中二病の黒魔術師 (インスタント脳味噌汁大好き)
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プロローグ いたって普通の異世界転移

「すいません、黒魔術の本はどこに置いてありますか?」

「ええっ?えっと……こちらになります」

「ここにあるのですべてですか?」

「は、はい。ここに置いてある分だけです」

「……ちっ、ほとんど持っているわね」

 

中二病。それは全国の少年少女が罹る心の病。

 

私の場合、それは5年前の小学6年生、12歳の頃に訪れた。謎の万能感、自身が特別な存在であるという思い込みから、少々痛い言動を繰り返したのだ。

 

それからしばらくは周囲から生暖かい視線を貰うことになったのだが、転機は1年後。中学1年生の時だった。中学に上がって自室を貰い、その自室の中で買った黒魔術の本に書いてある悪魔召喚を試していたところ……

 

チョークで描いた魔法陣が紅く光り、その中央には醜い顔をした黒い生命体が存在していた。身長は50センチ程度で、明らかにこの世の生命体ではない存在が宙に浮いていたのだ。

 

早速私は定期的に血液を提供する代わりに使役するという条件で、その悪魔と契約を結ぶ。私が作った契約書には、毎月1plの血液を提供するって書いたけど、向こうはplが何のことかよく分からずに契約したみたい。流石は下級悪魔だ。ピコリットルって単位ぐらい、小学生でも知ってると思う。

 

悪魔と契約した私は、魔力を感じられるようになった。悪魔と契約したら、魔力が増えるとのことだったので、同様の手順を踏んで大量の下級悪魔と契約を結ぶ。中学2年生になるころには、実際に火の玉を出す魔法を使えるぐらいの魔力を持つようになった。その頃は、まだ火の玉一発で魔力が尽きるような魔力量だったけど。

 

それでも中二病全盛期にそんな魔法を使えるようになったのだから、もう大変だ。友人や親に見せたくなる欲を、抑えるのはとても大変だった。もしあの時に見せびらかしていたら、私の人生も大きく変わっていたのかな。

 

魔力を持つと、自然と魔力を帯びたもの、というものが分かるようになる。魔力をわずかでも持つ料理人が丹精込めて作った料理には魔力が込められていて美味しいし、黒魔術の本も、魔力を帯びているのと魔力を帯びていない本がある。魔力を帯びている方は3割本物だけど、魔力を帯びてない方は10割嘘っぱちだ。

 

そして高校に上がってからも魔人や悪魔、ちょっと気持ち悪い蟲やその他様々な生物と契約を続けていた私は、今日も黒魔術の本を求め遠方の書店にやって来た。しかし残念なことに、この店にある当たり本のほとんどは持っているようだった。……印刷された本でも魔力を帯びている=凄い術者が書いた本と認識しているけど、魔力を帯びていない本は本当に外れしかない。

 

「ん、これ……」

 

もう帰ろうかと思った時、魔力を帯びた一冊の本が目に留まった。たしか、これはまだ持っていないはず。題名は『異世界目録』という、ちょっと分厚い本だ。お値段3000円。普通の本より少し高いけど、本物なら安い。

 

早速家に帰って、1ページ目の黒魔術を行使する。内容は、異世界へ行くというもの。こりゃ試すしかないでしょ。せっかく悪魔達といっぱい契約したのに、闇火焔砲(ダークフレイムキャノン)滅炎灼砲(ヘルフレイムキャノン)を撃てるようになったのに、現代社会では何の役にも立ちはしないからね。

 

よく知らないけど最近は異世界に行って無双することが人気らしいし、同志も異世界に召喚されるのを心待ちにしていた。だが、私は思う。召喚されるのを待つよりも、自分から行った方が早いと。

 

とりあえず灰が大量に必要らしいので、火鉢用にあった灰をたくさん部屋に撒く。その上から血で魔法陣を描く必要があるので、契約している悪魔達に献血を願ってバケツ一杯分の血を確保。本を見ながら正確に魔法陣を書き写し、最後に清らかな水(蒸留水)を各所に配置して準備完了。

 

いざ魔力を流そうとしたところで、不安になってきたので念のために上級魔人を呼び出し「これ行ったらすぐ死ぬような世界につながってないよね?」と聞いたら「姫様なら大丈夫です」との返答があった。それを聞いた私は、安心して魔法陣を起動。この異世界目録には地球への帰り方とか書いてないかもしれないけど、世界を渡る方法を理解したからいつか帰れるでしょ。

 

そう思っていたら異世界目録が私の腕の中から飛び出し、勝手にペラペラとページが捲れる。やがて中央辺りで止まり、魔法陣が強い光を発光した後、私の周囲は真っ白に染まった。

 

そして次の瞬間には、森の中に居た。異世界転移成功だね。もしここが異世界じゃないとしても、テレポートの類として重宝出来そう。ただ問題は、あの黒魔術の本である異世界目録が私の手元にないこと。日本に帰るのは、当分先になりそうかな。

 

きょろきょろと周囲を見渡しても、森しか存在しない。一応、背負ったカバンには食料や着替えがある程度入っているけど……3日分しか入っていないし、それまでに街か村に辿り着かないと。いやまあカロリーメイトと水なら大量に亜空間に入っているから、食料の心配はしなくても良いんだけど。

 

私は魔法陣を魔力で描く。準備が整ったら即座に魔法陣を起動させ、両端に大きな口があるムカデみたいな蟲を召喚した。



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第1話 両頭蜈蜙

一人の可憐な少女……赤津 霞(あかつ かすみ)が召喚した巨大なムカデは、両端にある口についている巨大な牙をギチギチとすり合わせる。全長はおおよそ20メートルはあろうかという巨体で、森の木々をなぎ倒しながら召喚された。

 

そのムカデの名は霞が両頭蜈蜙と名付けているが、要するに2つの頭を持つムカデである。召喚されたムカデは片方の頭をすさまじい勢いで霞に近づけると、そのまま地面に頭をつけた。

 

「よしよし。じゃ、ちょっと乗るね」

 

ムカデの頭部には異様に大きな口があるばかりで、普通の女の子であれば近くで見ただけで失禁するレベルの恐怖を覚える。しかし霞は背伸びをして大きな口の上に手を置き撫でると、その手に力を加えてぴょんと飛び乗った。

 

ぐいっとムカデが頭を持ち上げると、地上から4メートルの高さまですぐに上昇する。そこで霞は改めてムカデの大きさに驚き、本来の姿はここまで大きくなったのかと認識した。

 

元々、この両頭蜈蜙はただのムカデである。数年前、旅行帰りの霞のカバンに入り込んでいたムカデを霞が黒魔術により改造したものであり、日頃から霞が餌を提供していたペットでもある。

 

霞の黒魔術により暴食の特性が与えられ、食べれば食べただけ大きくなるムカデは、小さくする魔術でも飼うのに限界のサイズを迎えたため、亜空間に押し込んでいた。

 

ムカデの頭に乗り、視野が広くなったことで霞の視界にはある生物が映る。

 

「虎だ!ダブちゃん倒して!」

 

黄色に黒の縦模様が入っている、巨大な牙を持つ虎のような生物。地球の虎とは姿も大きさも違う虎を見て、興奮した霞は両頭蜈蜙(ダブルヘッドセンティピード)に倒すよう命令を出す。なお名付け親である霞は、長いからと途中から愛称としてダブちゃんを使うようになった。

 

もう片方の頭で木々をへし折り、主人を守るようにしてその虎と対峙するムカデ。一方の虎は、あまりに巨大なムカデを見て早々に逃げ出そうとした。異形の怪物を見た野生動物が逃げるのは至極当然のことであり、この虎は持ち前の素早さで逃げ出そうとしたが……。

 

霞を乗せていない方の頭にある大きな口で、虎の背に噛み付くムカデ。毒を流し込まれ、一瞬で動けなくなった虎は、そのまま丸呑みにされ、ムカデの養分となった。これによりまたムカデの全長は数センチ伸び、さらに大きくなる。

 

 

 

初めて地球の生物を使い魔化したムカデのダブちゃんの上に乗って、人がいそうな方向へ移動する。遠目に炎の灯りが見えるので、それを頼りに移動。もうすぐ、異世界人に会えるのかな。

 

後ろの方では、虎も丸呑みにしたもう一つの頭が動物や樹木を食べている。バキッ、メキッ、ゴシャアという音が聞こえるけど、骨ごと噛み砕いて食べているんじゃないかな。昔は小さなネズミやゴキブリを食べるのに結構な時間をかけていたけど、今では一瞬だね。

 

ムカデの頭は、結構乗り心地が良い。人語は使い魔にした時から理解できるようになっているので、いきなり人を襲うことはないし、異世界人との会合時も安心。そう思っていたのに……。

 

「魔物だあああ!」

「サンドワームか!?なんだこのデカさは!?」

「魔法小隊を呼べ!犠牲者が出るぞ!」

 

どうやら遠目に見えた炎は軍の集結地だったらしく、現場はなぜか混乱している。こんなに可愛い見た目なのに、魔物呼ばわりは酷いね。確かに図体は大きいけど、ちゃんと言うことを聞く大人しくて良い子なのに。

 

言葉が通じているのは、契約した悪魔の力のお蔭かな。英語のテストで良い点を取るために、とある悪魔には翻訳魔法を常時使ってもらっているんだよね。こちらからの言葉も自動的に翻訳してくれるし、悪魔の力は本当に凄い。

 

「私は魔物使いですー!この子はペットなので攻撃しないでくださいー!」

「なっ、女の子が乗っているぞ!」

「魔族か!?帝国の手先か!?」

「長弓隊、揃いました」

「よし、総員あの頭を狙え!」

 

ぶわーと降って来る弓矢。飛び交う怒声。中には火の玉を出して攻撃してくる人もいるし、すごく怖い。そして私に矢が当たると思った瞬間、契約していた下級悪魔がぶわーと出て来る。あ、待って。誤解が加速する。

 

「わー!待って待って!」

 

身長50センチから60センチで小さな羽を持つ悪魔達は、槍を持って兵隊さん達に突撃を開始する。そして自分は、何匹の悪魔と契約したんだってぐらい、大量の悪魔が兵隊さん達に襲い掛かった。

 

……今は下級悪魔達だけで月に1mlの血液は消費されているから、単純計算で10億匹ぐらい?冷静になって考えたら、そのぐらいだよね?契約した悪魔達が同じ悪魔達に私との契約の話を持ち掛けるようになってから爆発的に数は増えたけど、下級悪魔って10億匹もいるの!?

 

大量の悪魔に襲われ、撤退を決断した隊長格らしき存在は、私を見てこう言った。

 

「魔王だ……魔王が前線に出たぞぉぉおお!」

 

あ、これあかんやつ。私知ってる。早急にどうにかしないと、私の指名手配書とか出そう。



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第2話 殺戮皇龍

魔王扱いとか真っ平ごめんなので、適当に誰か一人を捕まえるよう悪魔に言う。とりあえず私を魔王呼ばわりした、あの男の人で良いかな?

 

「ダブちゃん、あの男の人を捕まえて。こう……ぐるぐる巻きにして」

 

私の指示に従い、ギシャアと鳴き声なのか歯軋りなのかよく分からない音を立ててダブちゃんが隊長っぽい人を拘束する。素早いムカデの胴体で一瞬にしてぐるぐる巻きにされた隊長さんは「うーん、潰される」とか言って気絶した。え、精神力低すぎない?

 

「隊長!?」

「撤退だ!逃げるぞ!」

「魔法小隊、到着しました!総員、攻撃準備!」

 

隊長を攫われ、さらに現場が混沌とし始めた上、なんか増援部隊とかも来たので非常に面倒な状況になった。とりあえずこの人たちは、帰しちゃおう。この世界のこととか、聞き取り調査をするなら隊長1人で良いし、攻撃が鬱陶しい。

 

私は髪を1本引っこ抜いて、それに魔力を込め鍵の形に変形させる。それを下級悪魔の血で描いた魔法陣に突き刺して、契約している中では最も賢いドラゴンさんを召喚する。

 

「静寂に潜む混沌、殺戮の黎明、旅する災禍。我が魔力によって顕現せよ。マーダーエントリー!殺戮皇、キルラルド!」

 

ピカーっと魔法陣が黒く光ると、中からは大きなドラゴンが現れる。よく昔話をしてくれるけど、天使を数百人殺したらしいよ。自称だし信じてはないけど、すごーいと言ってるだけでご機嫌になる500歳ぐらいのドラゴン、それがキルラルド。

 

『契約者よ、何用だ?』

「この人達を黙らせて。殺しは無しで」

『了解した』

 

キルラルドは口に光を集めたと思ったら、それを上にぶっ放す。キルラルドが放った深淵の一撃は、眩い光の奔流となり、天高く駆け上った。周囲には凄まじい振動と衝撃波が襲い、ダブちゃんに守られた私は無事だったけど、軍の人達はみんな吹っ飛んで意識を失っていた。ついでに出て来ていた数百の下級悪魔達も蹴散らされていた。

 

……こ、殺してないよね?そう思って一人の女の子に近づくと、呼吸をしているのか僅かに胸が上下するのを確認した。生存確認、よし。じゃあ、この子も持って帰ろう。

 

隊長さんと、一人の女兵士をダブちゃんの背に乗せ、一時的にこの場から離れる。これ以上人が集まったらどうしようもないし、なんかまだまだ人が集まりそうな雰囲気だったし……。

 

それにしても、キルラルドもダブちゃんも本来の大きさで見るということが地球では無かったから実感がなかったけど、本当に大きい。キルラルドは全長20メートルのダブちゃんと、同等ぐらいのサイズ感かな。

 

ムカデとドラゴンが並走して、この世界で初めにいた場所まで戻る。ここまでの道のりは、ダブちゃんが木々をひき潰して移動していたから余裕で分かった。ここで、キルラルドが私に尋ねてくる。

 

『契約者よ、この世界は元居た世界では無いな?』

「え、分かるのそういうの?」

『契約者が元居た世界は、空気中に魔力の欠片もない世界だろう。下級悪魔など、まともに行動すら出来ないような世界ではないか』

「……あれ?じゃあ最初、下級悪魔が私と契約した理由って」

『契約を断れば、普通は送り返される。しかし契約者の召喚陣は原始的なものであり、基本的には送還出来ない仕様だったであろう?契約しなければ、間違いなく死に絶える状況だな』

「えー、そういうことは早めに知りたかったんだけど。

あ、キルラルドは元の世界に戻る方法とか知ってる?」

『……?

魔導書で転移したのであれば、その魔導書を使えば元の世界に帰れるであろう?』

 

どうやら元の世界とは、空気中の魔力濃度が桁違いらしい。だから下級悪魔も生き生きとしていたんだね。好戦的になってたし、

 

『……魔導書が必要な魔法陣起動時に、魔導書を手放すなとあれほど言ったであろう。契約者の世界に正統な黒魔術師などいないに等しいのだから、不完全なものが多いことも言ったであろう?』

「でも異世界行ってみたかったし……力使ってみたかったし……」

 

キルラルドに呆れられた眼で見つめられるけど、異世界に行った最大の目的は力を使いたかったからだ。私が数多の悪魔と契約して増やした魔力で、全力の魔法なんて使ったら日本では大事件になる。全長20メートルのムカデなんて、自衛隊が動く騒動になるだろう。

 

中学生になって、自身が選ばれた人間だと思って訓練すること早5年。面白そうな事件や騒動なんて何一つ起きなかったし、起こしてこなかった。でも異世界にちょっと出張すれば、監視の目なんてないし好き放題出来ると思った。

 

「うう……ここはどこだ」

「あ、起きた」

 

いじけていると、先に隊長の方が起きたので声をかけるとビクゥと身体を跳ねさせてこちらを見る、そしておそらくキルラルドとダブちゃんの方を見て、固まった。……外見が完全に巨悪だから仕方ないけど、一々気絶するのも面倒だね。こういうのに耐性がありそうだから隊長を攫ったのに、想定外だよ。



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第3話 下級悪魔

バーテック王国の第二軍に属する中隊長のクマランは命の危機を感じていた。蟲の化け物に拘束され、連れて来られた場所にはその蟲の化け物と思い出したくもない極太ビームを放った巨大なドラゴンがいる。そして中央には、大量のレッサーインプに囲まれた黒髪黒目の女子。

 

どこからどう見ても魔王かその手先だと思えるその少女は、レッサーインプから槍を奪い、その槍で魔法陣を描く。恐怖で動けなかったクラマンは、やがてその魔法陣からどす黒い瘴気があふれ出て、自身の身体に巻き付いてくるのを呆然と見届けるしかなかった。

 

「どう?傷とかは治ったと思うけど」

「あ、悪魔の手先め!どんな拷問だろうが私は屈しないぞ!」

 

確かに先ほどまで感じていた痛みは無くなり、傷が治ってはいたが、あまりに突然の展開過ぎてついて行けないクマラン。そんなクマランを見て霞は、どうせならと槍を構えて女兵士を抱き寄せる。

 

「動かないで。この女兵士を殺されたくなかったら、話を聞いて」

「なっ、っく……」

「まずあなたの名前は?」

「……バゼルだ」

 

霞からの質問に、クマランは偽名で答える。どうせ名前など、何を名乗っても大差ないだろうと高を括ったのだ。しかしその直後に、霞とクマランの間に魔法陣が現れ、巨大な漆黒の角を2本宿した黒い身体の悪魔が現れた。

 

「嘘を吐くなア!貴様が今、主に向かって行ったことは」

「ハイハイ。エレシオンさんは帰って帰って。またややこしくなるから」

 

畏怖を振り撒くその悪魔に、思わず震え上がるクマラン。しかしその悪魔の上半身が出切ったところで、上から霞が2本の角を持ち押さえつけ、逆に魔法陣の中へ押し込む。

 

「あるじぃい!せっかくこんなに魔力が豊潤な世界に来たのに私を出さないのかぁあああ!」

「嘘を見抜くだけの悪魔なのに現界させると魔力消費量が半端じゃない悪魔さんはお帰り下さい」

「痛い痛い痛い!角が抜けるぅう」

 

悪魔を押さえつけ、腕力で魔法陣まで押し切った霞はふぅと額の汗を拭うと、クマランの方へ向き直って話す。

 

「で、自称バゼルさんの名前は何かな?」

「クマランです」

「……本当みたいだね。この女兵士さんの名前は知ってる?」

「フィアーナです」

 

悪魔を押さえつけるという恐怖映像を見せられたクマランは、真顔になって霞の質問に答えるしかなかった。

 

「あなたはどこの国の、どこから来たの?何のために、あそこに軍が集結していたの」

「……バーテック王国の王都バッソから、北の前線に予備兵力と兵糧を運ぶためです。我が国は戦争中ですし」

 

嘘偽りのないクマランの言葉に、少し考え込む霞。全く知らない国名、自身に経験のない戦争。異世界に来たんだと改めて実感した霞は、空中に浮かぶ下級悪魔の背に乗る。肘を別の下級悪魔の背に乗せ、どうしようかなあと考える霞に対し、その姿を見てクマランは震え上がる。

 

レッサーインプは1匹だけであれば討伐推奨ランクがDランクの下から数えた方が早い魔物だが、成熟した個体であればDランクの冒険者だと勝てないことがある。成熟していないレッサーインプは身長が50センチなのに対し、成熟したレッサーインプは身長が60センチを超える。魔法を使うこともあり、無傷で勝つにはCランク相当の冒険者が必要だ。

 

そしてこのレッサーインプが群れを為した場合、Bランクの冒険者でも手に負えないことがある。そんなレッサーインプを椅子の代わりに、肘掛けの代わりに使う少女に対し、畏怖の念を抱いても仕方のないことだろう。

 

「うーん、ここは何処ですか?」

「あ、起きた。フィアーナさんこんにちは」

「ひっ!?レッサーインプ!?」

「ふーん?下級悪魔はこの世界だとレッサーインプと言うのね。……めっちゃ弱そう」

 

クマランと共に霞が連れ去った女兵士、フィアーナも目を覚まし、霞の周囲にいるレッサーインプに怯える。彼女はDランクの冒険者でもあり、レッサーインプの怖さをよく知っていた。

 

そんなに怖いかな、と思った霞はレッサーインプを一匹捕まえ、血を寄越せと言う。頭をガシリと捕まえられ、ブルブルと震えるレッサーインプは自身の持つ槍で二の腕辺りを斬り、血を霞へと献上した。

 

その血に魔力を通し、霞は魔法陣を描く。霞が何を行うのか全く分からないクマランとフィアーナはただただ恐怖で震えるばかりだったが、やがてその恐怖は無くなった。

 

大きな蟲がいる恐怖も少女の周囲に小さな悪魔が飛び交う違和感も、なぜ自身がここにいるのか、その理由すらも頭の中から抜けたのだ。ようやく普通に会話できるようになったと息を吐いた霞は、次に知っておきたかった質問を行う。

 

「異世界から人が来るって、よくあることなの?」

「昔は数年に一度のペースで来ていたそうです。ここ十数年はそういう類の話が無かったですが」

 

それは異世界から人が来ているかの確認であり、クマランの回答のお蔭で、霞は最後に異世界人が来たのは十数年前だという情報を得ることが出来た。



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第4話 異世界人

「異世界人について、知っている限り教えて」

 

隊長のクマランさんとその部下のフィアーナさんに、異世界人について聞く。どうやらこの世界には、数年に一度のペースで異世界人が来ていたらしい。数年に一度って、わりと多いね。

 

「異世界人の扱いってどんな感じ?」

「その異世界人によるとしか言えません。中には発明で巨額の富を得た者もいますし、利用されるだけ利用され、朽ちて行った異世界人もおります」

「ふーん?力を持った異世界人とかいなかったの?」

「勇者として召喚される異世界人は勇者としての力を持っていますので、勇者であれば一騎当千の力を持っています」

 

異世界人は、話を聞く限りだと3パターンある。まずは勇者として召喚される異世界人。これはどこかの小説とかでよく見るやつだね。もう1パターンは気付いたら異世界に来ているようで、自分の意思に関係なく来る異世界人。

 

最後のパターンはクマランさんが喋らなかったから私以外にいるか怪しいけど、自分の意思で異世界に来た異世界人だ。あの黒魔術の本が地球に残っていたことから、最低一人はいるはずだけど……著者はすぐに地球へ戻ったとか?これは著者の名前を、憶えておくべきだったかな。

 

聞きたい情報は大体聞けたので、クマランさんとフィアーナさんとはバイバイする。私が平常心を保つ黒魔術を使用したから平静を保っているけど、魔術の効果が切れたら発狂してそう。それにしても、勇者か……。

 

ちょっとこの国の王都まで行って、私勇者ですって言ってみようかな。勇者は凄い魔法を使える。私も凄い魔法を使える。よって勇者=私。うん、通じそう。力を見せてって言われたら、遠慮なく闇火焔砲や滅炎灼砲を撃ち込もう。

 

キルラルドとダブちゃんは送還して、亜空間から座布団を取り出す。レッサーインプ数匹にその座布団を持ってもらって、クマランさんから教えて貰った王都の方へ飛行を開始。あまり日本では空を飛んで無かったけど、座布団での空の旅は快適だし居心地が良い。

 

……いや本当、何で日本で事件とか起きてくれなかったんだろ。悪の魔法使いぐらい出てきてくれてもよかったじゃん。あと勇者として召喚されるとかさ、私の役目のように聞こえるんだけど。

 

パタパタと飛んでいるレッサーインプに頑張れーと言ってると、城郭が見えて来たので飛行を中止。レッサーインプもお片付けして、大きなバックを背負って門へ近づく。うーん、通行料とか求められたらどうしよう。

 

「身分証明書の提示をお願いします」

「異世界人なので持ってないです」

「持ってない?え?異世界人?」

「あいあむ異世界人。どぅゆーあんだすたん?」

「……少し待っていて下さい」

 

見張りの兵士さんに近づくと、身分証明書の提示を求められる。学生証ってここでも使えるのかな?一応財布が亜空間にあるけど、使える気がしないし見せなくても良いかな?

 

しばらくすると見張りの兵士さんと、偉そうな人が出てきて異世界人である証明をしろと言われた。この世界にはない……スマホで良いかな?スマホを見せると「アイフォン6か?」と聞いてきたので「11」と答える。どうやら前の異世界人は、iPhone6を持って来ていたらしい。

 

……いやおかしいでしょ。前の異世界人って十数年前だから、ガラケーの時代じゃないの?時間の流れが歪んでたりするの?十数年前を12年前とかにすると、初代iPhoneぐらいは持ってるのかな?

 

ここで考えられる可能性は大きく分けて3つ。この世界と元の世界で時空の歪みが発生しているか、裏で処分された異世界人が大量にいるか、あの隊長が単に知らなかっただけか。

 

とりあえず異世界人の証明は出来たっぽいので、入国許可証を渡される。異世界人は保護対象なんだって。昔の異世界人が力もないのに知識をひけらかして酷い目にあったそうで、その異世界人が偉くなった時にそういう法律が出来たらしい。いきなり奴隷スタートとかじゃなくてよかった。

 

「異世界人は冒険者ギルドに登録させるのが決まりだから、そこまで案内をしてやろう」

「……何その決まり。異世界人は冒険者ギルドで登録するのがお決まりだから出来たの?」

「単に冒険者として登録するのと、さっき貸した一時期金を借金として登録するからだな。国からの借金だから、国に返せよ」

 

偉そうな人に連れられて、私は冒険者ギルドに入る。さっき借りたお金は、銀貨10枚。これで10万円らしい。お金の単位が円なのは、そういうことだよね。異世界なのにお金の単位が円で、物の値段も日本と同じぐらいだから金銭感覚がそのままなのは素晴らしい。

 

……過去の異世界人も、兌換紙幣を発行する知能ぐらいはあったと思うけど、難しかったのかな。不換紙幣は、夢のまた夢だろうね。そしてこのような決まりがあるということは、この冒険者ギルドにいる人全員、私が銀貨10枚を保持していると把握している、ということ。一応、身構えておこうかな。



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第5話 追い剝ぎ

冒険者ギルドの受付には、可愛らしい女の子が居た。街中でも何人かいたけど、ケモミミ尻尾付きの獣人だ。何というか、すごく若く見えるんだけど……。

 

「こらマリン。目を離した隙に受付に行かない。

すいません、私の子供か何か粗相をしましたか?」

「いえ、別に。

お子さんを連れて職場で働いているんですね」

「ここのマスターは寛容ですので……」

「失礼ですが、旦那さんは?」

「本当に失礼ですね。2年前、ここで依頼を受けて以降帰ってきていません」

 

と思ったら、同じような猫耳尻尾付きのおばさんが出て来る。ええ……あの可愛らしい女の子が、こんなおばさんから産まれるの?

 

というか、シングルマザーなのね。まあ、人の家の事情なんか心底どうでも良いけど。とりあえず偉そうな人の仲介で、冒険者登録をしてもらう。

 

「こちらが冒険者カードになります。登録したばかりですので、ランクはGからのスタートとなります」

「ランクはGからA、そしてSという感じ?」

「その認識で大丈夫です。Gランクの内は討伐依頼を受けることが出来ませんが、昇級試験を受けてFランクになれば解禁されますよ。今すぐ受けられますか?」

「その昇級試験というのは、いつでも受けられるんですか?」

「GランクからFランクの昇級試験はいつでも大丈夫です」

 

冒険者登録をすると冒険者カードというものを貰ったけど、残高のところにキッチリ借金10万円と書かれているし、返済期限が残り100日と表示されている。あと100日で10万円の借金を返済しないといけない少女。力か頭が無いと、結構厳しいのかな?どう足掻いても生活費は必要だしね。亜空間にテントと水とカロリーメイトがあるから、当分は大丈夫なんだけど。

 

昇級試験なるものもあるそうだけど、今日は日が暮れて来たのでどこかの宿屋に泊まることにする。冒険者ギルドから出て、バックからおにぎりを取り出し、もぐもぐと食べながら街を徘徊。後ろから6人の集団が付いてきていることを確認して、路地裏に入る。

 

これは「おい姉ちゃん、持ってる有り金全部寄越しな」みたいな絡まれ方をするのかな。なんて思っていたら、背後から鉄パイプのようなものでいきなり殴られそうになる。前方からも明らかに後ろ6人の仲間っぽい2人が差し迫っているし……8人がかりで女の子1人を身包み剥がそうとするとか、異世界怖すぎない?

 

いや、10万円の回収のお仕事を8人がかりですると考えたら、1人頭1万2500円の利益が出る。十分にやる理由はあるか。借金を返せなかったら奴隷になるということを考えると、この国自体が異世界人に優しくない。

 

初撃を当てられなかった8人の男性陣のリーダーっぽい人は、無言で追撃をしてくる。この異世界、修羅の国過ぎない?普通、女の子を襲うんだから「うへへへへ、あいつを最初に犯すのは俺な?」みたいな会話をして油断しててよ。淡々と襲うとか、お仕事感出すの辞めてくれません?

 

二撃目は躱せそうにもなかったので、魔力を込めた手で受け止める。そのまま足を思いっきり引いた状態から、前方へ蹴りだした。狙いは当然、男性の急所。所謂ヤクザキックでリーダー格の男を蹲らせた後は、その男の顔面へ左フックを入れる。あ、鼻が折れたかな?

 

「ま、待て。我々はギルドマスターの依頼でお前を試したのだ」

 

リーダーっぽいイケメンが倒れ伏したので、首元を持って持ち上げ、更に追撃を加えようとしたところで、隣にいる人がギルドマスターからの依頼云々を言い出し、手が止まる。その男性の方へ振り向き、嘘は言ってないことを確認したので……再度リーダーの顔面に、右ストレートを連打する。

 

あの初撃は私が普通の人間で、かつ躱さなかったら死んでいてもおかしくないような攻撃だった。異世界人相手に、そういうことをするのが慣習になっている可能性もあるし……そもそもいきなり攻撃してきた人の言うことなんて信じる気が起きない。

 

鼻が折れ、歯が欠け、両目が腫れ上がって気絶したことを確認して路地裏の排水溝に投げ捨てる。そして次の男性を捕まえると、無意味なことに抵抗をし始めたけど、後頭部を持ち、顔面に膝キックをしたら黙った。

 

(キルラルド。拳に身体硬化魔法をお願い)

『契約者よ、我が望みは闘争であって、弱い者いじめではないぞ?あと、先ほどまで契約者自身が使ってなかったか?』

(自分で身体強化魔法と身体硬化魔法を同時に使おうとすると、手加減が難しいの。殺しちゃうの。どうせこの人達、あのギルド内では結構な上位格だろうし……となるとB~Cランクぐらいだから、弱い者いじめにはならない。それに、弱い者いじめをしに来た人に躊躇はしなくて良くない?)

『……まあ、よかろう。襲った方が悪い。一先ず、全身を隕鉄並みにしてやろう』

 

拳をすごく硬くして顔面を殴ると、殴った相手の頭蓋骨が割れる感覚を覚える。この時点で何故か撤退を始める男達。君たち、まだ6人いるじゃん。相手は女の子1人だよ?襲い掛かってきてよ。それに、この空間を切り取って歪めたから外に向かって走っても出られない。話は至極単純。この一本道は、ループします。ループさせます。逃げられません。

 

逃げられないことが分かって絶望したのか、とうとう刃物や武器を持って襲い掛かって来たけど、私の身体をめっちゃ硬くしたら剣を弾いたし、ダメージはないっぽい。で、こちらからは1人ずつ締め上げて顔面を殴り続ける。一応、殺してはないから大丈夫。

 

残り全員を気絶させるのに、結局10分もかからなかった。とりあえず財布を8つと、一番使えそうな短剣を頂戴して路地裏を抜ける。冒険者登録を行ってから、30分で、50万。この世界に来た異世界人、予想していた以上に多そうだけど、借金返済のRTAは私が1位かな。



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第6話 カツアゲ

この世界の治安の悪さに絶望し、宿屋に泊まる気が起きなかったので、亜空間魔法を使って自分を亜空間に入れる。中はテントやら漫画やら寝袋が散乱しています。着替えも散らかってるし、最近整理してなかったのが一目で分かる。

 

私は亜空間内の惨状を見て、無言で下級悪魔を召喚し片づけろと命令を出す。明日の朝は、冒険者ギルドに行ってギルド内の反応を見て、昇級試験を受けると決め、毛布に包まる。

 

……んー、抱き枕が欲しい。

 

「あー、ぷにぷにのお腹を持つロりっ子悪魔がいればなー」

『契約者よ、サキュバス達がいるではないか』

「隙あらば生やそうとしてくる人達に膝枕や抱き枕は頼みたくないよ。あと小さくなれないし。というか勝手に出てこないで」

『むう』

 

適当に羊型の悪魔を召喚して、もたれかかるように頭を預けて枕にする。別に寝具に拘る人じゃないけど、布団も持ってくれば良かったかな。寝袋はなんか寝辛いし、今日はこのまま寝てしまおう。

 

そして翌日。早朝から冒険者ギルドに行く。昨日一人残らず気絶させ、財布を奪った男性グループが居たので視線を向けると、内2名がトラウマになっているのか尋常じゃないぐらいガタガタ震え始めた。なにこれかわいい。

 

「カスミ様、ギルドマスターがお呼びです。2階中央の部屋に来てください」

「……受付嬢は日替わりなの?」

「偶数日は私、イオーネが。奇数日はリンネ様が対応しております」

「あの猫耳おばさん、リンネって名前なのね」

 

受付まで行くと、ギルドマスターからのお呼び出しが。まあ、異世界人への襲撃にギルドマスターが関わっていても関わっていなくても、昨日の件で呼び出しはあるよね。あ、その前に借金返しとこ。

 

「これ、借金の分の10万円です。あと、20万円を預けておきます」

 

8人の財布から、合計で50万円を抜き取っているのでそのうちの20万円を預けておく。借金の10万円と合わせて、受付嬢には30万円を渡した。所持金は最初の10万円を含めて60万円あったので、ちょうど半分だね。イオーネさんは、リンネさんとは違って美人さんだ。あと処女。間違いなく独身だね。

 

ちゃんと冒険者カードに20万円と表示されているのを確認してから、2階への階段を登る。廊下が前、右、左と伸びているけど、中央の部屋だから前進で良いよね?

 

失礼しまーす、と高校の職員室へ入るノリで扉を開けると、そこには長机と渋い顔のおっさんが。この人がギルドマスターか。筋肉隆々としているけど、基本悪魔はムキムキだから見慣れたな。

 

「Cランク冒険者8人のパーティー、コーデリックを返り討ちにしたのがこんな少女だとはな」

「襲うよう指示していたそうね?慰謝料を要求するわ」

「……いくら欲しい?」

「100万円」

 

とりあえず100万円を請求すると、ポンと小袋を渡された。え、何でこんなにすんなりと貰えるの?

 

「時空間に纏わる魔法を使用していたと報告を受けている。なんでも、空間をループさせたようだな?そういう魔法を、いつでも使えるのか?」

「あー、事細かく報告は受けたのね。

その質問に答える代わりに、こちらからも質問していい?」

「……何だ?」

「今までに何人の異世界人から10万円を巻き上げたの?」

 

100万円分の金貨を受け取り、1枚1枚確認をしていると、時空間に纏わる魔法を使った報告をあの冒険者パーティーから受けていたようで、要するに私に力があるからお金払った感じだね。向こうから質問もしてきたので、こちらも当然質問をする。嘘が分かるよう、エレシオンの能力も行使。

 

『あるじぃい!いい加減に現界させろおお!』

(ほぼ上位互換の、心を読むセバスが同程度の魔力で現界出来るのに、エレシオンを優先するわけないじゃん。とりあえず消費魔力をどうにかしないと、当分は使わないよ?)

「……お前で28人目だ」

「じゃ、あのパーティーから一人頭30万円を回収しようかな。ギルドマスターも含めて、9人で270万円。異世界人代表として、異世界人が受けた被害を回収しておくよ」

 

するとこの人がギルドマスターになってから、28人の異世界人が来ていることが分かった。何年で28人なのか聞くと、約10年とのことだったので年平均3人かな。異世界人多すぎ。

 

慰謝料に加えて、今までに被害にあった異世界人のお金を回収しておく。私にそんな権利はないけど、断ったらヤバイことになるとギルドマスターも認識してそう。どうやら時空間に纏わる魔法を使える人は、その時点で問答無用でAランクになれるらしいし……。

 

『あるじは何でもっと金を請求しなかったのだ?王都の冒険者ギルドなら、それこそ億単位の金を請求しても問題ないだろう?』

(ギリギリ恨みを買わない程度の金額にしたかったの。一人頭30万円なら、あの人たちの預金なら余裕で払えるでしょ。……冒険者カードに預金額が書いてあるって、色々と不味い制度だよね)

 

別にお金を急いで稼いでいるわけじゃないけど、奴隷とかもお金で買えるし、たくさんあって困るものじゃない。この世界はロリっ子がお金で売られているようなので、私好みの可愛いケモロリをたくさん買って囲っても合法なのだ。

 

性格は見た目だと分からないけど、純真で素直な子が良いな。もし買って性格が外れでも、処女の血は大量に欲しいところだから問題ない。……何で黒魔術って、処女の血を求めるのが多いんだろうね。そのせいで私も未だに処女だし。童貞は捨てたけど。




明日からは毎日18時に投稿出来るよう頑張ります。


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第7話 昇級試験

時空間に纏わる魔法を使える人は、問答無用でAランクになれるそうだけど、魔法を使えるわけではないから説明が難しい。まあ、条件(超ゆるゆる)次第では空間に歪みを発生させることが出来る、程度の説明で良いかな。

 

向こうが正直に答えてくれたので、こちらも正直に答える。エレシオンは嘘が嫌いだし、能力を借りている間は嘘をつきたくない。

 

あ、お金は合計で370万円を貰いました。全部現金でいただいたので、預金は20万円、手持ちは400万円です。奴隷の相場ってどれぐらいか分からないけど、1人ぐらいは買えそう?

 

ついでに昇級試験を受けたいと言うと、さっそく準備が行われるけど……試験監督、私が最初に殴り続けたせいで顔面が壊れたリーダー格の男じゃん。すっかり元通りになっているから、たぶん回復魔法とか使ったんだと思うけど、私と相対した瞬間に膝をブルブルと震わせて顔面蒼白になっている。どうやら精神までは回復しなかったみたい。

 

試験は攻撃、反撃をしないCランク~Dランクの冒険者に、攻撃を仕掛けて10分以内に参ったと言わせればFランクは合格らしい。随分と楽な試験だなと思っていたら、開始直後に土下座をして「参った」という男性。何この出来レース。

 

これで合格扱いしてくれるなら私はそれでも良いけど……受付嬢のイオーネさんが信じられないものを見るような視線をこちらに向けて来るし、勘弁して欲しい。その後、冒険者カードに書かれているランクがFになったことを確認。Eランクになるためには、討伐依頼を10件こなした後に昇級試験を受けないといけないとのこと。

 

この討伐依頼10件は、まとめてクリアすることも可能らしい。適当に、Fランク推奨の一角ウサギを30匹殺せば10件クリアでEランクの試験を受けられるのか。なるほど。

 

『姫様あああ!此度の遠征も大成功でございましたぞ!』

(ええ、また勝手に暴れたの?)

 

ギルドの昇級についての冊子を読んでいると、上級魔人のセバスが唐突に叫ぶ。言葉遣いは老紳士のそれなんだけど、行動は完全に脳筋という魔人で、魔界随一の実力者です。相手の心を読み取る能力もあり、私以外の命令はあまり聞かない下級悪魔達も、セバスの言うことなら聞く。

 

で、セバスはしょっちゅう下級悪魔や中級悪魔を引き連れ、魔界への侵攻をしている。そしてその度に、降した相手の悪魔を献上してくる。私が大量の下級悪魔と契約することになった一因でもあるし、たまにしっぱいしてかきゅうあくまをたいりょうにそうしつしたりするけど、きほんてきにはゆうのうだからつよくちゅういできない。エレシオンとは違って格安だし。

 

『此度の「姫様、異世界にご出立記念遠征」では、下級悪魔を3000万、中級悪魔7万、上級悪魔3人を降すことが出来ました。被害は下級悪魔が800万、中級悪魔が1万ほどです』

(ほへー。まだ容量大丈夫なの?)

『総計で月に10mlとのことでしたが、まだ半分以上容量はございますぞ。今回の上級悪魔の能力は「防爆」「吸血」「変色」です』

(吸血はこれで何十人目よ。変色持ちも被りまくってるし……今回の当たりは防爆だけ?防爆って、文字通りなら微妙過ぎるんだけど)

 

上級悪魔は、基本的に能力を持つ。だから上級悪魔を降した時にはその能力の報告もあるんだけど、今回はイマイチだったみたい。能力が乗算されることはないから、新規の能力が無ければ基本外れ。今回のように新規の能力でも、強くなければ外れ。

 

たまに「無能」とか「短命」を持っている上級悪魔もいるから、そういう時はすぐにキルラルドとかセバスに食べさせている。覚醒したら強いかもしれないけど、デメリットがある能力は基本的にいらないです。

 

お金に余裕があるし、お買い物でもしようかと外に出る。するとにわかに大通りの人達がざわついているので、早速セバスに読心させる。

 

(何かあったの?)

『これからあるそうですぞ。北の前線から、勇者が帰ってくると』

(へー。……勇者?)

『この国の王女が召喚した、勇者のようです。……ふむ、国の位置をまとめて姫様に送りますぞ』

 

セバスは顔だけ出し、私が透明化させる。セバスによると、勇者が帰って来るとかなんとか。補給部隊が壊滅的打撃を受け、補給が滞ったために一時的に攻勢が中断したらしい。そのため前線のいくつかの部隊が撤退することになった模様。

 

……いるんだ、勇者。つまんないの。

 

セバスからこの世界の大まかな地図が頭の中へ送られてくるけど、地球のヨーロッパと酷似している。このバーテック王国がフランスで、戦争中という帝国がドイツ。魔王のいる魔族領がイギリスとベネルクスだと考えれば大体現実のヨーロッパに近い。南西にスペイン、南東にイタリアっぽい国があるそうだし。

 

一際騒ぎが大きくなったと思ったら、勇者らしき人物が巨大な馬車に乗って運ばれているのを目にする。中央にいるのが勇者かな?勇者っぽい人の周囲に3人いるけど、全員女とか分かりやすいハーレムパーティーだ。



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第8話 相討ち

勇者の心情を読み取るようセバスに言うと、全くもって読み取れないとのこと。勇者としての力か何かかな?しかし周囲の女3人の心は朧気ながらも読めるそうなので、読ませる。

 

『……どうやらあの女は、勇者が魔王を倒した後、勇者を殺す算段のようです』

(どの女?)

『すぐ勇者のすぐ隣にいる、鎧を着た女性です。どうやらこの国の王女のようで、騎士でもあるようですな』

(王女で騎士?姫騎士ってわけね?その姫騎士が、勇者を利用するだけ利用して殺そうとしているのね。……あの笑顔も、勇者に寄り添う姿も、全部虚構ってわけ?)

 

勇者とパーティーを組んでそうな女性3人は、王女と盗賊と魔法使いかな?どうやら盗賊は王女の元奴隷で、魔法使いは王女の元家庭教師。そして3人とも、勇者を後ろから刺す気満々という。

 

中央の勇者は、女性に言い寄られて頬を染めてるけど、前髪が長くて目が隠れているせいで表情が読み取りにくい。んー、これ最終的に殺されるのが本当なら、可哀想ってレベルじゃないね。

 

(過去に勇者と魔王が相討ちした例があるのか、調べてみようか)

『勇者と魔王の戦いなら、広範囲を調べれば一人は引っかかるでしょう。試してみます。

……どうやら過去4回の勇者召喚があり、2回目以外は魔王と相討ちですな』

(思っていたよりも酷かった。3回目と4回目は、後ろから刺して処分したのかな?)

 

まだ詳しく調べてないけど、もう私はこの国が嫌いになりそうだよ。通貨単位が円なのも、年に数回は来る異世界人や召喚された勇者をだますためのものにしか思えなくなってきた。

 

朝から元気が無くなったけど、とりあえず奴隷を買おうか。勇者?可愛い女の子なら真実を伝えて助けていたかもだけど、別に良いかなって。魔王倒すまでチヤホヤされてて。私自身が勇者じゃなかったこと、魔王でもなさそうなことにショックを受けてるから。

 

そして奴隷のお店を探すこと約30分。無事に大きな奴隷商店を見つける。昼前に見つかって良かった。途中、露天で買った焼きそばパンもどきを頬張りながら入店。店員が常識知らずを見るような目で見て来たけど、もう少しで飲み込めるからちょっと待ってて。

 

「あの……奴隷ってここで買えるんですよね?」

「はい。低価格の奴隷であれば十数万円から購入可能ですよ」

 

まずは受付の男性に声をかけるけど、爽やかなイケメンで声が良い。しかし彼も奴隷である。この国では奴隷は首輪がついているから、一目で奴隷だと分かるようになっている。奴隷商店の受付が奴隷って、それで良いのかな。

 

十数万円で奴隷を買えるとのことだけど、十数万円で買えるのは男性の奴隷で、しかも身体のどこかに欠損がある死にかけの奴隷のみとのこと。女性の奴隷は欠損ありでも50万円はして、正常な女性の奴隷だと不細工でも100万円はする。やっぱ高い。

 

「猫の獣人族の小さい女の子であれば、幾らです?」

「幼くてもよいのであれば、200万円前後からかと」

(セバス、この人はぼったくろうとしてない?)

『していませんぞ。世間知らずにはオプションを少々高値で売るように教育されてはいますが、200万円を205万円で売るレベルに目くじらを立てる必要はないでしょう』

 

セバスに読心させると、ちょっと高値で売られそうになっていることは分かる。やっぱりセバスの力は有用だね。たまに抵抗力の強い人相手だと読めなくはなるけど、基本的には貫通するから相手の心情が手に取るように分かる。セバスは私に嘘つけないしね。

 

会話をしていると身分証明書の提示を求められたので、冒険者カードを見せると受付の男性の顔が困ったような顔になる。この人の主人が出て来るのは、預金が500万円以上ある人だけみたい。手持ちの所持金を含めても、500万円にはならないからこのまま奴隷の男に案内されることになるかな。

 

……身分証明書に残高が書いてあるから、そこの金額に応じて接客を変えるということね。この冒険者カードに預金額が書いてあるの、デメリットはあるけどメリットもあるから扱い方が難しいな。とりあえず手持ちで300万円ほどあることを伝え、受付の男を安心させる。その後、獣人族がいる部屋へと案内された。

 

予想と反して、売られる奴隷は檻には入ってなかった。大きな窓のある小部屋で寝転んでいたり食事を食べたりと、思っていたよりも悪い扱いは受けてない。中には泣いている子とかもいたし、部屋の隅っこで蹲っている子とかもいたけど。

 

値段は部屋の前に書いてあって、大体15歳から16歳の巨乳な子が高い値段になってるね。400万とか500万とか。このシステムだと、ぼったくりは難しいかな。獣人族の子は短命で安いらしいけど、最高値が15歳から16歳って……。

 

そう思っていると、これより高い奴隷は別の通路に置かれているそうで、そっちの案内が主人担当らしい。となるとこの辺には少ない17歳から19歳辺りが最高値かな。11歳から14歳までの子は、15歳から16歳までと比べると少し安いけどそれでも高い。

 

一方で、私が求める8歳から10歳ぐらいの子はそこそこ安かった。可愛い猫耳尻尾付きが、お値段なんと250万円。買うしかないでしょ。いくつかの部屋を回って、リアマリアちゃんを240万円で購入。銀色のロングヘアーに、ちょこんと飛び出ている猫耳が可愛い。顔も可愛い。ぽっぺたをツンツンしたくなる。

 

リアマリアちゃんは、私に買われてなんかホッとしていた。男の人に買われたら、どういう扱いを受けるのかは知っているらしい。短命の種族だけあって、精神は早熟なのかな。身長は140センチ程度で、9歳にしては大きめ?私が158センチだから、頭半分ぐらい下だね。



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第9話 契約

可愛いリアマリアちゃんを買うと決め、いよいよ契約のお時間です。首輪に契約の魔法陣が込められているので解析すると、私の知ってる悪魔と使い魔契約を結ぶ魔法陣と酷似しているところもある。

 

主人への攻撃禁止、逃走禁止、命令違反禁止と、その他諸々の条件を盛り込んでいるので魔法陣は大きいし、契約書が分厚い。それでも騙されないようにするため、契約書は隅から隅まで読み込む。このことは、お父さん(真人間)から教わったことだ。サラリーマンで他社との契約書を作成、他社からの契約書をチェックする立場にいたお父さんは、契約について本当に口煩かった。

 

特に責任の所在がどこにあるのかを明記されてないと、後々に問題になるという。例えば今回の契約で、奴隷が主人の命令なく殺人や強姦などの犯罪をした場合、購入後半年までは店側に8割の責任があるらしい。半年後は店側の責任が2割になり、1年後には主人が全責任を負うことになるとか。

 

……要するに慰謝料とかは、主人が払わないといけないよってことだね。罪自体は犯罪をした奴隷本人が背負うけど、弁償とかする場合は、購入後1年までは店側の懐からも出るということ。他にも色々と細かな規定があるので、質問を繰り返していたら日が暮れて来た。

 

最終的に、全部を読み込んで問題ないと判断したので無事契約。これでリアマリアちゃんは私のものになった。これからリアマリアちゃんをどう扱おうが、私の勝手ということだね。いきなり「私の尻を舐めなさい」と命令しても何の問題もない。

 

店を出て、人目のつかない場所へ移動し、一旦リアマリアちゃんを亜空間の中へ入れる。私の亜空間は、世界一安全な場所だからね。昨日ボコった冒険者達や、その他様々な刺客が私を狙って来る可能性はあるから、大事なものはしまっておく。これ大事。

 

 

 

霞に買われたリアマリアは、自己紹介もそこそこに手をつながれ、路地裏まで案内される。そこで霞が腕を縦に振り下ろすと、空間に裂け目が出来、中から瘴気のようなものが漏れ出した。

 

「じゃ、しばらくはこの中に入ってて。安全そうな宿屋が見つかったら出すから、それまでのんびりしてていいよ」

 

霞が安全そうな宿屋を探すと言うが、そもそもここは王都であり、治安は基本的に良く、宿はどこも安全である。瘴気の漏れ出す亜空間よりは、外の方がよっぽど安全なように思えるが、そもそも亜空間を生み出せる霞に驚いているリアマリアはそこまで思考することが出来ない。

 

霞に背中を押され、入れられようとする亜空間の中から、ひょっこりと下級悪魔が数匹、顔を覗かせる。レッサーインプが何匹もいることを目にしたリアマリアは顔を強張らせ、小さく「ひっ!?」という悲鳴を出し、そのまま霞に亜空間の中へ押し込まれた。

 

すぐに後ろを振り返るが、既に入って来た道はなく、レッサーインプ達に囲まれるリアマリア。翻訳魔法を受けていないため、彼女には周囲の悪魔達の言葉が通じず「ギャギャギャ」「グシシシャヒ」というおぞましい鳴き声にしか聞こえない。「姫様のペットだ」「丁重にお迎えしなくては」などという会話をしているとは、夢にも思わないだろう。

 

思わず目を瞑り、両手で耳を塞ぐリアマリア。そのまま座り込み、殺すなら殺せと言わんばかりに丸まる。しかしレッサーインプ達はそんなリアマリアを不思議そうに見つめた後、もてなすためにお茶を入れ、椅子に座布団を敷く。

 

最終的に、自身に危害を加えるつもりがないと判断したリアマリアは、レッサーインプ達に促されるまま椅子へと座る。霞にお茶入れを仕込まれたレッサーインプの出すお茶は美味しく、リアマリアの精神を落ちつけた。

 

その直後、亜空間の中にどす黒い魔法陣が描かれ、そこから青白い肌をした鬼が現れる。2つの角と3つの目が特徴的であり、背丈は3メートル近くある。そのあまりの巨体と恐ろしさから、リアマリアは失禁した。

 

霞のお気に入りのクッションが汚れたことで、頭を抱える下級悪魔達。身震いし、目の焦点が合っていないまま死を覚悟した少女。そんな有様を見て、青い鬼はそっと少女の頭に手を乗せる。恐怖のあまり、リアマリアはビクンと身体を跳ねさせるが、直後に何か、気味の悪い物が流れ込む感覚を覚える。

 

「これで、我々の言葉は通じるか?あまり怖がらなくても良い。ここにいるのは、全て霞様の僕だ」

「カスミ様の、僕……?」

「貴様と同じようなものだと思ってもらっても良い。それと、一々異形の怪物が出たぐらいでお漏らしをしていると、身体が持たんぞ?」

 

それは翻訳魔法であり、リアマリアは青い鬼と会話が出来るようになった。ついでに下級悪魔達とも意思の疎通が出来るようになり「クッションの洗濯をするから早く立て」「お茶の飲み過ぎだ」という言葉を話していると分かるようになる。

 

そして自分を買った主人が、この辺にいる悪魔全員を僕にしているということを理解し、リアマリアの身体は硬直した。



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第10話 お風呂文化

リアマリアちゃんを購入して亜空間の中へしまうと、もうそろそろ夜という時間帯。早く宿を探さないといけないけど、今日はお風呂に入りたい。流石に年頃の女の子が、二日続けてお風呂に入らないのはあり得ないからね。

 

というわけで、お風呂がある部屋が空いていた宿屋に泊まる。お値段は食事代抜きで1万5千円と高め。お風呂文化は、異世界人の誰かが持ち込んでいたんだろうね。しかしまあ、随分と技術がちぐはぐだ。年に数人レベルで日本から人が来ているなら、蒸気機関とかも出来ていておかしくはないはずだけど……そういえば、言葉は日本語じゃなかったか。

 

あれ?となると私以外の日本人って難易度ルナティックってレベルじゃないぐらい高難易度の異世界じゃない?会話すらできないだろうし。どうやって切り抜けているんだろ?まだまだ、分からないことだらけだ。

 

亜空間からリアマリアちゃんを取り出すと、凄く放心している。翻訳魔法を使ってくれる青鬼のラウゴールさんが接触したみたいだけど、怖かったのかな?ラウゴールさん、怖いのは見た目だけで、凄く優しい人なんだけどね。魔界で草花を育てる変わり者だし。

 

「あ、あの……私はどうなるんでしょうか?」

「え?私に愛でられる……愛人?

あ、そうだ。獣人族って短命だよね?」

「えっと、はい。平均寿命は40歳前後です」

「反転させるからちょっと待ってね。危ないからその場から動かないで」

 

凄く不安そうに私を見つめて来るリアマリアちゃんだけど、可愛がる以外には何もしないつもりだよ。とりあえず短命なのはどうにかしたいから「反転」の特性を持つ最上級悪魔のニキシエルを召喚。短命を反転させて、長命の特性にしてしまおう。

 

黒い羊の角みたいなのが、4本ある口裂け男のような悪魔のニキシエルを呼び出す。この時点でリアマリアちゃんは硬直した。流石に最上級悪魔だけあって外見は怖いよね。でも悪魔にしては珍しく筋肉隆々ではないのでスラっとした体格だ。身長は2メートルぐらいあるけど。

 

「お呼びでしょうか?」

「この子の短命のマイナス特性を反転させて。あと他にマイナス特性があるなら、全部反転しておいて」

「了解しました」

 

仕事だけして帰るタイプのニキシエルは、リアマリアちゃんの胸に手を置く。あとで私が揉む予定なので、あまり接触して欲しくないけどこれは仕方ない。そのままずぶずぶと胸の中へ手を沈めこませ、何やら魔力のようなものを流し込む。あれ、痛くないけどひたすら気持ち悪い感覚になるんだよね。そして身動き禁止という。下手したら死ぬから仕方ないけど。

 

リアマリアちゃんは、なんか目から涙がボロボロ出てる。現実に思考が追い付いていないっぽい。そしてしばらくすると「短命」を「長命」に、「重症化」を「軽症化」に、「鈍足」を「俊足」に反転させたとの報告を受ける。「重症化」は怪我を負ったり病気になった時、文字通り重症化しやすいタイプの人ってことだから、それが転じてプラス特性になったのは大きい。俊足に関しては説明するまでもないね。リアマリアちゃん、足が遅い子だったんだ。そりゃ安くなるはずだよ。

 

ニキシエルが帰った後、リアマリアちゃんから掠れた震えた声で「何をされたんです……?」と聞いてきたので「寿命を40歳から400歳ぐらいに延ばした」と言ったら悪魔を見るような目で私を見て来た。いや私は悪魔じゃないんだけど。悪魔といっぱい契約をした、ただの人間だよ。一時は自分が選ばれた人間だと思っていたけど、今はもうあまりそういうことは思わなくなってきたかな。でも黒魔術は使う。めっちゃ便利だし。

 

せっかくお風呂付の部屋に泊まるので、リアマリアちゃんの改造が終わった後はリアマリアちゃんの服を脱がす。スラっとしているというよりかは、栄養不足で肉付きが悪いかな。顔はモチっとしているのに、ちょっとガリガリで痩せすぎている。

 

それでも若干胸が出ているので、将来的にはふくよかな双丘に育ちそう。私は胸に関しては貧相だからね。ニキシエルに「貧乳」を「巨乳」にしてくれと何度も頼みこんだのに、いつも出来ないと言って断って来る。これはマイナス特性ではないと言うのか。私にとっては十分にマイナス特性だよ。

 

ひょいと抱きしめて持ち上げると、かなり軽い。体重は30キロもないかな。尻尾は尾てい骨の先端から飛び出している感じで、触覚はあるのかと握るとビクンと身体を跳ねさせる。エロい意味で跳ねたんじゃなくて、単純に尻尾を握られると痛いらしい。ごめん。

 

ピコピコ動く可愛らしい猫耳は、髪色と同じく銀色だ。いや、銀色というよりは鼠色というか、灰色?ロングヘアーはちゃんと手入れされているようで、商店側が酷い扱いをしていないということが分かる。次の奴隷を購入するときも、あそこで買おうかな。

 

契約の魔法陣が込められた首輪は、今は闇で覆って不可視にしている。後で超小型化して身体へ埋め込むつもり。今のところ無害っぽいけど、私への信用はあの化け物を見るような目を見るに、0に近いだろうから外せない。今も入浴しながら後ろから抱きしめて肌を密着させているだけで、肉食動物に捕食された草食動物のような目をしているし、元気になるまで少し時間がかかりそう。



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第11話 食文化

リアマリアちゃんとの入浴を楽しんだ後は、この世界の食事を食べることにする。今までは手持ちの食料だけで過ごしてきたけど、やっぱりこの世界のご飯を食べれるようにならないといつか飢え死にしてしまうし、リアマリアちゃんもお腹を空かせ始めた。

 

なので、この宿屋で夕食を食べる。お値段は1食1000円也。なおメニューなどはなく、宿屋に泊まった客の中で夕食希望を出した人全員に同じ料理が配膳される。

 

リアマリアちゃんにも同じものを出してもらったけど、当のリアマリアちゃんは「食べても良いんですか?」と聞いてきたので「いっぱい食べて大きくなってね」と返す。そしたら泣き始めながら食べ始めたんだけど、この子の食生活、今までよっぽど悪かったのかな?

 

『いえ、違いますぞ。悪魔への生贄として、捧げられるために育てられている、と勘違いしていますな』

(ええ……悪魔に捧げる用なら短命を長命にしたりしないんだけど。あれ魔力消費量結構激しいし)

 

出て来た料理は、米と味噌汁と大きなセパレートタイプのお皿に乗った鮭っぽい魚にタルタルソースがかかっているもの。セパレートタイプのお皿には他にもキャベツの千切り、唐揚げ、きんぴらごぼう的なサムシングがあり、ここは本当に異世界かと疑ってしまいそうなラインナップの料理だ。

 

鮭っぽい魚は、実際に食べてみると鮭のような、それに近い種の魚であり、タルタルソースのコク旨な味わいが見事にマッチしている。そしてこのタルタルソースはキャベツの千切りにもあうし、唐揚げにもあう。白いご飯が進むよ。

 

味噌汁は、赤だしタイプの味噌汁で中の豆腐が美味しい。いや本当に、先人達のお蔭で快適な異世界ライフを送れている。それにしては技術が進んでないけど。魔法のせいなのかな。

 

風呂に入り、ご飯を食べた後はベッドに入る。ダブルサイズのベッドなので、女の子2人だと広々としているね。ぬくぬくしているリアマリアちゃんを後ろから抱きしめながら、私も横になる。

 

「生贄になんてしないからね。私のペットとして、良い子に育ってね」

「ふぇええ……」

 

にっこりと微笑みかけると、小刻みに震えるリアマリアちゃん。私はそんなに怖いのだろうか。別に今は眼帯も付けてないし、包帯も巻いてないから普通だと思うんだけど。

 

でも結局、眠気には勝てずにすぐに寝てしまうリアマリアちゃん。超可愛い。さて。今日は寝れなそうだし、不定期例会でもやろうかな。

 

日常用ではなく、小奇麗な方の亜空間への門を開いて、契約している悪魔達を呼び出す。そろそろこの世界での行動方針とか、話しておいた方が良いよね。主要な悪魔と魔人、それから龍や蟲を呼び出して、1つの大きな机を囲む。……傍から見れば、魑魅魍魎の化け物達に混ざる1人の少女って絵面だね。

 

「……あれ、淫魔女王が来ないんだけど」

「あやつなら拗ねて城に引きこもっておるぞ」

「ええ……何でそんな面倒なことするかなあ」

 

この場に居ない淫魔の女王であるアリミルスさんは、何か城に引きこもっている模様。あと数名が居ないけど、寝てるか戦闘中か命令無視だね。魔界って悪人の死者の魂が集う場所で、常に殺し合っているような環境だから仕方ないけど。

 

「姫様、それは違いますぞ。魔界に悪魔として転生する人間の魂の基準は、善人以外ですからな」

「セバスはそろそろ心読むの止めてくれない?」

「聞こえてしまうものを聞かないようにするのは難しいと、何度もお伝えしているではありませんか」

 

善人以外……人間の95%はこの魔界に下級悪魔として転生する。そこで殺し合いをして、死んだら人間に再転生するけど、死ななかった場合は格が上がって行き、共食いをすることによってどんどん強くなる。

 

まれに人のまま魔界へ転生する人もいるそうだけど、そういう類の人は大抵数日で死ぬ。しかし死ななかった極一握りの人は、悪魔を食らって魔人になる。セバスなんかはその最たる例だけど、読心の能力は人の頃から持ってたみたい。

 

キルラルドやエレシオンもいるし、主要面子はわりといるかな。さてと、まずはこの議題からだね。

 

「じゃあまず最初に聞くけど、日本に戻る手立ては何かある?」

「現状、契約者が日本へ戻るにはあの魔導書を見つけないと難しいだろう。魔界を経由して戻るのは、ほぼ不可能だろうしな」

 

日本に帰れるか否か。日本にすぐ帰ることが出来るなら、リアマリアちゃんとかを持ち帰って向こうで生活したい。でもキルラルドの言うように、例の魔導書が無ければ難しいと思う。そもそも勝手に魔導書のページが捲れた時、私は開いたページの内容をよく見ることが出来なかったからね。

 

あれがあれば話は全然違うんだけど、手元にない以上はあそこに置いてきたとしか思えない。もしかしたら誰かがまた、あの本を使ってこちら側の世界に来るかもしれないけど……望みは薄いかな。魔力は結構消費したというか、普通の人間100万人分ぐらいの魔力は使ってる。あれ?あの本を書いた人間は、魔力が私以上にあった可能性ががが。

 

「じゃ、次。リアマリアちゃんと仲良くなる方法!」

「……あるじが優しく接していれば大丈夫であろう。あの子は嘘をつかん」

「本当?」

「我は嘘を吐かんと何度言えば良いのだ?」

 

そして次の議題に、ため息を吐きながらエレシオンが答える。そっか。あの子は嘘を言わないタイプの人間か。いや、獣人と言った方が良いのかな?きっと、魔界には行かない5%側の獣人なんだろうね。



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第12話 今後の目標

「じゃあ今後の目標としては『この世界に来た異世界人に片っ端から会って情報を集め、リアマリアちゃんを始めとする可愛いロリ獣人達を連れて日本に帰る』ってことで良いね?」

 

不定期例会で、最終的な目標を決定する。欲望丸出しだとか、最初から出来レースだったとか考えてはいけない。契約した悪魔や眷属に私の目標を伝えるのは大事なことだしね。

 

さて、この世界には異世界人が大量に来ている。そしてその異世界人の中で、自分から居場所を明かしている人達がいる。まずは、情報を集めるためにそこへ行こう。

 

異世界生活3日目。朝になってリアマリアちゃんが起きると、私を見て怯えながらも「おはようございます、カスミ様」と言ってくれる。仰々しく頭を下げているけど、内心は恐怖でいっぱいなんだろうなあ。それもそれでちょっと可愛く思えて来た。

 

地図を購入し、異世界人達がいる具体的な場所を探す。この前に露天で買った焼きそばパンもどきは、「異世界スローライフ村」の名物らしい。要するにこの世界には「異世界スローライフ村」という名前の村があり、そこには間違いなく異世界人が住んでいるはず。もしかしたら住んでいるのは異世界人の子孫たちかもしれないけど、それでも何人かは訪れていると思いたい。

 

そして場所を探すと、王都から南に徒歩で3日ほど行ったところにある街から、更に徒歩で半日ぐらいの距離に「異世界スローライフ村」があると判明。長いから異世界村で良いや。そこへ行って、どうやって異世界に来たのか聞き出そう。勇者に関しては王国が召喚していると判明したけど、その他の人がどうやってこの異世界に来ているかまでは分からない。もしかしたら、そこに日本へ帰るヒントがあるかもしれない。

 

まずは隣町まで移動するわけだけど、急いでいるのに歩きで3日の距離を馬鹿真面目に歩くほど私はのんびりした人間ではない。キルラルドを召喚して、リアマリアちゃんを抱きかかえながらキルラルドの背に乗る。キルラルドの姿も、私とリアマリアちゃんの姿も目視出来ないようにしたため、騒ぎになることはない。

 

『契約者よ、我をタクシー扱いは止めてほしいのだが』

「そうは言っても、キルラルドが一番速そうだし乗りやすそうなんだからしょうがないじゃん。ほら、もう街が見えて来た」

「あぶぶぶぶぶぶぶ」

「リアマリアちゃんはそろそろ慣れよ?早くSAN値を0にして、悪魔とかドラゴンを見ても何とも思わない程度にはなろうね?」

 

歩いて3日の距離を、2時間程度で走破するキルラルド。そのまま異世界村まで向かおうとも思ったけど、行く前にこの街で情報収集だ。いきなり行って良い村なのかは、ここで確認するのが最適だと思う。

 

というわけで冒険者ギルドに寄る。まだピカピカのFランクカードを見せびらかし、異世界スローライフ村について聞いた。

 

「ここの村は、異世界人の村なの?」

「ええ、そうよ。ほぼ異世界人だけで構成されている村で、ここまでよく作物を売りに来るわ」

「私が行っても大丈夫かな?」

「うーん、大丈夫だとは思うけど、男の人ばかりだから女の子2人じゃ危ないかもよ?」

「へえ。男の人ばっかなんだ」

 

受付の女性は、普通に質問への受け答えをしてくれるけど、嘘は言ってないね。……セバスがまた遠征を始めたから、エレシオンの嘘を見抜く力しか使えないの辛い。というかセバスはセバスで戦闘狂過ぎない?エレシオンとは違って格安で契約しているから別に良いんだけど。

 

「出来たのは何年前なの?」

「5年ぐらい前かしら?」

「ふーん?随分と最近ね」

「ええ。最近出来た村だから、新規の村人になるつもりなら歓迎されるかもね」

「それはないかな。あ、リアマリアちゃんの冒険者登録をお願いします」

「はい。Fランクへの昇級試験は受けさせますか?」

「受けさせます」

 

異世界スローライフ村の情報を集めつつ、リアマリアちゃんの冒険者登録も済ませる。ついでにリアマリアちゃんにFランクの昇級試験を受けさせたけど、対戦相手がDランクの冒険者だった。その冒険者相手に、鈍足から俊足になったリアマリアちゃんは自身の動きに翻弄され、開始後5分までは全く攻撃が当たらない。

 

しかし攻撃が当たるようになると、スピードが速いからかすぐにDランクの冒険者は参ったと言う。うん、あの素早さで剣を当てられると痛そうだね。

 

ちなみに試験終了後、リアマリアちゃんから「私の身体に何をしましたか?」と質問が来たので「身体改造手術」と答えると膝から崩れ落ちてガックリとしていた。いやまだ悪魔にしたり手と足を増やしたり、目や耳を増やしたりしてないじゃないか。そんなに怖がる必要ある?

 

2人のFランク冒険者は、足を揃えて異世界スローライフ村へと向かう。散々なネーミングセンスだけど、異世界人がそこにいることを周囲に向かって発信するのが目的であれば、効果的な名前であることは間違いない。



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第13話 異世界スローライフ村

異世界村に着くと、1人の男性が出迎えてくれる。

 

「お、女の子だ!?それも2人!?レベルたかっ!?

ねえ!異世界人だよね!?」

「ええ。私は異世界人です。こっちは現地民ですけど」

 

出迎えてくれた男性は、上川 庸介(かみかわ ようすけ)さん。この世界に来たのは19歳の時で、今は24歳だそうだ。この村の村長らしく、客人が来たらテンションが上がるらしい。いや、この感じだと女の子が来たということにテンションが上がっているのかな?

 

「なんもないところだけど、どうぞ」

「はい。お邪魔します」

 

上川さんのご自宅へ上がらせてもらうと、本当に何もない掘っ立て小屋みたいなところだった。その掘っ立て小屋の入り口には鍬や鎌が立てかけてあり、農業をしているんだなあということがよく分かる。

 

「あの……どうしてこの世界の言葉をしゃべれるんですか?」

「え?神様が異世界語を話せるようにしてくれたからじゃないの?」

「……神様?」

「トラックに轢かれた後、神様に会わなかったの?」

「あ、ああ。会いましたよ。でもあれ神様というより女神様じゃないですか?」

「うーん、神様の姿形は人によっても違うらしいけど、女神様かなあ?」

 

どうやら上川さんや、他にこの村に住んでいる異世界人は全員神様に会っているらしい。トラックに轢かれて神様と会って、この世界に転移したとか。なんかそういう話は聞いたことがあるかな。実際にあるとは思ってもいなかったけど。

 

そして上川さんは、異世界で農業をやりたいと願ったそうだ。そんな上川さんの願いを聞き入れ、神様は『絶対に壊れない農具一式』『色んな農作物の種』『絶対に枯れない井戸と拠点になる小屋』の3つをくれたらしい。結構手厚いサービスというか、これに加えて異世界語を話せるようにしてもらっているんだから随分と贅沢な話だね。

 

「でさ、初めて農業をやったんだけどさ、全然育たなかったんだよね」

「……は?」

「いや聞いて!大きくなる前に葉が黒ずんでどうしようもなくなったんだよ!肥料とか堆肥が良いことは知ってたけど、具体的にどんな成分が良いのか全く知識がなかったし……」

 

しかしこの上川さんや、その他の似たような願いをした村人たちは、思い通りの異世界スローライフ生活が過ごせなかった模様。農家って、きつい汚い危険の3kなお仕事だとは思っていたけど、この人達はそのことを覚悟で農家になったのでは……?

 

日本でも、病害で収入が0になったり台風のせいですべてが吹き飛んだりはするはず。そういう時のために保険とか様々なシステムがあるんだけど、ここは異世界だからそういうのは無いのかな。普通に考えれば異世界で農業をするのは日本でするよりキツイことが、ちょっと考えれば分かるよね?私でも分かったんだから、転移時に私より2歳も年上だったこの人が気付かないとは思いたくないなあ。

 

そして会話を続けるうちに、この人は肥料も要らず、種を植えて適当に水をやれば美味しい作物が出来る、そんな農業をしたいのだと分かった。だからダイレクトにそのことを聞いてみたら、既にそういう植物を願った村人がいるようで……その時は異世界の植生が変わってしまうから駄目だと言われたらしい。当たり前の話だね。どんな影響が出るかは、少し考えるだけで分かる。

 

あとこの異世界村には戦闘系の能力を願って、実際に戦闘してみて想像とは違ったから農業をやってる人とか、討伐依頼中に大怪我をした異世界人が住み着いている模様。この人達に共通しているのは、神様に会っているということ。その神様から、何らかの恩恵は受けていることの2点かな。

 

『随分と悪趣味な神様だ。恨まれないように恩恵は与えているが、上手く行かないことを見越しての恩恵であろう?』

(高まった本人のハードルからすれば、随分と低い恩恵っぽいね。そもそも何でそんなに期待してたのって話だけど)

 

キルラルドが悪趣味な神様と言うけど、絶対に枯れない井戸とか超便利じゃない?いやこれ、定住させる気満々なのか。そして周囲の村人も全員絶対枯れない井戸を持っているから、そんなに価値は無いという。絶対に壊れない農具も、使用範囲内での活用をしていれば絶対壊れないだけで、戦闘に使ったら壊れるとのこと。

 

(キルラルドには、どう見える?)

『物質硬化魔法、500年分といったところか。普通に使うだけであればこの者の一生どころか子孫代々使えそうな代物だ。しかし剣を受け止めたり、岩を斬ろうとする度に耐久力はガタ落ちするであろう』

 

種の方も、5年で尽きた模様。来年からは、今年の作物から得られる種で育てないとね。でも5年もやっていると、素人なりに農業が分かって来たらしく、今年は何とかなりそうとのこと。来年以降、台風や地震や火事や魔物や異世界人が襲わないと良いね。




緑色になっても青色になっても書き続ける予定ですが、低評価を入れるついでになろうの方で星1つでも評価して下さると作者としては嬉しいです。


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第14話 天界

異世界スローライフ村にて、神について色々と聞いて回ったけど、最大の情報は「転移者は皆、最後は落下してこの世界に来た」ということだ。どうやら真下に黒い穴が空き、一瞬で意識を失って、気が付けば家の前に落ちていたとのこと。

 

そしてこうやって質問をしている時点で、私が神様に転移させられた存在じゃないとバレたので勝手に転移してた人になっとく。

 

(自分で黒魔術を行使して世界を渡りましたって、馬鹿正直に言うほど馬鹿じゃないよ)

『帰り方を把握せずに世界を渡るのは馬鹿のすることであろう?』

(ぐっはぁ)

『……まあよい。

神であれば世界を渡らせることが出来る、その神は恐らく天界にいるという2点の確認が取れたのだ。十分な収穫であろう』

(元から何となくわかっていたことではあるけどね。キルラルドは1回天界まで行ったことがあるんでしょ?)

『天使達が残した道を使って、だがな。しかもその後、何もできずに強制送還されたぞ』

 

キルラルドが声をかけてくるけど、このドラゴン暇なの?他の人は自身の領土の拡張だの配下を増やすだのやることやってるのに、このお爺ちゃんドラゴンはずっと私のことを監視しているような気が。隠居した皇龍って、みんなこうなのかな?

 

(……神を降せば、自由に世界を渡れそうだね)

『神が何体いるか分からんが、性格的に願いを聞いて貰えるとは思えんな』

(絶対苦労している異世界人を見てゲラゲラ笑っているタイプだよ。邪神か悪魔かな?)

『おそらく……闘争のない天界は暇なんじゃろ。暇潰しには最適ではないか。そういうの』

 

異世界スローライフ村は、異世界人達が集まって村になっている。最近はまともに収穫できる量も増えたようだし、売ってお金を稼ぐことも出来たらしい。村全体で、去年の収入は500万ぐらいだと言っていた。ということは、1人頭25万円ぐらい?1年働いてそれって、相当厳しいような。

 

「厳しいってものじゃないさ。税金で1人10万円を取られるからね」

「あ、この国そういう税金あったんだ」

「……ん?まだ国民登録をしてないの!?悪いこと言わないから、早く手続きは済ませた方が良いよ」

 

上川さんによると、この国は国民の登録に10万円のお金が必要らしく、更に職業により毎年10万円以上の税金を納めないといけない。そういえばリアマリアちゃんを買った時に、奴隷は1人20万円みたいなことが書いてあった。今年の分は払っていると書いてあったから、スルーしていたけど、来年以降は払わないといけないのかな。

 

というか毎年10万円を持って行かれるなら、1人頭15万円?それって、日常生活に必要なものを買ったらほとんど手元に残らなさそう。農家って世知辛いね。この世界、農業に従事している人が多そうだし、豊作貧乏の対策とかされてないと思う。

 

……蓄え0のこの人達は、不況が襲ったらどうするんだろう?まだ20歳~25歳の男の人が多いから何とかなりそうな感じだけど、十数年後は悲惨でしょ。それまでに、可愛いチートな女の子が嫁ぎに来れば良いね。私?私は可愛いチートな女の子を孕ませる側だが?嫁を複数人囲う気満々だが?

 

ぞろぞろと男の人が集まってきて、貞操の危機を感じたので異世界村を出る。尾行してきている人がいたので、空間を切り取って村の反対側に送ってあげた。たぶん今頃、ホラー体験をしたと大騒ぎしてるはず。……ボコってお金を巻き上げるのは、あの人達相手だと何か可哀想だよ。

 

帰りはダブちゃんを召喚して、ちょっと迂回気味に付近の街まで戻る。透明化してもなぎ倒される木々のせいで、何かヤバイ魔物が通ったって後日騒がれそうだね。リアマリアちゃんは、ダブちゃんを見た瞬間に気絶しました。まあムカデを元にした二つ口の巨大な蟲だから、女の子にはちょっと厳しいかも。

 

「ほらリアマリアちゃん、起きて」

「うーん……はっ!?なんかいま、凄い魔物が……」

「今、その凄い魔物の背中に乗ってるから落ちないようにね。ムカデの背中、思っていたよりも柔らかいでしょ?」

「……嫌あああああああぁァァァ!!」

 

一度起きたと思ったら、叫び声をあげてまた気絶するリアマリアちゃん。座ったまま気絶するって、器用なことするね。地味にダブちゃんが傷付いているし、リアマリアちゃんの蟲嫌いは何とかしなくちゃ。

 

……と言っても、蟲で囲んだらショック死があり得るレベルなのでアラクネのアーさんぐらいから慣れさせよう。あの人、ほぼ丸一日寝ているような人だから扱いが難しいけど、悪魔にしては優しいから初対面でも何とかなりそう。街に着いたら、リアマリアちゃんを背負って宿屋へと泊まる。この宿屋もお風呂があるから、相当お風呂文化は浸透しているね。お風呂好きの私からすると、本当にありがたいことだよ。



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第15話 討伐依頼

異世界生活4日目になり、今日は冒険者ギルドで討伐依頼でも受けてみる。異世界人達が、大体Dランク辺りで挫折している理由も気になるし。

 

と、その前に国民登録をしなくちゃいけないんだった。冒険者カードは身分証明書ではあるけど、国民であることへの証明書では無いからね。国民じゃないと、例えば冒険者ギルドで素材を売る時とかに若干のマイナス査定が入る、家を買うことが出来ない、その他諸々の不利を受けるので、登録しておいた方が良い。

 

そして冒険者の毎年の税金は、税金を納めるタイミングのランクによって変わるらしい。Gランクは最低額の10万円だけど、Fランクは20万円だった。その後はどんどん10万円ずつ上がって行って、Bランクで60万円。Aランクは80万円でSランクは100万円とのこと。累進課税っぽい制度になっているけど、これ一番キツイのはBランクからCランク辺りかな?この世界、冒険者ギルドの報酬が大して高くない。

 

私の場合は、Fランクの冒険者だから20万円だね。奴隷は基本20万円だけど、冒険者登録をして冒険者のランクが高くなるとそちらの方で払わないといけない。

 

ちなみに冒険者ギルドの報酬の3割も国へ持って行かれます。国民登録をしていないと5割。もはやぼったくりというレベルじゃない。この掲示板に張り出されている依頼書に書いてある報酬、国民じゃないなら半分は持って行かれると考えると……生活が苦しい。

 

最悪の場合、金貨は叩けば増やせるけど、経済にどこまで影響があるか分からないから大人しく依頼を受けよう。Fランクで主流なのは一角ウサギを3匹、殺して丸々持ってくる依頼。3匹で1万円。3割引かれることを考えると7千円。日給7千円とか格安の宿にしか泊まれないんですけど。

 

しかし他の依頼も似たようなものばかりで、Fランクが受けられる依頼というのは報酬が少ない代わりに危険性の少ないものばかりらしい。仕方ないので、今日は一角ウサギを根絶やしにすることにした。

 

「範囲は、王都からこの街までで良いかな?」

『我が燃やしても良いか?』

「だめ。下級悪魔に捌かせるからキルラルドに出番はないよ」

「えっと、カスミ様は何をしようと……?」

「ああ、単純に王都からこの街までの範囲の魔法陣を描いて、その上にいる一角ウサギを全部亜空間に放り込むだけ。後処理はレッサーインプ達に任せる」

「……?…………???」

 

魔力を使い、魔法陣をどんどんと広げていく。当然不可視にしているけど、リアマリアちゃんには見えるようにしてあげよう。魔法陣の端が王都の城門に到達したら、魔法陣を起動して魔法陣上の一角ウサギを亜空間へ転移。うーん、直径72キロの魔法陣は久々だから疲れる。

 

そして亜空間にレッサーインプ達を呼び出して、解体作業を任せる。生きた一角ウサギの群れおよそ1万匹VSレッサーインプの大群10万匹の戦いが亜空間の中で行われるけど、外には漏れ出ない。

 

「ひめさまー。60匹を残して後は全部食べて良いんです?」

「いいよー。解体手伝ってくれたみんなで仲良く分けて食べてね?」

「ありがとうございます!えっと、集計が終わってあの兎は1万2492匹いた模様です。なので1万2432匹はいただきますね」

 

中級悪魔になりかけな、下級悪魔のイチが報告に来てくれたので60匹を残して全部食べて良いことは伝える。このイチは、最初に契約した悪魔なんだよね。何でまだ下級悪魔のままなんだろ。結構色々と食べ物を与えてはいるんだけどな。

 

リアマリアちゃんは相変わらず理解が追い付いていないみたいだけど、理解が追い付いた瞬間、周囲をキョロキョロとし始めた。そんなにキョロキョロしても、もうここから王都までの一角ウサギは全滅したから一角ウサギは見つからないよ。

 

「あの、カスミ様は今と同じことを人相手でもできますか?」

「むしろ、何でできないと思ったの?」

「……ひぇ」

 

さーっと顔色が悪くなっていく様は、何度見ても面白いというか、胸がキュンキュンとする。これが恋なのかな?人相手にも同じことが出来るから、いざとなれば周囲100キロ圏内の人間を一瞬で絶命させることも出来る。まあ強い人間だと亜空間内で下級悪魔を仕掛けても返り討ちだろうから、もう少し手間暇をかける必要は出て来るけど。

 

下級悪魔達の中で、今回の戦いで死んだ悪魔はいないみたい。逆に中級悪魔へと進化した悪魔が6匹いたみたいで、得るものは大きかったようだ。さてと。60匹の一角ウサギを確保したので、一角ウサギの討伐依頼を10件クリアということだね。FランクからEランクへ上がる昇級試験を受けるには、依頼達成10件が条件だったけど、それを2人分クリア。

 

とりあえず今日は、達成報告を20回してこの街の観光でもしておこう。街を出て、数十歩歩いた草原でクエストクリア。多分これが一番早いと思います。



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第16話 弱点

リアマリアちゃんと王都から南に離れた街で、観光をする。異世界村の近くにある街ということで、わりと珍しい日本食があるようだ。焼きそばパンもどきもここが発祥の地だったけど、確かに焼きそばパンは小麦粉on小麦粉だし、野菜をいっぱい使えるから異世界村が生産しやすかったのかも。

 

そして露店巡りをしている最中、リアマリアちゃんがキノコ類を食べられないことが判明する。蟲が嫌い、キノコが嫌い、悪魔が嫌いって我儘な子だね。試しにシイタケを香ばしく醤油で焼いただけの食べ物を口に含ませると、プルプル震えながら飲み干した。おお、偉い。流石に嫌いな食べ物ぐらいは主人の命令があれば食べるのかな。

 

「うーん、この子なら触れる?」

「っひぃ!?」

 

次に大きな緑色の芋虫を召喚して手のひらの上に乗せ、触るよう指示すると恐る恐るといった感じでふにっとした芋虫に触れ、変な悲鳴を上げる。うん、可哀想だからこの辺にしておこうか。

 

涙目のリアマリアちゃんの頭をナデナデしていると、時間が止まる。その後すぐに時間が巻き戻り、リアマリアちゃんがシイタケを食べるシーンに戻った。は?

 

(え、待って。【毎日がeveryday】の封印は解いてないよね?)

『契約者よ、落ち着け。時間がループするなど珍しいことではないだろう』

(まだ私、ループをそんなに経験したことないんだけど。それもほとんどが自作自演の奴だし)

 

この後で、芋虫を触らせたから時間が巻き戻った?いや違う。これ私関係ないやつだ。巻き込んだ奴が誰だか知らないけど、絶対に許さないよ。

 

……私は記憶を消されないよう、幾つかの予防線を張っている、今回はそのせいで、ループ時に記憶を消されなかったと考えて良いかな。とりあえずこの時間逆行による記憶削除を受けないよう、リアマリアちゃんに黒魔術を行使する。これでリアマリアちゃんも、ループをする羽目になるね。

 

そうこうしているうちに、2回目のループが始まる。再度時間が巻き戻り、リアマリアちゃんの口の中にはシイタケが含まれている。もうペッとしなさいそんなもの。

 

「えっと、今のは……?」

「時間が巻き戻ってる。リアマリアちゃんは記憶がないだろうけど、この時間軸は3回目だよ」

「……???」

 

時間が巻き戻ること自体は、珍しいことじゃないんだと思う。でも私はほとんど行使したことがないし、とあるループは抜け出すのは大変だった。何年日曜日だったんだろ。

 

(……あとで【毎日がeveryday】の封印を解いて、『毎日が日曜日』の魔法陣を解析するよ)

『あれはあれで固定化されておるから無理に解析できんだろう。それよりも、このループを抜け出すには術者の発見が急務だぞ』

(分かってる。でもあの時みたいに、一定時間が経過したら再度同じ時間軸に行くというわけじゃないみたいだね)

『となると、何らかの条件があるはずだ。一番わかりやすいのは死に戻り。または神が与えた恩恵にセーブ&ロードのような能力があるかだな』

(セーブ&ロード……前に見た勇者の能力?それにしては、ループまでの期間がみじ)

 

キルラルドと会話をしていると、またループをしてリアマリアちゃんはシイタケを口に含む。ループの起点がここだから、毎回のようにリアマリアちゃんはシイタケを口に含むことになるね。何か可哀想になってきた。

 

……ループするまでの時間は、だんだんと伸びてきている。これは、何度も死に戻っているパターンかな。はた迷惑な奴だし、見つけ次第保護して大元を断つ。もしも死に戻りだとすると、大元は神か女神か邪神か、悪魔か魔王か未来人か。何が出て来てもおかしくない以上、何が出て来ても良いように準備しておかないと。

 

5度目の時間軸で、一段落したのかループが来なくなった。周囲の人間たちを見るに、この異常事態には気づいていない模様。後で異世界村も確認してみるけど、恐らくあの村の人達も記憶の保持とかはされていないはず。異世界人のスタート地点はあそこが多いというなら、行ってみる価値はあるけど……。

 

異世界に来て、初めてのトラブルらしいトラブルだ。しかも今の私でも即座に解決は難しい類の、超難題。ループする時の気持ち悪い感覚は慣れないけど、なんかワクワクしてきたよ。何ならこのループを利用して、また数年の間は黒魔術の研究をするのも悪くはないんじゃないかな。

 

夜になって、6度目のループが起きて昼に戻る。いやこれ、間違いなく死に戻りの類なんじゃない?セーブ&ロードならもう少し先でセーブするだろうし、リアマリアちゃんがまたシイタケを口に含んでいる以上、全く同じ時点に戻っていることは明らかだ。

 

……あ、シイタケに慣れて来た?それはよかった。期せずして、苦手克服が出来たね。これならループの時間を利用して、蟲や悪魔への苦手克服も出来るかな?とりあえず半日でどれだけ広い範囲を探知できるか分からないけど、死に戻りしてそうな奴やセーブ&ロードをしてそうな奴を見つけないと。



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第17話 ループ

毎日が日曜日なら良いのにな、と思ったことが私にはある。というか誰にでもあると思う。特に日曜日の夕方なんかは「明日も日曜日なら良いのに」と多くの人は思うはず。でも毎日が日曜日の状態になると、かなり精神的にはキツイことが分かった。いや、時間が進むならゲームとかにも打ち込めるんだろうけど、時間が巻き戻るタイプの「毎日が日曜日」は精神的に苦しい。

 

……私が古物商店へ行って、手に入れた手書きの黒魔術書。それが【毎日がeveryday】だった。曜日に関わる7つの黒魔術が書かれている、一見すると普通の黒魔術の本。しかし一つ一つが強力過ぎるというか、悪質過ぎるので私は封印して亜空間の奥底へ眠らせている。

 

その【毎日がeveryday】にあった『毎日が日曜日』という黒魔術は、解除方法のない永続的時間遡行魔術だ。何がヤバイって、突破方法を見つけるのに黒魔術の天才である私が1600日ぐらいかかったってことだよね。いや本当、あの時は気が狂うかと思った。

 

具体的な話をすると、私は2017年10月15日を繰り返した。10月15日23時59分の3分後が、10月15日0時2分になる黒魔術で、解除方法が書いてないために永遠に続く日曜日という状況に。最終的には時間軸を操って10月16日へ突入することで強制解除したけど、あの苦労はもう一度したくない。

 

というかあの禁書、マジで性格が悪いんだよ。学校や会社を爆発させたい人向けに、と書かれた『爆発させたい月曜日』は文字通り自身を中心とした半径100㎞圏内が更地になるような爆発を起こす黒魔術だし、『谷間の水曜日』なんかは……まあ、ずっと封印しておこうか。

 

とにかく、時間ループを脱出するだけなら時間軸をずらして強制的に明日へしてしまえば良い気がするけど……それだけだと解決しない気がする。そもそも術の大元が分かってないし、次のループ開始時にこの世界中の人間を監視するよう大量の下級悪魔を放つ。

 

ちなみに、時間がループしまくっていることに異様な恐怖を抱いていたリアマリアちゃんは時間が逆行する感覚にも慣れ始めた。順応性を高め過ぎた結果がこれですよ。そろそろSAN値は0になってる。私の手でSAN値0に出来なかったことだけが心残りだね。

 

7回目のループ時に、一斉に下級悪魔達を解き放って色んな人間の監視を任せる。私と契約している悪魔は全員記憶の保護があるから、ループ時に記憶が忘却されない。よって、誰が時間を巻き戻しているかが今回のループで分かる。

 

冒険者ギルドへの討伐達成報告とかは、しばらくしなくて良いね。毎回報告するのも面倒だし、冒険者ギルド関係はループが解除されてからで良いよ。

 

「これ、解決するんでしょうか……?記憶の保持なんて、しなくても良いのでは……?」

「私が知らない内に、面白そうな問題が解決することは容認出来ないよ。あと世界が崩壊したらやだし」

「世界が、崩壊?」

「時間を巻き戻すような奴と、勇者が対峙しているとかそういう可能性だってあるじゃん。自分が知らない内に、世界の危機とか勘弁して欲しいね」

 

リアマリアちゃんは記憶の保持なんていらないとか言い出したけど、もう解除できないです。記憶を忘却させるのも難しいしね。面倒だからやらないだけだけど。そして怪しげな奴が数人見つかったとのことなので、次のループで特定できるかな。

 

夜になって、またループが始まる。これで8回目だし、死に戻りで確定もした。見た目は、普通の男子高校生だね。手に持っているのは十徳ナイフ的なものかな?あの人が死んだら時間が巻き戻って草原に立っていて、手慣れた動作で襲いかかって来る人達を殺している。ふーむ。最初に短期間で連続してループしてたのはあの盗賊団っぽい存在に襲われていたからかな。

 

ここから結構な距離があるから、合流するにはループの起点から1時間は必要。手慣れた動作を見るに、あの人は記憶の保持が為されていて、その記憶を有効に使っている。何あの主人公っぽい人。

 

ループを意図的にしているかどうかは……顔を見たら分かるね。どう見ても、強力な呪術のせいで逆行してるし、本人の顔色は悪い。これは、夜の相手は相当絶望的なのかな?

 

1人で異世界RTAをしているけど、求められているのはTAS的な動きっぽい。魔物が襲い掛かって来て、即座に狩る辺りは順応性も高そう。さて、次の次のループ辺りで合流するために準備でもしようか。

 

『我の出番か』

(殺すことしかできない殺戮ドラゴンは引っ込んでいて下さい。

ラウゴールに時間が巻き戻る時間を延ばして貰うだけだよ)

『ほう?時間が巻き戻るのはほぼ一瞬。それを引き延ばすのか』

(間違いなく、気持ち悪くなるからリアマリアちゃんは吐くかもね。……美少女が吐く姿って興奮しない?)

 

時間が戻ったら、必ず大っ嫌いなシイタケを口に含んでいるリアマリアちゃん。その上で気分が悪い状態になったら……言わずもがなって感じだね。



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第18話 合流

9回目のループ時、時間の巻き戻る流れに逆らって移動を開始。時間が巻き戻る時間を利用しての移動だから、実質転移みたいなものになるね。とりあえず巻き戻る時間の中でキルラルドの力を借りて半分ぐらい移動したので、次のループでは傍まで行ける。

 

でもこのループ中に、会うぐらいは良いと思うんだ。だから彼を襲っている盗賊団を、サクッと背中側から全員刺す。うーん、流石にCランク冒険者からはぎ取った短剣の切れ味は悪い。

 

「あ、あんたは誰だ!」

「私の名前はカスミで良いわよ。そして一発、殴らせなさい」

「はあ!?何でだよ!?ぐふっ」

「何度も人にループに巻き込んだ罰は、これぐらいにしておくわ。どうせあなたの意図しないループだろうし」

 

即座にループについて言うと、目を大きくして驚く彼。名前は夏川 渡(なつかわ わたる)と言うらしい。なんか主人公っぽい名前だねえ。同い年っぽいし、ワタル君で良いのかな。

 

「で、どうやってこの世界に来たの?」

「分からない。コンビニの自動ドアから出たら、もうここにいたんだ」

「ああ、だから買い物袋をぶら下げているのね。異世界語を話せているのは……そこが話せないと詰み不可避だからかな」

 

ワタル君は高校2年生と、同級生であり、クラスに友達は1人もいない所謂可哀想な子、らしい。こちらから話しかけたら受け答えは出来るけど、自分から話し始めるのは致命的に苦手な感じかな。まあ私達の世代って、そういう傾向の子が多いけど。

 

挨拶もそこそこに、時間が巻き戻る現象についての解析を始める。本人は説明出来ない様子なので、勝手にワタル君の背中に手を当て、解析を始めると……、

 

空から、極太のレーザーが降ってきて一瞬で身体が蒸発した。え、ナニコレ?めっちゃ痛いんですけど。

 

私が死ぬクラスの攻撃だったのか、私が私に仕掛けた魔法陣が起動し、時間が巻き戻る。うわあ、久しぶりにこれ起動したなあ。しかしまあ、あの熱量のレーザーが天から私を貫くとは思ってもなかった。どうやらワタル君に時間遡行の術を仕掛けた存在は、相当ヤバイ存在ね。

 

時間の逆行をストップさせ、また挨拶から始まる。この逆行は、私以外は知覚出来ないからワタル君も記憶が無いんじゃないかな。

 

「いや、俺の意図しないループというか……言えないんだけど、察して貰える?」

「察しているから大丈夫だよ。たぶんだけど、死に戻り系かな?セーブ&ロードではないよね?」

「そんな便利なものじゃないんだ。あ、俺の名前は夏川渡だ。……よろしく頼む」

 

先ほどと、全く同じ会話が為される。うん、これは向こうに記憶が残ってないパターンだね。まあ私の術式だから当たり前か。そしてこの後で解析しようとして、先ほどは極太レーザーに撃ち抜かれた。だから私は、もう一度ワタル君の解析をする。

 

先ほどまでと全く同じ、極太レーザーが降って来るけどそんなの関係ない。来ると分かっている攻撃であれば、防ぐことも空間を湾曲させて回避することも可能だ。今回は、せっかくだから反射にしてみた。こういう攻撃は、跳ね返すに限る。

 

大きな鏡を召喚して、レーザーを反射する私。直後、私の身に危険があったということでキルラルドやセバスやエレシオンが召喚されるけど、ちょっと遅いよ。

 

「な、なんだお前ら!?」

『契約者よ、大丈夫か?』

「大丈夫じゃなかった。一回死んだし」

 

ワタル君が驚いているけど、そっちの対応はリアマリアちゃんに任せる。一番の問題は、攻撃を仕掛けて来た存在がまだ生きているであろうということだ。あのレーザーを反射したからといって、それで向こうがくたばるような存在ではないと思うし、次の攻撃があってもおかしくない。

 

しかしいくら待っても攻撃が飛んでこないので、痺れを切らしたキルラルドが咆哮と共に極太ビームを発射する。例の光の奔流が、先ほどビームを撃たれた方向を襲い、次々と湧いて出るレッサーインプやインプ達が突撃を始める。うん。インプ達は先駆け頑張ってね。

 

この世の物とは思えない百鬼夜行を見てしまったワタル君は、1d20のSAN値チェックです。リアマリアちゃんの方はもう慣れた。大量に出て来る中級悪魔であるインプを見て「わーすごい」で済んでいる。英才教育の賜物ですよ。順応性の高い猫耳尻尾付きロリっ子は最高ね。

 

しばらくすると先駆けをしていたレッサーインプ達が凄い勢いで減っていくけど、100万匹までなら軽い出血程度だわ。どうせならと、出番の少ない外れ特性の上級悪魔達も召喚して突撃させる。またの名を在庫一掃セール。私と契約したんだから、突撃して情報を得て来てよ。

 

「な、なんだよお前……あんな悪魔達を、全員従えているのか……?」

「カスミ様は、あの悪魔達の上司を従えているようです。だから召喚され続けているあの悪魔達から見ると、カスミ様は上司の上司ですね。命令には背けません」

 

しばらくすると、遠方で光のビームが乱射されているのが目視出来た。居場所も割れたため、上級悪魔達が功を狙って一斉に襲い掛かっている。相手がどんな存在かは分からないけど、一撃ぐらいは入れてよね。

 



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第19話 邪神

私と、世界を巻き戻す術をワタル君に仕掛けた存在との戦争が始まってから1時間ほどの時間が経過した。その間、私と周囲にいる魑魅魍魎を、呆然とした表情で眺めるリアマリアちゃんとワタル君。

 

上級悪魔達が出動したから、途端に暇になった。私は門を開けるだけで良いから楽だね。何か向こうから雑な念が飛んでくるけど無視だ無視。私の命を奪ったことは許さないよ。

 

”ちょ、痛いからマジで止めて。お願いします”

 

とうとう止めてという直接的な表現になったけど、何度も念を送ってくれたお蔭でここからでも正確な位置が割れたね。じゃあ、リアマリアちゃんとワタル君に私の魔法でもお披露目でもしようかな。

 

「ちょっと今から向こう目掛けて魔法を使うから、リアマリアちゃんとワタル君は後ろに下がっててね」

「えっと、俺にももう止めてって聞こえるんだけど」

「下がってて」

「あ、はい」

 

左手には漆黒の炎(着色済)、右手には紅い炎(未着色)を灯し、その二つに炎を混ぜて螺旋状に撃ち出す。黒い炎と、紅い炎が良い感じに混ざり合っていてめっちゃ強そう。なお威力は普通の魔法と大して変わらない。着色に苦労はしたけど、消費魔力量が若干上がった割には威力が落ちているから純粋に紅い炎を二つ撃ち出した方がコスパは良い。

 

『……契約者よ。何故そこまで色に拘る』

(カッコいいから)

 

でもめちゃくちゃ格好良く見えるから私は満足です。そして撃ち出されたダークフレイムキャノンは、何か声のする方を撃ち抜いた手応えを感じた。ついでに射線上に入っていた数匹の悪魔が逝った。いや、射線上にいる悪魔には避けろって言ったじゃん。何で射線上に入るの。

 

「もう!痛いから止めてって言ってるじゃん!」

 

私の攻撃の直後、背後から声が聞こえたので振り返るといけ好かない少年がいた。見るからに邪神系だけど、何でショタなの。チェンジだチェンジ。

 

「はあ、僕を邪神系だと察せるのにその胆力は凄いね」

「早く名前を名乗ったら?」

「うーん、君たちの世界で言うと、ニャルラトホテプが近いかな。こっちの神話形態、どうせ知らないでしょ?」

「ニャル子さんか。じゃあ銀髪巨乳美少女になって。それならギリ許す」

「……女神様より横暴だなあ。そりゃあ姫なんて呼ばれるわけだよ」

 

ニャルラトホテプのような邪神を名乗るわりには怖くない。ショタだからかな?ロリなら怖かった。ねえロリなら怖かったと言ってるでしょ。心読んでるんだからロリになってよ。ニャルラトホテプ名乗ったでしょ。姿形ぐらい変えてよ。

 

「……どんな姿形が好み?」

「金髪ロリっ子ツインテール。胸はちょい盛りで八重歯があるとなおよし。あ、ケモミミは付けてね」

「…………分かった」

 

しばらく心の中で訴えていたら邪神様が折れてくれたので、ショタから金髪ロリっ子ツインテールの胸はそこそこな八重歯っ子になってくれた。しかも犬耳付き。これは良い。まさかここまで完璧に理想の女の子になってくれるとは思わなかった。流石はAPP18の存在を名乗るだけはある。

 

「で、時間の逆行は止めてくれるんだよね?」

「はあ。何でそこまで人間の言うことを聞かないといけないのよ。あなた自分の立場分かってる?心の中も読まれてるのよ?」

「表層しか読めてないでしょ。あなたは私を殺せるかもしれないけど、私を殺している一瞬の間にあなたの1億9842万6791体のストックは塵になるわよ?」

「……神でも把握出来ていない僕のストックを、何で正確に知ったのかなあ?」

 

私が時間の逆行を止めてと言うと、ため息を吐いてやれやれとする邪神さん。なんか見下された気がしたので、邪神のストックをサーチして照準を合わせる。私、魔力容量は今や天井知らずだし、その全てを一気に使うことも出来る器用な存在なんだよね。全魔力使えばニャルさんぐらいは怖くない。そもそもニャルさん、邪神形態でも装甲はないし、STRは80しかないし、ぶっちゃけ弱い。

 

「天界の糞ババア達を敵に回すのと、私と戦うの、どっちが好み?」

「ちょ、こっちの心を読まないでよ。あーもう、分かったよ。時間逆行はもうしないし、夏川渡に試練は与えない。これで良い?」

「OKだよ。あ、出来れば分身体を置いてって。その姿は愛でたい」

「それは却下するね。こちらもプライドがあるし、犯すのは好きだけど犯されるのは好きじゃないよ」

 

邪神さんは、結局本名を名乗らなかったし読み取れなかったな。まあニャルさん(仮)で良いや。せっかく外見を私好みに変えてくれたのに、分身体は置いて行かないケチっぷり。というか消えるの早い。こりゃ、次に会った時は嫌でも契約してもらおう。

 

……にしても、天界に女神が複数人いるのは収穫と言えるかな。あの邪神が糞ババア呼ばわりしていたのは気になるけど、今は考えなくて良いや。とりあえずループは解決したっぽいし、これでワタル君の異世界生活は強制ハードモードだ。良かったね。



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第20話 アフターサービス

邪神が時間の逆行の呪術をかけていたっぽいので、それが無くなった今、ワタル君は死に戻りが出来なくなった。

 

「いやあ、めでたしめでたし。よかったね、ワタル君」

「いやよくねーよ!魔王倒さないとループは終わらないって、ちゃんと俺は説明受けてるんだよ!」

「ああ、魔王倒すために与えられた力だったんだ。でもまあ、魔王を倒す勇者が召喚されてるっぽいし大丈夫でしょ」

「え?勇者?」

 

ワタル君は、勇者の存在を知らなかったようなので教えてあげる。一応、セバスの読心が通じなかったってことは勇者は強い存在なんだよね。

 

「にしても邪神のストックが1億しかないって……せめて1那由他ぐらいはないと話にならないよ」

「そういうカスミは、どのぐらいストックあるんだよ。俺は知らないけど、あの邪神の攻撃で1回死んだんだろ?」

「んー、9999ふ……」

「ふ?ふ、不可思議か?」

「不可説不可説転」

「……何の単位だ、そりゃ」

 

命のストックというか、在庫はほぼ無限にある。例の時間が巻き戻る術の他、亜空間の中で目覚めるように設定したものや概念の中で復活するように設定したのもある。中二病全盛期の頃に神々との闘いを想定して色々と準備したからね。そして妄想の大半が実現するぐらい、私は天才だったからね。

 

「というかそんなに作るの大変じゃないのか……」

「べき乗で増えていくから作るのは楽だったよ。一時はグーゴルプレックスプレックスを目指してたし」

「……魔王ってお前なんじゃねえの?」

「失礼な。魔王はちゃんとイギリスっぽいところにいるようだよ」

 

この世界の地図を、ワタル君の脳内に押し付ける。この場所は、結構王都から南に行った場所だけど、まだバーテック王国領内だね。思っていたよりも広い国だし、魔王軍と戦っている傍らで隣国と戦争をする余力があるのは伊達じゃない。

 

「えっと、じゃあ邪神を呼び戻して何か加護でも貰っておく?」

「呼び出せるのか?」

「頑張ってみる。

んー、今日ニャルラトホテプを騙った邪神という条件で強制召喚出来るでしょ」

 

魔法陣を、落ちていた木の枝を使って書いていく。ワタル君が文字を見て何語だよと聞いてきたので、キリル文字だと答えてあげる。要するにロシア語だ。魔法は英語、魔術はロシア語。これ世界の常識。

 

「あの……なんで僕が召喚されているんでしょうか」

「あー。何で元の姿に戻ってるの。

まあとにかく、この子に加護か何か与えてね。500円あげるからさ」

「何故それで交渉が成立すると思ったの?馬鹿なの?」

 

無事邪神を召喚出来たので、ワタル君に死に戻り以外の恩恵を与えるよう指示。邪神はやれやれといった表情で断って来たので、殴る準備をする。

 

「断ったら一発殴るよ」

「ふん、非力な女の拳が通用するとでも思って……え、なにその魔力」

 

過去と未来の私から魔力を借りて、拳に込める。身体強化魔法と身体硬化魔法を同時に使い、最大出力で邪神を殴る。元々、時間の巻き戻しに巻き込んだ時点で一発殴ろうとは思っていたしね。

 

 

 

カスミの姿が消え、邪神はガードを固める。普通の人間の拳であれば、このガードの上からパンチしたところで、人間の拳の方が砕かれるだろう。しかしカスミの拳は身体硬化魔法により、超次元的な装甲を拳に纏っている。

 

時間の流れを引き延ばしたカスミは、文字通り一瞬で距離を詰めてガードの上から殴った。ズドンという大砲でも鳴らなさそうなほど大きな音を立てた後、邪神は後方へ吹き飛ぶ。ここで邪神は生まれて初めて痛みを感じると共に、死の恐怖と対面した。

 

「男女平等パンチ、じゃなくて全存在平等パンチよ。全存在が「めっちゃ痛い」と思うぐらいには手加減をしてあるわ」

「……ゴフッ」

 

吹き飛ばされた邪神は、再度カスミの魔法陣によって召喚される。召喚される度に馬鹿でかい魔力が消費されるはずだが、もはや邪神に突っ込む気力は残ってなかった。

 

「……恩恵なら、君が与える方が良いんじゃないかな」

「んー、邪神ならこう……ステータスを良い感じに底上げとか器用なこと出来そうじゃん」

「そんな便利屋みたいに思わないでくれ……。

ああそうだ、ここから南に行った国では異世界人が大好きなレベル制とステータスがあるよ」

 

邪神は強大で無慈悲で理不尽な暴力を受けても、自身の信義を貫き、結局力を授けるようなことはしなかった。しかし、情報は与えた。バーテック王国の南にある国では、冒険者として登録するとステータスカードが発行され、レベルアップをすることが出来るようになる。

 

そのことを聞いたワタルは行きたいと良い、カスミも興味を示した。一方の教えた側である邪神は、カスミを殺す計画を立てようとした瞬間、その思考をかき消されたことに恐怖を覚え、カスミの「もう帰っていいよ」の言葉と共に脱兎のごとく逃げ出す。

 

ワタルとカスミ、それとリアマリアの3人は、南の国境線へと向かって歩き出した。そして数歩進んだ時点で、歩くのに飽きたカスミはキルラルドの配下の飛竜を召喚し、空の旅に変更をする。南の王国、イスブルク王国に着くのはそれから1時間後のことだった。



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第21話 ステータス

邪神にステータスとレベルのことを聞いたワタル君は、めっちゃ興味を示してその国に行きたいと言ったので、キルラルドの配下を借りてその国へ飛ぶ。キルラルドに3人乗るのはちょっと不安定になりそうだし、キルラルドが男に股がられるのは嫌とか我儘言ったのでこうなった。

 

「国境が山脈で、超えた先にはイスブルク王国。地図的にはスペインかな」

「まさかカスミって、ヨーロッパの国名、全部頭に入ってるのか?」

「むしろ高2でヨーロッパの主要国の位置を知らないってヤバくない?」

「……悪かったな、馬鹿で」

 

国境を越え、イスブルクの北の街まで来たので、冒険者ギルドへと赴く。入ったらよそ者だということがすぐに分かったのか、ギルドは歓待ムードになったけど、これは何かあるな。

 

「冒険者ギルドに登録したことはある?バーテック王国の方で」

「一回したことがあるけど、ここの冒険者ギルドも同じ感じなのか?」

「それは知らない。でもまあ、同じようなものだと思う」

 

ワタル君と、小声で会話をする。ワタル君が夜に殺されていたのは、狙われていたからとのこと。ジャージにTシャツと異世界人って丸わかりの恰好をしているからね。初期金の10万円を何度奪われたんだろう。ワタル君もワタル君で、返り討ちにしようと何度もループして挑戦していたようだけど。血気盛んな男の子だなあ。

 

「冒険者カードと共に、ステータスカードも発行出来ますがどうされますか?」

「お願いします!」

 

ワタル君はステータスカードの発行に興味津々って感じだけど、なんか嫌な予感がする。そもそもこの話を持って来たのが邪神という時点で、警戒するべきだったのかもしれない。

 

なんかの容器の口に手を入れるよう誘導されるワタル君だけど、中には魔法陣が見える。これは、解析されたくないから容器を使っているのかな?そんなものがあっても、透視出来るから意味ないんだけど……。

 

……あー、なるほど。遺伝子に作用するのか。倒した敵というか、殺した相手の生命力や魔力を利用して、生物として進化するタイプの術式。

 

『一見すると、無害なようだが……?』

(キルラルドの目が節穴なことは把握済みだけど、流石にこれは分かって欲しいなあ。

……生物として進化した時点で、普通の人と子供を作れなくなるよ)

『なるほど、とんだトラップだな。しかし、冒険者同士であれば可能だろう?』

(いや、これは無理だね。理論上、同じ個体のモンスターを同じ数だけ殺した冒険者同士なら子供を作れるだろうけど……全く同じ個体というのが、この世に存在していると思う?)

「ワタル君、ちょっと待とうか」

「え?何で?」

「ステータスカードを発行した時のデメリットぐらい、聞いてから行動しようよ」

 

私の言葉に、小さく舌打ちをするギルド職員がいたのを私は見逃さなかった。異世界人っていうことはバレてそうだし、随分と異世界人には冷たい世界だと感じる。そして改めてステータスカードの利点を話し始めるギルド職員だけど、肝心の子供を作れないという欠点は話そうとしない。

 

「……え、子供を作れないって後で知られた方が暴動になると思うんだけど何で説明しないの?」

「…………え?」

 

ついにしびれを切らして、自分から言うけど向こうは想定外みたいな顔をしている。ああこれ、この受付の人は何も知らないのか。

 

直後、パァンと発砲音がして私の身体を貫く。異世界人がいっぱいいるんだから、そりゃ銃ぐらい存在しているよね。にしても、不都合な存在なら女の子でも背中を撃ち抜くとか随分と狂っている世界だと思うよ。

 

「カスミ様!?」

「あー、痛い。痛いけどこのぐらいならすぐ治るから大丈夫だよ」

 

なんにせよ、リアマリアちゃんが撃たれなくて良かった。最上級悪魔には、「再生」の特性を持つ悪魔が多い。その力を借りることが出来る以上、私が大怪我をして死ぬということはない。一瞬で蒸発するとか即死魔法とかだと間に合わないけど、大概の攻撃では死なないんじゃないかな?ちなみに死んでも時間が巻き戻るし、時間を巻き戻してもどうしようもない時とか時間を巻き戻せない時用に身体のストックがほぼ無限にある。

 

もちろん、私の命の危機ということで色んな契約悪魔達が飛び出そうとしたけど引き留める。ここで百鬼夜行をしたら指名手配犯一直線だよ。既に今の時点でそうなりそうだけど、わざわざ理由を作りにいく必要もないでしょ。

 

撃った人を即座に取り押さえて、銃を奪う。ふーん、単発式の玩具みたいな銃だね。思っていたよりもこの異世界は技術が進んでいたし、思っていた以上に進んではいないみたい。

 

お、冒険者カード発見。この人の預金は3000万円か。なら2600万円程度は貰っても良いよね?殺人未遂を示談で解決して貰えるんだから、感謝してほしいぐらいだよ。




「TS転生したから野球で無双する」の更新再開をするため、こちらの更新を一旦停止致します。申し訳ございませんが、あちらの完結を優先したいと思います。


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