鳴らす。 かつて体験した絶望を上回る絶望感が俺を襲う。

 

 

「希塩酸はダメだ」

 

 

ストーム隊長……!

流石にソレは隊長が止めた。 そうだよな。 希塩酸を使うとか頭オカシイよな。 変だという事を言ってたワケだし。

α型じゃないからな俺ら。 現在時点で頭オカシイけど。

 

 

「だが消化を良くする案は悪くない」

 

 

もうやめて! ぼく聞きたくない!

 

 

「コレを使え」

 

 

して渡してくる大きな水鉄砲のような銃。

上のボトルには黄緑色の液体が詰め込まれている。 ゲロみてぇで嫌過ぎる。

特殊な武器だろう。 特殊な状況下だもん。

 

 

「【アシッドガン】だ。強酸を射出する特殊装置。 強酸を連続発射する」

 

「モォオオオオヤダァアアアア!!」

 

 

絶望……ッ! 圧倒的絶望……ッ!!

こんなの料理じゃないわ! ただのインフェルノよ!

なんで酸がダメな発言しといて、更に上回る酸を使うの。 絶望を体験し過ぎてマゾになったの? ゴールデンα目指してるの?

 

 

「だったら要請すれば良いか」

 

 

して発煙筒を投げる隊長。

赤い煙がモクモクと空に上がる。

直ぐにやってくる輸送機ノーブル。 ジェットだがブイトールってヤツか……エンジン部分の向きを変える事でホバリングも可能。

このノーブルのお腹には、EDF印の大きなコンテナを抱えられる。

 

 

『コンテナ投下!』

 

 

してナニが入っているのか知らないが、ソレを投下して逃げる様に飛んでいくノーブル。

 

 

『整備は万全だ! 確実に運用出来る!』

 

 

確実に殺されるよ俺、このままだと。

腹の整備不良だから俺を乗せてって、お願い。

 

 

「スゴい。 ジェットがあんな起動を取れるなんて」

 

「コンテナが消えた!? へ、中から戦車が出てきた! 魔法!? 魔法なのカ!?」

 

 

驚くミーナとエイラ。 俺も詳しくは知らない。 見慣れたモンだから驚かない。 なんなら今、絶望しているまである。

して現れるはブラッカー戦車だった。 料理に戦車。 謎の組み合わせである。 どうしようと言うのだね。

 

 

「【メルトバスター】だ。 見た目はブラッカーだが、溶解液噴射砲(メルトガン)を搭載した特殊戦闘車両だ。 市街戦用に開発された兵器だが………料理に使えんコトはない。 使おう」

 

「サンダー! コレはサンダアアアア!」

 

 

絶叫! 不勉強な俺には、市街戦で酸を使う理由が思いつかないが、開発陣は料理に使われるとは、まさか思わなかっただろう!

 

 

「まあ! トロける美味しさを目指しましょう!」

 

 

アシッドベーカリー!?

笑顔で手を頰にやるミーナ。 感覚が最早分からない。 分かりたくもない。 抱き枕カバー風ハンマーを振り回すフェンサーの方が理解出来る。

 

 

「なんか、未来予測しなくてもヤバそうダナ。 ストーム・1、私、転進して良いか?」

 

 

腹を抱えるエイラ。 汚ねぇぞ! 逃げようとする腹だな貴様ッ!

 

 

「撤退を許可する」

 

「なら俺も!」

 

「踏み留まれ! 作戦を続行しろ!」

 

 

本部みてぇな事言うなよ隊長さんよぉ!?

あと勘違いするなよ。 原因は お前だ!

 

 

「まだ食材すら出していないんだぞ」

 

「これだけの火力で、一体ナニを調理するんです! 怪生物ですか!?」

 

「コレだ」

 

 

取り出すは現代の食べ物。

平和な時は国民食だった、カップヌードルだった!

 

 

「フザケンナ!? お湯注いで3分待つだけのシロモノじゃねーか! 副菜がコレかよ! それから振る舞うのに火器使うなよ!?」

 

 

お湯作れば良いのに、兵器をじゃらじゃらさせて どうするんだ この英雄は!

 

 

「お湯注いで3分待つだけ? EDFの世界は食材も便利なのね!」

 

 

ミーナは言う。 カップヌードルはこの時代にはないだろうから仕方ない。 便利なのも同意する。

でもな。 料理や食材扱いして良いか問われれば、否定しておこう。 アレンジレシピがあるなら食材扱いにしても……いや。 今は そうじゃない。

 

 

「火器はいるだろう。 お湯を作るのに」

 

「蒸発するわ!? 出た湯気で蒸して作る気か!? だとしても色々間違えてる!」

 

「湯気。 そういえば酸でも湯気が出ていたけど、出来立てって感じで良いわよね♪」

 

「溶けてんだよ! そんなモン体に入れてみろ、内臓が溶けて吐血するぞ!?」

 

「まぁ……そうだったの。 もう使わないようにするわ」

 

 

食をなんだと思ってるんだ コイツら!

あと気付け。 希塩酸を料理に使うな。 もっと意識した顔をしろ。 部下を危険に晒してたんだぞ。

 

 

「今回で学んだわ。 火を通せば大丈夫だって事に」

 

「ザケンナやゴルワァ!? 火の意味が違うわコレ! あと原始的なところで感心するな! それにブツ次第じゃ通しても解決しねえよ! 毒は毒なんだよ!」

 

 

もうヤダこの人たち。 逃げたい。 基地に帰りたい。 そこにあるレーションで過ごした方がマシだもん。

 

 

「カップヌードル嫌いだったか?」

 

「好きですけど、作り方は好きじゃない!」

 

「ならコッチも作ろう」

 

 

取り出したるは、銀の袋。 表面にはレトルトカレーの文字。

 

 

「湯煎するカレーだ、同じ3分」

 

「カレーなら良いワケじゃないでしょ!?」

 

「ソラスパンが良いのか」

 

「そういう問題じゃない!?」

 

「ワガママだな。 そんなんでは生き残れないぞ」

 

「むしろ死にそうだから! 火力の強さに巻き込まれるかもだから! もっとクールな選択してよ、お願い!?」

 

「空爆はクールじゃないのか……まぁ、前哨基地破壊作戦の時、空軍はロックンロールと叫んで突入、空爆していたからなぁ」

 

「格好良いという意味ではクールでしょう。 でも料理に使う火力じゃない!」

 

「そうか。 安全に焼けば満足か」

 

 

そういうと、またも赤いスモークを焚く隊長。 今度はナニを要請した、言え!

 

 

「【ニクス レッドガード】を要請した」

 

「コンバットフレームを要請するなゴルワァ!?」

 

 

叫んでも無慈悲に飛来する輸送機ノーブル。

いつも通りコンテナ投下。 いつも通り消え失せる。

して中から燃えるように赤いニクスさんが。 赤いヤツは強いに決まってる。 実際、コイツは近接戦闘特化型のレッドボディ最終系だった筈。

両手にはコンバットバーナーが握られていた。 料理に使う火力じゃない絶対。

 

 

「搭乗しろ。 特例だ」

 

「特例過ぎる!?」

 

強化外骨格に守られながら焼けば問題なかろう。 武装もバーナーだ。 心配なら【ガードポスト】も付けておこうか?」

 

「装甲や耐久性の話じゃねえよ!」

 

 

なんで。 なんでこの人達は こうなの?

どういう生活してたら こうなるの?

実は侵略者どもに、脳を侵略されてんじゃねぇの?

 

 

「機械の巨人? EDFは調理器具も凄いのね」

 

 

ミーナが言う。 コレを見て調理器具扱いですかそうですか。

ギガンティックアンローダーバルガ初見が、作業用クレーンと言われて驚くなら分かるが。 見た目が力士ロボットみたいだから。 歩くし。

 

 

「もう……ゴールしても良いよね?」

 

 

うなだれた。 諦めの境地だよ。 EDFって変態や変人が多いのは知っていたけど。

でもウチの隊長は英雄級だ。 比ではない。 理解が出来ない。 付いていけない。

この世界の人間である筈の、501の司令官ミーナ中佐もオカシイもん。 この惨事を見て、どうして変な感想ばかり吐ける?

 

 

「只野、ニクスの前に武器箱を置いた。 その中にカレーとカップ麺が入っている」

 

 

力なく前を見た。 戦場で時々転がっていた、EDF製の緑の箱が置いてある。

 

 

「バーナーで焼け」

 

「了解ッス、ハハッ」

 

 

めーれーなら、しょーがないね!

俺はナニも悪くないもんね!

 

 

「焼きまーす」

 

 

自暴自棄になりながら。 半分白目を剥きながら。 俺はニクスさんに搭乗、バトルシステム起動。 メインモニターに映る緑の箱をセンターに捉えて、

 

 

「ファイヤ♪」

 

 

いつかの無線で聞いた、科学班のサテライトお姉さんの声風に左右のトリガーを引く!

刹那、左右のコンバットバーナーから火炎が噴き出る。 緑の箱は 瞬く間に包まれ、見えなくなってしまった。

 

 

「よし、もう良いぞ」

 

「もう1度、撃っても良いッッ!!」

 

「狂乱するな。 サテキチ姉さんで十分だ」

 

 

誰のせいだ、誰の!!

 

 

「サテキチ?」

 

 

サイドモニターで、ミーナが首を傾げている。 お前はEDFの事より正しい料理を知れ!

 

 

「EDFの話だ。 ミーナは知らなくて良いぞ」

 

 

今の俺さぁ……アヘェな顔をしている自信があるね。 キまってるね。

でも命令なら仕方ない。 噴射を止める。

火炎が引く。 俺は引き過ぎてふたりを轢きたくなる。

そう思い、操縦桿を操作しようとすると。 なんと、一切溶けていない武器箱が姿を見せた。 緑塗装面も そのままだ。

 

 

「へ? なんで? 武器箱強過ぎィッ!」

 

「EDF製の箱は強い。 ちょっとやそっとじゃ壊れない。 まぁ……基地の軍曹ちゃんの料理には耐えられなかったが」

 

 

悲報:軍曹ちゃんの料理、コンバットバーナー超え。

そんなヤベェのを俺は喰わされたのか。 もう俺、人間なのかなぁ?

 

 

「軍曹ちゃん?」

 

「EDFの基地にいるウィッチだ。 元はカールスラント空軍。 撤退戦の時に墜落、只野が救助。 以降、行動を共にしている」

 

「そうなの。 原隊への復帰は大丈夫かしら?」

 

「瓦解しているらしい。 どこも大変だろうがな」

 

「私も原隊は もはや名前だけで……皆、無事かしら。 各方面の国に逃げたのだけど」

 

「大丈夫さ。 カールスラントは既に人類領だ。 いつか会える」

 

「ストームさん、ありがとう」

 

 

料理終わったのかな? 俺、撤退して良い? 部隊が瓦解してると思うんで。

 

 

「よし、武器庫を開けるぞ」

 

「とっても楽しみ!」

 

「ナニが楽しみなんですか。 今の攻撃で料理が出来るわけ…………出来てるうううう!?」

 

 

隊長の手には、出来上がったカレーライスとカップ麺が!

カメラ最大望遠! うん、間違いなく平和な時に見た完成されたカップ麺とカレーライスだった!

 

 

「なんでだあああ!? なんで今ので出来上がったんだああ!? 魔法か、魔法なのか!?」

 

「大袈裟だぞ。 電子レンジやオーブンだと思えば良い」

 

「EDF謎の技術だとでも言うのか! ワンマグ3桁の装弾数を可能にするもんな! 4次元ポケットみたいなのとか! サポート装置も仕組みは謎だし!」

 

「只野お前……疲れてるんだろう。 すまないな、少し休め」

 

「只野さん、ごめんなさい。 料理に付き合わせてしまって」

 

 

認めない。 俺はコレを料理とは認めない。 してこの理不尽な世界を認めない。

元の世界でも理不尽だったが、コレは別の次元だ。 世界が違うという意味でもだ。

…………ふぅ。 落ち着け。 クールになれ。 火炎のオンパレードで俺の脳がオーバーヒートして侵略されそうになった。 危ない危ない。

 

よし。 落ち着いて来た。 少し休めば、気持ちも完全に落ち着くさ。 ハハッ!

 

 

「大丈夫です。 ただ、少し休ませて下さい」

 

 

そう言って俺はその日、テントに横たわり眠りについた。

 

 

 

翌日。

清々しい朝! 清々しい気持ち!

まるで生まれ変わったようだ!

あっ、そうだ(唐突)。

皆の為に朝ごはんを用意しなきゃね!

 

 

「さぁて! コンバットバーナーで目玉焼きを作るゾ★」

 

「大変だ! 只野がミーナとストームに洗脳されたぁ!!」

 

「誰か来てー!?」

 

 

バルクホルンにハルトマン。

どうしたんだね、悲鳴を上げて。 俺は いたって健康で健全だよ?

だってEDF隊員だからね! ちょっとEDF式は刺激的かも知れないけど、いつか君たちも俺みたいに楽しい隊員になれるサ!

 

 

 

 

 

その後。

俺の記憶は途絶えている。 ただ501の常識人チームの奮戦により、洗脳が解けた事は知らされた。

 

洗脳……? 何のことだ?

上手く思い出せない。

料理……火力……大惨事……ウッ! 頭が!

 




EDFの"火力"は色々ありますよね、他にも……。
WDF計画の話とか、ウォーロック戦とか無知だけど書かないとなぁ……と考えていたり。 EDF式で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

連合軍新兵器ウォーロック事件
34.潜水母艦エピメテウス浮上! 新兵器ウォーロックを撃墜せよ!


作戦内容:
非常事態発生!
501基地に駐在するマロニー空軍大将の【第1特殊強襲部隊】が運用する新兵器が暴走した!
【ブリタニア501統合戦闘航空団基地】及び航行中の扶桑海軍空母【赤城】が新兵器による攻撃を受け、危険な状況下だ!
猶予がない。 最も基地に近い偵察部隊【スカウト】は基地に突入、第1特殊強襲部隊を無力化、マロニー空軍大将を拘束。 抵抗するようなら射殺許可。
直ちにバックアップチーム【Storm2】投入。 スカウトを援護させる。
南島にいる【Storm1】は只野二等兵と501JFWの指揮を執り、現場に急行。
連合の新兵器【ウォーロック】を撃墜せよ!
備考:
海軍の支援も受けられる。


グダグダかも……。


ブリタニア501JFW基地近海。

 

空を飛ぶ謎の飛翔体。

それはウィッチのユニットを組み合わせた見た目をした無人戦闘機。

動力は なんとネウロイのコア。

連合の、それもマロニー空軍大将によって極秘裏に進められていたネウロイ研究による成果だ。

 

ウォーロック。

恐らく魔術師からきているのでは、という名を与えられているソレ。

本当は何機か生産し、制御出来る様になってから実験的に投入、その有用性を上層部にアピールして量産。

してマロニーちゃんは、あわよくば世界の覇権を握ろうという野望があった。

が、しかし。 EDFの登場でカールスラントもガリアも解放された。 この実績、それを可能にした技術力や実力は上層部も認めるところにある。 実に面白くない。 これではEDFに覇権を奪われてしまう。

焦ったマロニーちゃんは、計画を前倒しにして、たった1機のみで実験運用開始した。

 

正史だと勿論違う。

501の宮藤軍曹がウィッチ型ネウロイと出会ったり、ウォーロックを見たりと、マロニーちゃんに都合の悪い事が起きた。

マロニーちゃんは宮藤が独断で動いた件を理由に501を解散させてしまう。 宮藤は命令違反等もあり、不名誉除隊の扱いに。 そこからは501のメンバーがバラバラになるのだが……というのが大雑把な流れだ。

この作中では、そんな悲しい事は起きていない。 代わりにスカウトがマロニーちゃんを遠くから監視。 これはカールスラント組がやっていた事に似ている。

ボロが出たら、もしくは隙があれば基地に突入、逮捕する計画なのだ。

 

 

「こちらスカウト。 基地から1つの飛翔体を確認。 例の戦闘機……ウォーロックの実験を開始したのかと思われます」

『こちら本部。 了解した、引き続き監視を続行せよ』

「了解」

 

 

さて。 そのたった1機のウォーロック。

歴史の修正力なのか、制御が不可能になり暴走。

 

 

「なにか様子が変だ……赤く光った!」

「基地を攻撃したぞ!?」

 

 

なんと501基地をビーム攻撃。 敷地の一部が吹き飛ぶ。 挙句に近くを航行中の扶桑海軍空母【赤城】にもビーム攻撃をする大惨事が発生。

 

 

「本部! 本部! 非常事態発生! ウォーロックが暴走! 基地を攻撃した! 近くを航行中の扶桑海軍空母、赤城にも攻撃!」

『なんだと!?』

 

 

遠く海の方。 赤城の脇腹で大きな水柱が立ち上がり、船体が大きく揺れている。

直撃こそ免れたが、耐ネウロイ装甲ではない。 旋回して戻ってくれば、飛行甲板なんて簡単に貫かれる。

次こそ撃沈させられる。 待っているのは海の藻屑。 そんな危険が差し迫っていた。

 

 

「味方じゃ なかったのかよ!」

「ビームだと? ネウロイなのか!?」

「なんなんだアイツは!」

「速いぞ!? なんて動きだ!」

 

 

歴戦のEDF隊員、それも多くのバケモノを観察してきたスカウトすら、その戦闘能力の高さに驚いた。

戦う羽目になれば、PA-11しか所持していない偵察部隊なんて瞬殺だ。

 

 

『こちら本部! バックアップチーム【Storm2】を投入する! スカウトは先行して基地に突入しろ! 第1特殊強襲部隊のマロニー空軍大将を拘束! 抵抗するようなら射殺を許可する!』

「スカウト了解ッ!」

「偵察部隊の仕事じゃない!」

「仕方ないだろう、人手不足なんだ! その分、仕事は増えるに決まってる!」

「この世界に来てから働きっぱなしだ。 次の休暇は いつ貰えるんだ?」

「文句言うな! 【Storm2】が来てくれるぶん、ありがたいと思え!」

「了解!」

 

 

EDFの軍用バイク【フリージャー】に跨り、基地へ急行するスカウト。 上空ではウォーロックがビームを乱射。 いくつかはスカウトの周囲に着弾して砂塵が舞うも、突き破り なんとか進む。

 

 

「くそっ、砂が口に入った!」

「直撃しなかっただけマシだ!」

「だが俺たちも危険だぞ」

 

 

再びビームが着弾。 フリージャーがよろけるも、素早く姿勢を立て直す。

普通なら横転してもおかしくないが、この隊員らは使い慣れているようだ。 しかし、いつ被弾するか分からない。 狙われたらアウトだ。

 

 

「後方にいるウィッチの曹長ちゃん、軍曹ちゃんを呼ぶ!」

「あの2人で対処出来るヤツじゃない!」

「偵察機代わりの子らか!」

「軽装だぞ!?」

「時間稼ぎにはなる! 本部にも連絡する!」

 

 

地面がデコボコしている中、上手く姿勢制御しつつ無線を再度飛ばすスカウト。

 

 

「本部! ウォーロックが暴れて危険だ! 対応する部隊を要請する!」

『既に向かわせている。 お前達は構わず基地へ向かえ』

 

 

どうやら本部も承知し、対処部隊を用意していたらしい。 この本部は多分有能。

 

 

「了解」

 

 

無線を続けながら、大地を駆け抜けるフリージャーバイク群。

軍用バイクなので出力も高く、装甲も施されている。 ウォーロックは強敵だが、なんとか撒けるチカラは持っていた。

 

 

「基地に突入したら、なりふり構わず司令室を目指すぞ! 陸戦隊、憲兵などの防衛隊が出しゃばってきたら蹴散らす! 第1特殊強襲部隊も同様だ!」

「イエッサー!」

「EDFッ!」

 

 

スカウトが501基地へ向かう中。 南の島にいるStorm1達は というと…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、俺たちはヘリ移動ですか」

 

 

南の島から飛び立つ2機のヘリコプター。 EDFの最終作戦仕様大型武装ヘリ【HU04ブルートSA9】だ。 パイロットは勿論、EDF隊員のストーム・1と只野二等兵である。

背後の搭乗スペースには、501のメンバーが缶詰状態。 輸送ヘリじゃないので仕方ないが、ユニットや武装を載せたので狭苦しい。 今、中でメンバーの声が飛び交っている。

 

 

「ヘリコプターとやらに初めて乗ったけど! お陰で大嫌いになりそうだ!」

「ちょっと誰だ! 私の お尻触ったヤツ!」

「ごめんなさいエイラ」

「サーニャ!? サーニャなら、い、良いんダナ」

「うぅ〜、狭いよシャーリー!」

「少しの辛抱さ」

「皆で、おしくらまんじゅう をする日が来るなんて」

「お前たち! 静かにせんか!」

「坂本少佐の仰る通りですわ!」

「ストームさん、只野さん。 ごめんなさいね」

 

 

騒がしい荷物。 叱る坂本。 謝るミーナ。

これも現場までの辛抱だ。 とはいえ、EDF側が振り回している部分もあるので申し訳なく口にする只野とワンちゃん。

 

 

「気にしないで下さい」

「謝るのは寧ろ此方だ」

 

 

尚も青空をオーバーテクノロジーが飛ぶ。

こうなったのも、マロニーちゃんとウォーロックの所為だ。

元々、それら対処の為のバックアップであるから、使われるのは仕方ない。 だが、なるべくなら起きて欲しくなかった事態。

 

そんなワケで突然、501基地近海で暴れている新兵器ウォーロックを撃墜せよと命令を受け、島を離陸した御一行。

現場の501基地近辺まで距離がある。 島から出撃するので空路を使うのだが、ウィッチの飛行ユニットを使用しても魔力切れで辿り着けないか、着いても戦闘可能時間が僅かだ。 2人のEDF隊員に関しては歩兵である。 空は飛べない。 仮にウィングダイバーでも飛行可能時間的に 言わずもがな。

そこで要請されたのがヘリコプターのHU04ブルートSA9。 輸送ヘリ代わりという訳だ。 11人を2組に分けて凄い無理矢理詰め込んで運んでいる。

ヘリ自体は、それでも機動力の低下は大きく起きなかった(元々悪いが)。 ドーントレスSA重機関砲という大砲みたいな機関砲を左右に付け、加えて重装甲だ。 空の要塞と言われるだけありパワーは凄い。

そんでこれ、レンジャーの只野が要請した。 といってもストーム・1……ワンちゃんから発煙筒を貰って、代わりに投げただけだが。

 

 

「なんで俺が要請を。 ストーム隊長で良くないですか?」

「俺じゃ【N9エウロス】系以外のヘリを要請する許可が下りない。 だから、お前に頼んだ」

「発煙筒を渡しただけじゃないですか」

「気にするな。 EDFの良く分からん決まり事さ」

「はぁ」

 

 

無線で会話しつつ、並列して空飛ぶ要塞。 コックピットで只野は首を傾げるも、操縦桿を握り直した。

メタい事を言えば、EDF5の要請問題だ。 ビークルの要請はエアレイダーとレンジャーの2種兵科が行えるのだが、それぞれにしか要請出来ないビークルがある。 ブルート系はそのひとつ、という事だ。

 

 

「ヘリコプター。 垂直離着陸可能な航空機、か。 輸送機ノーブルという機体もそうだったが滑走路がいらない分、様々な場所で運用出来そうだな」

「でもこれ、そんなに早くないよー?」

「それでもだ。 魔力を消費せず、人員や物資を運べる。 それも場所を選ばない」

 

 

バルクホルンとハルトマンが狭い中で言う。 場所を全く選ばないワケじゃないが、滑走路を必要としないぶん、運用の幅は広いだろう。

 

 

「すまないな お客さん方」

「げっ、聞こえてた?」

「まぁな。 EDFの無線は優秀だろ?」

「そうだね、あはは……余計な事は言えないな」

「とにかく急ぐ。 行くぞ只野」

「了解です!」

 

 

バリバリバリと、異界のローター音が空に響く。 到着まで少し掛かるが、スカウト達だけで持ち堪えられるのか……!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

501基地周辺空域

 

 

「新しいユニット! 新しい武器! 連合の新兵器なんて倒してやります!」

 

 

そう意気込むは空飛ぶ軍曹ちゃん。 手にはレンジャーの武器【M1レイヴン】アサルトライフルが握られている。 PA-11より小型で、縦グリップが付けられている。 取り回しは良さそうだが、ウォーロックに有効なのだろうか?

 

そんな軍曹ちゃん。 スカウトのバックアップとして、曹長ちゃんと共に501基地周辺空域で待機していたのだが、出番がやってきた。

先発隊のスカウトから、ウォーロックという新兵器を足止めするよう言われたのだ。

後から来るという、もうひとりの軍曹さんの為にも、何より只野さんの役に立ちたいと やる気である。

 

 

「軍曹、先ず相手の出方を見ないと危険だ」

「曹長さん、EDFの兵器は強いんです。 ゴーグルも貰いましたし、きっと大丈夫ですよ!」

 

 

ゴーグルを人指し指でコンコンと叩いてみせる軍曹ちゃん。 半透明で、ワイドが横に広い。 スキーゴーグルのような見た目だ。

これでEDFの隊員達に見えている機能を軍曹ちゃん達も使えるように。

センサーや照準、武器残弾等が表示される事で戦い易くなった。

 

 

「装備に頼りきるな」

「訓練もしてきましたから。 【ウィングダイバー】のお姉さんにも教わった機動もありますし、ユニットもEDFの部品が使われてます。 お陰で魔力消費を抑えつつ、機動力が向上しました!」

 

 

曹長ちゃんの心配をよそに、ウィングダイバーのような機動……ブーストによる加速や、空中ローリングのような、素早く態勢を立て直すクイックリカバリーの機動をして見せる。

 

 

「ほら! 今までのユニットじゃ、ここまで出来ませんでした。 でも、これなら どんな敵が来ても勝てそうです!」

「そういった慢心が、命を落とす事に繋がるんだ! 気を引き締めろ!」

「了解ですッ」

 

 

曹長ちゃんが一喝、返事をする軍曹ちゃんだが。 ニヤついた表情から、浮かれているのは明らかだ。

この状況は危険だ。 EDF製の武器を持たされているとはいえ、軽装である。

渡されたM1レイヴンは新型と聞いているが、あくまでPA-11と比べたらの話。 ソレを直接言われてはいないが、曹長ちゃんは何となく分かる。

 

EDFの武器レベルには、もっと上がある。

して、これは"旧式"アサルトライフルだ。

 

EDFは物資が潤沢そうで、そうじゃない部分もある。 新兵器などがそうだ。

歩行システムが壊れたニクス等を修理施設に送らず、トラックの荷台に乗せて砲台として再利用しようと したくらいだ。 新兵器を開発する余裕が無ければ、修理する設備もないのだろう。

いや。 あるとしても数が足りていない。 道具も部品も、なにより人も。

なら、偵察任務に代えの効き難い、数が多くないだろう新兵器を渡すだろうか?

EDFは兵士を使い捨ての駒にしない組織。 もしそうだとしても、苦渋の決断の末だ。

それは何となく、曹長ちゃんは肌に感じている。 だが懐事情はある。 それを否定する気はないが、死ぬ気はない。

曹長ちゃんは、最悪は自分が盾になってでも軍曹や皆を守ろうと覚悟する。 して、ゴーグルに映るセンサー反応から声を出した。

 

 

「まもなく戦闘になる。 私の後に続け!」

「了解ッ!」

 

 

敵より高度を上げ、一撃離脱戦法を取ろうとする2人。

だが、ウォーロックは そこらのネウロイとは違うという事に、この時の2人はまだ知らない…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリタニア周辺空域

 

レンジャー4人組は、本部の命令により武装ヘリHU04ブルートSA9で移動していた。

彼等が考えた移動方法はStorm1と一緒のようだ。 だが、こちらは左右のドーントレス重機関砲を隊員が操作している。 迎撃態勢は整っていた。

 

 

「万が一、ウォーロックとやらが向かってきたら、直ちにドーントレスで迎撃しろ」

「「了解」」

 

 

隊長兼パイロットの"軍曹"が指示を出し、彼の部下が了解した。

センサーを厳とし、ガンナーも目視で周囲を見回して警戒する。

 

 

「つってもよぉ、ヘリで空中戦はキツイだろ!」

 

 

部下のひとりが、ぶっきらぼうに言う。 対して他の2人が宥めるように言った。

 

 

「移動中だからな。 他にどうしようもない」

「抵抗出来るだけマシです」

「まっ、しょうがねぇ。 その時は その時か」

 

 

考えても仕方ないと、再び銃座に集中する部下達。

ヘリの機関砲で空中戦は難しい。 ドーントレス重機関砲の旋回能力、連射能力は低く、素早く空中で動き回る航空機類を撃墜するのは困難だからだ。 射角等の制限もある。

だが数々の死線を潜り抜けた優秀な隊員らである。 特にこの者達は【かの者】を倒すのに一役かった者達。 襲われても何とかするし、きっと生き延びる。

 

そんな彼等はStorm2。 EDF隊員の多くは知っている精鋭部隊。 通称軍曹チーム。 レンジャー兵科の部隊だ。

チームリーダーの軍曹と、3人の部下から構成される。 装備は部下3人はスタンダードなPA-11であるのに対し、軍曹は【ブレイザー】と呼ばれるレーザー銃を使う。

これは山を一瞬で消滅させる高圧エネルギーを生成、照射する原子光線砲【EMC】の約10〜12%の出力を持つ。 ネウロイのビームよりヤバいんじゃないか。

 

さて。 EDF隊員なら【Storm】を知っている方は多いだろう。 EDF伝説の遊撃部隊だから。

EDFシリーズに出てくるchord nameであるが、EDF5のStormは、4つの部隊(或いは個人)で分ける事ができる。 Storm2は、そのひとつに当たる。

チームリーダーの軍曹の持つブレイザーは強力だが、彼本人もまた、能力の高い隊員。 洞察力に優れており敵の攻撃パターンや弱点、それらに対する攻略法を確立させてきた。

開戦から5ヶ月程経ち、撃墜方法が未だ分からなかったテレポーションシップを撃墜する事に成功させ、戦術的な行動を見せるエイリアン歩兵部隊の癖から、戦術の講義を行ったりしてきた。

また、民間人時代のStorm1を助け、入隊した後も度々作戦を共にしてきた。 恐らく1番、Storm1と関わりの深いチームである。

 

 

「基地に近付いたな。 センサー反応も近い。 間も無く戦闘になる。 戦闘用意!」

「イエッサー!」「EDFッ!」「やってやりますよ!」

 

 

基地に近くなる。 直接降りられそうなら降りるし、司令室を狙えるなら狙う。

ウォーロックが邪魔するなら戦うだけだ。 作戦行動中に怪生物アーケルスが乱入する事もあった様に、臨機応変に対応すれば良い。 いつも通りだ。

 

 

「むっ!」

 

 

してEDFの呪いが発動する。

センサー上で、高速接近する物体を確認。 間違いない。 ウォーロックだ。

 

 

「きたぞ! 12時方向、迎撃だ!」

「さっそくお出ましか!」

「チクショウ! 来るんじゃねぇよ!」

「撃ちます!」

 

 

直ぐに進行方向に2つのドーントレス重機関砲が向けられた。 既に目視で確認出来る程に接近されており、直ぐに部下がトリガーを引く。

 

 

「このぉ!」

「堕ちやがれ!」

 

 

ドゴンドゴンドゴンッ、と最早大砲を連発した重撃音が空気を揺るがし、世界を響かせる。

だが、変態機動を取れるウォーロックは空中で急停止、急上昇。 アッサリと弾幕を回避した。 ウィングダイバーもビックリの機動力。

 

 

「ナニィッ!?」

「なんて ふざけた運動性能だ!?」

「しまった! 上を取られた!」

 

 

ヘリの上を取り、ビームを撃ち下ろすウォーロック。 軍曹は直ぐに操縦桿を倒して回避するが、ブルートは機動力が低い。 ビームが脇腹を擦り、装甲が融解。 警報が機内に鳴り響く。

 

 

「ブルートの重装甲が一瞬で!?」

「マジかよ!」

「ヤツより高度を上げましょう!」

「駄目だ! 狙い撃ちされるだけだ!」

 

 

真上で射角が取れず、逃げるだけになるブルート。 そんな相手にも、ウォーロックは容赦なくビームを乱射する。

 

 

「このままでは……!」

 

 

そんな時。 ウォーロックより高い高度から、2つの影が急降下。

 

 

「"軍曹"! 今だ撃ちまくれッ!」

「了解ですッ!」

 

 

可愛い2つの声が無線越しに響き。

次の瞬間。 空から銃撃の雨が降り、ウォーロックに着弾、無数の火花が散る!

 

 

「噂のウィッチか!」

「軍曹! 空から女の子が!」

「もうひとりの"軍曹"か。 しかし若すぎないか?」

「ケモノ耳に尻尾? 何故パンツ丸出しなんだ」

 

 

驚くStorm2の面々。 突然の事だったが、ありがたい。

 

 

「こちらStorm2。 救援感謝する!」

「こちらスカウトウィッチの曹長だ! 感謝はコイツを倒してからだ!」

 

 

曹長が叫ぶ。 戦況は思わしくない。

ウォーロックに弾は当たりはしたが、M1レイヴンは連射性能は高いものの、軽量弾。 距離による威力減衰、命中しても弾丸の性質からか対してダメージを与えられていなかった。

その証拠に、ウォーロックは機動力が高いまま、海の方へと逃げていく。

 

 

「そのようだな」

 

 

軍曹は、コックピットの窓から去り行くウォーロックを見る。

アーケルスのように、通常弾が効かないとかEMCやバルガじゃなきゃ倒せないワケではなさそうではある。

 

 

「逃げられましたね」

「惜しいな、もう少しだったのに!」

「いや、あの機動力の高さを維持している事から、見逃されたと見るべきだな」

 

 

部下達が口々に言う。

ヤツは高速で飛び回る。 EDF陸軍歩兵隊も幾度となく空飛ぶ敵、強敵を倒してきたが、アレは簡単には倒せない。

そう考えていると。 "ウィッチの軍曹"が声を掛けてくる。 コックピットの軍曹に向けて手を振って。

 

 

「初めまして。 私もスカウトウィッチの軍曹です」

「そうか。 俺も軍曹だ、共に戦おう」

 

 

2人の軍曹が簡単な挨拶をする。

互いに無線越し、ガラス越しながら敬礼を交わした。 妙な出会いというか、偶然というか。

だが今はゆっくり話していられない。 それぞれ与えられた任務を遂行するべく行動を再開。

 

 

「俺達は501基地に向かったスカウトの援護に向かう。 君たちは どうする?」

「ウォーロックを追撃します」

「分かった。 無理はするなよ」

「"軍曹さん"も」

 

 

そうして別れるそれぞれの軍曹。 互いに武運を祈りつつ、再度 空を飛ぶ。

早く事態を収拾せねば。先行したスカウトは守備隊と悶着しており、ウォーロックは扶桑海軍空母赤城の方へ再び向かってしまった。

特に赤城がピンチだった。 護衛艦やウィッチがおらず、発艦した航空機も瞬時に悉く撃墜されてしまったのだから…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

して、赤城を救う為に。

あの潜水艦が浮上する事に発展する……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

501基地近海

 

 

《発艦した戦闘機隊、全滅!》

《速すぎて機銃が当たらない!》

《狙うな! 弾幕を張れ!》

《赤城の機銃だけでは……!》

《弱音を吐くな! それでも扶桑男児か!》

《扶桑海軍の意地を見せろッ!》

 

 

扶桑海軍の空母、赤城は今、沈没寸前まで追い込まれている。

ビームが掠り、その箇所から浸水や火災が発生。 傾斜角がついて傾きつつある。

飛行甲板は大規模な火災発生。 消化班が必死に消し止めているが、収まらない。

その甲板の左右に飛び出る様に備わる対空機銃で、扶桑軍人が撃ちまくっているが、ウォーロックに当たらない。 当たっても、あまり効果が認められなかった。

 

 

「艦長。 どうされますか」

「戦闘機隊は全滅、援軍は間に合いそうにない。 やむを得まい」

 

 

艦長が帽子を深く被り直す。

退艦命令を下そうとした、まさにその時。

 

 

「な、なんだアレは!?」

 

 

赤城の側で、突如として巨大な島が浮き上がった。 大きな波が立ち、赤城が揺れ動く。

これは……よく見ると巨大な舟、潜水艦だ!

 

 

「せ、潜水艦浮上! 所属不明!」

「ネウロイじゃないよな?」

「で、デケェ……! まるで島だ……!!」

 

 

戦闘中であるが、あまりの出来事、スケールのデカさに硬直する搭乗員たち。

表面には大きな字で【EDF】とあった。

 

 

「いーでぃえふ?」

「半舷上陸の時、聞いたことがあるぞ……! 欧州を救った、謎の軍隊の噂を!」

 

 

すぐにその島。 いや、潜水艦の表面にある多くのハッチが開口。

数多の機銃、主砲のレクイエム砲、副砲、レールガン、ミサイルハッチオープン、滑走路となった表面装甲……飛行甲板からEDFの戦闘爆撃機KM6が次々と飛びだしていく。

して、準備が整ったと言わんばかりに、潜水艦から無線が入ってきた。 渋く、歴戦の艦長の声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちら潜水母艦エピメテウス! 浮上した!』

 

 

そう。

それは全地球防衛機構海軍……EDFの潜水艦にして、3隻中、唯一1隻のみ生き延びた人類の切り札。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【潜水母艦エピメテウス】である。

 




不勉強なのと、妄想が加わりカオスな展開? に。
間違えている部分があれば指摘してくれると嬉しいです。

エピメテウスの大きさや武装は妄想です。
潜水母艦と無線でも言っていたと思いますが、潜水艦のイメージ通りなのか潜水……潜航、浮上をするようですね。 あとライオニックミサイルというのを撃ってくれます。
どんな形なんでしょうかね……撃沈してしまった2隻と同等なのか否か。
それはそうと今後、どうなるのか……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

35.エピメテウス、対空戦闘

作戦内容:
味方は多い。
連帯して敵を倒せ。
備考:
空軍、海軍、陸軍。 それぞれの戦場、任務を遂行する。


間違いがあるかも……。

アニメの 静香、応答せよ の話ですかね……マザーシップからのビーム砲撃を彷彿とさせるシーンがありましたね。
コメントでもEDFが出ていて、テンション上がりました(殴。


501基地近海

 

 

《耐圧壁開け!》

 

 

突如として浮上したEDFの潜水母艦エピメテウス。 自己紹介のアナウンスが響くと、すぐさま対空戦闘が行われる。

 

 

《赤城を攻撃している敵性航空機【ウォーロック】を撃墜する! 対空戦闘! 使える武装は全て使え! 出し惜しみはナシだ!》

《了解!》

《全銃座解放!》

《全砲門開け!》

《対空防御弾幕!》

《エリア防空!》

 

 

島のように大きな潜水艦表面に備わる沢山の対空機銃、対空砲から一斉に閃光が瞬いた!

ハリネズミのように四方八方へ弾幕が張られ、空中でボンボンボンッと砲弾の信管作動、爆発。 堪らずウォーロックは赤城から離れていく。

 

 

「なんて弾幕だ!」

「潜水艦がこんなに……!」

 

 

驚く扶桑海軍。

そして離れた事でミサイルの攻撃が可能に。 エピメテウスの戦闘指揮所(CIC)にいる隊員達は間髪入れず、攻撃入力!

画面を見る目の動き、キーボード等に情報を入力する手の動きは洗練され一切の無駄がない!

 

 

《目標、連合軍新兵器ウォーロック》

《攻撃準備始め》

《ライオニックミサイル35standby!》

《lock-on!》

《射線方向クリア》

《用意よし》

《全弾発射しろ!》

《撃てッ!》

 

 

潜水艦両脇のミサイルハッチから、35発ものライオニックミサイルが発射!

 

 

《全弾の発射を完了》

「潜水艦から煙が!」

「被弾したのか!?」

「いや、何かが発射されたんだ!」

「ロケット弾か!?」

「凄いぞ! 敵を追跡している!」

 

 

空中を飛ぶウォーロックを執拗に追いかけ回すが、ウォーロックはビームを発射して多くのミサイルを空中で爆発させた。

 

 

《攻撃効果ナシ》

《ミサイルを迎撃されました!》

《35発中、29発空中爆発! 6発ターゲットロスト!》

《自爆しますか?》

《構わん! そのまま飛翔させろ!》

 

 

何発かのミサイルは無事だったが、ウォーロックに命中する直前、高機動で回避されてしまい、明後日の方向へ飛んでいってしまった。

 

 

「そんな……! ロケット弾が!」

「落としやがった!」

「何発かは無事だったが、違う方向に飛んでしまったな」

「いや待て! 他にも何かが来るぞ!」

「航空機か!」

「速い! なんて速度だ!」

「ジェット機だ!」

 

 

だが、ミサイルに気を取られている間に接近した艦載機KM6戦闘爆撃機隊が機銃を撃ちまくる!

 

 

《全機突入ッ!》

《機銃掃射、開始ィッ!》

《堕ちやがれッ!!》

 

 

逃げ場がない、全面への機銃掃射!

背後からの奇襲もあり、高機動を持ってしても避けきれず、何発も背後に被弾するウォーロック!

 

 

「うおおおおお!」

「やったか!?」

「いや、まだ飛んでいるぞ!」

「くっ! しぶとい!」

「頑張れEDF!」

「頑張ってくれー!」

「ヤツを倒せッ!」

「「EDFッ! EDFッッ!!」」

 

 

いつのまにかEDFを応援し始める扶桑海軍。

そんな中、ウォーロックは火花と爆煙を出しつつ、まだ戦えるとビームを発射。 KM6は散開して素早く回避。

 

 

《回避!》

《散開ッ!》

《悪足掻きだ!》

《空軍を、海軍を舐めるなぁッ!!》

《大きく弧を描いた後、アプローチする! その間は母艦に任せるぞ!》

《了解!》

 

 

一撃離脱。 KM6は散開し、ウォーロックの脇を音速で通り抜け、一度地平線へと退避していく。

 

 

《第1番機銃から第25番機銃は直接狙え!》

《砲手は撃て!》

《レールガン、よぉく狙えよ!》

《主砲、レクイエム砲! 照準合わせー!》

《陸軍とは違う、本場のレクイエム砲を見せてやるぜッ!》

《撃ちーかた よーい!》

 

 

その間にも、対空砲火で動きの鈍ったウォーロックを攻撃。 怯んでいる間にエピメテウス艦長は赤城に無線を送る。

 

 

《赤城、聞こえるか? こちらエピメテウス艦長。 航行可能であれば戦闘海域から離脱せよ》

 

 

突然の出来事と無線に動揺するも、そこは指揮を執る者。

すぐに対応したやり取りを交わし、行動に移していく。

 

 

「すまない、直ちに当海域から離脱する」

 

 

赤城は満身創痍で よろよろと遅く、だけどなんとか自力航行で離れていった。

幸いにもウォーロックは赤城を攻撃しに行かなかったが、代わりにエピメテウスを海の藻屑にせんとビームを狂乱射。

 

 

《うおっ!?》

《ご乱心だ!》

《それだけ追い詰めたって事よ!》

 

 

エピメテウスの周囲で水柱が無数に上がる。 ただ照準は合っておらず、直撃は免れた。

 

 

《うおおおっ!?》

《掠りやがった!》

《確認しろ!》

 

 

それでも擦り傷は負ってしまう。 後尾で装甲融解、浸水発生!

 

 

《第4ブロック被弾ッ!》

《浸水発生!》

《ダメージコントロールッ!》

《対空弾幕、もっと張るんだ!》

《ダメコン急げ!》

《排水急げ!》

《ウォールフィルム処理急げ!》

 

 

大きく揺れる船内。 エピメテウスのダメージコントールは直ちの応急処理が必要と訴えた。

 

 

《こちら砲手! 第4ブロック、早く浸水止めろ! 照準がブレる!》

《ナノマシン・カプセルを撃ち込め早く!》

《第4ブロック誰かいないか!?》

 

 

急かす艦内放送。

第4ブロックでは濁流の中、EDF隊員が気合いと ど根性で損傷箇所に前進中。

 

 

「だぁー! 今やってんだろチクショウ!」

 

 

文句を言いつつ亀裂が見える所まで来ると、【リバースガン】を構えて修復カプセルを撃ち出した。

亀裂周囲でカプセルが破裂。 半透明の液体が亀裂を覆うと直ぐに硬化。

半透明の装甲で塞がり、浸水も止まる。 診断パネルでも確認、レッドからイエローに。

一時凌ぎだがコレで良い。

 

 

《コレで満足か!?》

《処理確認!》

《第4ブロック浸水止まりました!》

《よくやった!》

《礼に砲撃を見せてやるよ》

《ここからじゃ見えねぇよ馬鹿野郎》

 

 

軽口を言い合いながら、砲手が照準を合わせる。 砲身転回が軽やかなレールガンが1番槍を放つ!

 

 

《レールガン撃ちーかた始めー!》

 

 

やや軽やかな、しかし加速の磨きが掛かった鋭い弾丸が射出される!

この弾速をウォーロックは見切れない。 しかし砲口が向くのを確認し、横方向へ回避運動を取った事で片腕部分を破損させるのみに留まる。 撃墜ならず。

 

 

《目標中破!》

《トドメは任せろ!》

 

 

続く【レクイエム砲】。

重く大きな砲塔と砲身は、転回速度に難があったが、陸軍の重戦車【タイタン】に搭載されているモノよりデカく強い。

というのも、レクイエム砲は元々海軍関係である。 戦車に搭載させる為に砲身を短縮した経緯があり、そのせいで性能が低下したようだ。

だが"海軍"のエピメテウスに搭載されている主砲のレクイエム砲は"ガチ"だ。 初速も速い。

レクイエム砲は当たればビルをも吹き飛ばす威力!

当たればウォーロックは木っ端微塵だ!

 

 

《主砲レクイエム砲、撃ちーかた始めー!》

 

 

号令。 刹那!

 

 

ドゴォォォォォオオオオオンッッ!!!!!

 

 

 

空気を揺るがし、衝撃波が空を伝い、遠くの大地を震わせる大砲撃が炸裂ッ!

ウォーロックは巨大な爆炎に包まれ、世界の照度が一気に増す。

 

 

《やったか!?》

《どうだ!》

《攻撃効果を確認せよ!》

 

 

して爆炎が晴れる前。 モニター越しに、煙の中から僅かな赤い閃光が瞬く!

 

 

(むっ!?)

 

 

艦長は本能的危機感から命令を下した!

 

 

《急速潜航、面舵一杯ッ!》

《急速潜航、面舵いっぱーい!》

《全砲門、機銃収納!》

《発射管閉じろ!》

《ハッチ閉鎖!》

《耐圧壁閉鎖!》

《第4ブロックの者は直ちに退避!》

《対衝撃体勢!》

 

 

何故とは考えない。 故にと動く隊員。

弾かれた様に操作し、エピメテウスは全砲門、機銃を瞬時に収納。

一瞬にして海中へと身を潜める。 刹那。

 

 

ドゴォォォォォオオオオオンッッ!

 

 

爆煙の中から極太ビームが放たれた!

エピメテウスが浮かんでいた辺りに着水、今までの比じゃない水柱が摩天楼の如く上がる!

 

 

《ぐっ!?》

 

 

エピメテウスは、水中で何とか回避した。 このまま潜航していくが"沈む"んじゃないか不安になる。

 

 

《ダメージコントール!》

《異常ナシ!》

《装甲圧分析!》

《先程よりビーム出力が抑えられています。 見た目ほど大きな威力はありません》

《威力を下げる代わりに範囲を広げたか》

《レクイエム砲が……何故、無事だった》

《砲手が落ち込んでいます》

《あー……元気出せ》

 

 

エピメテウスは潜航しつつ、次の手を考える。 レクイエム砲は確かに当てた。

なのに倒せなかった。 機銃を喰らってダメージを与えられる相手にも関わらず、である。

 

 

(エイリアン連中の金色装甲じゃあるまい。 横や背面からの攻撃は受け付けた。 今のは正面。 正面では効果がないのか?)

 

 

考えていると。

センサーに味方反応。

 

 

《航空ウィッチ2認む》

《敵味方識別装置確認》

《所属EDFスカウト》

《真っ直ぐウォーロックに飛んでいきます》

《なんだと?》

《おお。 噂の魔女か》

《10代の女の子が戦場に!?》

《可愛いな》

《本当にいたのか》

《脚の装置で飛んでいるのか》

《陸軍のウィングダイバーと違う》

《なんで けもの耳に尻尾が生える?》

《パンツ丸見えだぞ》

《ズボンは?》

 

 

潜望鏡を上げて確認。 そこにはウィッチの後姿。 けもの耳に尻尾。 上は軍服なれど下半身はパンツ丸見えの少女が映る。

 

 

(いかん! ウォーロックに正攻法は危険だ!)

 

 

何度見ても不思議に思うがしかし、それどころではない。

 

 

《無線繋がります》

《繋げ!》

《繋ぎます》

 

 

少女の身を案じ、無線を繋ぐエピメテウス。

潜水しつつも声を掛けた。

 

 

《こちらEDF潜水母艦エピメテウス! スカウトウィッチ聞こえるか?》

「わ、わわっ! 突然無線が!」

「EDFの潜水艦?」

《ウォーロックに正面から挑むのは危険だ! ここは我々に任せ、諸君は退避されたし!》

「大丈夫です! 曹長さん、行きましょう!」

「おい待て軍曹ッ! くそっ!」

《ウォーロック正面に出ます!?》

《敵射程圏内ッ!》

《よせ! 引き返さんか!?》

《ダメです! 行ってしまいます!》

 

 

注意喚起も虚しく、吶喊してしまう軍曹ちゃん。 後に続く曹長ちゃん。

 

 

(恐らく撃墜されてしまう! 先手を打たなければ!)

 

 

エピメテウスは直ぐに潜望鏡を引っ込ませ、再び浮上準備に入る。

 

 

《ウォーロック背面に浮上!》

《ヤツは正面からの攻撃を受け付けない!》

《奇襲を掛け撃墜する!》

《浮上後、飛行甲板は救難活動に当てよ!》

《救命ランチ、下ろし方よーい!》

《機関最大船速!》

《ヨーソロー!》

 

 

潜水した状態で、その巨体は海中を進む。

ウォーロックに対潜能力があるか不明だが、今のところ発見された様子はない。

闇雲に海面にビームを乱射している乱射魔と化しているが、全て当てずっぽう。

1発とてエピメテウスの側ですらなかった。

 

 

《発見された様子はありません》

《よし。 このまま潜航、背面に出るぞ》

 

 

だが予断を許さない。 吶喊した2人が気掛かりだ。 再攻撃準備中のKM6に連絡を取る。

 

 

《KM6! スカウトウィッチがウォーロックに立ち向かってしまった! 注意せよ!》

《ナニィ!? センサーに反応があると思ったら噂の魔女か!》

《退避するように言ってくれ!》

《こちらからの攻撃の邪魔だ!》

《無視された》

《マジかよ》

 

 

呆れと驚愕が混ざる。 EDF隊員の中には人の事を言えない者もいるが。

501JFWなら軍規違反、謹慎しまくるヤツもいるし。 ハルトマンとか宮藤とか。 命令違反上等。

 

 

《手のかかるお嬢さんだなオイ!》

《彼女らより先に攻撃、撃墜せよ》

《無茶言うな!》

《ミサイルなんか撃ったら、可愛い女の子まで木っ端微塵だぜ!》

《機銃だって巻き込むかも知れねぇ!》

《そちらからも呼びかけてくれ》

《ちっ。 しゃーねぇな!》

 

 

だが今は良くない。 今の戦闘爆撃機隊にとってもウィッチは迷惑だった。

連帯が取れていない、予定の無い事をされると皆が大変なのだ。

 

へ? Storm1(プレイヤー)は良いのかって?

遊撃部隊だから良いんだよ(言い訳)。

 

 

《こちらKM6。 お転婆娘よ、聞こえるか?》

「わっ! また無線が!」

《退避しろ。 EDFに任せとけ》

「私だって仮にもEDFです!」

《スカウトだろーがって、おい!》

《ちっ! 無線を切りやがった!》

《馬鹿野郎!》

《野郎じゃねえだろ》

《じゃあウィッチならぬビッチだ》

 

 

独断専行され、少女に対しても容赦なく侮辱するパイロット。

だが戦場とは常に不測の事態が起こり得る。 EDFなんて特にそうだ。 今まで何度酷い目に遭ってきた事か。

 

 

《フルスロットル!》

《一気に接近、機銃掃射でウォーロックを叩き落とす》

《手のかかるお嬢さん方を救出する》

《間違っても女に弾を当てるな》

《ぶっとい棒(ミサイル)も禁止だ》

《下ネタかよ》

《私語は慎め! ガチでやるぞ!》

《了解!》

 

 

速度を上げ、ウォーロックにアプローチをかける戦闘爆撃機隊。

大切なのは対応の仕方だ。 足掻いて今日まで生き延びてきた。 1940年代の西暦異世界でくたばる気は毛頭ない。

 

 

《戦闘爆撃機隊、速度を上げました!》

《会敵予想時刻修正!》

《ウィッチとの誤差は!?》

《ウィッチの方が先です!》

《間に合わん!》

 

 

艦長は逡巡する。 ここで浮上、本艦を危険に晒してでも攻撃するか。

幼い少女の命と乗組員の命、エピメテウスへの被害を天秤に掛ける。 どちらを選んでも皆は恨まないだろう。 言ってしまえば浮上しないのが正解かも知れない。

人類の……EDFの切り札をここで損傷させてでも少女を助けるメリットは無い。

だが、それでも。

 

 

《エピメテウス浮上! 攻撃準備にかかれ!》

 

 

艦長は助ける方を選んだ。

初老の彼もまた、EDF隊員だったから。

 

 

《りょーかいッ!》

《浮上します!》

《被弾覚悟!》

《ダメコンスタンバっとけ!》

《ウィッチを守るぞ!》

《絶対だ!》

E()D()F()()()()

 

 

士気が上がる乗組員達。 若い声に釣られて、艦長は口角が上がってしまう。

 

 

(わしも歳だな)

 

 

エピメテウス浮上。

ウォーロック背後ではなく、正面に出る。

帽子を被りなおし、改めて戦闘指揮を執る。

 

 

《間違っても味方に当てるな。 注意を此方に向けさせられれば良い! 対空戦闘始め!》

《了解!》

《撃って撃って撃ちまくれ!》

《救命ランチ、下ろし方始めー!》

 

 

再び武装展開、機銃が、砲弾がウォーロックを撃ち始める。 同時に救命ボートが海に投げ出されて浮かんでは離れる。

ウォーロックは、向かって来ていたウィッチを攻撃しようとしていたが、脅威である大物を潰そうとしたのか。

思惑通りエピメテウスに攻撃を開始。 ウィッチの軍曹ちゃん達は無視した。

正面にナニか秘密があるのか。 今度は避けもせず真っ向から砲弾を受けつつビームを撃っている。 全くよろけもしない。

 

 

(布石は打った、勝算はある。 正面の秘密は分からんが、あのエアレイダー、Storm1が来る)

 

 

よく見ると、ウォーロックに直接砲弾が当たっていない。 手前で火花、爆発が起きていた。 見えないシールドでもあるのか。

一方、エピメテウス浮上に驚いているウィッチ……軍曹ちゃんに曹長ちゃん。 空から見ても、そのスケールに目を白黒させる。

 

 

「大きい島!? EDFの文字……これがエピメテウス!?」

「なんて大きさだ! 火力も凄まじい!」

「わ、私だって負けるかぁ!」

「馬鹿!? 味方の対空砲火の中に突っ込むヤツがいるか!」

 

 

負けじとウォーロックに突っ込む軍曹ちゃん。 止めようと追いかけ続ける曹長ちゃん。

エピメテウスの対空砲火エリアに突っ込むが、勇敢ではなく無謀である。

 

 

《攻撃中止!》

《撃ち方止め! 撃ち方止め!》

《ウィッチに当てるな!》

 

 

そして友軍誤射を避ける為、攻撃を止めてしまうエピメテウス。

それをチャンスだと、ウォーロックは大出力のビームを放とうとして、

 

 

《させるかぁ!》

 

 

ウォーロックの横腹に銃弾の川が流れた!

追いついた戦闘爆撃機隊による攻撃だ。

思わず回避行動、距離を取るウォーロック。

 

 

《チッ! ウィッチに当たらないよう照準をずらしたからな!》

《1発くらい当たっても良いのによ!》

《魔女っ子もビビって逃げれば良いのに!》

《とにかく再攻撃準備だ!》

《アプローチが間に合わないかも知れない》

《だからってのんびり飛んでいられるかよ》

 

 

再び地平線へと退避していく戦闘爆撃機隊。

ウィッチが かなり邪魔だったらしく、満足に攻撃出来なかった。

そんな お邪魔虫のウィッチ……軍曹ちゃんは、突撃しつつM1レイヴンによるフルオートを実行。

 

 

「私だって役に立つんだああッ!」

 

 

軽量弾が前方にバラまかれ、ウォーロック"正面"で火花が散り、よろけ、高度が下がる!

 

 

「やったぁ!」

 

 

倒したと油断して銃口をずらし、空中停止してしまう軍曹ちゃん。

だが、それがウォーロックの狙いだった。

EDFの攻撃が甘い理由はウィッチであり、この子は"重要"であり【潰すべき標的】と判断してしまったのだ。

ルーキーな行動、EDFの動き。

そこから刹那的に戦術を組み上げ、ウォーロックは勝った。 勝ってしまった。

 

 

「逃げるんだ軍曹ーッ!!」

《スカウトウィッチ回避せよッ!?》

 

 

鬼気迫る表情で曹長ちゃんが、艦長が叫ぶ。

ウォーロックは、それを合図にビームの閃光を煌めかせた。

 

 

「───え?」

 

 

曹長ちゃんを向いて、再びウォーロックに顔を向けた時。

目の前が真っ赤に染まる───。

 

 

「間に合えーッ!!」

 

 

決死の覚悟。 曹長ちゃんがEDF式飛行ユニットに全力の高圧で魔法力を流し込み、緊急出力発揮。

凄まじい加速力を生み出すと、そのまま軍曹ちゃんに体当たりして───。

 

 

曹長ちゃんが軍曹ちゃんの代わりに。

赤いビームに飲み込まれた。

 

 

「そ、曹長さあああんッッ!?」

 

 

吹き飛ばされ、叫び、海に落下する軍曹ちゃん。

シールドの魔力が無かったのか。 生身で巻き込まれた曹長ちゃんは黒焦げになり、ユニットから爆炎、黒煙を空に引きながら海へと落下した。

 

 

「あ、ああ……あぁ」

 

 

死んだ? 私のせいで。 たった一瞬で。

 

自分の招いた結果に、軍曹ちゃんはショックを受け意識を失くす。

堕ちていく2人の少女。 エピメテウス艦内は蜂の巣を突いたような大騒ぎとなる。

 

 

《いかん! 救命ランチ急げ!》

《救命処置だ最優先事項ッ!》《生体センサー反応消滅ッ!》《出血性ショックか!?》《馬鹿野郎諦めんなッ!》《まだ戻せる!》《回収するんだ急げ!》《心電図解析用意!》《心室細動検出急げッ!》《電気ショック準備ッ!》《チャージしとけッ!》《もうしてる!》《医療班スタンバイ!》《クリア!》《手術室用意ヨシッ!》《輸血パック十分か!?》《アドレナリン剤出しとけ!》《絶対死なすなッ!!》

 

 

動揺をするがしかし、歴戦のEDF隊員らだ。

どうするべきか分かっているし、何よりここは戦場。 戦闘中だ。

レールガン レクイエム砲 副砲 銃座 対空砲は全てヤツに向けられた。

 

 

(おのれウォーロック……ッ! 貴様は絶対に許さん!)

 

 

艦長はモニター越しに空中で鎮座するウォーロックを睨むと、命令を下す!

 

 

《撃ち落せェッ!!!!》

 

 

刹那。

 

 

ドゴォォォォォオオオオオンッッ!!!!!

 

ドゴォォォォォオオオオオンッッ!!!!!

 

ドゴォォォォォオオオオオンッッ!!!!!

 

 

エピメテウスの総火力が、ウォーロックに叩き込まれる!

世界を揺るがし、破壊し尽くすと言わんばかりのチカラが、たったひとつの標的に押し寄せる!

だがヤツは回避しつつビームを連射。

的確に砲弾を撃破し、防げない分は"正面"で受け止めた。

 

 

《攻撃効果認められず!》

《構わんッ! 爆炎が目眩しになる!》

《回収班、その間に急げッ!》

 

 

撃墜ならずとも、その辺は考えての攻撃。 完全に自暴自棄な攻撃にあらず。

この爆炎の防壁で、ウォーロックは弾頭の撃破に忙しく、終わっても爆炎越しに正確な射撃は困難。 その間に回収する算段だ。

 

 

《スカウトウィッチ2名の回収に成功!》

《艦内に収容しました!》

《よし! 急速潜航! 眩ますぞ!》

《KM6戦闘爆撃機隊へ! 本艦は潜航します、帰還座標は後に伝えます!》

《KM6了解ッ!》

《急速潜航、面舵一杯ッ!》

《急速潜航、面舵いっぱーい!》

《全砲門、機銃収納!》

《発射管閉じろ!》

《ハッチ閉鎖!》

《耐圧壁閉鎖!》

 

 

再び潜航、巨大な潜水艦は海中へ消えた。

爆炎越しにソレを認めたウォーロックは、消えた箇所周辺にビームを乱射。 やはり当たらない。 して、見えない敵に釘付けなままだ。

 

 

《……勝ったな》

 

 

艦長が力なく勝利宣言を言う。

スカウトウィッチ2名が重篤なのに、ナニを言っているのか。

乗組員達は度重なる心労で変になったのかと、失礼ながら思った時。

レーダー類を見ていた乗組員が叫ぶ!

 

 

《み、ミサイル ウォーロックに接近ッ!?》

 

 

全員が思わず外部モニターを見た!

 

 

《ライオニックミサイル6基ッ!》

《最初のヤツか!?》

 

 

なんと、最初に撃ったライオニックミサイルが延々と飛んで戻ってきた!

 

 

 

 

 

《───忘れ物だ、ウォーロック》

 

 

 

 

 

いつかの英雄の声が聞こえた、刹那。

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォオオオオオンッッ!!

 

 

ウォーロックの無防備な背中に6基すべてのライオニックミサイルが命中!

ウォーロックの機体は粉々になり、破片を海へと落下させた。

 

 

《な、何が起きたんだ……?》

 

 

乗組員達は勝利を喜べず、呆然とモニターを見るばかり。

ターゲットロスト、遊んでしまったミサイルが戻る。 これはどういう事なのか。

 

 

《…………英雄が倒したんだ》

 

 

艦長が皆の為に説明をする。

やはりチカラなく、であるが。

 

 

《陸軍兵科エアレイダー。 遊撃部隊Storm leader。 chord name Storm-1》

 

 

言われて理解が早いか遅いか。

モニター及びセンサーに、2つのヘリと11人の空飛ぶウィッチの姿が映る。

して、再び無線が入るのだった。

 

 

《実際には お初にお目にかかるなエピメテウス》

 

 

無意識にモニターを操作、最大望遠。

ヘリのコックピットを見ると。

片方には一般的なレンジャー隊員。

もう片方はフルフェイスヘルメットに、無線機器類を身体に付けた兵士が。

片手には【ライオニックミサイル】の誘導ビーコン銃が握られていたのだった。

 

 

《こちらStorm-1。 ミサイルのプレゼントをありがとう。 危うく撃墜されるところだったよ》

 

 

やっと乗組員達は理解した。

 

 

 

ウォーロックは、英雄が倒したのだと。

 

 




色々突っ込みどころ満載かも。 それをいったら常に、がついてしまいそうですが。

WDFの話等、なんとなく構想を練りました。 でも、辿り着くまでメンタルや継続力が持つか心配……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

36.着艦

作戦内容:
ウォーロック撃墜に成功。 残るは基地だけだな。 スカウトとStorm-2が突入している筈だ。 任せて大丈夫だろう。
だが先の戦闘でスカウトウィッチが重篤だ。 回復すると良いのだが……。
備考:
エピメテウスを見るのも乗船するのも初めてだ。
曹長ちゃんに軍曹ちゃん。 大丈夫だろうか。


只野二等兵視点が不足していると思い……。


ブリタニア第501基地近海 只野二等兵視点

 

デカい。 説明不要!

それが第1印象だった。

潜水母艦エピメテウス。 こんなの潜水艦じゃないわ! ただの要塞島よ!

 

 

「大きい!」

「これが潜水艦!?」

「まるで戦艦ダナ」

「航空機が着艦出来るなんて」

「さっきのロケット弾、この潜水艦からなんだっけ?」

「デカい大砲の音もな」

「EDFのチカラは凄まじいな」

「味方で良かったですわ」

「我が扶桑海軍にも欲しいな」

 

 

501の面々がエピメテウスを見て、感想を無線越しに口々に言う。 俺も同意せざるを得ない。

エピメテウス。 俺らの世界では、人類の切り札と言われた潜水母艦だ。

 

 

「そうだな」

「只野はEDFなんだろ。 見たことないのか」

 

 

シャーリーが聞いてくる。

撃墜しちゃった件を気にしてないフランクさはありがたい。 ユニットも直ったようで良かった。

あの時は狂乱していたからね。

向こうも仕方ないと思ってくれたらしい。

……それはそうと、質問に答えねば。

 

 

「ないよ」

 

 

シャーリーちゃん、俺は陸軍歩兵なのさ。

もっと言えば二等兵。 最下級。

さらに言えば入隊して日が浅い内に戦争勃発、訓練より実戦時間が長い。

徴兵組の方が、まだ訓練してた。

それだけ毎日絶望の戦場に投げられていたんだ。

空軍海軍、種類や数なんて知らん。

ましてや秘密裏に造られた潜水艦だ。

海軍だったとしても、知っている人間はひと握りだったんじゃないかな。

 

 

「逆に聞くけど連合軍の全艦艇を見たことがある?」

「ないな。 極秘裏の兵器もあるんだろうし、世界は広い」

「それと同じだよ。 特にエピメテウスは隠密性の高い潜水艦。 戦前から存在を知っていたのは、一部だけだろうね」

 

 

戦時の放送で民間人の知るところに出たのだろうがな。

あの偏見放送を鵜呑みにするなら、他にセイレーン、パンドラという潜水母艦がいたらしいが……戦局が悪化していく中で撃沈されてしまったらしい。

エピメテウスは、その3隻中唯一、生き延びた潜水母艦となる。

 

 

「しかしまぁ……本当にデカい」

 

 

そう言うと。 シャーリーちゃんが、コックピットの前……俺の目の前に飛んできて立派な お胸を持ち上げてきた。

誘惑するような流し目で。

 

 

「私の?」

「セクハラ止めて下さい大尉殿」

 

 

ウサギの耳と尻尾もあって、なんかもうね、色々とエロいね。 下半身をイライラさせるね。

したら反応したのは下半身だけでなく、宮藤ちゃんもだった。

 

 

「なんて羨ましい!」

「……芳佳ちゃん」

 

 

悔しそうな表情をする宮藤に対して「自重しよ?」な顔をするリーネちゃん。

宮藤は胸が好きなの? 淫獣だったの?

大人しそうな常識人かと思ったら、意外と恐ろしい子だった。

 

そんな馬鹿な事をエピメテウス上空でしているワケだが。

俺が操作中の大型武装ヘリとストーム隊長のブルート2機、501の11人のウィッチはホバリング中。

全員を着艦させるとの事だが、順序待ち。 管制官の指示に従い、俺たちは上空待機中。

 

 

《こちらエピメテウス航空管制。 艦載機のKM6戦闘爆撃機隊を先に着艦させたい。 Storm1大丈夫か?》

「俺のは大丈夫だ。只野は?」

 

 

言われて燃料計、ダメコンパネルや電子機器類の異常が無いか確認。

大丈夫。 無傷だ。 今のEDFには貴重な万全整備状態のビークルだよ。

 

 

「問題なし」

「了解。 ミーナ達は?」

 

 

俺の返事に短く答え、続けて501を確認する隊長。

司令官のミーナが直ぐに対応する。

 

 

「飛んだばかりだから大丈夫よ。 魔法力には余裕があるわ」

 

 

優しい口調で言う。 母性を感じるね。 料理はアウトだけど。

対してハルトマンとバルクホルンのカールスラント組がアレコレ言い合う。

 

 

「ヘリから落とされた時はヤバいと思ったけどねー」

「高度を上げてくれただろう?」

「降下して十分な速度が出たら、水平飛行に戻す やり方だったね」

「また やるかも知れない。 良い訓練だったと思えば良い」

 

 

うん。 アレは仕方ない。

最悪は戦って貰おうとして「落ちろ」と少女たちに命令したからね、ウチの隊長。

でも撃墜されてーの、纏めて海の藻屑にされる危険性、戦力増加を考えれば、アレは正しい。

 

 

「…………エピメテウス、こちらは問題ない。 燃料、魔法力共に余裕がある」

 

 

落ち込んだ声を出す隊長。

これからも強く生きて。

 

 

《魔法? ああ、ウィッチは魔法で飛んでいるのでしたね》

 

 

世界とのギャップに疑問の声が出たが、直ぐに飲み込んだ模様。

その感じだと、予め情報を得ているようだ。

人類の切り札だからね。 しかもココ、仮にも異世界に当たるワケだし。 来る時に情報くらい得ているか。

 

 

「でもウォーロックに対処するのに、エピメテウスを投入する?」

 

 

…………そう。 切り札とも呼ばれる程の戦力が"地球"を離れてココにいる事実。

不測の事態ではあったが、投入戦力としては過剰だ。

 

 

「只野」

 

 

そんな俺に無線を送ってくる隊長。 真剣な声だった。

 

 

「今は詮索するな」

 

 

まぁ、うん。 機密情報ってヤツ?

触れたら抹殺される系ですかね。 なら関わりたくない。 こちらから願い下げ。

 

 

「了解です」

 

 

"ただの"二等兵だしな。 上の事なんて知らないし知りたくない。 その方が楽だ。

 

 

《そのまま現在位置で待機していて下さい。 KM6がアプローチします、滑走路の前に出ないように》

「了解」「了解です」「了解しました」

 

 

返事をすると、遠くからEDFの空軍主力戦闘爆撃機KM6の編隊がやってきた。

アレは知っている。 戦時、隊長の指示で戦場に低空で突入、機銃掃射をしてくれたのを見たから。

 

 

『こちらKM6、着艦する』

 

 

ギア……タイヤを出して速度と高度を下げ、滑走路に降りて行く戦闘爆撃機。

その様子に、501が再び騒ぎ出す。

 

 

「おー! 見た事ない形!」

「あれがEDFの戦闘機?」

「翼が違うナ」

「武装は何処についてる?」

 

 

まぁ仕方ないね。 この世界には"はやい"航空機だ。

ジェット機は既に存在しているらしいが、俺らの世界の航空機の性能には遠く及ばない。

 

 

「おぉー! 速いんだろアレ!」

 

 

シャーリーちゃんも騒ぐ。 元気だなぁ皆。

 

 

「なぁ只野! アレに乗せてくれないか!?」

「俺に聞かないで」

 

 

下っ端に どうしろと。

して、この子は何故俺に絡んでくる。 やっぱ撃墜したのを根に持ってるんじゃね?

 

 

「仕方ないなぁ。 なぁワンちゃん!」

「無理ダナ」

 

 

ブフォッ!?

まさかのエイラの真似ですか隊長!

 

 

「あははっ!」「ふふっ」「(クスクス)」

 

 

笑みがこぼれる皆さん。

いやー、今のは似てたからね間違いない。

 

 

「私はそんなんじゃないからなー!」

 

 

エイラちゃん、オコなの?

赤くなって可愛いんだが。

 

 

「只野ッ、そんな目でミンナー!」

 

 

どんな目なんですかね、エイラちゃん?

ぜひお兄さんに教えて貰いたいね。

 

 

《盛り上がっているところ すいません、次はブルートとウィッチが着艦する番です》

 

 

おっと いかん。 仕事しないと。

俺は再び無線に集中。 隊長がやり取りを始める。

 

 

「失礼した。 エピメテウス側でリクエストはあるか?」

《ウィッチに滑走は必要ですか?》

「どうなんだミーナ?」

《絶対必要ではないけれど、魔法力を抑えるには使いたいわね》

「分かった───ウィッチが先だ」

《了解しました。 順番にアプローチして下さい》

「着艦の順番はミーナが指示しろ」

「了解」

 

 

手慣れてるね。 さすが我らがストーム隊長。

 

 

《ウィッチの着艦は初めてです。 専用機材はありませんが、何か必要な事は?》

「大丈夫です」

《航空管制了解。 着艦したウィッチは順次、奥のリフト上で待機して下さい》

「了解です。 みんな、大丈夫ね?」

「了解です」「了解しました」「了解ッ!」

 

 

ああ、陸とは違うもんな。

でもウィッチのいる世界だ、艦載機のような子もいそうだがな。 設備とか。

そこら辺、どうなんだろう。 カタパルトとか。

 

 

「非道な設備は無いよな?」

 

 

まさか基地の改造レールガンモドキみたいなのがある……なんて事は無いよな?

あら。 よく見たらエピメテウスに見た事ある砲身があるやん。

レクイエム砲もだが、それとは別に特徴的な形をしたヤツ。

 

 

「エピメテウスにもレールガンが」

 

 

そう。 新兵器(比較的)レールガン。

潜水母艦は開戦した時に緊急出航した筈だ。 レールガンは既にその時、完成していたのだろうか?

それとも、何処かに寄港して換装したのだろうか。

おっと。 詮索するのは良くないな。

 

なんて考えている間に、次々と着艦していく501の面々。

うーん、こうして滑走路を使っているのを見ると彼女達も航空機に見えてくる。

運用方法は似ているんだろうけれども。

でも……生身で少女が戦っているんだよな、魔法があるとはいえ。

 

 

「魔法、か」

 

 

もし彼女達が魔法を使えなかったら、どうなっていたんだろう。

 

幸せな人生だった?

それとも不幸?

 

魔法は本人を苦しめている?

それとも幸せに しているの?

 

 

「あー、やめやめ。 考えても仕方ない」

 

 

そんな「もしも」を考えて どうする。

仕方ないんだ。 こういう世界だ。

過ぎた事や起きた事を悲観して妄想するなんて、本人達に失礼じゃないか。

 

 

「そうだぞ只野」

 

 

隊長が声を掛けてくれた。

今度は明るい。

 

 

「欲求不満なのは分かるが、秩序を守れ」

 

 

そういう妄想はしていないです。

 

 

「違いますって!」

「グラマラス・シャーリーに誘惑されていたじゃないか」

 

 

おのれシャーリー!

俺は悪くねぇ!

けしからんボディをしているのが悪い!

 

 

《あのー、次はブルートです。 リフトに直接着陸して下さい》

 

 

困惑した航空管制官の声がする。

俺は悪くねぇ。 周りが悪いんだ。

 

 

「只野から着艦しろ」

 

 

爆弾を投下しておいて、鎮火させず仕事モードですか隊長。

 

 

「了解っす」

 

 

でも俺も仕事しなきゃな。

不貞腐れながらも、俺はブルートを操作。

無線交信して確認しながら高度を下げる。

 

 

「リフトはどれですか?」

 

 

うーん、リフトってどれだ?

ウィッチのいる場所とは別なのか。

 

 

《Hサークルが見えますか?》

 

 

あー、ザ・ヘリポートな所があった。

円が描かれて、真ん中に"H"とある。

 

 

《救命ヘリポートですが、リフトになっています》

 

 

オッケー。 大人しく向かうとしよう。

ところで……ヘリポートって"R"もあるが、そちらはレスキュー系だったかな。

強度や広さの都合で着陸が出来ない場合に描かれて、ヘリはその上でホバリング、隊員らはヒモ等で降下したりして活動するんだったか。

俺は座学の授業なんて大して受けていない。 ブルートの操作だって戦場で覚えた。 他もそうだった。

 

 

「向きはサークルに合わせる形で?」

《はい、お願いします》

「了解。 着艦します」

 

 

高度を下げて……着艦。

緊張したね。

ブルートみたいに鈍重なヘリの操作は、それなりの癖がある。

離陸には時間がかかるし、着陸はスロットルの調整をしないと、一気に落下して怖い。

 

 

《着艦を確認。 リフトを下げます》

 

 

降下する床……リフト。

太陽光が遮られ、一瞬暗くなると今度は人工的な光が入ってきた。

して、リフトダウンした先。 整備士な人達が誘導棒を振っている。

こういうのって、どうするのかね。 適当に振っているワケじゃないだろう。

 

 

《そのままヘリから降りて下さい。 後は我々にお任せを》

 

 

後はやってくれるらしい。 良かった、もうスロットルの上げ下げは良いらしい。

 

 

「了解です」

 

 

お言葉に甘えて降りて背伸び。

あー、疲れた。 長時間飛行だった。 燃料もそれなりに減っていた。 まだ飛べる量ではあったが。

 

 

「お疲れ様です。 救援感謝します」

 

 

整備士の1人が駆け寄ってきて、そう言う。

いや。 命令だったし、やったのは隊長だ。

 

 

「俺は何もしてませんよ」

「ウィッチを輸送していたのでしょう?」

「そのくらいですね。 ドーントレスを撃ったワケでも ありません」

 

 

なんなら1発も撃っていないまである。

飛んできたライオニックミサイルを隊長が"拾って"再利用、ウォーロックを倒しただけだ。

…………うん。 普通に凄い芸当だったね。

短時間でライオニックの誘導波を調整して"拾った"と思えばウォーロックに当てるとか。 隊長スゲェ。 それこそ魔法かと思った。

 

 

「ご謙遜を」

「後から来る隊長の方が凄いですよ」

「まぁ、そこはStorm-1ですからね……色々と普通の枠に収まらないのです」

「はははっ、やはり」

「ええ。 Storm-1が民間人だった時から、その片鱗はありました」

 

 

へ、ナニ。 民間人時代の隊長を知ってるの?

エピメテウスが?

 

 

「へ? エピメテウスって当時、極秘だったんじゃ」

「ええ。 少なくとも民間人は知らない存在だったのですが。 何故か彼は知っていたのか……開戦日、緊急出航したエピメテウスに見慣れない要請コードが来たりハッキングを受けましてね。 それがStorm-1だったと後々に知りました」

 

 

ファッ!?

どういうことなの……。

ますます隊長が人外染みているというか、謎が深まるんですがそれは。

 

 

「"民間人"からの要請を受けて、ミサイルを発射しちゃったりしましてね……それで担当員が艦長に怒られましたね……ははっ」

 

 

乾いた笑みを浮かべる整備士さん。

ナニやってんですか隊長……。 謝んなよ。 もう時効か、そうですか。

 

 

「まぁ話もなんです。 休憩室に案内します」

「助かります」

「ちょっと艦内の雰囲気は暗いですが」

「ナニかあったんですか?」

「ええ……スカウトウィッチが2名、撃墜されてしまって」

 

 

なんだって?

 

 

「無事なんですか?」

「なんとか一命は取り留めましたが、片割れはICU(集中治療室)にいます」

「そう、ですか」

 

 

先ずは安心して良いのだろうか。

助かって良かったと。

 

戦場にいる以上、10代の少女だろうと容赦なく命は奪われる。 それがこの世界の現実だ。

501のようにエリートな子達は生存率、生還率が高いのだろうが……他の、俺みたいな"ただの"軍人は その限りではない。

使い捨ての駒なのだ。

エトワール作戦で、改めて思い知らされた。

あんな、若い子達が。

命懸けで戦って。 足掻いて。 生きて。

人類の希望だなんて聞いたけど。

大人の都合で少なからず人生を滅茶苦茶にされているとも思う。

時に殉職の素晴らしさを風潮され、時に肉壁とされ、時に見捨てられていく。

そんな事をさせる連中、未来永劫呪詛したくなる。

 

 

「あの子達がなにをしたっていうんだよ」

 

 

"魔法"なんて持ったばかりに。

メルヘンな言葉で片付けてはならない。 魔法、それは一種の呪いだ。

こんな酷い仕打ちを受け続けなきゃならないのか、あの少女たちは。

 

 

「その事は」

 

 

整備士が声を掛けた。

どうやら、俺の心の声が漏れていたらしい。

 

 

「もう片方のウィッチから聞いた方が早いかと。 案内します」

 

 

して現実は、俺の事を嫌いらしい。

 

 

「"軍曹ちゃん"のところへ」

 

 




軍曹ちゃんと再会します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

37.弱者の痛み

作戦内容:
収容したスカウトウィッチの様子を見る。
概要:
曹長ちゃんは重体。
軍曹ちゃんは軽症だが心的ショック状態。


チカラが欲しい。


エピメテウス艦内医務室

 

案内された場所にいたのは、ベットに横たわる知り合い。

 

 

「軍曹ちゃんに曹長ちゃん?」

 

 

なんだよ……なにがあったんだ?

 

軍曹ちゃんは無気力状態で、ベットに座っている。 怪我は……見当たらないが死んだような目をしている。

俺は知っている。 絶望した目だ。

一方、ガラス越しには曹長ちゃん。 酸素マスクを取り付けられ、何本ものチューブが身体に取り付けられている。 目は閉じたままだ。

 

 

「……只野さん」

 

 

遅れて気付く軍曹ちゃん。

蚊の鳴くような声。 光のない目で俺を見る。

 

 

「なんでここに……いや。 それよりも、なにが起きたんだ?」

 

 

側に駆け寄って尋ねるも、それがいけなかったらしい。

責められた子どもが泣いてしまうように、軍曹ちゃんは涙をポロポロと流し始めた。

 

 

「ごめんなさい……ッ! ごめんなさいッ!」

 

 

俺に抱きついて許しを乞う。

どうしたんだよ、本当に。

 

 

「私のせいで! 只野さんや皆の役に立ちたいって。 でも迷惑を掛けて……曹長さんが私の身代わりになって!」

 

 

よく分からない。

でも、軍曹ちゃんがポカしてしまい、それで曹長ちゃんが犠牲になったという形か。

 

 

「落ち着いて。 曹長ちゃんは死んでない」

「でも……でも……ッ!」

「俺に謝っても仕方ないよ。 目を覚ましたら、直接謝れば良いさ」

 

 

ビンタくらいは、されるかもだが。

仮にも軍属だ。 でも、それで学べば良い。

それを思ってか否か。 案内してくれた隊員が説明してくれる。

 

 

「もうすぐ麻酔が切れて目覚めます。 その時、お話しましょう」

 

 

微笑んで語りかける。

優しい人だな。 迷惑をかけられたというのに。

 

 

「それに、エピメテウスの皆には謝ったじゃないですか。 皆は許してくれましたし。 後は曹長ちゃんだけです」

 

 

あ、そうなの。 皆に直ぐ謝ったのか。

して皆、良い奴ら過ぎる。

切り札な艦だがら、皆気難しい連中かと思っていた。 真逆らしい。

 

 

「偉いぞ軍曹ちゃん。 皆に直ぐ謝ったんだね」

 

 

そう言って頭を撫でて褒めてやる。

少しは落ち着いたかな?

 

 

「うっうぅ……ぐすっ。 優しくしないで下さい」

「罪を与えられたいって? それは自分で背負うしかないんだ」

 

 

少し厳しいけど、優しい口調で言う。

俺たちEDF隊員もそうだから。

隣の仲間を守れなかったり。 民間人を守れなかったり。

俺は……欧州の時、逃げ出したし。

 

 

「そう……ですね」

 

 

涙を拭う軍曹ちゃん。

目元が赤くなって、くしゃくしゃだけど。

うん。 さっきよりは良くなったよ。

 

 

「私」

 

 

して、真っ直ぐな瞳で俺を見て言う。

 

 

「強くなります。 皆に迷惑かけないように。 皆を、ウィッチも世界も守れるくらいに」

 

 

もう絶望した目じゃないや。

俺は莞爾として微笑むと、もう1度、頭を撫でてあげた。

 

 

「その意気だよ」

 

 

して、タイミング良く。

 

 

「あっ。 曹長ちゃんが目覚めましたよ!」

「丁度か」

 

 

ガラスの向こう。

ムクリ、と起き上がる曹長ちゃん。

直ぐに医療班が入っていき、安静にと姿勢を整えていく。

 

 

「面会出来ますか?」

 

 

俺より先に軍曹ちゃんが尋ねた。

恐怖心はない。 決意した声だった。

 

 

「もちろん。 少し、待っていて下さい」

 

 

言って、駆けていく隊員。

良かった。 現実は、そこまで俺の事を嫌ってなかった。 それこそ軍曹ちゃんや曹長ちゃんも。

 

 

「はいっ、お待たせしました。 面会は大丈夫との事です。 ついて来て下さい」

 

 

言われてついて行く俺と軍曹ちゃん。

このまま、絶望し続けなくて良かったよ。

希望は、必要だ。

 

でも。

 

それが歪んだ希望になっていくなんて、この時の俺は……EDFは思いもしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー EDFーーーーーー

 

目覚めた時。

そこはEDFの潜水艦の中だった。

 

そこで只野二等兵と軍曹に"生きて"再会した。

 

して謝られた。

独断専行した事を。

して宣言された。

もっと強くなります、と。

 

続いて笑顔で報告される。

 

連合軍の新兵器。

ウォーロックは撃墜した、と。

安心してくれと。

続く報告。

ブリタニア第501戦闘航空団基地はEDFの精鋭部隊の活躍で制圧、マロニー空軍大将は逮捕、指揮していた第1特殊強襲部隊は全滅。

だからもう、何も心配しなくて良いと。

 

 

「あ、ああぁ…………?」

 

 

なんで?

なんでだ?

 

なんでEDFは勝つんだよッ!?

 

私がEDFから情報や技術を盗み、連合に流していたのに!

その技術を盛り込んだのに!

正面からのEDFの圧倒的な火力を正面から受けても平気になるような技術を!

 

勝てない。

本物には。 EDFには勝てない。

怖い。 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!

ネウロイなんかより、よほど!

 

それに。

なんで私は生きているんだ!?

それも恐ろしい!

 

EDFの医療技術も怖い。

治癒魔法の比じゃない。

死者すら蘇らせられるんじゃないか!?

悪魔だ……! EDFはバケモノだ……!

 

あのビームは、いくらウィッチでも確実に命を削ぐチカラをもっていた!

軍曹に死なれては後味が悪く、つい情に流されて庇って被弾した。

でも、誰かを救って死ねるなら良いとさえ思った。

こんな裏切りに葛藤する人生を終わらせられるから。 EDFが倒されるのを見れなかったのは残念だと思ったけど。

 

でも結果はコレ!

 

 

「生きてる……生きてるよぉ、あ、ああぁ」

 

 

現実は非情だ。 いつだって分かっていた。

分かっていた、つもりだった。

でも。 分かっていなかった。

 

EDF。 理不尽な存在。

神がいるならば問いたい。

 

何故、私を生かしたの?

何故、死神に私を助けさせたの?

 

 

「ひゃああああああああああッ!!?」

 

 

声にならない悲鳴を上げる。

私の喉が潰れるんじゃないかってくらい。

ううん。 そもそも、これは私の喉なの?

それも分からなくなって……両手で掻きむしったり、締め上げる。

苦しみが唯一、救いの感覚で───。

 

 

「曹長さんッ!?」

「発狂!? 錯乱状態だ!」

「いかん! 麻酔を打て!」

「肩に打ち込め! 眠らせるんだ!」

 

 

次には激痛が走って。

私は再び、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「WDF計画。 都合の良い被験体が出来たな」

「ええ。 2つも、ね」

 




ウォーロック撃破、ブリタニア空軍大将逮捕。
そして……発狂。

EDFは どうなるのか。

水面下ではWDF計画が動き出す……?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ネウロイ反抗阻止!
38.MK-1出撃! あの氷山を殴れ!


作戦内容:
ウォーロック撃墜並びに空軍大将の逮捕、お疲れ様でした。
ですが休んでいる暇はなさそうです。
たった今、アントウェルペン港から救援要請がきました。
なんと氷山に紛れてネウロイが港に侵攻してきたとの事。
水が苦手の筈のネウロイが、何故氷山に……。
とにかくコレを迎撃、これを破壊します。
また、必要なら輸送中の"作業用クレーン"を使用して下さい。
なお、スカウトウィッチには話があります。 科学班の人に従い エピメテウス艦内で待機して下さい。
備考:
ブリタニアだけじゃなく、多方面でEDFが活動中の様子。



EDFカールスラント仮設本部

 

基地機能の引っ越しに追われる中でも戦場を見なければならない。

本部は少ない戦力を割いて様々な方面に偵察を送り込んでいた。

それはウィッチだったり、男性一般連合軍兵士であったり、正規EDF隊員だったり。

ブリタニア方面はStorm-1、Storm-2、501の活躍により当初の目的を果たした。

これで連合軍側でのEDFの影響力は高くなるだろう。

して発言力の増加に伴い、物資や予算の都合をつけてくれる事を狙う。

 

 

「ブリタニア方面は これで良い。 スカウトウィッチが2名重症のようだが……狙った様に都合の良い犠牲だな」

 

 

報告書を見て淡々と言う司令官。

10代の少女が傷付いているのに、この言い方である。

冷たい様だが戦場にいる以上、そういった事は常に起こり得るし、本部としては犠牲になる兵士が出るのは予想している。

問題にしているのは被害規模だ。 501が壊滅するとかStormが死ぬとか、基地が吹き飛ぶとか、民間人を巻き込むとか。

ウォーロックが暴走するのは全くの想定外ではなかったが、赤城が巻き込まれたのは良くなかった。

だがStormやエピメテウスの活躍で撃沈は免れて良かった。

これで扶桑にも良い顔をして貰えるだろう。

実に都合が良い被害者である。

それに、スカウトウィッチ2名が傷付いたのも都合が良いのは事実。

それを理由に、エピメテウス艦内に留めておく事が出来る。

 

 

「Storm-1とStorm-2を投入したのだ。 逆にそれくらいで抑えられて当然か……情報部の思惑通り、エピメテウスとも合流したそうだからな」

 

 

報告書を脇に置き、別のバインダーを取り出す。

そこにはWDF計画の文字。

 

 

「WDF計画。 ウィッチに【かの者】のチカラを加えて肉体改造し、驚異的な戦力増加を図る計画……」

 

 

詳細を読む。

戦略情報部 少佐発案。

計画が漏れるのを避けるため、隠密性の高い潜水母艦エピメテウス艦内に被験体を収容、そこで手術を行う。

完了後、運用データを取りEDFの戦力として組み込む事とする───。

 

 

「……連合とやり取りするだけなら良い。 だが、これには反対だな。 こんな事をしてまでEDFを存続させたいのか。 いや……そもそも〈コレ〉はEDFなのか?」

 

 

額に手をやり、バインダーを脇に投げる司令官。

本部とは独立している戦略情報部と科学班が独断で決めた計画だ。

事後承諾すら必要とせず、強制的に推し進めており、本部が知ったのは最近の話である。

戦力も少なく、切迫した中で各個で生き残ろうと足掻いた結果だ。

だが実態は組織の足並みが揃わず、して本部には止めるチカラは無かった。

 

 

「いつから道を踏み外した? 戦前から間違えていたのか……インドの山中で宇宙船の残骸を見つけた時から……EDFを結成する前から……」

 

 

この惨状にボヤきたくもなる。

彼は戦時、戦略情報部の少佐からEDFの成り立ちを聞かされた。

その会話の中で、何故エイリアンが地球を襲って来たのか、その考察を思い出してのボヤきだった。

エイリアンがかつて、地球に文明を授けたのでは、という話や、そもそも"人間そのもの"もエイリアンが"創った"可能性───。

今度は我々が模倣犯のような事を───。

 

 

「嘆いても仕方ない。 出来る事を───」

 

 

そんな時。 頭痛の種を植え付けた戦略情報部の少佐から緊急連絡。

 

 

「大変です。 アントウェルペンから救援要請!」

 

 

切迫した声。

本部もすぐさま対応する。

 

 

「詳細に報告してくれ」

「氷山が港に接近中との事。 このまま衝突すれば港湾設備が破壊されてしまいます」

「氷山?」

 

 

ネウロイでは無いのか。

なら無理に兵士を出動させる事もない。

現地の連合軍にでも任せれば良いだろう。

氷山が港に来る理由は分からんが……。

そう思っていたら、

 

 

「それが、氷山から敵性反応を確認。 ネウロイと思われます」

「なに? 氷山がネウロイだと?」

 

 

なんと氷山がネウロイだという。

 

 

「恐らくアントウェルペンを橋頭堡として、カールスラントや各国への反抗に出るつもりだと推測されます」

「くそっ! そういう事か!」

 

 

司令官は慌てた。

アントウェルペンは欧州を代表する港湾都市で、港湾設備も充実している。

故に民間人にとっても軍隊にとっても重要な補給基地であり、ここが堕とされるとなると、かなりの痛手を負わされる。

しかも、そこからカールスラントや各国に散るように侵攻が出来る事を考えると、ネウロイがココを橋頭堡としてようとしているのは想像に難しくない。

氷山でやって来た理由は分からないが、人類が「ネウロイは水が苦手」という概念を持っているから、油断させる為に氷山に身を隠してやって来たとも考えられる。

或いは進化しているのか。 なんにせよ、戦局は好ましくない。

 

 

「現地にいる連合軍とレンジャー51だけでは危険だ! 各方面隊に緊急電! 戦闘可能な部隊は直ちにアントウェルペンに集結させよ! EDFは氷山型ネウロイを迎撃する!」

 

 

慌ただしく動き回る本部。

氷山型ネウロイ。 3期に出てきたアレである。

本当は、もう少し未来の話なのに現れるとは。 これもEDFの影響か。

正史では、帝政カールスラントの首都ベルリン奪還の為の大規模な軍事作戦計画【オペレーション サウス・ウィンド】の当初の補給予定地であった場所。

人類がベルリン奪還の為の基地を、この世界ではネウロイがベルリン(以外もだろうが)を奪い返す為の橋頭堡にしようとしていると考えると……皮肉なものだ。

 

 

「Storm1にも連絡! 彼らも現地に向かわせろ! それと現地に輸送中の"鉄クズ"は、そのまま投下! 氷山にぶつけさせる!」

 

 

して、アレが再び役に立ちそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー EDFーーーーーー

只野二等兵視線

 

 

「で、俺たちはアントウェルペンに向かっていると」

 

 

俺とストーム隊長は本部の無茶振りで再び空を飛んでいる。

ブルートに燃料補給をして、簡単な軽食をして、直ぐテイク・オフだ。

休暇はいつ貰えるんですかね?

 

 

「文句言うな。 仲間を助けるぞ」

 

 

隊長は正義感が強いね。

さすが、かの者を倒した英雄は違う。

 

 

「うぅ〜、苦しい……ッ!」

「また缶詰か」

「ぐえぇ」

「少しは休ませてぇ」

「EDFは人使いが荒いな」

「仲間の為だ、我慢しろ」

「訓練だと思えば良い」

 

 

でも背後に乗っている客は苦しそうですね。

エースと英雄は似て非なる存在なのかも知れない。

ゆうて、彼女らも10代の女の子だしな。

……むぅ。 可哀想に思えてきた。

 

 

「501、聞こえるか? 降下5分前! 高度はこのままだ、急ぎチェック」

「501了解しました」

 

 

やり取りを交わす隊長とミーナ。

悲しいかな、戦場だ。

少女達もチカラがある以上、銃を持って押し寄せる敵を撃たねばならない。

 

 

「本当は現地まで輸送したいが、そんな悠長な事をしていられない。 最低限の航続距離を稼いだら、ストライカーユニットの方が速い以上、先に行っていて貰う」

「ええ。 分かってるわ」

 

 

将来の夢があっただろう。 可愛い服を着て街に遊びに行きたいだろう。 愛していた者がいただろう。

でも戦争が、ネウロイが奪ってしまった。

して軍隊に組み込まれ、消耗品の兵士の1匹として振舞わなければならなくなった。

俺もだけどさ。 俺は……ほら。 軍隊って格好良いなーとか、そんな軽い気持ちで入隊しちゃったからな。

でも少女達は違うワケで。

平和だったからね、あの頃は。

今や遠い記憶になっちまった。

 

 

「チェック大丈夫!」

「了解。 合図で扉解放、飛んで行け!」

 

 

おっといかん。

仕事中だ、集中しなきゃ。

 

 

「ブルートコース良し! よーいよーい!」

 

 

赤色の、扉の解放ボタンに指を当て、

 

 

「降下降下降下ーッ!」

 

 

ボタンを押し、解放された青色へ。

 

 

「いっけー!」

「行ってきます!」

「解放されたー!」

「お待ちしておりますわ!」

「着く頃には仕事は無いさ」

「油断するな!」

「ヒャッホー!」

 

 

口々に言いながらスカイ・ダイブ。

高度を自由落下で一気に下げて、速度が乗ったところで水平飛行へ戻していく501のウィッチーズ。

スゴいね。 蜘蛛の子散らす……じゃなくいけど。 そんな感じ。

 

 

「みんな……無事で」

 

 

コックピット越しに、少女達を見送る。

あっという間に点になり、見えなくなっていく。

心配だ。 親の気持ちって、こうなのだろうか。

 

 

「大丈夫だ。 あの子達は強い」

 

 

隊長が言うならそうなんだろう。

俺より見てきたんだ、そうに決まってる。

 

 

「そうですね」

 

 

心配、といえば。

 

 

「曹長ちゃん、軍曹ちゃんは大丈夫でしょうか」

 

 

エピメテウス艦内に待機命令を下された2人が気になる。

なんでも治療の為に残されたらしい。

曹長ちゃんは発狂してしまったし、軍曹ちゃんは……診察されて何か悪いモノでも見つかったのだろうか。 不安だ。

 

 

「…………エピメテウスは人類の切り札、今日まで生き延びてきた潜水母艦だ。 隠密性は高い。 何より水の中にいる以上、ネウロイも簡単には手を出せない」

「ですよね」

 

 

でもさ、直ぐに面会出来ないよな?

潜水母艦にアプローチなんて、おいそれと出来ないだろうし。

まさか、このまま会えない、なんて事にはならないよな?

 

 

「心配か?」

 

 

不意に隊長が尋ねる。

 

 

「まぁ、人並みには」

「そうか」

 

 

言って暫く無言になる隊長。

ローター音だけが世界に響く。

なんだ。 隊長は何か知っているのか?

確か隊長には戦略情報部のオペレーターが付いていた。

だからってワケじゃないが、エピメテウスが この世界にいる事、ウィッチが艦内に留まる理由も───。

 

 

「隊長」

「後で話す。 今は任務を遂行しろ」

「約束ですよ」

「ああ」

 

 

隊長なら約束を守ってくれる。 そんな気がする。

なら今を集中しよう。 守る者がいる。 少なくとも、この世界には。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー EDFーーーーーー

アントウェルペン港

レンジャー51

 

 

《緊急放送。 アントウェルペンにネウロイ接近中。 お住まいの方は至急、避難して下さい。 繰り返します───》

 

 

非常放送がラジオで流れ、連合軍が避難誘導、アントウェルペンの人々は悲鳴を上げながら港から遠ざかっていく。

 

欧州を代表する港湾都市アントウェルペン。

突如として接近する大型氷山に、現地にいたレンジャー51は身を震わせ戦慄するよりなかった。

 

 

「おいおいマジかよ」

「氷山が動いてるぞ」

「デカい」

「コッチに向かってきている!」

 

 

レンジャー51は輸送されてくる"作業用クレーン"の為に港のパトロールをしていたに過ぎない。

だから重火器なんて持ち合わせておらず、いつものPA-11である。

そんな装備で大丈夫なワケがない。

彼らが何時ぞや遭遇したエイリアン幼生体なら兎も角、氷山をどうにか出来る武器ではない。

 

 

「どこから やって来たんだアイツは」

「普通じゃないのは確かだ」

 

 

船が通れるとはいえ、入り組んだ所にある港に器用に突進してくる氷山。

センサーには敵を表す赤丸表示が映る。 どうやら氷山は普通ではないらしい。

 

 

「アントウェルペン市民の避難が遅れています。 避難を優先させますか?」

「自主避難させろ。 細かい事は連合軍に任せておけ」

「了解」

 

 

EDF以外にも駐在連合軍がアントウェルペンにいるし、連合軍の要塞砲が地味ながら氷山に砲撃を喰らわせている。

が、しかし。

氷山は時々表面の氷が壊れつつも、止まる気配を見せない。

やはりEDFも頑張らないと ならなそうだ。

 

 

「本部の話だと、あの氷山はネウロイらしい。 危険だ、破壊するぞ!」

「しかし、我々の武装では!」

「救援が来る! それと、あの"クレーン"だって来る! それまで要請でもなんでもして、時間を稼げ!」

「"アレ"か! あれならば、或いは!」

「何とか出来る……ッ!」

 

 

クレーンのアレ。

それは勿論アレである。

政府主導の下で天文学的な予算を注ぎ込まれ、十数機が建造された、全高47mの超大型移動式クレーン。

胸元に「安全第一」の文字が書いてあるアレ。

運用にあたっての安全性やコスト面での欠陥が露呈、関係者の責任問題にまで発展した挙句にEDFに譲渡、倉庫に死蔵されていたアレ。

活躍に恵まれない日々が続いたのもあって、戦前から、とある作戦で有用性を見出されるまで【鉄屑】呼ばわりされていたアレ。

Storm-2の職場であった228基地にもあったアレ。

衝突回避プログラムを切る事で、質量兵器と化したアレ。

E1合金製で、エイリアンの歩兵部隊の集中砲火にも耐えるアレ。

1940年代の西暦世界でも怪生物が出るかも知れないし、港湾設備に何とか使えるかもだし……つーかぶっちゃけ邪魔だからという理由でアントウェルペンに押し付ける形で輸送されているアレ。

 

 

「分かったか! 絶望するレベルじゃない!」

「イエッサー!」

「EDFッ!」

 

 

言って発煙筒を投げる51の隊長。

モクモクと空に赤い煙が上がると、直ぐに輸送機がやって来てコンテナ投下。

中から、どうやって コンテナに収まっていたんだというビークルがドドンッと現れる。

 

 

「これはEMC!?」

 

 

大きなパラボラアンテナを取り付けたような大きな車両が現れたのだ。

その名もEMC。 研究段階の超兵器「原子光線砲」を搭載した大型車両。

製造コストは1台1億ドルとも言われているが、原子光線砲は山を一瞬で消滅させるほどの高圧エネルギーを生成、照射する事が出来る。

 

 

「よく要請出来ましたね!?」

「使えるモノは何でも使えって本部がな」

「とにかく、これで氷山なんか吹き飛ばせますね!」

「救援いらなかったんじゃないですかー?」

 

 

フラグを立てつつ、51の隊長が乗り込み、操作。

 

 

「吹き飛べ氷山ー!」

 

 

氷山にズビビビビ〜ッと電撃のような、パラボラから原子光線が放たれる!

 

刹那、氷山は瞬時にバラバラ。

中に隠れていたネウロイもろとも破壊してしまった。

 

 

「よっしゃー!」

「さすがEMC!」

「救援なんていらなかった!」

 

 

が、直ぐに良くない事態が起きる。

 

 

「待て! センサーに反応多数!」

「目視で確認しろ!」

 

 

そう。 赤丸が点々とセンサー上に現れたのである。

慌てて51が確認すると、そこには。

 

 

「ひょ、氷山多数!」

 

 

なんと、同じように氷山が押し寄せて来るではないか。

 

 

「へ、へへ! 何個来ようとEMCがいるんだ! 怖くないぜ!」

「てな訳で。 やっちゃって下さい隊長!」

 

 

部下がEMC任せの発言をするも、ウンともスンとも言わないEMC。

 

 

「ど、どうしたんですか?」

「…………それが、EMCのエネルギーは1発分しか無かったんだ」

「「ナニィッ!?」」

 

 

なんと再度の発射が出来なかった!

変なところでコスト削減か。

これでは氷山を食い止められない!

 

 

「くそっ! ここまでか!?」

 

 

51が挫折しそうになった、その時。

 

 

『絶望するには、まだ早い!』

 

 

無線が入る。

どこかで聞いた事があるような、そんな声だ。

 

 

「誰だ!?」

「上だ! 上を見ろ!」

 

 

言われて上を見ると。

そこには輸送機ノーブル数機で輸送されてくる、黄色いボディの超大型ビークルが!

 

 

『こちら【ギガンティック・アンローダーバルガ】MK-1! 氷山を食い止める!』

 

 

そう。

人型の移動式クレーン、ギガンティック・アンローダーバルガである!

 

 

『切り離す! 衝撃に備えろ!』

 

 

港を背中にし、守るような海上の位置でバルガは輸送機に切り離される。

して、バシャーンと大きな水飛沫を上げ、バルガが この世界に降り立った!

 

 

「うおおおおおおっ!」

「EDFッ! EDFッッ!!」

 

 

応援を受けつつバルガは前進。

 

 

『バルガ、バトル・オペレーション!』

 

 

操縦者が叫び、目の前の氷山をブン殴る。

圧倒的な質量のパンチで、氷が一気に砕け散る。

 

いつ見ても、巨人が戦う光景は凄いものだが、

 

 

「「なんじゃ ありゃあ!!?」」

 

 

初めて見る連合軍、駆け付けた501は見て、驚愕するほか なかった……。

 




バルガで氷山を殴らせたいだけだった……(殴。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

39.かき氷機バルガ

作戦内容:
複数の氷山型ネウロイがアントウェルペン港に接近中!
このままでは港湾設備が破壊されるばかりか、状況次第で地上を制圧されてしまいます。
氷山型ネウロイに対抗する為、稼働可能なバルガを臨時投入。
歩兵部隊は援護をお願いします。
アントウェルペン港を防衛して下さい。
備考:
連合軍も援護する。



アントウェルペン港

 

海上巨大ロボット決戦の地と化したアントウェルペン港。

全高47mの、丸みを帯びた巨大ロボットことバルガが押し寄せてくる氷山型ネウロイを食い止めんと、港を背に海で戦う!

 

 

『うおおおおッ!』

 

 

右腕を大振りし、圧倒的な質量を持つ機械の拳を氷山に叩き込む。

ガギィンッと甲高い音と共に氷塊が四散。

氷山は身を削り、海を滑る。 否。 割る様に吹き飛ばされた。

大きな水飛沫が、氷が飛び散る。 双方が動くだけで軽い津波が港湾設備に海水の土砂降りを降らせる。

 

その銃弾使わぬ凄まじい肉弾戦に、ギャラリーと化した連合軍は驚く他ない。

まさか1940年代の西暦世界でリアル海上ロボット決戦が始まろうとは。

 

 

「なんなんだアレは!?」

「デカい!」

「スゲェぞ! 氷山を殴り飛ばしやがった!」

「クレーンが来るとは聞いていたが」

「クレーン!? アレがか!?」

「凄まじいな、EDFは」

 

 

港でビビる連合軍兵士たち。

EMCも凄いと思うが、質量ある巨大ロボットのスケールはロマンがあった。

 

因みに。 アントウェルペン港にバルガを輸送するに当たっては管轄側、連合に書類を送っている。

無断輸送じゃない。 EDF、偉いやろ?

ただ、そこには全高47mの"クレーン"と書いてあり、二足歩行ロボットとも質量兵器とも鉄屑とも書いていない。

若干、詐欺臭いが嘘じゃないし、変に兵器転用可能だなんて言ったら警戒されるし……まっ、多少はね?

 

 

「頑張れEDFッ!」

「頑張れー!」

「やっつけろ!」

「アントウェルペンを守ってくれー!」

「頑張ってー!」

『頑張ってじゃない! お前らも頑張るんだよ!?』

 

 

応援しかしない連合軍に文句を言う搭乗員。

だが やがて声援は、ひとつの言葉に集約させる!

 

 

「「「EDFッ! EDFッッ!!」」」

 

 

背に声援を受けたバルガは、なんだかんだやる気を見せた。

腕をクレーンの機動らしく、グルグルと回し両腕を天に上げ、背中のブースターから青白い炎を出してみせる!

 

 

『皆が期待する技をブチかますッ!』

 

 

バルガが近くの別氷山の前に躍り出る!

 

 

「おおっ! ナニを見せてくれるんだ!?」

 

 

戦場なのを忘れ、空の501もワクワクして見ている。

格闘戦とは心踊るナニかがあるのかも知れない。 それも巨大ロボットとなると尚更に。

バルガは拳を広げ、氷山を掬い上げる様に下から上へと一気に振り上げ、

 

 

『喰らえ! ちゃぶ台返しッ!!』

「「期待してない! そんな技ッ!?」」

 

 

ちゃぶ台を知る扶桑軍人の坂本と宮藤のツッコミを受けつつ、なんと氷山をひっくり返した!

 

 

「スゲェッ!? 氷山をひっくり返したぞ!」

「チャブダイガエシ。 なんて恐ろしい技なんだ!」

「俺もチャブダイガエシを習得すれば、ネウロイ相手でも!」

「無理だろ生身の人間じゃ」

「EDFの噂の強化外骨格があれば!」

 

 

チャブダイガエシ。

日本の……この世界だと扶桑の、ご家庭技を知らない欧州の人々はスゲェ技だと勘違いして興奮する。

まぁ、名前はともかく、デカい氷山をひっくり返しているワケだからね。

その意味ではスゲェと思う。 技名は ともかく。

 

 

「芳佳はチャブダイガエシ知ってるのー?」

 

 

ルッキーニが目を輝かせて宮藤に聞いてしまう。

デカいロボットがドンパチする姿に感銘を受けてしまったらしい。

そんなルッキーニに、なんて答えて良いものかと逡巡する宮藤軍曹と坂本少佐。

 

 

「うーん……詳しくないけど迫力はある、かな?」

「あー、なんだ。 説教する際に行われる儀式……いや。 技というかだな」

 

 

曖昧な話をしている間にも、バルガの戦闘は続く。

今度は別の氷山の元へと歩み寄り、両腕を天に上げてからの一気に振り下ろすWスレッジハンマーが炸裂! 氷塊を叩き壊す!

 

 

「いいぞー!」

 

 

一方的に氷山群を砕く光景に、連合軍の声も熱くなる。

が、しかし。

 

 

「氷山からナニか出たぞ!?」

 

 

中からネウロイ本体と触手が生えてきた。

それらはウネウネと動き、先端をバルガに向ける。

 

 

「ナニかをするつもりだぞ気を付けろ!」

『叫んでないで手伝ってくれ!』

「援護ならしている!」

『応援だけじゃないか! 撃ってくれ!』

 

 

デカいスピーカーで余裕な会話をしている間にも、戦闘は続く。

触手の先端がバラバラになり粒になったかと思えば、それらがロケット弾の様にバルガへとぶつかる。

刹那、次から次、雨霰と爆発。 爆煙がバルガの上半身を包み込んでしまった!

 

 

「ああ!?」

「自爆型ネウロイかよ!」

「おい大丈夫か!」

 

 

心配するギャラリー。

正史では軍事施設を沈黙させてしまう程の威力だったソレ。

ネウロイは先手を取られたが、コレでどうだ、と様子を見るように黙り込む。

ですが心配御無用です(CV:EDF広報)。

爆煙から操縦席から洩れる緑の明かりが煌めいたと思えば、次には拳が生えます。

 

 

「おおっ!?」

 

 

チョップするように氷山を叩き飛ばし、港から更に引き離す!

驚く間もなく、またも吹き飛ばされてしまうネウロイ。

 

 

『バルガはE1合金製! この程度、こそばゆい!』

 

 

煙を突き破り、現れる鉄鋼の巨体。

表面は全く傷付いておらず、圧倒的な強靭性を感じずにはいられない。

 

 

「スゲェ!?」

「自爆型に耐えるとは!」

「耐えるというか効いてない!」

「本当にクレーンかよ!?」

 

 

人類側も驚く威力。

そんな彼らに喝を入れるように、バルガ搭乗員が叫ぶ。

 

 

『ナニをしている! 要塞砲は飾りか!』

 

 

正史で吹き飛ばされていた、港防衛用の軍事施設に言うと、慌てた様にバカスカと砲撃を始めた。

 

 

「すまない! 援護する!」

 

 

バルガ程ではないが、宇宙人の鎧的な役割をする氷山を削ぐ手伝いにはなった。

それを迷惑だと思ったのか、それともバルガに少しでもダメージを与えるためか。

ネウロイはバルガを盾にするように位置取りをした。

 

 

「くっ! ネウロイめ!」

 

 

これではバルガに砲撃が当たってしまう。

砲撃の手を緩めてしまう連合軍。

それに再び声を上げるバルガ搭乗員。

 

 

『構わない! バルガごと撃て!』

「なんだって!?」

『先程の光景を見ていなかったのか! バルガは頑丈さだけが取り柄だ! 要塞砲くらい、なんて事はない!』

 

 

なんとバルガごと撃てという。

先程の光景や彼の覚悟を見て、連合軍は意を決した。

 

 

「わかった! 撃って撃って撃ちまくれ! 当たっても構わん!」

 

 

再び撃ち始める要塞。

砲弾は氷山やバルガに無差別に命中。

表面に爆炎が立つもバルガは無傷、ネウロイは表面を削がれダメージ。

バルガに殴られていたダメージもあり、よろけて大きな隙を見せるネウロイ。

 

 

『いいぞ! トドメは任せろ!』

 

 

言うと、バルガはクレーンらしい機動……腰を360度グルリと回転、その勢いのまま拳を叩き込む大技を披露する!

 

 

「「おおっ!」」

 

 

ネウロイは、耐え切れず真っ二つ。

コアごとやられたのか、光の粒子となり消えてしまった。

 

 

「す…………スゲェッ!」

「やったぞー!」

「EDF! EDFッ!」

 

 

勝利に沸き立つ港だったが港の奥には、まだ氷山がいる。

 

 

『数が多い! 本部、増援を要請する!』

『既に向かわせている』

 

 

言うが早いか。

空から更にバルガが投下された。

大きな津波が相次いで発生、港や見ている兵士を濡らしまくる。

が、それくらい気にならないくらいの光景に目を奪われる面々。

港を守る壁のように、MK-1を先頭に横一列に並んでいる その光景は圧巻だった。

 

 

「うおおおー!」

「まだ来るのか!」

「良いぞー!」

 

 

使用可能なモノを無差別に放り込んだのか、グリーンカラーやシルバーもいた。

グリーンはG型と呼ばれる特別に強度の高い機体。

大規模な架橋工事を想定して改修が施されており、パワーとボディ剛性が向上。

積載可能量を増加させることに成功している。

つまり、オレンジのバルガより強い(確信)。

シルバーはウォーバルガ。

戦闘用に調整されたバルガである。

安全第一の文字が、EDFの文字とエンブレムに変わっている。

強い(確信)。

かつて夕陽に染まる平原で起きた最大最後の激突で、後続のBチームやStorm1をパイロットとしたノーマルを入れれば、なんとひとつの戦場に17機(!?)も投入された事もある。

そうなった経緯はバルガをもってしても敵を倒しきれず、逆に倒されてしまったからなのだが。

しかし、この世界ではEDFが優勢だ。

ネウロイは港を破壊出来れば良いと特攻してるヤツもいたが、その目論見も儚く散った。

バルガ1機だけならともかく、こうも何機も来られては どうしようもない。

 

 

『バルガ全機へ! 氷山型ネウロイを殲滅せよ!』

『了解!』

『突っ込むぞ! うおおおおおっ!』

『EDFッ! EDFッ!!』

 

 

次から次へと氷山に突撃する巨人たち。

それに悲鳴を上げる様に自爆型ネウロイを発射しまくる氷山群。

それを正面から堂々と受け止め、爆炎を突き破り氷山を殴り壊すバルガ。

 

 

『アーケルスやエルギヌスより楽だぜ!』

『この程度かネウロイ野郎!』

『カキ氷にしてやろうか!』

『なら粉々に粉砕しないとなぁ!』

『オラオラオラァッ!』

 

 

圧倒的。 圧倒的な質量と威力。

即ち暴力。 虐め。 新手のパワハラ。

アントウェルペンは港でありながら、採石場ならぬ砕氷場となってしまった。

 

 

「圧倒的じゃないかEDFは」

 

 

歩兵の出る幕もなく、要塞砲が申し訳程度に支援したくらいの戦闘。

バルガとかいう、人型クレーンがアントウェルペンを守った戦闘。

連合側では、暫く その話題で持ちきりになったそうな。

 

 

「隊長。 俺らの出る幕なかったっすね」

「501の言う通り、仕事は無かったようだ」

「私たちも何もしてませんが」

 

 

ユニットでホバリングする501と大型戦闘ヘリ ブルートを操るStorm1、只野はボヤく。

まぁ、仕事が減る事は良い事だ。

楽できる内に楽をしよう。

大変なのは これからなのだから……。

 




かき氷機と化したバルガ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

40.WDF計画とは。 call sign:silver

作戦内容:
アントウェルペン防衛、お疲れ様でした。
501は訓練地の南島に輸送します。
Storm1と指揮下の隊員は待機していて下さい。
備考:
WDFとは。


アントウェルペン港

只野二等兵視点

 

 

海水で ずぶ濡れの埠頭に佇む俺と隊長。

海には海水に浸かる巨人の群れ。 連合軍兵士は、ソレを見て驚き笑い合っていた。

 

 

「ストーム隊長。 約束通り、教えて下さい」

 

 

だが俺には笑う余裕がない。

潜水母艦エピメテウス、待機命令を下された軍曹ちゃんに曹長ちゃん。

その理由を知らなくては ならない。 特に軍曹ちゃんは俺が最初に助けた子だから。

 

 

「良いだろう」

 

 

隊長は渋る事なく、淡々と話してくれた。

 

 

「WDF計画。 聞いた事はあるか?」

「名前だけは」

 

 

他の隊員が話していたのをチラッとな。

詳細は知らん。 でも所詮は噂だ。 あまり気にしていなかった。

北京決戦の例がある。 毒ガスの様な新兵器が使われたと噂されていたが、真相は大気汚染だったし。

 

 

「Witch Defense Forcesの略だ。 WはWorldともかけているようだ」

 

 

ウィッチ デフェンス フォース。

魔女を守るチカラ、とでも言うべきか。

ワールドなら、世界を守るチカラ。

EDFみたいだな。 今や虚しい響き。

 

 

「それと軍曹ちゃん達に関係が?」

「ああ。 エピメテウスはWDF計画の為に この世界に来ている」

「潜水母艦を出張らせる。 それだけデカい計画なんですか」

「そうだ」

 

 

事実なら、唾棄して跨げない真実がある。

ただの二等兵が知ったところで、どうしようもない気がしてきたな。

 

 

「EDFが この世界に来た理由は分かるだろ」

「はい。 物資や人員、土地確保の為です」

「そうだ。 それには連合国、世界に認めさせる必要がある」

 

 

まぁ確かに。

EDFは この世界からしたら異物だし、イキナリ来て物資を寄越せと言うワケだからな。

戦時中だし、ボランティアでくれてやる程、余裕はないだろう。

 

 

「それにはどうすれば良いと思う?」

「有益な関係を築く事ですかね」

 

 

EDFの技術や戦力を この世界に提供し、代わりに連合は物資や土地、人員を渡す。

理想は こうだろうな。

 

 

「そうだな。 だが、もうひとつ方法がある」

「へ?」

 

 

なんだろう。

まさか無理矢理?

それは……非現実的だ。 だって、兵力が足りない。 圧倒的に。

それにEDFがそんな事をする筈がない。

そう否定する俺。

だが現実は、そうはいかなかった。

 

 

「圧倒的なチカラで世界を掌握する事だ」

 

 

目眩がした。

隊長はナニを言っているんだと。

それじゃまるで……侵略者。

エイリアン連中じゃないか。

 

 

「隊長。 今のEDFに戦力はありません」

 

 

だから否定したくて。

事実を口から垂れ流す。 だけど、隊長の言葉も本当なんだと思う。

 

 

「無いなら創れば良い」

「それがエピメテウスですか。 確かに戦力としてはデカいでしょうね、でも」

「創るんだよ只野」

 

 

WDF。

つくる。 ウィッチ。 隠密。 潜水母艦。

言葉が頭をぐるぐる回る。 結果として生まれる言葉は分からない。 分かりたくもない。

 

 

「ハハッ、この世界の兵士をキャプチャーしてEDFの兵士として訓練して。 時間が掛かりそうですね」

 

 

だから適当な事を言ってしまう。

本能が真実を求めない。 虚実を求める。

 

 

「察している筈だ」

 

 

それでも隊長は追撃してきた。

仕方ない。 知りたいと申し出したのは俺の方だ。 責任は俺側にある。

 

 

「答えを言おう。 エピメテウスで軍曹ちゃんと曹長ちゃんに強化人間の手術を施す。 それで既存の兵器なんて比べるべくもないチカラを与える」

 

 

隊長が淡々と言い続ける。

足が地についていない感覚に襲われた。

隊長の言う通りだ。

何となく、俺は察していた。

でも、目を背けていた。 怖いから。 真実が。 知りたくなかった。

またも俺は、仲間を見捨てて逃げていたんだ。

 

 

「で、でも。 空軍のフーリガン砲だって量産出来るチカラはなかった。 兵士を人工的に増やすにしても改造するにしても、設備も物資も揃えられない筈です」

 

 

尚も逃げる為に意味なき言葉を走らせる。

そんな俺を隊長は責める事もなく。 ただ、それに対して答えてくれるだけだった。

 

 

「call sign:silver」

 

 

コールサイン"シルバー"。

その言葉は、生き延びたEDF隊員なら察せる"者"だ。

 

 

「まさか」

「そのまさか、さ」

 

 

俺は欧州に取り残されていた。

だからコマンドシップの話、エイリアンの司令官……神……【かの者】の事は詳しくない。

でも。 武器装置も無しに空を飛び、手からビームを撃ち、エイリアンの歩兵隊を空間転移で召喚し、宇宙から流星群を降らせるという無茶苦茶で、絶対的なチカラを持っていたという。

 

 

「かの者、銀の巨人。 あの死神をモデルに軍曹ちゃんと曹長ちゃんを創り変え、世界を産み直し支配する」

「ふざけるなぁ!!」

 

 

思わず叫んだ。 あらん限りのチカラだ。

港に響いたかに思ったがしかし、周りは気にも留めない。

喧騒の方がずっと高く、皆の注目はバルガである。

改めて自分の無力さを思い知らされた気分だよ。

 

 

「……すいません」

「構わない、俺も同意見だ」

 

 

そう言い隊長が何かを言おうとして───。

 

 

『こちら本部。 キール軍港がネウロイに襲われた。 直ちに救援に向かえ!』

 

 

本部からの無線が入ってきた。

全く、ゆっくりさせてくれよ。

色々と心が荒れているってのに!

 

 

「こちらStorm1了解。 只野、向かうぞ」

「……隊長は」

「どうした」

「WDF計画を最初から知っていて、軍曹ちゃん達を艦内に残したんですか!?」

 

 

これは聞いておきたい。

もし、そうなら。 俺は隊長と共に闘えない。

 

 

「違う。 アントウェルペンに移動中、オペ子からの機密通信で知った。 最初から知っていたらエピメテウスを撃沈してでも止めたさ」

「そ、そうですか」

 

 

安心した。 いや、安心は出来ないけど。

軍曹ちゃん達、大丈夫なのか?

 

 

「それに。 こんな事もあろうかと」

「はい?」

「艦内に入った時にバックドアは仕掛けておいた」

 

 

バックドア?

侵入口の事だっけ?

見かけないと思ったら、そんな事をしていたのか。

抜かりないというか、なんというか。

 

 

「でもエピメテウスは人類の切り札ですよね。 セキュリティは甘くなかったのでは?」

「心配するな」

 

 

そういうと。

フルフェイスヘルメット越しでも笑っているのが分かる口調で、言うのだった。

 

 

「俺は過去にエピメテウスにハッキングをした事がある男だぞ?」

 

 

ああ。 民間人時代でしょ?

Storm1が隊長で良かったかもな。

だから。 過去にハッキングした時の事は謝らなくて良いですよ。

寧ろドンドンヤッてくれ。

 




WDF計画の話。
これからどうなるのか……。

そろそろ終わりへ向けて。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

41.熾烈な反攻

作戦内容:
緊急事態です!
各地でネウロイの同時奇襲を受けました!
カールスラント北部キール軍港を始め、ヴェネツィア公国では突如現れたネウロイと戦闘状態に入りました。
ヴェネツィアはロマーニャ地方を担当する第504統合戦闘航空団に任せ、EDF本隊はカールスラント防衛に回ります。
最寄りの部隊はキールへ急行。 戦闘に参加して下さい。
備考:
戦局は思わしくない。
万が一 占拠、突破された場合に備えてガリア国境にあるジークフリート線を第1防衛ライン、マジノ線を第2防衛ライン。
最悪、ベルリンは都市防空設備の高射砲塔を拠点に抵抗する。


間違いや矛盾があったらごめんなさい……。


◆カールスラント ベルリンEDF本部〜

 

各地でネウロイが突如として同時出現した事で連合軍は混乱、各地の指揮官は部下を怒鳴り散らすばかりで指揮系統は混乱していた。

特にヴェネツィアは突然のネウロイ奇襲に混乱を極めており、人々が悲鳴を上げて逃げ惑っている。

指揮系統が独立している第504統合戦闘航空団は、なんとかそれらの混乱に巻き込まれず緊急発進して対処しているが、現地にいるEDF少数部隊も支援しなければならないくらいに逼迫。

EDF本部は相次ぐ戦闘報告に追われ、しかし最低限の冷静を備えて事に当たる。

 

 

「アントウェルペン港は陽動作戦だったのか!? いや、ヴェネツィアに現れたネウロイといい、ヤツらは神出鬼没、だが同時攻撃となると……ネウロイめ。 反撃に出てきたな!」

 

 

司令官は欧州の地図を広げながら、少ない戦力を効率良く運用する術を探った。

ヴェネツィアは混乱しているが、504を含む連合軍及びEDF小隊が対処している。

また、小康状態だった周辺国からの増援が期待出来る事から、問題はカールスラント北部のキール軍港に限定した。

北部に位置するキール軍港、基地は正史ではアントウェルペン港が破壊された代わりの補給基地として機能した。

正史ではネウロイの勢力下だったり、連合軍が無差別爆撃をしてでも取り戻そうとしていたが、501の活躍で ほぼ無傷で奪還している。

作中では、EDFがカールスラントに現れた際に領内や周辺地域のネウロイをフルボッコにした際、キールもEDFが取り返している。

その為、人類領なのだ。 今は、だが。

 

 

「ヴェネツィアは504、連合軍と現地に展開している小隊に任せる。 キール港が危険だ。 現地にニクス隊がいるとはいえ、輸送したばかりで持ち堪えられるか不明だ。 Storm1と501には悪いが、現地に向かわせろ!」

 

 

司令官が指示すると、すぐさま関係各所へ無線が飛ばされ、現場が慌しく動き回る。

501の面々は文句を垂れたが、戦闘を行っていないぶん、弾薬や魔力には余裕がある。

動かせる戦力があるなら、連合軍だろうと10代のウィッチだろうと放り込まねばならない。

 

 

「ネウロイの狙いはカールスラント奪還にある! 後方に防衛線を張らせる、ジークフリート線を第1防衛ライン、マジノ線を第2防衛ライン。 ベルリンはここ、【フラッグタワー】を利用する! 我々本部も白兵戦に備え、小銃を用意! 陣地放棄に備えて、工兵隊は地下に【C70爆弾】を詰め込めるだけ詰めろ!」

 

 

司令官は次々と命令を下した。

敵が本気なら、少数戦力しか配備していないキールは陥落する可能性が高い。

そうなれば次はベルリン、各国へ侵攻を開始する。

敵側の視点で考えれば、人類側が態勢を整える前に攻撃、電撃戦を行ってくると考えられる。

だが必ずしもキールを死守しなければならない理由はなくEDFも馬鹿ではない。

EDFが来る前から存在していたガリア国境にあるジークフリート線、マジノ線の要塞を利用、侵攻を阻止、或いは遅らせる。

これらにはEDFが近代改修をしており、火力と防御力が上がっている。

要塞は時代遅れ、とは501のハルトマンも言っていたが、EDFが手を加えた事により防衛拠点として十分な機能を発揮出来るようになった。

キール防衛が困難ならば、これら拠点に撤退させ、戦力低下を軽減させる。

また、キールに間に合わない増援部隊は、これらに向かわせる事で備える事が可能である。

その準備を慌しくしていると、無線機から悲鳴が上がった。

司令官は忙しくも仲間の声に耳を傾け、しっかりとした口調で対処。

 

 

《こ、こちらキール! 大至急救援を請う!》

《敵は大多数! 現状戦力では対処出来ません!》

《本部、本部ッ! このままでは全滅です!》

 

 

どうやら本部の予想通り、敵は本気で堕としに来ていた。

昔と違い、踏み留まる必要はない。

判断は早かった。

まだ組織的な行動が出来る内に、司令官は迅速に撤退命令を下す!

 

 

『キールを放棄する! 直ちに遅延行動をしつつ撤退せよ!』

《りょ、了解ッ!》

『ニクス隊、動けるか!?』

《こちらニクス隊! 起動シーケンス最終フェーズ!》

 

 

コンバットフレーム ニクスは起動していない。

無理もない。 キール軍港に空輸したばかりなのだ。 パイロットも現地で間に合わせだ。

だがニクスまで放棄すると、撤退する部隊が壊滅すると踏んだ司令官は、守るように指示した。

 

 

『戦闘可能な者はニクスを守れ! 起動次第、ニクスは部隊を守りながら撤退!』

《了解!》

『ガリア国境線に部隊を派遣する! 増援部隊も向かっている、持ち堪えてくれ!』

《任せて下さい! エイリアン連中の攻撃と比べれば、楽な方です!》

『すまない、生き残ってくれ!』

 

 

互いに、して自らを鼓舞するように言葉を掛け合い無線を終了する。

現地のEDF隊員らは、インパルス地雷をばら撒いて陸戦ネウロイ侵攻の足止めを行う事になる。

本部はキール防衛隊が無事に撤退してくれる事を願いつつ、現場が時間を稼いでくれている間に次の手を打つ。

ベルリン守備隊の戦力を割き、キールや防衛線に向かわせる。

EDF式訓練をした元連合軍達も投入。

して最悪は司令官や本部隊員自らが銃を手に取り戦う、身を削った覚悟だ。

本部も かつてはエイリアン連中に位置を特定され、攻撃された過去を持つが、何とか乗り越えてきた。

EDF隊員もそうだ。 テレポーションシップや輸送艇、バケモノに囲まれて袋叩きに遭ってきた事は数知れないが、それでも抵抗し跳ね返してきた。

大将、Storm1も現地に向かっている。

共に動いている只野二等兵も、欧州で逃げてしまい、不幸にも当西暦世界に飛ばされたが、なんだかんだ生き延びてきた兵士だ。

きっと、何とかなる。

そうでなければ。

 

 

「最悪は……WDFを投入する」

 

 

新たな"死神"のカードが、手札にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆キール軍港

 

 

「キールはもう駄目だぁ!」

「こんな所で死にたくない!」

 

 

キールにいるEDF小隊は、無数に飛んで来るビームに悲鳴を上げつつも、港湾設備の影からライフルを出して弾丸をばら撒いていた。

彼ら兵士の背後には、しゃがみ込んだ姿勢のEDF普及量産型コンバットフレーム【ニクスB型】が並んでおり、ウンともスンとも動かない。

 

 

「おい! 起動はまだか!」

『もう少しだ!』

「これ以上は持ち堪えられないぞ!」

『連合軍は どうした! さっきまでいただろう!』

 

 

パイロットが、コックピットで操作をしながら怒るように言う。

連合軍のキール防衛隊がココにはいて、戦力はEDFより多かった。

なのに、今は見当たらない。 全滅してしまったのだろうか。

 

 

「とっくに逃げたよ! 俺たちを盾にして!」

『なんだって!?』

 

 

なんと、EDFを しんがり にして逃げ出したらしい。

 

 

「弾丸1発も撃たずに逃げやがったぜ!」

『くそっ! 俺たちだけか!』

「後方で守備を固めてくれている事を願うよ」

 

 

逃げ出したい気持ちは理解出来るので、適当にフォローする。

それより、今を生き延びなければならない。

 

 

『よし! コンバットフレーム起動! バトルオペレーション!』

 

 

永遠の様に感じた起動シーケンスが終わり、EDF印の鋼鉄巨人が立ち上がった!

歩兵部隊を守る様に前進すると、両肩のポッドからミサイルを発射し、両腕に備わるリボルバーカノンで無数の弾丸を吐き出していく。

それに押し流される様に、ネウロイは次々に一掃されて光る粒子となり、港をイルミネーションのように輝かせていく。

だが感動している場合ではない。

明らかに持ち合わせの弾薬では足りない数のネウロイが押し寄せており、留まれば殺される事に違いなかった。

 

 

『予定通り撤退だ! ニクスが援護する、歩兵部隊は下がれ!』

「やっとか! 言われるまでもない!」

「インパルス地雷を置き土産にばら撒いてやる!」

 

 

ただ逃げるだけでなく、ニクスが弾幕を張り敵を近付けさせないようにしつつ、その間に歩兵部隊が地雷をばら撒く。

EDFが去った地をネウロイが踏みしめる時には、無数のボールベアリングがネウロイをズタズタにして侵攻の足を鈍らせた。

しかし、EDFは敵と比べて少数だ。

数の暴力による恐怖は、EDF隊員らは知っている。

 

 

「来るな! 来るな来るなー!」

「元の世界で生き延びたんだ! こんな所で死ねるかよー!」

 

 

とにかく撃って撃って撃ちまくって、弾幕を張るしかない。

でなければ敵に飲み込まれて死んでしまう。

今は とにかく時間を稼いで、少しでも延命処置をするしかなかったが、敵のビームが苛烈でニクスの装甲が抉れ、融解していく事に焦りと恐怖を感じずにはいられない。

やがて、あるニクスのコックピット付近にビームが直撃!

脇腹に当たる部分が融解し、コックピットが露出。 中の隊員も同じように脇腹をやられて血が滲み出る!

 

 

「ぐわああッ!!」

 

 

反動で倒れていくニクス。

それをすかさず、隣にいた別機体が片手で支えて転倒を防止する。

 

 

「しっかりしろ! まだ動けるか!?」

「ぐっ……すまねぇ」

 

 

痛む身体にムチを打ち、生きている操縦系統を確認し、

 

 

「なんとか動ける……ッ、俺に構わず撃つんだ……ッ!」

「分かった! 死ぬなよ!」

 

 

怪我を負いながらも、戦力の低下を考えて仲間に言う。

言われた側も、彼の覚悟や動ける事を汲み取り、再びネウロイの群れにミサイルや弾丸を叩き込む。

 

 

「ぐっ……俺は まだ戦えるんだ……ッ!」

 

 

ニクスの左手で脇腹を押さえるようにコックピットを守り、右手でリボルバーカノンを撃ちながら後退。

ミサイルも撃ちつつ、後方陣地まで下がり続ける。

だが、インパルス地雷の影響がなく、空を掩蔽物として覆う飛行型ネウロイが、空からビームを乱射。

歩兵が吹き飛ばされ、損傷ニクスも転んでしまう。

 

 

「うわあああッ!!」

「ぎゃあッ!」

 

 

転び、空が見えた。

ネウロイが覆い尽くしているのが良く見えた。

 

 

(畜生、ここまでか)

 

 

赤いビームが視界に広がる。

マザーシップからの絶望的な砲撃、それらを運良く生き延びて来たが、とうとう運が尽きたか。

そう諦めて閉目しかけた時。

ふとEDF総司令官の言葉が思い出させる。

 

 

《絶望は何の役にも立たない!》

 

 

刹那、彼は刮目した。

ニクスのシステムは、まだ動けると教えてくれた。

 

 

(なら足掻け!)

 

 

咄嗟に操縦桿を倒し、ペダルを踏み込み、ブースト全開!

青白い炎を出しながら、ニクスは地面を擦るように転がりビームの着弾点から回避する!

 

 

「EDFッ!」

 

 

してすぐさま右腕を突き上げて、リボルバーカノンの銃身をフル回転、空に弾丸をばら撒いた!

 

 

「うおおおおおおッ!!」

 

 

気迫溢れる対空弾幕に、航空ネウロイは次々に粒子となり消されていった。

そんな彼に悪足掻きだと、ネウロイが数で押し潰しにくる!

しかし、無駄ではない。 その僅かな時間を稼いだお陰で、彼や皆は助かる事になる。

 

 

「良い根性だった。 ナイスファイト」

 

 

無線で英雄の声が聞こえたと思えば。

小型ミサイルが20発飛翔。

ネウロイに衝突、爆発。 爆発。 爆発。

ネウロイが次から次へと爆発していく。

 

 

「なっ!?」

「大型攻撃機による【AH高速ミサイル群】か!?」

 

 

隊員らが驚く間もなく、次には空からの弾丸の雨で地上のネウロイがバラバラに吹き飛ばされていく!

地上制圧機DE202ガンシップによる地上支援だ!

【105ミリ連射砲】や小型砲弾を拡散させ広い範囲に着弾する【120ミリ制圧砲】や攻撃支援システム「ラピス」により要請確認から発射までの時間を短縮、して航空機搭載可能な最大クラスであり敵を貫通する程の威力がある150ミリ砲【150ミリ単装砲ラピス2】、大型目標には更なる大口径だとばかりに巨砲【180ミリ砲】、それでもイマイチなら更なる巨砲【190ミリ砲】で地面ごとネウロイが吹き飛んだ。

なんで150ミリが航空搭載可能な最大クラスと説明しておきながら、180、190ミリ砲が搭載可能なのかとかツッコミはナシである。

EDF謎の技術。

 

 

「おお!」

「ガンシップによる支援!」

「ありがたい!」

「ということは、Storm1が!?」

 

 

隊員らは振り返る。

して期待通り、そこにはフルフェイスヘルメットのエアレイダー。

伝説の兵士、Storm1が後光を浴びて立っていた!

あと、オマケで"ただの"二等兵。

 

 

「待たせたな! これより撤退の援護を行う、いくぞ只野!」

「ウッス」

 

 

……やさぐれているのは、気の所為か。

 




ネウロイ反抗。
してチラつくWDF。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

42.奮戦の始まり。

作戦内容:
ジークフリート線に撤退した。
ここで敵を迎え撃つ。
備考:
出来るだけ時間を稼ぎ、後方陣地の準備期間を稼げ。


間違いがあるかも……。

12話の静香ちゃんが被弾して血がドバァなシーンはヒヤッとしました。



◆〜ジークフリート線・要塞にて〜

只野二等兵視線

 

この俺、只野二等兵と生き延びたニクスと歩兵の混成部隊及び第501戦闘航空団はStorm1隊長の指揮下の中、キール港からジークフリート線まで撤退。

拵えてあった要塞に駆け込むと、EDFの部隊と連合軍が迎えてくれた。

そんで さも当たり前の様に隊長が傘下に加えてしまいました。

 

 

「そこの連合兵、指揮官は?」

「そ、それが みんな来たばかりなのと、指揮系統が混乱しておりまして」

「なら俺が指揮を執る」

「えぇ!?」

「返事は」

「は、はい! 指揮下に入ります!」

 

 

全く、相変わらずのカリスマ性だな。

不思議と従いたくなるんだよね、ウチの隊長殿は。 階級は関係なく。

EDF部隊の方に関しては、互いに理解しているので指揮下に入るのは すんなりだった。

 

 

「こんな所で将軍に会えるとは!」

「大将ッ!」

「おお! Storm1だ!」

「ストーム・リーダー!」

「指揮下に入ります!」

「我が班が貴方を守ります!」

「伝説の英雄! サイン下さい!」

 

 

隊員の士気がアゲアゲなんですけど。

隊長って、そんなに人気なのか。

コマンドシップを撃墜し、かの者を倒したらしいからな、当たり前かも。

そんな英雄の指揮下にいる俺って幸せ者だなぁ、戦場は最悪だが。

ところで作戦司令本部の司令官より偉いのだろうか。

だとしたら、指揮系統ってどうなるんだ?

戦略等の計画は本部、現場の戦術は隊長みたいな分け方かな?

 

 

「挨拶は後だ。 我々はキール港より撤退してきたが、いかんせん敵の数が多い。 この要塞の戦力を教えてくれ」

「はっ! EDFと連合軍は約───名! ですが連合軍の多くは徴兵された者ばかりで練度が低いです!」

 

 

えっ!? 我々の戦力低すぎ……?

大丈夫なのかソレは。 要塞線の地図を大雑把に見た事はあるが、長さに対して連合軍貧弱過ぎへん?

基地機能移設で元々兵員の少ないEDFがより少ないのは理解出来るが、連合軍はいるだろうよ。 なんで?

 

 

「長い要塞線だからな、広域に兵士がばら撒かれている状態だと考えれば致し方なし」

 

 

答えてくれるように隊長が言うが、直ぐに苦言を放ってしまう。

 

 

「だとしても、ジークフリート線もマジノ線も国境沿いに敷設されている。 キール港に対して向いていない以上、ばら撒いたところで壁としての機能は薄い。 国境線の戦力を此方に傾けてくれれば良いのだが。 連合軍が動いていない雰囲気から未だ混乱の中にいるようだな。 そうでなくとも、"壁"を優先したか。 その分、壁手前まで土地を奪われる事になるのは必須だというのに。 最悪は戦力を拡大して集中砲火からの各拠点喪失に繋がる」

 

 

確かに。

撤退中に流れてきた本部の話じゃ、ネウロイは北のキールと西のヴェネツィアにいる。

突破された場合、国境を越えて侵攻を受ける危険性から要塞線の戦力をガラ空きには出来ないのは事実だ。

しかし、敵勢力が"点"である内に抑えるべきだと俺も思う。

隊長の言う通り、要塞線は国境に対して向いている。

北からの侵攻を受ければ、横腹や背後に風穴を開けられて"ジークフリート"って事になる。

そこから戦火が拡大する事態になれば、少ない兵力しかないEDFじゃ収集がつかなくなるし要塞の後方、ベルリンや各地にいる民間人にも被害が及ぶ。

各個撃破するにも時間が掛かる。

もしそうなったら……連合軍はEDFの所為にするんだろうなぁ。

俺たちEDFの主力や基地機能をカールスラントから追い出した癖に。

まだ引越し途中で多少の残存戦力はあったから、こうやって抵抗しているけどさ。

 

 

「Storm1の仰る通りだと思います。 ですが要塞は我が軍が改修し、固定武装はEDF製のモノを使用しています!」

「種類は?」

「ネグリングミサイルランチャー、ドーントレス重機関砲、ピットブル連射砲、火炎放射器などで───他には長期戦に耐えられる様に改造されたセントリーガンが現地改修も含めて───」

 

 

おお、EDFの武器が備わっているのか。

対空は不安だが、対地はイけるな。

キールから来る敵の数は多いから、全て撃滅出来るか怪しいところだけど……。

そんな不安を払拭するように、隊長が指示を出していく。 考えがあるのだろう。

 

 

「新兵を銃座に着かせろ。 外に投げれば死ぬのは確実だ。 ビークルはあるか?」

「はっ! 兵員輸送用のグレイプと、ブラッカーE1! それから【プロテウス】が配備されております!!」

 

 

最後は威勢の良い声だった。

そりゃそうだ、プロテウスだもん。

 

 

「ウホッ!」

 

 

これには思わず変な声が出たわ。

プロテウス!? マジか!? である。

そんな反応をする俺に近くの女の子、ウィッチがヒソヒソと聞いてくる。

背が低く、見上げる様で可愛い。

EDFのアサルトライフル【T3ストークバースト】を手に持っている事から、エトワール作戦かどっかの時に回収された子だろうな。

 

 

「あの、すいません。 プロテウスって?」

 

 

決戦兵器みたいなモンだし、知らないのも無理ないか。

良いだろう。 知っている範囲で説明しよう。

 

 

「EDF陸軍、陸上戦における切り札だよ。 巨大人型バトルマシン、歩く要塞さ」

 

 

搭乗員4名。

ニクスの様に二足歩行で行動可能な大型ビークル。

要塞と言われる理由は、特殊装甲板による戦車より高い防御力、搭載されている大型武装【バスターカノン】2門にミサイルランチャーの火力、して大量の弾薬を積載しており戦闘継続能力に優れている事にある。

 

 

「なるほど。 表にある足の生えた戦車モドキでしたか」

 

 

笑顔でモドキとか言うなよ、なんかプロテウスが失敗作みたいに感じるじゃん。

そりゃ機動力ないし、移動中の砲撃はブレるし、姿勢制御の為なのか両足に備わる内棒、アンカーなのかアウトリガーなのか知らんヤツをガチャンガチャンしてるし。

微妙な表情を浮かべる俺だったが、隊長は気にせず作戦を話していく。

 

 

「良いぞ。 AFVにはEDF隊員が搭乗しろ。 これらの武装を用いて、ジークフリート線でネウロイの戦力を削ぐ。 501には飛行型ネウロイに対処して貰う。 ただし、司令のミーナ中佐は連合軍と掛け合って貰いたい。 彼女はガリアの上層部連中がいる方へ飛んで貰う。 その間の戦闘指揮は坂本少佐に頼む」

「はっ!」

「後方にはマジノ線もある、無理に耐える必要はないが、俺達が踏ん張るほどガリア後方陣地やカールスラントの仲間が準備する時間が出来る。 引越したEDFの戦力も戻って来る、連合軍もマジノ線に集まっている筈だ。 欧州の為、人類の為に総員 奮起せよッ!」

「「「「うおおおおおおおッッ!!」」」」

「戦闘用意ッ!!」

「「サー! イエッサー!!」」

「「EDFッ! EDFッッ!!」」

 

 

おっ。 会議が終わったようだな。

俺はどこで戦えば良いんだ?

 

 

「隊長、俺は」

「お前はシャーリーと、その辺の新米を連れてプロテウスに搭乗しろ」

「へ、シャーリー? 501のシャーロット・E・イェーガー大尉?」

 

 

なんで?

シャーリーの身にナニが?

 

 

「空で戦えない事情が?」

「ユニットが不調。 南島で墜落した際、修理が間に合わなかったそうだ」

 

 

あっ……凄い罪悪感。

 

 

「了解っす、プロテウスに乗ります」

 

 

でもなぁ、二等兵な俺がプロテウスを。

責任重大なんだけど。 しかも訓練していない武装の操作をさせるのか……出来るの?

あ、ブーメラン発言だったわ。

俺も現地で行き当たりバッタリでビークルを操作してたわ。

 

 

「どこに誰が着くか、只野が決めろ」

「えぇ!?」

 

 

二等兵だよ俺?

俺に指揮する能力無いよ?

 

 

「大丈夫だ、特殊装甲板に守られているし、乗ったまま後退も出来る。 それにビークルの操作は難しくはない。 狙ってトリガーを引く、簡単だろう?」

 

 

えぇ……グッジョブサインして、戦場に駆けてしまいましたよ隊長殿。

というか、ここの指揮官が最前線に出張って良いんですかね。

まぁ士気は上がるし、空爆誘導兵だから そうしないといけないんだろうけどさ。

 

 

「あ、あー、じゃあ君と君。 俺に付いてきて。 プロテウスに乗って戦ってもらうから」

 

 

連合軍の少年兵と話し掛けて来たウィッチを連れていく。

こんな小さな子達を連れて行くのは気が引けるが、他を見渡しても同い年くらいだ。

連合軍も兵員不足なのだろうか。

 

 

「了解です! えーと、名前は?」

「只野。 只野 仁」

「僕は一等兵で」

「私は軍曹です」

「「階級をお聞きしても?」」

 

 

いや聞くなし。 ハモるなし。

このタイミングで最下級ですとは答え難いじゃん。

ウィッチは仕方ないが、少年に関しては俺より階級高いし。

曹長ちゃんみたいに固まったヤツだと面倒になりそうだなぁ、もう。

 

 

「気にするな」

「「すいません!」」

 

 

先輩風を吹かすように黙らせる。

ごめんよ若人。 これも生き残る為なんや。

軍規? 知らんな。

俺らはEDFだから(飛躍した言い訳)。

でも生き残る……か。

潜水母艦エピメテウスにいるだろう軍曹ちゃんと曹長ちゃん、大丈夫だろうか。

 

 

「いかんな。 今を集中しなくちゃ」

 

 

駆けながら、ボヤく。

今は他の人の心配より自分の心配をしなくちゃならない。

 

 

「「すいませんッ!」」

「気にするな」

 

 

本当、気にしないで。

今のは私事みたいなモンなんで。

 

 

「シャーリー大尉、聞こえるか?」

『ああ! ワンちゃんから聞いたよ! プロテウスとかいう兵器の砲手をやれって?』

「話が早くて助かる。 じゃ、現地集合で」

『先行ってるぞー!』

「おう」

 

 

ちょっと見栄を張って階級を付けてタメ語で会話した。

聞いていた子達、驚いた顔をしてる。

よしよし、俺を大尉相当か それ以上だと勘違いしてくれたかな?

いやぁ、俺は悪くないよ?

勘違いする側が悪いんだ。

ああ、そういや人の評価って大抵は勘違いって、どこかで聞いた事があるし。

本当かも知れないなぁ!?

 

 

『ところで、急に堅苦しい言い方してないか?』

「気にするな」

 

 

集中しないとな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ベルリン・高射砲塔要塞フラッグタワー

EDF作戦司令本部・司令官視線

 

 

「なにッ!? マジノ線が陥落した!?」

 

 

私はカールスラントが造った首都防衛用コンクリート要塞フラッグタワーで活動していた。

各地の戦線に増援部隊や指示を出していたところ、思いもよらぬ報告が舞い込んできた!

 

 

「はい! ガリア東部国境線にネウロイが雪崩れ込んで現地守備隊は壊滅です!」

「キールから海側に迂回し、ガリア方面に出たというのか!?」

「ネウロイは水が苦手とされますが、飛行型は海上を移動出来ます。 氷山型の例もあります。 また、高高度を飛んでいた為に、アントウェルペンのバルガ隊や歩兵部隊も感知出来なかったようです」

「ガリアは!? 進駐していた連合軍、ガリアを防衛する第506統合戦闘航空団は どうしたんだ!?」

「連合軍はガリア内陸への侵攻を防ぐ為に臨時の防衛線を展開。 しかし、ネウロイは内陸に侵攻せず、全てStorm1がいるジークフリート線に向かっています!」

 

 

ぐっ……! ぐぬぬっ……! ネウロイめぇ!

内陸を通らず海側から遠回りして第2防衛線のマジノ線を落としたか!

連合軍はカールスラントのジークフリートが突破された場合に備えて、第2防衛線であるマジノ線に戦力を集めていたところだった!

恐らく後方は無警戒、そこをパクッといかれた形になったのだろう。

EDFより兵力はあったのに、無様に負けるとは!

してネウロイはガリア内陸に侵攻せずカールスラント側に来た。

ヤツらめ、ジークフリートを挟み撃ちで殺す気満々だな。

対して連合軍め、援軍をカールスラント側に出さない辺り、ガリアの守りを固めて政治家や軍上層部……自分達だけ助かろうとしている魂胆が丸見えだ!

挙句、それに当たり我々EDFの残存戦力を しんがり にするとは!

カールスラントからEDFを追い出しておきながら。

全く! 度し難い連中だな!

対処しているだろう506の子らがマトモなのかも知れないが、可哀想だ。

506の半分は貴族のみで編成されているが、これは理解に若干苦しむ上層部の意見で、復興の道を歩むガリアの民を勇気付ける為らしい。

実際は政治的な理由もあっただろう。

だが そんな偏った条件故に中々編成出来ず、目星のついたウィッチからは断られたり他国と紛糾、戦力不足を補う為に貴族じゃない別部隊のB隊が編成されたりと、よく分からん難儀な事になった部隊である。

だが完全なプロパガンダ部隊ではなく、実戦的な集まりだ。

だがやはり、連合上層部に恵まれなかったのは共通だろうな。

 

 

「このままでは、ジークフリート線にいるStorm1指揮下の防衛隊が挟み撃ちを受けてしまいます! 近い場所で約10kmしか離れていません、今にでも敵が迫るでしょう!」

「分かっている! だが退路は断たれた、耐えて貰っている間に増援を送って逆に挟み撃ちにするしかない」

「しかし連合軍はアテに出来ず、我らの戦力も! これ以上、ベルリンから守備隊を削るのは得策とは言えません!」

「戦力ならある! ブリタニアにStorm2とスカウトがいる! アントウェルペンにいるバルガ隊と歩兵部隊も差し向けろ! 制圧されたマジノ線を突破、そのままジークフリート線に向かったネウロイを撃滅させろ!」

「りょ、了解です!」

「空軍や砲兵隊もいる! それから南島や元の世界に向かわせた我が軍の戦力を呼び戻す! それと一応、Storm2の進撃に合わせるよう連合軍に具申する! 臨時防衛線に配備された兵力があるなら足並みを揃える事は可能だからな! Storm1には、この事態を説明せよ!」

「了解しました!」

 

 

上手くいけば、マジノ線奪還、ジークフリート線のネウロイ撃滅、そこから北南に部隊を分けてネウロイを殲滅出来る。

見ていろネウロイ! して連合軍!

EDFを追い詰めたつもりだろうが、この程度で絶望する軍隊ではないぞッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後◆連合軍上層部 某会議室にて

 

ガリア国境のマジノ線、陥落す。

 

この事は欧州各国を大きく揺るがした。

既に上層部では、防衛派とEDF支援派に分かれて議論が紛糾。

その1人、ジークフリートから遥々飛んで直談判の為に参加したミーナ中佐が吼える。

 

「ネウロイは直ぐにでもカールスラント全土を再び飲み込むでしょう! 現地に展開する残存戦力が耐えている間に、速やかにジークフリート線に増援を送るべきです!」

「まぁ待ちたまえミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐。 現地にいる少ない連合軍とEDFに増援を送った所で、間に合わないし持つまいよ。 それよりもEDFの主力が来るまで首都パリに戦力を集中配備、籠城したほうが味方の被害も少なくなる。 私としてはガリア内陸に防衛線を張るべきだと思うがね?」

「ッ! しかし、それではカールスラントにいるEDFとの連携が取れません! 彼らは未だ援軍を待ち続けているのです! それを見殺しにするおつもりですか!?」

 

そう。 紛糾しているのは、どこに戦力を配備するかの議論であった。

EDFが命を懸けて作った貴重な時間を浪費して、連合軍上層部はどこを重点に守備するかを話し合っており《未だ》兵士1人も最前線に送らないでいたのである。

しかも、欧州防衛の希望となっているのは、連合がカールスラントから大半の基地機能や戦力を追い出した後に残ったEDF残存部隊という有様であった。

上層部はガリア防衛と自分達の安全に固執した挙句に助けてくれるEDFに《相変わらず》物資補給を行き渡らせておらず、それなのに技術を寄越せだのカールスラントから出て行けと言い、事今になっては、追い出したEDFに頼らないとヤバい事態である。

なのに救援を送らないというクズっぷりを堂々とミーナ中佐に暴露していた。

連合上層部としては、マジノ線の兵力が壊滅した段階で臆病になっているとも言える。

エトワール作戦やらなんやらで、兵力不足に陥っていたのに、更に兵力を減らす事態になれば、攻勢どころではないと考えるのも無理は なかった。

なんにせよ結果として、兵力はガリア防衛に傾いていた。

祖国防衛の為と謳い、国内にいる全ての国民や魔力適正のあるウィッチを強制的に徴兵。

その後EDF主力が迎え撃ち、態勢を立て直したら、すぐに連合軍を再編成し、攻勢への作戦を計画していたのだった。

 

 

「中佐。 敵は強大なネウロイなのだ。 どの戦線でも兵士が足りん。 ならば、捨てる所は捨て、守るべき所は守らねばならん」

「ではカールスラントは守らなくて良いと!? 戻った難民もいるのですよ!?」

「カールスラントは落ちんよ。 君も知っているだろう? あの異界の軍隊のチカラを。 いくら相手がネウロイといえども、そう易々と落とせんよ。 それよりもガリア防衛が問題だ」

 

 

不毛な議論は何日も続き、ミーナ中佐の必死な訴えも虚しく議論は一旦棚上げとなり、とりあえず上層部はパリに兵力を集めて、守られながら隣国の危機を対岸の火事を鼻をほじって見ているだけとなった。

 




アニメ、面白かったです。
あの世界が平和になる日は、いつか来るのでしょうか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

43.烈火の前線

明けましておめでとうございます(投稿現在)。
今年も宜しくお願いします。 m(_ _)m

作戦内容:
ジークフリート線で抵抗を続けていたが、どうやらガリアのマジノ線が陥落したそうだ。
我々は挟み撃ちを受ける形となっている。
だが本部が増援を送ってくれた。
プロテウスもある、持ち堪えるぞ。
備考:
ウィッチの魔力がなくなっても、ユニットがなくても、五体満足なら砲手でも銃手でも やらせられる。
撤退路が無いので抵抗する他ない。


*時系列で気が狂う!
*時がガバガバなんだよね。
*君ミスが多いって、それ1番言われてるから。
*ツッコミどころがあり過ぎるんだよね。

orz


時は少し戻り初日の戦場

◆ジークフリート線

只野二等兵視線

 

 

二足歩行要塞プロテウス。

その左にあるバスターカノンにモブな俺は乗り込み、右はシャーリー、ミサイルランチャーはモブウィッチが、操縦席にはモブ少年兵が乗っている。

 

モブ率高すぎ! 大尉殿しかユニークいない!

 

冗談は置いといて。

戦闘経験がある者は砲手、少なそうなウィッチは自動ロックオンからのトリガー引くだけで良いミサイル、一等兵だけど一般ピィポゥ君な少年兵は操縦席にこもって貰う事にした形だな。

起動は完了、ガンカメラ越しに前線では我が軍のブラッカー戦車とグラントM31部隊が派手に爆炎を上げていた。

後方の要塞からはEDF狙撃部隊のハンマーズやブルージャケットが飛行型と地上型を狙撃、長射程に改造されたセントリーガンが近付いたヤツを自動で捕捉、銃撃を帯びせている。

ネグリング自走ミサイルは、誘導ミサイルを連続発射。

空に無数の爆炎を生んでいく。

連合軍の新兵は各砲座につかされ、重機関砲やら連射砲で援護。

他にはStorm1隊長のサポートで、広範囲にいる仲間の防御力を高める【ゾーンプロテクター】装置や武器の攻撃力を高める【オフェンシブテリトリー】で生存率を高めて貰っている。

勿論、隊長の誘導により空爆や砲撃支援も行われ、隊長の要請でビークルの輸送も次から次へと行われていた。

これらにはEDF式訓練をほどこされた元連合兵が搭乗。

重戦車のタイタンも投下され、主砲が群れを爆炎の中に消し、副砲が敵を撃ち抜き、サイドのミサイルランチャーが飛行型を叩き落とす。

重武装系コンバットフレームも投下。

グレネーダーやバトルキャノン、バスターキャノンが前方に展開、戦車と共に攻撃を始める。

地上型を榴弾、ロケット弾で吹き飛ばして壮観だ。

うん。 凄いよね。

隊長がいると、これだけの火力が集められるんだもの。

アレ……EDFの戦力は無い筈なんだけど。

なんでこんなに?

エアレイダーの正確な座標伝達が無いと出来ないから?

それとも隊長が優遇されているから?

まぁうん。 考えても仕方ないね。

 

 

「よし! 俺たちも始めるぞ!」

「おう! ところで、砲撃なんてした事ないぞ。 どうやるんだコレ」

 

 

シャーリー、なんとかするんだよ。

機械に強そうな君なら、触っていれば分かるさ。

俺が出来たんだ、君も出来るさ。

 

 

「操縦桿を握って適当に動かして。 砲身を敵に向け、トリガーを引く。 砲弾は爆発するから味方の近くに撃ち込まない事。 以上」

「分かった。 やってみるか!」

 

 

言うと、右側で砲身が動く音がした。

よしよし。 理解が早くて助かる。

自由の国な、米国に該当するリベリオンの出だからかな?

 

 

「ミサイル、とかいうのは……どうすれば?」

 

 

今度は見ず知らずのウィッチが聞いてきた。

ミサイルは簡単だぞ。 だから君をソコに配属したんだ。

 

 

「トリガーを引くだけで良い」

「そ、それだけ?」

「後は自動で敵を倒してくれる。 それがミサイルだ、楽だろう?」

 

 

曖昧に、簡単に。 だけど間違いじゃないだろう説明をして終わる。

 

 

「操縦席の僕は……?」

 

 

緊張した少年兵の声がした。

うん、いきなり大型ロボットの操縦を任されたらビビるよね。

或いは喜ぶんだけど、この子はビビった。

戦争だからね、仕方ないね。

 

 

「来るべき時が来たら声をかける。 それまでじっとしていなさい」

 

 

下手に触られると、プロテウスが動いて砲身も動くからね。

コレ、EDFのビークル全体に言える気がするけど、どうにか出来ないのかね?

 

 

「え、何か武器とかは?」

「プロテウスの操縦席で攻撃なんて出来ないぞ」

「えぇ!?」

 

 

いや、仕方ないじゃん。

ブルートもそうだったけど、不便だよね本当。

機関銃のひとつでも使えれば良いのに。

前にいるタイタンを見習ってくれよ。 タイタンの操縦員は車体の運転や機関銃を撃てるんだぞ。

ボッチにも配慮して♡

 

 

「俺だって そうやって生き延びてきたんだ。 大丈夫、君たちも生き延びるさ」

 

 

子ども達を励まし、砲身をネウロイに向けてトリガーを引き続ける。

砲弾が連続で発射され、ネウロイが吹き飛んだ。

バスターカノンは連射能力が高くて良い。

トリガー引きっぱで砲弾を撃ちまくれるから。

 

 

「どうした? 戦闘中だよ、撃ちまくって」

「トリガーは、操縦桿の下のスイッチ?」

「そうだよ。 さぁ撃った撃った」

 

 

砲撃音が、振動が強くなるプロテウス。

シャーリーも撃ち始め、敵が噴き出し花火の様に飛んでいく。

 

 

「スゲーな! ネウロイがアッサリと! 連射出来るし、発射間隔も短い!」

 

 

ミサイルも投げ出されるようにポッドから放たれた。

一瞬、放物線を描いて落下してしまうんじゃないかと思わせる軌道に声が上がる。

 

 

「ああ! 弾が違う方向に!」

「安心して」

「へ?」

 

 

しかし、思い出したように火を噴いて天高く

舞い上がるミサイル群!

そのまま何機かに直撃、爆散!

他は回避行動を取るも、構わず追い掛け回して確実に叩き潰していく!

 

 

「凄い! ネウロイに向かって飛んでいく! 魔法みたい!」

 

 

魔女がソレを言うか。

 

 

「魔力消費ナシに、対空も対地も出来るなら、用途は広そうだな」

 

 

そうだけど、大量の的を捌ききれないんだよなぁ。

個人携行火器のエメロードならイけるが。

爆発物全般に言える事なんだけど、近付かれると対処出来ない。

自爆したり誘導し切れなかったり。

プロテウスの武装は基本爆発物だ。

足下に来られたら、自爆覚悟で砲身を最大俯角で撃つしかない。

操縦して背後に下がるにも、遅すぎる。

 

だが今は優勢だ。

ネウロイが湯水の如く消えていく。

さすがプロテウスだ、1門しか武装が無いブラッカー戦車とは違うのだよ。

……悲しくなってきた。 なんで機関銃を付けなかったんや。 操作性や生産性の問題?

 

 

「おお! 凄い火力だな!」

「これならネウロイなんて!」

「負ける気がしない!」

 

 

喜ぶ搭乗員。

だが敵とてやられてばかりではない。

ネウロイもビームで撃ち返してきた。

 

 

「うわぁっ!?」

 

 

したらプロテウスが背後に後退。

少年兵が思わず動かしてしまったらしい。

だけど機動力がなく、図体のデカいプロテウスは被弾。

真ん中にくる、直撃弾だった。

振動が機体を揺らし、各砲座から軽い悲鳴。

 

 

「被弾した! 大丈夫か!?」

 

 

シャーリーが他砲座員を心配するが、

 

 

「大丈夫だ問題ない。 特殊装甲板で守られてるからね」

 

 

強いって快感だね、弾薬が持てばだけど。

 

 

「そうか。 さすがEDF製だな」

 

 

そうともさ。

EDF製は伊達じゃない!

 

 

「軍で研究中って話の、対ネウロイ装甲に応用出来ないかな……?」

 

 

ウィッチがボヤく。

へ? ナニそれは。 連合軍は そういうのあるの?

 

 

「連合軍にも新兵器が?」

「あ、えと! 噂程度なんですが」

 

 

でた。 噂のなんとやら。

噂なんてロクなモンじゃないよ。

俺は知っているんだ。

 

 

「そうか。 今は無いし、話していても仕方ない。 上のお口じゃなくて下の棒を動かしなさい」

「すいません!」

「それと操縦席!」

「は、はい!」

「動かさなくて大丈夫だ! この装甲板はネウロイのビームにも耐えられる! それに撃たれてから回避するなんて芸当、プロテウスには無理だからね」

「すいません!」

 

 

なんか謝られてばかりだけど、パワハラじゃないからね。

そも、二等兵だからね俺。

対して相手は軍曹と一等兵だから。

 

 

「おいおい只野、若い子を虐めるなよー?」

 

 

シャーリーは大尉だよ。

して未成年がナニか言ってるよ。

 

 

「虐めてないぞ。 とにかく、今は撃って?」

 

 

トリガーを引いて、戦闘再開。

本当。 なんで俺が隊長みたいになってるんだろうね。

ここは畑違いでもシャーリーが隊長になるべきだと思うんだけど。

EDFって怖いね(自虐)。

 

 

「良いぞ! 俺たちが優勢だ!」

「前進しますか?」

「ダメだ、あくまで防衛! 友軍との足並みを崩してはいけない!」

 

 

エトワール作戦の独断砲撃は反省してね?

俺、死に掛けたからね?

 

 

『砲兵の攻撃が始まるぞ! 前進はするな!』

 

 

ここで隊長からの無線。

赤い煙が、遠くのネウロイの群れで上がっている。

砲撃地点を指示するものだ。

おお……今回はマトモな砲撃を期待出来そう。

 

 

『Storm1から砲撃要請!』

『支援砲撃、始めー!』

 

 

それをどっかで確認したEDF砲撃隊から無線が来ると、空から放物線を描いて大量の榴弾が雨の様に降らせていく!

着弾範囲が広く、ネウロイの群れがドンドン吹き飛んだ。

恐らくココ用に特別編成された【迫撃砲集中運用術】だ、ありがたい!

 

 

「おお! どこかで砲兵隊が展開していたのか!」

「他の戦線も大変だろうに、ありがてぇ!」

 

 

隊員や連合兵が遠くの味方に感謝した。

いや、ホント嬉しいね。

カールスラント内地に侵攻している別働隊への対処もあるだろうに。

 

 

『501からStorm1へ。 空のネウロイを排除、確保した!』

 

 

今度は501からの無線。

坂本少佐の声だな、ミーナ中佐は出払っているから。

 

無線は混線し過ぎない程度には共通で、宛が違くても聞こえるんだよね。

戦時中とか、本部の会話とか民間ニュースとか普通に流れてきたし。

長所と短所があるよね、EDFの無線。 楽だけど。

 

 

『宜しい。 弾薬を補給しに、一旦戻れ。 その間はEDFの航空機が引き継ぐ』

『了解した!』

『Storm1から全隊へ。 501が上空で勝利した。 間も無く空軍の支援が始まるぞ』

『おお!』

『やったぜ!』

『EDFの航空機が来るのか!』

 

 

湧き立つ戦線。

して空軍は直ぐにすっ飛んで来た。

 

 

『地上部隊、下がっていろ!』

 

 

センサーに反応!

遠くの低空から真っ直ぐ、1機の戦闘爆撃機が突入してきた!

 

 

「「速いッ!?」」

 

 

シャーリーと俺が叫ぶ。

新型機【KM6FX】ってヤツか!

 

 

『機銃掃射、開始ィッ!!』

 

 

叫ぶが早いか遅いか。

空から弾丸の雨を降らせ、1列に、しかし長距離まで砂埃が舞っていく。

まるで砂の壁。

それらが地面より立ち上がり、その位置にいた不幸なネウロイはバラバラになってしまった。

 

 

『今のは前菜だ。 下手に前に出るなよ』

 

 

驚いている間にも、再びセンサーに反応。

またも高速で突っ込んで来るナニかを捉えた。

カメラ越しに見れば、再び戦闘爆撃機。

これまた速い、【カムイCX】か!

 

 

『投下ッ!』

 

 

戦闘爆撃機が戦場を素通りしたかと思えば、次の瞬間には、通った場所の大地が爆発していく。

束になっていたネウロイは軽く吹き飛んで消えてしまう。

速い。 して正確な投下だ、これも隊長と空軍のチカラだろう。

 

 

「すげぇ! あの速度で、正確に敵群だけを爆撃していったぞ!」

「なんて練度だ!」

 

 

褒める連合軍。

うん……嬉しいけど、アレでもエイリアンには苦戦したんだよ。

空軍の戦いは知らないけど、苦労していた筈だ。

フーリガン砲が出来るまで、金の装甲を破れなかったし。

 

 

『重爆が来る。 【フォボスZプラン4】を要請した』

 

 

続いて重爆撃機フォボスの編隊をセンサーで捉えた。

数は4機!

此方は、先の戦闘爆撃機程の速さは無いが、重爆とある通り、爆弾の搭載量は多い。

また編隊飛行している事から、その威力は凄い筈だ!

 

 

『アタック!』

 

 

横に並び、して偏差的に絨毯爆撃が開始されていく。

先の空爆から被害を減らそうと部隊を分散させていたネウロイだったが、絨毯爆撃の範囲からは逃れ切れず、その多くは爆散。

編隊は大地の爆炎祭による光の粒子を堪能するでもなく、悠々と過ぎ去って行く。

 

 

『フォボスのチカラを見たか!』

 

 

後には何も残らない。

呆然とする連合軍がいるだけだ。

 

 

「お、おぉ……!?」

 

 

やがて、我に返っていくと、

 

 

「スッゲー!」

「EDFッ! EDFッ!」

「空爆万歳だな!」

「空軍ばんざーい!」

「Storm1ばんざーい!」

 

 

歓喜が戦場を包み込んだ!

 

 

『Storm1から全隊へ。 まだネウロイの残党がいる、これらを殲滅せよ。 ただし、前には出過ぎるな。 以上』

 

 

簡単に説明され、無線が切れた。

これを聞いた友軍、士気が昂りまくる。

 

 

「うおおおおッ! ここまでしてくれたんだ、後は俺たちが頑張るぞ!」

「レクイエム砲の威力を見せてやる!」

「勝てる可能性がある戦いは、勝つ!」

「撃ちまくれー!」

 

 

再び撃ち始める面々。

ネウロイは逃げる事もままならず、残党狩りに遭っていく。

最初はどうなるかと思ったが、火力が凄かったな。

このまま前進してキールを取り戻せるんじゃないか?

 

 

『Storm1から只野へ』

 

 

うん?

隊長から通信が。

なんか暗い声だけど……どうしたんだろう。

 

 

「こちら只野。 どうしましたか?」

「シャーリーと共に要塞内に戻ってくれ。 話がある」

 

 

へ、ナニそれは。

大抵、この手は良くない話だよ。

赤いヤツは強いに決まってるぐらいだよ。

 

 

「後方陣地のマジノ線が陥落したと話があった」

「ファッ!?」

 

 

ほらやっぱり!

そんな事だろうと思っていたよ畜生!

 

 

「作戦会議を開く。 来てくれるか?」

「ナンデ!? マジノ線マジでナンデ!?」

 

 

もう!

EDFの呪いだろ、これ!

どの戦線も楽はさせてくれないよね、マジで!

 

 

 

 

 

◆ベルリン・高射砲塔要塞フラッグタワー

EDF作戦司令本部・司令官視線

 

 

「………オペ子よ。 コレはどういう事だ?」

「わ、私には連合軍の考えなんて分かりません」

「友軍は? マジノ線手前で防衛線を構築している筈の連合軍がいないではないかッ!」

「うわ〜ん! ですから分かりませぇん!」

 

 

遠路遥々マジノ線まで飛んだ偵察部隊スカウトと軍曹チームStorm2からの報告では、敵も連合軍も、つまりは誰もいないという。

いや、マジノ線が瓦礫地区と化し、ネウロイが全てジークフリート線に向かったと解釈は出来る。

だが、周辺エリアを偵察したスカウトは、兵士1人として発見出来なかったという。

 

 

「うぅ……あっ! 伝令が来ました! えと……501のミーナ中佐です!?」

 

 

司令室に入ってくる1人の女性。

パリから猛進してきたらしく、息が絶え絶えだ。

むぅ……ガリアで何かあったのかも知れない。

 

 

「はぁはぁ……第501統合戦闘航空団、隊長のミーナです……遅くなり申し訳ございません!」

「私はEDF作戦司令官だ。 何があった? 無線は?」

「その事について説明したく、EDF本部に来た次第です。 どうか、冷静に話を聞いて頂きたく存じます」

 

 

そこから私は、パリで行われた会議の内容を聞いた。

 

…………またも絶望感を味わった。

連合軍の臨時防衛線は構築途中で放棄、なんとパリにトンボ帰り。

会議に参加したミーナ中佐はパリ防衛隊に強制的に組み込まされかけたという。

せめて無線設備を借りてEDFや前線にこの事を伝えようとしたが、阻止された。

仕方なく脱走するようにして、パリを脱出、ここまで来たという。

 

ううむ…………。

連合軍はナニがしたいんだ……。

要塞線で奮闘するStorm1ら防衛隊に報告出来んぞ……。

 

私は連合軍上層部の余りの情けなさに立ち眩みをし、背後の兵士に支えられた。

カールスラントは落ちない? 馬鹿な!

相手は謎多き怪異のネウロイなのだ!

EDFの戦力は乏しく、守り切れる保証なんてないのだぞ!

現に防衛線は押されている。 一部の地域は既に陥落気味。

というか……陥落したのだが。

 

 

「私にもう少し、説得出来るチカラがあれば……申し訳ありません。 司令官の心中を お察し致します」

「…………いや。 良くぞ報告をしに来てくれた。 礼を言うのは私だ中佐。 よそ者の我々の為に苦労をかけたな」

「……司令官」

 

 

心底申し訳ない表情を浮かべる中佐。

そこに追い打ちを掛けるように、連合軍から無線が入ってきた。

 

 

「連合軍から入電!」

「…………繋げろ」

 

 

正直、聞きたくもないが聞いておこう。

こういった時に重要な事を聞き逃すかも知れないからな。

だが内容は、私と中佐をイラッとさせるもので、以下の通りである。

 

 

『EDFよ、この度はよくぞ時間を稼いでくれた。 お陰で我ら連合軍議会は有効的に作戦会議をする事が出来た。 当初はマジノ線の近くに臨時防衛線を構築するつもりであったが、予想以上にネウロイの進撃が速い為、貴重な戦力を転進させ、パリに強力な防衛線を構築した。 その為、EDFが率いる主力軍と、それぞれ各地にいた防衛隊をパリに召集し、ネウロイに対して反撃を行いたい。 ついては今後の会議を行いたい為、EDFは可及的速やかにパリに来て頂きたい』

 

 

一方的にダラダラ語られて無線を切られた。

普通な内容に見せかけているが、読み解くと「EDFはカールスラントを捨てて、パリにいる我々を守りやがれ!」と言っていた。

 

 

「……だそうだ中佐。 どうやら上層部は自分達だけ守って欲しいそうだぞ」

「…………返す言葉が御座いません」

 

 

レ○プ目になる中佐。

疲労困憊だな、休ませたい。

 

 

「いつの時代も上にいる奴らとは、えてしてそう言う奴らが多い。 そう言う私も、奴らと同じようなものだ」

「いえ、EDFは人類の良心であり、希望でもあります。 卑屈にならないで下さい」

 

 

希望、か。

EDFは、あまりに多くの物事を喪った。

operation:Ωの事もあり後ろめたい。

 

 

「中佐、私は その様な素晴らしい軍人ではない。 元の地球で多くの命を救えなかった。 加えて他の世界から侵略同然にやって来て、資源を分けて貰おうとしている。 これが立派な軍人と言えるか? できる事と言えば微力ながらネウロイを退治するぐらいなのだぞ」

「お言葉ですが、そのように卑屈にならないで頂きたいと申しております。 軍である以上、何も犠牲を払わず全てを収めるのは困難です。 勿論、努力して犠牲を無くすべきですが、大切なのは次にどうするかかと。 資源に関しては、見返りとして要求するのは当然です」

 

 

まだ若いのに、しっかりとした物言いだ。

彼女も戦争で失った者がいただろうに。

慰めが欲しかったワケではないが、素直に受け取ろう。

 

 

「……そう言ってくれるだけで救われるものだな。 だが話はこの辺で止めておこう。 いずれにせよ、EDFは踏み留まる理由がある。 民間人の避難も完了していない。 その間でも守らねばならないからな」

 

 

そう言うと私は麾下に入れたい精鋭部隊に命令を出すと、自らも銃を寄せ備える。

 

 

「私達が人類の良心……か」

 

 

残念だが、そうでもない。

少女を極秘裏に人体改造して神を模倣する組織が、良い奴な筈がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー EDFーーーーーー

 

数日間、EDFの稼働戦力はパリ防衛には回らず、カールスラント防衛の為に獅子奮迅。

挟み撃ちを受け絶望視されているジークフリート線も、EDFが不屈の精神力を持ってして逆境に抗い続けた。

連合軍上層部は持つまいと考えていただけに、その意地を見せられ驚愕したという。

またEDF広報の情報操作で、ガリアや諸外国に この惨劇が報じられた。

これにより連合軍兵士達の間でEDFを支援するべき、といった意見が膨れ上がり、やがて上層部への反感を買っていく。

パリ防衛として設立、して大人達の政治的な欲望や思惑に絡まれた少女たち……506JFWことノーブルウィッチーズも例外ではなかった。

この事態に上層部は飼い犬の群れに噛まれる忌避感から、止むを得ず重い腰を上げ戦力を投入する事を決める。

どちらにせよ、命の危機に晒されるのは前線の幼い少女らウィッチであり、兵士である事に違いはない。

だがEDF死神部隊風に言えば、それが仕事である。

して仕事が出来た連合軍兵士達は車両や航空機に乗り込み、EDFの支援へ向かう事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"水面下"では、最悪のケースに備えた少女が眠っている事を、兵士達は知らない。

 




WDFを出さないとタイトル回収が……くっ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

44."ベルリンの壁"と"死神の横槍"

作戦内容:
我が軍の奮闘虚しく防衛線は後退。
とうとう本部を設置しているベルリンにまで押し寄せました。
後退してきた残存部隊と、呼び戻した部隊で防衛線を再構築。
ベルリンの壁となり、これを迎え撃ちます。
備考:
ジークフリート線にいるStorm1の部隊は孤立状態、此方には来れそうにない。


ネウロイの軍勢、帝政カールスラント首都ベルリンに総攻撃を開始す。

 

遂にネウロイは、EDF本部があるベルリンに攻勢を開始。

数で勝るネウロイは、未知のテクノロジーを食い尽くす怒涛の進撃を持ってしてカールスラントを本気で奪取せんとする。

対する数で劣るEDFは、高火力の弾幕を持ってして戦力を補い応えた。

各地で敗戦を繰り返してきたが、今日までかつてない絶望を経験、生き延びてきた精鋭の人類だ。

士気は多少は下がっていたが互いに鼓舞し、元連合軍の隊員も彼らに感化して雄叫びを上げる!

 

 

「EDFの技術はせかいいちぃいぃ! 出来ん事は無いぃいぃ!!」

「輸送ヘリから飛び降りろぉ! パラシュートなんて飾りよー!」

「あってもローターに巻き込まれるしなぁ!」

「陸路のヤツはローリングで移動だぁ!」

「道を廃車が塞いでる? 体当たりすれば吹き飛ぶナニも問題はない」

「輸送車にセントリーガンやら防御力が上がる装置とか攻撃力が上がる装置を取り付けるんだよアクしろよ」

「C70爆弾を取り付けて敵の群れに突っ込ませるんだよー!」

「設営隊が作った立体駐車場に入るんだ! そこは安置だ、無いならアパートの通路にでも篭るんだな!」

「隊長が勝手に先行する? なら峰打ちして指揮権を奪えば良いんだよ!!」

「建物にネウロイがハマったぞ!」

「待て、ソイツは最後まで 取っておけ。 その間に物資を集めて回るんだ」

「お前はナニを言っているんだ」

「ニクスがブラッカーを蹴り飛ばしたー!」

「こっちはフェンサーがスラスターで吹き飛ばしやがった!」

「道にいるのが悪いんだよ!」

「射線に出てくるな!」

「なんで前に出てくる!?」

「ビビリは背後でミサイル垂れ流せ!」

「エアトータスでも何でも良い!」

「隠れる遮蔽物が壊れるダルォ〜!?」

「空爆してくれ!」

「誘導兵がいない!」

「馬鹿野郎、ヘリから爆弾を落とすんだよ」

「正規軍を見習え! あのフェンサーなんて空を高起動で動き回ってるぞ!」

「戦車がドリフトしてるうううう!?」

「ヘリのローターの上で戦っているヤツもいる!」

「バイクのヤツは360度ターンしながら機銃を撃ちまくってるよ!」

「なんで元連合軍はタンクデサント出来るのに、EDF隊員は置いてかれるんだ!?」

「慣性の法則を無視してる!?」

「EDFのチカラってスゲー(錯乱)」

 

 

EDF隊員のやり方を真似するウィッチや元連合軍兵士達。

EDF式訓練を施され、狂気の戦法と思考をする哀れなモンスターと化していたが、それでもネウロイは強かった。

北部で孤立奮戦中のStorm1とStorm2も、挟み撃ちを受けて苦戦していると報告が上がる。

もはやEDFに投入戦力は殆ど無く、ネウロイにカールスラントを奪われるのも時間の問題となりつつあった。

 

 

 

 

 

◆ベルリン防衛線

 

ベルリン防衛隊全兵士が、とうとう交戦を開始。

戦力不足から一点に集中配備、正攻法をするしか無いEDFに対して、数にモノを言わせ猛攻撃をするネウロイの軍勢。

無数のビームが飛び交い、異界の弾丸が怪異を貫く。

戦況は不利、それでも戦時に養った戦闘能力で打撃を与えるEDF。

既に激闘の地、ベルリンでは叫び声や悲鳴が飛び交っており、無線を開けば混線状態だった。

 

 

「もっと弾幕を張れェッ!」

「くそっ! 【アイアンウォール作戦】を思い出すぜ!」

「ネウロイの攻撃が激しすぎるッ!」

「根性で押し返せッ!」

「EDFを、なめんじゃねェ! Storm1抜きでも守って見せらぁッ!」

「空軍が何機かやられた! 墜落してくる!」

「うわあああッ! こっち来るなー!?」

「避けろ!」

「無茶言うな!」

「祈っとけ!」

「空からもネウロイの軍勢!」

「空軍は劣勢か!」

「対空要員を寄越してくれッ!」

「そんな人員いねぇよ! 気合いで撃ち落せッ!」

「いつも通り陸軍歩兵隊か! 仕方ない!」

「エメロード 一斉射ッ!」

「テェッ!!」

《コールド1より補給部隊! 弾薬が切れそうだ、予備弾薬を用意してくれ!≫

《コールド2もだ!》

《了解しました!》

《こちらスカウト! 少数のネウロイが後方に回り込もうとしています! 遊撃部隊と推測されます!》

《無傷で通すな! 殲滅しろッ!》

《アイアンウォールの二の舞は御免だ!》

《ぐわぁッ! 腕が! 腕があああ!!》

《衛生兵ー!》

《こちらニクス3! 装甲融解! 銃身もやられた! 給弾不調、だ、脱出準備し……うわあああッッ!!ーープッ》

《どうした! 応答せよニクス3!》

《レンジャー2からの連絡も途絶ッ!》

《工兵隊前へ! 工兵隊前へーッ!》

《フェンサー部隊! シールド構えーッ!》

《ドーベル隊も前進! 歩兵を守れッ!》

《くそッ! 最初の頃より強すぎるッ!》

 

 

戦場での会話や無線では味方の怒号が飛び交っている。

しかし、ネウロイの攻勢は母体となる大型ネウロイによる火力支援を元に進撃してきており、ベルリン制圧に取りかかろうとしていた。

それに対抗すべく、EDFは正規隊員、元連合軍問わず、徹底抗戦を辞さない構えをとっていた。

ネウロイの動きは全てが統一されており、素人が見ても、付け焼刃となる連合軍との差は歴然であった。

もし東のユーラシア大陸、オラーシャにいるネウロイや西のロマーニャ地方のネウロイが転進してきたらと思うと震えが止まらないと、戦略情報部の少佐が本音を漏らす。

 

しかし、とある遊撃部隊だけは別の作戦を実行に移すため、密かに前線から離脱していた……。

 

 

 

 

 

◆ベルリン・高射砲塔要塞フラッグタワー

EDF作戦司令本部・司令官視線

 

 

「ぐっ! 予想以上の攻撃だな!」

 

 

私は今、屋上の高射砲座で戦っている。

理由? 本部を置くベルリンが最前線になったからだ。

ガリアに逃げれば良いと考える者もいるが、そんな事をしたらカールスラントは陥落だ。

銃声と砲撃の音がここまで聞こえてくる。

私も戦わねばならない。

だが大丈夫だ。

優秀な部下達がいる。 周りには今日まで生き延びた隊員もいる。

いざとなれば地下道から脱出すれば良い。 心配は無用だ。

それに、私は司令官である。 ビクビク後ろに籠っていれば、兵の士気がガタ落ちだ。

してStorm3、4に命令した『作戦』を完遂させるには、もっと敵の目をこちら側に向けさせねばならない。

私が直々に奴らの相手をしなければ。

 

 

「司令官! 危険です! 中にお戻り下さい!」

 

 

ミーナ中佐よ、ごもっともだが難しいのだ。

 

 

「少ない兵士を万に1つでも補うには、私も戦わねばならん!」

「EDFの司令が戦死したら、本当に瓦解してしまいます!」

「その様な事態は想定済みだ! そうなれば戦略情報部の少佐やオペ子が引き継ぐ! ナニも問題はない!」

 

 

かつての総司令官の様な事を言ってしまった。

ううむ……総司令部も、最後はこうであったのであろうか。

オペ子も戦時末期は病んでしまったが、今は落ち着き多くを処理出来るまで成長した。

全体指揮を執るのは難しくも、部隊を指揮出来るくらいは出来るだろう。

実際、かつて本部も襲われた時があった。

その時は残存部隊の指揮が執れなかったが、代わりに指揮を執るような事をしていたからな。

 

 

「戦意が溢れているのは良いのですが、まだその時ではありません! 戦死する事態になれば、士気も落ち、兵士の命に直結します!」

 

 

 

ぐぬぬ……ミーナ中佐の訴えに、冷静になってきた。

私はココで簡単にくたばる気は全くないが、もし死んでしまえば……考えたくもない。

激しい戦闘とはいえ、EDFはまだ持ち堪えている。

最悪は残存戦力と共に地下道から脱出。

手札にある"銀の死神"を使う手すらある。

だが、それは避けたい。

ならば……やはり私が対処するべき事案なのだ。

見ていろ連合軍にネウロイ連中!

直ぐにでもキールまで押し返してやるぞッ!

ふんッ!

 

 

「そうだな……すまなかった。 中佐の助言に従おう」

 

 

頭に血が上っていた。

私も歳だな。

 

 

「中佐も自身の家族、501が孤立奮戦しているのが心配であろう。 なのに、我々に気を遣ってくれるとは。 色々と迷惑をかけて申し訳ない」

「はい……いえ。 美緒……坂本少佐が戦闘指揮を執ってくれていますし、皆は強い子たちです、それに」

「それに?」

「ストームさんが、いますから」

 

 

自信を持って、堂々と言われた。

驚いた。 Storm1の影響がこうも……。

彼の勇敢な姿勢に、我々も影響を受けたが……ウィッチーズにも影響を与えるか。

 

 

「はっはっはっ! そんなにも彼が気に入っているか!」

「なっ……!? 違います! 変な意味では! 私は坂本少佐の方が! あ、いえ! 指揮能力の話ではなく! 好意という意味でもなくてですね!?」

 

 

赤くなるミーナ中佐。

若いって良い事だな……そう思えると言うことは、やはり歳だ。

一気に老けた気持ちだよ。

いやなに、面白いと思える事も増えた。

 

 

「分かっている。 年寄りの戯言さ。 それよりも……ここまで敵が食いつくとはな」

「はい。 ネウロイは総攻撃をかけています、戦況は思わしくありません」

「うむ。 だが この状況が続けば、上手くいけばジークフリートまで一気に押し返せるかも知れん」

「と、いいますと?」

 

 

ミーナ中佐も食い付いてきた。

ジークフリート線まで距離があるのみならず、現在の状況は表面だけでも劣勢を強いられているからな。

各地で孤立、ゲリラ戦を展開するなどして奮戦している歩兵部隊もいるのだが、とても反撃して押し返せる状況ではない。

だが、それを可能に出来るかも知れない。

私は要塞内部に戻り、机の上にあるカールスラントの地図に指をさして説明した。

 

 

「地図を見れば分かるが、北のジークフリート線はキール側から来るネウロイと、ガリアのマジノ線を陥落させたネウロイからの攻撃を受け、挟み撃ちを受けている」

「はい。 こちら以上に厳しい戦況です。 ですが、ストームさん達が奮戦しているからこそ、ベルリンは持ち堪えています」

 

 

事実である。

Storm1、2がネウロイ戦力を引きつけているからこそ、こちら側の攻撃は"この程度"で済んでいるのだ。

感謝しなければな。

何とか助けてやりたいが、今直ぐは無理だ。

 

 

「ならば、北部が持ち堪えている間にココにいるネウロイを殲滅、救援に向かわねばネウロイの足並みが揃ってしまう。 506はガリア防衛、504はロマーニャ地方に現れたネウロイに対処中。 他の航空団は……いや、増援は期待出来ない。 EDFは連合軍に頼らず、自力で何とか打開しなければならん」

 

 

ミーナ中佐は静かに聞いてくれた。

爺の譫言に付き合ってくれて、ありがたい。

 

 

「これ以上のネウロイ侵攻を阻止する為には、我が軍がベルリンの壁となり踏み留まらねばならない。 だが戦力が少なく、防衛線とは名ばかりの集中配備となってしまった。 対するネウロイも真正面から1点集中攻撃を仕掛けている。 多少のネウロイが回り込もうとしているが、その程度だ。 して我々を1人残らず殲滅する……"筈"だったのであろう」

「"筈"、というのは?」

「Storm3、4のコードネームを持つ遊撃部隊が側面に回り込んでいる。 攻撃命令を待っているだろうな」

 

 

ミーナ中佐は地図を見つめ、少し考えてから質問をした。

 

 

「しかし、遊撃部隊の戦力は? ネウロイの戦力は強大です」

「人数だけなら2個分隊、いや。 それ以下だな」

「それでは死に逝く様なモノです!」

「言ったであろう。 人数だけなら、と」

 

 

そう。 人数だけなら。

だがストームチームは精鋭中の精鋭。

敵の大群相手に時間稼ぎどころか、船団すら殲滅させる戦力を持つ。

 

 

「何か強力な武装を?」

「光学兵器と……"槍"だ」

「槍!?」

「原始的なものではない。 言っておくが"なげやり"ではないからな」

 

 

そんな戦力が、死神の横槍がネウロイの群れに刺されば……どうなるか。

 

 

「見ていろネウロイ。 手札の枚数はカードの裏で隠す事も出来るのだぞ……!」

 

 

 

 

 

◆ベルリン防衛線

 

同日。

ネウロイの緩まぬ猛攻に、EDF隊員も悲鳴を上げ始める。

 

 

「うわああああッ!!」

「もうダメだぁ!」

「俺は弾が無い!」

「何が防衛線だ! 集中配備するしか対抗出来ない戦力で、どう守れってんダァッ!」

 

 

モブ隊員達が、ある意味いつも通りの やかましい悲鳴を上げていた。

ただ、それだけの元気はあるという事で、銃撃の手は緩めない。

 

 

「諦めるな! 撃てば当たるぞ、撃ちまくれ!」

「後で衛生兵を呼んでやる!」

 

 

隊長格の赤ヘル隊員らが励ますが、ベルリンの"小さな壁"は、いつ崩壊しても不思議ではなかった。

だが、崩壊するのはネウロイの群勢となる。

始まりは、突如として流れてきた無線。

 

 

《本部からの命令を確認した》

 

 

───それは黒きフェンサー達。

───Storm3、死神部隊と恐れられた最強格の部隊。

 

して、EDF隊員らは次のワイルドボイスに激励されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《こちらグリムリーパー。 救援に向かう。 持ち堪えて見せろ》

 

 




Storm4「私たちの紹介が……」
Storm3「死神とウサギの組み合わせか。 笑えるな」
Storm4「ぬかせ」

只野二等兵「ミーナ中佐! 俺は!? 俺も頑張ってるよ!?」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

45.それぞれのストーム

作戦内容:
人類を勝利に導いた遊撃部隊ストーム。
その分隊が再びチカラを貸してくれます。
共に防衛し、怪異を撃退して下さい。
しかし、我々に残された戦力は少なく、ネウロイの数は強大です。
それでも戦わねばなりません。
何故なら、EDFは敵に背中を見せないからです。
!?
レーダーが機影を捉えました!
これは……連合軍!?
連合軍からの救援です!
どうやら、この世界も見捨てたものじゃないようですね。
備考:
ストームチームは陸戦において強力です。



◆ジークフリート線

 

 

「信じられん。 まだ戦闘が続いている!」

 

 

ガリア……マジノ線側から救援に向かった連合軍兵士達が驚いた光景。

それは未だに抵抗を続けているEDFがいた事である。

要塞は半壊し、それでも中から弾丸が飛び群がる怪異を撃ち抜き、空覆うネウロイを炎の渦に消していく。

変な二足歩行型の兵器もいる。

黒煙を上げてはいるが、ネウロイを砲撃しているあたり、人類側の兵器だろう。

ビームを受けても耐え続け、機関砲かという連射砲撃を喰らわせネウロイを吹き飛ばす。

だが、それでもネウロイは多く、要塞に集るような波状攻撃は続く。

ここの防波堤が崩れるのも時間の問題に見えた。

 

 

「数が違いすぎる。 俺達も死ぬぞ」

「だからどうした。 それが俺達の仕事だ」

「安全装置を外せ。 戦闘用意!」

 

 

兵士達は覚悟を決めて兵員輸送車から降車、歩兵銃の安全装置を外した。

こんな小火器で どうにか出来る数ではない。

それでもEDFを助けねば。

 

 

「そこの連合軍、待て!」

 

 

そこに声を掛けるは、Storm2こと軍曹チーム。

他にもレンジャー51部隊、偵察部隊が随行しており、中規模部隊と化している。

彼等は連合軍の近くまで駆け寄ると、状況を確認しあった。

 

 

「俺達はEDF遊撃部隊、Storm2だ! お前たちは?」

「俺たちはジークフリート救援部隊だ。 そちらも似たような形か?」

「そうだ。 あの要塞にいる友軍を助けるのが任務だ。 どうやら、互いにチカラを合わせるしかなさそうだな!」

「だが、勝ち目は無いぞ。 あの数を見てみろ。 恐ろしい軍団だ、お前達は増援を待った方が良い」

 

 

連合軍が、いつかのスカウトの様な事を言い、当の本人達は苦笑した。

魔獣の宴。 あの戦場は そんな感じだった。

戦争末期。

クイーンやキング、様々な侵略生物が集まり、エイリアンは勿論、巨大な怪生物も乱入。

あの場にいた人類はさながら、宴に用意されたディナーだ。

素人目に見ても勝ち目が無く、いくら英雄のStorm1がいたからって絶望感を出さずにはいられない。

しかし基地は壊滅、本部とも この時まで連絡が取れず、逃げる場所なんて無かった。

戦う他ない。

EDFは立ち向かったのである。

フェンサー部隊が皆の仇を打たんと、残された人類への被害を減らす為にと戦闘開始。

それに感化されたスカウトも偵察部隊でありながら戦闘に参加。

普通なら一方的に殺される戦い。

それでも皆は抗い、結果として勝利し生き延びた。

今回もそうするだけだ。 そうしなければ ならない。

なにより、あの時 助けてくれた英雄に少しでも貸しを返したかった。

レンジャー51もエイリアン幼生体と交戦した際、助けられた。

Storm1を助ける。 気持ちは一緒だ。

救援隊長の軍曹は連合軍兵士に言う。

 

 

「その増援が俺達だろう! 何の為にジークフリート線に来たか思い出せ!」

 

 

β型駆除の為に欧州に派兵された時の様な事を言う。

 

 

「おいおい! 俺達とあんたら合わせても、小規模な歩兵戦力しかないんだぞ!?」

 

 

連合軍兵士は冗談だろ、と言いたげだ。

歩兵隊のみで交戦なんて現実的ではない。

そんな彼等に、他に道はないと軍曹は続けた。

 

 

「EDFは勿論、連合軍に これ以上投入する戦力は無いだろうな」

 

 

ウォーロック事件に関わった軍曹は連合上層部の思考を考え、そう結論づける。

 

 

「友軍は今にも死に絶えそうになっている! だが奴らは こちらに背中を見せ、無防備な状態。 ならばやる事はひとつだ! いくぞ!」

 

 

突撃していくStorm2。

無謀なのか勇敢なのか。

 

 

「くそっ……! どうにでもなれ!」

 

 

続く連合軍兵士達。

太刀打ち出来ない、歯が立たない戦力。

それでも向かう。 止むを得ない。

EDF側は軍曹の言う通り、文字通り投入戦力が無い。

連合軍側は、上層部がパリ防衛戦力を割くのに躊躇した結果、やっと最初に動けたのが歩兵隊という有様だった。

続いて安全な後方から砲兵隊を展開しようにも、砲撃してしまうと、友軍のいる要塞ごと吹き飛ばす恐れがあり、動けずにいた。

エトワール作戦の反省もあった。

航空機に関しては、飛行型ネウロイの抵抗に遭い、上手く進んでいない。

モブウィッチーズの援護もあるが、同じ状況だ。

では指揮系統が国に依存しないJFWらはというと。

504は現地EDF小隊の援護のお陰もあり、ロマーニャ地方のネウロイ撃退に成功、カールスラントの援護に向かおうとするも、小隊は負傷者多数、ウィッチは魔法力が尽きかけており戦闘続行は断念。

506は元々ガリア防衛戦力としての側面から、上層部が"他国救援"に向かわせないようにしていた。

502はカールスラント東部から侵攻するも、ジークフリートとは真逆であり、途中にいるネウロイの群勢に手を焼いている。

他の統合戦闘航空団は拠点から遠過ぎたり、管轄外だったり、そもそも自分達の戦場にネウロイがいる激戦地だったりする理由で救援に来れない。

501は、ミーナ以外はジークフリート要塞の中だ。

魔力が切れて飛べなくなり、それでも生きる為に慣れぬ砲座に着いて抵抗している。

ミーナも救援隊に加わりたい気持ちはあるが、ベルリンが激戦地であるし、続く長距離飛行で魔力が無く戦えない。

 

とにかく結論としては……現状戦力で対処せよ、である。

 

 

「こちらスカウト。 ジークフリート線の戦闘に参加します!」

「レンジャー51。 Storm2と共に現地に到着した。 突入する」

《許可する。 健闘を祈る!》

「いくぞ!」

「うおおおおおおーーッ!!」

「EDFッ! EDFッ!!」

 

 

要塞に群がるネウロイに突撃敢行、吶喊!

後に続く連合軍歩兵隊。

 

 

「俺達も続くぞ!」

「ネウロイの気を引くくらいなら……!」

「時間を稼ぐ! その間にでも増援が来れば!」

 

 

ネガティブな やる気だったが、EDFを助けに来たのに逆に助けられるのもアレなので戦闘

に参加する。

 

 

「射程に入ったら撃て!」

「「「イエッサー!」」」

 

 

Storm2……軍曹が言い終わるが早いか、先ずは軍曹が発砲。

いや。 発射というべきか。

手に持つSFな銃からネウロイに似た、ビームのようなモノが放たれ、まだ遠くのネウロイが瞬時に蒸発する!

 

 

「なっ!?」

「ビームだと!?」

「噂に聞いていたが、本当に実用化していたなんて……!?」

「ここから500mは離れている筈だ。 なのに、ネウロイを正確に当て、瞬殺出来る威力……!」

 

 

驚く連合軍兵士。

EDFが通常兵器として使用している実弾兵器群だって、ネウロイ装甲を抉る威力で驚くのに、ビーム系まで出されては更なる驚愕と衝撃である。

 

そんな軍曹が使用している銃は、ブレイザーと呼ばれている。

原子光線銃で、ビームではなく凄まじい威力を持ったレーザーを撃てるのだ。

氷山を吹き飛ばすのに使われていた原子光線砲(EMC)を小型化、歩兵による運用を可能にしたもの。

小型ながら、出力はEMCの10%ほどもある。

が、生産コストがEMC並みで、僅かに生産された程度であった。

そんな高威力でレア銃を配備された軍曹の戦闘能力は相応に確かで、レーザーや倍率スコープ等の射撃補助装置がないのにも関わらず、このようにして遠くの敵にも当てられるから凄い。

 

 

「俺達Storm2が正面でネウロイを引きつける! その間にレンジャー51とスカウト、連合軍は側面に回れ! 横腹を抉るんだ!」

「でも直ぐ再生するのを見たぞ!」

「ネウロイはコアを破壊しないと再生する! 様々な部位に弾を当て、赤い石が見えたら、ソレを狙え! それがコアで弱点だ!」

「イエッサー!」

 

 

成る程、了解と回り込む。

似た経験を積んでいたEDFの理解は早い。

エイリアン歩兵隊連中も、堅い宇宙服に覆われていたり足や腕が千切れても驚愕の再生能力を持っていた。

対処法として確立していったのが、1点集中砲火による部位破壊、そこから露出した本体を倒すというもの。

また、圧倒的な防御力を誇る金色の装甲に覆われたテレポーションシップや移動基地への攻撃方法も、下部のハッチ内の赤い場所が唯一の弱点であった。

ネウロイも似たようなモノか。

ならば対処しようがある。

歩兵隊は慣れた動きで有利な位置どりをし、攻撃していく。

 

 

「撃てー!」

 

 

未だ要塞攻撃に夢中になるネウロイの背中や横腹に浴びせられていく銃弾。

怯むネウロイ。

軍曹以外、自動小銃PA-11。

心許ない最低限な武装レベルだったが、それでもネウロイ装甲を抉る威力。

 

 

「俺たちだって兵士だ!」

「うおおおおッ!」

 

 

連合軍兵士も歩兵銃で銃撃を加える。

 

 

「やはり効かない!」

 

 

が、PA-11に劣る。

この世界の歩兵銃では太刀打ちできず、表面に火花が散るばかり。

 

 

「上層部め! 火砲のひとつも寄越さず、何が救援部隊だ!」

 

 

無い物ねだりをする連合兵士。

あったとしても、打開出来るか怪しいが。

 

 

「泣き言は聞かん!」

 

 

撃ちながら軍曹が叫ぶ。

ネウロイの群れが、レーザーで葬られた。

 

 

「だってよ! 残念だったな!」

「そんな事を言っていたヤツがいたな」

「そうですね」

「うるせぇ!」

 

 

軍曹の部下の面々が私語を喋る余裕を見せつつ、ネウロイ装甲を抉る。

そんな隊員らに、連合兵士達は勇気と疑問が湧いてくる。

 

 

「お前らは平気なのか? 怖くないのか?」

「怖いさ」

「なら、どうして」

「仲間が戦っているのに、帰る訳にはいかねぇだろ?」

「私語は慎め!」

「へいへいっと」

 

 

それだけか? と思いつつ、戦いに集中しなければと"無駄撃ち"を再開する兵士。

なんとなくEDFが、強くて情に熱い連中が多いのではと感じた。

 

 

「ネウロイが転進してきます!」

 

 

スカウトが叫ぶ。

要塞攻略の戦力を割いて、一部のネウロイが襲撃してきたのだ。

蜘蛛のようなヤツもいて、かつてのβ型を思わせた。

 

 

「へっ! 糸の代わりにビームを撃ってくるぜ!」

「飛び跳ねない分、楽だな!」

 

 

軽口を叩きながら、隊員らはネウロイを各個撃破。

勿論、小銃の威力もある。

だが、それだけでネウロイは倒せない。

地獄を生き延びた隊員らの練度が凄いのだ。

 

 

「走りながらコアを破壊している!?」

「すげぇ」

 

 

だが、やはり火力不足。

ネウロイは要塞攻略を休止すると、Storm2らに襲い掛かる!

 

 

「ヤベェぞ! 一気に来た!」

「地底の最奥地を思い出す!」

 

 

流石に、数が多過ぎて捌き切れない。

焦る隊員ら。

そこに、要塞から発煙筒が此方に投げられたと同時に無線が繋がる!

 

 

《こちらStorm1! 軍曹、蹂躙の時間だ!》

 

 

軍曹の近くで赤いスモークが立ち昇り、輸送機ノーブルがコンテナを投下。

中から重武装コンバットフレームが現れた。

両腕にリボルバーロケットカノン。

両肩に拡散榴弾砲。

【ニクス デストロイキャノン】である。

 

 

「良いだろう。 使わせて貰うぞ!」

「おお! コンバットフレームがありゃあ、怪異なんて怖かねぇ!」

「あの時 見れなかった軍曹のニクス捌きが見れるのか!」

 

 

軍曹がコンバットフレームに乗り込むと、機械の兵士が立ち上がった。

隊員らが色めき立ち、連合軍兵士は またも驚いた。

 

 

「なんだ!? あの機械人形は!?」

「歩く戦車!?」

「手首に足があるぞ!」

 

 

コンバットフレーム ニクスを知らない兵士は驚く他ないだろう。

車輪で動かず、人間と同じように首と足、手があり動くのだから。

 

 

「喰らえ!」

 

 

軍曹が叫ぶ。

両肩の砲から榴弾がばら撒かれ、着弾すると同時に前方が爆炎に包まれた。

地面を揺るがし、世界の照度が一気に上がる。

その破壊の光は、近寄っていたネウロイの群れを纏めて世界から消し去った。

 

 

「陸戦ネウロイが全滅!?」

「なんて破壊力だよ!」

 

 

驚く連合軍。

そこを隙ありと、爆炎を突き破り母体と思われる大型ネウロイが現れたが、

 

 

「沈めッ!」

 

 

ニクスは両腕に装備するリボルバーロケットカノンをバースト。

連続して放たれたロケット弾が、母体に着弾。

榴弾砲に劣らぬ破壊力と衝撃が、母体をコアごとバラバラに吹き飛ばしてしまった!

 

 

「なぁっ!?」

 

 

驚きっぱなしの連合軍。

他にどうしようもない。

あまりに、あまりに圧倒的な兵器だった。

まさにデストロイ。

滅ぼし、破壊し、破滅させる。

その為に現れた悪魔の兵器。

その威力に連合軍は怯え、震え、恐怖した。

だが彼等は知らない。

デストロイな兵器は、EDFに数多ある事を。

 

 

「まだ細かいのが沢山いるぞ! 歩兵部隊、取り零しを頼む!」

 

 

軍曹が言うと部下達が了解し、取り巻きの小型機に銃撃を浴びせていく。

あの攻撃の後だと、歩兵の威力なんて微々たるものだった。

だがそれでも、EDF製の銃である。

次々とネウロイを掃討し、最早、残党狩りと呼んでも良いような事になってきた。

 

 

《こちら只野二等兵。 軍曹、援護します!》

 

 

そこに要塞から歩いてきた、ニクスとは違う兵器にも戦慄する連合軍兵士。

申し訳程度の主人公の登場には、誰も突っ込まない。

 

 

「うわっ! 歩いてきた!」

「デカいぞ!」

「ボロボロだ」

「良く持ち堪えたな」

「耐久性が高いんだろう」

 

 

それは胴体から足が生えた、ニクスよりも大きいビークル。

バスターカノンという連続発射可能の砲台が2門ぶら下がり、真ん中には回転式ミサイルポッドが2箱。

歩く要塞、陸戦の切り札。

BMX10プロテウス。

救援隊が来るまでのネウロイによる集中砲火で、特殊装甲板がヘコみ、黒煙や火花を上げていた。

ネウロイのビームは貧弱ではない。

相手によるが軍艦は真っ二つ、軍事基地は一撃で沈黙、歩兵隊は蒸発しかねない威力がある。

だが、EDF製のビークルは強靭。

特にプロテウスは要塞級。

まだ戦えると、左右にぶら下がるように付いていた砲塔が動き、ネウロイに砲撃を浴びせていく。

 

 

「操縦席の少年! もう少し丁寧に動いて欲しい! 砲弾を上手く当てられない!」

「初めて動かしたんですよ!? 無茶言わないで下さい!」

「只野〜、虐めちゃ可哀想だろー?」

「シャーリー! 君も砲手だろ!」

「みさいる、切れて やる事ないです……」

 

 

ビークル搭乗員からの雑談が戦場に響く。

それを搔き消すようにして、ちょっとしたマシンガンのように、砲弾が連続発射。

ネウロイが片っ端から吹き飛んでいった。

 

 

「アレも火力が高い!」

「スゲェな。 ネウロイが蒸発していく」

 

 

棒立ちしてしまう連合軍。

挟み撃ちをしていたネウロイは、逆に挟み撃ちを受けて、殲滅されてしまった。

 

 

「クリア! 今ので最後だった様だな!」

「そのようです」

《軍曹。 救援、感謝します》

「こちらこそ感謝する! 良く生き延びてくれた! お前達は意地を見せた。 人類のな」

 

 

なんか、コレ、連合軍兵士の俺たちは必要なかったのでは?

蚊帳の外へ追いやられていくような感覚と、得体の知れない恐怖を目の当たりにする連合軍。

 

 

「なんという……なんということだ!」

「ヤベェよ。 EDFヤベェよヤベェよ」

 

 

"ヒェッヒェッ"で震える兵士たち。

そこに温かな言葉をかけるは、Storm1。

 

 

《救援に来てくれた連合軍兵士にも、感謝する。 助かった、ありがとう》

 

 

いや、何もしてないんだが……。

思ったが言わなかった。

言ったら、自分たちの存在意義が更に薄れそうだから。

なにより、圧倒的なチカラを持つ異界の者達に、下手な言葉を使ってはならない錯覚に陥っていたからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ベルリン防衛線

 

 

崩壊寸前の防衛線、"ベルリンの壁"。

波状攻撃を仕掛けるネウロイに、EDF隊員らは満身創痍だった。

だが、彼等が引きつけている間に側面に回り込んだ遊撃部隊。

黒きフェンサー、死神部隊のStorm3。

ウィッチに出番を奪われて、あまり活躍の場がないウィングダイバーの精鋭部隊、スプリガン隊のStorm4。

本部からの攻撃開始命令を受け、とうとう攻撃を開始する!

 

 

「異界に来てまで戦争か。 笑えるな」

「ウィッチには負けられないぞ!」

 

 

グリムリーパーは、スラスターで高速移動。

スプリガンは飛行ユニットで低空を舞い、戦場に横穴を開けた。

 

 

「何か来るぞ!」

「速い!」

 

 

元連合軍兵士が気づき、声を上げる。

高速に、不規則に動く事で、敵に的を絞らせない戦術を取る彼ら。

決して多くはない人数だが、速く不規則な為に実際の人数より多く見える。

 

 

「ネウロイが気付いたぞ!」

 

 

彼らに気付いたネウロイ。

的を絞れず乱射するも、誰1人として当たらない。

して懐まで入り込まれると、死神の1番槍が突き刺さり……内側からバラバラになった!

 

 

「なんだと!?」

「何が起きた!?」

 

 

驚く元連合軍兵士に、側にいたEDF隊員が説明する。

 

 

「ブラストホール・スピア。 槍だ」

「槍だと!?」

 

 

銃ではなく、槍。

良く見ると、確かに黒い槍のような物が見えた。

そんな原始的な武器でネウロイが倒せる訳がない……そう思う兵士に、補足する。

 

 

「槍は機械式。 目にも留まらぬ速度で伸縮して、標的に突き刺さる。 して、高圧プラズマで内側から破壊する恐ろしい兵器だ。 だが接近しなければならない運用方法から、使っているのは僅か。 その僅かな隊員が……彼ら、グリムリーパー隊。 Storm3だ。 かつて俺たちの世界で起きた紛争では、歩兵では破壊困難とされるコンバットフレームを何機か撃破したが……今じゃ、その時を上回る強さだろう」

 

 

説明されても良く分からなかった元連合軍兵士達。

高速で動く黒きフェンサー部隊の圧倒的な強さ、捨身戦術。

瞬く間に蒸発していくネウロイの群れ。

それは命を刈り取り、冥府へ送る者たちの様子。

 

 

「死神だ」

 

 

兵士は震える声で、そう言った。

 

 

 

 

 

ーーーーーー EDFーーーーーー

 

グリムリーパー隊が狩りをしている傍ら、赤いスプリガン隊は美しく空を踊る様に舞う。

ネウロイからのビームをひらり、ゆらりと避けては、お返しにとビームを撃ち返して確実にネウロイの数を減らしていった。

 

 

「おお……!」

 

 

負傷し、壁に寄り掛かかる兵士らは見上げ……思わず息をほぅ、と吐く。

硝煙と血生臭い戦場で我を忘れ、痛みも忘れて見惚れる美しき花である。

 

 

「……きれい」

 

 

そのポジションにいる少女……ウィッチーズも彼女らに見惚れていた。

ウィングダイバーは、年上のお姉さんに当たるが、大人の魅力と踊りに目を奪われていたのだ。

 

 

「観客が大勢いる。 最高の踊りを披露しないとな」

 

 

そんな彼ら、彼女らを咎めずに観客とするスプリガン隊。

戦場で踊る様にしてネウロイを次々と撃破する様子は、ショーを見ている気分だ。

やがて落ち着いてくると、死神とスプリガン隊が合流。

互いに、昔のような軽口を叩きあう。

 

 

「ウサギの お嬢さんか。 相変わらず飛び跳ねているな」

「グリムリーパーは、腕が鈍ったんじゃないか?」

 

 

決して反目している訳じゃない。

互いにヘルメットの下でうすら笑みを浮かべ、素直に再会を喜べずにいるのだ。

ストーム隊と かの者との死闘から数ヶ月以上。

互いに生き延びたのは奇跡だったから。

 

ところが、そんな軽く捻くれた挨拶の間に入り込む少女らウィッチーズ。

 

 

「お姉さま方を悪く言わないで下さい!」

「そうだー!」

「死神だかなんだか知らないけど、お姉さまを悪く言うのは許さない!」

「お姉さまの方が、ずっと強かったもん!」

 

 

勝手にスプリガン隊を お姉さま お姉さまと呼んでは、死神に唸る子猫や子犬達。

そこに壁を作るは、元連合軍の男達。

 

 

「おいおい! 死神部隊の方が強かったぞ!」

「撃破数なら上だった筈だ!」

「そうだ! ウィッチとは違う、力強さってもんがある!」

「死神部隊の方がスゲェだろーよ!」

 

 

大人気なく、少女らウィッチーズに食ってかかる男たち。

そんな、勝手に始まった男女の論争に"死神"と"ウサギ"は互いに目を合わせて両手を軽くあげて見せて苦笑すると、

 

 

「「反目は止めろ」」

 

 

かつて本部に言われた事を言うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ベルリン・高射砲塔要塞フラッグタワー

EDF作戦司令本部・司令官視線

 

 

流石は遊撃部隊ストームだ!

ベルリン防衛線に押し寄せたネウロイのことごとくを撃破。

続く報告では、北のジークフリート線のネウロイも撃退したという。

 

 

「Storm1、Storm2、指揮下のEDF隊員や駐在していた連合軍は勿論、501の皆も無事だそうです!」

 

 

報告に安心する私とミーナ中佐。

Storm1とStorm2がいるからな。

きっと皆、無事だろうと思っても不安な気持ちは続いていた。

その屈託から解放され、胸を撫で下ろす。

 

 

「ああ……良かった」

「通信、繋がります。 中佐、代わりますか?」

「良いのですか?」

「勿論です」

「……こちらミーナです」

《坂本だ。 ミーナ、そっちも無事か!》

「ええ……ええ! EDFの皆が守ってくれたわ!」

 

 

ミーナ中佐は目に浮かんだ涙を拭いながら、通信相手の坂本少佐と話す。

嬉しそうで良かった。

悲しい涙なんて、誰も見たくないからな。

だがしかし……やはりというか、ストーム隊の戦闘力は群を抜いている。

今後の重大な局面では、フーリガン砲の時の様に使用していくしかないな。

それも"銀の死神"を実戦投入しない為にも。

特にStorm1。

彼は絶対に、EDFに必要な決戦兵器の一種だ。

 

 

「キャリバン救護車両は負傷者回収! 戦闘可能な者は、ジークフリート線に向かえ!」

 

 

私は負傷者をベルリンに残して、戦闘可能な者達で部隊を再編成。

ここで驚くべき事に、増援として送られてきた連合軍兵士が到着。

どうやら北にも送られているらしい。

連合軍も捨てたものではないな。

まぁ……保身に走る上層部連中の事だ。

広報の情報操作の結果だとしても、後で見返りを要求されるだろうな。

だが、現場はそれどころではない。

その話は後だ!

 

 

「我が軍はカールスラントからネウロイを殲滅する!」

 

 

仕事は残っているぞ。

当然、報酬は貰う。 イロを付けてな。

 




なんか、ストーム2の話が伸びて、
3、4が少なくなってしまった……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

46.EDF、反撃開始。

作戦内容:
EDFは攻撃部隊を再編成、直ちに反撃を開始します。
コンバットフレームやAFVを中心とした先行部隊を壁役として全面に出し、歩兵は身を隠しながらネウロイを殲滅して下さい。
備考:
Storm1の方は身動きが取れない。

発進します がやったりと、まだスト魔女世界は続いておりますね(投稿現在)。
作者はギャグ話も好きです。
ちょっと、今回は文字が多めになりました。


◆ベルリンより北部戦線

 

EDF司令官は、戦闘可能な隊員を纏めて反撃

部隊を編成、直ちに北へと進軍させた。

北部や各地に散らばるネウロイの足並みが揃う事があれば、今度こそEDFは再起不能になる可能性が高い為である。

 

今回はEDFと連合軍の合同攻勢である。

恐らく防衛戦より被害が大きくなると踏んだ司令官は、味方の消耗を抑えるべく、コンバットフレームやブラッカー戦車を主軸とした部隊を前面に押し出して、歩兵の壁となるように命じた。

既にベルリンでは慌ただしく兵士が動いており、ネウロイを駆逐一掃出来ると心踊る者もいれば、反撃が失敗しないか不安になる者もいた。

 

一方で、各地で立て篭もり、孤立奮戦していた兵士らは本隊がベルリンで勝利、反撃を開始する事を知った事で再び歓声を上げる。

 

 

「本隊が勝ったぁ!」

「人類は負けてない!」

 

 

生き延びていた兵士らは決意を持って防衛にあたった。

各々に残された武器弾薬、物資をかき集め、再びEDFや本国の旗を掲げて戦闘を開始。

本隊への戦力を分散させる陽動作戦として、大いに貢献する。

最悪物資が尽きた場合、銃剣突撃も視野に入れる程である。

 

欧州で流れるラジオでは、この戦いでカールスラントの運命が決まると吹聴している。

事実、この戦いに敗北すれば、足並みが揃ったネウロイにカールスラントは蹂躙され、その上で再びガリアが陥落してしまうだろう。

戦闘に参加する連合軍の隊長格の兵士達も「此れは祖国の命運を決める戦さ也」と隊内で鼓舞していた。

 

 

 

 

 

◆ベルリン・高射砲塔要塞フラッグタワー

EDF作戦司令本部・司令官視線

 

司令官は、部隊編成の書類仕事を戦略情報部と共同で処理していた。

EDFだけなら、書類なんて後回しに出来たのだが、連合軍との やり取りが発生した為に手を焼いてしまう。

原因は、報酬や指揮系統はどうするか、である。

 

 

「司令官、顔色が良くありません。 そろそろ休憩なされては?」

「中佐、心遣い感謝する。 だが、これは今のうちに手を打ちたいのでな」

「そんなに問題がお有りなのですか?」

「うむ。 連合軍と足並みを揃える為にも、今後の付き合いの為にもな」

 

 

書類の中身というのは、連合の上層部が指揮権を握りたがっており、その延長線……カールスラント奪還後もEDFを顎で使う企みをしている件。

 

それから、統合戦闘航空団への礼である。

特に東で戦ってくれている502部隊のラル隊長からは既に《土産はあるんだろうな?(要略)》という趣旨の連絡が来た。

 

 

「準備で忙しいが……返答が遅れた分、礼の重みも増すからな。 恨まれて独断砲撃みたいな事をされるのも困る」

「それは無いと思いますが」

「故意でなくとも、エトワール作戦の例がある。 今後の付き合いもある」

 

 

EDFは直接502部隊に救援要請を出したワケではない。

つまり、本分……戦略上の理由等で戦闘に参加してくれている。

しかしながら、ボランティアではない。

ただ働きで命を賭けてはいない。

EDFがいなくても、そうした軍事行動を取っていたにせよ、結果として援護をしている形である以上、何かしら謝礼を用意しなければ失礼である。

でなければ仕返しを受ける……は、考え過ぎかも知れないが、今後の付き合いもある。

良い顔をする分には悪くならないだろう、という判断であった。

 

 

「だが連合上層部は何かと謝礼の催促やマウントを取りたがる。 歩兵部隊を派遣してくれたのは感謝するが、本来ならば連合軍が守らねばならないというに全く……ハァ……」

「……すみません」

「中佐は悪くない、上層部の問題だ。 なに、案ずるな。 我々が何とかしてやる」

 

 

司令官は安心させるように言った。

EDFは今まで絶望的な戦況に抗ってきた。

それと比べれば、これくらいワケないと思いたい。

 

 

「それと司令官。 今回の反抗ですが、絶対に前線に出ないようにお願いします。 司令官は本部で随時報告を受けるだけで大丈夫です」

 

 

連合軍の話から一転、自身の話になった事で嫌そうな顔をする司令官。

ミーナ中佐の笑顔が怖い。

 

 

「大丈夫、大丈夫だ。 その事は現場からも散々に言われた」

 

 

というのも、ベルリン防衛成功後、直ぐに戦略情報部の少佐やオペ子、現場指揮官から激オコされたのである。

 

EDFが未だ組織として機能しているのは、司令官のような上に立つ者がいるからでもある。

無論、ストームチームの様な象徴的、優れた戦士も必要不可欠な存在だ。

しかし、軍事行動をとる上では やはり本部が必要であり、その司令官が戦場に出てしまうと混乱してしまう。

 

士気は上がるが、指揮系統は滅茶苦茶になるし、戦死してしまえばEDFは瓦解する恐れがある。

それに全ての情報を司令官に届けなければならないのに、その本人が動いてしまうと正しく届けられない。

 

この抗議内容には司令官も頷き詫びる他なく、渋々受け入れた。

本部が戦場になってしまったなら やむを得ないが、基本的には本部からは成る可く出ないようにする。

 

 

「だが、やむを得ない時が再び来るようなら参戦するぞ」

「やむを得ないなら、です」

 

 

苦笑するミーナ中佐。

それは自身も人の事を言えない時があるからか。

そんな矢先、無線機越しに戦略情報部の少佐から戦闘報告が。

 

 

「北部へ進軍した先行部隊が交戦。 市街地で待ち構えていたネウロイの軍勢がいたようです」

 

 

かつての市街地での乱戦状態か。

司令官は直ぐに対応、指示を出す。

 

 

「コンバットフレームを中心としたフォーメションを崩すな。 それと、孤立しないように注意させよ」

「了解しました」

 

 

直ぐに関係各所に連絡をとる本部員や情報部員。

ネウロイが本当に戦術的な行為をしているなら、もしくは考えられるならば、エイリアンの時のように苦戦するかも知れない。

だがEDFも養った戦闘経験がある。

簡単に殺される気はない。

 

 

(舐めるなよネウロイ……我々は簡単には倒せんぞ……!)

 

 

ミーナ中佐は、EDF司令官の思いを知る事なく、他の隊員らと共に出来る作業を手伝っていく。

それぞれが、色々な思惑で戦う中、現場の戦いは怒涛の攻戦が繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

◆北部市街地

 

EDF、市街地にて交戦状態に入れり。

 

EDFはコンバットフレームとブラッカーA1を歩兵の盾としつつ先行、市街地を抜けようとしていた。

この際、コンバットフレームは量産型のニクスB型だが、ブラッカーは本来の基本設計とされるA型が先行。

これは市街戦での対テロリスト戦を考慮して榴弾砲にされて急造されたE型とは異なり、A型は砲塔旋回速度や装甲が良く、武装は滑腔砲。

砲弾は爆発しないが貫通力に優れている。

これは建物に榴弾を当てた際、近くにいる歩兵に爆風がいってしまわないようにする処置だが、他にも理由はある。

住民に配慮しているワケじゃない。

EDFがそんな事をする筈ないだろう(殴)。

歩兵を含む自軍が建物を利用した戦術を取れるようにする為である。

 

 

「ネウロイ野郎がお出ましだ!」

 

 

案の定というべきか、市街地を通過しようとしたところ、待ち構えていたネウロイの軍勢が攻撃。

EDF側も撃ち返し、互いに路地裏やら建物を利用して回り込もうとして、分隊同士も鉢合わせ、場所によっては白兵戦闘距離と乱戦に乱戦を重ねる。

 

 

「歩兵部隊! AFVから離れるな! 砲撃に頼れ!」

「路地裏に歩兵単独で入るなよ。 ブラッカーに任せとけ」

「コンバットフレームは歩兵を守るんだ!」

「フォーメーション崩すなよ!」

「孤立するなよ。 したら最後だぞ!」

 

 

市内では建物の屋根から撃ち下ろすネウロイがいたり、飛び降りて上空から奇襲する等の立体的な攻撃も行ない、強い抵抗の意志を感じさせる。

 

 

「ネウロイ野郎! 立体的に攻撃してくる!」

「スナイパー気取りかよ!」

「狼狽えるな! ウィングダイバーに任せろ!」

「ウィッチにも頼れ!」

 

 

対してEDFはウィングダイバーや航空ウィッチが屋根のネウロイを駆除。

航空ウィッチは機銃掃射や爆装しての軽爆撃をしつつ通り過ぎるが、歩兵サイドのウィングダイバーは逆に占拠して地上のネウロイを撃ち下ろす。

 

 

「フェンサー! 盾を構えつつ突撃!」

「ウィッチ隊も続けー!」

「近距離ならハンマーでブッ叩くッ!」

「フォースブレードで斬り伏せてやるわッ!」

 

 

また、白兵戦闘距離ならばとフェンサーと陸戦ウィッチがイオンミラー・シールドを構え後続を守りつつ突進、ハンマーや二刀流フォースブレードで潰し、斬り伏せる。

銃撃戦では不利だろうハンマーでもEDF製のは超振動発生装置(ヴィブロドライブ)の振動で、命中した物体のみならず周囲一帯を粉砕。

またブレードは、エイリアンのフォースフィールド(防御スクリーン)の技術を応用した武器で、フォースフィールドを刃に変えて"投射"、離れたネウロイも破壊、切断する。

また隊員の腕もあり、市街戦の様な隠れ進めて鉢合わす場所では近接兵器も役に立つ。

 

一方、なんと建物の中から、ビームを発射するネウロイもいた。

2階の窓から人間みたいに攻撃してくるヤツもいる。

そういうヤツは、ブラッカーが主砲で窓ごと撃ち抜いた。

 

 

「建物の中にもいるぞ!」

「炙り出せぇッ!!」

 

 

隊員らがドカドカと軍靴を響かせつつ扉を蹴り破り、火炎放射器で火の海にしていく。

その様子はまるで暴徒と見間違う勢いと恐ろしさだ。

空気が膨張する音と共に家を焼き払い、ネウロイ装甲越しに熱を伝播させ、中身のコアを破壊した。

通常兵器では破壊困難でも、EDF製と隊員の手にかかれば、なんとかなった。

 

 

「EDFヤベェよヤベェよ」

 

 

それを見ていた連合軍は震え上がるしかない。

いちおう、歩兵部隊として援護しているが、正直いなくても制圧前進出来そうな雰囲気である。

かたや、コンバットフレームや戦車がネウロイの軍勢を押し返している。

 

 

「ブラット2! 左を守れ!」

「ブラット2了解!」

「路地裏にネウロイ野郎!」

「ブラッカーを突っ込ませろ!」

 

 

狭い道でも、ブラッカーやニクスは難なく突入、隠れたネウロイを殲滅。

 

 

「すげぇ。 EDFの戦車は小さいから、強いのか疑わしい時もあったが……なるほど、狭い場所でも戦えるのか」

「人型の兵器も強いぞ。 強力な弾幕を張ってくれている」

 

 

連合軍が客観的な感想を述べる。

元々、コンバットフレームやブラッカーは市街戦闘を考慮して設計されたビークルの為、こういった入り組んだ戦場でも威力を発揮してくれていた。

特にブラッカーはコンパクトで、狭い路地裏でもグイグイ入っていけるのが魅力である。

勿論、歩兵部隊との連帯が必要不可欠だが、やはりその利点は大きい。

戦車兵も装甲には頼らず、被弾を避けるように路地裏や大通りを出入り、神出鬼没に砲撃する事でネウロイを撹乱させる。

 

 

「本部、応答願います。 まもなく市街地のネウロイを掃討出来そうです!」

《よろしい。 センサー反応が消失次第、北のジークフリート線へ再進撃せよ》

「イエッサー!」

 

 

気が付けば、ネウロイの大半は殲滅してしまった。

ネウロイも市街地で時間を稼ごうとしていたのだろうが、予想以上にEDFの残存戦力が強力無慈悲であった。

ベルリン防衛線でEDFの戦力を削ったネウロイは、恐らく後方で足止めして、その間に周囲のネウロイを集結させベルリンまで押し返すつもりだったのだろう。

ところが、各地に孤立奮戦する歩兵部隊が陽動の役割を担い、ネウロイ側は集結する事が出来なかった。

結果、現状戦力で対処しなければならなかった。

また別の理由として、隊員らが市街戦を何度も経験してきたのが大きい。

建物の屋根から砲撃してくるスナイパー気取りのエイリアンとか、背後に回り込まれての防衛線崩壊とか、包囲殲滅されそうになった事も数知れない。

その中で生き延びてきた隊員らの戦術は様々だったが、この場において大いに役立っている。

 

 

《カールスラント各地で孤立奮戦している仲間がいる。 彼らと合流しつつ、Storm1、2の部隊と合流。 キールを奪還だ》

「了解」

 

 

彼らは軍靴の音を激しく響かせ進む。

Storm3、4の援護の元、本隊はジークフリート線へと突入していくのだった。

 

 

 

 

 

◆ジークフリート線

只野二等兵 視点

 

 

「そんで、いつになったら本隊が!?」

 

 

俺はプロテウスで押し寄せるネウロイに砲撃しつつ、無線でStorm1隊長に尋ねてみた。

もうね、弾薬も無ければ戦力もない。

救援部隊は来てマジノ線のネウロイは倒したけど、未だにキールから敵が来やがるんだよ。

このままだとマジでジークフリート線は崩壊だ。

 

 

『耐えろ。 本隊は直ぐそばまで来ている』

 

 

耐えろって。

一体、何日此処に籠っているんだよ。

隊員も連合軍も、ウィッチも負傷者だらけ。

要塞は瓦礫に近い。

プロテウスは特殊装甲板がボッコボコ。

砲手席でも煙と火花が散っていて、警報が喧しい。 むせる。

 

 

「少年少女、生きてるかー!?」

 

 

操縦席の少年兵と、ミサイル操作しているウィッチに語りかけた。

もうダメだ。 ふたりは脱出させる。

 

 

「赤いランプが点滅してます、なんかヤバいです!?」

「こっちも、煙が充満してきて……けほっ」

「今すぐ脱出して。 要塞に戻って、空いている銃座に着きなさい」

「えっ!? 銃座なんて……!」

「私も……!」

 

 

おいこら一等兵に軍曹。

お前らはナニを学んで、その階級についたんだい。

それとも訓練もソコソコに階級を上げないといけない程に逼迫しているのかね、連合軍は。

ウィッチに関しては軍曹スタートだとしてもだ、銃くらい訓練されてるだろ。

あれ、なんだろう。

EDFも逼迫しまくってるのに俺、戦争初期から生きてきて二等兵のままなんだけど。

……考えるのはやめよう。

大切なのは階級ではなく、生き残る事だ。

 

 

「俺も最初はそうだった。 だけど、使ってみれば なんて事はない!」

 

 

戦わねば生き残れない。

死にたくなかったらナニかしろ、である。

 

 

「使えないですよっ」

 

 

おのれガキんちょめ!

 

 

「使ってもないのに使えないとか言うんじゃない! 説明書にネガティブな事が書いてあっても使わないと分からない事もある!」

 

 

スラッガーライフルとか、スプラッシュグレネードとか、M4レイヴンとか!

大抵は説明書通りかなうん、な事になって若干の後悔を味わうんだが。

でも要塞内にあるEDF製の重機関砲とか連射砲は使えるハズだ。

クセはあるし、連射砲は言うほど連射性能は良くない気がしたが、使えんことはない。

というわけで使え。

 

 

「なんにせよ、ここにいたら死ぬよ?」

 

 

トーン低く言って脅す。

嘘ではない。 本当にここにいたら死ぬ。

 

 

「わ、分かりました! 要塞内でじゅーざに着きますっ」

「着きますっ!?」

 

 

モニター越しに少年少女が脱出、要塞に駆け足で戻るのが見えた。

よしよし。 後は砲手だけで良い。

 

 

「で、私らは?」

 

 

放置していたシャーリーが尋ねる。

急かすな。 今、説明すっから。

 

 

「砲弾は余ってるな?」

「少しだけな」

「全部ネウロイにくれてやれ。 あの世には持っていけないからな」

「おいおい、まさか此処に籠る気か?」

 

 

だから急かすな、そんなワケない。

俺は そんな情熱隊員じゃないんで。

 

 

「弾が切れたら同じように要塞に戻るよ」

「分かった! んじゃ、最後は撃ち尽くすのみ!」

 

 

そう言うと、爆音と共に派手にネウロイが吹き上がる。

やがて弾切れになったのか、静かになるとシャーリーが要塞に引っ込んだのが見えた。

本当に少ししかなかったのね。

いや、仕方ないんだけど。

逆に良く持ったものである。 無駄撃ちをしなかったのだな。

考えて行動出来る子だ、シャーリーは。

 

 

「只野! お前も早く来い!」

 

 

しかも二等兵を心配してくれるとか、優しいねぇ。

お言葉に甘えよう、ノイズが酷いガンカメラ一杯に赤色ビームが迫っているからね。

 

 

「そうさせて貰うよ」

 

 

砲手席から飛び降りた刹那、ビームはプロテウスに直撃。

装甲板を貫通し大破、爆発。

機体はバラバラに弾け飛んでしまった。

 

 

「大丈夫か!?」

「大丈夫だよ。 それより早く要塞内に入るんだ」

 

 

脚力強化装置、アンダーアシストを起動。

凄い速さでシャーリーの脇まで来ると、そのまま抱きかかえ、要塞まで退却する。

 

 

「ちょっ……速いな!?」

「EDFの補助装備のお陰だな」

「それ、後で私にも見せてくれよ」

「落ち着いたらね」

 

 

ネウロイが追撃のビームを撃ってくるが、その前に要塞内に転がり込む。

そのまま適当に空席の銃座を探す事にした。

 

 

「空いている銃座はあるかな!?」

 

 

ズラリと並ぶ銃座。

どれも無理矢理銃座仕様にした やっつけ感が凄い。 溶接痕とか剥き出しの配線とか。

だがラインアップは凄いな。

大型武装ヘリブルートに搭載されているドーントレス重機関砲、ピットブル連射砲、地底戦用歩行タンク デプスクロウラーのFK200ガトリング砲、スナイパーキャノン、バーストキャノン、ラピッドバズーカ砲、ヘビーショットガン、火炎放射器のインシネレーターまである。

おいおい、N9エウロスの大型レーザー砲バルチャーもある。

レールガンに搭載されていた、自衛用の機関銃もあるな。

本体ビークルが壊れたかナニかで、無事な武装をもぎ取って付けたのだろう。

後はフェンサー装備の約1分もの間、射撃を続行出来る装弾数に優れたUT2ハンドガトリング等がある。

だが、付けたヤツも凄いな。

だって、どれもモニター越しに操作する為、身を晒さずに敵を攻撃出来るんだもの。

これらには魔力切れで飛べなくなった501部隊の面々や、先程の少年少女、連合軍兵士らが着いており、不器用に、だけど必死に操作している光景が広がっていた。

 

 

「当たらないぞ! 銃身がズレているんじゃないのか!?」

 

 

バルクホルン大尉。

それもEDFクオリティ。

弾道はね、レーザーサイト通りにはいかない場合もあるんだよ。

だから貴女の馬鹿力でモニターを叩くのは お止めなさい。

調子の悪いテレビの直し方じゃないんだよ?

 

 

「クセが酷いよー! 後付けしたみたいだから調子が変なんじゃないのー!?」

 

 

ハルトマン中尉。

ごめんよ、それもEDFクオリティ。

なんか武装によっては"滑る"んだよね、慣れるまでが大変。

というわけで早く慣れて下さいウルトラエース。

 

 

「操作に慣れませんわね……!」

 

 

ペリーヌ中尉。

そうなんだよ、でも慣れればイけるよ。

だから、その調子で黙々と頑張って。

 

 

「これ凄いねー! おもしろーい!」

 

 

ルッキーニ少尉。

操縦桿で遊ばないで。 それと無駄撃ちダメ。

射撃の腕は天才的らしいので、真面目にやれば戦力になるんだろうけど。

うん。 だから真面目にやって下さい。

 

 

「大丈夫……身を晒さないから、安心して撃てる……!」

 

 

リネット軍曹。

順調にネウロイを倒しているね。

使っている武装のクセにも慣れてきた様だ、特に離れたネウロイを撃ち抜いている様子。 狙撃が上手い。

 

 

「怪我している方は!? 私が治します!」

 

 

宮藤軍曹。

銃座には着かず、代わりにショルダーバッグに医療品を入れて、負傷兵を治療して回っている。

医療に心得がある様だ。

ありがとう。 衛生兵も正直足りていないからね、助かるよ。

 

「サーニャは私が守るんだ!」

 

 

エイラ少尉。

ナニか言いながら、ネウロイを片っ端から撃ち抜いて撃破している。

器用ナンダナ。 レンジャーの様々な武器を持たせても扱えるかも知れない。

 

 

「エイラ……ありがとう。 でも、皆の事も守ってあげて」

 

 

リトヴャク……言い難いのでサーニャ中尉。

不慣れに銃座で操作しているが、頑張って発砲している。

 

 

「口じゃなく、手を動かせ!」

 

 

坂本少佐。

一生懸命に銃座で戦ってくれている。

脇の日本刀……こちらだと扶桑刀か、なんか気になるが。

弾が切れたら突撃とかは止めて下さいね。

 

 

「うんじゃ、私もいっちょやるか!」

 

 

シャーリー……イェーガー大尉。

空いてる席に座って、プロテウスと同じようにドカンドカンと撃ち始めてくれた。

既に慣れてきたか。

 

 

「俺もやらなきゃな」

 

 

空いてる銃座は……ラピッドバズーカ砲があるな、使おう。

 

俺は席に着くと、すぐさまトリガーを引きっぱなしに。

すると、砲弾がマシンガンかよって連射速度で吐き出され、正面のネウロイの軍勢を爆炎の海に沈めてしまう。

だが、見た目は派手な割に威力が無い。

現に爆炎の海より上陸してくるネウロイが映る。

 

 

「クタバレってんだ!」

 

 

だが嘆く暇があるなら撃てとばかりに撃ち続ける。

赤いヤツも硬かったが、撃ち込みまくる事で倒す事が出来た。

同じやり方でやる、他にないなら そうするしかない。

 

そんな抵抗線の中。

銃撃や爆音に混ざり、ヘリのローター音が 微かに聞こえた。

センサー反応でも、友軍表示の水色の丸がポツポツポツと出始めており、思わず隊長に無線を入れる。

 

 

「隊長!」

『言っただろう。 本隊が来ると』

 

 

言うが早いか。

ローターの音量が一気に上がる!

 

 

《こちら攻撃ヘリ ホーク1! 待たせたな!》

 

 

思わずモニター越しに空を見上げた。

黒いボディに赤色が混ざったヘリが飛んでいた。

 

 

「おおっ! 対地制圧ヘリコプター【EF31ネレイド】か! 頼むぞ!」

 

 

そう、圧倒的な対地制圧能力を持つヘリコプター、ネレイドである!

来てくれた機体の武装は、自動捕捉オートキャノンにロケット砲か!

 

 

《その声は只野か!》

 

 

なんだ、パイロットは俺を知っているのか。

 

 

「ああ! 頼みますよ!」

《おう、任せろ》

 

 

頼もしいな!

ところが、ネウロイカラーが災いして、見た連合軍兵士らが悲鳴を上げる。

 

 

「うわああ!? ネウロイだぞ撃てッ!?」

 

 

ネウロイカラーなソレにビビり、思わず撃ちまくる連合軍兵士。

慌ててネレイドは回避行動を取った!

 

 

《馬鹿野郎! 味方だぞ!》

『Storm1から全兵士へ! 空のヘリを撃つな! 友軍だ!』

「お前ら止めろ! 撃ち方止めー!?」

 

 

ホーク1や隊長が怒る様に撃ち方を止めさせ、俺も同じ並びにいる兵士らに叫んで止めさせた。

うん、色はね……仕方ない。

 

取り敢えず友軍だと気付いた兵士が撃つのを止めてくれたタイミングで、気を取り直したホーク1が敵の群れ後方から接近。

始まるな。

 

 

《これよりジークフリート線のネウロイを掃討する! 地上部隊は退避されたし!》

《Storm2了解した! 頼むぞ!》

 

 

前線のどこかにいるだろうStorm2の無線が流れてくる。

同時に、散り散りに奮戦していたビークル乗りの隊員等が要塞に引っ込んで来た。

後は友軍に、ネレイドに任せよう。

 

 

「ナニが始まるんです?」

「大惨事大戦だ」

 

 

尋ねる連合軍兵士にふざけつつ、見ているように促し……それは始まった。

 

 

先ずはネウロイの軍勢後方から進むようにしてロケット弾を8発バースト発射。

ネウロイの群れに刺さるようにして爆発、爆発、爆発!

群れを吹き飛ばし、続いて自動捕捉オートキャノンが、下方にいるネウロイに無数の弾を叩き込む!

瞬く間に陸戦ネウロイは蹂躙、殲滅されていく。

 

 

「ネウロイが……喰われていく」

 

 

あっという間に数を減らしていくネウロイ。

そこに後続のレンジャー、ウィングダイバー、フェンサーや航空と陸戦ウィッチ、ブラッカー戦車、コンバットフレームが突入してくる!

 

 

「早くしないと獲物が無くなっちまうぜ!」

「突撃ッ! 突撃ィイィイーーッ!!」

「EDFッ! EDFッッ!!」

 

 

その様は波濤。

大波は直ぐにネウロイの軍勢を飲み込み、ジークフリート線のネウロイを消し去っていく。

 

その様子から、とてもベルリンが陥落しかけていたとは思えない。

いや……きっと、連合が余計な事を言って基地機能や部隊の移動をされていなければ、もっと早期にネウロイを倒せたのかも知れない。

 

 

「あ……あぁ」

 

 

その様子を見て、呆けている少年兵。

心配だ、声を掛けるか。

 

 

「君、大丈夫か?」

「ひっ!?」

 

 

肩を叩いたら飛び上がり、軽い悲鳴を上げられ……ギギギ、と首をこちらに動かすと、

 

 

「EDFは……僕たちを殺しませんよ、ね?」

 

 

変な事を聞かれてしまった。

なんというか、俺は彼の恐怖した目を見て悲しくなった。

 

ウチらの上層部は、この世界の人々に こんな目で見られたいのだろうか。

 

ウィッチの軍曹ちゃん。 かの者。

WDF計画。

本格的に実行されたら、EDFは世界を恐怖という統制下に置くつもりだろうか。

 

もし、もし そうならば。

俺は計画を頓挫させてやる。

そして。 軍曹ちゃんを助けたい。

 




軍曹ちゃんを再登場させないと……と、思いつつ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

47.砲火後の雑談

作戦内容:
残存戦力を集結させ、キール港のネウロイを殲滅、ネウロイを一掃したいところですが……。
先ずは進軍ルートを確認します。
空から501部隊のバルクホルン大尉とハルトマン中尉、陸はスカウトが偵察。
只野二等兵は作戦時間にスカウトに随行し、共に偵察任務に従事して下さい。
備考:
陸路は森です。
空からはこちら側が見難い為、無線での交信で連絡を取り合って下さい。


なんでその場所に森があるのとか地理条件とか、突っ込んではいけない……。
ほらEDFだから。 民間人時代のミッションで、基地から逃げる時、道無き山の中を通ったじゃん(言い訳)。
時系列にも突っ込んではいけない(殴)。
間違いもあるかも……。

長め回。
スプリガン隊の登場時間を増やしてみました。
前はグリムリーパー隊がやや長めでしたからね……。

誤字報告、感想、ありがとうございます。


◆ベルリン・高射砲塔要塞フラッグタワー

EDF作戦司令本部・司令官視線

 

本隊はジークフリート線に到達したか。

ネウロイを掃討出来たし、ストームチームを集結させる事が出来た。

このままの勢いで北のキールを奪還したいところだが……森を抜けねばならない為、進軍速度がガクッと落ちるのは必至。

しかもだ。 レーダーでは航空ネウロイと思われる反応を捉えている。

これは進軍してくるEDFや連合軍を待ち構えているか、哨戒しているヤツだろう。

見つかれば攻撃を受け、戦力を削がれる可能性が高い。

森の木々で見つかり難いとは思うが、大人数の移動はバレる。

むうぅ……! やむを得ない!

 

 

「ジークフリート線にいる本隊を分散させ、各地にいるネウロイからの反抗に備えろ」

 

 

私は貴重な戦力を分散させてでも、反撃に備えた。

ここまで来て、慌てて全軍を進撃させるのは愚策だ。

ネウロイはキールだけでなく、カールスラント各地に残存している。

それ以外にも、東のユーラシア大陸からネウロイが来るかも知れないからな。

キール攻略中に、ソイツらに背中を撃たれる訳にはいかないのだ。

 

勿論、キールは奪還する。

ガリアや各国に籠る連合軍に任せていては、ネウロイが足並みを揃えてしまうからな。

EDFの居場所確保の為にも、連合軍への見せしめの為にも戦わねば。

先ずは進軍ルートや敵の情報を得るぞ。

ベース228奪還作戦の時のように、ストームチームを向かわせる方法もあるが、勝手が分からぬ土地を進むのだ。

偵察部隊を進ませて、その上で考えねば。

その間、ネウロイが反抗に出ないか不安であるが……上手くいってくれ。

 

祈りながら指示を出していると、ミーナ中佐が声を掛けてきた。

背を伸ばし、真っ直ぐ語りかけてくる。

有益な話ならば聞こう。 猫の手、彼女の場合はオオカミの手も借りたいのでな。

 

 

「司令官。 501からも偵察を出します」

 

 

それはありがたいが、大丈夫か?

いや、今更ではあるが。

501……統合戦闘航空団は仮にも連合軍の、数多ある部隊のひとつなのだ。

命令系統は各国から独立しているとはいえ、総司令部からの命令には従わねばならない。

 

 

「連合司令部からは、何か言われていないのか? 大丈夫なのか?」

「501はネウロイからの襲撃を受けており、反撃しているだけです」

 

 

堂々と言われた。

詭弁に答弁というか、頼もしいというか。

隊長として部隊を率いる以上、そういった事にも長けているようだな。

 

 

「分かった。 ならば、EDFも協力しよう」

「ありがとうございます」

 

 

礼を言うのはこちらだ。

全く。 良くできた嬢さんだ。

上層部も、こうであって欲しいものだ。

 

 

「501からは誰が出る?」

「バルクホルン大尉とハルトマン中尉を考えております」

 

 

カールスラント組だな。

祖国の危機だ。 喜んで志願してくれるか。

だが魔法力は大丈夫か?

魔法のことは詳しくないが、燃料の様なものだと考えている。

或いはウィングダイバーのエナジーや、コア。

時間が少し経ったとはいえ、ジークフリート線の戦闘で消耗している筈だが……。

それを察してか。

ミーナ中佐は説明するように言う。

 

 

「完全回復とはなっていませんが、偵察任務を請け負う事は出来ます」

「……信じよう。 魔法や隊員の事は中佐の方が詳しいからな」

 

 

私は止めなかった。

軍人とはいえ、10代の女性を戦場に放り込むべきではないだろう。

だが、人手不足は深刻だ。

やはり協力してくれるならば、使わねばならない。

 

 

「危なくなったら退避するように伝えてくれ」

 

 

せめて。

罪の意識から、それだけ言う。

これを"地球"でも言える事が出来たら、どれだけ気が楽だっただろうな…………。

 

 

 

 

 

◆ジークフリート線

只野二等兵視線

 

本隊が来たから楽が出来るかと言えば、そんな事はない。

直ぐに北の森へ偵察隊が組まれる事になったのだが、そのメンバーに俺も含まれた。

 

 

「何故だ」

 

 

嘆く俺に漆黒のフェンサー、グリムリーパーの隊長が声を掛ける。

228基地や戦場では何度か見かけたんだがな、こうして話すのは何気に初めてだ。

 

 

「良かったな。 死んで来い」

 

 

内容はアレだったが。

ワイルドボイスが身に染みるぜ畜生!

 

 

「なんで死ぬ必要があるんですか」

「それが仕事だ」

「冗談じゃないッスよ。 強行偵察じゃないんですから」

 

 

酷いッス。

噂には聞いていたが、死に場所を求めている節があるせいか、こんな言い方をするのだろうな。

 

 

「それに、俺は まだ死ねない理由があります」

「ほぅ。 聞かせてみろ」

 

 

興味を持たれたよ。

光栄だね、Storm3と話せるのは。

 

 

「軍曹ちゃんに会うまでは死ねない」

 

 

そう。

WDF計画の実験台になったらしい、軍曹ちゃんと曹長ちゃんに会うまでは。

 

 

「軍曹"ちゃん"だと」

 

 

トーン低く、アルファベッドのGをドクロマーク風にした絵が描かれたシールドを構えられた。

へ、ナニ。 ナニか知ってるのか?

 

 

「人の趣味にとやかく言うつもりはないが、俺の背後に立つな」

「違いますよ!?」

 

 

死神相手に、あらぬ誤解を招いた!

Storm2とナニかを想像したのか、止めろやマジで。 気持ち悪いヤダオメェ……!

 

 

「ウィッチの子です!」

「異界の小娘か。 それならそうと言え」

 

 

勝手に勘違いしたんだろうが死神野郎!

あ、勿論言わないよ。 格上の人だし。

 

 

「恋人か?」

 

 

ウィッチが恋人。

なんだか犯罪臭が。

基本的に10代だし、えっちな関係に発展すると魔法が使えなくなると聞くし。

でも違うからな、狼狽えない。

なんなら恋人歴ナシ=年齢まである。

悲しいなぁ。

 

 

「そんなんじゃないです。 ただ、この世界で初めて会った人ですし、大切な子なんです」

 

 

あまり それらしい事もしてないけどな。

作戦行動の連続で、一緒には動けなかったし。

 

 

「気が付いたら手の届かない場所に行ってしまいまして。 今は、いつか会えると思って生きています」

「そうか。 なら足掻け、精々後悔の無い様に生きろ」

 

 

そう言うと、Storm3は どこかへとのっしのっしと歩いて行った。

ヤベェ。 死神に生きろとか言われたよ。

なんか不思議な気分。

 

 

「後悔の無いように、か」

 

 

下っ端の二等兵な俺に、何が出来るかは分からないな。

 

 

「やあ、異界に飛ばされたヤツ」

 

 

うおっ!?

突然、お姉さんの声が!

 

慌てて振り返れば、そこには赤いウィングダイバー装備の部隊が。

えっと……スプリガン隊、Storm4か!

 

 

「面白い驚きようだ」

「そりゃ、突然に精鋭の隊長に声をかけられれば」

 

 

俺なんかに声を掛けてくれて嬉しいけど。

 

 

「ところで、ご用件は?」

「嘆く顔を見にきた」

 

 

良い趣味してるなおい。

この後、もっと嘆くかも知れないけど。

エイリアンの前哨基地 偵察戦の時みたいな目に遭わない事を願う。

 

 

「そんな顔をするな。 偵察や観察経験くらいあるだろう」

「そうっすね。 ただ俺って不幸体質みたいで、行く先々で酷い目に遭うんで」

 

 

巨大な怪生物が乱入してくるとか、赤色機に狙われるとか。

真後ろにアンカーが落ちてきたり、戦闘マシンが降ってきたり。

上から来るぞ気を付けろ、と思えば足下から侵略生物が出てきた事も。

この世界でも何度か酷い目に遭ってきた。

不幸体質は世界を越えても変わらないらしい。

 

 

「だが、お前は乗り越えてきた。 違うか?」

 

 

乗り越えてきた?

逃げ隠れしてきたのを乗り越えたというのかな?

 

 

「建物に隠れたり、友軍任せにしている時が多かったですよ」

「死なずに来たんだ。 乗り越えたと言って良い」

「そうっすかね?」

「そうだ。 だから偵察任務だろうと何だろうと、お前は乗り越えられる。 自信を持て」

「持てるか分からないですが、頑張ります……あざっす」

 

 

この先も乗り越えたいなぁ。

自身の生死もそうだけど、仲間の犠牲を見て絶望した事は幾度とある。

軍曹ちゃんと曹長ちゃんが無事な事を願うしかない。

もし、変わり果てていたら……俺は耐えられない。

 

 

「ところで、死神とは何を話していたんだ?」

「大した話じゃないっすよ。 軍曹ちゃんの話をしていたんです」

 

 

そう言うと顔をほんのりと染めて、

 

 

「人の趣味にとやかく言うつもりは───」

「ちげぇよッ!? 腐女子か貴様ッ!?」

 

 

思わず突っ込んだ。

俺も悪いけどさ、なんなの精鋭どもは!

 

 

「スプリガンにエライ態度だな」

「誰のせいだ、誰の! ウィッチの軍曹ちゃんですよ!」

「なんだ。 それならそうと言え」

 

 

つまらなそうにするなよ。

やっぱり腐ってるのか?

 

 

「ウィッチは魔法で空を飛べるんだったな」

「らしいですね。 ウィッチは色々と特殊ですよね」

「我々ウィングダイバーとは異なるが、長時間飛べるのは羨ましいな」

 

 

ああ。 航空ウィッチは凄いよね。

ストライカーユニットで空を飛んで、戦える。

やはり、広い空を飛ぶのは気持ちが良いのだろうか。

俺はヘリを操縦出来るけど、やはり体感はまるで違うだろう。

その意味では羨ましい。

 

 

「でも住み分けは出来るでしょう?」

「ああ。 お嬢さん達は航空機のような扱いと戦闘で……ふふっ」

 

 

突然微笑んだ。

へ、ナニ。 思い出し笑いかな?

 

 

「すまない。 グリムリーパーに言われた時を思い出してな」

「Storm3が?」

「ああ。 死神連中は私達をお嬢さんと呼ぶんだ」

「良いじゃないですか。 若く見られてるみたいで」

 

 

言ったら、ドス黒い笑顔に。

あ、ヤベェ。 失言だったか!?

寒気もするし、変なオーラまで漂い始めたぞ!?

 

 

「私達は実際に若いぞ?」

「すみませんすみません!? 失言でしたァ!」

 

 

ヤベェよヤベェよ。

曹長ちゃんにセクハラ発言をして、軍曹ちゃんに止められた時みたいだ!

 

 

「話を戻すぞ」

 

 

どうぞどうぞ。

手で促しつつ、罪を帳消しにしてもらった。

 

 

「ウィッチは航空機の様な運用方法だが、我々は歩兵だ。 陸戦で立体的な起動を取る事で敵を撹乱したり、予測不能な不意打ちが可能だ」

「ですよね」

「空軍と陸軍だな。 空を飛べるといっても、戦法や運用が異なる。 だから同じ戦場にいても仕事は違うぞ」

 

 

ヘリコプターとネグリングみたいな?

いや、それは極端か。

なんにせよ、互いに喧嘩するとか仕事を奪い合ってる仲じゃなさそうで良かったよ。

 

 

「陸戦ウィッチは、どうなんです?」

 

 

戦車にも似た装甲や武装……ユニットを着けて戦う子もいる。

俺は見た事はあっても、交流経験がないからな。

スプリガン隊は知っているかな?

 

 

「ああ、ウィッチ版フェンサーか。 彼女達の運用方法はフェンサーと同じか、ブラッカーと似ているな。 ただパワードスケルトン程のパワーを出せる子がいないのか、全く同じ装備は出来ない」

 

 

そうか……同じ装備が使えるなら良かったんだが。

ウィッチは魔法の力で、ちょっとした重い物でも持てる様だが、流石にフェンサー程の装備は無理か。

501の、固有魔法が怪力のバルクホルン大尉なら使えるだろうか。

いや……キツいか。 反動があるからな、撃った衝撃だけで命を落としかねない程の。

 

 

「フェンサーやビークルの水増しと、侮辱する気はない。 ただ歩兵以上、ビークル未満と微妙なラインだ。 魔法を使う事やシールドを張れるから、それらを活かした戦術がありそうだが……連合軍では どうなんだろうな。 なんにせよ、歩兵の数が増えた事はありがたい筈だ」

 

 

ふむ。

連合軍では良くとも、EDFの中だと微妙なラインになっているのか。

でも有難い。 EDFじゃ歩兵だろうとなんだろうと、人手不足だからな。

多いに越した事はない。

 

 

「そんなウィッチ達だが。 階級は最低でも軍曹なんだな」

 

 

そうなんだよな。

だから軍曹といってもウィッチの場合、新兵の者もいるわけだ。

士官学校等、出たての少尉……尉官ウィッチもそうだろう。

 

 

「その様です。 特殊技能ですし」

「魔法を扱える子達が、怪異のネウロイに有効な戦力だ……貴重な兵士だ。 複雑だな」

 

 

後は男女間のトラブルを避けるために、上官となるよう位置づけられている面がある。

えっちな関係になると、魔法が使えなくなり、戦力にならなくなるからな。

もし"破った"ら、極刑に処される可能性がある。

EDFはその辺、厳しくはないけれど。

普通に基地内やキャンプ内で男性兵士とウィッチは話し合っている。

惚れた腫れたも個人の自由だろう。

ヤッてるかは別として。

 

 

「EDFもなりふり構ってられませんから」

 

 

だからって、人体改造をするべきじゃないと思う。

軍曹ちゃんに曹長ちゃん……心配だ。

 

 

「寡兵のEDFでは全てに対応出来ない。 だから連合軍が通常兵器でも立ち向かえるように、いっそEDFの武器や技術を渡すべきという意見もあるが。 そんな事をすれば、連合軍が何をしでかすか……EDFも遊びに来ている訳じゃない。 有利なポジションは維持したい。 だが、それは連合の各国も同様だろう。 人類は有事の際も……いや。 有事な時ほど醜い時がある。 その辺は上の仕事だが」

 

 

醜い、か。

結果が火を見るよりも明らかな時もそう思ったかも。

交渉に応じる気がなく、ガチで殺しに来ている連中に交渉団を向かわすとか。

害虫駆除みたいに殺戮してくる隣人に銃や爆弾じゃなく対話を試みろと言う政治家とか。

許された土地で生き延びようと考える政治家に、そもそも交渉に応じないのが分からないのって突っ込みたい時とか。

 

本部も言っていたらしいが、現場はそれどころではないのだ。

今回の相手は怪異の軍勢と人間の連合軍だけど、悠長な相手ではない。

殺らなきゃ殺られる。

前線で沢山の命が散る中で、上の連中はナニを考えているのか。

負の連鎖を止めたくて、自分なりに考えた結果なのかも知れないが。

 

 

「まつりごと は分かりません。 俺、二等兵ですし」

 

 

逃げた。

いや、無力だし俺。 言い訳だけど。

 

 

「なに? 二等兵なのか?」

 

 

はい、下っ端ですがナニか?

 

 

「もっと上かと思っていたが」

「上が仕事してないのか、意図的にしているのか、俺は二等兵のままです」

 

 

別に良いんだけどね。

それでイジメられたり、言い方や態度を気にするヤツはいないから。

連合軍で気にしてくるヤツはいるけど。

万年二等兵で"上等"兵。

 

 

「私から本部に言ってやろう」

「良いですよ。 今更上がったところで、戦場に放り出させるのに変わりないでしょうし」

 

 

人の上に立てる器じゃないし。

指示とか無理。 士官教育も受けてない。

 

 

「お前がそう言うなら良いが」

 

 

階級より食い物とか、休暇が欲しいです。

でも言わない。 みんな同じだろうからね。

 

 

「私はそろそろ行く」

「はい。 お話、ありがとうございました。 気が紛れましたよ」

「それは良かった。 こうして人と話せるのも貴重だろう。 任務まで時間があるなら、連合の兵士でも隊員とでも話したらどうだ?」

 

 

そう言うと、スプリガンの隊長は どこかへ飛んで行った。

ううむ、あの短パンも際どい。

飛行ユニットに干渉しない為だろうけど。

ウィッチとどっちが良いだろうか。

 

 

「さて。 誰かと話すか」

 

 

周りを見渡す。

崩れた要塞内には本隊の連中と、作戦会議かナニかしてるStorm1、2がいるだろう。

邪魔しちゃ悪い。

WDF計画の件を話したいが、今は別の仕事をしなければ。

 

離れたところを見る。

ストライカーユニットを調整しているシャーリーや、談笑している501の面々が見えた。

こちらなら大丈夫かな、話してみよう。

南の島ではドタバタして、あまり話せなかったからな。

 

シャーリーは忙しいかもだし、戦闘隊長の坂本は作戦会議中なのか見当たらない。

エイラとサーニャは仲良く話しているから悪いしなぁ。

宮藤はリーネと話している。

バルクホルンはハルトマンと会話中。

ルッキーニは寝てるし。

うーん、後は……ペリーヌか。

 

 

「えっと、ペリーヌ中尉」

 

 

やべ、少しオッサンみたいになったか。

だがしかし、呼ばれたペリーヌは邪険にする事もなく、明るい笑顔で対応してくれた。

 

 

「はい、なんですの?」

 

 

やべ、ナニを話すか考えてなかった。

えーと、取り敢えず労おう。

 

 

「戦闘、お疲れ様でした」

「ありがとう。 只野さんもイェーガー大尉と共に奮闘なされていたのでしょう?」

 

 

お、おお。

知っていたのか。

これで会話も弾みやすい。

 

 

「そうなんです。 プロテウスって乗り物で」

「とても強力な兵器でしたわ。 最後は残念でしたが、お陰で私たちは生き残れました。 改めて お礼を言わせて下さいまし」

「そんな礼なんて! 皆のお陰ですよ!」

「謙遜されなくても。 立派に戦ってくれましたわ」

 

 

俺はただ、シャーリーと砲弾をブッパしていただけだよ。

 

話を変えよう。

照れ臭いからね。

 

 

「中尉はガリア出身なんですよね?」

「ええ。 EDFのお陰で、早期に奪還出来ました。 ただ」

 

 

うん? ただ?

 

 

「ガリアの街並みが悉く破壊されてしましましたが」

 

 

おうふ…………。

俺の所為じゃないが、殆どEDFの所業だからなそれ……。

 

エトワール作戦前からの、雨霰な硝煙弾雨の嵐、砲撃でガリアの土地をボコボコにしたか

な。

 

 

「すいません中尉」

「いえいえ、只野さんの所為じゃないのは分かっております。 気を悪くなされないで。 それとペリーヌ、で良いですわ。 敬語もなし。 只野さんたち、EDFからなら皆は気にしないと思います」

 

 

いやぁ、同情はするよ。

EDFは建物に配慮しなかったからな、復興の目処は立つと良いが。

パリには、エッフェル塔とかエトワール凱旋門があったのかもだが、そういう歴史的な建造物も吹き飛んだだろうなぁ。

 

そんな、暗い顔をする俺を明るくしようとしてくれたのか。

前向きな話をしてくれるペリーヌ。

 

 

「各国からの支援もありますし、ガリア復興の為に頑張っていくつもりですわ。 リーネさんも手伝ってくれますのよ」

 

 

そうか。

…………ペリーヌって、隊長からチラッと聞いた感じ、家族も失っているんだよな。

それでも、こうして笑顔で話せる。

まだ子どもの歳なのに。

強いんだな。 羨ましいよ。

 

 

「そうなんですね……じゃなくて、そうなんだね」

「ええ。 もし、ガリアに来る事があれば景色を堪能していって下さいね」

 

 

そんな時。

傍からチョッカイをかけてくるイタズラ娘が現る。

 

エイラだ。 やや後ろにサーニャ。

 

 

「なんだー? ツンツンメガネがツンツンしないで話してるなんて、珍しいな」

「エイラ。 ペリーヌさんに失礼よ」

「その通りですわッ!? いきなりなんなのですの!」

「はいはい、ツンツン」

「キ〜ッ!! ほんと、貴女って人は〜!」

 

 

なんだろう。

2人の関係が少し分かった。

取り敢えず、落ち着かせよう。

 

 

「落ち着いて。 エイラはナニか用があって来たんだろ?」

「いやなに、楽しそうに話してるのが見えたから気になって来ただけだよ」

 

 

左様ですか。

みんな、気さくというか、暇なのか。

 

 

「本当に無粋ですわね、だから───」

「あっ。 もう少しで会議が終わって、坂本少佐が来るんじゃないか?」

「なっ!? こうしてはいられません! 失礼しますっ!」

「…………ちょろい♪」

 

 

駆けていくペリーヌの背中を見て、ニヤつくエイラ。

ナニか。 ペリーヌは坂本にゾッコンなのか。

して利用するエイラ。 悪い顔。

 

 

「もう、エイラったら」

「別に良いだろー? 嘘じゃないんだし」

 

 

そんなエイラは、サーニャにベタなのか。

聞いたら男子中学生みたいなナニかになりそうなので面白そうだが、止めておこう。

命拾いしたな、流石は回避のエイラ。

否。 彼女の実力ではない。 全ては俺の裁量さ。 なんてな。

 

 

「なんだよ、ニヤニヤして。 スケベな事でも考えてたのか?」

 

 

ダメだ、調子乗ってる。

俺の裁量で爆撃しよう。 気分は誘導兵。

 

 

「エイラはサーニャの事が大好きなんだな?」

「ナァッ!?」

 

 

やはりか、赤くなって面白い事になった。

友情を超えたナニかをエイラは持っているのだろう。

 

 

「た、只野が思っているよーな事は無いったら無いんダナ!」

「俺がナニを思っているって? タロット占いが趣味で魔法で未来予測が出来るんだってな、当ててくれよ、おうアクしろよ」

 

 

チンピラみたいになったが、これもエイラが悪いんで。

サーニャを巻き込むようで悪いが、許せ。

 

 

「こんの、鬼! 悪魔! EDF! スケベーッ!」

 

 

なんでや! EDF関係ないやろ!

まあ良い。 反撃しよう。 侮辱罪な。

 

 

「そうか。 サーニャ、気を付けろよ。 エイラはスケベらしい」

「ち、違う! 只野がスケベなんだ!」

「ナニが違うんだ。 Storm1から聞いたぞぉ、エイラはオッパイを揉む趣味もあると」

「ワンちゃんは どこ行ったーーッ!!」

 

 

凄い勢いで走っていったぞエイラ。

やべぇ。 隊長には悪い事をした。

多分、大丈夫だろう。 そう願う。

てかワンちゃんって呼ばれてたのね。

 

 

「もう。 只野さんまで」

 

 

残ったサーニャは、ほんのり頰を染めて可愛い。

 

 

「ごめんよ。 エイラがイタズラ好きみたいだからさ、やり返しちゃったよ」

 

 

やったらやられる。 報復! 抑止力!

自己防衛権!

まさか、スオムス……こちらでいうとフィンランドに該当……の子に攻められ、逆に陥落させる事になるとはな……。

武力じゃないので平和的解決。

 

 

「してサーニャ、こうして話すのは自己紹介以来かな?」

「そうですね。 あの後、色々とあったけど」

「あはは…………ごめん」

 

 

彼女らが料理している建物に、ミサイルのトップアタックをかましたからな。

申し訳なく思っている。

反省だけならなんとやら。

 

 

「オラーシャ出身だっけ? 家族と離れ離れだとか」

 

 

東のユーラシア大陸、そこにあるオラーシャ。

俺らの世界だとロシアに該当する。

向こうにもネウロイが跋扈しており、戦場となっているとか。

 

首都はモスクワだったな。

……俺らの世界じゃ、戦闘ロボット総数200機が投下され、守備隊が短時間で壊滅、モスクワは陥落した。

こちらの世界では、そんな事にならない事を願うよ。

 

 

「ええ。 でも、いつか平和になったら会えると信じています」

「いつか会えるさ。 俺も、そう信じて会おうと思っている子がいるんだ」

「大切な人なんですか?」

「うん。 ウィッチの軍曹ちゃんと、曹長ちゃん。 離れ離れになったけど、いつか会えると信じてる」

「きっと会えますよ」

「そうだね、ありがとう」

 

 

人体改造された疑いがあるんだがな。

それは言わない。

戦時とはいえ非人道的な話を聞いて、良く思うワケがない。

 

…………話を変えよう。

 

 

「武装は多連装ロケット弾を発射する、フリーガーハマーっていうのを使用しているようだね」

「はい。 強力な武器です」

「EDFにも似た武器があるんだ。 カスケードとかボルケーノとか。 誘導性はないけど、連射出来るから多くの標的に当てられる」

「魔力ナシでも、誘導出来る武器があると聞いた事があります」

「レパード誘導ロケットランチャーかな。 発射されるロケット弾にセミアクティブレーザー誘導装置が搭載されていて、ランチャーから照射されるレーザー光をセンサーが検知する事で進路を変えられる」

「えーと?」

「着弾位置をコントロール出来るんだ」

「南の島のは、それで?」

「いや、アレはプロミネンスっていう大型ミサイルランチャーを使った。 標的を予めロックオンして撃つもので、大型誘導ミサイル……誘導弾を発射する。 後は自動的に標的目掛けて進むんだ。 プロミネンスの場合は落下、といった方が良いかもだが」

「只野さんとシャーリーさんが乗っていた乗り物の武装にも、誘導弾を発射する箱が付いていましたね」

「良く見ているね。 アレも似たようなものさ」

 

 

暫くたわいもない話をして、礼を言うとエイラを探しに行ってしまった。

 

入れ替わるように、今度は宮藤とリーネのコンビが来た。

この2人は今のところ階級が同じだし、大人しそうな雰囲気からも仲が良いのだろうな。

 

 

「お疲れ様です、只野さん」

「お疲れ様です」

「2人こそ、お疲れ」

 

 

宮藤は扶桑。 名前で分かる通り、俺らの世界だと日本。

リーネはブリタニア。 イギリスに該当。

 

 

「頑張ったね。 良くやった」

「只野さんも。 シャーリーさんと凄い砲撃をしていて、凄かったです」

 

 

宮藤が褒める。

そんな宮藤も凄いと思うよ?

固有魔法は治癒系なのと、医学に心得があるようだし。

実家が診療所なんだっけ?

 

横須賀海軍基地が近いとか。

それは有名だけど、流石にエピメテウスを繋留出来る設備は無いだろうな。

 

 

「精度は荒かったけどね。 その点、リーネは狙撃が上手かった。 見習いたい」

「そんな! 私なんてぜんぜんっ!」

 

 

リーネを褒めてみたら、謙遜された。

いや、普通に凄いと思うんだが。

 

 

「EDF製の銃座に初めてついて、あそこまで的確な攻撃は中々出来ないよ」

 

 

いやマジで。

クセが酷いからね、直ぐに慣れたリーネは凄く凄いです。

ウィッチとして使用している武装は、対物狙撃銃だったか。

それと固有魔法が弾道安定系。

その意味でも、狙撃の腕や才能があるのだろうな。

羨ましいぜ、全く。

 

 

「だって! リーネちゃん凄い!」

「そ、そうかな? ありがとう芳佳ちゃん」

 

 

きゃっきゃっと会話する2人。

仲良い事は良き事かな。

 

 

「宮藤も凄いぞ」

「へ? 私、何かしてましたっけ?」

「衛生兵をやってくれたじゃないか。 仲間を助けてくれて、ありがとうな」

 

 

戦闘だけじゃなく、救護班も……というか、あらゆる面で人手不足だったからな。

特に銃座についてトリガー引けば良い兵士ではなく、知識が要求される面での人手はありがたかった筈だ。

 

 

「えへへ……お役に立てて、良かったです」

 

 

笑顔を見せてくれた。

いつの日か、誰もがそうなると良いな。

 

暫く話して、負傷兵の様子や雑務の仕事をしに、2人も どこかへ行ってしまった。

頑張り屋だな。 自分から役に立とうと動けるのは立派だ。 俺なんかより、余程な。

 

続いて、思い出したかの様にやってきたのはシャーリーだった。

手にスパナを持っている。

ユニットの調整は終わったのかな?

 

 

「よっ。 色んな子と話しているみたいだな。 私も混ぜてくれ」

「もちろん。 ユニットは良いのか?」

「終わったよ。 それよりも、その足を見せてくれるか?」

 

 

ああ、アンダーアシストを見せてとか言ってたな。

見たきゃ見せてやるよ。

仕組みとか聞くなよ。 俺も分からん。

 

 

「ほー……全然、分からん! 仕組みは?」

 

 

だから聞くなよ。

 

 

「俺も分からない。 Storm1に聞けば分かるかもね」

 

 

Storm1は元整備士だ。

技術屋としても、何か知っている可能性はある。

 

 

「じゃあさ、それを私にくれないか?」

「無理ダナ」

 

 

エイラの真似。

俺もハマりそう。 つーかハマった。

 

 

「ぷっ、ははっ! エイラも幸せだなぁ」

「さっき、ウチの大将を探しに行ったよ」

 

 

つい言ってしまったが、実際に大将らしいので良いだろう。

そういう兵士もいるし、訂正する事じゃない。

本人は、そう言われるのは嫌かも知れないが。

…………なんか、改めて凄いよね。

最下級の二等兵な俺の直接の上司、隊長が最上級であろう大将の時が何度もあった。

間に一等兵すら挟まず、尉官も飛び越えてるもん。 EDFヤベェ。

 

 

「大将?」

 

 

シャーリーが聞き返してくるので、答えておく。

 

 

「Storm1のこと」

「本当の階級は?」

 

 

知ってどうする。

階級を気にしてこなかった分、こういう話は嫌いになってきた。

あまり意識してこなかった所為もある。

軍隊じゃ大切な事だろうけどさ。

寡兵と化したEDFじゃ、な。

いや言うけども。

 

 

「本当に大将らしいよ」

「おいおい」

 

 

肩をすくめるなよシャーリーちゃん。

本当は知ってないとダメなんだろうけどさ。

 

 

「だって、大将が直接最前線にいるんだぞ」

「まぁ、後方にいるイメージはあるわな」

「もっと言えば、名誉大将みたいなものらしい」

「なんだよ名誉大将って」

 

 

本当、なんだろうね?

 

 

「EDFにとっては象徴みたいな兵士なんだ」

「そんなに有名なのか」

「みたいだね、俺らの世界を救ったから」

 

 

その戦場には、俺はいなかった。

欧州でビクビク震え隠れていた頃の話だ。

 

 

「もちろんStorm1以外の、多くの兵士の協力はあった。 でも彼がいなかったら、人類は敗北していただろうね」

「そんなに凄いヤツだったんだな……整備の腕が凄いだけじゃないと」

 

 

ホントだよね。

Storm1……隊長がいてくれれば、きっと大丈夫だ。

そんな気がする。

根拠は無い。 だけど誇らしい自信だ。

 

 

「整備士としての腕は民間人時代に養ったんだろうね」

「えっ!? 元民間人なの?」

 

 

知らなかったのか。

隊長が自ら話す機会が少なかったのかもな。

 

 

「宮藤みたいだな」

「あー、宮藤も元民間人か」

 

 

そうか。

坂本がスカウトして501部隊に来たんだったか。

実際は軍隊に入る気は無かったが、ワケあって欧州に移動中ネウロイに襲われ……皆を助けたいという想いで軍人になった。

その点でも、隊長と似ているな。

将来、ヤバい強さになるのかも。

 

 

「それにしても、ストームね」

「コードネームが、どうしたの?」

 

 

アメリカ……リベリオン的に、ナニか想うところが?

 

 

「いやなに、北アフリカ戦線にも同じ名前の部隊がいるからさ」

「ほぅ」

 

 

それは初耳だ。

それにアフリカ。

そこにもネウロイがいるのか……欧州のみならず、世界中にいるのかもな。

扶桑でも、戦闘記録があるらしいし。

平和になる日が来ると良いな。

 

 

「えーと……そうそう、ストームウィッチーズ。 正式名称は第31統合戦闘飛行隊アフリカ」

 

 

なんか強そう。

でも、501部隊のような統合戦闘航空団とは違うのか?

 

 

「500番代じゃないんだな」

「504を設立する時、ここを母体にする案があったらしいが、現場から猛烈な反対があったとか。 現場事情じゃないか?」

 

 

仕方ない。

色々あるんだろう。 政的な意味とか。

 

 

「しかし詳しいな。 知り合いがいるのか?」

「そんなとこ。 以前、基地にマルセイユってヤツが来てな。 その部隊のヤツだった」

 

 

マルセイユねぇ。

開戦時、マルセイユ基地という所が怪物に襲われたらしいと言っていた隊員がいたな。

いや、関係ないだろうが。

 

そんな時。 またも新たな客が。

カールスラント組、バルクホルンとハルトマンだ。

 

 

「嫌な響きが聞こえたもんでな」

「気にしても仕方ないよ、トゥルーデ」

 

 

心底嫌そうな顔をするバルクホルンと、両腕を頭にのっけて、興味なさそうなハルトマン。

知り合いだろうか。

わざわざ来たんだし、聞いてみよう。

 

 

「どういった関係で?」

「JG52という部隊で同じだった。 ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ。 後にJG27に転属したが……命令や規律を守らないヤツでな、カールスラント軍人の恥晒しだ。 だからか、僻地に追いやられたんだろう」

 

 

うわぁ……。

そこまで言うとは。

犬猿の仲か。

性格が合わないんだろうな。

でも、フォローしておこう。

EDF隊員としての経験からかな。

関東の外れ、田舎の228基地にいたのもある。

EDF総司令官が開戦から約5ヶ月後に言っていた、今いる場所が最前線で最終防衛線である、みたいなのを思い出してもある。

 

 

「アフリカの事は知らないけど、そこも最前線でしょ。 僻地の戦場だろうと重要な場所に変わりない。 命を掛けて戦っている筈だ。 私情はあるだろうけど、あまり悪く言わないであげて欲しい」

 

 

そう言うと、少し俯いた。

思うところはあったらしい。

 

 

「別にそういう意味で言ったワケでは……いや、すまない。 言い訳だな。 そこは反省する」

 

 

バルクホルンは真面目過ぎるのもあるだろうが、マルセイユって子は相当な自由人なのかも知れない。

でもさ、それ、貴女の相棒のハルトマンはどうなの?

隣で気にした素振りもしてないけど。

 

 

「そうそう。 妹のクリスがファンなんだし」

 

 

それを感じてか。

ハルトマンが意地悪そうに言った。

あっ、バルクホルンに妹がいたのね。

 

 

「うぐっ……そうなんだよな。 なんでアイツの事なんか……」

 

 

ブツブツとナニかを言い始めたよ。

やっぱ嫌いなヤツは嫌いらしい。

なんか複雑そうだな、嫌いなヤツなのに溺愛している子がファンとか。

 

 

「アフリカの星だなんて言われてるエースだ。 ウィッチ民間問わず、人気があるみたいだからな。 まぁ? 胸は私の方があるけど」

 

 

シャーリー。

マルセイユとナニかあったのか?

つっこまないけど。

 

 

「何かと勝負を挑んでくるんだよね。 だから、部隊名と同じ名前のワンちゃんは絡まれていたねー。 また会ったら、絡まれるんじゃない?」

 

 

ハルトマンが言う。

ナニで勝負するんだろうね?

ウィッチ同士なら模擬戦をすれば良いだろうけど、隊長たちストームチームは歩兵部隊だからなぁ。

まさかの対地対空戦?

それは……ちょっち気になりますよ。

 

 

「そう言うハルトマンは、ナニか勝負したの?」

 

 

勝負してくる、と言うことは。

ハルトマンも何かしら絡まれたんだろう。

 

 

「別にー。 興味ないよ」

 

 

本当に興味なさそうな態度だ。

ハルトマンも実は嫌いなのか?

 

 

「嫌いなの?」

「嫌いじゃないよ」

 

 

じゃあナニか。

好きでもないし嫌いでもないよか。

 

 

「たださ、勝負に興味が無いだけ」

「負けるのが怖い?」

 

 

あっ。

やべ、また失言してしまった!

恐る恐るハルトマンの表情を伺う。

10代の子どもに恐れる大人の図。 情けない。

が、本人は何とも無いようだった。

ここまでくると、本当に勝負事に心底興味がないんだろう。

 

 

「違うよ。 勝ち負けなんかより、ずっと大切な事はあるってこと。 南の島でより思ったよ」

 

 

表情は変わらない。

だけど、内容に対しては本気のようだ。

感じるものがある。

 

 

「そうか。 そうだな、分かる」

 

 

生き延びちまった隊員として、そう言った。

きっとハルトマンの大切な事は、仲間の事だろう。

 

軍曹ちゃん、曹長ちゃん。

無事でいてくれよ。

 

 

「それよりも お菓子が欲しいな♪」

 

 

おい。

それはオマケだよな?

仲間より大切じゃないよな?

 

 

「全く。 後でチョコレートをやる。 それで我慢しろ」

「えっ? ホント!? やったー!」

 

 

子どもみたいに喜ぶハルトマン。

実際子どもなんだが。

その様子に、静観していたシャーリーが からかう。

 

 

「規律の鬼が丸くなったな。 明日は槍でも降るのか?」

「なんだリベリアン。 代わりに拳を降らせようか?」

 

 

うわっ、怖い。

魔法力を発現させたのか、けも耳と尻尾を出して拳を鳴らしてるよ。

 

 

「そう怒らさんなって。 ほら、この後 偵察任務だろう?」

「ああ、そうだ。 その事も話さないとな」

 

 

耳と尻尾が引っ込んだ。

シャーリーとバルクホルンって、今は同じ大尉だが国も違うし、仲良いのか悪いのか分からないな。

シャーリーは自由人ぽい部分もあるし……やはり、相容れない部分はあるか。

でも信用し合ってる仲なのかも。

シャーリーは笑顔のままだし、バルクホルンも本気でイライラしているワケじゃない。

 

 

「只野も偵察任務に出るんだろう?」

 

 

Storm1や坂本辺りから聞いたのか?

という事は、バルクホルンも偵察任務に?

 

 

「そうだよ。 501も?」

「ああ。 私とハルトマンが出る事になった。 この後、坂本少佐が改めてブリーフィングをしてくれるだろう」

 

 

なるほど。

空と陸から偵察か。

効率が良いのか分からないが、空路と陸路は別々の問題だ。

互いに知る必要がある。

 

 

「少なくとも空にネウロイがいるのが分かっているそうだ。 陸路にもいるかも知れない、気を付けろよ」

「そっちもね。 何かあったら助けるよ」

 

 

墜落してきたら、迅速に回収出来るかもだし。

対空装備を持っていけば、援護が出来る。

生存率は互いに高められる。 良い事だ。

 

 

「それはコチラもだ。 互いに協力しよう。 無線の交信も怠らないようにな」

「了解だ。 501のはEDFの無線技術が組み込まれて調子も良いだろうしな、こういう時に使わないと勿体ない」

「そうだな。 感謝している」

 

 

して互いに敬礼し、解散した。

残ったのはシャーリーと俺だったが、ここに来てルッキーニが起きて来た。

欠伸をして、寝ぼけている様子。

 

 

「うにゅ〜、シャーリー」

「おー、ルッキーニ。 起きたのか」

「うん。 お腹すいたー」

「ははっ、じゃあ宮藤や みんなの所に行こう。 EDFのレーションならあった筈だ」

 

 

げっ。

レーションとな……。

モノによるが、粘土みたいなモソモソとか大味のヤツとか、食べ物として認めたくないミステリーボックスは口にしたくないぞ。

美味しいヤツもあるけどね。

 

と、思っていた時期が俺にもありました。

 

軍曹ちゃんや、501が振る舞った魔女料理を喰らった後だと言える。

出来る事なら、レーションで一生を過ごした方がマシだとね!

 

 

「えー! やだー! レーション飽きたー!」

 

 

駄々をこねるちびっ子。

贅沢者め。

最年少で子どもなルッキーニだから仕方ないかもだが。

君も魔女料理を味わうと良い。

その上で同じ事を言えるのかな、ふふふ。

 

 

「じゃあアレにしよう。 カップラーメンとかいうヤツ。 EDFが持ち込んでたのを見たから、何処かにあるだろう」

「全然パスタじゃないヤツ?」

 

 

どこをどうしたらパスタの名前が出たんだ。

同じ麺類だからか?

とか思ったが、ルッキーニの出身はロマーニャ。

俺ら側だとイタリアに該当する。

だからだろうか?

 

 

「そう。 ルッキーニの口に合うか分からないが、レーションより良いかも知れないぞ」

 

 

お湯が必要だけどね。

そのままバリバリ食わないでね。

既に喰ったヤツがいそうだけど。

 

 

「うーん。 わかった! それ食べる!」

「よし。 只野、カップラーメンとやらはどこで手に入るんだ?」

 

 

俺に聞くな。

それと見つけても無断で持っていかないだろうな?

 

 

「厨房じゃないか? 近くの隊員に聞いて」

 

 

そう言うしかない。

 

 

「ありがとう。 よーしルッキーニ。 どちらが先に見つけるか競争だ!」

「負けないからねー!」

 

 

そう言うと、2人は去って行った。

親と子を見ている気分だったな。

やっぱ仲が良いのは良き事かな。

戦場を少しでも忘れさせてくれる……つまらないジョークでも、たわいも無い会話でも良い、それは大切だ。

 

さて。

ここまで来ると後は……と、来た。

坂本だ。

会議が終わったらしい。

 

 

「只野、皆と打ち解けているようで何よりだ。 ハッハッハ!」

「はい。 短い、たわいもない会話ですが」

 

 

普通に話すべきか、最初は戸惑うな。

坂本が少佐というのもあるが、雰囲気とかな。

片目、眼帯してたり言動がハキハキしてたり。

バルクホルンも、曹長ちゃんと話した時もだが……真面目な子相手に話すのは苦手かも。

 

 

「そう固くなるな。 普通に話してくれて良い」

「ありがとうございます」

 

 

そうは言われてもね……。

どちらかというと身内、戦略情報部の少佐となら話しやすいかもだがな。

会ったことないけど。

 

 

「この後、偵察任務だろう」

「はい。 501からも出るとか」

「うむ。 バルクホルンとハルトマンが出る。 仲良くやってくれ」

 

 

陸と空で分かれるし、地上は森だ。

空から此方は見つけ難いだろうな。

なんにせよ、話すなら無線越しになる。

だとしても、何かしら互いに助け合えるかも知れないしな。

 

 

「はい。 宜しくお願いします」

「それは本人達に言ってやれ」

「失礼しました」

 

 

と言いつつ、互いに微笑み合えるのは良い。

 

 

「ところで」

 

 

うん?

なんだ、何かあったか?

 

 

「エイラがストームに絡んでいたが、何かあったのか?」

「分かりかねます。 ですが仲良しなのは良い事です」

 

 

はぐらかす。

おら知らねーだ。

 

 

「そういった様子ではなさそうだったが」

「まあまあ。 大切なのは、これからです」

 

 

子どもが じゃれてくるくらい、ウチの隊長なら平気だろうよ。

 

 

「その通りだな。 サーニャの武装を持ち出していたのは、後で説教だが」

 

 

平気だよな?

ロケランくらい、大丈夫だよな?

隊長、他の隊員より人外かもだし。

もっとヤバい武器で撃たれた事もあるだろうし……うん。

 

 

「……ストームからEDFが この世界に来た理由は聞いたが、どうだ?」

「どうだ、とは?」

「居心地だ。 連合上層部からの嫌がらせもあるだろう」

 

 

また政治の話か。

それらは上の仕事なんだがな。

いや、坂本は分かっているだろうから、俺個人の感想を聞きたいだけだ。

暗い話にならないようにしよう。

 

 

「個人の感想としては、まあ、仲良くなって欧州の本場のメシを食いたいなーとか、観光したいなと」

「そうかそうか! 平和になったら味わうと良い! 扶桑にも来い! 良いところだぞ!」

 

 

そうですね、と俺。

WDF計画の件がある、後ろめたい。

でも今、話す事ではないから。

 

 

たわいも無い、だけど平和な話をしていく。

そこにすれ違ったらしい、ペリーヌがやってきて話は終わる。

敬礼して互いに別れると、俺は1人になった。

 

 

『Storm1から只野へ。 そろそろ偵察任務に出て欲しい、スカウトと合流してくれ』

 

 

隊長から無線がきた。

 

話はこれくらいにしておこう。

そろそろスカウトと合流して、任務を遂行しなければ。

 

 

「了解」

 

 

俺は短く返答。

PA-11SLSを持ち、箱状の2連装ミサイルランチャーMLRA-TWを背負う。

 

特別な武器では無い。

だけど久しぶりに持った気がする。

同時に、改めて武器の重みを味わった。

 




キャラの把握や会話が難しく、コロコロになってしまった感を否定出来ない(殴)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

48.ハルトマンを救助せよ!

作戦内容:
キール奪還の為、道中の状況を知りたい。
只野はスカウトに随行、偵察を頼む。
EDFは陸路を調べるが、空路は501部隊のバルクホルン大尉とハルトマン中尉が調査している。
互いに連絡を取り合い、任務を遂行してくれ。
!?
ハルトマン中尉が墜落しただと!?
備考:
航空ネウロイがいるが、陸は森。
奴等がどのように此方を認識しているか不明だが、目視の様なものなら、こちらが見つかり難い筈だ。
只野は対空兵装有。
補助装備、多重ロックオンシステム



◆キール手前の森

只野二等兵視点

 

スカウトと合流し、俺を含んだ偵察部隊は森を歩いて進軍ルートを探っていた。

人手不足から、純粋な偵察要員だけでは足りないらしく、俺も駆り出された形だ。

つっても、こんな森の中だ。

どこをどう言っても木々が邪魔なものだし、専門外の俺がいる意味あんのか?

 

 

「いっそ森を焼き払うのは?」

 

 

森を歩きながら、ボヤいてみた。

Storm1が空軍に要請して、ナパーム弾を投下してくれれば直ぐに済む。

レンジャーの歩兵用ナパーム弾をグレランでばら撒く方法もある。

後は火炎放射器で焼き払うとか。

その点、フェンサーのフレイムでも良い。

火力ならレンジャー装備よりダントツだ。

 

 

「却下された」

 

 

前を歩きながら返答するスカウト。

ありゃ、ダメか。

 

 

「燃えている間は進軍出来ないし、空の脅威から身を隠す場所が無くなれば攻撃を受ける為だ。 それから」

 

 

それから?

ここまででも、十分な理由だが。

 

 

「エイラ少尉が会議室に乱入してきてな、森を焼き払うのに断固反対したらしいぞ」

 

 

マジか。

隊長にダイレクトアタックしにいっただけじゃなかったのか。

 

 

「あのダナダナのエイラが? サーニャにベタベタで自分の意思が無さそうな、あのエイラが?」

「結構、酷いな お前」

 

 

ナニか言われたが気にしない。

向こうにも非はある。

 

 

「まあ確かに。 501じゃリトヴャク中尉と共にいる事が多かっただろうが、自分の意思くらい あるだろう」

 

 

スカウトも何気に酷くね?

自分たちで調査した結果から言っているのもあるだろうが、やっぱ同じ事を考えてるじゃないですかヤダー。

 

 

「なんでも森に住む生物の生態系がどうのって理由で反対したそうだ」

 

 

へぇ、エイラにそんな心が。

森や湖、自然豊かだろうスオムス出身だからかな。

 

 

「それだけなら少尉とはいえ、子どもの言い分だ。 いや、階級だけで見ればStorm1は大将。 戦力比の面からもEDF側に決定権があったが」

 

 

俺は僅かながら、眉間に皺を寄せた。

それ有効なの?

曹長ちゃんも階級どうので絡んできた時があったけど、連合とEDFだ。

俺は詳しくないが、管轄どころか世界が違う。

仲間とはいえ、それぞれに大将、司令官がいるのを考えると、本来なら命令系統は混ぜられない。

仲が悪いのも考えると、溝は深いぞ。

人類連合軍と全地球防衛機構軍。

"人類"と"地球"の組織は似て非なるものだ。

 

……エイリアン連中も"EDF"だったのだろうか。

侵略性外来生物の体液には環境を改善させる謎の能力があったとかなんとかだし。

緑の変異種なんか、コンクリートを食べて、人類がいた痕跡を消していたという。

人類ではなく"地球"を考えれば、それこそEDF……地球防衛軍だったのかも知れない。

 

それは言わないが。

今、議題にする事ではないし、言っても仕方ない事。

それこそ二等兵の、下っ端がナニ思おうがナニも変わらないのである。

当然、責任も発生しない。 着の身着のまま気楽な武士道。 刀はないが。

それらを所持している坂本辺りが聞いたら激昂されそう。

それもまた、違うところだ。

でも仲良く出来ない理由にはならない筈だ。

そう信じたい。

それを確かめるように、俺は言った。

 

 

「エイラの言い分に従った、と」

「ああ」

 

 

スカウトは続ける。

 

 

「さっきも言った、デメリットを理由にしていたがな。 結局はそうなる。 大将もエイリアンや怪異に強くても、子どもには弱いらしい」

 

 

成る程、と互いに笑った。

こうやって人間味のある会話や内容に救われる。

Storm1も救世主だの英雄だの死神だの言われるが、やはり人間なんだなと思うと安心するよ。

して、連合とも分かり合える。

それは思っただけだが、無慈悲で冷血に思えたエイリアン連中とは違うところだ。

 

 

『任務中だぞ。 私語は慎め』

 

 

うおっ、無線がきた!

501部隊の真面目ちゃん、バルクホルンからだ。

やべ、無線がフルオープンだったか。

 

 

「すいません大尉」

 

 

スカウトが謝った。

俺もならって謝る、素直にしよう。

歳下に言われると反抗心が湧く事もあるが、軍事行動中だしな。

言われた事は間違いではない。

でもね、言い訳するとね。

EDF隊員は皆、喧しいんだよ。

諦めて慣れていってね!

 

 

『分かれば宜しい───此方は先程、小型ネウロイの軍勢と遭遇、これを殲滅した。 他に敵影なし。 其方はどうだ?』

 

 

あ、戦闘があったの?

森の中からだと、草の隙間を縫って僅かに青空が見える程度。

空を飛んでいるだろう、バルクホルンと僚機のハルトマンが見えない。

当然、空戦も見えない。

そういや銃声が遠くから聞こえたような。

 

 

「こちらは森の木々ばかりで平和なものです。 ただ、歩兵にとっては進み難いですね」

 

 

いかんな、戦場でボーッとしているのは。

気を引き締めて、センサー反応を確認。

少し離れたところに、青丸表示が2。

高度が高い。

間違いなく、バルクホルンとハルトマンだ。

こういう時、無線含めたEDFの技術が役に立つ。

 

 

『私たちウィッチが空路を確保したら、輸送機に乗る方法もあるだろう』

 

 

パンが無ければケーキを。

陸がダメなら飛行機使えば良いじゃない。

じゃあ、その飛行機は誰が用意してくれるのかな?

リベリオン辺りがフライングパンケーキを寄越してくれるのかな?

 

 

『私たちが抱えて運ぶのかなー?』

 

 

そこにツッコミを入れるハルトマン。

そういう子は好きよナイス(ウー)マン。

 

 

『人数が多過ぎる、無理だ。 ひとりひとり抱えて運ぶのは非効率だし、その間は機動力が落ちるばかりか戦闘に参加する事も───』

『そういう事。 足並みを揃えるのは難しそうだね』

 

 

そうですね、とスカウト。

陸路と空路の差は大きい。

 

 

『そうだ、ウィングダイバーは? EDFには飛べる歩兵隊がいた筈だ』

 

 

飛べるけどね、飛行時間が短すぎるよ。

森の中から、モグラのようにピョコピョコ飛び出しながら移動しろと言うか。

まぁ、それでも徒歩より速いだろうけど。

 

 

「ウィングダイバーの飛行ユニットは、ウィッチのように長距離は飛べない。 速度も違うよ」

 

 

取り敢えず、事実を言っておく。

 

 

『只野含めた、皆がユニットを背負うのは、どうだ? 少しは進軍速度が速くなるんじゃないか?』

 

 

だから速度が……。

それに輸送機共々ユニットが用意出来ない。

その前に男が背負って戦ったなんて話、聞かないんだよな。

ナニか理由があるんだろう。

取り敢えず分かっていることは、

 

 

「ウェイトオーバーだよ。 20キロは痩せないと無理ダナ」

 

 

体重制限に引っかかる事ダナ。

正確な重量は分からないが、そのくらいは痩せろと言われた事があった気がする。

 

 

『なら痩せろ』

 

 

無茶言うな。

 

 

「今すぐ始めても無理ダナ」

『やってもないのに諦めるな。 カラダを仕上げろ!』

 

 

根性論になってきてない?

EDFも、そういう節はあるけどさ。

俺は苦手なんで却下な。

 

 

「別の方法を考えるよ。 その為の偵察任務だからね」

 

 

そう言いつつ、というか任務中に私語を謹んでなくねと思いつつ、センサーをチラ見しての森林浴再開……。

 

 

「むっ!?」

 

 

敵の赤丸表示確認。

ナニかが来る、速いッ!?

 

 

「敵襲ッ!」「敵ですッ!」

 

 

俺とスカウトが ほぼ同時に叫ぶ!

だが、スカウトは流れるように詳細を言う。

 

 

「敵1、北東からダイブ、高度約───、速度約───、なおも加速中、其方を見つけたと思われます、武装形状共に不明!」

 

 

流石は偵察部隊と褒めてやりたいところだ。

やっぱ本職は違う、俺には出来そうにない。

 

 

『ッ!』『見えたッ!』

 

 

刹那、激しい銃声。

センサー上では滅茶苦茶な速さと機動を描く赤丸が映し出された。

バルクホルンとハルトマンは既に視認可能距離だ、くそッ!

 

 

「馬鹿な! なんて動きをしてやがる!?」

 

 

思わず悪態をついてしまう。

センサー上では赤丸が高速の羽虫のように動き回っていた。

速いだけでなく、EDFの戦闘機ですら真似出来ない機動を取ってやがる!

 

 

『うわあああッ!!』

 

 

悲鳴が無線越しに聞こえた、ハルトマンだ!

 

 

『ハルトマンッ!?』

 

 

センサー上にて、ひとつの青丸が高度を下げている。

森の中からじゃ分からないが、恐らく撃墜されたぞ!

 

 

『くそぉ!! このッ、このぉッ! よくもハルトマンをッ!!』

 

 

僚機が墜落したにも関わらず、激しくなる銃撃音。

ダメだ、バルクホルンは感情に囚われて冷静を失っている!

 

 

「バルクホルン大尉! ダメだ、撤退しよう!」

『ハルトマンが! ハルトマンが堕とされたんだぞ! 見捨てられるか!』

 

 

今の彼女のみでは勝てない!

幸い、俺ら歩兵に航空ネウロイは気付いた素振りがない。

 

 

「ハルトマン中尉は俺が回収する! だから安心して撤退するんだ!」

 

 

ここは森。

航空戦力が、草木に埋もれる歩兵を易々と見つけられるものか!

森を潜り進んで、ハルトマンを回収、友軍圏内まで撤退する!

 

 

『ふざけるな! 何が安心して───』

 

 

ふざける?

ふざけてない、俺は本気だ。

 

 

『"ただの"二等兵! 命令だ! 援護し───』

 

 

ふざけてるのは。

 

 

「お前がふざけるなよッ!!」

『ッ!?』

 

 

大尉にキレる二等兵。

ヤベェ、後で殺されるかも。

いや、その心配より今は。

 

 

「冷静さを欠いて、自分や戦況を見失うな! 次に何をするべきか、何が最善か考えろ! 現状戦力じゃ対処出来ないんだよ! 撤退して陣地から友軍を引っ張り出せ! じゃなきゃお前もハルトマンも死ぬ!」

 

 

1番、冷静さを欠いてるのは俺だけどな!

言っていることも滅茶苦茶だし!

アレだ、感情のままに階級を持ち出されてイラッときたのかも知れない。

軍人にあるまじき行為。

勿論、それは俺である。

あいや、今までの経験や勘から、バルクホルンが このままだと死ぬ可能性が高い気がしたからさ……仕方なく。

 

 

「良いから撤退! 後は歩兵の仕事ッ!」

『〜〜ッ!』

 

 

して、想いが通じたのか理性が勝ったのか。

バルクホルンと思われる青丸は後方へと下がっていった。

よし。 じゃ、仕事の時間ってワケだ。

 

 

「おい只野……勝手に俺らも巻き込まないでくれよ」

 

 

あ、振り返って見た偵察部隊の面々の顔がゲンナリしている。

 

 

「すまん、申し訳なく思っている」

 

 

平謝りしとこ。

とりま、この場においては穏便に頼むよ。

 

 

「言いたい事は分かるがな……仕方ない。 ハルトマン中尉を助けに行こう」

 

 

なんだかんだ、俺に付き合ってくれるというスカウト。

優しいねぇ、でも却下。

 

 

「俺ひとりで良い」

「なに?」

「人数は少ない方が見つかり難い。 それに、スカウトは本来の仕事……後方に戻って情報を持ち帰って欲しい」

 

 

偵察部隊は戦闘が任務じゃないからね。

基本、避けるべき事である。

その上で情報を持ち帰る。

 

 

「それに対空兵装は俺だけだ。 なら、俺が行くべきだろう?」

 

 

敵の大群に備えてMLRA-TWを持ってきたが。

どうやら、敵は1匹の模様。

して、相手から森に埋もれる俺を捕まえるのは困難な筈。

同じ位置に留まらなければ、いくらでもやり様はある。

 

 

「レーダー支援じゃない方を持ってきたが、正解だったな」

 

 

そう。

レーダー支援システムがなければ、多重LCシステムを起動すれば良いじゃない。

 

 

 

 

 

◆ジークフリート線

Storm1視点

 

 

「なに!? ハルトマン中尉が撃墜された!?」

 

 

スカウト及びバルクホルンからの無線報告に、俺は声を荒げてしまう。

なんでも、高速かつ高機動のネウロイと遭遇、これと交戦してハルトマンが撃墜されたという。

 

くっ。

ハルトマンが撃墜されるとは。

不意打ちに近い攻撃を受けたとしても、そう易々と堕とされる子ではなかった。

スコアだけでみれば、この世界にて人類最多の撃墜スコアを叩き出していた、それくらい凄い子だ。

 

 

「本部に連絡、増援を要請」

「了解」

 

 

俺は近くの仲間に指示しつつ、周辺地図を広げ、状況を再確認。

スカウトは森の状況と、この事を伝えつつ此方に帰投中。

バルクホルンは救援と態勢を整えるべく撤退、迎えに宮藤とリーネが向かった。

只野のみが現地に残り、ハルトマンの回収を試みている。

只野は二等兵だが新兵ではない、歴戦の戦士だ。

対空兵装もしている。

地形も森、航空ネウロイ相手には独り立ちでも何とか戦える環境にある。

 

 

「だが、仲間を独りで戦わせろとはEDFの誰もが学んでいない」

 

 

楽観は出来ない。

Storm4が孤立奮戦していた時も、仲間が駆けつけて共に戦った。

今回はStorm2に向かってもらう。

3、4はユニットが大きく音もある。

森で跳ねるにも、木々を薙ぎ倒すにも目立つからな。

持ち堪えてくれ只野。

 

 

 

 

 

◆キール手前の森

只野二等兵視点

 

スカウトと別れた俺。

センサー反応を頼りに、ハルトマンを探す。

上空を通過する赤丸に気を配りつつ、森を歩くのは大変だ。

 

 

「たぶん、この辺だと思うんだが」

 

 

陸戦ネウロイが潜んでるかも分からない。

PA-11SLSを構えつつ、しかし航空ネウロイにバレた時を考え、素早くMLRA-TWに切り替えられる態勢をしつつ前進。

森とは隠れられる場所が多い反面、視界が悪い。

銃弾も───ネウロイの場合はビームだが───簡単に草木を抜けるから、バレたら終わりだ。

多くは遮蔽物として機能しないのだ。

こういう場合、先に見つけられるかどうかで勝負が決まると言っても過言ではない。

幸いにも俺には、センサーと対空兵装がある。

だからといって勝てるかは分からない。

ハルトマンを回収したら、さっさとズラかるぞ。

 

 

「むっ?」

 

 

少し開けた場所に出た。

そこだけ陽が当たり、広場のようだ。

木々が倒れているあたりから、ハルトマンが墜落した衝撃で?

そう思った時、その倒木に下敷きになるようになっている人影が!

 

 

「ッ!」

 

 

ストライカーユニットもある!

まさかハルトマンが!?

 

 

「いや落ち着け。 センサー反応は別にある」

 

 

思わず駆け寄りたくなる衝動を抑える。

友軍表示の水色は、別の場所にあるし。

敵の罠かも知れない。

あそこは空から丸見えの位置だ。

昔からの戦術で、パイロットを助けにくる敵を待ち伏せして殺すなんてのもあるからな。

 

エイリアン連中も似た事をしていた。

街に取り残された俺らを助けようと救援部隊が送られた時だ。

さも救援が来るのが分かっていたかのように待ち伏せ攻撃をしたらしい。

 

ネウロイに そんな知性があるかは知らないが、戦術的な動きをするのは見てきた。

或いはそうかも知れない。

 

 

「騙されるなよ、俺」

 

 

森の傘から出ないようにしつつ、SLSに備わる倍率スコープを覗き込む。

して、俺は見た。

 

 

「ほらな」

 

 

スコープ越しに見えたソレ。

上着やストライカーユニットは本物みたいだが、肝心の"本体"は なんと藁人形。

俺はスコープから目を離した。

 

 

「デコイか……まさかネウロイが?」

 

 

そんな器用とは思えない。

なら、ハルトマン本人が作ったモノだ。

ネウロイを欺く為だろう、器用だな。

そうと思われるセンサー反応も近い。

耳を澄ませれば、水の音。

川か。

そこに混ざる雑音……の見極めは出来ない。

スカウトなら出来ただろうか?

 

 

「行こう」

 

 

足踏みしても仕方ない。

俺はSLSを再び構えつつ、慎重に向かった。

 

 

 

 

 

ーーーーーー EDFーーーーーー

ハルトマン視点

 

それは突然で、とても速かった。

EDFの偵察部隊が先に気付いて、敵の方向や情報を素早く教えてくれなかったら、撃つ事も出来ずに殺されていたかも。

 

私とトゥルーデはネウロイを迎え撃った。

だけど、ソイツは あまりに速く、高機動で 目で追いつく事がやっとな相手で。

 

ストライカーユニットを被弾、あっという間に撃墜されてしまった。

 

黒煙を空に撒き散らしながら見聞きしたのは、トゥルーデが叫んで、必死に撃つ光景。

 

ダメだって、一旦 逃げて!

 

そう言いたかったけど、息が詰まって 上手く声に出ない。

せっかく、新しい無線が支給されたのに、もう。

 

だけど、代わりに只野が声を上げた。

怒鳴るような声で、私までビクッてしちゃったよ。

 

階級も世界の垣根も関係なしに、仲間の為の声。

 

それにはトゥルーデにも伝わったみたいで、撤退していくのが無線越しにでも分かった。

 

良かった。

後は私が生きて帰れば、万々歳だね。

 

墜落した後。

幸いにも大きな怪我もなく動けた私は、故障したストライカーユニットを出来る範囲で修理しつつ、藁人形でデコイを作った。

南の島でワンちゃんが 使ったやつよりかは劣るけど……それでもネウロイを欺くのには十分だった。

 

無線を繋げて、救援を呼ぼうか。

運良く側で流れていた川で水を飲みながら、そう考えていると。

 

 

「手を上げろ」

 

 

背中に冷たい感触。

でも声はずっと、温かい。

 

私は両手を上げて無抵抗のポーズを取りつつ、それに答えた。

 

 

「酷いなぁ。 帰ったら只野さんに乱暴されたって、いっちゃおーかなー?」

 

 

そういったら案の定、面白いように慌てふためく声。

 

 

「ちょっと勘弁してくださいよ!? ネウロイが擬態してるかも知れないから仕方なくですって!」

 

 

振り返れば。

そこには異界の兵士であるEDF隊員。

見慣れないボロボロの戦闘服にヘルメット、だけどとても丈夫そう。

手にはマガジン式の歩兵銃、背中には鉄箱。

それも見慣れないけれど、とても強いだろう事を知っている。

 

なにより。

目の前の男性……それらを扱う只野二等兵が強いのを知っている。

 

 

「冗談だって───うん。 来てくれて、ありがと」

 

 

笑顔を見せて、礼を言った。

私だって、礼くらい言えるよ。

 

 

 

 

 

ーーーーーー EDFーーーーーー

只野二等兵視点

 

 

「お、おう」

 

 

年下の少女にからかわれたり、笑顔で礼を言われるなんて。

なんつーか、恥ずかしい。

そういうのとは無縁だと思っていたからな、特に戦場では。

とにかく、今するべき事をしていこう。

 

 

「こちら只野二等兵。 ハルトマン中尉を発見、回収してジークフリートに戻る」

 

 

無線で後方に連絡すると、Storm1隊長の安堵した声が聞こえてくる。

 

 

『良くやった只野。 そちらにStorm2が向かっている、合流して速やかに撤退してくれ』

「軍曹が? 了解しました」

 

 

まさか、俺とハルトマンの為にStorm2……軍曹チームを派兵してくれるとは。

嬉しいし、心強い。

かつて同じ228基地にいたのもあって、同郷の人の安心感というか……郷愁にも似たナニかがあって良いよね!

 

 

『フラウ、無事?』

 

 

この声はミーナ中佐!

EDF本部からだろうか、プロペラ音や風切り音が聞こえる気がするが……。

 

 

「ミーナ? うん、なんともないよ」

 

 

普通に返答するハルトマン。

普段から仲が良いのかな、同郷……同国だしな。

 

 

『良かった……今、ジークフリート線に向かってるわ。 また後で会いましょう』

「うん、わかった」

 

 

えっ!?

こっちに来るの?

本部にいた方が安全なんじゃ、と思ったけれど。

ミーナも部隊……家族が心配なんだろうし、戦力として参加したいのだろう。

たぶん、本部は増援として送った形だろうな。

道中が心配だが、EDF本隊が道をこじ開けてきた。

きっと大丈夫の筈だ。

 

 

『ハルトマン、無事か!?』

 

 

今度はバルクホルンか。

心配そうに声を張り上げてるが、ハルトマンは普通に返答していく。

 

 

「うん。 ぜんぜん平気」

『そうか……良かった』

 

 

安堵した声が聞こえてきた。

とても心配だったのだろうな。

 

 

『だが油断するな。 帰るまでが任務だからな』

「心配し過ぎだって。 只野さんもいるし」

 

 

二等兵1匹に、あまり期待しないでよ?

むしろ、これから合流するStorm2の方を頼って欲しい、俺も頼るから。

 

 

『そうか……なら、安心して任せられる』

 

 

大尉殿も頼るなよ。

自信ないよ、そんなに。

 

 

『あー……聞こえてるんだろう只野。 さっきは……その。 すまなかったな。 お前のいう通り、周りが見えていなかった』

 

 

しかも謝ってきたよ。

謝るのはコチラなので、直ぐに返答する。

後が怖い。

 

 

「いえ、俺も突然すいませんでした。 なので、顔面陥没パンチ連打からのリテイクパンチは勘弁して下さいお願いします」

 

 

赦しを乞う!

本当に勘弁な!

大尉殿の魔法による怪力パンチはヤバいって絶対に!

具体的に言えば、きっとシヌゥ!

 

 

『そんな事、するワケないだろう』

 

 

本当?

殴られたらシャレにならないからね、マジ勘弁だからね。

 

 

『とにかく、無事に帰ってきてくれ。 ハルトマンを墜としたネウロイは、まだいる筈だからな。 気を付けろ』

「了解。 撤退します」

 

 

そう言って無線を終えると、直ぐに別の人から無線がきた。

出ない理由はないので、出ておく。

 

 

『こちらStorm2。 只野、聞こえるか?』

 

 

おお!

Storm2、軍曹じゃないか!

 

 

「こちら只野二等兵。 良く聞こえています」

『良し。 今、其方に向かっている。 既にセンサー反応が出ている筈だ。 合流してくれ』

 

 

言われてセンサーを見やれば、確かに。

センサーに友軍表示がある。

4つ、チーム丸ごと来てくれたのか。

 

 

「了解。 合流します」

『上空に気を付けろ。 ヤツはコチラを探っているぞ』

 

 

うん、知ってる。

なんか風切り音が時々聞こえるもん。

デコイを見ているだろうから、ハルトマンは死んだと思っているだろうが、救援が来る可能性から哨戒しているのだろう。

だが残念だったな。

ハルトマンは生きているし回収もした。

後は こっそり 逃げるだけ。

あばよネウロイ。 殺すのは後にしてやる。

 

 

「分かりました。 では後ほど」

 

 

そうして、無線を切る。

今度こそ静かになった。

ハルトマンの濡れた、だけど温かな手を繋ぎ、俺は軍曹の元へ向かう!

 

 

「じゃ、撤退しよう」

「只野さんと森でデートってね」

 

 

あまり大人をからかうんじゃないよ。

いや、子ども扱いしちゃったかな。

手を繋ぐ行為が嫌だったのかもしれない。

 

 

「ごめん。 "フラウ"だもんな」

 

 

からかい返して、手を離す。

したらなんか、ちょっと不機嫌になった。

何故だ。

 

 

 

 

 

ーーーーーー EDFーーーーーー

 

上空を警戒、森の傘から出ないように細心の注意を払いながらStorm2と合流した只野とハルトマン。

視界の悪い森の中で、迷わず合流出来たのは、やはりEDFの装備や経験故だろう。

 

 

「軍曹、救援 感謝します」

「良くやった。 後は撤退するだけだが、最後まで油断するなよ」

「そうだぞ。 突然、異世界に飛ばされるかも知れないからな」

「ですね」

「だな! そんなアンラッキー野郎が俺らと同じ基地にいたとは。 世間は狭いぜ」

「でも私は只野さんに助けられたよー?」

「あぁ、それは"ラッキー"だな!」

 

 

只野の経歴を知ってるようで、軍曹の部下は軽口を叩きつつ、だけど笑顔で只野の肩を叩いて笑顔で励ました。

戦場で神経がすり減る中、こういうコミニケーションは心の支えでチカラになる。

人によっては「お前の所為で仕事が増えた」とか「ふざけんなよテメェ」と言って裏切るヤツもいるが、そう言うヤツは生き残れなかった。

何故なら社会システムが崩壊し、過酷な環境で生き残れた者の多くは互いに助け合い、戦ってきた者、運が良い者達であるが、物資を巡り彼らを襲ったり情報を共有出来ない度が過ぎた自己中は反撃されて死んでいったからだ。

 

審判の日を迎えてもなお、人は愚かだったが、少なくとも彼ら……只野、Storm2、ハルトマン、彼らを支えている人間は世界も階級の垣根を超えて助け合える善人である。

 

 

「上空警戒。 来るぞ」

 

 

軍曹が静かに言い、皆は静止。

上空に差し掛かるネウロイから身を潜めた。

 

───さて。 善人だから生き残れるかと問えば、そうとは限らない。

EDFの世界では約70億の人口がいたらしいが、今は1割以下だ。

いくらなんでも70億が"エサ"だったとは考えられないし、考えたくない。

もし悪人だから皆死んだというなら、基準が知りたいものだ。

銀の巨人、かの英雄に殺されたエイリアンの神に問えるなら問いたいところだが、それが出来たところで消炭にされるのがオチだろう。

 

それは人間だからという理由なのか、それとも……。

 

この世界の人類共通の敵である怪異のネウロイも、何故 人間に攻撃するのか分からない。

 

そんなワケで、世界に存在する理不尽に殺害される事も否定出来ないのだ。

故に友軍圏内まで撤退している時に、それは起きた。

 

 

「おいおいおい!? コッチに機首を向けてるぞ!」

 

 

部下が静かに、しかし悲鳴を叫ぶ。

 

 

「バレたかも知れません!」

 

 

彼ら……歴戦の戦士の嫌な予感とは大抵当たる。

 

 

「退避した方が良い!」

 

 

提案か独り言か、別の部下が皆に聞こえる声で言った刹那。

軍曹は刮目して命令を下す!

 

 

「散開ッ!!」

 

 

刹那。

空で赤い閃光。

それは一線となり、緑の傘を突き破り地表へ向かう。

精鋭歩兵隊は弾かれたように緊急回避、只野はハルトマンを抱えてローリングで地面を蹴り転がる。

次には只野らがいた地面はクレーターが出来上がっていた。

もれなく、否。 天から漏れた陽が穴を照らし、現実である事をまざまざと伝える。

 

 

「チクショウ! 銃かスコープの反射光でもあってバレたか!?」

「旋回して来ます!」

 

 

センサー上では、大きく弧を描いてネウロイが戻ってくる。

機動上、同じ場所に留まれるのにしなかったのは、視界を広く確保する為だろう。

現隊長である軍曹は、それらを加味しつつ部下達に命令をしていく。

 

 

「同じ場所に留まらず固まるな! 散開して各個退却! 只野! 持っている対空兵装でネウロイを攻撃、足止めしろ! ハルトマン中尉、すまないが俺と共に後退だ!」

「「了解!」」

 

 

互いに迷いなく行動。

判断は一瞬、行動は迅速に。

各自の判断で森を駆け抜けて撤退。

只野は殿を務めるように、装備をSLSからMLRA-TWに持ち替え、トリガーを引きっぱなしにしてロックオン。

 

 

「多重ロックオンの味を喰らえッ!」

 

 

して、トリガーを放す。

20発を超える2連装ミサイルが、箱の上部ハッチから左右に分かれ連続して放たれる。

白い帯は森から空へと立ち上がり、ネウロイを追いかけ回した。

それは空を耕しているかのようである。

やがてネウロイに何発か被弾、動きが鈍った隙を突くように残りのミサイルの弾頭が連続して着弾、空で大きな爆発が起きた。

 

こうして生き延びて来たし、これからもそうだろう。

 

そうでなければ、死んでしまう。

否。 そうであっても理不尽に死ぬ。

生き残れて来たのは何も自身や仲間の技量の結果ではない。

全て世界の裁量だ。

最終的には運だ、どうしようもなかった。

阿鼻叫喚。 そんな狂気の戦場に常にいた。

いたが故に、運命に選別されて生き延びた隊員は、狂人で異常者でもあり超人に成り果てた。

飛翔能力を持っていたエイリアン幼生体が、地球環境で生き延びて進化するだろうと考えられたように、生き延びた人類もまた、進化したのかも知れない。

 

欧州で逃げ隠れし、しかし生き延びた只野も恐らく その新人類の ひとりである。

それは この世界のウィッチーズの持つ魔法やネウロイの怪異より神秘で謎のベールに包まれていた。

その事に、EDFは自覚していない。

辛うじて連合の人類が、それも ほんの 一握りの人類が曖昧に把握した。

 

曹長ちゃんは、その片鱗に触れて発狂した。

それ程にEDFは恐ろしいのだ。

神域に到達してしまったのだ。

地獄を超えて不可能の先へ。

特に、Storm teamは、Storm1は そうであろう。

 

 

「ネウロイ中破! コア撃破ならず!」

「構わない! 後は任せろ!」

 

 

Storm2、軍曹が手に持つ光線銃、ブレイザーで狙撃。

スコープやサイト等の補助具ナシで、しかし正確無慈悲の光線が、手負いのネウロイを貫く。

 

刹那。

ネウロイは光の粒子となり砕け散った。

あまりに呆気なかった。

 

 

「クリア。 センサー目視、共に敵影なし」

「殺すのは後だと言ったな。 アレは嘘だ」

「予定通り撤退する、足並みを揃えるぞ」

「「了解」」

 

 

淡々と仕事をこなしただけだと言いたげな、男達の背中。

それを見たハルトマンは、どことなく思う。

兵器が強いだけじゃないと。

隊員もまた、凄まじく強いのだと。

 

だが、人間のレベルで考えられたのは幸運だった。

 

それをも超えて深淵の底まで思考してしまい、垣間見て死神の微笑みを見た曹長ちゃんは狂ってしまった。

 

そんな彼女は、今は深い海の底。

 

死神。

EDFの手により生まれ変わっている───。

 




後半は哲学ぽくなっていた……。

新人類に改造され産み堕とされるWDFの方は どうなるのか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

49.白銀の翼は濃霧の幻影に非ず。

作戦内容:
キール港手前、森より先にて不自然な濃霧が発生中。
視界が劣悪。 この為、EDFの戦車は勿論、ウィッチを除く航空機の投入は不可能です。
連合兵やウィッチらの話を参考にするなら、どうやらネウロイの仕業とのこと。
偵察隊の報告やセンサー等からの情報、501部隊との相談の結果、キール中心半径20キロのどこかにネウロイがいると思われます。
直ちに討伐隊を編成、駆除に入ります。
501部隊からは全方位広域探査の魔法が使えるリトヴャク中尉、未来予測の魔法を使うエイラ少尉が出撃。
EDFからはStorm2と只野二等兵、スカウトや複数の攻撃部隊が出撃。
空と陸で連携し、ネウロイを倒して下さい。
健闘を祈ります。
なお、EDFによる新兵器運用実験部隊が作戦領空近くを飛来し、センサーに反応する可能性があります。
友軍誤射には十分に気を付けて下さい。
備考:
濃霧で視界が劣悪。
センサー等を頼りに行動、気を配ること。

設定などは、作者の妄想も含まれますので注意。
間違いもあるかも。



◆ジークフリート線

只野二等兵視点

 

俺とStorm2は要塞に撤退し、無事にハルトマン回収をやり遂げた。

偵察の続きはスカウトがやってくれたし、ついでの様に高機動型ネウロイも倒した。

そこは軍曹がいたからだが、思わぬ戦果である。

褒賞に美味い飯と休暇をくれないかな、無理ですよね分かってます。

 

 

「フラウ、心配したのよ」

「良かった……無事でなによりだ!」

「もー、大げさだなぁ」

 

 

いつのまにか到着していたミーナと、退却していたバルクホルンがハルトマンを抱きしめて無事を喜ぶ。

家族愛ってヤツかな、目に涙が浮かんでら。

 

なんつーか、羨ましいよ。

 

俺らは家も家族も、大切な者を失ってきた。

残されたチカラも微々たるものだ。

それでも戦い続けて、誰かを守れた事実は身に染みる。

 

…………守れなかったから、余計にな。

 

多すぎて、"さよなら"に慣れて、鈍感になって。

もはや守る者がいなくなったとさえ思えた。

でも、この世界で守る者達が再び出来た。

俺はまた、誰かを守れるだろうか。

取り戻せるだろうか。

或いは失うのだろうか。

 

 

「只野」

 

 

俺の名を呼ばれて我に帰る。

呼んだのはバルクホルンだった。

 

 

「ハルトマンを助けてくれて、ありがとう。 礼を言う」

「はい。 いえ、俺も越権行為というか、乱暴な言い方をしました。 礼を言われる事は無いです」

 

 

現状戦力じゃ無理だから友軍を出して来いと偉そうに言っておきながら、結局は倒しちゃったし!

無理とは嘘つきの言葉(タイミング次第)。

 

 

「いや、お前が正しかった。 本当にありがとう」

「ええ。 只野さん、ありがとう」

「エスコート助かったよー!」

 

 

続けて、ミーナやハルトマン本人にも礼を言われた。

 

 

「しかし、あのネウロイを倒してしまったなんて。 報告を聞いた時は驚いたぞ」

「見ていた身としても、驚いたよ!」

 

 

交戦したバルクホルンとハルトマンが讃美してくれた。

でも俺のチカラじゃないからな、否定しておこう。

 

 

「あー……アレはStorm2のお陰なんで」

「ストーム? ストーム・ワンの関係部隊か?」

 

 

バルクホルンが聞いてくる。

そうか、501部隊に潜伏していたからなStorm1隊長は。

付き合いもあって、名前が出てきたのかも。

折角だ。

ストームチームの話をしておこう。

ゆうて、詳しくないけど。

 

 

「そうだよ。 遊撃部隊ストーム。 EDFの精鋭部隊で、4チームある。 Storm1は部隊じゃなくて……隊長だったかな」

「本隊と来た、真っ黒い鎧の部隊は?」

「それはグリムリーパー隊だね、Storm3だ」

「4は?」

「赤っぽいウイングダイバーの部隊だよ。 そっちも本隊と一緒に来たよ」

「後で探してみよーかな?」

 

 

興味を持つ分には良いか。

むしろ、嬉しいまである。

 

したら、ミーナが知っているらしく、声を出した。

 

 

「Storm3、4はベルリンで見たわ。 とても強かった」

 

 

そうか、ベルリン防衛線にいたもんな。

見ていても変じゃない。

 

 

「ほう。 相当な練度と装備なのだろう」

 

 

バルクホルンが興味深そうに言った。

対して、ミーナはなんとも言えない顔に。

 

 

「え、ええ……ストーム3の武器が槍と聞いた時は驚いたけど」

「槍だと!?」

 

 

驚かれたが、仕方ない。

だって槍だもん、中世の武器だろそれ、だもん。

この世界、1940年代の主兵器は既に銃や大砲、航空機である。

銃剣やスコップによる白兵戦はあるかもだが、それが主な武器ではない。

 

 

「まぁ、なんです。 EDFの槍は特殊でして。 目に見えない速度で伸縮、刺さったあらゆる物体を破壊するチカラがありまして」

 

 

何故ならプラズマが〜とか、説明は出来ないよ。

仕組みは知らない。

だから聞くなよ、Storm1にでも聞いて。

 

 

「そのようね。 でも、接近しなくちゃならないようだから……運用出来る隊員は相当の練度と度胸を持っているわね」

「ストーム4は?」

「4は、ウイングダイバーの部隊ね。 スプリガン隊といったわ。 レーザー銃? で戦ってた。 でも隊長はランスだったかしら」

「ランス!?」

 

 

うん。

同じです、見た目はソレでもEDFのはビーム兵器みたいになってますので。

 

 

「それもだよ。 接近しなくちゃならないのは共通してるけど、先端からビーム的なのが出るから、物理的に突き刺すワケじゃない」

「ビーム、か。 EDFはビームを実用化しているようだが……やはり、どれを取っても凄い技術力だ」

「ビームねぇ。 ストーム2が、ネウロイにトドメさしてたよね?」

 

 

ハルトマンが言う。

ビーム……ブレイザーか。

種類や仕組みはまるで違うと思うが、説明できないので適当に頷いておく。

 

 

「そうだね。 EDFじゃ実弾兵器じゃない、ビームといった光学兵器も色んな種類が開発、使われているよ」

 

 

光学兵器は威力が高いイメージだな。

それに弾丸を携行しないぶん、軽量化も出来るのだろう。

空を飛ぶウィングダイバーの武器の殆どが光学兵器なのも、その関係があるかもな。

 

 

「凄まじいものだな……だが、そんな組織にいる只野も凄いよな」

 

 

へ?

俺、ナニも凄くないんだけど。

装備や友軍に頼ってるだけだよ。

光学兵器もビークルの武装、バルチャーくらいしか経験ないよ。

ネウロスのバーストとか、使い辛い。 辛くない?

 

 

「様々な武器を使いこなし、動きもキレがある。 判断力も高い。 航空機……ヘリコプターとやらも動かせるし、他にも乗りこなしていたと聞く。 本当に二等兵か? EDFの二等兵はソレが普通だとしたら恐ろしい練度だ」

 

 

そこまで言われると、恥ずかしいな……。

 

 

「いや、そんなことは……うん。 ありがとうございます」

 

 

そうか。 そうだな。

 

少なくとも、学んで来たことや経験した事から目の前の子らを救う結果を出せた。

EDFは、俺はまだ、誰かを守れるんだな。

ああ。 なんか目頭が熱い……。

 

 

「只野。 感傷に浸っているところ悪いが、次の任務だ」

 

 

直ぐに冷却。

Storm1隊長、少し休ませて。

ああダメですかそうですか。

 

俺は苦笑するバルクホルン達に敬礼して、直ぐに隊長の元へ向かい、作戦説明を受ける。

 

 

「森の先に向かってくれ。 濃霧の中だ、ロックオン兵器や咄嗟に振り回せるアサルトライフル装備が良い。 鉢合わせ用にショットガンも良いかもな」

 

 

なら同じ装備で良いか……って、濃霧?

 

 

「霧ですか?」

「ああ。 不自然な事に、全く晴れる様子がない。 恐らくネウロイでは、との事だ」

 

 

ネウロイ万能過ぎない?

ヤツらってナニかを模倣した形をとってビームを乱射しているだけじゃないのか。

霧も出せるとかヤバいでしょ、なんでもアリなんじゃね?

 

 

「では、霧の中にネウロイがいると?」

「そうなる。 只野は霧のエリアに突入し、ネウロイを討伐しろ」

 

 

人使い荒くない?

俺、任務任務で疲れてるのよ?

あいや、EDFって そういう節があるよね。

だけど慣れない。

疲れるものは疲れる。

だから言ってやる、ハッキリと!

 

 

「了解しました。 討伐任務を遂行します」

 

 

敬礼して承諾しましたよチクショウ!?

yesマン、奴隷、機械、社(軍)蓄!

そんな感情を読み取ってか否か、Storm1は話してくれた。

 

 

「すまない。 本隊が来たとはいえ、大人数で森を抜けて濃霧に入るのはリスクが高くてな。 AFVも出せない」

 

 

大の為に小を切り捨てる感じ?

それは仕方ないし、理解は出来る。

共感は出来ないが。

 

AFVが出せないのも解せない。

なんだかんだ、レンジャーがビークルを要請して投下してもらっていたのを見た事があるからね。

なんなら工業施設への被害を考えて、ビークルはダメって言われていた戦場でも要請で投下されていた。

 

投入不可? 出来るじゃん。

詐欺でしょ、今回も。

 

 

「はい……いえ。 仕方ないです」

 

 

とりま、そう言っておく。

濃霧の激闘を経験した事もある、大丈夫だ。

なんなら砂嵐で視界が効かない中、前哨基地に接近、取り巻きと戦った事がある。

あの時は2段構えの作戦で、Aプランで工兵隊が爆弾を設置して破壊、失敗したら重戦車タイタンの一斉砲撃で破壊するというものだった。

危険ながら悪い作戦では無いと思ったが……まさか基地が"歩く"とはな、当時は俺も皆も驚いた。

結局、爆弾は設置出来ず退避、砲撃も効果なし。

 

作戦失敗に終わった。

 

Aプランで爆弾設置が成功していたとしても、やはり失敗に終わっていただろう。

北京決戦で進撃してきたエイリアン7割を撃滅、人類が勝利した後に行われた前哨基地突撃作戦の時、砲台は破壊出来ても基地本体に空爆が効かなかったのを見ると、爆弾を使っても意味は無かったのだろう。

俺は工兵じゃないから分からないが、あの空爆すら効かない金の装甲は破れなかった筈だ。

 

今回は、そのような事にはならない。

いつも通り。

霧の中というだけだ。 ただ、それだけだ。

そう願う。

 

 

「助かる───引き続きStorm2と行動だ」

 

 

わお。

軍曹チームも大変だな、連戦で。

EDF隊員なら珍しい話じゃないが、同情する。

精鋭部隊とはいえ、疲れるだろうからね。

その様子は見たことないが。

みんな、頑張り屋だと思う。 偉いよ。

じゃあ、そんな頑張り屋の増援は期待出来るか聞いてみよう。

 

 

「Storm3と4は来てくれないので?」

「来ない。 空戦ではグリムリーパーのブラストホールスピアは役に立たない。 スプリガンは……ウィングダイバー全体に言えるが、霧の中を飛行させるのは危険だからな」

 

 

えぇ……。

空を飛べない、槍一択の死神達は仕方ないとして、スプリガンはダメなのか。

かつて、普通に霧の中でウィングダイバーが戦闘をしていた事もあった気がするんだがなぁ?

 

 

「代わりといっては何だが、スカウトや陸戦ウィッチ、レンジャー部隊が分散して捜索。 501部隊からサーニャとエイラが出撃。 互いに連携してくれ」

「へ? 大丈夫なんですか?」

 

 

誰もいないより嬉しいが、それは大丈夫なのか?

陸戦ウィッチはともかく、航空ウィッチを霧の中に飛ばすのは心配だぞ。

 

 

「なに、サーニャの魔法がある。 ナニか覚えているか?」

 

 

ここで問題ですか。

えーと、なんだったかな。

あっ!

 

 

「探知系の魔法……!」

「正解だ」

 

 

そういえばそうだった。

サーニャは探知系、全方位広域探査の魔法が使える。

使い勝手は分からないが、結構高性能らしく、地平線まで探査出来るとか。

俺たちEDF隊員が使うセンサーより良いじゃねえか……羨ましい。

雨とか、悪天候でも使えるなら、なおよし。

俺らのセンサーは鈍るからね。

対してエイリアン連中のドローンは鈍る様子がなかった、チクショウ。

一方でネウロイは、そういう機能が有るのか無いのか分からない。

あるから、森に隠れる俺らを攻撃して来たともいえるが、ハルトマンのダミーに騙されているなら、どうなんだろう。

ヤツらの能力は謎だ。

考えても仕方ないね、それより今だ。

 

 

「あれ? でもエイラは?」

 

 

ダナダナのエイラは探知系じゃなかった筈なんダナ。

 

 

「未来予測が出来るからな、合わせて効果的だろう」

 

 

まぁ、隊長がそう言うなら そうなんだろう。

それに。

エイラはオールラウンダーみたいだから、大丈夫か。

 

 

「それから注意事項だ」

 

 

はい?

なにかあるのかな。

 

 

「EDFの新兵器運用実験部隊が作戦領空近くを飛来する可能性があると情報部からの連絡だ。 センサーに反応する可能性があるから、間違って発砲、誤射しないようにな」

 

 

なんだそれ。

ウォーロックを運用していた強襲部隊の様な事をしおって。

 

いや、それって……。

 

 

「いうな。 今は任務に集中しろ」

 

 

…………ウッス。

 

 

「準備が整い次第、出撃してくれ。 健闘を祈る」

 

 

そう言って敬礼されたので、俺も返礼。

心にも発生したモヤモヤした霧。

だが仕事は仕事で集中しなければならない。

戦場では一瞬の油断が命取りだから。

手にSLS、背中にMLRA-TWを背負い装備を整えると、俺はStorm2と合流しに向かった。

 

 

 

 

 

◆キール港手前、濃霧の中

只野二等兵視点

 

 

「周囲に気を配れ。 センサー、感覚、音、全てを見落とすな!」

「「イエッサー!」」

 

 

Storm2……軍曹が俺らに指示しつつ、再び戦場へ。

 

霧海、その海中を俺ら歩兵隊は泳ぐ。

右も左も白いモヤしか見えず、側にいる筈のStorm2の面々も薄らとしか見えない。

こうも見えないと、方向感覚が狂いそうだ。

経験はあるが、慣れないね。

 

 

「おぅ、只野の兵装は改修型なんだって?」

 

 

唐突に軍曹の部下が訪ねてきた。

濃霧の中で呑気だな、おい。

なんてこと無いってか、流石は精鋭。

俺には真似できないね。

でも、雑談で気が紛れる。

心の霧払いになって良い。

 

無線越しに、しかし探さずに銃を構えつつ会話する。

 

 

「PA-11SLSですか?」

「ああ、倍率スコープにレーザーサイト付、性能自体も良いんだと? 羨ましいぜ!」

 

 

あー……そういや軍曹チームって、隊長の軍曹を除くと皆、初期のPA-11なんだよな。

精鋭部隊の筈なのに、ずっとソレなのだろう。

逆に二等兵の俺に改修型が回ってくるとは。

なんだろうね?

 

 

「俺もブレイザーを使いたいって申請したんだがよ。 銀の巨人、【かの者】を倒した後も何も変わりゃしないぜ!」

 

 

かの者、ね。

俺は見た事ないが、軍曹達は見たんだよな。

して、生き延びた。

どんなヤツだったんだろうか。

 

俺が考えてる間も文句たらたらな彼に、別の部下が割り込んでくる。

ウチの軍隊って皆、おしゃべりである。

 

 

「そういうな。 PA-11も良い銃だ。 2018年に採用されたEDF主力自動小銃で安定した性能。 確実に動作するし、もし故障したり紛失しても予備部品も多く、直ぐに代えが効く。 様々な局面で、信用に値する銃だ」

 

 

リスペクトするねぇ。

怪物の大群相手だと火力不足なんだけど。

使い易いのは同意しておこう。

 

 

「それに、長く同じ銃を使用していると、その癖を把握するぶん、レンジャー訓練を受けてきたとはいえ、他の銃に直ぐ対応出来ない可能性が出てくる。 その観点から俺たちではなく新人、二等兵に新型や改修が回されるのかもな。 只野は……階級こそ二等兵だが、新人と呼ぶワケにはいかないな」

 

 

それ、喜んで良いのか?

強い武器を渡されるのはありがたいけれど。

 

 

「私語は慎め!」

「「イエッサー!」」

 

 

叱られた。

そうだぞ、集中しなきゃ。

 

そうやって、霧の"海底"散歩を憂鬱に歩いていると、無線が再び入ってくる。

サーニャからだ。

 

 

『こちらリトヴャク中尉です。 敵影なし。 そちらは どうですか?』

 

 

戦場に似つかわしくない、儚く可愛い声。

それに反応するは、隊長の軍曹である。

 

 

「こちら軍曹。 センサーに感なし」

 

 

勇ましい声で、短い返答。

華はないが、頼もしい。

 

 

「いや待て! 今、センサーに2つ反応!」

 

 

むっ!?

俺も慌てるように確認!

赤丸が2つ、別々の場所にいるぞ!

 

 

『こちらも確認しました。 ですが1つです』

 

 

なに?

EDFのセンサーより良いだろうサーニャの魔法では ひとつ……?

 

 

「どういう事だ? センサーの不調か?」

「さすがEDF製だな!」

「センサーは万能じゃないですから」

「いつものことさ」

 

 

軍曹や俺らも、皮肉を混ぜつつ同じ疑問になる。

センサーが検知しない事はあっても、ない筈のものが映った事は無い。

 

 

『EDFのセンサーは壊れてるんじゃないかぁ? サーニャが正しいんだ』

 

 

ここでエイラのサーニャリスペクト。

まぁ、言うことはいつもみたいなモンだから置いておいて。

 

無いものが映ったとか?

 

幽霊じゃないんだ。 あってたまるか。

戦闘ロボットの脚にびっしり付いた砲台ひとつひとつに反応する事はあってもだ。

いや、エイラの言う通りセンサーが不調の可能性は否定出来ないな。

 

 

「なんにせよ、2つとも接近、其方を十字砲火出来る位置どりをしつつある。 エラーとは思えない! 危険だ、撤退しろ!」

 

 

軍曹の判断も正しい。

階級はウィッチの方が上だが、こうして命令口調で話すのは"ガチ"だからだろう。

 

後がない戦況でもない。

連合軍や空軍が無差別爆撃をしてくるワケでもない。

空の2人も慌てる理由はない筈だ。

 

 

『了解しました。 いちど撤退します』

『軍曹たちは、どーするんだ?』

「センサーを頼りに索敵、攻撃を試みる! それでダメなら別の手だ!」

『了解。 お前たちなら、きっと任せて大丈夫だもんな!』

 

 

向こうも、歴戦の猛者の気迫を感じてか、了解して撤退。

センサー上の敵が攻撃ポジションに着く前に離脱する事が出来た様だ。

敵が追撃する様子もない、大丈夫そうだ。

 

 

「さて、仕事の時間ってワケだ」

 

 

部下が面倒臭そうに言った。

仕方ないじゃん、軍曹がやるっていうなら、付き合うしかないだろう。

 

そんで、どうするんだ?

濃霧で視認は不可能に近い。

弾をセンサー反応方向にばら撒くの?

 

 

「敵は2つ。 霧の中でも此方が見えている行動を取っていた。 しかも戦術的にだ。 恐らくネウロイだ」

「厄介ですね」

「エイリアンより楽だと良いがな!」

「俺たちにはセンサーがある。 有効活用しない手はない」

 

 

軍曹が言い、部下も言葉を並べる。

やっぱり弾をばら撒くの?

 

 

「……ネウロイは目標を歩兵隊にしたようだ。 高度を下げている。 方向からして標的はラビットチームだ!」

 

 

言われてセンサーを見る。

確かに探索している他部隊、ラビットに向かっているな。

 

ラビットチームは、軍曹チームと同じくレンジャーの少数部隊だ。

開戦した際、工業地帯で孤立、多数のドローンを相手にしていた部隊である。

今日まで生き延びているので、精鋭部隊に変わりない。

きっと大丈夫だ、今回も生き延びる。

 

軍曹は無線を各部隊に繋ぐと、ラビットや展開する部隊に指示を出した。

 

 

「軍曹からラビットへ! ネウロイは霧に紛れて攻撃するつもりだ! センサーに気を配り、反応する方向に弾をばら撒け! 他の部隊はラビットの救援へ向かえ! 戦力を集中し、迎え撃つ!」

 

 

やっぱりな。

短絡的、しかし有効な手段だ。

 

 

「我々も救援に向かう! 走るぞ!」

「「イエッサー!」」

 

 

軍曹が片手を振り、部下や俺に指示を出す。

俺らは霧の中、ダッシュで向かう。

素早くPA-11SLSを背負い、代わりにMLRA-TWを手に持つ。

すぐさま起動、上部ミサイルハッチ解放を確認。

トリガーを引きっぱなしにしてロックオン状態維持、標的を直ぐに迎撃出来る姿勢を取りつつ、俺らは霧の海を進んだ。

 

 

 

 

 

ーーーーーー EDFーーーーーー

濃霧の戦闘

 

 

「来るぞ! 撃てッ!」

 

 

濃霧の中。

ラビットチームは、視界の効かない中、センサー反応を頼りに襲撃してきたネウロイを攻撃する。

 

 

「ミサイルを使え!」

「はいっ!」

 

 

装備は工業地帯の時みたいなPA-11のみの軽装ではない。

ひとりはFORKーA20というMLRA-TWに似た鉄箱……20連装ミサイルランチャーを装備。

これでネウロイと思わしき標的をロックオン、20発もの2連小型ミサイルを同時に発射、空に広がる霧の海へと小型ミサイルを沈ませていく。

他の隊員は、いつものPA-11でフルオート。

無数の弾丸が霧へと消えていくが、霧の中では手馴れの銃でも当てずっぽうの発砲であり、センサー反応は健在のままだった。

 

 

「くそっ! 手応えがない!」

「敵は2つある! もう一方を攻撃してみろ!」

「了解!」

 

 

拘らず、すぐさま標的を切り替え、もう1匹を攻撃。

ミサイルが別の方向へ飛翔し、霧の大海の中から爆音が聞こえた。

 

 

「やったか!?」

 

 

命中したと思い、喜ぶもつかの間。

センサー反応は健在のまま。

 

 

「なに!?」

「撃破ならず!」

「撃ち続けろ! 装甲を抉り続ければ倒せるはずだ!」

 

 

言われた対空要員は、ミサイルパックを交換、リロードすると素早くトリガーを引き続けてロックオン。

ロックオン完了音が聞こえた瞬間、指を離しす。

バシュッという連続した音と共にミサイル群を再び大海へ沈ませる。

 

またも爆音。

先程より音が近いのは、寄られている証拠。

同時に遮蔽物ではなく標的に命中した意味でもあるが、センサー反応は健在のままだ。

 

 

「硬い!?」

 

 

装甲が強固だと思うラビットチーム。

だが対抗手段は撃ち続ける他ないと思い、戦闘続行。

だが、赤いα型のように相手は倒れてくれない。

 

して、相手はお返しだとばかりに、ビームを放ってきた。

 

 

「くるぞ!?」

 

 

霧の海から僅かに見える赤き閃光。

それは一瞬で地面に到達、ラビットチームを吹き飛ばしてしまった。

 

 

「ぐわああッ!?」

 

 

吹き出し花火のように隊員が、人間が宙を舞う。

さながら、かつてのエイリアン砲兵の攻撃を喰らった時のようである。

やがて重力でボトボトと落ちる様は人間は、ちっぽけな存在でゴミなんだと言われているかのようだ。

 

だが、EDF隊員も倒れない。

ラビットチームは呻き声を上げつつ、膝を地面に着きつつもヨロヨロと立ち上がった。

 

 

「ぐっ……みんな、だ、大丈夫か!」

「なん、とか……生きてる」

「アーマー破損……、まだ戦える」

 

 

そこはEDF隊員と強靭な戦闘服とアーマー。

通常の人間がビームを喰らったら、バラバラかミンチより酷い状態で絶命しかねない攻撃なのに、なんとか耐えた。

モブでもこの強度なので、いかにEDF全体が精強精鋭か分かるだろう。

ただ戦時は、エイリアンの文明レベルや物量が圧倒的だったり、ストームチームが群を抜いて凄まじい強さだったので弱く見えるだけである。

 

 

「こちらラビット……! 救援はまだか! このままでは全滅だ!」

 

 

だが、ピンチに変わりない。

霧に銃弾を撒きつつ救援を求めるラビット。

敵はセンサー上で健在、倒れる様子もない。

 

一方で、ネウロイは倒れない隊員を攻撃し続ける。

確実に殺そうとしてか、とうとう2つの赤丸方向からビームが飛んできた。

 

 

「うわあああ!?」

「十字砲火だぁ!」

「大至急、救援を! 持ち堪えられない!」

 

 

そう救援を求めた刹那。

無線ではなく、生の声が霧の海に響き渡る!

 

 

「待たせたな!」

 

 

して、ネウロイのビームとは違うビームが霧の海を貫いた!

軍曹のブレイザーだ!

その線状の光源は、濃霧の中でも薄らと見え、希望の光のようである。

 

 

「軍曹ッ!? 軍曹ですか!」

「ああ! 他の部隊も来たぞ!」

 

 

救援の喜びから、光に縋るように見渡すラビット。

相変わらず霧ばかりで光以外は見えない。

だが見えずとも分かる、仲間が来ている事に!

 

 

「おうよ! 助けに来たぜ!」

 

 

今度は別の声が聞こえた。

野太く、勇ましい声……散開していたフェンサー部隊が駆け付けたのだ。

機関砲かと見間違う程に大きな散弾銃、デクスター自動散弾銃を片手で持ち、散弾を霧空へとばら撒く。

パワードスケルトンがなければ携行すら出来ない高火力の武器を難なく扱う彼らだからこそ、出来る荒技である。

それを厄介だと思ったのか、ネウロイは彼らにビームを発射。

 

 

「ビームが!」

「任せろッ!」

 

 

それは霧の中にも関わらず寸分違わぬ正確無慈悲な精度で飛んできたが、

 

 

「ふんっ!」

 

 

なんと、ビームは着弾する事なく跳ね返ってしまった。

フェンサーのひとりが、左手に装備するリフレクターを起動させ跳ね返したのだ。

 

 

「どうやらネウロイ野郎、ガリアでの戦訓を活かせてないようだな!」

「もう少し賢くなる事をオススメするぜ」

「フェンサーを舐めるな」

 

 

煽りつつ、霧の中に散弾をばら撒くフェンサー。

ラビットチームに寄り添い、ディフレクション・シールドで庇うのも忘れない。

だが戦況は好転する様子を見せない。

 

 

「ちっとも堕ちないぞ!?」

「奴ら装甲を強化しやがったのか!?」

「散弾ではなぁ!」

「赤色機より強いぞ!?」

「火力の高いヤツを持ってくるべきだったか!」

 

 

フェンサーが来てもなお、ネウロイは堕ちない。

そこに軍曹らもブレイザーやPA-11で援護しているにも関わらず。

 

 

「只野! ミサイル発射!」

「了解!」

 

 

そこに只野二等兵の持つMLRA-TW、それも多重ロックオンシステムによる一点集中ミサイル群が霧へと沈んでいった。

が、今度は爆音が聞こえない。

 

 

「着弾せず!」

 

 

避けられたか?

そう考えつつ、また撃てば良いとリロードする只野二等兵。

だが軍曹は違和感を覚えた。

 

 

(これだけの火力でも倒れない? 装甲が厚いのか? いや、片や着弾するも健在、もう片方は着弾しない。 何か妙だ)

 

 

ガードされた訳でもなく、着弾もしていない。

相手の形状や状況を知りたいが、濃霧では確認しようがない。

軍曹は皆に指示を飛ばした。

 

 

「今の装備では太刀打ち出来ない! 全員撤収! 一旦引くぞ!」

 

 

このままでは埒が明かない。

そう考えた軍曹の判断は早かった。

 

 

「了解!」

「大賛成だ、さっさとズラかろうぜ」

「殿はフェンサーの役目だ、任せろ」

 

 

踵を返し、隊員らはジークフリートに撤退。

逃がさんと追撃してくるネウロイだが、そこはフェンサー部隊の出番。

脚が遅く、鈍重なのもあるが、火力と防御力の高い彼らが壁となる事で、撤退する歩兵を援護する。

 

ザ・フォッグ。

 

アニメにも出てきた霧は歴戦の隊員を退けた。

だが隊員も霧海に溺れ死ぬ事はなく、引き分けの形で初戦は幕を閉じたのである。

 

 

 

 

 

ーーーーーEDFーーーーー

サーニャ視点

 

霧に隠れて見えない敵。

夜間よりも視界が効かない状況での索敵や戦闘は、とても難しい。

 

目隠しをして飛んでいると言っても、良いくらい。

 

ナイトウィッチである私は、それを良く知っている。

 

こうなると有視界飛行は困難。

ほとんど計器飛行で動かないとならない。

 

それで白羽の矢が立ったのが、ナイトウィッチであり全方位広域探査の魔法が使える私に出撃命令が下りた。

 

相棒は夜間飛行を共にした事もある、エイラ。

 

地上はEDFの部隊が展開。

空と陸、一緒にネウロイを捜索。

 

EDFも個人携行可能な探査装置を持っていて、それを頼りに行動するみたい。

 

見た限りだと、アンテナや装置の類は見当たらなかったけれど……小型化されているみたいで、正直に凄い技術だと思う。

 

南の島にいた只野さんも出撃。

そんな、とても強い男の人もいるんだもの。

きっと、大丈夫よね。

 

そうして、霧のエリアに侵入。

探査を開始。

 

暫くして、ネウロイの反応を検知。

EDFでも確認、戦闘態勢に。

 

だけど妙な事に、私は1つしか反応がなかったのに、EDFでは2つ反応したと報告。

エイラはEDFのは壊れてると言ったけれど、不思議とそうは思えなかった。

 

EDFの軍曹さんが言うには十字砲火出来る位置取りをしているとのこと。

本当だとしたら、とても危険な状況。

軍曹さんの指示……ううん、"提案"で、私とエイラは先に撤退する事になった。

 

後は歩兵隊に任せる形になってしまったけれど……あの人達なら大丈夫。

エイラも、そう言っていたもの。

 

もし倒せなくても、生きて戻ってくる。

根拠はない。

だけど、どこか誇らしい自信をEDFは、只野さん達は与えてくれたから。

 

私たちは安心して任せて、撤退出来た。

 

そんな中。

それを見た。

 

もう少しで霧から抜けるという時だった。

 

 

(あれは……ウィッチ?)

 

 

晴れかかった、だけど浅く流れる霧の波の向こう。

白く、ボンヤリとした人影が揺らいだ。

 

魔法針は探知していない。

でも、誰かいる。

 

白銀の、綺麗な女の子。

 

 

「エイラ、2時の方向」

「うん?」

 

 

不安感。

して幻想か現実か分からなくて。

 

エイラにも見てもらおうとして、そう言ったけれど。

 

 

「何もないぞ。 なにか探知したのか?」

 

 

そう言われてしまった。

目を凝らして見直すと、既にその空間にはなにもなかった。

 

霧が物静かに、薄く漂っているだけ。

 

 

「いま、人影が見えたの。 白銀の、白くて綺麗な子」

「んー? サーニャしか見えないぞ……あっ、変な意味じゃないからな!?」

 

 

……気のせい、だったのかな。

 

幻影。

ううん、あの子は本当にいた筈。

 

かつて、ペリーヌさんに言われた"幽霊"を思い出す。

もう仲直りしたけれど……幽霊、魔導針の反応もなくて、見た光景はまるでそのようで……。

 

ジークフリート線に戻ったら報告しよう。

EDFなら、なにか知っているかも知れないから。

 

 

 

 

 

◆ジークフリート線

Storm1視点

 

 

「───報告、ありがとう。 作戦を変更しよう」

 

 

帰還したサーニャと軍曹からの無線報告から、やり方を変えないとならないと感じた。

一応、EDF空軍の偵察爆撃機にも飛んで貰い、キールの地上や周辺空域を空撮してきて貰ったが……霧しか写っていない。

このままでは いつも通り、誘導兵の俺が直接座標伝達しなければならないな。

 

ビームがそれぞれから飛んでくる事から、敵は確実に2体。

だが、サーニャの探査網に掛からないのは気になる。

この場合、疑うは探知範囲や方式の違いだ。

俺が元技術屋という側面なのもあるが、この事から可能性を割り出してみる。

 

 

「EDFの個人使用しているセンサーは、光・温度・圧力・流量等を簡易的に検知、我々隊員に処理し易いようディスプレイに表示する。 サーニャの全方位広域探査の魔法との違いは……分かりやすいのは探査距離。 水平線の向こうまで探査出来るらしいからな、隊員のセンサーは、そこまで探査出来ない。 それにも関わらず検知出来ないならば、エイラの言う通り故障の説もある。 だがネウロイは無線妨害も行えることから、欺瞞情報を流された可能性も……欺瞞?」

 

 

ブツブツと思考し、仮説を立ててみる。

欺瞞……あざむく、だます。

そんな事をネウロイがするならば。

或いはコチラが探知出来ない、ステルス性の高いボディをしているなら?

 

サーニャの探査魔法は、短波を含む電波を発信、感知する事で周囲の状況を把握する事が出来る。

 

またサーニャに限らず、ウィッチらが探査魔法を使う際、頭上に魔法のアンテナが形成されているが、それを魔導針といったか。

従来のやり方では、全方位に拡散して探査していた為、大体の方向や距離、大きさしか分からなかったらしい。

だが魔導針を使用する事で、探査魔法に指向性を持たせ、その分、より強力な探査を行える様になったという。

魔導針には種類があり、サーニャの場合はリヒテンシュタイン式魔導針というらしい。

見た目通り垂直方向に2つ、水平方向に2つの帯域で魔法探査を行う。

この様にして魔法探査の方向をあらかじめ定めることにより、より確実にネウロイとの距離、移動方向、移動速度などを三次元的に把握することができる。

 

……魔法を多少は知っておこうと調べていた時、魔導針に関する資料で「八木・宇田」の名前が出てきたのは不思議な気分だった。

魔法のない、我々の世界でもあったからな。

やはり、コチラと我々の世界は似ている。

八木・宇田アンテナの話だ。

身近だとテレビを受信する際に使う、家の屋根に取り付けられた魚の骨のようなヤツだ。

こちらではウィッチの使う魔法関係では八木・宇田式呪術陣というらしい。

魔導針の仕組みとしては、魔法探査を行うウィッチに術式を教え、頭の周囲に八木・宇田式呪術陣を形成させて指定の方向の探査を行う。

因みにテレビ受信用アンテナとして使用する場合「く」の字じゃない方を電波の発信所に向ける。

 

と、関係ない思考までしてしまったな。

 

 

「結局のところ、魔導針を用いた魔法探査は、1方向に強い魔法探査を行なっているだけだ。 そこの帯域をすり抜けてしまえば魔法探査にひっかからない。 探査はしっかりと行なっていたのに検知しなかったならば、それはネウロイの形状に問題がある。 例えば骨組み状でスカスカしているとか、な」

 

 

この仮説が正しければ、確かに。

サーニャの探査魔法では拾えない。

逆にEDFのセンサーが拾えたのは、ネウロイの持つコアや動き、ビーム発射源を検知したからか。

 

こんな事、エイラが知ったら憤慨しそうだ。

またダイレクトアタックされてしまうな。

サーニャを随分と気に入っているからな、否定されるような要素を聞けば怒るだろう。

まだまだ子どもらしく、可愛いヤツだ。

 

では、サーニャが検知出来た片方のネウロイは?

装甲が厚すぎて破壊出来なかったのか?

それは分からないが……大火力をぶつけてみるか。

 

 

「後は"実戦"あるのみだ」

 

 

俺は無線を繋ぐと、要塞の皆に連絡する。

 

 

「Storm1から討伐部隊へ。 敵は2つと断定する。 うち1つは攻撃が当たらず、もう1つは命中すれども倒せない。 だが幽霊ではない筈だ。 すり抜ける敵には面射撃で空ごと撃ち抜き、弾が当たるヤツには大口径弾等を用いて撃破せよ。 出撃予定の隊員らは装備を整えて待機していてくれ。 なお、ウィッチには休んで貰う。 今度は歩兵隊のみだ。 以上」

 

 

取り敢えず、試してみるか。

して、他にも報告であった、サーニャが見たという幽霊の話。

 

恐らくだが、それはWDF。

シルバーだ。

 

軍曹ちゃんか、曹長ちゃんかは知らない。

 

だが、そうだろう。

 

 

「…………"違うところ"で運用実験をしないで欲しいものだな」

 

 

そう言っても仕方ない。

何か意図して、わざと危険空域近辺を飛行させているのか。

士気が下がる、誤射や事故の危険もある。

それとも……それすら、わざとか?

 

 

「考えても仕方ない。 今はネウロイだ」

 

 

……只野には黙っておこう。

 

そう思った矢先、トントンと会議室の扉がノックされた。

 

 

「鍵は空いている。 入って良いぞ」

 

 

そう言うと扉が開かれ、1人の女性が入ってきた。

501部隊長のミーナだ。

本部から増援という形でやってきた。

それはありがたいが、1人だけなのも心許ない。

信用していないワケじゃないのだが。

 

 

「失礼します」

「ミーナか。 どうした?」

 

 

501関係の話だろうか。

 

 

「はい。 今の無線の件と、サーニャさんから気になる話を耳にしましたので。 その事について、聞きたいことがあります」

 

 

無線はともかく、サーニャの話か。

しまったな、サーニャは501部隊だ。

報告は俺だけでなく、ミーナにも当然される。

やはり、隠せる話ではないな。

 

 

「ウィッチを休ませる事はありがたいのですが、事前に相談して欲しいと思いまして」

「すまないな。 皆、疲れていると考えて独断してしまった。 反省はしている」

「はい。 次にサーニャさんから聞いた話なのですが」

「なんだ?」

 

 

きた。

コレはとぼけても無駄だ。

ミーナの真っ直ぐな視線の中には、多少の疑惑が含まれている。

ミーナは隊長として部隊を運営するにあたっても、政治的な手腕を発揮する面があるという。

誤魔化せば、ミーナに核心を突かれる。

それは避けねばならない。

少なくとも、今はな。

 

 

「戦場でウィッチらしき人影を見たとの事です。 なにかご存知ですか?」

 

 

ここで知らないと嘘を言えば、後々面倒になる。

良心が痛む。

事実を混ぜつつ、話そう。

 

 

「近くにEDFの別働隊がいるそうだ。 ウィッチ運用ノウハウがないからか、運用実験をしている。 恐らく、参加しているウィッチを見たのだろう」

 

 

WDF計画は伏せつつ、ミーナに話す。

だが、ミーナの目は細まり疑惑を深めた。

 

 

「ここは危険な空域です。 このような場所でわざわざ実験をする必要性を感じません」

「そうだな。 その通りだ」

「では、なぜ?」

 

 

俺が聞きたい。

 

 

「俺はEDF全体を知っているワケではない。 上に意見出来る事はあってもだ。 組織は1枚岩じゃない、君も分かるだろう?」

「では、上に具申をお願いします」

「わかった、そうする……他には?」

 

 

波状攻撃に耐え、つきそうになる溜息を我慢して言うと、ミーナは仕事モードを切って言う。

少し悲しげな、不安そうな表情で。

 

 

「……ストームさん。 EDFは、私たちウィッチは、どのように見えているの?」

「守るべき人類だ」

 

 

迷い無く言う。

これはEDFの総意だ。

そう、ただ……考え方が違うだけだ。

 

 

 

 

 

ーーーーーー EDFーーーーーー

只野二等兵視点

 

次も出撃予定だ、チクショウ。

とまぁ、文句言っても仕方ない。

生きているだけ儲け物と考えないとな。

 

 

「さて、装備はどうしようかなっと」

 

 

俺は武器集積所と化している格納庫に向かい、本隊様のブラッカーA1の横に並べられた銃火器を眺める。

ブラッカーね、対空戦闘には向かないし霧の中だから出番が無いのは仕方ない。

でも戦車兵の中には空を飛び回るエイリアン幼生体に主砲を当てていた気がするがな。

スゲェと思うが、やはり軍勢相手だと不利だった。

霧も出ているからね。

 

装備は軍曹達にも好きなのを持って来いと言われたのでね、好きにさせて貰う。

 

面射撃が出来る武器と重装甲を破壊出来る重火器だな。

陸戦ならショットガンとロケランを担ぐところだが、霧空を飛ぶ相手だ。

射程の無い普通のショットガンは厳しく、視界の効かない中での単発ロケランも遠慮したい。

倍率スコープ付きでも、霧が酷いから役に立たない。

 

 

「そういやサーニャと武器の話をしていた時、レパード誘導ロケットの話をしたな。 それを持って行くか?」

 

 

と、思ったが。

霧で相手が見えないのに誘導なんてマトモに出来ない。

仕方ない、別の武器を選ぼう。

 

 

「単発ゴリアスは論外だ。 弾数でも勝負したいからな……カスケードにしよう」

 

 

サーニャの持つ、フリーガーハマーに似た長方形な武器を背負う。

トリガーと小さな照準器が付いていなければ、ナニこの箱と思うソレ。

これは前後の蓋を取って伸ばす事で使用可能状態にし、30発前後もの小型ロケット弾を連射出来る。

ただ小型ロケット弾は連射性能を高めるため、限界まで軽量化されており、結果として精度が低下している。

また、小型なので1発の破壊力は低い。

まあええわ。 面攻撃用にするので。

今回は許したる。

 

 

「次に高威力の武器だ。 どうする俺」

 

 

やはりゴリアスか?

いや、南の島で使用したプロミネンスにしよう。

そう考えて、個人携行出来る限界を超えかけていそうな大砲を持ち上げる。

 

 

「うん……プロミネンス、デカいし重い。 取り回しも悪い」

 

 

てか、こんな大砲みたいなデカい大型誘導ミサイルまで要塞に持ち込まれていたのか。

予備弾薬類もだが。

兵站も担う補給・輸送部隊は大変だ……感謝するよ。

南の島を思い出す。

こんなものをStorm1はどこにしまっていたんだ。 謎である。

 

 

「なんか偏ったけど、何とかなる。 軍曹もいるし」

 

 

フラグを立てつつ、俺は集積所を後にした。

きっと大丈夫……大丈夫だ。

今度も生き延びる。 そう願う。

 

 

 

 

 

◆キール港手前、濃霧の中

濃霧の戦闘、2戦目

 

再び同じメンバーで、ネウロイに挑むEDF歩兵隊。

霧は相変わらずで、視界が効かない。

だが今度は勝つぞと皆の士気は高かった。

 

最初はネウロイを見つける為、部隊を分散させて捜索。

フェンサー部隊、ラビット、Storm2と只野二等兵。

あと、戦闘には参加しないがスカウトも捜索している。

見つけたら最寄りの部隊から交戦し、他の部隊も駆けつけて戦力を集中運用、撃破する作戦だ。

 

 

「只野の装備は全部ミサイルやロケットか」

 

 

霧の中を捜索しながら、軍曹は言う。

別に攻めているワケではない。

そうくるなら、彼の運用方法、立ち位置を考えなければという思いだ。

 

 

「カスケードは、分かっていると思うが精度は荒い代わりに弾数は多い。 面攻撃に使うなら扇状に発射しろ。 攻撃効果を高めるんだ」

「勿論です」

 

 

運用方法を説明する軍曹。

それを素直に聞く只野二等兵。

いくら強力な兵器とはいえ、使い方を誤れば持ち腐れである。

地底で空爆や砲撃要請をするような、おバカな真似はいけない。

 

 

「もうひとつはプロミネンスか。 良くあったな」

「はい。 なんかありました」

 

 

只野は淡々と言うが、プロミネンスは大砲のようにデカい大型ミサイルランチャーであり、見た目相応に危険物である。

それを雑な集積所に置いていたEDFの管理体制はどうなっているのだろうか。

戦場の混乱の中で行方不明になった武器もあるが、とあるヤベェ手榴弾は危険と書かれた貼紙を貼って倉庫に放り込まれていた事もある。

他の武器にも言えることだが、やはりEDFは雑なところがある気がする。

 

 

「だが、ロックオン圏内に入っても直ぐに撃つなよ。 重装甲用に持ち込んだのだろうが、センサー上では分からない。 無駄撃ちを避ける為、まず俺たちが見極める。 只野が撃つのはそれからだ」

「了解」

 

 

只野は了解、センサーに注意しStorm2の背後を進む。

ロケラン系なので前衛は味方に任せるのだ。

 

なお、軍曹はブレイザーのままだが、部下は別のライフルを手に持っている。

徹甲榴弾をフルオート発射可能なミニオンバスターMKX、セミオートだが強力なAP弾を発射するG&M-A29である。

面射撃には向かないが、破壊力は凄まじい武器である。

 

 

(まだ敵は出てこないか)

 

 

一方、只野二等兵。

一応、撃つ気は無いがトリガーを引きっぱなしにしてロックオン探査を行う。

プロミネンスはレーダー支援システムを使えば1キロ超えのロックオン距離を軽く稼げる為、敵の方向を知るのに使っているのだ。

流石に20キロは無理だが、センサーと併用する事で信用性や索敵能力を高めている。

味方部隊がいなければ、隙が大きく運用の幅は狭まってしまうが、今回も大丈夫だろう。

 

そんな時。

 

 

『こちらフェンサー! ネウロイ野郎を探知した! こちらに向かっている! 援護してくれェッ!』

 

 

野太い声が霧海に響き渡る。

すぐさま救援に向かうべく、軍曹達は走った。

 

 

「走るぞ!」

「「イエッサー!」」

 

 

いざ再戦。

只野二等兵は軍曹たちの後に続き、他の部隊も現場に急行する。

装備を変更した隊員らだが、今度は勝つ事が出来るのか。

 

 

 

 

 

ーーーーーー EDFーーーーーー

 

 

フェンサー部隊に狙いを定めたネウロイは、そこそこの高度から撃ち下ろす十字砲火を行った。

それは歩く前哨基地直下で受けた、砲撃の劣化版のようだ。

これをシールドで防いだり、跳ね返す。

だが激しい砲撃の合間を縫えず、ネウロイは反撃の隙を与えてくれない。

これにはフェンサーも苛立ちを覚えてしまう。

 

 

「ぐうぅ……ッ!」

「折角の高火力を発揮出来んとは!」

「耐えろ! チャンスは来るはずだ!」

 

 

シールドを構え続け、ビームに耐える。

フェンサーは火力こそ装備次第で戦車を上回るが、機動力が代償になっている。

それを補う為に、スラスターやジャンプブースターが"ランドセル"に付けられるが、今は使っている余裕はない。

使っところで、敵の正確な形状や位置も分からない。

退却する時に使えても、この状況下で戦闘に活かすのは困難だった。

 

 

「ならば!」

 

 

だが、そこは歴戦の勇士。

反撃の手立てを考え、実行に移す!

 

 

「ふんっ!」

 

 

なんと、1人のフェンサーがシールドを地面に突き刺し、その上に巨砲【35ミリ ガリア重キャノン砲】を載せたのである!

 

 

「頭良いなッ!」

「だろ? 脳筋とは言わせねぇ!」

 

 

これで盾を構える必要は無くなり、また砲を盾に載せる事で安定化、砲撃に集中する事にも成功。

 

 

「反撃の時間だぜ、ネウロイ野郎!」

 

 

勇ましく叫ぶと、フェンサーは霧海を響す砲撃音と閃光を瞬かせた!

 

35ミリ ガリア重キャノン砲の咆哮が、異界の霧海に響く!

 

それは最高性能の個人用重火砲。 貫通力に優れた特殊砲弾を発射する。

個人用としては最大級の兵器であり、その重量はパワードスケルトンの出力を最大にすることで「かろうじて運搬可能」というレベル。

大口径であるため、生身の人間なら発射時の反動だけで命を失いかねない。

恐らく、頑丈なウィッチとて耐えられない。

それを運用可能にしているフェンサーや、身に纏う強化外骨格は凄まじいものだ。

 

して、放たれた砲弾は重装甲と思われるネウロイに命中したらしく、霧の中から爆音が聞こえた。

 

 

「よしっ!」

「どうだ! 参ったか!」

 

 

ネウロイからのビームが止まり、フェンサーの脳裏に勝利の言葉が過ぎる。

流石に、あの砲撃を喰らって無事では済むまい……そう考えているからだ。

が、しかし!

 

 

「ナニィッ!?」

 

 

またもビーム攻撃が再開された!

まるで、その程度は擦り傷だとでも言わんばかりだ。

 

 

「馬鹿な!」

「今までのネウロイ野郎なら、これで倒せたぞ!?」

「今までと違うんだろうよ!」

 

 

再びシールドで身を守るのに徹するフェンサー。

このままではやられる……その時、軍曹達がやって来た。

 

 

「無事か! 援護する!」

 

 

霧海を、一筋の光が横切った。

今度は薙ぎ払うような照射であり、より攻撃範囲を広げての攻撃だった。

 

 

「喰らえ!」

 

 

そこに部下も加勢。

徹甲榴弾の容赦ないフルオートの横殴りの雨や、貫通力のあるAP弾が霧へ沈んでいく。

 

 

「フェンサー! 装甲の厚いヤツはどっちだ!?」

「今、攻撃してるヤツだ!」

「分かった! 只野、撃て!」

「イエッサー!」

 

 

そこに後方に控えていた只野二等兵が、プロミネンスミサイルを発射!

空高く火の玉が上がっていくのが、僅かに見えた。

 

 

「着弾するまでヤツを引き付けろ!」

 

 

軍曹の言葉に弾かれたように、更なる弾幕がネウロイを襲う。

セミオートで放たれている筈のAP弾も、連射速度が増してフルオートのようになっている。

 

 

「みんな撃て! 撃ちまくれ!」

 

 

そこにラビットが到着。

担いでいるロケットランチャー、グラントM32を撃ちまくり、ロケット弾が霧海の中で爆発していく。

 

 

「只野! カスケードに持ち替えて、センサー反応方向にばら撒け!」

「了解!」

 

 

言われた只野は、プロミネンスのリロードを中断。

武装を切り替えてカスケードの武装展開を瞬時に行い、トリガーを引き続ける。

 

 

「当たれッ!」

 

 

30発装填のロケット弾を景気良く放ちつつ、センサー反応方向に、横になぞるように砲口を動かす。

扇状に、バラバラに飛んでいくロケット弾。

いくつかは命中し、霧の中から軽い爆音が聞こえてくる。

 

やがてネウロイの天辺に到達、落下したプロミネンスミサイルが着弾。

大きな爆音となって、霧を刹那的に吹き飛ばした。

 

 

「さすがはプロミネンスだ!」

「流石にくたばっただろうよ!」

「じゃなきゃ困ります!」

 

 

部下が口々に言いつつ、センサーを見て攻撃効果を確認する。

そこには赤丸表示が消滅しており、残すは1体となっていた。

 

 

「よし! 後1つだ!」

「弾があたらねぇヤツだな!」

「敵の戦力は削った。 そのぶん、楽をさせてもらおう」

 

 

フラグを立てつつ武器を面射撃用に切り替える隊員ら。

すぐさま反応方向に銃口を向け、撃ちながら前進する。

 

 

「勝利は目前だ!」

「すすめー!」

「EDFッ!」

 

 

フェンサーは同じデクスター自動散弾銃、ラビットも散弾銃、ただしポンプアクションのスローターE20で攻撃。

軍曹はブレイザーで薙ぎ払うように攻撃、部下は銃口を小刻みに動かして弾道を変えつつ攻撃。

只野二等兵は、カスケードでロケット弾をばら撒いた。

 

なんか、対空戦闘にナンセンスな武装な気がするが、EDFは そういった武器でも なんだかんだ空飛ぶ敵と対峙してきた。

 

それこそ、これから来るような……乱入者に対しても。

 

 

「ッ!」

 

 

一筋の光が走る。

それはブレイザーや、ネウロイのビームではない。

もっと大きく、鋭いもの。

まるで【かの者】の流星の様な体当たりを人間サイズにしたようなもの。

 

 

「なんだ!?」

 

 

それはセンサー上で赤丸を"轢き殺す"。

EDF隊員が苦労した敵を、いとも簡単に倒してしまったのだ。

 

それは いつか見た銀の"死神"のよう。

 

 

「味方か?」

 

 

反応するように霧は晴れ上がる。

して、"犯人"は姿を現した。

 

 

「……ウィッチ?」

 

 

宙に浮くは、1人の少女。

息を呑む程に美しい白銀の髪を靡かせ、色白の肌は光を反射させ神々しい。

カールスラント空軍の軍服を着用しているが、ストライカーユニット無しで宙に浮いていた。

目は虚ろで、物静かに地を這うEDF隊員を見下ろしている。

 

 

「まさか」

 

 

その言葉を吐いたのは、軍曹だったのか只野なのかは分からない。

ただ唯一、ここにいるEDF隊員の"ふたり"は冷や汗を流しつつ誰かを理解した。

 

 

「…………軍曹ちゃん?」

 

 

只野二等兵が力なくボヤいた刹那。

彼女の右手が隊員らに向けられ。

 

 

「総員、直ちに撤退せよッッ!!」

 

 

軍曹が叫んだ。

 

次の瞬間。

眩い閃光が世界を包み込み、次に穏やかな光が直ぐに戻ってくる。

 

そこには既に隊員らの姿はなく、大きなクレーターと。

その中心に浮かぶ白銀の少女がいるだけとなった。

 




EDF隊員が倒したのは子機の方ですね。
それ、倒せるの? というツッコミは許して(殴)。
本体は謎の白銀の少女に倒されました。 アッサリと。

続くか未定。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Witch Defense Forces
50.WDF


緊急事態応急対応:
発:潜水母艦エピメテウス
経由:作戦司令本部
ミッション・コントロールより緊急電。
【緊急プロトコルに切り替わりました】
我、白銀ノ制御能力無シ。
戦闘可能ナ部隊ハ、現在遂行中ノ作戦行動ヲ中止シ、直チニ当該魔女ノ静止ヘ向カエ。
備考:
WDF計画は連合軍にも漏洩している。
エピメテウスの現在地不明。

前回、長文でしたが今回は短め。


いずれ、こんな事になるだろうとは思っていた。

だが、実際に"災害"が起きるとなると、多少なりとも狼狽えるものである。

 

 

「攻撃部隊との交信途絶ッ!」

「何が起きた!?」

「現在地急げッ!」

「状況不明!」

「軍曹達は!? 只野二等兵はどうなった!」

「応答せよ! 繰り返す、応答せよ!」

 

 

突如として攻撃部隊との交信が途絶え、ジークフリート線の本隊は混乱状態に陥る。

それでも懸命に状況把握に努め、やがて偵察部隊が声を上げた。

 

 

「こちらスカウト! 人影を確認ッ!」

「生存者か!?」

 

 

地面が剥かれて出来た穴の上に、微動だにせず宙に浮く銀の人。

それは、生き延びた隊員には悪夢の光景である。

 

 

「あ、あれは……小さいが【かの者】!?」

「馬鹿な! 銀の人はストームが倒した!」

「死神が……か、帰ってきたんだ……俺たちを殺しに!」

「軍曹が! Storm2が やられた!?」

「うわああああッ!!」

「逃げろッ! 逃げろーッ!」

 

 

歴戦のEDF隊員が怯え、竦み、悲鳴を上げて蜘蛛の子散らす様に逃げていく。

 

何故、こんなことが。

何故、かの者が。

 

かの者。

それはエイリアンの神、死神と恐れられた者。

 

地獄を生き延びた精鋭を容易く殺戮していった、圧倒的な存在。

武器も装置もナシに宙に浮き、手から光線を放ち、宇宙から流星群を降らせ、隊員のいる地上ごと粉々に粉砕。

だが、そんな存在相手にストームチームは死闘の末に殺害した。

 

ソイツが復活したとでも言うのか。

 

この異常な事態は、ここにいた者ですら理解が追い付くか怪しいものだ。

 

単刀直入に言えば、皆の知る かの者ではない。

 

WDFが暴走したのである。

 

WDF。

Witch Defense Forcesの略であり、魔女(Witch)を守るチカラでもあり世界(World)を守るチカラ。

 

良く言えば他の魔女を守るし世界も守る、悪く言えば他の魔女がいらない、どんな軍隊をも圧倒する戦闘能力をEDFは得ようとした。

 

EDFの戦略情報部と提案に賛同した者らが本部に無許可で進めた計画で、この世界を掌握する為の兵器でもある。

 

核のようなものだ。

否。 それよりタチが悪い。

なにせ、制御が出来ていないのだから。

 

EDFの持つ武器よりも圧倒的な武器をチラつかせることで各国を脅し、EDFが この世界で有利に立てるようにする。

その為には、この世界にとって身近なチカラであるウィッチの姿が有効だとされた。

して、とあるウィッチ……軍曹ちゃんと曹長ちゃんを実験台にして人体改造、亡骸やデータで得た かの者のチカラを付与、人の姿をした兵器WDFとした。

 

それが暴走。

 

EDFのコントロールから外れ、キール攻略部隊を襲った。

エピメテウスは本部に事態の収拾を要請。

だが戦力に乏しいEDFが、かの者の紛い物である彼女を止められるか怪しく、司令官は現地展開する部隊に託し、祈るしかない。

 

隠密性の観点から、海中深くに潜む潜水母艦エピメテウス艦内で手術を施された彼女は、見た目も大きく変化している。

 

髪は白銀、肌は色白。

太陽の光を照り返す美しさは、女神のよう。

 

唯一、カールスラント空軍の軍服と、前と同じ顔立ちが元はどこの者だったのかを思わす証拠品だった。

 

そんな彼女は濁った虚ろな目で武装のひとつすらしていない。

それどころか、ストライカーユニット無しで空を飛んでいる。

 

ユニット無しで空を飛ぶ、というのは通常のウィッチには困難な芸当である。

それこそ、ファンタジー作品で見るような箒を使って飛ぶのも難しい。

それを簡単に達成して余りあるのだ、WDFは。

 

それだけではない。

 

武装もナシに、隊員が苦戦していたネウロイを瞬殺し、キール近辺で大きなクレーターを生み出すほどに巨大なエネルギー弾の攻撃を行った。

 

それはストームチームが死闘を繰り広げた圧倒的戦闘能力を持つ相手、銀の巨人……エイリアンの神、司令官と思われる存在。

 

【かの者】を思わせてならない攻撃。

 

生き延びた隊員らは、その姿とチカラを見て死神だと恐怖した。

 

それくらい圧倒的なチカラ、悪夢だった。

歴戦のEDF隊員が逃げ出してしまうくらいに。

 

その悪夢を、絶望を断ち切った遊撃部隊ストームチームだったのだが、どうやら悪夢と再戦する日が来ようとは。

 

そんなワケで。

悪夢から隊員らが逃げていく反面、逆に逃げずに立ち向かう者達が出たのは必然と言えよう。

言わずもがな、筆頭ストームチームだ。

 

 

「ヤツも地獄に行きそびれたか」

 

 

最初に名乗りあげるはEDFの死神、グリムリーパー隊ことStorm3。

白銀と相対する漆黒の鎧を照り返し、鈍重に、しかし怖気付く事なく進む。

 

 

「アンコールとあれば、お答えしよう」

 

 

次に名乗るは、ウィングダイバーの精鋭、スプリガン隊。

赤き薔薇の様に美しくも棘のある踊りを披露するべく、前に進む。

 

 

「アレがWDF、シルバーか。 軍曹達が気掛かりだが……あの子も被害者だ。 だからこそ止めねばならない」

 

 

最後に言うは、エアレイダーにして我らが隊長Storm1。

あの子、止めるという言い方をする辺りから、優しさが垣間見える。

 

恐怖の色を微塵も浮かべず、白銀の少女に相対するストームチーム。

 

対して刃向かう者を確認した少女に意思はなく、どろりと濁った瞳に狂気を浮かべて右手をかざす。

 

地はクレーター。

バックは夕焼けの空。

 

宙に浮かぶ白銀の人工魔女に、立ち向かうは地球防衛軍の嵐。

 

西暦1940年代の異界の地にて。

EDFと かの者 は衝突する……。

 

 

 

 

 

◆キール近辺

只野二等兵視点

 

 

「ッ……!」

 

 

イテェなチクショウ。

ぼんやりとした視界が明るくなってきたと思えば、どこかの湾岸に転がされてるときた。

波の音が聞こえ、鼻をつく潮の匂いがする。

他は分からない。

舗装された地面に倒れているらしく、体全体が重い。

 

 

「……なにが、起きた?」

 

 

そう思うも、首と目を動かして痛む身体を確認する。

ネガティブな出血なし。

足、腕、大丈夫だ……動く。

 

センサー、オンライン。

近くに味方の反応アリ。

無線……応答なし。

混線している?

武器は……どこかいっちまったか。

仕方ない。

それより現在地急げ。

とにかく仲間と合流だな……くそっ、痛い。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

鞭打って立ち上がり、周囲を確認。

クレーンや倉庫群といった湾岸設備が見受けられ、やはり港だったらしい。

 

 

「なぜ港に?」

 

 

思わずボヤく。

最寄りの港はキールだ、攻略対象でもあった。

して、俺は……俺らはキールへの進軍ルート上にいるネウロイと戦闘中だった筈だ。

 

頭の霧が晴れていき、記憶が蘇る。

そうだ……2体のネウロイの内、1体を倒して……もう1体を倒そうとした時、誰かが現れたんだ。

 

 

「あれは……あの顔立ちは軍曹ちゃんだった」

 

 

白銀の髪と色白の肌になって、イメチェンしていたが間違いなく軍曹ちゃんだ。

それを確認して直ぐ、俺ら側の……Storm2の軍曹が退くように叫んだんだ。

 

次の瞬間には視界が真っ白になって……今に至る。

 

WDFか、あれが。

 

 

「まさか……軍曹ちゃんに、キール港まで吹き飛ばされたのか?」

 

 

有り得ない。

否。 有り得ると考え直した方が良い。

象くらいある赤いα型の強靭な顎に噛まれて振り回されたり、エイリアン幼生体にしゃぶられながら強制空中散歩をしてきた。

 

 

「よく生きてるよ、俺も」

 

 

それで死んだ者も多い。

開戦から5ヶ月、まだドローンと怪物の攻撃で"済んでいた"時点で総人口の2割を失ったからな。

喰われる、溶かされる、糸に巻かれる、潰される、ドローンに撃たれる……。

日本はマシな方だったが、その時点で社会システムは既に崩壊の危機だった。

幼生体はもう少し後で確認されたが、やはり生物とは残忍だ。

増えるし、喰うし、見た目も最悪。

空を飛んで火を吐くとかドラゴンかよ。

捕食行為が何よりキツい。

ヤツらの口から覗かせる人だったもの。

撃ち殺した時に内蔵から飛び散る、溶けかけたナニかの肉塊、溶け切れない遺品……。

生理的悪寒による鳥肌は、今思い出しても止まらない。

そんな苛酷さは打ち切りを知らずに増して、今じゃ暗黒時代。

俺らの世界は世紀末ヒャッハーに近い。

 

って、俺らの世界は今は良い。

いや良くないが。

 

 

「……1番、残忍なのは俺ら人間かもな」

 

 

審判の日を、数多の惨劇を越えてもなお醜い争いを繰り広げ、挙句に異世界の少女を人体改造して俺らを攻撃したんだからな。

なんの悪い冗談だ。

エイリアンが人類を攻撃した理由のひとつじゃないのか?

 

 

「みんな無事だと良いが」

 

 

雑念を抱きながら、痛む身体を引き摺る様に歩く。

やがてセンサー上の友軍表示まで辿り着くと、そこにいたのは軍曹チームとフェンサーチーム、ラビットチームだった。

 

 

「みんな!」

 

 

俺は痛みも忘れて、駆け寄った。

みなボロボロで膝をついている。

フェンサーのパワードスケルトンなんて、火花が散ってるぞ。

 

 

「只野、無事で何よりだ」

 

 

力なく軍曹が言う。

合わせて他のメンバーも無事を褒めるが、喋るのも辛そうだ。

 

 

「軍曹も無事、とはいかないですね」

「ああ……すぐ動くのは難しい」

 

 

他のメンバーも見やる。

同じくダメそうだ。

どうやら動けるのは俺だけのようだ。

 

 

「生きているだけでも儲け物とは言いますが、状況は最悪ですね」

「そのようだ。 突如、空に現れた白銀の少女は……まるで【かの者】だ、ソイツにキール港まで吹き飛ばされたと見て良いだろう。 キールにいたネウロイは、かの者に殲滅されたのかもな」

 

 

混乱してもおかしくない状況下でも、冷静に何が起きたか把握して語る軍曹。

さすがStorm2、テレポーションシップ撃墜方法やエイリアン歩兵隊との戦い方を見抜き、ブレイザーを託されただけある。

 

 

「……そうか。 お前は かの者を知らないんだったな」

 

 

表情が大きく変わらないからか、軍曹が思い出したように言った。

すみません、俺、欧州に篭ってましたから。

 

 

「他の隊員から、何となくは聞いています。 圧倒的な存在であったと」

「そうだ。 ヤツは恐ろしいまでに強い存在だった。 俺たち重症のストームチームと、残存部隊で立ち向かい、最後はStorm1がトドメを刺した」

 

 

ここで軍曹は思案顔になり、ブツブツと唱えるように言う。

 

 

「亡骸はエイリアン本隊が持ち去った筈だが……EDFでも回収していたのか? それを魔女に組み込んだ結果が……噂のWDFか?」

 

 

……本当、その洞察力はさすがだよ軍曹。

まぁ、それが正解かは俺にも分からないけど、だいたい合っているだろう。

 

 

「たぶん、そうです。 して彼女は……俺の知り合いです」

 

 

そう言うと、悲しげな顔を一瞬だけ浮かべた軍曹。

怪我が酷い中、他者を想えるのも立派だよ。

 

 

「そうか……辛いな」

「なんとか出来れば良いのですが」

「WDFに関わった者に尋ねるしかない。 だが最悪の事態は覚悟しておけ」

 

 

分かってる。

分かっているんだけどな。

 

 

「射殺してでも止めなければ、この世界が俺らの世界みたいになるかも知れない」

「はい。 それは、最後の手段として考えておきます」

「そう言える お前は強い。 悔いのないように動け」

「了解です。 軍曹たちは?」

「動けるようになったらWDFの対処に向かう」

 

 

指をさす軍曹。

その先で、爆発や閃光が飛び交っている。

戦闘が起きているのだ。

恐らくそれは……WDFとストーム。

 

 

「仲間が攻撃を受けている。 時間を稼ぎ、助けねばならないからな。 最悪は」

「分かっています。 殺すのでしょう」

 

 

感情を殺しつつ、そう言う。

軍曹もまた、淡々と言った。

 

 

「悪く思うな」

 

 

仕方ない、と完全には思えない。

悪いのはWDFなんて子を生み出したEDFだ。

 

operation:ΩでEDFを怨んだ者は、どれくらいいたんだろうな。

戦略情報部め……オペ子さんとやらはStorm1にWDFの情報を流す辺りから、良いヤツなのかも知れないが。

 

 

「そうなる前に、俺が止めますよ」

「その意気だ。 さあ、行け!」

 

 

俺は敬礼をすると、直ぐに港を後にした。

エピメテウスに乗り込みたくても、どこにいるのか分からない。

武器もビークルもない。

今はStorm1と合流して、指示を仰ごう。

何か策を練っていた筈だ!

 




WDF戦、開始。
ストームチームは どうなるのか?
只野二等兵は?
シルバーは、軍曹ちゃんや曹長ちゃんは救えるのか?

?「ウィッチって、魔法が使えなくなる時がくるんだっけ?」
?「20歳あたりからだね」
?「その前にも使えなくなるんだっけ?」
?「……えっち すると、そうなるみたいだね」
?「もうひとつ、質問良いかな?
…………WDFって、ウィッチだよね?」
?「勘の良い隊員は嫌いだよ」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

51.INF

緊急事態応急対応:
【本部より全兵士へ】
WDF、シルバーを止めてくれ。
空軍、海軍、連合軍の協力を取り付けた。
全権はStorm1に委託する。
サテライトW1、バレンランド基地、最終作戦決戦仕様、使えるものは何でも使え。
ヤツを野放しにすれば、この世界も"誰もいない地球"になる。
出し惜しみはナシだ。
白銀を止めてくれ……頼む。
備考:
動ける者は戦闘に参加しろ。


◆ジークフリート線

 

EDF本隊が遁走する一方、ストームチームはWDFと交戦中。

グリムリーパーは、髑髏が描かれたシールドで皆の盾となり、スプリガンは空を舞い、ビームを放つ。

Storm1は後方で無線機を取り出し、皆の指揮を執りつつ空軍に座標伝達。

 

航空機が放ったミサイル群や、軍事衛星サテライトW1によるバルジレーザーが空を裂く。

 

一方、ジークフリート線にいる【かの者】を知らない連合軍……501部隊は援護しようか迷っていた。

 

 

「私の目が狂っている事を願う……ッ!」

 

 

坂本少佐が、苦悶の表情を浮かる。

ネウロイのコアが見える目、眼帯を外して固有魔法の魔眼で白銀の魔女を見てみるも、やはりネウロイのコアは確認出来ない。

つまり、ネウロイではなくウィッチである。

 

 

「あの子の軍服、私達と同じカールスラント空軍のだよね!?」

「間違いない。 だが何故、友軍を攻撃している! それにユニットどころか武器も持たずに、どうやって!?」

 

 

歴戦のハルトマンとバルクホルンも動揺を隠せない。

今まで人ならざる怪異を相手に戦ってきただけに、同じ魔女が、味方である筈の同国の軍人が、人間が人間を殺しているなんて考えたくもない光景だ。

 

そも相手は、あの白銀は人間なのか?

それすらも怪しく、混乱する。

見た目も相まって、ユニットも無しに空を飛んで武器も無しに凄まじいビーム攻撃を行なっている。

多少ならまだしも、あれだけの能力を持つウィッチなんて見た事も聞いたこともない。

 

アニメのベルリン戦に備えて決戦兵器扱いをされた宮藤だって、あそこまでのチカラは出せないだろう。

 

 

「あの子……霧の中で見た子だわ」

「そうなのか?」

 

 

サーニャが言い、エイラが反応する。

やはり見間違いではなかった。

でも、謎は深まるばかり。

 

 

「EDFは、何か隠している」

 

 

ミーナはStorm1とのやり取りから、疑惑を深めるが、状況はそれどころではない。

 

 

「みんな、発進準備」

「ミーナ!?」「中佐!」「ミーナさん!」

 

 

ミーナに抗議する様に、バルクホルンやペリーヌ、宮藤やリーネは名を叫ぶ。

 

 

「相手はネウロイじゃないんですよ!?」

「友軍が攻撃を受けているのよ。 このまま静観するワケにはいかないわ」

 

 

言っていることは分かる。

分かるが、どうしろというのか。

まさか攻撃しろ、というつもりじゃ……。

 

 

「呼びかけを行い」

 

 

一拍おいて、

 

 

「応じない場合は射殺します」

 

 

冷たく言い放った。

 

 

「ッ!」

 

 

皆が狼狽え、坂本が叫ぶ。

 

 

「ミーナッ! 私たちウィッチは、同じウィッチと殺しあう為にいるんじゃないぞ!」

 

 

皆を代弁するように、そう言った。

少なくとも、現時点では。

ネウロイを倒し、人類の為に戦ってきた。

それなのに、守る対象である人間を……正確には分からないが……手にかけるなんて、出来ない。

出来る筈がない。

彼女らはエースだが、人殺しをした事はないエースだ。

 

もし、もしその一線を越えてしまえば、彼女達は一生の罪を背負って生きないとならなくなる。

 

 

「分かってる! 分かってるわよそんなこと!!」

 

 

ミーナは悲痛な表情を浮かべ目を固く閉じ、悲鳴の様に言い返す。

 

 

「じゃあ、このままEDFの皆が殺されるのを見ていろというの!? それこそ私達が何の為にここに来たか分からないじゃない!!」

「考え直せミーナ! 何か方法があるはずだ、殺さなくて済む方法が!」

 

 

残骸と言って良いほどに崩壊した要塞内で、甘く不毛な言い合いが繰り広げられる。

その間にも、外からは隊員や連合兵士らの悲鳴が響き渡る。

 

 

「あっ!」

 

 

そんな時だ。

宮藤の視界で、少年兵が白銀からの流れ弾に巻き込まれ、吹き飛んだのは。

 

 

「あ、ああ……!」

 

 

生ぬるい血の、鉄臭くも甘ったるい匂い。

宮藤は絶望感と吐気が込み上げ、吐きそうになるのを両手で口を覆い必死に堪えた。

よく見れば、側では背の低いウィッチが倒れている。

 

他に、他にも、何人も!

 

血の海だった。

血溜まりが繋がり合い、紅の大海が形成されていた。

中身入りヘルメットが転がり、逃げる兵士らに蹴られていく。

人間の肉塊が島となり、浮いている。

中には"親離れ"したものが小島となり、空いた腹部から漏れる腸が列島を形成している。

 

 

「見るなッ!!」

 

 

気付いたシャーリーが、ルッキーニの目を覆いながら皆に叫ぶ。

そういう彼女も、額に大粒の汗を出し、目を大きく見開いて精神が病みそうになっているが、それでも健気に皆を庇う。

エイラも目を固く閉じながら、サーニャを目隠し、リーネは顔を背ける。

 

ストライクウィッチーズは、女の子達が空を飛ぶ萌えアニメであるが、一方で戦時中の話だ。

 

描写はないが、一般の兵士らも参戦している手前、この様な惨劇は日常茶飯事でもあるだろう。

 

だが彼女らの多くは、こんな陸の惨劇に見慣れていない。

そういった戦場にはいなかったし、いてもマジマジと見ないようにしていた。

出血の描写はあるが、目の前の惨劇は個人の"綺麗な死に方"のレベルをゆうに超えてしまっている。

 

 

(戦争……これが、戦争なんだ……)

 

 

お父さんを奪った戦争。

家族を奪った戦争。

国や家を奪った戦争。

故郷を奪った戦争。

大勢の命を奪った戦争……。

 

ネウロイよりも、もっと恐ろしいなにかが、そこにあった。

 

宮藤や、他の何人かは無意識に現実から意識の糸を切り離した。

嗅覚、視覚、聴覚、その他諸々の一部。

足が地面に着いている感触はなく、自分自身が自分ではなくなって、離れたところから自分を見ている感覚だった。

眠気にも襲われて、気を失いかけてもいる。

これ以上はいけない。

そう脳がジャッジを下した結果だった。

 

10代の少女でありながら、よくやった方だ。

魔女だったから、かも知れない。

 

だが、この惨劇を生み出しているのも魔女だった。

 

 

「…………この状況で、上がるのは無理ね」

 

 

ミーナは力なく、諦めるように俯く。

皆の精神不安定の意味でも、離陸に成功する確率の意味でも。

 

 

「撤退を……EDFに、後を任せます……」

 

 

それは見捨てる決断。

助ける筈だったEDFを助けずに去る。

何の為に来たのか分からない。

 

 

(なにがウィッチよ。 なにが守ってみせるよ。 これじゃ、私たち……)

 

 

遠くなる意識の影で、悲鳴が木霊する。

嗚咽しそうになるのを、必死に堪えた。

 

 

「……ミーナ」

 

 

坂本が寄り添う。

掛ける言葉が見つからない。

 

爆音と連動して、僅かに残る天井からパラパラと崩れる埃が彼女達を汚していく。

純粋に小汚い、無力な連中だと罵るように。

 

そんな時だ。

 

 

《こち…ただ………二等…!》

 

 

無線にノイズが走る。

悲鳴とは明確に違う、直接耳に届く男の声。

それは段々とハッキリとしていく。

 

 

《繰り……ちら……の……兵!》

 

 

皆は顔を上げ、互いを見合った。

その声と名前は、皆の知る人物だったからだ。

 

 

《繰り返す! こちら只野二等兵! 救援に向かっています! 指揮官はいますか!?》

 

 

そう。

EDFの精鋭歩兵で自称下っ端二等兵。

只野二等兵である。

 

 

 

 

 

ーーーーーEDFーーーーー

只野二等兵視点

 

爆音と悲鳴が響くジークフリート線に、アンダーアシストで走りながら、俺は無線に呼びかけ続ける。

だが、未だに誰も出やしない。

 

 

「無線がイかれたのか?」

 

 

それでも呼びかけ続ける。

武器はないが、出来る事はやらせて頂きたい。

そんな想いで走らせて貰ってます。

 

 

《こちら501、ミーナです》

 

 

おお! ついに応答が!

しかも501の隊長、ミーナだ。

信頼出来る情報を教えてくれるハズ!

 

 

「良かった、呼びかけ続けた甲斐がありました! 状況を教えてくれますか!?」

 

 

走りながら聞いてみるが、直ぐに返答がこない。

状況が逼迫している様子だからな、戦闘中か?

 

 

《……白銀のウィッチから無差別攻撃を受けています。 現在、ストームチームが応戦中。 死傷者多数。 来ちゃ駄目、勝ち目は無いわ》

 

 

想像出来る最悪の範疇だった。

現場は阿鼻叫喚の地獄絵図か、死体……肉塊が飛び散り血の海に沈んでるんだろうな。

恐らく生存者がいても混乱の渦中だ、指揮官はいていないようなもんか。

 

 

「分かりました。 501は?」

 

 

と言いつつ向かう。

誰も期待してないだろうが、立ち向かわなきゃならない。

EDFだから、仲間がいて、大切な子が暴れているから。

 

 

《退避します。 このままでは、損耗が激しくなるばかりです》

 

 

震える声。

無線に僅かに混ざる銃声、爆音、悲鳴。

戦場だ。

だが、ミーナは、501はまだ安全な所にいる筈だ。

じゃなきゃ、無線をしている余裕なんてない。

 

 

「戦ってないんですね」

《ッ!》

 

 

怒りからか、怯えからか、息を呑む音が伝わる。

侮辱するつもりで言ったんじゃない、仕方ない事だ。

俺だって逃げたさ、皆を見捨てて。

特に今回は特殊過ぎる。

魔女に魔女を殺せとは、あんまりだ。

だから……気を楽にしてあげよう。

本音を言えば中佐である彼女に、まだ指揮系統が生きている隊に指揮して欲しかったが仕方ない。

 

 

「俺も逃げます。 武器がありませんから」

 

 

優しい、嘘をつく。

穏やかに、戦争を忘れられるように。

子供たちには酷過ぎる。

 

 

《……分かりました。 ベルリン方面への撤退を予定しています、只野さんも……生き延びて、会いましょう》

「了解です。 通信終了」

 

 

無線を切り、このまま走り続けた。

撤退? ベルリンに?

元の地球で俺は逃げたが、逃げた故に思ってしまう。

それをして、助かるのかと。

かつての、俺たちの地球みたいにならない事を願う。

 

戦争後期。

都市部を離れて、山に逃げた人々に対し、エイリアンは怪物を投下して殺しにかかっていた。

WDFが、それをするかは分からないけど、エイリアンの因子が組み込まれているなら、或いは分からない。

 

俺は欧州で運が良かったに過ぎない。

だがそれも長くは続くまい。

この世界で生き延びれるか保証は無い。

 

爆音が響き、光の槍が空を割く。

かなり近い距離からだ。

 

 

「サテライトW1のバルジレーザー? なんにせよ、穏やかじゃないな」

 

 

その根元へ、今はひたすらに向かう。

Storm1は必ずいる。

戦うにせよ、逃げるにせよ、合流しなくちゃな。

 

やがて、爆音が身体を震わす頻度が増えると共に、横たわる屍が増えてきた。

損傷も段々と激しくなっている。

中には破裂して死んだような者もおり、臭いも相まって最悪だ。

 

 

「全部が軍曹ちゃんの仕業だなんて、考えたくない」

 

 

寝起きから、覚醒するに従って見えてくる現実のように、惨状は進む程に酷くなる。

軍曹ちゃんが正気に戻ったら戻ったで、罪の意識から潰されないか心配だ。

その前に解決方法を見つけるなり、俺が殺されないか心配しないとならないだろうけど。

 

どうすれば良いのか。

解決策もナシに血の海をピチャピチャと走り、増える死体を跨ぎながら、俺はやがて現場へと到着する……。

 

 

 

 

 

ーーーーーEDFーーーーー

ジークフリート線

 

 

「ここまでとは……死神を超えたか」

 

 

EDFの死神、グリムリーパーは遂に膝をついた。

シールドは既に形無く、漆黒のパワードスケルトンからは火花を散らせ、鎧のつなぎ目からは赤い流血。

黒い鎧は屈辱の汚泥に塗れる。

 

 

「もはや翼は……」

 

 

スプリガンは背中のウイングがもげてしまい、コアも損傷。

武器へエネルギー供給が出来なければ、空を飛ぶ事も叶わず地面に這い蹲る。

 

彼等ストーム隊を援護する者はおらず、あるのは崩れた要塞と死体の山。

もはや壊滅状態といって差し支えない状況下だが、それでも尚、戦う者がいた。

 

エアレイダー。 Storm1だ。

 

 

「EDFッ!」

 

 

アーマーの一部が欠損、フルフェイス・ヘルメットの隙間から血を流しても、彼は膝をつかない。 つくわけにはいかない。

 

 

「うおおおおおおッ!!」

 

 

咆哮を上げながら、長方形の箱にアンテナ類が付いたような銃、リムペットガンを空中にいるシルバーへ向けてトリガーを引く。

光る缶ジュースのような吸着爆弾が射出されるが、突如現れた赤い魔法陣の壁……シールドによって防がれる。

シルバーはシールドを引っ込ませると、付着していた爆弾はボトボトと力なく落下する。

 

 

「想定済みだ!」

 

 

構わず起爆トリガーを引く。

空中で、シルバーの足元付近で爆発する爆弾。

爆炎は彼女を襲い、フラつかせるが、それだけだ。

大した損傷は見受けられず、白い柔肌は染みひとつない。

 

 

「まだだッ!」

 

 

だが、それすら想定済みだとばかりに、炎に紛らせてビーコンを撃ち込む。

エイリアンの巨体ではなく、10代の小さな女の子の体に当てるのは難しい筈なのに、なんとか撃つ。

それには白銀は反応出来ず、間違いなく胴体に張り付いた、見事。

刹那。

 

 

『120ミリ制圧破砕砲、ファイヤッ!』

 

 

地上制圧機、ガンシップDE202から放たれた120ミリが、ショットガンのように彼女の上空で降り注ぐ。

散弾なので、空中目標への命中率は悪くない……そんな算段からだ。

対して白銀は、相変わらずの無表情で右手を上にかざしシールドを展開、完全に防いでしまう。

それも、空を……否。

地球を飲み込むような、アース・イーターのような巨大なシールドで。

 

 

「なんだと!?」

 

 

さすがのStorm1も、見ていたストームチームも驚きを隠せない。

シールドベアラーやら金の装甲を散々に見てきたが、まさか見た目10代の少女が これ程のチカラを出すなんて。

 

 

「俺たちは、あとどれくらいの死神と会えるんだ? 楽しみだな」

 

 

グリムリーパーは、瀕死の中でも軽口を叩いた。

逆に言えば、それくらいしか出来なかった。

 

 

「地上も空も、全て白銀の舞台か。 私たちはとんだ大根役者だ」

 

 

悔しそうにスプリガンは言う。

装備が壊れた以上、彼女の言う通り舞台……戦場では無様に這いずり回るのが精々か。

なんにせよ、舞う事は叶わないだろう。

 

そんなストームらを完全に消去しようと、白銀は指先から矢のように鋭いビームをとばした。

最優先は未だ闘志が消えぬStorm1だ。

 

 

「くっ!」

 

 

それを紙一重でローリング回避。

Storm1は諦めず、起き上がると同時にビーコンガンを白銀の下、地面に照射し続ける。

やがて大凡の座標を受信した相手から無線が入る。

 

 

『バルジレーザー照射ッ!』

 

 

そう。

EDFの軍事衛星サテライトW1の、サテライトコントロールにバルジレーザーを要請したのだ。

それも出力が凄まじい最高レベルの照射モードZ。

宇宙から地球の地上に向けてレーザーをぶっ放す、EDFのヤベェ超兵器のひとつである。

軌道上から地上に向けて照射されるレーザーは、本来なら当西暦世界には使えない。

だが、転送技術により上手い事使えるようにしている。

そこ、御都合主義とか言わない。 良いね?

 

だが、そんな超兵器すら生温い。

白銀は極広シールドで防いでしまう。

レーザーはシールドに穴を開けようと、バチバチと火花のようにレーザー光を散らし続けるが、シールドが破れる様子はない。

 

 

「だが、その間は他は出来ないな!」

 

 

だがそれも計画の内だと、Storm1は更なる要請を続ける。

 

 

『テンペスト発射!』

 

 

今度はテンペストミサイルを要請。

極秘建造されたバレンランド基地から、巨大ミサイル テンペストを飛ばしてもらったのだ。

作戦領空到達まで時間がかかる為、その間に別の攻撃に移行。

 

これらも全部、転送技術のお陰だから。

そこ、突っ込んではいけない。

 

 

「ふっ!」

 

 

白銀がレーザーを防ぐのに夢中になっている間に、Storm1は自動歩哨銃の最高峰のひとつであろうZEXR-GUNを設置、起動。

凄まじい自動追尾機能と連射速度で白銀を蜂の巣にせんと弾丸を叩き込んでいくが、

 

 

「なに!?」

 

 

それすらもシールドで防いでしまう。

空覆うシールドを張りつつ、地上に対してもシールドを張ったのだ。

そのうち宮藤など、そういった芸当が出来る子もいるが、魔女のノウハウに疎いEDFは驚きである。

 

驚いてる間にも、テンペストが飛翔。

シールドは空と地上に張られているが、この魔力を消費している状態でテンペストなどという戦略レベルの超火力に耐えられまい。

そう考え、Storm1は誘導ビーコンに切り替えると、容赦なく白銀に照射。

テンペストは迷う事なく白銀にトップアタック、その頭上に広がるシールドに着弾して巨大な火球を生み出した。

それはシールド表面を伝うようにして広がり、空は炎の海と化す。

 

空は火の海、大地は血の海、死屍累々。

 

インフェルノの悍ましい光景の中、その轟音は終焉を知らせる幕引きに感じさせる。

否。 そうであってくれ……生存者は願う。

 

 

「やったか!」

 

 

Storm1か、チームの誰かか、はたまたモブ生存者か分からないが、地獄の終わりを願う声を上げた。

だが現実は無情にも、舞台の閉幕を許さない。

 

 

「なっ……!」

 

 

爆炎が晴れた先。

無傷の白銀は浮いていた。

皆、絶句した。

 

 

『砲身融解ッ! 修理が必要だ!』

『我々は人類の勝利を確信している』

 

 

サテライトコントロールと、バレンランドからの無線が虚しく耳に届く。

 

 

「馬鹿な……こんな事が」

 

 

かの者と同等、いや。

超えている究極生命体。

 

それを前にして、人類の英知を結集した超兵器群は役に立たない。

 

 

この程度、生温い。

本当の地獄を見せてやろう。

 

 

白銀はそう言うかのように、身体が光り輝いた。

して、次には流星の様にStorm1に体当たりを仕掛けた!

 

 

「ッ!」

 

 

咄嗟に護身用散弾銃、サプレスガンを持ち発砲。

散弾は確かに白銀に命中するがしかし、先程の超兵器と比べると豆鉄砲以下のそれで止められる筈がなく、そのままStorm1は攻撃を受けてしまう。

 

 

「Storm1ッ!?」

 

 

ストームチームは叫んだ。

我らの希望が、こんな形で終わって欲しくない。

 

そう思い、センサー反応を見る。

まだ、Storm1は健在だった。

 

しかし、地上には既に姿は確認出来ず。

上には白銀が宙に浮いているだけ……いや、Storm1もいる!

 

 

「グ……ッ!」

 

 

なんと白銀は体当たりに見せかけてStorm1を掬い上げていたのだ。

それも片手で、エアレイダーの重装備ごと。

 

 

「俺を確実に殺す為に……ッ」

 

 

その意図を察し、Storm1は必死に暴れた。

ミシシッ、と嫌な響きが地獄にいやに響く。

それもそうで、今、Storm1は白銀に握り潰されそうになっているのだから。

 

 

「ガハァッ!」

 

 

内臓が悲鳴を上げ、筋肉がブチブチと音を立てて切れていき、骨は折れ、中で刺さり、一部は体外に突き破って露出した。

 

 

(ただで死ぬワケにはいかない……ッ)

 

 

せめての意地にと、なんとか片手をビーコンガンに持ち替えた。

 

何をするか?

決まってる。

 

EDF隊員なら、やった者もいるだろう。

それはα型や有翼型に喰われた者、或いは……怪物の群れの中心。

絶望した時、それをやる。

 

Storm1は、ビーコンを自分の頭に照射し続ける。 自爆だった。

 

 

「シルバー! 俺と地獄に堕ちろッ!」

 

 

刮目して叫んだ刹那!

 

 

『ファイヤ♪』

 

 

謎の女科学者の声が聞こえたと同時。

天より無数の光の槍が降り注ぐ。

それはバルジレーザーではなく、もっと別のチカラ。

 

EDF総司令部が恐れ、封印した機密衛星兵器。

 

神をも滅する光の槍。

 

 

スプライトフォール デストロイモード。

 

 

無数の光の槍はStorm1ごと白銀を貫き余り、地獄にきて殺戮を尽くす。

 

 

「ストームワアアンッ!?」

 

 

その光景を見たストームの面々、501は思わず叫ぶ。

 

加えて只野二等兵も叫ぶ。

軍曹ちゃん、と。

 




間違いあるかも……。

書くの難しいです……。
もちろん、これで戦いは終わらないワケですが、果たしてどうなるのやら。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

52.509JFW

緊急事態応急対応:
【無線を受信。 若い女の子の声】
再生:
「白銀の魔女……神さま?」
備考:
生存者有り。 回収する。
連合軍との調整へ。

509JFWとありますが、アプリゲームに出てくる部隊や、他の作者様に出て来る部隊とは 勿論 異なりますので注意。


◆ジークフリート線

 

鮮血で紅く彩られた地面は水分を多量に含んでぐちゃぐちゃで、無数の肉塊が紅海に浮いている。

時に、それらはヒクヒクと痙攣したように動いて波紋を生んでいたが、意志なんて微塵もない。

 

沈む夕日が淡い光で地を照らし、それだけなら曖昧に出来た現実も、空に広がる業火の海がより鮮明に映している。

 

その中心に浮く白銀の魔女。

 

神々しいまでに天と地の狂気の沙汰を照り返す姿は神話に出てくる神。

少なくとも、言われたら疑いなく信じてしまう。

特にこの地獄を生み出したのは他ならぬ彼女であり、それを"運悪く"生き延びた兵士は見て恐れ、慄き、滂沱して狂笑した。

 

そんな幻想的で狂気狂乱の世界。

いんふぇるの。

 

狂い笑う兵士の傍を通過する501部隊の面々。

ちゃぷちゃぷ、と紅海に足を沈ませて重く、だけど自分の意志で狂気から逃れる。

俯き、足を紅く染め、虚ろな目をしている様は まるで生きる屍、ゾンビだ。

幸いにも背中のはるか向こうにいる白銀の魔女が、神が攻撃してくる事はなかったが、501の精神は汚染され心はボロボロだ。

 

 

「…………」

 

 

誰も何も喋らない、気力もない。

だが気を失わずに落伍者なく"撤退"出来ているだけでも褒められるべき行為。

10代の女の子らが到底耐えられる環境ではないが、それでも動けたのは、軍人だからとかエリートだからではなく、一種の本能からだった。

 

ユニットを放棄し、着の身着のままで歩き続ける。

 

今後なんて考えない、考えたくない。

とにかく狂気から離れたい。

生きたい。 死にたくない。

幾度と死と隣合わせだった者でも、耐えられる世界ではない。

 

対ネウロイ戦争において花形であり続けた魔女、それもエリートの501部隊が無様な姿を晒している。

 

見栄も階級も名誉も誇りもいらない。

 

連合も国も土地も金も関係ない。

 

ただ、生きたい。 死にたくない。

 

そう。 それだけだ。

 

 

「おい小娘ども!」

 

 

そこに比較的"まとも"な兵士が声をかけた。

ベテランの兵士の様だ。

瞳孔は開ききり、焦点が定まらない目をしている。 つまるところ自覚なく狂っていた。

この地獄において、しかしそれが"まとも"だった。

 

 

「ウィッチだろ? 人類を守るウィッチなんだろ!? 俺を助けてくれよ! なあ!?」

 

 

先頭にいたミーナに縋る兵士。

そんな兵士の為すがまま、身体を揺さぶられるが、何も返す言葉がない。

 

 

「何とか言えよッ! くそぉッ!」

 

 

吐き捨てて、無言のミーナをど突く兵士。

バシャッと紅海に尻餅をつき、身を紅く彩られた。

 

階級なんて関係ない、本当に。

 

生殺与奪権を握られたような環境下。

人間が醜い姿を晒せるのが、立派な環境。

だが、誰も兵士を責める気が起きない。

言っていることは間違いないし、生きようと足掻いているだけ"まとも"なのだから。

 

虚ろな目で、皆は兵士を追う。

無意識だった。

 

兵士は紅海に沈んだ……事切れたモブウィッチを抱き起すと、また同じように揺さぶり、罵詈雑言を浴びせる。

ダメだと分かれば別の者、ダメなら別の者へと助けを求めた。

 

逞しい、それが。

 

正気の沙汰じゃないと言えるのは平時である。

 

やがて見苦しいと思われたのか。

白銀から一筋の閃光が走ったかと思えば、その兵士を貫き、次には果肉入りジュースになった。 一瞬だった。

 

思考をある程度シャットダウンしていた魔女たちは、そんな惨い様を見ても何とか耐えた。

 

身体にかかった果肉とやらを最低限の嫌悪感から払いのけると、また歩き始める。

 

いんふぇるの。

 

他に生きている者がいるか怪しかった。

ストームチームは……。

先程まで響いていた爆音と銃声は鳴りを潜め、水の音しか聞こえない。

聞こえない……筈だ。

 

 

「軍曹ちゃん! 俺だ! 只野だ!」

 

 

だから。

背後の叫び声、撤退した筈の男の声もまた……聞こえない筈だ。

 

 

 

 

 

◆ジークフリート線

只野二等兵視点

 

ちらほらと、ゾンビみたいに歩く人影が見えるが、地獄から逃れようとしている生存者たちか。

中には501部隊と思われる群れもいる。

この最悪な状況下で逃げる意志を持てるだけで立派だと思う。

中には狂った人影も見受けられた。

だが、俺は逃げるわけにはいかない。

狂うワケにもいかない。

 

先程までストームチームと軍曹ちゃんの間で戦闘……否、一方的な殺戮ショーが繰り広げられていた。

Storm1が最後に抵抗していたが、バルジレーザーではない、別の強力な衛星兵器による攻撃を最後に音沙汰ない。

ストームチームの安否が心配だが、軍曹ちゃんも心配で……つい、叫んでしまった。

 

だけど。

軍曹ちゃんは天から降り注ぐ連続ビームにも耐え抜き……同じ場所に浮いている。

ストームの面々の姿は見えない。

だが、俺はまたも叫んだ。

 

 

「軍曹ちゃん! 俺だ! 只野だ!」

 

 

俺は武器も無しに、地獄の元凶である軍曹ちゃんに無防備にも声を出した。

まさに無鉄砲。 これで死んだら全て終わる。

でも、軍曹ちゃんは虚ろな目を向けるばかりで何もしてこない。

ひょっとして、何も見えてないんじゃないか?

声も聞こえないのかもな。

少なくとも正気じゃない筈だ。

正気で、こんな地獄を生む筈がないんだ。

 

 

「軍曹ちゃん!」

 

 

それでも呼びかけ続ける。

何もしないより良い、そんな考え無しの判断。

 

 

「もう止めよう! 本当の軍曹ちゃんは、こんな事をする子じゃない!」

 

 

虚ろな瞳に、俺が浮かんでいた。

ボロボロな戦闘服は、血の跳ね返りでところどころ赤黒い。

 

 

「全部、EDFが悪いんだ。 軍曹ちゃんは何も悪くない。 だから、だから大丈夫だよ!」

 

 

僅かに、瞳に光が戻った気がした。

 

 

「ね? 曹長ちゃんも、こんな事を望んでなんか」

 

 

ない、そう言おうとした時。

軍曹ちゃんは頭を抱えて苦しみ始めた。

うーうー言っている、こんな状況じゃなきゃ可愛いのだろうが、それどころじゃない。

 

 

「軍曹ちゃん!?」

 

 

言い終わるより早く。

瞬きした次の瞬間、軍曹ちゃんのいる空間が歪んだと思ったら、消えていなくなった。

 

 

「空間転移!?」

 

 

それはかの者がやったとされる空間転移。

テレポーションアンカーで、怪物が転送されてくる光景は何度も見たが、装置も無しに かの者はエイリアンの歩兵を召喚したという。

それを自分にやったということか!?

まさか跡形も無く この世界から消えたワケじゃあるまい!?

 

 

《只野二等兵……ッ!》

 

 

無線が!

慌てて応答すると、それはStorm1だった。

 

 

「良かった、隊長! 今どこに」

《早く逃げるんだ……ッ!》

 

 

へ? なんで?

 

そう問おうと思ったが、天からの轟音に気づき、理解する。

 

 

「あ、ああ……マジかよ……」

 

 

無数の火の玉が頭上にあった。

どんどん大きくなってきている。

 

 

「隕石ッ!?」

 

 

そういえば、かの者は こんな攻撃もしたと隊員から聞いた事があった。

 

ヤバい、圧倒的にヤバい。

 

 

「くそっ!」

 

 

俺はアンダーアシストで全力疾走。

血の海をバシャバシャと走り抜け、少しでも落下地点から離れる。

 

刹那。

強烈な衝撃と共に、地面はめくれ上がり、土砂と血、その他の人間の体液などが津波となり俺を襲い。

 

俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言えば、俺は またも生き延びた。

ストームチームの面々もだ。

後からベルリン本部から来た救助ヘリやキャリバン救護車両に回収されたのだ。

ただ、軍曹ちゃんは行方不明になり、この惨劇からの立ち直りにEDFと連合は尽力していく事になる。

 

メンタルのやられた兵士らに関しては、どこぞの組織よろしく記憶処理を施して。

身体が欠損した者にはエイリアンを研究して出来た体液的なのをぶち込んで"生え直させた"。

 

非人道的な出来事だ。

もちろん、それはEDFの所業だ。

 

俺たち……疲弊したEDFは、連合軍の非難や調整を受ける形となる。

それはもう、仕方ない。

だが かの地獄を良くも悪くも"評価"するしかない連合上層部が、WDFの所有権を主張。

元は連合兵士であるので連合に所有権があると言う。

欧州の撤退戦や、ガリア解放の為のエトワール作戦やらで使い捨ての駒にした癖に、手の平をくるっとする大人達には反吐がでる。

 

だが、このままではEDFも連合も共倒れ。

喧嘩している場合ではない。

そこで総司令部にいるガランド中将の提案などで、EDFは連合軍のひと部隊として組み込まれる。

 

ある種の刑罰、拘束の意味もあるが、兵站……連合からEDFに補給をするには、この方が都合が良いのもあった。

 

して、EDFの残存戦力は決して小さくない。

本隊が逃げ出したのもあったが、元々吸収した元連合兵士、ウィッチらは 本国の兵士らよりも強くなっていた。

 

特にEDFが抱えるウィッチらの戦力は、各統合戦闘航空団の10名前後しかない戦力より ずっとあり、これも含めた新たな大部隊が創設される。

 

対WDF決戦部隊。

第509統合戦闘航空団である……。

 




短め。
まだ曹長ちゃんの件も分からないですね……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

53.白雪姫

作戦内容:
WDFの暴走、それに伴う甚大な被害、挙句に当該魔女の行方不明。
あのまま戦闘が続いていれば、間違いなく欧州は、世界は破滅への道を辿っていたでしょう。
あれから時間も経ち、我々EDFはWDFに対抗する為にも連合軍のひと部隊として組み込まれ、509JFWとして位置付けられました。
これにより、連合からの補給等の支援が円滑に進められます。
ですが安心していられません。
このまま行方知らずのWDFを放置するワケにもいかず、戦略情報部と連合は情報収集を続けます。
隊員の皆さんは、状況を把握しつつ、いつ戦闘が発生しても良いように備えて下さい。
備考:
最終作戦決戦仕様をジャラジャラさせても、WDFへのトドメにはならない。
だが、魔女から魔法を奪う方法はある。
それは皆、知っている筈だ。

作中の509JFW部隊章は、そのままEDFが使用する地球の絵。


◆ベルリンEDF本部

 

あれから1週間程か。

ジークフリート線の惨劇から生き延びた只野二等兵は、五体満足であったが他の者は そうではなかった。

 

ストームチームは皆、重傷。

生きているのも、ここまで回復したのも不思議だったと衛生兵が言う。

医療班の必死の努力で一命を取り留めた面々だが、その回復力も人外だ。

 

やはり伝説の遊撃部隊員は違うということか。

 

だが戦場に復帰するのは困難で、ベッドから出る事は暫く出来そうにない。

そんなストームチームのひとり、Storm1の見舞いに訪れたのは只野二等兵。

本当は笑顔を見せ合うべきだろうが、状況は悪く、なんとか笑顔を見せようとしてぎごちなくなってしまう。

 

 

「その、具合は?」

 

 

堰を切ったのは只野だった。

対してStorm1は、民間人の作業着姿で、だけど包帯を所々露呈させた痛々しい姿で答える。

 

 

「まぁまぁだな」

「……命があって、良かったです」

 

 

そう言うが、会話が続かない。

WDFのこと、みんなのこと。

色々と言いたいが、言うべきか迷って……言葉に出ない。

 

 

「……他のストームも生きて戻れた。 また戦場に戻れるだろう」

 

 

その言い辛い一部を、Storm1隊長は言ってくれた。

 

Storm4、3は装備が大破した他、全身を骨折、出血多量だったが骨が露呈したStorm1程ではなく、安静にしていれば命に別状はない。

Storm2と共にいた部隊の面々も同様で、特にジークフリート線の惨劇には巻き込まれなかった為に"軽傷"の部類で済んでいる。

 

 

「只野。 お前も無事で良かった」

「俺は……軍曹ちゃんを止められませんでした」

「悔やむな。 あの場で止められた者は誰もいなかったよ」

 

 

狂気の紅海に浮かぶ白銀の魔女。

軍曹抜きだったとはいえ、伝説の遊撃部隊すら歯が立たず、多くの犠牲者が出た あの日。

 

ベルリンから駆け付けたEDF救護班は救えるだけの命を救う為に奔走。

エイリアンの技術をも応用、新陳代謝を異常促進させる特殊な薬物を投与、もげた足や腕を生やし、傷を塞いで回った。

 

PTSDの疑いがある者はモルヒネなんて生温いと、もっとヤバい(倫理観的に)薬物……クローンエイリアンに付けられていた装備……などで記憶を消去、或いは曖昧にした。

これは只野を含めた多くの人間が対象になりそうな話だが、少なくとも只野とストームは処置を受けていない。

平気なワケじゃないが、今後の作戦行動で必要になるかも知れない経験は残すという判断で消されなかったのだ。

お陰様で常人なら発狂する光景が脳裏に焼き付いたままだ。

それでも冷静そうにいられるのは、かつてのエイリアンとの大戦を潜り抜けた猛者だからだろう。

最も、これで発狂したら処置されてしまうのだが。

 

 

「…………そうですね。 501の皆は?」

「彼女らは記憶処理された。 人間の中身をばら撒いた光景だ、10代の女の子には耐えられないからな」

 

 

なんとも言えない表情で、しかし救いであった話をする隊長。

ゾンビのように狂気の戦場から撤退していた501部隊は、通りかかった救護班に回収されて記憶を"パー"にされた。

それはWDFの記憶ごとだ。

綺麗に抜き取るのは無理だが、後で個室で間違い探しのような答え合わせをして、都合の良い部分だけを覚えさせていった。

 

ストライカーユニット装着時、魔女の精神状況によっては飛べなくなるなどの悪影響も考えられる為、これで良かったのかも知れない。

 

 

「知らぬが仏です」

「本当だよ。 彼女達には可哀想な事をした」

「綺麗な空だけを見ていて欲しいです」

「そうだな。 これは本来EDFの問題だ」

 

 

そう言うと、Storm1はバインダーを取り出し、只野に渡す。

その板に挟まる何枚かの紙には、現状報告の文字が羅列されている。

一瞥、流し読みしつつ只野は聞く。

 

 

「これは?」

「見ての通りだ。 EDFが連合軍に組み込まれたのは知っているだろう」

「はい。 仕方ないかと」

「兵站の意味でもな。 だが現状戦力で どうにかなるもんじゃない」

 

 

そうですね、とは只野。

ストームチームが太刀打ち出来なかったのだ、どうしろというのか。

 

 

「なのにも関わらず、連合のお偉いさんはWDFを手に入れようとしている」

「愚かですね、EDFが制御出来ていないのを知らないとでも?」

 

 

呆れを通り越した、乾いた笑いが起きた。

前から憎たらしい連合上層部も、ここまでくるとおめでたいとすら思う。

 

 

「その辺は本部も反発している。 無理だからな」

「それで、対策は?」

 

 

輸送計画書、搬入予定、受領書等を見る。

強力な兵器の名前が並べられているが、どれも神モドキと化した魔女に効果があるのか不明だった。

 

 

「今は充分な装備もない。 新型レールガンのイプシロンブラスト電磁投射砲が近々配備される他、ブラッカーA9などの最終作戦仕様も配備。 勿論、最新鋭のコンバットフレームも輸送されてくる」

「それで勝ち目は?」

「ない」

 

 

はっきり言われた。

こうも堂々とした絶望も、そうないだろうと、逆に笑いすら起きる。

 

 

「それでも無いよりはマシだ」

「そうですが」

 

 

言い淀むのも仕方ない。

かの者を倒したストームチームが敗北したのだ、奇跡の勝利を再び得るのは困難なのではないか。

 

 

「お前にも配備される武器がある。 来たら受領しとくと良い」

 

 

言われて、紙を凝視する。

びっしりと書かれた配備予定者の中に只野の文字を見つけ、その列の武器名を見やる。

 

 

「TZストーク?」

 

 

それはストーク型アサルトライフル最終型。

戦局を打開する切り札として開発されたものの、既に量産が難しい状況となっており、数丁の試作品が選ばれた精鋭に託されたという銃。

 

 

「スコープとレーザーサイトを装備している。 咄嗟の状況でも正確な射撃が可能だ。 威力も高い」

「いや、ちょっ。 俺なんかに?」

「お前だからこそだ。 俺が認めたんだ」

 

 

どうやら隊長が只野に配備した形らしい。

これには戸惑う只野。

階級は二等兵、欧州で逃げ出した元逃走兵。

精鋭というのはストームチームのような者を言うのだと、その意味では無縁だと思っていただけに不安になってしまう。

 

 

「でも、俺は」

「……お前は強い。 あの時、シルバーはお前の呼び掛けに反応していた。 また接近するチャンスが来るかも知れん。 その時の為にも護身用として持っておけ。 また隕石が降ってきた時、困るだろう」

「隕石にライフル弾が通用するんですか?」

「他の隊員が壊したのを見たぞ」

「えぇ」

 

 

隕石を降らす かの者 もヤバいと思うが、EDFの武器も結構スゴいと改めて思い知らされた只野であった。

 

 

「あと、シルバーを止める手段を模索している中で、魔女の魔法力やら魔法圧やら、ストライカーユニットの宮藤理論やら燃料やらエーテルやらの話を見聞き、俺なりに考えてるのだが」

「はぁ」

「方法として、シールドを圧倒的な一点火力で破壊するという脳筋な方法しか、今のところ思い付かない」

「いつかのプランBの結果みたいになりそうですね」

 

 

ここでいうプランBとは、エイリアンの前哨基地破壊作戦時の話である。

前にも話したので省略するが、あのヤバい装甲ならぬシールドを破壊ないし突破なんて出来る気がしないのだ。

高出力のバルジレーザーにも耐え、テンペストにも耐え、スプライトフォールにも耐えた。

 

 

「まあ、それは否定しないが」

 

 

と、一拍おいて。

 

 

「ヤツが誰かを掴んでる時は、シールドを張れないようだったな」

「まさか隊長……囮に、なんてことは」

「最悪は、そうするさ」

「無茶しないで下さい。 今度こそ死んでしまいます」

 

 

隊長なら、またやりかねない。

そう思わせるのは、彼が様々な武勲を上げてきたからだ。

それこそ、常人には無理な数々の戦果を。

 

 

「後は、試したいのが狙撃だな」

「狙撃?」

「ああ。 シールドは予め張るものだ。 機械みたいに自動で張られるなんて事はない。 なら、不意打ちの類なら防げないと思ってな」

 

 

なるほど、と只野。

シールドさえ張られなければ良いなら、遠くから気付かれないように撃てば良いか。

 

 

「ですが、スプライトフォールとやらに耐えた耐久を誇っているように感じましたよ。 シールド対策をしても、やはり」

「ああ、それも考えた」

「と、いうと」

 

 

隊長は、窓の外を指差す。

そこには、いつぞやのレールガン……の、砲身をカタパルトにした原始的な装置が。

 

 

「あれは、変態が造ったウィッチ用カタパルトじゃないですか。 あんなので どうするんです」

 

 

どこでも迅速にウィッチを空に上げれるという、コンセプトで造られたソレ。

実用化されたトコを見たことがないソレは、下手すると鉄屑以下だと唾棄している只野。

だが、隊長はソレを使うと言う。

 

 

「ナニって、簡単だ」

 

 

そう言うと、ニコリと笑顔を向けられ、

 

 

「只野。 お前が弾丸になってシルバーに抱きつくんだ。 して、キスすれば良い」

 

 

衝撃の発言。

これには只野、ナニを言っているか理解するのに時間が掛かる!

 

 

「………………ファッ!?」

 

 

ようやく飲み込み、だが何故にという顔をする。

 

 

「まだ分からないか」

「まだ分からぬでござる」

 

 

驚愕のあまり、どこの知将だという妙な喋り方をしてしまう。

隊長は説明する。 簡単だった。

 

 

「魔女は"えっち"すると魔法が使えなくなる。 だから そうしろ」

「嘘でしょ? 公衆の面前で、決戦部隊が展開するシリアスなシーンで悪魔合体をしろと?」

 

 

年下の女の子に、空中で【自主規制】とかアブノーマルなプレイにも程がある。

人生が終わるレベルである。 エイリアンもビックリするかも知れない。

 

 

「ナニを言ってるんだ。 キスすれば良い。 恐らく それで魔法が使えなくなる。 シルバーは無力化される」

 

 

一方、隊長は真面目だった。

 

 

「愛は世界を救うのだ。 題して白雪姫計画とでも言っておこう。 シルバーは白いしな、キスをして目覚めさせる的な意味でもロマンチックだろう?」

「ナニ言ってんスか!? キスだけにしても犯罪者でしょ! つーか、失敗して死んだら笑いの種どころじゃなくなる!」

「安心しろ。 あの子はお前の事が好きだった。 ナニしても問題ない。 それに失敗したら世界は多分 終了する。 だから笑うヤツもいなくなる、やはりナニも問題はない」

「問題だらけじゃね? どっち転んでも犯罪者ENDじゃね?」

「頑張れ。 作戦司令本部と連合総司令部は認可した。 皆にも伝わるから、齟齬による足の引っ張り合いは無い」

「既に晒されてるうううう!?」

「人類を滅ぼしたいのか?」

「滅んじまえ、こんな計画で!?」

 

 

病室なのを思い出し、だけど頭を抱える只野。

人生、まさかこんな展開になるなんて。

魔女にキスするのが世界を救う方法とか、メルヘンにも程がある。

して、それを晒された人生の行く先はどこ。

 

 

「……白雪姫は」

 

 

隊長が真面目な声で続けた。

 

 

「ドイツの話だったか。 ちょうど、カールスラントに当たる。 して彼女はカールスラントの子だ。 これも運命か」

「……改造したのも運命ですか?」

「それはEDFが悪い。 故に我々は尽力し、止めねばならない。 だからキスしろ」

 

 

キス推ししてくる隊長に、キモさとかは感じないが、ある種の狂気を感じて別の話にする。

 

 

「曹長ちゃんは?」

「取り返そう。 先にな」

 

 

そういって、座標の書かれたメモ用紙を渡す隊長。

どうやら、そこに行けば良いらしい。

 

 

「エピメテウスがいる座標だ。 ヘリを飛ばして向かうと良い」

「俺ひとりで?」

「無線で俺と話せる。 その意味では1人じゃない、安心しろ」

「安心の要素が無いんですがそれは」

「エピメテウスにハッキングする術ならあるからな、もし向こうが受け入れ拒否でもしてきたら、テンペストやスプライトフォールを喰らわすぞオラァと言って脅せ」

 

 

隊長が言うと、本当にやりかねない。

たぶん、エピメテウス側も分かるだろう。

Storm1民間人時代、ハッキングの被害に遭ってるし……。

 

 

「……白雪姫は」

 

 

まだ言うか。

 

 

「1人とは限らんぞ」

 

 

それ、二股しろって事ですか?

愛がどうのってヤツはどうしたの?

 

 

「それに、白雪姫の話は変遷している……バッドエンドになるか、ハッピーエンドになるかは……分からない」

 

 

それは。

 

 

「結局、どうなるか分からないんですね」

「誰にも分からん。 だが、援護はする」

「ありがとうございます」

 

 

ならば。

来るか分からない絶望に怯えるなら、行動した方が良いのだろう。

 

只野はメモ用紙を持って、病室を後にした。

やれる事。 それは個人の二等兵にもある筈だ。

 




白雪姫。
どんな結末になるのか……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

54.救出頓挫

作戦内容:
エピメテウスに乗り込むぞ。
ヘリを調達して……ナニ!? 使えないだと!?
備考:
分からない事、相談事は無線。

にわか知識なので、解釈等に間違いがあるかもです……。

MGO PWのサウナネタが含まれます。
ご了承下さい。
やってみたかっただけである……。


◆ベルリンEDF本部周辺

只野二等兵視点

 

 

「ヘリが使えない!?」

 

 

思わず叫んでしまった。

場所はヘリポート。

隊長からエピメテウスの潜伏する海域、座標を知ったので、ヘリで向かおうとしたのだが、主任……ホーク1パイロットに首を横に振られた。

ええい! 本部の差し金か!

言ってやる、遠慮はしない!

 

 

「無許可管制無視上等! ただし対空砲火は勘弁。 とりま初期型N9エウロスでも良い。 それとも二等兵に出すヘリは無いと?」

 

 

言いくるめるように早口で、食い下がる俺。

対してホーク1は、呆れたように言った。

 

 

「あのな只野……よく見ろ、周りを」

「周り? 注目の的になってるから止めろと?」

「違う。 ヘリが、1機も、無いんだよ!」

 

 

ファッ!?

いやいや、いくら戦力が乏しいEDFといってもヘリのひとつやふたつ……。

 

 

「無い!?」

 

 

マジで無かった。

見渡せど、すっからかん。

そこそこ広い敷地に、何も無い。

風が虚しく鳴いているときた。

 

 

「どこいったんだ!?」

「ベルリン防衛戦で撃墜されたか、離陸前に破壊された」

 

 

マジで?

ジークフリート線に来てくれたネレイドは?

 

 

「俺や一部のヘリは空中退避に成功したが、それでも対空砲火やら航空ネウロイの攻撃が激しくてな。 俺が乗ったネレイド以外は堕とされた。 その後は、お前の知るように、ジークフリート線の援護に向かい……お前さんの知らん所で大破して戦闘不能。 どっちにしろ継戦する為の燃料が無かったが、めでたく全機不能さ」

 

 

おうふ……。

知らない事情があったのか。

 

 

「そういう事だ。 諦めてくれ」

「次の搬入はいつです?」

 

 

あまりモタモタしたくないなぁ……。

曹長ちゃん、今も苦しんでるんじゃないか。

 

 

「少し先だ」

 

 

おいおい。

そりゃ勘弁して欲しいでやんす。

 

 

「なる早で」

「急いでる方だ。 だが分かるだろう、生産も整備も設備も資材も人員も何もかも足りないんだ。 あっても、元の地球で使いたい分もある。 来ても他のエリアへの輸送や護衛に使われるのが優先されるだろうから難しいぞ」

 

 

ぐぬぬ……。

何か、何か他の解決策を考えねば。

 

 

「あっ、そうだ」

 

 

隊長に頼めば良いんじゃね?

権限は強いから、1機くらい融通が利く筈。

さっそく電話……じゃなくて無線しよう。

 

 

「隊長」

『無理ダナ』

 

 

回答早ッ!?

 

 

「諦めんなよ!?」

『そういう問題ではない。 先程から俺が要請しても地底にいるかの如く拒否られた。 やはり在庫が無いようだ』

 

 

どうすれば良いんだよ。

この間にも曹長ちゃんは……。

 

 

『こういう時、慌てても仕方ない。 ヘリが全滅していたのは予想外だったが、次のチャンスを待つしか無い』

 

 

いや、だって。

次のチャンスっていつだよ。

ヘリは無い、曹長ちゃんは救えない、軍曹ちゃんは行方不明。

心が落ち着かない。

戦場とは違った焦りを覚えるね。

 

 

「船とか、空軍のチカラは?」

『使えそうな船は連合軍が開戦時に徴発。 空軍は元の地球でのフライトで今は来れない』

「海軍の船は?」

『海軍は壊滅状態でエピメテウス以外無いだろうな』

「連合軍は?」

『連合軍の部隊はEDFの権限では動かせない。 仮に動かせても、エピメテウス、して中にあるだろうWDFの機密情報に乗り込むんだ、観戦武官だの連合傘下なんだのとこじつけてロクな事をしないだろうな』

「第509統合戦闘航空団の扱いだとして、俺ら側にいる航空ウィッチを乗り込ませるのは駄目なんですか?」

『飛行計画が出ていないウィッチが離陸したら、流石に目につく。 そうなれば追尾ないし拘束だ。 そも潜入や陸戦の知識はない。 それこそ狭い艦内に入るとなれば、狼の群れに子羊を放り込むものだ。 彼女達も危険に晒されるし、それこそ攫われて"喰われる"可能性がある』

「曹長ちゃんも危険ですよ」

『只野は第2、第3の曹長ちゃんを生みたいのか?』

 

 

そんなワケない。

……いけない、冷静にならなきゃ。

悲しみを掬う筈が、悲しみを増やす真似をしてはならない。

 

 

「すいません」

『焦る気持ちは分かる。 今は耐えるんだ』

 

 

でも何もしないで過ごすワケにはいかない。

それを察してか、隊長は慰める。

 

 

『只野、お前の味方は他にもいる。 本部もWDF計画には反対派だ、こじつけて色々と支援してくれている』

 

 

本部が?

だったら、なんでWDF計画そのものを止めてくれなかったのか。

 

 

『ならWDF計画を止めろと思ってるな』

 

 

見透かされた。

隊長だしな、思考はバレるか。

 

 

「まあ」

『WDF計画は戦略情報部の発案で、本部の知らないところで勝手に始まった。 報告が上がる頃には本部が止められないところまで来ていたんだよ』

 

 

じゃあ、止められないなら何をしてくれるんだよ。

そう思うが、それも読まれたのか、隊長は続ける。

 

 

『エピメテウスとて整備や補給は絶対に必要だ。 人間が乗っている以上は特にな』

「でしょうね。 それで?」

『本来なら転送装置で元の地球に帰り、然るべき港に寄港しなければならない。 だが、本部は転送装置の不具合を理由に使わせないでいる。 どういうことか分かるか?』

 

 

使えないという事は。

この世界に留まるしかないワケで。

だけど補給が必要だから、何とかしないといけないワケであり……。

 

 

「この世界の、どこかの港に寄港する?」

『そんなところだ』

 

 

正解だった。

 

 

『正確には、安全な海域で浮上して、輸送機ノーブル等を用いて物資を運ぶのだろう。 流石にエピメテウス程の巨大潜水艦をマトモに繫留出来る港は無いだろうからな』

「ちゃんとした整備は不可能と」

『ああ。 だが根比べをする気はない。 相当の時間を浪費するのは分かりきっている。 そこでだ、寄港する……或いは補給しにくる土地に赴き、輸送機に密航するんだ』

 

 

ええ……。

それ、上手くいく保証あるの?

荷物チェックとかされるだろ、普通に。

とか思ったが、EDFの管理体制ってガバガバなのを思い出した。

意外となんとかなるかも知れない、なるのも悲しいなぁ……自分のトコの組織だし。

 

 

『あくまで計画だ。 エピメテウスにハッキングして現在地と航路を予想する事は出来るが、具体的にどこで補給するかは不明だしな』

「本部が指定すればコントロール出来るのでは?」

 

 

俺は言った。

補給は歩兵の現地調達とはワケが違う。

拠点や戦艦は大量の物資を計画的に運ばないとならない筈だ。

でなければ運用なんて出来ない。

それらは たくさんの人員と物資があって、やっと機能する高価な存在なのだから。

 

 

『勿論、それはしてくれた。 だが、エピメテウスは機密保持の観点を理由に本部の全指定を拒否。 大雑把に補給相手を教えてくれれば良いとして、後は自力で調整するとした』

 

 

おいおい。

本部は無力だな。

組織を運用する立場なのに、1枚岩じゃなさ過ぎて派閥争いみたいにならない?

あいや、陸軍と海軍の時点で違うけど。

 

 

『エピメテウス側はコッチを警戒している、という事だ。 WDF計画の、これ以上の漏洩は避けたいのが本音だ』

 

 

は?

そりゃ都合が良過ぎる。

同じEDFで、陸と海で管轄が違うとはいえだ。

 

 

「俺たち陸軍に救援要請した癖に、それはないんじゃないですか?」

 

 

と、つい言ってしまう。

隊長に言っても仕方ないのだが、心の声を溜められる程に器は大きくない。

 

 

『そうだな。 だが、表向きの話に惑わされてはいけないぞ』

「と、言いますと?」

『連合軍の存在だ』

 

 

ああ……。

 

 

『仮にも連合傘下になったEDFだ。 当然、同じ連合なら情報開示や技術提供をしろという話は しつこさ を増す。 物資提供を受ける以上、拒否し続けられないのは事実だ』

「陸軍が、連合に媚び諂ってエピメテウスを売るとでも?」

『そこまで考えてないだろうが、繋がりを切れない以上、どこかで情報が漏れる可能性はある。 それを警戒しての事だ。 ウォーロック事件の時までに、既に漏れていたモノもあるからな』

 

 

じゃあ、どうしろと。

エピメテウスに乗り込むのは、思ったより難しいかも知れないぞ。

 

 

『本部も その辺は了解している』

「なら、諦めると?」

『そうは言っていない。 この件は俺に任されているし、軍事行動ではないとして報告義務は無いとしている。 かなり無理矢理だが』

 

 

えーと?

つまり、どうするのさ。

 

 

『俺や只野が個人的に動く分には、なんとか連合の目を誤魔化せる。 逆にいえば、少人数で乗り込まないとならない』

「俺ひとりで、何とかしてエピメテウスに乗り込むと」

 

 

それ、色々と無茶振りだよね本当に。

狭い艦内でボッチ戦争はしたくないぞ。

 

 

『心配するな。 俺がいる』

「無線越しでしょ」

『そう言うな。 ビークルや兵器群には多少の知識はある。 その面でもアドバイス出来る事もあるだろうさ』

 

 

何も無いより良いけどね。

ああ、もう少し味方がいてくれれば。

 

 

『今は十分な情報も無い。 おって連絡する』

「了解です。 通信終了」

 

 

そう言って、話し終えた。

やれやれ。 どこまでも話は拗れるな。

 

 

「長電話は終わったか?」

 

 

ホーク1が声をかけてきた。

ジッと我慢の鷹であった。

 

 

「はい、別の手段にします」

「そうか。 すまんな」

「ホーク1は悪くないです」

 

 

良くも悪くもホーク1は、パイロットだからね。

人手不足の面から搬入やら主任やらをやっているのかも知れないけど、この件で悪いのは上層部だ。

 

 

「まぁ、なんだ。 出来る事があるなら手伝うさ」

 

 

それでも助けてくれるという。

ありがたい。

 

 

「じゃあ、ヘリが使えるようになったら教えて下さい」

「分かった」

 

 

まあ、今は そう言うしかない。

自発的に情報を集める余裕も技術もない。

平時でも警備任務やら補給兵の手伝いで荷物持ちとか やらされるし。

 

 

「下手に動いて、お上に消されるのも面白くないしな」

 

 

ブツブツ言いながら、俺はヘリポートを後にする。

今は情報を待つしかない。

こうしている間にも……と考えてしまうが、ジタバタしても仕方ないのも事実。

通常任務もある。

最近はそれでも非番の日が出来たが、連合軍の監視があるからか、EDFは行動制限を掛けていて好き勝手には動けない。

 

 

「今はカールスラント、EDF本部がある首都ベルリン周辺しか動けない、か。 何か出来る事は……」

 

 

またもブツブツ言いながら、本部が設置されたフラッグタワー周辺をフラつく俺。

EDFじゃなかったら憲兵なり警備兵に拘束されるところだな。

 

そう考えて薄く笑っていると。

目の前でウィッチと男性兵士が仲良く歩いているのが見えた。

よく見れば、周囲は そんなカップルがチラホラといる。

笑顔満開、デート満喫、平和万歳ってか。

 

 

「リア充め」

 

 

いや、良いんだけどね。

元々多国籍軍なEDFだが、日本支部から来た以上は隊員の大半は日本人であった。

だがコチラの世界に来て、各国の兵士が集まり509部隊となった今じゃ、国境も世界線も関係無い。

統合戦闘航空団自体、どこもそうなのだろうが軍服は統一されておらず、各国の軍服のままだ。

だからこそ平和だなと思わしてくれる。

第二次世界大戦の、国家間の戦争なんて起きていないのだ。

それこそ、あの惨劇なんて無かったように。

 

 

「記憶処理されたのもあるだろうけども……はぁ」

 

 

改めて責任がのし掛かる。

"ただの"二等兵なんかに、世界の運命を預けないで欲しい。

 

溜息を吐いて、今後を嘆いていると。

また無線が掛かってきた。 隊長からだ。

 

 

『只野。 さっきはああ言ったが、無理はするなよ』

 

 

怪我しているのに、二等兵を気遣う大将。

ありがたいね、こんな展開じゃなければ。

 

 

「ありがとうございます」

『根を詰めても良くない。 サウナにでも入って汗を流したらどうだ?』

 

 

へ?

サウナ?

 

 

「サウナなんて あるんですか?」

『知らなかったか』

 

 

知らないです。

いつの間に出来たのかい。

 

 

『連合各国から兵士が集まる過程で設備の拡張をしていたそうだが。 中にはサウナの本場フィンランド……こちらで言うスオムスの兵士もいてな、要望で作ったそうだ。 本格的な蒸し風呂だよ』

 

 

へぇ。

経験はないから、行ってみるかな。

行く当てもない。 そこで考えるのも悪くない。

 

 

『俺も行く』

 

 

へ?

隊長来るの?

 

 

「怪我は大丈夫なんですか?」

『激しい運動をしない分には平気だ』

 

 

左様ですか。

 

 

『……それに、502のチャラ女に用事があるからな』

「はぁ……チャラ女、ですか」

 

 

チャラ男ならぬチャラ女。

たぶんウィッチなんだろうが、ナニかあったのだろうか。

それにサウナって。

まさか裸の付き合いってヤツ?

 

 

「隊長。 ナニがあったのか知りませんが、女性が入ってるサウナに入るのはマズいですよ」

 

 

EDF……509は男女間の距離が近いとはいえ、流石に越えてはならない一線くらいある。

風紀が乱れ易いのは悪い点だが、だからって知っていてヤるのはダメだって。

 

 

『ナニか勘違いしているようだが。 逆にそういう所じゃないと話せない時もある』

「あのー……俺、お邪魔じゃないですか?」

 

 

男と女が混浴とか……サウナっつても、露出率の高い場所だよ?

もう変な噂が飛び交うんじゃね?

俺の場合は手遅れ感があるけどさ。

白雪姫作戦的なのが浸透していく過程で、コチラの顔を見るや顔を赤らめてヒソヒソ話す子も増えてるし。

 

 

『問題ない。 目撃者が多い方が良い』

「えぇ……隊長、そんな趣味が?」

 

 

みんなに見られてると興奮するんの?

ヤベェ、変態じゃん。

白雪姫作戦を発案する理由も納得だわ。

 

 

『違う。 チャラ女の悪事が広まる意味でだ』

 

 

若干の怒気を含んだ声。

うむむ……こりゃ真面目な案件か?

折角だ、ここまで言うんだから聞いておこう。

 

 

「一体、その人はナニをしたんです」

『ウチの子らに手を出したんでな、その説教だよ』

 

 

風紀が乱れる前に乱れてました。

でも、その説教方法も風紀が……いや、もう任せます。 好きにして。

 

 

「さいですか。 事情を知らないので、お任せします」

『そうしてくれ。 先に行ってる、気が向いたら只野も来ると良い』

 

 

うん……なんか、行き辛い。 辛くない?

 

 

「ちなみに、その人はウィッチなんですか?」

『そうだ。 501部隊のミーナやバルクホルン、ハルトマンと同じカールスラント軍で名はヴァルトルート・クルピンスキー。 階級は中尉。 バルクホルンとハルトマンとは同じ部隊だった。 伯爵なんて呼ばれてるが、爵位なんてない。 酒好き女好きの享楽主義で楽天家。 空戦では勇猛果敢で敢闘精神に溢れているそうなんだが……ユニット壊しで有名だとも聞く。 まあそれは仕方ない、仕方ないが……ウチの子に手を出すのはダメだ。 説教してやる』

 

 

早口で言い終わるや否や、無線が切れた。

どうやら説教とやらに行くらしい。

あの怪我で、無理に動いたら傷が広がるんじゃないかと心配なんだけど……。

それでも説教しに行くのは、それだけ仲間が大事なのだろう。

手を出された、というのはウィッチの事なのか知らないが。

あれ……じゃあ、クルピンスキーさんとやらは、百合属性なのかな?

 

 

「……うん、まあ……行くか。 隊長が心配だし」

 

 

別に野次馬精神からではない。

本当だとも。

それと、魔女のハダカを見たいワケじゃない。

ああ、本当だとも。

それに、10代の子にオロオロしていては白雪姫の王子様なんて無理だろ(言い訳)。

 




サウナでの戦いの話を一緒にしていましたが、温度差が激しいという最もな意見を頂きましたので、別の話数にしてお送り致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

55.サウナでの戦い

WDFの惨劇からの温度差が激しいネタ話なので、分けさせて頂きました。
読み疲れてしまった方、すみません。
趣味の類で書いてますが、貴重な意見を頂いた手前、現状で少しでも読みやすく、或いは読みたいところだけを掻い摘む事が出来るよう分別させて頂きました。

※MGS PWのサウナネタです。 ご了承下さい。


◆ベルリンEDF駐屯地、風呂共用施設

 

風呂。

それは湯船にて身体を温め、心身を清めて癒す行為並びに場所である。

間違っても戦場ではなく、故に戦闘など起きるはずが無い、起きてはならない場所。

階級も歳も関係ない。

それは異界の地であれ そうあればならない筈である。

ところが今日、EDFカールスラント首都ベルリンの高射砲フラッグタワー駐屯地にて猛将とチャラ女の間で"間違い"が起きてしまった事は、密かに記録し伝えねばならないと述べておこう…………。

 

 

「ふふふーん♪ ふふーん♪」

 

 

風呂場……シャワー室から聞こえる女性の鼻歌。

若いが幼くはなく、男性の声と言われてしまえば「そうかも」と頷いてしまいそうにもなる。

 

そんな正体見たり、と湯気を掻き分けて見れば、長身のプロモーションが露わに。

整った顔立ちは中性的だが美しく、胸の双山の膨らみと、身体のくびれ具合が女である事を主張した。

恵まれた体格はモデルとして十二分に通用する美しさを誇り、男女関係なく称えられて然るべき姿だ。

 

そんな彼女の名はクルピンスキー。

502部隊、通称ブレイブウィッチーズの所属であり、エースの1人。

 

本来、カールスラント東側に構える502が中央509の駐屯地にいるのは変に思うかも知れない。

理由としては、カールスラント防衛線の時、東から援護してくれた関係である。

ジークフリート線には"幸運にも"間に合わなかったが、他の面ではEDFの戦線維持に貢献。

その礼を受け取る形としてEDFの駐屯地で補給物資を受領したり、補給を行う関係で、彼女ら502部隊がEDF駐屯地に寝泊まりしているのである。

 

そんな人類を守る魔女ではあるが……やはり人間である以上、性格があるし、それには難がある。

内容はStorm1が只野に言った事そのままで、酒好きで享楽主義で楽天家。

ユニット壊しとしても知られていて、ブレイブウィッチーズならぬブレイクウィッチーズとも呼ばれる。

まあ、これは他にもいるので問題ではなく……いや、問題なのだが今は割愛させて頂く。

今、取り扱わなければならないのは、それらの事よりも……そう。

 

女好き、という点であった。

 

 

「───楽しんで貰えて何よりだ」

 

 

鼻歌交じりの平穏を破るは男の声。

イケボの若い声であった。

 

 

「うおっ!?」

 

 

突如として聞こえた声に、クルピンスキーは驚きの声を上げてしまう。

女ひとりだけのシャワー室に、そりゃ男の声が聞こえたらビックリもする。

人によっては精神的な苦痛すら味わうし、恐怖ですらある。

だが、男の声は無遠慮に続いた。

 

 

「そりゃ驚くよな。 だがな、クルピンスキー……お前以上に驚いた子もいるんじゃないのか?」

 

 

振り返れば、そこには若い男性の姿。

顔も声相応にイケメンで、多くの女性を虜にしているんじゃなかろうかと思わす様相。

股間はタオルで隠しているが、露わになっている上半身は鍛えられた腹筋が割れており、組まれている腕も太い。

そんな身体には無数の傷跡。

縫われた跡や、塞がっているものの色が違う部分など、荒々しい戦場を渡り歩いた歴戦の戦士の身体だった。

 

一瞬、恥じらいを忘れて見惚れたがしかし、直ぐ平静を装って返答するクルピンスキー。

 

 

「……今は僕しかいないけど。 この時間に男が入るのは、駄目なんじゃないのかい?」

「お前さんと ゆっくり話し合うには、今しかないと思ってな。 悪く思うな」

「ふーん。 ところで、貴方は? 僕の事を知っているのは光栄だけど、君の事は知らなくてね」

「Storm1だ。 階級は抜きだ、風呂場だからな」

「ストーム? 噂の遊撃部隊、しかも隊長の……これはこれは。 そんな隊長さんが、僕に何の用?」

 

 

互いに感情や本心を隠しあい、この状況の腹を探りあう。

一皮剥ければ、オスとメス。

襲われるんじゃないかとクルピンスキーはどこかで思いもしたが、軍人で、魔女である以上はチカラ負けをする気は無い。

だが、Storm1は仁王立ちのまま話を続けた。

表情は無感情にも見えるし、怒っているようにも見える。

 

 

「前にココで怪我人が出たんだ。 誰だった?」

「さぁね、509の子に聞いてよ」

「聞いたんだ、したらお前が その時間にココを利用していたとな」

「ほんの打ち身程度と聞いたよ」

「尾骶骨骨折、診療所に最低1週間。 "誰だった"?」

 

 

表情崩さず、動かざる事山の如し。

問い詰めるStorm1。

それに観念したように、クルピンスキーはチカラなく声を出す。

 

 

「…………ドルフィン」

 

 

ドルフィン……イルカ。

勿論、本名ではない。

EDFに その名の部隊がおり、そこの所属のウィッチの事である。

 

 

「転んだのかな、石鹸で。 あっははは」

「ほぅ、石鹸で!」

「派手にいったみたいでね、見事な宙返りをしたそうだよ」

「ほぅ、宙返り!」

「ストームさん」

「クルピンスキー」

 

 

遮るようにStorm1が、鋭い声を出す。

それは厳格な父のようだ。

 

 

「…………………………………………………………………………お前、俺に何か言う事ないか?」

 

 

普通なら、ここで観念すれば良いものを。

クルピンスキーは、チャラ具合を発揮し、のらり くらりと躱す。

 

 

「そうだなぁ。 最近サウナが出来たんだっけ。 一緒に入る?」

「……案内してくれ」

 

 

して、戦場はサウナへと移行する……。

 

 

 

 

 

◆サウナでの戦い

 

サウナ。

フィンランド、こちらだとスオムスが本場とされる蒸し風呂である。

向こうでは日本、扶桑式の湯船に浸かるよりも、こちらが主流らしい。

スオムス出身のエイラは、サウナの方が好きらしいが……今は その議論は置いておく。

少なくとも戦場ではない。 たぶん。

 

EDF駐屯地に設けられたサウナは、スオムス兵の意見や要望を参考に、本格的に造られた。

20人は入れる大部屋で、蒸気が充満した中は当に蒸し風呂。

汗が嫌でも溢れてくるが、同時に熱が上がる身体、それが心地の良いものである。

 

そんなサウナ部屋に、ふたりの男女。

タオルを巻いて局部を隠しあっているが、ナニが起きるか分からない様相を醸し出す。

当然、このふたりというのは、Storm1とクルピンスキーである。

 

 

「いやぁ、EDFの設営隊は凄いねぇ」

「スオムス出身の兵士らが手伝ってくれた。 寧ろ、彼らの指導や知識があってこその本格的なサウナだ。 EDFは微力ながらの手伝いだよ」

 

 

先ずはジャブではなく、様子見の、仮初めの平和的な会話から始まる。

隣り合って座るふたり。

これすらウオーミングアップであるが、直ぐにでも始まりそうで怖い。

 

 

「うん? そこにある葉っぱは?」

 

 

部屋の隅に置いてある、目につく緑色に視線をやる。

植物の枝が束ねられているが、一見するとナニ用なのか分からない。

だが、Storm1は知っているらしく、説明を始めてくれる。

 

 

「ヴィヒタだな。 白樺の枝を束ねたものだ、西部と東部で呼び方は違うらしいが」

「へぇ。 なにかに使うのかい?」

「これで身体を叩く。 血液循環を促したり、サウナの空気をかき回すとか、熱気をより感じる為だとか、傷口の消毒効果の期待、或いは魔除けや幸福を願うなどの精神的な面もあるようだ」

「詳しいねぇ」

「501のエイラや、兵士に教わった」

「へぇ。 今度ニパ君に教わろうかな」

「叩いてやろう」

「い、いや良い」

 

 

言い終わるより早く、Storm1はヴィヒタを手に取り、容赦なくクルピンスキーの お腹を叩く。

 

ベシィッ!! と、女の柔肌には酷なんじゃね、という豪快な音が鳴り響いた。

その中に怒りが混ざっているのは言うまでもない。

 

 

「ッ……チカラ強いんだなぁストームさん」

 

 

タオル越しでもヒリヒリするお腹を摩りながら、それでも愛想を振りまくクルピンスキー。

それは未だ誤魔化し続けているのは明らかで、余計にStorm1の怒りをメラメラさせているのに気が付かない。

 

 

「女は好きか?」

「突然だね。 勿論、僕は可愛子ちゃんは大好きさ」

 

 

そこは包み隠さない。

欲に忠実なのは結構だが、仲間の件を隠されるのは良い気がしない。

 

 

「ウチの連中も気に入ったか」

「509の子たちかい? 勿論! 選り取り見取り、男女間の交際も大目に見られていて、羨ましいよ」

「そうか。 で、クルピンスキー」

「なんだい?」

「モテるか?」

「へ?」

「モテるか、と聞いている」

「まぁ……それなりに」

 

 

イケメンの真顔で、真面目な声で、隣からジッと表情を見てくるStorm1。

相手が女の子ならチャラついて口説くのだが、どうにも、こういうのは……初めての経験で戸惑ってしまう。

罪を責められているのは分かっているのに、それに何故だかドキドキしている自分がいる。

男性経験がないからか、それとも。

同部隊にいるロスマン先生に責められる時とは違うドキドキを、今彼女は味わっている。

が、しかし。

Storm1は そんな事は知らない。

彼が求めているのは愛ではなく罪の告白、して謝罪だ。

彼からの責め苦は続く。

 

 

「よく身体を見せてみろ」

「えぇ!?」

 

 

ここにきて、まさかの展開。

それは……つまり、魔女の禁忌を破る行為なのか。 そうなのか!?

それはダメだ。

そんな事をしたら戦うチカラを失うだけでなく、多くの人を失望させ、下手すると人生を終えてしまう。

それこそ、目の前の男は処刑されて、人生終了である。

 

何故、自分が この男に責められているのか、その理由を忘れて彼女はドキドキしっぱなしである。

 

 

「立て」

「こ、断る」

「良いから立て!」

「あ……ハイ……」

 

 

チカラ強い声にドキッと負けて、立たされてしまうクルピンスキー。

既に負け魔女と化しているが、執拗な攻撃は続く。

 

Storm1は彼女の前に立つと、舐めるようにボディチェック。

憲兵や他の者が見たら拘束からの即処刑モノだが、彼は至って真面目だ。

 

 

「あ、あのぉ、どこを見てるんだい?」

「お前の全てだ。 タオルで隠してあるところ以外のな」

 

 

柄にもなく、ドキドキが止まらない。

サウナの熱気の所為なのか、目の前の男の所為なのか。 恐らく両方だろう。

 

 

「背後を向け」

「あ、いや」

「向け」

「……はい」

 

 

クルリとされるクルピンスキー。

すかさず、ペシペシとタオル越しにボディチェックするStorm1。

タオル越しとはいえ、女のラインを感じるには十分だ。

 

 

「タオルを取れ」

「なっ!? ナニを言ってるのか分かってるのかい!?」

「良いから取れ!」

「……はい」

 

 

ハラリ。

チカラ強い声に、アッサリ負けた。

タオルを自らの手で取ってしまう彼女。

美しい、滑らかな肌と背中の曲線は汗で濡れており、サウナ部屋を照らす電球色の夕日が、彼女の身体を官能的に称えた。

彼には逆らえない……ただの男だと思っていたが、どうにも言う事を聞かしてしまうチカラがあるようである。

魔女を生まれたての姿にしてしまうなんて色々ヤバい事をしているStorm1であるが、やはり彼は真面目だ。

 

 

「尻に傷があるな。 まるで 引っ掻き傷のような……」

 

 

ペチペチと手の甲で、その傷痕を叩くStorm1。

振動で小刻みに震える下半身。

それを首を傾けて、その行為を見やる彼女。

顔は赤らめており、熱気からなのか恥じらいからなのかは分からない。

やはり両方だろう。

 

 

「そ、そろそろ出ようかな! のぼせそうだし」

「座れ」

「……はい」

 

 

タオルを巻くも、大人しく座らされてしまう。

Storm1も倣うように隣に座り、再びヴィヒタを振るう。

今度はStorm1が自らの身体にだったが、先程より高い打撃音が響いた。

ドキッと、またもしてしまうクルピンスキー。

それは吊り橋効果となり、今までのドキドキが どんな感情のものなのか判別が出来ないくらいに解れあい、絡まりあっている。

 

 

「ラビットは知っているか?」

 

 

またも唐突な質問。

が、しかし。

今度は他の子の話になった。

勿論、ラビットも部隊名であり、そこに所属するウィッチである。

 

 

「え、あ、ああ。 509の子だよね」

「あの子もココで働くには惜しいくらいの美人だよな?」

「……そうだねぇ」

 

 

他の女の子の話になり、冷水をブッかれられたように大人しくなる彼女。

今まで自分の事だったのに……なんで2人きりなのに、他の子の話を。

そんな風に、女好きの彼女らしくない思考をしてしまうくらいには、初対面にも関わらず心を掌握されている。

残念ながら意図してStorm1はしていないのだが、何にせよ、天然ジゴロな彼もまた罪な人である。

 

 

「ラビットから相談があった。 事故があった後直ぐにだ。 折り入って話したい事があるとな」

「……へぇ」

 

 

不機嫌な相槌をする彼女。

ノロケ話でもされるのかと、そんな面持ちだ。

だが、実際は本題の話である。

というか、ずっとそうであり、クルピンスキーは勘違いしているだけだ。

 

 

「お前らデキてるんだって?」

「ははっ! そう言ってた?」

 

 

不機嫌からと、相手への悪戯心からか、チャラついた声を出すが、構わず続ける。

 

 

「だが、その前にドルフィンともデキてたんだって?」

「……それは、えーと」

 

 

が、直ぐになりを潜める。

目は泳ぎ、Storm1を見ていない。

それでも構わず続ける。

フィニッシュだとばかりに、畳み掛けて。

ついでに、手に持つヴィヒタが荒ぶり、葉先は彼女に向けられる。

 

 

「入ったのか?」

「え?」

「入ったのか、ラビットと! ここのシャワー室に! ふたりっきりで!」

 

 

ビシィッ!

 

 

「いたっ! あ、いや! そ、その」

「それをドルフィンが見ちまった!」

 

 

ビシィッ!!

 

 

「うっ!」

「彼女は不安な気持ちでシャワー室を覗いた。 したら、ふたりっきりで石鹸プレイを楽しんでいたんだと!」

 

 

ビシィッッ!!

 

 

「先ッ見……ッ!?」

「それをドルフィンが見た! そりゃ驚くよなぁ、見事な宙返りを決めるくらいに! イルカショーでもナシになぁ!」

 

 

ビシィッッ!!!

 

 

「アッ! イッタアーッ!!?」

「ヴィヒタァッ!!」

 

 

ビシィッッッ!!!

 

 

謎の叫びを互いに上げつつ、遂に実弾の説教波は大きくなっていく。

 

 

「二股。 共用施設の乱用。 挙句に隊員の負傷。 お前……ナニをやってる!?」

 

 

チャラ女の罪状を読み上げたStorm1は、呆れと怒りの声を出す。

それはさも、息子ないし娘に説教するお父さん。

対して、淡い恋心が咲く前に我に返ったチャラ女は、言い訳出来ない状況に根を上げた。

 

 

「ご、ごめん……つい」

「つい!? ピクシー、トントゥ、ロスマン、スワロウ、後何人の女に手を出した!? 潰す気か!?」

 

 

バキィッ!

 

今度は怒りのあまりか、手に持つヴィヒタが砕けてしまった。

さりげなく先生の名前が混ざっているのは偶然なのか分からなかったが、とにかく、二股どころではない人数を毒歯にかけていた。

 

 

「俺は皆の、惚れた腫れたに首を突っ込む気はない。 個人の自由、自己責任だ。 だがな、それは任務に支障がない、心身に影響がない範囲での話だ!」

「ぼ、僕は」

「俺にこんな説教をさせるなぁ!」

「すいません!?」

 

 

あまりの怒気を感じてか、思わずハダカ正座からの土下座を敢行。

扶桑式のソレは、恐らく502にいる扶桑軍人に教わったのだろう。

側から見れば大の男が、一応まだ10代の女の子に土下座をさせているという凄い光景だった。

 

だが、こんな事態になっても、クルピンスキーの性根はチャラ女だった。

 

 

「じゃあ、この辺で」

 

 

見下ろしてくるStorm1の隙を突き、彼女はスタコラサッサと遁走。

タオルを巻いた状態で、サウナを後にする。

 

 

「コラァ! 待てェッ!!」

 

 

直ぐに追いかけるStorm1。

だが、先手を打たれた分、追いつけない。

そう判断したStorm1は、どこからともなく某家庭用お掃除ロボットのような形をした《スピードスター》を手に取り滑らせる。

 

 

「行かせるか!」

 

 

それは時速3桁越えの速度で、クルピンスキーの足元を掬うには十分な威力を誇っていた。

 

 

「アラァッ!?」

 

 

ドルフィンがしたように、今度は彼女が宙返りをする番に。

ズテーンと派手に転ぶがしかし、大きな怪我なく無力化される彼女。

 

 

「ははっ……そこを動くな」

 

 

そこにねっとりボイスで やってくる男がひとり。

再び彼を見上げるクルピンスキーだが、タオルの中身が見えて赤くなり……目をそらす。

 

 

「立てぇ!」

 

 

そんな彼女を鍛えた両腕で抱き起こし、無理矢理立たせるStorm1。

フラつきながらも、両足で立つ……が。

 

 

「お返しだっ!」

 

 

隙ありとばかりに、体当たり。

 

 

「がはっ!?」

 

 

反応出来ずに、吹き飛ばされてしまうStorm1。

して再び逃走するクルピンスキー。

道中にいた兵士らが驚愕の声を上げるが、構わず走る。

 

 

「貴様ァッ!」

 

 

素早く体勢を整えたStorm1。

傷が開くのもお構いなく、EDF伝統芸のローリング移動で追いついて見せる変態機動。

もう全裸である。

道中にいたウィッチも「キャー」と悲鳴を上げるのは仕方ない。

 

 

「根性叩きだせッ!」

 

 

ここまで来ると、恥じらいなんてないのか。

Storm1は相手が女だろうと構わずパンチを繰り出した。

レンジャー程でないにしろ、彼も軍人だ。

鍛え抜かれた全身は凶器と言って良い。

とはいえ、一応加減して急所は外す。

それでもクルピンスキーの長身でしなやかな身体は吹き飛んだ。

ゴフォッ! という美少女にあるまじき重低音。

吹き飛んだ先で、ガシャーンと積んである木箱の山を崩し、悲鳴の輪が広がった。

Storm1はそれでも構わず迫真の追撃。

 

 

「このニセ伯爵!」

「グハッ!?」

 

 

ドカドカ。 バキッ。 ボコボコ。

 

 

「握り潰すぞ!」

「ゴフッ!?」

 

 

ドンドコ。 ドッカン。

 

 

「人類の敵! ネウロイ以下の悪党!」

「ゲフッ!?」

 

 

ボカボカ。 ドスッ。 ズドン。

 

 

「反省しろォッ!」

 

 

ズドーン。

 

 

「カハ……ッ!」

 

 

十分に痛めつけられたクルピンスキー。

タオルは どこかにいってしまい、綺麗な肌はアザだらけ。

女の子になんて事を……と、思う人もいるだろうが、彼女も相応に悪い事をしたのは知っていて貰いたい。

 

それを認めさせるように、Storm1は倒れている彼女を起こし、背後から首をギリギリと締め上げる。

男女が生まれたての姿で密着している光景は色々と危ないが、別にやましい行為をしているわけではない。

反省会だ、いちおう。

 

 

「どうだクルピンスキー……! 火照った身体に気持ち良いだろう……外の風が」

「く、首が……締まる……! それに、なんか、ストームさんが、あったかくてぇ……!」

「ううん!? 反省したか!?」

 

 

ギリギリギリ。

 

 

「ぐえええ……!」

「真剣に考えろ。 女か! 仲間か!」

「りょう……ほう……」

 

 

言うと、ケモ耳と尻尾を出して魔力を込める彼女。

チカラ一杯、背中のStorm1を背負い投げし反撃。

Storm1は突然の事に対応出来ず、地面に叩きつけられてしまう。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

すかさず馬乗りになるクルピンスキー。

して、今度は殴りながら自分の主張を始める。

それは親に反抗する子のようだ。

つまり、親子喧嘩。

 

 

「僕が!」

 

 

ポカッ。

 

 

「モテて!」

 

 

ポカポカッ。

 

 

「ナニが悪い!」

 

 

ポカポカポカッ!

 

 

そんな可愛らしくも、必死の主張。

だが、それを認めるワケにはいかないから、Storm1も反撃に出る。

EDF式で鍛えた身体は、例え魔女が魔力を込めたパンチであれ、多少は耐えられる。

傷口は広がりを見せるが、そんなものは痒いとばかりに、乗っかる彼女を蹴りどけて、再びパンチング。

 

 

「貴様ッ!」

 

 

バキッ!

 

 

「少しは!」

 

 

ボカッ!

 

 

「懲りろォッ!」

 

 

ズドンッ!

 

 

そんな殴り合い。

だが、手負いとはいえ陸戦を耐えて来たStorm1には敵わなかったのか。

やがて起きたクロスカウンターが決め手となり、クルピンスキーだけが仰向けに倒れる。

 

 

「ぐはぁ……ッ!」

 

 

そんな彼女の元へ寄り、また見下ろすStorm1。

息が荒く、傷口が開いて所々、鮮血が流れ出ている。

そんな彼はシメだとばかりに、彼女に語る。

また彼女も、素直に聞き入れた。

 

 

「はぁはぁ……クルピンスキー……皆に謝れ」

「……あぁ」

「少しは慎め」

「……あぁ」

「509にいる間は毎日風呂掃除」

「……あぁ」

「よし」

 

 

こうして、509は落ち着きを取り戻していったとさ。

 

 

「お前たち、ナニを見ている。 持ち場に戻れ」

 

 

一部始終を見てしまった只野や皆はムラつく余裕もなく思った。

ナニコレ。 チン百景かな、と。

 




クルピンスキーは、そんな子じゃない!
と、思ってしまった方もいるかも。
でも、適任の子がパッと浮かんだのがニセ伯爵でした(殴)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

56.胸囲の新人

作戦内容:
501部隊は連合指令部により、カールスラントに留まっています。
解散して原隊復帰しないのは、EDFに介入させる為でしょう。
本人たちは、あくまでも大人達に従わされているだけで罪はありませんが……。
ジークフリート線の惨劇から自力で脱出しようとしたのは、10代の女の子でありながら良くやったと思います。
それでも精神疾患による戦闘不能を避ける為に記憶処理を施してあります。
健康被害は報告されていませんが、警備兵は気にかけて下さい。
備考:
記憶処理をされるというのは、どんな気分なのだろうか。
ただ、思い出させる必要はない。


◆EDF本部フラックタワー周辺

 

この日、只野二等兵は任務としてベルリン市街地を警備……という名の散歩をしていた。

受領したTZストークを持ち歩き、周囲を見回す。

自分以外の歩兵は出歩いていないが、建物の屋上には狙撃部隊のブルージャケットがKFF狙撃銃の完成形KFF70を構えて警戒中。

その下を只野や市民、非番の兵士らが出歩いている状態。

ものものしいが、神出鬼没のネウロイ相手だ。

これくらいしても良いだろうとは連合への言い訳だった。

 

実際はWDFへの警戒が本音なのだが、空間旅行先なんて分からないし、最終作戦決戦仕様の武器で集中砲火をしても倒せなさそうな神モドキ魔女に、こんなのは無力に等しい。

 

だが有効な対策なんて無い。

ならやれる事をやるだけだと、こうしている始末だ。

それでも元凶の戦略情報部と、ウォーロックの制御も出来ないクセにWDFをモノにしたい連合の諜報機関らが捜索を続けている。

 

一方で、行方の知れている筈の もうひとり……そちらの話は まるでない。

潜水母艦エピメテウス艦内にいるだろう、曹長ちゃんを救う事すらままならない事に、只野は苛立ちを覚える。

 

 

「どうすりゃ良いんだよ……こんな事してたって、状況は悪いままだぞ」

 

 

自分にだけ聞こえる声でボヤく只野。

ヘリは使えない、他の者も動けない。

情報も不足気味。

だけど任務だけは押し付けられる。

地獄を生き延びただけでも儲け物だと言われても、自分さえ良ければ良かった過去と違い、喜べない。

兵隊だけは日に日に増えているが、いくら掻き集めたところでWDFには敵わない。

精々が時間稼ぎだ。

 

そんな状況を知らない一般市民、兵士らは買い物や食事を楽しんで笑顔を見せてくるときた。

 

発狂してフルオートで弾をばら撒きたくもなるが、まだそこまで落ちぶれているつもりはない。

 

 

「はぁ……いっそ記憶処理して貰って、嫌な事全部、忘れたいよ」

 

 

溜息をつくも、人知れない。

ストームチーム、特に隊長が その点においても味方なのが救いか。

502のクルピンスキーとのドンパチは意味不明だったが、まあ、意味のある行為であったと考えておく。

 

 

「どうしたんですか? 溜息ついて」

 

 

と、そこに可愛い声。

振り向けば501部隊の新人、宮藤とリーネ。

買い物中だったらしく、食糧の入った紙袋を抱えている。

 

 

「宮藤にリーネか。 何でもないよ、気にしないで」

 

 

只野は愛想笑いで誤魔化した。

大人の悩みに、軍人とはいえ子どもを巻き込むワケにもいかない。

特に、この子らは惨劇から生還したのだ。

その記憶は曖昧なのだろうが、そう思うほどに心が辛くなる。

グロデスクなスプラッターシーンは、只野ら隊員にとっては多少慣れている部分はあれど、他者に強要するつもりは微塵もない。

人間そっくりな(隊員には そう見えていた)エイリアンの四肢がもげるなんて、良くあった話だ。

 

 

「そうですか? 聞くだけなら出来ますよ」

「……芳佳ちゃん」

 

 

トゲがあるとも無いとも言える言い方で、純度の高い笑顔を見せてくる宮藤。

それに思うところがあったのか、なんとも言えない表情を浮かべるリーネ。

 

 

「気持ちだけ受け取っておくよ。 2人は買い物かい?」

 

 

只野も気にする余裕は無く、取り繕った笑顔で対応するだけ。

彼女らが こういった振る舞いをするということは記憶処理されたんだろう。

普通の10代の子があんな記憶を保持していたら、ここで笑いながら買い物なんて出来やしない。

良くてベッドに毛布を包まってガタガタ震えているか、普通で発狂、薬中、悪くて自殺ものだ。

それを意地悪で言う程に腐ってもないが、気を紛れる様な話はしたいと思うし優しく接したい。

 

 

「はい! EDFの お世話になっているのも悪いので、なにか ご飯を振る舞おうと」

 

 

一瞬ギョッとする只野だがしかし、宮藤は料理が出来るサイドなのを思い出し、安心の息を吐く。

 

 

「和食とか?」

「はい! 味噌汁に白米に……」

「それは良いね。 みんな喜ぶよ」

 

 

素直に喜んで見せる只野。

レーションやらインスタントで済ませて来た隊員もいる中で、それはありがたい。

食事は士気を維持、高揚させる上で とても重要だ。

 

中には自分で作ろうとした者もいるのだが、高級食材で作ったジャンクフードと化した。

少なくとも魔女料理よりマシだったが。

 

大戦中、自分で料理をして部下に振る舞う事を言った隊員がいた。

部下は1番良いモノを使えば何とか食えますと軽口を叩いたが、魔女がソレをやったところで、食えるレベルになるか怪し過ぎる。

寧ろ料理に喰われるレベルになるかも知れない。

宮藤なら、そんな事にならない。

ならないハズだ。

 

 

「只野さん達の出身、日本って、扶桑と似ているんですよね?」

「そうみたいだね。 扶桑には行った事ないけど」

「良いところですよ。 横須賀とか」

「そうか。 いつか、行く日が来るかも知れない。 その時は宜しく」

「はい。 喜んで」

 

 

只野は言うが、行く機会があるとは思っていない。

 

扶桑。

欧州から遥か向こう。

戦場から遠く離れた国。

只野たちで言う、日本に該当する国。

 

文化は そっくりで、それは宮藤や坂本を見ていると 何となく分かる。

こちらの世界では扶桑は比較的平和で、空襲も無ければ飢餓に苦しんでる事もない。

普通に1940年代の文明レベルで人々が暮らしている。

だけど、人の声が響かない地球より ずっと明るい世界だ。

───世界が根本的に違う。

それに虚しさを感じる事あれど、仕方ない事である。

 

 

「只野さん」

 

 

と、リーネの声で思考の海からサルベージ。

 

 

「芳佳ちゃんの味噌汁は、とても美味しいんだよ。 毎日作って貰いたいくらい」

 

 

なんだろう。

黒いオーラが見える。

幻覚なんだろうが、恐怖を感じる。

 

 

「そ、そうなのか。 楽しみだな」

「もー! リーネちゃんってば」

「本当だよ芳佳ちゃん」

 

 

対して只野は狼狽え、天然宮藤は何ともなさそうに振る舞う。

このままだと、夜道に気をつけないとならなそうな展開だ。

それを察せない=ある種最強の宮藤を防波堤にしつつ、只野は話を変えた。

 

 

「そうだ、2人に服でも買ってあげよう」

「服ですか?」

「ここで会ったのもナニかの縁だ。 そうだな、2人は仲良さそうだからペアルックするとか」

「ペアルック?」

「お揃いってこと」

 

 

さり気なく手を引くような発言をしつつ、冷や汗を拭う只野。

お金に関しては、この世界の、欧州で使える単位で給金を貰っているので問題ない。

二等兵とはいえ、出るものは出る。

少額だが、使わないでいた分、2着くらい買える貯金はある。

こういう時の危機管理にも使えるとは思いもしなかったが。

 

金も武器になるんだね★

 

金を持ち歩いていて良かったと思う只野。

だがこの後、金で解決出来ない展開にはZシリーズの武器有りとて無力であった。

 

 

 

 

ーーーーーEDFーーーーー

 

なんだかんだ言いつつ、501の新人2人を丸め込んで服屋に来た一行。

戦時復興中だというのに、"屋根付き店"があるのはEDF設営隊の影響が強い。

 

そこで適当な服を買ってあげた只野だったが、またも暗黒面を見る羽目になる。

 

 

「お揃いだねリーネちゃん!」

「うん。 でもね芳佳ちゃん。 同じ服を着ても"同じ"には見えないよ」

「あれー? なんでだろうね?」

 

 

同じ服を着て、感想を言い合う恐怖の新人。

恐るべき魔女たちに、只野は内心ブルッちまうしかない。

 

ナニが違うか?

悲しき性を持つ男の只野には分かる。

 

胸部が! 圧倒的に! 違うからだ!

 

宮藤はぺったんこ、リーネはボインだ。

服は草原と山くらいの違いが見て取れる。

女の戦い……キャットファイトに発展しないのは、天然と闇の均衡が取れているからに他ならない。

 

が、しかし!

 

そんな様を見せられている只野はたまったものではない。

ある種の戦場が、ここに展開していた。

緊迫の時間。

歩くエイリアン前哨基地から退避したように、生き延びる事だけを考える只野。

 

 

「背丈やサイズで服の性格が変わるからね、仕方ないね!」

「うーん? でも私とリーネちゃんの背って そんなに違わないと思うんだけどなぁ」

(宮藤ぃいいいぃ!? 話合わせろよ!?)

「サイズが私の方が大きいから。 芳佳ちゃんが羨ましいな」

(ヒェッ)

「へ? なんで?」

「服屋さんにあった柄、みんな着られたじゃない。 ごめんね、私に合わせて貰って」

(リーネ! 黒リーネナンデ!?)

 

 

もうね黒い。 真っ黒黒助だよリーネちゃん。

対して全然気にしない天然宮藤。

リーネも宮藤も、意図してない天然コンビなのかも知れないが、だとしても見せられてる側としては胃に悪い光景だ。

この2人って、本当に親友なのか。

只野はどこかの情報を疑った。

 

 

「良いよ、気にしないで。 とても似合ってるよリーネちゃん! 馬子にも衣装だよ!」

 

 

褒めてねぇ! それ褒めてないよね!?

 

軍曹の部下が、入隊して間もないStorm1に言った言葉でもあるソレ。

というか意味わかってないで使ってる可能性がある。

幸いなのは、リーネが その意味が分かってないところだ。

 

 

「どういう意味なの?」

 

 

笑顔で聞くリーネ。

怖い。 怖すぎる。 ビビる。 胃がもげそう。

ここが爆心地になり、間違った使用方法が広がる恐れから只野は遮る。

 

 

「あー! 2人とも、気に入ってくれたかい?」

「はい! ありがとうございます、只野さん!」

「ありがとうございます」

 

 

遮った事には怒らず、素直に笑顔を向けてくれる2人。

笑顔が怖い。 憎悪に満ちた世界を誤魔化す愛想笑いは嫌いだが、天然なら良いというモノでもないと、改めて只野は思った。

 

 

「じゃ、じゃあね! 俺は街の警備に戻るよ!」

 

 

そう言って逃走。

10代の女の子に敗北する精鋭歩兵の図。

 

魔女って怖い。

そんな偏見が、またも只野の脳内にインプットされたとさ。

 




ラジオネタを盛り込んでみたり。
WDFの方は……どうなるのか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

57.硝煙のち死体雨。

作戦内容:
連合により再編成された国際黒海監視航空団から救援要請。
どうやら、ネウロイの群勢がカールスラント方面に再侵攻との事です。
509JFWは直ちに出動、これを迎撃。
なお、EDF側の空軍は動けません。
航空ウィッチと陸軍のみで対処します。
…………!?
空間転移反応!?
備考:
黒海方面は既に乱戦状態。
硝煙激しく、視界は皆無。
友軍誤爆の危険性から航空機による地上支援は困難。


◆黒海方面防衛線

 

あっち行ってコッチ行ってと軍隊の人使いの荒さには感心すると、只野二等兵は思う。

武装車両グレイプに放り込まれ、気がつけば黒海方面の戦場に放り出されている。

あるあるで済ませられたくない惨状にも、両手が休まる暇が無い事への嘆きも、WDFの心配も、黒海監視団への同情も後にして、仕方なしに戦争を始めた。

 

 

「って、"ヘビースモーカー"じゃねぇか!」

 

 

硝煙が地上と空を覆う光景に、つい叫ぶ。

だが、音だけは響き渡り、戦場である事を嫌でも認識させられる。

空は509JFWのモブウィッチーズと、小型航空ネウロイとドンパチしている音。

地上も遊撃戦用の最高峰、ニクスZCやら最終作戦仕様をジャラジャラした歩兵部隊が暴れている音。

 

だが発信源は分からない程の煙。

 

無数の発砲炎と煙、地面の埃、機械類が出す黒煙等で濃霧の状態になっており一切の視界が効かない!

 

 

「味方ごと撃てってか!?」

 

 

ミサイル持ちは自動ロックオンだから良いが、だからと景気良く白煙を撒き散らさないで欲しい。

 

EDF5のゲーム中でも、こういった現象は珍しくない。

特に高火力持ちのNPC部隊(ニクス隊や戦車隊等)が多いと余計に。

自分自身のミサイル発射時に発生する煙でも視界が悪くなる。

そうなると自動ロックオン機能やセンサー反応を頼りに攻撃を敢行するが、遮蔽物や地形を認識出来ないので危険である。

 

 

「歩きタバコ以上の迷惑行為だぞ!」

 

 

と、煙草ユーザーがキレそうな事を言うも仕方なし。

ココは戦場。 そんな事を言ってられない。

 

それに平時の時でさえ法も秩序も現代よりガバガバ世界だ。

 

身近な煙草や酒の話をするなら、可愛い未成年の女の子たちが咥えタバコを呑む光景なんて珍しくない。

アイドルみたいな、清楚な女の子が酒や煙草、モルヒネにリストカットでアヘってキメる姿はショックだろうが、現場は狂気の戦乱世界。

楽しみもなく、同年の子が隣でミンチになり、自分も いつ死ぬか分からない中で精神を安定させる為だ。

しても安定しない事もあるけれど。

それでも目を瞑る。

それがこの世界の日常ならと。

加えて男女間の交際を大目に見てるのも。

 

メインであるアニメの話では、晴れ舞台の青空で少女が舞い、華麗に戦う萌えの面やアイドルぽい……或いは思い描く憧れのエースな側面が強い。

だが血泥沼に塗れる他の最前線部隊、特に汚泥に這い蹲って、時に死体漁りや食糧の現地調達(ナニかは書かない)をし、不衛生な中で岩にかじりついてでも戦う陸軍陸上部隊は悲惨な日常を送っているのだと思う。

 

それら嫌な記憶をエイリアンの技術で曖昧に或いは吹き飛ばせるEDFは"便利"だと思う。

最も、戦闘面で役に立つ経験と判断されたら消してくれないが。

 

結局は兵士の命や数とは"単位"であり、兵器である。

戦闘力を減らす事は好まない。

それが良い事でも悪い事でも。

そんな兵器にも威力次第で非人道的か否かの議論があるが、果たして戦争や命を奪う兵器に人道なんてあるのか。

なんにせよ、線引きは曖昧。

他にも線を引きたがるのは人間の悪い癖だ。

 

して、嫌な光景を前にチンタラしている只野に、仲間が怒る。

みんな必死だ、口調も荒くもなる。

 

 

「只野! 口じゃなくて手を動かせ!」

 

 

グレイプの運転手だ。

車体上部に備わる砲塔───榴弾砲じゃなく連射砲なのは正解なのだろう───を動かして機関銃のように撃ちまくっていた。

それを皮切りのようにして、只野と共に来た連合兵士や陸戦ウィッチも文句を言う。

 

 

「何でも良い! 気配がする方向に撃ちまくれ!」

「弾を惜しむな時間を惜しめ!」

「応援のAFVも来る! 楽な仕事だぞ!」

「獲物を取られて良いのか!?」

 

 

言うや否や、弾を景気良くばら撒き始める面々。

セミオートマチック・ライフルの最終形であるG&M-29持ちが、景気良く特殊AP弾を撃ちまくり、また ある陸戦ウィッチは連式ロケラン ボルケーノの完成型であるボルケーノW30でロケット弾を撃ちまくる。

煙は濃くなり、ほんの数m先すら見えなくなる。

只野は舌打ちした。

 

 

「チッ。 喫煙スペースだな、俺は吸わないから帰って良いか?」

 

 

皮肉を言う。 実際に皮肉が転がっているのも皮肉である。 して誰も聞かない皮肉。

この戦狂は麻薬カクテル。

溺れ、沈め合い、それを喜び楽しむ。

発砲音や爆音そのものが麻薬のようになり、多くの者の正常な判断を互いに奪い合う。

比較的正気なのは、只野のようなEDF隊員か、良く訓練された兵士である。

 

 

「トリガーハッピーめ」

 

 

オーバーテクノロジーのEDF兵器群が不必要に血泥で汚れている錯覚に陥る。

そうでないなら、花火やパーティーグッズと勘違いしてるんじゃなかろうか。

 

途端にチカラを手に入れた人間に、アヘ顔晒されながら大口を叩かれた気分の只野。

 

イラついても仕方なし。

 

センサー反応を改めて見る。

敵である赤丸が分散。

同時に味方も分散、重複しているのも少なくなく、実にやり難い。

 

 

(ネウロイと味方がごちゃ混ぜだ。 既に友軍誤射が起きている可能性すらある。 航空ウィッチの援護は望むべくもない。 ここからロケランをブッ放せばミックスジュースの完成だし)

 

 

こんな乱戦時こそ、空爆誘導兵……エアレイダーの出番だろう。

かの兵科は、このような乱戦時でも友軍を巻き込まず効果的に航空支援や砲撃支援を取り付けられるようにする為の兵科だ。

だが隊長は負傷していて戦場に来れない。

その前に空軍がいない。

いや、いるにはいるが……それはウィッチだ。

よほど確実にネウロイだと分かる状況じゃなきゃ攻撃出来ないだろう。

だが制空権が無い以上、のんびり地上の敵味方を識別する余裕はない。

 

 

(509部隊のウィッチらもEDFの武器や装備をジャラつかせてるが、無理だろうな)

 

 

いつも通り歩兵隊か。

諦めて突入、白兵戦だ。

 

 

「ショットガンが欲しい」

 

 

ボヤくが、新しい武器も試したい。

TZストークを構えて、只野は突撃兵として前進する。

 

EDF隊員として、皆の為にも恐怖を克服しなければならない。

それはモブ隊員らも言っていた事だ。

 

 

「良いぞ!」

「頑張れよ!」

 

 

今はモブ兵士らに応援をされるが。

彼に着いて行く者がいない辺り、威勢は上っ面、中身は死への恐怖が垣間見れる。

 

 

「どうも」

 

 

只野は責めない。

勇敢は美徳ではないのを知っているから。

逆に、死の恐怖を忘れていない事を褒めてやりたかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーEDFーーーーー

只野視点

 

 

「ネウロイは分かっているのか?」

 

 

センサー反応を見てボヤく。

 

ナニも見えない硝煙の中だというのに、銃声とビーム音は響き続け、しかし味方反応は減っていく。

 

それで疑問に思った。

 

人間なら、さっきの連中みたいに気配のする方向だのなんだのとデタラメに弾丸をばら撒いているだけだ。

 

なら、ネウロイは?

 

ネウロイは、どのように人間を感知して攻撃しているのか不明だ。

 

エイリアン連中のドローンに搭載されていただろう、高性能センサーのような機能があるのだろうか。

 

 

「でも視認の可能性はある。 だとしたら、どうやって」

 

 

というのも、ハルトマン救出の時を思い出してのこと。

 

ハルトマンは藁人形でデコイを作り、ネウロイを欺瞞していた。

アレの効果の程は分からないが、センサー反応を頼りに攻撃しているなら、森に隠れるハルトマンを的確に撃っていた筈だ。

 

考えながら、しかし戦わねばならない。

 

センサー反応を見つつ、敵の方向へにじり寄る。

 

姿勢を低く寄りつつも、一応周りを警戒。

ネウロイのビームにせよ、人間の銃にせよ、音や閃光……マズルフラッシュくらいは僅かに見えるからな。

 

ほら見ろ。

ドラム奏者がアッチにいるぞ。

閃光も"ハイ"ビームも迷惑なまでに見える。

 

威嚇行為にせよ景気付けにせよ、目立つ行為を好んでするヤツの気が知れない。

 

ほらセンサーを見ろ、ネウロイの損害より味方の損害が大きいぞ。

相変わらず青丸の減りの方が赤丸より早い。

戦時は嫌でも味わった状況だが、いつ見ても良い気はしない。

 

あっ。

 

 

「やべ、ネウロイは光や音の方向に撃ってるんじゃね!?」

 

 

俺は気が付いてしまったよ。

 

センサーが無い、視界も効かない。

なら光や音を感じて撃つしかない。

 

オカシイ話でもなんでもない。

寧ろ何故、それを人間側が意識しなかったんだよ。

 

 

「皆に知らせないと」

 

 

被害率を下げないと。

匍匐姿勢で、まず自分の被弾率を下げて無線を繋いで……よし。

 

 

「こちら只野二等兵。 視界の悪い中、ネウロイは光や音の方向に撃ってると思われます。 無駄撃ちは避けて下さい」

 

 

よし、取り敢えず注意はしたぞ。

聞いてくれたかは分からないが。

 

 

『あ? 今更そんな情報がなんだというんだ!』

 

 

わぉ。 警告に対して文句かよ、ありがとう。

今更でもやり方を変えてどうぞ。

 

 

『撃って撃って撃ちまくれ!』

 

 

あかん、音とマズルフラッシュが激しく。

火に油を注いでしまったようだ。

 

 

『EDFッ! EDFッ!』

 

 

女の子の声が。

陸戦ウィッチだね。

正規軍じゃなきゃ叫んじゃダメなんて事はないけどさ、正規軍の俺の言う事を聞いても良いんだよ?

 

あ、二等兵だからダメですかそうですか。

 

 

「ネウロイより味方に撃たれて死にそうだよ」

 

 

ため息を吐くも仕方なし。

センサー反応を頼りに戦うか。

手元にあるTZストークも試したい。

 

俺は匍匐前進を開始。

被弾率を下げる為だ、遅くても良い。

死に急ぐより遅い戦果と生き延びた命だよ。

 

相変わらずセンサー上では青丸が減る、赤丸はたまに減る。

損耗が激しいな、俺ひとりになっちゃうんじゃない?

 

 

「それはヤダなぁ……うん?」

 

 

ここでセンサー反応に異変が。

赤丸が急速に減り始めたのだ。

いや、消えたという表現が正しい。

 

 

「なんだ、またセンサーの故障か?」

 

 

そう思ってしまうのも仕方なし。

そのうちに青丸も。

センサーの探査波のエフェクトは出ているんだが……。

 

 

『ギャアアアッ!』

「ッ!?」

 

 

突然の、無線越しの悲鳴!

それを皮切りに、続く悲鳴の数々。

 

 

『ば、バケモノだ! 逃げろ! 逃げろォッ!』

『な、なんだ このビーム攻撃!? う、うわあああ!?』

『追いかけてくるぞ!』

『逃げられない! ガハッ!?』

『どこから撃ってるんだよ!?』

『助けてッ! 助けテェッ!!』

『隊長ッ!? 隊長が墜ちた!』

『今助けに……ギャッ!』

『どこから!? どこからなんだよぉ!?』

 

 

狂った声が耳元で踊り狂っていた。

 

なんだ、なんなんだ!?

急にどうしたんだ!

 

一瞬で威勢が狂乱に置き換わった。

 

まるで、ナニかに乱入されたような。

ここにさっきまでいなかったヤツが来たような。

 

 

「落ち着け……俺は大丈夫だ、大丈夫……こんな時、慌てた方が負けなんだ」

 

 

匍匐姿勢を維持。

ジッとする。

状況不明、下手にジタバタしても仕方ない。

撃つな喋るな動くな黙れ……!

 

高鳴る心臓の音にも怒鳴りたくなるのも抑え、俺は地面に頬を付ける。

したら。

 

 

ボトリ。 ボトボトッ。

ビチャッ、ベチャリ。

 

 

質量あるモノが落ちる音、粘りのある水音が響く。 すぐ近くで。

それは続き、やがて正体が分かった。

 

 

ドチャッ。

 

 

目の前にソレが落ちた。

瞳孔が開き切った。

少女だったモノと目が合った。

 

 

「うわあああああッ!?」

 

 

思わず悲鳴を上げて、だけど染み付いた軍事行動からか。

 

匍匐姿勢のまま、横に転がる。 刹那。

 

 

バシュッ!

 

 

光弾が俺のいた場所に着弾。

側に落ちた少女だったモノはミンチになり、四散。

 

もはやなんだったのかすら、分からない肉塊になっていた。

 

 

「はぁはぁ……! なんなんだ、なんなんだよチクショウ……!」

 

 

文句を言いつつ、転がり続ける。

やがてナニかに当たって身体が止まった。

 

見やれば兵士の死体の山だった。

手足の数から3人くらいだろう、先程より原型があるぶん、まだ冷静でいられた。

たぶん、さっきの高出力の光学攻撃とは別で死んだのだ、ネウロイだろう。

 

 

「ああ……くそっ……今度こそ協力してくれよ」

 

 

俺は物言わぬ死体たちに小さく言うと、その肉塊の山の下に潜り込んだ。

 

して再びジッとする。

戦時中でも似た事はやった。

 

死体を遮蔽物、もしくはその下や中に隠れて敵をやり過ごす方法。

 

狂ってるって?

死者への冒涜?

 

生きる為だ。

それに、俺は一応 断りは入れたからな。

 




もちろん、白銀の……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

58.Mayday

緊急事態応急対応:
空間転移反応から白銀の魔女、WDFと断定。
既に空、地上戦力共に多大な被害が出ています。
現状戦力では太刀打ち出来ません。
生存者は直ちに撤退して下さい。
備考:
他者を助ける事は美徳ではない。
平時の世界に入り浸る人間は非難するが、現場はそれどころではない。

無線や警告、英単語など、やり方や表記ミスがあるかも知れません。


◆ベルリンEDF本部

 

白銀の魔女の乱入を受けて、現場は阿鼻叫喚、ジークフリート線ほどの兵士がいないにせよ、"いんふぇるの"が現場で形成されているのは想像に難しくない。

 

 

「被害把握は後だ! レールガン、狙撃部隊は前線の手前に投入! カールスラント領内に敵を入れるな!」

 

 

報告を受けた本部は対応に追われる。

本部員は走り回り、戦略情報部は正確な情報を精査、整理して状況に備える。

 

 

「恐らく白銀だ。 ヤツは神出鬼没で圧倒的、不意打ちを受けずとも対処は難しい」

 

 

EDF司令官───今は509JFWの司令官でもある───は各部隊に指示を出しながらも、悪態をつく。

アーケルスのような巨大な怪生物の乱入など、突然現れた圧倒的なチカラと対峙してきたEDFだが、今回は勝手が違い過ぎる。

 

 

「509JFWがいくら奮闘したところで、ヤツを止めるのは難しいな」

 

 

そう言いつつ、思わず歯軋りしてしまうのも無理はない。

 

509JFWは表向きこそカールスラント防衛だと民間に喧伝されているのだが、本当の目的は白銀の魔女への対抗。

 

圧倒的なチカラを持つ白銀の魔女を止める為、509JFWはEDF式の厳しい訓練や強力な武器を備え、ウィッチや連合兵の練度は高水準にある。

 

だが、WDFという特殊な相手である。

 

強力無慈悲なチカラとシールドで、並大抵の兵器では太刀打ち出来ないし、兵士を人海戦術の如く押し込んでも殺戮ショーが始まるだけだ。

 

 

「出た被害は……死んだ者は戻ってこない。 だからこそ生きている者がやらねばならない。 ならないが……今回は」

 

 

かつて、元の世界の各地で繰り広げられたマザーシップ撃墜作戦の時みたいな、被害だけ被って失敗する気がする。

最後の戦いでのNO.11……コマンドシップ撃墜の奇跡がまた起きるとも限らない。

そも、それの撃墜に貢献したストームチーム、特にStorm1は敗北した。

死んでこそいないが、またストームをぶつけて今度こそ死なすワケにもいかない。

あの時と違い、後がないワケでもないのだから。

 

 

「連合も文句は言いつつ中途半端な支援はしてくれる。 その息が続いているうちに解決はしたいものだ」

 

 

連合も打算した上でだが、協力してくれている。

 

でなければ、EDFは仮にも連合傘下にならなかったし、509JFWも設立しなかった。

 

EDFのWDF計画で生み出された究極の魔女が暴走し、ジークフリートでの惨劇が たった1人の魔女の所為だと知って手の平を返した結果だった。

 

本来なら、EDFの失態なんて責める口実になれど本格的に腰を上げて介入しようとは当初、連合は考えていなかったが。

 

WDF計画の存在を知り、圧倒的な魔女の存在を知った上層部は目をつけた。

 

つまり。

連合はEDFを支援するから、事態の収拾がついたらWDFを寄越せと言うこと。

でなければ支援を止めるし、魔女を実験台にした事を世間様にバラすぞオラァな脅迫状態。

 

そうなればEDFは大バッシングだ。

物資や土地を手に入れるどころじゃなくなる。

平時に起きていた、毎年のように起きる政治家の失態による辞任騒動や有名人の浮気や離婚騒動のレベルではない。

 

それらを手に入れる為に異界に来たのに、情報部らの暴走で面倒ごとになり、EDFは余計な悲しみと死者を増やしている。

 

司令官は頭を抱えたい。

だがこうなった以上、尻拭いはしなければならない。

 

土地は諦めるとしても、かの者を放置して元の世界に帰るワケにはいかないのだ。

 

何故なら、この世界まで"人の声が響かない地球"にするワケにはいかないから。

 

 

「こちら本部、生存者はいるか? 現状戦力では太刀打ちできん、直ちに撤退せよ。 キャリバン救護車両は回収に向かえ」

 

 

とはいうものの、そうする事しか出来ない状況は苦しい。

 

 

「やはり、エピメテウスにコンタクトを取るしかないか」

 

 

司令官は思考する。

WDFとて無敵ではない筈だ、だが情報は欲しい。

 

白雪姫作戦なる"キスして魔力を奪って無力化"な馬鹿げた方法も試す価値はあるだろう。

 

だが、簡単に出来る芸当ではない。

シールドベアラーに突入する方が、まだ楽かも知れない。

 

ならば現実的に考えた時、WDF計画に関わった者らに聞くのが良い。

ナニかしら弱点ないし武装なり行動パターンなり知る事が出来るかも知れない。

 

情報部に直接聞こうにも、連合の目もある。

それを掻い潜る為、Storm1に任せているのだが……今の司令部は思った以上に動けないのだと、ニヒルに笑うしかない。

 

 

「結局、我々は……過去を悔いている暇はない。 501と502を巻き込んででも……いや。 10代の少女らを、特に部外者を巻き込むワケにはいかないな」

 

 

とにかく、今は指揮を執らればならない。

勝算はなくても立ち向かう。

戦時もそうしてきた。

またやるだけだ。

 

 

 

 

 

◆黒海方面

 

 

「うわああッ!!」

「退避ッ! 退避しろッ!」

「退け! 退けェッ!」

「撤退だー!」

 

撤退命令を受けて逃避行する航空ウィッチ。

追うように飛来する光弾。

それにやられてボトボトと蚊のように堕とされていく509JFWのウィッチたち。

 

撤退とは敵に背中を大なり小なり空けてしまう為、とても危険である。

だが敵を目視出来ない、どこからともなく撃ち込まれる光弾には それこそ なすすべなく、シールドを張ろうにも方向が分からず攻撃を受けてしまう。

仮に分かっても、ネウロイの比ではない出力に並のシールドでは耐えきれず貫通、そのまま本体に直撃。

 

多くは空中で事切れて、綺麗な身体を真紅に染め上げて、大地へと還る。

 

いや、それだけなら まだ綺麗だ。

中には"空中爆発"を起こした者もいる。

それは悍ましく、生理的に受け付けられるものではない。

 

 

「うっ……!」

 

 

近くにいたウィッチは見て恐怖し、震え、胃液が喉を焼く。

が、それを意識出来ないくらいには追い詰められている。

 

 

「グギャアッ!」

 

 

無線越しの断末魔。

 

 

「ゴポ……ッゴポッ……ゴポ」

 

 

助けて、と言おうとして言えない。

それは水の中にいるような音。

血か嘔吐物で溺れているのだ、どちらにせよ長くは聞こえなかった。

 

 

「死にたくない! 死にたくないよ!」

 

 

ある魔女は必死に飛びながら、それだけを願った。

 

最早、どの方向に飛んでいるのかなんて分からない。

だが殺戮現場から逃げだせれば良いのだ、そんなものは重要ではない。

 

 

(私は大丈夫、死なない!)

 

 

おかしくなりそうな荒ぶる精神を、そう念じて抑え込む。

隣を見る、僚機の子も まだ生きている。

 

もっと周りを見た。

誰も飛んでいなかった。

 

死んだ。

そんな当たり前の事なんて考えない。

考えるのは生き延びる事だ。

だが、ここまで必死に飛んで、ここまで生き延びたのだ、EDFの装備、ゴーグル・ディスプレイや武器もある。

きっともう大丈夫。

そう信じた、信じたかった。

 

しかし、現実は彼女達だけを逃がしはしない。

 

 

「曹長!」

 

 

僚機の子が叫んだ。

振り返れば、仲間を屠った光弾が自分たちにも飛んできていた。

 

───血の気が引いた。

 

 

「フルスロットル! 振り切るのよッ!」

 

 

散開しながら、そう言うしかなかった。

だが無慈悲にも光弾は僚機へと吸い込まれる様に飛んでいく。

 

 

(良かった、私じゃない)

 

 

一瞬でも、チラリとでも思ってしまった自分が、物凄く醜かった。

 

 

「助けて下さい曹長! 逃げきれません! 助けてお願いッ!!」

 

 

部下の、僚機の悲鳴に我に帰る。

命乞い。 懇願。 最後は階級もヘッタクレもない生存権の主張。

 

だが、曹長と呼ばれているウィッチも どうして良いかなんて分からない。

分かったら、隊長もみんなも生き延びた筈だし、そうでなくても2人しか飛んでないなんて事態にはなってない。

 

 

「弾は見えてる! シールドを張って!」

 

 

取り敢えずの常識を、訓練通りのやり方を言うしかない。

そんなこと、やったところで助からない。

シールドを貫通して殺された仲間を見た。

それでも何もしないで殺されるくらいなら、した方が良い。

 

少しでも生存率を上げる。

出来る事はそれだけだ。

 

 

「ッ!」

 

 

僚機の子は魔法陣を、シールドを展開。

光弾はシールドに当たり……案の定、破壊されてしまうも、幸運にも身体ではなくユニットに擦るだけに留まる。

 

 

「きゃあっ!?」

 

 

が、それが無事なワケがない。

片脚からモクモクと上がる黒煙が空を汚し、僚機はフラつきながら高度を下げる。

制御が出来なくなったのだ。

 

そこに贖罪からか。

曹長のウィッチが近寄って、手を伸ばしてくる。

 

助けようとしている手だ。

拒む理由なんてない。

 

 

「手を伸ばしなさいッ!」

 

 

互いに目を見開いて、手を伸ばし合う。

して、手が繋がって。

 

 

「捕まえた!」

 

 

温かな手同士が繋がり合う。

 

一瞬でも戦場で安堵した。

してしまった。

 

だが、運命は その行為を許さない。

 

次の瞬間、曹長は"弾けた"。

肉片が、血が。

生き延びた彼女を真紅に染める。

 

悲鳴のひとつも、なかった。

 

 

「───え」

 

 

残された彼女は、目を丸くする。

手には、さっきまで生きていた曹長の手。

 

まだ温かった。

だけど"軽すぎた"。

 

別の光弾が、曹長に当たったのだ。

救助に気を取られた結果なのか、変わらない結果だったのか分からない。

 

だが間違いなく、曹長は呆気なく死んだ。

 

若く華麗で魅力的な身体は、見る影もない肉塊以下と化したのだ。

 

 

「あ、ああ……あああ……」

 

 

チカラが抜けていく。

手から、曹長だった残骸が落ちていく。

 

高度も落ちる。

残虐な光景を目の当たりにした10代半ばの彼女は、精神を汚染され自我を保てない。

 

暗転。

 

だけど、それでも現実は、軍人である彼女を無理矢理叩き起こす。

 

戦え。 最後まで。 生きている限り。

それは平等に鳴り響く、無機質な機械音。

 

 

《pull up! pull up! pull up!》

 

 

彼女がかけるEDFのディスプレイ・ゴーグルの隅に《pull up》(高度を上げろ)という警告、連動して耳元で鳴り響く警報音と《pull up!》の叫び。

 

ユニットに組み込まれたEDF製制御コンピュータが高度が低い事を検知、警報音を鳴らしているのだ。

 

実際、紅い地上は目の前まで迫っていた。

 

EDF式の厳しい訓練を経験してきた彼女は、その意味を理解していたし、それが出来ない状況で どうすれば良いのかも学んできた。

それは頭だけじゃない、身体にも染み付いたものだ。

 

だからこそ、しなければならないことをした。

 

 

(余計な事は考えるな。 生き延びろ!)

 

 

訓練を指導してくれた隊員の言葉が脳裏をよぎる。

 

彼女は刮目した。

溢れる涙も絶望を感じる余裕もなく、全力で国際救難信号を発信する。

 

 

『Mayday Mayday Mayday! こちら rabbit、rabbit、rabbit! Mayday rabbit! 位置は───! 墜落する! Mayday rabbit! Over!』

 

 

戦場で こんな事を言っても、聞いてくれる人なんていないかも知れない。

だけど、いるかも知れない。

 

 

(生きるんだ……! 死んでやるもんか! 簡単にくたばってたまるか!)

 

 

彼女は魂の底から叫びながら、して誰もいなくなった今、今度は自ら行動して生存率を上げようとした。

辛うじて動く片方の飛行脚を動かし、なんとか柔着陸出来そうな場所に堕ちていく。

 

そこは小さな死体の山だった。

小さな赤い水溜まりに浮いている。

 

一般の歩兵隊だろう。

否。 だったもの、だろう。

 

 

(あそこなら!)

 

 

彼女は、そこに突っ込んででも不時着しようと決意する。

 

固い地面に直撃するより良い。

 

死体を利用するなんて非難される。

非道徳的な行いだと。

生理的にも受け付けられない。

 

だが、生き延びる為だ。

少しでも生存率を上げるには、それが良いと考えた。

 

助かる保証は無い。

それでもやるんだ。

 

彼女は滑るように地面へ突っ込んだ。

途中にもあった死体をクッションにして、地面をアイスクリームデッシャーみたいに削りながら、だけどシールドで防げるところは防いで、それでもシールドの限界がきて、痛いものは痛くて。

 

 

「グッ!」

 

 

軍服を血泥で、擦りむいて、破いてボロボロにして。

 

でもそれ以上に血が出るくらい歯を食いしばって耐えた。

 

 

「がは……ッ!」

 

 

やがて小さな山に突っ込んだ。

ボーリングのピンの様に弾き飛ばして、やっと止まった。

 

 

「ウボァッ!?」

 

 

死体が喋ったような気がしたが。

痛みに悶える彼女には聞こえなかった。

 

 

 

 

 

◆黒海方面

只野二等兵視点

 

 

「ウボァッ!?」

 

 

γ型の衝撃が再び俺を襲う!

 

あの時と同様、ボーリングのピンの如く弾き飛ばされ、地面を転がされる。

 

死体の下に隠れて、上から染みてくる血泥や死臭に染まるのも耐えていたが、突如としてナニかが突っ込んできやがった。

 

 

「死体じゃないのがバレたのか?」

 

 

だとしたらヤバい。

TZストークがあるとはいえ、見えない敵とは戦えない。

 

こんな事なら誘導兵器を背負ってくるんだった。

 

いやだから、見えないしセンサーに反応もしないなら、少なくともEDF製個人携行誘導兵器は有効ではない。

 

レーダー支援システムを併用しても意味ない。

 

距離の問題なのか、それとも次元の問題なのか分からないけどな。

 

センサー反応を見る。

敵の反応がない。

 

代わりに味方の反応がひとつ……味方?

生存者が俺以外にも?

 

 

「うん?」

 

 

死んだフリを続けながら、其方を見やる。

俺と同じように血みどろなウィッチがいた。

 

随分と綺麗な死体だな。

少なくとも"俺の味方"よりは綺麗だ。

 

 

「って、死んでないっての」

 

 

自分にツッコミつつ、匍匐前進で近寄った。

敵が見てるかも分からないが。

いや、だって見捨てられないし。

うーうー言いながら悶えてるんだもん。

 

 

「そこのウィッチ。 なるべく静かに」

 

 

死体の痙攣とは違うし、突っ込んで来た物体は あの子だな。

ユニットが脚に付いている、航空ウィッチだ。

 

軍服は血泥で分かり難いが、シャーリーと同じリベリオン軍のか?

恐らく、何らかの理由で509JFWに合流した子だろう。

 

装備はEDF製のゴーグル、ウィングダイバーのと似ている。

違いはヘルメット部分が無い事くらいか。

 

なんにせよ、助けよう。

せめて、応急処置はしてやりたい。

そこから先は知らん。

 

 

「ひっ!?」

 

 

こっちを見て悲鳴を上げられたんだけど。

ゾンビとでも思ったか?

 

でもさ、それ君もだからね?

血だらけでヤバいからね?

 

 

「落ち着いて。 俺は死体じゃない。 君もね」

 

 

これから死体になるんだよ、とは言わない。

そうなる気はないからな。

 

ただ、状況はそれくらい絶望的だ。

こうなった以上、出来ることなんて まるでない。

 

いや、出来るのは……この子を励ましてやるくらいなら出来る。

 

 

「良いかい? 敵の数も武装も正体も、一切不明だ。 センサーにも投影されない。 目視による捜索も諦めるべきだ」

 

 

静かに、だけどはっきりと聞こえる声で語りかける。

 

ウィッチは痛みに耐えながらも、頷いてくれた。

 

 

「だからって、ここから逃げるのも至難の業だ。 下手に動かない方が良い。 救出ミッションは始まってるハズだ、助けが来るまで死んだフリを続けて。 良いね?」

 

 

ウィッチは頷くと、目を閉じて死んだフリをする。

 

俺も倣うように静かに横たわる。

 

痛みに耐えながら、可哀想だと思う。

でも、ここで俺がお触りなんてしてたら、光弾が飛んでくるかも知れない。

そんな事になったら、今度こそ死ぬ。

 

ネウロイだか、WDFかは知らん。

恐らく後者だ。

 

こんな無茶苦茶な攻撃、今までのネウロイの比じゃない。

新型の可能性もあるが、恐らく違うと思う。

 

WDFならEDF製の武装系をしていても、変ではない。

なら光学兵器で考えられるとして。

ウィングダイバーの兵装、脳波誘導兵器だろうか?

 

いつか、Storm1……隊長が語っていたウィングダイバーの超兵器類の話を思い出す。

 

【ミラージュ】……だがアレはダイバーのヘルメットに内蔵されている脳波誘導装置「サイオニックリンク」に直結して運用される。

そんなもの、WDFには……いや。

人体改造されたんだ、頭に埋め込まれていてもおかしくない。

 

もしくはプラズマ球発生装置の類が空中に仕掛けられた?

独立したエネルギージェネレーターを持っているからな。

 

それとも【ディフューザー】か?

極秘裏に開発され、存在自体が重要機密とされており、動作原理は謎というヤツ。

エネルギー球から周囲に光の矢を放ち続けるとかいう兵器らしい。

 

もしくは【ヘブンズ・ゲート】?

【エンドオブアース】かも知れない。

 

何故、それらを隊長が知っていたのか知らないが、民間人時代は技術屋で、エピメテウスにハッキング出来ちゃう人だからな。

まあ、ナニかで知ったんだろう、うん。

 

ああ、なんにせよ軍曹ちゃん。

君も初めは、この子のように墜落してきたよね。

 

それを偶然、俺が助けて。

それから色々あって、WDFに改造されて。

 

曹長ちゃんも、えっちだなんだと赤くなる顔を、もう一度見られるだろうか。

 

今はとにかく。

誰か助けにきて。

 

あと、敵さんはどっか行け。

死体と死臭で気が狂いそうです。 マジで。

 




残酷な描写が増えてますね……。

"魔"女がシルバーちゃん達を苦しめてるなら、はやく取り払って"女"にしないと……でも、その時はいつ(殴)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

59.救い。

緊急事態応急対応:
WDF確認。
生存者確認。
備考:
本当の救いとは。
慰めよりも救いを。


◆ベルリンEDF本部

 

 

『こちらスカウト! 白銀の魔女、WDFを確認しました!』

 

 

偵察部隊からの報告を受けて、いよいよ目を背ける訳にはいかなくなった。

持てる戦力を結集し、EDFは防衛線を張る。

 

 

「やはりWDFだったか!」

 

 

司令官は驚きはしなかったが、ロクな対抗手段が無い現状、太刀打ちしようなどとは考えていない。

レールガンやらEMCやらで集中砲火したところで倒せない、とは考えたが。

 

 

「攻撃は控えろ。 白雪姫を怒らせるなよ」

 

 

取り敢えず防衛線全体に無線を飛ばすと、次に殺戮現場に無線を繋ぐ。

 

 

「生存者はいないのか? 誰でも良い、応答しろ」

 

 

そう言うも、一向に返答がない。

ウィッチも一般兵も全滅したのだろうか。

 

 

「王子様役も戦場にいた筈だ。 代わりは効くが、死んだとなれば付人に困るな」

 

 

只野二等兵を軽く気にするも、さして人物そのものが重要ではない。

二等兵1匹、されど1匹。

貴重な兵力ではあるものの、特別な人物ではない。

ただWDFと関わりがあるだけの兵士だ。

だから深刻には考えていない。

バルガの搭乗員が行方不明になった時ほどでもない。

 

そもそも魔女にキスする訓練なんて、只野も誰もしていないのだ。

連合から見れば、そんなの頭オカシイし、そもそも魔力を奪う行為である"えっち"はシてはいけないとされている。

キスすらダメなのだ。 おでこがギリギリ。

 

でも今回はシないと世界がヤバいというカオス。

エイリアンもビックリだろうて。

 

一方で元凶のEDFの見解。

キスくらい平気だろう、というかシてみてくれ世界の為にとは本部や情報部の考えで(そもそも考える程でもないとしている)、行為さえ出来る身体があれば王子様役は誰でも良いとさえしている。

勿論、ロマンスを抜きにして計画を考えた場合の話で、恋愛がどうこうと絡ませると只野が適任だろうとはしているが。

 

本気でヤッたらヤッたで「EDFヤベェ」の評価を連合から再刻印されるだろうが仕方ない。

白雪姫作戦に関しては周知の事実だけど、その話を連合総司令部にいるガランド中将(ウィッチ。 とても偉い人)に電報を打った時なんて妙な反応をされたものだ。

 

 

「あ、あー、うん。 天使が後押ししてくれるよ」

 

 

よく分からん事を言われた。

 

とにかく!

ナニでも良いから魔女から魔をヌいて初モノ奪ってキズモノにして女にするんだよ!

 

最後にモノいうのはテクノロジーの差じゃない、人間の愛なんだね(思考放棄)。

 

 

「例のアレをスタンバイさせておけ。 最悪、王子様はその辺のレンジャーでもウイングダイバーでも良い」

 

 

本部隊員は頷くと、隊員と連絡を取り合う。

残酷で残忍なWDFに なんとメルヘンで"えっち"な計画を進めるEDFなのであった。

 

 

 

 

 

◆黒海方面

 

一方その頃、死んだフリを続けるウィッチの救難信号を受けた救助隊が現地に到着。

1台の究極救護車両【キャリバン救護車両SAターボ】が只野二等兵らの側に止まった。

 

 

「お嬢さん、助けに来たぞ。 そんで只野王子は浮気か。 そんなんだと嫉妬されて殺されるぞ?」

 

 

茶かしながら、ひとりの隊員が降りてきた。

手には白い医療パック。

補助として救護支援装備を装備している。

ジークフリート線程ではないにせよ、周りは血肉でグチャグチャ。

にも関わらず普通の口調である。

 

 

「早く来てくれたから死なないです。 あと浮気ってなんです、まだしてません」

 

 

対して、真面目な声で返答する只野。

ムクリと起き上がるとウィッチを抱き起し、素早く救護車両に乗りこむ。

 

 

「これからするのか?」

 

 

隊員も一緒に乗ると同時に、救護車両は発進。

全速力でカールスラント領に退却。

大きく揺れる車体は、いつ弾が飛んでくるか分からない状況に慌てている様にも感じるが、ふたりは構わず会話を続けた。

 

 

「WDFは多分、ひとりじゃないんで」

「マジか」

「マジっす」

 

 

曹長ちゃんの件を思いながら、そう言う只野。

車両に備わる謎の技術、自動治療機能で血塗れな姿が綺麗な身体にされていく。

寝かされたウィッチも同様だ。

 

 

「うぅ……う?」

 

 

痛みが引いた事に気付くウィッチ。

むくりと起きると、自分の身体をペタペタと触る。

大怪我したのに、もう傷が塞がっていた。

流石に軍服はボロボロにのままだが、勝手に治ることに驚くウィッチ。

 

 

「スゴい。 もうなんともない」

「そうか良かった、生存者は君と只野だけだ」

 

 

揺れる車内、隊員は適当に相槌を打つとWDFの話を続ける。

興味はモブ魔女ではなく、白銀だ。

だが、そんな素っ気なく冷たい反応は、心に氷柱のように突き刺さる。

 

 

「良かった……?」

 

 

助けに来てくれた感謝と喜びなんて飛んで、怒りが隊員に湧いてきた。

なんで、目の前の隊員は冷静で、いや、冷酷でいられるんだと。

 

あんな惨劇が起きたのに。

普通じゃない、この人達はオカシイと。

 

 

「何が良かったですか、ふざけないで! 仲間が、大勢死んだんですよ! なんで そんなに冷静でいられるんですか!?」

 

 

怒りが言葉となり、隊員たちにぶつける幼き子。

それを聞いて只野は悲しげな表情になり、救助隊員は無表情だった。

して、その状態のまま、怒りを素直に受け止めた。

 

 

「死んだね、大勢」

 

 

その変化のない口調にたじろぐも、自分の考えが正しいと認めさせる為に怒りをぶつけ続ける。

 

隊長も、友だちも、曹長も皆 死んだ。

それもネウロイじゃない、恐らくWDFなんていう白銀の魔女のせいで!

 

 

「それもEDFの所為ですっ!」

「そうだね」

「返して下さい!」

「死んだ。 帰ってこない」

「じゃあ、どう責任を取る気ですか!」

「生きている者が罪を背負うだろうね」

「だからなんなんですか!」

「WDFを止める。 その為に動けと言われたら努力はする」

「そうして下さい!」

「そうするさ」

「はやく! 今直ぐにでも……!」

「なるべくそうなる様には努力している」

「今直ぐですよッ!! 仇を! みんなの仇を……ッ!」

 

 

冷静に言い返されるだけの状況に、ウィッチは泣き出してしまう。

ただ、怒っても泣いても。

彼女が正しいことの証明にはならない。

それを教える様に、隊員は静かに語る。

 

 

「…………ここで君に言われたのを理由にして、敵討ちをしに行って、仇を増やす結果になったら。 君は責任を取れるのかい?」

「そんなの、私のせいじゃ!」

「君の所為で死んだ奴に、同じ事を言える?」

「ッ!」

 

 

助けようとしてくれた曹長の顔が浮かんだ。

自分を助けようとして、彼女は死んだ。

 

 

「あれは……私は悪くないっ! 私じゃない、みんな白銀が悪いのッ! EDFが悪いのよッ!!」

 

 

泣きながら罪を他者の所為にし始め、頭を抱えて震える彼女。

10代の彼女には酷だろう、いっそ死なせてあげた方が良いかも知れない。

だが、少なくとも生きる意志を見せたから彼女は生き延びたし、死んだ者の為にも生きるしかないのだ。

 

只野は、助ける予定の軍曹ちゃんがもたらしている惨劇と悲しみに潰されそうになるが、それでも戦場に立ち続けるつもりだった。

そうするしか、ないのだ。

 

 

「耐えられないよね、君も。 俺もだよ」

 

 

只野は泣きじゃくる彼女に言う。

 

 

「……死にたい。 死にたいよぉ……」

 

 

やっと、それだけ言った。

身体は治っても、心は治せない。

楽にする手伝いしか出来ない。

 

只野は救助隊員に視線を向け、頷き合う。

 

 

「じゃあ、せめて楽になって」

 

 

その意味を考える間もなく、彼女は首元にチクリとした鋭い痛みを感じた。

次の瞬間には、眠気に襲われて。

 

ぱたり、と横に倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「薬、間違えてません?」

「いつものだ、大丈夫。 寝るのは副作用だ」

 

 

記憶処理薬。

精神崩壊する記憶を除去ないし曖昧にし、戦線に戻れなくなる事を防ぐ薬。

 

只野も自分に打って欲しかった。

だが、それは許してくれないんだろう。

 

彼女は、子ども達はまだ、幸せな方だった。

 




嫌な事は忘れたい。 消してしまいたい。
意識してなくても、それは積み重なり、自分を形成している。
だから……弱い自分も消せるかも知れない。
だけど、それが許されないなら……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

60.第1次白雪姫作戦A

緊急事態応急対応:
WDF無力化作戦、白雪姫作戦を開始します。
ネウロイの比ではないレベルで通常兵器が効かない為、魔女から魔法を奪う作戦です。
その方法は周知の通りです。
メルヘンチックですが、多くの死傷者と負の連鎖を止める為の重要な作戦です。
王子様役の隊員の健闘を祈ります。
備考:
ヤれるかじゃない。 ヤるんだ。


◆黒海方面

只野二等兵視点

 

キャリバン救護車両から降りたら、そこは臨時防衛線だった。

青いビークル群、イプシロン自走レールガン部隊に狙撃部隊ブルージャケット。

ハンマーズもいるか。

重武装のフェンサーと、狙撃武装のウィングダイバーも展開してるな。

 

対空仕様のコンバットフレームもいる。

随伴歩兵として、連合軍の歩兵と、陸戦ウィッチが。

航空ウィッチは……あんな惨劇の後だ、戦場には出さないよな。

501と502も後方だろう。

 

 

「よくもまあ、これだけの戦力を集められたもんだ」

 

 

つっても、軍曹ちゃんには無力だろうよ。

白銀の魔女は倒せない。

倒して欲しくもない。

 

 

『只野、無事で良かった』

 

 

ここでStorm1……隊長から無線が。

 

 

「隊長!」

『惨劇の後だが、残業を頼む。 只野にしか頼めない仕事だ』

 

 

やっぱりEDFってブラック。

まぁ……だいたい予想はつくよ。

その辺のウィッチとか、顔を赤らめてヒソヒソしてるもん。

 

「王子様だ〜♪」とか「えぇ〜?」とか「なんというか、フツーw」とか聞こえるもん。

 

もうやめて! 俺は"ただの"二等兵だよ!?

 

 

「心折れそう」

『すまない。 レールガン部隊に混ざって、例のアレがある。 そこに行ってくれ』

 

 

言われて、もう一度見やる。

なんか、1台だけ砲塔が違うのが見えた。

見覚えのあるヤツだ。

まさかアレを使うとはね……。

 

 

「見えました。 例のアレ、カタパルト」

 

 

そう。

変態開発班がウィッチ用として作った鉄クズ。

人間を弾丸とし、空へと打ち上げるヤツ。

 

 

『攻撃してきた敵はWDFだ。 カタパルトに乗って彼女に突撃し、唇を奪って無力化するんだ』

「マジでやるんですか?」

『不服だとしてもヤるんだ。 服はあるが脱がなくて良いぞ』

 

 

いやー、キツいっす。

 

 

「軍曹ちゃんの場所は分かってるんですか?」

『確認した。 心配するな、自走カタパルトには既に運転手兼砲手が乗っている。 ソイツに細かい事は任せれば良い。 しかも二段構えで攻撃する』

 

 

なるほど、もう失敗しそう。

二段構えとか、いつかの前哨基地破壊作戦かよ。

 

 

『Aプランは不意打ち、失敗したらBプランに移行。 レールガン部隊などが集中砲火、気を引いている間に別角度から射出する』

「待って下さい。 俺、1回目失敗したら死にません?」

『自分の悪運を信じるんだ。 生きていたら、アンダーアシストで素早く戻ってこい』

 

 

酷過ぎる作戦だなおい。

EDFは元々酷いが、いよいよここに極まれり。

 

連合軍は、この話を聞いて何て思うのだろう。

天使とダンスってか。

それは空軍の話だろ、陸軍関係ないやろ。

 

 

『時間が惜しい。 カタパルトに乗ってくれ』

 

 

断れないですよね、そうですよね知ってます。

 

 

『世界の命運を君に託す。 頼んだぞ』

 

 

託すな、"ただの"二等兵に。

 

ああ、緊張してきた。

年下の女の子の唇を奪う為に撃ち込まれる男とか、変態じゃん。

そも、俺は未経験だし。

互いに初めてが、こんな作戦とか。

というかキスってナニ。 接吻。 ベーゼ。

やり方ってあるの?

バード、ディープとか。

 

こんな事なら、あの時に軍曹ちゃんを美味しく食べておけば……。

いやでもなぁ、まだ子どもだしなぁ。

って、過去を振り返っても仕方ねぇよ。

 

 

「あーもう! ヤケクソだ!」

 

 

考えても仕方ねぇ!

男は黙って撃たれて来い!

当たって砕けろだ!

 

いや、本当に砕けたらダメだけど!

 

 

「じゃ、お願いしますっ!」

 

 

俺はカタパルトに跨り、ヘルメットの顎紐を締め直す。

して、乗っているだろう砲手にお願いすると、反応してカタパルトの砲身が持ち上がる。

 

大丈夫、大丈夫だ。

俺は死なない。 上手くやる。

今までもそうだった。

 

 

『幸運を。 死に逝く兵士に敬礼を』

 

 

なんか聞こえたよ、司令官の声で。

どこぞの名言を流用するんじゃない。

 

そんでみんな、敬礼するの止めろ。

俺は死ぬ気は無いんだぞ。

既においおい死んだわ、アイツみたいな雰囲気出すのヤメテ。

コンバットフレームまで、器用に敬礼するなよ。

モブウィッチは敬礼しつつ顔は赤いし。

 

 

『照準合わせ! 目標WDFシルバー! 撃ちー方、よーい!』

 

 

ああマジで俺を射出するのね。

最悪の作戦だよ、人生最期には良い仕事……じゃない、やっぱり最悪だ。

 

 

『EDFの誇りに賭けて! 名誉に掛けて! ちょっとKissしてくるだけだ!』

 

 

なんだソレは……。

コンビニ行くノリじゃないんだぞ。

そんな誇りと名誉は煮ても焼いても食えないよ。

 

 

『撃てーッ!』

 

 

刹那。

物凄い風圧を受けて、俺は鳥になっていた。

気が付いたら空である。

 

 

「ぎゃあああッ!?」

 

 

して、ナニか柔らかいモノが当たって止まる。

 

 

「ぐっ」

 

 

意外と早く到着したようで。

照準もかなり正確とか、スゲー。

 

自然と抱き着く形になったモノを見やれば、カールスラント軍の服が。

もう少し上を見れば、軍曹ちゃんの顔。

久し振りに間近で見たなぁ。

白銀の髪と色白の肌になってるけど、更に可愛くなってない?

お胸に顔を埋めた事は無かったけど、意外と膨らみがあるんだね、成長期?

妙に冷静な頭で、他人事のように偶然触れた胸を弄って評価する俺は変態だよね。

 

 

「えっと《ふつつかものですが、よろしくお願いします》(定型文)」

 

 

視線が合う。 挨拶をしておく。

なんか、凍てつく視線だった。

 

次の瞬間には片手で引き剥がされ、ぽいっと空中に投げられたと思ったら、空中で軍曹ちゃんは1回転。

その勢いで、かかと落としを仕掛けられた。

 

 

「グヘェッ!?」

 

 

痛い。 凄く痛い。

地面に凄い勢いで叩きつけられたよ。

クレーター出来たよ。 漫画の1コマ再現だよ。

 

なのに生きてる俺もヤベェ。

改めてEDFの戦闘服と俺の悪運には助けられたな。

 

 

『おいナニをしている只野二等兵!』

 

 

本部に怒られた。

いや仕方ないじゃん、訓練もしてないんだよ!?

 

Kissの練習なんてした事もない!

 

そう文句を言いたかったけど、恥ずかしいから言えない。

したら、今度は戦略情報部の少佐と思われる無線が入る。

 

 

『残念ながら、彼は童貞のようです』

 

 

ナニ真面目な声で言ってんだよ!?

 

 

『残念だ(定型文)』

 

 

勝手に残念がるなよ。

あと、これさ……オープン回線だよね、全隊に響いてるよね?

 

ヤメテ!? 恥ずかしい無垢な経歴晒さないでよ!

 

人口の少なくなった元の地球ならいざ知らず、こっちの世界は普通にいるからね!

"人の声が響く地球"だから!

それが全て俺への嘲笑になる!

 

 

『そうなんだ、童貞さんなんだ……』

『で、でも初めて同士の方がロマンスが』

『えー? そうかなー?』

 

 

クスクス……クスクス♪

 

可愛いけど、辛い笑い声が聞こえるんですけども。

 

ウィッチと思われる無線音。

 

もうやだ。

ナニが哀しくて、10代の少女にまで知られなきゃならないのか。

名誉毀損で訴えたいんだけど。

どっちの世界でも意味ないだろうけどさ!

 

 

「ああ……このまま死にたい。 死んでよ」

『立て! 立つんだ只野!』

 

 

いやStorm1。

もう英雄のあんたらが何とかして。

超次元生物な【かの者】を倒したなら、何とかなるって。

 

WDFに敗北したのは手違いだよ。

だから頑張って。 後は知らない。

 

 

『じゃないと死ぬ間際にkissを拒んだ伝説童貞として広報に広めてもらう』

 

 

直ぐに起きたね!

そんな伝説は勘弁だ、死してなお輝く(嘲笑されたり侮辱)される人生は嫌だ。

 

 

「ならヤッてやろうじゃないか!」

 

 

アンダーアシストで全速力で後退。

背後から軍曹ちゃんがミラージュみたいな光弾を連射してきたが、偏差射撃は苦手なのか走ってるぶんには当たらなかった。

 

 

『カタパルト再射出用意! レールガンと狙撃部隊は撃ちまくれ! 気を引くんだ!』

『撃ちまくれ! 只野の後退を援護!』

 

 

司令官とStorm1が指示を出す。

直ぐさま、貫通力がある砲弾が軍曹ちゃんに撃ちまくられるが、それすらシールドで防いでしまう。

 

 

「やっぱ兵器じゃ駄目か。 俺が、俺が何とかするしかない!」

 

 

今度こそ成功させよう。

成功したとして、軍曹ちゃんが戻ってくるかなんて分からない。

 

でも、今はヤれる事をヤるだけだ。

そうだろう?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

61.第1次白雪姫作戦B

緊急事態応急対応:
プランAは失敗。
ただちにプランBに移行。
WDFに集中砲火、気を引いている間に再度取り付いて下さい。
備考:
※真面目な作戦です。

でも酷い話になってきてるよね……自覚はあるんだ(殴)。

隊員:
あー、もう滅茶苦茶だよ(有翼型エイリアン初登場時セリフ風)。
気が狂いそうです!(地底に取り残された生存者風)。


◆黒海方面

 

童貞故か、Kissもシなかった所為でプランAは呆気なく失敗。

直ぐにプランBに移行、509JFWことEDFは集中砲火を開始。

電磁投射砲、レールガンの凄まじい貫通力を誇る超加速した砲弾が無数に白銀の魔女に叩き込まれていく。

他にも重戦車タイタンのレクイエム砲やら副砲やらミサイルやら、対空兵装のニクスのミサイルやらリボルバーカノンやら、狙撃部隊の弾丸やらビームやらが飛んでいく。

Storm1もどこかにいるのか、大型ミサイルテンペストが飛来、爆炎が空を覆い尽くす。

 

激しい戦火。 烈火の猛撃。

 

いつかの平原での戦闘を彷彿とさせる。

が、それらは全て魔法陣……シールドで防がれてしまい有効打にならない。

やっぱりKissするしかないようだ。

 

 

「童貞野郎に世界を滅ぼされるのかよ! 最悪だ!」

「しっかりヤれよ只野!」

「本当だぜ! 下手すると世界の命運がかかってるんだぞ!」

 

 

随伴歩兵のStorm2……軍曹の部下達がブーブー文句を叫んだ。

隊長の軍曹は重症で寝かされているものの、比較的軽傷だった部下は戦場に立っているのだ。

 

そんな彼らの叫びは、激しい銃声の中でも無線越しで、しっかりと只野二等兵に聞こえた。

 

 

「黙れィッ! 軍曹ちゃんがこうなったのは俺の所為じゃない!」

「軍曹"ちゃん"?」

「まさかの男色」

「気持ち悪りィ……ヤダオメェ……」

「違ェよ! ウィッチの軍曹ちゃんだよ!?」

 

 

階級で言っている所為で、またも変な勘違いが起きてしまう。

それに反応するのは、ナニも男性隊員だけではなかった。

 

 

『キャーッ! 只野さん私たちをそんな目で!?』

『大切な人がいるのに。 イケナイ人♪』

『へんたーい♪』

『えっち! スケベ!』

『女の敵ね』

「魔女ども! 無線に割り込むんじゃねぇよ!?」

 

 

今のオープン回線に割り込みもヘッタクレも無いが、随伴歩兵として参戦している陸戦ウィッチが黄色い悲鳴を上げた。

対して、変に冷静になった部下のひとりが、解説するように言う。

 

 

「ああ、ウィッチの最低階級は軍曹だからな、たくさんいるんだろう」

「ハーレム志望? 浮気性?」

「無駄口叩くな! 良いから撃てよ!?」

 

 

馬鹿な会話をしている間にも、WDFからの反撃が始まる。

器用に片手でシールドを展開しつつ、もう片方を防衛線に向けると、手からビームが飛び出てきた。

 

 

「きやがるぞ!」

「誘導性のあるビームだと!?」

「ウィングダイバー兵装を積んでいるのか!?」

「手にはナニも持ってない! やはり【かの者】絡みか!」

 

 

それらビームは、ウィングダイバーの脳波誘導兵器ミラージュに酷似している。

だが当然のように、武器の類は持っていない。

 

となれば、かの者もやっていたサイコキネシス攻撃を連想する。

 

そのひとつひとつは、寸分違わず戦車1台1台、レールガンの1門1門、歩兵1匹1匹を正確に当てていく。

 

 

「ぎゃあっ!?」

「ぐはっ!」

「戦車の装甲がっ!」

 

 

ネウロイ討伐に出掛けた509JFWウィッチを屠ったのはコレである。

だが、ウィングダイバー兵装よりも出力が高いソレらは命を奪うには十分だった。

 

 

「うわぁ!?」

「ミラージュって、威力低い筈だろ!?」

「馬鹿! 相手はWDFだぞ!」

 

 

貴重なレールガンが吹き飛び、歩兵を巻き込んでいく。

だが、その程度は覚悟済み。

特に強靭な身体と戦闘服を見に纏うEDF隊員は、吹き飛んできたビークルに巻き込まれたところで怪我のひとつもない。

直ぐに立ち上がって戦線復帰する勇ましい隊員らを見て、戦車隊は直ぐに指示を出した。

 

 

「シールドの無い歩兵はタイタンの背後に隠れろ!」

「この程度の攻撃、タイタンが壊れるかぁ!!」

「怯むなっ! 撃ちまくれッ!」

「悲劇を終わらせろッ!」

「EDFッ! EDFッ!!」

 

 

歴戦のEDFは恐怖に耐え、かつての平原での戦闘スタイルや反省を活かして行動。

動く要塞とあだ名される重戦車タイタンを盾にしつつ、歩兵隊は必死の銃撃を浴びせる。

武装も兵士の数も、かの者と対峙した時より多いEDF。

だが、やはりそれでも、白銀の魔女は倒せない。

 

 

「やっぱ駄目か!」

「気を引くのが目的だ。 倒すのが目的じゃない」

「といっても、いつまで持つか分かりません」

「そこは只野に任せるしかない」

「てな訳で、頑張れよ童貞。 ソレを捨ててこい」

 

 

軽口を叩くくらいの余裕ならまだある隊員たち。

 

 

『カールスラント防衛の為でもあるのよ!』

『私たちの祖国を守って! お願いよ!』

『頑張れ只野さん!』

『頼む! 私たちの祖国を!』

 

 

カールスラント出身ウィッチが懇願した。

なんか、501部隊員の声も聞こえたが気にしてられない。

只野は揶揄われたり懇願されたりする忙しさにイラッとさせられつつ、しかし真面目にやらないと更に多くの人命が失われるのを防ぐ為にも行動する。

 

 

「"ドイツ"もコイツも……! ならお前らがヤれよ!」

 

 

文句を言いつつ、カタパルトに再度跨った只野。

その文句を真に受けてか、またStorm1が無線をしてきた。

 

 

『女の子同士じゃ、Kissしても効果が無いらしい』

 

 

只野が反応する間もなく、変な話を続けるStorm1。

 

 

『501部隊の坂本とミーナの例が』

『あー! あー! ストームさん その話は、ね? ね!?』

 

 

どこかで無線を傍受していたミーナからの割り込みで無線が切れた。

触れて欲しくない話題だったらしい。

が、最前線にいる只野は気にする余裕はなく、再発射に備えて顎を引く。

 

 

「結局は俺か! ヤッてやんよ!」

 

 

言い終わるが早いか。

再び発射される只野二等兵。

 

 

「ぬおおおおっ!?」

 

 

また空を舞い、鳥になる。

ウィッチもこんな光景を見ているのかなぁ、とか、また変に冷静になる頭で考えてる間にも、また柔らかいナニかにぶつかり止まる。

 

 

「グヘッ」

 

 

今度はWDFの背中だった。

背後から抱き着く形になり、胸を鷲掴みにしてしまっている。

 

シールドの無い、無警戒な背後を狙い、見事成功した結果だった。

 

とはいえ相変わらず砲手の腕はスゴかった。

思えばEDF戦車隊は空中を高速飛行するドローンに砲弾を当てられる腕前だ。

これも納得……なのか?

 

ああ、やわこい……って、味わってる場合ではない。

 

童貞野郎だと罵られても、恥辱を受けようとも果たさねばならない事はある。

 

 

「やぁ(定ry)」

 

 

だが挨拶から始める!

なんて軟弱な男!

 

挨拶されたWDFは、冷たい表情で背負い投げの要領で引き剥がそうとしたが、そこは只野にも意地がある。

 

抱き着き、今度こそ魔法を奪ってやると歯を食いしばって離れない!

凄い顔になって、ナニがナンでも唇を奪ってやると必死だが真面目である。

 

 

「ぐぎぎ……ッ!」

 

 

WDFもKissされるのが分かってるのか、ナニされるのか知らないのか。

ブンブンと振り回して只野を引き剥がそうとする。

 

側から見たら、Kissをしたい男と拒む女の子であり、変態による犯罪現場でしかない。

 

 

『ヤれ! 只野!』

『只野二等兵!』

『只野さん! 終わらせて下さい! この悲劇を!』

 

 

司令官と戦略情報部の少佐と その部下が叫んだ。

 

ここまでされて、ヤらないのは男じゃねぇ。

決意のままに、只野は内側の熱い鼓動を身体に響かせて魂の脈動すら感じ取る。

 

して、もがいている内に軍曹ちゃんの正面に出た!

 

刹那!

 

 

「EDF!」

 

 

いつもの叫びと共に唇に突撃。

 

突然の柔らかな感触に、生気のない目を見開く軍曹ちゃん。

 

両手はチカラなく だらん、として、次には目を とろん とされてしまう。

 

所謂、ずきゅーん、である。

 

なんか、暑苦しく凄いサイテーなKissな気がしてくるが、この瞬間、彼の任務は果たされた。

 

 

「やったぞー!」

「はっはー! やりやがった!」

「EDFッ! EDFッ!」

 

 

歓喜に沸く隊員たち。

北京決戦での勝利以来である。

ヤッた事はアレだったが。

 

だが、防衛プランを立案したStorm1は油断しない。

ミーナからの謎の妨害から立ち直り、素早く無線を繋ぎ直すと声を上げる。

 

 

『喜ぶのは まだ早い! 攻撃効果を確認しろ!』

 

 

ハッとし、銃を構え直し再警戒する隊員ら。

そうだ、終わりではない。

攻撃(Kiss)したからって、全てが終わったワケじゃないんだ。

 

コマンドシップを撃墜した時だって、人類の決定的な勝利だと ぬか喜びしてしまった。

そのあと現れた搭乗員……かの者 と死闘をする事になったのだから。

 

今回はナニが起きるか分からない。

これで終われば良いが。

 

そう願いつつ、見守っていると。

 

 

「あっ!?」

 

 

ひゅー、と重力に従って落下を始める2人。

気付いた只野は軍曹ちゃんを庇うように抱きしめて……どすん、と地面に落下した。

 

どうやらハジメテを奪われて魔力を喪失し、"ただの"女になったようだ。

 

 

「攻撃効果、絶大……」

 

 

スカウトが無線でチカラなく言うが、Storm1による指示が飛んだ。

 

 

『今すぐ お姫様らを回収しろ!? 連合軍に拉致られる前にな!』

「い、イエッサー!」

 

 

慌ただしく動き回る隊員と連合兵。

互いに殴り合いながら、救助に向かうのであった……。

 

 

 

 

 

結果としては、EDFの勝利である。

気絶していた2人を回収班が連合軍との揉み合いの末、なんとか回収に成功。

 

だが、大量殺戮をやらかしたWDFの記憶があると自殺レベルと判断され、取り敢えず記憶処理剤を軍曹ちゃんに打ちまくられた。

 

記憶の方は何とか誤魔化せたようだが、周囲の目や記憶、連合軍を完全に騙せる筈もなく、世界各国の政府関係者や、彼女に怨みを持つ者に彼女は狙われてしまう事になる。

 

それに、問題は他にもあった。

曹長ちゃんの存在が残っているのだ。

 

そっちも連合軍は嗅ぎつけており、狙っているときた。

 

EDF、509JFWはコレの無力化を図る為、本腰を入れていくことになるのだった。

 

 

『ああ、それと只野。 WDFのチカラはKissくらいじゃ完全に打ち消せない。 チカラが暴走しないよう定期的にKissしてあげるか、それこそ【自主規制】しないと駄目だ』

「ファッ!?」

『頑張れ童貞。 この際、ソレを捨てろ』

「いや、ちょっと……」

 

 

まあ、そういう酷い話は続く。

戦争はそもそも酷いものだが、これはこれで別次元の酷さだった。

 

まあ……アニメでも戦時を描く一方で"実り"が大きくなる呪いとか"ズボン騒動"とか"キュッ"とか"泥酔もっさん"による"ずきゅーん"とかあるし、多少は、ね?

 




WDF事件は完全には終わらないのである……。
続くか未定(殴)。

ウィッチ:
ネウロイが空気なんですけど。

司令官:
現場はそれどころではない!(エイリアンとのドンパチ初期時風)
隊員:
それどころじゃないんだぞ!(怪生物乱入時風)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

62.記憶喪失と【自主規制】の規制線

作戦内容:
WDFの無力化はなりました。
ですが、まだひとり残っています。
その者は潜水母艦エピメテウス内にいると思われますが、肝心の潜伏地が分かりません。
捜索隊を増員し突き止めます。
只野二等兵は"シルバー"と共に南島基地に避難。
警備隊と共に彼女を護衛し、奪取されないよう警戒して下さい。
備考:
WDFには惨劇の記憶は無い。


◆南島EDF基地

 

あれから何日経ったのか。

WDF、軍曹ちゃんは無力化され、理性が戻った。

 

悲惨な記憶と強大な魔法力を引き換えに。

 

だが肉体改造された彼女だ。

kissをしたところで、完全に魔法を失ったワケではない。

しかも、その残されたチカラもまた、通常の魔女を凌駕して余りあるときた。

 

ユニット無しで飛行可能で、かの者のようにサイコキネシス攻撃のような事も未だ出来る。

 

出来ないのは、隕石を降らすとか空間転移といった超次元行為であるが……それを抜いてもヤバいのは言うまでもない。

 

そのチカラさえあれば、他国を圧倒出来る他

、様々な使い方があると考える各国は彼女をEDFから奪取しようと動く。

そうでなくても、軍曹ちゃんに大切な人を奪われた記憶が残る者らは、復讐を果たそうと殺しにかかる。

 

EDFの身勝手から始まり身勝手が続く人類から彼女を守るため、EDFはベルリンではなく501部隊が訓練に使用していた南島に築いた臨時基地に匿った。

そこは彼女を守るのに信用出来る精鋭で固められ、α型1匹通さない防衛体制。

 

大量殺戮犯をオーバーテクノロジーで守る異界の軍隊EDF。

だが、全て悪いのはEDFであり、せめてWDF事件……いや、紛争が終わるまではこうしていなければならないのだろう。

 

 

「えへへ❤︎ 次はどんな"ちゅっ"をしますか❤︎」

 

 

そんな記憶喪失の殺戮犯こと軍曹ちゃん。

殺した命なんて無いかのような無垢な笑顔。

だけど牝の顔を従兵の只野二等兵に晒しながら、彼の胸元に両手を添え、体重を掛けては背伸びをしてKissをせがむ。

内なる魔力を抑えられないのか、猫耳ピコピコ、尻尾をゆらゆらさせていた。

 

 

「あ、あのさ軍曹ちゃん。 501もいるからさ、こういうのって 余り人に見せちゃ駄目だと思うんだ」

 

 

只野は窶れた顔をしながら、そう言った。

 

記憶は無いが、Kissの話はStorm1や周りから教えられていて、その結果、元々好意を抱いていた軍曹ちゃんは甘えまくる事に。

 

また、話に出てきた501部隊は彼らの監視兼警備として同じ島にいる。

彼女らも惨劇の記憶は無いが、目の前で禁忌であるチュッチュッを見せられてはイライラもするというもの。

 

早速というか、規律に煩いバルクホルン大尉が物申す。

 

 

「おい軍曹! いくらその、その……キスしても平気な特殊体質だからって、軍属であるなら風紀を乱す行為をするな!」

 

 

やや赤らめて吼えるバルクホルン。

ごもっともであるが、対して軍曹ちゃんも言い返す。

 

 

「えぇ〜? でも こうしてないと私の中の魔力が暴走するかも知れないんです。 正当な行為ですよ」

「そ、そんな正当行為があるか!」

 

 

軍曹ちゃんに言われて赤くなるも、やはり認められず吼えるバルクホルン。

言い返されたコトも正しいのはブリーフィングで知っているが、だからってイチャイチャされていてはイライラもする。

 

だが軍曹ちゃんは知ってか知らずか追い討ちを掛ける様に只野を抱き寄せて、ニンマリした。

 

 

「501は監視もしないとならないのでしょう。 ならセーフティが掛けられているのを見られた方が安心です」

「それは詭弁だ!?」

「ならナニすれば良いんですか? ああ、答えなくて良いです【自主規制】すれば良いのは分かってます」

「お、乙女だろオマエ!?」

「只野さん、いえ。 仁の女です❤︎ 身も心も捧げてます、愛さえあれば問題なんてナニもナイです❤︎」

「〜〜ッ!?」

 

 

こっ恥ずかしいコトを堂々と言われたバルクホルンは悶絶。

トマトより赤い顔にし、口から滝の様に砂糖ドバドバの甘すぎる症候群を罹患。

地面にのたうち回り、埃を立てて転がり回る。

 

真面目でウブな魔女ほどに、"えっち"言葉はキツ過ぎたのだ。

 

それを耳元近くで聞いていた只野も、軽く赤くなる。

まだ童貞とはいえ、南島でのハネムーンで耐性が付いたらしい。

 

 

「軍曹ちゃん……あまり、ねぇ? 女の子が そんなハシタナイ言葉を連発するもんじゃないよ」

 

 

そうは言うも、ケダモノの眼光で言い返す軍曹ちゃん。

 

 

「もー、これくらいワケないです。 仁もウブ

なんですからぁ❤︎」

 

 

アレを言えばコレをネットリ言う。

箍が外れた彼女は、すっかりサキュバス染みた えっちな子に成り果てている。

只野がナニを言っても、聞く耳持たないという感じだ。

 

そこにミーナ中佐がやってくる。

目を回して、ばたんきゅーな屍を乗り越えて、彼女に物申した。

 

 

「軍曹さん。 只野さんが好きなのは分かるのだけれど、その、ね?」

 

 

母性に満ちた、しかし困惑顔で言うミーナ。

戦争で恋人を喪った辛い過去を持つのもあり、複雑な様子だ。

 

そんな彼女に対しナニかを察したのか、哀しげな口調で反論する軍曹ちゃん。

 

 

「中佐、私と仁の仲を裂く気ですか?」

「えっ!? いえ、そんなつもりじゃ」

「ぐすっ、酷いです。 こんな時代、いつ死に別れするかも分からないのに」

 

 

芝居ったらしく、オーバーリアクションを撮り始める軍曹ちゃん。

 

 

「いえ。 だからこそ、中佐は引き裂こうとしているのですね……これ以上、仲良くなると別れが辛くなるから」

「それもあるけど。 ほら、周りの子も辛いでしょう?」

「そうですね」

「ね? だから……」

「でも、別れても心は一緒でいたいです。 だから一緒にいる内に【自主規制】しましょう。 私、仁との愛の結晶が、形見が欲しいんです❤︎」

「〜〜ッ!?」

 

 

頭を【ジャックハンマー】で殴られた様な衝撃と目眩に襲われ、卒倒するミーナ。

愛とえっちな響きだけで頭がパーンしそう。

 

その様子を見た軍曹ちゃん、悪魔の微笑みを浮かべる。

 

軍曹ちゃん、恐ろしい子!

 

そんな悪魔に、501の悪魔ことハルトマン中尉がやってきた。

目には目を、悪魔には悪魔を。

 

 

「ねーねー、軍曹ちゃんは只野さんの どんなところが好きになったの?」

 

 

正攻法でダメなら、相手に合わせるように攻撃するらしい。

 

世間話風のそれに、軍曹ちゃんは笑顔で答える。

 

 

「私を助けてくれたり、気にかけてくれる優しいところです」

「あー、分かるよ。 私も只野さんに優しくして貰ったなぁ、墜落した時ね」

 

 

言った刹那。

ビシィッ! と変な音が響く。

 

 

「えっ!?」

 

 

見やればなんと、軍曹ちゃんの背後の空間にヒビが入っていた!

加えて周囲の小石が宙に浮かんでいる!

 

キレてるキレてないじゃない、キている。

サイコキネシス……彼女の場合は魔法だが……普段はここまで強くないのに、愛と怒りのチカラで増大した。

 

同時に地雷を踏み抜いたらしい。

軍曹ちゃんは目元を薄暗くして、変な笑みを浮かべながら只野を抱きしめる。

それも、ギリギリと嫌な音を立てながら。

 

 

「ふ、ふふふ……もう仁ったら、中尉にどんなコトをしたんですか?」

「ぐえぇ……ッ!?」

 

 

理不尽だろ、こんなん。

変な妄想を膨らませて、嫉妬と怒りと愛故に只野を苦しめる軍曹ちゃん。

抱かれている只野の身体からは、ミシシッと嫌な音がする。

 

Storm1を絞殺しかけた時ほどのチカラは無いものの、このままではポックリ逝ってしまいそう。

 

その様子に慌てて、ハルトマンは弁解。

男女の愛は彼女も未経験だから難しいけれど、なんか恐ろしいモノの片鱗を見て身を震わせた。

 

 

「あー、いや、ね。 Storm2って部隊と一緒に安全圏まで連れて行ってくれたんだよ!」

 

 

そのままの話をするハルトマン。

すると、チカラが弱まり、空間は修繕され小石は地に落ちた。

 

 

「なんだ、そうだったんですか。 もー、仁ったら勘違いさせるなんて悪い人です❤︎」

 

 

悪いのは軍曹ちゃんやろ。

 

そう言いたくても言えない只野とハルトマン。

変な疲労感を味わい、ハルトマンは諦め顔になる。

 

作戦は失敗だ。

強行偵察の末に犠牲になった親友2人を置き去りにして、撤退する事にした。

 

 

「ごめん。 トゥルーデ、ミーナ。 男女の愛は難しいんだね」

 

 

心で敬礼をして、涙ながらに立ち去る中尉。

歴戦のカールスラント組が全滅した以上、バカップルに立ち向かえる投入戦力は無いかに思われた。

 

 

「えへへ……じゃあ、近くの空き家でイイコトしましょう」

「……ぐ、ぐんそーちゃん……俺はもう動けないんだ」

「大丈夫ですよ。 私がリードしてあげます❤︎」

 

 

子どもの軍曹だが、大の大人を軽々と抱き抱えて、近くの小屋に運び込もうとする。

だが遮る者が現れた。

イェーガー大尉……シャーリーだ。

 

 

「待った!」

 

 

バーンと手の平を軍曹ちゃんに見せて、静止の構えを取る。

大きな胸にナイスバディな彼女なので、そんなポーズも様になっていた。

 

 

「なんですか? 私はこれからお務めをしなくちゃいけないんです。 そこを退いて下さい大尉殿」

 

 

グラマラスシャーリーを、冷ややかな目で威圧する軍曹ちゃん。

 

只野を奪う気なのか知らないけど、そんな事をしたら容赦しない、といった考えをしている。

 

もう階級なんて愛の前には関係ない。

ただヤるのみである。

 

だが、シャーリーは退かない。

 

 

「別に軍曹ちゃんが"ただの女"になってただの"の"女になるのは止めない」

「止めてるじゃないですか」

 

 

ツッコミを入れる軍曹ちゃん。

間違えていないが、構わず続けるシャーリー。

 

 

「だが! 一線を超えて魔女でなくなった時、愛しの只野から寵愛を受けられるのかな?」

 

 

これにはピクリと反応してしまう。

今の軍曹ちゃんは、只野の事が好き好き大好き状態だ。

 

だが、只野本人の気持ちは どうなんだろう。

私は知らなくて大尉が知っているかのような反応は面白くなかった。

 

 

「魔女じゃなくなれば、愛してくれないとでも?」

 

 

冷ややかな目のまま、動揺を隠しつつ問い掛ける軍曹ちゃん。

対してシャーリーは大袈裟な動きと言動で説得をする。

 

 

「どーかな? 男の好みなんて、胸の大きさや顔だけとは限らない! ならナニか。 そう、魔女……魔性の魅力! 軍曹ちゃんは魔性の女なんだ! 只野さんはソレに惹かれたのかも知れない! だが! 魔女から魔をヌけば、それこそ"ただの"女! いや、"大人"しくなった女! 即ち! それは魅力が無い女に等しい!」

 

 

バッ!

両手を広げるシャーリー!

 

言っている事は滅茶苦茶だが、演技で誤魔化している!

 

もうなんなの この茶番。

只野は思ったが、息が苦しくて言えなかった。

 

 

「そんな……! 仁は大人に興味ないの!? ロリコンだったの!? 私が大人の女になったら興味が無くなる男なの!?」

 

 

只野ではなくシャーリーに救いを求めるように問う軍曹ちゃん。

 

すると、シャーリーは迷える子羊を導く、慈愛に満ちた修道女のように手を前に組んで優しく語った。

 

 

「大丈夫、焦ることはない。 今すぐ最後の一線を超えるのではなく、よく愛する者と話し合いなさい。 愛とは一方的なモノではいけないよ」

「なるほど。 分かりました、良く話し合ってみます。 ありがとうございました!」

 

 

只野を引き摺って、何処かへと拉致する軍曹ちゃん。

その様子を見守るシャーリーと、背後で見る他の面々。

 

なんなんだコレ。

 

少なくとも、あんな事を言っておきながら、只野の意思はまるで尊重されていない。

 

 

「愛し合う時。 それは彼らの受難が永遠の勝利に変わる時だよ」

「ナニ言ってるんですかシャーリーさん」

 

 

ツッコミを入れる宮藤軍曹。

他の面子はナニも言わなかったが、同じ想いであった。

 

なんにせよ、最後の一線を飛び越える事は先送りになり【自主規制】を見せつけられての深刻な精神汚染は回避されたとさ。

 

 

「う〜ん……乙女が……乙女が……」

「形見……結晶……頭が……」

 

 

約2名の汚染除去作業をしなければならなそうだったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Storm1から只野二等兵へ。 エピメテウスの座標再取得。 ヘリも手に入れた、動けるか? おい、返答しろ只野」

「今、仁と愛を語り合ってるところです。 邪魔しないで下さい!」

「言い方ァッ!?」

 

 

彼の戦いは続く……。

 




無理がある気がしてきましたが、話を進めねば……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

63.襲撃者は同郷にあらず。

作戦内容:
エピメテウスの座標に向かい、曹長ちゃんを助けるぞ。
連合軍から捕捉される時間を減らすべく、輜重隊に混ざって着艦する。
…………ッ!?
センサーに反応多数!
連合軍だ!
戦闘配備……ッ! 迷いは捨てろ!
備考:
人類同士の戦闘。


◆エピメテウス潜伏海域周辺

 

ついにエピメテウスに乗り込み、曹長ちゃんを助ける日がやって来た。

最初はヘリが無くて迎えに行けなかったが、Storm1や縁の下の力持ちなオペ子のお陰で調達する事が出来た。

 

南島にホーク1パイロットが操縦する【HU04ブルートSA9】が只野二等兵と護衛に501のバルクホルンとハルトマンを連れて離陸。

 

軍曹ちゃんは置いてきた。

まさか戦力として連れて行くワケにはいかないから。

匿った意味がなくなってしまう。

寂しそうな顔をされたが、我慢である。

 

さて。

しばし飛行して、エピメテウス潜伏海域周辺へと到達後、パイロットは直ぐに無線を飛ばして、近くにいるだろう兵站輸送部隊とコンタクトを図る。

 

 

『こちらホーク1。 暗号化無線で通信中。 輜重隊応答せよ』

 

 

しばらくノイズが走り、やがて声が聞こえて来た。

エピメテウスの輜重隊だ。

僅かにジェットの音が混ざることから、輸送機ノーブルだろう。

 

 

『こちらノーブルリーダー。 予定通りだな……位置情報を送信した。 背後からついて来てくれ』

『ホーク1了解。 エスコート頼む』

『こっちは輸送機だ。 最悪はおたくら陸軍に任せるよ』

『ヘッ。 海の上まで陸軍か?』

『いうな。 エピメテウスは動かせない』

『それもそうか。 だがアテにするなよ』

 

 

パイロット同士、無線越しに軽口を言いつつ、ヘリは進路を変えて飛んでいく。

レーダーで輜重隊を捉え、再び確認を取り合った。

 

 

『レーダーコンタクト。 其方を捉えた』

『こちらもだ。 逸れるなよ』

『ジェット機には敵わん。 加減してくれ』

『あいよ。 だがノンビリ飛んでくれるな、燃料も有限なんでね』

『勿論だ』

 

 

そんなやり取りを共用無線越しに聞いて、護衛役のハルトマンは只野に尋ねた。

 

 

「ねぇねぇ、本当に輸送部隊がいるの? 何も見えないよ?」

 

 

彼女は外の景色を眺めて言った。

確かに、綺麗な空と海が広がるばかりで穏やかそのものだ。

飛行物体は他に確認出来ない。

 

只野二等兵は南島での疲労で、ゲッソリしていたが、努めて優しい口調で答えてあげた。

 

 

「ちゃんと いる筈だよ。 ただ機体性能が違うから目視出来る距離にいないだけ」

「ふーん。 EDFって凄いんだね」

 

 

折角説明したのに、納得したのか飽きたのか、相槌をうつだけのハルトマン。

まあ、只野としても変にツッコミを入れられて答えられる知識は備えてないので、逆にありがたかったが。

 

いちおう、そんなハルトマンは戦闘になったら直ぐに飛び出せるようにユニットを履いている。

それは隣のバルクホルンも同じだ。

 

 

「緊張感を持てハルトマン。 いつ敵が来るかも分からないんだぞ」

「えー。 でも目的地近くだよ? それに、潜水艦にいるウィッチの輸送が目的だよね? 大丈夫だよ」

「カールスラント軍人たるものだな……」

「あー、はいはい気をつけまーす」

「なんだその態度は! もっとシャキッとしてだな……」

 

 

ゴチャゴチャと言い合う2人をよそに、只野の心境は複雑だ。

 

WDFの真実を知る者は、只野やストームを含めた一部の正規隊員だけだ。

501含む連合軍へは歪んだ事実のみを伝えている。

 

まさか、EDFが魔女を改造したなんて言える筈がない。

そんな事をしたら反感を買い、離反者が出まくる事態は避けられないから。

 

そうでなくても、全ての者から悲惨な記憶を完璧に消すのは不可能だ。

WDFによる犠牲者達の家族や親族、友人、関連部隊を騙し続けるのは難しい。

少なくとも、連合軍にはWDFの存在がバレている。

何をしてくるか分かったものではない。

だから、509JFW本隊のいるベルリンから離れて、南島にWDFを避難させたのだ。

 

ヤツらは……というか人類は利益になるなら人殺しすら平気でする節がある。

民間人視点なら狂ってる話であり、非難は避けられない話だが、組織や国家レベル、戦略で考えるとひと個人の命なんてあって無しにあらず。

 

だが個人の価値が、それらより重要なら?

 

今回はそのパターンだ。

して、連合の態度から想像がつく。

 

各国政府はこう考えてるだろう。

WDFと比べたら他の兵士なんて雑魚だと。

命よりプライドを。

チカラを手に入れて世界史を思いのままに。

我が国が1番だ、他国は奴隷に成り下がるべき。

分からせる為には、WDFのチカラが必要だ。

手に入るなら、雑魚の命なんて湯水の如く注ぎ込もうと。

 

人類の下らない覇権争いで、ネウロイとは関係ない場所で命が散る可能性。

既に多くの犠牲者が出た。

それらは災害レベルだが、人災である。

違いは"理性"の有無でしかない。

どちらにせよ、人類は世界や時代が違えど欲に目が眩んで常に非理性的な決断をしてしまう生物なのかも知れない。

 

 

(曹長ちゃん……とにかく、今は助けるんだ)

 

 

只野はドーントレス重機関砲の銃座について、気休めの戦闘態勢を取り続ける。

来るとしたらネウロイか連合軍だが、後者は勘弁して欲しい。

まさか2人に「人を殺せ」とは言えない。

 

 

『今のところレーダーに敵影なし』

 

 

パイロットは警戒しつつ、飛行する。

出来ることなら、このまま来ないで欲しい。

ネウロイにしても……どちらにせよ、今のヘリで対空戦闘はナンセンスだ。

空を高速で動き回る敵に連射性能の低い機関砲一門で渡り合うなんて困難だ。

 

 

「来るなよ頼むから」

 

 

でも、覚悟はしている。

只野は人間そっくりなエイリアンを何体も殺してきたが、人間そのものは殺した事がない。

暗黒時代の今の地球では、限られた資源を巡り人殺しも発生しているし、増援隊員の中には"経験者"もいる。

 

だが只野は"まだ"である。

 

だが今日、卒業する可能性。

EDFには、ある種の呪いの魔法がかけられているのだから。

 

 

『ッ! レーダーで敵影確認!』

 

 

案の定、それはきた。

どうせ全て悪い方向だ。 決まってる。

そう思わないと、強い衝撃に耐えられない。

 

 

『これは連合……扶桑の零戦!?』

 

 

取り付けられていた、この世界用の敵味方識別装置の判定結果をパイロットが叫ぶ。

それを聞いたカールスラントの2人は驚いてしまう。

 

 

「なっ!?」「えっ?」

 

 

まだ距離はある。

攻撃は互いに出来ない。

だが近寄ってくる以上、出来る事はしなければならない。

 

偶然かも知れない。

或いは違うかも知れない。

 

パイロットは無線を繋げるか試み、只野は既に諦めて心の準備をした。

 

 

『敵かも分からない。 殺害されたエイリアンの交渉団みたいにはなりたくないが、同じ人間なら言葉くらい通じるだろう』

「楽観的ですね」

『楽観的じゃなきゃ、やってられるか』

 

 

スイッチやらダイヤルやらをパチパチ動かし、呼びかけを行うも上手くいかない。

 

 

『無線機、積んでないのか』

「昔の航空機ですし。 みんな積んでるワケじゃないし、積んでいても技術が違うんでしょう、繋がらないんじゃないですかね」

『もう少し様子を見る……だが、準備を頼む。 大尉と中尉、コンタクトを取ってくれ』

「了解した」「はいよー」

 

 

そういうと、ウィッチの2人は扉をあけて飛び立った。

こういう時、航空歩兵なウィッチの運用は便利である。

 

 

「大丈夫ですかね?」

 

 

個人向け無線に切り替えて、心配そうに尋ねる只野。

ホーク1は明るく答えてくれた。

 

 

『ウィッチだ、心配ないだろ。 それにブルートに攻撃してきたって、機銃だろ。 コイツの装甲は破れない』

「……その時は撃墜しますか?」

『最悪は。 エピメテウスの位置が知られたら厄介だからな。 だが向こうは失敗しても、ただでは転ばない筈だ。 国際問題に発展させて、こちらを攻撃してくる。 扶桑がもしその気なら……連合各国みんなグルになってイジメが始まる』

「しかし扶桑ですか。 俺らの国、日本に該当する国ですよ」

『だからなんだ。 今頃、国がなんだと気にする必要はない』

「そうですね、すいません」

『……撃墜するなら、翼をもげ。 コックピットは狙うな』

「うっす」

 

 

セーフティを外し、センサー反応のする方へ砲口を向ける。

機関砲だ、連射速度は遅く、飛び回る航空機に当てるのは難しい。

 

 

「いや、これじゃない方が良いか」

 

 

そう言って、扉を開けるとTZストークを構える只野。

 

 

「コイツの初実戦使用相手が人間になるってか。 笑えるな」

 

 

死神部隊長みたいな言い回しをしながら、只野は最悪の事態に備えた。

して、それは来た。

 

 

『こちらバルクホルン! こちらからの呼びかけに応じない! そのまま そっちに向かってるぞ、気を付けろ!』

『こんなところに扶桑軍がいるなんて聞いてないよ! 何かおかしい、気をつけて!』

 

 

どうやらウィッチを無視して突っ込んできているそうだ。

 

 

「機影が見えた」

 

 

遠くの点がみるみる大きくなってきた。

この世界の戦闘機、プロペラ機。

性能はEDFの現代戦闘機と比べるべくもない。

だが、人間が乗っているのは同じだ。

 

 

「敵か? 味方か?」

 

 

緊張感が高まる。

それを察してか、ハルトマンは言うのだ。

 

 

「只野さん…………なるべく、殺さないで」

 

 

彼女らしからぬ、弱々しい言葉。

刹那。

 

 

ダダダダダダッ!!

 

 

白塗装の零戦が、撃ってきた。

 

 

「クソッタレ!!」

『敵だったか!』

 

 

この日、EDFと連合……この世界の人類と武力行使による戦闘が発生。

いつかこんな事になるだろうとは、只野もホーク1も思ってはいた。

 

だから予想していた分、落ち着いてはいた。

 

 

『ブルートは重装甲だ。 ブレイク(急旋回)は難しいが、機銃如きで堕とせるほどヤワじゃない。 のんびりと、しっかり狙えよ只野』

「了解しました」

 

 

スコープを覗き……何発か発砲。

青白い炎を焚き、それら弾丸の1発は翼に命中。

零戦は煙を上げて海面に着水した。

パイロットは自力で脱出したようで、無事だった。

 

 

『どうやら客は いっぱいいるらしい』

 

 

センサーには、次から次へと航空機を捉えていた。

 

空覆い、押し寄せる敵。

それはネウロイじゃない、同じ人類だ。

 

 

「何が悲しくて同じ日本と……いや。 彼らは"扶桑"だったか」

 

 

只野は覚悟する。

奴らの目的はなんであれ、手を出したのは向こうだ。

正当防衛である、命を取らないよう気を付けはするが、それだけだ。

 

 

「だがな、もし死んでも恨むなよ。 恨むなら……お前らの国を、上の奴らを恨め!」

 

 

発砲、発砲、発砲。

次から次へと堕ちていく。

 

 

(宮藤……ごめん。 扶桑にはいよいよ行けないよ。 だって、こんな目に遭ったんだから)

 

 

素早い回避行動を取る相手だが、歴戦のパイロットと特戦歩兵は その程度 なんて事ない。

エイリアン連中のドローンやら飛行型の侵略生物や有翼型エイリアンの群れを相手にしてきたのだ。

 

 

「これくらい、なんてことない……なんてことないんだよ……ッ!!」

 

 

───涙が出るのは、何故だろう。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

64.空中焼爆死

作戦内容:
エピメテウス周辺海域にて戦闘発生。
敵は同じ人類です。
とうとう武力行使の事例が発生してしまいました。
とにかく、これを撃退。
政治的な理由で大規模な増援は不可能です。
代わりにStorm1と空軍が支援します。
WDFを連合の魔の手から守って下さい。
備考:
知恵と理性は剥き出しの憎悪と狂気の前では無力である。



◆エピメテウス周辺海域

 

青空の下、青い海の上。

この世界には存在しない1機の重装甲ヘリを、この世界のプロペラ戦闘機が群れて襲っている。

それは飢えたピラニアに集られる餌の様相を醸し出しているが、生憎とソレは餌ではなかった。

 

 

『こちとら空飛ぶ要塞ブルートだ! 旧世代の20ミリ程度で堕ちるかよ!』

 

 

パイロットが威圧するように、或いは自身を鼓舞するように言うが、劣勢である。

確かに表面装甲に火花が散るばかりで、ブルート自体は平然と飛んでいる。

だが、延々と喰らい続けられるほどタフではないし、ヘリの構造上の弱点であるローターは剥き出しだ。

武装に関しては、対空兵装は積んでいない。

ミサイルもなく、あるのはガンナー任せの横腹にあるドーントレス機関砲2門のみ。

回避行動を取るにも重装甲故に機動性に難がある。

ヘリだからホバリングやその場での方向転換など柔軟性はあるのだが、対空戦闘は想定していない。

技術格差があれど、運用方法が違えば相性の良し悪しが目立ち、旧世代の兵器でも異界の兵器と渡り合えてしまう。

こと今に至っては、プロペラ戦闘機の群れに対抗するにはあまりに無謀だった。

 

 

(このままじゃ殺られる!)

 

 

パイロットは意地を張らず、無線を飛ばす。

今、背後の只野や付いてきてくれたウィッチの命を預かっている以上、生存率は上げなければならない。

 

 

『バルクホルン大尉、ハルトマン中尉と南島へ撤退して下さい。 援軍要請とWDFの防衛をお願いします』

 

 

特に、子どもには……大人の都合による、人類同士の殺し合いに巻き込むワケにはいかなかった。

 

 

『お前たちEDFは どうするんだ!?』

 

 

バルクホルンは慌てたように言うが、どうして良いか判断に困っている。

そりゃそうだ。

いくらエースといっても怪異のネウロイ相手での話、人間殺しのエースじゃない。

まさか異国の軍隊相手とはいえ、宮藤や坂本の祖国の兵士を手には掛けられない。

 

 

『俺たちは大丈夫! EDF隊員はヤワじゃない、知ってるだろう?』

 

 

ホーク1は軍人の口調ではなく、子どもに優しく問いかけるように言って安心させようとした。

 

 

『しかし!』

 

 

それを感じて、バルクホルンは何かを言おうとするが、

 

 

『トゥルーデ、行こう』

 

 

ハルトマンが言った。

真剣な眼差しと、はっきりとした口調だった。

 

 

『エーリカ!』

 

 

何かを言おうとして、言葉に詰まる。

だが迷っている暇はない。

ここに残るということは、人類の殺し合いに加担することであるし、撤退するのは只野たちを見捨てる事である。

いくら人外のEDF隊員だからって、この数相手だ、死ぬかも知れない。

逆に死なないかも知れない。

 

 

『くそぉっ!』

 

 

バルクホルンは、撤退を選んだ。

WDF防衛も救援要請も大切なんだ……今はそれがベストだ……そう言い訳して。

思えば逃げてばかりだ、だが全て意味のあるものだ、恐怖からではない。

 

 

『絶対に死んじゃダメだからね』

 

 

ハルトマンも、そう言って撤退した。

それをキャノピー越しに見て、ホーク1はうすら笑みを浮かべる。

 

 

『そんなワケだ只野二等兵、気張れよ!』

「了ッ! ああ、チクショウッ!」

 

 

嗚咽を吐きながら、ヘリ搭乗員の只野二等兵はTZストークを撃ちまくる。

ひとつ、またひとつと戦闘機を逆に喰らい返しては減らして行く。

だが、数が多いのと射角が限られるから、いかにTZストークといえど捌き切れない。

 

 

「数が多過ぎる! 旧日本……いや、扶桑にはそんな余裕があんのか!?」

 

 

航空機の数で言えば、現EDF空軍より多い状況に嘆く只野。

 

TZストークは戦況を打開するアサルトライフルとして開発されただけあり、この世界の装甲をも容易く破壊する威力がある。

だが所詮は個人の携行火器、して今は一丁しか この場にない。

 

 

「援軍なんて期待出来ないですよね!?」

 

 

多勢に無勢。

どんなに高火力の武器を振り回したところで、その優位を覆すのは簡単じゃない。

 

 

『良いから撃て! 救難信号は飛ばしている!』

 

 

EDF隊員なら、数の暴力の恐ろしさを知っているだろう。

あの地獄を乗り切るには、武器だけでなく戦術も必要だった。

 

建物に籠る、狙撃する、軍曹爆弾……は、不謹慎だが。

 

今も、そうしなければならない。

只野が掟破りの、ヘリのサイドドアを開けてのアサルト撃ちだって、そのひとつだ。

 

その異界の兵器、戦法、それを受けての多大な損害に相手もたじろぐ。

 

 

《たがが1機、何故墜とせない!?》

《装甲が厚いのか!?》

《機銃を使わずに歩兵銃で!?》

《機動力はこっちが上だというのに!》

《たった1人に、こうも編隊が崩されるとは!》

 

 

敵パイロットは狼狽えながらも攻撃を続行する。

人間相手だというのに、その闘志の炎は燃えている。

 

 

《怯むな! 扶桑の為、人類の為だ!》

 

 

どうやら、上に騙されているようだ。

だが、そんな事は只野たちは知らない。

知ったところで、どうにもならない。

上の命令で動き、歪んだ正義を感じたところで理不尽に死ぬ。

意思決定をするのは上層部だろうが、戦うのも死ぬのも結局は彼ら兵士だ。

 

 

『ホーク1よりノーブルリーダー! そっちは無事か!?』

『まだな!』

『エピメテウスは来れないのか!?』

『さっきも言っただろう! 来れない、水深が浅過ぎる!』

『ミサイルは!?』

『誘導ビーコンが必要なヤツなら撃てるだろうが、無いだろ!』

『くっ、Storm1がいれば!』

 

 

そうこうやり取りをしていたら、突如として耳元で銃声や金属音が。

それは無線の向こうの話で、こちらではない。

 

 

『くそっ! こっちにも敵が!』

 

 

どうやら別働隊がノーブル隊を襲っているらしい。

銃声や火花以外にも悲鳴や被害報告の声も聞こえる。

 

彼らノーブル隊には護衛機がない。

武装もない。

本当ならつけるべきだったが、そんな余裕がなかったのと、海上でネウロイに襲われる可能性は低いと判断した結果だった。

まさか同じ人類に襲われるとは思っていなかったのである。

 

 

『コンテナ切り離せ! 機体を軽くして逃げるんだ!』

『馬鹿ッ、これは俺たちの命綱だ!』

『それで死んだら元も子もない!』

『命の方が大事だろ!』

『後で潜水艇で回収すれば良い!』

『被弾! 被弾!』

『May Day May Day May Day!』

『2番機がやられた!』

『右翼機被弾ッ!』

『cargo fire! cargo fire!』

『くそっ、切り離せェッ!』

『散開! 固まるな!』

『機体に着火!』

『燃料噴くぞッ!?』

『持ち堪えろ!』

『操縦士が撃たれた!』

『emergency! reason:pilot trouble!』

『full throttle! 速度はこっちが上だ!』

 

 

こちら以上に被害は甚大のようだ。

あれ、おかしいな……ノーブルはいくら被弾しても堕ちない気がしたんだが……それはゲームの話だよ。

 

 

『さっさと片付けろ! でないとノーブル隊が全滅だ!』

「俺ひとりで どうしろってんだ!」

 

 

文句を言いつつ、弾をばら撒く只野。

他に出来そうな事がないので仕方ない。

 

そんな時こそだ。

大将は、いつも良いところに来る。

 

それはStorm2、軍曹の部下の言葉である。

 

 

『こちらStorm1。 救援に向かう。 持ち堪えてみせろ!』

 

 

して彼はStorm3、グリムリーパー隊長の言葉を使った。

残念ながらStorm3は来ないのだが、代わりがやってきた。

 

 

『EDF空軍のKM6!』

 

 

識別信号を確認したホーク1が、嬉々として叫んだ。

その期待に応えるように、KM6のパイロットから声がかかる。

 

 

『こちらボマー。 Storm1の要請で来てやったぞ感謝しろ』

 

 

言うが早いか。

KM6によるミサイル群が空を耕しながら飛んでくると、次々と戦闘機を爆炎の中に沈めていく。

 

 

《なんだ!?》

《ロケット弾!?》

《追尾してくるぞ!》

《どこから!?》

《見えないぞ!》

 

 

風防の中で、必死に左右上を見回すパイロットたち。

だが、見える筈もない。

同じ戦闘機とはいえ、機能も武装もまるで違うのだ。

特に遠距離から一方的に行われるミサイル攻撃に対抗する術なんて、この世界には無い。

結果、逃げ切る事も出来ず敵を見る事も叶わず戦闘機は喰い尽くされていく。

 

 

《うわああ!?》

《脱出しろ!》

《風防が開かない……ぐわああッ!》

《助けてくれェッ!》

《熱いッ! 熱いイイイイッ!!?》

 

 

直撃しての爆発で即死したパイロットは幸運で、直前まで中途半端に生きた者は地獄を味わう羽目になる。

 

 

「くそっ」

 

 

只野は見た。

コックピット内で炎に抱かれたパイロットが、手をジタバタさせながら苦しむのを。

それから炎はガラスの中で充填すると、耐えられなくなった風防が内側から砕けた。

次に機体が爆発、消えていなくなる。

 

 

「惨いなぁ。 戦争で見慣れた筈なのに、くそぉ……なんだって、こんな……!」

 

 

只野は嗚咽をもらしながらも、ソッとサイドドアを閉めた。

 

敵がいなくなったなら、戦う必要はない。

惨い光景を見続ける必要もない。

 

だが、その光景は脳裏に焼きついてしまう。

人間に似たエイリアンの、四肢や頭が取れる光景を何度も見てきた只野。

だが明確に同じ人間と殺し合った事実、それに加担して名も知らぬ兵士たちの惨い死に様を見たのとはワケが違う。

命を奪った側、理屈では説明できないこの重さが、今になってのし掛かる。

 

 

『大丈夫か、只野』

 

 

心配したホーク1が尋ねた。

只野は、息を詰まらせながらも返答する。

 

 

「はい……大丈夫です。 覚悟はしていました」

『誰しも覚悟を持って挑んでも、現実はその上を上回る。 例え慣れていたと思うものでもな。 だから、お前の気持ちは普通だ、深く考えるな』

「俺たち、どうなるんでしょう」

『細かい事は上に投げつければ良い。 お前は もう心配するな』

「分かりました。 すんません、ありがとうございます」

 

 

ホーク1に慰められて、気持ちを落ち着かせる只野。

過ぎたことよりも、未来のことよりも今だ。

まだ戦争は続いている。

考えてる余裕があるなら、現実と戦わねばならない。

 

 

『こちらボマー。 このままノーブル隊の救援に向かう』

『ホーク1よりボマー。 頼む』

 

 

現代のジェット戦闘機が、ブルートの脇を一瞬で通り抜けていく。

して、ジェットエンジン部の光源とは別の光がいくつも見えたと思ったら、爆炎が生み出されていく。

ノーブル隊を襲っていた部隊を器用に叩き落としているのだと、すぐに分かった。

 

 

『ノーブルリーダーからボマーへ。 救援感謝する』

『こちらボマー。 敵は殲滅した、後は任せたぞ。 アウト』

 

 

見えないところで、戦闘が終了した。

同じ戦闘機というカテゴリであれ、こうも文明差がある。

有視界飛行及び戦闘が主流の この世界からしたら、遠距離からの一方的なミサイル攻撃なんてどうしようもない。

結果はコレだ、当然である。

それでも中には同じ人間がいて、一瞬で皆死んだ。

それも激戦の中で、武運拙く……ではない。

戦闘なんて起きていない、一方的に虐殺されたと言って良い。

厳しい訓練を乗り越えて、国の為に家族の為と信じた者もいただろうに……こうも命とは簡単に散るものなのかと、只野は薄らと思う。

 

 

『トラブルはあったが予定通りエピメテウスに着艦、曹長をさっさと回収ないし無力化する。 準備は良いな、只野』

「悪くてもやるんでしょ?」

『当然だ』

「了解……やってやりますよ」

 

 

この先、ネウロイなんていう人類共通の敵が仮にいなくなった時、人類は自分達の深淵を見ることになるだろう。

それは食糧問題やエネルギー問題等ではない。

平和の中で利益を求めなくなったなら、緩やかに滅んでいくかも知れない。

逆に闘争を抑えられないなら、隣人や家族を傷付け合っていくだろう。

 

その時、果たして どれくらいの命が散るのだろうか。

 

……そうならない為に。 世界には分かりやすい物語と、敵役が必要なのだ。

 

それこそ、異界の侵略者EDFと。

かの者……WDF、Storm team。

 

時代から与えられたEDFの役割。

プライマー。

望んでいなくても、そうなっていた。

 

 

『Storm1から只野へ。 先に行っていてくれ、俺も後から行く』

「了解です……はやめに、来て下さい……記憶処理をしないとならなくなる、廃人みたいになる前に」

 

 

なんにせよ、互いに やる事をやらねばならない。

少なくとも只野二等兵は、そうだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

65.弄ばれたカラダ。

作戦内容:
エピメテウスに着艦したな。
すぐに曹長を助けてズラかるぞ。
備考:
人は変わる。


◆エピメテウス

 

指定座標に到達すると、エピメテウスは浮上、ノーブル隊共々着艦して艦内へと入る事になった只野二等兵。

エピメテウス乗組員とやり取りしつつ、曹長ちゃんの場所へと案内される。

 

 

「こちらです。 急ぎ、運び出して下さい!」

 

 

狭い通路を駆け足で案内され、只野も歩調を合わして走り出す。

また連合軍が来るかも知れないのだ、そりゃ慌てる。

 

 

『対空、対潜警戒を厳にせよ! この機会を連合軍が見逃す筈が無い!』

 

 

艦長が叫んだ刹那、部下達が次々と報告を重ねる。

休まる暇がない。

 

 

『艦長! レーダーが敵群を捉えました! 連合軍の航空機です!?』

『ソナーにも反応! 潜水艦と思われます!』

『呼び掛けに応答ありません!』

 

 

どうやら時間は無いらしい。

エピメテウスは巨体だ、浮上すれば目立つし被弾率は高くなる。

潜って隠れようにも、連合軍にも潜水艦や対潜兵器はある。

WDF……魔女1人の為に航空機を何機も投入してきた連中だ、それら兵器をも投入してきても変ではない。

 

元々魔女は貴重な戦力だから、1人を助ける為に多数の一般兵士が犠牲になる話は珍しくないが……とはいえ、いくらなんでも過剰だ。

 

それに、だ。

 

なぜネウロイと戦争中なのに、それも水が苦手とされる敵を相手にしているのに、それら対潜兵器が運用されているのか。

そのうち水に潜るネウロイ対策だとか、ネウロイに気付かれずに こっそり島から島へ移動する手段にすると言えば聞こえは良いが……こういった対人戦闘に備えているのが本音かも知れない。

 

 

『チッ、早いな!』

『交信諦めろ! 戦闘用備ーーッ!』

『容赦するな! 相手が人間だろうと、襲ってくるなら敵だ! 迷いは捨てろ!』

 

 

乗組員が慌ただしく動き回り、怒声が響く。

 

助けねばならない、とにかく目的を達成しなければ。

事今に至っては、WDFという1人の魔女の為に多くのEDF隊員が命を懸けている。

 

 

「はやく!」

 

 

只野は慣れた動きで、素早い案内人を見失わないように食らいつきながら走り続け、やがて ひとつの部屋へ辿り着く。

 

 

「こちらです!」

 

 

言われて重厚な耐圧扉を乱暴に開けると。

 

そこには1人の少女が、ベッドに座っていた。

 

 

「……曹長ちゃん?」

 

 

その様子に、不安気に尋ねる只野。

だって、彼女は怯えて震えていたのだから。

 

軍曹ちゃんと同じく、白銀の髪に白い肌、カールスラントの軍服を着用。

しかし、顔立ちから曹長ちゃんだと分かる。

だが、もっと違うのは、前述の通り彼女が酷く怯えていることだ。

この緊急事態に怯えているワケではないのだと、只野はわかった。

人体実験で精神的に追い詰められたのだろう、心をボロボロにされたのだと。

 

軍曹ちゃんは神さまだと勘違いされるような威圧感を放っていたなら、曹長ちゃんは……病人だ。

 

 

「曹長ちゃん、只野だ。 覚えてるか? 只野二等兵だよ!?」

 

 

近寄ってみると、ビクビクと更に怯える曹長ちゃん。

本当なら、ゆっくり時間をかけて話すべきだろうが、それどころではない。

 

 

『魚雷発射音探知!?』

『回避行動をとれ!』

『面舵一杯ッ!』

 

 

とうとう攻撃が始まった。

大きく揺れる艦内、身体がよろけそうになり、近くの壁で転倒を防止する。

 

案内人は慣れた動きをしつつ、しかし切迫した状況に声を荒げる。

 

 

「時間が無いんです! 離陸が出来る内に運び出して!」

「分かってる!」

 

 

対して只野は怒り返しつつ、曹長ちゃんを無理やり抱き抱えようと近寄った刹那。

 

 

「くるな!」

 

 

曹長ちゃんが叫ぶ。

次には手で押されて吹き飛ばされる只野。

 

 

「ぐっ!」

「只野さん!?」

 

 

壁に叩きつけられ、悶絶する只野。

魔女とはいえ、ここまでチカラがあるのは不自然だ。

やはりか、改造手術を受けているのだと分かる。

 

そう思う只野に、今まで黙っていた曹長ちゃんは、追い討ちを掛けるように怒りをぶつけた。

 

 

「お前たちEDFは悪魔だ! 私と軍曹を騙してこんなカラダにして! 腹や頭の中にコアやら脳波誘導装置を埋め込んで! しかも私は軍曹の実験台だって!? あれこれ弄って失敗作!? 【M4レイヴン】みたいだとか、ワケわからない事を言いやがって! 少なくとも私や軍曹を人間扱いしてないのは分かってるんだ! お前たちにとって魔女の命は簡単なんだ! オモチャなんだ!」

 

 

早口で恐怖を口から吐き出す曹長ちゃん。

只野が知らないところで怖い目に遭ったのだと嫌でも分かる。

 

挙句に失敗作呼ばわりされたそうだ。

酷い話だ。

話に出てきたM4も失敗作との声があったから、例えで出されたのだろう。

 

M4レイヴン。

レンジャーのアサルトライフルであるレイヴンシリーズで、多砲身でガトリングのようになっている銃だ。

そのせいか、命中精度が そんなに高くなく、代わりに連射速度が高い……と言いたいが、直ぐに弾を撃ち切ったり弾着点がバラけたりと安定性に欠く。

そのことから失敗作と言う声もあった。

この結果から前のM3の改修が行われる事になった。

 

経緯で言えば曹長ちゃんはM4で軍曹ちゃんはM3SLSといったところか。

M4も使えないワケじゃない、只野は知っているが、出た言葉は別だった。

 

 

「落ち着いて……とにかく、逃げよう」

 

 

だが今、慰めている場合ではない。

只野はよろよろと立ち上がり、諦めず曹長ちゃんを連れ出そうとする。

 

一刻も早く脱出しなければ、下手すると海の藻屑だ。

WDFの彼女なら沈没しても脱出出来るかも知れないが、只野達には無理だ。

いくら屈強なEDF隊員とて、暗くて息も出来ぬ深い水底で重厚な耐圧壁や扉を突破して水圧に耐えながら水面に浮上するのは不可能である。

 

 

「来るなぁ!」

 

 

だが曹長ちゃんは拒絶した。

彼女の手から光弾が放たれると、至近距離にいた案内人を吹き飛ばす。

 

 

「グハッ!?」「ッ!」

 

 

吹き飛んできた案内人を、只野は素早くローリングで回避。

 

しかし案内人は壁に叩きつけられて、気を失ってしまった。

軍曹ちゃんだったら紅い花を咲かせていたところだが、曹長ちゃんは理性がある分、加減を知っていた。

 

 

「は、ははっ! ザマァ見ろ! お前達が悪いんだぞ! 私をこんな目に遭わせて!」

 

 

同情する暇も、曹長ちゃんを叱咤する暇もない。

只野はとにかく連れ出したい一心だ。

彼女の心境に沿うように言いつつ、只野は近寄る。

 

 

「曹長ちゃん! 一緒に逃げよう!」

「逃げる? どこにだ! 世界中どこ行っても、EDFは追いかけてくるだろう!」

 

 

かつて魔獣の宴にいたフェンサー部隊のような事を言うと、また光弾を放つ。

只野は素早くローリングで回避する。

至近距離であるが艦が揺れる他、彼女自身、安定性に欠き光弾の速度や精度は粗い。

 

 

「頼むよ! お願いだから!」

「騙されるか! 酷い事を続ける気だろ!」

 

 

言い合う間にも時間を浪費し、戦闘は悪化していく。

 

 

『制空権、奪われつつあります!』

『弾幕薄いぞ! 何やってんだ!』

『残弾、僅かです!』

『補給急げ!』

『海の底だよ!』

『曹長は脱出したか!?』

『まだです!』

『急がせろ!』

『それが、案内に就かせた隊員との交信が途絶えました』

 

 

揺れる艦内、爆音がここまで届く。

時間はない。

 

 

「このままじゃ、俺も曹長ちゃんも殺される! それも連合にだ! この騒ぎが分からないのか!?」

「お前たちが蒔いた種だ! 私は関係ない!」

「あるんだよ! 自分の胸に手を当てて聞いてみなよ!」

 

 

只野は叫んだ。

彼女にWDFである事を改めて自覚させて、どうするのが良いのか判断させようとした。

ただし、只野の考えとは別に曹長ちゃんは罪悪感に襲われる。

EDFの情報を連合に流していたのは紛れも無い彼女だ。

それが様々な展開と結びつき、武力衝突が起きたと考えるのは難しい話じゃなかった。

 

 

「私は悪くない! 私のカラダを、命を、好き勝手にいじくり回したのはEDFだ! その結果だ!」

「起きた事は取り消せない! だけどこれ以上の犠牲が出るかどうかは曹長ちゃん次第だ! 軍曹ちゃんは改心したぞ!」

 

 

改心、というには無理ヤり感があるが。

理性を取り戻し、チカラと記憶を無くす事で犠牲者は減ったと見て良い。

曹長ちゃんは会話が出来ることから理性は ある、辛い記憶を引きずっているだろうが後は本人次第だ。

 

 

「軍曹は……無事なのか?」

 

 

怒りから不安へ。

曹長ちゃんは、只野に尋ねた。

情報を流しつつも、軍曹ちゃんを見捨てられずに庇った彼女。

その人間の心は脆くも強く残っていた。

 

只野は、その不安を払拭するように強く深く頷いた。

 

 

「無事だよ。 とある南の島に匿ってる」

 

 

そういうと、曹長ちゃんはホッとしたようにベッドに腰掛けた。

 

 

「そうか……良かった」

 

 

僅かに笑みが零れる。

只野は畳み掛けるように、曹長ちゃんを言葉責めにする。

 

 

「会ったらきっと喜ぶよ。 死んだら悲しむ。 他のみんなもそうだ。 だから」

 

 

揺れる艦内。

只野は握手を求めるように手を伸ばして笑顔で言うのだ。

 

 

「守るから。 俺と一緒に逃げよう」

 

 

言われて、曹長の心の中でコンコンと温かいモノが湧き上がった。

 

只野二等兵。

ちゃちで臭くて、どうしようもない事を言うスケベな男だけど。

 

きっと、今度は嘘偽りの無いモノだと思えた。

 

 

「……わかった。 一緒に行ってやる。 お前は危なっかしいからな。 見張ってないと軍曹にセクハラするかも知れないし」

「むしろ逆に」

「えっ?」

「なんでもない。 行こう!」

 

 

曹長ちゃんは手を取ると、只野が力強く立ち上がらせた。

ここからだ、2人の逃避行が始まるのは。

 

曹長ちゃんは、どこか乙女な妄想で白い肌を赤らめたが、只野は分かっていない。

 

 

(血色が良くなった。 大丈夫だな!)

 

 

程度に思っていた。 おい。

 

 

『航空機に集られている!』

『弾薬が僅かです!』

『撃ち方止め! 曹長が離陸するタイミングで撃て。 弾薬を節約しろ!』

 

 

とにかく、逃げなければ。

只野は案内人が持っていた無線機を取ると、エピメテウス乗組員に告げる。

 

 

「こちら只野二等兵。 案内人が戦闘の衝撃で気絶。 代わりにWDFを連れて脱出します。 離陸準備願います」

 

 

そう言って無線機を放り投げ、曹長ちゃんの手を取り走り出した。

 

 

「行こう!」

 

 

こくり。

赤らめた顔のまま、彼女は頷いた。

 




グダグダ感が否めない……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

66.チカラの差と罪の重さ。

作戦内容:
エピメテウスから脱出する。
だが航空機を何とかしないと危険だ。
備考:
Storm1が来てくれる。


リアルが多忙なのもありまして(言い訳)間が空きました……。


◆エピメテウス

 

 

「さあ乗って!」

 

 

飛行甲板に出るリフトに辿り着いた只野と曹長ちゃん。

只野が曹長ちゃんにブルートに乗るよう促し、パイロットのホーク1は覚悟を決めた。

 

 

「駆け落ちをするとこ悪いな、お客さん。 空が敵だらけだ、エピメテウスの援護はあるが、命の保証はない」

 

 

そう茶化すように言うと、補足するように爆音や機銃音が直ぐ上で響き、艦内が揺れた。

照明がチラつき、埃が落ちる。

空が見えない為に詳しく分からないが、外は相当危険なのだろう。

 

 

「……只野」

 

 

曹長ちゃんは不安そうに、只野の戦闘服の端を握る。

 

このまま敵の攻撃に耐えても好転しないなら、何かしらやれる事をしないとならない。

 

 

「なら甲板に出て航空機を墜として来ます」

「正気か?」

「今更なんです。 元の世界でもそうだったじゃないですか」

 

 

狂気の怪物αやβ、空飛ぶ諸々の大群と対峙してきた只野たちEDF。

旧世代の戦闘機の群れなんて、それと比べたら大した話ではない。

 

 

「対空兵装が無いだろ、お前」

「TZストークがあります」

「いくら強くてもアサルトライフルだ」

 

 

そう言って止めるホーク1に倣うように、曹長ちゃんも止めに入る。

 

 

「歩兵銃で航空機とやり合うなんて、正気の沙汰じゃない」

 

 

そういうのも仕方ない。

少なくとも、あまり効果的、現実的とは思えないからだ。

一応、世界大戦時代の歩兵銃に対空用の照準器───この世界の扶桑軍などの軍隊に高射表尺の類があるかは不明だが───が存在し、明確では無いにしても撃墜例や被弾報告がされていた。

が、それらは撃墜するよりラッキーパンチや何人もの兵隊で全力射撃して威圧し、相手の戦意を削ぐのがメインである。

それを考えると、只野二等兵のやろうとしているのは無謀なのだ。

 

だけど彼とてEDF隊員だ。

多くの無茶をした。

只野は優しく曹長ちゃんの頭を撫でて、

 

 

「大丈夫だよ。 ライフルで航空ドローンを何機も撃墜してきたから」

 

 

などと、隊員以外には理解出来ぬ発言をした。

様々な敵と対峙してきたが故の自信もある。

それこそ空軍が苦戦した飛行型の大群やテレポーションシップをも倒してきたのだ。

本来なら地対空ミサイルや対空機関砲などで倒すべきでも、そんな贅沢なモノが皆に配備されているはずもなく、結果としてだが歩兵銃で戦い、撃墜した。

EDF伝統の強い赤色経験も倒したが、あんなのと比べたらプロペラ航空機なんて……強さのケタが違い過ぎる。

 

 

「何が出来る! 威嚇程度だ!」

「それで"上等兵"ってね」

 

 

只野は止める曹長ちゃんをポンっと撫で終えると、TZストークに初弾を込めた。

 

どうやら、本気で行くらしい。

 

しつこいようだが、銃弾の届く低高度まで敵が降下してこようとも、この世界の航空機の編隊とやり合うには圧倒的に不利なのは変わらない。

それでも相手の主武装が機銃の為、まだ勝ち目はある。

エイリアン連中なんて巨大針やらビームやらを雨霰と飛ばしてきたからね、それと比べたら楽よ。

そう考えてしまうのも、戦力の少ないEDFの悲しい性なのか。

 

 

「ホーク1、離陸して下さい。 曹長ちゃんを頼みます」

 

 

相手の返答を待たず、只野は駆け出す。

背後から聞こえる只野を呼び止める女の子の悲痛な叫び、決意を固めたパイロットの返事を耳にして。

 

 

 

 

 

ーーーーーEDFーーーーー

 

 

『ホーク1、離陸する!』

『撃ち方はじめー!』

 

 

大型武装ヘリブルートがフルスロットルでリフトアップ、合わせて対空砲火が再開された。

今までの沈黙は嘘かのような倍返しの反撃に、連合のパイロット達は狼狽える。

 

 

「被弾! 墜落する!」

「僚機が喰われた!」

「なんて命中精度だ!」

 

 

蚊の如くボトボトと堕とされる航空機。

世界大戦時代には考えられなかった、EDFのコンピュータ制御による現代式対空機関砲の類の命中率は群を抜く。

 

 

『使える武装は何でも使え!』

『了解!』

『レールガン、撃ちーかた はじめー!』

 

 

して、航空機相手にはオーバーキルだろう、貫通力が高く射程もあるレールガンをも使用するエピメテウス。

火薬による爆音ではなく、電気のチカラによる砲弾は、纏まっていた航空機隊を一撃で消しとばした。

 

 

「"雷撃"まで来たぞ!?」

「魔法!?」

「ああ!? 纏めて堕とされた!」

「なんなんだ、この攻撃は!?」

 

 

この世界では実用化されていないだろう、オーバーテクノロジーによる攻撃は当然想定など出来る筈もなく、パイロット達は狼狽えた。

 

 

『仰角が足りないなら、後尾に注水して船首を上げる!』

『ターゲットは既に離陸した、荒い操船でも構わん!』

 

 

脳筋な行動をしてまで、戦闘を続けるエピメテウス。

戦闘指揮センターで操作する熟練隊員にかかれば、それらが手動であっても百発百中の腕前を披露される。

人類の切り札であり、一応の終戦まで生き延びた艦は伊達では無い。

 

 

「数なら上だ!」

 

 

だが、そんな技術格差を物ともせず、勇猛果敢、獅子奮迅に攻撃を敢行する連合軍。

エピメテウスが万全なら飛んで火に入る夏の虫。

だが度重なる疲労と手負い、弾薬の少なさで隙が大きい。

 

 

「航空機が飛び立つぞ!」

 

 

そんな中、ホーク1が操る大型武装ヘリ ブルートが離陸。

それを見た連合軍が、目標を切り替えた。

 

 

「プロペラが頭についている!」

「垂直離陸しただと!?」

「あの奇妙な航空機を墜とせ! 人類の敵が、悪魔の魔女が乗っている!」

 

 

なにを教えられたのか知らないが、殺気立って戦闘機が皆集中する。

対空弾幕も薄い、ヘリの機動も遅い。

なら撃墜も可能だっただろう。

 

 

「ッ!」

 

 

突如、甲板で青白い炎が上がったと思えば、炎と同色の閃光の弾幕が戦闘機を襲う!

 

 

「なんだ? あんなところに対空砲なんて」

 

 

無い、見ながら言おうとしたら。

そこには1人の歩兵の姿が。

言わずもがな、只野二等兵だ。

 

EDF最終型の高威力な弾丸、TZストークに備わるレーザーサイトとスコープによる命中率の高さで高速飛行かつ不規則な運動をしている筈の戦闘機の翼はアッサリもがれ、次々と海へ堕ちていく。

 

 

「歩兵に戦闘機が……ぐわぁっ!?」

 

 

仲間に言おうとしたところ、その者も只野に喰われる。

休む暇なく、次々と戦闘機が撃たれては堕ちる。

 

 

「馬鹿な。 歩兵銃で こうもやられるとは!」

「マズルフラッシュが青白いぞ!?」

 

 

連合軍は知らない。

EDFが歩兵銃で対空戦闘もこなしてきた事など。

 

 

「歩兵如きに負けてたまるかぁ!」

「おいよせ、構うな!?」

 

 

何機かが、死角から只野に機銃掃射を行うも、只野はローリングで回避。

素早く反転して、戦闘機のガラ空きの背中を容赦なく撃ち抜いてはスコアを伸ばす。

 

 

「横に逃げれば何とかなる」

 

 

只野が言うほど楽ではないのだが。

戦闘機の固定機銃は口径など強力であるが、高速飛行しながら機首を下げ、狙い撃ちするのは難しい。

その為、アンダーアシストによる人外の走力で航空機の懐に入ったり、横に逃げることでも回避出来た。

また、航空機側は攻撃に失敗したら大きく旋回しなければならず、無防備な背中を晒す事になる。

 

 

「EDF二等兵舐めるなァッ!」

 

 

咆哮を上げて、空にフルオート。

その度に殺される覚悟はしてきた。

だが今回の只野は殺す覚悟も備えていた。

例え同じ人類だとしても、殺らなきゃ殺られるならば、撃つしかないのだから。

 

だが、敵が多過ぎる。

ブルートは離陸出来たようだが、射程外に出てしまえば援護は出来ない。

 

それを察してか、離れ行くブルートを追いかける戦闘機。

TZストークの射程圏外に出ることで、援護が出来なくなっていく。

援護する筈が結果として本末転倒だった。

 

 

「ホーク1! 被弾!」

 

 

度重なる被弾で黒煙を上げるブルート。

 

 

「曹長ちゃん!?」

 

 

それに気を取られ、死角からの銃撃に巻き込まれてしまう。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

強靭なEDF製アーマーのお陰で傷は浅いが、今度は只野が悲鳴を上げる番になってしまう。

このままでは曹長ちゃんとホーク1、自分も殺される。

 

 

(ヘリに乗っておけば良かったか? いや、それをしたところで集られる。 今は現状で出来る事を考えろ!)

 

 

何か無いかと、エピメテウスの兵装、位置、そこから有利なポジションなどを考えては消えていく中。

 

ブルートの側面扉が開いたと思ったら。

白銀の魔女が飛び立った。

 

 

「ッ!」

 

 

それは さながら紐無しバンジージャンプ。

飛び降り自殺じゃない。

脚にはストライカーユニット。

手には……武装はない。

だが、分かる。 WDFとなった曹長ちゃんならば、武器がなくても戦えることを。

それを知らないのは……。

 

 

「ウィッチが出てきたぞ!」

「白銀……アレがWDFか!?」

「悪魔の魔女だ!」

「殺せ! 武装はない!」

 

 

連合軍の兵士だろう。

 

「よくも只野を!」

 

 

して、曹長ちゃんも覚悟を決めていた。

 

 

「殺す!」

 

 

次には、脳波誘導による複数の誘導性のあるピンクの光弾……ミラージュが曹長ちゃんの身体から四方八方に飛び交う。

その1発1発は、航空機が粉々になるまで追いかけるのをやめない恐怖の光。

 

 

「ぎゃあああッ!?」

「逃げられない……う、うわああ!?」

「来るな! 来るなぁあぁ!」

 

 

悲鳴の割合は、連合軍が上回った。

 

 

 

 

ーーーーーEDFーーーーー

 

空軍に遅れ、最終作戦仕様戦闘ヘリ【N9エウロスΣ】に乗るStorm1が現地についた頃、戦闘は終了していた。

水面には多くの戦闘機の残骸と、それに掴まる連合軍パイロットが浮かんでいる。

一部の水面は赤く染まり、エゲツない光景だ。

 

 

「ぐわぁぁ……」

 

 

傷口から海水が沁みるのか、単純に痛みからか悲鳴を上げる者もいる。

 

 

『遭難者を救助せよ!』

 

 

そんな彼らを、エピメテウス乗組員が救助していた。

救命ボート……ランチを出して、ひとりひとりを海から引き上げる。

 

 

『重症者優先! 1人でも多くの兵士を回収する!』

 

 

船長の無線、アナウンスが海に響く。

さっきまでは殺しあっていたのにも関わらずそうするのは、船乗りとしての義務か慈悲からか。

 

だが、隊員たちは誰も嫌な顔をせず、寧ろ同情、憐れみから手を差し伸べた。

逆に助けられていく連合兵が疑問と恐怖に震えている。

特に"かの者"のチカラの片鱗を見せられた兵士らは、戦意を失ったばかりかトラウマを植え付けられた者もいるようだ。

だが、EDF隊員は かの者を知っているからか、"手術台"に乗って知っていたからか、その様子はない。

同情するのは、そこからかも知れない。

 

 

「全部、エピメテウスがやったのか?」

 

 

周辺を旋回しながら、Storm1はボヤく。

燃料や弾薬、その他制約の為に空軍が撤退、エピメテウスは補給が上手くいかなかったから弾薬不足。

509JFWや他の部隊は連合の監視と睨み合いで動けない。

最悪は自力で戦わねばと思っていただけに驚きと疑問がわき出る。

状況を把握しようと、もう少し周囲を確認。

離れたところにブルートがホバリング、乗組員らと連帯して救助活動。

所々で黒煙上げるエピメテウスの甲板上には只野二等兵と隣り合う曹長ちゃん、して負傷した連合兵が乱雑に寝かされていた。

只野は負傷したのか、曹長ちゃんに腕に包帯を巻かれている。

 

側にはカールスラントのストライカーユニット。 曹長ちゃんのものだ。

軍曹ちゃんと異なりユニットを使用するのは、WDFとしての魔力が不安定で自力浮遊が苦手だからだろう。

 

 

(甲板には……薬莢と思われる反射光。 してユニット。 やはり戦闘があったのか。 して只野は歩兵でありながら対空戦闘。 曹長も人間相手に……皆、頑張ったな)

 

 

確認したStorm1は、無線を繋げる。

 

 

「こちらStorm1。 只野、無事か?」

 

 

しばらくして、甲板上の只野が反応。

Storm1の乗るヘリにチカラなく手を振ると、返答をよこした。

 

 

『なんとか』

 

 

そう言って、手が降ろされる。

どことなく疲れた声だった。

やはりか、人間相手の戦闘に精神をやられたのだろう。

悲惨な光景を数多見てきたから、今更なんだと思う者もいるだろうが、人間だと分かりきっている相手を直接殺めるのでは勝手が違う。

理屈では説明できない、その重さ。

エイリアン連中を殺すのとは違う重さが、只野や、他の者たちの心に影を落とす。

 

 

「すまない、俺が早く来ていれば」

『隊長は悪くないですよ。 ヘリの調達に手間取ったのでしょう』

「それもあるが、カールスラントで連合の妨害に遭ってな」

『……想像に難しくないですね』

 

 

只野や、無線を聞いていた他の者は溜息を吐く。

 

連合軍も馬鹿ではない。

他の場所にいるEDF隊員が増援として動いたりしないよう足止めしたのだ。

本部のあるベルリンでは、民間人もいる手前、互いに手荒な事はしたくなかったから戦争にはならなかったが、今尚物々しい様相を醸し出している。

ストームチームや一部の部隊は、それら包囲網や監視を潜り抜けて方々に散った形だ。

 

 

「それに、501といった部隊も動けない事態でな」

『そちらも妨害が?』

「そのようだ。 連合軍だからな、命令や監視があれば動く訳にもいかない。 だが安心しろ。 そっちは他のストーム隊が対処してくれている」

『…………他の場所も戦場に』

 

 

只野は嘆く。

501や509にいるウィッチは、EDFの所為で悲惨な目に遭わせている。

ジークフリート線、黒海方面。

加えて人間同士による悲劇をまた彼女達に味わせる。

もはや記憶処理が追いつく人数ではなくなってきた。

 

技術。 戦力。 WDF。

強奪。 脅迫。 暴力。 恐怖。 復讐。

 

EDFが蒔いた種は発芽して、各地でどんどん大きくなっているのだった。

 

 

「仕方ない。 それが世界の意志だった、ということさ。 我々は"エイリアン"(外国人)だしな、向こうからしたら侵略者。 排除しようと動かれても仕方ない。 黙って殺されるつもりはないので、結果として戦争だが」

『EDFの所為です。 曹長ちゃん、軍曹ちゃんに酷い事をするから』

「そうでなくても、EDFの存在は目障りだったろうし、技術や物資の奪い合いは遅かれ早かれ始まったさ」

『そうですかね』

「そうさ。 それが……俺たち人間だ」

 

 

しばらく両者に沈黙が流れる。

ヘリの喧しいローター音、エピメテウスの救助指示が海を支配する。

 

 

「……すまないな、暗い話になった。 回収する、南島へ撤収しよう」

『了解……でもそれ、エウロスですよね。 乗れないと思うんですが』

 

 

只野がツッコミを入れる。

エウロスは1人乗りの戦闘ヘリで、兵員を輸送出来る構造にはなっていないのだ。

 

 

「そうだな。 ホーク1、聞こえてるだろう。 ブルートと交換してくれ」

 

 

してStorm1。

当たり前のようにホーク1のブルートと交換するように言う。

横暴であるがしかし、そうするしかないなら仕方ないと、ホーク1は了承した。

Storm1の言動や行動に、不思議と従わされるのもある。

 

 

『りょーかいです、将軍の仰せの通りに』

 

 

不満の声色が混ざりはしたが。

 

 

「すまんな、無理ばかり言って」

『大丈夫です。 慣れてますから』

「落ち着いたら、飛行甲板上で交換だ」

『了解』

 

 

Storm1は通信を終えると、エピメテウス周囲を旋回。

ホーク1のブルートは救命活動を再開した。

その様子を甲板から見上げるようにして、曹長ちゃんは思う。

やっぱりEDFは敵に回してはいけない、と。

 

 

(確かにEDFは"エイリアン"だ。 酷い人体実験だってした)

 

 

先程の只野とStorm1の会話から考え、して自分なりに答えを出していく。

 

 

(でも人類の為に戦っているんだ。 それも、自分たちだけじゃなくて この世界の為に。 それの悪いところだけを掻い摘んでしまったのが前の私と……連合軍なんだ)

 

 

そう纏めた。

奇しくも、EDF戦略情報部の考察と合うところがある。

 

EDFの世界。

その世界の神話には"神の乗る舟"、"金の卵"が出てくる。

 

今思うと、それはヤツらの宇宙船、マザーシップないしコマンドシップの事だ。

して人類に文明を授けたのはソレら……プライマーではないか、とされる。

 

意図は分からないが、それは侵略生物のような扱いだったとか、実験の為だったのかも知れない。

 

だが、そんな人類はプライマーの存在に気付き、抵抗する為に叡智を結集させ、世界規模の軍事組織を創り上げた。

 

それが全地球防衛機構軍、EDFだ。

 

しかし、それに怒ったのか。

プライマーは侵略を開始、人類を皆殺し、コンクリやプラスチックを食べる侵略生物をも生み出し文明のみを消し去ろうとした。

 

だが、あの戦争でエイリアン側は核のような大量破壊兵器を使用しなかった。

人類側が使用したにも関わらず、である。

 

文明差から、それら兵器が作り出せる筈なのに使用しない不可解さ。

それは本部の司令官が疑問に感じていた。

対して戦略情報部の少佐は、地球環境を破壊しようとは考えていないのだろうと考えた。

 

だが侵略した理由は未だにハッキリとは分からない。

 

人類が地球に相応しくないから?

それとも、歯向かったから?

 

少佐が語ったように、人類は気付いてはならなかったのかも知れない。

 

プライマーの侵略の意味は推測の域を未だ出ない。

 

だがもし、もしだ。

今の状況、プライマーの立場がEDFなら。

手を出したのは、悪いのはどちらなのか。

 

勿論、どちらも悪いところはある。

その上で喧嘩両成敗と……果たして出来るだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《南島よりWDF回収派遣要請ッ! 護衛の501部隊が攻撃を受けていますッ!》

 

 

罪の数と重さは、どちらが上か。

 




あかん、物語ちゃんと終わるのか、コレ……(殴)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

67.南島逆強襲! WDFを回収せよ!

作戦内容:
WDFの護衛に就いていた501部隊より回収派遣要請。
南島が連合軍に強襲されました。
WDFを奪取されそうになったとの事。
現在、WDFを連れて逃走中との事ですが、孤島で逃げ切るのは困難です。
WDFが連合軍の手に落ちれば、この世界まで大変な事になります。
直ちに回収班を派遣。
WDFを回収、ベルリンまで撤退して下さい。
備考:
周辺でネウロイは確認されていない。
ただし、海上には軍艦、空には航空機。
EDFから大規模な部隊を割くのは困難。
Storm1、2で対処。


※イメージはMGの神回収任務。


◆南島周辺空域

 

この世界ではオーバーテクノロジーのひとつ、大型武装ヘリ【ブルート】が夜の低空を行く。

喧しくも独特のローター音を響かせながらも、EDF司令官のおじ様ボイスは しっかりと搭乗員に伝わった。

 

 

『南島にいる501部隊から回収派遣要請があった。 事は急を要する。 頼むぞStorm2』

 

 

搭乗員であるStorm2、精鋭レンジャー部隊の軍曹チームに伝わる。

隊長の軍曹と部下で4人編成の彼らは、それぞれ短く了解すると、簡単にミーティングを始めた。

 

 

「状況を確認する。 WDFの居場所、南島の位置が連合軍に漏洩、襲撃を受けた。 護衛の501部隊が抵抗しているが、敵の手に落ちるのも時間の問題だ」

 

 

怪我から復帰した軍曹が部下達に説明していく。

WDFに怪我を負わされ、そのWDFを助けねばならないとは皮肉である。

 

 

「急ぎWDFを回収、出来たら501部隊も救助する。 連合軍は当然、抵抗してくるだろうが迷わず撃ち返せ。 以上だ、質問あるか?」

 

 

手短に終わらすと、ぶっきらぼうな部下がチカラなく手を挙げた。

 

 

「援軍ってのは、期待出来ないよな?」

 

 

どうせ答えなんて分かってると感じつつ、一応尋ねる。

が、今回はまだ希望がある答えが返ってくる。

 

 

「安心しろ。 Storm1と只野が来る予定だ」

「おっ! マジか!」

「だが遅れてくる。 その分、俺たちが働くぞ」

「……マジか」

 

 

とはいえ、そんなに都合良すぎるものではなかったが。

それに対して、別の部下が答えた。

普段は皮肉を言うヤツだが、真面目な受け答えも出来る人だ。

 

 

「仕方ない。 エピメテウスでもうひとりのWDF回収任務中だったからな」

 

 

付け加えるように、1番若い部下が言う。

 

 

「既に彼方では連合軍と戦闘になったそうですよ」

「……そりゃ大変だな。 他の部隊は動けないのかよ」

「ベルリンの本隊は連合に睨まれて動けない。 俺たちだけでやるしかないぞ」

 

 

ある意味、いつも通りの展開だった。

慣れてるとはいえ、相変わらずリスクが高すぎる。

だが、そんな際限ないハイリスクとプレッシャーの波濤を乗り越えてきたStorm2。

本部に信用されてるのも、この辺が理由か。

大戦中は、部隊が撤退するまでの時間稼ぎとして目前の本営……船団を壊滅させた実力もある。

 

 

「まもなく、南島の作戦空域に入ります」

 

 

パイロットがいう。

続けるように、戦略情報部から連絡が。

 

 

『501部隊からの報告やレーダーから南島にいる連合軍の戦力を分析しました。 海上には軍艦が数隻、揚陸艇複数、空には航空機が何機か確認。 既に地上には装甲車や歩兵が展開している模様です』

 

 

随分と豪華なラインアップだった。

WDFはだいぶ高評価を受けていると見える。

 

 

「最高だな」

「それをたったこれだけの人数でか」

「さあ、仕事を始めましょう」

 

 

部下達は皮肉を言い、嘆き、仕事を始める覚悟をする。

して、彼らを纏める軍曹が気合を入れるのだった。

 

 

「戦闘用意ッ! 行くぞッ!」

「「「EDFッッ!!」」」

 

 

半分はドーントレスの銃座に着き、もう半分は降下に備える。

 

パイロットの目には既に戦艦や航空機、島から見える爆炎や兵士の持つ照明が点々と見えていた……。

 

 

 

 

 

ーーーーーEDFーーーーー

 

戦闘は直ぐに始まった。

警告ひとつなく、いきなり連合軍が照明弾を打ち上げて夜を照らし銃撃という挨拶をしてきたからである。

まず始めに、沖合で待機していた軍艦による対空戦闘がハナだった。

 

 

「対空機関砲、来ます!」

 

 

パイロットが叫び、回避運動を始める。

軍艦からは無数のマズルフラッシュが瞬いた。

 

 

「ブレイクッ! ブレイクッ!」

 

 

鈍重なブルートだ。 機関砲の弾丸が何発も命中してしまう。

 

 

「被弾した!」

 

 

揺れる機内。 だが、ヘリでありながら装甲が厚いブルート。

火花を散らし、装甲を削られながらも、なんとか耐える。

主砲を撃たれなかったのは不幸中の幸いだ。

 

 

「直ちに破壊する!」

 

 

軍曹が備え付けられている大砲のような機関砲【ドーントレス重機関砲】の砲口を軍艦の対空機関砲に向け、発砲。

ドゴォンッ、ドゴォンッという相手の機関砲の比じゃない重低音が響けば、次の瞬間には大口径弾が甲板ごと目標を吹き飛ばした。

操作している兵士もいたが、爆炎と煙で全く見えない。

だが、生きていたとしても無事では済まないだろう。

 

 

「容赦するな! 出来るだけ無力化しろ!」

 

 

だが手を緩めない。 生死がかかる。

反対側で操作する部下も、軍曹と同じように重機関砲を発砲。

軍艦の対空機関砲のみならず、主砲にも損害を与えた。

島に上陸するにあたり、危険は出来るだけ排除しなければならない。

 

 

「11時方向! 航空機、来ます!」

 

 

だが軍艦ばかりに構ってられない。

次には航空機の編隊が襲いかかってきた。

 

 

「舐めるなこの野郎ッ!」

 

 

すかさず、ぶっきらぼうな部下がブルートのドアを解放、速攻でPA-11を突き出してフルオート。

航空機は突然の事に回避が遅れて被弾。

全機が黒煙を上げて海面に激突、撃墜した。

伝説のストームチームは伊達ではない。

 

 

「このまま陸地へ向かい、WDFを捜索します!」

 

 

パイロットが言いつつ、ブルートは陸地へとフルスロットル。

捜索の為、低空飛行するが当然、障害物の無い空で飛行体とは目立つ。

夜で視界が効かないとはいえ、流石に装甲車や歩兵が気づき、銃撃を開始。

無数のマズルフラッシュが陸地で瞬き、金属音がブルートに響く。

だが対空用でないぶん、先ほどよりはマシだった。

 

 

「地上戦力を減らしつつ、WDFを捜索する!」

 

 

軍曹が言うや否や、ぶっきらぼう部下に銃座を譲り自ら降下。 続いて皮肉屋も続いた。

 

 

「あの高さから降りて無事だと!?」

 

 

高い位置から降りて、猫のように着地した軍曹らを見て驚く連合兵。

それがEDF隊員である、仕方ないね。

 

 

「見ろ! 重火砲を背負ってる!」

 

 

して気付く。

軍曹の部下の背中に大きな灰色の筒……【ゴリアスZD】が背負われているのを。

いつのまにか持ち込んだらしい。

 

 

「装甲目標は任せて下さい」

 

 

そう意気込む部下。

ゴリアスZDならば、この世界の装甲車など一撃であろう。

 

 

「頼むぞ」

 

 

頷き、島での捜索及び戦闘を開始する軍曹たち。

ゴリアスシリーズはEDFの大型ロケットランチャーで、ZDは強化発展型。

新型の大型ロケット弾を射出し、その威力は個人携行火砲の限界を超えた。

形状も従来のモノより厚くモノモノしい印象になった。

この大砲から放たれるロケット弾は弾速が遅いものの、セミアクティブレーザー誘導装置が搭載されており、発射後、照準を動かす事で着弾位置をコントロール出来る。

スコープも搭載されており、このことから、遠方への誘導が可能である。

 

 

「海岸から揚陸艇! 増援と思われます!」

 

 

さっそく獲物がやって来た。

遠方の海には新たな揚陸艇が複数接近、搭載物は装甲車と歩兵群。

軍艦と航空機の被害からヤバい連中が来たと感じたのだろう、バックアップチームを投入して来たのだ。

 

 

「上陸されたら厄介だ! 海の藻屑にしてやれ!」

「イエッサー!」

 

 

軍曹が指示を出す。

部下はゴリアスZDを構えると、やや上向きに発射。

豪快な音、後尾に噴出する大きな白煙、大きなロケット弾、してソレを発射するが故か無反動で済まず発射後は大きく砲口が上がってしまう。

それでも弾頭が初期に構えた方向に飛翔するのはEDFの為せる技だろう。

 

 

(ヘッ、あの兵士は下手だな。 砲弾を上に撃ってら。 しかもこの遠距離だ、当たる訳がねぇ。 自爆しなかっただけ褒めるべきだな)

 

 

してゴリアスZDを知らない、揚陸艇から見た連合兵は愚評した。

豪快な火と尾に引く白煙は空へと舞い上がっている砲弾は、照準をミスったようにも見える。

 

だが、驚くのはここからだった。

 

 

「なっ!?」

 

 

なんと、砲弾が吸い込まれるように揚陸艇へと落下してきたのだ。

そのまま隣……装甲車を積んだ揚陸艇に激突、大きな爆炎が海面を照らしては揺るがす。

 

 

「ば、馬鹿な!?」

 

 

揺れる揚陸艇にしがみつき、海水を浴びながら連合兵は驚愕した。

隣では既に、戦車と揚陸艇が鉄屑となり海の藻屑と成り果てている。

しかも元の形状が分からない辺り、ロケット弾の破壊力は凄まじい事が分かる。

 

 

「初弾命中! 撃沈!」

「次弾装填! もう片方も沈めろ!」

「了解!」

 

 

まだ遠方の陸地、海岸付近では部下が再装填。

それを軍曹が援護。 ブレイザーを撃ち、周囲の敵や装甲車を"蒸発"させていく。

 

砲弾が大型の所為か、リロードに時間が掛かるのが難点だが、先程のレーザー誘導により遠方の目標を確実に倒した。

真っ直ぐか、不安定な弾道、重力に従って落下するロケット弾の命中率なんて低いさ……そう甘く考えていた連合兵は直ぐに肝を冷やしていく。

 

そうだ……相手はEDF。

兵器のレベルがそもそも違うんだと。

常識が通用する相手では無いと。

 

 

「全員、海に飛び込めーッ!?」

 

 

察した隊長は慌てて、しかし有効な命令を下す。

皆は恐怖から逃げるように揚陸艇を乗り捨てて海へと飛び込み、泳いで離れる。

 

そこに再装填を終えた部下ぎ次弾を発射、ロケット弾が歩兵を乗せていた揚陸艇に命中、爆発。

 

 

「揚陸艇、全滅!」

「歩兵は逃げたか。 まあ良い。 WDFを急いで探すぞ!」

「はい!」

 

 

軍曹たちも時間が無い為、海に浮かぶ兵士を殺戮しようとはせず内地へ進軍していく。

それには連合兵は救われたが、無能ではなかったのも、死者は少なくて済んだ要因だった。

 

一方、空から捜索を続けるブルートと部下。

501部隊と交信を試み続け、ようやく断片的に通信をキャッチする。

 

 

『こち……東……至急、救…………頼む!』

 

 

若い女の声。 バイク音。 銃撃音。

だが肝心の言葉が聞き取れない。

チャフを撒かれているワケでもなし、戦闘で無線の機嫌が損ねたのか。

 

 

「駄目です。 聞き取れません」

 

 

パイロットがセンサーや地上を見渡しつつ言う。

同時に計器類や沢山のスイッチ群をパチパチと動かして周波数帯を弄ったり、呼びかけて反応を期待するも上手くいかない。

 

 

『マズいぞ。 よく周りを見てみろ』

 

 

無線越しに聞いていた司令官が冷静に、だけど焦る様に言った。

WDFが奪取されたら、何が起きるかも分からないのだ。

人類……国家や軍の思考ならば、悪用する未来しか見えない。

 

 

「こちら救護ヘリ! 501応答せよ!」

 

 

パイロットも頑張って探すも、見つからない。

 

 

(お嬢さんたち、生きてるよな!?)

 

 

最悪のシナリオが浮かび、汗が出る面々。

そんな時だ。

 

 

「11時方向スモーク!」

 

 

前方で赤い煙が上がり始めた。

辺りでは銃撃が起きており、車やバイクと思われるエンジン音も混ざる。

 

 

『支援要請か!?』

「向かいます!」

 

 

操縦桿を倒し、急いで駆けつける。

地上にいる軍曹も、道中の敵を薙ぎ払いつつも前進。

すると、そこには。

 

 

「あっ! あれは!」

 

 

EDFの軍用バイク【フリージャー】が大地を駆け抜けているところだった!

普通のと違うのは、側車が付けられている事だ。

運転手はシャーリーで、側車には相棒のルッキーニ。

して無理矢理乗るようにして、ターゲットのWDF、軍曹ちゃんがいる。

白銀の美しい髪の毛が、夜の闇を寄せ付けない神々しさを放っていた。

が、悪く言えば目立つ色だった。

 

 

「イェーガー大尉にルッキーニ少尉! あっ、ターゲットのシルバーも確認!」

 

 

シャーリーなのに、相棒の二輪車【ラピット号】じゃないのは南島に持ち込んでいる暇が無かったからだ。

代わりにフリージャーがあるのは、EDF設営隊が簡単ながら南島に設備類を設置した際に島内移動用として共に置いてかれたから。

本来付いていない側車が旧作EDFのバイクの如く付いているのは、弄るのが好きなシャーリーがバイクに興味を持って改造した為である。

当初は無断改造としてイケナイ行為だったが事今に至っては大きな逃げ足として役に立っていた。

 

 

「連合軍に追われてます!?」

 

 

だがピンチに変わりない。

追手の連合兵も偵察用バイクを持ち込んでおり、追いかけ回していた。

加えると装甲車もいる。 発砲すらしている。

キズモノにしたくない、という発想は無いらしい。

そんな危険な弾丸を、ルッキーニがシールドを張って防いでいる。

だが放置していれば、やがて喰らってしまうだろう。 魔力は無限ではない。

 

 

『援護せよ。 周囲の敵を排除』

 

 

司令官が言うが早いか。

ドーントレスが火を噴き、装甲車が木っ端微塵。

近くにいた敵バイクも爆風で吹き飛び横転。

隙をついてパイロットが無線を繋ぎ直し、連絡を取り合った。

 

 

「イェーガー大尉! EDFです、助けに来ました!」

『おお! 逃げ回った甲斐があった!』

「回収します! 先の広場まで行けそうですか?」

『了解! エスコート頼む!』

 

 

シャーリーの乗るフリージャーが夜の闇にエンジン音を響かせ、爆進していく。

ヘルカスタム程のヤバさはないものの、シャーリーが自分用にピーキーに調整している、言わばシャーリーカスタムだ。

ハンドリングは良好らしく、プレーンでも暴馬なフリージャーを上手く乗りこなしていた。

 

 

「見事なドライビングテクニック。 大尉も只者じゃないですね」

 

 

見ていた若い部下が褒めた。

世界最速さん(3期アニメで記録が抜かれたようだが)である一方、滅茶苦茶な運転をしてそうなシャーリー。

だが粗暴な運転しか出来ないワケじゃなく、しっかりと技術を持ち合わせているのだ。

まあ……この場で発進しそうでしないギャグ世界線ムーブをかますワケにもいかないが。

 

 

「WDF、シルバーは無事ですか?」

『軍曹か? 兵士とのいざこざで気絶しちゃったけど無事だ!』

「了解」

 

 

南島のゴーストタウン……戦争で放棄された町……にさしかかるシャーリー達。

すると、立ち塞がるように装甲車が回り込む。

空から丸見えだったパイロットは、直ぐに報告した。

 

 

「その先に装甲車が道を塞いでいます! 路地に退避出来ますか?」

『分かった!』

 

 

素直に、して綺麗なドリフトで速度を落とす事なく狭い路地に入るシャーリー。

見事であった。

それに気付いた装甲車が、民家を破壊しながら進もうとするが、

 

 

「させるかよ!」

 

 

ぶっきらぼうな部下が、ドーントレスの大口径弾を撃ち物言わぬスクラップに変えてしまう。

 

だが、それを皮切りに どこからともなく闇から湧いてきた連合兵士たちがシャーリーに銃撃を浴びせていく。

 

 

「罠!?」

 

 

装甲があるフリージャーであるが、乗り手は露出しているし、側車は非正規で強くない。

 

 

『ルッキーニ伏せろ!?』

『うわあっ!?』

 

 

突然の事に頭を低くするも、被弾して大きく横転してしまうフリージャー。

投げ出されるシャーリー、ルッキーニ、軍曹ちゃん。

しばらく地面に転がり、痛みで身動ぎするも連合兵が集り始め危険だ。

 

 

「ターゲットのビークル、破損!」

『なに? 無事か!?』

「大尉、無事ですか? 応答して下さい!」

 

 

返事を待っている場合ではない。

部下たちはドーントレスで周囲の敵軍に攻撃、近寄らせないようにするも、何人かは抜けてしまう。

して、気絶中の軍曹ちゃんを肩で担ぐとバイクに乗せて逃げ始めてしまう。

 

 

「くそっ!」

 

 

流石にコレをドーントレスで撃つワケにはいかない。

だが、そのバイクの進路上に待ち構えるように皮肉屋がPA-11を構えてバイクのみを撃ち抜く。

今度は連合兵が横転、投げ出される側になった。

 

 

「夜の市街地だ。 静かにするんだな」

 

 

そう言う部下の横を軍曹が素早く駆け抜けてWDFを担ぎ、その足で先の広場へと向かう。

倒れるシャーリーとルッキーニは可哀想だが、任務の優先はWDFだ。

 

 

「救護ヘリ! 先の広場で回収してくれ!」

「了解!」

 

 

レンジャーであり修羅場をくぐり抜けてきた猛者であるStorm2。

少女を担ぎながら全力疾走しても、息切れのひとつも起こさない強靭な肉体である。

それに続く部下も、大筒のゴリアスZDを背負いつつ ついていく辺り、彼らも凄い。

 

Storm2が広場に到達するタイミングで、ブルートは乗り込める高さでホバリング。

軍曹は放り込むようにWDFを機内に入れると、自身は降りて離陸を促した。

 

 

「軍曹!? どこ行くんです!」

 

 

部下たちがヘリから離れるStorm2を呼び止める。

だが、Storm2は足を止めなかった。

 

 

「501を救出する。 お前たちはベルリンまでWDFを護衛しろ」

 

 

なんと、501を助けるという。

そんな時間は無い、そう言いたかったがStorm2の決意は固い。

 

 

「EDFの為に働いてくれた子ども達を見捨てられない。 それに入院していたぶん、働かないとな!」

 

 

そう言って、戦場へと戻ってしまった。

部下は追いかけようか迷ったがしかし、WDFを守らねば本末転倒だと考えて……苦しいが、ベルリンに撤退する事に決めた。

 

 

「パイロット、退け! 退いてくれ!」

「軍曹! 必ず戻って下さい!」

「後から大将も来る筈だ!」

 

 

言って夜空へと舞い上がり、退いていく部下達とWDFを乗せたブルート。

 

 

(あとは頼んだぞ)

 

 

それを見送る軍曹。

ブレイザーを握る手に、チカラが入る。

 

 

「さて」

 

 

軍曹は目の前を見た。

いつかの時のように、大地を揺るがすように敵軍が迫ってくる。

 

 

「装甲車に歩兵隊に、海には戦艦。 俺ひとりに豪勢だな、だが」

 

 

構え、してニヤリと口角を上げて言うのだ。

 

エイリアン連中より楽だと。

 

 

 

 

 

《こちらStorm1。 まもなく南島に到着する。 軍曹……持ち堪えてくれ》

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

68.孤島余裕戦

作戦内容:
WDFを乗せた救護ヘリはベルリンに撤退中。
代わりに501とStorm2が現地に取り残されています。
救護ヘリの援護は他部隊に任せます。
Storm1はStorm2らを救援して下さい。
備考:
EDFのチカラの片鱗、改めて見せてやれ。

戦闘中なのに説明や会話がダラダラ注意報。
その余裕だけEDFと連合に差がある……という事で許して(殴)。


◆南島

 

連合による信号弾や照明弾が打ち上がる。

浮かび上がるのはStorm2こと軍曹がたったひとり。

対する連合軍は歩兵はもちろん、装甲車や戦車まで上陸させて津波となりやってきた。

海には軍艦、空には航空機のオマケ付きだ。

 

 

「追撃に回った部隊もいるだろうが、俺ひとりにここまで残存させるとはな」

 

 

軍曹は建物の陰に隠れて、銃撃を躱す。

普通の兵士なら、戦って勝つのは無謀といえる比率だ。

そも、たったひとりの歩兵が装甲車やら歩兵隊やら航空機やらを同時に相手にして生き延びられる常識は無いだろう。

 

だが、彼はEDF隊員だ。

更に言えば伝説のストームチームの隊員だ。

 

夜間戦闘も経験し、エイリアン歩兵隊など数多の敵を相手にしてきた軍曹だ。 この程度なんて事はない。

 

装備もまるで違う。

手には光線銃のブレイザーを持ち、この世界の敵であるネウロイは勿論、連合の兵器群なんて蒸発させてあまりある。

装甲なんて無に等しい。 エイリアン連中を相手にしてきたぶん、余計に感じる。

 

 

「だからか? 俺も評価してくれたという事か」

 

 

言いつつ、軍曹は建物から飛び出した。

ブレイザーから光線を放ち、手始めに迫ってきた戦車を融解させた。 一瞬だ。

 

 

「なら期待に応えないとな」

 

 

建物から建物へ。

夜の闇にも身を隠し、敵に位置を悟られないよう移動し、重点となる部分に突発的に攻撃を仕掛け一撃離脱。 ゲリラ的に攻撃していく。

少人数で大軍を相手にする方法は限られる。

だがこれらは隊員の十八番ともいえるやり方だし、逆に大戦時は そうするしかなかった。

しかしながら、この場においては なんとでもなりそうだった。

それくらいに軍曹の練度と装備と連合軍に差があったのだ。

 

 

「歩兵がビームを!?」

「な、なんだよ あの銃!? まるでネウロイじゃねえか!」

「戦車が一撃!?」

「怯むな! 相手はひとりだ!」

 

 

だがそれでも、勇猛果敢に攻撃を続ける連合軍。

国か隊か上官か、何に忠義を尽くしているのか知らないが その勇気は称賛したい。

もっとも殺されるつもりは軍曹に無いから容赦なくやり返して、連合軍の戦力を削ぐ。

もはやワンマンアーミーだ。

 

 

「ええい! EDFはバケモノか!?」

 

 

戦車が融けて、歩兵が蒸発して、航空機は光の槍に串刺しの後、爆散。

たったひとりに与えられた被害規模に思わず叫ぶ。

 

実際、EDFはバケモノだから仕方ない。

技術も肉体も、精神も……恐らく。

特にストームチームの隊員となると。

そんなストームが更なるバケモノと対峙してきた事など連合軍は知らない。

 

 

(501は どこだ?)

 

 

軍曹は本来の目的を思う。

島に残った501部隊の救助だ。

だがしかし、肝心の501が どこにいるのか分からない。

シャーリーとルッキーニは まだ分かるが、他の者はどこにいるのか。

 

 

(501は貴重な、それでいて各国のエースウィッチだ。 奴らも殺すのは本望じゃない筈だ)

 

 

光線を横になぞるように撃ち、島に爆炎を起こしながら軍曹は思考する。

いくらWDFが欲しいからって、彼女ひとりに戦争を終結させようなんて考える連合じゃあるまい。

なれば戦場の花たるウィッチを散らすなんて事はしない。

それに統合戦闘航空団は各国の代表が集まっている。

これを攻撃、殺害するという事は国際問題に発展する危険を孕む。

それを犯してまで連合……正確には欧州のどこかの軍隊と扶桑軍……が攻撃したのは、それほどまでにWDFが重要だからだ。

だとしてもやはり、殺害まで至ると人類の損失、自国の国際非難に繋げられるのは安易に想像出来た。

 

もはやWDFはEDFと欧州だけの問題ではない。

 

501にはソ連に当たるオラーシャ出身のサーニャ、アメリカに当たるリベリオン出身のシャーリーもいるのだ。

もっと言えば日本に当たる扶桑出身の宮藤に坂本……WDFを巡る世界大戦モドキ。

彼女らが巻き込まれてる以上、遠く離れた本国も感知している筈である。

風刺画でパイの取り合いがあるが、この場合は2つしかないモノを死に物狂いで取り合っているのだ。

 

 

「対ネウロイ戦で意見が合致しているならば、こんな戦争は起きなかった。 それが出来ないという事は……つまり そういう事だ」

 

 

遠くの夜空に飛び軍曹の位置を監視していた敵偵察機を、当然のように照準器無しで、かつ、最低限のエネルギー消費で撃破しつつ軍曹はボヤく。

 

マロニー空軍大将が関わったウォーロック事件もそうだ。

対ネウロイというより、アレは各国より有利に立つ為のものだった。

 

他にも似た話はある。

 

ガリアの空を守る506JFWことノーブルウィッチーズの事など。

貴族がメインだったりと、創設経緯を知ると大人達の政的な思惑部分が強い。

どちらにせよ、彼女達ウィッチに罪は無く、悪いのは大人達である。

断じてネウロイという人類共通の必要悪では無い。

人類はやはり、自らトラブルを起こして足の引っ張り合いをしたい生き物なのだ。

ひょっとしたら、プライマーも憂いたのかも知れない。

 

 

「いかんな、雑念が酷い。 俺も歳を食ったか」

 

 

ニヒルに笑う軍曹。

そんな心震えずして、無慈悲に倒されていく連合軍。 差があり過ぎる。

 

そんな彼を叱咤するように、無線が入ってきた。 Storm1だ。

 

 

『こちらStorm1! 軍曹、無事ですか!?』

 

 

バリバリバリ、というヘリのローター音。

見やれば先ほどと同種のブルートが接近しているところだった。

 

 

「こちらStorm2。 無事だ、来てくれて感謝する!」

『派手にやっているようですね。 手を貸します』

「助かる。 だが敬語はナシだ」

『まさか。 命の恩人に、恐れ多い』

 

 

戦場でも、余裕の会話をする2人。

銃座についている只野二等兵は、軽く戦慄を覚えている。

 

 

「それは俺のセリフだ。 Storm1には何度も救われた」

 

 

お世辞でもなく事実である。

目前の本営の時、インペリアル・ドローンの群れに襲われた時など。

他にもStorm1がいなければ死んでいた隊員は数知れず。

それこそ……かの者との時も。

 

 

『俺が民間人の時、助けてくれなかったらソレもありませんでしたよ』

「228基地の事か。 今や懐かしいな」

 

 

私語を交えつつ、戦車や歩兵隊を蒸発させている軍曹。

エイリアン連中と比べたら余裕故だった。

油断はしないが。

 

 

『互いに歳を取りましたね』

「時間は然程経っていない。 だが大戦の反動だな。 多くの仲間も失った」

『はい』

「事今に至っては、別世界に来てまで命を奪い合っている」

『人間のいるところ、どこへ行ってもそうなのでしょう。 ですがネウロイという共通の敵がいる分、この世界はマシです』

「必要悪だな。 今はEDFという敵もいる」

 

 

年寄り臭く、ある意味EDF隊員らしく口を動かしつつ、腕も動かすStorm1と2。

爆炎が夜の南島を照らし続け、もはや連合軍が照明弾を上げなくても見えるほどに派手だった。

 

Storm1の操るブルートは作戦領空に到達。

ガンナーの只野は沖合にいた軍艦の、修復を終えたばかりの対空機関砲や主砲、副砲をドーントレス重機関砲で破壊した。

努力が無駄になるサマは可哀想だが、命の奪い合いの最中に遠慮もヘッタクレもない。

 

 

『いいぞ只野、敵の対空能力を削いだな。 ヘリが堕とされたらオシマイだからな、対空兵装は見つけ次第破壊して構わない』

 

 

会話中だったが、部下の働きも しっかり褒めるStorm1である。

 

 

「うっす」

 

 

軽く返事をする只野。

猛者の会話を聞いていたので、なんとも言えない心境だった。

 

 

『とにかく軍曹、貴方と501を回収します。 501は どちらに?』

「分かっていれば苦労しない。 分かっているのはイェーガー大尉とルッキーニ少尉だ。 回収出来るか? スモークを焚いておく」

 

 

言うが早いか、EDFで見慣れた赤い煙が立ち昇る。

Storm1は了解した。

 

 

「ふたりは負傷している。 治療してくれ」

『了解。 只野、頼む』

「俺、衛生兵じゃないんですが」

『応急処置で構わない』

「……うっす」

 

 

相変わらずの、Storm1の謎のカリスマを前に返事をするしかない只野。

パワハラじゃない。 たぶん。

それを言ったら戦争末期とかヤバかっただろうし。 ほぼ徴兵状態の絶望戦線。

 

 

「空からも捜索頼む。 分からずとも連合軍を減らしていけば、そのうち見つかるだろう」

『了解。 援護します』

 

 

言いつつ、先ずはスモーク地点へと向かうStorm1。

連合の残存部隊が健気に銃撃を浴びせるも、ブルートの装甲が前では火花を散らすだけだった。

 

 

『いたぞ!』

 

 

スモーク付近にて。

痛みに耐えつつ、ルッキーニを庇うようにしているシャーリーを発見。

Storm1は着陸しようと思ったが、瓦礫などで起伏があり危険と判断。

只野を下ろして、着陸地点で合流する事にした。

 

 

「この高さで降りるんですか!?」

 

 

只野二等兵は文句を言った。

普通ロープやパラシュートナシでは大怪我する高度だったからである。

 

 

『大丈夫だ、EDF隊員だろ』

「ナニをしている只野! 早く飛び降りろ!」

 

 

ところが、ストームに叱咤された。

どうにもEDFの常識と只野の常識には見えない壁がある気がしてならない。

 

 

「分かりましたよ、もう……怪我したら責任取って下さいよ」

『大丈夫だ問題ない。 それくらいで怪我していたら鍛え直しだ』

「自分は無敵だ。 そう思い込め」

 

 

これこそパワハラ……なのか。

 

 

「チクショウ! 今行くぞシャーリー!」

 

 

只野は意を決して、飛び降りた。

着地の衝撃をEDFの戦闘服や軍靴、加えてローリングで和らげる。

痛みは無かったが、衝撃で多少痺れはした。

只野は兎も角、他のEDF隊員は それすら感じないのだろうか。

只野は疑問に思ったが、言わなかった。

今はさっさとシャーリーを助けねば。

 

 

『案ずるより産むが易し。 大丈夫だっただろう?』

「只野、お前は二等兵の域ではない。 厳しい世界を生き抜いてきた精鋭だ。 自信を持て!」

「分かりましたから。 隊長、早く回収ポイントに来て下さいよ!?」

 

 

腑に落ちない事を言われつつ、シャーリーとルッキーニの側まで駆け寄った。

ふたりは腕や足を負傷しているようだったが、命に別状は無さそうだ。

 

 

「シャーリー! ルッキーニ! 無事かい?」

「その声は……只野か? 来てくれたんだな」

 

 

シャーリーは額に汗を流しつつも、来てくれた只野に可能な限りの笑顔を向けた。

501では比較的只野と関わりが強かったのもある。

再会場所が戦場なのは悲しいが、仲間として会えたのは嬉しかった。

 

 

「……なんで……同じ人間なのに……」

 

 

一方でルッキーニ。

最年少故に、ネウロイではなく人間に襲われた事実がショックらしい。

汗ではなくグスグスと涙を流す彼女。

可哀想だけど、今は慰めている場合ではない。

 

 

「正義の反対は正義なんだ。 彼らも信じて戦っている、それだけだよ」

「分からないよ、ただの……」

「君も……いつか大人になる。 そしたら分かるさ」

 

 

残酷とも問題を先延ばしにしてるとも言える発言をしつつ、ふたりを両肩それぞれに抱える。

いくら少女だからって、ふたりも持てば重いし動き辛い。

だが、それを為し得て全力疾走を始める只野もまた、人外のEDF隊員のひとりであった。

本人は否定するだろうが。

あくまで脚力補助装備アンダーアシストのお陰だと。

 

そんな人外の二等兵を撃ち始める残党歩兵。

せめて誰かを倒したいという、短絡思考に陥っている。

 

 

「援護する!」

 

 

それを軍曹がブレイザーで蒸発させてしまう。

連合に出来る事なんて、惨いまでにナニも無かった。

 

先回りして、待ってくれていたブルートに放り込むようにして、只野はふたりを機内に乗せる。

残るは他のメンバーだったが……。

 

 

「501全員をヘリに乗せるのは困難だ」

 

 

と、今更ながらStorm1が言う。

ミーナ、バルクホルン、ハルトマン。

坂本、宮藤、リーネ、ペリーヌ。

エイラ、サーニャもいる。

ブルートは輸送ヘリでは無い。 そんなに多くは乗せられない。

いやまぁ……乗せていた時もあったが、負傷者を缶詰にするのは酷だろう。

 

 

「なので、南島の連合軍を一掃する。 その方が早い」

 

 

短絡的、しかし戦力比から作戦を変更した。

普通に現状戦力で掃討戦に移ってもイけると踏んでの事だ。

エイリアンとの戦闘で色々マヒしている所為だが、格が違うにも程がある。

 

 

「マジっすか?」

 

 

只野だけは正気を疑ったが。

 

 

「マジだ。 既にセンサー反応からして残党は少ない。 殲滅だ。 エイリアン連中を倒すより楽な仕事だぞ」

「そうでしょうよ。 3人やそこらで装甲車や歩兵隊、戦艦を沈黙させたんですから」

 

 

自分で言っていてナニ言っているのか分からないのも只野。

分隊どころか班……ソレ以下の戦力で上陸部隊は ほぼ壊滅。

更に言おう。 Storm2個人で偉業を成し遂げている。

武器レベルもあるが、単純に連合軍と格が違うのだ。

 

 

「分かってるなら話は早い」

「投降を呼びかけないんで?」

 

 

しばし無線越しに逡巡して、

 

 

「……そうだな、呼びかけよう」

 

 

Storm1はチカラ無く言った。

 

 

「俺たちは侵略者だが冷血じゃない。 失わずに済むなら助けてやれ」

「イエッサー」

 

 

TZストークを構え、センサーを頼りに殲滅ないし投降を呼びかけに向かう只野。

付き添うように軍曹も続く。

 

その背中をヘリから見るシャーリーとルッキーニ。

 

仲間を助けようとしてくれるのは嬉しかったが……やはり、心に屈託があるのは否めなかった。

 

 

「ワンちゃん」

 

 

ルッキーニは問う。

 

 

「正義って、わからないよ」

 

 

Storm1は沈黙で答えた。

シャーリーは、何となく分かる。

分かるから、ルッキーニを抱き寄せて。

優しく頭を撫でるのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

69.上層部の戦場

作戦内容:
EDFと連合は既に様々な問題を引き起こしています。
ですが本格的な戦争をするつもりはありません。
特に南島での事件で連合は感じているでしょう。
手を出せば、どうなるのかを。
WDFのチカラが無くとも。
それでも議論してまで戦うのなら、我々も出張る必要がありそうです。
連合司令部と会議を行います。
その間、只野二等兵は警備兵としてWDFを護衛して下さい。
備考:
連合はしつこい。



◆ガリア国内、某会議室

 

南島事件から早数日。

WDFの2人は無事、カールスラント領に隠匿、501部隊はいつも通り記憶処理。 元の基地へと送られた。

一方、奪取に失敗した連合は タダでは転ばなかった。

 

先ず連合はWDFを公にバラした。

少女を騙して人体実験をしたという事実を声を大にして、庶民に広めたのだ。

これには世論も誘導されてしまう。 いくら戦争に勝つ為とはいえ、少女を人体実験にして良いなんて倫理観にそぐわない。

そうして庶民を味方につけた連合は、509JFWを解散させてEDFの戦力を削ぐ事にした。

南島で たった数人に大失態を犯した連合だが、油断せずに数で囲めば勝てると踏んだのである。

 

流石のEDFも、数で囲まれれば堪らない。

武器弾薬量、人材は連合に劣る。

持久戦に持ち込まれれば、いくらストームチームという人外遊撃部隊がいたとしても不必要な出血サービスを晒す事になる。

 

その為、EDFも己の生存を賭けて反撃。

連合の主張は事実無根である、またカールスラント領を守るにあたり、509JFWが解散すれば人類は大きな損失を被ると脅した。

 

互いに譲らず、無線越しではらちが明かないと会議にお呼ばれした司令官と情報部の少佐。

オペ子を本部に残し、かくして上層部の戦争が始まったのであった。

 

 

「おや皆さん。 "魔女狩り"の首謀者たちが来ましたよぉ?」

 

 

司令官と少佐が会議室に入るや否や、連合のお偉いさんに随分な挨拶をされてしまう。

それを応援するように、参加者達も冷ややかな笑みを浮かべて迎え入れた。

だが、この程度で屈する司令官と少佐ではない。

 

 

「随分な挨拶だな。 それとも欧州では普通なのか?」

「さすが。 黄猿には分からんか」

「我々の世界では考えられないんでな。 至上主義発言は。 文明人とは思えん」

「元より同じではない。 "エイリアン"諸君」

「同じであっては堪らん。 真面目に戦う兵士に申し訳無いと思わんのか?」

「それが仕事だ」

「人間を殺し合わせるのがか?」

「目には目を。 モノはモノ同士だ。 実に合理的だ。 それがイカンというのなら、君は感情を表に出してしまう無能な指揮官という事だ」

「ひとつ分かった事がある。 お前たちは間違いなく"無能なモノ"だ」

「東洋人の分際で。 減らず口が」

「それでやっと顔を見て話せる臆病モノが」

 

 

会議ではなく、いきなり喧嘩が始まってしまった。

こと連合に至っては差別用語すら用いている。 現代でやったら大問題だ。

元々仲が悪いEDFと連合だが、こうして目に見えて噴火する姿は気持ちの良いモノではない。

 

少佐は溜息をしつつも場を整えようと努力する。

これではナニしにきたのか分からない。

 

 

「会議を始めましょう。 時間は有限です」

「なんだね、仕切るように。 紅一点だから聞くとでも?」

「事実を言ったまでです」

「そもそも間違いなのだ。 組織運営に」

 

 

ここで司令官は声を大にしてモノを言う。

 

 

「その先は聞きたくないな。 互いに無駄口を叩くだけなら無線にでもタレ流せば良い。 聞いた庶民が離れないと良いな」

 

 

これは暗に、会議で録音した声を暴露するぞと言っている。

前にも似たようなやり取りをしたので、脅しでもなく本気だと悟った連合は閉口する。

 

 

「……ふんっ。 まあ良い、始めよう」

 

 

各自、椅子に偉そうに座り直して仕切り直す。

こんなヤツらが上にいるとは。 騙される庶民や兵士たちが可哀想だと司令官は思った。

 

 

「単刀直入に言う。 509JFWは即刻解散、在籍中の兵士は原隊に復帰させろ。 EDFはカールスラント領を放棄、WDFを巡る賠償金と技術提供及びWDF2体を引き渡せ」

「解散権限は総監のガランド中将にあると思っていたが」

「連合の総意なのだよ、コレは。 既に手続きは終えている」

 

 

対して少佐が挙手。

相手の了解を得ずに語り始める。

相手の軍規を守るつもりは甚だ無い。

そんな事をしていれば良いようにされるだけだ。

 

 

「なんの事か分かりません」

「おや。 届いた筈だよ」

「書類は空襲という焚火に燃えました。 連合からの電話は突然不通になるなど、ネウロイの被害が大きく連絡に齟齬が発生しているようです」

「ネウロイは君たちが殲滅しただろう」

「我々でも未確認のネウロイはいる、という事です。 地中を移動する個体も確認しています」

 

 

事実と虚実を混ぜて、それっぽく会話する少佐。

なんか、502JFWの隊長みたいな事をしている気がするが、皆そうなのだろうか。

少佐は続けた。

 

 

「我々EDFが抜けたとして、連合軍のみでカールスラント領を維持出来るのでしょうか。 地中にいるネウロイにも対処出来ますか」

「開戦初期は遅れを取ったが、今度は大丈夫だ。 問題はない」

「今度は。 あと何度、使う言葉でしょうか」

「ナニが言いたい」

「EDFの技術でも苦戦する事もある相手に、我々より劣る連合が勝てるのか、と言いたいのです」

 

 

冷静沈着な表情で、淡々という少佐。

対戦中もそれっぽいところはあったが、今はそのポーカーフェイスが役に立った。

 

 

「だからこその技術提供とWDFの譲与だ。 いなくなるなら、それくらい痛くあるまい」

「事は簡単ではありません。 この世界にEDFの兵器を維持管理出来る能力があるとでも仰いますか」

「君たちが教えるのだ。 501部隊の整備士たちは、Storm1のお陰で能力が飛躍的に伸びたと聞く」

「それは既存の兵器に対する整備能力です。 EDFではありません」

「なら、これからEDFの整備とやらを教えてくれれば良い」

 

 

引かない両者。

だが、少佐は人間の争いを逆に利用する事にした。

 

 

「では」

 

 

一拍おいて、

 

 

「教えるとして"どの国"に?」

 

 

キーとなる言葉を投下した。

連合といえども、欧州の国々の集まり。

それぞれ思惑があるし、仲良しこよしではない。

 

故に、面白いように利権争いを始める各国。

 

 

「それは勿論、スオムスだ。 優秀な整備士が多いしな」

「いやいや。 カールスラントだ。 様々な兵器を開発、運用出来る柔軟性と発想がだな」

「ふざけるな。 ブリタニアだろう」

「ウォーロック事件を忘れたワケではあるまいな?」

「一緒にするな!」

「信用出来ませんな」

「お前たちもだ! イニシアチブを握りたいだけだろ!」

「オマエモナー」

「黙れ貴様ら!」

 

 

ワイワイガヤガヤ。

ウィッチより幼稚な争いが発生。

ペンが飛び、紙屑が飛び、椅子が飛ぶ。

ここは いつから子ども部屋になったのだと司令官は嘆いた。

EDFやネウロイという共通に出来る敵がいたところでコレなのだ。

この世界の上層部は本気で人類を守ろうとしているのだろうか。

 

 

「どうやら連合もEDFに対する処遇が纏まっていないようだな。 こんな状況で呼び出すな。 帰るぞ少佐」

「了解しました」

 

 

ワーワーと喧嘩を続ける連合のジジイどもを背に、司令官と少佐は会議室を後にした。

正直いって話し合いの余地は無い。 不毛な会議である。

 

 

「助かったぞ少佐」

 

 

廊下を歩きつつ司令官は言った。

 

 

「何の事でしょう」

「議会を紛糾させ、混乱させた事だ」

「アレは議会とは言いません。 子どもの喧嘩です」

「少佐も言うな」

「彼ら程では」

「ふっ」

 

 

しばらく歩いて、喧騒が聞こえなくなるところまで来ると。

 

 

「強いて言えば……けじめ、もありましょうか。 これくらいで許されるとは思ってませんが」

「WDFのか?」

「はい」

 

 

少しトーン低く言う少佐。

WDFは戦略情報部が関わって生まれた存在だ。

まさかこんな面倒になるとは思わなかったが、起きたものは仕方ない。

 

 

「EDFの為でした。 地球の為でした。 ですが結果は……連合の思考以下です。 申し訳ありません」

 

 

立ち止まり、頭を深々と下げる少佐。

司令官は驚くでもなく、ただ静かに受け入れた。

 

 

「過ぎた事だ。 失った者たちは帰ってこない」

「はい」

「だがな。 上に立つ者同士、出来ることはある。 そうだろう?」

「はい」

「前から予定にあったが、早めよう」

 

 

言って、司令官は軍帽を深々と被り直して言うのだ。

 

 

「EDFはこの世界から撤退する。 WDFは……本人たちが望めば我々と共に歩もう。 それがこの世界の為であり、我々の為である」

「了解しました。 では至急、そのように」

 

 

その時。

緊急無線が鳴り出した。

 

慌てて、無線を繋ぐ司令官と少佐。

相手は只野二等兵だった。

 

 

「本部ッ! 本部ッ!! 救援を!」

 

 

随分と慌てた声だった。

 

 

「どうした落ち着け。 詳細に報告せよ」

 

 

そういうと、次には数多の銃声。

悲鳴。 絶叫。 爆音。

 

 

「どうした!? 何があった!?」

 

 

呼びかけるも、応答なし。

緊急事態だ。 本部はすぐさま全体に無線を繋いだ。

 

 

「全EDF隊員へ! 指定座標に集結せよ! 敵襲と思われる! 戦闘体勢を維持、周辺警戒怠るな!」

「一体何が」

「分からん! 我々も移動しつつ指揮を執るぞ!」

 

 

駆け出す司令官と少佐。

一体、ナニが起きたのか。

それは現場にしか、まだ分からなかった。

 

 

 

 

 

「なんで曹長さんが仁さんの手を繋いでるんですか! 許せません!」

「手を繋ぐくらいの、ナニが悪い!」

「全部悪いんです!」

「2人とも! 頼む! やめろ! ヤメテ!?」

「仁さんも悪いんですよ! 浮気なんかして! 信じて待ってたのに! 南島で酷い目に合った気がするけど、それにしたって酷いです!」

「浮気? おい只野。 これはどういう事だ! 返答次第じゃ この辺一帯を吹き飛ばすぞ!」

 

 

…………ホント、ナニが起きてるのやら。

 




修羅場。 デュエル(決闘)スタンバイ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

70.鎮圧戦

作戦内容:
WDFが暴走中。
509JFWは当該魔女を静止せよ。
備考:
只野二等兵も悪い。

ギャグ回。


◆カールスラント領

 

平原と、精々が畑の広がる場所で事件は起きた。

そこはWDF2人を匿っていた地点である。

故にEDFの極秘建造ミサイル基地【バレンランド】の座標情報くらい謎でなければならないのだが。

事今に至っては当該魔女同士による騒ぎによって目立ちまくっていた。

 

 

「軍曹! これは命令だ! 只野二等兵から離れろ!」

「イヤです! 仁は私のものですっ」

「な、名前で呼ぶし私物化するなんて! 命令無視も許せん! 覚悟しろ!」

 

 

空を飛ぶ白銀の2人。

武器が無いのは共通しているが、魔力が半端な曹長ちゃんだけユニット飛行を行っていた。

そんな中、脳波誘導光弾ミラージュが無数に飛び交う。

ミサイルのように誘導性のある光弾同士が衝突しては相殺するも、衝撃波や流れ弾が地形にダメージを与えて、大きな砂埃を立てて遠くからも目立つ。

だがチカラは均衡しておらず、能力値は軍曹ちゃんの方が上。

結果、押されていく曹長ちゃん。

 

 

「ぐっ!」

「どうやら私の方が上ですね! なんなら、ちゅーして能力が下がった私でも勝てるくらいです♪」

「ナニィッ!?」

 

 

接吻の事実を暴露して、精神的にもダメージを負う曹長ちゃん。

もはや能力でも強さでも恋でもハートでも勝てる見込みは無く、泣きそうになる曹長ちゃん。

惨めな気持ちにもなって、涙が浮かぶのも仕方ない。

潜水母艦で手を引いて、一緒に逃げようと言ってくれた優しさと温かさは夢だったのか。

あんな事くらいでときめいたのは間違いだったのだろうか。

 

 

「やめてくれ2人とも!」

 

 

そこに こんな争いは認めたくない只野二等兵が割って入る。

そも、原因は この男なのだが、本人は何故2人が争うのか分かっていない。

いわゆる『私の為に争わないでッ!』という慢心な思考と言葉が出ないのはマシかも知れないが、これはコレで問題だった。

 

 

「本部から言われたでしょ! 静かにしてと!」

「誰のせいだと思ってるんですか!」

「そうだ! 元はと言えば只野が悪いんだぞ!」

 

 

荒れた大地に這い蹲る只野を見下ろしながら、そういう2人だったが、互いに思い違いがある。

乙女2人は只野の所為だと言っているが、只野的にはEDFの所為だと言っているように聞こえた。

強ち間違いでは無い。 しかし、すれ違いは更なる災いを呼び寄せる。

 

 

「それは謝る! でも、俺ひとりに どう償えば良いと言うんだ!」

「そんなの決まってます!」

「そうだ! 私と軍曹! どっちが大切か決めれば良いんだ!」

 

 

修羅場である。

だが本当の意図が分からない只野二等兵!

 

 

「ちゅーした、私に決まってますよね!?」

「一緒に逃げようって、言ってくれたじゃないか!」

 

 

只野の目の前まで降りてきて、顔を寄せる魔女2人。

そんな2人を真剣に見つめ返し。

 

 

「そんなの、2人とも大切に決まってるよ」

 

 

全然分かってない、なのに会話が未だ成り立つ方向に転がり続けてしまう!

 

 

「寵愛を受けるのは私だけです!」

「そういうのを浮気って言うんだ!」

 

 

未だプンプン怒り続ける白銀の魔女たち。

して、未だ理解出来ていない男がここに。

 

 

「キスなら曹長ちゃんにも出来るけど」

 

 

サラッと言う只野。

魔法が使えない、もしくは使え難いカラダにするのは容易だ。

魔女がソレを望めば特に。

曹長ちゃんがWDFとして、その強大な魔力に困っているならベーゼのひとつやふたつ、EDF隊員としての覚悟が有れば問題ない。

 

 

(魔法のチカラが不幸の源なら、覚悟のキスをもってして奪い去ろう。 それで普通の女として生きていけるならば。 俺はその手伝いをするだけだ。 白雪姫作戦で自信もついた)

 

 

……などと、戦場にいる面持ちで、戦略・戦術的な発言をしてしまう事自体が問題発言。

当然、憤慨する魔女2人であった。

 

 

「「死んじゃえーーッ!!」」

 

 

繰り出される魔力を込めた鉄拳×2!

発進します系で見受けられる顔面陥没パンチを繰り出され、挙句に吹き飛ばされる只野。

 

 

「グペラッ!?」

 

 

あーもう滅茶苦茶だよ。

このパンチは、502JFWブレイクウィッチーズな菅野もドン引きだろう。

 

 

「はぁはぁ……見損なったぞ! やはりお前はスケベな男だ!」

「酷いです! これから そのカラダに教えてあげます! 本当の伴侶が どちらなのか」

 

 

スタンド的なオーラを漂わせて、瀕死の只野に寄る白銀。

それは側から見れば、暴走した魔女が殺人を起こそうとしている様にしか見えず。

 

 

「撃てッ! 撃てーッ!?」

 

 

駆けつけた509JFWに撃たれても仕方ないのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーEDFーーーーー

 

 

WDFと509JFW。

ある意味でEDF同士だから内戦とも言えるが、扶桑ならいざ知らず、カールスラント領で内戦とはコレ如何に。

勝手に自国領で戦争をおっぱじめられたカールスラントからしたら、迷惑千万である。

 

 

「ロングレンジ戦法だ! ミサイルを使え! ミサイルを!」

 

 

遠い空。

509JFWのモブウィッチーズは、飛距離を伸ばされたエメロードを撃ちまくってWDFを牽制。

青空を白煙の帯で耕し、畑にしていく。

この世界の戦法……一撃離脱や格闘戦、ドッグファイトはWDF相手には危険である。

その為、現代の航空機のようにミサイルによるロングレンジ戦法で一方的に攻撃中。

これで倒せるとは思っていないが、牽制にはなる。

 

 

「只野二等兵聞こえるか!? 救援部隊が向かっている! 持ち堪えてくれ!」

 

 

モブウィッチが現地にいるだろう、只野二等兵に無線を送るも返答がない。

そりゃそうだ。 顔面陥没パンチでビクンビクン痙攣中だ。

EDF隊員じゃなかったらギャグで済まない話だ。

 

 

「ちくしょう! とにかくWDFを引きつけるんだ!」

 

 

隊長格が言いつつ、航空隊はミサイルを撃ちまくる。

遠くの空中で爆発。 爆発に次ぐ爆発。

だが、WDFはシールドを張っていて傷ひとつ無い。 怯む様子すらない。

 

 

「地上部隊! 頼むぞ!」

 

 

しかし無駄ではない。 ミサイル攻撃に気を取られ、シールドは決まった方向にしか展開出来ていない。

 

 

「喰らえィッ!!」

 

 

その隙を突くようにして、地上部隊のフェンサーがオッさんボイスで巨砲【35ミリバトルキャノン砲】をブチかます!

 

轟音が空に響き渡り、同口径であるガリア重キャノン砲より高威力を帯びた弾丸が雲を突き抜けた。

それは天を摩耗させたように錯覚するほどで、とても歩兵が携行している武器弾丸によるモノとは到底思えないブツだった。

 

 

が、しかし!

 

 

「ナニィッ!?」

 

 

天に届いた大口径弾はWDFの片方に着弾、煙が上がった……と思えば、晴れた時には無傷の魔女が。

やはりWDFというメスガキを大人しくさせるのは難しいらしい。

 

 

「ならば俺のもブチ込んでやるぜ!」

 

 

重装備故に遅れてきた別フェンサーが名乗りを上げ、同じような巨砲を天に向け発射!

大地と天をも同時に震え上がらせるソレは35ミリを超える【38ミリレイジキャノン砲】だった!

 

いくらパワードスケルトンに身を包むフェンサーとて、こんなの扱える隊員は そうそういないだろう。

それと、こんな巨砲を持ち出しても。

 

 

「こちらスカウト! 攻撃効果、認められず!」

 

 

魔女には敵わないとは……。

いや、普通のウィッチだったらシールドを破壊して抜けてしまうかもな威力だが。

それだけにWDFという白銀の魔女が規格外なのだと、改めてEDF隊員らは戦慄する他ない。

 

 

「ば、馬鹿なッ!?」

「バケモノ大砲をブチ込んでもピンピンしてるとはな!」

「やはり白雪姫には王子様じゃなきゃダメか!」

 

 

スタビライザーなど、砲安定化装置を駆使して遠くの目標に照準を合わせ直しつつボヤくフェンサー。

例え無駄だとしても戦うのは、EDF隊員のサガというか覚悟であった。

そんな彼らを牽制するように、ミラージュが飛んで来る。

それらは前のとは違い、人命を奪うほどに強くないが危険な事に違いない。

 

 

「ヤバい! お嬢様がお怒りなすった!」

 

 

キャノン砲で盾を構えられないフェンサー。代わりに黒いフェンサー部隊が吶喊。

スラスターによる高速移動であっという間に部隊最前線に到達した。

武器はブラストホールスピアという槍1本のみ、して身を捨てるような戦術……あの部隊しかいない。

 

 

「よぉ。 ここが死に場所か? 楽しめ」

 

 

隊長のワイルドボイスが耳の横を抜けていく。

見やれば左腕には ドクロがあしらわれた盾。

この部隊、隊員ならば知らぬ者はいない。

 

 

「「グリムリーパー!」」

 

 

死神部隊、グリムリーパー隊だ。

WDFに負わされた怪我から復帰、再びWDFと交える事になったのだった。

 

彼ら精鋭はシールドに頼り切ったりしないが、今回はフル活用すべく使用する。

迫り来る光弾にドクロマークが施された盾を向けると、ディフレクターを起動。

磁場により光の弾丸を反転させ、WDFへとお返しした。

 

 

「久し振りに使ったな。 鈍ったつもりは無いが」

 

 

跳ね返る光弾の行く末を見てボヤく死神。

光弾はWDFへと確かに返納されたが、シールドで防がれて意味を成さなかった。

 

 

「俺が盾になる。 対空戦に槍は使えん」

 

 

振り返り、そう言うのも仕方ない。

グリムリーパーの武器は槍一択だ。

対空戦は不可能である。

 

 

「十二分だ! 頼りにしてるぜ死神さんよ!」

 

 

それでも感謝する隊員たち。

盾があるのと無いのとでは大きな違いなのである。

 

 

「任せろ。 ところで例の王子とやらは どこにいる」

「WDFの近くじゃねえか? センサーを頼りにするなら、そうだろう」

「只野二等兵、聞こえてるなら返事しろ……駄目か。 仕方ない、死神直々に迎えに行くとしよう」

 

 

やれやれ、といった具合に死神隊長が只野を探しに向かっていった。

その様子を見ていた後続のモブ陸戦ウィッチーズは、変な妄想を搔き立て勝手に盛り上がる。

 

 

「───死に場所だの任務だの言う彼も、赤ちゃんが出来た ある日 こう言うの。 『ここが俺の最終防衛線だ』って」

「「キャーーーーーッ❤︎」」

 

 

どこぞの結婚願望と女子力乙女MAX的な発言をして、色めき立つ魔女たち。

一部はアダムとアダム的な王子様と王子様のベーコンレタスバーガーで腐る者すらいた。

いちおう戦場なのだが……咎める者がいないのはEDFだからか。

 

 

「……魔女を黙らせてくれ」

「関わるな。 腐るぞ」

 

 

咎められないだけだった。

聞いてしまい、耳が腐りそうになるか白目を剥く者も出た。

喜んでいたのは隅っこでクローズ・レーザーを構えるウィングダイバー隊くらいだ。

 

そんな彼女らに清涼剤の如くやってきたのは我らがリーダー、Storm1。

相変わらずのローリング移動で戦場に突入してきて早々に無線を繋ぐ。

 

 

「こちらStorm1。 部下がピンチと聞いてな、駆けつけたぞ」

「只野さんも罪な人よね。 こんなに王子様に囲まれて」

「楽しそうだな。 状況を教えてくれ」

「腐っても魔女」

「?」

 

 

意味が理解出来ないStorm1だったが、WDFの事かと思い、シフトする。

 

 

「俺たちは家族だ。 シルバーを鎮静させ、持ち帰る」

「捗る! 捗るわあああ♪」

「何故、こういう者も魔女でいられるんだ……?」

 

 

妄想を爆発させている者は放置し、Storm1はサポート装置を駆使して味方の防御力を上げて生存確率を高めた。

今回のWDFは、理性があるぶん死なない程度に威力が減衰した攻撃をしているが、当たったら死にかける程度には痛いので。

 

 

「ところで俺の部下、只野は?」

「さっきもグリムリーパーに聞かれたが……WDFの近くじゃないか? 死神が回収に向かってくれたよ」

「そうか。 なら任せよう。 グリムリーパーなら間違いない」

 

 

アッサリ言うくらいには信用できるグリムリーパー。

ゲームでも最強格のNPC部隊だ、移動も速い。

空飛びコロコロ移動する かの者 相手には相性が悪いだろうが、戦闘ではなく兵士の回収が任務なら大丈夫だ。

502JFWの回収班に配属されたら、ぶっちぎりのエースを狙えるだろう。

 

 

「Storm2、4は来ないのか?」

「ベルリンの防衛だな。 正確には俺たちの地球と繋がる転送装置の防衛」

「……そうか。 そろそろか」

 

 

察して大人しくなる隊員。

連合との状況は悪くなるばかりだったから。

撤退も視野に入れてるだろうとは兵士たちの考えだったが、コレで現実味を帯びた。

WDFをどうするかは分からないが、鎮圧行動を取る辺りは、少なくとも放置する気はないのだろう。

 

 

「今はWDFだ。 早く王子様には仕事をして貰わねば」

 

 

ボヤく間にも、モブ隊員らによる攻撃は続く。

家族にマジで攻撃してるのは良いのかよとツッコミたくなるが、こうでもしないとWDFは止まらない。

寧ろ理性を削って興奮させてるとも言えるが、始めたものは中々止まらないものである。

 

 

「戻ったぞ」

 

 

そんな時。

黒いフェンサー、グリムリーパーの隊長が戻ってきたと思えば、肩に担いで来た只野をポイッと地面に転がした。

顔面陥没症が酷い。

見た目かなりエグい。 直ちの治療が必要だ。

 

 

「只野!? ナニがあった! 大丈夫か!?」

「ま、前が……前が見えません……」

 

 

手を天に伸ばしてプルプルする只野。

その手をStorm1は握り返し、安心させるように言う。

 

 

「大丈夫だ! 助かるからな!」

 

 

次には「メディイィイックッ!」と叫び始めるStorm1。

異界の中心(?)で衛生兵を叫ぶ。

すると呼ばれて飛び出てなんとやら。 隊員に連れられて治療系ウィッチがやってきた。

501JFWはブリタニア方面に帰っちゃった筈だから、502JFW所属のロゼ……ではない。

名も知らぬ子であったが所謂、御都合主義である。

 

 

「この人が王子? 酷い顔ですね」

 

 

冷静に只野の感想を言う。

悪口に聞こえるのは気のせいだ。

 

 

「ライフベンダーでは治せん! どうすれば治る?」

「はい。 落ち着いて後頭部を殴りつけるか、顔面リテイクパンチを繰り返してくれれば」

「おい待てやゴルワァ!? 殺す気だろ。 或いは殴りたいだけだろ!?」

 

 

くぐもった声で訴える只野。

だが それが有効ならヤるしかない。

WDFを止めるキーは只野であり、一刻も早く彼の凡人フェイスを修復して戦場に放り込まねばならない。

 

 

「我慢しろ。 荒治療になるが受け入れろ。 EDF隊員だろ」

「男だろみたいに言われても困るんですよ!?」

 

 

昔のように逃げ出したい気持ちになる只野。

もうやだ、この世界。

そもそも なんで まだ 俺は生きてるんだ。

普通なら 何度 死んでるかもわからんのに。

 

答えるならギャグだから、である。

良くも悪くも只野は悪運が強いのもある。

 

 

「なら俺の出番だな」

 

 

死神の影が落ちる!

 

 

「パワードスケルトンで殴る気じゃないですよね!? 死にますよ! ガチで死神になるのやめてくれませんかね!?」

 

 

どこかの世界では、それで峰打ちしたとかしなかったとかだが。

生身の人間にカマして良いパワーではない。

 

 

「不満か。 おい、そこのフェンサー! 俺の代わりにコイツを殴れ」

「イエッサー!」

「レイジキャノン砲を構えてたヤツ!? リミット外してフルパワーでしょ!?」

「みんな。 只野の手足を抑えるんだ」

「御免」

「アッーー!?」

 

 

ドゴォンッ。

 

絶対に人を殴って出して良い音じゃない音が響いた。

にも関わらず、顔面復帰した只野はやはり悪運が強い。

いや、もうその域ではない。 人外の仲間入りだろう。

 

 

「よし、戻ったな。 なんだか魔法は関係なかったがアドバイス感謝する」

「いえいえ」

「だが気絶したか」

 

 

ブクブクと泡を吹く只野。

これで命に別状が無いのが不思議である。

 

して、この様子を見ていたWDFの2人は納得したように攻撃をやめて降りてきた。

ならうように他の隊員も攻撃の手を止める。

 

 

「浮気なんかするからだ。 いい気味だ」

「ストームさん。 仁さん、こちらで預かっても良いですか? 調教が必要みたいで」

 

 

断っても持ってくんだろ、どうせ。

 

 

「どうぞどうぞ」

 

 

身の保全を優先し、あっさり家族に家族を売り渡す薄情家族……。

いや仕方ないんだ。 人類の為に、彼は犠牲なっていくんだ……。

 

 

「喧嘩するほど仲が良いという。 この調子なら大丈夫だろう」

 

 

ナニが大丈夫なのか分からない。

枯れぬ花をEDFが持ったところで、花に愛でられた男が枯れそうな気がするのだが。

 

 

「頑張れ只野。 EDFの撤退が完了する、その日まで」

 




悪運を。
引き摺られ、拉致られる彼に敬礼を。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

71.兵器と語らい。

作戦内容:
連合との仲は険悪ですが、互いにとって利益である内はギリギリの一線の攻防で収まっています。
WDFは諦め切れないようですが、格の違いを見せて黙らせます。
同時に、それら技術の一端を提供。
この世界の技術レベルでは整備も生産も困難でしょうが子ども騙しにはなります。
ビークルや武器を各地に輸送。
Storm1と只野二等兵は展示場を警備後、そのまま輸送隊を護衛して下さい。
備考:
現場指揮はStorm1に委託。
WDFは記憶処理後、改めて別場所に隠匿。


兵器構造や経緯に関して間違いがある可能性があります。
また、キャラ的にミスがある可能性があるかも。 ご容赦を……(殴。



WDF絡みの事件の傷跡は深く、EDFも連合も多くの人命を失った。

ネウロイではなく、人類同士の競り合いで死んだのだ。

その事実と結果もまた、ネウロイという怪異の所為にして あやふやに。

 

それで良いのか。 否。

そうでなくてはならない。

 

ネウロイに対処させるべき戦力が無駄に散った事実。

組織や国家運営する上で不利益な結果に違いない。 隠すのは道理だ。 下々に混沌を与えて喜ぶ運営者は失格だ。

ただ いつか……時代が流れていく上で歴史評論家らによって疑問視され、隠し通せなくなる日が来るだろう。

記憶処理や情報統制が追いつかず、事実を僅かに知る者も少なくない。

 

だとしても、今気にする話ではない。

 

先ずは目の前の事に生きねばならないのもまた、人類の置かれた状況故に。

 

 

「……隊長。 俺も記憶処理された気がするんです」

 

 

語るは只野二等兵。

二日酔いの様に やつれているのは、戦争という過酷な環境下にいるから……にしては、昨日の今日で様変わりし過ぎである。

ぶっちゃけるとWDFの2人にナニかされたからだ。 ナニかを絞られたのだ。

トラウマになりそうなので、その後に記憶処理剤をブチ込まれた為、記憶が曖昧に。

ジークフリート線の惨劇を処理されなかったのに今回処理された事を考えると、どんだけ2人の拷問が酷かったのだろう。

考えたくもない。

 

 

「気にするな。 大切なのは今だ」

 

 

淡々と言いたるStorm1。

不鮮明なフルフェイスヘルメットの下で、どんな表情をしているというのか。

 

 

「そうですね。 では状況が知りたいのですが」

 

 

只野二等兵は周囲を見回しながら聞く。

場所は どこかの格納庫だ。 広い。

白衣を着た者や、格好から軍人ではあるが士官以上の階級であろう者が何人もいる。

総じて彼らは鎮座するEDF製兵器を眺めては唸りを上げていた。

 

コンバットフレームやブラッカー。

フリージャーにデプスクロウラー。

なんと歩く要塞プロテウスまで。

グレイプ、ネグリング、ヘリ、レールガン、

他にも色々と。

 

さながら展示場。

そこを只野二等兵は警備している形に起立しているときた。

 

 

「ブリーフィングをしただろう」

「記憶が曖昧です」

「……説明しよう」

 

 

同情的な声を出されるくらいには、記憶処理の影響は仕方ないらしい。

 

 

「見ての通り、EDFの武装展示会だ。 連合とEDFはWDFを巡っていよいよ仲の悪さが如実になったが、ここで改めて武力差をチラつかせて黙らそうという狙いがある」

「今までも連合は見てきたでしょう」

 

 

エトワール作戦の時など、他にもEDFのチカラを見る機会は少なくなかった。

だが改めて見せるというのは、分かってないヤツを分からせる為でもあるとStorm1は語る。

 

 

「居合わせた兵士が分かっても、上層部が信じないんだよ」

「どこまで愚かなんですか」

 

 

尤もである。

WDFは高く評価していたのに、通常兵器の評価が低いとか謎である。

兵站を軽視するような真似はいけない。

1人の天才より100人の凡人が世界を維持しているのだから。

 

 

「だから、こうしてわざわざEDFが場を設けたんだ。 技術省の子も招いてな」

 

 

指差すStorm1。

先を辿ると、そこには見覚えのある女の子が。

 

 

「ハルトマン!?」

 

 

そう。 軍服が微妙に違う点や眼鏡をかけているのを除けば、501部隊に属するエーリカ・ハルトマンにしか見えない。

 

 

「只野の知るハルトマンではないぞ」

 

 

Storm1は説明した。

ナニか。 多重人格なのか。

変に身構える只野だったが、意外な事実を知る事になった。

 

 

「彼女はウルスラ・ハルトマン中尉。 501部隊にいるエーリカの妹だ。 今はカールスラント技術省に属する。 階級を持ったままなので、恐らく空軍からの出向の形か」

「妹!? 妹いたんですか、あのイタズラ娘に。 しかし そっくりだ」

「双子だからな、こうもソックリだと一卵性双生児だと思う。 ただし、人格は異なるからな」

「でしょうね。 妹の方は知的そうですもん」

 

 

さりげなく姉のエーリカをディスるような発言をする只野。

EDFだから許されるモンだが、偉い人に聞かれたら大変だ。

エーリカは私生活こそだらしないが英雄だし。 人類最多撃墜スコアは伊達じゃない。

 

因みにエーリカも かつては真面目な軍人だったらしい。

今の状態から想像がつかないが、変貌したキッカケは502JFWにいるニセ伯爵が遊びを教えたからだ。

 

サウナでStorm1と殴り合った、チャラ女ことクルピンスキーである。

そんな彼女はStorm1との約束通り509JFWの基地にいる間は真面目にサウナ掃除をしているそうな。

 

 

「おや、噂をすれば なんとやら」

 

 

とことこと、ウルスラが此方へやって来たではないか。

 

 

「すみません。 EDFの方とお見受けしました」

 

 

丁寧な口調で話しかけるウルスラ。

綺麗なエーリカである、只野は内心スゲェと思った。

やはり失礼な思考に違いはない。

 

 

「なぜ分かった?」

「そりゃ分かるでしょーよ!? 俺はともかく、隊長はエアレイダー装備なんですもん!」

 

一方で嬉しそうに質問するStorm1にツッコミを入れる只野。

通信ユニットを背負い、フルフェイスヘルメットを着用する人間なんて良くも悪くも目立つし、違う世界の人間だと疑われて然るべき者である。

 

 

「見た事もない装備でしたので」

「ほらやっぱり」

「それもそうか。 ところで、どのような用事だ?」

「はい。 展示されている兵器群と、説明書だけでは どれ程凄いのか想像の域を出ず。 直接質問しても良いですか?」

 

 

スオムス義勇独立中隊の頃のウルスラだったら、カタログスペックを見ただけで全てを理解した気になったかも知れない。

だが多くを見聞きし学んだことで、こうした行動に出る事が出来たのだ。

 

 

「良いぞ^〜、いやぁ嬉しいなぁ! 技術の話をするとなると民間人時代を思い出す!」

 

 

妙にウキウキになるStorm1。

嬉しいらしい。

そういえば、Storm1は元整備士だ。

軍用ビークルも取り扱っていた。

技術屋としての側面を垣間見た只野も、喜ぶ隊長の無邪気さに笑みがこぼれた。

 

 

「ありがとうございます。 早速ですが、あちらの二足歩行する機械人形について お聞かせ下さい」

 

 

青い機体を指差すウルスラ。

待機状態で、しゃがみこんでいる機械の巨人が鎮座中。

人間に近いシルエットだと、今にも動き出しそうで怖い。

実際にひとたび動けば、歩兵では対処困難な戦闘力を発揮する。

それを知ってか知らずか、周りの観覧者も戦々恐々に近寄っては離れている。

 

 

「コンバットフレーム・ニクスだ。 種類は色々あるが、展示されているのは簡易武装と軽装甲のA型だ……と、それは説明にあるからな、別の事が知りたいのだろう?」

「移動に脚を用いる歩行システムにした理由とは。 複雑化する事で整備に労力が必要になると思いますが、メリットは?」

「脚のチカラは偉大だぞ。 多くの場合、バイオームを選ばない。 歩行システムを開発、整備するに当たり巨額の予算が注ぎ込まれた。 それを差し引いても歩行という移動方式は重要だと言うことだ。 また人に似せるようにしているマニピュレーターも利点がある。 ニクス用に作られた武器に直ぐ換装出来るからな。 マシンガンとロケットランチャー以外に火炎放射器やグレネードランチャーなどがあるから近・中・遠距離戦に合わせたスタイルを取る事が可能だ。 機体そのものも、装甲は勿論アクチュエータを改良しているものは凄まじい機動力と馬力を生み出しており、兵器としては異例に感じるだろうがジャンプやブーストによる短時間の飛行を可能に───」

 

 

只野、技術屋の話についていけず!

対してウルスラは興味深そうに頷いては、メモを頻りに取っていた。

真面目である、只野は また失礼な感想を抱いた。

 

 

「───であるからして、ニクスはロマンと整備士泣かせでありながら、EDFの誇る……おおよそ人間同様の活動が可能で強力な搭乗式強化外骨格というワケだ」

「勉強になります」

 

 

完全に置いてかれている只野は、拗ねるようにして警備モードに入った。

叩かれたらドローンの如く赤く光るかも知れない。

 

 

「あの戦車は───」

「EDF主力戦車ブラッカーだ。 展示されているのは榴弾砲のタイプE1型」

「小型ですね」

「市街地戦闘を想定し開発された経緯を持つ為だ。 狭い道路を移動し路地にも入れるようにな。 榴弾砲もテロリスト……いや、群がる敵を一掃する為に開発された。 元々は貫通力がある滑腔砲A1型を装備する予定だったが、途中でプラン変更にされた。 その弊害としてEタイプは急増品、装甲や砲塔の回頭速度に難がある」

 

 

テロリストのところで逡巡したのは、子どもに大人の争い事を教えたくなかったからだ。

こんな状況でも、子どもに言いたくないものはある。

只野は察して、ちょっぴり切なくなった。

 

 

「1人乗りとありますが」

「そうだ。 この世界の戦車は役割分担をした戦車兵が複数乗り込むだろうが、ブラッカーは完全に1人で操作出来るシステムになっている。 自動装填システムに照準器が───」

「機銃は 無いようですね」

「細かいことを気にしてはいけない」

「細かくねぇよ! 付けろよ機銃!?」

 

 

思わず只野はツッコミをかます。

ブラッカーの武装が、いつまでも主砲1本だけなのは いただけない。

滑腔砲や榴弾砲、長距離砲などのバリエーションや口径、機体の基本スペック向上のみならず、その辺は考慮されなかったのか。

 

 

「ナニを吼えるか只野クン。 その辺はアレだ、随伴歩兵に任せるんだ」

「戦車単独で動く場合もあるでしょうよ! 機動力の違いもあります!」

「隊員なら気合でついて行く」

「ここにきて根性論語らないで!?」

 

 

言ってることも分からなくはないが、無理があるものは無理である。

歩兵は人類史上、最古の兵種であり軍の骨幹をなす戦力だし装備次第では戦車や航空機とも戦える。

EDF隊員の場合、既に多くの実績がある。

が、それとコレとは話が違う。

歩兵は歩兵、戦車は戦車である。 戦車も対応の幅は広い方が良い。

 

 

「ウルスラも思うよね!?」

 

 

只野、子どもを大人の争いに巻き込んだ!

さっき思った事はなんだったのか!

しかも歳の差があるとしても初対面、二等兵が中尉に この言い方。

近くで聞いている軍人がいなくて良かったと思う。

 

 

「連合軍の戦車にも、多くの場合取り付けられています」

 

 

特に表情を引かせずに語るウルスラ中尉。

この子も大物である。 元よりそうかも知れないが。

 

 

「ほら隊長。 EDFの戦車にも付けるよう具申するんですよアクするんですよ」

「くっ! 姑息なマネを!」

 

 

とか漫才みたいにやり取りするStorm1も、いちおう作中では(名誉)大将である。

ある種、恐ろしい光景を生み出し続ける只野のように、あまり気にしてはならない。

EDFは愉快な仲間達で構成されているからね(逃避)。

 

 

「……まあ、確かに。 他の隊員も言っている者がいたからな」

 

 

なんと愉快な変態ばかりに思えたEDF隊員にも、只野と同意見の者がいたらしい。

なら付けろよ。

 

 

「お願いしますよ。 レールガンにも護身用のマシンガンがあるんですし」

 

 

そうなのだ、レールガンには護身用のマシンガンが装備されているのだ。

銃手が必要だが、そういう概念がEDFにある事を意味する。

もっといえば重戦車タイタンにも機銃は付いている。

なんでブラッカーには無いのか。

 

 

「レールガン?」

 

 

ここで食い付くはウルスラ。

大人の争いは醜いが、時に子どもがソレを止める。

美談にすれば聞こえは良い。 だからって大人が起こして良い理由にはならない。

 

 

「それは……電磁投射砲ですか。 あの青い塗装がされた」

「うむ。 火薬ではなく電磁気のチカラで弾丸を超加速、飛ばす兵器だな。 フレミング左手の法則だ。 ビームや電撃攻撃と違い実弾兵器だ」

「凄い技術力です」

 

 

レールガンは、原理自体は古くから知られてはいたようだが。

 

軍部は事あるごとに研究をしてきたが、様々な問題を解決出来ずに実用化の目処が立たずにいた。

弾丸が加速するほどレールとの接触を保つのが困難で、空気抵抗やら摩擦熱の損失が増大し、大電流になるとレールや弾丸が蒸発する危険性がある。

飛ばす為の電力はどこで確保するのという問題もある。

 

それでもEDFの科学班は四苦八苦して実用化に漕ぎ着けたとでもいうのか。

そも、EDFは衛星砲を実用化している他、通常兵器にも見た目の質量以上に弾薬が込められたマガジンを何食わぬ顔で使用しているワケだが。

レールガンと比べて、果たしてどっちが凄いんだろう。

 

 

「EDFが使用しているレールガンは貫通力が凄まじい。 よほど装甲が堅牢でなければ並んだ敵を纏めて一掃出来るぞ」

 

 

と、色々と言い始めるStorm1。

置いてかれる只野。

関心してメモるウルスラ。

 

 

「本当なら俺から君にあげたいところだが。 残念ながら連合軍に提供する程レールガンの在庫が無い。 すまないな」

「個人的にプレゼントしないで!?」

 

 

恐ろしい事を平然としようとするのはStorm1も同一だった。

レールガン横領。 謎の見出しは見たくない。

 

 

「いくらEDFの管理がガバガバだからって、それはマズいですよ!」

「……そうだな。 久し振りに語ったから興奮の坩堝のまま要請をするところだった。 すまない」

「要請しないで下さい!」

 

 

思えば南島で、料理の為だけに空軍を呼んでいたStorm1。

マトモなのはボクだけか。

 

 

「残念です。 カールスラントの技術でも、ここまでの事は……いえ。 いつかは」

「1940年代のウチに無理でも、いつかは出来るさ、たぶん。 だから今はありのままを愛して」

 

 

テンパり意味不明発言をするも、レールガンの話は終了した。

もう少し現実味のある話をする方が有意義かもだし。

それを恐らくは思ってないだろうがStorm1が話を振った。

 

 

「そうだ。 ウルスラは技術省で兵器を開発しているんだったな。 空対空ロケットなどに関わっていると聞いた。 となると、501部隊のサーニャが使用しているフリーガーハマーの基を作ったのか。 凄いな」

 

 

説明口調だが気にせず、ウルスラは礼をいう。

 

 

「ありがとうございます。 ですがEDFの技術力を見てしまうと、とても」

「日進月歩。 時代が進めば そうなるさ。 君にしか無い良いところだってある」

「そう、でしょうか」

 

 

口説き文句ではないにせよ、頰を染めるウルスラ。 姉が見たらどう思うのか。

ただStorm1が仕方ないと言わなかったのは技術屋の、或いは彼女の尊厳を気にしてなのかも知れない。

 

 

「そうとも。 例えば、どんなのを開発した?」

「ヘルメットと銃を一体化したヘルメット銃を少々」

 

 

妹さんは、珍兵器の開発もしていたようだ。

アニメで紹介していたアレだ。

時期的にはもう少し先の未来の筈だが、EDFに触発されたんだろう。

いちおうマトモそうなのもあり、ロケランは良かった印象はある。

だがヘルメット銃という、名前からして想像し、なんとも言えない気分になる只野。

 

 

「あー……うん。 面白いね」

「素晴らしい!」

「は?」

 

 

称賛するStorm1。 本気だろうか。

 

 

「本気ですか隊長!? そりゃ考えたって」

「考えなくても名作だ! 只野には分からんのか!」

「分かりませんよ!?」

「なら被れ。 そうすれば分かる!」

「分かりたくありません!?」

「何故だ! ヘルメットは被ってるから、目線と連動する! つまり、上手くやれば照準が容易なのだ! 是非EDF隊員に広めよう!」

「ヤメテエエェ!? 珍兵器は間に合ってるでしょおおお!?」

 

 

またもウルスラそっちのけで漫才する隊員。

子どもが発端となる争いだと、その子まで苦しむので良くない。

 

 

「そうだな。 お前というレールガンより強いチン兵器がいたな」

「ヒドッ!? 好きでなったワケじゃねーですよ!」

「だが未だにヤッてないんだろう。 その意味ではチン兵器失格だ!」

「意味分かんねー言い回しでディスりまくるのヤメテくれませんかねえぇ!?」

 

 

技術の話から珍兵器の話になり下ネタで知性の感じない醜い小学生以下の争いに発展する。

オーバーテクノロジーが陳列するなかで、ナニしてるのか。 陳謝して欲しい。

てかさ、女の子の前でナニ晒してるのか。

 

 

「あ、あの……私まで恥ずかしいので…………ヤメテ下さい……」

 

 

今度は真っ赤な顔でボソボソと静止の言葉を投げかけるウルスラ。

周りから兵器より注目されており、羞恥心で涙すら浮かんでいる。 俯いて身体もプルプルしちゃってる。

 

例により子どもに喧嘩を止められる美談(?)が成立するのだった。

やはりか、悪いのは大人である。 どう見ても。 これを大人とは認めたくないものだが。

 

 

「すまない。 知的な論争の最中に感情論を出すのはNGだった」

「今のどこが論争なんですか。 ただの下ネタじゃねーですか」

 

 

捨てゼリフ風に吐き捨ててプチ戦争は終結した。

信じられるだろうか。 これでも大将と二等兵なんだぜ?

 

 

「ヘルメット銃の話題は止めておこう。 兵器とは恐ろしいな、会話するだけで戦争が起きたぞ」

「開戦経緯を詳しく述べて下さい、そんでもって どっちが悪いか胸に手を当て聞いてみて下さいね」

 

 

停戦状態のふたり。

反目は止めろ。 同じ仲間だろ。

228基地奪還作戦の時を思い出せ。

 

 

「話題を変えよう。 ここに展示されているものの一部は、連合軍に譲与される。 政的な理由が含まれるのは言うまでもない。 だが、これにより双方が多少なりとも平和になる筈だ。 少なくとも、俺は信じたい」

 

 

静かに語るStorm1。

ウルスラの前で大人の事情を言うのは、兵器開発を行う彼女もまた、国家戦略上に組み込まれているだろうからだ。

勉学の為、というにはハードだが賢く生きていくには人間関係や組織関係の仲の良し悪し……派閥等も知らなくてはならない。

大人の争いには巻き込まれない方が良いが、その火種自体にならない為にも必要な事である。

 

 

「…………はい。 私も、信じます」

「俺も信じます」

 

 

それを知ってか知らずか、前向きの発言をしておく。

願わくば。 人類が自身の闇に呑まれぬよう。

 

祈る気持ちを心の隅で感じた時。

騒ぎが起きた。

 

 

「大変だーッ! 外で! 地中から突然ネウロイがーッ!!」

 

 

ひとりが会場で叫ぶと。

一瞬の静寂の後、皆はどったんバッタン大騒ぎに発展してしまった。

いけない。 迫る危機を告げる時、パニックを起こさないよう配慮も必要だというのに。

いや仕方ない。 緊急事態だ。

 

一気に緊迫する中、もはやココは戦場だ。

だが歴戦のStorm1はニヤリ、と笑みを浮かべるのだ。

 

 

「ウルスラ中尉」

「は、はい」

 

 

突然に階級で呼ばれ、思わず姿勢を正す。

Storm1の言葉は、自然とそうさせる。

只野も呼ばれてないが綺麗に直立、隊長に体を向けている。

 

 

「せっかくだ。 実際に見て触り、学ぶと良い。 EDFのビークルのチカラをな」

 

 

親指をビークル群に向けて、共に来るよう促す。

 

 

「いくぞ只野二等兵!」

「EDFッ!!」

 

 

叫び、適当なビークルに乗り込むべく走る隊員ふたり。

ウルスラも慌てて付いていったのであった。

 




いちおう、終わりを模索中。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

72.レールガン3人乗り中。

作戦内容:
展示会の外でネウロイが出現。
被害が出る前に駆逐する。
備考:
展示されていたビークルを使用。



◆展示会外部

突如として地中から這い出てきた黒き怪異ネウロイ。

久し振りのソレらは人よりずっと大きく、象くらいはあり、それでいて虫の様に節足動物……悪夢である。

 

 

「相変わらず気持ち悪いヤツらだ」

 

 

只野二等兵は遠方の光景に、眉間に皺を寄せて吐き捨てる。

この世界の者も同意見。

ただし。 EDF隊員である只野の場合、αやβを思わしてならない。

特に地中移動が連想させる。

ヤツらも地中を移動して、突然地上に這い出ては人間を襲ったが故に。

 

 

「酸や糸とビーム。 どれがマシなんだか」

 

 

アニメでも地中からネウロイが出てくる描写はあるが、今目の前には1体や2体ではない。 沢山いる。

地面を盛り上げて出てきては、周囲の木々を倒したり建物にビームを飛ばして暴れ始めているときた。

これもEDFの影響か。

ネウロイ自体、様々な姿形があって一概に言えないから、何でも有りに思える。

アニメでも氷山になったりほぼ宇宙空間の高度にいたり、ウィッチの姿をしたり、兵器を取り込んでネウロイ化させたり。

目的も正体も仕組みも不明。 謎が謎を呼ぶ存在である。

怪異、この言葉が正に似合う。

 

なんにせよ攻撃してくるなら敵だ。

居合わせたStorm1達は迎撃する事にした。

 

 

「酷い目に遭うのは異世界に来ても同じだな」

 

 

Storm1は操縦桿を倒しながら呟く。

かつて、Storm2のぶっきらぼうな部下が欧州救援時にボヤいた言葉に似ている。

 

 

「嫌な事を思い出しますね」

 

 

護身用の右銃座に着く只野が言った。

銃座といっても銃手はビークル内で操作する為、安全だ。

外部を映すカメラ映像には、怪異チャンプル大盛りと弾道予測線となるレーザーラインが映る。

 

 

「前にも どこかで?」

 

 

左銃座に乗り込まされたウルスラが尋ねる。

狭い空間ながら眼下に広がるデジタル映像や操縦桿に興味津々だ。

 

 

「うん」

 

 

只野は短く言った。

思い起こされるのは、αやβの大群と地底探検だ。

 

 

「欧州でしょうか?」

「そんなとこ。 今は集中しよう」

 

 

戦闘中なので、話を打ち切った。

欧州でも地中移動してきたβの大群とドンパチした事はあるが、日本でもそうだった。

ただ、それを詳しく話をする事は無い。

異界の2020年代の話をしても理解を得られる保証が無い。

501部隊には笑われたし。 Storm1が証拠として提示した写真を見ても、やれカエルだの虫だのと無下にされたものだ。

わざわざ壁を感じる必要もない。 同時に虚しさを感じる事もない。

 

 

「電磁投射砲スタンバイ!」

 

 

Storm1が喝を入れるように叫ぶ。

改めて集中するふたり。 次に言われる言葉に耳を傾けた。

 

 

「敵はこちらに気付くだろう、マシンガンをいつでも撃てる様にしておけよ!」

「やっぱ機関銃は必要なんだって、ハッキリ分かるじゃないですか」

 

 

そして只野の言葉を無視しつつ、Storm1はカメラに映るレーザーラインをネウロイの群れに合わせる。

レールガン独特の主砲……筒ではなく"レール"が動き、同じ旋回砲塔に備わるマシンガンも動く。

 

 

「あれ? 勝手に照準が動きましたが」

「同じ砲塔に乗っかってるからね。 EDF製ビークルの悪癖だよ」

 

 

ウルスラにツッこまれ、只野がしょうもなさそうに説明した。

タイタンの副砲同様、同じ砲塔に備わるレールガンのマシンガン。

旋回すれば、同じように動く。 ネレイドみたいに自動補足機能等による捕捉や位置固定が無いので射手の技量、互いの連携が問われるのだ。

とはいえ。 ウルスラはEDF製ビークルに搭乗したのは初めてだ。

只野はソレを踏まえて説明する。

 

 

「もし接近されたらマシンガンの弾をばら撒くんだ。 レールガンは発射間隔が長く、機動力も低いから隙が大きい」

「分かりました。 操縦桿のトリガーを引けば撃てますか?」

「その通り。 操縦桿を動かせば、その方向に銃口が向く。 ただし、護身用故か射程が短いから注意ね」

 

 

EDF隊員は既に知り得ている事だが、レールガンは連続発射が出来ず乱戦に向かない。

どちらかというと長射程を生かして狙撃するビークルだ。

運用するなら、平原のような遮蔽物のない場所が向いている。

残念ながら、この場は そうとも言えない。

林や多少の家屋が並び、見通しも良いとは言えない。

だが、そこはEDFのセンサーを併用。

 

 

「神仏照覧ッ!」

「これ大和じゃないッス」

 

 

只野にツッコミをされつつ、Storm1は狙いを定めた。

岩や家屋、林に隠れて見えないネウロイを捉え、トリガーを引く。 刹那。

 

 

───ドンッ!

 

 

想像より軽い音と共に、電磁力で超加速した砲弾が放たれた!

レール方向に打ち出された弾丸は一瞬で岩や家屋、林ごと並んでいたネウロイを貫通! 粒子となり消えてしまう!

爆発のような派手さは、そこには無い。

だがしかし。 その貫通力やいなや、敵味方双方が驚愕するレベル。

 

既存の兵器に使われる火薬類の爆発音と異なる音、振動、なにより 人類が苦戦するネウロイをアッサリ葬った光景に驚くウルスラ。

 

 

「なんて威力……!」

 

 

魔女、魔力ナシでネウロイを葬る。

それが この世界において、どれだけ凄い事か。

故に疑念を抱く者がいるのは然り。

だが今、まさに事実として存在したのだ。

EDF。 異界の軍隊。 その技術力の片鱗だけでコレなのだ。

兵力が少ないにも関わらず、カールスラントを早々に奪還し、維持している実力と技術力は伊達ではない。

全盛期のEDFであれば、あっという間にネウロイをヨーロッパのみならず全世界から駆逐しただろう。

 

 

「むっ!?」

 

 

地面が揺れ、車体が揺れる。

Storm1は察すると操縦桿を引き素早く後退。

刹那、レールガンの車体があった地面からネウロイが盛り上がってきた。

センサーも、今になって反応する。

ゲームでもそうだったが、センサーは元より万能では無い。

地中移動している敵は反映されない。 アテにし過ぎると、このように面食らう場面も多い。

 

 

「この世界でも同じ目に遭うとは!」

 

 

だがやる事は変わらない。 殲滅だ。

 

 

「撃て!」

 

 

すぐさま只野がトリガーを引いた。

護身用のマシンガンが火を噴き、リスキルの如く怪異を銃火に晒す。

ウルスラも、慣れぬ引き金を絞って応戦する。

あくまで護身用機関銃とはいえ、かなり近い距離、なによりEDF製。 この世界の機関銃より高性能。

それなりの威力をもってして、ネウロイ装甲は抉れては怯み、一部はコアを破壊されて粒子にしてしまう。

それを遠方から観戦していた他の技術士官は、感嘆や驚愕の声を述べた。

 

 

「なんという威力だ。 説明は誇張でもなく事実であったか」

「あの機関銃、銃手も無しに自発的に動き撃っている。 いや、中で操作しているのか」

「凄い技術力だな」

「研究中の対ネウロイ徹甲弾をも遥かに凌ぐ威力ではないか、これは」

「あのサイズで。 やはりEDFは未来の……違う。 別次元の軍隊だ」

「機動力や柔軟性に劣るようだが。 それを補ってあまりあるな」

 

 

レールガンの実演を見て、ある者は目を輝かせ、恐怖し、メモを取る者もいれば己の技術及ばず落胆する者まで。

 

そんな彼らのフォローをするようだが、この世界にも凄いものはある。

ウィッチの存在の有無がある時点で、魔法の話になれば劣るのはEDFだ。

 

また、ウィッチ関係でなくてもトンデモ兵器が実用化されてる。

アニメではベルリン奪還作戦時、大型決戦兵器……陸上巡洋艦ラーテが投入されたのが その例だ。

全長39m、全幅11m、重量1000t。

全長25mのEDF製重戦車タイタンより巨大な誇大妄想兵器だ。

史実では様々な問題から構想のみで終了した兵器であるが、どういうワケかストライクウィッチーズの世界にて解決したのか、開発、投入された様だ。

そのスケールの大きさから、501部隊のバルクホルンは あの巨体で良く陸上を動けるな と驚いている。

その2連装砲の主砲は、ロケランの雨をもってして破壊不可能だったネウロイの壁を連続でブチ抜く威力があった。

副砲も複数取り付けられており、防御面も対ネウロイ傾斜装甲を備えマザーシップの砲撃の如く飛んでくるビームに耐えるほど。

 

だがそれらはタイタンも負けず劣らず。

走力は……負けているだろうが。

主砲のレクイエム砲は榴弾で、貫通力は無いもののビルをも吹き飛ばす威力。

固定機銃や副砲もあり、サイドのハッチからはグレネードをばら撒いたりミサイルを発射する。

防御面も高く、エイリアン前哨基地から繰り出される大砲撃を前に耐えつつ前進すらしていた。

量産もされている面を見ればEDFに軍配が上がるだろう。

 

…………別にEDFリスペクトをしたいだけではない。

事実を述べているだけだ(殴)。

 

 

「次弾発射準備完了!」

 

 

Storm1が後退しながら叫ぶ。

乱戦中ほど、装填準備時間が長く感じるものだ。

隊員なら、この苦しみが分かる筈。

 

 

「撃ってください!」

 

 

只野は、レールガン車体にまとわりついてきたネウロイをマシンガンで退け払いつつ懇願する。

 

 

「期待に応えよう」

 

 

そしてStorm1は冷静に対処する。

ネウロイが1列になるタイミングで、トリガーを引く。 刹那。

 

 

───ドンッ!

 

 

再び放たれた砲弾。

ほぼゼロ距離で喰らったネウロイは都合良く一掃。

 

……まあ、アニメでもリーネの対物ライフルで小型ネウロイの群れが一掃されてる描写があるからね。

それと比べたら無理はない。 なくない?

 

 

「クリア。 センサーに感ナシ。 周囲に敵影認めず」

「了解。 戦闘終了」

 

 

Storm1と只野は興奮するでもなく、静かにやり取りして取り戻した平和を噛みしめる。

 

会場は一瞬の静寂の後、歓声に包まれた。

 

 

「う、うおおおおお!!」

「凄い! 凄いぞEDF!」

「これがレールガンか!」

 

 

やがて、声はひとつに集約される。

 

 

「「「EDFッ! EDFッ!!」」」

 

 

拍手喝采の雷采止まぬ讃える声。

誘われるようにして3つのハッチが開けば、Storm1はやれやれといった具合だ。

只野は褒められた事が少なかったので、慣れぬ称賛に大いに照れる。

ウルスラは……技術に携わる者のひとりとして……それを最も間近で経験出来た者として、どこか誇らしく、嬉しく思う。

 

 

「さて。 このまま地底探検をしたいところだが、それは他の隊員に任せよう」

 

 

Storm1は指差して言う。

そこには蜘蛛型(脚は4つだが)地底戦用歩行戦車デプスクロウラーの群れが。

機械音を鳴らしながら、ネウロイが這い出てきた穴の中へと突入していく。

地底戦に開発されたが、地上でも強いビークルだ。 武装も火炎放射器やキャノン砲、ロケット砲と多岐に亘る。

 

そんな気持ち悪くも、頼もしいビークルにも目を奪われ、また歓喜し応援する連合の皆。

こうも喜ばれ……強さを感じてくれたなら、頭の固い上層部も黙るだろう。

して少しは平和になる筈だ。

 

Storm1と只野は、そう願った。

 




方向性に悩むも戻れない。
少佐 「データ(終了する為にも)交戦して下さい」
司令官「そうせざるを得ない。 逃げ切るのは不可能だ」
(作者) 「状況は最悪だ(殴)!」

諸悪の根源、黒海を潰して終わりとするか。
空気だったオラーシャからの刺客と悶着してから終わりとするか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

operation:Neptune
73.黒海へ。


作戦内容:
怪異が生まれし海。
今次大戦勃発の海。 黒海。
この海からやってきたネウロイは人類を圧倒し、欧州やユーラシア大陸へと侵攻を始めました。
ですが我々EDFにより欧州のネウロイは ほぼ一掃。
これにより余剰戦力が生まれた人類連合軍は、黒海方面へと戦力を集中。
今、黒海方面には再編成された国際黒海方面監視団のみならず、欧州の戦力が集結しつつあります。
人類側の攻撃が始まろうとしているのです。
人類連合軍による攻撃プラン立案、発動。
operation:Neptune。
それが連合とEDFの共同作戦名です。
持てる稼働戦力の大半を注ぎ込みます。
同時にこの世界で最後になる可能性がある作戦です。
只野二等兵は黒海方面へ向かい、現地連合軍と合流して下さい。
作戦開始日時、その他詳細は追って連絡します。
……世に平穏が訪れますよう願います。
備考:
WDFも参加。
先ずは黒海方面へ。
フラグ建築士。

※作中に出てくる様々は、あくまで作者と作中の妄想で構成されています。
その為、時期や歴史、土地や兵器群、人物が実際のモデル等と異なる可能性があります。
(何度目かの注意事項を繰り返して許しを乞うスタイル)



◆黒海方面

 

展示会終了及び各方面へのEDF製ビークル輸送が落ち着き、早数ヶ月。

 

1940年6月辺りに行われていたダイナモ作戦などの欧州における大規模撤退作戦敢行中、EDFが突如としてカールスラントに現れてから人類は電撃的に巻き返し続けてきた。

アニメ3期でベルリンを奪還したのが1946年春なのを考えると、約5年くらい短縮したのではないだろうか。 かなり電撃的である。

 

……はい、そこ。 第501統合戦闘航空団が結成されたのは1942年と少し未来じゃないかとか、ウィッチ達の年齢とか、他にも様々な作戦と情勢を考えるとオカシイ矛盾とか言わない(殴)。

 

とにかく。

怪異を押し返す波濤の反撃は続き、とうとう舞台はヨーロッパとアジアの間にある内海、黒海へと移る。

 

黒海……亜硫酸化合物の沈殿の為、海底が黒く見えることから この名があるという。

が、ネウロイの巣になっている現状、暗雲立ち込める様が由来と言われた方がしっくりくる。

大戦が始まった大元がここだというから、人類が挑む心境は魔王城攻略とでも言うべきか。

 

さて。 この海岸手前には連合軍が集結しつつあるワケだが。

理由はブリーフィングをした隊員なら……いや。 しなくても分かるだろう。

魔王城を堕とす為の大攻勢準備だ。

 

欧州南東部に位置する多民族国家であるオストマルクには、未だネウロイが散見するが、そこは連合軍の別働隊が対処中。

オラーシャ方面から横槍を出しそうなネウロイに備えては、502部隊や他部隊が塞き止める。

対して主力、本隊は黒海に割り振られた。

 

そのカールスラント側、近い海岸手前の地には、欧州各国から運び込まれた物資が積み上げられ、戦車隊が並び、別方向には戦闘機が並んで壮観だ。

EDF製の戦車やコンバットフレームも混ざり、連合軍にアクセントを加えた上で何個師団かという規模。

中には扶桑からの援軍も見受けられ、本気度が伺える。

流石に陸戦戦力が海上戦闘に参加出来ないが、ある理由として海岸に蠢く怪異を倒したり、逆襲してくるヤツから身を守るのに陸戦兵器が必要故に。

 

その様子を高台から見た501部隊の宮藤軍曹は「わぁ」と息を吐いてから感想を述べた。

 

 

「凄い。 軍人さんって、あんなにいたんだ……あっ、扶桑にも戦車ってあるんだ。 欧州のと比べると弱そうだけど」

「……宮藤」

 

 

その隣、たまたま居合わせた只野がチカラなく声を掛ける。

 

 

「それ、坂本少佐に聞かれないようにな」

「わっ! 只野さんもいたんですか!」

「いたよ」

 

 

子どもらしく破顔する宮藤。

戦争中でも、こういう時くらい笑顔でいて欲しい。

只野は薄笑いを浮かべつつ、しかし、これからの事を思い言う。

 

 

「戦争が始まった、諸悪の根源の黒海。 そこに巣食うネウロイを倒すワケだからね。 扶桑からも遠路遥々来たんだよ」

「そうなんですね」

 

 

あっけらかんと話す2人だが。

欧州と扶桑は遠く、そう簡単に増援を送れる距離間ではない。

それでも僅か数ヶ月単位で欧州に歩兵や戦車、その他 火砲や物資を送り込こめたのはEDFの輸送機ノーブル隊やエピメテウスの海上護衛幇助あってこそ。

 

扶桑以外にもEDFが協力した輸送計画はあるのだが「どの国にも軍部の腐敗臭がしました」とは少佐とオペ子の談。

優位性を保ちたいとかプライドを理由に他の国の手助けはいらんだの、ウチがこうするからソッチはこうしろとか、費用はソッチ持ちねとか。 あとは人種、国の差別。

 

戦略情報部は各国と調整するのに苦労したが、何とかした。

 

今までの功績、WDF拉致未遂事件を引き合いにしたり。

扶桑に関しては「ウォーロック事件の時に助けたろお宅の軍艦をよおぉ?」という他、欧州各国には「アントウェルペンを防衛したんだよこちとらよぉ?」といい、金に煩い連中に対しては、その際にかかる被害予想額を提示する事で黙らせた。

その意味、金勘定勝負では506A部隊の黒田中尉も参戦出来そうである。 守銭奴だし。

 

連合は相変わらずだ。

食えないプライドを振りかざし、前線を混乱させようとする。

ナニが哀しくて足の引っ張り合いをするのか。

感情のまま生きて良いなら、Storm1がテンペストミサイルを連合本部に直撃させているレベルだ。

 

因みにアントウェルペンに放置している鉄屑ことバルガに関してツッこまれた時は説明に困った。

1940年代、まだ大艦巨砲主義の思想に似たものを信じる輩がいるだろうからと喜ばれると思ったが、流石に非武装の移動式巨大クレーンは迷惑なのだった。

まぁ……ナニ言われても、不法投棄したブツを回収する予定は無い。

それに実績を盾にする。 氷山型ネウロイを倒したワケだし。

 

 

「聞いてないの?」

「聞いたような。 何故か記憶が曖昧なんですよね」

 

 

そう言い「うーん」と唸る宮藤。

EDF隊員の只野は少し気まずい。

恐らく、また記憶処理されたかナニかされたのだ。 その影響だろう。

 

 

「まあ なんだ。 たむろしているのは陸軍みたいだけど。 宮藤や坂本は海軍なワケだが……陸軍に知り合いは?」

 

 

誤魔化す様に言う。

相変わらず、階級の垣根を超えているような、ある種 恐ろしい会話をしているが庶民派宮藤は気にせず会話を続ける。

 

 

「いません」

 

 

キッパリ笑顔で言われた。

残念ながら、中島や諏訪とは会っていない様だ。 忘れているだけの可能性もあるが。

 

 

「そ、そうか。 これから出来ると良いな」

「へ? なんで ですか?」

「……友だち的な意味で」

「そうですね。 ウィッチの子もいるみたいですし」

 

 

宮藤の天然ぶりを発揮されると、調子が狂う。

ラジオでの某知り合いのウィッチ……赤ズボン隊のフェルナンディアとのやり取りでも「私は友だちじゃないの?」という問いに対し「友だちだったんですか?」と冷たい言葉を平然と放っている。

宮藤は優しく真面目な良い子だが、天然ぶりは時に常人を恐怖させる。 あと オッパイ星人ぶりも。

 

ついでに恐怖を感じること少し。

 

 

「501は少し離れた所で寝泊まりしてるんですけれど。 509も、沢山ここに来ているんですよね?」

 

 

マトモそうな話題になり、胸をなで下ろす只野。

 

 

「そうだよ。 航空ウィッチだけじゃくて、陸上戦力も充実しているからね。 参戦するのは当たり前みたいなモンさ」

 

 

そう言うが、その509の大勢の中にはWDFの2人も混ざっている。

元々WDFに対抗する為に509が創設されたようなものなのに、今は黒海を攻略する為に共闘するとは。 皮肉だ。

 

 

「ただ、この作戦が終わったら解散する予定だって」

「えっ! そうなんですか!?」

「509はWD……カールスラント本土防衛の為に設立されたけど、黒海のネウロイさえ倒せば欧州はネウロイからの脅威から解放される。 勿論、東のオラーシャや、南東のオストマルクにもネウロイはいるけど、それは他の部隊に任せるんだ」

 

 

危うく本当の設立理由を言いかけたが、なんとか誤魔化した。

解散に関しては、EDFが この世界から撤退するにあたり協力してきてくれた連合兵士達をキャトルミューティレーション……じゃなかった、連れていくワケにはいかないから。

ネプチューン作戦が終わったら、彼らは母国ないし原隊に復帰する予定である。

 

 

「501の解散話は?」

「聞いてませんけど、ブリタニアの脅威は去りましたから……たぶん」

「そうか。 509と同じタイミングかもね」

 

 

少し暗くなる宮藤。

部隊を家族同然に想う者もいる。

それが解散となれば、各国の原隊に皆は散り散り。 お別れだ。

 

そんな感じに落ち込む宮藤を、只野は不器用に励ました。

 

 

「連絡は取れるんでしょ」

「はい。 そのはずです」

「なら、また会えるさ。 その為にも……黒海のネウロイを倒そう」

「はい! 頑張りましょう!」

 

 

ネウロイがいなくなれば、皆と会いやすくもなるだろう。

なにより、平和が訪れる。

やる気を出して明るくなった宮藤。

只野はニッも笑って頭をグリグリと撫でてやった。

こうしてると親子……妹……というより。

 

 

「犬みたいだなぁ」

 

 

思わず溢れる言葉。

忘れる事もあるが相手、軍曹である。 ウィッチの最低階級とはいえ、加えて正規訓練を受けていない元民間人とはいえ……軍曹である。 結構、偉いのである。

その者に犬。 これまた坂本には聞かせられない。

あいや、既にEDF隊員をある程度知り得ているから怒らないかも。 色々と今更ながら。

 

 

「もー! なんですか犬みたいって! 使い魔は そうですけど!」

 

 

宮藤は ぷんぷん 怒った。

そんな姿にも癒されながら、只野は撫でくり回す。

 

 

「はいはい可愛いよ」

「むっ……むぅ〜ッ」

 

 

怒りと嬉しさが混ざって、赤くなる宮藤。

それもまた可愛くなる只野だったが、沢山いる兵士に いつ見られるかも分からない。

只野は手を離した。

 

 

「あっ」

 

 

名残惜しげに甘い声。

怒っていたのに、急に切なくなって。 宮藤は何とも言えない気分になる。

父親とも母親とも違う、相手への この感覚は、501にいる間も味わった事がない初めての感覚だ。

 

 

「そろそろ行くね。 警邏中だし」

 

 

という名の散歩ではあるが。

あまり宮藤軍曹と居て、他の兵士に見られて噂されても困る。

特にWDFの軍曹と曹長にバレたら軽く半殺しの刑に遭う。

 

 

「あの」

 

 

宮藤が呼び止めた。

 

 

また、会えますか

 

 

只野は何も言わない。

代わりに微笑み返して、この場を去った。

 

 

 

 

 

ーーーーーEDFーーーーー

 

高台を後にし、多くのテントや装甲車、兵士とすれ違いながら海岸近くまで歩いた只野二等兵。

これから黒海のネウロイに挑むに当たり、敵の姿を見ておきたかったのだ。

既に同じ想いか、多くの将校や暇のあるウィッチと兵隊が横に並ぶように海……特に上空の巨大な暗雲を睨む。

 

 

「多いな」

 

 

少しでも前で見たいのと、WDFとのいざこざで連合兵と並ぶのに躊躇った只野。

他の場所を見渡して、1箇所だけ空いている部分があった。

 

 

「おっ。 空いてんじゃん」

 

 

そこは長いコートを着た、1人のお姉さんウィッチがいるだけだ。 そこに行く事にした。

 

お姉さんウィッチの階級や立場は知らないが、只野は気にせず隣に立つ。

ただ共に同じ敵を見据えるのみだ。 それ以上でも以下でもない。

 

だから、互いに見たり聞いたりする機会が無くても関係ない。

そのはず だったのだが、しばらくして。

 

 

「貴様、EDF隊員か」

 

 

相手が沈黙を破った。

 

 

「はい そうです」

 

 

淡々と訳文の様に答えながら、横を向く。

鼻の上、横に傷跡があるスカーフェイスのお姉さんと目があった。

 

 

「奴ら怪異も突如として現れたが、それは お前達もだ」

「何が言いたい」

 

 

只野は機嫌を悪くした。

連合の分からず屋は上層部だけで十分だ。

 

 

「そう言うな。 ただ聞きたい事があるだけだ」

「だから言ってるんだ、何が言いたい」

「お前たちも私達からしたら怪異だ。 姿形こそ同じ言語を話す人間だが、技術も能力もまるで違う。 エイリアン、とも形容するべきか」

 

 

成る程、と只野は怒りより笑いが出る。

強ち間違いではない。

技術格差が酷い。 兵器の質も兵士の練度も比べ物にならない。

戦にさえ備えれば、束になられたところで鎧袖一触だ。

 

 

「だろうね。 なんならバケモノさ」

 

 

自傷気味に言うのは、少しは均衡を保ちたいからだ。

言葉通じぬバケモノより、通じるバケモノだとアピールするぶんは、互いに利用し合える仲で済む。

互いに踏み込まないし、踏み込ませない。

下手な干渉を避けたいし、これ以上の半端な馴れ合いと殺し合いは無用だ。

 

特に只野は連合兵を手にかけた。 WDF拉致未遂事件の際だ。

やむを得なかったが、もう無駄な殺し合いは御免だ。

それは勿論、WDFの軍曹ちゃんが ジークフリート線や他戦線で やらかした無差別殺傷も二度と御免である。

 

 

「そうだな。 私が言うのもなんだが」

「間違いじゃない。 魔法使いと呼ばれた方が可愛いとは思うけど」

「可愛い事を言う」

「なら可愛く振る舞おうかな」

 

 

機嫌の悪さも何処へやら。

互いに笑みを見せ合うくらいには仲良く出来た。

その和んだ空気のまま、彼女は会話を続ける。

 

 

「私が戦う理由は世界平和の為だ。 その為に怪異を、ネウロイを消し去り続ける。 その為に戦い続けている。 十匹、百匹、千匹と倒せば いずれ戦いは終わる。 お前は何の為に戦う?」

「なれば、我は願いを叶える補助者じゃ。 故にその手伝いをして しんぜようぞ」

 

 

おちゃらけて、お伽話の魔法使いみたいな言葉を使う只野。

背負っていたTZストークを手に持つと、魔法の杖に見立てて ごにょごにょと魔法を唱えるように振舞って見せた。

TZストークの銃身独特の、発光しているように錯覚させる水色のラインが揺れて幻想的だ。

お姉さんはクスクスと笑う。 良いムードだ。

 

 

「ふふっ……それとも神様かな?」

 

 

厳格そうな顔もすっかり解け、可愛い顔を見せるお姉さん。

が、"神"というワードに反応した只野は しんみりと返す。

 

 

「"神は死んだ"よ」

 

 

神は死んだ。 英傑が殺した。

 

 

「? ニーチェ、哲学か? 科学的精神の……君たちEDFにとっては そうかも知れないが」

「いや……分からないなら良いんだ」

 

 

ぎこちなく言って、話を打ち切った。

無理に干渉する必要もない。 互いに。

 

 

「なぁ」

 

 

それでも話を引き延ばすように、風と共に流れそうな只野を引き止めるように。 お姉さんは聞いた。

 

 

「君の願いは、なんだ?」

 

 

只野は一瞬キョトンとして、しかし考えるまでもなく答えてあげた。 おちゃらけて。

 

 

「ふぉっふぉっ。 お主と同じく世界平和じゃよ?」

 

 

それもまた、嘘ではない。

だけど。 お姉さんとは意味が大きく違うのだ。

 

お姉さんには、それが分からない。

だからか。 呆れたように、だけど嬉しそうな顔を浮かべる。

初対面の男に、ここまでリラックスして……いや、好意を持って話をした事は無かったかも知れない。 つまるところ、胸をコンコンと温めてくれる この感覚が好きだった。

 

 

「ハンナ・ウルリーケ・ルーデル。 階級は大佐だ」

 

 

だからこそ名乗った。 名乗られた。

 

お姉さんは まさかの カールスラント4強のひとりにして、世界最強の地上攻撃女王、ルーデル大佐だった!

 

欧州戦線で戦い続けてきた女傑で、幾度に及ぶ被撃墜にも屈しない不屈の魔女。

もっというと、ネウロイの勢力圏ド真ん中に墜落、大怪我しても生きて戻ってくる異能生命体。

また今となってはカールスラント空軍 第二急降下爆撃航空団司令。

司令で要職だし、20歳超えて あがりを迎えてシールドが張れないにも関わらず、自ら先頭に立って戦ったりする。 無断出勤。

他にもヤバいエピソードとして皇帝直々に金柏葉剣ダイヤモンド付き騎士十字章(ルーデルの戦果がヤバくて、特別に新設された専用の勲章のようなもの)を授与されると共に前線から退くよう要請された時「二度と私に地上勤務をしろと言わないのであれば、ありがたく頂戴しましょう」と言上、居並ぶお偉方を青ざめさせたりしている。

 

 

「そうなんだ。 じゃなくて、そうなんですか」

 

 

ところがこの男、そんな人とも知らず呑気に振る舞う!

 

階級を持ち出されたから、一応敬語に切り替えとこう程度の認識の只野。

変なところで怖いもの知らずだ。 無知ともいう。 相手が気にしてないから良いものを。

 

うん、まあ……ルーデルの戦果を知っても特別驚かないかも知れないが。

EDFには もっとヤバいバケモノがいるから。

 

神殺しの英傑。 誰とは言わない。

 

 

「名乗ったんだ。 名乗り返して欲しいな」

「"ただの"兵士ですよ」

「答えになってないぞ」

 

 

本当なんだけどな、と苦笑しつつ。

体を向け背を伸ばし、敬礼しつつ名乗った。

 

 

「全地球防衛機構陸軍 日本支部 欧州救援隊 Storm1麾下【只野 仁】二等兵であります!」

 

 

わざとらしく長々と。

お姉さん……ルーデルはキョトンとして「そうかそうか」と笑みが零れた。

 

 

「只野、答えになってたか。 これはやられた! しかも二等兵ときた……ふふっ」

「つまり"ただの"兵士。 その他大勢のひとりですよ」

「いや? 只野は面白いヤツだ!」

 

 

気に入られたらしい。

なんにせよ、美人が笑顔になってくれるのは悪い気はしない。

 

 

「二等兵だなんて謙遜を。 "ただもの"じゃあるまい」

「マジで二等兵なんだけど」

「勲章は?」

「貰った事ないね」

「……昇進の話は?」

「来ないね」

「…………EDFでは、只野のような男が普通なのか?」

 

 

フィーリングに見えて、理論家の彼女は考え込んでしまった。

 

話だけならルーデルとは真逆の只野。

階級は雲泥の差。

勲章総なめ者と無勲章者。

なのに この余裕の振る舞いは。

 

軍隊という枠組みで考えているようだが、そも連合軍とEDFは まるで違うから比べない方が良い。

それを伝えるかの様に只野は言う。 誤解を解く為としてだが、余計だった。

 

 

「俺より後に入った徴兵組でも階級が上になったヤツはいるよ。 でも俺が二等兵なのは、訓練課程を修了してないからだな」

(だが新兵ではあるまい)

 

 

Storm1よりマシだと思うが。

彼は民間人の時、仕事として基地に訪れたら戦争に巻き込まれ、なし崩し的に戦争に参加した経緯があるので。

只野の場合、ほぼ入隊直後に戦争に巻き込まれた。

して地平線を埋め尽くす様にして押し寄せる怪物相手に、触って間もない銃を振り回して必死の抵抗。

その後、続く戦争の中で ぶっつけ本番のビークル操縦や銃火器取り扱いを学び、今の戦闘技術を身につけていった。

それでもまだ、僅かながら訓練していた分、良かった方なのだろう。 たぶん。

 

ただ、軍隊という実力主義というか、その中で戦果を上げているなら訓練を修了してなかろうと階級は上がって良い筈な気がするのだが。

そうでなくても、軍務に従事し続けてるなら一等兵以上になっていても……。

 

 

「しかも逃げ出しちゃったんだよねー」

 

 

補足するように只野が言った。

余計な混乱を招いている気がしてならない。

 

 

(……未訓練。 軍人というよりほぼ民間人として。 逃げるのも無理もない、か?)

「でもさ、仲間が助けてくれて。 だから俺も仲間の為に逃げちゃダメだーって思って戦う決心をしたんだな」

 

 

間違ってないが、間違ってる。

説明過程が所々飛んでいる。 決心してから戦い始めたみたいになってるが、その前から ずっと戦っていたからね。

ちょっと悪い夢を見ただけさ。

 

 

「そうか。 やはり、お前は強いんだと思う。 昇進しないのが不思議だよ」

「目立った戦果を上げてないし」

 

 

謙遜するが、普通にドローンやら怪物やらを倒しまくっている。

この世界においてはネウロイを何体も倒してきた。

ただ、他のEDF隊員と比べて飛び抜けた戦績ではないと言うだけだ。

 

 

「私から言ってやろうか。 せめて……」

「いや良いよ。 今の地位に甘んじるさ」

「私も無理にとは言わないが」

「そうそう。 こうして のんびり美人と話せるワケだし」

「おいおい。 私の願いを叶えるんじゃないのか?」

「そうじゃった。 こりゃ失敬。 さっそく準備に取り掛かろうかのぉ」

 

 

また おちゃらけて、只野は話を終わらせる。

今度こそ、ルーデルと お別れだ。

次に会えるかは分からない。 戦争だ。 死ぬかも知れないし、兵隊の数も尋常じゃなく集まっている中だ。

こうして会えたのは、奇跡のひとつなのである。

 

 

「只野」

 

 

背中を小さくしていく彼に、ルーデルは言っておく。

激戦の中で部下の命を幾人を救ってきたのもある。

彼もまた、彼女の中では初対面ながら既に部下のようであり……いや。 特別な感情が芽生えてたから。

 

 

死ぬなよ

 

 

短くも、重くて想いのある意味。

 

 

「甘んじるというなら、戦死による二階級特進は許さない」

 

 

只野は後ろ向きのまま片腕を上げて、手を振った。

反応してくれた事に、ルーデルは柄にもなく嬉しくなった。

 




手の込んだ自殺?

キャラ崩壊とか、歴史上のツッコミには対応出来ません(殴)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

74.ニンゲンを食べた魔女の話。

作戦内容:
現在、連合軍との調整中です。
陣地警戒の任に当たる隊員は、引き続き地上及び空からの襲撃に警戒して下さい。
備考:
魔女の価値と兵士の命を天秤に。
重い話。



◆黒海方面

 

夕暮れの薄暗、逢魔時。

烹炊の焚火が灯として点々と闇を照らす中、怪異に備えるのもまた兵隊。

魑魅魍魎は時と場を選ばず現れる。 可能な対策は限定的でも打つべきで。

特に闇深き刻、漆黒に染めて這い寄る怪異の認知は至難の業。

事今は睡魔と戦いつつの見張りが周囲を見渡す。

昼夜寒暖と循環過程に慣れぬ兵士たち。 瞼を擦り、己が命も時に無防備に晒す様が見受けられるのは、黒海沿線に来て皆 間もなくやむを得ない。

 

対してナイトウィッチは、宝石箱をひっくり返したように散りばめた輝く星の下を飛行する。

501のサーニャ、504から出張る形でのハインリーケ、カールスラント四強のハイデマリー。

他、EDF製電子装備のモブウィッチーズが夜間哨戒に当たっている。

 

そんな、吹けば飛ぶ静寂の夜だった。

 

只野二等兵は この時間になって、またも外をブラついていた。

所定の場所もなく、適当に警邏しとけ と投げられていれば仕方ない。

彼以外にも警邏しているMPはいるのだが、なにぶん兵隊の規模が規模だ。

規律守らぬ馬鹿は少ないと信じるが、新兵もいるし未成年のウィッチも混ざる。

ムラムラして夜這いするような命知らずがいたら即処刑……じゃなかった、処罰しなければならない。

 

 

「眠いなぁ」

 

 

が、今は暇に加えての睡魔にボヤく。

大戦中、夜間奇襲作戦時のオペ子みたいな事を言う。

命を懸けている最中に、あまり不真面目な態度を見せるのは良くないが、今は そこまで切迫していないが故に。

 

 

「うん?」

 

 

と、目につく子が。

焚火にウィッチや兵士が寄り添い、食事をとる中、1人だけ距離を置くようにして……暗がりでモソモソと食事を取るウィッチ。

痩せていて、元気がない。

他の者は気づいてないのか、敢えて そっとしているのか、声を掛ける者はいない。

 

 

「喪女ってヤツ?」

 

 

あまり馴染めないのか。

だとしても、これから大戦をするにあたり協調性は大切だ。

もしくは死に別れを辛く想い、馴れ合いを避けてる可能性もあるのだが。

或いはイジメか。 ウィッチの階級が高いとはいえ、ハブられない理由かゼロではない。

 

 

「行くか」

 

 

只野は話しかける事にする。

警邏が任務であり、これは任務の内だと言い訳して。

 

 

「君、どうしたんだい。 具合悪いなら医療テントに連れてくよ」

 

 

声を掛けられたウィッチは、ビクッとして顔を見上げ……また視線を下にしてしまった。

ただ 今度は食事を止めてしまったのを見て、何か蟠りがあると察し、隣に座る。

 

 

「隣、座るね」

「…………」

 

 

こくり、と頷いてくれた。

反応するというのは、只野に何か救いを感じているのだろうか。

 

 

「俺、只野。 EDF隊員なんだけど警備中でね、暇なんだ。 ちょいと付き合って」

 

 

こくり、と頷く。 言葉は無い。

でも只野にとってもウィッチにとっても十分な関係だった。

 

 

「ごはん、マズい?」

 

 

ふるふる、首を横に振るウィッチ。

マズくはない、と。

でも食事の手を止めたまま。 何か食事に想うところがあるのか。

見たところ、カールスラントの兵食である えんどう豆のベーコン添えだった。

 

 

「どれ」

「あっ」

 

 

只野はウィッチのスプーンを取って、勝手に彼女の分を一口。 ウィッチは反射的にだが初めて声を出す。 可愛らしい、女の子の声。

 

……あとコレ、間接キスなんだけど。

たぶん大丈夫……たぶん。

 

 

「うん、美味しい。 ここのは塩味が整っていていて良いじゃない。 ベーコンも増し増しで」

 

 

笑顔を向けて適当な感想を述べているが、他のベーコン添えを食ったことがない。

ただ、少なくとも、間違いなく、魔女料理よりは美味いと確信している。

 

 

「……EDFが、食料とか。 調味料を調達してくれたから」

 

 

火元の方でパチパチと小さく爆ぜる音。

その心地良い音に誘われるように たどたどしく、だけど ようやく喋り始めるウィッチ。

どうやら、EDFは糧秣にも関わっているらしい。 連合軍も仕事をしているのだろうが、不甲斐なく感じる。

たぶん、連合軍は兵糧を甘く見ている。 それをEDFの情報部や本部が嘆いて、支援した形であろう。

 

 

「そっか。 俺は補給部隊じゃないから分からないけど。 護衛はした事があるから、大変さは 何となく分かる」

 

 

そう言う只野に、ウィッチは顔を上げて見つめてきた。

綺麗な顔だったが、どこか目が死んでいる。

只野は引く事も驚くワケでもなく、見つめ返した。

心の言葉を吐ける相手になってやろうと。 それくらいなら出来るぞ、と。

 

 

「じゃあ」

 

 

その想いを受け止めてか。

ウィッチは小さな口をモソモソと、震えながら。

 

 

「飢えたこと、ありますか?」

 

 

そういって……続きを語る。

 

 

「ヒトを……ニンゲンを……食べたこと、ありますか?」

 

 

ガタガタと震え始めながら、でも自力で、自分の言葉で言う。

その意味は救いを求める声である。

 

 

「聞こう」

 

 

只野は怯えない。 悲惨な目には、先々で散々に経験した。

今更に、人間の血肉が飛び交う光景を思い浮かべようと実際に見ようと常人ほど竦まない。

飢えた事だってある。 エイリアンの空挺部隊に囲まれて、孤立した時は酷かった。

飢え死にするくらいならと吶喊した仲間がミンチになるサマも見た。

 

でも、きっと彼女は。

それ以上に恐ろしく……飢えていたのだ。

 

だって、ニンゲンを食ったかどうか、聞くくらいなのだから。

 

 

 

 

 

ーーーーーEDFーーーーー

 

戦争で死ぬ。

射殺、爆死、焼死、溺死、蒸発。

国や家族の為に戦い、武運拙く壮絶に死ぬ。

その中で敵を打ち倒し、例え死んでも勇敢な者として存在できる……。

 

そんな生易しいモノじゃない。

 

誰もが壮絶に死ねるワケじゃない。

ウィッチのように花形として生きる、敵を打ち倒して武勇伝にする……それが出来る者は多くなく……。

 

いや、そうじゃない。

そうじゃ……ない。 言いたいのは。

 

戦死する数よりも、別の要因で死ぬ数を考えた事はある?

 

その要因。

病気、仲間内での殺し合い。

 

それから……餓死。

 

撃ち合いで死ぬより、寧ろ病気や餓死の方が多い。

 

 

「わ、私は。 ここに来る前はオラーシャの戦線にいました」

 

 

オラーシャ。 ユーラシア大陸の殆どを国土に持つ大国。

 

 

「怪異が。 ネウロイが攻めてきて。 倒すには魔女のチカラが必要だって。 それで志願して」

 

 

適正があったから自ら志願、厳しい訓練の後、すぐネウロイとの戦闘に投入された。

部隊の仲間内の雰囲気も悪くなくて、簡単な仕事さと励まされたし、守ってくれた。

きっと大丈夫。 そう思えたし、勇気が出た。

それで皆と戦って、怪異を倒して皆のチカラになるんだって。

 

 

「でも。 戦争を私は知らなかった」

 

 

初めての戦争が始まった。

ビームが飛んできて、先ず1人が死んだ。

次に私を庇って2人死んだ。

その次、私だった。 それで全滅だった。

呆気なく、苦しむ間も無く。

 

それだけネウロイを甘く見ていた。

戦争を、舐めてた。

 

 

「でも運良く……ううん。 運悪く、私はユニットだけが壊れて飛べなくなっただけで」

 

 

雪の凍てつく大地に不時着。

怪我も大した事なかった。

でも、仲間を一瞬で失った衝撃が頭から離れられず、現実を受け入れられなくて、しばらく狼狽した。

 

でも、これは絶望の序章に過ぎなかった。

 

墜落地点は、ネウロイの勢力圏。

珍しい話じゃないけれど、墜落したウィッチやパイロットの生存率は低い。

ネウロイと、その瘴気に殺されるのが大半だから。

 

 

「それでも回収任務を遂行する兵隊さんが、命を賭けて助けに来てくれた。 嬉しかった」

 

 

普通の戦闘機パイロットよりも、ウィッチは貴重だから。

一般兵が何人か死んででも、ウィッチを助けるのは それだけ大切だから。

 

 

「でも……でも! 助けるの意味が……違ってくるの」

 

 

2人の兵士に発見され、一緒に撤退しようとしたけれど、吹雪に見舞わせて引き返せなくなった。

 

止むを得ず、見つけた洞穴で吹雪が去るのを待ったけれど。

中々止まなかった。 食糧も とうとう無くなった。

 

 

「私のことを……優先して食べ物をくれていたから。 兵隊さんは、もっとお腹が空いていたのに。 それなのに」

 

 

2人の兵隊さんは話し合って、2人とも泣き出して。

この時、まだ私は なんの話をしていたのか分からなかったけれど、泣いた理由を聞くのは 憚れて。

 

代わりに、2人はすぐ笑顔を見せると、こう言ったの。

 

 

「食べ物を持ってくる。 少し待ってて、と」

 

 

2人の兵隊さんは吹雪の中出て行って。

少しして……銃声が1発だけ。

 

怖くて、外を見に行けなかった。

どうしようか迷っている内に、1人だけ戻ってきたの。

 

 

「手に、血が滴る肉を抱えて」

 

 

生暖かった感触は、今でも覚えてる。

だけど、その時の私は空腹で考えてる余裕がなかった!

 

 

「貰った肉を生のまま貪って! 私は! 私は……その後、知ったのよ……!」

 

 

直ぐ外で、雪に隠すように横たわるニンゲン。

 

その腹部が、柔らかな部分が。

明らかに人為的に───。

 

 

 

 

 

ーーーーーEDFーーーーー

 

 

「もういい。 もういいんだ、頑張った」

 

 

現実に戻った時、誰かが彼女を抱きしめて囁いた。

温かい、だけど心臓の鼓動がトクン、トクンと心地良く伝わってくる。

 

 

「うっ……うぅっ……うわああああんッ!」

 

 

抱き返して、わんわん泣いた。

罪の告白をして、わんわん泣いた。

 

 

「ただのさんッ! ただのさん……ッ!!」

「よしよし、もう大丈夫だよ。 心配しなくて良いからね」

 

 

今まで誰にも話せず、苦しんでいた魔女。

仲間が死に、兵士の命を貰い、その罪に悶えながら彼女は戦い、ここまできた。

 

素直に称賛したい。

それも未だ10代にして、凄まじい経験のひとつをしてなお、記憶を保持したまま生き延びたのだ。

 

紛れもなく、彼女は強い。

故の夜の孤独を、只野は慰めた。

 

 

「そうか……彼女は」

 

 

気がつくと、周りには同じグループの兵士、ウィッチが囲っている。 聞いていたらしい。

慈悲深い目でしゃがみこみ、只野と同じように抱きしめ、頭を撫で、慰めながら指揮官と思われる年配者が言う。

 

 

「戦争が続く以上、辛い事は続くかも知れん。 だが、この戦争の先に光明が見えたかに思える。 EDFのお陰でな」

「ぐすっ……はい」

「今は俺たちがいる。 仲間がたくさんいる。 彼等と共に、近く怪異への総攻撃が始まるだろう。 そうしていけば、もう、君のように辛い思いをする子もいなくなる筈だ」

「はい……ッ、私、頑張ります……ッ! きっと、今度こそ皆の役に立って! 私みたいな子が出なくて良いように頑張りますッ!」

 

 

涙を拭いながら、改めて決意を表明した魔女。

記憶処理の話をもちかけようかとも思ったが、只野は閉口した。

罪を背負っていけると言うならば、無理矢理引き剥がす必要は無い。

只野自身もそうであるように、そうする事で前を向いて歩けるなら。

 

 

「只野さん。 ありがとうございます」

 

 

ウィッチは憑き物が取れたかのように、晴れ晴れとした顔で礼を述べた。

 

 

「礼を言われるような事はしてないさ。 話を聞いただけ」

「それでもです。 吐き出すキッカケになってくれました」

「そっか」

 

 

些細なすれ違い。

否、立ち止まって生まれた小さな罪の告白。

 

只野は牧師、修道者ではない。

慰めの言葉は持ち合わせていないけど。

 

存在だけで、武器となり心の支えになるなら、寄り添うのも悪くないと思えた。

 




ふとギャグ話を作りたくなったりする。
風邪を引きにいくスタイル(殴)。
アニメでもあった土偶事件、おっぱいハザード。
某閣下「おっぱいぷるんぷるんっ!」

……この局面で、俺はナニしたいんだ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

75.ぽよんぽよんハザード

作戦内容:
大変です。
黒海の駐屯地で、ウィッチ達が巨乳化していっています。
挙句に何者かに操られている様子。
ネウロイの仕業なのか謎ですが、このままでは作戦を遂行出来ません。
生存者は原因究明を急ぎ、事態の収束に努めて下さい。
備考:
ギャグ回。


◆黒海方面

 

アニメの土偶事件。

リーネが偶然見つけて基地に持ち帰った呪具の土偶により引き起こされた悲劇(笑)である。

伝統の7話(?)に起きたギャグ回で、土偶の呪いにより501のウィッチーズが巨乳化、操られるという話。

 

アレはホラーもの、特にゾンビホラーにあるあるな展開を踏襲しつつ、巨乳化というギャグワードで視聴者を困惑&笑われた。

豊穣の祈りとは……胸が大きくなる呪いならば、巫女として捕縛、儀式された宮藤は あのまま放置していたら どうなったのか。

ボインボインになってしまったとでも言うのだろうか。

 

とにかく。

かの忌まわしき事件は、リーネの活躍により大事に至らなかった。

それに当作中ではEDFの登場により、時期はともかく基地はブリタニアのままだし、そうでなくても黒海近辺で そんなアホな恐怖は発生しない……かに思われたのだが……。

 

 

「ケケケケケケケケケ!」

 

 

夜の黒海駐屯地に響く、魔女達の恐ろしげなオバケの様な声。

 

高台から見渡せば、巨乳の可愛い魔女達が上品に、時に下品に胸を張って揺らし、怪しい表情で痩せた貧乳魔女を揉みくちゃにしていっている。

さっき決意表明をしたばかりの子だった。

 

 

「実り足りない。 全然、足りない。 汝に実りを。 ケケケッ」

「いやああ! そんな、ああっ! いっぱい来ないで揉み揉みしないでぇ!」

 

 

それは飢えたゾンビが健康な人を貪ってる恐ろしい光景に似る。

悲鳴が夜に木霊する。 誰も助けにやって来ないまま、やがて悲鳴は小さくなり……聞こえなくなる。

無数の手が離れれば、貧相な胸を揉まれた魔女は皆と同様に豊満で実りあるボインボインになってしまった。

 

 

「ケケケッ! 豊穣の祈りがあれバ、飢えに苦しまずに済む。 ケケケッ!」

 

 

そして他と同様、怪しげな声を出して徘徊を始める。

 

その被害規模は8人とか9人とかではなく、とにかく いっぱい おっぱいだ。

509は皆ヤられたし、後方の501とは音信不通。 多分、アニメみたいに無線をヤられた。

駐屯地にいた男どもは無事かと言えばそうでもなく、豊穣の祈りとやらに巻き込まれて豊満な谷間に沈み込まさせては強制堪能コースで骨抜きにされている。

 

単刀直入に言う。

かの忌まわしき事件が、ここで起きた。

多少、状況が違うようだが。

なんという……なんということだ!

 

 

「馬鹿馬鹿しくも笑って済ませられないぞ」

 

 

高台から倍率スコープで眺めるStorm1はボヤく。

 

顛末は黒海駐屯地から「魔女達が ぽよんぽよん と暴動……いえ、反乱を!」と謎の救援要請が来たと思えば次には「ケケケ!」と無線から不気味な声が流れて切れたところから。

 

動けるStorm1、狙撃部隊ブルージャケット、偵察部隊スカウトと共に現地に向かえば……この通り。

おっぱいハザードが発生していたという。

 

松明を持った巨乳化ウィッチが所狭しと徘徊して、戦車の中やテントに隠れるウィッチを見つけては胸を揉み、巨乳化させて仲間に引き入れる。

それが男ならば、縄で縛ったり"オモチャ"にされている様に見えた。

ギャグ要素を抜けば、どこぞの寄生なハザードでもある。 おっぱいのペラペラソース!

 

 

「これでは黒海攻略どころではない」

 

 

Storm1は暗闇の中、テント村を見渡す。

死角となり見えない所は多いが、少しでも状況を把握したり偵察したいところだ。

 

 

「奴らとて、無意味に人を襲っているワケじゃないはずだ」

 

 

Storm1は予測を立て、敵がナニを目的としているか、最終目的はナニかを考える。

戦術、戦略を立てる時、敵の立場になるのも大切だ。

 

だが胸がデカくなって洗脳されるという、意味不明な状況は流石のStorm1も困惑する他ない。

エイリアンもビックリであろう。

 

 

「とにかく」

 

 

Storm1は仕切り直す。

 

 

「親玉がいる筈だ。 ソイツを潰せば……」

 

 

直ぐにリーダー的存在に気付き、行動に移る。 相手の視界を覗ける能力はないが、どこぞの試練風に。 慎重に、大胆に。

 

 

「ブルージャケット。 ライサンダーとイーグル班を遠方に分離。 KFF班は ここの高台から索敵だ。 スカウトは各自に任せる」

「「イエッサー!」」

 

 

指示を出し終えたStorm1は、続いて無線を繋ぐ。 それは駐屯地にいる筈の只野二等兵だ。

 

 

「只野、無事か? 無事なら応答せよ」

 

 

しばしのノイズの後。

 

 

「シャケケバァ……」

 

 

若い女性の、だけど不気味な声。

 

 

「ヤられたか?」

 

 

直ぐに諦めた。

駄目みたいですね。

ヤられていないにせよ、無線を盗られたなら連絡手段が無い。

 

 

「ヤツら知性はそのままか。 厄介だな、武器や装備を使ってくる恐れが……」

 

 

そう予想した矢先、機械音が鳴り響く。

スコープで探せば、輸送されていたニクスZCが動いている。 最悪だ。

 

 

「やれやれ」

 

 

そして、ナニかが、質量あるものが大きく跳躍してきた。

月光に照らされ、赤塗装の金属ボディが煌めく。

 

 

「こちらスカウト! コンバットフレームが向かってきています! 左手にマシンガンと思われる武装を確認、恐らく【レッドアーマー】です!?」

 

 

スカウトが悲鳴にも似た報告を上げた。

近接戦闘特化型ニクス レッドアーマーを確認したのだ。

これより強いレッドガードは強力な火炎放射器であるコンバットバーナーを両手に持つが、アーマーは左にマシンガン装備。 火炎放射の射程外に対しても多少対応出来る武装をしている。

加えて両肩には巨大散弾砲を搭載。 多数の徹甲散弾を拡散発射する恐ろしい兵器だ。

そんなマシンが高台に向かって来ているときた。 先程の無線を嗅ぎつけたと見える。

この状況だ。 恐らく509のウィッチがパイロットだ。 敵だ。

 

 

「呼びかけは自殺行為だった。 エイリアンとの交渉時みたいな結果を招いたな」

 

 

後悔先に立たず。

なんにせよ話し合いの余地は無い。

Storm1は無言でリムペットスナイプガンを構えて、トリガーを引いて応えた。

 

続いて月光を浴びながら。

巨乳になった白銀の子が、たくさんの巨乳ウィッチを引き連れて襲いに向かう。

そのサマは かつての飛行型の群れ。

だとしても脂肪の塊が揺れているだけだと、おっぱいが襲来する謎の恐怖に耐えつつ隊員らは戦闘を開始する……。

 

 

 

 

ーーーーーEDFーーーーー

只野二等兵視点

 

テントで寝ていたら、頭を柔らかな感触が包み込み、優しくぱふぱふ。

なんというか、心地良く気持ち良い……。

 

 

「って、息が出来ない……」

 

 

気持ち良くても窒息は勘弁な!

ナニか柔らかくて重量感あるモノが顔面を覆っているが、509のイタズラか?

だとしたら説教だな、窒息するイタズラは危険だぞ。

ガス遊びや首絞め遊びより安全だから、とか危険度の問題ではない。 やるなら枕投げに留めろ。

 

 

「とりゃっ」

 

 

手で柔らかいのを押しのけて起き上がり、素早く地底探検や夜間で使用したライトをつける。

 

 

「誰だい? 俺の寝首をかくヤツは」

 

 

そこに照らされたのは。

 

 

「は? シャーリー? なんで?」

 

 

包容力あるシャーリーが、そこにいた。

でも……デカい。 胸が。

元々デカいが、更にデカくなっている。

爆乳だよ。 奇形にならず綺麗にまん丸で張りがあるのが不思議だよ。 実はスイカ入ってるんじゃね?

スゲェ。 何カップあるのソレ。 てかさ、デカ過ぎて服のボタンが弾け飛んでるじゃん。 男の夢だよね。 ん? 夢?

 

 

「ナニこれ夢? 欲求不満からの夢? 夢精させようとしてるの? 性夢なの? サキュバスの仕業なの?」

 

 

命の危機に瀕すると本能的に子孫を残そうとすると聞いた事がある。

生理現象でナニか勃起してるし。 頑丈な戦闘服を押し上げてチ●コ痛い。

 

コレはそういう……ことなのか?

 

これから黒海で決戦を挑む緊張感から、シャーリーママとパフパフしてセッ●スしてママにしてパパになっちゃえという意味か?

いやぁ、でもさ。 俺には軍曹ちゃんがいるからね。

こんなの夢でもバレたら半殺しだよ。 だから御免。 夢なら早く覚めて。

 

 

「シャケケケッ(ビークル弄りに来たら、509の子に揉まれて大きくなったんだ)」

「ごめんナニ言ってるか分からない。 あと言葉の長さにバランスを感じない」

 

 

どこか懐かしいノリを感じつつもツッコんだ。

 

(なおシャーリーが呪い人にされる寸前、揉みに来た子と会話しているのだが)

 

 

『呪いなんか無くても、私の実りは充分さ』

『へ? でも最近垂れてきたよ?』

『……え?』

『やーい♪ 垂れ乳シャーリー♪』

『タレェッ!?』

 

 

(とまあ、アニメでのルッキーニとの会話そのままを行ってしまい、垂れ乳と言われて怯んだところを胸揉みされ……爆乳化した。

なんで509の子がシャーリーを知っていたのかとか基本「ケケケ」としか言わないのに、その時だけ喋れたのかとかツッコミはナシである。

なお、アニメでの衝撃発言は飽くまでも精神攻撃であり、実際は垂れていないらしい。)

 

 

「あー、こちら只野二等……あれ?」

 

 

無線で救援を求めようとしたら、耳元の無線機が無い。 どこいった?

したら答えるように、爆乳化シャーリーが何事か笑う。

釣られてみれば、見せびらかしてくる小さなイヤホンみたいな装置。

 

 

「シャケケバァ……(これなーんだ?)」

「俺の無線機じゃん!?」

 

 

寝てる間にパクられたか、くそぅ!

 

 

「返すんだ。 ワケ分かんない笑い声しやがって」

「シャケケ!(祈りを邪魔するだろ)」

「胸ばかりで まるで成長していない。 シャケシャケとフレークを言いやがって食いたくなるだろうがこのヤロー」

 

 

妙な夢だなぁ。

まあ、夢なら覚めるだろう。 うん。

開戦時も、そろそろ夢から覚めるとするかーと、ボヤいていた民間人がいたが。

あの人の心境は、こうだったのかね?

 

……結局、夢じゃ無くて現実で。 戦うしか無かったんだがな。

 

 

「じゃあ、これも現実?」

 

 

頰をつねる。 痛い。 覚めない。 駄目。

まさかの現実らしい。 現実の方がホラーだった。

 

 

「ケケケッ」

 

 

狼狽する俺を嘲笑うシャーリー。

更に強調するように爆乳を持ち上げて、近寄ってくる。

 

コレはヤバいんじゃね?

パフパフしてくれるのは嬉しいけど、バレたら軍曹ちゃんに殺される。

 

 

「く、来るなぁっ! 俺はまだ死にたくないいい!?」

 

 

枕をぶん投げて抵抗の意思を見せる。

例え童貞と罵られようとも、この一線を超えてはならない。 死ぬ。 僕は知ってるんだ。

あれ……なんか頭が痛い。

記憶処理された記憶が僅かに蘇ったのか。 嬉しくねぇ。

 

 

「ケケケッ!(大人しくしていろ)」

 

 

どこからともなく縄を持ち出してきたんだけど!? そんでル●ンダイブしてきたんだけど!?

エロいことする気でしょ! エロ同人誌みたいに!

 

 

「ヤらせるか!」

 

 

すかさず近くに立て掛けてあったTZストークの銃身を鷲掴み、そのままローリングして下を転がる。

 

 

「フーッ!」

 

 

ヤツは無人のベッドにインした。 そのまま寝ない? 無理だよね分かってます。

 

 

「フリーズ! MPだ、抵抗するようなら撃つ!」

 

 

適当な威勢を張り上げ、TZストークの安全装置解除、銃身に素早くライトを付けて構える。

状況は俺が有利。 これで降参すれば良いんだが。

シャーリーは「シャケケケ」とフレークを主張するばかりで塩対応だよ。 泣けてくるよ。

 

 

「くそっ」

 

 

ゆらりとベッドから立ち上がり、先程よりも服を乱して官能的に。

電灯に照らさせる彼女はエロい。 エロいけど、手に持つ縄が駄目。 どこのSM嬢だ。

 

いかん。 このままではヤられる!

無力化しなければ。 このまま外に出たら尻を掘られる危険性もある!

 

 

「縛って良いのは縛られる覚悟のあるヤツだけだぞシャーリー!」

 

 

だから反撃に出た。 正当防衛だ。

今度はローリングで、シャーリーに体当たりをかます!

 

 

「うりゃぁっ!」

「シャケェッ!?(馬鹿なぁ)」

 

 

吹き飛ぶシャーリー。

爆乳化で重心や重さが増していたとしても、その程度の脂肪で耐爆特性(耐吹き飛び)が付くワケでもあるまい!

 

EDF式に鍛えられた俺の体は自分で言うのもなんだが全身凶器だ。 最低、ガードレールをヘコます威力はある。

それをモロに喰らったシャーリー。

テントを壊し、外へと投げ出されては転がる。

 

 

「お縄につけぇ!」

 

 

俺は素早く近寄ると、縄を取り上げて縛って無力化!

これで意識を取り戻そうが身動き取れまい。 相手が悪魔なら杭を打ち込まないといけないのかもだが。

 

 

「ハァ……で、周りは どうなってるの」

 

 

周囲を見渡す。

松明持った魔女たち……509のモブウィッチーズが「ケケケ」と笑いながら這い寄ってくる。

何故か皆も巨乳化している。

ゾンビ映画のワンシーンかよ。 怖いよ。

 

なんか手をエロオヤジみたいにワキワキさせている子もいる。

 

ナニか。 噛まれて感染したというより、揉まれて感染? するのか。

なら男はどうするのよ。 ふぐり的マッサージされて大きくなるのか。 妖怪狸じゃないんだ、ヤメテ。

飛行型の巣程じゃなくとも、α型のタマゴ並み……って、考えるのはやめだ。 恐ろしくて身震いする。

 

 

「とにかく無線だ」

 

 

気を失うシャーリーの手から無線機を奪還し、改めて通信する。

 

 

「こちら只野二等兵。 誰か生存者は? 状況が知りたい、509の少尉は……って、いないよな」

 

 

開戦時、軍曹が仲間に状況確認を求めた時を思い出しながら言うが、諦めた。

あの時と違い少尉が怪物に喰われてはいないだろうが、巨乳化はしているか。

ああ、そういやルッキーニも少尉なんだよな。 あの年齢と性格で少尉……安い地位ではないと思うが。 それだけ才能があるのだろうな……そんな子が巻き込まれなくて良かった。

ロリ巨乳。 相手にしたくない。 ナニかと。

 

 

『こちらStorm1! 無事だったか!』

 

 

おお! 代わりに隊長に繋がったぞ!

 

 

「ナニが起きたんです。 ナンです このおっぱいの群れ」

『分からん。 だが親玉がいる可能性がある、ソレを探す』

 

 

親玉、ねぇ。

ソイツ、クイーンやキングみたいなヤツだったりしない?

 

 

「隊長は今どちらに?」

『高台でニクスと航空ウィッチと戯れているよ。 曹長ちゃんまでいる』

 

 

マジッスか……。

高台をTZストークのスコープ越しに見る。

見難いが集られている。

ああヤダね、飛行型の群れの光景を彷彿とさせるよ。

 

 

「援護に向かいます」

『いや、コッチはなんとかする。 それより親玉を探してくれ。 被害が黒海ではなく他国に及ばぬ内に』

 

 

サラッと怖いこと言わないでよ。

世界巨乳化。 好きな人は良いが……いんや良くないな。

厳密には違うらしいが、世界の半分は女性だ。 この巨乳化現象がウィッチ以外にも通じるのか知らないが、もしそうなら大変だ。

世界の半分が胸に支配される。 色々ヤバいって。 ナニかが。

 

 

「分かりました」

『それと、遊撃戦仕様のニクスZCがうろついている。 気をつけろ』

「ファッ!?」

 

 

またも衝撃が俺を襲う!

勘弁してくれよ。 ニクスは歩兵が正面きって戦える相手じゃないんだぞ。

しかもZC。

最終仕様の多局面近中遠対応装備。

装甲も火力も まるで違う。 会ったら逃げよう。 俺はグリムリーパー隊じゃない。

 

 

「気を付けて探します」

『こっちも なるべく早く片付けるが……時間がな。 スカウトとライサンダー、イーグル持ちの狙撃手が援護してくれる筈だ。 頼むぞ』

「了解」

 

 

そう言って通信を終える。

改めて周りを見る。 更に俺を囲む巨乳が増えた。

ヤベェよ。 頭と股間が痛いよ。 でもおっぱいなんかに負けないんだからね!

 

 

「数の違いが戦力の徹底的差で無い事を教えてやる!」

 

 

ローリングで蹴散らし強行突破!

ぽよんぽよんと変な効果音を撒き散らしつつも気持ちはγ型! もしくはボーリングの玉!

 

 

「一方的に弾かれる痛さと怖さを教えてやろう!」

 

 

相手、銃持ってないからな!

 

人間って醜いよね。

形勢が違うと特に。

 

無双だヒャッハー!

fooo! 気持ちい!

例えるなら、最終作戦仕様をeasyで振り回す快感かも知れん!

 

して俺らEDF隊員が調子に乗ってるとロクな事が起きないのを忘れていたよ。

 

だって夜の闇からヌッと青い完全武装コンバットフレーム……ZCが現れたんだからな!

 

 

「ヤベェ。 俺も教えられそう」

「ケケッ(調教の時間です)♪」

 

 

ミニオンバスターが欲しいところだった。

 

 

 

 

 

◆高台

小山の上。 月明かりの下。

Storm1と麾下 狙撃部隊員は奮闘中。

有翼型エイリアンの群れの如く編隊(変態)飛行、群狼で攻撃してくる509航空ぽよんぽよんウィッチーズ。

タチが悪い事にEDF製の銃火器を装備、高威力と高い命中率を見せつけてくる。

共に空駆ける曹長ちゃんに限っては、ウィングダイバーの光学兵器をバカスカ撃ってくる始末。

が、大きくなった胸部に慣れないのか訓練成績より遥かに悪い精度なのが唯一の救いだ。

ニクス レッドアーマーのパイロットも胸がつかえて上手く操縦桿を動かせず細かな動作を出せていない。

 

 

「ブルージャケットのチカラを見せてやれ!」

 

 

それを利用しないEDF隊員ではない。

皆は相手の技量を計りつつ近くの岩陰や、山である事を利用して稜線の陰に身を隠しつつ応戦。

暴徒鎮圧用の麻酔弾を撃ち込み、シールドを張られる前に撃墜、無力化。

時々、節分の豆撒きのようにコイン大の小型手榴弾スプレッド・グレネードを空中に撒き散らして一網打尽にした。

元々暴徒鎮圧用として開発された経緯がある為か、結構役に立っている。

 

はいそこ、KFFシリーズは大口径対物狙撃銃だろとかツッこまない。

 

 

「敵は不慣れだ。 殲滅するぞ!」

 

 

Storm1も容赦しない。

ぽよんぽよんウィッチーズをKFF班に任せつつ、コンバットフレームの無力化に入る。

通常、歩兵がニクスに立ち向かうのは無謀とされているが、歴戦のStorm1には十分可能域。

特に彼はエアレイダーだ。 兵装もレンジャーと大きく異なる。

 

レッドアーマーは、ぎごちなく動きながらもマシンガンを乱射しつつ接近。

そのままコンバットバーナーで丸焼きにする算段で来たが、

 

 

「甘いな」

 

 

Storm1は素早くプラネタリウムの様な球体の付く装置を設置、起動した。

それは横長の巨大なエネルギー壁を形成すると、マシンガンの弾を全て防いでしまう。

 

電磁トーチカの一種、ボーダーライン。

 

この巨大なエネルギー壁によりStorm1のみならず後方で奮闘する狙撃部隊も守る一石二鳥。

 

 

「ケッ!」

 

 

それに焦るように、両肩の巨大散弾砲から徹甲散弾が放たれた!

 

が、しかし!

 

例え貫通力のある、歩兵が喰らえばミンチより酷い事になる弾が飛んできても、エネルギー壁が防いでいく!

EDFのオーバーテクノロジーの一端だ。

だがコンバットバーナーによる高温は危険なので、Storm1は攻撃に転じた。

 

 

「ッ!」

 

 

リムペットガンを構え、即発射。

点滅する缶ジュース型の吸着爆弾がレッドアーマーの表面装甲に着く。

すぐさま起爆トリガーを引くと、ボカンと爆発。 レッドアーマーは怯んだ。

 

ニクスは爆発物からパイロットを守る為、装甲が堅牢だ。 だがレッド系は機動力確保の為に装甲が他機体より厚くない。

だからといって、爆発物を受けて即怯むとは限らないのだが。

この場合は中身のパイロットの胸が揺れてしまい、変な操作になってしまっただけ。

 

先程、まだ遠くの空の宙に浮いていた時。

ロングレンジ型のリムペットガンであるリムペット・スナイプガンを使用、起爆した時に相手の動作がおかしくなったのを見て試した結果だったが、上手くいった。

 

 

「隙あり」

 

 

次に構えたるは、座標を伝達する誘導装置。

それをレッドアーマーの機体に照射し続けて点が収縮した刹那。

 

 

『座標確認♪』

 

 

謎の女科学者の声がしたと同時。

一瞬だけ光の柱がニクスを貫いた次の瞬間。

 

 

ドッカァンッ!!

 

 

ニクスが爆発、バラバラに。

 

 

「よし。 ニクスは無力化したぞ」

「ケケケッ!?(今、ナニが起きたの!?)」

 

 

淡々とStorm1は言うが、見てしまったウィッチは目を白黒するしかない。

 

ナニが起きたのか。

空爆でもない。

一瞬だけ光の柱が見えただけ。

ビームか。 見上げてもナニも見えない。 夜空が広がるだけである。

 

分からないのも無理はない。

答えがスプライトフォール射撃モードなのだから。

 

EDF最高機密衛星兵器であるスプライトフォール、その収束モードが運用された結果だった。

 

衛星ビームの(正確にはナニかは知らないが)パワーを1点集中、瞬間的に照射。

ピンポイントへの攻撃となる反面、破壊力は凄まじく、しかし爆発せず一瞬だけなので 周りの被害も大きく考えずに済む。

またこのモードはシステムの負荷も少なく、再射撃に必要な時間も少なくて済む。

もっと撃っても良い♪

 

 

「……ケ、ケケ(そんなぁ)」

 

 

パイロットは緊急排出され無事だった。

ゲームではNPCは脱出出来ずビークルごと死んでしまう印象があるが、プレイヤーの場合は無事なので、緊急脱出装置の類がある事とする。 或いは直感的、反射的に脱出しているだけかも。

はいそこ。 御都合主義とか言わない。

 

ただ脱出したウィッチは、衝撃が凄かったのか目を回しているが。

 

 

「後は オイタが過ぎたウィッチーズか」

「ケケェッ!(ここまで被害が出るなんて!)」

 

 

Storm1に見上げられ、怯むぽよんぽよんウィッチーズ。

気が付けば、残存戦力は僅かだ。

それだけ正規隊員は強かったし、なによりStorm1がいる時点で彼女らに勝利はない。

航空戦力、特にウィッチは対地の一般兵士に対して負ける筈もない……とは、この世界の兵士に対しての話。

EDF隊員を相手に、それは通じないのだ。

どれだけ飛行型や有翼型を倒してきたと思っているんだ。

 

 

「さぁ、どうする? 今なら胸が大きくなったから勝てなかった事にしてやるぞ?」

「ケケケェッ!(舐めるなぁ!)」

 

 

もうヤケクソに。

豊穣の祈りとか、たぶん そういうのを関係なしに吶喊する生き残り。

 

ひとりが502の菅野の如く殴りかかる!

 

だが、勿論勝てる筈もなく。

 

 

「ふんっ!」「ッ!?」

 

 

最後はStorm1直々のカウンターパンチで沈められた。

武器を使うまでもないらしい。

 

 

「片付いたな。 後は曹長、お前だけだ」

 

 

宙に浮かぶ白銀の翼に指を向けるStorm1。

WDFのひとり、曹長ちゃん。

彼女もまた豊満にされており操られているようだが、他の子より強いのは聞くまでもない。

 

 

「ソケケケッ!(大きいのが好きなんだろ、イヤラシイ雄どもめ)」

 

 

何事か呟くと手に持つ光学銃を投げ捨て、両手を上にあげる。

すると、光の玉が どんどん大きくなり、さもマザーシップの巨大砲台のミニチュア版な光景を見せてきた!

 

 

「吹き飛ばす気か!?」

 

 

かつての軍曹ちゃん程の魔力はないにしろ、流石にアレを喰らえば 小山のひとつ は抉り飛びそうだ。

 

慌てるKFF班。

しかし、Storm1は慌てない。

 

 

「ヤれ」

 

 

ただ一言。 刹那。

 

約2kmほどの遠くの山で、閃光が瞬いた次の瞬間。

 

 

バスリッ。

 

 

曹長ちゃんの首元に麻酔弾が命中した。

 

 

「ケケ……?(アレ)」

 

 

チカラを失い、光の玉は四散。

曹長ちゃん自身もチカラを失い、堕ちていく。

 

 

「(狙撃部隊のKFF70の有効射程は約720mタイプだった筈。 そうでなくても1kmあるか。 撃たれても対処出来るように警戒はしていたけど)」

 

 

ボンヤリしていく視界の先、遠くの山を見て思う。

 

 

「(別の……更なる長距離射程の武器で……やられ……た……か)」

 

 

結論を出して、瞼を閉じた。

 

彼女の思考通りだ。

彼女を仕留めた狙撃銃はイーグルG1。

有効射程距離1.8kmタイプだった。

 

その長射程と精度は非常に高く、専用に開発された高性能スコープを搭載する。

この事から鷹の目を持つ狙撃銃と呼ばれる事になった程だ。

だがやはり、最後は射手の腕前か。

長距離射撃を成功させるのは曲芸だろう。

 

 

「命中。 よくやった」

 

 

はるか遠方のモブな味方を褒めるStorm1。

EDF隊員は、伊達じゃない。

 

 

 

 

ーーーーーEDFーーーーー

只野二等兵視点

 

 

「いやああ!?」

 

 

女々しい声を出すくらいには逼迫してます。

 

 

「ニクスZCとか無理! 俺二等兵だよ!?」

 

 

都合の良い時だけ階級を振りかざし、アンダーアシストで右往左往。

それに合わせるように遊撃戦闘仕様コンバットフレーム ニクスZCが攻撃してきやがる。

 

先ず右腕に取り付けられた武装が動く。

近、中距離戦……対地対空に使えるリボルバーカノンから無数の弾丸シャワー。

その高速回転する多砲身から繰り出される大口径弾は多少バラけつつも地面に着弾。

無数の砂埃を立てて、テント村は砂嵐かと見間違う程に荒れまくる。

 

 

「ひいいい!?」

 

 

反撃している暇がない!

それに、ここで下手に距離を変えるのもリスクが伴う!

 

 

「遠くに逃げたいけど逃げたらヤられる! だって左肩にはミサイルポッド! 右肩には狙撃にも使える榴弾砲のショルダーハウィツァー! 近寄り過ぎればコンバットバーナーで焼かれる!」

 

 

説明するくらいには遊撃戦仕様、怖い!

様々な局面に対応出来るように、近、中、遠距離に合わせた武装があるんだもん!

戦いたくなかったよ! なんで敵対してるの! 夢なの死ぬの?

 

 

「パイロット聞こえる!? こんな、おっぱい騒動で命を散らすのも笑えないよ? ニクスなんか捨てて かかって来い!」

 

 

ダメだ、攻撃の手を止めてくれない。

それどころか「ケケケ」と笑い声が聞こえてくる始末。

攻撃は当てる気がないのか、甚振るような弾道をとりやがる。 くそぅ!

 

 

「うん? その声……軍曹ちゃんか?」

 

 

撃たれながら、ふと言う。

馴染みある声に感じたから。

 

すると攻撃の手を止めるニクス。

次にはコックピットハッチがプシューと開いて、中身が露わに。

つい癖でTZストークを構えてしまったけれど、正体を見て直ぐに下ろすことになった。

 

 

「やっぱり軍曹ちゃん!」

 

 

まさかのパイロットは軍曹ちゃん!

いちおう航空ウィッチの軍曹ちゃん。 だからってニクスを動かしてはいけない理由にならないが……いや、動かしちゃダメ。

だって胸が大きくなってるし。 つまり敵。

 

どこで操縦覚えたの。

俺みたいにぶっつけ本番?

だとしても、そう易々と動くビークルじゃないんだけど。

 

輸送されたばかりのものやメンテナンス、長期間起動していない機体はフリーズしている事がある。

その際、起動シーケンスが必要だ。

プロトコルは どこで?

いや、スタンバイモードからの即起立、コンバットモードに入ったところで ここまで動くのは簡単ではない。

 

……って、今は現実と戦わねば。

 

 

「グケケケ♪(正解です仁)」

「なぜ? why? 降りなさいよ危ないよ」

「グケケケッ(危ないのはどっちかな)」

「うん。 相変わらずナニ言ってるか分からないよ」

 

 

(エイラとサーニャみたいには、会話が出来ない只野。

もっともアレも、エイラが本当にサーニャの「ニャケケ」が分かったのか不明だが……)

 

 

「グケケケッ(それに、大きい方が好きでしょ?)」

「胸を持ち上げて誘惑しないの、はしたない。 期待で胸と股間が膨らんじゃってるんだよ」

 

 

終始おっきしているせいで、地味に継続ダメージを負っているんだよ こちらは。

理性が切れたらどうするんだ。 切れたらゲームオーバーだよ。 未成年美少女達に遺伝子ブチまけ犯罪者ハーレムBAD ENDルートだよ。

 

 

「うん?」

 

 

ここで気付く。

軍曹ちゃんの……ニクスの陰に隠れるように、何故か土偶が浮いている事に。

禍々しいオーラを放ち、普通では無いね。

 

 

「欧州にも土偶が? てか、なんで浮いてるの?」

 

 

というかさ、もうアレが親玉だよ。 間違いない。

呪具的なヤツだ。 魔女が当たり前の様に存在しているこの世界なら、そんなもののひとつやふたつ、あってもおかしくない。

俺らの世界だってエイリアンがいたんだ。 神もいたらしい。

 

とにかくアレを壊すか。

 

 

「ファイヤァッ!」

 

 

TZストーク発砲!

青白いマズルフラッシュと共に砕け散れ!

 

 

「グケケッ(酷いですねぇ)」

 

 

ところが軍曹ちゃん咄嗟のシールドで防がれた!

畜生!

かつてのWDFの魔力程でないにしても、普通の魔女よりマシマシだからな……!

 

 

『こちらブルージャケット』

 

 

おっ! ここで味方からの通信が!

 

 

『高台確保。 ライサンダーで援護を開始する』

「マジ? やったぜ」

 

 

じゃあ、高台での戦闘は勝利したのか。

Storm1がいたからね、約束の勝利だ。 余裕が違いますよ。

 

しかも援護武器がライサンダー。 礼賛!

 

 

「勝ったな寝よう」

「ケケケッ?(ナニを余裕ぶってるんです)」

 

 

ZCのコックピットハッチが閉まり、ウィーンと再起動。

目に見えるメインカメラが青く輝く。

再びリボルバーカノンを向けてくるが、今度は何とかなる筈だ。

なにせライサンダーがあるからな。

 

ライサンダーは物干し竿みたいにデカい長身自動大口径狙撃銃で、その長射程と他の追従を許さないブッチギリの弾速はEDFの最高狙撃銃とも言えなくもない。

弾速と精度が凄くて、撃った瞬間には もう弾着してるんじゃないってくらいヤバい。

威力も相応に高い。 ニクスの装甲にもダメージを与えられる筈。

装填機構が複雑らしく連射が効かないが、主力狙撃銃であるKFFシリーズの比ではない。

それに、ニクスを倒せずとも露出している謎の土偶を狙ってくれれば良い。

 

 

「ニクスは俺が引き受けます。 ブルージャケットは土偶を!」

『土偶? 分かった。 それが親玉か……ここからじゃ狙えん。 移動する、その間はニクスの相手を頼むぞ』

「了解」

 

 

通信を終えたかどうかのタイミングで、リボルバーカノンを撃ってきやがった!

悪役は悪役らしく待ってくれて良いじゃん!

 

 

「うおおおおっ!?」

 

 

アンダーアシストで走り回り、ニクスを翻弄。

偏差射撃が苦手らしく、さっきから俺の背後ばかり砂埃が立ち上がる。

 

 

「魔力でゴリ押ししているだけじゃあ、勝てないぞ?」

 

 

日頃の訓練の大切さが分かるね。

あっ、俺はあまりしてないけど。

 

適度な距離を置き、歩兵には致命的な火炎攻撃は させない。

代わりにミサイルポッドからミサイルが1発だけ飛び出すが、ニクスのミサイルは暫く直進する他、下方向にもバラける癖がある。

その為、機首を上げる様にしてから撃たねばならないのだが、それをしなかった為にミサイルは悲しくも遥か手前の地面に着弾、爆発。

 

 

「無駄撃ちご苦労!」

 

 

未熟者が操縦するんじゃ、どんな強力なニクスだろうと活かせない。

このままニクスの性能を活かせぬまま無力化されてしまえ!

 

 

「これではグリムリーパーじゃなくても、倒せそうだなぁ!?」

 

 

とか煽ったせいか。

肩部巨大榴弾砲ショルダーハウィツァーの砲口が俺に向いた!

 

 

「あっヤバ」

 

 

ドゴォンッ!!

 

 

狙いは甘くも、榴弾砲!

地面に着弾するや爆発、吹き飛ばされた!

 

 

「ぐふぅ……ッ!」

 

 

地面に転がされる。

 

くそぅ、痛い!

流石だな……Z仕様は伊達じゃない……!

 

 

「グケケッ(油断大敵です)」

 

 

いかん。 ZCが近づいてきた。

逃げたくも、Z級榴弾の爆風を喰らった身……身体が言う事を聞かない……ッ!

 

 

「ケケ! ケケケッ!(このままバーナーで炙られるか)」

「くっ!」

「グッケッケッ!!(私と2人きりで豊穣の儀式をするかです!!)」

 

 

いかんヤられる。

死を前にするのとは別の、謎の寒気すら味わう俺。

 

くそぅ……こんな意味不明な事件で人生終わるのか!?

 

そう諦めそうになった時。

 

 

───パリンッ!!

 

 

ナニかが弾ける音。

 

 

「あうぅ……」

 

 

軍曹ちゃんの可愛い声と共に、ニクスは膝をついて完全停止。

裏側で、砕け散った土偶のカケラが四散する。

 

 

「へ?」

 

 

間抜けな声が出たが、仕方ないじゃん。

状況が飲み込めないぞ。

 

 

『間に合ったようだな』

 

 

ここでブルージャケットから通信が。

ああ、そうか。 助けてくれたのか。

 

 

『ニクスの裏に隠れていた土偶を破壊した。 かつてない謎の目標物だったが、壊れて何よりだ』

「あ、あぁ……そうですね。 良かったです。 ありがとうございます」

 

 

とにかく礼を言っておこう。 礼賛。

 

本当に、壊れて良かったよ。

ライサンダーの大口径弾を受けて壊れない土偶だったら どうなっていた事か。

 

(アニメでは、バルクホルンのパンチが効かなかった。 宮藤は「馬鹿力が効かないなんて」と ちょっと言い方に難がある発言をして驚いていた)

 

 

『周囲ウィッチの胸部が戻るのと、沈静化を確認。 やはり土偶が親玉だったようだ』

「そうですか……いったい、なんだったんですかね?」

 

 

土偶……ネウロイだったのだろうか?

いや、あんなネウロイがいてたまるか。

いくらバリエーションに富んでいるとはいえ、人類のメスガキをボインボインにする意味がわからない。

 

(大昔のウィッチが儀式に使っていたらしいが……)

 

 

『俺らが知るか。 とにかく捕まっているだろう男性兵士らを解放だ。 このままにはしておけない』

「了解。 ところでStorm1は?」

『無事だ。 襲って来た曹長らの介抱をしている』

「分かりました。 こっちも やっていきます」

 

 

やれやれ。 今夜は忙しくて寝れないな。

大戦中も そうだったけどさ。

 

ZCに近寄ると、外側にある小さな緊急ハッチ解放ハンドルを引っ張り上げる。

プシューとコックピットを強制的に解放させ、中で昏睡中の軍曹ちゃんを抱き抱え、テントへ持ち帰った。

 

 

 

 

その後、アヘ顔を晒す男どもと共にウィッチの介抱に走り回る。

駐屯地の異変に気づいて帰還してきた夜戦哨戒中のウィッチ……サーニャらの協力を得ながら、なんとか朝までには体制を整えられたものの。

 

 

「なんで仁さんのテントの近くで501のシャーリーさんが倒れていたんでしょうか?」

「ほう。 面白い話だ、よぉ〜く聞かせてくれ只野二等兵」

「ヒェッ」

 

 

黒い笑顔を見せてくる軍曹ちゃんと曹長ちゃんに挟まれて大変だった。

これで胸が大きいままだったら、まだ嬉しさがあるんだがな。

 

因みにシャーリーも、迎えに来たミーナ中佐に恐怖の笑顔で迎えられた。

シャーリーがビビる顔はレアだった。 面白い。

 

 

「さて。 言い訳を たっぷりと聞かせて下さいね♪」

 

 

こっちは面白くないが。

 




ギャグ回でした。
土偶……アニメではリーネが持ち帰ってしまったワケですが。
この作中では誰が、どのような経緯だったんでしょうかね?

501で ぽよんぽよん しなかった子(宮藤、リーネ、坂本)をイヤラしくしたり502の子をイヤらしくしたり、ウィングダイバーや少佐、オペ子を巻き込もうかとも思いましたが、収拾がつかなくなりそうなので……この辺に。
それでも、あまり上手く纏まらなかったかもです……。

勿論、真面目な話に復帰したいと思います。
終わるかな、この物語……(殴)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

76.足踏みする司令部と、未来での評価

作戦内容:
牙城である黒海からは、頻りに小型ネウロイが飛んで来るようになりました。
攻撃を積極的にしない為、恐らく偵察目的ではと考えられています。
現在、連合軍による高射砲や対空機関砲によって迎撃ないし追い払いが繰り返されていますが、ネウロイに情報を与え続けるのは良いとは言えません。
EDF隊員も必要と判断した場合、戦闘を許可します。
備考:
たくさんの兵士や武器が集まってきた。

そんな兵力ないよとか、短時間で集まるかよとか、兵站どうなってるんだよ とか その他現実見ろよ(笑)とツッコミされると答えられない(殴)。


◆ベルリン フラックタワー

EDF本部

 

忌まわしい事件の夜が明けた。

兵士らは睡魔にも負けず、少女らに与えられた軽いトラウマにも負けず、健気に破壊されたテントやビークルを修理する。

黒海監視の任に就く若い兵士らもまた、船を漕ぎながらも、なんとか目を閉じまいと努力した。

 

そんな前線の一方、ベルリン フラックタワーEDF本部で司令官はボヤいていた。

 

 

「原因は分からない、か」

 

 

ウィッチを含む皆の記憶は残っているものの、何故起きたのか未だ分かっていない。

事情聴取するにも被害規模や その対処、様々な処理に追われて面倒になって後回しになっているのもある。

最終的には広範囲に散開する200万近い兵員ひとりひとりに うら若きウィッチの ぷるんぷるん事件を聞くのも効率が悪い。 なにより馬鹿らしい。

いちおうやっている体を出すために、限定的に階級の高い者や隊長格を呼び出して聞くにも、彼ら、彼女らもまた分からないから首を横に振られるのみ。

別に期待していない。 誰も死なず。 過ぎた事は水に流すのみ。

 

 

「我々は軍人。 奇想天外な現実とも戦う……が、優先順位は黒海攻略だ。 あまりこだわっているワケにもいくまい」

 

 

事件の全貌を把握するのは最早困難。

ならスッパリ諦めて、目の前に集中しなければ。

司令官は判断したし、それは正しい。

科学力の追いつかない敵を相手にしてきたのもある。 無理に拘るのも良くない。

連合軍も同意見なのか、あまり積極的に事件の捜査はしていないし。

 

司令官は無線で戦略情報部の少佐を呼び出すと、現状の整理を行った。

 

 

「状況は どうなっている?」

「胸の事件ですか?」

「…………軍事の方で頼む」

 

 

相変わらず淡々と言う少佐に倣うように、感情を殺して問う司令官。

男として、司令官として本能のままニヤけるワケにいかない。

真面目にヤる。 司令官は現実を見る事が出来るタイプである。

 

 

「連合軍は黒海を囲い込むようにして展開を続けています。 扶桑やリベリオン、稼働可能なオラーシャ軍が合流しつつ規模は拡大し続け、100個師団(ここでは1個師団2万として)相当に値します。 509部隊ことEDFも正規・非正規問わず展開。 ほぼ完了しています」

 

 

動員兵約200万。

世界から戦力を掻き集め、凄まじい規模になっている黒海攻略軍団。

囲うように展開している為、戦力はバラけているが本気度が伺える。

アフリカ、オラーシャ、オストマルク……他の戦線維持の観点から、決して多くを注ぎ込むワケにはいかない……それでも ここまで投入したのは黒海に巣食う原初の怪異を倒す為。

この戦力は第二次世界対戦に発動した、人類史上最大規模のノルマンディー上陸作戦に比例するともいえる数。

今回の黒海攻略作戦「ネプチューン作戦」は、奇しくも この上陸作戦の正式名である。

尤も海から陸地ではなく、陸から海に向かうのだが。

その都合、陸戦戦力は海岸のネウロイを倒すだけで、その先は航空戦力になる。

艦艇? 上手く内海に入れなくて……。

 

 

「かつてない大規模作戦だ。 これだけの人員集結、ネウロイも勘付く。 奴らの様子は?」

「偵察と思われる小型タイプが頻繁に飛来。 その度にスクランブル発進をしたウィッチが迎撃。 もしくは連合軍の高射砲部隊が対処。 被害報告は今のところ ありません」

 

 

とは言うものの。

あまり時間を掛けるのも良くない。

兵站、費用も馬鹿に出来ない。

それはアニメで上層部が言っていた事だが、無視出来ないのも事実である。

 

ネウロイにも偵察の概念があるなら、ただ駆逐されるのではなく、人類側の戦力情報を収拾し、何らかの対処をしてくる恐れがある。

史実に擬えるなら、敵は感知していないと考えたいが……残念ながら、そんな悠長な考えは出来ない。

 

ゲーム、白銀の翼辺りでバルクホルンが偵察ネウロイの話をチラリとしていた気がするから、怪異とはいえ、そういった概念は あるかも知れない。

知れないだけだが。

 

 

「奴らも馬鹿ではない、時期は判らずとも人類が総攻撃を仕掛けてくるのは分かっている。 早めに手を打たねば」

 

 

司令官は奴ら怪異にも偵察の概念があるのを前提で危惧している。

電撃的に欧州の国々を解放、救済してきたが、それらは反撃の暇を与えず行動出来たからに過ぎない。

いくらEDFの技術が凄くても、数で押されたら堪らない。

元の地球でもそうだったし、アントウェルペン戦辺りでも そうだったが、奇襲されたり数の暴力を持ってして硝煙弾雨とビームを撃たれたら軽く死ねてしまう。

ストームチームの様な人外部隊や、501部隊のようなエリート部隊、509部隊のようなEDFの技術を持たせたハイテク部隊、神の模倣体なWDFを展開して戦争が終わるなら、とっくに終戦している。

 

……まぁ、人類同士の下らない争いが絡んで戦争が伸びているのは否定しない。

 

 

「足並みを揃えねば終わる戦争も終わらん。 チカラを合わせるしかない。 勝つ為にはな」

 

 

前線のモブ隊員が言っていた言葉を口にする。

それは力強い言葉でもあり、決意を示す言葉でもある。

が、少佐から返ってきた淡々とした言葉は無慈悲だった。

 

 

「連合軍は内輪揉め。 攻撃決行日時は未だ決定していません」

 

 

またか。

司令官は頭を抱えた。

 

 

「……ナニを揉めている」

「先陣を切る国、援護をする国の内訳です」

 

 

曰く、人類史に残る戦いである。

故に、どの国が勇敢に先陣を切り魔王城たる黒海を攻め落とし、人類の武勇伝を語るか。

世界の代表決めに精を出し、国民に喧伝したい上層部は勇者になるべく他者を蹴落とし合っているのだった。

 

 

「まだそんな事を」

 

 

司令官は呆れた。

 

 

「実際に戦うのは前線の兵士達だ。 それを忘れているのでは あるまいな」

 

 

作戦を立案、実行するにあたり軍の損害軽微に努め、勝利へと導く。

銃火に晒さぬからといって、好き勝手に兵士を戦場へ投げてはならない。

しかし、連合上層部はメンツと金の方が重要のようだ。

 

 

「大戦中、君の部下にも似た事を言ったが、あの時とは別のベクトルだ。 酷さで言えば連合の方が酷い」

 

 

オペ子との会話を思い出し、引き合いに言う司令官。

 

隊員なら知っている方が多いだろう。

大戦中のこと。 戦局の悪化、絶望的状況下。

オペ子が病んで、突然「神を探しています」と発言した衝撃たるや凄まじかった。

ビビった隊員は多いはず。

 

 

「仕方ありません」

 

 

少佐は言う。

淡々としているが、どこか疲れ声にも感じる。

 

 

「引き続き交渉の努力はしなければ なりません」

「言葉が通じるぶん、まだマシか」

 

 

上手くいかない事が多いが。

でなければ殺し合いも起きなかった。

エイリアンの時よりマシだと願うしかない。

 

 

「兵站は?」

「ノーブル隊が武器弾薬、食糧を輸送。 食糧に関しては連合軍は不足気味ですので我々の地球から物資を運び補填しています」

 

 

ここまできたEDF隊員なら輸送機ノーブルは知っていると思うが、いちおう説明しておこう。

ここでいうノーブルとは、EDFの垂直離着陸機(VTOL)ノーブルの事。

第506統合戦闘航空団ノーブルウィッチーズとは異なるので注意されたし。

 

 

「軍隊とは切ってもきれぬ関係だ。 だが、我々が物資を貰うつもりで この世界に来たというのに逆になるとは。 皮肉なものだ」

 

 

全くである。

どちらが悪いかで言えば、突然けしかけて少女を人体改造したEDFが悪いのだが、連合も利用するだけしてボロ雑巾にしてポイする思考なのも悪かった。

EDFとしては、ネプチューン作戦成功を手切れ金の代わりに献上し、オサラババイバイする予定。

もはや、ミーナ中佐やEDF司令官のような少数の良識派では どうする事も出来ないほど、軍は腐敗していたのだ。

 

 

「WDFのふたりは?」

「予定通り作戦に参加させます」

「よろしい。 問題はやはり、決行日か」

「はい。 連合軍とは早めに調整します」

「すまないが宜しく頼む。 私は現場指揮を執る」

「分かりました」

 

 

無線を切り、黒海周辺地図を広げる。

中央の『Black Sea』、その真ん中に書かれている『NOAH』はネウロイの巣。

EDFが勝手に名付けた名前だ。 そこには連合上層部や人類の先を憂いて付けられた部分もある。

 

 

「ノア、か。 人類にとって必要悪……いや、一致団結させてくれる方舟を沈めるという事か。 それが正しいのかは我々には分からん」

 

 

沈めた後の世界。

EDFの、元の地球と同じ末路を辿らない事を願うしかない。

 

ただそう思うのは、どこかエイリアンとの大戦と比較してしまうから……。

 

ともあれ。

城攻めは古今東西、守る側の何倍もの戦力が必要とされるが、敵の戦力は不明。

ひょっとしたら、人類連合200万より強い戦力を保持している可能性すらある。

怪異にとって重要拠点に違いない。 いちど戦争が勃発すれば死に物狂いの抵抗が予想される。

 

それは……お互い様に。

 

陸戦では砲兵隊と空軍の爆撃で海岸の敵をある程度吹き飛ばし、AFVを前面に押し出して盾にしつつの歩兵部隊前進を予定。

当然、航空戦力も襲ってくる筈なので、戦闘機相当のウィッチが護衛。

陸軍と並んで空軍も進み、NOAHを破壊する。

 

上手くいくかどうかではない。

最終的にはやらねばならない。

 

そうする事でしか、人類の闘争を慰められないならば。

 

 

「この世界に平穏が訪れる事を願う」

 

 

誰にも聞こえない声で、司令官は言った。

 

 

 

 

◆とある幼い魔女の日記

 

とても 強い 兵隊さん

 

神さま ころして やってきた

ちがう 世界から やってきた

 

ねうろい を たおして

ひと を いっぱい ころした

 

ふたり の おんなのこ を つれさって

ころした 神さま の かわりに なった

 

神さま は しろくて きれいな おすがた

 

おとな は みんな ほしがった

それで とりあいっこ して けんか した

 

神さま は 本当は ウィッチだから

神さまの代わりは にがおもい だって

 

それに 神さま は みんな の 神さま じゃない

強い 兵隊さん の 神さま

 

神さまは 兵隊さんが だいすき

 

ただの 兵士 が だいすき!

 

 

 

 

 

───黒海攻略団 とある魔女の日記から抜粋

 

1940年代 ネプチューン作戦

200万もの兵員が動員された歴史上 最大規模の作戦において、509部隊を知る手掛かりの ひとつとして数えられる日記。

幼い字、読み取り難い文面ながら当時を知る上では重要視する者もいる。

 

509部隊は統合戦闘航空団のナンバリングである500番代が与えられており、多国籍の部隊なのは変わりない。

しかし、その戦力規模は不鮮明ながらも小国の軍隊以上とも言われ、航空戦力のみならず陸上戦力も充実していた。

これは大国カールスラント防衛が主任務にあたり、十二分な備えをした結果であると唱える戦時研究者もいるが、異議も多い。

理由としてこの部隊は謎が多く、資料も多くは意図的に残されていない為である。

その為、個人や非正規で疎らに残された日記や独立部隊同士による書類上のやり取りの記録から差し測る他なかった。

 

残存する資料を読み解くと兵站面に関して冷遇されていたとされ、懲罰部隊の説が浮上するも、規模や充実した装備から それは否定された。

 

他に研究者を悩ませているのが出土した当時の装備品、武器弾薬類は1940年代の技術では製造不可能とされているものがほとんどである事だ。

 

アサルトライフルが一般に普及していないとされている時代にも関わらず、そういった自動小銃が多く見つかる。

他にもパンツァー・ファウストより ずっと高性能な対装甲重火器(現代の無反動砲相当)や、ウィッチの使用する飛行脚からは なんとコンピュータ制御と思わしき基盤類が発見された。

他、魔法誘導無しでの高性能誘導弾発射装置も見つかったり、現代の軍隊が使用しているものより高性能なビークルの破片も発見されている。

 

下手すると現代の軍隊よりも高性能な為、悪戯とさえ囁かれた。

技術試験部隊にしては、規模や配置が大き過ぎる。

いくら当時の人類連合上層部が面子と金を優先していた腐敗者の集合体だった事を考えても、やはり憶測の域をも超えている。

 

だが優れた知恵と技は、やがて風土を越えて交わり、普遍性を持つ科学技術となって、今日(こんにち)の豊かで便利な生活を支えているのは間違いない。

 

この日記から想像出来る事。

神や世界の単語が出てくる事、ネウロイのみならず人をも殺傷していたかのような記述がある事、他の資料と合致する情報を鵜呑みにするならば。

この部隊は別次元、規格外の強さを誇る独立した部隊であり、実験と実戦双方のチカラを備えた特殊部隊であろう。

神と呼ばれる者は魔女であるとされ、絶対的な強さを誇ったようだが、戦果資料も全く残っていないので全て不明だ。

ただの兵士が好き、ということから軍に従順だったのかも知れない。

 

この作戦を機に501部隊などの一部統合戦闘航空団が解散され、509部隊も同時に解散。

資料も多くが破棄。

最高司令部、ウィッチ隊総監ガランド少将の命令とされ、機密保持(破棄?)とされる。

戦時最大の謎ともいえる第509統合戦闘航空団の存在。

日々、発掘や研究をする者はいるものの、解明される日が来るのか分からない。

来ない方が良い、と言う者もいる。

 

だが僅かに分かっている事。

509部隊の別名EDF。

扶桑語で全地球防衛機構軍。

 

地球の為、この世界の為に戦っていた事は事実だろう。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

77.偵察戦

作戦内容:
連合軍との調整がつくまで、監視や塹壕掘り、土嚢積みを継続。
偵察任務を遂行する部隊は可能な範囲まで接近、可能なら戦闘を行いデータ収集に努めて下さい。
健闘を祈ります。
備考:
陸路では海岸までが限界

キャラの性格とか、違うのは今更(ry


◆黒海方面

 

アニメではカネだのメンツだの、作戦遅延に難色を示した連合上層部だが、今は誰が先陣を切るかで揉めに揉めて自ら遅延を起こしている。

自国が英雄になりたいのかも知れないが、実際に戦わされる殆どは名もなき兵士たちであり、銃火に晒さぬ連中では無いのを忘れないで欲しい。

遅延による消費兵站量増加による民間生産者の負担も、地味ながら気にかけてくれまいか。

そんな民間人による戦争非難も賛同者も、結局は兵士の心境を知らない。

 

そんな兵士ら、黒海方面は今。

 

偵察戦闘や小競り合いが続いており、良くも悪くもそれで済んでいる黒海攻略団。

今日も行われる偵察任務には只野二等兵も参加し、海岸の敵戦力把握に努める。

 

 

「偵察ねぇ。 それより早く攻撃日を決めた方が良いのでは?」

 

 

準備しつつ文句を言う只野。

命を危険に晒す数を増やして良い事はない。

 

 

「必要な事だ」

 

 

隊長のStorm1は言う。

 

 

「敵の戦力と展開を少しでも把握したい。 それに応じて、こちらの展開方法も変わる」

 

 

黒海攻略は全方位一斉攻勢からなる。

これは ほぼ決定事項だ。

そうしてNOAHの戦力を全方位に分散せざるを得ない状況下に置く。

その間、本隊が手薄な敵防衛線突破を試みる。

その手薄とされる防衛線を探るのもまた、こういった偵察部隊であり、重要な任務である。

だがしかし。 敵も人類同様に偵察に出ている事から、火力差と本隊がどの方向に向いているかを見極め、戦力配備を調整していると思われている。

この事から、やはり攻撃日を先延ばしにするのは悪手。 その加減が難しい。

そこは嘘の情報を相手に与える行為をしてみたりと、別の情報戦が繰り広げられている。

例えば同じ時間に飯時に見せかけるとか、攻撃日ギリギリまで余剰戦力を集結させないとか。

 

 

「航空戦力が多いなら対空兵器を。 装甲目標が多いなら重火器を持ち込む。 それが分かるだけで、だいぶ違う。 分かるだろう」

「まぁ……有翼型が来るのが分かっていれば、ミサイルを持ち込んでましたね」

 

 

大戦の苦い思い出を浮かべる只野。

小隊ないし分隊に、ひとりくらい対空兵器を担いでいる隊員がいるべきだろうが、あの時は戦力に乏しく難しいところだった。

 

 

「というわけだ。 行くぞ」

「了解」

 

 

うだうだ文句を言っても仕方ない。

Storm1に連れられて、只野は海岸へと向かう。

 

だが彼らは後に海岸の守備隊に驚愕する事になる……。

 

 

 

 

 

◆黒海 海岸付近

 

黒海監視団を隠れ蓑に、"無断出勤"したルーデル大佐。

元々ココの隊員である経歴がある彼女は、コネでワガママを通し、本番前の演習のつもりで海岸まで飛んでいた。

偵察ではあるが"いつも通り爆装"している。

威力偵察と言えば聞こえは良いが、無断出勤なのも いつも通りだ。

師団長も皇帝も、彼女の部下も頭を抱える問題児である。

 

 

「あれは只野」

 

 

視認性の良い目で、陸地を見渡す。

すると、前に出会った只野が海岸に向かっているのが見えた。

その隊長と思われる……フルフェイスヘルメットに、通信ユニットを背負う男は知らないが、その者も只者ではない雰囲気が漂う。

 

 

「奇しくも同じ方面からの出撃か」

 

 

徒歩と航空機。

厳密には飛行脚で飛行する機械化航空歩兵だが、速度はルーデルの方が圧倒的。

そのまま只野の頭上を通り過ぎると、海岸に集まるネウロイを発見。

巣を守る守備隊なのは間違いなく、その規模は大きい。

しかし密集し過ぎだ。 どうぞ爆撃して下さいと言わんばかりの光景にルーデルは口角を上げた。

 

 

「只野、君は どう評価する?」

 

 

見慣れぬ巨人のようなネウロイもいるが、その群れに向かってルーデルは急降下。

ウィッチでなければ持てない、フットボール状の大きな爆弾を構える。

 

ネウロイは一拍遅れて気づくと、ビームを空に乱射。

大型のユニット故か、翼が被弾してしまうも、構わずに直上急降下爆撃を敢行。

爆弾を離し、素早く離脱。

自由落下した爆弾は吸い込まれるように守備隊のド真ん中に直撃し大爆発。

1個の爆弾で守備隊を半壊させたルーデルは、只野たちのいる方へと戻ろうとして……。

 

 

「ッ!」

 

 

ビームがユニットを直撃!

黒煙を上げつつ高度を下げるルーデル。

フラフラと空中で蛇行しつつ背後を向く。

先程の巨人のようなネウロイが、両手からビームを撃っていた。

威力は低いが、連射速度はマシンガンのソレだ。

 

 

(新型か。 周囲が吹き飛んだにも関わらず、ヤツは平然と。 装甲が厚い)

 

 

こんな状況なのに、冷静に敵を評価しつつ墜落していくルーデル。

何も墜落するのは1度や2度ではない。 ある意味慣れた光景だった。

その事自体に狼狽える事は無い。 無いのだが。

 

 

「ルーデルッ!」

 

 

人外の速度で追いかけてくる只野二等兵には驚いた。

 

 

「えぇ!?」

 

 

長い戦役に身を投じ続けてきた女帝も、これには目を見開いてしまう。

EDFの脚力強化装備アンダーアシストを知らないので、無理もなかった。

 

 

「俺が受け止める! 合わせて!」

 

 

両手を前に広げて、アピールしてくる彼。

 

 

「大丈夫だ。 不時着は慣れている」

 

 

乙女心を擽られようと、甘んじる気はない。

無断出撃した身だ。 彼を巻き込むワケにはいかない。

 

頰を染めつつ言い訳をして、彼を引かせようとするのだが、

 

 

「ナニ言ってるんスか! 偵察で死ぬのが本望でも無いでしょーが!」

 

 

グリムリーパーなら喜んで死に場所を受け入れそうだが。

只野はルーデルの夢の話を参考に反発しつつ、なおも受け入れようと走り続ける。

 

 

「俺の知り合いも言ってたぞ! 夢を追わなくなったらオシマイだって!」

 

 

いつのまにかシャーリーから聞いていた名言を乱用しつつ、走り続けるのを止めない。

高度を下げていくルーデル。 只野の必死の表情が見える。

 

 

「いやその。 私は諦めてないが」

「なら喜んで抱かれろ! 同じ夢を持つ者でしょうが! 夢に抱かれろ!」

 

 

興奮して意味不明な言葉を走らせる只野。

もう目の前まで迫ってる。

 

なんというか、馬鹿で真っ直ぐな男だなぁとルーデルは思った。

 

 

(まあ良いか。 たまには助けられるのも)

 

 

そうとも思った。

彼に軟着陸するように宙を滑ると、彼の必死の顔が浮かんでくる。

 

馬鹿だなぁ、だけど可愛いなぁ、と。

 

 

「うおおおお!?」

 

 

そのまま迫真のファインプレイ。

スライディングキャッチをかまし、ギュッとルーデルを抱えると、一緒になって地面を滑る。

ズザザザ〜っと。

 

砂埃が消えてくると、無傷のルーデルと只野が晴れ上がる。

EDFの戦闘服は、これくらいじゃ問題ないのだ。

 

 

「ッ……大丈夫?」

「問題ない。 只野は?」

「全然」

「ならヨシ。 お前は無茶するヤツだな」

「君程でもないけど」

「ふふっ」

 

 

抱き締め合う形で無事を確認し合う2人。

そこにStorm1が駆けつけてくる。 ローリング移動で。

どいつもこいつも変である。

 

 

「2人とも無事か?」

「無事ですよ」

「良かった。 取り敢えず彼女を陣地まで連れて行こう。 偵察はそれからだ」

 

 

そういうStorm1だったが、ルーデルはユニットを放棄しつつ立ち上がり否定する。

 

 

「私は平気だ。 寧ろ偵察に連れてけ」

「ユニットもナシに戦えるカラダじゃ無いだろう。 ハンナ・ウルリーケ・ルーデル大佐」

「なんだ。 知っていたのか」

 

 

Storm1が正体を破るが、特に驚かないルーデル。

知名度があるから、知っていても何ら変ではない。

 

 

「対地爆撃において人類最強のウィッチ。 だがな、もう無理はするな。 魔法が そろそろ使えないんだろう?」

「シールドが張れないだけだ。 空は飛べる」

「君のユニットは既に大破している。 そうでなくても、もう戦えるカラダじゃない。 諦めて帰れ」

「ふざけるな」

「お前がふざけるなッ! いい加減にしろ!」

「ッ!」

 

 

厳しい口調でルーデルを咎めるStorm1。

それは娘を叱る お父さん。

時々彼が見せる姿勢は、厳格な父親のようであり、その多くの言葉は心を揺さぶられるものだ。

只野も、自分が言われていないのにカラダの芯が震わされている錯覚を覚える。

太鼓を側で打ち鳴らされているかのよう。

 

それでも。 それでもルーデルは強い意志を表明する。

彼の放つ現実の言葉に挫かれる事なく、目尻に悔し涙を浮かべてもなお、彼女の信念は曲がらない。

 

 

「諦められない。 黒海の怪異が、元凶の元が絶たれようとしている重大な戦局にいるのだぞ」

 

 

顔を上げ、Storm1に言うのだ。

 

 

私はまだ戦える……戦えるんだ………ッ!

 

 

心の芯を震わされて無垢な少女にされようとも、涙がこみ上げようとも、根元は頑固だった。

只野は悼まれなくなって、彼女を もう一度抱きしめる。

ルーデルは為すがままだった。

 

戦闘狂の"きらい"があるにせよ、本気で世界平和の夢を考える節があるからの涙もある。

 

Storm1は、そんな頑固な娘に溜息を吐く。

 

 

「わかった。 希望は、必要だ」

 

 

かつての司令官の言葉を言い、Storm1は黒海に体を向けた。

彼女の意志を認めてあげたのだった。

 

 

「あくまで偵察が任務だ。 無理に殴り合う必要はない……行くぞ」

「了解」

 

 

只野は短く返答し、ルーデルに付き添った。

 

 

「行こう。 仮初めの平和の為に」

 

 

2人は歩く。

海岸には新型ネウロイが蔓延っている。

戦う気は無くとも、十分危険な任務だ。

だが、重要な任務だ。

 

 

 

 

 

ーーーーーEDFーーーーー

 

海岸に改めて向かえば、先程ルーデルによって半壊した守備隊が配置を直しているところだった。

此方には気付いていない。 都合が良いので、そのまま観察する。

 

見たところ、巨人型のネウロイを中心にフォーメーションを整えており、EDF隊員にとっては見覚えのある光景だった。

 

 

「アレはまるでコンバットフレームそのものだ。 厄介だな」

「ですね。 とうとうEDFの模倣まで始めましたか」

 

 

変に冷静な2人。

ネウロイが人類の兵器を模倣するのは知っていたので、寧ろ今更感すらある。

だが、真似されるのは良い気はしない。

 

 

「コンバットフレーム? あの巨人がか?」

 

 

ルーデルは尋ねる。

彼女はEDFの兵器群に詳しくない。

只野は答えた。

 

 

「搭乗式強化外骨格。 ニクスともいう」

「とうじょう……なんだって?」

「戦車だよ。 履帯じゃなくて二足歩行の」

 

 

この世界の人にも分かりやすい言葉を選んで説明してあげる只野。

子ども扱いしてくるかのような彼に、少しムスッとするルーデルだが構わず話す。

 

 

「あの守備隊、半壊して再編成中みたいだけどルーデルがヤッたの?」

「そうだ。 1発喰らわせた。 だが、あのコンバットフレームとやらは無事だったな」

 

 

貴重な意見に、Storm1が反応。

今度は彼が尋ねた。

 

 

「そうか。 装甲まで模倣しているとしたら、尚更厄介だ。 武装は?」

「連射能力の高いビームを撃ってきたのは見たが、他は分からない」

「ますますニクスに近い。 となると、他の武装も警戒しなければ」

 

 

報告内容を脳内で纏めていると。

ズモモモッと、海岸から音が響く。

 

 

「なんだ?」

 

 

何事かと注目していると、海岸の砂が盛り上がり、大量の蜘蛛型ネウロイが湧き出てきた。 キモい。

 

 

「うわぁ……β型まで」

「べーた?」

 

 

EDFの世界を知らないルーデルは、また首を傾げるが、無視して会話を進める。

 

 

「いや良く見ろ。 あれは地底戦車のデプスクロウラーだ」

 

 

Storm1にツッコまれ、改めて見る。

確かに脚は4本、頭部左右に砲身と見られる棒が付いている。

 

 

「砂の中にも潜んでるときた。 これは奇襲される可能性大だぞ」

「ですね」

 

 

大戦初期、帰路の遭遇を思い出す。

海岸沿いの道を歩いて基地に帰投中、突然海岸の砂浜が盛り上がり赤い変異種が湧き出てきたのだ。

Storm1は即座の空爆要請で対処したが、危うく赤い津波に飲み込まれるところだった。

 

 

「むっ! アレは」

 

 

今度は空を見る。

黒いウィッチの様なネウロイが飛んでいるのが見える。

 

 

「ウィッチ……いや、ネウロイか」

「ウィッチ型、ね。 だとしてもネウロイだ。 人類じゃない」

 

 

刹那的に驚くも、直ぐ冷静になるルーデルと只野。

アニメにもウィッチ型ネウロイは出てきたが、あの意図は なんだったのか。

だが目の前に飛んでいるネウロイは、全員敵で良いだろう。

少なくとも交渉の余地は無い。 ネウロイ滅する慈悲はない。

宮藤が見たら、交渉に無断出撃したり戦う意欲を無くしてしまいそうだが。

 

 

「ウィッチ型のネウロイ。 この期に及んでバリエーションに富んでいる。 サーカスでも始める気か」

「なら熊でも出て来ますかね」

「従軍していた熊の話があったな。 502部隊にも使い魔が熊の子がいると聞く」

 

 

無駄話をする余裕を見せつつ、撤退を開始する。

このままサーカス団を見ていても、笑顔より絶望顔を浮かべそうになる。

このまま寛大にピエロにでも出てこられて、もてなされては堪らない。

 

 

「本部に連絡だ。 ルーデル、君の行いは有意義なものであったぞ。 感謝する」

「そうか……ありがとう」

 

 

叱りもすれば、褒めもするStorm1。

隊員らに慕われる理由のひとつだ。

 

 

「後は上に任せてD-dayに備えよう。 生き延びて黒海の怪異を滅する。 それだけだ」

 

 

3人は任務を終えて帰還する。

 

また明日。

いつ死ぬかも分からない戦場には様々な顔があるけれど。

皆総じて戦っている。

どんな凄い兵士にも、様々な想いがあって武器を握っている。

 

EDF世界の大戦末期。

ニューヨーク ブルックリン地区でのレジスタンスリーダー ジョエルのように。

 

この世界の人々も、何かの為に戦っている。

それを……知っていて貰いたい。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

78.D-day

作戦内容:
ようやく攻撃日が決まりました。
各隊は状況に備えて下さい。
備考:
人類は何を得て、何を失うのだろう。

軍事的、用語的にミスがある可能性(ry。


◆黒海方面EDF司令部

 

この日、EDF司令官は黒海まで出張った。

最後のひと仕事を見届ける為だ。

本部には情報部の少佐とオペ子を残す。

 

 

「もうすぐだ。 もうすぐで」

 

 

戦争は終わる、とは言えなかった。

EDFが この世界から別れる意味では「終わり」だ。

しかし黒海の怪異を倒したところで、この世界の人類にとっての転換期になるくらいで、戦争は継続する。

 

 

「結局、奴らも謎の存在のままだしな」

 

 

怪異……ネウロイは、東に広がるユーラシア大陸、その大部分を領土とするオラーシャにもいる。

南東部のオストマルクにも残存している。

遠くの地、アフリカにもいるのだ。

もっと言えば、世界中にいるといって良い。

 

主な戦線、フォーカスが当てられたのが欧州なだけだ。

アニメでも欧州がメインだったかも知れないが、戦場は欧州以外にも数多ある。

 

それにだ。

奴らは神出鬼没に現れる。

巣が突然空に作られて、パニックになった時もある。

 

今後、それら戦線を連合軍は自力で支えねばならない。

 

 

「出来るのか? この世界の人類だけで」

 

 

ここまでお膳立てしておいて、連合が負け戦をし始めたらEDFとしても悲しい。

今までの犠牲と労力はなんだったのかと。

 

 

「いや、そう願おう。 我々に出来ることは、ただ祈る事だけだ」

 

 

この世界においては、別の意味で勝利を願うしかなかった。

少数の良識派では改善不能なレベルの腐敗した軍上層部。

だが、そんな腐者にも頼らねばならない人々。

ミーナ中佐たちが可哀想だと思うが、後の事は彼女たちに託そう。

 

WDF。

世界と魔女を真に救えるのは、この世界の人類でなければならない。

 

 

「……最後だ」

 

 

歳をとったからか、独り言を呟きつつ野戦テントに入る司令官。

中には連れてきたお馴染みの顔ぶれが揃う。 苦楽を共にしてきた仲間だ。

 

 

「諸君。 この世界にて最後の仕事となる。 頼んだぞ」

 

 

皆は敬礼にて答えると、各自の仕事に取り掛かる。

司令官は内心で感謝した。 元の世界が滅茶苦茶になっても、この世界でEDFが罪を犯しても、それでも共に歩んでくれた事に。

 

本部がエイリアン連中に襲撃された時も、共に抵抗した。

その後、地下施設に活動拠点を移し、劣悪な環境にも屈せず指揮を執る支えとなってくれた。

 

その意味では、情報部のオペ子にも感謝している。

彼女は若い身でありながら、本部が指揮を執れない期間、代わりに戦線の兵士のサポートをしてくれたのだから。

 

元の世界に帰ったら改めて感謝を伝えよう。

 

司令官は軍帽をかぶり直し、最後の確認を始める。

 

 

「ネプチューン作戦が間も無く発動する。 黒海の怪異を殲滅するのが目的だ。 連合とEDF、覚悟の200万をもってしてコレを討つ」

 

 

地図を広げる。

真ん中には『Black Sea』。

中央は『NOAH』。

包囲する連合軍とEDFの様々な部隊名。

うち、EDF本隊に混ざる『Storm team』。

その本隊の侵攻ルートを『sectorΩ』。

同じルートを辿る連合軍もいる。

その中には『501JFW』と『509JFW』。

 

始まりの1と最後の9。

共にチカラを合わせ方舟を沈めて無に還す。

そしてEDFは"0(ゼロ)"になる。

さも、始まりも終わりもない。

最初からそうであったかのように。

 

 

「海岸までは地上部隊で侵攻出来る。 後は航空戦力に頼る他ない。 それでも支援出来る事は多くある。 全力で行く。 出し惜しみはナシだ」

 

 

D-day。

この世界におけるEDF最後の戦闘まで もうすぐだ。

 

 

 

 

 

◆黒海方面sectorΩ

D-day

 

決戦早朝。 世界が白みを帯びる刻。

全地球防衛機構陸軍歩兵本隊及び扶桑陸軍歩兵隊、カールスラント陸軍歩兵隊ら他各国混成の第509統合戦闘航空団。

他担当戦域の人類連合軍もほぼ同様の様相。

第5匍匐前進。 尺取虫のように、ほぼ地面につけた状態で這い進み、海岸ギリギリまで進んでいる。

航空ウィッチ……機械化航空歩兵隊も飛行脚を引き摺るようにして、一般歩兵隊と共に動いていた。

速度が遅い匍匐移動も、ここまで来ると更に遅い。 代わりに相手からは殆ど見えない。

だが、その様子を空から見ている者がいたならば、目につくだろう。

"地面が動いている"のだ。 それだけ地を埋め尽くす兵隊が同じ姿勢で満遍なく広がりを見せ、練度の高い同一行動を取っていた。

 

 

(静止)

 

 

先頭のStorm1が、後続の"人類"に手信号を出す。 全員はピタリと止まった。

今、彼らの前方には海岸を陣取る怪異の守備隊がいる。

かなりの数だ。

 

 

(ここまでは段取り通り)

 

 

無言のまま、無線機を持った。

いつもよりチカラが入る。 時間だ。

 

 

(後は祈るだけだ……!)

 

 

そして。

 

 

「座標───!」

 

 

Storm1は、いつも通り"空爆誘導"をした。

 

 

『目標確認! 突入開始!』

 

 

そして、怪異守備隊の上空を10機ものフォボスZが突入していく。 そして。

 

 

『投下!』

 

 

多量の爆弾が投下された。

怪異は反応する間もない。 そのまま地面や怪異に直接ぶつかると、次々と爆発に次ぐ爆発が起き、怪異はバラバラに吹き飛んだ。

更に、それを合図にするかのようにして砲兵隊から巨大榴弾砲が撃ち込まれる!

 

 

『ドカンといけぇ!』

 

 

海岸で大爆発が無数に起きる。

他方面の海岸でも同様の事が発生していたが、1番大きかったのはStorm1たちのsectorΩだった。

 

それでもまだ、怪異は残っていた。

 

 

『目標地点への攻撃完了。 地上部隊の健闘を祈る!』

『砲撃終了です。 地上部隊(ほへいぶたい)の健闘を祈ります!』

 

 

突撃の合図ともなる、攻撃終了の無線。

Storm1は叫んだ。

 

 

「突撃せよッ!!」

 

 

皆は立ち上がり、そのまま海岸へと雪崩れ込む!

 

 

「「「うおおおおおおおおおおお!!」」」

 

 

突撃ラッパ。 笛の音。

黒海に鳴り響くは兵士たちの雄叫び。

 

そんな彼らの盾になるようにして、ノーブルがコンテナを投下。

戦車隊やニクス隊を"召喚"した。

ウィッチ隊は頃合いを見計らって、奇襲するように空へと舞い上がる。

 

 

「EDFッ! EDFッ!!」

 

 

只野二等兵は叫び走る。

皆と共に叫んで走る。

 

ネプチューン作戦。

D-day。

 

多くの兵士が散り逝く決戦の火蓋が、切って落とされた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

79.煌く兇異

作戦内容:
諸悪の根源を絶つ。
頭を低くして進め。
dead beachを制圧せよ。
備考:
地上戦力は海岸制圧が目標。
機械化航空歩兵はNOAH内部へ突入を試みる。


◆sectorΩ

只野二等兵視点

 

俺達は走った。

海岸に走って、走り続けた。

肉裂ける、血の噴水場を走った。

 

前に行くほど、雄叫びを上げる仲間が吹き飛んで。

戦車が横転し、近くの兵士が下敷きになり赤い花を咲かし。

シールドで防ぎきれなかった魔女が、影形なく蒸発する光景を見ていく。

 

やがて撃って撃たれて吹き飛び合う。

ネウロイは粒子となり四散して、人間は肉塊として溜まり逝く。

 

 

「うわあああ! くそっ! くそっ! くそぉ!」

 

 

悲鳴なのか雄叫びなのか。

自分でも何を言っているのか分からない。

 

何度見ても最悪な光景。 地獄絵図。

それでも戦うしかないんだって!?

 

そう主張する屍を乗り越えて、俺達は怪異に詰め寄せる。

一丸となった今、俺達は軍であり、地を盛り上げる畝りである。

 

 

「ゲホッ」

 

 

俺より先へ駆けていき、四散する兵士。

 

 

「死ねッ! 死ねぇッ!!」

 

 

目をひん剥き、なおも引金を引く兵士。

 

 

「墜ちろ! 墜ちろおおおッ!!」

 

 

空飛ぶ怪異に、懇願と殺意を剥き出す兵士。

 

数多の兵士が斃れ、尚も進む俺達兵隊。

だけどな、死ぬのが俺の仕事じゃない!

死んでたまるか!

 

そう思う程に足取りは重くなり、抜かれては勝手に先頭になり、また抜かれては先頭に。

爆ぜる肉塊を掻い潜り、なんとか進む。

次は俺なんじゃないか。

そうヒヤヒヤしつつ走り続けた。

 

ネウロイめ、とにかく海岸を支配されまいと必死だ。

 

赤いビームを乱射し、吶喊する兵士らを蒸発させ、ニクス型ネウロイが機銃掃射の如くビームを連射。

今までより ずっとビーム発射間隔が短く、弾幕を薄くしないようカバーを忘れない。

 

 

「うっ!?」

 

 

陸戦ウィッチに、いや。 死体に躓いた。

堪らず前に転ぶ。 砂が口に入り、誰かの血が体表にベットリ漬けた。 生温かい。

気持ち悪い。 だが構っている余裕はない。

 

立ち上がらず、そのまま匍匐姿勢。

立てば死ぬ。

 

これ以上は無理。 立てない。

立ち姿勢は自殺以外の何者でもない。

 

 

「ああそうだよ! 限界なんだよ!?」

 

 

伏せる他ない!

突撃の勢い? 最初だけだよ。

遮蔽物だって、マトモにないんだぞ!?

 

フェンサーやAFVはやられたのか、いつの間にか見当たらない。 つまり盾もない。

ビームと銃弾が頭上を無数に飛び交う、無秩序なガード無用の自殺コースと化している。

 

 

「頭を上げたら死ぬぞ俺。 上げるなよ俺」

 

 

言い聞かせつつ、地面に這いつくばってやり過ごす。

後はしっかり面倒見てよ兵隊さん。

俺は戦線が押し上がったら進む事にするから。

なんなら、死体のフリをしておく。

 

一丸? もう知らん!

チキンで良いよ もう!

 

EDFの空爆と砲撃後にも関わらず、ネウロイ野郎ども、かなり残存しやがったんだぞ。

対して人類、まだ制圧出来る兆しナシ。

 

 

「俺も必死なんだよ! 生きたいんだよ!?」

 

 

無秩序の中で無意味な生存権を主張をしつつ、前を見やる。

ビームの弾幕を抜けた陸戦ウィッチ隊や歩兵隊が肉弾戦へと発展させ、ネウロイに組み付いて殴っていた。

手擲弾、銃剣に円匙、鉄帽。

使えるものは何でも使う。 スゲェ。

逞しいね。 俺とは違う。

 

それでも銃火は激しく、TVの砂嵐かっていう弾幕の中にいた。

そう思うくらいには変に他人事で、悪く言えば おかしく なりそうだった。

耳元で常に羽虫が飛んでいるかのような銃弾が掠める音に、ビームの着弾により盛り上がった砂のシャワーを浴びていく。

豪華にも生温かい血肉風呂に入り浸るまである。

 

 

びちゃり。

 

 

「…………」

 

 

仲間の血肉が飛んできた。

誰かの眼球と目が合う。 最悪だ。

 

 

「戦車隊ッ!? ニクスや空軍は!」

 

 

叫ぼう! オカシくなりそうだ!

 

誰に話すワケでもナシに大声で叫ぶ俺。

だが無情にも無数の銃弾とビーム音で掻き消された。

 

それでも、無機質な無線は拾ってくれたらしく。

Storm1が答えてくれた。

兵士が沢山いる中、俺みたいな二等兵にも関わってくれて嬉しいね。

なにより狂気の世界にも俺以外の生物がいるって実感出来るのが良い!

 

 

『ブラッカーは蹴散らされた。 ニクスは集中砲火で融解。 フェンサーは盾でも弾幕に耐えきれず。 タイタンは機動力に欠ける、後方だ』

 

 

ハッハー!

マジかよ最低!

 

 

「他のは? 色々あるでしょ!?」

『ヘリは自殺行為だから飛んでいない。 グレイプは歩兵隊の盾となり真っ先に鉄屑』

「その鉄屑ことバルガとか!」

『黒海の水深は浅くない。 機動力やネウロイのサイズから かえって邪魔になると判断。 投入予定はない』

「空軍は!?」

『501や509が奮戦中。 されど一進一退。 座標伝達による突入はしてくれるが、他の面では限界がある。 ジェット燃料や弾薬の絡みがあり、通常の航空戦には参戦していない』

 

 

じゃあ どうするんだよ。

総力戦の最中、死ぬのを待つしかないの?

サイキョーじゃん。 兵士冥利に尽きますってか!?

 

 

『諦めるな』

 

 

諦めてないよ?

他力本願なだけ。

 

 

『WDFが投入されれば、制空権は確保出来る。 辛抱だ』

「WDF!?」

 

 

参戦するのは知っていたけど、そういや何処にいるの?

 

 

「軍曹ちゃんに曹長ちゃんですよね?」

『そうだ』

「何処にいるんです」

『秘匿座標から、此方へ真っ直ぐ向かってきているところだ。 間もなく到着する。 耐えろ』

 

 

どれくらいなんだろうね。

結構長く感じるよ。

苦しい中にいると余計に。

 

 

「大戦中のレールガンも そうでしたけど。 最初から投入出来ないんですかね!?」

『あの時は敵に悟られない為と、ギリギリまで誘き寄せてある程度一網打尽にする為だ』

「今回は固定目標でしょうが!」

『WDFを巡る連合の横槍が酷い。 直前になって拉致されたくないだろ?』

 

 

この期に及んで連合が手を出すかな?

いや出すか。 連合だもん。

 

軍曹ちゃんと曹長ちゃんの辛さを思えば、俺なんて……。

ごめん。 俺も頑張るよ。

 

 

「すいません。 死にそうな状況下で熱くなりました」

『もう少しだ。 踏み留まって撃ちまくれ』

 

 

そう言われると、無線が切れた。

耳元の羽音のボリュームが上がる。

 

 

「チクショウ。 やってやる。 やってやんよ!」

 

 

赤黒く変色したTZストークを持つ。

匍匐射撃の姿勢を取り、スコープを覗いた。

ひしめき嘶くネウロイを中心に抑え───。

 

 

「さっさとクタバレえええええッ!」

 

 

降弾量を増加させた。

 

 

 

 

 

◆黒海方面 前線司令部

 

前線に設置された司令部。

そこでEDF司令官は居座っていた。

その取り巻きとなる部下は、後方ベルリン フラックタワー本部にいる戦略情報部と やり取りを交わしつつ、各地の情報を聞く。

前線にいるスカウト、人類連合の黒海監視団からの報告書と必死に睨めっこ。

情報の中には各地の状況が記載されており、彼らは余念なく神経を集中させているのだ。

 

 

「歩兵部隊 一部、第1防衛線突破! 近接戦闘に移行!」

「砲撃、空爆支援中止! 誘導兵による精密爆撃に切り替え!」

「オメガ機械化装甲師団、感なし!」

「新型ネウロイを確認! EDF型に魔女型です!?」

「空中戦、膠着状態続く! 進軍は困難な状況! 送れ!」

「こちら司令部! 間もなく援軍が到着する! 戦線を維持せよ!」

 

 

聞く度に司令官は唸る。

やはりか、ネウロイは決死の抵抗を見せてきた。

NOAHまでの道のり、その最後は空路に頼り切るしかないのだが、その前に海岸に展開する守備隊が厄介であった。

先ずネウロイはEDF型……ビークルに似た怪異を前面に押し出し、ビームの弾幕で地上と空、双方を近付けさせない構えを取った。

後方にはトーチカ型ネウロイまで陣取り、空爆と砲撃に耐え忍んだ個体が順次反撃を開始。

居並ぶ戦車隊を瞬時に不能にしてしまう。

また、遅れるようにして航空ネウロイも出張り、進撃してきた501や509に攻撃開始。

厄介なのは、ウィッチ型ネウロイが出てきた事だ。

編隊飛行をするのは勿論、機動までウィッチそっくりで、格闘戦に慣れていない子は大苦戦。

そうでなくても、姿形がウィッチというだけで、精神的にダメージを受けて戦意喪失をする子すらいる。

だが、これらを片付けない事には近寄る事すら出来ないのだ。

ましてや、NOAH内部にいるだろう親衛隊的な連中とも殴り合わねばならない。

ここで戦力を削り取られてばかりは いられない。

 

 

「司令官! 援軍です! パットン将軍 率いる戦車隊です!」

 

 

1人が叫ぶように報告。

司令官はすぐさま指示を飛ばす。

 

 

「宜しい! 我が軍からもバックアップチームを出す! 遅れているタイタンと、陣地守備隊のネグリング自走砲を合流! 予備のブラッカーも掻き集めて反撃に転じろ!」

「了解! 先方に伝えます!」

 

 

ここでリベリオンの大将、西方軍集団司令官パットン将軍の戦車隊が来たのは大きい。

アニメとは多少編成が異なるが、かの誇大妄想兵器も投入、海岸のネウロイを吹き飛ばさんと進撃開始。

 

あれ? 時期とか、アフリカの方は? とかいうツッコミはなしで。

アレだよ。 決戦だから駆けつけてくれたんだよ。

決戦兵器も頑張って間に合わせたんだよ(決戦乱用)。

 

EDFも合わせて攻撃を続ける。

地上の怪異さえ片付けば、後は空だ。

501と509が空の怪異の相手をしているうちに、なんとかしないと空襲が来てしまう。

 

 

「WDFも来る! なんとしても勝たねばならんのだ!」

 

 

敵も必死だが、人類も必死だ。

波濤となる後続軍団の息が続くうちは、ひたすらに殴り続ける。

もう後には引けないなら、そうする他ないのだから。

 

 

「ストームチームの現在地知らせ!」

「本隊と共に膠着状態!」

「Storm1に伝えろ! ネグリングと戦車隊が来ると! アイツなら上手く運用出来る筈だ!」

「はっ!」

 

 

そう言わすくらいには信用されているStorm1。

誘導兵の"誘導"は決して空爆や砲撃、衛星やミサイルだけのモノではない。

 

 

「オメガはコレで何とかなる。 ならねば困るぞ。 EDFの投入戦力は出し切ったものだからな……!」

 

 

あの時程ではないにしても、祈る気持ちの本部の面々。

 

司令官はヘッドホンを落とすように捨てると、テントから出て行った。

趨勢を見届ける為だ。

 

 

「連合だけでは やはり……いや。 未来より今だ。 我々はここで勝利する」

 

 

黒海方面を睨む。

暗雲立ち込める海は、やや離れた地に設置された司令部からも よく見える。

同時に、闇祓う光が数多も輝く。

その刹那の輝き ひとつひとつは、兵士の命と引き換えに生み出されているものでもある。

 

 

「皆、頼むぞ……!」

 

 

今度こそ、司令官は祈りの言葉を口にした。

 

 

 

 

 

◆sectorΩ

只野二等兵視点

 

後方から履帯音が聞こえるから振り返れば、巨大な戦車隊がやって来たよ。

タイタンよりデケェよ。

ネウロイからのビームも弾いてる。

ナニコレ凄い。

そんなのが死体をバキバキと踏み潰しながら やって来たよ。

履帯に腸だかなんだかの臓器とか、血肉がへばりついている。

見なきゃ良かったぜ畜生!

 

 

「生きてる奴は避けろよ! 俺は言ったからな!」

 

 

威勢の良いオッサンボイスが聞こえたが、戦車長か?

随分と酷い事を言う。 仕方ないけどさ!

 

 

「分かったよ もう!」

 

 

地面に転がったまま、横に動いて避けてやった。

味方に轢かれて死ぬのは勘弁だからな。

 

 

「なんだ、イキの良いヤツがいたか!」

 

 

酷くね? 生きたいんだよ俺だって。

 

 

「悪かったな!」

「悪かねぇ、お前さんだけだったぜ? この辺で威勢良く弾ブッ放してたのは」

 

 

言われて周りを見る。

いつのまにか、俺しか動いてなかった。

 

おかしい……"生きてる"仲間が まだいたんだが。

 

 

「はっ……ははっ……なんだよ……あぁ」

 

 

ダメだ。 変にチカラが抜ける。 ははっ。

 

 

「だが! この陸上巡洋艦ラーテが来たからには、海岸ごとネウロイ野郎を吹き飛ばしてやる!」

「そりゃどうも。 頑張って下さい」

「頑張ってじゃねぇ! オメェも頑張るんだよ!」

 

 

どっかで聞いた言葉だなぁ。

そう思っていると。

巨大な戦車……ラーテだっけ……の重厚なハッチが開かれ、渋いオッサンが見下ろしてきた。

なんだこのオッサン!?

 

 

「ケツについて来い! 一緒にいたティーガーはリタイアしちまったが、後から509の戦車隊やら自走ロケット砲部隊が来る! 安心しろ!」

 

 

一方的に喋られると、また中に引っ込んで行くオッサン。

 

ナニか。 戦車について来いと。

そんで戦えと。

 

 

「……あのオッサン、不器用に励ましてくれたのか?」

 

 

そう思うと、なんか、無視してやるワケにもいかなくなってくるじゃん。

 

ビームが飛んでくる中。

ラーテ以外、的がなくなったのか集中砲火を受けるラーテ。

それでも健気にも頑張って前進していく。

たまに天をも打つ轟音を放ち、デカい主砲でネウロイを吹き飛ばしている。

 

凄いな。

連合製だとしたら、尚の事。

 

だけど、ネウロイはまだまだいる。

怖いが……援護が無いと危ない。

 

 

───ズモモモモモモッ!!

 

 

「ッ!?」

 

 

地中が盛り上がる!

偵察の時に見た、地中のネウロイだ!?

 

 

「オッサン、今行くぞ!?」

 

 

考えるより先に動く足。

血肉を蹴り飛ばしながら、ラーテに取り憑くネウロイを狙い撃つ。

 

 

「離れろネウロイ野郎ども!」

 

 

オッサンボイスが聞こえた。

また飛び出してきたと思えば、黄金のリボルバーでネウロイを撃ち始めた!

 

無謀だ!?

中にいる乗組員も思ったのか、オッサンを抑えて中に引きずり込もうとしているし!

戦意に溢れるのは結構だが、正直射撃の邪魔!

 

 

「俺が片付ける!」

 

 

俺は叫びながら、ネウロイだけを撃ち抜いていく。

TZストークは精度が高い。 スコープとレーザーサイトもある。

この距離で外すほど、俺の腕は悪くない!

 

 

「やるじゃねえか! 気に入ったぜ!」

「良いから!?」

「おっとそうだな! ネウロイ野郎をブチのめそうぜ!」

 

 

いや、車内に引っ込んで欲しいんだが。

ビーム飛んできてるし。

それも、海からも来てる。

こっちは射程圏外なのにズルくね?

 

 

「悔しいが、海の向こうはウィッチに任す! 代わりに海岸のネウロイは潰す! 行くぞ小僧!」

 

 

黙れオッサン!

いや、まあ やるけどさ!

 

 

『こちらStorm1』

 

 

おっ。 ここで隊長から無線が。

ラーテの裏に隠れつつ応答する。

 

 

「こちら只野二等兵」

『無事で何よりだ。 今、そちらへ向かっている。 ネグリング自走ミサイルの部隊と、遅れていたタイタンが来るぞ!』

 

 

おおっ!

援軍が来るのか!

まだ諦めるには早い。

軍曹ちゃん達も来るんだ、生きなくちゃ。

 

 

「待ってます。 WDFは?」

『もう少しだ! 先に海岸を制圧する!』

「了解!」

 

 

まだだ。 まだ終わらない。

でも。 この戦いは勝ちに行くぞ!

 

 

「EDFッ!」

 

 

俺はTZストークを持ち直し、ラーテに続いた。

 

 

 

 

 

◆戦時に関する話

 

かの有名な将軍が残した黒海での非正規の戦闘報告書には、見ず知らずの兵士について短く書いてある。

名も知れず、だが強く、ひとり戦い続けていたという。

 

その戦いぶりから「悪くない。 部下に欲しい」と言わしめたとか。

 

詳細が分からない為、その兵士が どういった者だったかは分かっていない。

だが只者ではなかったのかも知れない。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

80.魔女洗脳

作戦内容:
海岸の怪異排除急げ。
制圧しても、休んでいる暇はない。
出来る範囲で良い。
NOAHへ突入する空軍を援護せよ。
……ッ、同士討ち!?
備考:
同じ分野なら、EDFの方が勝る。

可愛い女の子が酷い目に遭う。
それが好きな紳士もいるよね。


◆sectorΩ上空

 

只野二等兵たち地上部隊が奮戦する中、空でも激戦が繰り広げられた。

陸軍が進撃すると、防衛戦力としてNOAHから多くの航空ネウロイが飛び出してきた。

まるで蜂の巣を突いた騒ぎである。

 

 

「"Black Bee"が出てきました!」

「lock-on! 完了次第撃て!」

 

 

509ウィッチ隊が現代兵器群……エメロードを構える。

電子機器が遠方から迫り来る黒い怪異を捉えると、電子音が鳴り響く。 刹那。

 

 

「撃ちまくれーッ!」

 

 

遠距離から一方的に撃ちまくる。

この世界には未だ無い、高性能誘導弾が空に白煙の畝を作り上げると、回避行動するネウロイを情け容赦無く追尾、爆発。

準備砲撃の如く空を爆風が蹂躙。 暗雲の中、横一列状に煌めき怪異を蹴散らした。

 

 

「センサーが敵を捉えています!」

「かなりの数です!?」

 

 

それでも多く残った怪異が反撃に転じてくる。

ウィッチ隊に支給されているゴーグル・ディスプレイに投影されている歩兵用簡易センサーには多くの赤丸が表示されていた。

 

 

「ミサイル残弾ナシ!」

「捌ききれません!」

「くっ! これ程とは……さすが魔王城だな」

 

 

隊長格がネウロイの群れを睨む。

NOAHは人類の総攻撃に備えて、予想以上の航空戦力を配備していたのだ。

EDFに痛い目に遭わされてきたネウロイは、序戦で高火力をぶつけられるのは織込み済みである。

だからガチ殴りに対抗する術として、EDFの兵器を模倣したり数で勝負に出て来たのだった。

 

 

「空になった武器は捨てろ! 各隊自由戦闘開始!」

「了解!」

「散開!」

 

 

隊長格が叫ぶと、無線を通じて各小隊ないし分隊長に伝播。

ただの鉄箱と化したエメロードを投げ捨てると、分散してネウロイに接近していく。

 

多くの子は、重量の問題からミサイルの予備を持たない。

代わりに小銃類を持ち込んでいる。

距離を詰め格闘戦に移行した。

この世界の、いつものドックファイトだ。

だがEDFの小銃である。 負ける気はしない。

 

そう意気込み殴り込む509を、やや後方にいる501は観戦し、ネウロイ戦力の度合いを指し測る。

厳しい戦いは避けられそうにない。

 

 

「EDFの兵器を使ったロングレンジ攻撃でも、まだ倒せないヤツがいるなんて」

「ネウロイにとっての本陣、牙城なんだ。 耐え得る戦力を蓄えていても変じゃない」

 

 

後続の501……ハルトマンとバルクホルンが睨む。

 

皆、弾帯を肩に巻きユニットには増槽。

EDFの軽量リキッドアーマーも着込む。

肩にはEDFの重火器も背負い重兵装。

 

航空ウィッチは重火器を多く携行しない。 重いと飛べない以外にも、燃料と魔法力を余計に消耗し、機動力の低下を招くからだ。

先程の509部隊が、予備のミサイルを持たない理由がそうだ。

だが今回、継戦能力を稼ぐ為に持ち込んだ。

また、デメリットをカバーする為に彼女らのストライカーユニットはStorm1式の万全な整備と改良がされている。

ほぼ いつも通り……否、以上に性能を発揮できる。

 

 

「みんな良い?」

 

 

確認を取るように、ミーナが言う。

 

 

「509がネウロイ守備隊を引きつけている間、私たちはNOAHへ突入。 本体を撃破します。 ネウロイにとって本拠地です。 堅固に抵抗してくる事が予想されます。 覚悟だけはして下さい」

「そんなの、とっくにしてるさ!」

 

 

シャーリーが真面目に叫ぶ。

皆も今更なんだ、と頷いた。

 

 

「そうね。 でも」

 

 

ミーナは一拍おいて言うのだ。

 

 

「誰一人落伍する事は許しません。 皆の帰還をもって任務成功とします!」

「「了解!!」」

 

 

覚悟を持って、皆は暗雲へと突撃していく。

だが彼女らは若い。

若くして多くの戦さ場を経験した。

それでも現実は常に覚悟の上を行く。

ジークフリート線。 大人の悪意。 WDF。

まだまだ現実は多くある。

怪異もまた、現実を隠す。

多くは誰も知らない。 それが事実であった。

 

 

 

 

 

◆sectorΩ上空

509部隊ウィッチ

 

撃って撃たれて、誰かが落ちて。

自分の隊も僚機も分からず、がむしゃらに戦った。

手に持つ多砲身銃、M3レイヴンSLSで撃ちまくり、ネウロイを片っ端から倒していく。

 

 

「はぁ……はぁ……くっ!」

 

 

倒しても倒しても巣からはネウロイがやってくる。 キリがなかった。

だけどこっちだって援軍が来るんだ。

戦線を維持して、歩兵隊に敵が行かないようにしなくちゃ。 頑張れ……頑張れ私。

 

そんな時。

異変を知らせる無線が響く。

 

 

「ウィッチ!? ウィッチの形をしたネウロイを確認!」

「えっ!?」

 

 

動揺を隠せない声。

私は思わず我に帰り、周囲を見回す。

確かに……ウィッチの形をしたネウロイが飛んでいた。

 

機動、姿、黒く塗り潰されたシルエットのようだけど、ユニット部分も模倣されていて、ウィッチのソレだった。

 

 

「そんな! 似すぎてる……撃ちたくないよ!」

「バカ! やらなきゃやられるぞ!」

 

 

仲間内で揉める声。

だけど、それも長くは続かない。

 

 

「きゃああああ!?」

 

 

悲鳴、そして銃声。

戦場で起きる恐怖は、何も死だけじゃない。

こういった……謎。

 

 

「う、ウィッチ型ネウロイが攻撃してきました! 落伍者1名!」

「撃ち返せ! 迷いは捨てろ!」

「ッ!」

 

 

そうだ。 やらなきゃやられる!

私は銃を構え直す。

 

ネウロイめ!

私たちの戦意を削ぐ行為をして!

許さない!

 

 

「墜ちろーッ!」

 

 

弾幕を張り、前方のウィッチ……いや、ネウロイを撃つ!

撃たれたネウロイは、素早い旋回で回避した。 まるでウィッチのように。

 

 

「……ッ、迷うもんか!」

 

 

心を無にして、撃ち続ける。

だけど、油断した。

目の前の光景に気を取られて、残弾の把握が出来てなかった。

 

 

───カチッ。

 

 

弾が切れた!?

 

 

「り、リロード!」

 

 

慌てて空のマガジンを投げ捨て、予備を叩き込んで前を向いた瞬間。

 

 

ウィッチ型ネウロイが目の前にいて。

黒い手で、ガッと頭を掴まれた。

 

 

「うっ……!?」

 

 

身動ぎすると、手を離して何処かにいった。

 

良かった……あのままビームでも撃たれたら死んでいた……。

でも、何がしたかったんだろうか。

いや、そんな事より今。

 

 

「このっ! ふざけた真似を!」

 

 

"ネウロイ"の飛んで行った方向に銃口を向けて……"ウィッチ"だった。

 

 

「ッ!」

 

 

慌てて銃口を下ろし、別の方向へ。

いけない。

残弾把握といい、混乱している。

危うく友軍誤射までするところだった。

 

 

「落ち着いて私……! "敵"を撃つのよ!」

 

 

そう言い聞かせると、頭が段々と冴えてきた。

よし、大丈夫。 訓練通りやるだけ。

 

センサーを見る。

"青丸"が敵……その方向に銃口を向ける!

 

 

「墜ちろニセモノめ!」

 

 

ズダダダダッ、とネウロイに弾丸のシャワーを浴びていく。

バラバラになった。 何故か粒子になって消えない。 けど無力化したなら良い。

 

 

「次!」

 

 

"実弾兵器"を"手に持った"ネウロイを倒す。

ネウロイの癖に悲鳴を上げて堕ちていく。

でも同情しない。 手を止めたら死ぬ。

 

次で最後。

もっといた気がしたんだけど、仲間が倒してくれたに違いない。

なら、私でフィニッシュだ。

 

 

「消えろ!」

 

 

ネウロイの癖にシールドを張ってきた。

だけどEDF製の弾丸で押し切って、遂にバラバラにしてやった。

 

 

「やったよ! 見たかネウロイ!」

 

 

周囲に"黒い子"が集まってくれた。

みな、私に えがお を向けてくれた。

 

……かお ないのに どうして わかるのか

ふしぎ だ な ぁ?

 

あれ。

 

なんだか あたま が

ふにゃ ふにゃ してきた。

 

はりきり すぎた のかも。

 

そんな わたし を 慰めるように ぽん って。

ひとり が 頭 に 手を やった。

不思議と意識がはっきりしてきて……。

 

 

「………………へ?」

 

 

気が付くと、私はネウロイに囲まれていた。

 

え、じゃあ、私が倒したのは?

ネウロイじゃないの?

 

ネウロイじゃないなら……ウィッチ?

 

 

「あ、ああ……ああ」

 

 

一気にチカラが抜ける。

手から銃が落ちる。

 

 

「ち、ちが……いや、違わない……? え? え?」

 

 

理解出来ない。

だって、ネウロイとウィッチの区別がついた、ついた筈だ。 間違ってない。 いや間違えた。 なんでどうしてどうやって。

そして本能が理解する。

 

 

私は仲間を殺した。

 

 

「いやあああ!!?」

 

 

喉が潰れるんじゃないかという悲鳴を上げて、私は私で、私じゃなくなった。

 

それを用済みの合図だったのか。

本当のネウロイが一斉に私にビームを撃つ。

すると私は私がしたみたいに、私がバラバラになる光景を見て闇に堕ちた。

 

 

 

 

◆作戦司令部

 

 

「ウィッチ型ネウロイと交戦した部隊が全滅しました!」

 

 

蜂の巣を突いた騒ぎを起こしたのは、EDF司令部でもあった。

ウィッチ型ネウロイと交戦した509の小隊が全滅したという。

戦闘意欲が削られるにせよ、あまりに早過ぎないかと司令官は変に冷静になる。

 

 

「情報が欲しい。 少佐」

「はい。 既にスカウトウィッチから送られてきた画像を解析、推測の域ですが纏めました」

 

 

戦略情報部の少佐は相変わらず淡々と、しかし仕事が早かった。

 

 

「ウィッチ型ネウロイの1体が、509の隊員と接触。 すると隊員が同部隊を殺害し始めました」

 

 

司令部に画像が送られ、司令官は直ぐに観察する。

画像は鮮明で、ウィッチの表情がよく分かる。

 

光を失い虚ろな目。

だけど表情はしっかりしており、意識はあるように見える。

 

 

「これは……説得されたワケでもあるまい」

「はい。 恐らく洗脳です」

「洗脳? 一瞬でか?」

 

 

思わず疑問符が出る司令官。

怪異、底が知れない存在だ。

思えば霧を出すヤツもいた。

チャフをばら撒くヤツもいるという。

姿形のみならず、そういった能力があっても おかしくないのかも知れない。

 

 

「専用の脳波モニタリング装置を備えていない為、正確には分かりません。 ですが分析したところによると、そうと結論付けます」

「クローンエイリアンに取り付けられていた装置を連想させるな……なんにせよ、倒さねばならない」

 

 

やる事は変わらない。

プランが変わるだけだ。

司令官は直ぐに兵士達に繋ぐと、指示を出す。

 

 

「ウィッチ型ネウロイは洗脳紛いの事を仕掛けてくる、格闘戦は極力避けろ。 ミサイルを使って遠距離から戦え。 補給部隊にはミサイルを用意させる、それを使え」

 

 

そういうと、部下が言われるまでもなく補給部隊に連絡。

追加のミサイルを更に用意させた。 行動が早い。

 

 

「遠距離からなら、安全に対処出来る筈だ。 ミサイルの余剰はなくなるが仕方あるまい」

 

 

それに罪悪感も減る事を狙う司令官。

主に10代のウィッチの負担を減らそうとしての事だ。

優しい、ではなく そうするべきだろうと。

 

戦争とは死の匂いを消す歴史でもある。

ミサイルやロボットの遠隔操作による遠距離攻撃が可能になる事で、相手の表情や形を見ずに済み、結果として人を殺している感覚を減らせる。

罪悪感がなくなれば、残忍にも多くの敵を倒しやすい。

EDFの世界で、ドローンが禁じられていたのも その一環だろう。

それが議論される事もあるが、この場においてはそれどころではない。

やらなきゃ死ぬ。

机上の理論と現場の現実が合わない事は様々な分野である事だ。

緊急事態下では特に役に立たない事も多い。

 

 

「出来れば海岸を制圧後、対空用として陸上兵士に持たせるつもりだったが。 ニクスとネグリングで持たせるしかない」

「隊員は今日まで生き延びてきました。 それこそ数多の飛行型を駆除している実績があります。 十分対処可能です」

「そう信じよう」

 

 

別に海岸に陣取って、胡座をかく為ではない。

制圧後、砲兵陣地を押し上げて、NOAHを砲撃する予定を組んでいる。

その際、砲兵陣地を守る為に使用する予定であった。

だが状況には臨機応変に対応しなければ。

いつもそうだった。

これくらいで惜しむ司令官ではない。

 

 

「海岸の制圧状況は?」

「パットン将軍の戦車隊と、合流した我が軍のネグリング部隊、戦車隊が戦闘を継続しています。 間も無く制圧完了予定です」

「宜しい。 砲兵隊に連絡。 NOAHまで射程の無い大砲を海岸まで運び込むよう伝えろ。 海岸で生き延びた地上部隊は、そのまま砲兵隊の護衛だ」

「了解。 伝えます」

 

 

司令官は無線を切り、再び黒海の地図を見ては様々な線や文字を書き込んでいく。

だがやはり、それらも机上の理論、いや空論でしかないのは否定しない。

 

怪異が更なるチカラを隠している可能性。

それを否定出来ないのもある。

なにより、ストームチームが再び奇跡を起こしてくれる保証もまた、ないのだから。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

81.審判の日

作戦内容:
制圧後、砲兵隊が海岸に陣取りNOAHを砲撃。
残存地上戦力は護衛に回れ。
備考:
陸でも出来ることをやる。

終わりへ向けて。


◆sectorΩ

只野二等兵視点

 

 

「スゴい……光景だ」

 

 

どこをどう行って、戦ったのか覚えていない。

だが俺たちは海岸のネウロイを駆除した。

そうして生き延びた兵士は口々に呟くのだ。

この悲惨な光景に気がついたから。

 

海岸側は赤黒く染まり、死体が満遍なく横たわる。

血の甘ったるく生ぬるい臭いと感覚が世界を支配する。

 

これが俺たちが望んだ結果なのか。

否。 それに付随した結果だ。 分かってる。

 

俺たちの世界も、こうだ。 今更なんだ。

 

分かっているつもりでも……最悪だよ。

特に死体の海の上に立っているとさ。

 

 

「大丈夫だ……まだ俺は」

 

 

生きている。

 

その事実が、疲労に紛れる理性が、俺を立たせる。 身体に息を吹き込ませる。

血塗られたTZストークを改めて握りしめた。

戦争は続いている。 まだ安心出来ない。

 

オッサンの陸上戦艦なラーテの威力は凄まじかったが、後から来たタイタンとブラッカー、ネグリングとニクスのミサイル攻撃がシメとなったか。

だが、それも陸上の話。

黒海上空の巣は以前健在。

生きている限り戦わねばならない。

 

 

「周囲を制圧したと伝えろ」

「ハッ!」

 

 

離れたところ。

Storm1隊長が指示を出し、スカウト隊員が連絡を取っている。

 

おお……来てくれたのか。

 

無線を受けてから、どれくらいの時が経ったのか。

対して経ってない気もするし、経った気もする。

 

なんであれ、来てくれたのは嬉しい。

俺は隊長に走り寄ると敬礼した。

 

 

「お待ちしておりました」

「待たせたな。 良く頑張った。 もうひと踏ん張りだぞ」

 

 

肩を叩き、励ましてくれる隊長。

そうだ。 もう少しだ。 ここまで生き延びたんだ、最後まで生き延びてやる。

 

 

「ところでWDFは?」

「NOAHに突入した。 海岸の空は509のウィッチ隊が受け持つ」

「……そうですか」

 

 

そうなのか……。

この辺に来てくれると思ったんだけど。

やはり決戦兵器ポジションだよな、その……キスで減衰してたとしても。

 

 

「大丈夫だ。 あの子達は強い」

「そうですよね。 帰りを信じてます」

 

 

そう願うしかない。

海の上、歩兵隊の出番は無い。

 

暗雲を見る。

増援の戦闘機やウィッチ隊が突撃しては、怪異と撃ち合っていた。

EDFが改修した戦闘機のパイロットの一部はウィッチなのか。

戦闘機にビームが直撃して直ぐにキャノピーが吹き飛び、イスごとウィッチが飛び出してくると、ユニットを起動。

機械化航空歩兵として戦闘を継続している。

スゲェ。 メ●ス●かな?

 

 

「我々にも出来ることはあるぞ」

 

 

観戦する俺に、隊長が言う。

ナニか。

携行ミサイルは航空ウィッチに回されてる筈だけど。

そう思っていると。

 

 

「うん?」

 

 

背後からデカい大砲を運んだトラックがゾロゾロやってきた。

 

 

「砲兵隊? 此処から巣を砲撃するつもり?」

 

 

不整地で良くやるよ。 他に使えるビークルが無かったのかも知れないが。

 

 

「よぉ若造。 また会ったな!」

 

 

トラックから砲兵隊のオッサンが出てきた。

オッサン率が高まっている。 高まってない?

 

 

「久しぶりです。 エトワール作戦ぶりですかね?」

「それくらいだろうな。 まぁ、どこ行ってもやる事は変わらん。 大砲をブッ放つだけだ」

 

 

勇ましい事で。

砲兵隊が死体をどかし、展開していく。

デカい大砲の仰角を調整。 巣に向ける。

 

 

「現地にエアレイダーは行かないんだろ?」

 

 

オッサンがStorm1に尋ねる。

この状況だ。 歩兵が無理に行っても足手まといだろう。

 

 

「俺は行かないが、501とWDFがいる」

「ウィッチーズか。 お嬢さんが誘導してくれるってなら良いが」

 

 

下手に撃つとウィッチに当たるからね。

暗雲の中だ、ここから弾着観測は難しい。

 

 

「ヘリを飛ばしてでも向かって欲しいとこだな」

「無茶言うな。 制空権の無い敵の根城だ、ヘリが棺桶になりたくないんでね」

「お嬢さん達を信用して良いのか?」

「して貰えるか?」

「……分かった。 Storm1が そこまで言うなら付き合おうじゃねぇか」

 

 

どうやらウィッチが誘導兵になるらしい。

出来るのだろうか。

軍曹ちゃんと曹長ちゃんは経験あるかもだが。

いや信じよう。

俺に出来るのは、それくらいだ。

 

 

「決まりだな。 で、お前ら歩兵隊は? 暇なら手伝え」

「そうさせてもらう。 護衛という形でな」

 

 

そう言って指を指す隊長。

その先には、航空ネウロイがワラワラと向かってきている光景だった。

 

 

「なるほど。 頼んだぞ」

「頼まれた。 只野、戦闘用意!」

 

 

仕事の時間らしい。

俺は弾かれるようにTZストークを構える。

 

 

「了解」

 

 

ホント……信じるだけじゃダメだよな。

 

 

 

 

 

◆作戦司令部

 

 

「司令官! 航空ネウロイが我が方の砲兵隊を目掛けて攻勢を仕掛けてきました!」

 

 

無線機をカチカチと動かしていた通信士が、皆に聞こえる声量で叫んだ。

 

 

「やはり別働隊がいるか! 各隊には砲兵隊を死守するよう伝えよ! 絶対にネウロイを陣地に入れるな!」

 

 

海岸の守備隊を壊滅させられたNOAHは、予め決められたかのような素早い反応を見せてきた。

 

出て来た航空ネウロイの目標は ただ1つ。

疲弊した本隊と共にいる砲兵隊の撃滅である。

 

ネウロイの思考は分からないが、恐らく遠距離攻撃による一方的に殴ってくるEDFに対して、一時的にでも有利になるべく、NOAH護衛戦力を除いた戦力を遊撃部隊のように出撃させ、嫌でもEDFを野戦に持ち込ませる算段か。

ひとたび懐に飛び込めば、砲撃も中断するだろう。

それに、守備隊との戦闘で傷付いた本隊にトドメを刺すチャンスもある。

そうなれば、sectorΩは瓦解。

そのまま他方面に散らばる連合軍の無防備な横腹を滅多刺しに出来れば、人類は敗北ないし大打撃を受け、立て直すのは困難になる。

 

しかし、そんなネウロイの動きを見逃す司令官ではない。

指令を受けた歩兵隊は激しい攻勢に耐えていた。

 

 

《空中戦だ! 負けられないぞ!》

《スプリガンのチカラ、見せてやれ!》

《Storm4を援護する!》

《黒海でも酷い目に遭うのは同じかよ!》

 

 

ウィングダイバーの精鋭部隊スプリガン隊ことStorm4は、遮蔽物の無い空でビームを撃ち合う。

ウィッチの様に長くは飛べないが、踊る様な動きで攻撃を回避しつつ一方的に殲滅していく。

それでも着地のタイミングが発生、そこをレンジャーである軍曹チームのStorm2がカバーする。

 

 

《俺だってクイーン相手に生き延びたんだ! これくらいなんだ!》

 

 

オマケで只野二等兵。

 

そんな彼らが空に気を取られている隙を突き、地中に未だ潜んでいたネウロイが這い出て来た。

 

 

《地中から まだネウロイが!》

《任せろ》

 

 

そこをフェンサーの精鋭グリムリーパー隊ことStorm3が突撃。

卓越した高機動、槍捌きで群れの懐に突風の如く飛び込んではネウロイどもを反撃の余地の欠片すら与えず粉砕していく。

 

 

《ワイヤーみたいな切れ味の糸を飛ばす銀βと比べたら、これくらい!》

 

 

オマケで只野二等兵。

 

だが、横腹に横槍じゃゴルワァと連合軍を相手にしていたネウロイが反転してくる。

 

 

《こちらスカウト! 別方面からネウロイが接近中!》

《ルーデル大佐、空爆頼む。 座標───》

 

 

そんなヤツらにはエアレイダーのStorm1が無断出勤中の某ウィッチに座標伝達、EDF製ナパーム弾を投下して貰う。

この世界には存在しない強力な灼熱は怪異を海岸ごと焼き払ってしまう。

強靭なネウロイ装甲で覆われたコアも、熱伝播によりダメージを受けて崩壊した。

 

 

《炎にハメられながら撃たれて消えろ!》

 

 

オマケで只野二等兵。

 

ストームチームによる防衛は盤石な防衛力として機能していた。

勿論、只野二等兵のような一般兵士の練度も凄まじく、ネウロイを砲兵陣地に1体たりとも寄せ付けない。

 

ネウロイはEDFを舐めていた。

新型を生み出しはしたが、それで対処出来ると過小評価していた。

なんなら洗脳紛いの、エゲツない能力すら行使して。

その上で消耗戦になれば勝てると踏んだのだ。

 

確かにEDFもだいぶ消耗した。

辛い戦いを強いられている。

対空ミサイルの余剰もなし。

レンジャーの場合、ほぼ小銃のみで対空対地戦闘。

対してネウロイは航空戦力もあれば伏兵も準備していた。

人類の本隊は既にボロボロ。 雑多な武装、満足に完全武装出来ない傷だらけの残党兵。

 

だが、その残党兵たちの戦闘能力を怪異は知らなかった。

 

たがが残党。 されど残党。

 

彼ら地球防衛軍の"人類最後の意地"が、本営たる船団を撃沈せしめ、圧倒的な文明力と戦力を誇る要塞級司令船を墜とし。

 

満身創痍の身体をひきずって。

 

神さまにすら歯向かった事など。

 

 

《くたばれえええええッ!!》

 

 

只野二等兵の声を無機質な無線が何度も拾う。

無線の向こうでは、彼に倒されている怪異が無数にいた。

 

只野二等兵のように、あの場にいなかった兵士も確かにいる。

だが、そんな"ただの兵士"の戦闘力すら並の人間の比ではないのだ。

 

ネウロイに恐怖があるかは分からない。

だがもしあるならば。

 

今の彼らは死神に違いない。

エゲツないのは、節度を超えているのは怪異ではない。

 

魔法少女を改造し。

模倣ながら人造神を生み出し。

人間同士で殺し合いをしながらも。

"地球防衛"という欺瞞に満ちた正義を掲げ。

怪異をも飲み込まんとしているバケモノ。

 

紛れもない人間だ。

 

 

「海岸は守りきれそうです!」

「宜しい! 砲兵は攻撃に集中!」

 

 

間も無く最終砲撃が始まろうとしている。

合図は魔法少女と人造神による呪詛詠唱。

この世界の人間が、バケモノに願う偽りで飾る平和への言葉。

 

必要な事だ。

記録されない歴史だ。

 

 

 

 

 

◆NOAH

 

暗雲の中。

先行していた501部隊は懸命に戦った。

鬨の声を上げ、戦った。

黒の洪水に飲まれないよう、必死に闇の中を泳ぎ続けた。

 

 

「ネウロイの反応!」

「サーニャさん! 方向を随時教えて!」

「サーニャ! 私が守るからな!」

 

 

潜水していた怪異も、彼女らを溺れさせる為に浮上する。

 

 

「え……? ウィッチ……?」

「ありゃEDFの航空機……!」

「そんな!」

 

 

ウィッチ型ネウロイ。 高機動型ネウロイ。

EDF空軍のKM6戦闘爆撃機型。

或いは重爆撃機フォボス。

 

 

「あの大きな舟は……まるで神話の……!」

 

 

そして、大きな方舟。

 

姿に狼狽え、動揺し、それでも人類の為と信じて戦い抜く少女たち。

 

 

「狼狽えるな! 親玉は舟だな、倒すぞ!」

 

 

人類の為……。

彼女たちウィッチは、まだ子どもだから信じ抜いて戦えた。

その純粋な心は、魔法の ひとつ だ。

ウィッチをウィッチたらしめる要素のひとつかも知れない。

だからこそ、大人になると魔法が使えなくなるのやも知れない。

 

でもEDF司令官たち大人が思ったように、正義はひとつでは無いのだ。

ならば当然の様に他者の正義を受け入れ難く、悪とみなせるから、争いが生まれる。

なのに国家という他人同士が戦争をしないのはネウロイという、共通の敵がいるからだ。

 

もし。

もし目前にいる共通の脅威が消えた時。

人類は どうする?

 

バケモノは人間を憂いた。

だがもう、趨勢を見届ける事はしない。

この星は、この世界の人類の星だ。

不法移民は希望なき地球へと去ろう。

エイリアン達も かの者 を失い去った時、そうしたのかも知れない。

 

 

「こちら軍曹! 援護します!」

「並びに曹長。 弾着観測を開始。 砲撃に注意せよ」

 

 

そんな かの者 紛いの 白銀のウィッチはWDFとして仕事を果たそうとしていた。

 

世界を守る、魔女を守るチカラは方舟を、沈めようとしている。

刹那的には両方を守る結果になるだろう。

 

だが将来的には どうだろうか。

 

人類にとって、沈むのは黒い希望か。

 

それとも白い絶望か。

 

 

 

 

 

◆sectorΩ

只野二等兵視点

 

 

「ウィッチから砲撃要請!」

「撃てと伝えろ!」

 

 

ドカンドカンと天を打つ何門もの大砲。

とうとう巣への砲撃が始まった。

 

地上じゃなくて暗雲の、空中にいる敵に当てなきゃならないし難しいだろう。

暗雲の所為でここから観測も出来ない。

軍曹ちゃんと曹長ちゃんに任せるしかない。

 

俺は波濤となり寄せてくるネウロイに撃ちまくりながら、皆の無事を願う。

 

あっ! 弾が切れたぞ!?

 

 

「誰かストークの弾」

「あ!? ネェよ、ンなもん!」

 

 

軍曹のぶっきら棒部下が ほざく。

ですよねー、聞いてみただけだよ畜生!

 

 

「落ちている武器を拾えば良い!」

 

 

若い部下が、弾薬をばら撒きながら乱暴に言う。

 

 

「戦い続けろ! そうするしかない!」

 

 

皮肉屋な部下も言う。

弾が無いなら そうしてでも戦い続けねば。

TZストークも所詮は武器。 使い捨て。

弾がなくなれば役に立たない。

貴重品に違いないだろうが、ここは戦場。

俺は潔く捨てると、その辺の赤黒く染まった長モノを拾った。

 

変色してようと感覚で分かる。

いつものPA-11だと。

 

やっぱコレか。 しっくりくる。

使い方も染み付き、信用も置ける銃だ。

ただの兵士が持つ得物としては、相応しいじゃないか。

 

 

「安心して良いよな!?」

 

 

誰に言うでもなく構える。

弾倉を抜き中を見て残弾確認、流れのままにスライドして初弾を弾き飛ばして新たな弾薬を銃身に送り込む。

離れたところにいるネウロイに照準を合わせ、トリガーを引いた。

弾丸が吐き出され、ネウロイを撃ち抜いた。

いつも通りだ。 劣悪な環境でも確実に動作してくれた。

そうじゃなきゃ困る。

 

 

「安心しろ! あの子達も強い!」

 

 

軍曹も言う。

軍曹の持つブレイザーが怪異を蒸発させていく。 残る怪異は数えられる程度だ。

 

 

「弾着!」

 

 

暗雲の中、煌く刹那の光。 複数の爆発。

当たったらしい。 効果は知らん。

 

 

「同一諸元! 効力射ァッ!!」

 

 

効果、あったらしい。

 

実際に知れるのは、現場にいるウィッチだけだ。 俺たちEDFじゃない。

だが信じるだけだ。

 

若い砲兵が撃ちまくれと叫ぶ。

同時に機関砲かよってくらい連続で大砲が火を噴いた。

天を、地を、全てを揺るがす大砲撃だ。

 

 

「弾種は問わん! 詰めまくれ!」

「ありったけ! ありったけダァ!」

 

 

榴弾、カノン砲、口径問わず全ての大中小の大砲がひっきりなしに火を噴いていく。

もはや、無線ナシに会話は不可能だ。

EDF製だからか、砲身が溶ける事はない……なんて事もないのか。

一部は冷却の為に黒海の水をぶっかけて冷やされている。

海岸は蒸気が立ち込め、何も見えない。

ただ、無線越しに伝えられる座標を信じて撃ち続けている。

専用回線で俺には聞こえないが……砲兵隊も軍曹ちゃん達も戦っているのは分かる。

 

 

「味方に当たってないよな?」

「なんかズレてません? い、いえ!」

 

 

おいこら。

不安になる様な事を言うんじゃないよ。

 

いちおう言っておこう。

自分さえ良ければ良いという思考に堕ちるほど、誤射を甘く見てしまう。

 

 

「もし軍曹ちゃん達に当てていたら、ガスバーナー炙りの刑ですよ」

「ざけんな。 こちとら嬢さん達を信じて撃ってんだ。 文句あんなら嬢さん達に言いな」

 

 

むぅ……。

それもそうか。

なら俺も信じて待つしかない。

陸の人。 陸にいなきゃ ただの人。

 

 

「そうですね……隊長?」

 

 

ここでStorm1隊長が気まずそうにソッポを向いているのに気がつく。

何故に。 ナニかあった?

 

 

「気にするな」

「そう言われましても」

「お前が気にするのは彼女達の無事だ。 それと戦闘中に俺の目の前に来てビーコンを当てられる可能性を危惧したり、空爆や砲撃地点になりそうな場所に飛び込まない事だ」

 

 

やけに具体的だなオイ。

戦時中にナニがあったんだ。

 

 

「とにかく、彼女たちを信じろ。 それしかない」

「分かりました」

 

 

了解するしかない。

地を這う歩兵だしな。

空飛ぶエリート様には敵わないワケだし。

 

 

「くっちゃべってねぇで、こっち手伝え!」

「口じゃなく手を動かせ!」

「援護して下さいよ!」

 

 

軍曹の部下に叱られた。

ごもっともだ。

軍隊をクビにならない為にも、人間をクビにならない為にもな。

 

俺はまた了解すると、トリガーを引いた。

それしか仕事が無いなら、そうするしかない。

 

 

 

 

 

◆NOAH

 

暗雲を突き抜けて、無数の砲弾が降り注ぐ。

雨粒にして大きすぎるそれらは、オーバースペックの異界チート弾。

多くは黒海の海面に衝突して無意味な水柱を立てていく。

だが密度の高い雨粒だ。

土砂降りの中、傘もナシに濡れずにいられる人間がいないように、中にいたネウロイは撃たれる他ない。

 

 

「砲撃地点から離れろ!」

「はみ出たネウロイを攻撃して!」

 

 

曹長ちゃんは砲兵隊に指示を出して……今や崩れゆく方舟を見届けるだけ。

軍曹ちゃんは、有り余る膨大な魔力を取り巻きにぶつけ、消していく。

 

 

「相変わらず……EDFは凄いな」

「私たちの味方で良かったですわ」

「……ウィッチ型ネウロイは」

「宮藤。 もう過ぎた事だ……忘れろ」

 

 

もう銃はいらない。

その域に達した。

 

内部のネウロイが浄化されるサマを、方舟が黒海へ沈むサマを。

人類の悲願にして悪の象徴たる怪異の根城が消えていくサマを見られたのは、巣の内部にいた501とWDFだけだ。

 

 

「……あっ」

 

 

爆炎が闇を払う中。

最後のウィッチ型ネウロイが、手を伸ばす姿が宮藤の瞳に映る。

それは直ぐに爆炎の渦に消えてしまったが、脳裏にはっきりと焼き付く光景だった。

 

それは助けを求める手だったのか。

それとも人類を倒そうとする手だったのか。

 

 

或いは。

"人類を救おう"とした手だったのか。

 

 

それは誰にも分からない。

だが、優しく時に頑固な宮藤に考えるキッカケを生み出したのは間違いない。

それは他の者達にとってもそうだった。

 

やがて核を砕かれた方舟。

海に浮かばなければ海底に横たわる事すら許されず、爆散。

大量の光粒子となり、跡形もなく消えていった。

 

 

《砲弾、残弾ナァシッ!》

《撃ち切った。 満足だ》

《今日の仕事はコレで終わりだ》

 

 

それを合図として魔法のように暗雲が晴れ上がると、黒海の真ん中にいるのはウィッチーズだけとなった。

 

 

《か、勝った……?》

《やったのか……?》

《ウィッチーズ、EDFがやったんだ……?》

《……EDF》《EDF》《EDF……ッ》

 

 

各戦線で戦っていた連合軍も、ネウロイが消えて……晴れた空を見上げて口々に呟いていく。

 

やがて、それは ひとつの掛け声に繋がった。

 

 

《EDFッ! EDFッ! EDFッ! EDFッ!》

 

 

兵士達は立役者を称え合い叫びあう。

歓喜は涙となり、国籍も服も体格も違う兵士同士が気持ちを1つに抱き合った。

この瞬間、人類は一瞬でも ひとつ になる事が出来たのだろう。

 

その声はウィッチーズを囲い、確かに聞こえた。

 

喜びは確かにある。

悲しみもある。

気持ちは複雑なままに。

 

だけどそれは、少女たちが また ひとつ大人になれた証でもあるのだ。

 

 

「さぁ、帰りましょう」

 

 

ミーナは振り返った。

笑顔は陽で照らされ、いつもより大人びて見えた。

 

 

「軍曹さんも、ね。 只野さんが待ってるわ」

 

 

また軍曹ちゃんも、穏やかに笑みを返す。

それを見た曹長ちゃんも……同様だ。

 

子どもらしい、無邪気な笑顔は浮かばない。

 

役目を終えたWDFも、大人になれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってください! 空中に何か……人影が見えます。 ネウロイの様です」

「バカな……まるで あの時の再現だ!?」

「漆黒の……巨人?」

 

 

 

 

……next




アッサリ塩味。
ズルズル増量するよりかは。

次回は纏める感じかも。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

82.判決

少佐の部下:
あの日と同じ……。
いえ、分かってます。
正銘の神じゃないって。
戦闘可能な者は攻撃を開始して下さい。
残された戦力を結集し、最後の戦いに挑んで下さい。
健闘を祈ります。
備考:
神だとしてもネウロイの神だ。
人類には必要ない。


◆とある兵士の日記

 

黒海の暗雲が払われた時、人類が決定的な勝利を得たと感じた。

少なくとも、あの場にいた生存者たちはそうだ。

人種も国も乗り越えて、俺たちは涙して喜んだ事は間違いない。

だけど違ったんだ。

戦争は終わっていなかったんだ。

オストマルクやオラーシャの事じゃない。

他の戦線じゃなく、黒海の戦争だ。

あの海の中央に501部隊と白銀のウィッチがいて。

その上に漆黒の巨人が浮いていたんだ。

ネウロイなのは分かる。

総じて奴らの色は闇を固形化したモノどもだ。

だがアレは。 アレだけは異様だった。

威風堂々とした姿だった。

その後の戦いも相まって、仲間達は言った。

 

神だと。

 

神話とは、こうして生まれるのかと俺は思った。

だが立ち会えた奇跡が素晴らしいかと言えば、そうでもない。

 

鮮血で彩られた舞台を、更に上書きしてくるバケモノ相手に、どれくらい正気でいられた人間がいたことか。

立ち向かうなんて、狂気の沙汰だ。

それなのにアイツらは歯向った。

当然のようにだ。

(中略)

それでも、誰かが戦い続けていたのを知っている。

あの覇気は凄まじかった。

ただものじゃない。

英雄とは、ああいうヤツをいうんだろう。

 

 

 

第二次ネウロイ大戦:ネプチューン作戦

生き延びた兵士の日記より抜粋

 

 

 

 

 

◆黒海 海岸

只野二等兵視点

 

なんでこう……。

EDFってのは、安心すると悪い事が起きるんだよ。

世界が仕組んだ罠だね。

よほどEDFが嫌いらしい。

 

黒海中央、501とWDFの頭上に浮いている漆黒の巨人が視界に入った時から、ふざけるなよマジでと思う。

どこぞの犯人だ。 主張し過ぎだ。 し過ぎて逮捕出来ないヤツだよ。

逆に刑事側が皆殺しされるんだろ?

冗談であってくれ。

 

 

「隊長。 アレ、ネウロイですよね?」

「だろうな」

 

 

淡々とStorm1隊長は答えた。

それは同意見だ。

 

 

「まるで旗艦に搭乗していた かの者 だ」

「かの者?」

 

 

俺はNO.11撃墜作戦の時は いなかった。

だから、知っているのはストームチームや先輩達だ。

 

 

「想像の域での話になるが、司令官に当たるヤツだった。 ソレにソックリだ」

 

 

なら、さっさと殺して終わりで良いんじゃないか。

そう思ったのは、他の面々もらしい。

生き延びた先輩達……ブルージャケットが やって来て、決意を新たにしている。

主兵装はKFF70だ。

 

 

「あの時の死神!」

「怖い……怖いが、もう逃げるか!」

「戦力なら ある」

「どうせニセモノだ! 狼狽えるな!」

「ネウロイめ、神を模倣しやがったか!」

 

 

恐怖と怒りが入り混じる叫び声。

よほど強かったんだろう、かの者とやらは。

 

だけどさ。

神を模倣って……EDFも やらかしてるからね。

その下に浮いてる白銀の子がいるでしょ?

WDFっていうんだ、知らない?

 

 

「EDFのビークルを模倣するのは分かる。 戦場で大破、放棄したモノから情報を盗めば良いからな。 だが、かの者の情報は どこで手に入れた? 死体の記憶から? まさかWDFから?」

 

 

一方、ブツブツと言い始める隊長。

なんだ なんだ。

考えている余裕があるのか、今?

 

 

「撃破しましょう。 それしかないでしょ」

「そうだな。 本部」

『抵抗……いや、射殺を許可する』

 

 

本部もナニか逡巡した様子だったが、すぐ倒すよう言ってきた。

遠慮はいらないな。

殺せ。 生物かは知らないがな。

浮いているばかりで まだ攻撃してこないが、いつ攻撃が始まるとも知れない。

先手必勝。 ネウロイだし迷わずに済む。

 

 

『501、シルバー。 そこにいるのはネウロイだ倒せ』

 

 

最も近いウィッチーズに指示を出す本部。

連合も同意見だろう。

俺も言える立場なら、そうする。

だけど。

 

 

「了解し「嫌です!」」

「ッ!?」「宮藤!」

 

 

ミーナの返答を遮る宮藤の声。

叱るよな声を上げる坂本。

他の面々は息を飲むのが分かる。

 

 

「だって! だって攻撃して こないんですよ! 無抵抗なんです! 意志の疎通が出来るかも知れないじゃないですか!」

 

 

俺は頭を抱えた。

無線越しに頭を殴られた気分だ。

かつてのエイリアン交渉団の様な末路が見える見える……。

 

 

「宮藤! 相手はネウロイだ! 人類の敵だ!」

「バルクホルンさん! 銃を下ろして下さい!」

「そこを退け宮藤!」

「退きません!」

「芳佳ちゃんっ!」

「宮藤さん! いい加減になさい!」

 

 

501まで内輪揉めかよ。

やっぱ子どもだな……いや、大人でも こうなったか。

エイリアン交渉団みたいな。 結果が分かってから非難するのはセコいが、ありゃ交渉の余地あるのか?

ネウロイは生物かも怪しいのだ。

戦争を仕掛けた目的も一切不明なのに、対話が出来るとは思えない。

隣人と相対する時、銃や爆弾を用いたヤツもいただろうよ。

それを踏まえて考えろ宮藤軍曹。

君は優しい。 だが時に戦場では命取りだ。

狂ってる?

違う。 相手が狂ってるんだ。

 

 

「私、分からないよ。 なにが正しいの?」

「……ルッキーニ」

 

 

南島でのやり取りを、また繰り返すルッキーニとシャーリー。

正義は人の数だけあるんだよ。

平和に終わるなら越したことはない。

だけど。

繰り返すようだが、平和を破って包丁を向けてくるヤツに両手万歳して交渉出来る可能性は どれくらいか。

そのまま刺されたら どうする。

そうなってからじゃ遅いんだ。

 

 

「私は」

 

 

軍曹ちゃんの声が聞こえる。

 

 

「私はWDFです。 ウィッチを守るチカラでもあります……私が話してみます。 501は万が一に備えてさがって下さい」

 

 

軍曹ちゃん……与えられた名前の役目を果たそうとして。

健気だが、だけど ここまで来て なにか あったら。

 

 

「軍曹だけ残せない。 私もWDFだ、残ろう。 給料泥棒なんて言われたくないしな」

 

 

曹長ちゃんまで。

義理堅いな。

EDFに肉体改造されて酷い目に遭ったのに。

まだ続けようとしてくれている。

 

 

『許可でき……ハァ。 分かった、シルバーに任せる。 501は直ちに撤退せよ』

 

 

本部まで折れやがった。

疲れた声だが、命をかけている事実は変わらない。

ナニか2人にあって死んだら、殴り込むからな。

 

 

「わ、私も残ります!」

 

 

宮藤。

また会った時、俺にぶたせるなよ。

二等兵が軍曹を? 知るか。

軍規なんかクソ食らえ!

 

 

『宮藤軍曹。 これはEDFが君に出来る最大の譲歩だ。 それを踏まえて欲しい』

 

 

流石にソレは許可しなかった。

原因を作った子も残らせて、死ぬ時は共に死んでくれ。

なんなら、絶望の地球に拉致してα型に生きたまま喰わせるぞコラ。

……過激な思考になった。 駄目だな、落ち着け。 良くも悪くも宮藤は子どもだ。

そして優しい子だ。

WDFも、もっと言えば司令官も。

可能性を捨てるな。 希望は必要だ。

 

 

「行くわよ宮藤さん」

「了解、しました」

 

 

ミーナが言い、宮藤が了解して無線が一旦切れた。

俺は海岸で眺めてるしかないのか。

1番無力で行動してないヤツじゃん俺。

そんな俺が こんなグチグチ考える資格はなかったよな……はぁ。

 

 

「只野。 怖い顔しても仕方ない」

 

 

隊長の声で我に帰る。

いや分かってるけどさ。

心荒れるじゃん、身近だった子が殺されるかも知れない時に。

 

 

「出来る事をするんだ」

「どうするんです」

 

 

尋ねる俺。

どうしようもない。

俺たち歩兵だぞ、海の上の敵に出来る事なんて。

 

そうイジけてると。

隊長は無線で瞬時に様々な方面へ連絡を取り始める。

レッドスモークも炊き始めた。

 

 

「空飛ぶ乗り物を用意する」

「航空機? そんなの」

 

 

もう無いんじゃ、と思った時。

隊長は上を指差す。

 

 

「あるじゃないか。 機械化航空歩兵、ウィッチという魔法の箒が」

 

 

釣られて晴れた空を見る。

ああ……そうだ。 この世界は そうなんだ。

 

 

「コイツをもってけ只野」

 

 

ポイと投げ渡されるはTZストークと弾倉。

綺麗にされており、水色のラインが空同様に美しく輝いている。

 

ははっ。

さしずめ魔法の杖だ。

 

 

「いつのまに拾って直してくれたので?」

「まあな。 といっても、綺麗にして弾を補充すれば良かっただけだったぞ」

 

 

思わず笑みを浮かべる。

隊長は頷き「行ってこい」と言ってくれた。

ヘルメットの下の表情は見えないが、声色で分かる。

隊長も笑顔なんだって。

 

 

「只野。 また会ったな」

 

 

空から声を掛けられた。

顔馴染みになったスカーフェイスの お姉さんが飛んでいる。

 

 

「手を伸ばせ。 空を飛ばせてやる」

「宜しくお願いします。 ルーデル大佐」

 

 

そしてウィッチのチカラが、箒がある。

WDF。

それは今の俺にも当て嵌まるんじゃないか?

 

 

 

 

 

◆黒海中央

 

漆黒の巨人と相対する軍曹ちゃん。

付き添う曹長ちゃん。

 

緊張の面持ちをする白銀の魔女に対して、漆黒の かの者は のっぺらぼうだ。

EDFの世界でも そうだったが、それでもアッチは言語の様なモノを喋っていた気がする。

 

だからって交渉出来るかは別問題だ。

そもそも、ネウロイは喋るのか。

身振り手振りで 伝えようとするナニかはあったかも知れないが、目の前の巨人は その様子が無い。

 

 

「あの」

 

 

口を開いた……"開けた"のは軍曹ちゃん。

 

 

「もう戦わなくて良いんですよね。 戦いは終わったんですから」

 

 

巨人は何も言わない。 動かない。

ただ、軍曹ちゃんと曹長ちゃんの遥か背後……連合軍が受け持った海岸にて、無抵抗の小ネウロイ残党狩りがされているサマだけが流れゆく。

 

 

「私は、アナタたちネウロイが、どうして人類を攻撃してきたかは分かりません。 でももし、私のカラダのように理不尽な目に遭って怨みを抱いたなら……気持ちは分かります」

 

 

海岸から物体が飛んでくる。

シールドを張れない お姉さんウィッチと、ぶら下がっているのは異界の兵士だ。

 

 

「でも! でも……もう、許してあげて欲しいんです。 人間にも良い人が沢山います。 私と曹長さんは、只野さんって素敵な人と会えました。 こんな体になっても優しくしてくれました!」

 

 

ここで始めて巨人が動いた。

右手を軍曹ちゃんにかざす。

それはまるで、理性の無かった頃の軍曹ちゃんで。

かの者 の 攻撃の前兆のソレだった。

 

 

「ッ!!」

 

 

気が付いた曹長ちゃんは軍曹ちゃんを体当たり。

この場から離れさせる。 刹那。

 

 

バシュンッ!

 

 

光弾が曹長ちゃんを覆い尽くす。

ウォーロックの時と同じだった。

 

 

「曹長さんッ!?」

「曹長ちゃん!」

 

 

悲鳴を上げる軍曹ちゃん。

紛れて 叫ぶ ひとり の兵士。

また黒焦げになったのか。 生きてるのか。

不安が全体を覆う中、煙が晴れて……やがて状態が分かる。

 

 

「やってくれたな」

 

 

そこには かの者 と 同じく片手を上げる曹長ちゃんの姿が。

強力なシールドを張っており、白い肌には傷1つ無い。

だが、穏やかな表情は捨て去っており、戦意を剥き出しにした魔女が そこに 鎮座していた。

 

かの者は、そんな曹長ちゃんに……いや、人類に無慈悲にも再度攻撃を仕掛けようとしている。

手にエネルギーが充填していく様子が目視でも分かりやすかった。

 

 

「残念だが"有罪"だ。 お互いにとってな。 なら生存権を掛けて……消し合うしかない。 まるで最初からのように。 弱い生き物が淘汰され、強い生き物が生き延びる自然の摂理のように」

 

 

WDFは今度こそ戦いを終わせる為に。

なにより世界と、この世界に生きる魔女を守る為に戦闘態勢に入る。

 

 

「軍曹、応戦だ。 迷いは捨てろ」

 

 

黒海の中央にて、再び戦争が勃発。

神を模倣した者同士、人智を超えた戦いが始まった。

 

だが、バケモノは。

WDFは決して彼女らだけではない。

 

無謀にも飛び込んでくる、ただの兵士も また、WDFだ。

 




かの者 同士。 ニセモノ同士。
だけど片やEDFがいる。 只野二等兵がいる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

83.かの者

司令官:
やはり こうなったか。
交渉は無理のようだ。
こうなったら、やる事ひとつだ。
我々が戦い続ける限り勝率はゼロでは無い。
戦時、ストームチームが教えてくれた。
……戦闘を開始!
手段は問わない。
戦闘への参加も自由。
戦意ある者だけが参加せよ!
備考:
機密情報038。
サテライトブラスター起動。

機密情報038は前作に出てきた衛星兵器ですが、当作中にも無理やりねじ込んでみたり。


◆黒海

只野二等兵視点

 

ルーデルに抱えられて、黒海中央へ。

全面から風を受け、背中に おっぱい の感触を浴びつつ空を飛んでいるのは新鮮だったけど、味わってる場合ではない。

案の定というか、戦闘が開始されており、軍曹ちゃんと曹長ちゃんが激しい攻防を繰り広げている。

光弾が飛び交い、打ち消しあって、時に海面に着弾して水柱を形成している。

もうあれ……人類が目撃して良い光景じゃないよ。

いろんな意味で。

世界に残る神話って、実話なんじゃないの?

少なくとも俺らの世界に残されていた黄金船の神話は そうだったろうし。

 

 

「やべぇ漏れそう」

 

 

で、思わず出た言葉がコレ。

お姉さんに抱えられた男が発して良いモノじゃないよ。

でも早漏で良いよ。 死ぬより良い。

 

 

「次、余計な事言ったら落とす」

「俺は爆弾じゃないよ? 無駄な投下は女王様の名が泣くよ?」

「泣くのは只野だろ」

「分かった俺が悪かった」

 

 

ルーデルの表情は分からないが、赤くなってるんじゃないだろうか。

見てみたいが、今はそれどころじゃない。

 

俺はTZストークを構える。

スコープ越しに巨人を見た。

レーザーは届いている。

よし……この辺で良いだろう。

 

 

「この距離で旋回して欲しい」

「外すなよ」

「外しようがない。 この銃の性能は良いんだ」

 

 

距離はソコソコ離れている。

ヤツと軍曹ちゃん達の流れ弾が来ないのを願うしかない。

 

 

「じゃあ……死のうか」

 

 

ネウロイ死すべし慈悲はない。

俺はトリガーを引きっぱなしにした。

青白いマズルフラッシュを焚き、フルオートによる無数の弾丸が漆黒の巨人へ吸い込まれ、いつものように爆散……しなかった!

 

 

「ナニィッ!?」

 

 

表面が抉れただけ。

しかも直ぐに再生。

今までのネウロイだったら、貫通していたぞ!?

 

 

「距離による減衰はあるけど、こりゃないだろ!」

 

 

いや冷静になれ。

WDFの2人に猛攻されて無事なのだ、普通じゃないだろ。

 

 

「喚くな! 来るぞ!」

 

 

ルーデルに叱られ、ハッとする。

ヤツは怒ったのか、こちらに手を向けて……光弾をマシンガンのように連射してきやがった!

 

 

「避けろ!」

「言われるまでもない!」

 

 

と、回避行動をするルーデルだったが。

ミラージュのように誘導性があり、虚しくユニットに被弾。

俺という重荷、シールドを張らないほど弱まった魔力もあったか、くそっ。

 

 

「うぐっ!?」

 

 

黒煙を空に撒き散らしながら、高度が下がる。

 

下は水とはいえ、叩きつけられたらヤバい。

いや、身動き出来なくなるのが1番ヤバいか。

 

 

「もう良い! 切り離してくれ!」

「いや、まだだっ」

 

 

ナニ言ってんだ。

俺を切り離して身を軽くし、少しでも岸に寄れば生存確率は稼げる!

 

 

「諦めるなって!」

「何も諦めてない……よし、今か」

 

 

と、俺を離して別れた。

自由落下を始める俺の体。

笑顔を見せ、滑空するように離れていくルーデル。

 

 

「うおおおッ!?」

「後は任せた!」

 

 

まさかの責任放棄!?

いや、あの爆撃女王だ、切り離しのタイミングにナニか意味が!

 

 

「仁さーんッ!」

 

 

と、白い影が俺を抱きしめたと思えば、空へと舞い上がる。

チカラ強く、やわこい感触……この感じは。

 

 

「軍曹ちゃんッ!」

 

 

戦っていた軍曹ちゃんだった。

久し振りに会った気分。

 

 

「間に合って良かったです!」

 

 

ありがとう。

で、言い難いんだけどルーデルは……。

 

 

『こちら曹長。 大佐はコチラが預かった、後は頼む』

 

 

という曹長ちゃんからの無線で安心した。

うん、複数の意味で助かったな。

俺が他の女を心配したら、怖い目に遭いそうな気がしてきた。

まぁ、その。

空中で歩兵の受け渡しをする時点で怖い目に遭ってるが。

戦闘と制裁の恐怖よりマシ。

 

 

「任されました。 さぁ、ふたりの共同作業といきましょうか」

 

 

夫婦の共同作業みたいに言うな。

俺は言わないけど。

 

そんなふざけた会話にキレたのか。

巨人は流星群の如く空からビームの雨を降らせてきた!?

 

 

「ヤバッ! ナニこの攻撃!?」

 

 

人間卒業試験扱いされる弾幕シューティングゲー並みの密度!

 

思わず叫ぶも、改造された軍曹ちゃんは ひょいひょいとかわしていく。

俺を抱きしめたままで。

 

 

「ふふん。 その程度問題になりませんね」

 

 

うわ軍曹ちゃん強い。

最小限の動きで避けたよ、冷静に。

だけど攻撃が効かないんだよな……どうしよう。

 

 

『ストームチーム。 戦闘に参加する』

 

 

隊長から無線が!

戦ってくれるのは嬉しいけど、どうやって。

狙撃銃で狙える距離じゃないし、海上を超えて来るしかない筈だが……。

 

うん?

なんかユニットのエンジン音が。

思わず振り返る。

 

 

「は?」

 

 

501のミーナと。

彼女に抱えられたStorm1がいた!

それと坂本に抱えられたStorm2!

バルクホルンに抱えられたStorm3!

シャーリーに抱えられたStorm4!

他の者は援護の形!

人数的に隊長格のみだが、やはりヤバい!

 

 

「「「「来たぞ」」」」

「なんか来たー!? スゴい絵面ッ!?」

 

 

テンパるのも仕方なくね?

英雄達がケモ耳生やした女の子に運ばれてるんだよ?

 

 

「良く運べますね!?」

 

 

特にフェンサーのStorm3。

バルクホルンが怪力の固有魔法とはいえ、重量はハンパない筈だぞ!?

 

 

「問題ない。 チームストワンによる万全の整備と改造のチカラだ」

「ストワンってなんだあああ!?」

「501の整備隊だ。 俺が調教した」

「ナンだ調教って!? いつの話!?」

「501に潜伏して2日目くらいだな」

「かなり初期だったあああ!?」

 

 

戦場なのも忘れて叫び散らす俺。

最終決戦の雰囲気じゃねぇ。

 

 

「むっ! 来るぞ!」

 

 

隊長が叫ぶ。

また我に帰ると、ヤツがミラージュを飛ばしてきやがった!

 

避けられない!

だが、そこはWDFの軍曹ちゃん!

強靭な魔法陣……シールドを張って防ぐ!

 

 

「私が皆を守ります!」

「エライぞ。 よし、戦闘開始」

 

 

隊長が指揮を執り始めた。

物凄い戦闘態勢だ。

501も良く付き合ってくれるよ。

宮藤の件と、今までの付き合い、何より隊長のカリスマだろうか。

 

 

「バルクホルン! ヤツの頭上まで行って死神を投下!」

「りょ、了解した!」「頼むぞ」

「坂本! 少し距離を置いてヤツの周りを旋回しコアを特定! その間に軍曹はブレイザーを!」

「了解」「任せろ!」

「シャーリー! 戦闘の合間を縫い、スプリガンを切り離せ! 飛行が出来なくなったら抱え上げるのを繰り返してくれ! 素早い君にしか頼めない!」

「わかった!」「海の上、良い舞台だ」

「只野! 撃ちまくってヤツにダメージを与えるんだ! 機動は軍曹ちゃんに任す!」

「イエッサー!」「2人なら怖くないです」

 

 

おぅ……馬鹿げていると思った俺を恥じた。

マトモな指示が飛んでいく。

こりゃガチでやらねば無作法というもの。

 

 

「ミーナ! 俺を抱えたまま旋回! 他の者は援護だ、その指示はミーナに任す!」

「分かったわ」

「本部、情報部! 支援頼む!」

『こちら本部、了解した』

『情報部も了解』

「オペ子!」

『ひゃいっ!?』

「大丈夫だ。 俺たちに任せろ」

『は、はい! 信じてます!』

 

 

後方支援も取り付け、各自行動を起こしていく。

 

取り敢えず俺は攻撃だ!

 

 

「うおおおおおッ!」

 

 

撃って撃って撃ちまくる!

ヤツは怯まない、だが手は止めない!

引きつけられているだけでも、かなり役に立つ筈だ!

 

 

「はぁっ!」

 

 

スプリガンがランスのビームで、巨人を貫く。

が、直ぐに再生する。 だが攻撃の手は止めない。

 

周りでも、手が空いている宮藤、リーネ、ハルトマン、ルッキーニ、ペリーヌ、サーニャ、エイラが撃ちまくる。

 

囲まれる事で、狙いを付けられず立ち止まってしまう漆黒の巨人。

そこの脳天に、投下されたグリムリーパーがブラストホール・スピアをかます!

 

 

「ふぅんッ!!」

 

 

強烈な一撃!

頭部が吹き飛び……すぐ生えた!?

キモい再生能力だ!?

 

 

「ダメか……離脱する!」

 

 

死神は、そのままドボーンッと海に落ちた。

質量ある筈なのに、それほど大きな水柱が立たなかった。

謎である、いや、今は目の前の敵を倒さねばならない。

 

 

「見えた! ヤツの左胸に当たる部分だ!」

 

 

坂本が叫ぶ。

固有魔法でコアが見えるのだったな、弱点が分かったのは大きい。

心臓の部分か。 また生物的な……だが!

 

 

「集中砲火ッ!」

 

 

容赦しない!

俺、軍曹、手の空いている皆でその部分を撃ちまくる!

なのにダメだ! 再生能力を超える攻撃にならない!

 

 

「くそっ!」

 

 

そこに隊長がビーコンを照射。

光の点が収縮すると。

 

 

『バルジレーザー照射!』

 

 

軍事衛星サテライトW1による太いレーザー光がヤツに注がれる!

全身に光を浴び、銃火を浴び……だが、まだ倒れない!

 

 

「なんてヤツだ」

「かの者以上だな。 再生能力だけだが」

 

 

隊長と軍曹が驚いた。

え、マジで? かの者よりコイツヤバいの?

 

 

『こちら本部。 ヤツは歩兵の火器では手に負えない。 今、情報部が総司令部のデータベースにアクセスした。 その中にあった秘密兵器を起動させている、暫く耐えてくれ』

 

 

……それ、実在するんでしょうね。

情報部が「存在しません」とかツッコまない?

 

 

「なら信じて耐え忍ぼう。 皆、回避優先だ」

 

 

言うが早いか。

ヤツが再び流星群を降らせてきやがった!

 

 

「なんだ!?」

「流れ星!?」

「ネウロイのビームです!」

 

 

いけない!

軍曹ちゃん以外には、これは厳しい筈!

 

 

「私が守ります!」

 

 

軍曹ちゃんが大きなシールドで皆を守ろうとする、だけど。

 

 

「きゃあっ!?」

「うわっ!?」

 

 

破られてしまい、そのまま流星群が皆を襲う!

避けられても防げないか!

 

 

「ぐっ!?」「きゃあああ!?」

「防ぎ切れないーッ!」

 

 

皆もシールドを張って防ぐものの、ビーム出力が強すぎるらしく、皆は撃墜されてしまった。

ボチャボチャと雨粒のように水面に落ちていく面々。

まるで濁流に飲まれたみたいに、一瞬で。

 

 

「みんな!?」

「戦闘を継続しろ只野二等兵……ッ!」

「私たちに構わないで……!」

 

 

どうやら命は無事か。

 

 

『きゅ、救助艇を派遣済みですっ! 出来るだけ中央から離れてください!』

 

 

オペ子さんとやらが指示を出した。

あまり彼女の事は知らないんだけど、成長しているんだろう。

昔聞いた感じだと、ポンコツだったらしいからね。

 

 

「ごめんなさい……WDFなのに、皆を守れない……ッ!」

「軍曹ちゃん! 誰も死んでない! 寧ろこれからだ! ここでヤツを食い止めるんだ!」

 

 

弱気になる軍曹ちゃんに喝を入れて、俺はTZストークを再度撃ちまくる。

そうだ、まだ終わってない。

何も終わってない。

終わらせてやらなきゃ、なんねぇんだ!

 

 

「喋りもしなきゃ交渉もしない! 巣を破壊されようと降参もしなければ抵抗の一択! 消えろ! 消えろ! 今直ぐ消えろ! それがお前の選んだ道なんだァッッ!!」

 

 

───まるでEDFだな。

 

戦って、戦い続けろ。

この星から追い払え……だったかな……。

 

 

「ッ!」

 

 

必死に撃ちまくってくる相手。

それを軍曹ちゃんが避けまくる。

激しく動く中、それでも俺は弾幕を張って抵抗を続けた。

 

互いに無駄だとしても。

それでも。

 

追い払え。 戦い続けろ。

この星を代表して。

 

それは、コイツも……いや。

関係ない。 もはや。

俺は宮藤みたいに優しくはなれない。

 

死にたくも、当然ない。

 

だが俺はコイツとは違う。

もうヤツには仲間がいない。

俺にはいる。 だから叫ぶ。

叫ぶ事が、出来るんだ。

 

 

「情報部ッ! 早くしろぉ! 間に合わなくなっても知らんぞおおお!!」

 

 

真面目にやってやってんだよコッチは!

 

 

『機密情報038ハッキング完了! 操作権移譲! スタンバイモード切替! 地球と当該座標のデータリンククリア! 空間転移用意良し! サテライトブラスター起動! 砲身修正! 座標入力終了! 出力臨界! 照射開始ッ!』

 

 

少佐のクールな印象とは真逆の、気迫ある声と物凄い速さで聞こえるタイピング音と声。

ターンッ、と最後にエンターキーを押したかのような音が響いた刹那。

 

 

───ドゴォンッッ!!

 

 

黒海の中央に、光の槍が突き刺さった。

サテライトW1の比じゃない、凄まじいエネルギーを込めたモノだった。

 

 

『サテライトブラスター大破! 再度の発射は不可能です!』

 

 

それは一瞬だけだったが、かの者を貫く。

黒海の海底深くにすら刺さっただろう。

その勢いは津波となり、救助艇と海岸にいる残存部隊を流していく。

 

 

「みんなーッ!?」

 

 

情報部ナニしてくれてんだ!

みんな巻き込まれたぞ!

津波とはいえ、この大津波。

下手すると命にかかわる。

無線からは数多の悲鳴からの沈黙。

 

 

「仁さんッ! まだ終わってないです!」

 

 

ハッとして かの者 の方を見る。

まだ浮いていた……コアだけが。

 

 

『只野二等兵!』

『只野!』『只野さんッ!』

 

 

司令官、少佐、オペ子の声。

 

 

『やれッ! 只野二等兵ッッ!!』

 

 

Storm1隊長の叫び。

そうだ。 やる事は ひとつだけだ。

 

 

「今度こそ終わりだああああッ!!」

 

 

撃ちまくる。 撃って撃って、撃ちまくる。

残弾全て、ヤツにくれてやる!

 

コアはヒビが入り、それでも必死に耐えて、それでも限界が来て。

やがて砕け散り、光の粒子となって四散した。

 

残弾はゼロだった。

 

 

「はぁ……はぁ……これで、終わり」

 

 

世界が白けた。

が、直ぐにまた、歓声が上がる。

ストームチームと501の声も聞こえて、俺は脱力した。

 

 

「お疲れ様でした……帰りましょう」

 

 

俺を抱えた軍曹ちゃんが労ってくれる。

あの時と一緒。

 

 

「本部……これより帰投します」

 

 

また歓声が聞こえた気がした。

俺は口角を上げる。

俺は1人じゃないんだって思えたからだ。

 




やっつけ感。 いろいろと。
ボチボチ物語も終わりに。

衛星……たぶん、今頃になって情報が発掘されたのでしょう。
使い所さんを渋っていたら総司令部が壊滅しちゃった的な。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

84.絶望への前進

兵士の皆さんへ:
ネプチューン作戦は成功に終わりました。
多くの犠牲の果てに、我々は勝利したのです。
そしてある程度の称賛と褒賞を貰いました。
悪くいえば、手切れ金です。
……そうです。 EDFは撤退します。
あの絶望蔓延る地球へと。
ですが、これが最善だと信じます。
この世界にとって我々がガン細胞にならぬ内に、エイリアンはエイリアンの星へ帰らねばなりません。
WDF。
魔女と世界を守った軍隊としての体裁が残るうちに。
地球にもまた、我々を必要としている人達がいるのですから。
さぁ、帰りましょう。

ここまで付き合ってくれた兵士の皆さん。
本当に ありがとう。

只野二等兵への辞令:
EDF第251駐屯基地へ配属。

ゲーム誌に掲載されていた情報参照。
EDF6、人類最後の砦となる基地。
発売前に書いてしまったりしているので、設定が異なる場合があります。


◆ベルリン

只野二等兵視点

 

作戦終了後、ベルリンに戻った俺たちは荷造りをする事となった。

特に称賛される日々も凱旋パレードもない、華やかで温かな対応をされる事もない。

 

ああ、いや……本部と情報部が ならないように、意図的に仕組んでるんだ。

変な しこり が残らないようにな。

 

だから、こんな夜逃げするような行為に勤しむ訳だ。

世界が違うから足が付く事もない。

 

遺産は沢山残るだろうけどな。

この世界の未来で騒がれそうだ。

 

ふむ……。

そう考えると、俺たちの世界で言うオーパーツの都市伝説の類も こんな感じだったのかもな。

 

エイリアンの遺産。

無かった事にされて埋め直されるのか、それとも再利用されるのか。

 

まっ。 どうでも良い。

俺たちは魔女の世界から逃げて、絶望蔓延る世界へ戻る訳だし。

 

 

「只野、本部から お前に辞令が出ている」

 

 

荷造りが終わった頃、隊長が複数ある紙切れの1枚を渡してきた。

何気なく貰って見てみる。

 

期待なんてしていない。

今更、階級上げたり勲章を貰える訳じゃあるまい。

 

で、内容がこうだ。

 

 

「EDF第251駐屯基地に配属?」

 

 

と、簡潔に書かれていた。

なんだ第251駐屯基地って。

 

228でも221でもない。

全く知らん基地だ。

 

 

「地下施設を備える、残存する駐屯地としてはマトモな部類の場所だ」

「地下ですか。 本部が拠点にしていた所ですかね」

「さあな。 ただ、ここにいる連中、みんなしてソコに向かう」

「それって」

 

 

他の基地は無いって事か。

ははっ……絶望的。

 

 

「暗い顔をするな。 お前宛の手紙も来ているぞ」

 

 

今度は何枚かの、別の紙を渡してきた。

質の悪い、今の紙とは別の質感のモノだ。

 

差出人は……1枚目はルーデルか。

 

 

「えーと……『願いを叶える手伝いをしてくれて礼を言う。 ありがとう』……か。 短い付き合いで手紙を出してくれたのか、嬉しいね」

 

 

無事に帰れたっぽいし。

良かった、良かった。

 

この世界が、本当に平和になる事を願っているよ。

 

ネウロイが消えて、人間同士の正義の戦争とやらが無くなり、嘘つきの為の平和が来たとしても……。

 

 

「もう1枚は宮藤か……『あの時は、ごめんなさい。 でも きっと、いつか戦争がなくなって、ネウロイとの悲しい戦いが終わると信じてます』……ねぇ。 戦争は俺も嫌だよ。 ホント、終わって欲しい。 そう願う」

 

 

俺らの世界……復興の目処が立たない絶望の世界だろうな。

生き残れるのかな、俺。

 

幸せになれるのかな。

こんな事、考えてちゃ持たないから この辺で思考を停止しよう。

 

 

「音読するのか、お前は」

 

 

突っ込まれた。

いや、良いじゃん。

 

ここには隊長しかいないんだし。

とか思ったからか、軍曹ちゃんと曹長ちゃんがやってきた。

 

 

「あっ、仁さん! どうですか、荷造り終わりましたか?」

「この男の事だ。 チンタラやってたに決まってるだろう」

 

 

曹長ちゃん、酷い。

だからこそ事実は言わねば分からないのだ。

 

 

「悪いけど終わってるんだな」

「む……そうか。 すまない」

 

 

そうやって素直に謝れるのは好感が持てる。

それもまた、生き延びる秘訣になりそう。

 

 

「で、その。 本当に2人とも……俺たちの世界に来るのか?」

「勿論です。 私は仁と一緒なんです。 一緒じゃなきゃ、嫌なんです」

「その……私もだ。 お前は危ないからな、私たちがいなきゃ生きてけないだろ?」

「そりゃ君の方だろー?」

「な、なにを!」

「冗談だよ。 2人とも、ありがとう」

 

 

照れる2人を見て癒される事しばし。

隊長が重々しくも、はっきりと告げてきた。

 

 

「只野、この世界に残っても良いんだぞ」

「それじゃ仲間を見捨てる気がしまして」

「宮藤たちに会わなくて良いのか?」

「このまま消えちゃうのが良いかなって」

「はっきり言うが、元の世界は絶望的だ」

「覚悟しています」

「良いんだな?」

「はい」

 

 

覚悟を揺らがさないで欲しい。

でも、それだけ俺の事を心配しているんだろうな。

 

手紙を書いてくれた子もいて。

 

軍曹ちゃんも、曹長ちゃんも。

隊長も。

 

俺って幸せ者だね。

元の世界が阿鼻叫喚の世界でも……俺は頑張れる。

 

きっと。

 

 

「ではゲートに向かう。 あまり長く起動していると、連合が手を出してくるかも知れないからな。 行くならパッとだ」

「了解」

 

 

先行するStorm1。

俺はWDFの2人の手を繋ぎ、後をついていく。

 

 

「行こうか、軍曹ちゃん。 曹長ちゃん」

 

 

2人は頷いてくれた。

 

共にゲートに向かう。

不思議と足取りは軽かった。

 

ゲート前にはEDF隊員だけがいて。

共に戦ってくれた非正規の、"509"はいなかった。

 

まぁ、無理に付き合わんでも良いしな。

寧ろ十分付き合わせた。 ありがたい。

 

 

「さようなら……ストライクウィッチーズのみんな。 魔女の世界」

 

 

先頭集団がゲートの光へ消えていく。

俺たちも倣うようにして続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、俺たちEDFは魔女の世界から姿を消した。

 

代償と報酬は釣り合わない結果だったと思う。

 

だけど、確かに この世界に来て、戦ったのは紛れもない事実なんだ。

 

そう主張したところで、歴史の教科書には載せてくれないだろうけど。

 

そんな事は、良くある話なんだろう。

でも、それでも良いかもな。

 

誰かが……それこそ自分自身が、それを覚えていれば、それが全てなんだ。

 

そして、俺の、俺たちの歴史は続く。

生きている限り、続いていく。

 

 

───違法移民を取り締まるぞ!

 

───1匹足りとも残してはならない!

 

───戦って、戦い続けろ!

 

 

「EDFッ!!」

 

 

───歴史は絶望の世界に引き継がれる。

 

 

 

 

EDF第251駐屯基地。

地球防衛軍6へ続く。

 




これにてWDFの物語を終わらせていただきます。
ここまで読んでくれたEDF隊員の皆さん、改めてありがとうございました!

なんか、書いていて「違う。 これじゃない」感があったり
これは……ツマラナイんじゃ……などと、色々と後悔もありました。
ですが、お話を完走する事が出来たのは良かったと思っています。
未完成放置作品が増えなくて、安堵しております。
ただ、書く事の難しさ、他の作者様のように面白い作品を書けたら良いのになぁ……と羨ましく感じたりもありました。

また何か書くかは分かりません。
ですが、またどこかで お会いできたら嬉しいです!

何度目かになりますが、ここまで読んでくれて、本当に ありがとうございました!

ハヤモ


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。