戦姫絶唱シンフォギア もう一人の撃槍 (鶏のアヒージョ)
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とある終幕の日
続くかは未定。
──
「零ちゃん!」
振り返らない。確かにその声が聞こえた。けれど決して振り返らない。
この体を蝕む聖遺物《ガングニール》は既に手遅れなレベルまで融合が進んでしまっている……いや、この聖遺物を胸に宿したその瞬間から、俺の運命は確定してしまった。
今この時を逃せば、死を待つばかりの日々を送ることになる。
風鳴、雪音、マリア、暁、月詠、未来、そして響。
嗚呼、何もかもを喪ったはずの俺の中に、こんなにもの──
「さぁ《ガングニール》……最後の、仕事だ!!」
響……お前にとっての日だまりが未来であるように、お前は俺にとっての太陽だ。だから俺は、お前に翳りをもたらす雲を吹き散らす風になる。
『もう、いいのか?』
──ああ、俺の役目はもうない。俺がいなくてもあいつはもう……笑えてる。
『そっか……悪かったな。アンタにもあの娘にも重すぎる重荷を背負わせちまった』
──別に気にしてもない。アンタが紡いだ奇跡を今度は俺が繋ぐだけだしな。
本来であれば男である俺が身に纏うことすらできないはずのシンフォギアは、容赦なく体を蝕み人間ではないナニカへと変貌させていく。
今この瞬間にも、体は鉄を融解させるほどの熱を放ち、正体不明の結晶が皮膚を食い破り外界へと露出していく。
──Gatrandis babel ziggurat edenal
──Emustolronzen fine el baral zizzl
──Gatrandis babel ziggurat edenal
──Emustolronzen fine el zizzl
ただ伏して死を待つのなんて願い下げだ。この命の使い所は俺が決める。
全身の装甲をパージ、再結合させ巨大な左手を形成する。見据えるは主を失くし、その膨大なエネルギーを制御する術を失った碧の獣。あと数十秒もすれば、そのエネルギーが周囲へと拡散、甚大な被害をもたらすだろう。
そして《ガングニール》の特性はエネルギー制御。しかし既に距離のある響では間に合わない。そして既に死に体の俺では完全な制御は無理。
だとすれば答えはひとつ。
「おおおぉぉぉぉおお!!」
碧の獣を打ち上げ、その胴体を《ガングニール》で捉え上昇。重く垂れ込む雲を突き破り、さらに高く放り投げる。
獣は臨界に達し目を差す光が溢れ始める。
──駄目だ。ここじゃまだ地上に近い。
爆心地からは離れられただろうが、まだ余波で被害が出る可能性がある。
──悪いな、羽頭。お前まで付き合わせる。
『構わないさ。元々アタシがアンタの中にいること自体おかしな事だったんだし、アンタがしたいようにすればいい』
──そうか。なら最後まで付き合ってくれ。
そして碧の獣から放たれるエネルギーの奔流を《ガングニール》で受け止める。
拮抗は一瞬。ボロボロだった体は悲鳴を上げ、左腕が指先からあらぬ方向へとねじ曲がっていく。眼前に掲げた《ガングニール》は瞬く間に亀裂が走り崩れていく。
──まぁ俺にしては悪くない最後かもな。
目を閉じ、瞼に焼き付けた仲間に囲まれ屈託なく笑う響の姿を思い出し、笑みを溢し、そして光に呑まれた。
重く垂れ込んだ雲が碧の獣が内包していたエネルギーの爆風を受け霧散。ぽっかりとそこだけ穴が開いたような空は、文字通り雲ひとつない青空が覗き、遮るもののない太陽の光が地上を照らし暖かな日だまりを作る。
こうして奏者たちと錬金術師との戦いは幕を閉じた。
唯一の男性シンフォギア装着者である涼邑零は奏者たちの元へと帰らぬまま。
主人公の結末決まっちゃってるー!
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