Grand Stories~『防振り』異聞~ (Bread_竜海)
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【最新版】オリ主`sフルステータス【第一章十九話『剣姫の遍歴/白布を握り締める豚』 時点】

注意!本話には今作の最新話の情報が反映される予定です。よってネタバレだらけです!

タイトルに載せた話(第〇章〇話『〇〇〇』)まで読んでから本話をお読みください!























装備はシーンごとに変わるので表記しません。

よって本話で表記するステータスの値は『素の値(+スキルによる増値)』にします。

本作ではオリ主のアキに大量のスキルを取得させたいのですが、アキの素のステータスはどうしようも無いので、スキルの取得やイベント・クエストの発生要求ステータスは「恒常できる実数値」としますが、【大物喰らい(ジャイアントキリング)】の発生条件のみは原作通り「彼我のステータスの素の値」を参照するものとします。(敵にデバフがかかったせいで自分まで弱体化したり、自分にバフがかかったのに弱体化したりするのは変だからです)

 

 

 

アキ・アカツキ

Lv56 HP 190/190 MP 20/20

【STR 0(5%増)(二倍)】 【VIT 0(二倍)】

【AGI 158】 【DEX 0】

【INT 0】

スキル

【跳躍Ⅳ】【スラッシュ】【ダブルスラッシュ】【パリィ】【狙撃】【挑発】【旋風】【連風】【HP強化小】【拘束】【グラップル】【投擲】【睡眠無効】【昏睡軽減】【悪食】【毒無効】【筋力強化小】【侵略者】【破壊王】【絶対防御】【格闘Ⅰ】【剣の舞】【空蝉】【武芸百般の心得Ⅱ】【煌星】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【ストレージ】【斜陽】【安眠】

【蛮狗の王】

★New! 【レジストオール】

称号

・開放系

〝神殿″〝黄昏城″

・初利用系

〝神殿″〝武具屋本店″〝レベリングダンジョン″〝図書館″〝スキルショップ″

〝スキルリサイクル施設″〝セーフハウス・第一層”"闘技場””雑貨屋”

・討伐系

〝レベリングダンジョン・一階・二階・三階・四階ボス″

ウィズ

Lv2+ HP 0/0 MP 0/0

【STR 0】 【VIT 0】

【AGI 0】 【DEX 0】

【INT 0】

スキル

代行権利(オルタナティブ)】【探知】【Unlimited】

【生産の心得Ⅳ】【鍛冶Ⅲ】

 

 

 

 

おまけ

・オリスキル・武器解説

 

【無窮シリーズ】

第一層最北ダンジョンのソロ初クリア報酬。金色の全身鎧。

頭、体、足、靴の装備欄を占める。着用感はパイロットスーツに近い。

ビジュアルは西洋鎧風の「RX—0 3号機 フェネクス」

【HP +530】【MP +530】

【STR +165】【VIT +165】

【AGI +165】【DEX +165】

【INT +165】

【破壊成長】発動回数:十回

 

【蛮狗の王】

武器攻撃アクティブスキルを使用時、与ダメージ半減。非使用時は倍増。

(例【闇夜ノ写:悪食】で敵を殴った場合

単にぶん殴った場合、【悪食】のダメージが倍増。

【シールドアタック】を併用した場合、ダメージは(【悪食】+【シールドアタック】)÷2

 

代行権利(オルタナティブ)】(ウィズ専用スキル)

このスキルを持つテイムモンスターと使役者の間で、行動とスキルの操作・対象を入れ替えることができる。

 

【クロウラーオーシャン】

喰らい尽す海の主の化身たる蛇剣。

【STR +15】【破壊不能】【剣化/鞭化】【喰海(くらうみ)

 ・【剣化/鞭化】

 武器種:スネークソードにおける基本スキル。読んで字のごとく、剣形態・鞭形態への形態変化スキル。【剣化】時はプレイヤーの動作なしで鞭刃が合体するため敵を巻き込みやすく、【鞭化】時は一瞬だけ刀身に重力が働かなくなるためコンボ始動が容易。

 ・【喰海(くらうみ)

 {未登場}

 

【始原の弓】

原初の時から存在するともされる一見素朴な弓。その材質は今もなお判明していない。

【プライマル・ワン(弓)】【魔弓】

 ・【プライマル・ワン(弓)】

 あらゆる弓のスキルが使用可能。

 ・【魔弓】

 一部のスキルと魔法を矢に変えて射撃できる。矢にMPを注いで各種強化もできる。

 

・【探知】

知覚可能域を拡大する。域内の任意座標の感覚を受信可。

 

・【Unlimited】

スキルのオート動作をマニュアルに変更可。

 

・【武芸百般の心得Ⅰ〜Ⅹ】

あらゆる武器に対応した熟練スキル。

多くの種類の武器を使うほどレベルが上がる。

 

・秋 月見(あき つくみ)

オリ主。第一章開始時点で高1の一月中旬。通う高校こそ剣豪名門の「切先(きっさき)高校」だが本人はVR適性(イメージ力)が高いだけの平凡な帰宅部。「ゲームは楽しくリアルは楽に」をモットーとするゲーマーの端くれ。

 

・ウィズについて

ウィズには天界NPC特有の人格付与がなされているが、中でも数段飛び抜けた演算能力を有する。

所有していると……

・天界関連のクエストの最中、重要な情報を教えてくれることがある。

・所有者が戦闘不能に陥った時、代わりに戦闘を継続してくれる。

・演算能力を生かして戦闘のサポートをしてくれる。

進化派生が2パターン存在する。



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第一章 ありえざる理想郷(アルカディア)
神殿への誘い


書くうちに設定ばかりが膨らみ続けてしまったのでえいやっと第一話投稿です。よって書きだめは特にありません。
とりあえず第一回イベントまでは書いて反応が悪くなければ第四回イベント(原作第四巻・アニメ一期)までで完結しようかと思います。
ご感想、質問、誤字報告等お待ちしています。
では、どうかお楽しみください~


「さて」

俺は使い慣れてきたVRハードを起動した。

 

フルダイブVRの安全性が確立されて数年、やっと我が家でもVRゲームのプレイ許可が出た。

昨日まではVR入門ソフトで慣らしていたが今日からは違う。

-『New World Online』。PV公開時から最新の高画質ビジュアルで期待を集めた新作VRMMO。

かくいう俺もこのゲームに惚れ込んでVRの許可をもぎ取った口だ。

ゲーム歴は今や半ばレトロ扱いされつつあるディスプレイ型ゲーム数作、VRは皆無だが、まあなんとかなるやろ。

 

1ヶ月も前に予約して昨日届いた箱を開ける。

「ヒュー、すげ‥ってもうとっくにサービス始まってんじゃん、急げぃ」

『New World Online』略して『NWO』は今日正式リリースである。

下校を急いだが、やはり間に合わなかったか。

キャラメイクはとっくに決めて、脳内予行演習数十回。カンペキ。

つーわけで、ハード起動!からのログイン!

…………

………

-「Welcome to New World Online

……

「リアルより微妙にシュッと、軽戦士系でっと」

身長は165センチくらい、銀髪に琥珀色の目をしたアバターで初期武器を選択する。

PVを漁りまくった後、「短剣、片手剣…ん〜弓も捨てがたい…」と悩んだ結果、今はソロでもイケるキャラにすることにした。

「短剣二刀流っ!」

初期ステータスは以下の通り。

 

アキ・アカツキ

 Lv1 HP140/140 MP20/20

【STR 30〈+10〉】 【VIT 15】

【AGI 30〈+13〉】 【DEX 20】

【INT 0】

装備

頭【空欄】 体【空欄】

右手【初心者の双剣】 左手【初心者の双剣】

足【空欄】 靴【初心者の走靴】

装備品【空欄】

   【空欄】

   【空欄】

スキル

なし

 

STRとAGIに大体振って、魔法関連は貫禄のゼロ、防御は最低限。スピードアタッカーである。

これでよし。

「‥ゲーム、スタート!」

……

ザワザワ…………ガヤガヤ…………

「ここが…」

_New World Onlineの世界

 

…と感傷に浸る暇も与えてくれないのがMMOの初日混雑である。

 

「わあああ」

 

あれよあれよという間に噴水まで流されてしまった。

仕方がないので、ここで改めてNWOの第一層・最初の街の広場を眺めるとする。

質素ながらきれいな街並みの中、大樹が根づく噴水。

 

「水もリアル感たっぷり…ん?」

 

噴水の水をすくっていたら、底になんか丸いプレート見つけた。

 

「噴水に栓なんてあんのか?「 Δ(デルタ)」…?」

 

Δマークをなぞったり、ツンツn…

…カッッ!

 

「は!?」

 

慌てて手を引っ込めるももう遅い。天上らしき高みから謎の光を照射されていた。

俺の体がふわっと浮く…のに誰も反応しない。2メートルと離れていなかったあの有給取った会社員然とした男性なんかこっちに見向きもせずにどっか行っちまった。

「ちょっ!?」身をよじっても無駄だった。俺は天高く拉致されていったのである。

そのあっけなさは、俺にあるゲームを思い出させた。

 

「フ○トン回収かよクソがあぁぁぁぁぁ…………」

 

視界、暗転。

…………

……

それは封じられたはずの地。

〈異界の勇士よ...よくここまで辿り着きましたね...〉

秘されたはずの仲違いの犠牲。

〈今や天界最後の地...「神殿」へ...〉

無かった筈の物語。

〈天界を取り戻さんとする私達の願いに応えてくれたあなた方に感謝を...〉

居もしない邪なる存在のその先。

〈そしてどうかこれからの、邪神との戦いに御助力を...〉

それは如何なる災禍を、祝福をこの世界へ齎すのだろうか…

……

............

[ステータスに''称号''が追加されました]

[称号''天界に初めて至った者''を取得しました]

......

明転。しかしこれはただ明るいんじゃない、神聖な光…ってオイ。

気がつくと俺は、神殿の前に立っていた。いや正確には、神殿を中心に頂く感じの街の広場に、立っていた。

 

「ここどこ?」

 

 

 

 

 

 

 

一方その少し前…

初デスを迎えた大楯使いのクロムは、噴水のベンチで一息ついていた。

 

「ふう…」

 

理由は簡単、大楯の不遇の原因を実感したからである。

 

「沸きまくるモンスターを捌き切れず、死ぬ…か。確かに」

 

大盾は防御力に優れるが火力に乏しく、格上と当たればじりじりと削り殺される運命を辿る。

ならばパーティを組んで、自分が防ぐ代わりにモンスターを倒してくれるよう頼むのが最善。

クロムは人付き合いに不安がないと来れば、これ一択である。

 

「よしっ、やるか」

 

ちょうどその時。

「は…」という声がした。声の主は近くにいた男子中高生風のプレイヤーだった。

何と無く気になって見ていると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。まるで用事を思い出したように。

(何だったんだろう、…まあいいか)

クロムは立ち上がり、パーティ募集掲示板に向けて歩き出した。




字数が少ないのは第一話だからだよ?ほんとだよ?
感想や質問をもとに書きかけの第二話を見直すので、次回は今しばらくお待ちください。
そうそう、地の分の視点ですが、初期数話は主人公主観ほぼオンリーで、それ以降は原作に寄せて第三者視点メインにしようと思います。目まぐるしくなるかもしれませんが、ご容赦ください。


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招か(れ)ざるもの

「原作既読推奨」タグを追加しました。本作のストーリーは原作小説・アニメ・コミックアンソロジーを元に執筆されております。
活動報告更新しました。


「ここどこ?」なんていっても誰かが説明してくれるはずもなく。

「えぇ...」としばし現実逃避した。

こんなのきいてない。

少なくともこんな荘厳な街なんて真っ先にPVに載せるべき貫禄のクオリティエリアなんて知らない。

現時点で唯一の街である最初の街の上位互換とも取れる広場に転移して来たみたいだ。

大理石でできた噴水にはあちこちに根を生やす大樹ではなく金のレリーフがなされた青水晶の柱。

その奥に最重要施設と思しきパルテノン風神殿が鎮座する。あれがさっきの天の声(仮)が言ってた「神殿」で間違いないだろう。

 

にしても「異界の勇士」「天界」「邪神」不明単語のオンパレードすぎて内容半分も理解できんかったぞ。

あと称号って何?

 

称号''天界に初めて至った者''

 下界の「塔」に巣食う「魔王」討伐後に開放される「天界」を初めて発見した証。

天界関連施設が発見しやすくなる。

 

............また爆弾情報ブチ込まれたァ!?

いや、もういい。とりあえず状況整理。

 

・「異界の勇士」(たぶんプレイヤー)が「天界」の人々の願いに応えて「塔」(第一層を含む?)にやって来た(という設定)

・天界の人々の願いは元の天界を取り戻す事で、その為に「邪神」(たぶん「魔王」の親玉)を倒さなければいけない

・プレイヤー達が「塔」に巣食っていた魔王(ラスボス?)を討伐すると「神殿」に行けるようになるはずだった

・なのにあろうことかサービス初日、プレイ歴1分の俺に発見されてしまった←イマココ!!

 

いやホント、ヒドイ状況だなオイ。

こんなん裏ストーリー、やり込み系、少なくともこんなタイミングで発見されるべき物じゃない。

なんだって運営はこんな場所を最初の街に隠していたんだ?はたまたバグか?

とりあえず、目の前の神殿に入ってみるか。

 

「ようこそ「神殿」へ」

あっ、さっきの声の人だ。女神的な女性がこちらに頭を下げている。俺は何もしてないのに。

 

「いや自分、「塔」とやらに来たばかりだったので頭を下げられるような大層な者では……」

 

はっ、申し訳なさのあまりNPCに謝ってどうする。

ここは運営にご意見メールを送るとこ……

 

「何をおっしゃいますか、天界にいらっしゃった、それも一番に!これだけでもありがたいのですから……」

 

「!?」今何が起きた!?

 

「どうなさいました?」

 

いやまさか、だろ。試してみるか……

 

「あ、ぁあいえ、お構いなく。少々席を外しても?」普通ならこちらの事はお構いなしに喋り続けるのだが……

 

「ええ、どうぞ」

 

本当に、本当にこいつ、「察し」やがった。

 

NPCがこちらの言いたいことを察するということは、すなわち中身は人間と大差ないということだ。

このゲームを購入するにあたって、ベータテスター達の貴重なレビューも一通り読んでいる。

その中には、『このゲームには人間並みの知能を持つNPCがいます』なんてものはなかったしあるはずもない。

いかにフルダイブVRが実用化されていようとも、チューリングテスト合格間違いなしなこんなAIは実用化されておらず、存在していたとしても軍事機密確定なのだ。

運営のアルカディア社はれっきとした民間企業。そんなブツの実験を持ち掛けられるなんてありえない。

でも…

 

「…………」チラッ

「……?」

 

この仕草だってそうだ。NPCがプレイヤーの様子をうかがう必要なんてない。

いやそもそも、NWOにこんなバックグラウンドストーリーなんてないんじゃなかったのかよ!

何が『ストーリー性皆無乙。はー萎えタワー』だおのれぇ!

 

「あの…どうかなさいましたか?」

 

おっといけない。とりあえずこの場は丁重に扱うとしよう。好感度次第ではフラグが建つかもしれん。

 

「いえ、すみませんお待たせして。続きをどうぞ」

 

「では。申し遅れました、私は「神殿」の大神官、アスタルテと申します」

 

「こちらこそ名乗りもせずにお待たせして申し訳ない。俺はアキ・アカツキです。アスタルテ様」

 

「まあ、様なんて呼ばなくても良いのですよ?」

 

「いえ、自分はこのほうが良いのです」

 

「では、そのようにお呼びください」

 

「はい」

 

「ふふ、礼儀正しいのですね。……ではお話します。あなた方異界の勇士、いえ「プレイヤー」の皆様をこの世界へお招きした訳を……」

 

「お願いします」

 

アスタルテ様が語ったところによると…

・この世界には「天界」と「魔界」が存在し、相容れない両者の住人達は常に小競り合いを続けてきた。

・ところが魔界に「邪神」が現れ、魔界をまとめて天界に大侵攻をかけてきた。

・圧倒的な力を誇る邪神の軍勢を前に滅亡の危機に瀕した天界は反攻作戦のための戦力確保計画を立案する。

・その名は「プレイヤーズ計画」。異世界から勇士を募って訓練施設「塔」に集める計画である。

・しかし「塔」の建設が終わったところで計画は邪神に察知され、管理所である「神殿」と天界が寸断。塔内の他の施設は各個襲撃を受け、その全てと通信が途絶。

・秘匿性が高かった神殿のみが無事だったが、生き残った天界人は千人余り。

・最後の希望として呼び寄せたプレイヤー達によって邪神侵攻軍の司令官たる「魔王」が倒されたことでひとまずの安全は確保されたため、神殿の入り口を開放した。

・そして俺「アキ・アカツキ」が入り口を発見し、今この神殿にいる。

ということらしかった。

 

…魔王、出オチ乙!

やっぱ心当たりのないフレーバーだったわ。別ゲーだよこれ。

 

「ちなみに神殿ではプレイヤーの皆様の「れべる」をリセットできますよ」

 

!?…………やはり別ゲーだったか(名推理)

おいおいネタビルドの光明だよここ。レベルリセットが実装されてなかったせいでベータテストでは安定のビルドじゃないと人権なんてなかったとか問題になってたから追加したのか?

波乱の予感満載だけど…[ピロン♪]…ん?通知?

なになに…?『緊急メンテナンスのお知らせ』?えぇ~?初日だし当然だけどこのタイミングはイヤだな。

 

「ああ、塔の修正プロトコルですね」

 

「なんですかそれ?」

 

「神殿に搭載された自己修正プログラムによるメンテナンスです。では、そろそろいったんお開きとしましょう」

 

「えぇ。ではまた後で」

 

メンテすらもストーリーに組み込むシナリオライターの偏執ぶりに戦々恐々しつつもログアウト。さて、調べ物のお時間だ。




もう書きだめは完全に無くなりましたが、週一を目標にします。


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運営達の恐慌

執筆中二回もデータが消え、心が折れかけつつも投稿です。
第一話にオリ主のアバターの描写を追加しました。今話にも同様の描写がありますので、そのまま読み進めていただいても大丈夫です。
アキの初期ステータスを以下の通り修正しました。端数切り上げです。
[HP:132→140 MP:12→20]


その時のことを、彼らはいつまでも覚えているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

そこは運営達の部屋。

 

「『明らかに地形バグってませんかこれ(つ画像)』…うーむ」

 

「んぎゃー!?ドヤ顔で設定書いた店売り最高級の剣の銘が『フロッピー』になってるー!フロッティだよー!」「大差なくね?」「「「それな」」」「んだとぉ!神剣ぞコレ!」「いや、店売り(数打ち)に神剣の名前つけるなよ…」

 

ギャンギャンと騒ぎながら彼らはMMO初日あるある「次々に発見されるバグ」をさばき続けていた。

運営部屋は宇宙のような空間の中心に、白いオブジェがそそり立つという奇怪なデザインになっている。

よく見ると部屋の隅を地球のような緑色の惑星のような点が回っている。オブジェを恒星とするならば、その近くで作業をする運営達はさながら神のようだった。

そして、そんな彼らに訪れる苦難は、神が受けるにふさわしい苦しみを伴っていた。

 

「そろそろこれらをまとめてアプデしましょうか?」

 

「ああ、そうしy」[「天界」が発見されました]

「「「「「……んんんんん?」」」」」

 

そうして、凶報はやってきた。

 

[繰り返します。「天界」がプレイヤーに発見されました]

[魔王討伐後のグランドストーリー「聖邪戦争」を開始します]

[なお、当アナウンスはプレイヤーには秘匿されます]

 

「「「「「はあああああああ!?」」」」」

「おい待てって!」「俺は知らんぞ!?」「これってまさか」

「ああああ!?これ世界(ワールド)派の作ってたやつじゃんか!」

「「「「それだぁ!!」」」」

 

ここで、説明をせねばならない。

実はNWOサービス開始の少し前、運営チームは二つに分裂していたのだ。

理由はありきたりで、いわゆる価値観の相違というやつだった。

かたやNWOという世界にのめり込み、異様なまでの作り込みを目指した「世界(ワールド)派」

こなたNWOというゲームの成功を誓う「遊戯(ゲーム)派」

開発開始時から存在した、チームを二分する二派閥は、サービス開始前に爆発した。

正確には、世界(ワールド)派が一方的にキレた、というべきか。

プログラマーとして、ゲームクリエイターとして優秀すぎた彼らが提示した「現実的な理想のプラン」は周囲や上司には「大風呂敷」に見えてしまったためだ。

この件は外部には「開発メンバーの一部離脱」という形で認知された。

当然不安の声は上がったが、それはプレイヤー達からの高評価の波がかき消してくれるだろう。

問題は、その高評価の源————高画質・軽い処理・機能的なUI・優秀なデザイン————それらのほとんどを世界(ワールド)派が創ったことだった。

かくして、この高度なMMOは、人手と何より技術力に乏しい運営にかじ取りを任せて船出したのだった。

 

「おいおいおい、やべぇよ」「あいつらの作った要素とかブラックボックスなんだけどぉ!」

 

混迷する運営達にさらなるアナウンスが告げられる。

 

[隠しサーバー「神殿」の情報を開示します]

[情報開示クリアランス:最低]

[クリアランスの昇格には上位者の許可が必要です]

 

「上位者」が誰たちを指すのかは明らかだった。

 

「おいぃ、あれ見ろぉ!」「「「「…?……ぇええええええ!? 月ィイイ!?」」」」

 

先ほどまで異常なく部屋の外側を公転していた緑色の惑星に、いつの間にか衛星が出来ていた。

惑星より一回り小さく黄色い点が惑星の周りをゆっくり公転するさまはまさに「地球と月」だった。

先ほどのアナウンスと関係があるのであれば、これが「神殿」とやらを指すのだろう。

今までも世界(ワールド)派の遺物には驚かされてきたが、サーバーが隠してあったとはただ事ではない。

今回は特にまずそうだと運営達は焦る。

 

「よ、よし。落ち着こう」「「「「お、おう」」」」

 

「まず、「天界」とかいうのを発見したプレイヤーは誰だ?」

 

運営達は神殿の情報にアクセスした。どうやら接続数は一人のみ。

 

「こいつです!」

 

映し出されたのは165㎝くらいの少年。銀髪に琥珀色の瞳だ。名前は「アキ・アカツキ」。

 

「発見の経緯は?ログを追ってくれ」

 

数分前のログが再生される。

そこにはアキが噴水のギミックに触れて転移すると同時にアキそっくりのオブジェクトが出現し、慌てたふりをしてからログアウトエフェクトと共に消滅する様子が映っていた。

近くにいたプレイヤーはすっかり騙され、アキがどこかに転移したことなど気づきもしなかった。

 

「うーん、見事な隠蔽だ」「公然と噴水に隠してたのか」

「アキとやらのプレイログはどうだ?」

 

アキのプレイログが早送り再生され、現在時点まで追いついた。ちょうど神殿のような建物に入るところだ。

 

「……クオリティヤバくね?」「「それな」」「「高すぎだろ」」

 

運営達の目にはゲームクリエイターとして嫉妬するほどの出来栄え。個人の好みを超えて十人に十人が神と云うだろう街並みが映っていた。

 

「これ追加したいなぁ」「いやパクリじゃね?」「あいつら離脱したしいいだろ別に」「そういうもんか?」

 

人間じみたAIを見て発狂する様は割愛する。

 

一分後。青い顔をして運営達は顔をつきあわせていた。

 

「…………前言撤回、こいつは消去しよう」「「「「賛成」」」」

 

なぜなら裏隠しエリアだけあって未知の施設や強すぎる要素がてんこ盛りなのだ。追加したら確実にバランス崩壊のインフレルート一直線である。

決意に満ちた表情で運営達は緊急メンテナンスの実行を準備する。

 

「神殿サーバーは削除して称号等も抹消しろ。幸運を掴んだばかりの少年には申し訳ないが、せめて詫びG(ゴールド)は弾んでやろう」

「「「「了解!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

「どっこらしょ」

 

ログアウトした俺はどっかりと自室の椅子に座り込み、緊急メンテ終了まで「NWOwiki」を読んで暇つぶしを始めた。

俺と同様にログアウトしてきたプレイヤー達が掲示板で感想を言い合っている。ほとんどが高評価。乗り遅れなくてよかったと心から思う。

ざっと見た限り、あの「神殿」に関係しそうな情報はない。当然の結果だが、これではっきりしたことがある。

 

「あれは他のプレイヤー達に公開すべきじゃない…か」

 

公開した場合、プレイヤー達が殺到してギスり、インフレの嵐で世紀末化、軍用化待ったなしAIを求めて大国のお歴々がハッキングに次ぐハッキング……そんな中二じみたクライシスさえ夢物語ではない。

俺はこの掲示板を批判で埋めたいわけではないのだ……まあ、ちょっとだけ、情報の独占を目論んでいないとは言い切れないが。

さすがに運営はバカではないだろうし、緊急メンテ明けにはすでに天界は削除されているかもしれない。

今はただ、メンテ明けを待つばかり。




もし世界派のプランが全部実行されていたら、クッソ金かかるけど収益もすさまじい伝説のMMOが出来ていたと思われます。
世界派、遊戯派ってデンドロに近すぎますかね……?運営側の話ということでご容赦を。
ちなみに私はシャンフロファンです。Web原作もコミカライズもおすすめです。
次回から更新がさらに遅くなると思います。運営のターン(被タイムストップデュエル)をどうか気長にお待ちください。


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制止も空しく

タグ「設定多め」追加しました。
プロットをきちんと作っとくとサラサラ書けますね!


[要求クリアランス未満です。サーバーへの編集行為は認められません]

「「「「「嘘だろ…………」」」」」

 

神殿サーバーの削除、失敗。

それが運営達の奮戦の結果だった。

 

「どーするよ。俺たちの運営アカウントじゃ無理なら世界(ワールド)派にでも頼みこむか?」

 

「いや、あいつらアク強いし難しいだろ……『ザクロ』ならともかく」

 

「あの姉御肌だって正しい道理じゃなきゃ動いてくれないしな。おまけにさせられるのは他のメンバーに説得かけるまでだ」

 

「つまりなんだ?どうしようもないのか?アキに至ってはファストトラベル登録済みだろ?」

 

「せめて入り口は削除できないか?あれだけは一層…「塔」サーバー(こっち)にあるんだろ?」

 

「そう簡単にいくかなぁ?……とにかく、この件はここまで。他のバグをさっさと修正するぞ」

 

運営達はそう結論…いや保留してメンテナンス作業に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

メンテナンス明け。一時間ぐらい経ったかな?一層最北にダンジョンが見つかったらしいことが分かったのが最大の収穫。

つーわけで再イン!

 

~一層・最初の街・噴水広場~

ザワザワ…………ガヤガヤ…………

一時間半前から思えば遠くに来たものだ……などと、感傷に浸る俺。まずはお知らせをチェックする。

 

{緊急メンテナンス実施後のお知らせ}

■■月■■日■■時■■分~■■時■■分の間、緊急メンテナンスを実施いたしました。

内容:バグの修正

緊急メンテナンス実施へのご協力、感謝いたします。

添付:10000G

 

NWOにガチャはないので、詫び石ならぬ詫び金が貰えるのか。

初期金が3000Gなのを考えると、初日にしては割といい内容だ。

さて、神殿に戻れるかね?

 

「なんじゃこりゃ」

 

噴水のΔマークが台座と同じ石で埋まっていた。小突くとキンキンと不自然なSEが鳴る。

 

「破壊不能属性付き…?ぶっちゃけやっつけ仕事感が否めないぞ」

 

まるでΔマークを消さずに封印したみたいだ……やっぱり、神殿は運営が後々追加するようなモンだったってこと?

もう神殿にはワープできない?いや、ここまで適当ならファストトラベルは生きてるんじゃね?

 

「できたぁ!」

 

ファストラ成功ぉぉぉ…………

 

 

~天界・神殿・噴水広場~

「っしゃぁ!」思わずガッツポーズ。

どういうわけか、これで神殿は俺が独占できたらしい。

さて、アスタルテ様と話の続きだ。

 

「さて、どこまで話しましたっけ?」

「神殿の機能についてです。レベルリセットができるのですよね」

「そうそう、それでは神殿の他の施設についてお教えしましょうか」

「お願いします」

 

アスタルテ様が語ったところによると……

・「闘技場」

アスタルテ様の弟・神聖騎士団長バルドルの管理する施設。

参加者はPvP・PvMの成績でランク付けされ、そのランクに合った待遇が受けられる。

・「レベリングダンジョン」

その名の通り、神殿まで辿り着いた者達向けのレベリング施設。

階層ごとに初ソロクリア特典があるんだとか。

 

代表的な施設はこの二つらしい。

あとは武具屋、スキルスクロール屋等、一層にもありそうな店舗群があるとのこと。

 

「闘技場、レベリングダンジョンですか……Lv1の自分にはキツイですね……」

 

「そうですね……でもこんな時のための塔です。一度あちらで鍛えていかれては?」

 

「そうします。武具屋の場所を教えていただけますか?」

 

本格的にソロに走るにあたって、オールラウンダーを目指さにゃいかんからな。装備が欲しい。

 

「はい。ついでに神殿を試しにご利用になりますか?」

 

「いいんですか?寄進とかが要ったりとかは?」

 

「いえいえ、この程度の事でお金を取ることは致しません」

 

「そうですか。ではありがたく」

 

レベルリセットは神殿の大広間にいくつも並んでいる祭壇に祈りモーションを取ることでできるようだ。

早速やってみると、光に包まれて最初のキャラメイクエリアに転移した。

[称号〝神殿を初めて利用した者"を取得しました]

 天界の最重要施設「神殿」をプレイヤーの中で初めて利用した証。

Lvが最高到達値になるまで取得経験値に大幅な上昇補正。

 

つまりレベルリセットしても簡単に元のレベルまで上げられるってことか。

レベルが1に戻って、初期ステータス100ポイントを振り直せるようになったらしい。

さっきまでと同じ振りにして、改めてステータスを確認した。

 

アキ・アカツキ

Lv1 HP140/140 MP20/20

【STR 30〈+10〉】 【VIT 15】

【AGI 30〈+13〉】 【DEX 20】

【INT 0】

装備

頭【空欄】 体【空欄】

右手【初心者の双剣】 左手【初心者の双剣】

足【空欄】 靴【初心者の走靴】

装備品【空欄】

   【空欄】

   【空欄】

スキル

なし

称号

・発見系

〝神殿″

・初利用系

〝神殿″

 

~天界・神殿・武具屋~

 

「らっしゃい、プレイヤーさんのご来店は初めてだな」

 

[称号〝武具屋本店を初めて利用した者″を取得しました]

 天界の施設「武具屋本店」をプレイヤーの中で初めて利用した証。

武具屋の商品の値段が常時半額補正。

 

半額とか太っ腹やな。ってか『本店』って何?

 

「ここは武具屋の『本店』なんですか?」

 

「おうよ。俺の先祖の兄弟たちが塔ン中で始めた支店に行ったこたぁあるか?もし行くことがあったら俺は達者だって言ってくれよな!」

 

「分かりました。……えーと、13000Gで片手剣二本、小楯(バックラー)、弓一式、全身鎧って買えますか?」

 

「おうおう、そりゃキビシイな。等級はうちで取り扱ってる中でも最低に近くなっちまうが……」

 

つまり安くとも定額で26000Gするってことかよ。武具の値段を甘く見てたな。

 

「まあ、鍛えるついでに稼いでもっといいのを買いますよ」

「でも無理はすんなよ?……おまけで矢は多めにくれてやる」

「ありがとうございます!」

「これからもどうぞご贔屓に、ってな」

 

さて、買った装備の確認だ。

【神兵見習いの軽兜】

【STR +5】【VIT +10】

 

【神兵見習いの軽鎧】

【HP +50】  【AGI +10】

 

【神兵見習いの軽靴】

【STR +5】【AGI +15】

 

【神兵見習いの片手剣】×2

【STR +10】

 

【神兵見習いの軽盾】

【AGI +10】

 

【神兵見習いの軽弓】

【STR +10】

 

【神兵見習いの矢筒】

【DEX +5】矢の収納可能数:10本

 

【鉄の矢(天界産)】×大量

【与ダメ+3】

 

俺のステータスはこうなった。

Lv1 HP190/190〈+50〉 MP20/20

【STR 30〈+20〉】 【VIT 15〈+10〉】

【AGI 30〈+35〉】 【DEX 20〈+5〉】

【INT 0】

装備

頭【神兵見習いの軽兜】 体 【神兵見習いの軽鎧】

右手【神兵見習いの片手剣】 左手【神兵見習いの軽盾】

足【神兵見習いの軽鎧】 靴【神兵見習いの軽靴】

装備品【神兵見習いの矢筒】

   【空欄】

   【空欄】

 

軽戦士系で素直な性能のやつを選んでみた。

やっぱりスピードアタッカールートじゃねえかな、これ。

とりあえず、これで一層に行ってみよー!




やっぱり噴水のギミックを削除できなかった運営、無理矢理スイッチを街観オブジェクトで埋めた模様。
あ、そろそろキャラ募集しようかな(唐突)お題は次回あたりで。


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窮さぬ金色の鎧

前回の予告通り、キャラ募集やります!詳細はあとがきと活動報告「第一次キャラ募集企画」をご覧ください。
今後、アキのステータスの情報量が著しく肥大することが予想されますので、簡易ステータスを何種類か使用する予定です。
本作は「原作シーンはなるべく壊さない」をモットーにしておりますので、原作とセリフが被ることが多発する可能性があります。ご了承ください。


~一層・最初の街・噴水広場~

まずはさっき余ったGでポーションを購入、そして早速狩場に向かおう。何気に初戦闘だな。

―この時、ツルツルキラキラした装備がプレイヤー達からかなり注目されていたのは言うまでもない。

 

一時間後。

「「「ギギィイィ!」」」キャタピラーたちが光に変わる。

角ウサギや虫系モンスターを狩って、レベルは12に上がった。割とサクサク行けるな。装備のおかげかな?

そろそろ一層の最北ダンジョンに挑んでもいい頃合いだと思う。

「北だな!」

 

さらに30分後。

石造りの遺跡に大勢のプレイヤーが入っていく。その中に混じって俺も初のダンジョンアタックだ!

 

~一層・最北ダンジョン~

パーティーごとにダンジョンが割り当てられるためか、たった一人での初侵入。

まずは猪。

突進してきた猪をギリギリでかわし、すれ違いざまの一閃。ダメージのためかすっころんだ奴を双剣でザクザク。サヨナラ!

次、熊。

遠距離ながら気付かれたので、矢を放って牽制射。あ、当たった。完全にヘイト向いたかな?

また突進かと思いきや、まだ距離があるうちに爪を振って斬撃を飛ばしてきた。

 

「アブねっ!」

 

片手剣をバックラーに持ち替えてガード。

まだ様子をうかがっている様子なので、防御姿勢を取りつつ射撃。何発か撃ったらこっちに突進してきた。

タイミングを見計らい、爪撃をバックラーで逸らして脇腹を切り裂いた。

反撃の拳も剣の腹で逸らし、双剣スタイルに再びチェンジして連撃!

「オオォォオォォ…」熊はどさりと崩れ落ちた。よし。

 

早やボス部屋らしき扉の前に着いた。

戦闘スタイルの確認も済んだことだし、さっそくボスに挑んでみよう。

その前にステ振りと取得したスキルの確認だ。

 

Open Stetus

Lv16 HP190/190〈+50〉 MP20/20

【STR 40〈+10〉】 【VIT 21】

【AGI 50〈+13〉】 【DEX 20】

【INT 0】

装備

頭【神兵見習いの軽兜】 体 【神兵見習いの軽鎧】

右手【神兵見習いの片手剣】 左手【神兵見習いの軽盾】

足【神兵見習いの軽鎧】 靴【神兵見習いの軽靴】

装備品【神兵見習いの矢筒】

   【空欄】

   【空欄】

スキル

【跳躍Ⅰ】【スラッシュ】【パリィ】【狙撃】【片手剣の心得Ⅰ】【小盾の心得Ⅰ】【弓の心得Ⅰ】

 

ステータスポイントが36貰えたので、AGIに20、STRに10、VITに6振った。

「さて」ボス部屋らしき扉を開け、中に入る。部屋の最奥には大樹がそびえたっていた。

もう少し奥に入ると勝手に扉が閉まった。やっべ、戻れないならここで初デスかもな……

そして。

 

大樹がメキメキと音を立てて変形し、巨大な鹿になってゆく。

樹木が変形して出来た角には青々した木の葉が茂り、赤く煌めく林檎が実っている。

樹木で出来た体を一度震わせると大地を踏みしめ俺を睨みつける。

 

「来るか!」

 

俺は弓を構えて引き絞り、急所がないか探る。

鹿の足元に緑色の魔法陣が現れ輝き出す。

戦闘開始だ。

 

先手は俺。放った矢は鹿の鼻面にぶち当たるも鹿の目の前で緑に輝く障壁に阻まれて消失した。

「ギミックボスか!」仕掛けを探す間もなく鹿の反撃。

鹿が地面を踏み鳴らすと魔法陣が一層輝き、地面を突き破って巨大な蔓が現れ、俺に襲いかかる。

 

「【跳躍】ッ!」数メートル飛び上がって蔓の薙ぎ払いを回避する。

 

今度はこっちの番。まずは部位ごとにダメージが通るかの検証だ。あの林檎とか弱点臭くないか?

 

「【狙撃】!」さすがに林檎には当たらなかったが、角には当たってダメージが通った。

 

「あの蔓はさすがに角の隙間には入れないだろうな」

 

再び放たれる蔓を掻い潜り、鹿の足に取り付いて上へ登っていく。つま先、膝頭、背中、引っ掛かりはすべて使って這い上がる。ついでに皮膚を切りつけてみたけどやっぱりダメージはなし。

「【跳躍】……よっと!」角を掴んで這い上がる。念のために林檎を落とそうとして角の根本に近づいたことで行動パターンが変化しやがったらしい。

鹿がジャンプしたり頭をブンブン振ったりして俺を振り落とさんと暴れ出したのだ。

 

「やっべぇ!……おわっ!?」

 

たまらず吹き飛ばされたものの、両膝で角を挟み込んで踏ん張れた。そのまま双剣でザクザクタイム。

そのまま斬り続け、鹿の体力が二割を割ったとき、鹿の足元の魔法陣がまた輝いて鹿の体力を二割きっかりまで回復して鹿のモーションをまた変化させた。

今度は風の刃までもが角の隙間から襲い来る。DPSは落ちるがバックラーに持ち替えて逸らす。

 

「【パリィ】」はじいた風の刃が角に当たってダメージエフェクトを散らす。

 

「パリィすればこっちの攻撃判定になるのか。今後も使うかな…っと【スラッシュ】ゥ!」

 

そのまま削られ続けた鹿は光になって爆散していった。

 

大樹のあった場所に光り輝く魔法陣と大きな宝箱が出現している。

まずは宝箱。3m×2m×1mの豪奢な造りだ。さすがに俺が初クリア者だろうし、期待してもいいだろう。

では、オープン!

 

宝箱の中には金一色の鎧一式が入っていた。金一色といっても塗りたくったようなイメージは受けず、細かいディティールも相まって最高にクールだ。

「おおおぉぉっ!!!」興奮しつつ性能チェック。

 

【ユニークシリーズ】

単独でかつボスを初回戦闘で撃破しダンジョンを攻略した者に贈られる攻略者だけの為の唯一無二の装備。

一ダンジョンに一つきり。

取得した者はこの装備を譲渡出来ない。

 

【無窮ノ金兜】

【VIT +5】【INT +15】【DEX +15】

【破壊成長】

 

【無窮ノ金鎧】

【VIT +5】【STR +15】【HP +80】

【破壊成長】

 

【無窮ノ金足甲】

【VIT +5】【AGI +15】【MP +80】

【破壊成長】

 

【破壊成長】

この装備は壊れれば壊れるだけより強力になって元の形状に戻る。修復は瞬時に行われるため破損時の数値上の影響は無い。

 

 

「…最高か?」あり得ないほどのステータス補正と将来性に打ち震える。

 

HP・MPは各80、それ以外は各15ポイントの上昇。神殿サーバー(隠しエリア)の神兵見習いシリーズすら超える補正値はさらに、使い込むほどに強化されるという。

普段からしっかり着用して性能を十二分に引き出しておくとしよう。

 

「後はもっといい武器が欲しいなぁ…」そうつぶやきつつ魔法陣に乗って最初の街に戻った。

 

その少し後…

【ダンジョン】NWO攻略掲示板NO.6【発見】

543:名無しのプレイヤー

やっぱ雑魚敵つえーなー 

 

544:名無しのプレイヤー

囲まれてさくっと全滅したんですがそれは 

 

545:名無しのプレイヤー

あ~それが、あっこはもうクリアされてんじゃねえかなって 

 

546:名無しのプレイヤー

≫545 は?ンなわけねえだろ 

 

547:名無しのプレイヤー

≫545 理由早く教えてどうぞ 

 

548:≫545

オレもダンジョンにアタックし続けてんだけど、数時間前にダンジョンに入る時にやたら綺麗な装備した奴がいてさ 

 

549:名無しのプレイヤー

≫548 もしかしてこいつじゃね?(つポーションを買い込むアキの画像) 

 

550:≫545

≫548 おー、そいつそいつ

 

551:名無しのプレイヤー

≫548 いや勝手にスクショすんなし……ネチケットは? 

 

552:≫548

≫551 いや別にこれくらいいーだろ別に 

 

553:名無しのプレイヤー

俺もそう思う 

 

554:≫545

ともかく、そいつを見かけて、『うらやまー』って思いながら何回かアタックを続けてその度に死に戻ってさ

ついさっきも死に戻ってみたらこのありさまですよ(つ武器屋に入る無窮シリーズを着けたアキの画像) 

 

555:名無しのプレイヤー

ファッ!? 

 

556:名無しのプレイヤー

数段グレードアップしてるぅ……(白目) 

 

557:名無しのプレイヤー

あーこれはダンジョン制覇して特典貰いましたね間違い無い 

 

558:名無しのプレイヤー

≫557 あ、そういうことか 

 

559:≫545

≫557 オレも同意見だ そいつ当然超目立ってたからもう噂立ってんじゃねえかな 

 

560:名無しのプレイヤー

革かせいぜい鉄装備の俺たちに見せつけてくれるじゃねえかよぉ… 

 

561:名無しのプレイヤー

≫559 これか?【キンキラの】謎のプレイヤー考察スレ【鎧】 

 

562:≫545

≫561 情報提供感謝 たぶんそれだからオレも議論に行ってくるわ

 

563:名無しのプレイヤー

≫562 がんば~

 

564:名無しのプレイヤー

いってら~ 

 

 

かくして、かなりの噂が立つアキであった。

 

 

「しっかし、同じ店売りでも一層だと性能がひっくいな…」

最高級品の『神剣フロッティ』とやらなんか【STR +15】ぽっちのくせに10万Gだぞ、買わん買わん。

やっぱ金が足らん。天界の武具屋にしても数十万はかけなきゃ無窮シリーズには釣り合わない。

「あの鹿は素材をドロップしなかったし…いや、売れるものならあるぞ?」

今日買ったばっかの神兵見習いシリーズがな!

 

いろいろ調べた結果、神兵見習いシリーズは最初の街にある「蚤の市(のみのいち)」で売っぱらうことにした。というのも、仕様で装備の所持者にはその装備の製作者がわかるようになっているのだ。ちなみに神兵見習いシリーズでは『天界・神殿の武具屋で購入』と出る。……アウトォー!

……ただし、蚤の市で買った場合は『蚤の市で購入』に上書きされるようなのだ。どう見てもロンダリング勢御用達ですありがとうございます。

おまけに蚤の市はNPCが運営している設定なのでもめ事もない。さーて高値で売りつけてやろうぜ約1万G!

 

 

 

 

 

 

……結果的に言えば、失敗した。

いや、売却自体には成功したのだが、神兵見習いシリーズは『塔サーバーに存在しないアイテム』であるためか売却額が1G(ゴミ)になってしまったのだ。

気付いてから武器だけは取り消しできたのだが、ショックには変わりない。普段着的な使用には派手すぎて使い道がなかったから売らないとインベントリの肥やし化は避けられない。

特に使う者の性別は選ばないビジュアルだったから、誰かが掘り出して大事に使ってくれた方がいい。

……金稼ぎに神殿のレベリングダンジョンにでも潜るかな……

 

 

 

 

 

[一層・最北のダンジョンが初クリアならびにソロ初クリアされました]

「「「「「ぎゃあああぁぁあぁぁぁぁぁ~~!!!」」」」」




キャラ募集のお題:「神兵見習いシリーズを買った人物」
プレイヤーでもNPCでも、男性でも女性でも構いません。感想欄に簡易的なプロフィールを投稿してください。
必要事項は「第一次キャラ募集・名前・性格その他のイメージ」です。


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死亡度激高レベリング

キャラ募集へのご参加、誠にありがとうございます。


流石に疲れたのでさっさとログアウトして就寝。うわ、日付またいでる。

 

翌日。厳しさの続く冬風に身をすくめながら登校。

我がクラス内のゲーマー達はこぞってNWOの話に興じているらしい。

「ダンジョンが…」「早過…」話し声がもれ聞こえてくる。

あぁ、早く学校が終わらないかなぁ……

 

全力で帰宅。昨日はともかく今日は宿題をやって就寝準備、そしてログイン。

 

~天界・神殿・噴水広場~

地図を調べてレベリングダンジョンに向かう。

歩いていると様々な店を見かける。警備用なのか、白と金色のリビングメイドが何体か辺りを浮遊していた。

そしてレベリングダンジョンに到着。そこには入り口となる大理石の門だけが建っていた。

それでは、攻略開始。

 

~天界・神殿・レベリングダンジョン・一階「???」~

石作りの殺風景な部屋に転移。

《ゴブリンの砦を突破せよ》とアナウンスが入った。

ここは砦で、出現するモンスターはゴブリンがメインということらしい。

そんで早速お出ましだ。

 

「「「グギャガギャギャ!」」」ゴブリン三体出現!

 

まずは最初に斬りかかってきたゴブリンの汚れたダガーを斬り払い、タックルを仕掛けてきたゴブリンの首を掻っ切る。

弓持ちの射撃は二体目の死体で防ぎ、一体目に【スラッシュ】。よろめく一体目と消えゆく二体目を捨て置き、三体目の弓持ちを潰す。

「【ダブルスラッシュ】!」「ギィェェァ!?」よし、仕留めた。

そして一対一で雑魚ゴブリンが俺にかなうはずも……

「「「「「「ギャハギャグギャギャ~!!!!!」」」」」「えぇ……?」

……おかしい……三体目に攻撃する前は確かに一体しかいなかったはずなのに……というかクソ強装備(未熟)を手に入れたとはいえ俺がいきなりサクサク攻略できるはずもないのに出現モンスターがゴブリンってのもおかしい……つーことはここのモンスター共は質より量ってわけで……うん何もおかしくないわコレ。

 

「クソがァ!」

「「「「「「「「「「「ギャギャギャギャギャギャギャ…………」」」」」」」」」」」

 

『スキル【挑発】を取得しました』

 

「畜生メェ~!」

 

撤退!撤退!

 

幸いダンジョンエスケープ機能があったためデスは免れた。

これは……もっとレベルを上げた上で対多戦闘に対策をして挑むべきだろうな……

てっとり早く強くなるなら初利用特典かな?適当に店に入って何か貰おう。

 

[施設の初利用は一日に一回までです。また明日お越しください]

締め出されたんですけど。オイオイ。

……たぶん神殿を見つけたプレイヤーが初利用特典を独占しないための措置なんだろう。よっぽど他のプレイヤーが遅れでもしない限りそんなことはあり得ない。……ますます神殿の独占価値が高まってきたぞ……

結局、今日は一層でレベリングすることになった。

 

~一層・最北ダンジョン~

一時間後……

 

「おーし、こんなもんかな?」

 

俺は爆散する鹿を横目に満足していた。

レベルは早や23。得たステータスポイントを振って、次は武具屋だ。

 

Open Status

Lv23 HP190/190〈+80〉 MP20/20〈+80〉

【STR 55〈+15〉】 【VIT 21〈+15〉】

【AGI 58〈+15〉】 【DEX 20〈+20〉】

【INT 0〈+15〉】

装備

頭【無窮の金兜】 体【無窮の金鎧】

右手【神兵見習いの片手剣】 左手【神兵見習いの片手剣】

足【無窮の金鎧】 靴【無窮の金足甲】

装備品【神兵見習いの矢筒】

   【空欄】

   【空欄】

スキル

【跳躍Ⅱ】【スラッシュ】【ダブルスラッシュ】【パリィ】【狙撃】【挑発】【片手剣の心得Ⅲ】【小盾の心得Ⅱ】【弓の心得Ⅰ】

 

~天界・神殿・武具屋~

 

「昨日ぶりですね」

「おう、立派なモン身に着けてんじゃねぇか」

「実は、昨日購入したよりもっと質の高い武器が欲しいんです」

「いくら持ってる?」

「十万Gです」

「ふーむ、ならもっといいのを渡せるな。片手剣と小盾と弓でいいのかい?」

「いえ、片手剣二振りだけでお願いします」

「なら……こいつらだ」

 

【天人の片手剣】

【STR +15】【AGI +10】

 

【神兵見習いの片手剣】が【STR +10】だったので、大幅な性能向上である。あっちは予備として取っておくけど。

 

「あと集団戦向けの武器ってあります?」

「うーむ、初心者でも使える奴なら……鎖鎌なんかどうだ?」

 

【練達者の鎖鎌】

【STR +10】

『要求ステータス【DEX +20】』

 

「鎖鎌は耐久消費が激しいから数を用意しなきゃならん。つまりさほど強くはないが……」

「もともとサブ武器にする予定でしたから問題ありません。買えるだけ買います」

「まいどあり」「まだ二回目ですよ?」「そういやそうだったな、ガハハ」

 

俺は武具屋を後にした。

 

~天界・神殿・レベリングダンジョン~

鎖は迸り、鎌は宙を駆ける。

「ふっ!」ガギィイィイィィン!!「「「「「ギャァアャァ……」」」」」

鎖鎌、案外使いやすい武器である。割と適当でもぶん回せているから、極めればもっと強そうだ。中距離武器として今後も採用しよう。

一階侵入から十分ほど経った現状は、砦内を探索……というよりはあちこち駆けまわりつつ追いすがるゴブリン共を蹴散らしている、が正しい。

さっさとボス部屋……あ、あった。突入!

 

軋んだ音を立てながら、ボス部屋の扉が閉まった。

大部屋の奥、壊れた玉座から巨人のようなゴブリンが立ち上がる。

頭には錆びた王冠、纏った布をベルトで締め付け、右手にサーベル、背には槍を構えている。

(キング)は粗野な咆哮を上げて配下を呼び寄せた。

 

「ゴアアアァァァァアァァ!!!」「うっせぇ!」

わらわらと這い出る雑魚ゴブリンに辟易しながら、ゴブリンキング戦は始まった。

よく見ると玉座の横に転移魔法陣が輝いており、今すぐにでも一階を突破できることがわかる。

……このちょっとした軍勢を突破できれば、の話だが。

 

まず四方から詰めてくるゴブリンはお仕置き。

 

「【旋風】ッ!」

 

鎖鎌をぐるっと一回転。最前列を吹き飛ばしてもつれさせた所でキングの方から突っ込んできた。

 

「上等ォ!【パリィ】!」

 

サーベルを逸らして後方へ突き飛ばす。すると再び雑魚共が俺を押し潰さんと迫りくるが……もう遅い。

「……【跳躍】」

 

キングが突っ込んだ跡は無人地帯なんだよなぁ!

「イィヤッフゥウウウウ!」

着地。魔法陣目がけて走れ走れ走れ!さっきの突進でキングの速さは見えてんだ追い付かれはしない!

「ハッハァアアアアアっ!」

魔法陣に到着、魔法陣が輝き出す。勝っ…っ!?

 

そこからは、ひどくゆっくりして見えた。

「グルァァァァアアァァ!」キングが背負った槍を先程からはあり得ない速度で抜いて投擲。

思わず体全体で振り返ってしまった俺は回避もできずに。

槍に貫かれた。

 

土手っ腹が弾け飛び、次いで体全体が崩れていく感覚の中、俺の視界はポリゴンに飲まれていった……

 

[二階に到達しました]

[死亡しました。死亡地点:二階]

[ボス未撃破につき、報酬はありません]




アキの動きが初心者にしては良すぎるのは見間違いではありません。
彼はVR適性が高いのです。


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Artificial Spirit

今回は難産でした投稿。次はアキのステータス(最新版)を一話の前に出したいと思います。


「うあー」

教室の机でグデりながら、俺はダンジョン対策を練る。

昨日ダンジョンで死んでからすぐに二階へ行ってみた。

[地底湖のヌシを討伐せよ]とアナウンスされた俺は、洞窟内の湖のほとりに立っていた。

鉄砲魚がウォータージェットを吐き掛け、飛び魚が突撃をかましてくるものの、岸なら危険度は低そうだった。

そして何故か入り口の魔法陣の上に槍が落ちていた。

 

【ゴブリンキングジャベリン】

【STR +75】【損傷加速】

 

どうやら俺が一階のボスに殺されたのに二階に来れている理由は、槍で刺されたダメージで死ぬ直前に二階に転移していた……ということらしい。このジャベリンはかなりの高威力だが、いかんせん耐久がほとんど残ってない。大方俺の【HP】と【VIT】が低すぎて、ジャベリンが壊れるほどのダメージを与える前に俺が死に、目標を失ったジャベリンがここに落ちたんだろう。

さて、この二階は泳げないと攻略は難しそうだな。ベータ版には【水泳】と【潜水】スキルがあったはずだから、習得するとしても、岸からなら楽にレベリングできそうだ。

電気系の技で感電させて、大盾で攻撃を防ぐ感じで行こうか。まずは電気技。いい感じのスキルスクロールねぇかな?

「あれがスキルショップかな?」

そうそう、白くて小綺麗で、知性に溢れた印象の店員さんが出迎えてくれたこの施設の名は……

「ようこそ、()殿()()()()へ」

「Noooooooooooo!!!」

やっちまったぁぁぁ!!

「ど、どうなさいました!?」()()()()が慌ててる。

やっべ、まさか間違えましたなんて言えねぇぇ……

「すみませんとりみだしました」

「い、いえ、ならよいのですが……」

まだだ、まだ終わっちゃいない、初入店ガチャに負けたと決まった訳じゃない。

 

[称号‘‘図書館を初めて利用した者‘‘を取得しました]

 天界の施設「図書館」を初めて利用した証。

テイムモンスター「人工精霊」を入手。

 

「それではこちらをお納め下さい」

司書さんはそう言うと一つの指輪を取り出した。

その指輪には紫色の光が宿っており、それはときおり明滅していた。

「天界にて以前試作された人工精霊(アーティフィカルスピリット)です。天界の基本情報や運用者への身体的サポート等、幅広くご使用下さい」

 

【絆の架け橋:ASwithNONAME】

装備している間、一部モンスターとの共闘が可能。

共闘可能モンスターは指輪一つにつき一体。

モンスターは死亡時に指輪内での睡眠状態となり、一日間は呼び出すことが出来ない。

本アイテムは人工精霊(アーティフィカルスピリット)専用。

 

人工の精霊……?

〈初めまして、マスター〉

!?誰だ?

〈私は人工精霊(アーティフィカルスピリット)です。名前はまだありません〉

おー、つかどーやって話しかけてんの?

〈私の固有スキル【代行権利(オルタナティブ)】を応用して念話をかけています〉

〈念話……ふーむ、じゃあこんな感じで聞こえてるかな?〉

〈飲み込みが早いですね。では早速私の名付けとステータスの確認をお願いします〉

 

ウィズ

Lv1 HP0/0 MP0/0

【STR 0】 【VIT 0】

【AGI 0】 【DEX 0】

【INT 0】

スキル

代行権利(オルタナティブ)

 

【代行権利《オルタナティブ》】

このスキルを持つテイムモンスターと使役者の間で、行動とスキルの操作・対象を入れ替えることができる。

 

〈お前の名前はウィズ。「ASwithNONAME」略してウィズだ〉「共に(with)」とか「賢さ(wisdom)」にもかかっているのだ。我ながらいい名前だ。

〈ありがとうございます。「ウィズ」の名を頂きます〉

 

さて、次はステータスチェックだ。

全ステータスゼロってことはスキル特化型か?

〈この【代行権利(オルタナティブ)】ってのは要するにどんな効果なんだ?〉

〈マスターのアバターを私が操作したり、スキルを発動したりできます。逆にマスターが私のスキルを使うこともできます。私には実体が無いので、身体の操作はできませんが〉

〈お前自身のPS……特技とかあるか?〉

〈特技は物理演算とマルチタスクです。天界の情報閲覧権限も有しています〉

めちゃくちゃ頭いいってことでいいんだろうか(適当)。というより……

〈その権限とやらで閲覧できる情報にはどんなのがあるんだ?〉

〈申し訳ありません。権限の無いマスターには開示することはできません。ですが、マスターに開示へのひっ迫した理由がある場合に限り、私の独断で開示が可能です〉

ギリギリまで開示できない、と。まあ後で教えてもらえるんならいいか。

代行権利(オルタナティブ)の補足をさせていただきます。私がマスターの行動を完全に代行するのではなく、感覚の処理能力を高めつつ動きに補正を掛けるという形で使用することもできます〉

〈つまり……動きが良くなるってことか?〉

〈その通りです〉

よっしゃ予定変更だ、リベンジ決めてやっぞキングがよぉ!

 

~天界・神殿・レベリングダンジョン・一階「ゴブリン砦を突破せよ」~

「「「「「アギャギャギャア~……」」」」」

ゴブリン十数体が一度に光と消えていく。

〈鎖鎌の間合いを完璧に把握していればこれぐらいのことはできるでしょう〉

〈マジかよ……〉

俺がやったとは思えない光景だ。

〈それにしてもマスターの動きにはクセが多いですね〉

〈へ?〉

〈身体の軸がブレブレです。あと何かと舌を出す癖をやめてください。歯並びに悪いです。あと……〉

〈いや、ちょ、待……〉

かくしてウィズの個人レッスンは一時間続きましたとさ。

 

ついにボス部屋前の扉に着いた。

〈さて、こっからだな〉

〈行きましょう〉

ギギィィィ……

扉の向こうには昨日見た光景、あの時を超えてやる。

戦闘開始!

 

キングが突進してくるまでの時間でまずは雑魚を蹴散らす。

〈今です〉

「【連風】!」鎖鎌をぶん回しながら移動できるスキルで踊るようにキングとの距離を縮める。

……最後はこうだぁ!

「ハッハァアアア!」スキルの硬直直前に分銅をキングの額にぶち当ててやった。

「吶喊!」格闘戦に持ち込んでやる、まずはその武器をしまっちゃおうね~。

「武器強奪だってできらぁ!」サーベルを抜く前のキングに肉薄し、慌てて殴りかかってきたその拳を浅く切り裂いて奴の腰に下がったサーベルを強奪、足元に刺して駆け上がって槍も奪う。

「これでボウズだなぁっとぉ!」サーベルを槍で貫きつつヒーロー着地。はい、槍も消滅。

巨体を見上げ、呟く。「あとはわかるな?」

初めて直視したキングの顔は、怯懦に彩られていた。

 

[称号:〝レベリングダンジョン・一階のボスを初めてソロ撃破した者″を取得しました]

[スキル【蛮狗の王】を取得しました]

【蛮狗の王】

武器攻撃アクティブスキルを使用時、与ダメージ半減。非使用時は倍増。

 

特典は……ふむ、これからは通常攻撃主体で行くかね。スキルには後隙あるし。

さて、リベンジを果たして満足満足。今日はこの辺にしといて、二階の対策を練るかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~一層・最初の街・蚤の市~

出品があるはずがなく、従って人通りのない蚤の市を、一人の少女が歩いていた。

人相を隠す古ぼけた緑のローブをかぶり、安全な街中にあってなぜか慎重に辺りを見回す彼女の視線が、たった一つの商品に留まった。

思わずといった風で駆け寄った少女は、懐かしげに口元をゆるめ、その捨て値に苦笑しながら買い求めていずこかへと街を去っていった………

 

 

 

 

 

 

 

 




『彼女』は当然プレイヤーではありませんが、原作にいるキャラではあります。
さて、誰でしょうか?分かったらコメントで教えてください。


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貪り喰らう海

ひいこら次話投稿。
投稿を確認次第、『オリ主`sフルステータス』は更新しました。
視点変化が目まぐるしいと感じられてたらお伝えください。


翌日、放課後。

~天界・神殿・武具屋~

【雷候の撃杖】

雷を宿す短杖。

【INT +10】【ライトニング】

 

【撥水の大盾】

サーフボードを模した大盾。

【水属性耐性大】

 

「こいつらにするかい?」「ええ、買います」「まいどあり」

 

~天界・神殿・レベリングダンジョン・二階「地底湖のヌシを撃破せよ」~

Open Status

Lv30 HP190/190〈+110〉 MP20/20〈+80〉

【STR 61〈+15〉】 【VIT 21〈+15〉】

【AGI 68〈+15〉】 【DEX 20〈+20〉】

【INT 0〈+25〉】

スキル

【跳躍Ⅳ】【スラッシュ】【ダブルスラッシュ】【パリィ】【狙撃】【挑発】【片手剣の心得Ⅳ】【小盾の心得Ⅲ】【弓の心得Ⅱ】【鞭の心得Ⅲ】【旋風】【連風】

★New!【拘束】【グラップル】【投擲】【蛮狗の王】【HP強化小】

装備

頭【無窮の金兜】 体【無窮の金鎧】

右手【雷候の撃杖】 左手【撥水の大盾】

足【無窮の金鎧】 靴【無窮の金足甲】

装備品【神兵見習いの矢筒】

   【絆の架け橋:ウィズ】

   【空欄】

 

アキは地底湖にやってきていた。

「さて、始めっか」

そう言いだすと大盾と杖を構える。

鉄砲魚のウォータージェットが飛んでくるが大盾で防ぐ。

そして、

「【ライトニング】」バリバリと雷光が走り、着弾した鉄砲魚のみならず周囲の魚も焼いていく。

一掃された魚達の素材を求めて湖に潜り、魚の再湧き(リポップ)まで【水泳】と【潜水】の取得・レベル上げに勤しむ。

これを数時間繰り返した。

 

「なんだか、単調かと思いきや楽しいもんだな、レベリング」

そんな呟きすら漏れる現在、日曜日の午前零時でございます。休みの日は夜更かしできていいねぇ。

ついさっき【水泳】と【潜水】がレベルⅩに達し、そろそろ先に進もうかと思ってもなかなかやめられなかった作業をようやっと切り上げたところだ。

地底湖の奥にある、幅数メートルの水路の奥がボス部屋と思われる。

魚共の間をすり抜けて侵入。トラップの類はなさそう……ってあれ、なんか速い?

〈警告:流速の急激な増加を検知〉

「あっこれって爆速川下り(ウォーターシュート)なのではへぶっ」沈むゥ!

「おぼぁっ!ふっざけんなぁ!」クッッソ!超流されてるし!

〈前方5メートルに岩塊、衝突まで推定3秒〉

「うげぇ!?」回避回避ィ!

ここは水面ではなく水中にこそ活を求めるべきだ。何せ三次元機動ができる。

さっさと潜って避けゲー開始。右へ左へ、イルカのごとく体全体で水を叩いて回避していく。ホイホイ回避して数十秒後にはボス部屋にたどり着いていた。

〈はーっ、っし行くぞウィズ〉

〈了解〉

 

ボス部屋は一辺100m程の立方体で、水深は90メートルほど。

俺が中央に向けて少し進んだところで水がうねりながら浮き上がり、生物の形を作っていく。

出来上がったのは体長十数メートルのサメ一匹、そして追従する数十匹のコバンザメ。

自分こそがこの()の王者とばかりに大音声で覇を唱えた。

 

まず数匹のコバンザメがその姿を魔法陣に変えた。

その魔法陣から太さ数センチの水流があふれ出し、四方八方に散っていく。水流といってもチョロチョロなんて代物ではなく、やけに尖ったそれはヴンヴンと不快な音を放っている。これは……

〈水流から極低周波を検知。超高圧水流(ウォータージェット)です〉

〈触ったらスッパリ……か〉

周囲に残留しているそれらは回避妨害用だろう。ならば次は来る。

「ウオォooooo――!」

案の定、サメが突進してきた。

が。

「あべっ!?」

速さが尋常じゃなかった。

「ウッソだろお前20m離れてたんだぞお前……」

もしあと十メートル距離が詰まってたら回避のビジョンが浮かばない。そして俺は近接メイン。つまり、

「ろくに訓練してないこの弓と魔法でやれってのか……」

〈警告:コバンザメ十体が突進してきます〉「【ライトニング】!!!」

アブねえなおい。

やってきたコバンザメ達が雷撃を受け、元の水に還った。補充はされてない。

〈なるほど、【ライトニング】なら一撃か。杖はちゃんと握っとくからコバンザメの処理は頼むぞ〉

〈了解〉

サメに向けて弓を引き絞る手で杖を握った。

「いくぞ」

 

「【狙撃】」〈【ライトニング】〉鉄の矢が、雷光が、共に宙を駆けた。

それは【代行権利(オルタナティブ)】による同時詠唱。サメが穿たれ、コバンザメが融け消える。

突進は【跳躍】で躱す。水中での発動だけあって低い高度からアキが背びれに斬りつける。

「【ダブルスラッシュ】!」残体5割。意外に体力は低いらしい。

そしてここでボスが強化された。残ったコバンザメを全てウォータージェットに変えて放ち、二十発ほどが残留した。蒼いオーラを纏って攻撃判定を広げ、仕切り直しとばかりに鋭い咆哮を上げる。

 

〈クソ、これじゃ回避できないぞ〉

〈推奨:【パリィ】による防御・【グラップル】による回避〉

・【グラップル】

掴み・拘束・引っ掛け判定に上方補正。

〈ほんじゃ回避にしようかね。補佐は頼むぞ〉

「【跳躍】、【投擲】」

アキは【跳躍】で高度を稼ぎ、鎌を投げて天井にぶっ刺した。そのまま鎖を引っ張って飛び上がり、サメを回避して上から容赦なく矢を射かけ、着水。残体3割。

 

怒ったサメが差し向けたコバンザメが【ライトニング】に撃墜されたのを確認して、【狙撃】。

残体2割を割り込んだサメが赤いオーラを纏った。

残っていたコバンザメが全て水球になって、みるみる膨張していく……!

 

〈こっからが正念場だぞ〉〈了解。警戒を最大限に致します〉

が、もう遅かった。

 

水球が全て海中に潜った直後、アキを中心に数メートルの海水が渦を巻き、一瞬でアキを取り囲んだ。

肝心のサメはアキの下で大口を開けている。このまま渦に飲み込まれれば、身動きが取れなくなるだけでは済まないだろう。渦は少しずつ狭まってきていて、時間はない。その上水位まで下がってきていて、【跳躍】だけでは渦から逃れられないのだ。

 

〈警告、警告!〉〈わあってる。……そうだな、()()準備しといてくれ〉

だがアキは慌てず騒がず予備の鎖鎌を出して、【撥水の大盾】と左足に巻き付け、固定。

もう一度【投擲】で鎖鎌を天井に刺し、【跳躍】で渦向けてジャンプした。

〈何を?〉〈まあ、ちょっと見てろって〉

左足に結び付けた大盾から着水し、鎖を手繰り寄せながら渦の流れに乗って上へと昇っていく。

そのまま渦の上面、天井スレスレの所に昇り切ってしまった。

完全に閉じた渦が今度は外縁から縮小していく。もみくちゃになった獲物を期待していたサメの瞳が困惑に染まった。

「アテが外れましたってか?へっ、やってやんよ」

アキはそう言い捨てると大盾から飛び降りてサメに向かって突っ込んだ。

「Oooooahhhhh!!!」

バカめとばかりにサメが再び大口を開ける。二割を切ったとはいえあと数秒の間に削り切れる体力でもない、その前に噛み砕いてやるとばかりに。

 

だが、

「後方……」

アキもそんなことは、

「宙返り……」

先刻承知である。

「抱え込み……」

だからこそアレを用意させた。

「ひねりぃ!!」

身体を(よじ)って【投擲】するは【ゴブリンキングジャベリン】。

それは牙がつかの間の主に届くよりも早くサメを砕き、自身もまた光に還っていったのだった。

 

 

[称号:〝レベリングダンジョン・二階のボスを初めてソロ撃破した者″を取得しました]

[【クロウラーオーシャン】を入手しました]

【クロウラーオーシャン】

喰らい尽す海の主の化身たる蛇剣。

【STR +15】【破壊不能】【剣化/鞭化】【喰海(くらうみ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局あの後はスキルショップに寄っただけでログアウトした。もう三時だし。

「は~つっかれ~」

やっぱりぐでりながら就寝。

 

翌日、月曜日。

「翼ちゃん、今日も朝練ありがとうね」

「部長、私は特に何も」「いいんだよ翼ちゃん」

そう言って剣道部長は【宮本翼(みやもと つばさ)】に向き直る。

「翼ちゃんがいるだけで空気が引き締まってるんだから」

「いえ、それはそうですが」

「やっぱり分かってんじゃん、ならやっぱりありがとうだよ」

「……どういたしまして」「うん、それでヨシ!」

翼の視線が猫顔で人差し指を振る部長から一人の男子生徒に流れる。

「……部長、あの一年生、部員にいませんよね?」

「ん~?だねぇ?普通の生徒に見えるけど、どしたの急に?」

「いえ、別に」「なんでぇ~?……あ、気になってるとか~?にゅふふ」「違いますよ」

部長の追及を受けつつも翼は考える。

(あの生徒、同級生にいたでしょうか)

彼の立ち居振る舞いに見覚えがなかった。剣道強豪の我が校においても新入剣道部員くらいの技量はあるだろうか。

その割に筋肉がついていないのが不思議ではあったが、こんな生徒がいきなり現れるというのは変だ。

(もう少しよく見てみるとしましょう)

 

そんな翼の思惑など知らずに、その生徒……アキのリアルの人たる【秋月見(あき つくみ)】は。

「ったく夜更かしはするもんじゃねぇな~あふ…………」

呑気にあくびを垂れ流していた。




やっと出せた翼の簡易解説をば。
・宮本 翼(みやもとつばさ)
剣道の名門・強豪たる「切先(きっさき)高校」において最強、大会出禁と言われる最強剣士で、宮本武蔵の子孫。オリ主の月見とは同級生。
普段は無口でおとなしい性格だが、剣道試合では全力で相手を倒そうとする。意外と短気で、煽りや挑発されるとすぐブチギレて暴走する。でも根は優しく、面倒見がいい。不調で鍛錬が出来なくなった際に、兄から勧められて以来剣道系のゲームを時々やっている。
修行と称してモンスターを倒しまくっていつのまにか剣姫と呼ばれていたらしいが、ゲームの世界でも煽りや挑発を受けるとブチギレて暴走し、各地で大暴れした結果バーサーカーとも呼ばれている。






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眠死の園

「……そう、もう来てるんだ……!」

暗闇……否、星空を背景に少女は歓喜していた。

数年もの間待ち焦がれた故郷の痕跡にとうとう辿り着いた。数日前から訪れるようになった人々、天界奪還の要「プレイヤー」達の中に、それをもたらした者がいるのだ。

この「仕事」を続ければ、必ず巡り合えるはず。そして帰る手助けをしてもらおう。ここに閉じ込められたわけではないが、一人で天界に帰ることだけはできないのだから。

故郷ではとっくに死人となっているだろう身を思って苦笑した彼女は、()の来訪を悟ってテキパキと仕度を始める。短躯を隠すローブを脱ぐと、はらりとこぼれる赤毛に混じる、一房の橙。

彼女の名は【アカネ】。天界の新米兵にして、今はまだ薄暗い洞窟の先に身を寄せる者。

 

 

 

~天界・神殿・レベリングダンジョン・三階「スリープガーデンを殲滅せよ」~

ガーデンというからには、そこには花園がある。生ける屍を肥やしにするという設定を持ったここに【睡眠耐性】を持たない者が踏み入れば、当然、

 

〈……Zzz……〉〈起きて、起きてください、マスター!〉

こうなる。

 

どこか女性的な所作で必死という風に【クロウラーオーシャン】を振るうアキは実のところ、爆睡していた。

三階に入るなり【睡眠】にかかったアキに代わり、ウィズがアバターを操作して戦っているのである。

ダンジョンエスケープで逃げられるのだが、【睡眠耐性】がなければここに来るたびに同じことを繰り返すだけだ。飛んでくる尖った葉や蔓を回避しながら必死に時間を稼ぐウィズであった。

 

[【睡眠耐性大】が【睡眠無効】に進化しました]「ハッッ!……ふげっ!?」

目が覚めた瞬間アバターが混線し、硬直してしまったアキは蔓に弾き飛ばされ、階層の端まで滑って止まった。

「…………分かるように説明しろ」〈……了解〉

 

かくかくしかじかとウィズから説明を受けたアキは溜息をついた。

「無効ないと抵抗できないのかよ……」〈そのようです〉

かなりの死にゲーではあるが、ウィズのおかげで突破に成功したというわけだった。

後は殲滅だけである。

 

[【蛇剣の心得Ⅰ】を取得しました]

【蛇剣の心得Ⅰ】

スネークソードを装備している際に与ダメージが1%増加する。

取得条件

【片手剣の心得】と【鞭の心得】のスキルレベルⅤ以上

 

ボス部屋は擦りガラスでできた鳥かごのような温室だった。

不透明な扉を押し開けて中に入ると扉は勝手に閉まり、温室の中央の床を突き破って毒々しい緑色の食人花が現れた。体長数m、どどめ色の触手を幾本も生やし、花はもはや醜悪な顔をかたどっていると言っていい。

食人花は花びらを大きく開いて緑色のガスを温室一杯に吐き出した。

 

「催眠ガスなんかきかな……ぅ?」

踏み出そうとしたその足から力が抜ける。

なぜ。思わず己のステータスを見やったアキは、状態異常の欄にそれを見つけた。

―【昏睡】。

〈ちっ、油断した……。後は頼む……〉〈ッ、了解です〉

 

・【昏睡】

【睡眠】の上位互換。ダメージを受けても解除されない。

HPが毎秒ごとに最大値の1%減少し、自動回復しない。

 

よく考えればボス戦とは今までのようにいかないモノである。

【睡眠無効】を取得したからといって簡単に突破できるものではない。

先程のように耐性の取得を待っている余裕は無いとウィズは判断した。

〈ポーションが幾つ持つか……ですね〉

走り出して食人花に肉薄したアバターに蔓が迫る。ウィズは【クロウラーオーシャン】を構えた。

それはまるで沢山のサメの牙を海水の鎖で繋ぎ合わせたかのような蛇剣(スネークソード)だった。

「〈【鞭化】〉」ウィズがそう唱えると、ガシャンと音を立てて牙たちがほどけ、振るわれた鎖に引かれて蔓を迎撃する。

剣と鞭の性能を併せ持つスネークソードは中~近距離戦に適している。アキに最適といえる武器だった。

食人花は先程よりも強化された攻撃を次々放つがウィズには予測されきった攻撃だ。ぎこちないながらも余裕をもって回避し、【パリィ】していく。

昏睡毒の花粉によってポーションが尽きる前に食人花は倒れたのだった。

 

[称号:〝レベリングダンジョン・三階のボスを初めてソロ撃破した者″を取得しました]

[【始原弓】を入手しました]

[【悪食】を取得しました]

[【毒無効】を取得しました]

[【昏睡軽減】を取得しました]

[【大物喰らい(ジャイアントキリング)】を取得しました]

 

・【始原弓】

原初の時から存在するともされる一見素朴な弓。その材質は今もなお判明していない。

【プライマル・ワン(弓)】【魔弓】

 ・【プライマル・ワン(弓)】

 あらゆる弓のスキルが使用可能。

 ・【魔弓】

 一部のスキルと魔法を矢に変えて射撃できる。矢にMPを注いで各種強化もできる。

 

・【悪食】

あらゆる物を飲み込み糧に変える力。

魔法や攻撃、アイテムを自分のMPに変換することが出来る。

容量オーバーの魔力は魔力結晶として体内に蓄えられる。

取得条件

致死性の劇物を一定量経口摂取すること。

 

・【毒無効】

毒を無効化する。

 

・【昏睡軽減】

昏睡を軽減する。

 

・【大物喰らい(ジャイアントキリング)

HP、MP以外のステータスのうち四つ以上が戦闘相手よりも低い値の時にHP、MP以外のステータスが二倍になる。

取得条件

HP、MP以外のステータスのうち、四つ以上が戦闘相手であるモンスターの半分以下のプレイヤーが、単独で対象のモンスターを討伐すること。

 

 

 

 

 

〈何か、かなりいいスキル引いちまったな〉〈要、検証です〉

Open Status

Lv32 HP190/190〈+110〉 MP20/20〈+80〉

【STR 64〈+25〉】 【VIT 21〈+15〉】

【AGI 70〈+25〉】 【DEX 20〈+20〉】

【INT 0〈+15〉】

スキル

【跳躍Ⅵ】【スラッシュ】【ダブルスラッシュ】【パリィ】【狙撃】【挑発】【片手剣の心得Ⅴ】【小盾の心得Ⅳ】【弓の心得Ⅳ】【鞭の心得Ⅴ】【旋風】【連風】【拘束】【グラップル】【投擲】【蛮狗の王】【HP強化小】

★New! 【睡眠無効】【昏睡軽減】【悪食】【毒無効】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【大盾の心得Ⅰ】【蛇剣の心得Ⅰ】

装備

頭【無窮の金兜】 体【無窮の金鎧】

右手【クロウラーオーシャン】 左手【神兵見習いの軽盾】

足【無窮の金鎧】 靴【無窮の金足甲】

装飾品【神兵見習いの矢筒】

   【絆の架け橋:ウィズ】

   【空欄】




期間限定【悪食】のターン。
ちなみに食人花のビジュアルは『メン・イン・ブラック2』のラスボス(最終形態)をご想像ください。


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#400080「強化イベント」

大幅な投稿遅れで本当にすみません。最近は多忙だったのです。
そしてこれが2020年最後の投稿です。年末の活動報告も上げましたので、ぜひご覧ください。


三階を攻略した翌日、アキは【大物喰らい(ジャイアントキリング)】を【廃棄】してからレベリングダンジョンを周回していた。

 

その光景は恐怖の一言だったが。

 

~天界・神殿・レベリングダンジョン・一階「ゴブリン砦を突破せよ」~

まず全力でボス部屋に最速到達したアキは……

ゴブリンキングに向けて無造作に全力疾走したかと思えば一瞬で無窮シリーズを装備解除し、ゴブリンキングに向けて飛びかかったのだった。当然、サーベルが振り下ろされる。

だが、なぜかサーベルごとゴブリンキングの体が、アキのアバターと接触した箇所だけ抉られ、一瞬遅れて全身が爆散する。

「チッ、ジャベリンもデスポーンしやがった」

ぼやきながらドロップを回収するアキ。その体にはうっすらと紅い結晶が張り付いている。

こんなことになった原因は【悪食】である。

直接アバターに接触した敵や攻撃がことごとく食われているのだ。

一撃必殺の【ゴブリンキングジャベリン】こそ手に入らなかったが、むしろこっちの方が凶悪である。

……そして、事故は起こる。

 

[【破壊王】を取得しました]

・【破壊王】

 両手の装備スロットを必要とする武器が片手で装備可能。

取得条件

 規定時間内にダンジョンをクリア。要求【STR】値百以上。

 

前日、食人花討伐後に行ったステ振りと【筋力上昇小】の取得によって【STR】値がギリギリ百を超えたため、取得と相成った。

…………さらなる周回によって、事故は連鎖した。

 

[【侵略者】を取得しました]

・【侵略者】

このスキルの所有者の【STR】を二倍にする。【AGI】【VIT】【INT】のステータスを上げるために必要なポイントが通常の三倍になる。

取得条件

一定時間内にボスを規定数討伐。要求【STR】値百以上。

 

その後も、ボス周回に飽きて雑魚ゴブリン相手に【格闘】の練習を執り行ったため……

 

[【極悪非道】を取得しました]

[【絶対防御】を取得しました]

 

・【極悪非道】

相手の攻撃をわざと受ける度に【VIT +1】

ただし効果はスキル発動から一日の間。

上限は【VIT +25】

取得条件

倒すことの出来る相手の攻撃をわざと受け続ける時間が一定値を超えること。

かつ、それまでに一度もデスペナルティを受けていないこと。

 

・【絶対防御】

このスキルの所有者の【VIT】を二倍にする。【STR】【AGI】【INT】のステータスを上げるために必要なポイントが通常の三倍になる。

取得条件

一時間の間敵から攻撃を受け続け、かつダメージを受けないこと。かつ魔法、武器によるダメージを与えないこと。

 

 

ひたすらゴブリンを素手と【悪食】で殴り続け、ゴブリンにノーダメージで殴られ続けたため、このような惨状になった。おまけにとうとう無窮シリーズが最初の【破壊成長】を迎えたため、HP・MPが30ずつ、その他が15ずつ伸びた……が。

 

「あんま嬉しくないんだよなぁ……」

 

Open Status

Lv36 HP190/190〈+140〉 MP20/20〈+110〉

【STR 68〈+30〉(5%増)(二倍)】 【VIT 21〈+45〉(二倍)】

【AGI 70〈+30〉】 【DEX 20〈+35〉】

【INT 0〈+30〉】

スキル

【跳躍Ⅵ】【スラッシュ】【ダブルスラッシュ】【パリィ】【狙撃】【挑発】【片手剣の心得Ⅴ】【小盾の心得Ⅳ】【弓の心得Ⅳ】【鞭の心得Ⅴ】【旋風】【連風】【拘束】【グラップル】【投擲】【蛮狗の王】【HP強化小】【睡眠無効】【昏睡軽減】【悪食】【毒無効】【大盾の心得Ⅰ】【蛇剣の心得Ⅰ】

大物喰らい(ジャイアントキリング)

★New! 【筋力強化小】【侵略者】【破壊王】【絶対防御】【格闘Ⅰ】

装備

頭【無窮の金兜】 体【無窮の金鎧】

右手【空欄】 左手【空欄】

足【無窮の金鎧】 靴【無窮の金足甲】

装飾品【神兵見習いの矢筒】

   【絆の架け橋:ウィズ】

   【空欄】

 

~天界・神殿・神殿~

「お久しぶりです」

「一週間ぶりですね。あら、早くもお強くなられたようで、おめでとうございます」

アスタルテ様に礼をして、早速レベルリセットをしてみたが……

 

《b》Simple Status《b》

Lv1 HP40/40〈+140〉 MP20/20〈+110〉

【STR 10〈+30〉(5%増)(二倍)】 【VIT 5〈+45〉(二倍)】

【AGI 3〈+30〉】 【DEX 20〈+35〉】

【INT 0〈+30〉】

 

初めてキャラメイクした時と同じステ振りにしてみたのだが、【侵略者】と【絶対防御】のせいでステータスの素値が三分の一になってしまった。(HP・MPを除く)

「これも【廃棄】だな……」

だが強力なスキルには違いないので、ステ振り時以外では持っていたい。

というわけでのろのろとスキルリサイクル施設へ向かうアキであった。

 

 

俺は称号で半額効果を得たため【廃棄】したスキルを一つ当たり25万Gで再取得できるようになった。

しかし周回を終える度に50万G払うのはキツイな。おまけに天界には『需要と供給』が存在するせいで素材周回しまくれば良いってモンでもないのだ。豊作貧乏とかリアルに作り過ぎなんだよ……

ともかく、再度レベルリセットして周回を再開したのだった。

 

称号〝神殿を初めて発見した者″の影響で異様にレベルが上がりまくった。

二時間でレベルが35まで戻ったところで、新たに入手したスキルがこちら。

 

【剣ノ舞】

攻撃を躱す度にSTR1%上昇(最大100%)

ダメージを受けると上昇値は消える。

取得条件

レベル25到達までノーダメージ。

 

【空蝉】

一日に一度致死ダメージを無効化する。

一分間【AGI】50%上昇。

取得条件

レベル35到達までノーダメージ。

 

案外NWOは強スキルまみれ……な訳ないよな。どーしよ。

とりあえずログアウト。明日学校でよく考えよう。

 

 

 

 

 

翌日。

「貴方、私の弟子になりませんか?」

「は?」




……後悔はしていません、ええ。原作キャラどもとバトるにはこれくらい必要なのです。
来年も宜しくお願いします。


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人外魔境の予備校

初めてのリセットレベリング翌日……

「貴方、私の弟子になりませんか?」

「は?」

ヘルプミー。

 

 

 

~リアル・切先高校・1—B~

それは1月の末、一年生にして切先高校の絶対上位者たる宮本翼の、最も特異な日であった。

 

そもそも宮本翼とは誰か。

彼女はかの二刀流で名を馳せた宮本玄信武蔵の子孫の家系にして、彼の開いた剣術「二天一流」の本山たる剣道場を営む「宮本家」の末妹である。

その剣の技量たるや凄まじく、中学生にして道場主の父を破り、既に学生剣道界からは試合出禁の身であるというまことしやかな事実(ウワサ)が飛び回っている。

故に剣道部に所属こそすれども試合に出ることはなく、もっぱら道場の隅で素振りをし、段位試験の練習相手を務めるくらいであるのに、部員達の士気と緊張感が鰻登りなのは、ひとえにこの切先高校が彼女の「宮本道場」への登竜門であるからだ。

それほどの実力者である彼女に師事を請う者は学内に山ほどいるが、彼女は自身の年少を理由に全て断っている。

よって宮本翼の弟子に、剣道を志してもいない者がなることは異常事態であるのだ。

 

 

 

「貴方、相当の実力者でしょう?身体こそ鍛えていませんが反応と身のこなしはかなりのものです。まさか未発掘の人材が偶然我が校に?……奇跡と言ってもいいですね…………」

「はい?あの……話が読めないんですけど……?」

「そういうわけで弟子入りして……いえ、しなさい」「あ、アカンこれ」

……

…………一分後。

これは本格的にマズイ。学内カースト外がカーストトップに詰め寄られている図は校史に残るぞ。

それ以前に宮本さんの説得押しがヤバい。言葉を尽くされているのは分かるけど、そんな押せ押せの「三顧の礼」は無いですよ?

「あの、ですね……剣道部入部とか帰宅部には体力的にキツいんですけども」

「いえ、稽古は実家(うち)で行うつもりなので」

ブワァァァ!と周囲から殺気が膨れ上がった。やばいころされる。さっさと断らねば!

「あの!自分には剣道をやるつもりは無いです!というか何ですかいきなり!」ドゴォォォォォ!

……殺気が倍増しただと!?何だ?『無礼な!』的なアレなのか?詰んでないか?

「では放課後に何か用事でも?外せないものなのですか?」

「うっ、それは……最近はVR位しかやってないです……」

「ほう、VR……どのソフトですか?」

あり?意外に妙な方向に食い付かれた?まあこのまま話を逸らして……

「『New World Online』です」

「ふむ……分かりました。今日はこの辺りで良いでしょう。お手数を掛けました」

「はあ…………、?」なんか今、宮本さんが周囲にさっと目配せ……あ、殺気から剣呑さが消えた?粘着質な感じは残ってる……っ!?

スッ……という気迫が宮本さんを中心に放たれた……気がした。クラスの半分位が身震いして、それっきり殺気はキレイさっぱり消え失せていた。

 

 

 

宮本翼は考える。

(VR……そういうことでしたか)

突如向上した身のこなし。その割に体格は変化が無かった。仮想空間の中で鍛えたとすれば合点はいくが。

(それにしても……上達が早かった)

彼女もVRで鍛錬をすることはある。世界中の誰とでも手合わせができるのは良いことだ。ただ彼女的には敵プレイヤーから欲しいのは殺る気や覇気なのに、妬みや苛立ちを受けることが多いため多用はせず、面倒見の良さも相まって後輩の指導に時間を割いているのだった。

ではなぜ、敵プレイヤーから妬みと苛立ちを受けるのか。

それは彼女が苛烈な戦いで名を馳せる恐怖のリアル志向PvPゲーマー、「ムサシ」であるからなのだった。

キレると突如として無口になり、徹底的に急所を突きまくって相手にトラウマを刻むムサシ。その中の人である翼は、門下生とその候補生達に「手出し無用」のサインを送り、嫉妬の視線を飛ばす一般生徒達に圧を送って正気に返し、その場を去っていった。

(『New World Online』……そこには、何かがある。邪魔の無い仮想空間で、すべて聞き出してあげます)

 

 

 

アキはほどなくして帰宅した。

「……死ぬかと思った」今更汗が噴き出す。

宿題を済ませ、ログイン。

 

~塔・第一層・最初の街~

「さて、今日は生産職の人に依頼をするんだったな」

街中で異様に目立つ無窮シリーズに目をやってアキは呟く。

「確かサービス開始から二週間足らずで個人工房を最速ゲットしたとかいう……」

 

「……イズさん、だったか」




本作のスタートがNWOのサービス開始時で、第一回イベントの翌日のアプデが「サービス開始三か月経過記念」で、その頃リアルでは「ようやく春らしくなってきた」と原作に書いてあるので、サービス開始時は一月中旬ぐらいと解釈して話を進めてます。


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生産依頼&イレギュラー

~塔・第一層・最初の街~

イズさんの工房は街の中心部にある。

行列が絶えないので迷わずに辿り着けるという安心設計なのだ(なお一時間拘束確実)

 

~オンライン配信された宿題をこなしつつ待つこと二時間半~

工房の中には青髪の女性プレイヤーがいた。生産系っぽいし、プレイヤーネーム「イズ」だし間違いない。

「はーっやっと入れた……」

「いらっしゃい、あら?あなたって噂の金ピカ君じゃなーい♪」

何時の間にか怪しい渾名が付いている始末。

「うぅ、その、この装備はやっぱ超目立つんで、落ち着いた感じの日用服が欲しいんです」

「分かるわ~。私の実力じゃその鎧に数段は劣るだろうし、デザインには自信があるから、その依頼を受けさせてもらうわね。……それで、見た目は?あと、素材は?Gはいくら払える?」

「ん~、金ピカの反対で……黒基調のフード付きローブを、装飾は銀を控えめに。あと、一般プレイヤーに偽装する場合に備えて、顔が隠れるようなハリボテ装備を、前・中・後衛二つずつ欲しいです」

「随分執心的なのね。そこまでする理由を聞いても?」

「自分で言うのも何ですが……トッププレイヤーの一角に居るためか、パーティ、ひいてはいずれ実装予定のギルドへの勧誘が面倒で……」

実際、ここへ来るまでも狙ってそうなプレイヤーを何人もやり過ごしてきたのだ。

「後は素材なんですが……」アキは持ち合わせの素材をドサドサドs…………「待って待って!」「はい」

「ちょっ……何この素材、見たことないものばっかりじゃない!」

「ああ、それは……ちょっと隠しダンジョンでドロップしたんですよ」

「ええ?でもこの素材、私の【鍛冶】も【裁縫】でも扱えないものばかりよ?どんな難易度よ!?」

「まぁ、その、隠しに似合う鬼畜としか表現できませんね、ソロなんで比較対象がいませんから」

「ソロぉ!?……もういいわ。で、素材が無理ならGでお願いするしかないわね」

「ん~、貯金を除いて……十万Gってとこですかね」

【侵略者】と【絶対防御】のリサイクルに五十万Gかかるため、周回してもなかなかGが貯まらないのだ。

「七点もあるなら見映え重視でも足りないわね。じゃあ、代わりに……その素材、ちょっと分けてくれないかしら?」

「僕にとっては素材以外の使い道無いんで、ありがたいですね。幾らでも取れるから余らすばっかりで……」

「その素材が限定ものじゃないって分かったところで……」「あっやべっ」「ふふっ♪」

思わず口走ってしまった垂涎情報を即掴むイズ。驚いてばかりでないのは流石である。

「そういうことで、依頼は承ったわ♪ついでにフレンド登録しておきましょうか?」「はい!」

 

~塔・第一層・最初の街~

あーもう、言わなくてもいいことまでペラペラ喋ってしまったぞちくせう。地味に一人称が「僕」になってたし。昔っから年上には「僕」になっちゃうんだよなぁ。ネットは怖いって言うし、これからはプレイヤーには「僕」で通そう。今日は残りの時間を一層の探索に使うとするか。

「攻略サイトに載ってた……『夜空のレストラン』に行こう。着く頃には夜だろうし」

 

一時間後。

「ここが、『夜空のレストラン』か」

一層の岩山の中にある洞窟を抜けた先には、幻想的な星々をたたえた夜空の下、大きなテーブルと一脚の椅子があった。

「『座ると何かが起こる』なら、料理でも出てくんのかな、っと」

ストンと椅子に腰を下ろしたアキに、少女の声が降ってきた。

 

「あなた、プレイヤーさん?助けてほしいんですっ!」

 

アキは知らなかった。神殿を訪れたプレイヤーは天界のクエストを踏む仕様であること。そのクエストフラグのほとんどが塔に残されていること。

…………何よりその難易度はエンドコンテンツ級かつ、再チャレンジ不可能であること。

 

     天界クエスト「夜空の料理人を守護せよ」難易度:Easy

     推奨:4人(平均Level60)

     開始。




天界のNPCは個々に人格が付与されています。
よってもちろん復活しません。(お約束)


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ゲームとリアル・ゲームがリアル

~塔・第一層・夜空のレストラン~

……タダ飯を食うだけのイベントのはずだったのにクエスト始まってませんかねコレ。

…………しかも平均レベル60の四人パ推奨とか鬼畜か?Easyとか嘘やん。

 

「あのー?聞こえてますかー?」その声で現実に引き戻された。

「あ、はい。えっと、どなたでしょうかー?」

「あっえっと、【偽装解除】!」するとピキピキ…………という音と共に今まで置いてあった素朴なイスとテーブルが消失し、近未来的な会議室のような部屋に置き換わった。部屋のガラス窓からは相変わらず夜空が見えている。

そしてシステムメッセージが。

[称号〝セーフハウス・第一層を初めて発見した者″を取得しました]

「セーフハウス?ここは避難所なのか?」

「そーだよ、ここにいるのはあたしとあなただけだけどね、初めてのプレイヤーさん?」

ドアからひょっこり顔を覗かせたのは一房橙のメッシュが入った赤毛の少女。短躯に薄汚れたローブをまとい、フードを外してアキに微笑みかける。

「あたしはアカネ。天界の新米兵で、やむなくここで引きこもり生活中~。あなたは?」

「ああ、俺はプレイヤーの「アキ・アカツキ」だ。ここの事は妙な体験ができると聞いて来ただけで、セーフハウスとか正直初耳だ」

「あら~?残念。救助の人かと思ったのになぁ。二年前からこっち、退屈してたんだよ」

「二年前に何があったんだ?」「教えてあげる。それはね…………

 

二年前。

 あたしは神兵団の料理特技兵……と言うとちょっとかっこいいけど、要するにコック兵として兵役に就いたの。理由?三年間の徴兵制度って教わってない?……知らない!?ダンジョンにこもってた!?……まあプレイヤーさんたちがここに来るようになってまだ一週間ってことはそんなところなのかな?まあいいや。

 あたしの任務は哨戒隊の食事係。訓練を兼ねて、だから内地も内地の「塔」、しかも第一層で、だったけどね。でもあの日、魔界のモンスター達が大侵攻を仕掛けて来たの。

 あの日は哨戒任務に就いてからたった一週間目の日。図鑑でしか見たことないモンスターがたくさん襲いかかってきて、あたしたちは散り散りになっちゃった。どうにかこのセーフハウスに逃げ込めたけど、みんなは誰も来なかった」

 

そこでアカネは言葉を切り、窓の外の夜空を、いや、もっと遠くの何かを見つめた。

沈痛さと気まずさが漂う。

 

「何だか、すまないな」

「いいの、大戦中だしこんな話はありふれてるの。……それで、外はどうなってるの?まさか神殿は落ちてないよね?」

「ああ、神殿長のアスタルテ様にお会いした。あと神聖騎士団長のバルドル様には会ってないけど、闘技場の運営をしていると聞いた」

「よかったぁ、あのお二人がいらっしゃればひとまずは安心だね。……それで、どうする?正直、第一層には魔界の監視が敷かれてると思う。あたしはファストトラベル出来ないから神殿には直接行かなきゃいけないけど、あたしが下手に動いたら捕まって情報を吐かされて、神殿への入り口を教えかねないよ」

「……なら、俺が囮になろう」

「え?」

「俺はプレイヤーだから、死んでも復活(リスポーン)できる。君はできない。なら当然だろ?」

「いいの?あなたはまだ強くないだろうから、きっと負けて、あいつらにつきまとわれて殺され続けることになっちゃうよ?」

「こう見えて俺はぶっちぎりでプレイヤー最強の自信があるんだよ、だから大丈夫だ」

(この子をここにほっとくとクエスト失敗扱い受けて即死にそうだから連れて行かないという選択肢は無い、とは言えない。リスキル地獄回避のためにもここで勝つ!)

明日は休日のため、一徹なら影響は無い。早速作戦を立てることにした。

 

 

〈クエスト達成条件:アカネ特技兵を秘密裏に神殿へ護送〉

〈厳禁事項:神殿の位置を魔界側が把握〉

〈拠ってマスターが囮として敵哨戒部隊を誘引する必要性大〉

〈プラン具申・並びにプランに関係する情報開示:……

 

「……という案でどうかな?」

「いいね!頭いい!」

ウィズの案だから褒められてもなんだかな。

〈…………〉

〈はいはい、ありがとうございますウィズ先生〉

適当にお礼を言って作戦を再確認する。

「やっぱり俺が囮を引き受けて、君はこっそり街に走る」

「囮用に、あたしが持ってる信号弾を一斉に打ち上げる……私たち特技兵が、信号弾を装備してることをよく知ってたね!」

この信号弾こそが先程ウィズが開示してくれた情報なのだ。プレイヤーが開発するには早い、しかも天界側の信号弾ともなれば魔界の哨戒隊が寄ってくるだろう。初の情報開示のおかげで助かってますウィズ先生!

〈…………!〉喜んでんのかな?

妙に人間臭いウィズの事は置いといて、さっさと出発しますか!

「………ねえ、本当にあたしのために危険を冒すの?……プレイヤーの皆さんはここに遊びに来るんだって、そう教わったよ。負けたら、もう遊べなくなっちゃうよ?私の、せいで」

ありゃ、そこまでNPCが把握してるとはな、まったく神コンテンツだぜ、天界は。

しかし、何と答えたもんか。

「そこも含めて俺はここで遊んでるから……だな」

「え?」

「俺たちはここじゃないとこで生きてる。そこでしか生きられない。だけど、そこであった辛いこと、嫌なことは全部ここで晴らしたり、向き合ったり、逃げたりできる。やりたいことが簡単にできる。だから、ここでだけは、やりたいことから逃げたくない、嫌なことにも向き合いたい、別に負けたって痛くも痒くもないなら、自分に正直に、やりたいことだけやってみたい。俺はそう思ってるから、ここで『ゲーム』やってんだ」

「遊べなくなっても、いいの?」

「遊べなくなるわけじゃない、そいつらにやられても、鍛え直せばいつか倒せる。そこもゲームの醍醐味だ、でも君は違う。このクエストに失敗するってことは君が死ぬこと。それだけには「いつか」がない。俺に後悔が残る。君がここにずっといるってことは、復活はできないんだろ?」

「……プレイヤーとか、すっごく強い存在だけが復活できるって、聞いた」

「じゃあ、やっぱりこっから逃げなきゃ、だろ?……ゲームの一部に向かって言うのも変だけどさ、ゲームの中ではゲームが現実なんだから、君にとってはこの方が伝わりやすかったかな?」

「うん、あたしはあなたにとってのゲームの一部だから、あなたに神殿へ連れ帰ってもらうのが役目……って思っとこうかな!」

「その意気で、やってみよう!」「おー!」〈ご武運を。私もサポートいたします〉

今度こそ、出発!



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People living in reality

重大な編集ミスを修正しました。


俺はセーフハウスを出てアカネと一度別れ、開けた丘へとやってきた。膝くらいまでの草が生い茂っている。

「信号弾、全弾発射!」

色とりどりの煌めく光が空へ打ち上がる。アカネにも見えているはずだから、そろそろ街へ向かってくれるはずだ。

〈作戦開始、警戒体制に移行〉

 

正直に言ってキルされてもいい。時間さえ稼げればそれで構わない。並の攻撃なら【悪食】で喰えるし、【空蝉】があるから、少なくとも一撃では死なない。

 

とにかくクエストをクリアしなくてはならない。そしたらまたダンジョンに籠ってレベリングの続きだ。こんなガチンコ勝負クエストでなけりゃ詰みかねない貧弱ステからさっさと脱却せにゃ。ウィズもレべルアップ近いし。

〈後方から接近する足音……三体、身長は三メートルと推定〉

「来たか……?」

 

振り返っても誰もいない……?いや、草が足跡状に押し潰されている!

「気付カレタ」「雑魚一匹」「コイツカ?」

目の前に三つの人型のもやが現れ、ピントが合うように真っ黒な怪物に変わった。

片言で話し合いながら俺を見定めているようだ。派手な無窮シリーズ着けてても雑魚認定されたのはステータス鑑定でもされたからか?

「やんのかオラ」「「「ヤルゾ」」」煽り耐性ひっく!

連中の構成は大剣、杖、大盾。まずは大剣持ちの大上段斬りが来る。

ズガァン!!「ハッ、モウ終ワリカ!」「違うね」「ナ……!?」

余裕ぶって答えて見せるが内心ヒヤヒヤだ。なんせ無窮シリーズが一撃で消し飛んでいるのだ。これまで一度しか破壊されていなかったのにスキル無しでぶっ壊されるとは流石高難度クエ。本来なら即死だが【悪食】で逆に大剣を喰ってやった。

「【跳躍】!」「ガハッ」盛大にアッパーカットを食らわせると大剣持ちの顎が消し飛んだ。

が、

「グヌ……マダ終ワラヌ!」頭部が再生を始める。

「ナンダト!【カバームーブ】!」「面妖ナ!【黒風(コクフウ)】」「おまいう……っと、クッソ!」

大盾持ちが瞬間移動して大剣持ちをかばい、杖持ちが黒い暴風で俺を吹っ飛ばして距離を取る。また無窮シリーズが壊された。遠距離戦に持ち込むつもりか。ならば!

インベントリから右手に【雷候の撃杖】、左手に【始原の弓】を出す。

「【魔弓:ライトニング】【範囲拡大】【威力上昇】【矢の雨】!」

【魔弓】によって【ライトニング】が【始原の弓】へ奔り、金色の矢へと変わる。

右手で矢を掴んで引き絞り、【悪食】の魔力結晶を消費して強化し、【矢の雨】で範囲攻撃に変えて放つ。

「「「グオォォ!?」」」効いてる効いてる。【蛮狗の王】が無けりゃ倍いったのになぁ。

「このまま押し切る!」

 

~十分後~

「コ、【黒雷(コクライ)】イィィィ!」

「効かねえよっ!」ドガン!これでとどめ。すごいな、Lvが35から41に上がった。ステータスポイントは全部AGIに振っておく。

三体とも片付いた。再生するといってもそれを上回るペースで喰い続ければ死ぬのだ。

「さって、そろそろ街に行って合流を……ん?」街の方から何か走って来てるな。

〈ウィズ、最大望遠で表示〉【代行権利(オルタナティブ)】の応用で、ウィズの優れた視認性能を共有してみる。

「んん?……ウィズ、プラン変更だ。あいつら街のすぐ外まで進出してやがった」

走って来るのはアカネ、そして後を追う四メートル位のごつい怪物だった。

 

 

 

「ごめ、んっ!見つかっちゃったっ!はぁ、はぁ」

「いや、こっちこそすまん。街の方なら警戒が薄いと思ってた俺のミスだ、とりあえず下がっててくれ」

「ふン、詰メガ甘かったナ」嘲る怪物。武器は……金色の槍。

「さっきの連中より言葉が流暢で見た目が上位互換……隊長格か?」

「そうとモ。不甲斐なイ部下共ガ退屈二させテ済まなかっタ。そノ小娘を追い立てテねぐらヘ導いテもらおうトしたのだガ、よりによっテ異界人ガ仲間とはナ。情報ヲ吐かなイなラ死んデ貰おウ」

俺ら(プレイヤー)を警戒して街を監視してやがったのか!」

そうだよ、そりゃ魔界側だって戦略的に動くに決まってるじゃないか!どうせその辺のモンスターみたいな連中ばっかなんだと決めつけちまってた!そんで明らかに天界側の不死身軍団が現れりゃ警戒もするわ。

マズイマズイマズイ、最悪街が殲滅されでもしたらNWOが崩壊するぞ!

「ふン、どうしタ?我が方二下るノであれバこの件の報告と共二上へ取り計らうガ?」

「じゃあ『上』にはこう伝えといてくれ……」

〈【ライトニング】〉バチバチィィ!

「……やってやろうじゃねえかよこの野郎共!」

「クッ……ク、ハハハ!ならバ言葉ハ無用!」隊長は槍を突き出した。とても避けられない速度に嫌な予感が体を駆け巡る。何故だ?【悪食】さえあれば死にはしないはず……

「ふんぬァ!」「ッ【パリィ】!……ぐあぁっ!?」

痛っ!なんで!?【悪食】が発動してない!また無窮シリーズ砕かれてるし!

「ふン、残念だが俺の槍は壊れないのだヨ。さア、二人諸共二死ねイ!」

畜生、【破壊不能】持ちか!壊せないから【悪食】が効かなかったんだ!……それでも、あくまで冷静に。

「これはマズイ、早く逃げるんだ」「……分かった!また後でね!」

そう言って街に向かって全力疾走するアカネ。

「行かせン!【漆黒突(シッコクヅキ)】」「スキルならば!」

黒い風を纏った槍は再び鎧を砕いたが、黒い風が魔力結晶に変換され、槍は俺を刺す前でピタリと止まった。

「【ライトニング】ッ!」「ヌ!?……そうカ、それガ部下共を屠っタからくりカ。スキルは効かないトいう訳だナ!」「うぐっ!」

クソ、反撃を食らった。このままじゃ埒が明かねえ。攻撃を防いで隙を作らなきゃ。

〈ウィズ!【神兵見習いの軽盾】を出してくれ!〉〈了解、インベントリより転送します〉

「押し通ル!」「【パリィ】!うがっ!」

盾を併用しても全部砕かれて残体力が一割を切り、吹っ飛んでアカネを押し倒してしまう。

「ううっ!」「ごめん!……うおっと!?」「ふはははハ、ここまでかァ?」

数十メートル先から一瞬で追いついた隊長の一撃を何とか逸らし、至近距離で睨み合う。……しゃーない、いっちょ賭けに出るか。突っ込む!

「うおおおおおお!」「蛮勇カァ!」

槍で止めを刺される……ことなく、【空蝉】によって槍は体をすり抜け地面へ突き刺さる。今だ渾身のボディーブロー!

「なぬゥ!?」「オラァッ!」「ごぼッ!」

これまで無窮シリーズが十回壊された分の【破壊成長】と【空蝉】の補正によって、俺のステータスは鰻上り中だ。

 

《b》Simple Status《b》

Lv41 HP 9/720 MP 1500/550(【悪食】:蓄積値950)

【STR 590】 【VIT 330】

【AGI 432 (【空蝉】:五割増)】 【DEX 185】

【INT 165】

 

これで奴を上回るAGIを一分維持できる。……いける!……と思っていた。

だが隊長はまだ死なず、どころか槍をアカネに向けた。

「ふざけるなぁぁぁァ!」「やばっ!?」「きゃっ!?」

野郎、アカネから先に始末しにかかりやがった。どうする?俺は避けられても受ければ必ず死ぬ槍から、避けられないアカネをどう守る!?

「これしか、無いっしょお!……【パリィ】ッ!」「はッ!馬鹿メ、万策尽きたなァ!」

こちらに無敵技がまだあればすでに切るべき状況下で、紙一枚ほどにも効果の無い防御スキルを使うということはつまり、もう後が無いこと。それは奴も分かっている。でも、例え、クエストに失敗するとしてもそれは俺が死んでからになるくらいは頑張る。そう決めたのだ。これを食らって生き残れたなら、その時は改めて全力で奴を倒すと決めて、活路を探す、探す、探す……!

 

だが、直撃。

「……うあああぁっ!」「アキ君っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『スキル【不屈の守護者】を獲得しました』

「まだ、まだだぁ!」「何だとォ!」なぜ生き残ったなどという思考はすべて破棄して驚愕する隊長に突っ込み、突き出された両腕に【跳躍】でサマーソルト。

「しまっ……がぁあああぁぁァッ!?」両腕を喰われて槍を落とした隊長の上に、蹴った勢いのまま飛び上がる。

「これで、終わりだ」「貴様ハ……何なのダ?」

呆然と見上げる顔と胴を引き裂いて着地、隊長はポリゴンとなって消えていった。

 

 

「ハァ、ハァ、ふうぅ…………」終わったと認識したとたん、つかれがドッとおそってきた……やった、勝った。そういえば、なんで、さっき、生きのこったのかな。まあ、いいや、つかれた。でも、まだ、おわってない。アカネを、おくりかえさなきゃ。もう、げんかい。

〈か…り…は…たのんだ……ぞ……Zzz…………〉

 

 

ウィズは与えられた命令を認識した。

〈了解。護衛対象を護送()、速やかに実行いたします〉

ウィズは主が全力で戦えるように周囲のあらゆる情報をアキに送っていたのだが、そのせいで極度の疲労を招いたらしい。今後は情報リンクを控えようと反省し、クエストの完了に移る。

「護衛対象・アカネ料理特技兵」「は、はいっ!……あれ?」「現在地は危険領域です。直ちに街へ入りましょう」「あっ、はい」

へたり込んでいたアカネを立たせ、街へ連れていく。

アカネは豹変したアキの様子に首をかしげていたが、目的を思い出し、急いで街へ入っていった。

 

『レベルが45に上がりました』

[条件を達成しました。個体名:「ウィズ」がレベル2に上がりました。ルート:青]



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SANチェックと激闘の対価

はい、すみません。
今度はなるべく早くします。


ガツン!ゴン!ズバッ!

酷い暴力音が響いている。

「……う、ううん?」

ザクッ!ガン!ゴスッ!

「う、えぇ?」

寝起きで目がしょぼつくアキは、とりあえずウィズへ現状確認する。

〈……何だ、どうしたんだウィズ?〉

〈おはようございます、マスター。只今の時刻は午前6時33分です。お休みになられてから7時間5分経過いたしました。ご命令に従い、現在はレベリング中です〉

先程からの騒音は、ウィズが操るアキのアバターがモンスターを打ち据えている音だったというわけだ。

〈この騒音はそれかよ!ってか命令って何だ!……まさか、アカネを放置しちゃいないよな!?〉

〈……お休みになる際に頂いた「狩りは頼んだ」とのご命令です〉

〈アレは……「帰りは頼んだ」と言ったつもりだったんだがな〉

眠気がマッハだったせいでろくに発音出来なかったのである。

〈で?アカネはどうしたんだよ?〉

〈依頼に従い神殿まで護送、アスタルテ神殿長に状況を説明後、現在は神殿で休息中です〉

最悪アカネの死亡もあり得ただけに、これは大きな朗報だ。

〈グッジョブ。じゃあレベリングは切り上げて、神殿に戻るか。後は何かあるか?〉

〈それでは、現在のマスターのレベルについて、()()()()ご報告します〉

 

〈まず、マスターはレベルが45に上昇、先程までのレベリングで46になりました〉

〈加えて、条件達成により私のレベルが2に上昇し、新たにスキル【探知】【Unlimited】を取得しました〉

 

・【探知】

知覚可能域を拡大する。域内の任意座標の感覚を受信可。

・【Unlimited】

スキルのオート動作をマニュアルに変更可。

 

〈ふーむ、控えめに言っても神スキルじゃないか。試してみよう〉

「全力で【探知】!」〈あ、お待ちを!〉

フォン……という音と共に周囲のあらゆる情景が脳裏に映る……!

 

…………。

……。

 

「あだだだだだだだだだァ!?」

 

 

 

 

「あー、葉脈、いたい、岩肌、あたま、そよぐ草、つらい、土のにおい、うぺぺぺぱぱぱぱ…………」

〈…………〉

ウィズは虚ろな目でうわ言を呟くアキのアバターを操作して、落ち着くまでレベリングダンジョンに避難させるのだった。

 

30分後。

「…………ぁぁあ、ヒドイ目にあった」

正気を取り戻したアキは一旦ログアウトし、朝食を摂ることにした。

 

〜天界・神殿・神殿〜

再びインして、改めてアスタルテに報告。

「よくぞたった一人で兵を連れ帰って下さいました……彼女はもうそろそろ目が覚めるでしょう」

「いえ、自分だけで挑んだせいで、かなり危うかったです。反省しています」

「ならば、更なる鍛錬を積んではいかがですか?」

「はい?」

すると、銀の全身鎧を纏った美丈夫が現れた。顔立ちはアスタルテに似ている。

「やあ、初めまして。僕は神聖騎士団長バルドル。君が最初のプレイヤーさんで、アカネ料理特技兵を救出してくれたんだって?本当にありがとう」

バルドルはアスタルテの弟である。姉弟とも天界人トップクラスの実力者だ。

「あー、どういたしまして」

「君は、実力不足を痛感しているんだね?ならば、僕の運営する闘技場で特訓してはどうかな?お礼には不足かもしれないが、いつでも僕が相手をしてあげるよ」

「マジですか?じゃあ早速」

というわけで闘技場へ。

 

〜天界・神殿・闘技場〜

この闘技場はいわゆるコロッセウムである。PvP(プレイヤー対プレイヤー)及びPvM(プレイヤー対モンスター)に参戦又は観戦ができるが、プレイヤーのいない今は熱気を感じられない。

「ここでなら僕は死んでも復活できるから、安心してかかってくるといい……始めようか」「ウィッス」

アキは双剣を、バルドルは白い大剣を構える。

 

[アキ(Lv.46)Vsバルドル(Lv.100)]

[3.2.1…GO!]

 

「でやぁぁ!」「ふっ!」

両者突っ込んで距離を詰め、剣を打ち合わせる。

一閃、二閃、剣戟を重ねつつ、バルドルが問いかける。

「とてもレベル46に見えない実力だ!どうやって魔界の哨戒部隊を全滅させたのかな?」

「ちょいと運が良くてね!ってかレベル差ひでぇよ!」

バルドルは大剣を枝の様に振るい、アキがギリギリで捌く。

「ハハッ、僕のこの鎧の完成版である無窮シリーズを纏っているからには、ご容赦願いたいね!」

「何?無窮シリーズは天界産ってことか?」

「そうさ、【破壊成長】を試験的に搭載した僕の【始天シリーズ】、そのステータス補正を万能化して、成長性を飛躍的に高めたのが君の無窮シリーズなんだよ」

「そうかい、ッのぉ!……にしてもキツいんだが!」

試合開始から両者のHPは減らない。

埒が開かないと鎖鎌を振るうがすかされ、伸び切った鎖を引っ張られて上に飛ばされた。

「っぐ!」

「君の体は敵を喰らうそうだが、地に立てるならばこれは効くだろう!」

今度は鎖が円を描いて振り回され、バルドルが手を離したためにアキは壁に叩きつけられて【スタン】した。

「がはッ……!」ぐったりしたアキを土埃が覆い隠す。

「スタンしたか……あのデタラメな強さの秘訣を少しは聞いておかなくちゃ……っ!?」ブンッ!

バルドルは唸りを上げて飛んできた鎖鎌を躱した。

「どういう事だ……!」

アキのステータスには確かに【スタン】の文字が……いや。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

其れは再び双剣を構え、双眸に蒼い光を宿して壁から【跳躍】し、バルドルに吶喊する。

「つっ……!」「……」

見られている。

見られている。

其れの周囲から無数の視線を感じる。

無機質な視線の奥には、敵を打倒するという意志のみがあった。

(さっき、【跳躍】を無詠唱していた……そしてこの視線、明らかにおかしい)

先程とは一転し、猛烈なラッシュを繰り出すアキ。

流れるように【スラッシュ】から【ダブルスラッシュ】へ繋げ、大剣を弾きつつ兜を斬りつける。

流石に兜が破壊されることはなかったが、頭部への衝撃でバルドルはふらつき、【悪食】を込めた手刀で首を刈られて敗北した。

 

「……うぐぐ、最近気絶してばっかじゃないか……」

目を覚ましたアキに、バルドルが笑いかける。

「ははっ、負けてしまったよ」

「どうも。満足してもらえましたか?」

「もちろんさ。いや、いきなりですまなかったね。お詫びにこれからは闘技場で好きに訓練していいよ。それと、これを」

そう言って、バルドルは古びたメダルをアキに手渡した。

メダルには重なった双剣のレリーフが刻まれている。

「いつか、僕の師匠と会ったら渡すといい。役に立つよ」

「ありがとうございました」

礼を言ってアキは闘技場を出た。

 

[称号"闘技場を初めて利用した者"を取得しました]

 スキル【武芸百般の心得Ⅰ】を取得。

・【武芸百般の心得】

あらゆる武器に対応した熟練スキル。

多くの種類の武器を使うほどレベルが上がる。

 

[スキル【片手剣の心得Ⅳ】【小盾の心得Ⅲ】【弓の心得Ⅱ】【鞭の心得Ⅲ】【蛇剣の心得Ⅰ】【大盾の心得Ⅰ】が【武芸百般の心得Ⅰ】に統合されました]

[【武芸百般の心得Ⅰ】が【武芸百般の心得Ⅱ】にレベルアップしました]

 

武器種ごとに熟練度を上げる必要が無くなる代わりに、上達に時間がかかるようになるスキルを得て、アキは神殿へ向かう。

 

〜天界・神殿・神殿〜

「アカネはもう目が覚めましたか?」

「ええ、あなたを待ちわびていますよ」

2人が向かった医務室のベッドの上で体を起こして、アカネは笑顔を見せた。

「大丈夫かい?」

「ええ、とっても疲れてたけど、もうスッキリよ!本当に、ありがとう」

「どういたしまして。本当によかった」

「私は元々孤児だから、明日からは宿舎に戻るつもりだったんだけど……」

「私達がここに隠れ住む以上、兵や騎士が戦うことはありません。彼女は行方不明と判断された時点で既に除隊していますし、これからは得意の料理を振る舞ってもらうことに決まりました」

「だから、これからは神殿に部屋を借りて、料理人になるの!」

「じゃあ、また今度、その料理を食べに行ってもいいかな?」

「もちろん!……あっ、そうだお礼しなきゃ!はいこれ、兵役三年分の給料の代わりにもらったの、あげる!」

アカネはアキにスキルスクロールを手渡した。

「いいのか?」とアキが聞く。

「いいの!これからはお金はそんなにいらないし、私は特別なお礼がしたかったから……」

「秘蔵の品ですが、特例で許可しました!」

「あはは、ありがとうございます」

その後、少しおしゃべりをして、アキとアスタルテは医務室を出た。

 

     天界クエスト「夜空の料理人を守護せよ」難易度:Easy

     完了。

     報酬:スキルスクロール【煌星】・NPC好感度上昇

 

 

 

儀式の間に戻ってから、アルテミスはアキに言った。

「さて、彼女を救出したのはいいのですが、魔界は哨戒部隊を全滅させられた事に感づいたでしょう」

これからは魔界側の警戒が強化されることが予想される。

「プレイヤー達に駆逐して貰うには奴らは強すぎる。かと言ってノコノコと()に出れば天界の存在が露見しかねない……まあ、更なる鍛錬を兼ねて、しばらくここに引きこもりますよ」

「では、用があれば何でも言ってくださいね?」

 

さて、神殿を出たアキは、新たなスキルの習得と強化の為に再び闘技場を訪れた。

「……というわけで、早速ここでご厄介になります」

「歓迎するよ。下が騒がしいようだから新たにプレイヤーを呼び込むことも出来ないからね。唯一出入りできる君には頑張ってもらいたいんだ」

「はい!」

「では、始めよう」

 

     天界クエスト「おためし闘技場」難易度:Practice

     ソロ限定(推奨Level15)

     開始。




次回は掲示板と運営回です。


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美食家達の霹靂

NWO掲示板の某所。「夜空のレストラン」の利用客たちの集うスレッドにて……

 

【ウマい】夜空のレストランpart6【飯】

61:名無しの来店客 ID:HO+iiLInH

今日のディナー:角兎のステーキ、下級薬草のサラダ、イヌジャラシ製パン、爆裂テントウのパチパチアイス

うめぇ

 

 

62:名無しの来店客 

毎日三食ここでイケるわ

 

 

63:名無しの来店客 

ダイエット中のワイ大助かり

 

 

64:名無しの来店客 

ここの料理は豪華というか豪快というか、絶妙な味付けがタマラン!

 

 

65:名無しの来店客 

キャンプ風でうめえ!

 

 

66:名無しの来店客

それにシェフがクエストのキーNPC感をビンビン放ってるもんだから、つい通い詰めちゃうよな。

 

 

67:名無しの来店客

あーわかる、何だっけ?レストランの外の様子をめっちゃ聞いてくるんだったか?

 

 

68:名無しの来店客 

そうそう、外のモンスターはどんなだとか、街は安全かとか。

俺は素直に答えたぞ。

 

 

69:名無しの来店客 

聞いてる限り、街に来るつもりなんかな?

 

 

70:名無しの来店客 

そん時は俺がエスコートするんだぁ……

というわけで今日もシェフちゃんの店へかy

 

 

71:名無しの来店客 

その後、》70の姿を見た者はいない……

 

 

72:名無しの来店客

愚かなり》70……シェフ様はシルバーなダンディだという悟りに届かぬが故の末路であった……

 

 

73:》70

死んだ なにあれ

 

 

74:名無しの来店客

》73 どった?キャタピラーかフォレストビーの大群にでもやられたか?

 

 

75:》70

ちゃう、なんか黒い竜巻が直撃して即死

場所はレストランのすぐ外の丘

 

 

76:名無しの来店客

は?

 

 

77:名無しの来店客 

今行くわ

 

 

78:名無しの来店客 

》77 頼むぞー

 

 

79:名無しの来店客

》77 私も記録結晶持って行きます〜

》75 詳しくお願いします。

 

 

80:》70

》79 うい

つっても本当に不意打ちよ、レストランに行こうとしたら丘の方から黒い竜巻が飛んできて、避ける間もなかったわ

 

 

81:名無しの来店客 

》80 それなんてフィールドボス?

 

 

82:》70

わからん。装備が全損したからもっかい行くのは勘弁。77と79に期待

 

 

83:》77

今着いたが……ありゃ何だ?

赤いキラキラした人間?と黒い2、3メートルくらいの悪魔三匹がバトってるぞ

 

 

84:名無しの来店客 

早いな!

 

 

85:名無しの来店客 

は?……………は?

 

 

86:名無しの来店客 

わけがわからないよ

 

 

87:》77

赤い人はプレイヤーっぽい。悪魔はモンスターかな?ギャーギャー言い合ってるけど、なんて言ってるのかは分からん。

 

 

88:》77

戦局は赤い人が圧倒的。悪魔が撃った黒い竜巻(70の死因と思われる)が直撃しても無傷……いや、心なしか赤い人が大きくなった気がする?

そんで絶賛赤い人のフルボッコターン中

 

 

89:名無しの来店客 

んなプレイヤーがいるかw

 

 

90:》79

ただいま到着〜。77さん、革鎧着てたら左を見て下さ〜い。

私は鉄鎧です〜。

 

 

91:》77

79さん、こっちこっtぐわっ

 

 

92:》79

77さーん!?

……えーと、77さんが黒い雷で消し飛びました。

私はここから実況を続けます。

 

 

93:名無しの来店客

うわぁ……

 

 

 

 

以降、79が実況する中、戦いは終わり、アキとアカネは去って行った。

 

205:名無しの来店客

何だったんだろうな、マジで

 

 

206:》79

さて、赤い人は街に向かってますけど、接触する人はいますか?

 

 

207:名無しの来店客

いやー、怖すぎて話しかけられんわこんなんw

赤い人がプレイヤーかすら分からんしなんかデカいフラグ折ったら攻略勢から総スカン食うから関わりたくない

 

 

208:》70

じゃあ放置で

それはそれとして今度こそレストラン行くわ

 

 

209:名無しの来店客

いやー終わった終わった

 

 

210:》70

りょうりがでてこないんだけど

 

 

211:名無しの来店客

》210 !?!?!?!?!?

 

 

212:名無しの来店客

》210 は!?

 

 

213:》79

》210 どういうことですか

 

 

214:》70

わからん!

椅子に座ってもなんにも起きない!

ご意見メール送るわ!

 

 

215:名無しの来店客

えぇ……

 

216:名無しの来店客

なんでェ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

〜GMルーム〜

「「「「「マズイ…………っ!」」」」」

夜空のレストラン、機能停止。復旧不能。

プレイヤーからの通報で事態を把握した運営達は青い顔を突き合わせて前後策を立てていた。

「まさかシェフの正体がNPCだったとはなぁ……」

「どーするよ!今更レシピ組んでる暇ねーぞ!?」

「ああああ!もーこーなったら適当にその辺の食いもんから味覚サンプリングしてゲテモノ作ってやるるァ!」

「「「「それだ!!!!」」」」

 

 

そして、夜空のレストランは珍味処へと生まれ変わった。

ある客は離れ、またある客は常連となった。

それが運営の自棄の産物であったとしても、ただ一つ言えるのは。

 

 

なんか、こう……いい。

 

リアルじゃ食えない味。

 

謎飯でもうめえ!

 

 

 

今後、夜空のレストランは新規勢のロケーションとなることである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・???

 

Re:緊急

本文: 天界がプレイヤーに発見された

  こちらからの干渉は不可能

  このままではNWOが破綻する

  どうか助けて欲しい

 

 

「……フン、今更オレに何かと思えば『戻って来い』だと?知るか!」

男はPCの画面を睨み付け、吐き捨てて電源を切った。

「良いのかい?」

傍らの女の問いかけに、男は答えない。

「まぁ、あんたの勝手だけどさ」

 




世界派
高校時代、偶然にも巡り合った四人が結成したチーム。なんやかんやでNWO開発陣にスカウトされたが、拘りが強過ぎて他の開発メンと反発して離脱。現在は独自にゲームを作っているが、バックに企業がいないので難航中。
・リーダー
アイデア担当。ちょい不良寄りのメンタル。イメージは「まおリト」の九内伯斗的な感じ。

・ザクロ
デザイン担当。姉御肌だが自室の内装はクール系あるあるのアレ
美麗でファンシーなデザインが持ち味。

・メガネ
根暗なプログラム担当。
原作のマルクスの兄……だが特にストーリーとは関係ない、死に設定。

・リョウ
精悍なテスター担当。Mobのモーション調整も行う。
既に……


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陰陽のワカタレ時

相変わらず原作キャラがほとんど出ない……。
メイプルのデビューまであと一ヶ月半くらい?だから仕方ない。
こっからは巻きで行きたい(願望)


〜天界・神殿・闘技場〜

「おためし闘技場」はよかった。15体のゴブリンを狩ればよかったのだ。

 

しかし、このスロータークエストはクリアする度に次が追加される「連続クエスト」の類だった。

おまけに各クエストに攻略期限があり、それを過ぎると以降のクエストフラグが消滅する仕様であった。

 

「はじめて闘技場」になると10体のオークを討伐することになった。

こちらの被ダメは無かったものの、ただひたすらにオークはタフで、調子こいていた一回目は失敗に終わった。

 

「よゆうの闘技場」は悠々と飛び回るフォレストエンブレスビー20体……「よゆう」ってそういうことじゃないと思う。

3敗。

 

「ふつうの闘技場」は一層最北ダンジョンのボス、例のシカが10体。

バリアが重複して弱点の角にもリンゴにもダメージが入らず、延々と蔓で拘束され続けた。

【始原弓】を射る暇もないし、【クロウラーオーシャン】は集団向けだけど素の火力は低いし、【喰海】の発動条件を満たすには連中はタフすぎた。火力が、範囲が、圧倒的に足りない。

どういうことだとバルドルに問い詰めれば、僕に勝ったんだから僕と同じものを受けてもらうよ、とかのたまいやがった。

マジ許さん、1日。

 

「がんばれ闘技場」に至り、「ふつう」の苦労を生かして無装備で【悪食】を叩き込む戦略に変えた。

おかげでフレッシュミートゴーレムの腐肉を拳でグズグズにする感覚が学校でも取れない。

レベリング込みで3日。

 

「きついぞ闘技場」マウンテンゴリラ共の拘束投げコンボで俺の三半規管はボロボロダァ!

ステータスのビルドを見直して(後述)6日。

 

「げきから」

おおなまずに まるのみにされて しょくどうをとおって いにおちる かんかくは

きみには わかるまい

 

 

 

 

 

     天界クエスト「げきから闘技場」難易度:VeryHard

     完了。

     報酬:スキル経験値、十万G

 

つ、疲れた……。何だって延々と連続クエスト受けさすんだよクソ!

 

「お疲れ様。ほとんど鍛錬に費やして二週間か。うちの最短記録で3週間だから、新記録だね、おめでとう」

「どーせその記録ってアンタのだろ?自慢にもなりゃしねえ」

「それはともかく、これでどこに出しても恥ずかしくない天界のエースが誕生したわけだけど」

 

否定しろや。しかも「おためし」の難易度的に新人時代の記録だろそれ。ますます半月前の勝ちがまぐれ臭いんだが。

レベルカンスト勢がパーティー組んで勝てるのかすら怪しい。

 

「まずは各層の拠点、それからセーフハウスを探して欲しいな」

 

いわく、拠点は各層を統括する施設であり、セーフハウスは緊急避難所にあたるのだとか。

拠点は全て「城」の名がついており、セーフハウスは夜空に関係したロケーションに偽装しているという共通点があるらしい。

 

「第一層だと『黄昏城』と『夜空のレストラン』だね」

「黄昏城?」

「ああ、あの城はガヴェイン卿が守っていたはずだ。黄昏城は空高く浮遊しているから、空を飛ぶ手段がないと攻略は難しいよ」

 

ガヴェイン……日が昇っている間は超強い円卓の騎士……だったか?

あとは黄昏城の入り方だけ聞いてから準備のためにアイテムを調達することにした。

味方サイド(持ちこたえてくれている)でもない限りもう亡くなっているだろうから、ガヴェイン卿の情報はいらないかな!あっはっは!

 

〜天界・神殿・雑貨屋〜

[称号”雑貨屋を初めて利用した者”を取得しました]

[スキル【ストレージ】を取得しました]

 

・【ストレージ】

50m×50m×50mの異空間に、使用者以外の所有物を除くオブジェクトを収納可能。

収納したアイテムは任意で取り出すことが可能。

 

「神スキルktkr(キタコレ)

 

え?え?実質無限インベントリ?勝ったなガハハ。後で検証しよう。

これでインベントリを埋め尽くしていた素材が全部ストレージに放り込める。

図らずも目的の一つ「収納アイテムの購入」を達成できた。

次は……これこれ、【ファイアボール】の巻物(スクロール)だ。

あとは細々とした買い物を済ませて久しぶりの一層へ向かう。

 

 

〜塔・第一層・フィールド〜

バルドルから聞いた場所に向かうと、そこにはストーンヘンジがあった。

その中央で【ファイアボール】を唱えると、石柱が白く光り輝き、視界を埋め尽くした光が消えると、そこは夕焼けに照らされたヒマワリの原っぱ、そして静かに波の押し寄せる浜辺があった。

 

「絶景だな」〈同意します〉

 

さて、もうここから攻略は始まっていると見るべき。ヒマワリは……破壊不能か。多分関係ないな。

浜辺には「茜色の真珠貝」というアイテムが複数落ちていた。換金可能っぽいし、いくつか拾っておく。

 

「よし、じゃあ城攻めと行きますか……お客さんがいらしてるし」

 

いつまでも暮れない太陽を背に、飛来する蜥蜴人が複数。唐突に火球を放ってきた。

ありゃあ完全に敵さんだな。で、連中がどっから来たかといえば……

 

〈目標と思しき巨大浮遊物体を発見〉

 

当然、黄昏城だよねぇ。

さて、とりあえず今のステータスを再確認だ。

 

Open Status

Lv56 HP 190/190〈+530〉 MP 20/20〈+530〉

 

【STR 0〈+165〉(5%増)(二倍)】 【VIT 0〈+165〉(二倍)】

【AGI 240〈+165〉】 【DEX 0〈+165〉】

【INT 0〈+165〉】

 

スキル

【跳躍Ⅴ】【スラッシュ】【ダブルスラッシュ】【パリィ】【狙撃】【挑発】【旋風】【連風】【HP強化小】【拘束】【グラップル】【投擲】【睡眠無効】【昏睡軽減】【悪食】【毒無効】【筋力強化小】【侵略者】【破壊王】【絶対防御】【格闘Ⅰ】【剣の舞】【空蝉】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【武芸百般の心得Ⅳ】【煌星】【ストレージ】

【蛮狗の王】

 

 

そう、今の俺は攻防を【悪食】に任せた【AGI】極振りビルドだ。

超高速で敵にタックルをかましていくスタイルというわけだ。

常に【大物喰らい(ジャイアントキリング)】でステータスが倍になるため、下手に万能型にするよりも強かったりする。

 

「お披露目と行こうか!【煌星】!」

 

・【煌星】

突進時に使用者の半分のHPとVITとSTRを持つバリアを展開し、使用者のAGIを五割増する。

バリアに接触した敵に軽度の【ノックバック】を付与する。

バリアが破壊されると再使用まで10分を要する。

 

「【跳躍】!」

バズンと砂浜を蹴り飛び、火球をかき消して蜥蜴人に肉薄し、背中に組み付いてクールタイムを待つ。

「ギャギャギヤー!?」「「「ガガッ!!」」」

俺を振り落とそうと暴れる蜥蜴人に他の個体が群がり、諸共に仕留めようとしている。

 

「そのガッツは称えるけど、もう遅いぜ?」

 

後続の増援(足場)が来てるからなあ!

 

「八艘飛びと洒落込もうぜ、【跳躍】!」

 

 

 

〜塔・第一層・黄昏城〜

城を雲霞のように囲む蜥蜴人、ワイバーン、小竜。

炎を吐きかけ、槍を投げつけてくるが、どれも効きはしない。全て無視して【煌星】任せに城内へ突入だ。

 

「オラオラ、もうボス部屋に着いちまうぞ!」

 

扉を蹴破って転がり込んだのは最上階の大広間。

その先には……

 

「……我ガ、使命、『黄昏城』ノ、守護ヲ、執行スル」

「デスヨネー」

 

邪悪なオーラを纏った、無骨な鋼の鎧騎士だった。

 

「知ってtあぶねっ!」ギリギリで不意打ちの大剣を()()()

あの鎧騎士は十中八九ガヴェイン卿だろう。洗脳されてすでに陥落したこの城の番人にされてるってとこか。

まあ、正直、敵サイド(操られてる)とは思ってたし、だからこそメタ的な理由でろくな対策情報を得られないと判断してさっさと城攻めを始めたのだが。

 

「明らかに【破壊不能】くさいな、あの大剣」〈可能性は高いかと〉

 

だってあれも禍々しいくせに、刀身が太陽みたいにギラギラ光ってるもん。『お前を貫く』って自己主張してるもん。本質だけは塗り潰せなかった系では?

ほんならあの大剣だけは無窮シリーズで受けるとして……新スタイル「悪食インファイト」、略式で行くぞオラァ!

 

 

 

十分後、ガヴェイン(仮)が膝をつく。鎧がボロくなり、オーラが弱まっているようだ。

 

「我ガ権能、夜陰二塗レタコノ体デハ扱エズ……口惜シヤ」

 

どうやら、やっぱり太陽が沈まない黄昏城では常に強化されるはずが、あの邪悪なオーラのせいで弱体化されているということらしい。

それより第二形態は何だ?巨大化か?狂化か?

 

「使えぬガラクタめ、ならばコレをくれてやる。即刻、その小蝿を潰せ」

「いや誰!?」

 

しゃがれた声と共に大広間の天井を吹き飛ばし、漆黒の竜が現れた。

その竜はさっきまでの雑魚竜の倍の体躯、何よりその邪竜と表現するより他ない威圧感を持って俺とガヴェイン(仮)を睨めつけ、おもむろにガヴェイン(仮)に向けて金色の光を放り投げた。

光がガヴェインかっこか……ええい面倒くさい、ガヴェインに吸い込まれ、代わりにガヴェインから邪竜に黒い粒子の奔流が流れ込むことで、両者は強化される。

 

「オ、オオッ、ウオァァァァ!」ガヴェインは焼き尽くすような金色に包まれ、

「ガハッ、ガハハハッハハハ!」邪竜は粒子をビームにして方々に放ち始めた。

 

「うへぇ、めんど」

 

まあ、あの大剣以外は割と余裕そうだしなあ。ここはいっちょ思い切って「悪食インファイト・制式」で行く!

俺は無窮シリーズを全て外し、【煌星】を解除して……宙を駆け出した。

 

「行くぞおおぉぉぉ!」

 

地面を弾くように【跳躍】し、コンマ一秒で邪竜の鼻面にダイビング。

ギャグ漫画のように大の字に穴が空いた邪竜の顔がベシャリと潰れ……苦悶の絶叫を上げた。

 

「GIIYYOIOUOUOUOUAAAAHアアアアアア!!!GAAAAAAAAAAAAA!!!!!」

 

すぐさまビームが止み、残存していた粒子が邪竜に吸い込まれ、穴が体外へ向けてモリモリ復元して俺を押し出した。しかし、HPは一割ほど削れている。

邪竜が消えない痛みに悶え苦しみのたうち回る中、ガヴェインは心なしか「マジかお前」という雰囲気を放ちながら硬直している。

ウッ、やめろ。誇り高い武人(推定)にそういう視線を向けられるのは堪えるっての。マジで。堪忍して。

俺が想定外の精神ダメージを受ける中、ようやく起き上がった邪竜ががなり立てる。

 

「GAAAA,殺せえぇ。ITAIIII、早くしろょぉおおお!」

「仰セノママニ」

 

余裕を無くした邪竜の命令に従い、ガヴェインが俺に突っ込んでくる。

ちっ、うざったい。【煌星】で逃げよう。

ガヴェイン単体ならどうにでもなるが……そうだ、今のうちに試してみよう。

 

「やいガヴェイン!天界を忘れたのか!」

「ム?何故、我ガ名……天界、我ガ、故郷ノ名モ、何故……」

「そこのクソ竜に取られた城を取り戻しに来たんだよ!もうこの城は落ちてんだ!」

「ナ……ソノ筈ハ……ヌ?……我ガ配下ハ何処……?」

 

ビンゴ!説得コマンドが通じるぞヒャッホウ!

だが。

 

「黙れ!貴様の手下はそこにおるだろうが!」

邪竜からまた粒子が飛び、ガヴェインの背後で騎士の幻影を形づくる。

「ヌ、グ……?オオ、ベンジャミン。其処二居タノカ…………ウム、ヤハリ彼奴コソガ賊徒。スマヌ、心ヲ乱ス処デアッタ」

 

▷ガヴェインは透明な部下とお話を始めた。

 

あー、もう、コレは駄目なやつですね。

 

「なら……もういいか」

「ガハハ。やはり貴様はワレの忠実な下僕よぉ……んがぅ?」

 

邪竜の猫撫で声が気味の悪い水音に変わって止まる。

それはこの場所に居てもよく聞こえた。

キモいから入りたくなかったんだけどな、邪竜の…… ()()なんて。

 

「臭い、きつい、キモい」

なんてこった。見事に3Kとかいう古の悪条件が揃ってしまったじゃあないか。

こんなとこさっさと出るに限る。

 

「う、ご……ぐ。…………」

適当に体内を荒らし回ると、邪竜はポリゴンになって消え始める。

ガヴェインからは焼き尽くすような輝きが消え、その光はまるで夕焼け空のような儚さを帯びる。

邪竜の体をすり抜けて着地した俺に、ガヴェインは向き直った。

 

「っし、これでクリア?」

「ウ、オお?…………ああ、そうか、そうだった……申し訳ない。私の尻拭いをさせてしまった」

「……目を覚ましたかよ?」

「済まぬ。私の預かったこの城は奴に奪われ、私は死んだのだったな。……ならば罰として、我が身と引き換えてこの使命に殉ずる。永久に…………」

 

そう言うとガヴェインは消えかけの邪竜に手をかざすと、その姿は緩やかに薄れ、邪竜と一体となって暖かく輝き……光が収まったとき、そこには夕日のように周囲を照らす竜……いや、竜になったガヴェインがいた。

 

〈サー・ガヴェインと邪竜種の融合を確認……対象内部にサー・ガヴェインの魂を確認、敵性反応無し。以後、対象を陽竜種に分類〉

「あ、あー、御機嫌如何?ガヴェイン卿?」

「……私はもうガヴェイン卿などではない。己の非力故に末節を汚した、黄昏城に住まうただの竜。それだけだ。故にこの獣ができることは、精一杯の感謝だけだ……この城を取り返してくれて、ありがとう。願わくば、私の最期を故郷に伝えてくれないか?」

「分かったよ。この事は必ず報告して、ここにもう一度天兵を送ってもらうからさ。それまでは、ここをしっかり守ってくれよ?」

「『それまで』ではない。私は永遠にここを守り続ける。任せておけ。では、さらばだ。また会おう」

 

別れを交わし、俺は神殿へと帰った。

バルドルに黄昏城の奪還と、ガヴェインの顛末をすると、彼は快く黄昏城の再建計画を引き受けてくれた。

これで、攻略完了だ。

第二層が待ち遠しいぜ。

 

 

 

[称号:〝黄昏城を奪還した者″を取得しました]

[スキル【斜陽】を取得しました]

【斜陽】

願えども沈みゆく日を止めることはできない。されど、その歩みを緩めることはできる。

背負う者のみが発動可能。

 

ナゾなスキルですねはい。

現時点では使用不可能みたいだが、害がないなら放っておくとしよう。

 

 

 

〜塔・第一層・最初の町〜

報告後、俺は第一層へ降りてきていた。

まずはイズさんへこれから生産依頼に伺う旨を伝え、いきなり押しかけるのもまずいので装飾品店を見て回る。

めぼしいものは無かったが、時間潰しにはなったのでイズさんの工房へと向かう。菓子折りの代わりにダンジョン産のドロップ品を渡すとしよう。

 

「いらっしゃい、久しぶりね。この前依頼してもらった装備は出来てるわよ?」

「ありがとうございます、頂きます……お久しぶりです。今日は僕の装備の件で相談に来ました」

 

今の俺の悩みは3つある。

 

①攻撃手段の少なさ

近距離・中距離は【悪食】とクロウラーオーシャンで十分なのだが、遠距離攻撃が【始原弓】と【雷候の撃杖】しかないのはいただけない。

両者ともに連射があまり効かないし、魔法に偏っている。

ここは【投擲】用の武器でも取り入れたいところだ。【ストレージ】も手に入ったことだしな。

 

②見た目のヤバさ

黄昏城で戦って分かったが、俺の外見はチグハグに過ぎる。

無駄に目立つ金ピカの鎧を全部脱いで(装備欄的に)突撃する姿は紛うことなき変態のそれであった。

髪型やフェイスペイントのように、全体的な見た目を変更できるシステムはないだろうか。

 

③いい装飾品が無い

無窮シリーズのぶっ壊れ性能で忘れていたが、俺はウィズの【絆の架け橋】以外に装飾品をつけていない。

天界には装飾品店は無かったし、さっき見た店の品には微々たるステータス上昇効果しか無かった。

何か特別な効果やスキルを持つ装飾品はないものか。

 

これらの悩みをイズさんに話したところ、どれも難しいとのことだった。

 

 

「うーん、今扱える素材からは作れないってことですか」

「そうねぇ、あなたが持っている素材が加工できればもしかして……でも、スキル付きの装備の作り方もわからない現状じゃどうしようもないわね〜。それに、満足できる仕上がりにするにはたくさん試作品を作らなくちゃいけないから、とてもお金がかかるわ〜」

「ゔっ……じゃあ無理です、ね……」

「解決法としては、私の鍛冶スキルのレベルが上がるのを待つくらいしかないの、ごめんなさいね」

 

〈助けてウィズえもん!〉

〈……意見具申。私が【鍛冶】を取得し、装備を生産してはいかがでしょうか〉

 

「……んー、僕が【鍛冶】を取って生産ってできますか?」

「はっきり言ってデメリットしかないわね。生産職は戦闘で得られる経験値が減少するし、ごく一部を除いて攻撃系のスキルを取れなくなるわ。それに……私を舐めないでよね?これでも鍛冶職一を自負してるんだから」

 

だが、生産系を全てウィズに取らせれば話は別だ。

 

「失礼しました。でも、無礼を承知で言いますが、僕はそのデメリットを無視できますから、練習時間の問題はなんとかできると思いますし……見込みは、あります」

「……言うじゃない。それなら、いくつか私からあなたへしてあげることがあるわ。早速始めましょう?」

「ありがとうございます!」

 

この後、こっそりアバターの操作権をウィズに渡した俺はイズさんと生産職の『のれん分けイベント』を行い、ウィズに【生産の心得】と【鍛冶】スキルを取得させ、ついでに鍛冶職に必要な最初の道具をもらって工房を辞した。

 

 

 

 

続いてやってきたのは第一層のスキルショップ。

神殿のでいいじゃん、と思わないでもないが掘り出し物があるかもしれないし、寄ってみることにした。

結果、やはり神殿と比べれば品揃えは圧倒的に薄いが、いいものを見つけて購入した。

 

・【安眠】のスクロール

使用することでスキル【安眠】を取得できる。

【安眠】

快適に眠ることができる。

起床までの時間、眠りの深さ等、細かい調整が可能。

 

これがあれば就寝しつつ【代行権利(オルタナティブ)】でウィズにレベリングと鍛冶の練習をさせられるかもしれない。学年末試験近いし、これは超嬉しい。

 

しかし、ホクホク顔で店の外に歩き出した俺を待ち受けていたのは、修羅であった。

 

「ようやく、見つけましたよ」

「なっ、ぜここに……!?」

 

そこには、激しく見覚えのある顔の、白髪赤目少女が待ち構えていたのだ。

 

「決闘を申し込みます」

「やめてよ宮本さん……!」




邪竜の前にガヴェインを倒した場合、陽竜ガヴェインは誕生せず、ガヴェインの愛剣がドロップしていた模様。(装甲貫通スキル+微リジェネ)

【安眠】
時間加速イベントの試験時、長時間のPvP故の極度の緊張から、不眠症に陥ったテスターがいたことから開発された。
億が一にもプレイヤーが昏睡に陥らないよう、幾重もの安全措置が講じられている。

そして。はい、とうとう捕捉されました。
次回は決闘とその後の影響をお送りします。


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武者、襲来

戦闘描写つらい、つらくない……?


「重ねて言います。あなたに、決闘を申し込みます」

「ヤダなぁ……」

 

ぶっちゃけ、ここで無視することも可能ではある。

しかしながら、自分の通う切先高校において影響力の大きい彼女……プレイヤー名「ツバサ」の要求をはねのけるのはリスクが大きい。

何が起こるかわからないと思わせる気迫が伝わってくる。

仕方なく、決闘を受理することにした。

 

 

 

決闘フィールドに転移し、俺はとりあえず悪食インファイトの体勢を取る。

ツバサはといえば、やはりというべきか、太刀と小太刀を一振りずつ、抜き放っていた。

 

「できれば、これっきりにしてくれないか?」

「ええ。勝てると判断しない限り、あなたに勝負を仕掛けることはしません。約束します」

「……じゃあ、アンタは俺に勝てるってのか?」

「そうです」

 

[3…]妙にイラッとくる

 

[2…]これでも隠し要素を独占してるんだ

 

[1…]いくらリアル強者でも、負けるかよ!

 

[…GO!]

 

「オラァァァァァァッ!」

 

「ふっ……!」

 

瞬時に距離を詰め、ツバサは俺の胴体目掛けて突きを、俺は右手で【パリィ】しつつ無装備にした左手で鳩尾を狙う。

だがツバサが太刀を手甲の角ばった部分に引っかけて【パリィ】を不発させた。

 

「いや上手いな!?」

「当然です」

 

反応速度が段違い過ぎる上に、避けタンク風の立ち回りからしておそらくVITが0なのだろう、【大物喰らい(ジャイアントキリング)】が発動していない……それ抜きでも俺のAGIは400を超えているはずなのだが。

そうこう考えている間にも間断なくヤクザキック、袈裟懸け、首狙いの切り上げってキッツ!避けられん!

で、でも【悪食】があれば余裕だし?……づあッ!?

 

「……なんでダメージをっ!」

「おや、そこまで気を抜くような人だったのですか?……ああ、なるほど」

 

甘んじて受けた刃はなぜか、装備と【絶対防御】で300超えのVITを抜いて俺にダメージを与えた。

久しぶりの痛みに体がすくんだ俺に、期待が外れたとでも言いたげにツバサは問いかけ、得心がいった、という表情で言葉を切る。クッソ、コイツ防御貫通技持ってやがるな!だから今まで避ける必要が無かったことがバレたんだろう。

……あれ?あの太刀破損してなくね?【悪食】は?

 

〈おーい、ウィズぅ、【悪食】って防具越しだと発動しな〈異常事態!異常事態!〉おおぅ!?どうした?〉

〈スキル【悪食】、発動が阻害されています!〉

〈はぁあ!?〉

 

ちょ、それどういうことだ。

慌てて太刀のステータスを見る。

 

【悪食】

【始原の刀】による封印中。戦闘終了まで使用不能。

 

もう何がなんだかわからん。なに?このヒト始原持ちなの?俺の弓と同じ?Why?もう頭いっぱい。

……なお、絶賛ボコされてます。

一発一発はかすり傷でも、一瞬で二回くらい斬られてるからね、もう三割削れたねぇ!

 

「デタラメな!……マズっ!」

「ほらほら、どうしたのですか?」

 

煽りに付き合う暇もないまま、【無窮の金足甲】が破壊されてしまった。【破壊成長】も阻害されているらしく、ステータスが下がったままになってしまった。無窮シリーズは黄昏城で相当傷ついていたから、他も時間の問題だろう。

補正が切れたAGIとVITが下がり、目に見えてツバサの動きに追いつけなくなるうえにダメージが増える。

どうするどうする!?【悪食】がないなら武器を……ダメだ速攻で潰される。

 

「ああッ、チクショウ!こんなことなら魔法の一つも覚えておくんだった!」

「…………」

 

クソが。何がイラつくって目の前の剣姫サマ  ああ学校じゃそんなあだ名だったか  が俺を鼻で笑ってらっしゃるのが一番腹立つんだコラ拳ぶち込むぞ。

 

「ウザいウザいウザいウザいウザいウザい……ッオラァ!」

「っ……ふふん、まだやれそうですね!」

 

いいぞ、だんだん思考がバーサクしてきた。案外行けそうな気がする。

考えろ考えろあいつのスキル封印能力も万能じゃない!まだ使えるのは……【煌星】と【投擲】と……ああそうかアレがあった!

 

「チッ、近距離では!」〈ウィズ、【ストレージ】から【始原の弓】と【クロウラーオーシャン】を出せ!〉〈了解〉

 

近距離での不利を悟った俺は【跳躍】で飛び退き、取り出した【始原の弓】になんと【クロウラーオーシャン】をつがえ引き絞「させません」【始原の弓】を弾き飛ばされる。

 

……今だ、いざイチバチ(一か八か)の賭け!

 

 

 

「これで形勢は……む?」

 

己の太刀と意匠の似た弓を叩き落としたツバサが見たのは、まるで射る直前の矢のように振りかぶられた、鱗を連ねたような剣だった。

 

〈【鞭化】〉「【投擲】」

 

【クロウラーオーシャン】がツバサへ投げ放たれる。【鞭化】によって刃の結合が切れているが、詠唱をウィズが行ったことと、剣が切先を向けてツバサへ飛んでいたことにより、彼女はその事に気づかなかった。

 

「何を……ぬ!?」

 

今更ただ剣を投げつけてどうしようというのか、と剣の切先に【始原の弓】の横手(切先の側面)を当てると、【投擲】を封印された剣先が逸れていく。

その問いに答えたのは、ほどけた剣身と、切先に引っ張られなかったために、勢い変わらず自分に突き進んでくる剣の柄だった。

 

「くっ!……なあっ!?」

 

慌てて太刀の腹で振り払うも、今度は【鞭化】が封印されたために剣形態に戻ろうとした【クロウラーオーシャン】の刃と刃の隙間に刀身が挟まれ、ろくに振れなくなってしまった。

【始原の弓】を放棄する間に、今度はアキの方から突っ込んでくる。

スキル封印スキル【事象斬】はの固有スキル故に代わりの武器ではできない。

これで形勢は逆転した。

 

「ッシャオラァ!」

「……【抜刀術】!」

 

それでも、無事な小太刀【来国俊(らいくにとし)】を神速で抜き放ち、アキの首に突き入れるその前に、アキは捨てられた【クロウラーオーシャン】を引っ掴み、【始原の刀】との交点を【来国俊(らいくにとし)】目掛けて突き出していた。

歪に絡まった二本の剣に押しやられ、ギリギリと音を立てて【来国俊(らいくにとし)】が上へと逸れていく。

 

「AGI特化型に俺がSTR対抗で負けるはずがねぇんだよなぁ!」

「くうっ……!」

 

さらに踏み込んだアキの横薙ぎが、ツバサの胴を十文字に斬り裂く。

これが決定打であった。

ツバサはポリゴンと化し、決闘フィールドは勝者を告げて消えていった。

 

 

 

 

[Winner:アキ・アカツキ]

[You Win!]

 

……危ねえあぶねえ、もうちっとで負けるとこだったぜ。

いや何なの?我が校の高嶺の花が決闘申し込んで来るとか何なの?なお花びらに触れた指が落ちるものとする。

 

「……見事でした。先ほどよりの無礼に深く謝罪します」

「あ、あーっと、はい。大丈夫ですよ」

 

つらつらと考えているといつの間にか街に戻っており、ツバサが謝罪をしてきたらしい。

しかし何というか、敵意と言うか戦意をぶつけられないとどうしても下手に出てしまうもんだな。

……やべ、今更緊張してきたわ。そういや俺ってば何のたまりやがった!?もしかしなくとも暴言塗れですかそうですかァ!

 

「あっ……死……?」

「?……あぁ、ご心配なさらずともこの件を他所で持ち出すことはございません。ご安心ください」

「思考筒抜けェ……」

 

何一つ安心できねえや。

しかもなんか人多いって!そりゃ白昼堂々天下の往来で出会って数秒で決闘に雪崩込むとかアカンわな修羅か何かですか!?

……今すぐ逃げようそうしよう。

 

「えと、それではそういうことで失礼!」

「あっ……」

 

封印が切れて再生した無窮シリーズのステータス補正に飽かせてその場から急速離脱。数秒で街を抜け、第一層の外れまで突っ走ってから神殿まで転移した。

久しぶりに息が切れたぜ、休憩しよ。

 

「やべー奴だった……そういえば何する予定だったっけ……もういいや…………」

「……どうしたんだい?」

「あ〜バルドル団長、聞いてくださいよちょっと戦闘狂とバトってきたとこなんすよ…………」

「へぇ、君がそこまで疲労する程なら楽しそうだ、後で紹介してよ」

「真面目にやめてください、マジで」

 

仰向けで大の字に寝転がる俺の側を通りがかり、不思議そうに団長が話しかけてきたがこのヒトは駄目だ、鍛錬マニア過ぎて会話が噛み合わない。アンタがお外に出たらダメでしょ、と懇切丁寧に言い聞かせるとやっと折れてくれた。

 

「分かったよ、じゃあ代わりに今度また手合わせ願えるかな?」

「……まぁ、時間があれば、ですが」

「ハハ、期待してるよ」

 

どうしてこのゲームの強キャラは戦闘狂ばっかなの?という嫌悪感を精一杯込めた視線で団長を追い払う。

……何考えてたんだっけ、ああそうだ何する予定だったかだ。確か鍛冶の練習だったっけ?ここの鍛冶場はどこやらエンヤコラ。

 

 

 

 

「……行ってしまった」

 

奇異と若干の畏怖が籠もった視線の中、取り残されたツバサは考えていた。

本当は彼を負かして鍛錬に引き摺り込むつもりだったというのに早速躓いて盛大に転んだ形となってしまった、どうしようかと。

一族の当主を負かした身でありながら弟子はおろか個人的に目をかける者を一人も持たない彼女は、異様な変化を見せた一般生徒に目をつけた。そして一当たりしごいて見極めようとした挙げ句あの体たらく。情けない限りである。

ここは兄の勧めで買ったあのゲームとは勝手が違う、そう分かっていても好奇心を抑えられなかったのが敗因だ。

再戦しようにも一度負けた相手に何度も雪辱戦を挑むのは己の流派の信義にもとる、だが今後予定されているというPvPイベントならば、不意遭遇戦ならば仕方がない。そうこっそりと妥協したところで、もう一つの用件、聞きたかったことを思い出した。

 

「【二天一流】というスキルについて何か知らないか……また今度聞くとしましょう」

 

己の流派と同じ名に、行方知れずの兄を感じたことを。




・【二天一流Ⅰ〜?】
【刀術Ⅰ〜Ⅹ】取得クエストで満点+隠しターゲット撃破で取得。
【刀術】のダメージ倍率を少し下げ、詠唱、クールタイム、技後硬直が無い代わりに『理想的なモーション』を行わないと発動しない。
【刀術】の【始マリノ太刀】と【終ワリノ太刀】はそれぞれ一定時間攻撃力激増と武器を代償に大ダメージへと効果変更。名前は追々。
ツバサのスキルレベルはⅥ。彼女の才能は剣術に特化していて二天一流剣術の五つの型+無構えまでしか極めていないため。


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剣姫の遍歴/白布を握り締める豚

ドレッドとドラグって口調が似てるので、どっちがどっちか分かりづらかったらご指摘ください。
そろそろ第一回イベに入りたい(願望)


〜塔・第一層・最初の街〜

奇妙な二人が去り、捌けてゆく野次馬の一人、フレデリカは今日の定期会合という名のダベり会にいい話の種を見つけて、スキップしながらいつものカフェに入った。

 

「ペイン〜、ドレッド〜、ドラグ〜、おっまたせー!」

「やあ、フレデリカ」「時間ピッタシ、大丈夫じゃね?」「待ってたぜフレデリカ」

 

いつものカウンター席で四人、いくつかのゲームで同じギルドを組んできたペイン、ドレッド、ドラグ、フレデリカは、NWOでも近日実装予定というギルドを結成すべく、レベル上げとスカウトにいそしんでいた。ギルドの名前は【集う聖剣】。プレイヤーレベル最高のペインを筆頭に、将来のトップギルドと早くも噂が広まりつつある。

 

「そんで、良さげなヤツは見つかったか?」

「いや、今週は見つからなかったよ」

「俺もだ。戦闘職も生産職も数揃ったし、ぼちぼち見込んだ奴ら全員集めて、どっかで集会でもやるか?」

「あ〜、私は、ついさっきすごそうな人、二人も見つけちゃったよー?きっと、もう掲示板で噂になってるくらいのをね?」

「ほーん、誰と誰だ?」

「あの金ピカさんと、なんか強そうな武士っぽい女性プレイヤー!」

 

三人が目を見開く。金ピカことアキは、サービス開始初日に派手な金の全身鎧姿で目撃されたプレイヤーだ。初日など、生産職は誰も鉄すら叩けていない。当然、なにがしかのイベントを踏んで入手したのだろうと言われていたが、二ヶ月が経った現在でもほとんど姿を見せず、半ばガセ扱いされていた。【集う聖剣】でも勧誘を考えたのだが、遭遇すらままならないと知り、諦めていた。

その金ピカを、フレデリカはつい先程目撃したと言う。

 

「おぉう、ソイツらはどんな感じだったよ?」

「んとね、一言で言うなら……街中で待ち伏せ?」

「うん?」「「は?」」

 

詳しく言うと、フレデリカがスクロール屋から出てくる金ピカを見つけて後をつけたら、少し前からスクロール屋の前に立ってた武士っぽい女の人が話しかけて、すごく驚いた金ピカに何か話しかけて、いきなり決闘を申し込んだ。そして、渋々という感じで金ピカさんが申し込みを受けて、二人は二分くらい経って戻ってきた。すると、女武士が頭を下げて、金ピカがワタワタして『大丈夫ですよ』と言って超スピードで逃げていった。女武士もすぐログアウトしたからどちらにも話しかけられなかった……となるのだが、ますますもって意味不明である。

 

「マジで待ち伏せてたのかよ。物騒だなぁ、その女武士ってのは」

「でもよドレッド、金ピカは無理でも、ソイツの方は話ができんじゃねえか?」

「かもしれないね。フレデリカ、その二人はどれくらい強いと思う?」

「えーっと、まず、金ピカさんは、逃げるのがほんとに超速かったの。もう、一瞬で豆粒みたいに小さくなってたの。どんだけAGIに振ったら出せるのよ、ってくらい。例の金ピカ鎧は全身鎧だからAGI特化装備って感じじゃないし、なんかすんごい加速スキル持ちね、絶対」

「ふむ……これだ。フレデリカ、君の予測通り、掲示板が相当盛り上がっているよ。ほら」

 

掲示板を調べたペインが先程の決闘についてのスレッドを見つけ、他の三人にも見せる。

そこにはフレデリカが語った通りの一部始終と二人のスクショ、加えてアキの逃走経路上にいた人々による目撃情報が早速上がっていた。

 

「相変わらずはえーよ掲示板」「ホントにな」

「逃げた彼が再び街に現れるのはほとぼりが冷めた後だろう、これはまた偶然遭遇することを祈るしかないな。それで、女武士の方は……そういえばこの顔、どこかで……へ?」

「え、心当たりあるの?」

「……見てくれドレッドラグこいつは駄目だこの件はこれで終わりにしようそうしよう」

「ちょっとペイン!?一呼吸でどんだけ喋ってるのよらしくないよ……って二人も!?」

 

女武士(ツバサ)のスクショをしげしげと眺めたペインが凍りつき、青ざめ、ガタガタと震えだす。そんな異常事態(キャラ崩壊)を目撃したフレデリカがすがるようにドレッドとドラグに目をやると、頼みの二人まで恐慌状態に陥っていた。

 

「なんでバーサーカーがいるんですか?」「しぬ……死ぬ……」

「!!!???」

「ハァ……落ち着け自分。ここはあのセキガハラじゃないんだ……ふう、ごめんフレデリカ。取り乱してしまって」

「えっ、ああ、うん。大丈夫。ゆっくりでいいからわけを聞かせてくれる?」

 

未だ漏れ聞こえてくる呻きを意識の隅へ追いやり、問いかけたフレデリカに、正気を取り戻したペインは語った……

 

 

  三年ほど前、VRMMO「イアイ・ブシドー・オンライン」(略称イブシ)というゲームがあった。

リアル系乱世PvPゲームを謳ったイブシは戦国武将のいない室町時代末期の日本を舞台に、プレイヤー達がクランを組んで合戦したり日本各地に眠る武人や怨霊の魂を調伏したり、対人戦を中心に戦うMMOである。

 

レベルアップという概念はあるもののステータスの伸びは固定かつ低く、得られるスキルポイントで【体幹補正】や【手ブレ補正】などを取得してプレイヤースキルを補うくらいしかできない。遠距離攻撃手段は矢と火縄銃だけで、どちらも命中性と連射性が低い。

そんなわけでプレイヤー間の戦力差が低く、数が物を言うイブシにおいて、プレイヤー「ツバサ」は【剣姫】又は【バーサーカー】という二つ名を以て君臨した。

 

その所以たる所業とは、『未討伐ボスの全単独撃破と、それに伴う初討伐特典の独占』

具体的には、『一ヶ月で』『日本全国(プレイエリア全域)の』『全ての超高難度ボスを討伐』したのだ。

 

この事態にトップクラン【風鈴花山】を初めとした大規模クラン勢、日本三大怨霊最後の一体【早良親王】を独占していた【淡路漣】等のガチ勢が激怒、運営へのスパム連打、超高額の懸賞金(ゲーム内外問わず)、リスキル等のハラスメントを大っぴらにチラつかせた公開恫喝その他、無秩序の大捕物を展開した直後、

【風鈴花山】と【淡路漣】の本拠地は同日中に()()()()

 

両クランのメンバーに話を聞けば、下手人のツバサは【崇道怨雷】(名称から【早良親王】の初討伐特典と思われる)一本で人やら矢やら鉄砲の玉やらを尽く斬り捨てて回ったそうだ(この時点でフレデリカの視線は宙を舞い始める)

その後、美濃国(岐阜県)を拠点にしていることが判明したため大規模な山狩りが行われた結果、ツバサは『セキガハラエリア』にて包囲を受け……否、逆に追討軍が一箇所に集められたのだろう。姿も確認できないうちに一割が死に、体制を立て直そうにも火縄銃の火薬庫が吹き飛び、伝令がちょくちょく辻斬り(ツバサ)に遭う中ではますます混乱するばかりであったとか。

 

当時イブシ初心者だったペイン、ドレッド、ドラグもこの虐殺の被害者である。(魔法好きのフレデリカはイブシを購入していなかった)

ちなみに三人の死因はそれぞれ、『刀ごと叩き斬られた』(ペイン)、『火薬庫の爆発で吹っ飛んだ先に竹槍in落とし穴(ベトナム内戦式)』(ドレッド)、『気がついたら胸に穴が空いたと思ったら首が落ちてた』(ドラグ)である。しれっとペインだけは応戦できてるあたり流石だ、とフレデリカは現実逃避した。

 

要するに、「たった一人に数千の軍勢もろとも殲滅された」これが三人のトラウマである。

イブシがどうなったかって?ラスボスすら分殺されるギスったMMOに未来があるとでも?

 

 

「え〜……」「うん、また出たんだね。NWOもまずいかも知れない」

 

穏やかな泥沼のような目でペインは結論づける。

ちょうどその頃、掲示板も、当時を知るスレ民の証言によって悲鳴が轟いていた……

 

 

 

〜天界・神殿・鍛冶場〜

うっすらと目を開ければ、トン、テン、カンと金槌の音がする。

 

〈あぁ朝か……お~し、おはよう、ウィズ〉〈お早う御座います。現在、三月二十日、午前七時二十三分です〉

 

シャッキリと目が覚めた今日は学年末試験最終日の翌日、日曜日である。

俺はここ三週間ほど鍛冶場にカンヅメで装備を作っていた。

とは言っても俺が本当に延々と金槌を振るっていた訳ではなく、夜間に【安眠】で寝ている俺のアバターを【代行権利(オルタナティブ)】でウィズが操作し、【生産の心得】と【鍛冶】のレベル上げに勤しんでいたのが真相だが。

学年末試験が迫る中俺が取得したスキル【安眠】は光明だった。

学校から帰ってきたら宿題して晩飯食って試験勉強してログインして寝る、の繰り返しで鍛冶関連のスキルが育つのだからウハウハだ。

今の所【生産の心得】がレベルⅣ、【鍛冶】がレベルⅢだ。やっぱり生産系はガチで打ち込まないとそうそうレベルは上がらないスキルらしい。これでもイズさんが目を剥く早さだろうけども。そろそろ【裁縫】とかも上げてローブとか作りたいもんだ、とDEX上昇補正のために今も着た切り雀の【無窮ノ金兜】を見やってつくづく思う。

 

〈で、この三週間の成果はどうかな?〉

〈はい。お望みの品、未だ試作段階ですが完成致しました〉

 

まずは【投擲】で投げる武器。量産性に優れたものが望ましい、ということで作ったのがコレ。

 

【試作九号クナイⅤ】

【STR +3%】

 

STRの増加値が%単位なのは、【大物喰らい(ジャイアントキリング)】込みで600を超える俺のSTRなら、固定値増加より割合増加のほうが伸びが良いからだ。正直、使い捨て想定だから耐久値を削ってでもステ補正を伸ばしたかったのだが、まだ【鍛冶】のレベルが低いせいか無理なようだ。

次は装飾品。こちらもステ補正を%単位にしてどうにか店売りを上回る増加値となった。が、三週間前に受け取ったイズさん作のローブのほうが性能がいいので、【絆の架け橋】とこのローブを合わせて装備欄は残り一つ。そこにウィズの作品を着けることにする。

 

【黒銀のローブⅧ】

【INT +10】

 

【ビートルリングⅣ】

【AGI +1%】

 

【鍛冶】によって作られた武具と装飾品には名前欄の末尾に【強化】の出来栄えがローマ数字で十段階評価されるのだが……イズさんとウィズの差がヤバい。もし固定値でなく割合増加にしていれば3%は堅いだろう。見た目重視で依頼した装備でこれとかイズさんの生産スキルレベル高過ぎかよ。

 

〈イズさんは流石だけど、ウィズも良いもん作ったじゃんか。これからも頑張ってくれよ?〉〈了解、今後も精進します〉

 

最近とみに言葉が柔らかくなったウィズをねぎらい、三週間ぶりに外へ出る。

経験値稼ぎと鍛冶三昧で減った所持金の補填がてら、久々のダンジョン行きと洒落込もう。

 

〜天界・神殿・ダンジョン・受付〜

「さて、三階で雑魚周回か一階のボス周回か……お?」

 

久しぶりに受付の端末を起動すると、通知が来た。

[四階が開放されました]

そうだ、最後にダンジョンに来たのは三層に初挑戦した時で、クリアしたまま四階の確認をしてなかったんだった。

通知を閉じ、追加された『四階』の文字を押す。

すぐに視界が光に包まれ、四階へと転移した。

 

~天界・神殿・レベリングダンジョン・四階「王者を打倒せよ」~

アナウンスと共に転移した先は一面の森の中である。今の所敵は居なそうだ。

 

「王者ってことは城でもあんのかね?」〈報告・四時の方向、巨大樹木有り。推定樹高100メートルオーバー〉

 

右後方を振り仰げば、そこには天を衝くような巨木があった。一見普通の森の中にあってそれは異様な大きさである。巨木とスタート地点の間の森は比較的ひらけていて、進むのには難儀しなさそうなので、そちらへ歩を進めると、案の定虫系モンスターが襲いかかってきた。

 

「シギャギャギャ!……ギャース!?」

〈【煌星】〉「残念ながら雑魚戦はカットだカット!」

 

突っ走り始めて十分。巨木の根本、そこに広がる直径20メートルほどの盛り土を前にした俺は、その決闘場の如き土台に上がる。

すると俺の向かい、巨木の前に風が集まり、巻き上がった風の渦が消えると、そこには巨大なオークが立っていた。3メートルの赤茶けた巨体を引き締め、白い拳帯を巻いた両手を打ち合わせると俺に殴りかかる。

 

「ゴオオオォォオ!」「よっしゃ力比べだァ!【格闘:正拳突き】!」

〈……情報更新:マスターは脳筋〉

〈なんか言ったか?〉

〈いえ何も〉

 

聞こえよがしに念話しといて何を今更。ではなく、この愚直な真っ向パンチにも自信と腕試し的なアレがある。

実の所、俺はAGI極振りのくせに【絶対防御】と【侵略者】持ちなもんだから、ステータスの中で最も高いのはSTR、僅差でVITなのだ。

今は【大物喰らい(ジャイアントキリング)】が発動しているので、俺を倒すには『VIT660を抜く【悪食】に喰われない攻撃』を【空蝉】による無効化と【不屈の守護者】の食いしばりを含めて最低三回は当てないといけないわけだ。今は拳で相殺仕掛けてるから『STR693を上回る攻撃』って文言も必要だ。最低でも一撃では死なんし、即死技としても【空蝉】が真っ先に発動するから怯みハメはない。余裕を持って二撃目を避ければよろしい。

 

〈質問:多段技だった場合〉

〈あーそこはホラ、ちゃんと目で追えてるしノンビリ喋ってる暇あるから。ってかアイツ吹っ飛んでったぞ〉

「ゴァ……ァアアアアアア!」

 

手甲と獣拳、僅かな拮抗の末に土台から吹っ飛んだデカいオークは地面を抉りながら巨木の前で静止、空へ向けて響き渡る咆哮を……おいちょっと待て。これは……

 

「「「グアァア!ブゥ!」」」「仲間呼びコマンドじゃねーかふざけんな!」

 

小さめのオークの群れだよ畜生!さっきまでの厳かな試合感は何だったんだよ!相撲的なルールで場外負けになんねーのかよ!

怒りのままに【煌星】で群れを薙ぎ倒してデカいのに突撃、【悪食】を叩き込む。が、デカいのは腰を落とすと渾身のパンチを俺に見舞い……その拳を形どった半透明のオーラが拳帯を包み……主もろとも砕かれて消滅した。

 

「あー、なんつか、スマンな」

 

たぶん最後のは拳圧とかそういう感じの奥の手だったんだろうと考えているうちに王を失った小オークも消えて、階層クリアアナウンスが流れた。

 

[称号:〝レベリングダンジョン・四階のボスを初めてソロ撃破した者″を取得しました]

[【レジストオール】を取得しました]

[【迅白布】がドロップしました]

・【レジストオール】

全ての属性ダメージを二割減。

 

・【迅白布】

素材にした装備に【縮壁】が付く白い布。

※【縮壁】

接触した気体・液体を圧縮する。

 

称号特典は【レジストオール】。属性ってのは炎とか毒とかだろう。毒はそもそも【毒無効】で効かんけど、大概の魔法はこれに引っかかるだろうな。

ボスドロップはあの拳帯の素材。さっき使ってた拳圧のカラクリはこれらしい。拳の形に圧縮された空気が壁になっていたってことだな。正直めっちゃ使いたいが、装備に加工するには【裁縫】と【加工】が必要なようだ。後で「暖簾分け」してもらおう。さーて鍛冶場に帰ら……ねぇよ!周回の時間だオラァ!

 

三時間後、俺は【ストレージ】に放り込んだ四階産ドロップ品の山と共に一層の裁縫店の扉を叩いた。




中身が鎧なのでもっさりした黒フードの不審者がカウンターにぶちまけた白い布の山に目を白黒させた新米裁縫師はヒナタだったとか違ったとか(決めてない)

レベルランキング的なのは公式にはないので、アキがレベルを公表しない限りはペインが一位です。
スキルと魔法さえ無ければツバサは最強です。(斬れないとは言っていない)
第一次イベすらまだのイズが評価Ⅷ装備作れたのはマジで偶然ですってことで許してもらえませんか!
【縮壁】はパッと見クソ強いけど実質的に布巻いた部分で鉄塊を殴りつけてるようなモン。
水も空気も壁にできるけどまず自分がその壁を全力で殴りつけるハメになる。だからVIT高くないと反動で手がクソ痛い。


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我が技巧を御覧じろ(独力に非ず)

〜塔・第一層・広場〜

【裁縫】と【加工】を取得してレベルを上げること一ヶ月。

この間に第一回イベントが発表され、今日がその開催日。参加者は全員この街に集まり、特設エリアへの転移を待っている。俺が広場に着いてから数分後、街中にウィンドウが出現し、映し出された小さな竜のようなキャラクターが喋り始めた。

 

『がおー!それでは「New World Online第一回イベント」を、開始するドラー!』

 

いよいよ始まるイベント、今のステータスと装備があれば上位は間違いないだろう。

Open Status

Lv64 HP 190/190〈+530〉 MP 30/30〈+530〉

 

【STR 0〈+180〉(10%増)(二倍)】 【VIT 0〈+180〉(二倍)】

【AGI 265〈+180〉】 【DEX 0〈+180〉】

【INT 0〈+180〉】

 

スキル

【跳躍Ⅴ】【スラッシュ】【ダブルスラッシュ】【パリィ】【狙撃】【挑発】【旋風】【連風】【HP強化小】【筋力強化中】【拘束】【グラップル】【投擲】【睡眠無効】【昏睡軽減】【悪食】【毒無効】【侵略者】【破壊王】【絶対防御】【格闘Ⅲ】【剣の舞】【空蝉】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【武芸百般の心得Ⅳ】【煌星】【ストレージ】【斜陽】【安眠】

【蛮狗の王】

★New! 【レジストオール】【ノックバック耐性小】【魔力強化小】【飛撃】

 

ウィズ

Lv2+ HP 0/0 MP 0/0

【STR 0】 【VIT 0】

【AGI 0】 【DEX 0】

【INT 0】

スキル

代行権利(オルタナティブ)】【探知】【Unlimited】

【生産の心得Ⅵ】【鍛冶Ⅴ】【裁縫Ⅲ】【加工Ⅲ】

 

 

手持ちの試作品にも欠けは無し。新しいスキルも加わり、万全の状態だ。

ドラぞうというらしいマスコットキャラのルール説明が終わり、いよいよと身を引き締める。

 

『それではカウントダウン……スリー、ツー、ワン、ゼロー!……みんながんばって〜!がおー!』

 

 

 

〜第一回イベントエリア〜

転移先は平野、だだっ広い草原の中からチラホラと他プレイヤーが遠くに見える。

とりあえず、新スキルとアイテムの実地試験から行くか。

 

〈ウィズ、【探知】で動作補正を掛けろ〉〈了解、【探知】発動します〉

 

目の前のみならず、背後の視界までもが広がる。

この前使った時は脳が破裂するかと思ったがあれはいきなり全開で使ったことが原因だ。今は情報処理をウィズに任せるだけでなく【代行権利(オルタナティブ)】による動作補正に応用できるようになったのだ。

 

「とりあえず【飛撃】と【量産型壱号クナイ】の試験から行くぞ……【鞭化】【飛撃】、【投擲】【投擲】【投擲】」

 

【クロウラーオーシャン】を出して【鞭化】させ敵の方へ振り回しつつ【飛撃】を発動して鞭状の斬撃を飛ばし、最も近くにいた三人パーティをぶった斬る。続いて短期間で【飛撃】を取得する程度には使い込んだ【投擲】でつい昨日量産に漕ぎ着けたガラス(一撃破損)のクナイで視界内に残る三人を殺る……うわやべえな、ガラスクナイの一投目の破片が3人目の顔に降り掛かってる。

 

「ギャアア!?ワタシの目がァ頭があゥペッ」

 

「ひえっ(なお犯人)」

 

左目と緑の長髪をバッサリやられた男性プレイヤーは喉仏に刺さり砕けたクナイで永遠に声を封じられることとなった。敵に武器を再利用されないための一撃破損特性は予想以上にエグい追加効果を伴っているようだな。

さて、この分ならやっぱり死ぬことは無さそうだが、得点を稼ぐにあたっての課題は俺の攻撃手段に遠距離や広範囲の攻撃が少ないことだ。得点は与被ダメとキルデス数から算出されるらしいから被ダメとデスはほぼゼロと考えても、キル数を稼げないんじゃ上位は狙えない。そこでだ。

 

「最近出番なかったけど、よく考えなくても強武器だよなこいつら」

 

剣と鞭、二つの形態と固有スキル【喰海】で近中距離を薙ぎ払う【クロウラーオーシャン】。

持ち主の俺が一度でも使った弓スキルなら何でも使える、バフガン積み系魔弓【始原の弓】。

 

後はこれまでに得たスキルの数々、(例えば【煌星】で爆走するとか)それらを高いステータスに任せてゴリ押しすればイケるハズ。

 

 

 

〜ダイジェスト・実況掲示板の怒叫〜

 

262:名無しの観戦者 

開始からそろそろ二時間、残り一時間ちょいってとこか

 

263:名無しの観戦者

そうみたい……お、アナウンス

 

264:名無しの観戦者 

何々?『上位三名をマーキングしといたから殺ってね、そいつの得点三割あげるよ』

 

265:名無しの観戦者

いいなそれ、何人かが無双状態だからその三箇所に参加者集めて戦闘を激化させるってとこか

 

266:名無しの観戦者 

そんでその上位三名って誰?

 

267:名無しの観戦者 

一位:ペイン 二位:ドレッド 三位:アキ・アカツキ

一位二位は【集う聖剣】の二人として三位は誰よ?

 

268:名無しの観戦者 

あ、三人の中継窓固定されたわ……え、三位ってあの金ピカじゃん 目撃は一月半振り?

 

269:名無しの観戦者 

誰そいつ、とプレイ歴六日目のワイは問うてみる

 

270:名無しの観戦者 

>>269

サービス初日にくっそレアそうな金ピカ鎧を入手したプレイヤー

ソロ専らしくてギルドへのスカウトどころか目撃例すら稀なダークホース

 

271:名無しの観戦者 

さっきからちょくちょく中継に出てたけどアレはヤバいな、金ピカ鎧にスネークソードと一見ショボそうな弓でアホみたいに狩ってる

 

272:名無しの観戦者 

生産職ワイ、あのエグいガラス製っぽいクナイに興味津々

 

273:名無しの観戦者 

あのクナイはどっから出してるんだ……?

 

274:名無しの観戦者 

お?なんか一目散に走り……なんか衝撃波出てるー!?

 

275:名無しの観戦者

はっや

 

276:名無しの観戦者 

一体どこへ向かって……おいまさか

 

277:名無しの観戦者

ドレッドの方に行ったー!www

 

278:名無しの観戦者 

おいおい死んだわアイツ

ドレッドさんに殺られるのは良いけど他プレイヤーをトレインすんなよな

 

279:名無しの観戦者 

中継映像のドレッド、顔が引きつる

 

280:名無しの観戦者 

いやただでさえ敵が集まってきてんのに格上を落としに行くやつがあるか

 

281:名無しの観戦者 

 三位 アキ・アカツキ

・例の金ピカ鎧

・斬撃が飛ぶスネソ

・雷の矢連射する弓&弓に雷エンチャする杖

・ステータスはおそらくSTR・AGI偏重……のくせに超硬い

・魔法を受けた際に鎧の隙間から四位(メイプル)と類似する結晶の生成を確認

 

282:名無しの観戦者 

 二位 ドレッド

・AGI特化、アホほど速い、避けられる

・二刀流ナイフの一撃一撃がアホほど痛い、避けられない

・魔法やアイテムの活用がうまい

・マーキングされて群がられても元気に狩り中

 

283:名無しの観戦者 

ファイッ!(なお現在両者共にノーダメ)

 

284:名無しの観戦者 

わくわく

 

285:名無しの観戦者 

クナイとさっきの衝撃波を忘れてんよー

 

286:名無しの観戦者 

接触まで推定10秒、9、8……

 

287:名無しの観戦者 

アキが矢を撃った!

 

288:名無しの観戦者 

ドレッドが避ける!

 

289:名無しの観戦者 

いやこの至近距離でスネソは……おおっとあっさり放棄して殴りかかったー!

 

290:名無しの観戦者 

いや違う、ドレッドにぶん投げながら鞭形態にして……!

 

291:名無しの観戦者

ドレッドのナイフに絡みついたァ!

 

292:名無しの観戦者 

残ったナイフ一本を金の拳が打ち砕いて……

293:名無しの観戦者 

ドレッドが吹っ飛……ばない!相変わらず意味わからん回避能力よ

 

294:名無しの観戦者 

ドレッドは替えのナイフを出して仕切り直し、アキはスネソ拾って……『くらうみ』?

 

295:名無しの観戦者

スネソが赤く光ってる!固有スキルか!?

 

296:名無しの観戦者 

モウワケワカラン

後でアイツのまとめテンプレ作って個人スレに貼り付けてくるわ

 

297:名無しの観戦者 

感謝

 

298:名無しの観戦者 

なんかバチバチし出した!

 

299:名無しの観戦者 

おおっとドレッド逃げ出す!?

 

300:名無しの観戦者 

手の内が知れんし当然やな……あっ

301:名無しの観戦者 

めっちゃ伸びたスネソがドレッドを串刺し……死んだ?

  

302:名無しの観戦者 

嘘ぉ!?

 

303:名無しの観戦者 

うっわ

 

304:名無しの観戦者 

ランキング変動!?マジで死んでるし!

 

305:名無しの観戦者 

勝者、三位(現二位)

 

306:名無しの観戦者 

だが奴の周りは既に他プレイヤーの群れよ!

 

307:名無しの観戦者 

殺られろ!

 

308:名無しの観戦者 

それよりも三位が二位の得点三割奪っても手がかすりもしない一位については……?

 

309:名無しの観戦者 

ペインの話してもなぁ……

 

 

 

 

〜一時間後〜

〜塔・第一層・最初の街・広場・イベント上位者表彰台〜

いや、激戦だった。最後なんか【喰海(くらうみ)】使って薙ぎ倒しても薙ぎ倒しても飛びかかって来るんだから【煌星】まで使って轢いて回る羽目になった。あれ絶対脳死特攻ループとかしてる奴いただろ。まあボウリングのピンみたいに吹っ飛んでいく連中を見てスカッとしたので気にしない。

そう、【喰海(くらうみ)】の効果は『【クロウラーオーシャン】で敵百体をキルすることで使用可能となる二十秒の鞭形態における剣身の超伸長と思考操作機能の付与』である。要するに雑魚密集地帯においては延々と剣身十メートルのクソ長い鞭を自在に振り回せるのだが半永久維持には毎秒五キルとかいう苦行が要求される。レベリングダンジョン周回中でも維持できなかったそれが、【煌星】使用に踏み切るまでの四十分間ずっとできてしまったほどの無限わんこ状態だったのだ、先程は。

 

「しゅ〜りょー!結果、三位のアキ・アカツキさんが二位へ、四位のメイプルさんが三位へ上がりました!それではこれから表彰式に移りま〜す!」

 

二位ということでイベント終了後に転送された表彰台の上でドラぞうのアナウンスを聞きながらそんな事を考える。

ドラぞうが一位のペインにマイクを向けた。

 

「まずは、一位のペインさん!一言どうぞ!」

 

「初めての対人戦イベントで一位を獲れたこと、大変嬉しく思う」

 

勇者然としたこのプレイヤー、ペイン。ドレッドをキルする前に三百メートル後ろから射掛けたのだが、奴は一瞬で振り返って矢を両断しやがった。あいつも後ろに目が付いてんのか?ガヤから『いよっ、トッププレイヤー!』とか聞こえてくるのでさもあらん、と納得する。

 

「次に、アキ・アカツキさん!一言どうぞ!」

 

「勝ち抜くのはとても大変でしたが、とても楽しかったです」

 

無難に答えておく。実際、敵をいくら捌いても捌いても湧いてくるのはきつかった。今確認したが総キル数は二千。その大部分があの一時間に詰まっていたと考えるとゾッとしない。

 

「次は、メイプルさん!一言どうぞ!」

 

「えっあっえっ?えっと、その、一杯耐えれてよかったでしゅ」

 

可愛いかよ。

だがこんなナリでノーダメ二千人斬り達成者だ。メイプルにはヘッドショットを当てたのだが、どういうわけか頭で弾きやがった。意味がわからん。【大物喰らい(ジャイアントキリング)】がメイプルだけには発動しなかったのでおそらくVIT極振り、ならば【絶対防御】を取得している可能性が高い。あの強そうなシリーズくさい鎧・大盾・短刀はおそらくユニーク。ユニークシリーズの性能が持ち主にアジャストするならステ補正もVIT極振り……うん、これらの予想が全て当たっているなら初心者感満載の彼女でも均等振りの俺の攻撃を防げるだろう。だが、

 

「今の、噛んだ?」「噛んだな」「がんばれ〜」

 

「うぅ、恥ずかしいよぉ……」

 

マジでどうやって【絶対防御】とユニークを入手できたのか、コレガワカラナイ。

 

 

 

【NWO】アキ・アカツキの謎【考察】

1:名無しの参加者

スレ建て

 

2:名無しの参加者

建て乙

 

3:名無しの参加者

議題は当然アキ・アカツキについてだな

 

4:名無しの参加者

第一回イベントのアキまとめ

アキ・アカツキ 二位

死亡回数0

被ダメージ0

撃破数2012

元二位:ドレッド撃破につき得点三割獲得

 

装備は例の金ピカ鎧とくっそ伸びるスネークソードと雷の矢撃つ弓と弓に雷エンチャする杖と一発破砕のガラスクナイ(本イベントでの使用個数、推定二百個以上)

使用スキルは突進時に青い衝撃波を纏う、スネソから短射程の風刃を撃つ、魔法被弾時に体から紅い水晶生成(メイプルの大盾と類似する、また物理被弾時には発動せず。要情報)

何よりステータスが異様に高い、メイプル同様何食らってもノーダメかつ爆速・ワンパン

備考:クナイと矢の合計使用個数がインベントリ収納上限を超えている

 

5:名無しの参加者

鎧・スネソ・弓&杖・アイテム・スキル・ステータス

どれ取っても頭おかしい

 

6:名無しの参加者

何度見ても信じられん

正直一番ヤバいやつに見える

何故に二位なん?

 

7:名無しの参加者

メインウェポンはスネソと弓。ペインみたいに剣ビーム撃てたり、メイプルちゃんみたいに毒で範囲殲滅とかできないからじゃね?殲滅力不足だと思うぞ

実際初動のキルペースは遅かった

 

8:名無しの参加者

もしやマーキング起動直後に速攻ドレッド落としたのは……

 

9:名無しの参加者

ドレッドに取り付く得点源(プレイヤー)を取り込むために、だろうなあ

 

10:名無しの参加者

実際ドレッドの三割抜きだとメイプル(2048キル)に抜かれてるんだよな

終盤めちゃくちゃ稼いでても実はギリギリだった

 

11:名無しの参加者

生産職はみんなあのクナイ見て憤死してると思う

あ、スネソの風刃は多分生産職愛用スキル【投擲】派生の【飛撃】だと思われ

 

12:名無しの参加者

クナイを投げ続けて習得したってことか

 

13:名無しの参加者

後はメイプルちゃんと同じあの水晶出すスキルだな

どっちもむちゃ硬いし高VIT関連?

 

14:名無しの参加者

いや、メイプルちゃんより遥かに高レベルのはずの歴戦の壁タンク諸氏が全員知らないって言うし違くね?

 

15:名無しの参加者

そもそもあんだけ硬いくせにSTRもAGIもアホみたいに高い

試算だとステの合計値が600は要るんだが

 

16:名無しの参加者

初期100+(30/Lv10up)×Lv100=400ポイントが限度のはずだぞ

極振りじゃないから【大物喰らい(ジャイアントキリング)】は産廃のはずだし 

どっからステを捻出してんだ?

 

17:名無しの参加者

少なくとも弓ではメイプルにダメージが入らない事は分かってる

 

18:名無しの参加者

そらそうよ

ヘッショ弾いたメイプル見て首捻ってたのはワロタ

 

19:名無しの参加者

むしろメイプルが希望の星まである

 

20:名無しの参加者

固有まみれで何を持ってんのか全くわからん

メイプルちゃん含むランカーが複数人いないと殺れなそう

 

21:名無しの参加者

まだなにか隠してるかも知れんぞ

 

22:名無しの参加者

弱点としては長射程攻撃が弓しか無い・範囲攻撃手段に乏しいくらいか

つまりは遠距離から魔法でチクチクと……いやダメだ吸われる

 

23:名無しの参加者

そもそもSTR高すぎて弓の射程までアホみたいに高い

現状最長射程のジャベリン系魔法の倍はあるぞ

あとこれはメイプルスレでも考察されてたが雷エンチャに使うMPはあの水晶を消費して出してるっぽいぞ

あれがメイプルのと同じスキルなら実質MP無限かつ物理も無効ってことだな

 

24:名無しの参加者

えぇ……

 

25:名無しの参加者

結論:つまりアキ・アカツキは

理論値を超えた激高ステータスで爆速怪力超硬

多数の固有装備とクソ強スキルで七面六臂

何もかもワンパン

ってことだな

 

26:名無しの参加者

無ッ理ッッッ!

 

27:名無しの参加者

ラスボスでしかない

 

28:名無しの参加者

死ぬんだぁ……

 

29:名無しの参加者

こいつこれからどうなると思う?

 

30:名無しの参加者

さあ、どこかしら弱点なり見つかるんじゃね?

もしくは安定して袋叩きにする方法が確立されるとか?

 

31:名無しの参加者

こいつウザいわ

 

32:名無しの参加者

むしろ広範囲攻撃技習得して更に暴れ散らかすとかもありえる

 

33:名無しの参加者

いやいや、ソロ専ならギルドイベントでは活躍できないでしょ

 

34:名無しの参加者

むしろ徘徊ボス的な感じでギルド同士のバトルに介入するかも知れん

 

35:名無しの参加者

なにそれ面白そう

 




なおツバサは【喰海】と人混みハメのコンボでショボ沈した模様。


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