夢想の矛先、そのありか (ぽんる)
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夢想の矛先、そのありか
無作為クリティカル


「れーいちゃんっ」

「はぇっ」

 

 玲に後ろから抱きついてきた楽羽が、びっくりした? と笑う。その笑顔の近さに、玲はまた硬直した。距離が、近い。切にそう思う。彼女の行為に深い意味はきっとない。これは彼女のスキンシップであり、パーソナルスペースが狭いからこそ起こるだけの事なのだろう。

 

 玲がどれだけ楽羽に感情を抱えているのか知らないで、今日も何気ないスキンシップで玲を殺しにかかってくるのだ。

 

「ちょうど見かけたからさ。一緒に帰ろ?」

「は、はいっ、ぜひっっ」

 

 今日は非常に運がいい。彼女から玲を見つけてくれただけじゃなく、一緒に帰ることもできるとは。

 

「せっかくだからどっか寄ってかない?」

「はぅ、はい!」

 

 楽しげに歩く楽羽を眺め玲は思う。これは俗に言う"放課後デート"に該当するのでは? と。

 

(いや、いやいやいや、そもそも楽羽さんとは同性の友人ですしそんなこと)

 

 同性の友人で遊びに行くのは恐らくよくあることで、そんないきなり逢い引きなどに発展するものではないのでは、などと思考がぐるぐる巡る。

 

「いやー、一緒に帰る人とかいなくてさ。玲ちゃんがいてよかった」

「はぴっ」

 

 一昔前に流行り、一度は沈静化したものの最近再び爆発的に流行し出した『タピオカ』の専門店に赴く。

 

「瑠美……妹がさぁ『これ飲んだことないとか正気!? 味は保証するから友達誘って行ってきて! 一週間以内ね!』とか言い出したからさ」

 

 妹には逆らえないんだよね、色々やってもらってるし、と言う楽羽に「そうなんですか……」と返す。

 それぞれ別の味を注文し、飲みながら歩き出す。

 

「あー、ほんとだ。思ってたよりもおいし。カエルの卵みたいな感じかと思ってた」

「カエルの卵を、食べたことあるんですか……?」

「あー、ゲームで似たのを口に入れた事があって」

「えぇ……」

「大丈夫大丈夫。カエルだって食べれるでしょ?」

 

 それとこれとは話が別だと思うのだが。そもそも一般的な日本人は一生の内でカエルを食べない。ゲームだからいいのだろうか? やはり楽羽の好むゲームは玲には難易度が高すぎる物が多い、と思いながらストローに口をつける。

 

「あ、美味しい、ですね」

 

 初めて飲んだが、甘い飲み物にもちもちとした食感がマッチしていて、予想していたよりも美味しかった。並んで飲みたいと考える人たちの気持ちもわかる。

 

「玲ちゃん、一口交換しよ?」

「えぁ、はい」

「ありがと!」

 

 よくわからないまま返事をし、そして手元に楽羽が飲んだ物が出現した。

 

「くっっっ?」

 

(口がっ、つ、つまり間接キッッッ)

 

 ピシリと固まった玲に対し、その固まった原因である楽羽が不思議そうにのたまった。

 

「あれ? 玲ちゃん、飲まないの?」

 

 

 




 百合を初めて書きました。感情と関係性が大切だなって思ったので一方通行の大きな矢印と認識の違いを……あと距離がちかい。


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無知覚ハートヒート

 

「玲ちゃんのほっぺの感触ヤバくない?」

「わかる。玲の頬の感触ヤバい」

 

 あ、なんか今めちゃくちゃ女子高生してる気がする。目の前で深く頷く頼花ちゃんを見て一瞬そんな考えがよぎる。

 

 まあ何と言えども玲ちゃんのほっぺの感触はそれはもう『ヤバい』。とにかく『ヤバい』。

 ふわふわとした柔らかさに伸びを加え、あの絶妙ななんとも言えない至福の感触を生み出している。ああいった感触はマシュマロにたとえられがちだが、マシュマロなんかよりも断然いいものだ。VRでもあれほどいい感触のものは滅多に見かけない。

 

 私が玲ちゃんのほっぺを何度もつついてしまうのも、致し方ない事なのである。

 

「ほっぺふにふにしてるとあったかくなるし」

「ええ? そう?」

「えっ、だって玲ちゃんかなり体温高いよね?」

 

 最近は少し寒くなってきたので、玲ちゃんにくっついて暖をとることが多い。前ダンスの名前がわからなくて玲ちゃんの手をとった時なんかほっかほかだった。

 「死ですね」だとか玲ちゃんは言ってたけど、結局ダンゴだかアンコだかそんな名前のダンスらしい。あの玲ちゃんでも間違える事があるんだな、とか思ったものだ。

 

「んー、確かに玲、体温は高いけど……前さわった時そんなあったかかったっけ?」

「あれ?」

 

 玲ちゃん、いつもあったかくない? 当然のように賛同が得られると思った。手はわりといつもあったかいけど頬はそんなだった気が……なんて言う頼花ちゃんに首をかしげる。

 

「あ、あのっ」

「あぁ、玲ちゃん」

 

 いいとこに来たな、とそのまま目の前にあるほっぺをつつく。

 

「ふぇっ!?」

「あー、やっぱりこの感触さいっこう」

 

 ふにふにともてあそぶと、いつも赤い顔がさらに赤くなり、どんどん体温が上がっていく。玲ちゃんのほっぺは、想像していたものよりも、いつももっと良い感触を伝えてくる。

 

「にゃ、ぬぇ、ら、楽羽さんっ」

「んー?」

「あのっな、なんでっ」

「ちょうど今、玲ちゃんのほっぺの感触が最高の話してたからさ」

 

 軽くフリーズしかけている玲ちゃんは、いつもと同じで、やっぱりあったかい。少しさわっただけで動揺する玲ちゃんは、良家故にあまりスキンシップを取らないで生きてきて慣れてないのかな、と出会った頃は思っていたけど、仲良くなってもこの反応なのだから、これは彼女の性質なのだろう。

 

「あー、なるほど? 楽羽だからか」

「ん?」

 

 頼花ちゃんがつぶやいた言葉を聞き逃したけど、彼女はなんでもないわ、なんて言って、私の反対側から玲ちゃんのほっぺをつつき笑った。

 

 

 

 




彼女は彼女の想いを知らない


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無記名シンドローム

 玲ちゃんにいつものように抱きつこうとして躊躇し、彼女の肩を叩く。

 

「おはよ、玲ちゃん」

「あ、お、おはようございますっ楽羽さんっっ」

 

 バグってる様も可愛いな、と思い始めたのは、ちょっと重症かもしれない。いやでも、この友人は可愛いのだ。後ろから抱きついて驚かせた時の反応の大きさなんか、からかいがいがあって非常に楽しいし、それだけじゃなく、高嶺の花と呼ばれる美貌を兼ね備え、普段は完璧超人という言葉が似合うにも関わらず謙虚であり、そして裏では廃人プレイヤーというげに恐ろしき存在である。シャンフロなんていう特大コンテンツでオンリーワンをはっているし、私も頼りにしているゲームフレンドだ。

 

 前は、もっと気軽に抱きつけた気がする。なぜか最近、抱きつく事へのハードルが上がってしまった。今は冬で、玲ちゃんはいつも体温が高めだから、きっと抱きついたら暖かいんだろうなぁ、と思うけど、さっきみたいになぜか躊躇してしまう。

 

「? 楽羽さん? どうかしましたか?」

「うん……」

 

 あー、やっぱり玲ちゃん可愛いなぁ。

 なんで私こんなこと悩んでるんだろ。抱きつきたいと思ってるなら抱きつけばいいじゃん。

 

「あのさ、抱きついてもいい?」

「へ、へぁ?! ど、どうぞ!」

「じゃあ失礼して」

 

 両手をバッと勢いよく広げた彼女をそっと抱きしめる。

 あー、やっぱり暖かいなぁ。

 

 自分よりも少しだけ低い彼女から、彼女特有の花みたいな匂いがする。前からずっと思ってたけど、いつ抱きついても玲ちゃんはなぜかいい匂いがする。

 ふわふわとした髪が頬に当たり、少しくすぐったい。瑠美に言われるままにしか手入れをしない私と違って、きっと玲ちゃんは色んな事を気にしてるんだろうなー。

 

「えと、あのっなんっ」

「ん?」

「な、なんでも、ないです……」

 

 またバグった? 玲ちゃん、不定期でバグるのちょっと面白いよね。

 あと、なんだかとっても柔らかい。自分が骨っぽいから余計そう感じるのかもしれない。前銭湯に行った時に見たので、ここにとんでもないものを隠し持ってることを私は知ってる。

 

「なんか、あつい、ね」

「そ、そうですねっ、あつい、です」

 

 体温が共有されているからか、この寒さにも関わらず、のぼせたような感覚さえする。

 道の真ん中でなにやってるんだろ。咄嗟に我に返り、パッと手を離す。

 

「ごめん、行こうか玲ちゃん」

「は、はいっ」

 

 もう抱きついてないから熱は共有されてないはずなのに、不思議と頬の赤みが取れないまま、学校へと歩き出した。

 

 

 




 楽羽ちゃん無自覚に玲さんの事を意識し始めて、照れて欲しいの話。楽羽ちゃんは感情が芽生えるとスキンシップに照れるようになると思ってます。にいくらげさんのTwitterにある羽玲イラストを見てください。最高。


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無遠慮インタラプト

付き合ってます


 

「斉賀さん。それで、海外留学の件についてだが。やはり君のような頭の出来が非常に良い人は海外で医学を学ぶべきだと」

「ですからそちらの方面には興味がありませんので……」

 

 共に帰る為、楽羽を待っていたら石動に捕まってしまった。

 玲の進路希望は楽羽と同じ大学一択であり、他には興味が一欠片もないにも関わらず、この石動はなぜか海外の医学系統を進路先に勧めてくる。受験の為か生徒会に誘ってくるのが無くなったものの、進路についての密度が高くなってきた。熱意があるのはわかるのだが、少々煩わしく思ってしまう。

 

 楽羽と『恋人』という関係となり、玲は毎日が夢のようだった。中学のあの雨の日からずっと目で追いかけ続け、少しずつ少しずつフラグを積み重ね、そして今、彼女の隣で並んで歩いていける権利を得た。

 本当に現実なのか、と一時間ごとに疑うものの、どうしたってここは現実であり、楽羽と玲が付き合っている事実は変わらない。

 

「私の彼女に絡むの止めてくれる?」

「え?」

「ら、楽羽さっ」

 

(か、か、楽羽さんの、か、彼女っ)

 

 スッと間に入ってきた楽羽がそう言い放つ。彼女、そう彼女。玲は楽羽の彼女である。現実だ。驚いた事に現実である。

 

「冗談言わないで下さいよ。斉賀さんが、貴女の彼女? だって貴女、じょ、女性じゃないですか」

「女の子同士でも付き合うことはあるでしょ」

 

 するりと玲と指を絡め、恋人繋ぎにした手を楽羽が石動に見せつけるように掲げた。表情が固まった石動が、それを見て溢す。

 

「ほんとう、なのか……?」

「嘘つく必要がどこにあんの?」

「か、かのじょ、ですっ」

 

 楽羽がせせら笑い、玲から手を離して石動に近づき、何かを言ったものの、玲はその言葉が聞こえなかった。石動がピシリと固まっている。

 

「今度から玲ちゃんに無駄な話に付き合わせないでね」

 

 玲の隣に戻ってきた楽羽が、また玲の手を取る。

 

「行こ、玲ちゃん」

「ひゅっ、は、はい。すみません失礼しますね」

 

 石動から「あぁ」と返ってきたので礼をして、そのまま楽羽についていった。

 

 

 玲ちゃんは、モテる。それは純然たる事実だ。

 高嶺の花と呼ばれる私の彼女は、非常におモテでいらっしゃる。

 

 生徒会長だったとかいうこいつも、玲ちゃんに惹かれている一人だ。玲ちゃんから話を聞く限り、彼女は気づいてないようだけど。そういう鈍感な所もあるから、私が守らなきゃな、と思ってしまうのだ。

 

 『斉賀さんが』『斉賀さんは』と言いながら、自分と同じ進路にして欲しいなんていう欲望を押し付けんの止めて欲しいんだよね。

 玲ちゃんに聞こえないように、彼女だ、と言ってもまだ疑わしげに、信じたくないとでもいうようにしているそいつ近づいて、小声で言い放つ。

 

「百合の間に挟まろうとする男は殺されるよ?」

「は?」

「何言ってるのかわかんない? お前に入る隙間はねぇっつってんだよボケ」

 

 視界にすら入れなかったやつが何しようとも負け犬の遠吠えにしかならないよ? という意志が伝わったのか、愕然としているそいつの前でまた玲ちゃんの手を取り、鼻で笑った。

 

 

 手を引いて、さっきの生徒会長だかなんだかが見えなくなった所までくる。

 

「玲ちゃん、今度から呼び止められてもさっきのやつと話さなくていいからね」

「え?」

「たぶんもう話しかけてこないだろうけど」

 

 不思議そうな顔をする玲ちゃんに笑いかけ、ぎゅっと抱きしめた。

 

 




 n番煎じ石動くん当て馬回。


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夢想家スターダスト

「熱くないですか?」

「うん、平気」

 

 自分と同じシャンプーの匂いがする濡羽色の髪の毛へ、丁寧にドライヤーをかけていく。

 今は結ばれていないこの髪が揺れるのを、玲は目で追いかけ続けていた。今だって視線の先には、いつも彼女がいる。

 

 玲は、楽羽の隣で並んで歩いていく事をずっと夢見てきた。

 あの雨の日、あの楽しそうに笑っていた顔を見て、目で追いかけ始めて。この感情の名前を知って、それでも目で追いかけることしかできなくて。楽羽がシャンフロを始め、勇気を振り絞り、少しずつ彼女に近づく事ができた日々を経て、女の子同士でいいのかなんて悩んだりもしたけど。

 

 玲は、楽羽と『恋人』という関係になった。玲は彼女の隣で歩いていく権利を得たのだ。それが、堪らなく。そう。堪らなく嬉しい。

 

「こんなこと毎日毎日しなくてもいいのに」

 

 めんどくさくない? 放っておいても乾くよ? なんて言う楽羽は、気をつかってくれているのだろう。

 

「めんどくさくないですよ」

「そう?」

 

 楽羽は、自分でやるにはめんどくさい、と感じるからいっそう不思議に感じているのかもしれない。乾かしきったのでドライヤーを置き、今度は手にオイルを広げて、髪に馴染ませていく。

 

 玲と楽羽は、ルームシェア、すなわち同棲をしている。そんななかで、毎日楽羽の髪の毛を乾かすのは玲の役目である。

 

「瑠美さんにも言われたじゃないですか。毎日の手入れが大切なんですよ」

「うへぇ……」

 

 瑠美には「お姉ちゃん、放っておいたら自分の事なんかとことん何もしないので、玲さんお願いしますね」と念を押されている。楽羽が実家にいた際には、瑠美がこの役目を担っていたと玲は聞いている。

 

「そ、それに、」

「ん?」

「ま、まえを向いていてくださいっ」

 

 振り向こうとした楽羽を止め、玲はぽつりとこぼす。

 

「わ、私が、し……したい、んです」

 

 ───楽羽さんの手入れを。髪の毛だけじゃなくて、楽羽さんのためならなんでも。

 

 楽羽がしたいことならば、楽羽がすればいい。だけど、楽羽がしないと言うならば。玲は、それをする権利を請う。

 楽羽の事ならば、どんなにしても負担ではないし、めんどくさくもない。

 

 ずっと、ずっと、玲は楽羽の隣に並びたかった。その権利が欲しかった。星屑にだって願い続けていた。

 だから、隣に並んでいる今だからこそ持ち得ることのできるひとつひとつ、その全部が、玲にとっては喜ばしいことなのだ。

 

「えっと、ダメ……でしょうか?」

「……ううん」

 

 楽羽がわずかに下を向く。髪の隙間から、少し赤く染まった首筋がのぞいた。

 

「玲ちゃんがしたいなら、いいよ」

 

 楽羽がぼそりとつぶやいた「かなわないなぁ」という言葉は、玲には届かなかった。

 

 

 

 





サブタイは『想い、夢見ていた者の願い事』の意です。ずっと願い続けていたその先にいる彼女は、たった一人の、彼女の一番星に請う。

ありがとうございました


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補遺
無防備ラバードール


少しずつ時間軸を進めていき、さらに夢想家でタイトル回収までしてしまったので続き書く予定は特になかったのですが、感想で続きを望まれたので更新です。サブタイの扱いめちゃくちゃ悩みました。(章タイトルで解決した)



 最後の仕上げとして、目の前にいる彼女へ口紅を塗る。

 

「できました。もう目を開けても大丈夫ですよ」

 

 その言葉を聞いてどこか人形めいた動作で目を瞬かせた楽羽に、玲は見とれた。

 いつも低めにひっつめられている髪はきっちりと編み込まれ、顔には化粧がほどこされている。普段化粧なんてほとんどしないからか、そこにいる彼女はいつもと違って見えた。表情すら動かないからか、無機質でいて、それでいて神聖さのような雰囲気を醸し出している。髪の艶やかな黒と肌の白のコントラストが、唇の赤を引き立てていた。

 

 恋人の家に遊びに来た玲は、瑠美の発案で楽羽をめかしこもうという事になった。服を選び、髪の毛を玲に編み込ませ、途中まで楽羽に化粧をほどこした瑠美は、あの服で溢れる彼女の部屋へ髪飾りを探しに行ってしまった。そのため途中から化粧を引き受けた玲が、楽羽へと化粧をしていた。

 

 楽羽の目元はいつもよりキリリとして華やかだ。それでもいつもと変わらない黒い瞳が綺麗で、口紅を塗って少し近い距離のまま、玲はその黒に吸い込まれそうになる。

 

「玲さーん。お姉ちゃんの化粧、終わりましたー?」

 

 その声に我に返った玲は、楽羽から目を離し、瑠美に答えようとした。その横で先ほどまで人形のように動かなかった楽羽が、ごく自然な動作で玲へ顔を寄せる。

 

「へ?」

「んー、終わったってさ」

 

 ほんの一瞬、唇に柔らかな感触。

 

 化粧をほどこし終わった際の無機質さが嘘のように、彼女は着飾っただけですでに普段通りで、そのまま立ち上がりながら瑠美に返答を返す。

 

 ぴょこりと部屋に髪飾りを持った瑠美が顔をのぞかせる。

 

「あーあ。お姉ちゃん黙ってれば顔はいいのに。私の姉なんだし」

 

 その口調なんとかならない? なんて言う瑠美に、楽羽は「ならない」なんて平然と返し、瑠美に持ってきた髪飾りをつけさせる。

 

「ん、お姉ちゃん似合ってるよ。さすが私」

「そこで自分褒めるとこお前だよな」

「だって私いなかったらあの芋ジャージとかでしょ? 髪の毛の手入れとか欠片もしないし」

「それとこれとは話が別だと思うが?」

 

 まあ、似合ってるのには変わらないね。なんて言って瑠美は満足げに笑う。

 

「玲さんもそう思いますよね?」

 

 こちらを向いた瑠美を見て、先ほどの姿勢のまま固まっていた玲は、楽羽になにをされたのかやっと認識した。

 

「~~~~~~~~~~~~ッッ」

 

「あれ? 玲さんどうしたんですか?」

 

 真っ赤な顔を抑え膝から崩れ落ちた玲に、不思議そうに瑠美は首をかしげる。その後ろで、楽羽がいたずらが成功したような顔で笑っていた。

 

 

 




目を開けたら息がかかりそうなほど近くに自分に見とれる無防備な恋人がいたので(自分の口紅が相手に移った事に満足感を覚えている)


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