敏腕(感)男、マネージャーするってよ (如水くん)
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特別編
Happy Birthday 咲姫


皆様、お久しぶりです。約束通りこの五月十日、咲姫の誕生日に再びこのハーメルンに帰ってきました。いやーD4の小説あんまり増えてないね。わかってたけどwもっと書く人増えろよー頼むよー。
一応注意書きしておくと、一年時が進んでいる設定です。なんで天くんとかは高校二年生になっているのでよろしくお願いします。


学年も一年上がり、二年生へとなった。クラス替えこそあったが、そこまで大してメンツが変わるわけでもない。

変わり映えしない毎日が続く事は前々から変わっていなかった。それに不満などなく、いつもと同じというだけで精神的に楽ではある。

 

天「まぁ、クラス替えして一ヶ月経つわけだが••••••本当に変わらないな」

 

教室中を見渡しても、去年と変わらない内装にため息すら漏れる。何かしら刺激が欲しいと感じてしまい、つい誰かしらに目を向ける。

 

焼野原「まさか連続で一緒になるとはな」

 

天「ん?あぁ•••いたのか」

 

焼野原「いや酷くない?俺の扱いどうなってんの?」

 

気さくに話しかけてきてくれたが、生憎とそんな気分ではない俺は軽く一蹴する。

ただ一つだけ言えることがあるならばーー、

 

りんく「天くん天くーん!何か食べ物持ってないー?」

 

この教室にりんくがいる事だろう。今日も今日とて騒いで俺にたかっている。ちなみに今年から同じクラスだ。

 

天「悪いが何も持ってない。他を当たってくれ」

 

りんく「本当に何も持ってないの?」

 

天「いや持ってないが••••••」

 

もしかして知らない内に月から何か握らされていたか?少し気になって鞄を漁ってみる。

するとどうだ。中からチョコ出てきやがったよ。あいついつの間に入れやがった?

 

天「••••••食うか?」

 

りんく「食べるー!」

 

俺の手からチョコを受け取ったりんくはすぐさまそれを口に運んだ。いや腐ってないかの確認くらいはしろよ。これがアフリカ育ちの人間か。恐ろしや。

 

焼野原「相変わらずだなお前ら••••••」

 

天「お前も食うか?」

 

まだ余っていたチョコの小包を彼にポイッと投げる。落としそうになりながらも受け取った焼野原くんは、それを口に含んだ。

 

焼野原「結構うめぇなこれ」

 

天「これ何処のチョコだ?」

 

りんく「市販じゃ見ないものだね。もしかしたら有名な所のかも!」

 

天「ふーん•••」

 

まだあるチョコを眺めながら、興味なさげに声を漏らした。何度も上に小包を投げながら、それを掴む動作を繰り返す。ただの暇つぶしだ。

 

咲姫「私も食べていい••••••?」

 

天「ん?ほらよ」

 

ちょうどこちらに近づいてきた咲姫にチョコを渡す。モグモグと咀嚼しながら食べているのがわかる。

 

天「しかし、まさかまた一緒のクラスになるとはな」

 

咲姫「うん、私も驚いた」

 

焼野原くんと一緒なのも驚いたが、まさか咲姫とも連続だとは思わなかった。

 

天「昔の俺だったらメチャクチャ嫌な顔してただろうな」

 

焼野原「そういや去年の今頃は出雲さんの事やたら避けてたよな」

 

天「あの時は関わりたくなかったからなー」

 

当時は仕事だけの関係しか望んでいなかったので、あまり無理に話をしようとは考えていなかった。

マジであの時は同じクラスだった事を呪ったね。

 

りんく「ちょうど一年前は咲姫ちゃんとあまり仲良くなかったの?」

 

天「仲良くないって言うよりは関わる気がなかった、に近いな。仕事上の関係だけでいいと思ってたから」

 

咲姫「•••••••••」

 

グイッ、と咲姫が俺の制服の裾を引っ張った。この手の話をされるのはあまり好ましくないらしい。

 

咲姫「今は違うから••••••」

 

天「はいはいそうだったな」

 

優しく咲姫の頭を撫でてやる。それでも彼女の表情は変わらなかったが、さっきよりも身体は密着していた。

 

焼野原「見せつけてくるねぇ••••••」

 

呆れた笑いを浮かべながら俺たちを眺める焼野原くん。その表情は何処か我が子を眺める父親のように見えた。

 

天「まぁ、いつも通りだと思ってもらえれば」

 

焼野原「いつも通り過ぎてむしろ怖いわ」

 

天「••••••そんな露骨だったか?」

 

りんく「だっていつも咲姫ちゃんと一緒にいるんだもん」

 

含み笑いを浮かべながら俺と咲姫を見比べるりんく。俺は少し微妙ななんとも言えない表情へと変わった。

 

咲姫「•••••••••」

 

天「なんか今日はやたらと近いな」

 

ずっと俺の身体にしがみついていて、離れる気配は一切ない。このままズルズルと行ったらまた担任にどやされてしまう。

しかし現実は非情とはこの事を言うのだろうか。噂をすれば影というやつだ。

つまり、担任が入ってきやがった。そして一番に俺と咲姫の姿を目に入れた。

 

担任「お前ら•••またか••••••」

 

天「サーセン」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

昼休みになると、すぐさま乙和さんが俺と咲姫のいる教室にやってきた。ワープでもしたかのようだ早さだ。

まさかゴルシワープならぬ乙和ワープ?語呂悪。

 

天「そういえば咲姫以外の三人はもう受験生ですね。衣舞紀さんとノアさんは心配してませんが、乙和さんは大丈夫ですか?」

 

乙和「失礼な!大学くらいパパッと受かってみせるよ!」

 

天「フラグですか?」

 

乙和「違いますー!」

 

ポカポカと子供のように俺を叩き始める乙和さん。

それを俺はニヤニヤと笑いながら受けていた。

 

咲姫「•••••••••むぅ」

 

天「おっと、どうした?」

 

突然咲姫が俺の腕に抱きついてこちらに引き寄せた。それによって少し身体がグラついてしまう。

 

咲姫「乙和さんに意識が向いてた••••••」

 

天「•••あのなぁ、俺は軽ーく乙和さんをイジっただけだぞ?一々こんな事で口出ししてたらキリがない」

 

不満気たっぷりな顔を咲姫は向けていたが、ここで俺が折れてしまったらズルズルと引きずってしまうことになる。

 

天「くっつく分には構わんが急にするのはやめてくれ。いいな?」

 

咲姫「うん••••••」

 

ションボリと落ち込んでしまった。流石に言い過ぎたか?と少し考えてしまったが今後の事を考えたら仕方のない事だ。

 

天「二人きりの時はいくらでも相手してやるから、な?」

 

咲姫「キス、してくれる••••••?」

 

天「するするいくらでも」

 

乙和「ちょっとイチャ過ぎだと私は思うかなー••••••」

 

天「え?」

 

乙和さんが苦笑いをこちらに向けていたので、首を傾げながら辺りを見渡すと不特定多数の一般通過生徒達にジロジロと見られていた。

 

天「••••••恥っず」

 

大勢の人間に見られるのはやっぱり慣れず、顔が赤くなってしまう。

 

乙和「あはは!天くん顔真っ赤!可愛い!」

 

天「黙れ大学落ちろ」

 

乙和「辛辣過ぎる!!」

 

乙和さんの発言のおかげで、変な羞恥心は何処かへと飛んでいった。不本意だが感謝しよう。

 

学食に到着し、俺たちは既に席を確保していた衣舞紀さんたちの方へと向かって歩く。

ノアさんがこちらに気づいたのか、手を振っているのがわかった。それに反応して乙和さんは振り返す。

 

乙和「聞いてよノア〜。天くんったら私に大学落ちろーなんていうんだよー」

 

ノア「どうせ天くんに余計なこと言ったんでしょ?」

 

乙和「可愛いって言っただけなのに••••••」

 

天「それが嫌なんですよ。いい加減学んでください」

 

ノアさんに愚痴を吐き続ける乙和さんに対して、俺はストレートに抉る言葉を発する。

頬を膨らませる乙和さんが目に写ったが、気にせず食事を続けた。

 

ノア「確かに天くんは可愛いって言われるのをあまり好まないのはわかるよ。でも顔とか整っててお目目パッチリでカワイイんだもん!!」

 

天「••••••••••••」

 

衣舞紀「そ、天、大丈夫?」

 

天「••••••えぇ。多少ながらストレスにはなってますが」

 

死んだ目を衣舞紀さんに向けながら、俺は力なく笑う。自分でもわかるくらいに精神的に死んでるのを感じた。

 

響子「あ、Photon Maidenのみんな••••••と、天•••顔大丈夫?」

 

響子たちがこちらにやってきたのに気がついて顔を向けると、彼女は心配そうな表情となる。

 

天「一応大丈夫••••••」

 

しのぶ「徹夜でゲームでもしてたの?」

 

天「お前じゃねぇんだからしねぇよ」

 

乙和「あ、ちょっと元気になった」

 

しのぶから軽いイジりを受けてなんとか気分が戻った。

 

天「まぁ確かに最近はゲームとかもしてるぞ。モ◯ハンライズとか」

 

しのぶ「ちょっと前にアプデきてハンターランク解放されたけど今どれくらい?」

 

天「50」

 

しのぶ「全然やってないじゃん••••••私と月はもう300いったよ?」

 

は!?もうそんなに進めてたのお前ら!?というかやり過ぎだろ!

 

天「ク◯ャル一式周回して装備完成したら満足しちまってな••••••」

 

しのぶ「今作のフルク◯ャ剣士スキルとガンナースキル混合になってて地雷化してるじゃん••••••」

 

それでも関係ねぇ!ク◯ャルへの愛さえあればスキルなんて関係ねぇんだよ!ガンナースキルついてようが匠があればそれでいい!それでチャアクを振り回せればなぁ!それにク◯ャル固有スキルの体力自動回復がチートで最強なんだよこの野郎(作者)!

 

由香「私もやってるよー。モ◯ハンの新作!天やしのぶみたいに進んではないけどね」

 

そういえばここいらの連中は一応モ◯ハン自体は認知しているのか。

やってるかやってないかは別として、制作会社の方からモンスターの装備を着させられたりしてたんだし。

 

しのぶ「今作は前作とは違う要素が織り込まれてかなり面白くなったしね」

 

天「チャアクは弱体化したけどな••••••」

 

強くなったり弱くなったり、お前本当に忙しいよなチャージアックス。それでも使い続けるが(作者)。

 

響子「そういえば月ちゃん、今年から受験生なんだよね?」

 

天「あぁ。まぁあいつ成績はいいから有栖川学院に難なく受かるだろうよ」

 

絵空「月さん、有栖川学院に行くの?」

 

天「何でか知らんけどな。でも、月が行きたいって言うんだから止めたりはしない」

 

しのぶ「••••••本音は?」

 

天「あいつ普通にこっちくると思ってた」

 

だって来年から入ってくる時は今の三年生組がいないとしても、咲姫にしのぶ、りんくがいる。顔を知ってる人間が何人もいるのだから、陽葉に入学するものだと思っていた。

あまりちゃんと訊いていないが、そこまで大層な目的もなく有栖川に行くらしいし、何がしたいのかわからん。

 

咲姫「•••••••••ん」

 

天「ん?どうした?」

 

咲姫が俺の腕に抱きついた。首を傾げて彼女に顔を向けると、頬を膨らませて不満気たっぷりの表情となっていた。

 

天「•••悪かった。話に夢中になり過ぎた」

 

咲姫の頭を撫でてなんとか機嫌を取ろうとするが、あまり効果はなかった。

 

天「•••••••••」

 

それとも、『今日』の事について触れないから怒っているのだろうか。

五月十日。それは咲姫の誕生日であり、今現在の日付でもある。

周りにチラリと目を向けると、何を言ってるのか察しがついたのか、頷かれた。

 

衣舞紀「今日、天の家に行ってもいい?」

 

天「••••••えぇ。問題ないですよ」

 

乙和「あ!じゃあ私も行くー!」

 

ノア「私もお邪魔します」

 

咲姫「わ、私も、私も行く••••••」

 

周りがどんどん便乗する中で、咲姫も負けじと声を張った。

 

天「ん、どうぞ」

 

薄らと笑みを浮かべて、彼女たちを歓迎する姿勢を取った。

 

しのぶ「じゃあ私も行こうかな。ついでに月と遊びに」

 

天「おぉ来い来い。久しぶりに三人でモ◯ハンするか」

 

しのぶ「百◯夜行周回するけどいい?」

 

天「ハンターランク上げる気マンマンだなお前••••••」

 

あまりのブレなさにため息すら漏れてしまう。ク◯ャル周回と言いかけた俺も大概だが。

 

響子「じゃあ私たちも行くよ」

 

天「•••二人は?」

 

由香「行くよー!」

 

絵空「お邪魔させていただきます♪」

 

天「はは•••かなりの大所帯になるな••••••」

 

これが本当は咲姫のバースデーパーティーになるとは、本人が知る事は絶対にないだろう。

現に彼女は俺に抱きついたまま、俺の顔をずっとまじまじと見つめていたのだから。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

響子がりんくに誘いを入れたのもあって、ハピアラの面々も参加することが決定した。

大丈夫?我が家パンクしない?ねぇ?

そこら辺は家の頑丈さに期待するしかないだろう。仮にぶっ壊れても親の金で何とでもなる。

 

天「そんで•••ここら辺の時期は仕事が楽でいいもんだ••••••」

 

あまりライブの予定も入ってないので、俺にはそこまで多く仕事が回っていなかった。精々広告とか、次のライブのチケットの準備だとかの作業ばかりだ。

 

天「みんなが終わる前に片付きそうだな」

 

残りの仕事にチラリと目を向けて、そう確信する。4、50分後には全ての仕事が終わるビジョンが明確に視えているのがなんとなくだがわかった。

 

そしてその予想通りに、一時間経過の少し前程で仕事が片付いた。

パソコンとメモ帳をしまい、俺は椅子の背もたれにのしかかって大きく息を吐いた。

 

天「はぁ〜、終わったー。みんなが終わるまで寝てるかねぇ」

 

そのまま机に突っ伏し、寝息を立て始める。意識こそしっかりあるが、眠気自体はかなり精神を蝕み始めていた。

あ•••ダメだこれ。寝てしまう••••••。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

天「••••••はっ!」

 

目が覚めて、勢いよく身体を起こすと外は真っ暗に染まっていた。

頭をポリポリと掻きながらため息を漏らす。

五月のこの時期に夜になるなんてかなり後の時間のはずだ。つまり寝過ぎた。

 

天「時間時間••••••七時。まぁレッスンも終わり頃か」

 

が、過度な睡眠は取ってないようで安心した。これで八時とか九時まで寝てたら完全に地獄だ。そう考えると冷や汗が止まらない。

 

ブー、ブー。

 

天「うおっ!?」

 

突然ポケットに入っていた携帯が振動を始めた。ビックリして背筋がピン、と伸びる。

 

天「だ、誰だ••••••りんくか」

 

突然何の用だ?いやあいつの事だ。どうせもう家に着いてるー、とかそんなところだろう。

 

りんく『もしもし〜?もう天くんの家来てるよー!』

 

天「やっぱりか••••••」

 

予想通り、既に俺の家に到着しているようだった。俺は苦笑いをしながら、呆れたように声を漏らした。

 

天「響子たちはもういるか?」

 

りんく『うん!みんなもう来てるよ!」

 

天「早いな••••••」

 

まだ俺帰ってきてないのに行動早すぎないか?流石に驚きだわ。

 

りんく『後ねー、天くんと月ちゃんのお父さんとお母さんもいるよー!』

 

天「•••は?マジで?」

 

りんく『本当だよー』

 

••••••マジか、あの二人今日に限って帰ってきてるのか。えぇー、という心底嫌そうな子どもらしい声が漏れてしまう。

 

天「••••••はぁー、めんどくせぇ」

 

りんく『お父さんたち待ってるから早く帰ってきてねー』

 

天「へーい••••••」

 

電話を切って、ポケットにしまう。鞄を持って立ち上がり、仕事部屋を立ち去る。

一足先に外に出て彼女たちを待つが、いかんせん暇だ。適当に携帯をイジイジしながら、寂しく待つ。

暗くなったのもあって、五月であっても寒さを少なからず感じられた。

 

乙和「おまたせー!」

 

背中に衝撃が走った。振り向くと、乙和さんが俺の後ろにタックルをしたらしい。

更にその後ろにはレッスンを終えた三人の姿があった。

 

天「んじゃ、帰りますか」

 

衣舞紀「今から楽しみね」

 

天「••••••そうですね」

 

表情に出さないようにして、衣舞紀さんから顔を逸らした。

前だけを真っ直ぐに見つめながら歩き始めると、片方の手が握られた。

 

咲姫「早く帰ろう?」

 

天「はーいはい」

 

咲姫に手を引かれながら、俺は娘を見るような優しい目でされるがまま引っ張られた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

無事我が家に到着。玄関を開けると、すぐに賑やかな声がうるさいくらい耳に入った。

 

天「うるっさ•••!」

 

ノア「ご近所さんに怒られないかな••••••?」

 

それは家の防音を頼るしかないだろう。頭を抱えながら大きなため息を吐いてしまう。

リビングに入ると、かなり大所帯の状態になっていた。まだ狭いと感じないからまだいい方だろう。

 

月「おかえりー。もうすぐで準備終わるよー」

 

天「ん。悪いな」

 

猛「おっせぇぞ天ぁ!」

 

月と話している中に割り込むように、父さんが俺に肩をまわした。

 

天「酒くっせぇ!客来てるんだから遠慮しろよ!」

 

猛「固い事言うんじゃねぇよ!今日は特別な日なんだろ••••••?」

 

天「時と場合を考えろ」

 

猛「つれないねぇ••••••」

 

渋々、といった様子だが、酒を飲むのだけはやめるつもりはないらしい。ソファにどかっと座りながら、缶の中の液体を口の中に流し込んでいる。

 

柚木「久しぶりね、天」

 

天「•••母さん••••••」

 

数ヶ月ぶりに見る母親の姿は、前と変わりなかった。だがどことない懐かしさを感じることができた。

 

柚木「たくさん友達ができたようで安心したわ。女の子ばかりなのは少し気になるけど」

 

天「ちゃんと男の友達もいるから••••••」

 

月「まぁいつも遊ぶのは女の子とだけみたいだけど」

 

天「何故か知らんが遊ぶ機会はないんだよ••••••」

 

あいつらあまり誘ってこないし、俺から誘ってもなんか断るんだよな。なんか思い出したら悲しくなってきた。

 

響子「天」

 

天「ん?」

 

響子から声をかけられたと思いきや、小さな物体を4つ渡される。え、何これ。

 

天「クラッカー?」

 

円錐型の、爆発と共に紙テープを飛ばすパーティーグッズ御用達のアレだ。

しかも4つって••••••あっ(察し)。

 

天「なるほどな••••••」

 

響子「何をするかわかった?」

 

天「わーかったよ。全く誰が考えたんだこんなこと••••••」

 

響子「言わなくてもわかるでしょ?」

 

天「••••••なんとなくな」

 

どうせ月だろ。こんなくだらない事を考えつくのは、俺が知る限りあいつしかいない。

咲姫にバレないようにこっそりとクラッカーを三人に回し、目配せでなんとか察してもらう。

••••••なんか嫌な笑み浮かべたな、特に乙和さん。

 

準備が一通り終わったようで、20人用の長テーブルの上には数々の料理が並べられていた。

 

天「すげぇな••••••」

 

見た目の豪華さも相まって、高級ホテルの料理を見ているような気分だった。

 

真秀「この人数分ってなるとねぇ••••••。結構大変だったよ」

 

天「悪いな、客人なのに手伝わせてしまって」

 

料理できる人が何人もいるとやっぱり変わるな。こういう面では人を呼んだのは正解だった。

続々と席に着く中で、緊張が走る。表面上は飄々としているのがなんとなくわかるが、失敗をできないだけに変な空気が流れていた。

 

天「(••••••なんかミスりそうだな)」

 

もっとリラックスしろよ。こんな状況でも関係なく酒飲んでゲラゲラ笑ってる父さんを見習ってほしい。

 

りんく「天くん!」

 

いや俺に投げるのかよ!?そこはちゃんと通してくれないと俺が困惑するんだけど!

 

天「•••はいはい!せーのっ!」

 

俺の掛け声と共に、咲姫以外の全員がクラッカーを構えた。そして、小気味良い音と共に紙テープが咲姫に向かって舞い上がった。

 

咲姫「えっ••••••?」

 

全員「お誕生日おめでとう!咲姫!!」

 

全員の声が重なり、それは部屋中に響き渡る轟音へと昇格した。

 

咲姫「えっ、えっと••••••?」

 

天「何驚いてんだよ。元から咲姫の誕生日パーティーをする為だけに、みんなここに集まったんだぞ?」

 

咲姫「そ、そうだったの••••••?」

 

天「そういうわけだ。というか•••自分の誕生日くらいは覚えてるよな?」

 

咲姫「覚えていたけど•••まさかこんな事になるとは思ってなかった••••••」

 

盛大に祝われるのは想定外だったらしい。こんな大人数からの一点集中の祝いの大砲(クラッカー)を受けて、大変困惑したご様子だ。

 

天「ほら、食えよ。みんな咲姫の為に作ってくれたんだから」

 

咲姫「••••••うんっ!」

 

とても嬉しそうな表情だった。それを見て安心することができて、俺も飯を食べ始めた。

 

猛「•••咲姫ちゃんよ」

 

咲姫「はい?」

 

突然、父さんが真面目な顔で咲姫に話しかけた。当の彼女は首を傾げている。

 

猛「こんな息子だが、これからも仲良くしてくれ。天のヤツ、不器用だからな。自分から甘えることも弱味を見せることもできない。咲姫ちゃんじゃないと、こいつの弱い所は見せないと思うんだ。だから•••こう言うのもなんだが••••••天を、頼んだ」

 

咲姫「はい!」

 

天「酔ってんのか?」

 

なんか急に語り始めたと思ったらよくわからん事を咲姫に言って勝手に締めやがった。咲姫も咲姫で律儀にキッチリ応えてるし。

 

猛「うるっせぇなぁ!咲姫ちゃんに愛想尽かされたらお前どうすんだよえぇ!?」

 

天「普通にありそうな事を言うのはやめてくれ••••••」

 

咲姫「私はずっと天くんと一緒」

 

月「相も変わらずラブラブだねぇ••••••」

 

りんく「いいな〜。二人を見てると私も恋愛してみたくなっちゃうなぁ!」

 

ノア「でも恋っていいことばっかりじゃないよ?丁度一人、玉砕した人がいるから」

 

乙和「その話はいいでしょー」

 

クスリと笑いながら、ノアさんは乙和さんに顔を向けた。乙和さんは頬を膨らませながらジト目を向けている。

 

麗「実らない恋もありますが••••••でも、あの二人を見ていると、やっぱりいいな、とは思います」

 

天「え、何、何だよ」

 

なんか色々話されているらしく、少し圧を込めた目を向ける。

 

しのぶ「アンタと咲姫が羨ましいって話」

 

天「あぁ、そう••••••」

 

あまり興味の惹かれない内容だった。ぷいっと顔を背けて、飯を食らう。

 

柚木「相変わらずね••••••。照れてないで少しは会話に参加したらどうなの?」

 

天「••••••うるさい」

 

母さんから目を逸らす。苦し紛れに飲み物を突っ込んだ。

 

月「ほらお兄ちゃん!色々お話しよ!」

 

天「あーもうはいはいわかったわかった」

 

月から多少強引に誘われて、渋々承諾したのだった。とは言っても、俺から話す話題はあんまりないのでそこまで会話に参加できなかったのだが。

もう少し会話力磨くか••••••。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

咲姫の誕生日パーティーは無事に幕を閉じた。チョロチョロとみんなが帰っていく姿を見送りながら、全てが終わった時には、夜の十時を回っていた。

 

天「うお•••もうこんな時間か」

 

壁掛けの時計で現在の時刻を確認して、俺は驚く。いや俺よりも帰って行ったみんなの方が大丈夫だろうか。

 

月「お風呂沸いたよー」

 

天「わかった。咲姫、月と二人で入ってこい」

 

咲姫「嫌。天くんと二人がいい」

 

天「えぇ••••••」

 

どうしてこういう時にだけ頑固になるのだろうか。別に二人で入る分には構わないからいいんだけども。

 

月「先どうぞー。お兄ちゃんの残り湯っていうのは気に入らないけど」

 

天「蹴るぞテメェ」

 

月「サーセン」

 

後で殺す。

 

二人で湯船に浸かると、湯が音を立てて溢れていった。それと同時に大きな息も漏れた。

 

天「楽しかったか?」

 

咲姫「うん。とても幸せだった」

 

天「ん。咲姫が満足したならよかった。やたらと大々的にやったのも悪くなかったな」

 

あそこまでするとは思ってなかったが、咲姫の驚く顔が見られたから十分な収穫だった。

いやー思い出すだけでも面白いわ。あの鳩が豆鉄砲をくらったような顔は。

 

咲姫「••••••むぅ」

 

コツン、と咲姫の後頭部が俺の胸板に当たった。

 

天「どうした」

 

咲姫「変な事考えてた」

 

天「敵わんな」

 

頭を撫でながら薄らと笑う。咲姫は目を閉じて、頭だけでなく身体全体を俺に預けた。

 

咲姫「天くん」

 

天「ん?」

 

咲姫「ありがとう」

 

天「•••そりゃどうも」

 

屈託のない笑顔を向けてくるものだから、僅かに上がっていた口角が更に上がったのがわかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

風呂から上がり、自室に入るとその時の時間は十一時を回っていた。そろそろ寝ないと明日ちゃんと起きられるかどうかわからなくなってしまう。

ベッドに潜り込むと、そこに続いて咲姫も入り込んできた。

そしてすぐに俺に抱きついて、身体が密着した。

 

天「暑い」

 

咲姫「掛け布団を使わなかったらいい」

 

そういう問題?というかそんなことしたら絶対に風邪引くんだけど?

 

天「ダメだっつに。離れなさい」

 

咲姫「嫌」

 

天「咲姫に風邪引かせたら俺の責任問題になるからワガママ言うな」

 

咲姫「••••••じゃあ、キス」

 

天「あ、あぁ••••••」

 

離れる代わりに、のつもりなのだろう。咲姫の望み通りに、頬に手を添えて唇を重ねた。

 

咲姫「んっ、ちゅっ•••ちゅ••••••んぅ、んっ、ちゅう••••••」

 

ご無沙汰、という程ではないが、そこまで頻繁にしているわけではないのは確かだ。だからなのだろつか、やたらと長く吸い付いてくる。

 

咲姫「ぷはっ••••••えへへ、キス、幸せ••••••」

 

天「•••そうだな」

 

咲姫の背中に腕を回して、こちらに抱き寄せる。目をぱちくりとさせた咲姫は、何処となく嬉しそうな笑みを零した。

 

咲姫「離れないの?」

 

天「気が変わった」

 

キスのおかげで火が着いたのか、離れるのが少しだけ惜しくなった。絶対に口にはしないが。

 

咲姫「でも、明日も早いから寝ないと••••••」

 

天「まぁ、そうだな。変に夜更かしせずにさっさと寝るかね」

 

だが流石に暑い••••••。掛け布団を取っ払って、身体を完全に外気に晒した。

 

天「改めて、誕生日おめでとう、咲姫」

 

咲姫「ありがとう、天くん••••••。おやすみ••••••」

 

天「おやすみ」

 

そう言って、俺たちは目を閉じて眠りにつき始める。夢の中へ旅立つ前に、俺はそっと心の中で呟いた。

誕生日おめでとう、咲姫。この一年が幸せになることを、心から願っているぞ。




それではさようなら。今度こそ本当に。まぁグルミクのどこかで会えるでしょうけどwではでは〜


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番外編
治安最悪新年


皆様、あけましておめでとうございます。また新しい一年がスタートしましたね。私はマイペースに毎日を過ごしています。これから自動車学校に行ったり、親知らず四本一気抜きをしたりと、やる事が多々あります。それでも更新は毎日続けさせていただきますので、どうぞよろしくお願いします。今回の新年回は過去最高の17672文字となりました。三日間かけて作り上げましたが、まさかここまで行くとは思ってもみませんでした。いやーおじさんびっくりしちゃった☆長々と書いておりますが、最後まで見てくださると幸いです。


十二月もほとんど終わりを迎え始め、今世間は大晦日間近で賑わっていた。俺もその内の一人で、大晦日を心待ちにしていた。いや、実際に楽しみなのはおせちなんだけども()

学園は冬期休暇で、俺は仕事をしては家でダラダラと過ごす毎日を繰り返していた。たまに仕事終わりに咲姫とデートしたりなどしたが、流石に彼女は実家に帰っていることだろう。仕事納めはもうしたから、ほんのわずかなあいだだけだが休みを得る事ができた。

 

月「お兄ちゃん起きてるー?」

天「えっ、なんだ?」

月「咲姫さん達がうちに来てるよー」

 

え、マジ?俺は急いで身体を起こした。月についていくように一階に降りて行って、玄関へと直行する。

 

咲姫「こんにちは」

乙和「やっほー、来ちゃった!」

衣舞紀「ごめんね、急に来ちゃって」

ノア「月ちゃんカワイイ•••後でお部屋一緒に行こ?」

 

ゾロゾロと四人ともお揃いで本当にやってきていた。俺はおぅ、と小さく声を漏らす。

 

月「皆さん揃いも揃ってどうしたんですか?兄に何か御用でも?」

咲姫「実は、新年を天くんの家で迎えようと思って」

天「•••••••••••••••」

月「•••••••••••••••」

 

狭い玄関で長い沈黙が続く。俺と月は完全に真顔になってしまっていて、固まってしまった。

 

月「え、マ?おせちの材料買ってこないと••••••」

乙和「そう思って•••じゃじゃーん!買ってきてあるのだー!」

 

後ろ手に隠していた大きな袋を、乙和さんはこれでもかと見せびらかす。確かにおせちの材料だ。エグいくらい入っている。

 

月「こ、こんなにいいんですか!?」

ノア「新年迎える時は、お父さんもお母さんもいるでしょ?特にお父さんは食べそうかな、と思って」

月「大正解ですよノアさん!お父さんたくさん食べますから助かります!」

天「いくらしましたか?こっちで出しますよ」

衣舞紀「気にしなくていいよ。これ、事務所持ちだから」

 

まーた事務所か。お前ら金ありすぎだろ。この量、確実に万はいってるに違いない。事務所側の経済力に恐怖を少し覚える。

 

天「というか咲姫、お前実家に帰らなくていいのか?」

咲姫「両親にはちゃんと言ってあるから大丈夫」

天「いや、そういう問題じゃなくてだな••••••」

 

家族なんだから帰ってやれよ、親御さん悲しむぞ。オッケーしたお父様お母様の心情が少し気になるが。

 

咲姫「天くんは私と一緒にいるの、嫌•••?」

天「嫌じゃないしむしろ嬉しいさ。けど•••新年はやっぱり家族と迎えるべきだと思うんだ」

 

一年に一回しかない大事な大事なモノだ。それをただの恋人である俺よりも、家族で楽しく迎える方がいいに決まっている。

 

咲姫「好きな人と過ごしたいって送ったら、OK出してくれた••••••」

月「えーなにそれー!お兄ちゃんのプレッシャーどんどん高まるじゃーん!」

 

俺そっちのけで月が騒ぎ始める。現に俺は少し冷や汗を流していた。なんか遠回しに圧をかけられているようで、肝が冷える。

 

衣舞紀「••••••大丈夫?少し顔色悪いわよ•••?」

天「大丈夫です•••多分。まだ先のことなので•••」

 

数年先の事を今考えて恐れるのは、精神的に良くないのでやめておこう。

 

月「皆さんどうぞこちらに!お茶出しますよ!」

天「明日明後日は賑やかになるなオイ」

 

ちなみに今日は12月30日。明日が大晦日だ。なので彼女たちは今日泊まって、新年を迎えるのだろう。

リビングにみんなを通して、月がお茶を淹れる。俺はスマホ片手に茶を飲み始めた。

 

乙和「何かやる事ないかなー。ここってゲームとか置いてないの?」

月「私がゲーム持ってますよー。でもパーティゲームは持ってないんですよね••••••トランプとかしますか?それならいくらか遊ぶ方法ありますし」

ノア「私は賛成かな」

咲姫「天くんは?」

天「ん?まぁ、暇だしやるか」

 

スマホを切って、ポケットに入れる。月は小走りで自分の部屋へと向かって行った。必然と、いつものメンツが出来上がる。

 

天「そういえば衣舞紀さんの実家って神社でしたよね?」

衣舞紀「えぇ、そうよ」

 

来年は衣舞紀さんのところで初詣だな。何お願いしよう、いやもう決まってるわ。とっくのとっくに決まってるわ。

 

乙和「私何お願いしようかな〜」

ノア「それ人に言ったらダメじゃなかった?」

乙和「そうなの?よく知らないからなぁ〜」

咲姫「私は決まってる••••••」

 

俺と同じく咲姫ももう願い事を決めているようだ。もしかしたら、もしかしたら同じかもしれないという淡い希望を持った。

 

月「おーまたせしましたー!神山家長女月、ここに参上!」

 

お前は冥府神ハ◯ス様か。またあのゲームやりたいなぁ。作者は買い直して六、七年ぶりにやってるらしいけど。

三章9.0神器周回ダル過ぎ案件。後パンドーラの射爪はイケメンってはっきりわかんだね(作者)。

 

衣舞紀「何からやる?私はなんでもいいわよ」

乙和「じゃあババ抜きー!」

ノア「乙和が一番苦手そうなのを自分で選ぶんだ•••」

乙和「苦手じゃないもん!」

 

最早恒例行事と化している乙和さんとノアさんの言い合いは、今日も絶好調だった。俺たちは温かい目でその光景を見つめる。

 

月「ババ抜きですねー、カード配りますよー」

 

慣れた手つきでシャッフルし、俺たちにカードをどんどん配っていく。全員にカードが行き渡ると、月は思い出したように、あっ、と声を漏らした。

 

月「ちなみにジョーカーは入ってませーん」

天「ジジ抜きじゃねぇか!」

 

ババ抜きよりもタチの悪いジジ抜きへと変貌を遂げてしまった。これはめんどくさくなってきたぞ。

 

月「まぁまぁいいじゃないか。ババ抜きもジジ抜きもそう変わんないって」

 

やたらこいつらしくない口調でまくし立てる月。ババがどれかわからないって時点でだいぶクソなんだよなぁ()

ちなみに順番はジャンケンで一位になった人から時計回りになった。勝ったのはノアさんで、ノアさん、乙和さん、衣舞紀さん、咲姫、俺、月の順番になった。

 

後半、俺、咲姫、衣舞紀さん、ノアさんは先に上がって、月と乙和さんがタイマンをしている様子を見ていた。月は一枚、乙和さんは二枚。つまり乙和さんがババを持っているということになる。

 

月「どっちかなー?どっちかなー?」

乙和「は、早く引いて〜•••」

 

こんな場面でもKagkムーブをキメるあたりこいつは性格が悪い。乙和さんが見事に弄ばれて困惑してしまっている。

 

月「•••こっち!ーーやった!」

 

勢い十分に引いたカードは、見事にペアになったらしい。意気揚々と二枚のカードを捨てて、飛んで喜び始めた。

 

乙和「うぅ•••負けちゃった••••••」

ノア「乙和は顔に出過ぎ。ジジ抜きだったからよかったけど、これがババ抜きだったら最下位確定だよ?」

乙和「天くんと咲姫ちゃんは無表情過ぎて怖いよ!」

 

何故か俺と咲姫に当たり始める乙和さん。俺は咲姫と顔を見合わせ、クスリと笑う。

 

天「俺はやってる時何も考えていませんから。勝手に顔が死ぬんですよ」

咲姫「ずっと天くんの顔を見てた」

天「妙に視線感じるなと思ったらお前かよ!?」

 

やたらゲーム中見られてるなと思ったら原因は咲姫だった。普通に怖いからやめてくれ。

 

月「次なにやるー?」

天「月、お前そろそろおせち作らなくて大丈夫なのか?」

月「あっ、そうだった!やばいやばいっ!」

 

焦った顔で勢いよく立ち上がり、月はエプロンを着ける。それに続いて、衣舞紀さんとノアさんも立ち上がった。

 

衣舞紀「私も手伝うわ。一人じゃ大変でしょ?」

ノア「このノアさんに任せなさい!」

月「ありがとうございます!助かります!」

 

キッチンに三人が立っている中、大して料理ができない俺はスマホから漫画を読み始めた。

 

乙和「なにこれ?」

天「剣◯焦ぐって漫画です」

咲姫「面白い•••?」

天「面白いって言うよりは••••••アツいな、すごく」

 

読んだらわかる。剣◯焦ぐは面白いだとか面白くないだとかで判断するものじゃない。とにかくアツい。アツ過ぎるのだ。

 

乙和「不良少年が剣道する漫画なんだー。なんだか面白そう」

天「読んでみますか?」

乙和「見る見るー!」

咲姫「私も•••!」

 

咲姫と乙和さんの顔が俺の顔に隣にやってくる。携帯の小さい画面では、少し窮屈だった。俺は多少の暑苦しさに耐えながらページをめくっていった。

 

現在発売されている六巻まで読むと、乙和さんと咲姫の顔が変わっていた。

 

乙和「なんていうか•••すごく頑張れそうっ!」

咲姫「私も•••なんだか少しアガッてきた••••••!」

天「影響受け過ぎだろ•••俺も剣道やりたくなってきたけどさ」

 

軍の剣道部の新年稽古会、来年は参加しようかと思い始めたが、まだ迷っている。どうしよう。

 

月「お兄ちゃん剣◯焦ぐ好きだねー。読むの何周目?」

天「分からん、三周はしてるかもな」

 

この漫画は永遠に読める気さえしてくる。それ程までに心を震わせてくれるのだ。

 

月「えっと•••六時か。お兄ちゃん、お風呂入れて」

天「あぁ」

 

俺は立ち上がって風呂のスイッチを入れる。後二十分もすれば勝手に沸くだろう。

 

天「入る順番とかどうしますか?」

月「私は後でいいかな。正直これ終わる気しないし」

 

具材を切りながら月はため息を吐いた。量的にも大変だということだけはよくわかる。

 

咲姫「私は天くんと一緒ならいつでも••••••」

ノア「月ちゃんと一緒に入りたいっ!!」

 

うるっせぇな•••。急にノアさんが大声で叫んで、耳がキーンとなった。俺の顔が苛立ちで歪む。

 

乙和「あれ•••?この流れだと私、衣舞紀と一緒に入らないといけないっぽい•••?」

衣舞紀「あら、私は全然構わないわよ?乙和の身体を隅々まで洗ってあげるわ」

 

いい感じに中々騒がしくなってきた。

先に俺と咲姫が入って、その次に衣舞紀さんと乙和さん。最後に月とノアさんということになった。

 

月「防音完璧だからって変な事しないでよね?」

天「しねぇよ」

咲姫「••••••ッ」

 

月の言葉に俺は真顔で返すが、咲姫はわかりやすく顔が赤くなった。そしてその顔を隠そうと俺の背中に頭を埋めた。ハイ可愛い優勝。

 

ノア「咲姫ちゃん•••!その仕草、イイッ!すごくカワイイ!」

天「うん、咲姫早く入ろう。これ以上ここにいたら色々言われまくって病む」

咲姫「うん••••••」

 

咲姫の手を引いて、俺たちは脱衣所へ逃げ込む。

 

天「はぁ•••月のやつ、容赦なさ過ぎだろ••••••」

咲姫「恥ずかしかった••••••」

 

さっきは後ろに抱きついていた咲姫だったが、今は目の前にいる。抱きしめながら頭を撫でると、更に顔が胸に押しつけられる。

 

天「•••とりあえず入るか」

咲姫「うん•••」

 

俺たちは服を脱いで、洗濯機に入れていく。風呂場に入って、まず最初に頭と身体を洗った。

 

咲姫「背中、洗うよ?」

天「ん、頼むわ」

 

せっかくなので、彼女からのご厚意を受け取る。咲姫に背中を向けて、俺はあぐらをかいて座った。その後ろに咲姫は両膝をついて座り、身体を洗う用のボディソープの染みたタオルを背中に置いて、擦り始めた。

 

咲姫「痛くない•••?」

天「大丈夫だ」

咲姫「良かった•••んっ、ふっ••••••」

 

なんか変な声が聞こえるんだけど。チラリと後ろを見ると、一生懸命に俺の背中を洗っている咲姫の姿があった。頑張ってやってるから自然と声が漏れているのだろう。

 

咲姫「終わった••••••」

天「おう、ありがとな。次は俺がやる」

咲姫「いいの?」

天「あぁ。俺もやってもらったんだ。遠慮するな」

咲姫「じゃあ••••••」

 

咲姫は俺に背中を向ける。タオルを背中に当てて、傷つけないように優しく、優しく動かし始めた。

 

天「背中小さいな」

 

こうして見ると、本当に華奢な体型をしていると思う。こんな身体からどうやってあんなDJプレイをしているのかと、少し興味が湧いた。

 

咲姫「逆に天くんは大きい••••••」

天「これでも全然細身な方だぞ。周りの俺も同じくらいの男は大体デカい」

咲姫「そうなの••••••?」

 

咲姫が首を傾げるものだから、俺は軽く噴き出してしまう。

 

天「テレビとか見てたら、男の背中くらい見る機会いくらでもあると思うが?」

咲姫「あまり気にして見てないから、覚えてないかも」

 

なんとも咲姫らしい回答が返ってきた。俺はそうか、と言葉を送ってまた笑う。

お互いに背中も洗って、後は自分で洗えるところを済ませてからシャワーで全て流した。

ようやく湯船に浸かる事ができ、俺の股の間に咲姫の尻が乗る。

 

天「はぁ〜••••••何もしてないけど疲れが取れるー••••••」

咲姫「溜まってた••••••?」

天「そりゃなぁ。咲姫もそうなんじゃないか?」

 

共感を求めて咲姫に訊いたが、意外にも彼女は首を横に振った。

 

咲姫「天くんがいるから、平気」

天「おぉう•••そう答えるか•••」

 

咲姫の返答はただの惚気だった。ちょっとどう返せばいいか、恥ずかしくて俺にはわからなかった。

 

咲姫「天くんはそんな事ない•••?」

天「どうしてもな•••。精神論より理屈で通るから、なんとも言えん•••」

咲姫「変に合わせないところは、好感持てる」

天「お褒めに預かり光栄でございます」

 

フォローも欠かさない辺りよくできた娘だ。ご両親の育て方が良かったのだろうか。

 

咲姫「天くん••••••」

天「ん?」

咲姫「大好き」

天「•••俺もだ」

 

そして、どちらからともなくキスをする。変にズレが起こらないように咲姫の頭に手を添えながら。

 

咲姫「んっ、ん、ちゅっ、ちゅぅ•••」

 

いつもしているのに、そのいつも以上に咲姫の唇が柔らかく感じた。

 

天「••••••そろそろ上がるか」

咲姫「うん•••待たせるわけにはいかない」

 

ほぼ同時に湯船から上がり、俺たちは身体を拭き始めた。

 

全員が風呂に入ったのを確認して、夕食を食べる事になった。もしかしたら初めてかもしれないな、神山家でのPhoton Maidenとの食事は。

 

乙和「おいしー!月ちゃんお料理上手だね!」

月「ありがとうございます!喜んでもらえると、作った甲斐があります!」

ノア「私、月ちゃんに女として負けたかもしれない••••••」

 

ノアさんが暗い顔でそんなことを呟く。チラリと月を見ると、妹は頬をポリポリと掻いて居心地が悪そうに笑った。

 

月「衣舞紀さんは早かったんだけど、ノアさんの遅れのカバーまでやってたら、こうなっちゃった」

天「行き過ぎた気遣いか•••」

 

こいつらしいといえばこいつらしいが、どれだけ手助けしたんだろうか、この妹は。あまり考えたくないな。

 

月「ところでお兄ちゃん、お風呂上がるの遅かったけど咲姫さんと何してたの?もしかしてセックス?」

咲姫「えっ•••!?」

天「あのさぁ•••」

 

咲姫がボンッと音を立てて顔を真っ赤に染めた。俺に関しては呆れてものも言えなかった。

 

衣舞紀「月って容赦ないよね•••」

ノア「そこがまたカワイイからっ•••!」

 

いや可愛いか?ただデリカシーが欠如してるクソだと思うのだが。

 

乙和「そもそも食事中に話す内容じゃないと思う!」

天「え、乙和さんからそんな言葉出てくるんですね•••」

乙和「出てくるよ!?人の事なんだと思ってるのさ!」

 

つい素で失礼な事を口走ってしまった。反省はするが後悔はしない。

 

月「それでヤッたの?」

天「いやヤッてないが•••」

月「本当に?嘘ついてない?」

天「ついてないついてない。俺が嘘つくタマか?」

咲姫「授業中に寝てても寝てないって嘘ついてる••••••」

天「•••••••••••••••」

月「論破されてやんのダッサwwwwww」

天「表出ろテメェ」

 

咲姫から学校での態度を言われて言い返せなくなった。そこを月に漬け込まれて、俺はついいつもの家での口調が出てしまう。

 

月「キャーこわーい!ノアさん助けてー!www」

ノア「よしよーし怖かったねー!」

 

そしてこの中で一番甘いであろうノアさんに縋り始めた。これもうわかんねぇな。

 

咲姫「•••ごめんなさい••••••」

天「いや、謝らなくていい。いつものことだから」

 

小さく息を吐きながら、飯を食っていると俺は何かを思い出したように顔をまっすぐ向けた。

 

衣舞紀「どうしたの?」

天「月、みんなの部屋とかどうする」

月「あーそれなら問題ないよ。使ってない部屋を掃除して布団敷いてあるから」

天「はー良かったー•••」

 

いざとなったら俺の部屋と月の部屋で三人三人で分かれて寝ればいいが、流石にそれはキツいので助かった。

 

月「咲姫さんはお兄ちゃんの部屋安定ですよね?」

咲姫「うん」

 

当たり前のように頷く咲姫。周りからおぉー、と感嘆の声が漏れていた。

 

乙和「アツアツだね〜」

天「ちょっ、やめてくださいよ」

 

乙和さんにまでからかわれ始めて、居心地がかなり悪かった。こういう時に限って咲姫は平然とした顔をしている。何故だ。

 

月「そもそも咲姫さん結構うちに入り浸ってますからねー。最早家族ですよ家族。あ、いずれなるか」

天「まだ先の話だろ」

月「そうだけどねー。ところでお兄ちゃん、大学は行くの?」

天「あー•••考えてねぇな。このまま高卒でマネージャーでいんじゃねって思い始めてる」

?「俺はそんな真似ゆるさねぇぞ!!」

 

後ろから突然デカい声が響き渡って、全員が驚いたようにビクンッと跳ねた。振り向くと父さんが厳つい顔で立っていた。

 

猛「天!お前はちゃんと大学に行け!Fランでもいいから出ておけ!」

月「今年のお仕事は終わり?」

猛「ん?あぁ。まぁ新年になったらまたすぐに行かないといけないけどな」

 

頭をガリガリと音を立てて掻きながら、父さんはため息を吐いた。よっぽど疲れているのか姿勢は良くなく、猫背だった。

 

天「帰ってきたなら早く風呂入れよ?」

猛「わかった。んで、大学はどうするんだ?」

天「••••••時間くれ。すぐには決められん」

 

進路をそんなパッと出せるわけがない。だが大学に行って何かをしたいという欲もないので、ただの金の無駄遣いになるような気がしてきた。

 

猛「まぁいい。ゆっくり決めろ。だが高卒だけは許さん」

天「へーい•••」

 

こんなことで一々悩みたくないんだけどな••••••。気分が落ち込んで、少し萎えた。

 

衣舞紀「じゃあ星朋大学はどう?陽葉とも近いし通いやすいと思うのだけど」

 

星朋大学•••あぁ、近くにあったあのデカい大学か。あそこなら有名なDJユニットのメンバーもいるし、行くにしてもちょうどいいかもしれない。

 

咲姫「私も星朋大学に行く」

天「お前俺が行くから決めてねぇよな•••?」

咲姫「•••?天くんが行くから決めたよ••••••?」

 

辺りに沈黙が走り、俺と咲姫はお互いに首を傾げたままだった。それに耐えきれず、ついには月が大声で笑い始めたという惨事が起こった。

 

夕食が終わると、後は各々で行動するようになり、俺と咲姫は流れるように寝室へと移った。特にやることもないので、ベッドに寝転がってすぐに寝る準備に入る。

 

咲姫「明日、楽しみ•••」

天「そうだな。俺も初めての事だから、ちょっと楽しみだわ」

 

今まで経験したことのない新年に、俺はガラにもなくワクワクしていた。例年と違うのは、あまり行き過ぎた行動ができないというのもあるが、そんなのはほんの僅かなデメリットに過ぎない。

 

天「明日は新年きっちり迎える為に、寝まくるかね」

咲姫「それでも寝過ぎるのはダメ」

天「手厳しいな••••••咲姫だったら甘えさせてくれると思ってたのに」

咲姫「それに寝てても月ちゃんに起こされる」

天「••••••それもそうだな」

 

最近毎日のように起こされている俺は、少し言葉を濁した。時刻は22時を回り始めており、多少ながら眠気が襲い始めている。

 

天「そろそろ寝るか」

咲姫「うん。おやすみ、天くん」

天「あぁ、おやすみ」

 

久しぶりに言い合うおやすみは、なんだか少し特別な気分に浸る事ができた。明日は更に面倒になる事うけあいだが、まぁ大丈夫だろう。

 

朝になると、俺は震えてベッドから出たくない欲が異様に高まった。無意識の内に咲姫を抱きしめて暖を取っていたらしい。

 

天「はーさむっ」

咲姫「天くん、あったかい••••••」

 

俺は大して寒さを凌げてるわけでもないのに、ただ抱きしめられている咲姫はあったまっていたようだ。何故だ、ズルい。

 

月「••••••朝からなにやってるの。コタツ出すよ」

天「あぁ••••••コタツ解禁は今日だったな••••••」

咲姫「そうなの••••••?」

 

大晦日の我が家の習慣を存じない咲姫は疑問符を浮かべていた。俺と月は小さく笑い、俺はベッドから出た。

倉庫に月と一緒に歩き、扉を開ける。大掃除をしたおかげで、前のような埃っぽさは全くなかった。むしろ快適すらある。

 

月「とりあえず大人数用のおっきいの出そうか。お兄ちゃん大丈夫?」

天「任せろ。伊達に鍛えてないからな」

 

倉庫の中に入って、無造作に置かれたコタツを持ち上げる。かなりの重量だが、そこまで重いとは思わなかった。ぶつけないように慎重に倉庫から出て、月は扉を閉める。

 

月「ソファの場所は隅に移してるから、コタツ置いたらしまっといて」

天「わかった」

 

コタツを抱えたままだと前が見えにくくて参った。月の言葉があまり耳に入らないままリビングまで赴く。

 

衣舞紀「おはよう、天。一人で大丈夫?」

天「問題ありません。よっと•••」

 

コタツを音を立てないようにそっと置く。コンセントに繋いで電気を送って起動させる。後は月と衣舞紀さんに任せて、俺はソファを持ち上げて倉庫へと運んだ。

 

ざっと十人は入れそうなドデカイコタツは、やはり六人では大き過ぎた。間隔を多少空けてもかなりの余裕があり、足を伸ばし放題だった。

 

乙和「快適快適〜。ずっとここにいたいくらいだよー」

ノア「うちなんかよりも全然大きくてビックリした•••こんなコタツあったんだね」

月「親戚がうちに流れ込んで来た時に買ったらしいですよ。その時は私もお兄ちゃんも小さかったのであんまりわかりませんが」

 

当時は俺はまだ四歳で、月は二歳くらいだっただろうか。十年以上の月日が流れて、そんな記憶はいとも簡単に消え去ってしまっていた。

 

衣舞紀「そういえば、お父さんは?」

天「仕事疲れでまだ寝てます。たぶん夜まで起きてこないと思います」

月「あ、お母さん夕方には帰ってくるって」

天「今年は珍しく全員揃うな」

 

いつもだったらどちらかがいるか、はたまたいないかで新年を迎えていたので、今年はかなりラッキーな部類だろう。

 

天「ふあぁぁぁ••••••」

咲姫「まだ眠い•••?」

天「寝てぇ」

 

まだまだ寝足りない俺は欠伸をしてしまう。月がおもむろにため息を吐いたのがわかった。

 

月「寝ていいよ。今日はほとんどやる事ないから。せめて夕食までお腹減らしてて」

ノア「晩まで寝るのは安定なんだね••••••」

 

遠回しの夜まで寝ていいよ、という許可をいち早くノアさんは感じ取っていた。俺はコタツを毛布に、倒れ込んだ。

 

天「••••••すぅー••••••」

乙和「えっ!?もう寝たの!?」

 

あまりの早さに、乙和さんが声を上げた。そこにすかさず咲姫が、人差し指を口元に当てる。

 

咲姫「しーっ。天くんが起きちゃう」

乙和「あっ•••そうだった」

月「咲姫さんも一緒に寝なくていいんですか?」

咲姫「私は平気だから」

 

頷く咲姫。この中でただ一人寝ているのが俺なので、まぁまぁ目立っていたが、俺の意識は無情にも途絶えた。

 

昼過ぎ頃に、俺は目を覚ました。身体を起こして周りを見ると、見事に全員が寝ていて、コタツの上のテーブルにはトランプが散乱していた。みんな遊び疲れて寝てしまったのだろうか。

隣には、わざわざ近づいたのかすぐそばに咲姫が寝ていた。そっと頭を撫でてみたが、反応はなかった。

 

猛「お目覚めのようだな」

天「ん、父さんか」

 

ちょうどリビングに入ってきた父さんは、月の隣に座った。

 

猛「随分と楽しそうだな」

天「俺は今まで寝てたけどな」

猛「かー!もったいねぇなーお前は!こんな美少女達と遊べるなんてこの先ほとんどないんだぞ!?今を楽しんでおけって!な?」

 

この先ない、なんて言葉は父さんがよく多用しているものだ。基本的にこの人が言ったことは大体真逆になる。つまりはこの先も俺は美少女と遊び続ける事になるのだろう。

 

天「あまりデカい声は出すなよ?起きるかもしれないからな」

猛「それもそうだな。周りに人がいるとはいえ、久しぶりに息子と二人で話せて俺は満足だ」

天「キモ」

猛「相変わらず辛辣だな•••」

 

男同士二人きりの何がいいのか。俺はまっぴらごめんだな。こんなゴリゴリの軍人と一緒なんて特に。

 

猛「もうそろそろ母さんが帰ってくる時間だな。今年は運がいいな」

天「まぁ、今までのを考えたら、そうだな」

 

父さんの言葉に、俺は頷く。その後はあまり話す事もなかったので、父さんは自分の部屋へ退散した。

俺も立ち上がって、せめて空きっ腹だけでもどうにかしようと思い、軽食を摂った。

 

しばらくしたら全員が起きて、月と衣舞紀とノアさんは夕食作りに取り掛かり始めた。必然と、俺と咲姫と乙和さんが暇になってしまう。

 

咲姫「何もやることがない••••••」

天「まぁ仕方ないな。多過ぎてもダルそうだし、ここは任せておこう」

乙和「天くんと月ちゃんのお母さんが帰ってくるのってそろそろじゃないの?」

 

時計に目を向けると、18時を指していた。もう帰ってきてもおかしくないだろう。

あまりにも暇なのでテレビをつけると、格◯けがちょうどやっていたので見始める。

 

乙和「あれ?格◯けって今日だっけ?」

天「いえ、来年の一日か二日の夜ですよ。これは今年あった分です」

乙和「来年もGA◯KT連勝するかなー」

天「するんじゃないんですか?どっかではヤラセ疑惑でてますけど」

 

でもGA◯KT育ちがいいから、ヤラセとは個人的には思わない。

 

月「来年のGA◯KTの相方って決まってたりするー?」

天「いや、出てないわ。当日までのお楽しみみたいな感じじゃねぇの?」

月「えぇー、つまんないな」

天「わからない方が、誰が来るか予想できて楽しいだろ?」

月「それもそうだねー」

 

月と軽く言葉を交わしてから、またテレビに視線を移す。それと同時に玄関の鍵が開く音がした。恐らく母さんが帰ってきたのだろう。

リビングの扉が開き、あったかそうなモフモフのコートを羽織った母さんが入ってきた。

 

柚木「ただいまーーって、何なの?この状況」

天「おかえり母さん。今年はPhoton Maidenのメンバー込みで年越しするぞ」

 

困惑気味の母さんに、俺はまるで休日に友達を家に誘うかのように簡単に言ってのける。

 

柚木「そう•••今年は賑やかになりそうね」

天「いや昨日から既に賑やかなんだわ」

柚木「昨日からいたの?若いわねぇ•••」

 

見た目は二十代に間違われてもおかしくないが、この人一応はアラフォーなんだよな。ちなみに父さんは四十過ぎてる。

 

月「よーっし!できたできた!晩御飯食べよー!」

 

どうやら夕食が完成したらしい。俺は立ち上がって、置かれている鍋を抱えた。

 

天「すき焼きか」

月「佐々木さんからお肉貰ったからねー。せっかくならここでたくさん使っておかないと!」

 

鍋をテーブルの上に置いて、箸や皿をそれぞれに配っていく。

 

猛「なんかいい匂いがすると思ったら•••すき焼きか」

天「一人で全部食うなよ?」

猛「わかってる。お客さんがいる前でそんなみっともない真似するかってんだ」

月「咲姫さん達がいなかったら一人で食べるつもりだったんだ••••••」

 

これでも少ないのか、と月はため息を吐いた。このままいけば精神的に疲れそうだからいいぞもっとやれ。

 

猛「あ?これ佐々木さんの肉か?あの人またいいの送ってきやがったな」

 

既に生ではなくなった肉を見ただけで、いいものと判断するこいつの目はどうなっているんだ。

全員で八人だが、鍋の大きさ的にも多分余裕だろう。もし食えなくなっても父さんが全部食ってくれるという保険つきだ。

 

全員「いただきますっ!」

 

一斉に手を合わせて、それから箸を持ってそれぞれ具材を取っていく。

 

月「お父さん肉取り過ぎ!あーお兄ちゃんも!それと咲姫さんは野菜ばかり取り過ぎです!ちゃんとお肉と食べてください!」

天「鍋奉行ぢゃんお前」

 

すっかり取り仕切っている月は、別の意味で頼もしく見えた。

 

月「全く•••、月とお母さんを見習って!ちゃんとバランス良く取ってるでしょ!?」

天「母さん、肉と野菜どっちも取ってるように見えるけど肉ばっかり食ってるのバレバレだからな」

柚木「ギクッ」

 

怪しいと思ってチラチラ見ていたら野菜がほとんど減らずに肉ばかりが消化されていた。

 

月「お母さん!?バランス良く!」

柚木「月が怖いわ•••」

 

実の娘にここまで強く言われるとは思ってなかったのだろう。母さんが少し凹んでしまっている。

 

猛「仕方ねぇだろ。肉がうめぇんだから」

天「肉うめぇ」

月「この筋肉ダルマ共め•••!」

 

妹が忌々しくこちらを見てくるが気にしない。が、俺の器の中に野菜が入れられた。隣を見ると、咲姫だった。

 

咲姫「野菜も食べないと健康に悪い」

天「さんきゅ。じゃあ俺からは肉をやろう」

 

お返しとばかりに咲姫の器に肉をポトン、と入れる。彼女の唇が少し緩くなったのは気のせいだろうか。

 

月「なんで咲姫さんの言うことは聞くかなぁ•••!」

衣舞紀「そこは関係の差ね•••」

乙和「天くん咲姫ちゃんにはとことん甘いから」

 

衣舞紀さんの言葉に、乙和さんが便乗した。やれやれと月が頭を痛そうに横に振ったのが見えた。

 

月「兄がどんどん情けない人間になっていく•••!」

猛「おい天!お前飲まねぇのか!?」

天「いや飲まんわ•••というか周りに親戚でもなんでもない人たちがいるんだからやめろ」

 

睨みつけるが、父さんはヘラヘラと笑うだけで誘いを止めることはなかった。結構ウザい。

 

月「新年の祝酒は私も参加しようかなー。いい加減三人の眺めるだけってのも飽きてきたし」

衣舞紀「中学二年生がお酒って•••時代は変わるものね••••••」

天「月の舌で酒はかなりキツいと思いますがね」

月「お?ナメてんなお兄ちゃん?私の舌は日々進化してるってことを明日証明してあげるよ」

 

ふふん、と鼻を鳴らすが、どうせ泣きながらお茶啜る未来が見えた。

 

咲姫「私も飲んでみたい••••••」

猛「お?咲姫ちゃんも飲んでみるか?俺は大歓迎だぞ。どうせ何年かしたら娘になるんだからな!ガハハゴボォッ!?」

 

俺は耐えられずすき焼きのタレが入った瓶を父さんに投げつけた。割れはしなかったが、見事に父さんの額に直撃した。

 

猛「いっでぇな天コラァ!貴様に朝日は拝ませねぇ!」

天「黙れクソ野郎。何年も先の話すんな」

柚木「天とお父さんは相変わらずね••••••」

ノア「いつもこんな感じなんですか••••••?」

柚木「そうね。酷い時は血まみれになってるわよ。お父さんが」

乙和「お父さんっ!?天くんじゃなくて!?」

 

確かに普通に考えたら父さんが俺をボコボコにしている絵面を想像するだろう。だがこっちにはスピードがある。それの恩恵で逆に俺が潰しているのだ。

 

柚木「ごめんなさいね、騒がしい家庭で」

衣舞紀「いえ、ここまで親子関係なく言い合えるのはむしろ良いと思います」

乙和「壁がないのはいい事だよね〜」

 

先輩方から家庭を褒められているが今は気にならない。父さんが瓶を投げつけてきたからだ。後ろに咲姫がいるので、避けずにキャッチする。

 

月「いつまで騒いでるのー?年越し蕎麦作るよ?」

天「あぁ、わかった」

 

瓶を置いて、またすき焼きの肉を食べ始める。父さんは酒ばかりで、あまり食い物に手をつけてなかった。

 

十一時五十分となり、月が年越し蕎麦を持ってきた。器の中から湯気が沸き立つ。むせそうだ()

 

月「紅◯もそろそろ終わりかー。早かったなー」

天「•••••••••」

月「お兄ちゃんどうしたの?黙り込んで」

天「いや、来年はPhoton Maidenをあそこに連れて行きたいな、と思ってな」

 

全員の視線がこちらへと向く。母さんが呆れた顔で見ていたのがよく分かった。

 

柚木「難しい話ね。そもそもDJユニットって時点であの場では浮いてしまうわ」

天「しらねぇよそんなの、出れればいいんだよ。今Photon Maidenは勢いづいてるんだ。今だってテレビで取り上げられたりしてるんだし、ライブも大きいハコを安定して取る事ができてる。来年だ。来年こそは彼女たちを大舞台に連れて行ってやる」

柚木「はぁ•••どうしてこう、あなたは現実を見ようとしないのかしら••••••。いえ、見ないからこそ、ひたむきに頑張って今まで担当してきた人をのし上げたのよね」

 

それは、マネージャーとしてのやり方が母さんとは根本的に違うからだろう。俺は基本的には彼女達に色々任せている。自分たちでやるという考え方を染み込ませる為だ。

 

月「後三分だよ!」

 

月の声が反響し、自然と重苦しい話が途切れた。テレビに目を向けると、出演した歌手達全員が歌っていた。ラストだということを嫌でも思い知らされているようだ。

 

乙和「後一分っ!」

天「••••••今年ももう終わりか、早かったな」

 

五月にPhoton Maidenのマネージャーを務めることになった時は、内心イヤイヤだった。同い年で女しかいない。そんな環境でやっていくのは嫌でたまらなかった。それが今はその内の一人と恋人関係になって、紅◯に連れて行くなんてほざきやがる。

人はそう簡単に変わらないが、俺は多少の期間を経て、ここまで大きく変わった。元から褒められない人間だという事を自負していたが、Photon Maidenは違った。仕事を持ってくる度に感謝を述べてくれて、今まで担当してきた芸人や俳優とは全然違った。

彼女たちが俺をここまで連れてきてくれた。その事実は絶対に揺るがないし揺るがせない。感謝の意も込めて、俺は全力でこの仕事に真っ正面から対峙するつもりだ。

 

司会「さぁ、残り十秒となりました!十!九!

猛「八!」

柚木「七」

ノア「六」

乙和「五!」

衣舞紀「四」

月「三っ!」

咲姫「二•••」

天「•••一」

司会「零ーー」

 

全員「明けまして、おめでとうございます!」

 

律儀にカウントダウンをした後の一斉にあげた声は、家の外まで響き渡った。

 

新年を迎えた俺たちは初日の出を拝んでいた。暗い中から少しずつ露わになる太陽が、暖かくて美しかった。

その後はすぐに寝てしまい、起きるのはかなり遅くなった。そんな中でおせちをみんなで食べる。例年とは全く違うお正月だ。

 

月「まっず!!」

 

そして食事で発してはいけない言葉が俺の耳をつんざく。祝酒を飲んだ月が苦しい顔を浮かべていた。

 

猛「予想はしてたがダメだったな!ガハハ!」

天「んっ、んっ•••はぁ、うめぇ」

衣舞紀「さっきからずっと飲んでるけど大丈夫•••?」

天「平気ですよ。まだ去年の半分もいってませんから」

咲姫「んっ••••••んっ••••••」

天「咲姫、無理して飲まなくていいんだぞ?」

 

昨日の言葉通り、咲姫は俺と父さんと月に混じって酒を飲んでいた。が、咲姫も月と大して変わらないので、苦い顔で飲んでいた。

 

天「おいおい•••顔赤いぞ•••もうやめとけ」

咲姫「うん••••••」

 

呂律が回っていないのか、咲姫は頭をフラフラとしていた。目もトロトロになっていて、目の前がちゃんと見えているのかすら怪しい。

 

咲姫「••••••んぅ」

 

パタン、と俺の方向に咲姫が倒れた。慌てて抱き止めて、月に目を向ける。

 

天「月、水頼む」

月「わ、わかった!」

 

月がバタバタと急いで走っていく。水をコップに入れてすぐに戻ってきた。コップを受け取って咲姫に飲ませる。

 

天「しばらく大人しくさせておくか•••んっ、んっ••••••」

 

膝に咲姫の頭を乗せたまま、俺は酒を胃の中に流し込む。

 

猛「流石に飲み過ぎじゃないか?」

天「そうか?全然余裕だけど」

 

顔色は全く変わってないし酔った時特有のふわふわした感覚もない。余裕すぎて怖いくらいだ。

 

猛「初詣行くんだろ?いいのかそんなんで」

天「ん?まぁ大丈夫だろ。行くにしても咲姫が目覚ましてからだし」

 

飲みながら彼女の頭を撫でる。くすぐったそうに頭を動かしたのがわかった。

 

猛「それで捕まったりするなよ?」

天「大丈夫だ。それはない」

 

そもそも毎年酒飲んだまま初詣行ってた記憶しかねぇよ。何年もやって補導されてないから今年もおけ。

 

天「ごちそうさま」

月「早いね?あまりお腹空いてなかった?」

天「いや、酒で腹が膨れただけだ」

 

俺は大きく息を吐いて、テレビに目を向ける。朝の情報番組が正月特番をしているが、内容は全く面白くなかった。

 

月「そういえばみなさん、”アレ”は用意してきましたか?」

衣舞紀「あぁ、”アレ”ね。もちろんしてきたわ」

 

アレってなんだ•••?ものすごく気になるが、月が目で制してくるので訊きづらかった。

 

乙和「初詣までのお楽しみだよ〜」

天「•••••••••?」

 

結局俺はワケがわからずに、首をかしげたままだった。ちなみに数時間程で、咲姫が酔いから覚めた状態で起きた。

 

時間は大体昼頃、俺はたまにしか着ない私服を取り出していた。

 

天「うっわー•••なんか久々に見るものばっかだな••••••」

 

休みの日に咲姫と出かけることもあったので多少は取り出したりしてたが、それはほんの一部に過ぎない。クローゼットを開けば、まだ見ぬ服共がこんにちはしていた。

 

月「お兄ちゃーん?いつまで時間かけてるのー?別に化粧するわけでもないでしょ?」

天「あーはいはい。すぐ出るから待てって」

 

急いでジーパンを履いて、多少お気にの厚めのシャツに腕を通す。その上にジャケットを羽織って自室を出る。

 

天「みんなは?」

月「下だよ。多分お兄ちゃん、驚くよー?」

天「••••••マジでどういう事なんだ••••••」

 

朝から疑問だったものがずっと続いて、頭はグルグルしている。

月は軽く、俺はいつもと変わらない足取りで一階へと降りて行くが、リビングに出ても彼女たちの姿はなかった。

 

天「あ?いねぇじゃん」

月「お兄ちゃん後ろ後ろ」

天「ん?ーーなっ」

 

言われるがままに踵を返して、俺は目の前の光景に目を奪われた。

Photon Maidenのメンバーが浴衣に身を包んで、おめかししていた。が、俺が驚いたのはそこじゃない。

 

天「そもそも夏やったじゃねぇか」

 

夏祭りにみんなで行った時も、彼女たちは浴衣を着込んでいた。その所為で多少見慣れてしまっている。夏の時とは柄違うけど。

 

咲姫「似合う•••?」

天「すごく似合ってる」

 

訊かれたらそりゃ褒めるに決まってる。似合っていてすごく可愛い。周りに人がいなかったら抱きしめていただろう。

 

衣舞紀「天、顔顔」

天「えっ、そんなおかしかったですか?」

乙和「いつもよりふにゃふにゃだったよー?そんなに咲姫ちゃんの浴衣がいいのか!?」

天「仕方ないじゃないですか。可愛いものは可愛いんですから。ノアさんもそう思いますよね?」

ノア「カワイ過ぎて死にそうです••••••!生きててよかったって心から思った••••••!」

 

とりあえず咲姫LOVEなノアさんに話振っとけば勝ちだよなこれ。当の彼女はいつものカワイイムーブをキメ込んでて十分ヤバい。

 

柚木「話は終わった?そろそろ行くわよ」

 

何故かスーツ姿の母さんが玄関前で待っていた。俺は欠伸をしながら、靴を履いた。

 

行き先は衣舞紀さんところの神社だが、凄まじい人の量だった。逸れないように気をつけないといけない。

 

猛「俺が壁になるから、流されないようにな」

 

こういう時に巨体の父さんが役に立つ。勝手に人が離れていくほどの威圧感も相まって、父さんの周りには人が寄らなかった。

 

咲姫「天くん••••••」

天「ん?」

 

咲姫に声を掛けられて、彼女の方向に顔を向ける。チラリと目線を逸らすと、手の居所が悪かった。俺は苦笑し、その手を握る」

 

咲姫「あっ•••えへへ」

 

そしてわかりやすく嬉しさを露わにする。いつもはかなり無表情なのに、こういう時に限ってよく笑うのをズルいと思うのは俺だけだろうか。

参拝客の列は凄い事になっており、かなりの待ち時間を要する気がして来た。いや、お参りだけなのでそう時間はかからないだろう。早いペースで少しずつ前に進んでいるので、多分すぐ来る。

 

乙和「お昼なのに多いねー」

ノア「朝は多いから時間ズラしたけどここでも多かったってパターンかな」

 

それは意外とありそう。逆に朝は少なかったかもしれない可能性まである。

 

衣舞紀「そもそもこんな寒い中、朝から行こうとは思わないわよ」

猛「昔に比べて、家にいる方が多くなったからな、最近の日本人は」

 

ネットとかそこら辺の技術が発達したから、外に出て遊ぶのもまぁまぁ面倒な事だろう。最近外で遊ぶ小学生とかを中々見かけないのは、インターネットの所為だろうな。通話で繋がれるし。

ちなみに私の家の隣には公園がありますが、普通に子供達遊びに来ますよ。やっぱ田舎なんすね〜(作者)。

しばらくしていたら、俺たちの番がやってきた。10円玉を賽銭箱に優しく投げ入れる。

二礼二拍一礼。神社でのお参りのルールだ。ちなみに神社内の道の真ん中を通るのはアウトらしい。

お参りを済ませたら、後はおみくじバトルをする事になった。ちなみに主催者は月。父さんと母さんは二人でどっか行った。

一つ300円のおみくじを買って、俺は適当に選んで引く。

 

月「さーて結果はー?ーー中吉!しっぶ!」

天「俺も中吉だわ」

ノア「私は小吉かぁ•••」

衣舞紀「私は吉よ」

乙和「私も私もー!衣舞紀おそろーい!」

 

おい、全くオチつかねぇじゃねぇか。どれも微妙で結果的に全く面白くない。

 

天「咲姫は?」

咲姫「•••••••••大吉」

 

ボソリ、と小さな声で発せられたそれは、とても縁起のいいヤツだった。一斉にみんなが喜び始める。

 

月「咲姫さん大吉なんですか!?すごいですよ!」

乙和「なんて書いてるの!?見せて見せてー!」

 

咲姫にみんなが群がり始めたので、俺はそこから一歩引いた。そして寂しく一人でおみくじの内容を確認する。

 

天「仕事は•••『急がば回れ』か••••••変にがっつかずに堅実に行きますかね••••••」

 

俺はおみくじを財布の中に忍ばせた。凶とかそんな酷いものではないので、結ぶのはやめておいた。そしてまだワイワイ騒いでいる咲姫たちの中に、俺も混ざり始めた。

 

御守りを買ったりして、特にやる事がなくなったので家へ向かって歩いていた。ちなみに俺と咲姫の手はまだ繋がっている。

 

咲姫「天くん」

天「なんだ?」

 

突然名前を呼ばれて、俺は顔を向けた。

 

咲姫「お願い事は、何にした••••••?」

天「言ったら意味ねぇだろ?」

咲姫「そうだね•••秘密、初めて••••••」

 

そういえばお互いに秘密にしている事とかほとんどなかったな。俺はあるけど言わない方が彼女の為だ。

 

天「俺は毎年恒例の寝正月を過ごすわ。コタツで寝ながらみかんでも食べるか?」

咲姫「ーーッ!うんっ!」

 

好物のみかんに反応したのか、咲姫は大きく頷いた。

 

乙和「えー何何〜?みかん食べるのー?」

天「えっ、まだ残るんですか?」

ノア「残るのが悪いわけじゃないでしょ?もうしばらくは居座らせて貰おうかな」

天「まぁ•••いいですけど」

 

全然迷惑じゃないから構わないが、貴方たち家族と過ごさなくていいんですかねぇ••••••。ご両親悲しむよ?

 

衣舞紀「そうと決まったら、早く戻りましょう!」

月「寝正月バンザーイ!」

天「元気な事だな••••••」

 

俺は苦笑いを漏らす。手をクイッと引かれて、咲姫の方へ顔を向けた。

 

咲姫「楽しいね」

天「あぁ、うるさいくらいにな」

 

また今年も騒がしくて、忙しくて、それでいてかけがえのない楽しい時間が待っていると思うと、俺は嫌でも期待に胸を膨らませる事ができた。そうやって、楽しい時間が永遠に続けばいいと、絶対にありえない願望も自然にしてしまった。

 

天「咲姫は、ずっと一緒にいてくれるよな?」

咲姫「もちろん。今までも、これからもずっと一緒」

 

その言葉が聞けて安心した。俺は咲姫の手を引いて、先に向かって走っていく月と衣舞紀さんを笑いながら追いかけた。

今年の冬は、雪を溶かすくらいアツいモノにしてやろう、そう誓った。




それでは皆様、良いお年をを。私は自分の夢に向かって進んでいきます。もし何処かで会うことがあれば一緒に剣道をしたいですねw


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2月14日、大カカオ戦争勃発

どうも、お久しぶりです如水です。無事親知らずの手術が終わり、症状も落ち着きました。いやまだ痛いですし食べ物噛めないので結構酷いもんですよwしばらくお粥生活なの辛いです•••。投稿できなかったのはマジで申し訳ないです。痛すぎて投稿する気力すらなくなってたんですよ。本当にすみません。明日から•••はまだ車校の方がバンバン忙しいのでわかりませんが、時間ができ次第は投稿します。それでは。


2月14日•••。それは一つの戦争を意味する日である。

そう、バレンタインだ。

女子からのチョコを求めて、男たちが戦争を繰り広げる。そして女子たちもまた、意中の男にチョコを渡すべく勇気を振り絞る日でもあったりする。というか基本男が騒いでばっかりのイメージしかない。

 

天「まぁ中学の時みたいにいつものメンツから貰っておしまいだろ」

 

月「それはまだわからないかもしれないよ?高等部に入ってから色んな人と絡むようになったんだしさ?」

 

天「あー•••そういえばそうだったな。麗や絵空からのチョコが欲しいな」

 

月「それは単純にお嬢様の高級チョコを召し上がりたいだけでしょ?」

 

天「当たり前だろ。逆にそれ以外に理由があると思うか?」

 

月「はぁー•••俗物的だ••••••」

 

月が呆れたようにため息を漏らす中、俺は無表情のまま椅子に座ってテレビを見ていた。

朝のニュースもバレンタインで賑わっていて、限定商品の紹介までも始めていた。

 

天「あれ美味そうだな•••」

 

月「味の事しか頭にないのか•••」

 

仕方ないじゃん、美味そうなんだから。チラリと時計を見ると、もうそろそろ家出る時間だったので俺は立ち上がる。

 

月「もう行く?」

 

天「あぁ。じゃあな」

 

月「行ってらっしゃーい。今年は何個貰えるかな?」

 

天「さぁな。でもくれるもんはありがたくいただかないとな」

 

月「礼儀礼儀。私にも食べさせてねー?」

 

天「あぁ。どうせ一人で食えん量になるだろうから二人で少しずつ消化しよう」

 

最早毎年の恒例行事となりつつ共同作業を予告して、俺は外に出る。

息を吐くと、白い霧となってそれは出ていき、それだけで妙な寒さを感じてマフラーを口元に運ぶ。

 

天「寒いな•••」

 

周りは雪が降り積もって真っ白になっている。冷たい空気を浴びながらザクッザクッ、と雪を踏み締めて学園へと向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

教室に入ると、やけにピリピリとした空気に俺は身構える。女子はそこまででもないが、特に男子たちの目つきは尋常ではない程に血走っていた。一見ホラーゲームとかに出てくる狂人を彷彿とさせる。

が、そんな事に一々動揺してられる程俺は暇ではない。いつものように席に座ってスマホをイジり始めた。

 

焼野原「神山はいいよなー。何もしなくてもチョコ貰えるんだから」

 

天「いきなりだな•••」

 

後ろの席の焼野原くんがぶーぶー言いながら俺に愚痴をこぼす。それに対して俺はただ苦笑いを返すのみである。

 

焼野原「今年はいくら貰えるんですかねぇ〜?」

 

そしてやけに威圧感のこもった視線を俺に向けてくる。居心地が悪いったらありゃしない。

 

天「•••さぁな」

 

これ以上会話を引き延ばすのもダルいので、俺はそっけない返しだけをしてスマホに目を落とした。こうして「今忙しいんだよ話しかけんな」という雰囲気を演出させるのだ。

 

天「(まぁ•••あんまり貰っても返すのが面倒だからな•••)」

 

貰う側からしたら、量が多くてお返しをするのが面倒くさくてたまらん。本音を言うならあまりチョコは貰いたくない。最低限でいい。

 

天「(咲姫から貰えればそれで十分なんだよな•••)」

 

心の中は家族と咲姫以外には読まれないので心置きなく本音を呟く。ただ愛する人から貰えれば俺はそれで満足なのだ。

 

教師「お前ら席つけー。ホームルーム始めるぞー」

 

教室に教師が入ってきたので、サッとスマホをカバンに投げ込む。ふぅ、と小さく息を吐いて、ホッとする。

 

教師「そういや今日はバレンタインだったな。女子の連中は好きな奴に渡すんだろうが••••••男子。その怖い目つきはやめろ。そんなんじゃチョコ貰えんぞ。神山を見習え。平然としてるじゃないか」

 

男子生徒A「先生、神山は毎年チョコ何十個も貰ってます」

 

教師「マジか神山••••••あんまり女子の心を弄ぶのはやめろよ?」

 

天「あの、俺恋人いるんですが••••••」

 

相手がいるのにそんな真似してたまるかよ。というかそれ、浮気に近いただのクズ行為じゃねぇか。人間やめるレベルの案件だぞ。

 

教師「とりあえず•••神山は遊び過ぎないようにな?女子の心は繊細なんだぞ?」

 

天「ふわあああぁぁ••••••」

 

男子生徒B「せんせー。神山話がつまらなくて聞いてませーん」

 

教師「相変わらずだな••••••」

 

頭を抱えていたが、俺からしたらとにかくどうでも良かったので、教師から目線を逸らして外をずっと眺め続けていた。あー•••家帰って寝てぇ••••••。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ホームルームが終わると、一限前の多少ながら長めの休憩に入る。俺はすぐさま席を立って、廊下に出た。

 

天「あそこにいても男子が怖すぎるな•••」

 

チラホラとキッツい目線を向けられていたので、耐えられずに出てきてしまった。人目のあまりつかないところでなんとかやり過ごしたいところだ。

 

りんく「あれっ?天くんだ!こんなところでどうしたの?」

 

天「ん?あぁ、りんくか」

 

突然誰かに声をかけられたと思ったら、相手はりんくだった。片手に小包を持ってこちらに向かってくる。

 

天「どうしたんだ?咲姫なら教室だが」

 

りんく「今日は咲姫ちゃんじゃなくて天くんに用事!はいこれ!バレンタインのチョコレートだよ!」

 

手に持っていた小包を、目の前に渡される。俺は目をぱちくりとさせて、恐る恐る綺麗にラッピングされたそれを受け取る。

 

天「あ、ありがとう•••」

 

りんく「どういたしまして!それじゃあねー!」

 

そしてそのまま笑顔で走り去っていった。まるで嵐のようだ。そっとチョコに目を落として、俺はため息を吐いてしまう。

 

天「•••今年は去年以上に増えるな」

 

そう確信してしまう。あまりにも絡む人間が多くなりすぎた。その事に、俺は多少ながらの後悔の念を抱いてしまう。

そして周りからの視線がかなり痛い。冷や汗がダラダラと溢れてくるのが嫌でも伝わる。

 

天「と、とりあえず人気のないところに•••」

 

気の所為だと思いたいが、少しお腹も痛くなってきたように感じる。今日の晩飯はお粥かな•••。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

結局まともな隠れ場所などなく、俺はノコノコと教室に戻った。小包を見られた瞬間に、男子たちの目がカッと開く。あまりにも反応が良すぎて怖い。

 

男子生徒A「さ、早速一個めか神山ぁ!?だ、誰からだ!」

 

天「えっ、り、りんくだけど•••」

 

男子生徒B「愛本ぉ!?早速美少女からもらってんじゃねぇかテメェ!ぶっ殺すうぅぅ!!」

 

天「切実だな•••」

 

チョコをもらえていない男子クラスメイト諸君らは、悲痛の叫び声を上げていた。同情したいけどしたくない(唐突の矛盾)。

 

女子生徒A「か、神山くん•••よかったら、これ」

 

いつの間にか後ろに立っていたクラスメイトの女の子にチョコを渡される。本日二個目だ。嫌な顔一つせずに、頷いて受け取った。だが心の中は不満でいっぱいである。

 

天「(お返しめんどくせええぇぇ!!)」

 

ホワイトデーにチョコのお返しをするのがとにかく面倒なのだ。それに加えて男子たちからの睨みも更に増す。

幸いな事にチャイムが鳴ったので、続々とそれぞれの席に戻っていった。

一時の安寧に、俺は心底ホッとする。そして約一時間後にまた同じ地獄を味わうと思うと、恐怖で震えてしまう。

 

天「(••••••こえぇ)」

 

人間の恐ろしさを、改めて痛感したような気がする。来世は平和に生きたいものだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

次の授業が終わった後、俺はそそくさと教室を出た。男子たちの視線を躱す為に、別の教室へ友人と会うという名目で向かう。

 

天「真秀」

 

真秀「えっ?そ、天•••?そっちから来るなんて珍しいね」

 

突然の俺の来訪に、真秀は驚いた表情を見せる。本当ならわざわざこんなところまで移動したくなかったよ。

 

天「突然すまんな」

 

真秀「い、いいよ。私も暇してたから•••。あ、今大丈夫?」

 

天「?あぁ」

 

真秀「こ、これ•••!受け取って欲しいんだ!」

 

少し強めの語調で渡してきたのは、りんくのものとはまた違うラッピングがされた小包だった。

 

天「••••••ありがとう」

 

完全にチョコだよなこれ。流石に無下にするわけにはいかないのでいただいたが•••どうしよこれ。

 

真秀「ほ、ほらっ!いつもお世話になってるし•••りんくのブレーキ役でも助かってるから•••!」

 

最早理由になってない気がするが、ここで否定したら真秀に恥をかかせてしまうのであえて何も言わなかった。

 

天「•••じゃ、じゃあ俺は戻るな••••••」

 

真秀「う、うん•••」

 

妙な居心地の悪さを感じて、俺は逃げるように真秀の教室を後にした。

ため息をつきながら、小包を見つめながら歩く。これで三個目なわけだが••••••どうしたもんかね。もうこれ以上増えて欲しくはないのだが、他に渡してきそうな人間が後十人はいるのが記憶に新しい。

ーードンッ!!

 

?「きゃっ!?」

 

天「おっと•••」

 

前を見て歩いていなかったので、誰かにぶつかってしまった。すぐにしゃがんで、倒れてしまった人に手を差し伸べる。

 

天「すみません、大丈夫でしたか?」

 

?「いたたた••••••ちょっと何処を見てるのよ!気をつけなさい!」

 

天「•••なんだ、むにか」

 

相手はやたらと交戦的で強気な態度と言葉遣いをするおチビこと大鳴門むにだった。口ではそう言いながらもしっかりと手を握っているのがなんだか面白い。

その小さな手を引いて立ち上がらせると、いつもの鋭い目つきで俺を見据えていた。

 

むに「•••それ、誰からよ」

 

天「これか?真秀からだが」

 

むに「そう•••はいこれ。余ってたからあげるわ」

 

ふんっ、と鼻を鳴らしながら乱雑に俺にチョコを手渡すむに。それでもなんだか頬が赤いのが、こいつらしくて微笑ましかった。

 

天「ん。ありがとな」

 

むに「れ、礼なんていいわよ!」

 

天「人から物もらってんだ。礼くらい言うのが常識だろ」

 

むに「ふんっ。精々味わって食べることね!」

 

そしてそのまま俺の横を通り過ぎていった。全く素直じゃないやつだ。俺は優しい笑みを向けて、教室へと戻っていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

教室に戻れば、それこそ視線が集中する。某パルテナの死神のセンサー並みに働きが良さそうだ。更に増えたチョコを見て、男どもの目がギラリと輝く。それと同時に冷や汗が流れたのを感じた。

 

天「•••まぁ義理チョコだし、そんなカッカすんなよ?」

 

精一杯の言い訳はたったのこれだけだった。媚を売るようなヘラヘラとした笑顔に、自分自身がイラついた。

 

男子生徒A「貰ってるだけいいじゃねぇかテメエエエェェェ!!」

 

男子生徒B「こちとらひとっつも貰ってねぇんだぞぶっ殺すぞゴルアァ!!」

 

天「••••••こっわ」

 

男子の、いや、人間の恐ろしさというものを改めて感じた気がする。俺の気持ち悪い笑顔は、すぐに真顔へと変貌を遂げる。そうなってしまう程に、今目の前の男たちを軽蔑してしまった。

 

天「まだ父さんの方がまともに思えてきたな••••••」

 

最終的に出てきた答えは、我が父がまだマシだということだ。出会い頭に殴ってくるクソ野郎よりも、欲望しかない男たちの方がクソだという事に悟りを開いた。

多分俺の目は死んでいただろう。いや、死んだというよりも、力がなかった。というか目の前のヤバい連中を視界に入れたくなかった。怖いもん。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

昼休みになり、俺は席を立った。同時に男子たちも立った気がするが無視。学食に逃げ込もうと移動しようとしたが、一人の声に立ち止まる。

 

衣舞紀「天ー。学食行きましょう?」

 

天「衣舞紀さん?はい、わかりました。咲姫、学食行くか?」

 

咲姫「うん••••••」

 

近くにいた咲姫に声を掛けると、彼女はコクリと頷いて当たり前のように俺の隣に移る。そういえばコイツ朝からこの時間まで一切話しかけてこなかったな。

チラリとこっそり目を向けると、顔を逸らされた。クソ、バレるか。

 

乙和「天くんもうチョコ貰ったー?」

 

天「はい。朝に四個くらいもらいましたね」

 

ノア「やっぱり天くんはモテるね」

 

天「お返しダルいし消化大変なんであんまり貰いたくないですけどね••••••」

 

衣舞紀「あはは•••天らしい感想ね•••やっぱり月と食べるの?」

 

天「一人じゃ食べきれませんよ、あの量は。今年は月でも消化し切れない気がするので、甘いもの好きな乙和さんにお願いしたいくらいですよ」

 

乙和「え!?チョコ食べていいの!?やったー!」

 

衣舞紀「あまり食べ過ぎるのはダメよ?というか乙和は食べちゃダメ」

 

乙和「ぶーぶー!衣舞紀のケチー!」

 

頬を膨らませて可愛らしく怒る乙和さん。相変わらず厳しい衣舞紀さん。そしてそれを苦笑いしながら眺めるノアさん。最早いつも通りの光景だ。俺はそれを微笑みながら見つめる。

が、咲姫だけはその輪の中に加わっていなかった。ずっと顔を逸らしてばかりで、見てすらいない。

 

天「咲姫、どうかしたのか?」

 

咲姫「•••なんでもない」

 

天「•••ならいいが」

 

何かよくない事でもあったのだろうか。執拗に訊くとかえって悪い状況になりかねなかったので、俺は黙る事にした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

学食に着いて、俺たちはすぐに席を確保する。やはりというべきか、学食内でもかなり殺気立ってるような様子だった。やたらとピリピリとした空気を感じるのはその所為か。

 

天「••••••なんかすげぇ居心地悪いな」

 

主にこの学園の男子どもの所為で。だがごく僅かな数の男子は穏やかだった。恐らくチョコを貰えてご満悦なのだろう。お返しをしないクズには成り下がるなよ。

 

衣舞紀「バレンタインとなると、みんな荒れるわねー•••」

 

乙和「私たちのクラスもすごかったよー。男子の目がすっごく怖いんだもん!」

 

本当にそうなのか•••?まだ笑いながら気楽に言えてるだけマシなのかもしれないが。

 

ノア「天くんと咲姫ちゃんのクラスはどうだった?」

 

天「•••怖かったです」

 

咲姫「怖かった••••••」

 

衣舞紀「•••どうやら一年が一番荒れてるみたいね••••••」

 

俺と咲姫の怯えた表情を見て、衣舞紀さんは苦笑を漏らした。

 

天「•••あいつらの目、尋常じゃないですよ」

 

乙和「そこまでなの?それはそれで気になるな〜」

 

怖いもの知らずだなオイ。地獄見るからやめといた方がいいと思うんですがそれは。少なくとも俺は絶対に嫌だね。ここまでバレンタインを呪った年は無いと思う。明らかに去年より荒んでいる。

昼食を摘みながら談笑を続けていたら、ぞろぞろとたくさんの女子生徒が集まってきた。学年など関係なく。

 

天「•••ん?」

 

咀嚼をしながら、その女子たちを見据える。ぱちぱちと瞬きをしながら、口の中の食物を飲み込んだ。

 

女子生徒E「えっと、神山くんかな•••?これ、受け取って欲しいんだ」

 

そしてチョコが入っているであろう小包を渡される。またか•••そしてこの人数•••。これだけで去年の数を余裕で超えてしまうな。俺はとりあえず礼だけを申してそれを次々に受け取る。

 

乙和「モテモテだね〜」

 

天「•••お返しの金額エゲついことになりそうだ••••••」

 

ノア「手作りじゃないの?」

 

天「えっ、ノアさん冗談ですよね?お菓子作りとかした事ないですよ」

 

ノア「そういえば普段料理とかしなかったね天くんは•••」

 

思い出したかのように察した表情となるノアさん。そもそも、お菓子作りができないことを誇らしげに申す俺もかなり可哀想な人間だ。

 

響子「急に人だかりができて来てみれば、天だったんだね」

 

天「響子•••それにピキピキの面々まで」

 

興味本位だけなのかいささか怪しいが、Peaky P-keyの四人がこちらに歩いて来た。

 

絵空「隣に失礼してもよろしいですか〜?」

 

乙和「いいよいいよ〜!」

 

歓迎ムードで乙和さんが率先して席を通した。まだ昼食を食べ終えてない俺はピキピキそっちのけで飯を食らっていた。

 

しのぶ「相変わらず量が多いこと•••太らないの?」

 

天「逆にお前は食う量が少ない気がするんだが?だからチビなんだろ」

 

しのぶ「なっ•••!?」

 

由香「天としのぶの悪態は相変わらずだねー」

 

俺としのぶが睨み合いながらあまり綺麗ではない言葉を吐き合うのは、最早いつもの光景となっている。

まぁこれくらいいつも通りの方が、俺としてはかなりやりやすい。

 

響子「後、天に渡すものがあるんだ。はい、これ」

 

そう言いながら、ひょいっと軽々しく小包を手渡してくる響子。一瞬困惑した後に、それを受け取る。

 

天「•••ありがとう」

 

おい男子女子ども、俺はあのピキピキの山手響子からチョコもろたんやぞ。どや?羨ましいやろ?えぇ?

 

由香「そして私からも天にチョコを渡しまーす」

 

プラス由香からもチョコのお恵みをいただく。ある程度仲良くしてる人間からのチョコは素直に嬉しいものだ。

 

しのぶ「•••はい、お世話になってるから•••」

 

照れながらチョコを渡すしのぶ。俺は小さく微笑みながらそれを受け取った。

 

天「ありがとな。たまにはうちにも遊びに来いよ?月もしのぶの家ばっかり行くのは飽きてるっぽいし」

 

しのぶ「えぇ•••、面倒くさいな•••」

 

天「たまには身体動かせよ。鈍るぞ」

 

絵空「最後は私ですね〜。天さんはいっぱい食べると聞いたので、こちらをご用意させていただきました〜♪」

 

ドンッ、と音を立てて置かれたそれは、今まで貰って来た小包とは比べ物にならないような大きさだった。というか置いた衝撃で小包たちが一瞬浮いたぞおい。

 

天「な、なんじゃこりゃ••••••」

 

絵空「巨大チョコでーす。結構大変だったんですよ?」

 

天「••••••やりすぎだ、絵空」

 

乙和「おぉ〜。ね、ね、これも食べていいの!?」

 

俺の制服の裾をくいくいと引っ張りながら乙和さんがそんなことを訊いてくる。俺は静かに頷いたが、今は乙和さんに意識を向けるのは難しかった。だってこんなデカいものくるとか誰が予想するよ。

 

衣舞紀「これ、消化しきれるのかしら•••?」

 

天「長い戦いになりそうです•••」

 

今になって、絵空や麗などのお嬢様連中からのチョコをねだった朝の俺を恨んだ。こんな大きさのチョコを寄越されたら確実にデブってしまう。

 

衣舞紀「天•••大丈夫•••?」

 

天「•••頼ってもいいですか?」

 

衣舞紀「少しだけならいいよ」

 

天「じゃあレッスンが終わった時にでもうちで消化手伝ってください•••」

 

響子「へぇ、面白そうじゃん。私たちも行こうかな」

 

天「え゛」

 

しのぶ「•••何?なにか問題でもあるの?」

 

天「いや人数•••」

 

俺の家そんなにキャパ広くねぇんだけど•••そんな大人数で行ったら破裂してしまう。顔に一筋の汗が浮かんだのがわかった。

 

咲姫「それなら、衣舞紀さんたちが使ったあの大きな部屋を使えばいいと思う•••」

 

ノア「あの部屋のこと?だったらニ十人くらいは平気で入りそうだね」

 

天「あそこか•••」

 

まぁ掃除もしてあるし、多分大丈夫だろう。うちに来るのがPhoton MaidenとPeaky P-keyだけで収まればの話だが。

 

響子「まだ増えるんでしょ?だったらりんくちゃんたちも誘ってみる?」

 

天「•••消化役は多い方がいい」

 

俺はため息を吐きながら頷いた。チラリとチョコの山を見て、また再度ため息が漏れてしまう。これは•••消化し切れる気がしないな••••••。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

放課後になり、俺は一足早く事務所に駆け込んだ。スマホでちょくちょく響子やりんくらと連絡をとりながら、仕事を進めていく。ちなみに通話を繋げているので、リアルタイムで集合時間を相談中だ。

 

天「一応俺の方はもうちょいで片付きそうだが、レッスンの方はわからんな。延長する可能性もあるし」

 

りんく『計画立ててるの天くんだよね?どうにかならないの?』

 

天「まぁ•••別に今すぐ終わらせてもいいが•••一応俺ら単独ライブとかもやるプロなわけだし、手を抜くわけにはいかないからな」

 

響子『天らしい答えだね。それよりも、もしここで通話してるのがバレたらどうなるかな?』

 

天「おいおい、縁起でもないこと言うなよ。怖ぇじゃねぇか」

 

本当は通話しながらの仕事なんてやってはいけない事だ。単純に俺の仕事がほとんど終わってるからこそ、こうやって余裕ぶっこいて話をしているが、本来は無理だ。集中力が欠けてしまう。もしバレたら死ぬだろう。

 

りんく『え〜、まだ天くんの家行っちゃダメなの〜?』

 

天「まぁうちに行く自体は大丈夫だと思うぞ。妹がもう帰って来てるだろうし。この後の事も伝えてあるからな。あいつ晩飯作ってねぇらしいぞ」

 

りんく『えっ!?じゃあ今日の晩ご飯はチョコだけ!?』

 

響子『それは流石に偏り過ぎじゃないかな•••』

 

天「チョコの写真送ったら一瞬でそっちに切り替えた•••多分晩飯いらんレベルの量と判断したんだろうな」

 

力なく笑ってみせた後に、はぁ、とため息を吐いた。夕飯がチョコのみとか、どんな生活だよ•••デブまっしぐらじゃねぇか•••。

 

天「しばらく砂糖は控えないといけねぇな•••」

 

そして、そんな事を呟く。今日だけで大量の糖を摂取する事になる。数日は米とか食わなくていいかもな•••。呟きを聞いていたりんくと響子は、苦笑を漏らしていたという。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そろそろレッスンが終わる頃と思い、俺は通話を切った。パソコンを閉じて、身体を大きく伸ばす。

 

天「んっ、んーーーっ!はぁっ。なんか電話とか久々にした気がするな•••」

 

基本は電話ではなくチャットで済ませていたので、なんだか久しぶりにした通話は、少し新鮮だった。

さて、一応終わってるか確かめに行こう。そう思って席を立とうとしたらーー、

 

衣舞紀「お待たせ」

 

天「•••タイミングバッチリでしたね」

 

ちょうどよくレッスンを終えた四人が仕事部屋にやってきた。そしてそのまま俺の方に向かって来て、

 

衣舞紀「ハッピーバレンタイン。いつもありがとう、天」

 

乙和「私からもー!いつもありがとー!」

 

ノア「はい。これからもよろしくお願いします」

 

三人にチョコを渡される。他の人間からもらった時とは比べ物にならない喜びという感情が俺の中を駆け巡る。

 

天「•••ありがとうございます」

 

多分、これが今日初めての純粋な笑顔なのだろうか。ものすごく清々しい気分で、彼女たちに顔向けできているだろう。

 

咲姫「••••••••••••」

 

だがただ一人咲姫だけは、黙ったまま立っていた。俺はそっと顔を覗かせたが、昼の時と同じように顔を逸らされる。

 

衣舞紀「私たちは先に天の家に向かってるから、咲姫と二人で話し合いなさい」

 

乙和「それじゃ、おっさき〜」

 

ノア「ところで、しのぶちゃんとむにちゃんが来るって事よね!?それに加えて月ちゃんまで!!天国だ••••••」

 

なんか一人だけ暴走してた気がするけど、そこは衣舞紀さんが制御してくれるだろうと信じてそのまま送り出す。

部屋の中で俺と咲姫の二人きりになると、彼女はようやく俺の方に向かって歩いてきた。

 

咲姫「モテモテだった••••••」

 

天「•••••••••え?」

 

予想外の言葉の切り出しに、俺は困惑の声を漏らす。

 

咲姫「みんなからチョコを貰えて、嬉しそうだった••••••」

 

天「そ、そりゃ一応好意でくれてるわけだし、嬉しいに決まってるだろ•••」

 

貰い物だからいらない、と断る事も難しいが•••というか嬉しそうにしてたのは本当に一部だと思うのだが。

 

咲姫「私だけの天くんなのに••••••」

 

天「変な独占欲働かせるなっての。それで、俺はまだ本命チョコを一つも貰ってないんだが?」

 

咲姫「えっ••••••?」

 

いたって冷静に、そして真顔で俺はそんなクサいセリフを吐く。表情こそいつも通りだが、心の中は恥ずかしさでいっぱいだった。今更になって後悔する。

 

天「今まで貰って来たのは全部義理チョコだ。まだ本命•••その、なんだ•••咲姫からのチョコを貰ってないんだが•••」

 

そしてついには恥ずかしくなって俺は頬を赤くしてしまう。それを見た咲姫はくすりと笑って、バッグを漁り始めた。そして取り出したのは、可愛くラッピングされた、ハート型の小包だった。

 

咲姫「ハッピーバレンタイン、天くん。ずっと、大好きだよ」

 

天「••••••ん、ありがとう、咲姫。俺も大好きだ」

 

そしてそのまま彼女を抱きしめてやる。咲姫の腕が俺の背中に回ったのは、抱きしめてからすぐだった。

 

咲姫「私•••すっごく幸せ•••」

 

天「今年は過去一で幸せなバレンタインだった」

 

心の底からそう感じる。目の前の愛する人間の笑顔を見て、自然と幸せな気持ちになる。

 

咲姫「•••キス••••••」

 

天「はいはい」

 

こうやってねだられるのも、なんだか懐かしいように感じた。お望み通りに唇を重ねて、俺たちはしばらくの間幸せな甘い時間を過ごした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

二人でゆったりと家に戻っていると、我が家からガヤガヤとした騒々しさが漏れていた。どんだけ騒いでんだあいつら•••。

 

咲姫「楽しそう•••」

 

天「明日はご近所さんに怒られるかもな•••」

 

ウチ、結構防音整ってたはずなんだけどなぁ•••それを貫通するレベルのうるささはかなりヤバい。これがふっつうの家だったら凸られてたな。

 

天「ただいま」

 

咲姫「お邪魔します」

 

俺も咲姫も、いつも通りに家に入る。一応リビングとキッチンに顔を出したが、人っ子一人いなかった。ということは、あのデカい部屋だろう。

そろーっと覗くと、軽くパーティー状態だった。チョコは衣舞紀さんたちに持って帰ってもらったので、既にみんながチョコを食べていた。

 

月「ん?あっ、お兄ちゃん!咲姫さん!おかえりー!」

 

いち早く気づいた月が俺たちに手を振った。それと同時に全員の視線が俺と咲姫に集まった。なんか小っ恥ずかしい。

 

りんく「おかえりー天くん!咲姫ちゃんもお疲れ様!」

 

咲姫「う、うん。ありがとう•••」

 

なんかやけに顔の赤いりんくが俺たちに絡んでくる。•••ちょっと酒くせぇな。

 

天「酒チョコ混ざってたか•••」

 

月「私がふざけて度数高いの買っちゃったから」

 

天「よりにもよってお前が原因か•••」

 

またいつものこいつの差し金だったよ。それで関係ない人間に被害浴びせるのだけはやめてあげろ。

 

りんく「二人が帰ってくるのずーっと待ってたんだからねー!」

 

ふらふらになりながら騒いで、最終的に俺の方に倒れ込んでくるりんく。咄嗟に受け止めるが、その身体の軽さに驚いてしまう。

 

天「•••こいつちゃんと食ってんのか?」

 

真秀「いつもメチャクチャ食べてるよ」

 

それでもこんなスリムなのか、羨ましいな。というか普段から身体動かしてるだろうし当然か。

 

りんく「えへへへへ〜天くんあったかーい」

 

天「とりあえず誰かこの酔っ払いどうにかしてくれよ」

 

できることならこのまま抱き止め続けるのは避けたい。咲姫がずっとこっちむくれて見てんだもん。

 

麗「わ、私が引き受けますっ」

 

天「助かる」

 

りんくを麗に引き渡して、俺はホッと一息つく。くいっと裾を引かれてその方に目を向けると、咲姫が頬を膨らませていた。まだイジけてたのキミ。

 

咲姫「••••••」

 

天「そんな顔すんなよ」

 

少し乱暴に頭を撫でてやる。少し表情が和らいだような気がするが、あくまでその気がするだけだ。

 

麗「あっ、それと天さん。こちらを•••」

 

突然麗が差し出したのは、小さくても豪華な印象を強く受ける四角い箱だった。

 

天「これ•••」

 

某高級洋菓子店のバレンタイン限定チョコだった。これ万逝くやつだよな?

 

天「いいのか?こんな高いもの•••」

 

麗「いいんです。天さんは大切なご友人ですから」

 

悪意などカケラもない、純粋な笑顔でそう答えた麗。やっぱり持つべきはお嬢様のお友達だよな。何処ぞの清水とかいうやつとは大違いだ。

 

絵空「何か失礼な事を考えていませんでしたか?」

 

天「•••ナニモカンガエテナイヨ」

 

響子「絵空のあれは流石にやり過ぎだったけどね」

 

響子が指差す方向には、昼の絵空プレゼンツドデカチョコが置かれていた。やっぱり手つけられてなかったか。わかってはいたことだが。

 

天「••••••どうするよ、これ」 

 

乙和「みんなで分けて食べるしかないと思うな〜。私はもっと食べたいよ!」

 

ノア「乙和、あんまり食べ過ぎるのはダメよ」

 

ぎゅるるるる••••••。

 

天「あっ」

 

容赦なく腹の虫が鳴りまくり、周りがしん、と静まりかえる。

 

天「•••と、とりあえず腹減った••••••」

 

顔が赤くなり、プルプルと震えてしまう。

 

ノア「んっはーーー!!カッワイイーーー!!」

 

沈黙を破ったのはノアさんだった。後うるさい。ご近所の方にマジで怒られそうだからやめてくれ。

 

咲姫「私も、お腹空いた••••••」

 

天「食べるか。まだ全然残ってるみたいだし」

 

お互いに笑って、みんなが集まってるところに歩き出す。俺は一生この一日を忘れることはないだろう。たった一度だけの、大切な日を。

だからこそ、その大切さも込めて、俺はこう言ってやるんだ。

 

天「やっぱり、バレンタインは嫌なもんだな」

 

と。




あ、ちなみに毎年恒例で自分はチョコをもらってませんw寂しいでしょ?wwwぶっちゃけチョコくれるくらいなら竹刀くれって話なんですけどね。


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3月14日、白い恋人戦争記

いやーホワイトデーですねー。ま、自分はバレンタイン貰ってないんで何もお返ししなくていいんですけどwww悲しいなぁ•••さっきまでもやし部のみんなとアモアスしてたけど楽しかったぜい!


天「••••••今日何月何日?」

 

仕事から帰ってきた俺は、カバンを置いてリビングの机に突っ伏す。らしくなく疲れた身体が悲鳴を上げていたおかげで、体重任せに勢いで倒れ込んでしまった。

 

月「3月12日だよ。何かあるの?」

 

天「•••ホワイトデーのお返ししねぇといけねぇじゃねぇかよ!!」

 

俺は頭を抱えて悲痛の叫びを上げる。妹が耳を塞いだのが横目に見えた。後で殺す。

 

月「こんなんでもモテモテだからなぁ•••それに今年は例年より沢山もらったから出費も激しいねぇ。お兄ちゃんの事だし、どうせ手作りとかしないんでしょ?」

 

天「•••流石に手作りは無理だわ。お菓子作りとかしたこともねぇし」

 

月「予算とか大丈夫?」

 

天「これでも稼いでんだ。全然イケる」

 

通帳から金おろさないといけないと言うのがとてつもなく面倒ではあるが。

明日は仕事終わりにショッピングモール直行コースだな間違いない。

 

月「あ、そういえば私お兄ちゃんにバレンタインチョコ渡してなかった」

 

天「そういえばそうだったな。お前の分出さなくていいから少しだけ楽になったわ」

 

月「私の分もちょうだい?」

 

天「自分で買えボケ」

 

月「いつになく辛辣!」

 

ノーコンマでドストレートな言葉を浴びせてやる。月の顔は驚きに満ち、大きな声が木霊した。

 

月「なんだよーいいじゃんかー妹の頼みくらい•••」

 

天「今まで散々ワガママ聞いてきただろ••••••」

 

これまでのワガママに比べたら何倍もマシではあるが、あまり釈然としなかった。なんというか、このタダで貰おうとしている感覚が好ましくないのだ。

 

月「それで?どうせ咲姫さんにはとびきりいいお返しをするんでしょ?」

 

天「別に高いやつ買おうとは思ってねぇよ。ただ、咲姫らしいものを返そうかな、とは考えてる」

 

月「咲姫さんらしいもの•••?はて?」

 

顎に手を当てて考え始めたが、結局理解まで追いつく事はなかった。

俺もこう言っているが、正直それらしいものを買っておこうという軽い考えだ。ちょっと情けないな。

 

天「返す人も多いし、それも含めて色々選ばないといけないんだ。明日は帰りがかなり遅くなるとだけ言っておく」

 

月「まぁ時間かかるよねぇ•••。何人くらい?」

 

天「••••••百は超えてる気がする」

 

月「果てしなっ」

 

口にしただけで気が遠くなるような数だ。恐らくお返しの合計の金額もかなりエゲつないことになりそうな気がしてきた。ちょっとケチろうかな()

 

月「節約はダメだよ?」

 

天「•••はい、わかってます••••••」

 

ものの見事に言い返されて、俺は素直に頷くことしかできなかった。はーカッコわる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

3月13日。学園に到着した俺は空気の重さにドン引きしてしまう。主に男子たちからだ。

見てないフリをしながら俺は席に座り、ボーッと窓から外の景色を眺める。

それでも後ろからひしひしと伝わってくる男子たちの視線によって、冷や汗が流れた。

 

焼野原「なぁ神山。もうお返しのチョコとか買ったのか?」

 

が、そんな中でもいつも通りに絡んでくれる焼野原くんには頭が上がらない。おかげで精神的に少し楽になった。

 

天「いや、今日買いに行く予定だ」

 

焼野原「メチャクチャ貰ってただろ?お前。大変だよな」

 

天「だからあんまり貰いたくなかったんだよ•••お返しが大変なのが目に見えてたし」

 

はぁ、とため息を吐いて壁に寄りかかる。無表情の焼野原くんは同情とも何とも言えない表情を見せた。

 

焼野原「付き合ってやりたいところだが、そもそも俺は一つも貰ってないからな。無駄足はごめんだ」

 

天「そもそもついてきてくれなんて頼んでねぇよ」

 

焼野原「それもそうだな、ははっ」

 

ストレートにカウンターをかましてやると、彼は軽快に笑った。そんな姿を微笑みながら眺める。

話を続けようとした所で教室のドアが開き、担任が入ってきた。気怠い動作で前を向く。

 

担任「あー、特に言う事はないから終わるな。真面目に授業を受けるように。もうすぐ進級だし、その後すぐにテストもある。ちゃんと勉強もしておくようにな」

 

男子生徒達「はーい•••」

 

テンション駄々下がりの男子達の気の抜けた声が教室中に流れ込んでいく。

担任は頭を掻きながら呆れたような顔になった。

 

担任「全くちゃんとして欲しいんだけどなぁ••••••とにかく、赤点だけは絶対に許さないからな」

 

それだけ言って、担任はさっさと教室を出て行ってしまった。俺は目にも留めずに、居なくなったところを見計らってスマホを取り出した。

慣れた操作でホワイトデーのお返しの候補を探していく。

それぞれ誰かに合わせたものを返そうと考えているので、その人「らしい」ものを探さねばならない。

 

天「•••迷うな」

 

咲姫「迷う••••••?」

 

独り言を聞かれてしまったようだ。振り返ると咲姫が俺の携帯を覗き込んでいた。

俺はムッと顔を顰めて、彼女の頬を引っ張る。

 

咲姫「ひゅ、ひゅうにふぁひ••••••?」

 

天「人のスマホの画面を勝手に見るな」

 

咲姫「ほふぇんはふぁい••••••」

 

天「ん、よし」

 

ちゃんと謝ったのですぐに手を離す。そんなに強く引っ張ってないので、痛くはなかっただろう。

 

咲姫「何を見てたの?」

 

天「明日ホワイトデーだろ?そのお返しを色々見てたんだ」

 

咲姫「あ、そっか•••明日はホワイトデーだった••••••」

 

天「なんだ?忘れてたのか?」

 

咲姫「あまり意識してなかった••••••」

 

確かにこいつはそこら辺なんとなく無頓着そうだ。俺は苦笑を向ける。

 

天「咲姫のもちゃんと返すから、楽しみにしててくれ」

 

咲姫「ーーッ!うん••••••」

 

そのお返しの中に自分も含まれている事を思い出したのか、咲姫の表情は柔らかくなる。

そしてさっきまで近かった距離も更に縮まり、ほとんど密着しているような状態になる。

 

天「あっ、と•••近いぞ」

 

咲姫「だって、嬉しいから」

 

天「まだ渡してもいないのにこんなんじゃ、明日はどうなるのかわかんねぇな•••」

 

嬉しさのあまり気絶しないといいけど。というかそれ以前にまず咲姫が満足できる代物を用意するのが先決だ。

スマホの画面を真っ暗に落として、今は彼女の対応に専念した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

仕事を終えて、俺は欠伸をしながらショッピングモールに訪れた。

店内は青や白の風船だったり装飾だってりで彩られ、ホワイトデームーブをかましていた。

 

天「••••••予め決めてはいたが探すのが大変だな」

 

至る所にチョコやクッキーがドカドカと置かれているもので、どれがどれかさっぱりだ。一応スマホの画面にお目当ての商品を映しながら、一つずつ地道に探っていく。

 

数十分が経過したくらいだろうか、買い物カゴの中は商品でいっぱいになっていて今にも溢れそうだった。

 

天「•••そういや咲姫のだけ決まってなかったな」

 

ようやく全員分を集める事ができた、と安心したのも束の間の出来事となった。一番大事なものが済んでいない。

適当に歩いて彼女が喜びそうなものを探すが、どれもピンとこない。

 

天「む•••ネットで注文しようにも今すぐ届くわけじゃないからな•••」

 

通販での配達は本当に早くても注文した翌日くらいだ。当日に、しかもこんな時間から注文してもその日にくるなんて100%ありえない事だ。

 

天「なんかねぇのか••••••って、これ••••••」

 

ふと目に入った箱を手に取る。すぐにスッと買い物カゴの中にインした。

大当たりだ。まさに咲姫にうってつけであろうお返しが見つかった。

 

天「よし、後は渡すだけだな」

 

なんとかお返しを決める事ができ、俺は意気揚々とレジにそれを持っていく。

 

店員「合計で9万6570円になります!」

 

天「•••••••••嘘やん」

 

現実は非情であった。俺の財布にこれでもかと言うほどのダメージを受け、その代償として大量の砂糖の塊を得た。再来月まではあまりお金使えないな•••。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

3月14日。ホワイトデー当日だ。

俺はバカデカい袋を用意して、梱包されたチョコを詰め込んでいく。

 

月「おはよー•••って、すごいチョコの量•••。これ全部渡すの?」

 

天「そうだけど」

 

俺の様子が気になったのか、月が俺の部屋までやってきた。そしてドアの前で突っ立ったまま疑問をぶつけてきた。それに対して俺は軽く応える。

 

月「なんか去年とは比べ物にならないくらい増えたね••••••そりゃもらいたくないって言うわけだよ」

 

大量に入れられて膨らんだ袋を見て、月は苦笑する。俺は反応に困って無表情だが。

 

天「まぁとりあえずパパッと渡してくる。大半はそこまで絡みない人ばかりだし」

 

月「おー冷たいねー」

 

天「なんか言葉かける方が無理だってんだ。俺は相手の事ほとんど知らねぇんだぞ」

 

月「わーかってるよ。それにしても変だよねぇ。もう恋人がいるお兄ちゃんにチョコを渡すなんて。まだ狙ってるのかな?」

 

ニヤニヤとしながら俺を眺める月。俺はため息を吐いて首を横に振った。

 

天「それはそれで困るな••••••。まぁいいわ。飯食おうぜ飯」

 

月「はいはい」

 

さっさと話を切り上げて、俺は月と一緒に一階に降りて朝食をいただいた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

••••••まぁ、わかってはいたことだが、こんなデカい袋抱えてたらそりゃ注目されるわな。

道行く人々から様々な感情が入り混じった視線が飛び交って、それが周りにも影響されて注目の的となってしまっていた。

 

天「(••••••うっわー•••ウチの男子生徒しっかりいるし。というか目怖っ)」

 

遠目に見えた陽葉学園の生徒が、こちらを恨めしそうに睨みつけていた。キレんなキレんな。こっちも困ってんだよ。

そっと目を逸らして、俺は急ぎめに歩く。少しでも早くこの地獄から抜け出したくて必死だった。

というかまぁまぁチョコが重い。流石にこの量となるとバカにできないな。鍛えておいてよかった•••。

 

学園に到着し、俺は教室に入って席に座った。机の横にチョコの入った箱が潰れないように、慎重に袋を置く。

 

焼野原「おぉ、もしかしてこれ全部お返しのヤツか?」

 

天「あぁ、運ぶの大変だったんだぞ。周りの人からも何事かと眺められたし」

 

少しくたびれ気味に笑ってみせると、焼野原くんも爽やかな笑顔を浮かべた。

 

焼野原「そりゃそんなデッカい袋持ってたら気になるよな。多分俺もつい見てしまうだろうし」

 

が何か普通の人と違う行動をしていたらつい見てしまうのと同じ現象だろうな。そう思うと俺は色んな意味で目立ってたのだろう。

 

焼野原「それで?これ全部今日のうちに返すつもりなのか?大変だなおい」

 

天「•••••••••ぶっちゃけ今すぐにでも放り出したい」

 

焼野原「うん、まぁ•••気持ちはわかる••••••。俺チョコもらったことねぇけど」

 

天「悲しいこと言うなよ••••••」

 

チョコのくだりになった瞬間、焼野原くんの顔が暗く沈んだ。何故わざわざ自爆したんだ••••••。

 

天「まぁでも貰ったもんは返さないといけないしな。最低限の礼儀なわけだし」

 

焼野原「まぁそうだよなぁ•••てか今のうちにクラスのやつには渡しておけば?」

 

天「ん、そうだな」

 

焼野原くんからの指示通りに、俺は立ち上がって袋の中を漁る。一応わかりやすいように、それぞれの渡す人の名前を書いた付箋を貼り付けてある。

名前自体は覚えているので、変に迷うことなくクラスの女子生徒達にお返しを渡す事ができた。

•••渡す度にキャーキャー騒がれたのはウザかったが。

 

咲姫「あ、あの••••••」

 

天「ん?」

 

制服の裾をくいくいっ、と引っ張られて、振り返ると不安そうな顔をした咲姫の姿があった。

 

天「どうしたんだ?」

 

咲姫「私の分は••••••?」

 

天「•••安心しろ。ちゃんと買ってあるから。今日ウチに来てくれないか?その時に渡すから」

 

咲姫「•••ッ!うんっ!」

 

とびきりの可愛い笑顔で咲姫が頷いた。それだけで心が洗われるような、なんとも言えない幸せな気分になる。

ノアさんが可愛い可愛いって叫ぶのもそういった感情なのか、としみじみと感じる。

 

焼野原「なんだー?彼女はお預けなのか?」

 

天「バカ言え」

 

小っ恥ずかしくて、俺は焼野原くんから顔を逸らす。感情のブレを紛らわすように、俺は袋を持って立ち上がる。

 

焼野原「どこ行くんだ?」

 

天「チャイム鳴るギリギリまで渡してくる」

 

焼野原「おぉ、そうか。頑張れー」

 

気怠げにひらひらと手を振る焼野原くんを横目に、俺は教室を飛び出した。

 

特にそう言った関係もない人たちの分を配り終えて、俺は少し疲れた様子で教室に戻る。その瞬間にチャイムが鳴った。ギリギリセーフと言ったところだろう。

廊下を走ってしまったのは少しいただけないが、今日だけは許して欲しい。

あれだけパンパンに貯まっていた袋も、かなり萎んでしまっていた。それを見て、心なしかホッとする。

 

焼野原「お疲れ様」

 

天「まだ全然だ。いつものメンツに渡さないといけないから」

 

焼野原「あの美少女連中か•••死ねばいいのに(ボソッ)」

 

天「聞こえてんぞ」

 

小さい声で呟いてもほぼ目の前の距離だ。嫌でも聞こえてしまう。

うんまぁ•••確かに美少女揃いだな。普通の男ならあんな環境には入り浸れないだろう。マネージャーしてなかったら俺も入ることはなかっただろうが。

 

天「ホームルーム終わった後に配り行くかな••••••」

 

ポケーッと黒板の方を無心で見つめる。しばらくすれば担任が入ってきて堅苦しい話を始めた。

 

担任「あー、今日はホワイトデーだったな。バレンタインでチョコを貰った人はちゃんとお返しをする様に。貰ったら返す。これはできて当たり前の事であり、最低限の礼儀だーー」

 

男子生徒A「長いですしチョコ貰ってませんが!!!??」

 

担任「•••••••••すまん」

 

聞くに耐えられなかった非リア男子が悲痛の叫び声を教室中に響かせた。俺は白けた目でそいつを見たが、その男子生徒は俺の方を睨んできやがった。

 

男子生徒A「大体神山!お前は貰い過ぎなんだよ!お前ばっかりいい思いしやがって!!」

 

天「••••••ははっ」

 

俺にも飛び火して、乾いた笑いしか出てこなかった。やっぱりこの時期の男は怖くて敵わん。

 

担任「•••ま、神山は毎年のことだからいいが、変に騒ぎは起こすなよ?職員室でもお前の話題はよくあるからな」

 

天「えぇ••••••(困惑)」

 

俺何かした?メチャクチャ平和に過ごしてきたはずなんだけどなぁ••••••。

 

担任「そういうわけだから、今日も真面目に過ごす事」

 

それだけ言って、担任はさっさと教室を出て行ってしまった。何か急ぎの用事でもあるのか?まさか生理?いやあいつ男だったわ。

 

天「んじゃ、行くかね•••」

 

俺は袋を抱えて欠伸を一つ。重たい足取りで教室を出て、先に隣の教室に凸る。

 

天「りんく、いるか?」

 

顔をだして目的の人物の名前を呼ぶと、本人はすぐにこちらに気づいて走ってきた。犬かな?

 

りんく「天くんだー!どうしたの?後その袋何?」

 

天「ほれ」

 

りんくの質問に答えずに、俺はりんくに箱を渡す。ちなみにマス◯ーソードの形をしたチョコレートだ。

 

りんく「••••••?何これ?」

 

天「家に帰ったらゼ◯ダの伝説で調べてみな」

 

りんく「なんか良くわかんないけどわかった!ありがとう!」

 

天「そりゃどうも」

 

袋を抱え直して、俺は次の場所へ赴く。また別の教室に入って、

 

天「真秀」

 

相手の名前を生意気に呼んだ。真秀は拍子抜けした顔で目をぱちくりさせた。

 

真秀「そ、天?急にどうしたの?」

 

天「どうしたも何も今日ホワイトデーだろ。ほら」

 

真秀「•••エナジードリンク入りチョコ?」

 

天「お前、リミックスとかで徹夜なんてしょっちゅうだろ?これ食って少しは紛らわせ」

 

時々目にクマくっつけた状態で学園に来る日があるから心配だったのだ。だがそんな事を真正面から言うのも恥ずかしいので、チョコを渡すついでに言った。

 

真秀「なるほどね。ありがとう、天」

 

天「ん」

 

お礼の言葉を受け取れて満足したので、俺は教室を出る。

 

天「さて•••あいついるか•••?」

 

問題はむにだった。あいつが教室にいるかわからないので、少々賭けに出ることになりそうだ。

そーっと教室を覗くが、あいつのチャームポイントであるウサ耳は見えない。どこか行ったな•••。

 

天「仕方ない、探すか••••••」

 

むに「探すって誰を?」

 

天「うおおぉぉ!!?」

 

突然後ろからむにに声をかけられて、俺は飛び上がってしまう。荒く息を吐きながら、教室のドアに背中を預ける。

 

天「び、ビックリした••••••!」

 

むに「驚き過ぎよ•••。それで、誰を探してたのよ?」

 

天「お前」

 

むに「私っ!?」

 

他人事だと思っていたむには自分を指差しながら素っ頓狂な声をあげた。俺は小さく笑いながら、袋を漁って箱を手渡す。

 

天「ん」

 

むに「何よこれ•••?綺麗な絵が描かれてるわね」

 

天「有名なイラストレーターさんが描いたやつなんだ。せっかくだしお前にと思ってな。ちなみに中身はクッキー」

 

むに「そう•••ありがとっ」

 

素直にしていればこんなに可愛いのになぁ•••本当にツンツンしてるのがもったいないと感じてしまう。

逆に一部の人間はツンツンしているからこそ今の可愛さに価値があると見出すらしいが、俺にはよくわからん。

 

天「じゃ、まだ渡さないといけない人がいるから、失礼するわ」

 

むに「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

 

天「ん?なんだ?」

 

突然呼び止められて、俺は振り向く。むには顔を赤くしたままモジモジとしている。

 

天「ちゃんと言ってくれないとわからんぞ?」

 

むに「ま、また、アンタの家に行っても•••いいかしら」

 

天「あぁ、いつでも。その時は月と遊んでやってくれ。あいつ、結構暇してるからな」

 

むに「わかったわ!それじゃあ近いうちに行くわね!」

 

天「ん。楽しみにしてる」

 

静かに笑って、俺はむにからどんどん遠ざかっていった。

まだ朝だ。流石の麗もこんな時間から音楽室にいるとは到底思えない。だから即座に凸ってやる。

 

天「麗!」

 

麗「はっ、はいっ!?」

 

いるかいないかの確認もせずに、俺は少し大きい声で麗を呼んでしまう。

その所為で彼女は驚き、読んでいた本を落としてしまう。

 

天「あ、悪い•••」

 

すぐに駆け寄って本を拾う。麗に顔を向けると、彼女はまだ目をまんまるにして動揺していた。

 

麗「き、急にどうしたんですか••••••?」

 

天「みんな同じ事言うな•••。いやまぁ俺から絡みに行く事がまずねぇから仕方ないんだけどさ••••••。はいこれ」

 

麗に箱を手渡すと、彼女は困惑しながらそれを受け取る。

 

麗「そういえば•••今日はホワイトデーでしたね。ありがとうございます」

 

天「ん、どうも。麗が知らなそうな面白いものを探してみたが•••どうなんだろうな•••」

 

麗「あ、あの•••?どう言ったものを買ったのですか••••••?」

 

天「硬貨チョコ」

 

一円玉、十円玉、五十円玉•••それぞれの硬貨をイメージしたチョコの詰め合わせをくれてやった。お嬢様育ちのこいつはあまり知らない代物だろう。

 

麗「そんなものがあるんですか?」

 

天「あぁ。特に五円チョコは駄菓子屋で昔よく買ってたな。安い割に美味いんだよ。まぁそれは詰め合わせだから普通にまぁまぁな値段したけどな」

 

それでも数千円だからまだいい方だ。むにに渡したやつなんて、イラストレーター価格が付いててエグかったよ。あんな買い物もうしない•••。

 

麗「かなりお金を使ってしまったみたいですね••••••」

 

天「しばらく贅沢できそうにないわ••••••」

 

泣きそうな顔で呟く。それを麗は苦笑しながらも優しく眺めていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

昼休みになったので、俺はすぐに席を立って教室を出ようと飛び出した。

 

乙和「あっ、天くんみーっけた!」

 

••••••だがPhoton Maidenのおバカこと乙和さんが既にこちらにまで来ていた。早過ぎない•••?瞬間移動でもしたのかなこの人•••。

 

乙和「天くんがいるなら丁度よかったよー。咲姫ちゃんも呼んできて?」

 

天「••••••わかりました」

 

はぁ、とため息を吐いて、咲姫を呼ぶ。すぐに彼女は反応を示してこちらにやってきた。

 

天「それで、何処に?」

 

乙和「学食だよ!」

 

天「あ、じゃあ目的地同じですね。久しぶりに学食で食べたい気分だったので」

 

乙和「え?咲姫ちゃんのお弁当は?」

 

乙和さんが首を傾げながら俺と咲姫を流し見る。俺も咲姫はお互いに見つめ合って、微笑んだ。

 

天「今日はホワイトデーなので、昼飯は俺が出そうかなと思ってたんですよ」

 

乙和「えーいいなー。私にも奢ってー!」

 

咲姫「乙和さんはダメ••••••」

 

きゅっ、と俺の腕を抱き寄せた咲姫が乙和さんにムスッとした目線を送る。乙和さんもそれに対抗してか、頬を膨らませて咲姫を睨んでいた。

 

天「•••••••••なんだこれ」

 

よくわからない状況になって、俺は少し困惑する。でも咲姫がここまで乙和さんに反抗する姿も珍しいので、もう少し見ていようかという悪戯心が湧いてきた。

 

天「早く行きますよ。どうせ衣舞紀さんとノアさんの事だ。先に待ってるんでしょう?」

 

乙和「せいかーい!じゃあ早速レッツゴー!」

 

乙和さんが先頭に立って歩み始めた。俺と咲姫はその後ろを静かについていく。

 

学食に到着する。まだ人が少ないのでゆっくりと食べたいものを選べそうだ。

 

天「俺はもう決めたけど、咲姫は何が食べたい?」

 

咲姫「うーん••••••じゃあこれ、ホワイトデー限定メニュー」

 

天「ただのシチューとクリームコロッケの定食じゃねぇか」

 

味噌汁の代わりがシチューになってるだけだった。中々に薄っぺらい限定メニューだこと•••。

 

乙和「じゃあ私もそれにするーっ!天くんは?」

 

天「焼肉定食です」

 

至って普通の、俺が好きなメニューをあげた。しかし乙和さんはお気に召さないようで、ムッとした顔を向けてくる。

 

乙和「そんな普通のじゃ味気ないよ?今しかない限定メニューを食べないと!」

 

天「そんな大して好きでもないものなので俺は遠慮します」

 

乙和「むーっ!この薄情者ー!」

 

騒ぎ立てる乙和さんをガン無視して、俺は自分と咲姫の分の会計を済ませる。

定食が乗ったお盆を受け取って、衣舞紀さんとノアさんを探す。

 

ノア「天くーん。こっちこっちー」

 

大きく手を振る金髪の姿が目に映る。ノアさんだ。咲姫と乙和さんに目で伝えて、先に座っている二人の方へ向かった。

 

天「お待たせしました」

 

衣舞紀「今日は学食のご飯なの?珍しいわね?」

 

天「えぇ、まぁ。咲姫の分の学食の金を出そうと思って、ついでに俺も久しぶりに学食で飯を食べたいな、と思いましたので」

 

ノア「咲姫ちゃんだけ?私たちの分はないの?」

 

天「ホワイトデーのお返しで今余裕ないんですよ••••••」

 

ノア「あはは•••なるほど••••••それは無理そうだね」

 

俺の一言で完全に察したノアさんは、居心地の悪そうな笑顔を浮かべた。

約十万も消費したのだ。いくら働いてる俺でもこの額は見過ごす事ができない。

 

天「まぁでも次のライブが成功したら、ご飯くらい奢りますよ」

 

ノア「本当に!?じゃあ天くんを一口••••••」

 

天「俺を食べるんですか!?やめてくださいよ本当に!」

 

衣舞紀「•••ノアはブレないわね••••••」

 

乙和「ノア〜またやってるの?」

 

続けてやってきた乙和さんがノアさんに向けて唇を尖らせていた。

 

天「もういいですよ•••ノアさんこれがいつも通りですし••••••」

 

衣舞紀「マズいわね•••天が諦めかけてるわ」

 

いやだって、一々ツッコんでても埒があかないのは目に見えてるし。

いっそのこと受け入れようかな。その方がなんか楽な気がしてきた。

 

咲姫「皆さん、早く食べませんか••••••?」

 

天「•••ん、そうだな。普通に腹減ったし食うか」

 

今にも腹の虫が鳴りそうな程、今胃の中はスカスカだ。朝っぱらから動き回ったおかげで、エネルギーを消費しまくっていたらしい。

 

乙和「ん〜!これすっごく美味しいね咲姫ちゃん!」

 

咲姫「うん、美味しい••••••」

 

天「•••そんなに美味いのか?」

 

咲姫に向けて質問を投げかけると、彼女はコクコクと頷いた。

 

天「ん、美味いならよかった」

 

咲姫「天くんも食べる••••••?」

 

天「えっ?あー•••じゃあ、貰おうか」

 

咲姫「うん。はい、あーん」

 

俺が要求した瞬間に、咲姫は一口大にクリームコロッケを箸で割って、俺の口の前に持ってきた。

 

ノア「おー!咲姫ちゃん大胆っ!」

 

天「あむっ•••ん、結構美味いな」

 

中々に美味しい。まろやかなクリームが衣とよく合っている。

 

衣舞紀「あの、咲姫•••?そういうことをするのはいいのだけど•••周りが••••••」

 

咲姫「え••••••?」

 

キョロキョロと周りを見渡す咲姫。ちなみに俺は見なくてもなんとなくわかる。視線が俺たちに集まっていることを。

 

天「••••••おっ」

 

丁度よく、見知った顔を見かけた。俺はそいつに笑みを向けてから、袋と一緒に立ち上がる。

 

乙和「何処いくの?」

 

天「ちょっと野暮用です」

 

袋を肩に担いで、俺は一つのテーブルへと向かう。

 

天「よ、ピキピキのみんな」

 

そこにいたのは、Peaky P-keyの面々だった。それぞれが違うものを食べている。

というか殆どが食べ終えていた。食ってるのはしのぶくらいだ。

 

響子「天。今さっきはすごかったね」

 

天「やめろやめろ。咲姫がやってきたんだ、断るわけにもいかないし••••••」

 

由香「相変わらず優しいよねー。男子たちには結構厳しく当たってるのに」

 

割って入ってきた由香が俺の方を興味津々に眺めていた。俺はフッ、と鼻を鳴らして、肩をすくめる。

 

天「男相手はあれくらいが丁度いいんだよ。変に気を遣わずにガンガン言っちまってさ」

 

しのぶ「ふーん•••」

 

天「それを考えたら、しのぶとかはガチガチに男友達味が強いんだよな」

 

しのぶ「ちょっとそれどういうこと•••?」

 

流れに任せてしのぶをイジると、わかりやすく彼女は反応を示した。

 

絵空「結局のところ、天さんはどうしてこちらまで?」

 

天「っと、そうだった。ほれ、ホワイトデーのお返し」

 

それぞれの分の箱を置き、弾いて彼女たちの前まで送りつける。

 

響子「へぇ、相変わらず面白いものを買ってくるね。これは•••富士山?」

 

天「そ、だって響子の苗字、『山』手だろ?だからそれ関係で持ってきた」

 

響子「結構安直なんだね••••••」

 

なんとも言えない微笑を残した響子に、俺はしてやったり、といいたげな顔をして見せた。

 

由香「おぉ〜、私のはプロテイン入りのクッキー!トレーニングの後に食べよ〜」

 

天「そうなると思って、タンパク質多め、糖質脂質少なめを選んだ」

 

由香「さっすが〜気が利く!」

 

絵空「あの〜•••これは?」

 

天「デケェだろ?バレンタインの仕返しだ」

 

俺が絵空に用意したのは、ドデカサイズのチョコだ。バレンタインの時にこいつが寄越したものよりは小さいが、十分だろう。

 

しのぶ「絵空はまだいいだろ•••私のなんて••••••」

 

響子「ぷふっ、あははっ。これどこで見つけてきたの?」

 

天「ショッピングセンターだ。というか全部そこで揃えてきた」

 

響子「なんでも置いてるんだね。あははは!」

 

由香「ちょっと響子、笑いすぎよ。でも、本当に面白いね」

 

ちなみに、しのぶに渡したチョコだが••••••。

 

しのぶ「デコ助チョコって何!?」

 

一部の界隈の人間しか知らないかなりマイナーなキャラクター、デコ助くんだ。

ちなみに見た目はデコが広いガチショタ()

 

天「いや、しのぶっつったらやっぱりデコだろ?なぁデコちゃん」

 

しのぶ「だ、れ、が、デコちゃんだ!喧嘩売ってるの!?」

 

天「なんだよいつも通りおチビって言った方が良かったか?」

 

しのぶ「そういう問題じゃなーい!」

 

響子「ホント、仲良いね二人は」

 

俺としのぶが言い合っている様子を、他の三人は微笑ましく眺めていた。俺はそれを横目に見て、小さく笑った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

仕事が終わり、俺は大きく伸びをする。袋も完全に萎み切ってしまって、なんだかみっともなく見えた。

 

天「後はPhoton Maidenだけだな」

 

あんなにたくさんあったお返しも、残りはたったの4つだ。

本当に今日は大変だった。学校中を動き回ってお返しを渡して、いつもの何倍も歩いたような気がする。

 

天「まぁこれも一つの思い出だよな•••」

 

こんな思い出、そうそうできないだろう。それでもやっぱり大変だからこれっきりにして欲しいものだが。

 

天「さーてっと、みんなも終わった頃かな」

 

椅子から立ち上がって、袋を持ち上げる。いや、もう袋はいらないな。

お返しの箱だけを持って、咲姫の分だけを鞄の中に入れる。そうして、仕事部屋を出た。

 

レッスン部屋に入ると、まだレッスン着のままの彼女たちの姿があった。俺は少し居心地の悪い顔になってしまう。

 

天「あー•••まだ終わってませんでした?」

 

衣舞紀「ううん、丁度終わったところよ」

 

天「•••••••••ッ」

 

良かった。もしまだ続けていたら邪魔することになるからな。そういった行動は控えたいところだ。

 

天「それじゃ、お返し、配りますね」

 

乙和「天くんのお返し!?わーい!何かな何かな〜!?」

 

真っ先に乙和さんが俺の方へ飛び込んできた。苦笑しながら、彼女には大きい箱を手渡す。

 

乙和「おっきいね〜!何が入ってるの!?」

 

天「チョコ、クッキー、キャンディ、マシュマロ•••まぁお菓子関係の詰め合わせですよ。乙和さん甘いの好きですよね?」

 

乙和「大大だーいすきだよ!!天くんありがとう!」

 

天「•••どういたしまして」

 

乙和さんが箱を持ってワイワイとしているのを眺めてから、俺は衣舞紀さんの方へ歩み寄る。

 

天「衣舞紀さんには•••由香と被っちゃいますけど、これを」

 

衣舞紀「プロテイン入りのクッキー••••••ふふっ、ありがとう、天」

 

天「これからも頼りにしてますよ、リーダー」

 

衣舞紀「もう、天もちゃんと頑張ってよ?」

 

天「当たり前じゃないですか。これからもビシビシ行きますよ」

 

衣舞紀さんと軽口を叩き合った後に、俺はノアさんの方へーー、

 

天「••••••なんでそんなニヤニヤしてるんですか」

 

ノア「どんなものを持ってくるか楽しみですから!」

 

いつもの気持ち悪い笑顔を浮かべながら、まだかまだかと待ち侘びているご様子だ。こんなせっかちだったかなこの人••••••。

 

天「ま、いいや。ノアさんにはこれを」

 

ノア「こ、これは••••••!等身大ハムスターチョコ!?か、カワイイ••••••!こんなカワイイの、食べられないよ••••••!!」

 

まぁノアさんだしこうなるよなぁ••••••彼女が気に入りそうなものを、と思って選んだが、もっと食べやすいものにした方が良かったかもと後悔する。

 

ノア「ありがとう天くん!大事に、だいっじに食べるね!!」

 

天「•••あ、ハイ••••••」

 

ひとしきりに愛でまくった後に結局食うか食わないか迷いまくって溶かしそうだなこの魔人••••••。

溶けたハムスターチョコを想像して少しゾッとする。リアリティあるのはやめといた方が良かったな。可愛いけど。

 

天「咲姫は後でな」

 

一応と思って彼女に伝えておく。しっかり覚えていたようで、笑顔のまま頷いた。

 

乙和「えぇー咲姫ちゃんだけ特別扱い〜?」

 

天「まぁ恋人ですしお寿司の手巻き寿司。そんじゃ俺帰りますんで。ではまた明日」

 

咲姫「あっ、私も•••。皆さんさようなら」

 

俺と咲姫は頭を下げて部屋を出て行った。

そして二人で手を繋いだまま、神山家へと向かって歩き始める。

 

天「すっかりあったかくなったな。というかむしろ暑いような•••」

 

咲姫「また気温上がるって••••••」

 

天「おいおい夏を待たずにか•••?最近荒れ過ぎだろ」

 

沖縄とか死んでそうだな••••••。やっぱり工業製品とかで二酸化炭素出まくってるからなのかねぇ。地球温暖化が進んでるからこそなのか。この異様な気温の高まりは。

 

咲姫「でも、手袋を着けて手を繋がなくて良くなった」

 

天「お、おぉ•••そうか••••••」

 

真正面からそんなことを言われるとは思ってなかったので、少し照れてしまった。咲姫から目を逸らして、俺は歩く速度を上げた。

 

家に帰り着き、俺と咲姫は慣れた足取りで中に入っていく。

 

月「あっ、おかえり〜。ご飯もうすぐできるよー」

 

天「月、これやるわ」

 

部屋に行くついでに、妹に箱を軽く投げる。

 

月「おっととと。こ、これってもしかして•••!」

 

落としそうになりながらもしっかり手の中に収めた月は、みるみるうちに顔がキラキラと輝いていく。

 

天「ついでだ。受け取っとけ」

 

月「わーいやったー!お兄ちゃんありがとう!」

 

妹の元気な声を聞きながら、俺と咲姫は自室に入った。そして鞄を置いた後に二人でベッドに腰掛ける。

 

天「一先ずは、今日もお疲れ様」

 

咲姫「うん、天くんもお疲れ様••••••」

 

少しそわそわした様子の咲姫が、微笑みながら俺の顔を見つめる。変にじらさずにさっさと渡してしまおうと、俺は鞄の中を漁り、一つの箱を取り出した。

 

天「ん、いつもありがとな」

 

咲姫「これ••••••惑星チョコ?」

 

俺が咲姫に手渡したのは、地球や土星などの惑星をイメージしたチョコだ。宇宙が大好きな咲姫にはうってつけだろう。

 

咲姫「すごい••••••輝いて見える••••••」

 

天「最後の最後までお前のを探すのに手間取ってな、丁度これを見つけた瞬間確信した。咲姫にはこれだなって」

 

咲姫「うん•••ピッタリ。とても嬉しい••••••」

 

天「気に入ってくれたなら良かった」

 

咲姫「これ、食べてもいい?」

 

天「晩飯前だぞ?」

 

咲姫「一つだけ••••••」

 

天「しょうがないな」

 

箱を開けて、一番小さい月のチョコを摘み上げる。

 

咲姫「あーん••••••」

 

天「•••だと思ったよ」

 

どうせ食わせてくれって言うと思っていたので、昼のお返しも込めて、咲姫の口の中にチョコを入れた。

 

咲姫「ん、もぐもぐ•••美味しい••••••」

 

天「まぁまぁ値段したからな。美味くないと困る」

 

何せ5000円もしたんだぜ?5000円。かなり財布にダメージを負ってしまったよ、流石にむにに渡したやつには負けるが。

 

咲姫「私、今とても幸せ••••••」

 

天「あぁ、良かったな」

 

優しく、頭を撫でてやる。サラサラな白い髪の上を動かしていく。

 

咲姫「キスも••••••」

 

天「はいはい」

 

急にワガママになり始めたようだ。俺は微笑みながら、彼女を抱き寄せて唇を重ねる。

 

咲姫「んっ、ちゅ、ちゅっ•••んぅ、ちゅっ••••••」

 

少し、チョコの甘味を感じた。長いように感じて、実際には短かったキスを終えると、咲姫はちょっと眠そうだった。

 

天「レッスン、疲れたか?」

 

咲姫「うん、大変だった••••••」

 

天「眠いなら少し寝るか?月が来たら起こすから」

 

咲姫「うん••••••」

 

咲姫はそのまま俺の膝の上に頭を乗せて、目を閉じた。

少しでも彼女が落ち着くようにと、頭を撫でる。

 

咲姫「それ、続けて••••••」

 

天「ん、わかった」

 

どうやら好評なようで、彼女が満足いくまで撫で続けた。

 

月「お兄ちゃーん?ご飯できたよー•••って、あれ?咲姫さん寝てる?」

 

部屋のドアを開けた月が、咲姫の姿を見て固まる。

 

天「あぁ。もう少しだけ寝かせてやれないか?今寝たばっかりなんだ」

 

月「お疲れみたいだしね。わかった。後十分時間をあげよう」

 

天「あざま」

 

軽い口調で礼をいう。それだけでも月は満足なようで、一階に降りて行った。

 

天「ホワイトデーでも、こういうのは変わらずだな」

 

俺は咲姫を起こさないように静かに笑う。膝の上で眠っている彼女は、実に落ち着いていて、穏やかな寝息を立てていた。

 

天「••••••これからもよろしくな、咲姫」

 

眠っていて聞こえないだろうが、こういう時だからこそ普段恥ずかしくて言えない言葉が言える。

彼女の寝顔を眺めながら、一つだけ、咲姫に渡したチョコを口に運んだ。




今日の分の投稿はこれになるので、咲姫√は明日までお待ちくだされ。


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メリークリスマス!

皆様、メリークリスマス、でございます。いかがお過ごしでしょうか?私は上善如水を呑みながらルタオのチーズケーキを食べています。美味しいですチーズケーキと日本酒合いますねぇ!
まぁ無駄話はこれくらいにして、私はいつも通り恋人などおらず一人で寂しいクリスマスを過ごしています。悲しいね。
急ピッチで仕上げたものなのであまり内容は期待しないでください泣きます。


もうすぐクリスマスを迎えようとしている中、俺は特に変わりなく仕事に打ち込んでいた。パソコンのキーボードを叩く音が虚しく部屋に響き渡る。

去年はライブでそれどころではなかったが、今年はライブも何もない。至って普通のクリスマスが過ごせそうで少し安心している。

まぁ受験生が三人もいる中で、しかも受験も近いこの時期にライブをブチ込むなんてアホな真似をする気は毛頭ない。するヤツは人間の心がないと思う。

 

今日の分の仕事を全て終えて、パソコンをパタン、と閉じる。立ち上がって部屋を出た。

まだ彼女たちはレッスン中だろう。あえてそこを狙って外に出たのだ。

クリスマス当日にサプライズでプレゼントを渡してやるつもりなので、バレないように買い物をしなければならないのだ。

 

天「バレてねぇよな•••?咲姫辺りはなんとなく察してそうだが」

 

あの子に関しては休憩時間の時にたまに仕事部屋に来るから最悪の場合は電話なり何なりして呼び出してくるに違いない。

だから彼女の行動に全てがかかっている。ほぼ運ゲになってしまうが祈るしかないだろう。

 

天「えーっと••••••何処だっけ」

 

携帯の地図を見ながら、キョロキョロと不審者気味に歩き続ける。

意外とわかり辛いもので、見つけるのに少し時間がかかってしまった。

 

無造作に扉を開けて店内に入ると、質素な外観と違って内装はかなり豪華だった。まるで人間の心の中身みたいだ。外側は謙虚に、普通に、内側は傲慢に、艶やかに。

 

天「趣味わっる」

 

簡単に言うとものすごく趣味が悪い。というかこんなところがちゃんとした商品を売ってくれるのかすら怪しいまである。

こんなんだがモノ自体は優秀なんだよなぁ•••。本当に見た目が悪い。

とりあえずりんくたちの分も諸々含めて買い漁ってやった。

最近金よく使ってんなぁ•••妹の学費は大丈夫だろうか。

学費に関しては両親の金使っても関係ないし、本当に危ない時は頼らせてもらおう。

 

天「よし、帰るか」

 

買うものは買ったので、俺はそそくさと店から出て行く。

少し急ぎ目に歩き、事務所に急いだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

特に咲姫たちから言及されることなく次の日を迎えることができた。

12月24日。クリスマスイブだ。

 

月「おはよう〜•••」

 

少し元気のない声をあげながら朝食を食べている妹の姿が目に入る。その前の席に座って、俺も箸を手に取った。

 

天「どうした?何か悩み事か?彼氏でもできたか?」

 

月「できてない!!それに私は石油王と結婚するのー!!」

 

天「やめとけ一生無理だから。んで、何かあったのか?」

 

月「クリスマスだよお兄ちゃん?咲姫さんと朝からイチャイチャチュッチュしないの?」

 

天「咲姫は今自分の家だぞ」

 

月「なんで泊まってないのさ!」

 

知らねぇよんなこと俺に言うなや。そもそもいつもいつも咲姫が泊まりに来てるわけではない。ぶっちゃけほぼ毎日宿泊してるのは確かだ。もう家族だよ。

 

天「それだけか?」

 

月「まだあるよ。クリスマスどうするの?今年はお父さんもお母さんも帰ってこないけど」

 

天「咲姫も入れて三人でひっそりと過ごすくらいでいいだろ。明日の帰りにケーキでも買ってくる」

 

ケーキ、その言葉を聞いて月の顔が明るくなった。そんなにケーキ好きだったっけお前。

 

月「高いケーキ!これでもかってくらいクソ高いケーキを用意して!!」

 

天「そんなに金に余裕ないんだが?学費払えなくなるけど」

 

月「学費はお父さんに払わせるもん!いつもいつもお兄ちゃんがお金出してばかりなんだから!」

 

天「••••••そうかよ」

 

父さん、強く生きてくれ。有栖川学院の学費ってなると相当バカにならんぞ。しばらく酒でも断っててくれ。

 

天「というかそんな高いケーキを買うつもりはないぞ。お前が高校受かったらいいもん食わせてやるよ」

 

月「えぇー•••しょうがないなぁ。じゃあいいもの食べるために勉強頑張りますかぁ!」

 

俺も月も冬休み。勉強する時間はたっぷりとあるのだ。そして俺もうんと仕事をすることができる。

まぁ冬休み課題と言うゴミカスがあるから完全に自由、というわけではないが。

 

天「そういや冬休みになって三日くらいだが、宿題は終わったのか?」

 

月「え?数時間で終わったけど?」

 

天「•••••••••」

 

やっぱこいつ天才だろ。なんでここまで優秀なのに受験が不安なんだよおかしいだろ。

 

月「お兄ちゃんはどうなの?」

 

天「••••••まぁ、計画的に進めるよ。仕事が主だからそこまでやってる余裕はない」

 

月「大変だねぇ。去年ほどではないけど•••あ、来年が一番忙しいか!」

 

天「うるっせぇなぁ••••••」

 

来年までは受験の事は忘れさせて欲しい。今から受験の事なんか考えてたら仕事が進まなくなる。

あまりこういう事は言いたくないが、正直な話大学に行かなくていいとは思っている。

だって既に職があるんだよ?今更学業を続ける必要is何処?

Photon Maidenの彼女達はいつか引退した後に働く為に念の為大学は出ておいた方がいいのは確かだ。だが俺はマネージャーと言う困らない仕事に就いている。どこにでも行けるのだ。

 

月「大学行くって、みんなで決めたんでしょ?今更逃げちゃダメだよ?」

 

天「わかってる、もう一年しかないんだ。今になって受験しません、なんて言ってられん」

 

心を見透かされていたが、言葉通り俺は今更逃げるつもりなどない。忙しくなるだろうが、ちゃんと大学に行く。そして普通に卒業して普通に仕事を続ける。

 

天「つーかぶっちゃけクリスマス関係ないよなこの話」

 

月「それはそうだねー。今年のクリスマスは延々とクソゲーでもやる?」

 

天「せめてモ◯ハンにしてくれ•••」

 

まぁ少なくとも今の半ライス•••じゃなかったラ◯ズはやることやり尽くしていてやる事ねぇんだよなぁ•••グラフィック面とか諸々見てもワー◯ドやる方が何倍もマシなのではと考えている。

 

月「そういえば•••クリスマスプレゼント•••?買ったの?」

 

天「ちゃんと買った。抜かりなし」

 

月「私のは?」

 

天「ないって言ったらどうする?」

 

月「殺す♡」

 

ストレートだなおい。

 

天「嘘、ちゃんと買ってる」

 

月「なんか怪しい」

 

信用しろよ。腐ってもお前の兄貴だぞこっちは。

まだ訝しんだ顔をする月を見ながら、俺もため息を吐く。

 

天「ちゃんと用意してるから、変に警戒するな」

 

月「変なもの用意してないよね?」

 

天「すまん、それは保証できない」

 

月「は!?ちょっと待ってよ!」

 

天「じゃ、仕事行ってくる〜」

 

月「逃げるなーー!!おい!!!」

 

大声で呼び止める月をガン無視して、俺はゲラゲラ笑いながら家を飛び出した。ちなみに家を出ても妹の叫び声は少しだけ聞こえていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

乙和「終わった終わった〜。はぁ〜疲れたぁ〜」

 

天「お疲れ様です」

 

乙和「ありがと〜。そういえば天くん、クリスマスはどうするの?すごい今更だけどさ」

 

レッスン終わりに唐突に乙和さんからこんな質問をされて、俺は少し困惑した顔となる。

 

天「本当に今更ですね•••普通に家で過ごしますけど」

 

乙和「あれ?咲姫ちゃんと一緒に過ごさないの?」

 

咲姫「もちろん天くんの家に行く」

 

天「らしいです」

 

乙和「あー•••うん。なんかそんな気はしてた」

 

腕に巻き付いた状態の咲姫を、苦笑いしながら眺める乙和さん。俺は完全に慣れてしまったので、欠伸をしていた。

 

ノア「去年の今頃はライブをしていたはずなのにね。今年は何もなくてなんだか違和感があるかも」

 

衣舞紀「そうよね。なんだかむず痒いもの」

 

天「いいじゃないですか、何もないのは。こっちは仕事追われて死にそうでしたし•••」

 

頭を掻きながら俺は遠い目を明後日の方向に向ける。ヘラヘラとした笑いすら込み上げない程に目が死んでいた。

 

咲姫「今年はゆっくり過ごせそうだね」

 

天「そうだな。でもあまり騒がないようにな」

 

乙和「騒ぐのはどちらかというと月ちゃんの方だよね•••」

 

天「あいつは今年はそんな余裕ないと思いますけどね•••」

 

受験勉強漬けで疲弊しきってるし、今年のクリスマスはあいつの絶叫も何も聞こえないことだろう。耳が生きてるって実感する。

 

衣舞紀「天はこの後どうするの?」

 

天「この後色々回ってりんくたちに会ってプレゼントでも渡そうかと」

 

ノア「全員分用意したの!?」

 

天「そうですけど」

 

ノアさんが驚いた顔をしているが、今更な事のはずだよな?

 

天「ホワイトデーとかちゃんと全員分用意してたじゃないですか。寧ろ少ないくらいですよ」

 

ノア「だとしてもお金を使いすぎじゃないかな!?貯金崩したりとかしてない!?」

 

天「大丈夫ですよ。普段そこまでお金は使わないので」

 

咲姫「本当に大丈夫なの•••?無理してない?」

 

天「してないしてない。貯金もちゃんとあるから問題ない」

 

何年も前からこの仕事をしているし、相応の給料ももらっている。寧ろ貯金はどんどん貯まっていってるくらいだ。

 

天「とりあえず今から適当に連絡入れて渡してきます。みんなの分は明日に」

 

乙和「りょーかい!いってらっしゃーい!」

 

天「いってきます。お疲れ様でした」

 

一礼し、俺はスタスタと歩いて外に出る。吹き抜ける風が冷たいが、防寒をしっかりしていたのもあってそこまで寒くはなかった。

携帯を取り出して、りんくに連絡に連絡を入れる。

 

天「丁度よく四人で集まってたな••••••」

 

いつも通りなのかはわからないが、タイミングよく集合していたらしい。

適当な場所を指定して、そこに落ち合うことになった。

携帯をイジりながらボケーっと待っていると、こちらに向かって走ってくる人の姿が見えた。

 

天「ぶふっ!?」

 

そしてすかさずこちらに突撃した。防寒着に守られてたおかげでそこまで痛くはなかったが、衝撃はかなりのものだった。

 

りんく「天くーん!終業式以来だね!」

 

天「おうそうだな。とりあえず離れてくれないか?」

 

りんく「え〜?やだー!」

 

天「ちょっと真秀ちゃーん!?貴女の娘さんワガママなんですけどー!?」

 

真秀「ほらりんく!離れて!」

 

りんく「はーい!」

 

何このコント。まるで仕組まれたかのように話が進んだが、打ち合わせなど一切していない。これが友情かぁ•••()

 

むに「会って早々騒がしいわね•••」

 

麗「まぁまぁむにさん。いつもの事ですよ」

 

むに「そうだけど••••••」

 

後からやってきたむにと麗が色々話しているが、ちゃんと聞こえているので、俺は苦笑していた。

 

りんく「どうしたの?急に呼んだりして」

 

天「ん?明日クリスマスだろ?」

 

真秀「そうだけど、何か関係でもあるの?」

 

天「はいこれ」

 

鞄から用意していたプレゼントを取り出して、見せびらかす。

 

天「ちゃんと用意しました!」

 

にひひ、と砕けたように笑う。変にテンションが上がってるのか知らんが、あまりにも行動が自分らしくない。

 

りんく「え!?いいの!?」

 

天「あぁ。いつも世話になってるからな」

 

真秀「悪いよ。いつも貰ってばかりじゃん」

 

天「気にすんな気にすんな。俺が好きにやってるだけだから」

 

むに「これ結構高いものじゃないの••••••?お金ーー」

 

天「それさっき言われた」

 

お金の事に関しては少し前に言われたばかりだ。流石に何回も訊かれるのは勘弁願いたい。

 

麗「よろしいのですか?いただいてしまっても」

 

天「だから構わんって。貰っとけ貰っとけ」

 

少し無理矢理気味に押し付けてやる。まだ困惑の残った顔をしていたが、何とか受け取ってくれた。

 

むに「ところでこれ、何よ•••?」

 

天「適当にお菓子。クソ趣味悪い店で買ってきた」

 

むに「それ中身大丈夫なの!?箱自体は普通だけれど•••」

 

天「••••••店のまんまだなこれ」

 

店舗自体が見た目は普通中身はカオスだっただけに、買った商品もそれと全く同じらしい。本当にセンスを疑ってしまう。

 

りんく「何が入ってるの!?」

 

天「それは開けてからのお楽しみだ。変なものはないはずだから安心してくれ」

 

真秀「たとえば?」

 

天「TENGAとか?」

 

りんく「?」

 

麗「てんが•••?」

 

約二名がTENGAの事をよくわかっていないらしい。いや知らない方がいいんだけどね。というか一生知るな。

 

真秀「そんなもの入ってるわけないでしょ!?」

 

天「ワンチャンあるかもしれねぇじゃん!!それが運ゲってもんだろ!?」

 

むに「そんな運ゲないわよ!というか言ってることが月と全く変わらないわよ!?」

 

天「俺一応あいつの兄貴だからな!」

 

むに「知らないわよ!!」

 

外なのにお構いなしに大声で叫び合っているが、周りに人はいないので特に問題ないのが幸いだ。

 

りんく「とにかくありがとう!天くん!」

 

そしてTENGAがどういうものか知らないりんくから純粋なお礼を受け取る。ホントいい子だなぁ。

 

りんく「後でその、てんが?の意味も調べておくね!」

 

麗「私も興味があるので調べてみます」

 

天•真秀•むに「やめて!!」

 

純粋というのも困り物だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

りんくたちと別れた後、俺は響子たちに連絡を取って集まる事にした。

集合場所は特に決めてないが、昼食を食べるついでにハンバーガー屋に行く事になった。

そこまで距離はなかったので、適当に歩いていたらすぐに着いた。彼女たちが到着するまで、先ほどと同じようにスマホをぽちぽちする。スマホ依存症ですみませんねぇ。

 

天「ふわ•••眠」

 

仕事終わりにこうやって歩き回っているものだから、かなり眠たい。最悪響子たちの前で寝てしまいそうだ。

 

響子「随分と眠そうだね、天」

 

天「んぁ•••?」

 

思ったより早い到着に、俺は欠伸をしたままの顔で固まってしまった。それを見た響子はクスクスと笑う。

 

響子「何、その顔?私の顔に何かついてた?」

 

天「いや、少し驚いただけだ。デコちゃん以外は終業式ぶりだな」

 

しのぶ「デコちゃん言うな」

 

隣にいたしのぶがしかめっ面で嫌そうな声音で話す。俺はニヤニヤと笑うだけだ。

 

絵空「天くんからお呼び出しなんて、何かあるのかしら?」

 

天「大した事じゃない。とりあえず飯食おう、腹減った」

 

響子「そうだね。じゃ、天の奢りで」

 

天「いいぞ」

 

由香「え?いいの?」

 

天「うん」

 

元々奢るつもりできてたんだけど•••せっかくのクリスマスイブなんだし、俺も太っ腹なわけだ。

 

しのぶ「えぇ•••何か裏がありそう」

 

天「ねぇよんなもん。お前だけ払うか?」

 

しのぶ「やだね」

 

結局奢ってもらうんかい。いやまぁいいんだけどさ。

各々自分が食べたいものを注文して、俺は全ての代金を背負った。ファミレスに比べたら安いもんだよ。

 

天「ほらこれ、クリプレ」

 

テーブルの上に箱をドカドカ置く。一つ一つが軽いのでそんな大きな音が出ることもなかった。

 

しのぶ「•••案外普通だ」

 

天「俺のことなんだと思ってんだよ」

 

しのぶ「頭おかしいやつ」

 

天「カスかよ」

 

響子「相変わらずだね••••••」

 

俺としのぶが悪態を吐き合うのは最早日常に近いものなので、響子こそ口では呆れているが表情は穏やかな笑みを浮かべていた。

それは由香や絵空も同じようで、まるで子供を見るような目で眺めていた。

 

絵空「天くんのセンスはどんなものかしら♪」

 

天「特別なものは期待するなよ?というかよくわからんところで買ってきたものだし。変なものの可能性の方が高い」

 

しのぶ「何処で買ってきたのさ••••••」

 

知らね。多少調べてはいたがあまりにも店そのもののインパクトが強過ぎて他を忘れてしまっていた。

 

天「悪いものではないからそう身構えるなよ。爆発するわけじゃないんだから」

 

由香「そういう問題かな••••••。そもそも何が入ってるの?」

 

天「普通にお菓子だけど」

 

響子「普通じゃん」

 

天「普通だよ」

 

え、何?そんなに普通なのがおかしいの?俺は至って健全な男子高校生のはずだが。

 

しのぶ「まぁお菓子でもなんでもいいけどね、ありがとう」

 

天「ん、そりゃどうも」

 

しのぶから微笑み混じりに礼の言葉を向けられて、俺も口角を上げながら答えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

プレゼントを配り終えて、さっさと寝たらもう25日、クリスマスになっていた。

 

月「メリクリー我が兄よ」

 

天「おうメリクリ、我が妹よ」

 

お互いに静かな声で挨拶をする。朝食を食べながら他愛もない会話をするが、いかんせん月に余裕がないらしくあまり弾むことはない。

 

月「とりあえずケーキお願いね。いいものを頼んだ」

 

天「はいはいわかってるよ。お前の好きなところでいいか?」

 

月「咲姫さんに合わせてもいいよ?私はいいケーキさえ食べられれば構わないし」

 

天「一応あの子にも訊いておくわ。まぁ•••大方予想はつくけどな」

 

月「絶対フルーツ盛り盛りのケーキが出てくるよ••••••」

 

俺と妹は共に白い目を向ける。なんというか•••あまりにも予想がつきすぎていてかえって違和感がある。

テレビから流れてるニュースはどれもクリスマスに関連したものばかりで、クリぼっちを完全に潰しにかかっていた。

 

月「今年は雪降らなかったね」

 

天「そうだな。まぁたまにはいいだろう」

 

月「どーせ二月くらいにまた降って遊ぶ未来しか見えないよ」

 

天「また雪合戦するか?」

 

月「私運動できないんだけど」

 

天「頑張れよ」

 

運動が大の苦手の月からしたら雪合戦は地獄らしい。いやただ雪投げつけ合うだけじゃん。避ける時に身体動かすくらいじゃん。

 

月「運動音痴をナメてもらっては困るね」

 

どうしてお前はそれをキメ顔で言えるんだよ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

事務所に行って、いつも通りに仕事をする。今頃彼女たちは、クリスマスの予定について色々話しているのではないかと思う。

かくいう俺も少しだけ想像してるしな。

 

天「••••••うるさそう」

 

受験で精神が参っている状態とはいえ、それでも絶対に月はうるさいという謎の確信があった。というかあいつ本当の本当にヘコたれてないと静かじゃないし。

 

天「ま、まぁ•••騒がしいのも楽しいし」

 

そう言い聞かせて、俺はパソコンとメモ帳を閉じる。せっかくのクリスマスなんだ、そこまで長いこと仕事をする気もない。レッスンもいつもより短縮して組んであるから、彼女たちもそろそろ終わる頃だろう。マネージャー万歳。

 

レッスン部屋に訪れると、既に全員が床に座って談笑をしていた。俺の姿が目に映った途端に、みんなの表情が変わる。

 

天「お疲れ様です」

 

乙和「お疲れー!」

 

すぐに乙和さんが立ち上がって俺にぶつかってきた。それを受け止めてやると、彼女は上目遣いでこちらを見ていた。

 

乙和「実はね〜、クリスマスパーティを天くんの家でやりたいなーって話をしてたんだよ!」

 

天「えっ?」

 

は?いや初耳なんだけど。というかなんで当事者の俺にその話回ってないんだよおかしいでしょ。

 

ノア「朝月ちゃんから連絡が来てたんだよ。一緒にご飯食べたいって」

 

天「あぁ••••••」

 

どうやら月が根回ししていたらしい。

 

衣舞紀「そういうわけなのだけれど、お邪魔してもいいかしら?」

 

天「構いませんよ。どのみち親もいませんし」

 

咲姫「よかった」

 

天「••••••もしかして、咲姫が提案したのか?」

 

咲姫「うん。せっかくならみんなで過ごしたかったから」

 

そう言いながら咲姫はこちらに歩いてくる。そして乙和さんに割り込むように俺に抱きついた。

 

天「••••••目が笑ってないが」

 

咲姫「乙和さんにくっつかれてた」

 

天「いつもの事だろ?」

 

乙和「いつもの事だよ!」

 

咲姫に向かって、俺は首を傾げ、乙和さんはいつもの明るい笑顔で言葉を投げる。

本人は納得がいかないらしく、頬を膨らませている。可愛い。

 

ノア「この後どうする予定なの?」

 

天「月はもう飯を作ってると思うので、これからケーキを買いに行くつもりです」

 

乙和「ケーキ!?クリームたっぷりの美味しいものを!!」

 

咲姫「フルーツが乗ったケーキ•••!」

 

ケーキの好みが完全に違うので、言い合いが始まってしまった。俺は苦笑しながら咲姫の頭に手を置く。

 

天「そう言うなよ、みんなで決めなさい。咲姫だけが食べるわけじゃないんだから」

 

咲姫「うん••••••」

 

少ししおらしい表情になりながら、こちらに体重を預ける咲姫。いつもみたいに味方してくれると思っていたのだろうか。

 

衣舞紀「みんなで決めるっていっても•••意見とかかなりバラバラよ?」

 

それはそうだ。四人とも絶対全く違うリクエストをするのが目に見えている。

 

天「その為の妹ですよ。歳下のワガママに付き合ってください」

 

ノア「月ちゃんからのお願いなら何でも答えるよ!!!」

 

うっさい。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

とりあえず月の要望通りに少しお高めのケーキを買ってきた。今年のクリスマスはお金がかかりますわねぇ••••••。

 

月「おかえり〜。お、ちゃんと買ってきたね」

 

天「お前の要望通りのモノを買ってきたぞ」

 

月「ほんとに?いくらくらいした?」

 

天「一万」

 

月「たっか!?」

 

ワンホールのケーキなんて多少高くついてもだいたい五千円くらいだろう。その倍の金がかかっている。これで不味かったらマジでメーカー燃やす。

 

乙和「迷いなく選んで買ってたよね〜。お金使いすぎじゃない?」

 

天「大丈夫ですよ、多分」

 

月「信用なんねぇなコイツ」

 

天「黙れよ」

 

衣舞紀「いつにも増して口が悪いわね••••••」

 

俺としのぶがお互いに悪態を吐き合うように、俺と月の口の悪さはお互い様だった。これから美味いものを食べるからテンションが多少なりとも高くなって暴言が激しいのは少しある。

 

全員で席について、並べられた料理を見る。ピザ、ローストビーフ、カプレーゼ、鴨肉。無闇矢鱈にお洒落な食べ物が勢ぞろいだった。もっと他にないのかよ。

 

全員「いただきまーす!!」

 

全員で手を合わせて、合掌。俺はすぐさま肉に飛びついた。

 

天「うめぇ、うめぇ」

 

乙和「あー!ちょっと天くんいきなり食べすぎ!!」

 

ノア「そういう乙和もお菓子ばっかり取りすぎ!!」

 

咲姫「美味しい••••••」

 

衣舞紀「いいのかな•••こんなに食べちゃっても」

 

月「今日くらいは大丈夫ですよー!明日からまた頑張りましょう!」

 

各々好き勝手に行動している。踊って歌っている時のまとまりはちゃんとしているのに、こういう場ではそんなものは一切なかった。

それも一年以上一緒に過ごしていれば、嫌でも慣れる。いや、寧ろこれくらいがちょうどいいのだ。

 

月「お兄ちゃん、渡さなくていいの?」

 

天「おっと、そうだった」

 

月から言われて思い出した。そういえばクリスマスプレゼントを渡していなかった。

 

近くに置いてあったカバンから包みを取り出して、みんなに渡していく。もちろん月の分もだ。

 

月「中身はお菓子だったよね。どんなのが入ってるんだろ」

 

天「それは開けてからのお楽しみってやつだ。少なくともみんなが帰ってからにしろよ?」

 

月「わかってまーす」

 

咲姫「いいのかな•••いつも貰ってばかりで」

 

天「気にすんな。逆に俺がいつも貰ってばかりなんだから、これくらい返させてくれよ」

 

俺はPhoton Maidenのお陰で変わる事ができた。昔の無表情でぶっきらぼうな俺はもうここにはいないのだ。

ここにみんながいる限り、俺はいつまでも変わり続ける事ができるのかもしれない。

 

天「••••••ありがとう」

 

咲姫「?何か言った?」

 

天「いんや、何でもない」

 

乙和「何でもないと言われると気になっちゃうな〜!」

 

天「ちょっ!?」

 

食事中なのにそんな事などお構いなしにと、乙和さんが飛びついてきた。そのまま椅子と共にぶっ倒れてしまう。

 

天「あーもう、本当に退屈しないな!」

 

ノア「そうだね。こうやってみんなで楽しく過ごしているから、全くつまらないって感じない」

 

衣舞紀「これからもよろしくね、天」

 

天「えぇ、こちらこそ」

 

月「いつまでしんみりしてるのだー!それー!」

 

天「まだ重なってくるのかよ!?」

 

乙和さんに続いて月も飛び込んできた。流石にキャパオーバーしそうだ。

 

咲姫「じゃあ、私も•••」

 

天「待て待て!もう無理!」

 

咲姫「ダメ」

 

俺からの懇願など聞き入れてもらえず、俺は三人の女の子から上に乗っかられる謎の状況に陥った。

 

天「はは•••本当に、楽しいな」

 

去年はライブでそれはそれで楽しかったが、こうやって普通に食べて、普通に騒ぐ、普通の時間が、なによりも愛おしかった。




次は新年回を書きますのでそれまではほんへの更新はできません。予定より早く書き終わればほんへも書き進めますので、よろしくお願いします。


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キャラ紹介

D4DJのゲームが配信されましたね。勿論私如水もプレイしております!咲姫推しですのでよろしくお願いします!さて、このような小説を投稿するわけですが•••偏差値五十にも満たない高校の国語のテストで多少いい点取る程度の人間の文章力ですので過度な期待はやめてくださいマジで。あ、感想とかいただけたら嬉しいです。でも叩くのはやめてね?やる気なくなっちゃうから()


神山天:身長173cm体重65kg血液型AB型陽葉学園一年

軍人の父と芸能人のマネージャーの母を持つ、中性的な面をした男。顔は可愛くても声はモロ男なので、周りからは「黙ってれば美少女」扱い。何故かは知らないが身体全体が性感帯になっていて、指先一つ触れるだけで過剰に反応してしまう。自分から触る分にはセーフ。成績も運動も至って普通だが、父の影響で喧嘩だけは異様に強い。母がマネージャーの仕事をしているのでその跡を追うように自身も芸能人関係のマネージャーを目指す。その結果、メンバーとの歳が近いという理由も相まってPhoton Maidenのマネージャーに抜擢される。ボディタッチの多い乙和が苦手。ノアから可愛がられるが当の天本人は鬱陶しくてたまらないご様子。彼のストレスが溜まらない日など存在しないだろう。パソコンも一応使えるが、基本は万年筆を用いての手書きでのスケジュール管理をする。字はかなり綺麗。好物はセ◯ンのミルク餡饅。嫌いな食べ物は特にないが、ゲテモノだけは勘弁してほしい。

 

神山月:身長145cm体重37kg血液型A型夢木中学二年

天の妹。中学生とは思えないほどしっかりしていて、家事は全て月が担っている。成績は学年一位を維持し続けているが、運動は下の下。基本的に兄には甘いが、恋愛関係になると途端に厳しくなる。月的には咲姫と付き合ってほしいが、兄自身が恋愛する気がないので月の野望が叶う日は遠いだろう。好物は鮭。嫌いな食べ物は無し、なんでも食べる。

 

神山猛:身長192cm体重95kg血液型O型

天、月の父親。軍人で階級は軍曹。天には厳しく月には甘い。筋骨隆々で見た目の威圧感は天が尻込みするレベル。要は一般人なら逃げ出すレベル。軍の仕事が忙しいので基本家にはいないが、たまに帰ってきて天を殴って月と遊んでから仕事に戻る。最近のマイブームは息子の観察。暇さえあれば双眼鏡を使ってまで天を嗅ぎ回す。最早ストーカー。好物は牛肉。嫌いな食べ物は鶏肉。理由はパサパサしてるから。

 

神山柚木:身長161cm体重44kg血液型B型

天、月の母親。いつもスーツ姿で私服姿なんてもの天と月は忘れた。マネージャーとしての腕はとても優秀で、それに加えてマネジメント相手の我儘を通させない圧力もある。ぶっちゃけ柚木は天の腕は認めているが、根本的な甘さを危惧している。Photon Maidenのメンバー全員を気に入っている。思考回路は娘とあまり変わらないので、どうにかして天と咲姫をくっつけようと動く。好物は鮭。嫌いな食べ物は卵。




もし自分なんかとフレンドになりたいと言う心優しい方がいましたら申請お願いします。
b8UVaU7a


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共通√
出会いは大事だと言うが俺はそう思わない


D4の小説を投稿したいとは前々から思ってましたので、まぁ多少溜まってるんですよねw溜まってる分が消化するまで一日一話投稿します!


DJってなんだろうな?俺がこの界隈に入った時に一番に感じた疑問だ。そもそも俺は芸能人のマネージャーとしてこの世界に飛び込んだはずだ。今までは軽く売れてる程度の芸人のマネージャーをやったりしていたが、今回はあまりにも勝手が違う。•••DJのグループって何やねん。俺何すればいいんだよ、マジで。大体の説明云々はプロデューサーの姫神さんがしてくれたが、イマイチ理解が追いつかん。いや、マネージャーとして仕事をできるのは大いに嬉しい。だけどDJは聞いてねぇって(困惑)。これから顔合わせとかするわけだけど•••不安だ。姫神プロデューサーが言うには殆ど歳が近かったり変わらないメンツだから、変に肩肘張らずに気楽にしていいとのこと。そうして、打ち合わせ室に通された俺は目を疑った。目の前にいた四人は全員女子だったのだ。しかもかなりの美少女たちだ。気楽どころか余計に緊張するんだけど、ねぇ。どないしてくれんの?これ。

 

姫神「今日からキミたちのマネージャーとしてサポートしてくれる、神山天くんだ。歳は16だったかな?仲良くしてやってくれ」

天「神山天です。よろしくお願いします」

 

礼儀正しく、真面目なトーンで腰を折って頭を下げた。さて、相手方の反応次第では仕事のやる気が変わるぞマジで。

 

咲姫「私と同い年•••よろしく、天くん」

 

いきなり名前呼びかよ!?えっと、今喋ったのが•••出雲咲姫さんか•••ん!?陽葉学園の一年生!?俺と同じ学校じゃねぇか!?というかここのメンバー全員陽葉学園の人間かよ!?死んだわこれ。

 

衣舞紀「神山天だね、よろしく!へぇー結構可愛い顔してるんだ」

 

カッチーン。この神山天、可愛いと言われるのが何より嫌いな人間だ。この人は新島衣舞紀さんか。絶対許サンズ。

 

乙和「よろしく天くん!」

 

元気な声で返してくれたのは花巻乙和さんか。あ、この見た目で二年生か•••一年生かと思った•••マジで申し訳ない。

 

ノア「•••••••••」

 

さて、最後の一人、福島ノアさんだが•••一切言動を発さず、俺を見つめているが•••何、怖いんだけど。

 

衣舞紀「ノア?どうかしたの?」

ノア「かっ、可愛い!!!」

 

は?(キレ気味)一瞬だが眉間に皺が寄ったのを感じた。何なんだ一体•••可愛い言うのやめろよ本当•••。

 

ノア「声と身体は男なのに顔がすっごい可愛い!待ってこんな可愛い男の子っているの!?」

 

しかもなんか変なスイッチ入ってるし何なんだよ。ってこっち来やがった!?後ろーー壁だ、詰んだ。

ピト。福島さんの手が俺の腕に触れた瞬間ーー、

 

天「ぐっ!!?」

 

ゾクゾクするような気持ち悪い感覚に襲われて、膝から崩れ落ちた。

 

ノア「えっ!?だ、大丈夫!?」

 

福島さんが俺に手を差し伸べようとしたが、俺はその手を払った。

 

天「さっ、触らないで•••ください•••」

 

触られた腕をつい抑えてしまう程、感覚の暴走が凄かった。まだゾクゾクしていて、痺れに近いような感じがする。

 

姫神「あー、言ってなかったな。彼、何というか、敏感なんだよ。だから、触ったりとかは勘弁してやれ。彼の為だ」

ノア「ご、ごめんね。知らずに触っちゃって」

天「は、はい•••今後気をつけてもらえれば•••」

 

何とか立ち上がって壁にもたれかかる。どんだけ後残るんだよこれ•••。

 

姫神「それじゃ、私は仕事に戻る。後の事は神山くんが指示を出してくれるから、それに従うように」

咲姫•衣舞紀•乙和•ノア「はい!」

 

姫神プロデューサーは打ち合わせ室を出て行き、俺たち5人だけが残った。とりあえず今後の事を話すために、俺も座った。

 

天「じゃあ、早速今後の予定についてーー」

咲姫「その前に」

 

俺の出鼻を挫き、出雲さんが口を開いた。俺は言葉を中断して、出雲さんが話せるよう促した。

 

咲姫「天くんの事を、まず知りたい」

天「俺と貴方方との関係は仕事としての間柄でしかありません。お互いプライベートに踏み入る事なくやっていきたいと、俺は考えているのですが」

 

俺は冷静に意見をぶつける。どうせマネージャーとしての仕事が終わったら絡むこともないんだ。一々関係を作るなんてバカバカしい。

 

咲姫「個人的に、天くんに興味がある」

天「••••••何も話しませんよ。あくまで仕事なんですかrーー」

咲姫「えいっ」

天「うわぁ!!」

 

つん、と俺の肩を出雲さんは指でつついた。俺はビクッ!と跳ねる。

 

咲姫「話してくれるまで、つんつんし続ける」

天「ちょっ、や、やめっふぐぅ!!」

 

俺が嫌がっていようとお構いなしに出雲さんは指でどんどん俺の身体に触れてくる。あ、ダメ、これ限界•••。

 

天「まっ、待って•••こ、これ以上は•••」

咲姫「話す気になった?」

天「わ、わかった•••は、話すから•••勘弁して•••」

 

完膚なきまでに精神をズタボロに引き裂かれた。もうお婿に行けないゾ•••(涙目)。とりあえず攻撃が止んだので、俺はようやく落ち着く事ができた•••まだ突かれた肩は震えているが。

 

天「それで出雲さん•••何が望みですか•••」

咲姫「天くんの事について」

 

微笑み、と表現するような微かな笑みを浮かべて出雲さんは喋った。俺は少し唸る。俺の事についてと言われても、何言えばいいかあまりわからん。

 

ノア「じゃ、じゃあ!そんなに顔が可愛いのはどうして!?」

天「可愛い言うのは勘弁して欲しいんですけど•••単純に母に顔が似た結果ですよ」

衣舞紀「天のお母さんって、神山柚木さん?」

天「はい、そうです」

 

母の存在を知っていた新島さんが疑問を口にして、俺はそれに対して頷く。まぁ有名人だしな•••母さん。

 

咲姫「底の見えない海••••••」

乙和「咲姫ちゃん、どうしたの?」

咲姫「天くんの色が、感情が•••まるで海•••」

 

感情を読み取れるのか•••?あぁ、いや、資料の方に色彩を感じる「共感覚」ってのがあったな。今のもその共感覚によるものだろうか。というか海って•••何で。

 

咲姫「家族でさえ知らないような、秘密をたくさん抱えてる•••?」

天「秘密、って言えるようなものは全くないけど•••」

 

それ俺がただ自分の事を表に一切出さないからだと思われ。まぁ変に解釈されようが別にいい。どうせちょっとの付き合いだ。

 

天「というかいい加減仕事の話していいですか?」

衣舞紀「あぁ、ごめんごめん!じゃあお願い」

天「まず歌やダンスのレッスンはこれまで通りに続けます。多少スケジュールが厳しくなるかもしれませんが•••俺が伝手で色々な会場を使わせて貰えるので、そこでライブをやるということも可能です。そこは皆さんの意思に任せますが、ある程度の要望であれば聞き入れます」

乙和「しっつもーん!」

 

挙手をして申し出た花巻さんに対して、俺は頷く。

 

乙和「天くんの好きな食べ物が知りたいでーす!」

天「仕事と関係ない質問はやめてください」

 

俺は一蹴する。花巻さんからブーイングが飛んできたが無視して続ける。

 

天「とりあえずは以上となります。明日もレッスンはありますので、学校が終わり次第、事務所にお願いします」

 

メモ帳をパタン、と閉じて胸ポケットに入れる。そして立ち上がり、

 

天「では、Photon Maidenの皆様、これからよろしくお願いします」

 

頭を下げて部屋を出た。とりあえず今日の仕事はこれで終わりなので俺は直帰するぜ。

 

事務所の外に出て、俺は大きく伸びをする。Photon Maiden•••才能豊かな少女達を集めた新星ユニットか•••俺の手の中に収まるような連中でない事は確かだが、やれるだけの事はやろう。これは仕事だ。責任を持たなければならない。でもちょっと疲れたんだよな•••主に出雲さんの所為で。

セ◯ンでミルク餡饅を購入して、近くのベンチに腰掛けてそれを一口齧る。甘くて美味しい。

 

咲姫「あっ•••」

天「ん?」

 

誰かの声がして後ろを向けば、出雲さんが目の前にいた。あ、もうお帰りなのね•••。

 

咲姫「隣、いい?」

天「えっ、あ、どうぞ」

 

困惑しながら許可を出した。ストン、と隣に出雲さんが腰掛けて、こっちをジーっと見つめる。食い辛ぇ•••。

 

咲姫「それ、美味しい?」

天「あぁ、はい。美味しいですよ」

咲姫「私も食べたい」

天「どうぞ」

 

たかだか餡饅一つでケチケチする程俺は小さい男ではない。快く出雲さんに餡饅を渡して、出雲さんは食べ始める。

 

咲姫「あっ、美味しい•••」

天「というか出雲さん、帰り道同じだったんですね」

咲姫「咲姫でいい。呼び捨てで呼んで欲しい。後敬語もなし」

天「えぇ•••(困惑)じゃ、じゃあ、咲姫」

 

女の子の名前を呼び捨てで呼ぶとか妹以外でこの人が初めてなんじゃねぇか。基本的に他人行儀で付き合ってきたから、男友達ですら名前で呼んでるやついねぇし。

 

咲姫「天くん、家はどこ?」

天「あそこをまっすぐ行ったら着く」

 

人通りの多い道を指差す。どうやら咲姫も同じだったらしく、少し驚いた顔をしていた。

 

咲姫「じゃあこれからは、レッスン終わりとか一緒に帰れるね」

 

不覚にもドキッとしてしまった。不意打ちの甘い言葉に俺の心が反応してしまった。普通に顔は美少女だからなぁ•••。

 

餡饅を食べ終えて、結局二人で帰路に着いた。なんか•••今日一日だけで色々あったなぁ•••そういや明日普通に学校だし、咲姫や他のメンバーに会わないように注意して行動しよう。これ以上面倒事に首突っ込みたくない。あ、母さんに今日の事報告するの忘れてた()俺は死を覚悟して家の中へ入った。




カレンデュラのエキスパ難過ぎません?ラスサビ入ったらもう死ぬんですけど()バンドリ時代のリンギングや六兆年思い出すなぁ•••


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妹ってこんなに面倒な存在だっけ?

グルミク公式からハロウィン咲姫のガチャ情報きて石なくて絶望した如水です。今回二話目の投稿ですね。これの投稿と並行して新しい話も書いているので、しばらくは毎日投稿ができそうです。でもネタ縛り出さないといけないのつらひ。


玄関の鍵を開けて家に入る。奥のリビングからガヤガヤとした音が聞こえて、真っ先に向かう。神山家はリビングとキッチンが繋がっている。丁度キッチンの方では、制服の上にエプロンを着けて晩ご飯を作っていた妹の月が目に入った。月は俺に気がついて明るく笑う。

 

月「おかか、お兄ちゃん。顔合わせどうだった?」

天「ただま。まぁボチボチかな」

 

俺は当たり障りない返答をするが、月はそれが気に入らなかったらしく、眉をひそめている。

 

月「担当、女の子いた?」

天「•••全員女子」

月「え!?ま、待ってどんな人たち!?写真ある!?」

 

月が料理をほったらかしてまで俺に食いついてくる。月を嗜めながら、Photon Maidenのメンバーの写真を見せる。

 

月「うわぁ、可愛い人しかいない•••お兄ちゃん、これはチャンスだよ」

天「チャンスって?」

月「お兄ちゃんがリア充になるチャンスだよ!」

 

は?(困惑)俺は首を傾げるが、月は興奮が冷める様子もなく息を荒くして言葉を紡ぐ。

 

月「だから、お兄ちゃんに恋人ができるかもって話だよ!」

天「ハッ」

 

俺はつい鼻で笑う。何かと思えばそんなことか。

 

天「あの人達とは仕事上での付き合いだ。それ以上踏み込むなんて、面倒だからごめんだな」

月「それっ」

天「おあぁ!!?」

 

ムスッとした顔の月が俺の脇腹に触れる。昼にも感じた気持ち悪い感覚を無理矢理ぶち込まれる。

 

天「さ、触るのはNG•••」

月「今日のお兄ちゃんなんか面倒臭いな•••何かあったの?」

天「いや特には•••ないよな?(自己分析)」

 

いやまぁ咲姫からの絡みがすごかったー、なんて言えば月は話のタネにするだろう。妹のこういうところはあんまり好きじゃない。というかほっといて欲しいまである。

 

月「まぁいっか。もうすぐご飯できるから、上着脱いでこっち戻ってきてね」

天「ん」

 

短く返して、母さんに報告のメールを打ちながら自室に入った。

 

今日は父さんは帰ってこないし、母さんも帰りが遅い。珍しいというわけでもないが、二人で夕食にありつく。

 

月「結局のところ関係としては悪くはないの?」

天「まぁ嫌な反応はされてないな。面倒なのは確かだけど」

月「歳お兄ちゃんと変わりないんでしょ?少しは気楽と思うけどなぁ」

天「女子の時点で安心できない。まだ男だったら良かったんだが•••」

月「何気に初だね。女の子のマネージャーするのって」

 

言われてみればそうだ。今まで男の芸人や俳優のマネージャーをやってきたが、女性に当たった事は一切なかった。でも今のところはまだ男の相手してる方が楽()

 

天「とりあえず慣れるまでは何とか頑張るよ•••はぁ」

月「どうしたの?何か不満でもあるの?」

天「いや、よりにもよってメイデンのみんな、俺と同じ学園なんだよ•••」

月「うそやん」

天「マ」

 

真顔で驚く月に対して俺も真顔で応える。というか月の真顔とか久しぶりに見たな•••写真撮ればよかった。

 

天「だから極力学園では、というか同じ学園だということがバレるのは避けたい」

月「なんで?」

天「いやだって明らかに面倒じゃん。学校では平和でいたいのに、あそこでも絡まれるとか勘弁願いたいわ」

月「ホント扱いが面倒だなこの兄は(キレ気味)」

天「ところで話は変わるけど、月はメイデンの誰がお気に入りとかあるか?」

月「え?唐突だねぇ。私は•••出雲咲姫ちゃんかな」

天「ほう」

 

明日咲姫に報告しておくか。喜ぶ•••かどうかは知らんが(他人事並感)。

 

天「ごちそうさま。じゃ、先風呂入る」

月「はーい。植木鉢投げた方がいい?」

天「人に対しての植木鉢演出は冗談抜きでやめろ」

 

普通に痛いし最悪破片刺さるし土塗れになるしで最悪な事になる(経験談)。ちなみに風呂はさっさと済ませた。長風呂する趣味はない。

 

風呂から上がった後は自室でゴロゴロとしていた。そういえばメイデンのメンバーとはラ◯ン交換してグループにぶち込まれたんだった(強制)。グループ内では言葉が交わされているが覗くこともなく、俺は明日の予定を確認する。

 

天「••••••まぁ特に詰まった予定はないしなぁ•••ライブ会場の交渉はまだ先でいいか」

 

メモ帳を閉じて、俺はベッドに寝転がる。明日も早い。さっさと寝て備えなければ。

 

天「••••••どうせ少しの付き合いだ」

 

俺はそう自身に言い聞かせる。これまでもずっとそうしてきた。今まで担当してきた芸人や俳優とは一切会わないし話すこともない。お互いに忘れて今目の前の事に対して必死になっているだろう。Photon Maidenだって、担当を離れれば必ず忘れる。だから無理に関係を築こうだとか、仲良くしようだとか、そんな楽しい事は一切捨てる。仕事に私情を挟むような真似は俺の流儀に反するのだ。

 

天「••••••大丈夫だ。大丈夫•••」

 

だが、それでも彼女らの姿を見て、忘れる事なんてできるのだろうか。担当に就く前に、ライブの映像等を見せてもらった事がある。記憶に植え付けられるような神秘的な世界を見せつけられて、その時の俺の心は跳ねた。吃驚する程に、すごかった(語彙力)。担当に就いたのは、ただマネージャーとしての経験だとかの建前を捨ててでも、あの世界の内側に近づきたいと、そう思えた。だが蓋を開ければ全員成人もしていない学生だ。耳を疑った。あれ程の実力を持っていながら、学生。少なからず劣等感を感じたし、立場の違いに絶望もした。今でこそ冷静に振る舞ってはいるが、いずれは現実を叩きつけられるかもしれない。今はただ、仕事と頭に言い聞かせて動く事しかできないが、彼女たちのサポートはしっかりやらせてもらおう。俺程度の力で彼女たちが前に進めるなら、マネージャーとして本望だ。明日も、頑張ろう。俺は意識を閉ざして、そのまま身を任せた。




課金?むりむりむりむりかたつむり。アインシュタインより愛を込めてっていうエロゲを買うので課金にまわすお金なんてないですwじゃ、また明日(本田圭佑並感)


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学校だけは憩いの場と思ってたのに

ウイイイィィッスウウゥゥゥ!どうもー如水でーす!志望校合格しましたぁ!いやー一安心一安心。来年から忙しくなるし、今のうちに遊びまくるぞー!


まぁ、昨日はあんなこと思ったけどさ、それでも学校でまで絡まれるのは嫌よ(前言撤回)。同じ学年が咲姫だけなのが多少の救いだが、今までクラスの人間に誰がいるとか意識したことなかったから、咲姫が同じクラスかそうでないかが一切わからん。対策のしようがない。最悪植木鉢演出で乗り切ろう(思考放棄)。

 

男子生徒A「神山?おーい、聞いてるか?」

天「えっ、あ、何?」

男子生徒A「だからパーティの件だよ。神山来てくれよー•••人いねぇんだよ」

天「悪いな、俺仕事で忙しいんだ」

 

俺は苦笑を浮かべながらやんわりと流していく。今は陽葉学園の教室で男子生徒と話をしているが•••頼むから咲姫がこのクラスの人間とかやめてくれよマジで•••(懇願)

 

男子生徒A「さっきからドアばっかり見てるけどなんかあんの?」

天「えっ!?いやー何もー•••」

男子生徒A「なんか怪しいな•••誰か好きな人でもいんの?」

天「それはない」

 

キッパリと答える。恋愛はなぁ•••今はいっかな•••仕事に集中していたいし。

 

天「というかパーティって何のパーティだよ」

男子生徒A「裸踊りパーティ」

天「誰が行くんだよんなもん(戦慄)」

男子生徒A「今のところ俺含めて四人集まってる」

天「そのパーティ行く前にまず病院行け、精神科の方に」

男子生徒A「酷くない!?」

 

いや、そんな頭おかしいパーティに行く方が酷いだろ•••この学園の男子って露出狂多いのかな•••やめたくなりますよーもうー学園。

男子生徒に呆れた目を向けていたら、教室のドアが開いた。チラリと目をやってまた男子生徒に戻したが、二度見、どころかそっちに釘づけになった。

 

天「(咲姫ぃ•••!)」

 

まさかの同クラだよ。幸いにも俺と席はかなり離れているので、バレないように大人しくしよう。

 

男子生徒A「神山、出雲さん見つけた瞬間すごい顔したな」

天「••••••ちょっと、壁になってくれ。咲姫に見つかりたくない」

男子生徒A「名前呼びってどういうことだよ!?そこら辺詳しく言えよあくしろよ」

天「いいから壁になってくれ頼む」

 

制服の裾を引っ張って無理矢理壁になるように立たせて、俺は大きくため息を吐く。今日は心休まらない一日になりそうだなぁ••••••。

 

昼休みになり、俺は弁当を持ってそそくさと教室を出る。目的地は屋上。あそこなら多分誰も来ない筈だ(特大フラグ)。屋上に出るたてつけの悪いドアをこじ開けて、吹いてくる涼しい風につい頬が緩む。

さーて、一人で楽しく昼食をーー

 

咲姫「天くん、いた」

天「うおおぉぉぉああぁぁぁぁ!!!???」

 

いるはずがないと、そう思っていた人物が後ろからついてきていたようだ。俺は大声を上げてめっちゃ咲姫から離れる。

 

天「ななななななんで!!?」

咲姫「天くんとお弁当を食べたいと思ってたから、誘おうと思ったら一人で教室を出て行ったから、ついてきた」

天「え、いつから俺がいたの知ってた•••?」

咲姫「朝」

 

俺は膝から崩れ落ちる。そうか、朝の時点で既にバレていたのか•••。えぇ、どうしよ•••ここは飛び降りて人生やり直すか?

 

咲姫「ほら、お弁当食べよ」

 

何の躊躇いもなく咲姫が俺の手を握る。が、いつもの感覚に襲われて身体が震える。

 

咲姫「あっ、ご、ごめんね•••」

天「だ、大丈夫•••」

 

何とか立ち上がって、備え付けのベンチに二人で座って弁当を広げる。咲姫の弁当には果物が入っていた。なんかクラスに一人はいるよなー、弁当に果物入れてる人(作者の経験談)。

 

天•咲姫「いただきます」

 

丁寧に手を合わせて、食事を始める。俺の弁当は米と肉と野菜と卵焼きしかないが、ボリュームはたっぷりだ。この身体の筋肉を維持する為である。それに比べて、咲姫の弁当の量は少ない。

 

天「それで足りるのか?放課後はレッスンがあるのに」

咲姫「大丈夫。これでも十分だから」

天「そうか••••••」

 

俺は卵焼きを口に含む。ちなみに俺は卵焼きに砂糖を入れない派だ。甘い卵焼きは苦手なので、いつも塩辛いものを月に頼んでいる。あ、俺に料理しろって意見は聞かないからな?家が燃える。

 

咲姫「•••••••••」

 

何故かジーッと俺の弁当を眺めている咲姫。スーッと弁当を咲姫から見えないように少しずつ移すと、それに合わせて咲姫も動く。なんだか面白い。

 

天「何か気になるものでもあるか?」

咲姫「卵焼き•••」

天「••••••言っておくけど、辛いぞ?」

咲姫「それでも食べてみたい」

天「じゃあ、はい」

 

俺は弁当箱を咲姫の前に出す。が、咲姫は弁当箱を見るだけで卵焼きを取ろうともしない。

 

天「?やっぱりいらないのか?」

咲姫「食べさせてくれないの?」

天「ブフッ!?」

 

俺は噴き出す。え、何?まだ会って二日目なのにもうこんなカップルがするようなイベントに遭遇すんの!?(驚愕)流石に俺たちそこまで仲良くないと思うんですけどねぇ•••。実はドッキリでしたーとかないよな?もしそうだったら安心なんだけど•••。

 

咲姫「•••?まだ?」

天「え、いや待って、ちょっと(陰キャムーブ)。それ、所謂『あーん』とかいうやつではなかろうか?」

咲姫「うん、そうだね」

天「え?それだけ?いや逆に咲姫はいいのか?」

咲姫「天くんなら、いいよ」

 

何故こんなに高感度高いのだろうか•••顔が女っぽいからだろうか•••。あぁでもグズグズしてたらそれはそれで面倒事になりそう。仕方ない•••。

 

天「•••ほら、口開けろ」

咲姫「あーん•••」

 

咲姫の口の中に一口大に箸で割った卵焼きを放り込む。まぁ、案の定と言うべきか、咲姫は苦い顔をした。

 

咲姫「辛い•••」

天「だから言っただろ?」

咲姫「でも、温かい•••」

天「•••?」

 

咲姫の発言の意図が読みきれず、俺は首を傾げた。でも咲姫がなんでこんなに俺に対して好感的なのかがわからない。昔会った事でもあったか?でも咲姫みたいな女の子を見た覚えはない。咲姫が誰かと勘違いしてる可能性が微レ存だけど、実際のところはわからん。

 

天「咲姫、果物好きなのか?」

咲姫「うん、好き。特に柑橘系が大好き」

 

だが弁当に入っている果物は苺だった。柑橘もクソもない。

 

咲姫「天くんも食べる?」

天「いや、いらない。自分の分の飯があるから、それだけで十分」

 

言葉が終わった直後に弁当を食べ終えて、俺はベンチの背にもたれかかる。空を見上げれば、ちょうど雲が太陽を隠していて目が痛くならなかった。風こそ涼しいが、太陽による熱も暖かくて、なんだか心地がいい。

 

天「はぁー、気持ちがいい•••」

 

こんなに天気がいいと、岡山の県北にいる変態親父も楽しく汚い遊びを浮浪者のおっさんと土方の兄ちゃんとしてるんだろうなぁ。

 

咲姫「天くんは、空が好きなの•••?」

天「え、何、謎かけ?空は別に好きじゃないさ。ただ気温とかが丁度よかっただけ」

 

眠気も襲い掛かってきて、意識が朦朧としてきた。午後の授業は寝るかなぁ。教室の席も窓側だから日差しを浴びながら寝られそうだ。

 

天「••••••咲姫に、一つ訊きたい事がある」

咲姫「何?」

天「ライブをやるなら、いつがいい?」

咲姫「今すぐにでも、やりたい」

 

意外にも強気な返答が返ってきて、俺は笑みを浮かべた。

 

天「わかった。姫神プロデューサーと相談して、すぐにライブの手配をする」

咲姫「うん。楽しみにしてる」

 

嬉しそうに笑う咲姫を見て、心がなんだかほっこりする。仕事だけの関係•••とは思ってたが、こういうのも、悪くないのかもしれない。いややっぱないわ(訂正)。

 

天「じゃあ、そろそろ教室戻るか」

咲姫「うん•••はい」

 

咲姫が俺に手を差し出す。あぁ、そういう事。自分から触る場合は何故か気持ち悪くならないので、咲姫の手を握って立ち上がらせた。

 

天「次の授業なんだっけ?」

咲姫「体育•••」

天「早く戻ろう着替える時間なくなる」

 

手を繋いでいる事などすっかり忘れて、俺と咲姫は走り出し、屋上を後にした。




アインシュタインより愛を込めて、よろしくお願いします!(謎告知)変にテンション高いのは許してねw


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万年筆って名前の癖に壊れるなよ

咲姫の限界突破終わったぞー!後はレベル最大まで行かせるだけじゃい!でもブーストチケないんだよね•••(絶望)


カンカンカンカン!!

 

天「ん?んぅ•••」

 

カンカンカンカンカンカン!!!

 

天「んぁ•••?なんだ•••?」

 

金属を叩く音に反応して俺はむくりと身体を起こす。まだ寝ぼけている目を擦って、視界がしっかりするのを待つ。俺の隣に、フライパンと金属お玉を持った月が立っていた。

 

月「おはようお兄ちゃん。朝ごはんできてるよ」

天「もうちょっと優しく起こしてくれない•••?」

月「フライパンで直に叩いた方がよかった?」

天「うっそだろお前wwwwww」

月「何私煽られてるの!?」

 

おちゃらけて見せたが逆に月の怒りを買ってしまった。そして本当にフライパンで頭をぶん殴られてから朝食を食べた。

 

今日はマネージャーの仕事は休みなので新しい万年筆を買いに文房具店に来ていた。今使ってる万年筆のインクが出にくくなり、修理も難しいということなので、いっそのこと買い替えようとなった。出費が•••痛い。仕事で使うからには高い性能を誇るのがいい。

ここの店員とは仲がいいので、大体ふざけながら買い物をするのがいつもの光景だ。

 

天「とりあえず、これは?」

店員「イタリア製だ。コンバータ式でも使えるよ」

天「操縦士新型万年筆」

店員「新製品で出たばかり、こいつはいいよ。軸を回せばペン先の硬さが変わるから用紙に合わせれば万能に活躍する」

 

新製品か••••••いい見た目をしているし、ペン先の硬さを自在に変えられるというのは高い魅力を感じる。

 

店員「他に何かないのかね」

天「十二支万年筆のセットだ」

店員「うちにあるものにしてくれ」

天「水兵万年筆」

店員「お兄さん、詳しいね。どれも性能面では最高だ。それで、どれにする?」

天「操縦士のやつお願いします」

店員「ペン先の太さはどうなさいますか?」

天「F(細字)でお願いします」

店員「かしこまりました」

 

分かる人には分かるネタをやって俺は会計を済ませる。ちなみに三万円した。しばらくお金使えねぇな•••。さぁーて帰って試し書きするかねぇ。と、思ってたら•••あれ福島さんじゃね?あのパツキンは恐らく。

 

天「福島さん」

ノア「うわあっ!な、なんだ天くんか、ビックリさせないでよ」

天「すみません。見かけたのでつい声を掛けてしまいました」

ノア「ーーッ!天くん、今暇?」

天「まぁ、暇と言えば暇ですかね」

ノア「じゃあ私の買い物に付き合って貰っていい?買いたいものが色々あるから、荷物持ちとかお願いしてもいいかな?」

天「いいですよ」

ノア「ありがとう!じゃあ早速、ここ一帯のカワイイグッズを一緒に厳選して欲しいの!」

 

可愛いモノかぁ•••小動物とかのグッズばっかり選びそうだなぁ•••。手当たり次第に俺が可愛いな、と感じたものを拾っていくか。

 

しばらくしてまた福島さんと合流して、お互いに得たものを見せ合った。

 

ノア「•••天くん、動物のグッズ、多いね•••」

天「個人の見解で可愛いものを探した結果、動物になりました」

ノア「あ、でもこの消しゴム、ハムスターの形してて可愛い!これ買っちゃお!」

 

福島さん自身が気に入ったものも少なからずあったので、これはこれで良かっただろう。さて、これで福島さんからの依頼は終わった。帰るか。

 

ノア「ちょっと待とうか•••?」

 

ガッ、と思いっきり肩を掴まれる。そして身体が反応して震える。だから触らないでって言ってんじゃん(キレ気味)。

 

ノア「何勝手に帰ろうとしてるの?まだ終わってないんだから」

天「えぇ•••次はなんですか」

ノア「次は雑貨屋に行こう!」

 

結果、俺は福島さんに振り回されることになった。こんなことになるくらいなら最初から声を掛けなければ良かったと、大いに後悔した。

 

雑貨屋に続きまた別の雑貨屋へと行って、最終的にはショッピングセンターのそれ系のコーナーにまで連れてこられた。いやはや•••こんなに動き回ったのは久しぶりかもしれないな。

 

ノア「これとかカワイイ!あっ、あれもカワイイ!カワイイが沢山あって困っちゃうな〜!」

 

福島さんは大変楽しんでいるご様子なので、その姿を眺めるというのも悪くはない。

 

ノア「天くん!何ボーッとしてるの?次行くよ!」

天「まだあるんですか•••」

 

前言撤回。これから一生福島さんには付き合わん。流石に怠くなってきた。俺はため息混じりに福島さんを追いかける。

 

天「次は何を買うんですか?」

ノア「次は•••このマグカップとかどうかな?ウサギが映っててカワイイと思うのだけど」

天「ウサギ•••あぁ、いいですね」

 

ウサギは大好きな動物だ。あのモフモフの身体にいつか触れてみたいものだ。うちペット飼ってないからちょっと精神的に来る()

 

ノア「じゃあこれも買っちゃおう!」

天「そんなにバンバン買って、財布の中は大丈夫なんですか?」

ノア「あ••••••」

 

さっきまで楽しんでいた福島さんが固まった。財布の事、全く気にせず楽しんでいたみたいだな。仕方ない、といった風に俺は財布から二千円を福島さんに渡す。

 

天「今回は俺の奢りでいいです。次からはしっかり管理してくださいね?」

ノア「ありがとう!ありがとう!天くん!」

 

とびきりの可愛らしい笑顔で福島さんはマグカップをレジに持っていった。というか俺、なんでお金の余裕ないのに奢るなんて真似したんだ••••••。まぁ、いっか。たかだか二千円、まだ痒い程度だ。

 

ノア「本当にありがとう、天くん!お陰でカワイイのが買えたよ!」

 

満足気な福島さんはニコニコしている。俺は苦笑を漏らしながらその姿を眺める。

 

天「福島さんが満足したならそれでいいですよ」

ノア「••••••前々から気になってたけど、咲姫ちゃんは『咲姫』って名前な上に呼び捨てで呼んでるのに、私や乙和、衣舞紀には名字でさん付けなのはどうして?」

天「咲姫に関しては彼女からの要望がありましたので。福島さんたちは、歳上の先輩なので名前で呼ぶのは結構憚られるんですよ」

ノア「そんな固い事気にしなくていいんだよ?天くんは私たちのマネージャーで仲間なんだから、仲良くしたいな、って私はそう思うよ?せめて私だけでも名前で呼んでみて?ほら」

天「••••••ノア、さん」

ノア「うん。これからは、私の事は名前で呼んでね。今後のサポートもお願いします、天くん」

 

福島さん、いや、ノアさんは頭を下げた。俺も頭を下げる。

 

天「こちらこそ、今後ともよろしくお願いします」

 

その後は二人でショッピングセンターの中を練り歩いてから別れた。家に帰り着いた俺はどっと疲れを感じて、万年筆の試し書きの事などすっかり忘れてベッドに飛び込んだ。




ハロウィン咲姫は絵見てぶっちゃけいらなくね?みたいな状態になってるけど一応回します()


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デザートで本気出す間抜けがいるってマ?

咲姫限界突破全部終了したのはいいけどさ•••レベル上がらな過ぎでしょ!?今75LVだけど中々にキツいゾ。まぁ折り返しと思って頑張りますか•••w


今日はやけに仕事やライブ会場使用の交渉だったりが面倒で、少し疲れ気味だった。咲姫たちはレッスンを終えてもう帰れる状態だが、まだ誰も帰っていない。

 

咲姫「天くん、後どれくらいかかりそう•••?」

天「スケジュール調整は終わった。でも今から会場使わせてもらう為に交渉しに行かないといけない」

 

まぁそのライブをやるのは来月とかの先の話ではあるが、会場自体はいつでもいいからライブの予定を入れて欲しいとの事なので、案外楽に進みそうだ。

一度ネビュラプロダクションに戻るつもりなので、メモ帳と万年筆を胸ポケットに入れて外へ出かける準備をする。

 

天「もうみんなは帰って問題ありませんよ」

咲姫「今日は天くんの歓迎会をする予定だったのに••••••」

天「あー•••それは、申し訳ない。多少時間貰うけど、さっさと話つけてくるから、待って貰っていいか?」

 

咲姫に問い掛けると、彼女は笑顔になって頷いた。他のメンバーにも顔を向けると、同様に頷く。

 

乙和「そうと決まったら、天くんゴーゴー!走って走って!」

天「わかりました、行ってきます!」

 

花巻さんの横を走って行き、俺は会場へと向かった。

 

交渉自体は滞りなく終わり、予定通りにスケジュールを組む事ができた。また走って事務所に戻ると、みんなしっかりと待っててくれていた。

 

衣舞紀「おかえり、天。じゃあ行こっか」

 

そういえば歓迎会とは言われていたけど、何処に連れて行かれるのかはさっぱりわからない。ハッ、まさか会員制の緊縛バーに•••!?いやこんな性癖歪んでるとは到底思えんわ。

 

咲姫「•••どうだった?」

 

どうだった、とは会場を使えるのか、といったものだろう。俺はただ頷いた。それだけで、どういう意味かは咲姫は感じ取れていたのでこれでいいだろう。

 

天「とりあえず、来月はライブをすることが確定しました。今月分もありますが、来月にも向かってしっかりレッスン等頑張ってください」

咲姫「わかった。頑張る」

衣舞紀「天もどんどんマネージャーとして仕事を持ってきてくれるから、助かるよ」

天「それが仕事ですから。取れるものはバンバン持ってきますよ」

 

ちなみに陽葉学園の人間であることは咲姫経由でバラされたので、今は堂々と制服を着て仕事をする事もある。流石に今日のような交渉案件はスーツを着るが、事務所から出る事がなければ基本は制服で仕事をするようにしている。ぶっちゃけ一々家に帰ってスーツに着替えるのはまぁまぁ面倒でもある。

 

天「歓迎会の場所は何処ですか?」

乙和「とりあえずどこかのファミレスに行くつもりだよー」

 

ファミレスか•••ハンバーグ食べまくろうかなぁ。今日はお腹空いてるし、ご飯の大盛りとハンバーグのセットを三つずつ詰め込むのもいいな。っと、月に連絡を入れておかないと。手短に『ご飯食べて帰る』とだけ送った。これであらかた察しがつくだろ(適当)。

 

ファミレスの中に入り、店員から席に通される。席に移動してる間、なんかやたらジロジロと見られた気がするが、ま、ええわ(寛容)。

 

店員「では、ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」

天「すみません、もう注文してもいいですか?」

店員「失礼致しました、どうぞ」

衣舞紀「え、もう?流石に早くないかな•••」

天「チーズインハンバーグとサイコロステーキと包み焼きハンバーグのライス大盛りセットをお願いします。後ドリンクバーも」

ノア「どんだけ食べるの!?」

 

ノアさんが驚愕の声を上げた。店員もドン引きした顔をしている。

 

天「今日メッチャお腹空いてるんですよ。バカ食いしないと明日持ちません」

ノア「だからって食べ過ぎだと思うけど•••」

 

呆れたような、でもなんだか微笑ましそうに俺を見るノアさん。俺は首を傾げる。というか俺だけ先に頼むのはマズかったかな。少し後悔した。

 

それぞれみんな注文が終わり、料理が運ばれてくるのを待つ。その間にドリンクバーで飲み物を補充して、全員座る。

 

衣舞紀「それじゃあ、天のマネージャー就任を祝ってーー」

衣舞紀•乙和•ノア「かんぱーい!」

天•咲姫「か、乾杯•••」

 

テンションについていけなかった俺と咲姫は小さめの声で絞り出した。そしてノアさんからカワイイムーブをキメられた。

その後すぐに全員分の注文品が届き、テーブルの上が食べ物だらけになった。

 

天「あむ、むぐ、もぐもぐ•••久しぶりの外食の飯、うめぇー」

 

外食なんて基本しないから、もしかしたら一年ぶりにファミレスの飯を食べたかもしれない。

 

ノア「美味しそうにご飯頬張ってる天くん、カワイイ•••!」

 

丁度向かいの席に座っているノアさんの表情が崩れに崩れていた。めっちゃデレデレしてる。

 

咲姫「はむ、もぐ•••」

 

豪快にバクバク食べる俺に対して、隣にいる咲姫は静かに少しずつ食べている。

 

乙和「咲姫ちゃん遅いよ〜?」

咲姫「す、すぐに食べる•••」

天「ゆっくりでいい。急いで食べると喉に詰まるぞ」

衣舞紀「今この中で一番がっついて食べてる人の言う事じゃないよね•••」

 

新島さんから苦笑が漏れる。

 

乙和「天くん、そんなに食べてデザートとか食べられるのかな〜?」

天「何言ってるんですか花巻さん。デザートからが本番ですよ」

ノア「そんなに食べてデザートも食べるんだ•••」

咲姫「すごい食欲•••」

天「はぁ〜、うめぇ」

 

やはり、ファミレスの飯は最高や、あぁ^〜たまらねぇぜ。もう気が狂うほど、美味しいんじゃ。やったぜ。

 

結果、ペロリと平らげました。美味かった。たまには外食も悪くないな。今度月を誘って何処か食べに行こうかな。

 

乙和「それじゃあ、デザートいこっか!」

衣舞紀「本当は体型維持の為に甘いものは控えたいのだけど••••••」

乙和「今日は天くんの歓迎会なんだからそんな事気にせずに食べようよ!!」

咲姫「デザートは•••フルーツ盛り合わせのパフェが食べたい」

天「俺は•••パフェ全種食べます」

ノア「食べ過ぎ••••••」

 

またもやノアさんから呆れた声が聞こえてきたが気にしない。まだ俺の胃袋満たされてないんだから、ま、多少はね?

 

うん、わかってた。わかってたよ。またもや店員にドン引きされたよ。大食いなのがそんなに珍しいのか?だからってそんな変なものを見るような目はやめてくれよ(涙目)。

んでまぁ、注文したパフェ、きたよ。ここのパフェって意外と種類多いんだな•••。8種類のパフェが俺の目の前にドーンと置かれている。

 

衣舞紀「ねぇ、天••••••大丈夫?食べられる?」

天「余裕ですよ」

 

スプーンを手に取ってパフェのクリームを掬って口の中へ運ぶ。濃厚な甘みが口いっぱいに広がり、自然と頬が緩んでしまう。うんめぇ。

 

咲姫「天くんのパフェ、少し食べたい•••」

天「ん?あぁ、いいぞ」

 

咲姫の前にパフェを運ぶ。••••••自分から食べない。おい、なんかデジャブを感じるぞ。

 

咲姫「食べさせてほsーー」

天「自分で食え」

 

二人きりの時ならともかく周りに人がいる中で『あーん』なんて恥死するわ。流石にそこまで俺の神経は図太くない。というか咲姫は咲姫でなんでこんな状況にも関わらず、そんな事が言えるのかわからない。

咲姫はムスッと頬を膨らませた。可愛い。ノアさんがメッチャ叫んでる。うるさい()結局咲姫は一人でパフェを掬って食べた。そして何とか俺の心の平穏は保たれたのだった。

 

会計をすると、大体が数千円程度のものだが、俺だけは万単位だった。会計の兄ちゃんに『大食い番組とか出てる?』って聞かれたけど大食いの人はもっと食うでしょ•••と思いながら首を横に振った。

少し暗くなった帰り道。街灯が点き、道を照らしている。だが周りは仕事終わりのサラリーマンやらでガヤガヤと賑わっていた。

 

乙和「今日は楽しかったね〜!天くんがあんなに食べるなんてビックリだよ!」

天「今日くらいですよ、あんなに食べるのは。明日から減量だなぁ•••お金もかなり使ってしまったし•••」

 

万年筆を新調したばっかりなのに一万の出費はかなり痛いものだ。本当に今月は遊べないなぁ•••。

 

衣舞紀「それじゃあ、私はこっちだから。じゃあね!また明日!」

乙和「私もそっちー!」

ノア「私も」

天「俺と咲姫は別ですね。今日はありがとうございました。さようなら」

咲姫「またね」

乙和「バイバーイ!」

ノア「また明日」

 

花巻さんは手をブンブンと大きく振り、ノアさんは小さく振った。咲姫もノアさん同様小さく振り、俺は頭だけ下げた。

わかってはいたが、咲姫と二人きりになった。人通りが少ない道になり、俺と咲姫が歩く音と少しばかりの周りの人達の話し声が聞こえる。

 

天「咲姫」

咲姫「?どうしたの?」

天「あぁ•••その、何て言うか•••あんな人がたくさんいる中でああいう真似は、やめて欲しい」

咲姫「わかった。じゃあ二人きりの時だけするね」

 

本音を言うなら付き合ってもないのにそういうことはやめた方がいい、と言いたい。だがもしそれで今の仲が崩れたとなると、仕事にも支障をきたす可能性があるので、あまり踏み込む事ができない。いや、そもそもだ。何故咲姫が俺にこんなに懐いているのか知りたい。それさえわかればこんなに絡まれても多少は納得できるかもしれない。でも訊くのは少し怖い。俺を誰か好きな人と勘違いしてる、なんて話になれば俺は泣いて走って帰る。

 

咲姫「••••••どうしたの?私の顔に何かついてる?」

天「いや、何も•••」

 

そう言った内部事情は、来る時が来たらにしよう。今は余計な事を考えていられる程暇じゃない。また明日も仕事があるんだ。油断せずに生きていこう。

気がつけばもう俺の家は目の前だった。

 

咲姫「またね、天くん。明日もお昼、一緒に食べようね」

天「••••••あぁ、わかった」

 

俺は頷いた。玄関のドアを開けて家の中に入り、俺は座り込んでしまう。

 

天「はぁ•••疲れた」

 

心の奥底に張り付いて離れないようななんとも言えない感覚。私情を挟むつもりはなかったのだが•••何故咲姫相手になるとそういう風にならないのだろうか。明日からまた気持ちを切り替えていこう。俺は仕事であの場にいるんだ。余計な事は考えないようにと、寝るまで頭に言い聞かせた。




今週、レポート祭りですので小説書けない•••貯めてる分が減るぅ、余裕なくなるぅ()


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人生って何があるかこれもうわかんねぇな

レポート後感想だけじゃー!でも木曜もまたレポートだぜー!死ぬぜー!


昨日はカーテンを閉め忘れて寝た所為で、日光がバリバリ入ってきて眩しい。そのおかげで自然と目が覚め、身体をむくりと起こした。

 

天「あっ•••学校あるんだった」

 

何故か休日気分でいたようだ。昨日が楽しかった所為か、はたまた疲れて週末の気分でいたか。だが結局は学校はあるのだからさっさと準備をしないといけない。

床に足を着けて、大きく伸びをする。ゴキゴキと身体中から骨の音が鳴り、妙にスッキリする。それじゃあ一階に降りーー

 

猛「おはよう、我が息子よ。そして死ね!」

 

自室のドアを開けた目の前に、俺の父親の神山猛が待ち伏せていた。既に殴る構えを取っており、目にも留まらぬスピードで拳が襲い掛かってくる。

 

天「あっぶね!?」

 

身体を全力で反らして、何とか躱す事に成功する。というかいつの間に帰ってきてたんだ。

 

猛「鈍ってないみたいだな!月から聞いたぞ〜?次の担当は女の子なんだってぇ?」

 

うっぜぇなこいつ•••。やけにムカつく声音で俺に問いかける父さんは表情も崩れていてキモかった。

 

天「そうだけど、だから何なんだ?」

猛「んで、その中の誰と付き合ったんだ?」

天「月と変わらねぇな!?」

 

父さんも父さんで俺の恋愛事情というかそういった事が気になるのだろう。確かにさぁ、月はよく告白されてモテモテだけど、俺はそういうの一切ないから心配になるのはわかるけども。だからと言ってあまり深く干渉されるのは嫌だ。

 

猛「俺は早く孫の顔が見てぇんだ。わかるだろ?」

天「いや知らんがな」

猛「うっせぇ死ね!(唐突)」

天「理不尽だな!?」

 

またもぶん殴ってきた父さんの拳を受け流す。しれっと舌打ちしたクソ親父に苛立ちを感じながら、一階に降りて朝食を食べた。

 

天「じゃ、行ってきます」

猛「おう、死ぬなよー?」

天「死なねぇよバカか」

 

出る間際に暴言を吐き捨てて玄関から飛び出す。さーてゆっくりのんびりと登校しますかね。朝早く出たのもゆっくり外の風を感じたかったからだ。

いつもの通学路、いつもの校門、いつもの校舎、いつもの教室。慣れを感じてきた毎日に退屈さを少し覚えるが、やっぱりーー、

 

咲姫「おはよう、天くん」

 

咲姫に会うと退屈、なんて感情はふっとぶ。実際は、ただ単に今まで話してこなかった相手と話してるから新鮮味を感じてるだけだろうけど。

 

天「おはよう」

咲姫「今日は、早いね」

天「なんか早く起きれたからな。朝っぱらから父さんの相手して疲れたけど」

咲姫「天くんのお父さん•••?どんな人だろう•••」

天「理由もなく殴ってくる野蛮人」

咲姫「•••虐待?」

 

咲姫があらぬ方向に誤解をしているので俺は慌てて訂正させる。

 

天「違う違う、虐待とかじゃなくて、それが父さんの俺に対するコミュニケーションなんだ。俺も殴り返したりするし」

咲姫「そうなの•••?•••不思議」

 

そりゃ不思議だろうなぁ。親子で殴り合う家庭とか中々ねぇぞ(白目)。

キーンコーンカーンコーン••••••。

チャイムが鳴り、咲姫は自分の席へ戻っていく。俺は前を向いて担任が来るのを待った。

 

そしてやってきた昼休み。俺は立ち上がって教室を出る。そしてすぐに咲姫が追いかけてきて隣り合わせで屋上まで歩く。ドアを開けると、前よりも冷たい風が吹いた。少し強かったので、俺は目を細めてしまう。

いつものベンチに座って、弁当箱を開けた。咲姫の弁当には相変わらず果物が入っていた。

 

咲姫「食べたい?」

天「いや、遠慮しておく」

 

俺は断って自分の弁当のご飯を食べ始める。相変わらず塩辛い卵焼きが美味い。今日の咲姫の弁当には卵焼きが入っていた。多分•••甘いだろうな。塩辛い卵焼きが好きな人ってあまり見かけないし、咲姫自身が実際に辛い卵焼き食べて苦い顔をしたから甘い卵焼きは確定だろう。

静かな時間が続く。お互い食事に集中して会話がなくなり始めてきた。

 

咲姫「今日はお仕事、忙しい?」

天「ん?今日は比較的暇な方。スケジュール調整したりだとかしかないからみんなのレッスンでも眺めて時間を潰すつもり」

 

ライブの交渉が済んだ事で面倒事は今のところ全部片づいている。後は唐突に仕事が飛んでこない限りは、スケジュール調整して俺の仕事は終わる。

 

咲姫「天くんが見にきてくれるなら、いつも以上に頑張る」

 

そういえば、まともにPhoton Maidenの練習している姿を見た事がなかった。いい機会だし、見ておくのも悪くない。

 

天「わかった、見に行く」

咲姫「うん」

 

咲姫は笑顔で頷いた。ったく、俺が練習見に行くだけで何をそんなに喜んでるんだか。

 

天「ごちそうさま」

 

一足早く昼飯を食べ終えて、メモ帳を開いて日程の確認をする。ライブを抜けばそこまで忙しくもないし何かイベントがあるわけでもない。何気にまた休日があるのもありがたい。

 

咲姫「その日、休日なんだね」

天「あぁ。まだ予定立ててないけどどこか出掛けるつもりなんだ」

咲姫「私もついていっていい?」

天「あ↑?」

 

予想外の発言に俺は声を裏返してしまう。クスッと咲姫が笑ったのがムカついたのでほっぺたを引っ張ってやる。あー柔らけー。

 

咲姫「ほへへ、ふいへひっへほひひ?(それで、ついていってもいい?)」

天「わかった、いいよ。つまらないと思うが、それでも構わないか?」

咲姫「うん、天くんなら何処か面白そうなところに連れて行ってくれそうだから」

天「あぁ、そう•••とりあえずお金は用意しておけよ?県外に行くから」

咲姫「うん、わかった」

 

とりあえず予定決定。咲姫と出掛ける。まぁ再来週の日曜なんだけどさ。しかし咲姫と二人きりで県外へお出かけねぇ•••なんかデート臭ぇな(今更)。

 

放課後になって、ネビュラプロダクションを訪れる。俺がスケジュール調整をしている間に、メンバーのみんなはレッスン着に着替えて練習に励んでいた。何とか今後のスケジュールを整える事ができたので、俺はメモ帳と万年筆を胸ポケットにしまってレッスン部屋へ向かう。

 

乙和「あっ、天くんきたきた!」

 

丁度休憩中だったみたいだ。汗をかいた姿で水分補給をしている。というか、みんな動きやすくする為にかなり薄着になっている。男の俺がそれを見るのはいささかどうなのかと疑問を感じた。

 

天「今はどんな感じですか?」

衣舞紀「今さっきダンスのレッスンを終えたから、次はボーカルの方をやるつもりよ」

天「ボーカルですか•••」

 

チラリと咲姫に目をやる。ボーカルに関しては咲姫の歌声はとても綺麗だ。やる気に満ちているみたいだし、良いのが期待できそうだ。そして、俺の視線に気がついた咲姫が首を傾げた。

 

咲姫「そんなに見つめてどうしたの•••?私の顔に何かついてる?」

天「いんや、何でもない。頑張れ」

咲姫「うん、頑張る」

 

胸の前に置いてる手を握る咲姫。今の動作が気に入ったのかーー

 

ノア「咲姫ちゃんカワイイーーー!!!」

 

ノアさんが叫んだ。レッスン部屋は声が響きやすいからいつも以上にうるさい(キレ気味)。

 

咲姫「えっ•••?私、何かした•••?」

天「何もしてないから大丈夫•••(呆然)」

乙和「そっらくーん!」

 

突然、花巻さんが俺に向かって凸ってきた。そのまま受け止めてぶっ倒れる。そして、身体全体が痺れるような強烈な感覚に襲われる。

 

天「あっ、がっ•••ぐううぅぅぅ•••!」

乙和「あっ、ご、ごめんね!」

 

すぐに乙和さんが離れようとするが、何かにしがみついていないと気持ち悪さに支配されて失神してしまいそうだ。俺は咄嗟に花巻さんの身体を掴んで、抱きしめた。

 

乙和「えっ、えぇ〜!!?」

天「はぁ、はぁ、はぁ••••••ぬうぅ•••」

 

少しずつ落ち着いていき、花巻さんを抱きしめる力も弱くなっていった。

 

天「あー•••死ぬかと思った••••••すみません、花巻さん•••花巻さん?」

 

話しかけるが全く反応がない。花巻さんの顔を覗くと、茹でダコのように顔を真っ赤に染めていた。

 

乙和「•••••••••え?あ、あー!だ、大丈夫、大丈夫だよ!」

 

気がついたのか、花巻さんは俺から飛ぶように離れた。まだ震えが少し残るが、何とか立ち上がって息を整える。

 

ノア「えっと•••天くん、大丈夫?」

天「えぇ、何とか•••はぁ•••疲れるな、これ」

 

倦怠感というか疲労感というか、そういったものがどっと襲ってきた。でも帰るわけにもいかないので、パイプ椅子を出してドカッと座った。

 

天「ここで大人しくしてるので、練習、頑張ってください•••」

衣舞紀「う、うん•••じゃあ、始めよっか」

 

 

今日のレッスンが全て終了し、多少身体が軽くなったのを感じたので、帰りの準備をする。

 

乙和「ね、ねぇ、天くん•••」

 

後ろから花巻さんの声がして振り向く。いつもの快活さはなく、モジモジと恥ずかしそうにしていた。

 

天「はい、何ですか?」

乙和「ちょ、ちょっと付き合って欲しいところがあるんだけど•••いいかな?」

天「はい、もちろん構いません」

 

俺は頷いた。そこで花巻さんはホッと息を吐いた。

 

天「それで、付き合って欲しいところとは?」

乙和「クレープ屋さんだよ。私の奢り」

 

まさかの甘いもんだよ。というか花巻さん、しょっちゅう新島さんから甘いものを控えるよう言われてるのに、相変わらず懲りないな。

 

天「わかりました」

乙和「じゃ、行こっか•••」

 

いつもだったら大声で引っ張っていくのに、今の彼女はとても弱々しい。俺は歩いていく花巻さんについて行った。

 

クレープ屋に着くと、花巻さんはクレープを二つ注文し、一つを俺に手渡した。手近なところに座るところがあったので、そこに座って二人でクレープを食べる。

 

天「甘くてうめぇ」

乙和「そ、そうだね•••!美味しいね•••!」

 

必死に絞り出してるような花巻さんの声。レッスンの時から様子がおかしいが、どうしたんだ。

 

天「今日の花巻さん、何か変ですよ」

乙和「そっ!それは•••」

 

花巻さんは目を逸らす。それでも俺はお構いなしに顔を近づける。

 

乙和「だ、だって•••天くんに抱きしめられたら、すっごくドキドキしちゃって•••落ち着かない」

天「•••あー、あの事ですか。咄嗟にですよ、反射反応ですよ。他意はないです(断言)」

乙和「そこまでハッキリ言われると、流石に傷ついちゃうな•••」

天「それは失礼しました。というか、そんな事ならわざわざこんなところまで連れ込む必要もなかったのでは?」

乙和「今は、天くんと二人きりになりたいから•••」

 

花巻さんは頬を赤く染めて、顔を逸らす。俺も花巻さんからそんな発言が聞こえるとは思ってなかったので、内心困惑している。

 

乙和「天くんさ•••彼女、いないよね?」

天「はい、いませんが」

乙和「じゃ、じゃあ••••••私とか、どう、かな•••?」

 

遠回しな告白。俺は即座にそう思った。何かの冗談だろうと鼻で笑おうと思ったが、花巻さんの目は本物だった。これガチなやつだ。俺人生で初めて女性から告白されたぞ。男からはいくらでもあるのに(皮肉)。

 

天「•••••••••ごめんなさい」

乙和「•••••••••ッ」

 

だが、俺は断った。申し訳なさそうに表情を曇らせて、声を絞り出した。

 

天「今は、恋愛とかをする気がありません。もしですよ、もし、そういう時期がくれば、花巻さんの告白の返事をしっかりします」

乙和「•••そっか、じゃあそれまで待つからね!ずっとずっと天くんを好きでい続けるから!•••でも、一つだけ、お願いしてもいい?」

天「はい」

乙和「乙和って、名前で呼んで欲しいな•••」

天「•••わかりました、乙和さん」

 

俺は微笑んで、彼女の名を口に出す。乙和さんはニッコリといつもの笑顔を浮かべた。

 

乙和「私はいつでも待ってるからね!また明日!」

 

乙和さんは俺の前から走り去っていった。俺も立ち上がり、乙和さんとは逆方向へ歩みを進めた。まさか、俺が告白されるなんてな。夢にも思わなかった。いずれ返事は返そう。じゃないと、俺の中で良くない後味が残ってしまう。俺は残りのクレープを口の中へ放り込んだ。




小説書く時間作らないと(使命感)


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朝から走るとか嫌になりますよホントに

今日無事にレポートを提出しました!そして明日実習して二回目のレポートです!死んできます!


今の時刻は午前5時。俺がこんな時間に起きてるなんて珍しいだろ?俺もそう思う。そもそもなんでこんな事になったかというと、先日、寝る前にスマホ見てたら新島さんからラ◯ンが来て『明日の早朝ランニング、一緒にやらない?』とお誘いを受けたからだ。ぶっちゃけ断りたかったけど、最近身体鈍ってるだろうからたまにはいいだろうと軽い気持ちで承諾した。

んでその結果。日も出てない暗い中さっむい風浴びながら新島さんと走ってるわけだ。走ってるのに寒いってヤバくね?身体全然温まらん。

 

衣舞紀「まだまだ余裕そうだね。距離伸ばす?」

天「新島さんに合わせますのでいくらでもどうぞ」

衣舞紀「オッケー。じゃあ後5km追加!」

 

ちなみに既に10kmは走っている。父さんに鍛えに鍛えられてたおかげで余裕だが、涼しい顔してこの距離を走っている新島さんは素直にすごい。

 

天「ところで、どうしてランニングのお誘いを?」

衣舞紀「一緒に走る仲間が欲しかったのと、天が最近運動してないなーってぼやいてたからかな」

 

あ、仕事中につい零した呟きを聞かれていたのか。参ったな。このまま行ったら俺のあられもない秘密まで知られそうだ。んなもんないけど()

 

衣舞紀「何かスポーツ経験とかはあったりする?」

天「特にはないですけど•••父が軍人ですので、近接格闘や軍隊式のトレーニングとかを大体十年間してきましたね」

衣舞紀「だからそんなに身体引き締まってるんだね•••」

 

新島さんが納得、といった顔を見せた。俺の身体はほとんど無駄な肉がついておらず、筋肉が顕著に露わになっている。それでも細身なので、服着ていれば普通に女扱いされる。悲しいなぁ•••。

 

衣舞紀「お父さんの後を追って軍人になろうとは思わなかったの?」

天「思いませんでしたね。軍人になってお国の為に働くよりも、マネージャーとして目の前で担当を支える方が、俺の趣味に合ってました」

衣舞紀「へぇー人の為に働くのが好き、かぁ。そういうところは好感持てるなぁ」

天「どうしてですか?」

 

俺は首を傾げた。新島さんは変わらぬ微笑んだ表情を保ったまま口を開いた。

 

衣舞紀「やっぱり仕事って、少なからず自分の為ってなるでしょ?私なんて、ほぼ自分の為に踊ったり歌ったりしてるわけだし。それに比べて天は私たちの為にずっと動いてて、すごいなーって思ったの」

天「どこのマネージャーもそんなもんと思いますけどねぇ」

衣舞紀「ううん、やっぱり少なからず担当してる子とかに手を出す人はいるから、そういう人は自分の為に動いてるって人だから•••」

 

あぁ、そうか。今までそういった事案に遭遇しなかっただけで、別のところでは当たり前のようにあることだ。最近のニュースでも芸能人関係のあれこれなんて毎日のように報道される。もし、Photon Maidenの良くないニュースが流れたら•••そんな想像をするだけで何もかも投げ捨ててしまいそうになる。

 

天「••••••そうですね。あ、それと、何か嫌な事があったらちゃんと俺に言ってくださいね?弱音とか聞いてあげるのもマネージャーとしての仕事ですから」

衣舞紀「うん、ありがとう。でも、弱音といったら•••天の方が、たくさんあるんじゃない?」

 

ギクッ、と俺の心が悪い跳ね方をした、走っていて速くなっていた鼓動が更に加速し、胸を痛めつける。

 

衣舞紀「天も何かあったら私たちに相談してね?天、いつも一人で抱え込んでそうだし」

 

はいもう全くおっしゃる通りで••••••。本当なら、今すぐにでも乙和さんに告白された事とか、その返事を迷ってる、乙和さんを傷つけないかとか、弱音なんていくらでもある。でも乙和さんの件はPhoton Maidenには話せない。あの中で乙和さんの立ち位置が変わる可能性があるからだ。

 

天「大丈夫ですよ」

 

だから俺は誤魔化した。何も明かさずに俺の心の中にしまい込んでおこうと決意した。

 

天「本当に何かあったら、相談しますよ。ありがとうございます、新島さん」

衣舞紀「•••••••••いい加減さ、その、新島さんってやめない?なんだか他人行儀だし」

天「はぁ•••じゃあ、衣舞紀さん」

 

これでPhoton Maidenのメンバー全員を名前呼びすることになる。なんか、本格的に仲間として認識されてるような、そんなちょっと温かい嬉しい感情が湧いてくる。だがこれは仕事だ。俺はこの人たちをどんどん次のステージへ連れていかなければならない。その為には手段は選ばない。やれるだけの事をやる。

 

衣舞紀「ふぅ••••••そろそろ、折り返そっか」

天「そうですね」

衣舞紀「実は走り足りないんじゃないの?余裕どころか普段の呼吸と全く変わりないし」

天「先程も言いましたが、俺は新島さ•••衣舞紀さんに合わせるつもりでしたので」

衣舞紀「お?今苗字で言いかけたなー?このこのー」

 

衣舞紀さんは冗談混じりに俺の脇腹をつつく。が、そこまで大きな波が来なかった。

 

天「•••あれ?」

衣舞紀「?いつもみたいにならないわね•••」

 

まさか•••。

 

天「昨日の乙和さんのアレで、耐性ができたのかもしれません•••」

 

アレとはもちろん事務所内で凸られた事の話だ。これは•••どんどん耐性をつけていけば『カスが効かねんだよ(無敵)』状態になれるのでは!?

 

衣舞紀「これは、触りまくっても大丈夫なのでは•••♪」

天「なんか親父臭いですよ衣舞紀さん•••」

 

俺は後ずさる。それに合わせてにじり寄る衣舞紀さん。完全に構図が出来上がってしまった。

 

衣舞紀「更に耐性をつける為に、大人しくしろおぉ!」

天「うわああああぁぁぁぁ!!!?」

 

突如追いかけてきた衣舞紀さん。俺は絶叫しながら全力で走って逃げた。マッジで•••怖ぇ•••(戦慄)。その後は、逃げ切った、というよりも衣舞紀さんが追いかけるのをやめたので、大人しくランニングに戻った。久しぶりにいい汗かいてスッキリしたぜ(爽やかスマイル)。




今のうちに書き貯めしておかないとなぁ•••ちなみに今咲姫√を書いています(唐突のネタバレ)


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初めて殺意向ける相手が親とは何故

レポートの提出明日じゃなくて月曜だワッショイ!(大興奮)お陰で小説書く時間もD4する時間も取れるぜイェイ!


いつも通り学校が終わり、俺は事務所で次のライブ会場探しに電話を掛けていた。意外と成果は出て、今月はもうすぐ終わってしまうからもう入れられないが、来月分は二つ入れることができた。再来月は三つ。どんどんマネージャーとして仕事ができているな、と個人的に満足し始めていた。

 

乙和「そーらくんっ!電話終わった?」

 

肩にぽん、と手を置いて後ろから乙和さんが顔を覗き込ませる。あの告白以来、乙和さんからのボディタッチが異様に増えた。彼女なりの俺へのアピールかもしれないが少しそういうのは苦手だ。後少し慣れもきていたので、この程度で一々取り乱す程暴走することもない。

 

天「ライブの予定、たくさん組みましたよ。来月も再来月も大忙しなので、頑張ってください」

乙和「おー!頑張るぞぉ〜!」

姫神「神山くん、君に客人が来ているぞ」

天「え、俺にですか•••?」

 

わざわざ事務所にまで来るような俺への客って誰だ••••••?俺は席を立って、入り口まで足を運んだ。

 

柚木「やぁ、神山天マネージャー」

天「••••••なんだ母さんか」

月「ちなみに私もいます」

天「お前は何もねぇだろ帰れ(辛辣)」

月「今日のお兄ちゃんキツ過ぎない!?」

 

相変わらず平常運転の神山兄妹を見て、母さんはクスリと笑う。が、すぐに面持ちは真剣のそれになり、俺も気を引き締める。

 

柚木「ちゃんとあなたがマネージャーとして、仕事をしているのか気になって来たわ」

天「今ちょうどその仕事に区切りがついたところだ。後はその分のスケジュール調整をするところだけど」

柚木「ずいぶんと真面目にやってるのね。所詮は新しくできたDJユニットの癖nーー」

天「それ以上は、母さんでも許さん。彼女たちをバカにするようなら誰であろうとぶっ殺す」

 

俺は母さんに殺気を向ける。月が怯えた表情を見せるが、今はこの子の心配をしている暇などない。

 

天「どうせ、彼女たちのパフォーマンスとか歌とか、何も知らないんだろ?」

柚木「え、えぇ•••」

天「チッ、何も知らないでバカにしてたのか•••来い。一回だけでも見てみろ。かなり見方が変わるぞ」

 

舌打ちを残して、俺は事務所内へ戻る。その後ろを母さんと月が続く。事務所内の人たちには悪いことをしたな•••あからさまに不機嫌な顔を見せてしまった。

レッスン部屋に通すと、一斉に全員が俺たちに目を向け、そして困惑の表情を浮かべた。そりゃそうだろう。知らない人間を二人連れて来たのだから。

 

咲姫「天くん、この方たちは•••?」

天「俺の妹と母さん」

月「神山月です!よろしくお願いします!」

柚木「神山柚木よ•••」

 

月は元気に、母さんはぶっきらぼうに自己紹介をする。

 

衣舞紀「も、もしかして•••神山柚木さんですか•••?」

柚木「え、えぇ。そうよ」

衣舞紀「私、あなたの大ファンなんです!新人の女優をわずか一年で売れっ子にした実績!とても感動しました!」

柚木「そ、そうなの•••ありがとう」

 

母さん、マネージャーとしての腕は確かだからなぁ。担当した女優さんの才能とかのあれこれもあっただろうけど、その半分の成果は母さんにもある。

 

ノア「わあぁ•••月ちゃんカワイイ•••!天くんと顔そっくりだぁ•••!」

 

ノアさんは俺と月の顔を交互に見比べている。俺と月は顔を見合わせて、同時に笑顔を作る。

 

ノア「カ、カワイイーーー!!!300点!!」

 

そしてぶっ飛んだ評価をつけられた。流石の俺も苦笑いを浮かべてしまった。だが、月はとても楽しそうで、なんだか微笑ましかった。

 

乙和「天くん妹いたんだねー。ちっちゃくて可愛い〜」

天「そこまで身長変わんないですよね•••」

乙和「そんな細かいことはいいの!」

 

ほっぺたをプクリと膨らませて乙和さんが怒る。俺はまぁまぁと嗜めた。

 

月「あっ、あなたは!」

咲姫「えっ、わ、私•••?」

柚木「あら、あなた可愛らしいわね••••••うちの天、かなりいい男と思うのだけど、どうかしら?」

咲姫「は、はい。天くんは•••普段は顔とか可愛いですけど、仕事をしている時はとてもカッコいいな、と思います」

柚木「そ、そうじゃないのだけど•••まぁいいわ。うちの子に好感を持ててるようで安心したわ」

 

多分今のは『付き合ってみないか』という体で質問したな。咲姫がド直球に捉えて対応してくれたから助かった。

 

月「じゃあ、お兄ちゃんと付き合ってみませんか?」

 

おいゴルァ!(ガチギレ)せっかく平和的に終わると思ったのに爆弾投下しやがって!もう許さねぇからなぁ!

 

咲姫「そ、それは••••••その•••」

 

咲姫は顔を赤くして口ごもった。母さんと月はそんな咲姫の姿を見てデレデレしていた。墜ちたな(確信)。

 

ノア「はぁ••••••咲姫ちゃんカワイイ••••••」

衣舞紀「ノア、そろそろ顔どうにかしよ•••?」

 

ノアさんもノアさんで表情崩れまくってるからなぁ•••それでも可愛らしい顔をしているのは羨ましい。

 

天「••••••じゃあ、そろそろ練習を再開してもらっていいですか?」

咲姫「うん、わかった」

 

咲姫が頷いて、マイクの前に立つ。あ、今からボーカルレッスンなのね。

咲姫が歌い出す。ライブ映像を見せて貰った通りの透き通った綺麗な歌声。数日前は乙和さんに凸られた所為でまともに聴けなかったが、今はよく聴こえる。

 

柚木「••••••綺麗ね」

月「うそん•••歌上手すぎない•••?」

天「••••••••••••」

 

母さんと月が驚いて言葉を漏らしているが、俺は咲姫の歌声を聴いていたいので、黙って集中する。

歌唱が終わると、咲姫は一息吐いた。それに合わせて、俺は集中を切らして、目を開ける。

 

柚木「•••すごい、すごいわ。とてもDJなんて狭い世界に置いておくのが惜しいくらい•••」

咲姫「ありがとうございます」

 

咲姫は丁寧に一礼する。それで他のメンバーも熱が入ったのだろう。気合い十分に歌を披露する。はぁー、すげぇよな俺。こんなすごい人たちの歌をタダで聴いてるんだぜ?感動ものだ。

 

柚木「天、ちょっと」

天「•••あぁ。月、そこで待っててくれ」

 

月は頷き、母さんは俺を連れてレッスン部屋の外へ出る。

 

柚木「ごめんなさい、見くびるような真似をして•••本当に無知だったわ」

天「褒めるのも貶すのも、実際に目に見てからにしろ。当たり前の事だろ?何も知らないくせに叩かれたら、相手はたまったもんじゃねぇだろ?」

柚木「あなたの言う通りよ••••••色んな人を担当してきた天とはやっぱり考え方が違うのね•••」

天「流石に価値観の違いに関してはとやかく言う気はないが、次からは彼女らを、Photon Maidenを侮辱するなら母さんだろうと容赦はしない」

柚木「えぇ•••でも、一つだけ母さんから忠告させて欲しいの」

天「なんだ」

 

不機嫌な顔を隠せず母さんに見せながら、睨みつける。母さんは一呼吸置いて言葉を紡ぐ。

 

柚木「あまり甘やかしたりしないように。ナメられてワガママを言われるような事があれば、あなたの精神に関わるわよ」

天「その時はその時だ。それに、ワガママくらい言わせてやらないと不満がたまるだろ」

柚木「相変わらず、甘いのね。それで後悔しても知らないわよ?」

天「俺は俺のやり方で彼女たちを導く。外野からの意見なんざ知らん」

 

少しドスを効かせて母さんに言葉をぶつける。ため息を吐いて、母さんは諦めたように首を振った。

 

柚木「わかったわ。あなたのやり方•••ね。是非とも見せてほしいわ。それじゃあね」

天「今日は家に帰るのか?」

柚木「悪いけど、今から戻って仕事なの。また月ちゃんと二人でご飯を食べてちょうだい」

天「わかった、じゃあな」

柚木「えぇ•••」

 

ここで俺と母さんは別れた。一人でレッスン部屋に戻ると、月が心配そうに寄ってきた。

 

月「お母さん、何か言ってた?」

天「相変わらず甘いだってよ」

月「確かにお兄ちゃん、人に全く厳しくしないもんね」

天「••••••そうか?」

乙和「うん、全く厳しくないよ。ライブとかレッスンのスケジュール全部任せてるけど、辛くなく技能が身につくように微妙に調整してくれてるもん」

天「あれ!?スケジュールの内容いつ見られた!?」

 

俺、どっかにメモ帳放ったらかしに置いたりしてたか•••?

 

ノア「天くんがスケジュール確認してる時に乙和が横でずっと見てたよ?」

天「嘘ですよね•••?全く気がつきませんでした•••」

咲姫「天くん、すごく集中して見てたから。私も隣で見てたけど気づかれなかった」

天「うせやろ•••」

衣舞紀「天は真面目だからねー。それ程集中して確認してたんでしょ?」

月「お兄ちゃんが仕事しっかりしてて何か安心したよー•••」

 

月が涙ぐんでいるので乱暴に頭を撫でてやる。

 

天「新人時代ならともかく、もう三年もこの仕事してんだ。流石に慣れる」

月「そう言いながら嬉しそうだけど〜?そこんとこどうなの〜?」

天「うっざ•••」

月「照れ隠し、乙〜wwwwww」

天「もうお前帰れよ!?」

咲姫「仲、いいんだね•••」

天「どこが!?」

 

口を挟んだ咲姫に驚愕の声をあげる。これのどこが仲良いのか教えてほしいのだが?

 

ノア「本当カワイイなこの兄妹•••カワイ過ぎて死んじゃいそう•••」

 

なんかノアさんは不穏な事言ってるし、あぁもうめちゃくちゃだよ。

 

月「それじゃあ、私は一足先に帰って夕飯の準備してるねー、お邪魔しましたー!」

 

月は勢いよく頭を下げて、笑顔で出て行った。俺はどっと疲れて、大きくため息を吐く。

 

天「マジで、俺の家族•••キャラ濃過ぎだっての••••••」

衣舞紀「キャラの濃さで言ったら天も人の事言えないけどね•••」

 

マジか•••俺そんなに濃いのか•••。個人的にはそんなつもりはなかったのだが•••。

 

乙和「じゃあレッスン再開しよっか!まだまだ時間あるから頑張るぞー!おー!」

咲姫「お、おー」

ノア「はぁ•••咲姫ちゃんカワイイ•••」

 

ノアさん、今日はカワイイムーブよくキメるなぁ•••叫びまくってるけど疲れねぇのかなぁ。いや、あんなダンス長時間できるんだから体力はアホあるだろうな。

俺はなんだか安心した顔で特等席で彼女たちの練習を眺めた。

 

練習が終わり、俺は咲姫と帰路を辿っていた。途中でコンビニに寄って、俺はホットミルク、咲姫はオレンジジュースを購入した。

 

天「んっ、んっ、はぁ•••あったまるなぁ」

咲姫「私も飲んでみたい•••」

天「人のもん飲んだり食ったりするの好きだなお前。ほら」

 

苦笑いしながら咲姫にホットミルクが入ったカップを渡す。彼女は躊躇いなく俺が口をつけた部分に口をつけて飲んだ。これ、間接キス•••!?

 

咲姫「あたたかいね•••」

天「そ、そうだな•••」

 

咲姫は間接キスのことなど全く気にした様子もなく俺にカップを返す。

 

咲姫「私のも、飲む?」

天「い、いや、遠慮する•••」

 

なんだか小っ恥ずかしくて対応がぶっきらぼうになってしまう。その所為で咲姫の表情が少し暗くなる。なんだか申し訳ないな。

 

天「あまり人からもらったりするのとか好きじゃないんだ。決して咲姫の事が嫌いで断ってるわけじゃない」

咲姫「•••うん」

 

暗い顔から微笑に咲姫の表情がチェンジしたところで、俺はカップの中身を飲む。

 

咲姫「今日も、楽しかった」

天「ん、そうだな。来月から忙しくなるから、頑張れよ」

咲姫「うん、頑張る」

 

咲姫は頷く。俺も頷き返して、上を見上げる。今日は星が綺麗だな。家に帰ったら、夜空でも見上げながら音楽でも聴くかな。そんな事を楽しみにしながら、チラリと咲姫に目をやる。彼女も丁度視線を俺に向けたところだろうか、ぴったり目があった。

 

咲姫「どうかした?」

天「何でもない」

 

微笑んで、前を向く。咲姫は首を傾げて疑問符を浮かべていたが、あまり気にした様子もなく歩を進めた。




明日金曜日かぁ•••キンタマキラ•••何でもないです。


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家出したいです(切実)

アインシュタインより愛を込めて、発売おめでとうございまーす!自分ができるの明後日からなんですけどね(発送と住んでる場所の関係)。


猛「ほらほらほらほらぁ!どうしたどうした!そんなもんかぁ!?オルアァ!!」

天「ちょ、くっそ、あっぶねぇなぁ!死ねオラァ!」

 

早朝4時。突然帰ってきた父さんに叩き起こされて、近場の公園で急遽近接格闘の指導をされることになった。どうしてこうなったし。

指導といいながら父さんは普通に殴りまくってくるし最早ただの喧嘩と化していた。それに乗っかってる俺も俺だが。

 

猛「オラオラオラオラ!!」

天「ふっ、ほっ、せいっ!」

 

連打を繰り出す父さんの拳を受け流しながら、僅かに生まれた隙を狙って腹に一発蹴りをかます。が、父さんの腹筋厚すぎて全く効いてねぇし。なんだこの筋肉ダルマは。

 

猛「ふんっ!」

 

しかも力任せに拳を向わせてくるからマジで怖い。多分一発でも当たったらダウンしてしまうだろう。何とか受け流して耐えるが、続けていれば父さんが慣れを起こしてパターンを急に変えてくることもある。そうすれば確実に詰む、死ぬ(確信)。

 

天「オラッ!」

猛「ぬぅっ!?」

 

距離を一気に詰めて父さんの身体を掴んで転ばせる。馬乗りになって片手で首を思いっきり握り、もう片手で顔をガードして備える。

 

猛「ぐっ、がぁっ•••!」

 

息ができなくて苦しそうだが、そんなのお構いなしに締め続ける。抵抗して殴ってくるが、顔以外殴られようが耐えられるのでなんてことはない。

 

猛「ま゛ま゛い゛っ゛だ••••••」

天「はぁ、はぁ、はぁ••••••クソッ、なんでこんな朝早くから疲れることしないといけないんだ•••」

 

俺は悪態を吐きながら父さんから離れる。父さんは咳き込みながら立ち上がり、息を整えている。

 

猛「クソッ、次は絶対ぶっ殺すからな!」

天「マジで野蛮だなこの親父•••頼むから黙っててくれ。俺は静かに生きたいんだ」

猛「何ぃ?父さんの息子のお前がそんななまっちょろい事を言うとは思わなかったぞ!またもう一回やるか!?」

天「もういいよ面倒だから」

猛「••••••そこまで冷たくあしらわなくてもいいだろ」

 

なんでしょげてんだこいつ気持ち悪(辛辣)。身体でかい癖に縮こまるような真似してて吐き気がするわ。

 

猛「しばらく見ない間に天がどんどん乱暴になっていくし童貞卒業してるし•••」

天「おいちょっと待て。しれっと嘘ついてんじゃねぇよ」

 

俺は彼女出来たことないしセックスもしたことないバキバキ童貞だぞ悪いか。

 

猛「早く彼女作って欲しいんだけどなぁ〜。なぁ〜?」

天「うっざ•••恋愛するしないは俺の自由だろ。変に口出しすんのはやめてくれ」

猛「ほぅ•••ところで、月や母さんが言ってた出雲咲姫ちゃん•••だったか。二人ともやけにお前とあの子をくっつけようとしてるが、そんなにいい子なのか?」

天「咲姫のことか?普通に可愛くていい子だけど。それが?」

猛「いやーあの母さんがお前に薦めるくらいだから気になってなー」

 

父さんはヘラヘラと笑いながら後頭部を掻く。俺は携帯を取り出して、咲姫の写真を見せる。ちなみに写真は、この前の俺の歓迎会でパフェを美味しそうに食べてる様子だ。それを見た父さんはギョッと目を見開いた。キメェ。

 

猛「は!?くっそ可愛いじゃねぇか!?さっさと付き合えよ!そしてすぐに孫の顔を見せろ!!」

天「気が早ぇわ!そもそも咲姫が俺の事そういう目で見てるかすらわからねぇのに!」

猛「何ビビってんだ!男は度胸!当たって砕けろ!」

天「滅茶苦茶だなこの野郎••••••!」

 

相変わらず意味がわからない父親に嫌気が差す。さっさと家出て自立してぇよマジでよぉ••••••。あまりにもウザかったので殴りました。少しスッキリした。

 

朝っぱらからあんなことしたから授業の内容が全く頭に入らねぇ•••今すぐ寝たい、というか半分意識は死にかけてる。コクリ、コクリと首がガックンガックン動き、視界が定まらなくなる。

 

数学教師「神山ー?起きろー?」

天「•••すぅー••••••」

数学教師「起きろ•••よ!」

 

教師は胸に差しているペンを俺にぶん投げる。意識は閉じかけているが、感覚が危険だと教えてくれたので、首を傾けて躱す。

 

男子生徒B「いっだあぁ!!?」

数学教師「あ、焼野原すまん!」

 

その代償に後ろの席の焼野原くんにペンが直撃した。可哀想だけど俺は悪くないからな?(責任転嫁)クラス中から笑い声が起こって俺はようやく目を覚ました。が、授業が終わりに近づくにつれて、また寝てしまった。

 

授業が終わり、昼休みに入ったがまだ俺は寝ていた。

 

咲姫「天くん、起きて」

 

咲姫が俺の肩に手を置いてゆさゆさと揺らす。寝ぼけた声を漏らしながら目を開けた。

 

天「••••••あれ、授業は?」

咲姫「もう終わったよ。お昼ご飯、食べよ?」

天「あぁ、そうだな••••••」

 

俺は弁当箱を持って立ち上がる。そしていつもの屋上へと二人で向かった。

屋上に到着し、またいつものベンチに腰掛ける。

 

咲姫「明後日だね。お出掛け」

天「あぁ、そうだな。とりあえず日帰りで遊びたいから県外とは言っても多少は近くにするけどな」

咲姫「候補はもう決まってる?」

天「京都に行こうかなーとは思ってる」

咲姫「十分遠い•••」

 

咲姫からすれば東京から京都は普通に遠い扱いらしい。いやまぁ俺が普段九州や北海道に行く所為で感覚が狂ってるのだろう。

 

天「キツイようなら俺が出すけど」

咲姫「大丈夫、私もそれなりにお金はあるから」

 

じゃあ大丈夫そうだな。とりあえず後で通帳の中身確認しておかないと。今月かなり金使った癖にまだ金使おうとしてんだから来月は抑えに抑えないといけない。ぴえん。

 

咲姫「京都なら、美味しいものいっぱい食べたい」

天「そうだなー。俺もあそこの飯食いたい」

 

お出掛けというかただ食いもん食いに行くだけになりそうな予感()それでも俺は一向に構わないが。

 

天「でも観光名所とかも行きたいな。ほとんど寺シリーズになりそうだけど」

咲姫「おみくじとか、引きたい」

 

お、いいなおみくじ。引くのは新年以来か。あの時は小吉だったしせめて中吉以上は欲しいところ。

 

天「なんかやけに楽しみにしてるな?」

咲姫「うん。天くんとお出掛けできるのは、とっても楽しみ」

 

ふと、父さんの付き合え発言が頭をよぎって少し照れてしまう。いけないいけない、こんな顔咲姫に見せられん。すぐにいつも通りの表情に戻す。幸い、咲姫は俺の表情が変化したことなど露知らず、ニコニコしている。

 

咲姫「帰ったら、出かける準備をしないと」

天「早いな、明日でいいだろ。どんだけ楽しみなんだ」

 

つい苦笑を漏らす。咲姫もえへへ、と微妙そうに笑うのが妙に可愛い。なんかノアさんのミームに少し感染したかもしれん。ちょっとやだな。

 

咲姫「明後日は、よろしくね」

天「あぁ、こちらこそ」

 

俺たちは笑う。そこから一緒に弁当を食べ始めて、いつもの他愛のない談笑を楽しむのだった。




19時からハミダシクリエイティブのネタバレ感想会あるし21時半からD4の生放送あるしでクソ大変だな!?


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お寺デートって憧れるよねって話

レポート無事終わったぜー!明日は部活に久しぶりに顔出せるし最高や。まぁぶっちゃけレポートは再提出くらいそうだけど()


駅前に集合という予定で、俺は早く起きてすぐに着替えた。私服はいつも通り白シャツの上にジャケットを羽織ってジーパンを履く。春の間はこれがいつもの装備になりそうである。夏からはジャケット着られないし今のうちに着ておきたい願望があるので、よく着てる。

朝食は自分で適当に食って家を出る。月からすれば何故朝早くから出掛けてるのだろうと困惑するだろうが、内容知ったら絶対うるさいので言わない。

駅前の柱にもたれかかって咲姫を待つ。時計を確認すると、予定の時刻の十五分前だった。流石に急ぎ過ぎたか•••?でも遅れるよりはマシだと頭に言い聞かせる。

 

咲姫「ご、ごめん•••待った?」

 

とてとて、と小走りで咲姫がこちらにやってくる。俺は柱から身体を離して咲姫に顔を向けた。

 

天「いんや、全く待ってない」

咲姫「良かった•••」

 

待ったと言っても所詮は一、二分程度だ。一々言うことじゃない。駅の中に入り改札に切符を通す。そのまま目的の車両が来る前まで歩き、近くの椅子に腰掛けて新幹線が来るのを待つ。

 

天「京都とかいつぶりだろうか。最近行ってなかったしなぁ」

咲姫「私は中学の修学旅行以来•••かも?」

 

出雲家はあまり旅行とかしない家なのだろうか。でも咲姫単独で旅行する金は持ってるみたいだし、単純に彼女が遠出とかしないタイプなのだろうか。

 

天「どうする?観光」

咲姫「天くんは何かプランとか立ててる?」

天「まぁ•••とりあえず京都駅降りて、金閣寺、清水寺、銀閣寺で周ろう。日帰りで楽しむのはこれくらいが限界だ」

咲姫「うん、わかった」

 

納得したようで、咲姫が頷いた。それと同時に、新幹線がここに止まるアナウンスが聞こえて、指定席のある車両が止まるところの前まで移動した。

無事新幹線に乗り、流れていく景色を眺めていた。移動している時は、こうやって移り変わっていく外の景色を見るのが楽しみである。

 

天「おっ、咲姫。陽葉学園が見えるぞ」

咲姫「本当。ここから見るととっても小さい」

 

身を乗り出して俺の隣で外を眺める咲姫。うーん顔が近い。しかも軽く息かかっちゃってますねぇ。

ここから京都までは大体2時間で着く。その間ずっと咲姫と話してたわけだが、こんなに長々と話せたことに俺自身が一番びっくりした。

 

京都駅に到着し、俺はうーん、と伸びをする。咲姫も真似して伸びる。可愛い。

 

天「いやー何とか着いたなー。時期が時期だから人もまーったくいなくていい観光日和だ」

 

観光シーズンはとっくに過ぎていて、人はまばらだ。人混みに押される事なく平和に観光ができそうで、心の中で安堵する。

 

天「んじゃ早速金閣寺行こうか。バスに乗って移動するからバス乗り場まで行こう」

咲姫「うん」

 

咲姫は頷き、俺の隣を歩く。が、目の前にチャラい男が立ちはだかった。え、何だこいつ(困惑)。

 

男「そこの可愛いお二人さん、俺と遊ばな〜い?」

 

まさかのナンパだよ。えぇ•••ここまできてナンパされるのも中々にすごいな。でも面白そうだからちょっと遊ぼ。

 

天「いやぁー怖ーい(裏声)(棒)」

 

できる限りの女声を出して咲姫の後ろに隠れる。俺のその気持ち悪い仕草が男には受けたのか、ニヤニヤとしてる。あーうっぜぇ殺してぇ(キレ気味)。

 

男「大丈夫何もしないから•••な?俺と遊ぼうぜ」

天「じゃ、じゃあしょうがないなぁ•••(裏声)ーー死ねやクソボケがぁ!(地声)」

 

突如声が男になって豹変した俺の姿を見て、男は困惑して為す術もなく俺にぶん殴られた。男はぶっ倒れてピクピクとしている。死んだかもなこれ(他人事)。

 

天「ったく、つまんねぇ事しやがって。行こう、咲姫」

咲姫「今の人、大丈夫かな•••?」

天「あんなクソ男の事なんて気にしなくていい」

 

あんなことしてきた男の心配するとか優し過ぎるだろ••••••。そこは素直に尊敬するけど、同じ思想になろうとは思わん。

 

バスに乗ってゆらゆら揺られながら移動する。というかバスがあるならもうちょっと観光できそうな気がしてきたが、いかんせんやる気が起きない。あまりにも時間が余るようだったら何処か行こうそうしよう。

金閣寺近くにバスが止まり、俺と咲姫は降りる。金閣寺の写真を撮り、周りを歩いて眺めていく。

 

咲姫「中学の時も訪れたけど、金色で綺麗」

天「そうだな••••••」

 

中学の時は金閣寺なんてまともに見ずに友達とギャーギャー騒いでただけだ。今見ると本当に綺麗であの時の俺を殴りたくなる。

またバスに乗って、次は清水寺に移動を開始した。金閣寺だけでもまぁまぁ時間を潰せたし、このままいけば予定通りになりそうだ。

 

咲姫「••••••お腹空いた」

天「あー•••もう少ししたら12時か」

 

腕時計を確認すると11時40分を示していた。清水寺の近くを降りたらまず昼食にしよう。

 

近くに飯屋があったのが本当に救いだった。だがわざわざ京都に来て海鮮丼とはどうなのだろうか()

俺も咲姫も店オススメのマグロ丼を頼んでしばらく待つ。出てきたマグロ丼は、赤身も中トロも大トロも乗った豪華なものだった。すんげぇ美味そう。

 

天•咲姫「いただきます」

 

手を合わせて、俺はマグロ丼にがっつく。ご飯には醤油が染み込んでいて、ご飯単体でも十分美味しい。こりゃ箸が止まらん。ひゃあああぁぁう゛ま゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!

 

天「トロの脂すごいな」

咲姫「口の中で溶けて美味しい•••」

 

咲姫はマグロ丼に満足いただけたようだ。本当に美味しそうに食べている。••••••なんか、ご飯食べてる娘を見るような気分だ。俺と咲姫同い年だけど。

腹一杯に飯を食って、清水寺を訪れた。床を踏むと、少し軋んだ音が鳴り、この寺の歴史を感じさせる。清水寺から眺める景色は、緑がたくさんあってとても綺麗だった。一昨日話した通りにおみくじも引いてみた。結果は、またもや小吉。それに対して咲姫は大吉だった。ちくせう。しかも咲姫がむふっ、と軽くドヤ顔したのがウザかったのでほっぺたをむにむにしてやった。

 

またバスに乗り、次は銀閣寺へと向かう。ちなみに俺は京都で一番好きなのは銀閣寺だ。何故って、あの渋い見た目がいいからに決まってんだろ?

銀閣寺近くのバス停でバスが止まる。俺たちは降りて、歩いて銀閣寺へと向かう。

 

咲姫「楽しい時は、時間が経つのが早い••••••」

天「そればっかりは仕方ないさ」

 

不満を口にする咲姫を嗜めながら銀閣寺を眺めて、写真を撮る。よしよし、撮れた撮れた。近くにあるでっかい岩も写真に納めて、満足する。欲を言うなら銀閣寺の中とかに入りたいが、無理なんだなこれが。あー入りてぇ(願望)。

 

観光は終わり、京都駅近くまで戻ってきた。少しだけ時間があるので、近くの八ツ橋店を訪れた。みんなへのお土産に買って行こう。

 

咲姫「•••••••••」

 

何やら咲姫が一つの八ツ橋をジーっと見つめているが•••みかん味の八ツ橋か。いかにも咲姫が好きそうなのが出てきた。俺は苦笑し、店員にーー

 

天「すみません、試食とかってできますか?」

 

と、訊いた。店員の方はにこやかに頷いて、小さく切ったみかん八ツ橋を持ってきてくれた。

 

咲姫「美味しい•••みかんの味がする•••」

 

そりゃみかん味って謳ってるわけだし、多少はね?俺も何か気になるものがないか探す。••••••鯖味ってなんだよ••••••。とりあえず一番気になるミルク味を試食した。うっめ。

 

咲姫「私も食べていい?」

天「あぁ、いいぞ」

咲姫「あーん•••」

 

うんわかってた。今二人っきりだししてくるんじゃないかとは思ってたよ。やれやれといった感じに咲姫の口の中にミルク八ツ橋を入れる。

 

咲姫「これも美味しい•••」

天「みかん味ちょっと気になるからもらっていいか?」

咲姫「うん、もちろん。はい、あーん」

天「えぇ•••あ、あー•••ん」

 

何故か俺にも同じ事をされる。うん、みかん味、美味いよ。でもアレのおかげでそこまで味がよくわからなかった。

結局種類があまりにも多くて決まらないので、店員のセンスに頼った。そして時間もちょうどよくなったので、新幹線に乗り、京都に別れを告げた。

 

新幹線から外の景色を眺めていると、肩に何かが乗っかる。横を見てみると、咲姫が俺の肩に頭を乗せて眠っていた。散々歩いたからきっと疲れたのだろう。俺は微笑み、その綺麗な白髪を撫でる。

 

天「今日はありがとうな•••おかげですごく楽しかった」

 

眠ってて感謝の気持ちなど届かないとわかっていたが、礼を申しておく。そしてこっそり寝顔を撮ってノアさんに送りつけておいた。返信が来た。

 

ノア『え、なにこれ尊い、カワイ過ぎる•••もう悔いはない』

 

と帰ってきた。••••••相変わらずすぎて、俺はどんな顔をしていいかわからず、唇が歪んで変な顔になった。




というか明日アイ込め届くやん!小説書く時間?ゴリ押しで作ります()


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分岐はエロゲの醍醐味ってそれ一番言われてるから

本日三ヶ月ぶりに部活に行って死んできた如水です、はい。まぁ部活は今日だけじゃなく今週いっぱいまできて欲しいと言われたので、渋々承諾しました。今、アインシュタインより愛を込めてをやってるわけなんですけども、D4とこれがあるので中々進められる気がしねぇ!しかも部活にも参加するから余計に!


咲姫と京都に行った翌日、俺は見事に風邪を引いた。いやなんでなんだよ••••••昨日風邪引くような事あったか?月が学校へ行く直前まで俺の面倒を見てくれたが、時間というのは残酷なものだ。月は仕方なく登校して行った。

さて、完全に一人だ。しかも風邪で身体がダルいし頭痛いしで眠れる気がしない。何も考えずに目を閉じるが、意識が途絶える事はなく、逆に何か考えてないと頭痛に苛まれて頭がおかしくなりそうだ。そうだ何か考えるんだ。

••••••••••••Photon Maidenのメンバーの顔が真っ先に思い浮かんだ。ちょうどいい、彼女たちについて、また思い返してみるか。

 

出雲咲姫。最初にあった時は急に名前で呼んでくるしでビックリした。今だとあーんしたりとかなんか変な関係になりつつあるけど、それなりには楽しい。普段は最低限相手に伝わる程度にしか喋らないが、ライブの時は人が変わったようにアクティブになる。歌も綺麗だし、彼女の魅力というのは計り知れないんじゃないかと思い始めている。やたら俺へのスキンシップとかが多いが、もしかしてどこかで会ったりとかあるのか••••••?

 

天「(でもどんなに思い返しても、咲姫みたいな人を見た覚えはないな•••••••••)」

 

ぼんやりと、出てくるか出てこないかのすごい曖昧な記憶しかない。中学は違うし高校も確か途中から転校してきたはずだ。というかメイデンのみんなは、ネビュラプロダクション所属に合わせて陽葉学園に転校してるわけだけど。今の俺と咲姫の関係なら••••••その事について触れられるかもしれないな。

 

新島衣舞紀さん。Photon Maiden一番の常識人と言っても過言ではないだろう。メンバーの事をよく考えているし、みんなを引っ張っていくリーダーシップもある。後運動大好きだなあの人。俺もちょくちょく付き合わされているし•••身体を鍛えるのは嫌いじゃないし、むしろ好きな方だ。

 

天「(後は他のみんなみたいに過度な部分がないから、比較的相手にするのは楽だよな•••)」

 

咲姫みたいに近づいてこないし、乙和さんみたいにボディタッチとかをしてこないし、ノアさんみたいにカワイイムーブをキメてくるわけでもない。相手にするのはすごく精神的に楽なのだ。かなり貴重な存在かもしれない。

 

花巻乙和さん。Photon Maidenのムードメーカー的役割•••なのか?とにかく明るい人だ。あまり背は高くないのに胸デカイ(ゲス思考)。つい最近俺に告白してきた人でもある。まだ返事は保留中だが、いずれは返さないといけないんだよな••••••。頭が痛くなる。

 

天「(でも••••••ちょっと面倒なんだよなぁ••••••)」

 

ボディタッチとか、ちょくちょく俺の身体に触ってくるし、距離感も異様に近い。俺の事を好いてくれているからなのだろうが、俺個人としてはあまりそういうのは好きではない。そういえば期末テスト近いけどあの人大丈夫なんだろうか••••••。

 

福島ノアさん。カワイイムーブをキメるやべーやつ。なんか咲姫がお気に入りみたいだけど、最近月にも手を出し始めている。月本人もノアさんに可愛がられるのは好きみたいなのでいいのだが。ライブ中は平然と見えてても、内心はガチガチに緊張してるのはちょっと可愛いと思う。

 

天「(でもあれはねぇよなぁ••••••)」

 

あのカワイイと叫んだりするヤツ。普通にうっさいしたまにキレそうになるのだ。俺も可愛がられる対象になってるしで、あぁもう滅茶苦茶だよ。可愛いって言われるのあまり好きじゃないのにさぁ()でも、あの落ち着いた堂々とした部分は見習うところがある。

 

天「(暇だなぁ•••誰か来ないかなぁ••••••)」

 

もう暇で暇で仕方がない。いい加減死にそうだ。早く月帰ってきてくれぇ••••••。というかこの際メイデンのみんなでもいいから誰か来て話し相手になって欲しい。マジで暇で押しつぶされる。

 

天「(もう昼か•••でも食欲湧かねぇ••••••)」

 

精神的にも参ってしまった身体は、食べ物を通さない程に弱っていた。こんな軟弱になるとは、風邪怖い。ロシア並みに怖い。恐ロシア。

こうやってつまらん事言わないとやってられない程に死んでるわけだけどどうしようか。できることならこのまま寝てしまいたいが、頭痛の所為でそれが難しい。

 

天「(あぁー•••痛ぇなぁ••••••)」

 

しかもその頭痛が激しいこと激しいこと。今こうやって頭の中でおちゃらけているが、何もしなかったら多分今すぐにでも嘔吐して、ベッドが胃酸塗れのくっさい臭いになって死ぬ。

本当に誰か来ないかなぁ••••••俺はそんな儚い希望を願う。今すぐこの暇な状況を打破できる人が来てくれたら万々歳なんだけどもなぁ。

もしかしたら、今日ここにくる人次第で、俺の運命が変わるかもしれない。•••••••••考え過ぎか。俺は自分自身に鼻で笑った。でもどこかで、そんな期待はあった。俺はその感情を心の底に押し込めて、我が家に来る人を願った。




あ、明日D4のイベント最終日じゃん。明日は多分走らないから今日の内に走りまくって死んでおかないと(使命感)。
後次回から咲姫√に入ります。対戦よろしくお願いします。


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咲姫√
お互いに信頼できる仲っていいっすねぇ^〜


ハロウィン咲姫引き当てました!星四ノア引き当てました!これで私はPhoton Maidenの星四を全て手に入れた事になります!課金は正義ってはっきりわかんだね。


もう学校は終わった時間だろうか。時計を見ると大体放課後になっているとは思うが、メイデンのみんなはレッスンがあるし恐らく来ないだろう。月の帰りを素直に待つか••••••。

••••••携帯が鳴った。俺は嫌な予感を感じながら手に取って開く。

 

月『今日は急遽塾に行く事になりました。辛いかもしれないけど頑張って』

天「•••••••••オイオイオイ死んだわ俺」

 

完全に詰みが確定しました本当にありがとうございました。••••••うっそだろ、おい。ベッドから出るのすらクソキツい状況でこれは酷だぞ。えぇ••••••(困惑)風邪治ったら月が行ってる塾ぶっ壊そうかな•••割と真面目に。

ええぇぇ、どうしよう。多分明日には風邪治るのは確定なんだよ。でも飯も食えてない、風呂も入れてない。そんな状況で明日迎えるとか嫌すぎる。

ピンポーン。

インターホンが鳴り、俺は重たい身体に鞭打って動かす。壁にもたれかかりながら、引きずるように歩いて、玄関を開ける。

 

咲姫「天くん、大丈夫•••?」

天「•••さ、き••••••?」

 

目の前には、来るはずのない彼女が立っていた。おいおい、レッスンはどうしたんだよ••••••俺よりもまずライブの練習だろ••••••?そう思っていても、口には出なかった。いや、出せなかった。目の前にこの子がいて、安心して、注意なんてできなかった。

俺の額に咲姫の手が触れる。身体がキツくて妙な感覚なんて全く気にならない。だが、咲姫の手は冷たくてとても気持ち良かった。

 

咲姫「すごい熱•••。早く中に入ろう」

天「••••••あぁ」

 

咲姫に支えてもらって、自室まで赴く。ベッドに寝転がり、今更になって自分の身体に無理をさせた事を実感する。

 

咲姫「あ、お粥•••もしかして、何も食べてないの?」

天「あぁ、キツくてそれどころじゃなかった」

咲姫「今はどう?」

天「咲姫が来て安心したから、食べられそう」

咲姫「わかった。すぐに温めてくる」

 

お粥を抱えて、咲姫は部屋を出た。また寂しい時間が訪れるが、今度はすぐに戻ってくると確信があるので、そんなに心細くなかった。

しばらくして、温めたお粥を持った咲姫が戻ってきた。俺の前に座って、スプーンで掬って俺の顔の前まで持っていく。

 

咲姫「はい、あーん」

 

まぁ、この状況だと変ではないと思うので、好意に甘えるつもりで食べた。

 

咲姫「美味しい?」

天「腹減ってたからな•••美味い」

咲姫「良かった。もっと食べて」

天「ちょ、そんなに一気に押し込むな•••」

 

どんどんお粥を俺の口の中に運ぼうとする咲姫。俺の口内はそこまで広くねぇんだぞ。すぐキャパオーバーするわ。

 

天「というか••••••練習の方は良かったのか•••?ライブも近いんだし、休めないと思うが•••」

咲姫「ライブも大事。だけど、まず天くんの体調が心配だった•••」

天「別に俺の心配しなくても、月がいるんだsーー」

咲姫「今日、月ちゃん帰ってくるの遅いでしょ?」

天「•••••••••なんで知ってるんだ」

咲姫「月ちゃんがうちの学校に来てまで私にお願いしてきた。『お兄ちゃんは絶対私以外に頼ろうとしないから様子を見てください』って」

天「はは、そっか••••••やっぱり月にはお見通しだったか•••」

 

本当によくできた妹だな。帰ってきたら、抱きしめて頭を撫でてやろう。あの子はこれをするとよく喜ぶ。

 

咲姫「天くん」

天「な、なんだ?」

 

やけに真剣な面持ちで俺を見つめる。というか、少し怒ってる?

 

咲姫「いつも私たちは天くんに頼ってる。だから天くんも私を、私たちを頼って」

 

あぁ•••そうか。俺は彼女たちの為にずっと動いていたが、俺自身が彼女たちに甘えた事なんて一度もなかった。変な馴れ合いはいらないと、自分に言い聞かせて変に関係を発展させない為に。その結果が大事な時に頼る事もできないバカに成り果てたわけだ。我ながら情けない。

 

天「悪かった•••そうだったな。自分一人で何でも片付けようとして、いざ自分がダメになったら頼る事もできなかった••••••なぁ、咲姫」

咲姫「どうしたの?」

天「もうしばらく、お前に甘えてもいいか?」

咲姫「うん、もちろん」

天「••••••ありがとう」

 

ベッドの中に潜んでいた手を伸ばして、咲姫の頭を優しく撫でた。ほんのり咲姫の頬が赤くなったのを感じたが、嫌そうではなかった。

 

咲姫「••••••陽だまりの様に温かい色」

天「?」

咲姫「さっきまでは不安だらけの真っ黒だったけど、今はとっても温かい色」

天「今は滅茶苦茶安心してるからな••••••身体辛い中で一人ってのは結構キツいよ」

 

俺は苦笑を浮かべながらも、咲姫の頭を撫でる手を止めない。

 

咲姫「今日は月ちゃんが帰るまでいるから、して欲しい事があったら言って」

天「あぁ。じゃあ早速だけど、話し相手になってくれないか?朝っぱらからずっと暇で暇で仕方なかった」

咲姫「うん。天くんのお話、いっぱい聞かせて欲しい」

 

咲姫は快く頷いた。俺はそのまま暗くなるまで咲姫と色んな事を話した。ライブの事や、楽しかった事、また何処かに出かけようなど••••••。とても楽しい時間を過ごした。

 

月「ただいまー」

 

月が帰ってきて、俺と咲姫はハッとする。気がつけば夜になっていた。

 

咲姫「話し込んじゃった•••そろそろ帰らないと•••」

月「お兄ちゃんただいまー。あ、咲姫さん。お兄ちゃんのお世話ありがとうございました。夕飯も食べて行きませんか?」

咲姫「え、えっと•••」

月「ダメ•••ですか•••?」

 

上目遣いで月は咲姫を見つめる。身長差もあって自然な上目遣いになった。咲姫はまだ迷ってるようで、うーんと唸っている。

 

咲姫「天くんは••••••」

天「え、俺?」

 

すっかり回復した俺は首を傾げる。いやでもこの時間帯まで娘さんをお預かりするのは、ご両親に常識を疑われそうだしなぁ••••••でも咲姫と飯を食えるというのは魅力的だ。

 

天「咲姫と夕飯を食べられるのはいいと思うけど、咲姫のご両親にめいwーー」

咲姫「ここでご飯食べる」

月「ナイスゥ!」

 

月が俺にサムズアップして、ウキウキ気分で一階に降りていった。

 

天「お、おい、本当にいいのか?」

咲姫「うん。お父さんもお母さんも多分許してくれると思う」

 

いや多分って••••••確証ないんかい。とりあえず両親に電話をすると言って咲姫は部屋の外に出た。

気分も良くなったので携帯を開くとめっちゃラ◯ンに通知きてた•••。みんな心配の旨のメッセージを送ってて、少し嬉しかった。

咲姫が戻ってくる、やけに嬉しそうな表情でまたベッドの隣に座った。

 

咲姫「OK貰った。一緒にご飯食べられる」

天「ん。なんかいつも通りになってきたな。咲姫と飯食べるの」

咲姫「あーんも•••」

天「月がいるから今日はやめろよ?」

 

先にその話題を出してくれて助かった•••。月にあんな場面見られたら今後マジで面倒な事になる。次の日から生きていけない屈辱を味わうことになるだろう。

 

咲姫「天くんは料理しないの?」

天「あぁ•••簡単なのは作れるけど、一回キッチン燃やした事あってそれからキッチンは出入り禁止になった」

咲姫「ふふっ」

天「あっ、今笑ったな?」

咲姫「だって、天くんが意外とダメダメだから•••」

 

うっさいわい。今はできるからええもん。

 

天「そういう咲姫はできるのか?料理」

咲姫「今衣舞紀さんから教わってるところ。少しずつできるようになってる」

 

へぇー、料理教えてもらってるのか。誰かに弁当でも作るつもりなのだろうか。まさか咲姫の彼氏か•••!?どんなイケメンだ!?

 

天「ご両親に作ってあげるのか?」

咲姫「お父さんとお母さんにもだけど••••••もっと大事な人に作ってあげたい••••••」

 

あっ、これは彼氏いるな。よしよし、うちは恋愛OKだしバンバン付き合え。愛は人を強くするからな。もうこの赤らんだ頬なんて確定だ。一回会わせて欲しいなぁ、イケメンだったら是非仲良くなりたいものだ。

 

月「ご飯できたよー?」

天「お、んじゃ行くか」

咲姫「うん」

 

俺はベッドから降りて、一階に咲姫と一緒に向かった。リビングに入ると、月が温かい夕食を用意して待っていた。

 

月「ーーそれで、高校大学一貫のところに行かないかって薦められてね」

天「どうしたいかは月に任せる。俺らの高校に来るもよし、更に学力アップさせる為に遠くに行くもよし。授業料とか出すぞ」

月「金銭面はお兄ちゃんにお世話になりっぱなしになっちゃうなぁ•••今もそうなんだけどさ」

咲姫「神山家は天くんがお金を管理してるの?」

月「お父さんもお母さんもお兄ちゃんもみんな稼いでて•••誰が管理してるとかは全くないんですけど、お兄ちゃんが私の為に自分の分を削ってまで払ってくれるんです」

天「金余ってんだし、使うなら月の為の方がよっぽどいいわ」

 

味噌汁を飲みながら俺は口を出す。月は、はぁ、とため息をついて俺にジト目を向けてきた。

 

月「お兄ちゃんは私を子供扱いしすぎなの。高校に入ったらバイトくらいするよ」

天「そんな事考えなくていいから甘えとけって。その方が嬉しい」

月「うーん••••••これはダメだなぁ。人をダメにするマシンの誕生だね。好きな人できたらとことん貢ぎそう」

天「そんなマヌケな真似はしねぇよ。パパ活対象のおっちゃんじゃねぇんだから」

月「あの、仮にも女の子がいるところでその発言はどうかと思うよ•••?」

咲姫「私は気にしない。天くん、学校で友達とこれより酷い事言ってるから」

月「例えば•••?」

咲姫「セックsーー」

天「はいストップ」

咲姫「んふっ」

 

俺が言う分にはいいが咲姫にその発言をさせるのはまずい。全て言う前に口を塞いだ。

 

月「お兄ちゃん••••••男子校じゃないんだから自重しようよ••••••」

天「仕方ないだろ••••••一緒にそう言う事しようやーってお誘いくるもんだから言い返す分でさぁ」

月「お兄ちゃんの高校行くのやめようかな••••••」

 

多分ヤベーのが集まってるのはうちの学年だけだろ。他学年まであんなのがいたら学校崩壊する。

 

咲姫「天くん、クラスの女の子からモテモテだよ」

月「やっぱりですかー?うちのお兄ちゃん、可愛くてカッコいいですからねー!」

 

何故そこでお前が胸を張るんだ。••••••まな板だなぁ。

 

月「お兄ちゃん後でね♡」

天「ひっ」

 

月からとんでもない殺意の波動を感じて怯えてしまう。というかなんで心の中読まれたの?こいつエスパーなの?怖っ。

 

咲姫「とても仲良しだね」

月「えへへ〜そうでしょう。私たちラブラブ兄妹ですから!」

天「まぁ普通普通」

月「世の妹は私みたいに兄に甘えたりしません」

 

真顔で月はキッパリ言いのけた。え、そうなの••••••?月みたいな妹が普通だと思ってたわ•••。

 

月「お兄ちゃんは私の存在を感謝するといいさ!」

天「へいへいあんがと」

月「心を込めてもう一回!」

天「ありがとうございまーーす!!」

咲姫「ふふっ、ふふふ、あはは!」

 

堪えきれない、と言うかのように咲姫が声に出して笑った。俺たちも釣られて笑ってしまう。というか、咲姫•••そうやって笑う事できたんだな••••••(クソ失礼)

 

月「こんなに楽しい夕食は久しぶりだよー!」

天「あぁ。こんなに笑ったの、久しぶりだ」

 

その後の夕食も、大いに笑って楽しんだ。今まで忘れていた、食事の楽しさというのを取り戻したかもしれない。

 

晩飯を食べ終えたので、咲姫を家まで送り届けていた。

 

咲姫「ごめんね、ここまで付き合わせちゃって」

天「いいよ。今日の晩飯楽しませてもらったし」

 

俺の家から咲姫の家まで大した距離はない。十五分ほど歩けば着くほど近い。

 

咲姫「今日はありがとう。おやすみなさい」

天「あぁ。こっちこそありがとうな。おやすみ」

 

ぽふっ、と咲姫の頭に手を乗せて撫でた。咲姫は頬を緩ませて静かに目を閉じた。

 

咲姫「天くんのそれ、気持ちいい•••」

天「ん、そっか。でもいい加減帰らないと。風呂入らないといけないし」

咲姫「うん。今度こそまたね」

天「あぁ。じゃあ、また明日学校で」

 

俺は咲姫に手を振りながら走る。手を振り返していた咲姫は俺の姿が見えなくなると、振っていた手を止めて、自身の頭に乗っけた。

 

咲姫「えへへ•••」

 

自然と出たのかもしれない嬉しそうな声は、夜空に溶けて消えた。




明日はリア友と遠くまで自転車で出掛けてから書きますかねぇ•••でも今週は部活で忙しいから書けるかわかんねぇ•••(引退者)


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あなたの為に、みんなの為に

イベントお疲れ様でしたー!自分は1541位でした。2000位以内入れたのでヨシ!走るのはメイデン関係だけなので次は報酬だけ取って帰りますw


月「咲姫さん彼氏いるの?」

天「あぁ、多分だけどな。衣舞紀さんから弁当の作り方とか教わってるみたいだし、昨日も大事な人に作りたいって言ってたから」

月「そうなんだ、誰だろうね(それ、お兄ちゃんの事じゃ••••••?)」

 

朝の卓で、俺と月は一緒に朝食を食べながら昨日の事について話す。月は疑わしい顔を向けていたが、それに対して俺は無表情だった。

 

天「でも、付き合ってる人がいるならそれでいいんだ。それでDJ活動のモチベーションが上がってくれれば上々なんだから」

月「お兄ちゃん、やたらと芸能人とかそこら辺の人たちの恋愛に寛容だよね」

天「愛は人を強くするからな。特にアイドルとかの活動は本人の精神状態がパフォーマンスを左右するんだから、出来る限りストレスなくいて貰わないと」

月「今後のお兄ちゃんの行動次第で咲姫さんのストレス関係は変わるけどねー」

天「••••••どゆこと?」

 

訳が分からず首を傾げた。そりゃ俺の行動次第でメンバーの精神状態は少なからず変わるだろう。だが何故月が咲姫に限定したのかがわからない。

 

月「今のお兄ちゃんにはわからないよねー。何せ女心を知らないどころか付き合った事すらないんだから」

天「うぜぇなぁ••••••俺の恋愛事情はどうでもいいだろ」

月「私は家族として兄の将来が心配なのです!ちゃんといい人見つけてくれないと困るの!」

 

えぇ•••(困惑)別に俺が相手見つけようが見つけまいがどうでもいいと思うんですけど••••••。少なくとも俺は恋愛に関しては無頓着だ。あまりに精神的にヤバイ時は作ろうかな•••()

 

天「今日は仕事多くなるなぁ•••昨日風邪で休んでた分があるから」

月「頑張ってね〜応援してるよ〜」

天「殴っていい?」

月「なんで!?」

 

なんか顔がうざったらしいからだけど。こいついっつも表情変わってんな•••顔疲れないのか?

 

制服に着替えて準備を整える。鞄を持って玄関を出た。月と話してて遅くなったので、少し走りながら学園へと向かう。

通学路はちょうど仕事に向かっているであろうサラリーマンで溢れかえっていた。ぶつからないように躱しながら走り、陽葉学園に到着する。教室にサッと入り、椅子にドカッと座った。

 

焼野原「おう神山、おはよう」

天「あぁ、おはよう。お前が話しかけてくるなんて珍しいな」

 

後ろの席の焼野原くんが俺に挨拶をしてきた。無難に返して話題を繋げる。

 

焼野原「お前が風邪を引くからビックリしたぞ。いつもあんなに元気なのに」

天「俺、そんなに普段元気に振る舞ってねぇと思うんだけど」

焼野原「言われてみればそうだった。ところで、今度裸祭りあるんだけど来る?」

天「ところで、で出す話題じゃねぇんだけど!?裸祭りって何だよ!前も裸踊り祭り誘われたから尚更謎だわ!」

 

俺もう転校していいか••••••?もうやだこのクラス••••••。露出狂しかいねぇじゃんか••••••(涙目)。

 

焼野原「でも昨日は出雲さんがずっと元気なかったんだよな」

天「咲姫が?」

焼野原「そう。しれっと名前呼びなのは後で問い詰めるとして、先生から指名されても気がつかなかったり、ずっと座ってて動かなかったり」

天「咲姫がそんな状態に••••••?心配だな••••••」

焼野原「それで神山が休んだ事に関係があるんじゃないかと思ってさ」

天「俺が?はは、ないない。咲姫、彼氏いるだろうし彼氏がなんかあったんだろ」

焼野原「出雲さん彼氏いんの!?」

 

焼野原くんが大声をあげながら席を立った。周りの視線が俺たちに集中するが、すぐにみんな友達とかと話し始めた。

 

焼野原「悪い、取り乱した。え、本当に•••?出雲さんに彼氏•••?」

天「確定ってわけじゃないけどな。昨日俺が風邪引いて休んだ時見舞いに来てくれたんだが、それっぽい発言がたくさん出てきた」

焼野原「マジか••••••出雲さんに看病された事に関しては殺すとして、殺すとして•••!」

 

殺意隠し切れてないぞ焼野原くん。めっちゃ血走った目向けてくんじゃん()普通に怖いよ。

 

焼野原「でも神山は出雲さんの所属してるDJグループのマネージャーしてるんだろ?相手がどんな人か確かめてくれよ」

天「一応訊くけど確かめてどうするつもりだ?」

焼野原「ぶっ殺す」

 

過激派じゃねぇか。俺的には咲姫は幸せに交際を続けて欲しいので後押しは全力でさせてもらおう。

 

天「あんまり彼女たちのプライベートには踏み込まないようにしてるんだ」

焼野原「相当いい立場にいるのにもったいないな」

天「バカか。その立場にいるからこそ責任が大きくなるんだよ。それに俺の仕事は彼女たちのサポートだ。変に踏み入って精神的に傷がついたら後々ダルい」

焼野原「あっそっかぁ(納得)真面目に仕事してたんだな••••••」

天「流石の俺も怒るぞ?今すぐここから叩き落としてもいいんだけど」

焼野原「お前が言うとガチにしか聞こえないからやめてくれ(懇願)」

 

なんかどんどん俺に対して怯え始めたので雰囲気を柔らかくしてみた。が、あまり効果はなかった。

 

昼休みになり、俺は一足先に屋上へと向かった。ベンチに座り、咲姫が来るのを待つが、中々こない。あれ?まだ俺を探してるとかじゃ、ないよな••••••?

携帯が鳴った。手に取って見ると、咲姫••••••ではなく知らない番号だった。ちょっと怖いが一応出よう。

 

天「もしもし、神山です。••••••あぁ、はい。Photon Maidenをですか?是非お願いします。はい、ありがとうございます。••••••え?あぁ••••••考える時間をください。かけ直します。はい、はい。失礼します」

 

電話を切り、俺は真っ青な顔でベンチにもたれかかる。

さっきの電話の内容。かなりデカい会場でのライブを誘われた。ドーム並みの規模だ。だが、それに参加する条件として、俺を電話先の会社の芸能人のマネージャーになれとの事だ。いや、正直美味しい話ではある。次の担当は今大人気のイケメン俳優だ。そのマネージャーと言うだけででかい顔ができる。俺に利益しかない話だ。

 

天「••••••Photon Maidenを捨てるかと言われたらなぁ••••••」

 

俺は唸ってしまう。今後の俺の薔薇色の人生を取り、彼女達を大きな舞台へと連れて行くか。もしくはPhoton Maidenのマネージャーを続ける代わりにまたとないチャンスを逃すか。

•••••••••答えは決まった。俺はPhoton Maidenのマネージャーを降りよう。後は姫神プロデューサーが俺より優秀なマネージャーでも寄越すだろう。

 

天「あーあ••••••意外と早いお別れになっちまうな••••••」

咲姫「お別れって•••?」

 

気がつけば目の前に咲姫がいた。俺は寂しそうに笑いながら咲姫に目を向けた。

 

天「俺、Photon Maidenのマネージャーを辞める事になった」

咲姫「••••••え••••••?」

 

持っていた弁当箱を咲姫は落とす。ゴトンッと音が鳴り、咲姫の表情は暗いものになった。

 

咲姫「•••どうして••••••?何か嫌な事でもあったの••••••?」

天「そういうわけじゃない。みんなの為に担当を降りるんだ」

咲姫「••••••どうして••••••」

天「さっき、電話が掛かってな。Photon Maidenをでかいライブに誘う代わりに、俺を別の人のマネージャーをするよう条件をつけられた」

咲姫「••••••じゃあ、断って」

天「何故だ?東京ドーム並みの規模のライブだぞ?出る事ができれば、Photon Maidenは更に上へ行く事ができる。俺が担当を降りるだけで成長できるんだ。これ以上の美味しい話はないだろ?」

咲姫「私は••••••天くんがマネージャーをしてくれないと、嫌」

 

俯いて、咲姫が声を絞り出す。だが俺の意思は変わらない。何がなんでも彼女達を導きたいのだ。

 

天「俺の最後の仕事はでっかい舞台でのPhoton Maidenの活躍をサポートする事だ。マネージャー冥利に尽きるよ」

咲姫「嫌、嫌•••天くん以外のサポートなんて、考えたくない••••••」

 

咲姫は泣いていた。瞳から流れる水が、頬を伝って地面に零れ落ちた。••••••ダメだ。ここで甘えを見せたら、彼女たちはいずれ後悔する。こんな男一人の慰留の為に千載一遇のチャンスを逃してしまったと、自分たちを責めてしまう。

 

天「ダメだ。これは俺の独断での決定事項だ。今更変える気はない」

咲姫「じゃあ私たちは、ライブに出ない•••そうすれば、天くんが辞めることもない」

天「だったら姫神プロデューサーにでも言って強制でやらせる。これはPhoton Maidenの今後の為だ」

咲姫「私は•••天くんじゃないと嫌!」

 

ついに、咲姫が声を荒げた。俺は唇を噛んで、心を鬼にする。

 

咲姫「天くんがいたから、私はここまで頑張れた!天くんが私たちの為にたくさん仕事を持ってきてくれた!天くんがいないと••••••Photon Maidenは壊れちゃう••••••」

 

何故だ。何故俺程度の人間がそこまで必要なんだ。俺より優秀で気の遣える人間なんて吐いて捨てる程いる。俺にこだわる必要なんて、何処にもないのだ。だからこそ、わからない。俺という存在が、咲姫の中でどういう立ち位置にいるのかも、さっぱりだ。

俺はベンチから立って、咲姫の横を通る。これ以上は話の無駄だ。放課後まで、事務所で姫神プロデューサーにこの事を話すまで、無視を決め込む。それが一番手取り早•••い•••。

 

咲姫「••••••だめ」

 

俺の制服の裾を、咲姫が握った。立ち止まって、身体の力が抜ける。

 

天「••••••さっきも言ったが、これはみんなの為なんだ。俺一人を代償に大きな舞台でライブをして、人気を集める事ができる。こんなに都合の良い話を何故、みすみす逃そうとするんだ」

 

咲姫は何も答えない。ただ震えて、ポタポタと涙が地に落ちて音だけを響かせていた。

 

咲姫「天くんは••••••」

天「••••••なんだ」

咲姫「天くんは、本当はどうしたいの••••••?」

 

今一番訊かれたくない質問をされて、胸がズキリと痛んだ。そうさ、本当は••••••本当は、マネージャーを辞めたくない。まだまだPhoton Maidenのマネージャーとして仕事を続けたい。ずっと彼女たちの行く末を見ていたい。

だがーー、

 

天「俺はみんなのマネージャーを辞めて、みんなを大きな舞台へ連れて行く」

 

俺の意思は変わらない。本音を押し殺してでも、彼女たちには上に向かって歩いて欲しいのだ。

 

咲姫「嘘つき••••••。天くんの色、すごく悲しい••••••ちゃんと、本音を聞かせて••••••」

天「••••••ッ、これが俺の本音だ!」

 

俺は大声を上げる。無理矢理心に感情を押し込めて、咲姫の言う「色」を他色にねじ曲げる。

 

天「俺は誰でも良いからマネージャーとして仕事をしたいだけだ!その仕事としてPhoton Maidenをライブへ連れて行ってた!別に辞めようが辞めまいが俺にはどうでも良いんだよ••••••!みんなの為なんだ••••••!俺がいなくなるだけで、お前らみんなが幸せになれる!」

咲姫「ならない!!」

天「••••••ッ!?」

 

今のは••••••咲姫の声なのか?彼女からは想像もできない、いや、ありえないような声量だった。

 

咲姫「そんなの、ただの天くんの自己満足!何も私たちの事なんて考えてない!ただ自分だけがスッキリ終わるように逃げてるだけ!今言った事も、全部建前なのはわかってる••••••!逃げないで、本音をぶつけて!私たち、仲間でしょ!?」

天「そんなこと••••••!••••••ッ!」

 

ギュッと、力強く自身の手を握る。血が滲むのではないかと、強く、強く握る。甘えるな、甘えるな。そう言い聞かせているのに、心がいう事を聞かない。言ってはダメだとわかっているのに、今ここで全てぶちまけたいと微塵でも思ってしまっているんだ。

 

天「本当は••••••!本当は•••••••••!!辞めたくない!!」

 

•••••••••俺の負けだ。ついに本音を漏らしてしまった。完全にタガが外れて、思いのままに全てを曝け出してしまう。

 

天「みんなの担当をしてて楽しかった!歓迎会とかみんなでライブの相談したりとか、全部が新鮮でまたやりたいなって思えた!咲姫の歌声は綺麗だし、DJプレイはすごくカッコよかった!また一緒に何処かに出掛けたい!衣舞紀さんとは一緒に走ったり筋トレしたり、お互いに高めあった!乙和さんとは一緒にクレープやお菓子を食べたりして、色んな事を話した!ノアさんとは一緒に本を読んで彼女のカワイイものについて聞くのが楽しかった!!本当は••••••辞めたくなんかない••••••!ずっとPhoton Maidenのマネージャーを務めたい••••••!!」

 

咲姫が俺を抱きしめた。感覚が暴走するが、そんな事が気にならない程に、俺の精神はズタズタのボロボロになっていた。情けなく涙を流して、膝から崩れ落ちて••••••咲姫のお腹に顔を埋めてしまう。

 

咲姫「私も••••••天くんと一緒にお出掛けするの、楽しかった•••また今度、何処かに行こうね」

天「あぁ•••!あぁ••••••!今度は、もっと遠くに行こう••••••!!」

 

声が震えて、まともに喋れているのかすらわからない。今はただ、咲姫の優しさに、温かさに甘えたかった。今だけは、普段の仕事のできる俺は捨てて、何もない、年相応の弱い自分に戻った。




毎度思うけど毎話投稿する度に感想くれる兄貴天使過ぎない?マジで掘れs間違えた惚れそう。これ読んでくれてるそこのあなた!感想と評価してくださいお願いします何でもしますので!(何でもするとは言ってない)


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あなたの事が•••

ラブハグのフル難し過ぎません?序盤で死にまくって話にならないんですけどw後ノアの育成間に合わない死んじゃうw


天「ーーはい、そのようにお願いします。はい。はい、では失礼します」

 

通話を切って、俺はベンチの背に体重を預けて、大きなため息を吐く。

••••••ライブの件は断った。メンバーの一人から俺の引き抜きを反対する意見が出たと正直に伝えて、今回の件は無しになった。

 

咲姫「どうだった••••••?」

天「ライブは無しだ。全く、ワガママ言ってくれたな•••」

咲姫「•••••••••ふふっ」

天「•••?何かおかしな事でもあったか?」

 

悪態を吐いたはずなのに咲姫はクスリと笑った。

 

咲姫「発言に対して天くんの色はとても温かい•••」

天「うっ•••クソ、内側まで見られるの忘れてた•••」

 

今後咲姫には隠し事は通用しないかもな••••••。今まではぶっきらぼうに付き合って来たから内面を見られる事がなかったからいいが、今は彼女の事を信用している。その所為で否応なく感情の蓋が開いてしまったのだろう。

 

咲姫「でも、これで安心。天くんが私たちから離れる事がなくなった」

天「はいはい、離れない離れない。いつも通りマネージャーとして寄生するよ」

 

無表情無感情で答える。気を逸らす為に弁当をかき込んで、口の中で大きく咀嚼する。

 

咲姫「きっと、みんなも天くんが残るように説得したと思う」

天「流石にねぇだろ」

 

全員が全員、咲姫みたいに俺に甘いわけではないだろう。必ず誰かはライブをしたかった、と言うに決まっている。

 

天「そういえば今日の弁当、少し不格好だな。もしかして咲姫が作ったのか?」

咲姫「う、うん•••」

 

少し顔を赤くして咲姫は顔を逸らした。可愛いなぁ、と微笑む。

 

咲姫「•••まだ練習中だから」

天「わかってる。それで完成形だったらビビる。彼氏の為だろ?」

咲姫「彼氏••••••?私に彼氏はいないよ••••••?」

天「はっ?」

 

咲姫は訳がわからない、と言うように首を傾げて、それに対して俺は素っ頓狂な声を漏らす。

 

天「いやだって、大事な人がいるから料理練習してるって言ってただろ•••?」

咲姫「それは••••••っ、天くんなんて知らない•••!」

天「え、えぇ•••?(困惑)」

 

何故か彼女は怒ってぷいっと顔を背けた。今度は俺が訳がわからなくなった。それから会話はなく、静かな昼食&昼休みを過ごした。

 

 

乙和「ーーそんな事があったの!?私は断固反対だよ!天くんには残ってもらわないと!」

 

事務所に訪れて事の次第を話すと、みんな怒ったように俺にくってかかった。

 

衣舞紀「いくら天でもそれはいただけないかなぁ••••••勝手に辞めるのは許さないわよ」

ノア「天くん以上に私たちに合ったサポートができる人なんていないと思うよ?姫神プロデューサーも頭抱えてたし」

 

えぇ•••あの姫神プロデューサーが頭抱えるレベルの案件なのか•••俺ってそんなにこの中でデカい存在だったのか•••?

 

咲姫「言った通りでしょ?」

天「全くその通りだったよ••••••俺が一番驚いてる」

 

絶対ライブ優先の人が出ると思っていたのに、その思惑は見事に真反対に外れた。

 

衣舞紀「それに聞いたぞ〜?咲姫の目の前で泣いたんだって?あまり感情を表に出さない天が珍しいわね〜」

天「それに関してはどうでもいいでしょ••••••俺の泣き顔とか誰も見たくないと思うんですけど?」

ノア「私は見たかった•••!できれば写真に納めたかった•••!」

天「怖っ」

 

冗談抜きに寒気を感じて咲姫の後ろに隠れた。しかしそのシーンを写真に撮られた。泣きたい。

 

乙和「でも良かった〜。咲姫ちゃんのお陰で今もこうして天くんがここにいるわけなんだし」

咲姫「うん。頑張って説得して良かった」

天「俺の慰留を喜ぶのは結構ですけど、昨日の分の仕事が貯まってるので今から部屋こもります」

 

パソコンを抱えて俺は仕事用の部屋に入る。そこで俺はようやく一息つくことができた。椅子に座ってため息を吐きながらパソコンを起動する。メモ帳にも色々書いているが、パソコンにもそのスケジュールを書いて事務所内にばら撒かないといけない。面倒くせぇ。

本来なら昨日この仕事をしていたのだが、風邪を引いてしまったので今日の内に済ませないといけないのだ。これは夜まで掛かるかもなぁ••••••。ヘッドホンを装着して、音楽を垂れ流しながら、俺は作業に入った。

 

天「••••••わかってたけどおわらねぇ••••••」

 

昨日と今日の二日を合わせて終わらせる仕事を無理矢理一日で終わらせるのだ。終わる訳がねぇ。あまりに量が多すぎて泣きそうな上に病みそう。

時間を確認すると夜の七時半。もう三時間も作業を休憩なしでぶっ続けでしてるよ。目もチカチカしていて今すぐ寝落ちしたい。

コンコン。扉がノックされた。俺はどうぞ、と一言だけ言ってまた仕事に戻る。ガチャリと扉が開く音を鳴らしながら誰かが入ってきた。俺の視界はパソコンしか映っていないので、誰がきたかはわからない。

 

咲姫「まだ終わらない?」

 

咲姫だった。俺は何も言わずただ頷いた。そう、と短く返して、俺の隣に座った。

 

天「帰らなくていいのか?」

咲姫「天くんが終わるまで待つ」

天「後二時間は平気でかかるぞ」

 

ようやく昨日の分の仕事を終えて、今日やる仕事に移ったところだ。これも中々に面倒なので時間を取られるのが痛い。

 

咲姫「じゃあその間•••少し前の話をしてもいい?」

天「唐突だな。作業しながら聞くから話していいぞ」

咲姫「うん。私がPhoton Maidenのオーディションを受けに行った日、帰りに不良みたいな男の人に絡まれた事がある」

 

いきなり重そうな話が出てきたんですけど•••え、何、咲姫その人たちに襲われたとかそんな話題?だとしたら襲ったやつ今すぐ殺すけど(過激派)。

 

咲姫「私は怖くて何も言えずに動けなかった。でもその時に、誰かを探してた人が助けてくれた」

 

•••••••••んー?なんか妙な覚えがあるぞ?待てよ?Photon Maidenのオーディションがあったのって四月の初めだよな?その時は中堅俳優のマネージャーをしてた筈だ。なんか知らん間にどっか行ってる面倒な人だったのは覚えている。

 

咲姫「その人はすごく必死で、私に構ってる余裕もなかったみたい。不良みたいな人のターゲットが私からあの人に移って、不良を倒してすぐに走っていった」

 

あー?なんか少しずつ思い出してきたぞ。確かに担当の俳優を探している途中で男に絡まれて殴り飛ばしたのは記憶している。え、もしかしてその時に咲姫いたの!?待て思い出そう。

 

天『はぁ、はぁ、はぁ•••あの人何処行ったんだよマジで•••!いつもいつも気がついたらいないし•••』

 

荒く息を吐きながら街中を俺は走る。人が多い所為もあってその担当を探すのはかなりの労力を使った。でも見つけないと今後の話とか何もできないから必死になって探す。

 

天『あっ』

 

ドンっと知らない人にぶつかってしまった。ぶつかった人は鋭い眼光を俺に向けた。

 

不良A『なにぶつかってんだコラァ!?』

天『すみません。人を探していて焦っていました』

不良A『謝って済むならなぁ!警察なんかいらねぇんだよ!こっちは骨折れてんだぞ!慰謝料払っつってんの!』

 

うっはぁ、面倒なのに絡まれたなぁ••••••。やる事あるのに一々面倒事引き起こすのも怠い。何とか平和的に解決したいところだが••••••。

 

不良B『ほら、お嬢ちゃん。俺たちと楽しいことしようか?』

少女『•••••••••』

 

いかにも怯えた様子の女の子が絡まれていた。うーんこれは見過ごせないかなぁ••••••。手荒な真似になるが仕方ない。俺は拳を男に叩き込んだ。

 

不良A『ぶべっ!?』

不良B『トモくん!?』

 

男は一発でダウンした。••••••うっそだろおい。そんな強そうなナリしてワンパンKOはいただけないのだが。

 

不良B『なにすんだテメェ!』

天『ほい』

 

殴る体勢に入った瞬間に鳩尾に拳を叩き込む。男は咳き込みながら蹲った。

 

天『んー•••やっぱり暴力はダメだなぁ•••スッキリしねぇ。というかさっさと探さないと!何処行きやがった!』

少女『あ、あの•••』

天『ん?』

少女『あ、ありがとうございました••••••』

天『あぁ、はい。気をつけて帰りなよ』

 

構ってる余裕もないので俺は走り出した。ちなみに担当を捕まえたのはそれから一時間が経った頃だった。

 

•••••••••咲姫と話の内容バッチリ合ってやがる••••••。嘘だろ?俺、知らん間に咲姫と会ってたよ。

 

咲姫「私はずっと助けてくれたあの人の事を探していた。そうしたら、転校先に•••あなたがいた」

 

咲姫は真っ直ぐに俺を見つめる。名前も知らない恩人をようやく見つけて、安堵した顔だ。

 

咲姫「あの時のお礼をずっと言いたかった••••••天くん、ありがとう••••••」

天「いや、すまなかった。あの時、咲姫って知らなくて」

咲姫「ううん、必死だったのは知ってるから、大丈夫。再会できた事が何より嬉しい」

 

でも咲姫はどうして急にこんな話を持ちかけてきたのだろうか。

 

咲姫「あの時から、私にとって天くんは大事な人なの••••••」

天「••••••え?」

 

大事な人の正体って、俺!?じゃあ、料理勉強して振る舞いたい大事な人って俺なの!?

咲姫の顔は赤かった。ずっと閉じ込めていた想いを解き放って、スッキリしたというような顔ではない。それとはまた違う、何かの決意を抱いたような顔だ。

 

咲姫「私、天くんにまた会えた時からずっと伝えたかった。名前も知らない私を助けてくれたあの日からずっとずっと•••天くんの事が•••好きです」

 

告白だった。周りに人がいない静かな空間で、咲姫の声は一言一句聞き逃す事なく俺の耳に響いた。

•••俺が答えを返す番だ。いや••••••俺の答えは既に決まっていた。彼女を可愛い、なんて思ってた時から、俺は負けていたんだ。

 

天「俺も咲姫の事が好きだ•••俺と付き合って欲しい」

咲姫「••••••はい•••」

 

その時、小さな衝撃がやってきた。咲姫が俺に抱きついたのだ。身体が気持ち悪くなるが、前と比べたら全然マシだ。俺も抱きしめ返し、咲姫の頭を撫でる。

 

咲姫「天くんのなでなで、気持ちいい•••」

天「ん。それはよかった」

 

俺の身体も少しずつだが耐性がつき始めてきた。いずれは何処を触れられても大丈夫なようになる日を願おう。

 

天「それじゃ、残りの仕事頑張って終わらせるか」

咲姫「終わるまで待ってるね」

天「あぁ。すぐに終わらせる」

 

お互いに頷き、俺は作業に戻った。横で咲姫が応援してくれたのもあって、一時間で終わらせる事ができた。愛は人を強くする。まさしくその通りだった。




感想、評価、お待ちしております。ドシドシ送ってくださいね。エロゲしながら待ってます。


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登校デートはロマンって古事記にもそう書かれてる。

UA3000&お気に入り数50突破ありがとうございます!二週間でここまでは普通におっそいかなぁとは思いますけどありがとうございます!ホント嬉しいです!後毎回感想くれる兄貴愛してるぜ!(突然の告白は投稿者の特権)


天「咲姫と付き合う事になった」

月「••••••マ?」

 

突然の俺の報告に、月は無表情で首を傾げた。そして堪えきれなくなったのか、とびきりの笑顔になった。

 

月「ううううぅぅぅぅぅぅ••••••やったあああぁぁぁ!!!お兄ちゃんと咲姫さんが付き合い始めたーー!今日は赤飯だね!おっせきっはん♪おっせきっはん♪」

天「たかだか交際始めただけで騒ぎすぎだろ••••••」

月「騒ぎたくもなるよ!恋愛に興味なくて音沙汰一つなかったお兄ちゃんが、ついに••••••彼氏を作ったんだね••••••!」

天「しれっと彼女の部分を彼氏に変えてんじゃねぇよ。俺はホモじゃない」

月「え違うの?」

天「違ぇよバカか」

 

さっきまでの歓喜は何処へやらと、俺と月はいつも通りの兄妹トークを繰り広げる。ここまでいつも通りの日常となると、本当に咲姫と付き合ったのか怪しくなる。実は夢なんじゃねぇの?

 

月「ということは、いずれお兄ちゃんか咲姫さんの家でセックスするって事だね。その時は連絡してね?家空けるから」

天「まだ付き合って二日目なんだけど?そんなスラスラと関係進むわけねぇだろ」

月「でも一部では付き合った瞬間にヤるって人もいるよ?」

天「それ二次元だけの話じゃなかったのか!?」

 

そんな突拍子もない事をする人間が現実にいたとは••••••(戦慄)。俺は世界の闇を感じた。当人の問題なのに世界にまで発展するのは池沼(定期)。

 

月「でもこれで安心だねー。まだ神山の血が途絶える事はないみたいだし」

天「別に俺に相手ができなくても月がどうにかするだろ?お前モテモテなんだし」

月「えー?私結婚するなら石油王かイケメン俳優がいいー!お兄ちゃん紹介してー!」

 

なんでこいつはそんな無理難題のようなワガママを申すのだろうか。それか遠回しの恋愛否定か。というか今まで担当してきた俳優の連絡先なんて消してるから知らんわ。

 

月「無能め」

天「俺の心の中読むのやめろって」

 

月は相変わらず月だった。キャーキャー悲鳴を叫んでいたのに一瞬で真顔になって毒を吐く。女怖。

 

制服を着て、俺は鞄を肩に担ぐ。一階に降りてリビングに顔を出す。

 

天「んじゃ行ってくるわ」

月「はーい、行ってらっしゃい」

 

月が笑顔で手を振ってきたので、俺も小さくだが振り返した。そして玄関を開けて登校しようとしたらーー、

 

咲姫「おはよう、天くん」

 

咲姫が立っていた。え、インターホンとか何も鳴らなかったよな?でも咲姫が俺が家を出る時間を把握してるなんてあり得ないし••••••まさか。

 

天「咲姫•••どのくらい待った?」

咲姫「二十分くらい?」

天「次からは俺の家来たらインターホン鳴らせ••••••中に入れるから」

咲姫「うん、わかった」

 

微笑みながら咲姫は頷く。今までだったら普通に流してきてたのに、付き合い始めた所為だろうか。その表情の変化一つだけで可愛いな、と思ってしまう。

咲姫と二人で登校するのは何気に初めてかもしれない。だが会話はない。

 

天「••••••••」

咲姫「•••••••••」

 

うーんこれはマズイ。このままだとお互いに会話がないまま学園に着いてしまう。そのような事態は避けたい。

ピトリと、何かが手に触れた。隣を見ると、咲姫は顔を赤くしながら、俺の手に自身の手をくっつけていた。あぁ•••そういう事••••••。

俺は咲姫の手を優しく握った。

 

咲姫「あっ•••えへへ」

 

とても嬉しそうだった。つられて俺も少し笑ってしまう。

 

咲姫「こうしてると、付き合ってるって感じがする」

天「それはそうだが•••あーんとかのやつは普通付き合ってからするものだと思うが?」

咲姫「••••••今はもう付き合ってるから大丈夫」

 

ムスッとした顔を向ける咲姫。うんまぁ、確かに今の関係になったら、過去の事なんて少しどうでもよくなる。俺もこれ以上は意見を言わなかった。

 

天「今日も屋上で昼飯食べるか?」

咲姫「うん、食べる」

 

コクリと頷く。そして俺の手を握り直した。

 

咲姫「今日からどこでもあーん、できるね」

天「そっ、そうだな•••!」

 

忘れていた。今までは二人きりの時はしていいと言っていたのが残っていたが、今はお互いに恋人同士だ。何処で誰の目に止まろうと関係なくイチャイチャできるのだった。

俺、咲姫の事を甘く見ていたようだ。まさかここまで周到に立ち回ってくるとは思わなかった。

 

咲姫「今日、みんなに報告しないと」

天「あぁ••••••。ちゃんと言っておかないとな」

 

••••••特に乙和さんには、必ず言わないといけない。咲姫と付き合ったのだから、乙和さんには断って謝らないといけない。少し胸が痛むが仕方のない事なんだ。そうでないと、俺自身が後味の良くない今後一生後悔する傷を残すことになる。

 

咲姫「•••不安なの?大丈夫。みんな、きっと認めてくれる」

 

あっ、そうだ。咲姫には俺の感情とか見られるんだった。あまり暗くなるのは彼女の為にもよくない。俺は静かに頷いた。

 

登校してみれば、みんなが俺たちの姿を見てビックリ仰天していた。今度仰天ニュース見よっかな。俺には男子が、咲姫には女子が群がった。

 

男子生徒A「おおお、お、お前!?出雲さんと付き合ったのか!?」

天「あぁ。色々あって、付き合う事になった」

焼野原「はー、いいなぁ。出雲さんみたいな美少女と付き合えるなんて•••羨ましいぜ!死ね!」

 

焼野原くんも、最後は余計ながらもしっかりと祝福してくれた。でも大半は羨ましい、嫉妬とかの感情だらけだったが、それでも俺と咲姫の交際を喜んでくれた。

 

女子生徒A「出雲さんおめでとう!神山くんと付き合えるなんてすごいよ!」

咲姫「ありがとうございます」

女子生徒B「でも出雲さんにもついに彼氏かぁ•••見た目だけみたら百合ップルぽいけどね」

咲姫「天くんに怒られても知らないよ?」

女子生徒B「おっとそうだった。神山くん女扱いされるの好きじゃないもんね」

 

でも咲姫たち女子組の方は話がかなり長くなりそうだ。俺は男子生徒の何人かに絡んで、いつもの様に談笑を始めた。

 

昼休みになって、俺は咲姫に手を引かれて屋上へ向かった。いつもなら、俺が先に歩いてその後から咲姫が追いつくのだが、今日はその逆だった。意外と珍しいような気もする。

咲姫の弁当はまだ歪ながらも、昨日よりも多少はマシになっていた。そして付き合い始めたからこそ、彼女のアタックは加速していた。

 

咲姫「はい、あーん」

 

さっきからずっと自分の弁当を俺に食わせている。だから俺も弁当の中身を咲姫にあげているのだ。最早交換弁当だ。

 

天「卵焼きが塩っ辛い•••元から俺に食わせるつもりだったな?」

咲姫「うん。天くんに私のお弁当、食べて欲しかったから」

 

恥ずかし気もなくそんな事言うの本当にズルイと思います。逆にこっちが恥ずかしくなるわ。でも咲姫は俺の弁当の卵焼きには苦い顔をする。それは変わりなくて安心した。

 

咲姫「やっぱり辛い•••」

天「無理して食わなくていいぞ?」

咲姫「せっかく天くんが食べさせてくれたのだから、食べる•••」

 

何もそこまでしなくてもいいだろうに•••苦い、どころか苦しそうな顔で咀嚼して飲み込んだ。そしてふぅ、と息を吐いてお茶を飲んだ。

 

天「大丈夫か?」

咲姫「大丈夫••••••」

天「いや全然大丈夫に見えないぞ」

 

背中をさすってやる。咲姫は少し落ち着きを取り戻してベンチに体重を預けた。

 

咲姫「次からは卵焼きだけ甘いのを作る•••」

天「その方がいい」

 

弁当箱を袋にしまって、俺はくつろぐ体勢に入る。大きく息を吸って、吐いた。身体の力が抜けていく感覚に襲われて、暖かい日差しもあって眠気も誘ってくる。

 

咲姫「天くん、眠たいの?やっぱり昨日のお仕事が•••」

天「まぁ、その所為で眠いかな•••今日も朝から囲まれて少し疲れたし•••」

咲姫「じゃあ、ここ•••」

 

咲姫は自身の太ももにポン、と手を置いた。俺は一瞬「?」と疑問符を浮かべたが、少しして察した。ほぅ、膝枕ですか。大したものですね(刃牙風)。一部の男の夢じゃん(他人事)。

 

天「いいのか?」

咲姫「うん。昼休みが終わる頃に起こすから、寝ていいよ」

天「じゃあ、遠慮なく•••」

 

俺は咲姫の太ももに頭を乗せる。柔らかい肉の感触が頭に伝わってきて何とも言えない心地になる。というか普通に気持ちがいい。

落っこちないように咲姫が身体ごと自身に引き寄せてくれているので、後頭部には制服越しとはいえ咲姫のお腹の感触もあった。

 

天「いいな••••••これ。今すぐ寝てしまいそうだ•••」

咲姫「我慢せずに寝ていいよ。疲れてるでしょ?」

 

咲姫が優しく俺の頭を撫でてくれる。いつもは俺が撫でる側なのに、撫でられるというのも存外に悪くなかった。

 

天「あぁ••••••おやすみ」

咲姫「うん、おやすみなさい」

 

俺は微睡に負けて、夢の世界へと旅立っていった。




感想評価お待ちしておりまーす!くれたら泣いて喜びますw


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心の傷の作り方

今週限定で部活に参加してましたが、今日終わりました!イェイ!死ぬかと思った!w三ヶ月ぶりの剣道は無理よ。鈍りに鈍ってたから後輩にボコボコにされてしまったw来週の土曜に去年だけいた若くて強い監督が来てくれるらしいのでまたその時に行って殺されてきますw


俺は柄にもなく緊張していた。これからPhoton Maidenのみんなに俺と咲姫の交際を伝える。何より心配なのは乙和さんの反応だ。いや、心配というより恐れている。彼女の今後次第ではPhoton Maidenが崩壊しかねない。俺はそれを危惧していて、本音を言うなら言い出したくなかった。秘密にしておきたかった。

だが咲姫は伝えたい、とあんな真剣な顔で言うんだ。だから断れない。本当に•••咲姫は強いよな。乙和さんから告白されてその返事をしないままにしてきた事、咲姫と付き合っている事を伝えるのが何より怖いことを言った。彼女は嫌な顔一つせずに、「大丈夫」と言葉を掛けてくれた。だから俺も頑張ろう。乙和さんならきっと大丈夫だろうと信じている。

 

咲姫「私たち、付き合う事になった」

衣舞紀「え•••?それ本当なの?」

咲姫「うん」

 

真っ先に衣舞紀さんが声を漏らす。それに対して咲姫は淡々と頷いた。

 

ノア「へぇー、天くんと咲姫ちゃんが。おめでとう!」

天「••••••ありがとうございます」

 

俺は静かに頭を下げた。そして、さっきから何も発言をしない乙和さんにも向かって、頭を下げた。

 

天「ごめんなさい、乙和さん。あなたとお付き合いはできません」

乙和「••••••うん。天くんが選んだんだよね?だったら私からは何も言わないよ」

 

思っていたより、乙和さんからの反応は薄かった。まるで分かっていたかのように、余裕のある対応をしてみせた。

 

ノア「えっ、乙和•••天くんに告白してたの?」

乙和「そうだよー。あの時は天くん、恋愛とか考えてなかったみたいで保留になってたんだよ」

 

ノアさんが無意識に爆弾を乙和さんに投げつけるが、それを軽く受け流すようにあの時の事を語った。でも••••••バカの俺でもわかる。乙和さんの心は少し濁っていた。少なからず、断られた事にショックを受けているはずだ。とても申し訳なくて、俺はこれ以上何もいえなかった。

 

天「••••••••••••」

咲姫「•••天くん」

 

咲姫が俺の手を握った。ハッとして咲姫に目を向けると、彼女は優しく微笑んだ。そうだ、今は、今だけはいつも通りに振る舞わないといけない。乙和さんが普段通りにしているのと同様に、俺もいつもの俺を演じなければならない。心の中で咲姫に感謝しながら、手を離した。

 

Photon Maidenのみんなは今レッスンをしている。俺は姫神プロデューサーに報告に来ていた。何って?もちろん咲姫と付き合った事だ。

 

天「この度、本事務所所属の出雲咲姫さんと交際をすることになりました。ご理解の程、よろしくお願いします」

姫神「•••そうか、あの子がな•••。私からは何も言わない、キミたちに任せる。それにキミはよく言っているじゃないか。『愛は人を強くする』と」

天「•••••••••そんなにベラベラ話した覚えはないのですが」

姫神「まぁ、キミと言うよりはキミの妹さん、と言った方がいいかな?」

天「月のやつホント余計な事しか言わねぇなぁ••••••」

 

あの愛嬌で場を和ませながらしれっと爆弾を投下してる光景が目に見えてわかる。家帰ったらとっちめるぞあいつ。

 

姫神「それと、キミに一つ訊きたい事があったんだ」

天「はい、何でしょうか?」

姫神「本格的に、うちの事務所の預かりにならないか?」

天「それは•••Photon Maidenの専属になれ、と言う事ですか」

姫神「話が早くて助かるよ。キミはあの子たちを信頼してるし、あの子たちもキミを信頼している。ここまで完璧なサポートと彼女たちの精神的なケアをできるのは、今後探してもキミ以上の者はいないと思ってな。みすみすこの機会を逃すわけにはいかないだろう?」

 

俺は今まで野良でマネージャーとして活動してきた。誰かを担当してほしい、と言われればすぐにオッケーを出していた。今はそれなりの立場があるから仕事を選べるようになったが、事務所に所属して専属になる、と言った事には前々から無視してきていた。

単純に一つを担当するというのは、その一つが滅びない限り別の担当に移れない。野良時代の時は一定の期間があったので、担当を転々としてきた。だからその場の対応力とか、そういった必要な事を手に入れる事ができた。今後の為にも、本当なら断って次の仕事に向けて準備をしなければならない。だが、俺はPhoton Maidenの「これから」を見てみたかった。その場で、自分の目で、自分の耳で、自分の身体で感じたかった。だから俺はーー、

 

天「わかりました。Photon Maidenの担当を続ける為にも、ネビュラプロダクションへの所属を希望します」

姫神「わかった。では今後とも、よろしく頼む」

天「はい、よろしくお願いします」

 

俺は頭を下げ、姫神プロデューサーと握手を交わした。これで俺は本格的にPhoton Maidenの担当マネージャーとして、地位を確立した。

 

その後は普通に仕事に移り、スケジュールの調整や、ライブの交渉等に時間を割いていた。流石に東京ドームばりのデカい規模は無理があったが、それでも一万人が入れるような規模には頼む事ができていた。いやー今までいろんな俳優担当して、ライブとかイベントとかに連れて行って実績をあげた甲斐があったってもんよ。これでも日産スタジアムに担当連れていったことあんだぞこの野郎(謎の強気)。

いやーPhoton Maidenもこれからどんどん忙しくなるなー。仕事持ってきて忙しくさせてるの俺だけども。なんか今日はやけにテンションが高い気がする。安心感、とかそういったものもないわけではない。Photon Maidenを離れる確率はほぼゼロになったのだから気分がいいのだろう(自己分析)。

 

天「これからもっとライブを成功させれば、Photon Maidenは頂点に近づく•••」

 

俺自身でも気持ち悪いな、と思うような笑みが漏れる。いかんいかん、平静を保たねば。こんな顔見られたら恥ずかしくて死ぬ。

 

咲姫「天くん、嬉しそう」

天「おほぁ!?」

 

後ろから咲姫に声を掛けられて飛び上がった。いつからいやがった!?というか気持ち悪い顔見られたー!

 

咲姫「もしかして、お仕事入った?」

天「あ、あぁ•••まぁまぁな規模のライブに参加できるようになったから楽しみにしててくれ。いや実際にライブに出るの咲姫たちなんだけど」

咲姫「せっかく天くんが用意してくれたのだから、頑張る」

 

強く頷く咲姫。俺はため息を吐いて椅子の背もたれに体重を預けた。

 

天「なんかすまないな。立て続けにライブの予定突っ込んでしまって。休まらないだろ?」

咲姫「大丈夫。ライブは楽しいから、お陰でレッスンを頑張れる」

天「•••そうか。咲姫は偉いな」

 

ぽんぽん、と優しく頭を叩いた。まだ仕事が残っているので、これだけにしてまた机に向き直る。

 

咲姫「もう少しだけ•••」

天「せめてレッスンが終わってからな。俺もまだ仕事残ってるんだし」

咲姫「•••わかった」

 

少しだけ不機嫌そうに咲姫は部屋を出ていった。俺は苦笑を漏らして、万年筆を走らせた。

 

レッスンも終わり、俺の仕事も終わった。真っ先に咲姫が俺の方にやってきて、一緒に家路につく。事務所を出た瞬間に咲姫は俺の手を握って歩きだした。

 

咲姫「••••••大丈夫?」

天「えっ、な、何が?」

咲姫「お仕事してる間、ずっと辛そうだった•••」

天「•••ははっ、咲姫には敵わないな••••••」

 

俺は咲姫の手を引いて、公園のベンチに座った。咲姫も隣に座る。

 

天「乙和さんをフッた時、すごく心が痛んだ。共感覚とか何もない俺でもわかるレベルに乙和さんが傷ついていて、耐えられなかった。あの人の目の前では普通を装えたけど、今は無理だ」

 

ズキズキと音を出しているかのように精神がゴリゴリに削れていくのがわかる。

 

天「乙和さんに恨まれてないか••••••怖い」

 

俺らしくない弱々しい声だった。必死に絞り出したような、小さな声。咲姫は一層強く俺の手を握った。

 

咲姫「乙和さんはそんな人じゃないから大丈夫。きっとわかってくれる」

天「•••そうであって欲しいな••••••」

 

咲姫はきっと、俺がその場しのぎの返答をしているのはわかっているだろう。心情が普通に見られるから今相当暗い色をしているだろう。

 

天「さーて帰るか。月が飯作って待ってるだろうしな」

咲姫「••••••うん」

 

咲姫は頷いて立ち上がる。俺も立ち上がって、咲姫の手を握ったまま歩いた。明日には•••普段通りになっておこう•••感情を押し殺すのなんて、いつもやってきたじゃないか。

 

時を同じくして、乙和と衣舞紀はショッピングモールに来ていた。乙和が衣舞紀に甘いものを食べたいと頼んで二人でやって来ていた。

 

乙和「ごめんねー衣舞紀。付き合わせちゃって」

衣舞紀「あまり甘いものは食べたくないのだけど•••今日ばかりは仕方ないわね」

 

衣舞紀は乙和の心情を十分理解していた。あの乙和がここまで頼るのだから、よほどの事なのだろうと覚悟も決めていた。

 

衣舞紀「それで、どうしたの?」

乙和「今は、一人でいたくないと思って。衣舞紀を巻き込んじゃった」

衣舞紀「•••••••••天の事?」

乙和「•••••••••うん」

 

静かに問い掛けた質問の反応は、これまた静かな応対だった。音もなく乙和は頷いた。

 

乙和「天くんも酷いよねー。みんながいる前でフるんだもん••••••でも、これで私の初恋•••終わっちゃったんだなぁ••••••」

 

ポタポタと地に乙和の涙が音を立てて落ちる。衣舞紀はそんな乙和を優しく抱きしめた。

 

衣舞紀「残念だったね••••••今は泣いていいわよ••••••その方がスッキリするでしょ?」

乙和「うん•••!うん••••••!う、ひぐっ、あぁ、あっ、ああああぁぁぁぁ••••••••••••!!」

 

乙和は衣舞紀の胸の中で泣き続けた。もうそれは長い時間。彼女の涙が枯れるまで、衣舞紀は乙和を慰め続けた。もしこの状況を天が知れば、きっと彼はもう立ち直れないだろう。それ程彼は、心が弱い男なのだ。

そしてこの事を彼が知る事は絶対にないだろう。この日の出来事は二人の秘密として墓まで永久に封じ込められるだろう。




というかいい加減バンドリの更新まだかよってツッコまれそうですけど書く気力湧きません()あ、感想と評価お待ちしておりまーす。土日にアインシュタインより愛を込めて終わらせないとなぁ•••(絶望)


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作者の存在デカ過ぎ案件

先日の話にはなりますが、二次創作の日刊ランキングで46位をいただきました•••。いや、もう、ホント、ありがとうございますとしか言葉が出ません。マジで泣きそうです•••こんなクソ小説を読んでくださり本当にありがとうございます!これからも投稿を続けていくのでよろしくお願いします!


一晩眠って、精神は大分マシになった。昨日ほど暗くはないし、今まで通りに接することもできるだろう。というかそもそも乙和さん自体が気にしてない風にしてたんだから、俺もそのように建前上とはいえ振る舞っておかなければ。

 

月「お兄ちゃーん。咲姫さん来てるよー」

天「•••あ?あぁ•••」

 

まだ寝ぼけている俺はゆるりとした返事だけをする。ベッドから出る気も起こらずにボケーっとしていた。そしてまた、コクリコクリと首が上下に動いて眠気を誘う。二度寝コース、入るかな•••。

そう思ってベッドに倒れようとしたところでーー、

 

咲姫「おはよう、天くん」

天「んおぉ!?」

 

いつの間にか部屋に来ていた咲姫が俺に声を掛けた。突然の事に驚いて飛び起きてしまう。

 

咲姫「やっぱりまた寝ようとしてた」

天「まだ眠いんだよ••••••。後三時間寝たい」

咲姫「それ、もう授業始まってるどころかお昼前の授業に入ってるよ•••」

 

苦笑を漏らしながら、咲姫は俺の背中を押してリビングへと連れて行く。月がニヤニヤしながら俺たちを見ていたが、俺は気にしないように至って普通を装って朝食をいただいた。

 

咲姫「今日は大丈夫そう」

天「んっ、まぁな」

月「••••••?どゆこと?」

天「月には関係ない事だから気にするな」

月「そう言われると気になっちゃうなー。ところで、二人はもうセックスしたの?」

天「ぶっ!!?」

咲姫「えっ!?」

 

突然月が核弾頭を俺たちに放ってきた。俺は噴き出し、咲姫は素っ頓狂な声をあげた。

 

天「急に何言ってんのお前!?」

月「いやだって、神山家の今後がかかってるんだよ?そりゃ気になるでしょ!」

天「だからって訊かないだろ普通••••••」

咲姫「••••••••••••」

 

呆れて声を漏らす俺に続いて、湯気が出るくらい顔を真っ赤にした咲姫がコクコクと頷く。一応そっちの知識はあるみたいだな•••耐性はなさそうだけど。

 

月「えー?セックスまだしてないのー?キスは?流石にしたよね?」

咲姫「し、してない••••••」

月「お兄ちゃんヘタレ過ぎない?愛想尽かされるよ」

天「飛び火がエグい」

 

月の当たりが最近強いような気がするのは兄の気の所為だろうか。咲姫はチラリと俺を見ながら、目が合った瞬間に逸らす。相当恥ずかしがってんなこれ•••。

 

咲姫「わ、私は•••天くんを嫌いにならない••••••」

 

言い返す部分そこかよと思ったが、嬉しかったので俺は何も言わなかった。

 

月「お兄ちゃんもだけど咲姫さんもヘタレ過ぎないですか?もっとガンガン行ってもいいと思うんですけどー?」

咲姫「天くんは、あまりそういうの好きじゃないから•••」

月「そうなんですか?」

天「そうだよ(便乗)」

月「お兄ちゃんうるさい」

天「植木鉢演出すんぞテメェ」

咲姫「うえきばち•••?」

 

咲姫は俺たちが何を言ってるのか分からず首を傾げた。

 

月「全くもう、付き合った瞬間にキス、セックスなんて常識でしょ?お兄ちゃんもエロゲやってるなら分かると思うんだけどなぁ」

天「いや俺エロゲやってないし。やってるのはこれ書いてる作者だし」

 

あの•••メタい話すんのやめよ?というか俺がエロゲーマーだって話ここでしてどうすんの?(作者)

 

月「なんだか天の声らしきものが聞こえたけど••••••ともかく!早く子供作って私を安心させて!」

咲姫「こどもっ!?」

天「気が早ぇよ!?」

 

やっぱ父さんの娘だなぁ••••••(呆然)。咲姫はまたより一層顔を赤くして俯いてしまった。月的には俺をイジるつもりだったのだろうが、かえって咲姫をイジめているように見えた。

 

天「というかさっきからセックスとか危ない事言ってるけど大丈夫なのか?」

月「大丈夫だよ。この小説R17.9だし」

 

だからメタいこと言うなって(二回目)(作者)。

 

月「なんか怒られた••••••」

天「ある意味この世界の支配者みたいな存在だしな••••••」

 

その気になれば、バ◯オハザードばりのゾンビパニック引き起こして恋愛小説から銃撃戦小説に急旋回させる事も可能やで?(作者)

 

天「いやお前それやったところでだろ」

 

はい•••すんません••••••(作者)。

 

咲姫「さっきから誰と話してるの•••?」

 

咲姫が不思議そうに俺たちを見ている。あ、作者の声って俺や月みたいなオリキャラ勢にしかわからないのか。まぁ本来なら俺たちはこの世界にいなーー、

だからメタいっつってんだろ(キレ気味)。いい加減にしないと読者から作者はよ消えろって言われそうだからさっさとこの話から離れてくれ(作者)。

 

月「もうお兄ちゃんと作者さんの会話だけで一話分書けそうだね••••••」

天「悲しいなぁ•••」

 

月の苦笑に対し、俺は力なく笑った。

 

俺と咲姫は手を繋ぎながら、通学路を歩いていた。だが咲姫は顔は赤くはしてないものの、頬はまだ朱色に染まっていた。チラチラと俺を見ながら、握る手をモゾモゾと動かしている。

 

天「どうしたんだ?」

 

耐えられなくなって、咲姫に訊いてみた。少しだがビクリと肩が跳ねたのを俺は見逃さなかった。

 

咲姫「つ、月ちゃんのアレが••••••気になって」

天「あー•••月のやつに関しては気にしないでくれ。別に他人から急かされてするもんでもないだろ?」

咲姫「そ、そうだね••••••」

 

顔を逸らした。俺は微笑んで、彼女の頭を撫でてやる。

 

天「俺たちは俺たちのペースで関係を進めればいい。そこに誰かの言葉なんていらないさ」

咲姫「••••••うん。私たちらしくしていこう。今日の天くん、カッコいい」

天「•••急にそういうこと言うのはズルい•••」

 

今度は俺が顔を赤くする番のようだった。咲姫はクスリと笑って、一度手を離してから指を絡めるように握った。所謂恋人繋ぎというやつだ。

 

咲姫「天くん、好き」

天「•••俺も好きだ」

 

朝からこんな恥ずかしい事をするのは嫌いだ。だけど咲姫が相手なら、自然と嬉しかった。気がつけば顔の赤さなど消えていて、笑みを零していた。




感想評価、お待ちしています!さて、今日明日でアインシュタインより愛を込めてが終わる気しなくなってきたんだが••••••徹夜かなこれは••••••(絶望)。


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だから好きになった

なんか今日寝て過ごしてばっかりだったな•••小説の方は書いてましたけどそれ以外は本当に全く何もしていなかった•••明日から体育祭と文化祭の準備があるし、こりゃ死ぬなー()


今日は気分を変えて、学園内にある庭の喫茶店にあるようなテーブルと椅子を拵えた所へ赴いた。流石に毎日屋上は飽きる。人目を気にしなくていいという利点はあるが、それでも飽きるものは飽きる。

椅子に座って弁当箱を広げた。相変わらず咲姫の弁当は少し崩れている。

 

咲姫「あーん」

 

以前の咲姫ならこんなことはしなかったが、今は恋人同士だ。人目があろうとなんだろうとお構いなしにやってくる。そして相変わらずの交換弁当スタイル。ちなみに卵焼きだけは甘いのを咲姫の為に用意しておいた。

 

天「••••••流石に少し気になるな••••••」

 

俺と咲姫の光景は珍しいようで、周りからの視線が集まっているのがひしひしと伝わってくる。

 

咲姫「私たちは付き合ってるから、気にしなくてもいいと思う」

天「いやまぁそうなんだろうけどさ。どうしても気になるんだよ」

 

他人の目を気にしていても他人は大して見ていないと言うが、あまりにもわかりやすく見られているのでなんだかこそばゆい。

 

猫「にゃー」

天「ん?」

 

動物の鳴き声がして下を見ると、猫が近くにやってきていた。もしかして学園内に迷い込んだのか•••?

 

咲姫「猫••••••」

 

咲姫の視線が猫に釘付けになった。とりあえずどうにかして学園の外へ帰さないとな。いきなり抱っこはキツいだろうから、まずは慣れさせないと。

俺は手を猫の目の前に出した。猫は興味あり気に俺の手を見たり、匂いを嗅いだりしている。多少慣れ始めた頃を見計らって、顎に指を走らせた。

 

天「ゴロゴロ言ってる•••」

猫「にゃーん」

 

とても気持ち良さそうな顔をしている猫が可愛くて、更に頭も撫でてやる。あー気持ちいい。モフモフ最高だぜ。

さて、そろそろかな。俺は猫の身体に腕を持っていき、抱き上げた。結構大人しいな。暴れないし降りようともしない。

 

猫「にゃー♪」

天「お、なんだ?抱っこされるの好きか?」

 

猫の嬉しそうな鳴き声が可愛くて、俺もつい笑ってしまう。

パシャッ。

 

咲姫「••••••」

天「おい、今撮ったよな?」

咲姫「うん、可愛かったから」

 

それは••••••猫の事だよな?猫だよな?なぁ?(疑心暗鬼)

 

天「咲姫も触るか?」

 

すっかり俺の腕の中で大人しくなった猫を咲姫に向ける。咲姫は頷いて、恐る恐る慎重に猫に触れる。

 

咲姫「可愛い•••」

天「ホント大人しいなこいつ。飼い猫じゃないだろうな?」

咲姫「でも首輪とかしてないし•••野良かも」

 

でも飼い猫みんながみんな首輪をしているとは限らないしなぁ••••••飼い主がいるならそれにこした事はないが。

 

天「とりあえず学園の外に運ぼう。ここにいてもいずれ追い出されるし」

咲姫「うん、そうしよう」

 

俺は猫を撫でながら校門の外まで出る。そこで猫を降ろすが、肝心の猫は俺にべったりくっついて離れない。

 

天「こらこら、いつまでも俺の所にいるなよー」

 

それでも可愛いからつい甘やかしてしまうのだけど。猫って可愛いよなーいいなー。飼いたいけど、うちペット禁止だからなぁ•••もしこいつが野良なら今すぐお持ち帰りしたいところではあるのだが••••••。

 

咲姫「•••••••••むぅ」

 

ずっと猫と遊んでいる所為か咲姫が不満そうな顔で俺を見ている。

 

天「咲姫も猫と遊びたいか?」

咲姫「今はいい」

 

なんか拗ねてる•••?少し不機嫌そうにそっぽを向いた。っと、これ以上猫と遊んでたら昼休みが終わってしまう。

 

天「悪いな。もう遊べない」

猫「にゃぁ?」

 

猫は首を傾げて座っている。少し申し訳なさを感じつつ、俺は咲姫の手を引いて学園内へ戻った。

 

天「はぁー、猫に触ったの久しぶりだなぁ•••相変わらずモフモフで可愛かったぁ」

 

まだ手に残る猫の感触が愛しい。できることならもっとモフりたかった。

 

咲姫「••••••••••••」

天「•••どしたの?」

 

ずっと黙ってる咲姫に俺は嫌な予感を感じて声を掛ける。咲姫は俺の制服の裾を握って上目遣いで俺を見た。

 

咲姫「猫の相手ばかりで私のこと見てなかった••••••」

 

•••猫に嫉妬したのか、この可愛い恋人は。俺はたまらず噴き出してしまった。

 

天「ぶっふぁ•••!いくら何でも猫にヤキモチ焼くのはすごいな••••••!」

咲姫「ーーッ!わ、私は本気•••!」

天「あぁ、悪い悪い。ちゃんと咲姫の事も見てるから」

 

猫を撫でた時と同じように、咲姫の頭を優しく撫でる。それで少し機嫌が良くなったようで、表情が柔らかくなった。

 

男子生徒D「なんかめっちゃイチャついてるんですけど!?」

男子生徒E「あれ、一年生の出雲と神山だよな•••?付き合ってたのか•••」

ノア「カワイイの極み•••!」

男子生徒D「福島!?」

 

なんかあっちの方にノアさんいるやんけ。声掛けようかなと思ったが、座って飯食ってる男の人になんか熱弁してるっぽいのでほっといた。

 

咲姫「ギュってしてほしい•••」

天「ここでは無理」

 

俺が恥死するのでお断り願った。またムッとした顔をされるがお前はいいのかそれで。恥ずかしくないの?ねぇ?

 

天「というか早く飯食べないと昼休み終わるぞ」

咲姫「そうだった•••急ごう」

 

まだ多少時間はあったので、急ぎながらもお互いに弁当を食べさせた。もうこれバカップルだろ。なんか急にすっごい恥ずかしくなった。

 

今日の仕事はパッと終わったので、咲姫たちが終わるまで仕事部屋で音楽を聴きながら目を閉じていた。俺はPhoton Maidenのマネージャーだが、だからと言って必ずユニットの曲を聴いているわけではない。俺にだって音楽の趣味はある。わざわざボーカルアルバムを買ってまで聴く程にはハマっているのだ。大体は月課金制のストアですませるけど。

 

天「••••••朝まぁだぁーきぃ弾ぅむぅ•••鳥の声••••••」

 

つい口ずさんでしまう程にハマっている曲だってある。ちなみにこの歌詞だけで何の曲かわかったらすごいよ。ヒントは作者の趣味から探して。

 

天「(••••••朝月にからかわれたやつがまだ残るな••••••)」

 

キスとかの催促が頭の中にこびりついて離れない。いや、本当はキスしたいよ。恋人なら当たり前のようにするのだから、ねぇ?セックス?それはまだまだ先のお話でしょ。

 

ノア「天くん、寝てるの•••?」

天「えっ•••?あぁ、ノアさん。休憩ですか?」

ノア「そうだよ。天くんは何してるの?」

天「今日の分の仕事が終わったので、音楽を聴いていました」

 

俺は淡々と答える。決して音楽を聴くのを邪魔されたからイラついているわけではない。単純に眠たいからだ。さっきも、ノアさんに声をかけられなければそのまま寝落ちコースを辿っていただろう。

 

ノア「だったら帰っても大丈夫なんじゃ?」

天「咲姫待ちです」

ノア「あぁ、咲姫ちゃんね。ちゃんと終わるまで待ってあげてるんだ、優しいね」

天「勝手に帰ったって知れば絶対機嫌悪くしますから、咲姫は」

ノア「確かにそうかも。咲姫ちゃん、天くんと付き合い始めたからなのかな?一段とカワイくなった気がするんだよね」

 

ノアさんは思い出したかのようにそのような言葉を口にした。俺はわかるようなわからないような、そんな微妙な反応しかできなかった。

 

ノア「天くんに気に入ってもらう為なのかはわからないけど、やたらと天くんの理想になろうとしてるなぁ、とは思うの」

天「あぁ、そういう••••••だったら咲姫に言っといてもらえますか?」

ノア「いいよ。何て伝えればいい?」

天「『俺は咲姫を好きになったんだから、俺に合わせて変わってしまったらそれは違う存在だ』と、お願いします」

ノア「おぉ•••なんかカッコいいね天くん••••••」

天「そうですか?俺は出雲咲姫を好きになったんです。俺の理想は今の咲姫だから、変わってしまう方が困りますよ」

ノア「咲姫ちゃんの事、大事にしてるんだね」

天「当たり前じゃないですか、大事な恋人なんですから」

 

俺は少し笑いながら言葉を返す。ノアさんもそれに釣られたのか、笑った。

ノアさんは部屋を出て行った。俺はヘッドホンを装着し直して、また音楽へと耳を傾けた。

 

あれからどれくらいの時間が経っただろうか、知らない内に夢の中へと向かっていた俺は、目を開ける。

 

咲姫「あっ」

 

目の前には咲姫の顔があった。かなりの至近距離で、あと少し近づけばくっついてしまう程だ。

 

天「俺、どれくらい寝てた?」

咲姫「天くんがいつ寝たかはわからないけど••••••私たちのレッスンが終わるまでは眠ってたみたい」

天「あ、じゃあ他のみんなはもう帰ったのか」

咲姫「うん、スタッフさんとかはまだ残ってるけど」

 

俺は椅子から立ち上がって身体をゴキゴキと鳴らす。座りながら寝てたから身体が少し固まっているようだ。

 

天「んじゃ、帰りますかね」

咲姫「うん」

 

俺が差し出した手を、咲姫は握った。二人で事務所を出て、帰路に着く。

 

咲姫「天くん、ありがとう」

天「急にどうした?」

 

突然の感謝の言葉。俺は訳がわからず頭に疑問符を浮かべた。

 

咲姫「ノアさんから聞いた。『天くんは今の私を好きでいてくれるから、変わらなくていいよ』って。それがすごく嬉しかった」

天「なんだそんな事か。そりゃなぁ。今の咲姫を好きになった訳なんだし」

 

するり、と咲姫の手が俺から離れた。数歩前に出てそれに反応したのでそこから身体を振り向かせた。月の光に照らされている咲姫はとても綺麗で、どこか神秘的なモノを感じさせた。

 

咲姫「私、天くんの恋人でよかった••••••」

天「な、何だよ、恥ずかしいだろ•••」

 

そんな真っ正面から言われるのは慣れない。少し顔を赤くして逸らしてしまう。その直後に俺の身体に衝撃が走る。咲姫が俺に抱きついたからだ。

••••••俺の身体、完全に耐性ができたな。感覚が暴走していない。もしかしたら咲姫だからここまでされてもセーフなのかもしれないが、今はそんな事はどうでもいい。咲姫を抱きしめ返して、後頭部を撫でる。

 

咲姫「ずっと大好きだよ、天くん」

天「あぁ。俺もだ、咲姫」

 

そしてどちらからでもなく、俺たちは唇を重ねた。咲姫の唇はとても柔らかくて心地が良かった。

 

咲姫「んっ•••ちゅ、ん」

 

そんなすぐには終わらせるつもりもないようで、咲姫はどんどんがっついてくっついてくる。俺も仕方なくそれに付き合って、お互いに満足するまでキスをし合った。




感想評価、お待ちしております!高評価してくれた方には私作者のグラビア写真(嘔吐案件)を差し上げます()


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ライブの後に•••

文化祭の出し物作り終わんねぇ!wヤバいこれマジで間に合う気がしないwww体育祭の練習と並行してるから尚のことヤバい!www


迎えたライブ当日。俺はマネージャーとしてライブの主催者等の挨拶周りをしていて、Photon Maidenの相手ができない。本来なら彼女たちの精神的ケアをしなくてはいけないのだが、デカい会場のお陰で一人一人に挨拶するのがすっげぇ大変だ。

 

天「会場騒がしいなぁ•••まだ一人目が始まったばかりだろ••••••」

 

まぁ、ライブなんて騒いでなんぼだしな。その方がアーティスト側もテンション上がってなおいい。WIN-WINの関係の出来上がりだ。

 

天「後何人だっけ•••マネージャーはこれがあるのを除けば楽なんだけどなぁ••••••」

 

そうは言っているが、風邪ひいたときみたいに仕事を溜め込んで地獄を見るのは勘弁願おう。会場をチラリと見る。大量の光に照らされながら歌うアーティスト。その姿は素直にカッコいいと思えた。

 

天「(まぁ•••マネージャーなんて裏方は、日陰から抜け出せるわけないか)」

 

自分の立場は重々承知している。だからこそでしゃばった真似とか、問題になるような行動を一切しない。マネージャーの俺が問題を起こせば、担当にも迷惑が掛かる。とてもシビアな立ち位置なのだ。その癖担当が評価されるばかりでマネージャーは見向きもされない。

まぁ俺は目立つような事はあまり好きじゃないからそれでいいのだが。

それに、担当が有名になればなるほどマネージャーの仕事の忙しさは加速していく。それで鬱になってしまった人もいるくらいだ。一応俺にもそういった経験はあるからもう慣れっこだ。実際忙しすぎて鬱になりかけたし。だがこの経験が今の俺を形作っている。そう思えば、忙しく仕事をするというのも悪くない。

だけど挨拶周り、てめーはダメだ。

 

ようやく終わった、挨拶周り。少し疲れた様子で控え室に入る。

 

衣舞紀「お疲れ様ー。やっぱり疲れるもの?」

天「えぇ、疲れますよ。会場内走り回ってお偉いさん方に挨拶しにいくのは••••••変に話長引く時もあるし、どうでもいい話されるしでバカクソ面倒です」

 

憔悴しきった顔で俺は淡々と語る。あまり仕事の疲れとかは人に話さないのだが•••なんか話しても大丈夫なんじゃないかという気になってしまう。

 

乙和「まだ私たちの番先だし、お話しようよ!」

天「そうですね。すっごいどうでもいい話させられまくって気が滅入っているので、ありがたいです」

 

なんか、逆に俺が精神的にケアされてるような希ガス。まぁでも、彼女たちには助けられてる部分も少なからずある。それに甘える事も大事だと咲姫にも教えられた。だから俺は乙和さんの提案に乗ったのだ。

 

ノア「少し気になるけど、どういう話をしてきたの?」

天「あー•••自分の会社がどーたらこーたらとか、所属の人がどーたらこーたらとか、興味を全くそそられない内容でした」

ノア「いかにも天くんが嫌いそうな内容だね••••••」

 

俺の性格をある程度把握してるノアさんは、納得したように苦笑しながら頷いた。

 

天「でも、Photon Maidenを評価してくれる方もいて••••••その人の話を聞くのは、楽しかったです。終始みんなの事を褒めてくれて••••••すごく嬉しかったです」

 

担当が褒められる言葉というのは、マネージャーとして一番の褒め言葉でもある。それも、大好きなユニットの事となると尚更だ。

 

ノア「天くんの今の表情、カワイイ••••••」

天「植木鉢演出しますよ?(キレ気味)」

ノア「え、何それは•••」

咲姫「植木鉢をぶつける事って、月ちゃんが言ってた•••」

乙和「それただの暴力だよー。女の子に暴力はいけないぞー」

 

それはわかってるよ。わかってるけど、つい家にいるような流れで対応してしまう。慣れって怖いな•••。

 

衣舞紀「天も前以上に馴染んだよね。以前だったら話はしてもどうでもよさそうだったし」

天「え、そうですか?」

咲姫「うん。最初の頃は淡々と仕事をこなしているだけでお構いなしに帰ってばっかりだった」

天「あ、それは覚えてる」

 

仕事をバーっと終わらせてサーっと帰って寝てたなそういえば。単純に関わる気がなかったから、やることやってすぐに直帰してたんだよなぁ••••••。

 

乙和「それで今は毎日のように咲姫ちゃんと二人でラブラブ帰っているわけと」

天「今その話します•••?」

 

少し恥ずかしいのだが••••••。咲姫も少し頬を赤くしている。

 

ノア「カワイイ二人の反応が見られるなら、いくらでもその手の話をするよ?」

天「冗談抜きで勘弁してください」

 

あんまり俺を辱めないでもらいたいところだ。俺だって羞恥心くらいある。というかメッチャある。

こうやってワイワイ話すのもいいが、残酷なことに彼女たちの出番がやってきていた。

 

衣舞紀「じゃ、行ってくるね」

乙和「頑張ってきま〜す」

ノア「応援、よろしくね」

咲姫「••••••行ってくる」

天「あぁ、思いっきり暴れてこい」

 

咲姫の頭を撫でて、背中を押して送り出してやる。

俺は関係者席に移動して、遠くながらPhoton Maidenのパフォーマンスを眺める。実際にライブを見るのは何度目かわからないが、今日は一段と気合が入っているのを身体が感じ取っていた。

以前よりもダンスのキレは増しているし、歌声も綺麗になっている。俺はすっかり、彼女たちの姿に魅了されていた。

Photon Maidenの世界観は独特だ。神秘的で未来感があって。今までそういったものに触れてこなかったのもあって、好奇心というか、不思議なものを見て探究したい心が加速した。

 

天「やっぱり、すごいな••••••」

 

俺の語彙力ではこのような低俗な感想が限界だった。雑誌とか書く人なら「美しい演出を観客に響かせる華麗で可憐なる少女たち」とかくっさいセリフでも書くのだろうか。そういった文章力を惜しみなく使うのが仕事だしな••••••。おい作者、お前ほんと文章力ゼロだよな。

うるせー殺すぞ(作者)。

 

天「お前そんな野蛮な奴だったっけ」

 

普段はもっと大人しいわい。テンション上がってたりうざったい時はこうやって口が悪くなるの!(作者)

 

天「面倒な奴だな。はよ帰れよ。読者が逃げるぞ」

 

はい、すんません••••••帰ってエロゲします(作者)。

 

天「あいつエロゲ以外やる事ないのか••••••?」

 

作者の趣味を疑ってしまうが、名前とか普段のツ◯ッターの言動的に剣道と竹刀好きなのは確かなようだ。

俺には関係ない話だけどな、と頭の片隅に追いやる。視線を、意識を、集中を、全てを彼女たちに注いだ。

 

ライブは無事に終わった。結果を言えば、大成功だ。文句なしの出来栄えで、努力の成果を十二分に発揮することができただろう。

これから打ち上げということで、五人でファミレスを訪れる。ちなみに今日はそんなに食べたい気分じゃないので、普通通りの食事をするつもりだ。

 

天「ライブ、お疲れ様でした。乾杯」

衣舞紀•乙和•ノア「かんぱーい!」

咲姫「か、乾杯•••」

実際にライブをしたわけではない俺はテンションが上がりきっていなかった。普段の口調で音頭を取ったが、全員しっかりノッてくれた。が、相変わらず咲姫は思い切り声を出すはずもなく、小さかった。

それぞれ全員に料理とドリンクは行き渡っているので、各々で勝手に食べ始める。

 

天「はむ、あぐ、あむ、もぐもぐ••••••」

衣舞紀「相変わらず、食べるのが早いわね••••••」

天「ここの飯美味いですから」

乙和「そんなに急いで食べたらすぐになくなっちゃうよー?」

天「余裕があれば追加注文するので大丈夫です」

咲姫「またいっぱい食べるの•••?」

天「流石にあの時みたいには食べないさ。よっぽど腹減ってない限りは」

 

それでもバクバクとどんどん食べ物を口の中に放っているわけで、皿の上はどんどん白くなってきていた。

 

咲姫「私の、食べる?」

天「咲姫も腹減ってるだろ?遠慮せずに食え」

ノア「じゃあ私のをあげよう」

乙和「それオクラじゃん。ノアが食べたくないだけでしょ?」

ノア「うっ、バレたか•••」

 

自分の嫌いなもの俺に押し付けようとしていたのかこの人••••••。いち早く乙和さんがカバーしてくれて助かった。

 

衣舞紀「逆に天は何でも食べるわよね。偉いわ」

天「苦手な食べ物ないですから。見た目があまりにも酷かったら食欲失せますけど」

乙和「見た目次第か〜。じゃあ、ジャ◯アンシチューとかは?」

天「見ただけで吐く自信があります」

 

あんなこの世のものとは思えない見た目のシチュー、実際に見たら吐きはしなくても気分が悪くなる人は一定数いると思う。

 

乙和「デザートは?もちろんいくよね?」

天「当たり前じゃないですか。ここのパフェ美味いですし、2つくらいいこうかな、と思ってます」

ノア「デザートで本気を出すのは変わらずなんだね••••••」

 

引きつった笑みをしたノアさんが呆れたような目で見てくる。飯関係になるとあんた毎回その顔するよね()

結局、パフェは二つでは止まらず、三つ目までキメた。ここのパフェ美味スギィ!中毒になりそうだ。これは合法薬物ですね間違いない。

 

みんなと別れて、俺と咲姫の二人で家まで足を運んでいた。突然携帯が鳴って取り出すと、月から連絡がきた。

 

月『今日は友達の家に泊まるので、一人で寂しく過ごしてください。月より』

 

ウザい言い回しするなぁこいつは。珍しく今日の夜はボッチとなった。アーナキソ。

 

咲姫「月ちゃんから?」

天「あぁ。友達の家に泊まるらしい」

咲姫「じゃあ今晩は天くん一人?」

天「そうだけど」

咲姫「••••••泊まってもいい?」

 

••••••は?今なんつった?泊まる?咲姫が?うちの家に?•••••••••マジかよ。

 

天「今からはご両親が困ると思うけど」

咲姫「衣舞紀さんの家に泊まると言えばきっと大丈夫。それに私、一人暮らしだから」

天「え!?そうなの!?」

 

聞くところによれば、Photon Maidenに加入した際に上京して事務所が借りている家に住んでいるとのこと。というか離れてるのに確認とかとるのか、律儀だな。

 

天「え、前まで弁当とか誰が作ってたんだ?」

咲姫「あれは衣舞紀さんが作ってくれてた」

天「へぇー、衣舞紀さんの弁当また食ってみたいかも」

咲姫「•••••••••」

天「冗談だ」

 

ムスッとした顔をされたのでヘラヘラ笑って誤魔化した。

家に着き、俺は玄関に手を掛けて咲姫の方を振り向く。

 

天「本当に来るのか?」

咲姫「うん」

 

ただ頷いた。これは来るな••••••親の静止振り切ってでも強引に来るやつだ。

 

咲姫「お風呂、天くんの家のを使ってもいい?」

天「あぁ、いいぞ」

咲姫「一緒に入る••••••?」

天「恥ずかしいから無理」

 

一緒に風呂なんてむりむりむりむりかたつむり。俺の精神が異常きたすレベルにダメだそれは。

 

咲姫「じゃあ一緒に寝る」

天「そぉっ•••れはぁ•••だ、大丈夫•••だよな?」

 

風呂だとお互いに裸になるからダメなんだ、恐らく。寝る時はパジャマなり何なり服を着るからいいんだ、多分。

 

咲姫「すぐ行くね」

天「ん、わかった。玄関開けとくから勝手に入ってくれ」

咲姫「わかった」

 

咲姫は急ぐようにして自分の家へと向かっていった。俺は風呂を沸かして、その間に荷物を自室にしまっていく。

風呂が沸いたのと同時に、インターホンが鳴った。なんてタイミングの良いこと。というか勝手に入っていいって言ったんだから、一々インターホン押さなくてよかったのに()

 

咲姫「お邪魔します•••」

 

遅い足取りで警戒するように家の中を進む咲姫。二階から降りて顔を出すと、安心したように表情が柔らかくなった。

 

天「今風呂沸いたんだが、先入るか?」

咲姫「いいの?」

天「あぁ」

 

俺が頷くと、咲姫は遠慮せずに風呂場へ直行した。その間に明日の準備だとかを済ませて、咲姫が風呂から上がるのを待った。

 

咲姫が上がった後に俺も風呂に入った。すぐに身体を洗って上がり、自室に入る。

咲姫はクッションに座っていた。俺はそれに合わせるように向かいにあるクッションに座った。

 

咲姫「天くんの家に来るのは何回かあったけど、泊まるのは初めて•••」

天「言われてみればそうだな。なんかすごい新鮮だ」

咲姫「私も•••」

 

微笑みながら咲姫は俺の方へ寄ってきた。咲姫を抱き寄せて、頭を撫でる。

 

咲姫「気持ちいい•••」

天「ん•••そうか」

咲姫「今日のライブ、楽しかった」

天「だろうな。遠くから見てたけど、本当に楽しそうにしていた。見てるこっちも楽しかったぞ」

咲姫「そう言ってもらえるのは、嬉しい」

 

見上げるような視線で咲姫は笑う。俺も笑みを返して、頭を撫でる手を止めない。

 

咲姫「天くん•••」

天「どうした?」

 

顔を赤くした咲姫が俺を見つめる。俺は首を傾げて、咲姫の言葉を待つ。

 

咲姫「まだライブの熱が抜けてなくて•••ちょっと変な気分になってる••••••」

天「••••••そうか••••••」

 

咲姫の言いたいことは大体わかる。つまり”そういう気分”なのだろう。気がつかない程俺は愚かではない。

 

天「いいのか?」

咲姫「うん、天くんならいいよ•••?」

 

俺は咲姫を抱き抱えて、ベッドに転がした。そのまま押し倒す格好を取って、唇を奪った。




感想評価、お待ちしております。ちなみに、この後HシーンをR18の方で投稿します。見たい人だけ見てくださいね。


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悪意のない悪い質問は悪意の塊

なんか最近やたら寝たい欲がすごいというかなんというか•••まぁ要は今すぐ寝たいわけなんだけどもwやりたい事が多すぎるのよね。明日も早起きしてランニングせねば。


カーテンから日差しが漏れて、その光によって俺は目を覚ました。

 

天「•••あ、あぁ••••••?」

 

まだ寝ぼけている目は視界を捉えていない。酔ってるかのようにグルグルしている。その間に瞬きを何度繰り返しただろうか。無意識のうちに行ってるその作業は、数えるなんて無理な話だった。

ようやく視界が落ち着いた頃に、身体の感覚もわかるようになってくる。

何かに巻きつかれてる••••••?少しだけ感覚が暴走してしまうが叫んだり暴れたりする程のものでもない。慣れの恐ろしさを改めて感じた。んで、巻きついている、と言うより、抱きついているのはーー、

 

天「咲姫•••あ、昨日一緒に寝たんだった」

 

恋人の咲姫だった。目覚めがいつも通り過ぎて、いるのをすっかり忘れてしまっていた。当の咲姫は俺にくっついたまま寝息を立てていた。昨日はあんな事をしたのに、寝ているとこんなに落ち着いて見えるものなんだな、と感心する。

そしてこんな事を考えた所為で昨晩の光景がフラッシュバックしてしまう。

 

天「••••••やっぱり実感が湧かねぇなぁ••••••」

 

俺、本当に童貞卒業したのか•••?あまりにもふわふわとした事だったのもあって、真実味を一切感じない。

 

咲姫「すぅー•••すぅー•••」

 

頭の中でそんな葛藤をしている中、咲姫は呑気に寝息を立てて安らかに眠っている。なんか死んでるような言い方だな()

今日は日曜日で仕事もない。Photon Maiden全員も完全にオフの日だ。今日一日くらいはゆったりと過ごしたいと思っているが、咲姫次第で決めよう。

 

天「••••••というか、そろそろ月が帰ってきそうなんだよなぁ••••••」

 

ガチャリ。そんな言葉を呟いた瞬間に玄関が開く音がした。タイミング良すぎて逆に怖いぞ•••。

 

月「ただいまー。お兄ちゃん起きてるー?」

 

階段を上がる音がどんどん近づいてくる。さーてどうしたものか。咲姫は寝ている。まぁぶっちゃけ咲姫がうちに泊まったって事実がある時点で詰みは確定している。

 

天「咲姫、起きろ」

咲姫「んぅ••••••?」

 

まだ眠たい様子の咲姫はパチパチと瞬きをして目を開ける。そして俺の姿を確認すると、小さく笑った。

 

咲姫「おはよう、天くん」

天「あぁ、おはよう。多分今から月が部屋に来るだろうけどどうしようか」

咲姫「いつも通りに振る舞えばいいと思う」

天「咲姫が俺の家に泊まったって知れば面倒なことになるんだけど」

咲姫「そうなの•••?」

 

首を傾げた。咲姫はあまり神山家の面倒な事情を知らないだろうな。一緒に飯食べた時に片鱗は垣間見えたけど、あれはまだまだ優しい方だ。

 

月「お兄ちゃーん?おはよーー咲姫さん!?」

 

部屋にやってきた何も知らない月は、俺たちが抱き合って寝てる光景を見て驚愕の声を上げた。朝っぱらから叫ばれるのは嫌だな•••頭に響く。

 

天「•••おはよう」

咲姫「おはよう、月ちゃん」

月「お、おはようございます••••••。あ、朝ご飯、作ってきます••••••」

 

情報の処理が追いつかなかった月は、逃げるようにして一階へと降りていった。俺は安堵のため息を吐き、身体の力が抜けた。

 

天「マジでどうなるかと思った••••••」

咲姫「意外と大丈夫かも•••?」

 

まだ安心はできないが、一先ずは大丈夫だろう•••大丈夫だよな?

 

天「ところで、今日はどうする?」

咲姫「天くんと何処か出掛けたい」

 

シンプルで直球な要望が返ってきた。俺は頷いて、月から呼ばれるまで何処に行こうかと話し合った。

 

しばらくして月から飯ができたから来いとの声を受けて、俺と咲姫は一階に降りてリビングへと赴く。

ほぼ所定の位置に座るが、何故か俺の飯だけうな重だった。••••••なんで?月の方に目をやると我が妹は目を逸らした。

 

咲姫「朝からたくさん食べるんだね」

天「何でだろうな••••••わかんねぇや」

 

本当はわかる。鰻は精のつく食べ物だ。つまりは”そういう”ことだろう。月のやつ、余計な事しやがって••••••。

 

月「咲姫さん大丈夫でしたか•••?お兄ちゃんが乱暴したんじゃないか心配で••••••」

咲姫「ううん、天くん、とっても優しかった」

 

なんか変な意味に聞こえるけど何も言わない方がいい。触らぬ神に祟りなしだ。俺はだんまりを決め込む。

 

月「それでお兄ちゃん、咲姫さんとセックスしたの?」

天「ブッフォア!!?」

咲姫「••••••ッ!!?」

 

月の爆弾発言に、俺は口の中で咀嚼していたうな重を噴き出し、咲姫はボンッと音を立てて赤面した。

 

天「突然何言い出すのお前!?しかも咲姫がいる前で!」

月「だって二人で一緒に寝たんでしょ!?何かあってもおかしくないじゃん!」

 

だからってストレートに訊いてくるか普通!?マジでこの妹の神経の太さに引くわ。いや、引くどころか恐怖すら感じる。

 

咲姫「•••••••••」

 

咲姫はずっと顔を赤くしていて何も喋らない。その反応で月は大体を察してしまっていた。ニヤついた顔がやけにうざったい。

 

月「咲姫さん咲姫さん、どうだったんですか?」

咲姫「い、言えない••••••」

 

顔を逸らす咲姫。その姿は可愛いが少し可哀想でもあったので、月の頭にチョップを一発お見舞いする。

 

月「いったいなぁ!何するのさ!」

天「あんまり咲姫を困らせるなよ。それにこれ以上質問しても何も答えないのはわかってるだろ」

月「はーいはい、わかりましたよーだ」

 

つまらなそうに首を横に振った月はご飯を口に含む。咲姫もまだ顔が赤いが飯はちゃんと食べている。俺もうな重を口に放り込むが、いかんせん味がわからん。

 

月「今日お仕事は?」

天「休み。昨日ライブだったからな。流石にライブの後日にレッスンさせるわけにはいかない」

月「相変わらず甘々ですな〜?」

天「厳しくしてそれで倒れてしまったら俺の責任問題だ」

月「これをお母さんが聞いたら怒りそうだなぁ••••••」

 

確かに母さんなら怒鳴る程の案件だろうな。あの人はとにかく厳しい。仕事を容赦無く放り込むし、休みなんて最悪与えない時もある。かなり鬼畜な人だ。

 

天「母さんにはちゃんと俺のやり方で通すってのは言ってある。変な事は言わせないつもりだ」

月「Photon Maidenのみんなは天くんの方針が一番合ってるっぽいしね」

咲姫「うん、みんな天くんのやり方に満足してる」

 

ようやく落ち着いた咲姫が話に加わる。まだ頬がほんのり赤いが、ツッコむのはやめておこう。

 

天「ごちそうさま」

 

一足先に食べ終えて手を合わせる。鰻重はパック入りのやつだったので、軽く水洗いしてゴミ箱にPAPAPA!した。

 

天「じゃ、着替えてくる」

 

二階に上がってパジャマを脱ぐ。昨日の行為の後というのもあって少し疲れているが、これくらいならどうって事はない。俺は大きく伸びをして息を吐く。さて、シャツを着るかーー

ガチャッ。

 

天「あ?」

咲姫「え?」

 

ドアが開いて振り向くと咲姫がいた。え、来るの早くね•••?

 

咲姫「ご、ごめんね•••早かった」

天「あ、あぁ••••••」

 

申し訳なさそうに咲姫は部屋を出た。あまりにも予想外の事態に俺はその場で固まってしまった。

そして着替えてからお互いに部屋を出入りして、出かける準備を整えた。一応仕返しに咲姫が着替えてる途中に部屋に入った。めっちゃ驚いてて可愛かったです(小並感)。




感想評価待っとります!あ、後一つ。UA5000を突破しました!ありがとうございます!ただ•••こっちよりR18の方が伸びてるのがいかんせん残念で泣きたい•••。


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デート=甘いと思ったら大間違いやぞ

とりあえず先に言っておきます。今回内容クソ薄いです。何とか付け足そうと頑張った感が否めないので今日のは期待しないでくださいマジで。


天「それじゃ、行ってくる」

咲姫「行ってきます、月ちゃん」

月「行ってらっしゃーい!気をつけてね!」

 

元気にブンブン手を振って見送ってくれる月に対して、俺たちも小さくだが手を振り返した。

家の外に出ると、暖かい日差しが容赦なく俺たちに襲い掛かる。多少厚着だがまぁ大丈夫だろう。

 

咲姫「まず最初は何処に行く?」

天「そうだなぁ••••••ショッピングモールとかに行くか•••。その後ド◯•キホーテにでも行こう。ド◯キは売ってるもの大概安いから買い溜めしておきたい」

咲姫「うん、わかった」

 

咲姫が俺の手を握る。俺も握り返して歩幅を完全に咲姫に合わせる。

 

天「朝はビックリしたな•••月があんなこと訊いてくるから」

咲姫「うん••••••あそこまで直球だとは思わなかった」

 

月は良くも悪くも素直だ。言いつけはしっかり守るいい子だが、気に入らない事とか気になる事はズバズバ言う。

 

天「今後俺の家でするのはやめといた方がいいな•••」

 

主に家族の問題で。月は必ずからかってくるだろうし、母さんは問い詰めてくる。父さんに関しては何されるか一番わからないから怖すぎる。ロクでもない結末になる事だけは確定しているのが余計にタチが悪い。

 

ショッピングモールに到着する。日曜日というのもあって、周りは人で溢れかえっていた。お互いにはぐれないように手をしっかり握る。

 

咲姫「もう少しくっついてもいい?」

天「あぁ」

 

ただ手を繋いでいるだけだと、人混みに流されるかもしれないのを危惧したのだろう。腕に抱きついて咲姫の身体がくっつく。それと同時に腕に咲姫の胸の感触が伝わってきて、少しドキドキしてしまった。

 

天「しかし人多いな•••この時間に来るのは失敗だったか?」

咲姫「日曜日だから仕方ないよ。どの時間でも人はたくさんいると思う」

 

確かに咲姫の言う通りかもしれない。時間帯なぞ関係なく休日は人が多い。それは重々承知してここに来たのだから、何が何でも人混みを抜けたいところ。

 

天「お、ス◯バ。何か飲んで行くか?」

咲姫「うん」

 

大量の人間の塊から逃げるように俺たちはス◯ーバックスに駆け込んだ。幸いここは空いていたので、フラッペを注文して席に着いた。俺は牛乳の塊フラッペにした。一番大きいサイズにしたので600円もした。財布が痛い。咲姫はいかにも彼女が選びそうなフルーツフラッペだ。

 

天「あー•••甘ぇ•••」

 

ミルクと砂糖の美味しさが口いっぱいに広がる。そして氷のガリガリした食感もまたいい。

 

咲姫「美味しい••••••」

 

咲姫もフラッペを飲んでご満悦のようだ。少し蕩けた表情で飲んでいる。少し空気が柔らかくなった気がした。

 

天「さて、何処に行くかだな」

咲姫「私は特に目的もなく来たから•••」

天「じゃあパソコンのコーナー行ってもいいか?パソコンを新調したくて」

 

今使ってるパソコンはマネージャーを始めた頃、要は三年前から使っているものだ。最近ガタが来始め、調子が悪くなってきている。だからさっさと新しいのに変えて、仕事に支障をきたさないようにしたい。

 

咲姫「うん、飲み終わったら行こう」

天「ん。もう少し小さいの頼めば良かったかも•••」

 

今更になって後悔する。調子に乗って1番デカいサイズを頼んだのが仇となった。すぐに飲み切るのは難しいかもしれない。

 

咲姫「んっ」

天「あ、ちょっ」

 

有無を言わせず咲姫が俺のフラッペのストローを咥えた。そのまま中身を吸って氷を噛んだ。

 

咲姫「これも美味しいね」

天「ホント遠慮しなくなったよな咲姫」

 

前までなら必ず確認を取ってきていたのに、今回は何も言わずに突然飲んだ。

 

咲姫「これくらいなら今更と思う」

天「確かにそうだな•••。あんなこともしたんだし」

 

途端に咲姫の顔が赤くなった。まだその話をされるのは慣れないようで、俯いた。

 

咲姫「天くんの•••えっち」

天「悪かった」

 

詫びとも何とも言えないが頭を撫でてやる。少しだけ機嫌が良くなった。チョロいなぁ•••()

 

何とか飲み物を飲み終えて、パソコンがズラッと並んでいる所へとやってきた。どのパソコンもホーム画面が開かれて陳列されている。ちなみに俺が買うのはノートパソコンだ。持ち運びとかが楽なのを選びたいが1番はスペック重視だ。

 

咲姫「買うメーカーとかは決めてる?」

天「マ◯クは元から使う気ないからWin◯ows10の日本メーカーにするつもりだ」

 

まぁ富◯通なのはほぼ確定なんですけどね。スペックなどを確認しながらパソコンを見ていく。うーん、いかんせんいいのが見つからない。スペックは申し分ないのはいくらでもある。だが値段がまぁまぁ張る。

 

咲姫「これとかどう?スペックも価格もいいと思う」

 

咲姫が一つのパソコンを指さした。富◯通のパソコンだった。これ、去年のやつだな•••。値段もお得でスペックもかなり高い。少なくとも事務に使う分にはオーバーとも言えるようなスペックだった。

 

天「いいなこれ。これにしよう」

咲姫「そんなに簡単に決めて大丈夫?」

天「いいんだよ。どうせ仕事にしか使わないんだし、使うにしても出番は少ないだろうしな」

 

基本的にパソコンを使う時は事務所内にスケジュールを流す事と、ライブなどの報告書を作る時にプリンターに接続して印刷するくらいだ。最早近年稀にミラー☆とも言える。

ぶっちゃけ家には最新のデスクトップのパソコンがあるからいいし()

 

天「あ、すみません。これの新品を一つお願いできますか?」

 

近くにいた店員を捕まえて、俺は会計を済ませた。パソコンは2kgと軽いので簡単に持ち運ぶ事ができた。後ついでに今のより性能の高いヘッドホンを買っておいた。これでさらに音楽を細かく聴くことができる。やったぜ。

 

ショッピングモールでのあれこれは終わったので、次はド◯キにやってきた。入ってすぐにクレーンゲームなどのコインゲームが立ち並ぶ。今はそんな事をする気はないので、買い物カゴを持って商品を物色する。

流石ド◯キと言うべきだろうか、かなりお安い。それに大抵何でもあるので、これがないあれがないと言ったトラブルも少ない。

俺はポイポイと買い物カゴにおにぎりやらパンやらを詰めていく。ここのおにぎり、普通に美味い癖に60円なんだぜ?

 

咲姫「たくさん入れてるけど、全部天くんが食べるの?」

天「まさか。大量に買って置いておくと、不定期で帰ってくる父さんが食べてくれるんだよ」

咲姫「お父さんの為だったんだ。優しいね、天くん」

天「まぁ•••世話になってるからな」

 

俺は顔を逸らす。咲姫はニコニコとして俺の腕を抱き寄せた。更に咲姫の胸の感触が伝わってきて頭の中がぐちゃぐちゃになる。

 

咲姫「買い物が終わったら、どこかお昼ご飯食べに行こう?」

天「わかった。何かリクエストとかあるか?」

咲姫「••••••うどん」

天「俺に合わせたな?」

 

うどん食べたいなーと少し思った瞬間に咲姫が言葉を漏らした。これは確信犯だろう。要は俺が食べたいものを咲姫が食べたいということだろう。

 

咲姫「今日は私が天くんに付き合わせたから、お昼ご飯くらいは天くんが決めて」

天「わかった•••じゃあうどんでいいか?」

咲姫「うん」

 

コクリと頷いた。俺はまたおにぎりを買い物カゴに入れて、気を紛らわした。

 

ビニール袋の中には大量のおにぎりとパンが入っているだろう。重量もかなりのものとなり、ずっしりとした重さが片腕に伝わってくる。

 

咲姫「重くない?持つよ?」

天「女の子に荷物持たせるとか情けない真似できるかよ。それにこれ全部俺の荷物だから余計に任せられん」

 

ここでやはりと言うべきか、男の見栄というものが出てくる。ぶっちゃけ片手でも全然いける重量なので咲姫に持たせる程の事ではない。

 

丸◯製麺に到着し、うどんを注文して少しばかり天ぷらとかを取って席に着いた。

 

天「ここのうどん美味ぇな」

咲姫「麺がモチモチしてる•••」

 

咲姫はうどんを飲み込める程細かくできていないのか、何度も咀嚼を繰り返している。それに対して俺はズルズルとうどんを吸って噛んで飲み込んでいる。麺もそうだが、出汁もかなり美味い。

天ぷらも口に含む。ちなみに天ぷらは塩派だ。カリッとした小気味いい音と共に噛み切られる。

 

天「もぐもぐ•••んっ。まだ麺食べてたのか?」

咲姫「中々飲み込めない•••」

 

まだ口の中でもごもごとしていた。可愛いなこの生き物。

 

天「待ってるからゆっくり食えよ?」

咲姫「う、うん」

 

逆効果だったかもな。かえって急いで食べ始めてしまった。それで喉に詰まらないか心配だが、今は止められそうにもなかった。

 

昼食を食べたところで、本格的にやる事がなくなったので家に帰ってきた。俺はパソコンのセッティングをするが、いかんせん手持ち無沙汰な咲姫はベッドに座って外を眺めていた。

 

天「よし、終わった」

 

何とかパソコンの初期設定を終わらせる事ができ、俺もベッドに座った。

 

咲姫「何かする事ない•••?」

天「ないな•••俺はこういう時は昼寝してるけど、咲姫はどうする?」

咲姫「私も、寝たいかも。少し疲れた」

 

どうやらお互い眠たいようで、ベッドに寝転がった。すぐに咲姫は俺にくっついて来たので抱きしめる。

 

咲姫「やっぱり安心する•••」

天「あぁ」

 

しかし、寝転がった所為で本格的に眠気が襲って来た。重たくなった瞼の力を抜いて目を閉じる。咲姫からはもう既に寝息が聞こえていたので、俺も安心して眠りについた。




感想評価お待ちしてます、と言いたいが今回は来る気がしねぇ•••というかお気に入り外されそうだし低評価受けそう•••。


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彼女の家お泊まりイベントなんて王道過ぎひん?

明日体育祭当日や!文化祭の出し物できてないのにキツ過ぎんでしょwwwあ、R18の方も投稿します。見たい人向けね。


放課後になり、俺は荷物を抱えて一度家に帰ってスーツに着替える。今日は大事なライブの交渉があるのだ。ビシッとキメて臨まなければならない。交渉先は横浜アリーナだ。収容人数は17000人。東京ドームの規模には遠く及ばないが、もしここでのライブを成功させれば、上手くいけば東京ドームも視野に入れる事ができる。

もう一度家を出て、俺は駅に直行する。改札を通って、新幹線に乗り込む。外の景色をボーッと眺めながら到着を待つ。まぁニ十分程度で着くんだけども。

新幹線を降りて新横浜駅を出る。そこから歩いてすぐに横浜アリーナはあった。何日も前から交渉する件は話していたので、アリーナの前には人が立っていた。

 

天「ネビュラプロダクションから参りました、神山です」

男「神山様、ですね。どうぞこちらへ」

 

俺は黒服の男の人に通されて、控室らしきところに入れられる。中にはたくさんの人たちがテーブルを前に座っていた。

 

社長「やぁ、神山さん。お待ちしておりましたよ」

天「失礼します」

 

社長に頷かれ、俺は席に着く。さて、さっさと終わらせないとな。みんなには仕事で少し離れるがすぐに戻るとは伝えてある。だからわざわざ横浜までライブの交渉に行ってるとは思ってもみないだろう。彼女たちの反応が楽しみだ。

 

天「早速本題に入りますが、近いうちに•••我がネビュラプロダクションに所属するDJユニット、Photon Maidenの単独ライブをする為にこの横浜アリーナを使わせていただきたいと思っています」

社長「ほぉ、DJですか。神山さんがマネジメントを務めているユニットなのでしょう?知名度等はいかがなものか」

 

まぁ、流石にそんな簡単にはいかないか。それは分かりきっていた事だし、逆にスッと決まってしまってはこっちが驚いてしまう。

 

天「知名度ですか•••それはもう有名と言えます。つい一、二週間程前に都内の来栖スタジアムでライブをしました」

社長「あの来栖でですか?それは中々••••••しかしそれは単独などではなく、他のアーティストも交えてのものでしょう。ここの収容人数は17000人、客席は11000もあります。とてもユニット一つでここまでの人を集めるのは厳しいのではありませんか?」

 

そこを突いてくるかぁ••••••まぁぶっちゃけ人は確実に集まる。Photon Maidenがこれまで築き上げたものを考えれば、17000人なんて数、余裕だ。

 

天「その程度の数であれば、うちはいけますよ。なんてったってPhoton Maidenですから」

 

この言葉には大きな確信があった。『Photon Maiden』という看板がある限り、人は自ずと集まってくる。何度もライブを繰り返してたくさんの人たちにその存在を知らしめた今こそ、新星なんて関係ない、大きなユニットとして君臨しているのだ。

 

社長「すごい自信ですね•••いや、神山さんは今までたくさんの人をこのような舞台に連れてきています。それを考えたら、納得ですね」

天「では•••?」

社長「横浜アリーナでのライブ、やりましょう。そして必ず成功させてください」

天「••••••!ありがとうございます!」

 

俺は席を立って思い切り頭を下げた。もうこれは勝ち確だ。その後、ライブの日程などを話し合って俺は満足した気分で新幹線に乗り込んだ。

 

東京に戻り、事務所へと足を運ぶ。ライブの件を姫神プロデューサーに報告して、仕事部屋に入った。鞄を置いて、俺は椅子にもたれかかった。

 

天「••••••やったぜ。このライブの次はもっとデカいところを攻められるぞ」

 

今回の横浜アリーナでのライブは必ず俺たちにとって大事な活路を見出す何かを残してくれるだろう。それはもしかしたらとかの幻想などではなく、確信とも言える絶対的な安心感があった。

が、結局は彼女たち次第だ。Photon Maidenも彼女たちが実質的に動かしている。マネージャーの俺はあくまでスケジュールを立てて仕事を持ってくる事だけだ。

 

天「着々と前に進んでるなー、このまま行けば日産スタジアムも夢じゃねぇな」

 

約70000人もの規模が入れるライブで、その大量の人間に囲まれながらライブをするPhoton Maidenを思い浮かべて、俺はワクワクした。そして実際にその目標が実現できるよう決意を抱いた。

 

まぁでも仕事はあるのですぐには帰れないんですけどね()メモ帳に万年筆を走らせながらパソコンから音楽を流す。周りの音を完全に遮断する為にかなり大きい音量で流しているので、曲に集中できていた。スケジュールなんて立てたところで後々調整したりだから適当に大まかにしかしないが、ある程度は決まっている。横浜アリーナでのライブを控えているので、それに合わせたレッスンの予定を入れ込む。

 

天「•••今から楽しみだな」

 

何処か頭の中はふわふわしていた。ライブが楽しみで楽しみで仕方ないのは今までで初めてかもしれない。これまでライブなんて何回もしてきたが、今回ばかりは違う。単独での大規模なライブだ。楽しみでいられないわけがなかった。

ワクワクとドキドキが重なり合って滅茶苦茶になってるところにーー、

ポン、と肩に手を置かれた。

 

天「うおおおおぉぉぉぉ!!!???」

 

俺はビックリして飛び上がった。恐らく俺の肩に触れた人も驚いただろう。一瞬で手が離れた。

 

咲姫「••••••呼んでも反応がなかったから触ったのに、ビックリした••••••」

天「さ、咲姫か••••••!」

 

俺をビビらせた張本人は咲姫だった。俺は荒く息を何度も吐いてから一気に落ち着く。驚いて飛んだ衝撃で転げ落ちたので、立ち上がった。驚いた拍子にヘッドホンは外れて地面に転がっていた。拾って机の上に置く。

 

天「もうレッスンは終わったのか?」

咲姫「うん。それで天くんを呼びに行ったら音楽を聴きながらお仕事をしてた。すごく嬉しそうな色だったけど、何かあった?」

天「ん?あぁ、咲姫たちへのいいニュースを手に入れてきたんだ。明日にでも言うよ」

咲姫「そうなの?楽しみ。お仕事は後どれくらいで終わりそう?」

天「ほとんど終わってるし、今日はもう切り上げるよ。帰ろうか」

咲姫「うん」

 

俺は鞄を持って咲姫と事務所から出る。まだ事務所の明かりは灯っていて、スタッフが遅くまで仕事をしている光景を物語っていた。

 

咲姫「今日、私の家に泊まる?」

天「突然だな••••••月に一応訊いてみる」

 

携帯を取り出して月にメールを送った。秒でオッケーの返信が返ってきて少し引いた()監視してねぇよな俺の事•••。

 

咲姫「どうだった?」

天「大丈夫らしい。着替え持ってすぐ行くよ」

咲姫「わかった。待ってる」

 

楽しみなのか咲姫は終始ずっと笑顔だった。女の子の家とかに行くのは初めてなので、俺は心の何処かで少し緊張していた。

 

家に戻ると、案の定月はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら俺を見つめていた。

 

月「咲姫さんって今一人暮らしなんだよね?しっぽり楽しんできてね♪」

天「••••••あぁ、そうだな」

 

相手にするのも面倒なので、俺はぶっきらぼうに返す。月からすれば俺が動揺する反応でも見たかったのだろうか、少しだけ表情は悔しそうだった。

 

天「じゃあ行ってくる。後の事は頼んだ」

月「はーい。迷惑かけないようにねー」

天「了解」

 

家を出て、咲姫の家の方面へと歩き出す。咲姫の今の家は事務所が借りている状態だ。彼女は地方出身らしいが何処なのかは詳しくはわからん。だが、ずっと一人で家にいたのかと思うと、少し可哀想に思えた。甘えてきたら、ちゃんと応えてあげよう。そう思いながら夜風に震えた。

 

咲姫の家に到着し、インターホンを押して中へ通してもらった。咲姫の部屋は意外とシンプルで、月のようなカラフルさはなかった。

 

咲姫「もうすぐお風呂が沸くから、入ろう」

天「咲姫が先に入っていいぞ」

咲姫「一緒がいい」

天「••••••なんて?」

咲姫「だから、一緒にお風呂に入りたい」

天「••••••••••••アッハイ」

 

今日の咲姫はかなり容赦なかった。わざと聞き返したのに律儀に返しやがった。

 

咲姫「もうあんな事もしたんだから、今更恥ずかしがる必要もない」

 

確かに一緒に風呂入る以上の事はヤった。だからこうして攻めてきてるわけなのか••••••。まぁでも、甘えてきたら応えようって決めたのさっきばかりだしなぁ•••自分の言葉には責任を持ちたい。

 

天「わかったよ•••」

 

なので渋々だが承諾した。風呂場まで案内してもらって、服を脱いでお互いに全裸になった。あの時と同様に、咲姫の身体は真っ白だった。

 

咲姫「あんまりジロジロ見られるのは恥ずかしい•••」

天「あ、悪い」

 

ちょっとデリカシーがなかったな。早めに入って身体をさっさと洗う。咲姫も隣で身体を洗っている。バスタオルで隠すなんて事はしてないので、お互いに丸見えの状態である。

身体を洗い終えたので、湯船に浸かると、咲姫は俺に重なるように入った。

 

天「誰かと風呂に入るなんて、いつぶりだろうか」

咲姫「私は小さい頃にお父さんやお母さんと入ったっきり•••かな」

天「うちはたまに入ってると父さんが来るんだよな。最近はないけど、多少暇になったら急に来ると思う」

咲姫「天くんのお父さんってどんな人なの?」

天「あーそうだな•••見た目はゴリマッチョのヤクザだな。中身は面白いけど野蛮な人だよ。乱暴だけど、何だかんだ俺たちの事を大事にしてくれてる

咲姫「いいお父さん•••」

天「息子と娘を楽しませてくれる父親って、案外貴重なのかもな•••」

 

改めて父さんの存在に感謝した。殴ってきたりウザかったりするのは相変わらずクソ面倒ではあるが。

ちゃぷ、と湯の表面が小さく揺れた。咲姫が少し動いて更に俺に密着した。

 

咲姫「なんだか•••ドキドキしてきた••••••」

天「•••だから一緒に風呂に入るのは嫌だったんだ」

 

咲姫が俺の方向へ身体をぐるりと反転した。そして俺の肩に手を乗せて、唇を重ねる。

 

咲姫「んっ、ちゅっ、んむ••••••」

 

咲姫のスイッチが入ってしまったようで、俺はキスの対応をしながら頭を撫でる。

 

咲姫「あむ、んぅ、ちゅぅ••••••」

 

ここまで長いキスはしてないんじゃないかと思うくらい長時間唇をくっつけ合ってる気がしてきた。息が少し苦しくなってくる。

 

咲姫「ん、ちゅっ•••はっ」

 

ようやくキスが終わり、咲姫はとろんとした表情で力のない瞳で俺を見つめていた。

 

咲姫「天くん•••もう••••••」

天「•••わかった」

 

俺は咲姫の手を引きながら立ち上がって、風呂の壁まで連れて行った。




感想評価お待ちしております!後さっき見たら二次創作日間ランキング28位になってました!ありがとうございます!


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男飯はいいゾ〜

体育祭終わりました!綱引きしか種目出てないけどボロッボロに負けてきました!いやだってうちのクラスヒョロイ人多すぎる•••wというかうちのクラスの応援団の団長が、自腹で全学年のうちの科にジュース買ったらしくてクソビックリしました。そんなイケメンムーブキメれるのになんで彼女いないんだあいつ。


風呂から上がった後は、晩飯をどうしようかという話になっていた。どっちもさっきの行為に夢中になっていて、後々の事など全く考えていなかった。

 

咲姫「ぎゅう、して•••?」

天「はいはい」

 

しかもさっきから咲姫が甘えてばかりで、夕食もクソもあったもんじゃない。そもそもここには誰かが来ることはまずないので、咲姫も遠慮していないのだろうか。こうして甘えられるのは嬉しい。嬉しいが、せめて飯は食べたい。

 

天「夕飯、俺が作ってもいいか?」

咲姫「うん。何を作るの?」

天「んーまぁ•••チャーハン、かな」

 

料理は得意ではない。むしろ苦手な方だ。だが、チャーハンは父さんから「これくらいは作れるようになっとけ」と言われて作り方を覚えたものだ。完全に男の飯みたいな感じなアレだけど、咲姫の口に合うか心配だ。

 

咲姫「天くんのチャーハン•••食べてみたい」

 

少し期待した様子の咲姫を見て、俺は作ることを決心した。さて、作るかーー••••••

 

天「離れないとチャーハン作れないのだが」

咲姫「まだ•••ぎゅうしたい」

天「ダメだ。次は飯終わってからな」

咲姫「••••••わかった」

 

仕方なくと言った風に咲姫は俺の背中に回していた腕を解放した。立ち上がって、フライパンを取り出して油を敷いていく。ベーコンと野菜を切り、醤油と卵と一緒にフライパンへぶちこむ。ジューといった気持ちのいい音が鳴り、火が通ったのを確認してからご飯を入れる。そこから一気に強火にして手短に済ませた。

塩胡椒を振ってから皿に盛り付けて、テーブルに置く。

 

天「できたぞ」

咲姫「うん」

 

ベッドに座っていた咲姫はこちらへ歩いてくる。スプーンを渡して、俺も椅子に座った。

 

天•咲姫「いただきます」

 

二人で同時に手を合わせて、チャーハンにありついた。

 

咲姫「もぐもぐ•••美味しい」

天「そうか、よかった」

 

少し怖かったが好評をいただけたので安心した。俺もチャーハンを口に含むが、美味いかどうかなんてどうでもいい。今は美味しそうにチャーハンを食べている咲姫を眺めていたかった。しっかし本当に美味そうに食べるな。かなり嬉しい。

 

天「この後はどうする?」

咲姫「あむ、むぐ•••後は特に何も••••••」

天「じゃあ、今後の事を少し話してもいいか?ライブの件で」

咲姫「うん、わかった」

 

コクリと頷いた。俺も頷き返して、またスプーンの上に乗ったチャーハンを口内に放り込んだ、

 

洗い物も終わって後は寝るだけだが、その前に大事なお話があるので、椅子に座って咲姫と向かい合っている。

 

天「とりあえず今日、横浜アリーナに行ってライブの交渉をしてきた。それでライブをすることになった」

咲姫「そうなの•••?また大きい所でできるね。•••もしかして、さっき言ってたいいニュースってそれ?」

 

思い出したかのように数時間前のあの発言を咲姫は持ち出した。俺は首を横に振った。

 

天「まだ続きがある。その横浜アリーナで、単独ライブをする事になった」

咲姫「••••••ーーッ!?本当••••••!?」

 

驚いた感情と喜びの感情が混ざり合った状態で、咲姫は声を漏らした。俺はただ頷く。

 

咲姫「いつやる予定•••?」

天「再来月•••八月だ」

 

今は六月であり、ライブ当日は二ヶ月後の八月。夏休み期間と言うのもあるので、その月を狙った。

 

天「だからそれに向けてのレッスンスケジュールを組んだりもしている。今月来月に控えてるライブも、横浜アリーナでの練習と思って取り組んで欲しい」

咲姫「うん•••!頑張る••••••!」

 

気合は十分なようだ。力強い瞳で俺を見つめながら、彼女は頷いた。

 

天「まぁ言いたかった事はそれだけ。明日にみんなにも言うつもりだ」

咲姫「きっとみんな、驚くと思う」

天「だろうな。単独ライブなんて久しぶりだろうし」

 

みんなが驚いて、そして喜ぶ姿が目に見えてわかる。そしてそんな想像をするだけで、なんだか嬉しかった。

 

その後も少しだけ話して、眠くなってきたので二人でベッドに入った。お互いに抱き合って毛布を被っていた。

 

咲姫「あったかい•••」

天「俺も温かい•••」

 

毛布の気持ちよさと咲姫の身体の柔らかさを全体で感じられて最高の気分だ。これは朝まで熟睡だろう。

 

咲姫「なでなでもして•••」

天「今日はワガママだな」

 

苦笑して、要望通りに撫でてやる。咲姫は気持ちよさそうな顔をしていて大層可愛かった。

 

咲姫「天くんに包まれてるみたいで•••幸せ」

天「ん•••」

 

短く返す。言葉に反応するよりも、抱きしめている方が態度として示せているような気がした。

 

咲姫「天くん、キス••••••」

天「わかったよ」

 

本当に今日はよく甘える日だ。風呂でも散々したのに寝る前にもするときたものだ。

 

咲姫「んっ、ちゅ、んぅ••••••」

 

ディープキスではなくソフトな普通のキス。ただただ幸せで、いつまでもしていたかった。

 

咲姫「ちゅっ、ちゅう•••好き、好き•••」

天「俺も好きだよ」

 

更に咲姫が密着する。それによって咲姫の胸が俺の身体に押されて形が変形する。

 

咲姫「また明日も、いっぱいしようね」

天「••••••あぁ」

 

それはキスなのだろうか、それともセックスなのだろうか••••••ちょっとよくわからなかったので、曖昧な返事になってしまった。

 

咲姫「天くんの•••えっち••••••」

 

そして心の色を見られて、頬を赤くした咲姫にモゴモゴと言われた。心の中見られるのは本当にキツい。

 

天「まぁでも、これから先は何回もそういった事はあるだろうし、今更だろ?」

咲姫「うん••••••」

 

まだ赤いが、微笑みながら彼女は頷いた。俺の胸に顔を埋めて、動かなくなった。

 

天「•••おやすみ、咲姫」

咲姫「おやすみ•••天くん••••••」

 

咲姫が眠るまで頭を撫でていたら、気づかないうちに俺は寝てしまっていた。明日の朝飯•••どうしよう。




感想評価オナシャス!今なら作者の剥けた皮がついてくるよ!(ゴミ)


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今日の彼女甘え過ぎじゃね?

今日部活に行ってきました。去年の一年間だけ務めてくれた監督が来るらしいのでぶっ殺されに行きましたwまぁものの見事にボコボコにされたわけですけどねwでも強くなったと褒められて嬉しかったゾ。


俺は目を覚ました。人の家と言うこともあって、熟睡はできたが何故かスッと起きてしまった。チラリと時計を見るとまだ6時前だった。あまりにも早すぎる。だからと言って二度寝をしてしまったら今度は寝坊しかねない。

 

天「でもこの状況だからなぁ•••」

 

昨晩に続いて俺と咲姫は抱き合っている。当の咲姫はまだ寝ていて、俺から離れる気配など一切ない。強引に離れようとしたら確実に起きてしまうだろう。

 

天「•••••••••」

咲姫「ん、んぅ•••」

 

流石に何もできないというのは暇すぎて死んでしまうので、咲姫の頭を撫でて気を紛らわしていた。そして撫でる度に、咲姫がくぐもった声を漏らしてモゾモゾと動く。更に密着した気がするが、俺も対抗して抱きしめる力を強めた。

 

咲姫「天、くん••••••」

天「ん?•••あぁ、寝言か」

 

もしかして起こしてしまったか、と焦ったが、どうやら杞憂だったようだ。起きる気配がしない程にぐっすりだ。

 

咲姫「好き•••天くん••••••」

天「••••••こんな時間に起きるんじゃなかった」

 

寝言とは言え、急に言われるのは恥ずかしい。もしかしたら俺が頭を撫でてるから、咲姫の夢の中でも俺が頭を撫でてるような光景が出来上がっているのかもしれない。変に手を出すのはやめておこう。こっちが被害被りそうだ。

 

天「でもそれしちまうとなぁ•••」

 

やる事がなくて詰みますねぇこれは。だからと言って離れられるわけでもないのがまた痛い。手を伸ばして携帯を手に取って開く。

特に何か興味をそそられるようなニュースがあるわけでもなく流し見ていたが、一つだけ気になる、というよりビックリするニュースが流れていた。

 

天「••••••あ?は?おい、嘘だろ」

 

『Photon Maiden、単独ライブ決定!』••••••まさかのニュースとして世間に流れていやがった。あの社長やりやがったな••••••多分うちの事務所の方には話通してるだろうけどなんで俺に言わなかったし。

••••••あーやばい、しれっとトレンド入りしてんじゃねぇか。これもう周りに知れ渡っちまってるよ••••••。ワンチャン学校で騒がれるかもしれんな•••まぁ咲姫たちなら何とか躱してくれるだろうし、あまり心配はしていなかった。

でも、でもなぁ••••••。

 

天「••••••ははっ」

 

嬉しさでいっぱいで、笑わずにはいられなかった。トレンド入りまでしてしまう程、Photon Maidenが大きくなっていって、すごく気持ちがいっぱいだった。あーもうこれ本当に泣いちまいそうだ。その時はどこかで隠れて泣こうそうしよう。泣き顔なんてあまり見られたくないしな。

 

Photon Maidenがトレンド入りするなんて何気に初めてな気がするから、色々気になって眺めていたらかなり時間が経っていた。咲姫が自然と目を覚ましたのを確認してから携帯をしまった。

 

咲姫「おはよう•••」

天「あぁ、おはよう」

咲姫「•••?なんだかすごく嬉しそう」

天「多分この後わかるぞ」

 

俺は笑みを隠しきれなかった。咲姫がどんな反応をするのか、今か今かと楽しみで仕方がないのだ。咲姫は首を傾げていたが、俺に釣られて笑っていた。

 

テレビを点ければ、朝のニュース番組ばかりで溢れていた。その中のものを一つ選んで流す。朝食は咲姫が作るとのことで、俺は椅子に座ってテレビを眺めていた。

 

天「•••••••••」

キャスター「それでは次のニュースです。最近、グングン人気を伸ばしているDJユニット、『Photon Maiden』が単独ライブを開催する事を発表しました。八月に開催し、場所は横浜アリーナで行われる予定です」

 

予想通り、と言うべきか、Photon Maidenのライブの件はすぐに流れてきた。

 

咲姫「••••••え?」

 

咲姫がテレビを、ニュースを見て呆然としていた。そして俺の方へ視線が移る。

 

咲姫「もしかして、この事?」

天「あぁ、何気にトレンドにも入ってるし、世間はかなり賑わってるぞ」

 

軽くネットサーフィンもしておいたが、期待の声がかなり上がっていた。このままの流れで行けば、ライブの成功は間違いなしと言えるだろう。後は彼女たちの努力次第だ。

 

咲姫「天くんはすごいね」

天「え?なんで俺?」

咲姫「Photon Maidenをここまで連れてきてくれたのは、天くんのおかげ。こんなに大きな舞台を用意してくれて、ありがとう」

天「礼なんていい。Photon Maidenだからここまで来れたんだ。俺はあくまで仕事を提供しただけさ」

 

俺は肩をすくめる。俺のやってきた事は大した事ではない。仕事を、場所を用意したところで、それを有効活用してくれるのは提供先だ。それをPhoton Maidenが上手く動かしただけの事。

 

天「マネージャーなんて立ち位置に就いた以上、仕事を持ってこないのはアウトだからな」

咲姫「それでも、私たちの為に頑張ってくれてる姿はとてもカッコいい•••」

天「そ、そうか•••」

 

なんだか照れてしまう。頭を掻いて誤魔化すが、咲姫の表情はとても柔らかかった。

 

天「学校で騒がれるかもしれないが、対応頑張れ」

咲姫「その時は天くんも一緒」

天「えやだ」

咲姫「ダメ」

天「俺には見向きもされないんだから、変に出てくる方がおかしいと思うぞ」

咲姫「その時はその時だから」

 

えぇ•••(困惑)。咲姫は一体何を考えているんだ?どんな行動を起こすか予想出来ず、少し怖い。

あれこれ悩んでいるうちに朝飯は運ばれて、俺は頭の片隅にこびりついたそれを一旦忘れて食べ始めた。

 

制服に着替えて準備を整える。まだ時間はあったので、スマホをボーッと眺めていた。SNSにはPhoton Maidenの話題で持ちきりになっており、咲姫たちやライブの写真が載ってたりしていた。

写真の咲姫も可愛いってはっきりわかんだね。保存しとこ。

 

咲姫「••••••ぎゅう、して」

天「あーはいはい」

 

相手にされなくて寂しかったのか、咲姫は手を広げて待っていた。要望通りに抱きしめてやり、咲姫の肩に顎を乗せてまたスマホを眺める。

 

咲姫「何をそんなに見てるの?」

天「いや、こうして見るとライブの写真って結構あるんだな、と感心してた。咲姫の写真もかなりあるし、最高だ」

咲姫「••••••ここにいるのに、写真の方がいいの••••••?」

天「そりゃもちろん実物の方がいいに決まってる。だからこうやって抱きしめてるんだろ?」

 

抱く力を強める。制服越しとはいえ、咲姫の胸の感触が伝わってきて少しドキッとしてしまった。

 

咲姫「もっと•••ぎゅう•••」

天「わかった」

 

咲姫の身体が折れてしまうのではないかと思うほど、強く、強く抱きしめる。

 

天「咲姫の身体、柔らかいな」

咲姫「そういう天くんは硬い•••」

天「鍛えてるからな」

 

俺の身体は細身だが筋肉の塊だ。流石に父さん程は無理だが、無駄な肉はほとんどついていないくらいには出来上がっている。

 

天「••••••そろそろ家を出たほうがいいんじゃないか?」

咲姫「もう少し••••••」

 

俺の彼女は案外ワガママなのかもしれない。結局家を出るギリギリまでお互いに抱擁をし合う事になった。

 

学校に着くと、わかっていたが咲姫はみんなに囲まれて注目の的になっていた。

 

咲姫「そ、天くん助けて•••」

天「頑張れー」

 

咲姫が俺の方へ手を伸ばしているが、当の俺は手をひらひら振るだけで助けようなんて事は一切する気がない。今は人気者としてみんなとお話をしていて欲しいものだ。

 

女子生徒A「出雲さん横浜アリーナでライブするんだって!?ニュースで見たよー!私絶対見に行くからね!」

女子生徒B「単独ライブなんてすごいよ!はぁ〜出雲さんがどんどん遠い存在になっていくなぁ••••••」

咲姫「ライブとかのお仕事は、全部天くんが持ってきてくれるんです」

女子生徒A「神山くんが!?」

 

一気にクラスメイトたちの目が俺に移る。咲姫め•••飛び火はやめてくれよ。いや、さっき助けなかったからその仕返しだろうな。

 

女子生徒B「あっそっか。神山くん出雲さんたちのマネージャーだったっけ。あんな大きいハコ押さえられるなんてすごいね!」

天「それは咲姫たちの実力が伴っていたからだ。俺は何もすごくなんてない」

咲姫「天くん、今まで担当してきた人を大きなライブに連れて行ってるから、その実績もあって単独ライブができるようになりました」

女子生徒A「えーすごいじゃん!神山くんそんなにお仕事できるんだー!」

天「•••咲姫••••••、変に煽るのはやめてくれないか」

 

あまりに飛び火がヤバ過ぎて咲姫に目を向けた。彼女はまだ不機嫌なご様子で、ぷいっとそっぽを向いた。

 

咲姫「後でぎゅうとなでなでしてくれたら、許す•••」

天「••••••わかったよ」

男子生徒A「出雲さんに普段そんなことしてるのか神山ぁ•••!」

天「ーーッ!?」

 

とんでもない殺意を感じて背筋が凍った。••••••咲姫の発言には後々注意しておこう•••いつか刺されそうだ。

 

咲姫「どうしたの?」

天「な、何でもない」

 

クラスメイトに命狙われてます、なんて言えるわけがなかった。俺は苦笑を返して席に座った。




感想評価オナシャス!後毎回感想くれる兄貴愛してるゾ!(突然の告白は投稿者の特権)後最近ここすきとかいうやつを思い出した()


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忙しさよりも期待が高まる事ってない?

今日で休日終わりとか嫌になりますよー全く。まぁいつも気ままに生きてるのであんまり変わらないんですけどねw今日ずっと寝てたしw


昼休みになると、わかってはいたが乙和さん、衣舞紀さん、ノアさんの三人が教室に凸ってきた。目的は大方わかっていたので、俺は咲姫の手を引いて中庭に出た。

大きいテーブルがあったのでその周りに座って話をすることに。いつになく緊張感が漂っていて、少しだけだが冷や汗をかいた。

 

衣舞紀「朝のニュース見たけど•••本当なの?」

 

朝のニュース、その言葉だけで俺は何の事なのか一瞬で理解した。言わずもがなライブの件だろう。俺はただ頷いた。

 

乙和「ライブするのはいいんだけどさ〜、私たちに言わないというのはどうかと思うよ〜?」

天「いえ、元々今日話す予定だったんです。それがニュースになってたりトレンドに入ってたりで、予想外の事態に見舞われまして」

 

ここまで騒がれるとは全く思ってなかった。もしこのような事がなければ、放課後の時に平和に話せる事が出来たのだろうが•••。

 

天「一応姫神プロデューサーにも訊いてみましたが、双方の社長同士で勝手にオッケー出しちゃったらしくて•••」

 

全く面倒な事をしてくれるよ社長さんは••••••おかげで学校内で騒がれちまってるんだから、迷惑なことだ。

 

ノア「でも、今はそんな事はどうでもいいの。単独ライブ•••持ってきてくれたんだ?」

天「えぇ。これもPhoton Maidenの成長の証だと思えば•••」

乙和「それはないかな〜。天くんのツテもかなり入ってると思う」

衣舞紀「だよね。私たち、というより、事務所だけじゃあんなところで単独ライブなんてできないわ」

天「•••••••••なんでぇ」

 

今回のライブは俺のツテだとかそういったものは一切関係ないと思うのだが。Photon Maidenが実力を示しているからこそ、あんなデカいハコを押さえられたのだと俺はそう確信している。

 

ノア「そもそも事務所だけだと話すら通してもらえないよ•••その辺は天くんが今まで積み上げてきたもののおかげかな」

天「そ、そんなこと••••••」

衣舞紀「謙遜しなくていいわよ。ここまで来れたのは天のおかげなんだもの」

天「うぅ•••恥ずかしい••••••」

 

多方面から褒められて俺の心は嬉しさよりも羞恥心が勝っていた。顔が赤くなって逸らしてしまう。

 

ノア「天くん、カワイイ•••!写真に納めて永久保存しなければ•••!」

天「えっちょっそれは•••」

 

写真は勘弁して欲しいので手で顔を覆った。その間に何とか落ち着かせて顔を出す。

 

天「と、とにかく•••!ニュースでも言ってたようにライブは七月にしますので、レッスン等頑張ってください!」

咲姫•衣舞紀•乙和•ノア「はい!」

 

全員がしっかりと応えて、俺は少し安心した。

まぁこれでしみったれた話は終わりとして、Photon Maidenのみんなと昼食を食べる事になった。ライブとかそういった集まり以外で全員と飯を食べるのは何気に初めてかもしれない。

 

咲姫「はい、これ」

天「あぁ•••ありがとう」

 

咲姫から弁当を受け取って中を開ける。肉が大量に入っていて、少し無理をさせたのではと心配になった。

 

乙和「あれ?天くん今日は月ちゃんのお弁当じゃないんだ?」

咲姫「昨日は私の家に天くんが泊まったから•••」

衣舞紀「えぇ!?」

乙和「!?」

 

咲姫が恥ずかし気もなく昨日の事を暴露した。衣舞紀さんと乙和さんは驚き、ノアさんは固まっていた。

 

天「もぐもぐもぐ••••••」

 

恋人同士で泊まるなんていずれあるだろうと、俺はそう思っているので気にせず食事を続けていた。流石にセックスした、なんて話題になったら死ぬけど。

 

乙和「それでそれで、どうだったの!?」

咲姫「ど、どうだったって言われても••••••」

 

咲姫は目を逸らした。詮索されて赤くなるくらいなら最初から言うなよ•••。

 

乙和「やっぱり一緒にご飯食べたりしたの!?」

ノア「いやそれじゃいつも通りでしょ。それに泊まるなら一緒にご飯食べるなんて当たり前じゃない」

 

ノアさんが的確にツッコミを入れてくれるが、ぶっちゃけこの人が1番何言い出すかわからないから怖い。爆弾発言は控えてくれよ••••••。

 

ノア「お泊まりっていっても二人は付き合ってるよね?一緒に寝たりしたの?」

 

ほら来たよ!まだ「セックスしてないの?」って訊かれるよりはマシだけどさぁ!いやこんなクソみたいなこと訊いてくるの月くらいだわ()

 

月「へくしっ!」

夢木中生徒A「月ちゃんどうしたの?風邪?」

月「な、なんでもないよー!」

 

咲姫「ね、寝た•••」

 

そして咲姫は何で答えてるんだ••••••。しかもみんな「おぉ〜」と興味津々に聞いてやがるし。

 

ノア「甘々だね〜。天くんはどうだったの?咲姫ちゃん可愛かった?」

天「ノーコメントです。咲姫が可愛かったというところは頷きますが」

衣舞紀「ラブラブね•••」

 

いや仕方ないじゃん。恋人が可愛いと思うのは自然の摂理だと思いますがねぇ?ねぇ?

 

乙和「晩御飯とかは?咲姫ちゃんが作ったの?」

咲姫「天くんがチャーハンを作ってくれた」

乙和「天くんチャーハン作れるの!?食べてみたいかも」

天「でしたら今度作りますよ」

咲姫「••••••むぅ」

 

咲姫が俺の制服の裾を引っ張った。え、他の人に飯作るのダメなの?

 

衣舞紀「天のチャーハンは咲姫だけが食べたいみたいね•••」

天「たかだかチャーハンで大袈裟な•••。あ、味まぁまぁ濃いと思いますけど大丈夫ですか?」

乙和「全然オッケー!楽しみにしてるね!」

ノア「咲姫ちゃんの嫉妬は無視なんだ••••••」

 

流石にチャーハンで嫉妬されるのもこっちが困る()後でご機嫌取りしないといけないが、まぁ咲姫が甘えてくるだけだしいいか。

 

咲姫「朝の約束、ちゃんと守って•••」

天「はいはいわかってるよ。あんまり俺を疑うなって」

 

今日の帰りはえっれぇ事になりそうだな••••••これだと長時間抱きしめて頭撫でないといけなさそうだ。

 

午後の授業はかなり退屈で、俺はずっと寝て起きての繰り返しを続けていた。評価は落ちそうだが、卒業できれば何でもいい。成績やテストで赤点さえ取らなければ卒業は絶対できるのだから。

 

教師「神山ー?お前寝るのホント好きだなぁ••••••」

 

教師が持ってたペンで俺を叩こうとしたので躱した。

 

教師「•••?起きろよっ」

 

また躱す。

 

教師「な、何故当たらんっ」

 

何度も何度も躱すと、教師は疲れたのか、はたまた俺を起こすのが面倒になったのか教卓の方へ戻っていった。

 

焼野原「な、なぁ神山•••お前本当に起きてるか?」

天「半分半分だな。起きてるけど今すぐにでも寝そうだ」

焼野原「なんで避けれるんだよお前•••」

天「父さんから鍛えられてるからな」

 

父さんに比べたら教師の動きはノロマだ。避けるのは容易い。ある意味睡眠の妨害を避ける為だけに鍛えてるのかと、度々思ってしまうのはちょっと心が痛いが。

 

焼野原「期末テストはいいのか?来月だぞ」

天「欠点さえ取らなければそれでいい」

焼野原「うっわーすっげぇ現実的な考えだ•••」

天「卒業さえできればそれでいいからな」

 

俺は苦笑した。焼野原くんもなんとも言えない笑みを漏らしていたが、お前毎回赤点取ってるだろ。俺の心配してないで真面目に勉強しなさい。

 

放課後になり、俺は一足先に事務所に向かっていた。真っ先に仕事部屋に突撃して、パソコンを立ち上げる。メモ帳と万年筆も取り出して仕事に取り掛かった。

まだ八月のライブまでの予定の組み込みが完全に終わっていない。後々調整が入るかもしれないが、その内に別のライブを入れたり、陽葉学園内でのライブ等も考えると、かなり予定を組みづらい。

単独ライブという甘い言葉にふわふわとしていた心が一気にドン底へ叩き落とされた気分だ。それまでの間は仕事に追われて心休まる時間なんて中々取れないだろう。もしかしたら咲姫に甘えてしまうかもしれないが、彼女なら許してくれるはずだ。

メモ帳に書いた予定をパソコンにも同じように入れていく。同じ作業を二回するというのは、中々に面倒で精神が削られるものだ。

事務所内の人たちにも知らせておかないといけないから仕方のないことではあるのだが。••••••また今度何処かでライブできないか交渉してみるか•••。

 

気がつけば夜になっていた。仕事の方もキリのいいところまで来たので、パソコンを落として今日の分は終了した。

仕事部屋から出て、事務所の外に出ると、咲姫が待っていた。

 

咲姫「あっ•••帰ろ?」

天「あぁ」

 

俺に気づいた咲姫は微笑み、俺の手を握った。俺も握り返して、帰路につく。

 

咲姫「お仕事、大変?」

天「ライブが終わるまでは忙しいかな。でも咲姫やみんなの為と思えば頑張れる」

 

これは事実だ。Photon Maidenの為だと思えるからここまでやれる。だがそれで身体が壊れたら元も子もないので体調管理には気をつけよう。

もうすぐ家に着くくらいの所まで歩いてきた。そこで咲姫は止まって、俺の手からするりと離れた。

 

咲姫「朝の約束•••」

天「ん、わかった」

 

咲姫を抱きしめて頭を撫でる。ふわふわの髪はとても触り心地が良かった。

 

咲姫「こうしてると落ち着く•••明日も頑張れる」

天「しばらくはかなり大変だろうけど、頑張れ。咲姫たちが倒れないように、どうにかするから」

咲姫「うん•••ありがとう、天くん」

 

咲姫が更に密着する。小さく笑みを零して、ライブへの期待が高まったのを感じた。




感想評価くれたら嬉しいです。そして昨日D4してたらマルチで友達とぶち当たって笑ったwお互いに好きな曲だしあってメドレーライブしたぜ!


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厚着したはずなのに寒いってよくあるよね

文化祭楽しかったー!ステージ発表めちゃくちゃ笑わせてもらった!明日は遠足かぁ•••はぁ•••(絶望)。


忙しくなるとは言ったが、だからと言って休みを入れないわけではない。たまには休みを入れないとモチベーションが下がる上に体調を崩しかねない。

せっかくの休みという事なので、前々から咲姫と計画してた北海道日帰り旅行に来ていた。飛行機に乗って新千歳空港で降りる。

 

天「さっむ」

 

思った以上の寒波に俺の身体は震えた。多少厚着はしてきたはずだが、それを貫通する程とは恐ろしい。

 

咲姫「もっと着て来てもよかったと思う」

天「咲姫の言う通りもうちょっと厚着にすれば良かった」

 

今更ながらに後悔した。そんでもって周りは雪だらけだ。雪は降っていないが、それでも雪の積もりはかなりのものだった。

 

咲姫「えいっ」

天「ぶふっ!?」

 

突然顔に冷たいものが飛んできた。これ•••雪か?咲姫の方を見ると、丸めた雪玉を持っていた。やりやがったなこいつ。

 

咲姫「油断大敵•••」

天「上等じゃこの野郎」

 

俺は咲姫の元へ歩み寄る。彼女が投げる雪玉を躱して躱して躱しまくる。持ち玉がなくなった咲姫は次の雪玉を作成しようと地面の雪を集めるがーー、

 

天「そらっ!」

咲姫「わぷっ」

 

飛びついて雪の中へ倒れ込んだ。雪がクッションとなって、全く痛くなかった。

 

天「ほら捕まえたぞ」

咲姫「避けるのはズルい•••」

 

文句を言う咲姫だったが、俺の背中に腕を回して離れる様子はなかった。かくいう俺も咲姫を抱きしめているわけだが。

 

天「さてどうするか。ここで雪合戦なんてしてないで、そろそろ移動するか」

咲姫「うん。色々なところをまわりたい」

 

立ち上がって雪を払う。普段雪で遊ぶ事がないものだから新鮮で楽しかった。

 

駅まで歩いて行き、電車に乗って札幌まで移動した。まぁ当たり前だが外は雪で溢れかえっていた。ザクっザクっと雪を踏む音がなんだか気持ちいい。

 

咲姫「ーーあっ」

 

咲姫の足が雪の中へ深く埋まり、その所為で咲姫は体勢を崩す。

 

天「おっと」

 

咲姫の手をしっかり握りながら、こちらに身体を抱き寄せる。

 

天「大丈夫か?」

咲姫「うん、ありがとう」

 

無理矢理足を出して雪の拘束から逃れる。また歩き出すが、なんだかさっきより寒く感じる。

 

まず最初に札幌市時計台に訪れた。ここは昔札幌農学校(現北海道大学)の演舞場として設立されたらしい。今はその歴史を紹介する展示施設となっている。何気に高校生は無料というのがありがたい。

 

スタッフ「観光の方ですか?」

天「はい、東京から来ました」

 

スタッフの方に話しかけられ、俺は丁寧に答える。東京、と聞いてスタッフさんは少し驚いた表情を見せた。

 

スタッフ「遠くからようこそお越しくださいました。ごゆっくり見学して行ってください」

天「はい、ありがとうございます」

 

俺が頭を下げると、それに続くように咲姫も頭を下げた。

 

スタッフ「可愛い彼女さんですね」

天「そうですね、可愛いです」

咲姫「ッ!?」

 

咲姫の顔が赤くなる。元々肌が白いのもあって、とてもわかりやすかった。というかそういう反応するから可愛いって言われるんだぞ。

 

 

天「はぇーすっごい」

 

どれも興味をそそられるような印象的なもので溢れかえっていた。写真もパシャパシャ撮ってフォルダに残していく。

 

咲姫「そ、天くん•••」

天「んー、なんだ?」

咲姫「さっきの、可愛いって言うのは•••」

天「本音だが?」

咲姫「う、うん••••••」

 

俺の手を握っている咲姫の手がモゾモゾと動いたのを俺は感じた。でも今は展示品に夢中になっていて、そっちには気がまわらなかった。

 

咲姫「わ、私も天くんの事•••カッコいいと思う•••」

天「ん、ありがとう」

 

感謝の意を込めて頭を撫でてやる。

 

咲姫「•••えへへ」

 

頬を赤く染めながら小さく笑う姿は、大変可愛らしかった。

 

札幌市時計台を出た後は何をしようかと悩んでいた。ただ、東京から北海道まで行くというのはかなり時間がかかるので、あまり遅くまで遊ぶ事ができない。泊まり込みなら良かったが、生憎明日はレッスンがある。往復で計六時間は流石にヤバい。

 

地下鉄に乗り、訪れたのは二条市場だ。単純にここに来たのはお土産にカニとかホタテでも買おうかと思ったからだ。それに色々な飲食店があるらしいので、昼食もここで済ませようと思ったのだ。

 

天「色んな店があるな•••」

咲姫「あっ、青果店•••」

 

真っ先に咲姫は果物に興味を示した。せっかくなので寄ってみる事に。

確か北海道の有名な果物はメロンとリンゴだったはずだ。どちらかと言うとメロンの方が有名だったのを覚えている。

 

青果店主「へいらっしゃい!何をお探しかな!?」

咲姫「メロンが食べたいです」

青果店主「メロン?色々あるからなぁ•••一番有名なのはこのアサヒメロンってやつだが、どうだい?」

 

アサヒメロンねぇ•••一つ五千円って中々にいいお値段するな。

 

天「じゃあそれ買います。他にもリンゴとか貰えますか?」

青果店主「は?姉ちゃんかなり金持ってんだなぁ。顔はいいけど声低いなぁ」

天「自分男です」

青果店主「••••••冗談キツいぜ姉ちゃん!そんな顔して男なんてありえねぇぜ!」

天「男です」

青果店主「••••••そうなのか」

 

疑り深い店主だな、と心の中で毒を吐く。とりあえず例のアサヒメロンを買って、リンゴや他の果物も買った。

 

咲姫「大丈夫なの•••?そんなにお金使って」

天「これくらいなら全然平気だ。咲姫、メロン食べたかったんだろ?」

咲姫「そうだけど•••だからって買ってもらうのは•••」

天「気にするな。好きな人の前ではカッコつけたいんだよ」

咲姫「そう•••ありがとう」

天「そりゃどうも」

 

最近はお金をバンバン使うこともなかったのでかなり余裕がある。これくらいならまだ大丈夫だ。

この後ついでにカニとホタテも買って、昼食を食べにラーメン屋に入った。バター味噌ラーメンなるものが気になり、それを注文する。咲姫も同じものを頼んだ。

ラーメンを啜る。バターと味噌ってかなり合うな。マ◯クのフ◯レオフィ◯シュバーガーより1000倍こっちの方が美味い。お前の店もう行けねぇ。

 

咲姫「味は濃いけど、さっぱりしてる•••」

天「だからか。なんだか食べやすかったんだよな」

 

味は濃い癖に何故か飽きないと思っていたらそういうことか。卵にも味が染みててかなり美味い。

 

天「北海道のラーメンってこんなに美味かったんだな•••」

咲姫「味噌バターのラーメンなんて初めて食べた」

 

都会で薄汚れた語彙力では、このラーメンの素晴らしさを語ることは無理な話だった。その後もうめぇうめぇ言いながら完食した。

 

時間も時間なので、俺と咲姫は空港へと戻っていた。飛行機に乗り込み、出発するまで色々話し合う。

 

天「ちょっとしかまわれなかったが、楽しかったな」

咲姫「うん、すごく楽しかった」

 

咲姫も満足したようで、安心した。というか今度は味噌バターラーメン目的で訪れたいまである。それくらいあそこのラーメンは美味かった。

 

咲姫「でも、ちょっと疲れた••••••」

天「眠いなら寝ていいぞ?」

咲姫「•••まだ、天くんとお話ししたい•••」

天「帰ってきてからでもできるだろ?今は寝ておけ」

咲姫「うん••••••」

 

俺の方に頭を乗せて、彼女は眠ってしまった。かくいう俺もかなり眠気が襲いかかっていた。

 

天「•••俺も寝ておこうかな••••••」

 

そこまで歩き回ったわけではないが、慣れない環境というのもあって疲れていた。

眠る咲姫の頭を撫でると、彼女は声を漏らした。

 

咲姫「•••好き••••••」

天「•••俺も好きだよ」

 

俺は何処か安心して、席の背に体重を預けて、目を閉じた。どうせ、空港に着いたら起こされるんだし、景色は行きで見たし、今は眠っていたかった。




感想評価、オッスお願いしまーす。いつでもいいよ!こいよ!


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勉強会って意外と勉強しないよね?

遠足にファミチキと7チキ持ってったバカがいるってマジぃ?俺だよ!俺俺!如水ーー!という事で、遠足におやつとしてコンビニチキンを持っていったバカですw美味かった(小並感)。


七月に入り、少しずつだが単独ライブへの準備が始まっていた。レッスンもライブを想定したものへと変わり、他のライブへの参加も増えていた。そして今月の半ばには期末テストもあるので、それへの対策もしなければいけない忙しい月へとなった。

 

天「だからって•••なんで勉強会••••••」

 

土曜日の昼。レッスンを終えた後は神山家で勉強会を開く事になった。俺は赤点さえ回避できればそれでいいのでやる気など一切なかった。

 

衣舞紀「ライブも大事だけど、期末テストで落とすと補習とかあるからね」

天「正直この中で危ないのって乙和さんだけですよね」

乙和「うぅ•••否定できないのが悔しい••••••」

 

この中でテストで赤点取りそうなのは乙和さんくらいだ。俺は赤点回避は確実にしてるし、咲姫、衣舞紀さん、ノアさんは普通に優秀だ。

 

衣舞紀「そういう天は大丈夫なの?」

天「失礼ですね。これでも毎回学年半分を維持し続けてますよ」

 

こんな俺でも得意教科くらいはあるので、苦手な部分はとりあえず赤点回避して他を伸ばしていれば半分の順位なんて余裕だ。

 

ノア「乙和さえどうにかなれば安心なんですけどね•••」

天「最早乙和さん専門の勉強会になりそうですね•••」

 

俺とノアさんはお互いに苦笑する。それが乙和さんは気に入らなかったのか、頬を膨らませて怒っていた。

 

咲姫「天くん、ここがよくわからない•••」

天「あぁ、そこはこの人の言葉がヒントになってるから、そこを改変して埋めてみろ」

 

咲姫が問題集の長文を指差して訊いてきたので丁寧に答える。ちなみに作者は現国が一番得意だ。

まぁ所詮は偏差値50より下の工業高校のだけど(作者)。

 

乙和「じゃあ天くんここはここは?」

天「いやそれ作者の心情のやつじゃないですか•••文章全部読めばわかるのでちゃんと最後まで見てください」

乙和「咲姫ちゃんと扱いが違う•••」

ノア「流石に違うでしょ•••問題の難しさ考えなよ•••」

 

乙和さんのは文さえ読めば簡単にわかる問題だが、咲姫のは改変したり、問題から指定された文字数もあるので、比較的にそっちの方が面倒くさい。

 

乙和「本当は恋人だから贔屓してるんでしょ!?」

天「たかが勉強でそんなに引きずったりしませんよ•••」

 

問題を解きながら呆れた声を漏らす。衣舞紀さんやノアさんはクスクス笑っていたが、咲姫は無言で問題に集中していた。

ドガン!!凄まじい音と共に何かがぶつけられた。全員がビックリして飛び跳ねたが、俺だけは察していた。確実にあいつだ。

 

猛「たっだいまぁ!天ぁ、久しぶりだなぁ!」

天「おかえり、父さん」

 

俺はいたって冷静に対処する。が••••••みんな怯えてしまってるな。父さん、見た目ヤクザだから仕方ない。

 

猛「あ?この子たちは•••えーっとフォト•••なんだだっけ」

天「Photon Maidenだ」

猛「あぁそうそれそれ!なんだ天、ハーレムじゃねぇか!どうやって誑しこんだんだ?えぇ?」

天「誑しこむもクソもねぇよ。勉強会してんだ」

 

ニヤニヤしながら俺をまじまじと見る父さん。そして、チラリと咲姫の方を見た。咲姫はビクッと怯えたように肩を跳ねて、俺に抱きついた。

 

猛「月から話は聞いている。こんなバカ息子だがよろしく頼むよ、咲姫さん」

咲姫「えっ•••?こ、こちらこそ、よろしくお願い•••します••••••」

 

父さんは咲姫に対して頭を下げた。この子なら俺を任せても大丈夫なんだろうと、確信が持てたのだろう。咲姫も困惑しながらだが、言葉を返した。

 

猛「それにPhoton Maidenの皆さんも、息子がたくさん迷惑を掛けると思うが、大目に見てやってくれないか?」

衣舞紀「もちろんです。天にはいつも助けられてますから」

乙和「天くんとっても優秀なんですよー!お仕事たくさん持ってきてくれるんです!」

ノア「天くんは私たちの大事な仲間ですから」

猛「天ぁ•••立派になったなぁ••••••!最近お前の事ずっと見てきたが、よく笑うようになったし、父さんは嬉しいぞ••••••!」

 

父さんが号泣する。その怖い顔でされるとやっぱりというか当然気持ち悪かった。••••••ちょっと待て。なんか変な言葉が聞こえたぞ。

 

天「俺の事ずっと見てたって•••どういう事だ?」

猛「あーその事?お前の事が心配でな、双眼鏡なりなんなり使って観察してたんだ」

天「仕事しろよ」

 

何やってんだこの親父は。仕事ほったらかして俺の事見てたの?純粋にキモいとしか出てこないのだが。というかキレそう。

 

猛「仕方ねぇじゃん。部下パワハラしてもつまんねぇんだしさぁ!」

天「軍の闇を見た気がする•••」

猛「厳しくしないと強くならないから仕方ないだろ!逆にお前は甘いんだ!それで成果出してるから強くは言えないけどな!」

 

なんかもう•••完全に父さんと母さんを反面教師にして育ってるな俺•••厳しくし過ぎないのが俺の流儀へと成り果てていた。

 

乙和「というか天くんと天くんのお父さん全然顔似てないね〜」

猛「そうなんだよなぁー、ぜーんぶ母さんに持っていかれちまったよ」

天「性格は諸々月が持っていったからいいだろ?」

猛「うーんそれはそれで複雑••••••」

 

というか既に父さんはこの輪の中に溶け込んでいた。見た目に反した気さくな性格のお陰で、みんなからは既に恐怖だとかそういった感情は消え失せていた。

 

咲姫「天くんのお父さん、面白いね」

天「そうか•••?ただウザいだけだと思うんだけど」

猛「失礼かよ!本当にこいつは可愛気がねぇなぁ全く。月を見習え!」

天「••••••日頃からあんな問題発言する妹を見習いたくないな•••••••••」

 

俺は遠くを見る目になった。大方察している咲姫も、なんとも言えない表情をしている。

 

衣舞紀「月ちゃんは•••ちょっと••••••」

ノア「可愛いけど発言に問題が••••••」

 

月の悪名はPhoton Maiden内にも轟いていた。時たま事務所に遊びに来るが、かなりヤバい発言が目立つのが否めない。見た目に反して中身が変態過ぎる。

 

猛「月•••結構な事やってんだな••••••」

天「ちょっと前に月の友達に会ったけどセクハラがすごいって言ってたな•••あんな事も言うし、最早おっさんだよ、あれ••••••」

 

セックスは言うわいつキスしたかとか言うわで、大変だ。誰かこの妹の暴走を止めてほしい。多分無理だろうけど。

 

猛「まぁいいや。とりあえず風呂入ってくるわ。後は部屋にこもってるから好きにしろ」

天「あぁ」

 

俺は短く返すと、父さんは荷物を部屋に置く事なく風呂場へ直行した。涼しい顔をしていたが、本当はかなり疲れていただろう。元気な状態なら今頃殴りかかってきてる。恐らく仕事の方が大変なんだろう。俺にはその内部事情を知らないからなんとも言えないが。

 

ノア「天くんのお父さん、いい人だね」

天「••••••そっすね」

乙和「何で目を逸らしたの?」

 

神山家の家庭事情をある程度知っている咲姫を除く三人は首を傾げた。

 

咲姫「天くんのお父さん、いつも天くんを殴ってるみたい」

衣舞紀「も、もしかして虐待•••!?」

天「違いますよ。父さんはいつもそんな感じなんです」

ノア「日頃から暴力振るってるって、それ虐待以外にないと思うけど•••怪我とかない?大丈夫?」

天「だから大丈夫ですって。俺も俺で殴り返してますから」

乙和「天くんの家庭がすごいということだけはよくわかった•••」

 

乙和さんみたいに変に詮索せずに、簡潔にまとめてくれたらそれでいいのだ。ある程度知ってる咲姫は心配のカケラもない表情をしているのだから。

 

天「それでもなんだかんだ家族のことを考えてくれる、いい父親ですよ」

 

俺は微笑む。いつもはあんな感じだが、いざというときは本当に頼りになる人だ。そういう面はカッコいいと思うし見習いたい。

 

ノア「はぁー•••天くんの微笑み、カワイイ••••••儚げなのに何処か美しさを感じる•••尊い」

天「本当に相変わらずですね•••」

 

微笑みは一瞬にして苦笑へと変貌を遂げた。それでもノアさんにはやはり受けるようで、俺はこの人の恐ろしさを改めて感じた。

 

勉強会は終わり、Photon Maidenのみんなはそれぞれの家へと帰宅していった。その後に月も帰ってきて、勉強会の事を聞くと、「私も参加したかった!」と嘆いていた。

今日は久しぶりに俺と月と父さんの三人で晩飯を食べる事になった。父さんとご飯を食べるのは実に久しぶりで、なんだか嬉しかった。

 

月「いーなー、勉強会いーなー。私も一緒にしたかったなー」

天「いつまで文句垂れてるんだ•••?また近々やるだろうから、その時に言うよ」

月「ホント?やったー!」

 

我が妹は単純だった。確実にやるかもわからない事に期待を募らせている。憐れだ()

 

猛「実際に見たが、本当に美少女揃いだな。お前よくあんな連中の一人と付き合えたよな」

天「•••言われてみればそうだな」

 

よくよく考えれば、咲姫程の美少女と付き合えるのは見た目も中身もイケメンのイイ男に限ると思う。今更ながら、俺の何処が気に入ったんだと疑問に思い始めてきた。

 

月「お兄ちゃんは誑しだからイケたんだと思うよ」

天「誑しちゃうわアホ」

猛「お前普通にモテてなかったか?」

天「男にはな•••」

 

中学のしっぶい記憶を思い出して口の中が酸っぱくなる。多分一目惚れだったんだろうな。俺の声とか何も聞いた事なかったんだろう。

 

月「ちなみに私は昨日また告白されました!えっへん!」

猛「おう月、そのコクった男の名前教えろや。今すぐぶっ殺したる」

天「やめろ野蛮人」

 

月の事になるとすぐに大袈裟になるんだからこの親父は•••。

 

天「そもそも、恋愛するしないは月の自由だろ?誰とくっつこうが別にいいだろ」

猛「できることなら石油王かイケメン俳優と•••」

天「ホント月の父親だよなお前••••••」

 

所望する相手が月と丸被りだよ。月は第二の父さんだな•••。見た目は天と地の差があるけど。

 

猛「俺の見た目バカにするな殺すぞ!」

天「だから何で心の中読んでくるの!?」

 

ここの奴ら全員俺の考えてることお見通しなのか••••••!?だとしたらもう家出する。咲姫の家に永住するわ。迷惑だろうからしないけど。

 

月「それでお兄ちゃんー子供はまだー?」

天「気が早ぇ•••」

猛「え、何、お前咲姫ちゃんとヤッたの?」

 

月が爆弾を投下し、父さんがそれを爆破させた。ホント余計なことしか言わねぇなこいつ。後で植木鉢演出したる。

 

月「もうヤッたんだよねー?ラブラブイチャイチャにゃんにゃんしたんだよねー?」

天「はーウザ」

 

反応するのも疲れてきて、俺の応対は雑になってきていた。もうマジでさぁ?やめてぇ?精神崩壊しちゃうよ。

 

猛「ちゃんと恋愛してるようで俺は何よりだ!ガハハハ!」

 

父さんはあまり踏み入らずに笑っていた。正直ありがたい。

 

天「••••••••••••」

月「どうしたの?もう咲姫さんシック?」

天「昼会ったばっかりだぞ?そんなすぐならねぇよ。ただ、ライブの事がどうしても心配でな」

月「それをどうにかするのがお兄ちゃんの仕事でしょ!?自信持って頑張って!」

 

俺の背中をバンバン叩いてエールを送る妹に、俺は笑い掛けた。

そうだ、俺が弱気になっていてはダメだ。気合いを入れるために、両頬を思いっきり叩いた。ヒリヒリとした痛みが、雑念を取り払ってくれる。

 

天「その前に期末テスト、乗り切るか!」

 

俺のやる気は、一層高まっていた。




感想評価頼むよー。くれたらケツに竹刀で突きするよ♡


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テスト後のあれこれ

体重増やそうとしてるのに逆に減るのなんで?毎日身体鍛えてるのにおかしいやろ?なぁ?


迎えた期末テスト当日。対策をバッチリ立ててきた俺に死角などなかった。問題と向き合ってサラサラッと解いて後は、惰眠を貪るという最低最悪な時間を過ごした。テストの点は取れてても内申点は確実に引かれた自信がある。

 

天「(••••••乙和さんがすっげぇ心配だ••••••)」

 

俺の頭の中はそれ一色だった。もし仮に乙和さんが赤点など取ろうものなら、補習に追われてライブの練習どころではなくなってしまう。それだけは何としても避けたいので、集中的に乙和さんだけを追い込みに追い込んだ。彼女は泣いてしまったが、ライブの為だから仕方ない。心を鬼にした。

 

天「(あそこまでやったんだ•••きっと大丈夫、大丈夫だ••••••)」

 

もうテストの日となった今は、ただ祈ることしか出来なかった。

 

テストは無事に終わり、部活動生はテスト前で休みになっていた部活の再開を嘆いていたが、そんな事はどうでもいい。咲姫を連れて、ネビュラプロダクションへと向かった。

 

事務所に到着し、打ち合わせ室でみんなと顔を合わせる。テストの手応えをみんなで報告し合うのだ。

 

衣舞紀「みんな、どうだった?」

天「いつも通りです。欠点は確実にないと言えますね」

咲姫「私も同じ」

ノア「天くんと咲姫ちゃんに囲まれて勉強会をした甲斐あって、いい結果が期待できそう•••!」

乙和「••••••••••••」

衣舞紀「乙和はどうだったの•••?」

 

この中で唯一言葉を発さなかった乙和さんを見かねて、衣舞紀さんは問う。しばしの沈黙が続き、乙和さんは口を開いた。

 

乙和「正直わかんないかな〜•••まだ結果が出てないからなんとも••••••」

 

乙和さんは自信なくそう答えた。それは仕方のない事だろうと、俺は頭の中で納得してこれ以上は口を開かない。ただ、これだけは言っておきたかった。

 

天「わざわざみんなで勉強会開いてまで乙和さんの為に対策したんです。赤点なんて取ったら許しませんから」

乙和「うぅ•••あれは思い出したくない••••••何より天くんが怖かった•••••••••」

 

え、何で?俺そんなに怖がらせるような事したか?全く身に覚えがない。

 

衣舞紀「まぁあの中で一番圧を掛けてたのは天かもね•••乙和の言う通り少し怖かったわ」

ノア「完全に仕事をしてる時の真面目モードだった所為だね•••顔がマジだった•••」

天「う、嘘だろ•••?さ、咲姫は、咲姫はどう感じた!?」

咲姫「勉強教えてる天くんはとってもカッコ良かった」

 

あーもう好き。ノーコンマで俺に対して褒め言葉送ってくれるこの彼女最高過ぎる。周りに人がいなかったら抱きしめてた(確信)。

 

ノア「天くんの顔が一瞬で笑顔に•••!写真に収めなければ!」

 

ノアさんはスマホを取り出して一瞬のうちに俺の顔を写メった。泣きたい。

 

乙和「こんな時までイチャイチャしないでよー!」

咲姫「••••••?私は本当の事を言っただけ」

ノア「恥ずかし気もなく惚気る咲姫ちゃん•••!カワイ過ぎる••••••!」

 

このままオーバーヒートしてノアさんが倒れないか少し心配だ。まぁ倒れてもすぐに復活するだろうけど()

 

衣舞紀「とりあえずは結果を待つしかないわね。それじゃあ、今日もレッスン頑張ろう!」

 

衣舞紀さんが流れを変えて、全員がゾロゾロと打ち合わせ室を後にする。俺は途中で仕事部屋に入って、メモ帳と万年筆を机の上に置いた。

 

天「••••••そうだ。もしみんなが、というより乙和さんが赤点回避できたら•••こういうのもいいかもな」

 

俺は薄ら笑いを浮かべながら、七月の後半の一つの枠に、とある行事を書いた。きっとみんなも喜ぶだろうな、と少し楽しみになった。

 

天「さーて、仕事に取り掛かりますか!」

 

椅子に座りながら大きく伸びをして、スケジュールを立てて、調整していった。

 

仕事に関しての集中力は、自分で言うのもあれだがかなり続く自信がある。気がつけば暗くなっていて、周りもシンと静まり返っていた。

いや、実際は人はいるのだろうが、その人数自体が減って、比較的に音量が下がったのだろう。

俺はメモ帳を閉じて、胸ポケットにしまって立ち上がる。七月になり、制服も夏服へと移り変わった。冬服の時のような厚い胸ポケットではないので、落ちそうで少し怖かったりする。

 

天「••••••あ?あれ、あー•••やったな、これ」

 

鞄の中を漁ると、とあるものがない事に気がつく。パソコン•••間違えて机の中にぶち込んでしまったな。正直面倒だが取りに行こう。今日の仕事は終わらせたので、俺は立ち上がった。

ドアを開けると、目の前には咲姫が待ち伏せていた。

 

咲姫「終わった?」

天「あぁ。でも今から学園の方に行かないといけない」

咲姫「どうして?」

天「パソコンを置いてきてしまった。家に帰ってから必要だから回収しないといけない」

咲姫「私もついて行く」

天「いいのか?」

咲姫「うん」

 

一人でもついてきてくれる人間がいるのはありがたい。お言葉に甘えて咲姫と一緒に夜の陽葉学園へと向かった。

 

学園の中に入ると、それはそれは真っ暗だった。不気味さすら感じる程光はなく、奥が黒くて見えなかった。

幸いにも教室の鍵は開いていたので、易々と侵入する事ができた。パソコンを回収して鞄の中に入れる。

 

天「ふぅ、ちゃんと見つかってよかった」

咲姫「あっ、天くん、少しだけ寄り道していい?」

天「?いいぞ」

 

咲姫は思い出したかのように俺の手を引いて奥へと進んでいく。階段をどんどん上がっていって、扉を開ける。

七月とはいえ、夜の風は冷たく、薄い制服には厳しかった。

咲姫が連れてきたところは屋上だった。一人でにその中央まで歩いて行ったので、俺もついていく。

そして、咲姫は空を見上げた。俺も同様に見上げる。

 

天「••••••綺麗だ」

 

空には、満点の星空が映っていた。暗い夜を彩る光は、一際強い光を放つ月を中心に広がっているように見えた。

 

咲姫「たくさんの星•••この星の向こうには、きっと宇宙があると信じてる•••」

 

そういえば咲姫のお父さんは宇宙関係の研究所の所属だったかな。何気に咲姫の家には宇宙に関する学術書などが置いていたりする。俺も論文程度なら多少は見てる。例えば脳と魂の違いに関するものとか。マニアック過ぎたか、流石に。

 

天「宇宙なんて無限に広がるものには、流石に手が出せないな」

咲姫「でも、届かなくても伸ばし続ける事はできる」

 

それは、諦めない強さと言うべきなのか、俺は迷った。いや、言うべきではないのかもしれない。それは咲姫にとってとても大事な”何か”かもしれないからだ。

そもそも俺は学術的根拠のない脳と魂についての論文に触れている身だ。ないものにあるものを求めているという面では変わらない。

 

天「前に言ってたな。会場の人たちの色が混ざり合って宇宙のようになるって」

咲姫「うん。私は、DJを通して自分たちの、Photon Maidenの宇宙を作りたい」

 

これが、咲姫がこの世界で活動するようになった理由か。とても壮大で、一般人からすれば訳の分からないものにしか聞こえないかもしれないが、俺には十分過ぎるくらいわかった。

 

天「••••••前々から言ってると思うが、愛は人を強くする、ってヤツ。あれはとある論文から持ってきたものなんだ」

咲姫「そうなの?」

天「あぁ。人には脳とは別に身体の制御を司る『魂』があるという仮説があってな。俺はそれを信じているんだ。脳だけでは処理できない部分を、人間は一体どうやって処理し、乗り越えているのか。それは魂による大きな働きなのではないかという説だ。愛という目には見えない部分を魂は感じ取っていて、脳よりも早い処理を行うから人は強くなるのではないかというものなんだ。まぁ、学術的根拠は一切ないから、世間の底に沈んじまってるけどな」

 

実際にその根拠が証明された例は一切ない。未だに魂について追いかけている時もあるが、今はほぼ停滞している。もう滅びたと言ってもいいくらいだ。

 

咲姫「私も、それを信じる」

 

だが、咲姫は違った。この滅茶苦茶な理論を信じると言うのだ。

 

咲姫「私も、天くんと恋人になっていっぱい成長したから•••その仮説を私は信じる」

天「••••••そうか」

 

俺は咲姫を抱きしめる。咲姫も俺の背中に腕を回した。

 

咲姫「天くん•••」

天「どうした?」

 

いつもとは違う甘い声。これで多少察してしまうのは男の本能なのかはわからないが、俺は無意識に感じ取っていた。

 

咲姫「今は、天くんをいっぱい感じたい•••」

天「•••わかった」

 

身体を離して、俺たちは唇を重ねる。夜風で冷えた身体にはとても温かく感じた。

 

咲姫「んっ、ちゅ、んぅ、ちゅう•••」

 

最近はテスト勉強だったりレッスンだったりとあまりキスをする事がなかったので、今日はなんだか長い。息が少し辛いが、それでも幸せの方が勝っていた。

 

咲姫「んうぅ、ちゅっ、ちゅ、んっ」

 

何だかやけにがっついてきてる気がするが、そんな事はどうでも良かった。俺も俺で咲姫とのキスに夢中になっていた。

 

咲姫「はっ、はぁ、はぁ•••もっと、しよ?」

天「•••あぁ」

 

咲姫のおねだりにも随分と慣れたもんだな、としみじみと感じる。俺は咲姫の制服のボタンに指を掛けた。




感想評価オナシャス!くれたら片手面叩き込みます(ドM専用)


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テストが終わったからって安心するなよ?

金曜にするはずだった国語の発表•••今日だった•••クソ緊張したぁ•••。まぁでもそのおかげで明日の体育の卓球は発表に怯えながらしなくてすみそうですw後二次創作日間ランキング25位に入ってました!ありがとうございます!


期末テストの結果が全部返ってきた。俺の結果は全て赤点回避だ。ただ俺の事はどうでもいいのだ。赤点候補の乙和さんの心配をせねばならない。

 

天「咲姫はどうだった?」

咲姫「大丈夫だった。赤点は一つもとっていない」

 

咲姫も何とか補習は免れたようだ。元から咲姫の心配はしてなかったからいいけど。

 

乙和「そーらくんっ!さーきちゃんっ!」

 

廊下から、やけに嬉しそうな乙和さんが手を振っていた。あの態度を見る限り、赤点は免れたようだ。俺と咲姫は顔を見合わせて笑みを零した。

 

その後、衣舞紀さんとノアさんとも合流して、事務所まで五人で歩いていた。

 

衣舞紀「とりあえず一つの問題は片付いたわね。後は思い思いにライブの準備ができるわ!」

ノア「それにもうすぐ夏休みだし、長時間練習できるね」

 

そういえば後一週間もしないで夏休みだった。休みだろうと関係なく仕事をしている所為で感覚が少し狂っていたのかもしれない。

 

天「実は、全員赤点を免れたらやろうかなーと思っていた事があって」

乙和「え?なになに〜?」

 

乙和さんが興味津々、と言った様子で乗り出す。

俺は少し引き気味になりながら口を開いた。

 

天「一週間ちょっと後に夏祭りがあるらしいのですが•••行きますか?」

ノア「えっ?じゃあその日は•••」

天「オフにします。全員が補習を回避したご褒美、みたいなものです」

乙和「わーいやったー!夏祭りだー!」

 

まだ一週間以上先の話なのに乙和さんは既に騒いでいた。彼女の肩を押さえてこれ以上暴れさせないようにする。

 

衣舞紀「何だか天が乙和のお兄ちゃんみたいね」

乙和「ちょっと衣舞紀!私の方が歳上なんだけど!?」

ノア「行動とか見ても天くんの方がよっぽど大人と思うけど•••」

天「月と精神年齢あまり変わらないんじゃないかとは度々思ってます」

 

今の言葉の所為で乙和さんの怒りは更に増した。みんながまぁまぁ、と嗜める。咲姫はその光景を遠くから見ながら笑っていた。

 

今日の仕事はあんまりなかったので、サッと終わらせてレッスン部屋にお邪魔していた。

今はライブを想定した練習をしているので、ずっと歌を歌い、ダンスを踊ったりしながら、本当にライブをやっているかのように通していた。これを修正しながら何回もやるのだからかなりキツいだろう。

 

月「やっほーお兄ちゃん!」

天「•••あ?月、何で来たんだ」

 

突然ドアが開いて誰が来たかと思えば、妹の月だった。突然の来訪に全員が驚いて歌声がなくなり、無情にも音楽だけは流れていた。

 

月「•••あれー?邪魔しちゃったかな••••••」

天「今はライブを想定した通り練習をしているんだ。タイミングが合えば良かったが、難しいか」

 

間髪入れずに次の曲をやるなんてザラだから尚更入りにくいだろう。俺の時はとりあえず音が止んだから入ったからセーフだった。

 

ノア「つーきちゃん!」

月「わっ!ノアさん苦しいですよー!」

 

ノアさんが真っ先に月に抱きついた。妹も困惑しながらだが、ノアさんの抱擁を受け入れて背中を優しく叩いている。

 

乙和「あー!ノアズルい!私は天くんに抱きついちゃおー!」

天「えっ?ちょっとまっーー」

 

俺の静止の声が間に合う事はなく、お構いなしに乙和さんは俺に飛び込んできた。全体重を乗せられ、その拍子に足を滑らせて見事に後ろにぶっ倒れた。

 

咲姫「天くん•••!大丈夫•••!?」

衣舞紀「ちょっと乙和、いきなりはダメでしょ!」

 

咲姫と衣舞紀さんが俺たちの元へ近寄ってくる。すぐ近くで見ていた月とノアさんは今の状況がわかっているので、ただ見ていた。

 

天「••••••あっぶな」

 

全力で首を前に傾けていたお陰で、頭を打つ事はなかった。父さんに転がされまくってたから反射的に身体が対応したようだ。

 

乙和「えへへ〜、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったかな?」

天「ちょっとじゃないですよ。離れてください」

乙和「やだもーん!天くんの身体ゴツゴツしてる〜!」

 

無闇やたらと俺の身体をペタペタと触る乙和さん。妙なくすぐったさ、というより軽い感覚の暴走を受ける。

 

月「お兄ちゃん•••咲姫さんがいるのにこんな事••••••」

天「俺何も悪くないよな!?」

 

何故俺に飛び火するような言葉をわざわざ選ぶのだろうかこいつは。マジで最近当たりが強くて軽く泣きそうなんだけど。

 

咲姫「••••••••••••」

 

しかもさっきの月の言葉に反応したのか、咲姫はムスッとした表情を浮かべていた。

俺は立ち上がって乙和さんを引き剥がす。これ以上くっつかれてもこっちが困ってしまう。

 

天「次からは勘弁してくださいよ••••••」

乙和「わかってるわかってる!疑り深いな〜天くんは」

 

乙和さんは冗談混じりの笑いを浮かべた。俺は全く笑えないので無表情を貫く。

不意に誰かから手を、というより指を握られた。

 

咲姫「••••••浮気?」

天「断じて違う!」

 

月の言葉に踊らされまくった咲姫は俺に疑いの目を向ける。事の張本人はニヤニヤしながら俺の反応を伺っていた。家帰ったらシメる。

 

咲姫「私も•••ぎゅう•••」

天「え、ここで•••?」

 

周りにみんないるのにそれはかなり、いや相当恥ずかしい。俺は気が引けてしまう。

 

月「お兄ちゃん何ビビってんだー!ハグの一つくらいしろー!」

天「煽んな!」

 

野次を入れてくる妹に怒鳴る。月はとにかく俺の反応が見たくてたまらないご様子だ。いつになくウザい。

 

咲姫「ぎゅうしてくれなきゃ•••嫌いになる••••••」

天「〜〜〜!あぁもうわかったよ!」

 

このままじゃ埒が明かないので、俺は覚悟を決めて咲姫を抱きしめた。咲姫も抱きしめ返して、俺の胸に顔を埋めた。

 

ノア「これは超レアな瞬間なのでは•••!写真に、写真に収めなければ!」

月「私も写真撮っておこう!」

 

ノアさんと月は結託して俺たちの恥ずかしい姿をパシャパシャと撮っていた。それを気にしているのは俺だけで、咲姫は抱きつく方に夢中になっている。

 

咲姫「なでなでも••••••」

天「あーはいはいわかったわかった」

 

なんか変に吹っ切れたので咲姫のワガママに応える事にした。サラサラの白い髪を撫でていく。微かに咲姫の頭が温かかった。

 

乙和「うわー•••すごいイチャイチャしてる•••」

衣舞紀「咲姫ってあんな風に天に甘えてたんだね•••なんだか新鮮かも」

月「いいよお兄ちゃん!そのままキスしようキス!むしろその先まで行っちゃえ!」

天「•••月お前家帰ったら覚悟しろよ?☆」

月「••••••すみません調子乗りました」

ノア「圧••••••」

 

とびきりの威圧たっぷりの笑顔を月に向けると、月は一瞬で萎えて大人しくなった。ノアさんが少し怯えていた気がするが俺は知らない。

ちなみにその後も咲姫が甘えてきた所為で練習どころではなくなってしまった。なので俺はしばらくはレッスン部屋への入室をしない、と心に決めた。咲姫に甘えられるのは嬉しいが時と場合と言うものがあると、改めて感じた。




感想評価オッスお願いしまーす。最近書いてて思うけどなんかネタが少なくなってきたな•••バンドリ時代の真面目文になっちまってる••••••え?バンドリの更新?一文字も書いてません♡


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一夏の思い出と言えばコレだよコレ

三連休ktkr。小説書けるし積んでるエロゲの消化もできるし最高やな!というかマジでアイこめ終わらせないと••••••。


日曜日の午後•••夏祭り当日だ。この日は予定通りにオフにしており、今からこのイベントの為にみんなで集まるのだ。

 

天「月は来なくていいのか?」

月「私はいいよ。何か行く気起こんないから」

天「そうか•••じゃ、行ってくるな」

月「楽しんでねー!」

 

月に見送られながら家の外へ出る。まだ夕陽が差し込んでいて少し暑いが、俺は小さく息を吐いて集合場所の駅前へと向かった。

 

駅前に到着したが、まだ誰も来ていなかった。壁に体重を預けて、目を閉じる。まだ少し眠たいので、彼女たちが来るまで一眠りしようか。そう思っていたが、意外にも彼女たちの到着は早かった。

 

咲姫「天くん」

天「•••ん?あっ」

 

名前を呼ばれて目を開けると、咲姫の顔がすぐ近くにあった。壁にもたれかかっていた状態を戻して、咲姫の姿をジロジロと見た。

白を基調に花の模様があしらわれた浴衣は、彼女の魅力を更に引き立たせていた。いつもはおろしている長い白髪も、今日は結われている。

 

咲姫「ど、どう•••?似合う•••?」

天「すごく似合ってる。可愛いよ」

咲姫「良かった•••」

 

安心したように笑う咲姫。俺は小さく笑みを返して、後ろにいた他の三人にも目をやる。しっかり浴衣だった。

 

衣舞紀「イチャイチャは終わった?早く神社に行きましょう。もう始まってるだろうから」

乙和「早速ゴー!美味しいもの食べまくるぞー!」

ノア「ライブ控えてるのにダメでしょ••••••」

天「乙和さんは飲食禁止でいいですかね?」

乙和「何で!?ひどーい!」

 

油断してたら屋台の食い物なんでも買って行ってしまいそうだからだ。来月は大量の人たちに自分を見せるわけだから太るのはいけない。

 

乙和「じゃあ天くんも食べるの禁止!」

天「え、嫌ですよ。俺はマネージャーだからそんなものに縛られなくていいんですよ」

乙和「差別だー!」

 

愚痴を叫ぶ乙和さんを俺は微笑ましそうに眺める。これじゃどっちが歳上か本気でわからなくなってしまうが、あんた本当に先輩だよな?()

 

会場の神社は沢山の人で賑わっていた。太鼓のリズムと共に踊りながらぐるぐる周る人たちは、とても楽しそうに見えた。

 

咲姫「何処から行く?」

 

俺の手を握りながら、咲姫は訊いてきた。俺はうーん、と唸る。

 

天「そっちから行くか、ちょうど人も少ないし」

咲姫「うん」

衣舞紀「それじゃ私たちはこっちの方に行くわね。後で落ち合いましょう」

天「了解しました」

 

また元の場所で集合し合う約束を取り、俺は咲姫と二人で歩き始めた。色々な屋台があり、どれを食べようかどれで楽しもうかとすごく悩ましい。

 

天「うわ、射的とか懐かしいな」

 

カウンターには数丁のコルク銃が置かれ、その奥には景品と思われる人形や置物、お菓子があった。

 

店主「お、なんだ嬢ちゃんたち。やるか?」

天「一回、お願いします」

店主「よし!五発だからな!」

 

弾数の説明を受けて、俺はコルク銃を構える。ちと小さいが、構え方の要領は同じだ。狙いをすませて•••。

 

天「ここだな」

 

ポンっ!と勢いよくコルクがぶっ飛び、置物に当たる。見事に倒れた。

 

店主「嬢ちゃん筋がいいな。射的慣れてるのか?」

天「どちらかというと本物の方が、ですかね•••」

咲姫「私も•••したい」

 

咲姫が乗り出してきた。おっちゃんに目を向けると、彼は快く頷いた。咲姫にコルク銃を渡して、後ろに引っ込んだ。

 

天「何か狙ってるものでもあるのか?」

咲姫「あれ••••••」

 

咲姫が指さしたものは熊のちいさいぬいぐるみだった。

 

咲姫「月ちゃんの部屋にあったぬいぐるみとよく似てる••••••」

天「月、あんなもん持ってたのか」

 

茶色の毛をした、大変可愛らしい熊だ。どう見てもそこらに置いてあるようなぬいぐるみだが、妙な愛くるしさを覚えた。

咲姫はコルク銃を構える。慣れていない不恰好なその構え方はなんだか可愛かった。コルクを放つが、明後日の方向へ飛んでいき、ぬいぐるみにはかすりもしなかった。

 

咲姫「あれ•••?」

天「違う違う、こうだ」

 

咲姫の後ろから覆い被さる形になり、右手と左手の上に自身の手を重ねる。構えを誘導して、ぬいぐるみに狙いを定める。

 

天「ここら辺」

咲姫「う、うん•••」

 

咲姫は引き金を引く。コルクは見事にぬいぐるみにヒットし、倒れた。

 

店主「おめでとう!嬢ちゃんすげぇなぁ!」

天「どうも」

咲姫「ありがとう、天くん」

 

ぬいぐるみを抱きながら咲姫は感謝を述べた。そんな彼女の頭を撫でてやり、残りの弾を打ち切った。

 

射的の結果は上々だ。あの後二発はお菓子に費やした。二発使って一つを手に入れたので旨味は少ないが、ないよりはマシと考えよう。

 

咲姫「ちょっとお腹が空いた••••••」

天「あー•••俺も少し減ったな」

 

時刻は19時前を回っており、腹が空くにはちょうどいい時間帯だった。近くの屋台が焼きそばをやっていたので、並んでから二人分注文する。

近くの石垣の所に座って、二人で焼きそばを啜っていた。味はまぁ普通。

 

咲姫「喉が渇いた•••」

天「ラムネでいいか?飲みかけだけど」

咲姫「欲しい•••」

 

射的をした後になんか気分で買ったラムネを咲姫に渡す。彼女はちびちびと少しずつ飲んでいった。

 

天「ずるずるずる••••••衣舞紀さんたち、大丈夫だろうか••••••」

 

いくら三人とはいえ女子だけで行動しているのだ。ナンパでもされたら対応によってはやられかねない。衣舞紀さんが正々堂々守ってくれそうだけど、やっぱり不安は残る。

 

咲姫「ん、ありがとう」

天「あ、あぁ、んくっんっ」

 

気を紛らわせる為にも、咲姫から返してもらったラムネを飲む。炭酸が喉を刺激して少し痛いが、不安を一時的にかき消すことができた。そして間接キスが気にならなくなったところに、妙な寂しさを感じた。

 

天「炭水化物に加えて炭酸••••••太りそうで怖いな」

 

たかがこの量で一晩経ったくらいで太るわけがないが、それでも多少の怖さはあった。

 

咲姫「まだ食べたいものを食べれてない••••••」

天「ん?咲姫が食べたいもの•••あぁ、あれか」

 

俺はなんとなく察しがついて、一つの屋台に目を向ける。りんご飴。果物が好きな咲姫らしいチョイスだ。が、俺にもこういう祭りに来たときには絶対に欠かせないものがある。それはわたあめだ。あの砂糖の塊の魅力には、どの屋台の定番も敵わないと思っている。

 

天「俺も買いたいものあるから、咲姫は先に買っててくれ」

咲姫「うん」

 

咲姫が頷いたのを確認して、俺はわたあめの屋台を探しに走った。

意外にもわたあめの屋台はすぐ近くにあったので、サーッと買って咲姫の元へ戻る。彼女は呑気にペロペロとりんご飴を舐めていた。

 

天「おまたせ」

咲姫「おかえり。わたあめ買いに行ってたんだね」

天「祭りといえばこれだからな」

 

大きい綿に俺はかぶりつく。甘味が口いっぱいに広がって、なんとも言えない幸せな気分になる。

 

天「そろそろ最初の場所に戻ろうか。もしかしたらみんなが待ってるかもしれないし」

咲姫「うん、行こう」

 

俺は咲姫の手を握った。お互い片手にわたあめとりんご飴を持ちながら歩いていく。

 

天「咲姫、食べるか?」

咲姫「いいの?」

天「結構デカいからな。ほら」

 

わたあめを咲姫の顔の前まで持っていく。彼女は小さい口をいっぱいに広げてかぶりついた。

 

咲姫「甘くて美味しい••••••」

天「りんご飴は•••全くなくなってないな」

 

咲姫は先ほどからずっと舐めてるだけで、噛んで砕くような事は一切していなかった。その所為で、中身のリンゴが出てくるどころか、まだ飴が周りに沢山ついている。

 

咲姫「天くんも食べる•••?思いっきり噛んでも大丈夫」

天「いいのか?じゃあお構いなく」

 

俺は口を広げて、りんご飴のリンゴの部分までかぶりついた。飴の甘味とリンゴの酸味が合わさって美味かった。

 

天「りんご飴なんて久しぶりに食べたな••••••」

咲姫「美味しい•••?」

天「あぁ、美味いよ」

 

俺は当たり障りもなく答える。いや予想以上にりんご飴が美味くて、少し驚いている自分がいる。そっちの方に頭が向いてて、咲姫の問いかけにあまりちゃんと対応できなかった。

 

ノア「食べ合いっこしてる天くんと咲姫ちゃんカワイイなぁ••••••!」

衣舞紀「ノア•••顔どうにかしよ•••?」

天「うへぇ、またノアさんが暴走してる••••••」

 

気がつけば最初の位置に到着しており、ノアさんはいつものヤツになっていた。最早見慣れた光景である。

 

天「花火は•••後どれくらいだったか•••」

乙和「後十分くらいしたらするよ〜。どこか穴場とか知らない?」

天「全くですね•••あーでも、花火あげるの向こうか••••••こっちに良いところがあるかもです」

 

俺は花火が放たれるであろう方角と逆の道を歩き始める。みんなはそれについて行き、しばらくすれば街をある程度眺められる場所に着いた。近くにあった廃れた建物の縁側に座ると、ちょうどよく空が眺める事ができた。

 

乙和「ここすっごくいいね〜!景色もいい!」

ノア「天くんこんな所知ってたんだね」

天「月が教えてくれたんですよ、ここ。なんでも小学生の時に、この秘密基地を建てる為に人目のつかない所を探してたらここに行き着いたらしいです」

咲姫「これ、月ちゃんが建てたんだ•••」

 

見た目はチンケなものだが、長い年月が経っても壊れないのは、昔から月が計算高くこれを建てたのだと教えてくれた。我が妹、流石の頭脳だ。

 

天「もうそろそろですね•••。さて、ちゃんと見えるか•••」

 

確信はなかった。だが、何処か大丈夫だろうという謎の安心感があった。隣の咲姫は俺の手に自身の手を重ねていて、こちらを見て笑顔になった。

••••••花火が上がった。色とりどりの光が、大きな音と共に空に広がる。その美しい光景を最後に見たのは中学のいつぶりだろうか。それはわからないが、すぐにそんな事などどうでもよくなる。今目の前に広がる景色には、そんな考え事など不要だからだ。

 

衣舞紀「綺麗ね•••」

ノア「はい、すごく•••」

乙和「たーまやー!」

 

衣舞紀さんとノアさんが感想を呟く中、乙和さんは定番セリフを叫んでいた。かくいう俺と咲姫は言葉を発さずに花火を眺めていた。

 

天「••••••綺麗だな」

咲姫「うん•••まるで、宇宙みたい」

 

宇宙か••••••咲姫にとってこの様々な色に溢れた景色は、宇宙なのだろう。俺にはイマイチピンと来なかったが、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけならわかる気がした。

 

天「今度のライブは、こんな景色が見られるんだな••••••期待してもいいか?」

咲姫「任せて。私にとっての宇宙を、天くんに見せる」

 

力強い言葉で言い切った咲姫の顔は、覚悟を決めていてスッキリとしていた。もう何も言うことはないだろうと、俺は無意識にそう感じた。そして花火に視線を戻して、ライブで見せられる、いや、魅せられる景色はどんなものなのだろうと、楽しみになった。




感想評価、オッスお願いしまーす。まずうち(の学校)さぁ•••屋上、あんだけど、焼いてかない?


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出雲咲姫より愛を込めて

最終回です(迫真)。次の日におまけの投稿をしますが、その時にとある事をお話しします。これ見てくださってる方達次第だから色々考えといてや!?


横浜アリーナは今大熱狂に包まれていた。Photon Maidenの単独ライブと聞いて、沢山の人が足を運んで来ていたのだ。なんだかんだチケットはすぐに完売し、客席は全て埋め尽くされていた。Photon Maidenがちゃんと客を集められる程の実力があることを完全に証明してくれていた。

 

天「うわぁ•••なんつー人の量••••••」

 

チラリと会場を覗くと、観客は既にペンライトを着けて待っている。気が早ぇよお前ら•••どんだけ楽しみやねん。

 

咲姫「みんな、すごく楽しみにしている••••••」

 

客席の色を見ていた咲姫が呟いた。これは土壇場でのセトリの切り替えは無さそうに見えるが、ライブ中に急な切り替えをしそうではある。

 

天「こうして見ると圧巻だな。一万人を超える人間がPhoton Maidenを求めてここに集まっているのだから」

咲姫「うん•••とっても嬉しい••••••」

 

緑や水色などの、Photon Maidenを意識した色が会場中を広がる。その光景に俺は感動していた。

 

天「そろそろ戻るか。準備もあるだろうし」

咲姫「うん••••••」

 

俺は咲姫の手を引いて、控室へと戻る。メンバーのみんなは落ち着きがなく、ソワソワしていた。

 

天「••••••どうしました?」

乙和「緊張してるんだよ!単独でライブができるのは嬉しいけど、あんなにお客さんたくさんいたら、緊張しちゃうのも無理ないよ!」

 

そりゃそうだろう。俺だって乙和さんの立場になれば緊張するどころか失神すらしそうだ。

 

ノア「すごく緊張はするけど•••せっかく天くんが持ってきた仕事だから、絶対に成功させないと」

衣舞紀「そうね。これが成功すれば、私たちは更に前へ進むことができるもの」

 

いつもなら落ち着き払ってるあの衣舞紀さんが、いかにも緊張してます、と言った具合を見せた。更に言うならノアさんも、普段は緊張とかは心の中に押し込めるのに今は外側にバリバリ出てしまっている。

だがこうやって話せる時間は殆ど残っていなかった。だから俺はこれだけ言っておこう。

 

天「今日まで、レッスン等お疲れ様でした。今までやってきた練習の成果を発揮すれば、このライブは必ず成功します。なので、自分に自信を持って、全力で•••楽しんできてください!」

 

ライブを成功させるなど二の次だ。まずは自分が、観客たちを、自分自身を楽しませなければならない。仕事で歌とダンスをしている風でやっても観客はちっとも楽しくないだろう。

 

天「俺はみんなを信じています。やれば絶対にできると信じています••••••頑張ってください」

 

俺は笑った。本当はそんな余裕なんてない。不安で押し潰されそうになっている。だが表には出さず、彼女達が舞台に立つまではいつもの自分を演じなければならなかった。

 

衣舞紀「ありがとう、天。じゃあ、行ってくるね」

乙和「行ってきまーす!無事終わったら、パフェ食べようね!」

ノア「天くんも、不安なのはわかるけどあまり気負い過ぎないでね」

天「•••••••••え?」

 

ノアさんが控室を出る瞬間に言い残した言葉は、俺の心に刺さった。隠していたはずなのに見破られていた•••?もしかして顔に出ていたか?様々な疑問が浮かぶが、咲姫は俺の目の前に立ってて、無言だった。

 

天「•••咲姫も、頑張れ」

咲姫「••••••ぎゅうとなでなで」

天「ははは•••最後までブレないなぁ••••••」

 

お望み通り抱きしめて頭を撫でてやる。帽子を被っているので、おでこに近い辺りを撫でてやった。

 

咲姫「大丈夫。天くんが安心できるパフォーマンスを魅せるから」

天「•••••••••あぁ、楽しみにしてる」

 

咲姫は俺から離れて、小さく手を振ってから走っていった。一人取り残された俺は、小さくため息を吐き、関係者席へと向かった。

 

関係者席に座って、俺はPhoton Maidenのパフォーマンスを眺める。以前のライブでも感動したパフォーマンスは更に進化していた。いや、個性が増したと言うべきだろうか。

乙和さんのダンスはいつもよりオーバー気味だ。正に自分自身が楽しんでいる。観客のウケは上々のようで、テンションが上がっていた。

ノアさんも自分を表現するような、控えめながらも力強いダンスを見せつけている。•••あ、目線が動いた。なんかカワイイもの見つけたなあの人•••。

衣舞紀さんはこれまで培ってきた身体能力を生かした、激しく動きに魅了されるダンスを踊っていた。それによって会場のボルテージは更にアガっていった。

咲姫のDJプレイも熱かった。落ち着いた曲だろうがお構いなしに激しいパフォーマンスを魅せつけてくれた。••••••?今、こっちを見たか?俺の思い違いだと思いたいが、咲姫ならやりかねないだろうな、と苦笑した。

今日のPhoton Maidenは一段と輝いていた。これこそが、自分たちで築き上げた『作られたPhoton Maiden』ではなく、『個性のあるPhoton Maiden』なのだと感じた。

 

天「•••••••••数ヶ月程度だけどこのユニットを見てきたが•••才能ってのは、すごいな•••••••••」

 

元からある才能に加えて努力もあるのだ、すごいに決まっている。そして、そのユニットのマネージャーとしてここまで彼女たちを導けたと思うと、妙な達成感を感じて、涙を流す。

 

天「あーあ•••泣かないって決めてたのにな••••••」

 

絶対に嬉しくて泣くって、自分自身が一番わかっていたのに、結局泣いてしまった。相変わらず情けないな、と自分に嫌気が差してしまう。

 

天「••••••でも、今日くらいはいいよな•••••••••?」

 

彼女たちの晴れ舞台だ。親目線にでもなって泣くのも、いいだろう。俺は人知れずに、静かに涙を流した。

 

ライブが終わった。終始観客たちの盛り上がりは続き、休む暇など一切なかった。それは俺も同じで、騒いで、泣いて、疲れた。

控室に戻ると、汗だくの状態で座っているPhoton Maidenの姿があった。

 

乙和「あっ天くん!ライブどうだった!?どうだった!?」

天「••••••すごくカッコよかったです。今までのライブの中で一番••••••!」

ノア「でも疲れた••••••咲姫ちゃんが急にあんなこと言うから••••••」

天「あんなこと?」

 

俺は咲姫に目を向ける。咲姫は小さく笑いながら、口を開く。

 

咲姫「私は、私たちのPhoton Maidenを魅せる為に、自分自身を表現してほしい、って言った」

天「あぁ••••••だからあんなに『らしい』なぁ、って思った訳か」

 

みんながみんな、自分らしさを出していた。いつも元気いっぱいな乙和さんらしい楽しいダンス。落ち着き払っているノアさんの冷静なダンス。たゆまぬ努力を惜しまない衣舞紀さんの激しく丁寧なダンス。そして咲姫の、普段は落ち着いてても心は強く、激しいDJパフォーマンス。どれもこれもが、Photon Maidenのメンバーの自分らしさを強調していた。

 

天「はー安心した•••何とか成功を収めることができた•••」

衣舞紀「もう、天はあそこに立ってないでしょ?」

 

衣舞紀さんが呆れ半分、安心半分の笑顔を浮かべた。それに対して俺は苦笑を返した。

 

天「舞台には立ってなくても心はあそこにいますから」

ノア「あながち間違ってはないかも•••あれを用意してくれたの天くんだし•••」

 

いやまぁそうだけども•••()だからと言って俺の功績になるわけではないが。盛り上げたのは全部彼女たちだ。九割九分九厘彼女たちの成果と言えるだろう。

 

咲姫「••••••天くん」

 

クイクイッと服の裾を咲姫が引いた。

 

天「なんだ?」

咲姫「少しお話がしたい••••••」

乙和「なになに〜?恋人同士で密会ですかな〜?」

天「煽んないでください。わかった、行こう」

咲姫「うん」

 

俺は立ち上がって控室を出て行く。後は咲姫の思うままに引いてもらった。そして入った部屋は使われていない真っ暗な控室だった。ホコリがあまりないのを見るに、掃除自体はしているようだ。

 

天「こんな人気のないところでする話か?」

咲姫「••••••」

 

小さな衝撃が襲いかかる。咲姫が俺に抱きついたからだ。少し困惑したが、何か察してしまったので、少しドキドキしてしまう。

 

咲姫「私•••ライブ頑張った••••••」

天「••••••そうだな。よく頑張ったよ、咲姫は」

咲姫「•••ご褒美、欲しい」

天「はぁ•••ワガママだなお前は••••••わかった。お望み通りに」

 

咲姫の背中と後頭部に手を回して、こちらに引き寄せる。そしてそのまま唇を重ねた。

 

咲姫「んむ、んっ、ちゅっ••••••」

 

咲姫の言ってる事が正しいならこのままそっちの方向にもって行くが、まだわからないので手探り気味に触れる。

 

咲姫「••••••いいよ?」

天「あっ、あぁ••••••」

 

前言撤回。完全に咲姫はその気だった。咲姫の身体を反転させ、後ろから抱きしめたーー。

 

行為が終わり、俺と咲姫は服装を整える。何とか衣装を汚す事なく終えられた。そこには多少の安心感があった。後々が面倒になるからなんだけども()

控室に戻ると、全員既に着替えていた。咲姫を部屋に入れて、俺はドアを閉める。

咲姫の着替えが終わるまで、壁にもたれかかって待機する。その間に今後の事を考えよう。

 

天「(今回のライブは文句なしの大成功だ。後は周りの評価とか見て、行けなかったと嘆く声もあれば更にデカいところに交渉に行くか••••••。次は東京ドームを狙うのもいいかもな•••いや、流石に飛ばし過ぎか)」

 

何でもかんでも思い通りに行くと思ったら大間違いだ。俺らしく手堅く攻めて行きたいが••••••。

 

咲姫「もう入っても大丈夫••••••」

天「ん?あぁ」

 

ドアを少しだけ開けて顔をひょっこり出した咲姫が声を掛けた。俺は頷いて部屋に入る。

 

乙和「咲姫ちゃんと何話してたの〜?」

天「人には言えないアレコレですよ。詮索は控えてください」

乙和「ウチに来たばかりの天くんみたいになってる••••••」

 

確かに誰にも内側を曝け出さない今の発言は、昔の俺そっくりだ。今はこの環境にも慣れたので、ある程度楽しんでいたりする。

 

衣舞紀「きっと大事な話をしてたんでしょ。あまり深く追及しないであげて」

 

そういう気遣いいいよ•••実際はただイチャイチャしてただけなんだから••••••。なんか罪悪感を感じてしまう。

 

天「あはは••••••」

 

結局俺は苦笑いだけして、この何とも言えない場を乗り切った。

 

打ち上げは後日行う事になり、俺と咲姫は二人で帰り道を歩いていた。八月になっても、夜は少し冷えていて、身震いした。

 

咲姫「少し冷えるね•••」

天「あぁ•••ちと寒いな••••••」

 

少しでも温まろうと、咲姫にくっつく。普段は俺から行ったりはしないので、咲姫は少し困惑していた。

 

咲姫「珍しい•••」

天「俺だってたまには自分から行く事くらいある」

咲姫「今日は泊まっていく•••?」

天「••••••どうするかねぇ。明日でいいか?打ち上げした後にでも咲姫の家でゴロゴロしたいかな」

咲姫「うん。私も、天くんとゴロゴロしたい」

 

俺のちっさい願望にも、咲姫は快く頷いてくれた。予定とか色々話していたら、俺の家は目の前にあった。名残惜しそうな表情をする咲姫の頭を優しく撫でる。

 

咲姫「ありがとう••••••天くん」

天「どうした改まって」

咲姫「天くんがいたから、私たちはここまで来る事ができた。他の人だったら、絶対にあそこでライブをするなんてできなかった。全部全部、天くんのおかげ」

天「それでも頑張ったのはみんなだ。俺はあくまで仕事を持ってきただけだよ」

 

俺は肩をすくめる。俺が用意したのはハコだ。それを埋めたのは紛れもなく彼女たちの力で、俺の仕事など微々たるものだ。

 

咲姫「それでも、私たちの為にこんな大きな舞台を届けてくれたのは、嬉しい」

天「今後もデカいのは用意して行くつもりだから、楽しみにしててくれ」

咲姫「うん、私も、その大きな舞台の為に頑張る」

 

そして、小さな衝撃がやってくる。咲姫は俺に飛びかかって抱きつき、そのままの勢いでキスをした。

 

咲姫「大好き、天くん」

 

きっと彼女と、彼女たちとなら、どんな辛い事も乗り越えていけるだろう。何せ、愛は人を強くするのだから••••••。




感想評価お待ちしてナス!R18も出したけど期待はしないで(切実)


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打ち上げとそして•••

これを最後に完全に咲姫√は終了となります。ありがとうございました。いやまぁ後他の三人もするんですけどね()とりあえず言いたいのは、これを見てくださっている皆様は、咲姫√のこの先を見たいですか?感想欄等でそういった要望があれば、他の三人が終了した際にまた新しくストーリーを立てて投稿します。じゃ、お願いしますね。


ライブの翌日は完全にオフの日となった。本来なら家でゴロゴロして過ごしているだろうが、今日はライブの打ち上げをする予定が入っている。昨日の横浜アリーナでのライブは大成功を納めて、俺はものすごく気分が良かった。なので、朝飯は軽く済ませてから運動をする。

そして限界まで腹を空かせる。何せ打ち上げで行く店は焼肉だからだ。これは腹一杯食べるしかないだろう。代金は事務所持ちだから遠慮は一切するつもりはない()

 

月「お兄ちゃーん?って部屋暑っ!」

天「ん?どうかしたか」

 

身体を動かしていたので、熱を放出していたようだ。部屋に入った月は暑そうにパタパタと手団扇で自分に風を送る。

 

月「今日打ち上げでしょ?そろそろ家出ないと遅刻するんじゃない?」

天「え、今何時•••11時40分••••••寝るか!(諦め)」

月「早く行きなよ!」

 

月に背中をぶっ叩かれて、俺はすぐに着替えて家を飛び出した。身体があったまったままなので、遠慮なく俺は猛ダッシュする。

運が悪い事に、目的地の焼肉店はかなりの距離があると言うこと。多分15分くらい全力で走ってるがまだ半分くらいしか行ってないだろう。なんでこんな遠い所にしたんだよ。誰だ選んだやつ。俺だったわちくしょう()

 

乙和「あっ、おーい!天くーん!」

 

向こうで俺の姿に気づいた乙和さんが手を振っていた。俺は手を振り返す余裕など一切なく、荒く息を吐きながら彼女たちの元へ走った。

 

天「はぁー、はぁー、はぁー•••今、何時ですか••••••?」

咲姫「12時13分•••13分遅刻」

 

無慈悲にも咲姫から宣告を受けた。俺はもう諦めモードで、ぜーはー息を吐いている。

 

衣舞紀「天•••大丈夫••••••?もしかしてずっと走って来たの?」

天「家出たの•••40分過ぎくらいですので••••••」

咲姫「大丈夫•••?ッ、熱い•••」

 

咲姫が俺の身体に触れると、反射反応で手を引っ込めた。俺自身がわかるくらい、今身体が熱い。多分日陰とかに行ったら湯気出てるんじゃないか•••?試そうとは思わないが。

 

ノア「とりあえず、早くお店の中に入ろう。中は冷房効いてると思うから」

天「はい••••••」

 

最近は走ったりとかはあまりしてなかったので、多少体力が落ちたかもしれない。我ながら情けなかった。

 

咲姫「天くん、楽しみにしてたんだね」

天「•••バレるか」

 

店員から席に通してもらってる間に、咲姫が俺に向かってそんなことを言う。頬をポリポリと掻いて誤魔化すが、少し頬が赤くなった気がした。

 

ノア「照れてる天くんカワイイなぁ••••••!」

 

そして相も変わらずノアさんは平常運転だった。いや、叫んでないからこれは安全運転だろう(謎理論)。

 

天「そういうノアさんこそ、可愛いですよ」

ノア「えっ!?そ、そうかな••••••?」

 

いつもいつも可愛い可愛い言われてムカついていたので、お返しにノアさんを褒めてみた。すると彼女は、普段の俺がするとは思えない発言に驚き、照れたように目線を逸らした。意外とイイ反応だった。

 

天「ーーッ!?」

 

だが、隣から冷たい視線が飛んでくる。咲姫が俺をジトーッとジト目で見つめていた•••ちょっと怖い。

 

咲姫「••••••浮気?」

天「断じて違う!」

 

店内などお構いなしに俺は悲痛の叫びを上げた。これからは咲姫がいる前で女の子を褒めるのはやめよう。いずれ血を見そうだ。

 

ノア「でも、天くんがどうしてもって言うなら咲姫ちゃんから乗り換えても•••というか咲姫ちゃんも一緒に私と付き合おう!」

天「色々飛躍し過ぎでしょこの人••••••」

 

ここまでの猛ダッシュに加えてノアさんに対する呆れも加わった。疲れが一気に来たような気がする。

 

衣舞紀「焚き付けた天が悪いからね?」

天「後半はノアさんが勝手に暴走しただけじゃないですか」

 

衣舞紀さんに嗜められるが、俺はいつも通りの自分を貫いた。解散した後に咲姫に何されるか分からないのが怖いけど。

席に通されて、俺たちは座る。焼肉なんて久々だな•••何食べよ。

 

天「種類多過ぎてわからん•••」

 

カルビホルモンタン••••••何が何だかさっぱりだ。ブロック肉しかわかんねぇんだよこっちはよぉこの野郎(逆ギレ)。

 

乙和「焼肉とか普段食べないの?」

天「外食で来たのは小学生以来ですかね•••いつもは月が焼いてますので、肉の種類なんて知らずに育ちました」

 

父さんも母さんも忙しいから、家族で外食なんてものは少なかった。月と二人でするのもなぁ、という思いもあり、月が飯を作れない日にだけ外食をしていた気がする。

 

ノア「お肉は私たちだけで頼もうか、知らないうちに天くんが変なのを頼んじゃったら怖いし」

咲姫「そうしましょう•••」

 

なんかやべー奴みたいな感じになってるな俺•••。やべーのは咲姫の中の人だけでいいんだけど(禁句)。

 

衣舞紀「だったら無難にセットでいいんじゃない?後から自分たちで単品で頼めばいいと思うのだけど」

乙和「それ採用〜!」

 

衣舞紀さんの提案に、ノーコンマで乙和さんが反応した。俺もその方が変に考えなくていいので頷いた。

 

セットということで、様々な種類の肉が乗った皿が運ばれて来た。それをテーブルの中央のアツゥイ!金網に放り込む。肉の焼ける音がなんとも心地いい。

 

天「いい店なだけあるな•••すごく美味そうだ」

乙和「このお店選んだの天くんだよね?何も考えずに決めたの?」

天「いえ、事務所がお金出してくれるって言ってたので、調子に乗って高い店選んだ結果がこれです」

ノア「事務所•••大丈夫かな••••••」

 

ノアさんが心配そうに苦笑していたが、俺は知らん。まぁ金はあるだろうし大丈夫だろうと、俺は自分に言い聞かせた。

 

その後、どんどん肉が焼けていき、俺は以前自分の歓迎会で見せたバカ食いを行っていた。

 

天「肉うめぇ」

 

肉汁があふれんくらいにドバドバ出てくるものだからヤバい。これは美味い優勝。

 

咲姫「天くん、お野菜も」

天「あぁ、ありがとう」

 

咲姫から野菜をいただいて、肉と一緒に口の中に放り込む。

 

天「ここの店美味いな。選んで正解だった」

咲姫「でも、お値段••••••」

天「事務所持ちだし大丈夫だろ」

 

大丈夫だろうが、恐らく小言の一つや二つは確実に言われるだろう。まぁこの店選んだの俺の独断だから怒られても被害は俺だけだ。

 

咲姫「はい、お野菜•••」

天「やたら野菜進めてくるなお前•••」

 

まぁ食べるんだけども。何故か咲姫はニコニコと俺が食う姿を見ているが、何が楽しいんだか。

結局、一時間くらいこの店に居座ったが、相当の量の肉を食べたおかげで、店員は引いていた。なんか申し訳ない。でも金払うから許してちょんまげ。

 

店を出てから、俺と咲姫はみんなと別れて歩き出す。どちらからともなく手を繋いで、家までの道を歩いていた。

 

天「いやー楽しかった」

咲姫「うん。でも、浮気はダメ•••」

天「咲姫の中ではあれが浮気判定なのか••••••まぁでも、咲姫が言うなら今後は気をつける」

咲姫「本当?•••えへへ」

 

咲姫は俺の手ごと、少しだがブンブン振った。その仕草が可愛らしくて、頬が緩んでしまう。

 

咲姫「これからも、ずっと一緒•••」

天「あぁ、一緒にいよう•••まだ夏休みはたっぷりある。色んな所に行こうか」

咲姫「うん。今度はまた違う所に行ってみたい」

天「じゃあすぐにでも計画立てるか!」

咲姫「うん!私、天くんについて行く•••」

天「•••ありがとう」

 

俺は静かに感謝を述べた。そして、俺たちは唇を重ねて、お互いに好きと言い合った。

また二人でどこかに旅行に行くのは、また別のお話••••••。




感想評価オナシャス!そして腹が減った!夕飯何食べよう•••カップ麺やな!()


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乙和√
看病はありがたいけどウザいなと思う今日この頃


はーい今回から乙和√入っていきまーす。某ふた兄貴からノア√の要望来たけど、申し訳ないことにもう乙和√の方九日前から書いてたわけなのよ。だから今更切り替えるのも難しくてね、ホントすんません。なので次はノア√書きます。


天「ゲッホ!ゴホッゴホッ!!」

 

もう日が暮れていたが、俺の風邪は治る気配が全くなかった。今も喉を痛めつけに来ていて、咳が止まらない。

 

天「••••••あぁー•••キッツ••••••」

 

正直に言えば、今日の朝よりも身体は参っていた。身体を動かすような気力すらも、今の俺にはない。飯も食えてないしまともに寝る事もできていない。頭痛は増していた。何かを考えて誤魔化す事もできない程、今は痛い。

 

天「•••吐きそうかも」

 

俺は無理矢理身体を起こして、トイレへと足を引きずりながら向かう。便器の前に身体を倒して、思いのままに嘔吐した。

 

天「おえぇぇ••••••!あ゛ぁ゛ぁ゛••••••喉いてぇ••••••」

 

何も食べていないので、出てくるのは胃酸ばかりだった。その所為で喉が焼けるような感覚に陥る。

 

天「あークソ•••たかだか風邪でこんな事になるなんて••••••」

 

恐らく精神的な不安も重なっているから、こんな事になっているに違いないだろう。マジで話し相手でもなんでもいいから、誰か来てくんねぇかな••••••。

 

ピンポーン!

 

天「•••あ?誰だ•••?荷物を頼んだ覚えはないが••••••」

 

ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン!!

 

天「連打すんな!誰だよ!?ーーっと••••••」

 

つい大声を上げてしまって身体がクラッと傾く。壁にゴツっとぶつかり、体重を預けた。

 

天「と、とりあえず行かないと••••••」

 

相手が誰かくらいは確かめないといけない。もし本当に荷物を持った配達員だったら申し訳ない。少しだが時間がかかりつつ、玄関まで到着する。玄関のドアノブを捻り、開けた。

 

乙和「天くーん!大丈夫•••?」

天「•••乙和さん?」

 

目の前にいたのは乙和さんだった。いや、あのピンポン連打なんてするの乙和さんくらいだろう。俺の額に彼女の手が触れ、俺はビクッとしてしまう。

 

乙和「すごい熱•••!早く寝ておかないと!」

 

乙和さんが俺の手を引く。自室の場所を伝えて、そのまま凸った。そしてベッドに寝かされる。

 

乙和「ご飯はちゃんと食べた!?」

天「食べてないです••••••食欲なかったので」

乙和「あ、お粥•••今は食べられそう?」

天「わかりません•••とりあえず食べてみます」

乙和「うん、わかった」

 

乙和さんはお粥をスプーンで掬って、俺の口の中へ入れた。素朴な味が今だけは相当美味く感じた。よっぽど腹減ってたんだな、俺••••••。

 

乙和「どう?美味しい?」

天「美味いです•••」

乙和「良かったー!じゃんじゃん食べてね!」

天「ちょっと、あまり詰め込まないでください•••」

 

何が嬉しいんだか、ニコニコ笑顔で俺を見つめている乙和さん。俺は苦笑しか返せないが、本当は嬉しかった。

 

乙和「月ちゃんは?まだ帰ってきてないの?」

天「もうそろそろ帰ってきてもおかしくないとは思いますが••••••」

 

というか、そんな事より乙和さんに訊きたい事があったんだった。

 

天「レッスンとかはどうしたんですか?」

乙和「天くんの事が心配だから抜け出してきちゃった!それで行ってみれば死にそうな顔してたんだから、行ってよかったよ!」

天「••••••俺、そんなにヤバかったですか?」

乙和「もうちょーヤバかったよ!今にも倒れそうだったんだから!」

 

えぇ•••そんなにヤバい状態だったの俺•••?乙和さんが誇張表現してる可能性も否めないが、そこんところどうなのだろうか。

 

天「俺の顔の事はどうでもいいとして••••••流石に戻った方がいいのでは?」

乙和「大丈夫だよ〜!ちゃんとみんなに事情は説明してるから!逆に天くんから追い出された、なんて言えないよ」

 

むぅ、一理あるな。確かにそれは追い出しづらい。まぁでも、月が帰ってきたらお役御免って事で帰そう。そうすれば後味が残ることはない。

 

乙和「それにもう今日は戻る気ないから、このまま天くんの相手でもしよっかな〜と思って!」

天「•••は?(困惑)」

 

素っ頓狂な声が漏れた。••••••今なんつったこの人。流石にずっと居座られるのはなんかなぁ••••••。

 

乙和「流石に月ちゃんが帰ってきたら帰るよ?そうしないと天くんが怒りそうだし」

 

ある程度は俺の気持ちを汲んでくれるようで安心した。それでも月が帰ってくるまでは居座るようだが。

 

乙和「じー••••••」

天「あの•••気になって眠れないのですが」

 

俺は諦めて寝ようとしたが、乙和さんがずっと俺を見つめる所為で、気になって眠れない。

 

乙和「いや〜、こうして見ると天くんの顔って整ってて可愛いなぁって思って•••」

天「喧嘩売ってます?」

乙和「売ってないよ!?」

 

唐突に何かと思えば、可愛いと言われたので少しムカついた。

 

乙和「天くんはあまり可愛いって言われるの好きじゃないの?」

天「嫌ですよ。男なのに可愛いとか言われるのは•••」

乙和「そういうところが可愛いんだけどな〜」

天「風邪治ったら覚悟しておいてください」

乙和「おぉう•••ちょっと怖い••••••」

 

少し睨むと、乙和さんはたじろいだ。俺はすぐに目線を逸らして、ため息を吐く。それと同時にーー、

 

月「ただいまー!」

 

月が帰ってきた。こちらに向かってくる足音がどんどん大きくなっていった。

 

乙和「月ちゃん帰ってきたし、私はそろそろ帰ろうかな」

月「お兄ちゃん大丈夫ーーって乙和さん!?どうしてここに!?」

 

乙和さんが立ち上がったと同時に、月が俺の部屋に入る。そして、見知った顔を見て驚いた。

 

月「もしかして、お兄ちゃんの看病してくれていたんですか!?ありがとうございます!よかったらご飯食べて行きませんか?」

乙和「えっ!?いやー流石にそれは悪いかなー•••」

 

お前すぐ人を飯に誘うよな•••。友達にもそういう誘い文句掛けてセクハラしてんのかなぁ••••••。こいつホンマ怖いわ。

 

月「お兄ちゃんも乙和さんがいた方がいいでしょ?」

天「••••••さぁな」

 

俺は曖昧に返答する。それに対して月はニヤニヤとしたいやらしい笑みを浮かべていた。

 

月「ほうほう、つまりは一緒がいいと」

天「うるせぇな••••••」

乙和「えぇ〜?天くん私とご飯食べたいの〜?」

 

しかもタチが悪いことに乙和さんが便乗してしまっているのだ。逃げ道がない。完全に詰みが確定してしまった。

 

天「•••あぁもうわかったよ!食いたいって言えばいいんだろ!」

乙和「じゃあしょうがないなぁ〜。この乙和ちゃんが一緒にご飯を食べてしんぜよう」

 

明日風邪治ってたらマジでぶっ潰してやる。俺は多少ながらの殺意を抱いた。

 

結局乙和さんはうちでご飯を食べる事になり、俺は少しばかり辟易としていた。ストレスが溜まるってこういう事なのかな•••(謎の悟り)。

 

月「はい、どうぞ!たくさん食べてくださいね!」

乙和「わーい!いっただっきまーす!」

天「•••いただきます」

 

月の作った料理を、乙和さんは美味しそうに食べる。それに対して俺は、まだ頭痛が残っているので、ちびちびと食べる。

 

乙和「天くんいつもの食欲はどうしたの〜?」

天「風邪引いてる時にまで求めないでくださいよ」

 

俺の対応は至って淡白なものだった。乙和さんからの冗談まじりの問い掛けにも、無表情、無感情で返す。

 

月「乙和さん、あまりお兄ちゃんをからかわないであげてください。多分まだ頭が痛いんだと思います」

乙和「あ•••そうだったんだ•••ごめんね天くん•••」

天「いえ•••」

 

この人普通におバカだから、そこら辺まで気が回ってないのだろう。ノアさんしっかり教育しておいてください。

 

乙和「なんだかすっごく嫌な事を言われた気がする!」

天「気の所為だと思いますよ」

 

ちなみに俺は変わらずお粥だ。胃袋は多少余裕ができたので、多めに腹にぶちこんでる。

 

乙和「天くんもお肉食べた方がいいんじゃない?」

天「流石に肉までは受け付けてないですよ」

 

お粥とかお腹に優しいものはいいが、肉や味が濃いものは食べられる気がしない。

 

月「お兄ちゃん明日には風邪治してね?お仕事貯まるんでしょ?」

天「ゔっ•••その事を忘れていた••••••」

 

今日の分の仕事を明日の分と並行してやらなくてはいけない。あー、これは詰んだは。マネージャー辞めてぇ。辞めないけど。

こういう事があるから体調は崩したくないのだ。面倒事が増える増える•••。

 

乙和「じゃあ私が手伝ってあげよっか!?」

天「何もできない未来が見えるので遠慮します」

乙和「酷い!」

 

そもそもあなたはレッスンが忙しいでしょうが。こっちにまで手を回せる余裕は絶対ないと言い切れる。

 

乙和「天くんったら冷たいんだから•••!」

天「元から俺はこんな感じですよ」

月「••••••なんだかカップルみたいだね」

天「は?」

乙和「えぇ!?」

 

俺は絞り出た声を、乙和さんは驚いたような声を上げた。

 

天「どこがそんな風に見えるんだよ•••」

月「だってねぇ?お互いに気を遣わずに言い合ってるから、何年も一緒にいる恋人みたいだなーって」

乙和「そ、天くんとはそんな関係じゃないよ〜•••」

 

乙和さんは顔を赤くしながらおちゃらける。一応まだ告白の返事は保留にしてるからなぁ•••乙和さんにとっては複雑な心境だろう。

 

天「今は恋愛とかそういうのはどうでもいい。とりあえずはPhoton Maidenの今後の事だけでいい」

乙和「•••••••••」

 

乙和さんが明らかに気分を落としたのがわかった。だが今の俺はこんな感じだ。恋愛よりまず仕事。その思考は変わらない。

 

月「ちゃんと相手作ってくれないと、神山家の今後が掛かってるんだからね!」

天「へいへいわーってる」

 

俺は適当に返す。その後も、乙和さんは気分が暗いまま食事を続けた。

 

飯さえ終われば、乙和さんがここにいる理由はないので、鞄を持って、玄関に立っていた。

 

天「今日はありがとうございました。気をつけて」

月「ありがとう乙和さん!バイバーイ!」

乙和「じゃあね!バイバイ!」

 

最後は元気よく家を出て行ったが、暗いのには変わりなかった。最後の最後は押し込めてなんとか明るく振る舞っていたが、やはり見え隠れするものだった。

 

天「(近いうちに、返さないとな••••••)」

 

不安しかないが、俺はキッチリ正面から臨もうと、決意した。




感想評価オナシャス!後もう一つ。感想計100件ありがとうございます!こんなに貰えるとは思ってなくて感激してます••••••!


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怖い事があると落ち着かないのは仕方ない

UA10000突破しました!みんなありがとうございます!これだけでも執筆意欲湧くってもんですよ!ただ•••乙和√のエンディングどうするか決まらねぇwww


翌日には俺の風邪はすっかり回復していて、自由が利いていた。先日のような頭痛や吐き気、喉の痛みもない。完全復活だ。

一階に取りてリビングに入ると、月は既に朝食を作り終えていた。

 

月「おはようお兄ちゃん。すっかり元気になって良かったよ」

天「あぁ。昨日は迷惑かけたな」

月「兄のお世話は妹の義務なので!••••••帰るのは9時以降かな••••••?」

天「まぁそれくらいだろうな•••。何とか早く終わらせるけど、あまり期待はしないでくれ」

月「はーい。今日は友達呼んであーそぼっと」

 

どうやら月は友達を我が家に呼ぶつもりらしい。まぁ、流石に9時以降まで遊ぶようなバカな真似はしないだろうから大丈夫だろう。発言はアレでも根っこはしっかりしてる子だから、月は。

 

天「ヘルプ呼べねぇかなぁ•••でも自分の仕事は自分で全部終わらせたい••••••」

月「悩んでるねぇ•••。そもそもヘルプって誰呼ぶつもりなの?」

天「••••••••••••••••••」

 

誰も思い浮かばず、俺は黙り込んでしまった。交友関係の狭さを呪ったね。

 

通学路はいつも通りの光景だった。俺と同じく学校に向かう学生。会社へと急ぐサラリーマン。タピオカ飲んでキャッキャ騒いでる陽キャorギャル。路地裏をチラッと除けば、カツアゲの真っ最中だった。まぁ俺には関係ないからガン無視キメこむんですけどね。

•••••••••そういえば、なんかカツアゲされてる人どーっかで見た事あるような気が•••••••••。引き返してまた覗き込む。

 

カツアゲくんA「ほら嬢ちゃん。さっさと金出しなよ、えぇ?」

カツアゲくんB「払えないなら、身体で払ってもらおうか?ギャハハハ!」

乙和「え、えっと•••その•••私、お金持ってなくて••••••」

 

ガンッ!カツアゲをしている男の一人が、乙和さんの横の壁を蹴った。乙和さんは驚いて、ビクッと跳ねた。

 

カツアゲくんA「じゃあ今からホテル行くぞオラァ!金ねぇなら身体で払えや!」

乙和「いやっ•••助けて•••天くん••••••」

天「呼びましたか?」

 

呼ばれたので俺は路地裏に入った。以前の俺なら無視していたが、今の彼女は担当先だ。傷モノにはでにない。

 

カツアゲくんB「なんだ?この声の低い女は•••しかも男の制服着てんじゃねぇか!キンモチワルwww」

天「せいっ!」

カツアゲくんB「グブッ!?」

 

男の鳩尾に拳を叩き込む。一撃で男はよろけて膝をついた。そのまま顔面を蹴飛ばして、仰向けに倒れた。最後に男のち◯こに蹴りを入れる。

 

カツアゲくんB「あああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!???♂♂♂」

 

男だからこそ、その痛みには同情する。でも仕方ないな。ここまで綺麗に急所があるんだから、狙わないわけがない。

 

カツアゲくんA「何なんだこいつ!」

 

男は逃げた。いや逃がさないけど。即座に足払いを掛けて、男を転がす。そこから生まれた隙を狙って、キンタマに蹴りを入れた。今度は連続で。

 

天「オラオラオラオラ!」

カツアゲくんA「んほおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!???♂♂♂(裏声)」

 

気持ち悪い声を上げながら、男は泡を吹いて気絶した。なんかイッたような顔してるな•••原因俺だけど。ふぅ、と短く息を吐いて、乙和さんの方を向く。

 

天「乙和さん、だいじょうbーー」

 

最後まで言い切る前に、衝撃が走った。乙和さんが俺に抱きついてきたからだ。

 

乙和「うわああぁぁ•••!怖かったよおぉぉぉ••••••!」

天「はいはい、もう大丈夫ですから」

 

泣きじゃくる子供をあやすように、俺は乙和さんの頭を撫でながら、背中を優しく叩いた。

•••なんで朝っぱらからこんな事になってんだ、と困惑する俺だった。

 

何とか学園まで着いたが、乙和さんはずっと怯えた様子で俺にくっついていた。今までそういった輩と出くわさなかったんだろうな•••完全にトラウマになってしまっている。でも俺教室入りたいんだけどなぁ••••••仕方ない。二年の方まで行くか。面倒だけど。

 

ノア「天くん•••?二年生の教室まで来てどうしたの?」

天「乙和さんがカツアゲされてたみたいで•••それでまだ怖がってるっぽいです」

 

まだ乙和さんは俺の腕に巻きついている。顔を埋めて、誰にも自分の今の顔を見せたくない、と言っているかのようだ。

ノアさんが乙和さんを引き剥がす。

 

ノア「後は私と衣舞紀で何とかするから、天くんは戻っていいよ」

天「はい、お願いします」

 

頭を下げて、踵を返した。が、誰かに制服の裾を掴まれる。振り返ると、まだ泣いていた乙和さんだった。

 

乙和「行かないで••••••」

天「•••••••••すみません。後は衣舞紀さんとノアさんが相手をしてくれますから、大丈夫ですよ」

 

本当はマネージャーである俺が彼女の心のケアをしてあげるべきなのだろう。だが、学校というこの空間の中では、それは難しかった。乙和さんの悲しそうな表情を見ると、心が痛くなる。

 

ノア「乙和、ワガママ言ったらダメだよ」

天「••••••本当に、すみません」

 

俺はもう一度頭を下げた。今度はノアさんではなく乙和さんの方に。そこから逃げるように、俺は一年の教室へ向かった。

 

昼休みになったが、俺はずっと乙和さんの事が気掛かりだった。授業も、その所為で全く集中できていない状態が続いた。

 

咲姫「お昼ご飯、食べよう?」

天「あ•••悪い、咲姫。今日は乙和さんのところに行かないといけない」

咲姫「あっ••••••そうだったね。私も行く」

天「ん••••••ありがたい」

 

咲姫もついてきてくれるようで、精神的にかなり楽になった。二人で二年生の教室まで歩いて行く。

 

咲姫「乙和さん、大丈夫かな••••••?」

天「•••どうだろうな。衣舞紀さんとノアさんに任せてしまったけど••••••」

 

それでもあの怯えようだと、全く安心できない。むしろ怖い方だ。

二年生の教室に到着し、ドアを開ける。乙和さんは衣舞紀さんとノアさんと一緒に昼飯を食べていた。が、表情は暗かった。

 

乙和「•••あっ」

 

乙和さんが俺と咲姫に気がついた。そしてそのままこちらに走ってきて、

 

天「おっと」

 

俺に抱きついた。クラス中からどよめきが起きたが、乙和さんはそんなことお構いなしに俺の胸に顔を埋めていた。

 

天「•••ダメでしたか」

ノア「うん•••ごめんね」

 

申し訳なさそうに、ノアさんは謝罪する。俺は短く返して、いない人の席を借りて座った。その時に乙和さんは一時的に離れたが、すぐに腕に巻きついた。

 

咲姫「これはどういう••••••?」

天「見ての通りだ。朝からずっとこんな感じなんだ」

 

トラウマを植え付けられた今の彼女は、縋る何かがないといけないのだろうか。

 

衣舞紀「何とかしてみたけど、効果はなくて••••••」

天「そうですか•••でも、一体どうすれば••••••」

ノア「落ち着くまで待つしかないのかな•••ずっと天くんにくっついてるけど••••••」

天「あの時居合せてましたから•••」

 

男たちを(象徴ごと)潰したから、乙和さんは俺を頼っているのだろう。だとしても、ここまで酷くなるとは思えない。

 

咲姫「•••すごく怯えた色••••••。でも、少しだけ明るい色が見える。天くんに対しての信頼•••?」

 

咲姫が乙和さんの感情を見てくれたが、根本は変わらずだった。どうしたものかと、頭を抱えてしまう。

 

ノア「しばらくは、天くんが乙和の相手をしてあげて?今の乙和は天くんをすごく信頼してるみたいだし」

天「•••••••••わかりました」

 

かなり不安だが、乙和さんの為だと、自分に言い聞かせながら頷いた。




感想評価、オッスお願いしまーす。感想評価くれた人はワシの腕の写真送ります(謎)


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緊張感MAX地獄

ランキング入りましたありがとうございます!そしてお気に入り100件突破ありがとうございます!いやー嬉しいね!執筆がどんどん進むってわけよ!そんじゃま、どうぞ!


放課後になり、俺は一目散に二年生の教室へと走って行った。案の定、乙和さんは一人で佇んでいて、俺に気がつくとそのまま腕に抱きついた。

••••••しばらくはこの状態が続くだろうと覚悟はしていたから、それでいい。だが、不安はかなりある。

 

衣舞紀「とりあえず、事務所の方に行こうか」

天「はい。•••乙和さん、行きますよ」

 

頷く動きだけは見えた。それだけで十分だったので、そのまま全員でネビュラプロダクションへと向かった。

 

天「ただ•••仕事したいんですけど、乙和さんが離れる気配が••••••」

乙和「ううん•••ここなら大丈夫••••••」

 

事務所内なら安全だと悟ったのか、意外にも乙和さんは俺から離れた。後は他の三人に任せて、俺は仕事部屋へ入った。

 

天「はぁ••••••今日中に終わらせるの絶対無理だろ••••••」

 

仕事の量に絶望してしまう。これは9時どころか10時まで掛かりそうな希ガス。はぁー、辞めたくなるわこんなの。クソやん、マジで。

 

天「でもやるんだけどさ••••••」

 

だって仕事だもの。責任はしっかり持って取り組まないと、後々彼女たちや事務所に迷惑が掛かってしまう。それだけは避けなければならない。

メモ帳に万年筆で書きながら、パソコンの方も打っていく。こうやって二つ一気にやってないと、終わる気がしないからだ。

 

天「•••面倒くせぇ」

 

どうしても嫌な部分が出てきてしまう。乙和さんの件も相まって、俺はかなり疲弊していた。頭の片隅には、どうしても乙和さんのあの光景がフラッシュバックしてしまう。あの怯えた表情は••••••今後の彼女の精神的にもあまり良くないだろう。どうにかして今まで通りに戻したいが、そこは本人のペースでしかどうにもならない。ものすごくもどかしいが、仕方のない事だ。

そうこう考えていたら、仕事の方はかなり進んでいた。それと同時に時間もどんどん進んでいた。

 

天「このペースなら••••••9時には終わりそうだな」

 

少し余裕ができた俺は、更にやる気が増した。キーボードを打つ指が、紙の上を走る万年筆が加速する。このまま集中力が保てば、本当に時間通りに終わりそうだった。

 

天「••••••音楽流そ」

 

更にやる気をプラスする為に、俺はヘッドホンを装着して、パソコン内に入れてるCDを使って、音楽を流し始めた。そこで一気に気合いが入り、仕事に没頭した。

 

何とか仕事は9時に入る頃に終わった。まだレッスンはしているのか気になるが、この時間だ。確実に終わっているだろう。いや終わらせないと俺の責任問題になる。スケジュール立ててるの俺だし。

 

天「さーて帰るか」

 

椅子から立ち上がって、大きく伸びをする。身体がボキボキと鳴って、少し気持ちがいい。ドアを開けると、ビクッと驚いた乙和さんがいた。

 

天「あれ•••?まだ帰ってなかったんですか?」

乙和「••••••怖いよ•••天くんのお家に行きたい••••••」

天「••••••わかりました」

 

乙和さんの家はここから離れている。一人で帰るのは怖くて無理だったのだろう。俺は仕方なく頷き、乙和さんを連れて家まで向かった。

 

家に着いて玄関を開けると、月が出迎えに来てくれた。が、乙和さんの姿を見て仰天した。

 

月「乙和さん!?どうしたんですか•••!?それに顔色もすごく悪い••••••」

 

月に朝の件を話すと、妹は、同情して暗い表情になった。だが、すぐに明るい顔に戻る。

 

月「そっか•••。でもお兄ちゃん、よくやったよ!あそこで乙和さんを守るなんてカッコいいよ!」

天「俺の事はどうでもいいだろ。とりあえず、乙和さんの家に電話を掛ける」

 

すぐに家の固定電話を手に取り、資料に書いてある花巻家に電話を掛けた。

 

天「夜分遅くに申し訳ありません。私、お宅の娘さんの花巻乙和さんのマネージャーを務めさせていただいております、神山天と申します。本日このようなお電話をさせていただいたのは、今朝、乙和さんが暴漢に襲われて掛けていましたので、まだその恐怖が残っています。その所為でそちらの方まで帰ることができないとの事らしく••••••乙和さんが落ち着くまでは、うちで面倒を見てもよろしいでしょうか?•••はい、私と妹が普段います。両親は仕事が忙しくてあまり帰ってきていません。•••わかりました。責任を持ってお預かりさせていただきます。では、失礼致します」

 

用件を伝えて返答も貰ったので電話をコトリ、と置いた。

 

月「問題なさそう?」

天「とりあえず許可は降りた。渋々だったけどな」

 

そりゃそうだろうな。ほぼ二人暮らしの家に可愛い娘を預けるなんて普通できないだろう。乙和さんが頼ってきたから、という理由があるからこそ実現した賜物だ。

 

月「とりあえずご飯できてるから食べよっか!乙和さんもどうぞ!」

乙和「うん•••ありがとう、月ちゃん」

 

まだ元気のない乙和さんは小さく月に礼を申した。リビングに入って、それぞれの席に座って夕食を食べ始める。

 

月「お仕事、意外と早く終わってよかったね」

天「あぁ。なんか今日はえらく集中できてな。予定より早く終わらせる事ができた」

月「予定通りじゃないの?9時だけど」

天「9時に終わる気しなかったからな。10時くらいまでは掛かるだろうな、と思ってた」

月「へぇ〜、お兄ちゃん優秀〜」

天「なんかウザい言い回しだな••••••」

 

相も変わらず月は月だった。が、乙和さんは会話の中には一切入ってこなかった。無言でただ飯を食べているだけ。

 

月「•••とても怖かったんだね••••••」

天「多分今までそういった事がなかったんだろうな••••••」

 

少しばかり同情してしまう。が、今は感傷には浸っていられない。今後どうするかを第一に考えなければならない。

 

天「とりあえず、乙和さんが落ち着くまではここに泊まり続けるって事で。月のパジャマは••••••入らねぇな」

月「今絶対私の胸見ながら言ったでしょ!?」

 

バッ、と胸の辺りを腕で隠した。だって仕方ないやん。乙和さん身長の割に胸デカ過ぎるんだから。

 

月「でもお兄ちゃんのは大き過ぎるし•••どうしよう」

天「俺が中学だった頃のを引っ張り出そう。それならイケると思う」

 

多少ブカブカにはなるだろうが、恐らく大丈夫だろう。オーバーし過ぎている訳でもないし。

 

天「ごちそうさま。乙和さん、お風呂は一人でーー」

乙和「無理そうかな••••••」

天「•••そうですか。月、頼んだ」

月「お任せあれ!」

 

食い気味に断りを入れた乙和さんを見かねて、月にすぐに頼んだ。こういう時家に女がいるのはありがたいと思った。

 

月「乙和さん、今日からしばらく一緒に寝られますね!」

乙和「•••寝るなら、天くんとがいいな•••安心できるから」

 

オォウ•••俺は心の中で絶望した。付き合ってもいない男女が一緒に寝るのはかなりヤバい。論理的に考えて。

 

天「いや•••さ、流石にそれは••••••」

乙和「ダメ••••••?」

 

ンッ!!今の上目遣いには相当ドキッとした。いや、今のはマジで可愛かった•••。

 

月「今は乙和さんの事を一番に優先しないといけないでしょ?お兄ちゃん何もする気ないだろうし、寝ちゃいなよ」

天「簡単に言うなよ•••」

 

俺だって性欲の一つや二つある。ちゃんと人間なんだぞこっちは。しかも相手は美少女だ。少し無理がある。

 

月「じゃあどうするの?もしそれで乙和さんが病んだらお兄ちゃんの所為だからね?」

天「•••••••••わかった•••わかったよ!乙和さんの為だ!やってやる!」

 

意を決した俺は叫んだ。今日から俺は精神を落ち着かせる。何事にも動じない強い心を手に入れてみせる。

 

天「ただ•••クソ眠い••••••」

 

ずっとパソコンとメモ帳と睨めっこしていた所為で、目が疲労MAXの状態だった。今すぐにでも寝たい欲に駆られている。

 

月「あー•••なら、先にお風呂入っていいよ。病み上がりだし、すぐに寝た方がいいかも」

天「あぁ、そうするわ•••」

 

俺は少しフラフラしながら風呂場へと向かう。先程の決意で多少疲れが加速した。いや、大丈夫だ。俺が変に手を出さなければいい事。しっかり乙和さんの相手をして無事に花巻家に帰す。それだけの事だ。なに、何も心配する必要なんてないじゃないか。俺は薄ら笑いを浮かべながら、湯船に浸かった。




感想評価オッスお願いしまーす。前回感想評価くれたら腕の写真送るって言ったけど、ガチで要望きてビックリした()


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寝て起きて悩んで

どうも、実は少し前に同じ剣道部の友人から左手を見せたらキモいと言われました。これまで竹刀をたくさん振って作ったマメやぞこの野郎!キモいはないやろ!


風呂から上がって、月と乙和さんが風呂に入っている間、俺は自室のベッドに座って自分自身と向き合っていた。

そもそも乙和さんがウチに泊まるようにしたのか。以前の俺だったら、そんな事お構いなしに花巻家の方々に迎えに来てもらえ、と無慈悲に告げただろう。今の環境に慣れたからか••••••Photon Maidenの存続の為か••••••ただ単に乙和さん自体に特別な何かがあるか••••••頭の中はグルグルしていて、もう滅茶苦茶だった。

 

天「••••••俺が乙和さんを好きになるとか•••ないよな••••••?」

 

今までそういった経験が無かった為、俺は困惑していた。今後乙和さんをどういう目で見ればいいのか、少し迷ってしまう。いつも通り、と頭に言い聞かせても、できそうにない自分がいた。

コンコン、と扉がノックされ、俺は驚いて飛び跳ねた。恐らく乙和さんが来たのだろう。どうぞ、と許可を出すと、ブカブカのパジャマを着ている乙和さんが、恐る恐る入ってきた。

••••••似合わねぇなぁ••••••大き過ぎて袖で手が完全に隠れてるしズボンもダラーっと伸びている。

俺はため息を吐いて、パジャマの裾を丸めていく。

 

乙和「あっ、ありがとう•••天くん」

天「これくらい、いいですよ。乙和さんはベッドを使ってください。俺は床で寝ますので」

 

グイッ、と引っ張られる。乙和さんは頬を膨らませて、少し怒った様子だった。

 

乙和「一緒に寝るの!」

天「••••••少し、元気になりましたね」

 

いつもの元気な声が聞けて、少し嬉しくなった。その所為で口角が上がってしまう。

 

乙和「うぅ•••そ、そういうわけだから!」

天「はいはいわかりました」

 

多分•••乙和さんを好きになったとか、そんなんじゃないっぽいな••••••。本当に好きになってたら、こんなふざけた対応なんてできないだろう。

あくまで保護者の気持ちで、乙和さんと二人でベッドに寝転がる。

 

乙和「えっへへ〜、天くんのここ落ち着く〜」

 

そして即座に俺の方へくっついた。あぁ、そっか。この人一応俺の事を好いてくれていたんだった。だったらこんな風になっても不思議ではない••••••いやちょっと待て。これ完全に乙和さんの片想いでしょ?だからってここまでくっついたりとかするか?変に慣れてしまった所為で、俺の頭がバカになったのかもしれない。

 

乙和「勘違いしないで欲しいけど、私が今普通にいられるのはここが天くんの家で、目の前に天くんがいるお陰だからね!?外に出たらこんなに元気にいられないよ!」

天「家でだけイキるやべー奴じゃないですか••••••」

 

俺は嘆息した。目の前の人間がどんどんダメになるんじゃないかと、少しばかり焦りを覚えてしまう。

 

乙和「いいもんいいもん!天くんと一緒にいられるならそれでいいもん!」

天「••••••本当にあなた俺の先輩ですか?」

 

先輩らしさのカケラも感じないのだが••••••そう考えたら衣舞紀さんとノアさんはものすごく先輩している。それに比べて乙和さんはどうだ?後輩の俺に甘えている状態だ。俺だったら恥ずかしくて泣けるね。

 

乙和「なんだかバカにされた気がする!」

天「気の所為だと思いますよ。というか寝ていいですか?結構限界なんで••••••」

 

もう瞼が下がってきている。視界は全体のおよそ4分の1程度しか映っていない。後ちょっとでも下がれば、目の前は真っ暗になるだろう。

 

乙和「ずっとお仕事頑張ってたもんね。おやすみ、天くん。明日もお願いね」

天「えぇ••••••わかりました•••••••••」

 

俺は微睡みに負けて、そのまま夢の世界へと旅だって行く。身体中に感じる乙和さんの感触が消えかかっていた頃にーー

 

乙和「••••••••••••大好きだよ」

 

何か聞こえた気がした。それは消え入るような声で、俺の耳に入ったかすらわからなかった。

 

翌朝、俺はいつも通りに目を覚ました。が、いつもとは違う光景、というより、感覚があった。何かに巻きつかれてるような、でも柔らかくて気持ちいい感触。目線を下に下ろせば、乙和さんが眠っていた。

 

天「••••••あ、そっか」

 

今更になって、昨日から乙和さんがうちで泊まる事になったのを思い出す。

 

天「•••こうしてると可愛いんだけどなぁ••••••」

 

黙っていれば可愛らしさ満点の美少女だ。だが一度口を開けば、うるさいしがっついてくるしでもう滅茶苦茶や。

 

乙和「んぅ•••」

 

モゾモゾと乙和さんが動く。更に密着した状態になり、少しドキドキしてしまう。

 

天「(平常心平常心••••••)」

 

自分自身に言い聞かせて何とか落ち着くが、乙和さんが起きないと俺が動く事ができない。軽く詰んでる状態だ。

 

天「うーんどうしよう」

 

まぁもうそろそろしたら月が呼びにくるだろう。それまで普通にしていればいい。

そう思っていたら、タイミング良く階段を駆け上がる音が聞こえてきた。

バンッ!と扉を開けた月はフライパンと金属お玉を持って叩き始めた。うるさい金属音が、部屋中に響き渡る。その音に反応して、乙和さんは飛び起きた。

 

乙和「うわあぁっ!?な、何!?」

天「•••月、うるさい」

月「あれ?お兄ちゃんもう起きてたの?てっきりまだ寝てると思ってたのに」

 

月は首を傾げた。確かにいつもは俺がそれで起こされる時もある。だが今回は違う。やられたのは乙和さんだ。それでもクソうるさいので耳は死ぬが()

 

天「先輩がいる手前でいつまでも寝てられるかよ」

月「クソ真面目な後輩ぶってて草」

天「後で殺す」

月「すんません•••命だけはどうか••••••!」

乙和「朝から仲いいな〜•••」

 

いつもの兄妹トークを繰り広げていたら、乙和さんから少し呆れた目線が飛んできた。俺は何もないフリをして、月はなんだか嬉しそうにニコニコとしていた。

 

朝食も食べて、お互いに準備を済ませたので、月に一言だけ言って家を出た。

 

家を出ると、昨日に比べて乙和さんは明るかった。だが、何処かしら警戒しているのは見て取れた。俺の腕に巻きつくのは変わらず、少し歩きづらい。

 

天「大丈夫ですよ。俺がいますから」

乙和「う、うん•••」

 

更に抱きつく力が強くなり、腕に乙和さんの胸の感触が伝わってきた。だが今の彼女がこんな状態なので、離れろとは少し言い難い。

 

乙和「ごめんね•••昨日からずっと迷惑掛けちゃって」

天「大丈夫ですよ。マネージャーとしての仕事の内です」

 

いや全く違うけど。最早プライベートにまで侵食しちゃってるよ。

 

乙和「えへへっ、優しいね」

天「••••••そんなことないですよ」

 

俺は顔を逸らす。今の乙和さんの笑顔を見て、なんだか恥ずかしくなった。うーん•••こんなはずでは。もっと精神を鍛えなければ。

 

天「学校の方では衣舞紀さんとノアさんを頼ってください。四六時中は相手できませんので」

乙和「じゃあお昼休み!」

天「わかりました。呼びに行くので待っててください」

乙和「はーい!ねぇねぇ、こうしてると私たち、カップルみたいだね!」

天「そうっすね」

 

俺は無表情で適当に返した。乙和さんはご立腹なご様子で、俺に掴みかかった。

 

乙和「そこまで普通に返さなくてもいいじゃん!」

天「そんな事言われましても•••付き合ってないのは事実じゃないですか」

乙和「じゃあ早く返事ちょうだい!」

天「•••••••••それは」

 

俺は口籠る。まだ、今乙和さんに向けている感情が何なのかわからない。だから返答に困る。

 

天「••••••まだ、よくわかりません。ただ、嫌なものではないというのは確かです」

乙和「••••••?どういうこと?」

天「今の乙和さんに対する感情というか、そういったものが何なのか、わかりません」

乙和「••••••へぇー、そっかそっか!ならゆっくりでもいいから考えてね!それか他の人に相談するのも手だよ?」

 

急に機嫌が良くなった乙和さんから立て続けにアドバイスをいただく。かえって訳がわからなくなり、俺は首を傾げた。

 

乙和「(きっと天くんは私に恋してるんだ•••!嬉しいなぁ•••お昼休みはもっと大胆に攻めちゃお!)」




感想評価オナシャス!D4のフレンドはいつでも募集しとるよー。


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誰が見てるかわからないから怖い時ってあるよね

明日また休みってマ?積ませてるエロゲ終わらせないとwそして明日に今日注文したエロゲが届くというね。最低最悪の無限ループwww


学校に着き、俺と乙和さんは一度別れた。一年の教室に入って、自分の席に座る。そこで一気に緊張の糸が切れて、だらしなく椅子の背もたれに体重を預けた。

 

天「はぁ••••••疲れるな」

男子生徒A「疲れるって?」

 

俺の呟きに、一人のクラスメイトが反応を示した。俺は肩をすくめて、クラスメイトに目を向ける。

 

天「まぁ、ちょっとした事だ••••••疲れるって言ったけど、どちらかというと怖いの方が正しいかもな」

 

変に手を出してしまわないか、行動一つで空気が一気に悪い方向に変わってしまわないか。俺の頭の中は恐怖でいっぱいだった。

今でこそ彼女は昨日より明るく振る舞えている。それでも心の奥底では、わかりやすいくらいにトラウマが見え隠れしていた。

 

男子生徒A「ところで話は変わるけど、お前、花巻先輩と仲いいだろ?」

天「••••••?乙和さんがどうしたんだ?」

 

突然乙和さんの名前が出てきて、俺は疑問を感じて首を傾げる。男子生徒は、至って真面目な面で話を続ける。

 

男子生徒A「いや、あの人すっごいモテててな••••••今まで全部フッてきたらしいけど、神山はどうなんだろうと思って」

 

うーん言いづらい••••••実は告白されてて今返事を考えてまーす、なんて言えば恐らく乙和さんに告白した人全員にぶっ殺される。それだけは嫌だ。だから適当に流そう。

 

天「あの人の恋愛事情には踏み込んでないから、そこら辺は一切わからん。そもそもあの人がモテてた事自体初耳だった」

 

これは事実だ。あのおちゃらけたワガママおバカの何処がいいんだか。••••••自然と悪い気がしないのは気の所為だと願いたいな。

 

男子生徒A「でも今日の朝くっつきながら来てなかったか?」

天「ギクっ」

 

核心を突かれて、俺は震える。そういえばそうだったぁ••••••。どうやって誤魔化そう•••いや、事実をちゃんと伝えればいい。それでおかしくなくなる。

 

天「昨日、乙和さんが襲われてな。それがトラウマみたいになってるんだ」

男子生徒A「え?そ、そんな事があったのか•••!?それで、あんな状態に••••••」

天「まぁそういう事だ」

 

ふぅ、何とか言いくるめる事ができた。これで少し安心だ。後は他愛のない話に相槌をうちながら、教師が入ってくるまで待った。

 

昼休みになり、俺は咲姫を連れて二年の教室へ向かった。

 

咲姫「乙和さん、大丈夫かな•••」

天「今日の朝は昨日よりも元気にはなってた。でもまだ完全に回復した、とは言い難いな」

咲姫「そう••••••」

天「•••大丈夫だ」

 

咲姫の頭に手を置いて、優しく撫でる。少しくすぐったそうにしたが、嫌な顔はしていなかった。

 

天「あの乙和さんだぞ?いつまでもあんな風にされてたら、あの人の一番の取り柄が無くなっちまう」

咲姫「ふふっ。それは乙和さんに失礼だよ」

 

咲姫はクスクス笑った。俺も笑みを零すが、かなり固かった。

 

乙和「あーー!天くんと咲姫ちゃんがイチャイチャしてるー!」

 

知らない内に乙和さんのいる教室まで着いていたらしい。乙和さんは俺たちの姿を見て、叫びながらこちらに走ってきた。そしてそのまま俺に抱きつく。

 

天「えっ、ちょっ•••!」

 

朝のクラスメイトの話を思い出して、教室内を見る。男子生徒からの怖い眼差しが俺一点に集まっていた。背中に嫌な汗が流れたのを感じる。

 

咲姫「嫉妬の色•••」

天「言わなくていい!」

 

言われなくてもわかるもん。明らかに悪意に塗れた目つきだ。俺は目を逸らすが、乙和さんが俺に頭を掴んでこちらに向けた。

 

乙和「じーーーー••••••」

天「と、とりあえず、昼飯食べましょう•••」

 

そう言うと、乙和さんは離れた。ホッと息を吐くが、まだ視線は集まっていて、気が気じゃなかった。席に座って弁当を広げる手が、少し震えた気がした。

 

ノア「というか、昨日はレッスン終わった後どうしたの?わざわざ天くんに連れて行ってもらったとか?」

衣舞紀「あっ、それは気になるかも。ずっと天を待ってたから••••••」

 

ノアさんの問い掛けに、乙和さんは黙り込んだ。そして俺に目を向けた。静かに俺は頷いた。

 

乙和「いやー実は•••今は天くんの家でお世話になっていまして••••••」

咲姫「えっ•••!?」

二年生男子生徒連中「はあああぁぁぁ!!?」

 

咲姫の声を遮るように、この教室にいる男子生徒がガタガタと音を立てて立ち上がった。嫌な汗が流れたのを感じた。俺の人生もここまでか••••••。

 

咲姫「それ、本当•••?」

天「あぁ。乙和さんが家に帰るまでが怖いって言うから、うちに置いてる」

衣舞紀「ちゃんと許可は取ってるの?」

天「昨日乙和さんの親御さんに電話しました。まぁ•••当たり前ですけど、嫌そうにはしてましたね。それでもOKは出してくれましたが」

 

俺は苦笑いを隠せなかった。先日の花巻家の人間の嫌悪感を思い出して、少し気分が沈んだ。

 

乙和「天くんの部屋すごかったよー。咲姫ちゃんの部屋にあったような分厚い本が置いてあったんだー」

天「あぁ•••あれですか」

 

魂の存在に関する論文が記された学術書。最近は更新が全くないから、もう魂の説は滅んだかもしれんが。

 

乙和「まぁ全くわかんなかったけどね。天くんが簡単に説明してくれればいいんだけどなー」

天「面倒なので言いませんよ。それに、魂の説は全く聞きませんから、もう研究されてないんじゃないですか?」

ノア「そもそも、その魂っていうのはどういうモノなの?」

天「脳とは別の、脳たりえる存在••••••脳だけで解析できないものを解析する部分、という説です。たまにありませんか?頭では何もわかっていないのに何故か行動できた事が。その無意識の作用が魂による作用ではないか。と言われています。科学的根拠は一切ありませんがね」

 

俺は肩をすくめる。事実、この説は実際に根拠を示して、しっかりとした論理に昇華したわけではない。あくまでもそういった仮説がある、と言うだけに過ぎないのだ。

 

ノア「なるほど•••でも根拠自体は示されてないんだよね?それはどうして?」

天「そもそもの話、その魂の存在を証明できるものが一切ありませんから。そのおかげで今は、仮説のドン底に埋まってしまいましたよ」

乙和「ダメだ•••何を話しているのか一切わからない••••••」

 

乙和さんは遠い目をしていた。それは咲姫と衣舞紀さんも同じようで、首を傾げていた。それを見た俺とノアさんは、お互いに笑う。

 

乙和「もっとわかる話しよーよ!」

天「はいはい。今日の夕飯は何がいいですか?月に頼みますよ」

乙和「クレープー!」

天「お菓子とかそれ系統はなしです」

乙和「えぇー•••あ、そうだ。天くんがご飯作ったりしてくれないの?」

天「え、俺ですか?」

 

唐突に俺の方に話が持っていかれた。いや俺が作るって•••そもそも時間ねぇし()

 

天「仕事してたらそんな時間確保できませんよ。月の飯で我慢してください」

乙和「むぅ•••何とかできない!?ねぇねぇ!」

 

俺の肩に掴みかかって顔を近づける乙和さん。もうキスができてもおかしくない程の距離感にドキドキしてしまう。

 

天「••••••か、考えます•••••••••」

乙和「やったぁ!」

 

わかりやすいくらいに笑顔になった乙和さんが声を上げた。ドキドキしてしまった俺は、顔が少し赤かった。

 

咲姫「大丈夫•••?」

天「ま、まぁ••••••何とかなるだろ••••••」

 

確証のカケラもないが、俺は気を紛らわせるように、咲姫の心配の声に反応を示した。後で月に連絡しておかないとなぁ•••面倒くさ。




感想評価オッスお願いしまーす!今日体重測ったら減ってたのよね。おかしいな。毎日ちゃんと食べて鍛えてプロテイン飲んでるのに一向に増えねぇぞ?


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気持ち伝えるの恥ずかしいんだよ察しろ

投稿遅れて申し訳ない!ものの見事に忘れてました!w


Photon Maidenのみんなと事務所へ向かいながら、俺は月に電話を掛けていた。基本俺からの電話はノーコンマで出る妹は、いつもの光景のように、すぐにコールに対応した。

 

月『もしもしー?お兄ちゃんから電話なんて珍しいねー』

天「ん。いやな、乙和さんが今日の夕飯俺が作ったやつ食べたいって言うから•••それでいいか?」

月『えっ•••いいけど••••••』

天「いいけどなんなんだ?」

 

やけに不穏な空気を漂わせる妹に、俺は疑問をぶつけた。

 

月『家燃やさないでね••••••?』

天「いつの話してんだお前•••流石にキッチン燃やした時みたいな惨事はもうねぇよ」

ノア「でもキッチンは燃やしたんだね••••••」

 

多少月の声は漏れていたので、それを聞き取ったノアさんは、会話の内容を察して苦笑いを浮かべていた。

 

月『まぁいいけどね。今のお兄ちゃんなら心配してないし。それに乙和さんからの直々のお願いでしょ〜?よかったね』

天「へいへいそうだな」

 

俺は適当に流す。なんかこれ以上続けていたら、エゲツないワードが飛んできそうな気がしたからだ。

電話を切って、携帯をポケットの中にしまった。

 

乙和「どうだったどうだった!?」

天「会話聞こえてましたよね?俺が作りますよ」

乙和「やったー!」

 

乙和さんは俺の腕に巻きつきながら、飛んで喜んでいた。その姿が微笑ましくて、つい笑みを零す。

 

衣舞紀「こうして見ると•••乙和が天の妹みたいに見えるわね••••••」

乙和「あっ、ひどーい!私の方が先輩だぞ〜!?」

ノア「精神的な面は天くんの方がよっぽど大人だと思うけど?」

乙和「言い返せない••••••」

 

ノアさんはやはり乙和さんを言いくるめるのが上手だ。乙和さんは黙り込んでしまい、悩んでいるような表情になった。

 

咲姫「今日のレッスンはどうするの?」

 

唐突に咲姫が今日の内容について質問を投げた。俺はメモ帳を開いて、確認していく。

 

天「ライブも近いし•••それを想定した通し練習だな。あっ。乙和さんはライブ••••••大丈夫ですか?」

乙和「••••••わかんないけど、まだ時間はあるよね?それまでにはどうにかする!」

 

意外にも、強気な返事が返ってきた。少し安心する反面、本当に大丈夫なのかという不安も募った。

 

衣舞紀「大丈夫。天は自分の仕事に集中してていいよ。後は私たちでどうにかするから」

天「わかりました。ありがとうございます」

 

小さくだが、衣舞紀さんに頭を下げた。何故か乙和さんも同じように下げたのは少し気になるが、何も言わない事にした。

 

仕事部屋にこもって仕事をしている間ーーつまり一人の時はどうしても乙和さんの事が頭から離れなくなる。どうしちまったんだ、俺の頭。いつもならもっと仕事の事ばかり考えていただろう。

 

天「(••••••よくわからんな•••••••••)」

 

未だにこの感情が理解できずにいた。いや、心の奥底、魂の方ではわかっている。ただ脳が処理していないだけのことだろう。

 

天「••••••帰るか」

 

鞄を持って立ち上がる。そして出入り口の扉を開けると、そこで待機していたであろう乙和さんが、俺に抱きついた。突然の事でドキリとし、また別の意味でもドキドキした。

 

乙和「お疲れ様!帰ろっか!」

天「••••••そうですね」

 

••••••なんとなくだが、わかったかもしれない。俺、乙和さんの事が好きなのかもしれない。まだ確証は持てないが、恐らくそうであろうと自分の中で勝手に納得した。

 

家に帰り着くと、俺はすぐに夕飯作りに取り掛かった。その後ろでは月と乙和さんが談笑しながら俺を眺めている。

 

月「ねぇねぇ乙和さん!ぶっちゃけた話、お兄ちゃんの事どう思ってますか?恋愛対象として見れそうですか?」

乙和「えっ?えっへへ〜、天くんねー、すごくカッコいいよ!私を襲ってきた人を簡単そうに倒しちゃった!」

月「お父さんに鍛えられてますらからねー、うちの兄は。そこらのチンピラはボッコボコですよ」

 

いや•••そんな話してどうすんねん••••••。俺は顔が見られていないのをいいことに、わかりやすく呆れた顔をした。

 

乙和「それに恋愛対象かぁ〜、天くーん?」

天「何ですか」

乙和「私って、天くんの恋愛対象に入ってるのかなー?」

天「••••••••••••」

 

俺は沈黙を貫く。ここに月さえいなければ頷いて答えているが、妹がいる=面倒事という謎の式が成り立ってしまっている。だから喋りたくない。

 

月「何か言ったらどうなの?」

天「うっせぇな。後で植木鉢演出すんぞ」

月「なんかやけに今日乱暴だなこの兄は!」

 

ムカつくので、まぁまぁガチのトーンで妹に脅しをかける。月は悲痛な叫びを上げながら大人しくなった。

 

乙和「どうなの〜?私は天くんの口から聞きたいなー」

天「二人の時にでも話しますよ」

乙和「••••••!じゃあ、後でね•••」

 

少し照れ臭そうな表情を乙和さんは見せる。俺は疑問を感じたが、気を抜くと本気でキッチンを燃やしかねないので、そっちに意識を向けた。

 

俺が作った夕飯は、乙和さんには好評だった。普段料理を作っている月からは、手痛い指導をくらったが、自然と嫌な気はしなかった。

月と乙和さんを風呂に入らせてる間に、俺は自室のベッドに寝転がっていた。今のうちに頭を整理しておこうと思ったからだ。

 

天「(••••••いや、ほとんど答えは決まってるか)」

 

俺は乙和さんの事が好きだ。もうこの気持ちに迷いはない。だからこそちゃんと向き合おうと決めたのだ。逃げる気など毛頭ない。

 

乙和「天くーん。お風呂空いたよー」

天「あっ、はい。でもその前に一ついいですか?」

乙和「うん?なになに〜?」

 

乙和さんは期待した表情で、俺の隣に座った。俺は身体を起こして、床に足をつけて腰を下ろした。

 

天「乙和さんは俺の事をどう思ってるんですか?」

 

バカか俺は。何故こうも回りくどい事をしたんだ。

 

乙和「もちろん、今も好きだよ!」

 

が、乙和さんから返ってきた返答は、迷いのないとても明るいものだった。

いや、俺は逃げた。わざと乙和さんに先に確認させてから、自分はダメージを受けないように無意識のうちに逃げていたのだ。我ながら情けなくて自分自身をぶん殴りたくなる。だがそれは後だ。今は乙和さんに自分の想いを伝えなければならない。

 

天「俺は•••昨日一昨日の間、自分の気持ちがわかりませんでした••••••乙和さんと一緒にいると変にドキドキして、落ち着かなくて•••。でも、今ならハッキリと自信を持って言えます••••••好きです、乙和さん。俺と付き合ってください」

 

顔が熱かった。きっと乙和さんも、初めて俺に告白した時はこんな感じだったのだろうか、と気を紛らすように頭の中で考える。

乙和さんに目を向けると、彼女は嬉しそうに笑っていた。そしてそのまま俺に抱きついて、

 

乙和「うん!私も、私も天くんの事好き!大好きだよ!」

 

いつもの元気な感情に加えて、とても幸せそうな何かを交えながら声を上げた。俺も抱きしめ返して、乙和さんの身体を感じていた。

 

風呂から上がった後は、いつものようにーー昨日からだがーー二人でベッドで寝ていた。今はお互いに恋人同士なので、変に緊張することなく抱き合っていた。

 

乙和「天くんの身体あったかーい。でも硬いね」

天「そりゃ鍛えてますからね。そういう乙和さんは柔らかいですけど•••妙に肉を感じますね••••••少し痩せましょうか?」

乙和「女の子にそれは禁句だぞー!でも、ちょっと太ったかなー、とは思ってる•••」

 

ちゃんと自覚はあるようで、どこか安心した。今度衣舞紀さんも交えて一緒に走ろうかな、と軽い計画を立てる。

 

乙和「でもそっかー•••私ついに、天くんの彼女になっちゃったんだ••••••」

 

感慨深い様子で、乙和さんは呟いた。俺は無言だったが、頭では乙和さんに似たような事を考えていた。よくこんな美少女の彼氏になれたな、と。いやあんま似てねぇわ。

 

乙和「これで明日から遠慮なくイチャイチャできるね!お昼休みはみんなの前で恋人宣言しよっか!?」

天「しなくていいですよそんな事。それで殺されるのは嫌ですし」

 

乙和さんの事を好いている男子たちに刺される未来が見える見える•••。軽くゾッとしたが、相手はズブの素人だろうし、対処自体はできるだろう(油断)。

 

乙和「えへへ〜、えへへへ〜!」

天「嬉しそうですね」

乙和「嬉しいに決まってるよ!天くーん、好き!」

天「俺も好きですよ」

 

まだ何処か夢見心地な感じを受ける乙和さんに対して、俺は淡白だった。俺自身も嬉しいと思っているが、ここまでオーバーに出そうとは思わない。

 

乙和「ね、ね。もっとくっ付こう?」

天「はい」

 

先程よりも強い力で、乙和さんを抱き寄せる。小さな身体が、俺の胸の中に収まった。

 

乙和「すっごく安心する••••••もうこのまま寝てしまいたいな••••••」

天「明日も学校ですから、流石に寝ましょう」

乙和「うん•••おやすみ、天くん」

天「はい、おやすみなさい」

 

お互いほぼ同時に目を閉じて、意識を手放した。明日はもっと騒がしく、楽しくなるだろうなという、期待を込めて。




感想評価オナシャス!ところで、昨日一昨日にあったハーメルン界隈の騒ぎって結局何だったの?


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ふざけ過ぎるなよ?

寝過ぎた☆朝も寝て昼寝てで土曜日もそうだけど寝てばっかりやな俺wあ、D4のフレンドマルチの情報きましたねー!是非これを読んでくださってる人たちと一緒にやりたいものですwあ、自分の実力ですか?カレンデュラフルコン一歩手前レベルです。一部の14はフルコンしてます。ただしラブハグフル。テメェはダメだ。


朝の日差しが襲い掛かってきて、俺は目覚める。昨日の記憶がしっかりと残っていたので、ふと視線を下に下ろした。

乙和さんが穏やかな寝息を立てて、俺の胸の中で眠っていた。一度口を開けば元気でうるさいが、こうして眠っていればとても可愛い。

 

乙和「んぅ•••あれ•••?」

 

どうやら乙和さんも目が覚めたようだ。目を開けた瞬間日差しが目に入って、びっくりしたように瞑る。

 

乙和「えっへへ、おはよう天くん」

天「おはようございます」

 

上目遣いからの笑顔で挨拶を向ける乙和さん。それに対して俺は、微笑しながらのものだった。

 

乙和「天くんのここ落ち着くなー。おかげでぐっすり眠れたよ!」

天「それはよかったです。乙和さんも抱き心地最高でした」

乙和「•••なんだかえっちに聞こえるのは気の所為かな•••?」

天「だんだん月に毒されてきましたね••••••」

 

乙和さんがうちで暮らしていても、月は相も変わらず問題発言を繰り返していた。乙和さんは赤面しっぱなしだったが、今は少しだけ慣れてきていた。

 

乙和「月ちゃんって•••家だとあんな感じなんだね••••••」

天「父さんに似てしまったもので••••••」

 

俺は遠い目を向ける。見た目は全くもって似てないが、性格の変態的な悪い部分は、ほとんど父さんと変わらない。いや、むしろ月の方が酷いとすら言える程だ。何がどうしてこうなったのだろうか。

 

月「はいはいはーい。お二人さんまだ寝てるのー?朝ご飯食べるよー」

天「ん?もうそんな時間か」

乙和「今行くね〜」

 

俺の部屋に来た月が呼び掛けた。俺と乙和さんはベッドを降りて、一階のリビングへと向かう。テーブルには朝食が並んでおり、いつもの位置に全員座った。

 

月「それで、二人はもう付き合ってるんでしょ?」

天「いやなんでわかんの?」

 

毎度毎度思うが、エスパーなのか?この妹は。その例の月は自信満々に胸を張っていた。まな板め。

 

月「何年私がお兄ちゃんの妹をしていると思ってるのさ!これくらいわかるに決まってるじゃん!」

乙和「兄妹ってそういうものなのかな?」

天「月が特殊なだけですよ」

月「私たちラブラブ兄妹だもんねー?」

 

俺は嘲笑を月に向けた。月は笑顔のままだが、少しキレてるだろう。微妙に殺意を感じるからだ。

 

乙和「私たちの方がラブラブだもん!」

 

隣に座っている乙和さんは、俺の腕を抱いてこちらに引き寄せた。もう月の掌の上で踊らされてるなこの人••••••。

 

月「それで、セックスはいつするの?」

天「お前口開けばいつもそれだよな」

 

俺は呆れた目を月に向ける。乙和さんは顔を赤くして黙り込んでしまった。

 

月「お互い恋人なんだし、結婚後の予行練習と思ってしときなよー?結婚初夜で失敗とか笑えないからね」

天「クソ先の話すんな•••お前•••」

 

しかも意外と現実的な事言ってるのが何よりムカつく。というか乙和さんがいる前でセックス言うなや。

 

天「俺たちには俺たちのペースがあんだよ。一々言わなくていい」

月「•••そうだね。お兄ちゃん、しっかりしてるからね」

 

今の月の表情は、母さんを思わせた。今はあまり見ない母さんの優しい笑顔を、月で見たような気になった。

 

月「お母さんシック?」

天「バカ言うな。俺がそんなタマじゃねぇのは、月が一番わかってるだろ?」

月「まぁね。どうせ高校卒業したら、家出るんでしょ?」

 

微笑みながら、何処か悲しそうな表情を月は見せた。俺が一人暮らし始めたら、一人であのやべー奴二人の対応頼んだぞ。俺は知らん。

 

天「ぶっちゃけ今からでも出たいんだよな••••••」

月「気持ちはわかるよ•••うん••••••」

乙和「???どう言う事?」

 

俺たちの話についていけてなかった乙和さんが首を傾げた。俺と月は力なく笑うだけで、その内容を話す事はなかった。

 

支度を終えて家から外に出れば、乙和さんは遠慮する事なく俺の手を握った。チラリと見てみれば、目があって笑顔を向けてくる。•••こういう誰に対しても笑顔なのがモテる秘訣なのかね、としみじみと感じた。俺はもう乙和さんがいるからモテる必要ゼロなんだけど。

 

天「もうそろそろ家に帰ってもいいのでは?」

乙和「やだ!天くんの家にずっといる!」

天「えぇ•••(呆然)」

 

元々は乙和さんの精神面が落ち着くまでのはずだったのに、今となってはただうちに住み着く居候に成り果てていた。親御さん悲しむぞ。

 

天「流石に家には帰ってあげましょうよ••••••それに長く居座らせたら、乙和さんのご両親になんか言われそうで怖いです」

乙和「大丈夫だよ!その時は私もちゃんと説得するから、もうしばらくは天くんの家で暮らしたいな•••ダメ•••?」

 

少し不安そうな上目遣いで俺を見上げる乙和さん。身長差がかなりあるので、それも自然と行えていた。そして何よりその顔が可愛くて、俺は渋々ながら頷いた。

 

乙和「やった!」

 

こんな小さな事で一々喜ばれると、なんだかこっちもほっこりする。まるで娘を見ているようだ。この人先輩だけど()

 

乙和「あーあ。天くんがもっと子供っぽかったら、私がお姉ちゃんみたいに相手できたのに」

天「乙和先輩以上の子供とか小学生レベルじゃないですか」

乙和「それどういうこと!?私って小学生といい勝負するくらい子供なの!?」

天「少なくとも俺が見てきた限りでは」

乙和「酷いなー天くんは!」

 

乙和さんは少し怒って抱く力を強めた。その所為で乙和さんの胸の感触が腕に伝わってドキドキした。クソ、身体は小さいのになんで胸は育ってんだこの人。

 

乙和「ど、どう?少しはドキドキしたんじゃないかな•••?」

天「•••早く学校行きますよ」

乙和「あ!天くん照れてるー!かっわいい!」

天「可愛い言うな」

 

くしゃくしゃと乱暴に乙和さんの頭を撫でてやった。髪型が乱れたが、そんなことは今はどうでもいい。

 

乙和「むぅ•••これじゃ私が子供扱いされてるみたい••••••」

天「だったらノアさんみたいに落ち着きを持ったらどうですか?」

乙和「そこでノアを比較に出さないで欲しいな••••••」

天「まぁわざとですけどね」

乙和「天くんの当たりが強くなった気がする•••」

天「遠慮がなくなった、の方が近いかもしれないですね」

 

もう恋人だし、変に気を遣うつもりは無くなった。その方が乙和さんも対応しやすいだろう。そのおかげで月並みに何でもかんでも言うようになったが。

 

乙和「私の事いじめて楽しいの!?」

天「乙和さんの反応が面白いので楽しいですね」

乙和「ふーんだ!天くんなんて知らない!」

 

ぷいっとそっぽを向いてしまった。それでも俺の手は握り続けている。俺は小さく息を吐いて、乙和さんの手を再度握った。

 

天「すみません。乙和さんの事が可愛いのでつい」

乙和「••••••ホント?」

天「釣れるの早いですねwww」

乙和「〜〜〜!天くんのいじわる!」

 

俺と乙和さんは、学校がすぐ目の前にあるのにも気がつかず、仲のいい友達のようにふざけた。そしてそれを見ていた男子生徒は、

 

男子生徒A「なんだあのイチャイチャは••••••シャム(ホテル)カレー食お•••••••••」

 

呆れた目を向けながらカレーを食べようと決意した。いやなんでカレーやねん。




感想評価オナシャス!そういやよくよく考えたら大晦日お正月はこれ書けないから今のうちに書き貯めしといて正解だったなwやったぜ。


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時と場って知ってる?

いやー明日実習やーん!レポートしたくねぇよー!小説書けないしD4もできないやんけ!しかも来週テストだし詰みゲーですね間違いない。


学園に着いたのはいいが、乙和さんが俺から離れる気配がなかった。階段のところでずっと俺に抱きついている。

 

天「あの、そろそろ•••」

乙和「やだ!」

天「子供ですか•••?周りの目もあるんですから自重してくださいよ。あなた先輩でしょ」

乙和「好きな人に甘えるのに先輩なんて関係ないよ!」

 

確かに今の乙和さんの言い分はもっともだった。それに対して反論する気はないが、いかんせん周りの視線が痛い。居心地は最悪だった。

 

天「後からでもイチャつけるんですから、ほら離れてください」

乙和「むぅ〜•••」

 

渋々、といった感じで乙和さんは俺から身体を離す。

 

乙和「昼休み、ちゃんと来てね」

天「もちろんです」

 

俺は頷いた。乙和さんもそれで機嫌が良くなったのか、いつもの笑顔へと変わる。

 

乙和「じゃあ、後でね!」

天「はい」

 

階段を登っていく乙和さんを眺めてから、俺は自分の教室へと入る。

 

男子生徒A「よー神山ぁ••••••朝からお熱いなぁ••••••えぇ?」

天「そ、そうだな••••••」

 

男子生徒から殺意マシマシの視線を向けられて、俺はたじろぐ。顔こっわ。

 

焼野原「花巻先輩と、あんなこと••••••!」

天「付き合ってるから、な?」

焼野原「な?じゃねぇよ!あんな人前でイチャコラしやがってさぁ!?」

 

顔を目の前に近づける焼野原くん。ちょっと暑苦しくてキモいのでやめてほしい。

 

天「近い」

焼野原「あぁ!?花巻先輩はよくて俺はダメなのかぁ!?えぇ、コラ!?」

天「めんっどくせぇ••••••」

 

朝から妙な絡まれ方をされて、疲労感を感じていた。椅子に全体重を掛けてドカッと座る。そして大きなため息を吐いた。

 

咲姫「大丈夫?」

天「はは、まぁな•••意外と疲れるな•••乙和さん含めて」

咲姫「乙和さん、どんな感じ••••••?」

天「ずっと甘えてる。まぁ可愛いからいいんだけどさ」

咲姫「少し前までは乙和さんのこと、苦手だったよね」

天「••••••まぁ、かなりボディタッチとか多かったしな」

 

俺は遠い目をする。咲姫は苦笑いを返したが、俺の事はある程度わかっている咲姫だからこそ、どういう心情をしているのか俺自身もよくわかっていた。

 

咲姫「でも、順調そうだね。すごく幸せそうな色をしてる」

天「そりゃどうも」

 

俺は軽くぶっきらぼうな返しをする。咲姫はそれが俺の照れ隠しだとわかったようで、クスクスと笑っていた。

 

天「まぁ••••••乙和さんからは少し前に告白されてたからな。その時から意識はしてたのかもな」

咲姫「そうなんだ•••?乙和さん、いつの間に••••••」

 

咲姫は訝しげな表情をする。まぁ人知れずやってきたから知らないのは仕方のない事だろう。

 

天「仕事終わりに急に誘われてな、それでコクられた。その時は恋愛とかする気なかったから保留って形にしといたけど••••••本当は乙和さんの気持ちが冷めるのを待ってたんだ。その方が平和的に終わるし、俺も変に後味を残すこともないからな」

 

俺は淡々と語る。咲姫は無言で聞いていたが、表情は苦そうだ。

 

天「でもまぁ、惚れた弱みだな••••••。今じゃあ甘えられるのが嬉しいまである」

咲姫「乙和さん、天くんといつもくっついてるからね」

 

そう言われるとなんか恥ずかしいが••••••。いやそれはどうでもいい。

 

天「しかも今はうちで暮らしてるし•••もう滅茶苦茶だ」

咲姫「それ、ここで言っても大丈夫••••••?」

天「あっ(察し)」

 

俺は周りを見渡す。嫉妬、殺意、負の感情が入り混じった視線が向けられ、俺は冷や汗を流す。

 

男子生徒C「どういうことだ神山••••••?」

天「ちょ、ちょっとしたジョークよ、ジョーク••••••アハハハ•••••••••」

男子生徒C「ん?(威圧)」

天「•••••••••••••••」

 

俺は目を逸らす。圧たっぷりの顔を向けられ、目を合わせたくなかった。そして今後学校では、この手の話をするのはやめようと誓った。だって死にそうなんだもん。

 

昼休みに入り、俺と咲姫は弁当箱を持って二年生の教室へと向かっていた。そこまで向かってる間にも痛い視線が男子達から飛び交っていた。まさかとは思うが、乙和さんって人気者だった••••••?

 

乙和「そっらくーん!」

 

向かっていた途中に乙和さんが教室から飛び出して、俺に抱きついた。そこまで衝撃は大きくなかったが、急な事態だったので少しよろけた。

 

天「おっと•••いきなりはやめてください」

乙和「えっへへ〜、ごめんね〜」

 

全く悪びれる様子のない乙和さんは、俺の胸に顔を埋めていた。ため息を吐くが、嫌な気は全くしなかった。

 

咲姫「ご飯••••••」

天「あぁ。乙和さん、行きますよ」

乙和「はーい!」

 

離れたが、手はしっかりと握っていた。その所為で更に周りから見られてしまう。

 

乙和「?どうしたの、天くん?」

天「••••••何でもないです」

 

引き攣った顔をしていた所為で、余計な心配を掛けてしまった。俺は首を横に振り、平気なフリをしてみせる。

教室に入り、Photon Maidenの面々と昼食を食べ始める。これもいつもの光景になりつつあった。

 

ノア「とりあえずは、二人ともおめでとう」

天「ありがとうございます」

乙和「ありがとう!ノア!」

 

俺と乙和さんが付き合い始めた事を伝えると、真っ先にノアさんは祝福の言葉を贈ってくれた。それに対して、俺は礼で応える。

 

衣舞紀「天と乙和かぁ•••相性はいい方かな」

天「気を遣わない、という面では相性はいいかもですね」

乙和「性格はー!?」

 

納得のいかない答えを聞いて、乙和さんは俺に掴み掛かった。そして容赦なく揺さぶられて、俺の頭はガクンガクンと滅茶苦茶に動く。

 

ノア「ちょ、ちょっと乙和!そんなことしたら天くんが•••!」

天「大丈夫ですよ。それにこんな事で怪我をするわけがないじゃないですか」

咲姫「でも万が一にも••••••」

天「こんなんで怪我なんてしねぇよ」

 

乙和さんの腕を掴んで強引に引き剥がす。頬を膨らませて、不機嫌な様子をアピールする彼女は、何だか可愛かった。

 

衣舞紀「いつまでもイチャついてないで食べなよ•••」

乙和「だって天くんの反応が薄いんだもん!」

ノア「いつもの事じゃない•••なにを今更••••••」

乙和「昨日と今朝は甘えても許してくれたのに!」

 

今朝はともかく昨日は俺と乙和さんと月の三人しかいなかった。月の睡眠のタイミングを考えれば、監視されることもない。

 

天「それで、今日は何か食べたいものはありますか?」

乙和「クレープ!」

天「夕飯にクレープとかデブまっしぐらじゃないですか。というかそれはデザートでは?」

 

乙和さんの要望にツッコミを入れる。少しシュンとした顔になったが、そのお願いは受け入れ難い。

 

乙和「というか、今ご飯食べてるのにそれ訊くの?」

天「早めに言っておかないと俺が忘れそうなので」

ノア「もう夕飯は乙和でいいんじゃない?」

天「クソ不味そうですね」

乙和「酷い!」

 

いやだってねぇ?人間って美味しいのかわかんないし。というより俺はマズい説を推す。

 

乙和「天くんが冷たいよ〜•••」

天「そう言いながらくっつかないでください」

 

更に身体を密着させられ、少しドキドキしてしまう。そういうとこやぞホンマ。

 

咲姫「そういえば、月ちゃんは最近どう?」

天「•••いつも通り」

咲姫「••••••••••••」

 

黙り込んでしまった。咲姫も多少は月の事はわかるので俺の言い分は理解していた。

 

ノア「はぁ〜、私も久しぶりに月ちゃんに会いたいなぁ〜•••」

天「うちに来ますか?月も喜びますよ」

ノア「でも今は天くんの家、乙和がいるんでしょ?ちょっとね••••••」

乙和「何それどういう事?私がいたら悪いの?」

 

ホントこの二人仲いいよなー、と俺はしみじみと感じる。そして生温かい目で、彼女たちを眺めていた。




感想評価オナシャス!後R18要望兄貴約二名!明日出すぞ!


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楽しい(?)夕食

あーレポートやりたくねぇー!とりあえず今日は感想以外全部終わらせる!そして感想は学校の授業中にやる!(授業受けろ)


何やかんや言っていたが、結局ノアさんはうちに来ることになった。その事があまり気に食わないのか、乙和さんは少し不機嫌だった。頬を膨らませながら、俺の手を握って歩いている。

 

乙和「もう!何でノアを誘ったの!?」

天「いいじゃないですか。月に会いたがってましたし」

乙和「これじゃあ、家でイチャイチャできないよ•••」

天「ノアさんが帰った後でもいいじゃないですか•••」

乙和「あっそっか」

 

この人本格的にアホなんじゃないか?ちょっと心配になってきたぞ••••••。

 

乙和「今日はお仕事どれくらいかかりそう?」

天「そこまで時間は使わないと思います。順調に進めば、多分二時間くらいで終わるかと」

乙和「あっ結構早いんだ。じゃあじゃあ、レッスン見ていく?」

天「んー•••いや、やる事あるので今回は遠慮します。すみません」

 

よくよく思い返せば、今日の分の仕事を片付けた後はライブの交渉に行く予定だった。もうすぐ別のライブがあるというのに、お気楽な事だと自分でも感じる。

 

天「••••••まぁ大丈夫か」

乙和「ん?何が?」

天「いえ、こっちの話です」

 

ライブの規模自体はそこまで大きいというわけではない。多分使わせて貰えるだろう。ただ、こんなにライブの予定を詰め込んでもいいのだろうか、と少し不安になる。

 

乙和「こーらっ」

 

乙和さんが急に俺の額にデコピンをかました。その所為で思考は乱れて、一気に現実へと引き戻された。

 

乙和「急に重たそうな顔をしていたけど、変な心配はしなくて大丈夫だよ」

天「えっ?」

乙和「どうせ、ライブを入れすぎて私たちが倒れたらどうしようー、なんて考えてたんでしょ?私たちがそんなにヤワじゃないのは、天くんが一番わかってると思うな?」

天「••••••そうですね。過保護過ぎました」

乙和「でも心配してくれるのはすっごく嬉しいよ!」

 

人が沢山いる中にも関わらず、乙和さんは俺に抱きついた。周りの視線が集まって少し恥ずかしい。

 

乙和「あったかーい!」

天「そんな事してないで早く事務所行きますよ」

乙和「もー!もうちょっとくっついてもいいでしょー!?」

天「家でお願いします」

乙和「はーい•••」

 

それでも少しの時間を置いて乙和さんは離れた。俺は少し疲れて、無意識のうちにため息を吐いていた。

 

事務所に到着し、俺はすぐに仕事部屋にこもった。メモ帳に万年筆を走らせながら、パソコンからは音楽を流す。周りに漏れないように、しっかりとヘッドホンをしながら。

 

天「••••••晩飯どうしよ」

 

結局今になって思い出した。まぁ、ここまで来たらもう月の中で決まってるだろうから俺は諦めた。作業に集中する。

 

天「•••流石に素っ気なさ過ぎたか?」

 

が、多少進んだところで、今度は別の方向へと思考が移ってしまう。乙和さんに対する態度だ。

小っ恥ずかしいというのもあって、かなり冷たくあしらった気がする。このままいけば別れそうな感じがして、少し不安に駆られてしまう。せめて家ではちゃんと応えてあげよう。なんだかんだで俺も甘くなったな、とバカらしくなった。

 

予定よりも早く仕事が終わったので、俺は荷物をまとめて電車に乗った。数駅程離れた場所にある会場を使わせてもらう為の交渉だ。

 

天「•••••••••あっけねぇな」

 

が、交渉と言うよりは、世間話をしただけな気がした。相手側も断る理由はなかったらしく、用件だけ話したらすぐに了承を得ることができた。なのでその後は他愛もない話を少しだけして、また帰ってきていた。

時間的にはレッスンは確実に終わっている。乙和さんはもう、トラウマとかそういったものはさほど気になっていなさそうなので、うちの家に帰ってそうではある。

改札を出て、家まで帰ろうと大きく伸びをする。座ってばっかりだった身体は鈍っていて、ボキボキと骨が鳴った。

 

天「帰るか」

 

駅から出て、家の方向を確認してその方角を向いた。それと同時に何かが俺に突っ込んできた。

 

天「んんっ!?」

乙和「おかえりー!ね、ね、どうだった?」

天「しっかり仕事持ってきましたよ。••••••後、ノアさんが見てるのであまりくっつくのは••••••」

ノア「今後のネタにするから大丈夫だよ」

 

うわー、悪い顔してるなあの人。笑顔だけど裏側がよく見える見える。

 

天「月も待ってますし、帰りましょう」

乙和「うん!」

 

乙和さんの手を握って歩き出す。ノアさんも隣を歩き始めた。

 

ノア「ライブ•••今はどれくらい入ってるの?」

天「来月が三回•••再来月が四回ですね•••八月は五回くらい詰め込もうかな、とは考えてます。夏休み期間なので人は集まりやすいかと」

乙和「結構忙しいんだねー。でも天くんが来るまではこんなにライブを持ってくることなんてなかったから、感謝しないとね!」

ノア「でも、私たちがそれを盛り上げないと意味はないんだけどね」

乙和「それくらいわかってるよ!」

 

俺越しに二人が睨み合う。ケンカする程仲が良いというのはこういうことなのかと、他人事のように感じた。

 

天「月、ノアさんが来るって聞いて喜んでましたよ」

ノア「本当?月ちゃんカワイイなぁ〜•••!」

乙和「ノアがこうなるのわかってて言ったよね?」

天「まぁそうですね。これで矛先が全部月に向けば、俺は被害を被らなくて済みますから」

乙和「本人がいる前でそれ言っちゃうんだね••••••」

天「トリップしてますし、大丈夫でしょう」

 

何かしらの妄想に浸っているのか、ノアさんはずっとニヤニヤしていた。ちょっと気持ち悪かったので引いた()

 

家に到着して玄関を開ける。たたた、と月が制服の上にエプロンを着けた状態で、小走りでここまでやってきた。

 

月「おかえりー。ノアさんいらっしゃい!こんな家ですけど寛いでいってください!」

ノア「うん、ありがとう月ちゃん」

 

こういう真面目な場ではノアさんは普通だった。丁寧な対応で月と話をする。

 

天「今日晩飯何?」

月「何も連絡が来なかったから適当に決めました。もう、何で忘れちゃうかな••••••」

天「悪いな。乙和さんには訊いてたんだが、まともな答えが返ってこなくてな••••••」

月「••••••参考までに訊きたいけど、何だった?」

天「クレープ」

月「それデザートじゃん••••••」

 

苦い顔をして、昼の時と同じことを月は言った。その事を覚えていたノアさんは少しウケている。それに対して乙和さんの顔は赤い。

 

乙和「いいじゃんいいじゃん!クレープ好きなんだから!」

月「だからって晩御飯にクレープはないですよー!太っちゃうじゃないですか!」

 

兄妹揃って体型の事を心配するのは、父さんの性なのかはわからない。食生活というか、身体の事にうるさいからな、父さんは。

 

ノア「月ちゃんカワイイ••••••!」

 

そしてノアさんは案の定平常運転だった。まぁ対象が月だから俺は気楽である。

 

月「ご飯もうすぐできますので、ささっ、こっちに」

ノア「お邪魔します」

天「あ、そうだ(唐突)。月、テストはどうだった?」

月「え〜?もちろん、オール100点です!」

天「そうか、よく頑張ったな」

 

妹の頭を優しく撫でてやる。月はこうされるのが好きなようで、嬉しそうに笑っていた。

 

月「いやー、お兄ちゃんのなでなでは気持ちいいですなー」

天「お前これ好きだよなホント」

月「抱きしめる権利も差し上げよう!」

天「ノアさんに渡すわそれは」

月「ノアさんカモン!」

 

バッ、とノアさんに向かって大きく手を広げる月。それに反応したノアさんが月を抱きしめた。

 

ノア「月ちゃん柔らかーい!それにあったかい!」

月「うぅ•••おっぱいが当たる••••••」

 

貧乳の月さんには胸のあるノアさんはキツかった模様だ。いやでもPhoton Maiden内だと多分一番小さいと思うから•••これ以上はやめておこう。

 

今日の夕食は一段と賑やかだった。俺と月と乙和さんの三人でも十分だったが、更にノアさんが加わった事で、楽しい食事へとなっていた。

 

ノア「美味しい!月ちゃん料理上手なんだね!」

月「ずっとこの家の料理を担当してますから!」

ノア「将来絶対いいお嫁さんになれるよ!うちで貰われない?」

月「私の理想に合う殿方であれば考えます!」

 

ノアさんのお誘いを月は一蹴した。ノアさん本人もふざけて言ってるのはわかっているので、クスクスと小さく笑っていた。

 

乙和「なんだか、置いてけぼりだね••••••」

天「そうですか?聞いてる分には楽しいですけど」

月「別に私とノアさんがいるとか関係なくイチャついていいからね?」

天「一々言わなくていい。後ノアさんがいるから発言には気をつけろよ?」

月「フリ?」

天「違う」

 

いやらしい笑みを浮かべながら、月はおちゃらけてみせた。それに対して俺は真顔での返答だったが、内心では普通に焦っている。

 

月「あ、これは私からの率直な質問なんだけど」

天「なんだ?」

月「もう乙和さんとキスはしたの?」

乙和「えぇ!?」

ノア「!?」

天「いや、まだしてない」

 

月からの問いに、俺は淡々と答えた。約二名が驚いた顔をしているが気にしない。

 

月「それでも付き合ってるのか!?」

天「付き合ってるよ」

月「じゃあ早くセッkーーいったい!?」

 

禁止用語を言いかけたので全部言われる前に頭を叩いた。

 

月「何するのさ!可愛い可愛い妹の頭を叩くなんて!」

天「お前さっきなんて言いかけた、なぁ?発言には気をつけろって言ったよな、えぇ?」

月「はい•••すみません••••••」

 

圧を掛けると、妹はすぐに大人しくなった。

 

夕飯を食べ終えると、程なくしてノアさんは帰っていった。風呂を済ませて、俺と乙和さんはベッドで寝転がっていた。

 

乙和「あったかいねー」

天「そうですね」

 

乙和さんは相変わらず俺にくっついた状態で、何やらご機嫌な様子だった。

 

天「来週にはライブですね。緊張しますか?」

乙和「するに決まってるよー!しかもその事を今言わないでよ!」

天「それは失礼しました。でも、いつも通りなようで安心しました」

乙和「むぅ•••そういう天くんはどうなの?」

天「俺ですか?•••まぁ、多少はしますね」

乙和「ほらやっぱり!」

 

それみたことか、と乙和さんは笑う。俺もつられて笑ってしまうが、あまりそんな余裕はなかった。

 

乙和「そういうわけで•••どうにかして緊張をほぐして欲しいなぁ、と思って••••••」

天「はぁ•••、でもどうすれば」

乙和「キス、してほしいかな••••••」

天「ーーッ、じゃ、じゃあ•••」

 

俺は乙和さんの両頬に手を置いて、顔を近づける。それと同時に乙和さんは目を閉じた。俺も目を閉じて、唇を重ねる。

 

乙和「んっ•••ちゅっ」

 

少しだけの小さなキスだったが、それだけでもすごく幸せだった。

 

乙和「はっ。ねぇ、天くん•••シちゃおっか?」

天「隣の部屋には月がいますよ」

乙和「大声出さなかったら大丈夫!私もう、我慢できない•••」

天「••••••全く、ワガママですね」

 

俺はため息を吐いて、乙和さんを抱き寄せる。上体を起こして、また唇を重ねた。




感想評価オネショ!ちなみに咲姫√同様Hシーン投稿します()。見たい人向けね。


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妹はいつも平常運転

実習のレポート明日提出だけど昨日のうちに終わったったw今日は遊びまくるぜぇ!()あ、テスト••••••(絶望)


朝を告げる鳥の鳴き声が聞こえて、俺は目を覚ました。むくり、と身体を起こして、隣を見る。乙和さんが裸のまま眠っていた。そして自分自身も裸になっていた事に気づく。

一瞬の困惑を覚えたが、すぐに思い出すことができた。そういや昨日ヤッたんだわ()

そして朝→月が呼びにくる→見つかる→END。完璧過ぎる最悪な構図が出来上がってしまった。俺は嫌な汗が流れたのを感じて、すぐに乙和さんの身体を揺さぶった。

 

天「ちょ、ちょっ!乙和さん起きてください!」

乙和「んっ、んぅ〜•••どうしたの?朝から•••」

天「いいから早く服着てください!月がこっち来ますよ!」

乙和「えぇ•••?•••••••••そうだった!」

 

訳がわからないといった表情を見せたが、しばしの沈黙の後に彼女は焦った顔になる。すぐに散らばったパジャマを手に取って着始めた。

なんとか月が部屋に入って来る前には完全に着装を完了した。少し安心。

 

乙和「こんなに急がなくてもよかった気がするのだけど••••••」

天「大事を考えた結果ですよ。見つかった時の事考えてください」

乙和「堅苦しいなぁ〜•••あ、でも•••」

 

乙和さんは俺に抱きついた。温かい身体はかなり気持ち良くて、安心できた。

 

乙和「えへへ〜!やっぱりここが一番落ち着くなー!」

天「どんだけ甘えん坊なんですかあなたは」

乙和「天くんの前だけだもーん!」

 

ぐりぐりと胸に顔を押し付けてきた。いきなりの事で少しびっくりしてしまう。

 

乙和「ほら、どうだどうだ!」

天「はいはい落ち着いて落ち着いて」

 

抱きしめると、案外すぐに乙和さんは大人しくなった。そのまま更に俺の胸に顔を埋めたが。

 

月「二人とも起きてるー?朝ご飯できたよー?」

天「ん、今から行く」

乙和「わーい!朝ご飯だー!」

 

乙和さんは元気の良い子供のように月の元へ走って行った。俺はため息を吐きながら、ベッドから降りてリビングへと向かった。

 

乙和「いっただっきまーす!」

 

朝からやけにテンションの高い乙和さんは、朝食をかき込んでいた。その光景が可笑しいのか、はたまた嬉しいのか、月は笑みを零していた。

 

月「昨日はお盛んだったねー」

天「んっ!!?ゲホッゴホッ!」

乙和「ぶふぅ!!?」

 

俺は飲んでいたお茶を喉に詰まらせて咳き込み、乙和さんは口内に含んでいた食べ物を噴き出した。ば、バレてたのか••••••!そういや昨日声とか抑えるの忘れて普通にヤッてたわ••••••!

 

月「部屋隣だから結構聞こえたよー。まぁ二人とも幸せそうだから、全然いいけどねー。乙和さんがご機嫌なのもそのおかげでしょ?」

乙和「そ、そうです••••••」

 

乙和さんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。かくいう俺もかなり恥ずかしい。

 

月「いやー良かった良かった!お兄ちゃんがEDじゃなくて!」

天「どこの心配してんのお前••••••」

月「だってねぇ?ずーっと恋人作らないし好きな人聞いてもいないっていうから、てっきりEDかホモなのかと思ってたよ」

天「好きな女いない=男好きのホモって発想やめない?」

 

中々に面倒でクソみたいな思考をしていやがる。マジでぶん殴ろうかと少し思ってしまった。

 

月「それでそれで、乙和さん!昨日はどうでしたか!?」

乙和「えぇ!?ど、どうって訊かれても••••••」

天「答えてくれるわけねぇだろ」

 

味噌汁を啜りながら、俺は呆れたように言葉を漏らした。月からはいやらしい笑みが向けられていたが、その心情はわからない。

 

天「そういや明日レッスン休みだったな••••••何もやる事ねぇ」

乙和「じゃあさ!私と何処か出かけようよ!」

天「いいですよ。どこ行きますか?」

乙和「うーん••••••これから決める!」

 

わかりきっていた回答だったので、俺はただ頷いた。

 

月「何気に初じゃない?デート」

天「あー確かにそうだな」

 

言われてみれば乙和さんとデートをするのは初めてだ。やべ、なんか変に緊張してきたぞ。

 

月「恋人同士のデートといえば•••最後にホテルに行って•••きゃ!」

天「お前本当に遠慮しなくなったよな••••••」

 

最早何も言えない。月はダブルピースをキメていたが、ここまでダブルピースがウザいと感じたのは、人生で初めてだろう。

 

乙和「楽しみだね!」

天「そうですね」

 

が、乙和さんはそんな事はお構い無しだった。月は無視して、俺の方へ意識が回っていたようだ。

 

月「お土産よろしくねー」

天「そこら辺の草と石持って帰るわ」

月「ガチのゴミ持って帰らないで!?」

 

俺の適当な返答が月を傷つけた。ちょっとスッキリしたが、後でフライパンで頭を叩かれた。痛ぇ。

 

乙和さんと家を出て、通学路を歩く。昨日の事もあり、乙和さんは以前よりもスキンシップが激しくなった気がする。俺の腕を抱きながら胸に押し付けてくるのだ。その所為で少しドキドキしてしまう。

 

乙和「朝話してたお出掛けについてなんだけど」

天「はい、決まりましたか?」

乙和「一緒に甘いものを食べに行きたいなー、なんて」

天「••••••あまりたくさん食べたらダメですからね?」

乙和「わかってるよー!天くんは過保護過ぎるよ!」

天「衣舞紀さんよりはマシと思いますがね」

 

ここで衣舞紀さんを引き合いに出すあたり、俺もかなり性格が悪いなと感じる。乙和さんは苦い表情になり、更に腕を抱き寄せた。

 

乙和「いじわる••••••」

天「すみません」

 

頭を撫でてやると、彼女は少し照れたような顔になった。

 

乙和「えへへ•••好きだよ」

天「俺も好きですよ」

乙和「じゃあキスして?」

天「こんな人が沢山いる中では恥ずかしくて無理です」

乙和「え〜。照れなくてもいいのにー」

 

ぶーぶーと唇を突き出しながらブーイングを送ってくるので、人差し指で唇を押さえた。

 

乙和「んっ!?」

天「これで我慢してください」

乙和「•••しょうがないなー。じゃあもっとぎゅーってしちゃうもんね!」

 

間髪入れずに乙和さんが俺に抱きつく。俺は少し困惑したが、何とか受け止める。うっわぁ•••すげぇ恥ずかしい。この人なんでこんなに堂々とできるんだよ。

 

乙和「このまま学校行こ?」

天「歩きにくいので嫌です」

乙和「ワガママだなぁ〜」

 

離れてくれたが、また腕を抱かれる。俺は諦めて乙和さんのされるがままとなった。

 

学校に到着して、俺たちは別れた。教室へ入って真っ先に自分の席に座る。

 

天「あー•••疲れたー••••••」

 

朝っぱらから月にあんな事を言われて心底参っていた。頼むから問題発言を控えてほしい。でも父さんの血が流れてる以上、それは難しいだろう。

 

咲姫「かなりお疲れみたい••••••」

天「今朝の月がヤバ過ぎた••••••」

咲姫「そうなんだ•••大変だね••••••」

天「全くだよ••••••マジでどうにかならないかなぁ」

 

まぁ無理なんだろうけどさ。父さんも母さんも月に甘いし、それに加えて二人は俺に厳しい。一度月に異を唱えれば、両親からも責め立てられるという地獄絵図が出来上がる。ハッキリ言ってクソだ。

 

咲姫「ちょっと怒ってる••••••?」

天「いや、ちょっと嫌な事を思いだしただけだ」

 

過去にあったあの光景がフラッシュバックしてきて、何とも言えない感情に包まれる。あの時は本気で家出しようと思ったなぁ••••••。出来る事なら今からでも出たいけども。

 

咲姫「乙和さんとはどんな感じ?」

天「まぁ仲良くしてるよ。特に問題もなく」

咲姫「そうなんだ、よかった」

天「ただ、月がうるさい••••••」

咲姫「それは仕方ない••••••かな?」

 

咲姫は苦笑いをしながら俺の目を見た。多分疲れ切った力のない瞳をしているだろうと、自分でもなんだかわかっていた。

 

咲姫「辛いなら早退した方がいい••••••」

天「そんなんじゃないから大丈夫だ」

 

俺は笑う。完全に作り笑いだが、誤魔化せるだろうと簡単に考えていた。

 

咲姫「••••••無理はしないでね」

天「あぁ」

 

俺は頷く。それを最後に咲姫は自分の席へと戻っていった。俺は小さく息を吐いて、椅子の背に体重を預ける。

 

天「(まぁ••••••昨日ヤッた後だから疲れてるんだよな)」

 

理由がかなりしょうもないので、目を合わせて言うなど無理な話だった。




執筆意欲の上がり下がりが激しいなぁ•••つーかリアルの方が普通に忙しいから書く時間確保するのも辛いッピ!


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バカップルムーブ

クリスマス、AirPodsProを買ってもらうことになりましたあざま!wこれでもっと綺麗な音質で音楽聴けるぞーやったねたえちゃん!


今日はレッスンも何もなく、完全なオフの日だった。ライブ前に呑気な事だと思われそうだが、こういう日は確実に設けないと彼女たちが疲れてしまう。たまには休まないといけない。

まぁ、そもそもPhoton Maidenの面々が普段どうやって休日を過ごしているのかは知らないが、少なくとも一人だけは知る事ができそうだ。俺込みだけど。

 

乙和「ねぇ〜、まだー?」

天「財布の中身の確認くらいさせてください」

 

後ろから服の裾を引っ張る乙和さん。俺は現金の確認がてら財布を開いていた。遊ぶ分には十分過ぎる額が入っていたので、まぁ良しとなった。

 

天「お待たせしました。それじゃあ行きますか」

乙和「うん!あっ、その前に•••」

 

何かを思い出した様子の彼女は、俺の目の前に立って、顎を上げて目を閉じた。それだけで何となく察しがついた俺は、乙和さんの両頬に手を添えて唇を近づけた。

 

乙和「んっ、ちゅ」

 

出掛ける前なので、ソフトで短いキスに留める。すぐに口を離したが、乙和さんは笑顔だった。

 

乙和「よーし行こ行こー!今日はたくさん付き合って貰うんだから!」

天「元気ですね••••••」

 

俺の手を引っ張って、乙和さんは家を飛び出す。すっかり神山家に馴染んだ彼女は、以前の怯えた姿など忘れさせるくらい爽やかだった。

 

目的地まで行く中、乙和さんはいつものように俺の腕を抱きしめていた。すっかり慣れた光景に、俺は息を漏らす。そして胸が触れているのに、何も感じなくなった事に妙な残念感を覚えた。

 

天「乙和さんって•••」

乙和「なになに?」

天「身長の割に胸デカいですよね」

乙和「急にどうしたの!?」

 

少し引き気味の顔になる乙和さん。無理もないだろう。同じ状況だったら俺も引く。

 

天「いえ、魂によってそういう風に形作られるのかと、単純な興味が湧いただけです」

乙和「たましい••••••天くんが研究してるアレだよね?それってなんなの?」

天「乙和さんでは理解できないかと」

乙和「あー!私の事バカって言ってるなー!」

 

いや事実じゃん、と言いかけたが、これ以上言ったら本気で乙和さんが凹んでしまう可能性があるのでやめた。

 

天「そうは言いますけど、期末テストは大丈夫なんですか?」

乙和「うっ••••••ちょ、ちょっと危ないかな〜••••••」

 

やっぱり•••俺は嘆息する。近々勉強会でも開いて、ノアさんにしごかれて貰おうかな。ライブに支障をきたさない為、と言えば彼女も協力してくれるだろう。

 

乙和「そういう天くんはどうなの!?」

天「俺は欠点さえ取らなければそれでいいので、まぁ、大丈夫です」

乙和「そう言いながら落としても知らないよ〜?」

天「今まさに落としそうな人に言われてもなぁ••••••」

 

俺は苦笑する。乙和さんが明らかに機嫌を悪くしたのがわかった。ぷいっとそっぽを向いてしまったが、その姿もまた可愛かった。

 

乙和「天くんなんて嫌い!」

天「はいはいすみませんすみません」

 

ヘラヘラと笑いながら頭を撫でてやる。流石に機嫌は戻らなかったが、先程よりは柔らかい雰囲気になった。

 

乙和「キスして•••」

天「今は無理です」

 

周りにはたくさんの人間で溢れかえっている。そんな中でするのは恥死案件だ。

 

乙和「天くんは恥ずかしがり屋過ぎるの!これくらい大丈夫だって!」

天「そこまで言うなら来てください、ほら」

 

俺は少し屈んで、乙和さんの目線に合わせる。すると途端に彼女は顔を赤くして、しどろもどろになってしまう。

 

天「••••••来ないんですか?」

 

俺は意地の悪い笑みを向けた。カッチーン、と音が聞こえた気がした。

 

乙和「えーいっ!くらえっ!」

 

笑顔のままキレていた乙和さんが、俺に勢いよく抱きつきながら唇を奪った。

 

乙和「ちゅぅ、ちゅっ••••••」

天「ちょ、ちょっと、んぅ••••••」

 

呼吸が整ってない状態での突然のキスだったので、かなり息苦しかった。乙和さんの背中を軽く叩いて意を示すが、今の彼女には通用しなかった。

 

乙和「•••はっ。ど、どう?私だってこれくらいできるんだから••••••!」

天「はぁ、はぁ、はぁ•••その割には••••••顔真っ赤ですよ••••••」

 

何とか息を吸えるようになった俺は、かなり息が荒れていた。そして乙和さんの顔の指摘も忘れない。

 

乙和「何もできない臆病者の天くんとは違うんだよ!」

 

カッチーン。はぁームカついた。これは一度わからせるしかねぇなぁオイ。

 

天「じゃあ俺からやっても文句はないですよね?」

乙和「えっ?ま、待って•••まだ心の準備が••••••」

天「俺もやられたんです、こっちがやっても問題ないでしょう?」

乙和「で、でもっーーんぅ!?んっ、ちゅぅ、ちゅっ•••」

 

さっきから乙和さんが抱きついていたので、逃げられないようにこちらも背中に腕を回した。唇を強引に重ねて、吸っていく。

 

乙和「ちゅ、ちゅぅ、んっ••••••苦しいよ••••••」

天「人の事煽るからですよ」

乙和「むぅ〜納得いかないよー!」

 

乙和さんは悲痛の叫びをあげる。そして案外してみると意外と恥ずかしくなかった。煽られたイラつきで緩和されたのもあると思うが、なんというか、過剰に恥ずかしがる必要性は皆無だった。

 

天「近々勉強会開きますか。ノアさんに教えられてくださいね」

乙和「ノアは嫌だよー!」

天「あの中で一番成績いいのはノアさんなんですから。いい教え役がいて良かったですね」

乙和「天くんは教えてくれないの••••••?」

天「俺一年なんですけど••••••多分ないとは思いますけど咲姫に教える程度ですかね」

 

咲姫はちゃんとテストで点を取っているし、日々の積み重ねとか何やら言っていた。恐らく普段から勉強をしているのだろう。俺は間近に詰め込んでどうにかするタイプだが。

 

天「それに欠点取って補習、なんてオチは勘弁ですよ。ライブ対策のレッスンの抜けができてしまいます。いくらバkゲフンゲフン、成績が芳しくない乙和さんでも許されません」

乙和「今バカって言いかけたよね?」

天「気の所為かと」

 

笑いながら圧を掛けてくる乙和さんを躱す。さっきからずっと駄弁ってばかりで、目的地に着く事など全くなかった。

 

乙和「?何あれ?」

天「あ?あんなのありましたっけ•••」

 

横目に店を見ていた乙和さんは、一つの小さな建築物に目を向けた。『大福庵』と書かれた看板がデカデカと貼ってあった。

 

天「名前を見る限りは大福売ってそうな店ですね」

乙和「もしかして新しくできたのかな?行ってみない?」

天「俺も気になるので、食べていきますか」

乙和「さんせーい!」

 

俺の手を引っ張って、乙和さんは大福庵の中へと入る。店の中はお年寄りのお婆さまと若い兄ちゃんの二人が働いていた。客はいなかったが、なんだか後から増えそうな予感がする。

大福庵の大福は、大体がフルーツ入りの大福だった。でも一つ一つが大きくて、値段も意外とする。

 

乙和「えーっとねー、私はこれ!キウイ大福!」

天「じゃあ俺は••••••さつまいもバターをお願いします。後、ミカンも一つお願いできますか?」

乙和「?ミカンは誰用?」

天「咲姫だけど」

乙和「•••浮気じゃないよね」

天「そんな事しませんよ。咲姫には色々世話になってますから」

 

これはほんの恩返しだ。まぁ、彼女はそんな事気にしないだろうが、それでも自分勝手にさせて貰おう。

 

お婆さん「仲のいいカップルですね」

乙和「でしょでしょ!私たちラブラブだもんね?ね?」

天「人様の前でやめてください恥ずかしい」

乙和「冷たい••••••」

 

他人の目の前で抱きつかれたのが気に食わなかったので、つい強く返してしまった。シュンと気分が落ちた乙和さんがそこにいて、なんだか申し訳なかった。

 

ちなみに大福三つで約1000円もした。たっかいなぁ。これはあんまり買いに行けねぇぞ。

目的地までもうすぐだが、大福を食べながら歩いていた。

 

天「あむ•••うまっ」

 

餡子の甘味とバターの染みたさつまいもの旨味。餡子とバターが合うのは前々から知っていたが、そこにさつまいもが加わるとまた格別だ。バターの味も濃くて美味しい。

 

乙和「もぐもぐ•••んー!美味しいー!」

 

乙和さんが食べているキウイ大福は、白餡の中にキウイが丸ごと入っていた。とても美味しそうに食べる彼女の姿は可愛かった。

 

乙和「ねぇねぇ、天くんのも食べてみたい!」

天「はい、どうぞ」

乙和「わーい!」

 

まるで子供のように喜ぶ乙和さんは、俺の大福にかぶりついた。

 

乙和「これもおいしー!あ、私だけ食べるのも悪いね。はい、天くん。あーん!」

天「••••••あーん」

 

乙和さんは自身の食いかけのキウイ大福を差し出した。俺は少し戸惑ったが、口を開いて大福を齧った。

 

天「••••••美味いです」

乙和「だよねだよね!あそこの大福屋さん、これからも行きたいね!」

天「また機会があれば行きましょう」

乙和「やったー!今度は別の味も食べたいなー!」

天「俺も次は変わったものにします」

乙和「じゃあまた食べ合いっこだね?」

天「ーーッ、そ、そうですね•••」

 

微笑みながら紡がれた言葉に、俺は変な恥ずかしさを感じて顔を逸らす。なんか、いつもの元気いっぱいの乙和さんとは違う感覚だった。

 

乙和「あれー?照れちゃってるー?」

天「うっさいですよ」

 

いや、そんな事はなかった。いつもの元気な可愛らしい乙和さんだ。

 

天「この後も食べるんですよね•••太らないか心配だ」

乙和「大丈夫大丈夫!どうにかなるよ!」

 

そこで具体的にどうするかを言わない辺り、この人らしいな、と苦笑してしまう。俺はそっと彼女の頭に手を置いて、優しく撫でた。




まぁクリスマスの前に色々片付けないといけないことが多々あるんですけどね•••テストぉ•••いやだぁ•••。


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パパアタック

やっと休日だよ。まぁ月曜からテストだから普通に勉強するけどねwあー、めんどくせー。卒業までずっと遊んでいたいw


ライブ当日。俺は控え室でぐったりとしていた。挨拶周り、機材運びなど、力仕事に加えて一番の面倒事もあってか、まだライブが始まる前だというのに疲れていた。

 

乙和「だいじょーぶ?」

天「••••••えぇ、何とか」

 

もうライブを観るとかそんな気力は残っていない。今すぐ帰って寝たい。

 

天「••••••ねむ」

乙和「今ここで寝ておく?あんまり無理して身体壊したらダメだよ?」

天「そうしたいですけど•••流石にみんながステージ立つってところで寝るわけにはいかないですよ」

 

そんなことしたら失礼に値する。というか、マネージャーが担当の晴れ舞台を見なくてどうするって話だ。両手で両頬をバチン!と力強く叩いて強制的に目を覚ます。

 

天「••••••でもやっぱ眠いな」

 

それでも眠気には敵わなかった。多分今の睡眠欲求は父さんよりも強いだろう。熟睡コース確定である。

 

ノア「まだ私たちの出番までかなりの時間があるから、仮眠くらいは取っておいた方がいいよ?」

天「••••••そうですね」

 

コクリコクリと、頭がガクガク揺れ始めた頃に、何かに包まれる感覚があった。視界が真っ暗で何が何だかわからないが。すごく柔らかかった。

 

天「?今どうなってんだ?」

乙和「私が抱きしめてまーす」

天「あぁ•••通りで柔らかいと思ったら••••••」

 

この感覚は乙和さんの胸によるものだったのか。ならいいや。寝ていいと言ってくれるので、お言葉に甘えて俺は目を閉じる。

 

天「•••••••••すぅー•••」

乙和「あ、もう寝ちゃった」

衣舞紀「きっとかなり疲れてたのね•••ここ一週間程、仕事ばかりだったから」

ノア「天くん、何時に帰ってきてたの?」

乙和「11時から0時の間••••••」

ノア「それは疲れるよ••••••」

 

ノアさんは嘆息した。その分学校でも睡眠時間を確保してきたが、それでも足りずに今日まで眠気を引きずっていたわけだ。

 

衣舞紀「抱きしめてたら、天は苦しくないの?」

乙和「大丈夫!そんなに強く絞めてないから」

咲姫「そういう問題じゃないと思う••••••」

 

苦笑混じりに、咲姫は言葉を返した。乙和さんはぶーぶーと不満を漏らしたが、あんたはそれでいいのか。

 

ノア「それにしても、こんな体勢でよく寝られるよね•••」

 

今の俺の体勢は、乙和さんに抱きしめられたのもあって、前屈みになっている。多分普通の人がこの体勢を続けたら腰を悪くするだろう。だが生憎、鍛えている俺には全くの無傷だ。

 

咲姫「すごく安心してる•••」

乙和「だよねだよね!それに寝顔も可愛い!」

ノア「あっ、それ私のセリフ!」

 

普段ならノアさんが叫んでいるところを乙和さんが一足早く横取りする。それに対してノアさんは不平を唱えた。

 

咲姫「あまり騒ぐと、天くんが起きちゃう•••」

ノア「あっ、そうだね•••」

乙和「えっへへ〜」

ノア「••••••さっきから何してるの?」

 

ノアさんが乙和さんに目を向けると、彼女は俺の頭を撫でていた。

 

乙和「いつもやられるから仕返し!」

ノア「うわ〜、簡単に想像がついてしまう••••••」

衣舞紀「どちらかと言うと、というより完全に天の方が精神的には大人よね••••••」

乙和「二人とも酷ーい!」

天「んぅ、うぅ•••」

咲姫「起きそう•••」

 

流石にみんなの声がうるさくて、俺は目が覚め掛けていた。が、眠気は休みなく襲ってくるので、このまま起きようという気力は一切湧かなかった。でも、手がダラン、と力なく垂れているのは違和感があったので、寝ぼけたまま、乙和さんの背中に回す。

 

乙和「あれ!?」

ノア「起きてないっぽいね•••」

咲姫「多分寝ぼけてる••••••」

乙和「なんだか甘えてる子供みたい•••」

 

乙和さんは更に俺の頭を撫でる。それがとても心地よくて、寝ぼけて朦朧としていた意識が一気に途絶えた。

 

乙和「あ、また寝ちゃった。可愛いな〜」

ノア「顔•••顔見せて•••!」

乙和「やーだよーだ!天くんの寝顔は私の所有物だから!」

衣舞紀「また始まった•••よく飽きないわね••••••」

咲姫「すごく仲良し••••••」

 

乙和さんとノアさんが言い合いをするいつもの光景を、咲姫と衣舞紀さんは微笑ましそうに眺めていた。その間で呑気に眠っている俺は一体何なのだろうか()

 

しばらくして、俺は自然と目を覚ました。先程の眠気は少し残っていたが、それでもマシにはなっていた。

 

天「ふぁ、ああぁぁ〜•••あれ•••ここどこだ••••••」

 

目の前が真っ暗で何も見えない•••あ、そういえば乙和さんに抱きしめられながら寝たんだった。じゃあこれ乙和さんの胸か••••••えぇ•••(困惑)。

 

乙和「あっ、目が覚めたみたい」

ノア「大丈夫?まだ眠たい?」

天「いえ、だいぶスッキリしました。乙和さん、ありがとうございます」

乙和「いえいえ〜!彼女として当然の事をしたまでだよ!」

衣舞紀「乙和、そろそろ行くよ」

乙和「わかった!•••その前に、んっ!」

 

俺の目の前で、乙和さんは両腕を広げる。俺は苦笑しながら、彼女を抱きしめた。

 

天「頑張ってください」

乙和「うん!頑張ってくる!」

 

乙和さんはすぐに離れて、ステージの方へ向かっていった。俺も控え室を出て、関係者席へと足を進めた。

 

ライブは滞りなく終わった。観客からの歓声もしっかりあって、成功したと言えるだろう。

控え室に戻った後、俺は大きく息を吐いた。

 

天「いやー終わった終わった」

 

妙な安心感があり、心落ち着いた。不意に、スーツの裾を引かれて振り向くと、乙和さんが笑顔でこちらを見ていた。

 

乙和「ね、天くん。ちょっといいかな?」

天「えぇ、大丈夫です」

乙和「じゃあ、こっち」

 

乙和さんは俺の手を引いて、控え室を後にしたーー。

 

打ち上げをいつものファミレスでやった後、俺は乙和さんと咲姫の二人を連れて、家へと帰っていた。

 

乙和「んー!ライブ良かったねー!」

咲姫「うん。いろんな色が見えた」

 

乙和さんは興奮が冷めない様子で、咲姫は涼しげに感想を述べていた。が、俺は何処か上の空だった。

 

天「もっとデカい所でも行けそうだな••••••」

乙和「?何か言った?」

天「いえ、何でもありません」

 

打ち上げ中に軽くPhoton Maidenについて調べていたら、行けなかった、という人の声がかなりあった。もう少し大きいハコを押さえて、更に集客を計りたいと考えている。

 

天「•••••••••?」

 

俺は違和感を感じた。目の前にやたらデカい人影があり、威圧感を感じさせた。咄嗟に立ち止まると、二人も止まる。そして、その人影を見て怯えた表情を見せた。

 

天「••••••父さん、何でここに」

猛「•••天か。死ねぇ!」

天「ーーッ!?」

 

唐突に飛んできた拳。受け流すと咲姫か乙和さんに当たりかねないので、すり足で後ろに下がって躱した。

 

天「何なんだ急に!」

猛「オラオラオラァ!!」

 

どんどん飛んでくるパンチを、俺は受け流して避ける。風切り音を鳴らしながら飛んでくる拳は、まるで隕石のようだった。隙を見つけて顔面に手の甲を叩きつけるが、効いている様子は一切なかった。

 

猛「天ぁ••••••なんでおめぇはそうなんだ•••••••••」

天「•••?あっ•••(察し)。酔ってるなこれ」

 

暗闇に目が慣れて、父さんの顔が微かにだが見えた。もう酷いくらいに真っ赤で、酔いに酔っていた。

 

乙和「天くん大丈夫!?」

天「はい!先に戻っていてください!」

 

乙和さんから心配の声が上がるが、今の状況だと近くに居られる方がかえって困る。なのですぐに家に向かうよう指示を出した。それを聞いた乙和さんは、咲姫と一緒に歩き出した。

 

猛「なんでマネージャーなんて仕事に就いたんだおめぇはよぉ••••••父さんと同じ軍で良かったじゃねぇか••••••」

天「お生憎様、俺は今の仕事に満足している。今更乗り換えなんてできないさ」

猛「ふんっ!」

天「ほっ」

 

飛んできたパンチを受け流す。そこにキックも飛んできて、俺は腕をクロスにして防ぐ。ビリビリと腕が痺れる。父さんの足蹴りの威力を物語っていた。

 

猛「今からでも遅くねぇ••••••こっちに来い••••••!」

天「嫌だっつーの••••••」

 

父さんの本音が聞けたのは正直嬉しい。だが、そんな切実な願いでも、俺にもやりたい事、つまり願望がある。だから聞き入れられない。

 

天「なぁ、父さん。頼むからもう終わりにしてくれ、その話は」

 

俺が初めてマネージャーとして職に就いた中学一年生の頃。父さんからは酷い反対を受けた。何故軍に入らないのか、国の為に戦いたくないのか、と。あの時は曖昧にして誤魔化してきたが、今ならハッキリと言える。

『今の仕事が好きだから』と。前までは本当に『仕事』としてやってきたが、今は楽しい。本当に心からそう思う。

 

天「ほら、さっさと家帰るぞ?月も待ってる」

猛「俺は•••諦めないからな••••••お前を迎え入れる••••••」

 

グラリと、巨体が揺れた。そしてそのまま前方へと倒れる。それを受け止めて、担ぎ上げた。

 

天「おっも•••」

 

90kg以上あるものを持ち上げているのだ。腰が折れそうである。だが我慢して、俺は家まで父さんを肩に担ぎながら、歩いた。




R18も投稿したので、見たい人はどうぞ!


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風呂入って、終わり!

やる事多すぎてどれから手つければいいかわかんない()小説、勉強、剣道、筋トレ、ゲーム。ちなみに今はノア√書いてます。乙和√は全部書き終えました。めっちゃ後味残ります()


父さんを連れて家に帰り着く。普段はあまり入らない父さんの部屋に入り、彼をベッドに放り込んで俺はすぐに部屋を出た。銃とかナイフが置いてあって、あまり見たくなかったからだ。

リビングに顔を出すと、月と乙和さんと•••咲姫がいた。なんでや。

 

咲姫「おかえり•••。大丈夫だった?」

天「あぁ。あのバカ、ただ酔ってただけだった」

月「お父さん何やってるの•••まさかご近所さんに手出したりしてないよね••••••」

 

月が肝が冷えたような怯えた表情になる。俺はあぁ、と納得の表情を浮かべた。ご近所様方からは、月は大層可愛がって貰っている。父さんの事を隠して()さっきの父さんの行動が明るみに出れば、ちょいと面倒な事になる。多分被害は俺にもまわるだろう。

 

乙和「あ、咲姫ちゃん泊まって行くって」

天「え、そうなのか?」

咲姫「うん••••••ダメ?」

天「いや、全然構わない。着替えは?」

咲姫「ない••••••」

天「月のは••••••無理だな。身長的にも体格的にも」

月「胸なんでしょ!?わかってるよ!しかもこのやり取り二回目だよ!!」

 

そして一回目に見せた時と同じように、月は腕で自分の胸を隠すポーズを取った。俺は無感情に笑う。

 

天「また俺のパジャマ引っ張り出すかぁ••••••」

 

まさかこんなところで中学時代のパジャマが活躍するとは思わなかった。捨てなくてよかったよ。

 

天「咲姫の身長なら、多少は大丈夫かもな」

 

乙和さんの場合は本当に小さいからパジャマがブカブカだった。一部分を除いて。咲姫の今の身長は159cm。中1当時の俺の身長は161cmだ。多分イケる。胸はキツいだろうけど。

 

咲姫「何から何までごめんね••••••」

天「気にしなくていい。どうせ捨てるものがまた使えるんだ。再利用大事」

月「お兄ちゃんからそんな言葉が聞けるとは思わなかったなー。万年筆のインクは無駄遣いしてるご様子で?」

天「仕事で使ってんだからすぐ無くなるんだよ•••」

 

多分ゴミ箱には万年筆の空インクカートリッジが入った箱が大量に捨てられているだろう。仕事の忙しさも加速して、その分万年筆の出番も増えた。それに比例して使用するインクの量も増えるのだ。

 

月「全部パソコンでいいじゃない。どうして手書きにこだわるの?」

乙和「あっ、それは私も気になるかも」

天「パソコンなんてあんなデカいもの、外に持ち歩きたくないだけだ。メモ帳にサッと記録しておいた方が、すぐ確認できるだろ」

月「うっわー細かい•••モテない男の特徴だよ?」

天「いや知らんがな•••」

 

今の流れでモテるモテないの話題入る必要ねぇだろ。というか俺には乙和さんがいるからモテる意味ねぇじゃん。

 

月「しれっと惚気ないで?」

天「さも当たり前のように俺の心の中読むのやめろや」

月「というか早くお風呂入ったら?疲れてるでしょ?」

天「あぁ•••そうするわ•••」

乙和「じゃあ、私も入ろっかな」

 

少し疲れた様子で脱衣所に向かおうとしたら、乙和さんもセットでついてきた。

 

月「あー•••騒がないようにね?」

天「一々言わんでいい」

 

少し苛立ちを露わにしながら、俺は静かに言葉を紡ぐ。乙和さんの顔は少し赤くなっていて、俺の服の裾を小さく握っていた。

 

咲姫「騒ぐ•••?•••••••••???」

 

咲姫はどういう状況なのか理解に苦しみ、首を傾げた。まぁ、彼女は知らない方がいいだろう。恋人同士の裏の部分だし。

 

天「じゃ、行きますか」

乙和「う、うん•••」

 

さっきまで元気だった乙和さんは、すっかり弱っていた。多分ライブの後致したのを思い出してるんだな••••••。

 

風呂場に入った後は、乙和さんはいつも通りになった。一緒に湯船に浸かると、彼女はキャッキャと楽しそうにしていた。

 

乙和「こうして見ると、天くんって身体つきいいよねー」

天「まぁこれでも父さんに鍛えられてますから」

 

ペタペタと、興味津々の様子で乙和さんは俺の身体に触れる。

 

乙和「おぉ〜硬い!そっかー、私、こんな逞しい身体に抱きしめられてたんだね•••通りで安心するわけだ」

 

乙和さんが俺に密着する。俺は彼女を抱きしめて、頭を撫でた。

 

乙和「頭撫でてもらうの、好きかも••••••とても落ち着く••••••」

天「そですか。てっきり子供扱いするなって怒るかなーと思いましたけど」

乙和「天くんだからいいの!他の人はダメ!」

天「ワガママですね••••••」

乙和「そういう天くんは誰でも抱きしめたりするの?」

天「特定の相手だけですね。乙和さんや月とか••••••」

 

言われてみれば俺も乙和さんと同じような感覚だったわ。反省反省。

 

乙和「天くん、月ちゃん抱きしめるんだ?」

天「たまにあいつが来るんですよ。その時に」

乙和「やっぱり、お兄ちゃんだな〜」

天「腐っても兄ですから」

乙和「だからこんなに頼りになるんだね」

天「••••••どうでしょうね。俺も月に頼ってる部分は多々ありますので」

 

家事とか全部任せてしまってるし、なんか俺が情けなくなってくる。これ以上考えたら、俺が惨めになりそうだからやめておこう。

 

乙和「もっとぎゅー!」

天「はいはい」

 

要望に応えて、更に密着するように乙和さんの身体をこちらへ寄せる。柔らかい肉が俺の筋肉に沈んで形を変えた。

 

乙和「えへへ〜!あったかーい!」

天「なんでこんなにワガママなんだろうなぁ•••この人」

乙和「ワガママじゃないもーん!天くんが好きなだけだもーん!」

 

それは大変嬉しい事だが、いつもいつもそうやってせがまれてたらいずれ疲れてしまいそうだ。

 

天「どうせ風呂上がった後もくっつくんでしょう?」

乙和「当たり前じゃん!もう私は天くん無しでは生きていけないからね!」

天「来年俺が修学旅行行ってる間どうするつもりですか」

乙和「••••••私もついて行く!」

天「その時あなた三年生ですよ!?」

 

突拍子もない意見が飛んできて、俺はつい叫んでしまう。風呂場で二人の男女が裸になってくっついて、っていう光景自体あまり見ないが、ここまで騒ぐのは中々ないだろう。

 

乙和「•••なんだか暑くなってきた。そろそろあがろっか?」

天「そうですね」

 

俺たちは同時に立ち上がる。こうしてみると本当に乙和さんって小さいな•••。それでこんなデカい胸してんだから驚きだよ。

 

乙和「なんだかエッチな視線を感じるぞ!」

天「気の所為ですよ」

乙和「ホントかなぁ•••天くんエッチだし」

天「乙和さんにだけは言われたくないです」

乙和「なんだよなんだよ!今度は冷たいぞ!」

 

乙和さんは俺に抱きついてプンスカと可愛らしく怒る。

 

月「もう、いつまでイチャついてるの?私と咲姫さん待ってるんだけど?」

天「あぁ、すぐ出る」

 

中々上がってこない俺たちを見かねたのか、月は脱衣所にまで来ていた。すぐに身体を拭いて、自室に駆け込んだ。

 

ベッドに寝転がると、それについてくるように乙和さんも寝転がる。そしてすぐに抱きついてくる。最早いつも通りの日常と化していた。

 

乙和「明日はおやすみだね!何処か行こうかな?」

天「いえ•••疲れました。明日はゆったりしたいです」

乙和「そっかー。じゃあ明日は一日中ゴロゴロする日?」

天「そんな感じですね」

 

今日だけでもかなりの疲労感だ。多分明日にまで持ち越しになる程の。その所為で、出かけようなんて気が一切起こらずにいた。合わせてくれる乙和さんに申し訳ない。

 

乙和「つまりはお家デートみたいなものかな?私初めてだからちょっと楽しみかも!」

 

だが彼女は彼女なりに楽しみを見いだしているようで、安心した。それが表情に出たのか、俺は微笑んでいた。

 

乙和「明日もまた楽しくなるね!」

天「そうですね」

 

一番楽しそうにしている乙和さんを見て、俺はふっ、と笑う。本当に俺にはもったいない人だ。だが、彼女は俺を選んでくれたんだ。誇ってもいいだろう。




感想評価、オッスお願いしまーす。今日だけでプロテイン五個も消費しちゃったよ〜www腹減ったぁ。


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軍と個人の境目

色々書きたいのですが忙しいので今回はちょっとキツいっす。


朝になり、俺は自然と目が覚めた。やけにスッキリとしている目を擦って、俺は上体を起こす。乙和さんは俺から離れていたので、なんの抵抗もなくベッドから降りる事ができた。

コツ、コツ、コツ、と階段を音を立てない様に降りると、リビングで父さんが一人で座って酒を飲んでいた。引き返そうと後ろに振り向こうとしたがーー、

 

猛「天、話がある」

 

声をかけられたので、返そうとした踵を戻す。そのまま歩いて向かいの席に座った。

 

天「なんだ」

猛「軍、というより国から直々に言伝が出たんだ••••••。お前を、軍に入れろとな」

天「•••へぇ、国からか」

 

俺は椅子の背もたれに体重を預けた。何かと思えばまた面倒そうな事案を持ってきたものだ。

 

天「お断りだ。今の俺の立場はわかってるだろ?こんな大事な時期に軍になんて行ってられるか」

猛「お前の言い分はよくわかる。だが頼む•••これは強制なんだ。変に逆らったらムショにブチ込まれるぞ」

天「知らん。というか、そもそもなんで今更軍に入らないといけないんだ?」

 

率直な疑問をぶつける。過去に、というより一年前に同じような事があったのを覚えている。あの時は強制やら何やらはなく、ただ仕事があるからと断っていた。だが、今回はそうは行かないらしい。

 

猛「最近軍は人手不足でな••••••何より一部の班の教官がいないんだ•••不慮の事故で亡くなって•••だから、一刻も早く代理を入れないと今後の指揮に関わるんだ。それでーー」

天「断る」

 

食い気味に、それでいて強い語気で拒絶した。俺は苛立ちを露わにする。そんな自分勝手な理由で、選択肢もなく勝手に話を進めた事に対して、怒りが湧いた。

 

天「いつから軍はそんなに落ちぶれたんだ。教官がいない?だったら任命しろ。中途半端でもいいから後釜をさっさと用意しろ。簡単な事だろ?そんな事で俺の今後を任せられるか」

猛「確かにお前が言うことももっともだ!だが、こういう時にこだわらないと、軍が弱くなって外国に潰されてしまう!」

天「それをどうにかするのがお前の仕事だろうが!」

 

俺は机を叩きながら立ち上がる。バンッ!!と凄まじい音がリビング内を反響した。

 

天「なぁ、父さん•••お前、逃げてるだけだろ?国が怖いから、何も処罰を受けたくないから、ただ自分は助かりたいから•••逃げてるだけなんだろ?」

猛「••••••••••••••••••」

 

父さんは何も言わない。いや、言えなかった。事実を、自分の心境を全て言い当てられ、言葉が出せないでいた。

 

天「もっと軍の中でしっかりと相談しろ。せめて、無関係の人間を巻き込むような真似だけは絶対にするな。いくら国からのお達しと言われてもだ。軍は住民を守るのが仕事だろ?だからこそ、その守る対象の住民を、自分たちのエゴに巻き込むな」

猛「•••••••••わかった。もう一度、話し合う」

 

父さんは立ち上がって、家を出て行った。俺は大きなため息が自然と漏れて、机に突っ伏す。

 

天「一体どうなってんだ軍は••••••!国もそうだが狂ってるんじゃないか••••••!?」

 

どうしてこんな暴挙に出たのか理解に苦しむ。なんだ?軍の上層部が変わったのか?それでこんな突拍子もないアホ抜かした真似をしているのか?

 

天「クソ•••これは面倒な事になったぞ••••••」

 

上手く交渉が進んで何事もなく終わればいいが、そんな美味しい話があるわけがない。軍の内密を知っている以上、易々と手放すわけがないだろう。

つい指を噛みそうになるが、汚いのでやめた。マネージャーの仕事に加えて今後の事に頭も回さないといけないのか•••地獄だな。

 

乙和「天くーん•••?起きてるの••••••?」

天「•••あ、乙和さん••••••」

 

俺がいない所為で違和感を感じて起きたのだろうか。まだ眠そうな目を擦りながら、ぱちぱちと瞬きをしている。そして、俺の顔と、目の前にある父さんの酒を見比べた。乙和さんの目が見開いた。

 

乙和「天くん•••この歳で飲酒!?」

天「誤解です!」

 

完全に間違われた。というかこの歳で酒飲むとかバカのする事だろ。少なくとも俺は絶対にしない。

 

天「これは父さんのですよ。今さっき仕事に行ったので、そのままになってただけです」

乙和「そ、そうなんだ。てっきり天くんがお酒を飲んでいるのかと•••」

天「そんな事しませんよ。それで、どうしたんですか?」

乙和「天くんがいなかった所為かな••••••自然と目が覚めちゃった!」

 

明るく笑いながら、乙和さんはそんな事を言う。俺は先程の事もあって少し傷心気味だった。椅子から立ち上がって、乙和さんを抱きしめる。

 

乙和「天くんからなんて珍しいねー」

天「俺だって、こういう時くらいありますよ」

乙和「•••何かあったの?」

天「いえ•••何でも、ないですよ」

 

声は震えていた。隠すつもりだったのに、隠せなかった。が、乙和さんは何も言わずに、俺の頭を撫でてくれた。

 

乙和「大丈夫、天くんなら大丈夫だよ」

天「••••••ありがとうございます」

 

ただ優しくて、温かくて、俺は自然と感謝の言葉を口にしていた。

 

父さんの酒を片付けて、乙和さんとまた自室のベッドで寝た。しばらくしてから月が起こしに来て、俺と乙和さんは眠そうに起きた。

リビングに降りれば、咲姫が座っていた。そういや昨日泊まっていったなこいつ。

 

月「二人とも休日だからって寝過ぎ!」

乙和「寝過ぎじゃないよ!二度寝だよ!」

月「えっ!?一回起きたんですか!?」

天「俺が起きた後にな」

 

月が信じられない、と言ったような驚愕の声を上げる。俺もそうだが、こいつも大概失礼なヤツだ。

 

咲姫「早く食べないと冷めちゃう••••••」

月「あっ、そ、そうですね。食べましょう」

乙和「わーい!ごっはんー!」

天「朝から元気いいですね••••••」

 

俺は苦笑しながら席に座る。乙和さんはさっきからずっとウキウキ気分なご様子で、朝飯も勢いよく食べていた。

 

月「乙和さんどうしたの?」

天「さぁ•••?」

 

いつもよりテンションの高い彼女を見かねた月が耳元で訊いてくる。俺もこの事はよくわかってないので、ただ首を横に振ることしかできなかった。

 

月「お父さん、仕事忙しいんだね」

天「••••••あぁ」

 

早朝の事を思い出して、返答に困った。この件はあまり表に出さないつもりでいる。というか出せない。出したら出したで、妙に面倒な事になるのが簡単に予想できた。

 

咲姫「天くん、大丈夫?なんだか元気がない••••••」

天「そ、そうか•••?」

 

鋭く言い当てられ、俺は困惑してしまう。恐らく色を見られたな••••••今の俺は精神的にも参っている。無理矢理色を変えて誤魔化す真似もできそうになかった。

 

乙和「ふぇ?ほはふんはいひょうふ?」

天「飲み込んでから喋ってください」

 

咀嚼しながら喋るな汚い。軽く睨むように目を向けた。

 

月「お兄ちゃん、怖い怖い」

天「おっと」

 

月から指摘されて、いつも通りの顔に戻す。少し、イラついているのかもな•••あまりにも自分の父親が情け無くて、どうしようもなくて••••••。

 

天「(いや、どの道軍に入る気はサラサラない。あいつらも、そんなつまらん理由で殺そうとはしないだろう)」

 

実際はそんな甘くないのはわかっているが、最終手段で襲ってきたら潰せばいい。銃を持ってこられたら死ぬが。

 

乙和「ごちそうさまー!先に部屋に戻ってるね!」

 

一足早く食べ終えた乙和さんは、走って階段を上がって行った。

 

月「朝から元気だねー•••あの人らしいけど」

咲姫「それが乙和さんの良いところだよ」

天「まぁな」

 

俺たち三人は小さく笑った。今は、今だけはこの楽しい空間に浸っていよう。俺はそう決意した。



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鍛え寝って効果あんの?

テスト一日目終わりましたー!え?手応え?むりむりむりむり死んだ死んだ。そもそも卒業さえできればいいとか考えてる奴のテストの結果なんざたかが知れてますよw


天「ふぅー•••ふぅー•••」

乙和「天くん、大丈夫?もうやめた方がいいんじゃ•••」

天「いえ、まだ•••はぁ、行けます•••くっ」

乙和「もう何百回もやってるよ!?天くんの身体が壊れちゃうよ!」

天「キツイ時にこそ、追い込むものですよ•••!ぬぅ•••」

乙和「わわ、震えてる•••!もう限界じゃないの!?」

天「••••••あの」

乙和「な、何?」

天「あんまり話しかけないでください。集中できません」

 

俺は二十キロの重りを担いで、その上に乙和さんを乗せて腕立て伏せをしていた。自身の体重を合わせると、130kgだ。

 

天「995•••996•••997•••!はぁ•••!はぁ•••!」

乙和「頑張って!後三回だよ!」

天「998•••999•••1000!はあっ!はぁ•••!はぁ•••!うぅ•••」

 

千回腕立て伏せをようやく終えて、俺はぶっ倒れた。腕の力が全く入らない。というか震えてる。

 

乙和「はい、お疲れ様」

天「ありがとうございます•••」

 

乙和さんからアク◯リアスをいただいて、ゴクゴクと一気に飲んでいく。渇いた喉と身体にはこれが一番だ。すごく甘い。

 

乙和「どうして急に筋トレ?もしかしてお肉ついたのかな?」

天「はっ、違いますよ。久しぶりに鍛えようと思っただけです。そういう乙和さんこそどうなんですか?えぇ?」

乙和「うっ•••ちょ、ちょっとそれはー•••」

天「自分で確かめた方が早いです」

 

乙和さんのお腹に触れる。筋肉を一切感じさせない柔らかい感触が気持ちよかった。

 

天「ちょっとついてますね。腹筋しますか?」

乙和「デリカシー!」

天「お互い裸を見合った仲なのに今更な事言いますね」

乙和「そ、それはそうだけど!そうなんだけど!」

 

どう返せばいいかわからず、乙和さんはとりあえず叫んでいるような状況だ。俺は苦笑しながらまたお腹を揉む。

 

乙和「もーダメだよー?」

天「なんか癖になるんですよね•••柔らかくて気持ちいいので」

乙和「私のおっぱいよりもお腹の方がいいのかー?」

天「あー•••どうでしょうね」

 

返答に困った。そこは素直な胸って言えば良いのだろうが、なんか嫌だった。

 

乙和「あっ、今って月ちゃんも咲姫ちゃんもいないんだよね•••?」

天「今はいないですよ」

 

二人とも何処かに出かけて行ったから、しばらくは帰ってこないだろう。そういう風に聞いていたので、思い出してから乙和さんに目を向けると、彼女は頬を赤くしながらこっちを見ていた。

 

乙和「じゃあ、今からシちゃう•••?」

天「昨日ヤッたばかりですよね?元気過ぎませんか••••••?」

乙和「天くんは嫌なの!?」

天「いやむしろ好きですけど•••」

乙和「じゃあいいよね!ほら、そっち座って座って!」

天「え、えぇ••••••?」

 

何故かベッドに座るよう促され、言われるがまま腰掛けた。そして乙和さんは俺の目の前で膝立ちになり、上目遣いで俺の顔を向いたーー。

 

行為を終えた後は、疲れ果ててベッドに倒れ伏していた。

 

天「筋トレした後にヤるとか死にますよ•••」

乙和「ごめんね〜?無理させちゃった」

 

ヘトヘトだった身体に更に負荷をかけたおかげで、オデノカラダハボドボドダ‼︎もうね、痛いよ。

 

乙和「疲れたなら寝ちゃう?ちょっとだけ、眠いかも」

天「••••••賛成です。正直起きれる気がしないので、起きたら俺の事起こしてください」

乙和「りょーかーい!ねね、くっつこ?」

天「あーはいはい」

 

乙和さんはすぐに俺に抱きついた。お腹や胸だけでなく、身体中の柔らかさが襲いかかってきた。

 

天「•••暑い」

 

時期が時期な所為もあって、少しむさ苦しかった。それでも乙和さんはお構いなくニコニコしてくっついてくるが。

 

乙和「天くんの大好きな乙和ちゃんが目の前にいるんだぞ〜?キスしなくていいのか〜?」

天「回りくどい言い方しますね•••まぁしますけど」

 

少しウザったらしい言い回しをされたが、そんな事はすぐにどうでも良くなる。顔を近づけて唇を重ねると、乙和さんは俺の後頭部に手を置いて引き寄せた。

 

乙和「んむ、ちゅ、ちゅっ•••」

天「(離れられない•••!)」

 

ガッチリホールドされたお陰で、俺はどんどん息苦しさに苛まれていった。限界がやってきて、乙和さんの背中を叩く。するとすぐに離れてくれた。

 

天「ぷはぁ!はぁっ、はぁっ、はぁっ••••••」

乙和「どう?私だってこれくらいはできるんだから!」

 

なんか変なところでやたら意地を張るなこの人は。そんな姿が馬鹿らしい上に愛しくて、つい笑ってしまう。

 

乙和「何?もっとキスしたかった?」

天「違いますよ。やっぱり乙和さんはバカだなーって思ってました」

乙和「ば、バカ!?酷いよー!」

 

乙和さんは驚いた表情になり、すぐ怒ったような表情へと早変わりする。そして俺にくって掛かる。

 

乙和「酷い酷いひどーい!天くんは私の事をなんだと思ってるのさ!」

天「愛すべきおバカ•••というべきですかね。バカな所も可愛いですよ」

乙和「むぅ•••なんだか納得いかない!

天「そうですか••••••まぁ、そういう事ですよ」

乙和「いいもんいいもん!天くんの胸で寝る!」

 

乙和さんは俺の胸に顔を埋めた。そしてそのまま不貞寝するかのように眠り始める。そんな子供らしい姿も可愛らしくて、頭を撫でる。

 

乙和「•••子供扱いしてるでしょ?」

天「どうでしょうね」

乙和「曖昧だなぁ•••それでもいいけどさ。今は天くんの温もりに触れられて幸せー!」

天「騒がしいですね•••ほら、寝ますよ」

乙和「はーい!おやすみー!」

 

乙和さんは元気よく返事をして眠り始めた。俺も目を閉じて、意識を閉ざした。

 

咲姫は流石に今日も泊まる、ということはなかったが、夕食だけは一緒に食べる事になった。

いつものように四人で机を囲んで食事を楽しむ。

 

月「そういえばお母さん最近全く帰ってこないね?」

天「いや、俺らが寝てる間に帰ってはきてるみたいだぞ。なんだかんだ貯めてるおにぎりやらパンは減ってるから」

月「連絡とかちゃんとしてる?私は全くだけど」

天「俺もだ。まぁ、あの人忙しいし、一々連絡取ってる暇ないだろ」

 

そもそも母さんの事自体がどうでもいいので、連絡が来てても気づいていない可能性が高い。そもそも携帯を眺める時の方が少ない。

 

月「冷たいね••••••やっぱり、まだ恨んでる?」

天「恨む•••か。それとはまた違うな」

 

目の前でPhoton Maidenを侮辱された件は、俺の心の中で強く怒りが根づいている。これはしばらく取れるものではないな、と自負していた。

 

咲姫「昨日から天くん•••余裕がない。何かあったの?」

天「いや•••特にはないな」

 

無理矢理心の色を捻じ曲げる。察されるわけにはいかない。これは個人の問題だ。周りを巻き込むのは話が違う。

 

乙和「何か悩みでもあるの?遠慮なく言っていいのに」

天「悩みだけでいったらざっと数十個ありますけどいいんですか?」

乙和「や、やっぱりさっきの話はナシで!」

 

笑みを浮かべながら乙和さんに言葉を投げると、彼女はすぐに否定に入った。

ライブ、仕事、人間関係、スタッフとのコミュニケーション、仕事関係の相談。色々ありすぎてもう考えたくない程だ。その上で軍と国のアレ。クソダルいったらありゃしない。

 

天「まぁ、何とかなりますよ。乙和さんは自分の事だけ考えていればいいです」

乙和「もっと頼ってもいいのに•••」

天「俺が頼りにされないといけない仕事してるんですから、そうそう頼りませんよ」

月「うわ出たできる人アピール。かっこわる〜」

天「久々に兄と一緒に寝るか?」

月「ごめんなさい」

 

月はすぐに謝罪に入った。ちなみに月がこの事に怖がっているのは、当時中学生だった俺が寝ぼけて月を抱きしめて窒息死させかけたからだ。その事が軽くトラウマになって、今も残っている。あの時は本当に申し訳ないと感じている。

 

乙和「今日は四人で寝たいなー」

天「そんなデカいベッドうちにはないですよ」

月「じゃあ床に布団を敷いて雑魚寝でもする?」

天「俺が嫌だ」

 

床で寝るとかどう考えてもありえん。汚い床とすぐそばで寝るとか嘔吐案件だわ。

 

月「ワガママだねー」

天「乙和さんよりはマシかと」

乙和「酷い!」

 

賑やかな食卓の中に、乙和さんの一際大きい声が上がる。それを見て聞いた俺たち三人はクスクスと笑った。




R18も一応投稿するゾ。気になる人向けね。毎度言ってるかもしれないけどエロ描写は正直期待すんな、地獄見る事になるゾ。


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たまにの贅沢

数学死にました(唐突)。微分係数わかんねぇよバカ。俺には一生理解できないね、うん。明日からは専門教科でボコられるし確実に積んでるんだよなぁ•••()


天「あー••••••まぁ、そんな感じでよろしくお願いします。後はこっちで色々と調整しますので、はい。よろしくお願いします。はい。では、失礼します」

 

電話を切り、俺は椅子の背にもたれかかった。何とかライブのハコを押さえる事ができて、少し安心する。今月だけでもまぁまぁな量のライブを入れているし、来月もたんまりある。これからもかなり忙しくなるが、仕事だから仕方ない。

スケジュール調整等の他の仕事は先に終わらせていたので、俺は軽く暇を持て余していた。レッスン部屋にお邪魔して彼女たちを眺めるのもいいが、なんだか今はそんな気分じゃなかった。

 

天「•••父さん、ちゃんと上手くやっているのか••••••?」

 

あれから一週間以上経つが、父さんからは何の連絡もない。死んではいないのは確かだが、いかんせん気になって仕方がない。

そもそも国の連中は何考えてるのかさっぱりだ。まさかとは思うが戦争するとか言わねぇだろうな。もしそうなら何が何でも断る。命に関わる事に巻き込むな自分らだけでやれ。

 

天「はぁ•••心配だ••••••」

 

最悪の場合警察沙汰もあり得ると父さんも言っていた。今そんなに人手不足なの?軍。厳し過ぎるから人来なくなってんじゃねぇの()

 

天「あー•••こもるのもダルいな。出よ出よ」

 

俺は仕事部屋から出る。そして自由気ままに事務所内を歩き始めた。おーおースタッフ連中が色々話してるよ。さーっと仕事が終わった俺は楽でいい。

んで、歩いていたら当然レッスン部屋に着くわけなんだけども。まぁ入る気起きないし、ガン無視でいいや。そう思って素通りをキメこもうとしたらーー、

 

乙和「天くんもう仕事終わったの!?」

天「うおぉ!?」

 

バンッ!とドアが思い切り開いて、中から乙和さんが飛び出した。俺はビックリして飛び上がる。

 

天「はい•••終わりましたよ」

乙和「じゃあこっちおいでよ〜。私たちの練習、見ないの?」

天「はぁ•••わかりました、行きます」

乙和「わーい!」

 

俺は渋々頷いた。乙和さんは喜んでレッスン部屋の中へと戻っていく。俺もそれに続いて中に入った。

 

衣舞紀「あれ、天?もう仕事終わったの?早いね」

天「はい。今日は軽い調整とライブの交渉だけでしたから。また一つ持ってきましたよ」

咲姫「本当•••?」

天「あぁ」

 

汗を拭いていた咲姫から疑問の声が上がる。俺はそれに対して涼しく頷いた。事実なのだから変に態度を変える必要もない。

 

ノア「またライブ入ったんだ。最近絶好調だね」

天「まぁ、仕事ですから」

 

端的に言い切る。所詮は仕事でやらなければならない事だからやっていること。もはや作業だ。

 

乙和「もっと嬉しそうにしてもいいのにー」

天「これからもあると思えば、一々喜ぶ気にもなりませんよ」

 

そんなことしてたら疲れてしまう。というか、乙和さんが元からこういう人だったな。完全な価値観の違いだ。

 

衣舞紀「でも、ライブが入る度に乙和は食事制限しないといけないから、クレープは食べられないわね」

乙和「はっ•••!そうだったぁ••••••!」

 

乙和さんは頭を抱えてうずくまる。次のライブも近いので、今も乙和さんは甘いもの禁止令が出ている。そして更に次のライブも近くに控えているので、禁止令は継続される。地獄の無限ループの完成だ。

 

乙和「天くんっ!」

天「俺に当たらないでください」

 

怒った様子で俺に掴みかかった。俺は何一つ悪くないので、面倒な子供と遊ぶような感覚で流す。

 

乙和「クレープ食べたいー!お菓子食べたいー!」

天「駄々こねないでください子供ですか。あー•••なんか低カロリーで甘いものとかなかったっけ••••••」

ノア「ソ◯ジョイとか、オススメだよ」

乙和「あれは口の中パサパサするからやだー!」

ノア「ワガママばっかり••••••」

 

ノアさんが呆れてしまった。かくいう俺も少し呆れているが、というか相手にするのが面倒になってきていた。

 

天「はぁー•••仕方ない。今日の帰り、クレープ食べますか」

乙和「えっ!?いいの!?」

衣舞紀「ちょ、ちょっと天•••!」

 

ぱぁっと顔を明るくした乙和さんに対して、衣舞紀さんは焦った表情になる。

 

天「大丈夫です。そんなに多くは食べさせませんから。それにたまには食べないと、乙和さんのモチベーションが下がりそうです」

乙和「さっすが!私のことよくわかってる〜!」

天「いやあなたがわかりやす過ぎるんですよ」

咲姫「すごい早口••••••」

 

呆れた声がつい漏れてしまい、相当早く喋ってしまった。そこを咲姫は苦笑しながら呟いていた。

 

衣舞紀「じゃあそこは天に任せるけど•••甘やかさないようにね?」

天「わかってますよ。乙和さん相手だから変に遠慮しなくていいので、かえって楽です」

ノア「乙和の扱いを完全にマスターしてるね•••」

天「付き合う以上は、扱いくらいわからないとやっていけませんよ」

ノア「あ、今のなんだか名言っぽい」

天「えぇ••••••」

 

ノアさんが変なところに目をつけた。俺は困惑の声が口から出てくる。

 

衣舞紀「それじゃ、休憩終わり!練習再開しようか!」

ノア「あー•••またヘトヘトになっちゃう•••天くん、もっとレッスン楽にできない?」

天「してもいいですけど、ライブで恥かいても知りませんよ」

ノア「あ、やっぱり普通でお願いします•••」

 

ライブで失敗する絵面を想像したのか、すぐにノアさんは手の平を返した。やっぱりこの人は真面目だった。

 

レッスンが終わると、乙和さんは即座に俺にくっついた。手を繋ぐ、ではなく腕に抱きついていた。

 

乙和「終わったー!じゃあ早速クレープ食べに行こー!」

天「はいはい」

 

早く食べたくてたまらないのか、今の乙和さんはかなり興奮気味だ。俺は苦笑してただ乙和さんに引っ張られていく。

クレープ屋に着くと、俺は乙和さんが頼む前に普通サイズのクレープを一つだけ頼んだ。

 

乙和「一つだけ?」

天「えぇ。俺と半分こです」

乙和「えぇー!もっと食べたいー!」

 

これでもまだワガママを言うのかこの人は•••。俺はため息をついて、ずいっと乙和さんの目の前にクレープを運んだ。

 

天「んっ」

乙和「え、えっ?あっ、そういうこと•••あーん!」

 

乙和さんはクレープにかぶりついた。そしてとても美味しそうな表情で咀嚼を始める。可愛いなこの人。

 

乙和「久しぶりのクレープ•••おいしー!ね、ね、もっともっと!」

天「はいはい。どうぞ」

 

また乙和さんはパクリとクレープを頬張る。美味しそうに食べる姿にほっこりするが、このままだと全部食べられてしまいそうなので、俺もクレープに口をつけた。

 

天「もぐもぐ•••あっめぇ•••」

 

こりゃカロリーすげぇ事になってるだろうなぁ••••••。一つを半分に分けて正解だった。

 

乙和「後一口!後一口だけ!」

天「•••しょうがないですね」

 

すみません衣舞紀さん。やっぱり乙和さん相手だとちょっと甘やかしてしまいます。クレープを千切って、乙和さんの口の前まで持っていく。彼女はそれを俺の指ごと食べた。ねちゃっとした感触が指に伝わる。

 

天「ちょっ」

乙和「あー美味しかった!天くんの指も中々良かったよ?」

天「汚いです」

乙和「酷い!というか最近私の扱い雑じゃない!?」

 

腰に拳を当てて、怒った様子の乙和さんは頬を膨らませていた。俺は残ったクレープを口の中に放り込み、もごもごと口を動かす。そして飲み込んで、乙和さんに目を向けた。

 

天「雑じゃないですよ。俺はいつも通りの自分で乙和さんに接しているだけです」

乙和「それがこんな乱暴者だなんて思わなかったよ•••」

天「俺はそういう人間ですから」

乙和「そっか。でも、そんな天くんも私は好きだよ?」

天「••••••••••••ッ」

 

俺は恥ずかしくなって顔を逸らす。が、乙和さんは追い討ちをかけるように俺に抱きついた。

 

乙和「照れなくていいでしょ〜?ほら、帰ろ帰ろ!月ちゃんが待ってるよ!」

天「•••わかりました。帰りましょう」

 

そしてごく自然に俺たちは手を繋いで、家までの道を辿り始めた。




もうね、うん。はよ学校卒業したいね。早く仮卒して自由の身になりたいよ。車校あるけど。


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魂の拠り所

テスト明日が最終日じゃあ!明日乗り切れば冬休みまで耐えるだけや!よっしゃ遊ぶぞー!リア友と温泉行くぞー!テスト勉強?んなもん知らん()


俺は不思議と早く目が覚めた。いや、不思議だとか無意識だとかそんなのじゃない。明らかに感じる気配を察知して、防衛反応で意識が勝手に覚醒したのだ。

 

天「••••••父さんか」

 

もう分かっていた。一階に父さんがいる。それでいて、殺意にも敵意にも似た『何か』がそこにはあった。警戒しながら一階に降りると、父さんは玄関の近くで立っていて俺を睨みつけていた。

 

猛「•••天••••••。軍本部に行くぞ」

天「その言葉が出るってことは•••交渉はダメだったか」

 

俺の言葉に、父さんは静かに頷く。が、そんなノコノコとついて行く義理も理由もないので、俺はその場にとどまった。

 

猛「早くしろ。でないと、月ともう一人いる誰かが起きるだろ」

天「悪いけど、前言った通り俺は軍に行くつもりはない」

猛「そう言うとは思っていた••••••だからこうする。今から公園に行くぞ。そこなら人目もない。お前を力尽くで叩き潰して、引きずって行く」

天「はぁ••••••できることなら父さんと殺り合いたくなかったんだが•••仕方ないか」

 

俺は壁に預けていた身体を起こして、父さんと一緒に家を出る。そしてそのまま公園まで行き、お互いに距離を取る。そして同時に構えた。

 

猛「今回は教えるとかそんなものは何もない•••ただお前を叩き潰す!」

天「やってみろよこのクソ親父がぁ!」

 

俺は地面を蹴って、一気に父さんとの距離を詰める。そこに拳を放つが、父さんも同じようにパンチを繰り出す。俺たちの拳が重なり、大きな音と衝撃が走った。

 

天「ぐうぅ!」

 

やはり、というか当たり前だが力負けしてしまう。地面を蹴って空中にいる状態だったので、吹っ飛ばされる。

 

猛「そんなもんか!?ぬあぁっ!」

天「ーーッ!」

 

飛んできた拳は、ブォンっと空気を殴る音と共に襲いかかってくる。受け流して、首に手刀を叩き込む。が、父さんには全く効いた様子がなかった。

 

猛「はあぁっ!」

天「がはっ!」

 

受け流していないもう片方の腕が俺の肩に当たり、俺はその部分を中心に衝撃を与えられる。肩が地面に引っ張られるかのように、殴られた方向へと向かって行く。

 

天「うるあぁっ!!」

 

そこを何とか耐えて、勢い任せに父さんの顔面をぶん殴った。流石の彼も今のは効いたらしい。よろけている。

 

猛「ぬぅ•••クソがぁ••••••!」

天「クソ•••馬鹿力め•••!」

 

今ので肩が軽く逝ったかもしれない。あり得ないほどの激痛が襲いかかり、他の事が何も考えられない程だ。

 

天「ふぅ•••」

 

息を整えて、痛みに耐えながら構える。が、父さんは構えるのではなく、後ろ腰に手を伸ばした。出てきたのはドデカイナイフ•••いや、ナイフとは形容し難い•••もはやマチェットと言ってもおかしくない大きさだった。

 

天「おいおい•••刃物相手に素手でやれって言うのかよ••••••」

 

俺は薄ら笑いを浮かべて、心を落ち着かせる。そして警戒レベルが爆増した。

 

猛「ぬうぅんっ!」

 

筋肉の塊の巨体が地面を蹴ってこちらに一気に襲いかかる。突いてくるナイフの鎬を殴って位置をズラす。パンチは返す刃で切られかねないので、足で父さんの頭を狙う。

 

天「死ねっ!」

猛「甘ぇんだよ!バカが!」

天「ーーなっ!?」

 

ナイフを持っていない片方の手で俺の足を掴み、そのまま振り上げて地面に叩きつける。

 

天「ぐあぁぁぁ!!」

 

身体全体に凄まじい衝撃と痛みが走る。受け身など一切取れずに、モロに入った。肺もダメージを負って、呼吸が乱れる。

 

天「はぁ•••はぁ•••くっ」

 

父さんを睨みつける。殺意の塊のような気配を纏った今の彼は、俺の父親などではなかった。

 

天「ふんっ!」

 

指を蹴って何とか拘束を逃れる。仕方ない。本当はこんな手を使いたくなかったが、俺の今後がかかっているんだ。死ぬかもしれないが好きにさせてもらおう。

 

天「•••ふぅ••••••」

 

意識を集中させる。その先は、脳ではなく、魂。脳の処理速度をはるかに超える、魂の力に俺は手を伸ばそうとしていた。

 

天「よし••••••」

 

身体の感覚が過敏になる。空気の一つ一つが身体をくすぐる。魂に意識を接続することで、人間は潜在的な能力を飛躍的に向上することができる。俺の場合は、感覚の強化。空気の流れや相手の動きで、『次』を何となく予想することができる。

俺は静かに構える。魂に接続している間は、自分との勝負だ。少しでも気が抜ければ接続が切れ、とてつもない代償を受ける事になる。魂の損傷だ。それはつまり、脳を傷つけているのと同じ事になる。

 

猛「ぬぅあぁ!」

 

父さんはナイフで斬りかかる。見える。先程よりもくっきりと父さんの動きがわかるように見えた。流れる動作で鎬を殴り、父さんの手首を殴る。ナイフを握る手の力が落ちたところを狙って、今度はナイフに蹴りを入れた。ナイフは父さんの手を離れて地面に突き刺さる。

 

猛「な、なにぃ••••••?」

天「これが、今まで魂について研究してきた結果だ。ちゃんと魂は存在するし、それでいて危ない。こうやって接続できるのも、俺くらいだろう」

 

あくまで俺の自論だが、魂は脳の先に存在するのではなく、人を人たらしめる何かとして魂があるのではないかと推測している。以前の俺が敏感な面倒体質だったのも、この魂による影響だったのだろう。そして、人との交流や触れ合いを経て魂が強化されて、体質の克服を果たした。それによって、今は自由に魂に接続できるのだろう。

 

天「ぶっちゃけ危な過ぎるけどな•••でもしょうがねぇ。こうでもしないとあんたを潰せる気がしないからな」

猛「クソッ、ぬあぁ!」

天「はあぁ!」

猛「ぬぅっ!?」

 

父さんが拳を繰り出してきた。それを紙一重で躱して、同時にパンチを繰り出す。俺の拳は見事に父さんの顔面ド真ん中をぶち抜いた。鼻血を出しながら、父さんは顔を抑える。

 

猛「ふんっ!ふんっ!うるあぁっ!クソッ!何故当たらん•••!」

 

パンチ、キックを休みなく繰り出すが、俺はそれを全て避けていた。ステップで、すり足で、上半身を捻って。あらゆる技術を用いて攻撃を躱していった。そこにカウンターで蹴りを一発入れると、父さんは力尽きて、倒れた。

 

猛「はぁっ、はぁっ•••何なんだ、お前••••••本気でやっても勝てねぇなんて••••••」

天「俺の勝ちだ•••父さん••••••俺は軍なんかには入らん。いや、もう軍は信用しない。国もだ。そんな突拍子もないアホな事を考えつく連中には、縁を完全に切る」

猛「•••••••••わかった。俺から話しておく。••••••だが、この先は知らんぞ」

天「承知の上だ」

 

俺は踵を返して、家までの道を歩く。父さん?どうせこのまま仕事に戻るだろ。今はさっさと家に帰って寝たい。魂に接続したおかげで身体は疲弊しきっていた。もうボロボロだ。

 

天「•••うっ、ぐうぅ••••••」

 

接続を切ると、とてつもない頭痛と感覚の暴走に襲われる。これがあるから魂の力を使いたくないのだ。以前と比べて魂は何倍と強化されていた。敏感になっていた身体に耐性ができたのがいい礼だろう。だが、成長した魂でさえも、接続後の後遺症は残る。もし数ヶ月前の状態でやったら俺は確実に死んでいただろう。

 

天「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ••••••、マズいなこれは••••••。ぶっ倒れてしまう••••••」

 

よろける足で、無様に歩を進める。ゆっくりと時間をかけて引きずっていき、ようやくついた我が家の玄関を開ける。それと同時に、俺の意識は途絶えて、消えた•••。




ノア√書いてるけど中々進まないって報告します(謎)


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夏の曲入れいいゾ〜これ

テスト終わったんでね、今日から心置きなくD4できるってわけですよ!ただ、今日の最後のテスト、範囲外から問題出すのは反則やろ。担当教員は切腹して、どうぞ(半ギレ)。


天「•••••••••あ?」

 

自然と、目が覚める。まだ視界が安定しておらずグルグルと回っているが、後頭部に感じる柔らかい感覚だけは確かに感じ取れた。•••なんだ?この柔らかいのは••••••。

 

乙和「あっ•••起きた?」

天「乙和•••さん••••••?」

 

視界が定まると同時に、目の前にある顔が誰のものか理解する。乙和さんが俺に膝枕をしながら見下ろしていた。

 

乙和「どうしたの?玄関で寝ちゃってたみたいだけど」

天「••••••父さんと殺し合ってました」

乙和「殺し合ってた!?どういうことなの••••••!?」

 

言葉選びとして正しいのかどうかよくわからないが、事実俺たちは殺す気でやり合っていた。だからこういう言い回しでもいいのだろう。

 

天「••••••ぐうぅ•••••••••」

 

頭痛がまだ残っている。だがそれと同時に肩にも痛みがあった。さっきまでは頭痛の方が強くて気になってなかったが、それが軽減したおかげで、別の箇所の痛みも目立ち始めていた。

 

乙和「大丈夫•••?すごく痛そうだよ•••?」

天「キツいのを結構いれられましたから••••••」

 

ナイフで怪我を負わなかっただけ何倍もマシだ。切り傷は後が残るから困る。

 

乙和「でも、どうしてお父さんと?」

天「それは•••あー•••」

 

言ってしまっていいのか迷う。いや、もう過ぎた事だ。今更どうでもいいだろう。

 

天「実は•••強制で軍に連れて行かれかけてて•••まぁ、俺は反対しましたけど、軍とか国はそうはいきません。なので、父さんを潰して軍に行かない連れて行かせないというのを証明しました。結果的にそういう風になったので、いいかと」

乙和「むぅ•••どうしてそれを話してくれなかったの?」

 

乙和さんは頬を膨らませて、少し怒っている様子だった。俺は嘆息して、言葉を紡ぐ。

 

天「そりゃ、俺と父さんの問題なんですから乙和さんに言えませんよ。それで変に心配させるわけにもいきませんので」

乙和「それでも、相談して欲しかったな•••私、天くんの恋人なんだから•••」

天「••••••こんな危険な事、巻き込めませんよ」

 

俺はそっと乙和さんの頭に手を伸ばして撫でる。うっすらと乙和さんが微笑んだのがわかった。

 

乙和「しょうがないなぁ〜、恋人に免じて許します!ほら、いつまでも寝てないで朝ごはん食べよ?月ちゃん待ってるよ!」

天「•••わかりました」

 

変に詮索しない辺り、この人はちゃんと俺の事をわかっている。なんだか救われたような気がして安心した。

 

朝飯を食べた後はそそくさと準備を終えて家を出た。もう慣れた動作で手を繋ぎ、学校までの道を歩く。

 

乙和「だんだんあったかくなってきたね〜」

天「そうですね。それに後少ししたら夏休みですよ」

乙和「そういえばそうだったね!二人でどこか遠くに行きたいな〜」

天「•••••••••そうですね」

 

正直な話、八月はライブの予定が詰まっていて遊んでる暇は全くない。仕事を入れていく上では仕方のない事だ。

 

天「どこか休みを設けないとな••••••」

 

顎に手を当てて、思考を巡らせる。••••••うまく考えが纏まらない。魂に接続した影響もあってか、俺の脳は既に疲労困憊の状態になっていた。今日は全ての授業で寝て脳を休ませないと、仕事は絶対にできないだろうな。

 

乙和「どこかボーッとしてるね?大丈夫?」

天「•••正直大丈夫じゃないですね。少しでも気を抜いたら寝てしまいそうです」

乙和「学校で寝たらダメだよ〜?」

天「普段から寝てるので今更ですね」

乙和「天くんって結構不真面目なんだね••••••」

 

乙和さんは苦笑いを向ける。俺は元からこういう人間なのだから仕方ないだろう。だって授業退屈だし面倒だし()

 

天「乙和さんはいつになったら赤点回避できるんですか???」

乙和「人の心を抉るのは良くないぞー!」

 

頬を膨らませて俺に体当たりをかます乙和さん。全く痛くないし衝撃も僅かなものだった。

 

乙和「本当、顔に似合わない身体してるよねー」

天「喧嘩売ってます?」

乙和「売ってないよ!?そんなに顔のこと言われるの嫌なの?」

天「嫌ですよ。男なのに可愛いとか•••屈辱です••••••!」

乙和「•••これは相当抱え込んでるな〜••••••」

 

乙和さんは明後日の方向を遠い目で見つめる。俺は小中学の頃を思い出して無性にむしゃくしゃとした。なのでとりあえず乙和さんの頭を乱暴に撫でておいた。

 

学校に着いて、俺はすぐに教室に入った。自分の席に直行し、寝る体勢に入る。

 

咲姫「天くん」

天「••••••••••••」

 

咲姫の声はしっかり聞こえているが、今は寝たいのでガン無視をキメこむ。

 

咲姫「天くん」

 

ゆさゆさと、俺の身体を揺らす咲姫。寝たいんだからやめてくれよ。というかさっき話しかけられても反応しなかったんだから察してくれ頼む。

 

咲姫「天くん」

天「だーーっ!しつっこい!」

 

あまりにも身体を揺らしに揺らしまくるおかげで、眠気よりも苛立ちが勝った。キレた様子で顔を勢いよく上げて咲姫を睨みつける。彼女はいたって正常な風だった。

 

咲姫「ライブの事で相談がある••••••」

天「あ?ライブ•••?何」

 

眠たいウザい面倒くさいの三拍子が揃っていて、今の俺の対応は雑なものになっていた。それでもお構いなく咲姫は話を続ける。

 

咲姫「次のライブはカバー曲を何か入れたい」

天「カバー曲?••••••どういった曲がいい」

咲姫「天くんのセンスに任せる」

天「やけに投げやりだなお前••••••。まぁいいけど」

 

今日の仕事が一つ増えちったぜ。ただでさえ脳が疲れてるのに勘弁してほしいわ。

 

天「ところで、何曲入れるつもりだ?」

咲姫「二曲•••くらい••••••?」

天「OK。何か適当に探しておく」

 

俺に要望するんだから、俺の趣味全開の曲でも文句は言えねぇだろ。お気に入りの曲を彼女たちに歌わせてやる。やっべ、なんか楽しくなってきやがった。あ、でも眠いわ(前言撤回)。

 

結局授業はほとんどを寝て過ごして、ある程度脳は回復した。それでも疲れは残っているので、無理をしない程度にするつもりだ。

仕事をしながら、パソコンの中の楽曲を探していく。さーて、何の曲にしようか。夏だし夏らしい曲にするか。そうすると選ぶ二曲はおのずと決まった。俺は薄ら笑いを浮かべて、小さな紙にその二つの楽曲名を書いた。

 

天「さて、後は普通に仕事するかね」

 

万年筆を持って、メモ帳に筆先を走らせる。スラスラと書き心地よく滑らかに字が描かれていく様は、なんだか芸術的だった。

 

天「••••••ねむ」

 

脳どころか魂も疲労を感じているようだ。今すぐ眠らないと多分死ぬんじゃないかな、俺。

 

天「後少し、後少し••••••」

 

眠気と戦いながら、残り少なくなった仕事を片付ける。首がカクンカクンするが、何とか耐えて全て終わらせることができた。それと同時に、俺は机に突っ伏した。

 

天「あー••••••ダメだ。眠い••••••」

 

どうせ遅くなっても家に帰るのは変わりないんだ。俺はそのまま気を失うように眠りについた。

 

ゆさゆさ、ゆさゆさ。

 

天「••••••んぅ?」

 

誰かに身体を揺さぶられている。それに身体が反応して、俺の意識は覚醒した。そっと、ゆっくりと身体を起こす。隣を見れば、笑顔の乙和さんが立っていた。

 

乙和「あはよ、天くん」

天「あぁ•••どうも。今、何時くらいですか?」

乙和「夜の8時だよ」

天「じゃあ大体三時間くらい寝たか•••ふあああぁぁぁ••••••」

 

俺は大きな欠伸をして、椅子の背に体重を預ける。

 

乙和「ほら、天くん帰•••ろ••••••」

 

乙和さんの視線が俺の顔から下に移っていく。あ、寝て起きたからものの見事にアレが勃ってたわ。

 

天「生理現象なので気にしないでください」

乙和「わ、わかってるよ!あうぅ••••••」

 

乙和さんは顔を赤くしながらも、チラチラと見ていた。俺は微笑み、乙和さんを抱き寄せる。

 

天「ヤりますか?」

乙和「う、うん••••••天くんの見てたら、ドキドキしちゃってた••••••」

 

俺は小さく頷いて、乙和さんの制服のボタンに指を掛けた。




R18も投稿したので、見たい人だけどうぞー。内容は期待するな(戒め)。


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いつか思い出に変わっていく

最終回でっせ!また明日オマケで一話投稿するけどとりあえずこれが最終回ね。ちなみに次は予告通りノア√行きます。某衣舞紀推し兄貴がキレそう()


迎えたライブ当日。俺はワクワクとしながらも、何処か緊張して落ち着かない様子だった。今日、ついに俺が厳選したカバー曲が披露されるのだ。二曲とも作っている会社が同じだったので、一回の許可で済んだのは、時間配分も考えてかなりラッキーだった。心置きなくPhoton Maidenらしくいじくりまわされた俺のお気に入りの曲を聴けるってわけだ。

 

天「••••••••••••」

 

俺はただ無言で控え室の椅子に座って、ボーッとしていた。何かを考えるでもなく、ただそこに座って、無の状態になっていた。

 

乙和「天くーん?起きてるー?」

 

乙和さんが俺の目の前に手をかざして振った。それによって意識が戻り、乙和さんの顔を見る。

 

乙和「どうしたの?もしかして緊張してる?」

天「そりゃしますよ。担当のライブですよ?期待故の緊張です」

 

落ち着きなく心臓が鳴っていたのがわかった。もしかしたら彼女たち以上に緊張している可能性すらある。

 

衣舞紀「それにしても、天の音楽の趣味って意外だったわね。もっと激しい曲とかが好きなのかと思っていたのだけど」

天「やっぱりそう思いますか。お生憎様、俺の趣味は落ち着いた曲なんですよね。後歌詞とかにも注目してます」

ノア「いかにも夏!って感じの曲だったね。何か元ネタ的なのとかあるの?」

天「あの二つの楽曲はとあるゲームのOPとEDで流れた曲ですね。ゲーム自体の舞台が夏なので、それに合わせて作られたのでしょう」

 

ノアさんの疑問に、俺は適当に答える。

 

ノア「へぇー。そのゲームやってみたいかも」

天「十八歳未満は購入禁止です」

 

好奇心旺盛なノアさんの欲を駆り立てるが、残念なことにそのゲームはエロゲなので、今のノアさんは購入できない。

 

乙和「じゃあなんで天くんはそのゲームの事を知ってるのかな〜?」

天「••••••秘密です」

 

実際はこれ書いてる作者が知ってるから俺からはなんとも言えない。

そのゲーム自体をプレイしたことはないけど、You◯ubeに上がってるの全部見たんだよね(作者)。

どうだったんだ?

ストーリー神、曲神、最高。シナリオゲーとしての完成度の高さ異常(作者)。

 

乙和「え〜?遠慮せずに言いなよー」

天「言ってどうするんですか、別に関係ないでしょう」

乙和「天くんがえっちなゲームをしているかもしれないじゃん!」

天「いやしてないですけど••••••」

乙和「じゃあなんで曲の事は知ってるのさ!」

 

俺は返答に困った。どう返そうか、当たり障りのないようにしたいが、困る。

 

咲姫「単純に曲だけを知っているのでは•••?」

天「そ、そうだ」

 

ナイス咲姫。俺は心の中で感謝を述べた。でも俺がエロゲに手出してるやべー奴みたいな感じになった気がしたが、まぁいいだろう。

 

ノア「エロゲかぁ•••でも気になる••••••」

衣舞紀「後二、三年待とうか•••?」

 

真面目な衣舞紀さんがしっかりと警告を送る。ノアさんは一応納得したが、作者みたいに年齢詐欺って買いそうではある。

 

咲姫「ノアさんはそんな事しないと思う•••」

天「まぁ確かにそうかもな。後しれっと心の中読むなよ」

 

ナチュラルに色を見られるのもなんだか慣れた気がする。本当は慣れたらダメなのだろうけど。まぁ咲姫だし悪用は絶対にしないだろうから安心できる。

 

天「••••••そろそろか」

 

時計をチラリと見ると、Photon Maidenの出番が目前へと迫っていた。俺が席を立つと同時に、みんなも椅子から腰を上げる。

 

天「それじゃ、頑張ってください」

咲姫「うん、頑張る」

衣舞紀「応援よろしく!」

ノア「行ってきます」

乙和「•••行ってくるね」

天「えぇ。頑張ってください」

 

乙和さんの頭に手を置いて、優しく撫でる。が、乙和さんはそれだけでは足りなかったのか、俺に抱きついた。

 

乙和「本番前だから天くん成分を充電しておかないと〜!」

天「全く••••••」

 

俺は苦笑を返して、抱きしめる。小さくて柔らかい身体が、俺の中に収まった。

 

乙和「包み込まれて安心する•••うん、頑張れそう!」

 

乙和さんは俺から離れると、手を振りながらーー、

 

乙和「しっかり見ててね!」

 

元気よく声を上げて走っていった。俺は安堵したように息を吐き、控え室の扉を閉めた。

 

関係者席まで移動して、俺の席に座る。関係者席からは遠くてあまり彼女たちの姿を詳しく見ることができなかったが、楽しそうにしているのだけは十分に伝わっていた。

 

天「••••••さて、カバー曲はどうなるかな」

 

一番の楽しみである、カバー楽曲の披露。なんとか会社に頼んで使用の許可を貰ったものだ。絶対に成功して欲しい。

何のモーションもなく曲が切り替わり、俺のよく知るメロディが、多少カスタマイズされて流れ始めた。『アオナツライン』だ。

 

天「••••••やっぱり、いい曲だな」

 

夏を生きる少年少女の夏休みの物語。それをいかにも表現している曲だ。

アオナツラインが終わると、次は『Blue,Summertime Blue.』が流れ始めた。夏の思い出を忘れないように、思い出として残していこう、今目の前にある瞬間を心に刻もうという曲だ。夏は夏でも同じ夏は二度と来ない。だから思い出にしよう、といった曲だ。ちなみに作者はギャン泣きした。

 

天「•••この曲で踊るのは、無理があったかもな」

 

今更になって後悔する。だが、彼女たちの綺麗な歌声もあって、難なくカバーできていた。そこは彼女たちの技術の高さによる恩恵だろう。

 

天「ん、ちゃんとできてるな」

 

俺はしみじみと感じたように言葉を漏らす。みんな本当に楽しそうで、緊張なんてふっとんでいるのではないかと思わせるくらい、笑顔だった。

 

天「一瞬一瞬を•••大切に生きよう••••••」

 

またこの曲を聴いて、俺はもう一度生き方について考えさせられた。同じ日は絶対に来ない。だからこそ、今を大切にしよう。そう誓った。

 

ライブは大成功で幕を閉じた。時間が時間で打ち上げの暇もなかったので、このまま解散となった。俺と乙和さんは家までの道を手を繋いで歩く。

 

乙和「すーっごく楽しかったー!天くんが選んでくれたカバー曲もウケ良かったよ!」

天「まさかあそこまでとは思いませんでしたよ•••」

 

ぶっちゃけ盛り上がりに欠ける曲だったからそこまでの期待はしていなかった。だが、予想とは裏腹にフロアは大熱狂となった。これも咲姫が観客の色を見ていたおかげだろうか。

 

乙和「今月ももうすぐ終わりだねー。色々忙しかったけど、とっえも楽しかったね!」

天「••••••そうですね、すごく」

 

今日だけじゃない。これからもこういった楽しい事が続くだろう。だが逆に、辛いことも一緒に起こると言うことだ。それでも、その困難を乗り越えていけば、いずれは全て思い出へと変わる。今乙和さんと話しているこの瞬間も、本当に今しかないのだから、大切にしないといけない。

 

天「乙和さん」

乙和「なーに?」

 

俺は立ち止まって、乙和さんに声をかける。彼女は振り返って、笑顔で俺を見た。

 

天「乙和さんの事、好きになって良かったです」

乙和「きゅ、急にどうしたの?恥ずかしいな〜えへへ」

 

乙和さんは頬を赤くして照れたように顔を逸らした。俺はそんな彼女に近づき、抱きしめた。

 

天「乙和さんがいたから、ここまで頑張れました。本当にありがとうございます。そしてこれからも一緒にいてください」

乙和「•••••••••うん。私も、ずっとずーっと!天くんと一緒にいたいな!大好き!」

天「俺も大好きです」

乙和「ね、ね?もっとくっつこ?」

天「?はい」

 

一瞬意味がわからなかったが、俺は乙和さんを更に強く抱きしめる。乙和さんは俺に抱かれたまま、胸に顔を当てていた。

 

乙和「うん、生きてる•••ちゃんと生きてる••••••」

 

心臓の音を確認していたようだ。乙和さんはようやく俺から離れて、また手を繋ぐ。

 

乙和「これからもよろしくね!」

 

今見せた乙和さんのとびきりの笑顔は、今まで見せてきた中で、一番可愛くて輝いていた。




感想評価待っとりまーす。後テスト七教科程帰って来ましたが、今のところ赤点ゼロです。やったね!


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スリープ休日

本当の本当に乙和√最終回っすよ!次回からノア√だから対戦よろしくお願いします!


ライブも終わって、いつも通りの日常が戻ってきたと実感する。今日は完全なオフで、俺はライブの疲れを取るように、ずっと眠っていた。

 

乙和「天くーん?もう朝だぞー?」

天「もうちょっと寝させてください••••••眠気が•••かなりヤバイです」

 

昨日の夜もかなり早く寝たはずなのに、朝になっても眠たいままだった。今なら夜まで寝られそうでもある。

 

乙和「寝過ぎるのもダメだよ?ほーら、起きて起きて」

天「ん•••わかりました••••••」

 

俺は身体を起こす。油断しているとそのまま寝てしまいそうだが、なんとか耐える。というか既に寝そうになっている。

 

乙和「そんなに寝たいのー?昨日あんなに早く寝たのに」

天「何故かわからないんですけど、異様に眠たいんです••••••」

 

眠過ぎて首がガクンガクン傾きそうだ。乙和さんはそんな俺の頭をガッチリホールドした。

 

乙和「朝ご飯食べるよ!」

天「•••はい」

 

目の前に近づいた乙和さんの顔に今更ドキドキしてしまって、変に眠気がふっとんでしまった。そのまま一階に降りて適当に作り始める。

 

乙和「そういえば月ちゃんは?」

天「あいつなら多分友達の家に行ってると思いますよ」

乙和「その友達大丈夫かな••••••」

 

乙和さんは遠い目をする。それに対して俺は苦笑を返した。

 

天「まぁ、いつも通りセクハラはすると思いますよ。月はそういう奴なので」

乙和「それでもなんだかんだ仲良くしそうなのが月ちゃんだよね〜」

 

セクハラは日常茶飯事。胸は揉むわケツは触るわで嫌われてもおかしくないほどだが、持ち前の明るさや優しさで結局は仲良くなっている。月は本当にそういう奴だ。

 

天「そういやあいつ•••高校と大学どうするんだろうか••••••」

乙和「高校はわからないけど、このままの成績でいけば東大まで行きそうじゃない?」

天「東大か•••ないかもしれませんね。あいつやりたい事があるって言ってましたし」

乙和「え〜どんな事だろう〜気になるなぁ〜」

 

乙和さんは興味津々、と言った様子でくいついた。俺は微笑を返して、少し得意げに話し始める。

 

天「研究者になる、って言ってました。多分、多分ですけど•••魂についての研究なんでしょうね。俺が実現できなかった魂の存在の証明を、月が継いでくれるみたいです」

乙和「えっ?その魂っていうの、実際にはあるのにどうして証明ができていないの?」

天「前にも話したはずなんですけどねぇ••••••。まぁ要するに、魂があるというのは研究者内では完全に明らかになっています。ですがその魂を全ての人間に証明する決定打になるものがないんです。俺みたいに脳を魂に接続できるようになれば、楽なんですが••••••」

乙和「脳?接続?どういうこと?」

天「今のは気にしないでください」

 

完全に今のは失言だった。そもそも魂の接続ができるのは、俺ともう一人の知り合いの研究者くらいだろう。そういやあいつ今どうしてるんだろ、死んでないといいけど。

 

天「でも、俺の代わりに月が全て解明してくれれば、それで満足ですよ」

乙和「天くんは、もういいんだね••••••?」

天「俺の頭じゃ、魂の存在を理解するまでが限界でしたね」

 

本当は魂の使い方まで理解しているが、そんな事を言えるわけがない。もしこの事が世に知れ渡れば、俺は研究材料として追われる身になるだろう。それだけは避けなければならない。

 

乙和「でも休日なのに何もしないのはな〜」

天「じゃあ俺はもう一眠りします」

 

席を立って、自室へ向かおうと歩を進めるが、乙和さんが俺の服の裾を握った。

 

乙和「ね、寝ちゃう前にさ•••運動しない?」

 

顔を赤くしながら、色気を漂わせる顔で乙和さんはそんな提案をする。俺はなんだか呆れてため息が出てしまった。

 

天「もうただの変態ですね、乙和さん」

乙和「そ、そんな事ないよ!好きな人とこういう事をしたいのは突然の事だと思います!天くんはどうなの?私とえっちするのは嫌なの!?」

天「嫌じゃないですしむしろ好きですよ。でも寝る前に誘ってくるのはちょっと•••それに今朝ですし」

乙和「朝でもいいの!私は天くんとえっちしたいのー!」

 

ギュウッと乙和さんが俺にしがみついた。とうとうものも言えなくなり、俺は乙和さんを抱き上げて部屋まで連れて行った。

 

二人で裸でベッドに寝転がる。行為を終えた後の疲れからか、もう眠気はMAXに突入していた。

 

乙和「あは、すっごく眠そうな顔してるね」

天「あんな体勢でヤるの初めてなので変に疲れました」

 

既に首がカクンカクンしてもおかしくない、というより瞼が重すぎて、もう目を閉じかけてすらいる。

 

乙和「このままだと寝落ちしちゃいそうだし、もう寝ちゃおっか!」

天「そうですね••••••眠たくて眠たくて••••••」

 

俺は乙和さんを抱き枕にして、目を閉じる。乙和さんも俺の背中に腕を回して、安心したように寝息を立て始めた。また目を覚ませば、目の前に最愛の恋人の顔がある。そう思えるだけで、俺は安心して眠る事ができた。




R18も投稿したので見たい人だけどうぞ。


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ノア√
風邪でも話す事は話したい


今回からノア√じゃい!もう半分やぞ?半分。早いもんやなぁ。まぁ来年の四月までしか書けないからその間だけでも頑張りますんで、よろしくお願いします。


夕方辺りの時間になっただろうか、俺は未だに頭痛と空腹に苛まれていた。せめてお粥だけでも食べておこうとベッドから立ち上がったが、大きくふらついて膝をついてしまう。

 

天「ぐぅ•••やっぱりキツいか••••••」

 

少し動くだけでも頭に激痛が走る。俺はついにその場に倒れてしまった。

 

天「まさか、ここまでダメになるとはな••••••」

 

頭どころか身体中が痛くなったような気がした。せめて何か気の紛らわせるものはないか•••。俺は立ち上がって、本棚に向かう。震える手を伸ばして一冊の書物を手に取った。

『脳と魂の存在』

とある誰かが著した、魂についての論文が書かれたものだ。

 

天「これ読むの•••いつぶりだろうか••••••」

 

最後に読んだのは一年くらい前になるだろうか。もう内容ほとんど覚えてねぇよ。

俺はその場にへたり込んで、書物を開いた。魂の存在について、それがどこにあって、どのような役割を果たしているのか、事細かに記されていた。

 

天「今更になって見てみると、意外とわかるな•••魂の存在位置とか、なんとなくわかる•••」

 

俺は風邪の症状など忘れて、論文に意識が完全に向いていた。頭の中は過去に思いに思い詰めた魂についての事ばかりが、いっぱいに広がっていく。

ピンポーン!

インターホンが鳴り、俺の思考が遮られた。パタン、と本を閉じてテーブルの上に置く。

 

天「何か荷物でも頼んだっけ•••?」

 

俺は首を傾げる。そして集中していた意識が分散したおかげで、また頭痛が襲いかかってくる。とりあえずさっさと対応してまた読み直そう。俺は壁に手をつきながら、小さな歩で歩く。

多少の時間をかけて玄関前まで辿り着き、ドアを開けると同時に、倒れた。

 

ノア「えっ!?そ、天くん!?」

 

急に倒れ始めた俺を、ノアさんは受け止めてくれる。顔に柔らかい感触があったが、そんな事はどうでもよかった。

 

ノア「まだ月ちゃんは帰ってきてないの?」

天「•••••••••」

 

俺は無言で頷く。それくらい弱っている事を理解したノアさんは、俺を支えながら部屋まで連れて行った。

ノアさんは俺をベッドに寝かせると、テーブルに置いていた論文書に目が留まった。

 

ノア「これ•••学術書?魂の存在••••••これまたマイナーな」

 

多方面に知識のあるノアさんは、少し苦笑した様子で書物を手に取る。それを開くとすぐに苦笑は苦い顔へと変わる。

 

ノア「なにこれ•••私の知ってる論文じゃない•••」

天「ノアさんは表面しか見てないんですよね?魂についてとなると、かなりめんどくさいですよ」

 

そもそも脳との関係性の時点でダルいまである。脳のどのような働きが魂にどう働いているのか、脳がこうなると、魂もこうなるとーー基本は脳に連動して魂が行動しているような感じになるが、変な所で脳と関係なく魂は動くからめんどくさい。

 

ノア「天くん、こんな難しい本読んでるんだね」

天「一応はそれの研究に携わっていた事もありましたから」

ノア「それで、結果は•••?」

天「魂の存在を理解するところまでは行きました。ですが、それを証明するまでには至れませんでした」

ノア「証明•••?」

 

ノアさんは首を傾げた。恐らく、その研究結果を言えば証明になるだろう、と考えたのだろう。だが現実は非情だった。

 

天「魂の存在は研究者しかわかりませんでした。それを証明する為の決定的な何かがなく、ただ研究者たちの中でだけ証明されました」

ノア「そうなんだ•••結構難しい問題なんだね•••」

天「魂についての研究が更に進めば、死亡した人の身体を人工義体に替えて蘇らせる事もできます」

ノア「そんな事ができるの•••!?」

 

ノアさんは驚いた顔をする。全く説明をしていないが、するとまた話が長くなるので俺自身のやる気の問題だった。

ぎゅるるるるるる••••••。

盛大に腹の虫が鳴り、ノアさんはクスリと笑った。

 

ノア「お昼食べてないんだね?」

天「はい•••」

 

俺は少し恥ずかしくて顔を逸らした。ノアさんはやれやれと言った様子で立ち上がって、お粥を持って一階に降りて行った。

しばらくしてノアさんが戻ってくると、ベッドの前に座る。俺は上体を起こして、ノアさんに身体を向けた。

 

ノア「熱いから気をつけてね」

 

スプーンでお粥を掬って、俺の顔前へと持ってくる。俺は息を吹きかけてお粥を冷ましてパクリと一口で食べる。

 

天「あつっ」

 

冷まし足りなかったのか、まだ熱かった。口の中が火傷しそうだ。

 

ノア「天くん、焦らなくてもたくさんあるから」

天「わ、分かってます•••」

 

なんだか今日はノアさんに少し遊ばれているような気がした。とりあえずはノアさんの言葉を気にしないようにして、淡々とお粥を口にした。

お粥を食べ終えると、食後特有の妙な眠気に襲われた。寝転がった状態のまま、瞼が重くなってきていた。

 

ノア「もう眠たいみたいだね。寝ちゃっていいよ?」

天「•••頭いってぇ」

 

眠気は大いにあったが、頭痛がそれを邪魔した。目を閉じれば、余計に頭痛が酷くなってとても眠れる気がしなかった。

 

ノア「大丈夫?手握っててあげるから」

 

ノアさんが優しく俺の右手を握ったのがわかった。俺より小さくて柔らかい手だったが、包まれている感覚を覚えた。俺も握り返すと、なんだか精神的に落ち着いたのか、頭痛が引いた気がした。

 

天「ノアさん、ありがとうございます•••」

ノア「どういたしまして。早く元気になってね?」

天「••••••はい」

 

その言葉を最後に、俺は眠りについた。恐らくノアさんの手を握る力は完全に抜けただろう。

 

ノア「•••カワイイなぁ」

 

ノアさんは小さく呟いた。俺の手から離れると、次は俺の頭にその手が移る。

 

天「んぅ•••」

ノア「はぁ〜カワイイ•••!こうして見てると、ただの女の子だよね••••••」

 

ノアさんの手が俺の額に触れる。多分熱いだろうが、それでもお構いなしだった。

 

ノア「まだ熱はあるみたいだね•••でも苦しそうだったりしてなくて良かった」

 

ノアさんはそのまま俺の頭に手を置いて撫で始める。眠ってる俺自身はその感覚に気づく事は絶対にないが、ノアさん本人は堪能していたという。

 

俺は目が覚めると、勢いよく身体を起こした。右手にはノアさんの手はなく、そもそも俺の部屋には俺以外誰もいなかった。

 

天「ノアさんは帰ったか•••」

 

俺はベッドから床に足を着けて、自室を出る。一階のリビングに灯りがついているのが見える。恐らく月だろう。

 

天「月、おかえり」

月「あっ、お兄ちゃんただいまー」

ノア「調子はどう?」

天「••••••ノアさん、帰ってなかったんですね」

月「夕食食べていくみたいだよ」

天「いやとりあえず、その状況なんなの?」

 

今俺の目の前では、月がノアさんに抱きしめられている絵面が広がっていた。月は嫌がる様子もなく、むしろ受け入れているようだ。

 

月「ノアさんの身体すっごくあったかいよー!」

ノア「月ちゃんカワイイ•••!健気で素直でもう本当に愛しい•••!」

月「ほらほら、お兄ちゃんも!」

天「いや、俺はいい。風邪を移してしまうかもしれないしな」

月「えぇー。もったいないなぁ」

 

俺はため息をついて椅子に座る。一度寝た所為で眠気はぶっ飛んでいたが、なんだか落ち着かなかった。

 

月「じゃあ夕飯食べよっか。お兄ちゃん、持っていってー」

天「あぁ」

ノア「あ、私もーー」

天「ノアさんは客人ですので、そこに座っていてください」

ノア「はい、わかりました」

 

ノアさんは微笑むと、素直に席に着いた俺も微笑を返して、料理が積まれた皿を手に取った。




D4恋色マスタースパーク追加されたけど難易度15とか頭おかしなるで。後でするけどクリアできる気しねぇわ。しかも今スピード11.5慣れの途中やぞw


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お見舞いガチ勢の朝は早い

無事期末テスト全教科赤点回避しましたイェイ!これで冬休みまで退屈に学校生活送れますねぇ!まぁやることあるんだけどw


翌日、俺はやけにスッキリと目が覚めた。頭痛や倦怠感は一切なく、風邪がしっかり治ったことを証明していた。朝一でスマホを手に取り、画面を点ける。すると、一つの通知が入ってきていた。

 

ノア『風邪を引きました』

天「••••••移してしまったな、これ」

 

Photon Maiden in俺のグループに送られたメッセージを見て、俺は心底後悔した。あの時看病させずに帰しておけば、こんな事にはならなかっただろうと。

 

天「詫びも兼ねて行かないとな••••••」

 

頭をボリボリと掻いて、自然とため息を吐いてしまう。少しながら面倒だなぁ、という感情がどうしても湧いてしまう。しかも昨日の分の仕事を今日で終わらせないと行けないのだから尚更だ。

 

天「あまりこう言う事はしたくないが•••」

 

学校で仕事を終わらせる。今までそういったことはしてこなかったが、今回は緊急事態でもある。

 

月「お兄ちゃん起きてるー?あ、ちゃんと起きてるね。朝ご飯できてるよ」

天「ん、わかった」

 

頷き、ベッドから降りて一階に向かう。朝食をすぐに食べ終えて、俺は急ぐように学園へと向かった。

 

学園にいち早く着いた俺は、誰もいない教室の中でパソコンを起動した。手書きの作業の方は授業中にでも少しずつ進めて終わらせるつもりだ。授業はパソコンを使うので、必然的に作業をする事はできない。バレたらバレたでかなり面倒な事になるので避けたいのだ。

 

天「うっへぇ•••多•••」

 

仕事の量に俺はひくひくと情けなく口が微動したのがわかった。眉間には皺が寄っていて、尚更情けない顔になる。多分今誰か来たら、俺は覇気のない絶望した顔をしていると指摘される事だろう。

 

天「とりあえず、やれる事はやっておこう」

 

俺は決意を抱いた。キーボードに両手を伸ばして、誰もいない静寂と化した教室内で、ただキーボードを打つ音だけが鳴っていた。

 

授業中は隠れてメモ帳の方の仕事をこなしながら、隙を見てパソコンの作業も進める。昼休みになる頃には、半分は終わっていた。

もちろんその昼休みも、全て仕事に費やすつもりだ。

 

咲姫「天くん、お昼ご飯•••」

天「悪い、仕事があるんだ。今日は一人で頼めるか?」

咲姫「私も手伝うよ?」

天「••••••飯、食わせてくれないか?とても飯を食べながら作業をするのは難しい」

 

少し恥ずかしい提案だったが、咲姫は微笑みながら頷いた。俺の弁当箱を出して、作業の合間合間に口に入れてくれる。

 

咲姫「はい、あーん」

天「あむっ、もぐもぐ•••今更ながら恥ずかしいな、これ」

 

周りの視線が集まってるからやけに落ち着かない。女子たちはなんかニヤニヤしながらひそひそ話してやがるし、これ絶対良くない噂流れるよ最悪やん。

 

咲姫「終わりそう?」

天「昼休み中は難しいかもな•••後30分くらいあるとはいえ••••••」

 

現状を突きつけられて、俺は少し萎えそうになっていた。あーダル。少し遅れてもいいから事務所で全部終えてからノアさんのお見舞い行こうかな。

•••いや、一度決めたら最後やり抜くのが俺の流儀だ。こんな仕事さっさと終わらせてやる。

 

天「咲姫、一気に詰め込んでくれ」

咲姫「えっ?う、うん••••••」

 

咲姫は弁当箱ごと持って、俺の口の中に中身を放り込んだ。俺の頬はハムスターのように膨らみ、大きく咀嚼を繰り返す。

 

咲姫「大丈夫•••?」

天「ん」

 

俺は頷く。すぐに作業に取り掛かり、キーボードを打つ手がどんどん加速していったのがわかった。

 

女子生徒A「すごーい。神山くんそんなに早く打てるんだー」

咲姫「あっ•••。天くん、仕事中に話しかけられるのはあまり好きではありませんので•••」

女子生徒A「そうなの?ごめんね〜」

 

クラスメイトはすぐにその場を離れた。俺は心の中で咲姫に感謝を述べて、またパソコンの画面に集中した。

 

放課後になる頃には作業をほとんど終えることができて、残りは明日片付ける事にした。Photon Maidenの面々から許可を貰って、俺は事務所には行かず、資料に書いてあるノアさんの家へと向かっていた。

 

天「さて•••もうほとんど回復しているといいが••••••」

 

俺は少しソワソワした様子で福島家へ向かって歩いている。つーかここまで来ておかえり願われたらそれはそれで嫌だな。その時はそのまま直帰したい。

しばらく歩いていれば、ノアさんの家が見えてきた。あー、そういや和菓子屋さんって言っていたな。

 

天「こんにちは」

店員?「いらっしゃいませ」

 

店内に入るとすぐに、若い女性の方が出てきた。ノアさんと同じ金髪だった。

 

天「福島ノアさんはいらっしゃいますか?」

店員?「あら?あなたもしかして、ノアが言ってたマネージャーさん?お見舞いに来てくれたの?」

天「はい。昨日は自分が観てもらったので、今日はお返しも兼ねて•••」

店員?「そうなのー、きっと娘も喜ぶわ。ささっ、入って入って」

天「あぁ、ちょっとーー」

 

有無を言わさず、ノアさんのお母さんらしき方は俺の背中を押して奥へと連れて行った。

 

そのままノアさんの部屋の前まで押されて、後はごゆっくりー、と行った感じに仕事へと戻って行った。すごい自由な人だな••••••。

俺はため息を吐いて、ドアを三回叩く。

 

ノア「お母さん•••?何回も来なくていいよ•••」

天「いえ、神山です」

ノア「神山•••?神山•••••••••天くんっ!?」

 

部屋の中からバタバタした音が聞こえた。まさか俺が来るとは思ってなかったのだろうか、かなり焦っている様子だ。

少しして部屋のドアが開く。パジャマ姿のノアさんが、顔を赤くして立っていた。

 

天「良かった。案外元気そうですね」

 

昨日の俺みたいに死にかけてないようで安心した。それにノアさんのご両親はいつでもいるから、何かと気にかけて貰えるだろう。

 

天「入っても問題ありませんか?」

ノア「はい•••どうぞ••••••」

 

やけにしおらしいノアさんは、ベッドに寝転がってしまった。俺はそこら辺に座って、鞄を置いた。そしてつい、部屋の中を見渡してしまう。

溢れんばかりの本本本。本だらけだ。小さい図書館と言うべきなのだろうか、かなりの数の書物が置かれている。中には学術書も混ざっていて、この人の好奇心の強さに驚く。

 

天「••••••すごいですね、本」

ノア「あはは•••興味をそそられる本はすぐに買っちゃうから••••••」

天「色んな事に興味を持てるのは、羨ましいです」

 

俺は苦笑気味に呟いて、俯く。今の仕事だったり学業だったりもあって、何かと手につけるのが難しかった。その結果、こんなまともな趣味のないダメ人間ができあがったわけだが。

 

ノア「もう、びっくりしたよ。急に来るんだから」

天「それ昨日のノアさんに言いたいですね」

ノア「うっ•••ああ言えばこう言う••••••」

天「でも、来てくれてすごく嬉しかったです。あの時ノアさんが来なかったら、死んでたかもしれません」

ノア「大げさだなぁ••••••。でも、ありがとう。そう言って貰えるとすごく嬉しい。天くんも来てくれてありがとう」

 

お互いに礼を言い合ったら、なんだか空気が軽くなった気がした。こんなに元気ならそこまで長居する必要もないなと感じて、俺は立ち上がろうとした。が、制服の裾をノアさんに握られた。

 

ノア「もう少しだけお話ししよ?お父さんとお母さんがいるとはいえ、しばらく一人だったから」

天「••••••はい、わかりました」

 

俺は頷いて、また座った。今度はノアさんの顔をしっかり見て、口を開いた。




感想評価オナシャス!誰か竹刀買ってくれ()


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人様の家で食う飯は美味い

素振り用の鉄筋とか色々あるんだけど、素振り用の竹刀が欲しくなっている今日この頃。フリセンマグナムほすぃ。


しばらく話し込んでいたら、気がつけば暗くなっていた。流石にそろそろお暇しようと立ち上がったが、部屋からノアさんのお母さんがやってきた。

 

ノア母「あら、帰っちゃうの?夕飯できているのだけど」

天「あー、すみません。恐らく妹が作って待っていると思いますので•••」

 

そう言って帰ろうとした直後に、携帯が振動する。俺は手に取って画面を確認した。•••妹からだった。

 

月『今日は晩御飯作ってないので何処かで食べてきてね♡』

天「••••••相変わらずこいつはエスパーか何なのかわからなくなってきたぞ」

 

俺の行動を監視でもしているのか疑ってしまう。ぎこちない感じでお母さんの方に目を向けた。

 

ノア母「食べていく?」

天「すみません、お願いします•••」

 

我ながら大変情けなく感じた。そしてお母さんは、俺、ではなくノアさんを見ながら、

 

ノア母「良かったわねー。天くんとご飯食べられるわよ」

ノア「お、お母さん!」

 

ノアさんを赤面させるような言葉を言い放った。見事に彼女は風邪に加えて羞恥心によって赤くなっていた。そこを可愛いな、と感じた俺は一体何なのだろうか。

 

天「では•••いただきます」

ノア母「いっぱい食べて行ってねー。天くんが食べてくれると思ってたくさん作ったから」

天「あはは•••ありがとうございます」

 

もしかしたら月は、この事を事前に察していたのか•••?ないと思いたいが、月が魂に接続して未来予知をした?それも他人の未来を?考えれば考える程頭がこんがらがってしまう。

 

天「(そういやあいつ、将来は魂に関する研究者になりたいって言っていたな••••••独学で魂に接続するなんて•••嫌な予感がする)」

ノア「天くん?ご飯食べるよ?」

天「•••あっ、はい••••••」

 

今の俺は気が気じゃなかった。ノアさんに呼ばれて、ようやく思考を目の前に移すことができた。そのまま誘われるように、俺はノアさんとお母さんの方へついて行った。

福島家の本日の夕食は豪華にもカレーだった。キッチンのコンロの上には、カレーのルーが入っているであろう大鍋があった。本当に大量に作ってて俺は笑えなかったが。

 

ノア父「いや、娘がいつもお世話になっているね」

天「いえいえそんな。こちらこそ良くしてもらっています」

 

ノアさんのお父さんからやけに圧をかけられ気味に会話をする。顔は穏やかなのに、感情が揺れに揺れていて少し怖かった。

 

ノア「もうお父さん。天くんを怖がらせたらダメだよ」

ノア父「い、いや、そんなつもりはなかったんだが•••」

 

本当か?明らかに悪意があったんだが。俺は面倒事を避けて何も言わなかったが、完全に嫌われている。恐らく、娘に寄り付く何処の馬の骨ともわからない男だと認識されているだろう。

 

天「すみません、おかわりいただいてもいいですか?」

ノア母「えぇ、もちろん。じゃんじゃん食べてね」

 

それに比べてお母さんはのほほんとしていて温かかった。

 

ノア「二日も連続でレッスン休んじゃったけど、みんな怒ってないかな••••••」

天「大丈夫ですよ。昨日はともかくとして、今日は学校にすら行けてないんですから。まぁ、乙和さん辺りはイジりに来るかもですね」

ノア「乙和かぁ•••確かに何か言ってきそう•••」

 

乙和さんとノアさんは仲がいいのか良く言い争っている。それを眺めるのも、一つの日常なのではないかと最近思い始めている。

 

ノア母「はい、どうぞ」

天「ありがとうございます。あんっ、もぐむぐ•••」

ノア「はぁ〜•••美味しそうにご飯食べてる天くんカワイイ•••」

ノア母「まるで息子ができたみたいで嬉しいわぁ」

天「っ!?むすっーーゲホゲホ!」

 

俺は驚いてカレーを喉に詰まらせてしまう。噴き出したりしなかったのが何よりの救いだが、思い切りむせてしまった。

 

ノア「だ、大丈夫!?」

天「ゴホッ!•••えぇ、大丈夫です。少し驚いただけですから••••••」

 

ノアさんを手で制して、俺は胸の部分を叩く。詰まったカレーが胃の中に入ったのを実感して、大きく息を吐いた。

 

天「ふぅ•••もう大丈夫です」

ノア「本当に大丈夫?天くんいつも無理してるイメージだし•••」

天「大丈夫ですって。どうしてこう、Photon Maidenの面々はみんな心配性なんですか」

ノア「天くんは大事な仲間なんだから」

天「近い近い!」

 

徐々に近づいていたノアさんの顔は俺のほぼ目の前へと迫っていた。お父さんは今にも飛び出してきそうな勢いだが、それに対してお母さんはニコニコとしている。

 

ノア母「こうして見ると、二人とも恋人みたいね」

ノア「えぇっ!?」

天「おぉう••••••」

 

ノアさんは驚いていたが、俺はその前にまずお父さんの顔色を窺った。そして絶望する。

先程まではイラついたような顔だったのが、完全な笑顔になった。怒りを通り越して遂に笑ったか。俺の人生もここまでかもな。

 

ノア「そ、そんな!私と天くんはそんな関係じゃないよ!」

天「お母さん、流石に冗談が過ぎますよ」

ノア母「あら、もうお義母さんって呼んでくれるのね」

天「なんか発音おかしくないですかね••••••」

 

やけに悪意を感じるが、これ以上は聞きたくないので無視する事にした。またカレーを一口口の中に放り込んで、辛さに打ちひしがれながら今の感情を捨てる。

 

ノア「ねぇねぇ天くん。今日、泊まっていったりしない?」

天「•••すみません。帰りに寄らなければいけないところがあるので」

ノア「あっ•••そっか」

 

月の事が気がかりなので、俺は福島家を後にしたらとある所に行くつもりだ。あそこの連中とも積もる話もある。

 

天「ごちそうさまでした。本日は素敵な夕食をありがとうございました」

ノア母「いえいえ〜天くんいっぱい食べてくれて嬉しかったわ。またいつでも来てね」

天「はい、機会があれば」

 

俺は笑顔を向けて頭を下げた。荷物を持って、福島家を出て行く。そして俺はすぐに走り出した。ノアさんたちの前では平然とした顔でいられたが、今は遠慮なく焦った顔になる。

 

天「はぁ、はぁ、はぁ•••マズいぞ••••••”オーバーロード”三人目の疑惑が出てきやがった••••••!」

 

怒りにも似た、絶望にも似た、もしくはどちらも兼ね備えているのか、そんな入り混じった感情を顔に浮かべながら、俺は走り続ける。

 

天「(もし月が本当に魂に接続できるオーバーロードの人間なら、面倒な事になる•••!世界のバランスが崩れてしまう•••!)」

 

本来、魂に接続できる人間は一人しかいないという研究結果が出ている。だがそれは俺を含めて二人。この時点でイレギュラーなのだ。オーバーロードは、世界の均衡を崩しかねない強大な力を有する。それ故に研究者内では、絶対に外部に漏らしてはいけない禁忌として認識されている。

今度はそれがもう一人増えて三人だ。これはなんだ?宇宙からのギフトとでも言うべきなのか、それとも悪魔からの呪いなのか。いや、どちらもだろう。使い方次第で、善にも悪にもなる。オーバーロードとはそういうものだ。

 

天「(早く伝えないと•••!手遅れになる前に••••••!)」

 

走る速度を上げる。ここからとある場所、まぁ研究所だが。そこまで行くのにはかなりの距離がある。ぶっちゃけ走って行くのはバカのすることだ。だが今はそんな冷静に物事を考えていられる余裕なんて一切ない。

 

天「(だが月がオーバーロードだという事を知ってどうする•••?いや、月に自覚がないならそれで話は終わりだ。後は俺とあいつだけでこの事実を隠蔽して事なきを得ればそれでいい。平和的に行くんだ、平和的に••••••)」

 

実際はそう上手くいかないのは自分自身が一番わかっていた。詳しい話は後でする事にして、とりあえず今は目的地に向かう事に集中した。




感想評価オナシャス!誕生日はフリセンマグナムでも買ってもらおうかなぁ。


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オーバーロード

最近寒いっすね。もう登校嫌になっちゃいますよw運動も寒いからやる気起きないけど、始めたらすぐそんなの吹っ飛ぶんですけどねぇw


暗がりの中に、一際強い灯りを放つ建物が一つあった。簡素な四角い白い建物で、大きさだけは無駄に立派だった。

自動ドアが開くが、開き切る前に腕でこじ開けて俺はまた走り出す。奥の扉をタックルで開けて、荒い息を吐きながら焦った足取りで歩く。

 

天「神無月•••」

?「お前•••天か?」

 

白衣を着た青年がこちらに振り返る。

神無月陽太。俺と同じ魂に接続する力を持つ、魂専門の研究者だ。

 

陽太「急にどうしたんだ。お前がここに来るなんて」

天「大事な話が、ある」

 

一息つきながら、俺は言葉を紡ぐ。その真剣な表情を見て、神無月の目が鋭くなる。

 

陽太「まぁ、そんな必死な表情してわざわざここまで来るんだ。相当の案件だろう••••••話せ」

天「実は•••俺の妹が、俺たちと同じ側かもしれない•••!」

陽太「それ、本当か•••?」

 

神無月の顔がみるみるうちに鋭いものになっている。最早殺意すら感じるレベルだ。

 

陽太「どんな現象が確認されている」

天「俺の考えてる事を読んだり、今日も先輩の家で飯を食べてきたんだが、その時に解ってたかのようにメールを送ってきたんだ。しかも飯に誘われた瞬間にだ」

陽太「タイミング的にも怪しいな••••••。しかし最悪だ。まだ仮説しか立ってない中でオーバーロードが三人に増えるのはマズい。一部では魂を非難するところもある。面に出ればお前の妹は研究材料にされて殺されるぞ」

天「わかってる。だがどうするんだ」

 

焦ったままの俺は、早口で神無月に問い詰める。神無月はため息を吐いて、首を横に振った。

 

陽太「魂の存在を証明する。もうこれしか残った道はないんだ。その上で、魂は安全で、俺たちに幸福をもたらすものだとも証明するんだ」

天「んで、俺が離れて何年か経つが、何か見つかったのか?」

陽太「••••••さっぱりだ。魂の存在はわかった。接続もわかった。だが、その位置が未だに解明できていない。脳の中心部でもなく、骨盤の中でもなく、心臓の中でもなく•••な」

 

神無月は諦めたような顔をしている。高校を中退してまで研究にのめり込んでいるみたいだが、成果はカケラもない様子だ。

 

陽太「研究チームも解散して、今じゃ俺一人で研究している。あ、そうだ。一応一つだけだが発見はあったんだ」

天「ん?なんだ」

陽太「オーバーロードを発動すると、脳波数が大きくブレる」

 

オーバーロードは脳に魂を接続する技術だ。それを会得するには脳波の莫大な振動に耐えうる脳と精神力が必要になる。基本はそれを効率よく抑えるために研究を重ねて、ようやくできるようになるものだ。だが月は、これを独学でやってのけていると考えた方がいいだろう。想像しただけでも末恐ろしい。

 

天「それを用いて証明はできないのか?」

陽太「したところでオーバーロードをできる人間が限られすぎている。完全な証明にはならない。もっとわかりやすく伝えないと••••••」

 

神無月は頭を悩ませた。いつもこうだ。当時俺がここの研究チームに属していた時も、後一歩というところで完全に行き詰まった。これで俺の心は完全に折れて、研究からは退いた。

 

天「クソ•••何か、何かないのか••••••!」

陽太「オーバーロードを使って、探し当てたりとかはどうだ?」

天「俺の能力ならいけるかもしれないが•••探し当てる頃には脳が完全に死んでしまう」

陽太「•••お前のは、一番脳に負担がかかるからな•••」

 

俺のオーバーロードは感覚の過敏化だ。空気の流れまでも感じる程に脳が活動してしまうので、一時間もすれば確実に脳死する。それだけでなく使用後の代償もバカにならない。

 

陽太「••••••いい加減帰ったらどうだ?もう夜の9時だぞ」

天「••••••そうだな」

 

これ以上話していても埒があかない。神無月はタクシーを呼んで、研究所前まで見送りきてくれた。

 

天「また今度来る。次は月も連れて」

陽太「わかった。その時にまた、色々と進めよう」

 

タクシーの到着は予想よりも圧倒的に早かった。すぐに乗って、俺は家に着くまで魂についてずっと考えていた。

 

タクシーを降りて、玄関を開ける。シン、とした空気が俺の心を虚無へと誘う。あまり音を立てないように靴を脱いで床に足をつける。築十年以上の家は、それなりにボロくなっていて、軋む音が鳴った。

 

月「•••お兄ちゃん?」

 

月がリビングからひょこっと顔を出した。俺の肩が震える。怖い。今の月が恐ろしくて、俺は固まってしまった。

 

月「どうしたの•••?何か怖いことでもあった?」

 

恐る恐る妹は俺に近づいてくる。俺はたまらず、その小さな身体を抱きしめた。

 

月「わっ。お兄ちゃんどうしたの?」

天「なぁ、月。隠さずに言ってくれ。••••••魂と接続できるんだろ••••••?」

月「ーーッ!?ど、どうして•••」

 

俺の嫌な予感は完全に当たっていた。月が驚いた、いや、恐怖に怯えた顔をしている。

 

天「だって、おかしいだろ•••?いつも俺が考えている事当ててくるし、今日だって、ノアさんの家で飯食うのを解ってたかのように、晩飯を作らないってメールを送ってきて。そんなの、わかっちまうだろ••••••」

月「••••••••••••うん、そうなんだ。私も、お兄ちゃんと同じ、オーバーロードだよ」

 

月は俺の背中に腕を回した。その手は酷く震えていた。

 

月「気がついたら、周りの人の考えている事が読めるようになってた。そして、その人の先の未来も•••。中には、後数日でどうやって死ぬかって事細かに解説されるように頭に流れ込んできて•••怖かった•••」

 

服から濡れた感触が伝わる。今月は泣いているのだ。まだ中学生という幼い精神には、人の死の予知を知ってしまうのは酷だろう。

 

天「月、約束してくれ。お前のその力は、絶対に誰にも言ってはいけない。絶対にだ」

月「うんっ、うんっ•••!」

 

更に強く月がしがみついた。まるで何かに縋るような、そんな必死な姿だった。俺も泣きそうになったが、兄の威厳が邪魔をして涙が出てくることはなかった。

 

風呂から上がって自分の部屋に入ると、月がベッドに座っていた。

 

天「•••何してんのお前」

月「えへへ•••怖いから、お兄ちゃんと寝たいなーって」

天「••••••そうか」

 

俺はそれだけで納得する。昔は一緒に寝てたのだから、別にいいだろう。それに兄妹だからお互いに変な事をする必要もない。

 

月「ごめんね。私のワガママに付き合わせちゃって」

天「俺はお前の兄だからな。妹のワガママくらい応えられないと」

月「•••今だとすっごく救われる。ありがとう、お兄ちゃん」

 

照れるように笑いながら、月は目線を逸らした。

 

天「月、明日お前をとある所に連れて行く」

月「えっ?どこどこ?」

天「俺が昔いた研究所だ」

月「••••••もしかして、私を研究するの?」

天「そんなもんだな•••とりあえずは、お前のオーバーロードの能力を確認する。もしかしたら、魂の証明に近づくカギになるかもしれない」

月「私が•••証明のカギに••••••」

 

呆然とする月。もしこの能力を活用することができれば、証明に大きく近づくことができるのは確かだ。

 

天「頼む、月。お前の力が必要なんだ」

月「••••••うん、わかった!私で役立てるなら、なんだってするよ!」

 

月が大きく頷いたのを確認して、俺は何処かホッとした。妹の頭を撫でて、ようやく感じた眠気に身体を任せようとした。

 

月「おやすみ、お兄ちゃん。お兄ちゃんのおかげで、明日も頑張れそう」

天「あぁ、おやすみ••••••」

 

そして無意識のうちに、俺の意識は完全に途絶えていた。




足トレの日だったので鍛えました。ふくらはぎ逝きそうです()


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不真面目生徒はやる事が違うね

お気に入り減りスギィ!これは草ですわ嘘です泣きそうですハイ()まぁぶっちゃけこういう重たいのはあと少ししかないから許してちょんまげ。


朝、目が覚める頃には月はベッドから出ていた。多少心配でもあったので、すぐに身体を起こして一階に降りる。

 

月「あっ、お兄ちゃん。おはよう」

天「ん、おはよう」

 

短い挨拶を交わして、既に完成されている朝食にありついた。

 

天「昨日も話したが、研究所に行くからな」

月「うん、わかってる。何処で待ってればいいかな?」

天「事務所まで来てくれ。仕事が終わり次第行こう」

月「はーい!」

 

昨日に比べて、月は元気そのものだった。恐らく俺を心配させない為のものだろうが、今はそう振る舞って貰う方が気持ち的にも楽だ。

 

月「•••••••••」

天「どうした?」

月「昨日よりもハッキリお兄ちゃんの考えている事がわかる•••」

天「ほぉ。例えば?」

月「さっきからずっと研究の事ばかり考えてる」

天「バレバレだな•••」

 

月の言う通り、俺は起きてからずっとどう魂を解明するかについてしか考えていない。しばらくは学業は捨てて研究に打ち込むか•••。

 

月「それは構わないけど、赤点は許さないよ」

天「アッハイ」

 

どこまでもこの妹は真面目だった。

 

学校に着いても、俺は何処か上の空だった。考えても考えても頭の中は研究と妹のことばかり。冷静に考えてみればただのシスコンで気持ち悪いもいいとこだ。

まぁ、今はこっちに集中しないといけないから仕方のない事なんだけども。授業に意識を向けなくていい口実ができるのだからいいものだ。

 

天「•••••••••」

 

実際今も、授業を受けるフリをして魂についての論文を見ているところだ。何か手掛かりになる仮説がないか探しているが、中々めぼしいものが見つからない。

 

世界史教師「えぇ•••じゃあこの出来事を•••神山、答えてみろ」

天「わかりません」

世界史教師「いやわかりませんって•••すぐにわかる問題だぞ?」

 

教師にそう指摘されて、俺は苛立ちながら画面を授業のものに切り替える。あ、これか。

 

天「ノルマントン号事件」

世界史教師「はい正解」

 

後は俺に指名が回ってくる事はまずないので、また画面を論文に変えた。そして注意深く目を通して行く。

 

天「(魂を視認できるメガネでもできればいいんだけどな••••••)」

 

俺はそんな現実味のない妄想をする。そんなもの、作れるものならとっくに作られているだろう。ただの淡い希望に過ぎない。俺は周りにバレないようにため息を吐いた。

 

昼休みになり、咲姫がいつものようにこちらにやってきた。パソコンを見ながらでもいいか、と訊いたが、彼女は快く頷いた。心優しい奴で、心底安心する。

 

ノア「天くん、いる?」

天「ノアさん?」

 

論文に移っていた視線が、ノアさんへと移る。突然の人物の来訪に、俺は多少の困惑を抱いた。

 

天「どうかしましたか?」

ノア「一緒にお昼でもどうかな、と思って。咲姫ちゃんもいいかな?」

咲姫「うん、もちろん」

 

咲姫は頷く。俺も断る理由はないので、静かに頷いてすぐにパソコンに目線を戻す。

 

ノア「何見てるの?」

 

ノアさんが俺の後ろに回って、パソコンを見た。絵など一切ない、小難しい文がつらつらと並んでいるだけのものを見て、すぐに彼女は察した顔になった。

 

ノア「また論文?また研究に再燃したの?」

天「そんなところです」

 

本当は魂の存在証明の為に読み漁っているなんて微塵も思ってないだろうな、この人は。

 

咲姫「これ、何が書いてあるの•••?」

天「魂の原理の仮説」

 

魂とはどういう存在で、どういった現象をもたらすのかを事細かに説明しているものだ。

これはあくまで魂の存在を再確認をしているに過ぎない。実際の課題は魂が身体の何処にあるかを探し当てる事であって、存在自体は既に研究者内で明らかになっている。

 

ノア「そんなの見ながらご飯食べなくてもいいでしょ?」

天「••••••そうですね」

 

俺はパソコンを閉じて、食事に集中する。やけに周りが静かな気がするのは俺の気のせいだと思いたいが。

 

ノア「肉ばっかりだね•••」

 

ノアさんが俺の弁当箱の中身を見て、少し引き気味に言葉を漏らした。

 

天「身体の筋肉を維持する為ですよ」

ノア「へぇ•••?どれどれ•••」

 

試しにと、俺の腕に彼女の手が触れる。撫でるように動いていき、胸や腹にもその手がやってくる。

 

ノア「すごーい。身体カチカチだ」

天「鍛えてますから。それとノアさん、なんか触り方エロいんですけど」

ノア「エロッ!?」

 

率直な感想を無感情に述べたが、ノアさんは大いに反応を示して立ち上がった。周りの視線が俺たちに集中する。彼女の顔は羞恥に負けて真っ赤に染まっていた。

 

ノア「い、いきなりなんて事言うの!?」

天「ただ単にそう思っただけですよ」

咲姫「神山の血•••?」

 

咲姫が首を傾げたが、あながち間違っていないのがなんとも言えない。実際神山家は母さんを除いてみんなこんな感じだからだ。俺もあまり面には出さないとはいえ、結構そういう事も簡単に言う。

 

ノア「そういえば月ちゃんがあんな感じだったね••••••」

 

ある意味一番重症なのは月だろうな。あの中で問題発言が多発しているのは主に月だからだ。

 

天「ごちそうさま」

ノア「しかも早い•••あの量そんなすぐに平げられないでしょ普通•••」

 

叫んだり呆れたり、今日のノアさんの感情は大忙しだ。いつも昼食を共にしている咲姫からすればいつも通りの光景なので、彼女は涼しい顔をしていた。

 

学校が終われば、俺はすぐに教室を飛び出して事務所へ向かって走った。事務所までの距離は、うちの学校より月の中学校の方が近い。もしかしたら月が一足早く行ってる可能性があるので、俺は急いで向かう。

 

月「あ、お兄ちゃん来た来た」

 

月が事務所の側で座って待っていた。俺に気がつくと、小さな動作で手を振る。

 

天「待たせた。とりあえず仕事部屋に行こう」

月「はーい!」

 

後ろをついてくる月が、なんだか小さい子犬のように見えた。

 

仕事を終えると、俺と月はすぐに荷物を抱えて事務所を後にしようとする。ドアを開けて、さっさと出ようと思ったがーー、

 

ノア「あれ?天くんもう帰るの?それに月ちゃんも•••」

 

ちょうど休憩中だったのか、ノアさんがこちらにやってきていた。そして帰ろうとしていた現場を見事に見られてしまう。

 

天「え、えぇ。今から寄る所がありますので••••••」

月「••••••••••••」

 

眉をひくつかせながら、俺は必死に言い訳を考えてそれを口に出すが、月は終始黙ったままで、ノアさんの方をじーっと見つめている。

 

月「ねぇお兄ちゃん。ノアさんも連れて行けない?」

ノア「えっ?ど、何処に•••?」

天「なんでやねん」

 

突拍子もない月から要望を突きつけられ、俺はらしくない言葉遣いをしてしまう。しかもその対象のノアさんは困惑してしまっているではないか。

 

月「ノアさん、お兄ちゃんの事気になってますよね?」

ノア「えっ!?」

 

ノアさんの顔が一気に赤くなった。月はニヤニヤしていて、心底意地悪かった。

 

天「こら」

月「いったい!」

 

月の頭を叩く。妹は頭を抱えてうずくまった。

 

月「いきなり何するのさ!?」

天「こんなつまらんことに力を使うな」

月「•••ごめんなさい」

天「ほら、早く行くぞ」

 

月の手を引いて立ち去ろうとしたが、

 

ノア「待って!」

 

ノアさんの声が響いた。俺は振り向く。

 

ノア「私も、連れて行って」

天「•••••••••はぁ、わかりました」

 

ノアさんの目を見て、これは引かないな、と察しがついてしまった。俺は渋々頷いて、ノアさんを研究所へ連れて行く事にした。その旨のメールを神無月に送ったが、見事に彼は嫌そうな返信を返してきた。




感想評価オッスお願いしまーす。というか新しい靴踏み込みの衝撃モロにきすぎやろ•••また足の骨割れてまうやん。


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あっ、手掛かり見っけ。いただきま〜す

やーっと五日間終わったよ。もうヘトヘトやで。来週乗り切れば冬休みやー、遊びまくるでー!


タクシーを手配して、研究所近くまで乗せて行ってもらう。その間に、俺は神無月とメールでやり取りをしていた。

 

天『もうそろそろ着くと思う』

陽太『わかった。後、一つ報告がある。第二研究室がぶっ壊れた』

天「(いや、何したら壊れんだよ••••••)」

 

俺は呆れてしまった。魂の研究でそんな壊れるような危なっかしい事はしないはずだ。また何か別の事に手出してるのかこいつは。

 

ドライバー「お兄さんたちも物好きだねぇ。あんな所に行こうとするんだから」

天「そんなにおかしいですか?」

 

運ちゃんから苦笑混じりの声を向けられて、俺は首を傾げた。

 

ドライバー「あそこの研究所、深夜になっても明かりがついているらしくて、何か黒魔術的な実験でもしてるんじゃないかって近所では噂になってるよ」

天「黒魔術ねぇ•••まぁ、研究内容はぶっちゃけそんな感じですよ」

 

俺は肩をすくめる。未だ解明されていない部分をずっと求めて研究しているのだから、そりゃ夜遅くまで没頭するわな。俺はもう引退したけど。

 

しばらく運ちゃんと会話していたら、タクシーが停止した。恐らく目的地に着いたのだろう。

料金を支払って、俺たちは車を降りる。月とノアさんは研究所を見上げて、驚いていた。

 

月「わーおっきい•••」

ノア「うちの学校程じゃないけど大きいね•••」

天「早くいきますよ。あんまり時間掛けていられませんから」

 

二人は頷くと、俺の後ろをついてくる。中に入れば、装飾のカケラもない真っ白な空間が広がった。本当に何もないから気が狂いそうである。

神無月がいつもいる所、まぁ第一研究室と言えばいいか、そこに入る。椅子に座った状態で、彼は振り向いた。

 

陽太「本当に無関係の人間を連れてきたのか•••」

 

開口一番がノアさんに対する愚痴だった。俺は少し苛立ちを覚えたが、全くの事実なので強くいえない。

 

天「昨日言った通り、妹を連れてきた」

陽太「OK。じゃ、今からこの子の能力の確認を行う」

 

神無月は何やら器具を取り出して月の頭に装着した。

 

月「何ですか?これ」

陽太「脳波を計測して色々調べるものだよ。痛くはないから安心していいよ」

 

相手は小さな女の子なので、神無月の口調は優しかった。俺も確認の為、神無月の隣に移る。

 

ノア「えっと、私はどうすれば•••」

 

現状の理解が追いついていないノアさんが、困惑気味に言葉を発する。俺は頭をポリポリと掻いて、こちらに手招きする。ノアさんはちゃんとついてきた。

 

天「後で話し合いをしますので、その際に何でもいいので意見を出してくれれば」

ノア「う、うん。わかった•••」

陽太「こんな素人相手に何か言わせて大丈夫なのか?」

天「ノア先輩、知識が相当豊富だからな。何か俺たちにはない提案とかを出してくれるだろう」

ノア「信頼してくれてるのは嬉しいけど、プレッシャーがすごい•••」

 

そんなに気張らなくてもいいのだが、と俺は苦笑してしまう。

 

陽太「キミ、脳と魂を接続してくれないか?」

月「は、はいっ!」

 

ある程度の計測が終わったようで、神無月は月にオーバーロードを発動するよう求めた。月は驚きながらも承諾し、魂に繋いだ。

 

月「••••••ッ!」

陽太「ブレが凄まじいな•••お前程ではないが、かなり危険なものを有しているかもな」

 

画面を見てみると、休みなく波形が大きく波打っていた。恐らく能力の発現と同時に、脳の処理が大きく進んでいるのだろう。

 

天「しかし妙だな•••ブレが一定すぎる•••」

 

オーバーロードによる脳波の揺れは、不安定なものでしかない。月のように、一定の動きでブレるものはまずお目にかかれないだろう。その珍しさに、俺と神無月は首を傾げた。

 

陽太「まぁいい。まずは能力の確認だ」

 

ブレと月を見ながら神無月はパソコンを操作していく。様々な範囲から情報を絞り上げ、能力の情報を構築していく。

 

陽太「•••••••••!これは•••」

天「何かあったか?」

 

俺が問うと、神無月はやけに嬉しそうに振り向いた。

 

陽太「もしかしたら、魂の存在を証明するのに大きく役立ってくれそうだ•••!」

 

興奮気味に神無月が俺に顔を近づける。俺はびっくりして後ずさる。

 

天「と、とりあえず、早く結果言え。後近い•••」

陽太「あ、悪い•••。んで結果だが•••見事にお前の推測通りだった。相手の思考、記憶、未来を読む力•••随分とえげつないものを持ってるな、神山兄妹は」

ノア「え?な、何の話•••?」

陽太「こっちの話だ、あんまり聞かなくていい」

天「んで、何か見えそうか?」

陽太「とりあえずは•••その子の能力を使って魂の存在を証明するかとしか•••」

天「でもそれだと迫害厨の奴らに追われるからなぁ•••」

ノア「魂って結構嫌われてるの•••?」

 

ノアさんが疑問をぶつけた。俺と神無月は目を合わせて、小さく噴き出した。

 

天「えぇw中には魂を危険視している人がwぶふっw、い、いますからww」

陽太「それで魂の研究を否定する奴らも出てきている。まぁ面倒な連中だ」

ノア「天くん笑い過ぎ」

 

少しムッとした顔を俺に向けるノアさん。それによって笑いが急激に収まったが、心の中ではまだ笑っていた。

 

天「なんかいい案ねぇかな•••」

ノア「月ちゃんの力を共有とかってできるかな?」

陽太「共有••••••それだ!」

 

机をバンッ!と勢いよく叩いて、神無月が身を乗り出した。

 

陽太「俺の能力はオーバーロードのコピーだ。俺の力を使ってこの子の能力を何かに移す。そうすれば証明に大きく近づける!」

 

神無月はウキウキした顔をしていた。早速魂に接続して、月の能力をコピーした。

 

陽太「あくまで俺の仮説だが、お前の妹の力は他人の魂を見て思考や記憶を読んでいるんだと思う。これを何かしらの視認用の器具に移せれば、誰でも魂を見る事ができる。存在の証明ができるんだ」

天「頭の回るやつだな。それで、移したりとかはどんぐらいかかりそうなんだ?」

陽太「少なくとも秋か冬まではかかるな。まぁ、ゆったりと進める事にする。時間はたっぷりあるからな。それにしても、お手柄だ!」

 

俺の肩をバンバン叩いて、彼は笑う。が、彼の顔は一気に真顔へと急変した。

 

陽太「お前、身体大丈夫なのか?」

 

こいつが言っているのは、恐らく身体が反応して暴走していない事に対する疑問だろう。俺は肩をすくめてみせた。

 

天「何度も触られる内に、慣れちまったっぽい」

陽太「••••••いや、それだけじゃないな。魂の強化•••?それとも成長というべきか•••また新しい課題ができちまったよ」

天「多少は落ち着いたんなら学業に復帰したらどうだ?」

陽太「•••••••••それもそうだな。お前のいる所でいいか?」

天「•••お前今何年生だっけ」

 

こいつとの付き合いがしばらくなかったので、正直年齢すら覚えていない。神無月は、腰に拳を当ててその平な胸を張る。

 

陽太「NINEN!!だ」

月「その動作いらないですよね」

 

月からの的確なツッコミが、神無月の心を傷つけた。本人はただふざけただけなのだろうが、マジレスされるのは嫌だった模様。

 

天「じゃあノアさんと同じ学年だな」

陽太「•••この人と一緒かぁ」

ノア「むっ。何か文句でも?」

陽太「いや、見るからにお堅いからなぁ」

天「お前も人のこと言えないけどな。後、多少仲良くなってわかったけど、この人堅さのカケラもないから」

陽太「うせやろ?」

 

神無月は更に疑いの目をノアさんに向ける。じっと見つめられるのが気に入らなかったのか、彼女は俺の後ろに隠れた。

 

天「••••••大丈夫か、これ」

月「少なくとも、仲良くなる未来は見えないね」

 

俺は心配になるが、月はこの先の展開を見た所為か、達観していた。




さて、筋トレしてきますか•••


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転入生イベントは王道だから帰れ

今日の朝デカ盛りペヤング食べました。余裕すぎておにぎり一個追加で食べましたwクソ美味かったです。


女子生徒A「ねぇねぇ聞いた?今日から二年生に相当頭のいいイケメンが来るらしいよ!」

女子生徒B「えぇ?どこで聞いたの?それ」

女子生徒A「さっき職員室を覗いたら、先生たちがそんな話をしてたんだよー!」

 

今朝の教室内は、やけにざわついていた。なんでも転入生がやってくる事に、みんなが楽しげに騒いでいるらしい。

 

天「(まぁ、考えなくても•••あいつだよな)」

 

大方、というより確実に神無月の事だろう。確かにあいつ、顔はいいもんな。机の上で頬杖をつきながら、俺は外の景色を眺めていた。よく知ってる人物の噂話を聞かされても、面白くもなんともなかったからだ。

 

咲姫「転入生がくるって•••」

天「聞いてる。さっきからあそこでうるさいくらいに聞こえてるからな」

 

いつも通り咲姫が俺に話しかけてきたが、当の俺は特に会話をしたい気分でもなかった。昨日の問題がようやく解決の兆しが見えた事によって、安心していても疲れの方が大きかった。

 

咲姫「あまり興味ない•••?」

天「興味も何も、よく知ってる奴だからな」

咲姫「そうなの•••?」

天「あぁ。もう何年もの付き合いになる」

 

頬杖をつくのをやめて、俺は姿勢を正して咲姫の方へ身体を向けていた。

 

天「あいつがここに来る事は昨日から伝えられてたんだが••••••まさかその翌日に転入とは思わなんだ」

 

そこが一番のビックリポイントである。手続きとかそんな一日、というより一晩で終わるわけがないのに一体どんな細工をしたんだと単純な興味をそそられた。

 

咲姫「なんでも、すごい研究者だからって理由で全部飛ばしたらしい•••」

天「そういやあいつ、色々特許をもっていたな••••••」

 

高校にも行かず研究を続けられてるのも、特許によってお金を得ているからだ。というかその特許があるので、将来何もしなくても暮らしていけるだろう。

 

咲姫「後、昨日ノアさんが知らないうちに帰ってたんだけど、どうしてか知らない?」

天「あぁ、それ俺がノアさんを引きずり回したんだわ。悪かったな」

咲姫「もしかして•••デートっ?」

 

やや興奮気味な咲姫。俺は苦笑して首を横に振った。

 

天「その今日くる転入生の所に妹と一緒に行っただけだ。ちょっとした野暮用で」

 

詳しく言うつもりはないし、昨日あったことは全て秘匿事項だ。無闇に面に出すものでは決してない。

咲姫が何か言おうと口を開いたが、それを遮るように教室の扉が音を立てて開いた。

 

教師「席つけー。ホームルーム始めるぞー」

咲姫「じゃあ、また後で」

天「あぁ」

 

咲姫は小走りで自分の席へと戻っていった。俺はそれを眺めた後に、教師の方へと身体と顔を向けた。そして退屈な話を聞く気にもなれず、すぐに窓へと視線が泳いだ。

 

昼休みになれば、いつものように咲姫がこちらへと弁当を持ってやって来た。机をくっつけて弁当箱を開こうとしたが、とある声によってそれは遮られた。

 

ノア「天くんっ!」

 

焦った様子のノアさんの声が俺の耳をつんざく。うるせぇ。

 

天「•••どうかしましたか?」

陽太「よっ」

 

ノアさんの隣から、ひょこっと神無月が出てきた。あぁ、なるほど。大体わかった()。

 

天「二人一緒にどうぞ」

陽太「あぁ、悪いな」

ノア「天くんと咲姫ちゃんと私の三人で食べたかったのに••••••」

 

それはあんたの私欲だろうに。俺は心の中で呆れる。いや、表情に多少出ていたかもしれない。

 

陽太「にしても、お前ら兄妹は本当によくやってくれたよ。やる事バカ増えた」

天「そりゃどうも。でも今までみたいに先の見えない事するよりはマシだろ?」

陽太「そりゃなぁ。おかげで精神的にも余裕を持てるようになったのも大きいな。色々捗る」

咲姫「••••••何の話?」

ノア「咲姫ちゃんには関係ないお話」

 

事情を知っているノアさんは咲姫のカバーにまわっていた。そして、周りの視線に気がつく。そういやこいつ転入生で注目集まってんだった。

 

陽太「ところで、なんでこんなに見られてんの俺ら」

ノア「一番の要因がそれ言う•••?」

天「そもそもこのメンツ自体が多少珍しいですけどね」

 

この教室にわざわざ二年生が来てる事自体が珍しいまである。神無月は周りの目線を気にしながら飯を食べていたので、かなり居心地が悪そうだった。

 

天「•••場所変えるか?」

陽太「いや、いい。今更めんどくさいだろ?それに、福島の思考が面白くてな。退屈しない」

ノア「何勝手に見てるの!?」

 

そんなこと大々的に言うなよ。ノアさんドン引きしてんじゃねぇか。でも興味は大いにあったので、

 

天「何が見える?」

 

と、好奇心に負けて訊いてしまった。

 

ノア「ちょっ、天くんっ」

陽太「大体が可愛いものについてばっかりだな。あーでも、半分くらいはお前の事考えてるっぽい」

天「は?俺?何でや」

陽太「え?わかんないの••••••?こいつマジか(ボソッ)」

 

ボソりと神無月が何か言っていたが、全く聞き取れなかった。チラりとノアさんに目を向けると、彼女は見事に顔を真っ赤に染めて俯いていた。可愛いけど面白かった。

 

ノア「どうして訊いたの••••••」

天「普段何考えているのか純粋に気になったので」

咲姫「怖いもの知らず••••••」

 

咲姫も小声で何か言っていた。神無月は頭を抱えていて、ため息を吐いている。ただ一人俺だけが、状況についていけてない光景ができあがっていた。

 

学校が終わると、女子連中が一斉に教室を飛び出していった。何事かと思ってついていったら、神無月が囲まれていた。ぎゃん受ける。

 

陽太「そ、天、助けて•••」

天「しばらく遊ばれてろwww俺は仕事あるからwwwじゃあなwww」

陽太「ふざっけんなお前!明日ぶっ殺す!」

天「やれるもんならやってみいや。はっはー!」

 

とりあえずふざけにふざけまくって俺はその場から走って退散した。ちなみに明日は休日である。ざまぁみさらせぇ!

 

ノア「もう、遊び過ぎだよ天くん」

 

ノアさんに捕まって、俺の笑みは一瞬で消えた。先程のふざけた笑いこそ消えたが、すぐに微笑へと切り替わる。

 

天「まぁ、あいつとはそういう関係ですから。心配だったんですよ。学校にも行かずに研究に没頭していて、人生を壊してしまうんじゃないかって」

ノア「そう•••私は彼の事気に入らないけど」

天「でしょうね。神無月もあまり仲良くする気もないっぽいですし」

ノア「もし私が彼と同じ分野の研究者になるっていうなら、仕方なく教えてもらおうとは思ってます」

天「やめといた方がいいですよ。あいつ教えるのクソ下手ですから。大体教えるのは俺がやってましたよ」

 

俺は苦笑混じりに自慢気に話す。ノアさんは少し驚きながらも、笑っていた。

 

ノア「そうなんだ。今度教えて貰おうかな?」

天「そんな知識知っても将来必要ないですよ。もっと有意義な事に脳を使ってください」

ノア「お堅いなぁ」

天「あいつよりはマシですよ」

ノア「ね、天くん」

天「はい、何ですか?」

 

下駄箱から靴を取り出して、もう校門を抜けようとしていた所だった。そこでノアさんは立ち止まって、俺を呼び止めた。

 

ノア「好きだよ」

天「•••••••••••」

 

突然の告白に、俺の頭はフリーズした。唐突過ぎて、完全に固まってしまっている。

 

天「••••••あの」

ノア「は、はいっ!」

 

それはノアさんも同じようで、カチカチになっていた。俺はノアさんの前まで歩み寄る。それに合わせて、彼女は目を閉じた。手を伸ばして彼女の頬に触れてーー、

 

ノア「いたっ!?」

 

引っ張った。俺の顔は笑顔だったが、内側はキレていた。

 

天「こんな人がたくさんいる中でしますか?普通?ねぇ?」

ノア「痛い、痛いよ•••」

天「全く•••」

 

手を離すと、ノアさんは痛そうに自身の頬を押さえていた。

 

ノア「急に暴力だなんて•••」

天「•••俺も好きですよ」

ノア「えっ•••」

 

彼女が勇気を出して言ってくれたんだ。俺もちゃんも返さないといけない。

 

ノア「本当•••?」

天「はい。ノアさんの事、好きですよ」

ノア「〜〜〜•••!」

 

ノアさんは嬉しそうに、というかほとんど泣いてるような気がするが、俺に抱きついた。いやだから周りに人いるぢゃん•••。

 

天「•••とりあえず、事務所にいきましょうか」

ノア「•••うん」

 

離れたノアさんは、俺に手を差し出す。それですぐに察しがついた俺は、その手を握って二人で歩き出した。

 

陽太「••••••ありゃ、意外と早かったな。ま、いいか。愛は人を強くするって言うし、今後の天に期待するかね」

女子生徒A「連絡先教えてくださーい!」

陽太「しつけえぇぇぇ!!」

 

二年生の一つの教室内は、過去一番の大騒ぎとなっていた。その光景を直に見たかったが、今はノアさんの事で頭がいっぱいだった。




筋トレしないとなーめんどくっさ。後ノア√もまた書かないと


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眠気と戦うマン(今回限り)

クリスマス会しまして、AirPods Proをもらいましたwアホみたいに使い勝手よくてビビってます。そして昼に飯食いすぎて今この投稿までダウンしてましたw


天「••••••あ?もう朝か••••••」

 

万年筆を動かす手を止めて、俺はカーテンを開ける。朝日を身体全体で浴びると、一気に疲れと眠気が襲いかかってくる。

 

天「ねっむ••••••残業している社会人はバケモノしかいねぇのか••••••」

 

朝早くから出勤して日が越えるまで残業しているサラリーマンの身体はどうなっているのか、純粋に気になる。脳とか見てみたい。

 

天「•••あー•••少しでもいいから寝てぇ•••」

 

残っていた、というより今日明日の分の仕事を終わらせていたので、日が跨ぐのは仕方がなかった。何せ今日はライブの交渉。明日あるライブの設営などで、こう言った地味な作業ができないからだ。

 

月「お兄ちゃん起きてるー?ってクマすっご!?どうしたの!?」

天「仕事してた」

月「えぇ••••••?あんまり無茶しないでね?というか今日ライブの件の相談とかあるんでしょ?せめてクマはどうにかしようよ」

天「現場に行くまで時間はあるから、事務所の方で仮眠でも取らせてもらう」

月「ここで寝てもいいんだよ?」

 

月がそう提案したが、俺は首を横に振った。

 

天「ここで寝るよりも、あっちで寝たほうが寝坊しなくていい」

月「あそこベッドとかないよね•••?」

天「本当は嫌だが床寝で我慢する」

 

もしくは仕事部屋で椅子に座ったまま寝るか。最低限ソファでもどっかにあればいいのだが•••応接室を借りてあそこで寝るという手もある。

 

月「何処で寝るかは勝手だけど、早く朝ご飯食べちゃって。すぐ片付けて遊びにいきたいから」

天「ん」

 

フラフラと揺れながら俺は階段を降りる。視界はぼんやりとしていて、今にも眠ってしまいそうだった。

 

月「本当に大丈夫?一回寝た方が•••」

天「大丈夫だ、大丈夫。寝れば収まるから」

月「信用できない件について」

 

妹からジト目をむけられるが、俺は気にしない。黙々と朝食を食べながら、眠気と戦い続けた。

 

眠たい状態のままスーツに着替えて、おぼつかない足取りで家を出る。日光を浴びても、ただ眩しいだけで眠気が覚めることなどなかった。

 

天「おっとと•••ねみぃ」

 

眠たい、マジで眠たい。もう地べたでいいからさっさと寝たいよ。

 

通行人「兄ちゃん、姉ちゃん•••?どっちかわかんねぇや。大丈夫かい?」

天「大丈夫です。昨日仕事で寝てないだけで•••」

通行人「その若さで仕事で働き詰めかぁ•••嫌な世の中になったもんだねぇ」

 

なんか誤解されてるけど一々説明するのもダルいので、俺は軽く会釈して通り過ぎた。やけに事務所までの道が長く感じるが、気の所為だと思いたい。

 

天「ふああぁぁぁ••••••にしてもなぁ•••こんな調子で交渉とかやってられねぇよ••••••」

 

脱力感も相まってか、俺の脳内はめんどくさいモードへと突入していた。

 

天「•••チッ」

 

そして徐々にイライラし始めていた。自然と目つきも鋭くなり、周りを睨むように歩いていた。

ようやく事務所に到着すると、Photon Maidenの面々は誰一人として来ていなかった。今日は仕事部屋を使う気はないので、レッスン部屋にお邪魔する。

 

天「•••あっ」

 

足がもつれて、前にぶっ倒れる。

 

天「いてて•••あーくそ。この時期の床は冷たくて気持ちいいな••••••」

 

うつ伏せから仰向けになり、俺は天井を見つめる。自然と瞼が重くなっていき、俺の意識は途絶えた。

 

感覚が現実へと引っ張られていく内に、後頭部に感じる柔らかさに気がつく。何に触れているのかと、目を開ければ、目の前にはノアさんの顔があった。

 

ノア「あ、起きた?こんなところで寝てるからビックリしたよ」

天「••••••もう一回寝るか」

 

恐らくノアさんに膝枕をされている状態なので、俺はもう一度目を閉じた。

 

ノア「ダメだよ。今日は大事な仕事があるんだから」

天「まだ眠いです」

ノア「昨日何時まで起きてたの•••?クマすごいよ?」

天「寝てないですよ。今日明日の仕事片付けてたんですから」

ノア「無理し過ぎ•••。そんなに頑張らなくてもいいのに」

 

そっとノアさんが俺の頭を撫でた。小さくて冷たい手が心地良い。だがその所為で余計に眠気を誘われた。

 

ノア「また寝そうになってる。なんだか小さな子供みたい」

天「失礼ですね。•••よっと」

 

ガキ扱いされたのが少し気に入らなかったので、俺は身体を起こした。首を曲げると、ゴキゴキと骨が大きく鳴った。

 

天「あぁ、そうでした。ノアさん、仕事終わったらここに戻りますので、帰りにご飯食べにいきませんか?」

ノア「わかった。何処に行くか決めてもらってもいい?」

天「•••••••••ファミレスでいいですか?」

ノア「あの時のドカ食いはやめてね••••••」

天「俺の空腹次第ですね」

 

俺は微笑む。ノアさんもクスクスと笑っている様子で、可愛らしかった。立ち上がって、俺は身だしなみを整える。

 

天「それじゃ、行ってきます」

ノア「うん、行ってらっしゃい。気をつけてね」

 

ノアさんに見送られながら、俺は事務所を後にした。今思えば、さっきのやり取りがなんだか新婚夫婦みたいで少し気恥ずかしかった。

 

ライブの日程も決まって、俺はダッシュで次の現場へと向かっていた。

 

天「えっと、11時•••!現場まで後十分で着くが、設営どんぐらいかかるんだ•••!」

 

走りながら時計を見て時間を確認する。予定通りに進めば12時前には終わることができるが、現実的に考えてそう上手く行くとは到底思えなかった。

現場に着いたは着いたが、作業はそこまで進んでいる様子はなく、誰もが疲れ果てていた。

 

天「神山、到着しました!今どうなっていますか!」

スタッフA「えっと、アンプとか大きい楽器とか、まだ運び終わっtーー」

天「了解しました!」

 

俺はスタッフさんの言葉をかき消してすぐに走り出す。

 

スタッフA「••••••やっぱり仕事早いなあの人は••••••」

 

ドデカイアンプを抱えて走り、ステージに少々乱暴気味に置く。ゴトンッ、と鈍い音が鳴ったが、その程度で壊れるタマではないので放っておいた。楽器も、すぐに設置できるようにステージ脇に置く。

 

スタッフB「神山さんが来てくれたおかげで作業がすごく捗るよ、ありがとナス!」

天「いえ、これが仕事ですから」

 

俺は汗を腕で拭いながら小さく息を吐く。チラリと目を向けると、まだやる事が多そうだ。だが、証明の調整や音響の管理など、俺にはわからない事なので必然と手持ち無沙汰になってしまう。

 

スタッフB「後は専門の人しか仕事が残ってないっぽいので、神山さんは上がっても大丈夫ですよ」

天「では、お言葉に甘えて」

 

すぐに走り出す。時間は11時40分を指しており、今から全力ダッシュで事務所に着くのは30分後くらいになりそうだ。10分くらいの遅れならノアさんは許してくれるだろう。そうだろう。俺はそう確信して心に余裕を持ったまま走り続けた。

 

事務所に到着して、俺は荒く息を吐きながらレッスン部屋に凸る。

 

天「あ゛ー!つっかれたー!」

乙和「うわぁ!ビックリしたぁ!」

 

ぜーはー言いながら勢いよく俺が出てきたもんだから、乙和さんは飛び上がった。そこにすかさずノアさんがペットボトルを持ってきてくれる。

 

ノア「はいお水。お疲れ様」

天「ありがとうございます」

 

キャップを開けて胃の中に水を流し込む。全力疾走した後のカラカラの喉が潤っていく。

 

天「ぷはぁ!生き返った!」

衣舞紀「ちょっとおっさん臭いぞー」

天「どうせ生きてたらおっさんになるんですよ、それが早くなっただけです」

咲姫「理屈的••••••」

 

咲姫から苦笑を向けられた。今更になって見てみれば、全員レッスンは終わっているようだった。

 

ノア「ご飯、行くんでしょ?」

天「えぇ。行きましょうか」

衣舞紀「おやおや〜?デートかな?」

天「うるさいですね••••••」

 

仕事疲れからか不幸にも衣舞紀さんに苛立ちを向ける俺氏。クソ最低だった。

 

ノア「ほら、行くよ」

天「あぁはいはい」

 

ノアさんに手を引かれて、俺はそのまま事務所を出る。ちなみにファミレスでは普通にご飯を食べました。美味しかったです(小並感)。




筋トレ?しないしないしないそんなの。だってそんなの今週六日間やってるじゃん。一日くらい休みを入れたって筋肉が減ったりしませーん!www


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気まずい日の登校は怖いよね(経験談)

ディスユニ早く届いて!?もうすぐ七時になるんだけど!?早くしてくれないと我慢が限界突破してケロロ軍曹の映画見ちゃうよ!?ねぇ!?


ライブは無事に成功した。そもそも俺はライブ当日に会場には来ていない。理由は疲れに疲れまくって日曜日に動けなかったからだ。風邪の次は過労とか情けなさすぎて泣けるぜ。学校を休む事にならなかったのが、何より幸いだった。

 

月「んで、そんなバカやらかしてみんなに顔向けできるの?」

天「知らん」

 

朝飯の席はかなり冷えていた。月が睨みつけながらご飯を口に運んでいる。

 

天「別に俺があっちに行ってもやる事ないからな。行こうが行かまいがどうでもいい」

月「とりあえず言っておくけど、ノアさんに怒られても知らないよ?」

天「•••••••••かっくじつにダルいな」

 

付き合ってからのノアさんはかなり俺に対して過保護になったというか、何かと心配するようになっていた。昨日もライブが終わってから、滅茶苦茶連絡が来ていてクソビビった。

 

天「正直なんて言われるかわからんわ•••」

月「さーてどうだろうねー。命の保証はないかもしれないよー?」

天「さらっと怖いことを言うなよ」

 

ごく自然な流れでそんな事を言うもんだから警戒してしまう。実際はそこまで酷い事になるとは思わないが、一応注意だけはしておこう。

 

月「後、これは私からの純粋な質問だけどね」

天「ん、なんだ?」

月「キスってもうしたの?」

天「まだ」

 

月からの問いに、俺は無表情で答えた。妹は『やっぱり』と言いた気な顔をしている。悪かったな遅くて。

 

月「お兄ちゃんヘタレすぎませんか?」

天「いや、まだ付き合ってちょっとしか経ってないんだが••••••」

月「時間なんて関係ないよ!どれだけ愛が深いかが重要なのです!そういうわけだから早くキスでもセックスでもしちゃいなよ!」

天「こんな早い段階でセックスとか身体目的と思われそうで嫌だ」

月「あ、それは一理あるかも。でも•••おやおや〜?随分とノアさんを大切にしていらっしゃるようで〜?」

天「うぜぇな殺すぞ」

月「野蛮人!やっぱりお父さんの息子だ!」

 

殺意マシマシで月を睨みつけると、やけにリアクション強めに反応を示した。

 

月「全くもー。ノアさんにそんな態度取ってないよねー?」

天「うちの家族くらいにしかこんな顔しねぇよ」

月「つまり結婚した後はこうなると?」

天「余計な事言わなければよかった•••!」

 

見事に月の掌の上で踊らされてしまった。頭を抱えて机に顔をぶつける。ガンッ、と小気味いい音が鳴り、更に情けなくなる。

 

月「それよりも、早く準備して家出た方がいいと思うよー?時間ないよ」

天「あれ!?ガチじゃねぇか!」

 

時計を見ると、普段家を出る時間の数分前となっていた。俺は急いで飯をかき込んで、準備に勤しんだ。

 

学校に着いて、俺はすぐに自分の席に座った。あんなに焦って登校した癖に時間は全然余裕で、ホームルームまでまだ10分もあった。

 

咲姫「天くん、昨日は大丈夫だった?」

天「一日寝てたらすぐ良くなった。悪かったな、変に心配かけて」

咲姫「ううん、大丈夫。それよりもノアさんがーー」

ノア「天くんいるっ!?」

 

咲姫が何か言いかける前に、教室のドアが爆音と共に開いた。汗だくのノアさんが荒く息を吐きながら立っていた。どういう絵面だこれ。

しかもあの汗塗れの女、こちらに走ってきやがった。なんか嫌な予感がするので、立ち上がって咲姫を避けさせた。

そしてノアさんはそのまま俺に凸ってきた。多分座ってたら衝撃に負けてぶっ倒れていただろう。

 

ノア「昨日すっごく心配したんだから!急に月ちゃんから倒れたって聞いて怖かったんだよ!?」

天「あーはいはいすみませんすみません。この通りちゃんとピンピンしてますよ。後ここ学校内なんで考えてください」

ノア「••••••本当に大丈夫?」

天「えぇ、ちゃんと生きてますよ」

 

そう言うと、ノアさんは離れた。俺は少し安心したように息を吐いて席に着く。

 

天「ライブの方に行けなかったのは申し訳ありません。まぁでも、成功したようで何よりです。次のライブは来月にありますので、そっちも頑張ってください」

ノア「こんな時に仕事の話はしなくていいの!」

 

ノアさんが俺の両頬に触れる。周りが見ている中でこんな真似をされるのは恥ずかしかった。彼女の手を掴んで軽く離す。

 

天「恥ずかしいので、やめてください••••••」

 

少しだが顔が赤くなった。ノアさんと目を合わせるのも気恥ずかしくて、目を逸らす。

 

ノア「カワイイ•••!」

咲姫「今の天くん、可愛い」

女子生徒A「神山くん可愛いよー!」

女子生徒B「声も可愛かったら完全に女子だよね」

天「••••••••••••殺すぞ?」

 

今の俺は、何一つ穢れのない笑顔をしている事だろう。だが殺意だけは溢れに溢れていて、その濃密な気配は教室中に充満していた。

 

ノア「天くん怖いよ•••」

咲姫「笑顔なのに•••怖い•••」

女子生徒A「もしかして人殺したことある•••?」

女子生徒B「怖いなーとづまりしとこ」

 

キャアキャア叫んでいた女子たちの顔が一気に青白くなったところで、俺はいつもの顔に戻す。後ムカついたのでノアさんの頬を引っ張った。

 

ノア「いたたた!な、なに•••!?」

天「あんまり可愛い言うのはやめてくださいね?」

ノア「照れる天くんカワイイn痛い痛い!」

 

言いかけた、というよりほぼ言われたので、更に引っ張る。というかノアさんのほっぺた柔らかいな。びよーんって伸びる。

引っ張るのを一旦やめて、両手で頬を押したり撫でたりする。

 

天「柔らか•••」

ノア「な、何•••?恥ずかしいけど•••」

天「餅みたいで触り心地いいですね、これ」

ノア「も、もう•••恥ずかしいって•••」

 

今度はノアさんが顔を赤くして顔を逸らした。俺は小さく笑いながら彼女の頬を堪能する。

 

陽太「天ー、いるかー?」

天「あ?神無月か、どうした」

 

気怠そうに入ってきたのは神無月陽太だった。頭をボリボリと掻きながら、こちらに歩いてくる。そして、よくわからない瓶を投げてきた。

 

天「なんだこれ」

陽太「アレ抑える薬。もし使う時があったら予め飲んでおけ」

天「本当は使わないのが一番なんだが•••まぁいいや。貰っておく。ありがとな」

 

俺は瓶を鞄の中に入れる。それを確認した神無月は、ポケットに手を突っ込んだ。

 

陽太「そりゃどうも。んで、朝からイチャついてんのか?まぁ予想通りではあったけどな。福島が急に教室を飛び出すのなんて、お前の事以外ありえないしな」

ノア「なんだか言い方が気に入らない•••」

陽太「お前本当に俺の事嫌いだよな」

ノア「だって私の天くんを持って行っちゃいそうだし•••」

陽太「そりゃ俺と天はそういう関係なんだから、しばらく借りたりする日は来る。その時は頼むわ」

天「••••••あの事を話したいが、流石に今は無理だな」

 

周りの目があるので、あまり迂闊な事が言えない。本来なら今の薬だって人知れずに渡されるべき代物だ。どうしてこいつがこんな大胆な行動を取ったのか、理解に苦しんだ。

 

ノア「早く戻らないの?周りの女の子たちにチヤホヤされたいでしょ?」

陽太「女ってみんなあんな感じなのか•••?新島と花巻は普通に接してくれるから助かるが」

天「衣舞紀さんと乙和さんとも仲良くしてるのか、良かったな。二人とも、とてもいい人だから」

陽太「新島からは身体ちゃんと鍛えた方がいいってうるさいけどな•••お前、なんかトレーニングやってるか?」

 

少し嫌々そうな顔で神無月は訊いてくる。俺は顎に手を当てて、最近の事を思い出す。

 

天「色々やっているが、下手に俺に訊くよりもジムのトレーナーに聞いた方がいいと思うぞ」

陽太「そこまで本格的にやる気はねぇよ!」

天「じゃあ衣舞紀さんに訊け。あの人の方がいい意見をくれる」

ノア「精々衣舞紀に厳しい意見をもらうことだね」

天「煽らないであげてください」

 

神無月に対してのノアさんは、ややS色が強かった。まぁあいつもあいつでノアさんとは仲良くやってるっぽいので、なんだか安心した。この調子で他に友達ができる事を、俺は切に願った。




学校後三日じゃあ!冬休み遊ぶぞこんなやろー!w


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やる気スイッチ(殴

今日から裸足で剣道の自主練を開始しました。地面もろ石なんで踏み込むとクソ痛いですwしかも蹴り足の右足は既にボロボロですw


ちなみに授業は大体寝ていた。いかんせんやる気が起きない上に、やたらと頭がボーッとするのだ。オーバーロード側の人間なので昨日脳を疲れさせたのが原因なのか、魂が損傷している可能性もある。少し怖くなったが、その時に例の薬を飲めばいい。今は飲まないが。

昼休みになると、俺はすぐに弁当箱を取り出した。何故だかわからないが、本当に即座にそっちに手が出たのだ。

 

陽太「よっ。来たぞ」

天「どこから来てんのお前」

 

左側を見てみれば、片手に弁当箱を持ちながら教室の窓に捕まっている神無月がいた。お前身体弱いのによくそんなことできるな。

 

陽太「身体の使い方ってのがあるんだよ」

天「しれっと人の思考読んでるが、使って大丈夫なのか?」

 

月から能力をコピーしているので、今の神無月は相手の思考や未来を読む事ができる。そのコピー野郎は肩をすくめた。

 

陽太「お前の能力と違って、あまり負担がかからないからな。にしても、お前の妹は強いな。制御できずに四六時中発動している状態なのに全く疲れた様子がない。かなり興味深いな」

天「制御ができてない•••か。俺よりも月に薬をやった方がいいかもな」

陽太「やめとけ。お前は一秒使うだけでもかなりの負担になる。対してあの子は、恐らく物心がつく前から能力を保持していただろう。気がついたら見えるようになってたらしいな。もう魂がオーバーロードを発動するのに完全に慣れてしまっている」

 

真剣な顔で、まるで睨みつけるように神無月は語った。それに対して俺は、ただ聞くことしかできなかった。もう研究から離れてた所為で、彼の言ってる事についていけていなかった。

 

陽太「っと、そろそろお前の好きな人が来るぞ」

ノア「天くんっ。って、またいる•••」

 

俺の顔を見て明るくなった途端に神無月の顔を視認して暗くなるノアさん。咲姫もタイミングを見計らっていたのか、ノアさんと同時にやってきた。そしていつものメンバーで昼食を摂り始める。

 

陽太「そういえば、出雲だったか。お前も何か変なモノを持っているな•••?」

咲姫「変なモノ•••?もしかして共感覚の事ですか?」

天「••••••まさか、咲姫もか?」

 

共感覚も魂への接続による力かと思って、神無月に目を向けた。が、予想と反して彼は首を横に振った。

 

陽太「どちらかというと異常な体質に近い。目が異常に発達したか、はたまた脳か•••それはわからないが、研究対象にはならないな。興味深くはあるが」

ノア「ちょっと!咲姫ちゃんをモルモットみたいに扱わないで!」

 

ノアさんが咲姫を抱き寄せて神無月を睨んだ。嘲笑にも似た顔で鼻を鳴らしてから、白飯を口の中に含んだ。

 

陽太「んで、福島。お前は彼氏そっちのけで女抱きしめてていいのか?」

ノア「はっ!そうだった!」

天「じゃあ俺も便乗するわ」

 

俺もノアさんにあやかって咲姫を抱きしめる。そして神無月を睨みつけた。

 

陽太「いや、俺は睨まなくていいだろ•••」

天「そうしないと便乗にならんだろうが」

咲姫「あ、あの••••••は、恥ずかしい••••••」

 

悪ノリの効果はあったようで、咲姫が顔を赤くして身をよじった。俺とノアさんはすぐに離れたが、それでもお互いにニヤニヤしながら咲姫を眺めていた。

 

ノア「咲姫ちゃんの次はもちろん私だよね?」

天「え、やだっすよ」

陽太「ブハッwwwwww」

 

真顔で拒否ると、神無月は噴き出して笑い始めた。咲姫も、先程のお返しかはわからないがクスクスと小さく笑っている。

 

ノア「〜〜〜〜〜!!えいっ!」

天「うわっ、っと•••」

 

ノアさんが急に抱きついてきた。衝撃こそ軽かったが、いきなりの事なので体勢を崩しかけてしまう。

 

天「いきなりは危ないですよ」

ノア「だって、あんな事言うから•••」

陽太「あのさ、ここ学校だからあんまり公にイチャつくのは勘弁してもらっていいか?」

咲姫「焚き付けた張本人が言うんですね••••••」

 

多少涙目のノアさんに対する視線は集まりに集まっていた。そして、俺とノアさんが交際している事が、学校中に広まったらしい。ぎゃん受ける。いや受けねぇよ(キレ気味)。

 

授業が終わって事務所に着けば、俺はすぐに仕事部屋に引きこもった。万年筆を走らせて作業を進めながら、パソコンの方も確実に終わらせていく。

 

天「•••••••••あ、やべ」

 

見事に誤字った。修正テープを引いて消してからまた書き直す。少し精神的に落ち着かないのかもしれないな、と感じるが、自分自身そこら辺どうなのかイマイチ理解ができていない。

 

天「はー、またライブどこかに入れるかなー。でも別に何処かデカいハコを抑えられる気もしねぇし」

 

後頭部に両手を当てながら俺は椅子の背に体重を預けた。そしてそのままくるくると回り始める。

 

天「やる気おきねぇー•••」

 

今日はやけに脱力感が残る。何か気分転換になるものを探そうと、俺は椅子から飛び降りて仕事部屋から出る。

 

天「それでまぁ、ここだわな•••」

 

自然とレッスン部屋に足が向いていた。邪魔はしたくないので、中には入らずにドア越しにそっと眺める。

ノアさんがちょうどダンスをしていて、その動きをずっと見ていた。無駄のない丁寧な動きだが、やや思い切りに欠けるというか勢いがないというか。隣に乙和さんがいるのもあって、余計に顕著に見えた。

 

天「••••••頑張るか」

 

彼女が頑張っている姿を見たら、やる気が一気に湧いた。我ながら単純だな、と感じるが、男は元から単純な生き物だ。大きく伸びをしながら仕事部屋に戻って、キーボードを打ち始めた。

 

仕事が終わり、俺はパソコンを落として鞄の中に入れる。メモ帳と万年筆も胸ポケットに差し込んで、部屋を出た。一応確認でレッスン部屋に赴くと、もう終わってるようで、メンバーが談笑していた。待っていたらいずれ出てくるだろうと思い、俺は事務所の外まで歩いた。

 

天「もう六月も終わるが、夜になると多少冷えるなぁ」

 

もうすぐ本格的な暑さがやってくる。そんな時でも、夜は涼しい風を送り続けていた。壁に体重を預けながら、近くの自販機で買ったコーヒーを胃に流し込む。

 

天「にがっ。コーヒーとかいつぶりに飲んだかわからんぞ••••••」

 

久々に味わう苦味は、俺の口には合わなかった様子だ。こんな事なら微糖を頼んでおけば良かったと少し後悔する。

 

ノア「天くん、おまたせ」

 

ひょっこりとノアさんが事務所から出てきた。俺は飲み終わったコーヒーの缶を潰して、ゴミ箱に放り投げた。

 

天「家まで送りますよ」

ノア「えっ、いいの?反対方向なのに」

天「何があるかわかりませんから」

ノア「•••じゃあ、お言葉に甘えて。えへへ」

 

俺の手を握って、ノアさんは歩き出した。俺もそれに続く。

夜の道は全く静かではなく、仕事終わりのサラリーマンだったり、遊び明かしている大学生だったりがいて、かなり騒がしかった。周りの店もバリバリ営業していて、光があちこちで溢れている。

 

ノア「なんだかこうしてると、夜遅くまで遊んでる不良みたいだね」

天「なんかぽいですね。そんな人間になるのはごめん被りたいです」

ノア「私も。乙和とかは遊んでそうなイメージがあるけどなー」

天「正直あの中で言ったら一番乙和さんがマトモな気がしますけどね、バカですけど」

 

必要最低限しか喋らない共感覚持ちの変態の咲姫だったり、筋肉バカでトレーニングの事ばかりの衣舞紀さん。そしてカワイイモノを見つけると、暴走して手のつけられないヤベー奴ことノアさん。それに比べて乙和さんはアイドル好きのおバカ、くらいだ。なんだかんだ言ってPhoton Maidenの面々のキャラはアホみたいに濃かった。

 

ノア「本当?私の方がよっぽどマトモな気がしますけど?」

天「ハハッ」

 

俺は乾いた笑いを漏らした。それが気に入らなかったノアさんは、俺の腕に体当たりをしてきた。

 

ノア「•••ふん」

天「拗ねないでください、すみません」

 

頬を膨らませて上目遣いでこちらを見つめるノアさん。頬を撫でると、途端に彼女の顔が赤くなった。

 

ノア「それ、好きなの•••?」

天「どうでしょうね。よくわかりません」

 

多分ノアさんのだから触ってしまうのだろうが、言うのが恥ずかしかったので口から出てくる事はなかった。

 

しばらく歩いていると、福島家が見えてきた。そこで俺とノアさんの手が離れた。

 

ノア「ありがとう。明日もよろしくね」

天「わかりました。では、また学校で」

 

俺は踵を返して歩こうとしたがーー、

 

ノア「天くん、待って!」

天「はい?」

 

ノアさんの声が響いて、足を止める。そして振り返ると、目の前にノアさんの顔があった。

 

ノア「ちゅっ••••••」

 

そしてそのまま唇を奪われる。俺は驚いて目を見開いていたので、今のノアさんの表情がしっかりと見えた。恥ずかしそうに頬を赤く染めながらも、目を閉じて爪先立ちでくっついていた。

 

ノア「今日の、お礼•••」

天「•••ありがとうございます」

 

俺は小さく頭を下げて、家までの道を歩き始めた。その道中、やたらと唇が気になって指先で触れていた。




まだノア√途中+衣舞紀√書いてないのに咲姫√の二回目書き始めるって何?


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休日なんてなかった、いいね?

東京テディベアとカレンデュラエキスパフルコンしました。それだけです()


久しぶりのオフの日は、見事にとある人間のおかげでぶっ潰れた。

 

ノア「おはようございます」

 

朝っぱらからノアさんが神山家にやって来て、居着いてきた。まさかの朝食までご一緒なのだから驚きだ。

 

天「というかなんでこんな早くから来たんですか」

ノア「うちにいるよりは、天くんと月ちゃんと一緒にいた方がいいかなって」

 

恥ずかし気もなくそんな事を口走った。月はニコニコとしていたが、俺はなんだか目を合わせづらかった。

 

月「お兄ちゃん本当は嬉しいんでしょー?素直になりなよー」

天「お前今日友達の家に行くって言ってなかったか?そんな悠長にメシ食ってていいのか?」

月「あ、そうだった!」

 

ハッとした月は一気に白飯をかき込み始めた。

 

天「洗い物は俺がやっておくから、すぐに準備して行けよ」

月「わふぁっふぁ!」

天「飲み込んでから喋れ」

ノア「あはは•••仲良いね•••」

 

兄弟姉妹がいないノアさんには、こう言った光景は少し珍しかったのだろうか。少し困惑している様子だった。逆にこちらからすればいつも通りの会話なので、なんとも言えない。

 

月「あ、そうだ(唐突)。今日遠くまで出掛けるけど、何かお土産とかいる?」

天「行き先のモノ適当に見繕ってくれ。そもそもどこ行くか知らんから何言えばいいかわからんし」

月「名古屋」

天「aiueo700とか•••」

月「それ愛知県岩倉市東町掛目188-1だよ!というかその人今はもうまともだよ!」

 

悪ふざけにも月はちゃんと対応してみせた。ご飯が入っていた茶碗を置いて、急いで自室へと妹は向かって行った。

 

ノア「••••••誰の住所?」

天「知らなくて大丈夫ですよ。関わる事は絶対にありませんから」

 

味噌汁を啜って、ホッと息を吐く。七月に入ってだんだん暑さが厳しくなって来たが、朝の熱い味噌汁というのは美味しいものだ。季節関係なく飲めますねぇ!

 

月「行ってきまーす!」

天「あぁ」

ノア「行ってらっしゃい。気をつけてね」

 

リビングに顔を出して、手を振ってから月は家を飛び出した。そして必然的に俺とノアさんの二人きりの空間ができあがってしまった。

 

ノア「そ、そうだ。今日泊まるつもりで来たから、パジャマとか色々持ってきたんだ」

天「••••••ベッドは月のでいいですか?」

 

ノアさんのことだ、月と寝たがると思って先制を打ったが、彼女は首を横に振った。

 

ノア「天くんの部屋がいい•••」

 

頬を赤く染めて弱々しい声でいうものだから、可愛いと感じてしまう。普段は俺が可愛い可愛い言われているのに、なんだか新鮮な気分だった。

 

天「わかりました。ではそのように」

 

表向きには平静を装っているが、内心はバクバクだった。自分の彼女が家に泊まりに来ること自体が初めてで、俺には全く耐性がなかったのだ。

 

ノア「ご飯食べた後、何しよっか?」

天「特にやる事ないですね••••••月の部屋からゲームでも借りてしますか?」

ノア「月ちゃんって普段どんなゲームをしてるの?」

 

ノアさんからの問いに、俺は顎に手を置いた。確かあいつがやってたゲームは••••••。

 

天「バリバリのゾンビゲーとか、ス◯ブラとかでしたね••••••」

ノア「見た目に似合わず結構ガッツリなゲームしてるんだね•••」

天「いやまぁ、あんな性格ですし••••••」

 

見た目に反してあんなガツガツと容赦ない性格だからだろうか、普通に人ぶっ殺したり殴りあったりするゲームばっかりだった。

 

天「一応協力プレイできるゲームもありますけど、それでいいですか?」

ノア「あー•••私はいいかな。天くんがやってるところを見てみたいかも」

天「•••はぁ」

 

頬をポリポリと掻いてしまう。返答に困ったからだ。

 

天「まぁ•••いいですけど」

 

とりあえず了承した。食器をちゃちゃっと洗って、先にノアさんを自室に入れておく。

月の部屋に入って、適当にゲーム棚を物色する。まぁどうせやるなら楽しいのをやりたいので、ゾンビぶっ殺すゲームを手に取った。

そしてそのまま自室に直行。テレビをつけて、ゲーム本体にディスクを差し込んだ。

 

ノア「何にしたの?」

天「バ◯オ6です」

ノア「ゾンビゲーじゃん•••」

 

少し怖がっている様子だったが、俺は気にしない。コントローラーを持って、クッションの上に座る。

ノアさんは隣に座るーーと思いきや、俺の股の間に座った。

 

天「えっ、そこですか?」

ノア「こっちの方が落ち着くから」

 

ノアさんの後頭部が俺の肩に当たる。このままだと操作がしにくいので、腕をノアさんの前に回す。必然と抱きしめるような形になった。

 

ノア「あったかいね」

天「冷房効いてる中でくっついたらそりゃ温もりますよ」

 

適当に答えながらコントローラーのボタンを叩いていく。使用キャラの選択をしているが、ぶっちゃけどれでも良かったりする。でも変に尖ったものをやろうとは思わないので、無難に細マッチョの渋いイケメンのストーリーを選択した。

 

ノア「これってどういうストーリーなの?」

天「簡単に言うとゾンビ殺して黒幕殺すヤツですね」

ノア「本当に簡単に言ってるけど言葉遣い•••」

天「仕方ないじゃないですか、事実殺してるんですから」

 

俺はそのままの真実をただ伝えただけである。頼むからそんな怯えるような目を向けないでくれ、泣きそうになる。

ストーリーのチャプターを選択できるところがあるが、最初は戦わなくてアホクソつまらないので途中の所から始める。

 

ノア「最初からしないの?」

天「序盤は人助けしたりとかで結構つまらないので」

 

気がつけば、ノアさんが俺の腕を抱いていた。全く力がこもってなく、ただ触れてこちらに寄せているだけのようだ。

 

天「おっと、途中からとはいえここからか」

 

エレベーターで変異したゾンビを殺した瞬間からだった。このゲームは二人で協力プレイが可能で、やってた当初はよく月に付き合わされていた。なので操作は身体が完全に覚えていた。

とりあえずハンドガンでゾンビの頭を狙って一発ブチ込む。怯んだ隙に体術を掛けてトドメを刺す。大体かどうかはわからないが、バ◯オシリーズではよくある戦法だろう。

 

ノア「上手だね。どれくらいやってるの?」

天「一、ニヶ月程度ですよ。月から強制でやらされました」

ノア「お兄ちゃんとゲームしたかっただけなんじゃない?」

天「どうでしょうね。あいつの考えてる事はよくわからないので」

 

逆にこっちの考えは読まれるが、俺は月の事を全く理解できていない。ただの兄妹として普通に接してきて、内側まで知ろうとは思わなかったからだ。

 

天「まぁでも、嫌われていないとは思っています」

ノア「嫌われてなんかないよ。月ちゃん、天くんの事大好きだよ」

天「それはそれでなんか嫌ですね••••••」

ノア「•••そういうところが、兄妹なのかなぁ••••••」

 

ふけった顔でノアさんは更に体重をかけてきた。いい加減プレイに集中するのが難しくなったので、一度ポーズ画面に入ってコントローラーを置いた。

 

ノア「天くん?」

天「この調子じゃゲームができる気がしませんので」

 

ノアさんのお腹に腕を回して、少し強めに抱きしめた。

 

ノア「なんだかんだ天くんもくっついてくるね」

天「好きな人とくっ付きたいと思うのは当然の事では?」

ノア「そうかも。ね、もっとぎゅってして?」

 

ノアさんの要望通りに俺は更に力を込めて抱き寄せる。彼女のお腹の感触がやたら気持ちいい。

 

ノア「••••••••••••」

 

無言になった彼女は、俺の顔を見つめていた。どう行動しようか戸惑ったが、なんとなく、なんとなく次にする事は理解していた。

 

ノア「キス、して欲しいな」

天「わかりました」

 

直々にノアさんからの御所望がやってきたので、俺は素直に応えて唇を重ねる。

 

ノア「んっ、ちゅ、んぅ•••」

 

しばらくキスが続くと、息苦しくなったのか唇をそっと離した。

 

ノア「はっ。はぁ、はぁ•••もっと、しよ?」

天「••••••はい」

 

言葉の意図を読み取った俺は、ノアさんを抱きしめている手を移動させた。




R18も投稿します。内容が気になる人向けね。


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超MK5

新光神話パルテナの鏡買いましたw昔やってましたけどまたやりたくなっちゃってwいやー楽しい。ヒュードラー高難度神器周回クソダル()


行為が終わった後、俺たちは疲れ果ててベッドで眠ってしまった。そして目覚めた時は俺一人が寝っ転がっていた。

身体を起こして一階に降りると、リビングのソファに座ってテレビを見ているノアさんとキッチンで夕飯を作っている月がいた。

 

月「あーやっと起きたー。いつまでも寝てるのはダメだよ?」

天「いいだろ休日くらい。ノアさん、隣失礼します」

ノア「どうぞー」

 

ノアさんの許可をいただいて、俺は軽く音を立てて座った。そして即座に腕にノアさんが抱きついて、肩に彼女の頭が乗った。

 

天「ち◯ま◯こちゃん•••もうそんな時間か••••••」

 

寝たのは確か昼くらいだから大体5、6時間くらいだ。これ絶対に夜眠れないだろ。

 

ノア「これって主人公が昔実際にいた人だよね?こんなにイベントたくさん経験してるのかな?」

天「大体が創作なんじゃないですか?知りませんけど」

 

実際おじいちゃんに関しては現実と性格全く違うらしいし。

 

月「物語を続ける為だから仕方ないねー。最終回なんて一生来ないんじゃない?」

ノア「それはありそう。数十年もやってるし、終わる気配も全くないもんね」

 

月の言葉に、ノアさんが賛同した。が、俺はどちらかと言うと否定的な側だった。いずれこれも終わるだろうしサ◯エさんもいつか終わりが来ると思っている。サ◯エさんに関しては中の人が亡くなったりもしているし、潮時かもと思い始めている。

 

月「あ、さっきね、お母さんが帰ってくるって電話があったよ」

天「あぁ、そーー」

ノア「天くんと月ちゃんのお母さん!?」

 

ノアさんが勢いよく立ち上がった。俺と月はビックリして飛び上がる。

 

天「い、いきなりどうしたんですか?」

ノア「そ、天くんと付き合ってるってご挨拶しなければ••••••!」

天「律儀!」

 

何事かと思えば、そんなことかと安心する。まぁでも俺もいずれは福島家に挨拶しにいかなければならないだろう。お母様はともかくお父様の説得は無理難題なんだが。

 

月「ただのお付き合いから許嫁にまで進展しそうな勢いですな〜?」

ノア「••••••••••••」

 

ノアさんの顔が赤くなる。俺は聞き流してテレビに集中していた。

 

天「相変わらず丸◯くんは真面目だねぇ••••••」

 

ズバリ、でしょうを多用するキャラに俺は感心を示していた。月とノアさんの会話など耳に一切入らなかった。

 

月が夕飯を作り終えてみんなで食べ始めたが、まだ母さんが帰ってくる様子はなかった。

 

月「遅いねーお母さん」

天「仕事のつっかえでもあるんだろ。気長に待つしかない」

 

そう言ったのも束の間、玄関から音がした。恐らく母さんのご帰宅だらう。

 

月「あっ、帰ってきた」

ノア「•••••••••」

天「•••どうしたんですか?肩張ってますよ」

ノア「き、緊張してます•••」

月「ぷふっwww」

 

俺は苦笑い、月は思い切り噴き出した。ノアさんの顔がみるみるうちに赤くなっていったのがよーくわかる。

 

ノア「〜〜〜!」

天「まぁまぁ落ち着いてください」

月「まぁまぁセックスしたからってそんな大人ぶるなよお兄」

天「超MK5☆(マジでキレる5秒前)」

月「お兄ちゃんの世代の言葉じゃないよね!?古っ!」

 

まぁこのネタ恐らく1990年代後半の言葉だろう。当時の10代20代が使ってた印象だ。

 

ノア「あっ、私もその言葉知ってる。後チョベリバ、とかチョベリグ、とかあったよね」

天「まさかの便乗してきたよこの人••••••」

 

多分本読んでてそういう情報が流れてきたんだろうなぁ••••••。

少し呆然とした目線を向けていたら、リビングに入る扉が開いた。

 

柚木「ただいま•••」

月「おかえりー」

天「ん」

ノア「こ、こんばんは!お邪魔しています!」

 

月は元気よく、俺は短く、ノアさんはガチガチに緊張した様子で、立ってお辞儀をした。

 

柚木「あら•••?あなた、天の担当してるユニットの子よね?いらっしゃい。ゆっくりしていきなさい」

ノア「あ、ありがとうございます!」

天「そうそう母さん。俺、ノアさんと付き合う事になったから」

月「ムードもへったくれもない!」

 

ついで感覚で報告をしたら月からツッコミが飛んできた。母さんは驚いた表情をしたが、すぐにその顔は微笑みへと早変わりした。

 

柚木「そう•••天がね•••福島ノアさん、だったかしら。こんな息子だけど、よろしくお願いします」

ノア「い、いえ!こちらこそよろしくお願いします!」

月「お母さん、ご飯できてるよ」

柚木「あら。じゃあいただこうかしら」

 

母さんも食卓に混ざって、更に賑やかさが増した気がする。俺はあまり喋らずに食べているが。

 

柚木「仕事の方は順調?」

天「ボチボチ。ライブの予定は立てられても、あまり大きいところまでは押さえられん」

柚木「新人は必ず通る道よ。それに、結成してまだ一年も経ってないのに、ここまでライブができるのはすごいと思うわ」

ノア「ありがとうございます!これも全部天くんのおかげです!」

 

やけに大袈裟にノアさんは頭を下げる。母さんは少し困惑気味で唇を歪ませていた。

 

柚木「すごく礼儀正しい子ね••••••」

天「表向きにはな」

月「うん、表向きにはね•••あむっ」

ノア「ご飯頬張る月ちゃんカワイイ••••••!」

天「こういうところがあるから」

柚木「なるほどね••••••」

 

カワイイムーブをキメたら最後、ノアさんはヤベー奴認定される。こんなんだが、好きになったものは仕方がない。慣れだ慣れ。

 

天「ごちそうさま」

 

いつも通りだが、俺が一番早く飯を食べ終える。食器を抱えて流し台に置いて、ソファに座った。

 

天「••••••昼寝たから全然眠くねぇな。あ、そうだ。ノアさん、いつ頃帰る予定ですか?」

ノア「えっ?今日は泊まっていくよ?家にも連絡してるし、月ちゃんにも予め言ってあるから」

天「なんで俺には言ってないんですかねぇ••••••」

 

そこら辺がいささか謎だ。えぇ?俺なんかした?

 

柚木「天をビックリさせたかったのでしょう」

ノア「はい、そうなんです。いつも澄ました顔をしているので」

柚木「うちの息子は可愛げがなくてねぇ••••••」

ノア「学校や事務所だと、とても愛らしいですよ」

 

愛らしいって何!?俺いつも通りに過ごしてるだけなんだけど!?それ言ったらまだ咲姫の方がよっぽどいいだろ!

 

月「お兄ちゃーん。暇なら早くお風呂入りなよー」

天「あー•••わかった」

 

俺は立ち上がって、脱衣所へ向かおうと歩を進める。

 

ノア「私もいい?」

天「えっ?••••••あ、はい」

 

何のことだかあまりわからなかったが、とりあえず頷いておいた。月はニヤニヤした目線を向けていて、余計に疑問が強くなった。

 

湯船に浸かると、身体の疲れが、というより寝まくったダルさが抜けていく感覚に陥った。かなり気持ちがいい。知らないうちに大きく息を吐いていた。

 

天「さーて•••明日からまた忙しくなるな•••」

 

いい加減デカイ会場を押さえなければならない。もうすぐ夏休みだ。この期間を利用して客寄せをしたいところである。

突然ガラリと風呂場の引き戸が開いて、無意識にそちらに目を向けた。そして言葉を失う。

一糸纏わぬ姿のノアさんが経っていて、俺は呆然としてしまった。

 

天「えっ•••なんで入ってきたんですか」

ノア「さ、さっき確認取ったでしょ!?」

天「あっ•••(察し)」

 

さっきのアレ、そういう確認だったのね•••。ノアさんは何も言わずに湯船に浸かって、俺にくっついた。

 

天「昼にセックスして、その次は一緒にお風呂ですか••••••飛ばしまくりですね」

ノア「でも、こういうのも悪くないよ?」

天「ですね•••」

 

俺はノアさんを抱き寄せる。そっと、俺の腕にノアさんの小さな手が乗った。

 

天「昼と同じですね」

ノア「そうだね。こうされてると、すごく安心する•••」

 

ノアさんが目を細めた。そしてこちらに目を向けて、小さく笑う。俺も笑みを返して、他愛のない話を持ち込み続けた。




感想評価オナシャス!明日から冬休みなんで、バンバン書きますよー!更新は一日一話ですけどね。


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仕事!作業!寝る!

冬休みあぁ^〜いいっすねぇ。もう最高や。寝まくれる。でも昨日今日パルテナしかやってないからいい加減D4やらないと鈍ってまう。


ライブの日程合わせに、俺は珍しく苦戦を強いられていた。七月にやる分、八月にやる分を数種持ってきたが、組み込むのが少し厳しい状況だったのだ。もしかしたら、一部は九月に回る可能性もあるかも知れない。

そしてそれは、学校でも考えなければならない事態でもあった。授業そっちのけで俺は調整に勤しんでいた。

 

焼野原「(神山、すげぇ集中力だな•••あいつそんなに勉強好きだったか?)」

 

実際はパソコンに隠れながら頭の中で何度も日程を納得いくまで組み直しているだけだが。

 

天「(チッ•••やけに合わんな••••••ここに入れたらここができそうにないし••••••)」

 

メンバーや事務所の面々と相談して決めよう。こういう時こそ周りの意見も大事だ。かなり不本意ではあるが。

 

天「(しかし、意外と上手くいくものだな•••)」

 

最近ライブ会場を押さえるのがやけに順調だ。少し怖いまであるレベルに。これもPhoton Maidenの名が広まった証拠なのだろう。そう思うだけで嬉しくてニヤけが止まらなかった。

 

焼野原「(今度は薄ら笑い始めた!?神山どしたんだ!?)」

 

そして俺の後ろでは焼野原くんが一人で叫んでいた。それを俺が知ることなどない。

 

昼休みになればいつも通りのメンバーで昼食を摂り始める。

 

陽太「なんつーか•••雰囲気変わったなお前ら」

天「あ?どういうことだ」

 

不意に放った神無月の言葉に、俺は首を傾げた。咲姫は無言でもぐもぐとご飯を食べていて、ノアさんは反応を示していた。

 

ノア「そう?あまり変わらないと思うけど」

天「ん」

陽太「•••ヘイSaki彼らの色を見てくれ」

咲姫「天くんのは見えませんが、ノアさんは幸せそうな色をしています•••」

天「ちょっと待て今の小ネタなんなんだ」

 

完全に携帯についてるアレじゃん。たまにセクハラ系の質問の餌食にあってるアイツじゃん。

 

陽太「うわーお前担当の人にまで心閉ざしてんのかー?」

咲姫「いえ•••多分今は何も考えていないだけと思います••••••」

陽太「え、何?脳がオーバーヒートでもした?」

天「色々考える事があったからな•••それで頭パンクしそうだから何も考えたくねぇ」

陽太「うわぁ•••お察しだわ」

 

神無月は大して俺の仕事を知ってるわけでもない。だが面倒だと言うことだけは理解しているらしく、わかりやすく同情していた。

 

咲姫「もしかして、ライブの日程•••?」

天「正解。数が多すぎて今月来月に全部組み込むのが難しそうなんだ•••」

ノア「九月に回したりは?」

天「それも考えましたが、八月に比べたら客集まらなさそうなのであまり入れたくないんですよね•••」

 

九月とか普通に学校とか始まってるからあまり金持ちの学生を引き入れ辛い。

 

陽太「じゃあ四連休に入れたらどうだ?そこなら集まりやすいと思うが」

天「•••その手があったな」

 

我ながら盲点だった。すぐにメモ帳を開いて、そこまで大きくないライブ名をそこに書き込んでいく。これでかなり調整が楽になるだろう。

 

天「助かるわ、神無月」

陽太「そりゃどーも。というか、変に馴染んだなぁ•••」

 

神無月はため息混じりに言葉を発した。元々こいつは人と絡んだりしない。しても研究チームの面々だけだった。それをよく知る俺は、彼の変化を喜ばしく思っていた。

 

天「まぁ、これで今日の仕事が少し楽になった。喜ばしいこったな」

ノア「じゃあ早く上がれそうだね」

天「あー•••いえ、今日は真っ直ぐ帰ろうかなと•••」

ノア「何かあるの?」

天「まぁそうですね。家でやりたい事があるので」

陽太「あぁ、あれか。悪いな、頼んでもらって」

 

神無月が思い出したように頷いた。俺はそれに大して小さくだが頷き返す。

 

ノア「え?え?どういうこと?」

陽太「男同士の大事な用だ。変に口を挟まないでもらいたい」

ノア「数学と理科しかまともにできないくせに」

陽太「ここで学力は関係ないよな!?」

 

いじけたノアさんが神無月に言葉を浴びせる。俺と咲姫は顔を見合わせて、二人に向かって笑った。

 

仕事をすぐに終えて、俺は家へと直帰した。月が少し驚いていた様子だったが、そんなことは気にせずに自室へと向かっていった。

すぐに机と向き合って、レポート用紙を広げる。

 

天「さーて•••書くか」

 

ちなみに書く内容は魂の研究の事だ。まだ証明自体は終わっていないが、ある程度の過程を書いて後からあいつが付け加える手筈になっている。

 

天「そもそも•••俺はもう研究者じゃないんだけどな•••」

 

神奈月の奴、俺も研究チームの一人として証明が終わった際に紹介する予定らしい。今更俺が入ったところでなんになるんだと思うが、奴には奴なりの流儀があるのだろう。仕方なくノッてやるのだ。

 

天「こんな堅苦しい文書くの苦手なんだが•••」

 

論文みたいな感じになるので、どうしても頭の良さそうな文になってしまう。そこらへんは俺と相性が合わないようだ。

 

月「お兄ちゃん?ご飯できてるよ?」

天「••••••あっ、食べるわ」

 

月がドアを開けて顔を出したので、俺は椅子から降りてリビングへと向かう。そしていつも通りの二人きりの夕食を食べる事になる。

 

月「今日はお仕事上がるの早かったね。そんなに楽だったの?」

天「大方の部分は学校で自然と終わったからなぁ。後は神無月に頼まれて書き物をしてた」

月「陽太さん、最近どんな感じ?」

天「上手く馴染んでる。ノアさんや咲姫とも話してるし、孤立はしていないな」

月「そっか。あの人、堅苦しいから。仲良くなるにも人を選びそうだしねぇ」

 

月は安心したように笑いながらおかずを口にする。月のその意見には俺も賛同した。あの堅い奴と打ち解けるには相当人を選ぶ。それは事実だった。

 

天「まぁお前は後数年でもしたらあいつの助手でもなんでもするんだろ?」

月「そうだよー。こんな身近に研究者がいるなら頼らないとね!」

 

こいつの将来が今から楽しみになってくる。神無月と二人でテレビに出た時は、盛大にイジってやろうと今決めた。

 

夕食も食べて風呂も入った。また作業を再開しようと自室に戻ると、携帯がブーブー鳴っていた。誰からの着信かと思えば、ノアさんだった。

 

天「もしもし?どうしましたか?」

ノア『なんだか無性に天くんの声が聞きたくなって。迷惑じゃなかった?』

天「迷惑だなんてとんでもない。そういうことでしたら、全然付き合いますよ」

 

多分作業を続けていればいずれはノアさんの声が聞きたくなるだろう。俺から電話をする手間が省けたと思えばいい。

 

ノア『あっ、聞いて聞いて。今日乙和ったら、練習中に甘いものが食べたいーって騒いでね』

 

今日の出来事を楽しそうに話すノアさんの声は、少し弾んでいた。俺は相槌を打ちながら、応えていく。

 

天「そうですか、それは楽しそうですね。俺も現場にいたかったです」

ノア『早く帰らないで私たちのレッスンを見ていこう?』

天「••••••そうですね。近いうちに」

 

正直あまり乗り気ではない。ノアさんのダンスを見るのも楽しいが、それを見ていても場所が事務所なので、どうしても仕事の事が頭の片隅にこびりついて離れないのだ。

 

ノア『どうしたの?元気ない?』

天「いえ、至って普通ですよ。ただ、なんだか寂しいなっ、て••••••」

ノア『あの天くんが寂しいって言うなんて•••変わったね』

天「俺は変わりませんよ。これまでもこれからも」

ノア『ううん、天くんは変わっていってるよ。少なくとも、最初の頃の素っ気なさは全くない』

 

それは単純に今の環境に慣れたからだと思うが、そんな野暮な事は言わないようにした。俺はただ苦笑を返してその場を繋ぐ。

 

天「明日は少し、甘えてもいいですか?」

ノア『天くんが私に!?ももももちろん!たくさん甘えていいよ!?』

天「すみませんさっきの言葉撤回してもいいですか•••?」

 

純粋に暴走しそうになってるノアさんに恐怖を抱いた。やっぱりヤベー奴は格がちげぇよ全く。

作業が進みそうになかったので、俺はベッドに寝転がって通話を続けた。が、眠気に襲われて、繋げたまま俺は寝落ちをキメ込んでしまった。




んじゃ、明日も投稿するんで、オッスお願いしまーす。


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超MK5(二回目)

リア友と温泉行ってきました!体重測ったら70kgから67kgまで落ちててビックリしたんだけど。俺体重増やしてるんだけどなぁ••••••なんでどんどん減っとるんや••••••。


朝起きたら通話ずっと繋げたままでビックリした。これ多分寝息とか寝言とか全部聞かれてしまったパターンだろ。完全に詰みである。というか確実にいじられる。昨日もガラにもなくあんな事言ったから尚更だ。次第に顔が赤くなっていき、昨日の自身の発言を悔やむ。

 

天「(あんなこと言わなければよかったー•••)」

 

今の俺だったら羞恥心だけでランニング114514km走れる自信がある。2◯時間テレビのマラソン枠確定で取れますねぇ!

 

天「いや、そんな事はどうでもいいんだ•••」

 

とりあえずさっさと学校行く準備をしなければ。俺は月が来る前に身体を起こして、一階に降りた。

 

陽葉学園に到着した俺は、周りから見てもわかる程絶望した顔をしている事だろう。ノアさんからどういうイジメがくるか恐怖でたまらない。

そして七月も半ば。夏休みがすぐ近くまで来ていた。それに便乗するように暑さもどんどん増してきており、ただ座っているだけなのに汗が顔を伝う。

 

天「あつっ•••」

 

顔にへばりつく汗が鬱陶しく感じ、腕で拭い取る。教室には一応エアコンがあるが、まだついていない。周りのクラスメイトも、制服のボタンを開けたり、下敷きやらなんやらで扇いでるやつらばっかりだ。

 

咲姫「暑いね•••」

 

同じく多少ながら汗をかいている咲姫がいつものようにこちらに向かってきた。

 

天「毎度思うが、わざわざ俺のところまで来なくてよくないか?女子と話してた方がよっぽどいいだろ」

咲姫「私は天くんと話す方が好きだから••••••」

 

可゛愛゛い゛な゛ぁ゛咲゛姫゛く゛ん゛。ノアさんと付き合ってなかったら惚れてますねクォレハ。

 

天「まぁ、いいならいいんだ•••。俺もそこまで言うつもりもないし」

咲姫「昨日ノアさんとお話ししながら寝たって聞いた」

天「••••••ちょっと待て、何で知ってるんだお前」

 

嫌な汗が流れる。これ恐らく恋人やりやがったな?

 

咲姫「私たちのグループにノアさんからそう言った連絡が」

天「•••••••••」

 

バッグから携帯を取り出して開く。グループの方に通知がきており、すぐにトーク画面へと入る。

 

ノア『寝落ちした天くんの寝息すっごくカワイかった!普段の声とは思えない安心した声で萌えた!これは天使だ•••もう悔いはない』

天「••••••やったな、あの人」

咲姫「私も聞いてみたい••••••」

天「ぜってぇやだ!」

 

教室中に、俺の悲痛な叫びが響き渡った。何事かと視線が一気に集中して、それはそれで恥をかいてしまった。

 

昼休みになり、俺はノアさんの到着を心待ちにしていた。顔は笑顔だったが負の感情はモリモリだった。

 

陽太「おい福島、今日は天のところ行くのはやめといた方がいいんじゃないか?」

ノア「どうして!?天くんとご飯食べたいのに!」

陽太「いや、なんかすげぇ嫌な予感がする。多分お前死ぬぞ?今日だけは大人しく新島と花巻と一緒に食えマジで!」

 

必死な様子で神無月はノアさんを説得していた。ノアさんは不満タラタラなご様子だった。

 

陽太「俺は様子を見てくるが•••頼むからお前はくるなよ?」

ノア「はいはいわかった。もう•••」

 

仕方なく、彼女は自身の教室へと戻っていった。神無月は大きく息を吐いて、一年の教室に向かう。

 

陽太「よぉ」

天「•••お前だけか?ノアさんは?」

陽太「今日は来ねぇよ」

 

それだけ言って、神無月はドカッと傲慢に座る。咲姫も隣に座っていて、なんとも言えない空気になる。

 

陽太「••••••どうせ福島に何かされたんだろ」

天「よくわかったな。ここに来たらブチのめすつもりだった」

陽太「野蛮だな•••」

 

真顔でそんな事を言うものだから、神無月は軽く引いていた。

 

咲姫「意外と根に持つタイプ••••••?」

天「いや、そういうわけじゃないが•••恥晒されたのがやけにイラついてな」

陽太「まぁお前恥かくの昔から大嫌いだったからな」

 

少し笑いながら、神無月は俺の肩を叩く。

 

陽太「大事な彼女だろ?許してやる器量くらいは持っておけ」

天「••••••わかった。ちゃんと話をつける」

陽太「•••少しは聞き分けがよくなったな」

天「うっせぇな。中学の俺と一緒にするな」

 

あの頃はまだガキだったんだから仕方ねぇだろ。仕事のストレスも結構溜まってたし。

 

咲姫「さっきから全く食べてないよ••••••?」

天「あっ、食べる食べる」

 

咲姫から軽く促されて、俺はようやく昼食に手を出した。

 

学校が終わって、俺は事務所の方で仕事をしていた。Photon Maidenの面々は今頃レッスンをしているところだろう。

仕事も終わってかなり暇だったので俺は彼女たちが練習している姿を見ようと、仕事部屋を出る。少し歩いたところですぐに部屋が見えてくる。ノックを一応してから入ると、ちょうど練習中だったようで俺は大人しく隅に寄って眺めていた。

ダンスをしている姿は正直に言って美しい。誰しもが見惚れるであろうパフォーマンスを、俺は目の前でじっくりと眺めているのである。なんてマーベラスなんだろう。

 

天「•••あっ、ズレたな」

 

そしてこうやってミスをする姿も見ることができる。こちら側の人間の特権とも言えるだろう。いい立ち位置だ。

 

ノア「珍しいね。天くんがこっちにくるの」

天「えぇ、まぁ。仕事もないので」

乙和「最近仕事終わるの早くなーい?真面目にやってるのー?」

 

乙和さんがここぞとばかりにからかってくるが、俺は微笑を返した。

 

天「ライブの予定を詰め込んでますから、しばらくはそっちに意識を向けてるのであまり調整とかそこら辺はないんですよ」

衣舞紀「じゃあしばらくは天がレッスンを見にくるって事よね。咲姫とノアはかなり気合が入るんじゃないかしら?」

ノア「余計にプレッシャーですよ•••」

 

意外にもノアさんは弱気だった。

 

天「パフォーマンスとかそこら辺は素人なんですから、自分が思い描いた通りにやってください」

衣舞紀「そういえば天はダンスとか何も知らないんだったっけ••••••」

 

なんとも言えない顔で衣舞紀さんが苦笑いをした。今更過ぎて俺は言葉が出なかった。

 

咲姫「私はダンスをしないから•••」

天「咲姫はリードボーカルだろ?歌の方では期待してるからな」

咲姫「うん•••」

 

頬を赤くしながら笑顔になる咲姫が可愛かった。そして服の裾を誰かが握ったのを俺は感覚で感じ取る。振り向くとむくれたノアさんがいた。

 

ノア「私は?」

天「言わなくてもわかるでしょう」

ノア「言ってくれないとわかんない!」

 

ぶんぶんと俺の腕ごと自身の腕を振るノアさん。その仕草はワガママな子供を彷彿とさせた。

 

天「もちろんノアさんのダンスも素敵ですよ」

ノア「••••••それだけ?」

天「好きですよ」

ノア「〜〜!?」

 

ノアさんの顔が一気に赤くなった。本当にわかりやすくて今にも笑ってしまいそうだ。

 

乙和「こんなところでイチャイチャしないでもらえる〜?」

天「それは失礼しました。それでは、頑張ってください」

 

いいものが見れたので、俺はレッスン部屋から退散して、仕事部屋へと戻った。

 

暇だったので明日の分も予めやっていたら、コンコン、と扉がノックされた。

 

天「どうぞ」

 

一声掛けると、扉が開いてノアさんが入ってきた。

 

ノア「練習終わったよ?」

天「じゃあ帰りますか」

 

俺はパソコンの電源を落としてバッグに入れる。立ち上がろうとしたが、ノアさんに制されてしまった。

 

天「あの?」

ノア「もうみんな帰ってるし、スタッフさんはお仕事で忙しいんだ。••••••私、我慢できない」

 

顔を赤くしたノアさんが俺にくっついた。椅子に座ったまま彼女を抱きしめると、体重が思い切りかかる。軽いから別にいいが。

 

ノア「ね、いいでしょ••••••?」

天「はぁ、わかりました。ここが防音なのが救いですね•••」

 

俺はノアさんと唇を重ねて、後頭部に手を置いてこちらへと引き寄せた。




R18も投稿するヨ。みたい人向けね。


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犬可愛い

大掃除してたら懐かしいものやらなんやらが大量にドバドバ出てきました。その分ゴミも出てきましたけどwほんと当時なんであんなの買ってもらったんだろう俺()


翌日になり、俺は身体を大きく伸ばした。仕事自体は少なくても、論文等があるので書く事に関してはあまり変わらなかったりする。

ちなみに今は七月の終わり頃、夏休みに入っている。徐々にライブの消化も終わってきて、精神的な余裕も少なからずあった。

 

月「お兄ちゃん起きてー。夏休みだからっていつまでも寝られるとおもうなよー?今日仕事でしょ?」

天「もう起きてる」

月「ありゃ、珍しいね」

 

毎年夏休み頃は寝まくるから月も結構手を焼いていた。だが今年は例年に比べて忙しいのでパッと起きれたのだ。

一階に降りて席に着くと、俺は目の前の朝食を見てドン引きした。

 

天「••••••なんだこれ」

 

溢れんばかりの大量の肉。朝からこれはキツすぎませんかねぇ•••。

 

月「朝起きたらすっごい大きい肉が置いてあってねー。多分お父さんが上司から貰ったんじゃない?」

天「••••••佐々木さんかな」

 

佐々木さんは父さんの上の立場にいる人だ。何かと俺や月を可愛がってもらっている。あの佐々木さんが送ってきた肉なんて絶対A5ランクだろ怖いわ。ちなみに階級は忘れた。

 

月「これでもほんの一部だからね。夜もこの肉出すから」

天「•••俺たちだけでどれくらいで消化しきれるんだ、これ••••••」

 

多分一週間はかかると思われる。ていうかデカ過ぎて冷蔵庫圧迫してるんだが。佐々木さん何してくれてんの?ねぇ?

 

月「私もしばらくはお肉生活だなぁ•••太っちゃいそう」

天「運動しろよ」

月「やーだー!ゴロゴロしたいー!」

 

正論をぶつけたら、月は駄々っ子のように喚き始めた。ガキかよ。

 

天「ぶくぶく太ってもしらねぇぞ」

月「私ぃ〜太らない体質なのぉ〜」

天「ウッザ殺すか」

月「声がガチトーン過ぎるよ!本気で殺す気だったでしょ今!?」

 

ものすごく冷めた目を月に向けながら俺は低い声を発する。いや声自体は元々低いが、それの更に低いバージョンだ。後月の一昔前のアイドルだかぶりっ子だかよくわからん演技にガチ目に殺意湧いた。

 

月「運動するっていっても•••何すればいいのさ」

天「走れ、それが一番だ」

月「めんどくさっ」

天「衣舞紀さんに頼んでおくから、サポートしてもらえ」

月「ガチ勢を連れてこないで!?」

 

何故だ。運動事になったら衣舞紀さん程頼りになる人はいないっていうのに。今の環境を惜しみなく使わないでどうするんだ。

 

月「お兄ちゃんは運動しすぎ!部屋あっついんだよ!」

天「今の身体を維持する為だから仕方ないだろ」

 

鍛えに鍛えたこの肉体を保つのはまぁまぁ難しいのだ。家トレで維持できるようにはなったが、少しは増やしたいとも考えている。いつかジム行くか()

 

月「運動なんて疲れるじゃーん!私はダラダラして生きていきたいよ••••••」

天「何故ダラダラとは正反対の研究員になろうとしてんだお前は」

月「まぁ好きな事をするっていうのも仕事では大事だからね〜。私も陽太さんと一緒に色々見つけてくるよ!」

 

自身の将来に花を咲かせているようだが、魂の研究なんてやめとけとしか言えないんだよなぁ••••••。ぶっちゃけ神無月のおかげで研究する事なくなりそうだし。

 

天「ごちそうさま。んじゃ行くわ」

月「歯磨き!」

天「あ、忘れてた」

 

月に指摘されてようやく気がつく。すぐに洗面台に向かって行き、歯ブラシを手に取った。

 

スーツに着替えて俺は家を出る。軽く走りながら向かうが、別に時間が押してる訳でも遅刻しかけてるわけでもない。ただ何となく走っているだけに過ぎないのだ。

 

天「まぁ、事務所そこまで遠くないからいいんだけどさ」

 

職場が近いというのは結構ありがたいものである。前の事務所とか遠くてハゲそうだったし()

 

天「でも早いな•••ちょっと遊んでいくか」

 

公園に寄り道して、ベンチに腰掛ける。こうしてると周りからは仕事に疲れてるサラリーマンに見えるのかな。少し気になったりする。

 

犬「ワンッ」

天「ん?」

 

気がつけば、足元に犬が寄ってきていた。可愛らしい大きな瞳で俺の顔を見つめている。

 

天「どうしたんだ?」

 

手を差し出すと、たちまち犬は頭を乗せた。そこからモゾモゾと手を動かして顎を撫でてやる。

 

犬「クゥ〜ン」

天「気持ちいいか?よしよし」

 

たまにはこうやって動物と遊ぶのも悪くなかった。犬もかなり人懐っこくて、とても愛くるしい。

すっ、と俺の手を躱したと思ったら俺の足の上へ登ろうとしていた。俺はつい笑ってしまい、犬の身体を抱えて座らせる。

 

犬「ワンッ!ワンッ!」

天「甘えん坊だな。食べ物は出てこないぞ?」

 

やたらと俺に擦り寄ってくるが、食べ物目的ではないのだろうか。見るからに野良ではあるが痩せ細っているわけでもない。誰かが定期的に餌でもあげているのだろうか。

尻尾をブンブンと振って喜びを露わにしているのがとても可愛い。しかもモフモフで触り心地もいい。いつまでも撫でていたい。

 

天「あっ•••流石に事務所に行かないと」

 

ちょっと遊び過ぎてしまった。犬を抱っこしたまま立ち上がるが、もしかしたら飼い主がいるかもしれないという僅かな希望を持って周りを見渡してみる。公園で楽しく遊んでる子供が目に移ってそこへと歩いていく。

 

天「キミたち、ちょっといいかな?」

子供A「何?お姉ちゃん」

天「こう見えて男だよ、俺は。キミたちの中にこの子の飼い主はいるかな?」

犬「ワンッ!」

 

子供と目線を合わせる為に、片膝をついてしゃがむ。犬を地面に降ろすと、一人の女の子のところにすぐに向かっていった。

 

子供B「マロン!どこ行ってたの!?」

 

女の子は犬を抱きしめた。首輪がやリードがないだけでちゃんと飼い主はいたようで、なんだか安心した。

 

子供B「あのっ、ありがとうございます!」

天「ちゃんとお礼が言えて偉いね。マロン、だったか。お前も、他人の俺に甘えてないで飼い主に甘えろよ?」

マロン「ワンッ!」

 

マロンはただ鳴くだけで、どういう事を言っているのかは全くわからない。これも魂の解明が続けば、いずれはわかるようになるのかもしれない。俺は事務所へと急いで向かい始めた。すっかり遅刻ギリギリだった。

 

事務所に入って仕事部屋に逃げ込む。すぐにパソコンを起動して、早速仕事•••とは行かなかった。

 

ノア「どうして毛だらけなの•••?」

 

ノアさんが不審そうに俺の今の服装をジロジロ見ていたからだ。

 

天「ここにくる前に犬と遊んでました••••••」

 

何も悪い事はしていないので、俺は至って正直に話した。

 

ノア「いいいい犬と!?ワンコと!?どうして私も入れてくれなかったの!?」

 

やはり動物の事となって、ノアさんはすごい食いつきを見せた。少し引く。

 

天「まぁ公園に寄った時に来た犬でしたから。遊ぶのに夢中で連絡するの忘れてました」

ノア「いいなぁ。私もワンコと遊びたかった••••••」

 

俺はフッ、と息を吐き、ノアさんの頭に手を置いた。

 

天「ノアさんで遊ぶのもいいですが?」

ノア「天くん、頭撫でるの上手•••いつも月ちゃんにしてるからかな」

天「あいつもあいつで、まぁまぁ甘えん坊ですから」

 

愛嬌は誰よりもある妹だ。何かいいことがあれば甘えてくるし、困ってると頼りにしてくれる。それだけでも可愛いと思えるのが妹のいいところだろう。その立場を悪用しないのもポイント高い。でも問題発言はアカン。

 

ノア「一応私の方が歳上なんだけど?」

天「そんなの知りませんよ。乙和さんみたいに子供っぽい人もいるんですから」

ノア「それ今乙和が聞いてたら怒りそう•••」

 

怒りそうとか曖昧なものではなく普通に怒るだろう。頬を膨らませて可愛らしく。本当に怒る気あるのか疑問だ、あれは。

 

天「っと、仕事しないといけないので」

ノア「あっ、うん。頑張ってね、ちゅ」

 

去り際に、ノアさんは俺の頬に唇をくっつけた。俺が顔を少し赤くして頬を手で押さえている中、ノアさんはとても可愛い笑顔をしていた。




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後一つお知らせ。新年回、やります。


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父、帰る

ドーモ、ミナサン、シンネンカイカキオワラナイマンデス。というおふざけは置いておいてと。もうね、終わる気しないwこれ結構ヤバいわ。マジで正月までに書き終わるの?ってすげぇ不安になってる。


夏休みで昼からは大体暇になるので、ノアさんがよくうちにお邪魔するようになった。たまに新作の和菓子を持ってきてくれていて、今日はまた新しくできたご様子。

 

ノア「はいこれ、新作のお饅頭。月ちゃんもどうぞ」

月「わーい!いただきまーす!」

天「すみません、わざわざ」

 

頭を下げる俺に対して、月は饅頭にがっついていた。少しは慎みを持てはしたない。

 

ノア「いいのいいの。うちの和菓子屋さんご贔屓にしてもらってるから。お義母さんもよく買いに来てくれてるよ」

天「母さん•••いつの間に」

 

あまり甘いものを食べるところを見たことがないからなんとも言えないが、もしかしたら好きなのか?

 

月「おいしー!お兄ちゃんも食べなよ!ほらほら!」

天「あーはいはいわかった。あむっ•••」

 

月から促されて、俺は饅頭を口に含む。餡子の甘味とバターのなんとも言えない味がとても合う。うん、美味しい!

 

ノア「お味はいかがですか?」

天「美味いです」

ノア「良かった。まだいくつかあるからおかわりしてもいいよ?」

月「私もう一個ー!」

天「まだ肉の消化終わってねぇだろ•••ガチで太るぞお前」

 

佐々木さんが送ってきやがったA5肉、多すぎて未だに食べきれていない。今はようやく半分に達したくらいだ。かなりキツいゾ。

 

ノア「そんなに大変なの?じゃあ私も付き合おうかな」

天「本当ですか?クソ助かります」

 

これでノアさんが夕食を一緒にすることが確定した。このまま泊まりの流れは流石にないだろう、ないよな?

 

月「•••あ、なんかお父さん帰ってきそう」

天「は?あの人絶賛仕事中だろ?帰ってくるわけーー」

 

ドガアァンッッ!!

 

天「えぇ••••••」

 

爆発とも勘違いしそうな程の爆音を響かせながら、玄関が開いた。俺は呆れと困惑が入り混じった声を漏らす。

 

ノア「何今の!?」

月「お父さんが勢いよくドア開けただけですよー」

 

もう慣れている月はお茶を飲みながら呑気に喋る。妹の逞しさに俺泣いちゃいそう。

 

猛「ただまー!久しぶりだなぁ!天!月!••••••誰ぇ!?」

 

歯を見せて笑いながら俺と月に声をかけたが、ノアさんを見て父さんは目をギョッとした。

 

ノア「あ、あのっ!そ、天くんとお付き合いさせていただいております、福島ノアです!よろしくお願いします!」

 

そして母さんと同様、立ち上がって丁寧に腰を折って頭を下げた。が、父さんはノアさんではなく俺に目を向けていた。

 

猛「天お前••••••!彼女できたのか!?」

天「いやノアさんの方見ろよ失礼だろうが」

猛「おっと失礼。福島さんだな。こんな息子だがよろしくな。酷いことされそうになったらすぐ俺に言え!ぶっ殺すからな!」

ノア「あ、あはは•••」

 

やけに父さんが張り切っているが、当のノアさんは苦笑いを返しているだけだった。

 

ノア「あっ、うちの新作の和菓子があるので食べていきませんか?」

猛「おっ、助かる。ちょうど腹が減ってたんだ」

 

そう言って父さんは席につき•••、

ゴトン。

一つの拳銃をテーブルに置きやがった。

 

ノア•月「えっ•••?」

天「何で持って帰ってんだお前」

 

M1911A1コルトガバメント。百年以上の歴史を持つ名銃中の名銃だ。世界初のセミオートハンドガンにして、その安全性能、射撃威力の高さですぐにアメリカ軍の信頼を勝ち取った。百年以上経過していても初期モデルが動くくらい長持ちもする。

 

猛「いや、急いで上がったもんでな。ミスって持って帰ってきちまった。まぁ軍用の身分証明書出せばサツの世話にならんから大丈夫だ!」

天「いやそういう問題じゃないんだが•••こんなところで堂々と置くやつがあるか?」

猛「あー•••まぁいいかってな!ガハハハ!」

 

いやこういうのは部屋でやってくれよ、後バカ騒ぎしながら饅頭食うな汚い。

 

猛「まぁ、明日辺りにすぐに持っていくし無駄に荷物が増えただけなんだがな!」

天「無駄な事してんなぁ•••」

 

頬杖をつきながら、俺はため息を漏らす。

 

猛「たまにはお前も撃ってみるか?スッキリするぞ」

天「お生憎様、俺は銃を撃つ趣味はない」

猛「つまんねぇなぁ••••••」

 

俺とお前の趣味を一緒にしないでもらいたい。

ちなみに私はターミネーターモデルのハードボーラーが大好きです。相棒ですね(作者)。

 

猛「そんじゃ、部屋に籠るわ。後は好きにやれよー」

 

父さんはヒラヒラと手を振りながらリビングを出て行った。しれっとガバ置いてくな持って行けよ。

 

ノア「なんというか••••••濃いね」

月「神山家の人間はみんなキャラ濃いですよー。私っていう例外がいますが」

天「いやお前が一番濃いぞ••••••」

 

多分神山家内で一番薄いのは母さんだろう。あまりぶっ飛んだところないし。

 

ノア「それを言ったら天くんは見た目とのギャップすごいと思うな」

天「••••••一応、一応どうしてか聞いておきましょう」

ノア「では二時間ほど時間をいただきまして•••」

天「なっが!なしなし!」

 

予想外にも膨大な時間を使って長々と説明する気の彼女を引き止める。この人のことだ、絶対に話し出したら止まらないに決まってる。

 

月「それより先にお風呂入っちゃってー?二人が入ってる間に夕ご飯の準備するから」

天「えっ、あ、あぁ•••」

 

うざったそうに月が投げやりに言葉をかける。俺は困惑しながらも頷いて立ち上がると、ノアさんも続いた。

 

ノア「一緒にお風呂、二回目だね」

天「そ、そうですね•••」

 

もうすっかり慣れた様子のノアさんは俺の手を引いて脱衣所まで歩いていく。もう完全に我が家に馴染んでいて、俺は軽く身の危険を感じ始めていた。

 

お互いに裸になって湯船に浸かる。必然と俺が後ろ側に座って、その足の間にノアさんが座る。

 

ノア「天くんのところって結構お金持ちでしょ?その割には庶民的な暮らししてるんだね」

天「父さんも母さんもあまり金つぎ込まない人ですから。でも家自体は防音が相当整ってて金はかかってますよ」

 

ちなみにこの風呂場も例外ではない。外からの音は一切入らないしこちらから漏れることもありえない。

 

ノア「へぇ。何か理由でも?」

天「さぁ、特に理由は知りません。まぁプライベートの確保がほとんどできない人たちなので、そこら辺は誰にも邪魔されたくなかったんじゃないですか?」

ノア「プライベートかぁ••••••」

 

ノアさんの頭が俺の胸にくっつく。真っ直ぐに下された金髪はしっとりしていて当たっているだけでもサラサラなのがよくわかった。

 

天「ノアさんはこの先気にしないといけなくなりますけど、俺は気が楽です」

ノア「ホントかなぁ?更に有名になったら熱愛報道とかされそうじゃない?」

天「普通にありそうなこと言わないでくださいよ•••怖いです」

 

来年にでもなったらPhoton Maidenは知らない人自体が珍しいくらいの知名度になりそうな気がする。それくらい上へと導くのが俺の仕事でもあるが。

 

ノア「期待してるよ、マネージャーさん」

天「へいへい」

 

俺はノアさんを抱きしめる。彼女の柔らかい身体をダイレクトに感じて、なんとも言えない心地よさに浸ってしまう。

 

ノア「そ、そういえば天くん•••」

天「はい?」

 

顔を赤くしながらこちらに振り向いたノアさんは、少し言いにくそうにもごもごとした。

 

ノア「ここって、防音なんだったっけ?」

天「はい、そうですが?」

ノア「じゃあ•••えっちしてもバレないってこと••••••?」

天「ぶふっ!」

 

突然のお誘いに俺は噴き出す。そしてノアさんに顔を向けると、これ以上にないくらい真っ赤に染まっていた。

 

天「まぁ、少しご無沙汰でしたし、いいですよ」

ノア「軽いなぁ•••」

 

彼女は不満な様子だったが、俺は微笑を返してまたノアさんを抱きしめ直した。




書き貯めしといて本当に良かったと思うよwお陰で新年回書きながらも毎日投稿できるのだからね。


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緊急事態は突然に

UA数20000を突破しました!ありがとうございます!毎日欠かさず投稿してきた甲斐あってここまでくる事ができました!本当にありがとうございます!これからも投稿を続けるので、どうぞよろしくお願いします!


学校が終わり、俺はいつものように事務所で仕事をしていた。キーボードを叩いていきどんどん文字を並べていく。

 

天「あー、今日も楽に終わりそうだなー」

 

ライブが目前に迫って、こういった作業は少なくなっていた。が、その代わりに会場に赴いたりと、肉体的な面ではまぁまぁ忙しかったりする。

 

天「あ?なんかメール来たぞ•••」

 

このパソコンは一応事務所に送られるお知らせやメールなどを受け取れる設定にしている。事務所に何か質問でもあるのだろうか、すぐに開いて確認すると、俺は血の気が引いた。

 

『八月十五日のライブ当日、メンバーを殺してやる』

天「••••••なんじゃこりゃ」

 

これは所謂殺害予告というやつだろう。世の中こんなつまらん事を考える奴がいるからたまったもんじゃない。どうせハッタリだろうが、大事を考えて対処をしよう。俺はすぐに席を立って、仕事部屋を出る。

 

訪れた先は応接室だった。扉を開けると、既に姫神プロデューサーが革張りのソファに座っていたので、俺も向かいに座る。

 

姫神「キミがここに来たのはわかっている。私にも回ってきたからな」

天「話が早いですね。とりあえず、どうしますか?」

 

俺の言うどうしますかは、ライブを予定通りやるか、それとも中止するかの2択だ。姫神プロデューサーは一切表情を変えずに、その鋭い目つきを俺に向けていた。

 

姫神「できることならライブはやりたい。世間は夏休みで客も入れやすい。こんな機会を逃すのは惜しい」

天「そうは言いますが、彼女たちが危険な目に合ったらどうするんですか」

姫神「キミなら、キミなら絶対にどうにかしてくれると思っている」

天「••••••無責任ですね」

 

俺はため息を吐く。流石にただ仕事をこなすのと、殺されるかもしれない恐怖を取り除くというのはかなり違う。そこまで機転が利く人間と思わないで欲しいのだが。

 

天「まぁ、とりあえずは注意喚起をします。まだライブまで一週間あります。それまでにどうにかできれば」

 

できれば、だ。できればすぐに片付く。一応サツにも連絡を入れておくが、あまり信用はしていない。ライブに混ざって参加するか、それとも裏から凸してくるか、相手がどう攻めてくるかがわかれば対策しやすいのだが。

 

天「••••••はぁ」

 

憂鬱な気分になってしまう。大抵はハッタリだが、今こんなに気分が沈んでしまっているのはそれ程Photon Maidenが好きになっている証拠なのだろう。今までだったら何食わぬ顔で適当に流していたのに。

 

天「さて•••どうするか。姫神プロデューサーはライブをやるつもりでいるが•••もし彼女たちに何かあったら•••」

 

頑張ればどうにかなる、それは分かっていても『もしも』の恐怖心には勝てないでいた。

 

天「••••••オーバーロードを使う•••?いや、あまり世間に流すわけにはいかない。もし仮に使ってるところがバレたらおしまいだ」

 

いくらなんでもリスクが高すぎる。そもそも俺は魂に接続して能力を発現したところで少しの間しか持たない。

 

天「••••••いや、やるしかない。やらずに後悔するよりもやって後悔した方が何倍もマシだ」

 

俺は強く手を握って拳を作る。そして壁を殴った。骨とコンクリートがぶつかり、大きな音だけが部屋の中を反響した。

 

一度レッスン部屋へと赴き、俺はメンバーに事の次第を話した。予想通り、全員が驚いた表情へとなる。

 

乙和「殺害予告!?なにそれ!」

天「仕事してたら突然来ました。一応俺と姫神プロデューサーと話し合って、ライブはやる予定で通しますが、いいですか?」

衣舞紀「それはもちろんいいのだけれど••••••大丈夫かな••••••」

天「できる限りどうにかします。ですので、安心して練習してください」

 

俺は真剣な表情で彼女らに目を向けた。それぞれ、タイミングは違えど頷いたのがわかる。

 

咲姫「天くんが言うなら、きっと大丈夫」

天「信頼して貰えてるようで嬉しいな」

 

ふっ、と微笑する。とりあえずは今後の事を考える為、俺は事務所を後にした。

 

家に帰り着くと、予想外の早い帰宅に月が驚いていた。

 

月「早いね、何かあったの?」

天「あぁ。相当大事な話だから、聞いてほしい」

 

椅子に座って、俺は鞄を置く。月は夕食の準備を止めて、俺の向かい側に座る。

 

月「いつになく怖い顔してるけど、どうしたの?もしかしてこの歳で漏らしちゃった?」

天「誰が漏らすかボケ。後変に話折ろうとすんな。••••••うちの事務所に殺害予告のメールが来た」

月「これまた物騒だね•••それで、どうしてその話を私に?」

 

月が首を傾げてそう問う。なので俺はこのままライブを続ける事や対策を話した。

 

月「なるほどね•••まぁ要は私とお兄ちゃんでその予告犯を捕まえようって話ね」

天「まぁそういうことだ」

 

月の能力を使って犯人を炙り出し、そこを俺が仕留める。能力を使っているのは人目からは全くわからないので、違和感なく事を運ぶことができるだろう。

 

天「そういうわけだから、来週は頼む」

月「りょーかーい。いやーまさかこの力でみんなのお手伝いができるのかー。楽しみだなー」

天「そんな楽しいもんじゃないだろ••••••」

 

確かに彼女たちのサポートをする、と事実的になる。月にとっては嬉しい事なのだろう。

俺は大きく息を吐いて、背もたれに体重を預けた。

 

天「はぁーめんどくせ。なんでこういう輩が湧くかなぁ••••••」

月「嫉妬とか気に入らなかったりとか、色々あるからね」

天「••••••やけに達観してるな」

月「能力のおかげで嫌でも人の悪い部分が見えるからね」

 

もう既に諦めた表情の月は、自分が置かれてる状況をよく理解していた。少しばかり同情してやりたいが、俺には月の世界がわからないので何も言えなかった。

 

天「••••••まぁお前も生きてるんだしな、何かしらあるだろう」

月「お兄ちゃんこそ、いつまでも冷めたまんまじゃなくて少しは明るくなったら?」

天「それは無理なお願いだな。人はそうそう変わらないもんだ。その事にとやかく言うのは自分勝手だと俺は思うが」

月「急に哲学的にならなくていいんだけど?さて、ご飯の準備再開しないと」

 

月は立ち上がって、台所の方へ向かった。俺も立ち、自室へと歩を進めた。

自分の部屋に入って、ベッドに転がる。

 

天「まさかこの薬が役立つ時が来るとはな••••••」

 

神無月から渡された薬の瓶を手に取る。中の球状の薬がコロコロと転がっているサマはまるでビー玉を眺めているようだった。

 

天「また忙しくなるが••••••仕方ない。マネージャーとして、彼女たちのサポートをしないとな」

 

一応はライブをする予定だ。そちらの方の仕事も片付けながら、犯人の動向にも目を光らせなければならない。やることが多いがこれも仕事だ。甘んじて受け入れよう。

 

月「お兄ちゃーん。ノアさん来てるよー」

天「え、マジか」

 

しばらく寝転がっていたら時間が経っていたらしい。もうレッスンは終わっててもおかしくない時間だった。俺は身体を起こして一階へと降りる。

 

ノア「こ、こんばんは•••!」

 

ノアさんが少し緊張した様子で椅子に座っていた。俺は何も言わずに隣に座る。

 

ノア「ね、ねぇ、天くん」

天「はい」

ノア「まさかとは思うけど、天くんが犯人を捕まえるなんて言わないよね?そこはライブスタッフとかに任せた方がーー」

天「俺と月で見つけて仕留めます」

月「言い方。それじゃまるで殺すみたいだよ」

 

食い気味に俺が無意識にドスを効かせた声を出すと、少し怒った様子の月が返ってくる。

 

ノア「どうしてそこまで•••」

天「俺と月には力があります。それをPhoton Maidenの為に使うだけですよ」

ノア「•••そっか、相変わらず優しいね、天くんは」

天「•••ま、マネージャーだからですよ」

月「お?照れてるな〜?らしくなく照れてるなお兄ちゃん〜?」

天「••••••チッ」

 

俺は舌打ちをして顔を逸らす。ノアさんは小さく笑って、俺を抱き寄せた。

 

ノア「天くんが優しいのはずっと前から知ってるよ」

天「•••そうですか」

 

今はただ照れ臭くて、ノアさんの言葉にも薄い反応を返すことしか出来なかった。




ちなみに今絶賛新年回を書いているところです。いつもは3000文字しか書かないのですが、今回は15000文字越えます。長々となってますがよろしくお願いします。


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大事な気分転換

新年回書き終えたぞー!過去最高の17672文字!途中でダレる人絶対出てくる予感しかしねぇ!w


そのままノアさんも交えて夕食を食べる事に。テーブルに広がる色とりどりの料理は、最早見慣れた光景だった。

 

天「あむっ、あむあむ•••」

月「今日はがっつくねー。そんなにお腹空いてたの?」

天「いや•••来週の事で色々ずっと考えてたら、いつの間にか腹が減ってた」

ノア「脳を使ったからだね」

月「あれこれ難しく考えなくてもいいんじゃない?」

 

軽い提案が飛んでくるが、俺は首を横に振った。

 

天「本来なら、これはサツとライブスタッフの仕事だ。でももし仮に犯人が武器を持ってたりしたら、サツはともかくスタッフ連中は相手にできない。中にまでサツを入れるのは難しいしな」

月「そこらのポリスメンよりお兄ちゃんの方がよっぽど強いしねー。もぐもぐ」

 

白飯を口に入れて咀嚼を始める妹。俺は反応に困って何も言えなかったが、気を紛らわす為にもご飯を口の中にかきこんだ。

 

ノア「そんなに急いで食べると喉に詰まるよ?」

天「母親みたいな事言いますね」

 

まぁいつも乙和さんを諭したりとか言いくるめてたりするし、精神的にもノアさんは大人な方だと思う。ヤベー奴である事に変わりはないが。

 

月「あれあれ〜?将来は尻に敷かれちゃうかも〜?」

ノア「それはないかな。いつも頼りにしてるし、逆に私が尻に敷かれちゃいそう」

月「おぉ•••ノアさんが言うとなんかエロいな」

天「失礼極まりない」

 

妹の発言がクソ過ぎてお兄ちゃん泣きそう。父さんに悪い意味で似過ぎなんだよなぁ•••。というか父さん以上に酷い。

 

ノア「前以上に月ちゃん、言いたい放題言うようになったね••••••」

天「この歳で父さん以上に問題発言連発してるんですから•••将来が真面目に心配です」

月「こんな事でそんな心配しないで!?流石にここだけだから!」

 

テーブルから身を乗り出して、月は俺の目の前にまで顔を運んだ。

 

天「じゃあマジでそういう事言うのはやめておけ」

月「セックス!」

天「•••••••••」

月「いや、あの•••そんな真顔で見られるのはちょっと••••••」

天「••••••••••••ハッ」

 

堪らず、俺は鼻で笑ってしまった。ピキッ、と月の顔に青筋が入ったのが直感でわかった。

 

月「オマエマジブッコロス」

天「おーこわwwwそんなカリカリすんなって、髪の毛の生え際が後退するぞ」

ノア「この状況でも煽るのはやめないんだ••••••」

天「伊達にメンタル鍛えられてませんから」

 

いつも煽られるから今回は仕返しだ。生憎とあまり煽られる経験がない月にはかなりのダメージが入っている。

 

天「で、どうだ?言い返された気分は」

月「ここまでイラつくとは思わなかったな〜。この事を踏まえて今後は遠慮なくお兄ちゃんをイジめていく事にするよ」

天「どうしようもねぇなお前••••••」

 

世が世なら殺されそうだなこいつ()ノアさんも苦笑いばかりで会話に参加できていない始末だ。可哀想に。

 

ノア「あ、そうそう。私、今日泊まるからね」

天「帰ってください」

ノア「冷たい!」

 

人を泊める余裕のない俺はつい昔のように返してしまった。少し反省する。

 

天「いえ嘘です。泊まってもらって構いません」

月「イライラしてるのは分かるけど人にぶつけるのはアウトだよ」

天「いや、分かってはいるんだが•••なんかすごいムカつくんだよ••••••」

月「•••Photon Maidenがそれほど好きなんだね」

 

まるで母親の様な慈愛に満ちた微笑みを月は浮かべる。この歳で母性あるとか勘弁してくれよ。

 

天「そ、そりゃ担当だからな!これくらいは•••しないと••••••」

ノア「天くん、責任を感じるのは大事だけど気負い過ぎ。警察やスタッフさんもいるんだから、自分一人で背負わなくていいんだよ」

天「そうですね•••ありがとうございます」

 

今はノアさんの優しい言葉が何より救われた。一息吐いて、またご飯をかき込んだ。

 

風呂も済ませて、俺は自室でパソコンを開いていた。メールの確認と共に、発信先を調べていたのだ。

 

天「まぁ、そううまくはいかんか」

 

発信の元を取る事ができたが、やはり元から捨てるつもりだったものだろう。情報が全く書いてない。

 

天「はぁ•••やっぱり現地で警戒するしかないか」

 

僅かな希望がなくなり、俺はわかりやすくため息を吐いた。

 

ノア「ダメだったみたいだね」

天「うおぉ!?」

 

突然後ろから声を掛けられて、俺は飛び上がった。ノアさんが噴き出して笑い始めたので、頬を引っ張る。

 

ノア「いふぁいいふぁい!」

天「何人のこと笑ってるんですかあなたは」

ノア「ごふぇんなふぁい!」

 

謝ったのを確認したので離した。彼女は少し痛そうに頬をさすっている。

 

ノア「いきなり酷い•••」

天「はいはいすみませんすみません」

 

手を伸ばしてノアさんの頭を撫でる。泣きそうだった顔はたちまち笑顔へと変わった。

 

ノア「やっぱり、落ち着くなぁ。天くんに撫でてもらうと」

天「•••そうですか」

 

手を離して、パソコンの電源を落とす。椅子から降りて俺は一度部屋を出る。

 

ノア「何処に行くの?」

天「ちょっとした野暮用です」

 

それだけ言い残して、隣の月の部屋の扉をノックした。すぐに月が出てきて、疑問まみれの顔を浮かべていた。

 

月「どうしたの?」

天「久しぶりに一緒にゲームしないか?」

月「珍しいね。もちろんいいよ。ボッコボコにしてあげるから!」

天「じゃあス◯ブラするか」

月「おっけー。じゃあディスク持っていくね」

 

俺は一足先に部屋を出て、また自室に戻る。ドアを開けると、ノアさんがベッドに腰掛けていた。

 

ノア「何処に行ってたの?」

天「月の部屋です。ストレス解消にゲームを一緒にしようと思って」

ノア「月ちゃんとやるの?じゃあ私はいつも通り見ていこうかな」

 

テレビの前に座ると、ノアさんは隣に来る。クッションを渡すと、軽く礼を申しながら尻に敷いた。

 

月「はーいお待たせー。あれ?三人でやるの?」

天「いや、ノアさんは見てるだけ。タイマンでやるぞ」

月「私は配管工の赤いおっちゃん使うね」

天「普通にマ◯オって言えよ。俺はいつも通りリ◯クで」

月「まーた剣キャラか(ボソッ)」

 

月が小さな声で毒を吐いた気がするが気の所為と言うことにしておこう。ゲーム機本体にディスクを入れて、ス◯ブラを起動させる。

すぐに対戦画面へと行き、自分が操作するキャラを選ぶ。

 

天「残機1か、普通だな!」

月「ゾロったりしないでよ?」

天「初心者じゃねぇんだぞこっちは」

ノア「ぞ、ゾロ•••何?」

 

ノアさんは用語がわからなくて首を傾げていた。ゾロるはまぁ、自分から落ちて死ぬ事を言う。多分。

そうこう言ってるうちに試合が始まった。俺は開始直後に真っ直ぐに突進してダッシュ攻撃のジャンプ斬りを繰り出す。が、月の操作するマ◯オは簡単にそれを躱した。

 

月「お兄ちゃん毎回凸ってくるよねー。癖なの?」

天「まぁ癖だな。なんだかんだまず最初に一発入れたい性分でな」

月「見事に躱されてるけどねっと!」

天「あぶなっ!」

 

ガードをしていたところに唐突に掴みにきやがった。俺は即座に回避し、なんとか免れる。

 

月「無駄に反射神経はいいね」

天「こちとら鍛えてるからな」

ノア「もうこれだけで何が何だかわかんない•••」

 

俺の腕に抱きついていたノアさんは、状況についていけていなかった。ただ呆然と俺と月が操作するキャラが戦い合ってるのを眺めてるだけだ。

 

月「はいはいはいはい!」

天「うわっ、コンボ始めやがった!」

 

月が操作するマ◯オには確定で相手を場外に追い出すコンボがある。今はそれをキメられている真っ最中だ。

 

天「•••ッ!」

 

タイミングを見計らって空中回避をする。月の攻撃は外れて、俺が先に地面に足をつける。落ちてくる月目掛けて、俺は上攻撃を入力した。

が、月も同時にした攻撃を入力していたようで、お互いの攻撃が重なってふっとんだ。そしてどちらかが死んだみたいだが、画面を見ればマ◯オのダメージ表記が残っていた。つまりはーー、

 

月「はい私の勝ちー!」

 

月の大勝利だった。コントローラーを放り投げて喜んでいる。

 

天「あーくそ、負けた」

月「現役勢に勝てると思ったら大間違いだぞー?引退勢くん」

天「その引退勢にギリギリまで追い込まれていたのはどこのどいつだ?」

月「勝てればいいんですぅ〜」

 

まるで子供のように俺たちは言葉を投げつけ合う。その光景が面白かったのか、ノアさんは笑い始めた。

 

ノア「あはっ、あはははっ!天くんも月ちゃんも、本当に仲がいいんだね」

月「十年以上一緒ですからねー。絆ってものがあるんですよ」

天「いやお前普通に絆崩壊しそうなパーティーゲームで容赦なく潰してきただろ」

月「ゲームと現実は違うんですよお兄さま!」

 

やたらと呼び方が変わるなこいつは。俺も堪らず笑い出し、部屋の中は三人の笑い声で溢れかえっていた。




新年回のお陰で書き貯めがどんどんなくなってるんだよなぁ。やっべどうしよ()


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これが俺の仕事

皆さん一年お疲れ様でした!短い一年でしたね!自分ですか?受験さっさと終えてダラダラ過ごしてました。来年の四月から遊べないから今のうちにね?それでは、よいお年をー!新年の挨拶は新年回の時に言いますね。


運命のライブ当日。俺は月を連れてPhoton Maidenの控え室へと居座っていた。既に会場内は人でごった返していて、うるさいくらいに声が聞こえていた。

 

天「月、今のところはどうだ?」

月「••••••まだわからない。遠いのもあるけど、まだそう言った感情は見えないね」

 

流石に距離があれば月でもわからないようだった。軽くため息を吐いて、机に頬杖をつく。

 

天「一応大事を思って色々持ってきたが•••」

 

ナイフ、催涙スプレーその他諸々。ぶっちゃけここまで準備する必要はなかったような気がする。多分使わないだろう。

 

乙和「本当にやるの•••?大丈夫•••?」

 

乙和さんが心配そうに俺と月を見るが、案外精神的に余裕のあった俺らは薄らと笑みを浮かべた。

 

天「問題ありません。乙和さんは自分とライブの事だけを考えてればいいんです」

咲姫「でも、あんなたくさん人がいる中でどうやって見つけるの••••••?」

天「秘策がある。だから大丈夫だ」

 

チラリと月に目を向けると、妹は頷いた。

 

衣舞紀「じゃあそろそろ行ってくるけど、決してニ人だけで済ませようとしないで。警察やスタッフの方々も来てるのだから、頼らないと」

月「わかってますよー!衣舞紀さんは心配性なんですから!」

 

月はおちゃらけて見せるが、これはあくまで衣舞紀さんに悟られない為だ。本当は警察とスタッフに頼る気など一ミリもないからな。

 

ノア「•••••••••」

 

その事をわかっているノアさんは、ただ言葉を呑んでいた。

 

咲姫「では、行ってきます」

 

咲姫から、続々と部屋を出て行く。衣舞紀さん、乙和さんが出て行ったところでノアさんは佇んでいる。

 

天「どうしたんですか?遅れちゃいますよ」

ノア「ステージに立つ前に、天くんから元気を貰いたいな」

 

彼女は腕を小さくだが開いた。俺は微笑み、手を伸ばしてノアさんを抱きしめる。

 

ノア「••••••うん、これなら頑張れそう」

 

俺の胸の中に顔を埋めていたノアさんが、口を開いた。俺は何も言わずに、ただ彼女が満足するまで抱きしめ続けた。

 

ノア「••••••もう大丈夫だよ」

 

そう言うと、ノアさんは自分から離れた。少し名残惜しかったが、彼女はこれからたくさんのお客さんの前でパフォーマンスと歌を披露するのだから、ワガママは言えない。

 

天「頑張ってください」

ノア「うん。私らしく頑張ってくるね」

 

手を振りながら、彼女は急いでステージへと向かって行った。俺はノアさんを見送る時の笑顔を消して、鋭い瞳で月に目を向けた。

 

天「それじゃ、行くか」

月「うん」

 

月もそれは同じなようで、殺意すらこもった目をしていた。周りに悟られないように、感情を押し殺しながら観客席へと向かう。

 

俺たちに用意された関係者席は上の階の端っこ辺りだ。遠いだけで別にステージがよく見えないわけでもないのがありがたい。

 

月「••••••••••••」

 

既に月は会場全てに意識を集中させて、犯人探しに勤めていた。俺は能力を解放する前に、神無月からもらっていた薬を手に取る。

 

天「•••まさか使う時が来るとはな••••••」

 

使う事なんてないと思っていたのにこんな事になるなんてな、としみじみと感じる。が、そんな事を考えている暇はないので、薬を口の中に放り込んで飲み込んだ。

そして魂を脳に接続する。周りの空気や音が何千倍にも感じ、今にも吐きそうになった。

 

天「(キッツ••••••だが、これなら会場の人間全ての動きがわかる)」

 

客が動作を起こすたびに揺れる空気を感じ取って、今何をしているのかを把握するのだ。だから魂の消費が激しい。薬を飲んだとはいえ、長くは持たないだろう。

 

月「••••••••••••見つけた!二階席右側!」

天「了解!」

 

俺は席を立って即座に走り出す。音を立てないように足音を殺しながら、それでもスピードを出しながら。

僅かながらに鉄の臭いがした。通路側の一番後ろの席に座っている男からだ。その臭いは服の中から感じ取れた。••••••恐らく銃だ。しかもサプレッサー付きのだ。

 

天「••••••」

 

男の動向を窺いながら走る。まだ多少の距離があるが、後数十秒もすれば到着するだろう。

••••••男が立って、移動を始めた。目立たない位置で射撃をするつもりなのだろう。俺は更に足を動かす速度を上げて、男の元へ向かう。

 

天「後少し•••!」

 

もう少し、もう少しで間合いに入れる。が、男はその時銃を取り出した。俺の予想通り、サプレッサー付きのハンドガン。それも殺意マシマシのFN-57だ。小型のライフル弾で確実に彼女たちを殺す気でいる。

男が構えた。俺は堪らず地面を蹴って、男の銃を持つ右手に飛び込んだ。

 

男「!?」

 

突然の俺の乱入に、男は困惑した。そのおかげで引き金が引かれる事はなくなり、そのチャンスを逃す事なく銃身をぶん殴る。

 

男「あっ•••!?」

 

銃は男の手を離れて、カランカランと音を立てて地面を擦りながら移動していった。男の手を掴んで、キッと睨みつける。目つきの悪い、細身の青年だった。二十代なのは確実だろう。

 

天「捕まえたぞ••••••警察まで来てもらおうか」

男「いっ、嫌だ•••!許してくれ•••!ほんの出来心だったんだ•••!」

天「•••••••••出来心?」

 

何かが俺の中でプッツンと切れた気がした。目の前の男は恐怖に怯えてしまっている。そして自然と、掴んでいる男の手を握り潰そうと握力が増していた。

 

男「ぐっ、あぁっ•••痛い•••!」

天「出来心ってお前言ったよな•••?そんな身勝手な理由で彼女たちを傷つけたのか?なぁ?」

 

ミシミシと音がし始める。このままいけば恐らく男の右手は骨ごと潰れてしまうだろう。

 

男「ごめんなさいっ•••ごめんなさい•••!」

天「••••••謝るくらいなら最初からするな、クソが」

 

男の手を離すと、痛そうに自分の手を抑えてうずくまり始めた。駆けつけた警察に事情を説明して、身柄を引き取ってもらう。

 

天「••••••あっけねぇな」

 

所詮はこんなもんか。本当に殺す気なら、一々予告なんてせずに直に事務所に凸ってくるだろう。所詮は政治的にガキな大人の悪い行動だ。つまらん。

接続を解除すると、力が抜けてその場に崩れ落ちる。脳への負担が相当大きかったのもあって、かなりボーッとしていた。

 

天「とりあえず•••戻らないとな••••••」

 

安定しない視界で注意深く歩きながら、関係者席へと戻る。席に座ると、すぐに身体の力が完全に抜けた。

 

月「お兄ちゃん大丈夫!?」

天「流石に、長くやり過ぎた••••••身体うごかねぇ••••••」

月「もう•••無茶し過ぎだよ••••••でも、無事終わって良かったね」

天「あぁ••••••」

 

月の言葉が全く頭に入ってこない。完全に脳が休みたいと懇願しているようだ。それを精一杯反発しているが、後少しでもしたら負けてしまうだろう。だが••••••、

 

天「担当のライブくらいはみてやらないとな•••」

 

彼女たちは一生懸命頑張っているんだ。その姿だけは目に焼き付けておかないと。

 

天「••••••••••••」

月「お兄ちゃん?」

天「悪い、話しかけないでくれ。集中できない」

 

既に疲れ切った脳で集中できてるのかすら怪しいが、恐らくできているだろう。彼女たちの音楽やダンスが、頭にしっかりと流れ込んでいた。彼女たちの輝かしい姿は、オーバーロードによって疲弊した脳でも、記憶に残してくれていた。

 

Photon Maidenのライブは終わった。俺は月に支えられながら控え室へと戻り、椅子にドカッと座った。

 

天「はあぁぁ••••••」

 

そして無意識にドデカい欠伸を一つ。口を目一杯開いて、息を外へ放出する。

 

月「お兄ちゃん、お疲れ様」

天「あぁ、お前こそな•••」

 

お互いに健闘を讃えあう。拳を軽くコツンとぶつけて、俺はダランと腕が下がった。

 

月「しばらくは休んでおいた方がいいね」

天「そうだな•••」

 

後一、二時間くらいは動けないだろう。そんな長い時間まで月に付き合わせてしまうのは、少し申し訳なかった。

 

乙和「たっだいまー!」

 

乙和さんを先頭に、メンバーが続々と戻ってきた。

 

咲姫「天くん、大丈夫••••••?」

天「あぁ•••何とかな••••••」

 

本当は大丈夫なワケないが、心配させないためにもここは強がっておこう。

 

衣舞紀「お客さんの反応、良かったわね。ライブは文句なしの大成功!天も、会場を用意してくれてありがとう」

天「いえ、それが俺の仕事ですから」

 

俺は笑顔を必死に作ってその場を取り繕う。徐々に身体が限界を迎えていたのがよく分かった。

 

月「お兄ちゃん、帰れそう?」

天「無理そうだな•••しばらく休んでから帰るわ」

 

もうクタクタな状態なのを月が見かねて声をかけた。これ以上は危ない俺は、それに甘えた。

 

ノア「じゃあ私が残るよ。みんなは先に帰ってもいいですよ」

月「あのー•••ノアさん。流石にそこまでしてもらうのは•••」

ノア「大丈夫。今日は神山家に泊まる予定だったから」

天「••••••絶対今決めましたよね」

 

だってそんな予定聞いてないもん。俺も月も初耳だ。いつでも大歓迎だからいいのだけども。

 

乙和「あっ、じゃあこれから天くんと月ちゃんの家で打ち上げしない?」

月「あっいいですね!私腕によりをかけて料理作っちゃいますよ!」

咲姫「天くんは大丈夫?」

天「問題ない」

 

あまり喋りたくないので手短に済ませる。これで俺の家に大量の人間が集まる事が確定した。これもうわかんねぇな。

 

乙和「それじゃ天くん、あとでね〜」

 

乙和さんたちは控え室を出て行った。部屋の中は、俺とノアさん二人だけが残される。

 

ノア「天くん、お疲れ様」

 

二人きりになった途端、ノアさんが俺を抱きしめた。身体が動かせない今は、されるがままだ。

 

ノア「天くんのおかげで、私たちは無事にライブを終えることができたよ。本当にありがとう」

天「いえ、そんな•••」

ノア「そんなこと、って思ってるかもしれないけど、私にとっては、すっごく嬉しかったよ」

 

見事に思っていた事を言い当てられ、口ごもる。

 

天「これも仕事ですから•••責務を全うしただけですよ」

ノア「素直じゃないんだから」

 

ノアさんが頬を膨らませた。俺は苦々しく笑い、ノアさんに軽く体重をあずける。

 

天「でも、これで安心して眠る事ができます••••••」

ノア「寝ちゃっていいよ?ちゃんと起こしてあげるから」

天「••••••はい、お願いします••••••」

 

遂に限界を迎えた俺は、まるで死んでしまうかのように薄らと目を閉じて、意識を無情にも切り離された。




R18の方もありまっせ。見たい人向けでーす。


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夏の終わり

初稽古行って見事に死んできました!wおじいちゃん先生強すぎて無理www


神山家に二人で帰宅する中、俺は外で振り返って会場を眺めた。本当にあんなところでライブをしたのか、としみじみと感じた。

 

ノア「どうしたの?みんな待ってるから早く帰らないと」

天「そうですね」

 

握っていた手を引かれて、俺はまた踵を返す。ノアさんがニコニコと俺を見ているのが妙に気になる。

 

天「••••••何か顔についてますか?」

ノア「なにもないよ。••••••ありがとう」

天「どうしたんですか急に」

 

突然礼を申されて、俺は少し困惑してしまう。

 

ノア「ここまで私たちを連れて行ってくれて、守ってくれて、ありがとう。天くんがいなかったら、今頃あんなところに立ってなかったよ」

天「••••••そうですか」

 

まだ頭がボーッとしていて返答を練る思考がなかった。久しぶりに発動した能力は、薬込みでもかなりの負担を脳に与えていたらしい。

 

ノア「これからも、私たちをステージに立たせ続けて欲しいな」

天「当たり前ですよ。Photon Maidenをライブに連れて行くのが俺の仕事なんですから」

 

これだけは聞き逃さずに、ちゃんと言葉を返すことができた。さっき少し寝たとはいえ、まだ疲れは相当残っている。家に着いたらまた少し寝させてもらおうと、僅かながらに考えた。

 

家に到着して玄関を開けると、やはりと言うべきか、ワイワイとしていて賑やかだった。俺とノアさんは顔を見合って、小さく笑う。そのままリビングに向かって歩いてドアを開けた。

 

猛「おぉ!帰ってきたな天!それとノアちゃん!お疲れ様!」

天「••••••父さん?帰ってきてたのか」

 

後疲れた脳に大声はやめてくれ、頭が痛くなる。

 

月「遅いよー?待ちくたびれちゃったんだから」

 

足をブラブラと振りながら月が呆れ混じりに口を開く。遅くなったことに関しては申し訳ない。セックスしてて遅れた事は口が裂けても言えんが。

 

月「•••••••••あぁ、そういうこと。青春してるねぇ」

天「あっ•••」

 

そういえば思考読めるんだったコイツ。やらかした。ノアさんも察したようで、顔を赤くしていた。

 

乙和「ノアどうしたの?顔赤いけど」

ノア「な、なんでもない!」

 

乙和さんが気にかけて心配するように声をかけてくれたが、ノアさんは焦っていたのかデカい声で対応した。その声に驚いて、乙和さんの身体はビクッと跳ねた。

 

咲姫「天くん、こっち••••••」

 

ちょうど咲姫の隣が空いていたので、彼女はこちらに手招きをした。俺はそのまま釣られてそこに座る。

 

咲姫「お疲れ様」

天「ん、ありがとな」

 

すぐに労いの言葉をいただけて、俺は少しばかり微笑む。更にその隣に、ノアさんが座った。

 

ノア「咲姫ちゃんの相手だけ•••?」

天「普通に話してただけじゃないですか。過剰に反応し過ぎですよ」

衣舞紀「嫉妬深い女の子は別れやすいわよー?」

 

すかさず衣舞紀さんがからかうように口を挟んだ。ノアさんは更に反応して、頬を膨らませる。

 

ノア「これは嫉妬じゃない!ただ天くんが他の子と楽しそうに話してるのが嫌なだけだもん!」

乙和「ノア、それを嫉妬って言うんだよ•••?」

月「これが素だから余計に面白いですね」

咲姫「面白い•••かな••••••?」

 

月の言葉に、咲姫は苦笑いをしながら首を傾げた。俺も面白いとは思わん。可愛いとは思うが。

 

猛「最近の女の子ってこういうもんなのか?」

天「さぁな」

猛「こんな沢山の女の子と関わってきて知らんはねぇだろお前」

天「いやたった四人じゃん•••」

 

いつものように言い争うノアさんと乙和さん。それを嗜める衣舞紀さん。月と楽しそうに談笑する咲姫。それに比べて俺は父親とつまらん会話をしているだけだ。

 

猛「今日、母さんが帰ってくる予定だったんだが•••無理そうらしい」

天「仕事が忙しいのか?」

猛「いや、担当の番組が遅くまで長引いてるからそれでな」

天「マネージャーはめんどくせぇな」

 

かくいう俺もマネージャーなんだがな。父さんはそれをわかってて、小さく笑った。

 

猛「それに比べてお前の担当は優秀でいいな。まだライブあるんだろ?」

天「あぁ。来月に後二回ある。まだ増えるかもしれんがな」

猛「成長したなぁ•••そういや、高校卒業したら家出て行くんだったな」

天「あぁ。いい加減一人暮らしを始めないといけないし」

 

本当は父さんや母さんと離れたいだけなのだが。この二人は普通に面倒だから今後関わりたくないまである。

 

月「はーいちゅうもーく!ご飯食べますよー!」

 

パンッ!と月が手を叩いて音を響かせた。自然と全員の視線が集まって、妹はわざとらしく咳払いをする。

 

月「えー、ライブも無事に終わって成功を収めました。ここで、我が兄である天様にお言葉をいただきたいと思います」

乙和「おー!」

猛「変なこと言ったら殴るからなー!」

 

早速乙和さんと父さんが悪ノリを始めてしまった。他の人もなんだかんだ楽しそうに見てるあたりグルだ()。

俺はため息混じりに仕方なく立ち上がる。

 

天「えっと、まぁ•••ライブが何事もなく終わって本当に良かったと思います。こうして成功できたことも、Photon Maidenが日頃から努力を重ねて技術を磨いたからでしょう。今後も気を抜くことなく練習に励んで貰いたいと思っています」

猛「おいかてぇぞなんかねぇのか!」

天「部外者は黙ってろ」

猛「アッハイ、すんません••••••」

 

ジロリと睨みつけるとすぐに父さんは黙った。流れが完全に崩れたので、俺はもうヤケになろうとする。

 

天「とりあえず!ライブ成功おめでとう!これからもどんどん連れていくからついてきてくれ!」

 

我ながらクサいセリフを吐いたものだ。かなり恥ずかしい。

 

ノア「もちろんついていくよ。天くんあってのライブだから」

月「とりあえずご飯食べません?お兄ちゃん話長すぎ」

天「その話振ったヤツには言われたくねぇな」

 

勢いよく座って、俺たちは夕食を食べ始める。豪華に料理が沢山並んでいて、どれから食べようか迷ってしまう。

 

乙和「ん〜!栗きんとんあまーい!」

衣舞紀「乙和、ちゃんと野菜も食べなさい」

咲姫「もぐもぐ••••••」

天「咲姫、お前はちゃんと肉食え」

月「お兄ちゃんにははいこれ」

 

ドンっと小さくも鈍い音を立てながら、俺の目の前に缶が置かれた。エナジードリンクやんけ。

 

月「それ飲んで、少しは脳働かせてね。今日は遅くまで騒いじゃうよ」

 

妹の気遣いにちょっと感動しながら、俺はプルタブを開けてエナドリを口の中に流す。

炭酸と共に満たされる甘味がとても心地良い。でもそんな大量に飲もうとは思えなかった。

 

ノア「はい天くん、あーん」

天「あむっ。んむんむ•••なんすかこれ」

 

独特な食感に酢飯の味が口いっぱいに広がる。美味いけどよくわからないものを食わされて少し困惑した。

 

ノア「フグのお寿司だよ。美味しい?」

天「美味いですよ」

ノア「じゃあ私にもお返しを」

天「しゃーないですね」

 

俺はマグロ寿司を箸でつまみ取って、ノアさんの口元へ運ぶ。

 

天「あーん」

ノア「あーんっ。もぐもぐ•••んーっ!美味しい!これって中トロかな?」

天「そうですよ」

 

すぐにネタを味で見分けたノアさん。すごくね?

 

月「流石に私一人でこの人数分を作るのは辛いから沢山出前とっちゃった。お金かなり使ったけど許してね?」

天「全然問題ない」

 

よく見たらテーブルには他にもピザやたこ焼き、更には弁当までもあった。見境無さすぎて逆に笑える。

 

ノア「•••••••••」

 

ぎゅっ、とノアさんが俺の手を握った。テーブルの下だったので、周りからは一切見られていない。横を向くと、彼女は少し顔を赤くしてこちらを見つめていた。

 

天「どうしました?」

 

俺も握り返すと、ノアさんは少し安心したような顔になる。

 

ノア「大好きだよ、天くん」

天「俺もです、ノアさん」

 

周りに人がいるにも関わらず、俺たちは素直に自分の気持ちを伝え合った。もうすぐ夏が終わる。だんだん涼しくなっていき、そこで魅せてくれる彼女の姿は、とても綺麗だろうと勝手に思い込んでみた




いやー寒いねー。あ、明日で完全にノア√終わります。ラストは衣舞紀やでー。頼むよー(他人事)


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もっとマシな地上波デビューさせてくれ

今回でノア√終了です!ありがとうございました!今日ようやく我が家に帰る事ができて、今日から執筆ができそうです!貯まってる分無くなりになくなって後は明日の分しかなくて死にそうwwwそれでもなんとか少しずつストック増やしていきますので、どうかよろしくお願いします!


先日のライブの殺害予告犯の件はすぐにニュースに取り上げられた。朝の情報番組は、その話題で持ちきりとなり、一種のお祭り状態だった。それを見ていた俺と月は苦笑いを浮かべたが、それはすぐに真顔へと変貌を遂げる。

 

アナウンサー「ーーそして、犯人を捕まえたのはPhoton Maidenのマネージャーを務める神山天さん15歳です。近くにいた観客が、銃を持つ犯人に対応している姿を確認しました」

天「見られてたのかよ!?しかも俺の名前出てるし!」

月「いや、そりゃあんな派手にドンパチやってたら仕方ないでしょ••••••」

 

うんそうだね納得()。悔しいが認めざるをえないようだ。これ地上波でしょ?俺の顔日本中にバラまかれたって事じゃん。マネージャー引退して隠居したいまである。

 

月「学校で何言われるか楽しみだねー?人気者まっしぐらかもー?モテモテかもー?」

天「モテる事に関してはノアさんがいるからどうでもいい」

月「おっ、言い切った。やっぱ好きなんすね〜」

天「•••••••••」

 

これ以上話してたら、月が更にエスカレートして何言い出すかわからないから俺は黙った。

 

月「ノアさんも幸せ者だな〜。こんなに一途に愛してもらってるんだから。私も彼氏欲しくなっちゃうよ」

天「だったら作ればいいじゃないか。お前顔良いからモテるだろ?」

月「まぁ終業式の日にコクって来た男子はいたけどねー•••確かサッカー部のキャプテンだったっけ?興味ないから断ったけど」

天「ほぉ、なんでだ?」

 

サッカー部のキャプテンとはこれまたベタだが、月がどういう理由で断ったのかが純粋に気になった。

 

月「だってサッカーって走ってボール蹴るだけじゃん。そんな人と付き合ってもなー、と思って」

天「世界中のサッカーやってる人たちに謝れ」

 

それ言ったら野球はボールをバットで打って走るだけだし、バスケはボール跳ねさせながら走るだけじゃねぇか。

 

月「やっぱ付き合うならお金持ってる人かなー」

天「めっちゃ俗物的やん•••恥ずかしくないの?」

月「恥ずかしくないもーん。お金ないと生きていけないんだからねぇ?」

天「同意を求められても少し困るな。金なんて最低限生きていく分でいいだろ」

月「そんなんでノアさん養えるの?」

 

ぶっちゃけ養う養わない以前に確実に共働きになることうけあいだろう。仮にノアさんがPhoton Maidenを卒業しても、そのまま演技力を活かして女優の道に進むと思っているからだ。その時は彼女のマネージャーをしてみたい。

 

月「夢が膨らむねー」

天「人の頭の中見てんじゃねぇよ」

 

しれっと思考を読んできたので俺は注意する。月はヘラヘラと笑うばかりで反省の色など全くなかった。

 

月「今日ノアさんとデートなんでしょー?いいの?いつまでも私と話してて」

天「••••••あー、そろそろ行くか」

 

時計を見ると、待ち合わせの時間が近づいていた。俺は立ち上がって、玄関へと向かう。

 

月「気をつけてねー」

天「あぁ」

 

軽く返して、俺は家を出る。そのままスタスタと歩いて駅前へ歩を進める。

 

天「まだ暑いな••••••」

 

もうすぐ八月が終わろうとしているが、暑さが和らぐ事などなかった。もうそろそろマシになってもいい頃だと思うのは、俺だけなのかもしれない。

 

天「•••急ぐか」

 

このままダラダラと歩いていたら遅れそうな気がして怖くなったので、地面を蹴って走り始めた。

 

軽く息を吐きながら、駅前に到着する。周りを確認するが、ノアさんの姿はない。手当たり次第に金髪を探してみるか。そう思って歩こうとしたらーー目の前が真っ暗になった。

 

?「だーれだ?」

 

しかもリア充漫画でたまにあるアレまできたよ。ここはノッてやるか。

 

天「乙和さんですよね?こんな事するのあなたくらいしかいませんよ」

?「ち、違うよ!」

天「•••じゃあ衣舞紀さんですか?意外とお茶目なんですね」

?「だから違うって!」

天「まさか•••咲姫か?お前そんな事するキャラだったっけ」

?「違う違うちがーう!」

 

ぱっ、と目の前が明るくなり、太陽の光が目に入る。振り返ると、頬を膨らませて怒りを露わにしているノアさんが立っていた。

 

ノア「絶対わざとでしょ!?遊んでたでしょ!?」

天「せっかく前フリしてくれたんですから、応えないのは失礼かと思いまして」

ノア「私は真面目に答えて欲しかった!」

 

人通りの多い駅前にも関わらず、ノアさんは声高らかに叫んだ。周りの目が集まってきて気まずい。勘弁してくれ。

 

天「とりあえず移動しましょう。すごく居心地悪いです」

ノア「えっ•••?あっ•••ご、ごめんね?」

 

周りを見て、彼女は察したように声を漏らして俺に謝った。俺は手を取って、すぐにこの場から離れた。

 

今度は人の少ない、というよりほぼ通っていない路地に来た。ここなら人目を気にしなくて良さそうだ。

 

ノア「さっき、ニュース見てたら天くんが出てきた•••」

天「俺も見ました。はぁ、どうしてこうなるかな•••」

 

俺はボリボリと頭を掻く。ライブの時間の事を事細かにマスコミに質問されまくるのはかなり面倒なんだけど。できることなら相手したくない。

 

ノア「見るからにめんどくさーいって顔してるね」

天「実際ダルいですよ。これでPhoton Maidenにまで近づいてきたら••••••」

 

どうせ、「殺されないか怖くありませんでしたか?」なんてデリカシーのカケラもない事を訊くのだろう。これだからマスコミは嫌いなのだ。

 

ノア「そこまで気にしなくてもいいと思うよ?あまり今回の件は大きくしたくないって姫神プロデューサーも言ってたから」

天「まぁ、あの人が言うなら•••大丈夫か」

 

未だに姫神プロデューサーの事はよくわかっていないが、信頼できるのは確かなので甘える事にしよう。

 

ノア「そ、それと•••」

 

何故かノアさんが顔を赤くしながらモジモジし始めた。え、何(小声)。

 

ノア「どうして、こんな人のいないところに連れてきたの••••••?」

天「特に理由はないです」

 

改めて周りを見てみれば人が少ないどころか人っ子一人いなかった。おや•••これは••••••。

 

天「まさかセックスする為にここまで連れてきたとか言いませんよね?」

ノア「ち、違うの•••?」

天「違いますけど!?俺の事なんだと思ってるんですか!」

 

それは心外なんだが。俺は性欲の塊ちゃうぞコラ。どちらかというと食欲の方が上だ。

 

ノア「だ、だって天くん、えっちだし•••」

天「それあなたが言います?(早口)」

 

ノアさんの頬に手を添えて、彼女の顔を見つめる。大きな瞳が揺れていた。

 

天「そんな事言うって事は、ノアさんもシたいんじゃないんですか?」

ノア「そっ、そんな事•••」

 

ぷいっと顔を逸らしたが、徐々に、徐々にだか顔がこちらへ戻りつつあった。そしてまっすぐ顔が見えると、震える唇を動かした。

 

ノア「そ、天くんと•••シたい••••••」

天「••••••わかりました」

 

俺はノアさんを抱きしめて、強引に唇を奪った。

 

行為を終えて、また人通りの多いところへ出る。手を繋いだまま歩くが、ノアさんの歩幅はいつもより小さかった。

 

ノア「まさか外ですることになるとは•••」

天「何事も経験ですよ」

ノア「天くんも初めてだったでしょ!?」

天「まぁそうですけど」

 

朝の月と同じようにヘラヘラと笑う。こういうところはやっぱり兄妹なのかねぇ。

 

ノア「もう•••それで、どこにいこっか?」

 

機嫌が戻ったのか、ノアさんは俺を上目遣いで見ながら訊いてくる。

 

天「とりあえずブラブラ回ってみますか。何か面白いものがあるかもしれません」

ノア「了解」

 

俺たちはいつも通り歩き始める。またライブや色々な事を通して彼女との関係を深めていこうと、俺は密かにそう感じた。




さーて書いてる途中のやつ終わらせないとなー。でもほかにやりたいことあるし、今日の分だけ終わらせて明日から頑張るか()


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衣舞紀√
もっと頼ってもええんやで?


今回から衣舞紀√スタートでーす。いやーようやく三人のが終わってラストですよラスト。まぁ今年の四月までなんで、それまでは頑張りますよーっと。


天「気持ち悪っ•••!」

 

夕焼けがカーテンの隙間から入り出した頃、吐き気が止まらない俺がベッドに寝転がっていた。

 

天「あークソ•••風邪ってこんな辛かったか••••••?」

 

いつもなら寝てたら勝手に治ってた、なんて事ばかりだった。だが今回は眠れない上に今までの風邪の何倍もキツいと来たもんだ。ふざけんなマジで。

 

天「月、早く帰ってきてくれねぇか••••••」

 

どうせガラにもなく一人で寂しいとかそんなんだろう、恥ずかしい限りだ。どうしてこうも変わってしまったのだろうか、俺は。

完全にPhoton Maidenが原因だ。彼女たちにマネージャーとして絡むようになってから、色々なモノが変わってきている。

 

天「•••チッ、バカみてぇ••••••」

 

これじゃ俺がPhoton Maidenが大好きみたいじゃないか。俺はあくまで仕事で彼女たちのサポートをしているに過ぎない。さっさとこんな風邪治して溜まった仕事を消化しなければ。

とは言ったものの、身体が苦しくてそれどころではない。というか無理。動けん。

 

天「Photon Maidenの誰か来ないかな••••••」

 

こういう時だけ都合よく頼るのは、人として終わっているだろう。俺自身はマネージャーとして頼られる存在でいなければいけない。彼女たちに頼るなど言語道断だ。

 

天「••••••せめて、お粥くらいは食っておくか••••••」

 

キツい状態だが、無理矢理身体を起こす。テーブルに置いてあるお粥の入った器を手に取ろうとしたが、それはするりと通り抜けた。

 

天「あっ••••••」

 

そのまま体勢を立て直すことも出来ずに無様にぶっ倒れる。身体を起こそうとするが、頭痛に加えて吐き気、更には視界が安定しないときたもんだ。最低最悪な状態が出来上がっている。

 

天「ふっ•••ぐぅ•••」

 

力を振り絞ってなんとか立ち上がる。いつもの伸びた背筋などなく、今はただの猫背へと化していた。

 

天「あーやべ•••これ倒れるわ•••」

 

どうせならこのまま気を失った方が楽なのではないかと思い始めていた。グルグル回る視界に翻弄されながら、ベッドに戻ろうとした時ーー、

ピンポーン!

インターホンが鳴った。俺は引きずるようにゆっくりと歩いていく。壁に寄りかかりながら一階に降りて、玄関まで歩いていく。鍵を開けてドアノブを捻った。

 

天「••••••衣舞紀さん?」

 

目の前には、長い銀髪を束ねた衣舞紀さんが立っていた。知ってる人に会えて安心したのか、俺の身体の力が一気に抜ける。

 

衣舞紀「わっ、天、大丈夫•••!?」

 

倒れそうになった俺を衣舞紀さんが支えてくれる。そのまま体重を全部預けたかったが、それは流石に衣舞紀さんが潰れる可能性があるのでやめた。

 

衣舞紀「すごい熱•••すぐに横にならないと!」

 

衣舞紀さんは急いで俺を自室まで連れて行く。なんで場所知ってんだよ。教えた覚えねぇぞ。

そのままベッドに寝かされて、額に張る冷却シートを取り替えてもらう。

 

衣舞紀「もしかして、ずっと寝てたの?」

天「まさか••••••キツくて寝るとかそれどころじゃありませんでしたよ」

 

 

吐き捨てるように言葉を投げる。そう、と衣舞紀さんは短く返すだけで、特にこれといったものはなかった。

 

衣舞紀「お腹、空いてるでしょ?お粥温めてくるわね」

 

器を抱えて、衣舞紀さんは部屋を出て行ってしまう。その後に俺は大きくため息を吐いた。

 

天「••••••すげぇ情けねぇ••••••」

 

一歳歳上とはいえ、相手は女だ。しかも自分の担当の。そんな人間に甘えてしまっている自分が、許せなかった。

衣舞紀さんが戻ってくるのは本当にすぐだった。俺の前に座って、レンゲでお粥を掬おうとした。

 

天「自分で食べられます•••」

 

これ以上頼るのは、俺の精神的にも良くない気がした。手を伸ばしてレンゲを取ろうと思ったが、

 

天「あ?•••取れねぇぞ」

 

何度もレンゲを掴もうとしても、スカッ、スカッ、とすり抜けていく。

 

衣舞紀「天、具合が悪いのに無理をするのはダメよ」

天「でも•••」

衣舞紀「ダメなものはダメ。今だって、まともにレンゲを触ることすらできなかったじゃない。そんな事で一人で食べさせる事はできないわ」

天「な、何ですかそれ•••!子供みたいに•••」

 

まるで自分が小さな子供のように扱われている気がして、キレそうになる。

 

衣舞紀「天は大人になり過ぎなのよ。何でもかんでも自分で解決しようとして、辛くても周りに全く頼らない。中学からマネージャーの仕事をしているから、一人で全部できるようにならないといけない、っていう固定概念が残っているんじゃないかしら?今の天は違うわ。事務所がある。Photon Maidenがある。私がいるわ」

天「だからと言って•••担当に甘えるなんて•••」

衣舞紀「いいのよ、甘えて。天の歳なら全然いいのよ。乙和なんて本当の子供みたいじゃない」

 

そこで乙和さんを引き合いに出すのはかなりセコい。だってあの人見た目も相まってガチのガキに見えるんだから。胸だけ頭おかしいけど。

 

衣舞紀「天は一人で抱え込み過ぎ。辛い時くらいは、私でもいいから頼っていいのよ?」

天「•••••••••わかりました、そうします」

 

衣舞紀さんのことだ。どうせ何かしら言ってもまたしつこく言いくるめてくるに決まってる。面倒だからさっさと話を済ませただけだ。

 

衣舞紀「はい、口開けて」

 

••••••結局俺は衣舞紀さんにお粥を口に突っ込まれた。彼女は頼りになる人だけど、やっぱり頼りたくないという感情が更に湧き出した。

 

看病をしてもらったお陰で、俺の体調はほとんど良くなっていた。衣舞紀さんも安心した様子で帰って行き、俺はそのまま眠ってしまった。

帰ってきた月が俺を起こして、そのまま一緒に夕食を食べることに。

 

月「看病の方、衣舞紀さんが来てくれたんだ。お兄ちゃん良かったねー」

天「•••••••••別に」

 

俺はそっぽを向く。月は何かを察したのか、やたらニヤニヤとしたいやらしい笑みを浮かべる。

 

月「顔が赤いですぞ〜?もしかして衣舞紀さんとデキちゃってたり〜?」

天「•••••••••ねぇよ、バカ」

 

第一俺と衣舞紀さんが付き合う未来が見えないのだが。

 

月「•••少しは素直になったら?どうせ衣舞紀さんに一人で抱え込み過ぎー、なんて言われたんでしょ?」

天「お前はやっぱりお見通しなんだな」

 

相変わらず月は俺の事をよーくわかってる。怖いくらいにだ。俺は椅子の背もたれに体重を預けて、大きく息を吐いた。

 

天「そもそも、今の俺がどういう感情になっているのかイマイチわからん」

月「ほぅ」

天「なんかモヤモヤするというか、なんというか••••••」

月「(あ、ダメだこいつクソ鈍感だ)」

 

心の中でへばりついて離れないような、気持ち悪ささえある。これ以上考えても答えは絶対に出てこないので、俺は思考を閉ざす。

 

月「まぁ、お兄ちゃんにもいずれわかる時がくるよ。もしかしたら、近いうちにね」

天「••••••そんなに早くくるものか?」

月「今のお兄ちゃんの環境を考えたら、もう何か変化があってもおかしくないからね」

 

先程のいやらしいニヤニヤとはうってかわって、清々しいくらいにニコニコと妹は笑っていた。

 

天「よくわからんが、俺はいつも通りに過ごす」

月「お兄ちゃんはそれでいいよ。いつも通りに生活して、それで自然と答えが見つかってくるから」

天「•••••••••?」

 

月の言ってる事がますますわからなくなり、俺はついに首を傾げた。妹はただ笑うだけで、何も答えを返してくれない。俺はその後も、寝るまでこの事について頭を悩ませた。




車校の入校申請書類はよ書かねぇとマジでヤッベェ!すぐ仕上げよ!


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朝から疲れて死にそうです

休み明後日までやん(絶望)。まぁ宿題終わってるし?車校の申し込みとか終わらせて課題研究終わらせないと明日がこない。不安要素多すぎて僕ハゲちゃう()。


俺はどうして朝っぱらから衣舞紀さんに誘われてランニングをしているのだろうか。別に運動をするのは嫌いではないし、むしろ好きなのですぐに承諾した。

 

衣舞紀「朝からごめんねー、付き合わせちゃって」

天「いえ、問題ありません。ただまぁ••••••溜まってる仕事を消化したかったです」

衣舞紀「そういえば昨日休んでたわね•••どれくらいかかりそう?」

天「学校でも多少やりますが、それを込みにしても夜の九時くらいまではかかりそうですね」

 

ぶっちゃけ学校ではあまり進められる気がしないが、できる限りやろう。せめて帰る時間をこれ以上遅らせたくない。

 

衣舞紀「もしかして急ぎでやらないといけなかった?」

天「別に急いでるわけではありません。これ以上溜めると後々面倒なので••••••」

 

どんどん先延ばしにしてたら、いずれ一生かけても終わらない量が残ってしまう。そんなつまらない結果には絶対にできない。というかそんな事をする奴に仕事をする資格はない。本来やるべき仕事の遅れを取り戻すだけ。当然の事だ。

 

衣舞紀「せめて走ってる間は忘れた方がいいわよ?変に考え事をしながらやってるとすぐ疲れるわ」

天「そうですね。今だけは忘れる事にします」

 

仕事の山を頭の中から切り離して、俺は目の前に集中する。まだ日が出てない暗い道は、街灯によって何とか見ることができた。

 

天「どこまで走る予定ですか?」

衣舞紀「ノアの和菓子屋まで行っちゃう?」

天「クッソ迷惑ですね••••••」

 

ノアさんの事だから起きてるわけないだろうから、変に音を立てなければ多分バレないだろう。昼にでもネタにして笑ってやろう。

 

衣舞紀「距離的にも、往復を考えたら申し分ないでしょ?」

天「いいえ、全然余裕です」

 

父さんによって鍛え上げられた俺は、体力だけは一人前だった。

 

衣舞紀「へぇ、じゃあ隣町まで行っちゃう?」

天「じゃあ、時間かけないように飛ばしますか」

 

挑発するように衣舞紀さんがニヤッと笑ったのを横目に、俺はただ目の前を睨みつけるようにしていた。

 

衣舞紀「行くよ!」

天「はいっ!」

 

一気にスピードを上げた衣舞紀さんに合わせて、俺も更に地面を強く蹴って同じ速度で走り始める。周りの景色が流れる動きが早まり、それでも視界は多少の揺れだけで安定していた。

 

衣舞紀「••••••余裕そうね」

天「衣舞紀さんこそ、本当に高校生ですか?」

 

隣町は数十kmも離れている。そんな中で少しの時間で抑える為にほぼ全力に近い速度で走り続けているが、衣舞紀さんは笑みを向ける余裕すらあった。そんな事を言ってる俺もまぁまぁ平気ではあるが。

 

天「••••••って、結局ノアさんの和菓子屋通るのかよ••••••」

 

ナチュラルに福島家の和菓子屋を素通りして行った。言葉通りに行くのかよ。

 

しばらく走り続けて隣町の駅まで到着したので、俺たちはそこで停止して息を整える。

 

衣舞紀「はぁ•••はぁ•••少し疲れたわね••••••天は••••••?」

天「ほっ、ほっ、ほっ」

衣舞紀「全く疲れた様子なし、ね••••••軍人の息子は違うわね」

 

俺は足を冷やさない為にぴょんぴょんと軽いジャンプを繰り返していた。

 

衣舞紀「でも、あの時と違って汗はかいてるわね」

天「流石にこんな距離走ってたら汗はかきますよ」

 

俺の事人間じゃないと思ってんのかこの人()どちらかと言うとあなたの方が人間離れしてると思うのですが?

 

衣舞紀「天も水飲む?」

 

衣舞紀さんは水が入った飲みかけのペットボトルを手渡してくる。それを受け取るが、俺は飲むのを躊躇った。

 

衣舞紀「飲まないの?」

天「いや、その•••間接キス•••」

衣舞紀「ぷふっ。天•••そんな事気にしてたの••••••?見た目通りに可愛いわね•••!」

 

そんなに間接キスを機にする俺が面白かったのか、衣舞紀さんは噴き出して笑い始めた。ムカつく上に恥ずかしかったので、ムキになって俺は水を飲んだ。

 

天「•••ありがとうございます」

 

少し不本意だがちゃんと礼は言っておく。まだ笑っている衣舞紀さんは俺の手からペットボトルを受け取って、それを飲んだ。

 

天「•••なっ!?」

衣舞紀「お返しよ。これでお互いに間接キスをしたってことで文句ないでしょ?」

天「•••もう、なんでもいいですよ」

 

俺はため息をつきながら、アキレス腱を伸ばし始めた。まだ走り始める時間じゃないので、それまでの間はふくらはぎを入念に和らげた。

 

走り終えて帰ってきた俺は、少しだけ流れた汗を拭いていた。しっかり水分補給もして、時計を確認する。

 

天「5時50分•••。あと少ししたら月が起きそうだし、二度寝は難しそうだな」

 

変に物音を立てたら月が起きてきそうなので、俺は大人しくリビングにある椅子に座ってスマホをいじっていた。

特に何かを見たいというわけでもなく、ただ何となく買った漫画を見ている。走って心が無になってた俺は、笑いが込み上げる事もなく、無心で読み続けた。

 

月「おはようー?」

天「うおおっ!?」

 

後ろから突然声をかけられて、俺は飛び跳ねて椅子から転げ落ちる。

 

月「••••••大丈夫?やけにボーッとしてたみたいだけど」

天「いや、走ったらなんか何も考えられなくなってな。漫画じっと見てた」

 

頭をボリボリ掻きながら立ち上がる。少し眠たい目を擦り、欠伸を一つ。

 

月「眠そうじゃん。私の事は気にせず寝て良かったのに」

天「そうは言ってもな••••••走ってしばらくの間は全く眠くねぇから」

 

脳が活動的になっているのか、はたまた身体が熱いからなのか、やけに目がパッチリとするのだ。それは運動している人は誰でもそうなるだろうが。

 

月「ふーん?まぁいいや。ちゃちゃっと朝ご飯作っちゃうね」

天「ん、頼むわ」

 

また俺は携帯で漫画を読み始める。月がフライパンで何かを焼いている音をBGMにどんどんページを読み進めていった。

 

朝食ができたのは本当にすぐの出来事だった。仕事早すぎだろこいつ。

 

月「いただきまーす!」

天「いただきます」

 

二人で手を合わせてから、箸を持って食べ始める。

 

月「そういえば珍しいよね、お兄ちゃんがあんな朝早くから起きたなんて」

天「衣舞紀さんからランニング誘われたんだ。ほっぽり出したら何されるかわからん」

月「えぇー、せっかく誘われたなら喜びなよ〜。あんな可愛くてカッコいい人と二人きりで走ったんでしょ?最高じゃん」

 

別にあの人が可愛かろうがカッコよかろうが俺にはどうでもいいんだけど。というか走るの自体は楽しかった。間接キスの件で少し嫌になったが。

 

天「これからは衣舞紀さんと走るのやめようかな••••••」

 

本気でそう思うくらい、今日の事が恥ずかしくてたまらなかった。勝手に意識してからかわれて、自分がバカみたいだ。

 

月「•••••••••いい意味で、衣舞紀さんはお兄ちゃんを変えてくれそうだね」

天「••••••?どういうことだ?」

 

月の言葉がイマイチわからず、俺は首を傾げてしまう。月はニコニコと笑うだけで、何も答えてくれない。マジで分からん。

 

月「お兄ちゃんも、何か悩みとかあったら相談してね?家族なんだから」

天「•••••••••わかってる」

月「はい嘘。いつものように一人で抱えるつもりだな〜?」

天「チッ、バレるか」

 

いつものように月に内面をバラされながら、俺は白飯を口の中にかきこんだ。俺を見る月の目が、やけに優しいのは気の所為だろうか。

 

天「いつにも増して笑顔だが、何かあったのか?」

月「ん〜?なんかね〜、お兄ちゃんと衣舞紀さん、付き合うんじゃないかなーって」

天「••••••••••••はあぁ!?」

 

長い沈黙の後に、俺は素っ頓狂な声を漏らしてしまう。

 

天「俺と衣舞紀さんが!?ありえねぇだろ!」

月「••••••どうだろうね〜。人生、何があるかわからないよ〜?」

天「••••••衣舞紀さんが俺を”そういう”目で見ないだろ」

月「わからないよ。お兄ちゃんの行動次第で、何にだって変わるんだから」

 

••••••どうしてそう何もかもわかったような顔で言うんだこいつは。少し月の事が不気味に感じてしまう。

 

天「••••••ごちそうさま」

 

さっさと仕事を片付ける為に、俺はすぐに飯を食べ終えて準備に移った。




咲姫√の二回目と並行して衣舞紀√書いてるけど、やっぱり両立は難しいって、はっきりわかんだね。


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学校は仕事場(大嘘)

休み明日までとかマ?宿題終わってるからま、いいんですけどね♡そんな事より今すっごいお肉食べたいんだよね(無関係)。


陽葉学園に到着したはいいものの、正直今日は授業を受ける気など毛頭なかった。パソコンに隠れながらメモ帳に万年筆を走らせるのを繰り返し行い、少しずつだが仕事を片付けていった。

流石にバレたら面倒なので、ちょいちょい教師の顔を窺いながら進めているが、これがなんともいえないストレスになる。ふっつうにイライラする。

 

天「(あー、さっさと終わらせてぇ••••••)」

 

あまりにも溜まっている仕事が多すぎて軽く病みそうだった。昔に比べたらマシなのが幾分かの救いではあるが、それでも大量の仕事を前にするとダルくなる。

それでもやるんだけどさ。それが俺の仕事なんだし。少しだけだが聞こえる蝉の声が、少しだけうざったかった。

 

昼休みに入ると、俺はいつものように咲姫に昼食を誘われた。が、仕事が残っているから断ろうとした。

 

天「悪いな。今日中に片付けないといけない仕事があって、少し無理そうだ」

咲姫「•••うん••••••」

 

それだけでそんな悲しそうな顔をされるのは流石に堪えるものがある。今すぐ撤回して付き合いたいが、そうすると夜遅くまでやるハメになってしまう。それは中々にキツい。

 

衣舞紀「天ー、咲姫ー、お昼食べましょー?」

 

悩んでいたら、乙和さんとノアさんを引き連れた衣舞紀さんが、教室の前まで来ていた。俺と咲姫を見つけて手を振ってくる。

 

咲姫「••••••行こう?」

天「はいはい、わかったよ•••」

 

流石にPhoton Maiden全員からのお誘いとなれば断るのは難しいだろう。俺はパソコンを持ちながら立ち上がって、咲姫に手を引かれながら衣舞紀さん達の元へ向かった。

 

ついて行く事数分。学食に連れて行かれ、俺は飯に手もつかないままキーボードを叩き続けていた。

 

乙和「ご飯くらい食べなよ〜。お腹空いちゃうよ?」

天「正直終わる気しないんですよね、これ。飯食ってられませんよ」

 

ずーっと文字を打ち込んでいるが、一向に終わりが見えない。別に昨日の分だけやって残りは事務所でやってもいいが、今更始めたものを一度止めるのは少し億劫だった。

 

ノア「ちゃんと食べないと、仕事にも支障が出るよ?」

天「大丈夫です。そこまでヤワじゃありませんから」

衣舞紀「風邪引いてた時は死にそうな顔してたじゃない•••」

天「う、うっさいですよ!」

 

衣舞紀さんから呆れ混じりの声が聞こえ、俺は顔を赤くして言い返す。他の三人から笑い声が出てき始め、更に自分自身が惨めに感じられた。

 

ノア「ムキになる天くん•••カワイイ••••••!」

乙和「まーたノアが暴走してるよ•••」

天「とりあえず人の事可愛い言うのやめません?怒りますよ?」

ノア「笑顔だけど怖い••••••」

 

殺意マシマシの笑顔をノアさんに送ると、彼女はすぐにたじろいだ。咲姫はいつも通りのやり取りを、ただ微笑みながら眺めていた。

 

咲姫「天くん、前よりもPhoton Maidenに馴染んだ気がする••••••」

天「••••••そうか?個人的には変わってないと思うが」

咲姫「今は、少し楽しそう••••••」

天「••••••••••••?」

 

咲姫の言葉の意図が読み取れず、俺は首を傾げた。

 

衣舞紀「天〜?仕事はいいのかしら?」

天「あっ•••」

 

メンバーの面々と話していた所為で、全然進んでいなかった。俺は大きくため息を吐いて、椅子の背に体重を全部乗せる。

 

天「•••もういい。飯食べます。なんかこれ以上進む気がしません」

 

パソコンを閉じて、俺は弁当にありつく。他のみんなが既に食べ終わっていたので、ジロジロと食べている姿を見られる。ものすごく恥ずかしい。

 

天「な、何ですか•••見せ物じゃないですよ」

乙和「なんか美味しそうに食べるからつい見ちゃうんだよね〜。それに口元汚してるし」

天「後で拭き取るんで気にしないでください」

乙和「子供みたーい」

天「ははっ。乙和さんにだけは子供扱いされたくないですね」

乙和「ちょっとそれどういうこと!?」

 

乾いた笑いと共に吐いた毒に、乙和さんはわかりやすくくってかかった。

 

衣舞紀「天も言うようになったわねー。でもあまり言い過ぎるのはダメよ?」

天「それくらいは考えて発言しますよ。まぁ、乙和さんが子供っぽいというのは、基本は言動からですけどね」

ノア「あはは。でも私もそう思うかも。なんか乙和って、子供だったり小動物だったり、そんな感じがするかな」

乙和「ノアもそんなこと言うの!?」

咲姫「皆さん•••あまりイジめない方が••••••」

 

見かねた咲姫が乙和さんの味方をし始めたので、俺たちもそこでお終いにした。

 

天「ごちそうさま」

咲姫「いつの間に•••」

 

みんなで話しているうちに、俺はさっさと飯を食べ終えて弁当をしまった。そこでタイミングよく昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り、そこで解散となった。

 

放課後になると、俺は急いで席を立ってネビュラプロダクションへと向かって走り始める。鞄に無理矢理詰め込んだパソコンが中で揺れ動いて鬱陶しいが、そんな事を気にしている余裕はそこまでなかった。

事務所に駆け込んで、俺はすぐに自身の仕事部屋へ入る。パソコンを起動し、ヘッドホンを接続して仕事モードへと意識を変える。

 

衣舞紀「••••••やっぱり、昼は悪い事しちゃったかな••••••?」

乙和「仕事早く終わらせないといけない用事でもあったのかな?」

ノア「多分月ちゃんの事じゃない?ご飯までに帰ってきなさいー、みたいな」

 

仕事部屋の前でコソコソと話しているみたいだけどバレバレですよ。敢えて何も言いませんが。

 

天「••••••あ、ミスった」

 

それでもやっぱり見られてるのは落ち着かなくて、ミスが多くなってしまう。でもここで何か反応を示せば、また衣舞紀さんにイジられる予感がした。なので我慢する。外には誰もいないと脳に刷り込ませるのだ。

 

天「••••••少しは早く終わるかもな」

 

時計を確認する。このままの流れでいけば、夜の九時前には終わりそうな気がした。一筋の希望が見えて、俺のやる気は更に高まった。

キーボードを叩きながら、メモ帳にも内容をどんどん記していく。二つのことを同時にやるのはあまり得意ではないが、集中力が高まってる今は何とかこなせていた。

あー、肉くいてぇ(無関係)。

 

時刻は夜の八時を回っていた。パソコンの作業を一足先に終えた俺は、残った手書きの方をこなしていた。辺りは真っ暗で、この部屋の電気だけは綺麗に点いている。いや、この事務所自体が夜遅くまで電気の光塗れだ。

 

天「(後少し•••)」

 

残り少なくなった仕事を集中力を切らさないままこなし続ける。多少の疲れは感じるが、このくらいはなんて事ないので手を動かす。

が、急に字が写らなくなった。万年筆を軽く振ってみるが、それでもインクは出てこない。

インク切れ。それだけでかなりのやる気が削がれた。

 

天「••••••は゛ぁ゛〜」

 

集中していたおかげであまり感じなかった疲れがどっと襲い掛かってくる。一気に倦怠感が溢れ出して、もうどうでもよくなる。

 

衣舞紀「天?まだ残ってる?」

 

ノックをされた直後に衣舞紀さんの声が聞こえた。俺は声を出すのすら面倒くさくて、立ち上がってドアを開ける。

 

衣舞紀「いるなら一言くらいは言いなさい」

天「母親ですかあなたは。よっ、と」

 

わざと勢いつかせて椅子にどかっと座る。衣舞紀さんが訝しげな表情を向けてきたが、俺は気にしない。

 

衣舞紀「何かあったの?」

天「万年筆のインクが切れました」

衣舞紀「替えは?」

天「もちろんありますけど、やる気なくなりました」

 

俺の応対を聞いて、衣舞紀さんは何となく察したらしい。わかりやすく苦笑しているのだ。

 

衣舞紀「後少しなんでしょ?頑張りなさい」

天「••••••はいはい、わかりましたよ」

 

渋々、といった様子で、万年筆の軸を外してインクカートリッジを取り替える。空カートリッジはゴミ箱に投げ捨てて、また作業に戻る。

 

衣舞紀「終わるまでここにいるから、頑張って」

天「少し時間かかりますがいいんですか?」

衣舞紀「いいわよ、別に。仕事をしている天の顔を見るの、好きだし」

天「えぇ•••どういう事ですか、それ」

衣舞紀「カッコいいって事よ」

 

どうしてこうもこんなセリフを恥ずかし気もなく言えるのか、俺は理解に苦しんだ。前々から思うが、男らしい人だ。

 

衣舞紀「特に目つきとか、集中して一つを見ているからか、すごく鋭いのよね。そこが一番カッコいいと思うわ」

天「一々説明しなくていいですよ•••!」

 

何も言わなかった所為か、衣舞紀さんは何故か解説を始めてしまった。それがかなり恥ずかしくて、俺は言い返してしまう。

 

衣舞紀「もっと素直になれば、可愛いのにね」

天「可愛いとか、思われたくないですよ•••」

 

男なのに、何故女が喜ぶような感想を持たれなければならないのか。どうせならカッコいいの方が全然マシだ。

 

衣舞紀「まぁでも、そのままの方が天らしいか」

天「結局何しにきたんですかあなたは•••」

 

ただ俺の邪魔しにきただけなら早く帰って欲しいんですけど()が、衣舞紀さんは微笑みながら俺の方を見るだけで、何も言わなかった。

 

天「はぁ、もういいです。早く終わらせて帰りますよ」

衣舞紀「そう。じゃあ早めにお願いね」

 

結局、衣舞紀さんがどう言う目的でここにいたのかは全くわからなかったが、変に退屈することなく仕事を終える事ができたので、その辺は心の中で感謝した。




咲姫の誕生日あくこいよ。石貯めて待ってるからぁ!(240連分)


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仕事終わりのノリはダル過ぎるッピ!

雪すごいっすねwお陰で明日は学校お昼で終わりますよ。最高っすねwwwあーでも明日学年集会でかなりどやされそうやな•••おー怖。


少しずつ暑さを増していく中、冷房も何もない俺の仕事部屋は酷く居心地が悪かった。激しい運動をしているわけでもないのに、勝手に汗が流れてくるのが鬱陶しくてたまらない。

少しでも熱を逃そうと窓を開けているが、少しの涼しさの代償に、蝉の大合唱が室内に響き渡って耳を殺しに来ていた。

 

天「••••••あっつ••••••」

 

せっかくの休日も、この暑さでは見事に台無しだった。休日とは言っても俺は普通に仕事だしPhoton Maidenの面々もレッスンに励んでいる。芸能界、まぁそっち系の世界にいるから仕方のないことだ。

そもそもスケジュール管理は俺がしているので、今すぐ休暇を与える事は可能だが、基本的に決まった日にしている。それに無闇に休みが多くなるとダラけ癖すらできてしまう。適度が一番だ。

 

天「(もうすぐ昼か•••そろそろみんなが終わる頃だろう)」

 

俺の仕事はほとんど片付いていて、暇つぶしに明日の分をやってるまである。いや、終わったのなら帰ればいい話なのだが、衣舞紀さんからーー、

 

衣舞紀『練習が終わったらみんなでご飯を食べに行きましょう!』

 

などとぬかしたからだ。それで帰ろうにも帰れないので、こうやって仕事を進めているのだ。

 

天「はーめんどくせぇマジで」

 

昼飯くらい家で食べさせてくれないものなのか。その方が落ち着くが、今考えたら絶対月がいるしヤバい発言が飛び込んでくる未来が見えた。やっぱ家で飯食うのやめておくか(手のひら返し)。

 

乙和「天くん終わったよー!ご飯食べ行こー!」

 

ノックも無しにバンッ!と扉を勢いよく開けてきたのは、ものすごい笑顔を浮かべた乙和さんだった。まだレッスンが終わったばかりで、少し汗を流している。

 

天「終わりましたか」

 

俺はパソコンを鞄にしまって立ち上がる。腕で額の汗を拭うと、かなりの水分が腕についた。

 

咲姫「暑そう•••」

天「仕事だから、ちゃんと着ておかないといけないんだ」

 

半袖のワイシャツ一枚に、夏用とはいえ多少の厚みを感じるズボン。これが暑くないわけがない。

 

ノア「なんだか•••仕事終わりのサラリーマンみたいに見える•••」

天「自分でも軽くそう思ってたので、あまり言わないで欲しかったです」

ノア「あぁ•••ごめんね」

 

少し申し訳なさそうにノアさんが謝ったが、すぐに気にしなくていい、と言葉をかける。

というか昼飯何処で食うんだ?まさかとは思うが••••••『あそこ』じゃねぇよな?

 

衣舞紀「それじゃ、みんな揃った事だし行きましょうか!」

乙和「おー!」

 

やたらとテンションの高い二人について行きながら、俺は少し引きつった顔を浮かべていた。何となく、行き先が予想できてしまったからだ。

 

歩く事数十分。日差しを浴びながらいつもの変わらない足取りで歩を進めていると、目的地に到着する。

•••••••••恒例のファミレスだった。

 

天「まーたここか•••」

衣舞紀「あれ?もしかして嫌だった?」

天「大丈夫です。それに今更探すのも面倒ですよ」

 

嫌、というよりは飽きたの感情の方が強い。ここのメニュー全部制覇してしまったし、デザートも平らげてしまった。要は新しい食い物が無くて退屈なのだ。

 

衣舞紀「そういえば、最近新しいメニューが入ったらしいわよ」

天「マジですか?じゃあそれ食べます」

乙和「じゃあ私もそれにしよ〜」

衣舞紀「乙和はデザート禁止ね」

乙和「なんでぇ!?」

 

衣舞紀さんからの突然の制限に、乙和さんは驚きの声を上げた。まぁ普段から甘いもの食ってる人だし、言われても仕方ないわな。

 

乙和「じゃあ天くんに分けてもらうもん!」

天「いいですけど、その代わりに食べたら俺の分の代金全部払ってくださいね」

乙和「鬼ぃ!悪魔ぁ!人でなしぃ!!」

 

もちろん冗談なのは彼女もわかっているだろうが、流石に人でなしはやめてくれ、傷つく。

 

ノア「今日は大食いは•••ないよね?」

天「流石にないですよ。そんな酷く腹が減ってるわけではありませんので」

 

俺の歓迎会の時に大量に食いまくってノアさんを引かせた過去があるが、あの時は本当に腹が減っていて仕方がなかったのだ。

ベラベラ話しながら店内に入り、店員から席に通してもらう。

他のみんなが決まるまで、俺はただ座ってボーッとしていた。何か考える事もないので、目の前を眺めている。ちょうど向かいの席に座っているのが衣舞紀さんだったので、こちらに視線が向いた。

 

衣舞紀「どうしたの?私の顔に何かついてる?」

天「••••••いえ」

 

そっと目を閉じて衣舞紀さんを見ないようにする。

 

衣舞紀「んー?天、どうしたんだろう」

乙和「天くんもしかして機嫌悪い?」

天「機嫌は普通ですよ。明日の分の仕事も進めて少し疲れただけです」

 

特に目が疲れている。視界が多少ぼんやりしていて、気を抜くとそのまま眠ってしまいそうだ。ずっとパソコンの画面を見るのはまだ慣れていないらしい。

 

衣舞紀「みんなもう決まった?じゃあ店員さん呼ぶわね」

 

店員を呼び出す為のボタンを押すと、すぐに近くにいたファミレスの制服姿の若い男がこちらまでやってくる。

 

店員「ご注文はお決まりですか?」

 

なんかチャラついているから少し警戒しながら、各々の食べたい物を言っていく。店員の視線が、Photon Maidenの面々に流れていた。まさかナンパじゃあるまいな。

 

店員「ねぇキミ可愛いじゃーん。ラ◯ン交換しね?」

天「•••••••••俺?」

 

まさかの相手は俺だった。お前ホモかよ(ドン引き)。

 

衣舞紀「ぷふっ!あっははははは!!天、女の子と間違えられてるっ!」

天「うるさいですよ!」

店員「えっ•••男?その顔で!?でも声は男だ••••••」

 

本気で気付いてなかったのかこの人。服装である程度わかると思うんだけどな•••顔しか見てなかったのか?」

 

乙和「天くん女装してみない?」

天「死んでもしません」

咲姫「絶対似合うのに••••••」

 

こういう時に限って便乗するのやめてくれません咲姫さん?普通に敵増えちゃってるんですけど。

 

店員「コ◯ケとか行ってる!?女キャラのコスプレして欲しいんだけど!」

天「絶対嫌なんですけど!?」

 

店員さん、あなたもあなたで釣られないでくれませんか?

 

衣舞紀「試しにやってみる?案外イケるかもよ?」

天「あの、いい加減からかうのやめてもらっていいですか•••?正直疲れました••••••」

 

あまりにもイジられ過ぎてかなりダルくなっていた。

 

店員「あはは•••ごめん、ちょっと遊び過ぎたな。んじゃ、すぐに持ってきますんで!」

 

店員はヘラヘラ笑いながら奥へと引っ込んでいった。俺は大きなため息を吐いて、肩を落とす。

 

天「何でこんなことになるんだ••••••というか」

 

さっきからノアさんが一言も言葉を発しない事に気がついて、俺は彼女の方を向いた。

 

天「ーーひっ」

 

俺は本能的に恐怖を抱いた。何故なら、彼女の今の顔は、いつもの暴走とは比較にならないものだったからだ。

 

ノア「天くんの女装•••!い、いくら払えば見られるの!写真に納めないと!こここコ◯ケっていつやってるんだっけ!?日程とか確認して天くんのコスプレの内容も知っておかないと!とりあえず十万払えばいいかな?」

衣舞紀「ノア、天が怯えてるわ」

天「••••••こっわ」

 

改めて、俺はノアさんの恐ろしさを垣間見た気がする。今後の彼女への対応をどうしようか本気で悩まされるとは思わなかった。

というか俺、金輪際ノアさんと関わるのやめようかすら考えている。カワイイムーブうっさいし、何よりうるさい(二回目)。

 

衣舞紀「まぁまぁ天。ノアも悪い子じゃないんだから、ね?」

天「•••わかってますよ」

 

衣舞紀さんに嗜められて、俺はなんとか踏みとどまる。頼れるリーダーのような立ち位置に最初からいた彼女の事が、少し羨ましく感じた。




九日に咲姫のタワレコのグッズ取りに行くけど雪その日更にすごいらしいんだよね。でも行きますw


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リアルホモがいるとか地獄過ぎる

外雪すっげぇな!wうち滅多に雪降らないのにこれは異常やでwww明日も酷いらしいし、止んでる時間見計らって咲姫のグッズ回収せねば!


どんどん料理が運ばれてきて、俺は腹の虫を鳴らしていた。店内に響く事はなくても、その音はかなりの大きさだ。

 

乙和「天くんお腹減りすぎ〜。足りないんじゃないの?」

天「デザートもいくので問題ないかと」

 

あんまり食べ過ぎても太るだけなので、程々に抑えるくらいがちょうどいいのだ。

それに体重を増やしたい、と言った欲もないので、無駄な脂肪をつけないを心がけているつもりである。

 

衣舞紀「育ち盛りの男の子でしょ?食べないと大きくなれないわよ?」

天「これ以上背を伸ばしたいとは思いませんよ」

衣舞紀「あら?そうなの?更に私が大きくなって天を追い越すのも悪くないわね〜」

天「むっ•••」

 

衣舞紀さんに身長を抜かされるのは少し嫌な気がした。まぁだからと言って今すぐ食べる訳ではないのだが。

 

天「もぐもぐ•••」

咲姫「もぐもぐ•••」

ノア「まるで兄妹みたい。食べる早さがそっくり」

 

俺と咲姫が同時に咀嚼しているのを、ノアさんは微笑ましそうに眺めていた。

 

天「別にそんなに似てないと思いますが•••」

咲姫「天くんとはあまり似てるところはないと思う••••••」

衣舞紀「そんな事ないわよ?普段から無表情なところとか、そっくりよ」

 

果たしてそれはそっくりといっていいのだろうか。いつも無表情の人など吐いて捨てるほどいると思う。

 

乙和「あむっ、んむっ。それを言ったら天くんと衣舞紀も似てると思うけどなー。お堅いところとか」

衣舞紀「それはどちらかというとノアじゃないかしら?」

ノア「私?そんなにお堅いかなぁ•••」

天「ノアさんはお堅いというよりただヤバいだけかと」

ノア「ヤバくはないよ!?」

 

いや、あんな姿見せられたら嫌でも認めなければならなくなる。マジであれはヤバいし失礼過ぎるがキモかった。

 

衣舞紀「私はそんなに天と似てないと思うよ?そもそも考え方とかまるっきり反対だし」

 

衣舞紀さんはかなり真面目でストイックだが、俺はどちらかというと自由な性格だ。仕事とかは真面目に取り組む方だが、それは責任があるからこそのものであって、そういったものがないなら俺はすぐに投げ捨てる。

 

天「(••••••そう思うと、本当に母さんに似てるな俺は•••••••••)」

 

仕事だけに対してはえらく真面目で、それで他の事は大してどうでもよくて。好きな事は追求して••••••。いや、そもそも俺に好きな事があったか怪しい。

 

咲姫「どうしたの•••?」

天「いや、何でもない」

 

少し表情が濁っていたのか、それを見逃さず咲姫が心配を掛けてくる。ただぼんやりと母の事を考えていただけなので、言葉通りに何でもなかった。

 

天「まぁ••••••そんな大した事じゃないさ」

 

そう、実際に大それた事を考えていたわけでも、悩んでいたわけでもない。かなりどうでもいいことだ。

 

乙和「でもでも〜、似てなくても天くんと咲姫ちゃんは兄妹に見えるな〜」

天「なんかそれ前にも言われた気がするんですが•••」

 

ぼんやりとだが、どこかで言われたような記憶がある。元々妹には月がいるんだし、今更一人増えてもあまり変わらない希ガス。

 

咲姫「天くんの妹•••私が?•••いつでも甘えられる?」

天「そんな四六時中は相手できないぞ?」

乙和「一応相手はしてあげるんだね〜。やっぱりお兄ちゃんだな〜」

天「できることなら月の兄なんて辞めたいですよ()」

ノア「目が本気だ••••••あ、でもその時は私が月ちゃんをお持ち帰りして••••••!」

 

あーもうまたノアさんのスイッチ入っちゃったよ。普通に面倒くさいからやめてくれマジで(切実)。

 

天「月はあげませんよ」

乙和「そうだよね〜。月ちゃんはみんなのものだもんね〜」

天「••••••そうっすね」

 

俺は苦笑する。正直なところ、あいつは野に放っていいのかすら少し疑問に感じている。いやまぁ大丈夫ではあるのだろうが、変に問題を起こしそうで怖い。

 

衣舞紀「月といると楽しいものね。天はいつも面倒そうにしているけれど•••」

天「•••疲れますから、あいつの相手は」

衣舞紀「でも、嫌いではないでしょ?」

天「そりゃそうですよ。たった一人の妹なんですから」

 

家族くらいは大事にしているつもりだ。え?父さん?あいつは知らん。何処かで野垂れ死んでようが関係ない。

 

ファミレスで飯を食べて、例のチャラ男店員からまたラ◯ンとか連絡先とかまた訊かれて少しキレた。

このまま解散となり、俺は衣舞紀さんに誘われて少し散歩をしていた。

 

衣舞紀「天•••大丈夫?」

天「もうあのファミレス行きたくないです•••」

 

あのホモ店員がいるってだけで近づく気が失せて仕方がない。もう金輪際行かん。

 

衣舞紀「でも天がそんな顔をしているから、相手も勘違いするんじゃない?」

天「生まれ持った顔にケチつけられたくないんですねど」

衣舞紀「それもそうね。なら素直に可愛いって褒めても悪くないわよね?」

天「それとこれとは話別ですよ」

 

可愛いって言われるのが嫌なのは俺の感情が入っているわけだし、普通にムカつくから控えて欲しい。

 

衣舞紀「暑いわね•••天、汗まみれだけど大丈夫?」

天「大丈夫ですよ。汗は昔からよくかくので」

 

多分身体が筋肉だらけだから、よく汗が流れるのだろう。

 

衣舞紀「でも、汗が流れてる男の子ってカッコいいと思うわよ」

天「••••••そうですか」

 

からかっているのはわかっているのに、どうしても顔が赤くなってしまう。

 

衣舞紀「おやおやー?照れてるなー?」

天「•••うるさいですよ」

 

俺の横顔に自身の顔を覗き込ませてくる衣舞紀さん。その所為で余計に恥ずかしくなり、顔を逸らしてしまう。

 

衣舞紀「本当に、天って可愛いわね」

天「••••••そろそろ殴ってもいいですか?☆」

 

いい加減にキレそうなので、一発wkrsムーブキメてやろうかと思った。それによって自然と笑顔が浮かんでしまう。

 

衣舞紀「天に私が殴れるかしらね〜?」

天「どういうことですか、それ」

 

やたら衣舞紀さんが挑発してくるので、乗っかってやろう。ガチで当たってしまったらアレなので、本当に軽い力で拳を飛ばす。

が、衣舞紀さんは躱す事などなく、突っ立ったまま俺の拳を頬に受けた。軽い音も何もないクソザコパンチを、彼女は笑顔で受け止めた。

 

衣舞紀「ほら、殴れないでしょ?」

天「•••最初から力抜くのわかってましたね?」

衣舞紀「えぇ。天が暴力を振るうなんて、月以外にありえないもの」

 

あ、月によく手出してるのは知ってたのかこの人。しかし、何でもかんでも見透かされているのは、気に食わなかった。

 

衣舞紀「•••そ、そんなに見つめられるのは•••ちょっと恥ずかしいかな••••••」

天「(よく見ると、本当に綺麗な顔をしてるな•••)」

衣舞紀「そ、天•••?」

天「えっ•••?」

 

頭の中で衣舞紀さんの顔の分析をしていたら、彼女の声に意識を戻された。

 

衣舞紀「ちょ、ちょっと顔が近いかな••••••」

天「あ、あぁ•••すみません」

 

無意識に顔が近づいていたようで、俺はすぐに距離を取った。珍しく衣舞紀さんが赤くなっている姿は、なんだか新鮮で可愛らしかった。

 

天「•••••••••」

 

今更•••本当に今更だが、俺は衣舞紀さんの事が好きなのかもしれない。こんなにドキドキさせられて気に入らないが、それでも本気で嫌とは思えないのはそういう事なのだろう。

 

天「••••••帰ります」

衣舞紀「えっ?う、うん。バイバイ•••」

 

自覚すると途端に気恥ずかしくなり、俺は頭を下げて逃げるように衣舞紀さんに背を向けて歩き出した。

明日からどう接していこうか、少し迷ってしまう。どうにかなるだろう、と普段なら勝手に解決するが、今回ばかりはそうは行かなかった。




とりま竹刀に油塗りましょうね〜。定期的に塗って強度を高めるんや。


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雰囲気変わってきましたよ?

タワレコの咲姫のグッズ回収しましたー!ウェーイ!いやーいいねぇ!可愛いねぇ!流石綺麗な紡木さん!www多分14日にTシャツの回収もできるだろうし勝ったな、これは(確信)


天「••••••そこまで眠れなかった」

 

昨日の事があまりにも気がかりで、満足に睡眠を得ることができなかった。寝たのは昨日の十時くらいなのに、まともに寝たのは三時間くらいだろう。

いつもなら日の光によって眠気が多少は飛ぶが、今は逆に眠くなってしまう。

 

月「お兄ちゃん起きてるー?って、かなり眠そうだね•••いつまで起きてたの?」

天「いや、すぐには寝たんだ•••だけど全く眠れなかった」

 

まだ眠たい目を擦りながら、ベッドから身体を起こす。

 

天「•••••••••」

 

昨日の衣舞紀さんの赤い顔を思い出して、何故か俺が恥ずかしくなる。

 

月「何朝から顔赤くしてんの?エッチな夢でも見た?」

天「んなわけねぇだろ、バーカ」

 

 

衣舞紀さんの事を考えているのは読まれていないようで、少し安心した。いつものように月に毒を吐いて、俺は一階のリビングへ降りた。

 

月「うーん•••まだ眠そうだねー。というかお兄ちゃん、最近衣舞紀さんの事気になってるでしょ?」

天「ぶっふぁ!!?」

 

今一番出してほしくない話題を出されて、俺は口の中に含んでいた食べ物をつい噴き出してしまう。

 

月「汚いなぁ!もう!」

天「ゲッホ!ゲホゲホ!お前っ、何で衣舞紀さんの事•••!」

月「妹に隠し事は通用しません!朝から衣舞紀さんの事考えてたんでしょ?もしかして好きなの?」

天「••••••••••••」

月「えマジ?」

天「わ、悪いか•••」

 

顔を赤くしたまま逸らす所為で月の疑問は確信に変わり、小さな驚きの声を漏らした。

 

月「えー!お兄ちゃん衣舞紀さんの事好きなんだー!あっははは!」

天「わ、笑うなよ!」

月「でもでも良かったよー!あの女っ気のなかったお兄ちゃんが誰かを好きになったんだから!妹は嬉しい限りだよ!」

 

安心した、心の底からそう言ってる笑顔だった。そこに母さんの面影を感じたが、そこはどうでもいい。

 

月「それで、いつ告白するの?」

天「何でそれをお前に言わなきゃ行けねぇんだよ」

 

流石にそこまで世話される筋合いはないし、人のプライベートに口を突っ込まないでもらいたい。

 

月「早めにしといた方がいいよー?時間が経てば経つ程迷っちゃうよ?」

天「なんかやけに詳しいなお前•••」

月「恋愛ゲームやり込んでますからねぇ!えっへん!」

 

その無い胸を張られてもなぁ••••••。

 

月「お兄ちゃん殺す」

天「すまん」

 

毎度の如く胸の事を微塵でも思えば、月に察され殺意を向けられる。俺たちの中では最早日常茶飯事だ。

 

月「それは置いといて•••。告白、早くしなよ?」

天「••••••はいはい、わかったよ」

 

これ以上口うるさく言われるのも癪なので、俺は適当に答える。月もすぐに話題を変えて、他愛のない会話だらけの食事がまた始まった。

 

準備を済ませて、俺は家を飛び出す。小走りで学園へと向かう。それだけで汗が流れて鬱陶しい。

日差しも嫌なくらい照りつけて、視界が眩しい。あくびも出てきて最悪だ。

 

天「地味に距離あるのがムカつくな•••」

 

気がつけば、小走りから普通のランニングへと化していた。今すぐ学校の冷房を浴びたくて、ただそれ目的で走り続けた。

 

学園に到着し、俺は一目散に教室へ駆け込んだ。自分の席に勢いよく座り、大きく息を吐く。

 

天「はぁ〜•••涼しい••••••」

 

既に冷房の効いた教室は、冷たくて気持ちよかった。鞄に入れておいたタオルを取り出して、汗を拭き取る。

 

焼野原「汗かいてるだけでも絵になるよな〜神山は」

天「ん?そうか?」

 

後ろの席の焼野原くんから声をかけられ、そちらの方向を向く。彼も汗をかいていた。

 

焼野原「今日は暑いってわかってたのに、拭くモノ忘れちまったんだ」

天「それは災難だったな」

 

俺はそれだけ返して、自分の身体を拭くのに専念する。

 

焼野原「しかし•••神山、筋肉すごいよな」

天「ん?」

焼野原「体育でたまに見るけど、ムッキムキだよなーお前。どんな鍛え方してるんだ?」

天「ガキの頃から父さんから仕込まれてたんだよ•••その結果がこれだ」

 

軍人を父親に持つと面倒で敵わん。小さい頃から鍛えられて、今じゃ細身ながら筋肉の塊と成り上がってしまった。

 

焼野原「••••••意外と苦労してんだなお前」

天「ま、今の仕事がその分楽に感じられるからいいんだけどな」

焼野原「マネージャーって面倒そうなイメージしかないけどなぁ•••」

 

いや、実際面倒だぞ。スケジュール立てて、ライブの計画立ててハコ押さえる為に交渉に行ったり、担当のアレコレも考えなければいけない。こう考えると色々やってるな、俺。

 

天「まぁ•••オススメだけは絶対にしないな。キツいのに変わりはないから。というより、キツくない仕事なんてないけどな」

 

世の中誰もが苦労しているんだ。してないのは精々生活保護受けて生きてるヤツとか株で生活費稼いでるヤツくらいだろう。

学生だって、勉強とかで忙しいし決して楽ではないと感じる。楽な生き方なんて存在しないのだろう。

 

焼野原「••••••なんか気難しそうな顔してるけど、大丈夫か?」

天「あぁ•••ちょっとな」

 

焼野原くんに対して薄く微笑む。冷房のおかげで、いつの間にか汗は引いていたが、汗を吸ったタオルはかなり湿っていた。

 

焼野原くんと少し話して精神的に落ち着いたのか、今日の授業はやけに真面目に受ける事ができた。が、こういう時に限って当てられないものなのだな。当たらないのが一番ではあるが。だって面倒だし。

昼休みになれば、衣舞紀さんが乙和さんとノアさんを連れてこの教室までやってくる。

もう当たり前のようになりつつあって、周りの視線も感じなくなった。

今日は前のように溜まっていた仕事に追われている事もないので、落ち着いて昼食を食べる事ができた。

 

衣舞紀「•••••••••」

 

何やら衣舞紀さんが落ち着かない様子で、ソワソワしていた。

 

乙和「衣舞紀どうしたの?さっきからもじもじして」

衣舞紀「えっ!?な、なんでもないよ•••?」

 

明らかにビクッと身体が跳ねていたぞこの人。絶対に何かあるよな。

ジッ、と彼女を見つめると、顔を逸らされた。

 

天「(あれ!?俺嫌われてる!?)」

 

もしかして昨日のアレで嫌な印象持たれたか•••?うっわ•••普通に凹むわ。

 

咲姫「天くんの色が暗くなった••••••」

 

その報告しなくていいよ•••更に精神的にクるものがあるから••••••。

 

放課後になり、俺は咲姫と一緒に事務所へと向かっていた。二人並んで歩くが、会話はほとんどない。

 

咲姫「あの•••」

 

咲姫が口を開いたので、そっちに耳を傾ける。

 

咲姫「天くんってもしかして、衣舞紀さんの事好きなの••••••?」

天「••••••••••••言わなくてもわかるだろ」

 

あんなあからさまな態度をとってしまった上に、咲姫には『色』を見られる。彼女には月とは別の意味で筒抜けになってしまっているだろう。

 

咲姫「そう•••でも、きっと大丈夫。天くんなら、きっと•••」

 

何でそんな悲しそうな顔をするんだこいつは。まるで誰かに大事なものを取られているかのような顔だ。

 

天「そうか•••ありがとな」

咲姫「うん••••••」

 

普通に会話をしているはずなのに、何故か空気は重たかった。

 

仕事がほとんど終わり、俺は大きな欠伸をする。真面目に授業を受けた所為で、変に身体が疲れてしまったようだ。

まだ夏に軽く入った程度のもので、外はまだ暗くなる気配はしなかった。それでも時間は19時前を回っており、いつ暗くなってもおかしくはなかった。

 

衣舞紀「天?いるかしら?」

天「はい、どうぞ」

 

突然の来訪に驚きながらも、声だけは冷静さを装って通す。

静かにドアが開かれ、練習を終えた衣舞紀さんが入ってきた。

 

衣舞紀「もう仕事の方は終わった?」

天「えぇ、もう終わってます。今からお帰りですか?」

衣舞紀「そう。その前に、天と話がしたいと思ってね」

 

そう言って、近くに座る彼女は少しだけいつもより大人びて見えた。

それにたじろいで身体を引きそうになるが、衣舞紀さんは手を伸ばして押さえ込んだ。

 

衣舞紀「好きよ、天」

天「•••••••••えっと」

 

急に近づかれて、俺は恥ずかしいことにドキドキしていた。衣舞紀さんの顔が真っ直ぐ見る事ができず、逸らしたままだ。

 

天「俺も••••••好きです」

 

恥ずかしい、恥ずかしいし声も小さいしで、男として最悪な告白になってしまった。

 

衣舞紀「•••!そう•••良かったわ!」

 

そしてとびきりの笑顔を見せる彼女を見て、俺はつい微笑んだ。変な恥ずかしさも吹っ飛び、今は衣舞紀さんの顔を見る事ができる。

 

天「これから•••よろしくお願いします」

衣舞紀「えぇ!じゃあ、明日から天の分のお弁当も作っちゃいましょうか!」

 

もう既にテンションが高くなってる衣舞紀さん。それを眺めているだけで、俺は元気になれる気がした。




お腹空いた、はよ飯食お。空腹状態での筋トレは普通に辛い。


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いつも通りで

メイデン箱イベキター!でも初箱がモンハンコラボは草しか生えない。貯めてた74000個程の石ブチ溶かして咲姫絶対当てるわ。


衣舞紀さんと付き合い始めて数日が経過した。俺たちの関係は瞬く間に広まり、ネビュラプロダクション、Photon Maiden内にも知られる事となった。

 

乙和「いつの間に付き合ってたのー!?」

 

今は昼休み。学食の方に連れて行かれて、俺と衣舞紀さんに向かって乙和さんが問いただしていた。

 

衣舞紀「本当につい最近よ。まだ一週間も経ってないと思うわ」

ノア「天くんと衣舞紀が•••なんか意外かも。天くんは咲姫ちゃんと付き合うと思ってたから」

天「え、何で咲姫なんですか•••?」

 

ここで何故か咲姫の名前が出されて、俺は首を傾げた。

 

ノア「だって、咲姫ちゃんは天くんによく懐いてるし、天くんも咲姫ちゃんに対していつもより優しいから」

天「•••そんな違うか?俺」

 

咲姫に目を向けると、彼女は首を傾げた。どうやら本人はその気がないらしいし、違和感も感じていないようだ。

 

衣舞紀「とにもかくにも、私は天と付き合ってるから変に手は出さないように!」

乙和「たかが付き合ってるくらいで調子に乗るなー?天くんの許可さえ出れば何でもするんだから!」

 

ん?今何でもするって•••(テンプレ)。

いやそれは置いといて、ここで独占宣言するのはいかがかと思うぞ俺は。

 

男子生徒A「神山め•••あんな美少女たちと仲良くしやがって•••!」

男子生徒B「どうする?処す?処す?」

男子生徒C「後でXすか」

 

ブルッ!唐突に悪寒を感じて、身体を震わせた。

 

衣舞紀「どうしたの?もしかして寒い?」

天「この時期に寒いもクソもないでしょう•••誰か俺の噂でもしてんのか•••?」

 

衣舞紀「風邪には気をつけてね?夏風邪を引いてしまうかもしれないから•••熱測っておく?」

乙和「過保護だ•••」

天「人の事ナメ過ぎですよねこの人」

 

若干乙和さんが引いていたので、少しばかり便乗しておく。が、衣舞紀さんは首を傾げた。

 

衣舞紀「過保護かな•••?私はただ天の心配をしているだけなのだけど••••••」

ノア「それにも限度ってものがあるでしょ•••。大体天くんはそんなつきっきりで世話する程弱くないだろうし」

衣舞紀「えー?天、風邪引いてた時一人で何もできずに相当酷い事になってたわよ?」

天「ちょっ、衣舞紀さん!?」

 

何でよりにもよってその話するのあなた!?普通に恥ずかしいんですけど!

 

ノア「えっ!?天くんそんなに弱ってたの!?私も看病に行けばよかったかな•••あわよくば天くんが甘えてくれたり•••」

天「絶対にあり得ないこと言わないでください」

 

なんかまた気色悪い事を言ってるのでスッパリ斬り捨てる。

 

ノア「最近天くんが冷たい気がする•••」

乙和「いつも通りだと思うよ?前の頃は聞いてるフリしてたもん」

 

そういえば最初の頃は関わろうとしなかったから、話半分にしか聞いてなかったな。今となってはちゃんと受け答えしてるから驚きだ。

 

衣舞紀「天も変わったって事よ。これでもっと素直になってくれればいいんだけどね」

天「••••••素直ねぇ」

咲姫「どうしたの?」

天「いや、なんでもない」

 

素直って何だったか少し疑問に感じた所を、咲姫が見逃さず声を掛けてきた。だが、大した事でもないので首を横に振った。

 

天「まぁ•••ずっと担当をしていたら色々変わるんじゃないんですか?」

乙和「曖昧だなぁ•••」

天「••••••実際、どうなるか俺もわかりませんから」

 

少しだけ口角を上げて僅かに微笑む。この先の物事次第で、俺はどうにだってなるだろう。後は自分のやるべき事をやって、待つだけだ。

 

教室に戻ると、クラスの男たちからやたら見られまくったが気にせずに席に着いて授業を受けた。

放課後になれば、真っ先に咲姫が俺のところまでやってきた。

 

咲姫「事務所、行こ?」

天「あぁ」

 

鞄を手に取って立ち上がり、咲姫と一緒に廊下に出る。

 

衣舞紀「来たわね。それじゃ、行こうか」

乙和「二人とも遅いよー?」

 

なんか知らん間に先輩組に待ち伏せされていた。俺は引きつった顔になる。

 

ノア「いつも一人で行っちゃうから、先に来ちゃった」

天「事務所までの移動くらい俺のペースでいいですよね•••?」

乙和「だーめっ。ちゃんとみんなで行くぞー!」

 

いつまで経っても元気だなこの人は。その快活さを分けてもらいたい程だ。

 

衣舞紀「乙和ー。廊下は走っちゃダメよー?」

天「小学生じゃん•••」

 

その姿はまるでヤンチャな子供の様だった。身長が低い乙和さんだからこそ、子供っぽさが際どっていた。

 

ノア「乙和は子供なんだから•••」

乙和「高校生は子供だもーん!」

天「大人になる努力をしてください。あなた一応芸能人なんですからね?」

 

ため息を吐きながら乙和さんを追いかけて捕まえる。そのまま引きながら戻る。

 

乙和「ちょっと天くん速すぎー!」

天「はいはい暴れない暴れない。このまま引っ張って行きますよ」

乙和「あれ?ということはこれって実質天くんと手を繋いで歩く事になるのでは?」

天「えっーー」

衣舞紀「ーーッ!」

 

乙和さんの言葉に反応して顔を向けたその一瞬、空いてるもう片方の手に衣舞紀さんの手が握られていた。

 

衣舞紀「行きましょうか、天」

天「あっ••••••ハイ」

 

そのまま優しく手を引かれて俺は乙和さんと一緒に歩く。

 

ノア「咲姫ちゃん、今の見えた?」

咲姫「全く••••••」

ノア「私たちも行こうか?置いて行かれちゃう」

咲姫「うん•••」

 

その後ろを咲姫とノアさんが続いて、訳の分からない絵面が完成した。誰か止めろ。

 

仕事も終わり、一日の終わりを感じる。今日はさーっと帰って早く寝よう。なんだかそんな気分だ。

 

衣舞紀「天、帰ろっか」

天「おうっ、いつの間に•••」

 

いつの間にか後ろにいた衣舞紀さんに肩を叩かれる。身長差がそこまで大きくあるわけではないので、綺麗な顔がすぐ目の前にあって驚く。

 

衣舞紀「どうかした?」

天「いえ、何でもありません。帰りましょう」

 

何事もない風を装って、事務所の外に出る。既に暗がかっている空は鈍色の雲に覆われていた。雨でも降りそうな雰囲気まである。

 

天「流石にこの時間は涼しいですね」

衣舞紀「そうね。このくらいの気温は走りやすいかな」

天「誰もランニングの話はしてませんよ」

 

苦笑しながら衣舞紀さんに軽いツッコミを入れる。彼女も笑いながら応えてくれた。

 

衣舞紀「いやーさっきはごめんね?急に手を握ったりして」

天「全然構いませんよ。嫌ではないので」

衣舞紀「•••じゃあ、今繋いでもいい•••?」

天「•••ッ!い、いいですよ••••••」

 

そっと手を差し出すと、衣舞紀さんは恐る恐るそれを握った。さっきは流れでスムーズに行ったのに、こうもムードが出来上がると恥ずかしくて仕方がない。

 

衣舞紀「な、なんだか照れ臭いわね•••」

天「そ、そうですね•••」

 

これではまるで初々しいカップルの様だった。周りの大人たちの視線もあって居心地が悪い。

 

女性A「(付き合いたてなのかしら?可愛らしくていいわね〜ーーって両方とも女の子•••?)」

女性B「(でも男子の制服着てるし男の子じゃないかしら•••?)」

 

知らず知らずの内に失礼な事を考えられていた事を俺は気が付かない。誰かの思考を読めるわけじゃないからわかるわけがなかった。

 

しばらく歩いていると、衣舞紀さんが急に立ち止まり、俺もすぐに反応して停止する。

 

衣舞紀「それじゃあ、私はこっちだから」

 

するり、と手が離れる。何故か名残惜しくなってる俺がいた。

 

天「そうですか、ではまた明日」

 

一礼し、俺は踵を返す。家に向かって一直線に歩こうとしたが、後ろから誰かに腕を掴まれる。

 

衣舞紀「忘れ物」

天「え?なんですかーー」

衣舞紀「んっ•••」

 

その正体は衣舞紀さんで、何事かと振り向いた瞬間に唇を奪われていた。

 

衣舞紀「ん、んぅ、ちゅ•••」

 

そのまましばらくの間キスを続けられ、俺の頭はこんがらがる。

 

衣舞紀「•••ん!じゃあね!天!」

 

そして手を振りながら笑顔で走っていった。俺は困惑したまま、その場に固まってしまう。

 

天「••••••反則だろ•••••••••!」

 

男として何かを失った様な気がして、ものすごく悔しかった。無意識のうちに唇に触れていて、顔が熱くなる。

 

天「•••絶対、仕返ししてやる」

 

俺のそのか細い呟きは、夜の風によって消えていった。




そんじゃ、私は執筆しながら生放送に帰ります。皆様、モンハンコラボ頑張りましょー。


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じゃあ、ジム行く?

モンハンコラボ明日からじゃーい!咲姫当てるぞこの野郎!つーわけで貯めてた石を溶かすぜ!wあれ、これ言うの二回目か(鳥頭)。


衣舞紀「ジムに行きましょう」

天「•••••••••は?」

 

朝早くから神山家に入り込んできたかと思えば、そんな台詞を衣舞紀さんは抜かした。

 

衣舞紀「天、最近筋トレあまりしてないんじゃないかしら」

天「一応今の身体を維持できるレベルにはしてますが、そこまで激しくはやってないですね」

 

リビングのソファに座ってテレビを眺めながら、俺は無感情に答える。別にこれ以上筋肉を増やそうとも考えていないので、ぶっちゃけ行く気は全く起こらん。

 

月「行ってきなよー。お兄ちゃんどうせ家でゴロゴロしてるだけなんだしさ」

衣舞紀「それは感心しないわね。ほら、早く行くわよ!」

天「うっはーめんどくせぇ」

 

衣舞紀さんに手を引かれて、俺は家から強制的に出される。手は握ったままで、俺たちはジムに向かって歩き始める。

 

衣舞紀「今日も暑いわねー」

天「そうですね。勝手に汗が出てくる•••」

 

服の胸元をパタパタと動かして風を送るが、こんなクソ暑い気温で入ってくるのは、生温いなんとも言えない風ばかりだった。余計に気持ち悪さが増した気がするので、動かすのをやめる。

 

衣舞紀「ジムで飲み物買おっか。熱中症になったらいけないから」

天「アク◯リアス安定で」

衣舞紀「あら、ポ◯リじゃないの?」

天「ポ◯リは味があまり好きじゃありません」

 

アク◯の方が甘くて飲みやすい。なんというか、ポ◯リは味がびみょい。後味も好ましくない。

 

衣舞紀「そういえば、天は最後にジム行ったのいつなの?」

天「•••あー•••中学の終わり頃が最後ですね。そもそもマネージャーの仕事が忙しくてあまり行けてませんでしたが」

 

あの頃は過去一忙しい時期だったし、Photon Maidenへの移行の手続きもあった時だ。あそこら辺辺りはほとんど行けてなかった記憶がある。

 

衣舞紀「筋力落ちてないといいわね〜?」

天「ナメないでください。こちとら今まで鍛えてきたんですから」

 

前以上のものを持ち上げたりするのは多分無理だろう。それでも150kgくらいは持ち上げられるはずだ。

 

ジムに到着。ささっと金を払って器具が置いてある広々とした部屋に入った。冷房が効いてて気持ちいいが、すぐにそんな感覚も消え失せた。

 

マッチョA「ふんぬうううぅぅぅ!!!」

マッチョB「ぬおおおぉぉぉ!!!」

 

筋肉モリモリマッチョのナイスガイたちが雄叫びを上げながら、ベンチプレスを上げたり、足で押すよくわからんヤツをやっていた。うるさいし暑苦しい。冷房の意味ねぇだろ。

 

衣舞紀「何からしよっか?」

 

衣舞紀さんはいつの間にかトレーニングウェアに着替えていた。そういう俺はただのTシャツ一枚とうっすいズボンだけ。あまり運動に適しているとは言えなかった。

 

衣舞紀「•••レンタルする?」

天「いえ、脱ぎます」

 

俺はTシャツを脱いだ。あまり日焼けのしていない白い身体から、細くても確かな形のある筋肉が出てくる。

 

衣舞紀「綺麗な筋肉してるわね•••触ってもいい?」

天「いいですよ」

 

許可を出すと、衣舞紀さんは俺のお腹に視線を合わせる様に姿勢を落とした。そして手を伸ばして腹筋に触れる。冷たっ。

 

衣舞紀「すごく硬いわ•••!」

マッチョA「お、いい筋肉してる姉ちゃ•••いや兄ちゃんがいるじゃねぇか」

マッチョB「綺麗なつきかたしてるねぇキミ!」

 

ワラワラと俺の周りにマッチョ共が集まって、俺の身体をベタベタと触り始めた。気持ち悪りぃ•••。

 

?「ん?お前、天か?」

天「えっ•••?佐々木さん!?」

 

マッチョたちの隙間に知った顔がいて驚いた。

佐々木総悟。軍の階級までは覚えていないが、父さんの上司に当たる人で、父に戦闘技術を教えた張本人である。年齢はちょうど50くらいだ。それでも老いを一切感じさせない若々しさと筋肉の張りをいつものように見せてくれた。

 

総悟「やっぱり天か!相変わらずほせぇなぁー。ちゃんと飯食ってるのか?えぇ?また肉送ろうか?」

天「いやいいです•••佐々木さん送る量多すぎるんですよ••••••」

衣舞紀「天、この方は?」

 

置いてけぼりだった衣舞紀さんが会話に加わったおかげでなんとか流れを崩すことができた。このままドロドロ行ったら肉持って帰らされる。

 

天「俺の父さんの上司の佐々木さん」

総悟「えらく説明簡潔だな」

天「あまり長々と言われるの好きじゃないですよね?」

総悟「まっ、そうだな。そんで、お嬢さんは?」

衣舞紀「新島衣舞紀です、よろしくお願いします」

 

礼儀正しく、衣舞紀さんは丁寧に頭を下げた。俺の心境は彼女が変な事を口恥じらないか怖くて堪らなかった。

 

総悟「今日は二人か?」

衣舞紀「はい、そうです。彼が最近ジムに来てないのでたまにはと」

総悟「おいおい天、ちゃんとジム通いは続けろよ。お前働いててちゃんと金あるんだからよぉ」

天「今の身体維持するだけでいいですよ、俺は」

総悟「言ったなお前?じゃあ早速どれくらいできるか見せてもらおうか?えぇ!?」

 

佐々木さんに肩を組まれて、俺はベンチプレスのあるところへ連れて行かれる。

ため息をつきながら寝転がり、棒を握る。

 

天「そういえば、これ何kgですか?」

総悟「100」

天「よいしょ」

 

ひょいっ、と軽々と100kgを持ち上げてみせる。慣れた動きで上下に上げ下げしてから元の位置に戻す。

 

総悟「結構イケるな」

天「そこまで酷く鈍りはしませんよ」

総悟「200はイケそうか?」

天「そもそも通ってた当時ですら170が限界だったんで無理ですよ」

総悟「それもそうだな!ガハハハ!」

 

とても若い見た目とは思えない豪快な笑い方に、俺もつい笑みを零してしまう。全く変わりないようで少し安心したのだ。

 

天「佐々木さん、今度肉くださいよ」

総悟「おう!じゃあ今日送りつけるな!」

天「早!?」

 

行動の早さも昔から変わりないらしい。俺の笑みは引きつったものへと変貌を遂げた。

 

適当にトレーニングを続けて、今は衣舞紀さんと隣り合わせでランニングマシーンの上を走っている。

 

衣舞紀「佐々木さん、すごかったわね」

天「あの人はただのバケモノですよ•••」

 

あの後、佐々木さんがベンチプレスをやったのだが、見事に250kgを持ち上げやがった。体重と筋力が成せる力というものを、直に見せつけられた。とても65kgとかいう貧弱な体重では、それは無理難題の域に達する。

 

天「ふっ、ふっ•••」

衣舞紀「今日は疲れるのが早いわね?」

天「佐々木さんに付き合ってた所為で体力ほとんど持っていかれましたよ」

 

やたら自分のトレーニングに付き合わせようとするから、それに合わせていたら変に疲れてしまった。

 

総悟「へぇー、あの姫神プロデュースのユニットか、そりゃ期待値高いわなぁ」

天「なんでしれっといるんですか」

 

気がつけば隣に湧いて走っていた。いつの間に。

 

衣舞紀「プロデューサーの事を知ってるんですか?」

総悟「まぁちょっとした付き合いさ。いっつもクールで取っつき辛かったわ」

天「まぁ、それは言えてますね」

総悟「もうあれ女版鬼◯辻無惨だよな」

天「勝手に発言しただけで殺されそうですね」

衣舞紀「二人とも失礼過ぎない••••••?」

 

姫神プロデューサーも陰でこんな事言われてるとは思ってもみないだろう。別に俺は彼女の事を悪くは一切思っていないが。

 

総悟「まぁでも、しっかりしたヤツだった。デキる女はカッコよくていいねぇ」

天「相手作るなら頼りになる人がいいですよね」

総悟「そういやお前、彼女できーー」

 

 

天「え何ですか???」

 

 

総悟「•••やっぱ何もねぇ」

 

めんどくさそうな話題が出かけたので、俺は圧を掛けてストップさせる。

 

衣舞紀「••••••ふふっ」

 

隣で衣舞紀さんがくすりと笑ったので、俺はあまりよろしくない目線を彼女に送る。衣舞紀さんは顔で謝っていたが、恐らく佐々木さんには確実に勘づかれた。

 

総悟「•••••••••頑張れよ!」

天「••••••はいはい」

 

恥ずかしくなって、俺は呟くような小さな声しか出せなかった。




正月のお陰で書き貯めが全くできていない今日この頃。いやーヤバいっす。


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お肉パーティー前夜祭

誠に勝手な理由で申し訳ないのですが、今回のPhoton Maidenモンハンコラボイベントを走る事に決めました。そっちに専念する為、21日まで、投稿はしません。ご理解の程、よろしくお願いします。


天「ただいま•••って何だこれ」

 

家に帰り着いて玄関の扉を開けると、目の前にデカい段ボール箱があった。心当たりがない俺は首を傾げてしまう。

 

月「どうしたとこうしたもないよ。佐々木さんからのだよ」

天「あっ•••あの人ガチで送ってきたのか••••••」

月「え?佐々木さんと何かあったの?」

 

リビングから顔だけ出した月が首を傾げていたが、俺には先ほどと打って変わって心当たりしかなくて唇を引きつった。

 

天「昨日衣舞紀さんに連れて行かれたジムに佐々木さんがいてな。その時に送りつけるって言われた」

月「昨日休みだったのあの人••••••。通りで肉くるわけだよ••••••」

 

月は大きなため息を吐く。送られる張本人になる俺は正直な話笑えん。

 

月「えぇ•••どうするの•••?この量消費するのどれくらいかかるかわからないよ」

天「••••••今来るかわからないけど、助っ人呼ぶか」

月「助っ人•••?ーーあっ!」

 

一瞬わからなかったが、すぐに察したのか声を上げた。俺はすぐに携帯を取り出して、とある人に電話をかける。

 

天「もしもし、俺です。•••はい、佐々木さんからてす。今から来れますか•••?はい、わかりました、ありがとうございます」

 

話がついたので、俺は携帯をポケットにしまった。

 

月「大丈夫そうだね。それじゃ、張り切って作るぞー!」

 

パンッ!と小気味良い音を立てながら頬を叩いた。俺は段ボール箱を抱えて、キッチンにまで持っていく。

 

月「もしかして一人だけ?」

天「あぁ、一人だけ」

月「次は全員で来たりは?」

天「わからん」

月「全部食べるまでどれくらいかかるかわからないなぁ••••••」

 

あはは、と月は力なく笑った。それは俺も同じだが、タンパク質が入ってきたのでそこまで苦とは思わない。

 

月「というより、ちゃんと筋トレしてきたっぽいね。佐々木さんがいたってことは」

天「おう、死んだ」

月「簡潔スギィ!」

 

実際無理なのにも付き合わされて、身体はボロボロになっていた。普段から鍛えているから筋肉痛にこそならなかったものの、単純な疲労は残っていた。

 

天「やっぱジムは行かなくていいかもな。疲れるわ」

月「そう言いながら衣舞紀さんに連れて行かれそうだけどねー」

天「マジでありそうだからやめてくれ」

 

一瞬で顔が引きつる。月は完全に他人事なのでゲラゲラ笑っていた。少しムカつくのでデコピンを一発ブチ込んでやる。

 

月「いったいなぁ!暴力反対!」

天「うるせぇ」

月「ごめんなさい•••」

 

耳元でギャーギャー騒がれると耳がイカれるので圧をかけて大人しくさせる。

 

月「最近のお兄ちゃん怖いんですけどー?」

天「気の所為」

月「今は顔怖いけど」

天「期末テスト死にそう」

月「マネージャーが欠点取って補習とか笑い者になるからやめてよ?」

天「最低限赤点は回避するらつもりだが••••••」

 

ライブの準備だったり仕事だったりで勉強には全く手をつけていなかった。このまま行けばガチで赤点を取ってしまいそうである。かなりマズい状況だ。

 

月「勉強教えよっか?高校一年のくらいはできるし」

天「ノアさんに教えてもらうわ。めちゃくちゃ頭いいしあの人」

月「あれー私はー?」

天「お前は知らん」

月「冷たっ!?」

 

絶対お前が混ざったら、問題発言の連続で勉強どころじゃなくなる。ノアさんもノアさんでだいぶヤバいけど。

 

月「なんだかんだ珍しいよね、お兄ちゃんが料理に参加してるの」

天「ん?あー•••なんとなくな」

 

流石に肉切って焼くくらいのことはできるので、一緒になってやっている。流石に月よりは不器用さが目立つが、今までやってきたやってきてないの差だ。

ピンポーン!

インターホンが鳴った。俺は手を止めたがーー、

 

月「私が行くよ。今のうちに肉切っちゃって」

天「わかった」

 

俺より先に手洗い等を終わらせて、月は玄関の方に走っていた。やっぱり手際の良さの差は歴然だった。少し凹む。

 

月「はーいただいまー」

衣舞紀「お邪魔するわねー」

天「はっや!」

 

少しは玄関で何か話してから来ると思っていたら、本当に一瞬だった。

 

衣舞紀「佐々木さんからお肉届いたんでしょ?どんなのが来たの?」

天「その段ボールの中に入ってるのでご自由にどうぞ」

 

それだけ言ってすぐに作業に戻る。横を衣舞紀さんが通って、段ボール箱を開けるのを横目に眺める。

 

衣舞紀「どれどれ〜?ーーって、高級なお肉ばかりじゃない!?」

月「佐々木さんはいつもそんな感じのお肉送ってきますよ〜」

衣舞紀「やっぱり階級持ちはレベルが違うわね•••」

月「お兄ちゃん今度息子さんとご挨拶したら?」

天「え、やだ」

 

佐々木さんのご子息結構取っつき辛かった記憶しかないので、あまり会いたくないのだ。

 

天「あの人に付き合ったらそれこそ死んじまいそうだ」

月「••••••今のお兄ちゃんなら普通にいけそうな気がするけどなぁ」

天「あーやめろやめろ。中学の頃とはいえ、殺りあった時あの人本気じゃなかった」

月「おぉ•••怖」

衣舞紀「なんかやりあったの言い方おかしくなかった••••••?」

 

それは多分気の所為ですよ衣舞紀さんや。もう驚愕している彼女の姿はなく、ほぼ自然に肉を焼く作業に参加してた。

 

月「はぁ〜一気に楽になったぁ〜。衣舞紀さんありがとうございます!」

衣舞紀「いいのよ、私も食べるのだから」

天「今度焼肉パーティーしますか?メンバーのみんなも呼んで」

衣舞紀「あら、いいわね。こんなに量があるなら六人でも全然足りるわね」

 

何kgあるかぶっちゃけわからんし、多分六人で食べまくっても確実に余るだろう。残りは父さんの餌にでもしておくか。

 

月「よし!全部切り終わったー!」

天「ん、俺も終わり。フライパンもう一個くらいあったか?」

月「今衣舞紀さんが使ってるのしかないよ。後どうしよっか」

天「月は野菜切っててくれ。俺は皿とか出す」

月「りょーかーい」

 

俺はすぐに箸と皿を出してテーブルに並べていく。月は包丁を洗ってから、野菜をどんどん切り刻んでいった。

 

天「••••••?そういえば、俺の箸変わったか?」

月「ヒビ入ってたから変えたよー」

天「•••あれ気に入ってたんだけどな」

月「ただ真っ黒なだけじゃん。少しは模様とかに拘りなさい」

 

シンプルな無地とかのデザイン一切無しなのが好きなのだ。というか変えたなら先言ってくれよ、困惑するわ。

 

準備が一通り終わり、俺たちは先について肉を食べ始めた。焼肉のタレをぶっかけて、俺は口にそれを運ぶ。

 

天「ん、やっぱ美味い」

月「肉汁すっごい!佐々木さんに感謝•••!」

衣舞紀「美味しいー!毎日食べたいわね!」

 

いや、毎日は飽きるよ。流石にそれは無理。俺は苦笑を返す。月はそうでもないようで、頷いていた。

 

衣舞紀「ほら、天はもっと食べなさい。大きくなれないわよ?」

天「別にいいですって」

月「今ひとつ情熱がないなぁ•••吉◯吉◯か」

天「俺をあの変態殺人鬼と一緒にすんのやめてくんない?」

 

名誉毀損で訴えるぞこのやろう。人の事クソカス扱いしやがってさぁ。

 

衣舞紀「ほらほら、食べなさい」

天「ちょっ、入れすぎですよ」

月「お兄ちゃん私の分も食べてよー」

天「そんなに食えんわアホ」

 

衣舞紀さんに皿から漏れるレベルの量の肉押し付けられた上に、月の肉も寄越されたら流石にキャパオーバーしてしまう。

 

天「美味いけど•••多い」

衣舞紀「男の子なんだから食べられるでしょ?ファミレスの時みたいに」

天「あれはめちゃくちゃ腹減ってたからですよ」

衣舞紀「じゃあ私が食べさせてあげよっか?」

天「えっ•••?いや、いいですよ、そんな」

 

急にそんなことを言い出すもんだから、恥ずかしくなって顔を逸らす。衣舞紀さんも月もニヤニヤと俺を眺めていて、少しウザったい。

 

衣舞紀「遠慮しなくていいのよ?はい、あーん」

天「••••••あむっ」

 

肉を目の前に出されたので、俺は口を開いてそれを一口で食べ、赤い顔のまま咀嚼を繰り返す。

 

衣舞紀「いい食べっぷりだわ。ほら、もっと行くわよー?」

天「そんなに大量に入りませんよ!」

 

まだ口の中に肉が残っているのに、衣舞紀さんは更にプッシュを掛けようとしてきていた。月はそれを見て楽しそうに笑っていたが、俺は全く笑えなかった。




では、22日にまた会いましょう。


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お肉パーティー前編

皆様お久しぶりです、如水でございます。この度はPhoton Maidenのモンハンコラボイベント、そして卒業テストによって大幅に投稿期間を空けてしまった事をお詫び申し上げます。今日から再開は致しますが、親知らずを抜く手術が控えておりますのでその時はまた投稿できなくなってしまいます。申し訳ありません。それでは、どうぞ。


オフの日に、俺はPhoton Maidenの面々を家に呼んだ。理由は少し前に話した焼肉の事である。

せっかく大量の肉が送られてきたのだから、みんなで食べた方が美味いだろう、と衣舞紀さんからの意見があったので、早速集めたわけだ。

 

月「皆さんいらっしゃいませ!ごゆっくりどうぞー!」

乙和「ありがとー月ちゃん!お邪魔しまーす!」

ノア「ヤバイ•••!エプロン姿の月ちゃん、最っ高にカワイイ•••!鼻血出ちゃいそう•••!」

 

今のあなたは最っ高にヤバいけど、決して口には出さない。出した瞬間死ぬ。だから俺は生温い視線だけを送っておくのだ。

 

天「これでも多分無くなりませんよね••••••」

衣舞紀「一応ずっと私も消化を手伝ってきたけど•••本当に多いわね」

 

ここ毎日、衣舞紀さんは佐々木さんから送られた肉の処理に参加していた。が、それでも肉が減ることは全然なかった。もしかしたらいつもより多い量を送りつけてきてる可能性がある。勘弁してくれよ。

 

衣舞紀「とりあえず今日が勝負よ。どれくらい消費できるかが今後に関わってくる」

 

いや、そんなに壮大な事するわけじゃないでしょ•••変に張り切り過ぎだ。

 

天「というか、もう準備は終わってるんだっけか」

月「後は焼くだけだよー。お兄ちゃんも手伝ってよね」

天「へいへい•••」

 

俺は立ち上がって、物置まで移動する。中から炭を入れるアレ(名前を忘れた)と、炭、そして金網を取り出す。まだ新品が残っていて良かった。

 

庭にそれを乱雑に置いて、炭をドバーッ!とブチ込む。その上に金網を敷いて、火をぶっかける。

 

天「月、座るもの忘れたからそっち頼むわ」

月「りょーかーい」

 

家の中から声だけが聞こえたので、俺は炭を焼く方に専念した。

 

咲姫「私も何か手伝う事、ない?」

天「いや、座ってていいぞ。お前は客だからな」

咲姫「うん••••••」

月「はい!椅子!」

 

タイミングよく月が座るものを持ってきたので、咲姫に座るよう促した。彼女は頷いて、大人しく腰掛ける。

 

月「ほら、早く炭燃やしてよ」

天「はいはい待ってろ。あっつ•••」

 

外が暑いのに加えて、目の前で炭を燃やしているのだ。汗がダラダラ出てきて気持ち悪いったらありゃしない。モチベーションの低下がかなり激しいぞこれ。

 

衣舞紀「天、代わろうか?」

天「いえ、大丈夫です」

 

衣舞紀さんが俺を見かねて提案を掛けたが、俺は首を横に振った。こういうのは男がやらなければ、と本能的に感じているのだろう。

腕で乱暴に額の汗を拭って、炭にバーナーの火を吹き続ける。

少しして、炭が赤い光を放ちながらパチパチと音を鳴らし始めた。そこで火を止めて、俺はその炭を真ん中に置く。次第に周りにも火が移り始めて、更に熱さが増した。

 

天「よし、後は肉を焼くだけだな」

月「はいお肉!」

乙和「たくさん持ってきたよ〜」

 

そばに置いていた大きなテーブルに、ドンドンと大量の肉が盛られた皿が置かれる。あまりの重さに、テーブルの足が少しガタついていた。

 

天「よし、じゃあ焼いていくか」

月「じゃんじゃんいくよー!」

 

トングを持った月が、適当に肉を取って金網の上に置いて行く。じゅうー、と焼ける音が鳴り始めて空腹が加速する。

 

月「はー美味しそう」

天「まだ赤いままじゃねぇか」

 

お腹がペコペコの月にとっては、まだ焼けてない肉というだけでも、食欲を促していたらしい。よくわからん。

 

ノア「咲姫ちゃん、何か食べたいものとかある?」

咲姫「私は焼けたのを持って行くから大丈夫••••••」

衣舞紀「高級な肉だけど、部位も色々あるからどれから焼けばいいか迷うわね」

乙和「どれがどの部位とかわかんないから適当に焼こうよー」

天「めっちゃ大雑把な人いるんだけど••••••」

 

どうせなら一つの種類の肉が尽きるまで焼いた方が、焼けたタイミングとか掴みやすい。変に焦がすこともないから、その方がいいだろう。

 

月「はい、カルビドーン!」

 

大きなカルビを、惜しみなく金網に投入する月。油が炭に落ちて、火が激しくなる。

 

月「焼肉はこれが楽しいよねー!」

天「この時期だと勘弁願いたいがな•••」

 

ふぅ、と息を吐きながら、シャツの胸元をパタパタと扇ぐ。生温い風しか入ってこないが、何もしないよりはよっぽどマシだ。

 

ノア「はい、咲姫ちゃん」

咲姫「あっ、ありがとうノアさん」

ノア「いいよいいよ。欲しいお肉があったら言ってね」

 

咲姫の意見などガン無視して、ノアさんは彼女に焼けた肉を与えていた。俺も一つだけ焼けたカルビを取って、タレに浸ける。

ドロドロのタレが絡まった肉を口の中に運ぶと、強い旨味と肉汁が溢れ出した。

 

天「••••••うめぇけど、飽きたな」

月「ずっとタレだったもんねー。少し変わったので食べよっか」

 

何日も肉を食べてきた所為で、俺の舌は完全に慣れと飽きを同時に起こしていた。それもタレだけで食べてたのも原因の一つだろう。

 

月「とりあえず塩と醤油とソースとトンカツソース持ってきたよ」

天「塩はともかく他のラインナップどうにかならなかったのかお前」

月「じゃあオリーブオイルいっとく?もうこれくらいしかないよ」

天「えぇ••••••じゃあ、醤油くれ」

月「あいあいさー」

 

月が俺に醤油を手渡すーー訳ではなく、そのまま肉の入った皿にぶちまけた。おい、タレと混ざってんぞ。

 

月「手が滑っちゃった☆」

天「後で殺す」

月「目がマジだ•••!」

 

皿を替えて、今度は自分の手で醤油を入れる。そこに肉を浸けて食べてみたら、思いの外美味かった。

 

天「意外とイケるわ、これ」

月「え、本当?」

 

月が首を傾げていたが、すぐに醤油を入れて肉を口の中に放り込む。

 

月「ーーッ!美味しい!」

 

すぐに表情は驚愕のものへと変わり、美味しそうに咀嚼を始めた。

 

衣舞紀「醤油かぁ。私も試してみようかな」

乙和「私も私もー」

 

続々と肉に醤油を入れる文化が芽生え始めていた。咲姫とノアさんも便乗して、タレの出番が少なくなってしまった。可哀想に。

 

ノア「うん、合うね!」

咲姫「美味しい•••!」

 

そしてまぁまぁ好評なようで、醤油の株価が上昇した。しばらくはこれで肉の消費に勤しもう。

 

乙和「次何のお肉行くー?」

衣舞紀「次はタンにしよっか」

天「タン•••!」

月「お兄ちゃんの一番好きな部位だ」

 

俺は肉の中でタンが一番好きだ。塩とレモンをかけて食べるのは常識であり一番上手い食べ方だ。

カルビがほとんど食べ終えられているので、空いたスペースにタンをどんどん敷いていく。タンは薄いので、そこまで焼く時間を使わないのがいいところだ。

数分程焼いて、俺はすぐに焼けたタンを取った。塩とレモンをぶっかけて、口に運ぶ。

タン特有の食感に、レモンの酸味、そして肉の旨味がとても合っていて至高の領域に飛びそうだ。要は美味い。

 

天「〜〜〜!」

ノア「すごく幸せそうな顔で食べるね••••••」

月「お兄ちゃん、タン好きですから」

衣舞紀「それじゃあ天、もっとタン食べる?」

天「食べます食べます!」

衣舞紀「はい、あーん」

 

衣舞紀さんが唐突にタンを目の前に止める。

 

乙和「おぉ〜衣舞紀大胆!」

天「え、いや•••みんながいますし••••••」

衣舞紀「じゃあこれは私が食べちゃおっかなー?」

天「うぅ•••でもタンは食べたい•••!」

 

肉を取るか俺の精神を取るか、頭の中で喧嘩が始まっていた。

••••••よし!

 

天「あむっ!」

月「あっ」

ノア「食べた•••」

 

少しでも気を紛らわそうと、俺は勢いづけて衣舞紀さんの箸に挟まれたタンを食べた。そのまま咀嚼して、ゴクンと音を鳴らしながら飲み込む。

 

衣舞紀「あらー•••意外と予想外な反応だったわね」

天「いつまでもナメないでください」

月「二人とも何やってるのさ••••••」

 

俺と衣舞紀さんはどちらとも不敵な笑みを浮かべながら、お互いを見つめていた。

これもうわかんねぇな(作者)。




ちなみに車校でまぁまぁ忙しいのでワンチャン毎日投稿途切れる可能性がありますので、もし途切れたら忙しいと思ってください。


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お肉パーティー後編

車校の方が忙しくて投稿遅れました申し訳ない!とりあえずこれで焼肉終わりますけど、ぶっちゃけ次の展開まともに思いついてないのでだいぶ詰んでます()


タンを食べ終えると、次は何の肉を焼こうかとみんなで悩みに悩んでいた。特にどれを食べたいというのはなく、段々適当になりつつあった。

 

月「••••••何より」

 

もうみんなの腹が満たされつつあった。特に女性陣はほとんどが満腹だろう。月と衣舞紀さんもその例に漏れず、限界を迎えていた。

 

天「もぐもぐ•••」

 

そんな中でも、俺だけは休みなく肉を噛み続けていた。まだ腹に余裕があるので、適当に焼いては食べるの繰り返しとなっていた。

 

月「お兄ちゃん、よく食べれるね•••」

天「ん?まだそこまで食ってないからな」

 

いつもの食卓だったら、既に焼いたものを適当に取って食べていたからすぐに腹いっぱいになったものの、今は焼きながら食べるという、非効率的な事をしている。嫌でも間が空くので、その間に多少腹に余裕ができてしまうのだ。

 

乙和「うぅ•••もうお腹いっぱいだよ〜」

 

椅子に全体重を預けながら、乙和さんが声を上げる。

 

ノア「乙和、はしたないよ」

 

そう言って注意をするノアさんも、あまり人の事が言える状態ではなかった。乙和さん程あからさまではないが、体勢が悪いのは確かだ。

 

咲姫「しばらく、お肉は食べたくない••••••」

 

肉ばかり食べていた咲姫は、軽いトラウマに陥っていた。可哀想に。

 

月「はぁ〜、食べた食べた〜。もうお腹いっぱいだよー」

 

最後に肉を一枚だけ食べて、月は自身のお腹を撫でる。少し窮屈そうで、息遣いが少し荒かった。

 

天「衣舞紀さんは•••」

衣舞紀「私ももう限界かな•••」

 

表情こそ余裕を感じられるが、実際はギリギリの所まで来ていたようだ。

 

天「これはみんな晩飯いらなそうだな」

 

小さく笑いながら見渡すと、全員同じように頷いた。時刻も午後四時を回っており、焼肉を開始してから四時間も経過していた。時間が経つのが早い。

 

天「みんな部屋の中に戻ってて大丈夫ですよ。寝るなり何なりご自由に」

乙和「うぅ•••ちょっと横になりたいかも•••」

月「私も寝転がりたいです•••」

 

お腹の中に大量の肉を抱えたおチビ二人組は真っ先に家の中へ入っていった。

 

咲姫「私も入る••••••」

ノア「そうしよっか」

 

咲姫とノアさんも続いてこの場から離れた。残るは衣舞紀さんだが•••。

 

天「行かないんですか?」

衣舞紀「天を一人にはできないわ」

天「••••••そんなクサい事言わなくていいですよ」

衣舞紀「恥ずかしい事を言ったつもりはないのだけど•••私に対してだけやたら臆病よね?」

 

俺は何も言い返せず、ただ肉を噛み続ける事しかできずにいた。衣舞紀さんは微笑みながらずっとそれを眺めている。

 

衣舞紀「でも、そういうところも好きよ」

天「••••••そうですか」

 

俺はふいっ、と顔を逸らす。気恥ずかしくて、彼女の顔を見る事ができなかった。

 

衣舞紀「後どれくらい食べられるかな?」

天「正直もうそんなにイケる気がしません。結構腹いっぱいです」

 

もう腹がパンパンだぜ。後数枚程度しか入らない気がする。目の前の肉も僅かにしか焼かれておらず、今そこにあるのをラストだと決める。

そしてそれはすぐに平らげられ、俺の後半孤独のグルメが終了した。他の人達はもう寝てしまってる気がするので、俺と衣舞紀さんの二人で片づけに入る。

開始の準備とは違って、片付けはやる事が少ないのでかなり楽だった。

金網はゴミとして処理し、使った炭は適当なところに埋めて、椅子もただ物置にブチ込むだけでよい。

肉が意外と残ったのが少し残念だが、また明日も食べよう。佐々木さんやっぱり送りつけてくる量が多いわ。次はもっと少なくしてくれ頼む。

 

天「はぁー、終わったー」

衣舞紀「動いたら少しお腹が楽になったわねー」

 

基本が運ぶ作業だったので、なんだかんだ運動になった。俺もさっきより感覚的に楽だ。

 

リビングに入ると、四人が仲良く寝ている姿があった。俺と衣舞紀さんは顔を見合わせて、くすりと笑う。

別室から大きい毛布を持ってきて、被せてやる。

 

天「こうしてみたら•••みんなただの子供だな••••••」

 

俺も人の事を言えた立場ではないが、今こうして目の前にいる彼女たちは俺より歳下に見えた。実際に一人歳下が混ざってるけど()

 

衣舞紀「私たちは部屋に行きましょうか。変に騒いで起こさない方がいいし」

天「そうですねっと」

 

起き上がる時に少し語尾に間ができた。衣舞紀さんを連れて自室に入り、俺はすぐにベッドに座った。その隣に衣舞紀さんも座る

 

天「はー、食った食ったー。眠たいんで寝ていいですか?」

衣舞紀「すぐに寝るのはダメよ。でも、私も少し眠いわね」

 

小さくあくびをする衣舞紀さん。俺はふっ、と笑ってしまう。

 

衣舞紀「お?笑ったなー」

天「いや、なんかあくびしてるのが珍しかったので」

衣舞紀「私だってあくびくらいするわよ。人の事をなんだと思ってるの?」

天「ある意味ダンス面で人間やめてる気がしますが」

衣舞紀「それはトレーニングの成果よ」

 

脳筋め•••いっつも筋肉で解決してないか、この人•••。

 

衣舞紀「それに、さ」

天「はい?」

 

そして何故か急に、やたら衣舞紀さんはモジモジとし始めた。

 

衣舞紀「今はみんな寝ちゃってるし、その、いいよね?」

天「••••••あぁ」

 

何となく察しがついて、自然と笑みが溢れる。彼女の肩を抱いて、顔を近づける。そしてそのまま、唇を重ねた。

 

衣舞紀「んっ、ちゅっ•••」

 

衣舞紀さんの手は俺の膝に置かれており、全く動かない。が、今キスをされている状態で身体の何処かを触られるのは、少しくすぐったかった。

 

衣舞紀「ちゅ、ちゅう•••ぷはっ。ね、続きもシちゃおっか••••••?」

天「ーーッ、それって」

 

つまりは、ヤるってことか•••?一階にはみんながいるのにか?

 

天「みんなが起きますよ•••?」

衣舞紀「声を抑えれば大丈夫よ」

 

軽いなぁ•••。もしもの事を考えていないのか?

 

衣舞紀「今は•••天に愛してもらいたくてたまらないんだもの••••••」

天「••••••あーもう、わかりましたよ」

 

•••決して、決して今の言葉で理性が揺らいだとかそんな事では断じてない。

俺は彼女の肩を押して、ベッドに向かって倒れさせた。

 

そそくさと衣類を整えて、俺たちはそろりと一階に降りる。まだ全員寝ているようで、ホッと息を吐く。

 

天「どうやら、大丈夫みたいですね」

衣舞紀「そ、そうね•••」

 

安心する中、衣舞紀さんの顔は真っ赤だった。

 

天「•••どうしたんですか?」

衣舞紀「えっ!?そ、その•••自分ってこんな声出せるんだな•••って」

天「•••ぶふっ」

 

予想外の答えに、俺は軽く噴き出してしまう。衣舞紀さんは少し怒った表情で、俺の頬を引っ張った。

 

天「いふぁいでふ」

衣舞紀「お返しよ」

天「ふみまへんふみまへん」

 

とりあえず謝っておいた。

 

しばらくしたら自然と眠ってしまった四人は目を覚ました。が、起きるのがあまりにも遅い所為で、外は暗くなっていた。

 

乙和「あれー!?もう夜!?どうして起こしてくれなかったのー!?」

天「すみません、ボーッとテレビ見てました」

 

点いたままのテレビを指差しながら、俺は答える。

 

ノア「うーんどうしよう•••この時間から帰るのは••••••」

月「明日も休日なんですから、泊まっていっては?」

咲姫「うん•••今から帰るのは•••」

天「いやお前家ここからすぐ近くだろ」

 

咲姫の今住んでるところは俺の家を出て数分で着く。他は難しくても咲姫はすぐに帰れるのは確実だ。

 

咲姫「泊まる•••!」

天「いやまぁ、泊まる事に関しては何も言う気ないからいいけどさ」

衣舞紀「じゃあ私も泊まっていこうかな。天、一緒に寝よっか?」

天「••••••いいですよ」

 

既にあんな事をしたんだ。今更恥ずかしがる必要もないだろう。俺はそっと頷いた。

 

月「じゃあお風呂入れますねー!」

 

月は元気よく走っていって、風呂沸きのボタンを押した。機械音声の後に、脱衣所から水の音が鳴り始めた。

 

天「••••••晩飯いらねぇな」

 

こんな時間になっても、腹は全く減っていなかった。それは他のみんなも同じようで、苦笑しながら頷かれた。




R18も久々に投稿しまっせ。見たい人向けですけど


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熱中症には気をつけよう!

こんな時間からの投稿になってマジで申し訳ない!ふっつうに忘れてました。ハイ。明日は余裕あるので忘れずにちゃんと投稿します。ホンマすんません。


佐々木さんから送られた大量の肉は、何とか消化しきる事ができた。俺も月もしばらくは肉を食べたくないという思考に至り、食卓に肉が並ぶ事は一、二週間ないだろう。

 

月「はぁー!やーっと食べ終わったー!もう肉食べたくなーい!」

天「同感•••マジで肉はいいわ••••••」

 

ソファに仲良く並んで座りながら、俺たちは大きくため息をついた。パンパンになった腹が苦しい。

 

月「みんなで焼肉したのはかなり助かったよ•••あれでほとんど消費できたから•••」

天「そうだな•••みんな死んでたけど」

 

全員食べ過ぎで家の中で寝込んでしまってたし。俺と衣舞紀さんは普通に起きてたが、みんなは夜まで熟睡コースだった。

結果、全員がうちに泊まるハメに。広い家で良かったと心の底から感じたよ。

 

天「•••やっぱりちゃんと言っておくべきだったな。量少なくしてくれって」

月「なんで言っておかないかなぁ•••おかげでこんな地獄を見るハメになっちゃったよ•••」

天「いや、マジですまん。今後気をつける」

月「信用できないなー•••」

 

うん、多分信じない方がいいぞ。佐々木さんの事だ、無視して大量に送りつけてくる未来が見える。甘んじて受け入れるしかなかろう。俺たち何も悪い事してないのに。

 

月「お兄ちゃんは今日までとってきた大量のタンパク質を無駄にしないようにね•••?」

天「わかってるよ。いつも通りに筋トレとかしてたらいずれは」

 

そんな途方のない話をされても月は面白くないようで、ふーん、と興味なさげに反応を示した。俺自身もそこまで話題に出そうとも思わないので、これ以上は話を続けなかった。

 

天「んじゃ、寝るわ」

月「早くない?明日何かあるの?」

天「特に急ぎの仕事があるわけでもないが•••なんか今日は早く寝たい気分なんだよ」

 

少しばかりか眠気もあって、ベッドに入れば今すぐにでも寝てしまう自信がある。というか眠い寝たい。

 

天「じゃ、おやすみ」

月「おやすみ〜」

 

手を振る月に軽く振り返してから、俺は二回の自室に上がってベッドにダイブした。

 

早くから寝たのもあって、朝の目覚めは快調だった。妹から強制的に起こされる事もなく、俺は一階に降りて呑気にテレビを見ていた。

 

月「おはよー。早いねー」

天「昨日あんなに早く寝たら流石にな?」

月「毎日これくらい早く起きてきて欲しいんだけどなぁ〜」

天「無理」

月「即答•••」

 

自信満々に否定すると、月から呆れた声が漏れたのがわかった。自然はテレビに移ったままだが、意識だけは妹に向けていた。

 

月「そういえばライブの方は大丈夫そう?」

天「わからん。俺はハコを用意するだけで、それをどうするかはみんな次第だ」

月「むっ。少し無責任じゃないかな?マネージャーならちゃんとサポートしてあげないと」

 

少しお怒り気味の妹が意見をぶつけた。俺は顔を向けて、小さく首を横に振った。

 

天「できるならそうしてやりたいさ。でも、今回は少し厄介でな。次やるライブもその更に次にやるライブ、二つの準備を進めてるからサポートに手が回せないんだ」

月「それって、そんなに間がないってこと?」

天「あぁ。一週間しかない」

月「えっ!?すぐじゃん!」

 

中々に詰まったスケジュールを聞いて、月は驚愕の声を上げた。

 

天「だからPhoton Maidenには手を回す事ができない。後はプロデューサーとか自分たちでどうにかしてもらわないと」

月「•••少しでも、少しでもお兄ちゃんがみんなに何かしてあげられないの?」

天「•••本当に少しだけなら、話し相手くらいはできるが」

 

それも仕事をしながらになってしまう。恐らく話半分に聞くだけで、かなりつまらないことになるのが目に見えていた。

 

月「それだけでもだいぶ違うから、ちょっとくらいら大目に見てあげよ?」

天「••••••相変わらず甘いんだな」

月「お兄ちゃん程ではないけどね」

天「どういうことだそれ」

 

普段から人を甘やかしてる記憶はないんだがな。このバカの錯覚じゃないのか?

 

月「お兄ちゃん自身はわかんないだろうねー。鈍感おバカだから」

天「えぇ•••」

 

困惑気味な声が漏れた。月はヘラヘラと笑うだけで、その真相を語る事はなかったという。

 

日に日に暑さが増していく外に、俺は絶望感を感じていた。ただ歩いているだけなのに、汗が身体を伝って地面に垂れ落ちる。

腕で汗を拭い取るが、それでも汗は止まらず余計に増えたような気さえしてきた。

 

天「クソッ•••暑すぎんだろ•••」

 

しかも、こういう時に限って飲み物を持ってくるのを忘れてしまった。喉はもうカラカラで、意識が少しずつだが遠のいていたのが自分自身でもわかっていた。

 

天「おっとと•••」

 

視界が揺らぎ、身体の軸がブレる。小ジャンプを数回ほどして体勢を立て直すが、少し気持ち悪さを覚えた。

 

天「•••どっかで休もうかな」

 

ぐっすり眠っても身体は疲れを残していたらしい。もう学校まで目の前だが、近くのベンチにでも座って休憩しよう。まるで年寄りみたいだな。

 

衣舞紀「ほい」

天「ーーッ!!?」

 

突然首に冷たい感覚が襲ってきて、俺は飛び上がる。前に踏み込んで振り返ると、悪戯な笑顔を浮かべた衣舞紀さんが立っていた。その手には水の入ったペットボトルがある。

 

衣舞紀「おはよ、天。顔色悪いわよ?」

天「おはようございます•••大丈夫ですよ」

衣舞紀「見え見えの嘘をつかないの。はい、お水。飲ませてあげよっか?」

天「ガキ扱いしないでください。これくらい一人で飲めますよ」

 

取り上げるように衣舞紀さんからペットボトルを貰って、水を一気に流し込む。

 

天「んっ、んっ、んっ、ぷはぁっ。はー•••」

衣舞紀「全く、ちゃんと水分補給はしないとダメよ?この時期は特に」

天「忘れてたんですよ、飲み物持ってくるの。助かりました」

衣舞紀「どういたしまして。もうほとんどすぐだけど、一緒に行こうか?」

天「そうですね」

 

どうせ後数分歩いたら学年の違いで別れる事になる。それくらいのちょっとの間だが、一緒にいるのも悪くないだろう。

 

衣舞紀「もう佐々木さんのお肉はなくなった?」

天「昨日になってようやくですよ」

衣舞紀「すごい量だったものね。咲姫たちがいなかったらもっと時間がかかってたんじゃないかしら?」

天「後数日は肉生活でしたね••••••」

 

苦笑いが漏れて、目線もどこか遠くを眺めてしまう。

 

衣舞紀「これで天の筋肉がどれくらい増えるか見ものね」

天「勝手に期待しないでくださいよ。そんなすぐ結果が出るほど筋トレは甘くないですよ」

衣舞紀「それは私もわかってるわよ。私的にはもっと男らしい身体になって欲しいけどね」

 

衣舞紀さんがじっと俺の腕を見た。力を入れて筋肉の筋をこれでもかと出す。

 

衣舞紀「ちゃんと筋肉があるのはわかるよ。でも太さがないわね•••」

天「元が細いので」

 

こんなナリだから顔も相まって女と間違われるんだろうな•••今は腕を露出しているからバレることはないが、寒くなって厚着をするようになってからが地獄だ。

 

衣舞紀「今のままでも十分カッコいいわよ」

天「変にフォロー入れなくていいですよ•••」

 

変なところで気遣ってくるなこの人••••••。こっちは別に何も考えてないんだから、変に口出ししないで欲しい。

 

天「あ、そういえばライブの事を••••••昼に話します」

衣舞紀「もしかして、何かあった?」

天「全員に言っておきたい事があります。乙和さんとノアさんにも伝えておいてください」

衣舞紀「オッケー、わかったわ」

 

不敵な笑みを浮かべながら、衣舞紀さんは頷いた。それに対して俺は余裕のカケラもない、引き攣った表情だった。




いやそもそも明日投稿できるかわからんわ。車校の学科詰め込まんといけへん。


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教室天国

皆様、お久しぶり(?)です、如水です。車校の仮免に合格致しましたので、投稿を再開致します。まぁ、八日から十日までまた投稿できなくなるんですけどね、ホンマ申し訳ない。


暑い暑い外の地獄を潜り抜けて、俺は教室に飛び込む。まだ汗は床に垂れ、ごく小さな水溜りを作る。

冷房の冷たい風を身体中に浴びて、無意識にため息をつく。

いつもの自分の席に座って、椅子の背に身体を預けた。最早いつも通りに行動だ。

 

咲姫「おはよう」

 

そしてそこに毎日のように咲姫がやってくる。俺も彼女に顔を向けて、

 

天「ん、おはよう」

 

変わりない声音で返した。それだけでも咲姫からしたらいい反応なようで、小さく笑っている。

 

天「昼休み、みんなで話したい事がある」

咲姫「もしかして、ライブの事?」

天「そう、察しがよくて助かる」

 

メモ帳を開いて、スケジュール等の確認をする。顎に手を当てて難しい表情になったのが、自分でもわかった。

 

天「•••先に言っておくが、かなりハードな一週間になる。大丈夫そうか?」

咲姫「うん、大丈夫」

 

少し余裕のある顔で、咲姫は言ってのけた。安心感と共に緊張感の無さを危惧したが、それでもこいつはちゃんとやるべき事はやるヤツなのでその考えはすぐに消えた。

 

天「期待してるからな」

咲姫「そんな事言われたの初めてかも•••」

天「え、そうか?」

 

頑張れとかそういった応援はよくしていたが、よくよく考えたら期待してる、なんて言ったのは初めてかもしれない。

 

天「ま、まぁ•••口には出してないだけで、毎回期待はしてるから•••」

 

そしてなんだか無性に恥ずかしくなって、俺は咲姫から顔を逸らした。

 

咲姫「今の天くん、可愛いかも•••」

天「殴っていい?」

咲姫「ごめんなさい•••」

 

聞き捨てならない単語が聞こえてきて、俺は真顔を咲姫に向けた。すぐに謝ったのでこれ以上は何も言わなかったが、少し怖がらせてしまったかもしれない。

 

男子生徒A「••••••DVだけはするなよ?」

天「しねぇよ•••」

 

クラスメイトから変な心配をされたが、流石にそんなことはしない。妹には手あげるけどそれはあいつが悪い。

 

昼休みになって、俺と咲姫は食堂の方へ向かった。既に集まっていた衣舞紀さんたちが、こちらに手を振っている。

 

衣舞紀「こっちよー!」

天「わっかりやすいなぁ•••」

 

ただでさえこの学園では見ない髪色の連中だから尚更だ。少しばかり離れた席に彼女たちは座っており、そこまで行くのはまぁまぁ面倒だった。

 

咲姫「早く行かないと」

天「へーい•••」

 

みんなが食事を楽しみながらワイワイ騒いでいるのに、これから俺たちはクソ真面目な話をする。場違いもいいところだ。

 

天「とりあえずライブの日程は決まっているので、本格的に準備とかを進めて行きたいと思っています」

衣舞紀「それって、カバー曲を入れたりとか曲自体にアレンジを加えたりとかするの?」

天「可能ならしようかな、とは思っています。時間が押してるわけでもないですから」

乙和「じゃあじゃあ!私アイドルソングをカバーしたいなー!」

天「Photon Maidenの世界観が崩れるので却下です」

乙和「冷たい!」

 

カバーをするにしてもPhoton Maidenとしての世界観が残る曲を持ってこなければならない。乙和さんの言うアイドルソングなんてキャピキャピしたものは変な方向に行ってしまいかねないのだ。

 

天「乙和さんは話にならないので•••ノアさんは何かあったりしますか?」

乙和「見捨てないでよ〜•••」

ノア「さっき衣舞紀が言ったアレンジとかってどうかな?咲姫ちゃんがリミックスをしたりとかしてさ」

天「あー•••それはいいですね。それならカバーの方も咲姫にリミックスしてもらったりして•••」

 

が、今思えば咲姫がリミックスしてるところを見た事がない。どうしよう、これ。

咲姫の方に目を向けると、彼女は唸っていた。

 

天「DJやってるんだし、リミックスくらいはわかるよな•••?」

咲姫「うん•••でもやったことがない•••」

 

一番の問題発生。咲姫がリミックス未経験だった。やっべ、どうしようこれ。

 

衣舞紀「とにかく今はカバー曲を探すところから始めよっか。天は何か考えてたりする?」

天「••••••そうですね、『夢と色でできている』、『Re:Call』とか」

乙和「どれも知らない曲だ•••」

天「クソマイナー曲ですので•••」

 

これらの曲を知ってるのは本当にごく一部の人間だろう。なんでって?表に出回ってないからだよ。

 

ノア「私たちの方でも何か探さないとね。リミックスの方は後回しにして•••」

天「リミックスに関しては知り合いに当たってみようかと思います。いい意見が出ればいいですが•••」

衣舞紀「わかったわ。それじゃあ難しい話は終わりにして、ご飯にしましょう!」

乙和「わーい!やっとご飯が食べられるよ〜お腹ペコペコだー!」

ノア「乙和、うるさい」

天「•••••••••」

咲姫「天くん••••••?」

 

周りが盛り上がる中、俺だけはしかめっ面で目の前を睨んでいた。咲姫が気になって声をかけてきたが、反応に遅れてしまう。

 

天「•••••••••!ど、どうした?」

咲姫「ご飯、食べないの?」

天「い、いや、食べる•••」

衣舞紀「まだ考え事をしてるの?私が食べさせてあげよっか?」

天「いいですよ!自分で食べれますから!」

 

いつものように衣舞紀さんからからかわれるが、最早当たり前になりつつあって慣れ始めてる自分がいる。

とりあえず今はライブの事を頭から外して、食事に集中した。

 

乙和「天くんのお弁当って月ちゃんが作ってるんだよね?食べてもいい?」

天「はい、いいですよ」

 

スッ、と弁当箱を乙和さんの前に移す。箸で卵焼きをつまみ取って、それを口に運んだ。

 

乙和「かっら〜!?えぇ!?なにこれ!」

天「あ、俺甘い卵焼きそこまで好きじゃないので塩辛くして貰ってるんです」

乙和「早く言ってよ〜!口の中ヒリヒリする•••」

天「アイドルソングなんて提案したバチが当たったんですよ」

 

嘲笑気味に笑いながら、俺は乙和さんの食いかけの卵焼きを食べる。

 

ノア「それ、乙和がかじったやつだよ•••?」

天「これ以上は食わなそうですし、残すのももったいないので」

衣舞紀「どうして私の時は恥ずかしがるのに乙和はいいのかしら••••••」

天「扱いの差じゃないですか」

乙和「私には魅力がないって言いたいのか〜!?」

 

頬をぷっくりと膨らませた乙和さんが前のめりになって俺の目の前に顔を運んでくる。衣舞紀さんで慣れてるので、無表情を貫く。

 

天「変に気を遣わないってだけですよ」

乙和「本当かなー•••天くんが言っても信用ならないからなぁ〜」

天「随分と失礼ですね」

乙和「天くんにだけは言われたくない!」

衣舞紀「二人とも仲がいいわね〜」

 

冷静な俺に対して、ギャーギャー騒がしく言葉を垂れる乙和さん。なんか俺と月の言い合いみたいだ。乙和さん俺の妹説が浮上しますねクォレハ。

 

ノア「乙和ってさ、天くんの妹だよね」

乙和「姉じゃなくて!?」

天「こんな子供みたいな姉嫌なんですけど•••」

乙和「しかもかなり辛辣!」

天「妹にするなら咲姫がいいです•••手が掛かりませんし」

咲姫「私•••?」

 

会話に全く入ってきていなかった咲姫が、急に話題に上がったので反応を示した。

 

衣舞紀「でもこの中で一番子供っぽいって言われたら乙和なのよね•••咲姫は落ち着いてるし、天に関しては子供らしさがないし•••」

天「年齢的にはまだ子供なんですが」

ノア「でも天くんって立ち位置的には私たちの保護者でもあるから•••」

天「えぇ•••俺この歳でパパになるんですか•••」

 

なんかすげぇ心外なんだけど•••。

 

乙和「パパぁ〜クレープ買って〜?」

天「殺すぞ」

乙和「怖いよー!」

 

単純にムカついたので乙和さんを睨みつけると彼女は衣舞紀さんに抱きついた。

 

衣舞紀「天、あまり乙和をイジめちゃダメよ?」

天「わかってますよ。ちょっと遊んだだけです」

乙和「本気で殺しかねない声だったよ••••••!?」

天「喧嘩とか避ける為の演技ですよ」

 

とりあえずそれっぽい言い訳を並べておいたが、それでも乙和さんは信じ切っていなかった。これからの関係に少し距離が空いたかもしれないが、知らんうちに戻ってるだろうと、お気楽に考えていた。

というか妹ネタ何回目だよ飽きたわ。




つーわけで筋トレしてきます。ほな。


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俺が教えられてどうするの?(今更)

昨日は投稿できなくて申し訳ない。一日中車校に缶詰になってて心身共に疲れ果てていました。路上いいっすねw坂道発進もハンドブレーキ使わない楽な方法だと速攻進んでくれるので助かりますw


放課後になり、俺は事務所そっちのけでライブ会場に足を運んでいた。仕事の方は前日にあらかじめ終わらせておいたので、今日は心置きなくライブの準備に取り掛かることができる。

 

スタッフA「あ、神山さん。こんにちは」

天「こんにちは。まだやる事残ってますか?」

スタッフA「いえ、もうほとんど終わってます。後は当日分くらいですね」

天「えぇ•••早•••」

 

俺の出る幕など微塵もなかった。これは泣けるぜ。え?じゃあ無駄足だったって事?ガチめに凹むんですけど。

 

天「•••あ、そうだ。この中にDJのリミックスができる人っていますか?」

スタッフA「え?リミックス?神山さんDJやるんですか?」

天「しませんよ•••ウチの今度のライブで曲をリミックスして出したいなって話をしたので、教えてくれる人とかいませんか?」

スタッフB「すみません•••生憎こっちにはいません」

天「•••そうですか」

 

これも無駄足。今日はツイてないな••••••。家帰って寝ようかなマジで。

•••でも『アイツ』に頼むのは面倒なんだよなぁ••••••。まぁまぁ気難しいし。

 

天「•••はぁ、仕方ねぇ」

 

Photon Maidenの為だ、ここは一肌脱ぐか。いざというときは月を使えばいいし。

 

そういうわけで俺がやってきたのは、犬寄家である。ここのチビガキにどうにかして交渉してやらねば。

インターホンを押すが、反応はない。連打する。反応はない。ドアをぶん殴るが、反応はない。

 

天「居留守すんじゃねぇよクソ!」

 

窓に向かって大きい声で叫ぶと、その小さな窓から、ピンク色の髪がぴょこっと飛び出した。

 

しのぶ「••••••何?うるさいんだけど」

 

気怠さと苛立ちが半分ずつ混じった声を出したのは、犬寄しのぶ。祖父に凄腕のDJを持ち、彼女自身も陽葉学園のリミックスコンテストを総なめしてる腕前だ。

 

天「お前に頼みがあってな。話だけでも聞いてくれないか?」

しのぶ「面倒くさい。それにアタシ今ゲームやってるんだから」

天「またゲームか•••月はそれでも成績とってるから何も言わんが•••お前は良くねぇだろ勉強しろ」

しのぶ「そもそも人に頼みにくる態度じゃないんだけど•••?」

天「普通に対応しても話聞こうとしないだろお前」

しのぶ「まぁそうだけどさ」

 

相変わらず冷たいヤツだ。俺は頬をポリポリと掻きながら、どうしようかと迷った。正直な話交渉材料がないのでまぁまぁ詰んでいる。

 

天「なぁ頼むよ。多少は礼くらいするから」

しのぶ「•••そもそもなんで天がわざわざうちに来たの•••?月じゃなくて」

天「今俺が担当してるユニットのライブがあるんだが、曲のリミックスをするつもりでな。ただ肝心のDJ様がリミックスやった事ないって言うから、お前なら何とかなるだろうとおもったんだ」

 

バカ正直に説明をしたが、しのぶは全く興味を示していないのが目を見てわかった。

 

しのぶ「•••それだけ?」

天「それだけだ」

しのぶ「はぁ•••なんかもうちょっと面白いものでも出てくるかと思ったけど、月と違ってお堅いなぁ•••」

天「悪かったな堅物で」

 

こっちは真面目に頼みに来てんだから逆にふざける方がおかしいだろう。窓に映るしのぶの姿はいつの間にか消えていて、しばらく経ったら目の前のドアの鍵が開く音がした。

 

しのぶ「仕方ないから、特別に教えてあげる」

天「••••••サンキュ」

 

なんだかんだ甘い妹の友人に、俺は微笑みを返した。

 

部屋に通してもらい、少しばかり見慣れたDJ機材たちに目を向ける。うん、全くわからん!もしこれが竹刀だったら作者は大喜びするんだろうなぁ()

えぇ、それはもう。興奮し過ぎて死ぬ自信すらあるね(作者)。

 

しのぶ「ほら、教えてあげるから来なよ」

天「ん」

 

とりあえずしのぶがパソコンの前に座ったので、俺はその後ろに立って顔だけをパソコンに向ける。

 

しのぶ「ちょっと、顔近いんだけど•••!」

天「こんぐらい近くないとよく見えねぇだろうが」

しのぶ「ほとんど横にアンタの顔があるんだけど•••!?」

天「俺の顔はどうでもいいから早く教えてくれ」

しのぶ「なんでそんなに平気なんだ•••!」

 

だって、彼女持ちなのにそれ以外の女を意識するのはなんか罪悪感がね•••。

 

しのぶ「それでこれをこうしたら••••••」

天「•••••••••」

しのぶ「こうなって•••って聞いてるの?」

天「続けてくれ」

しのぶ「•••なんかやけに冷たいな」

天「今は仕事の一環でやってるからな。ノンストップで続けて欲しい」

しのぶ「•••はいはい、わかったよ」

 

ため息を吐きながら、しのぶはやれやれと首を振った。俺は何も反応を返さずに、ただパソコンの画面を凝視していた。

 

しのぶ「大体がこんな感じ。後はそのDJ次第だから、失敗してもアタシには当たらないでよね」

天「そんなクソみてぇな真似はしねぇよ」

しのぶ「だろうね。またおいでよ。今度は月と一緒にさ」

天「は?行くわけねぇだろ、用ねぇし」

しのぶ「••••••なんでこんなヤツに親切に教えたんだアタシは••••••」

 

心底後悔した表情のしのぶ。一々反応を示してくれるから、こちらもからかいがいがあるってもんだ。

 

天「俺は行かないが、月はちょくちょく遊びに行ってるしな•••妹の事、大切にしてやってくれよな」

しのぶ「当たり前じゃん。アタシの数少ないゲーム仲間なんだから」

天「はぁ•••月もいい友達を持ったよ•••うちのメンツとも仲良くしてるし、安心したわ」

しのぶ「言ってる事が兄を通り越してお父さんなんだけど•••?」

天「え、マ?」

 

この歳で父親か•••嫌だな••••••。精神的にまぁまぁ効いて、俺は少し凹んでしまう。

 

しのぶ「ま、まぁ•••天もいずれはそうなるんだし、さ?」

天「•••そうだけども••••••納得いかねぇ」

 

俺はモヤモヤを残したまま、犬寄家を後にした。事務所に戻るのが面倒だったので、そのまま家に直帰する。

時刻は六時半を回っており、もうそろそろレッスンも終わる頃合いだろう。事前に事務所には行かないと思う、と連絡を入れておいたので衣舞紀さんが待ち伏せてる事もないだろう。

 

数十分程歩いて、神山家に到着した。慣れた手つきで玄関を開ける。

 

天「ただいま」

 

声は返ってこなかったが、キッチンの方で音がするので恐らく月が夕飯を作っているのだろう。顔だけ出してすぐに自室に入ろうそうしよう。

キッチンの、というよりリビングのドアを開けて、顔を出す。

 

月「おかえりお兄ちゃん」

衣舞紀「おかえりー天。どうだった?」

天「•••なんで衣舞紀さんがいるんですかねぇ••••••」

 

目の前には何故か衣舞紀さんがエプロンを着けて月と一緒に晩飯を作っていた。やけに似合うな、エプロン。

 

衣舞紀「すぐにできるから、先に座ってていいわよ」

天「•••はい」

 

ここにいるのが月だけなら、ガン無視して自室に逃げ込んでいるところだ。だが今回は衣舞紀さんがいるので、その手に走る事ができない。解せぬ。

 

衣舞紀「リミックスの件、どうなったの•••?」

天「とりあえず知り合いに色々教えてもらったので、明日にでも咲姫に伝えて一緒に取り掛かろうと思います」

衣舞紀「そっかー。じゃあ明日は咲姫に天を独り占めされるわけか•••今日はたくさん天と遊ぼうかな〜」

天「••••••こっわ(ボソッ)」

 

別に咲姫と一日くらい一緒にいても何かが変わるわけでもない。それくらいで独り占めって言われるのはどうなのだろうか。

 

衣舞紀「今日は一緒にお風呂にも入っちゃおっかー?」

天「えぇ•••」

月「お風呂入る回数減るから是非お願いしたいです」

衣舞紀「月もこう言ってるし、どうかしら?」

天「月テメェ!」

月「へっへーん!素直にイチャつかないお兄ちゃんが悪いんだよーだ!」

 

所謂あっかんべー、なるものを月は俺に向けてくる。なんか久しぶりに見たぞそれ。そして無性に腹が立ったので、月には頭突きをかましておいた。スッとしたぜ。




明日から入院しますので十日まで投稿できません。申し訳ない。十一日にお会いしましょう。


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月のイジりは止まらない

はーいどうも如水でーす。三日ぶり?の投稿になります。いやすみませんねぇ•••暇がどうにもなくて投稿ができなくて•••車校さえ卒れば後は楽なんですよ本当に。まぁ車校の卒検は多分来週の何処かにやると思うのでそれまでは投稿が遅れちゃいます。本当に申し訳ありません。


衣舞紀さんも交えて食べる夕食も、なんだかいつもの事のように感じられた。月がニコニコ笑いながら俺たちを眺める視線が、なんだか温かい。

 

月「••••••はぁ〜、なんだか雰囲気がそれっぽくなったね」

衣舞紀「?どういう事?」

月「恋人っぽいんですよ!この空気がすごく!」

天「いや、事実付き合ってるんだけど俺たち•••」

 

衣舞紀さんに目を合わせると、彼女は苦笑を返した。多少ながら反応には困っているご様子だ。

 

月「もうセックスはしたんでしょ?」

衣舞紀「ぶふっ!?」

天「あのさぁ•••(呆れ)」

 

やはりこいつは相変わらずだった。ついにはため息が漏れて、力のない瞳で妹を見つめる。

 

月「え?してないの?」

衣舞紀「そ、そそそそそれは〜••••••」

月「おやおや〜?その反応はさてはヤりましたな?」

天「•••中々にひっでぇなこれは••••••」

 

衣舞紀さんの反応によってバレバレな上に、それを月が察してめちゃくちゃニヤニヤしている。衣舞紀さんの顔は真っ赤に染まっており、湯気が出ていた。

 

月「お兄ちゃんもついに童貞を卒業しちゃったかぁ。いやーめでたい!今日はお赤飯だね!」

天「そんなつまらん事で赤飯を炊くな。赤飯に失礼だろ」

月「ほぉ?つまり童貞を捨てることはお兄ちゃんにとっては当然の事だと?」

天「生きてりゃいずれある事だ。後変に解釈するな」

 

煽ってくる月に俺はただただ冷静に返答を繰り返す。面白くなくなったのか、月はつまらなそうに息を吐いて食事に戻った。

 

月「なんか最近お兄ちゃんの反応が悪くてつまんなーい!」

天「お前は俺をなんだと思ってるんだ••••••。衣舞紀さんからのイジりが多くなったから変に慣れてんだよ」

月「全く余計なことをしてくれましたね衣舞紀さん!」

衣舞紀「え、えぇ•••?私が悪いの•••?」

 

突然矛先が衣舞紀さんに向けられ、彼女は困惑した表情を浮かべた。それでも衣舞紀さんからは大した反応は得られないと悟っているので、視線は俺へと移る。

 

月「そういえば最近お父さんとお母さん帰ってこないね」

天「母さんは一応深夜あたりに帰ってきてはいるが、父さんは全くだな。何やってんだあいつ•••」

 

どうせまたあの中で遊んでんだろうなぁ••••••変に女遊びをしていないだけマシだが、遊び過ぎも良くないだろう。

全くPhoton Maidenを見習いやがれ。毎日毎日真面目にレッスンを続けてるんだぞ?クソ偉いじゃん。

 

天「そうそうリミックスの件なんだが、しのぶに頼んだ」

月「しのぶさん!?」

 

ガタンッ!と音を立てながら月が立ち上がった。

 

月「え、お兄ちゃんしのぶさんの家行ってたの?絶対行きたがらないのに•••」

天「Photon Maidenの為だ。致し方ない•••」

 

本当は俺だってあんなチビガキに頼むのはごめんだったさ。でも他に頼る相手がいないんだから仕方ないだろ。

 

月「えぇ〜•••ちゃんと失礼のないようにした?」

天「悪いめちゃくちゃ失礼な発言しまくった」

月「やっぱりか••••••」

 

俺がしのぶに対して口が悪いのは、月は嫌になる程知っている。だってよく罵倒し合いながらゲームするし。結局俺が負けるのがオチなのだが。

 

衣舞紀「知り合いってピキピキのDJの事だったんだ。意外と顔が広いわね、天は」

天「まぁあいつと知り合ったのは月関係ですけどね。ゲーム仲間なんですよ、二人は」

衣舞紀「へぇー、ゲームかぁ。あれ?でも月ってすごく頭が良かったのよね?それでもゲームをする余裕があるの?」

天「こいつ覚えが頭おかしいレベルにいいので、勉強少しやったらほとんどゲームに打ち込んでますよ」

 

勉強なんてその日に学校でやったやつの復習しかしていなかった気がする。月はドヤ顔でダブルピースをキメていた。いい顔するじゃねぇかお前。

 

月「えっへん!これでも学年一位なんですからね!」

天「東◯行けよ?」

月「頭いい=東◯って考えやめない?そもそもそこ高校じゃなくて大学じゃん。まず高校から考えて?」

天「ウチくるか?」

月「DJには興味ナッシングなので遠慮します!でも私やりたい事があるし•••でも学校は近い方がいいなぁ•••有栖川学園とかどうかな?」

天「お嬢様学校じゃねぇか!?いや、月が行きたいなら金は出すから遠慮はしなくていい」

衣舞紀「••••••?月の学費って天が払ってるの?」

 

さっきまで話を聞いているだけだった衣舞紀さんが、俺に顔を向けてそう問う。俺は小さく笑いながら、頷いた。

 

天「はい。俺、没頭するような趣味もないんで•••自然と給料とか貯まっていくんですよ。使うにしてもメモ帳買い換えたり、万年筆買い換えたり、時たまパソコンを買い換えたりとか•••その程度ですよ。家自体にお金はたんまりありますが、基本は俺が学費を払っています。余裕があるので」

月「私は払わなくていいって言ってるんですけど、うちの兄はどうも頑固者で•••気がついたら勝手に払ってたなんてしょっちゅうですよ。私が欲しいなーって思ってるゲームとかも知らない間に買って部屋に置いてある事なんていつもですよ」

天「その話はしなくていいだろ•••!」

 

少し頬を赤くしながら月を睨みつける。隣に目を向けると、衣舞紀さんは優しい表情で俺を見つめていた。

 

衣舞紀「そう、いいお兄ちゃんね」

月「はい!自慢のお兄ちゃんです!」

天「•••••••••やめてくれ」

 

赤みは頬だけでなく顔全体にまで移り、俺は完全に顔を逸らした。月と衣舞紀さんの温かい視線が、今は嫌に感じてしまった。

 

夕食を食べ終えた後は、そのままズルズルと引きずってしまって衣舞紀さんと裸の付き合いをするハメになった。めんどくせぇ••••••。

 

衣舞紀「ほら、肩まで浸からないとダメよ?」

天「二人でこの湯船は狭いですよ•••」

 

俺も衣舞紀さんも身長があるので、二人で入るには少し窮屈だった。彼女は苦笑を漏らしながら、俺の身体に体重を預ける。

 

衣舞紀「もし私たちが結婚して家を建てたら、大きい湯船がいいわね」

天「え、もうそんな先の話するんですか?」

衣舞紀「あら?天はまだなにも考えてないの?」

 

当然、そう言ってるのが窺えた。俺は小さくくぐもった声を出して、首を傾げた。

 

天「漠然とし過ぎてて全く考えてないですね•••というより今が忙し過ぎて他の事を考えてられないですよ」

衣舞紀「それもそっか。まだ先の話をするよりも、今を大事にした方が良いのかも」

天「んぶっ、髪の毛•••」

 

頭が俺の方向に倒れて、髪が顔に埋まった。多少の息苦しさを感じて頭を移動させる。

 

衣舞紀「あぁ、ごめんごめん」

天「そんなに髪が長くて、鬱陶しくないんですか?」

 

率直な疑問を衣舞紀さんにぶつけてみる。彼女は顎に手を当てて、考えるような表情になる。

 

衣舞紀「特に理由はないかな。伸ばしたいから伸ばしてるだけ」

天「ふーん•••」

 

髪を湯から手で掬って、凝視する。綺麗な銀髪は手入れがしっかり行き届いていて、艶があった。

 

天「•••もう上がっていいですか?少しのぼせそうです」

衣舞紀「じゃあ私もあがろっかな。月も待ってるだろうし」

天「••••••そうですね」

 

ライブへの不安か、はたまた衣舞紀さんに対する感情が揺れてるのか、今の俺の気分は沈んでいた。ため息を吐いて、俺たちは風呂場を後にした。

 

風呂から上がった後は特にやることもなく、後は寝るだけだった。今すぐにでも寝たい気分だった俺は、すぐにベッドに潜り込んだ。

 

衣舞紀「もう、早いわね•••」

天「なんか眠たいんですよ•••」

衣舞紀「今日は忙しかったもんねー。会場の手伝いに行って、リミックスを教えに貰いに行って•••ずっと動き回ってたでしょ?」

天「もうこんな疲れるのはこりごりですよ•••」

衣舞紀「それはどうかしらね〜?また更に忙しくなるんじゃないかしら?」

 

無意識にため息が漏れる。そうだ、俺はPhoton Maidenをどんどんデカい舞台に連れていくと決めていたのだ。今後更に忙しくなってもおかしくない。いや、絶対になる。そう思うと、少しだけダルさを感じてしまった。

 

天「はぁ•••これもマネージャーの宿命か•••」

衣舞紀「しょうがないよ。それに私たちも頑張るんだから、一緒に頑張りましょう?」

天「そうですね•••俺一人が頑張ってるわけじゃありませんし」

 

ひたすらに前向きな衣舞紀さんの言葉によって、心が少し晴れた。ふっ、と小さく笑みをこぼして彼女に顔を向ける。

 

天「好きですよ」

衣舞紀「私も、天が大好きよ」

 

そのまま俺が抱きしめるのではなく、衣舞紀さんが抱きしめた。妙な安心感を憶えて、それに甘えてしまう。

 

衣舞紀「そういえば、さっき先の事よりも今を大事にしたいって話をしたよね?」

天「••••••?そう、ですね?」

衣舞紀「じゃあ今から•••シちゃおっか?天の裸を見てから少し我慢ができてないのよ」

天「••••••やっぱり、ここのメンツはヤバいやつしかいないな••••••」

 

呆れの入り混じった表情を浮かべながら、俺は衣舞紀さんの肩を抱いた。そして、そのまま唇を重ねて、服に手を掛けた。




R18も投稿するよー。見たい人向けねー。


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頑張りましょう

いや良かった良かった。あまり間を空けずに投稿することができて。車校が忙しくてねぇ、本当に申し訳ありません•••。もうすぐ卒検なので、それまではどうかお許しを!


学園に着くと、いつもなら咲姫から俺の方に寄ってくるのだが、今日は打って変わって俺が彼女の机に赴いていた。

机に手を置いて、見下ろすように咲姫に目を向けながら俺は口を開いた。

 

天「昨日、一応だがリミックスの事を色々教えてもらってきた。今日はそれをやってみたいからお前の家に行っていいか?」

咲姫「うん、大丈夫•••」

 

事の次第を手短に話して、咲姫の了承を得ることができた。最悪オールになりそうだが、俺は良くてもこいつの身体がものすごく心配だ。危ない時は寝かせて残りは俺がやろう。

 

女子生徒A「え、神山くんもう彼女いるんでしょ?出雲さんの家に行くのはちょっとマズいんじゃ•••」

 

事情を知らないクラスメイトから野次が飛んでくる。俺は数回瞬きをして、ため息を吐いた。

 

天「あのなぁ•••俺がそんなみっともない真似をすると思うか?これは仕事なんだよ。それを抜きにしても俺と咲姫は友達だと思うだが•••」

咲姫「うん。天くんは大切なお友達•••」

女子生徒A「そ、そうなんだー•••じゃましちゃってごめんね••••••?」

天「ん」

 

会話が終わると、俺は即座に視線を咲姫に戻した。

 

天「それじゃあ、仕事が終わったらそのまま咲姫の家に直行でいいな?早く取り掛からないと明日まで掛かるかもしれん」

咲姫「うん、わかった」

天「じゃ、頼んだ」

 

それだけ言って、俺は自分の席に戻る。そしてメモ帳と万年筆を取り出して、仕事に取り掛かった。

 

焼野原「おーおー、朝からお忙しいもんで」

天「ん?あぁ。今日は色々立て込んでいるからな。仕事は早めに終わらせておきたいんだ」

焼野原「そんなに今忙しいのか?」

天「はは、かなりな。というより過去一だ。明日から夏休みなのが幸いだ」

 

俺は苦笑を漏らしながらそう呟く。そう、明日から夏休みだ。そしてライブの日程も相当近くなる。そう考えると一気に不安が押し寄せてきた。少しお腹が痛い。

 

天「•••••••••」

焼野原「•••神山、大丈夫か?すげぇ顔してるけど••••••」

天「だ、大丈夫だ。ちょっと嫌な事を考えてしまって」

 

変な汗が背中を伝った。万年筆を持つ手に汗が滲んで、気持ち悪さを覚える。

 

焼野原「む、無理だけはするなよ••••••?」

天「それは俺じゃなくてみんなに言ってやれ。俺の何倍も頑張っているからな」

焼野原「お前も頑張ってるだろ?」

天「•••俺のことはいいんだよ」

 

そっと、小さな声で苦笑しながら呟く。いや、苦笑にもならないような不安定な口の歪み方をしていた。

 

天「俺はただライブのハコを提供しているだけだよ。それを上手く扱ってるのはあくまで彼女たちだ」

焼野原「••••••神山、さ」

天「ん?なんだ?」

 

焼野原くんの顔が一変する。真剣な眼差しはいつものおちゃらけた彼の印象は一つも残っていなかった。

 

焼野原「お前は頑張ってるんだ。お前自身がそのつもりじゃなくても、周りは、俺はな、お前が頑張ってるって思ってるんだ。それを否定するんじゃなくて素直に受け入れろ。お前で頑張っていないなら、俺とかどうなるんだよ?何もやってないぜ?」

天「•••••••••そ、そういう事にしといてやる」

 

俺はふいっと顔を逸らす。顔があまりにも熱くて、どうにも真っ正面に相手の顔を見ることができなかった。

 

焼野原「••••••俺が言わなくても、お前の周りの人間が教えてくれるさ」

天「お前、そんなカッコいいこと言えるのになんで彼女できねぇんだよ」

焼野原「お?いつもの調子に戻ったか。世の中顔だ顔。俺には無理だ」

 

そう言ってヘラヘラと笑っているが、焼野原くんは顔が特別悪いわけではない。どちらかと言うとフツメンな方だ。

 

天「•••まぁ近いうちにできてるか」

焼野原「ん?なんか言ったか?」

天「いや、何でもない。何でもないさ」

焼野原「気になるじゃんかよ〜言えよ〜」

天「おいおい揺らすなって•••」

 

苦笑しながら、俺は焼野原くんに肩を掴まれてゆらゆらと身体をしばらく揺らされていた。こいつのおかげで、少しばかり精神的に楽になれた。

 

天「(ありがとな•••)」

 

と、口には出さなかったが、心の中で密かに感謝を述べた。彼がそれに気づくことは絶対にないだろう。

 

仕事を終えて、俺は咲姫と二人で彼女の家に向かっていた。

 

天「とりあえずサクッと終わらせるぞ。あまり時間がないからすぐに組まないと」

咲姫「うん、わかった•••!」

 

咲姫の表情に余裕はなく、頬に一筋の汗が流れていた。それは俺も同じで、心臓がバクバク鳴っている。

咲姫の家ーーというより部屋だがーーに入って、すぐにパソコンを立ち上げる。月にはちゃんと連絡を入れてるので、催促がかかることはないだろう。

 

天「じゃあ、最初はーー」

咲姫「うん、やってみる••••••」

 

しのぶから教えてもらった通りの説明を咲姫にして、少しずつ確実に作業を進めていく。

 

天「ここどうするか」

咲姫「少しインパクトを強めにする?」

天「あっさりめでいいんじゃないか?Photon Maidenの曲自体落ち着いてるものが多いし」

 

度々議論になって時間が過ぎていくが、なんでかこの時間がありえないくらい楽しかった。

いや、そもそもこんな可愛い女の子と一緒に何かしてる時点で男にとっては夢なのだろう。俺には衣舞紀さんがいるからどうでもいいが。

 

咲姫「••••••••••••」

天「な、なんだ?」

咲姫「衣舞紀さんの事を考えてた••••••」

天「お見通しか•••」

 

月もそうだが、咲姫も大概だった。というかどうしてこう俺の周りの人間は考えてる事を読んでくるんだ?俺がわかりやすいだけか?

 

咲姫「今はこっちに集中••••••」

天「はいはい、悪かったって」

 

ムスッとした顔でパソコンの方に顔を戻す咲姫。俺も笑いながら、同じように視線を戻した。

 

天「ここはこうやっていこうか、その方がウケそうな気がしないか?」

咲姫「一度やってみて微妙だったらやり直す•••」

天「ん、了解」

 

何気に、先程と比べて効率は上昇していた。このままいけば徹夜は免れそうではあった。

 

天「••••••おっと」

 

しかし、一瞬の気の緩みが命取りとなった。首がカクン、と曲がり、一気に眠気が押し寄せてくる。

 

咲姫「眠いの?寝ても大丈夫だよ•••?」

天「いや•••咲姫一人にやらせるわけにはいかんだろ••••••」

 

強く目を閉じて、眠気をなんとか追っ払う。そしてまた作業に戻るが、効率は一気に落ちていた。

 

咲姫「•••ちゃんと寝た方がいいよ?目も充血しちゃってる••••••」

天「いや、いい•••後少し、あと少しで終わるから•••」

 

正直な話、視界はそこまで綺麗ではない。今は気合いでどうにかなっているが、本当に一瞬、ほんの一瞬だけ気を抜けばすぐにオチてしまうだろう。

 

咲姫「••••••うん、できた」

 

ようやく、ようやく作業が終了した。その瞬間に俺は完全に気を抜いてしまい、咲姫に覆い被さる形に倒れてしまった。

 

咲姫「そ、天くん••••••!?」

天「•••ねっむ••••••」

咲姫「無茶しすぎ••••••動ける?ベッドまで行ける?」

天「人様の部屋のベッドとか使えるわけねぇだろ•••適当に床で寝る••••••」

 

そのままフラフラと歩きながら、俺はバタンっ!と勢い任せにぶっ倒れる。眠気が強すぎて、痛みはあまり感じなかったが、なんか感覚が暴走した気がする。身体が気持ち悪い。

 

天「••••••悪いな、こんなマネージャーで」

咲姫「ううん、天くんはいつも頑張ってる」

 

あぁ、まただ。俺は頑張ってないはずなのに。現にこうやって眠気と戦うのに必死で結局は咲姫に任せていた。マネージャーの仕事自体はしてても、担当のサポートに手を回せていない。仕事をしてる身として失格だ。

 

天「••••••すー••••••」

 

どうのこうの考えていられる程、身体にも脳にも余裕はなく、俺はそのまま眠りに落ちてしまった。その隣に咲姫が座って、俺の頭を撫でる。

 

咲姫「他の誰よりも、天くんは頑張ってる•••だから自分を否定しなくていい•••」

 

咲姫の声は俺には届いていないが、頭に触れる手だけは優しさに満ちていて、眠ってる今の俺にさえ感じ取れた。




ちなみに明日も投稿します。明日は完全に車校休みですので☆


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眠気と戦う朝

いやー車校が休みでよかったよかった。メチャクチャ寝れましたw更に言うなら後三話程で最終回になります。ほな。


朝になると、俺は陽の光によって目を覚ます。まだ眠たい目を擦りながら身体を起こして、辺りを見渡した。

 

天「•••どこだ?ここ••••••」

 

見慣れない部屋の中に俺の身体はその存在を示していた。その謎の場所に困惑しながら、俺は立ち上がる。

 

天「おっ、とと••••••。あっぶね」

 

が、視界はぐるぐると回っていて、足下があまりおぼつかない。

少し時間が経って、ようやく今の状況を思い出す事ができた。

昨日は咲姫の部屋でリミックスをやってからそのまま寝落ちしたんだった。

 

天「咲姫は•••」

 

ベッドの方に目を向けると、彼女は静かな寝息を立てて眠っていた。

 

天「••••••今のうちに帰っておくか」

 

仮に咲姫が寝坊して遅れてもいいように俺が早めに事務所に向かっておこう。今日からが夏休みで良かった。

 

天「それじゃ、お邪魔しました」

 

そっと玄関のドアを閉めて、鍵をかけて下から中に鍵を投入する。大きな欠伸をしながら、俺は自分の家に向かって歩き始めた。••••••あ、リミックスのデータ回収すんの忘れた。とりあえず咲姫に持ってくるようラ◯ンだけ入れておこうそうしよう。

 

これ程までに咲姫の家と自分の家が近いことを幸運に思ったことはないだろう。歩いてたらすぐに着くのは本当にありがたい。立地に感謝。

あまり大きな音を立てないように玄関を開けて、そーっと忍び足で家の中を歩く。

 

月「おかえりー」

天「うおぉぉぉ!!?」

 

リビングから月が顔を出してきて、俺は飛び上がってしまう。月も俺の反応があまりにも意外だったのか、ぽかん、と口を開けている。

 

月「そ、そこまで驚くかな••••••?」

天「い、いや、いきなり出てくるから•••」

月「それで、咲姫さんのお家行ってどうだったの?何かあった?」

天「そんな大したことはなかったぞ。普通に曲作りして寝た」

月「一緒のベッドで!?」

天「俺は床で寝たわアホ!」

 

頬を赤らめながら両手を口の前に運ぶ月に、俺は必死な声音で叫ぶ。あらぬ疑いをかけるな。

 

月「何も面白い事はないのか〜?」

天「ないない。そんなもんには一切期待するな」

月「つまんないな〜•••もっとこう、面白い話題とかないの?」

天「えぇ•••何が目的なんだお前は。しかもさっきと同じこと訊いてるし」

月「咲姫さんに浮気してないか調べてる」

天「しねぇよ」

 

浮気なんて死んでもしねぇわ。少し睨みつけるように月に目を向けるが、当のこいつはニヤニヤと笑っているだけでいつも通りだった。

 

月「朝ご飯できてるよ。どうせ今日も仕事なんでしょ?ぱぱっとお食べ」

天「んー」

 

短く返して、俺は席に着く。いつも通りの朝食に舌鼓を打ちながら、俺は今後の事を考える。

 

天「(さて•••リミックスの方はできたし、後はライブの準備だけだな•••。カバーの話も出てたが•••リミックスだけでいいだろ。ウチのユニットのオリ曲はまぁまぁあるから、今更カバーなんてしなくても変わらん)」

月「おーにーいーちゃーんー?」

天「•••••••••ッ!?な、なんだ•••?」

 

月に声を掛けられた事にすぐに気がつかず、数秒の間を置いて俺は反応した。

 

月「何考えてるの?ご飯全く進んでないんだけど」

天「••••••悪い」

 

考えることが多すぎて手が止まっていた。軽い謝罪だけをして、すぐに口と手を動かす。

 

月「•••大丈夫だよ。お兄ちゃんとみんななら」

天「•••彼女たちの心配はハナっからしてない」

月「お?言いますな〜。やっぱり長い期間一緒にいると信頼しちゃう?」

天「ぶっちゃけまだ三ヶ月行ってない程の付き合いだがな•••。まぁでも、Photon Maidenのパフォーマンスを一回でも見た事あるお前なら、納得行くんじゃないか?」

 

微笑みながら月にそう問うと、妹はにんまりと笑った。

 

月「あんなレベルの高い曲、完璧なカッコいいダンスを見せられたらねぇー。そんな大物を担当してるお兄ちゃんも立派だゾ!」

天「お褒めの言葉をどうも。つまりはそういうこった。変に心配する方がバカバカしいんだよ」

月「•••やけに淡白だな〜。なんかきょうのお兄ちゃん冷たくない?」

天「至って普通だ。お前こそ、今日はやたらと突っかかってくるな?」

月「ん〜?さぁ〜て何でだろうねー?気になる?気になっちゃう?」

天「ウッザ•••」

月「マジトーンで言わないで!?」

 

心底嫌悪感に塗れた顔を月に向けると、即座に必死そうな掠れ気味の大声を上げた。

 

天「ごちそうさん、じゃ行くわ」

月「歯磨き」

天「おっと」

 

急いでいた所為で身の回りの事を完全に忘れていた。すぐに踵を返して洗面台へと歩を進めた。

 

欠伸をしながら、俺は呑気に事務所へと向かっていく。一際ドデカいビルが構えているのもあってか、寝ぼけ目でもしっかりと視認することができた。

いつもの調子で入っていき、俺は仕事部屋に直行する。椅子に座って、俺は目を閉じた。仕事に入る前に仮眠を取ろう。でないと仕事中に寝てしまいそうだった。

コンコン。

 

天「•••••••••」

 

コンコンコン。

 

天「••••••••••••••••••」

 

コンコンコンコン。

 

天「••••••すぅー••••••」

衣舞紀「朝から寝ない!」

天「うおおっ!?」

 

バンッ!と勢いよくドアが開けられ、腰に両手を当てた衣舞紀さんが入ってきた。俺は驚いて飛び起き、自然と姿勢が真っ直ぐになる。

 

天「な、何ですか•••!?」

衣舞紀「リミックスの方、一緒に確認するよ!」

天「俺関係なくないですか!?」

衣舞紀「それが関係あるの!ほら!」

天「少しは寝かせてくれ•••」

 

衣舞紀さんに強引に手を引かれて、俺は涙ちょちょぎれ状態で引きずり回されてしまった。泣けるぜ。

 

そのままレッスン部屋に連れ込まれた俺は、首をカクンカクンと揺らしながら座っていた。

 

乙和「ちょっと衣舞紀。天くん今にも寝ちゃいそうだよ?」

衣舞紀「咲姫、昨日何かあったの?」

 

全員の視線が咲姫に集まる。彼女は表情を一切変えることなく、口を開いた。

 

咲姫「昨日はリミックスが終わった後にそのまま倒れて寝ちゃった•••」

ノア「仕事漬けの疲れが回ってきたのかな•••クマとかはないけどくたびれてる感じは残ってるしね」

天「••••••ぐぅ•••ーーッ!」

 

一際強く首が動くと、ハッとなって目の前に顔を勢いよく向ける。そして口の端から涎が垂れていた事に気がつき、ハンカチで拭き取る。

 

天「あークソ、眠い•••」

乙和「しかもいつもより口が悪いと。これはかなりお疲れちゃんかな?」

ノア「確認は後にしてまずは天くんを寝させた方がいいと思う」

衣舞紀「しょうがないわね•••天、寝ていいから場所を変えましょう?」

天「•••••••••」

 

応答がない俺を見て、全員が首を傾げる。衣舞紀さんがそっと覗き込んできて•••。

 

衣舞紀「•••寝ちゃってる」

 

座ったまま、俺は夢の世界へと旅立っていた。周りが苦笑いをする中、呑気に俺は眠り続ける。

 

ノア「端っこに移動させて寝かせておこっか。っと•••その前に•••」

 

ノアさんは何かを思い出したかのように携帯を取り出し、俺の顔を写真に収めた。意識はないのでシャッター音は聞こえない。

 

ノア「激レアな天くんの寝顔ゲットしちゃったー!」

乙和「天くんが知ったら怒りそうだね•••」

咲姫「私はいつも見てるから平気•••」

衣舞紀「そういえば天、授業中よく寝てるって言ってたわね•••」

ノア「ということは天くんと一緒のクラスになれば寝顔をずっと見られるって事!?•••••••••留年しようかな」

乙和「マジトーンで言ってるよノア•••」

 

寝ている俺を他所に、四人はかなりの盛り上がりを見せていた。この場に混ざれないのは少し残念な気がするが、今の俺には到底無理な話なので諦めた。

ちなみに起きた後にちゃんとリミックスの確認を行って、正式にライブに織り混ぜる事が決定した。仕事が増える()




明日は投稿難しいですけど本当にできたら投稿します!それではまた来週!


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ライブ前の小話

皆さんどれくらいぶりですかね?自分は覚えていません(クソ)。車校が忙しくてねぇ•••すみませんねぇ•••後皆様に申し上げる事が一つありまして、私、車校の卒業検定が今週の土曜日にあります。それに加えて本免の勉強もしなくてはなりませんので、免許が取れるまでは投稿をお休みします。申し訳ありません。免許が取り終えた後は確実に暇になりますので、キッチリ毎日投稿をします。


ライブの日が刻一刻と迫っている中、レッスンは最終調整へと入っていた。ライブを想定した通し練習を何回も繰り返して、その中で改善できる点を探し続けているのだ。

ほとんど仕事が終わっていた俺は、Photon Maidenの練習をじっと眺めていた。本当は見る気などなかったが、第三者からの意見も必要と言われたので仕方なくこの場にいるのだ。

 

衣舞紀「•••ふぅ、どうだった?」

 

一曲踊り終えた衣舞紀さんが、小さく息を吐いてこちらに振り返る。動きを見るのに夢中になっていた俺は一瞬反応が遅れて、ハッとした表情になった。

 

天「•••ッ。乙和さんとノアさんの動きに少しばかりズレがありました。とりあえずそこを合わせるように調整しましょう」

衣舞紀「了解。二人とも、聞いてたよね?」

乙和「はーい•••」

ノア「うん、わかった」

 

しおらしい反応を見せる乙和さんに対して、ノアさんはまだまだ余裕そうだった。

 

天「次だったか?リミックスの方は」

咲姫「うん•••。お客さんの反応次第では順番を変えるけど」

天「それは咲姫に任せる。というよりそこらへんの判断は咲姫しかできないからな」

 

そもそも観客の色を見てセトリ強制変更なんて荒技、こいつくらいしかしないだろ。いきなりされても対応できる三人も大分人間辞めてるんじゃないか?

 

天「••••••まぁ、この流れなら当たり障りもないし、安全面を考えればちょうどいいな」

 

セトリの順番は彼女たちに一任している。一応確認したが、しっかりとバランスの取れたいい流れが出来上がっていた。

 

天「ふわああぁぁ•••。あー•••眠」

乙和「最近いつも眠そうにしてるけどちゃんと寝てるのー?夜更かしは身体に悪いんだぞー?」

 

気が緩んであくびをしてしまうと、すかさず乙和さんからの口撃が加わる。眠たい目を擦って、どうにか眠気を妨げる。

 

天「正直、あまり寝れてません•••準備が近づけば近づく程、仕事が増えるんですよ」

ノア「え?じゃあ昨日は何時に寝たの?」

天「••••••2時くらいでしょうか。遅くまで会場の方にスタッフと一緒に詰めてましたから」

衣舞紀「2時!?もしかして今日もそんな感じなの•••?」

天「今日は家の方で済ませられるのでそこまで遅くはならないと思います。久しぶりにちゃんと寝れそうですよ」

 

なんともないように笑っているが、正直身体の方は限界に着々と近づいていた。ここまでまともに睡眠時間を取れない日々が続くのはかなり辛いが、それも後ちょっとの事だ。それを耐え凌げば俺の勝ち(本◯圭佑並感)。

 

咲姫「•••本番に体調を崩したりしない••••••?」

天「大丈夫だっての。二、三ヶ月前に一回風邪引いてんだし、今更病気になったりはないだろ」

衣舞紀「その慢心が響かないといいけれど•••」

 

はぁ、とため息を吐かれながら衣舞紀さんに呆れた目を向けられる。おっと、失言だったかな。

 

ノア「無理だけはしないようにね?天くんに倒れられるとこっちまで困っちゃうから」

天「•••わかってますよ」

 

わかってる、わかっているから。頼むからそんな心配するような目で俺を見ないでくれ。変に心が痛んでしまうだろ。

 

乙和「本当かなー•••今の天くんを見てると信用ならないぞー?」

天「そんなに言うならこれから永久にクレープ禁止にしてもいいんですよ?」

乙和「それだけは絶対にやだ!!」

 

軽く脅しを掛けたらすぐに乙和さんはその身を引いた。クレープとかお菓子関係チラつかせたら扱いやすくて助かる。

 

天「••••••というか、いつまでもダベッてないで早く再開した方がいいんじゃないですか?」

衣舞紀「おっと、そうだったね。それじゃ、再開しましょうか」

 

衣舞紀さんの声に合わせて、全員がすぐに定位置に着いた。俺も下がって、彼女たちの邪魔にならない所へと移動する。さて、後どれくらい練習するのかわからないが、終わるまで眺めていよう。

 

レッスンが終わった後、俺は家に向かって歩いていた。集中して人の動きを見るだけでもまぁまぁ神経が削られるので、なんだか疲れてしまった。

 

天「•••あ゛ー•••つっかれたぁ•••こんな調子でライブ本番まで持つか•••?」

 

正直前日辺りに倒れそうな気がしてならない。過去一の忙しさだ。

だが、脳裏に彼女たちの心配する顔が思い浮かんで、小さくため息をついて唇を優しく歪ませる。

 

天「一回風邪引いて迷惑掛けてんだ。これ以上無様な姿を見せるわけにはいかねぇな」

 

外なのもお構いなしに小さく笑ってしまう。幸いなことに周りから視線が集まる事はなかったが、少し自分の行動を悔いた。恥ずい。

 

天「•••帰って寝るか」

 

今日は夜遅くまでやるような仕事もない。ぐっすり熟睡して明日を迎えられそうだ。まぁ、世の学生と比べて忙し過ぎるのは少しだけ不満だが。とりあえずはさっさと帰って寝る。これに尽きる。

 

事務所と家の距離はそう大してないので、すぐに到着した。玄関を開けてキッチンに顔を出す。

 

天「ただいま」

月「あ、おかえりー。お疲れ様。もうすぐライブだね」

天「あぁ、また明日から帰るのが遅くなるから夕飯は作らなくていいぞ」

月「りょーかい。••••••大丈夫?無理してない?」

天「お前もみんなと変わらねぇな•••大丈夫だ。迷惑を掛けるわけにはいかないからな」

月「•••へぇ〜」

天「な、なんだよ」

 

やけにニヤニヤしながら俺の顔をじろじろと見つめる妹。気色悪さを感じて、俺は引き気味になる。

 

月「お兄ちゃんがそんな事を言うなんてね〜。いやー、人って変わるものなんだねー」

天「•••そうだな、変わったな」

月「えっ?」

 

あまりにも素直な反応を示したのが意外だったのか、月は素っ頓狂な声と共にポカンとした顔になる。

 

天「以前の俺だったら、担当の気遣いも関係なく仕事を進めてただろうな。でも、不思議と今は落ち着いてできてる。今の環境が、俺をいい方向に変えてくれたんだよ」

月「••••••そっか。Photon Maidenのみんなには感謝しないとね。みんなのおかげで、家族が救われましたって」

天「救われた•••か。その表現も、あながち間違ってないのかもな」

 

力なく笑う中、月のニヤニヤはニコニコといった、爽やかな笑顔へと変わっていた。

 

天「•••お前がそんな顔するのも、なんか珍しいな」

月「え?そうかな?」

天「あぁ。なんというか、母さんに似てきたな」

月「マザコン•••?キモいんだけど•••オェ」

天「ぶっ殺すぞ••••••」

 

ピキピキとこめかみに青筋を浮かべながら月にこれでもかと笑顔を向けてやる。流石に言い過ぎたと反省したのか、月は手を合わせて俺を拝んでいた。

 

月「そういえばライブいつ?」

天「三日後」

月「すぐじゃん!!何で言ってくれなかったの!?」

 

ノーコンマで返答をすると、月は目をギョッと見開き、机を勢いよく叩きながら立ち上がった。今の突然の行動には流石の俺も驚く。

 

天「•••え、何行くの?」

月「••••••いや行かないし行けないけどさ。そういうのはちゃんと事前に言っておいて欲しいのです!」

天「お前は俺の保護者かよ•••」

月「私いないと何もできないでしょお兄ちゃん」

天「••••••いや、俺別に家事できないわけじゃないし」

月「あっ、そっかぁ••••••」

 

家事は全部月に任せているが、わざわざ俺がやるよりも月の方が効率よく、更に上手くやってくれる。要は俺がやる余地なんてないのだ。自分で言ってて悲しくなったが。

 

天「ごちそうさま」

月「はーい。それじゃあ早くお風呂入ってちゃっちゃと寝ちゃって!明日も忙しいんだから!」

天「はいはいわかったよ」

 

月に背中を押されながら、俺は力なく微笑む。少しだけだが、妹と距離が縮まったような•••そんな気がした。




それでは僕は筋トレに励むとしますかねぇ•••ではでは。


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緊張の大勝負

みなさんお久しぶりです、如水です。投稿また休んで本当に申し訳ありません。この度私、マニュアル普通車の免許を取得致しました。これで堂々と友人の家に車で突っ込む事ができます。後はもう予定が入ることはありませんので、全てを投稿し終えた後にハーメルンを引退します。


天「••••••••••••」

 

ライブ当日。Photon Maiden+俺で控室に待機していた。どうにも落ち着かない俺は、何も言葉を発さずに、不自然にキョロキョロしていた。

 

衣舞紀「そーらっ。緊張し過ぎよ?」

天「うおぉ!!?」

 

突然衣舞紀さんの手が俺の肩に乗っかる。それに驚いた俺は無様に身体を跳ね上げた。

 

衣舞紀「ごめんごめん。ビックリさせちゃった」

天「マ、マジで勘弁してくださいよ•••!心臓に悪い•••!」

 

呼吸も荒くなり、自然と衣舞紀さんを睨みつけてしまう。それでも彼女は普段の態度を一切崩さずに笑っていた。

 

乙和「天くんも緊張してるの?私もだよ〜」

 

ちょうど緊張している仲間がいて、少しだけ安心する。俺は少し嬉しくなって、乙和さんの手を取った。

 

天「乙和さん、頑張ってください!俺の分まで!」

乙和「えっ!?う、うん!乙和ちゃん頑張っちゃうぞー!!」

 

俺からこんなセリフが出てくるとは思わなかったのだろう。困惑しながらも、力強い意志を感じる表情で乙和さんは頷いた。

 

咲姫「天くん、緊張し過ぎてる•••」

天「ギクッ!」

 

咲姫の言葉に、俺は青ざめながら反応してしまう。ゆっくりとした動作で、長い白髪を揺らす彼女の方へ顔を向けた。

 

天「俺はこの通りへ、平然だが•••?」

ノア「隠せてないよ、ガチガチじゃん」

 

ノアさんがクスクス笑いながら俺を見ていたが、俺は見逃していなかった。

 

天「そういうノアさんこそ、震えてますよ?」

ノア「ギクギクッ!」

衣舞紀「ノアも大概ね•••」

乙和「というか本番前の空気じゃないよね•••」

 

言われてみればその通りだ。本番直前にこんなわちゃわちゃとした雰囲気になるはずがない。余程余裕なのか俺らは。

 

衣舞紀「それにみんな緊張してるものよ。私だってそうなんだから」

咲姫「私も、ドキドキしてる••••••」

天「緊張から解放される為に一足先に帰りまーす」

衣舞紀「待ちなさい」

 

逃げようとしたが簡単に止められてしまう。いや止められて当然だが。

 

衣舞紀「勝手に帰るのはダメよ?」

天「アッハイ」

衣舞紀「なんだか天らしくないわね•••何かあったの?」

天「••••••リミックスなんて初めての事をするんですよ。直接関わっただけに、変に意識してしまうというか••••••」

 

変に弱気になって鼓動が早いのはその所為だった。もし失敗したら、もし観客にウケなかったら。そう考えると怖くてたまらなかった。

更に言うなら事務所の曲作りやダンスを担当しているスタッフたちに頭が上がらない。よくもまぁ平然とこんな仕事ができるな、と感心する。

 

衣舞紀「大丈夫よ。私たちで仕上げて見せるから」

 

そう言い切った衣舞紀さんの顔はとても輝いていて、その自信に満ち溢れた心は美しかった。それだけでも、なんだか安心することができた。

 

天「••••••頼みます」

 

今はもう、これくらいしか言葉に表せなかった。余計な言葉など必要ない。彼女たちを信用して、俺はその行く末を見ていよう、そう決めた。

 

咲姫「もうすぐ始まる••••••」

乙和「衣舞紀、行くよ?」

衣舞紀「えぇ、わかってるわ。それじゃあ天、頑張ってくるわね」

天「••••••はい」

 

最後に、最後の最後に悪あがきで衣舞紀さんの背中を軽く押した。ほんの少しだけよろけたが、すぐに体勢を立て直した彼女は俺の方へ振り向く。

 

天「いつも通りで」

衣舞紀「••••••えぇ!」

 

ほんの少しの一言で、全ての意味を汲み取った衣舞紀さんは、力強く頷いた。他の三人もなんとなくだがわかっていたようで、笑みを俺に向ける。この時だけは、俺も流石に笑えていたと、そう願いたい。

 

ため息混じりに会場の関係者席に移動する。体重を掛けながら座ると、椅子から少し鈍い音が鳴った。

 

天「(大丈夫だろうか•••)」

 

もう見送った後なのに、俺はまだ引きずっていた。我ながら情けなくて泣きそうである。

 

天「(••••••いや、あのステージに立つみんなの方がよっぽど不安だろ)」

 

冷静になって考えれば、このたくさんの観客たちの視線を一つに浴びながら歌って踊るのだ。不安とかそんなレベルの話じゃ済まないだろう。

 

天「•••やっぱり、住む世界が違うな••••••」

 

裏方としてのマネージャーの仕事ばかりで見ることができなかった分、彼女たちの凄さを再確認させられた。それに毎日毎日練習を頑張っているんだ。むしろ成功してもらわないと困る。

自然と不安は拭えた。それどころか、大丈夫だろうという根拠のない自信すら湧いてきた。

 

天「•••頼むぞ」

 

緊張の消えた自然な表情で、俺はステージだけを見つめる。観客だとか、周りの人間が視界から消え去った。

••••••始まった。最初からリミックス曲を出す程暴走するつもりはないが、ウチにはあの咲姫がいる。観客の反応次第ではすぐにでも持ってくる可能性が否めなかった。

だからドキドキとしながら、Photon Maidenのパフォーマンスを眺めていた。

 

数曲程流した辺りだろうか、ライトの色が変わり、雰囲気が先程と打って変わったのがわかった。そして聴き覚えのあるこの音は•••。

 

天「リミックスしたDiscover Universe•••悪くないな」

 

他にPhoton Melodiesもリミックスしてある。それもいずれ流れてくるだろうが、今はDiscover Universeが先だ。そっちの方に耳を傾ける。Discover Universeの面影はしっかり残しつつも新しく切り拓いた音は、元の音源とはかなり違って聴こえた。

 

天「はぁ〜、咲姫の技術には頭が上がらねぇな」

 

初めてのリミックスの筈なのに、ここまで完璧に仕上げやがった。万能型はいいな全く。

ダンスもリミックスしたものに合わせて変更してある。それもまた、観客を湧かせる一つの要因となっているのだろう。

俺の目から見ても、楽しそうだった。

 

天「•••頑張った甲斐があったな」

 

一番に彼女たちの楽しそうに踊る姿を見て、俺はそう感じた。自然と笑みが漏れて、まるで親のような目線でライブを眺め続けた。

 

終わった。数時間程度のライブは本当にあっという間で、一瞬だった。気がつけば観客たちは帰る準備をしていた程に、俺は今回のライブに夢中になっていたらしい。

急いで控え室に戻って、待機しておく。しばらくしてから、さっきまでステージの上で輝いていたPhoton Maidenの四人が入ってきた。まだ汗をかいていて、妙に肌がテカッている。

 

天「お疲れ様でした」

 

一度席を立ち、頭を下げる。まずは彼女たちを労うのが先だろう。

 

衣舞紀「•••天、大成功だったね」

天「えぇ。それはもう」

 

ふっ、と小さな笑いすら込み上げてしまうほどに、ライブは大成功を収めた。これならばもっと大きい舞台でも活躍できる兆しが見えて、俺は心底ホッとしている。

 

衣舞紀「ライブ前の緊張した顔が嘘みたいね」

天「••••••あんな姿見てたら緊張してるこっちが恥ずかしいですよ」

 

ステージで輝く四人のカッコよさ、それは俺の心を強く動かして、掴んで、離さない。今目の前にいるのはただの少女だが、その内なる姿を知ってる俺はなんだか誇らしかった。

 

咲姫「リミックス•••お客さん喜んでた••••••」

天「あぁ•••徹夜した甲斐があるってもんだ」

 

咲姫の穏やかな笑顔に釣られて、俺も笑みを漏らす。その横から乙和さんが割り込んでくる。

 

乙和「ねぇねぇどうだった?乙和ちゃんアイドルできてたー?」

天「そもそもPhoton Maidenはアイドルじゃないですよ••••••でも、とっても頑張ってましたよ。乙和さん」

乙和「•••••••••うん、ありがと!」

天「くっつかないでください」

 

腕に抱きついて来たので引き剥がす。頬を膨らませて怒ってたが、俺は苦笑しながら嗜める。

 

ノア「もう、乙和はがっつき過ぎだよ。天くん、ライブの準備やレッスン、ありがとう。お陰で安心してライブができたよ」

天「そう言ってもらえると、頑張ってよかったって思えます。ありがとうございます」

 

腰を折って、頭を下げる。頑張って、感謝された。それだけでも今の俺には泣きそうなくらい嬉しかった。

 

乙和「それじゃあ!ライブも終わったことだし、打ち上げしに行こうよ!」

天「あんなに動き回ったのに元気ですね•••」

 

あはは•••、と引き気味に唇を歪ませながら、俺は乙和さんに目を向ける。彼女はいつもの明るい笑顔を浮かべて、既にドアの前まで移動していた。

 

乙和「ほーらっ!早く行こうよ!」

咲姫「乙和さん、急ぎ過ぎ•••」

 

そう言いながら、咲姫は乙和さんの元へ向かう。ノアさんもため息をついて、歩を進めた。そして、三人が外へと出て行く。

 

天「はぁ•••相変わらず手に余るな••••••」

衣舞紀「仕方ないわよ。乙和はいつもあんな感じだから」

 

ため息をつきながら頭を掻きむしる俺に対して、衣舞紀さんは何処か安心した顔だった。

 

衣舞紀「天」

天「はい」

 

衣舞紀さんが俺の手を握る。それは突然の事だったので少し驚いてしまう。

 

衣舞紀「天がPhoton Maidenのマネージャーになってくれて、本当に良かった。天がいなかったら、こんな大きなところでライブなんてできなかったよ。だから、本当にありがとう」

天「••••••衣舞紀さん」

 

衣舞紀さんを抱きしめて、顔を見つめる。目を閉じたのを確認して、唇を重ねる。

 

衣舞紀「んっ、ふっ、ちゅ•••天••••••」

 

唇を離す。衣舞紀さんの瞳が、俺を一点に射抜く。俺はその身体を抱きしめた。鍛えていても、身体は柔らかかった。

 

衣舞紀「大好き•••大好きよ、天••••••」

天「えぇ、俺も大好きです。衣舞紀さん。これからもずっと•••」

 

二人でくすりと笑って、三人の後を追い始める。きっとこれからも、ライブや色々な事で忙しくなる。だが彼女の笑顔の前でなら、頑張れる。胸を張ってそう言えるだろう。




衣舞紀√次で最後だかんな!終わり!閉廷!以上解散!


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ライブの後で

もうね、本免取ったからやる事ねぇのよw明日から部活に顔出すけどさwそれ入れても時間が空きに空きまくってねぇwまぁ執筆進められるからいいんだけども。そして今回で衣舞紀√ラストになります。次回からは咲姫のアフター√と言う事で、お願いします。


ライブが成功を治めた翌日。その日は休日で俺は自室に引きこもっていた。ようやく重荷が降りて、その反動からかずっとベッドで眠っていた。もう何時間も寝ていると思うが、それでも眠気は収まらない。まだまだ寝ていたいくらいだ。

 

月「お兄ちゃんいつまで寝てるの?いくらお仕事がないからって寝過ぎだよ」

天「•••悪い、ライブのおかげで仕事が重なってたから疲れてるんだ。まだ寝させて欲しい••••••」

月「だからって寝過ぎも身体に良くないよ!ほら起きた起きた!」

 

強引に毛布を剥ぎ取られて、俺は渋々と身体を起こした。立ち上がったと同時に大きな欠伸が漏れる。首を曲げて骨を思いっきり鳴らした後に、月と一緒に一階に降りる。

リビングのソファに座ってボーッとテレビを眺めていたら、今の時間が昼の12時である事を知らせる表示がテレビの左上にある事に気づく。

 

天「もうそんな時間か」

月「一日の半分を無駄にした気分はどうですか?」

天「まだ寝たい」

月「全くこの兄は•••」

 

ソファにもたれかかるように座っているが、この体勢だけでも既に眠そうになる。というか寝てしまいそうだ。

瞼が重くなってきて、カクンカクンと首も不安定な動きを見せ始めてきた。

 

月「ね!る!な!」

 

月が俺の肩を揺さぶったおかげでなんとか目を覚ましたが、それも一瞬のことだった。すぐに眠気が襲ってきて、視界が狭まってくる。

 

月「そんなに眠たいの•••?」

天「結構眠い」

月「どうしたものかなぁ••••••」

 

悩ましい表情を浮かべながら月が腕を組む。俺はそれを眺めながら目を閉じかける。しかしーー

 

ピンポーン!

 

インターホンの音が鳴って、それに驚いた俺は身体が跳ねた。

 

月「はーい」

 

月がすぐに玄関前まで走って行った。どうせ月が何か注文でもしたのだろう。俺はなにも気にせずに、また寝てしまおうと目を閉じた。

 

月「お兄ちゃんにお客さんだよ!」

天「•••は?」

 

どうやら俺に用らしく、目をぱちくりとさせて妹に目を向けた。

 

衣舞紀「昨日ぶりだね、天」

天「衣舞紀さん•••どうして来たんですか」

 

唐突な恋人の登場に、俺は引きつった顔を浮かべてしまう。衣舞紀さんはいつもの穏やかな笑顔で月の隣に立っていた。

 

衣舞紀「天の事だしずっと寝てるんじゃないかと思ってね」

天「嘘だろ完全にバレてんじゃねぇか」

 

ものの見事に言い当てられて冷や汗が流れた。月は感心したような顔を衣舞紀さんに向けている。

 

衣舞紀「本当にずっと寝てたみたいね•••ダメよ?昼夜逆転とかで生活バランスが崩れたら仕事にも支障をきたすわよ?」

天「わかってますけど、眠いのは眠いんですよ•••」

 

言ってるそばから俺は既に首が不安定な動きを見せていた。自然と目を閉じていて視界が真っ暗だったが、衣舞紀さんがため息を吐いたのがなんとなくだがわかった。

 

衣舞紀「どうしよっか•••?まだ寝かせた方がいいかな?」

月「多分夜まで熟睡コースですよこれ。流石に昼夜逆転は見過ごせませんよ」

衣舞紀「それもそうね•••何か起こせる方法がないかしら•••」

 

天「••••••すぅー••••••」

月「あ、寝た」

衣舞紀「はい起きるっ」

天「ん゛っ」

 

背中を思い切り叩かれて、変な声を漏らしながら目覚めた。そしてだんだんとイライラし始めてきたのがわかる。

 

衣舞紀「••••••よし、天!ランニングしよっか?」

天「え゛」

 

突然の提案に、俺は驚きと困惑が混ざった声が漏れた。月は苦笑を俺たちに向けている。

 

衣舞紀「眠たい時は運動に限るわ!ほら、今すぐ着替えた着替えた!」

天「え、えぇ••••••」

 

あまりにも強引な衣舞紀さんの行動に、ただただ俺は引っ張られてしまう。返す術もなく、俺は運動着に着替えさせられて、外に追い出されてしまった。

 

よく晴れた外を衣舞紀さんと一緒に走り続ける。夏休み後半だが、平日なのには変わりないのでスーツを着たサラリーマンが多くいた。多分昼休憩の途中だろう。

 

天「••••••」

衣舞紀「どうかした?」

天「いえ、何でもありません」

 

やたら顔が死んでるリーマンが多いな、と感じる。ブラック企業勤めか、はたまた残業確定のお知らせでもされたか。真意はわかりかねるが、何か良くない事が起こったのは確かなのだろう。

そして今後も忙しくなる事を考えたら、俺も近くにいる人たちの用に顔が死んでしまうのだろうか。そう考えたら少し怖くなった。

 

衣舞紀「もしかして、この先が不安?」

天「••••••はぁ、なんでわかるんですかね」

 

いとも簡単に思考が読まれて、ため息が漏れた。衣舞紀さんはいつもの明るい笑顔を見せて、口を開く。

 

衣舞紀「最近になって天の考えてる事が結構わかるようになったのよ?それに元からわかりやすい顔をしてるもの」

天「え、マジですか••••••」

衣舞紀「マジよ。そりゃ家族から思考を読まれてもおかしくないわね」

 

意外な事実を突きつけられて、俺は少し凹む。バシバシと衣舞紀さんが俺の背中を叩いたが、慰めにもなりゃしねぇ。

 

衣舞紀「もう少し走ったら折り返しましょう。その後はどうしようか?」

天「俺は何も考えてませんけど」

衣舞紀「さっきまで寝てたんだしそれもそうか。今日は天の部屋でゴロゴロしようかなー?」

天「•••いいですよ」

 

特に不満もない。俺は頷いた。しかし、何kmも走っているのにここまで余裕で会話できるのに自分自身が驚く。これも父さんから扱かれた成果なのかね。

 

衣舞紀「天の今後にも期待ね。また大きなところに連れて行って欲しいわね」

天「任せといてください。伊達にマネージャーやってませんから」

 

生意気な顔を衣舞紀さんに向けて、俺は少し走る速度を上げた。彼女もすぐに反応して足の動きが速まる。

まだ積み重ねていくものも沢山あるだろうが、いずれ必ず、俺はPhoton Maidenをもっと大きな舞台へと連れて行く。前々から決めていたことを、改めて誓った。




ちなみに咲姫のアフター終わったら完全に引退します。


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咲姫√After
12月1日(月)


えー、今回から咲姫√が再スタートします。オッスお願いしまーす。というわけでね?今すんごい足が痛い()久しぶりに部活参加して思いっきりやってきたけどマジで体力もたないわwもうね、無理。むりむりむりむりかたつむりって感じよ。ま、明日も参加するんだけどね()


季節は秋から冬へと本格的に変わっていた。雪が降ったりは今のところしていないが、今年もなんだかんだで降りそうではあった。

 

天「さっむ」

 

そして俺は布団から出られずにいた。期末考査はちょうど数日前に終わり、赤点は無事に回避した。また勉強会で乙和さんが泣いていたが()。でも仕方ない、ライブの為だ。普通なら陽葉学園でクリスマスライブをやるらしいが、我らがPhoton Maidenは一味違う。

そう、クリスマスの為に超大きいハコを押さえたのだ。ドヤ、俺すごいやろ?収容人数はなんと三万人。東京ドームには及ばないが、夏の横浜アリーナよりもデカい規模だ。

チケットも即完売したし、これは完全に勝った。Photon Maidenの時代が来たのだ。もうこの事実だけでも嬉しい。

 

月「おっはよー。ご飯食べよー」

 

天「あぁ」

 

が、月が部屋に入ってきたので、俺の喜びは一気に冷えた。無感情に応えて、俺は一階へと降りた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

頭をボリボリと掻きながらリビングに入ると、月ともう一人誰かがいた。

 

咲姫「おはよう、天くん」

 

天「あぁ、咲姫。おはよう」

 

朝早くから結構なことで。制服を着込んでテーブルの前に静かに座っていた。俺はその隣にお邪魔する。

 

天「外寒かっただろ?大丈夫か」

 

咲姫「うん。それにここ、あったかいから」

 

リビング内はエアコンが効いており、暖かい風が部屋中に充満していた。起きたばかりの冷えた身体にはとてもありがたい。

 

咲姫「身体、冷たい•••」

 

ぺた、と咲姫の手が俺の腕に触れる。

 

天「さっむい部屋の中で寝てたからな•••冷えてるんだよ」

 

咲姫「そうなんだ••••••」

 

今度はぎゅっ、と俺の手を握った。そしてこちらに目を向けてくる。

 

咲姫「どう•••?あったかい?」

 

天「あぁ。ありがとな」

 

空いているもう片方の手で咲姫の頭を撫でる。途端に咲姫は目を閉じて撫でられる頭に意識を向けていた。

 

咲姫「えへへ•••」

 

なんだか嬉しそうだった。そうやって素直に喜んでもらえるのはこちらとしてもなんだかありがたい。

 

月「朝からおアツいねぇ〜、冬なのに火傷しちゃいそうだよ」

 

月は俺と自分の分の朝食を置いた。どうやら咲姫は予め飯を食ってから来ていたようだ。

 

天•月「いただきます」

 

手を合わせてから食事を始める。朝からそんな詰め込む気もないので、軽く済ませる。

 

咲姫「美味しい?」

 

天「あぁ、美味いぞ」

 

月「作ったの私だからね?一応言っておくけど」

 

そんな事はぶっちゃけどうでもいい。テレビから流れるニュースを聞き流しながら飯を食べ続ける。

 

月「あっ!お兄ちゃんお兄ちゃん!Photon Maidenが出てるよ!」

 

天「は?」

 

咲姫「え?」

 

月の言葉に反応してすぐに俺と咲姫はテレビに目を向ける。するとテレビにはPhoton Maidenのメンバーの姿が映っていた。クリスマスライブの告知らしい。

 

月「クリスマスライブやるんですか!?お兄ちゃん仕事でいないから一人で寂しく過ごすつもりでしたけど、行きたいです!」

 

咲姫「じゃあ、関係者席は月ちゃんで埋める•••?」

 

天「月が行きたいならそれでいいだろう。どうせ枠はいくらでもある」

 

大規模の会場故に関係者席の枠はいくつか確保されている。月一人入るくらい造作のない事だろう。

 

月「わーいやったやったー!私ライブとか行くの久しぶりなんだよー!」

 

興奮のあまりついには踊り始める我が妹。恥ずかしいからやめてくれ。

 

咲姫「月ちゃん、楽しそう••••••」

 

そしてそれを我が子を見るかのように、咲姫は慈愛に溢れた瞳で月を眺めていた。俺はふっ、と笑って、また咲姫の頭に手を置く。

 

天「楽しみなのは、お前もだろ?」

 

咲姫「•••••••••うんっ」

 

返ってきた声は、僅かにだが弾んでいた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

家を出ると、冷たい風が防寒着を貫通して襲いかかってきた。ネックウォーマーを巻いているのはいいが、それでもかなり寒い。

 

天「冷えるなおい•••」

 

咲姫「私は平気」

 

そういやこいつ雪国出身だったわ。通りで平気そうなわけだ。手袋越しとはいえ、俺たちは手を握る。

 

天「手袋あるとあんまりわからんな•••」

 

しかも俺が着けてる手袋はバリバリ革製だ。余計にわかりづらい。

 

咲姫「繋ぐ手だけ手袋外す?」

 

天「お前は良くても俺が死ぬ」

 

こちとらガキの頃からここで育ってんだ。普段からさっむいところで育ってるキミと一緒にしないで貰いたい。

 

天「はぁー」

 

大きく息を吐くと、白い霧のようにそれは口から出てくる。

 

天「白い息まで出るな•••これは今年も降りそうだな」

 

今年も今年でホワイトクリスマスになりそうな気がしてきた。それはそれで悪くないしむしろ良い。

 

咲姫「クリスマスは二人っきりで過ごしたかった••••••」

 

天「悪いな、ライブ入れたからそれどころじゃなくなって」

 

少し悲しそうな表情をしたが、すぐにそれは戻る。代わりに、俺の手を握る力が強くなった。

 

咲姫「じゃあ、イブ。イブは一緒に過ごしたい」

 

天「•••••••••あぁ、わかった」

 

ライブ前日だが、それくらいはいいだろう。俺は軽く頷いた。

 

天「ライブが終わった後でも、一緒にいられるさ」

 

咲姫「••••••うん」

 

腕に、咲姫の身体がぶつかった。そっちに目を向けると、彼女は微笑みながら腕に抱きついていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

学園に着くと、同じクラスなのもあってずっと咲姫と話し込んでいた。そのいつもの光景は、クラスメイトからすれば当たり前であり、いい見せ物になっていた。

 

女子生徒A「最近出雲さん神山くんと話してばっかりだね••••••」

 

女子生徒B「恋人同士だから仕方ないよ•••神山くんと話してる時の出雲さん、すごく幸せそうだし」

 

女子生徒C「でもいいなぁ。私も神山くんにあんな優しい顔で話しかけてもらいたいなぁ」

 

女子生徒A「えっ!?あんたもしかして神山くんの事好きだったの!?」

 

女子生徒C「う、うん•••中等部の頃からずっと••••••」

 

なんか、とんでもない事実が聞こえてきて俺大困惑してるんだが。あんな冷めてた俺のどこがいいのか逆に聞きたい。

 

咲姫「モテモテ•••?」

 

天「いや、それはない」

 

決してモテてはいない。俺は即座に否定した。

 

咲姫「天くんは私だけのものだから•••」

 

天「変に独占欲働かせるなよ」

 

しかもここ学校だし、そういう事言われるのは普通に恥ずかしい。せめて二人きりの時に頼む。

 

?「咲姫ちゃーん!いる〜?」

 

教室の外から元気そうな女の子の声が聞こえ、咲姫は振り向く。

 

咲姫「りんくさん•••?」

 

天「え、誰」

 

リンク••••••?ハ◯ラルの勇者か•••?退魔の剣持ってガ◯ンドロフと戦うのかな。

 

咲姫「ゲームの方じゃないよ••••••」

 

天「わかってる。少しふざけただけだ。んで、誰なんだ?」

 

咲姫「最近ウチに転校してきた子。今は『Happy Around!』っていうユニットを組んで活動してる」

 

天「最近来た人か•••なら知らねぇわけだ」

 

しかもそのりんくとかいう人こっちに向かってきやがった。

 

りんく「ねぇねぇ何やってるの?あれ?もしかして、この人って咲姫ちゃんが言ってた」

 

咲姫「天くん。私の彼氏」

 

天「神山天です。よろしくお願いします。えっと•••すみません、名前しかわからないので苗字を教えていただければ」

 

りんく「愛本りんく!りんくでいいよー。よろしくね、天くん!」

 

コミュニケーション能力の鬼かなこの人。多分誰とでも仲良くなれる一種の才能を持っているな。

 

りんく「Photon Maidenのマネージャーやってるんだってね!すごいなぁ、あんなに大きな会場でライブすることができるなんて」

 

天「これも全部、Photon Maidenの実力の賜物です」

 

俺は誇らしげに頷く。俺の力なんて微々たるもの。全ては咲姫をはじめとしたPhoton Maidenのメンバーの才能や努力によって培った能力によるものだ。

 

咲姫「言った通り、自分の手柄にしようとしないでしょ?」

 

天「なんつー話してんのお前!?」

 

絶対余計なことまで吹き込んでるだろ!?なんだかんだで咲姫が一番危ない存在なのかもしれないと、少し怖くなってきた。

 

りんく「咲姫ちゃんからはカッコよくてすごく頼りになる人だって聞いてるよ!」

 

天「••••••それだけだよな?咲姫」

 

咲姫「うん、大体はそれくらい」

 

天「大体ってお前•••」

 

詳しく言わない辺り何か隠してそうだ。少し探りを入れたいが、そこまでやる気力がなかった。

 

咲姫「どうかした?」

 

天「いんや•••何でもね」

 

疲れそうだったから、俺はこれ以上考えるのをやめた。後は咲姫とりんくが教師がやってくるまで話を続けている姿をとにかく眺めていた。




それじゃあ僕は筋トレしてきますので•••あ、後先日追加された暁(Fruits MIX)、キッチリPFCしてきました!


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12月2日(火)

4月まで暇なもんでやる事がないっす、割とマジで。部活行こうにも平日は時間が微妙過ぎて行く気がガチで起こんない•••後注文した面マスクはよ届いて?


今は授業中。俺はボーッとして教師の説明を右から左へと聞き流していた。ライブの事で頭がいっぱいで、他の事を考えている余裕がなかった。

 

教師「〜であるからして、神山、答えてみろ」

 

天「••••••••••••」

 

教師「•••神山?」

 

天「••••••••••••••••••」

 

焼野原「おい神山?聞こえてんのか?」

 

天「•••ッ、な、何だ•••?」

 

焼野原「いや何だじゃなくて、お前先生に当てられてるんだぞ」

 

焼野原君に声をかけられて、俺はようやく意識をこちらに引き戻した。周りを見渡すと、みんな俺の事を見ていた。咲姫だけクスクス笑っていたので後でシメる。

 

教師「•••神山、大問3の問4•••」

 

天「あっはい。これは•••5xです」

 

教師「•••正解。ボーッとしてる割にはちゃんとわかってるじゃないか」

 

天「•••••••••」

 

教師「あ聞いてねぇわこれ」

 

すぐに考え事に戻り、俺はまた窓の方を見つめる。あの時は成功したとはいえ、次が成功するとは限らない。しかも前よりハコが大きいときたもんだ。不安でいっぱいになって仕方がない。

彼女たちなら大丈夫だと言い聞かせるが、それでも不安を拭い切る事はできなかった。

 

天「••••••うーん•••••••••」

 

できる限りの対策は立てるつもりだし、レッスンを疎かにさせるつもりもない。とりあえずは今できる事を精一杯積み重ねて、少しでも不安を取り除くことにしよう。

 

気がつけば授業は終わっており、俺はチャイムでようやく気がつく。多少困惑気味になりながらも、全員で席を立つのに合わせて立ち上がり、礼をした。

座り直して、また頬杖をつく。

 

咲姫「まだ考え事••••••?」

 

天「•••••••••ちょうどよかったわ」

 

タイミングよく咲姫がこっちに寄ってきたので、立ち上がって頬を引っ張る。

 

咲姫「•••いふぁい••••••」

 

天「よくも人の事笑ってくれたな?」

 

むにむにの柔らかほっぺたを引っ張ったり押さえたりする。

 

咲姫「ごめんなさい••••••」

 

天「よし許そう」

 

潔く謝ったので、俺はすぐに手を離した。違和感が残る頬を、咲姫はペタペタと確認する様に触れる。

 

咲姫「いきなり酷い••••••」

 

天「俺の事笑ってただろ?」

 

咲姫「だって、面白かったから••••••」

 

そんなに俺が困惑している姿が良かったのかこいつは。俺は微妙な顔になる。それに対して咲姫は穏やかな笑みを浮かべていた。

 

咲姫「ねぇ、ぎゅうして••••••?」

 

天「ぜってぇやだ」

 

なんで周りに人がたくさんいる中で抱きしめないといけないのだ。俺は絶対にしない。

 

咲姫「ぎゅう••••••」

 

天「ダメなものはダメだ」

 

咲姫「じゃあ私からするっ」

 

その言葉通り、咲姫は俺に抱きついた。結局こうなるなら最初から訊く意味ないだろ。

 

咲姫「••••••あまり温かくない」

 

天「まぁ制服は冷えてるままだわな」

 

別に制服は俺の体温を吸収してるわけでもないし、というかぶっちゃけ寒い。この時期にこんな薄っぺらい制服は地獄だぞ。

不本意だが、暖を取る為に俺は咲姫を抱きしめた。

 

咲姫「あっ•••」

 

天「•••全然あったまらねぇな。ないよりはマシだが」

 

咲姫「私は、温かくなった••••••」

 

天「••••••?」

 

なんかやけに咲姫が笑いながら俺の胸に顔を埋めたので、失礼だが少し怖かった。普段が無表情だから特に。

 

焼野原「んで、神山さん。いつまで目の前でイチャイチャするおつもりで?」

 

天「あっ••••••わ、悪い」

 

流石に指摘されると恥ずかしくなったので、俺はパッと手を離した。が、咲姫は俺から離れることなくくっついたままだった。

 

天「助けて」

 

焼野原「無理矢理引き剥がしてもいいが、今後出雲さんに嫌われ続けるのは避けたい」

 

ねぇマジでどうすればいいのこれ?まさか次の授業始まる直前までこの状態でいろって言うの?周りの視線集まりまくリングで俺精神的にキツいんだけど?ねぇ?

 

天「ちょっと出雲さんや•••そろそろ離れませんか?」

 

咲姫「咲姫•••」

 

Photon Maidenのマネージャーを担当して最初の顔合わせの時に、苗字呼びしたのをまだ根に持ってるのかこいつは。少し鋭い視線で俺をジトーッと見ていた。

 

天「••••••咲姫、いい加減離れてくれないか?周りの目もあるし」

 

咲姫「私は気にしない」

 

天「俺が気にするんだ!本当にたくましくなったなお前••••••」

 

以前の咲姫では考えられないくらい積極的で驚いてるよ、全く。このアクティブな気力を別の事に生かしてくれ、頼む。

 

咲姫「授業始まるまで離れない」

 

天「••••••えぇ•••••••••いやマジで恥ずかしいからやめてくれ•••••••••」

 

咲姫「さっきほっぺた引っ張った仕返し••••••」

 

天「それはお前が俺の事笑うからだろ?」

 

咲姫「ずっと考え事してる天くんが悪い••••••」

 

それはごもっともだが、だからって笑うことはないだろ。

 

咲姫「それに、こうしてる方が落ち着く••••••」

 

天「•••そうか。はいはいわかった。でも先生が来るまでな?来たらすぐに自分の席に着けよ?」

 

咲姫「うん、わかった••••••」

 

結局俺自身が折れて、咲姫を甘やかす事になった。彼女に対して優しくしすぎるのはいい加減直さないといけないな、と少しばかりだが感じた。

が、なんだかんだ素直に言う事を聞いてくれるいい子ではあるので、もうちょっとだけ甘くしてやるのもいいだろう、とも思えた。

なので、そっと頭を撫でる。サラサラの白髪が、俺の手に触れて滑っていく。

 

咲姫「天くんのなでなで•••落ち着く••••••」

 

天「好評なようで何よりだ」

 

その後、教室に入ってきた教師に見事にどやされて、俺と咲姫の惚気っぷりは更に学園内に広まった。今更過ぎてもうどうでも良くなってる俺がいて、少し悲しかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

昼休みになると、俺はすぐに咲姫の席に目を向ける。既に彼女は席を立っていて、俺の方へと歩いていた。

 

咲姫「お昼ご飯•••」

 

天「あぁ、わかってる」

 

咲姫から予め貰っている弁当箱を持って立ち上がる。前までなら屋上で二人で食べていたが、流石にこの冷える時期は辛い。咲姫は大丈夫だろうが、俺は無理だ。

 

天「学食の方に行くか。あそこは暖房効いてるだろうし」

 

咲姫「うんっ」

 

迷いなく俺の手を握った咲姫は、学食に向かって歩き始める。少し強引な彼女に困惑しながらも、俺はすぐに歩幅を合わせた。

 

咲姫「学食に行くの、久しぶり•••」

 

天「基本は行かないからな•••行くにしてもPhoton Maidenで集まる時くらいだし」

 

そもそも何か目的がない時以外は、学食に近寄る事すらなかったと思う。弁当頼りだから無縁なんだよな、学食。普通に飯美味いらしいし、今度食べてみようかな。

 

咲姫「•••••••••むぅ」

 

が、心の色を見たのか、咲姫が頬を膨らませていた。まぁ、学食か恋人の手料理かって訊かれたら、100%恋人の飯に決まってる。それでも学食の食い物が気になってしまうが。無理矢理胃にぶちこむかな。

 

咲姫「ダメ••••••」

 

天「えぇ•••流石にそこまで縛らなくてもいいだろ•••」

 

咲姫「天くんのお昼は全部私が用意する••••••」

 

愛されている証拠ではあるのだろうが、なんか怖いぞ。このままエスカレートして某伊藤誠みたいに刺し殺されないといいけど。

 

学食に到着。適当な席に座って、俺たちは弁当を開けて食べ始める。学食にいるのにここの飯食べないのは何故なんだ、って訊かれそうだけどそんな事は知らん。何食おうが勝手だ。

 

咲姫「はい、あーん•••」

 

周りに大量の人間がいる中でも、咲姫は屋上の時と変わらずに俺の口の中に食い物を入れようとしていた。また教室での二の舞が簡単に想像できてしまったので、俺は仕方なく食べる。

 

天「•••ん、美味い。また料理作るの上手になったか?」

 

咲姫「本当•••?嬉しい••••••」

 

心の底から嬉しいようで、咲姫は少しニヤついていた。その姿を見て、俺もつい笑みを零してしまう。

だが周りからの視線が痛くて、とてもじゃないがかなり精神的に参ったのは確かだ。これからも学食は暖を取る為に利用するかもしれないが、あまり目立つような行動は避けようと、俺は考え始めた。




それじゃ、筋トレした後にイベランに戻りやす。千位以内入っときたい。


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12月3日(水)

いやー遂に百話ですよ。早いもんですね。まさかここまで続くとは思ってなかったので驚きです。そして日間ランキング22位、ありがとうございます!Twitterでも言いましたが、引退までよろしくお願いします!


水曜日辺りになると、どうしても学校生活の一週間の疲れが見え始めてしまう。が、それは次の日の金曜日で吹き飛ぶだろう。

平日の真ん中。それだけでやる気が変わってくるものだ。俺に休日なんてほっとんどねぇけど()。

授業はすぐに終わり、俺は事務所へと向かっていた。一人で歩いているのは、学校を出る前に一つの野暮用を済ませていたからだ。

 

天「はぁー•••まさか学園側から校内ライブの要請が来るとはな••••••」

 

ため息を吐きながら、俺は頭を掻く。前々からそういった頼み事は普通にあったし、その度にやんわりと断っていた。だが今回は強く迫られてしまったので、今後のPhoton Maidenの学園での立ち位置も考えて、仕方なく応じた。

ハピアラや、Peaky P-keyなる陽葉学園のトップに居座り続けるユニットもあるらしく、少しばかり興味が湧いて調べていたらこんな時間になった。

大事を取って仕事をある程度終わらせていたのが幸いだった。

 

天「しかし•••ハピアラやピキピキには面白い奴がいるな••••••」

 

ハピアラには渡月家のお嬢様、ピキピキには犬寄しのぶという、有名なDJの祖父を持つ者や(知り合いだけど)、清水家の御令嬢までもいる。メンバーがやたらと濃い。

いや、メンバーの濃さでいったらウチも負けない自信があるし、実力面でも劣っているとは思わない。

そもそもPhoton Maidenにはそのユニットの世界観というものがある。

ハピアラはとても楽しそうで愉快な世界観、ピキピキは派手で暴れられそうな、それでいて音楽がピーキーに尖っている異様な世界観。それぞれのユニットに違いが存在している。

 

天「そもそも•••みんな学園ライブやってる余裕なんてあるのか?」

 

こっちはクリスマスライブの準備で大忙しだっていうのに、学園側も面倒な事をしやがる。

陽葉学園とは比べ物にならない規模だから少しは遠慮して欲しかったのだがな••••••。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

事務所に入って、まず最初にレッスン部屋へ向かった。先に彼女たちに校内ライブの件を話しておかなければならない。

ほとんど練習が終わっていたPhoton Maidenのメンバーは、水分補給をしながら休憩していた。

 

乙和「あ、天くんやっほ〜。遅かったね」

 

天「えぇ。少し、というよりまぁまぁやる事あったので、来るのが遅れました」

 

衣舞紀「それって学校で、でしょ?何かあったの?」

 

勘のいい衣舞紀さんはすぐに察して訊いてくる。俺は小さく息を吐いて、多少ながら面倒くさそうに言葉を吐いた。

 

天「陽葉学園側から、校内ライブをしろとの事です」

 

ノア「学園側から•••?断れなかったの?」

 

天「そもそもPhoton Maiden自体があまり校内ライブをしていませんので•••そろそろ出てくれないと困る、と教師からわざわざお達しがきた訳です」

 

ノア「つまりは断れる余地はなかったって事だね•••」

 

乙和「え?ノア、今のでわかったの?」

 

ノア「逆に乙和は分からなかったの•••?」

 

天「要は圧を掛けられてるって事です。もし断ろうものなら学園での立場は弱くなるぞ、と」

 

イマイチ理解できていない人が約一名いたので、わかりやすくーー遠慮が一切ないーー説明をする。

 

乙和「え〜。クリスマスライブあるのに〜?」

 

天「ミニライブでもいいので、パーッとすぐに終わらせられるスケジュールを組もうと思っています。もしくはクリスマスライブの練習として利用するのも手かと」

 

衣舞紀「じゃあ、クリスマスライブの練習っていう想定でいきましょうか。咲姫も問題ないよね?」

 

咲姫「うん•••大丈夫••••••」

 

変な心配はハナからしていなかったが、こうも手順通りに物事が進んでいくのは気持ちよかった。

 

天「それじゃ、俺は仕事の方に•••」

 

俺はひらひら手を振りながらレッスン部屋を出て行く。そのまま仕事部屋•••に行く訳などなく、俺は外に出た。

 

天「はぁー•••うお、めっちゃでてくるな」

 

息を吐いてみると、真っ白い煙のようなものが口から放出され、それは風に流されて消えた。

 

天「なんか飲み物買い行こ•••」

 

温かいものを飲みながら仕事をしたい気分なので、俺は近くのコンビニに向かって歩き始める。

もう外はうっすらと暗くなり始めており、その所為で更に寒さが増していた。

 

天「さっむ」

 

つい口に出てしまった。少し急ぎ目に、コンビニ向かって走り始める。が、走ったら走ったで変に身体があったまって逆に暑くなった。調整難しい。

 

コンビニで温かいミルク(吉◯吉◯風)を買って、それをちびちび飲みながら事務所に戻る。少し程度の暗さだった空は、いつの間にか真っ暗に近い色になっていた。

街の街灯と飲食店やビルの明かりがライト代わりになり、周りには既に仕事を終えたであろうサラリーマンや、部活終わりの学生が集まっていた。

 

天「•••さっさと戻ろ」

 

この中で一人にいるのがなんだか心細くなった。学園ライブのヤツで少し精神的に参っているのかもしれないな。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

事務所に到着し、俺は流れるように仕事部屋に入った。いつものように仕事を片付けようとパソコンを起動する。

 

天「•••というか、みんなレッスンそろそろ終わる時間だよな••••••マジで学園で時間使いすぎた••••••」

 

まぁ今はそこまで忙しいわけでもないのでいいのだが。いや前言撤回、学園ライブの準備でクソ忙しくなる。普通にダルい。

電気を点けると、外の景色がよく見えた。薄暗い中で一部の地面だけが明るくて、そこにいる人間の身体がよく見えた。

 

天「っと、さっさと終わらせないとな」

 

椅子に座って、キーボードを叩き始めたがーー、

コンコン•••。

控えめなノックと共に、始めたばかりの作業が途切れた。

 

天「どうぞ」

 

いつもの声量で許可を出すと、扉が静かに開いた。入ってきたのは、予想通り咲姫だった。

 

咲姫「まだ終わらない?」

 

天「今始めたばっかり。でもそこまでないからすぐ終わる」

 

液晶画面に視線を移す。横からガラガラと椅子を運ぶ音が聞こえ、咲姫が隣に座った。

 

咲姫「学園ライブはいつする予定•••?」

 

天「一週間後になってる。セトリとかはみんなに任せるから、頼むわ」

 

咲姫「うんっ」

 

少しばかりの威勢の良さを感じた。俺は小さく頷き、キーボードを打つ速度を上げる。

 

咲姫「最近パソコンばかりだけど、手書きは大丈夫•••?」

 

天「手書きの方はもう終わってる。授業の合間合間にこっそりな」

 

咲姫「また怒られても知らないよ•••?」

 

バレなきゃ犯罪じゃないんですよ(キリッ)。授業つまらんしこれくらいええやろ(適当)。

 

天「今日は学校でしなかったら多分九時ぐらいまでかかってるぞ」

 

時計は十九時半を示しており、残りのパソコンでの作業はこのまま行けば二十時前には終わる。

 

天「っと•••後少し」

 

咲姫「頑張って•••」

 

俺の肩に頭を置いて、画面を眺めながら咲姫がエールを送る。応援する気あんのお前?

 

カタカタといった無機質な音だけが響き、俺たちの会話はゼロに等しかった。作業を終えて、それを保存してパソコンの電源を閉じる。

 

天「うし、終わった」

 

咲姫「お疲れ様」

 

さーっとパソコンを鞄にしまって、ジッパーを閉じる。そこにそっと、咲姫の手が重なる。

 

天「•••?どうした?」

 

振り向くと、彼女の頬はわずかばかりに火照っていた。

 

咲姫「最近、キス•••してない••」

 

天「•••それ、今言わなくてもいいだろ•••」

 

少し引き気味に言葉を漏らしていたら、いつの間にか咲姫の手は俺の頬にまで移動していた。

ため息を吐いて、咲姫を抱き寄せる。

 

天「全く•••少しは我慢しろよな」

 

咲姫「ごめんなさい•••でも、天くんが大好きだから••••••」

 

天「わかってるから、そんな事言うな。恥ずかしい」

 

咲姫「•••ふふっ」

 

咲姫から顔を逸らすと、彼女はくすりと笑った。視線を戻して、後頭部に手を回して唇を重ねた。

 

咲姫「んっ•••ちゅ、ちゅっ••••••」

 

咲姫は俺の制服の胸元を引っ張って、必死にこちらに引き寄せようとしていた。そんな事をしなくても抱き締めているので、身体は完全にくっついていた。

 

咲姫「はっ•••。好き•••大好き••••••」

 

天「俺も好きだぞ•••」

 

恐らく事務所内には何人も人がいるだろうが、俺たちはお構いなしに抱きしめあって、無常にも時間が過ぎて行った。




それじゃあ私は筋トレの方に•••夕食が肉だらけなので徹底的に追い込みます!


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12月4日(木)

あーお家帰りてぇ•••って今は毎日家の中か()いやはやどうも。このままの流れだと4月からも投稿しないといけない気がして焦ってる如水です。そうならない為にも今のうちに執筆終わらせるんですけどね。それではー。


朝日がカーテンの隙間から溢れて、部屋に流れてくる。それは俺が眠っているベッドにも注がれて、自然と眠気を消していっていた。

 

天「んっ•••あぁ•••?」

 

ごく自然に目が覚めて、俺は身体を起こす。隣に目をやると、咲姫がまだ穏やかな寝息を立てていた。そういや昨日泊まっていってたな。

まだ月が起こしにくる時間でもないので、俺は彼女を起こさないようにこっそりとベッドから降りて、音を立てずに部屋を出る。

そーっと、そーっと音を立てずに一階に降りて、リビングに入る。

 

月「お兄ちゃん?早いね」

 

天「今日は珍しくスッキリ目が覚めてな」

 

月「咲姫さんは?」

 

天「まだ寝てる。もうそろそろ起きるんじゃないか?」

 

月「彼氏ならやさーしく起こしてあげるものじゃないの?」

 

天「そういうものなのか••••••?本人が満足いくまで眠らせておく方がいいと思うが••••••」

 

俺の意見をぶつけてみたが、月はやれやれと首を振った。なんかムカつく。

 

月「いい?お兄ちゃん。起きてすぐ目の前に好きな人の顔があるのってどう思う?」

 

天「普通に幸せだと思うが」

 

月「わかってるなら早く行きなさーい!咲姫さん起きちゃうよ!」

 

天「へいへいわかったよ•••」

 

渋々頷きながら、俺はまた二階へと上がって自室へと戻る。ベッドを覗き込むと、まだ咲姫は眠っていた。体勢も変わってないし起きてはいないだろう。

 

天「•••••••••」

 

そっと顔を覗き込む。普段から物静かなヤツだが、こうして顔をまじまじと見つめていると、よく整っているのがわかる。

 

天「まぁ、まだ時間あるし少し遊ぶか」

 

手を伸ばして、彼女の頭に触れる。よく手入れの行き届いた白い綺麗な髪は、サラサラで触り心地抜群だった。そのまま流す様に撫でていく。

 

咲姫「んっ、んぅ•••」

 

少し身じろぎをしたが、まだ起きる様子はない。まだ撫で続ける。

 

咲姫「んぅ••••••」

 

こちらに寝返りを打って、顔が目の前にやってきた。そこでとうとう瞼がピクリと動いた。恐らく起きただろう。

 

咲姫「んっ•••あれ•••?」

 

天「おはよう」

 

咲姫「天くん•••?もう起きてたの?」

 

天「あぁ。可愛い寝顔だったぞ」

 

まだ頭に手は置いてあるので、撫でるのを止めていなかった。それに気がついた咲姫はまた目を閉じる。

 

天「おーい?二度寝はするなよ?」

 

咲姫「ううん。天くんの手を一杯感じてるだけ」

 

天「まぎらわしいな•••」

 

苦笑しながらも心はどこか温かい。目の前で幸せそうに瞳を閉じてる彼女の姿が、愛おしくてたまらなかった。

 

月「はいはい。邪魔して申し訳ないけどご飯できたよ」

 

天「ん、そうか。じゃあ下降りるかね」

 

咲姫の頭から手を離して立ち上がる。咲姫も続いてベッドから降りて、リビングの方へ向かった。

 

制服に着替えて、ネックオーマーと手袋を装着する。雪がチラホラと降っているが、積もるほどの量ではなかった。

 

天「このまま激しくならないといいが•••」

 

咲姫「でも今年も積もるって聞いた•••」

 

天「あーやっぱり?ホワイトクリスマスはいつも通りか•••」

 

雪降ると自然と更に寒くなるような気がしてあまり好きではない。だからといって降らずに『冬』をちゃんと満喫できないのは嫌だ。

 

天「とりあえず、凍ったら滑らない様に気をつけろよ?」

 

咲姫「その時は天くんに捕まる••••••」

 

天「俺の体幹が保てばいいけどな」

 

冗談混じりに言っているが、いざとなったらしっかり守るつもりだ。

 

咲姫「そういえば、校内ライブ•••大丈夫かな•••」

 

天「所詮は学園内のものだ。変に気張らなくていいぞ。それに昨日言っただろ?クリスマスライブの練習と思ってやれって」

 

咲姫「天くんは大丈夫なの•••?また忙しくなるのに」

 

天「俺の心配はいい。まずは自分の事を考えろ」

 

咲姫「••••••無理だけは絶対にダメ」

 

天「わかってるよ。迷惑かけたくないからな」

 

マネージャーとして、Photon Maidenのライブの予定や段取りを立てているのは俺だ。その俺が倒れてしまえば、流れに歪みができてしまう。それは避けなくてはならない。

 

咲姫「本当に大丈夫•••?」

 

天「心配し過ぎ」

 

ワシャワシャと、少し乱暴に髪を乱してやる。少しムッとした表情をされたが、本気で怒ってはいなかった。

 

咲姫「私はすごく心配••••••」

 

天「全く•••••」

 

いつまで経っても心配性なヤツだ。それほど案じてくれているのだろうが、過保護が過ぎるのではなかろうか。

 

天「倒れるにしても、やる事全部終わらせてからにしてやるよ」

 

咲姫「倒れるのはダメ」

 

天「敵わんなぁ」

 

今日も咲姫は平常運転だった。いつも通り、これが普通だ。雪が顔に当たって、少し冷たさを感じた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

昼休みになり、俺はいつものように咲姫と一緒に学食に赴いていた。え?中庭で食えって?寒いからやだ。

一応学食の方に何か面白いものがないか気になったので、咲姫を先に席の方へ向かわせて俺は長蛇の列を並ぶ。

多少の時間は食ったが、俺の番が回ってきたのですぐに選ぶことができた。そして、一つの枠に目が止まる。

 

天「牛タン定食••••••!?」

 

何そのクソ美味そうなの。これは気になる•••即買いだこれは。携帯を押し当てて、注文を完了した。

 

乙和「あぁっ!今週限定の牛タン定食が•••!最後の一つを取られちゃった••••••」

 

天「えっ、乙和さん•••?」

 

振り返ると、そこにはしょんぼりと肩を落とした乙和さんの姿があった。

 

天「これ限定なんですか?」

 

乙和「そうだよ!今週だけの!超限定!それを最後の一個を天くんが持っていったの!」

 

食券売り場の欄を見てみると、牛タン定食は売り切れと書かれていた。あっ(察し)。

 

乙和「今週これが食べたくて学食に急いできてたのに•••お昼何食べよう•••」

 

そのままどこかに行こうとする乙和さん。そんな彼女の姿が痛々しくて、俺はつい乙和さんの肩に手を置いた。

 

天「一口です」

 

乙和「えっ?」

 

天「一口だけ俺にくれるなら、牛タン定食俺が払いますよ」

 

乙和「•••いいの?」

 

天「えぇ。そんな泣きそうな顔されると、こっちが困りますよ」

 

乙和「やったー!天くん大好き!」

 

周りに人の目が、しかもまだ後ろで待ってる人がいるにも関わらず、乙和さんは俺に抱きついてきた。一気に俺と乙和さんに視線が集中し、居心地の悪さを感じる。

 

天「ちょっ、乙和さん•••」

 

乙和「えへへ〜なになに〜?」

 

天「人が見てますので、そういうのは•••」

 

乙和「じゃあ人がいなかったらいいんだ〜?」

 

天「そう言う問題でもないですよ!」

 

少し強引に乙和さんを引き剥がして、俺は会計を済ませる。

牛タンが乗った白飯、味噌汁、そして漬け物がおぼんの上に置かれていた。

 

天「咲姫はどこに行ったんだ•••?」

 

周りに人が多い所為で、目立つ白髪も目につかないでいた。というかさっき乙和さんに抱きつかれたやつも見られてただろうな•••まだ死にたくないんだけど俺。

周りを見渡していると、ポツンと一人で座っている咲姫を見つけた。その方向に歩いて行き、隣に座る。

 

咲姫「乙和さんも•••?」

 

乙和「お邪魔するよー」

 

天「一緒でもいいよな?」

 

咲姫「大丈夫•••」

 

意外にも乙和さんに抱きつかれていた件は言及されない。もしかして人が多過ぎて見えてなかったのか?だとしたら幸いだ。

牛タン定食は乙和さんに譲ったが、俺には咲姫が作った弁当がある。

 

乙和「あ、天くんにまだ一口上げてなかったね。はい、あーん!」

 

天「••••••どうしてそうなるんですか」

 

乙和「譲ってくれたお礼だよー」

 

天「一口くださいっていう条件つけたじゃないですか」

 

乙和「割に合わないから追加しといたよ」

 

天「いらねぇ••••••」

 

それならまだ二口くれる方がよっぽどいいわ。それか咲姫があーんしてくれるか。

 

乙和「酷いなぁ〜。乙和ちゃんがせっかく食べさせてあげるって言ってるのに」

 

頬を膨らませて少し怒った様子の乙和さん。俺は苦笑を投げかけたが、心境は焦りで一杯だった。

 

天「とりあえず、そういうのは勘弁してください」

 

乙和「もう〜しょうがないなぁ〜」

 

牛タン飯が入った茶碗を差し出してきた。まだ口をつけてない箸で少しだけ取って食べる。

独特な食感に塩とレモンの味が効いてて美味い。

 

乙和「どうどう?美味しい?」

 

天「これめちゃくちゃ美味いですよ。流石限定なだけありますね」

 

乙和「そんなに美味しいの!?あーむっ、ん〜!美味しいー!」

 

すぐに口を開けて牛タンと白飯を運ぶ乙和さん。その表情はとても幸せそうだった。

 

天「もぐもぐ••••••咲姫、あんまり食べてないがどうした?」

 

咲姫「さっき乙和さんに抱きつかれてたでしょ••••••?」

 

天「んんっ!?み、見てたのか••••••」

 

咲姫「あんなに視線が集まってたら、嫌でも見える••••••」

 

咲姫の顔は少し不機嫌そうで、じっと俺を見ていた。問題起こした張本人の乙和さんは美味しそうに肉を食べまくっている。気楽でいいなこの人は。

 

咲姫「浮気•••?」

 

天「いや違うし•••というかお前度々その疑い掛けてくるよな」

 

咲姫「だって•••他の人に天くんが取られないか心配••••••」

 

天「•••••••••はぁ。本当に心配性だな」

 

ため息を吐きながら頭を撫でると、彼女は少し困惑した表情になる。

 

天「本当に浮気するなら、コソコソしないですぐに別れ切り出すぞ、俺は」

 

後ろめたい事をするのは好きではないしむしろ嫌いだ。だからこそ、ハッキリと言う。

 

天「俺が好きなのは咲姫だし、それは今後変わる事はない」

 

咲姫「••••••うんっ」

 

こっそりテーブルの下で俺の手を握った。恥ずかしそうに頬を赤くする彼女の顔は、とても可愛らしかった。




筋トレはもう終わらせてるし、書きまくりまっせ!


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12月5日(金)前編

いやー着々と四月が近づいてますな。まぁ私、四月から大移動するんですけどね。九州から関西っすよ?関西。動きスギィ!あーもう病むわ(大嘘)。


教師「神山、ちょっといいか?」

 

天「•••?はい」

 

唐突な呼び出しに、俺は困惑しながら返事をして席を立った。そのまま教師に職員室に連れ出される。

 

教師「悪いな、あんな脅すような形でライブをさせてしまって••••••」

 

天「構いません。こちらからすれば、クリスマスライブのいい練習になりますから」

 

本人たちも校内ライブを使って練習としてライブをする、という考えになっている。

遠回しにお前の学校にはその程度の価値しかない、と言ってしまっているようなものだが、オブラートに包んで物を言えっていうのが無理な話だ。

 

教師「それで、もうどういう風にやるかは決まっているのか?」

 

天「はい、大体は。最終的な面は全て彼女たちに任せますが、ある程度は自分が組みます」

 

教師「ホント•••なんでお前程のヤツが出来たばかりのユニットをずっと担当し続けているのか、疑問だな」

 

天「••••••そりゃまぁ、俺自身が好きですから。Photon Maidenが」

 

薄らと微笑みながら、教師に顔を向ける。少々納得いかない、という顔だった。

 

天「それに俺はもうネビュラプロダクションの所属です。嫌でも離れられませんよ」

 

教師「えっ!?お前事務所入ったの!?ずっとフリーだったじゃん!」

 

天「驚くところそこですか!?」

 

Photon Maidenの担当を続けている事じゃなくて、事務所に所属したことに驚かれた。いやなんでや。

 

教師「なんで事務所入ったの!?仕事減るぞ!?」

 

天「別にいいですよ。今の仕事が続けられるなら」

 

教師「えぇ•••そんなに好きなの?」

 

天「はい」

 

俺は躊躇いなく頷いた。教師は頭をポリポリと掻いて、少し唸る。

 

教師「ま、まぁ•••お前が決めたことだしな•••あまり強くは言えないか•••」

 

天「そもそも言われる筋合いないんですけどね」

 

教師「はい•••全くもってその通りです••••••」

 

正論をぶつけたら、教師は少し凹んでしまったようで肩を落とした。少し申し訳ないと感じたが、どうでもいい。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

教室に戻ると、真っ先に咲姫が俺の元へ駆け寄ってきた。

 

咲姫「何を話してたの•••?」

 

天「そんな大したことじゃない。ライブの事で少し話をしただけ」

 

咲姫「そうなんだ•••」

 

天「••••••いつまで目の前に立ってるつもりなんだ」

 

話は片付いたはずなのだが、咲姫は立ち尽くしたまま動かない。じーっと俺の顔を見上げていた。

 

天「え、マジで何?」

 

咲姫「好き」

 

天「ぶふっ」

 

唐突に愛を囁かれて、俺は驚いて噴き出す。周りがクスクス笑っていて恥ずかしい。

 

女子生徒A「神山くんテンパりすぎだよーwww」

 

天「う、うっさい!」

 

咲姫の横を走り抜けて、俺は自分の席に座る。そのまま突っ伏して顔を見られなくした。これでいいだろう。

 

咲姫「今日も泊まっていい?」

 

天「•••大丈夫。というか、そんなに泊まりにくるならいっそのことウチに引っ越したらどうだ?」

 

咲姫「•••••••••恥ずかしい」

 

さっきと打って変わって、今度は咲姫が顔を赤くした。突っ伏した際に腕の隙間から覗いて見ているが、赤くなっているのがよくわかる。

 

天「まぁ•••どうせいずれは一緒に暮らすことになるだろうし、慣れていけばいいだろ」

 

咲姫「う、うん•••」

 

女子生徒B「神山くん、それほぼプロポーズだよ?」

 

天「マジか!?」

 

驚きのあまり、顔を上げて声を掛けてきたクラスメイトに勢いよく振り向く。クラス中からどっと笑いが起き(一部の男子は血眼だったが)、代わりに俺の顔が熱くなる。

 

天「•••クソ、恥かいた•••」

 

女子生徒A「神山くんだいたーん!出雲さんも幸せだね〜こんなに愛してもらってて」

 

咲姫「はい。とっても嬉しいです」

 

天「やめろ•••マジで恥ずいから•••」

 

男子生徒A「神山ぁ•••!ぜってぇ殺す••••••!!」

 

焼野原「そういう事言ってるから彼女できないんだよ••••••」

 

焼野原くん、ナイスド正論。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

放課後になり、俺はすぐに事務所には向かわず学園内に残っていた。ライブの準備だったりもそうだが、まず何よりもライトなどの設定だったりが主だ。ライブ自体は五日後だが、早く準備するに越したことはない。

 

天「じゃあここら辺で切り替えて•••」

 

事務所のスタッフを何人か呼んで、俺はライトの確認をしながら調整をしていた。

 

スタッフA「オッケーでーす。すみません、忙しいのに」

 

天「いえいえ。これも俺の仕事ですから」

 

スタッフB「こっちもオッケーでーす!」

 

天「じゃあ残りは当日準備で大丈夫そうですね。お疲れ様でした」

 

スタッフ「「「「「お疲れ様でした!!」」」」」

 

スタッフ全員から一斉にデカい声が上がって少しビックリしてしまう。その所為ですこしたじろいだ。

 

スタッフA「この後はどうするんですか?俺らはもう帰りますけど」

 

天「まだやる事あるかもしれないので、自分は事務所の方に」

 

スタッフA「わかりました!お疲れ様でーす!」

 

見た目はバチコリおっさんなのに何故か雰囲気は好青年だ。若いなぁ••••••。俺にもこれくらいの若さがあればいいんだが。

 

天「•••7時か。みんなはもう帰ってそうだな」

 

外を覗くと、真っ暗な景色が広がっていた。学園内の灯りによってかろうじて視認することができるが、見えにくいことに変わりはない。

慣れた足取りで学園から出る。灯りが点いているのは職員室くらいで、その他は真っ黒に染まっていた。

冷え込んだ空気が服の隙間から入ってきて、軽い身震いが無意識に起こる。

 

天「寒•••少し走っていくか」

 

寒さを紛らわす為にも、俺は小走りで事務所へと向かった。息を吐くたびに白い霧が口から放出されるのが、小さな灯りによって嫌でもわかる。

雪が降っててもおかしくないような寒さに、俺の身体は悲鳴をあげていた。

 

天「防寒対策•••甘かったな•••」

 

少しだけ後悔しながら、俺は事務所へと急いだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

事務所はドデカイビルなので、すぐにどこにあるかわかるのがありがたい。中に入って俺はようやく小走りから徒歩へと戻った。

階を上がっていき、自身の仕事部屋の前へ立つ。レッスン部屋の明かりは、外から確認した限りは点いていなかったので恐らくみんな帰ってしまっただろう。

安心して俺は扉を開けて中に入り、電気をつけた。

 

咲姫「すぅ•••すぅ••••••」

 

天「••••••うせやろ?」

 

誰もいないと思って安心したのも束の間、椅子に座って机を枕にして眠っている咲姫の姿がそこにあった。

 

天「全く•••冷えるぞ」

 

毛布を取り出して彼女の身体を覆わせる。エアコンも何もない部屋なのだから、下手したら凍死してしまう。

 

天「ええっと、どうしよ•••まぁほっといてたら勝手に起きるか」

 

音を立てないように隣に座って、パソコンを立ち上げる。とりあえず彼女が起きるまでの間だけ仕事をする事にした。

静かに、でも早くキーボードを打っていく。カタカタと小気味良い音が部屋中に響いていた。うるさくはないので、流石に起きることはないだろう。

 

天「そもそも事務所に戻るなんて連絡、してなかったのにな••••••」

 

それなのにこんなところで待っているのだから驚きだ。チラリと咲姫に目線を向けると、まだ瞳を閉じて寝息を立てていた。

•••起きるのか少し怪しくなってきたな。

 

天「••••••帰るか」

 

急ぎでやるような仕事もない上に、明日の分もほとんど終わってしまった。

どうやってこの眠り姫を連れて行こうかと悩む。起こす?どうしよ。

 

天「••••••そういやこいつ泊まるって言ってたな」

 

じゃあこのまま家にお持ち帰りしても文句は言われないだろう。どっちみち家は近いので、着替え等は取りに行けばいいだろうし。

鞄を背負って、咲姫を抱き抱える。壁とかにぶつけないように慎重な足取りで歩いていく。

外の冷たい風は先程よりも強くなっており、咲姫を冷やさせない為に更に抱き寄せる。

 

天「走って帰りたいところだが•••起きそうだな••••••」

 

周りからはそこまで目は向けられていないが、少なからず感じる視線が気になっていた。今すぐここから離れたい。

 

咲姫「んっ•••んぅ•••?」

 

天「あっ、起きちまった」

 

ぼんやりと目を開けた咲姫が、瞬きを繰り返しながら徐々に脳を機能させていってるのが見てわかった。

 

咲姫「あれ•••?天くん•••?外•••事務所で寝てたはずなのに•••」

 

天「起こすのも悪いと思ってな•••持って帰ってたんだ」

 

咲姫「大丈夫?重くない?」

 

天「全然。むしろ軽すぎる」

 

身長体重のデータはマネージャーとして所属する際に渡されているからある程度知っているが、本当に軽い。飯食ってんのかお前。

 

天「歩くか?」

 

咲姫「ううん、このまま家まで行きたい•••」

 

天「お?堂々と楽チン宣言か。いい度胸してんな」

 

咲姫「こうしてる方が、天くんの顔が近いから」

 

天「•••••••••」

 

思わぬカウンターを喰らって、俺の顔は赤くなる。咲姫が小さく笑ったのがわかった。

 

天「と、とにかく!月も待ってるだろうし、急ぐぞ」

 

咲姫「うんっ。お風呂も一緒に入る•••?」

 

天「はいはいいつも通りだな。しっかり捕まってろよ?」

 

咲姫「お尻に手が当たってる••••••」

 

天「この方が抱えやすいんだ、許せ」

 

咲姫「えっち••••••」

 

天「理不尽過ぎる」

 

頬を赤くしながら、ムッとした顔で貶される。少し悲しい。今はその事をあまり考えないようにして、思考を振り払って走り出した。




お腹空いたなー。誰が食べ物恵んで?(ドクズ)


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12月5日(金)後編

まず一つ。前回の話に「前編」をつけ忘れていました。本当に申し訳ありません。読んでくださった方々はきっと困惑してしまった事でしょう。今後このような事がないように努めて参りますのでどうぞよろしくお願いします。


咲姫を抱えたまま家に帰り着いて、足で器用に玄関のドアを開ける。

 

月「おかえりー••••••ってなにその状態?恥ずかしくないの?」

 

天「クソ恥ずかしいわ」

 

真顔の月に対して、俺も真顔で応える。咲姫は真顔、というより無表情だが俺の方に顔を向けていた。

 

月「それで、何があったらそうなるの?」

 

天「•••さぁな、俺もわかんねぇわ」

 

月「当事者がわかんないってどういう事!?」

 

暗い住宅街の中で叫ぶのはやめてくれ。普通に近所迷惑なんだけど。

 

月「うん、ちょっと待って?もしかしてさ、事務所からここまで咲姫さん持ち上げてきたの•••?」

 

天「あぁ」

 

月「お兄ちゃんもやるなぁ••••••抱えられてる咲姫さんも咲姫さんだけど••••••」

 

咲姫「とても楽チン•••」

 

天「いいご身分だよこいつは」

 

抱え直す為に、軽く上に投げて下ろす。よいしょっと、という親父くさい声が漏れた。

 

月「とりあえず寒いしお家の中に入ろっか。ご飯できてるよ」

 

天「あぁ。咲姫はここで降りろよ」

 

咲姫「うん•••」

 

優しく下ろして、家の中に入って行く。後ろから彼女もついてくるが、なんだか小動物のような感じがして可愛らしかった。

咲姫をリビングに向かわせて、俺は二階の自室に入った。咲姫のバッグもついでに置いて、一階に降りる前にベッドに寝転がった。

 

天「ん、んーーっ!はぁ•••なんか今日は疲れたな•••」

 

校内ライブの準備を進めて、それで事務所に行けば咲姫が寝ている。それだけでもまぁまぁ精神的な疲れが加速するもんだ。

 

天「••••••まぁ、良い経験にもなるか」

 

クリスマスライブにだけ目を向けていたが、学園内でのライブもそれはそれでいいもんだろう。既にPhoton Maidenの名は学園中に響き渡っている。だがそれでも中には知らない人間もいるだろう。この学園ライブを機に、存在を認知してくれる生徒もいるのではないかと考えたのだ。

 

天「これも、Photon Maidenが更に上に向かう為に必要な要素だ•••」

 

そう考えたら、学園ライブというのも悪くないと思えてきた。いや、むしろ好都合だ。美味い話にはデメリットがない限りはできる限り乗っかっていきたい。

 

月「ちょっとお兄ちゃん寝てないよねー!?」

 

天「今から降りる!」

 

考え事をしていて無駄に時間を喰っていたのか、下から月が俺を呼ぶ声を轟かせた。俺も大きな声で返して、一階に降りた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夕食は豪華でも質素でもなく、案外普通なものだった。黙々と食べる中、月と咲姫の会話は進んでいた。

 

月「はー校内ライブをやるんですかぁ•••。お兄ちゃんその話全くしてくれないんですよ?ひどくないですか?」

 

咲姫「天くんはあまりライブの事情とかは話さないから•••。最近はクリスマスライブの事で頭がいっぱいになってるから余裕がないんだと思う」

 

天「まぁ•••余裕がないのは確かだな••••••どうなるか検討もつかないし、何が起こるかもわからん」

 

月「流石に心配症過ぎない?夏のライブなんてあんなに大成功したんだから自信持とうよ!」

 

月が励ますように声を掛けてくれるが、全く俺の不安は拭えない。

 

天「一度成功したからこそ、それ以上にプレッシャーが掛かるんだよ•••夏以上のパフォーマンスを期待されているからな」

 

咲姫「うん•••だから私たちも練習を頑張らないといけない••••••」

 

月「•••やっぱりプロは考え方が違うなぁ•••ただのファンの私とは大違いだ••••••」

 

椅子の背に体重を預けた月が、大きく息を吐いた。そこに俺は白飯を掴んだ箸を月の口の中に突っ込んだ。

 

月「んぶぅ!?ーーいきなり何するのさ!?」

 

天「いや•••月の言葉は嬉しかったからな。その礼だ」

 

月「だからってそんな無理矢理入れる事はないでしょ!?何考えてるのさ!」

 

天「すまんかった」

 

薄く笑いながら、俺は軽い気持ちで謝罪を送った。まだ月はぷんぷんと怒ってはいたが、どこか表情は優しかった。

 

月「全くもう•••そんなんだからお兄ちゃんはお兄ちゃんなんだよ」

 

天「どういうことだよ、それ」

 

月「•••さぁーねー。自分で考えてね?」

 

天「•••••••••?」

 

月の言葉の意図が理解できず、俺は首を傾げた。が、咲姫は意味を分かっていたようで、笑みを俺に向けていた。

 

天「な、なんだよ•••」

 

咲姫「ううん、何でもない」

 

そして彼女も中々に意地悪なようで、答えを教えてくれる事はなかった。モヤモヤを残したまま、俺は夕食を食べるのを再開した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

風呂も終えて後は寝るだけ•••なのだが。

 

天「•••眠れねぇ」

 

咲姫「私も•••少し事務所で寝ちゃったから•••」

 

ご覧の有り様だ。俺は単純に眠気が襲って来ず、咲姫は多少ながら睡眠を取ったのが仇となっていた。

 

天「参ったな•••明日も朝早くからレッスンなのに•••」

 

休日?んなもんねぇよこっちは仕事じゃボケ。というかいい加減セトリも本格的に決めないといけない。明日はプロデューサーやスタッフ共々と話し合わないといけないな••••••。

 

咲姫「天くん、難しい顔をしてる•••」

 

天「えっ?そ、そうか•••?」

 

咲姫「こことか•••皺が寄ってる•••」

 

咲姫の指先が俺の眉間に触れる。少しくすぐったさを感じて、みじろぎをした。

 

天「ん•••なんか変な感じだから触らないでくれ」

 

咲姫「じゃあ、こっち•••?」

 

今度は俺の頬に触れた。ひんやりした冷たい感覚が伝ってくる。

 

天「まぁ•••ここは別にいいが•••」

 

お返しにと、俺も手を伸ばして咲姫の頬に当てる。うっすらと微笑んだ後に、彼女は目を閉じる。

 

咲姫「落ち着く••••••」

 

天「•••そういうもんなのかねぇ•••」

 

いかんせん俺には理解し難かったが、咲姫が幸せならそれでいい。そう思うと、少しだけ心が安らいだ気がした。

 

咲姫「ぎゅう•••」

 

天「はは、はいはい•••」

 

相変わらずブレる事のない姿を見て、自然と笑いが込み上げた。腕を伸ばして、背中に手を回して、こちらに引き寄せた。

 

咲姫「えへへ•••あったかい•••」

 

天「しっかし細いな•••ちゃんと食べてるのか?」

 

咲姫「晩御飯はちゃんと食べた」

 

天「いやそうだけど•••普段だ普段」

 

真顔でたかがさっきの出来事を言わなくてええよ。

 

咲姫「ちゃんと食べてる」

 

天「ならいいんだが•••」

 

どうにも身体が細くて、抱きしめたら折れてしまうのではないかと心配になる。横腹に触れてみると、その華奢な体躯に驚いてしまう。

 

咲姫「んっ•••」

 

天「あっ、わ、悪い」

 

くすぐったかったようで、咲姫が甘い声を漏らした。すぐに謝って手を離す。

 

咲姫「ビックリした•••」

 

天「すまん、少し身勝手が過ぎた」

 

咲姫「ううん、天くんなら大丈夫」

 

天「•••ありがとう」

 

優しく許してくれる彼女に対して、俺は笑みを向けた。咲姫も笑っていて、大変可愛らしい。

 

天「なんか話してたら眠くなったわ。咲姫は?」

 

咲姫「私も少し眠たいかも•••」

 

どうやらお互いに寝るモードに入ったようだ。俺は既に目の前が軽く霞み始めている。

 

天「おやすみ、咲姫。明日も頑張れよ」

 

咲姫「うん、おやすみ•••天くんも、お仕事頑張って」

 

天「ん•••」

 

咲姫を抱きしめたまま、俺は目を閉じる。真っ暗になった視界の中で、ふと考える。

 

天「(そういえば、もう感覚の暴走がない•••完全に慣れたのか••••••?)」

 

できることなら暴走しないまま平和に過ごしたいものだ。だが、やけに嫌な予感が止まらない。

 

天「(多分•••大丈夫だ••••••)」

 

確証なんて一ミリもない。それでも俺は信じるしかなかった。今はライブの事だけを考えようと、今の思考を押しつぶした。




明日からまた部活じゃーい!土日しか参加しねぇけどさ•••()


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12月6日(土)前編

なんか最近自分でも驚くくらい執筆進んでおります。本免終わって更に暇ができたからですね間違いない()いやはや三月中には全部終わらせたいところだけど難しいのよね•••一日二話ペースで書けば終わるか••••••?


せっかくの土曜日も、仕事のおかげで休日間はゼロに等しかった。本来の土曜日なら、誰もが前日の金曜日に夜更かしをして、次の日に昼近くまで寝まくるものだろう。できることならそれくらいのダラダラした時間を過ごしたかったが、生憎仕事という呪いがあるもので、いつも通りの起床となった。

 

天「•••ねみぃ」

 

ベッドから身体を起こすと、まだ残っている眠気と冬の寒さが同時に襲ってきた。俺が上半身を直立させた所為で毛布が剥ぎ取られ、咲姫の身体が外気に晒された。

 

咲姫「んぅ•••」

 

天「おっと、すまん」

 

唐突に温度が低下して睡眠中でも違和感がかなりあったのだろう。眠っていても彼女は身じろぎを始めた。

すぐに毛布を掛けてやって、俺は一足先に一階に降りる。

リビングに顔を出すと、先に起きていた月が朝食を作っていた。俺に気がついた月はニッコリと笑う。

 

月「おはよーお兄ちゃん」

 

天「ん、おはよう」

 

月「•••咲姫さんは?」

 

天「まだ寝てるが」

 

月「•••うわぁ、すごいデジャブを感じた••••••」

 

月が呆れた表情を漏らす。そういえば二日くらい前にちょうど似たような事があった。あの時は学校があったからすぐに起こしにいったが、今日はそんなに急がなくてもいいだろう。

 

月「起こしてあげないの?」

 

天「お前が飯作り終えたら行く。どうせ事務所に直で行くし、ここから近いしな」

 

月「りょーかい。それじゃあささっと終わらせちゃうね」

 

天「ふわああぁ•••もう一眠りするか」

 

月「いや二度寝するくらいなら私が起こし行くまで寝てたらよかったのに」

 

天「勝手に起きてしまったんだよ、どうにもできねぇよ」

 

月「どうにも?」

 

天「とまらない?」

 

月「•••あの曲何年前のだっけ」

 

天「1972年だから•••約50年前だな•••」

 

かの有名なこの曲も後少しで50周年を迎えるのか•••時の流れってすごいな。この曲が誕生したかなり後に俺産まれたけど。

 

月「もうすぐできそうだから咲姫さん起こして来てー」

 

天「んー」

 

何とも気の抜けた返事だろうと、自分に呆れる。まだ脳が眠たいと抗議をしているのだろうか。それでも無理矢理働かせるのだけどな。やだ、俺の脳働き過ぎ•••!?

という冗談は置いといて、自室に逆戻りとなった。扉を開ければ、まだ眠っている咲姫の姿があった。相変わらずだな、と苦笑いをしながらベッドに近づく。

 

天「咲姫、起きーー」

 

咲姫「もう起きてる」

 

天「うおっ!?」

 

声を掛けようとした瞬間に、咲姫の大きい瞳が俺に向けられた。それに驚いた俺はビクッ、と身体が少し跳ね上がる。

 

天「お、起きてるなら降りてこいよ•••」

 

咲姫「ここで待ってたら、天くんが来ると思ったから」

 

何とも可愛らしい理由なこった。だがこっちからすればたまったもんじゃないから勘弁してほしいものだ。

 

天「まぁ、起きてるならいいわ。早く降りてこいよ」

 

ヒラヒラと手を振って、俺は部屋を出て行く。

 

咲姫「•••冷たい••••••」

 

ぷくっ、と咲姫が頬を膨らませて部屋のドアを恨めしく見ていた事を、俺が知る事はなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

あくび混じりにまた一階に降りて、席に着く。後から咲姫も続いて降りてきて、俺の隣に当たり前のように座る。

目の前に食べ物が乗った皿がどんどん運ばれていき、彩りが増す。

 

月「はーいどうぞどうぞー」

 

咲姫「いただきます」

 

明るい笑顔で月が食事を促した。それを素直に受け取った咲姫が、いち早く食べ始める。

 

月「•••?お兄ちゃん、食べないの?」

 

天「ん?あぁ、食べる」

 

月「何考えてたのー?まさかエロい事?」

 

天「朝からんなもん考える元気ねぇよ•••」

 

月「えぇー!?じゃあ昼と夜は考えてるんだぁー!」

 

やっべ地雷踏んだわ。完全に返答の内容が薄すぎた。これ見よがしに妹は喜んで俺を指差してゲラゲラ笑っている。バカクソウザくて殴りそう。

 

月「いったい!?」

 

というか殴った。身を乗り出して拳骨を一発ブチ込んでやる。月は痛そうに頭を手で抑え込んでいた。

 

咲姫「月ちゃん、大丈夫•••?」

 

月「結構マジで殴りましたよこの兄貴!」

 

咲姫「天くん、ダメ」

 

天「•••はぁ、悪かった」

 

月「咲姫さんがいると楽でいいなー」

 

天「うっぜぇ••••••!」

 

俺の立場が弱い事をいいことに、月は余裕の表情で俺を煽りにくる。ここまで性格悪かったっけこいつ。

 

天「•••というか、最近本当にウチに泊まることが多くなったよな、咲姫」

 

咲姫「うん。家に帰っても一人だから、それなら神山家にお邪魔する方が楽しいと思って」

 

月「咲姫さん!もうウチで暮らしませんか!?」

 

咲姫「えぇ!?で、でも•••ご飯とか全部任せちゃってるのに•••」

 

ずいっ、と咲姫の目の前にまで顔を近づけた月は彼女に提案を持ちかけた。咲姫は困惑しながらも、断る方向で話を進める。

 

月「気にしないでください!咲姫さんがここにいるだけで私もお兄ちゃんも嬉しいんですから!!」

 

咲姫「嬉しい•••?そうなの、天くん?」

 

天「ん?好きな人がずっといるのは嬉しいぞ」

 

咲姫「••••••!泊まる頻度、増やす•••!」

 

月「やったー!お兄ちゃんナイスゥ!」

 

天「•••は?」

 

朝飯を食うのに集中していた俺は、唐突な月からのサムズアップに困惑してしまう。隣の咲姫もやたらと嬉しそうに笑ってるし、あぁもうめちゃくちゃだよ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

咲姫と二人で事務所へと向かうが、チラチラと見える雪にため息が漏れる。気温自体が低いのに、雪のお陰で更に寒く感じてしまう。

チラリと咲姫に目を向けるが、彼女は平気そうな顔だった。ま、雪国出身だし耐性はいくらでもあるか。

某北欧のパツキン王女様は日本の夏が暑過ぎて毎日プールに入って凌いでいたらしいが、こいつはそんな暑い暑い喚いてなかったな。流石に北欧と日本の北側じゃ話のスケールが違うか。

 

咲姫「•••?どうかした••••••?」

 

天「ん?いや、なんでもないぞ」

 

目だけで見ていたのに、いつの間にか顔ごと動かして彼女の顔を見つめていたようだ。そりゃ何事かと思うわな。

すぐ真っ直ぐに戻したが、咲姫は首を傾げるばかりで、俺の顔を見ていた。

 

天「ちゃんと前を見ないと危ないぞ」

 

咲姫「さっきまで何を考えていたの••••••?」

 

天「そんな大した事じゃねぇよ。気にしなくていい」

 

咲姫「気になる••••••」

 

天「••••••ハハッ」

 

本当に大した事ないーーというよりどうでもいい事だ。聞くだけ無駄な事なのに彼女の好奇心の前だと関係ないようだ。

彼女らしい答えに少し笑みが零れた。

 

天「寒くても平気だな、って思っただけだ」

 

咲姫「•••それだけ••••••?」

 

天「本当にそれだけだが?」

 

咲姫「ふふっ」

 

何が面白いのかよくわからないが、くすりと咲姫が笑った。俺は訳がわからず頭を軽く掻いてしまう。

 

天「っと、もう見えてきたな。近いと楽でいいわ」

 

咲姫「もう少し手を繋いでいたかった••••••」

 

名残惜しそうにもう一度手を握りなおす咲姫。やれやれ、と苦笑しながら彼女の方に目を向ける。

 

天「帰り道も一緒なんだから、練習が終わるまでの辛抱だ」

 

咲姫「うん••••••」

 

咲姫の身体が俺に寄りかかる。嬉しいが少し動きにくいから勘弁してほしい。

その調子のまま事務所に入ると、すれ違うスタッフたちからクスクスと笑われた。少し恥ずかしくて俺はため息をつきながら軽く頭を抱えた。

咲姫はと言うと、ずっと俺にくっついたまま笑顔だった。引き剥がさないといけないのに可愛いと思ってしまったのは、完全に惚れた弱みだろう。




それじゃあ執筆に戻りますね。これもまたアイカツの一環(?)


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12月6日(土)後編

正真正銘本当に最後の部活に行ってきました!ラストはもちろん今の主将と試合!相面で取られて相面で取り返して引き分けに持ち込んでやりましたわ!あー楽しかった。向こうに移っても続けるつもりだからそっちでも楽しくやりたいなー!


仕事が終わり、俺は眠気の覚めた目で周りを見渡した。仕事部屋の中は俺以外誰一人とおらず、寂しさすら感じる程の静けさだった。

防音が完璧なのもあって、それは更に際立つ。しかも部屋の内装自体が簡素なのもあって、雰囲気は最早『それ』だ。

 

天「さて•••帰るか」

 

咲姫はこの後衣舞紀さん達と行動するらしいし、俺はこのまま直帰させて貰おう。鞄を担いで、俺は事務所を後にした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

事務所から神山家への距離はそう大してない。気軽に行き来できる程だ。仕事先が遠いというだけでやる気に関わってくるので、立地条件は最高であった。

 

天「まだ冷えるな•••」

 

まだ十二月の始めだ。それでも容赦なく襲い掛かる冷たい風に、軽く身震いをする。この調子で一月と二月を凌がなければならないのだから大変だ。

 

天「おぉ•••寒っ」

 

流石に俺の身体は咲姫みたいに耐性はついていなかったようだ。自分自身の身体を抱きながら、俺は我が家に向かって走り始めた。

 

ま、近いからすぐ着くんだけど。早く暖房に当たりたくて、俺は急いで玄関の鍵を開けて中に入る。

 

天「••••••?」

 

靴を脱ごうとしたところでふと気づく。知らない靴が四足、丁寧に揃えて置かれていた。

•••誰か来てんのか。少し警戒しながら靴を脱いでリビングの方へ向かう。

そしていつもの調子でドアを開くと、月と四人の女の子が楽しそうに会話をしていた。

 

月「あ、おかえりお兄ちゃん。早かったね」

 

?「お邪魔しています」

 

天「••••••どちら様?」

 

マジで初対面の人間だった。え、誰?一人も知らない顔で困惑してしまう。

 

月「こちら!有栖川学院のDJユニット、Lilycal Lilyの皆さんです!」

 

ババン!と豪快なSEでも流れそうな勢いで、月が彼女たちを紹介する。というか有栖川学院ってここじゃ有名なお嬢様学校じゃねぇか。どうやって知り合ったのお前。

 

?「桜田美夢です。よろしくお願いします」

 

?「春日春奈ですわ。以後お見知り置きを」

 

?「白鳥胡桃だよー。よろしくねーお兄さん!」

 

?「竹下みいこなの!よろしくなの!」

 

おおこれはまた可愛らしいメンツが揃っていることだ。というか俺の周り顔のいい女多いな。前世にどんな徳を積んだのか気になる。

 

天「んで、なんでこんなお嬢様方がここに?」

 

月「実は進学先を有栖川にしようと思っててさー。それなら現役の人に色々訊きたいから学院に凸ったわけ」

 

天「なんでそんな軽く言ってんの?アポ取れよバカか」

 

真顔で相当な事を言うものだから拍子抜けしてしまう。周りのお嬢様連中は笑ってるし恥ずかしいったらありゃしない。

 

天「それで偶然桜田さん達と知り合ったと」

 

月「そゆことそゆこと〜。美夢さんも春奈さんも優しいし、胡桃さんとみいこさんはとっても楽しい人だからねー。こんなお姉ちゃんとか欲しかったかなーなんて?」

 

天「俺を見るなよ」

 

チラリと俺を横目に見る妹。すぐに返答するが、月はニヤニヤと笑っているだけだった。

 

天「というかなんでウチにまで来るハメになってんだ」

 

月「•••••••••何でだろ?」

 

天「は?」

 

春奈「月さんが家でゆっくり話したいと言われましたので、みんなでついてきたのです」

 

そこに春日さんが代わりに説明してくれた。ものすごく丁寧な言葉遣いに感心する。

 

天「うちの妹も春日さんみたいにお淑やかだったら良かったのになぁ•••」

 

月「お兄ちゃんはその暴力的な性格どうにかしようよ」

 

天「お前と父さんくらいにしかならねぇよ」

 

美夢「二人はとても仲良しなんだね」

 

月「十年以上の付き合いですからねー!お兄ちゃんの考えている事もお見通しなんですよ!」

 

天「冗談じゃねぇのが笑えねぇな••••••」

 

実際に何か考えていたら外すことなくことごとく当ててくるのがこいつだ。そもそも兄妹だとか付き合いの長さだとかでそんな神業ができるわけがない。一種の才能だろう。

 

天「•••流石に暖房効いてる中でスーツは熱いな••••••」

 

汗が出てきそうな気さえしてきたので、俺はスーツの上着を脱いで、椅子に掛けた。

 

胡桃「わぁ!すっごく細い!」

 

天「•••そうですか?」

 

美夢「何かスポーツとかなさっていたのですか?」

 

天「特にはやってないんですけど•••トレーニングはやってます」

 

月「流れに乗っかって汚いネタを出すな」

 

チッ、バレたか。ここまで自然にできたら流石に気づかれないと思ったが考えが甘かった。

 

美夢「どういうことですか•••?」

 

天「こっちの事だから気にしなくて大丈夫です••••••えっと、桜田さん」

 

苗字が珍しいからなんだか言いづらい。というか単純に舌が回らん。

 

美夢「美夢でいいですよ。そういえば、お名前を聞いていませんでした」

 

天「おっと、失礼しました。神山天です。マネージャーの仕事をさせていただいています」

 

春奈「•••?月さん、お兄さんは高校生で間違いないですわね?」

 

月「高校一年生ですよー」

 

みいこ「えっ!?お兄さんと私たち同い年なの!?」

 

天「全員高一か•••」

 

そんな気はしていたが実際にそうだったとは。というか何に驚かれてるんだ俺は。

 

美夢「その歳でお仕事をされてるんですか?尊敬します!」

 

天「いや、そんな大した事じゃないので•••」

 

ぶっちゃけ大変だが、やりがいはあるし好きでやってる事だから苦とは思っていない。

確かに大抵の人は学業と仕事を両立していてすごい、と思うだろうが、俺からすれば当たり前の事なので本当に大した事ではないのだ。

 

月「今日はお仕事どうだった?」

 

天「いつも通りだ。普通に仕事終わらせた」

 

月「ライブの準備は?」

 

天「少しずつ進めてる。ライブするの25日だしまだ焦らなくていいしな」

 

美夢「ライブ•••音楽関係の方のマネージャーをなさっているのですか?」

 

天「はい」

 

桜田•••美夢さんからの質問に、俺は淡白に答えた。何故か知らんが月がもどかしそうな表情で俺たちを見ているのがわかる。何の用だ一体。

 

月「言わなくていいの?」

 

天「別に言うつもりはない」

 

胡桃「有名なアーティストのマネージャーやってるの!?誰誰!?」

 

白鳥さんから詰め寄られるが、俺は表情一つ変えずに押し戻した。

 

みいこ「教えてほしいの!とっても気になるの!」

 

天「ちっけぇな!?」

 

二人ともこちらに容赦なく突っ込んで顔を近づけてくる。咲姫で慣れてるから動じないが、もし以前の俺だったらどんな反応を示していたのか少し気になった。

 

春奈「二人とも離れなさい。天さんが困っているでしょう」

 

胡桃「えぇ〜いいじゃんいいんちょ〜」

 

春奈「誰がいいんちょですか!」

 

天「•••仲がよろしいようで」

 

あまり俺がいる必要もないように感じて、俺は立ち上がる。全員の視線が一斉に集まったのがわかった。

 

月「部屋に行くの?」

 

天「あぁ。俺がいても意味なさそうだしな。それにあんまり仕事の事を詮索されるのも好まん」

 

鞄とスーツの上着を持って、俺はリビングを後にする。そのまま階段を上がって自室に入る。

着替える気力もなく、俺はそのままベッドに倒れ込んでしまう。

 

天「はぁ•••初対面の人間の相手は疲れるな•••あー眠」

 

ふわああぁ、と大きな欠伸を漏らして、俺は目を閉じる。真っ暗になった目の前を、無心で見つめる。そこに明かりなんてものはなく、永遠の闇を物語っていた。

 

天「(明日は日曜か•••今日と変わらない一日になりそうだ)」

 

変わり映えしない休日に憂鬱さを感じながら、俺はそのまま眠りについた。それはあまりにも一瞬で、俺自身でさえいつ眠りについたのかわからなかった。




それでは、自分はまたもう一寝入りします。なんか、眠いっすw


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12月7日(日)前編

温泉気持ちよかったー!いやーさっぱりした!この寒い時期は温泉に限りますなぁ!まぁ湯冷めした時がかなり酷かったんですけど()


日曜日。俺は気怠さの残った身体を起こして、一階に降りた。

 

月「おはよ、早いね」

 

天「•••まだ眠いけどな。でも、これ以上寝たらマジで寝坊しそうだし•••仕方ないけど起きないといけない」

 

月「いやー大変だねー。校内ライブもあってクリスマスライブもあるし、休みはなさそうだね」

 

天「多分ねぇな。みんなには負担をかけるだろうけど、頑張ってもらわないと」

 

月「••••••相変わらず自分のことは後回しか。変わらないね。そういうところが好かれる要因なんだろうけど」

 

天「何の話だ?」

 

一人でブツブツと何かを言っているのが気味悪く感じて、俺はしかめっ面を妹に向けた。

月はいつもの表情で首を横に振る。

 

月「何でもないよ。あ、リリリリのみんな、お兄ちゃんを気に入ったみたいで度々会いに来るかもね」

 

天「は!?何で!?」

 

月「雰囲気?とか優しくていいらしいよ?見る目あるよねー。流石お嬢様ってところかな」

 

天「•••どちらかと言うと悪い方だと思うけどな俺は」

 

普段の雰囲気は最悪と自負しているはずだが、一体何処を見てその結論に至ったのか謎だ。

 

月「あんまり自分を悪く言わない方がいいよ。お兄ちゃんは優しい人って、みんなわかるもん」

 

天「•••あぁ、そう」

 

月「照れんなよー」

 

天「うるせぇ」

 

からかつてくる月に少しドスの効いた声を向けてから、俺は朝食を食べ始めた。チラリと外を見ると、わかりやすいくらいの雨が降っていて、俺はため息を吐いてしまう。傘、持っていくのダルいな•••。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

思ったよりも強い雨に、俺の気分は沈んでいた。周りを見ても傘だらけで、人の顔はよく見えない。人々の声も雨が傘にぶつかる音によって掻き消されていて、耳には雨の音しか入ってこない。

 

天「みんな大丈夫かね•••濡れてないといいが」

 

少し心配になるが、彼女たちはまだ成人はしていなくても小さい子供というわけではない。傘さして雨凌ぐだけの簡単なお仕事だ。できない方が逆におかしい。

ましてや高校生だ。それくらい考えられないと少し困る。

 

事務所に到着して、傘をバサバサと開いて閉じての行為を繰り返して雨を飛ばす。

気前よく置いている傘立てに傘をブッ刺して、俺は仕事部屋へと向かった。肩とかは濡れてなくて少し安心だ。その代わりカバンに少なからず被害を受けてしまったが。

 

天「よいしょっと」

 

カバンをテーブルの上に置いて、俺は身体を思いっきり伸ばす。自然と声が漏れて、脱力した腕が腰を思いっきり叩く。

バチン!と小気味よい音を響かせる。少しスッキリ。

 

乙和「天く〜ん•••」

 

天「乙和さんーーってなんで濡れてるんですか•••」

 

振り向くと髪どころか服全体を水浸しにした乙和さんが、今にも泣きそうな顔で俺の方にとぼとぼと歩いてきた。

 

乙和「こっちに来てる途中に急に降り込んできちゃった!!」

 

天「あ•••なるほど」

 

俺は家と事務所が近いからいいけど乙和さんは普通に距離がある。そりゃ途中に雨が当たってもおかしくはないだろう。

実際雨が降ってるのを確認したのが俺が起きて一階に降りた頃だ。そのくらいの時間なら乙和さんはもう家を出ているだろう。

 

天「とりあえずこっち来てください。タオルありますから」

 

乙和「はーい」

 

素直にこちらによってきた乙和さんの頭にタオルを擦り付ける。髪がかなり水を吸っていたのか、タオルがすぐに染み付いた。

 

天「結構濡れてますね•••それに服も」

 

乙和「肌にくっついて気持ち悪いよー!」

 

天「はいはいどうせ後でレッスン着に着替えるんだからいいでしょう」

 

不満タラタラなご様子だが、ちゃんと天気予報を見ていない乙和さんが悪い。微笑みながら髪を拭いていると、なんだか乙和さんがいつもより子供に見えた。

 

乙和「なんか月ちゃんを見るような目になってる」

 

天「こうしてると妹の髪を拭いてる気分になりますので」

 

頬を膨らませて乙和さんが怒ったのがなんとなくだがわかった。身長が低いので少し見えづらい。

 

衣舞紀「乙和ー?そこにいるの?」

 

乙和「いるよー」

 

乙和さんが来ないのが心配になったのだろう。俺の仕事部屋に衣舞紀さんが声をかけにやってきた。

 

衣舞紀「あ、天。拭いてくれてたの?ありがとう」

 

天「これくらい大丈夫ですよ。後は衣舞紀さんに任せていいですか?流石に女性の服までは相手できませんので」

 

乙和さんの頭にタオルを被せたまま、身柄を衣舞紀さんに引き渡す。そのまま二人で出て行ったのを見送ってから、俺は椅子に座る。

 

天「期待を裏切らないなぁ乙和さんは」

 

最早笑いすらこみ上げてくるレベルだ。それ程に彼女らしさが際立っている。

 

天「まぁ、それが咲姫じゃないのがちょっと救いだな」

 

乙和さんの事を「そういう目」で見てないので冷静に対応できたが、もしそれが咲姫だったらどうだろうか。

可愛い大好きな恋人が髪も服も濡らしてこちらに助けを求めるのだ。男としてはドキドキの連続だろう。少なくとも俺は耐えられるか少しわかりかねる。

 

天「ま、いいや。仕事しよ」

 

一先ず自分のやるべき事を終わらせようと、俺はパソコンと手帳を取り出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

作業もだいぶ進んで、一度休憩に入った。椅子の背もたれに体重を預けて、ふぅ、と息を吐く。

 

天「この調子なら後一時間もせずに終わりそうだな。•••あっちの方はどうなっているだろうか」

 

少しだけ彼女たちの様子が気になったので、俺は立ち上がって仕事部屋を出た。軽い足取りでレッスン部屋まで赴き、扉を開ける。

•••ラッキーだ。ちょうど休憩に入ってたらしい。

 

咲姫「天くん••••••」

 

天「俺も休憩だから来た」

 

流石にあそこでボッチライフをするのは堪えるので、とりあえずここに来たわけだが•••みんな汗まみれだな。かなりキツい事をしてるのだろう。メニュー組んでるの俺だけど()

 

乙和「さっきはありがとねー天くん」

 

天「次からはちゃんと天気予報見てから家出てくださいね?」

 

乙和「はーい!」

 

元気に返事をしているが、次もやらかすのが目に見えてるんだよな。たかが雨に濡れるくらいだからいいけどさ。

 

ノア「相変わらず乙和はおバカなんだから」

 

乙和「なっ!?お、おバカじゃないよ!」

 

天「天気予報の確認忘れるなんて小学生レベルですよ」

 

乙和「むむむ〜!」

 

ノア「天くんには言い返せないもんねー乙和は」

 

乙和「うるさいうるさい!」

 

ここぞとばかりにノアさんに煽られる乙和さん。真っ向から受け止めてプンスコ怒っているが、大人なら簡単に躱してしまうだろう。本当に高二かこの人•••。

 

天「•••んで、しれっと隣にいるんだよなこいつは••••••」

 

知らん間に俺の隣に咲姫が座っている事に気がつく。クノイチかこいつは•••マジで気配とか分からなかったぞ。

 

咲姫「•••••••••」

 

衣舞紀「咲姫?」

 

咲姫からの応答がなく、俺たちは首を傾げる。チラリと横目に見てみると、彼女が目を閉じているのがわかった。

 

天「•••疲れてるみたいですね。少しだけ寝かせますか」

 

肩に寄りかかっていた彼女の身体を支えて、頭を俺の膝の上に置く。

 

ノア「天くんの膝枕っ!?」

 

天「咲姫が起きますよ」

 

人差し指を唇の前に持っていって、「静かにしろ」というジェスチャーをノアさんに送る。

彼女はすぐにハッとなって口を手で覆った。

 

衣舞紀「手慣れてるわね」

 

天「月が小学生だった頃はよくこうしてましたから」

 

やたら俺に絡んで遊び疲れて寝るのは、妹が小学生だった時はいつもの事だった。今は流石に俺の膝で寝ることはないが、少し寂しかったりする。

 

天「ただ•••寝心地は最悪と思いますがね。硬いですし」

 

咲姫の頭を撫でながら、俺は苦笑する。

筋肉の塊と化している太ももを枕がわりにしているのだ。首が痛くなったり、痕を残しそうな気がする。

 

衣舞紀「でも咲姫の顔、すごく安心してる」

 

天「そうですか?」

 

こちらからは表情がよく見えないので確認していないが、どうやら三人から見た咲姫はちゃんと寝ているようだった。

 

天「とりあえず後少ししたら起こします」

 

乙和「りょーかーい。あ、そうだ!この後さ、みんなでご飯食べに行こうよ!」

 

衣舞紀「いいわね。行きましょう」

 

天「••••••後で月に連絡しておきます」

 

ノア「月ちゃんも一緒にどうかな?」

 

天「一応誘ってみます。九分九厘来ると思いますがね」

 

乙和「それじゃあお昼はみんなでご飯だー!」

 

テンションの上がった乙和さんが立ち上がる。あ•••あんまり騒ぐと••••••。

 

咲姫「ん、んぅ•••?」

 

天「やっぱり•••」

 

騒がしさに反応して、咲姫が目を覚ましてしまった。パチパチと何度も瞬きを繰り返して、こちらに振り返った。

 

咲姫「私•••寝てた••••••?」

 

天「あぁ。そりゃもうぐっすりな」

 

咲姫「もう少し寝たい••••••」

 

天「もうすぐ休憩も終わるしダメだ。後は家に帰ってから寝なさい」

 

咲姫「••••••うん」

 

不満を残した様子の咲姫は渋々と頷いて俺の太ももから頭を離した。

 

天「それじゃ•••っと、俺も仕事に戻ります。昼の場所は自由にどうぞ。特にこだわりもありませんので」

 

それだけ言って、俺はレッスン部屋を後にした。歩きながら携帯を取り出して、月に電話をかける。

 

天「もしもし?今日の昼だが、Photon Maidenのみんなと飯食いにいかないか?」

 

月「え?行く行く!やったー!楽しみだー!」

 

天「乙和さんと反応そっくりだなおい•••」

 

似た者同士なのかはわからないが、妹が喜んでいるようなのでいいだろう。時間だけ伝えて、俺は通話を切って携帯をしまった。




さーて明日も執筆執筆ぅ!


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12月7日(日)後編

眠い眠い眠い!今日は一日中眠かった!この後晩飯食ってさっさと寝る!


レッスンが終わった後に、俺は彼女達が着替えてる間に先に事務所の外に出ていた。これくらいの時間なら、そろそろ月が来ていてもおかしくはないだろう。

 

月「あ、お兄ちゃんみーっけ!」

 

しっかりと待機していた妹は、俺の姿を見つけて駆け込んで来た。俺の目の前まで来ると、すぐに隣に移動して立ち止まる。

 

月「他のみんなは?」

 

天「まだ着替えたりとか色々やること残してる。とりあえず待つぞ」

 

月「着替え覗かなくていいのかー?」

 

月がニヤニヤとしながら、こちらに顔を向ける。つい大きなため息が漏れてしまった。

 

天「あのなぁ•••そんな事したところで大したメリットもないだろ。どちらかというとデメリットの方が多いわ」

 

月「例えば?」

 

天「Photon Maiden全員に嫌われる、最悪警察沙汰、咲姫から幻滅される、仕事がなくなる••••••」

 

月「もういい!もういいから!!私が悪かったから!!」

 

次々と現実的な要素をあげ続けると、妹は必死そうに俺に喰らいついてくる。

 

天「冗談でもそういう事を言うのはやめろよ•••?マジでシャレにならないから」

 

Photon Maidenは着々と名のあるユニットへと向かっている。そんな時に問題事なんて起こせば、その人気は一気に地へと落ちるだろう。

最初からそうだが、油断なんて一切できないし俺もマネージャーとして正しく生きないといけない。

 

天「そう考えると、俺の仕事って本当に自由が効かないな••••••」

 

メンバーの尻拭いなんて当たり前だし、俺自身の失敗なんて以ての外だ。本当に不便な立ち位置である。

 

月「何か言った?」

 

天「いや、なんでもねぇ」

 

月に聞かれてなかったようなので、すぐに誤魔化した。

そういえば行き先を決めていなかったな。月に目を向けて口を開く。

 

天「月、お前昼飯何か食べたいものあるか?」

 

月「え?••••••そうだねぇ。ハンバーガー!」

 

ほんの少しだけ悩んだ後に出た答えは、月らしからぬ食べ物だった。え、こいつハンバーガーとか食うのか••••••。

 

月「••••••何その顔」

 

天「いや、なんか意外だな、と思って••••••」

 

月「私だってたまにはハンバーガーくらい食べたくなるよ!何せ何年も食べてないんだから!」

 

そういやそうだったな•••。外食を基本しないからどうしてもジャンクフードは食卓に出てこない。

 

天「とりあえずみんなに話してはみるわ」

 

月「りょーかーい。ちゃんと頼むよお兄ちゃん!」

 

バンッ!と勢いよく月が俺の背中を叩いた。いきなりやめろよ、と口に出そうとした瞬間ーー、

 

天「ーーッ!ぬぅ•••!ぐぅ••••••!」

 

突然感覚が気持ち悪くなって、事務所の壁に身体を預けてしまう。

息が苦しい、身体が暑い••••••。まさかまた「これ」と再会するとは思わなかった。

 

月「ちょっ、お兄ちゃん大丈夫!?」

 

天「あ、あぁ••••••大丈夫だ」

 

なんとか落ち着かせて、俺は体勢を立て直す。

 

天「どうして急にまた••••••」

 

月「なんでだろう••••••何かした?」

 

天「いや特には••••••」

 

心当たりが全くないので、俺も月も首を傾げるばかりであった。

追々調査していけばいいから今は飯の事だけを考えよう。その方が精神的に楽だった。

 

衣舞紀「お待たせー」

 

そうこうしている間に、着替えが終わったPhoton Maidenの面々が現れた。

 

天「乙和さん、服はいいんですか?」

 

乙和さんの服装は、朝雨に濡れたものと同じだった。彼女は笑顔で頷く。

 

乙和「うん!練習中に洗濯してもらったんだー」

 

天「あぁ、なるほど」

 

数時間も有れば乾燥機とかも込み込みで十分間に合うだろう。それならいいんだ、それなら。

 

ノア「雨、止んでるね」

 

激しく降っていたはずの雨は、いつの間にか収まって太陽が元気よく照らしていた。

 

天「一々傘をささなくていいので楽になりましたね」

 

月「ちょっとお兄ちゃん、本題」

 

グイッ、とスーツの裾を引っ張った月がジトーっとこちらを見ていた。

俺は苦笑しながら、彼女たちに顔を向ける。

 

天「昼食の件ですが、月からの要望でハンバーガーを食べたいと。大丈夫ですか?」

 

全員が頷いたのを確認して、月に近辺にハンバーガー屋がないか探させた。

 

月「あっ、ちょうど近くにマ◯クがありますよ。行きましょう!」

 

天「はいはい••••••」

 

月が一番乗りに歩き始める。そこをついて行こうとしたところで、誰かに手を握られた。

 

咲姫「•••••••••」

 

振り返ると、咲姫が何か物欲しそうな目で俺を見ていた。

なんとなく察した俺は、手を握り返す。

 

天「行こうか」

 

咲姫「•••うんっ」

 

乙和「咲姫ちゃんばっかりズルいぞー!」

 

天「えっ、ちょっと乙和さん!?」

 

後ろから乙和さんが突撃したかと思えば、俺の反対の手を握った。

 

月「乙和さん!?そこ私の定位置なんですけど!?」

 

乙和「私が先に貰っちゃったもんねー!」

 

咲姫「•••大丈夫••••••?」

 

天「ん?大丈夫だ。何というか、こういうのも悪くないと思ってる」

 

決して右手に咲姫、左手に乙和さんの両手に花状態の事を言ってるわけでは断じてない。

このいつも通りの光景が悪くないという意味だ。

 

衣舞紀「もう、遊んでないで行くよ?」

 

ノア「いいな•••私も天くんと手を繋ぎたかった••••••」

 

天「••••••••••••」

 

•••ノアさんだけは今後距離を置こうかな、と少し本気で考えてしまった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

月「うんまっ!」

 

マ◯クの店内で、月はお構いなしに大声を上げた。数年ぶりに食べるハンバーガーに感動したのだろう。

 

天「美味いのは結構だが、あんまり騒ぎすぎるなよ?他の人たちに迷惑だから」

 

月「わかってるよー!んー、美味しい•••!」

 

衣舞紀「こんなに喜んでくれるなら、来た甲斐があったわね」

 

咲姫「月ちゃん、嬉しそう••••••」

 

周りも月の笑顔に癒されているようで安心した。が、少し嫌な予感を感じてノアさんの方に目を向ける。

 

ノア「はぁ〜•••口元汚しながらハンバーガーを頬張る月ちゃん••••••!天使••••••!」

 

月の姿をバッチリ写真に収めてやがった。やはりブレないなこの人は。

 

天「月」

 

月「ん?んぅっ」

 

ティッシュで妹の口を拭く。

 

天「ちゃんと綺麗に食べろよ?」

 

月「は〜い」

 

•••なんというか、小さい子供を相手にしている気分だ••••••。つーかこいつこんなに口元汚してたっけ?単純に食い慣れてないだけと思いたいが。

 

咲姫「•••••••••」

 

天「あれ!?お前も!?」

 

咲姫の方を見ると、彼女も口元をソース塗れにしていた。急いでティッシュを取り出して拭き始める。

 

衣舞紀「(天に構って貰いたくてわざと汚したわね••••••)」

 

ノア「咲姫ちゃんカワイイ••••••!」

 

天「よし、終わったぞ」

 

咲姫「ありがとう、天くん」

 

天「全く子供だな••••••」

 

微笑みながら、咲姫がハンバーガーを小さな口で頬張る姿を眺める。

あまり多く齧りとる事ができず、それでもモゴモゴと必死に咀嚼してる姿が可愛らしい。

パシャッ。

 

天「ん?」

 

突然のシャッター音に気が回り、音の方向へ目を向ける。そこには俺にスマホを向けたノアさんの姿があった。

 

天「••••••撮ったんですか」

 

ノア「天くんの表情が良かったからつい。ごめんなさい」

 

天「•••どんな顔だったんですか?」

 

ノア「とても優しい顔。咲姫ちゃんの事が本当に大事なんだね」

 

天「•••当たり前じゃないですか、恋人なんですから」

 

ノア「うんうん、そうやって照れる天くんも本当にカワイイ!」

 

つい頬が赤くなってしまったが、ノアさんはそんなところを見逃すほど腑抜けではなかった。

 

天「なぁ、月。あの子たちが言ってたのは、こういう事なのか?」

 

月「あぁ、あの事?多分そうじゃないかな」

 

朝の一件を思い出して月に問いを投げかけると、すぐに察して答えを返してきた。

あのお嬢様たちからすれば、俺はそういう人間として認知されたのだろうか。

まぁでも、今後も絡む可能性があるだろうし邪険にはしないように努めよう。




眠すぎて何も言う事がないですw明日もちゃんと投稿するヨ。


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12月8日(月)前編

最近執筆が進まなくてガチで焦っている人ですどうも。なんかねーネタがない。引退迫ってるから必死に進めてるけどどうにもねぇ•••。なんかネタくださいお願いします。


月「•••••••••朝だよ?」

 

天「わかってる」

 

朝っぱらから月にジト目で見られてしまう。それに対して俺は無表情を返すが。

 

月「•••それで、この状況は?」

 

妹がため息を吐きながら俺の机を見下ろす。

水性のインクがベチャベチャに撒かれていた。俺はあっ、と声を漏らす。

 

天「前使ってた万年筆からインクが出たから使えるかなーと思って試したらこうなった」

 

月「好奇心でやる事じゃないよね!?おかげで机真っ黒だよ!!」

 

バンッ!と机を思いっきり叩いて月が叫んだ。うん、すまん。マジですまんかった。

 

天「掃除は俺がしておくから一階に降りとけよ」

 

月「いや信用できないんですけど•••?掃除してた試しがないんですけど•••?」

 

天「うっせぇうっせぇうっせぇわ」

 

月「はいはい流行りに乗らなくていいからー」

 

おちゃらけてみたものの冷静に流されてしまった。ちくしょうめ。

またも大きなため息を吐いた月は、濡らした雑巾を持って机を拭き始めた。

 

月「私がやっておくからご飯出しといて」

 

天「アッハイ」

 

有無を言わせぬ圧を感じて、俺は素直に頷いた。

いつもの足取りで一階に降りて、テーブルの上にご飯を置いていく。

 

月「はぁーもう•••壊れたものをどうして使おうと思うかなー••••••」

 

愚痴を零しながら月が階段を降りてきた。俺は先に席に着いて、妹が向かいに座るのを待つ。

ゴミ箱に雑巾をブチ込んだ後に、向かいではなく隣に座った。

 

天「は?」

 

月「え?」

 

何故か定位置に来なかったので、俺は驚きながら月に目を向ける。が、逆に月からすれば普通の事なのか、俺が驚いた目を向けられた。

 

天「え?いやだってお前•••いつも向こうじゃん」

 

月「たまにはいいでしょたまには!細かいなぁお兄ちゃんは」

 

そしてそのまま何事もなかったかのように食事を始めてしまった。

えぇ•••ちょっとこれどうすりゃいいの?ねぇ?

 

月「今日はお仕事どれくらいかかりそう?」

 

天「•••いつも通りだが••••••」

 

月「わかった。じゃあいつも通りご飯の準備しておくから予定立てないでね」

 

天「••••••わかった」

 

月「お味噌汁まだ飲む?」

 

天「えっ?あっ、あぁ•••頼む••••••」

 

味噌汁が入っていた碗を月が持っていく。

••••••おかしい。絶対月じゃないだろ。月の皮被った常識人だよ••••••!

いや普段のあいつなら「お兄ちゃん次咲姫さんといつセックスするのー?」とかニヤニヤしながら訊いてくるに決まっている。

なのになんだ今のあいつは!?すげぇ普通じゃん!怖!!

 

月「はい、お味噌汁」

 

天「あぁ•••ありがとう••••••」

 

違和感しかない今の妹の態度は不思議で仕方なかった。ぎこちない動作で碗を受け取る。

 

天「(えっ!?何なの•••!?もしかして彼氏できたとかか••••••!?)」

 

ここまでの劇的な変わりよう。好きな男でもできたのだろうか。だからいつものおふざけは無しにして気遣えるいい女になろうとしているのか••••••!?

 

天「(だとしたらすっげぇ嬉しい••••••!俺の事ギャーギャー言ってたけど、こいつもこいつで男できる兆しがまっっったくなかったからな。どんなヤツだ?楽しみだ)」

 

月「•••どうしたの?ニコニコして」

 

天「何でもない」

 

どうやら顔に出ていたようだが、この際隠さなくてもいいだろう。気分のいいまま食事を終えて、俺はすぐに家を出る準備を整えた。

 

天「んじゃ、行ってくるわ」

 

月「行ってらっしゃい。気をつけてね」

 

月に見送られながら、俺の気分はずっと上々だった。どこか浮ついた気分で学園へと向かって歩き続ける。

 

天「いやー•••まさか月がねぇ••••••」

 

妹に彼氏ができた事があまりにも嬉しくて、ついニヤついてしまう。いかんいかん。周りに人がいるんだからちゃんとしないと。

 

天「•••••••••ははっ」

 

それでもやっぱり笑みは止まらない。多分今まで生きてきて過去上位に君臨するほどに歓喜してしまっているだろう。

これで神山家も安泰だな、と俺は心底安心した様子で歩を進めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

焼野原「なんかやけに嬉しそうだな、何かいいことでもあった?」

 

天「そんなとこ」

 

学校に着いて、顔見知りしかいないのを良い事に俺は笑顔を全く隠さずにひけらかす。

 

焼野原「もしかして出雲さんと何かあったの?」

 

天「いや、今回は咲姫は関係ないんだ。でも、咲姫と付き合った時とかと同じくらい嬉しい事だ」

 

焼野原「•••••••••もしかして出雲さんが妊娠!?」

 

咲姫「えぇ!?」

 

天「今さっき咲姫は関係ないっつったばかりだろ!?というかまだ学生なのにそんなことしねぇよ!!」

 

教室中に響き渡る声で俺と焼野原くんが応酬を続ける。というか今ので焼野原くんは女子連中に完全に嫌われたな••••••。すっげぇ冷たい目してる。怖ぇ。

 

焼野原「じゃ、じゃあ何なんだよ••••••!?お前が出雲さん関係以外で嬉しそうにしてたことねぇじゃん!」

 

天「実はな••••••!妹に彼氏ができたかもしれん!!」

 

焼野原「••••••••••••は?」

 

真剣な面持ちで彼に目を向けるが、逆に焼野原くんは白けた顔になる。

 

焼野原「••••••え?そんな事?」

 

天「そんな事とはなんだ!?あの妹に!ついに!彼氏ができたんだぞ!?家族としてこれ程嬉しい事はねぇって!」

 

焼野原「•••え、お前まさかシスコン?」

 

天「は?家族の幸せ喜んでるだけでなんでシスコン扱いされんの?殺すぞ?というか殺す」

 

焼野原「すんませんすんません•••!」

 

結構ガチ目に殺意を向けると焼野原くんは平謝りを繰り返した。

 

咲姫「月ちゃん、恋人ができたの••••••?」

 

天「あぁ、多分だけどな。朝からなんかエラいあいつらしくなくてな••••••」

 

会話に混ざってきた咲姫に朝の出来事を事細かに話す。

月の事をよく知る彼女は不思議そうに首を傾げた。

 

咲姫「確かに月ちゃんらしくないかも••••••」

 

天「だろ?」

 

咲姫「でも彼氏ができただけでこんなに変わるとは思えない••••••」

 

天「••••••まぁそうかもな」

 

あのブレという事を知らないような御転婆が、あんな180度性格方向転換をするとは考えにくい。

 

天「どうにかして探りたいが••••••」

 

咲姫「素直に訊いてみるのは?」

 

天「え?答える?あいつ?」

 

なんというか•••今のあいつじゃ答えてくれる気があまりしない。

というかあんまり相手したくない()ノアさんに似た怖い何かを感じる。

 

焼野原「そんなに壊れてんの?お前の妹」

 

天「••••••普段からは想像できないレベル」

 

焼野原「えぇ•••というか普段はどんな事言ってるんだ?」

 

天「えっとな••••••下ネタは当たり前だしやたら俺と咲姫の関係訊いてくるし、プライベートなんてあってないようなもんだな」

 

焼野原「いやメチャクチャだなお前の妹••••••」

 

天「なんでこんな風に育ったんだろうな?」

 

俺は苦笑しながら首を傾げる。まぁ大部分は父親に似たのと甘やかし過ぎたのが原因だろう。

それに加担してた俺も同罪だ。

 

天「•••でもあいつらしくねぇと逆に調子狂うからな••••••。とりあえずどうにかするつもりだが」

 

咲姫「私も手伝う••••••」

 

妹と仲の良い咲姫がいるなら多少は楽になりそうだ。

とりあえず学校と仕事が終わったら咲姫を連れて家に帰ることにしよう。その時に月に話を訊けばいい。

 

咲姫「あっ••••••お泊まりする道具持って行かないと••••••」

 

天「•••うん、こいつはやっぱりいつも通りだな」

 

相変わらずの咲姫の姿に、最早笑いすら込み上げた。こいつもこいつで本当にブレないな••••••。




あーあったまいてぇ。寝るかな。明日もキッチリ投稿するんでよろしくお願いしまーす。後僕結婚します


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12月8日(月)後編

まず一つ謝罪をさせてください。この度は紛らわしい発言で一定数の方に嘘をつく形になってしまったことをここにお詫び申し上げます。先日の結婚するという話は、数日前にTwitterでとある方とおふざけの領域で話を進めたに過ぎないのです。ですので、結婚するなんていうのは真っ赤な嘘であり、ただの自分のクソみたいなノリで生まれた話に過ぎません。誠に申し訳ありませんでした。


学園、仕事共に終了し、俺と咲姫は家に向かって歩いていた。

12月の夜は冷たく、冷たい空気が辺りを包んでいた。雪こそ降っていないが、油断しているとすぐに空から舞ってきそうだ。

 

天「さて•••どうしてるかあいつは」

 

咲姫「もうご飯を作って待っていると思う••••••」

 

天「いやそれはそうなんだが••••••」

 

違う、そうじゃない、という言葉が頭に流れ込んできた。

あの妹が彼氏できた説が浮上している今、あいつがどんな行動を起こすか心配でならない。

唐突に家に連れてくるとかやめろよ•••?その時は部屋にこもらないといけないからだ。

 

ドキドキしながら家に入る。

いつもなら月が元気に声をかけてくれるのだが、今回は静かだった。

 

天「•••あいつ生きてる?」

 

咲姫「死んでは無いと思う••••••」

 

まぁそんな簡単にくたばるタマでもないだろう。リビングに顔を出すと、先にテーブルの前に座って待っている月の姿があった。

 

月「あ、おかえりお兄ちゃん、咲姫さん」

 

天「ただいま••••••」

 

咲姫「お、お邪魔します••••••」

 

あまりにも静かで冷静な態度に、俺と咲姫は困惑を隠しきれなかった。

鞄を置いて、恐る恐る椅子に座る。どことなく月の雰囲気に違和感が生じた。

 

月「今日もお疲れ様。お風呂も沸いてるから、ご飯食べたら入っちゃって」

 

天「あ、あぁ•••わかった」

 

これも違和感。いつもならもっと気怠げに言うはずなのだが、今の言葉遣いはやたらとしっかりしていた。

 

天「なぁ、月」

 

月「ん?何?」

 

このままだと埒があかないと考えた俺は、ストレートに訊く事にする。目の前に小柄な少女を、真剣な顔で窺う。

 

天「お前、何かあった•••?」

 

月「何かって••••••?特に何もないよ?」

 

天「いやだってお前•••なんか朝からいつもと違うというか••••••」

 

月「あぁ、その事?」

 

月は思い出したかのように笑った。は?どういう事だ?

 

月「いやねー有栖川学院に進学するわけだからさ、もうちょっとこう、お嬢様?というかデキる女?てして振る舞いたかったというか••••••」

 

天「は、はぁ•••?」

 

月「流石にお嬢様相手にいつもみたいに騒ぐのははしたないかなーと思ってね。だから今日は大人しく過ごしたつもりだったんだけど••••••どうだった?」

 

俺がカオナシみたいに短く声を何度も漏らす中、月は出れるように笑った。

 

天「な、なんだよそれ••••••!お前に彼氏できたーとか騒いでた俺がバカみてぇじゃねぇか••••••!!」

 

月「えっ!?彼氏!?もうお兄ちゃん何言ってるの••••••私に釣り合う男なんて超有名俳優くらいにならないとダメだよ?」

 

天「いつも通りに戻ったけどウゼぇ!!」

 

いつもの妹に戻って嬉しいはずなのに嬉しくないこのもどかしさよ。普段が普段な所為だ完全に。

 

咲姫「月ちゃん、有栖川学院に行くんだね••••••」

 

月「そうなんですよー!これで私もお嬢様の仲間入りって言うか?もう超周りの連中見下せますよー!」

 

天「思考が最低過ぎる••••••」

 

優越感に浸る為だけにお嬢様学校に進学するのかお前は••••••。そんなつまんねぇ理由で行くのだけはやめとけマジで。

 

月「それに現役お嬢様と友達になりましたので!」

 

咲姫「そうなんだ。すごい••••••」

 

天「あの四人か••••••」

 

そういやウチに来てたなー•••確か土曜日だっけ?覚えてねぇや。

 

月「ただ、その人達DJユニットを組んでるらしいので、いずれは咲姫さんとも知り合う日が来るんじゃないですか?」

 

咲姫「そうなの••••••?天くんはもうその人達と会った?」

 

天「あぁ。多分顔も覚えられてると思う。咲姫たちの事は話してないが、一応音楽関係のマネージャーとして通ってる」

 

月「素直に言えばいいのにねー?『俺があのPhoton Maidenのマネージャーだ。敬え!(低音)』とか?」

 

全く似てない俺のモノマネをしてから、どう?どう?と言いたげなドヤ顔を向けてくる。

 

天「なんで自慢してんだよ••••••普通にドン引きされるオチじゃねぇか」

 

月「まぁぶっちゃけ言っても言わなくてもあんまり変わらないけどね。グ◯ッたらお兄ちゃん出てくるし」

 

天「は!?」

 

予想外の展開に、俺は素っ頓狂な声を上げた。隣にいた咲姫も驚いた顔をしている。

 

月「元々お母さんが界隈の有名人だからさ、その息子ってだけでも十分名は広まってたよ?それに加えて成果も上げてたし、男なのに顔女っぽいからなんだかんだファンもいるよ」

 

天「う、嘘だろ••••••?」

 

俺、ネットで検索したら出てくるレベルには有名人だったのか••••••。これには驚きを隠せない。

 

月「それにPhoton Maidenもしっかりありますよー。ウ◯キまでしっかり!」

 

天「ほぉ、もうウ◯キとかできたのか」

 

月「お兄ちゃんに関してはウ◯キどころか非公式ファンサイトのページまで出てきたけどねwww」

 

天「なんで???」

 

ゲラゲラと月が笑いながらスマホを見せてくる。

いやガチぢゃん••••••。というか俺と咲姫が二人っきりで過ごしてる写真出回ってるし••••••。いつの間に撮られた?

 

月「いやーでも平和なファンばかりだね。彼女がいても一切叩いてないし」

 

天「過激派がいたらそれはそれで困るけどな••••••」

 

ていうかもう俺の話やめない?さっきから知らなかった事実がどんどん浮き彫りになって困惑しっぱなしなんだけど。

 

気がついたら飯を食べ終えてた程に、話に夢中になってしまっていたようだ。

洗い物はいつものように月に任せて、俺と咲姫は風呂に入っていた。

 

天「俺、いつの間にあんなに有名になったんだ••••••」

 

咲姫「人気者だった••••••」

 

ちゃぷ、と小さな水面の揺れを発しながら、咲姫は俺の胸に後頭部を預ける。

 

天「できることなら俺じゃなくてPhoton Maidenがどんどん有名になって欲しいものだがな」

 

咲姫「ううん、天くんがよく知られてる人だったからここまで早く上り詰めたと思う••••••」

 

天「•••そういうもんか?」

 

咲姫「うん、きっとそう••••••」

 

断言はしなかったが、ほとんどはそういうことなのだろう。が、咲姫の話はここで終わりではなく、また再度口を開いた。

 

咲姫「それに•••所属事務所がウチの事務所だった••••••」

 

少し嬉しそうな顔で、でもどこか照れた様子で、ちょっと小さな声で呟いた。

 

天「そういえば言ってなかったな。今はここにいるってこと」

 

別に言う必要もないだろうと思って言わなかったが、まさかウ◯キに書かれているとは思わなかった。多分事務所側が先に言ってしまっているから知られたのだろう。

 

天「本当は事務所所属なんてするつもりはなかったんだけどな••••••でも咲姫やPhoton Maidenを引っ張っていくって事を考えたら•••な」

 

ずっと続けていく為に仕方のなかった事だ。だがそれでもちゃんと得るものがあるから、俺は後悔していない。

 

天「それにずっと咲姫といたかったってのもある」

 

咲姫「えっ!?」

 

咲姫が驚いたような声を上げる。

私情は挟まないつもりだったのだが、結果的にこうなった、と言う方が正しいのだろうか。

 

天「咲姫と付き合い始めた事をプロデューサーに報告したんだ。その時に事務所所属の話を持ちかけられてな。その時にOKを出したんだ。なんというか、外堀は完全に埋められてたな」

 

実際メンバーと一定の関係ができてからの提案だったので、断りにくいというのもあった。

更に加えて咲姫と交際を始めたというのが決定打になったのだろう。

 

咲姫「でも、天くんがいたから私たちはここまで来ることができた。天くんじゃないとダメだった」

 

天「••••••だから買い被り過ぎだっての」

 

細い彼女の身体を抱き寄せる。柔らかくて、まるで餅を触っているような気分になった。

 

咲姫「•••大好き」

 

天「ん、俺もだ」

 

そして二人で小さく笑いながら、また談笑を続けるのだった。




明日も投稿します!さぁーて明日も執筆執筆ぅ!•••今後はここでの不用意な発言は控えておこう••••••。


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12月9日(火)

うーんやばい。今日の分の執筆をひとっつもやってないです()これじゃあ気持ちよく引退ができないじゃないか!早く!早く書かないと!


朝は俺と咲姫の二人で仲良く登校し、いつもの足取りで教室に入った。

••••••なんかやたらと視線が集まっているが、何かあったのか?

 

咲姫「•••••••••?」

 

わけがわからない様子で咲姫も首を傾げていた。俺も何が何だかさっぱりだ。

そこに女子生徒がソワソワした様子で口を開く。

 

女子生徒A「明日、Photon Maidenがウチでライブするんだよね?」

 

天「そういや明日だったな忘れてたわ」

 

女子生徒A「なんで当事者が忘れてるの!?」

 

だって基本的にクリスマスライブの方にしか目向けてないんだもん()そりゃ忘れるわ。

咲姫もあまり覚えてなかったようで、クラスメイトに言われてようやく思い出したようだ。

 

咲姫「そういえばそうだった••••••」

 

女子生徒A「出雲さんも!?楽観的過ぎるよ••••••」

 

天「あーでもそういや準備とかは一応してたな••••••」

 

意識して無さすぎて完全に忘れてしまってるんだよな••••••。

 

りんく「咲姫ちゃん咲姫ちゃん咲姫ちゃーーんっ!!」

 

天「おっと」

 

後ろからりんくが猛ダッシュでこちらに向かってくる。ブレーキも間に合わずに、俺の背中に思いっきりぶつかってしまった。

 

りんく「いたたたた••••••」

 

天「大丈夫かお前•••怪我は?」

 

りんく「えへへ〜•••大丈夫だよ!」

 

力なく笑いながら差し出した手を取って立ち上がるりんく。

 

りんく「ねぇねぇ咲姫ちゃん!明日ここでライブするんだよね!?見に行ってもいいかな!?」

 

咲姫「はい。もちろん」

 

りんく「Photon Maidenのライブ見るの楽しみだったんだー!天くんも出るの!?」

 

天「俺はマネージャーだぞ?裏方が出てどうするんだよ」

 

りんくの事だから悪意のない質問なのだろうが、流石に俺が出たところで誰も喜ばないだろう。

 

天「そういやりんくのユニットも明日じゃなかったか?」

 

りんく「あっ!そうだった!それにピキピキも出るんだよ!天くんはもうピキピキのみんなとは会った?」

 

天「いや、会ってない。相手の名前とかは知ってるが••••••」

 

りんく「それじゃあ明日の為に顔合わせをしておこうよ!」

 

天「••••••面倒だからパスしていい?」

 

どうせ話すことも何もないんだし••••••ピキピキにはしのぶがいるが、それだけだ。そいつ以外は完全に初対面の他人だ。

くいっ、と咲姫が俺の制服の裾を引っ張った。

 

咲姫「私やみんなも行くから•••行こう••••••?」

 

天「••••••はいはい、わかったよ」

 

上目遣いで頼み込んでくるものだから、俺は仕方なく頷いた。

 

りんく「咲姫ちゃんがいれば天くんも楽に扱えるね」

 

天「言い方悪いな•••あながち間違ってないけど」

 

将来的に咲姫の尻に敷かれるようになったらと思うと少し恐ろしいが、あまりそういった想像はつかなかった。

 

りんく「それじゃあお昼休みに学食に集合だよ!ピキピキのみんなにもそう伝えてくるねー!」

 

それだけ言って、りんくはまた走ってどこかへ行ってしまった。

荒らすだけ荒らして勝手に去っていく。まるで嵐のようなやつだ。

 

天「••••••今から断るのはーー」

 

咲姫「ダメ」

 

天「••••••はい」

 

どうやら俺に拒否権はないらしい。咲姫がムッとした表情を向けてきたので、俺はもう諦めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

昼休みになり、俺は咲姫にバレないようにこっそりと教室を出る。

 

天「(さて•••何処に逃げようか)」

 

正直な話、俺がいたところであまり意味がないと感じているので、隠れてやり過ごそうという判断だ。

やはり隠れるなら屋上か?あそこならこの時期誰も近づかないだろう。

 

乙和「天くん何してるの?」

 

天「ーーッ!?」

 

乙和「おぉ〜飛んだねー」

 

後ろから突然乙和さんに声を掛けられて、俺は驚いて飛び上がる。多分普通の人の全力ジャンプは簡単に超えた自信がある。

 

咲姫「乙和さん••••••!天くんを見なかった••••••?」

 

そしてそこにタイミング悪く咲姫がやってくる。あ、やべ、これ詰んだかも。というか確実に詰んだ。

 

乙和「天くんならちょうどあそこにいるよー」

 

咲姫「•••逃げようとした••••••?」

 

天「な、なんのことかなーアハハハハハ••••••」

 

ここまで下手な誤魔化し方もないだろう。汗かきまくってるし目線は逸れてるしで最悪だ。

咲姫がこちらに歩いてくる度にドキドキと心臓がーー悪い意味でーー跳ね上がる。

 

咲姫「早く行かないと遅れる••••••」

 

天「え?あ、あぁ•••」

 

ぎゅっ、と小さな力で俺の手を握った。少し困惑した俺はそのまま咲姫に引かれていく。

 

乙和「よーしじゃあしゅっぱーつ!多分ノアと衣舞紀は先に着いてると思うから急ごっか!」

 

咲姫「うん••••••」

 

天「あっ、ちょっ、自分で走れるから••••••」

 

咲姫「また逃げるかもしれないからダメ••••••」

 

天「はい•••すんません••••••」

 

為す術もなく、咲姫に手を引かれながら俺たちは急いで学食へ向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

学食に到着すると、やたらザワザワとしていた。何事だ?何か限定メニューでもあるのだろうか。

 

乙和「あっ!いたいた!」

 

すぐに二人を見つけた乙和さんは、そちらの方へ走って行った。元気すぎるだろ••••••。

俺たちも続いて行くと、そこにはりんくもちゃんといた。

 

りんく「あっ!来た来た!こっち座って!」

 

ご丁寧にりんくから席を勧められて、そこに座る。もちろんと言うべきなのか、隣は咲姫だった。ちなみに手はまだ繋がれている。

 

?「ふーん。この人がりんくちゃんが言ってた人?」

 

りんく「うん!そうだよー!」

 

茶髪の女子生徒が、りんくに確認をとっていた。それに対してりんくは元気に頷く。

 

?「えっと•••男子•••なんだよね?でも顔は••••••」

 

咲姫「ちゃんと男の子です」

 

今度は黒髪に所々黄色が混じった女性が咲姫に確認を取っていた。

おぅ、ピアスつけてる•••巷でいうギャルってやつか?ちょっと怖いな。

 

?「ううん、しっかり男の子だよ•••。制服で隠れてるとはいえ、身体は筋肉の塊だわ!」

 

天「••••••ウチに負けず劣らずキャラが濃いな••••••」

 

なんというか、退屈しなさそうだった。だからと言って一緒に過ごすのはちょっち面倒ではあるが。

 

?「というかなんで天がここにいるのさ••••••」

 

デコ出しピンク髪の少女が、ため息混じりに言葉を放った。•••なんか見たことあるぞ。確か••••••。

 

天「お前しのぶか。最近会ってないから忘れてたわ。たまにはウチに来いよー?月も待ってるだろうし」

 

しのぶ「きゅ、急に何••••••!?というか最近って一ヶ月も経ってないでしょ!?」

 

天「あ?そうだったか?」

 

どうも記憶が曖昧だ。え?何処かで会ったっけ?少なくとも一ヶ月以内にこいつが家に来た記憶はないが••••••。

 

衣舞紀「天、知り合いなの?」

 

天「友達ですよ。妹の」

 

月のゲーム仲間でもあったりする。よくゲームで一緒に遊んでいるのは知っていたが、まさかDJユニットを組んでいたとは思わなかった。

 

天「いやー•••あのチビガキがねぇ••••••」

 

しのぶ「誰がチビガキだーっ!」

 

天「怒んなって。あんまりカリカリしてると生え際が後退するぞ?」

 

しのぶ「誰の所為だと思ってるの!?」

 

?「今日のしのぶはよく叫ぶね」

 

しのぶ「響子も見てないで助けてよ!」

 

あぁ、この人が山手響子か。確かにカリスマがありそうな何処とないカッコよさを感じる。

ということはさっき俺の筋肉を感じ取ってたパツキンは笹子•ジェニファー•由香か。名前なっげ。

 

?「あらあら、必死になってるしのぶも可愛いわよ〜?」

 

しのぶ「絵空まで••••••!」

 

天「絵空•••清水家の御令嬢か」

 

絵空「あら、よくご存知ですね。神山柚木の御子息様♪」

 

天「••••••そっちもよく存じているようで」

 

どうやら俺の母親の存在は当に知っているらしい。変にイジりを掛けてこないだけまだありがたい方だ。

 

?「神山柚木?誰よそれ」

 

?「むにさん•••世界的に有名な女優さんのマネージャーさんですよ」

 

あ、母さんの事知らない人がいたわ。なんか救い。

 

天「••••••むに?あー•••?なんかどっかで聞いたことあるような••••••」

 

そういや月がなんか、むにむにおんりー?だっけ?そんな名前の絵師さんを推してたな。絵が可愛くて綺麗ー、って熱烈に語ってた気がする。

 

りんく「むにちゃんはねー、絵がすっごく上手なんだよ!」

 

そこにりんくが補足を一つ。うん確定。こいつ絶対月が大好きな絵師様だ。あいつの為にサイン貰っとこうかな()

 

むに「それで?そのマネージャーの息子もマネージャーをしてるってこと?」

 

りんく「そういうことー」

 

天「お前が絵描くのと同じようなもんだよ、『先生』」

 

むに「ふぇっ!?」

 

先生、その部分だけを強調してむにに伝えてやる。わかりやすく動揺した彼女は、素っ頓狂な声を上げた。

 

天「妹がお前の事大好きだから、これからも大事にしてやってくれ」

 

むに「••••••!しょ、しょうがないわね••••••!」

 

あいつもなんだかんだネット内では有名人だし伝わるだろう、多分。

 

りんく「天くんの妹さん、むにちゃんとお友達なの?」

 

天「ん?まぁちょっとな」

 

あまり詳しい事は言わない方がいいだろう。変にむにを追い込むわけにもいかないし。

 

天「それと•••明石真秀••••••りんくから話は聞いてるぞ。たまにクマできてるらしいなw」

 

真秀「ちょっとりんく••••••!その事いつ話したの!?」

 

りんく「会った時にどうしてもみんなの事話しちゃうんだよねー。天くん私のお話ちゃんと聞いてくれるから」

 

天「結構面白いからな。聞いてて飽きない」

 

こいつがアフリカにいた頃の話は未だに覚えているほどだ。まだ全部じゃないらしいし、まだまだ聞きたい。

 

天「んで•••渡月家のお嬢様か••••••なんというか、周りのメンツが中々にエゲついな」

 

キャラの濃さは多分我がPhoton Maidenが頂点に立つ自信があるけど。大部分はノアさんが持っていってくれること間違いなしだな。

 

天「って、明日のライブの為の顔合わせだったな。すっかり忘れていた」

 

しのぶ「なんでそんな大事なことを忘れてるのさ••••••」

 

天「悪い悪い。チビガキと話してたから消し飛んでたわ」

 

しのぶ「だからチビって言うなーー!」

 

天「アッハハハ!怒んな怒んな」

 

怒り狂うしのぶの髪をワシャワシャと乱してやる。髪をボサボサにしながらも、それでもしのぶは落ち着かなかった。

 

しのぶ「はぁ、はぁ、はぁ••••••」

 

でも体力はやっぱりないからすぐに疲れて大人しくなった。

 

天「相変わらずだなー。運動ちゃんとしてるか?どうせ昨日も遅くまでゲームしてたんだろ?ちゃんと寝ないと大きくならないぞ」

 

しのぶ「天はアタシのお母さんか!?」

 

響子「意外とエプロンとか似合いそうだね」

 

天「エプロンは妹がいつも着けてるし俺はいいかな」

 

響子「普段は妹ちゃんが家事をしてるの?」

 

天「まぁそんなとこ。料理以外は一応できるが、全部妹が勝手に片付けちまうから」

 

ライブの話は何処へやら、ただの世間話へと完全に切り替わってしまっていた。

いやまぁどうせ話が脱線するのは分かっていた事だけど。

••••••こんな調子で明日ライブするのか。変に抜けてないといいが、と俺は少し心配になった。




それじゃ書いてきますね•••明日にはまた咲姫の星四出てくるし•••頼むからバースデーまでに追加しないでくれよ頼むよ•••


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12月10日(水)

今回のイベントの咲姫、キッチリ入手しましたー!いやー二十連で来てくれて良かった良かった!これでまたバースデーの咲姫に向けて貯める事ができますねぇ!え?イベント?走る気ない


昨日はあんな緊張感のカケラもなくワイワイとしていたが、当日となれば自然と気が引き締まるものだ。

ステージに立たない俺ですら、今現在ドキドキしている。

放課後。この時間帯にライブをするのだ。授業を終えた生徒たちが我先にとステージ前に集まっている。

その裏側で、俺たちは集まる。

 

天「これはあくまで練習として取り組んでください。今までやってきたことを披露する絶好の機会ですので」

 

咲姫「うん、わかった••••••」

 

乙和「新曲はやらない方向でいいの?」

 

乙和さんが首を傾げながらそんな事を訊いてくる。俺は頭をポリポリと指で掻きながら頷く。

 

天「それはクリスマスライブ、本番まで取っておきましょう。流石に披露先が学園というのは•••」

 

ノア「わざわざここでやる必要もないもんね。そこら辺の判断は天くんに任せますけど」

 

天「へーへー任されましたよ。方針を今更変える気はありませんが」

 

欠伸をしながら、控え室の机に突っ伏す俺。昨日は最終チェック等を行ったりもしたので、少し寝不足だ。

 

衣舞紀「あまり無理はしないようにね?」

 

天「わかってますよ。みんなのライブ観た後に寝ますから」

 

ハピアラとピキピキのライブも後学の為に一応観ておこう。何かいいモノを得られそうな気がするからだ。

 

天「んじゃ、俺も観客側に移動しますかね••••••いつも通り、変に硬くならずにリラックスでお願いします」

 

咲姫「•••うんっ!」

 

咲姫が元気よく答えたのを聞いて、俺は安心して部屋を出た。

そしてそのままライブを行う部屋へと入って、Photon Maidenの出番を後ろで待つ。

 

焼野原「あれ?神山もここに?」

 

天「焼野原くんか•••一応顔は出すんだな」

 

焼野原「まぁなー。Photon Maidenのライブを生で観られるのは中々貴重だし?この目に焼き付けておこうと思ってさ」

 

天「そうか•••。テレビで観るよりも、全然違うとだけは言っておく」

 

壁に背中を預けて、俺は腕を組む。眠気がかなりヤバいが、なんとか耐える。

 

焼野原「眠そうだな。大丈夫か?」

 

天「ん?あぁ•••。あまり寝れてないからな。どうにかして起きとくつもりだ」

 

焼野原「寝落ちだけはやめろよー?」

 

天「流石に立ったまま寝るのは無理だわ」

 

もし仮に寝てしまっても即座にぶっ倒れるコースが見える見える。流石にそんな迷惑かけるような真似はできんが()

 

天「あ、始まる」

 

気がつけば準備が整ったようで、すぐにでも曲が流れそうだった。

 

咲姫「•••••••••」

 

ん?咲姫のやつ•••こっち見て笑った?流石に気の所為だと思いたいが•••なんかあいつならやりかねない気がする••••••。

 

焼野原「なんか出雲さんこっち見なかった?」

 

天「あ、お前も•••?なんか俺もそんな気がしたんだが••••••」

 

ライブそっちのけで焼野原くんと首を傾げ合うが、曲が始まった瞬間に意識は自然とステージへと向く。

•••確実にダンスの精度も、歌も進化している。夏のライブと比べても無駄がなくなっていた。

 

焼野原「おぉ•••すげぇ」

 

天「ん、そうだな」

 

焼野原「普段から見てるマネージャー様からすればいつものことかー?」

 

天「いいや、普段から見てるからこそ見えるものがある」

 

ただ一つ確実に言えることは、まだまだPhoton Maidenは進化する事ができるということだ。

そんな期待を込めながら、いつの間にか何処かへと消え失せていた眠気も忘れてライブに見入った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

Photon Maidenの出番が終わった後も、俺はHappy Around!とPeaky P-keyのライブを観ていた。

Photon Maidenとは全く違ったパフォーマンスに驚きながらも、ダンスや曲をしっかりと脳に焼きつけたいた。

ライブが終わると、俺は控え室に戻る。四人•••ではなく十二人いた••••••。いやせっま。

 

天「••••••なんでこんな集まってんだ?」

 

りんく「天くんこっち戻ってくるでしょ?だから先に来てたんだー!」

 

天「暑苦しいから出るわ••••••」

 

みんな汗かいてて部屋の熱気はまぁまぁすごかった。こんな狭い部屋で集まるべきじゃねぇよ。

 

天「とりあえず着替えとか終わったら教えてくれ。校門あたりで待ってるから••••••」

 

居心地が最悪なので俺はさっさと部屋を出て行ってしまう。

手をパタパタと扇いで自分自身に風を送る。廊下は暖房とかがないので、すぐに身体が冷えた。

 

天「ライブ会場の関係者席と違って暑かったな••••••」

 

そりゃあんな人の溜まり場にいるんだ。人肉の熱をナメてはいけない。

十二月ともなると暗くなるのが早いものだ。真っ暗とまでは言わないが、視界が悪いのは確かだった。

 

天「ま、あの調子なら本番も大丈夫そうだな」

 

後は油断せずに着実に対策を整えていきたいところだ。新曲の練習もそうだが、既存の曲の振り付けの見直しもしなきゃならない。

 

天「•••やること多っ。仕事が増えるな••••••」

 

もうしばらくしたら帰る時間が相当遅くなりそうだな••••••。これもマネージャー宿命か••••••。

 

咲姫「天くん••••••」

 

天「ん?あぁ、終わった••••••か?」

 

咲姫からの声に反応して振り返ると、キッチリハピアラとピキピキのメンバーが勢揃いしていた。いやお前ら帰れよ。

 

乙和「これから打ち上げするんだってー!天くんも行こうよ!」

 

天「あー俺は遠慮しますねー妹が待ってますのでーあははー」

 

しのぶ「わかりやすいくらいの棒読み••••••」

 

俺ほぼ無関係なのに付き合わないといけないの?え、やなんだけど。

 

りんく「天くんも行こうよー!せっかくいるんだからー!」

 

天「えぇ••••••」

 

ノア「行こうよ天くん。ライブの準備とかしてくれてたんだから、ちゃんとした関係者だよ」

 

天「••••••わかりましたよ。妹に訊いてみます」

 

響子「ついでにその妹ちゃんも来られないかな?一緒の方が楽しいでしょ?」

 

しのぶ「どうせ今日も親いないんでしょ?流石に月一人にはできないって」

 

本当に•••月は人間関係に恵まれてるよなぁ。こんな優しい人たちが身近にいて良かったと、つくづく思い知らされる。

 

衣舞紀「なんというか•••天と月のセットが当たり前みたいになったわね••••••」

 

乙和「月ちゃんもいつも天くんと一緒にいるし、必然的にそうなるんじゃないかなー?」

 

しのぶ「•••なぁ天。月は相変わらずあんたにベッタリなの?」

 

天「あいつが小学生の時はかなりな。今はそこまでじゃないし、あいつもあいつで段々大人になってきてるからな。いずれ勝手に離れるだろ」

 

しのぶ「本当にそうかな••••••?アタシといる時の月、いつも天の話をしているよ」

 

天「あいつが?全く想像がつかんな••••••」

 

俺の話を楽しそうにする月••••••。なんか考えるだけであいつらしくなくて気持ち悪さすら感じるな。

 

とりあえず月に連絡したらすぐに行くとのこと。その時に場所も一緒に伝えたので、直接集合先に来るだろう。

ぞろぞろと大人数で移動しているが••••••男一人に対して女は十二人。犯罪臭がヤバい。

 

天「それで行き先はいつものファミレスか••••••。あんま腹減ってないしそこまで食わなくてもいいかな」

 

咲姫「安く済ませたかったから••••••」

 

天「いざとなったら俺が出すぞ。給料はちゃんと貰ってるしな」

 

絵空「では今日は天さんが全員分奢るということで〜」

 

天「ガチ目に財布殺しにくるのやめない?というかお前は金腐るほど持ってるだろ!」

 

絵空「それでも人からの奢りは貰いたいものですよ〜?」

 

天「おいおいおいマジかよ。とんだぶっ飛びお嬢様だな」

 

俺と絵空のおふざけが始まり、周りはクスクスと笑っている。というかここまで早く馴染んでしまった自分に驚きだ。

 

咲姫「天くん、楽しそう••••••」

 

天「ん?そうか?」

 

しのぶ「だからってなんでアタシの髪の毛触るの!?」

 

天「なんか近くにあったから」

 

髪をワシャワシャして髪型を崩してやる。明らかに嫌そうにしているが俺は気にしない派。

 

咲姫「•••••••••」

 

悪戯に笑う俺をジーッと咲姫が見つめてくる。え、何、何だよ。

 

天「••••••よしよし」

 

なんか頭がこちらに向いていたから撫でてやる。ついでにしのぶの髪を弄る手は止めない。

 

咲姫「••••••えへへ」

 

どうやら満足したらしい。

 

しのぶ「〜〜〜!いつまで触るんだ!!」

 

天「おっとっと。ついにキレたか」

 

真秀「怖いもの知らず過ぎるでしょ••••••一体何食べたらこんなに精神図太くなるんだ••••••」

 

天「まぁ人生経験の違いだろうな」

 

こちとら中学生の時から大の大人の相手をしてきてるんだ。たかだかチビガキがキレたくらいで動揺する俺ではない。

 

麗「あの•••そろそろ行きませんか?あまり遊んで時間を浪費するわけにも行きませんし••••••」

 

衣舞紀「それもそうね。天もちょっと遊びすぎよ」

 

天「しのぶの反応がいいのでつい遊んでしまうんですよ」

 

響子「しのぶをここまでオモチャにできるのも天くらいだと思うよ」

 

天「それは光栄な事だな」

 

響子に対して薄らと笑みを向けてから、俺はしっかりと前を向く。更に暗くなっていた空は星と月が輝いていて、俺たちを照らしていた。

ちなみにファミレスで(特に俺とりんくが)食べまくって店の在庫を潰したのはいい思い出となった。




それじゃあ執筆進めてきまーす•••あーシニソ


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12月11日(木)

昨日は投稿できなくてマジで申し訳ありませんでした。普通に寝まくっていたのとグルミクやりまくってオールしてました。本当にすいません。後グルミク楽しかったです(小並感)


昨日の校内ライブ効果はかなり効いたようで、一日経ったのにまだライブの話で持ちきりになっていた。

 

女子生徒A「出雲さんすっごくカッコよかったよ!」

 

咲姫「は、はい•••ありがとうございます••••••」

 

女子生徒B「すごいよねー。それに衣装も可愛いしカッコいいとか最高じゃん!しかも光ってたし!」

 

女子生徒C「また校内ライブやってね出雲さん!もちろんちゃんとしたライブにもいずれ参加するから!!」

 

咲姫「え、えっと••••••ありがとうございます••••••」

 

咲姫はずっと囲まれっぱなしで、困惑しながらも対応に専念していた。それを俺は遠目から眺める。

 

天「人気者だなマジで」

 

月の影響をモロ受けてしまったのか、意地の悪い笑みを浮かべてしまう。

あわあわしている彼女の姿は、見ていて楽しかった。

 

焼野原「悪い顔してるぞ」

 

天「おっと、失礼失礼」

 

焼野原くんに指摘されて、俺はなんとか真顔に戻す。

そしてもう一度咲姫を囲む集団に目を向けると、咲姫本人が、こちらに目を向けていた。

 

天「ん?なんだ」

 

焼野原「助け求めてんじゃね?」

 

そうなのだろうか?焼野原くんの言葉に従い、助けに行こうと腰を上げた瞬間ーー、

 

ギュルルルルルルル••••••!!

 

天「•••待って唐突に漏れそうになってきた••••••」

 

焼野原「•••は?冗談じゃなく?」

 

天「あ、ダメだこれ。直行コースだわ」

 

俺はダッシュで教室を飛び出して男子トイレに駆け込んだ。

なんとかズボンの中でリバースする事はなく、平和的に致す事に成功したという。

 

天「はースッキリしたー」

 

お腹をさすりながら戻ってくると、まだ咲姫はおしくらまんじゅう状態になっていた。

周りも周りでよく飽きないな、と感心すらしてしまう。

 

咲姫「天くんっ••••••」

 

天「おっと•••」

 

生徒たちを抜けて出てきた咲姫が俺に抱きついた。なんか少し怯えてる様子だったが大丈夫なのだろうか••••••。

 

天「あー•••変な事訊いたりはしてないよな?」

 

女子生徒A「あはは•••多分みんなで一斉に質問を続けたのが原因かな••••••」

 

天「いや何やってんだよ•••普通に捌き切れなくてパンクしちまってんじゃん」

 

未だに抱きついたまま胸に顔を埋めている咲姫の頭を撫でながら呆れた顔になる。

 

天「こっちもこっちで今忙しい時期だから、あまり担当の心労を増やすような真似は控えてほしい」

 

ただでさえ昨日の校内ライブで疲れているんだ。もしそれで倒れられたりしたら俺の責任問題になってしまうだろう。

 

天「咲姫も、嫌なら嫌って言わないと伝わらないぞ?」

 

咲姫「うん•••ごめんなさい••••••」

 

またより一層強く咲姫が密着する。これはしばらく離れないだろうな、となんとなく察した俺は苦笑を漏らした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

放課後になり、俺は増えに増えた仕事を事務所で片付けていた。

昨日の校内ライブから得たものはかなりあり、それを踏まえての調整やセトリの組み合わせの再考•••。

かなりやる事が多くて萎えそうだ。今日は帰るのがまぁまぁ遅くなりそうな気がしてきた。

 

天「書く事もまぁまぁあるよな•••」

 

既にクリスマスライブ後のライブもいくつか組んであるので、そちらとも話あったり書類を書いたりと別件もかなり貯まってたりする。

意外と詰み詰みなんだよな••••••。

 

天「あー•••終わる気しねぇなこれマジで••••••」

 

欠伸をしながら万年筆を走らせる。指がまぁまぁ痛くなってきた•••後手首も。

 

天「書くやつはあと少しで終わるが•••でもその次はパソコンかぁ••••••」

 

ため息が自然と漏れる••••••。あーもうマジで帰りてぇ•••一気に仕事増え過ぎでしょ。

 

天「••••••でもやるしかないんだよなぁ」

 

パンッ!と自分の頬を叩いて喝を入れる。一気にやる気が湧いて、万年筆を動かす手が加速する。

意外とすぐに残りを片付けて、次はパソコンを起動する。

 

天「あっはー多い•••」

 

もう絶望するしかない書類の量だ。一応今日のノルマみたいなのがあるから、わざわざ一日に全部片付ける必要は一切ない。

 

天「むぅ•••意外と面倒だな••••••」

 

会場使用の申し込み、意外と条件が厳しい。こいつは捨てようかな••••••。

 

天「何というか••••••母さんの息子で良かったわ俺」

 

ここまで会場使わせてくれるなんて中々ないぞ。やっぱり母さんの息子効果が大きいよなぁ•••そこら辺は感謝しないと。

 

しばらく作業を進めていたら、気がつけば今日の分は片付いていた。

それでも謎の余裕があったので継続して明日の分を消化し始めている。

 

天「••••••もう七時か。後少ししたら終わるかな」

 

多分もうそろそろ彼女たちもレッスンが終わる頃だろう。

疲れてるだろうから俺の事放って帰ってくれるといいが•••。今日は八時まで残るつもりだ。

 

天「残業なんて久しぶりだな••••••」

 

夏のライブ以来だろうか。夜遅くまで仕事をしたなんて。まだ半年も経っていないのに、どこか懐かしさを感じてしまう。

 

天「••••••なんか、今日はいくらでもやれそうな気がするな•••」

 

なんというか、たまにある異様にやる気が湧くそれになっている。

ここまで仕事に熱心になってるのも珍しいがなんか俺らしくない。

 

天「••••••焦ってんのかね」

 

クリスマスライブまで後少ししかない。それによって緊張感が増しているのかもしれない。

だから道理で仕事を余分に多くこなそうとしているのか。

力なく笑って椅子の背もたれに体重を預ける。

 

天「あーあ疲れた。なんか冷静になった瞬間襲ってきたなおい」

 

一気に疲れが回ってきて欠伸も飛び出てきた。このままだと寝てしまいそうで怖い。

 

咲姫「天くん、いる••••••?」

 

天「おぉ•••咲姫•••。もう終わったのか?」

 

咲姫「うん。一緒に帰ろう••••••?」

 

天「ん、そうだな」

 

パソコンの電源を落として、鞄にしまう。立ち上がって仕事部屋を出ようとした時に、一瞬だけだがフラついてしまった。

 

天「おっとと•••」

 

咲姫「大丈夫••••••?」

 

天「俺もちと疲れてるみたいだ。悪いな」

 

苦し紛れに笑ってみせるが、今の咲姫にはそんなものは通用しないのは俺が一番わかっていた。

俺の腕を抱き寄せた咲姫は頬を膨らませながら、少し怒った顔を俺に向けていた。

 

咲姫「無理はダメ••••••」

 

天「•••おっしゃる通りで」

 

そのまま咲姫に引かれながら、俺たちは事務所を出て帰路につく。防寒着すらも貫通する寒さに身震いしてしまう。

 

天「さっぶ•••!」

 

日が進むにつれてどんどん寒くなっている気さえしてくる。

というか十二月でこの寒さとか一月は死ぬ気しかしないんですけど?

 

天「•••何というか、悪かったな」

 

咲姫「•••••••••?」

 

訳がわからない、と言った様子で咲姫は首を傾げた。

 

天「人には散々言っておいて結局自分が無理してたからな」

 

咲姫「天くんが忙しいのはみんなわかってる••••••。でも倒れたりとかだけは絶対にして欲しくない」

 

天「ん、わかってる」

 

頭を撫でてやると、すぐに彼女の顔が穏やかになる。わかりやすいやつだ。

 

咲姫「今日もまた、泊まっていい?」

 

天「またか•••いいぞ。いつでも」

 

咲姫「良かった••••••」

 

天「本当によく泊まるよな。たまにはPhoton Maidenの誰かの家にお邪魔してみたらどうだ?」

 

咲姫「天くんと一緒がいい••••••」

 

天「アッハイそうですか•••」

 

俺がセットじゃないとどうにもダメらしい。最初会った頃の大人しさは何処へやら。

今となっては人前で腕に抱きつくような娘になってしまった。人の変化ってすごいな。

 

天「とりあえず家に帰ったら月にまたなんか言われそうだな••••••」

 

咲姫「そうかも••••••」

 

また来たんですか!?って驚く姿が目に浮かぶ。それは咲姫も同じように感じたらしくて、小さく笑っていた。




ワンチャンモンハン買うかも


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12月12日(金)

とりあえず一つ言い訳をさせてください。モンハンが楽しすぎるんです。後スマブラ。二日連続でオールしてハンターランク6までブチ上げプラス上位マガイ装備一式を揃えたりました。とりあえずすんません。


天「珍しいですね。プロデューサーが俺を呼ぶなんて」

 

学校が終わり、事務所に来ていた俺は社内の人間からプロデューサーに呼ばれていたことを知らされる。

久しぶりの呼び出しに、緊張気味に部屋に入った俺は、至って冷静なフリをしていた。

 

紗乃「悪いな、急に呼び出して。Photon Maidenの今後について伝えておきたかったんだ」

 

天「まーた無茶な要件はやめてくださいよ?これ以上ライブ押さえろとかだったら流石に無理ですよ」

 

紗乃「そうじゃない。神山は、今の彼女たちを見てどう思う?」

 

姫神プロデューサーから投げかけられた質問は、とてもシンプルなものだった。

どのようにも答えやすい、至って簡単な質問。そこに彼女のどういう意図が潜んでいるのかはわからなかったが。

 

天「そうですね•••俺が担当し始めた時に比べて確実に技術の成長は見られています。でもやっぱり何処か拙い部分は出てきますので•••そこの改善とかもしていけば、もっと良いユニットになれる、と考えてます」

 

紗乃「なるほど•••実に神山らしい意見だ。だがお前は甘過ぎる」

 

天「••••••というと?」

 

母さんにも言われた言葉を久々に聞いて、少しドキッとしてしまった。だがこれでも修羅場を何度も潜り抜けてきた人間だ。一々動揺なんてしていられない。

 

紗乃「お前は注意はよくしてるが、怒っているところは一度も見た事がない。それではいずれ下に見られるぞ」

 

天「その時はその時ですよ。別に俺は一切怒らない聖人君子じゃありませんから」

 

紗乃「本当にそうか?甘くなり過ぎて何処か下に見られてると思った事はないのか?」

 

天「••••••まぁ、過去に担当してた人からは結構下に見られてましたね。まぁ俺の方が立場下なんで当たり前ですけど」

 

紗乃「••••••話が少し逸れたな。Photon Maidenの今後として、神山、お前自身の成長も必要だと考えている」

 

ズバリと言ってのけるプロデューサーの目は燃えていた。

しかし、言いたいことはわかるが••••••。

 

天「具体的にどうすれば••••••?」

 

何処から取り組めばいいのかさっぱりだった。ただ首を傾げるばかりで、大した思いつきもない。

 

紗乃「お前自身も何か変わってみせろ。そうすれば見えてくる景色もある」

 

天「•••••••••正直よくわかりませんけど、やれるだけの事はやりますよ」

 

紗乃「相変わらず曖昧な答えだな••••••それでちゃんと成果を出しているから何も言わないが」

 

天「責任を持って取り組んでますので。それでは、失礼します」

 

腰を曲げて大きく頭を下げた後に、俺は部屋を出る。

一気に肩の荷が下りて、大きく息を吐く。

 

天「あー焦ったー•••威圧感がすげぇよプロデューサーは」

 

目力がすっげぇわ。あれで真顔なんでしょ?最早睨んでるわ怖いわ。

 

天「•••にしても、俺自身の成長ねぇ••••••。まぁ確かに人間的にもまだまだ未熟だけど」

 

俺自身が変わればPhoton Maidenもまた変わるのか?もしそうなら試してみる価値は十分にある。だが気掛かりなのは••••••。

 

天「怒る、ねぇ••••••」

 

そんな事したところで何かが変わるとは到底思えない。ここに関してはマジでプロデューサーの頭が逝ってるとしか思えないんだよな。失礼だけど。

 

天「••••••でも試しもせずに否定するのはちょっとな」

 

ただ頭ごなしに否定しても何も変わらないのは俺が一番わかっていた。一回だけだ。一回だけお試しでやってみよう。

 

レッスン部屋に入ると、丁度ダンスレッスンをしているところだった。

全員が俺に気がついたが、動きは止めなかった。うん、流石だ。

ジーッとダンスをしている姿を眺めながら、キチンと良いところと悪いところを見定めていく。

 

天「(••••••やっぱり個性の違いだよな。所々粗が目立つ。ライブ本番までは後ちょっとだし、ここら辺も直していかないとな•••)」

 

多分今の俺の顔はいつになく真剣な事だろう。威圧感すらもあるんじゃないかと感じる。

•••あ、乙和さんモロ振り付け間違ったな。これはちょっと言っておかないとダメだな••••••。

 

天「(•••あながちプロデューサーが言ってたことも間違いなかったかもな••••••確かに甘く接し過ぎたかもしれん)」

 

クリスマスライブまでの間は少し追い込みをかけるか。そうしないと本番で変なミスをする可能性が見えてきたからだ。

•••仕事増えるなぁ。

 

ダンスレッスンが終わった後は休憩時間へと切り替わる。汗を流したメンバーは座りながら水分補給をしていた。

そこに混ざるように座った俺は、全員に目を向ける。

 

天「お疲れ様でした」

 

乙和「ありがとー!珍しいね!天くんから見にくるなんて!」

 

天「えぇ。後みんなに色々言っておきたい事がありまして」

 

乙和「え!?なになに!?」

 

四人の顔を見渡す。乙和さん以外の三人は何かを察したのか固唾を呑んで見守っているが、乙和さんだけはやたらと元気だった。

あー、やっぱおバカって言われる所以だよなぁ••••••。

俺は眉間に皺を寄せながら、イラついた様子で口を開いた。

 

天「まず乙和さん。ここまでライブが迫ってあんなミスするって何考えてるんですか?」

 

乙和「••••••え?」

 

ここまで強く言われるとは思ってなかったのだろう。拍子抜けした顔を乙和さんは見せた。

 

天「もうライブは目前へと迫ってきてます。今の状態では乙和さんをライブに出すなんてとてもできません。もっと自覚を持って取り組んでください。後周りとも動きを合わせて。あなた一人だけ早いんですよ」

 

乙和「えっ?•••えっ?あ、は、はい••••••」

 

天「次にノアさん。動きが優等生過ぎます。Photon Maidenのダンスとしてはよくできてますが、あなたの個性が全く見えません。もう少し欲張るように」

 

ノア「••••••はい」

 

天「そして衣舞紀さん。ダンス、歌共に問題はありません。ですがもう少し周りにも言葉をかけてあげてください。リーダーという立場にいるのですから、他のメンバーの動きにも注意を。いつもいつも俺が見ていられるわけじゃないんですから」

 

衣舞紀「••••••わかった」

 

天「最後に咲姫。•••お前はなぁ••••••まずDJに集中しているからだと思うが、ダンスの動きが小さい。二つの事を一緒にやるのが大変なのはわかる。だが今さっき見てたが、これでは到底本番で見せられる姿ではない」

 

咲姫「•••••••••ッ」

 

天「後もう一つ。ミスをすぐにカバーしていたのは良かった。だが次はそのミスは絶対にしないように。失敗がいい方向に転がるなんてごく稀な事だからな」

 

咲姫「•••••••••はい」

 

天「以上。少なくとも言える事は今のままじゃライブは無理だと言うことです。夏のライブがきっかけにPhoton Maidenは更に名のあるユニットになっています。それによってあの時よりもレベルが上がらないと見向きされなく可能性もあります。プロとして自覚を持って取り組むように」

 

言いたいこと全部キレ気味にぶちまけてみたがどうだろうか。

••••••明らかに凹んでるな。いや、そもそも俺がここまで強く厳しく言う事がなかったから困惑している、の方が強いのかもしれない。

 

天「•••とまぁ、冗談はこれくらいにして。とりあえず課題はできましたね。次はその課題をクリアするということで頑張っていきましょう」

 

咲姫「••••••え?」

 

乙和「あ、あれ•••?普通の天くんだ」

 

天「ビックリしちゃいましたか?いや、実は•••」

 

俺は先程姫神プロデューサーにされた話を事細かに彼女たちに説明した。

•••少しだけプロデューサーに悪態をつきながら。

 

天「そういうわけなんで試しに怒ってみたんですけど、どうでした?」

 

乙和「••••••すっごく怖かった。プロデューサーよりも怖い••••••」

 

天「うぇっ!?」

 

咲姫「いつもの天くんじゃなかった••••••まるで別人••••••」

 

天「ん、んん••••••」

 

まぁそりゃ別人を演じてるわけだし•••普段の俺こんな強く言ったりしねぇもん。

 

ノア「確かに怖かった。でも、意見はすごく的確で何も言い返せなかった•••」

 

衣舞紀「私たちの事をよく見てる天だからこそ言える事よね」

 

乙和さんと咲姫が怯えている中、衣舞紀さんとノアさんは至って冷静だった。精神的な違いだろうな。

 

天「ですが、ライブまですぐでこの状態はちょっといただけません。明日からは厳しく取り組みますからよろしくお願いします」

 

咲姫•乙和•衣舞紀•ノア「よろしくお願いします!!」

 

座りながらではあったが、俺たちはお互いに頭を下げた。

 

天「(••••••結局、俺の成長に繋がるのか?)」

 

しかし俺は、疑問を残したままこの後の時間を過ごした。そのモヤモヤは夜になっても消える事はなかった••••••。




ではまたモンハンに•••戻る前に明日の準備しないと•••あーダル


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12月13日(土)

今日から寮生活が始まりました!変わらずモンハンしまくるけどな!wwwまぁ、うん。作業大変だった(小並感)


自分自身の成長、と言われてもあまりわからなかった。ぶっちゃけどうすればいいのかも、どう行動すればいいのかも、とんと見当がつかぬ。

仕事をしながらも考えるが、これと言ったイメージも湧かないままPhoton Maidenのダンスを眺めていた。

 

乙和「天くんってクリスマスライブが終わるまではこうやって毎日見にくるの?」

 

天「えぇ、そのつもりです。俺も俺でプロデューサーから課題を言い渡されているので、それの達成も兼ねて」

 

咲姫「天くんが課題••••••?」

 

天「あぁ。みんなと同じで俺も成長しろ、との事だ。正直今のところどうすればいいか全くわからん」

 

俺は首を横に振りながらため息を吐く。Photon Maidenを見ていたら何か変わるだろうと思っていたが、現実はそんなに甘くはない。

改善点は見えても、俺自身の改善点なんて一つも見えてこない。そりゃそうだろう。ダンスしか見てないんだから。

 

ノア「でもこれと言った欠点があるわけでもないし••••••もしかしてカワイさが足りなかったり?」

 

天「俺が可愛くなってどうなるんですか••••••」

 

ノア「お客さんと私が喜ぶ!!」

 

天「そりゃノアさんは喜びますよね!!というか俺表には基本出ませんよ!」

 

ツッコミどころ満載なノアさんは、至って平常運転だった。

いや違う違う。俺はツッコミ力を鍛えにきたわけじゃないんだ。

 

乙和「もっとお仕事持ってきたり•••とか?」

 

天「今でも十分にやってきてると思いますけどね•••広告とかも大々的に展開したり、仕事はキチンとこなしてますよ」

 

衣舞紀「••••••そうだ!」

 

天「何かアイディアが!?」

 

衣舞紀「天もDJとダンスをやってみればいいのよ!」

 

天「••••••は?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

衣舞紀さんから言い渡された意見の通りに、俺はDJ機材の前に立っている。

一応ここを担当するときに予め勉強してきたが、実際にやるのは初めてだ。

スタートボタンを押し、バーを上にあげて曲が聴こえるようにする。ここからどんどんイジっていきたいが、そこは技術的に難しいので変な事はせず、堅実的に行こう。

一応隣には咲姫がサポート役で控えている。何かあった時にカバーしてくれるだろう。

 

天「••••••ッ、ん•••!」

 

かなりやる事が多くて混乱してしまいそうだ。次はどうする?その次は?と絶え間なくやってくる「次」に、俺は少しずつついていけなくなってきていた。

 

天「••••••わからん」

 

衣舞紀「まぁ•••天は普段からDJなんてやらないから仕方ないわよね••••••」

 

咲姫「でも、初めてとは思えないくらい上手だった」

 

天「そりゃどうも」

 

咲姫からお褒めの言葉をいただけて、心の中で少し舞い上がってしまう。

だが、これでは成長とは全く呼べない。

 

衣舞紀「それじゃあ次は•••ダンスをしてみない?」

 

天「えっ•••?ダンスやった事ないんですけど••••••」

 

精々学校の授業程度だ。Photon Maidenのような本格的なダンスなんてやった事ないし無理だ。DJと違って予習もしていないし。

 

衣舞紀「とりあえず試しにさ!天、運動神経いいんだからなんとかやれる!」

 

天「投げやりですね•••とりあえずやってみますよ」

 

ここまできたら後戻りも出来ないので、俺は仕方なく頷いた。

スーツの上着とワイシャツを脱いで、上裸になる。このくらいじゃないと動きにくくて敵わん。

 

乙和「おぉ〜すごくいい身体•••!」

 

ノア「というより脱ぐ必要あった•••?」

 

天「スーツ動きにくいんですよ」

 

ウォーミングアップに何度もジャンプを繰り返して、ふぅー、と大きく息を吐く。

 

天「そもそもダンスって何すればいいんですか」

 

衣舞紀「うーん、とりあえず適当に流すからそれに合わせて踊ってみて」

 

天「いや雑•••。まぁいいや」

 

その場の対応力を養うと思えば、いい練習にもなるだろう。

ダンス知識はないから、とりあえず色んなところで見てきたダンスを実際に試してみる。

 

天「よっ、ほっ」

 

乙和「おぉ〜、上手上手!」

 

ノア「鍛えてるだけあってとっても軽い身のこなしだね」

 

咲姫「•••カッコいい••••••」

 

天「これいつまでやるんですか?」

 

衣舞紀「バク転しながら喋るなんて本当に余裕ね••••••」

 

普通に動くのも飽きたので、前宙やバク宙などを適当に取り入れていた。

鍛えていたおかげもあってか、全く疲れない。

ようやく終わった俺は、軽く汗をかいた程度で疲れなどは全くなかった。

 

天「••••••変わった気しませんね」

 

結局プロデューサーの意図はわからないまま時間が過ぎていき、今日のレッスンは終わりを迎えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

帰り支度をして、俺は咲姫と一緒に帰り道を歩いていた。いつものように手を繋いで歩きながら、冬の寒さをこれでもかと感じていた。

 

天「マジでわからんな••••••俺、どうすればいいんだか••••••」

 

咲姫「私も、天くんの何処が足りないのかわからない••••••」

 

天「悪いな、咲姫やみんなにも付き合わせて」

 

時間まで取ってしまったのに嫌な顔せずに付き合ってくれた彼女たちには感謝しなければならない。

 

咲姫「大丈夫。いつも天くんには助けて貰ってるから。それに、天くんからのお願いは全部叶えたい」

 

天「ホントさ、そんな恥ずかしい事よく言えるよな••••••」

 

言われたこっちがなんだか小っ恥ずかしくなってしまい、顔を逸らしてしまう。

 

咲姫「天くんが大好きだから」

 

天「そ、そうか•••俺も好きだぞ」

 

咲姫「赤くなってる。可愛い」

 

天「うるせぇうるせぇ」

 

あまり好きではない言葉をぶつけられたので頭を乱暴に撫でてやる。

それでも彼女からすれば嬉しいようで、ニコニコとしていた。

 

咲姫「きっとすぐに見つかると思う••••••。みんなで頑張れば、きっと」

 

天「••••••悪いな」

 

本当は俺が頼られなきゃいけないのに、逆にみんなに頼ってしまっている。

そんな現状があまりにも情けないが、それを越えていく程に優しくて、温かい。

 

もうすぐ俺の家が見えてきた。その前で咲姫が立ち止まり、俺もほぼ同時に止まる。

 

天「どうした?」

 

咲姫「••••••ッ」

 

唐突に咲姫に抱きつかれて、俺は頭が少しこんがらがる。目をパチクリとさせながら下に目線を送ると、上目遣いの咲姫の顔があった。

 

咲姫「無理だけはダメ••••••」

 

天「•••わかってる」

 

咲姫「夜遅くまで仕事するのもダメ••••••」

 

天「ん。気をつける」

 

咲姫「浮気もダメ••••••」

 

天「それはしねぇよ」

 

最後の最後でやはり咲姫らしい言動が見えた。

 

天「どうしたんだ急に?」

 

咲姫「一人で抱えないで頼って欲しい••••••。仲間だから」

 

天「••••••あー、なるほど」

 

ようやく、ようやくプロデューサーが言ってた俺の課題が理解できた。

一人で抱えずに周りに頼れって事だろ?あーそうだ。いっつも俺一人で片付けて周りに頼るなんて全くしてこなかった。

けどさっきもこの課題をクリアする方法を見つける為にPhoton Maidenに頼ったばかりだ。

ようやくプロデューサーの意図が伝わって、心底スッキリした。

 

天「全く紛らわしいんだよあの人は••••••」

 

咲姫「••••••?」

 

天「いんや何でもね。咲姫やみんなのおかげで何とかなりそうだ。ありがとうな」

 

咲姫「良かった••••••」

 

天「••••••それで、そろそろ家に入りたいんだけど」

 

ほとんど目の前にあるが、今は咲姫に抱きつかれて身動きが取れない状態だ。

 

咲姫「•••んっ」

 

咲姫が背伸びをして目を閉じた。•••解放されたかったらキスしろってか?ワガママなこった。

俺からも咲姫を抱きしめて、唇を重ねる。

 

咲姫「ふっ、んぅ、ちゅっ•••」

 

真昼間からこんな住宅街の中でキスしてるカップルなんて俺たちくらいだろう。

場所を選ばないのは相変わらず咲姫らしいが、これからはちゃんと注意しておこう。どこでおっ始めるかわからん。

 

咲姫「はっ•••じゃあ、また明日」

 

天「あぁ、また」

 

お互いに手を振りながら、今度こそ俺たちは別れた。今の俺の顔はとてもスッキリしていて、不安や焦りも感じていなかった。




執筆?進んでないですどうにかします


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12月14日(日)

結局寮に入ってもモンハンをしまくってますハイw三時間程前にハンターランクの解放が終わりました。いやーこれで自由気ままに自分自身の育成に励めるぜい!え、執筆?•••どうにかします()


紗乃「どうやら、ちゃんと課題はこなせたようだな」

 

天「えぇ。誰かさんがわかりにくいようにするから大変でしたよ」

 

紗乃「以前と比べてかなり言うようになったな」

 

天「まぁ、慣れですよ」

 

もう半年以上世話になっているんだ。嫌でも慣れてしまう。それに目の前にいるプロデューサーの顔も、なんだか見慣れてしまった。

 

天「というか、何でわかるんですかね?」

 

紗乃「わかる、とは?」

 

天「課題が終わったってことですよ」

 

紗乃「顔を見ればわかる。昨日と違って迷いがないからな」

 

天「そういうもんなのか••••••」

 

紗乃「キミはわかりやすいからな」

 

あっはー嬉しくねぇ()俺は乾いた笑いを漏らす。

 

紗乃「これからもよろしく頼む、マネージャー」

 

天「了解しました。プロデューサー」

 

俺は大きく頭を下げて、部屋を後にした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

今日も今日とてPhoton Maidenのレッスンを眺めている。俺の仕事は家で事前に終わらせてきたので、彼女たちのダメ出し役として回ってきている。

 

天「乙和さん、少しテンポが早いです。落ち着いて合わせてください」

 

乙和「は、はーい!」

 

天「ノアさん、ちょっと動きが弱いです。乙和さんに合わせてください」

 

ノア「うん!わかった!」

 

なんというか、粗探しというのも意外と大変だ。そこまで悪いというわけじゃないから、何処かしら見落としそうで怖い。

咲姫と衣舞紀さんはそれと言った悪いところは見つからない。

咲姫は天才肌だし、衣舞紀さんは身体能力の高さが上手くカバーできているのだろう。そこは乙和さんやノアさんの持っていない強みだ。

 

天「乙和さん、いいですよ。そのままで行きましょう」

 

乙和「やったー!褒められちゃった!」

 

天「喋らないで集中してください」

 

乙和「落とすのが早い!」

 

誰も私語をしていいとは言ってないのですぐに注意をする。他の三人がクスクスと笑っていたので、俺も笑っておいた。

 

休憩に入り、全員を集めて軽く話し合いを始める。

 

天「昨日よりは幾分か良くなってきてます。まだまだ改善する点が多いですが、この調子でいけばライブ本番まで十分間に合いそうです」

 

乙和「本当に!?いやーやっぱり私たちが本気を出せば余裕だねー」

 

ノア「とは言っても後半注意されてたの乙和だけだけどね」

 

天「個性は強くていいんですけど••••••やっぱり技術面がどうしても劣ってしまうんですよね••••••」

 

恐らくこの差を埋めることはできないだろう。なんせ周りも同じレベルで頑張っているのだから、離れるか近づくかのギリギリのラインをずっと行き来している状態だからだ。

 

天「やっぱり乙和さんの強みは愛嬌ですからね••••••表情豊かなところはお客さんのウケもいいですし、技術が足りなくてもまるっとカバーできてますからね」

 

乙和「それってつまり私が可愛いって事!?もー天くんったらー」

 

天「そういう意味じゃねぇよ殴るぞ」

 

乙和「ひいぃ!?」

 

天「あ、すみませんつい」

 

あまりにもさっきの発言が月らしくて家での口調が出てしまった。

 

ノア「天くん、この際殴っちゃってもいいと思う。さっきから乙和、調子に乗ってばかり」

 

天「いくらなんでも先輩を殴るような真似はできませんよ••••••。とりあえず、各々の課題をキッチリこなして本番まで間に合わせるようにしてください。以上です」

 

そろそろ自分の仕事の確認をしたかったので、これを機に俺は仕事部屋へと戻っていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

今日のレッスンが終わり、俺は腹を空かせた状態で家へ向かって歩いていた。

軽く外食でもしてやろうかと思ったが、流石に月が飯作って待ってるのにそんな事はできない。

 

天「腹減ったなぁ•••腹減りすぎて倒れそうマジで」

 

仕事したら人のダンス見て意見出したりと、かなり疲れた。

いや、一番疲れてるのは彼女たちだろうけどさ。それでもキツいもんはキツい。

 

天「さて•••なんとか間に合わせないとな」

 

付け焼き刃でライブに出すわけにはいかない。すぐにでもできる状態を作りたいが、焦ったところでかえって悪くなってしまうのがオチだ。

焦らず冷静に、少しずつ積み重ねていこう。

 

気がつけば我が家は目の前だった。玄関に手をかけて、力を抜いて開ける。

 

天「ただいま」

 

声は返ってこない。あれ?あいつ出かけてんのか?

そう思って靴を確認しようとしたらーー、

 

天「••••••見たことあるぞこの靴ども」

 

先週辺りに一度見たような気がする靴が四足、綺麗に並べられていた。

•••またあのお嬢様方来たのか。

 

天「ただいーー」

 

月「突撃ーー!」

 

胡桃•みいこ「おおぉーー(なの)!」

 

天「よっと」

 

三人のおチビが突っ込んできた。天井ギリギリのところまでジャンプをして、前宙をして軽く躱してみせる。

 

天「いきなりどうした」

 

月「おかしいなー•••いつもなら引っかかるのに」

 

いやいつもはお前一人だからいいけど流石に三人は相手できねぇよ••••••。

 

美夢「流石です!」

 

天「へいへいどーも。今日は何用で?」

 

春奈「胡桃さんとみいこさんが月さんの家で遊びたいと言うので••••••」

 

天「実際は俺にイタズラしたかっただけか?」

 

春奈「恐らく••••••」

 

少し申し訳なさそうに春奈は頭を垂れる。俺は何故かわからないが笑みが込み上げた。

 

天「いやまさか•••俺がイタズラなんてされるとはな•••ハハ」

 

胡桃「あっ、お兄さんが笑ってるー!」

 

天「なんか近くね?」

 

何故かわざわざ隣にまでくる胡桃に少し違和感を覚える。なんかイタズラ仕掛けてきそうだな••••••。

 

月「そういえばお兄ちゃんお昼まだでしょ?食べる?」

 

天「え?いやいや、客が来てるのに飯食えねぇよ」

 

美夢「私たちは気にしませんよ」

 

みいこ「むしろお兄さんがご飯を食べてるところを見てみたいの!」

 

天「みいこに関しては謎すぎてわからん」

 

俺の飯食う姿の何処がいいんだよマジで。月はニコニコしたまま、すでに準備してある昼食を俺の目の前に置いた。

 

月「はいどうぞ」

 

天「量やたら多いな•••」

 

大食い番組程とは言わないが、それでもかなりの量の飯が積まれていた。

いくら腹減ってるとはいえそんなに食えるかはわからないんですけど()

 

天「••••••いただきます」

 

それでも食うんだけどさ。腹減ってるんだし。

 

天「•••いや食いづれぇな」

 

みんながジーッと俺の方を見ている所為で、なんだか食事に集中できない。

 

春奈「いえ、思ったより丁寧に食べるのだと思いまして••••••」

 

天「あー•••でも外食とかいった時はかなりバクバク食うからな••••••。今はそんな思い切り食おうとも思わないし」

 

胡桃「たくさん食べるお兄さんの姿って想像しやすいなー」

 

美夢「確かにそうだね。たくさん食べてそうなイメージだもん」

 

月「実際よく食べますからねー。筋肉維持する為なんでしょうけど」

 

天「全くもってその通りだ」

 

全ては身体の維持の為。筋トレもしっかり続けているし、食事も肉やタンパク質の多いものを積極的に摂取している。

 

月「そういえばライブの方は大丈夫そう?なんか昨日唸ってたけど」

 

天「んー•••やる事は多いが、少しずつ片付けていけばなんとか間に合いそうだ」

 

美夢「DJユニットのマネージャーのお仕事は大変そうだね」

 

天「そんなんだよなー。ライブ近いから仕事が多くてたい•••へん••••••?」

 

ちょっと待て、今なんかおかしな単語が聞こえたぞ。DJユニットっつったよな?

 

春奈「今人気のPhoton Maidenのマネージャーをなさっているのでしょう?」

 

天「••••••なんでバレてんだ」

 

胡桃「インターネットでお兄さんの名前を検索したらすぐだったよ?」

 

天「そういや俺ウ◯キ登録されてんだった忘れてた。道理で出るわけだ」

 

ネット恐ろしや。こんな簡単に調べついてしまうんだから怖い。

 

胡桃「お兄さんお兄さん。私たちのお手伝いさんとして雇われない?お給料は弾ませて貰うよー?」

 

天「•••せっかくのところ悪いが、俺は今の担当が一番好きだからそれは受けれない。そうだな•••Photon Maidenが解散したら、お前らの担当になってもいい」

 

春奈「つまりは絶対にないってことですわね••••••。それでも、こんな身近に有名人がいたとは思いませんでしたわ」

 

天「いや、現役お嬢様がそれ言っちゃう?」

 

俺なんかよりも貴方がたの方がよっぽどすごいんですけど???

 

美夢「私たちは何もしていないから••••••」

 

天「それ言ったら俺も母さん効果が強いんだよな••••••」

 

月「いつまでしみったれた話してるの?早く食べちゃってよ」

 

天「あ、あぁ、わかった」

 

月に催促されて、俺は急いで飯をかき込んで行った。その後は適当に遊んだりをして、リフレッシュする事ができた。明日も頑張ろう。




それでは私はモンハンの方に•••スマブラとするcar•••


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12月15日(月)

珠集めも終わって本格的にやることなくなったwwハンターランク上げ中の下位ハンターのお手伝いでもしてよっかなwwwあ、執筆は多少進めました。九日の入学式までには最終話まで仕上げます。これは絶対です。


休日明けの絶望感と言うのは、思ったよりも恐ろしいらしく、尋常とは思えない気怠さが俺を襲っていた。

布団からはなんとか出られたが、眠いしダルい所為でずっとボーッとしている時間が続いていた。

 

月「•••早くご飯食べてほしいんだけど」

 

天「悪い、なんかあまりにも眠すぎる••••••」

 

テーブル前の椅子にはしっかり座っているのだが、ずっと頭をカクンカクン、と揺らしていて今にも寝落ちしてしまいそうだった。

 

月「はぁー•••どうしてここまでになってるんだか••••••」

 

天「わからん•••」

 

月「とりあえず早くご飯食べて準備して。学校遅刻しちゃうよ?」

 

天「ん••••••」

 

力なく身体を動かして食事を始める。咀嚼すらもいつもの早さはなく、えらくゆっくりだ。

 

月「おっそーい!早く食べて!」

 

天「だからって無理矢理突っ込むnおぼぼぼ!!」

 

我慢の限界に達した月が、強引に俺の口の中に今日の朝食を全部一気に詰め込んだ。

これの所為で、眠気が少し飛んだ。

 

月「はい終わり!さっさと準備する!」

 

天「へーい•••」

 

今日の月は、えらく厳しかった。たまにはこういう日もあるだろうと、俺は割り切ってすぐに着替えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

冬の寒さをも凌駕する睡眠欲は、歩いていても解消されるわけではなかった。

何度も何度も欠伸を繰り返しながら歩いているのもあって、周りから見れば寝不足のアホな学生だ。

 

天「あーヤバい、眠い•••」

 

乙和「珍しいねー。天くんと登校中に会うなんて」

 

天「•••乙和さんですか」

 

後ろから声を掛けて来たのは、乙和さんだった。こんな寒い中でもいつもの元気っぷりは健在だ。

 

乙和「一緒に学校行こう?」

 

天「いいですよ。ふわああぁぁ•••」

 

乙和「眠そうだね。もしかして夜遅くまで起きてたの?」

 

天「いえ、普通に寝たハズなんですけどやたら眠くて•••」

 

乙和「もしかしてまだ疲れが溜まってるんじゃないかな?あまり無理はしないようにね?」

 

じっ、と俺の顔を覗き込む乙和さん。眠すぎて半目になってる今の俺は、彼女の顔がぼやけてよくわからなかった。

 

天「本当に危ない時はどうにかしますよ。変に心配かけてすみません」

 

乙和「本当かな•••?天くんだとそこら辺は全く信用できないんだよね••••••」

 

天「えぇ•••」

 

あれ?俺ってそんなに無理してる•••?最近は全くそんな事ないはずなんだが••••••。

 

乙和「私知ってるよ?ダンスレッスンの確認をする為だけに家でも仕事をしてるってこと」

 

天「••••••知ってたんですね」

 

敵わないな、という風に笑ってみせる。が、乙和さんは笑うどころか心配そうだった。

 

乙和「今だって眠いのも疲れが溜まってるからだと思うよ?だからーー」

 

天「わかってますよ」

 

ぽんっ、と乙和さんの背中を軽く叩く。拍子抜けした顔をみせる彼女は、何度か瞬きを繰り返す。

 

天「今だけ、今だけですよ。こんな無理するのも。クリスマスライブが成功した時に、キッチリ休みますから。その日まで止めないでください」

 

乙和「••••••うん、わかった!それじゃあ天くんの為にもダンスと歌、頑張っちゃうぞー!」

 

天「乙和さんは特に課題が多いですからね、多めにこなしていきましょう」

 

乙和「せっかくやる気が上がったのに水を差さないでよー!」

 

天「アハハ、すみません」

 

頬を膨らませて可愛らしく怒る乙和さんを見てると、なんだか疲れているのがバカらしくなった。

だから、彼女の目の前で盛大に笑ってやるのだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

授業は基本つまらないので、寝るか仕事をするかのどっちかになっていた。

まだ隠れてスマホをイジイジしている奴よりはよっぽどマシだと思うが、褒められた行動ではないのは確かだ。

 

天「••••••ま、意外と早く終わりそうだな」

 

ボソッと小さく呟いて、今日の分の仕事を片付けていく。

あまり音を出さないように慎重にキーボードを打つのが、これ程もどかしいとは夢にも思わなかっただろう。

 

また別の授業では永遠と睡眠を貪っていた。授業を聞いているフリをして、パソコンに隠れてもうメチャクチャに寝まくっている。

 

焼野原「(•••なんか今日の神山、かなり、というよりすっごい自由だな••••••)

 

学校の勉強なんてやってられるかって話だ。少なくともこの時期だけはガン無視させていただくつもりである。

 

天「••••••すぅー」

 

小さな寝息が、教室中に静かに響いた。誰も気づく事はなかったが、後ろの席にいた焼野原くんにだけはバッチリ聞かれた。泣く。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

昼休みになると、咲姫はすぐにこちらへ向かって歩いてくる。

 

咲姫「お昼ご飯••••••」

 

天「あぁ、わかった」

 

よいしょ、という声と共に立ち上がる。ずっと寝てた所為で腰が少し痛い。トントン、と腰を叩きながら身体を逸らす。

見事にボキボキッ、と身体から音が鳴った。

 

咲姫「おじいさん••••••?」

 

天「そんなに鈍ってねぇよ」

 

微笑みながら咲姫を連れて移動する。行き先はいつもの学食ではなく、中庭の方だった。

久しぶりに二人きりで話がしたかったから、ここへ連れて来たのだ。

 

天「さて、と•••まぁ色々話しておきたい事が山積みなわけなんだが」

 

咲姫「••••••?」

 

咲姫は首を傾げる。俺は小さく息を吐き、口を開いた。

 

天「昨日も言った通り、今のPhoton Maidenは課題が多いって話はしたよな?その件で少し咲姫にも色々伝えておきたかったんだ」

 

咲姫に表情が固くなる。俺は苦笑してリラックスするように言い聞かせた。

 

天「まぁまずは•••ダンスの技術はしっかり上がってる。咲姫はDJをしながらだから他のみんなよりは大変だと思うが、できてるところはしっかりとできている。後は細かい所を直していけばライブも必ず成功できるぞ」

 

咲姫「•••あれ••••••?褒められてる••••••?」

 

天「褒めてるが•••?」

 

そういや注意が多めで褒めるのはあまりなかったなそういや。俺自身が忘れていたわ。

 

天「久々に褒められた気分はどうだ?」

 

咲姫「嬉しいけど•••照れる••••••」

 

頬を赤く染めながらモジモジとし始める咲姫。俺はその姿を微笑ましく眺める。

 

天「確かに俺はいつも悪い部分しか注意しないけどさ、裏を返せばその悪い所以外はできてるって事だ。課題が少ない人程ちゃんとできてるんだよ」

 

まぁ乙和さんは少し話が別になってしまうところがあるが、別に今咲姫の前で話す事でもないだろう。

 

天「よく頑張ってるよ、咲姫は。だから自信を持って練習に取り組んでくれ」

 

咲姫「うん•••ありがとう、天くん」

 

頭を優しく撫でてやると、彼女は目を閉じて、俺の肩に体重を預けた。

 

天「って、早く飯食わねぇと昼休み終わるわ」

 

咲姫「•••ッ!そ、そうだった••••••!」

 

お互いにハッ、となって、急いで弁当をかき込み始める。実際はそこまで時間が押しているわけではないが、食い終わった後に咲姫とまた話をしたかったので、急いで食べた。

 

天「いやまぁ、流石に早すぎたな」

 

俺が一足先に食べ終えてしまって、今は咲姫が食べている様子を眺めている。

 

咲姫「あ、あまり見られると恥ずかしい••••••」

 

天「逆にお前はよく俺が食ってる所を見てるだろ?お返しだ」

 

俺も俺でキッチリ恥かかされてるんだ。これくらいの仕返し、許されてもいいだろう。

 

天「とりあえず、今日も頑張れよ?応援してるからな?」

 

咲姫「•••うん!頑張る••••••!」

 

咲姫から返ってきた声は、とても強気で、やる気に満ち溢れていた。




それではご飯食べて人狼してきまーす。モンハン?後じゃ後


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12月16日(火)

今日市役所とサツ署に行って住民票移動と免許証の住所移動をしてきまちた。いやー歩いた歩いた。その後ドンキにおにぎり爆買いに行ってきたから更に歩いた歩いた。多分一時間ちょっとは歩いたね間違いないwま、そーいうわけです。後ドンキ安すぎて泣いた。


ライブ当日まで十日を切った。着々と準備を進めていく傍ら、今日も彼女たちのレッスンを集中してジロジロと見ていく。

 

天「(うん、昨日よりも動きが良くなってる。このまま行けば十分に間に合いそうだな)」

 

ミスも少なくなってるし、各々の課題も達成へと向かっている。今日は変にダメ出しをしなくて良さそうだった。

 

天「•••••••••」

 

ただ無言で踊る姿を眺めてるだけでも楽しい。彼女たちの動きに、日に日に見惚れていってるらしい。

もっとダンスを見ていたい、もっと歌を聴きたい、その欲望に詰まった感情だけが、俺の心の中で渦巻いていた。

 

練習が終わってしまって、俺はつい名残惜しさを覚えてしまう。それ程までに、俺は夢中になっていたようだ。

 

天「••••••集合」

 

もどかしさを隠そうとしないまま、俺は彼女たちを呼び寄せた。

全員が真剣な眼差しで俺の顔を見る。それによって自然と気が引き締まったような気がした。

 

天「今日は文句を言うところはありません。しっかり動きが良くなってきてますし、それぞれのやらなければならない課題も進んでいます。このままの勢いで本番に備えてください」

 

咲姫•乙和•衣舞紀•ノア「はい!」

 

大きな声で返ってきた返事に俺は頷いた。

ここでやっと休憩時間に入る。俺は異様な眠気を感じて、レッスン部屋の壁に体重を預けていた。

 

天「•••••••••」

 

咲姫「天くん」

 

天「おぉ、咲姫」

 

汗を拭いている咲姫が、こちらにまで寄ってきていた。隣に座り、俺に顔を向ける。

 

咲姫「どうだった••••••?」

 

天「よくできてた。頑張ったな」

 

よしよし、と頭を撫でてやる。されるがままの咲姫は穏やかな表情で目を閉じていた。

 

乙和「天くん天くん!私はどうだった!?」

 

そこに乙和さんが興奮気味にやってきた。俺の目の前で急ブレーキをかけてストップする。

 

天「乙和さんもよくできていたと思います」

 

乙和「•••••••••」

 

天「•••••••••」

 

乙和「••••••それだけ?」

 

天「それだけですが••••••?」

 

しばしの沈黙の後に放たれた乙和さんからの疑問に、俺はハッキリしない回答を返した。

 

乙和「私も咲姫ちゃんみたいに構ってよー!」

 

天「えぇ••••••」

 

ノア「ちょっと乙和。天くんを困らせたらダメでしょ?」

 

そこにノアさんが仲介に入ってきてくれたが、乙和さんの暴走は止まることを知らないらしい。

駄々っ子、とは言わないが少しそれに近かった。

 

天「はぁ••••••」

 

俺はため息を吐いて、仕方なく乙和さんの頭に手を置く。

これでも彼女の方が歳上とは到底思いたくないんだよなぁ•••。

 

乙和「お、おぉ•••!なんだかすごい新鮮••••••!」

 

天「これで満足ですか?」

 

乙和「えへ、えへへへへ〜!大満足!」

 

どうやらお気に召したようで、乙和さんは溶けたような緩い笑顔でニタニタとしていた。

 

咲姫「むぅ••••••」

 

天「おっと•••」

 

咲姫が俺の腕を引っ張る。座っている状態だとそこまで体幹が活かせないので、俺はそのまま咲姫の方向へ強引に引きつけられてしまった。

 

天「どうした?」

 

咲姫「ぎゅう••••••」

 

天「•••あーはいはいわかったよ」

 

俺が乙和さんの相手をしてたからまた変に嫉妬でもしたのだろう。

なんかよくある事なのもあって、俺自身も慣れてしまっていた。

彼女の背中に腕を回して、密着する。咲姫の柔らかい身体が俺の身体に沈んでいく。

 

天「•••うわ、すげぇ眠れそう」

 

咲姫「そのまま寝てもいいよ?」

 

天「まだやる事あるし起きてないと•••」

 

俺の仕事はまだ終わっていない。また彼女たちのレッスンを見ないといけないのだ。

 

乙和「よーし眠たいなら私が起こしてやるぞー!それー!」

 

天「ちょ!?ぐふっ!」

 

後ろから乙和さんのダイレクトアタックが背中に襲いかかってきた。

衝撃によって感覚の暴走が襲いかかってくるが、密着してるおかげもあってか、あまり辛くはなかった。

 

衣舞紀「これじゃあおしくらまんじゅうね••••••」

 

天「ちょっと•••見てないで助けてください」

 

ノア「天くん!今から行くからね!!」

 

天「絶対助けに行く雰囲気じゃないんですけど!?」

 

明らかに目が血走ってるし!ノアさんも抱きついてくる流れだろこれ!!

そして俺の予想大当たりだよ!しっかり抱きついてきやがったよ!

後暑い!流石にこの人数+俺以外汗かいてるから暑い!

 

衣舞紀「みんなくっついてるなら私も混ざっちゃおうかな〜?」

 

天「衣舞紀さんもですか!?というかこの流れ一回何処かでやったような気がするんですけど!?」

 

衣舞紀「気の所為よ!よーし行くわよー!」

 

トドメとばかりに衣舞紀さんまでもが突っ込んできた。

広々としたレッスン部屋の端っこで、俺たちはギュウギュウに固まっている。広さを全く生かしきれてない。

 

紗乃「気になって来てみたが••••••お前たちは何をやっているんだ?」

 

そこに、困惑と呆れが入り混じった表情で姫神プロデューサーがやってきた。

俺は無表情だったが、他の四人は青冷めていた。まぁいつも怒られてるしそりゃそうか。

 

天「なんかもうよくわかんないです」

 

紗乃「漠然とし過ぎだ••••••。まだ休憩時間なのか?」

 

天「••••••あ、ちょうど終わりですね」

 

紗乃「なら早く次の準備をしろ。神山も遊び過ぎるな」

 

天「サーセン」

 

珍しく今回は俺が怒られた。ちきしょうめが。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

レッスンが終わって、暗くなった街を五人でゾロゾロと歩いていく。

 

天「今日は災難だった••••••」

 

何がどうして、あんな暑苦しい事をしなければならないのか理解に苦しむ。

思い出すだけでも汗が噴き出しそうだ。

 

ノア「プロデューサーが来た時はものすごく焦りましたよ!急に来るのだけはやめて欲しいです!」

 

天「プロデューサーが来た時のみんなの顔、凄ったですね。結構面白かったですよ」

 

乙和「私たちは面白くないよ!すごく怖かったんだから!」

 

ギャーギャーと喚き立てる乙和さん。結局怒られたのは俺一人なので、今回は彼女たちは関係ない。それでも怒られるかもしれない、という恐怖はかなり効果のある事なのだろう。

 

衣舞紀「でもそこまで怒らなかったのが意外ね。あんな事をしていたのに」

 

衣舞紀さんが首を傾げながらそんな事を呟く。言われてみればあんなおふざけをしておいて、そこまで言われなかったのは本当に意外だ。

 

天「••••••ん?」

 

ちょうど建物のテレビから映像が流れていたのが目に入った。何故かやたら変な違和感を感じてしまい、それをまじまじと見つめる。

 

天「あっ•••これ」

 

咲姫「何かあった•••?あっ」

 

続いて見に来た咲姫も、テレビを見てハッとなる。続々と確認にやって来ては、驚いた表情を見せる。

画面に映っていたのは、我らがPhoton Maidenのクリスマスライブの告知だった。

 

乙和「すごい•••こんなところでも大々的に宣伝しているんだね」

 

ノア「そうだね••••••」

 

しみじみとした表情の乙和さんとノアさんを見て、自然と笑みが零れる。

宣伝をしている、というのは聞いていたが、まさかこんなところにまで手を出しているとは思わなかった。今日帰ったら軽くネットで探してみるか。

 

衣舞紀「それ程期待されてるって事よね」

 

咲姫「うん•••頑張らないと」

 

それに、この宣伝の効果は俺たちにもあったようで、更にやる気を引き出してくれるきっかけへと変わっていた。

 

天「•••よし。明日も思い切り追い込みますよ。そのやる気、明日まで取っておいてください」

 

もしかしたらこの中で一番やる気があるのは、俺かもしれない。確定だという根拠はないが、それでも負けてない自信にはあり得んばかりに溢れていた。




もうすぐ学校始まるってのに余裕過ぎてなんか逆に怖いな••••••。


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12月17日(水)

今日ありえんくらい寝てましたw昨日からオールして朝から晩までずーっと寝てましたよwこれは今日もオール確定ですなwwwモンハンしまくっちゃろw


天「••••••なんで俺はお前らに付き合わされているんだ?」

 

昼休み、俺はとある奴らに呼ばれて学食に引っ張り出されていた。せっかく咲姫と二人で飯を食おうと思っていたのに、これでは台無しだ。

 

響子「ごめんごめん。こうして天とちゃんと話し合ってみたかったからさ」

 

申し訳なさそうに笑いながら、響子は俺に顔を向ける。話をすると言っても特に話題はないだろうに。

 

響子「しのぶからある程度は聞いていたんだけど、結構•••というよりかなり面白い経歴ばかりで気になってね」

 

天「変な事は吹き込んでないよなお前」

 

ジロリ、としのぶを睨みつける。おにぎりを黙々と食べながらスマホを眺めていた彼女は、表情を一切崩さずに首を横に振った。

 

しのぶ「ちゃんとプライバシーは守ってるよ。そうでもしないと、アタシがどうなるかわかったもんじゃないし」

 

絵空「天さんのお父様に殺られちゃいますからね〜」

 

天「確かに父さんなら変な事言ったらすぐに殴りかかってきそうだな••••••」

 

だってクソ野蛮なヤツなんだし。俺は乾いた笑いを漏らす。

 

天「というかしのぶ、昼飯それだけか?大きくならねぇぞ食え」

 

しのぶ「むぐっ!?」

 

おにぎりしか食べていなかったので、無理矢理だがハンバーグを彼女の口に突っ込んでやった。

 

天「どうだ?」

 

しのぶ「い、いきなり何!?」

 

天「食う量が少ねぇんだよ。そんなんじゃいつまで経ってもチビだぞ?え?」

 

ツンツン、と丸出しの額を指でつついてやる。イライラしているが、それと同時に恥ずかしさも感じているようで、しのぶの顔はキレながらも赤かった。

 

響子「しのぶの事、いつも気にかけてるよね」

 

天「ん?まぁなんだかんだ付き合いのあるヤツだからな。それに普段のこいつもよーく知ってるから心配なんだよ」

 

しのぶ「何もそこまでしなくてもいいだろ••••••」

 

天「どうせお前の事だ。授業中寝てたんだろ?」

 

しのぶ「ど、どうしてそれを••••••!?」

 

見事に言い当てられて、しのぶはギョッとした顔になる。予想通り過ぎて、俺は逆にため息が出てしまった。

 

天「昨日、月が夜遅くまでゲームしてたからな。どうせしのぶと一緒だと思ったよ••••••」

 

絵空「あらあら、しのぶの事はなんでもお見通しみたいね」

 

しのぶ「嬉しくないんだけど•••」

 

天「お?言ったな?」

 

生意気にも口答えをするようなので、俺は彼女の可愛いおデコにデコピンを繰り返す。

パチンパチンと言った、小気味いい音が何度も繰り返される。

 

天「って、そういえば由香はどこに行った?」

 

会話に唯一加わっていなかった由香は、いつのまにか消えていた。

他のみんなもわからないようで、一斉に首を傾げる。

 

由香「うーん、この肩•••一見細く見えても筋肉が詰まりに詰まってる•••!」

 

天「後ろかよっ!?」

 

知らん間に背後を取られて、ペタペタと肩を触られていた。流石に不気味過ぎて驚くわこれ。

 

由香「本当にいい筋肉をしてるよ。どんな筋トレをしているのか教えてちょうだい!」

 

天「悪いが秘密だ」

 

とは言っても、ごく普通のトレーニングをただただ限界まで追い込み続けるだけなのだが。

 

響子「そもそもマネージャーの仕事って何をしてるの?」

 

響子から放たれた質問はごくシンプルなものだった。

俺は少し考えて、そっと口を開いた。

 

天「•••まぁ、スケジュール管理とか、ライブの予定立てたりとかだな。後は担当のメンタルケアとかそこら辺もあるし、結構ブラックだぞ?」

 

力なく笑う。が、ピキピキのメンツは全く笑っていなかった。

 

しのぶ「•••辛くないの?」

 

天「いや全然?」

 

絵空「それを学校と並行してやってる、と考えるとかなりの重労働では?」

 

天「忙しい時期は流石に遅くまでかかるな。とは言っても一時間二時間程度の残業だし、あんま変わらんな」

 

実際日が明けたりとか、学校を休んでまで仕事をする、と言った事は一度もない。

そもそも一日にどれくらいやるかを自分自身でちゃんと決めているので、そこまで苦になることもなかった。

 

響子「ふーん•••かなり苦労してるんだね」

 

天「そんな大それたもんじゃないさ。こうやって仕事を頑張れるのも、Photon Maidenがいるからだ」

 

響子「•••そうだね。天が人に好かれる理由がわかった気がする」

 

天「なんだ急に?」

 

響子「そうやって人の為に頑張れるって、すごくカッコいいと思うよ」

 

天「•••••••そ、そうか」

 

唐突に褒められて、俺は顔を逸らす。

 

絵空「あら〜?顔を赤くして可愛いわね〜」

 

天「ぬぅ•••やめろ••••••」

 

しのぶ「これでアタシがイジられる辛さがわかっただろ?」

 

天「うっせぇぞチビデコガキ助」

 

しのぶ「何で前より進化してるの!?」

 

響子「あはは!相変わらず天としのぶは面白いね!」

 

俺としのぶが悪態をつきあっている様子を、響子は笑っていた。それに釣られたのか、由香と絵空も笑顔を漏らしていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

今日はダンスや歌を見てやれる時間が取れず、俺は仕事部屋にこもって万年筆をただただ走らせていた。

軽い書き味でスラスラと文字が写し出されていくのは、何とも言えない快感があった。

 

天「•••大丈夫だろうか••••••」

 

心配してない筈だったのに、心の片隅にはどうしてもそう言った感情が残ってしまっていた。

妙にソワソワしてしまって、作業の効率は低下まっしぐらだった。

 

天「いや。ダメだダメだ、俺が不安になってたら」

 

俺が一番に彼女たちを信頼してやらないと誰がするんだって話だ。きっと大丈夫だと、そう言い聞かせて仕事に集中する。

 

天「•••大丈夫なはず••••••」

 

わかっているはずなのに、今まで一番近くで見てきたからこそ、わかるはずなのに•••どうしても不安になってしまう。

ビリッ。

 

天「あっ••••••」

 

力んでいたのか、万年筆が紙を裂いてしまう。万が一を考えて万年筆を点検する。もちろん壊れてなんていない。

 

天「••••••一旦落ち着くか」

 

このままだと仕事が進みそうにないので、俺はコーヒーを持って外に出る。

既に暗くなりかけてる空を見上げながら、俺は温くなったコーヒーを飲む。

 

天「もうそろそろ、降りそうだな••••••」

 

それは雨ではなく、雪だ。更に酷くなった寒さに身震いする。息を吐くと、それは白い霧となって口から出て行った。

もう本格的に「冬」と言うものが近づいてきていた。

 

天「あー•••さっみ」

 

思いの外冷たすぎて、鼻水がズルズルとしてきた。流石にいい加減中に戻ろうと踵を返そうとしたら、隣にーー、

 

咲姫「もう少しだけ••••••」

 

咲姫が服の裾を引っ張って、引き止めた。彼女の顔を見て安心したのか、俺は頷く。

 

天「休憩か?」

 

咲姫「うん。部屋に行ったら天くんがいなかったから探した••••••」

 

天「それは悪かった」

 

咲姫の頭に触れる。外気によって冷やされた手は、彼女の頭の温もりがより伝わった。

 

咲姫「もしかして、集中できてない••••••?」

 

天「よくわかったな。咲姫やみんなが心配でな•••あまり進まねんだわ」

 

コーヒーを一飲みして、ふぅ、と息を吐く。咲姫にペットボトルを向けて、飲むか?と問う。

頷いたのを確認して渡すと、咲姫はチビりとそれを口に含んだ。

 

咲姫「苦い••••••」

 

天「あまり得意じゃなかったか」

 

薄らと笑う。咲姫からコーヒーを返して貰おうと手を伸ばすが、

 

咲姫「大丈夫だよ」

 

止まる。そして咲姫の方に顔を向けると、彼女は意志に溢れた顔を見せる。

 

咲姫「私たちなら大丈夫。だから、しっかりと見てて欲しい」

 

天「••••••わかった」

 

はぁ、これじゃあ変に心配してた俺がバカみたいじゃないか。

優しく咲姫の身体を包み込んで、耳元で囁いてやる。

 

天「期待してる」

 

咲姫「•••うん。必ず、応えてみせる」

 

咲姫がとても嬉しそうな表情をしているのが、なんとなくだが伝わった。

俺も俺でようやく安心した笑顔を見せる事ができた。

もう、口出しなんてしなくても大丈夫だろうと、そう確信した。




僕モンハンしてきまーす。ではではー


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12月18日(木)

モンハン、ガチ目にやる事が無くなってきてヤバいですwクシャル装備に向けての珠集めも一区切りついた上に護石もいいのがきて完全にやる気がないですハイ()


天「あー•••そういや今日木曜か」

 

毎日が忙しくて、もう曜日感覚がおかしくなっているらしい。

 

天「終業式いつだっけ?」

 

椅子に体重を預けて、ダラーっと脱力する。頭を後ろ向きに回して、後ろの席の焼野原くんに顔を向ける。

 

焼野原「おぉ•••急にそれをするな怖いわ。確か来週の月曜だったはずだけど」

 

天「もうそんな時期か•••早いな。まぁでも学校行かんでいいって考えると楽だな」

 

ケラケラと軽く笑う。焼野原くんもそれは同じようで、俺と似たような笑みを浮かべていた。

 

焼野原「まぁでもお前は冬休みなんてあってないようなもんだろ?どうせ仕事漬けなんじゃないか?」

 

天「否定できないのが辛過ぎる。まぁ実際仕事の上に漬物石置かれてるわけだけど」

 

焼野原「表現が謎過ぎんだろw」

 

天「それなwクソつまんねぇwww」

 

なんか初めて男子高校生なノリができた気がする。正しいのかどうかはさて置きだが。

 

天「つっても、高校一年もうちょいで終わりかぁ。はえぇなぁ」

 

焼野原「そうだなー、あっという間だった••••••」

 

俺と焼野原くんはしみじみと感じながら、ほぅ、と息を吐く。

変にしみったれたが、まだ後二年高校生活があるのだ。どうもこうも言ってられない。

 

天「ま、来年からは受験も視野に入れないとなー」

 

焼野原「え?受験の事考えるのなんて三年生になってからだろ?」

 

天「遅い遅い」

 

俺は人差し指を振って、焼野原くんを挑発する。あまり意味が分かってなかった彼は、首を傾げるだけだった。

 

天「三年生になってから急いで考えるよりも、二年生の間に志望をいち早く決めて受験に備えるんだよ。焦らずに確実にだ」

 

焼野原「ははっ、神山らしいな。相変わらずの安全思考で安心したわ」

 

天「物事は確実に片付けないとな。それに、失敗するよりはマシだろ?」

 

焼野原「それもそうだな」

 

納得したように焼野原くんが笑った。野郎と何気ない会話をするのも楽しくて、俺は心が少しウキウキしていた。

 

天「(俺自身も少しずつだが変わってるんだよな••••••)」

 

昔は人との繋がりなんて一切どうでもいい、なんて考えてたけど今は違う。こうやって繋がっていけばいくほど、人として成長できる。変わっていくことができる。

最も、それを教えてくれたのはPhoton Maidenのみんなだけどな。

 

焼野原「••••••やけに嬉しそうだな?」

 

天「ん?あぁ•••今の環境に感謝してたんだよ」

 

焼野原「ふーん?」

 

天「自分から訊いてきた癖に白けた反応すんなよ」

 

無表情で応えた焼野原くんに対して、俺は苦笑混じりで悪態をついた。

と、そこに教室の外から声が漏れてきた。

 

りんく「天くーん、いるー?」

 

天「•••りんく?」

 

焼野原「お呼ばれか?行ってきなよ」

 

天「へーいへいへい」

 

焼野原「時には起こせよムーブメント♪」

 

天「死ね」

 

焼野原「辛辣!!」

 

ノッてきてくれたところ悪いが、そういう気分ではなかったのでキツい一言だけを投げつけた。

泣きそうな顔で俺を見送った焼野原くんは、すぐに別の男子に絡み始めていた。

廊下に出た俺は、りんくと顔を合わせる。

 

天「んで、なんか用?」

 

りんく「実はねー、ハピアラでクリスマスライブやるから来て欲しいなーってお願いしに来たのー!」

 

天「•••••••••ぶふっ•••!」

 

つい、噴き出してしまう。え?こいつPhoton Maidenがクリスマスライブやる事知らないわけじゃないよな?

 

りんく「もー!何で笑うの!?」

 

天「いや、悪い悪い。せっかくのお誘いだが生憎ウチも同じ予定でな、りんくの方に顔を出すことはできないんだ」

 

りんく「あっ、そっか。天くんもライブ会場の方に行かないといけないんだ!」

 

ハッ、とした様子でりんくは恥をかいたように頬を赤く染めた。それが何だか面白くて、更に笑ってしまう。

 

天「ちょっとした保護者みたいなもんだからな」

 

りんく「あの中だと天くんの方が歳下なのに?」

 

天「屁理屈言ってんじゃねぇよ」

 

減らず口の両頬を指で摘んで引っ張ってやる。びよーん、と餅のように柔らかく伸びた。

 

むに「ちょっとアンタたち何やってるのよ••••••」

 

りんく「ほはふんひひっははへへふー」

 

天「何て言ってるかわかんねぇ••••••」

 

このままじゃ会話が成立しないような気がしてきたので、指を離す。

意外と触り心地良かったんだよな•••。

 

天「むには何でこっちに?」

 

むに「アンタとりんくが一緒にいたから気になって来ただけーーちょっと!にょちお持っていかないでよ!」

 

天「いいだろ可愛いんだから」

 

ちょうどいいところにむにの頭に乗っていた、猫型音楽プレーヤーことにょちおを抱き上げる。これがむにの自作だって言うんだから驚きだ。

 

天「こうして見てると、猫とか犬とか飼いたくなるんだよなぁ」

 

りんく「飼わないの?」

 

天「あぁ。俺も父さんも母さんも仕事で忙しいから、世話は月に任せっきりになってしまうしな。それにあいつも高校に入ったら忙しくなるだろうし、ペットなんて飼ってる暇はないんだ」

 

にょちおを撫でながら、俺は力なく笑う。だからこうやってにょちおをペットーー家族代わりにしているのかもしれない。

たまにご近所さんの犬や猫と戯れたりもするが、やっぱり家にちゃんといる方がいい。

 

天「にしても本当にこいつは可愛いな」

 

とても愛くるしいデザインをしていて、いつまでも見ていたい可愛さだ。マジでこのままお持ち帰りしたい。

 

むに「もう終わり!」

 

天「残念」

 

無理矢理むにに奪われて、俺は肩をすくめる。にょちおを大事そうに抱えているむにも、それはそれで可愛い。

 

りんく「あっ!そうだ!今度の休日、天くんのお家に行ってもいい!?」

 

天「唐突だな•••俺は構わんぞ」

 

りんく「じゃあハピアラのみんなで!」

 

天「ん、わかった」

 

むに「わ、私も!?」

 

むにが自分自身に指を刺しながら驚いたような顔になる。俺とりんくはお互いに顔を合わせてから、むにに対して頷く。

 

天「むにも来いよ。妹が大量にゲーム持ってるから、遊んでやってくれ」

 

むに「しょ、しょうがないわね!どうしてもって言うなら行ってあげるわ!」

 

天「決まりだな。じゃあ頼むわ」

 

ヒラヒラと手を振って、俺は教室の中に戻っていく。そこで、別の男子生徒と談笑していた焼野原くんがこちらに気づいた。

 

焼野原「終わったか。なんかあったん?」

 

天「休日うちに来るらしい」

 

男子生徒A「どうして神山ばっかり••••••!」

 

男子生徒B「許さん、許さん•••!呪い殺してやる••••••!」

 

天「いつにもなく荒れてんなぁ」

 

九割が俺の所為だが能天気に言葉を垂らすだけにしておいた。これくらいおちゃらけておけばキレるのもバカらしくなるだろう。

 

咲姫「りんくさんたち、天くんの家に来るの••••••?」

 

天「ん?そうだけど?」

 

咲姫「•••私も行く••••••」

 

天「あぁ、わかった」

 

横から入ってきた咲姫も、小さな声で参加を宣言した。今更一人増えようが変わらないので、俺は頷く。

 

男子生徒A「神山の家って•••美少女が集まるパワースポットなのかな••••••」

 

男子生徒B「俺も神山の家に行ったら美少女と一緒に過ごせるのかな••••••」

 

焼野原「切実だなお前ら••••••」

 

血涙を流す男子生徒二人に、焼野原くんが呆れながら宥めていた。面倒な友達持ったな•••。

 

天「というかハピアラのメンツで来るってことは麗もいるのか••••••。現役お嬢様に家見られるのあんまり好きじゃないんだよな」

 

リリリリの奴らというか前例があるとは言え、やはり憚れるものが少なからずあるのだ。頭をポリポリと掻きながら唸る俺に、咲姫が手を握った。

 

咲姫「堂々としてた方が天くんらしい」

 

天「え?あっ•••わかってるよ」

 

コツン、と頭を軽くぶつけて、ニッ、と軽く笑う。咲姫も微笑むような表情で俺を見上げた。

 

天「まぁでも、とりあえず••••••」

 

目の前で泣いてる男子二人•••止めるか。床もあいつらの血の涙で汚れてるしいい迷惑だわ。




適当にモンハンしながら執筆もちょいちょい進ますcar。まぁほとんど終わってるんだけどね


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12月19日(金)

まずは一言。最終話書き終わりました。後は引退まで投稿を続けるのみです。いやー終わった終わった。R18込みで全部で49万2千文字ってかなり頑張ったな俺wwwいやまぁそれ言ったら小説家の方々に大変失礼なんですけどね。


休日前の金曜日。終業式が来週に迫っているのもあって、周りの雰囲気は明るかった。

勿論その中には俺も含まれていて、そのテンションの高い教室内で友人と会話をしていた。

 

焼野原「神山!冬休み中どこか行こうぜ!」

 

天「26日は確実に休みだが••••••ライブ明けだから絶対に咲姫が逃してくれねぇんだよな」

 

男子生徒A「クソ!リア充めが!」

 

男子生徒B「クリスマスライブ•••行きたかったな」

 

天「なんだ?チケット外れたか?」

 

何気なく訊いてみたが、何やらかなり深刻なようで、男子生徒は力なく頷いた。チラリと見えた顔は、なんだか泣きそうな表情だった。

 

男子生徒B「紛失した••••••」

 

天「ガチモンじゃねぇか••••••心当たりねぇのかよ」

 

男子生徒B「ない•••完全になくした••••••」

 

天「うん、なんか、その•••ドンマイ」

 

あまり言葉を掛けてやれないのが辛いが、これに関しては完全な自己責任だ。とやかく言うこともできん。

 

男子生徒B「そういうわけだからクリスマスは予定がなくなっちまった••••••」

 

男子生徒A「大丈夫だ!俺がいるぞ!」

 

男子生徒B「おぉ•••!クリスマス一緒に飯食いに行くか!」

 

男子生徒A「あぁ!盛大に焼肉でも食いに行こう!」

 

なんか勝手に二人で盛り上がる所為で、俺と焼野原くんが置いてけぼりにされてしまった。

彼と顔を合わせて、ま、いいか、とお互いに笑った。

 

焼野原「まぁとりあえず予定は空けられないって事だな」

 

天「悪いな。自分じゃどうなるかさっぱりで」

 

自分で休日を管理しているわけではないし、有給を取ろうにも、仕事に穴を開けるのは不安でいっぱいになるのでできない。面倒な仕事に就いたものだ。

 

天「今後の事を考えたら、お前らと今のうちに遊んでおくべきなんだろうけどな」

 

焼野原「そんな歳で仕事なんてしてるからだろー?遊べるのは学生のうちだけだぜ?」

 

天「••••••十分遊べてるさ」

 

俺は焼野原くんから視線を逸らし、床の自分の足元を見ながら微笑む。

 

天「今こうやってワイワイ話してるのも、今まで生きてきたからこそだ。その中には辛いことも楽しいこともあったし、遊んだりもした。別に大人になってからも遊べないわけじゃないんだ。暇見つけて、どっかで会いたいな」

 

焼野原「•••会いたいだなんてしみったれた事言うんじゃねぇよ!まだ後二年あるんだぜ!?どっかで暇作って遊ぶぞ!」

 

天「••••••わかった。楽しみにしてる」

 

それがいつになるのかは、俺にはわからない。だが、その時が必ずくるということだけは確信した。

 

天「••••••そういや次の授業は?」

 

焼野原「体育だな」

 

天「••••••着替えるか」

 

焼野原「そうだな」

 

周りの奴らはみんな着替えを終えて、ゾロゾロと体育館に向かっていた。

急いで体操服に着替えて、なんとか間に合うことができた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

今日の体育は二学期最後の授業ということで、体育館で自由に遊んでいいとの事らしい。

俺は焼野原くんに誘われて、二人でバドミントンをしていた。

 

天「オッラァ!」

 

焼野原「いや速っ!?どんなパワーしてんのお前!?」

 

風を切る音と共にラケットを力一杯に振り抜くと、それに応えるようにシャトルが加速する。

とは言ってもシャトルは全く重くないので簡単に返されるが。

 

焼野原「しっかしメチャクチャ動けるよなーお前。体育の成績普通だったのにな」

 

天「これでも、剣道、柔道、銃剣道は一通りやってきてるからな。身体は全然動かせるぞ」

 

剣道の要領でふくらはぎを使って地面を蹴り、すぐさまシャトルの落下地点へ移動する。

そしてまた力一杯に振り抜いて、シャトルをぶっ飛ばす。

 

焼野原「武道マンかよ!いや、軍人の人間だしそりゃそうか!」

 

スパンッ!と小気味良い音が響いた。彼も彼で運動部に所属している人間だ。動きも早いしシャトルのスピードもある。

 

天「よっと。あ、やべ」

 

つい弱く返してしまった。それでも威力に負けて空高く舞い上がったシャトルが、真っ直ぐに落下を始める。

 

 

焼野原「ーーうらぁ!」

 

ジャンプ、からのまるで袈裟斬りのような振り下ろしによって、シャトルは床に向けて凄まじい速さで向かっていく。

 

天「流石にやられたな•••」

 

為す術なく、シャトルが床を小さく跳ねて転がった。それを拾って最初の位置に戻る。

 

天「んじゃ、やるか」

 

焼野原「次も俺が取るからなー?」

 

天「•••••••••」

 

チラリ、と横を目だけ動かしてみる。咲姫が小さく手を振っているのが見えた。

 

天「ふんっ!」

 

開始早々に強くラケットを振る。すぐに反応した焼野原くんは後ろに下がって応戦した。

 

焼野原「一発目からだいぶ強いの持ってきたな•••!」

 

天「こんなんで終わりじゃねぇぞっと!」

 

次はジャンプして右側目掛けてシャトルを打ち返す。

 

焼野原「いやちょっ!遠っ!」

 

焼野原くんからは距離のある位置を狙って打ったので、彼は必死に飛びついてなんとか弾く。

 

天「よいしょっと!」

 

またもジャンプ。上から大きく振り下ろして、今度は左側を狙う。

 

焼野原「くそっ!ハァ、ハァ•••」

 

またもギリギリで弾きあげる焼野原くん。次は確実に取れないだろう。それにまたギリギリのところに飛ばしてくると思っているだろう。

だから俺は逆に裏をかく。

ラケットを振り抜くーーフリをしてガットがシャトルに触れる瞬間に一気に力を抜く。

 

焼野原「ーーあっ」

 

完全に意表を突かれたようだ。表情から困惑しているのがひしひしと伝わってくる。

それに対して俺は、勝ちを確信した笑みを浮かべていた。

そして無情にもシャトルは小さな小さな、ごく僅かな音を立てて転がった。

 

天「•••よし」

 

俺もシャトルの音に負けないくらいの小さな声で喜びを露わにした。

ぜぇぜぇと荒く息をつく焼野原くんがトボトボ歩きながらシャトルを拾う。

 

焼野原「はぁ、はぁ•••次•••!」

 

天「•••いっぺん休もうか。無理させるわけにはいかん」

 

焼野原くんを座らせて休憩させている間に、咲姫に顔を向ける。

俺は小さく笑いながら手を振ると、

 

咲姫「••••••えへへ」

 

彼女も笑いながら振り返してくれた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

焼野原「疲れたーー!」

 

焼野原くんの体力が限界に近づいたようで、バドミントンを中止して体育館の隅で大人しく座っていた。

 

天「それでも運動部かよ。疲れるにしては早すぎないか?」

 

焼野原「いやお前が動かしまくるからだろ!?お陰でこっちは体力使い切ったわ!」

 

天「部活でへばんなよ?」

 

ニシシ、と悪い笑みを浮かべる。焼野原くんも対抗したのか、力無く唇を上げる。

 

咲姫「隣、いい•••?」

 

天「ん?あぁ」

 

咲姫が俺の隣にちょこん、と座った。

 

天「いいのか?せっかくの自由時間なのに」

 

咲姫「うん。天くんと一緒にいる方がいいから」

 

焼野原「愛されてんなぁ••••••」

 

焼野原くんがやたらとニヤニヤしながら俺の顔を覗き込む。少しウザったい。殴ろうかな。

 

焼野原「ま、冗談はこれくらいにして。出雲さん、ずっと神山がバドミントンしてるところ見てたみたいだけど、どうだった?」

 

咲姫「すごくカッコよかった••••••」

 

焼野原「•••だとよ、彼氏さん」

 

天「••••••お前、絶対後で泣かすからな」

 

ストレートに褒められて、俺の顔は赤くなってしまう。舌打ち混じりに顔を隠して、俺は視界を真っ暗にした。

 

焼野原「照れんなって。褒められてんだから胸張れよ!」

 

天「••••••無理」

 

しばらくの間、というより、授業が終わるまで俺はまともに咲姫の顔が見られなかった。

ひっそりと手の隙間から覗くと、彼女はすぐにわかったようで、優しく微笑んだ。




とりあえず晩御飯食べ過ぎて腹痛めてるので大人しくしときますwそれではー。


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12月20日(土)

どうもバイト探しマンです。さっきまでバイト色々探しててこのまま採用までこぎつければ警備のバイトをする事になりそうです。早くバイト始めて金貯めてぇなぁ!


ライブ本番五日前。追い込みに追い込みを重ねる期間に突入した。練習量もこれまれとは比べ物にならないくらいに厳しいものになってくるだろう。

そんな中俺は、仕事をしながらPhoton Maidenのレッスンを見ていた。姫神プロデューサーも一緒だ。

その所為なのか、いつもより彼女たちの緊張感がピリピリと伝わってきた。

 

天「どうです?かなりいい具合に仕上がっていると思いますが」

 

紗乃「そうだな。少し前とは比べ物にならないくらい上達している。これならライブも大丈夫だろう」

 

プロデューサーから直々に太鼓判を押してもらえた。その事実だけでもかなり大きいものがある。

それを聞いていた目の前の四人の表情が、少し和らいだ。

 

天「人の話聞く暇があるならダンスに集中してください」

 

そしていつもの俺の甘さも今回ばかりは消す。厳しく注意して、彼女たちの気を引き締めさせた。

 

紗乃「お前自身もちゃんと変わってるようで安心したよ」

 

天「まだ高校生ですからね。身体的にも精神的にもまだまだ成長できる時期ですよ」

 

紗乃「そういえばそうだったな。まるで高校生とは思えないくらいの生活だがな」

 

天「もう慣れですよ。俺からしたら日常と変わりありません」

 

キーボードを打ちながら、俺は小さく笑う。三年くらい前からやっている仕事だ。今更何かが変わっても本質が変わることがない限り、俺にとっての日常は変わらない。

姫神プロデューサーの俺を見る目がやけに優しいのは気の所為だと思いたいが•••。

 

紗乃「お前には迷惑をかけるな」

 

天「仕事なんで大丈夫ですよ」

 

紗乃「相変わらず淡白だな」

 

天「後仕事集中したいんであまり話しかけないでください」

 

紗乃「••••••一体誰に似たのか」

 

プロデューサーは大きくため息を吐いて、Photon Maidenのダンスに目を光らせていた。

俺はもうすぐ終わりそうだったので、急ピッチで仕上げている。

 

天「•••••••••」

 

紗乃「•••相変わらず集中していると喋らないんだな」

 

天「ん••••••」

 

コクリ、と頷く。パソコンの画面に集中しているので、プロデューサーの顔は一切見ていないのでわからない。

カタカタカタ、とレッスン室内にキーボードを打つ音が何度も響くが、それでも音楽にかき消されてしまう。

キュ、キュッ、とシューズが床の摩擦によって音を発しているのが耳を澄まさなくてもわかった。

 

天「••••••よしっ」

 

そして丁度、俺の方も仕事が完了する。最後のエンターキーだけは、少し強めにカタンッ、と叩いた。

 

天「よーし終わった終わった。•••あ、まだ踊ってた」

 

俺の方は終わっても、まだフォトンの方は終わっていなかった。みんな真剣な表情でダンスに取り組んでいた。

 

天「•••まぁ、ミスはないようですし、リハーサルも多分大丈夫でしょう。これでもまだ五日あるんですから、余裕が持てそうです」

 

紗乃「そうだな。後は調整をして備えよう」

 

プロデューサーの答えを聞いて、俺はすぐにスケジュール帳に「調整期間」と書いた。

何をするかは家に帰った後にでも考えよう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そういえば今日はハピアラのメンツが家に来る手筈だったはずだ。咲姫も俺の手を逃がさんとばかりに握って歩いている。

 

天「腹減ったなー•••」

 

咲姫「何処かで食べてから帰る?」

 

天「いんや。どうせ月が俺と咲姫の分を作っているだろうし、やめとこう」

 

食べて帰ってきたってバレたら何されるかわかったもんじゃない。危ない橋は渡らない主義だ。

というかもうあいつらは来てるのだろうか。詳しい時間までは言ってなかったので、いつ来るのかは俺にもわからない状態なのだ。

 

天「りんくの事だからもう来てそうなんだよなぁ••••••」

 

というか昼前から既にいそう。それで月とワイワイ遊んでそうだ。容易に想像がつく。

 

しばらく歩いて、家が見えてきた。玄関を開けると、見慣れない靴が四足。もう確実にあの四人だ。

 

天「やっぱりもう来てたか」

 

俺たちも靴を脱いで、リビングに顔を出す。

テーブルに少女が五人。楽しそうに談笑していた。

いち早く気づいた月がこちらに手を振ってきたのがわかった。

 

月「お兄ちゃん!咲姫さん!おかえりー!」

 

天「ただいま」

 

咲姫「お邪魔します••••••」

 

俺と咲姫も、控えめながらに手を振り返して座った。

 

りんく「お邪魔してまーす!」

 

天「••••••いつから来てたんだ?」

 

りんく「えーっとねー、朝の十時!」

 

天「はえぇよ!絶賛仕事中だよこっちは!」

 

なんつー時間から来てんのこいつら!?あまりにも早すぎるだろ!?

 

月「さっきまでずーっとみんなでゲームしてたんだよ!」

 

天「へぇ•••何やってたんだ?」

 

月「スマ◯ラ」

 

大乱闘するあの例のゲームだった。この中だと月とむにの二強になってそうだな。

 

麗「私がずっと負けっぱなしで••••••」

 

天「•••そもそも家庭用ゲームに触れる事すらないような気がするな、麗は」

 

色々と疎いところが垣間見えていたので、こういったゲームの存在なんて知らないだろう。

 

月「あっ、と。お昼ご飯にしないとね」

 

天「あ、そうか。みんな食べてないのか」

 

朝の十時からウチにいるのだからそりゃ食べてなんていないだろう。なんでそんな簡単な事に気が付かなかったんだ?疲れてんのかな。

 

月「はいどうぞ!予め作っておいたんだよねー!」

 

りんく「わっはー!おいしそー!」

 

天「••••••気合い入り過ぎじゃね?」

 

咲姫「多すぎて全部食べられないかも••••••」

 

この中で喜んでいるのはりんくただ一人だった。それ以外は冷や汗をかきながら、なんとも言えない顔になっている。

 

天「•••食べられなかったら俺が食うから」

 

咲姫「うん•••お願い」

 

月「あれー?そんなに多かったですか?」

 

むに「多すぎるわよ!こんなに食べたらお腹壊しちゃうわ!」

 

真秀「流石にこんな量は無理だね••••••」

 

月「???」

 

天「お前絶対俺基準で作っただろ」

 

月「あっ•••」

 

察したような顔になって、月は誤魔化すように笑い始めた。

 

月「いやー•••すみません!」

 

りんく「大丈夫だよ!私がぜーんぶ食べるから!」

 

天「その細いお腹のどこにあんな量が入るんだよ••••••」

 

真秀「天も天であまり人のことは言えてないけどね••••••」

 

天「???」

 

俺は首を傾げた。

 

咲姫「天くんは筋肉を維持しないといけないから••••••」

 

むに「だからってそんなに食べるの?」

 

天「食わないと筋肉は無くなっちまうんだよ。特に肉を多めに食べないといけない」

 

りんく「打ち上げの時はすごかったねー!天くんと私でたくさん食べちゃってお店のご飯が全部なくなっちゃった!」

 

麗「あれは本当にお見事でした」

 

りんくが楽しそうに数日前の話をしている。そしてそこに麗の賞賛が入るが、あれは全く見事と呼んでいい出来事ではない。むしろやらかした方だ。

 

天「俺、何であんなに食ったんだろうな••••••」

 

咲姫「その場の勢い••••••?」

 

咲姫が首を傾げながらそんな疑問を零す。恐らく、恐らくだが、ストレス発散に食べまくったんだと思う。多分。

 

天「というかマジで多いな•••俺とりんくが処理するからいいとして、もしできなかったらどうするつもりだったんだお前」

 

少し睨みを効かせながら月に顔を向ける。そろーっと顔を逸らしながら、小さな声でボソりと言葉を放つ。

 

月「捨てる••••••」

 

天「食べ物粗末にすんなボケ」

 

月「ごめんなさい•••」

 

周りがシン、としてたのもあって、妹の声はしっかりと聞こえていた。

大量の白米の上に盛られた色々な肉が、これでもかと食欲を奪っていた。あまりにも多い。まるで山だな。

 

天「無理せずに残していいからな?」

 

咲姫「うん、ありがとう••••••」

 

むに「イチャイチャしないでほしいのだけど•••」

 

天「あれ、これで?」

 

普通の会話だった気がするんだが、むににとってはあまり気に食わなかったらしい。

ま、いいや、と切り替えて、肉を口の中に運んだ。うん、美味い。美味いが量が多い。

 

咲姫「美味しい••••••」

 

月「良かったーー!」

 

咲姫「でも量が多い••••••」

 

月「すみません••••••」

 

天「言うようになったな••••••」

 

以前よりも神山家にまた浸透している咲姫だった。ちなみに大半がすぐにギブアップをし、俺とりんくで残飯処理をする事になった。晩飯いらねぇよマジで。




後今日入学式でした。月曜から地獄見てきますw


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12月21日(日)

うちの寮、バイト夜勤入っていいっていうからマジ最高だよな?これで夜勤警備のバイトでバチコリ稼げるぜヒャッホイ!


仕事が終わった後、俺はPhoton Maidenの全員に連れられて、ショッピングモールに足を運んでいた。

本来なら家に帰って眠っているはずなのにおかしいな何があったんだ。

 

乙和「ーーというわけで!今日は天くんの私服を買いたいと思います!」

 

天「••••••何で???」

 

敬語も忘れて、俺は心底嫌そうな顔で疑問を発する。それでもお構いなしの乙和さんは、俺に詰め寄って今着ているスーツを軽く引っ張った。

 

乙和「私の記憶が確かなら天くんが制服とスーツ以外を着ているところを見たことありません!」

 

衣舞紀「そういえばそうねー•••咲姫は見たことあるでしょ?」

 

咲姫「はい。基本的にあまり飾らないような服装だった気がする••••••」

 

ノア「じゃああまりデザインとかがないシンプル目な方が良さそうですね」

 

天「••••••いや、あの?だから何で俺の服を買う流れになってるんですか••••••?」

 

勝手にどんどん話が進んでいる。このままではなし崩し的に服を買いかねない。

 

咲姫「月ちゃんが普段着をほとんど持ってない、って言ってたから••••••」

 

天「余計な事しか言わねぇなあいつ」

 

確かに俺が所有する服は、部屋着のパジャマと運動用のジャージがほとんどだ。大した私服は本当に数着程しかない。

 

衣舞紀「そういうわけだから、天の服を買いに来たってわけ」

 

天「そこまで気を遣わなくて良かったんですけどね••••••」

 

ノア「天くん大学行くでしょ?それまでにはキチンと私服を揃えておいた方がいいと思うよ」

 

天「え゛、大学スーツで通うのダメなんですか?」

 

衣舞紀「悪くはないけどちゃんと私服は用意して欲しいわね••••••」

 

天「別にいいじゃないですか。足りなくなったら買いに行きますし」

 

腕を頭の後ろに組んで、俺は大きく欠伸をする。もう既に帰りたいという欲望が外に溢れ出していた。

 

咲姫「早く行こう••••••」

 

天「あーはいはいわかったよ」

 

咲姫に手を引かれて、俺は仕方ないな、とため息を吐いた。

そのまま服屋に連れて行かれて、俺は着せ替え人形にされてしまう。これでもかと服を着せられて、ストレスが溜まる溜まる。

 

天「••••••••••••いつまでやるんですか?」

 

ついに耐えきれなくなって苛立ち混じりにそう問うような声を発した。

 

乙和「あはは〜ごめんね〜。これで最後だから!」

 

天「またそういうふざけたのを持ってくる••••••」

 

何処かのおちゃらけたパーティーにでも行くのかと言いたげな、カラフルなクソダサスーツを乙和さんは持ってきた。

もう既にゲンナリしていたのに、更にそれが加速してしまう。キレていい?

 

天「というか、さっきから乙和さんこういうヤツしか持ってこないじゃないですか。ふざけてるんです?」

 

乙和「だって天くんスタイルいいんだから何でも着せたくなっちゃうんだもん!はいこれ着て!」

 

天「えぇ••••••」

 

ノア「天くん•••無理だけはしないでね?」

 

天「代わりにノアさん着ます?」

 

ノア「いえ、遠慮しときます」

 

断るくらいなら最初から心配すんなや。顔は笑っていたが、眉間にはしっかりと皺が寄っていた。

結局着る事になり、披露する前に鏡で確認するが、

 

天「クッソダセェ••••••」

 

あまりのダサさに笑いすら込み上げなかった。それくらい酷い。マジで酷い。

カーテンを開けて、四人にその醜態を晒す。そして見事に笑われた。

 

天「俺の服選びって、結局何だったんだろうか••••••」

 

当初の目的は何処へやら。目の前に広がる光景は、散々人を着替え回した挙げ句、ゲラゲラと笑う四人の少女。

 

天「はぁ•••もういいです。俺で勝手に決めますから」

 

面倒になり、俺はすぐにスーツに着替え直してスタスタと歩く。どうせ着るかもわからない服を買うんだ。適当でいいだろう。

 

咲姫「あ、あの、天くん•••?」

 

天「なんだ」

 

咲姫「怒ってる••••••?」

 

天「怒ってはない。疲れただけだ」

 

明らかに苛立ちを隠しきれてないが、決して怒っているわけではないのだ。ただただ面倒でウザいだけ。

 

天「っと、これ持っててくれ」

 

咲姫「うん••••••」

 

選んだ服が少し多かったので、咲姫に持たせる。ジャケットやジーンズも色々と吟味していく。

 

衣舞紀「私たち、いらなかったわね••••••」

 

ノア「乙和が遊び過ぎるからよ」

 

乙和「ノアも笑ってたじゃん!」

 

天「••••••意外とかかるな」

 

適当、とは言っても多少は真面目に選んだものだ。かなりシンプルなもの揃いだが、それもまた組み合わせ次第だろう。

ただ量が多い。そのおかげでかなりの金額へと変わり果てた。服怖い。

 

店員「えっと•••大丈夫ですか?」

 

数万単位の金額が提示されて、流石の店員も顔を引き攣らせていた。しかしこれでも社会人の仲間入りを果たしている人間だ。これくらい大したことない。多分。

 

天「これで」

 

キッチリ支払って、俺は紙袋をいくつも手に提げる。全く重くないのが救いだったりする。

 

天「俺の服買う以外になんかやる事あるのか?」

 

咲姫「何も考えてなかった••••••」

 

天「本当に服買いに来ただけじゃねぇか••••••咲姫は買わなくていいのか?」

 

咲姫「私はしばらくは大丈夫。少し前に買ったばかりだから」

 

天「ん、そうか」

 

咲姫から視線を外して、店の外で待っている三人に顔を向ける。

 

天「終わりました。次何処かに行きたいとかありますか?」

 

乙和「お腹空いた!」

 

天「じゃあ昼飯にしますか。どこか食べるところありましたっけ?」

 

ノア「この中の何処かに飲食店があったと思うから探そっか」

 

天「ライブ前なのでそこまでガッツリなのはダメですからね」

 

乙和「えぇー!」

 

乙和さんが不満タラタラで俺に文句を垂らす。俺は苦笑しながらすぐに目線を逸らして何処か良いところがないか探す。

 

天「あ、あそこでいいですか?」

 

近くにあったのは、女性行きつけの飲食店だった。結構量が少なくて彩りが良いと有名なところだ。

 

乙和「えぇーここー!?お腹いっぱい食べられないじゃん!」

 

天「はいはい我慢してください。ライブまでは厳しくいくつもりですから」

 

咲姫「美味しそう••••••」

 

食品サンプルを見て、咲姫が目を輝かせていた。どうやら彼女のお気に召したご様子だ。

 

衣舞紀「咲姫も行きたそうだし、ここでいいんじゃない?」

 

ノア「そうだね。サンプルを見ている咲姫ちゃんも可愛いし」

 

天「本当にブレないなこの人••••••」

 

相変わらずノアさんはノアさんで逆に安心してしまう。まだサンプルを見ていた咲姫の手を引いて、店の中へと入っていく。

 

席に通して貰って、俺たちはメニューをジーッと眺めていた。

 

乙和「私オムライス〜」

 

ノア「私はどうしようかな••••••あ、これ美味しそう!」

 

衣舞紀「バランスのいいコレにするわ」

 

それぞれが決まる中、俺と咲姫は少し決めかねていた。うんうんと唸りながらどれにしようかと指を走らせる。

 

天「これにするか。美味そうだし」

 

俺が選んだのはカレーだった。なんでもリンゴと蜂蜜が入っているとのこと。バー◯ントやん()

 

咲姫「じゃあ私も••••••」

 

そこに咲姫の指が重なる。••••••俺に合わせてる?なんとなくだがそんな気がしたので、少し遊んでみよう。

 

天「いや、やっぱりパスタにしよう」

 

指を移動させて、パスタの写真に移る。そこにすかさず咲姫の指が飛んできた。

 

咲姫「私も••••••」

 

天「••••••やっぱりカレーで」

 

咲姫「私も••••••」

 

うん、完全に俺に合わせてるねこれは。チラチラと俺の顔を窺ってるのがなんとなくだがわかった。

 

衣舞紀「天、あまりイジめないであげて?」

 

天「すみません。俺はカレーにするけど、咲姫もそれでいいのか?」

 

咲姫「うん••••••」

 

すぐに彼女は頷いた。•••心なしかノアさんの顔がいつもより溶けているような気がするな。絶対に咲姫の反応見て楽しんでただろこの人。

 

乙和「咲姫ちゃん天くんの事本当に大好きだよねー」

 

咲姫「だって、大好きな人だから••••••」

 

薄らと頬を染めながら、咲姫は言葉を漏らす。普通に可愛らしくて、つい目を逸らしてしまった。

 

ノア「あー、天くん照れてる」

 

天「五月蝿いですよ」

 

ノアさんがからかってくるが、俺は目を合わせることができずに悪態をつく。

 

乙和「私も天くんのこと大好きだよー?」

 

天「〜〜〜!わ、わかりましたから••••••!」

 

こうも面と向かって言われると恥ずかしくて堪らない。耳まで顔が赤くなってしまって、手で隠せなくなる。

 

ノア「カワイイ•••!天くんカワイイ••••••!」

 

そしてここぞとばかりにノアさんからも攻撃が飛んでくること飛んでくること。

衣舞紀さんも途中から加わってしまって、収拾がつかないまま、注文は遅れに遅れることとなった。




明日日曜か•••寝よw


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12月22日(月)

寝まくって今さっき目覚めたんで投稿しますw後もうちょいしたらお風呂なんでそれじゃ、失礼。


月曜日。今日は待ちに待った終業式の日だ。ちょうど月の中学校も同じく終業式らしく、タイミングがかなり都合よく合った。

 

焼野原「イエエエェェェェェイ!!!」

 

天「い、いえーい•••」

 

朝っぱらから相当のテンションで焼野原くんが叫びに叫びまくる。彼の声は教室中に木霊していた。

 

焼野原「終業式〜〜???」

 

天「•••終業式」

 

焼野原「いいいぃぃぃぃやっほおおおおぉぉぉぉ!!!」

 

天「うるっせぇ••••••」

 

ほぼ目の前でこんな教室から反響するレベルの大声を出すのだ。鼓膜が破れるんじゃないかと、心配になるくらい五月蝿い。

 

咲姫「朝からすごく元気ですね」

 

それに対して咲姫は嫌な顔一つせずに言葉を紡いだ。こいつ、イケメンか••••••?俺さっきからずっと焼野原くん睨みつけてたのに。

 

焼野原「ついに冬休みだよ出雲さん!学校に行かなくていいぜえぇ!!ひゃっほおぉぉぉ!!」

 

天「テンション高過ぎるだろ•••」

 

ハイテンションを通り越してスーパーハイテンションになってないか?こいつ。まぁ楽しそうで何よりだが。

 

天「咲姫」

 

咲姫「どうかした?」

 

天「今日からレッスンの時間を短くする。本番前に怪我とか故障が起こったら元も子もないからな。調整期間に入る」

 

咲姫「天くんが言うならそうするけど••••••本番までに間に合う?」

 

咲姫が心配そうに見つめる。それに対して俺は自信満々の笑みを浮かべていた。

ずっと近くで彼女たちを見てきたのだ。ほぼ完全に仕上がっているからこそ、この期間を設けたのだ。今なら確実にライブが成功するという、絶対的な確信が俺にはあった。

 

天「もう既に間に合ってるんだよ。一々心配しなくても、咲姫やみんなの実力はちゃんと上がってる。まぁ咲姫がまだまだ進化したいって言うならいつも通りでいいが••••••本番前に怪我は困るぞ?」

 

咲姫「••••••!わかった。本番までは無理はしない••••••」

 

天「ん、いい子だ」

 

よしよし、と頭を撫でてやる。

今メンバーの誰かが怪我をしようものならライブは確実に中止となる。その事の重大さに気づいたからこそ、俺の提案を彼女は呑んだのだ。

 

焼野原「あぁ、いいなぁ。俺もライブ行きてぇ••••••」

 

天「一応有料のライブビューイングがあるが、どうする?」

 

焼野原「そこは関係者席じゃねぇのかよ!」

 

天「だってお前関係者じゃねぇからな••••••」

 

ぶーぶーと文句を垂らされたが、できないものはできないのだ。諦めてくれ。

仕方ない、といった様子で焼野原くんは引いてくれた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

終業式は、校長先生のありがたくも眠たい長い話を延々と聞いてさっさと終わった。

ちなみに俺は話し始めた瞬間に寝てしまった。退屈な時は睡眠に限る。

そして担任からもまたありがた〜い話を聞かせられるが、それもガン無視して俺は惰眠を貪った。寝てばっかだな俺。

そしてようやく放課後。一足先に事務所に走って向かい、仕事部屋に突っ込む。

 

天「さて、さっさと終わらせるか」

 

パソコンを起動させて、すぐに作業へ集中する。睨むように画面を凝視しながら、キーボードを絶え間なく打ち続けた。

 

乙和「ねぇねぇ天くーん」

 

天「はい」

 

ノックもなしに仕事部屋に入ってきた乙和さんは、お構いなしに俺の隣に座った。

 

乙和「調整って言っても、具体的には何するの?」

 

天「それは担当の方に既に伝えてあるので、その人に確認を取ってください」

 

乙和「それだけ〜?今教えてくれてもいいじゃーん!」

 

天「はいはい、仕事が終わった時にでも言いますから」

 

乙和「それじゃいつになるかわかんなーーあいたっ!?」

 

突然乙和さんの頭から殴るような鈍い音が聞こえて、チラリと覗いた。

ノアさんが乙和さんの頭に拳骨を喰らわせていたらしい。痛そうだ。

 

ノア「コラ乙和!天くんの邪魔しちゃダメでしょ!」

 

乙和「えぇー!?だって天くんがレッスンの内容教えてくれないんだもん!」

 

ノア「担当の先生が教えてくれるって言ってたでしょ!?ほら、行くよっ!」

 

乙和「わー!引っ張らないでー!」

 

ノアさんにズルズルと引きずられながら、乙和さんは部屋を出されていった。

 

天「••••••なんて人騒がせな」

 

完全に二人に意識が向いていた所為で、仕事はというと手がついていなかった。すぐに挽回する為に指を走らせる。

 

天「まぁ、そこまでやる事ないからすぐ終わるんだけどな」

 

彼女たちもすぐに終わるし、俺も俺で時間を合わせられそうだ。少し安心したように笑みを漏らしながら、不備がないか確認しながら文字を入力していく。

そして静かな空間の中に、キーボードを打つカタカタと言った音だけが響き渡っていた。

 

天「•••••••••」

 

そして独り言をするのも億劫になり始めたのもあり、完全に虚無な空間へと変わり果ててしまっていた。早くこの寂しさから解放されたいと、俺は切に願いながら仕事に打ち込んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

しばらく作業を続けていくと、ようやく終わりが見え始めるのがわかった。そこでラストスパートをかけて、何とか終わらせることができた。

 

天「よっし、終わったー」

 

咲姫「じゃあ、帰ろう?」

 

天「うおおおおっ!!?」

 

いつの間にか隣に座っていた咲姫に気がつかず、急に声をかけられたのもあって、俺は飛び上がってしまった。

 

天「い、いつからいたんだ!?」

 

咲姫「少し前から。集中しているみたいだったから声をかけずに待っていた••••••」

 

天「こ、声だけは掛けてくれ•••さっきみたいに気づかないから」

 

心臓に悪くて敵わん。今も鼓動は早く、手を当てて直に感じ取ってるわけでもないのに、わかりやすいくらいにドクンドクンと鳴っていた。

 

咲姫「ごめんなさい••••••」

 

天「もう終わったんだろ?じゃあ帰るか」

 

鞄を持って立ち上がり、咲姫の手を引く。まだ夕方にもなっていない明るい空に、何故だか違和感を覚えた。

 

天「そういや平日の時は終わる頃には暗くなってたからな•••違和感がかなりすごいな」

 

咲姫「いつも夜だったから、少し新鮮••••••。あ、何か用事とかある?」

 

天「いや特に。このまま帰るつもり」

 

咲姫「じゃあ天くんの家に言ってもいい?」

 

天「ん、いいぞ」

 

クイッと軽く手を引いて咲姫が上目遣いで俺を見つめる。快く頷き、家へと向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

月「おかえりー!いやー冬休みだねー!遊ぶぞー!」

 

咲姫「楽しそうだね、月ちゃん」

 

月「友達と遊びまくっちゃいますよー!あ、ライブももちろん行きますからね!」

 

天「あまり騒ぎ過ぎるなよ。どうせあの四人だろ?」

 

月「せいかーい!イタズラにも参加しちゃおうかなー?」

 

咲姫「••••••?」

 

ニヤニヤとしながら俺の周りをグルグル周る月。咲姫は話についていけず首を傾げるばかりだ。

 

月「あ、咲姫さんは知らないか。じゃあこの話は終わりーっと。そういえば帰ってくるの早かったね。どして?」

 

天「今日から調整期間に入った。だからいつもよりずっと早く帰ってくるぞ」

 

月「おぉー。じゃあ明日久しぶりに遊びに行かない!?咲姫さんも一緒に!」

 

咲姫「私もいいの••••••?」

 

月「はい!」

 

少し嬉しそうに訊いてみる咲姫に対して、月はとびきりの笑顔で言葉を放った。

 

咲姫「あ、そうだ。今日からしばらくはずっとここに泊まろうかな」

 

天「••••••マジ?」

 

咲姫「うん」

 

困惑しながら咲姫に顔を向けると、ノーコンマで頷かれた。

 

月「ちょっとの間楽しくなりそうだねー。お兄ちゃんの堕落も少しは抑えられそうだし」

 

天「そっち気にするのかお前は••••••」

 

月「別に今更家でセックスされてもねぇ?もう何度もヤッてるでしょ?」

 

天「あのなぁ••••••」

 

相変わらず月の発言は危なかった。咲姫は顔赤くして俺の背中に隠れている。

 

月「そういえば最近ヤッてないね?セックスレス?」

 

天「いや単純に作者がR18書くと精神イカれそうになるからやめたらしい」

 

月「メタ!?」

 

いやだって書いてるとすごい虚無るっていうか•••すんごい精神的にダメージ受けるのよ••••••。だからやめた(作者)。

 

天「というかお前久々に出てきたな。毎日毎日書いてるけど大丈夫か?」

 

引退かかってるから急ピッチで進めてんの!後ちょっとで終わるの!これが投稿される頃には確実に書き終わってるだろうけど(作者)。

 

月「••••••いつまで作者さん喋ってるの?」

 

知らん。




あ、剣道するところ決まったんで明後日から剣道してます自分wようやく復帰できるぜい。


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12月23日(火)

初登校してきましたー!いやー緊張したなー!まぁでもクラスの人たち陽キャだらけだったからすぐに仲良くなれたぜい!楽しい生活になりそうだなーあー地獄が待ってるわ()


朝になって目が覚めると、隣に咲姫がいる事に気がつく。そういえば昨日からしばらく泊まり続ける予定だったんだよな、こいつ。

まだ起きる様子のない彼女の身体を揺さぶって、声を掛ける。

 

天「咲姫、朝だぞ。起きろよ」

 

咲姫「ん、んぅ•••」

 

小さく声を漏らしながら寝返りを打つ咲姫。まだ寝かせてやりたいが、どのみち月が起こしにくるので騒がれる前に目覚めさせなければ面倒なことになる。

 

天「起きろ、咲姫。朝だって」

 

咲姫「もう少しだけ••••••」

 

いや起きてんのかよ。モゾモゾと動いて俺の服を引っ張る咲姫。まるで甘える小さな子供のようだった。

 

天「はぁ•••全く」

 

薄らと笑みを零して、彼女の頭を撫でる。安心したような表情になったのが、すぐにわかった。

 

月「起きてるー!?」

 

天「起きてる。あんまり騒ぐなよ」

 

勢いよく扉を開いた月が、喚くように声を張り上げた。無表情のまま、俺は静かな声で妹を鎮めた。

 

月「あれ?咲姫さんは?」

 

天「ここ」

 

ピッ、と人差し指を下向きに指す。そーっと覗きにきた月は、おぉー、と声を漏らした。

 

月「メチャクチャ甘えてる••••••」

 

天「いい加減起きて欲しいんだけどな」

 

月「こんな姿、お兄ちゃんにしか見せないと思うけどねー。ものすごく貴重と思うよ?」

 

天「••••••そういうもんか?というか•••おい、起きろ。起きろって。練習遅れるぞおい」

 

咲姫「んぅ•••後ちょっと••••••」

 

まだ寝ていたいのか、俺のお腹に顔を埋めた。流石に今度は優しくできないので、ベッドから降りて咲姫を置き去りにした。

 

天「ちゃんと降りてこいよ?」

 

月「え冷たくない?」

 

天「このまま延々とねだられるよりマシだろ」

 

月「でも冷たくない?」

 

天「ウゼェな次お前いけ」

 

月「きゃー!」

 

月を抱えてベッドに放り投げる。二回ほど跳ねてから、妹は咲姫にくっついた。

 

月「あ!咲姫さんいいにおーい!」

 

そして咲姫に絡み始めたのを確認したら、俺はそそくさと一階へと降りた。

欠伸をしながら、ゆっくりと一段ずつ階段を降りる。そしてリビングを開けると、意外な人間がいた。

 

猛「おぅ、久しぶりだな」

 

天「帰ってきてたのか」

 

どうやら知らないうちに父さんが家に帰ってきていたらしい。呑気にテーブルの前に座って、朝から酒を飲んでいた。

 

天「くっさ•••昨日から飲んでただろ••••••」

 

猛「お?バレたか?久しぶりに家に帰ってこれたからなぁ、かなり気が緩んじまったよ。後これお土産」

 

ゴトン、という鈍い音と共に置かれたのは、少し大きめのアタッシュケースだった。

 

天「いや何これ」

 

猛「金」

 

軽い動作で開けられたケースの中身は、ギッチギチに詰め込まれた諭吉先生だった。

 

天「何故急に金?」

 

猛「いやお前の担当クリスマスライブするんだろ?色々足しになったらいいと思ってな」

 

天「今更過ぎるんだよ!ライブ日いつだと思ってんだ明後日だぞ!?」

 

猛「えマジ?•••あ、本当だ明後日がクリスマスだったわ。いやー遅れてすまんすまん」

 

父さんがヘラヘラと笑いながら頭をポリポリと掻く。俺は呆れながらため息を大きく吐き、アタッシュケースをこちらに引き寄せる。

 

天「まぁくれるなら貰っておく。事務所に渡して色々融通利かせてもらうわ」

 

猛「抜き取ったりすんなよ?」

 

天「しねぇよアホか」

 

元から給料貰ってんのに今更金を欲しがるつもりもない。俺の横にケースを置いて、椅子に座った。

 

天「んで、次の仕事はいつだ?」

 

猛「明日には家出るけど」

 

天「相変わらずだな••••••」

 

忙しいようで。俺には関係ないから特に気にしてはいないが、まぁ死なない程度に頑張ってて欲しい。

 

猛「ありえないくらい適当でお父さん泣きそうなんだが」

 

天「いや知らねぇよ」

 

父さんの白々しい泣き演技にも、俺は無表情で返す。

そこに階段を降りる音が聞こえ、月と咲姫が来たのを確信する。

 

猛「おっと、んじゃ後は任せるわ」

 

天「ん」

 

父さんは席を立って、自室に引っ込んで行ってしまった。

ちょうど良いタイミングで二人がリビングに入り、彼の姿は確認されなかった。

 

月「あれ?お父さんいなかった?」

 

天「今ちょうど部屋に戻って行ったぞ」

 

月「咲姫さんに挨拶くらいしたらいいのに••••••」

 

咲姫「わ、私は大丈夫だから••••••」

 

頬を膨らませながら怒る月を、咲姫は少し困り気味に宥めていた。

俺はテレビから流れているニュースをボーッと眺めているばかりで、あまり意識が二人の方に向いていなかった。

 

月「とりあえず朝ご飯にしましょうか!」

 

天「耳元で叫ぶな••••••」

 

狙っていたのかわざわざ俺の目の前で妹はデカい声をあげやがった。耳がキーン、と鳴って気持ち悪い。

 

月「ほら早く準備して!」

 

天「へいへい••••••」

 

仕方ない、という様子で立ち上がり、俺は飯が乗った茶碗や皿を運んだ。

先に起きたのが仇となったのか、今は俺の方が眠かったという。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

事務所で仕事をこなしていても、何処か退屈な感情が湧いてきてしまった。

昨日から調整期間に入り、レッスンが終わるのがかなり早くなった。俺も仕事の量自体は減っていて、すぐに帰れる状況にある。

実際、今しがた作業を終えて、仕事から解放されたばかりだ。だがまだPhoton Maidenの方は練習が終わっていないので、一人で直帰するわけにもいかない状況になっている。

 

天「ふわああぁぁ••••••」

 

退屈な上に眠たくて、自然と欠伸が零れてしまう。寝ぼけ目を擦りながら、眠るような体勢をついとってしまう。

 

天「このまま••••••」

 

眠たくて眠たくてたまらなくて••••••俺はつい寝てしまった。

 

どれくらい経ったかわからない。だけど起きる気力もなくて、身体を起こせずにいた。

軽く誰かに揺さぶられているが、何故だか気にならない。

 

咲姫「天くん。天くん」

 

天「ん、なんだ•••?」

 

あまりにも長時間揺さぶられるものだから、つい目を開けてしまう。すると目の前には微笑んだ咲姫の顔があった。

 

咲姫「やっと起きた••••••」

 

天「あーやべ•••寝過ぎたか」

 

目をごしごしと擦りながら視界を整える。だんだんと咲姫の顔がハッキリと視認できるようになったところで、彼女に確認を取った。

 

天「今何時だ?」

 

咲姫「お昼の12時半••••••」

 

天「昼飯時か•••月が作ってるだろうし、さっさと帰るか」

 

咲姫「うん•••あ、天くん」

 

天「ん?」

 

立ち上がろうとしたところを咲姫に止められて、俺は首を傾げた。一体何事だ、と思った瞬間にーー、

 

咲姫「んっ」

 

天「ーーッ!?」

 

唇を重ねられる。しかも逃げられないように抱きつかれた状態で。

 

咲姫「ん、んぅ、ちゅ、ちゅっ••••••」

 

そういえば最近めっきりだったキスだ。久しぶりにするのもあって、咲姫の吸い付きは長かった。

しばらくしてようやく離れた彼女の顔は、エラく満足してた。

 

天「いきなりはやめてくれ」

 

咲姫「うんっ」

 

まだ嬉しいのか、彼女の声は弾んでいる。フッ、と鼻で息を吐き出し、咲姫の頬に手を添えた。

 

天「柔らかいな•••」

 

摘んだり指でつついたりして遊ぶ。少しだけ嫌そうに身じろぎしたが、そこはあまり気にしない。

咲姫はまだ俺に抱きついている状態なので、逃がさないように背中に腕を回した。

 

咲姫「ギュッてするのも、久しぶりかも••••••」

 

天「そうだな。あまりこういったスキンシップは減っていたかもしれん」

 

いつもより咲姫の抱きしめる力が強いのは、今までの分を取り返すつもりなのかわからない。だが愛されている事だけはわかった。

だから俺も強く抱き返してやる。彼女の柔らかい身体が、更に密着した。

 

天「••••••とりあえず、家に帰らないか?」

 

咲姫「まだもう少しだけ••••••」

 

朝にも同じような事を言っていたが、今は朝の時と違ってとても愛おしいワガママだった。




もうすぐ風呂なんでほな、ばいなら。


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12月24日(水)

え?なんでこんな時間から投稿してるのかって?色々済ませてたらこんな時間になってましたハイ()さっきまで友達とモンハンしてラージャンボコボコにしてきたところですw八分でカタつきました。今作のラージャン弱スギィ!


ついにライブ本番前日となった。もうここまでくると笑っていられる余裕もなく、全員がピリついていた。

俺もかなり緊張が走っていて、ドキドキしながら明日の事を考えていた。

 

天「いよいよか••••••」

 

乙和「緊張するなー」

 

天「あまりし過ぎないようにしてください。プレッシャーに負けて失敗とか笑えませんから」

 

ノア「わかってるよ。心配性だなぁ天くんは」

 

ちなみに今はレッスンも終わって、俺の家にPhoton Maidenの全員が集まっている状態だ。

何故か知らんけど集まった(小並感)。

 

月「もう明日かー早いなー。期待してますからね!」

 

衣舞紀「ありがとう。月に満足してもらえるライブにしなきゃね」

 

咲姫「頑張る••••••!」

 

全員が気合い十分なようで、俺はなんだか安心する。それに、近くでずっと彼女たちの姿を見てきたのだ。

今更不安がる必要なんてないし、むしろ余裕なまである。本人たちはそんな事を言ってられないだろうが。

 

月「そういえば今日と明日雪が降るらしいですよ!雪合戦したいですね!」

 

天「雪玉ん中に石詰めてやるか」

 

月「死んじゃう死んじゃう!というかそれただの暴力!」

 

天「冗談に決まってんだろ」

 

薄らと笑いながら月の反応を楽しむ。周りも次第に緊張が解けて、笑うようになった。

 

乙和「ていうか天くんは余裕そうだよね。実際にステージに立たないから?」

 

天「それもありますけど•••今のPhoton Maidenなら大丈夫って、自信を持って言えますから」

 

衣舞紀「ちょっと前とは大違いよね。あの時は『ライブなんて到底できない』なんて言ってたのに」

 

天「あえて強く言ったんですよ。変に甘くするよりはよっぽどいいと思いますし」

 

衣舞紀「そうね。それで実際に火が着いたんだもの」

 

勝ち気な笑みを浮かべながら、俺に顔を向ける衣舞紀さん。その顔は自信に満ち溢れていてマイナスな感情など一切感じなかった。

 

乙和「天くんがそんな事を言うの、なんだか珍しい気がするね」

 

ノア「そうでもないんじゃない?咲姫ちゃんとかよく褒められてるし」

 

乙和「あーえこ贔屓だー!」

 

天「•••そんなつもりはないんですけどね」

 

乙和さんが頬を膨らませながら俺に詰め寄ってくる。それに対して俺は頭をポリポリと掻きながら苦笑いを浮かべた。

 

咲姫「でもその分厳しく言われたりもするから••••••」

 

乙和「それは私も同じじゃーん!」

 

天「子供かよ••••••」

 

駄々をこねるガキに一瞬だが見えた。精神年齢ェ•••。

 

月「まぁまぁ。乙和さんはそういう人なんだから割り切らないと」

 

天「ごめん。お前にだけは言われたくない」

 

月「あれぇ!?なんでぇ!?」

 

知った風に抜かす月に対して俺はキツめの言葉を浴びせる。

月は涙目になりながらノアさんに引っ付いた。あ、ノアさんの顔変わったな•••()

 

ノア「カワイイ•••すごくカワイイよ月ちゃん••••••!天くん!月ちゃんの事イジめたらダメだよ!」

 

天「めんどくせぇ••••••」

 

完全に月に毒されたノアさん。顔はいつものヤベーやつになっていて、手のつけようがなかった。

にしても本当に月の事好きだよなこの人。いっそのことあげようかな()

 

月「変な事考えたでしょ」

 

天「••••••ナンノコトカナ?」

 

月「目を逸らすな!」

 

そしていつも通り、と言うべきなのか、見事に心の内を読まれて睨まれてしまった。オーマイパスタ。オーコワイー(激寒)。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

全員が帰った後も、ワイワイと言う程ではないが少し賑やかになっていた。

月と咲姫が楽しそうに料理をしている背中を、俺はボーッと眺めていた。

 

月「案外早かったよねー。クリスマスライブするーって言ってたの、20日以上前でしょ?つい昨日のように思い出せるよ」

 

咲姫「うん、すごく早かった。練習は大変だったけど、今なら完璧なパフォーマンスができそう」

 

月「そこまで言うなら期待しまくっちゃいますよー!ジロジロと見まくりますから!」

 

咲姫「そ、それはちょっと恥ずかしい••••••」

 

薄らと顔を赤く染めた咲姫が顔を逸らした。ニヤーッと悪い笑みを浮かべたのが、背中越しの俺でもなんとなく伝わる。

 

天「そもそも関係者席遠いからわからないと思うぞ」

 

咲姫「天くんも月ちゃんもちゃんと見えてたよ?」

 

天「うせやろ」

 

こいつどんな目してんの?少なくともステージから2階の端っこを見たら、顔はおろか姿すら曖昧に映るはずだ。

 

咲姫「天くんと月ちゃんは独特な色をしているから••••••」

 

月「他の人と一味違うからね私は!」

 

天「辺な方向に走るなよ?」

 

月「失礼な!厨二病にはなりませーん!」

 

天「今中ニだけどなお前」

 

月「上手いこと言ったつもりか」

 

吐き捨てるような月の台詞に俺は少し心が痛む。結構ガチな方の発言だったな今•••中々にキツいゾイ•••。

 

天「咲姫の色がどうのこうのは置いといて•••明日は朝からリハーサルだからすぐに寝るぞ」

 

咲姫「うん、わかった」

 

月「私がいる目の前で誘うなんて•••!キャーーっぶねぇ!!?」

 

天「あんまり余計なこと言うとドタマかち割るぞ?」

 

月の頭めがけて上からグーパンをぶち込むが、ギリギリのところで月が躱した。チッ。

 

月「今モロ殺す気だったよね!?お父さん殴る時と同じくらいガチで殴ってきたよね!?」

 

天「そうだけど?」

 

月「平然な顔して言うことじゃない!」

 

ギャーギャーと喚き散らかす月を止める為に軽く拳骨を一発入れてから、俺は席に着いて晩飯ができるのを待った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

飯も食って風呂に入り、後は寝るだけとなった。二人で一緒にベッドに入っている状況だが、最早慣れ過ぎて当たり前のように感じてきていた。

 

天「眠れるか?」

 

咲姫「大丈夫•••。少し緊張してるけど、天くんがいるから」

 

天「早く寝ろよ?明日は朝からリハーサルなんだから」

 

咲姫「うん。でも少しだけお話しがしたい••••••」

 

俺の胸元を引っ張りながら、咲姫がこちらに顔を向ける。微笑みながら話を聞く体勢に入った。

 

咲姫「関係者席は何処にあるの?」

 

天「ステージから見て2階の右側の端」

 

咲姫「じゃあ見つけたら手を振るね」

 

天「やめなさい。ファンの方々に失礼だろ」

 

Photon Maidenとしてステージに立った以上は、私情なんてものは一つも通用しない。

それではプロとして失格となってしまう。

しかしファンはみな平等にステージに立つ彼女たちに魅了されるはずだ。今まで頑張ってきたからだろう。

 

咲姫「どうしてもダメ••••••?」

 

天「ダメだダメだ。ライブ終わった後にいくらでも相手してやるからそれまで我慢しろ」

 

咲姫「むぅ••••••」

 

頬を膨らませて起こった様子を見せるが、今の俺には通用しない。何故なら明日のことで既に緊張しているからだ。

 

天「とりあえず、頑張れよ?今更だが」

 

咲姫「ううん、大丈夫。ありがとう、すごく嬉しい」

 

ニコッと咲姫が笑顔になった。俺もつられてつい笑ってしまう。

 

咲姫「なでなでしてほしい••••••」

 

天「わかった」

 

今はこれくらいのワガママは聞いてあげよう。手を伸ばして、サラサラな白髪に触れた。

 

咲姫「落ち着く••••••私が寝るまで撫でてもらってもいい?」

 

天「あぁ、いいぞ。それで安心できるならいくらでも」

 

目を閉じたのを確認して、俺は無心で彼女の頭を撫で続けた。作業と変わらない同じ動きのサイクルは、ずっと続けていると少し頭がおかしくなるような気がした。

そして撫で続けるうちに、咲姫から落ち着いた寝息が聞こえた。どうやら寝たらしい。

 

天「•••頑張れよ」

 

撫でるのをやめると同時に、ポン、と軽く頭を叩いて、俺も目を閉じた。




次回最終回!明日で本当の意味で引退や!


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12月25日(木)

遂に最終回となりました•••。嬉しいような悲しいような、なんだか複雑な気持ちが入り混じっています。グルミクが正式追加されて、それまではちょいちょい程度しかやってなかったD4DJというコンテンツにどハマりして、今になってはこうやって小説を書いて偉そうに最終回とか言っちゃってるわけですけども。自分としてはDに関われて良かったと思っています。出雲咲姫っていう推しがDにハマった後すぐに知ることができたのもまた、このコンテンツに残っている理由にもなっています。D4DJはまだまだ大きくなると感じていますが、その時にはもしかしたら自分自身がバンドリの時と同じく完全に飽きて、界隈から姿を消しているという可能性すらあります。それはなってみないとわかりませんが、少なくとも咲姫への愛だけは未だ薄れる気配すらかりません。とりあえず五月十日の戦争に備えて石を貯めまくります。


いよいよ迎えたライブ当日。緊張が辺りに走る中でリハーサルを終えた四人は、厳しい面持ちで本番を控えていた。

その中には当たり前のように俺も入っていて、まるでメンバーの一人になっているかのように錯覚する。

 

衣舞紀「いよいよね••••••」

 

ごくり、と生唾を飲み込む音と共に衣舞紀さんが言葉を放った。それに反応して、他の三人の目が更に厳しくなる。

 

天「リハーサルは問題なくできてました。新曲の出来もバッチリですし、口出しするような不安要素もありません。自信を持って取り組んでください」

 

俺も一切の甘えは見せない。淡々とした口調でメンバーに語り掛け、少しでも緊張を減らす為に褒めておく。

 

乙和「わかってるよー!これまで頑張ってきたんだから自信持たないと!」

 

乙和さんがやる気に満ちているようで、メラメラと燃えていた。

それに触発される、という程ではないが、みんなにも多少ながら熱は移っている様子だ。

 

ノア「うぅ•••緊張してきた••••••」

 

天「大丈夫ですよ。校内ライブから人増えただけなんですから」

 

ノア「そういう問題じゃないよ!」

 

ガチガチになりながらもちゃんと怒る時は怒るみたいで、俺の方に喰ってかかった。

 

ノア「校内ライブの人数の数十倍もの人がいるんだよ!?緊張するなって言う方が無理!!」

 

天「まぁまぁ••••••」

 

苦笑しながらノアさんを宥める。しかし、こうも余裕ぶっこいて発言をしている俺も、なんだかんだで緊張はしっかりしていた。

そこまで酷くしている訳ではないが、あまりふざけてられる余裕もない。

目の前のノアさんがガチガチになってるおかげで少し安心できるが、もし四人が余裕綽々な様子だったら俺は緊張で潰れていたのは間違いないだろう。

 

衣舞紀「確かにお客さんも多いし、緊張はするわ。でも、多いということはそれだけの人が私たちの為に来ているのよ。しっかり満足させてあげられるようなパフォーマンスを見せつけないと!」

 

衣舞紀さんが励ますように言葉を放つ。流石リーダーだ。彼女たちを今の発言で一気にまとめ上げてしまった。

 

咲姫「曲の順番は予定通りでいい?」

 

天「咲姫に任せる。お客さんの反応次第で流れを変えてもらっても構わないが••••••」

 

チラリ、と乙和さんノアさん衣舞紀さんの三人に目を配る。

急に変えすぎてついていけない、なんて事はないのかと心配になったからだ。

 

乙和「私たちを誰だと思ってるのー?それに咲姫ちゃんの切り替えは何回も経験してるから対応なんて朝飯前だよ!」

 

自信満々に胸を張りながら鼻を鳴らす乙和さん。余計な心配だったようで、すぐに咲姫の方に顔を戻す。

 

乙和「あ、あれ?それだけ••••••?」

 

天「ん?何かありますか?」

 

乙和「え?もっとこう•••すごいねー、とかないのかなって••••••」

 

天「•••••••••はぁ」

 

ついため息が漏れてしまった。それも心底嫌そうなのが伝わってくるほど嫌悪感に満ちた吐息だ。

 

天「ライブが成功したらいくらでも褒めますから。今から調子に乗ってると足をすくわれますよ」

 

乙和「むぅ•••厳しい••••••」

 

天「こんな状況で甘やかすわけにもいきませんから」

 

スタッフ「Photon Maidenさん、準備をお願いします」

 

衣舞紀「時間ね。それじゃあ天、後でね」

 

ノア「行ってきます」

 

乙和「終わったらちゃんと褒めてよねー!」

 

咲姫「•••••••••」

 

三人がぞろぞろと出て行く中、咲姫だけは俺の目の前で立ち止まっていた。

もう何も言わなくてもわかる。どうせここまできて甘えているのだろう。

 

天「頑張れ」

 

優しく、頭を撫でてやる。時間も押しているので軽く済ませる程度に、数回だけ触れてからすぐに手を離した。

 

咲姫「行ってきます」

 

満足した咲姫は、小さく手を振りながら控え室を出て行った。

さて、観客席に移るか。俺は咲姫に向けていた笑みを解いて、移動を始めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

月「こっちこっちー」

 

天「わかってるから一々呼ばなくていい」

 

月が大きく手を振りながらこちらに位置を知らせる。席の場所を既に知っている俺は、ため息を吐きながら小走りで向かった。

 

天「よっと」

 

そして妹の隣に座ってステージを眺める。まぁ関係者席だから遠い上に見にくい。

もうちょっと見やすい位置が良かったが、今更文句も言えまい。

 

月「ドキドキするー!ね、ね、開始いつ?」

 

天「後もう少し待て。さっき準備に入ったばかりだから」

 

月「えぇー」

 

ぶーぶー、と唇を尖らせてぶーたれる月。恐らく俺が来たからすぐに始まるものだと思っていたのだろう。

 

天「ガキじゃねぇんだからそれくらい待てよ」

 

月「まだ中2なんですけど?十分ガキなんですけど?」

 

天「屁理屈垂れてんじゃねぇよ殺すぞ」

 

月「乱暴!!」

 

舌打ち混じりに言葉を発する。最早いつも通りで妹も慣れているのか、声だけは必死そうだったが顔は余裕たっぷりだった。

 

天「それに、楽しみにしてるもんがさっさと始まってもつまんねぇだろ?」

 

月「まぁそうだけどねー。少なくとも、お兄ちゃんはあまりそういった事は好まないでしょ?」

 

天「よくわかってるな」

 

薄らと微笑みながら、ステージに目を向ける。観客たちが楽しみに待っているのが嫌でも伝わってくる。既に歓声が上がっているのだから驚きだ。

 

月「さて、仕上がりはどうですかマネージャー様?」

 

天「バッチリだ」

 

月「すごい端的だ•••シンプルでわかりやすいけど」

 

だってそれ以外に言うことねぇんだもん。変に長く言うよりはこれくらいシンプルな方がいい。

 

しばらくしたくらいだろうか、ステージに光が灯った。ライブ開始の合図だ。

自然と、俺の姿勢が張る。目つきも鋭いものに変わる。目の前にあるステージを睨みつけるように目線を送り続けた。

ステージからPhoton Maidenの四人が姿を現す。それだけでも大きな歓声が上がり、ペンライトが揺れまくった。

 

天「•••頑張れ」

 

小さく、隣にいる月にすら聞こえない声で呟いた。準備が整った四人は位置に着いて、姿勢を取る。

ーー咲姫の手が動いた。それと同時に曲が流れ始める。というかこれ•••。

 

天「新曲じゃねぇか••••••」

 

予定とは大違い。なんと一発目から新曲を投げつけやがったのだ。状況が理解できていない観客は、困惑しながらも何とか盛り上がっている状態だ。

 

天「••••••まぁ、流れを任せてるのは俺だし、一々文句も言えないな」

 

ため息混じりに笑みを零し、今一度ダンスを見る。大量の観客に当てられているのもあって、いつも以上に気合の入っているダンスだった。

それでもそれぞれの個性がしっかりと表れていて、完璧、という言葉がとても似合う仕上がりとなっている。

歌も丁寧さこそ感じられるが、情熱的な激しさも兼ねた強い歌声だった。これも生のライブならではのものだろう。

 

月「すごい•••!すごいすごい!夏のライブと全然違う!!」

 

月が興奮してジャンプを始めた。こいつの言う通り、夏のライブと比べて何倍もレベルアップしているのが見て取れた。

ダンスも、歌も、DJも••••••何もかもが前とは違う。全てが更に上へ向かって突き進んでいる。ずっと側で見ていたからこそ、彼女たちの成長はこまめに確認できていた。

だが今回は違う。ライブ本番になって急に化けやがった。リハーサル?そんなものとは比べ物にならないくらい激しいし、何より楽しそうだった。

汗を散らしながら踊る姿は、一種の感動すら覚える程美しい。

辛いはずだ、疲れているはずだ。それなのに笑顔を振りまく姿は圧巻だった。

 

天「•••なんというか、置いていかれた気分だな••••••」

 

まるで、俺の存在なんて必要ないんじゃないかと考えさせる程に、彼女たちのパフォーマンスは完璧に出来上がっていた。

それを見て無性に寂しく感じるのは、今まで一緒に見ていたものを先取りされたように感覚的にそう取ってしまったからなのだろうか。

 

天「まぁでも••••••」

 

みんなが楽しいなら、俺はそれで満足だ。遠くから眺めながら、しみじみと感じる。

楽しそうに踊って歌う彼女たちの姿は、今世界で一番輝いていると、そう確信した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

数時間にわたるライブが終わりを迎え、観客たちはぞろぞろと帰っていった。

その姿を見届けた後に、俺と月は二人で控え室へと戻る。

まだ疲れた様子の四人が、荒く息を吐き続けている中で、俺は椅子に座った。

 

天「お疲れ様でした」

 

と、短い一言だけの労いを送る。これ以上は何も言わない。

 

月「すっごく良かったです!夏よりもすごくて私興奮しちゃいました!」

 

月に関してはまだまだ興奮が冷めない様子で、大きく声を張り上げながら思い思いに自身の感想を皆に伝えていた。

 

乙和「えへへ〜ありがとう月ちゃん!はぁ〜疲れたー!」

 

乙和さんが大きく手を広げながら、椅子の席に体重を預ける。

 

ノア「はしたないよ乙和。でも、かなり疲れちゃった••••••」

 

ノアさんも同じようで、机に突っ伏してぐったりとしていた。人の事言えないなこの人も。

 

衣舞紀「でも、大成功だったわね。お客さんみんな喜んでくれていたみたいだし」

 

咲姫「みんなとても楽しそうで温かい色だった••••••」

 

ノア「二人とも、どうしてそんなに余裕なの••••••」

 

あまり疲れた様子を見せない二人に、ノアさんは絞り出すような声で呟いた。その姿を見て俺は苦笑を浮かべてしまう。

 

天「ちょっと失礼します」

 

俺は席を立って、控室から出る。そのままスタスタと歩いて行って、会場の外に出た。

まだライブの余韻に浸っている観客が、ライブの感想などをみんなで語らっていたところだった。

混ざりたいところだが、マネージャーとして顔が割れてるので下手に行動できないのが辛い。

とりあえず目についた自販機から飲み物を買って、それに口をつける。

 

天「••••••もう終わりか」

 

こうして、帰っていく人たちを見ると、本当にライブが終わったのだと実感する。またすぐにあるとはいえ、かなりの寂しさを感じた。

 

紗乃「こんなところにいたのか」

 

天「•••プロデューサー?」

 

恐らく会場内にいるであろう姫神プロデューサーがこちらに来ていた。仕事どうしたんだよアンタ。

お構いなしに隣に来て、コーヒーを飲み始めた。

 

紗乃「まずはお疲れだったな」

 

天「それを俺に言ってどうするんですか。Photon Maidenのみんなに言ってくださいよ」

 

紗乃「彼女たちにも後々伝えるさ。一先ずは神山に伝えるのを優先しただけだ」

 

天「••••••俺は何もやってませんよ」

 

一口紅茶を啜って、プロデューサーから目を逸らした。

 

紗乃「いいや、神山はよくやってくれた。お前がいなかったら、Photon Maidenがここまで成長する事はなかったし、こんな大きなところでライブをすることもできなかった。だから感謝している」

 

天「•••買い被り過ぎですよ。俺は自分の仕事をしただけですから」

 

紗乃「相変わらずだな。少しは自分から認めたらどうなんだ?」

 

苦笑しながらこちらに目を向けるプロデューサー。俺はただ逸らすばかりで、一向に目が合う事はなかった。

 

天「なんというか、実感がないんですよ。自分のお陰で成功した、なんて」

 

紗乃「それは誰だってそうだろうな。だが、彼女たちは、お前のおかげでここまでこれたと確信している。だから四人の前でだけは威張ってやれ。そうしないと、彼女たちが可哀想だ」

 

天「•••••••••そうですか」

 

飲み干した紅茶のペットボトルを握りつぶす。グシャッ、といい音が鳴り、近くのゴミ箱へ投げるとそれは綺麗にスッポリ収まった。

 

天「戻ります。後のことはお願いしますね」

 

紗乃「わかった。彼女たちにもよろしく頼む」

 

天「はい」

 

一礼し、俺は走って控え室へと急いだ。自然と、心が弾んでいた気がする。

 

控え室に戻ってくると、既に着替えていたPhoton Maidenの面々が待ちくたびれた様子で俺に目を向けた。

 

咲姫「何処に行ってたの••••••?」

 

天「ちょっと外にな。後ついでにプロデューサーと色々話してきた」

 

衣舞紀「プロデューサーいたの?」

 

天「知らん間に来てました。俺がビックリですよ」

 

少し驚いた様子の衣舞紀さんに対して、俺はヘラッと笑う。乙和さんもノアさんも衣舞紀さんと同じく顔がびっくらこいている。

 

乙和「もしかして今日のライブの事話してた!?」

 

天「それはまたプロデューサーに呼び出された時に話してくれますので待っててください」

 

乙和「えぇー!?」

 

ノア「何か言われるのかな••••••?」

 

天「変に心配しなくても大丈夫ですよ。少なくとも、怒られる事はないと思って貰って」

 

乙和「じゃあ安心だね!今日はスッキリ寝られそうだよー!」

 

天「••••••そうですね」

 

本当に、今日はゆっくりと寝られそうだ。一ヶ月ほど前からのしかかっていた重りからようやく解放されたのだ。今の俺はやたらとスッキリしている事だろう。

 

天「そろそろ帰りましょうか。打ち上げとかは明日にしましょう。オフにしてますので」

 

乙和「ホントに!?明日は美味しいご飯を食べに行こー!」

 

天「いい所に連れて行きますよ。とてもいいライブができたんですから」

 

晴れやかな顔で、俺は頷いた。明日はどこか高級なところにでも連れて行こう。今更金の心配なんてバカらしいからな。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

三人と別れて、俺、咲姫、月の三人で家に向かって歩いていた。足取りは軽く、月に関してはまだウキウキ気分が残っていた。

 

月「無事に終わって良かった良かったー!これでまた忙しさから解放されましたなマネージャーさん?」

 

天「うっせぇなぁ••••••どうせ明後日からいつも通り仕事なんだから変わらねぇよ」

 

咲姫「••••••でも、ライブ前みたいに無理はしないよね?」

 

天「ん?そりゃまぁ、そこまで忙しいってわけでもないからな。それより咲姫の方だ。また直ぐ近くにライブがあるんだからそれに向けてちゃんと頑張れよ?」

 

咲姫「天くんが練習を見に来てくれるなら頑張る」

 

天「•••意外と面倒な注文してくるなお前••••••」

 

月「行ってやりなよ彼女からのお願いだぞー?」

 

天「変に盛りあがんなバカ」

 

挑発してくる月の頭に一発入れておく。痛そうに頭を押さえながら涙目で訴えてくるが気にしない。

 

咲姫「•••ダメ••••••?」

 

天「はぁ•••わかった。行けない日もあると思うが善処する」

 

咲姫「ありがとう。やっぱり優しい••••••」

 

天「•••早く帰るぞ」

 

咲姫「うんっ!」

 

妙に小っ恥ずかしくなり、俺は咲姫の手を引いて自宅へ向かって急いだ。

元気に応えた咲姫も、俺と歩幅を合わせて歩いていく。

こんな日は永遠とこないのは、俺が一番わかっている。だからこそ、今を大切にしていかなければならない。

咲姫の方へ顔を向けると、彼女は穏やかな笑顔を見せてくれた。

その笑顔に応えようと、より一層強く決心した。




では皆様、五月十日にまたハーメルンでお会いしましょう!ばいちゃ!またその時に色々言えたらいいなーと思っています!できることなら課金せずにバースデー咲姫をブチ当てたい!


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咲姫√二年生編
梅雨と同時に暑くなるのマジ勘弁


皆様、どうも。Twitterでは言ってましたが、のうのうと帰ってきました。いやね•••いざ終わってみると未練が本当にすごくて、また書きたいなーと考え始めたのでこうしてまた投稿を再開する事にしました。本当、どうしてやめた時に限って書きたくなるかな•••まぁでも、またよろしくお願いします。ただ一つ言いたいのは、昔みたいに毎日投稿は無理です。そんな時間ない()


二年生になってしばらくが経ち、徐々に暑さを感じ始めていた。

もう六月。一学期の終わりが少しずつ見え始める頃合いの時期だ。

そして••••••。

 

天「今日も雨か••••••」

 

梅雨の期間でもある。窓から外を眺めれば、大きな勢いで地面に突撃する水滴の姿があった。

濡れるから嫌なんだよな、雨。

 

焼野原「やっぱり梅雨はこんなもんだよなー。帰る時面倒なのが嫌だわ」

 

天「そうだな••••••」

 

焼野原「そういやお前、出雲さんと相合傘とかしねぇの?」

 

唐突な質問に、俺は「は?」と呆れた声を漏らす。そしてげんなりとした表情で彼の問いかけに答える。

 

天「ねぇよ」

 

焼野原「え?ないの?普通に雨の日はいつもやってるもんだと思ってたわ」

 

天「お前俺のことなんだと思ってんの?」

 

焼野原「出雲さん激甘クソ野郎」

 

天「殺すぞ」

 

変なあだ名つけんじゃねぇよボケ。キッ、と睨みつける。

焼野原くんはすまんすまんと口だけで謝るばかりで、反省した様子はなかった。

 

天「でも、ジメジメすんのは少し嫌だな••••••」

 

雨のおかげで湿度が高まり、汗が出やすくなっているのだ。

制服の胸元をパタパタと扇いで風を送るが、生温い風しか飛んでこない。

 

天「暑いな••••••」

 

身体からまた汗が流れ出すのがなんとなくわかった。

多少の苛つきがこもった息を吐き、窓際に体重を預けていると、横から冷たい心地よい風が顔に向けて送られた。

 

天「••••••ん?」

 

顔を向けると、そこには電池式の小型扇風機を片手に、俺に向けていた咲姫の姿があった。

 

咲姫「暑そうにしていたから」

 

天「俺よりお前の方が暑いだろ。道民なんだし」

 

咲姫「私は十分涼んだから大丈夫」

 

天「そう言うなら、お言葉に甘えて••••••」

 

彼女がそこまで言うなら無下にできないだろう。素直に聞き入れて、扇風機から放たれる風を顔で受ける。

一部だけとはいえ、涼める部分があるとだいぶ変わるものだ。みるみるうちに身体中の汗が引いていった。

 

天「外の部活とかしてる連中には嬉しいだろうな、梅雨は」

 

焼野原「逆に室内競技の連中は死んでるだろうけどな」

 

天「雨とか関係ないからな、あそこは」

 

ケラケラと笑う。俺も室内競技を色々経験してきた人間だからある程度の気持ちはわかる。こういう時だけ外競技の連中が羨ましくなるものだ。

 

天「傘使うの面倒なんだよな••••••傘さしても濡れる時は濡れるし」

 

焼野原「もう傘ささないで走っていったら?」

 

天「雨避けられるくらいの瞬発力があったらな」

 

焼野原くんを小突きながら、俺はふっ、と息を吐いた。

そこで、咲姫がハッと顔を変える。何か思い出したのだろうか。

 

咲姫「そういえば、天くんと相合傘をしたことがなかった」

 

天「話戻りやがった••••••」

 

見事に原点回帰した。焼野原くんはそれが面白かったのか、腹を抱えてゲラゲラと大笑いしている。

 

焼野原「いってぇ!?」

 

とりあえず一発蹴っておいた。

 

天「いや、する分にはいいけど••••••濡れるぞ?」

 

咲姫「私は濡れても構わないから」

 

天「強情••••••」

 

ここまでくるとむしろ尊敬するわ。どうしてそこまで俺の為に自分を犠牲にするの?もっと身体大事にして?

というか、咲姫の場合これが普通な気がしてきた。何かしら突っかかってくるしすぐ甘えてくるし。相合傘も今までのに比べたらまだいい方だ。

そうだ、平常運転なのだ。そう、平常••••••。

•••そうでも言い聞かせないと、俺の中の理性がぐちゃぐちゃになりそうだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

昼休みになれば、ほぼ自動的に乙和さんがこの教室に迎えに来るのはわかっていたことだ。

昼休みになった次の瞬間には教室のドアが開かれて、乙和さんの元気な声が飛んでくる。

 

乙和「天くん!咲姫ちゃん!お昼食べに行こー!」

 

天「よっと••••••」

 

咲姫「今から行くね」

 

同時に腰を上げて、乙和さんについて行く形で教室を後にする。

廊下を軽い足取りで歩きながら食堂へ向かうが、珍しく咲姫から会話はなかった。

だが、しっかりと手は握られていた。油断も隙もない。

 

乙和「そういえば中間テストどうだった?」

 

天「俺たちの前に乙和さんはどうだったんですか?」

 

あの中だと成績面で一番怪しいのは乙和さんだ。

圧をかけるようにジロジロと乙和さんの顔を見つめると、咄嗟に彼女が目を逸らしたのがわかった。

 

天「••••••はぁ、全く••••••。三年生にもなって赤点ですか。受験生なんですからそれ相応の覚悟と自覚を持って勉強をしてください。Photon Maidenの活動が忙しいのは重々承知していますが、それでも赤点はありえません。普段からちゃんと勉強してるんですか?勉強は日頃から積み重ねないといい結果を残せません。テスト前の急ピッチで仕上げられるのはほんの少しだけなんですから。それに乙和さんも芸能界にいるプロだということには変わりないので、恥ずかしくない最低限の成績というものをですねーー」

 

乙和「わ、わかったよ〜。期末ではちゃんと頑張るから今回は許して!ね!?」

 

グチグチと説教をしていたが、乙和さんが強制的に打ち止めて俺に向かって拝んで許しを乞う。

 

天「••••••わかりました。次赤点取ったら姫神プロデューサーと二人で説教しますから」

 

乙和「が、頑張ります••••••」

 

今の一言が一番効いたのか、乙和さんの顔は恐怖もあったがやる気に満ちていた。

期待できそうだが、ここまで期待させといて赤点取りましたー、だったら流石にキレそう。

 

天「全く••••••」

 

咲姫「あまり怒らないであげて。乙和さんも好きで赤点を取ってるわけじゃないから」

 

天「•••わかったよ。これ以上は何も言わん」

 

咲姫に嗜められて、俺はため息混じりに乙和さんから顔を逸らした。

くいっ、と手を引かれて顔を向けると、咲姫が微笑みながら俺を見上げていた。

 

天「どうした?」

 

咲姫「天くんの顔が見たかっただけ」

 

天「そうかい」

 

コツン、とおでこ同士を軽くぶつけた。頬を薄く紅潮させながら微笑む姿が映り、顔を逸らした。

 

乙和「どうしたの?急にこっち見て」

 

天「なんか•••咲姫と顔合わせるのが恥ずかしくなりました••••••」

 

乙和「えぇ〜•••もう流石に慣れたでしょ?」

 

天「•••意外と慣れないもんですよ••••••」

 

あんな綺麗な顔されるのは何度見ても慣れない。普通にときめいちゃう。

 

学食に入って、それぞれ好きなものを注文して席を確保する。

衣舞紀さんとノアさんがやってくるまでの間は適当に駄弁りながら過ごしていた。

しばらくして二人がやってくる。そしてそこをきっかけとして、昼食を食べ始めた。

 

天「後一ヶ月で夏休みって、案外早いもんですね」

 

衣舞紀「そうね。本当にあっという間に過ぎていくから、気がついたらもう受験当日になってそうかも」

 

当たり障りのない話題を投げてみると、律儀に衣舞紀さんが反応を示してくれた。

しかし咲姫以外の三人が一気に受験となると••••••練習量を減らして勉強に集中させた方がいいのではと考えてしまう。衣舞紀さんとノアさんは心配してないが一人アレなのがいるからだ。

 

乙和「むぅ!」

 

俺の視線に気がついたのか、乙和さんは頬を膨らませて睨みをきかせた。何を考えていたのか確実にバレたことだろう。

 

乙和「ふーんだ!天くんも来年私と同じ目に遭えばいいもん!」

 

天「一応大学は行きますけど••••••でも今はあまり受験の事は考えたくないですよ••••••」

 

ノア「•••あっ、そっか。夏休みが来るってことは」

 

天「ライブで忙しくなる時期ですよ」

 

すぐ目の前にまで迫っている多忙な予定によって、勉強という部分は完全に頭から切り離されていた。正直考えていられる余裕なんてない。

 

咲姫「私はまだ後一年あるから大丈夫だけど••••••みんなは?」

 

三人に向けて首を傾げる咲姫。そう、一番の問題はそこなのだ。

 

天「練習量を減らす事も一応可能ですが、どうしますか?」

 

衣舞紀「ううん、いつも通りでお願い。なんとか両立してみせるから」

 

天「•••わかりました。ノアさんと乙和さんもそれでいいですか?」

 

ノア「うん、私は大丈夫だよ」

 

乙和「私もー!」

 

天「貴方は既に危ないですけどね」

 

乙和「五月蝿い!」

 

乙和さんの悲痛な叫びが学食中に響き渡った。俺はメモ帳を取り出して、予定を書き綴った。




次の投稿はもしかしたら来月とかそれくらいかなり先になる可能性が高いです。そこまで書きまくれるわけじゃありませんので。では。


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これだから雨は

はーい、よーいスタート。というわけで投稿しまーす。メチャクチャダラダラと書いてたらこんなに間が空いてしまいました。ホンマすいません。まぁでも今は前みたいに一日一投稿!みたいなのはないんでまぁ気ままにゆーったり書きますねー。


放課後になっても雨は降り止まず、地面に向かって音を立てて突っ込んでいた。

湿度も高いままで、汗が流れ出るのを感じる。

 

天「さて、と•••事務所行くか」

 

傘を取り出して、開く。肩に担ぐように持つのが一番楽だ。

しかし、そこに1人の人間がくっついてきた。

 

咲姫「お邪魔します」

 

天「••••••本当にするだな•••••••••」

 

朝に言っていた通りに相合傘を決行するらしい。

傘自体は大きいが、いかんせん2人となると少し窮屈になるのが否めない。

 

天「ちょっと恥ずかしいんだけど」

 

咲姫「私、傘持ってない」

 

天「消去法やめれ」

 

それじゃ嫌でも傘の中入れないといけねぇじゃん。担当濡らして風邪引かせたとかマジでブッコロ案件だし。

 

天「ちゃんと天気予報見たのか••••••?」

 

というかそもそも朝から雨降ってたよな••••••?だとしたら傘を持っていない方がおかしいのだが。

 

天「••••••本当は持ってるだろ?」

 

咲姫「うん」

 

全く悪びれる様子もなく、ノーコンマで頷きやがった。なんとも言えない固い表情になってしまう。

 

天「自分でさした方が濡れないだろ」

 

咲姫「天くんと一緒がいい」

 

天「こういう時は本当に譲らねぇな••••••」

 

あまりの逞しさに尊敬の念すら抱くよ。もう諦めて俺はため息をでっかく吐き出した。

 

天「そういや、校内ライブとかも予定立てないとな。いつまでも外部でやるわけにもいかないし」

 

咲姫「じゃあ、またりんくさんたちと合わせる形でするの?」

 

天「今のところはな。その方があいつらも喜ぶだろうし」

 

せっかく学園内に見知った顔が集まっているのだ。それを上手く活用しないでどうする。

都合の良い事によく絡む連中でもあるので尚更だ。

 

咲姫「今日はどれくらいお仕事かかりそう?」

 

天「まだ忙しくはないからそっちが終わる前には片付くと思う」

 

咲姫「じゃあ練習、見にきてくれるの?」

 

天「••••••行くよ」

 

最近ご無沙汰だったし、前よりどれくらい成長したのか見てみたくなってきた。少しワクワクする。

 

天「まぁでも、後一ヶ月もしないうちに忙しくなるだろうけどな」

 

咲姫「夏休み期間のライブの予定?」

 

天「そう。去年よりも大きいハコは多分押さえられるだろうし、また一歩先にすすめるんじゃないか?」

 

多分と言うだけで、確証は一切ないが。だが、それでも何処か大丈夫だろうという安心感はあった。

 

咲姫「楽しみにしてるね」

 

天「ん。待っとけ」

 

期待を寄せてくれているようなので、絶対に失敗できないな、と精神的に少しプレッシャーを感じた。まぁ、これくらいの方が油断しないしいいだろう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

仕事自体はすぐに終わったので、俺は席を立ってPhoton Maidenのレッスンを見学する事にした。

軽い足取りで歩いていき、タイミングを確認してから中に入った。

 

天「お疲れ様です」

 

姫神「珍しいな」

 

天「••••••••••••」

 

バタン••••••。

 

姫神「おやおや、逃げる事はないじゃないか」

 

天「ちょっと待って待って!!プロデューサーいるなんて聞いてないんですけど!?」

 

姫神「いいからこっちに来い。今更遠慮する仲でもないだろう」

 

しっかり捕まって中に放り込まれてしまう。ゆったりと練習を眺めていようと思ったのに、プロデューサーの所為で厳しい目で見ないといけなくなった。

 

天「•••••••••」

 

前と比べたら確実に上手にはなっているが、そこまで大きな変化というものは感じられなかった。

何かしら壁に当たっているのか?と少し疑問を覚えたが、あまりにも解明できる要素が少なくて口を出せずにいた。

そしてそのまま流れるようにダンスを見続けて、気がつけば終わっていた。

 

姫神「神山から見て、今の彼女たちはどうだった?」

 

天「•••••••••まぁ、前より良くなってますが•••少しだけですね」

 

少し残念な雰囲気を醸し出しながら、俺は言葉を吐いた。

目の前に映るPhoton Maidenの面々の顔が曇ったのが、何となくだがわかった。

 

天「何かが足りないんですよね••••••」

 

姫神「だがそれがあまりわからないと」

 

天「そういうことです」

 

プロデューサーが代弁してくれた。俺はコクリと頷く。

 

乙和「具体的にどこがダメとかないのー?」

 

天「乙和さんはいつも通りミスを失くしてください。普通に振り付け間違えてますから」

 

乙和「うっ••••••!」

 

真顔を向けながら注意する。乙和さんは少し不満そうな顔を俺に向けていたが気にしない。

 

天「••••••そろそろ時間ですね。今日はこれまででいいでしょう。着替えて帰るなりご自由に」

 

俺は立ち上がって、そそくさとレッスン部屋から去っていく。そのまま自身の仕事部屋に戻って、帰る準備を進めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

外に出ると、既に着替え終わった咲姫が事務所の入り口前に待機していた。

 

天「待ってたのか?」

 

咲姫「うん」

 

傘を持っている様子もなく、ただ立ち尽くしたまま頷く咲姫。

他のみんなは既に帰ったのだろうか•••。

 

天「帰るか」

 

咲姫「うん」

 

傘を開くと、すかさず咲姫が隣にくっついた。

 

天「早いな••••••」

 

本当にあっという間に潜り込んで俺の手を握っていた。あまりの素早さに驚いてしまう。

 

咲姫の歩幅に合わせながら歩く。しばらくして神山家が見えてきた。

 

天「飯、食ってくか?」

 

咲姫「うん、食べたい」

 

頷いたので、そのまま彼女を連れて家に入ることに。

リビングを覗いてみれば、既に夕食を作り終えていた月の姿があった。

 

月「あ、おかえりー。咲姫さんもいらっしゃい!」

 

咲姫「おじゃまします••••••」

 

足をブラブラしながら、妹はいつもの明るい笑顔を見せる。こんな顔して、下ネタ吐きまくりのクソアマとか信じたくないわ。

 

天「なんか今日はやけに作るのが早かったな?帰る時間もいつも通りだったはずだが」

 

チラリと時計に目を向けると、いつもの帰宅時間となんら変わりなかった。

別に月は気分屋というわけではない。その日その日で行動が変わる事はまずないと言っていいだろう。そんなあいつがちょっとでもズレていると少し心配になる。いや普段から発言はズレているが。

 

月「なーんでもないよ。さっさと手洗っちゃって」

 

天「••••••わかった」

 

あまり詮索するな、という事だろうか。俺は頷いて、素直に手洗いうがいを済ませた。

席に座って三人で手を合わせる。目の前の料理や食材に感謝してから食べ始めた。

 

月「•••お兄ちゃん」

 

天「どうした?」

 

やたらと弱々しい声で、月は俺を呼んだ。箸を動かす手を止めて、聞く体勢に入る。何故か咲姫も一緒だ。

 

月「いや、なんていうかさ、私、本当に高校に受かるのかなーって思って••••••」

 

思ったよりも深刻な内容だった。苦笑いが含まれているが、雰囲気からも余裕がないのがしっかりと伝わってくる。

 

天「今まで通り学年一位はそのままなんだろ?その状態をキープしていれば、高校受験なんて楽勝だ。結局は中学の復習みたいなものなんだし」

 

咲姫「うん、月ちゃんなら絶対に受かるよ」

 

月「あはは•••応援してくれるのはありがたいです••••••。でも、やっぱり不安で••••••」

 

少なくとも月の成績で落ちる事はまずないだろう。むしろ落ちる方が珍しいレベルだ。

だが今の妹は緊張感と焦りで精神的にもかなり参っている状態だ。これが続くとあまり良くない結果を生みそうな気がしてくる。

 

天「どうしたいかはお前に任せる。でも、変に緊張するなよ?ウチなんて未だにガチガチに緊張する人がいるからな」

 

今本人が近くにいたらメチャクチャに騒がれていただろう。笑いながら月に目を向けると、少しだけだが安心した顔になっていた。

 

月「•••うん、ありがとう。そうだよね、Photon Maidenのみんなも頑張ってるんだから、私も頑張らないと!」

 

天「俺を抜いたのは悪意あってのことでいいんだな?」

 

月「当たり前だよなぁ?」

 

天「殺すぞクソガキ」

 

月「きゃーこわーい!咲姫さん助けてー!」

 

月は席から立ち上がって、咲姫の後ろへと逃げ込んだ。

ニコニコと穏やかな笑みを浮かべていた咲姫は、俺たちを優しく見守っている。

 

咲姫「大丈夫そうだね」

 

天「••••••ん、そうだな。乙和さん、いい具合にダシにできて楽でいいわ」

 

咲姫「乙和さんに聞かれないようにしないと」

 

天「•••••••••まぁ、バレないだろ」

 

今現在咲姫の後ろに控えているヤツが口でも滑らせない限りはな。

目を向けると、ニヤニヤとした表情を浮かべていた。これは完全に弱み握られたな••••••。

 

天「というかお前いつまでそこいんだよ!早く戻って飯食え!」

 

月「お?お?愛しの咲姫さんにくっつかれて嫉妬かなー?」

 

天「お前マジで泣かしてやる!」

 

月「やってみろー!」

 

いつもの調子に戻って、ギャーギャー騒ぎながら俺と月の言い合いは続いた。

 

咲姫「•••とても楽しそう」

 

その光景を見ていた傍観者は、小さくそう呟いた。




そんじゃまた会いましょう。多分かなりの期間空くので気長に


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すみません許してください何でもしますから

久々の更新です。投稿は昨日するはずだったんですが、モンハンに追われてすっかり機会を逃してました本当にすんません。ま、今日もモンハン、するんですけどね〜。


珍しいことに晴れた今日この頃。土曜日といえども仕事が休みだということはなく、最早当然のように事務所に駆り出されていた。

別に忙しくもないこの時期なら、別に仕事ほっぽり出して遊んでても差し支えない。そうしないのは変に真面目だからなのだろうか。

 

天「あー•••つまんねぇ••••••」

 

早々に仕事が片付いてしまったので、俺は机に突っ伏してため息を漏らしていた。

せめてもの暇つぶしにと外を眺めるが全くもって面白くもなんともない。

適当にパソコンで何かを見ようとかそういった気分にもならないのもまた悪いところだ。

 

天「•••流石に勝手に帰るわけにもいかんし、ちょっと気分転換にブラブラしに行くか••••••」

 

気怠そうに身体を起こして、俺は事務所から出て行く。そしてそのまま目的もなく、某モンスターの動く鎧みたいにさまよっていた。

 

天「••••••少し腹減ったな」

 

時計を見ると昼前になっていた。昼飯を買うついでにと、コンビニに立ち寄る。少し値は張るが、キチンと美味いから今回は許したる(寛容)。

 

天「•••••••••」

 

食うものが決まらねぇ。数分くらいはおにぎりと睨めっこをしている状況になり、店員も少し引き気味に俺を眺めていた。

 

りんく「あれ?天くんだー!」

 

天「ん?あぁ、りんくか」

 

聞き慣れた声によって振り返ると、涼しそうな私服に身を包んだりんくが手を振りながらこちらに走ってきた。

 

天「お前も昼飯か?」

 

りんく「そうだよ!ちょうど近くを歩いていたからついでにと思って!もう天くんは食べるもの決めた?」

 

天「あ、いや•••腹は減ってるんだが、これといって食べたいものが決まらなくてな••••••」

 

あはは、と苦笑混じりに言葉を返すと、りんくはノーコンマでとある商品を手に取って俺に渡した。

 

天「••••••え、何これ」

 

•••カツサンドだよな?これ。いきなりどうしてこんなものを。

 

りんく「カツサンド!天くん男の子だしお肉食べた方がいいかなって!」

 

天「•••じゃあ、これにするか」

 

少々りんくに押し切られた感はあるが、カツサンドならハズレはまずないので乗っかった。

ちなみに一個じゃ確実に足りないので三つほど買った。

 

りんく「あ!ここイートインできるんだ!食べていこうよ!」

 

天「はいはいわかったよ」

 

まるではしゃぐ子供のようにりんくは向かっていった。それを見て俺は薄らと笑う。

お互い向かい合うように座って、昼食の時間が始まった。

 

りんく「いただきまーす!」

 

天「いただきます」

 

りんくは•••まぁ当然とでも言うべきなのかおにぎりだった。

 

りんく「んふぅ〜!美味しいー!どうしてコンビニのおにぎりってこんなに美味しいんだろうね!?」

 

天「それを俺に訊かれてもな•••まぁ美味いという点は同意だが」

 

りんくに続いて俺もカツサンドにかぶりつく。うん、美味い。ソースが()。というかソースの味が殆どだな。濃いわ。

 

りんく「ねぇねぇ天くん」

 

天「ん?」

 

りんく「咲姫ちゃんとは今はどんな感じ?」

 

天「•••ぶっこんできたな」

 

なんともまぁストレートな質問だこと。当の本人は目をキラキラと輝かせながら俺を見つめている。

 

天「特に変わりないよ。いつも通り」

 

当たり障りのない回答を投げつけるが、りんくはそれでは満足できなかったのか、更に追い討ちを仕掛けてくる。

 

りんく「どんなことしたー、とかこういうことあったーとかないの?」

 

天「なんかやけにしつこいな•••というか俺じゃなくて咲姫に訊けばいいだろ?」

 

咲姫に丸投げするようで悪いが俺は逃げさせてもらうぜ。

 

りんく「え〜。だって咲姫ちゃん、天くんの事になると急に恥ずかしがるんだもん!」

 

天「それで矛先が俺に向いたのか••••••」

 

りんくはバカじゃないからちゃんと先手は打ってくるよな•••少し甘く見ていたわ。

 

天「とは言ってもなぁ•••変わりないのは変わりないし••••••」

 

特にこれといったものがないのが困りものだ。うんうん唸ってしまうのが関の山となっている。

 

天「あー•••でも最近スキンシップというかそこら辺は減ってきてる気がするな••••••」

 

キスとかほとんどやってないし。あれ?これってまさか••••••

 

天•りんく「倦怠期•••?」

 

ちょうど良く声が重なった。しかしお互いの表情は全くの正反対なものだ。

俺は顔面蒼白となり、りんくはなんだか楽しそうだった。

 

天「••••••••••••••••••やべぇどうしよう」

 

俺の不安はどんどんエスカレートしていき、今にも心臓が胸から破れて飛び出しそうだった。

胸に手を当てるとわかりやすいくらいに鼓動が早鐘を打っている。

 

りんく「天くんならきっと大丈夫だよ!」

 

天「お前その自信どこから湧いてくんの???」

 

他人事のりんくから無慈悲な言葉を投げつけられて、少しイラついた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

まだ不安感を残したまま事務所に戻ってきた。

ソワソワとして落ち着かないのが自分でも良くわかっていたので、誰にも見つからないようにそーっと仕事部屋に戻ってきた。

 

天「はー•••後何して過ご•••そ••••••?」

 

ドアを開ける時だけは軽い動作だったが、目の前の光景を見て一瞬で固まってしまった。

 

咲姫「••••••すぅ••••••すぅ••••••」

 

いつも俺が使っている椅子に、咲姫が座って寝ていたのだ。えぇ•••(困惑)。

 

天「え、あれっ?もう今日はレッスン終わりだっけ?」

 

メモ帳を開いてスケジュールを確認する。•••あ、もうとっくに終わってるわ。明日の分と勘違いしていた。これは池沼。

 

天「あーマジかー•••。じゃあ咲姫ずっとここで待ってたのか。それは悪いことをしてしまったな••••••」

 

とりあえずと、毛布を取り出して彼女の背中に掛けてやる。暖かいとはいえ、こんな薄い服装で寝ていたら風邪を引いてしまう。

 

天「さて•••起きるまで待ってるか」

 

もう一つ椅子を取り出して、それに座る。ちょくちょく咲姫の様子を確認しながら、携帯をイジり続けた。

 

しばらく時間が経った頃だろうか、咲姫がみじろぎを始めた。

 

咲姫「んっ、んぅ••••••」

 

天「お、起きたか?」

 

携帯をポケットにしまって、彼女に目を向ける。むくりと身体を起こして、目を擦りながら俺の姿を認識した。

 

咲姫「天くん••••••?」

 

天「ん、そうだ」

 

咲姫「何処に行ってたの••••••?」

 

少しだけムッとした表情をされながら問いただされる。少しだけ冷や汗が流れた。

 

天「いや•••もう終わってるって知らずに昼飯食いに行ってました•••ハイ••••••」

 

そして何故か敬語になる俺。余計に不自然になるからやめろ。

 

咲姫「怪しい••••••」

 

ビクッ!!俺の身体が跳ねた。もうこれで確定だろう。俺が何かしら隠してるってことが。まぁ隠してるんだけどさ。

 

天「コンビニに行った時に、ちょうどりんくと会って•••二人で飯食った••••••」

 

咲姫「•••私の事は放っておいて?」

 

天「いや、それはマジで申し訳ない••••••」

 

咲姫「••••••キスしてくれたら許す」

 

天「あっ•••ハイ••••••」

 

少し納得がいかなかったが、キスだけで済むならいいか•••。この後更に飯に付き合えとかだったら死んでたけど。

彼女の頬に手を添えて、唇を近づける。すると咲姫も応えるように目を閉じたのがわかった。

そしてそのまま口付けをする。いつも通り、咲姫の唇は柔らかかった。

 

咲姫「んっ、ちゅ、ちゅっ••••••」

 

息の問題もあって長くは続かないが、それでもやめられないでいた。息が上がっても、苦しくても、離れるのがとても惜しかった。

 

咲姫「天くん••••••」

 

天「ん•••?」

 

咲姫「大好き」

 

天「あぁ•••俺も好きだ」

 

また唇を重ねる。ここに人が入ってくることがないのをいいことに、好き勝手にお互いに好きを表現し合った。

 

天「••••••じゃあ、帰るか」

 

キスも終わり、帰る準備も整った俺は咲姫に声をかける。

 

咲姫「うん。あ、でも私お腹が空いた••••••」

 

天「よーし帰ろうかなーあはははー」

 

ガシッ。

 

天「••••••えーっと、あのー咲姫さん•••••••••?」

 

咲姫「もちろん一緒に食べてくれるよね?」

 

天「••••••ア、ハイワカリマシタ」

 

キスで許すとは一体何だったのか。俺は咲姫に連れて行かれて本日二度目の昼飯をかっ食らう事となった。泣けるぜ。




それではまた。筋トレしてきまーす。ゼンワンゼンワーン!!(バクシン並感)


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いなりが入ってないやん!

たまには現役の時みたいに一日一話感覚で思いっきり書くかー!と勢いで書いたんですけど•••完全にネタ回になりました、はい。なんでこうなったんだろうか•••自分でもわかんねぇやwちなみに今回、主人公の天くんまぁまぁクズです。温かい目で見てください♡


六月も終わりを迎え始め、晴れる日も徐々に増えていた。

今日も快晴。これまでの雨が嘘と言えるほどに雲が確認できずにいる。

が、ここで一つ問題が発生する。そうーー

 

天「期末テストあったなーそういえばなー」

 

夏休み前の大事な考査だ。特に今年は受験組がウチに三人もいるので更に重要度が跳ね上がる。

そして例年通りと言うべきなのか我が神山家で勉強会が行われる事となる。今回は受験組の月も参加していて、より一層賑わいが増していた。

 

天「まぁ月に関してはノアさんに任せておけば問題ないよな」

 

元から勉強ができる月に成績優秀のノアさんが教えているんだ。死角などない。ただノアさんの目が怖いのは少しアレなのだが。

 

乙和「全然わかんないよー!」

 

とりあえず一番の問題であるこの人をどうにかしないといけない。とは言っても、俺は三年生の内容がわかるわけではないので一切手出しはできないのだが。

 

衣舞紀「ここはこうだよ。ちゃんとわかってる?」

 

乙和「うぅ•••覚えてもすぐに忘れちゃうよ〜••••••」

 

重症だなこれは•••。衣舞紀さんに気にかけてもらってはいるが、本当に乙和さん大学受かるのか心配になってきた。

なんだかんだ朝から集まってこの昼の時間までずっとしているが、流石に腹が減ってきたな。

チラリと咲姫に目を向けると、彼女は俺の視線にも気づかずに真面目に問題を解いていた。感心感心。

 

天「んしょっと•••」

 

月「トイレ?」

 

天「いや、腹減ったからみんなの分の飯作ろうと思ってな」

 

さも当たり前のように言葉を投げかけると、妹は目をまんまるにして驚いた。

 

月「え?いいよいいよ私が作るって」

 

天「お前は勉強しろ。受験生なんだから大人しく本番に備えなさい」

 

月「はーい••••••」

 

咲姫「私も手伝う」

 

天「ん、頼む」

 

非受験組の俺と咲姫で昼食を作る事に。まぁ何作るのか決めてないんだけども()

とりあえずはすぐに食べられてすぐ作れるものにしたいのだが••••••。

 

天「カップラーメン••••••?」

 

衣舞紀「身体にあまりよくないよ••••••」

 

デスヨネー。衣舞紀さんにいとも容易く流されてしまう。んじゃどうするよマジで。俺の作れるものにも限りがあるのがまた厄介だ。

 

咲姫「いつも通り天くんの得意料理でいいと思う」

 

天「•••••••••」

 

咲姫からの言葉に俺は無言になる。うん、メッチャ簡単な事だったわ。変に考える方がバカバカしいってはっきりわかんだね。

 

ピンポーン!

 

突然のインターホン。俺は小走りで玄関に向かって行く。

 

?「毎度ー、寿司屋でーす」

 

天「??????」

 

寿司なんか頼んだ覚えないんだけど?え待ってメチャクチャ怖いんだけど。実はヤクザでしたーってオチは笑えないんだけどマジで。

•••いや、こっちから仕掛けて崩そうそうしよう(即決)。

玄関を開けると、白い服に身を包んだ若い兄ちゃんが出てきた。

あっ(察し)。これ絶対住所間違えたな。

 

天「あーご苦労さんどうぞ入って入って」

 

とりあえず丁寧に中に入れてあげる。これでいかにも出前とった客ですよー、とアピールしておく。

 

天「ありがとうー。あれ?新人さん?」

 

そしてここでさりげなく話題を突っ込む。相手が答えやすい内容の質問をして更に客である信憑性に拍車を掛けさせるのだ。

 

寿司屋「はい、まだ見習いなんです」

 

しかもキッチリ答えてるよ。完全に客と勘違いしてるわ俺のこと()。

 

天「あっそうなんだ早いね〜(?)。いくつ?」

 

寿司屋「十八っす」

 

歳上じゃねぇか!!いや見た目から俺より歳上だろうなぁとは思ってたけど!!

 

天「あ、十八。頑張ってねー」

 

とりあえず乗っかっておいて、財布から野口を数枚出して渡す。

 

寿司屋「ちょうどいただきます!」

 

なんで金額ドンピシャで合ってんだよ謎すぎんだろ。

渡された寿司を受け取る。

 

寿司屋「ありがとうございまーす!」

 

メッチャいい声で挨拶するじゃん君。

さーてここからどう説明しようかなーって、ん?

 

天「あれ?」

 

寿司屋「お?どうしました?」

 

なんかやたらと違和感がすごいと言うか、何かが足りないと言うか••••••。なんか一部だけあからさまに空いてんだよな。丁度寿司が一つ入りそうな空洞が••••••。

そして寿司の中に入っているテンプレでこの中にないものはもう一つしかない。

 

天「いなりが入ってないやん!どうしてくれんのよこれ!」

 

寿司屋「•••いえ、すいません」

 

何か訳ありなのか、寿司屋の兄ちゃんは少し縮こまった声で謝っていた。

 

天「え?注文通ってないの?あんたんとこの店」

 

寿司屋「いえ、そげなことは、ないっすけど••••••」

 

天「だからないじゃんいなりが」

 

寿司屋「たiーー」

 

天「いなりが食べたかったから注文したの!」

 

食い気味に追い討ちを仕掛けてやる。というかいつの間にか説明からただのイジメになってるんだけど大丈夫?これ。

 

天「なんでないの?」

 

まぁ、それでも続けるんですけどねwwwなんか楽しいわwwwやめらんねぇwww。

 

寿司屋「その、僕がさっき、食べちゃいました」

 

天「食べた!?」

 

え••••••キミ客に渡す寿司勝手に食ったの?いやそれはマズイでしょ。というか十八歳のいい大人がそんな事するって日本社会大丈夫かこれ?(過剰批判)。

 

いなり男「すいません」

 

天「え、い、いなりを食べたの?この中の中で?」

 

完全に脳が困惑していて言葉遣いがかなりおかしくなってしまう。あまりにも目の前の兄ちゃんが行った行為が信じられないからだ。

 

天「はぁ••••••親方に電話させてもらうね」

 

携帯を取り出して電話を掛けるフリをしようとするが、すぐにいなり男が俺の腕を掴んできた。

 

いなり男「いや、それだけは•••!やめてください」

 

天「いなりを食べたんだから電話させてもらうから(キレ気味)」

 

いなり男「いや、親方だけは」

 

天「なんで?(威圧)」

 

いなり男「クビになっちゃうんで」

 

そりゃそうだ。むしろそれでクビにならない方がおかしいっちゅう話やねん。

 

天「関係ないよこんなんクビになったらいいやんいなり食べたんだったら」

 

というかなんで俺はこの男と取っ組み合いになってんだよ謎過ぎんだろマジで。

 

いなり男「いやそれだけはほんと、勘弁してください」

 

天「いやもうね、もうね、もう許せへんし。もういいからもう!(ガチギレ)」

 

いなり男手を振り払ってまた携帯の操作(大嘘)を再開しようとしたが、いなり男がなんと土下座をしたのだ。俺の目の前で。というか初めて見たんだけど、土下座。

 

いなり男「すいません」

 

声に覇気が全くねぇ•••本当に反省してんのかこいつは••••••。

 

天「そんな土下座されたってさぁー••••••」

 

流石に対応に困ってしまう。とりあえずはこの男の顔を上げさせないと。

 

いなり男「すいません」

 

天「顔上げて」

 

まぁ回りくどいことなんてせずに直球で言うんですけどね〜(ダミ声)。

 

天「いなり作ったことあんの?」

 

そして自分自身でも何言ってるのかよくわからん謎発言をしてしまう。もういなり関係ないだろ。馬鹿じゃねぇ?

 

いなり男「いや、僕はまだないです」

 

天「ないのにつまみ食いしたの?」

 

何かいなり作れるならつまみ食いしてもいいみたいに聞こえるんだけど気の所為?気の所為だよな?な?

 

いなり男「はい」

 

そしてキッチリ認めるんだねキミ。まぁ状況が状況だからしゃーないんだろうけど。

 

天「はぁーあーもうこんな、若い子に言い聞かされたら•••わかったほんならー」

 

いなり男「はい」

 

天「お題をタダにしてくれたら、今回の事は親方には内緒にしてあげる(クズ)」

 

いなり男「えっ、そんな事でいいんですか•••?」

 

天「うん、ちゃんとお金返してくれる?」

 

いなり男「はい」

 

そして、ポケットにしまった数千円を受け取る。オイオイオイ、タダで寿司ゲットしてしまったぞ。

 

天「わかった、いいわ。今回は許したる(寛容)。はよ帰り」

 

いなり男「はいっ。あざっした」

 

そしてそのままいなり寿司つまみ食い男は帰って行った。

••••••••••••••••••。

 

天「マジかよ」

 

昼飯作る必要なくなったよ。やったねたえtyaゲフンゲフン。

 

リビングに戻ると、みんな待ちくたびれた様子で俺に目を向けた。

 

咲姫「誰がきたの?」

 

天「寿司屋の出前の兄ちゃん」

 

月「え?お兄ちゃんいつの間にお寿司取ってたの?」

 

天「んー?内緒。まぁいいだろ。昼飯は寿司に決まったわけだしな」

 

ノア「••••••天くん」

 

天「はい、どうしました?」

 

ノア「変なことは、してないよね?」

 

天「え?なんです??」

 

圧をかけながら再度問いかける。諦めたのか、ノアさんはこれ以上は訊かなかった。おう、それでええんや。

ちなみにみんなで寿司を食った後に即勉強は再開。乙和さんが泣くのは最早恒例行事と化していた。

かくいう俺はいなり男に少し悪いことをしたな、とほんのちょっとだけ反省した。だが後悔はしていない。




ではまたー。次の投稿?いつかわかんないなー。とりあえず12、13はスイパラや名古屋遠征するんで何処かで会おう(会えない)。


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大学行くのダルいです(切実)

えー、皆様、お久しぶりでございます。Twitterの方ではメジロジョッスイーンと名乗らせていただいている者でございます。こんな名前ですけどライス推しのお兄さまです、ハイw投稿が送れた言い訳をさせていただきたいのですが••••••。ハイ、すいません。ウマとかに熱中してました。後単純にモチベがウンコを極めてました、すいません。どうせ次の投稿も何週間も先になるんだろうなぁ、という遠い目で見てくださると幸いでございます。


期末考査は無事終了し、俺は晴れやかな気持ちで席を立った。

 

天「はー終わったー!」

 

咲姫「お疲れ様、天くん」

 

天「おう、咲姫もお疲れさん」

 

気がついたら隣にやってきて、労いの言葉をかけてくれる咲姫の頭を撫でてやる。

彼女は目を閉じて俺の手の動きに合わせてゆらゆらとゆったり揺れていた。なんか可愛いな。

 

焼野原「俺••••••ヤバいかも」

 

が、やり切った気分とは全く対照的な、沈んだ声音で焼野原くんが肩を落としてながら呟いた。どうやら死んだらしい。

 

天「何処ミスったんだよお前••••••」

 

焼野原「今回のテストの解答•••一つずつズレてた••••••」

 

天「あっ(察し)」

 

赤点コースまっしぐらですねお疲れ様です強く生きてください。

 

天「まぁ•••二学期頑張れ。先生も採点で気づくだろ」

 

焼野原「•••はい••••••。あ、そうだ。神山って行く大学決めてんの?」

 

いきなり顔をあげたかと思えば、そんな質問が彼の口から飛んできた。

 

天「特に行きたいところはないからな•••仕事場から近いのもあるし星朋大学に行くつもりだ」

 

焼野原「あ、神山の学力じゃいけねぇじゃん」

 

天「うっさいわ」

 

痛いところを突いてくるなこいつは。というかテストで解答ズラすバカには言われたくない。

 

天「本番までにはどうにかする。都合のいい事にウチには勉強教えてくれる先輩がいるわけだし」

 

咲姫「ノアさんのこと?」

 

天「そう」

 

咲姫「ノアさんの迷惑にならない?」

 

天「••••••まぁ、その時は大学一年だろうし大丈夫だろ」

 

計画性がないが、ノアさんなら大丈夫だろうという謎の安心感がある。まぁあの人俺やPhoton Maidenのみんなに甘い(乙和さんは除く)しイケるイケる(適当)。

 

焼野原「いいよなお前は可愛い先輩に勉強教えてもらえるんだからなぁ!!俺もお前みたいにマネージャーになればそう言うご褒美貰えんのかよぉ!?」

 

天「••••••それを俺に言われてもな••••••」

 

そもそも俺は望んでこんな関係性になったわけじゃない。気がついたらこうなっていたのだ。

 

天「というか俺普通に仕事あるんだわ、じゃあな」

 

咲姫「私も練習をしないと••••••」

 

焼野原「あ、あぁ••••••」

 

咲姫の手を引きながら、教室を後にする。彼を置いてけぼりにしたのは少し心が痛むが、ここで遊んでいるわけにもいかない。

すぐに学校を飛び出して、事務所に急いで向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

まだテストの結果は返ってきてないのだが、個人的な観点から見ればある程度の結果は予測できる。

ただ、これでもかと嫌な面で予想しやすい人間が一人いるのだ。そう、乙和さんだ。

 

天「••••••それで、どうだったんですか?」

 

仕事を始める前にレッスン部屋に訪れて、咲姫を除く全員で乙和さんに詰め寄っていた。

誤魔化すような笑いを出す余裕もないのか、汗を流しながら俺たちの顔をそれぞれ流し見ている。

 

乙和「え、えーっとぉ•••赤点は免れた••••••かな?」

 

天「は?」

 

こめかみに青筋を立てながら俺は乙和さんを睨みつける。ノアさんと衣舞紀さんは、俺みたいに怒った様子ではないが、不満はかなりある模様。

 

乙和「許してー!」

 

天「•••••••••はぁ、全く」

 

呆れてモノも言えない。自分の顔を腕で覆って防御の体勢に入っている乙和さんに目を向けながら、とてつもなく大きなため息を吐いた。

 

乙和「だ、大丈夫だよ!最終的に大学に受かればーー」

 

天「大学受験を無礼るなよ?」

 

食い気味に、そして威圧的に俺は乙和さんに言葉を投げつける。その瞬間に彼女の口は動きを止めて、微かにだが震え始めた。

 

乙和「だって、だってぇ••••••」

 

というかもう泣きそうになってんだよな。流石にこうなるとは思ってなかったのか、ノアさんと衣舞紀さんは少し固まっていた。

 

天「あーもう泣かないでください、子供じゃないんですから」

 

乙和「だって天くん怖いんだもん••••••!」

 

天「もう怒ってませんよ。だから泣き止んでください」

 

子供をあやすように優しく抱きしめて、背中をさすってやる。

ねぇ、俺一応乙和さんより歳下だよな?なんでこんな事になってんの?

 

天「••••••あの、乙和さん任せてもいいですか?仕事したいんですけど」

 

衣舞紀「ダメ」

 

天「えぇ••••••」

 

どうやら俺に拒否権はないらしい。まぁそこまで忙しくないからいいんだけどさ。

結局数分間程、乙和さんをあやして仕事に戻る事ができた。ちょっと可哀想だったので、プロデューサーと二人がかりで説教をする件は無しにしておいた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

仕事が終わって身体を伸ばしていると、一通のメールが飛んできた。携帯を手に取って内容を確認し、俺は短く「了解」と文字を打った。

ちなみに中身は月が桜田家で飯を食ってくるから適当に済ませてこい、との事だ。何食お。

 

天「適当に探すかねぇ••••••」

 

一人で飯を食うところはいくらでもあるが、意外と限られるので困る。

 

咲姫「天くん」

 

天「あ、咲姫」

 

仕事部屋に咲姫が入ってきた。俺は携帯をしまって、カバンを手に立ち上がる。

 

咲姫「一緒に帰ろう?」

 

天「あー•••悪いな、今日は何処かで飯食うから一緒に帰れそうにない」

 

咲姫「月ちゃん、何かあったの?」

 

少し心配そうな表情で尋ねる咲姫。そこまで深刻にならなくていいから安心してくれ。

 

天「いや、ただ友達のところで飯食ってくるってだけだ」

 

咲姫「私もついていっていい?」

 

天「あぁ、いいぞ」

 

咲姫「じゃあ、みんなにも伝えてくるね」

 

天「•••••••••あ、はい」

 

一瞬二人っきりで飯食うのかな、と思ったけどそんなことはなかった。

彼女は小走りで部屋を後にして何処かへと向かった。恐らく衣舞紀さん達を呼びに行ったのだろう。

 

天「••••••外で待ってるか」

 

欠伸を一つ呑気に放出しながら、俺は一足先に事務所の外へと向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

Photon Maidenの面々と一緒にファミレスへと向かう。最早いつも通りの光景だった。

 

乙和「みんなでご飯って久しぶりだね!たくさん食べちゃうぞー!」

 

衣舞紀「乙和。ライブも控えてるんだからちゃんと考えて食べなさい」

 

乙和「衣舞紀のケチ!」

 

天「今日くらいはいいんじゃないですか?明日から節制すれば十分間に合うと思いますよ」

 

二人が言い合ってる中に口を挟む。途端に彼女らの顔が俺に向いたが、表情は様々だった。

乙和さんは喜びに溢れ、衣舞紀さんは納得いかない、と言いたげな顔だ。

 

乙和「さっすが天くん話がわかる!」

 

天「とりあえず明日からライブ日まで晩飯抜きでお願いします」

 

乙和「衣舞紀よりも鬼だった!」

 

天「冗談です」

 

乙和「天くんが言うと冗談に聞こえないよ〜•••」

 

なんか申し訳ない。乙和さんがイジりやすいのが悪いんや。俺は悪ない(クズ)。

 

店内に入って席に通してもらうと、すぐさま全員でメニューを見始めた。

 

天「腹減ってるしなぁ••••••チーズインハンバーグとサイコロステーキのセットいっておくか」

 

咲姫「私は•••天くんと同じものを」

 

天「咲姫の胃袋だと吐くぞ」

 

成人男性が一つ食べて満足する程の量だ。りんくじゃあるまいし、咲姫では到底無理だろう。

 

咲姫「••••••じゃあ、これ」

 

膨れっ面でミニハンバーグ定食を指差していた。ちゃんと身の丈にあったものを頼もうな。

 

まぁ当然と言えば当然なのだが、ハンバーグとサイステ程度じゃ腹など満たされそうになかった。どんだけ腹減ってんだ俺。

 

咲姫「天くんのソレ、食べたい」

 

天「ん?これか?いいぞ」

 

フォークで刺したサイコロステーキを咲姫の口の前に持っていく。そして彼女はそれを躊躇いなく口に含んだ。

 

咲姫「美味しい」

 

天「それはよかった」

 

ノア「な、流れるように食べさせてた••••••」

 

天「あっ(察し)」

 

ノアさんに指摘されて、今更「あーん」をした事に恥ずかしさを感じてしまった。顔が紅潮してしまう。

 

ノア「照れてる天くんカワイイなぁ〜」

 

天「うっさいですよ••••••」

 

そして相変わらずと言うべきなのか、ノアさんにイジられてしまう。本人はイジってるつもりはないのだろうが、俺からしたら恥ずかしくて堪らない。

 

天「あ•••なくなった」

 

咲姫に食べさせた分が最後になってしまったらしい。目の前の鉄板の上には、肉のカケラ程度しか乗っていなかった。

 

衣舞紀「もうみんな他に食べるものはない?」

 

天「あ、俺デザート食べます」

 

咲姫「私も」

 

乙和「私も私もー!」

 

ノア「甘いものが食べたいですね」

 

衣舞紀「やっぱりデザートは欠かせないのね••••••」

 

いつも通り、と言った様子で衣舞紀さんが苦笑混じりにやれやれと首を横に振った。

まぁみんな甘いもの好きだろうし仕方ないね。

 

各々好きなようにデザートを注文して、甘いひと時を味わった。

久しぶりに食べるパフェは、なんだかいつもの数倍美味しく感じられてる気がする。

 

天「うめぇ」

 

衣舞紀「本当、美味しそうに食べるわね」

 

あからさまに美味しいですよ、と言った表情でパフェを貪っているのだ。客観的に見れば美味しく味わって食べている事だろう。

 

咲姫「天くん、ほっぺたについてるよ」

 

天「あぁ、悪いな」

 

いつの間にか頬に付着していたクリームを咲姫に拭き取ってもらう。なんかガキ扱いされてるみたいで複雑だ。

 

咲姫「今の天くん、少し子供みたい」

 

天「たかがクリームつけてただけだろ?」

 

わしゃわしゃと頭を両手でかき乱してやる。指を這わせて乱雑に動かすと、髪型が乱れたのがわかった。

 

咲姫「イジワル••••••」

 

天「悪い悪い、戻すよ」

 

手櫛で彼女の髪型を整えてやるが、少し不恰好な感じになってしまった。申し訳ない。

 

ノア「普段髪の手入れなんてほとんどしてないんでしょ?メチャクチャになってるよ」

 

天「すまん、咲姫••••••」

 

咲姫「大丈夫。もうこれから帰るだけだから」

 

一切の悪態をつかずに、咲姫はニコニコと笑顔を貫き通していた。ええ子や。

 

デザートも食べ終わり、メンバー全員分の料金を俺が出した。彼女たちよりも金はあるので当然だろう。

 

ノア「ごめんね天くん。奢ってもらっちゃって」

 

天「大丈夫ですよ。普段からあまり使わないので」

 

乙和「じゃあ明日も奢ってもらっちゃっおっかな〜?」

 

天「流石に死ぬので勘弁してください」

 

微笑混じりに乙和さんの発言を受け流す。周りが幸せなら俺はそれでいいのだ。今の発言カッコよくない?

 

衣舞紀「お陰で明日も頑張れそう!ありがとう、天!」

 

天「いえいえ•••それじゃ時間も時間ですし、帰りましょうか」

 

全員が頷いた。俺も応えるように首を縦に振り、それぞれの行き先へと足を進めた。

もちろん俺と同じ方向には咲姫がついてくる。

 

天「にしても、大学受験かぁ••••••」

 

来年には受験生だというのに、あまり実感が湧かない。というか本当に大学に行くのかすら曖昧なまである。

 

咲姫「まだ一年あるから、今の内に対策しておかないとね」

 

天「あーそうだな••••••。ぶっちゃけ大学行く必要ないんだけどなぁ••••••」

 

とはいえこの学歴社会の日本では、最低限大学や専門学校には行っておきたい。

まぁ最近は高卒で成功している人間もいるし、変に拘る必要もないんだけどな。

 

咲姫「ダメ。私と一緒に大学に行く」

 

天「•••あ、はいわかりました」

 

グイッ、と俺の手を引っ張りながら不満気な表情をする咲姫。

俺は苦笑いを漏らしながら、前を向く。

 

天「まぁ、とりあえずは大学にはキッチリ行くさ。そもそもPhoton Maidenがいつまで続くかにもよるが」

 

明日にでもPhoton Maidenが解散、となれば俺はすぐにでも大学受験を捨てて何処かに飛んでやるよ。

現状で解散などまずあり得ないが。

 

咲姫「解散しないように天くんがたくさん仕事を持ってきてくれないと」

 

天「はーいはいわかってるよ。バックには事務所がついてんだ、どーんと構えてろ」

 

欠伸を一つしてしまって全く締まらないが、咲姫はちゃんと汲み取ってくれているようで、全くツッコまなかった。

とりあえず••••••ちゃんと大学受験に向けて勉強しよう、俺はそう決意した。めんどくせぇ。




では、自分はミルダムの配信をしますので•••え、D4の配信?しないしないしない。ワシそこまでグルミク上手じゃないし。じゃあ何をするのかって?ウマです(真顔)


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夏休み初日!

いやーお久しぶりでございます。あまり時間が取れず書けませんでしたが、昨日今日と頑張ったおかげですぐに終わりました!今回はあまり読んでて楽しくないかもしれませんが次回に期待していただけると幸いに存じます。それでは。


乙和「夏休みだーー!!」

 

天「うるっさ!」

 

突然として家の中に響き渡る乙和さんの大きな声。彼女の言葉通り、今日から夏休みだ。某ペルソナみたいに日本中をキャンピングカーで駆け抜けてみたいぜ。

 

月「夏休み•••今年はあってないようなものですよ••••••」

 

天「まぁお前はそうだろうな。ウチにも三人ほどいるわけだし」

 

チラリ、と受験組の三人に目を向ける。こちらに気がついたのか、目が合ったのがわかった。

 

天「まぁ、あまり心配はしてないさ。『一人』を除いて」

 

乙和「むぅ、悪意を感じるぞー?」

 

天「寧ろ悪意しかないですよ」

 

乙和「言ったなー!絶対に受かってやるんだから!」

 

そもそも落ちる事がありえないんだが•••その話をしたらまた色々膨らみそうなのでやめておいた。

 

ノア「でもせっかくの夏休みなんだし、みんなで夏らしい遊びとかをしてみたいね」

 

ノアさんからの願望が聞こえてきたところで、俺は何かを思い出したかのようにメモ帳を取り出した。

 

咲姫「どうかしたの?」

 

天「いや•••確か何処かの日にライブがあって••••••あ、これだこれ」

 

目的の内容が見つかって、大まかに目を通す。そしてその日の予定を思い出して、小さく笑った。

 

天「来週のライブ。福岡でありますよね?ライブの次の日は福岡で自由にできる日があるので、海にでも行ったらどうでしょう」

 

衣舞紀「へぇーいいわね。去年は海に行かなかったし、今年こそは行きたいわね」

 

天「じゃあ決定ですね。適当に海水浴場探しときます」

 

乙和「じゃあ水着とか新しく買わないと!」

 

ノア「そうだね。買いに行こうか」

 

話がどんどん盛り上がっていく様子を、俺は微笑みながら眺める。みんなが楽しそうで何よりだ。

が、クイッ、と服の裾を咲姫が引っ張ったのが見えた。え、何(困惑)。

 

咲姫「水着、買いに行きたい」

 

天「え?月も連れて五人で行ってくればいいじゃないか」

 

咲姫「六人」

 

天「•••••••••つまり俺も来いと?」

 

咲姫「うん」

 

天「••••••断るっていう選択肢は•••••••••」

 

咲姫「ない。天くんも来ないとダメ」

 

天「••••••はい」

 

咲姫が引かない性格なのはわかっていたので、俺は素直に頷いた。

 

月「すっかり咲姫さんのお尻に敷かれてるねー。あ、もしかしてセックスも騎乗位が多かったりーーいったぁ!!」

 

天「性的な話はやめろバカ」

 

月「だからって殴んじゃねぇよコラァ!」

 

天「口調おかしくね???」

 

なんで今回は喧嘩売ってる感じなのだろうか。相変わらずこいつの頭の中身はわからん。

 

月「と、り、あ、え、ず!咲姫さんからも来いって言われてるんだから行くよ!」

 

天「へーい••••••」

 

どうせ俺は海に入る気はさらさらないし、適当に男モノの水着でも眺めながら時間でも潰すかな〜。

 

衣舞紀「あ、そうだ。ちゃんと天も水着買っておいてね。天も遊ぶんだから」

 

天「え゛」

 

ノア「?何かおかしなところでもあった?」

 

天「いや•••俺は仕事が」

 

乙和「関係ないよ!というかその日くらいは仕事休もう!」

 

天「••••••あーはいはいわかりましたよ」

 

まぁなんだかんだこうやって言いくるめられるのがオチなのだが。

変に悲しませるよりはこうやって乗っかって置いた方が楽でいい。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

というわけでショッピングモールにやってきたわけなのだが、もう店内は夏ムードまっしぐらで、所々に夏らしい要素を感じさせる装飾や商品が並んでいた。

 

天「うわ、かき氷作るやつまである。懐かしいな」

 

お手軽に家で氷を砕いて作る例のアレまでもある。ちなみに作者の実家には、痴漢車ト◯マスモデルのかき氷機があります。クソガキの頃はトーマス大好きでした(クソどうでもいい)。

 

月「そんなもの見てないで早く水着買いに行くよ」

 

天「はいはいわかってるよ」

 

月に呼ばれて、俺は気怠そうに返事をしながら歩を早めた。

店舗内にはしっかりと夏コーナーが設けられていて、水着がこれでもかとズラーッと並んでいた。選びきれねぇだろこの量は。

 

天「焼野原くんくらいは連れといた方がよかったな••••••」

 

男一人で水着を選ぶなんて、虚しすぎて敵わん。例えるならR18小説を書いてる時くらいの虚無感だ。

 

天「まぁどうせシンプルなやつにするんだけどな」

 

飾りがあるのはそこまで好みではない。さっさと黒一色のシンプルな短パン型の水着を適当に手に取って購入する。

そして女モノの水着が並んでいるコーナーをウロウロして咲姫たちを探し始める。

 

ノア「あれ?もう終わったの?」

 

天「えぇ。拘りとかないのですぐに決めて買いました」

 

乙和「どんなのどんなの!?」

 

天「普通のですよ」

 

乙和「えぇーつまんないー!ノアに選んでもらえばよかったじゃん!」

 

天「絶対に嫌ですけど」

 

ノア「どうして••••••!?」

 

なんか心底驚いてる顔をノアさんがしてるが、あなたに任せたら絶対デザイン盛り盛りの女性が着けるような水着引っ張ってくるでしょ。こちらから願い下げだ。

 

衣舞紀「じゃあ天には私たちの水着を選ぶのを手伝ってもらおうか。男の子からの意見も聞きたいし」

 

天「あっ•••はい」

 

もう自分の分終わったし帰ってもいいよねー?なんて考えてたけどやっぱりダメだったわ。はよ家帰って寝たいんだけど。

 

乙和「天くん天くん!これなんてどう!?」

 

乙和さんが意気揚々に持ってきたのは、水色に近い色のビキニだった。

 

天「•••••••••ハッ」

 

乙和「どうして鼻で笑うの」

 

天「いえ、失礼しました。乙和さんは雰囲気が明るいのでそのような大人っぽい水着は少々合わないのではと」

 

本当はその水着を着けた乙和さんを想像して面白かっただけなのだが。即席とはいえ、何とか言い包めそうだ。

 

乙和「私来年で大学生だよ?今のうちに大人に少しでも近づきたいんだもん!」

 

天「無理に背伸びしても違和感しか出てきませんよ。少しは自分を客観視してみるのはいかがかと」

 

乙和「なんだよー!じゃあ天くんが選んで!」

 

天「えぇ••••••。じゃあこういうのでいいんじゃないですか?」

 

俺が指差したのは、シンプルな水着にジーンズに似た短パンが着いたものだった。

 

天「これなら乙和さんの雰囲気にも合いますしいいんじゃないですか?」

 

乙和「じゃあこれにするー!」

 

天「単純過ぎる••••••」

 

ほぼ適当に選んだのになんか気に入られたし••••••。別に俺は必要ないのでは?最悪ノアさんがいるし。

 

咲姫「•••••••••」

 

天「ん?どうした?」

 

咲姫が俺の目の前まで歩いてきて、ジーッと俺の顔を見上げていた。その様子が気になって、首を傾げてしまう。

 

咲姫「私の水着も選んで欲しい」

 

天「うーん••••••それはノアさんに頼んだ方が」

 

咲姫「天くんの好みに合わせたい」

 

そう言われたら選ぶしかないでしょ!(単純)

とは言っても咲姫に着せたい水着とかは去年辺りからある程度定まっていたので、すぐにその目当てのブツを探す。

 

天「あったあったこれだこれ」

 

真っ白の、フリル等があしらわれたビキニだった。それを手に持って、咲姫の胸元に持っていく。

 

天「咲姫は肌も髪も白いから、白で統一した方が似合うと思ってたんだ」

 

咲姫「どう?似合ってる?」

 

天「あぁ、とても可愛いよ」

 

咲姫「嬉しい•••」

 

月「••••••なーんか近づき辛いですね」

 

俺と咲姫が二人でニコニコとしている傍らで、月がため息混じりに苦笑しながら言葉を落とした。

 

ノア「二人は恋人だから仕方ないよ。あれ?そういえば月ちゃんは水着買わなくていいの?」

 

月「ライブ日、学校の方で勉強会でした••••••」

 

衣舞紀「それは•••タイミングが悪かったわね••••••」

 

ノアさんと衣舞紀さんは、しょんぼりと肩を落とす月を宥めていたという。

そんな事は露知らず、俺と咲姫はお互いに来週の事について話し合っていた。




それではまた次回にお会いしましょう。次がいつかはわかりませんが。


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福岡遠征行くぞオラァ!

一週間ぶりですね。最近モチベがあるのか、結構スッと書くことができました。続く限りは週一投稿を目指そうかなーとは考えていますので何卒ご贔屓に。


迎えたライブの日。福岡に新幹線で移動した俺たちは、来たる本番の時間ギリギリまで確認を取っていた。

 

天「とりあえず流れはこの通りになっていますので、後は咲姫が判断してセトリを狂わせても構わないが•••衣舞紀さんたちがついていける範囲で頼むぞ?」

 

咲姫「うん、わかった」

 

咲姫からの返事が聞こえたところで、俺は再度三人に目を向ける。

 

天「普段は中々参加できない九州の方々が大勢います。自分たちの存在を知らしめるつもりで、勢いよく頑張ってきてください」

 

咲姫•衣舞紀•乙和•ノア「はい!!」

 

スタッフ「Photon Maidenさーん!出番でーす!」

 

天「ん、丁度いいな。では、また後で」

 

俺は一礼して、スタッフの方に会釈しながら控室を後にした。そのまま軽い足取りで、会場の外へと向かった。

ジリジリと照らす太陽の熱に、汗がツーッと垂れる。

 

天「あっつ••••••まだ東京よりはマシだが••••••」

 

手を団扇代わりにしてパタパタと仰ぐが、大した風が来るわけもなく、来たとしても生温いものだ。つまり意味がない。

 

天「しーっかし野外ライブとかもやってみてぇなぁ。今のPhoton Maidenなら余裕で開催可能だろうし」

 

流石にこの時期にやらせると熱中症で最悪死んでしまいそうだから冬あたりにでも開催を検討してみるか。それまでに作者が覚えていればいいけど。

まずそこまで続くかわからんぞ。ワシの実生活もあるんだし(作者)。

 

天「••••••戻るか」

 

踵を返して、手に持っていたペットボトルに入っているお茶を飲みながら、俺は会場の関係者席に歩いて行く。

 

中に入れば、既に彼女たちは歌って踊っている最中だった。途中からで申し訳ない。

それを遠目からジーッと眺めながら、俺は小さく頷いた。

 

天「(うん、ちゃんと各々の課題をクリアしているな。これならまた更に歌やダンスの成長も見込めそうだ)」

 

子供の成長を見守る親のような気持ちで、Photon Maidenのパフォーマンスを見つめる。関係者席の場所は伝えてないので、多分俺が何処にいるかは知る由もないだろう。

 

天「(••••••ん?)」

 

なんか、今咲姫がこっちをチラッと見たか?いやそれはないだろ••••••場所とか一切伝えてないんだし。

 

天「(••••••色見やがったなあいつ。全く余裕な事で)」

 

俺を探すくらいには精神的にも余裕があるのはいい事だが、緊張感くらいは持ってて欲しいものだ。

ため息を吐きながら、俺は彼女の姿を微笑ましく眺めていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ライブは無事終了。ここからスタッフさんに車を回してもらい、宿泊先の旅館へとやってきていた。

ちなみに彼女たちと部屋を分けようとしたが金がかかるから却下された。寝られる気がしねぇわ。

 

天「夕食等は十九時半頃に来るらしいので、今のうちにお風呂に入っておきましょうか」

 

乙和「はーい!温泉温泉〜!」

 

ノア「もう乙和!はしゃがないの!」

 

ライブ後だってのに元気な事だ。相変わらずの二人に、咲姫と衣舞紀さんは笑みを零していた。

 

天「ふわあああぁぁぁ••••••さっさと風呂入ろ」

 

大きなあくびを漏らしながら、俺は気怠そうな足取りで温泉の方へと向かった。

この旅館はかなりの人数が使用しているのもあって、風呂場は大量の男で溢れ返っていた。年齢幅もとてつもなく広い。小さなお子様からお年寄りまで千差万別だ。

 

天「(ライブ後というのもあるし、女性ファンに目をつけられないといいが••••••)」

 

一抹の不安を覚えながら、俺は目立たないように静かに風呂に入る。

お、露天風呂あんじゃん。これは行くしかないですねぇ。

ささーっと髪や身体を洗って、俺は外へと飛び出す。もう暗くなった空には星がいくつも浮かんでおり、湯気と一緒に漂っていた。

 

天「さっむ」

 

いくら夏といえども夜はやはり冷えるものだ。身体がブルッ、と震えた。

いそいそと湯船に浸かると、先程の寒さもあってか、身体の芯から温まる感覚に陥る。それがとても心地よくてついーー、

 

天「はああああぁぁぁぁ•••••••••気持ちいい••••••」

 

朝早くからの移動も相まって疲労が溜まっていた身体によく効く。

••••••思いの外静かだな。子供も騒がずに大人しくこの風呂を堪能している。

女風呂の方からも騒ぎになってないしなんとかバレずにやり過ごせている事だろう。プロ意識があって何よりだ。

 

「「「キャアアアアァァァァ!!!」」」

 

天「•••••••••うん、まぁ知ってたわ」

 

突如として女風呂の方から悲鳴にも似た歓声が上がる。周りにいた男性たちはビクッ!と身体が飛び上がっていた。

 

天「全く••••••。有名人ってのも大変だな」

 

俺の方からは一切手出しはできないので、対応は彼女たちに任せるつもりだ。ただ、嬉しい反面少し手の届かないところにいる彼女たちが、羨ましく思えた。

 

天「••••••上がるか」

 

逆上せる前に立ち上がって、俺は風呂場を後にした。あ、室内の風呂入るの忘れてた。ま、ええわ(適当)。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

いち早く部屋に戻っていた俺は、畳に寝転んだままテレビを見ていた。福岡でもバチコリバラエティーはやっているので、退屈には感じなかった。

 

乙和「疲れた〜••••••!」

 

襖が開いたかと思えば、ヘロヘロになった四人が部屋に戻ってきた。

俺は身体を起こして、薄らと笑う。

 

天「大変そうでしたね」

 

ノア「すっごく大変だったんだよ!?メチャクチャ話しかけられるしお婆さんにジロジロ見られるしで!」

 

天「有名人の宿命ですよ、甘んじて受け入れてください」

 

衣舞紀「でも、ちゃんと私たちの存在が知られてるって改めて感じることができたわ」

 

衣舞紀さんが感慨深い表情で、そんな事を呟く。それに俺は同意するように頷いた。

 

天「こうやって結果がしっかりついてきてるんです。それに今後の事を考えたら一々人に認知された程度で慌ててる訳にもいかないでしょう」

 

乙和「楽観的だなー。どうせその内天くんも私たちと同じ経験をする事になるんだもん!」

 

天「ただのマネージャーの俺は何も関係ないと思うんですけどねぇ••••••」

 

別に俺はそんな表立った行動をしているわけではない。母さんなら話は別になってくるが、少なくとも俺は大衆に存在を知られる程の傑物でもなんでもない事は確かだ。

 

天「••••••飯までまだ時間がありますね。とりあえずは好きに過ごしてください。明日は海に行くのでしょう?」

 

乙和「海!行きたい!」

 

天「とりあえず近場の海水浴場を押さえてますので、寝坊だけはしないようにお願いします」

 

乙和「はーい!」

 

途端に元気になったなこの人。本当に扱いやすくて助かる事だ。

話が片付いたので、俺は再度寝転がってテレビに目を向けた。

しっかし旅館特有の浴衣は着慣れない。少しむず痒さを感じてしまう。

 

咲姫「何を見てるの?」

 

天「んー?適当に面白そうなの見てる」

 

後ろから咲姫の問いかけが飛んできたので、俺はテレビを見ながらゆるーく返す。

というか脳死でテレビ眺めてるから普通に眠たいんだよな。少しウトウトとして、視界も狭くなり始めていた。

 

咲姫「•••••••••」

 

寝そうになっていた所為で、咲姫が目の前に来ていたことに気がつかなかった。そしてそのまま俺と同じように寝転がって、くっついてくる。

 

天「ん?どうした?」

 

咲姫「天くんにぎゅってされたい」

 

天「いいぞ。今日は頑張ったからな」

 

そのまま優しく抱き寄せると、咲姫の頭が俺の胸の中に収まった。風呂上がりなのもあってか、彼女の身体はいつもより温かい。

 

天「あー•••ヤバい、寝そう」

 

こいつの身体暖かいし柔らかいしで眠気ものすごく誘ってくるんだけど。マジで。

 

咲姫「寝てもいいよ?」

 

天「出来る事ならそうしたいけど、今寝たら朝起きられる自信がない」

 

目の前の彼女からの誘惑に抗うが、出来る事なら今すぐ寝たい。流石に実際にステージに立っていた四人よりは疲れてないだろうが、普通に寝たい休みたい帰りたい(三大欲求)。

 

咲姫「ご飯の時間になったら起こすから」

 

天「••••••そうか、じゃ、お言葉に甘えて」

 

咲姫を抱きしめたまま、俺は目を閉じる。テレビの音が煩わしく感じたが、咲姫が俺の感情を汲み取ってくれたのか消してくれた。




なんか書いてて間の悪い終わり方になった気がしますけど所詮は文章力皆無のクソゴミのものなので許してくださいなんでもしますんで。


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夕飯は静かに

どーも皆さん、一週間ぶりですね。今は週一投稿を目指してますが今週は真面目に忙しいので無理そうですねぇ。いやー辛い。最善は尽くしますのでお願いします。


咲姫「天くん、天くん••••••」

 

天「う、うぅん••••••」

 

真っ暗な視界の中で、咲姫が身体を揺らしてくれているのがわかった。頭に右側に感じる感触は畳の硬さではなく、とても柔らかい心地だった。

恐る恐る目を開くと、目の前のテレビは先程見ていたバラエティのままだった。

そして側頭部に感じていた柔らかい感触は、咲姫の太ももだった。

 

天「••••••飯か?」

 

咲姫「うん。もう運ばれたよ」

 

身体を起こして振り向けば、テーブルの上に色とりどりの料理が並んでいた。香りだけで食欲が注がれるのがわかる。

 

ぐうぅ〜〜〜。

 

天「•••••••••」

 

乙和「お腹鳴ってるぞー?」

 

天「••••••うっさいですよ」

 

乙和さんを睨みつけながら、俺はテーブルの前にあぐらをかいて座る。まだ眠気が少し残る目を擦りながら、箸を視界に入れた。

 

全員「いただきます!」

 

声が部屋中に響き渡ってから、賑やかな夕食が幕を開けた。

和食がほとんどで、どちらかというと洋食派の俺からしたら少し物足りなさを感じる。

それでもお構いなしに箸を動かして飯をかっくらう。

 

天「あむっ、もぐもぐもぐ••••••」

 

咲姫「美味しい?」

 

天「あぁ。刺身とかかなりな。ほれ」

 

醤油を軽く浸したマグロの赤身を摘み上げて、咲姫の口元に運ぶ。

 

咲姫「あーん•••うん、美味しい」

 

天「だろ?これとかも美味いぞ」

 

お次はとサーモンを取り上げて、咲姫の口内に入れる。

 

咲姫「甘くて美味しい」

 

天「そうか。よかったよかった」

 

衣舞紀「•••••••••」

 

ノア「何か言いた気だね、衣舞紀」

 

衣舞紀「私たちの事、見えてないのかなって••••••」

 

天「ちゃんと見えてますよ」

 

衣舞紀さんの方向に首を向けて、口を開く。眠気が残っているのもあって、声が少しガラついている。

 

天「別に咲姫にだけ意識を向けているわけではありませんから。今日のライブの件でも色々話しておきたかったので」

 

姿勢を正しながら喋ると、途端に全員が正座をして固まり始めた。その姿が面白くて、俺はつい噴き出してしまう。

 

天「ぶふっ•••!そんなに肩を張らなくていいですよ。説教をしようってわけじゃないんですから」

 

笑いながら言葉を漏らすと、少し安心したようにホッと息を吐いたのが聞こえた。

 

天「•••とりあえずはお疲れ様でした。変なミスもなく、それぞれの課題をしっかりやってのけていた、というのが個人的な見解です。まぁ次はいくらでもあるので現状を維持するなんてダサい真似だけはしないようにお願いします」

 

乙和「••••••なーんかいつもみたいに褒めてくれない」

 

ノア「うん•••少し淡白というか、冷めてる気がする」

 

天「今日のライブは及第点程度って事ですよ。ただ課題を達成して、その次がなかったのですから。後咲姫」

 

咲姫「何••••••?」

 

少し睨みを効かせながら咲姫に目を向けると、怒られるのかと不安になった彼女が顔を曇らせた。

 

天「余裕があるのは結構だが、俺を見るな。客を見ろ。お客さんはお前やPhoton Maidenのみんなを見に来てるんだ。失礼だろ」

 

咲姫「いたっ•••ごめんなさい••••••」

 

軽く額にデコピンをくらわせてやる。咲姫は打たれたデコを手で押さえながら俺に向かって謝罪をした。

 

衣舞紀「それで、今後の私たちはどうすればいいの?」

 

真剣な目つきを俺に向ける衣舞紀さん。俺は薄らと微笑みながら、口を開いた。

 

天「自分で考えてください」

 

衣舞紀•乙和•ノア「•••えっ••••••?」

 

アドバイスを期待していたのか三人は拍子抜け、と言った表情をそれぞれ見せる。唯一咲姫だけは顔色一つ変えずにいた。

 

天「もう一年以上経つんですよ•••?流石に何もかも俺に頼ってたらこの先やっていけません。自分なりに課題を見つけて、取り組んでください。その為のリーダーですよ」

 

衣舞紀「••••••わかったわ。次のライブまでには完璧に仕上げてみせるから、楽しみに待っててちょうだい」

 

天「期待してます。••••••いつまでそんな白けた顔をしてるんですか?せっかくの遠征なんですから楽しまないと」

 

乙和「誰の所為だと思ってるんだー!」

 

天「うおぉ!?」

 

急に飛び込んできた乙和さんに、俺は為す術なく押し倒されてしまう。傍から見たらただのエロシーンだよ。

 

天「飛びついてこないでくださいよ!!ちょっ、咲姫助けて!」

 

咲姫「••••••嫌。さっきのお返し」

 

デコピンの件をまだ根に持ってたのかよこいつ。というかそれどころじゃねぇ!咲姫も便乗してきたおかげで、上には乙和さん、横には咲姫とかなりの地獄絵図ができあがっていた。誰か助けろマジで。

 

天「あーもうマジでなんなんだよ••••••」

 

休まる暇がなく、俺は盛大にため息を漏らした。ちなみにしばらく騒いだおかげで飯は冷めてしまった。ふざけやがって。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

飯も終われば後は寝るだけ。明日は海で遊ぶ予定があるのもあって、皆すぐに寝ついた。

だが唯一俺だけは眠ることができなかった。何故かって?

 

天「さっき少し寝たからな••••••」

 

もう目がギンギンに醒めてしまっている。これはしばらく起きていないと眠れる気がしない。

 

天「よっこらしょっと••••••」

 

布団から身体を引っ張り出して、部屋の外へと出る。そこからアテもなく歩き続けると、開けた場所にたどり着いた。座るところもあったので、そこで素直に休ませてもらおう。

 

天「••••••あっつ」

 

冷房なんてものはないので、身体から自然と汗が出ていた。上の部分だけ紐を解いてはだけさせる。

 

天「こんな時間からなにやってんだか」

 

一人でに勝手に笑ってしまう。客観的に見ればただのヤベー奴に他ないだろう。

 

天「しかし暑いな••••••飲み物買おう」

 

一応財布を持ってきていた事が幸いした。それに素で風呂上がりの牛乳というものを忘れていたので買おう。

番号を入力して、その番号内にある牛乳が取り出された。この仕様の自販機はどこにでもあるのだろうか?

紙製の蓋を針みたいなものでぶっ刺してこじ開ける。

 

天「んくっ、んくっ••••••」

 

汗をかいてる状態で飲む牛乳は最高に美味だった。冷えているのもあって尚美味い。

 

咲姫「ここにいた」

 

天「あ?あぁ、咲姫か。起きたのか」

 

声が聞こえて振り向けば、汗を少し流していた咲姫の姿があった。

 

咲姫「目が覚めたらいなかったから」

 

天「さっき寝たツケがまわってきたんだよ。お前も牛乳飲むか?」

 

咲姫「うん」

 

頷いたのを確認して財布を取り出そうとしたが、なんと彼女は俺の手から牛乳瓶を奪いやがった。

 

咲姫「んっ、んっ••••••美味しい」

 

天「•••それ、俺のなんだけどな」

 

咲姫「?くれるんじゃなかったの?」

 

天「あーまぁいいわ。少し話さないか?」

 

咲姫「もちろん」

 

了承を得たところで、先程の場所に座った。お互いに小さく息を吐いてから、俺は言葉を紡ぐ。

 

天「悪かったな、あんな厳しいことを言ってしまって」

 

咲姫「ううん、余裕を持ち過ぎてたのは事実だから」

 

天「そうか。でも、次からはマジでやめろよ?こっちも気が気じゃなくなってしまう」

 

咲姫「わかった。気をつける」

 

本当だろうか••••••なんかまたひょっとやらかしそうな感じがするけど一応信じておいてやるか。

 

咲姫「天くん」

 

天「どうした?」

 

咲姫「ライブのご褒美、欲しい••••••」

 

天「•••はぁ、わかったよ」

 

ちゃっかりしてんなぁ•••もう驚きもしないわ。

褒美をくれ、と言うので、俺は迷いなく咲姫の頬に手を添えて逃げられないようにする。

そしてそのまま顔を近づけていって、唇を重ねた。

 

咲姫「んっ、ちゅ••••••」

 

そこまで長くはしないスマートなキスに済ませておいた。すぐに顔を離して目を向けると、彼女の頬は紅潮していた。

 

咲姫「まだ足りない••••••」

 

天「••••••わかったよ」

 

軽いキス程度じゃ満足していただけないらしい。そのまま抱きつかれて、唇を貪られた。

 

咲姫「んっ、んんっ、ちゅ、んぅ••••••」

 

ただひたすらに身体を引き寄せられて接吻を続けているわけだが、幸せなのに変わりはない。何か違うような気がする。

 

天「(あ、これ•••牛乳の味だ)」

 

お互いに牛乳を飲んだ直後だったので、ものすごくクリーミーな味わいがやってきていたのだ。違和感これかよ。

 

天「••••••満足か?」

 

咲姫「うん、すごく幸せだった」

 

満面の笑みでそんな言葉をブチ込んでくる。逆にこっちが照れてしまって敵わない。

 

天「満足したなら戻るぞ。流石に寝ないと明日に影響する」

 

咲姫「うん。明日もキス、してくれる?」

 

天「••••••帰った時にでもな」

 

短く、それでいて小さく言葉を返して、咲姫の手を握りながら部屋へと歩を進めた。握り返してくれた咲姫の手は、心なしか温かかった。




それではまた何処かで。来週会えるといいな•••


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朝風呂とか温泉でしか入らないよ

なんとか一週間以内に書き上げることができました!そして待望の天アスリートが届いた!!九月の下旬の予定だったはずなのにメッチャ早くてビックリwでもこれで剣道のモチベが上がりに上がるから楽しみだぜい!!


その後はぐっすりと眠る事ができ、更に言うなら誰よりも早く俺は起床していた。

まだ太陽が出掛かる寸前程のタイミングだ。まだ周りは薄らと暗く、少なくとも隣で寝ている咲姫の表情は掴めなかった。

 

天「••••••暇だ」

 

話し相手もいないし、ここで携帯をイジって光で起こすのも申し訳ない。俺は渋々と部屋をこっそりと抜けた。

まだ灯りがつくような時間でもなく、携帯のライトを道しるべにして歩く。というか昨日の広いところも道なりに適当に進んで見つけたところだから今はどこにあるのか見当もつかない。無能もいいところだ。

窓に映る景色は綺麗だが、太陽がないというだけでここまで味気なさが出るのだから不思議だ。

 

天「時間あるし、朝風呂でも入るかな」

 

帰りの道は流石に覚えていたので、明かりを消して部屋に戻った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

足音や物音を立てないように、慎重に慎重を重ねて準備を整えて、俺は風呂場へと訪れた。この時間帯に温泉を使う人間などいるはずがなく、俺以外の人間は一人もいなかった。

 

天「んー•••!たまらねぇなぁ!この優越感!!」

 

広大な景色を満喫できる露天風呂を、今俺は独り占めしているのだ。これ程悦に浸れる事は中々にない。

 

天「あぁ気持ちいい••••••!一人でこんなでけぇ風呂に入るとかまずねぇからなぁ!」

 

目の前に映る風景は、いい癒しとなっていた。ただ見ているだけなのに心が浄化されるような、そんな気分になる。

そうなるのは、この景色に感動しているからなのだろうかね。

 

ガラッ。

 

天「ん?ーーなっ!?」

 

扉を開く音が聞こえ、俺と同じ朝早くから風呂に入る物好きがいるのか、と思いながら振り返れば、目の前にはバスタオルを巻いて長い白髪の髪を下ろした少女の姿が••••••咲姫じゃねぇか。

 

天「お前•••ここ男湯だぞ?」

 

そう、俺の言葉通りここは男湯だ。目の前にいるこの彼女様は性別の壁を越えてこの男専用の世界へやってきている。

 

咲姫「他に人がいなかったから」

 

天「だからって男湯に突っ込んでくるやつがあるか!?せめて女湯の方から声かけてこいよ!」

 

咲姫の後ろの扉を警戒しながら声を荒げる。だが当の彼女は顔色一つ変えずに、それどころか「何故?」と言いたげに首を傾げた。

 

咲姫「だって、天くんと一緒にお風呂に入りたかったから••••••」

 

天「いやそれ理由づけとしておかしい••••••。せめてルールは守ってくれ。お前男湯に入るにしてもお父さんに連れられる小学生の女の子じゃないだろ」

 

咲姫「天くんは私と入るのは嫌••••••?」

 

天「嫌ではないけど状況考えてくれ••••••。他の人が入ってくるかもしれないのに」

 

咲姫「その時は天くんが守ってくれる」

 

天「いや守るけど今後の世間の目は最悪だからな?」

 

これで今後のPhoton Maidenの活動に支障が出ることだけは避けたい。後何処の馬の骨とも知らんヤツに咲姫の身体を見せたくない。見た瞬間殺す。

 

天「悪い事は言わないから、さっさと服着て部屋に戻るか女湯に移動しなさい」

 

咲姫「いや」

 

天「えぇ••••••」

 

こっちに飛んできたかと思えば、膝の上に座りやがった。傍から見たらただの対面座位だよ。

 

天「••••••なぁ、流石にやめないか?」

 

こうやって言い聞かせてるが俺の身体は余裕がなくなりつつある。

咲姫の尻の柔らかさが太ももにキテいるので、ちんこが勃ちそうなのだ。

このまま勃起がバレたら流れでセックスコースになりかねない。というか最近ヤッてないから余計に興奮を誘われる。

 

天「(あーもう、ちゃんと逃げられないように腕回してるよ)」

 

逃げようにも抱きつかれているので為す術がない。完全に詰んでいるのだ。

待ってくっつかないでというかチンコ既に咲姫の身体に触れてんだよ勘弁してくれ。

 

咲姫「多分だけど、この時間に人が来る事は絶対に無いと思う」

 

天「もしもの事があるだろ••••••。後くっつきすぎ。離れてくれ」

 

咲姫の方から話しかけてきたので、返すついでに離れるよう要求した。

 

咲姫「今は天くんにくっつきたいから離れたくない」

 

天「••••••そうか」

 

俺の希望は通されなかった。このまましばらくくっついていないとダメらしい。精神衛生上よろしくない。

 

咲姫「キス」

 

天「はいはい••••••」

 

もう諦めた。これ以上言ったところで聞く耳を持たないのは今までの経験でわかっている。

このままされるがままに彼女の要望に応えて唇をくっつけた。

 

咲姫「んっ、ちゅ、ちゅう、んんっ••••••」

 

こんな誰もいない風呂場でキスしてるのだから、背徳感というかなんとも言えない感情が渦巻いていく。

だがそれは少しの口吸いで簡単に消えてしまった。我ながら情けない。

 

天「咲姫•••、そろそろ上がらないと本当に人が来てしまう••••••」

 

咲姫「やだ。せっかくの二人きりだから満足するまで一緒にいたい」

 

天「••••••海に行った時に二人の時間を作るから。頼む、まだ社会的に死にたくない」

 

咲姫「うん、わかった」

 

約束事を取り付けたら簡単に離れてくれた。そういう意味では扱いやすいのかもしれない。

俺はホッと息を吐いて、湯船から身体を起こした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

朝食をいただいてからスタッフさんに車を出してもらい、俺たちは海水浴場へ訪れた。

ジリジリと照らす太陽の暑さに、汗が少しだけ流れる。

 

天「あっつ••••••さっさとレンタル色々してこよ」

 

四人のお守りはスタッフに任せて、俺は海の家へさっさと向かって行った。

 

兄ちゃん「らっしゃい。ん?綺麗な姉ちゃんじゃん。俺と遊んでかない?」

 

天「俺男なんですけど?パラソルとレジャーシート貸してください」

 

兄ちゃん「え、あ、はい••••••」

 

困惑したままの黒く肌が焼けた細い兄ちゃんは、畳まれたデカい傘とシートを渡してくれた。

一礼してすぐに踵を返して、元の場所へと向かう。

 

天「さて••••••何処に置こうか」

 

結構な数の人がいて、とても五人が入るようなスペースを確保するのは難しい。

多少窮屈になるかもしれないが、隣のシートにほぼ近い感覚で無理矢理敷いた。許せ。

 

天「マジで暑いな今日••••••。これ以上日焼けはしたくないし塗っておくか••••••」

 

とりあえずは彼女たちが戻ってこないと着替えに行けないのだがな。欠伸を漏らしながら海を眺めているが、大半ははしゃいでいる子供たちで埋まっていた。元気なようで何よりだ。

 

乙和「おまたせ〜!」

 

乙和さんの声が聞こえて振り返ると、水着に着替えて綺麗な白い肌が露出した少女たちで溢れていた。

 

乙和「どう?似合う?」

 

天「とてもよく似合ってますよ」

 

乙和「わーい!褒められたー!」

 

完全に感想が他人行儀だったのにそれでも喜ぶのか。おめでたい思考回路で助かる事だ。

 

咲姫「私は?」

 

少しムッとした表情の咲姫が俺に詰め寄った。乙和さんを褒めている光景があまり気に入らなかったらしい。

苦笑を漏らしながら、頭に手を置いてやる。

 

天「似合ってるよ。可愛い」

 

咲姫「•••うん、ありがとう」

 

頬を薄らと赤く染めながら、照れるように笑った。惚れる。

 

天「じゃ、俺着替えてくる。好きに遊びなさい」

 

咲姫「待ってるね」

 

天「話聞いてる???」

 

遊べって言ってんのになんで待つねん。おかしいやろ()

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

水着にさっさと着替えてさっきの位置に戻ってみれば、先程の言葉通り咲姫が体育座りで大人しく待っていた。

 

天「おまたせ」

 

咲姫「あっ。やっと来た」

 

天「そこまでダラダラした記憶はねぇんだけどな••••••」

 

普通に着替えたはずなんだけどそんなに無駄な時間使ったか?いや単純にコイツがせっかちなだけだろ流石に。

 

天「三人はもう行ったのか。よかったのか?一緒に行かなくて」

 

咲姫「みんなとも遊びたいけど、今は天くんと一緒にいたいから」

 

天「•••••••••その手に持ってるものはなんだ」

 

もっともらしく言葉を吐いているところ悪いが、その黄色いパッケージのボトルはなんなのだろうか。

 

咲姫「日焼け止めだよ。塗ってくれる?」

 

天「••••••はぁ、わかったよ。終わった後俺にも塗ってくれないか?これ以上は焼けたくない」

 

咲姫「もちろんいいよ」

 

頷かれたところで、咲姫がうつ伏せに寝転がって水着の紐を解いた。うーんこの。

ナチュラルにやられたけどこっちは意識してしまうんだよ。

 

天「背中しかやらないからな?」

 

咲姫「うん」

 

冷たいドロリとした液体を手の平に落とし、それを咲姫の背中に塗り込む。うお、コイツの背中柔らか。

 

咲姫「んっ••••••」

 

天「喘ぐな」

 

冷たいから反応してしまうのはわかるがせめて声は抑えてくれ、頼む。こっちが気が気でなくなってしまう。

欲情に耐えながら彼女の背中に日焼け止めオイルを塗りたくって、余った分を自分の身体につけておいた。

 

天「はい、終わり。次頼む」

 

バタン、と寝っ転がり咲姫の行動を待つが、彼女は中々動き出さない。

疑問に思って振り返ると、既にオイルを纏った手を俺の背中ーーではなく脇に伸ばした。

 

天「ちょ!ぶはっ!ははは!!くすぐってぇ!!」

 

咲姫「天くんにはちゃんと全身に塗ってあげるから」

 

天「背中!背中だけでいいから!あはははははは!!」

 

その後••••••咲姫の言葉通り(下半身の危ない部分は除く)全身に日焼け止めを塗られた。多分今年で一番笑ったかもしれない。




ではまた来週お会い致しましょう。え?毎日投稿?そんな余裕ないです()


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海といったら焼きそばだよなぁ?

どうも、実家帰省型剣道家です。バイト受かりましたありがとうございます。とはいっても早朝に数時間働く程度のものなので大したことはないんですけど、肉体労働なので楽しみですねぇ。毎日運動できる。


日焼け止めで紫外線をガードする膜を得たところで、俺は浮き輪を借りて咲姫をその浮き輪に乗せていた。

プカプカと海を漂いつつ、俺はちょくちょく周りの目線を気にしていた。

 

天「(昨日ライブやった後だもんなぁ•••流石にバレてるか)」

 

彼女らがPhoton Maidenだとわかった上での目線をビシバシ感じる。ただその中にやはり「俺」に対する視線がすごかった。

 

天「顔出してないし当然だよな•••」

 

咲姫「?どうかした?」

 

咲姫の問いに、俺は首を横に振った。まぁマネージャーが表に出ることはまずないので知らない方がいいのだけども。

 

天「いや、何でもない。何かやりたいこととかあるか?」

 

咲姫「二人で泳ぎたい」

 

天「了解」

 

要望を聞いたところで、彼女を抱き上げて浮き輪から離脱させる。

浮き輪はそこら辺の場所に引っ掛けておいた。どうせ遠くまで行かないしいいだろう。更に言うならレンタルモノだし。

 

天「泳ぐっつったってどうするんだ?」

 

咲姫「海の中を見たい•••!」

 

珍しく顔を近づけて目を輝かせる咲姫。なんというか•••探究心に満ちてるな。

 

天「まぁ、いろんな生き物とかいるだろうし見てて楽しいのは確かだな。よっと」

 

息を吸って頭から水に潜り込む。目を開けると、目の前には青い美しい景色が広がっていた。

汚れなど何一つなく、小さな魚が泳いでいるのが見えた。

横目に咲姫が潜ったのを確認して、俺はバタ足で少しずつ身体を前へと進めていく。

腕は平泳ぎのように横に大きく広げて更に推進力を増していた。

 

咲姫「んっ、んーっ」

 

天「(何言ってんだコイツ•••)」

 

水の中で喋れる訳がなく、ただぶくぶく言っているだけだった。ガキみたいで可愛らしいが。

ただわかりやすく指を指していたので、その方向を向くと足だけだが衣舞紀さん達ということだけは理解できた。

多分そこまで泳いで行きたいのだろう。俺は頷いて顔を乙和さんの足に向けた。

 

天「(一丁前に脅かしてみるかな)」

 

少しニヤつきながら泳いでいく。少しずつ、少しずつ距離が詰まっていき、もうすぐ目の前!というところで俺は思いっきり身体を上に打ち上げた。

 

天「よいしょっとぉ!!」

 

乙和「うわあああぁぁぁ!!??」

 

ちょうど乙和さんの視界のド真ん中の位置だったらしく、彼女はびっくらこいて天を仰ぎながら海水の中に倒れた。

 

天「あ」

 

ノア「乙和!大丈夫!?」

 

乙和「鼻に水入った〜••••••」

 

あー•••痛いヤツだ。申し訳ない。鼻を摘んで痛みに耐えながら乙和さんは怒った様子で俺を睨みつけた。

 

乙和「急に何するのさ!」

 

天「軽ーくビックリさせようとしたら思いの外反応が良かったもので」

 

衣舞紀「天一人?咲姫は?」

 

天「あれ?俺と一緒に泳いできたはずですが••••••」

 

みんなでキョロキョロと探していたところに、衣舞紀さん以外の三人は察したように口を開いた。

 

ポン。

 

衣舞紀「わああぁぁ!?」

 

咲姫「衣舞紀さん、捕まえた」

 

衣舞紀さんの肩に手を置いた咲姫が、無邪気に笑った。

 

天「随分と遅れたな」

 

咲姫「乙和さんが驚いていたから収まるまで待ってた」

 

天「あぁ•••そゆこと••••••」

 

機会を窺ってたのか•••月みたいなことするな••••••。いや待て絶対アイツが唆しただろ。なんかそんな気がする。

 

天「お腹空きました。飯食べに行きません?」

 

乙和「私もお腹空いた〜!行きたい行きたい!」

 

ノア「でもここの近くにご飯を食べられるところって••••••」

 

衣舞紀「ほら、あそこの海の家。多分そこで食べられると思うわ」

 

天「行きますかねぇ•••はぁ、腹減った」

 

お腹をさすりながら、波を立てながら足を進める。

 

咲姫「天くん」

 

天「ん?」

 

咲姫に呼び止められて、俺は振り返る。彼女は砂浜とは反対方向を指差していた。

 

咲姫「浮き輪••••••」

 

天「あ」

 

完全に忘れていた。ため息を吐きながら泣く泣く回収へと向かったのだった••••••。

時間がもったいないゾ••••••。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

キチンと浮き輪を回収して、海の家へと訪れると意外と中は空いていて、人は少なかった。

 

兄ちゃん「らっしゃい!」

 

あ、さっきの俺をナンパしてきた兄ちゃんだ。忙しそうで何より何より。

 

兄ちゃん「あ!さっきの女っぽい兄ちゃん!この人たち全員カノジョ?」

 

天「違いますよ」

 

げんなりした顔で返す。俺の態度が応えたのか、兄ちゃんはすぐに黙り込んだ。

 

兄ちゃん「そ、それで、何にしやす?」

 

天「俺は焼きそばドカ盛りで」

 

咲姫「私も焼きそばドカm」

 

天「自分の胃袋に合わせなさい」

 

咲姫「••••••普通でお願いします」

 

いつも通りと言うべきなのか、わざわざ俺に合わせに来たので食い気味に言葉で殴っておいた。すぐに訂正したので少しホッとする。

とは言っても焼きそばやお好み焼き、カレーなど腹を満たせるものが限られてるのが痛いところだ。後はかき氷くらい。他になんかないのかよ。

 

兄ちゃん「焼きそば五つ、一つドカ盛りあざっす!」

 

注文を受けた兄ちゃんはすぐに厨房へと入っていく。それを確認してから、俺はテーブルに身体を突っ伏した。

 

天「あの人マジなんなんだよ••••••」

 

月とはまた違うウザ絡みだ。精神的に参ってしまう。

 

乙和「天くん結構好かれるもんね〜」

 

天「男に好かれても嬉しくないですよ」

 

乙和「あ、女の子ならいいんだ〜?」

 

天「••••••その人に寄ります」

 

なんかこれ以上言うと墓穴を掘りそうな気がしたので適当に流した。

乙和さんも乙和さんでウザ絡みの頻度が増えたような気がする。

 

天「というかノアさんちゃんと乙和さんの躾してくださいよ。貴方保護者でしょう?」

 

ノア「私そんな役割じゃないよ!?」

 

乙和「というかなんで私がノアのペットみたいになってるのさ!?」

 

衣舞紀「そういうところじゃないかな••••••」

 

相変わらず息ピッタリなことで。俺と衣舞紀さんはクスリと笑う。

 

「ねぇ、アレってPhoton Maidenじゃない••••••?」

 

ギクッ!

 

「うん、絶対そう。ライブの次の日だしいてもおかしくないよね」

 

ギクギクッ!!

 

「え、じゃああの男の人誰?顔は女の子っぽいけど••••••もしかしてメンバーの誰かの彼氏!?」

 

ギクギクギクッ!!!

 

衣舞紀「そ、天、大丈夫?汗すごいよ?」

 

天「•••••••••ご飯食べたらすぐに帰りますよ」

 

乙和「え〜どうして〜?」

 

天「俺たちのこと、バレてます••••••」

 

ヒソヒソと小さい声で乙和さんに言い聞かせると、わかりやすいくらいに顔が歪んだ。

 

乙和「ウソおぉ!?」

 

天「マジですよ••••••。できるだけ早く食べてズラかりましょう」

 

ノア「言い方がただの泥棒••••••」

 

うっさいわ。

 

焼きそばが到着したところで、俺たちはすぐに箸を伸ばした。俺だけは他と比べて三倍くらいの量があるので一気に口内に詰め込んでいく。

 

咲姫「天くん、そんなに一気に入れると喉に詰まるよ?」

 

天「大丈夫だいじyむぐっ•••!」

 

言ったそばから喉に詰めた。酸素を取り入れられなくなり、胸が苦しくなっていく。

ドンドンと胸を叩いてなんとか流し込もうとするが、中々上手くいかず苦しさが増していった。

 

咲姫「はい、天くんお水!」

 

天「んぐっ!んぐっ!ぷはぁ!あ゛ー死ぬかと思った!」

 

衣舞紀「急ぎすぎよ。詰まる程入れなくていいんだから」

 

天「はい•••すいません。助かった、咲姫」

 

咲姫「お礼に後でキスしてね?」

 

天「••••••わかったよ」

 

周りに聞こえないように耳元で囁かれて、少し背徳感を感じてしまう。身体によろしくない。

 

天「とりあえずはさっさと食べ終えるか••••••」

 

明日はもしかしたらネット内で話題になるかもなぁ。事務所と一緒に対策を練らねば。まぁ俺がマネージャーであることは事実だし、変に言及されても正直に答えればいいことだ。

世の中って楽勝!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

昼飯を食べ終えて、そそくさと海から退散した。ある程度は遊べたからいいよな•••?

帰りの新幹線で外の景色をゆったりと眺めていたら、膝に置いている手に咲姫の手が重ねられた。

 

天「どうした?」

 

咲姫「これ、見て」

 

咲姫が手に持つスマホの画面を見てみると、見事に海の家で焼きそばを食っている俺らが撮影されていた。

『福岡の海にPhoton Maiden出現!』とデカデカと表示されている。流石インターネット。出回るのが早い。

 

咲姫「天くんの事についてかなり言われてる」

 

天「そりゃ俺はあまり表に顔出さないからな••••••」

 

一般人から見たら誰だコイツ状態だろう。多分大衆はPhoton Maidenのマネージャーは女性と思ってるだろうし俺がそのマネージャーとは微塵も思わないだろう。

じゃあ俺はどういう立ち位置になるの?ナンパでもした悪い男?それとも友人?

 

咲姫「私は天くんの事もちゃんと知ってもらいたい」

 

天「俺が知られてどうするんだよ••••••喜ぶヤツ一人もいないと思うんだが」

 

咲姫「私が嬉しい」

 

当たり前のように言葉を紡ぐ咲姫に、今回ばかりは目を見開いて驚いてしまう。

ちなみに衣舞紀さん達は遊び疲れてぐっすりと眠っていた。

 

天「••••••変な事言ってないで寝なさい。疲れただろ」

 

咲姫「天くんこそ寝ないの?」

 

天「俺まで寝て駅寝過ごした、なんてオチはゴメンだからな。しっかり起きておくつもりだ」

 

咲姫「うん、頼りにしてるからね」

 

天「存分に頼られてくれ、これくらいしかできないからな」

 

そっと彼女の頭を撫でてやると、咲姫は俺の肩に頭を置いて、少しずつ寝息を立て始めた。

 

天「まだまだ子供だな」

 

あんな大舞台でたくさんの人の目に晒されながら踊って歌うのに、疲れ果てて寝てしまうところはまだまだガキだった。

 

天「•••まぁ、これからだしもっと頑張ってもらいたいが••••••今はゆっくり休みなさい」

 

既に眠っているであろう彼女に言い聞かせながら、俺はもう一度窓から景色を眺めた。

頭を撫でる手だけは止まらず、静かに優しく動き続けていた。




それではまた来週〜。花巻弟とヤる小説も投稿するのでそちらは見なくていいです。過去最高のクソっぷりですので。


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暑過ぎいぃ!

皆さん一週間ぶりですね。ぶっちゃけ投稿できそうにありませんでしたが急ピッチで仕上げました。


八月も後半に差し掛かり、真夏日はまだまだ続いていた。リビングで月と二人きりになりながら、時折聞こえてくるテレビの音を聞き流していた。

 

月「あっつーーいぃ!!今日暑過ぎない!?」

 

天「エアコン入れるか?」

 

月「いれてー!というか何でお兄ちゃんはそんな平気そうなの!?」

 

天「鍛え方が違う」

 

そもそも少し前に九州に行ってガンガンに太陽を浴びてきたばかりだ。この程度の暑さでへばっていては神山家では生きていけない。

エアコンのリモコンを手に取って冷房を起動する。

しばらくして冷たい風が徐々に身体を蝕んでいくのがわかった。

 

月「あーそういえば今日お父さんとお母さん帰ってくるらしいよ」

 

天「ふーん、珍しいな。お盆の時は帰ってこなかった癖に」

 

月「言い方悪いよ。二人とも忙しいんだから仕方ないよ」

 

まぁそうだけどそれでもお盆に帰ってこないと言うのは流石にどうかと思う。

 

天「ぶっちゃけ二人が帰ってこようがこまいがどうでもいいんだけど」

 

月「この兄は••••••」

 

大きな欠伸をしながら、グチグチ文句を言いながらもノートに色々書いている月を眺める。

 

天「んで、ぶっちゃけ受験の方はどうなんだ?」

 

月「うーん•••一応期末はしっかりオール九十点以上取ったから多分大丈夫とは思うけど••••••」

 

天「まだ不安要素が残るなら気が済むまでやりなさい。まだまだ時間はあるから」

 

月「はーい。なんか今日は優しいね」

 

天「•••••••••」

 

月「お?照れてるな?」

 

天「照れてねぇよボケ」

 

今更こいつ相手に照れる必要が何処にあるって言うんだ。舌打ち混じりに視線を逸らすが、妹のニヤニヤは止まらない。

 

月「えぇー?言い訳するんでちゅか〜?本当は嬉しいんでちゅよね〜?」

 

天「黙ってろマジで」

 

月「おぉ怖っ」

 

こめかみに青筋を立てながら睨みつけると流石に黙った。テレビを不機嫌そうに眺めながら舌打ちをする。

 

月「最近舌打ち癖になってない?みんなの前でしちゃダメだよ?」

 

天「わかってる。そこは気をつけるつもりだ」

 

月「私は?」

 

天「知るか」

 

月「クソがよ」

 

お前も大して変わらねぇじゃねぇか。お互いに悪態を吐くのはお馴染みなご様子で。

 

月「お父さんたちが帰ってきたら何しようかな?」

 

天「母さんは知らんが•••少なくとも父さんは酒飲んで寝てそうだな••••••」

 

月「うん••••••そうだね」

 

ある程度察しがついていた妹は、苦笑混じりに頷いた。

 

ピンポーン!!

 

天「あ?」

 

月「あれ?」

 

五月蝿い蝉の鳴き声すらも貫通するインターホンの爆音に、俺と月は顔を見合わせる。

そもそも父親母親だったらわざわざ押さずに勝手に鍵を開けて入るのがよくわかっていたからだ。

 

天「お前なんか頼んだ?」

 

月「特に何も」

 

首を傾げながら玄関に向かい、扉を開ける。

 

美夢「こんにちは」

 

天「••••••美夢に、リリリリのみんな」

 

これまた意外なお客様に、俺は彼女たちの顔を二、三度見返した。

 

天「えっ、何の用?」

 

春奈「月さんが受験勉強を頑張っていると聞いて飛んできましたわ」

 

天「ぜってぇ建前だろ。本音言え本音」

 

胡桃「遊びに来たよ〜」

 

コイツら••••••。四人が家にいる間に父さんと母さんが帰ってきたらどうしようか。母さんはいいとして父さんは絶対にダル絡みしてくるに決まっている。

 

月「誰来たのー?あっ!胡桃ちゃんにみいこちゃん!」

 

みいこ「お久しぶりなの!」

 

俺の横を抜けていった月が、すぐさま胡桃とみいこに絡んでいった。お互いにキャッキャと子供らしく騒いでいるサマはなんだか面白かった。

 

天「まぁ、とりあえず入りなさい」

 

美夢「うん、お邪魔します」

 

四人を中に入れてお茶を用意するが、まだ月胡桃みいこの三人組は騒いで遊びまわっていた。元気過ぎない?

 

天「疲れねぇのかあいつら••••••」

 

美夢「二人とも月ちゃんに会えて嬉しいからね」

 

天「それもそうだな••••••あいつも受験勉強で疲れてるだろうし、いい気分転換になってくれるだろ」

 

春奈「そういう天さんは来年受験ですが、大丈夫なのでしょうか?」

 

天「••••••まだ来年だから」

 

春奈「ちゃんと勉強はしてください」

 

天「はい•••すんません••••••」

 

優秀で厳格なお嬢様からしたら現状の俺はあまりよろしくないらしい。ごめんて、仕事が忙しいんや。

 

月「お兄ちゃんもあそぼーよ!」

 

天「こっち仕事終わりだぞ。そんな元気ねぇよ」

 

胡桃「じゃあこっちから行っちゃうもんね〜!」

 

天「えぇ••••••」

 

呆れるのも束の間、白髪クソガキこと胡桃からタックルをいただく。痛みなどない軽い衝撃が走った。

 

天「ったく、よっと」

 

面倒になってきたので、彼女の足に手を回して抱き上げた。少し吃驚した様子だったが、すぐにいつもの好奇心旺盛な明るい笑顔になる。

 

胡桃「見て見て春奈ちゃん!高いよ!」

 

春奈「それは見ればわかりますわ」

 

美夢「やっぱり力持ちだね」

 

天「まぁ、月を抱える時もあるし慣れてるからな」

 

月「私お兄ちゃんに抱っこされた記憶ほとんどないんですけどー?」

 

天「寝落ちしたお前を誰が運んでると思ってんだ••••••」

 

少なくとも今年に入ってからは勉強を詰め過ぎて途中で寝てしまっているなんてザラだ。その度に抱き上げてベッドまで運んでいるこっちの身にもなって欲しい。

 

みいこ「みいこも!みいこも抱っこして欲しいの!」

 

天「はいはい•••どっこいせっと」

 

もう片方の腕をみいこに移して、一気に力を入れて抱き上げる。

 

みいこ「すっごく高いの!」

 

天「お気に召したようで何より何より」

 

美夢「私も後でしてもらおうかな••••••」

 

春奈「なっ!?あ、危ないですよ!」

 

なんか不穏な言葉が聞こえた気がするけど聞かなかった事にしておこう••••••。

 

月「咲姫さんいるのにこんな事してていいのかな•••お父さんに見られたらマズそうだよ?」

 

天「大丈夫だろ。咲姫はともかくとして父さんが帰ってくるにはまだ時間がーー」

 

猛「よぉ。随分とお楽しみみたいだな」

 

柚木「咲姫ちゃんに知らせてほいた方がいいかしら?」

 

天「••••••••••••どちら様ですか?」

 

月「お前の父親と母親だよ!!」

 

父さん、母さん•••タイミング最悪過ぎるよ••••••。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

猛「へぇ、遊んでただけねぇ•••なんかこれからヤるような流れに見えたのは気の所為か?」

 

天「何処をどう見たらそう見えるんだよ••••••」

 

明らかに俺をバカにしているような笑みを浮かべながら、父さんは尋問を始めた。なんなんだよコイツマジで。

 

月「ただ遊んでただけなんだけどなぁ••••••」

 

猛「まぁそれはどうでもいいとして」

 

いやどうでもいいのかよ。じゃあなんで訊いたし。殺そうかなこのクソオヤジ。

 

柚木「どうしてこう揃いも揃って良家のお嬢様がいるのかしら?」

 

天「友達です」

 

柚木「え?(威圧)」

 

天「友達です」

 

圧を込められながら再度訊き返されたので、少し語気を強めにして反抗する。

 

柚木「••••••どうやって知り合ったのよ」

 

天「••••••忘れたわ」

 

月「もう一年以上前だしね〜」

 

猛「なんというか•••お前らしいな」

 

うっさいわ。

 

柚木「とりあえず、どうしてここにいるのよ」

 

天「月の勉強を見に来てくれたんだよ。有栖川志望だから」

 

柚木「これまたお金のかかるところに••••••」

 

なんでこの母親金の心配してるんだろうか。普通に考えてウチの経済状況なら朝飯前のはずだが。

 

天「別に何処に行くかは月の自由だろ?好きにさせてやれ」

 

猛「お前が兄らしい事言うとなんか気持ち悪いな!」

 

天「黙れぶっ殺すぞ」

 

ここに穢れを知らない美夢がいようがお構いなしに、俺は父親に毒を吐き捨てた。




明日ようやく大阪に帰れる•••やらないといけない事一杯あるから頑張らないと。ではまた来週〜。


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密着取材前編

皆様お久しぶりです。如水です。長らくお待たせしてしまい申し訳ありませんでした•••。リアルの方が忙しかった•••というより色々な事をやっていて小説にまで手が回っていませんでした。本当にすみません。


天「••••••俺をホームページに掲載する?」

 

紗乃「あぁ」

 

仕事中、突然とやってきた姫神プロデューサーにそんな発言を投げつけられる。

 

天「どういう風の吹き回しですか?」

 

紗乃「いや、最近神山の話題がチラホラと流れてきてな。いっそのこと事務所のホームページにマネージャーとして堂々と載せようと思ったんだ。ちなみに彼女たちは喜んでいたぞ」

 

天「なんでこういう時は守ってくれねぇんだよ••••••」

 

紗乃「そもそもお前が彼女たちを守る立場なのだが」

 

ごもっともです本当にすみませんでした。ぐうの音も出ないほどの正論を前に、俺はあまりにも無力だった。

流石この事務所全体をまとめ上げるバケモノなだけある。弱点がない。

 

天「••••••具体的にどうするんですか」

 

紗乃「簡単な話だ。キミの私生活を写真に収めてもらう」

 

天「•••••••••」

 

前言撤回。やっぱバカだこの人。いやバカ以前にもう頭がおかしいよ。

 

天「嫌ですけど!?なんでわざわざ自分のプライベート晒さないといけないんですか!?」

 

紗乃「出雲が言うには至って普通らしいがダメなのか?」

 

天「•••••••••確かに見られて恥ずかしいような生活はしてませんけど」

 

それでもなんというか、人として大切なものを失ってしまいそうなのだ。そういった危機感が俺の心を蝕んでいく。

 

•••••そういうわけで今日一日を俺は写真に撮られまくることになった。泣いていいですか?人権なくなる。

 

乙和「というわけで!今日は一日密着させてもらうよー!」

 

そして撮影係はPhoton Maidenの四人だった。俺の事をよく知ってるから確かに適任か。

 

天「変な姿は取らないでくださいよ?あくまで宣伝というか紹介なんですから」

 

乙和「わかってるよー。まだお仕事残ってるんだっけ?」

 

乙和さんからの問いかけに、俺は小さく頷く。

すぐに四人から目を離して、万年筆を握った。

 

乙和「いいね〜キマッてるね〜」

 

ノア「ちょっと乙和!私にも天くんを撮らせてよ!」

 

衣舞紀「誰でも変わらないと思うけど••••••」

 

衣舞紀さんが宥めようとしている中で、乙和さんとノアさんは相変わらず言葉の投げつけ合いを行っていた。よく飽きないよな本当に。

 

乙和「さて天くん!今日のご予定は!?」

 

天「••••••仕事片付けたら買い物をしてさっさと家に帰りますけど」

 

乙和「とりあえず一日密着だから家までついていくね!」

 

天「•••••••••えぇ(困惑)」

 

目の前のライトグリーンの髪をした少女は、さも当たり前と言いたげに我が家に転がり込むという発言をしたのだ。

そもそも私生活を取るところがおかしいんだよ。仕事となんも関係ねぇじゃん。

 

乙和「咲姫ちゃんも天くんの事をたくさんの人に知って欲しいよねー?」

 

咲姫「はい。天くんはとても素敵な人だから、きっと色んな人に好きになってもらえると思う」

 

天「咲姫まで乗らないでくれよ••••••」

 

唯一の味方と思っていた咲姫ですらあっちサイドだ。完全に王手を掛けられてしまって逃げ場がどんどんなくなっていってる。

 

天「衣舞紀さん助けてください」

 

衣舞紀「うーん••••••助けたいけど、事務所が決めた事でしょ?私一人じゃどうにも••••••」

 

天「クソがよ!」

 

万年筆を走らせながら、俺は悲痛の叫びを上げる。防音が効いてるだけあって、低音が木霊した。

 

乙和「いつ終わるのー?」

 

天「後少しですけど早く帰ってくれません?」

 

さっきからシャッターの音がクソ五月蠅くて作業に集中できない。乙和さんからしたらそんなことは関係ないのか、どんどん人差し指を動かして俺の姿を収めていた。

 

ノア「結構撮ったんじゃない?そろそろ出ていかないと天くん怒りそうだよ」

 

乙和「•••流石に怒られるのは勘弁したいかな」

 

空気を読んだノアさんがカメラ女を嗜めて仕事部屋を出て行った。

俺は安堵からか、大きなため息を吐いて椅子の背に体重を預けた。

 

天「はぁー•••なんでこう面倒事が多いんだ」

 

前の職場ではこんな事は全くなかったのに、この事務所に所属してからやる事が途端に増えた気がする。

そもそも周りが俺とほとんど歳の変わらない少女たちだ。そりゃまだ子供らしい行動が出てきてもおかしくないだろうが、だからと言って他者に迷惑を掛けてしまうのでは、という判断くらいはして欲しいものだ。

 

天「まぁ、基本問題は乙和さんしか持ってこないけどな••••••」

 

よくよく考えなくても、大抵の事件は乙和さんが引き金になっている。最早厄神だろあの人。

 

ーーと、あれこれ考えていたらいつの間にかやる事は終わっていた。パソコンを閉じてバッグにしまってから、俺は立ち上がる。

 

天「そういや、買うものどうしよ•••」

 

月からは特にあれを買えこれを買え、とは言われてないし更に言うなら今日作るものも決まっていないので余計に買うものに悩んだ。

いや、何も言われてないと言うことは自分の好きなものを買っていけばいいではないか。

俺の目はキラン、と輝いた。これは今すぐショッピングに出かけなければ損というやつだ。

鞄を背負って即座に部屋を飛び出した俺は、急いで階段を駆け降りた。

 

乙和「あっ!天くんおつかれーー」

 

天「今日は祭りだああぁぁ!!」

 

声を掛けてくれた乙和さんをガン無視して、俺は颯爽と走り抜けていった。

 

乙和「•••••••••えっと?」

 

咲姫「急いでた•••けど、なんだか嬉しそう?」

 

衣舞紀「とりあえず追いかけようか。何かありそうだし」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

近場のスーパーにやってきた俺は。カートを転がしながら精肉コーナーに訪れていた。やはり肉。肉しか勝たん!

これでもかと並ぶ赤身達に俺は目を輝かせて、好きなだけ籠に詰めていく。

 

ノア「なんか大量のお肉買ってるけど今日のご飯はシュラスコにするのかな?」

 

乙和「しゅ、しゅら•••何?」

 

咲姫「シュラスコは串にお肉を刺して焼くブラジルの料理です」

 

首を傾げる乙和さんにすかさず咲姫がフォローを入れる。一応気づいてはいるけど•••その尾行スタイルやめない?周りから変な目で見られてるぞ。

 

天「(通報する人が出ないといいが••••••)」

 

何せやってることが後ろからの盗撮行為だ。周りからはストーカーの類と見られてもおかしくはないだろう。

いやまず最近の世知辛い世の中じゃ通報すらめんどくさがってやらなさそうだけど()

 

一通り買い物を終えた俺はレジで会計を済ませて、袋にそれらを詰め込んだ。

スーパーを後にしたところで、俺はため息を吐いて振り返る。

 

天「いつまで後ろでコソコソしてるんですか。もうすぐ家に着きますし、ご近所さんの目があるのでそろそろ勘弁して欲しいんですけど」

 

曲がり角に隠れてるであろう四人に呆れながら言葉を投げると、静かに四人が姿を現した。

 

天「どうせこの後飯食うんですから、さっさと帰りますよ」

 

咲姫「うんっ」

 

咲姫はすぐに俺の隣に駆け寄ってくる。それに続いて乙和さん達も向かってきた。

 

乙和「ねぇねぇ、お昼って、その•••しゅらすこ?って言うのをするんだよね?」

 

天「まぁ、そうですね••••••え、もしかしてシュラスコ知らないんですか?」

 

乙和「そそそそんなわけないじゃん!?」

 

天「••••••••••••」

 

これ絶対知らないヤツだな、と俺はため息を吐く。どうせノアさんに教えてもらってたんだろうなぁ。まぁその現場聞いてたんだけども。

 

咲姫「少し寒くなってきたね」

 

天「••••••あぁ、そうだな」

 

もう九月も中盤に差し掛かり、少しずつ寒さを感じるようになってきた。それでも日によっては直射日光ビンビンの暑い時もあるが。

 

天「しばらくしたらもっと寒くなるし、防寒着とかの準備をしておかないとな。••••••咲姫はそこまで心配しなくていいな」

 

咲姫「私は慣れてるから」

 

天「へーへー頼もしいことで」

 

適当にあしらいながらようやく見え始めた我が家を見て、俺たちは小さく微笑んだ。




多分投稿頻度は空くと思いますので、気長に待っていただけると幸いです。


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密着取材後編

またまた多少ながら期間が空いてしまい申し訳ない!!今回は前回と違って一ヶ月も間を開ける事なく投稿できました。何とか時間絞り出して書いたおかげですな。


月「おかえりー•••って今日は珍しく勢揃いだね」

 

玄関のドアを開けると、すぐに月が出迎えにやってきてくれた。

しかしその瞬間に笑顔が一気に増した。何せPhoton Maidenの全員が集まっているのだから。久しく全員が一緒になる事がなかったので、彼女にとってはかなり嬉しいのだろう。

 

天「飯買ってきたぞ」

 

月「特に何も言ってなかったけど何買ってきたの?」

 

天「肉」

 

月「え?」

 

天「肉」

 

月「•••••••••それだけ?」

 

天「うん」

 

月「••••••••••••••••••」

 

めっきり月は黙り込んでしまい、目を見開いたまま俺の顔をじーっと見ていた。

 

天「俺の顔になんかついてるか?」

 

月「ついてないけどさぁ•••せめて野菜くらいは買ってこようよ。栄養偏っちゃうじゃん」

 

天「夜食えば良いじゃん」

 

月「そういう問題じゃないんだけど!?」

 

真顔で発した俺の言葉に対して、月は叫ぶようにツッコミを投げつけてきた。

耳を塞ぎながら妹に目を向けると、大きくため息を吐いて俺の手から袋を乱雑に取り上げた。

 

月「何作れば良いの?」

 

乙和「フラスコ!」

 

ノア「シュラスコ。言えないなら言わなくていいのに」

 

天「乙和さんはおしゃべりクソ女だから無理ですよ」

 

乙和「酷い!今までで一番シンプルで一番酷い罵倒をされた!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

リビングにドカドカと上がり込んでいく。俺はソファに座り込んでテレビを眺めていた。

休日の昼下がりはバラエティーもなんだかんだ流れていたので適当にソレを点けている。

隣には咲姫が座っていて、俺の肩に頭を置いている。放っておいたら寝てしまいそうだが起こせばいいしそっとしておいた。

 

天「最近芸能人の不倫とか増えてんな。大丈夫か芸能界」

 

ノア「私たちも一応芸能人の仲間なんだし、気をつけないとね。問題起こすって面では乙和が一番危ないけど」

 

乙和「私はそんなことしないもん!それに現状だったら天くんと咲姫ちゃんの方が危ないと思うよ?」

 

天「•••••••••」

 

咲姫「•••••••••」

 

核心を突かれて、俺と咲姫は黙り込んでしまう。

まぁ、確かに付き合っている事を正式に発表しているわけでもなければ、周りに見せつけるつもりもない。

 

天「そもそも俺と咲姫はお互いの同意の上で交際してるんですから、不倫とは一切関係ないと思うんですが」

 

月「いやお兄ちゃんならやりかねない」

 

天「殺すぞクソガキ」

 

月「そろそろ暴言から離れろよガキが」

 

衣舞紀「どっちもどっちね••••••」

 

俺と月の睨み合いから発せられる暴言を前に、衣舞紀さんは苦笑しながら言葉を漏らしていた。

ちなみに昼飯を作っているのは月とノアさんと衣舞紀さんだ。

残りの俺ら三人は呑気にテレビを眺めている。

なんか知らん間に乙和さんが隣にいたけど。

 

咲姫「天くん、浮気したりしないよね?」

 

天「しねぇよ何当たり前のこと言ってんだ」

 

月「咲姫さん、騙されたらダメですよ。この人平気で裏切ってきますから」

 

天「これまでの人生で裏切ったのお前しかいないけど」

 

月「は?うせやろ?」

 

天「マジマジ」

 

月「私の事なんだと思ってんの?」

 

天「家政婦」

 

月「殴っていいかな?」

 

笑顔で包丁を握りしめる月が目の前にあった。これ以上煽ると包丁をぶん投げてきそうで怖いからやめておこう。

 

衣舞紀「私たちはさっきから何を見せられているの••••••?」

 

ノア「可愛い痴話喧嘩かな?」

 

当の俺らは喧嘩してるつもりは一切ないのだが、変に否定する気も起きなかったので、黙っておいた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

鉄製の串に貫通された肉たちが、テーブルに並ぶ。かなりの量を買ってきたのもあってほぼ全域を肉で覆っていた。見事に茶色だ。

 

全員「いただきます!」

 

六人の声が重なり、偏った昼食が始まる。皆一斉に肉目掛けて手を伸ばして、串ごと口の中へと運んでいく。

 

天「ん、美味いな」

 

月「でしょ?味付けとか結構拘ったんだから!」

 

乙和「おいしー!これ幾らでも食べれちゃいそう!」

 

衣舞紀「野菜•••本当にないのね••••••」

 

周りが歓喜に包まれる中、唯一衣舞紀さんだけは緑の存在が消えていたことに落胆を覚えていた。俺たちはそんな事お構いなしに、どんどん肉に手をつけていく。

 

天「•••食ってる姿まで撮るんですか」

 

ノア「当然!その為に家までついてきたんだから!」

 

呑気に肉を口に入れていた所をノアさんに撮影されてしまう。変な顔をしていないといいのだが。

 

天「咲姫、レバーもちゃんと食べなさい」

 

咲姫「••••••レバーは苦手」

 

天「ダメだ。ほら口開けろ」

 

レバーの刺さった串を手に取って、咲姫に近づける。彼女は少し嫌そうに首を横に振った。

 

天「好き嫌いはダメだぞ」

 

咲姫「•••食べない••••••」

 

天「強情だな•••」

 

はぁ、とため息を吐いて仕方なく俺がレバーを口にする。

咲姫は俺から視線を逸らして自分の肉を食べようとしたところでーー、

 

天「隙ありっ」

 

咲姫「んんっ!?」

 

予め串から抜いておいたレバーを口の中に入れ込んだ。突然の事で吐き出すこともできず、咲姫は大人しくレバーの食感に踏み込んだ。

 

咲姫「••••••意地悪」

 

天「逃げるからだ」

 

月「エゲツないねぇ•••もぐもぐ••••••」

 

ジト目で咲姫に睨まれている中、月は他人事のように口を動かしていた。

 

天「そういえばお前、受験勉強の方どうだ?」

 

月「うーん、普通?今のところ変に躓いてるわけでもないし」

 

天「ならよかった。まぁ月の成績だったら余裕で受かるだろうよ」

 

月「へーいへい、ありがたやありがたや。そういうお兄ちゃんこそ来年に向けて今から勉強してほしいものだよ。咲姫さんはちゃんと成績残してるらしいけど?」

 

天「•••••••••うっせぇな。仕事で忙しいんだよ」

 

月「仕事を言い訳にしない。ここにいるみんなが仕事してるようなものなんだから」

 

ぐうの音も出ない正論に、俺はだんまりを決め込んでしまう。

 

天「わかってるよ。普通車の免許も取らないといけないし、今のうちに勉強はしておく」

 

月「ん、それでこそ私のお兄ちゃんだよ。少なくとも、咲姫さんには釣り合う男になってよね」

 

咲姫「大丈夫。今でも天くんの事は大好きだから」

 

こちら側にくっつきながら、咲姫は微笑んでそう言葉を発する。

無性に恥ずかしくなって、俺は顔を逸らしてしまう。

 

月「あ、そういえば!写真撮ってるならみんなの集合写真とか撮りませんか?見たところお兄ちゃんメインっぽいし、お兄ちゃん真ん中で!」

 

衣舞紀「いいわね!みんなで撮りましょうか!」

 

ノア「ほら、天くんこっち!」

 

天「引っ張らないでくださいよ••••••」

 

無理矢理手を引かれて並ばせられる。屈むような体勢となり、俺は中心へと誘われた。

 

月「もっと寄ってくださいよー。写すの顔だけなんですから」

 

咲姫「こう?」

 

月「そんな感じでーす!」

 

くっつきそう、というよりほぼくっついているのだが、隣に咲姫の顔が迫ってきた。

 

乙和「私も隣もらうね〜!」

 

乙和さんもグイグイとやってきて密着し始めた。

せ、狭い•••窮屈だ••••••。

そして衣舞紀さんとノアさんは俺の斜め上辺りに頭を置いた。これくらいの距離感が一番ちょうどいいよ。

 

月「撮りますねー•••お兄ちゃんもっと笑ってよ」

 

天「別に笑う必要もないだろ」

 

咲姫「ダメ。せっかく一緒に写真を撮るんだから」

 

衣舞紀「そうよ。多分この写真、絶対に載るから笑っておいた方がいいわよ」

 

天「•••••••••へいへいわかりましたよ」

 

衣舞紀さんに言いくるめられて、俺は渋々承諾した。とは言ってもそんないきなり笑顔を作れと言われても無理な話なのだがな。

 

月「早よ笑えよ」

 

天「うるせぇ。急に笑えるかよ」

 

乙和「えいっ」

 

仏頂面で月に文句を吐いていたら、隣に控えていた乙和さんが突然俺に抱きついてきた。顔もさっきより密着する。

 

天「急にどうしたんですか」

 

乙和「どうせ写真撮るなら仲良しアピールもしておきたいなーと思って!」

 

咲姫「乙和さん、ズルい••••••」

 

そう言って咲姫もくっついてきた。あ、暑い•••。でもなんか柔らかい感触のおかげでなんとか我慢できている。

 

ノア「相変わらずね•••まぁでも、アピールをするっていう面は賛成かな」

 

衣舞紀「そうね、イメージアップにも繋がるし」

 

ノアさんと衣舞紀さんも便乗という形で身体が触れた。あまりにも強引で、俺になんの権力もなくねじ伏せられてしまう。

情けないばかりだが、同時に嬉しくもあった。ここまで心を許してくれているんだ。

 

月「撮るよー。はい、チーズ!」

 

シャッター音と共に、俺たち五人が揃った姿が小さな長方形に収まった。

撮りたてホヤホヤのソレを見て、俺は小さく苦笑する。

 

天「••••••だっせぇ」

 

そこに映っていたのは、自然とは全く真逆のぎこちない笑顔。だが、本心で笑っていたということだけは間違いない。

 

月「これもちゃんとした思い出だよ。残していかないとね」

 

天「•••••••••そうだな」

 

自分の姿こそ気に入らないが、他の四人はとても輝いていた。

そっと横目に彼女たちを眺めながら、薄らと口角を上げる。

 

天「思い出だな」

 

今日、また一つ忘れられない大切な記憶が刻まれた。




10月22日の布団単独に参加される方は共に楽しみましょう!昼VIPで会おう!


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自宅勤務楽ちん

お久しぶりです•••今日ようやく学校の発表が終わり、落ち着いたので投稿しました。お待たせして申し訳ないです•••。バイトとか色々忙しいのでまた投稿頻度は落ちたままとは思いますが、何卒よろしくお願いします。


今日は久しぶりのオフ••••••なのはPhoton Maidenの面々だけで、俺は俺でいつも通り仕事だった。まだ出社しないだけマシな方と捉えるべきかもしれない。

 

月「ふーん、珍しいね。基本みんなが休みの時もお兄ちゃん休みだったし」

 

天「だよな、俺も少し驚いている。一々歩かなくていいだけ本当にラッキーだが」

 

月「正直な話仕事いつまでよ?」

 

天「••••••わからん。ライブの打ち合わせとかあるからかなり遅くなりそう」

 

月「•••私が咲姫さんの相手した方がいい?」

 

嫌そう•••というよりは焦りが見える表情で月は恐る恐る問う。

ちなみに咲姫はまだ俺の部屋で寝ている。珍しく俺が早起きしたのだ。

 

天「いや、咲姫には適当に誰かと遊ばせておけばいいだろ。俺は仕事、お前は勉強でどのみち咲姫の相手をするのは難しいしな」

 

月「じゃあ、乙和さんに電話しておく?」

 

天「あぁ。後で俺からしておく」

 

月「りょうかーい。あ、ご飯できたから咲姫さん起こしてきて」

 

天「ん」

 

俺は立ち上がって、階段をゆっくりと登っていく。今更自分の部屋をノックするつもりもないので、無遠慮にドアを開けた。

白髪の少女はまだベッドに横たわっていて、小さく息を吐いていた。

 

天「咲姫、朝ご飯だぞ」

 

咲姫「ん、んぅ••••••」

 

天「起きなさい」

 

咲姫「もう少しだけ••••••」

 

寝返りを打ちながら、今にも消えそうなくらい小さな声で咲姫は抗議する。

 

天「昨日ずっと起きてるからだろ。自業自得だ」

 

咲姫「天くんも一緒に寝よ?」

 

天「ダメ。俺今日仕事だから」

 

彼女からの誘いに俺はノーコンマで首を横に振る。むぅ、と不満の声が聞こえてきたがそんなものは知らない。

 

天「せめて朝飯食ってから寝てくれ。月に面倒事を増やしてやるな」

 

咲姫「•••わかった」

 

バッ、と咲姫は仰向けになって両手を大きく広げた。一体何のつもりだ?と俺は首を傾げてしまう。

 

咲姫「起こして」

 

天「へーい•••」

 

ため息を吐きながら咲姫の背中と足に腕を回して抱き上げる。

なんかまた軽くなった気がするけどちゃんと体重増えてるのか•••?流石にこれ以上減らすのは避けたい。

 

天「咲姫、今日の朝飯、白飯おかわりしろ」

 

咲姫「どうして•••?」

 

天「何でってお前前より軽くなってるからだけど」

 

咲姫「天くんの筋力が増えただけだと思うよ?」

 

天「えぇ••••••?」

 

お互いに首を傾げて、沈黙の時間が続く。しばらく経った辺りで、下から月の声が木霊する。

 

月「朝ご飯冷めちゃうよー!早く降りてきてー!」

 

天「行くか」

 

咲姫「うん」

 

天「後自分で歩け」

 

咲姫「いや」

 

天「•••••••••」

 

泣けるぜ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

朝飯を食った後、月はささっと二階に上がって勉強を始めた。俺も仕事があるので、自室にこもってパソコンを立ち上げる。

ベッドには咲姫が座っていて、こちらをずっと眺めていた。

 

天「本当に良かったのか?乙和さんたちと遊ばなくて」

 

振り向いて、咲姫に問う。

彼女を預かってもらおうと乙和さんに電話しようとしたが、咲姫にしなくていいと止められた。

当の本人はただベッドに座っているだけで、退屈そうだった。

 

咲姫「うん。それに、天くんの仕事を見るの好きだから」

 

天「どんな趣味だよ」

 

俺は軽く笑って、パソコンの方に目を向ける。まぁ自宅仕事する程度のものだからそこまで大したものがあるわけでもない。重大なのはライブの打ち合わせで通話を繋げるくらいだ。

 

天「あぁ、そうだ。咲姫」

 

咲姫「どうしたの?」

 

天「後々ライブの打ち合わせとかがあるから、その時は咲姫にも会話に入ってもらいたい。演者からの意見も聞きたいしな」

 

咲姫「うん、わかった。それと•••」

 

天「ん?あーー」

 

咲姫「ちゅっ」

 

まだ何かあるのかと振り向いたら唐突に唇が重ねられた。突然の事態に俺は動揺を隠しきれず、目をまん丸にした。

 

咲姫「お仕事頑張ってね」

 

天「あ、あぁ••••••」

 

顔が熱くなって、まともに咲姫の顔が見られない。本人はと言うとニコニコととても嬉しそうだ。そんなに照れてるのがいいのかよ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

仕事を進めながら、俺は思い出したかのように咲姫に声をかける。

 

天「そういえばそろそろ修学旅行だったな。行き先どこだっけ?」

 

咲姫「確か大阪だったはずだよ」

 

天「そこら辺か。確定でウニバだな」

 

大阪と言えばウニバーサルスタジオジャパンと相場が決まっているものだ。しかし修学旅行と言っても大阪だけなのは少し物足りないかもしれない。

 

天「自由行動の時、大阪だけだと飽きるから京都まで行くか」

 

咲姫「京都•••。また八ツ橋食べる?

 

天「もしかしたら、新しい味があるかもしれないしな」

 

大阪から京都への移動は本当にすぐだ。そこまで時間もかからないしいいだろう。

 

天「本当にあっという間だよな•••気がついたら十月も終わりだし」

 

到底秋とは思えない寒さがガンガンに殺しにかかってきているが、今年の冬は果たして大丈夫なのだろうか。十一月には雪が降りそうな勢いだ。

 

咲姫「修学旅行、みんなと一緒だから楽しくなりそう」

 

天「••••••そうだな」

 

ハピアラ、ピキピキのメンバーがいるのだ、心強い。最悪彼女たちに任せて俺は一人でホテルにこもっていたいものだ。

 

咲姫「天くんも一緒だよ?」

 

天「•••••••••アッハイ」

 

いつも通り丸投げをしようと思ったがやはり止められた。毎回どうしてこうも簡単に心の内を見られるのか。

 

天「••••••しょうがねぇな。俺もついていけばいいんだろ?」

 

咲姫「うん。いつまでも天くんと一緒にいたいから」

 

天「なんか•••プロポーズみたいだな、それ••••••」

 

咲姫「少し意識したかも。でも天くんからして欲しいな」

 

天「その時が来たらな」

 

照れ臭くなってそれ以上は何も言わなかったが、後ろで咲姫が笑みを浮かべているのだけはなんとなくわかった。

そして俺の後ろに立って、腕を回してくる。

 

咲姫「待ってるからね」

 

天「あ、あぁ••••••」

 

ボンッ、と顔が爆発した。俺が彼女に対して結婚を望む姿を想像して恥ずかしくなったからだ。

結婚、結婚かぁ•••少なくとも現状だとまだ夢の様な話に感じてしまう。

 

天「な、なぁ咲姫•••」

 

咲姫「?」

 

天「離れてくれないか•••?恥ずかしい••••••」

 

咲姫「えへへ、いや」

 

更に咲姫は密着する。椅子の背に防がれて胸の感触自体はないが、至近距離なのもあってもう仕事どころではなくなってしまい、完全に手が止まってしまった。

 

天「はぁーーー••••••全く」

 

俺は大きな大きなため息を吐いて、身体を反転させた。そして咲姫を抱きしめ返して、そのままベッドに倒れる。

 

天「休憩。まだ打ち合わせまで時間あるし、残ってる仕事も少ない。だから甘えさせてもらう」

 

咲姫「うん、いいよ。たくさん甘えて」

 

一際強く抱きしめる。咲姫の細い細い体躯が、俺の身体に飲み込まれていった。

 

咲姫「いつもより、顔が近いかも」

 

天「前よりも抱きやすくなったからかもな」

 

咲姫「言い方がえっち•••」

 

天「悪かった。他意はない」

 

確かに今の言い方じゃセックスに慣れてきました、と言ってるようなもんだ。いやもう何回もシてるから今更な話なのだが。

 

天「少しだけ寝るか」

 

咲姫「うん、私も少し眠くなってきたかも」

 

天「それは退屈してただけだろ?」

 

薄らと笑いながらツッコんでやると、咲姫も釣られて笑った。

そのまま他愛のない話を続けていたら、いつの間にかお互いに眠ってしまっていた。




ではまた次話で会いましょう。ではでは。


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修学旅行パワー!

皆様お久しぶりです、そして一ヶ月も時間を空けてしまい大変申し訳ございません。如水です。私は今、東京のホテルにいます。何故かって?今日は布団のライブ日だからです。しっかりリングライトやバングルライトを装備して参戦しましたよ!!投稿遅れたのはライブではなくて単に忙しいからですすいませんでした。


迎えた修学旅行当日。この日の為に数日分の仕事をやり遂げた俺は、既にダウン状態だった。まだ移動前だと言うのに既にクタクタになってしまっている。

昨日も仕事仕事仕事の仕事三昧だったおかげで、まともに眠る事ができていない。なので修学旅行前の教師からのありがたいお言葉も全く耳に入らない。悲しいなぁ。

 

焼野原「お前クマヤベェことになってるんだけど••••••」

 

天「•••いや、まぁ、色々あってな」

 

焼野原「概ね仕事なんだろ?お疲れさん」

 

天「あぁ•••とりあえず早くバスに乗せてくれねぇかな••••••今すぐにでも寝てしまいたい」

 

焼野原「もう少し待てよ」

 

天「ん•••」

 

頭がカクンカクンと一定のリズムで上下に動く。視界が揺れ、前方もまともに視認できなくなってしまう。

 

焼野原「おい、移動だぞ」

 

天「あぁ••••••」

 

何処か意識のないまま、焼野原くんに引かれて移動する。もう身体のほとんどに力が入っておらず、ただただ彼に身を委ねてる状態だ。俺はホモじゃない。

 

バスに乗せられて、俺は適当にドカッと座る。すぐに図ったかのように咲姫が隣に座った。早い。

 

咲姫「眠たい?」

 

天「ん•••徹夜が続いたから流石にな••••••」

 

ぼやけた視界で何とか咲姫を認知するが、それでもかなり曖昧なものだった。まず視界とか認知とかそれ以前の問題で、もう既に死にそうなのだ。

ーーバスが出発した。エンジンの音で少しだけ目が覚めたが、それでも今の眠気の前では全くの無力だった。

 

天「悪い、少し寝させてくれ•••」

 

咲姫「うん、いいよ」

 

咲姫が頷いたのを確認して、俺は力を抜いて彼女の肩に頭を乗せた。

いくら女の子とはいえ、肩の部分は骨が主なのでやはり硬かった。枕として使う分にはそこまで気にならないが。

そしてそのまま俺は身体の思うがままに、意識を閉ざした•••。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

天「••••••んぅ」

 

薄らと目を開けると、まだバスは移動を続けていたらしい。起きたのも振動が鬱陶しく感じたからだろう。

 

天「今どこらへんだ•••?」

 

咲姫「もう少しで空港に着くよ」

 

天「あぁ•••そうかい。飛行機に乗ってる時ももう一回寝るか•••」

 

咲姫「まだ寝るの?これ以上寝たら夜眠れなくなるよ?」

 

天「••••••それもそうだが、寝足りん」

 

所詮は小一時間程度の睡眠だ。まだまだ眠気はしっかりあって、身体のダルさも残ったままだった。

 

りんく「あ!天くん起きたの?」

 

元気のいい声と共に、ひょこっとりんくが前の席から身体を乗り出してニコニコしながら俺を見下ろしていた。

 

天「なんだりんく。前だったのか」

 

りんく「ちょうど良く空いてたからねー!いや〜飛行機に乗るのなんて久しぶりだなー!」

 

天「日本に来る時以来になるのか。久しぶりの飛行機は楽しいだろうよ」

 

りんく「天くんは飛行機最後になったのいつ?」

 

天「去年が最後だな。ちょうど咲姫と北海道に行った時に乗った」

 

りんく「北海道行ったの!?楽しかった?」

 

天「味噌バターラーメンが美味かった」

 

端的に俺は食の事だけをかいつまんで話す。いや北海道ならではの建築物とかも見たりはしたけど結局は飯だよ飯。食文化しか勝たん。

 

天「結局は•••咲姫と一緒に旅行に行ったって言う事実が、大事かもな」

 

りんく「咲姫ちゃんのこと、大事なんだね」

 

天「あぁ、大事さ、大事な大事な恋人だからさ」

 

咲姫を抱き寄せ、頬をくっつける。彼女はくすぐったそうにしていたけど、あまり嫌な顔していなかった。

 

天「咲姫やみんながいなかったら、俺はきっと腐ったままだった。だからみんなには感謝してるよ」

 

彼女の頭を撫でながら、俺は微笑みながら言葉を漏らす。りんくに目を向けると、彼女も笑っていた。

 

りんく「天くんってさ、優しいね」

 

天「そんなことはないさ。ただあの子達に尽くしてるだけだよ」

 

自虐よろしく笑いながら俺の無力を嘆く。きっとあの子達は俺の力無くしてもいずれはこれくらいの地位へ辿り着いていた。俺のサポートなど、力など、ただの些細なモノに過ぎない。

 

 

天「この子達はすごいよ。自分達で考えて、努力して、今のプロとしての地位を確立してる。本当に、俺なんか必要なかったのでは、と思ってしまう。

 

咲姫「えいっ」

 

天「いたっ」

 

咲姫に額をつつかれて、多少ながら感じた痛みに目を細める。

隣を見ると、彼女が頬を膨らませて少し怒った顔をしていた。

 

天「悪かったよ」

 

頭を撫でながら、微笑む。それでも機嫌はあまり良くはならなかったが、先程よりはまだマシだった。

 

天「まぁ•••とりあえず寝たいな」

 

咲姫「ダメ」

 

天「うっす•••」

 

ニカッ、と気持ちのいい笑顔を浮かべて誤魔化すが、咲姫に躊躇なく止められた。ちくせう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

まぁ飛行機内の席はあらかじめ決められていたので、咲姫から絡まれる事などなく、ゆっくりと睡眠時間を確保する事ができた。

大阪に着陸してからまたバスに乗って宿までの移動を開始したら、今度こそ彼女は隣に座った。

ちなみにりんくも先ほどと同じで前にいる。

 

天「あぁ、そうだ。りんく」

 

りんく「どうしたの?」

 

突然の問いかけに、りんくは首を傾げながらこちらを覗き込んだ。

 

天「咲姫と遊んでやってくれ。ホテルにいる間はあまりこの子と一緒にいてやれないからさ、頼む」

 

りんく「勿論!咲姫ちゃんは私の大事なお友達だからね!」

 

天「助かるよ」

 

咲姫「天くんが女子部屋に行けばいいと思う」

 

天「アホか。教師に見つかった時に何されるか」

 

“こういう”事に関しては教師とかの教員組はかなり五月蝿い。

男が女の部屋に上がり込むなんて何が起こるか簡単に想像ができてしまう。少なくとも事務所所属の人間として、行動は弁えないといけない。

 

天「何かあったら呼べ。その時は行くから」

 

咲姫「うん、わかった」

 

本当にわかったのか知らんが、本人は頷いていたのでわかったということにしておこう。

 

天「あーそうだ。おいひろし」

 

焼野原「俺はク◯しんのキャラじゃねぇよ!!•••なんだよ」

 

天「部屋一緒だったよな。ホテルの窓前の空間占領してもいいか?」

 

焼野原「いいけどなんで」

 

天「仕事するからだけど」

 

焼野原「ここまで来てまだ仕事すんのお前!?」

 

焼野原くんが前方からギャーギャー騒ぎ始める。俺は耳を塞ぎながらため息を吐く。

 

天「仕事してないと落ち着かないんだよ••••••今の内にやっておいた方が帰ってきた時に苦労しなくて済むし••••••」

 

咲姫「修学旅行の為に徹夜で仕事したのでは••••••?」

 

天「そーなんだけど、そーなんだけどさ!!なんか、こう、落ち着かないんだよ!!」

 

焼野原「その手の動きやめろ!!」

 

両手の指をぐにゃぐにゃと動かして表現をするが、待ったをかけられた。何故だ。

 

焼野原「•••まぁ仕事したいなら好きにすればいいだろ」

 

天「そーするわ」

 

咲姫「ダメ」

 

天「なんでだよ」

 

りんく「夜は私たちと遊ぶんじゃないの!?」

 

天「んなこと決めてなくね!?」

 

りんく「もう響子ちゃんたちとも計画立てたよ!?」

 

天「何勝手なことしてんだよお前ぇ!!」

 

俺の許可も何もなく好き勝手に予定を決めやがって。俺は席を立ってりんくの頭を掴んだ。

そして拳を作り出して、彼女の両側頭部に当てがう。そう、(作者の地元でよく言ってた)みさえだ。

 

りんく「いたたたた!痛いよ天くん!!」

 

天「悪い事を考える頭はこの頭か〜!?」

 

なんだかんだ俺もノリノリで、痛過ぎないように加減しながらりんくの頭をグリグリとイジめてやる。

バス内は笑いに包まれていたが、一人だけムスッとした顔のヤツがいた。

 

咲姫「•••••••••」

 

天「どうしたよ」

 

咲姫「天くん、楽しそう」

 

天「多少は楽しいけど•••」

 

咲姫「浮気?」

 

天「だからちげぇよ!?」

 

またもあらぬ誤解を掛けられて、俺は悲痛の叫び声をあげる。更に笑いは飛び交い始め、俺は顔を赤くして大人しく縮こまった。




明日も東京を適当にブラブラしていると思うので、もし会うことがあれば•••まぁ基本誰かと行動してるのでやめといた方がいいですけどねw


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ホテルのベッドと温泉は一つの財産である

お久しぶりです。エロゲーマーです。投稿遅れたのは単純にエロゲやりまくってたからです申し訳ありません。今日はちゃんと執筆するつもりなので許してください何でもしますんで(何でもするとは言ってない)。


宿泊先のホテルに到着して、俺は焼野原くんと一緒に部屋に向かった。人数配分は一部屋五人で、人数分の割には部屋は広く感じた。

 

天「思ったより広いな」

 

焼野原「おぉ〜、いいなこれ。気持ちよく寝られそうだ」

 

男子生徒A「ベッドベッドー!!」

 

クラスメイトの一人がすぐさまベッドにダイブした。ボフン、という音と共にアイツの身体が跳ねた。

 

天「あまり騒ぐなよ、ガキじゃないんだから」

 

男子生徒B「黙れよ。お前どうせ出雲さんの所に行くんだろ?」

 

天「いや俺仕事するけど」

 

男子生徒C「え、もしかしてバカーーいたいいたいすんませんすんません!」

 

何やら失言が聞こえてきたので、容赦なく蹴りを数発入れてやる。ドカドカと鈍い音が鳴った。

 

焼野原「ここにきてまで仕事って修学旅行じゃないだろ•••」

 

焼野原くんの言う通り、正直修学旅行に来ている気分ではない。どちらかと言うと咲姫のお守りの側面の方が大きいかもしれない。

 

天「まぁいいだろ。仕事するのはあくまでホテルでだけなんだし」

 

男子生徒C「どうせ出雲さんに会いにいくよ•••」

 

焼野原「それは間違いない。こいつは絶対に行く」

 

天「うっさいわ。風呂入るぞ」

 

焼野原「へいへーい」

 

無理矢理話をぶった切って、俺は風呂用具を持ってすぐさま部屋を出た。少しだけ恥ずかしくて、顔が赤くなっていたのは内緒だ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ここの風呂は大浴場と言うのもあって、とても五人で使うには広すぎるくらいの大きさだった。

ちなみに時間別にそれぞれの部屋が大浴場を使うという手筈なので、あまり長居はできない。

 

焼野原「うおーー!!?でっか!!」

 

天「うるさい、声響いてる」

 

浴場内なのもお構いなしに、焼野原くんはこれでもかと言うくらい大声をぶち撒ける。

 

男子生徒A「•••••••••」

 

天「••••••?な、何見てんだよ」

 

何やらジロジロと見られるもので、少し軽蔑した目を向ける。

 

男子生徒B「いや•••顔と身体の差がすげぇなって」

 

天「どういうことだよ」

 

焼野原「顔は中性的なのに身体は細マッチョでバランスおかしいって意味だろ」

 

天「うるせーよ」

 

好きでこんな顔に産まれたわけじゃねぇんだよふざけんな。もっと男らしい顔に産まれたかったわ。できるなら父さんくらいの顔がいい。

 

男子生徒C「でも普通に顔がいいのがムカつく•••」

 

焼野原「それは言うな•••遺伝子が優秀なんだよ••••••」

 

なんなの?今日は俺イジめられる日なの?流石の俺も泣くぞ。

 

焼野原「そういえばお前ん家って普段親いねぇよな?妹一人で大丈夫なのか?」

 

湯船に浸かりながら、焼野原くんが質問を投げかける。俺は少し苦い顔をしながら、頭を掻いた。

 

天「分からん•••後で電話するつもりだけど、修学旅行の間だけでも衣舞紀さんの所に預けた方が良かったかもな」

 

焼野原「え、じゃあ今家に一人なのか?危なくね?」

 

天「•••••••••やべぇ、心配になってきた」

 

今頃あいつどうしてんだろ••••••。マジで心配で気が気じゃない。

結局この後は風呂に上がるまでずっと顔が死んでいたのは言うまでもない。妹•••頼むから生きててくれ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

飯を食った後に俺は部屋に戻ってすぐさま月に電話を掛けた。いつもならワンコールで出るのにスリーコールもかかっていて、本気で焦る。

しばらく掛け続けると、ようやく月に通話が繋がった。

 

月「もしもしお兄ちゃん?急にどうしたの?もしかして私に会えなくて寂しくなっちゃった?」

 

天「お前、家で一人で大丈夫か?知らない人が来たら絶対にでるんじゃないぞ?とりあえず衣舞紀さんの所に預けさせてもらえないか訊くから明日からそっちに行く準備をーー」

 

月「待って待って落ち着いてよ。大丈夫だよ、私今家にいないし」

 

天「•••?どういうことだ?」

 

今家にいない?何処かで遊んでるのか?俺はそんな子に育てた覚えはないぞ!!

 

月「お兄ちゃんが修学旅行に行ってる間は美夢さんの家でお世話になる予定だったの。それで今そっちにいる」

 

天「••••••そういう事なら予め言ってくれよ。心配したじゃないか」

 

とにかく問題はないようで、ホッと息を吐く。電話越しの妹はゲラゲラと笑っていてムカつくが。

 

月「ごめんね〜。それよりも問題はお兄ちゃんだよ!」

 

天「あ?なんだよ」

 

月「修学旅行だからしばらく咲姫さんとセックスできないけど大丈夫?」

 

天「お前死ねよ本当に」

 

急にデカい声出したと思ったらこれだよ。本当にこの妹ヤダ。

 

月「旅行中ずーっとおち◯ちん慰められないけど大丈夫?フ◯ラくらい頼んだら?」

 

天「うるせぇうるせぇうるせぇ。というかお前今美夢の家だろ。発言には気をつけろよマジで」

 

月「はいはーい、しょうがないなぁ。全くこれだから童貞卒業しただけでイキってる兄は」

 

天「イキってるのはどっちだアホ」

 

月「あー!アホって言ったなぁ!!今度私の目の前で咲姫さんとセックスすること!!」

 

天「誰がお前の目の前でセックスするかよボケ!!」

 

周りに人がいることなどお構いなしに怒号をブチまける。男しかいなかったから良かったが、もし女子の誰かしらがいたら俺の人生は終わっていた。

 

天「まぁ、大丈夫そうで安心したわ。んじゃ切る」

 

月「んー。修学旅行楽しんでねー」

 

その言葉を最後に通話が途切れたところで、俺は一気に身体の力が抜ける。

座っていた椅子の背もたれに体重を預けて、大きく大きく息を吐く。

 

天「マジで焦った•••というかあいつ美夢の家泊まるなら最初から言えよ•••」

 

どうして事前に言ってくれなかったんだよ。お陰で余計な心配してしまった。

とりあえず妹は問題ないという事なので、仕事を始めよう。そう思ってパソコンを開いたところでーー、

 

りんく「天くーん!迎えに来たよ!!」

 

天「•••••••••」

 

本当に来るのか•••てっきりそのままお流れになって一日目が終了すると思っていたのだが、こいつの行動力をナメていたかもしれない。

 

天「••••••ガチで遊ぶの?」

 

りんく「うん!だってもう決めた事だし!」

 

天「俺に拒否権はないんですか」

 

りんく「しのぶちゃんが好きにしていいって!」

 

天「あのデコ助ぇ••••••!」

 

りんくに告げ口したのはあいつか。いるのか知らんけど仮にいたら絶対に潰してやる許さん。

 

天「行くわ。花札ある?」

 

りんく「トランプとかしかないよ!?」

 

なんで花札ないんだ!!一対一の遊びの定番だろ!?

 

天「持ってきとけば良かったな••••••」

 

焼野原「修学旅行に来て花札ってお前賭け事でもする気かよ•••」

 

天「花札楽しいだろ」

 

焼野原「お前なんか月見と花見のコンボ好きそう」

 

天「偏見じゃねぇか。実際好きだけど、鉄砲」

 

ちなみに札の中では桜が一番好きだ。だって美しいし綺麗だからね。

作者は花札大好きだから誰か一緒にやってくださいお願いしますなんでもしますんで(何でもするとは言ってない)(作者)。

 

天「••••••いいか?行ってきて」

 

焼野原「どーぞ。あいつらは俺が抑えとくから、早く行きな」

 

天「死亡フラグにしか聞こえないのやめろよ」

 

帰ってきたら男どもにシメられてそうだが、強く生きている事を願っておこう。

パソコンを音を立てないようにそっと閉じて、りんくに連れられて部屋を出た。

 

廊下を歩く中、りんくは俺の隣の至近距離の位置を保っている。近くない?

 

天「なんかあったか?」

 

りんく「何もないよ!ただ天くんと2人きりになる時ってほとんどなかったなぁって」

 

天「••••••まぁ、ちゃんと覚えているのがコンビニで2人でメシを食った時だな」

 

あの時ってなんで行ったんだっけ••••••よく覚えてねぇや(無能)。

 

りんく「また2人でご飯食べたいね!」

 

天「ん、そうだな。たまには友達とメシ食ってみたいし。修学旅行が終わった時にでも何処か行くか?」

 

りんく「え!?いいの!?」

 

天「あぁ。りんくには世話になってるしな」

 

りんく「そんな恩返しみたいな感じじゃなくて、お友達として食べに行こうよ〜」

 

ぐりぐりとりんくの頭が俺の肩にぶつかる。頬を膨らませながら恨めしそうな目を俺に向けた。

 

天「悪い悪い。友達として、な」

 

ケラケラと軽く笑いながら、りんくの肩を掴んで離れさせる。

 

天「つっても、この旅行が終わるまでまだかなりの日数があるけどな」

 

りんく「そうだね。あ!お泊まりもしたい!」

 

天「どんどん要求がエスカレートしていくな•••いいよ。月と遊んでやってくれ。あいつもいい気分転換になるだろうし」

 

りんく「そっか、月ちゃん受験だもんね。そういえば私たちも来年受験生だったね•••」

 

天「••••••頑張ろうな」

 

りんく「えへへ•••また真秀ちゃんに頼り切りになっちゃうなぁ」

 

俺も俺で咲姫やノアさんを頼りそうな未来が見える見える。でもその時はその時だ。受験の時はもっと近づいた時に考えよう。

目的の部屋に到着し、俺とりんくは立ち止まる。

 

天「先生にバレたらマズいな」

 

りんく「大丈夫だよ!仕事の話って言えば!」

 

天「変に悪知恵が回るようになったな••••••」

 

りんくらしからぬ発言に、俺は苦笑を漏らしてしまう。

俺は意を決して、その扉を開けた。




ではまた次回まで。次は投稿するのいつになるのだろうか••••••。


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女子部屋侵入日誌

お久しぶりです、如水です。投稿が遅れて申し訳ありません。一ヶ月更新とはなんだったのか、私にもわかりません。
一つ言い訳させていただくなら、作品自体は一ヶ月前には出来上がっていたんですよ。これはマジです。何故か投稿する気力が湧きませんでした。脇が甘いですね、脇だけに(?)



扉を開けると、いつも通りのメンツが欠ける事なく揃っていた。部屋の広さ的に少しギリギリ臭いが、まぁ何とかなるだろう。

 

咲姫「遅い」

 

天「無茶言うなよ•••」

 

しかも開口一番にそれかよ。もっと他にないのか。

もう既にゲンナリとした気分だが、適当にベッドの上に座る。当然、と言うべきなのか、咲姫はすぐさま俺の隣に移った。無駄に行動が早い。

 

天「マジで人多いな••••••」

 

角毎にベッドが合計四つ置かれており、その真ん中のスペースさえ使えばここにいる計十人でもなんとか余裕を持てそうだ。狭いことには変わりないが。

 

響子「聞いたよ?バスの中で寝てたんだって?クマはなくなってるみたいだけど、夜は寝られるの?」

 

天「••••••ぶっちゃけ無理だな。いい子ちゃんはもう寝る時間だが、まーったく眠くない。最悪しのぶと一夜明けるかもな」

 

しのぶ「言い方」

 

天「失礼」

 

とりあえずお茶を濁す為にしのぶをダシに使ったが、案外冷静に返されてしまった。

 

しのぶ「それにアタシは寝るよ。嫌でも明日は外に出されるんだから」

 

しかもバリバリの正論をぶつけられてしまった。ち◯ちん萎えそう。

 

天「今思ったけどこの人数でトランプすんの?もうワンセット欲しいんだけど」

 

絵空「そう言うと思って•••持ってきておきました〜♪」

 

絵空が鞄からトランプを取り出す。これでりんくの分と合わせてセットが二つになった。

 

由香「何をして遊ぶかは決めてるの?」

 

天「大富豪」

 

むに「ド定番ね•••」

 

天「パーティーゲームとかもやりたいが、流石にゲームまでは持ってきてないだろ?」

 

しのぶ「スマホがあるじゃん。宇宙人狼とか人数的にちょうどイケるけど」

 

天「マジ?トランプ飽きたらするか」

 

しのぶの案を即採用して、俺たちはトランプを広げる。

 

麗「トランプで遊ぶなんて久しぶりですね」

 

天「そういやそうだな。ゲームとかが当たり前になった今だとこうやってカード系で遊ぶやつ中々いないだろ」

 

響子「今じゃこうやってトランプで遊ぶのにもスマホで十分だからね」

 

時代の進化ってすげぇよなぁ。お陰で実物のカードを作っている会社とか軒並み死んでそうだけども。

情報社会ってのは皮肉なものだねぇ。

 

響子「まぁでも、私たちはカードでやってた世代だから、こうやって人とやる時は実物じゃないとしっくりこないけどね」

 

天「あーそれはわかる。なんだかんだ実際に手に持ってやる方が楽しいよな」

 

なんだかんだ言ってこういう昔ながらの人間がいるから、今も受け継がれていくのかね。

もし子供ができたら色々遊ばせてみるか。花札とか花札とか花札とか。

 

咲姫「後で花札もする?」

 

天「••••••いやいいよ。一対一でやるもんだし」

 

咲姫が気を利かせてくれたが、今はこの大人数でやる、という空間に浸っていたい。それにたかだか俺1人のワガママに付き合わせるのもなんだか悪い気がしてならない。

 

むに「そもそも花札ってどういうゲームなのよ」

 

天「派手な絵柄をとにかく奪う運ゲ」

 

真秀「メチャクチャ端的だね•••」

 

だって説明するの面倒なんだもん。あながち間違ってないし。ちなみに運ゲであることは間違いではある。

ちゃんと場の流れとかを見れば多少は予測できる。でも運ゲ。所詮は運ゲ。

 

むに「なんだかこういう時って月がいつも一緒にいるイメージだから、なんだか違和感があるわね」

 

天「んー、そうわね」

 

しのぶ「何その適当な返し•••しかも日本語おかしいし」

 

天「そうわよ」

 

むに「からかってるの!?」

 

むにが前のめりになりながら俺に向かって大きな声を発する。それを俺はじーっと見つめながら瞬きを数回繰り返す。

 

真秀「月に関して触れられるの、嫌だった?」

 

天「いや•••あいつだけなんか友達の家に泊まってるって言うから少しムカついてるだけ」

 

咲姫「そうなの?あ•••でも家に何日も一人だと危ない」

 

天「それをわかってるから相手側も受け入れてくれてんだろ。どうせ帰ったらメチャクチャ自慢してきてうるさいに決まってる••••••」

 

ため息を吐きながら、机を指でトントン、と鳴らす。あまり行儀の良い行為ではないが、気を紛らわすには何かしら音が欲しかった。

 

りんく「じゃあ私たちも楽しい事をして月ちゃんに自慢しようよ!写真撮ろっか!」

 

天「えぇ•••やけに急だな、おい」

 

唐突にりんくにこちらに引き寄せられて、スマホの内カメを向けられる。

引き攣った笑みを浮かべるが、まだりんくはシャッターボタンを押さない。

 

天「撮らないのか?」

 

響子「そんな固い顔で撮るわけにもいかないでしょ?」

 

天「う、うるさいな•••」

 

少し顔が赤くなって逸らしてしまう。こっちだって好きで笑顔ガチガチにしてるわけじゃないんだ。

 

咲姫「•••••••••」

 

天「あほ•••?はひはん•••?」

 

ぐいーっと両頬を咲姫に無言で引っ張られる。というかなんでそんな無表情なの怖いんだけど。

 

咲姫「こうしたら少しは柔らかくなると思って」

 

天「いや、ならないから•••」

 

解放された頬を我が息子のように大事にさすりながら、細目を向ける。

 

天「てか、遊ぶんじゃなかったのか?何もないなら俺部屋に戻りたいんだけど」

 

由香「今日は寝かさないぞ〜!」

 

りんく「そうだ〜!」

 

天「あっ、ちょーーんぶぅ!」

 

二人に飛びかかられて、俺は無様に倒れ込んでしまう。女の子二人とはいえ、多少重たい。

 

真秀「ちょっと天、大丈夫!?」

 

天「あぁ、何とかな•••お前らは早くどけよ」

 

由香「え〜?つれないなー」

 

天「動けないんだけど•••」

 

パシャッ!

 

天「は?」

 

突然のシャッター音に反応して音の元を辿ると、咲姫が俺たちの姿を写していた。

 

天「おまっ!何撮ってんの!?」

 

咲姫「Photon Maidenのみんなに送ろうと思って」

 

天「勘弁してくれよ•••こんな姿見たら絶対に乙和さんとか乙和さんとか乙和さんがうるさいんだから」

 

しのぶ「実質一人じゃん•••」

 

天「お前も一人でゲームしてねぇで助けろよ。デコにヘッドバッドすんぞ」

 

しのぶ「暴力から離れなよ。行動に移すタイプの月じゃん」

 

天「まぁ俺ら兄妹だし?口の妹と行動の俺ってか?」

 

しのぶ「どっちも悪い意味での言葉なんだからおかしいよ」

 

天「うっさいわい」

 

仰向けになりながらしのぶに毒を飛ばすが、彼女も対応に慣れたのかずっと冷静な言葉が返ってくる。もうちょっと反応してくれてもいいじゃん。アゼルバイジャン。

 

咲姫「あ、乙和さんから返信来たよ」

 

天「マジで送ったんだな••••••」

 

今頃携帯のグループラ◯ンに通知が届いている事だろう。嘆かわしや、俺。

 

咲姫「楽しそう、だって」

 

天「それだけか?」

 

あの人に限ってそんな一言で済むとは到底思えない。例えるなら乙和さんが赤点回避するくらいありえない。

 

咲姫「他には帰ってきたら私もする、って」

 

天「結局かー」

 

やっぱり乙和さんは乙和さんだった。スキンシップ激しすぎでしょ。こちとら彼女持ちやぞ。一応あの人に好かれてるから、あまり嫌な対応ができないのもアレだが。

 

天「というか••••••騒いだら少し眠くなってきたな。部屋に戻らせてくれ」

 

りんく「いーやーだー!」

 

天「なんでこんなワガママなんだよ•••後何日もあるだろうに。咲姫、助けて」

 

咲姫「ぎゅってしてくれるなら」

 

天「ハグくらいいくらでもしてやるから早く」

 

咲姫「じゃあキスも追加」

 

天「•••••••••わかった」

 

咲姫「そのまま一緒に寝ようね」

 

天「結局部屋戻れねぇじゃねぇかよ!?」

 

むに「••••••何この夫婦漫才。見てるこっちが恥ずかしいわ」

 

天「そう言うなら助けてくれよ本当に••••••」

 

むに「払い除けるくらいできるでしょ」

 

天「もしものことがあって二人を怪我させるの嫌だ」

 

麗「どうしてでしょう•••今聞くとただ責任から逃げようとしているようにしか聞こえません••••••」

 

天「麗も大概失礼だな!」

 

いいとこ育ちだろこのアマ!口くらいちゃんとしとけや!

 

響子「由香もりんくちゃんもそろそろ離れてあげて?これ以上続けたら天の喉が死んじゃうから」

 

響子の一声に、二人はいとも簡単に俺から距離を空けた。うーん、この。

 

天「さて•••部屋戻って寝るか•••」

 

よっこいしょ、とジジイのように立ち上がってから部屋に向かおうとしたところでーー

 

コンコン。

 

扉から軽く叩く音が鳴った。その瞬間、俺の顔は真っ青になる。寒気も冷や汗もついでにやってきた。

ぜっっったい先生だろこれ。詰んだだろ。

 

教師「おーい、まだ起きてるのか?いい加減寝ろよ?」

 

まだ入ってきてはいないが、これはもう絶対に入ってくる流れだ。長年の経験がそう言っている。

 

天「••••••どうしよ」

 

バレないように小さい声を発しながら、音を立てないように歩く。

 

咲姫「こっち」

 

ちょいちょい、と咲姫がこちらに手招きをする。なるほど、何か案があるんだな。

ノコノコと藁にも縋る思いでついていった瞬間、手を引かれてベッドの中に連れ込まれてしまった。

隠れるだけなら最適解かもしれないけど、咲姫までついてくる必要はなかったのでは。

 

天「••••••近い」

 

咲姫「一緒に寝るのはいつもと思うよ?」

 

天「いや、そうなんだけどさ•••今は周りにみんながいるから恥ずかしいって言うか•••」

 

咲姫から目を逸らしながら、か細い声で抗議する。修学旅行効果なのかはわからないが、何故か異様に恥ずかしい。

 

咲姫「可愛らしい天くんも、私は好き」

 

天「•••そりゃどうも」

 

ぶっきらぼうに言葉を返していたら、咲姫がゆっくりと抱きついてきた。

毛布にくるまっている状態になっているのに加えて、彼女の体温も合わさって少し暑かった。

 

教師「そんな大人数で集まって•••出雲はどうした。まさか神山の所に遊びに行ってるのか?」

 

真秀「え、えっと•••そ、そんな所です!」

 

教師「••••••まぁいい。消灯時間まで後少しだからちゃんと呼び戻しときなさい。後部屋にちゃんと帰る!」

 

ここの部屋ではない人間たちがぞろぞろと部屋から出て行く声と音が聞こえて来る。

 

天「•••••••••」

 

咲姫「•••••••••」

 

ただ無言で、気配を殺すように息も潜める。目の前にはこちらを見つめる咲姫の顔があった。

 

天「••••••もう行ったか?」

 

咲姫からの返事はないが、それに応えるようにりんくから元気のいい声が飛んできた。

 

りんく「もう出ても大丈夫だよー!」

 

天「ようやくか。んじゃ、出るかさきーー」

 

咲姫「んっ」

 

ホッと安堵して毛布をめくろうとした瞬間に、咲姫は突然唇を重ねた。俺は目を丸くして、固まってしまう。

 

咲姫「んぅ、ちゅ、ちゅっ•••」

 

そのまま更に唇を押し付けてくる。逃げられないように腕を背中に回す用意周到っぷりだ。

 

咲姫「はぁっ、ふふ、隠れながらキスするのってドキドキするね」

 

天「•••そんな突然することないだろ」

 

咲姫「まだ照れてる」

 

天「うるしゃい」

 

まだ赤い顔を隠すように寝返りを打つ。それに対応してか、咲姫は更に密着した。胸の感触が背中に伝わってきてまた心臓が跳ねる。

 

りんく「あー!二人だけで一緒に寝るなんてダメだよ!!」

 

毛布をひっぺがしたりんくに俺たちの姿を見られる。しかし、驚いた顔はすぐに笑顔へと変貌し、俺の隣に寝転がった。

 

天「何やってんのお前!?」

 

りんく「私も天くんと咲姫ちゃんと一緒に寝る!」

 

天「せめて咲姫と二人で寝てくれよ!?いい加減部屋に戻らないと俺がヤバいんだけど!?」

 

意見を通そうととりあえず勢い任せでデカい声を出すが、見事にガン無視。更にくっつかれてどんどん逃げ道が閉ざされてきていた。

 

りんく「このまま寝ちゃおうよ〜。私もう眠たいよ〜」

 

咲姫「初めてだね。りんくさんと一緒に寝るの」

 

りんく「あ!確かに〜!天くんも一緒だね」

 

天「•••珍しく咲姫が浮気判定を出さない」

 

咲姫「今は天くんにくっつけてるから満足」

 

天「えぇ••••••」

 

結局このまま俺と咲姫とりんくの三人で仲良く川の字で寝ることとなった。

そして翌日の朝に教師に見つかってドヤされたのは言うまでもないだろう。

というか騒いでばっかりで全く遊んでねぇじゃねぇか時間返せ。




こんな調子ですが、現在私が通っている学校が発表の準備でかなり忙しく、ぶっちゃけ書く時間をそこまで確保できないんですよね。休日返上すればイケそうではありますが。
それでも休日はやりたい事ありますので、そのはご勘弁を。
では次回もまた気長にお待ちください。四月の終わりには帰ってきます。


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修学旅行で一人行動する人いない説

お久しぶりです。超絶ギリギリで帰って参りました。
さて、発表の方なのですが••••••五月まで伸びました。頼むからはよ終わらせてくれ。しかも咲姫の誕生日と被ってるしどないすりゃええねん••••••。
そういうわけなのですが、ゴールデンウィークを使って少しでも進めますので許してください、マジで。ではまた五月の終わり頃に•••あ、ライブでいねぇわ俺。


天「ひ、酷い目に遭った••••••」

 

ボロボロの、これでもかと言うくらいみっともない状態で、俺は命からがら部屋に戻る。

入ってすぐに焼野原くんの五月蝿い笑い声が響いてきた。寝起きの耳に響く。

 

焼野原「こってり絞られてきたな!あ〜面白かった」

 

天「笑い事じゃないんだが••••••。あーもう、朝からキッツいわ」

 

自分のベッドに勢いよく寝転がって、クソデカため息を吐く。

 

焼野原「おーい?この後自由行動だぞ。寝るなよ?」

 

天「わかってる。一応昨日はちゃんと寝たから寝落ちすることはない」

 

焼野原「信用なんねぇなぁ•••。昨日は朝からあんなに寝てた癖に」

 

天「うるっさいなぁ•••疲れてたんだよ。勘弁してくれ」

 

頭をボリボリと掻きながら、心底不機嫌そうに俺は言葉を漏らす。

 

焼野原「出雲さんどころか大量の女の子とイチャついといてそれだから本当にメンタルすげぇよな」

 

天「いんや、メンタルはかなりやられた。精神的に少し辛かったぞ。昨日は」

 

焼野原「•••マジで言ってる?」

 

天「経験者は語る、ってやつだ」

 

ありえない、と言いたげな顔をする焼野原くんに対して、俺は無表情で答える。

 

焼野原「と、とりあえず•••外に出るぞ。いい加減出ないと先生に何言われるかわからん」

 

天「はいはい、わかったよ」

 

鞄を手に取って、親父のようによっこいしょと声を漏らしながら立ち上がる。

 

天「自由行動っつったけど、別に俺が単独で動いてもいいって事だよな?」

 

焼野原「あ?まぁそうだが•••。お前一人で行くのか?」

 

天「あぁ。少しやりたいことがあるんだよ」

 

焼野原「デート?」

 

天「ちげぇよ!!」

 

ニヤリといやらしい笑みを向けられながらの問いに、俺は大きい声で返す。

 

天「大阪来たんだから、一日くらいは自由に探索してみたいんだよ。ライブ会場とか色々」

 

焼野原「結局仕事しに来てるもんじゃねーか!!」

 

天「別にちゃんと遊ぶからいいだろ••••••」

 

彼からの怒声に俺は耳を塞ぎながら目を逸らす。

何も下見だけが全てじゃないんだ。ちゃんと大阪ならではのものを色々食べたり見たりして周るつもりだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ちゃんと宣言通りに俺はボッチになった。よくわからない地で一人なんて心底寂しくて辛いものかもしれないが、今のこの時代には『スマートフォン』というものがある。これで地図アプリ使っとけば基本大丈夫だろう。まぁ、地図すら読めない人間にはキツいかもしれないがな、ガハハ。

 

衣舞紀「へくしっ!!」

 

乙和「急にどうしたの?寒い?」

 

衣舞紀「最近どんどん寒くなってる所為かな•••急にくしゃみが」

 

ノア「ちゃんと防寒対策しないとね。これから更に寒くなっちゃうし」

 

乙和「そうだね〜。早く二人とも帰ってこないかな〜!」

 

衣舞紀「昨日行ったばかりなのにすぐ帰ってくるはずがないでしょう?」

 

ノア「早く帰ってこないと私が咲姫ちゃんと天くんを愛でる事ができない••••••」

 

天「ハックション!!なんだ•••誰か噂でもしてるのか••••••?」

 

唐突に背筋に寒さを感じて、くしゃみが飛び出てきた。

しっかり防寒しているのに出ると言うことは『そういうこと』だろう。誰だよ。

 

天「さて•••と、仕事っつって単独にあえてなったけど何処行こうかな」

 

特別行きたいところがあるわけでもなく、ボケーっと突っ立っていると、突然携帯が振動を開始する。

 

天「え、誰だよ•••って月か」

 

こんな朝っぱらから何の用だと心の中で愚痴りながら、俺は携帯を手に取って通話ボタンをタップした。

 

天「もしもし?」

 

月『もしもしお兄ちゃん?修学旅行は楽しんでるかな?』

 

天「あーぼちぼちとな。そっちはどうなんだ?ちゃんと大人しくしてるか?」

 

答えに窮したが、とりあえず何でもない風を装って無気力に言葉を返す。

 

月『子供扱いし過ぎ。もうすぐ高校生になるこの私が人様に迷惑を掛けるとお思いで?』

 

天「じゃあ春奈に直接訊く。変われ」

 

月『••••••いやーそのー、何と言いますか•••』

 

天「さっさとしろよ」

 

急に弱々しくなったが、そんな事は関係ない。圧を掛けるように言葉を重ねてどんどん追い詰めていく。

 

春奈『変わりましたわ。お久しぶりです、天さん』

 

天「んー、久しぶり。月はちゃんとしてるか?」

 

春奈『している•••と言いたいですが、やはりと言うべきか胡桃さんやみいこさんと一緒になっていつも騒いでいます』

 

天「まぁ•••うん•••大方予想はついてたからこれ以上はいいよ••••••」

 

どうせ二人と結託してギャーギャーしているんだろうなぁ、というのは大方予想はついていたが結局だった。

 

天「でも元気そうで何よりだ。早く春奈たちにも会いたいもんだ」

 

春奈『そうですね。またそちらに遊びに行きます』

 

天「おー、楽しみにしてる」

 

今後の事に花を咲かせながら話しているが、その傍らこの後どうしようかと考えていた。

結局何をしようかとか全くもって決まっていないので、頭の中が圧倒的宇宙になっていた。頭ワルワル。

 

春奈『ではそろそろ失礼してーーちょっと胡桃さん!?』

 

天「•••なんかそっち大変そうだな。切るよ」

 

また一段と騒がしくなる予感を感じたので、慣れた操作で通話を終わらせる。

一つ大きな欠伸をしながら、マップを見ながら適当に歩く。

 

天「大阪と言えば飯だよな•••適当になんか飯屋でも探そうかな」

 

自由行動は夕方の六時まである。今は朝の九時。アホみたいに余裕があるのだ。

咲姫と自由行動をするという予定自体は立てているが、別に今日という訳ではないので特段気にする事なく自分のことに集中していた。

 

咲姫「行く場所は決めた?」

 

天「そうだなー。とりあえず美味い飯屋探してその周りをウロウロ•••••••••は?」

 

後ろから携帯を覗き込む人間を感知して、俺は固まってしまった。

首をギリギリいわせながらゆっくりと振り返ると、何故か咲姫の姿があった。なんでいんの???

 

天「え、いつから••••••」

 

咲姫「最初からついて行ってた」

 

天「えぇ••••••全然気が付かなかった」

 

基本的に咲姫がいたら気がつくはずなのだが、今回ばかりは全くわからなかった。

何処かに潜伏してイカニンジャでも積んでたんじゃないのこの子?

 

咲姫「それで、何処に行く?」

 

天「•••••••••考え直していいすか」

 

咲姫「いいよ」

 

ノーコンマで笑顔で返された。大阪ってデートスポットあんの?最終日にU◯J行くからそこでデートすればいいやと思ってたけど、それ以外となると何処があるんだ?

いっそのこと今からもう京都に行く?いやでも一発目からそれはもう後がなくなってしまう。

 

天「適当に歩く?」

 

結局答えに窮した俺から出た言葉は彼氏としてあり得ない言葉だった。本当にしょうもない。

 

咲姫「うん」

 

特に不満もない様子で咲姫が頷くと、すぐさま俺の手を握った。

 

天「そういや、りんく達は?」

 

よくよく見ればりんくや他のメンツの姿がない。事前に行く場所とか決めてたのか?

 

咲姫「天くんのところに行くって言って別れたよ」

 

天「そ、そうなのか•••りんくの事だから逃さないかついてくると思ったんだが」

 

なんというか•••りんくらしくない。いい意味でも悪い意味でも空気が読めないのが彼女なのに。流石に怒られそう。

 

天「ちょっと歩いたら飯でも行くか。大阪ならではのものを食べたいし」

 

咲姫「そうだね。たこ焼きとかお好み焼きとか••••••」

 

天「カニ◯楽も行ってみるか?」

 

咲姫「そんなにたくさん行ってたらお腹壊しちゃうよ?」

 

クスクスと笑いながら俺に顔を向ける。それに笑みを一つだけ返して、一応決まった目的地に向かって歩き始めた。




後半にかけて急ピッチで仕上げたので物足りない内容だったと思いますがお許しください。次回はちゃんと書きます•••。


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