黒い舞台は神なる地 (カタリア)
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第1話 ガサツ女の新ルート

これはクールほむらがまどか以外を失った後に、姿を隠していた魔法少女と手を組んでワルプルギスの夜と戦ったことから始まる物語だ。


 全ての始まりは、とある世界線で暁美ほむらと一緒に戦ってワルプルギスの夜に殺されたことだ。

『攻撃対象を自由に変更させる』固有魔法でどんなに攻撃をそらしても、あいつはその魔法を無視するように広範囲攻撃でめちゃくちゃに攻撃してきた。

 

 それにあたし、『猫宮宵(ねこみやよい)』は潰されてしまった。

 潰されてからしばらくは意識があったからほむらの戦いを見ていたけど、今回もダメだと判断した彼女は固有魔法で何かをしようとした。

 それを見てとっさにヨイはその魔法の使用対象を彼女自身と自分に変えた。

 

 結果、ヨイはその記憶を持ってワルプルギス戦の1ヶ月以上前に戻ってきた。

 戻る時にほむらはヨイの手を取ったりしてなかったのに居るのを見て驚いた。

 そして、慌ててヨイの手を取ろうとしたが間に合わずにヨイだけがほむらより前の時間に飛ばれてしまった。

 そんな事故はあの暁美ほむらでも初めて体験だっただろう。

 

「あのほむらの間抜けな顔! 何度思い出してもウケるヨナ!」

 

 ヨイは自分のベッドの上であぐらをかいて最低な笑みを浮かべた。その笑い方はアリナ・グレイによく似ている。

 

「さて、過去に一旦お別れして先に進むカナ。ほむらが時間魔法を使ってるのは分かってたカラ、予想の範囲内でよかったヨネ。これなら今度こそアイツを倒せるネ」

 

 そう言いながらヨイはベッドの近くに落ちている自分のスマホを拾った。

 それからすぐに計画を立てるためにスマホのカレンダーアプリを開いた。そこにはヨイを驚かせることが表示された。

 

「ウソだろ!? あの日から1ヶ月半も戻ってるじゃん! これは余裕がありすぎだナ。困ったネ」

 

 感情の起伏が激しいヨイは普段からテンションがおかしい。

 なのに見滝原の裏で8年も死なずに魔法少女をやってきた。

 その実力は本気のマミと互角に殺し合えるほどに強いが、心は意外と脆くて壊れかけたことがある。

 

 今はこうしてほむらと共にワルプルギスの夜と戦えるほどに強いが、数年前に手を組んでいた奴らを守れずに死なせた。

 3人が魔女化して5人がソウルジェムを砕かれて死んだ。

 それを目の前で見ていたヨイはその仲間の死が訪れるたびにキュゥべえを呪わずにいられなかった。

 

 そんなヨイはカレンダーと睨めっこしてから立ち上がった。

 

「待ってたっていいことは無いヨネ。とりあえず、グリーフシードの数を確認しないと」

 

 ベッドの上から飛び降りると一人暮らしの廊下を歩いて金庫のあるリビングに向かった。

 両親がずっと昔に死んでいるからこの家はヨイが好き放題している。

 立派な一軒家なのにヨイの性格がずぼらなせいで家中が散らかってゴミ屋敷のようになっている。

 この家の主はこの方が落ち着くからと片付けないが、グリーフシードだけは厳重に保管して丁寧に並べている。

 

「あっ?」

 

 その金庫にたどり着いて開けると、中にはグリーフシードが2つしか残っていなかった。

 ヨイはすぐにワルプルギス戦の1ヶ月半前に何があったか思い出そうとした。

 

「あ、佐倉杏子に見つかって戦ったのはこの辺だったカ。かなり使ったからネ」

 

 ヨイが言ったのはワルプルギス戦の1ヶ月と3週間前の出来事だ。

 ボサボサなショーヘアを少しだけ整えて行く学校の帰りに、機嫌最悪なアイツに出くわしてしまったのだ。

 学校では美国織莉子にムカついて、その帰りには機嫌最悪で色々と鋭い佐倉杏子に会ってしまった。

 ヨイもストレスが溜まっていたのでその日は速攻で変身して戦って引き分けになった。

 

「そのせいで無いなら取りに行くしかないネ。戻った時間が夜だからちょうどいいネ」

 

 昔の事は水に流せるヨイだから制服に着替えてだらしない髪を少しだけ整えて出かける準備をした。

 グリーフシードの残りを何かあったときのために魔改造で付けたポケットに入れて、ソウルジェムを肌身離さないようにして玄関に向かった。

 その玄関で靴を履くと、玄関にも置かれてる両親の写真に笑いかけて言った。

 

「行ってきます」

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 出かけたヨイはなるべくマミと杏子に見つかりたく無いので、かなり人通りの少ない場所へと探索に向かった。

 

「魔女の反応がないナ。なんだか減ってる気がするゾ? あの頃ってこんなんだったカナ?」

 

 家から出て2時間歩いても1匹も魔女と遭遇しない。本来の見滝原ならこんな事はあり得ない。

 ヨイが知る世界線でも普通にお菓子の魔女や委員長の魔女はそこら中にいた。それなのに、1匹も姿を見せないのはおかしい。

 

 そう思っていると、かなり近いところから強力な魔女の反応がした。

 突然の魔女の反応に驚いたヨイは目を見開いてその方角を見た。

 それからすぐにギザ歯が見えるようにニヤリと笑った。

 

「居ないと思ったらいきなり現れるなんてネ。少ないなら他も狙うだろうからすぐに倒しに行こうカナ」

 

 そう言ってヨイは急いでその反応を目指して走り出した。

 人通りの少ない道を通って魔女を目指して行くと、途中でマミらしき人物を見かけて立ち止まった。

 しかし、先にグリーフシードは取っておきたいと思ったので気をつけて先を急いだ。

 

 

 

 しばらく走ると住宅地に近い空き地に到着した。

 そこには魔女の結界があるが、ヨイはそれの入り口を見て前回の世界で戦ったお菓子の魔女と同じであることに気付いた。

 それに気づいてしまったヨイは驚きでよろめいてしまった。

 

「どうしてこんなところにこいつが! ありえない! あの時間通り戻ったのなら、病院でこいつが現れるはず!」

 

 そうやって混乱していると、魔女の方が先に動いてヨイを閉じ込めた。

 

 

 放り込まれてしまったヨイは『今は先に魔女を倒そう』と決めて変身した。

 所々に破れがあるかっこいい姿に変わったヨイは武器である二本の刀を持って奥を睨みつけた。

 

 現れたのが空き地なので前の時間と比べてあまり物がない結界に困惑しつつヨイは突き進む。

 二本の刀で使い魔を切り裂きながら何も考えずにただひたすら突き進む。

 

 進み続けると奥へと通じる扉の前に着いた。

 ヨイはこの件を後で考えることにして、これから戦う相手に集中しようと深呼吸をする。

 

「前と比べて簡素な結界だった。だとすると、魔女はいきなり襲ってくるかもしれないネ。おそらくだけどお菓子の時間がまだだろうからネ」

 

 そんな独り言を言い終えると扉を開けて中に飛び込んだ。

 すると、すでに中身の大きな魔女の方が飛び回っていた。

 焦ったヨイは防御体制をとりながら扉から離れて魔女に近づいていった。

 

 飛び回っている魔女は自分の結界内で動き回るヨイを見つけるといきなり食おうと襲いかかって行った。

 その魔女の動きに気づいたヨイはすぐに固有魔法を発動しようとした。

 しかし、発動せずにお菓子の魔女を近づけてしまった。

 

 焦りつつもヨイはすぐに立て直そうとして剣術による攻撃に転じた。

 すると真っ直ぐに突っ込んでくるお菓子の魔女は斬られた。しかし、急げという感じで脱皮をすることでダメージを回避した。

 

「魔法の件も今は捨て置く! 今度は全部切る気で行くから逃げたきゃ逃げろ!」

 

 そう言った途端にヨイは本気の殺気を魔女に向けて放った。

 それを感じ取った魔女は本当に逃げようとして高く飛び上がった。

 それを逃すまいと構えながらジャンプの姿勢に入って刀を力強く握った。

 

 それからすぐに跳ね上がると一気に両方の刀で切り裂いて魔女を倒した。

 倒した直後に魔女がバラバラと床に落ちて行く。ヨイも落ちて行くが、グリーフシードが高いテーブルの上に着地してるのが見えたのですぐに刀をそっちに伸ばしてブレーキに使った。

 落ちる速度を刀で殺したヨイは安全に床に着くと、すぐにテーブルを切り倒して落ちてきたグリーフシードを回収した。

 その直後に結界が消えて元の空き地に戻った。

 

「さて、グリーフシードも手に入ったことだし今夜はもう帰ろうカナ」

 

 これ以上の戦闘や探索は危険だと判断した。

 グリーフシードをポケットにしまうとすぐにそこを立ち去ればこれ以上の消耗はないだろう。

 そう思っていると急に周りの音や風が止まった。

 

「何が起こってるのカナ?」

 

 異変に気づいたヨイは変身を解かずに身構えた。

 しばらくすると突然目の前に見たこともない少女が現れた。

 これ以上のおかしなことには対応しきれない自信があるヨイは顔をしかめて少女を見つめた。

 そんなヨイをあんまり見ていないような視線を向けながら少女が変なことを言う。

 

「…来て」

 

「あん?」

 

「運命を変えたいなら神浜市に来て。この町で魔法少女は救われるから」

 

「何言って…」

 

 それだけ言うと少女は姿を消して、それと同時に周りの様子が元に戻った。

 処理が追いつかないほどの事態に驚いてぽかんと開いた口がふさがらない。

 

 ほんの数秒のラグを経てヨイは本気で顔をしかめた。

 それからボソッと呟く。

 

「これが本当に逆行で至った世界なら、一体どうなってるんだヨ…」

 

 困惑した様子で一旦家に帰ることにした。

 この世界線がすでに違っているなら早めに整理した方がいいだろう。手遅れに居なる前に。

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

「ただいまー」

 

 疲れた様子で帰宅したヨイはグリーフシードを一つだけ少し使用すると、他の二つと一緒に金庫の中にしまった。

 

 それから飯を作って食べて、風呂に入って着替えて歯磨きして、寝る準備をして自室のベッドの上に戻ってきた。

 ベッドに座るとすぐにメモ帳を取り出してさっき起きたことをまとめた。

 

「こうやって見るとかなりの異変が見滝原に起きてるネ。魔女が減ったら別のタイミングで見覚えのある魔女が現れたし、マミがいつも以上に警戒してるようだった。さらに謎の少女と魔法が使えないときた。これじゃあ魔法少女も商売あがったりダネ」

 

 そう言うとボフンと寝転がった。そこでため息もついた。

 

 そうしてしばらくお手上げ状態でいると、突然一つの考えが頭に浮かんだ。

 それを確かめるために起き上がった。

 

「あれなら魔法の説明がつくかも知れない! あたしは『面白い敵が欲しい』と願って魔法少女になったんだヨネ! それと固有魔法の繋がりが元々無いように思えていた。もしも、あの時点を基準に魔法が本物と偽物のどっちでいくか決まるんだとしたら、今のあたしは本来の魔法に目覚めたのかも知れない! キュゥべえもレアケースは存在するって言ったもんネ!」

 

 それに気づいたヨイは早速変身して新の固有魔法を探った。

 すると、マミのリボンのように自由に操れる鎖が出現した。

 それは本物と同程度の耐久性を持ってるようなので戦闘だと佐倉杏子の真似事も出来るかもしれない。

 

「これが新しい固有魔法か。なんて言うか、結構普通だネ」

 

 ありきたりな魔法にヨイはさっきまでのやる気と元気を無くして鼻で笑った。

 しかし、直後に自分の刀を大量に呼び出す力と合わせれば認識操作よりも高い戦闘能力になるかもしれないことに気付いた。

 

「あっ、これに刀をねじ込んだりすれば今まで出来なかった中距離戦も出来るようになるネ。そう考えると物は使いようだヨネ。それを実験するために明日、調査も兼ねて神浜市に行ってみようカナ。ワルプルギスの夜と遊びきるためのヒントもあるかもそれないし」

 

 そう言うと楽しみだという感じでにっこりと笑った。

 それからすぐに明かりを消してベッドに入った。

 当然変身は解いているが、寝ようとして目をつぶったヨイの周囲を一瞬赤い鎖が現れて消えた。

 

 この現象はヨイの固有魔法が真の姿を見せていないことの表れだが、それを本人が知るのはもっと後のことになる。




情緒不安定で戦闘狂なヨイがこれから神浜でマギレコの世界線を体験する。
そんなヨイの目の前に希望なんて無い。


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第2話 神浜デビューはお早めに

 翌日、ヨイは朝の支度をさっさと済ませる。

『マミの機嫌斜めの気配』『数が減った魔女達』『謎の少女との遭遇』『ありえないタイミングでのお菓子の魔女との遭遇』『固有魔法の変化』これらの謎を解くために6時から出かけるつもりなのだ。

 そんで夜遅くまで見滝原に戻らないつもりでいる。

 

「すべての答えが聞いたこともない町にある可能性は高いヨネ。あの子を見たことなんてない。それなのに神浜で救われるなんて言われたら怪しいに決まってるネ。さっさと調査して遊ぼっと」

 

 身支度を整えながら独り言を話してやることを確認する。

 制服を着て財布とスマホとグリーフシードを持ったらいざ出発だ。

 目指すはピンク髪の少女が言っていた神浜市だ。

 

 いつものように玄関で靴を履くと両親の写真に挨拶した。

 

「行ってきます」

 

 それからガチャンと静かで寂しげな家にドアの閉まる音を響かせた。

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 電車で移動して神浜市の西側に到着した。

 

 駅を出たその時、同じ電車から降りたと思われる人の中から魔法少女の存在をキュピーンと感じ取った。

 まあまあな広さの駅なのでどこにいるか正確には分からないが、確実に魔法少女が3人も近くにいる。

 今は戦いたくないと思っているヨイはすぐにその場を離れて駅を後にした。

 

 なるべく人のいない方へと歩いて行く。

 途中まで栄えてる感じがしたが、しばらく歩いて行くと駄菓子屋に着いてしまった。

 その頃には近くを歩いている人も居なければ、魔法少女の気配も一切無くなっていた。

 

 ホッとしたヨイはちょうど休めると思ってその駄菓子屋に立ち寄った。

 その駄菓子屋は『あした屋』だ。

 

「すみませーん」

 

 そこそこ大きな声で店の人に向けて声をかけるとおばあさんが腰を上げて寄ってきた。

 

「見ない顔だね。まぁ、何かしら買ってくれるなら関係ないけどね」

 

「あはは」

 

 おばあさんの明るくて力のある声から出る言葉にヨイは思わず苦笑いを漏らしてしまった。

 それでも気を取り直しておばあさんに言う。

 

「おばあさん、ラムネ一本ちょうだい」

 

「いいけど、あんた学校はいいのかい?」

 

 ラムネを取りながらおばあさんはヨイの制服姿をチラッと見て言った。

 その言葉にヨイはダルそうに返答する。

 

「学校は良家組だの成金組だのとうるさくて嫌なんだヨネ。それに、あそこにはあたしが大っ嫌いな自分の底を見せない奴も居るから行きたく無いんだヨ」

 

 その話を聞いておばあさんは苦労してるんだなと思った。

 だから、その場を少し離れてふ菓子を取ってきた。

 

「はいよ。20円ね」

 

 おばあさんはラムネ一本とふ菓子をヨイに渡そうとしてきた。

 それを見たヨイは驚いて目を見開いた。

 

「はっ? ふ菓子なんて言ってないんだケド!」

 

「おまけだよ。アンタも苦労してるみたいだからさ」

 

「本当にいいのカナ?」

 

「いいんだよ!」

 

 そう言われてヨイはニコッとして20円を差し出しながらお礼を言った。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして。外に座れるからそこで食べな」

 

「はい!」

 

 ラムネとふ菓子を持ったヨイはすぐに出て言われたところに座った。

 そして、ラムネを開栓してふ菓子も袋から出した。

 ヨイは普段から手間のかかる物を嫌ってるから、駄菓子みたいに手軽に食べらる物は大好物だ。

 その好物を目の前にしてヨイの青い目がキラキラと輝く。

 

「駄菓子なんて今の時代は滅多に食べられないから運がいいネ。これを食べてから見つからないように調査を始めよっと」

 

 そう言ってヨイはヒョイっとふ菓子を口に運ぶとパリッと一口食べた。

 その一口分をゆっくり味わうと幸せそうな笑みを浮かべた。

 

「駄菓子のためなら神浜に来るのもいいのかもネ。グリーフシードは他のテリトリーでも侵入してサッと奪えばいいもんネ」

 

 そう言うとまた一口パクリとふ菓子を頬張った。そしてまた幸せそうな顔をする。

 その次はラムネをグイッと一口飲む。すると、ラムネでも幸せそうにギザ歯が見えるほどに表情を緩めた。

 

 

 

 それを十分ほど続けていると、油断しているヨイの元に青髪の女性が近づいてきた。

 その姿に気づいたヨイはすぐに立ち上がって距離を取って手刀の構えをした。

 

「あなた、この街の魔法少女じゃないわね」

 

「それが何だって言うのか分からないんだケド!」

 

「そんなに警戒しなくていいわ。あなたみたいに強い人ならこの町で死ぬことはないでしょうからね」

 

 ヨイはしばらく焦った状態が続いたが、冷静に青髪の女性を観察してその意思の真偽を測った。

 そして、本当にやる気が無いと判断して構えを解いた。

 だが、相手が魔法少女であることは同じ魔法少女だから分かるので警戒を解かなかった。

 

「今の言葉の意味が分からないんですケド」

 

「そのままの意味よ。この町の魔女は他と比べものにならないほどに強いんだもの」

 

「強い? 多くはないワケ?」

 

「そういえば、最近妙に魔女が多くなってきてるわね。いくら魔法少女が多い町と言っても限度があるわ」

 

「多くて強いなんて最高だけど命がいくらあっても足りないネ」

 

 ヨイはこの魔法少女から情報を聞き出そうとナチュラルに会話している。

 その途中で青髪の魔法少女はアドバイスくらいならしてもいいと思ってとある話を始めた。

 

「あなたみたいに見た目から強い人でも厳しいと思うなら、調整屋を探してみるといいわ。この町の魔法少女は彼女の助けを得ることで大抵の子が魔女と対等に戦えているのよ」

 

「それはいいことを聞いたヨ。来たばっかりで右も左も分からないからまずはそこを探してみることにするネ」

 

「あなたに死なれると迷惑なだけよ。別にあなたを助けるつもりではないわ」

 

「はいはい。そう言う奴は結構いるから分かってるヨ。それじゃ、そろそろ行かせてもらうネ」

 

 この会話を終えようと思ったヨイはイスの上に置いたゴミを取ると近くのゴミ箱に捨てた。

 それから青髪の女性の横を通って新たな目的の場所を求めて移動する。

 その途中で彼女の名前を聞くのを忘れていたことを思い出して振り返った。

 

「そこのあんた! 名前はなんて言うんだい?」

 

 その声が聞こえた青髪の女性は振り返って答えた。

 

「七海やちよ、この辺ではかなりのベテランよ」

 

 それを聞いたヨイはニカっと笑って自分も名乗った。

 

「あたしは猫宮宵だ! 見滝原の影に巣くうベテランだヨ!」

 

 そう言い終えると楽しそうな笑顔から今度は嬉しそうな笑顔に変えて言う。

 

「うちのマミと同じくらい強いであろう君と遊びたいけど我慢するヨ。次は戦おうネ。だから『またね』」

 

 言いたいことを言えたヨイはやちよの評価を『面白そう』に変えた。

 それからまた背を向けて栄えているかもしれない方を目指して歩いて行った。

 調整屋がそこなら仕事がしやすいんじゃないかと考えて。

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 歩いていると途中で魔女の気配をいくつか感じ取った。

 そのうちの一つに近づくと魔女の強さを入る前から肌で感じ取ってビビってしまった。

 そのせいで何よりも先に調整屋を見つけようと必死になった。

 

 歩いては魔力を探り、歩いては魔力を探りを繰り返して少しずつ調べていく。

 ある程度それを繰り返すと途中でめんどくさくなってかなりの魔力を使って広範囲の捜索した。

 

「見つけた。独特なパターンをしてるからおそらくこれだネ」

 

 その魔力反応がある場所は今いるところから歩いて5分くらいの所だ。

 ヨイは早く行きたいのでグリーフシードを使いながら早歩きで調整屋に向かう。

 

 本当は誰にも会いたくないが、見つかったり仕方ない状況ならしょうがなく対面する。

 今回もできることなら七海やちよに見つかりたくなかったかったし、出来ることなら調整屋に行きたくもないが仕方ないからヨイは歩く。

 

 そして、調整屋にたどり着いた。

 外から見るとここにあるとは思えないが、中から独特なパターンの魔力と複数の魔力を感じるのでここで間違い無い。

 一応いつでも変身できるようにして中に入る覚悟を決めた。

 

 先に進むと一段と綺麗な場所に出た。

 そこの外観にそぐわない綺麗さにヨイは声を出して驚いた。

 

「マジか!」

 

 思わず声を出してしまったことに焦ったヨイは自分を落ち着かせようと深呼吸する。

 そこに例の魔力の持ち主である魔法少女が近寄ってきて声をかけてきた。

 

「あらぁ、お客さんかしら? 初めて見る顔ね」

 

 その声にヨイはビクッとしてから平静を装って仕事の話を始めた。

 

「あんたが調整屋であってる?」

 

「そうよ。私がこの神浜の魔法少女達をサポートしてる調整屋で八雲みたまと言うのよ」

 

「なら、この町の魔女を倒せるように調整してもらいたいんだヨネ。見滝原から来てるせいで勝てる気が全然しないんだヨ」

 

 ヨイが弱り果てた様子でそう言うとみたまはキョトンとした。

 

「見た感じかなりのベテランよね? それも1人で活動してきた感じだから、経験を活かせば勝てると思うんだけど?」

 

「確かに勝てるかもしないネ。でも、出来ることなら勝率は高いに越したことが無いんだヨネ。勝率が低いと戦いを楽しめても最後はこっちが死にかねないカラ」

 

「ふーん、なるほどねぇ」

 

 その直後、しばらくの静寂を辺りを包んだ。

 それから八雲みたまは笑顔で新しい客を受け入れた。

 

「分かったわ。いつもならグリーフシードを支払ってもらったりするけど、今回は初回のサービスでタダでやってあげるわよ!」

 

「本当か!」

 

 ヨイはみたまの言うことにとても喜んだ。

 その喜びを制すように笑顔のヨイの口元や人差し指を立てた。

 

「喜ぶのはまだ早いわよ。グリーフシードの代わりにあなたには1人で活動させるのが危険な子を2人預けさせてもらうわ!」

 

 そう言われてヨイは目を丸くした。

 それからすぐに警戒態勢に入って尋ねた。

 

「あんたみたいな人が危ないって言うならまだ新人だヨネ?」

 

「鋭いわね。その通りよ」

 

「そいつらを預かってあたしに何のメリットがあるワケ?」

 

「神浜ではあの子達の方が先輩よ。あなたより内部の事情に詳しいし、怪しい人達のことも教えてくれるかもしれないわよ」

 

 その話を聞いてヨイは何かが頭の中で引っ掛かった。

 しかし、すぐにはそれが何なのか理解できなかった。

 

「なるほどね。あんたは危なっかしい奴らを保護できる。あたしは情報を得られる。WIN-WINでしょって言いたいわけネ」

 

「この条件ならあなたは損しないわよ。どうするの?」

 

 そう言われてヨイはため息をついた。

 

「乗る以外に選択肢なんてないヨネ?」

 

「交渉成立ね! それじゃあ、今から調整を始めるから施術台に乗ってくれるかしら?」

 

 相手のペースに乗せられるといつもどうすることが出来ない。

 美国織莉子と同じ苦手なタイプと感じながら施術台の上に横になった。

 

「それじゃあ始めるわね。さぁ、目を閉じて」

 

 言われるがままにヨイは黙って目を閉じた。

 

 するとソウルジェムに触れられる気配を感じた。

 その直後にみたまは何かに驚いた反応をしたようだが、どうにか気を取り直して調整に挑んだ。

 

「終わったわよ」

 

 ほんの20秒くらいで調整は終わり、ヨイが目を開けるとよく分からない感情になっているみたまが見えた。

 そのみたまが降りるのを手伝うように手を差し出したのでその手を取って降りた。

 

「さぁて、終わったことだし早速2人を連れてくるわね」

 

「はぁ、どうぞ」

 

 ヨイがため息をついているのにみたまは気にせずに奥へと行ってしまった。

 ヨイはなにが変わったのかと考えた。

 変身してみたりして確認したが見た目などからはよく分からなかった。

 そうしているとみたまが赤髪の幼女と白髪の少女を連れてきた。

 

「この子達を預けたいのよ。神浜内のどのグループにも入れなかったから、いつも1人で無茶な戦い方をしてるのよ。それでいつもボロボロになってここに来るから見てられなくてねぇ。ベテランのあなたなら色々と分かるだろうから、ねっ」

 

 

 みたまがそう言ってる間にヨイは2人の品定めをした。

 その2人をよく見ると2人とも新人とは思えないほどに才能と魔力が満ち満ちている。

 これで神浜ではボロボロになると聞くと、ヨイは見滝原のマミ達が来たらどうなるのだろうかと想像してげんなりした。

 

「分かったヨ。2人ともまずはここを出るよ」

 

「はい!」

 

 2人揃って元気よく答えた。

 ヨイは元気とやる気のある奴が大好きなのでこの一瞬で後輩達の好感度が上がった。

 期待できそうだなと思ったヨイはみたまにこれ以上なにも言わないようにして出ていこうとした。

 

「待って!」

 

 みたまが大きな声でヨイを引き止める。

 そっと振り返ると険しい表情でヨイのことを睨みつけている。

 

「気をつけなさい。あなたのしようとしてることを少し見たけど、それは本当にいくつ命があっても足りないようなことよ。それに、そんなことをしようとしてるライバルがこの町にはいるから気をつけないと死ぬわよ。出来ることなら目的無しに神浜に来るのはやめて、その子達と一緒に遠くに逃げることね」

 

「御忠告ありがとう。でも、あたしはそれを達成するためにたくさんのグリーフシードがいるから、絶対にまたこの町に来るヨ」

 

「それなら警戒を怠らないことね。出来ることならもっと早くに会いたかったわ。でも、後の祭りね」

 

 最後の会話の意味を理解して噛み締めた。

 みたまに何も言わずに2人を引き連れてその場を後にする。

 

 ヨイ自身もやちよの穏やかじゃない様子や、みたまの何としても生かそうとする様子を見て、もう少し来るのが早ければ普通に遊べたかもしれないと思っている。

 それこそ神浜に来るのはお早めにって感じだ。

 

 しかし、どうすることも今はできないから黙って調整屋から離れていく。

 時間はすでに12時を過ぎている。



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