IS〈インフィニット・ストラトス〉 射手の男 (運命の担い手)
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プロローグ

ここはとある場所。

 

「くそ!あいつら、しつこい!」

「なら、???姉さん。走ってくれ」

「黙って走る」

「走るしかないないわ」

 

男女4人が軍に追われている。

 

「ここにいったん隠れよう」

 

少年が言う廃墟に入り、物陰にすぐに隠れて身を(ひそ)めた。

 

「しかし、今回はしてやられた」

「そうね。私たちのISは残りのエネルギーが帰りの(ぶん)しかないわね」

 

ISとは既存の兵器を遥かに凌駕する性能を持つ新兵器「インフィニット・ストラトス」通称「IS」だ。

当初はどの国も無視されていたが、今から十年前の「白騎士事件」の後、脚光を浴びて、今ではどの国でもISに躍起になっている。

しかし、女性にしか動かせないという致命的な欠陥があり、世界の男女の社会的パワーバランスが一変し、今では女尊男卑が当たり前になっている。

 

「こうなりゃ、私が一暴れをして……」

「そんな事をすればあっという間にエネルギー切れを起こすわよ」

 

女性の1人がISで戦おうとするがもう1人の女性に(なだ)められて戦うのをやめた。

 

「でも、このままじゃまずいわね。こっちは装備が心もとないし……」

「……俺が囮になって時間を稼ぎます。その(あいだ)に逃げてください。外は海だけど、IS展開すればPICで浮かぶことが出来て海に落ちることはないし、一気に加速すれば帰還出来る筈です」

 

少年が装備しているのはハンドガン一丁とマガジンが3個である。いつも使っている装備はない。逃げる際に壊れてしまったからだ。

向こうは最新の装備で弾薬も十分である。少年が行うのはまさに自殺行為に近いものである。

 

「ダメ!それじゃ???が死んじゃう!」

「???……」

 

この中で一番年齢が低い少女が叫ぶ。死んでほしくないから、誰よりも愛しい者だから小女は叫ぶ。

 

「何、心配するな。俺は死ぬつもりはないし、死ぬ気もない。時間を稼いだら俺もすぐに逃げるさ」

「……分かった」

「ああ。外に出たら、俺を乗せてくれよ」

 

少女は渋々ながら了承した。他の女性2人は少年と小女の桃色の空間に入らないように少し離れている。

 

「???姉さん、???姉さん、???。準備はいい?」

「いいわよ」

「ああ」

「いつでも」

「それじゃ「その前にこっち向いて」なんだ――んむっ!?」

「ん……」

 

少女が少年の唇に口づけをした。

 

「これはお守りよ。必ず帰ってきて……///」

「あ、ああ……」

 

少女は赤くなり、驚きながらもなんとか少年は返事をする。

 

「ふう、それじゃ改めて……道を開く!」

 

パァンッ!!

 

男は少し身を出してハンドガンを軍に向けて発砲した。

 

「今だ!」

 

軍は一瞬にして身を隠して、男から弾を避けた。その間に男を除く三人はなんとか海沿いに脱出をした。

その後、何度か撃ち合いになって男は頃合いをみて脱出する機会を(うかが)っていた。

 

「さて、俺も脱出するか。長居は無用だし」

 

男は残りの弾を発砲して脱出を試みようとしていた時、男は違和感を感じた。

 

「おかしいな。最初は撃ってきたが今は全然撃ってこない。どういうことだ?」

 

考えていると、飛行機のような音がした。

 

「この音は……まさか!」

 

窓から外を覗くとそれには戦闘機がいた。

 

「今じゃほとんどが格納庫で眠っているか、訓練しか使っていないのに俺たちのために引っ張り出してきたのか」

 

ISの登場以降、国はISで守るようになり、代わりに既存の兵器は息を潜めるかのように使われなくなった。

もっとも、一つの国にISのコアは数がそれほど多くはないので、戦闘機などは今だに使われているところが多い。

 

「おいおい冗談じゃねーぞ!」

 

戦闘機が男がいる廃墟に近づいてくる。すなわちそれは爆撃する態勢である。

 

「クソったれが、間に合えー!」

 

急いで男は脱出をするがギリギリだ。相手は戦闘機。車やバイクとは速さが桁違いだ。

 

「よし!これで外に――――」

 

外に出た瞬間に廃墟はミサイルで破壊され、男は爆風で飛ばされて海に落ちてしまった。

 

「(これはさすがにまずいな……)」

 

薄れゆく意識の中、少女の事を思い浮かべていた。

 

「(???、ごめん。約束守れそうにない……)」

 

そして、意識は途絶えて荒れ狂う海の波に流されていくのであった。




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第1話「漂流」

「は、は、は、は……」

「ひい、ひい、ひい、ひい……」

 

ここはIS学園近くの浜辺。IS学園は島丸ごとになっているから不思議ではない。IS学園には国際規約があり、ISとの比較や新技術の試験にも適しており、重宝されている。

しかし、この国際規約は解釈によっては危険にさらされる可能性が高いが高度なセキュリティと厳重な警備で守られているので今のところはも危険なことは起きてはいない。

 

「どうしました山田先生。なまってきたのでないか?」

「多分、そう、だと、思い、ます。最近は、書類、仕事が、多くて、運動、不足に、なって、いた、もので」

 

黒髪の女性は織斑 千冬。かつては日本代表を務めていた。第1回IS世界大会(モンド・グロッソ)総合優勝および格闘部門優勝者。ある事件をきっかけに選手を辞め、今はIS学園の教師をしている。彼女を「ブリュンヒルデ」と呼ぶものが多い。

緑髪の女性は山田 真耶。元日本代表候補で、ISの操縦技術は千冬が認めるほどの高さを誇る。実際より低く見えるせいか幼く見える。高校時代では千冬の後輩である。

 

「あそこの木片まで走ったら休憩しましょう」

「は、はい!」

 

千冬が先に走り、真耶が後ろからよろよろにながらも追いかけていく。

 

   ◇

 

「あー生き返ります。すいません、織斑先生。ジュースを奢っていただいて」

「気にしなくてもいい。私の日課に付き合った褒美だ」

 

自販機の近くにある椅子に座り、二人はジュースを飲みながら休憩をしている。今の二人は絵になるくらい、いい光景だ。

 

「ん?あそこにずいぶんと大きな木材が打ち上げられているな」

「えっと…そうですね。つい昨日まで海が荒れていたので色んな物がありますね」

 

二人に視線の先には浜辺に様々な物が打ち上げられていた。小さい物はペットボトル、木片、ガラスの破片など、大きい物は家を建てるときに使う角材、看板、ドラム缶などがある。

 

「近くで見てみますか?」

「そうだな…見てみるか」

 

飲み終えたジュースをゴミ箱に捨て、二人は浜辺に歩み寄った。

 

「結構あるな。これは業者の者は大変だろうな」

「そうですね。さすがにこれは大変ですね」

 

触らず見るだけだが、千冬は何か違和感を持つように見る。まるでこの中に何かを探すように。

 

「どうしたんですか、織斑先生?」

「あそこに密集している木片辺りが妙に気になってな」

「別になんてこともないですけど」

「私は探ってみるが山田先生はどうしますか?」

「用事はないですし、一緒について行きます」

 

千冬はさっそく違和感を感じた密集している木片を探ってみるとすぐにそれは見つかった。

 

「…山田先生こっちに来てくれ」

「なんですか?何か見つかったんですか?」

 

そう見つけたのは……

 

「これは人そっくりの木片ですね」

「そうですね。人によく似た木片…じゃなくて人ですよ!」

「すまない。こういうのはせいぜいドラマしか見たことがないので動揺してしまった」

「私もそうですよ!えっと、まずは…」

 

人だった。見たところ外傷はないが春先の海は寒いのでひとまず浜辺に引きずって呼吸はしているが救急車を呼ぶことにした。

ちなみに性別は男で年齢はおよそ千冬の弟と同じくらいであった。



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第2話「行方不明者」

「良かったですね。一時はどうなるかと思いました」

「そうだな。全身ずぶ濡れで体温が三十度以下になっていたからな」

 

話しの内容は先日の漂流してた男のことである。あの後、救急車を呼び病院に運ばれたが体温が三十度以下で低体温症になっていたのだ。

低体温症で三十度以下は重症である。余談だがロシア遠征時にナポレオン軍の兵士が多く死んだのも低体温症である。かなり危険な状態だったが今は体温が三十五度以上になり命の心配はない。

男は病院で眠っており、千冬と真耶はこれから病院を訪ねるところである。

 

「それにしても彼は一体どこから来たんでしょうか?」

「それは起きて聞いてみなければ分からんな」

 

男は服以外は何もなかったので調べても分からずじまいになっている。

二人は病院に入り、受付をして男の担当医師に向かった。

 

 

 

「これはこれは織斑さんに山田さん。よくいらっしゃいました」

「いえ、今日は彼の見舞いに来ました」

 

男の担当医師は男で年は中年位でベテランの医者である。腕はそれなりの実力者で難しい手術を幾度もしている。

 

「彼ですか。ちょうど良かった。そろそろ目を覚ます頃だと思いますよ」

「そうなんですか。タイミングばっちりですね織斑先生」

「そうだな」

「しかし、少し問題が分かりました」

「問題?」

 

担当医師はレントゲンを見せながら解説を始めた。

 

「低体温症の治療中に頭にどこかでぶつけた跡が発見されました。幸い、脳に障害はなかったのですが記憶が無くなっている可能性が高いことが分かりました」

「記憶喪失ということですか?」

「はい」

 

記憶喪失は一時的なものであるがいつ戻るかが分からない。個人差があって一ヵ月すると記憶が戻るものもいれば、生涯記憶が戻らないものもいる。

 

「まあ、それは後で考えてそろそろ目が覚める頃ですから行きましょうか」

「「はい」」

 

   ◇

 

「う…ここは…」

 

ここはどこだ?それよりも俺はなんでここにいるんだ?

 

「目を覚ましたのね。まだ横になっていないとだめだよ?」

「え?」

 

首を横に動かすと看護婦がいた。

 

「なんで俺はここにいるのですか?」

「君はIS学園の浜辺で倒れていたの。結構危なかったけど、早く発見されたから助かったのよ」

「俺が?」

 

なんで浜辺に倒れていたんだ。……ダメだ。全然思い出せない。それどころか記憶のほとんどがない。

 

「どうしたの?」

「記憶がないです。どこから来たのか。今まで何をしていたのかも」

「じゃあ名前は」

「名前は……」

 

俺の名前は……弓塚(ゆみづか) 士郎(しろう)

 

弓塚(ゆみづか) 士郎(しろう)です」

「今はそれだけかな?」

「はい。名前以外は思い出せません」

 

今は名前だけしか思い出せないがそのうち、思い出すだろうな。気長にゆっくりと時間をかけて思い出そう。

今後の事を考えているとドアが開き中年位の男性と黒髪と緑髪の女性が病室に入ってきた。

 

「おや、目を覚ましたのかね。気分はどうだい?」

「えっと、あなたは?」

「おっと、これは失礼。私は君の担当医だよ。後ろにいるのは君を見つけてくれた人だよ」

「そうだったんですか。ありがとうございます」

 

頭を下げて、感謝を表した。あ、名前を聞いてないな。

 

「あのすみません。名前はなんて言いますか?」

「私はIS学園で教師をしている織斑 千冬だ」

「同じくIS学園で教師をしている山田 真耶です」

 

黒髪の人が織斑 千冬さんで 緑髪の人が山田 真耶さんか。この二人が俺の命の恩人か。感謝してもしきれないな。

 

「ところで君の名前は言えるか?」

「はい。さっき看護婦さんにも言いましたが俺は弓塚 士郎です。今はこれしか思い出せません」

「いや、いいんだよ。名前だけでも憶えているのだから、あとはこっちで調べるから気にしないでくれ」

「はい」

 

警察とかに連絡して調べるんだろうな。……………なんだか、眠くなってきたな。

 

「すみません。眠くなってきたので寝ていいですか?」

「ああ、いいとも。ゆっくり休みなさい」

 

すぐに瞼を閉じて意識が遠くなり、眠りについた。

 

 

 

 

 

「織斑さん、山田さん。彼の事について分かりました」

「そうなんですか?」

「して、彼は何者ですか?」

 

ここは病院の会議室で中にいるのは担当医、千冬、真耶の三人だけだ。あれから担当医は友人に調べてもらい、一時間でパソコンに資料が届いたのだ。その資料を読んだ担当医は首を傾げた。

 

「資料を見た方が早いですのでこれをどうぞ。資料をコピーしたものです」

 

担当医は千冬と真耶に資料を渡して目を通した。

 

資料にはこう書かれている。

弓塚家。戦国時代から代々由緒ある家系である。歴代の当主は皆、弓を使い、どんな遠い的(まと)の真ん中にいとも簡単に当てる事が出来るとして有名である。

最後の当主、弓塚 悟郎は過去最高の名手であったが、考古学者の彼女と共に駆け落ちをして行方が分からなくなる。

数年後、発見できた時は事故で死亡していた。しかし、彼と彼女の間には一人息子がいることが分かり警察が必死に探したが、捜索は難航し、数ヶ月後に打ち切りになった。

なお、名前は弓塚 士郎と言う。

 

資料を読み終えた二人は唖然とした。彼は行方不明になっていて、十年後の今になって発見されたからだ。

 

「彼には親戚は?」

「もういません。最後の彼の祖父にあたる人は三年前に亡くなっています。駆け落ちした彼女は孤児院育ちで親戚はいません。事実、彼にはもう肉親も親戚もいないのです」

「そんな!」

 

彼には肉親も親戚もいない。最後の彼の祖父にあたる人は三年前に亡くなり、彼は天涯孤独になっている。どこに引き取られるか分からないのだ。

 

「彼を施設にしか預けるしかないと私は思います。それが医者として現実的だと思います」

 

必然的に施設に預けるのが当たり前だ。だが、千冬は何かを考えていた。

 

「…いつ預ける予定ですか?」

「体はもう大丈夫ですが、念の為三日ほど検査してそれから施設に預けようと考えています」

「………………」

 

千冬が何を考えているかは誰にも分からない。ただ、士郎に何かさせてあげたいと真耶と担当医はそう思っている。

 

「三日後、彼を一日だけ連れて行ってもいいですか?」

「まあいいですがどこに連れて行くのですか?」

「それは彼に聞かなければ分かりません」

「そうですね。あまり無茶はさせないで下さい」

 

その後、千冬、真耶、担当は士郎に今分かることを伝え、三日後の事を言った。

 

「どこかにですか?」

「そうだ。施設に預ける前にどこか行きたいところはないか?」

「んー……」

 

士郎は記憶はないが一般常識は覚えている。しかし、急にどこかに行くと言われても見当がつかなかったが、一つだけ興味を持つ場所があった。

 

「IS学園を見学してもいいですか?」

「なぜIS学園だ?」

「千冬さんと真耶さんはIS学園の教師をしていますし、ISに興味があるので行ってみたいなーと思いまして、ダメですか?」

「構わん。見学というなら入ることは可能だ」

 

時間は夕方になったので千冬と真耶はIS学園に戻った。千冬と真耶はIS学園に戻ってすぐに三日後に士郎が見学できるように準備にかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千冬さん。誰かに似ているような……ダメだ。思い出せない。それより今はゆっくり休んで三日後に備えよう」

 

士郎は千冬の顔が誰かに似ているような気がしたが思い出せないのであとで考えることにして眠りについた。

 

 

 

 




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第3話「起動」

「ここがIS学園。想像していたより大きい学校ですね」

「それもそうですね。なにせこの島丸ごとIS学園の所有地ですから」

「それはすごい」

 

千冬さんと真耶さんに病院に迎えに来て、今はIS学園の校門前にいる。服は担当医の先生が昔着ていた服を着ている。

 

「では、これから私と織斑先生で案内をしますのではぐれないようにしてください」

「分かりました」

 

ワクワクしながら校門をくぐりIS学園に入った。

 

 

「ここは教室です。ここでISと一般学習を勉強します。ISのことも当然ですがここはあくまで学校なので一般の学校と同じく一般学習をします」

「そうなんですか。てっきりISだけかと思いました」

 

ISだけではなく一般学習もするのか。まあそうだろうな。学生なんだからな。

 

「見せることはできないところはIS訓練用のアリーナです。理由としてはセキュリティの関係上見せてはいけないので」

「見ることができないところもあるんですか。残念だな」

「なに、ただのサッカー場だと思え。見てもつまらんしな」

 

それでも見たいですよ。次はどこかな?

 

「部活動をしているところもありますけど、見てみますか?」

「はい」

「では付いて来てくださいね」

 

千冬さんと真耶さんの後ろに付いて行き部活の見学に向かった。

 

 

 

 

 

 

「どうでした?」

「どこも新鮮というより変な感じですね。記憶はないのに覚えているというのが」

「そうですか」

 

今の所見学したのはテニス部、バスケ部、陸上部、ラクロス部、剣道部だ。当然だが全員女性だ。あまりじろじろ見ないで全体を見るようにしていた。

 

「次は弓道部に行きますよ」

「はい」

 

なんだろうな。一番うれしい気がするな。

 

「ここが弓道部です」

「なんだが懐かしいような気がします。見慣れているような気もしますし」

「何か思い出したか?」

「いえ、何も。あの、少しやってもいいですか?」

「待っていろ。少し話しをしてみてみよう」

 

千冬さんが部長のような人と話をしてすぐに戻ってきた。

 

「やり方を教えてから少しだけやってもいいそうだ」

「ありがとうございます」

 

部長さんにやり方を教わり試しにやってみた。

 

「うまいね。教えてすぐに真ん中に当てるなんてすごいよ。良かったら入ってみる?」

「それは無理ですよ。ここはIS学園ですから女子しかいないんですよ」

「それもそうだね。それじゃ、ゆっくり見学していきなよ」

「はい」

 

矢を放った時、なんだがずっとやっていたような感覚だったな。

 

「どうした?」

「記憶がなくなる前に弓を使ったことがあるような感覚だったので少し戸惑っていただけです」

「詳しくは思い出せないか?」

「すいません。感覚だけしか分かりません」

「いや、気にするな。次はISを見せてやる。はぐれるなよ?」

「はい」

 

まあいいか。ISは写真や画像しか見てないから楽しみだな。

 

 

 

 

 

 

「IS学園には日本で開発された防御重視の打鉄とフランスで開発されたバランス重視のリヴァイブがあります」

 

ISの倉庫に来て案内をしてもらって、倉庫にあるISの説明を受けている。

武者鎧のようなのが打鉄で緑色のがリヴァイブか。

 

「数が多いですね。もしかしてIS学園が一番多いんじゃないですか?」

「そうだな。ISのコアは467個だから各国はそれほど多くは持っていないがIS学園が一番多いな」

「どうしてですか?」

「ここは高度なセキュリティーと厳重な警備で守られているから安心安全だ。ここを襲うやつはよっぽどの馬鹿か世界屈指の天才だろうな」

「ちなみにどのくらいのセキュリティーですか?」

「おそらく、アメリカのペンタゴンよりも上だな」

「それはすごい」

 

それもそうか。ISのコアが467個しかないし、ここが一番多いからそのくらいのセキュリティが必要だろうな。

 

「触ってもいいですか?」

「いいぞ」

 

打鉄とリヴァイブをゆっくりと触った。やっぱりすごいな、これがISか。乗ってみたいけど、女にしか反応しないしな。

 

「織斑先生の弟さんのようにはなりませんね」

「それもそうだろ。そう簡単には見つかりはしないだろう。あいつが特殊なだけだろ」

 

千冬さんと真耶さんが声が小さくて聞こえないが別に気にしなくてもいいか。

そう思って倉庫を歩いている時に気になるISがあった。

 

「あれは打鉄?」

 

奥には打鉄があった。だけど色は赤と黒のツートンカラーで形も所々違った。俺は引き寄せられるように近寄った。

 

「この打鉄は何ですか?」

「ああ、これか。これは無鉄、打鉄のプロトタイプだ」

「そうですか。でもなんでIS学園にあるんですか?」

「解体できないから置いてあるんだ」

 

なんで解体できないんだ?

 

「解体できないのは不明だが、これにはコアがあるからな。ここにおいてあるほうが安全だろ」

「そうですね」

 

ISのコアは全部で467個。どの国もそれほど多くは持ってはいないが一番多く持っているのはIS学園だ。ここは高度なセキュリティーと厳重な警備で守られているから安全でいられる。

 

「触ってもいいですか?」

「いいぞ。そいつは誰が触っても動かなかったからな。ちなみに私も触れてみたが起動しなかったからな」

「そうなんですか」

 

千冬さんが触れても動かなかったんだ。なんでだろうな。

そっと無鉄に触れた。

 

―――気に入った。私はお前のISになろう―――

 

「!?」

 

頭に誰かの声と金属音が響く。そしてすぐ、意識に直接流れ込んでくるおびただしい情報の数々。ISのありとあらゆることが理解、掌握できる。

 

「き、起動しただと!?」

「男なのに動かした!?」

 

千冬さんと真耶さんが何か言っているが俺は戸惑って何を言っていいか分からなかった。けど、一つだけ分かったのは俺がISを動かせることだ。

 

「…どうしたらいいでしょうか?」

「士郎、IS学園に入れ」

「はい?」

 

なぜに?明日には施設に行かないといけないのに?

 

「言葉が少なかったな。ISは本来女性しか動かせないがお前は男でありながらISを動かすことができる。保護のためにも入学するんだ」

「もし、しなかったら?」

「体をすみからすみまで調べられて、遺伝子レベルまで分解されるだろうな」

「ぜひ、入学させてください」

「話しが分かるやつで助かる」

 

いや、それ以外の選択なんてないだろ。死にたくないし、記憶だって戻りたいし。そうだ、ISの勉強しないと。




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第4話「泊まり」

「入学手続きはこっちでやっておこう。しかし困ったな」

「何がですか?」

「病院に戻すわけにもいかんし、かといって他の所で泊まらすと危険だしな」

「ああ、そうですね」

 

さて、入学はもうすでに決定事項になった。(そうじゃないと実験動物or遺伝子レベルまで分解される)

ISを男なのに起動させたので病院に帰ったら色々危険なので病院には帰れない。ホテルとかも泊まれない。さて、どこに泊まるか分からない。

ちなみに無鉄は待機状態になっている。形は赤い勾玉で首にかけている。

 

「しかたがない、私の部屋で今日は泊まれ」

「え?」

 

いやいやそれはまずくないか?年は十歳近く離れているが男と女が同じ部屋を過ごすのは教師としてはどうかと思うが。

 

「あの、さすがに女性の部屋に入るのは…」

「なに、心配は無用だ。お前と同じ年の弟と思えば私は気にしない」

「俺は気にしますが」

「とにかく今日は私の部屋で泊まれ。明日には別の場所を用意する」

「はい…」

 

仕方がない。大人しく従おう。と言うか弟いたんですか。

 

「こっちに来い。案内する」

「はあ、分かりました」

 

 

 

 

 

「ここが私の部屋だ」

 

千冬さんに案内されて部屋の前まで来た。千冬さんは一年の生の寮長をしているので家にはなかなか帰れなく、大体がこの寮長室にいるらしい。

 

「分かっていると思うがあまり部屋を部屋じろじろ見るなよ」

「分かってますよ」

 

そんなこと微塵もしませんよ。記憶なしのまま監獄行きはいやだし。

そして部屋に入るとそこには……

 

「汚い…」

 

脱ぎ捨てたスーツやシャツ。缶ビールや何かを食べた後の皿が部屋全体にあった。

 

「しかたがないだろ。これでも結構忙しい身でな」

「それでもこれはひどい」

 

何故だろうか。こういう風なことあったような……。それよりも掃除するか。

 

「千冬さん。掃除しましょう」

「いや、今からでは…」

「そ・う・じ、しましょう……!」

「あ、ああ。掃除しよう」

 

強引に掃除を強要させて、掃除をした。あ、パンツまであるし……

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。お茶どうぞ」

「すまんな」

 

あれから一時間掃除をして部屋は大体綺麗になった。本当はもっとしたかったが食堂が八時までなのでやめた。隅とかが汚れがあるけどしかたがないな。

 

「手慣れたものだな。記憶を失う前は専業主夫だったか?」

「いやいやそれはないでしょ。けど、やり方は体が覚えていました」

「そうか。しかし、ここまで家事が出来ると料理も出来るのか?」

「多分ですけど、出来ると思うますよ」

「お前は本当に何者だろうな」

「さあ?」

 

あ、そういえば思い出したのが一つだけあった。

 

「千冬さん」

「なんだ?」

「俺に彼女がいること思い出しました」

「ぶッ!!」

「あちゃちゃちゃちゃ!?!?」

 

千冬さんお茶噴かないでくれよ。向かい合いながら飲んでいるんだからさ。

 

「熱いですよ千冬さん。それに下品です」

「お前が、そうさせたんだろうが」

 

むせながら返事をしてくれた。その間に俺はタオルで顔を拭いた。なぜふいたんだ?

 

「俺は別に変なこと言ってませんよ」

「記憶がないやつに急に彼女がいると言われたらふくだろうが」

 

そうかな?

 

「で、名前は?」

「いえ、分かりません。いるってことは確かですけど、名前も顔も思い出せないので分かりません」

「はあ……。期待したのがバカのようだ……」

 

それよりも食堂に行かないと。

 

「食堂にはもう少し時間を過ぎてから行くぞ」

「なぜです?」

「忘れたのか。ここはIS学園だ。男がいると色々と面倒だからな。あまり見つからないためにも七時過ぎに行くぞ」

「ああ……はい」

 

いかん。掃除をしていたせいかここがIS学園ということを忘れかけていた。

その後は食堂で夕食を食べた。幸いにも生徒は一人もいなくて良かった。あとは部屋に戻って千冬さんが先にシャワーを浴びて、そのあとに俺もシャワーを浴びた。

そしてあとは寝るだけになった。ベットは当然千冬さんで俺は床に布団を引いた。なぜかIS学園にあった。謎だ。

 

「男と一緒に寝るのは弟以外初めてだな」

「そういえば弟さんいるんでしたね。名前はなんて言いますか?あと、どういう人です?」

「質問が多いな。まあいい。名前は一夏。漢字の一に夏と書く。家事全般をこなしてマッサージが得意だな」

「へー」

 

なんだか気が合いそうだな。

 

「あとは言動がときどき年寄りっぽいなるな」

 

…大丈夫か弟さん。

 

「心の機微に鋭いが境界線の無い優しさと天然で女性をときめかせる言動や行動を見せるせいで多くの女子に好意を寄せられているな。だが恋愛に関してだけは呆れるほどに異常な鈍感なせいで何人女子を泣かしたことか」

 

いつか背中から刺されるぞ。普通気付くだろ。

 

「苦労してますね」

「まあな」

 

あれ、そういえば親は何をしているんだろうか?

 

「ご両親は何をしているんですか?」

「……………………」

 

まずいこと聞いてしまったか。

 

「……一夏が物心つく前に両親に捨てられて、その後はずっと私と二人で暮らしてきたさ」

「すいません。なんか悪いこと聞いてしまって」

「なに構わんさ。昔の事だ。それより早く寝ておけ。私は教師だからな」

「はい。千冬さんお休みなさい」

「ああ、お休み」

 

すぐに眠ることができた。なぜか病院で寝るより気持ちが良かった。

 

 

 

 

 



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第5話「更識」

「では私は終業式に行くから部屋から出るなよ」

「分かってます」

 

今日はどうやら終業式のようだ。千冬さんはスーツに着替えて部屋から出て行った。ちなみに朝ご飯は部屋で食べました。食堂で食べたかったけど女子がいるのは明白なので部屋で食べることになった。朝ご飯は俺が作りました。冷蔵庫に色々入っていたのでおかずには困りませんでした。

しかし、俺料理が出来たんだな。体が覚えているのか調理方法が分かっていたな。まあ千冬さんがおいしく食べてくれたからいいか。部屋は鍵で閉められたので出れないので(外部から人が入るのを防ぐため)やることは限られている。

よく考えてみればこれは軽い軟禁だな。

 

「さて、戻ってくるのは昼前だから昨日出来なかった掃除の続きをするか」

 

食器を洗って部屋の掃除を始めた。

 

 

 

 

 

 

「はあー……」

「どうしました織斑先生?」

「あー山田先生か。いや、士郎をどこに泊める所を探しているのだがどこもいまいちなのでな、困っているのだよ」

「大変ですね」

 

終業式は先程終わり、早速士郎を泊めるための場所を保護プログラムの資料と要人警護の資料を見て探しているのだがどこも穴だらけだ。士郎はISを動かした二人目の男だ。

それ相応の警備が必要だから他の資料と見ても決定打がない。どうしたらいいか……。

 

「……そうだ。更識に預けるのがいいな」

「更識?ああ、織斑先生が担任をしていた生徒の一人で、生徒会長ですよね」

「そうだ。あいつの家はそれなりに有名だからな。適材だろ」

 

よし、そうと決まれば放送を流して呼ぼう。

 

 

 

 

 

「失礼します。織斑先生に呼ばれてきました」

「来たか。お前に用がある。ここではあれだからついて来い」

「はい」

 

更識が来て、場所を変えて話しをする。

 

「いいか今から話すのはお前が信用しているからだ。いいな?」

「はい」

 

こいつは生徒会長をやっているから何度も狙われているし更識の当主だから状況の呑み込みが早いな。

 

「私の弟、織斑 一夏が男でありながらISを動かしたのは知っているな?」

「はいそれはもう。今でも話題になっていますし、今年の新入生ですから」

 

情報はまだ更識には届いていないな。

 

「実はつい先日、ISを別の男が動かしたのが判明した」

「え、それは本当ですか?」

「本当だ。だがそいつは少々厄介な問題を抱えているのでな」

「問題?」

「記憶喪失だ。名前は覚えているがそれ以外はさっぱりだ」

「ふむ……」

「泊める場所はこちらが探しているがどこも決め手が欠けているのでな、そこでお前に相談がある」

「まさか、その男を私の家に預かれと?」

「話しが早くて助かる。つまりそう言うことだ。それにお前は専用ISを持ち、ロシア代表だ。お前がまず負けることはないだろ。もしもの時はISの使用を許可する。無理なら他にあたるぞ」

 

更識は少し考えて答えた。

 

「分かりました。その男を入学式まで私の家で預かりましょう」

「すまないな。本来、生徒に頼むべきことではないのにな」

「いえいえ、狙われるよりよっぽどいいですから」

 

更識に士郎に関する資料を渡して部屋に案内した。

 

 

 

 

 

 

「これでよし。あとは千冬さんが来るのを待つだけだ」

 

掃除は終わって、その後は部屋にあったIS関連の本を読んでいた。昼が近くなったので昼ご飯を作って、待っている。

 

「ここが私の部屋だ。入れ」

「失礼します」

 

どうやら戻ってきたようだ。千冬さんの後ろにはIS学園を着た女子がいた。髪は水色で目は赤い。

 

「千冬さん後ろにいる人は?」

「こいつは更識 楯無。今日からお前が泊めてもらう人だ」

「はい?」

 

ホテルとかで泊まるのじゃないのかよ。千冬さんが信用しているから大丈夫なのか。

 

「更識 楯無よ。よろしくね、世界で2人目の男のIS操縦者さん」

「喋っていいんですか千冬さん」

「こいつはこう見えても生徒会長をやっているから大丈夫だ。それに私はこいつの元担任だからな」

 

おそらく言っているのは嘘じゃないな。まあ千冬さんがこう言っているからいいか。

 

「昼食は食べました?」

「いやまだだ。作ったのか?」

「はい。良ければ更識さんもどうですか?」

「それじゃ頂こうかしら。それと更識じゃなくて楯無でいいわ。お姉さんと呼んでいいわよ」

「いえ、楯無さんと言わせていただきます」

 

三人分の皿を用意して分けた。作ったのはご飯、だし巻き卵、ほうれん草の和風サラダ、人参とじゃがいもと玉ねぎの味噌汁だ。てか冷蔵庫の中、結構あったな。作るのに困らなかったが整理ぐらいはしてほしい。

 

「あら?おいしいわね。特にこのだし巻き卵が私はいいわね」

「味噌汁もちょうどいいくらいだな。材料は困らなかっただろ?」

「はい。味噌汁は多めに作ったのでおかわりはできますよ」

 

しかし、俺はいったい何者なんだろうな。もしかして料理人だったか?いやいやそれはないだろ。俺より料理がうまいやつなんているだろうな。

 

「昼食を食べ終えたら更識と一緒に更識の家に行くのだぞ。私はまだ仕事が残っているのでな。それと士郎」

「なんです?」

「お前の事を夕方には全国放送で流すからな。当然ISを動かしたこともだが、何よりお前の事を知っている者がいるかもしれん。手っ取り早いだろ」

「そうですね。俺に関する情報が入って来るのと同時に世界から注目されますけど」

 

これしか方法がないと言えばないな。これで少しでも記憶が戻るきっかけが増えることは確かだ。

 

 

 

 

 

 

「ここが私の家よ」

「屋敷じゃないですか」

 

昼食を食べ終えて楯無さんが呼んだ車で楯無さんの家に来た。それなりに家が有名と聞いていたが家が屋敷とは驚きだ。

 

「荷物は少ないですね」

「元々何もありませんし。あるのは俺を診てくれた医者の古着を貰ったくらいですから」

 

虚さんが聞いてきた。この人は布仏 虚さん。二年生、いや四月からは三年生か。布仏家は代々更識家に仕えてきた家系で楯無さんとは幼なじみだそうだ。俺がISを動かしたことを知っている。

 

「それじゃ付いて来てね士郎君」

「はい」

 

玄関まで来たのだがなぜか嫌な予感がした。

 

「ただいま。今帰ってきたよ」

「おかえり、楯無」

「お父さんただいま。紹介人がいるんだ。出てきていいわよ」

 

楯無さんのお父さんか。なんか普通のサラリーマンのような感じだな。

 

「えっと、俺は…」

「……たせん」

「はい?」

「娘は渡せんぞ!!」

 

何を言っているんだ?それに怒っているような、いや怒っているな。しかしなぜ怒っているんだ?うお!?冷静に分析してる場合じゃなかった!この人いつの間にか木刀持っているし!

 

「この―――ぶほぅ!?」

 

なんか横から蹴りをかまされたぞこの人。蹴った人は着物を着た女性で気品があるな。

 

「何をやっているのあなた?」

「楯無が男を連れてきたのだぞ!俺は認めんぞ!」

「あのね。楯無が連れてきたのはお客様。それをいきなり木刀で襲ってくるバカがどこにいますか」

「な、なんだ。そうだったのか。俺の早とちりか。あはははは!」

 

勘違いで襲い掛かってこないでくれよ。心臓に悪いわ。

 

「楯無も変なこと言わないの。分かって言ったでしょう?」

「まあね。それより紹介しないとね。士郎君」

「はい」

 

今度こそ自己紹介を。

 

「……っ!!ご、悟郎君!?」

「え?」

 

なぜ父さんの名前が?俺が父さんに似ているのか。記憶がないけど。

 

「俺は悟郎ではありません。弓塚 士郎です。悟郎は父さんですね」

「そ、そうなの。ごめんなさい。私は更識 沙織(さおり)。楯無の母よ」

「俺は更識 孝司(こうじ)。楯無の父親だ。すまなかったな、俺が勘違いしちまって」

「いえ、大丈夫です」

「さて、玄関で立ち話もなんだし、さあ入った入った」

「そうですね。お邪魔します」

 

 

 

 

「さて、全員集まったわね。今日から入学式まで我が家に泊まる士郎君よ」

 

なぜか進行役が楯無さんなのかはあえて聞かないでおこう。

 

「弓塚 士郎です。入学式までお世話になります」

「それじゃ簪ちゃんに本音ちゃん自己紹介してね」

「……うん…」

「は~い」

 

楯無さんと容姿が似ている女子とのんびりしている女子がいた。

 

「…更識 簪。……よろしく…」

「布仏 本音だよー。よろしくねー」

「もしかして楯無さんと虚さんの妹なのか?」

「そうだよー。あと名前で呼んでね。かんちゃんもいい?」

「…かまわない……」

 

「次に和也さん、彩乃さんお願いします」

 

無口そうな男性とほんわかしてそうな女性が自己紹介をしてくれた。

 

「布仏 和也(かずや)だ。よろしく」

「布仏 彩乃(あやの)よ。聞いてのとおり和也さんの妻で虚と本音の母親よ。名前で呼んでいいからね。和也さんいいかしら?」

「かまわん」

「そうですか。では和也さん、彩乃さん、簪、本音これからお世話になります」

 

さて、まず最初に聞かないといけないを聞くか。

 

「沙織さん」

「何かしら?」

「俺を見てなぜ父さんと見間違えたんですか?」

「実はね。弓塚家と更識家は昔から古い付き合いなのよ」

「そうだったんですか……」

 

まだ俺に関する情報は十年前に警察が調べたことしかないからな、知らないことがあっても不思議じゃないな。

 

「悟郎君とは幼なじみだったのよ。学生時代の悟郎の姿が士郎君と勘違いしてしまったの」

「そうでしたか」

 

やっぱり弓塚は有名だったのか。どこかに縁があると思ったら案外見つかったな。

 

「それより悟郎君はどうしたの?それと美樹さんは今何をしているのかしら?」

「えっと、それは……」

「お母さん。士郎君は記憶がないのよ」

「え?」

 

楯無さん助かった。どう説明すればいいか分からないから楯無さんに任せるか。

 

「士郎君は先週IS学園の浜辺で見つかったの。一時は危なかったけどね。起きたら記憶がないことがわかったの。だから今、士郎君は家族の事も今までどこにいたかも分からないの。

それと士郎君の両親、悟郎さんと美樹さんは十年前の事故でなくなっているそうよ」

「そうだったの…」

 

悲しい表情になっていく沙織さん。だけどすぐに元に戻った。

 

「ねー、一つ質問していい?」

「なんだ本音」

「入学って言っていたけど、どこなのー?」

「あーそれは……」

 

答えようとした時いつの間にかついていたテレビから緊急ニュースが流れた。

 

『たった今、話題の織斑 一夏君以外にもISを動かしたという情報がIS委員会から情報が届きました』

 

男性キャスターの声が聞こえて全員(楯無さん、虚さん以外)テレビのほうを向いた。

 

『名前は弓塚 士郎。年齢は15。日本人です。先週、IS学園の浜辺で倒れているところを発見されました。彼は十年前に行方不明になっていたそうですが、行方不明になってからの十年間の記憶がないそうなので記憶喪失になっているそうです』

 

テレビから俺の方に向いて凝視する。

 

『今後彼はIS学園に入学することが決まり、織斑 一夏君と共に話題が一層大きくなると思われます。他についてはまだ……』

 

楯無さんがテレビを消して今後のことを話した。

 

「テレビで言っていたことはほんとよ。彼は世界で二番目に動かした男。ちなみに動かしたのは打鉄のプロトタイプ、無鉄よ。まあ、それしか起動できないわよ。他のISには反応しないし」

 

言っていることは本当だ。あのあと、他のISを触ったけど反応しなかった。無鉄だけが起動するので無鉄は俺専用機になった。

 

「知っているのは織斑先生、山田先生、IS委員会、私たちだけ。このことは他言無用ね」

 

みんなが納得したかのように返事をしてくれた。

 

「それじゃ、今日は士郎君歓迎会を始めるわよ!」

 

歓迎会は日付が変わるまで大いに盛り上がった。

余談だが楯無さんと虚さんがいつの間にか酒を飲んだらしく、酔った勢いでストリップショーになりかけたので全力で止めた。



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第6話「世界の反応」

今回はかなり短いです。
文がかなりダメっぽいですがご了承ください。
あとヒロイン確定。


日本で弓塚 士郎がISを二番目に動かした男と報道されている頃、アメリカ、中国、フランス、イギリス、ロシア、ドイツなどの世界中にも発信されていた。

 

―――日本―――

 

「一夏以外にもISを動かしたのか……」

 

―――イギリス―――

 

「誰であろうとわたくしの邪魔をするなら潰しますわ」

 

―――中国―――

 

「ふーん。こいつ、強いのかな?ま、いいか。わたしは強いし」

 

―――フランス―――

 

「彼以外にも動かした男がいたんだ。予定は変わらないけど、教育内容は増えるかな?」

 

―――ドイツ―――

 

「教官の弟以外にも動かしたのか。上はさぞ騒がしくなりそうだが、私には関係ない」

 

世界は様々な反応を示す。ある者は興味を示す者。ある者は興味を示さない者もいる。それは人の数だけ様々である。

 

 

 

そして、とある場所では……

 

 

「どうだった?」

「ダメだ。あれからほとんど口にしてねー。さっき飯を渡したが相変わらず食欲がないとさ」

「そう……」

 

あれから四日が過ぎるわね。あのあと、泣き叫ぶ???をオータムと一緒に連れてアジトまで戻ってきたのよね。

それからというものの組織はそれはど影響はないというけど士気が落ちているのは明白だわ。特に私たちのチームはその影響が一番大きいわ。彼の存在は組織としてもチームとしても大きいから失うとこれほどとは思わなかったわ。捜索隊を出しているけど、あまり動けないから思う通りにはいかないわね。

 

「私が励まして来るわ」

「あまり刺激するなよ、スコール。ただでさえ雰囲気が暗いんだからな」

「分かっているわ、オータム。このままだと倒れると余計に暗くなるからね」

 

とにかくあの子の部屋に行くしかないわ。

 

 

 

 

「入るわよ」

 

ドアをノックして部屋に入る。中は電気1つもついていない。ベッドの上にはあの子がいた。

 

「ちゃんと食べなさい。このままだと倒れるわよ」

「…食欲がないの……。だから食べれない……」

 

覇気がなく答えが返ってくる。彼がいなくなってからと元気がなくなり、目が虚ろになっている。

 

「???が戻ってきたときにそんなんじゃだめよ。無理にでも食べないと……」

「でも、でも……。???は死んじゃったかもしれないんだよ……」

「バカ!そんなこと言っちゃダメ!」

 

両腕で???を抱いた。

 

「あなたがそんなこと言っちゃダメよ!彼女でしょ!」

「う、うわああぁぁぁぁぁ!」

 

泣き止むまで抱いていようかしら。そうすれば少しはこの子も気が晴れるでしょ。

 

バンッ!

 

「おい!???、スコール?!いるか!?」

「どうしたのクラウン?そんなに急いで?」

 

チームの1人、クラウンがドアを開けて入ってきた。

 

「テレビを付けろ。急いで!」

「わ、分かったわ。そんなに焦らないで。???付けるわね」

「別にいい……」

 

なんで急いで来たのかはテレビを付けるとそれはすぐに分かった。

 

『話題の織斑 一夏君以外にもISを動かしたという情報がIS委員会から情報が届きました。

名前は弓塚 士郎。年齢は15。日本人です。先週、IS学園の浜辺で倒れているところを発見されました。

彼は十年前に行方不明になっていたそうですが、行方不明になってからの十年間の記憶がないそうなので記憶喪失になっているそうです。

今後彼はIS学園に入学することが決まり、織斑 一夏君と共に話題が一層大きくなると思われます。他についてはまだ……』

 

「あいつ生きていたんだよ。今組織中に知れ渡っているはずだ。よかったなマドカ」

「よかったわねマドカ」

「うん、うん……!」

 

涙を流しながらマドカが答えてくれた。これで心配はなくなったわ。



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第7話「協力」

「頭が痛い……」

「途中から記憶が全くないです……」

 

朝からあきらかに気分が悪そうな楯無さんと虚さんが茶の間でダウンしてた。それもそうだろ。2人が飲んだのは日本酒で高い物だったそうだ。孝司さんが飲んでいたのだが席を外している間に飲んでしまったのだ。あの日本酒はなかなか手に入れない代物らしく、いつ手に入るか分からないそうだ。

孝司さんが戻ってきたときには一杯分しか残っていなかったのでがっかりしていた。和也さんが励ましていたな。

 

「ほらほら朝からダラダラしていないで手伝いなさい。士郎君を見習いなさい」

 

俺は朝食の準備の手伝いをしている。料理しているのは母親組で俺も料理が出来るので手伝っている。

 

「あ、士郎君。この豆腐を切って、味噌をお願いね。食べる人多いから分量には気を付けてね」

「はい」

 

父親組はあと少ししたら起きるそうだ。簪は朝から倉庫で用があるからいないが時間になったら来るそうだ。本音はぐっすり寝ているそうなので誰かが起こしに行かないといけないそうだ。

 

「あとは大丈夫だから本音を起こしてくれないかしら?」

「わかりました。起きなかったらどうすればいいですか?」

「担いでもいいから連れてきてね。変なところさわっちゃだめよ?」

「しませんよ」

 

あとのことを任せて本音の部屋に向かった。

 

 

 

「もう~食べれない~……むにゃ……」

「見事なまでに寝ているな」

 

ぐっすり寝ている本音には悪いが朝食がもうすぐできるので起こさないとな。

 

「本音起きろ、朝だぞ」

「もう少し寝かせて~……」

「朝食が抜きになるぞ」

「睡眠第一……」

 

確かに生活の中で睡眠は大切だがこれはこれ、朝食は朝食だ。

 

「はあ、しかたがない。担いでいくぞ?」

「いいとも~……」

 

寝ぼけて返事をしているが、まあいいか。よっこらしょいと。

 

「……んー……うお!?なになに!?」

「暴れるなよ、落としたら俺が怒られるからな」

 

少し歩いたらようやく目を覚ましたのか本音がジタバタ動いた。肩からおろして一緒に歩く。

 

「ちゃんと起こしてもらえば起きれるよ」

「ちゃんと起こしても起きなかったら担いだんだ。これは彩乃さんから言われたことだ」

「そうだったの。まあいいか。ところでゆーみん。今日の朝ご飯はな~に?」

「着いてのお楽しみだ。それとそのゆーみんはどうにかならないのか?こちらは名前で呼んでいるから別に名前で呼んでいいぞ」

「ゆーみんはゆーみんだからいいんだよ~。これは決定事項だよ~」

「まあいいか。人それぞれだからな」

「そだよ~」

 

そんなこんなで話しをしているうちに茶の間に着いた。俺と本音以外はみんな座って待っていた。

 

「それじゃ全員そろったことだし、いただきます」

『いただきます』

 

沙織さんの号令で朝食を食べ始めた。

 

「お!なんだ。今日の味噌汁はいい具合だな」

「ちょうどいいな」

「それは士郎君が調節してくれたのよ」

「あら、そうなの?私はてっきりお母さんがしてくれたと思ったけど」

「楯無は虚ちゃんと一緒にダウンしているときに手伝ってくれたのよ」

 

他には食材を切っただけだからそんな大したことはやってないけどな。

 

「……ごちそうさま…」

 

ん?簪はもう食べ終わったのか。早いな。

 

「…いつもどうりに倉庫にいるから何かあったら呼んでね……」

「分かったわ。あまりこんをつめないようにね」

「うん……」

 

沙織さんから注意を受けて、簪は食器を片づけて倉庫に向かった。

 

「そういえば簪は倉庫で何をしているんだ?」

「ISを作っているんだよ~」

「は?」

 

本音に聞くとISを作ると言った。まさかひとりではないだろうな。

 

「そだよ~」

「それはすごいな。しかし、そんなに簡単ではないはずだが……」

 

ISはロボットを作るのと同等のことだ。ロボットはひとつひとつの動作には膨大な計算が必要だ。昔、日本が二足歩行ロボットを作るにしても大勢の人で挑み、幾度も失敗をして数十年後に人らしい姿で世に出たのだ。

それを簪はひとりでやるのと同じことだから、かなり労力が必要だ。

 

「そのことなんだけどあとで部屋に来てくれないかな?」

「まあいいですよ。やることはISの勉強だけですから」

 

楯無さんから部屋で来るように言われた。厄介事ではなければいいが。

 

 

 

 

「入りますよ」

「どうぞ」

 

楯無さんの部屋に入ると虚さんもいた。

 

「それでいったいなんですか?」

「えっと、あのね……」

「?」

 

歯切れが悪いな。厄介事はじゃないよな。

 

「その……お願い!」

 

パンッ!と手を合わせて、いきなり拝まれる。

 

「はい?」

「妹をお願いします!」

「はあ……」

 

楯無さんの一世一代の告白のような告白と虚さんの呆れた声がはっきり聞こえたことだけは確かだ。

 

 

 

 

「バカですか?」

「うぐっ!?」

 

話しはこうだ。俺より早くISを動かした一夏のせいで簪の『打鉄二式』が遅れている。開発元は倉持技研で、一夏のほうに人員が全員回っているので未完成である。

しかし、簪はひとりで打鉄二式を完成しようとしている。理由としては楯無さんがひとりでISを作ったからである。だが、楯無さんはひとりで作ったのではなく、虚さんや本音たちの協力で作ったのである。ひとりで作ったというのは周りの人が勝手に言っているだけだそうだ。ただ、楯無さんは七割くらいを作っていたそうだが……。

楯無さんと簪は最近までは仲は悪くはなかったのだが、簪がひとりで作ると言った時に「あなたが私に追いつくのはありえない、無能、勝てる要素なんてひとつもない」などを言ってしまって、仲が悪くなり、溝ができてしまったのだ。

 

「で、俺にどうしろと?」

「簪ちゃんと仲直りしたいのと打鉄二式を作るのに協力してもらえないかしら?」

「お嬢様が余計なことを言わなければ仲が悪くはなかったんですけど」

 

虚さんの指摘で楯無さんが小さく見えてくる。けど、なんで俺なんだ?まあいいか。

 

「はあ……努力はしてみますが期待はあまりしないでくださいよ。ISのことはなぜか覚えているのでやってみます」

 

参考書とか見ていた時にISの基礎、基本が分かっていて、機体の改良や武器の製作もできることに気付いた。

 

「お願いね。私たちが言うと簪ちゃんは余計意地になるからどうしようもないのよ」

「あ、お願いひとついいですか?」

「お願い?」

「ええ。倉庫にはIS関連の部品や材料がありますか?」

「あるわよ。それがどうしたの?」

「無鉄の整備と改良、武器の製作をしようと思いまして。いいですか?」

 

無鉄には武器があるが、俺は作ってみたい武器があるので試したいし、無鉄は作られた当時のままなので手を加えたほうがいいと思うからだ。

 

「いいわよ。けど、火薬を使うときは細心の注意を図ってね」

「部品や材料は倉庫に入れば分かるます。気軽に使って下さい」

「はい」

 

とにかく倉庫に行くか。まず何を話せばいいかな?

 

 

 

 



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第8話「製作」

「……各駆動部の反応が悪い。どうして……」

 

春休みに入ってから実家の倉庫でメカニカル・キーボードをひたすら打ちながら、空中投影ディスプレイを私は凝視する。

―――未完成の機体を独力で実用化する―――

かつて姉さんが『ミステリアス・レディ』で行ったことを今、私もしている。

姉さんにできて私にできない、とは思わないけど、最低でもこのくらいはできないと姉さんの影さえ踏めない。いや、そうしないと一生追いつけはしない。

 

「コアの適正値も上がらない……。タイプが向かないの……?」

 

リヴァイブの汎用性を参考に全距離対応型に組み上げられている私の専用ISの名前は『打鉄二式』。

 

「まだ時間もあるし、大丈夫……。最悪でも今年中にひとりで完成させよう……」

 

春休みを全部を使っても終わらない。それは最初から分かっていることだ。そうなると、入学してからの専用機持ちのIS関連行事には出られない。けど、私ひとりで完成させたい。

 

「おー。中は結構設備が整っているな」

「?」

 

倉庫に入ってきたのは昨日から家に泊まることになった世界で二番目に動かした男、弓塚 士郎。彼はIS学園の浜辺に倒れていて記憶がないとニュースでも姉さんの話でも言っていた。

打鉄二式は本来、入学するころに完成して私に届く予定だったが、世界で一番目に動かした男、織斑 一夏のせいで完成が遅れている。今、倉持技研は織斑 一夏の専用機ISを全員で作っているので打鉄二式は私ひとりで作っている。

 

「これが簪の専用ISなのか?」

「うん……」

 

打鉄二式は打鉄の後継機であり、発展型。打鉄が防御型であるなら、二式は機動型。腕部装甲、肩部ユニットなどほとんど打鉄と共通点がない二式だけど、頭に装着するハイパーセンサーは同じデザインのもの。

 

「邪魔にならないように俺はあっちで作業をするからな。もし手伝いが必要なら言ってくれ」

「分かった……。分からないことがあったら聞いてもいいよ……」

「了解」

 

なにするのだろうか?彼はISのことを知っているみたいけど基本とか分かるのかな?

 

「なにをするの……?」

「無鉄の整備、改良。あとは武器の設計図を書いてから製作をする予定だ」

「え?」

 

整備は分かる。けど、改良に武器の設計、製作は驚いた。

 

「ISのこと分かるの……?」

「ああ。参考書とか読んで気が付いたんだが、どうやら俺は基本基礎は知っていて、おまけに武器を作れるみたいだ」

 

記憶はなくても体が覚えているからなのかな?彼については十年前の事故の生き残りだけしか分かっていない。

 

「そう……。私はこっちでやっているから……」

 

そんなことは私には関係ない。作業を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

さて、楯無さんのお願いもだけど、無鉄の整備をしないとな。待機状態の無鉄を呼び出して無鉄を全体にスキャンをかけた。

 

「やはり当時のままか。手を加えないとダメだな。さて、どれから取り掛かるかな」

 

当然といえば当然だが、無鉄は原因不明の解体不可能になっている。そのせいで誰も手を加えないまま、中身は当時のままになっている。

まず最初に各部異常がないか確認し、最新のデータに書き換える。

性能は第二世代だが、改良次第では第三世代にしたいと思う。ちなみに無鉄は万能型を目標にして作られたISである。そのためか、武装は接近戦から遠距離戦まで戦えるように揃っている。

日本を意識した武装は刀、、短刀、薙刀、槍、弓、矢、くない、手裏剣。

他はアサルトライフル、スナイパーライフル、グレネードランチャーの合わせて十一個ある。

 

「改造は明日からにして武器の設計図を書くか」

 

机に大きめの白い紙にスラスラっと鉛筆と定規で書いていく。ちなみに書いているのは狙撃銃だ。無鉄にあったスナイパーライフルを参考にしているが外見と中身は別物にしている。

あくまで参考だからな。

なぜ狙撃銃を作るのかというと弓を使うように応用すればISで戦うときにできそうだからだ。確信はないが俺は銃や弓といった飛び道具を使うことがうまいと思っている。

 

「単発の威力は低くして使いやすいようにして、相手に数多くの命中弾をどのような状況でも与えられるような作りでいいか」

 

威力を上げるのはこの狙撃銃の出来次第だな。最終的には単発の威力が高いような作りでボルトアクションを作ろうと思う。

 

「せて、フレームから取り掛かるか」

 

設計図を書き終えて材料を一通り揃え、狙撃銃本体の製作に移る。弾は火薬を使うので最後に作るようにしよう。

昼には狙撃銃本体が出来たので、午後には弾を作るようにした。

 

「火薬の量を間違えないように何度も確認しないとな」

 

弾を作るのには火薬が必要不可欠。量を間違えると発射時に少ないと発火せず、多過ぎると暴発するので何回も確認する必要がある。

さほど問題は起きず無事に完成した。一応、試射のためにペイント弾も作った。

 

「簪、なにか的のような物はないか?あと撃っていいところはあるか?」

「危険な物じゃなければいい……。撃つところは倉庫の地下で……。じゃないと、近所迷惑……」

「分かった。簪も無理せずがんばれよ」

 

倉庫の地下は上と大体同じ広さだが物が置かれていないので上より広く感じられる。

的は木の板にスプレーで二重丸を書いて真ん中に点を書いたものだ。

 

「いっちょやるか」

 

無鉄を展開して製作した狙撃銃を構え、弾はペイント弾を装填する。

 

――センサー・リンク問題なし、FCS異常なし、全システム良好――

 

目標を的の真ん中に定めて撃つ。

 

パンッ!!

 

弾は見事に真ん中に当たり、色が付着する。いい出来具合だと思う。

今度は製作した実用弾を装填する。目標を再び的の真ん中に定めて撃つ。

 

パンッ!!

 

今度も真ん中に当たり、穴が開く。残りの弾を適当に撃ち、カートリッジが空になる。

 

「本体と弾もとてもいい出来だ。これなら戦いにも使えるな」

 

今の射撃データと記録データは無鉄で保存されているからそれを元に改良してみようか。

 

「今日はこれくらいにして簪の手伝いをするか」

 

十分満足したし、無鉄と銃の改造は明日でもいいか。データをプリントアウトをして、簪の所に向かった。

 

「簪、何か手伝うことがあるか?」

「ない……。私ひとりでやる……」

 

予想はしていたがこうも頑固とは思わなかったな。

 

「いや、あるだろ。ISをひとりで完成させるつもりか?」

「うん……。姉さんにもできたんなら、わたしにもできる……」

 

はあ。これはすっかり、楯無さんがひとりで完成させたと思っているな。だが、楯無さんのことは伏せておかないと俺まで断られるな。そうなるといつか事故を起こしてしまいそうだ。

 

「そう言わずに手伝わせてくれ。とりあえず、無鉄のデータを参考にでもしてくれ。まあ、参考になるかは分からないが」

 

二式も結局は無鉄からできたようなものだからな。参考になればいいんだが……

 

「いいの……?ISの内部データは機密で見せちゃいけないんだよ……」

「いいんだ。少しでも役に立ちたいのでな。それに泊めてもらっている身だからな」

 

ISの外部データは他のISからでも見れるが内部データは所有者か設計した国や企業にしか見れないようになっている。無鉄は俺にしか反応しないので、事実上無鉄は完全に俺の物になっているので内部データを見せることができる。

 

「どこに送信しておけばいい?」

「……二式に送信して……。アクセス許可しておくから……」

「了解した」

 

二式からすぐにアクセス許可が来て無鉄の内部データを送信した。

 

「きた……。あ、これなら一部の駆動部と伝達反応部が正常に動ける……」

「それはよかった。それよりそろそろ出ないか?夕食になりそうだからな」

 

時間は六時を回っていた。夕食の準備をしていてもおかしくない時間だ。

 

「今日はこれくらいでいい……。それじゃ、行こ……」

「ああ」

 

俺と簪は倉庫から出ると外は暗くなっていた。家からはいい匂いがしてきた。

 

「夕食の準備を手伝うか」

「…わたしも手伝う……」

「料理できるのか?」

「失礼だよ……。わたしだって料理できる……」

「すまない。さて、手伝うか」

「うん……」

 

家に入り、夕食の準備をした。

 

 

 

 

夕食を食べ終えて、自室に戻ってプリントにしたデータを見ていた。

 

「無鉄の防御性能は手を加えなくてもいいが機動性能といった伝達反応やブースターなどは改良した方がいいな。狙撃銃は弾の金属を変えるのに伴い改良すれば問題はないな」

 

無鉄は防御性能は十分だったが、機動性能は他の第二世代よりもやや劣っていたので改良する方針にした。狙撃銃は今後も改良することができると判明した。

 

「士郎……いる……?」

「その声は簪か。どうかしたか?」

 

戸から簪から呼ばれた。二式のことか?

 

「今、暇……?」

「そうだな。それがどうした?」

「良かったら、私の部屋に来て……。見せたいものがあるから……」

 

見せたいもの?まあいいか。行けば分かるか。

 

 

 

 

「ここがわたしの部屋……」

「これは……驚いたな」

 

簪に案内されて部屋に入ったのだが、部屋はアニメのDVDが大量にあった。きちんと整理されている。

 

「かんちゃん来たよー」

「本音も来たのか」

「そだよー。今日はなにを見るの?」

 

DVDは様々なタイトルがあるな。なになに?

機動戦士ガンダムシリーズ(SEED、DESTINY、STARGEZER、OO+劇場版、UC、AGEなど)、魔法少女シリーズ(なのは、まどかなど)、怪獣や戦隊、仮面ライダーなどの特撮があった。

 

「これを見せるために呼んだのか?」

「うん……。士郎のおかげで二式が少しだけど良くなったからお礼をしたくて……。どうかな……?」

 

簪なりのお礼か。この機会だからアニメを見るのも悪くないな。

 

「いいぞ。で、何を見るんだ?」

「今日はガンダム……。士郎、これでいい……?」

「なんでもいいぞ。俺は記憶がないからアニメは見たことないからな」

「それじゃー、魔法少女にー……」

「いや、ガンダムにしてくれ。いきなり魔法少女はハードルが高い気がする」

 

そうして0時近くまで見て部屋に戻り、眠りについた。

 

 

 

 

 



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第9話「入学試験」

今日はIS学園の入試試験だ。内容は試験官と戦うというシンプルなものだ。本当は打鉄かラファール・リヴァイブに乗って戦うのだが俺は無鉄しか反応しないので無鉄で戦うことになっている。

専用機持ちの人は持っているISで戦うそうだ。

織斑 一夏は昨日したそうだ。結果は勝ったのだが試験官(真耶さん)が勝手に突っ込んで自滅したというものだったらしい。

 

「士郎……大丈夫……?」

「ゆーみん緊張しているのー?」

「いや全然。むしろ調子がいい」

 

無鉄には乗ってはいるが一度も戦っていない。場所はないし、せいぜい射撃練習と素振りしかできなかったからな。戦うのがこれが初めてだが調子は万全。いつでもいける。

 

「簪と本音はあと一歩だったな」

「途中まではよかったけど……後半になったら押し返されちゃった……」

「ゴリ押しでやってみたけど負けちゃったけどねー」

 

ふたりはラファール・リヴァイブに乗って善戦はしたものの負けた。

簪は器用に射撃武装を使い、接近されたらブレードで応戦したがそれは前半までで、後半は体力が落ちて油断した所にグレネードランチャーを撃ち込まれて負けた。

本当は打鉄二式で戦うはずだったのだが、生憎まだ機体も武器も完成していないので戦うことができなかった。

本音は最初から射撃武装を撃ち続けて、接近して灰色の鱗殻(グレー・スケール)を叩きこもうとしたら試験官の手榴弾をモロに喰らって、怯んだ隙にマシンガンで撃たれ続けて負けた。

 

灰色の鱗殻(グレー・スケール)を使わずにあのまま撃ち続けていたら本音は勝てたはずだぞ」

「そうだよ……」

「いやーそうなんだけど。やっぱり、パイルバインカーを叩き込みたいからねー」

「「はあ……」」

 

最近見たアニメの影響か。おっと、そろそろ時間か。

 

「せて、俺は行くぞ。どこまでやれるか分からんがな」

「士郎なら大丈夫だよ……」

「ゆーみん、ファイトー」

 

声援をもらったし行くか。

 

 

 

 

 

『試験官が来るまでそのまま待機してください』

「分かりました」

 

アナウンスに従い、待つようにする。試験官はそれぞれ教師用にカスタマイズされたISで戦うことになっている。もっぱらこの試験で勝つのは稀だそうだ。今の所、勝っているのは織斑 一夏とイギリスの代表候補生(名前は知らないが)の二人だ。

無鉄はあれから改良を施して第二世代と第三世代の間ぐらいに性能が伸びた。

俺も勝ってみようかな。試験官によるが。

 

『まもなく試験官が来ます。準備を整えてください』

 

お。そろそろ来るのか。一体誰かな?

 

「ひさしぶりだな、士郎。私がお前の試験官だ」

 

…………………勝つのは無理そうだ。何せて相手は元世界最強だ。

 

「ひさしぶりですね。千冬さん。まさか、あなたが俺の試験官になるとは思いませんでしたよ」

「私が士郎の相手をするのは前から決まっていたことだ。それとIS学園では織斑先生と呼べ」

「分かりました」

 

予定調和だったか。はあ……今更悔やんでも仕方がないか。

 

「早速で悪いが始めようとしよう」

「それもそうですね。全力でいきます!」

 

ビーッとブザーが鳴り響き、それが切れると同時に両手にあらかじめ出していた小型マシンガン二丁を千冬さんに撃ち放った。

 

ガガガガガガガガガガ!!!

 

すぐに射程外に千冬さんは移動して当たりそうな時は近接ブレードで弾いている。

 

「こんなものでは私は倒せんぞ」

「分かっていますよ。これは小細工ですから」

 

千冬さんは打鉄に乗っている。カスタマイズされて近接ブレードだけしか使っていないようだがおそらく現役時代と同じようにしているはずだ。千冬さんの戦い方は近接ブレードのみで戦うもので、それは熟練したものでも困難な戦い方だ。

しかし、千冬さんはそれを何の苦もせずやってのけている。ネット動画で見たことがあるが実際に戦ってみるとこうもすごいとは思わなかった。

それよりも自作したこのマシンガンが通用しないと思っていたがなぜか狙いが甘くなってしまう。

 

「くそ!弾が切れたか!」

 

カカカ!と弾が切れたのと同時に千冬さんが接近してきた。

 

「はあっ!」

「くっ!」

 

マシンガンを交差して防いだが、このままでは押し切られてしまう!

 

「これをどうぞ!」

「ふん!」

 

マシンガンを捨て、グレネードランチャーを呼び出して撃って距離を稼ぐ。

 

「この程度か!弓塚!」

 

やはりというべきかひらひらと避けていく。このままでは埒があかない。

 

「これならどうだ!」

 

狙撃銃を呼び出してスコープを覗き、狙い撃つ!

 

「せい!」

「うそだろおい……」

 

千冬さんはあろうことに弾を切ったのだ。

なら……

 

「なっ!?」

 

ガン!と肩のアーマーに当たり砕けた。FCSを切ってからは思うように撃つことができて、じわじわと千冬さんを攻めていった。

 

「急に調子が良くなったな!」

「そうですね。今度はこっちが攻めます!」

 

今撃っている狙撃銃は初めて製作した銃”38式狙撃銃”を威力重視にした”38式狙撃銃・遠雷”だ。弾は劣化ウラン弾を仕様している。昔は健康被害を懸念されていたが、技術革新に

より健康被害はなくなっている。ボルトアクションで発射間隔が空くが素早くリロードすることでそれは解消される。反動制御も切るとより精密に撃て、リロードも早くできた。

 

「くっ!」

「いける!このまま押し切れば勝てる!」

 

さっきまでとは逆に俺が押している。弾が尽きて空になるとすぐに次の武器を呼び出した。

 

「弓だと?」

「甘く見ると痛い目に合いますよ!」

 

左手に弓を出して背中には矢が入った筒を出し、右手で矢を弓に沿って構え放った。

 

「ふっ!」

「ち!」

 

矢を近接ブレードで弾いてシールドエネルギーを削られないように応戦する。

 

「まだまだいきますよ!」

「厄介だな!」

 

近づけないように絶え間なく矢を放ち続けるがそろそろ矢がなくなる。だが、接近戦は勝ち目がないな。

千冬さんは接近戦は得意分野だ。俺は普通くらいだと思うけど相手にならないだろうな。

 

「矢がなくなったな。これはまずいな……」

「そろそろ終わりにするぞ!」

 

一瞬にして距離を詰められた!?これは!

 

ガキン!

 

「ほう?瞬時加速(イグニション・ブースト)で接近した私の攻撃に反応するとは驚いたぞ」

「なんとなく読めただけですよ……!」

 

とっさに右手に近接ブレードを出して何とか防ぐ。しかしそれからというもの、ジリジリとこちらのシールドエネルギーが削られていく。

左手に槍も出して、右手に刀の形をした近接ブレードの二つで挑むが虚しく、シールドエナルギーが削られていく。

 

「さて、お前の武器はもうないだろ?」

「悔しいですが、そうですね」

 

近接ブレードと槍はアリーナの地面に突き刺さっている。両方とも弾かれたからだ。短刀は出した瞬間に弾かれた。

 

「これで終わりだ!」

「!?」

 

ここで終わるのか?負けても俺は入学することが決まっているが俺は……俺は……負けたくない!!

 

「――――投影、開始(トレース・オン)

 

そう呟き、迫りくる近接ブレードを何かで弾き返した。

 

キイン!

 

「なに!?」

 

千冬さんは弾き返したことに驚いているのか、あきらめていないのに驚いているのかは分からない。両手に持っている何かを見るとそれは黒い剣と白い剣だった。

 

「これは……干将・莫邪……なのか……?」

 

干将・莫邪。それは古代中国・呉の刀匠干将と妻の莫耶、及び二人が作った夫婦剣。黒い方が陽剣・干将、白い方が陰剣・莫耶である。互いに引き合う性質を持つ夫婦剣だ。

 

―――能力発動(スキル・オープン)。名称”投影”。

 

「無鉄の能力なのか……」

 

シールドエネルギーは残り100。勝機はこの干将・莫邪と投影のみ。なら、叩き込むのみ!

 

「はああああああ!」

「ふう……!」

 

何度も打ち合い、火花が散る。俺では到底、千冬さんには勝てない。だが、それは生身の場合である。

ISの勝負はどちらかのシールドエネルギーが0になるかで決まる。この時点で僅かながらでも俺にも勝機がある。

そして距離が広がり、その隙に手に持っていた干将・莫耶を投擲する。

「―――鶴翼、欠落ヲ不ラズ(しんぎむけつにしてばんしゃく)

 

「なにっ!?だがこの程度―――!」

 

突然のことにでも焦らず持っていた近接ブレードで弾く。

さらに投影した干将・莫耶を投擲する。

「―――心技、泰山ニ至リ(ちからやまをぬき)

 

 ―――心技黄河ヲ渡ル(つるぎみずをわかつ)

 

今度も焦らず剣で2本を弾いた

だが、最初に投げた干将・莫耶目が背後から目掛けて飛んでいく。

「っ!?」

 

何とか気づいて弾いたが、僅かだがシールドエネルギーが減る。

そして、周りにあった剣が千冬さんの周りに集まった瞬間に……

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

勢いよく爆発した。

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)。これも無鉄の能力だ。投影した武器を爆発させることができる能力だ。

 

「―――唯名別天ニ納メ(せいめいりきゅうにとどき)

 

その間に俺はまた新しく干将と莫耶を投影し、それを背中に生える翼のように背中側で構えて千冬さんに目掛けて迫る。

強化した干将と莫耶はまるで翼のような黒と白の長剣へと変わる。

飛び上がり……

 

「―――両雄、共ニ命ヲ別ツ(われらともにてんをいだかず)ッ!!」

 

千冬さんに向けて落下していき……

 

「っ!?はああああああ!!!」

 

苦し紛れに剣で迎え撃つようだが、今の状態なら!

 

「はああああああああああああああ!!!!」

 

そして剣が交わった瞬間……千冬さんが持つ近接ブレードは壊れ、シールドエネルギーが多く削れ、勝敗が決まる。

 

『試験終了。勝者―――弓塚 士郎』

 

「はあ……はあ……。終わったぁ……」

 

試験は終わり、地面に降りる。展開解除すると同時にISの補助が無くなり、疲れがいきなり体にのしかかってくる。

 

「まさか、私が負けるとは思いもしなかったな。負け惜しみとも思われるがISに助けられたな。だがこれからも慢心することなく、精進するのだぞ」

 

返事がしたくてもできない。疲れているせいか息をするだけで精一杯だ。まともに見ることもできない。

その後はここで記憶が終わる。

後日、簪と本音に聞くと俺を運ぶために孝司さんと和也さんが来て運んだそうだ。

 

 

 

 

 



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第10話「双剣」

ブン!ブン!ブン!

 

入試試験から少し過ぎて俺は朝から竹刀を借りて素振りをしている。

 

「ふう……。なんとかまともに接近戦をできるようにしないとな」

 

入試試験ではっきりしたのは銃や弓といった射撃武装はうまく扱うことはできるが、剣や槍といった近接武装を扱うのは並みの人より下手だと言うことだ。

あの時(入試試験)は突然発動した能力のおかげで勝てたが、次はそうはいかないだろうな。少しでも克服できるように翌日から竹刀を借りて素振りをしている。

 

「おー坊主。朝から素振りとは元気だな」

「おはようございます、孝司さん。近接武装を扱うのが下手なので素振りでもして少しでもうまくなりたいので」

「ほうー……」

 

その後、素振りをしているうちに孝司さんはどこかに出かけたそうだ。

 

 

 

「あら?士郎君まだやっていたの?」

「はい。楯無さんは仕事終わったんですか?」

「そうよ。学校は休みでも生徒会は休みじゃないし、書類が多いのよ。それをようやく終わったところなのよ」

「ご苦労様です」

 

楯無さんは生徒会長をやっているから学校が休みでも生徒会の書類仕事はあるそうだ。ここ数日、籠りっきりだったからあまり見ていなかったな。

 

「そうだ。稽古付けてあげようか」

「え?」

「意外そうな顔しているな。こう見えてもロシア代表なんだから色んな武術をしているのよ」

「そうですか。……今からでもいいですか?」

「いいわよ。それじゃ、道場に服があるからそれを着て待ってね」

 

風のように楯無さんは用意するため部屋に戻った。タオルで顔を拭き、道場に向かった。

 

 

 

 

「そうじゃ、準備はいい?」

「いつでも」

 

俺と楯無さんは互いに袴である。道場には俺、楯無さんの他に虚さん、簪、本音がいる。ちなみにIS学園の運動着はブルマだそうだ。絶滅したと聞いていたがまさかまだあったのか。

 

「お嬢様、くれぐれもやり過ぎないように注意してください」

「ケガしないようにね……」

「骨は拾ってあげるよー」

 

虚さん、それは本当ですか?簪、ありがとう。おいこら本音、死ぬ前提になっているぞそれは。

 

「その前に質問していいですか?」

「なにかしら」

「なぜ竹刀ではなく木刀なんですか?危険だと思いますし」

「そ・れ・は、より実戦に近くしないといけないでしょ。ISの訓練でもあるのよ」

「せめて防具は付けないと……」

「さて、勝負の方法だけど、木刀が私の体に当たれば士郎君の勝ち」

「人の話を聞いていますか?」

「逆に士郎君が続行不可能になったら私の勝ちね。それでいいかな?」

「無視ですか。まあいいですよ。でも、楯無さんが余計不利になるんじゃ……」

「心配しなくてもいいよ。どうせ私が勝つから大丈夫」

「………………」

 

いつもの笑顔だが、瞳は絶対的な自信を持った目だ。もしかすると、千冬さんと戦ったあの時のように集中しないと一瞬で負ける。そんな気がした。

 

「それじゃ、行きますよ」

「いつでも」

 

顔に浮かべ笑みを崩さない。すぐに消してみせる!

 

スッ……

 

俺の一番速い速度で一気に楯無さんまで1メートルまで近づいた。狙うのは腹。取った!

 

ガッ!!

 

「なっ!?」

 

いとも簡単に楯無さんが持つ木刀に止められた。

 

「狙いは良かったけど、まだまだね♪」

 

しかも笑顔でだ。逆に俺が腹に決められた。

 

「ぐっ!」

 

動作が見えなかった。いや、正確には予備動作を極端に抑えて見えにくかった。

 

「ふう………」

「まずは一回」

 

腹をさすって一度楯無さんから離れる。今の攻撃で殺すことが可能だと分かった(まあ、実際殺しはしないはずだ)。

千冬さんと生身で戦ったら読んで字の如く瞬殺されそうだな。実力はおそらく、千冬さんより下。だけどそれでも俺より遥かに強いことは確信している。しかし、困ったな。

迂闊に手を出せないから状況は膠着(こうちゃく)してしまった。

 

「………………」

「ん?来ないの?それじゃ私から――行くよ」

 

消えたと思ったらいきなり目の前に接近されていた。

これは確か、古武術の奥義の一つ、『無拍子(むびょうし)』だったな。

詳しくは知らないがリズムに合わせて行うことだ。つまり、心臓の鼓動であったり、呼吸のタイミングなどのことで、そのタイミングに合わせて一瞬出来る空白の時間を使う技術が『無拍子』だ。

びし、びし、びし、と両肘、両肩、両膝に軽く当てられ、体が強ばり、その内にまた腹に一撃をもらった。

 

「つぅ…………」

 

そのまま後ろに倒れた。すぐに体を起こしたが、足元がふらつく。

 

「これで二回よ。まだやる?」

 

襟元、息一つ乱さず余裕の笑みをこちらに向ける。

 

「当然。まだ始まったばかりですよ……!」

 

一旦目を閉じて集中する。心を落ち着かせて、二度深呼吸し、ふらつきをなんとか抑える。このままではやられるだけだ。

ならどうすればいい…………

せめてイメージだけでも強くなろう。イメージするのは最強の自分。外敵などいらない。戦う相手とは自身のイメージに他ならない。

だが、これだけでも足らない。なにかきっかけになる言葉を思いつかないと……

 

 

―――体は剣で出来ている―――

 

 

よし!この言葉がしっくりくる!

目を開き、全神経を楯無さんに向ける。

 

「あら、本気のようね」

「………………………」

 

道場の空気がしーんとなり耳が痛くなるような静かになる。

先に動いたのは楯無さんでさっきと同じ無拍子で来るがそれに合わせるかのように鋭い一閃を受け流す。

 

「!」

 

思惑が外れたのに驚いたのか、楯無さんが一瞬動きが止まり、その隙に仕掛ける。

―――――が

 

「焦っちゃダメよ。けど、攻め方は良かったわよ」

 

木刀で阻まれる。

 

「お姉さん本気で行くわよ」

「望む所です……!」

 

か、か、か、と木刀同士がが幾度もぶつかり合い、汗がじわりと出てくるが楯無さんは汗一つもかいていない。

 

「そろそろ限界かな」

「大丈夫ですよ」

 

とは言ったものの、早々決着をつかないと確実に負ける。負けたくないのは男の意地でもあるからな。

 

「やばっ!」

「取った!」

 

ぐらついた一瞬をついて肩に下から上に突きを決めようとしたが少し外して……

 

「「「「あっ」」」」

「きゃん」

 

胴着が思いっきり開き、豊満な胸が見え、胸を包むブラジャーは高級感あふれる黒い物で包まれ、よりボリュームがあるように見える。大人の女性と劣らず魅力が……って

まずいだろこれは!

 

「士郎君のエッチ」

「え!?」

 

この時、激しく動揺していた俺は弁解しようと思考をめぐらしていた所に再び腹に一撃を浴びた。

 

 

 

 

で現在俺は道場で隅っこで体育座りをしている。

理由?それはな、あのあと十回楯無さんに挑んで十回負けた。それ以外にも

 

「甘いです!」

「ぶ!」

 

虚さんに負けて

 

「ふ……!」

「ぐ!」

 

簪に負けて

 

「いやー」

「認めたくない!へぶ!」

 

挙句の果てには本音にも負けた。体はまだ動けるが心がもたない。

 

「だ、大丈夫。士郎君」

「大丈夫じゃありません。本音に負けたのが一番のショックですから………」

「えー!それはひどいよ~!」

 

虚さんと簪は昼食の手伝いで家に戻っている。

そうしていると道場の戸が開き、孝司さんが来た。

 

「おーい。ガキ共、飯だぞー!……って士郎。オメー何してんだ?」

「いえ。本音に負けたのがショックになっているだけです…………」

「それはつらいな」

「おじさんも!?」

 

ともあれ昼なので家に戻ります。

 

「士郎。午前中は楯無たちと木刀で戦って全敗だったよな」

「うっ……。そうですが、それがなにか?」

「なら、午後は俺と訓練するか?もちろん、防具はなしだ」

「え?」

 

孝司さんと?なぜに?

 

「なんたって楯無たちに小さい頃から剣道とか武術を教えていたのは主に俺だからな」

「はいぃ!?」

 

小さい頃から鍛えていたのか。それは納得だな。

 

「それじゃ、孝司さんは強いんですね」

「まあ、昔ほどではないが楯無にはまだ勝てるぞ」

 

昔はどれくらい強かったんだろうか。

 

「とにかく、二時に道場で始めるぞ」

「分かりました」

 

確実に午後よりきつくなりそうだ。

 

 

 

 

 

バンッ!

 

「く…!」

 

道場の壁に叩きつけられる。孝司さんとの戦いは楯無さんより話にならなかった。孝司さんは槍を模した木の棒だ。こちらは木刀一本。

さすがは楯無さんたちに教えてきただけはある。ちなみに道場には楯無さん、虚さん、簪、本音がいる。

 

「根性はいいが、それだけじゃだめだぞ。そんなんじゃ、いつまでも強くはならんぞ。楯無たちだって最初から強かったわけじゃなかったんだぞ。何度も挑んで強くなったんだ」

 

確かにそうだ。楯無さんたちの実力は積み重ねてきたものだ。最初から強いやつなんていない。

 

「まだ始まったばっかりだ。これくらいで根をあげるなよ」

「このくらい大丈夫です、よ!」

 

勢いをつけて孝司さんに接近して木刀を振りかざす。

しかし、なんてこともないように躱し、掠りもしない。逆にこちらが何度も当たる。

 

「ほらほらどうした!防戦一方だぞ!」

「まだまだ!」

 

一瞬の隙をつければ俺でも当てられるはずだ。

 

「そら!」

 

鋭い一閃が向かって来る。躱せばいいがここはあえて受け止める。

 

「ぬ…!」

 

まさか受け止めるとは思わなかったようで一瞬だけ動きが止まる。今のうちに一回ぐらい当てる!

 

ガッ!

 

「よくこの短時間で腕を上げたな。そこは褒めてやる――――――だがな!」

 

だが(むな)しくも当てることができたのは槍を模した木の棒で体には当たらなかった。

瞬時に木の棒で左頬に強く当てられ、その際に木刀を離してしまい、空中で真ん中からきれいに折られた。

 

「このままだと負け続けるぞ。どうすればいいかよく考えろ。俺はISのことはよく分からんが戦いなら分かる。これでも何度も危険な目にあったことがあるからな」

 

危険な目にあったことがあるとはどういうことだ?いや、それよりも勝つことに集中せねばなるまい。

だが、どうすれば……

 

―――いいか攻撃を真正面から受けようとするな受け流せ!攻め込むときも常に退路を頭に入れろ!

 

「!」

 

懐かしい声に厳しく言われたことが頭に響く。男の声だったがよく思い出せない。

それよりも考えろ俺。どんな剣なら俺にふさわしい!?

 

「そら!いつまでも寝っ転がっていると訓練にならないぞ!いくぞ!」

 

孝司さんが迫ってくる。このままじゃ……!

 

「?」

 

目の前にあるのは二つに折られた木刀がある。

……そうだ!入試試験の時のようにすれば!

 

「ぬ!」

 

二つに折られた木刀で槍を模した木の棒を弾いた。

 

「ハッ!とっさに二刀に構えたか!だがそんな付け焼き刃で……!」

 

あの時のように二刀で構え、襲い来る孝司さんに立ち向かう。

 

「うそ!?」

「これは……」

「お父さんと渡り合っている……」

「ゆーみんすごーい!」

 

十回ほど打ち合ったあとお互い距離を置く。

 

「………なるほど。その型は…」

 

何か思い出すかのように孝司さんは考え込むがすぐに構え直して臨戦態勢になる。

 

「いいねぇ。これなら少しは楽しめそうだ……!」

 

今までよりも道場の空気が重くなるが不思議と心地よく懐かしくも思える。

 

「少々本気でいくぞ…!!」

 

この後みっちり夕食までの六時まで続いた。

本当は五時までだが午前の楯無さんとの訓練の時の事故(決して行為ではない)のことを本音が喋ったせいで時間延長になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……」

 

夕食を食べ終えて私は虚ちゃんを部屋に呼んでいる。

 

「どうしたのですか?」

「ねえ。道場でお父さんと士郎君の訓練どう思う」

「そうですね。……よく付いて来ておられていますね」

「やっぱりそう思うよね。けど、おかしいのよね」

「おかしい?」

 

さっきのこと話してみようかしら。

 

「さっきね。士郎君と訓練のことで話していたんだけどね。驚いたことがあってね」

「なにをですか?」

「お父さんが途中まで槍の「突き」をしていないことに気付いた?」

「はい」

「でね。突きは軌道が見えないし一瞬の攻撃で見てから対処は間に合わないでしょ」

「そうですね。お嬢様が使う蒼流旋はランスですが突きは槍と同じですから」

「まあね。士郎君は何が大事って聞いたら凄いのよ。分かる?」

「いえ」

 

やっぱりそうよね。普通は離れるとか近づかないとかだけど。

 

「こう言ったのよ。「大事なのはいかに敵を見てその"予兆"を読むかってことだったんだな」って」

「!失礼ですがその発想は……」

「うん。常人の発想じゃないよね。それにまだ気付いていないみたいだけど一応お父さんの動きに対応できていたのよ。私でも何年かしてようやく対応できたのにね」

「そういえばそうでしたね。あまりにも自然だったので気付きませんでした」

 

それにあの双剣。とっさにしたって言うけどそんなに思いつきで出来ることかな?

あれ?本音ちゃんに入試試験の時も士郎君が双剣をしていたって聞いた気がするわ。

 

「一つご報告がありました」

「何かしら?」

「士郎君が行方不明になっていた十年間についてです」

「何か分かったのかしら?」

 

家に士郎君を招き入れてから虚ちゃんに士郎君に関することを調べてもらうように言っていた。

 

「はい。まだ確証がありませんが世界中で目撃されていることが判明しました」

「え?」

 

なんで世界中で目撃されているの?

 

「まだ調査中ですが目撃されている国はドイツにイギリス、中国の三つです。今後、増えるかもしれません」

「はあー……」

 

一体彼は十年間何をしていたのか分からないわ。一つの国に留まっていたのなら分かるけど。

 

「紅茶お持ちしますね」

「ありがと」

 

今はきれいな月を見ながら虚ちゃんの入れる世界一おいしい紅茶を待ちますか。

 

 

 

 

「沙織これを見てくれ」

 

寝室で妻の沙織にある映像を見せた。

 

「これは今日あなたが士郎君と訓練している様子ですね」

「ああ」

 

訓練の前に簪に誰にも見えないようにカメラで撮影するように言っていた映像だ。

 

「お前に見てもらいたいのはこのあとだ」

 

そう、士郎が二刀に構えたところだ。

 

「この構えは……!」

「驚いたろ。あいつはとっさに構えていたと言っていたが、どうも納得がいかないんだよな」

 

あいつが構えた二刀は弓塚流のものだ。

弓塚家は代々剣の才能に恵まれない者が多くそれを補うために手数が多い二刀流にしている。剣で落とし、いならし、避けられない攻撃は最小限にする。それが弓塚流だ。

 

「それに俺の動きに対応できていたからなおさら納得がいかないんだよ」

「うーん。そうなると記憶を失う前はどこかで鍛えていたのかな?」

「それが妥当だな。まああいつは記憶がないがな」

 

昔、士郎の父、悟郎の二刀流をビデオで見たことがある。剣道の達人との試合だったな。確実に負けると思ったがなんと勝っちまったんだからありゃ驚いたぜ。

最初は押されていたが後半は逆に押してきたから相手もさぞ驚いただろうな。

 

「さて、話しはこれで終わりにしましょ。明日は総会でしょ」

「ああそうだな」

 

この頃、更識内部で不穏な動きがあると噂されている。更識は裏工作を実行する暗部に対する対暗部用暗部だ。いつどこで狙われるか分からない。

だから、楯無たちには昔から鍛えている。

それに今は士郎がいる。関係のないあいつが狙われないためにも頑張らねえといけねえからな。

 

「おやすみなさい、あなた」

「ああ、おやすみ」

 

とにかく明日は総会だ。しっかり寝ないとな。

 

 

 

 



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第11話「ごめんね」

あれから道場での訓練を毎日している。最初よりはマシになってきて先日本音に勝った。これは本当にうれしかった。

で、今日は簪と一緒に二式の作るのを手伝っている。二式はようやく七割ほど出来てきたが、完成にはまだ程遠い。楯無さんの協力があれば今の倍以上は作業が進むはずなんだが……

それだと簪が嫌がるからそれはできない。まあタイミングを見図れば僅かでも協力に賛同してくれるはずだ。

 

「なあ簪」

「何……?」

「さすがにこれ以上は難しいぞ」

「……うん」

 

外見では完成しているように見えるが中身はまだだ。肝心なハードウェアとソフトウェアの問題が山積みだ。

なにより打鉄弐式の最大武装。第3世代技術のマルチロックオン・システムがまだ構築と実装がまだなのだ。このままでは通常の単一ロックオン・システムでやるしかない。

 

「ん……ふう……」

「今日はこのくらいでよしたらどうだ?」

「でもまだ時間はある……」

「だがここ最近は寝不足だろ?」

「うん……」

 

そう。最近簪は倉庫に籠る時間が増えてきている。日付けが変わるまで作業をして寝て五時過ぎに起きてまた作業と食べる時間以外はほとんど倉庫の中にいる。

当然疲労もたまることは確実だ。今は午後の三時だが疲労をなるべく減らすにはここいらでやめた方がいいだろう。

 

「今日はここまでで、明日やればいいだろう。とにかく今日はもう休め。倒れてもしたら元も子もないだろ」

「……わかった。明日にする」

「明日の朝食を食べ終えてからだぞ」

「(ギクっ!)……わかっているよ」

 

分かりやすいな。

簪はフラフラになりながらも倉庫から出て行こうとしていたが工具などが入っている大きい棚にぶつかりグラグラと揺れて簪に倒れてくるのが分かった。

 

「簪!危ない!」

「え?」

 

すぐさま駆け寄り簪を守るように覆いかぶさり、棚が倒れてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドオオオオオオンンンン!!!!

 

「な、なんなのこの音は!?」

 

読書をしていたらいたら尋常じゃない音が響いた。

 

「お嬢様!大丈夫ですか!?」

「私はなんともないわ。それよりも今の音はどこから……」

「かいちょー!お姉ちゃん!」

 

本音ちゃんが急いで来たようで息が荒かった。いつものようなおっとり口調ではなかった。

 

「どうしたの本音。そんなに慌てて」

「かんちゃんとゆーみんが倉庫で棚の下敷きになっているの!」

「なんですって!?」

 

そんな簪ちゃんと士郎君が!すぐに助けないと!

 

「虚ちゃんと本音ちゃんはすぐに屋敷にいる男になるべく多く呼んで来て」

「分かりました!」

「うん!」

 

すぐに虚ちゃんと本音ちゃんは出て行った。

 

「待っててね。簪ちゃん、士郎君!」

 

私は庭にある倉庫に向かった。

 

 

 

 

「簪ちゃん、士郎君。大丈夫!」

 

倉庫の中は機材やパーツが散乱していた。

 

「生きてはいますよ。簪も無事ですから。もっとも、早く出たいのですが」

「待っててね。今すぐに出してあげるから!」

 

どこからかは分からなかったけど士郎君の声がした。簪ちゃんも無事なのね。

 

「呼んで来ました!」

「お父さんも来たよ!」

 

外には五人ほど男がいた。警備のために家に男がいるのである。その中に和也さんもいた。

 

「話しは本音から聞いた。すぐに助けよう」

「お願いします。それじゃ……」

「おいおいどうしたこんなに倉庫の前に集まって?」

「お父さん!?どうしてここに?」

 

今日は総会で夕方頃に帰ってくるはずだったお父さんがここにいたので驚いた。

 

「ちょうどよかった。倉庫の中で簪ちゃんと士郎君が下敷きになっているの。手伝って!」

「何!分かった。危ないから外で待っていろ!」

 

お父さんと和也さん、警備の男で倉庫の中に入った。

 

「おい!士郎、簪どこだ!場所が分からないと助けようにも助けられねえぞ!」

「なるべく正確に言ってほしい」

 

そうだった。さっき中に入ったけど機材やパーツが散乱していて分からないのよね。

 

「大きい棚が見えますか?それの下にいます」

 

あれね。あれを退()かすには完全に力仕事だから女の私には無理ね。

 

「分かった。今助けてやるからな!」

 

大きい棚の所にお父さんたちは向かって端々を掴んで退(ど)かす用意ができた。

 

「全員持ったな。それじゃいくぞ。いっせーの!」

 

少しずつ大きい棚が持ち上がりそこら辺に置かれた。

 

「簪ちゃん、士郎君!ケガはない!」

 

すぐに私は駆け寄ってケガがないか確認した。

 

「簪は大丈夫ですよ。俺は少しありますけど」

 

簪ちゃんは士郎君に守られるように覆いかぶさっていたおかげでケガは無いようだったけど、代わりに士郎君がケガをしていた。

頭から血が流れていて背中も所々血が滲んでいた。

 

「救急箱を持ってきます!」

「ありがとう」

 

虚ちゃんが急いで家に戻って救急箱を取りに行ってくれた。

 

 

 

 

 

「沁みるな。消毒液は」

「それはそうだよー。でも、たいしたケガじゃなくてよかったね。ゆーみん」

「まあな」

 

俺は本音からケガの手当てを受けている。頭の血は派手に見えたが傷が浅く、背中は打撲と切り傷だけだ。

折れている所がないのが(さいわ)いだ。

 

「これでよーし!どう?」

「ああ大丈夫だ。しかし、意外だな。本音が応急処置ができるなんて」

「小さい頃、よく転んでいたからやってくれたり自分でしていたからねー」

 

それは納得だ。

 

「し、士郎。…大丈夫?」

「ん?簪か。大丈夫だ。折れてもいないぞ」

「そう……。良かった……」

 

簪は傷一つもないようだ。そうならないように覆いかぶさったからな。

ああ、それにしても背中がちくちくする。

 

「しかしまいったな」

「なにが?」

「なにがじゃなくてな。倉庫は元に戻すのに五日はかかるんだぞ。打鉄二式の完成が遅れるのは目に見えるだろ?」

「あ……そうだった……」

 

中はまだ片づけている途中だ。孝司さんが部下を呼んできれいにはなっているが機材とパーツがバラバラになっているので使える物と使えない物に分けて、壊れた機材とパーツは取り寄せないといけないのでどう頑張っても五日はかかるそうだ。救いなのは打鉄二式が簪に待機状態で持っていたことだ。

 

「この際だから楯無さんに協力を頼むしかないぞ。このままだと武装はともかく、打鉄二式そのものが出来上がらなくて入学式が始まってしまうぞ」

「だけど……それじゃ……姉さんに近づけない……」

「はあ……」

 

筋金入りの頑固娘だな。武装を後回しにして機体を仕上げようにも時間が掛かるどうすれば……。

 

「士郎君。大丈夫そうね」

「本音がいつもこんな風にしているといいのにね」

 

楯無さんと虚さんが倉庫の前にいる。ちょうどいい、この際だから今言った方がいいな。

 

「簪。ここは協力してもらおう。腹くくってさ」

「でも……」

 

はあ……。この頑固さえなければすぐに協力してもらえるのだがな。いや、元はといえば楯無さんがあんなこと言わなければこうにはならなかったはずだ。

しかたないが約束の事を話すか。

 

「簪。今から話があるが先に言っておこう。すまない」

「え?」

「俺は楯無さんに打鉄二式の製作に手伝ってもらうように言われている」

「そ、そんな……」

 

簪の表情が信じられないという感じになるが俺は続けて言う。

 

「それもうひとつ。頼まれたことがある」

「……なにを」

「……信じてもらえるかは分からないだろうが簪と仲良くしてもらえるように頼まれている」

「う、嘘だよ……そんなの……」

「本当だ。俺は嘘を言っていない」

 

言わないように言われていたが、これ以上打鉄二式の完成が遅れるとさすがにまずいから言うしかない。

なら、それと同時に姉妹の中を解消できればなおさらいい。

 

「俺はここに来てそれほど長くはいないが簪が楯無さんに劣等感があるくらいは知っている」

「………………」

 

生活しているうちに分かったのは簪が楯無さんに劣等感があると感じたからだ。

楯無さんの話題となると簪は少し暗くなっている。確かに楯無さんは明瞭快活で文武両道、料理の腕も絶品(先日料理を食べたので)で更に抜群のプロポーション(これまた先日)とカリスマ性を持つ完璧超人と言っても過言ではない。

そして、姉は優秀で妹は出来損ないと簪は思い込んでいる。

 

「だけど、簪は簪。楯無さんは楯無さんだ。周りがどうこう言ってもその人はその人なんだからな。それに楯無さんにも苦手なことが一つや二つあるはずだろ」

「……そういえば、姉さんは編み物が苦手なんだ。私は出来るけど……」

「そうだろ。誰だって苦手な事はあるさ。むしろない方がおかしい。だから……」

「ふわぁ……!」

 

簪の頭を撫でた。こうすれば落ち着くだろう。多分……。

 

「協力してもらうようにお願いしよう簪。楯無さんも快く引き受けてくれるさ」

「う、うん……」

 

顔が赤いな。どうしたんだ?

 

「顔が赤いが大丈夫か?」

「だ、大丈夫だよ!じゃ、じゃあ姉さんに頼みに行くね!」

「あ、ああ……」

 

なんだったんだ?まあいいか。あとは楯無さんに任せて倉庫の手伝いに行きますか。

 

 

 

 

「はあ……びっくりした……」

 

頭を急に撫でてくるからびっくりした。お父さんに撫でてもらったことはあるけど他の男の人には撫でてもらったことがないけど、士郎の手。なんだか暖かったな。

 

「い、今はそれより姉さんの所に行こう……」

 

姉さんは倉庫の前にいて機材やパーツを見ていた。

 

「姉さん。話があるんだけどいいかな?」

「か、簪ちゃん!?い、いいわよ!虚ちゃん、少し離れるわね」

「分かりました。私は引き続き使える物を見ておきます」

 

作業を虚さんに任せて家の裏に来た。

 

「そ、それでなにかしら」

「う、うん……。あのね……打鉄二式を作るの手伝ってもらいたいんだ……」

「え?」

 

今思えばこうして二人で話すのは何年ぶりかな。いつのまにか距離を置くようになって、話すのも一言二言ぐらいになっていた。

 

「私じゃ姉さんみたいに優秀じゃないから一人でISを作るのは無理だから手伝ってほしい。こんな出来の悪い妹だけどお願い……」

 

頭を下げてお願いした。

しばらく沈黙すると姉さんが私の手を握ってきた。

 

「任せないさい。ちゃんと手伝ってあげるわ。それに簪ちゃんは出来の悪い妹じゃないわ。ISを一人で作ろうとしている時点でもう優秀よ」

「そ、そうかな?」

「そうよ。それとごめんね。この前あんな酷いことを言って。本当は一緒に手伝いって言いたかったけど、あの時言いたいこととは別なことを言ってを後悔したわ。ごめんなさい」

「私も今まで避けてごめんなさい」

 

姉さんが私を抱き寄せて頭を撫でられた。

今まで我慢していた目から一気に涙が溢れ出した。

 

「お姉ちゃん……。おねえちゃぁん……」

「そう呼ばれるの、何年ぶりかな……」

 

春先前の風が長年のわだかまりが解けた私達姉妹を喜ぶかのように優しく吹いた。

 

 

 

 

 

 

「やあ、よかったよかった。楯無と簪が仲良くなってよ!」

「そうですね」

 

夕食が食べ終わり部屋に行こうとしたら孝司さんに止められて、晩酌に付き合っている。

 

「お前のおかげだよ、士郎。俺達じゃどうしようも出来なかったのにお前がしてくれてほんとに感謝している」

「俺はただきっかけを作ったに過ぎませんよ。結局のところは当の本人たち自身がやったことです」

「だがきっかけがなけりゃ出来なかったことだ。素直に感謝を受け取れよ」

「今日はそうしておきますか」

 

簪と楯無さんが仲直りして孝司さんはかなり上機嫌だ。沙織さんもそうだが、彩乃さんもそうだ。いつも無表情の和也さんも喜んでいるように見えた。

 

「それじゃ、俺はそろそろ風呂に入りますね」

「おお、そうか。自慢の風呂だからな。ゆっくり湯にでも浸りな」

 

あらかじめ風呂の用意をしていたのでそのまま風呂に直接向かった。このあと俺は思いがけないものを目にするとは思わなかった。

 

「あら?士郎君は部屋に戻ったのかしら?」

「どうした沙織。士郎に何か用があったのか?」

「ええ。お風呂はもう少ししたら入るように言おうと思ったのだけど……」

「風呂に誰か入っているのか?」

「今日は久しぶりに楯無ちゃん、簪ちゃん、虚ちゃん、本音ちゃんの四人で入っているから長く入りそうだからね」

「やば!士郎は風呂に向かったぞ!」

「ええ!」

 

 

 

 

 

「さて入るか」

 

ここの家の風呂はデカい。温泉とかのよりは広くはないが五人くらいは十分に足を伸ばしても入れるだけの広さはある。

 

「背中は風呂や体を洗うと沁みるがこれは我慢するしかないな」

 

背中に貼ってあるガーゼを外して傷を見る。よくあんな重い物が圧し掛かったのにこれだけで済んだのが奇跡と言ってもいいくらいだ。

 

「とにかく今日一日の疲れを癒しますか」

 

服を全て脱ぎ、戸を開けるとそこには先客がいた。

 

「虚ちゃん。胸、また大きくなった?」

「知りませんよ。こら、本音。落ち着いてお風呂に入れないの」

「だって、四人で入るの久しぶりだも~ん」

「そうだよね。最後に四人で入ったのは三年前くらいかな?」

 

中には楯無さん、虚さん、簪、本音の四人がいた。

 

パキッ

 

頭がフリーズしてしまって動けなくなり、固まっていた。それも当然。風呂に入っているのだから生まれたままの状態になっているからだ。

 

「もうそんなに入っていなかったんだ。それじゃ……あれ?士郎君?」

 

楯無さんがこちらに気づき、他の三人もこちらを見る。

 

『……………………………………………………』

 

俺を含め五人全員が沈黙をして俺はなぜかこの時、言ってしまった。

 

「……眼福です」

「「「「きゃあああああああああああああああああああ!!!!!!」」」」

 

顔に石鹸、シャンプー、リンス、洗顔剤がオールヒットし、ここで意識が閉じる。

 

 

 

 

 

「本当に申し訳ございません」

 

俺はあの直後すぐに孝司さん来て助けてくれた。本当に感謝だ。

そして風呂から上がってきた四人にすぐに土下座して謝った。

 

「まあ、あれは事故だったし、悪気があったわけでもないし、私たちも士郎君に顔にめがけて色んな物当てちゃったからお互いチャラってことで」

「いや、それはできません。事故とはいえ、女性の裸を見てしまったのですからこちらが悪いですし」

 

ああ事故とはいえ女性の裸を見てしまったな。孝司さんと和也さんは今回は事故で初回だから許すが、次はないと言われた。

ああ、あれは怖かった。

 

「なにか出来ることがあればなんでもします。そうじゃないと俺が納得できないので」

 

とにかく謝罪として何かをしなくてはならないな。まあ、可能な限りだがな。

 

「それじゃ……私の彼氏になって」

「それは却下で。俺には彼女がいるので」

「「「「……え?」」」」

 

はて?何かおかしなことを言ったか?

 

「し、士郎君。今、なんて言ったの?」

「彼女がいると言ったんです。ですが、いるという記憶だけ、名前も顔も思い出せませんが」

「そ、そうなの。それじゃ、何にしようかしら」

 

ああ、言っていなかったな。早目に言おうとしたがタイミングを逃していたな。これはとんだ失態だ。

 

「ゆーみんに料理を作ってもらうのはどうーかなー」

「料理か。それならば大丈夫だ。俺としてもどのくらい作れるか試してみたいからな」

 

自分がどれほど料理が出来るか俺自身分からないからな。今のうちに把握しておかないとな。

 

「私はそれでいいと思うけど、虚ちゃんと簪ちゃんはどう?」

「私もそれでいいですよ」

「わ、私も……」

「と言うことだから明日から三日間料理頼めるかな?」

「分かりました。明日から三日間料理させてもらいます」

 

さて、明日から三日間、料理することになったな。

うーん何を作ろうか。

 

 

 

 

 

 

「それじゃ俺はもう寝ますね。寝不足は色々面倒ですから」

「分かったわ。私たちは少ししたら寝るから」

 

士郎が部屋から出て行き、いるのは私に本音、お姉ちゃんに虚さん。

 

「ねえ簪ちゃん」

「何?」

「士郎君のこと好きでなんでしょ」

「ッ!」

 

ばれたの!どうして分かったのかな……

 

「う、うん。そうだよ……」

 

誤魔化してもすぐにばれるから素直に言った方がいいよね。

 

「そう。でも、士郎君には彼女がいるって言ってたのよ」

「そ、それは……」

「それでも士郎君を好きなんでしょ」

「……うん」

 

初めはこの気持ちがどういうことなのか分からなかったけど今日、士郎に助けてもらってようやく分かった。

それなのに……

 

「お姉ちゃんどうすればいいかな?」

「うーん。さすがに私でも分からないな。恋愛したことないし」

「私も分かりませんね」

「恋愛ゲームなら分かるんだけどねー」

「本音。それは二次元の話になっているわよ」

 

みんなやっぱり分からないよね。こんな時はお母さんと彩乃さんに聞こうかな。

……やっぱり、やめておこう。聞いたらきっとお父さんと和也さんとの出会いの話になるから。

 

「あ」

「どうしたの簪ちゃん?」

 

そうだ。そうだよ。なんで気づかなかったのかな。本音と一緒にほんの少し前に恋愛ゲームでやった事を思い出した。それをやればいいんじゃないか。

 

「ふ…ふふふふ……」

「えーと……簪ちゃん大丈夫?」

「大丈夫だよ、お姉ちゃん。あ、みんな知っている?」

「一応聞くけど何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「略奪愛って、知ってる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう。奪えばいいんだよ。そうすれば士郎と結ばれる。

 

「「「簪ちゃん!?/簪さん!?/かんちゃん!?」」」

 

ふふふ。私頑張るからね。彼女さんを思い出す前に私の虜にしてあ・げ・る☆

 

 

 

 

 

 

 

その時のとある場所では

 

「んっ!!」

「あ?どうした?マドカ」

「いや、士郎が盗られるような気がしてな。それでなんだオータム」

「なんだそりゃ。まあいいや、調子はいいようだな」

「ああ。士郎が生きていたからな。安心して食欲も戻ってきて大丈夫だ」

「それりゃ良かった。だがな、マドカ」

「なんだ?」

「もう少し食べる量を減らせ」

「は?」

「食べる量多いんだよ!そして、なんで太らないんだよ!」

「そうか?あと太らないのはそういう体質だからな」

「今、全世界の女を敵に回したぞ!」

「知るか!あ、任務があるからそれじゃ!」

「こら!逃げるなー!」

 

こんな会話をしていたとかないとか。

 

 

 




ここで報告です。
最近、リアルで忙しくなってきたので週一で上げることが出来ない可能性が出てきました。
なので、来週からは不定期になります。
未熟者ですがこれからもお願いします。


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第12話「休日・午前」

どうも、作者の運命の担い手です。
金曜に更新できなくすいませんでした。
リアルのほうで忙しなってきて本日やっと更新できます。
本当はもっと早く更新したかったのですが、疲労を解消するのに時間が掛かってしまいました。
長々となってしまいましたが、これからもよろしくお願いします。
では、どうぞ。


今日で入学まで一週間になった。打鉄二式は楯無さん、虚さん、本音の協力があって機体そのものはほぼ完成して、武装は現在制作中だ。やはり春休み中には完成は出来ないがIS学園が始まったら、整備科の先輩に手伝ってもらえるそうで、完成するのは四月の半ばになりそうだ。

で、俺は……

 

「なんでこうなったのだろうか……」

 

休日で(にぎわ)う街の中を歩いていた。家族連れ、夫婦、カップル、様々な人がいる。

なぜこうなったかというと思い返してそれは朝食中であった。

 

「さて、士郎君。あと一週間でIS学園に入ることになったわね」

「そうですね。あ、本音。しょう油取ってくれ」

「はいよー」

 

あと一週間か。参考書は何十回も読んだし、予習復習もばっちりだ。簪や本音にはISの知識や専門用語を教えてもらっているので大丈夫だ。

 

「それでね。街に出かけてみない?」

「え?」

 

確かに出かけたい。せいぜい見たといえば、病院(治療のため)とIS学園の中(見学のため)、この家に来る時の風景(移動中)だけだな。

しかし、出かけようにも俺は世界で二番目にISを動かした男だから街に出れば絶対注目されそうだ。まあそれ以前に身の安全のために家から出てはダメなんだがな。

 

「IS学園に入る前に街で遊びに行ってのびのびしたら。入ると学校の授業やら行事やら大変になるわよ」

「それもそうですね。ですが、行きたいのは山々ですが街に出たら目立つのでは?」

「そこは朝ご飯を食べ終えてからみんなで似合う服を選ぶのよ」

「はい?」

 

なるほど、変装と言うことか。それなら納得した。

それから朝食を食べ終えて俺の外出のための服装選びが始まった。

 

「おい、士郎。まずは俺が選んだ服を着てみろ」

「分かりました。少し待ってください」

 

最初は孝司さんが選んだ服を着てみることにした。

ん?これは……

 

 

 

「士郎君。着替えた?」

「着替えました。今行きます」

 

格好は青のスリーピース・スーツ。。ワイシャツやネクタイもブルーで統一感がある。

 

「孝司さん。確かにこれはいいですけど、なぜにサングラスまでかけるんですか?」

 

サングラスは金縁のレイバン・ティアドロップフレームだ。

 

「いやーこれはどっからどう見ても大門 〇介だな」

「西〇警察だったか!てか、何でさ!」

 

西〇警察は孝司さんたちが若い頃に放送していた刑事ドラマだ。前に孝司さんからDVDを見せられたから覚えている。

 

「なんで着る前から気付かなかったんだ俺は……」

「まあまあ、次は私の着てねー」

「分かった。まともだよな?」

「大丈夫だよ。私の一押しだから」

 

不安があるが、仕切り直して本音が用意した服に着替えるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからなんで俺は気付くかないんだ……」

 

格好は黒の革のジャケットにサングラス。そう。どこからどう見ても……

 

「思いっきりターミネーターだし……」

「だけどゆーみん。似合っているよ」

「さっきのと共通点はサングラスだし、ないけどショットガンだろ」

「「エアガンだけどあるぞ(よ)」」

「あるのかよ!」

 

その後も服選びが続いた。

楯無さんは迷彩服、虚さんは執事服、簪はアロハシャツ、沙織さんは特攻服、和也さんは浴衣、彩乃さんは魔法使い風のローブで(まと)って中にスーツ。

で、結局は本音のターミネーターの服装になった。サングラス付きで。まあサングラスは変装のためでもあるからいいか。

 

「せっかく街に来たからには遊ばないとな。ゲーセンやらどこかにも行こうか」

 

さて、どこに行くかな。時間は十時ちょうど。大体の店が開いてる時間だな。最初は雑貨にでも行くか。

 

「ん?」

 

この音は消防車か?どこかで何かがあったのか?

 

「行ってみるか。なぜか胸騒ぎがする」

 

音が鳴った方向に走って行った。

 

 

 

 

 

「これは野次馬が多いな」

 

場所は街の近くのマンションだった。そのマンションの八階の一室から火が上がっていた。

 

「消防車に救急車、パトカーはすでに着いているな」

 

消防車に乗っていた人は消火活動をしていて、救急車に乗っていた人はいつでも手当て出来るように準備をしていて、パトカーに乗っていた人は野次馬が火災現場に行かないようにして

いた。

 

「これなら心配ないはずなのだが……なぜこの胸騒ぎが収まらない」

 

心配はない。そのはずなのに胸騒ぎが収まらない。まさかとは思うが……。

 

「な、なんで私の部屋が燃えているの!?」

 

大きな声で叫ぶ女性がいた。燃えている部屋の住人か。年は大体沙織さんと彩乃さんくらいかな。

 

「あそこに娘がいるんです!助けてください!」

「もう無理ですよ、奥さん!火が回り過ぎている!」

「いや!離してください!あそこに娘が、娘がいるんです!」

 

やはりそうか、人が残っていたか!周りはただ見ているだけなのか!

 

「ち!行くしかないか。娘さんの名前は?」

「え、えっと、真美(まなみ)よ。助けに行ってくれるの?」

「はい。待っていてください」

「おい、こら君!」

 

警察官を振り切って一気にマンションの八階まで登った。

 

「ここだな」

 

燃えている一室の前に来た。八階の住人は全員に避難していて誰もいない。七階と九階の住人もないようだ。多分火の手が燃え移る可能性があるからだろうな。

 

「さて、覚悟はもう決めている。入るか」

 

ドアノブは熱くなっているのでハンカチを上に被せてドアを開けた。

 

「くっ!なんて熱さだ……!」

 

中は灼熱の地獄のように燃えていた。息をするだけで肺が焼けそうになりそうだ。

だが、この光景に似たことのを見たような気がするな。

 

「今はそれよりも女の子を助けるのが優先にしないとな」

 

燃え盛る部屋を探すとすぐに見つかった。

 

「大丈夫か!」

「う、うん。お兄ちゃんは誰?」

「真美ちゃんだね。俺は君を助けに来た。」

「ありがとう!そうだ。お兄ちゃんはなんて名前?」

「俺は……」

 

フルネームはまずいな。名前だけでいいだろう。

 

「士郎だ。さてここから早く出よう」

「うん!士郎お兄ちゃん!」

 

お兄ちゃんか。まあいいか。

 

「うおっ!?」

「きゃっ!!」

 

玄関までの廊下がさっきより燃えていた。無理に通ろうにも火の勢いが強過ぎて近づけない。

 

「お兄ちゃん……」

「大丈夫だよ。必ず出れるから」

 

参ったな。こうも強いとどうも出来ないな。だが、このままでは火に焼かれる。

どうすれば……

 

「ん?あそこは火が僅かだが弱いな」

 

目に映ったのは外のバルコニーだ。中よりは僅かだが火が弱い。

出れるのはここだけだが、ここは八階だ。ここを出たら地面に一気に落下して死んでしまう。だがここにいても死ぬのを待つだけだ。

なら、やるべき事はひとつしかない。

 

「真美ちゃん。今から言うことをしっかり聞いてくれ」

「うん」

「ここからバルコニーの外に出る。真美ちゃんは俺にしっかり捕まってくれ」

「で、でも、ここ八階だよ。死んじゃうよ」

「大丈夫。俺を信じてくれ。必ず家族に合わせるからな」

「……分かった。士郎お兄ちゃんを信じる!」

「ああ、信じてくれ」

 

真美ちゃんをお姫様抱っこをして距離を稼ぐ。あとは走るだけだ。

 

「いいかい?」

「うん!」

「それじゃ、行くぞ!」

 

燃え盛る部屋を一気に駆け抜け、バルコニーを超えて外に出た。

 

「ッ!」

 

重力に引っ張られて地面に落下していく。五秒もかからずに地面に着くだろう。

だが、このままではダメだ。ならどうすればいいか。それはとても簡単だ。俺にはISがある。地面に着く瞬間に無鉄の脚部を部分展開して衝撃を殺せばいい。そうすれば、俺も真美ちゃんも無事だ。注意すべきは部分展開を一瞬だけにすることだ。そうしないとたちまち俺の正体がばれる。後で面倒なことになるのは勘弁したいからな。

 

「今だ!」

 

無鉄の脚部部分展開!

 

ドサッ!

 

衝撃を殺し、即座に解除!

この間、実に0.3秒。

 

「真美ちゃん。もう眼を開けても大丈夫だ」

「ふぇ?もう着いたの?」

「そうだ。さあ、あそこにお母さんがいるよ。行きな」

「うん!ありがとう!」

 

真奈美ちゃんをおろして母親の元に走っていく。

 

「お母さん!」

「真美!良かった。ケガはない?」

「うん!大丈夫!」

 

いい光景だな。記憶はないけど、俺も父さんや母さんにあんな風に甘えていたのかな。少しだけでもいいから思い出したいものだ。

 

「真美!良かった、良かったよぉ……」

「お姉ちゃん、私は大丈夫だよ」

 

お姉さんもいたのか。さて、早くここから立ち去れないとな。

 

「君、なんて言うの!」

「凄かったぞ、少年!」

「感想を一言お願いします!」

「ユニバース!」

 

報道陣と野次馬がものすごい勢いでやってきた!てか最後の人、関係ないだろ!

 

「あ、待てぇー!」

 

すぐにこの場から逃げるように立ち去った。

 

 

 

 

 

「ふう……もう大丈夫だろ」

 

街に再び戻ってきて自動販売機から水を買ってのどを潤している。俺が金を持っているのはつい先日の打鉄二式に関係する。

打鉄二式の最大の武装、山嵐のマルチロックオンシステムをゼロから作るにも時間が掛かり過ぎる。そこで倉持技研から基盤になるプログラムを渡すように言ったのだが、機密情報なので渡すことができないと返事が来た。あの時、楯無さんが本気で倉持技研を潰す気だったから止めるのに大変だった。

そこで俺が作っていた狙撃銃を見せたら、売って欲しいと言ってきた。そこで交渉材料として俺の狙撃銃4種売り、倉持技研がマルチロックオンシステムの基盤になるプログラムを譲る事が出来た。狙撃銃は販売されるようになっていて、印税が俺に入ってくるようになっているので金を得ている。

通帳がなかったのですぐに孝司さんがしてくれた。

 

「ゲーセンか。気晴らしにはちょうどいいだろう」

 

近くにあったゲームセンターに入った。

 

 

 

「お、これで終わりか。なかなかいいものだったな」

 

シューティングゲームを全クリアをしてパーフェクトになった。ランクが一位になったのでイニシャルでY・Sと入れた。

他にもレースゲームでは最速のラップを出したり、ガンダムの最新ゲームで最高得点を出したりと好成績を残して、ゲームセンターをあとにした。

 

「さて、次はどこに行くかな」

 

公園に来て次は何をするかを考えていた。休日なので公園には家族連れが多くいる。

 

「そうだ。無鉄の情報を整理しておくか」

 

空間ディスプレイを出して、無鉄の情報を開いた。

機体性能は第三世代に近くなり、武装は俺に合わせるようにしていて充実してきた。能力(スキル)を確認する。投影に壊れた幻想(ブロークンファンタズム)のこの二つで他は……ん?まだあるみたいだな。どれどれ。

 

 

憑依経験

投影した武器を使っていた人の動きを再現するもの。例としては佐々木小次郎の物干し竿による燕返し。

 

 

…………凄いな、これは。これならすぐに一流になれるな。あれ?まだ書いているな。

 

 

注意

激しい動きをするので鍛えてない体だとすぐにケガをする恐れがあり。

 

 

そう簡単には使えないか。まあ、そんな都合の良い事はそうそうないからな。鍛えればいいだけだしな。

そうだ。投影した武器はどうなるんだろう。どこかに登録されているのか?

探しているとすぐに見つかった。

 

「…………………これは……。そういうことか……………。これなら納得だ……」

 

このことは誰にも言わないようにしよう。と言うのもなるべく見せないようにしよう。

 

「もうこんな時間か」

 

情報を整理していると時刻は午後一時を過ぎていた。少し遅いが昼食にするか。

 

「んー……。どこで食べるか……」

 

どこでもいいんだが、どこで食べたらよいやら。

 

「ん?」

「………………!」

「………………!」

 

街中を歩いている路地裏から何やら揉め事が聞こえてくる。

 

「はあ……。俺はお人好しだな」

 

少しだけ見てみるか。状況によっては仲介でもするかな。

 

 

 

 




休日は後二話ほど続きます。
IS学園に入る話は年が明けてからになる予定です。


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第13話「休日・午後」

全く関係ないですが今日は世界終末の日と言われていますね。
ですが、そんな予兆も感じませんね。

それでは、どうぞ!


どうしてこうなったんだろう。

私は五反田 蘭。街に遊びに行く事になっていて、近道の路地裏から入って少し進んだら明らかに不良と分かる男達、3人に絡まれた。

 

「なー、俺達と遊ばない?」

「君かわいいね」

「これから私、用事がありますので」

 

こういった不良はISが出て来たらめっきり減ったとニュースでやっていたけどまだいたんだ。

 

「そんなこと言わずにさー。いいじゃんな~」

「結構です!」

 

私が好きな人は一夏さんだけなんだから!なんでこんな人と遊ばないといけないのよ!

 

「いいから行こうぜ」

「は、離してください!」

 

手を掴まれるし!もうなんなの!この人達は!

 

「ッ!痛ってーな。このアマ……!」

「ひっ!」

 

強引に手を振り切ったら男の頬に当たってしまい、怖い顔になった。

 

「せっかく親切にしているのによ。たく、これだから女は面倒だ」

「あ、あの……」

「あーイライラするな!一回ぶったんだから俺もぶっていいだろ?」

「あの、その……」

「それじゃー殴りまーす!」

「ッ!?」

 

殴られる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?なんで殴られてないんだろ?

 

「な、なんなんだ、テメー」

「ただの通りすがりだ。気にするな」

 

目の前に服が黒一色の男の人がいた。

 

 

 

 

なんとか間に合ったな。目に入ったのが女の子が殴られそうになったから思わず出てきてしまった。まあいいか。

 

「な、なんなんだ、テメー」

「ただの通りすがりだ。気にするな」

 

今時(いまどき)こんな不良がいるとは珍しいな。カメラがあれば撮っておきたいものだ。

 

「男としては女の子を殴ろうとするとは褒められたことではないな。全く、恥ずかしくないのか?」

「うるせーな!テメーには関係ねーだろ!」

「騒がしいな。そんな大声で言わずとも聞こえているぞ。怒りやすいのはカルシウムが不足しているからだぞ。牛乳を飲むか煮干しを食べた方がいいぞ。ちなみにだが煮干しのほうがカルシウムは多いぞ」

「やかましい!テメーから痛い目に合わせてやる!」

「はあ……。さっさと来い。こちらとしては時間を有効に使いたいからな」

 

金属バットに鉄パイプ、木材にナイフか。動きが素人だな。

 

「あ、あの!」

「下がっていてくれ。巻き込まれるぞ」

 

赤毛の女の子に被害がないようにしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐは!」

 

ドサ!と最後の一人が倒れる。これで全員だな。三分もかからなかったな。

 

呆気(あっけ)ないな。あれほど(いき)がっていたのにな」

 

さて、こいつらを交番届けるか。面倒だから引きずっていくか。

 

「あ、あの!」

「ん?」

「助けてくれてありがとうございます!」

「なに、当然の事をしたまでだ。そちらはケガはしていないか?」

「大丈夫です!」

「なら良かった。ケガでもしたらせっかくのかわいい顔が台無しになるからな」

 

女性の顔は命とよく言うからな。あざでもできたらまずいからな。

 

「あの、お礼させてください」

「別に気にしなくてもいい。こっちが勝手にした事だ」

「なんでもいいので」

「うーん……」

 

どうしたら良いやら。

 

 

ぐぅ~~~~~ん

 

 

「あ」

 

まだ昼食を食べていなかったな。なら。

 

「ここら辺に食堂はないか?ここの街には詳しくないのでな」

「あ、あります!付いて来てくださいね!」

「頼む。その前にこれを運んだあとでいいか?あと交番はどこだ?」

「こっちです!」

 

交番に不良共を渡し、赤毛の子を先頭に案内をしてもらった。

 

「ここか」

「はい!」

 

店の名前は五反田食堂と書いていた。

 

「ささ!入ってください!」

「そうだな」

 

中に入ると客は一人もいなかった。ピークが過ぎているからだろう。

 

「いらっしゃませ!ってなんだ蘭かよ。どうした忘れ物か?」

「違うわよ。お客さんを連れて来たのよ」

 

ここのメニューはどれもおいしそうだな。さて、どれにするか。腹は空いているし早く決めるか。…………よし。

 

「注文いいか?」

「あ、はい。大丈夫です」

業火(ごうか)野菜(いた)め定食を頼む」

「じいちゃん!業火野菜炒め定食ひとつ!」

「あいよ!」

 

軽く鋭い包丁の音が響き、野菜を炒める音を聞きながら料理を待つことにしよう。

 

「それより、なんで蘭は戻ってきたんだ?」

「えっと、その……」

「そこは俺が説明しよう。路地裏で不良共に絡まれていたんだ。そこで俺が助けた。で、腹が空いていたのでいい店がないかと聞くとここに案内されたのさ」

「それは災難だったな蘭。ありがとな、うちの妹を助けてくれて」

「いや、当然の事をしたまでだ」

 

ん、妹?ひょっとすると……

 

「二人は兄妹なのか?」

「はい!あ、まだ自己紹介していませんでしたね。私は五反田 蘭です。名字で分かると思いますがここが実家なんです」

「俺も自己紹介した方がいいか。俺は五反田 弾。こいつの兄です」

 

よく見ると顔の輪郭が少し似ているな。虚さんと本音も輪郭が似ているな。

 

「弾!出来たぞ!」

「おう!今行く!」

 

運び込まれた定食に目立ったのが野菜が豪快にあった。野菜を豪快に入れ、業火に焼くということか。二重の意味だったか。

まあいいか。こちらは十分に腹が空いているな。さて、熱いうちに頂きますか。

 

「おい、坊主」

「なんでしょうか」

「食う時はサングラスを外しな」

 

困ったな。サングラスを外すと間違いなくばれる。だが、食べる時ぐらいは外すのはマナーだし……仕方がないここは腹をくくるか。

 

「分かりました。ただし、叫ばないでください」

 

さて外すか。

 

「え!ウソ!?」

「マジかよ……!」

 

どうやらこの兄妹にはばれたな。店主の爺さんは分からないようだが。

 

「自己紹介がまだだったな。弓塚 士郎だ」

 

 

 

 

 

俺は今、絶賛パニック中だ。

蘭が連れてきたのが親友の一夏と同じくISを動かした弓塚 士郎だったとは………。

あーなんて言えばいいんだ!

えーい!なんか言えばいいだろ!俺!

 

「弓塚さんは今日は何をしてたんですか?」

「お忍びで街に遊びに来ていてな。それよりも年は俺と同じだろ?敬語はなしにしてくれ」

「じゃあ、士郎って呼んでいいか?」

「別にいいぞ。俺は記憶がほとんどないから一人でも多く友達はいた方がいいからな」

 

そういや、ニュースでも記憶喪失になっているって言ってたな。

 

「俺達は今日から友達だな、士郎」

「そうだな。よろしく、弾」

 

お互い手を出して握手をした。

 

「わ、私もお友達になっていいですか!」

「もちろんだ。そうだ、せっかくだからアドレス交換しないか?」

「おういいぜ!」

「はい!」

 

そんじゃ、さっそく「おい坊主」ん?どうしたんだじいちゃん。

 

「お前さんが有名なのは分かったが、飯食わねえのか?」

「そうだった。これは失礼。早速いただきます。弾、蘭、食べ終えてからでいいか?」

「いいぜ。焦ることでもないしな」

「もちろんです」

 

定食を食べ終えてアドレスを交換して三時過ぎるまで色んな話をした。

 

 

 

 

 

 

「今日は一日で色んな経験をするとは思わなかったな」

 

午前はいきなり火災現場で人命救助して、ばれないために逃げて、午後は路地裏で不良に絡まれている女子を助けて、昼食をする所が俺よりISを先に動かした織斑 一夏の友達の家とは驚きだな。店主の厳さんが作る料理は学ぶべきものが多いな。今度は行く時は教えてもらおうかな。

 

「満喫できたからいいか。買いたい物も買えたしな」

 

手に持つレジ袋には本がある。英雄の話や武器に関する本、ISができてから世界がどう変わったと言う本などがある。漫画本もあるが大体買ったのは英雄の話が多い。英雄達が生き様は憧れを持つものがある。大概、英雄の最後はハッピーエンドはなくてもやりとうしている。結末は変わらなくても最後まで成そうとする姿に俺は憧れている。

 

「しかし、時間を一時間ばかり過ぎてしまったな」

 

五時までには戻るように言われていたが本を選ぶのに夢中になっていて五時を過ぎてしまった。メールで一時間ほどで帰ると送信したから大丈夫だろう。

 

「ん?なんだ、あの車は?」

 

家の前には黒い車が三台止まっていた。普段は用事がある人は専用の駐車場に止めているはずだがなぜある?

 

「嫌な予感がするな。どこからかこっそり侵入して様子を見るか」

 

まさかこの時、俺の予想を超えていたことが起きていようとは思わなかった。

 

 

 

 



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第14話「休日の終わり」

皆さん。あけましておめでとうございます。
こんな未熟者ですが努力し続けます。
それでは、遅くなりましたがどうぞ!


塀を乗り越え、草むらに隠れ、音を出さずに玄関付近を移動すると目に映ったのは―――

 

「何がどうなっているんだ?」

 

黒い服を着た男達に孝司さん、沙織さん、和也さん、彩乃さん、虚さん、本音が囲まれ、親分みたいな男に簪が銃を頭に押し付けられ、楯無さんが親分みたいな男に銃を向けていた。

 

 

―――ことの発端(ほったん)は数分前―――

 

「アポなしに訪問とはどういう用件かしら?」

 

夕暮れになり、そろそろ母さん達と夕飯を作ろうとしたら突然、インターホンが鳴り、虚ちゃんが出るとそこには幹部の一人、雪原(ゆきはら)健蔵(ごんぞう)と部下数名がいた。

 

「当主、まずは非礼(ひれい)をお詫びします。何分(なにぶん)、早急のことがありますので」

「早急のこと?」

 

母がまだ当主だった頃はあったのだが、私が更識当主となってからは一度もなかった。

 

 

 

「それで、早急のこととはなに」

「それはですね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当主の座を私に譲ってはくれませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を言っているのあなたは。頭でもおかしくなったの」

「いえいえ、私はおかしくなっていませんよ」

 

正気の沙汰とは思えないわ。

 

「今日のことは後日決めるわ。さっさと帰りなさい」

 

はあ……ようやく落ち着いてきたのになんでこうも厄介事が起きるのかしら……。

 

「そうですか。仕方ありませんが少しばかり強引にさせていただきます」

 

一体何を……

 

「お、お姉ちゃん……」

「簪ちゃん!」

 

雪原の部下の一人が簪ちゃんの頭に銃を突きつけられていた。

 

「雪原!あなた、こんなことをしてただじゃすまないわよ!」

「そうですね。ですが、それよりあなたは周りをよく見えてないのでは?」

「?……く!」

 

いつの間にか雪原の部下たちが私以外に銃を向けていた。そう、虚ちゃん達に。

 

「まあ、このままでは気まずいでしょうし、外に出てお互い頭を冷やしましょう」

「…………そうね」

 

とりあえず従いましょう。下手に動くと簪ちゃんも虚ちゃん達も危ないし。(さいわ)いなのはここに士郎君がいないことね。さっきメールで遅れるときたから時間はまだ大丈夫ね。

 

「春に近いというのに夕方になると寒くなりますな」

「ええ」

 

移動して外に出て玄関付近にいる。明かりは一つもない。警戒しているのか、何も触っていない。

 

「さて、このまま外にいるとお互い体に(さわ)る。答えは考えてくれましたか?良い答えを期待していますよ」

 

雪原は今、簪ちゃんに銃を頭に突きつけたまま聞いてくる。移動する際部下と変わった。

 

「ええ。答えは…………これよ!」

「ほう……」

 

懐にしまってあった銃を雪原に向けた。

 

「ずいぶん物騒な答えですな」

「まあね。けど、余裕にしていられるのも今のうちよ」

「なに?」

「分からないのかしら。すでにスナイパーがあなたたちの頭に狙いを定めているのよ」

 

こんなのは嘘。本当はいない。最悪なことに今日は早目に部下たちを帰している。

 

「どうする。今なら五体満足で二度と外に出れないけど生きていられるわよ」

「………………………………」

 

お願い。とにかく今は退いて!

 

「ふ……ふふふ………ははははははははははは!」

「あら?気でも狂ったの?」

「はははっはははははは!くくく………実に面白いことを言いますね」

「なにをかしら?」

「いるはずないでしょ。スナイパーなんて」

「ッ!?」

 

ばれているの!?

 

「情報は常に武器ですからな。ここに入る前に分かっていた事ですよ」

 

私としたことが……!少し考えればこんなこと分かっていたのに!

 

「もう一度聞きます。当主の座を私に譲ってはくれませんか?」

「……………………」

 

一体どうすればいいの。く!私がもっとしっかりしていればこんなことには!

 

 

「ぐっ!」

 

虚ちゃん達を囲んでいた男の一人が苦痛な声を上げた。

 

「おい、どうした!」

「分かんねえ……手に何かが刺さった……!」

 

男の手に刺さっていたのは―――

 

「矢?」

 

なぜ矢があるかが全然分からなかった。

 

「ち!」

「いてぇー!」

 

続いて二人目三人目と当たっていく。

 

「もしかして……」

 

雪原の部下たちが混乱する中、私は家に帰ってきていない彼だと直感した。

 

 

 

 

 

 

洋弓に矢を添えて構える。

風は東から微風あり。視界良好。狙うは片手の甲。

 

「ふっ!」

 

矢は吸い込まれるようにまた男の手の甲に突き刺さる。

 

「う!」

「くそっ!さっきからどこから狙っているのか分かんねえ!」

「早く見つけろ!これ以上時間はまずい!」

 

俺がいるのは家の屋根の上である。ここなら視界が開けてよく見える。

この洋弓と矢は無鉄の投影から出来た物だ。ISのサイズから人に合うサイズに調整したので問題なく使える。

 

「さて、いちいち一人づつ狙うのは時間を食ってしまう。まとめて仕留める!」

 

再び洋弓に矢を添えて構える。しかし、矢は先程までとは異なる。

 

「ふぅ……………」

 

違いは単純に矢の数だ。通常、弓は矢一本でするのだが、手には六本ある。矢一本で集中しないといけないのだが、このままだとこちらの場所が知られたり、簪に危害が及んでしまうのでやったことのない六本をすることにした。

 

全神経を六本の矢に集中させ、溜めを長くする。それにより限界までに引き絞った弦は目標とする手の甲により正確に、より精密に当てるようにより力を増した。

 

問題はタイミング。

今に放つと目標がずれる。そのずれが生じると簪たちに当たる可能性が出てしまう。

故に狙いは風が止まる瞬間。

その一瞬をただひたすら待つ。

 

ヒュゥ…………

 

「!」

 

風が一瞬()む。今しかない!

 

プヒュ!!!!!!

 

六本の矢は思い描いた理想のように飛び、

六人を男の片手の甲に吸い込まれるように―――

 

「ぐっ!?」

「がっ!?」

「な!?」

「っ!?」

「む!?」

「いっ!?」

 

―――全て突き刺さる。

 

 

 

 

 

 

次々と雪原さんの部下たちが手に矢が刺さり無力化されていく。

 

「くそ!一体どこのどいつだ!こんな明かり一つもないのに正確にやる奴は!」

 

そう。玄関前にいるけど明かり一つもない。なのに手だけを正確に狙っている。

 

「ちくしょう!姿を見せやがれ!」

 

私は一人目に矢が刺さったときにすぐに分かった。

 

「見せろと言われても、私はここにいるぞ」

 

 

声が聞こえた方向を見ると雲が晴れ月明かりを(まと)った士郎がいた。

 

 

「てめぇー!」

 

雪原さんは私に銃を押し付けていたのを士郎に向けた。が―――

 

「ふっ!」

「ッ!?」

 

銃を持っていた手に矢が刺さり銃は地面に落ちて、その隙にお姉ちゃんの所に逃げた。

 

「簪ちゃん!大丈夫だった!」

「うん」

「良かった……。今からあいつにキツイことさせるから」

 

なんだかお姉ちゃんと仲直りしてから私にベッタリだと思うんだけど気のせい……じゃないよね。確か虚さんがお姉ちゃんはシスコンだって言ってたし。

 

「帰ってきたら早々物騒なことになっているとは驚いたぞ」

「士郎ありがとう!」

「おわ!」

 

いつの間にか士郎が屋根から降りていた。つい士郎に飛びついてしまった。み、みんなが見ているけどだ、大丈夫//////

 

「飛びつくぐらい元気があるならどこもケガはしていないようだな」

「うん。けど頭はちょっと痛いかな。銃を押し当てられた所が」

「え!あいつの金玉を金属バットで潰す!!!!」

「楯無さん落ち着いてくれ。女性には分からないがそれは男として想像を遥かに超える痛みだから別なことにしてくれ」

 

士郎、少し顔青いよ。どうしたのかな?あれ?お父さんと和也さんもなんだか顔が青くなっているような。

 

 

 

 

 

 

全くこの人は。仲直りしてからは楯無さんは簪にベッタリだ。少しは自重してもらいたいものだ。

 

「う……く……」

「ん?」

 

簪に銃を突きつけた男がなにかしようとしている。

 

「せめてひとりだけでも……!」

 

嫌な予感がする。……まさか!

 

「このおおおおおおお!!」

「ち!」

 

無事な左手でポケットからデリンジャーを取り出した。銃の先には簪がいた。

俺は簪の前に出て()()から唯一の盾を出した。

 

カン!

 

「は?」

 

弾は盾に阻まれ、形状が歪み、地面に落ちる。

 

「ふん!」

「があああああああああ!!」

 

すぐに男の左腕を思いっきりへし折った。ふん。これくらいの報いを受けて当然だ。

 

「よくやった士郎。後は俺たちでやる。お前らは家に入っていろ」

「後始末は任せておけ。なに、お前は十分すぎるくらいやっているからな」

 

孝司さん、和也さんはどこかに連絡をして手伝うかのように沙織さん、彩乃さんも後に続いた。

 

「大人に任せて家に入りますか」

 

草むらに隠していた買ってきた本を回収して家に入った。

 

 

 

 

 

 

「さっきはありがとう士郎君」

「あなたがいなければ私たちはどうなっていたか」

「ゆーみん凄かったね!ピュン、て手に刺さって来るから驚いたよー」

「けど、よく見えたね。暗かったのに」

「まあ、暗闇にいれば目が慣れてくるし、今日は風があまりなかったから苦労はしなかったな」

 

茶の間で少し遅い夕飯を食べている。孝司さんたちはまだ掛かるらしく戻ってきていない。

 

「所でゆーみん何買ってきたのー?」

「マンガ本やIS関連の本。あとは英雄たちの話だ」

「どーゆーの?」

「まあ色々あるが。例としてはヘラクレスやアーサー王のことだ」

「よく分かんないー」

「試しに読んでみるか?」

「なるべく分かるもので―」

「了解」

 

アーサー王のことは大体知っているはずなんだが。本音だからしょうがないか。

 

「そういえば士郎君。弓と矢はどこから持ってきたの」

「あれは無鉄の投影から出来た物ですよ。いつも倉庫の地下で練習していましたし」

「へぇー。便利な能力ね」

「確かにそうですね。投影はほとんどエネルギーを消費しませんし、壊れたらまた作ればいいだけですから」

「聞いていたら武器がたくさん作れそうね」

「そうなんですが、まだ完全には使いこなせていないんですよ」

「以外ね。例えば」

「んー。アーサー王が使っていたエクスカリバーやクー・フーリンのゲイ・ボルクを投影してもすぐに壊れてしまったり、壊れなくてもただの強度の強い物なってしまたり、真名を詠唱する「真名解放」によりその能力を発揮し、伝説における力を再現するはずなんですがしない可能性が高いと思うので。中には真名解放を行わなくとも、武器の特殊能力の力を帯びている、常時発動型の武器も存在すると思われます」

「そうなの。さっき真名解放、て言っていたけどそれって新しい能力(スキル)なの?」

「はい。今日の昼に無鉄の情報を整理していたらいつの間にかありました」

「多いわね。一つのISには能力は大体一つなのに無鉄には三つもあるなんて」

「てんこ盛りだー」

「私はまだ完成していない……」

 

しかし、なんで伝説の武器だけがうまく投影出来ないんだ。史実道理に再現できてもすぐに壊れたり、ただの強度の強い物になってしまうんだ。

俺に問題があるのか。ま、問題ではあるが出来る物もいずれあるはずだ。

 

そんなこんなで夕飯は過ぎて風呂から上がったころにようやく孝司さんたちが戻ってきた。時間は十時を過ぎてきたので軽く作ってあげた。

で、時間が過ぎて時刻はいつの間にか十二時を過ぎていた。

 

「そろそろ寝るか」

 

とんとん

 

「ん、誰だ?」

「わ、私……」

「簪か。どうした?」

「部屋入っていいかな」

「いいぞ」

「ごめんね。こんな時間に」

「別に構わん。しかし、珍しいな簪が夜中に来るのは」

「ちょ、ちょっと頼みたいことが……」

「頼みたいこと?」

 

一体なんだろうか。二式のことかそれとも武装についてか。

 

「ね……」

「ね?」

「寝ていいかな……一緒に……///」

「……………は?」

 

今簪はなんて言った。一緒に寝るだと……

 

「いや、それはさすがに無理だ」

「え?」

「う……」

 

何故に目が潤んでいるんだ。そこまで一緒に寝たいのか。

 

「今日あんなことあったでしょ。それで怖くて……」

「あー……」

 

確かにあんな目にあったら誰だって怖いはずだ。

 

「ね、お願い……」

「いや、だが、しかし……」

 

もし寝たら、翌朝にはバッドエンドが待ち受けることになる。それは阻止したいんだが……。

 

「うう……」

 

どうすればいいだ。

 

バン!

 

「ゆーみん一緒に寝ていいー!」

「ほ、本音!?」

「頭が痛くなってきた……」

 

もうこれはダメな気がしてきた。

 

「お前もなのか……」

「へ?あ、かんちゃんも?」

「う、うん」

「ゆーみんいいよね」

「はあ……分かった、分かった。一緒に寝ていいぞ」

「わーい!」

「ありがとう///」

 

俺の布団は大き目になのだが……。

 

「さすがに三人は少し狭いな」

「そうかなー?」

「私は大丈夫だよ」

 

それよりも問題なのはなぜ俺は簪と本音に挟まれて寝ないといけないんだ。

 

「ふわー……もう寝るね。お休みぃ……」

「え?おい、本音」

「すぅ……」

「簪寝るの早!」

 

こうも密着しては男の俺として寝辛いな。女子の間に寝るとは思いもしなかった。

 

「とにかく落ち着て俺も寝るか」

 

意外とすんなり寝つけた。

 

 

 

 

翌朝のこと忘れて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




投稿が遅くなってすいません。
リアルがマジで忙しくなっていたので執筆が遅くなって年が明けてしまいました。
IS学園にはあと一話挟んで入ります。
それではみなさん。良いお年を。


あ、そうそう。デリンジャーとは小型の拳銃のことで大きさは手の平サイズであり、ポケットにも収まるくらいです。


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第15話「墓参り」

今日から安定した週一の投稿が出来ます。
まあ昨日風邪で寝込んじゃいましたけど。
そんなこんなで始まります。どうぞ!


あれから一週間経った。

雪原と言う幹部は処分したと言っていた。

どういう処分にしたかまでは聞いていない。てか聞きたくない。

 

この一週間何かあったといえば、無鉄を開発した企業から連絡があった。

なんでも挨拶に来てとか無鉄はどうですか?などをあれこれ聞かされた。

だが、最後にとんでもないことを言われた。それは後日に言おう。

 

あとはないな。

 

え?簪、本音と一緒に寝た朝どうだったって?あれはやばかったぞ。

 

 

 

―――回想―――

 

 

翌朝。

 

「んー……。良く寝た」

 

今日は遅めに六時半に起きた。素振りくらいはできるな。

 

「さて起きるか、て体が動かん」

 

よくよく見ると簪と本音が腕にしがみ付いて寝ていた。これじゃ、動けん。

 

「おい。簪、本音起きろ。朝だぞ」

 

片腕が動けばいいんだがしがみ付いて寝ているので声でどうにかするしかない。

 

「おいってば。……はあ、だめだ。全然起きる気配がない」

 

こんなところを楯無さんに見つかったらバッドエンド一直線だ。

 

「士郎くーん。いるかなー?」

 

なんでこんな時に来るんですかあなたは!

 

「いるのかなー?開けちゃうぞー?」

「ちょ、ま……!」

 

時すでにお寿司。じゃなくて遅し。

楯無さんが布団を見た。当然簪と本音が見える。

 

「……おはようございます」

「……ええ、おはよう」

 

やばい。笑顔だけどオーラみたいなのが見える。

これ以上悪化させないように……。

 

「お嬢様、士郎さんの部屋で何…を……」

 

ガッデム!なぜここまで悪化するんだ!

ほれ見ろ。虚さんの後ろに般若が見えるぞ!

 

「「「………………………………」」」

「「すぅ……すぅ……」」

 

聞こえるのは簪と本音の寝息だけ。

 

 

考えろ、考えろ!両腕には簪と本音がしがみ付いている。正面には楯無さんと虚さんがいる。

ここはまず―――

 

 

バリ!←上半身のパジャマのボタンを手で一気に裂く

 

シュッ!←上半身のパジャマをパージする。これで簪と本音から離れる

 

ババ!←ハンガーに掛けてあるジャンパーを羽織る

 

ダッ!←ポカンとしている楯無さんと虚さんの間から抜け、逃げる

 

 

―――この間、1.5秒!はて?最近こんな早業やって気がするのだが?

それより逃げるが優先!

 

「「…………待てえええええええええ!!!!」」

「誤解だああああああああああああ!!!!」

 

これが本当の逃走中だ!

 

すぐに孝司さんと和也さんがなんと参戦したのだ。孝司さんは真剣を振り回し、和也さんはいつも無表情なのだが、怒っているように見えて、無言で拳を振るった。

しかし、意外にもこれは15分だけだっだ。騒ぎを聞きつけた沙織さんと彩乃さんが収めてくれたから良かった、本当に。

騒ぎを起こした楯無さんと虚さんは道場で朝ご飯抜きの正座を5時間。参戦した孝司さんと和也さんは朝ご飯抜き外の壁を背に空気椅子5時間。

で、俺と簪と本音はお咎めなし。静かな朝ごはんだった。

教訓としては騒ぎ過ぎるときつ過ぎる罰があると言うことだ。

 

 

そして明日はいよいよIS学園に行く日だ。準備は大丈夫だ。あらかじめに持って行くバックなどに教科書類を入れている。

紙には書いていなかったが恐らく、入学してからは家から通うのではなく寮に入らせるつもりだろうから着替えや娯楽品を入れている。

やることはやっているので今現在は何もすることがないので部屋でアーサー王伝説を読んでいる。

 

「無鉄は整備済み、打鉄二式は機体そのものは八割完成して武装は「山嵐」を除いて完成してテストをするだけ。準備はすでにしているからなし、と。まあいいか」

 

あとで簪と本音と一緒にゲームするかな。

 

「おい士郎、今暇だな」

「なんの脈略も無く現れてなんですか?」

 

こんなふうに時々、孝司さんは来る時がある。そのせいで最近、今のように現れて簪の後ろにいたから簪が予備動作なく腹に思いっきり肘打ちをした。それ以来、簪にはしていない。

 

「暇ですけどなにか用ですか?」

「まあな。お前は明日から簪たちとIS学園に入るだろ。しばらくは戻ってこれないことぐらいは分かっているからお前を連れて行きたい所があるのさ」

「どこですか?」

「墓参りだ」

「誰の?」

「…………お前の両親のだ」

「……え?」

 

しばらく思考が停止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがそうなんですか」

「ああ、そうだ」

 

孝司さんと車で20分。場所は墓地。平坦な所で周りにも当然他所の墓がある。

 

「この墓はお前の爺さん、弓塚真二郎(しんじろう)が建てたんだとさ」

「そうですか……」

 

資料では知っている。父さんと母さんの交際には反対していたと。だから父さんと母さんは駆け落ちして住み慣れた町から離れた。本当なら駆け落ちした日には婚約者を紹介する予定だったそうだ。

俺の祖母である弓塚千佳(ちか)は父さんが10歳の頃に亡くなっている。

 

「墓の掃除は生前お前の両親を慕っていた人たちでやっているそうだ。おかげできれいだろ」

「はい」

 

見てて分かる。隅から隅まで掃除がしていることが。父さんと母さんはどれほどまでに慕われていたかがよく分かる。

 

「うんじゃ、俺はそこいらで散歩している。戻ってくるまで報告しておけよ」

「分かってますよ」

 

孝司さんはタバコに火を付け、気ままに散歩しに行った。

 

「さて、何から言えばいいかな?」

 

まずは俺が記憶喪失だということ言うか。

 

「実はな、父さん、母さん。俺は―――」

 

色んな事を話した。記憶がないこと、ISを動かせること、更識家の人のことも。他にもたくさん。それからは時間はあっという間に過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんじゃ、そろそろ夕暮れだ。帰るとするか」

「はい」

 

辺りが暗くなってくる。少し名残惜しいがまた来ればいい。

 

「じゃあ、父さん、母さん。俺、明日からIS学園に入るから少し来れないけど、また来るから」

 

立ち上がって先に行っている孝司さんのあとに付いて―――

 

 

 

 

 

 

 

―――行って来い。

 

―――行ってらっしゃい。私と悟郎さんの愛する息子、士郎。

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

咄嗟に振り向くとそこには父さんと母さんの墓があるだけ。周りは誰もいない。

 

「おーい!ぼさっとしていると置いて行くぞ!」

「あ、はい!今行きまーす!」

 

幻聴かもしれない。気のせいかもしれない。だけど、確かに俺は聞こえた。

 

「行ってきます。父さん、母さん!」

 

行こう。明日はIS学園だ。

 

 

 

 




来週からはようやくIS学園になります。
問題なく書けているんですけど一つ考えていることがあります。
それは新刊のIS八巻が出るので七巻以降どうしようかなと思っています。
まあそれは八巻を買ってから考えます。

夜に設定を上げる予定です。


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設定

紹介するのは主人公とそのISです。
最新話で見た人は1つ前に戻ってください。


名前 弓塚(ゆみづか) 士郎(しろう)

 

性格 温厚で友達思い

 

趣味 神話や英雄などを調べること、体を鍛えること、料理

 

好き 神話や英雄などの話

 

嫌い 食べ物を粗末にする人、人の心を傷つける人

 

食べ物にきらいな物はない

 

父は弓の名手で、母は考古学者。十年前、事故で行方不明であったがIS学園に漂流したことで発見される。行方不明になっていた十年間の記憶をほとんど失くしてしまったが断片な事は覚えている。

今正確に思い出せることは自分の名前だけである。自分が十年間何をしていたのかを思い出しながら、IS学園に通う。

楯無の情報によれば世界のいくつかの所で姿が確認されているが詳細は不明。

 

父は悟郎。母は美樹。

 

今の所、思い出したのはISを整備や改造ができ、料理ができること、彼女がいるということ。しかし、いるというだけで名前どころか顔さえ思い出せていない。

 

 

 

IS 無鉄(むがね)

 

第二世代

 

打鉄のプロトタイプ。形はほとんど打鉄だが色は違う。武装は日本にちなんだ武装が多い。当初は期待を寄せられていたが起動しなかった。何人も乗せてみたが起動がしなく、試しに千冬が乗っても起動しなかった。解体して別なISにしようとしたがなぜか解体ができなくなり、IS学園で保管することになった。

しかし、士郎が触れると起動したので以後、士郎専用のISとなる。

現在、士郎の手によって改造が施されて、性能が最初より上がっており第三世代同等になった。武装も士郎が使いやすいように変更されている。

なお、なぜ士郎だけに反応するのかは不明。

 

 

武装

近接ブレード 刀、薙刀、槍、双剣など

射撃武器 弓、矢(何種類かある)、火縄銃

 

 

 

能力(スキル)

 

投影

ISの武器など(銃以外)は問題ないが神話や英雄が使っていた武器はすぐに壊れてしまったり、壊れなくてもただの強度の強い物になる。

一度見た武器、特に剣刀類であるのならば複製する事の出来る能力。

 

壊れた幻想(ブロークンファンタズム)

投影した武器を爆発させる。

 

真名解放

真名を詠唱しその武器の能力を発揮し、伝説における力を再現する。中には真名解放を行わなくとも、常時発動型のも存在する。

しかし、完璧に投影しても発動しないことがある。原因は不明で試行錯誤を幾度も繰り返している。

 

憑依経験

投影した武器を使っていた人の動きを再現するもの。使用上の注意としては激しい動きが多いので生半可な体だと大怪我の恐れあり。

 

 

待機状態 

赤い勾玉

 

 

 





ではまた来週。


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第16話「IS学園」

ようやく今回から本編が始まります。
これも皆様のおかげです。
では、どうぞ!


入学式も終わり、それぞれ新入生は自分のクラスに行き、先生が来るまで待機する。

俺は1組になって本音もそうだ。簪は4組になった。

で、今現在、俺はいまだかつてないほどの空間に包まれている。

 

『……………………………』

 

それもそうだろ。なにせこの1組には俺と先に動かした織斑一夏がいるのだからな。

 

「皆さん入学おめでとう。私は副担任の山田真耶です」

 

シーン………………

 

すいません。返事したくてもこの空気じゃ無理です。

 

「あ、え、えっと……今日から皆さんはここ、IS学園の生徒です。この学園は全寮制。学校も放課後も一緒です。仲良く助け合って、楽しい三年間にしましょうね」

 

シーン………………

 

誰か一人でも言ってくれてもいいだぞ。俺は無理だが。

なんとか平常心でいられるが織斑一夏のほうはガチガチになって(うつむ)いている。

 

「……くん。織斑一夏君!」

「は、はいっ!?」

 

緊張していたせいか呼ばれたことに驚いて大きな声で返事をした。それを何を勘違いしたのか何度もぺこぺこと頭を下げている。恐らく、怒っているのかと思っているのだろう。

少しやりとりをして織斑一夏は席を立ち、後ろを振り向く。

 

「えー……織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

おいおいそれだけか?何か言った方がいい。ほら、クラスの女子(ほぼ全員)が他にはと言わんばかりに見ているぞ。

 

「はー……すー……」

 

意を決したのか深呼吸をして―――

 

「以上です!」

 

がたたたた!

 

締めくくった。今ので俺以外全員コケたぞ。

 

「あれ?ダメでした?」

 

ダメだろ。せめて趣味を言えばいいのに。そうこうしていると誰かが入ってきた。そして―――

 

パアンッ!

 

「いっ―――!」

 

織斑一夏の頭に出席簿で叩いた。てか千冬さんだったのか。よく出席簿であんな音出せるな。

 

「げえっ、レヴィ!?」

 

パアンッ!

 

「誰が銃を二丁使う海賊だ」

 

言われてみれば、千冬さんの声似ているな。あながち間違いじゃない気がする。

 

「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」

「ああ、山田君。クラスのあいさつを押し付けてすまなかったな」

 

あれ?織斑一夏がポカーンとしているな。そう言えば、千冬さんがIS学園で教師をしていることを知らなかったんだったな。

 

「い、いえ。副担任ですから、そのくらいはしないと……」

 

なんで教えないのだろうか?まあいいか。

 

「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年を使いものになる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことをよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五才から十六才までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」

 

それは軍での言い方ではないだろうか。

だが、そんなことでは気にもしない女子たち。

 

「キャ―――――!千冬様、千冬様よ!」

 

なんて大きい声だ!鼓膜が破けそうだぞ!

 

「ずっとファンでした!」

「恐れ多くてお顔を見られません!」

「私、お姉さまに憧れてこの学園に来ました!北九州から!」

「あの千冬様にご指導していただけるなんて嬉しいです!」

「私、お姉さまのためなら死ねます!」

 

「……毎年、よくもこれだけの馬鹿者が集まるものだな。感心させられる。それとも何か?私のクラスだけバカを集中させてるのか?」

 

しょうがないと思うな。なにせ、元世界最強だ。期待を込めてそうさせていると思う。

 

「キャあああああっ!お姉さま!もっと叱って!罵って!」

「でも時には優しくして!」

「そしてつけあがれないように躾をして~!」

 

黄色い声の旋風がいまだに鳴りやまない。他の組の先生は抑え込むのに必死だろう。

 

「で?思えは満足に挨拶もできんのか、お前は」

「いや、千冬ねえ、俺は――」

 

パアンッ!

 

これでもう三度目だ。あいつの頭は大丈夫か?俺もあんな風にならないよう織斑先生、山田先生と呼ばないとな。

 

「織斑先生だ」

「……はい、織斑先生」

 

このやりとりで教室中にバレたな。

 

「え……?織斑くんって、あの千冬様の弟……?」

「それじゃあ、男でISを使えるっていうのも、それが関係して……」

「でもあっちの男の人はなんでだろう?」

「さあ?」

 

俺が聞きたい。だけど反応するのは無鉄だけだ。

 

「はあ……もう一人の男子。自己紹介をしろ」

「はい」

 

もう一人の男子とは俺しかいないな。

 

「弓塚士郎です。知っている人も多いだろうが俺は記憶がない。ひとりでも多く友達になってくれるとありがたい。趣味は家事全般、神話や英雄などを調べること。好き嫌いは特にない。質問などは休み時間にしてくれ」

 

こんなもんでいいだろう。

その後は全員自己紹介が終わり、一時間目の授業が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの二人よ。世界でISを使える男性って」

「一人は入試の時に動かして、もう一人は特別見学で触ったら動かしたんだって」

「世界的な大ニュースだったよね!」

「やっぱり入ってきたんだ」

「あなた話しかけなさいよ」

「私、行っちゃおうかしら」

「ちょっと!まさか抜け駆けする気じゃないでしょうね!」

 

一時間目の授業が終わるや否や、廊下には大勢の女子が、一年生から三年生までいる。

 

「よ、世界で最初にISを動かした男」

「そう言うお前こそ世界で二番目に動かした男だな」

 

IS学園でたった2人の男だ。これから三年間仲良くしたいのは当然だ。

 

「自己紹介でも言ったが、俺は弓塚士郎だ。士郎で構わない」

「分かった。俺は織斑一夏。俺も一夏でいい」

「これからよろしく頼む。一夏」

「こちらこそな、士郎」

 

互いに握手をした。そのせいか、なにやら変な声が聞こえた。

 

「これは織斑×弓塚かな……」

「いえ、弓塚×織斑のほうがいいじゃない」

「今年の夏コミはこれか……!」

 

聞こえない聞こえない。なーにも聞こえない。

 

「もし俺がIS動かさなかったらお前一人だったな」

「勘弁してくれ。想像しただけでも胃に穴が開きそうだ……」

 

考えたくもないだろうな。大勢の女性の所に男一人がいるのは息がつまりそうだ。

 

「……ちょっといいか」

「え?」

 

突然、話しかけられた。いや、一夏のほうか。

 

「……箒?」

「………………………」

 

知り合いか?よくは知らないが一夏に用があることが確かだな。

 

「一夏に用があるのだろ。俺の事は気にしなくていい」

「すまない」

「なに、いいさ。ほら、一夏さっさと行け。時間が過ぎるだけだぞ」

「え、え?」

「早くしろ」

「お、おう」

 

足早に一夏とその知り合いの女子は教室を出て行った。あ、名前聞くの忘れていた。

 

「しまった。俺一人になってしまった……」

 

これでは集中砲火を食らってしまう。どうする。

 

「一人になったわよ!」

「私、本当に行っちゃおうかしら」

「勇気があればなんでもできる!」

 

それは元気でないだろうか。まあ本音の所に行くか。用もあるし。でないと本当に集中砲火を食らってしまう。

 

「おい、本音。これ忘れ物だぞ」

「おー。ないと思ったら、ゆーみんが持っていたんだー。どこにあったのー?」

「玄関に堂々と置いてあったぞ。次の授業で必要な教科書なんだからな」

「そうだったんだー。ありがとー」

「ちなみにだが次の授業をどうするつもりだった?」

「ゆーみんに借りるー」

「俺が困る」

「ゆーみんと一緒に授業をうけるー」

「席が遠くて無理だ」

 

席は前で織斑一夏の後ろになっている。本音は後ろの席で廊下際になっている。

 

「本音と弓塚君、仲良いね。あ、私は谷本()()。よろしくね」

「私も言ったほうがいいかな。私は夜竹さゆか。よろしく、弓塚君」

「ああ。自己紹介でも言ったが弓塚士郎だ。こちらこそよろしく」

 

本音の近くにいた女子に名前を教えてくれたので俺も言った。

 

「ゆーみんと私は仲良しだよねー」

「まあそうだな。家に世話になっているからな」

「「え?」」

 

ん?なんだ?

 

「それって、同じ家で生活していたの?」

「ああ。何せ俺は記憶喪失だから本音の家、正確には4組にいる更識簪の家で入学までそこで生活していたからな」

「なるほどね」

 

そういえば父さんや母さんにも友達いたんだよな。いずれ会ってみるのもいいか。

 

「本音は谷本と夜竹とはもう友達になったのか?」

「そだよー」

「そうそう」

「だね」

 

早いなおい。俺も友達が増えるといいな。……IS学園だと女友達がほとんどになるが。

 

「あ、あの!」

「ん?」

 

後ろからやや大きめで声をかけられた。はて?どこかで見たような…………。

 

「俺に用か?」

「う、うん……えっと、その……」

「?」

「妹を助けてくれてありがとう!」

「……はい?」

 

お礼を言われた。もう一度言うがお礼を言われた。二度言ったのは大事なことだからだ。

 

「すまないが妹さんをいつ助けた」

「一週間ちょっと前くらいかな。覚えてないかな。マンションで火事があった」

「………………ああ、そうだったな。うん、あの時か」

 

確かに一週間ちょっと前にそんなことあったな。だけど帰った時の家での騒ぎですっかり忘れていたな。

 

「真美ちゃんは元気か?」

「元気だよ。あ、名前言っていなかったね。私は鷹月(しず)()。いやーもしかしてと思って声をかけてよかった」

「まさか助けた女の子の姉に会うとは俺は思わなかったな」

 

今思い出したがあの場にいたな。目立たないようにすぐ逃げたから姿しか見ていないし。

 

 

キーンコーン……

 

 

「おっと予鈴だ。席に戻らないと織斑先生に怒られるな。でないとあの出席簿の餌食になる」

「「「「あれは喰らいたくない」」」」

 

素早く席に戻っていく女子たち。俺もまた然り、素早く戻る。

 

 

 

 




さてさて、ようやく始まりましたよ。
これからどうなるか楽しみにしてください。
そういえば、ISの新刊が4月だそうですね。
楽しみですな!
ではまた来週。


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第17話「男友達に苦労させられる」

さて二時間目の授業が始まった。この授業は真耶さんいや、山田先生が担当になっている。

 

「――であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用した場合は、刑法によって罰せられ――」

 

率直に言うと分かりやすい。教科書通りに進んでいるが分かりやすく解説をし、時折、注意点や載っていないことも言ってくれるので授業を受けるこちらとしてはとてもありがたい。

 

「うう……」

 

前の席にいる一夏が頭を抱えている。授業について行くのに精一杯か?

なぜかこの授業で使わない教科書を出しているが………まさかとは思うが。

 

「織斑君、何か分からないところがありますか?」

 

一夏の様子に気付いたようで山田先生が優しく訊いてきた。

 

「あ、えっと……」

「質問があったら訊いてください。なにせ私は先生ですから」

 

自信満々だな山田先生。一夏はそれに答えるかのように返事を返した。

 

「……先生!」

「はい!織斑君!」

「ほとんど全部分かりません……」

 

ピシリ!

 

どこからかヒビが入ったような音がした。

 

「え……。ぜ、全部ですか……」

 

誰がどう見てもひきつった顔になっていく。それもそうだろう。ここが分かりません、ここはどういうことですか?ではなく、全部だからな。

 

「今の段階で分からないって人はどれくらいますか?」

 

シーン……

 

一夏以外誰もいない。女子は少なからずどこの学校でもISの授業をここほどではないがしているからな。多少分からなくてもなんとか補えることはできるからな。

 

「え!?士郎は分かるのか!」

「当然だ。全部は分からなくても所々分かるはずだ。送られた参考書類を見れば理解できる」

「そ、そうだよな……」

 

ははは、と笑う一夏。見忘れたのか?

 

「……織斑、入学前の参考書を読んだか?」

「ええ……。あの分厚いやつですか?」

「そうだ。必読と書いてあっただろう?」

「いやー……。古い電話帳と間違って捨てました」

 

パアンッ!

 

今日でもう四回目。一夏の頭は大丈夫か?

 

「あとで再発行してやるから一週間以内に覚えろ。いいな」

「いや、一週間以内であの厚さはちょっと……」

「やれと言っている」

「う……。はい。やります」

 

ギロッと睨まれ弱弱しく返事をする。

 

「弓塚、すまないが織斑に手伝え」

「分かりました。可能な限り手伝います」

 

もう教師ではないく、一人の姉がだらしない弟を頼むと言っているようだ。

 

「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった『兵器』を深く知らずに扱えば必ず事故が起きる。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解できなくても覚えろ。そして守れ。規則とはそういうものだ」

 

言っていることは間違ってはいないな。

だけど、ISは兵器とは俺は思えない。無鉄に触ったあの感じは人に近いものなものだと今でも覚えている。

それに過去の兵器でも使いようにはISに対抗できる気がする。

 

「山田先生、授業の続きを」

「は、はいっ!」

 

いつの間にか妄想に浸っていた山田先生を織斑先生の一声で呼び戻す。

山田先生は慌てて教壇に戻って――こけた。

 

「うー、いたたた……」

 

((((……大丈夫か?この先生……))))

 

この時だけクラス全員が同じことを思った気がした。

 

 

 

 

 

「で、ここがPICによって……」

「ほうほう。そういうことか」

 

二時間目の授業が終わり、一夏は参考書がないので俺のを貸して僅かな休み時間に少しでも多く教えていた。

 

「ちょっと、よろしくて?」

「すまない、少し待ってくれ。そして、こうなるということだ。分かったか?」

「ああ、ばっちりだ」

「よし。で、何か俺たちに用か?」

 

話しかけてきた相手は金髪に僅かにロールがかかって、青い瞳の女子。そして、()()()()今の女子という感じを漂わせていた。

知っての通り、ISが世に出たことで女尊男卑になっている。それにより、今では男が女にパシリにされてもおかしくない。

 

「まあ!なんですの、その返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

「「……………」」

 

正直、ここまで今の女子ような人は見たことがない。簪や本音、楯無さんや虚さんはここまで態度はしない。沙織さんや彩乃さんは昔と変わらない女性だからな。

 

「悪いな。俺、君が誰だか知らないし」

 

現状を理解するのに一夏は頭をフル回転させていたはずだからしょうがないか。

 

「わたくしを知らない?この「セシリア・オルコット、イギリスの代表候補生で入試主席だろ?」あら?そちらの方はご存じのようね」

「自己紹介はあらかた聞いている。で、用は何だ。こちらは勉強を教えているのでな、なるべく早く済ませてくれ」

 

自己紹介の時にやたら豪語していたからな、忘れろという方が難しい。

 

「あ、質問いいか?」

「ふん。下々のものの要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

「………代表候補生って、何?」

 

がたたっ

 

「はあ……」

 

聞き耳を立てていたクラスの女子数名ずっこけた。ド〇フかよ。

 

「あ、あ、あ、……」

「あ?」

「あなた!本気でおっしゃってますの!?」

「おう。知らん」

 

本当に大丈夫かこいつの頭は。

 

「信じられませんわ。日本の男性というのはこれほどまでに知識に乏しいなのかしら。常識ですわよ、常識……」

「いや、一夏ぐらいだ。そこまで日本の男は知識に乏しくはないぞ」

「おい!」

 

弾でさえある程度のことは知っていたぞ。

 

「なあ、士郎。代表候補生ってなんだ?」

「はあ……代表候補生とは国家代表IS操縦者のその候補生として選出される者のことだ。簡単言うとエリートってことだ」

「おお、なるほど」

「そう!エリートなのですわ!」

 

オルコットはずいぶん感情が激しいな。少しは落ち着いたらどうだ。

 

「本来ならばわたくしのような選ばれた人間とクラスを同じくするだけでも奇跡!幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」

「「そうか。それはラッキーだ」」

「……あなたたち馬鹿にしていますの?」

「「おまえが幸運だって(言ったんじゃないか・言ったんだろ)」」

「そちらの方はともかく、あなたはISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。男でISを操縦できると聞いていましたから、少しくらい知的さを感じさせるかと思っていましたけど、期待外れですわ」

「俺に何かを期待されても困るんだが……」

「そう言うなオルコット。これからに期待してもいいじゃないのか?」

「ハードル上げないでくれよ……」

 

しょうがないだろ。こうでも言わないとややこしくなりそうだからな。

 

「ふん。まあでも?わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ」

 

ころころ態度が変わるな。さっきより機嫌がいいからいいか。

 

「ISのことでしたら分からないことがあれば、まあ……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一!教官を倒したエリート中のエリートですから」

 

へえ。オルコットも倒したのか。それはすごい。

 

「あれ?俺も倒したぞ、教官」

「は……?」

 

そういえばそうだったな。それよりもオルコットが面白い顔になっているな。

 

「倒したって言うか、いきなりに突っ込んできたのを躱して壁にぶつかって動かなくなったんだよ」

「わ、わたくしだけと聞きましたが?」

「女子ではってオチじゃないのか?」

「ふむ。確かにそうかもしれんな」

 

誰も合わせてなんて言ってなかったからな。

 

「そこのあなたも教官を倒したの!?」

「ああ、倒したぞ。て、言ってもギリギリだったがな」

「その教官て、誰なんだ?」

「織斑先生」

「「…………は?」」

「押して押されたりの繰り返しで最後は突然スキルが発動して不意打ちまがいで勝ったんだ」

 

今思えばあの時、投影がなかったら負けていたな。

 

キーンコーンカーンコーン

 

「さて、話しはここまでだ。授業が始まるから席に戻ったほうがいいぞ」

「そ、そんなこと分かっていますわ!またあとで来ますわ!逃げないことね!よくって!?」

 

返事を聞く前に足早に席に戻っていくオルコットであった。

 

 

 

 

 




皆さんに質問です。
ストックに余裕があったときは週2にしてもいいですか?
まあ、余裕があったときの場合ですが。
感想とかでお持ちしております。
ではまた来週。


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第18話「戦いの狼煙」

どうも、運命の担い手です。
いやー先週の金曜ビックリしたことがありました。
たまたま日刊ランキングを見るとなんとこの小説が八位になってたんですよ。
何度も目をこすりましたよ。目がおかしんじゃないかと思いまして。
これも皆様のおかげです。お気に入りが十件以上も増えました。
長々となってしまいましたが、どうぞ!


「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」

 

三時間目は織斑先生が教壇に立っている。よほど重要なのか山田先生もノートを手に持っている。

 

「ああ、その前に再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

ん?クラス対抗戦に代表者?

 

「クラス代表とはそのままの意味だ。クラス対抗戦だけではなく、生徒会の会議や委員会の出席……まあ、クラス長と考えてもらっていい。一度決まると一年間変更はないからそのそのつもりでいろ。自薦他薦は問わない、誰かいないか」

 

そうなると面倒事ではあるが戦う機会はより多く増えるということか。一瞬やろうと思ったが記憶を取り戻すほうが最優先なのでやめた。

 

「はいっ。織斑君を推薦します!」

「私もそれがいいと思います!」

「お、俺!?」

 

早速、一夏が推薦されたか。まあ予想の範囲だな。

 

「他にはいないのか?いないなら無投票当選だぞ」

 

出来ればこのままであってほしいが……。

 

「はーい。ゆーみんを推薦しまーす」

 

このままじゃないよな。本音……なんてことを……!

 

「弓塚君に一票!」

「それじゃ、私も!」

「私も!」

 

なんてことだ。谷本、夜竹、鷹月にまで推薦された。

 

「では織斑に弓塚だな。もう、他にはいないのか?」

「ちょっ、ちょっと待った!俺はそんなのやらな――」

「自他推薦は問わないとい言った。他薦された者に拒否権などない。選ばれた以上覚悟をしろ。弓塚は覚悟ができているようだぞ」

「え?」

 

一夏が俺を見る。そしてクラスの視線が集まる。いやいや、覚悟できていないぞ?ただ、言い訳を考えていただけなんだが。

 

「い、いやでも、俺は――」

「納得がいきませんわ!」

 

一夏が反論を続けようとした時、パンッと机を叩いて高い声を出して女子が遮った。オルコットだ。

 

「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

そんなとこ知らんよ。なら、自薦しろ。

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭もございませんわ!」

 

さすがに言い過ぎではないか?イギリスも日本と同じ島国だ。

 

「いいですか!?クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」

 

オルコットの熱烈な抗議を上げるなか、俺は密かに冷や汗をかいていた。

理由は織斑先生と山田先生が怒っているからだ。

二人は表面上なんともないように見えるがそうではない。

織斑先生は無表情で出席簿が壊れるかのように握られており、山田先生はニコニコで指がノートに喰い込み、悲鳴を上げている。

まあ、元日本代表かつ元世界最強と元候補生が怒るのも無理はないな。

 

「大体、文化として後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で――」

 

ブチッ!

 

え?俺は切れてませんよ。前の席にいる一夏が切れました。

 

「イギリスだって大したお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

「なっ……!?」

 

やっちまったと顔になる一夏と驚いたオルコット。なんだこれ。

 

「おいしい料理はたくさんありますわ!あなたっ!わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

お互い睨み合いをし、一歩も譲らない。はあ、ガキのケンカか。これは。

 

「士郎!お前も何か言ってやれよ!」

「は?」

「何か言いたいことはありますの!」

「ちょっ……!」

 

なんでこうも俺は巻き込まれるんだ!何を言えばいいんだよ。

 

「「さあ!」」

 

お前ら実は仲良いじゃねえか。さて、どうする。……そうだこんな時、本音に聞けばいいんだ!

 

「……!」

「…?……!」

 

 

*ここからはアイコンタクトによる会話です。

 

「本音助けてくれ。こんな時どうすればいい!?」

「そんなの簡単だよ。先週見た金曜ロードショーのサイボーグのセリフを言えばいいだよー」

「いや、あれは違う気がするのだが……」

「けど、何か言わないとマズイよ~?」

「くっ!仕方がない。ここは本音の言う通りにしよう」

「それじゃー。ゆーみんふぁいとー」

「ああ!」

 

*ここでアイコンタクト終了です。ちなみにこの会話は一秒もかかっていません。

 

 

「さあ!何か言ってはどうなの?」

「………………ガタガタ言うな糞野郎」

「なっ!?」

 

絶対間違っている気がするがこのまま続けるしかない。

 

「さっさと失せろベイビー」

「な、な、な……!」

 

((((なんでターミネーターのセリフ!?))))

 

ああもう嫌。入学早々こんな風になるなんて思いもしなかった。

 

「こうなったら……決闘ですわ!」

「おういいぜ。四の五の言うよりわかりやすい」

「わざと負けたりしたらわたくしの小間使い――いえ、奴隷にしますわよ」

 

奴隷は禁止されているぞ。てか俺を無視して話しが進むな、おい。

 

「ハンデはどのくらい付ける?」

「あら、早速お願いかしら?」

「いや、俺たちがどのくらい付ければいいかなーと」

 

その直後にクラス中に爆笑が起きた。

 

「織斑君、それ本気で言っているの?」

「男が女より強かったのはISが出来る前の話だよ」

「もし、男と女が戦争なんてしたら三日持たないって言われているよ」

 

ふ、どうやら勘違いをしている女子が多くいるようだ。

 

「ふふふ……はは、ははははははは!!」

 

いかん。あまりにもおかしいものだから弾けるように笑いが止まらん。

 

「随分、笑っていますわね。そんなにおもしろいかしら?」

「くく、ははははははは!!いや、これは傑作だ。よもやこれほどに勘違いを持った者が多いのだからな」

 

笑いをなんとか抑えて解説でもしてやろう。

 

「まず最初に男が女より強いのは昔も今も変わってはいないということだ」

「どういうことですの?現に今は女の方が強いに――」

「その時点でおかしいぞ。女の方が強いというのはISがあればのことだ。ISがなければただの女だ。男より女が強いのは持って生まれた才能か努力や経験で培った者。あるいは銃やスタンガンなどで補っている者だ」

 

次第に笑い声がなくなってきた。

 

「それと違って男は基本的に力がある。素人であろうと女一人ならどうにでもなるからな。まあ、精々女が強いというのは権力のほうだろう」

 

誰も笑う者は一人もいなくなった。

 

「次に男と女が戦争したら三日以上は確実に持つだろう。理由としては操縦者とISの問題だ」

「……それはどういうことですの?」

「ISに乗りるのは一人だけだ。エネルギーが切れそうになったら、補給に戻るだろう。その際、交代するときにはシールドバリアが発生せず操縦者をスナイパーなどで殺せるはずだ。

次にISは過去の戦闘機・戦車・戦艦など遥かに凌ぐ超兵器ではあるが絶対防御が発動すると大幅にエネルギーを消費する。絶対防御を何度も発動させればエネルギーは底を尽き、エネルギー切れのISアーマーは恐ろしく脆くなる。その瞬間に銃弾やらミサイルやらを叩き込めば操縦者とISはタダではすまないだろう」

 

なぜか織斑先生と山田先生が真剣にこっちを見ているが続けよう。

 

「俺が言いたいのはこんなものかな?あとハンデはしない。真剣勝負に無粋なことは嫌だろう。な、一夏」

「あ、ああ。ハンデはいらない」

 

こういう時は実力の差があってもハンデは必要ない。それでは真剣勝負の意味がないからな。

 

「では、話はまとまったな。それでは次の月曜、一週間後だ。時間は放課後。場所は第三アリーナで行う。織斑、弓塚、、オルコットはそれぞれ準備をしておくように。それでは授業を始める」

 

織斑先生が話を締めくくり、授業を始める。

一週間後か。時間はあるな。無鉄の整備や点検やらしても大丈夫だろう。

そういえば簪の打鉄二式はいつから始めるのだろう?

 

 

 

 

 




来週は金曜に上げる予定です。
あと、まだ構成段階ですが閃乱カグラの二次小説を書いています。
まあ、出来るのはまだまだ先ですが。
では、また来週!


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第19話「部屋割り」

「一応聞くが大丈夫か?」

「これが大丈夫に見えるか……」

「まったく見えないな」

 

放課後、一夏は机の上でぐったりしている。今日一日の授業について行くのに精一杯で頭がオーバーヒートしかけている。いや、なっているか。

ちなみに廊下には休み時間同様に女子がいる。俺たちは客寄せパンダではないぞ。

 

「あ、織斑君に弓塚君。まだ教室にいたんですね。よかったです」

「山田先生ですか。どうかしましたか?」

 

教室に山田先生が入ってくる。おい、一夏。顔ぐらい上げろ。

 

「はいー?」

「織斑君だいぶお疲れのようですね」

「電話帳と間違えて捨てたツケが回っているだけですよ」

「ははは……評価がきついですね」

「そうですか?それより俺たちに何か用があったのでは?」

「あ、そうでした。えっとですね、寮の部屋が決まりました。これは部屋の番号が書かれている紙とキーです」

 

紙とキーを渡される。やはり予想通りになったか。

 

「あれ?一週間は自宅から通学って聞いてましたが」

「そうなんですけど、事情が事情なので無理矢理に部屋割りをしたそうです」

 

もし自宅から通学したら拉致されるかねないからだろう。

 

「そうですか。なら、荷物は一度家に帰らないと準備出来ないので今日は帰っていいですか?」

「あ、いえ、荷物なら――」

「私が手配しておいてやった。ありがたく思え」

 

いつの間に織斑先生がいた。全然分からなかった。

 

「ど、どうもありがとうございます……」

「まあ、生活必需品だけだがな。着替えと携帯電話の充電器があれば充分だろう」

 

一つぐらいは娯楽品があってもいいのでは。

 

「あれ、士郎は荷物どうするんだ?お前も持ってきてないだろ?」

「こうなると思って荷物はもう送っている。部屋に行けばあるだろ」

「マジか!?」

 

少し考えてみればわかるはずなのだが。

 

「時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂で取ってください。各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。学年ごとに使える時間が違いますけど……えっと、その、織斑君と弓塚君は今のところは使えません」

「え、なんでですか?」

「はあ……一夏、お前女子と一緒に入るのか?」

 

ここには俺たち以外女子しかいないという意識がないのか。

 

「お、織斑君、女の子と入りたいんですか!?ダメですよ!」

「い、いえ、入りたくありません!」

「ええ!?女の子には興味ないんですか!?そ、それはそれで問題が……」

「一夏。人の趣味にとやかく言わんが巻き込まないでくれ」

「普通に女子に興味はある!てか、なにげに距離を取るなよ!?」

 

ややこしい言い方をするのがいけないんだぞ。

 

「織斑君、男にしか興味がないのかしら……?」

「それはそれで……いい!グッジョブ!!」

「中学時代の交友関係を洗って!今すぐに!明後日までに裏付けとって!」

 

ご愁傷様だ一夏。

 

「えっと、それじゃ、私たちは会議があるので、これで。織斑君、弓塚君ちゃんと寮に帰るんですよ。道草くっちゃダメですよ」

「大丈夫ですよ山田先生。学校と寮はそれほど離れてはいませんし、一本道ですよ。おい、一夏行くぞ。寮に帰って荷解きが済み次第、勉強の続きをするぞ。それでは織斑先生、山田先生また明日」

「はい。また明日」

 

フラフラな一夏と共に教室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

「元気そうでよかったですね」

「ああ」

 

一夏と士郎が教室から出たあと、すぐに私たちも教室を出た。

 

「弓塚君はしっかり勉強してきたようですが織斑君は……」

「姉として恥ずかしい。なぜ電話帳と間違えるのか」

「まあ、弓塚君も協力してくれてますし、大丈夫ですよ……多分」

 

少しくらいあの馬鹿にISの事を教えればよかったか……いや、私にそんな資格はないな。

 

「会議の内容は聞いているか?」

「はい。やはり、織斑君と弓塚君の待遇についてです。現状は織斑君にISを渡すことになっていてどこの国に所属するかの問題ですが、弓塚君の無鉄は日本で作られたので日本に所属する予定だそうです」

「そうか」

 

一夏にはあの束から渡せられると聞いていて、士郎は予想通りに日本に所属するようだ。本人の意思とは関係なく。

 

「……やはり、弓塚君のことが気になりますか?」

「それなりにな」

 

あいつはいまだに記憶が戻っていない。本人もそのことは気にしているはずだ。

 

「だが、ここでゆっくり思い出せばいい。ここはIS学園。大抵のことは大丈夫だからな」

「そうですね」

 

もしかするとあいつは…………いや、このことは今考えるべきではないな。

そう考えている中、会議室に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏。お前はどこの部屋だ?」

「えーと、1025室だ。そっちこそどこだ?」

「1045室だ。離れているな」

「そうだな。でもなんで同室じゃないんだ?」

「考えてみろ。二人揃って同じ部屋だと女子が大勢押し寄せてくるだろ。緩和するために分けたのだろう」

「そういえばそうだな」

 

寮に入り部屋を探している。ここに入るまで後ろには女子が付いて来ていた。寮に入るとさすがに自分の部屋が気になるのか、すぐに解散して付いて来なくなった。

 

「えーと、ここだな。じゃあまたあとな」

「ああ。荷解きが済み次第、お前の部屋に行く。同室の女子には言っておいてくれ」

「分かった」

 

一夏と別れて指定された部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

「ここがそうか」

 

1045室に着いた。部屋には同室の女子がいるかもしれないのでノックをしたが返事がないので入ると誰もいなかった。

 

「荷物は届いているな」

 

部屋にはあらかじめ送っておいた荷物が届いていた。荷解きをして整理した。

 

「にしてもここは高級ホテルか」

 

見ただけで分かるような高いベットと羽毛布団。大きさは体全身がすっぽり入るくらいだ。ビジネスホテルよりもいい代物で間違いないだろう。

 

「しかし、部屋は俺だけなのか?」

 

時間は夕方。とっくに寮に入っているはずなのだが同室になる女子が来ないのだ。

もしかすると俺だけ一人なのか。そうだとしたら、千冬さんがしてくれたのか?

まあ、いいか。それは明日にでも聞いてみるか。

 

「ん?」

 

なにやら廊下が騒がしい。……少し様子を見るか。

 

 

 

 

「何をしているんだ……」

「いいところに来てくれた士郎!助けてくれ!?」

 

騒ぎがあるところに来て見ると一夏が扉の前にいた。周りには騒ぎを聞きつけた女子が十人ほどいる。扉を見るとなぜか穴だらけになっていた。また、何かやらかしたのか。

 

「はあ……ちなみに同室の女子は誰だ?」

「……箒」

「ほうき?……ああ。篠ノ之 箒か」

 

今思い出すと一夏を誘ったのも篠ノ之だったな。自己紹介は必要以上なことは話さず、あとは何もなかったな。

 

「で、なんでお前が部屋から出ているんだ?」

「いや、これは、その……」

 

間違いなくなにかをやらかしたな。

 

「とにかく俺がなんとかする」

「助かる」

 

さて、なにか適当に言えばいいだろう。

 

「おい、篠ノ之。弓塚だ。一夏と何かあったかは分からんがひとまず入れてやってくれ。あまり騒ぎが多くになると周りに迷惑がかかるぞ」

 

さっさと部屋に戻りたいから。

 

 

がちゃ

 

 

「……入れ」

「お、おう」

 

なんとかなったな。まったく人騒がせなやつだ。

 

「じゃあな。あとはなんとかしろよ。それと九時に勉強するからな」

「分かった」

 

一夏は部屋に戻り、俺も部屋に戻ろうとしているのだが……

 

「寮ではラクにしていいが……その、なんだ。服装をどうにかしてくれないか?目のやり場が困る」

『//////!?』

 

ようやく理解したのか女子全員顔が赤くなる。なにせ服装が下着が見えるような感じになっているからだ。ある者はズボンやスカートの代わりに長いパーカーを着て、またある者は上に

羽織っていて胸元が見えそうになっている。

 

「では、俺はこれで失礼する。今年からは男子もいるということを忘れないでくれ」

『は、はい//////』

 

ともかくこの場から離れ部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう……ようやく終わったな」

 

部屋を整理するのに思った以上にかかってしまった。ご飯はすでに食堂で済ませた。周りに視線をかなり感じたが気にせづ食べた。一夏は見かけなかったな。

 

「時間はまだあるな」

 

九時まであと三十分ある。それまで読書でもするか。本棚にはIS関連の本や英雄や神話の本がある。マンガ本もあるが大体は英雄や神話の本が多い。

 

コンコン

 

「ん?」

 

誰か来たのか。まだ、知られてないはずだが。

 

「誰だ?」

「ゆーみん。私だよー」

「なんだ本音か。どうした?」

「部屋に入っていいかなー?」

「いいぞ」

「おじゃましまーす」

 

本音が入り、簪も入る。………………………て、おい。

 

「いるならと返事をしてくれ」

「ご、ごめん……。ここ家じゃないから恥ずかしくって……」

「そういうものか?」

「そういうものだよー」

 

よく分からんがいいか。

 

「何か飲むか?と言っても水かオレンジジュースしかないが」

「オレンジ―」

「私も」

「はいはい」

 

一応ジュースの一本くらいは持ってきて正解だな。

 

「ゆーみんは一週間後の試合どうするつもり?」

「それはこれから考えるところだ」

「試合……?」

「そうか、簪は違うクラスだったから知らないのか。今日クラス代表者を決める際に成り行きで試合をすることになったんだ」

「あ、それ聞いたかも知れない。一組でクラス代表を決めるとかどうとか四組でも聞いた……」

 

伝わるの早いな。女子の情報網はこれほどまでに早いのか。

 

「あ、簪のクラスは誰になったんだ?参考までに聞きたい」

「えっと、まだなっていないんだ……」

「どうしてだ?」

「…………私に推薦されたんだ。日本代表候補生でもあるから、て」

「おお。それはすごいな。でも、推薦されたのにならないんだ?」

「恥ずかしいし、自信もないからすぐに返事は返さなかったんだ……。でも、先生やクラスのみんなに明日まで待ってくれるって言われているの。士郎は私がクラス代表になっても大丈夫かな」

「かんちゃんなら大丈夫だよー。自信持って―」

 

うーん。簪なら俺も大丈夫だと思うんだが本人がこうだとな。

 

「俺はどっちでもいいと思う」

「え?」

「やれたくないならやらなくていいし、やりたいんならやればいい。確かにクラス代表はそのクラスの顔になる。会議や委員会に出席しなければならない。だが、戦う機会は確実に多い。そうなれば、より多く他の人よりも経験が積める。やって損はないと思うがな」

「………………」

 

どちらにせよ本人の意思次第だ。他人がどうこう言っても結局決めなければならないのは本人だからな。

 

「まあ明日までは時間もあるしゆっくり―――」

「私やる」

「―――考えれば、て決めるの早いな」

 

決断早過ぎないか?

 

「恥ずかしいけどやる。私、日本代表候補だし、それにお姉ちゃんの妹だから」

「おー。かんちゃんががんばるなら応援するよー」

「ありがとう本音」

「えへへ。なんたってかんちゃんのメイドさんですから~」

「「メイドっぽくない(よ・ぞ)」」

「えーそうかなー?」

 

メイドらしいことを一度もないし、どこをどう見たらメイドになるんだ。虚さんを少しでも見習ってもらいたい。

 

「あれ?ねえ、士郎。この設計図ってISの武器?」

「ああそうだ。三日前から書いている。作れるのは少し先だな」

 

こっちに来る前に書いていたものだ。設計図は二枚書いている。

 

「前作ったのはスナイパーライフルで~。次作るのはなに~?」

「一つは入試試験のために作った二丁の小型マシンガンの強化設計図で、もう一つはポンプアクション式の実弾ショットガンだ」

「「おお」」

「他にも様々な銃などを作る予定だ」

 

狙撃銃の4種類は売れている。だが、今後のために何か作っていてもいいかもしれん。金のためではないぞ。

 

「おっと、そろそろ一夏に勉強を―――て、なぜ簪が不機嫌になる」

 

突然、簪が不機嫌になる。なぜだ?

 

「ゆーみん忘れたの。かんちゃんのISのこと」

「……………そういうことか」

 

忘れていた。一夏のためにISを作るために倉持研は簪の打鉄二式を途中でやめたんだったな。

 

「士郎。これからは注意してね……」

「あ、ああ。俺は行かないといけないから今日は自分たちの部屋に戻ってくれ」

 

簪と本音が出て行き、俺は鍵をかけて一夏と篠ノ之の部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

「またやらかしたのか」

「そんなつもりはなかったんだが……」

 

部屋に入ると頭にタンコブができている一夏と不機嫌の篠ノ之がいた。

 

「とにかく、三十分は勉強するぞ」

「お、おう」

「篠ノ之。悪いが今日はここで勉強させてもらう」

「構わん。どう見てもあきらかに勉強不足と分かるからな」

 

こうして三十分間、一夏に勉強を教えて部屋に戻り、これからの学園生活を楽しみにしながらすぐに眠りについた。

 

 

 

 



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第20話「朝食」

上げるのを遅れてすいません。
言い訳になると思いますが今週の水曜から金曜の夕方まで風邪をひいてしまって執筆に遅れました。
次からはこうならないようにします。
なんとか仕上がりましたが短いです。
では、どうぞ!


太陽がまだ上がらない時間に目が覚め、外に出る。俺用に作った木刀二つを持って人気のない所で素振りをする。更識家にいる間はいつもしていた。

太陽が上がり、腕時計を見ると六時半ちょうどになっていた。部屋に戻りシャワーを浴びて、身支度を整える。

時間はまだ余裕があるのでサンドイッチを三つを作った。中身はツナマヨネーズ、キュウリとトマト、キャベツとハム。

時間になり、部屋を出て鍵を閉めて食堂に向かう。。

食堂に着くと既に多くの生徒が食事をしていた。ふむ、次からは少し早めに来るか。

食堂のおばちゃんにご飯に納豆、鮭の切り身と味噌汁、浅漬けの和食セットを注文する。和食セットをもらい、席を探していると一夏と篠ノ之がいたので座っていいか聞いた。

 

「おはよう一夏、篠ノ之」

「おう、おはよう」

「ああ」

「一夏、隣いいか?」

「いいぜ。箒もいいよな?」

「別に構わん」

 

一夏の隣に座り、和食セットを食べ始める。うむ。どれもうまい。さすが、IS学園と言ったところか。

 

「お前は来週の試合はどうするつもりだ」

「知識でどうにかできるだろ」

「バカだ」

「バカだな」

「二人ともひでぇー!?」

 

なにが知識でなんとかなるだ。こいつは正真正銘のバカだ。

 

「なにがひどいだ。相手は代表候補。知識だけで戦えたら苦労はしない。俺とお前はまだISを動かせた日が浅い。それを補うには体を強くする必要がある」

「なんでだ?」

「はあ……いいか、ISは操縦者によって反応が変わる。これはISが操縦者を理解して答えてくれるから反応が人によって変わるんだ」

「そうなのか。なあ箒、放課後に特訓してくれないか?」

「な、なぜ私がお前の特訓に付き合わねばならんのだ!」

「篠ノ之、声が大きいぞ」

 

はっと見渡すと視線が篠ノ之に集まり、ようやく理解したようで大人しくなった。

 

「もう一度聞くがなぜ私がお前の特訓に付き合わねばならんのだ」

「ほら昔さ、一緒に剣道やっていただろ。俺、お前が引っ越した後小学生まではやっていたんだけど、中学に入ってからは生活費の足しにするため部活もせずアルバイト三昧の生活を送ったせいで腕が鈍ちまってな。それで久々にお前と一緒に剣道しながら鍛えようと思ったんだけど、ダメか?」

「うーん……」

 

そう言えば、一夏と織斑先生は両親がいなくなったんだな。少しでも生活費を足しにしたい気持ちわかるな。

 

「俺からも頼む。俺はIS学園に入る前に鍛えていたから大丈夫だが、一夏の話を聞く限りまずいはずだ。ここはどうにか協力してくれないか?」

「はあ……良かろう。放課後、剣道場で、鍛えてやる。ブランクがあろうと容赦なくするぞ」

「ああ、いいぜ。そのくらい、覚悟の上だ」

「と、当然だ!そのくらいでなければ困る!」

 

なぜか篠ノ之は顔が赤くなり、目を背ける。……………なるほど、これは惚れているからか。

 

「あ、もし良かったら士郎もどうだ」

「そうだな。今日だけならいいぞ。他の日はやることがあるから無理だからな」

「箒もいいよな」

「あ、ああ。いいぞ」

 

少々残念なように答えた。すまない篠ノ之、孝司さんたち以外の人とはやったことないから試したいんだ。

 

「話しは変わるが二人は知り合いか?昨日から見る限り親しく見えるからな」

「ああ、俺と箒は幼なじみなんだ。と言っても、小学三年の終わりに箒が引っ越して昨日まで会っていなかったんだけどな」

「ほう、久々の再会か。よく分かったな」

「髪形が変わっていなかったから分かったんだよ」

 

特徴を憶えていたからか。よく憶えていたものだな。

 

「ゆーみん、隣座ってもいい~?」

「ん?」

 

見ると、本音がいた。後ろには谷本と夜竹もいて、朝食のトレーを持っている。

 

「いいぞ。一夏と篠ノ之もいいだろ?」

「いいぜ」

「私もだ」

「だそうだ。座っていいぞ」

 

本音が安堵して、谷本と夜竹が小さくガッツポーズをする。すると、なにやら周りからざわめきが聞こえる。

 

「ああ~、私も早く声かけておけばよかった……」

「まだだ!まだ二日目。大丈夫、焦る段階じゃないわ!」

「でも、昨日ね。部屋に押しかけた子もいるって話だよー」

「「「「なん……だと……!」」」」

 

どうやらそうらしい。らしいと言うのは俺は寝ていたからだ。部屋に戻ったらすぐに寝たので全然分からなかった。

ただ……ドアには15枚ほどメモ紙が張ってあった。正直、ビビった。

 

「織斑君に弓塚君って朝すっごい食べるんだ」

「男の子だね」

「俺は夜少なめに取るタイプだから、朝たくさん取らないと色々きついんだよ」

「俺の方は朝昼晩大体これくらいだな。まあ、それなりに運動しているから大丈夫だ」

「そ、そうなんだ」

 

更識家では大体このくらいだったからな。それよりも……

 

「三人はそれだけで大丈夫なのか?」

 

三人のトレーの上のメニューこそ違うが飲み物一杯、パン一枚またはクロワッサン二つ、おかず一皿(少なめ)だ。

 

「わ、私たちは、ねえ?」

「う、うん。平気かな?」

 

平気じゃないだろ。口には出さないが予想だとダイエットをしていると思う。

 

「お菓子よく食べるしー」

 

………これは報告だな。

 

「ね、ねー、ゆーみん」

「なんだ?」

「誰にメールをするつもりなの~?」

 

なぜか本音が冷や汗をかきながら聞いてくる。当然だろ。

 

「決まっている。彩乃さんにだ」

「それは勘弁してー!」

 

本音が俺の携帯電話を取ろうとするが躱す。

 

「なら、昼にはきちんと食事を取れ。それでは体を壊すことになるからな。谷本と夜竹もだぞ」

「「「は、はい!」」」

 

三人ともいい声で返事をする。携帯電話をメールをせずしまい、食事を再開する。

 

「お前なんだかお母さんみたいだな」

「何を言う一夏。体は資本、壊してしまったら元も子もないぞ」

「ま、そうだな」

 

「一夏、弓塚。私は先に行くぞ」

「ああ。また後でな」

「また教室で会おう」

 

食事を済ませた篠ノ之は席を立って行ってしまう。なぜか後姿が侍を思わせる。

 

「織斑君って、篠ノ之さんと仲がいいの?」

「お、同じ部屋だって聞いたけど……」

「ああ、まあ、幼なじみだし」

「「「え!幼なじみ!?」」」

 

一夏は別段意識はしていなかったようだが三人は驚き、周囲は『え!?』とどよめいた。

 

「え、それじゃあ―――」

 

パンパン!

 

谷本が質問しようとしたところで手を叩く音が食堂に響いた。

 

「いつまで食べている!食事は迅速に効率よく取れ!遅刻したらグラウンド十週させるぞ!」

 

千冬さんいや織斑先生の声が聞こえ、食堂にいた全員が慌てて朝食の続きをする。それもそうだ、IS学園のグラウンドは五キロもある。俺以外は急いで食べている。

 

「士郎お前いつの間に食べ終える寸前なんだよ!」

「なに、嫌な予感がしたのでな、早く食べただけだ」

「ちくしょう!」

 

四人が食べ終えるまで熱いお茶を飲んでいよう。

 

 

 

 

 

 




お気づきかもしれませんが箒が不機嫌じゃありません。昨夜の勉強で緩和されています。
ですので朝は不機嫌ではありません。

それではまた来週!
あと風邪に気をつけてください!


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第21話「子供」

今は三時間目。一夏は昨日ほどではないがやはりまだ教科書とにらめっこや山田先生の話を聞き逃さないようにノートに書いている。

 

「……ISは常に操縦者の肉体を安定した状態に保ちます。これには心拍数、脈拍、呼吸数、発汗量、脳内エンドルフィンがあげられ―――」

「先生、それって大丈夫なんですか?なんか、体の中をいじられているみたいでちょっと怖いんですけども……」

 

クラスメイトの一人が不安げに尋ねる。俺はそれほど不安には感じなかった。だが、人によっては不安、違和感する人もいるだろう。

 

「そんなに難しく考えることはありませんよ。そうですね、例えばみなさんはブラジャーをしていますよね。あれはサポートこそすれ、それで人体に悪影響が出ると言うことはないわけ

です。もちろん、自分にあったサイズのものを選ばないと、型崩れしてしまいますが―――」

 

ようやく気付いたのかきょとんとした山田先生が数秒置いてからボッと赤くなった。それはトマトのように。

 

「え、えっと、いや、その、お、織斑君と弓塚君はしてませんよね。わ、分からないですよね、この例え。あは、あははは……」

 

山田先生が誤魔化し笑いをしたせいか教室中に微妙な雰囲気が漂う。

しかし、ブラジャーか。まだ更識家にいた時に本音が「ゆーみんに良い物あげる―」と言って渡したのがブラジャーだったからな、びっくりしたな。しかもそれは楯無さんので俺が盗んだだと勘違いして真剣で斬られそうになった。

まあ、その後なんとか誤解が解けて本音が三時間も正座されていたのがいい思い出だ。

 

「んんっ!山田先生、授業の続きを」

「は、はい!」

 

織斑先生の咳払いで一気に教室の雰囲気が元に戻り、山田先生が授業を続ける。

 

「ISには意識に似たようなものがあって、お互いの対話―――つまり一緒に過ごした時間で分かり合うというか、操縦時間に比例して、IS側も操縦者の特性を理解しようとします」

 

意識に似たようなもの、か。初めて乗ったときのあの感じか。あれ?あの時の声ってISのだったのか?うーん、分からない。

 

「ISは道具ではなく、あくまでパートナーとして認識してください。ここまでで質問のある人は?」

「はい、それって彼氏彼女のような感じですかー?」

「そっ、それは、その……どうでしょう。私には経験がないのでわかりませんが……えっと、どうですかね……」

 

山田先生がクネクネして教室では「先生かわい!」とか言って、雑談を始める。この雰囲気は世間でいう女子高って感じだな。

彼女か。俺にはいるという記憶しかない。名前はおろか、顔すら思い出せないとは情けないものだ。

そんなこんなで授業は終わり、織斑先生と山田先生が出ると俺と一夏の席に女子の大半が詰めかける。

 

「ねえねえ、織斑君さあ!」

「なにか分らないところがあったら聞いてもいいよ弓塚君!」

「今日のお昼ヒマ?放課後ヒマ?夜ヒマ?」

 

昨日は様子見、今日は実行という風なもんだろうか。昨日はよそよそしかったが、今日は積極的だ。

 

「この一組に弓塚士郎と言う男子はいる?」

「ん?」

 

教室の入り口から聞こえた。女子であることには間違いないが俺に用とは。

 

「あなたが弓塚士郎ね」

「ああ」

「ふーん……」

 

目の前に来た女子は髪は黒く、腰辺りまで長い。オルコットとは違う品があるような感じがする。

 

「それでお前の名前は」

久宇(ひさう)美沙夜(みさや)よ。あなたなら分かるでしょう」

「……そういうことか」

 

いつか来ると思っていたが、これほど早いとは。ここでは話しづらい。

 

「すまないが、屋上でいいか?」

「構わないわ」

「それでは行こう」

 

久宇美沙夜と共に屋上に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、なんの用だ?」

「そんなに焦ることもないでしょ。休み時間なんだから休んだらどう?」

 

屋上には俺と久宇しかいない。昼休みになれば人はいるはずだが、休み時間は15分しかないので来る人はそうそういない。

 

「電話で無鉄のことはそちらの職員に言ったはずだ。となると俺個人に用があるのか?」

「そんな所ね。それよりも他所の人と話しをしているわけでないのだから、もっと楽に話しをしましょ」

「そういうわけにもいかんだろ。自分の立場ぐらいは分かっているさ」

「なんでそんなに余所余所しいのかしらね。私が気に入らないから?

それとも――――――元婚約者の娘だから?」

「………………」

 

そう、久宇美沙夜は父さんの元婚約者、久宇(ひさう)(まい)の娘だ。父さんと母さんが駆け落ちした後、別の男を婿として迎え、結婚したそうだ。本来なら嫁として出るようだったようだが。

無鉄は久宇企業の久宇研究所、つまり久宇家が運営をしていてそこで造られた。

 

「別にどうこうするつもりはないわ。ただ(ワタクシ)は自分の目であなたを見たかっただけよ」

「どういうことだ?」

「あなたの父親が私のお母様ではなく違う女と一緒になって生まれた子だということに興味があっただけ。学園で三年間過ごすのだから楽しい方がいいし、仲良くしてしたいしね」

 

てっきり、何か悪口を言われるかと思ったがそうではないようだな。まあ、三年間同じ学校だからこちらとしても仲がいい方がいい。

 

「では、改めてよろしく。久宇」

「名字じゃなくて名前でいいわ。あなたも名前で呼んでいいかしら?」

「いいぞ。美沙夜、これから三年間よろしくな」

「こちらこそ。士郎、お互い頑張りましょ」

 

握手をして教室に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、言い訳はあるか?」

「屋上で話しをしていて遅れてすみません」

 

教室に戻ると織斑先生が仁王立ちして待ち受けていた。戻ったときに三分ほど遅れた。急いだんだが間に合わなかった。

 

 

シュッ!

 

 

「はっ!」

 

 

バシ!

 

 

『おおおおおおおー!!』

 

教室中に歓声がなる。それもそうだろう。織斑先生の出席簿を真剣白羽取りをしたからな。

 

「いい反応だな」

「昨日から一夏が出席簿の餌食になっていましたからね。俺なりに対策をとっただけですよ」

 

もしものために頭の中でシュミレートしてよかった。

 

「出席簿を掴んでいますからどうします?」

「それなら―――力を強めるだけだ」

「へ?」

 

両手で掴んでいるはずの出席簿が動き、頭に直撃する。

 

 

ゴッ

 

 

「がは!?」

 

痛い。本当に冗談抜きに痛い。これでよく頭の骨割れないよな。てかあの出席簿はいたって普通のだよな。

 

「次は遅刻するな。ほら、席に着け」

「はい……」

 

あれほど痛かった痛みが嘘のように引いていく。どうしたら、こんな事できるだろうか。謎だ。

 

「ところで織斑、お前のISだが準備まで時間が掛かるぞ」

「へ?」

「予備の機体がない。だから、学園で専用機を用意するそうだ」

「え、えっと?」

 

教室がざわめくが、どうやら一夏はまで理解するのに時間が掛かるみたいだ。昨日勉強をしたの思い出せ。

 

「……あ、そういうことか。なるほどな、うん」

「ほう。なんとか分かったのか」

「えーと、確か……ISのコアは世界中で467機しかなく、その全てが篠ノ之博士が作成したもので、これらは完全なブラックボックスになっているので未だに篠ノ之博士以外はコアが作れない状況である……すいません、これぐらいしか分かりません」

「抜けている部分が多いが要点は求められているな。本来なら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられない。が、お前は場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意されるようになった」

「つまり、俺はモルモットになってくれと?」

「言い方が悪いがそういうことだ」

 

やっぱりな。貴重な男のIS操縦者だから専用機がないとダメだよな。お偉いさんはデータ欲しさが目当てだろうが。

 

「あれ?士郎は専用機持っていないのか?」

「持っているぞ。ほら」

 

首にかけていた無鉄の待機状態の赤い勾玉を見せた。すると、さらにざわめく。

 

「クラスで三人も専用機持ちがいるなんてすごいよね!」

「どの学年でもクラスにいるかいないかなのにね」

「一年一組で良かったー!」

 

そうだよな。専用機持ちで学園にいるのは珍しいものだ。代表候補生でも持っていない人がいるからな。持っているのは大半が国家代表か企業に所属する人だからな。

 

「あの、先生。篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか?」

 

後ろの席にいる鷹月が織斑先生に質問する。多分親戚関係か家族のどちらかだろうな。

 

「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」

 

へえ、篠ノ之博士の妹なのか……て、教師が生徒のプライベート喋ってもいいのか?

 

「ええええーっ!す、すごい!このクラス有名人の身内が二人もいる!」

「ねえねえっ、篠ノ之博士ってどんな人!?やっぱり天才なの!?」

「篠ノ之さんも天才だったりする!?今度ISの操縦教えてよっ」

 

授業中なのに篠ノ之の次々と席に集まる。みんなよく授業中なのに立てるな。さっき俺が喰らった織斑先生の出席簿が怖くないのか?

ん?なんか篠ノ之の様子がおかしいような……

 

 

 

「あの人は関係ない!」

 

 

 

突然の大声。なぜ大声を出したのか分からないがとにかく嫌がっていることは確かだ。

篠ノ之に群がっていた女子は何が起こったのか分からない様子だった。

 

「……いきなり大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない」

 

そう言って、篠ノ之は窓の外に顔を向けてしまう。

女子は盛り上がったところに冷や水を浴びたような気分のようで、それぞれ困惑や不快を顔にして席に戻った。

 

 

「さて、授業を続ける。山田先生」

 

「は、はい!」

 

さすが織斑先生。この状況をひっくり返すとは尊敬する。

山田先生も篠ノ之の事が気になる様子だったが、そこはやはりプロの教師。

慌てながらも授業を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」

 

休み時間早々一夏の席にやってきてオルコットは腰に手をあてて偉そうなポーズをとってそう言った。

好きなのかそのポーズ。まあいいか。

 

「まぁ?一応勝負は見えていますけど?さすがにフェアではありませんものね」

「てことはお前も専用機ってのを持っているのか?」

「あら、ご存じないのね。いいですわ、庶民のあなたに教えて差し上げましょう。このわたくし、セシリア・オルコットはイギリス代表候補生……つまり、現時点で専用機を持っていますの」

「おー」

「世界でISは467機。つまり、その中でも専用機を持つ者は全人類六十億超の中でもエリート中のエリートなのですわ」

「そんなこと言われなくても分かるぞ」

「親切に教えてあげていますのに黙って聞いてくださいまして!」

「こっちはまだ勉強中なんだ!終わったならどこかに行けよ!」

 

はあ……口論になったか。喧嘩するほど仲がいいというがこれは違うだろう。

 

「落ち着け二人とも。昼休みなんだから、喧嘩は止せ」

 

仲裁に入り止める。せっかくの昼休みなのに気分が悪くなるのは嫌だからな。

 

「とにかく、このクラス代表にふさわしいのはわたくし、セシリア・オルコットであることをお忘れなく」

 

また別のポーズをとってオルコットは教室を出た。

 

「一夏、勉強を一旦そこでやめて篠ノ之と一緒に食堂に行け」

「なぜ私が!?」

「放課後、特訓するんだろ。なら、昼休みのうちに決めておけ」

「それもそうだな。よし、箒。飯食いに行くぞ」

「ちょ、い、一夏!?」

 

一夏が篠ノ之の手を掴みそのまま教室を出た。しかし、よくあんな事できるな。幼なじみとはいえ女子の手を握るとは凄い。

 

「さて、俺も食堂に行くか」

「ゆーみんー」

 

本音の声が聞こえ振り向くと谷本に夜竹もいた。

 

「今からおひるー?」

「そうだ。それがどうした?」

「私たちと一緒にどうかなーと思ってね。いいかなー?」

「ああいいぞ」

 

俺を含めて計四人でお昼を食べた。和食メニューと朝作ったサンドイッチを食べようとしたが本音、谷本、夜竹のトレーの中身が朝より多いがそれでも少ないのでサンドイッチを三人にあげた。

その際、遠くの席で座っていた一夏と篠ノ之の所に三年生が来て何か話しをしていたが篠ノ之が何か言うと立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 



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第22話「特訓」

この頃、難産になってきました。
今後、更新遅れるかもしれません。
それではどうぞ!


放課後になり、剣道場に俺、一夏、篠ノ之の三人と女子数名がいる。

 

「はあああ!」

「くっ!」

 

今は一夏と篠ノ之で手合わせをしている。やはり、一夏はブランクが大きいようで苦戦して、篠ノ之は無駄な動きなく、竹刀を振るっている。

 

「はっ!」

「い!?」

 

簪は今日から二年の先輩たちに協力してもらい打鉄二式の製作の続きをすると本音が言っていた。当然ながら本音、楯無さん、虚さんも手伝うことになっている。

 

「いってー。箒、強いな」

「お前が弱くなっているだけだ。昔はお前の方が強かっただろ」

「そうだけど……やっぱりブランクがかなり響いているな」

「そうだな」

 

どうやら終わったようだ。

 

「篠ノ之、どうだ?一夏の腕は?」

「だめだな。かなり落ちている」

「そうか。だが、来週の月曜には付け刃でもしないとまずいな」

「ああ」

 

来週の月曜までになんとか様になっていればいいが、これしかないからな。

 

「ところで士郎。お前、剣道できるのか?」

「いや、剣道はしたことはないがこっちに来るまで泊めてもらった家で木刀で打ち合ってたくらいだ。だから、剣道のルールは知らん」

「へえ。そうだったんだ」

 

孝司さん以外には最低一勝はしているが孝司さんとは良いとこ止まりだ。

 

「弓塚……弓塚……どこかで聞いたような……」

「どうした、箒?」

 

なんか篠ノ之が考えている。俺の名字がどうした?

 

「……………………………ああああ!思い出した!」

「「うお!?」」

 

びっくりした。いきなり大声出すな。

 

「弓塚と言えば昔、父から聞いたことがある。学生時代に一度も勝てなかった相手がいたと」

「それが弓塚……父さんのことなのか?」

「多分そうだ。弓塚と言えばお前しかいない。なら、お前の父親に違いない」

「だな」

 

篠ノ之の父親と父さんは学生時代に会っているのか。なんとも不思議なこった。

 

「聞くところによると弓塚には剣術があるようだな」

「まあな。といっても奥義とかはないがな。戦い方が少し違うだけさ。なんなら今するか?」

「臨むところだ」

「分かった。いますぐ準備する」

 

防具を付け、竹刀を二つ持つ。いつも木刀だから少々違和感があるが問題はない。

 

「二つ使うのか?」

「ああ。弓塚家は剣の才能がないに等しいから手数が多い二刀流にしている。卑怯とか思うないよ?」

「思わないさ。では早速はじめよう」

「そうだな」

 

互いに向き合いそれぞれ構える。

 

「構えないのか?」

「いや、これが構えだ。自然体のほうが俺にはいいからな」

 

構えは両腕がダラリとしているので構えてないように見える。

 

「手加減は不要だ。こちらも全力で挑むから、そちらも全力で来てもらおう」

「無論だ。では行くぞ」

「ああ。現役の力、見せてもらうぞ」

「それでは……双方、構え!」

 

剣道部の部長さんの合図と同時に互いに前に出て、三つの竹刀が剣道場に響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

圧巻だ。さっき俺と箒の試合とは比較にならないほどに今目の前で起きている士郎と箒の戦いは凄まじい。

箒の鋭い一閃を士郎は紙一重で躱し、今度は士郎が反撃で竹刀を二つを巧みに使って攻めるが箒は一本で受け流したり一手先を読んでいるかのように躱す。

両者共に一歩も譲らない。これほどまでに激しく打ち合っているのに二人は息が乱れていない。

今の俺じゃ、箒どころか士郎に勝てない。体力はそれなりに自信はあるがさっき箒と試合をすると呆気なくやられ、体力もほとんど尽きた。ブランクが思った以上にあると確信した。

 

「これすごい……」

「篠ノ之さんも強いけど弓塚君も強い」

「単に強いじゃなくて次元が違うわ……」

 

剣道場に来ていた女子たちが思い思い言っている。たしかにこれは次元が違う。このままだと来週の試合ですぐに負ける。

だから、今からでも、少しだけでも強くなって勝つために努力を怠らないようにしようと強く決心した。

 

「ふっ!」

「はあああ!」

 

何度打ち合ったか分からないほど竹刀がぶつかり合う。互いに決定打や有効なモノを決めることが出来ず、気付けば二十分が過ぎていた。

 

「篠ノ之。これで最後にしないか?」

「そうだな。決められない以上、ここで決着を付けるべきだ」

 

間合いを取り、それぞれ構え、一瞬を待つ。

 

「………………………………」

「………………………………」

 

剣道場は耳が痛くなるような静寂に包まれ、そして―――

 

「しっ!」

「やああああ!」

 

同時に踏み込み、竹刀が(はじ)く音が剣道場に響き渡る。

 

「この勝負」

「ああ」

「「引き分けだ」」

 

そう言うと士郎と箒が持っていた竹刀が音を立てて割れた。

……………割れた?

 

「嘘!竹刀が割れた!?」

「普通割れないよ!」

「竹刀って割れるんだ」

 

割れるくらい打ち合っていたのか?あ、昔千冬姉と箒のお父さん、柳韻さんとの試合で竹刀を何本か割っていたな。

 

 

 

 

 

「ふう……」

 

面を外して持ってきたタオルで顔を拭く。思った以上に篠ノ之はやるな。実力どのくらいだろうか?

 

「篠ノ之、剣道の試合で最高でどの位までになったことがある?」

「そうだな。去年の剣道で全国大会で優勝したぞ」

「おお……結構な実力だな。そんな相手と試合したのか俺は」

 

それなら納得だな。あれほどの実力を持つのはそんなにいないと思う。

 

「そういうお前こそ大した実力だ。久々にいい汗をかいた」

「それはどうも。今度やる機会があるなら勝たせてもらうぞ」

「それはこちらのセリフだ。そうだ、弓塚。名前で呼んでいいか?」

「別に構わないがどうしてだ?」

「篠ノ之では言いにくいだろ。だから、名前でいい。それに楽しかったからな」

「そうか。なら、俺も名前でいい。これで対等だ」

「ああ」

 

さて、それはそうと。

 

「部長さん、竹刀を壊してしまいすまない」

「いいのいいの。とてもいい試合だったし、参考になったわよ?」

「ですが、壊したことには変わりありません。篠ノ之の分も弁償します」

「そういうなら……ちょっと待ってね?えーと、これがこのくらいであれがこのくらいだったから……」

 

どこからともなく電卓を出して計算し始める部長さん。部費をあまり多く消費しないために苦労しているのだろうか?

 

「士郎。私は自分の分は払うからいい」

「いや、俺が払う。ちなみにだが竹刀は一本あたりどれくらいなんだ?」

「そうだな。安いものなら二千円前後で、高いものなら三万くらいかそれ以上だ」

「そうか。なら大丈夫だ。貯蓄は十分だからな」

「だが、それでは私が納得できん」

「では、箒は払えるのか?」

「……正直厳しいな」

「そういうことだから別に気にしなくていい」

「すまないな」

「なに、困ったときはお互い様だ」

「話しはいいかな?これくらいだけど本当に大丈夫?」

 

部長さんが電卓に出ている数字をこちらに見せて聞いてくる。ふむ。さすがIS学園良い物を使っているな。

 

「大丈夫です。これくらい問題ありません。明日の放課後ここで渡します」

「分かったわ?明日待っているからね?」

「はい」

 

なんでこの部長さんは疑問形なんだ?独特な話し方だ。

 

「さて、俺は寮に戻るが一夏と箒はまだするのか?」

「ああ。休憩した後またする」

「そうか。では先に戻る。今日も勉強することを忘れるなよ」

「分かってるって」

 

防具を片づけ、剣道場から出る。

 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻り、シャワーを浴びる。

 

「あれはいったい……」

 

箒と試合の最中、頭に誰かの声が響いていた。

 

 

―――俺達は政府や誰かの道具じゃない。戦うことでしか自分を表現できなかったが、いつも自分の意思で戦ってきた

 

―――言葉を信じるな。言葉の持つ意味を信じろ

 

―――俺の剣は活人剣だ

 

 

とても懐かしく、憧れるような男達の声。どこでいつ聞いたのかさえ分からない。

だけど、心強く頼りになる人な感じがした。

 

 

 

 

 

 




最後の方は分かる人多いですよね。
何話かしたらタグを増やします。
ではまた来週!


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第23話「先輩」

お久しぶりです。
花粉と風邪にやられて随分と遅れてしまいました。
すみません。
まだ治りきっていませんが、今週中に二話か三話ほど上げる予定です。
ではどうぞ!


「いいの士郎?」

「何がだ?」

 

俺は放課後、簪と一緒に第二整備室に向かっている。一夏は昨日に引き続き箒との剣道で特訓を受けている。

 

「来週の試合なのに手伝わなくてもいいのに」

「無鉄の整備をするついでだ。問題はないだろ?」

「そうだけど……」

 

簪は俺のことを心配してくれる。確かにISでの戦闘は入試試験以外したことないから余計に心配になる。だが……

 

「大丈夫だ。相手は代表候補だが、あれでは自信ではなく傲慢になっているから隙は必ずある」

 

あんな上から見下したような様子では付け込まれる可能性が高い。特に一夏と戦ったらその可能性がより高い。あいつはいい線いっているから予想外な事をするとも限らん。

 

「ま、そんなわけだ。気にしないでくれ。ところで何人で制作中だ?」

「えっと……私にお姉ちゃん、虚さん、本音。あとは二年生の先輩が三人で計七人」

「七人か。順調にいきそうだな」

「うん。昨日は山嵐を除いて武相のテストをして大丈夫だった。今は打鉄二式の製作と『山嵐』のプログラムの打ち込み」

「そうか。二つの班にしているのか?」

「そうだよ。あ、ここ。もうみんな来てるかな?」

「さあな。入るか」

 

入るとすでに人がいた。二年の先輩や三年の先輩がちらほら見える。

 

「今は人が少ないけど行事が近くなると人が多くなるってお姉ちゃんが言っていた」

「だろうな。ISの整備や調節には最低でも5、6人は必要だから行事が近いとどこの整備室も多いはずだ」

 

「かんちゃん、こっちこっち~」

 

本音がだぼだぼした制服を振っている。楯無さんに虚さんもいて他の人もいた。

 

「士郎君も簪ちゃんの手伝いするの?」

「はい。無鉄の整備のついでということで」

「そう。ところで来週の試合は大丈夫?」

「もう耳に入っているんですか。まあ、それなりに。それよりそちらの三人の先輩が気になっているようです」

 

まじまじと見ているので正直怖い。というかこの整備室に来てから周りの視線が痛いほど分かる。

 

「あ、紹介していなかったわ。三人とも自己紹介は各々してね」

「じゃ、私から。私は黛薫子、二年で新聞部副部長をしていよ。これ名刺ね」

「ども」

 

名刺を渡された。画数の多い先輩と覚えておこう。

 

「佐倉京子だ。ずっちんと同じ二年。よろしくな」

「はい」

 

握手をされた。どこかで聞いたような名前だな。なんだっけ?あ

 

「思い出した」

「なにがだ?」

「先輩の名前って魔法少女まどか☆マギカに出てくる主要キャラの一人と同姓同名だということを」

「やめてくれー!」

「あー士郎君?京子ちゃん気にしているからその話題に触れないようにして」

「あ、はい」

 

どうやら本人も気にしているようだ。あまり触れないようにしよう。

 

「私はぁ、フィーネ・エスタールですぅ。よろしくぅ」

「こちらこそ」

 

おっとりしている人だ。本音とすぐに仲良くできるな。

 

「さて、昨日の続きをしましょう。私、簪ちゃん、虚ちゃん、薫子ちゃんは打鉄二式の製作。本音ちゃん、京子ちゃん、フィーちゃんは『山嵐』のプログラムの打ち込み。士郎君は無鉄の整備が終わったらどっちか手伝って。それじゃ、分かれて作業しましょ」

 

楯無さんのてきぱきとした指示で作業が始まる。打鉄二式はこっちに来る前より出来ていて、山嵐のプログラムの打ち込み、正確にはマルチ・ロックオン・システムの構築は六割ぐらいになっていた。

 

「俺も作業に取り掛かるか」

 

空いている作業スペースで無鉄を呼び出し、各部位にケーブルを接続して以上がないか確認する。

 

「腕部異常なし、脚部異常なし、火器管制システム異常なし、PIC異常なし。他には――――――」

 

空中パネルをいくつも出してどこも異常がないかを確認。その後はズレがないかを確認する。ズレが生じると相手との距離、速度、反応、照準位置が狂ってしまい、戦闘に影響を及ぼすだけではなく、事故にも繋がる。

だからこまめに確認し、異常やズレがあったら修正しなくてはならない。

 

「異常もズレもなし。特にこれといったところはないな」

 

次に取り掛かるのは無鉄本体に少し手を加えてみようと思う。詳しく言うと脚部にあることをするだけ。

 

「さてと、あらかじめ作ってきたパーツを取り付けるか」

 

作ってきたパーツを量子変換させて出す。無鉄の両方の脚部に取り付ける。これだけだ。

 

「よし、取り付け完了。無鉄にこのデータを入れる」

 

実は更識家の蔵の地下で仮止めして試験をしたのでその稼働データを取っていた。稼働データには俺なりに工夫をしたので試験した時よりいい動きになるはずだ。

 

「おっと、バランサーの調整をしておかないと。忘れるところだった」

 

危ない危ない。来週の試合で不具合でも起きたらまずいからな。

 

「調整完了っと。さあ、どっちを手伝うか?」

 

打鉄二式は簪中心にして試験と最終確認をしているのでこっちは手伝はなくても大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てことで山嵐のプログラムの打ち込みを手伝いに来ました」

「「いえーい!」」

「なぜテンションが高い?」

 

訳が分からん。そんなに苦戦してたのか?

 

「ゆーみんが来てくれて助かるよ―。頭が数字だらけになっちゃうところだったー」

「しょうがないだろ。マルチ・ロックオン・システムは全て独立稼働させることで高命中率、高火力のスペックを引き出せる。複雑で面倒だがこれも簪のためだろ?なら、やるしかない」

「甘い物くれるならやる気が出るんだけどなー」

「あるぞ」

「……え?」

「だから、甘いものあるぞ。といっても部屋にだが」

「今すぐ欲しい!」

「私もぅ!」

「先輩もですか!?」

 

似た者同士同調率高い!誰か助けてくれ!

 

「ほらほら、二人ともサボんな。来週には完成させんだから手を動かせ」

「「甘いものが~」」

 

佐倉先輩が二人を元の席に引っ張り着かせてくれた。

 

「すいません佐倉先輩。あとで先輩にも甘い物あげますから」

「悪いな。あと、名前でいい。お前も名前で呼んでいいか?」

「はい。では、作業の続きをしますか」

「そうだな。じゃないと、あいつらがまたサボりそうだからな」

「ははは………」

 

そんなこんなでプログラムの打ち込み曰く、構築を手伝い五時半まで続いた。ちなみに薫子先輩とフィーネ先輩も名前で呼んでいいと言われた。

 

 

 

 




二年の先輩のフルネームが分からないのでこちらで勝手に決めました。
京子のほうは魔法少女つながりで、フィーは適当に決めました。
明日の朝か夜に上げる予定です。
ではでは。


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第24話「プリンと武器」

予定通りあげられてよかった。
なんとか次のはなしを書いています。
では、どうぞ!


夕飯まで少し時間があったのでなぜか―――

 

「俺の部屋になったんだ?」

 

どういうわけか俺の部屋で時間を潰すことになった。

 

「まあ気にしないで」

「俺が気にするんですよ楯無さん」

 

楯無さんの一声で俺の部屋行きが決まったのはわけではなく、薫子先輩、京子先輩、フィーネ先輩の三人が希望に沿った形になったのだ。

 

「歴史の本が多いわね(パシャ、パシャ!)」

「これはISの武器関連の本か?」

「なにかあるかなぁ?」

 

その三人は俺の部屋を(あさ)っている。薫子先輩はカメラで部屋を適当に撮っていて、京子先輩はISの武器関連の本をあるだけ読んで、フィール先輩はベットの下を探っている。

 

「どう?」

「どうって何がですか?」

「女の子が七人で男が一人。これはハーレムよ」

「何がハーレムですか。俺は単に同級生二人と上級生五人が遊びに来ただけにしか見えませんよ」

 

この人は何を言っているんだが。部屋では本音はベットの上でマンガ本を読んでいて、簪は虚さんと簡易キッチンでお茶を用意している。

 

「それにしても色がない部屋ね」

「本があるじゃないですか。別に何もないわけではないですし、娯楽はあります」

 

部屋にはある程度揃っているんだけどな。さて、あれの用意をしますか。

 

「えーと……人数分あるな」

 

冷蔵庫を開けて確認する。完成はしているが数が足りないと騒ぐからな。

 

「士郎さんそれは?」

「これですか?これはプリンですよ。材料はこちらに来る前に用意していたので」

「そうですか。では先に紅茶を運びますね。簪さんはこちらの紅茶をお願いします」

「はい」

 

先に虚さんと簪が紅茶を持って行った。プリンを冷蔵庫から出して容器を皿に移して人数分持って行った。

 

「「わーい、プリンだー!」」

「おいしそう」

「これはこれは(パシャ!)」

「よく作れるな」

「相変わらずレパートリーが多いわね」

「上手に出来ていますね」

 

分かりにくいだろうが上から本音とフィール先輩、簪、薫子先輩、京子先輩、楯無さん、虚さんの順だ。

 

「あれ、士郎君スプーンは?」

「今出します」

 

いつものように無鉄の投影でスプーンを人数分出して渡した。すると、薫子先輩が質問してくる。

 

「え、今のなに?」

「なにって俺の専用機の能力(スキル)で出したんですよ」

「…………マジ?」

「マジです」

 

他の人見せていたのは今が初めてだったな。京子先輩とフィール先輩も唖然としている。

 

「士郎君。それ使っちゃダメでしょ」

「別いいはずです。規則や法律にも書かれてはいませんし」

「まあそれはそうだけど、まあいいか」

 

今のIS学園の規則やISに関係する法律には触れるようなことはしていない。ISの能力で食器を作ってはいけないなどどこにも書かれてはいないから。

 

「今はプリンと紅茶をいただきますか」

「ちなみにプリンのおかわりはないのでよく味わって食べてください」

 

それぞれ紅茶を飲み、プリンを食べ始める。

 

「おいしい!」

「うまうま!」

「本当においしいわね」

「おいしいですね。どう作ったのですか?」

「ただネットに書いてあるレシピ通りに作っただけですけど」

 

喜んでなによりだ。薫子先輩と京子先輩はなぜか暗い。どうしたのだろうか?

 

「おいしい。だけど、料理が私より上だなんて……」

「デザートを作るのは誰にも負けない自信があったのに……」

 

よく聞こえないがそっとしておこう。下手に話しかけて余計落ち込んだらまずいからな。

 

「もぐもぐ……ゆーみん、武器の設計図はどう?」

「昨日とさほど変わってないぞ。急にどうした?」

「なんでもなーい」

「武器の……設計図?」

 

京子先輩がグルリとこちらを見る。ホラーかよ。

 

「士郎は武器を作ったことあるのか?」

「ええ。それがどうしましたか?」

「……てくれ」

「はい?」

「見せてくれ!お前が作った武器を!」

「ちょっ!?」

 

肩をしっかり掴んで揺さぶってくる。やばい。うぷ、このままだと気持ち悪くなる。

 

「見せて―――ぐぼ?!」

 

揺さぶりが収まったか。誰が止めてくれたんだ?

 

「大丈夫、士郎……」

「簪だったか。ありがとう。危うく気持ち悪くなるところだった」

 

止めてくれたのはありがたいんだが、手に持っているのは本棚にある本だな。それで叩いて止めたのか?なんだかこの頃、簪の性格が変わったような気がする。気のせいであって

ほしい。

 

「あたたた。ごめん、なんだか興奮しちまって」

「大丈夫です。今武器出しますから待っててください」

 

ブルーシートを下に敷いて38式狙撃銃の4種類を出した。どれも整備済みでマガジンを装填すればいつでも撃てるようになっている。

 

「嘘だろ!これって今話題になっているもんじゃねえか!」

「は?」

 

どういうことだ。なんのことかさっぱり分からん。

 

「これを見たら分かるわよ」

 

楯無さんからISの雑誌を渡された。どれどれ。

 

「今話題になっているISの武器は38式狙撃銃。射撃をメインにしている人におすすめ。

種類は全部で4種類。最初は反動の少ない38式狙撃銃。慣れてきたら改、新式にするのがいいでしょう。

最終的には反動の大きい遠雷にしてみましょう。反動は大きいですが威力は格段に違います。

…………………どうなっているんだ?」

 

いつの間にこんなことになっていたんだ。しかもこれは特集と書いてある。

明日銀行の通帳を記載してみよう。金額が恐ろしくなっているような気がするが……

 

「つまり38式狙撃銃を4種類作ったのがお前でいいんだよな?」

「ええ。間違いなく俺が作りました。設計と製造も当然しました」

「よく出来るな。私には出来ないよ。設計図を書いてもいいとこ止まりで結局パーだ」

「なら今度一緒に設計図作りますか?材料はこちらが負担しますから」

「え、ありがたい話だけどよ本当にいいのか?」

「いいですよ。一度は誰かと設計したいと思っていたのでいい機会ですからどうです?」

「………やろう。そうすれば、将来の進路に大きなはずみが付くはずだ」

 

武器開発を将来の進路に考えていると整備室で言っていたな。

 

「あ、もう七時過ぎているわ。それじゃ私たち二年生は寮に戻るからあなたも食堂に行きなさい」

「分かりました。片づけは俺がやっておきますので」

「すいません。士郎さんお願いします。それではまた明日」

「プリンおいしかったよぉ。じゃねぇ」

「今度取材するかもね。じゃあ!」

「試合が終わったら設計図作ろうな」

 

楯無さんたちは二年の寮に戻り、部屋には俺と簪、本音だけになった。

 

「食器を洗うから先に食堂に行っててくれ」

「分かった。なるべく早く来てね」

「席確保しておくねー」

「ああ。食堂で会おう」

 

食器を三分足らずで洗い、乾かして置いて食堂に向かった。

 

 

来週の試合はどうなることやら。

 

 

 

 




次は明日の朝か夜になります。
ではまた明日!


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第25話「クラス代表戦・前編」

やっと書けた。
遅くなりましたが、どうぞ!


「来ないな。俺のIS」

「そうだな。調子は大丈夫か?」

「ああ、バッチリだ!箒の特訓のおかげで自信がついた!」

「そ、そうか。よ、良かったな///」

 

今日はオルコットとの試合の日。戦う順番は一夏とオルコット、俺とオルコット、一夏と俺になっている。つまり、総当たりで多く勝った者がクラス代表になる。

試合が終わるごとにISの整備と補給、休憩の15分がある。

 

「士郎もありがとな。知識もそれなりについた」

「そうでなければ俺も困る。だが、試合では互いに全力でぶつかり合おう」

「ああ!」

 

一夏はこの一週間で確実に力をつけていた。箒の話によれば三日目までは負け続けていたが四日目からは押されたり、勝つのが多くなったというのだ。

これは将来化ける。もしかすると、千冬さん以上になるかもしれん。

 

「にしても本当に遅いな。もう10分は過ぎている」

「そうなんだよな。千冬ね…じゃなかった織斑先生が連絡の一つくらい寄越してもいいのによ」

「連絡を待つしかないだろ」

 

試合時間が過ぎていてオルコットはすでにアリーナの中央で待っている。

モニターで見るとISを身に纏い、右手に銃が握られている。外見からすると中距離から遠距離の射撃タイプだな。

 

「お、織斑くん織斑くん織斑くんっ!」

 

山田先生が駆け足でやってきた。何気に転びそうと思うが今はそうはいかない。

 

「ふむ、山田先生。落ち着いたらどうです。深呼吸をしたら少しは落ち着きますよ」

「そ、そうでよね。す~~は~~、す~~は~~―――」

 

数回してようやく落ち着きを取り戻した。奥からは織斑先生もやってきた。

 

「来ました! 織斑くんの専用IS!」

「織斑、すぐに準備をしろ。アリーナを使用できる時間は限られているからな。ぶっつけ本番でものにしろ」

 

本来ならフォーマットとフィッティングは試合前に済ませておくのだがアリーナの使用時間はそれほど多くはないので試合中に済ますしかない。

 

 

ガコンっ

 

 

ピット搬入口が開く。上下の防壁扉が向こう側にいた一機のISがいた。

 

「これが……」

「はい!織斑くんの専用IS『白式(びゃくしき)』です!」

 

 

ザザ……

 

 

「ッ!」

 

突然頭にノイズような音が響く。だが、すぐに治まった。なんだったんだ、今のは……

 

「ん?どうした弓塚。何か考えごとか?」

「いえ。なんでもありません。大丈夫です」

 

織斑先生が気付いたようだが別にどこも悪くないので大丈夫と言った。

 

「すぐに装着しろ。時間がないからフォーマットとフィッティングは実践でやれ」

 

急かされて、一夏はISに触れる。

 

「あれ……?」

「どうした?」

「いや、なんでもない」

 

なにか思った感じとは違ったのか?

 

「背中を預けるように、ああそうだ。座る感じでいい。あとはシステムが最適をする」

 

白式が一夏を包むように装甲を閉じる。それと同時にフォーマットとフィッティングが開始し、一夏の視界を中心に空中投影ディスプレイが浮かび上がる。

それにはオルコットの機体情報が表示されているようだ。

 

「ISのハイパーセンサーは問題なく動いているな。一夏、気分は悪くないか?」

 

ん?一夏のことを普段は織斑と呼んでいるのに今は名前で呼んだ。表情はいつも通りだが内心では一夏のことが心配なんだろう。

 

「大丈夫、千冬姉。いける」

「そうか」

 

一夏が名前で言っても怒らないとは……。ちゃちゃ入れたら何されるか分からないから黙っていよう。

 

「箒」

「な、なんだ?」

「行ってくる」

「あ…ああ。勝ってこい」

 

一声かけておくか。

 

「一夏」

「なんだ士郎?」

「油断するなよ」

「いや、油断できないんだが……」

「そうだったな。なら、全力でやってこい。今のお前の、な」

「!ああ!」

 

ピット・ゲートが完全に開き、カタパルトに乗る。一夏はカタパルトから火花を散らしながら、一気に弾丸のように打ち出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、逃げずに来ましたのね」

 

目の前には鮮やかな青色の機体『ブルー・ティアーズ』を纏うセシリア。右手には二メートルを超す長大な銃器

 

 

―――検索、六七口径特殊レーザーライフル《スターライトmkⅢ》と一致―――

 

 

が握られていた。すでに試合の鐘はなっているので、いつ撃ってきてもおかしくない。

 

「最後のチャンスをあげますわ」

「チャンスって?」

「わたくしが一方敵な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら、許してあげないこともなくってよ」

 

 

―――警戒、敵IS操縦者の左目が射撃モードに移行―――

 

 

言っていることとやっていることが逆になってんじゃねーか。

 

「そういうのはチャンスとは言わないな」

「そう?残念ですわ。それなら―――」

 

 

―――警戒!敵IS射撃体勢に移行。トリガー確認、初弾エネルギー装填―――

 

 

「お別れですわね!」

 

 

キュインッ!

 

 

「ッ!」

 

咄嗟に右に避けて白式の左肩が掠った。箒との特訓がなければ直撃していた。

白式は俺に合わせて最適化している最中だ。一次移行(ファースト・シフト)になるまでの辛抱だ。

 

「そんじゃ、行くぜ!」

 

右手に武器の一つというより一つしかない近接ブレード(名前が分からない)を呼び出し、構える。

 

「中距離射撃型のわたくしに近距離格闘装備で挑もうだなんて……笑止ですわ!」

 

引くわけにはいかない。激戦が、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう、今のを掠っただけか。てっきり直撃だと思ったが」

 

今俺と箒は管制室で見ている。一夏がカタパルトで射出された後、織斑先生に管制室で見ていいと言われたので甘えて来た。

 

「箒と特訓が生かされたのでしょう。でなければ直撃していたと思われます」

「そうなのか?すまないな篠ノ之、弟が迷惑をかけたな」

「い、いえ。私もいい刺激になりました。それと昔のように織斑先生と打ち合ってみたいと思っています」

「なら、今度時間があったらそうしよう。手加減はせんぞ」

「!はい!」

 

一夏が箒の実家が剣道場だったなら、織斑先生も通っていたのか。だから、ISでの戦闘でもそれで接近戦がメインか。

 

「それにしても一夏はなんで近接ブレード一本で戦っているんだ?」

「現役時代の私のマネか?」

「いやいや、さすがにそれはないと思いますが」

 

調べてみるか。えーと…………………………は?

 

「箒、織斑先生。今分かったんですが、えーと…………」

「なんだ弓塚。はっきり言え」

「そうだぞ。もったいぶらず言うんだ」

「……白式には近接ブレード一本しか搭載してないそうです」

「「は?」」

 

なんで近接ブレード一本しかないんだ?しっかり調べたがやはり一本しか表示しなかった。

 

「そうだとしたら一夏は接近するしか方法がないのではないか!」

「落ち着け箒。俺に言われても困る。だが一次移行(ファースト・シフト)になれば、武装が増えるかもしれん。それまで耐えればいいだろ」

「そ、そうだな」

 

というものの押されているのには変わりはないんだがな。

だが、一夏のISの起動が二回目。それに初の戦闘だというのにこうも動けるとは、本当に実力だけなのか?

もしかして遺伝子が関係して―――

 

 

―――DNA情報はあくまでも力や運命を秘めていると言うことだけしか言えないわ。

   運命に縛られてはいけない。

   遺伝子に支配されてはいけない。

   生き方を選ぶのは私達なのよ。―――

 

 

「ッ!」

 

今度は女の声か。一体なんなんだ。まるで何かを思い出すように突然頭に声が響く。そう、忘れてはいけないと。

 

「見てください!織斑君が何かしようとしています!」

 

山田先生の声に反応してリアルタイムモニターを見る。

 

「これは……」

 

無理矢理な機動でビットを避けてオルコットに近づくために急激な加速してライフル銃身とブレードがぶつかり、銃口がそれて難を逃れる。

すぐさま距離を取り、ビットで反撃をするがをするが4機あるうちの1機を斬り落としたのだ。

 

「一夏。お前はこの短時間で弱点を見抜いたのか?」

 

だとしたら、とんでもない奴だな。これは一夏との戦闘は気は抜けない。こちらが喰われる。

 

「すごいですね織斑君。ISの起動が二回目とは思いません」

「あの馬鹿者浮かれているな」

「どうしてわかるんですか?」

「さっきから左手を閉じたり開いたりしているだろ。あのクセが出る時、大抵簡単なミスをする」

「はぁぁぁ……。さすがご姉弟ですね。私には分かりませんでした」

 

山田先生が何となく言ったことに気づいて織斑先生がハッとする。

 

「あ、あれでも一応私の弟だからな……」

「あー、照れてるんですかー?照れているんですねー?」

「……………」

 

山田先生そんなこと言ったら。

 

 

ガシッ!

ギリリリリリリリ!

 

 

「山田先生……」

「いたたたたた!!」

「私はからかわれるのが嫌いだ」

「わかりました!わかりましたから、離して―――あううううっ!」

 

ヘッドロックが山田先生に炸裂。照れ隠しをヘッドロックでするのはかなり酷ですな織斑先生。

 

「………………」

 

箒は気にせず、ずっとモニターを見ている。ただただ、ずっと見ている。

付き合いは長くはないが、箒は両手を合わせて無事を祈るようなマネはしない。そういう性格ではないからだ。

 

「ふむ」

 

そして、試合は大きく動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獲った!

 

全てのビットを斬り落とした。ライフルの銃口は間に合わない。確実に一撃が入る絶好のタイミングだ!

 

「距離を詰めればこっちが有利だ!」

「―――かかりましたわ」

「え!?」

 

 

ガコン

 

 

腰にまだあったのかよ!くそ!

 

「おあいにく様、ブルー・ティアーズは4機だけではありませんのよ」

 

回避が間に合わない。しかも、レーザ射撃じゃなくてミサイルだ。

 

「くっ!」

 

振りきろうとするが追尾してきた。

 

 

ドカァァァァッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏!!」

 

ミサイルが一夏に当たり爆炎が立ち上る。思わず箒は声を上げた。

 

「「機体(IS)に救われたな、馬鹿者め」」

 

俺と織斑先生の声が重なった。

煙が晴れるとそこには一次移行(ファースト・シフト)を終えた、真の純白の機体がいた。

 

「織斑先生。準備がありますので俺はピットに戻ります」

「いいのか?試合はまだ終えてはいないぞ」

「気になりますがどっちとも気は抜けない『相手』です。ですので、早めに準備をする必要があります。それでは全試合が終わった後で」

 

管制室から出て一夏やオルコットがとは違うピットに向かった。

 

向かいながらリアルモニターを出して試合の状況を把握する。

どうやら、結果はオルコットの勝利だそうだ。リプレイで見ると一夏は雪片の特殊能力を知らずに使ったようで急激にエネルギーが減り、自滅した。

 

雪片はバリアー残量に関係なく切り裂いて、直接本体にダメージを与える。そうすると、絶対防御が発動して大幅にシールドエネルギーを減らすことが出来る。

ただし使用時には自分のシールドエネルギーを転化するので消耗が激しい。織斑先生は当たる瞬間に発動させて斬るだけにしてエネルギーの消費を抑えていたようだ。

 

「さて、あのビットは少々厄介だが対策は万全。抜かりはなし」

 

ピットに到着して準備を着々と進める。

 

 

 

 

 

 




試合はあと二話ほど。
タグ追加は三話ほど先。
次回は早くて月曜日、遅くて水曜日。時刻は不明。


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第26話「クラス代表戦・中編」

遅くなってすいません。
四月に入ってから信じられないほど忙しくなってしまって執筆が遅くなってしまいました。
まだ忙しいので次はいつになるか分かりません。
ともあれ、やっと書けましたのでご覧ください。


「時間まであと5分か」

 

武装は対オルコットように変更済み。弾薬も十分。設定は全てマニュアルに切り替えてある。

 

「準備万全なようね」

「なぜここにいる美沙夜」

 

いつの間にか美沙夜がいた。全く気付かなかった。

 

「応援しに来たのよ。戦うのはまだ二度目でしょ。緊張していたらほぐしてあげようと思っていたけどその必要はなさそうね」

「ああ。なにせはじめて戦った相手は織斑先生だったからな。あの人以外に緊張はほとんどしないだろ」

「ご愁傷様。ワタクシは織斑先生とは戦いたくないわ。戦ったら生きた心地しないし」

「それは言い過ぎ……でもないか。正直な所そうだった」

 

あの時は集中して勝つことに一身になっていたが次の日に思い返していたら生きた心地しなかった。

経験は財産と言うがあれは一回限りで十分だ。

 

「それよりそこに隠れている二人はいつまでそうしているの?」

 

物陰から二人の女子が出てきた。てなんだ。

 

「簪に本音どうした?」

「えっと応援しに……」

「お菓子もらいに~―――」

 

 

ゴン!

 

 

「応援しに来たんだよ!」

 

簪が目にも止まらぬ速さで本音の頭に拳骨をした。さすがにまずいと思ったのか真面目に答えた。

やはり簪は変わったな。良くも悪くも。

 

『時間になりました。オルコットさん、弓塚君はアリーナの正面に集まってください』

 

山田先生のアナウンスによる指示が出たので無鉄を出してカタパルトに乗る。

 

「し、士郎!」

「なんだ簪?」

「頑張って」

「ああ」

「ゆーみん勝ってね~」

「そのつもりだ」

「思いっきりやりなさい」

「当然」

 

勢いよく俺と無鉄はカタパルトから射出され、アリーナ中央に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白式に乗りながら補給をしている。これから士郎とセシリアとの戦いが始まる。どのくらい強いのだろうか。千冬姉を不意打ちまがいで倒したって言ってたけど結構強いんだろうな。

 

「織斑、よく見ておけ。お前と弓塚がどれくらいの差であるのかを。そして、これから先、望むと望まざると、ずっと比べられる事になる」

「そのくらい分かっているさ千冬姉。俺はもうISとは無関係じゃいられないってことぐらい。それに今は士郎の方が強いけどすぐ追い抜いてやるさ」

「ふ、意気込みだけは一人前だな」

 

あれ?結構本気で言ったんだけど。

 

「それと織斑」

「はい?」

 

 

バァァァァン!

 

 

「あだ!?」

「織斑先生と呼べ」

「すいません織斑先生……」

 

いってー。油断するとつい言っちまうんだよな。慣れるのにまだ時間が掛かるなこれは。

 

「さて、そろそろ始まるぞ。試合中はずっとモニターを見ていろ。弓塚を追い越すのだろ?」

「もちろんさ!」

 

試合は間もなく始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オルコット。さっきの試合は危うくやられそうになったな」

「そうですわね。ですがわたくしも代表候補生の一人。先ほどのようにはなりませんわ」

 

ふん。いい目になっている。一夏との試合で何かが変わったのか一週間前とは違う。

 

「では全力でお相手してもらおうか、代表候補生?」

「いいですわ。相手になって差し上げましょう」

 

オルコットは先ほどのレーザーライフルを出し、俺は両手に小型マシンガン2丁を出した。

 

「あら?その銃はデータにはありませんがどうしましたの?」

「これか?これは自作したものでな、データは出ないはずだ。待ち時間の間にデータをコアネットワークに流しておいたからそろそろ出るはずだ」

「あ、出ましたわ。それにしてもよく作れますね」

「まあな。作ると決めたからには手は抜かんさ」

『それでは試合を始める。カウント三秒後だ』

 

アナウンスは山田先生から織斑先生に変わったようだ。空中パネルがさん3と表示された。

 

「「……………………」」

 

互いに無言になり、いつでも撃てるように姿勢を整える。

 

 

 

 

オルコットは前の試合のように早撃ちで来るはずだ。

 

 

 

 

なぜなら―――

 

 

 

 

「は!」

「ふっ!」

 

ロックされているからな!

 

「喰らえ!」

 

カウントが0になったのと同時に読み通りにオルコットは早撃ちをした。読めていた事なので掠る事無くすぐに反撃に転じた。

今両手に持っている小型マシンガン2丁は織斑先生と戦った入試試験で使ったD90デュアルを強化したD90カスタムだ。

D90デュアルとの違いは連射精度を大幅に強化、射撃時間の延長だ。しかし、秒間火力はD90より劣る。

 

「どうだ。二丁拳銃スタイルの武器はそうそうないからやりづらいだろ」

「そうですわね。ですが、それだけではわたくしは負けはしませんわ!」

 

ちまちまとシールドエネルギーを削っているが相手はレーザーライフル。一発一発が強いから当たるとこちらと違い、多く削ることが出来る。

弾幕を張っていてもそれを突き破って撃ってきている。まあ、こっちは実弾、相手はレーザーだからしょうがないか。

 

「これならどうです!」

 

レーザーライフルで撃つのをやめ、フィン状のビットがこちらに向かってきた。

 

「む!」

 

一夏の時より攻撃が鋭くなっている。少々避けずらいがこれくらいなら。

 

「よ!は!」

 

だが、このままでは押される。ここは一気に……ん?

 

「ビットを戻した?」

 

どういうことだ。ビットとレーザーライフルをメインとした戦いのはずだが両方とも出していない。

 

「なっ!?」

 

武器を出せずにこちらに接近してきた。一体何をするつもりだ。

 

「インターセプター!」

「っち!?」

 

近接ブレードを叫びながら出した。本来、呼びながら出すのは初心者の方法だ。一夏との試合では近接ブレードを出さなかったと思われたが出すのが苦手とだと今はっきり分かった。

 

 

キィィィィン!!

 

 

「驚いたな。射撃型のISで近接戦闘に切り替えてくるとは。想像もしなかったぞ」

「苦手な物をあえて使うのは時としては強くなるのでしてよ」

「同感だ」

 

なんとかD90カスタムを交差してインターセプターを防いだ。これでは互いにどうしようもないはずだ。

 

「あなたは何か勘違いをしていますね」

「どういうことだ?」

「知っておりますがわたくしは並行処理が苦手で銃とビットを両方操ることが出来ません」

「ああ。一夏との試合で分かっている」

「ですがビット四つを操ることは出来ませんが―――」

 

まずい!本能がそう叫ぶが回避が間に合わない!

 

「一つくらい操ることが出来ましてよ」

 

オルコットの後ろから空中に浮かんでいるビットに左肩に当たる。それと同時に右手のD90カスタムをビットに当てて破壊した。

 

「くっ!」

 

 

―――左肩装甲にダメージ。戦闘に支障なし、戦闘継続可能。

 

 

無鉄から状況報告を受け、戦闘に支障ないのなら問題ない。

 

「やってくれるな」

「油断大敵ですわ」

 

さて今度はこちらから攻めるか。

 

「全システムをマニュアルに変更、及びFCSをオフ」

「なっ!?」

 

無鉄に指示を出す。やはりオートでは射撃があまくなり、FCSで狙いがずれる。マニュアルにすると操縦が難しくなるがオートではできないことが増え、動きが断然違う。

FCSは入試試験と同じ感覚だ。

 

「あ、あなた!マニュアルにするとどうなるのか分かっていますの!それにFCSを切るなんて無茶ですわ!」

「分かっているさ。操縦が難しくなるのだろ。だが、俺にはこっちの方が動きやすいし、FCSは妙に狙いがずれるから外しただけだ」

「無茶苦茶ですわ!」

「そうだな。それとオルコット」

「な、なんですの」

「―――これから本気で行くぞ!」

「受けて立ちますわ!」

 

左手にあるD90カスタムをバススロットに戻す。

右手に改、左手に新式を展開(コール)。弾薬装填完了、安全装置解除。これでいつでも撃てる。

 

「はっ!」

 

弾丸がブルー・ティアーズにいくつも当たり、シールドエネルギーが減っていく。

後ろに回り込まれたがそのまま後ろを向いたまま狙撃を行う。ISは360度全方位が『見える』が『認識』しようとしない限りそれは『見えている』ことにはならない。

これは人の目に問題があるからだ。見る対象が中心とするとそこははっきり見え、認識できるが周りは大体見えているだけで認識していないので『見えてはいない』ということになる。

と言ってもぼやけているだけだ。

 

「くっ!先ほどとは明らかに違う正確な射撃。悔しいですがお見事ですわ!」

「それは嬉しいな。代表候補生に褒められるとは」

 

互いに旋回し、撃ち合う。はっきり言うとオルコットはオートを使うところが多いので俺に分がある。オートだと自動的に相手をターゲットサイトに入れ自分で撃つようにしているので

タイミングがずれる。

 

「さて、一気に決めさせてもらう」

 

会と新式を戻す。代わりに両手には遠雷を出す。さすがにこいつは反動が強いから両手で撃たないといけない。

 

「行きなさい!」

 

腰に付いている残りのビットを出して俺に向かって撃ってくる。最小限の動きで躱し、一機のビットに狙いを定めて撃つ。

 

 

バンッ!!

 

 

遠雷。その名の通りに遠くで鳴る雷ように銃声が響く。

 

 

ボン!

 

 

ビットが破壊され小さい爆音が鳴る。

 

「まだですわ!」

 

残りのビットを巧みに操り、当てようとするが全て躱す。それと同時に残りのビットを撃ち、破壊した。

 

「あなた一体何者ですの?これほどの腕前はわたくしと同等。いえ、それ以上ですわ」

「何者と言われてもただの記憶喪失者だ。絶賛記憶を思い出している最中だよ」

 

思い出せているのはごく僅かだが。

 

「セシリア・オルコット」

「なんですの?」

「今から放つ矢を撃ち落としてみろ。まあ、撃ち落とせたらだが」

「ふん!矢ぐらい落としてみせますわ!」

 

ただの矢ではないがな。

遠雷を戻し、代わりに黒い洋弓を投影して左手に持ち、右手には捻じれた黒い矢を投影して放つ態勢にする。

 

 

ギィィィ

 

 

引き絞った弦は(しな)る音がなり、狙うはイギリス代表候補生、セシリア・オルコット。

 

「赤原を行け、緋の猟犬!―――」

 

投影する際に出来るのは元の武器を再現するかアレンジをすることの二つだ。

そして捩じれた黒い矢は元々剣だった。それは北欧の英雄ベオウルフが振るった剣。その名は

 

「―――赤原猟犬(フルンディング)!」

 

古より伝来する名剣で、長い柄を持ち、刀身は血をすするごとに堅固となると言われていた剣。

放たれた矢は得物を喰らうかのようにオルコットに迫る。

 

「ッ!?」

 

咄嗟に避けて、余裕の顔でこちらを見る。

 

「撃ち落とすまでもありませんわ。避けてしまえば―――」

「言っておくが俺が狙い続ける限り追撃し続ける。だから撃ち落とせてみろと言ったんだぞ」

「なっ!?くぅぅぅ!!」

 

後ろから来たのを急旋回で避け、アリーナ中を飛び回るように動いた。

後ろ向きになりながらレーザーライフルで矢を撃ち落とそう構え放ち、見事に当たる。

が、当たっているのに矢は落ちず迫って来る。

 

「どうして!当たったはずですのに!?」

 

混乱しているが撃ち続ける。しかし、いくら当てても矢の勢いは衰えず、追尾され続けるという恐怖が迫っている。

 

「――――――――!」

 

そしてついに―――

 

 

ゴォォォォン!!!!

 

 

矢に当たり、激しい爆音がなる。

上から気絶したオルコットが落ちてくる。ISはエネルギー切れのようで纏っていない。このままでは間違いなく死んでしまう。

 

「少々所かやり過ぎたな。試合が終わったら織斑先生から説教されるな」

 

見過ごすことなくオルコットを受け止める。

ま、何はともあれこの勝負は―――

 

『勝者、弓塚士郎』

 

『ワアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

織斑先生の宣誓でアリーナの歓声が上がる。

うむ。勝者だけが味わえる勝利の美酒というものだな。

 

「このまま戻るか。オルコットは簪たちに任せよう」

 

このあとは一夏と試合か。果たして俺が勝つか一夏が勝つかどちらになのか分からん。

 

 

 

 

 




さて、今度は一夏と士郎です。
まだ序盤しか書けていません。
なるべく早めに上げたいと思っています。
それとISの第二期が決まったそうですね。
楽しみだ!


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第27話「クラス代表戦・後編」

書けた書けた。これでやっとクラス代表戦が終わった。
さて、長話をするつもりはないのでどうぞ。


「「「最後のやり過ぎ」」」

「正直俺も思った。だけど、あれで結構威力落としたつもりだぞ」

 

戻って早々簪、本音、美沙夜に怒られた。仕方ないか、あんな威力のある武器を使ってしまったからには。

溜める時間が長いとそれに応じて威力と放つ速度も増す。だから、あまり溜めず放ったがそれでは威力に不安があったので真名解放をした。そのせいで思った以上に威力が上がってしまった。

オルコットには悪いことをしたな。起きたら謝ろう。

 

「左肩以外は目立った損傷がないわね。それにしても驚いたわ」

「何がだ?」

 

無鉄の左肩を修理し、補給をしていると美沙夜が訪ねてきた。

オルコットは本音が見ている。簪は修理の手伝いをしている。

 

「マニュアルに切り替えた事よ。一部をマニュアルにするならともかく全部マニュアルにするなんて正直気が狂ったかと思ったわ。それにFCSを切るなんて」

「ひどい言い草だな。俺にとって全部マニュアルにした方が動きやすく、FCSは邪魔にしかならん」

「はあ……全世界の代表候補生にそれを言ったら間違いなく怒るわよ」

「そんなに代表候補生がいるはずも……あ」

「なんなの……あ」

 

簪が酷く落ち込んでいる。しまった、簪は日本の代表候補生だった。

 

「あー簪。今言ったのは俺の場合だからな」

「どうせ私は姉さんとは違うし全部マニュアルに出来ないしFCSに頼らないといけないですよ……」

「どうするのよ。責任取りなさいよ」

「そうだそうだ~」

「それは分かるが……」

 

まずい。ものすごくマイナス思考とネガティブになっている。どうしたらいい。あ

 

「詫びと言ってはなんだが、夕食を三日作るというのはどうだ?」

「(ピク!)」

 

お、これはいい反応だ。これで機嫌直してくれたらいいが。

 

「………五日」

「え?」

「夕食五日でいい」

「日にちが増えているが問題はない。だから、機嫌を直してくれ」

「分かった///」

 

頭を撫でたら簪の顔が赤くなった。なんでだ?

 

「はあ……あなたよく女性の頭を撫でられるわね」

「嫌がってはいないし、したいからしただけだ」

「…………士郎。あなたは意外と鈍感ね」

「なんでさ」

 

一夏とは違うぞ。断じて違うぞ。大事な事なので二度言った。

 

「で、彼とはどんな装備でいくの?さっきの試合のようにするつもり?」

「いや、それはしない」

「じゃあなに?」

「ふ。それは―――」

「「「それは?」」」

 

次のことを言ったら、呆れたと言われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、箒」

「なんだ、一夏」

「ものすごく勝てる気がしないのは気のせいかな」

「奇遇だな。私もそう思っていたぞ」

 

はあ……。なんなんだよさっきの試合。セシリアのでっかい銃とビットを躱しながら士郎は両手に持つマシンガンを弾幕で張って、それに応戦するようにセシリアも巧みにビットを操っていた。

俺の時には使わなかった近接ブレードも使っていたし。中盤こそ士郎は押されたが終盤になるにつれ徐々に押して最後に出した矢?を放って見事セシリアに当たり勝った。

 

「最後の矢は一体なんだ。オルコットは確かに当てたはずだ。それなのに落ちなかった。と言うことはあれは普通の矢ではないことは確かだ」

「それが一番分からないんだ。箒は知らないか。ISの武器にああいうのがあるのは?」

「一通りに見たことはあるがないな。なにせ弓と矢という時点で聞いたことがないし、見たこともない」

「うーん」

 

それもそうか。武器と言ったら普通は剣、銃、盾と言ったものが多い。箒の言うとおり、弓と矢は聞いたことがない。

 

「あれはもしや……」

「どうしましたか織斑先生?」

「すまない山田君。少し席を替わってくれ」

「え?ええ、分かりました」

 

千冬姉が山田先生が座っていた席に座り、パネルを操作し始めた。

 

「ふん。やはりな」

「えっと、織斑先生一体何をしてたんですか?」

 

とにかく千冬姉に聞いてみることにした。

 

「弓塚が最後に放った矢。正確には剣を調べていた」

「剣?だけど、あれはどう見ても矢でしたよ?」

「そうだ。確かにあれは矢だ。だが元は剣だ」

 

どういうことかさっぱり分からない。箒も山田先生も分かっていないようだ。

 

「あの矢は北欧神話に出てくるベオウルフが使っていたと言われているフルンティングという剣だ」

「「「へぇー……………ええええ!?」」」

 

俺と箒、山田先生はあまりのことに驚いた。なにせ神話に出て来る武器を使っていたのだ。驚かない方がおかしい。

 

「織斑先生は驚かないんですか。士郎は神話の武器を使っているんですよ」

「これでも驚いているぞ。昔見ていた本を思い出して、気になって調べてみると、とんでもないことが分かったからな」

 

そうだろうか?至って普通にしか見えない。

 

「織斑先生。それじゃ、俺が負けるのは分かっているもんじゃないですか」

「その心配はないだろう。さて、そろそろ時間だ。早くアリーナに出ろ」

「え?あ、はい」

 

とにかく白式を展開してカタパルトに乗る。

 

「一夏。せめて一撃くらい入れて見せろ」

「なんとか入れて見せるさ。じゃあ行ってくるぜ箒」

「ああ」

 

カタパルトから射出され、アリーナにはすでに士郎がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、一夏。今のお前はどれくらい強い試させてもらうぞ。

 

「お前の武器はその雪片一つだけだろ?」

「ああ。でも、負けるつもりはねえさ!」

 

雪片を構え、いつでも戦えるようしている。

こちらはあれでもしよう。

 

「一夏。最初に言っておくが今俺は拡張領域(バススロット)には一切武器はないぞ」

「はあ!?」

「なんだ。そんなおかしな顔をして」

「お前、今武器一つもないのか」

「そうだと言っているだろ。耳でもおかしいのか?仕方がない。今表示しておこう」

 

アリーナ中央に大き目に無鉄の武器情報を出す。

ざわざわとアリーナの観客席から聞こえる。

 

「武器なしで勝つつもりなの。あの一年」

「なめているの?」

 

ちなみに二、三年もいる。専用機持ちはIS学園でも少ないから少しでも情報が欲しいのだろう。

あと、会話がよく聞こえる。二、三年生からは不満な声が聞こえるが無視しよう。

 

「本当に武器一つもないんだな。それで勝つつもりか?」

 

確かにそうだな。だが……

 

「それでもお前くらいなら勝てるつもりだ」

「む……」

 

こちらを睨んでいる。気にはしないが。

 

『それでは三回戦、始めろ』

 

織斑先生の合図と同時に一夏が突撃して来た。

 

「うおおおおおおお!」

 

勢いよく振るって雪片が俺に当たりそうになる。

しかし、俺は避けない。

右手を前に出してとある剣を投影し、雪片とぶつかり、火花が散る。

 

「な!?」

 

一夏は驚き、少し下がる。だが、なにより驚いているのはこの剣だろう。

 

「なんで……お前が……それを……持っているんだよ……」

「武器がないのに持っているのに驚いているのか」

「それもそうだけど。お前が持っているのは……」

「ああ。お前が思っている通りだぞ。これは―――」

 

織斑先生が現役時代に使っていた唯一の武器。

 

「雪片だ。それも当時織斑先生が使っていた武器だ」

 

『ええええええええ!!』

 

そう言うとアリーナ中から驚くような声が上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう……ここは……?」

 

わたくしは弓塚さんと試合をして戦って最後に矢に当たってそれからは……

 

「あ、セッシー起きたね」

「あなたは……クラスの布仏さんですね。なぜここに?」

「ゆーみんを応援しに来たからここにいるんだよー。それとここはゆーみんのピットだよー」

 

見渡すとここはわたくしがいた別のピットだと気付く。

 

「え?」

「セッシー気絶しちゃったから覚えていないもんね~」

 

ということは試合は……

 

「負けたのですね……」

「まあそだねー。あ、ゆーみんとおりむーの試合が始まるよ」

 

モニターを見ると弓塚さんと一夏さんの試合が始まろうとしています。

それとセッシーとは恐らくわたくしのことで、ゆーみん、おりむーとは弓塚さんに一夏さんのことでしょう。

 

『お前の武器はその雪片一つだけだろ?』

『ああ。でも、負けるつもりはねえさ!』

 

ああ、一夏さん。頑張ってください。応援していますわ。

 

『一夏。最初に言っておくが今俺は拡張領域(バススロット)には一切武器はないぞ』

『はあ!?』

『なんだ。そんなおかしな顔をして』

『お前、今武器一つもないのか』

『そうだと言っているだろ。耳でもおかしいのか?仕方がない。今表示しておこう』

 

そう言うと弓塚さんは拡張領域(バススロット)のデータを表示した。

 

「弓塚さんは何を考えていますの?これでは物腰ですわ」

「まあ普通そう思うよね~」

「どういうことですの?」

「それは試合が始まると分かるよ~」

 

織斑先生の合図と同時に一夏さんが弓塚さんに突撃して斬りかかりそうになるが―――

 

「な、なんなのですの!!あれは!?」

 

弓塚さんの右手が一瞬光るとそこには近接ブレードが握られていた。

 

「驚くよね。あれは無鉄の能力(スキル)の一つ、投影って言うんだよ」

「とうえい?」

「ゆーみんの説明だとね、剣であれば大体は造れるだって言ってよー」

「えっと、つまり拡張領域(バススロット)に何もなくてもそのとうえいという能力(スキル)だけでも戦えるということですの?」

「ビンゴー!」

 

それですとあの弓と捩じれた黒い矢もそれで出来た物なのですね。

一夏さんと弓塚さんは互いに剣一つで戦っています。

それはまるで遥か昔の騎士の戦いだと思えるほどでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィィン!!

 

 

「ふうっ!」

「はああああ!」

 

 

ガキィィィィン!!

 

 

火花が散り、これで何回目かは忘れてしまった。もとより数えてはいないが。

 

「どうした一夏!これでは勝つのは夢のまた夢だぞ!」

「はっ!これからさ。今に見ていろ!」

 

一夏は確かに一週間前より確実に実力が上がっている。太刀筋も悪くない。だが……

 

「ふん」

 

 

ガキィィィィン!!

 

 

「くっ!」

 

直線的で尚且(なおか)つ、教科書のような動きでは先読みは容易だ。

 

「すでにシールドエネルギーは四割を切っているはず。それでは機体が良くても動かす者が未熟では性能は半分も出せはしない」

「そんなこと分かっているさ。だから、一撃一撃を振りながら強くなる!」

 

幾度も挑み、果敢に攻めてくる一夏。それに応えるかのように俺も剣を交じり合う。

 

「だとしてもこのままでは負けてしまうぞ」

「それでも俺は勝つ!」

「む!?」

 

今の太刀筋は危なかった。この戦いの中でも成長しているのか。全く羨ましくも恐ろしいものだ。

 

「では次ので終わらせる。構えないと終わるぞ」

 

雪片の特殊能力を発動させ、青白い刀身が現れる。一夏も雪片の特殊能力を発動させ、青白い刀身が現れる。

同じ剣、同じ特殊能力。あちらは何度か発動させることは出来るが俺のは一回限りだ。なにせ、まだ完璧に投影は出来ていない。

通常の近接ブレードならともかく、この雪片は構造が複雑なうえに一次移行(ファースト・シフト)で使えるような仕組みのせいか構成材質は理解できるが製作技術が読み切れていない。

俺がまだ投影を扱いしきれていないのが原因だろう。が、今は考えるのはよそう。

目の前にいる者は戦いながらも成長し続ける戦士。気を抜けばあの青白い刀身の餌食になる。

 

「「……………………」」

 

互いに無言のまま剣を構え直す。シールドエネルギーはこちらは八割弱。あちらは四割を切っている。差は歴然だが、その差を埋めることが出来るのがこの雪片。

相手のシールドエネルギー残量に関係なくそれを切り裂いて本体に直接ダメージを与えられる。すると絶対防御が発動して大幅にエネルギーを削ぐことが出来る。

まさにISの中では現代の伝説の剣と言っても過言ではないだろう。

 

「……………!」

 

先に動いたのは一夏だ。無言のまま接近し、眩く青白い刀身が俺に向かって振り落されようとしている。

避けはしない。避けれるが敢えて避けない。ギリギリまで引き寄せる。

 

 

フォ……!

 

 

今だ!

寸前で躱すことが出来た―――が右肩を掠ってしまって二割ほど削られたが技後硬直をしている隙に空きっぱなしの腹に一閃!

 

 

ザシュッ!!

 

 

白式のシールドエネルギーは0になり、一夏の雪片は元に戻り、俺の勝ちだ。

 

『勝者、弓塚士郎』

 

『ワアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

歓声が上がっているが俺は一夏の所に向かった。

 

「ああ、結局負けちまった。最後の一撃は入ると思ったんだけどな」

「だが、最高の一撃だったぞ。完全に躱すつもりだったが掠ってしまったから驚いたぞ」

「当たんなきゃ意味ないだろうよ」

「まあそうだな。とにかくにいい試合だった。これからお互い頑張っていこうじゃないか」

「ああ」

 

握手をするとアリーナ中から拍手が贈られた。

 

 

 

 

 

 




次もいつになるか分かりません。
落ち着くのにまだ時間が掛かるのでお待ちください。
それでは次回もよろしくお願いします。

それと八巻はどうするか悩んでいます。
もしなにかあれば、意見をください。


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第28話「遠い」

どうも一週間ぶりです。
ゴールデンウィーク中は現実が忙しく、今が私の休みです。
てなわけで短いですが出来ました。
どうぞ!


ピットに戻るとオルコットが起きていた。無鉄を待機状態に戻し、簪たちの所に行った。

 

「オルコットさっきはすまなかった。威力が高過ぎた」

「いえ、お気になさらず。真剣勝負でしたのでああなるのも致し方ないですわ」

 

流石は代表候補生と言ったところか。あらゆることも考えているのか。立派なもんだ。

 

「士郎。帰ろう」

「お菓子~お菓子~」

「いいデータも取れたし、用もないでしょ」

 

本当ならこのまま部屋に戻るつもりだったがオルコットとクラス代表の事で話さないといけなくなった。

 

「すまない。少しオルコットと話しがあるから先に戻ってくれ」

 

分かったと言って三人はピットから出た。

 

「話しとはなんですの?」

「クラス代表のことだ。俺は一夏にしようと思っている。オルコットはどうする?」

「セシリアでいいですわ」

「分かった。俺も士郎でいい。で、セシリアはどうする?」

「全勝した士郎さんでいいのではないでしょうか。わたくしから見ても申し分ないですわ」

「それはありがたいが辞退させてもらう。代わりに一夏をクラス代表にしようと思う」

「なぜですの。何か問題でも?」

「知っていると思うが俺は記憶喪失だ。何かしろ問題が起きたらまずいだろ」

「あ、そうですわね。それならしょうがないですわ。わたくしも一夏さんでいいと思います」

 

ん?一夏さん?あいつセシリアを惚れさせたな。これでは織斑先生も苦労するのが少しだけ分かる。

 

「話しは変わるがセシリア」

「なんですの。何か聞きたいことでもありますの?」

「ああ。疑問に思ったんだがお前が代表候補生になったのはなぜだ」

「……………」

「大抵、代表候補生になるのは実力を持った者でそれに相応しい人材。これならIS適性の低い者でもなれる。しかし、セシリアはIS適正A+と出ている。単になりたいからなったわけでは

なく、何かしらの理由でなったという俺の予想だ。もし、嫌であれば無理に話さなくていい」

「……別に隠す必要もありません。教えてあげますわ。わたくし、セシリア・オルコットが代表候補生になった理由(わけ)を―――」

 

セシリアが代表候補生になったのは両親の遺産を守るためだった。

母親は今のような女尊男卑になる前から女の身でありながらいくつもの成功を収めた人。セシリアに厳しかったがそれでも憧れる人だと。

だが、父親は名家に婿入りしたせいかいつも母親の期限を窺っていた。そのせいか一夏や俺のような男は皆そんな風だと思うようになったという。

ISが発表されてからはその関係は悪化し、親子三人で過ごす時間はいつの間にか無くなっていた。

その二人が亡くなったのは三年前の越境鉄道の横転事故。死傷者は百人を超える大規模な事故だった。

両親が残した莫大な遺産を金の亡者から守るためにあらゆる事を勉強し、その一環で受けたIS適正テストでA+が出た。

政府は国籍保持のため様々な好条件を出されて即断した。

 

「ふふ」

「なんですの急に笑って」

「なに、俺とセシリアは似ているのだと思ってね」

「似ている?どこがですの?」

「両親を亡くしているという所さ」

 

どこか共通していそうな気がした。なんとなくだが何か大切なモノを失ったと感じとっていた。

 

「さて、雰囲気が暗くなるのはやめにしよう。俺は織斑先生にクラス代表の事を言ってくる。では、また明日な」

「はい。また明日」

 

ピットから出て織斑先生の所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士郎さんは先にピットから出て行き、わたくし一人になりました。

 

「試合はすべて負けてしまいましたが本国にはいい結果が送れますわ」

 

負けはしまいましたが一夏さんの白式と士郎さんの無鉄のデータが取れたので本国も今回のことはあまり怒りはしないはずですわ。

貴重な男性操縦者ですし、ブルー・ティアーズのデータも取れたことなので文句のつけようがありませんわ。

 

「それにい、一夏さんのことももっと知りたいですし///」

 

一夏さんのことを考えると胸が熱くなりますわ。わたくしはあの方に恋をしてしまったようですわ。

 

「本国に連絡を入れる前にチェルシーにアドバイスをもらいますわ!」

 

早速、チェルシーの電話に掛けました。

 

「あ、チェルシー。わたくしです。実はですね……………」

 

後で知ったのですがこの時眠かったと言っていました。日本とイギリスとの時差をすっかり忘れていましたわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、織斑でいいんだな?」

「はい。自分もオルコットも話し合った結果、そう決めました。こちらも出来る限りフォローするので」

 

織斑先生にさっきセシリアと話し合ったことを話した。反対も何もなかった。

 

「言い忘れそうになったがオルコットとの試合の最後は少しやり過ぎだぞ」

「それは自分も思っています。思った以上になってしまったのは自分の方が驚いていました」

「最後の矢……いや、剣か。あれはフルンティングだろ?ベオウルフが使っていたと言われた伝説の剣をどうやって出した」

「よく分かりますね。あれは投影で作ったようなものですよ。といってもまだ伝説の武器等はなかなかうまく出来ませんが」

「ほう。私の時のようにすぐに出来たのにか」

「はい。ちなみに織斑先生との入学試験で使ったのは干将・莫耶目という夫婦剣で、中国のとある有名な鍛冶職人が作ったものです」

「それが出来てなぜ他のは出来ない」

「それが分からないんですよ。まだイメージが足りないのか、何かが欠けているのか。

なんにせよ徐々に精度は上がっているので大丈夫です」

 

あとは何も言うことはないな。部屋に戻って一息いれるか。

 

「それでは失礼しました」

 

職員室から出て部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこかの海に潜んでいる一隻の船がある。いや、船というには大き過ぎる。

正確には巨大戦艦である。中の設備はどれも最新の物が多く、とても充実している。人員は軽く百人は超える。

その中である金髪の中年の男女が会話をしている。

 

「あの子と別れてもう三年になるのね」

「そうだね。でも、しょうがないよ僕らは狙われているんだから」

「それはそうだけど……自分の目で人目会いたいわ」

 

金髪の中年の男女は夫婦である。あることで狙われているのでこの巨大戦艦を所持している組織に匿ってもらっている。

 

「いつになるかは分からないけどきっと会えるさ」

「そうね。その間にあなたの性格を直さないといけないわ」

「え?僕はそんな性格悪かった?」

「そういうことじゃいわ。あなたが……Мだから、あの子に嫌われているのよ」

「ま、まさか……そんなことで僕は嫌われていたのか!?」

「今まで気づかれていないのが驚きよ。

それよりも早く彼の息子が記憶を思い出してここに戻ってきてほしいわ」

「そうだね。僕らはあの時、救われたから余計にだよ」

 

世界には多くの秘密がある。事故や見せかけた事件、突発的な犯行と思わせ実は計画的な犯行など多く存在する。

この中年夫婦もその一部である。

 

「セシリアに早く会いたいわ。それと士郎とは仲良くしてるかしら」

「大丈夫だよ。なんたって彼の息子だし」

「それもそうね」

 

娘との再会にはいつになるのか。それは誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 




さてさて、伏線を張りました。
あまりここでネタバレはしません。
次を一話してからいよいよ鈴を出す予定です。
感想、意見がありましたらどうぞ送ってください。
ただ、私は心が脆いのであまり過激な批判はよしてください。


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第29話「不安過ぎる」

すいません。鈴が出るのは二話か三話したあとぐらいになりました。
なんか書いているうちにアイディアが出てきてあとになります。
では、どうぞ!


クラス代表を決める試合の翌日。

 

「では一年一組代表は織斑一夏くんに決定です。あ、一繋がりでいい感じですね!」

 

山田先生は嬉しそうにしゃべり、クラスの女子もとても盛り上がっている。

 

「先生、質問です」

 

一夏が当然のように質問をする。分かりきっているが。

 

「はい、織斑くん」

「俺は昨日の試合、全部負けたんですが、なんでクラス代表になっているんでしょうか?試合に全部勝った士郎の方のはずでは?」

「それは弓塚くんが答えてくれます。では弓塚くんお願いします」

「え?」

 

朝のうちに山田先生にも説明したので俺が答えることになっている。

 

「俺は記憶がまだ戻っていない。今の所、問題はないがいつか問題が起きたら困るだろ」

「まあな。突然痛み出したりとかするのか?」

「いや、今はそういうのはないがいづれ起きるかもしれん。それだとクラス代表が務まらんだろう」

「そうだけど……他にもあるだろ?」

「もちろんだ。まずお前は専用機持ちの中で一番弱い」

「ぐはっ!?」

(くわ)えて知識も乏しく、IS稼働時間が短い。技術面も当然乏しい」

「ごほっ!?」

「だから、お前にクラス代表にすれば否応なく強くなる必要が生まれる。それにセシリアと話して決めた事だ。どうだ、納得がいくだろ?」

「納得はいくが、理解できないんだが……」

「それにな―――敗者は勝者に従え」

「完璧に横暴だ!」

 

何を言うか。敗者は勝者に従う。実に成り立っているではないか。

 

「織斑先生!やはり士郎の方が―――」

「別に問題ではなかろう。お前が単にやればいいだけだ」

「味方が誰もいない!?」

 

教師がそんなこと言っていいのだろうか。なんにせよ問題はない。

 

「いやあ、セシリアに弓塚君分かっているね!」

「弓塚君もいいけど織斑君もいいよね。問題なし!」

「折角クラスに男子がいるんだから、同じクラスになった以上持ち上げないとねー」

「私達は貴重な経験が積める。他のクラスの子に情報が売れる。一粒で二度美味しいね、織斑君は!」

 

…………問題はないはずだ。

 

「織斑先生少しよろしいでしょうか」

「時間はまだある。長くは時間は取るなよ」

「はい」

 

セシリアは織斑先生から許可を得て、クラス全体見渡せるように教壇に立った。

 

「先週、わたくしは皆さんに酷いこと言いました。申し訳ございません」

『!?』

 

セシリアがいきなり謝罪を言い、頭を下げたことに教室中がざわついた。

驚くのも無理はないか。あれほど罵倒していた人が謝罪と頭を下げればな。

 

「これでも許されないのであればわたくしはどんなことでも受け入れます。皆さんにはそれほど言ったので覚悟はしています」

『……………………………』

 

静寂が教室を包み、誰も喋ろうともしない。いや、どう言えばいいか分からないのだ。

そんな中、本音がセシリア立つ教壇に向かい、頭をなでなでする。なんでさ?

 

「布仏さん、何を?」

「セッシーは悪いこと言ったから謝ったんだよねー」

「は、はい」

「私はセッシーのこと許すよー」

「で、ですがそれだけでは十分では……」

「謝ったんだから十分だよー」

 

優しくセシリアに話す。頭を撫でながら。

 

「そ、そうだよ!謝ったんだから十分だよ!」

「酷い人だと思ったけど良い人だって分かった」

「反省しているし、もういいよ」

「これから仲良くしましょセシリア」

「もうみんな許しているよ」

「み、皆さん……ありがとうございます……」

 

クラスメイト達の言葉に涙するセシリア。これでセシリアを悪く思う者は少なくとも限りなく減り、何かしようとはしないだろう。

セシリアと本音教壇から降りて自分の席に戻った。

 

「あ、あとですね。わたくしが一夏さんに指導してもよろしいでしょうですか?代表候補生ですし、身になると思うのですが」

「ああ。それは助か―――」

 

 

バン!

 

 

「生憎だが、一夏の教官は足りている。私に、直接頼まれたからな」

 

もう分かるが遮ったのは箒だ。一夏の事になるとすぐにムキになる。というか机を叩くのは痛くないのか?

 

「あら?ISランクCの篠ノ之さんがAのわたくしに何か用かしら?」

「ラ、ランクは関係ない!頼まれたのは私だ!い、一夏がどうしてもと懇願(こんがん)するからだ」

 

してないぞ。あの場にいたが普通にお願いされていただけだ。

それにそんなに騒ぐと織斑先生が―――

 

「座れ馬鹿ども」

 

 

バシン!

 

 

「「うう……!!」」

 

叩かれるからな。いつも通りに出席簿で叩く。なぜあの出席簿からあんな音がするのは今だに謎だ。

 

「お前たちのランクなどゴミだ。私からしたらどれもひよっこ同然だ。まだ殻も破けていない段階で優劣を決めようとするな」

 

さすがにセシリアも反論したいが黙って聞くように言葉を飲み込んだ。

 

「代表候補生だろうと一から勉強してもらうと前に言っただろう。下らん揉め事は十代の特権だが、今は私の管轄時間だ。叩かれたくなくば自重しろ」

 

恐喝及び脅迫のように聞こえるがここで何か言うとあの出席簿が飛んできそうなので言わない。

 

「ではクラス代表は織斑一夏。異存はないな」

『はーい!(はい)』

 

一夏以外返事をする。

このあとの授業はいつも通りに進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼になり、クラス女子は食堂に行く人や弁当を持参する人、購買で買う人と分かれる。

俺は弁当を持ってきている。屋上で食べようと思うが一人ではいささか寂しいので誰かを呼ぼう。

 

「ゆーみんどこで食べるの~」

「屋上で食べようと思って誰かを呼ぼうとしていた所だ。本音も屋上で食べるか?」

「食べるよ~。今日はサンドイッチを作ってきたからねー」

「ほう。一人で作れたのか。これは驚きだ」

「えっへん!」

 

威張るようなことではないが本音にとっては一人で作れたのが良かったようだ。

 

「それでは屋上に行くか」

「はーい」

 

廊下に出るとなんと簪がいた。なぜここに?

 

「士郎はお昼どこで食べるの?」

「屋上で食べようと本音と向かうところだ。簪もどうだ?多くいれば食も進むぞ」

「そ、そうだね……」

 

なぜかがっかりしたような感じになったが気にすることでもないか。

 

「あら?士郎に簪、本音じゃない。どこに行くつもりなの?」

 

美沙夜が出てきた。いつもは昼は合わないんだが、これが初めてだな。

 

「昼飯を屋上で食べようと向かうところだ。美沙夜は食堂か?」

「あらかじめ購買で買ってきた弁当をどこで食べようかと思っていたけど……屋上にするわ」

「ならば早速向かうとするか。あまり移動に時間をかけては食べる時間が減るだけだからな」

 

てなわけで俺、簪、本音、美沙夜の四人で食べることになった。

なんというかいつも食堂で食べているから外で食べるのは新鮮だな。

 

「滅多に人が来ないと思ったが本当にいないな」

「そうだねー。屋上に来る理由なんてみんなそんなにないからねー」

 

屋上は誰一人いなかった。これは貸し切りのようなもので得した気分だ。

 

「士郎と簪は弁当なのね。少し分けてくれないかしら?」

「いいぞ。簪はどうだ?」

「構わない。いいよ」

「ありがと。いただくわ」

 

俺と簪は弁当を開き、本音はラップで包まれたサンドイッチを出し、美沙夜は購買で買ってきた弁当を出す。

 

「手の込んだ弁当じゃない。簪はともかく士郎も自分で作ったの?」

「そうだ。このくらい当たり前だ。料理は得意だから弁当を作ることなど造作もない。男が弁当が作るのは変か?」

「いえ、興味があったから聞いただけよ。それじゃ、おかず頂くわね二人とも」

「いいないいなー。わたしもいい?」

「いいぞ」

「本音、何がいい?」

 

美沙夜は俺の弁当にあるから揚げ一つ、簪の弁当からは卵焼き一つを取った。

本音は俺の弁当にあるから揚げ一つ、簪の弁当からは浅漬けのキュウリ一つを取った。

から揚げが人気のようで四つのうち二つ無くなった。

 

「美沙夜」

「なに簪。どうしたの?」

「士郎の料理はおいしいよ。そして、心折れないでね」

「どういうことよ」

「食べてみれば分かる」

 

簪は美沙夜に何か言っているようだがよく聞こえない。本音はもぐもぐと食べている。

 

「……!これは……そういうことね」

「大丈夫?」

「なんとかね。料理に少し自信があったけどこれは想像以上に美味しいわ」

 

やはりうまく聞こえない。仕方がないここは堂々と聞いてみるか。

 

「どうだ、美味しかったか?」

「ええ美味しかったわ。…………心が折れるくらい」

 

最後の方は聞こえなかったが美味しかったと言ったのでよかった。自分で食べるのと他人が食べるのでは違うから少々心配であった。

 

「ところで士郎。あなたは土曜の午後は暇?」

「暇と言えば暇だな。急ぎの用事はないし、これといったこともない」

 

暇と言うのは本当だ。無鉄は一日一回整備をしていた問題はない。勉強も今のところ問題はない。だからやるといったら訓練だけだが今は一夏を特訓させるだけだ。

 

「えーとね。その……なんというか……あー……」

「何が言いたい。はっきりしなくは返答に困る」

「はあ……分かったわよ。はっきり言うわ。

土曜の午後二時に久宇企業に来なさい」

「…………………………は?」

 

久宇企業?無鉄を作った久宇研究所の上のことか。なんだってそんなとこに行くんだ。

 

「ちなみにこれは社長命令よ。拒否権はないわ」

「社長命令……つまり美沙夜の」

「ええ。お母様からよ。今朝連絡があったの」

「………………」

 

美沙夜の母親。それは父さん、弓塚悟郎の元婚約者の久宇 舞弥のことだ。今は久宇企業の社長としている。

正直言うと行きたくない。会ったら何があるか分からない。不安でいっぱいだ。

 

「何もしないよな」

「………多分。こればかりは自信はないわ」

 

一気に死亡フラグが立ったなこれは。

 

「えっと、どういうこと?」

「なになに~?」

 

簪と本音は知らなかったな。言っても大丈夫だろ。

 

「実はな…………」

 

二人にありのままに説明した。無鉄のこと、久宇企業のこと、そして父さんと社長との関係を。

 

「というわけで非常に不安なんだ。これは行ったらおしまいのような気がする」

「フーラグが立った、フーラグが立った♪」

「ああ…………………」

「ほ、本音。それは言い過ぎ」

「えへへ~」

 

不安が一気に押し寄せてきた。逃げたい。どこか安全な所に逃げたい。

ここはIS学園でも俺は一応久宇企業に所属しているから無理か。

 

「とにかく、土曜の午後二時に久宇企業に行くわよ。ワタクシも付いて行くから多少なり大丈夫だと思うわ」

「分かった。行ってみなければ分からんからな」

「私も行っていいかな?」

「かんちゃんのメイドとして私も行くー」

「問題はないわ。事前に連絡をしておけば大丈夫」

 

こうして土曜の午後は久宇企業に行くことになった。ああ、不安だ。

 

 

 

 

 

 

 




さて次回は社長と対面だ。
うまく書けるか自信はありませんが頑張ります。
では次回もよろしくお願いします。


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第30話「世代を超えた再会」

ようやく落ち着いてきたので以前のように週一で更新できそうです。
それではどうぞ!


「ここが久宇企業……」

「そうよ。日本のIS業界でトップクラスを誇る企業よ」

 

土曜の午後、IS学園を離れて目の前に立つビルは久宇企業に来ている。

久宇企業はISが発表されていち早く日本で、いや、正確には世界で最初に立ち上げた企業である。いち早く立ち上げたおかげか滑り出しから今に至るまで順調に軌道に乗り、日本では知らない者はいないというくらいに知名度が上がった。

主に久宇企業はISの武装、武器に力を入れている。小さい物はハンドガン、大きい物は五メートルを超える武器または武装になる。

数年前に無鉄もここで造られたことは知っての通り、誰にも反応せず、解体もできないということになり、IS学園に保存されるようになった。

ただ、データを改善させて日本政府に売り、打鉄が誕生した。無鉄で痛い出費が掛かってしまったが打鉄で挽回が出来て、国からの支援が増えてプラマイゼロになり、空振りにならずに済んだ。ただでは転ばないとはまさにこのことだ。

 

「わーおっきー!」

「思った以上に広い」

 

簪と本音も来ている。俺たち四人の格好はIS学園の制服で来ている。下手に私服で来ると不審に思われそうなので制服にした。美沙夜を先頭に中に入る。

 

「ごめんなさい。お母様はいる?」

「これはこれはお嬢様。社長は社長室に入らっしゃいます。こちらで連絡を入れておきますのでお上がりになってください」

 

受付の女性に一声かけて、すぐに対応する。美沙夜が社長の娘だとよく知っているな。

 

「ここにはよく来るのか?ずいぶん慣れているようだが」

「ええ。ワタクシも専用機持ちで日本代表候補生だからここに来るのよ。まあそれ以前に何度も来ているからここで働いている人にはほとんど知っているわ」

 

なるほど、それだからか。母親が社長で用が出来るのは当たり前か。知らない者はほとんどないということか。

エレベーターに乗り、社長室がある階に上がり始めた。

 

「そういえば簪と本音はさっきから黙ってどうしたの?」

「そうだな。まさか緊張しているのか?」

 

言われてみればそうだ。ここに入ってから一言も喋っていない。

 

「き、緊張しちゃって……」

「さすが落ち着かないよ~」

「大丈夫よ。お母様は少し無愛想だけど、いい人よ。なにより、ワタクシの友達なんですから心配はないわ」

 

無愛想なのか。どんな人なのだろうか。それより俺は緊張より不安の方が勝っている。ああ、不安だ。

 

「付いて来なさい。ここはセキュリティが他の階より厳しいから」

 

美沙夜の後ろに付いて行く。上を見ると防犯カメラが設置されている。一見普通の作りのようだが銃弾を跳ね返すくらいの強度がありそうだ。

 

「ねえ美沙夜。この壺はいくら位するの?」

「それは300万ぐらいだったかしら。あまり興味ないから分からないけど」

「さ、300万!?壊したら、やばいよ~」

「そ、そうだね……」

 

間違いなく借金する羽目になるな。他にも絵画や日本画などあった。本音が転ばないように気配りしたので少々疲れる。

 

「ここよ。ワタクシが入ったら後に続いて入って」

 

 

コンコン

 

 

「はい」

「お母様、ワタクシです。入ってもよろしいでしょうか?」

「問題ないわ。どうぞ」

「失礼しますわ」

「失礼します」

「し、失礼……します……」

「失、礼しま、す!」

 

簪は緊張しながら言えたが本音は噛みつつ言った。

中は女性一人と男性一人の計二人がいた。女性の方が社長で男性の方はおそらく秘書かそれに近い者であろう。

社長は席に座ったまま話しを始めた。

 

「初めまして、私が久宇企業、社長の久宇 舞弥よ。こっちは秘書の亮夜」

「秘書の亮夜です。今日はようこそ御出で下さいました」

「……弓塚 士郎です。IS学園で一年一組です」

「更識、簪です。同じくIS学園で一年四組です」

「布仏本音で、す。同じくIS学園で一年一組です」

 

美沙夜以外自己紹介終えた。簪と本音はまだ緊張しているようだ。

社長はさっきから俺の顔を見ている。理由は分かるが。

 

「やはり似ていますか。父、弓塚 悟郎に」

「ええ、似ているわ。とても」

『…………………』

 

俺と社長以外は無言で何も言わない。誰かなんでもいいから言ってほしい。すぐに話題がなくなる。

 

「それに……」

「それに?――――――ッ!」

 

社長が席から消えたと思ったら目の前まで来ていた。手にはサバイバルナイフが握られていた。

鋭利な刃物が俺に目掛けて一直線に迫って来る。普通の人であれば避けも躱せもしないが生憎、こういうのを頭の片隅に事前に入れて置いているので身体は反応できる。

 

「ふっ!はあ!」

 

寸前で躱し、サバイバルナイフを持つ手首を掴み、空いている腕の肘で腹に叩きこむ!

 

「ぐっ―――!」

 

サバイバルナイフを手離して後ろに大きく下がる。さすが旧家の人で武術の心得がある。

 

「ちょ、ちょっと!お母様何をするんですか!?士郎を殺すつもりですか!?」

「社長落ち着いてください!」

 

美沙夜と秘書は驚き、美沙夜は守ろうと俺の前に立ち、秘書は社長を後ろからガッチリ押さえ、簪と本音はガタガタと震えている。

 

「落ち着きなさい。私は試したかっただけよ」

「試す?何を?」

「あの人の息子であるかを試したかっただけよ。別に殺す気はないわ」

 

殺す気はなかった?俺に目掛けて重傷になりかけたのにか。試すにしても心臓に悪い。

 

「ごめんなさいね。驚いたでしょう?」

「ええ。死にかけたと殺す気がないという二重の意味で。それとダメージはないはずだ。とっさに後ろに引いたのでダメージはほぼないであろう」

「ふふ、そうよ。やっぱりあの人の息子だわ。その目が何よりの証拠よ」

「目?」

 

どういうことだ。さっぱり分からん。

 

「分からないようね。いいわ教えてあげる。

弓塚家の者は生まれつき目がいいのよ。詳しく言うと静止視力・動体視力・深視力・近見視力・遠見視力がいいの。

目および対象物が静止しているの事を静止視力、動いている物体を視線を外さずに持続して識別する事を動体視力、遠近感や立体感を正しく把握する事を深視力、近見視力・遠見視力はそのままの意味で近くで見える視力と遠くを見る視力の事。

あとは中心視力・中心外視力もそうね。対象だけを見る事を中心視力、対象の周辺を見る事を中心外視力。

それらのおかげで遠くのモノがよく見えて、敵を捉えることが出来て弓で発揮するの。近くに来られても周辺が見えるおかげで有利に立つことが出来るの。

あとはあなたの方が分かるでしょ」

 

そうなのか。それで目がいいのか。つまり生き残るためにご先祖たちは目を鍛えて、(のち)の子孫に引き継がれたと。

 

「こんな事を聞くのはあれですが――――――恨んでいないんですか」

「誰を?」

「父、弓塚 悟郎を」

「恨んでいないわよ」

「へ?」

 

即答で頭が回らない。今なんて言った。恨んでいないと言ったな。

 

「恨んでいないと言ったのよ。私は亮夜と一緒になれたことが嬉しいんだから」

「はあ……は?」

 

亮夜って秘書さんのことなのか。てことは。

 

「そうよ。秘書の亮夜は私の夫。でその娘が美沙夜なの」

「……本当なのか」

「ええそうよ。お母様が言った通り社長がお母様でその秘書がお父様よ」

「今は仕事なので他人口調になっていますが、仕事以外では至って普通の夫婦です」

 

秘書、亮夜さんはそう言った。今更ながらどこか美沙夜に似ていることが気が付く。

 

「亮夜。お菓子と紅茶を持ってきて。せっかく来たんだからおもてなししないと」

「そうですね。それでは少々お待ちください」

 

亮夜さんは部屋から出た。それより、簪と本音は大丈夫か。部屋に入る前のようにダンマリになっている。

 

「「(ガタガタガタガタ!)」」

 

元より震えている。正気に戻すか。

 

「それ」

 

 

バチン!バチン!

 

 

「「いったーーーい!!」」

「元に戻ったか」

 

デコピンをすると二人は痛そうに叫ぶ。痛くしたんだからな。

 

「痛いよ士郎」

「ゆーみ痛いよ~」

「正気に戻ったからいいだろ。それと社長さんはいい人だぞ。意外と」

「意外とは失礼ね。あと舞弥でいいわ。社長と言うのは仕事関係だけで結構よ」

 

それからは亮夜さんが持ってきたお菓子と紅茶をいただいた。

あと話をしたのは世間話や無鉄のことぐらいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは俺たちは帰ります。今日は色々話を聞けて良かったです」

「そう。それじゃ頑張ってね。無鉄に何か問題があったら連絡をいつでも寄越していいわ」

「はい。それでは失礼しました」

「「失礼しました」」

「仕事がんばってねお母様」

 

あの子たちと話しを二時間が経ち、学園に戻った。

あの二人、悟郎さんと美樹の息子、士郎を見ると学生時代を思い出す。

 

「学生時代を思い出すいるのかい?」

「ええ。あの頃はなんやかんや言ってもとても良かったわ」

「そうだね。舞弥が先輩で俺が後輩だったし、先輩達も慕ってくれて良かった」

 

今では同級生に会う機会はめっきり減ってしまったけど、()()()になれば大体集まれるし大丈夫。みんなもそれぞれ家庭や事情もあるし、しょうがないわ。

 

「さて、仕事を続けるわよ。なにが残っていたかしら?」

「ISの武器、武装ですね。先日、研究上から――――――」

 

業務に戻り、外は夕闇になろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回を挟んで鈴を出す予定です。
ちなみにこの小説のお気に入りが300件超えていたのに今更ながら気づきました。
これは皆様のおかげです。今後もよろしくお願いします。

それと関係ないですがマクドナルドのメガポテトが気になります。
あれはとても量が多いそうですね。

では次回も楽しみにしてください。


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第31話「イメージ」

やっと週一に戻ってきた。
だけど、まだ不安なのでタブはかえません。
説明うまく出来ていないと思いますがそこは許してください。
それではどうぞ!


「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、弓塚。試しに飛んでみろ」

 

四月も下旬になり、俺達一年生は学園生活に慣れてきた。俺と一夏は主に女子に対する気遣いだが。

最近の出来事だと俺は弓道部に入った。新入生のあいさつの時には先輩や同級生が口を揃えて「弓道やってて良かった!」と一言一句間違わずハモった。俺だけが驚き、周りは色々盛り上がっていた。今の所は問題なく先輩や同級生との間は良好だ。

で今はISの実践授業の最中だ。なんの苦も無く無鉄を展開(オープン)する。セシリアはさすがだな。代表候補生だけあって展開(オープン)に一秒もかかっていない。

 

「よし!…………………………えっと、あれ?」

「織斑早くしろ。熟練したIS操縦者は展開(オープン)まで一秒とかからないぞ」

 

なぜか一夏だけが出していない。まだイメージが出来ていないのか?

それと織斑先生。俺と一夏は熟練したIS操縦者じゃないですよ。特に一夏はまだもらってから一ヵ月も経っていないんですから。

ちなみにISは一度フィッティングしたら、常に操縦者の体にアクセサリーの形状で待機している。セシリアは左耳の青いイヤーカフス、俺は首にかけている赤い勾玉、一夏は右腕の白いガントレット。ガントレットは防具だな、完全に。

普通であればアクセサリーだがそこは各ISによって違いがあるらしいので偶々ガンタレットになったということだろう。

 

そんなことを考えていると一夏は左手でガンタレットを掴み、瞬時に白式が出て来る。

 

「よし飛べ」

「「はい!」」

 

織斑先生の指示通りにセシリアと同時に空に上がる。

 

「よし俺も――――――うお!?」

 

後ろに大きく下がり上に上昇してくる一夏。それにフラフラだ。

 

「遅い。スペック上の出力ではオルコットのブルー・ティアーズと弓塚の無鉄より白式の方が上だぞ」

 

確かにスペック上では俺とセシリアより上だ。それでなぜ遅いのかは感覚がつかめないからで、性能を引き出せていない。いうなれば、宝の持ち腐れ。

 

「そう言われても。えーと、自分の前方に角錐を展開させるイメージだっけ。うーよく分かんねえ……」

「一夏さん、イメージは所詮イメージですわ。自分がやりやすい方法で模索する方が建設的でしてよ」

「大体、空に飛ぶ感覚自体がまだあやふやなんだよ。なんで浮いているんだ、これ」

「説明すると反重力力翼と流動波干渉になるぞ。分かるのか?」

「いや、いい。さっぱり分からん」

「だろうな」

「士郎はどういうイメージで飛んでいるんだ?」

「俺か?俺は…………そうだな。ガンダムやスーパーマンのようにしている。ISに似たようなことが多いからいい参考になった」

「その手があったか!よし、放課後にやってみるぜ!」

「あの、スーパーマンは分かりますがガンダムとはなんですの?」

「簡単言うとロボットアニメだ。今度調べてみるといい」

 

簪のおかげで色んなアニメを見たからそれらを元にした。実際に似たようなことが多いから役立っている。アニメを見ている時の簪は目が輝いていたな。まるで子供のように。

 

「あの、一夏さん。もしよろしければまた放課後してあげますわ」

「え?いいのか?」

「ええ、そのときはふたりきりで―――」

「一夏!いつまでそんなところにいる!早く降りて来い!」

 

いつの間に箒がインカムを持って通信回線に割り込んで来た。山田先生がオロオロしているのもはっきり見える。

 

「おお、箒のまつげまでくっきり見える」

「これでもかなり機能制限されているんだぞ」

「元々ISは宇宙空間を想定されて造られてものですのよ。何万キロと離れた星の光で自分の位置を把握するためですから、この程度の距離は見えて当たり前ですわ」

 

的確にセシリアが説明をする。普通の人はISだからこう見えるが俺はISなしでもこの距離は見える。この前、舞弥さんに目の事を言われて次の日の昼に空を飛んでいる飛行機を見たら

胴体部分と垂直安定板の文字がしっかり見えたのだ。正直驚いた。

 

「織斑、オルコット、弓塚、急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から十センチだ」

「了解です。では一夏さん、士郎さん、お先に」

 

みるみるセシリアの姿が小さくなって難なく完全停止をやってのけた。見事なもんだ。

 

「次に俺が行かせてもらうぞ。先に地上で待っているぞ」

「おう」

 

すぐに降下する。急降下は降りるだけだが完全停止はタイミングが重要だ。速ければ目標より上に止まり、遅すぎると目標より下に止まり、最悪の場合は地面と接触する。

 

「ふっ!」

 

バーニアを急激に上げて、落下速度を落とし、停止する。どうだろうか。

 

「ちょうど十センチか。やるじゃないか。このまま調子でいろよ」

「はい」

 

ピッタリか。多少誤差が出ると思ったがそうでもなかった。

 

「うまいですわね。さすがわたくしを勝っただけはありますわ」

「それはどうも。お、一夏が来るぞ」

 

一夏がみるみる地面に近くなり、停止―――

 

 

ズドォォォォンッ!!!

 

 

―――する事無く、見事なまでに落下または墜落した。地面は一夏を中心にきれいなクレーターが出来ていた。

 

「いってー!死ぬかと思った……」

「馬鹿者。誰が地上に激突しろと言った。グランドに穴を開けてどうする」

「……すみません」

 

姿勢制御して上昇し、クレーターの外に出る。

 

「情けないぞ一夏。昨日私が教えてやったことをまだ覚えて―――」

「大丈夫ですか、一夏さん。おケガはなくて?」

「あ、ああ。大丈夫だけど……」

「それは良かったですわ」

 

箒を(さえぎ)り、セシリアが一夏にケガがないかを確認する。クラス代表が決まって以降、セシリアは何かと一夏にアドバイスや勉強を教えている。おかげにこちらの負担がぐっと減った。それは建前で一夏にアピールをしているのだが全然気付かない。それでも機会が多いので数で攻めているようだ。

 

「ISを装備していてケガなどするわけがないだろう」

「あら、篠ノ之さん。他人を気遣うのは当然の事でしてよ」

「お前が言うか。この、猫かぶりめ」

「鬼の皮をかぶっているよりはマシですわ」

 

当然、このように箒とぶつかり合うのはもう何度もある。それをよそに一夏はいまだに分からない顔をしている。はぁ……。

 

「馬鹿騒ぎはあとにしろ。今は授業中だ」

 

箒とセシリアに一喝して授業を続ける。鶴の一声とはまさにこの事だ。

 

「織斑、武装を展開しろ。それくらいは自在に出来るようになっただろう」

「はい」

「よし。でははじめろ」

 

正面に人がいないことを確認して右腕を左手で握り、イメージし始めた。

一秒弱ほどで白式の唯一の武器、雪片弐型が姿を現す。

 

「遅い。0.5秒で出せるようになれ」

 

褒めもせず、厳しい指摘だけのようだ。あれでも一週間は練習したと言ったのに残念だったな。

 

「オルコット、武装を展開しろ」

「はい」

 

一夏と違い一瞬爆発的に光っただけで手にはレーザーライフル、スターライトmkⅢが握られてた。さすが代表候補生だ。マガジンを接続(セット)されてセーフティーが外れている。

しかし、これは……

 

「流石だな。代表候補生といったところか」

「ありが「ただし」……?」

「そのポーズはやめろ。横に向かって銃身を展開させて弓塚を撃つ気か」

 

そう。銃身が俺に向かっているので危ない。いつでも撃てるようになっているので冷や汗が止まらない。一応両腕を上に上げている。世間でいう降参のポーズだ。

 

「正面に展開出来るようにしろ」

「で、ですがこれはわたくしのイメージをまとめるために必要な―――」

「セシリア頼む。お前の横に立つ度に銃身を向けられるのは怖い」

「弓塚もこう言っている。直せ。いいな」

「……は…はい……」

 

俺の要望と織斑先生の一睨みで話が終わる。

 

「オルコット、近接用の武装を展開しろ」

「え、あ、は、はい!」

 

この反応だとまだ展開するのに時間が掛かるようだ。案の定、手の中で光がくるくると回っている。

 

「くっ……」

「まだか?」

「す、すぐに。―――ああ、もう!インターセプター!」

 

クラス代表戦のように声を出して呼ぶ。正確にはヤケクソ気味に叫ぶ。それにより、武器が構成している。

 

「はあ……何秒かかっている。お前は実戦でも相手に待ってもらうのか?」

「じ、実戦では近接の間合いに入らせません!ですから、問題ありません!」

「ほう。織斑との対戦で初心者に簡単に懐をゆるし、弓塚との対戦では声を出して呼んでいたが?」

「え、えっと、それは……」

 

クラス代表はあくまでクラス同士の模擬戦のようなものだったからよかったが、正式な大会ではそうも言ってられないからどうしようもない。

 

「まあいい。弓塚、武装を展開しろ」

「はい。あ、織斑先生」

「なんだ」

拡張領域(バススロット)にあるのと能力(スキル)で出すのがあるのですが、どっちがいいでしょうか?」

「そうだな。……まずは拡張領域(バススロット)にあるものからでいい。能力(スキル)は指示をする」

「分かりました」

 

すぐに拡張領域(バススロット)にある射撃武装を出す。両手にはD90カスタムを出す。

 

「中々早いな。次に近接用の武装を展開しろ」

「はい」

 

D90カスタムを一旦収納(クローズ)して、無鉄に予め入っていた刀を模して近接ブレードを出す。

 

「これも早い。代表候補生と並ぶほどだな」

「それはどうも。しかし、まだまだだと思います」

「その意気だ。では、能力(スキル)の方を出して見ろ」

「はい」

 

近接ブレードを収納(クローズ)して、よく使う干将・莫耶目を投影した。

 

「ほう。能力(スキル)の方が断然早いな。これは驚いた」

「主に投影の方をメインにしていますから自然とそうなりますよ」

「そうか。ちなみにどれくらい出せる?」

「試したことはありませんがやってみましょう」

 

干将・莫耶目を破棄してガラスのように砕ける。目を瞑り、知りえる限りの剣、槍等多く出す。

 

「―――ぞ」

 

しかし、いつまで出せばいいのだろうか。

 

「―――いいぞ」

 

このままではグランド中が刃物だらけになりそうだ。

 

「もういいぞ!」

「!?」

 

織斑先生の指示通りに投影をやめる。どうやら集中し過ぎたようで大声を出さないと聞こえなかったようだ。

 

「お前はグランド中をどうするつもりだ……」

「……すみません。集中し過ぎて聞こえませんでした」

 

予想通りにグランド中が刃物という刃物が突き刺さっていた。先生やクラスメイト達のいない所には刺さっていない。場所は把握しているので大丈夫だ。

 

「うわー剣とかがいっぱいあるね」

「これって何か雑誌に書かれていたような……」

「短剣なんかがあるよ」

「この槍異常に大きくない?」

 

クラスメイト達はマジマジと見たり触ったりしている。一夏とオルコットは呆然としている。

 

「お前と戦う、てことはこれ全部と戦う、てことなのか?」

(あなが)ち間違いではないな」

「真剣に近接用の武装を素早く出す訓練をしないといけませんわね……」

「そうだな」

 

さて、すべて破棄するか。グランド中に刺さっていた武器はすべてガラスのように砕け散った。もちろん、下がってもらって当たらないようにした。

 

「弓塚。織斑とオルコットに近接用の武装を早く出せるようなアドバイスをしろ」

「いいですけど。時間は大丈夫ですか?」

「ああ。時間にはまだ余裕がある」

 

なら早速教えますか。まずは一夏からにするか。

 

「一夏お前は雪片を出す時はどんなイメージをしている」

「えーとだな。物体を斬る、刃物のイメージ。鋭く、堅固物体。強い、武器。てな感じだ」

「うーん……」

 

イメージとしてはいいんだが。余分なものまで含まれている。

 

「こういう風にイメージしてみろ。刀、一撃、織斑先生」

「おう。――――――うお!?」

 

さっきとは段違いに出せたことに驚く。嬉しいながら疑問があるようだな。

 

「なんで早く出せたんだ?」

「それはお前がよく織斑先生を知っているからだ。雪片は織斑先生が使っていたからお前の中ではそれが一番の印象になっていたんだろう。

だからこの三つだけで尚且(なおか)つ早く出せるようになったということだ」

「確かに俺は雪片と言ったら織斑先生と思うからな。ありがとな、士郎」

「なに、礼には及ばんさ」

 

さて、次はセシリアだな。どうするか。

 

「セシリアはどういうイメージをして出そうとしている」

「どうと言われましても。いまだにイメージが定まらなくて……」

「うむ。――――――――――――なら、こうイメージしてくれ。斬る、騎士、アーサー王とな」

「は、はい。――――――で、出来ましたわ!」

 

二秒ほどかかったがそれでもさっきよりは早く出せたのでとても嬉しそうに喜ぶ。

 

「でもなぜ、出せたのでしょうか?今まで叫ばないと出せなかったのに?」

「セシリアはイギリス出身だよな」

「ええそうですわ。それが何か?」

「貴族と前に聞いてピンときたのさ。家のどこかに剣はなかったか?」

「ありますわ。いくつか飾っておりますのよ」

「剣は斬る物だろ。だから単純に斬るという風にしたのさ。それに剣と言えば騎士と思うことでよりイメージが強くなるだろ。そして、イギリスの英雄としては誰しもが知るアーサー王で決め手になったのさ」

「それなら納得ですわ。剣と言えば斬る、斬るといえば騎士、騎士と言えばアーサー王でイメージを確立したのですね」

「そういうことだ。ただ、これはあくまで俺がイメージしたものだからセシリアなりに工夫する必要があるから注意するんだぞ」

 

一夏は反復練習すればいいし、セシリアは努力を惜しまないから数日経てば一秒以内に出せるはずだ。

 

「士郎はどうしてそんな早く出せるんだ?」

「あ、わたくしも思っていました」

「無鉄の能力(スキル)の一つ、投影は知っているだろ?」

「ああ」

「ええ」

「投影は創造理念、基本骨子、製作技術、憑依経験、蓄積年月の再現による物資投影によって出来るものだ。これらを踏まえないといかにイメージ通りの外見、材質を保とうが構造に理がなければ崩れるのは当然。イメージといえど筋が通らなければ瓦解する。

よって、必然と近接武器、武装は早く出せる。分かったか?」

「半分も分からねぇ……」

「わたくしはさっぱり……」

「まあそうだろうな。普段そんなことはしないからなおさらだ」

 

理化しろという方が無理がある。一日に三回以上は投影の練習をしているから今は大丈夫だろ。

 

「では時間だな。今日の授業はここまでだ。織斑、グランドを片づけておけ」

「は、はい……」

 

仕方がない手伝うか。困った奴だ。

 

「手伝おうか?大丈夫であれば先に戻るが?」

「助かる。悪いな手伝ってもらって」

「気にするな。俺は土を持ってくるからスコップを持ってきてくれ」

「分かった」

 

行くか。確か土は用務員の轡木(くつわぎ) 十蔵(じゅうぞう)さんが知っているはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナから一旦出てすぐに十蔵さんを見つけられた。

 

「こんにちは十蔵さん」

「ああこんにちは弓塚君。どうかしましたか?」

「ついさっき終わった授業でグランドに穴が開いてしまったので土を探していたんです。場所はどこですか?」

「それなら各アリーナの外にある倉庫にあります。毎日十分に置いているので間に合うと思いますよ」

「ありがとうございます。十蔵さんも頑張り過ぎないようにしてくださいよ」

「ははは。そのくらいは分かっていますよ。もう若くはありませんからね。それでは授業に間に合うように頑張ってください」

「はい。それじゃ土を取りに行くのでこれで」

 

十蔵さんはIS学園の用務員で、柔和な人柄と親しみやすさから「学園内の良心」と呼ばれている。見かけはどこにでもいそうなご老人だが、俺の見立てではかなりできる人だ。足の

運びが武術の基本になっているので見かけによらず、武術を(たしな)んでいると思う。

すぐに倉庫は見つかり、土を持ってアリーナに戻った。ギリギリに終わり、織斑先生の出席簿を喰らわずに済んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼とそっくりですね」

 

士郎が去った後、十蔵は軽く口を開く。

 

「このIS学園に集う生徒たちには随分懐かしく思いますね。まるであの時のように」

 

ISが出来る遥か前は普通の教師をして教鞭を振るっていたことを思い出し、にこやかに笑う。

 

「かつての教え子たちの子供たちに会うとはなかなかありませんな。本当に懐かしい」

 

今より若いがそれでも半世紀近い年でいた頃を大切な思い出を今でも大切にしている。

 

「さて、こちらも()()をしますか」

 

そう言うと林の奥に行き、姿が消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 




さてさて、また伏線張った。
後の話しに影響を出す予定なので期待過ぎないようにしてください。
なにぶん、未熟なので。
それではまた来週。

関係ないですがメガポテト食べてきました。凄い量でしたが食べきりました。


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第32話「パーティー」

遅れましたが上げることが出来ました。
では、どうぞ!


「ここがIS学園ね」

 

外は夜になっており、IS学園の正面ゲート前に一人の少女がいた。見た目は日本人のように見えるが中国人である。

 

「えーと受付ってどこにあるんだっけ」

 

上着のポケットからくしゃくしゃになった紙を取り出す。

 

「本校舎一回総合事務受付……って、だからどこにあんのよ」

 

紙には手続きの場所の名前は書かれているが地図がない。これはIS学園独自のもので案内図がない。IS学園は確かに高度なセキュリティーで守られ、24時間警備態勢が整っているが何事も用心に越したことはないという理由で地図がない。

そのため来る者は実際来ないと分からない。

 

「自分で探せばいいんでしょ、探せばさぁ」

 

考えるより行動で示すのが少女の個性の一つ。良く言えば『実践主義』、悪く言えば『よく考えない』と世間では言うが。

人を探すにしても、時刻は八時過ぎていてどの校舎も灯りが落ちているので当然生徒は寮にいる時間だ。

 

「そうだ!飛んで探せばいいか!あ……ダメだ。あれにも書いてあったじゃん」

 

いい名案だと思ったが『アナタの街の電話帳』三冊分に匹敵する学園内重要規約書を思い出して、やめる。

手続きも終わっていないのに学園内でISを起動させたら、事である。最悪、外交問題にも発展る。さらに悪くなると、専用ISの没収、代表候補生の資格剥奪にもなる。

 

「あー……人いないかな。一人くらいは――――――あ」

 

少し先に少女がいる。暗くてよく見えないが確かにIS学園の服を着ているので学生であることが分かる。

 

「ねーそこの人。ちょっと教えてもらいたいことがあるんだけどいい」

「?」

 

なるべく大きい声で呼ぶと学生服を着た少女は後ろを振り向いた。

 

「……なんでしょうか?」

「あなたここの生徒でしょ。私、転校に来たんだけど道が分かんないから場所教えてくれない」

「転校生ですか。珍しいですね、この時期に。と言うことは代表候補生でしょうか?」

「そうよ。私は代表候補生よ。で本校舎一回総合事務受付ってどこ?」

「アリーナの後ろが本校舎です。灯りがついているのですぐ分かると思います」

「分かったわ。ありがとう、じゃあねー!」

 

ボストンバックを担ぎ直し、中国人の少女は瞬く間に消えて行く。

 

「…………………………」

 

先ほど案内した少女は紫髪で褐色肌に眼鏡をしている。感情は乏しく見え、無表情である。

 

「中国からの代表候補生の転校。本部に連絡を入れておきましょう」

 

再び歩き始め、寮にある自室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これで全部完成だ。あとは持って行くだけだ」

 

夕食時に俺は食堂のキッチンを使っていた。理由はクラスメイトが一夏のクラス代表就任パーティーをするという事を聞き、料理をすることにした。食堂の一部を使いそこでやるそうだ。

他の組も来るなこれは。多めに作っておくか。材料はおばちゃん達が好きに使っていいといったので大丈夫。そのためにある条件を飲んだからな。

料理はオムライス、コンソメスープ、ポテトサラダ、酢豚、。デザートはプリン、ショートケーキ。しかし、結構な量を作ってしまった。

一クラス以上の人数分を想定したとはいえ、いささか作り過ぎた気もするがなんとかなりそうな感じがする。デザートはお持ち帰りできるから大丈夫だ。

 

「織斑君が今食堂にいるわよ!」

「なんかパーティーするみたいね」

「やだ。私制服で来ちゃった」

「別にいいと思うけど……」

 

そうこうしているとどうやら主役が来たようだ。運びながら行くか。

 

「盛り上がっているな。悪いが運ぶものが多くて一人では足りないから何人か手伝ってくれ」

「あ、弓塚君その料理どうしたの?」

「これは俺が作ったのさ。味は本音が保証してくれるから大丈夫だ」

「どうなの本音?」

「ふふふ。ゆーみんの料理はすっごくおいしいよ~。なんでも作っちゃうから種類も豊富だよ~」

 

本音がこう言ってくれたので五人ほど手伝ってくれた。その内二人は本音と簪だ。簪がいたのは本音に連れて来られたからだそうだ。

 

「いつ見ても士郎の作る料理はおしいそうだね」

「それはどうも。簪も料理上手いだろ。俺は種類が多いだけさ」

「ゆーみんもかんちゃんも料理上手だねー。私はそんなに作れないけどー」

「少しづつやればいい。急いでしても失敗するだけだ」

「そうだよ。私手伝うから言ってね」

「うん、分かったよ~」

 

全部運び終わって並べるとテーブルの上が全部埋まった。本当に大丈夫なのか心配になってきた。

 

「食べてみてくれ。感想を聞きたいからな」

 

なぜか全員オムライスを選び、一口食べる。

 

『…………お』

「お?」

『おいしいぃぃぃぃぃぃ!!!!』

「っ!?」

 

鼓膜が破けそうな大声だ。耳が痛い。

 

「卵がトロトロでフワフワ!」

「それにケチャップライスにムラがない!」

「私、今まで食べてきたオムライスより断然おいしい!」

「これはなんという幸せだ……!」

「今私は猛烈に感動している!」

 

どれもこれもオーバーリアクションが多いがとにかくおいしいということは分かった。

 

「オムライス以外もあるから食べてくれ。ちなみにデザートはお持ち帰りできるようにしてあるから食べきれなかったら言ってくれ」

『はーい!!』

 

さて、主役の所に行きますか。

行くと一夏は箒と一緒に食べていた。傍から見れば恋人同士に見える。

 

「どうだい主役。感想はどうだ?」

「祝ってくれるのは嬉しいんだが正直微妙だ。それにしても士郎、料理上手いな。今度コツを教えてくれ」

「いいぞ。まあ今は食べてくれ。結構量が多いから正直残すのは心苦しいからさ」

「これほど料理が出来るとは思わなかったぞ。私にもぜひ教えてくれ」

「ああ。…………一夏のためか」

「なっ!?わ、私は!」

「どうした箒。何か取って欲しいのあるのか?」

「なんでもない!あっちにあるのを取って来る」

「おい待てよ」

 

はあ。一夏の事となるとすぐに熱くなるな。

しかし、みんなよく食べている。徐々にだが量が確実に減っている。これなら残す心配はない。

 

「すいぶんと賑やかだな。主役はどこにいる?」

「料理がたくさん並んでいますね」

 

いつの間にか織斑先生と山田先生がいた。格好はまだ学校で見たまんまだ。

 

「織斑先生に山田先生。どうしたんですか?」

「夕食を食べに来たのさ。それと食堂がやたら賑やかだな。何かしているのか?」

「ええ。一夏のクラス代表就任パーティーをしているんですよ。あそこに俺が作った料理を並べているので良かったらどうぞ」

「そうか。ならいただこうとしようか。山田先生はどうする?」

「もぐもぐ……はい?」

「「…………………」」

 

すでに食べていた。オムライスをスプーンで食べて子供のようにした見えない。本当に教師なのかが怪しくなってきそうだ。

 

「…………いや、なんでもない。ではいただこうとするか」

「どうぞどうぞ。このままパーティーにいるんですか?」

「いや、ある程度終わらせただけだから少しだけいる。何か用意があったのか?」

「いえ、これといったことはないのですがデザートがあるので持ち帰るようにしておきます」

「すまないな。お前も何かと大変だろうに」

「そんなことありません。自分がしたい事やっていることにすぎませんから気にしなくていいんですよ」

「そうか。所で何か思い出したことはないか?」

「…………断片的にですが少しだけ」

「何?」

 

実のところこの間の事を誰にも言っていない。楯無さんだけでも言おうと思ったが、織斑先生に言ったほうがいいと判断した。なにより、恩人だからだ。

 

「それで何を思い出した」

「男性三人の声と女性一人の声です。

男性それぞれの言葉は

―――俺達は政府や誰かの道具じゃない。戦うことでしか自分を表現できなかったが、いつも自分の意思で戦ってきた

―――言葉を信じるな。言葉の持つ意味を信じろ

―――俺の剣は活人剣だ

です。

女性は

―――DNA情報はあくまでも力や運命を秘めていると言うことだけしか言えないわ。

   運命に縛られてはいけない。

   遺伝子に支配されてはいけない。

   生き方を選ぶのは私達なのよ。―――

と言っていました」

「……そうか。これから何かしろ思い出すことがあるだろう。その時は私にいつでも相談してもいい。別に遠慮することはないぞ」

「ありがとうございます」

 

その後、織斑先生と山田先生は残りの業務を終わらせるために戻った。その際、デザートを持ち帰った。

ちなみにパーティーは九時過ぎまで続いた。

 

 

 

 

 




ちらっと出てきた少女分かる人いるかな~。
いると思うけど。
さて次は設定を上げた後で33話をあげる予定です。
ではまた次回で。


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第33話「転校生」

今回はちょこっと過去があります。
久々に長めに書くことが出来ました。
ではどうぞ!


「ふぅ………」

 

ベットの上に大の字になる。パーティーの後片付けは三十分ほどで終わり、部屋に戻ってきたところだ。

 

「予想はしていたがあれほどの量を食べるとは驚いた」

 

一クラス人数分以上の料理がものの見事になくなったのだ。デザートは全員忘れることなく食べたり、後でのお楽しみということで持ち帰るする者と分かれた。

 

「薫子先輩が来るのを予想いたからさほど驚きはしなかったが」

 

織斑先生と山田先生が去って数分後に来た。どうやら、突撃インタビューをしようと思ったが織斑先生がいたのでそれまで待っていたそうだ。

 

 

 

回想・少し前のパーティーで

 

 

 

「弓塚君、デザートのプリンちょうだい。ショートケーキはお持ち帰りで」

「私は両方持ち帰り」

「逆に私は両方ちょうだい!」

「了解した。今やろう」

 

織斑先生と山田先生は残りの業務を終わらせるために自室に戻った。デザートを持ち帰って。

 

 

パシャ!

 

 

「ん?」

 

カメラのシャッター音が聞こえたので振り向くと薫子先輩がいた。この前取材をするとか言っていたな。

 

「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏君と弓塚士郎君に特別インタビューしにやってきました~!」

 

オー!と一同が盛り上がる。一夏以外。

 

「あ、私は二年の黛薫子。よろしくね。新聞部副部長やってまーす。はいこれ名刺」

 

一夏に名刺を渡される。名刺を見て、思っているのは画数のは多いと思っているの違いない。俺も思ったからな。

 

「ではまず織斑君から。クラス代表になった感想を、どうぞ!」

「えーと……」

 

ボイスレコーダーを向けられ返答に困る。ありのまま言えばいいと思うぞ。下手に言うと何をされるか分からん。

 

「まあ、なんというか、頑張ります」

「えー。もっといいコメントちょうだいよ~。俺に触るとヤケドするぜ、とか!」

「自分、不器用ですから」

「うわ、前時代的!」

 

先輩と同じくそれは前時代的だ。こうなると捏造とかされるんじゃないか。

 

「こんなもんかね。まあ、適当に捏造しておくからいいか」

 

本当に捏造しようとするつもりだよこの人。先輩の事だし、それほどひどくはしないだろ。

 

「次に弓塚君はどうかな。全勝したけど感想は?」

「いつものように名前でいいですよ。昨日今日知り合ったばかりでもないでしょう」

「一応、雰囲気よ雰囲気。それでどうなの?」

 

一夏のように下手の事は言わないようにするのは当然。となると、思った事を言えば大丈夫なはずだ。仮に捏造されたとしてもごく一部になる。

 

「全勝したのは嬉しいです。ですが、まだまだ自分は他の者より起動時間が少ないのでこれからも努力し続けます」

 

こんなもんか。下手な事は言っていないし、別にかっこよくしたつもりもない。

 

「率直な感想ね。別に捏造する必要もないかな」

 

とりあえず捏造される心配はなくなった。

 

「最後にセシリアちゃんもコメントちょうだい」

「わたくし、こういったコメントはあまり好きではありませんが、仕方ないですわね」

 

そうは言いながらも髪のセットをしているじゃないか。やる気満々だな。

 

「ああ、長そうだからいいや。写真だけちょうだい」

「さ、最後まで聞きなさい!」

「いいよ、適当に捏造しておくからさ。よし、織斑君に惚れたからってことにしよう」

「なっ、な、ななっ……!?」

 

目をキランと光らせ、的を得た事ををさらっと言い、動揺したセシリアはみるみると顔を赤くして何か言おうとするが、頭が回らず何も言えずじまいになっている。

 

「何を馬鹿な事を」

「え、そうかなー?」

「そ、そうですわ!何をもって馬鹿としているのかしら!?」

 

全く気付いていない一夏。本人が否定したのが幸いしたなセシリア。だが、本人は素の反応だぞ。

 

「さてさてら三人とも並んでね。写真撮るから」

 

インタビューだけじゃないのは分かっていた。最後は写真でしめるようだ。

 

「あ、あの撮った写真は当然いただけますわよね?」

「そりゃもちろん。ささ、並んだ並んだ」

 

左からセシリア、一夏、俺の順番になった。馬に蹴られたくはないのでセシリアの隣ではなく一夏の隣にした。

 

「………………」

 

箒がむすっとしている。これは俺にも被害がきそうな気がする。

 

「それじゃあ撮るよー。35×51÷24は~?」

「え?えっと……2?」

「74.375だ」

「正解!」

 

シャッターを押される直前に近くにいた箒を一夏に引っ張る。

 

 

パシャ!

 

 

一瞬光り、シャッターが切られる。そして―――

 

「団体行動とはすばらしいものだ」

 

なんと一組や他の組が撮影する瞬間に俺達の周りに集まったのだ。写真には箒が一夏に抱きつくように映っていて、簪と本音は俺のすぐ近くに映っていた。

 

「箒さん!あなた何をしておりますの!?」

「い、いや、これは士郎が……」

「篠ノ之さん大胆!」

「行動力がすごいね。見直しちゃう!」

「気にしない気にしない」

「クラスの思い出になっていいじゃない」

 

てな感じで数分後にお開きになった。薫子先輩が帰る前に楯無さん達の分を用意したデザートが入った袋を渡した。中には保冷剤を入れてあるので鮮度をある程度保つことが出来る。

 

 

さてそろそろ寝るか。時刻は十一時を過ぎ、寝るのにはちょうどいいくらいだ。

 

「すぅ……すぅ……」

 

すぐに寝付くことが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、夢を見た。

 

 

場所はどこかの屋敷、国はおそらく日本だと思う。

とても月のきれいな夜に小学生か中学生の男の子と中年の男性が縁側で何か話している。

男の子は俺だと思う。なぜなら、容姿から見て凄く似ているからだ。しかし、男性の方がよく見えない。記憶が戻っていないせいか身体全体としては見えるが顔がよく見えない。

だけど、声は良く聞こえる。

 

「士郎と出会ってもう六年か。道理で身体が思うように動けないわけだ」

「何言っているんだよ。■■■■、いや■■さんはまだまだ動けるでしょ。それにまだ俺は一度も勝っていないし」

 

小さい俺は中年の男性と親しく話している。目をいくら凝らしてもやはり顔だけが見えない。

 

「俺は■■さんが俺を助けてくれたように俺も誰かを助けたいんだ」

「……そうなのか。だけど、それはどういう事か分かっているのか?」

「?」

「いいか。誰かを助けるということは必ず誰か別の助けられない人が出て来るんだ。理解できるだろ」

「……分かるよ。でも!俺はその助けられない人も助けてみせるさ!だから俺は将来の夢は―――正義の味方になるんだ!」

「それは大変な将来の夢だな」

「まあな。でも、きっとなって見せるさ!」

「はは、それは楽しみだ」

 

男性は苦笑しながらも小さい俺の事を決して馬鹿にはしなかった。それはどうしてなのか、記憶を失くして今の俺では分からない事だ。

 

「話しは変わるが■■の事は好きかい?」

「な!?そ、それって、一人の女の子として?」

「当然だ。それでどうなんだ?今は俺と士郎だけだからいいだろ」

「………す、好きだよ。しょ、正直に言うと()()()のあの時から。でもなんでそんなこと聞くのさ?」

「親として重要な事だからさ。士郎なら任せられると思ったらな」

 

六年前?いつの時点で六年前だ。年代がはっきりしてればいいが生憎周りには把握できる物が見当たらない。

 

「また話しは変わるが―――■■と■ちゃんの事恨んでいるか?」

「…………………………」

 

俺が誰かを恨んでいる?くそ、全然分からない。内容は分からなくとも最後まで聞くか。

 

「……恨んでいる。今でも何もなかったように平然と生きているのが」

「…………そうか」

「でも、いつか答えを出さないといけないって事は分かる。何か別の方法で償わせる。決して殺しはしない。今の俺にとってこれが答えかな」

「……いい答えだ。俺にはそういう事はなかったがゆっくり時間をかけるといい」

「うん」

 

頭を撫でて月を見上げる。風が吹き、心地良い気分になる。月が一層眩しく見えるほど目が冴えてくる。

 

「ああ、これで俺はもう安心だ……」

「■■さん?」

 

 

染み入るような月明かりの中

 

 

そのまま眠るように

 

 

安らかに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん………」

 

目が覚めて起きるといつもより十分早く起きていた。

 

「今のは一体……」

 

あの夢は過去に起きた出来事なのだろうか。それとも俺が作り出した幻想なのだろうか。だが、あの夢は幻想ではない。確かに現実味を感じている。

 

「とにかく、いつも通りに過ごすか」

 

木刀を持ち、日課の朝練をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑君、弓塚君、おはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」

 

教室に着くとクラスメイトが話しかけてきた。ようやく、慣れてきたのか入学当時のようにいそいそとはならなくなった。

 

「転校生?今の時期に?」

 

一夏が疑問に思うのはもっともだ。IS学園に転入または転校するのはかなり厳しく、試験は当然だが、国の推薦がなければ出来ない。

それはつまり―――

 

「なんでも中国から来た代表候補生なんだってさ。その人が二組のクラス代表に変わったみたい」

「ふーん」

 

中国から来た代表候補生が二組のクラス代表になったとは。そういえば、俺達の一組にも代表候補生がいたな。

 

「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら」

「このクラスに転入してくるわけではないのだろう?騒ぐほどではあるまい」

 

セシリアそれはないと思うが。箒は一応一組の脅威として認識してはどうだ。

 

「どんなやつなんだろうな」

「む……気になるのか?」

「まあ、俺もクラス代表だしな。それくらいは意識しないと」

「う、うむ。いい心構えだ///」

 

顔を赤くしながら返答する。相変わらず、朴念仁の一夏は気付いていないが。

 

「だとしたら今日の訓練には俺も加わろう。その代表候補生が専用機持ちかもしれん。クラス対抗戦の障害になる可能性がある」

「む、そうだな。来月にはクラス対抗戦があったな。今日からより一層厳しくせねばらんと」

「それもそうですね。クラス対抗戦に向けて、より実践的な訓練をしましょう。でないと厳しいですわ。

専用機持ちは一組にわたくしに、一夏さん、士郎さん。三組に一人、四組に一人。三組と四組の専用機持ちがクラス代表になっていますし」

 

そう、三組四組のクラス代表は専用機持ちなのだ。四組は簪ということで、ついこの間やっと打鉄二式が完成したのだ。稼働試験も終わり、本体も武装も大丈夫。『山嵐』もプログラムの打ち込みを終えているので全て良好。その時にお祝いにシュークリームを作ったのが好評だったというのが記憶に新しい。

三組は美沙夜だった。専用機持ちとは聞いていたがまさかクラス代表になっていたとは驚きだった。なんでも選ばれた時にその場の勢いでなってしまったとか。

 

「まあ、やれるだけやってみるか」

「やれるだけでは困りますわ!一夏さんには勝っていただきませんと!」

「そうだぞ。男たるものそのような弱気でどうする」

「最低でも準優勝はしないとな」

「織斑君が勝つとクラスみんなが幸せだよー」

 

クラスの大半はクラス対抗戦の優勝賞品が目当てだろう。

 

「織斑君、頑張ってね!」

「フリーパスのためにもね!」

「他の専用機持ちでクラス代表が三組と四組がいるけどなんとかなるよ」

 

なんとかならないような気がするが。簪と美沙夜の実力は分からないが代表候補生にテストパイロットであるから実力は高いはずだ。

 

「―――その情報、古いよ」

 

教室の入り口から声が聞こえた。見ると背が小さいツインテールの女子がいた。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

 

なぜか腕を組み、片膝を立ててドアにもたれていた。世間で言うなら、格好付けている。

 

「鈴……?お前、鈴か?」

「そうよ。中国代表候補生、凰 鈴音(ファン・リンイン)。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

ほう。あれが中国の代表候補生か。それに一夏と親しそうだな。

 

「なに格好付けてるんだ?すげえ似合わないぞ?」

「んなっ……!?なんてこと言うのよ、アンタは!」

 

そう言うのは心の中に閉まっとけ。怒ってしまったではないか。

む。あれは……

 

「おい、転校生」

「なに!」

「右に避けろ」

「へ?」

 

言った事に反応してすぐに右に避けると―――

 

 

ヒュン!

 

 

「ひ!?」

 

黒い物体、出席簿が振り落とされる。てか、風を切るような音がした。本当にあれが出席簿なのか怪しくなってきた。

 

「ちっ。弓塚、余計な事をしてくれたな」

「いやいや、あれは危ないでしょう」

「まあいい。SHR(ショートホームルーム)の時間だ。教室に戻れ」

「ち、千冬さん……」

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」

「す、すみません……」

 

転校生は織斑先生も知っているのか。てことは小学生か中学生の時に会っている可能性があるな。

 

「またあとで来るからね!逃げないでよ、一夏!」

「さっさと戻れ。やられたいのか」

「は、はいっ!」

 

出席簿を見せて脅すと脱兎の如く二組に行った(避難した)

 

「……一夏、今のは誰だ?知り合いか?えらく親しそうだったな?」

「い、一夏さん!?あの子とはどういう関係で―――」

 

箒、セシリアを皮切りに一夏にクラスメイトから質問攻めに合う。他の授業なら注意だけで済むが今は―――

 

 

バシンバシンバシンバシン!!

 

 

「席に着け馬鹿ども」

 

織斑先生なので出席簿が頭上に降ってくる。

そして、今日も授業が始まる。

 

 

 

 

 




ようやく鈴の登場!
長かった。だけど、まだまだ!クラス対抗戦までひとまず頑張ります!

感想などありましたらどうぞお願いします。
批判はあまりしないでください。
自分、結構心脆いので。


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第34話「二人目の幼なじみ」

遅くなってしまいすみません。
本当でしたら休日の昨日に上げるつもりでしたが疲れが取れなく、体調がすぐれなかったので今日の朝になりました。
なにはともあれ、出来ました。
では、どうぞ!


今は授業中だが箒とセシリアが集中していない。いや、集中できないと言った方が正しい。どうやら二人はあの転校生と一夏との関係が気になるようでそれどころではないようだ。

しかも織斑先生の授業中でいつ指名が掛かるか分からないのでクラスメイトは集中している。が、箒とセシリアは集中していないのでいい的になっている。

ちなみに原因となる一夏は真面目にノートを取っている。

チラッと箒を見ると不満な顔をしていたが急に機嫌が良くなり、なぜか腕を組む。何を想像してるんだ。

 

「篠ノ之、答えは?」

「は、はい!?」

 

案の定、織斑先生に指名される。突然の事で素っ頓狂に声を上げた。

 

「答えは?」

「……き、聞いていませんでした……」

 

 

バシーン!

 

 

出席簿からあらぬ音にポニーテールが揺れる。

 

何もなかったように授業は再開する。

授業があと十五分になり、気が緩みそうになる。再び指名されないように箒は聞いているようだ。

セシリアは見れないが音を聞く限りちゃんとノートを取っているようだ。

……ただ、聞く限りは。

 

「では、ここの問題をオルコット」

「……例えばデートに誘うとか。いえ、もっと効果的な……」

「……………」

 

 

バシーン!

 

 

無言で天罰(出席簿)を下し、金色(こんじき)が圧縮され濃くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前のせいだ!」

「あなたのせいですわ!」

「なんでだよ……」

「はあ……」

 

昼休みになり、一直線に箒とセシリアは一夏の席で不満をぶつける。

あの後、午前中だけで山田先生に注意五回、織斑先生に三回叩かれている。学習しろよ。

織斑先生の前でぼーっとするのは、勇者かバカ。もしくは痛みに鈍い奴がするもんだ。あんなのは一日一回で十分だ。……一回だけでも嫌だな。

 

「その話は学食でしたらどうだ。食べながら聞く事も出来るだろ」

「そうだな。二人もそれでいいか?」

「む……。まあいいだろう」

「それもそうですわ」

 

話は学食になり、移動する。数名のクラスメイトが後ろからぞろりと付いて。

簪と本音は弁当を持って整備室に行った。なんでも打鉄二式の追加武装の設計製作を楯無さん達とするので食べながらすると言っていた。

販売機で和食セットを買う。白いご飯に味噌汁(大根、人参、玉ねぎ)、鮭の塩焼き、卵焼き、キュウリの浅漬けとなっている。

 

「待っていたわよ、一夏!」

 

噂の転校生、凰鈴音が目の前に立ちふさがる。こう見ると、小学生に見えそうだ。無論声は出したりはしないぞ。

 

「まあ、とりあえずそこどいてくれ。食券出せないし、普通に通行の邪魔だぞ」

「う、うるさいわね。分かっているわよ」

 

ちなみに凰はラーメンを持っている。卵がいい半熟具合だ。

 

「のびるぞ」

「わ、分かっているわよ!大体、アンタを待ってたんでしょうが!」

 

……多分だが凰も一夏の事が好きなのだろう。ああ、厄介事が増えるぞこれは。

 

「それにしても久しぶりだな。ちょうど丸一年ぶりになるのか。元気にしてたか」

「げ、元気にしてたわよ。アンタこそ、たまに怪我病気しなさいよ」

「どういう希望だよ、そりゃ……」

 

それぞれ注文したものを持って空いているテーブルに座る。配置は一夏と凰は一緒に座り、俺を含めた者は近くの席に座った。

 

「鈴、いつ日本に帰って来たんだ?おばさん元気か?いつ代表候補生になったんだ?」

「質問ばっかしないでよ。アンタこそ、ニュースを見た時はビックリしたじゃない」

 

会話が弾む一夏と凰。その一方、箒とセシリアは不満が膨れ上がる。

 

「俺だって、まさかこんなとこに入るとは思わなかったからな」

「入試の時にISを動かしちゃったんだって。なんでそんなことになっちゃったのよ?」

「なんでって言われてもなあ。高校入試会場が私立の多目的ホールだったんだよ。そしたら迷っちまってさ、係員に聞いても分かんないしあちこち動き回っていたらドアがあったからとにかく入ったらISがあったんだよ。男の俺が触ってもなんも反応しないよなーっと思ったらマジで反応しちまったんだよ。

で、その後色々あってこの学園に入れられたわけだ」

「ふーん、変な話ね」

 

本当に変な話だ。どんな場所であれ、案内板はあるはずだぞ。係員に聞いても分からないならなぜ戻ると選択しない。それに触っていけないのを無断で触るとは罰が当たるぞ。

あ、もう当たっているか。

 

「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」

「そうですわ!一夏さん、まさかこちらの方とつつつ、付き合ってらっしゃるの!?」

 

それはないだろ。一夏だぞ。百人中百人気付くのを一夏は気付かいない朴念仁だぞ。その可能性は極めてゼロだ。

 

「べべべ、別にあたしは……」

「そうだぞ。ただの幼なじみだよ」

「………………」

「?なんだよ?」

「なんでもないわよ……!」

 

ぷいっと怒るが身長が小さいせいか子供が怒ったように見える。

 

「幼なじみ?」

「そうか。ちょうどお前とは入れ違いで転校して来たんだっけな。

箒が引っ越していったのが小四の終わりで、鈴が転校してきたのは小五の頭だよ。中二の終わりに国に帰ったから、会うのが一年ぶりって事さ。

篠ノ之箒、前に話しただろ。箒はファースト幼なじみで鈴はセカンド幼なじみってとこだ」

「ファースト……」

 

話しを整理すると箒は一年から四年の終わりまでいて、入れ替わるように凰が小五の頭に転校して中二の終わりまでいたということか。

 

「ふぅん。そうなんだ」

 

不機嫌ではなさそうだが明らかに一夏の事を好きだということが分かる。目がそう言っているんだぞ。

 

「初めまして。凰 鈴音よ。これからよろしくね」

「篠ノ之箒だ。こちらこそよろしくな」

 

ここでアニメーションだと火花が散るようになっているだろうな。

 

「ンンンッ!わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰 鈴音さん?」

「……誰?」

「なっ!?わ、わたくしはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!?まさかご存じないの?」

「うん。あたし他の国とか興味ないし」

「言ってくれますわね……!」

 

勝ち気な性格だな。これは必要以上に敵を作ってそうだ。せめて一人か二人くらい覚えたほうがいいぞ。

 

「で、アンタが二番目なの?」

「ん?」

 

どうやら俺のようだ。二番目と言ったらISを動かした順番だと俺である。

 

「そうだが、何か用か?それと俺の名字か名前で言ってほしい。物じゃないんだぞ」

「あたしの事は鈴と呼んでいいわ。アンタの事も士郎と呼ぶわ。で、一夏とイギリスの代表候補生に勝ったんだって。あたしと勝負しなさい」

「なんでさ……」

 

なんだってそうなるんだ。理由くらい言えばいいじゃないか。

 

「こっちには戦う理由がない。それとも何か、本国からなるべくどちらかまたは両方の男性操縦者のデータを多く取れと言われての行動か?」

「違うわよ!あたしはただ一夏とそこの金髪に勝ったから戦いだけ。確かにそう言われたけど八割ほどはあたしが戦いたいだけよ。ほら、ゲームで強い敵だとなおさら倒したいのと同じよ」

 

ゲームと同じにされては困るのだが。セシリアも本国(イギリス)からそう言われてはいるのだろう。

 

「いいだろう。いずれ考えておく。いつになるかは分からんが戦う事は約束しよう」

「いいわ。もちろんその時はあたしが勝つから」

 

なるべく早く戦えるようにしよう。となるとアリーナを三十分から一時間は借りないといけないな。申込書を書いたり、織斑先生や楯無さんに相談してみないと色々と面倒だ。

 

「ところで一夏。アンタ、クラス代表なんだって?」

「お、おう。そうだぞ」

「なんで士郎じゃないのよ。普通勝ったならなるでしょ」

「記憶が戻っていないとか色々問題があるんだよ。で、経験の浅い俺が少しでも積むようになったのさ」

「ふーん……」

 

それもそうだが厄介事を一夏に押し付けただけだ。こっちは記憶が早く戻りたい。

 

「良かったら、あたしが見てあげようか。ISの操縦の」

「そうりゃ助か―――」

 

 

ダンッ!

 

 

テーブルを叩いて勢いよく箒とセシリアは立ち上がる。

 

「一夏に教えるのは私の役目だ!」

「あなたは二組でしょう!?敵の施しはいりませんわ」

 

なんでこうもカッカするのか分からん。落ち着いて話しもできないのか。

 

「あたしは一夏に話ししているの。関係ない人に引っ込んでてよ」

「か、関係ならあるぞ。私は一夏にどうしてもと頼まれているのだ」

 

記憶が正しければ頼まれてはいたが『どうしても』とは言ってはいないぞ。

 

「一組の代表ですから、一組の人間が教えるのは当然ですわ。あなたこそ、後から出てきて何を図々しいことを―――」

「後からじゃないけどね。あたしの方が付き合いは長いんだし」

「それを言うなら私の方が早い!一夏は何度もうちで食事をしている間柄だ!」

「それならあたしもそうだけど?」

「「なっ!?」」

 

驚きを隠せない二人と聞き耳を立てていた食堂にいた生徒がピクっと反応する。

 

「一夏はしょっちゅううちに来て食事していたのよ。小学校の頃からね」

 

なに!あの一夏が、朴念仁の一夏が!女子の家で食事をしていただと!鈴が帰ったのは中二の終わりとなるとそれまでずっと食事していたのか。朴念仁ではなく、ただ一途なだけだったのか。

 

「一夏っ!どういうことだ!?聞いていないぞ私は!」

「わたくしもですわ!」

「興味が湧いた。俺も聞かせてもらおうか」

「え?よく鈴の実家の中華料理屋に行っていただけだ」

 

まあそうだよな。一夏は所詮一夏だ。読めていたがやはり、朴念仁であることには変わりはない。

 

「何?店なのか……」

「お店なら別に不自然の事は何一つありませんわね」

「そうだと思っていたよ」

 

箒とセシリアは安堵し、俺は思っていた通りだったので少し残念でもある。で、周りは残念と言わんばかりになり、食事を再開する。

 

「親父さん、元気にしているか?まあ、あの人こそ病気とか無縁だよな」

「あ……。うん、元気―――だと思う」

 

一瞬だけ暗くなったがすぐに話題を切り替え、明るくなる。何かあるのだと思い、あえて聞かないことにしよう。

 

「そ、それよりさ、今日の放課後って時間ある?あるよね。久しぶりだし、どこかに行こうよ。ほら、駅前のファミレスとかさ」

「あー、あそこ去年の秋に潰れたぞ」

「そ、そう……なんだ。じゃあさ、学食でもいいからさ。積もる話でもあるでしょ?」

 

やはり無理に明るくしているのが分かる。何か元気づけさせるような料理でも今夜作るか。デザートなんかいいだろう。女子の大半は甘い物が好きだからな。

 

「―――生憎だが、一夏は私とISの特訓をするのだ。放課後は埋まっている」

 

うむ。この言いようだとISの訓練機の使用許可が通ったのか。使うのは『打鉄』だろう。箒の戦闘スタイルは剣道で培われたモノが多いから合っているはずだ。

これで少しは接近戦の特訓が出来る。俺ともしているが、少しでも多く違う人と戦って経験を積まないとな。箒なら何か的確なアドバイスができるだろう。

 

「そうですわ。クラス対抗戦に向けて、特訓が必要ですもの。特にわたくしは専用機持ちですから?ええ、一夏さんの訓練には欠かせない存在ですから」

 

確かに欠かせない存在だな。一夏は雪片一つしかないので、いかに効率よく避け、近づかなければならないのでそれには持って付けだ。

 

「すまないが特訓がある。一夏とはその後でいい」

「いいわ。それが終わったら行くようにするから。じゃあね、一夏!」

 

ラーメンのスープを飲み干して、鈴は片づけをしてそのまま学食を出て行った。

 

「さて一夏。今日の特訓はハードルを上げるぞ」

「マジかよ士郎。今のままでいいじゃねえか?」

「バカだな。今のままではクラス対抗戦の初戦で負けるぞ。いくら専用機であっても白式は雪片一つしかないんだぞ。中距離から遠距離の攻撃に対抗手段と言えば回避ぐらいだ。

見極めぐらい出来なければ射撃武器の餌食だ。それでもいいのか、お前は?」

「はあ……分かった。やるよ」

「アリーナには申込書を書いておいた。あとは名前を書くぐらいだ。今のうち書いておけ」

「わたくしも書きますわ。一夏さんの訓練には欠かせませんもの」

 

一夏とセシリアが申込書に書き、これで準備が整った。

 

「それじゃ事務室に行ってくる」

「待て士郎。私が行こう。ちょうど事務室に用事がある。ついでに渡してくる」

「そうか。なら頼む。先に教室に戻るぞ」

 

学食を出て、アリーナの申込書を箒に渡し、一夏達と先に教室に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回はあのビンタがあります。
それと設定の事ですがもう少ししたら上げます。
そのほうが何かと都合がいいので。
あとは第二話の士郎の祖父の死んだ時期を五年前から三年前に変更しました。
それでは次回も楽しみに。


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第35話「約束」

予告通りにビンタです。
ちょっぴり過去もあります。
では、どうぞ!


「え?」

 

放課後には第三アリーナに来ている。メンバーは俺、一夏、セシリア、それに箒だ。

一夏は予想外の事で間抜けな声を出している。

 

「篠ノ之さん?これはどういう事ですの?」

 

セシリアには悪いが箒がいてくれて本当に助かる。今までは道場や浜辺での肉体面でのトレーニングに一夏に指導してくれたが、ISがないから近接戦が出来なかったが使用許可が下りたので純粋な近接戦が出来る。

ISは日本の量産型『打鉄』を装着、展開をしている。やはり、無鉄を元に作られているので外見は色違いの無鉄に見える。

 

「訓練機の使用許可が下りたのだ。今日から、これで特訓に付き合う」

「『打鉄』。日本の量産型ですわね。まさかこんなあっさりと使用許可が下りるなんて……」

 

簡単には下りてはいないぞ。箒は一夏のために入学初日から使用許可書を書いていたから当然といえば当然だな。多分、今年一年で初めての訓練機の使用許可が下りたかもしれん。

 

「それに、近接格闘戦の特訓が足りていないと士郎から聞いている。当然、私の出番という事だ」

 

違和感がないな。箒にはこれ以上ないというくらいに似合っている。

 

「では一夏、始めるとしよう。刀を抜け」

「お、おうっ」

 

ほう。早速実戦か……っておい。

 

「待った箒」

「どうした士郎。時間の無駄はしたくない。そこを退け」

「退くわけにはいかん。お前はまだ基本動作、基礎駆動をしていないだろう」

 

基本動作は歩行や走るなどで基礎駆動は飛んだり、武器を展開・収納といったIS独自の動きの確認である。

最初にこの両方終わらせるなければいけない。万が一ケガでもしたら危ないのでその予防で準備運動でもある。

 

「そんなものしなくても私なら大丈夫だ。早くそこを退け」

「はあ……」

 

恋は盲目と言ったものだ。一夏の事となると周りが良く見えなくなるな。

まあ、俺が入っている弓道部のあの部長も弓道となると熱くなるんだよな。

 

「いいか箒。剣道の試合をする前に何をする?」

「無論、礼だ。礼に始まり礼に終わるのだからそれは当然であろう」

「そうだ。だから基本動作、基礎駆動も礼と同じ。それを疎かにするつもりか?」

「うっ……。わ、分かった。それを終えてからいいか?」

「ああ。予定としては最初に一夏とセシリア。次に俺。最後に箒となっている」

「それって休みなしか?」

「なわけあるか。休憩をしながらISのエネルギー補給の十五分がある。一通り終わったら一対二をするから覚悟しておけ」

 

剣道を例えにすると大人しく従ってくれた。長年やっているせいか言い返せないようだ。

その後は箒を入れて一対一をして組み合わせを変えながら一対二をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、今日はここで終わりにしよう」

「お、おう……」

「分かりましたわ」

「そうだな」

 

箒とセシリアは平気だが一夏は息切れをしている。

 

「ふん。鍛えていないからそうなるのだ」

 

セシリアは代表候補生であるので一般人より体力があり、箒は常日頃から鍛えているので一夏のように息切れはしていない。俺は入学前から鍛えているので大丈夫。

まあ更識家にいた時は孝司さんと和也さんに遊ばれていたからな。孝司さんとは木刀で和也さんとは素手で。孝司さんには木刀で何とか防ぐことが出来るが和也さんのあの素手での格闘。

独特の動き、カマキリのように獲物を獲るような感じでやりずらかった。

運動能力なら孝司さんを抜いている。そんな人に何度顔面に拳が入ったことやら。鼻血が出なかったのは手加減したいたからだそうだ。

 

「それにしても士郎さんに一度も勝てませんでしたわ」

「そうだな。今日初めてISを動かした私だが、一太刀も入れることが出来なかった」

「そう言ってくれるのはありがたいが、こちらとはして内心ヒヤヒヤしながら戦ったいたぞ。セシリアは射撃の精度は上がり、近接格闘戦でも多少なりも出来るようになっていたし、箒は初めてにもかかわらず随分動いていたから避けるのに肝を冷やしたぞ」

 

セシリアの射撃の精度が上がるのは分かるがまさか近接ショートブレードをクラス代表戦以降練習しているのかそれなりに使えていたことには驚いた。

箒は身体能力が元から高いのでその影響で思った以上に動くのでやられるかと思った。

だが、やる限りには勝たないといけないので今の所、一番多く勝っているのは俺で、次にセシリア、箒、一夏となっている。

 

「まさか剣を足に付けるとは予想だにしなかったぞ。完全に不意をつかれた」

「仕方ないですわ。誰もそんなこと考えませんですし」

 

無鉄の両脚に付けたのは近接ブレードなどの近接武器・武装を装着するための物だ。クラス代表戦で使う機会がなかったので今日使ってみた。意外と戦闘で役にたった。

両手両足に剣を持つとガンダムだなこれは。別に狙ったわけではないがなぜかそうなってしまった。

 

「先に戻りますわ。それではまた明日」

 

先にセシリアはピットに戻り帰って行く。俺達も帰るか。

 

「立てるか一夏?」

「もう少し休ませてくれ。思ったより体が動かねえ」

「仕方がない。すまんが箒、一夏と途中まででいいから帰ってくれないか?どこかで倒れたりされたら困る」

「そ、そうだな。よし、私が責任を持って一夏と一緒に部屋に戻ろう」

 

同じ部屋だから大丈夫であろう。

あ、それはそうと。

 

「剣道部には行っているのか?」

「い、今は一夏の特訓でほとんど行ってはないが、心配には及ばない。気にするな」

「そうか。それならいいが」

 

毎日一夏の特訓に付いているから部活に支障をきたしていると思ったがこう言っているから大丈夫か。

 

「先に戻る。明日に疲れを残さないようにストレッチやクールダウンをしておけよ」

 

一夏と箒を残しピットに戻る。部屋に戻ったら何か簡単なデザートかを作るか。

 

「転校生の鈴。一夏は後で来るぞ」

「わ、分かっているわよ。てか、何で分かったのよ!」

「更衣室に入った直後に何か見えたのでな。ここに来るのはせいぜい男子だけだが、一夏か俺目当てで来るやつぐらいだ」

 

入ってきたのは本当だ。すぐに楯無さんに連絡を入れて、俺と一夏が出た後に入って来た者は捕まってどうなったかは知らない。

 

「あまり騒ぎを起こさないようにしろよ。織斑先生が黙ってはいないぞ」

「わ、分かっているわよ」

 

どうやら鈴は織斑先生が苦手なようだ。苦手なことぐらい誰だってあるか。

着替えてすぐに一年の寮に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなもんか」

 

夕食後にデザートを作っている。ホット―ケーキを両面に焦げ目をつける。皿の上に二つを重ねる。あとは買ってきたハチミツをかけるや冷蔵庫に作っていたバニラ、チョコ、イチゴのアイスを乗っけるとかでもいい。

 

「わーおいしそうー」

「パッケージと同じ色だね」

 

部屋には簪と本音がいる。夕食の時に一緒になり食べていて、うっかりデザートの事を話してしまい付いて来たのだ。

 

「慣れればこういう風に出来るさ。別に難しくはないぞ。そういえば本音が言っていたが追加武装の事はどうなっている?」

「今は近接武器と射撃武器一つ増やす事は決まったよ」

「ほう。具体的にはどうするんだ?」

「近接武器は刀のようなものかショートブレードにする方向で決まった。でも射撃武器はまだどうするかが決まっていないんだ」

 

打鉄二式の武装は山嵐の最大48発の独立稼動型誘導ミサイル、春雷の2門の連射型荷電粒子砲、夢現の対複合装甲用の超振動薙刀の合計三つだ。

今のままでも十分だろうがこれでは決定的な物がない。ならば追加でそれを補おうとしている。単純にアサルトライフルやハンドガンでは付け刃だな。

 

「俺も考えておこう。京子先輩とも武器製作の約束をしているからちょうどいいだろう」

「ありがとう。拡張領域(バススロット)は十分に空いているから大丈夫だからね」

 

ちなみにだが打鉄二式の拡張領域(バススロット)はラファール・リヴァイルより少ないが打鉄より多い。なので通常より多く積めることが出来る。

 

「む。ジュースがない。しまった買い忘れていた」

 

寮の売店は八時で閉まる。現時刻は八時二十分。完全に閉まっている。

 

「仕方がない。自販機で買って来る。何がいい?」

「ついて行って見て決める―」

「私もそうする」

「いいぞ。奢ってやろう」

 

財布をポケットに入れ、近くの自販機まで簪と本音で向かう。

 

「何か新しいのあるかなー?」

「無難にオレンジジュースとかはどうだ?」

「それじゃダメだよー。新しいジュースを飲むのも良いモノだよー」

 

時々本音のジュースを選ぶセンスが分からない。この前は抹茶の炭酸を飲んでいた。なぜそんなわけの分からない物を買うのかは簪も分からない。

もうすぐ曲がり角を曲がると自販機がある。そこを曲がって―――

 

「ぐほっ?!」

「いた!」

 

なんなんだ。何かが横っ腹に当たり、激痛が走る。息が止まりそうなくらい痛かった。というかあばら骨が折れそうなくらいだ。

ぶつかった相手は―――

 

「いつつ……なんだ鈴か。どうしたそんなに走って?」

「な、なんでもないわよ!」

「なんでもないわけは―――」

 

顔をよく見ると目がうっすら泣いていた。何があったかは知らないがこのまま放って置くわけにはいかん。

 

「部屋に来るか。デザートがあるぞ?」

「……行く…」

「分かった。簪と本音もいいだろう」

「うん」

「いいよ~」

「とその前に」

「?」

「鈴何がいい?」

 

自販機を指さし、どれがいいかを聞く。

 

「…いちごミルク」

「了解した」

 

全員分のジュースを買って部屋に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てことなのよ。分かっていたけどムカつくのよね」

「それはひどいね」

「オリムーはダイヤモンド以上の硬さの鈍感からねー」

 

鈴の話はこうだ。一夏の部屋に行って箒に部屋を変わるように言ったが当然断わられた。でなんやかんや話しをしている内に昔約束した事を覚えてはいたが意味が違っていたそうだ。

思わずビンタして廊下を走っていたら俺にぶつかったという事になった。

 

「味噌汁を酢豚にするとは。すぐには分からなくとも少し考えれば誰でも分かるはずだ」

 

つまり、料理が上手になったら毎日に味噌汁を飲んでくれるという昔染みた告白だ。

まったく、あいつの鈍感ぶりは今に始まったことではないがどうにかならないのか。

 

「部屋を変えるのは諦めた方がいいぞ」

「なんでよ。てか一年の寮長は誰だっけ?」

「……お前は命知らずか。織斑先生だぞ。どう言うと無理に決まっている」

「うっ……」

 

さすがに織斑先生では無理と諦めたのかしゅん、とした。

 

「それよりデザートを食べてみてくれ。感想が聞きたいのでな」

 

三人分のホットケーキを出して、ハチミツとバニラ、チョコ、イチゴのアイスを出す。ホットケーキは出来たてアツアツだ。

各々好みを選び、ホットケーキに乗せる。出来たてアツアツなのでよく溶ける。

 

「おいしいー!」

「相変わらず上手だね」

「おいしいわね。本当にアンタが作ったの?」

「当然だ。アイスも手作りだ。おかわりは少ないが食べてくれ」

 

あっという間なくなり、ジュースを飲みながら部屋でくつろぐ。……ここ俺の部屋だよな。

 

「そういや武器を作っているんだって」

「ほう、知っているのか」

「それはそうよ。ISを動かした男が武器を作るなんて誰も予想しなかったからかなり有名よ」

「どのくらい有名なんだ?」

「中国ではもうそれなりに知れ渡っているわよ。38式狙撃銃を一度使ったことあるけどなかなか使いやすかったわよ。安定した威力ね」

「それはどうも。38式狙撃銃は初心者でも使えるように設計したから使いやすいのは当たり前だ」

 

中国でそれなりにか。前に京子先輩に聞いていたのは知っていたがこれだと世界中が知っていることになっているという事か。

 

「次は何を作るつもり?良かったら教えなさいよ」

「今の所は未定だ。何を作るのかもな」

「まいっか。それじゃ部屋に戻るわ。愚痴聞いてくれてありがとね」

 

鈴は元の表情に戻り、自分の部屋に帰っていく。

 

「簪と本音も戻った方がいいんじゃないか。織斑先生は厳しいぞ」

「そうだね。戻ろ、本音」

「そだねー。じゃあねゆーみん」

「そうだ簪。参考までにどういった射撃武器がいい?」

「うーん。大雑把に言うと弾幕を厚くしたいかな」

「分かった。それじゃまた明日」

「うん。また明日」

 

簪と本音もそれぞれ部屋に戻るため部屋から出て行った。

皿を洗い、明日の準備をして早目に寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日また夢を見た。以前とは違う夢である。

 

 

 

夕暮れ時であろうか空は茜色に染まっている。場所はどこかの山の中。少し進むと海が見える。

周りには大人達がいる。その中には父さんと母さんもいる。大人達は何気ない会話をしていてとても楽しそうだ。

 

「ねえ、今日はお星さまがいっぱいふってくるって本当かな?」

「本当だよ。ニュースでも言っていたし大丈夫。必ず見れるよ」

 

幼い男と女の子がいる。男の子は俺でかなり幼い。前見た夢よりもかなり小さい。大きさからすると四、五歳といったところだ。女の子もそれくらいである。

 

「何をお願いごとしようかな~」

「あんまり多くお願いごとしちゃダメだよ。ひとつにしないとバチがあたるよ」

「分かっているわ」

 

どこで知り合ったのかは分からないがとても仲が良いようだ。女の子は髪が黒で髪の長さは肩にかかるくらいある。他にも子供の姿が見える。

 

「決めた。宇宙飛行士になる!」

「うちゅうひこうし?」

「そう。将来、月に行ってみたいし、宇宙で見る地球はとってもきれいみたいよ」

「へーそうなんだ。大きい願いごとだね」

「そうでしょ。士郎は将来何になりたいの?」

「んー……」

 

突然の質問で俺は困っている。そもそもこんな幼い時から将来の事なんてまだ考えてもいないだろう。

 

「そうだな。お父さんのように弓矢が上手くなったり、母さんのような考古学者かな?」

「あいまいね。もっと自分がなりたいのはないの?」

 

いやいや女の子よ。今から将来設計は早過ぎるぞ。あと二、三年待っても大丈夫なはずだ。

 

「…………そうだ!」

「なになに。何か決まったの?」

「うん!みんなを守れるような―――」

 

ここで夢が終わる。俺は何を言ったのか分からずそのまま翌朝になって起きた。

 

 

 

ただ――――――この日の事を忘れてはいけないとなぜかそう思った。

 

 

 

 

 




次回からは少しだけオリジナルをします。
と言ってもクラス対抗戦までの繋ぎですが。
では次回もお楽しみに!


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第36話「頼み事」

二週間ちょいぶりです。
リアルの尋常じゃない忙しさと度重なる体調不調でえらく長くなってしまいました。
とくかく、出来たので上げました。
新キャラも出ます。
それでは、どうぞ!


「――――――――――――」

 

呼吸を整え、的を見据える。いつも通りに一連の動作―――射法八節をし、矢が放たれ、的の中心に()たる。

 

「うむ。いつ見ても良い動きじゃの」

「ありがとうございます間堂部長」

 

今日の放課後は部活の弓道部に来ている。弓道部には週三回以上来るようにしている。本当は週五回来たいのだがISの練習や久宇企業から呼び出しもあるのでどう頑張っても週三回ぐらいが限界だ。

 

「一年だというのに正鵠に的中するとはなかなかすごい者じゃ。これはワシもうかうかしておれんな」

「いえいえ。美射部長の方が上手いではないですか」

 

この人は弓道部部長の間堂(げんどう) 美射(みしゃ)。三年生。高校生で五段錬士という超エリートだ。「全国高校弓道選抜大会」で惜しくも破れ個人戦2位に終わった。

ちなみに1位になったのは貧乳だったとか。

それと正鵠とは的の真ん中の白い部分の更に真ん中の事だ。

 

「そうは言うものほとんど大差はないぞ。もっと自信を持つのじゃ」

「それなりには持っていますがそれ以上は慢心に繋がるので持たないようにしているので」

 

自信があり過ぎると慢心が起こる。すると的に当たらなくなったり、ケガをする恐れもある。だから常にある程度だけにしている。

 

「相変わらずよく中たるな。私より学年がしたなのに」

「マナ。嫉妬しているのかぇ?」

「違う。ただ事実を言っているだけだ。この筋トレ中毒者が」

 

この二人は高橋 (まなぶ)先輩に荒井 (ちから)先輩。二年生。IS学園に入ってから弓道を始めたそうだ。愛称はマナとチカである。

 

「ですが本当に良く正鵠(せいこく)に中たっています。美射部長のように正射必中で素晴らしいです」

「祈先輩ありがとうございます。今度は何を祈っていたんですか?」

「織田信長や豊臣秀吉と言った武将達に祈願を」

「はは。それより体を鍛えた方がいいと思うんですが」

「いえ、最後は運なので」

 

神崎(かみさき)  (いのり)先輩。同じく二年生。背が低く華奢で体が弱いがしっかりと射法八節をしているので的に()たっている。美射部長とは中学の時からの付き合いだそうだ。

 

「士郎君はすごいよね。私なんか的にほとんど()たってないんだよ」

「そんなことない。弓道を始めて一ヵ月、ずいぶん成長しているぞ。それに初日で離れをしたじゃないか」

「えへへ、そうかな。私、筋トレしてくるね」

 

こいつは矢澤(やざわ) 正弓(まさみ)。俺と同じ一年。初日から射法八節の離れをして美射部長の一番期待している女子だ。ただ、身体ができていないので今は筋トレを主にしている。

 

「よ。今日は来てたんだな」

「ああ。今日は問題はないから来れた。なるべく部活に来るようには調整しているからさ。勝負はしないぞ」

「今日はしないさ。ま、同じ一年で張り合いが出来るのは士郎ぐらいだな。先輩と勝負するのもいいがやっぱり同じ学年の方がいい」

 

話しかけてきたのは美綴(みつづり)綾子(あやこ)。同じく一年。サバサバした性格で男前な口調が特徴。弓道はIS学園に来てから始めたそうで、それまでは様々な武道武芸を(たしな)んできていた。弓道部に入ったのは唯一弓道には心得がなかったからだ。そこで学園入学時にすすんで弓道部に入ったという事になった。

 

「そこお喋りしないで()たないか。時間は有限じゃぞ」

「やば。部長怒ると話しが長いからさっさとやろうぜ」

「そうだな」

 

話しをやめ、再び的に目掛けて弓矢を向ける。

 

「――――――――――――」

 

射法八節とは弓の基本で

足踏み(射位(しゃい:弓を射る位置)で的に向かって両足を踏み開く動作)、

胴造り(足踏みを基礎として、両脚の上に上体を安静におく動作・構え)、

弓構(ゆがま)え(矢を番えて弓を引く前に行う準備動作)、

打起(うちおこ)し(弓矢を持った両拳を上に持ち上げる動作)、

引分け(打起こした位置から弓を押し弦を引いて、両拳を左右に開きながら引き下ろす動作)、

会(引分けが完成(弓を引き切った状態)され、矢は的を狙っている状態)、

離れ(矢を放つ、あるいは放たれること)、

残心(矢が放たれた後の姿勢)

といった順である。これらを上手く行えば、大体は的に中らずとも届くほどぐらいに飛ぶ。

俺はなぜか射法八節が自然とできた。身体が覚えているという事なのだろう。集中を切らさなければ今の所は外す事はない。と言うより外す気はない。

そして放たれた矢は真ん中の白い部分に中たる。中たるのは的の真ん中の白い部分がほとんどだ。

 

「お前よく中てるよな。しかも白い所に」

「これに関しては俺もよく分からん。身体が覚えてると言った方がいいなのだろう。綾子は覚えが早いから的には中たるだろ」

「白い所はほとんどないんだよ。ま、今は積み重ねしかないからしょうがないがいずれ士郎、お前に勝つぜ」

「臨む所だ」

 

それからは先輩達と変わり一年生は全員的作りになった。的作りは先輩達もやるがもっぱら一年生がやる事だ。すでに先輩達に教えてもらっているので作れるが馴れないと上手く張れない。そんな時は先輩達に聞いたり、一年生同士で協力するなどで補っている。

 

「士郎はおるか?」

「います。何か用でも?」

「うむ。お主に用があるという者がいる。ちと来てくれんか」

「分かりました」

 

俺に用か。別に何かしたわけでもないし、覚えもない。

 

「何かしたのか?」

「していない」

「え?何かしたの士郎君」

「だから、何もしていない。あ、ずれているぞ正美」

「わあ!また張り直しだあ!」

 

綾子と正美からの質問に答え、美射部長の所に行く。

行くと誰かがいた。恐らくその人が俺に用があるのだろう。あの人は確か……

 

「剣道部の部長さんか」

「お久しぶり?元気そうね?」

 

相変わらずな疑問形で話す剣道部の部長。この人とは会ったといえばクラス代表を決める前に剣道場で箒と試合をしたときに審判をしてもらっただけだ。

学校ではたまに見かけるだけで、こう面と向かって話すのは二回目だ。

 

「何かやりましたか。俺が」

「違うよ?ちょっと頼みたい事があったんだよ」

 

あれ?前半は疑問形だったが後半は普通に話している。てことは真面目な話なのか。よく分からないが。

 

「篠ノ之 箒さんは分かるよね」

「はい。一夏にISの練習・特訓に良く付き合ってくれていますし、クラスメイトですから」

「その篠ノ之さんを部活に来るように言ってくれないかしら」

「…………え?」

 

確か最近話していたな部活の事。その時には大丈夫と言っていたはずだが。

 

「ちなみに箒は今まで何回来ました?」

「片手で数えられるわよ。部活の顔出しだけ」

「あー……」

 

片手。しかも一回だけか。はあ…………思った以上に行っていないとは。

一夏に構い過ぎだ。一人で出来るようなメニューを考えておかないとまずい。このままでは箒が幽霊部員になってしまう。いや、なりかけている。

 

「私からも何度も言っているんだけど、はい分かりましたってだけで全然来てくれないのよ。悪いんだけど、あなたから言ってくれないかしら」

「分かりました。言ってみましょう。自分にも多少なりとも責任があるので」

「ありがと。それじゃお願いね?」

 

すぐに弓道場から出ていった。部長だからそんなに長居は出来ないのは当たり前か。てか、また後半から疑問形の話し方に戻った。

 

「美射部長。明日は説得するので、すみませんが部活来れません」

「気にするでない。同じ部長として見過ごすわけにはいかんからの」

「ありがとうございます。ところで部長」

「なんじゃ?」

「剣道部部長とは仲が良いんですか?」

「そうじゃ。IS学園に入ってすぐに友達になったからの」

 

なるほど。それなら納得。

その後は部活に集中して、終わったら箒をどう説得するか考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。箒を説得するため一夏、セシリアを呼んで昼休みに説得をすることにした。

昼食をしてタイミングを見計らい、意を決して話した。

 

「箒。一夏の特訓はセシリアと織斑先生に任せるから部活に行くんだ」

「それはどういうことだ」

 

不快にさせたようだ。いや、言葉が足りなかった。

 

「実は昨日剣道部の部長さんに部活にもう少し出て欲しいと頼まれてな。一夏に特訓を付き合ってもらうのはいいが、部活に精を出すがいい。一日の鍛錬を怠れば後日に影響を及ぼすはずだろ」

「大丈夫と言ったはずだ。私から部長に直接言っておく」

「……分かっていないようだな」

「どういうことだ?」

「はっきり言おう。今のお前は自己満足に浸っている」

「なんだと!」

 

ダン!とテーブルを叩き立ち上がる。周りには当然昼食を取っている者が多くいるのでこちらに注目が集まる。

 

「私は一夏のためを思ってやっているんだ。それをお前は自己満足と言うのか!」

「そうだ。今の箒は周りがよく見えていないからそうなっている。一夏のためと言っておきながらそれは自己を満たすことだけでやっているだけに過ぎん。

それにさっきも言ったが織斑先生に任せると言った」

「どういうことだ士郎。俺は千冬ね……織斑先生から何も言われなかったぞ」

「その事はさっき職員室で頼んだからさ。織斑先生には少々無理させてしまったがね」

 

食堂に来る前に職員室に行き、織斑先生に頼んだのだ。姉弟で不公平だと言っていたが雪片をよく知っているのは織斑先生だと言ったら渋々ながら了承してくれた。

 

「だから、クラス対抗戦が終わるまで特訓は織斑先生がメインになることになる。終わっても少々出るがな。セシリアも部活に出て大丈夫だ」

「え、ええ分かりましたわ」

 

一夏と一緒に特訓するのはいいが織斑先生となるとさすがに遠慮するよな。もし一緒になったら、容赦なく欠点を言うだろう。

 

「とにかく部活に出ろということだ」

「私はまだ納得がいっていない!なぜ私達に一言も言わない!」

「言ったら必ずといっていいほどに反対するだろ。だから、何も言わずにした」

 

悪いと思ったがこうする他はなかったからしょうがない。特に箒の場合は。

 

「なら、私と勝負しろ」

「は?」

「私と勝負しろと言ったのだ」

 

なぜ勝負なのか。納得いかないからとにかく勝負しましょってか。

 

「ああいいぞ。ルールはただの勝ち負けか」

「それだけではない。賭けをしてもらう。お前が勝てば、私は文句は言わない。私が勝ったら、士郎、お前は一夏の訓練に今後付き合わないでもらおう」

「ほう」

「おい、箒!」

 

なかなかおもしろい。白黒つけて、今後の事にケリをつけるか。ふ、実にいい。

 

「その勝負受けよう」

「決まりだな。勝負は放課後だ。ちなみに今回は竹刀は一つだけだ。言い訳はしないでもらおう」

「安心しろ。今のお前には一つで十分だ」

「ふん」

 

食器を返却口に返してそのまま食堂を出て行った。

 

「おい、大丈夫なのか」

「何がだ一夏」

「放課後の事だよ。箒は全国大会一位の実力だぞ。勝てるのか?」

「安心しろ。こちらに切り札がある。悪いがお前も放課後見に来るといい。ためになるはずだ」

「どういうことだよそれは」

「あ、あのわたくしもいいでしょうか?」

「構わない。というよりも誰も来ないようにはと言っていないからな」

 

勝負は放課後か。二刀流は許されているがあえて一本にした。正直言うと一本ではきついが、そうも言ってはいられない。一本でも勝てると証明するのもいい機会だ。

切り札の()()を使うしかないか。箒に見えればいいんだが。

 

 

 

 

 




次回もオリジナルです。当然ですけど。
今回出てきた新キャラは射 〜Sya〜からです。
詳細は後日の設定で出します。
次回は来週かな。頑張って今週もう一回上げるようにがんばるか。余裕が出来たし。
では次回もお楽しみに!


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第37話「心の剣」

出来たー!やれば出来るもんだな。
頑張ってレッドブルを三本飲んだおかげだね。
一応確認はしたんですが変な所があったら報告お願いします。
では、どうぞ!


放課後、剣道場にいる。本来今の時間では剣道部が使用していて日々鍛錬を積み己を鍛えている頃だが今は俺と箒が使わせてもらっている。

 

「分かっていたがここまで人が来るとは思わなかった」

 

道場には一年から三年まで大勢いる。かなりギリギリに入ってるので中に入れなかった人も多いようだ。気のせいであろうかどこかでどっちが勝つか賭けをするとかが聞こえるような。

 

「満員だねゆーみん」

「そうだな。人の目が気になるが勝負に集中すれば問題はない」

「けど大丈夫なの?二本じゃなくて一本で」

「さすがに全国大会優勝者には少々厳しいがなんとかなるさ」

「負けたら週末に研究場に行って訓練をみっちりするように頼んでおいたわよ」

「完全に負けられないな、これは。美沙夜、頼んでもいないのにやってくれる。特に研究場の訓練とは!」

 

傍には本音、簪、美沙夜がいる。放課後にはすでに情報が行き渡っていたようで学園中知らない者はいないそうだ。

 

「えっと、研究場の訓練てそんなに辛いの?」

「簪、辛いってもんじゃない。あれは地獄だ」

「え?」

「いいか。最初に呼び出された日の朝からいきなり高速戦闘訓練をやらされたんだぞ。それも二十四時間中十六時間だ」

「え、えー……」

「しかも土曜だったから次の日曜もやらされた。IS学園に帰ってきたのは八時を過ぎていたはずだ」

「それ知ってるー。ジュース買いに行って戻ろうとした時ゆーみんがものすごーく疲れた顔で部屋に戻って行くの見たー」

「それ以外にもフルアーマーを無鉄に装備し火薬銃をたんまり付けてほとんどに身動きが出来ないのに五対一の複数戦闘訓練と言う名のイジメを……!」

「けどそのおかげに良いデータが取れたって研究場の人達は喜んでいたわよ」

「俺はちっとも嬉しくない!」

 

思い出すのはやめよう。モチベーションが下がるだけだ。切り替えよう。

 

「とくかく!勝てばいいだけだ。では行ってくる」

「頑張って」

「ファイト―」

「勝ちなさい」

 

さて、相手はやる気満々だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

箒と士郎が剣道で勝負を決めることになった。士郎が勝ったら、箒は文句を言わない。箒が勝ったら、士郎は今後俺との訓練には参加出来ないとなっている。

 

「なあ箒。いくらなんでも賭けの内容が酷いと思うぞ」

「何を言うのだ一夏。士郎は了承しているからなんら問題はない」

「いや、だけど」

「それに私は負ける気なんぞ一切ない。前回は二本だったが今回は一本だ。すでに勝機はこちらにある」

 

そう、セシリアと戦う前に箒と士郎は一度打ち合ったことがある。

その時は士郎は二本だったが今回は一本。箒に勝つ確率が高くなっている。

 

「では行ってくる一夏」

「ケガしないようにな」

 

箒は自信満々で勝つ気だ。どう考えても箒の方が勝つ気だ。箒の実力は身を挺して分かっている。なのに……

 

「なんで士郎の方が勝つような気がするんだ」

 

なぜかそんな思えてしまう。そんな呟きはギャラリーの声でかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

試合場には俺と箒、審判の剣道部の部長さんがいる。

 

「ルールは一本勝負でいいわね?」

「ええ」

「はい」

 

白黒手っ取り早く決めるには一本勝負がいい。なにより相手がやる気だからなおさらだ。

 

「後で後悔しても文句は言うなよ」

「それは俺に勝ってからしろ」

「ふん!」

「こら、私語を慎むように。それでは始め!」

「はああああああ!」

 

合図と同時に箒が仕掛けて来る。迷いのない一閃が振り落されたが―――

 

「ふっ!」

 

躱す。ただ躱す。箒と俺の実力はそれほど大差はない。だが、それは二本持っていればの話だ。

俺の実力は二本あって本領を発揮する。片方で攻め、片方で守る。これにより、箒との実力を埋めることが出来る。何より、俺自身が剣の才能にない事を自覚しているからなおさらである。

だとしても負ける通りはない。

 

「面!突き!胴!」

 

目にも止まらぬ速さで襲い掛かるがそれすらも躱す。

俺の目、弓塚の目はただ遠くの的に中てるモノだけではなく、接近戦においても有効だ。相手の動き、目の方向、手の傾き、足の運び、重心の移動、得物の矛先。それらなどを注意深く観察することでちょっとした未来予測が出来る。しかし、今の俺では僅かしか見えない。

 

「正々堂々勝負しろ!それとも臆病風にでも当たったのか!」

「別に躱しているだけだ。ルールには違反していない。それに掠りもしてはいないぞ」

「その余裕も今のうちだけだ!」

 

勇猛果敢に攻めてくる箒。その姿はかつての侍、いや、武者といったところだろうか。無駄のない足の運び、日々磨き上げている剣筋、臆することなく果敢に攻める姿勢。どれも俺を遥か上であるかを示している。

だけど、今のお前では俺には通じない。

 

「さて、そろそろこちらから攻めて行くぞ」

「今さら何を―――」

 

 

フォンッ!

 

 

「ッ!?」

 

驚き、思わず大きく後退する。まさか、これが予想外と思われるとは少々心外だな。

 

「二本ではそこまで速くはなかったのになぜ一本では速い?」

「なに、簡単な事さ。二本を使う際には並行処理を行い、巧みに使っていたのを集約して一本にしただけさ」

「そんなこと簡単に出来るわけ―――」

「出来るさ。剣の才能がないのは誰よりも俺自身が分かっている。だから、いつでも一本でも出来るように幾度も練習している」

 

この先、二本で戦えるとは限らない。そのためには一本でも戦えるように必然的になる。

例え才能がなくても、技量で差を埋まらせることが出来れば十分だ。

 

「面!」

「くっ!」

 

受け止めるのではなく受け流して腕の負担を減らす箒。男女を筋力の差は大きく違う。だから箒は受け止めるのではなく受け流した。

 

「胴!胴!突き!」

「っち!これほどとは……!」

 

休むことなく攻め続け、箒に負担をかける。先ほどとは違いこちらが攻めに入り、箒が守りになった。

 

「凄いわ。一本でもあれほどの実力なんて……」

「篠ノ之さんって去年、全国大会優勝者って聞いたけど」

「もしかしてこれ、勝つんじゃないかな?」

「だとしたら凄いわよ、それ」

 

ギャラリーが何を言っているか分からないがこちらはこちらの目の前の相手をするだけだ。

 

 

 

 

 

 

予感は見事に当たった。最初こそは攻め続けていた箒だったが、士郎の風を切るような一閃で流れが変わった。

二本で実力は同じくらいだったので一本では負けると思ったらそうではなかった。実力は確かに箒の方が上だ。しかし、実際はどうか。

攻めに行く士郎、守りに徹する箒。俺にとっては信じられない光景だ。箒は去年、全国大会の優勝した。新聞で大々的に映っていた。小学生の頃とは実力は明らかに違う。

箒の実力は少ないながらも知っている者はいる。俺と箒の実力はもはや天と地の差だ。

それは士郎も例外じゃない。あいつは自分の家は代々弓塚家は剣の才能がないと入学当時から言っていた。それを埋めるために二本にしているのだと。

 

「胴!面!」

「はあ……はあ……ふっ!」

 

だからこそ箒は自信満々だったが、それを打ち砕く現実が目の前で起きている。

 

「なかなかやるな弓塚」

「ちふ……織斑先生いつの間に!?」

 

横にはいつ来たのか千冬姉がいた。

 

「今しがただ。篠ノ之は劣勢だな。まあそれもそうだろう」

「どういう事ですか織斑先生?」

「確かに篠ノ之はお前や弓塚より実力は上だ。しかし、あいつは心が出来ていない」

 

心が出来ていない?それがどういう事だろうか。

 

「いいか。力はただ力だ。使い方によっては誰かを守るためにもなれば、反面誰かを傷つけることになる。それはお前に昔言っただろう」

「はい」

 

剣道を始める前に言われた事だ。剣道は力を形にしたモノの一つだと。竹刀で人を傷つけてはならない。人に向けたあらゆるモノは、時に自分を傷つけることもあるのだと。

 

「心がない剣はただの力、いや、暴力の方に傾いてしまう。今の篠ノ之はそんな状態だ。だから、弓塚に押されている」

「そんな!箒はそんな事―――」

「外観だけで判断するな。それでは誰も守れはしないぞ。些細な事に気を配り、相手の真意に気づかないとそれは時に他人を傷つけることなる」

「…………………………………」

 

胸に突き刺さる。確かに俺は外観だけを見ていた。昔のままの箒だと思っていた。だけど、会えなかった空白の時間で箒は傷ついていたのかもしれない。突然の引っ越し、幾度も繰り返す転校。俺はそんなことで負けない箒と思っていた。

傷付いていたかもしれない。そのことに気付けなかった事に俺は自分に腹が立つ。

なぜ分かってあげなかったのだろうか。なぜ自分はこれほどまでに無力なのだろうか。

 

「なに背負い込んでいる馬鹿者」

「いた」

 

いつものような出席簿で当てるような感じではなく、軽く当てられた。

 

「過去を悔やんでもどうすることは出来ん。なら、今これからどうすればいいだけの話だ」

「……そうだよな。俺、試合が終わったら箒と話しをする。なんでもいいから」

「そういうことだ。なら、見ておけ。今の弓塚は心技体を持ち合わせている」

「はい!」

 

試合に目を向ける。劣勢ながらも諦めない箒。才能をないのを認め、技量で押す士郎。目に焼き付けるように、食い入るように見た。

 

 

「………………そうさ。過去を悔やんでもどうすることは出来ん。それは私も…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……はあ……はあ……」

 

息を切らしながらも構えは崩さないか。体力はもはや限界だというのに立つとは見上げたものだ。

 

「負けを認めるんだ箒。体力はそれほど残っていないはずだ。潔く諦めろ」

「何を言っている……私はまだ負けていない。勝ち負けは倒れてからにするんだ」

 

息を整え構え直す。その心意気はいいが今のお前では見苦しいだけだ。

 

「はあ……仕方がない。なら、切り札を使うしかない」

「ふ、戯言を――――――なっ?!」

 

防具を全て脱ぎ、竹刀を置くと袴だけになる。脱ぐと少しだけ体から熱気が抜けて心地よい。

 

「どういうつもりだ。お前が負けになるのか。それほどまでに私を侮辱するのか……!」

「試合を捨てるつもりはない。このまま続けるさ。審判、引き続き試合は続行だ」

「防具を付けないと試合は続けられないわ。万が一ケガでもしたら大変よ」

「心配には及ばない。ケガなど今の箒には出来ん」

「いいだろう。構えろ。私がお前を叩き直す!」

 

先ほどとは違い息を切らしてはおらず、万全ではないにしろいつでも試合続行という態勢だ。

 

「なら来い。俺はシンケンでやる」

「真剣?お前は手でただ構えているだけではないか」

「いや、そっちの真剣じゃない。俺が言ってるのはこの剣のことだ。あるのさ。俺の心の中に。心の剣。その名は心剣」

「馬鹿な事を。それは剣を極めた者した見えないという奥義ではないか。それをお前が出来る筈がないだろ」

「現に出来ている。それにお前なら見えると思ったが、思い違いか……。まあいい、試合を続けようじゃないか」

 

見えていないとは残念だ。だが、心剣が見えるまで続けるしか他はないか。

手には心が具現化した心剣が握られている。無名の日本刀、それが俺の心剣。

心剣は箒が言った通り剣を極めた者しか見えない。だがこれには少々言葉が足りない。剣の才能がある者、またはそれ相応の者が見える使えるのである。それ相応の者というのは心が強い者や真っ直ぐな者など多くの者である。

 

「しょうがないわね。試合続行、始め!」

「はあっ!」

 

迷うことなく頭を狙いに来たか。せめて腹に狙いを付けて欲しかったんだが、これは痛い目を見ないといけないな。

最小限で躱し――――――右腕を切る!

 

「ふっ!」

「ッッッ!?」

 

ん?今の反応もしかすると。

 

「ようやく見えたか。時間が掛かると思ったが早かったな」

「なぜだ……なぜお前にそんなことが出来る!」

「さあ。どうしてだろうな。だが、お前に目が曇っていたという事は確かだ。ここからは本気で避けなければ斬れるぞ」

 

動揺する箒に向けて心剣で斬りかかった。

 

 

 

 

 

「くっ!」

 

なぜだ、なぜだ!なぜ士郎に心剣が使える!

私が弱く、あいつが強いからなのか。そんなはずはない!私は全国大会の優勝者なのだぞ。それをこんなやつに!

 

 

―――いいか、箒。剣を極める者は心剣が使えるのだ。

―――しんけんとは父上が持っている真剣の事でしょうか?

 

 

ふいに昔、父と話したことを思い出した。

 

 

―――いや違う。心の剣と書いて心剣だ。これは心が具現化した剣で己の形でもある。

―――私には見えません。弱いからでしょうか?

―――これには力の強いも弱いもない。これは心が強い者か真っ直ぐな者などが見え、使えるモノだ。

―――私もいつか出来るでしょうか……

―――出来るさ!なにせ私の娘だ。これまでもこれからも常に精進するのだぞ。

―――はい!

 

 

ああそうか。わたしは強さをいつの間にか力として考えていたんだな。士郎の言う通り、私は目が曇っていたのだ。

何度も引っ越しをさせられ、必要以上に監視と聴取を受けて心身ともに消失していた。

だが、剣道だけは続けた。それは唯一、一夏との繋がりだと思えていたからだ。しかし、去年の全国大会の決勝、あの日はとても醜い人間だった。

太刀筋は己を映す鏡。私はただ―――誰かを叩きのめすの憂さ晴らしの剣道をしていた。

あれはただの暴力だ。強さとはそういうものを指しているのではない。それは幼少の頃から父に教わって知っていたはずだった。

そして私はまた強さを見謝ってしまった。

 

「せい!はあああ!」

 

士郎は本当に強い。記憶がほとんど失い、自分が何者かが分からないのにただひたすら走り続けている。

ああ、これが強さの一つの形なのだと今なら分かる。

今からでも遅くないだろうか。例え遅くても今始めなければ意味など成さなくなる。

だから、この試合が終わったらまた新しく始めよう。

 

「はっ!」

 

心剣で頭から斬られた。実際には斬られていないから痛みはないがそう思えるほど実感があり―――

 

「負けだろ」

「ああ。私の負けだ」

「勝者、弓塚 士郎!」

 

これまでの自分を斬るために士郎はそうしたのだと今更ながら分かった瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 

はあ、疲れた。まったく慣れないことはするものではない。

 

「箒!」

 

疲れが一気に来たのだろうか。箒が倒れる寸前で一夏が受け止めた。

 

「大丈夫だ。少し目眩がしただけだ」

「軽い熱中症だろう。温いスポーツドリンクを飲むといい」

「すまない、助かる」

 

防具を脱いで熱を逃がす。温いスポーツドリンクは体に沁みわたりやすい。冷たいものもいいがそれはその場凌ぎに過ぎず、体に悪い。

 

「勝敗は俺の勝ちだ。文句はないだろ?」

「ああない。それと斬ってくれてありがとう」

「なに、安いものだ」

 

真意を分かってくれたようで何よりだ。今の方が断然いい表情だ。

 

「すまないが部長を呼んでくれないか?」

「分かった」

 

すぐに剣道部の部長を箒の前まで連れて来る。

 

「すいませんでした部長。今まで部活に来なくてすいません。これからは部活に来ます。雑用でもなんでするのでお願いします」

 

一夏の肩を使って立ち、謝った。それを部長さんは―――

 

「うん、いいよ」

「はい?」

 

あっさり許した。この人の性格上なんかきついとかがないような気がするから当然か。

 

「い、いいのですか。そんなにあっさりと許して」

「いいのいいの。私も悪い点があったのも事実だしお相子さまってことでいいの」

「あ、ありがとうございます」

 

これで万事解決だな。早く部屋に戻ってシャワーでも浴びよう。

 

「じゃあ俺は先に戻らしてもらうぞ。汗臭い男なんぞいてもマイナスなだけだ」

 

ギャラリーの群れを突破して小走りで部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。屋上で一人の少女が携帯電話と違った通信機器でどこかと連絡を取っていた。月はよく光り、外灯なしでも見えて、少女の長い紫髪が光を帯びる。

 

「ええ。彼は自覚がないのでしょうが日々見ていると力を取り戻し、言動が前と同じようになってきています」

 

相手は誰かは知らないが女性の声であるのに間違いはない。

 

「ええ、ええ。いえ、記憶はそれほど多くは思い出してはいないようです。定時連絡でも言いましたが、恐らく十年前の事を断片的に思い出していると織斑教師との会話を聞きました」

 

十年前となんなのか。それは調べて分かるものかさえ分からない。

 

「それではそろそろ切ります。引き続き、IS学園の調査及び、彼の報告を私、ラニ・エルトナムが行います」

 

連絡を切り、静かな廊下を渡り、誰にも気づかれる事無く、少女は自分の部屋に戻る。

 

 

 

 

 




やったね!ラニを出したよ!知らない人はFate/EXTRA で調べてみてね。
ラニも後日の設定に出します。
次回は来週になります。お楽しみに!

それはそうと設定がえらく多くなると思うので二つに分けようと思います。


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第38話「ゴールデンウィークの予定」

さて皆さんお待たせしました。
二週間も放置していたのではなく、ただのスランプです。
本当はこのままクラス対抗戦を書こうと思ったんですけどその前にゴールデンウィークあったのを気付いたんです。大体のISの二次小説にゴールデンウィークの事がなかったので勢い持って書いたんですが、スランプになってしまいました。
引き返すにしてもすでに半分以上は書いてしまったので今更消すわけにもいかず今日まで時間が掛かってしまいました。
長々となってしまいましたがどうぞ!


箒と剣道でケリをついてからから数日が経った。

箒は剣道部で仲良くやっているようだ。最初こそぎこちなかったそうだがそれは最初だけで、今では気軽に話すほどになり、大丈夫そうだ。

一夏は織斑先生にワンツーマンで指導してもらっている。厳しい指導だが、一組全員の期待に応えるために奮闘している。

セシリアは代表候補生としての知識で一夏の足りない所を補っている。聞いた話では一夏と共に織斑先生と指導を受けたら、心が折れそうだとか言っていた。やはり誰であろうと容赦しないとは鬼だ。決して口してはいけないが。

 

「明日からゴールデンウィークだけどみんなはどこに行くの?」

「私は家族で旅行に行くわ」

「家でゲームしまくる」

「ぐーだらしている」

 

明日からはゴールデンウィーク。教室では女子達が長い連休をどう過ごすかを話している。

 

「一夏はどうするんだ。ゴールデンウィークで何か予定でもあるのか?」

「そうだな。家を掃除してあとはちょっと友達の家に行ってIS学園に戻って特訓の続きってところだな」

 

クラス対抗戦までそれほど日がないから大体そんなもんか。久宇研究場からは何も連絡がきていないが、不安だ。何をされるか全く分からん。

 

「そういう士郎はどうするんだ。俺と違ってずっとIS学園にいるわけじゃないだろ」

「ああ。だがこれと言ったことはないから何をするのかはまだ未定だ」

 

長い連休だ。有効活用するには持って来いなのだが、全くといっていいほどに予定がない。

 

「それじゃ俺と「ピンポンパンポン♪」ん?」

 

呼び出しのベルが鳴った。休み時間にたまにある事だ。

 

『えー、一年一組の弓塚 士郎さん。職員室に来てください』

 

はて。何かしただろうか。覚えがない。

 

「何したんだ士郎。職員室に呼び出しなんてされることしたのか?」

「全く見覚えがない。とにかく行けば分かるさ」

 

何もしてはいないんだが。研究場からは俺に直接連絡が来るか美沙夜から連絡が来るかの二つしかない。よって研究場からではない。だとすると、なんなんだ。

教室を出てすぐに職員室に行く。何度か用事があって来たことがあるので場所は知っている。

 

「失礼します。一年一組の弓塚 士郎です。放送で呼ばれたので来ました」

 

入ったら学年とクラスを言い、名前を言う。それから用件を言う。職員室に入る時の常識だ。

 

「こっちよこっち。来て来てー」

 

………声の主が分かった。まさかあの人に呼ばれるとは。

 

「呼ばれてすぐ来るとは良い事だぞ。うむ」

「はあ……なんですか藤村先生。今度は何を修理するんですか?」

 

この人は藤村 大河。IS学園の教師の一人だ。俺と藤村先生は接点がないわけではない。俺の爺さん、弓塚 治朗と藤村先生のお爺さんは親友らしい。らしいというのは藤村先生から聞かされただけなので詳しくは知らない。

 

「そんな他人行儀にしなくてもいいのに。お姉ちゃんと呼んでいいのよ」

「誰が呼ぶか。この前言った藤ねえで決まったからいいでしょう」

「ぶー。つれないなー。お姉さん寂しくて死んじゃうよ」

 

ついこの間なぜかお姉さんと呼ぶようにと言われた。即却下したが引き下がらず、渋々決めたのが藤ねえというわけだ。滅多に呼ばないが。

 

「まさか、呼び出したのはそんな事ではないよな」

「そんなんじゃないわよ。今度のゴールデンウィーク、時間ある?」

「今の所何もない。それが何か?」

 

まさか大型連休を使ってまで直さないといけない物があるとか言わないだろうな。さすがにそれは勘弁願いたい。

 

「家に行って来たら。いい機会なんだしさ」

「家?」

「アンタの実家よ、実家。弓塚家の」

 

実家と呼べるのだろうか。そもそも記憶がまだ思い出せてもいないのに実感もわかん。

 

「うーんそうですね。…………行ってみます。場所はどこですか?」

「場所は。えーと………ここよ」

 

地図を出して場所を指す。それほど遠くはない。

 

「聞きたいことあるかしら?」

「そうですね。家の管理は誰がしているんですか?確か爺さんが亡くなったのは三年前なので相続する人がいないはずですが」

「うちで管理しているよ。私の爺ちゃんここいら一帯の大地主だからね。あんたの父親母親の友達とかもたまに掃除してくれるから助かる助かる」

 

父さんと母さんの友達か。色々と恵まれているんだな。学生時代が知りたいものだ。

 

「あ、はいこれ鍵。失くさないように」

「当たり前ですよ。それじゃ、教室に戻ります」

 

行ってみる価値は十分ある。もしかすると、失くした記憶を取り戻すチャンスがあるかもしれん。

 

「あ。ちょっと待って待って」

「はい?」

「はいこれ」

 

紙袋を渡された。中を見るとビデオテープの再生機だ。これは一体。

 

「今度それ直して。お願いね」

「そうだろうと思った。直るか分からないけどやってみる」

「ありがとう!頼んだぞ!」

 

早々職員室から出た。ちなみに一年四組の担任をしている。つまり、簪のクラス担任だ。

 

「お。士郎なんだった……なんだその紙袋は?」

「また藤村先生からの頼まれ事だ。気にするな」

「はは。お前器用だから色んな人に頼まれるよな。この前は何直したんだっけ?」

「エアコンだな。職員室のが調子が悪いと業務の人を呼ぼうとしたら士郎が直したんだったな」

「その前は黒板ですわ。授業中に突然真っ暗になって山田先生が慌てていたのを士郎さんが直したんですわ」

 

一夏が答える前に箒とセシリアが答えた。

 

「そうだったな。本当に器用だよな」

「直せる物は直す。使えるのなら直してまた使った方がいいだろう。特に愛着を持つ物だとなおさらだ」

 

俺の制服は常に工具を持ち歩けるように改造をしているのでいつでもどこでも修理が出来る。

 

「で、なんで呼ばれたんだ?」

「藤村先生に弓塚家の家に行ってみたらどうだと言われてな。ゴールデンウィーク中に行くことにした」

「へぇ。どんな家なんだ?」

「聞いていなかったな。まあそれは行ってからの楽しみということにしておこう」

 

家がどんな風になっているのか楽しみだな。まさか、屋敷だったりして。

この時、本当になるとは思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

時間が経ち、昼になる。弁当派、食堂派、買い食い派などそれぞれ好みで昼ご飯を食べる。

 

「ね、ねえ弓塚君。ちょっといいかな?」

 

弁当を取り出すと静寐から声をかけられた。

 

「どうした。何か用でもあるのか?それと名前で言っていいんだぞ」

「まだちょっと名前で言うのは恥ずかしいからもう少ししたらで。それで今度のゴールデンウィーク時間ってある?」

「最初の二日は予定があるがそれ以外は今の所ないぞ。それがどうした」

「えっと、えー、ちょっと……」

 

なぜモジモジする。それに顔が赤い。何をしたいのかさっぱり全く分からん。

 

「ま、まさか。鷹月さんが弓塚君に告白を!」

「くっ。思わぬ伏兵がここに居るなんて……!」

「なんてことだ。私のミスだ!」

 

教室に残っている女子達がワイワイと騒ぎ始めた。それより、用件を聞き出さねば。

 

「はっきり言ってくれなければこちらも分からん。ないのなら―――」

「し、士郎君!」

「は、はい!」

 

突然の返答+大声でつい、声が裏返ってしまいながら答える。教室の女子達もピタリと騒ぐのをやめる。

教室中に異様な緊張感が包まれる。

 

「五月五日に私――――――」

『おおおおおおおおおおお!!』

 

女子達のボルテージが急激に高まり、静寐の言葉の続きは―――

 

「――――――の妹と遊んでくれないかな?」

『だああああああああああ!!』

 

 

ガタガタバタタタタン!バゴォォォォン!

 

 

ただの頼み事であった。その答えに教室の女子達、全員が一人残らず、ずっこけた。すごい音がしたが大丈夫だろうか。特に最後の。

 

「ああ大丈夫だ。何度か電話でも話したし、一度合っているからな」

「あはは。あの後、弓塚君の話ばっかりで心が軽く折りかけていたしね」

 

実はセシリアと戦う二日前ほどに静寐に声をかけられた。話の内容は妹の真美ちゃんが俺と話しをしたいという事であった。で、第一声の声が大きく鼓膜が破けそうなくらいであったのが今でもはっきり思い出せる。それからは携帯電話の番号とかけてもいい時間を教え、何度も話しをしている。

 

「ん?五月五日と言えば子供の日だな。両親とは遊ばないのか?」

「本当は一日中どこで遊ぶつもりだったらしいんだけどお父さんとお母さんが急に用事が出来ちゃって行けなくなったんだ。それを昨日私に相談されちゃって」

「なるほど。それで俺に適任だと思ったわけか」

 

それはさぞ、怒っただろうな真美ちゃん。急な用事では仕方がないとはいえ、遊べなくなるのはショックだろうに。

 

「ごめんね。迷惑だったよね」

「そんなことはない。会ったのは一度きりだったからいつかは合おうと思っていたところだから迷惑ではない。そうだ。今夜真美ちゃん電話するか?」

「うん。それがどうしたの?」

「なに、驚かせるだけさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。俺は整備室に向かっている。少し前に打鉄二式の装備が決まったからだ。すでに整備室には簪、本音、楯無さん、虚さん、薫子さん、フィーネさん、京子さんがいる。

 

「すみません。遅れました」

「大丈夫よ。作業は順調にやっているわ」

 

入るとすでに作業が行われて他にも人がいた。クラス対抗戦が近いのか使う人がいつもより多い。同じ一年もいれば二、三年生もいる。

 

「思った以上に進んでいるようですね」

「そうね。簪ちゃんと京子ちゃんが気合入っているから余計ね」

 

この調子ならクラス対抗戦の一週間前に終わるペースだ。十分なテストと調整が出来て本領発揮が出来る。

 

「お。士郎来ていたのか。こっちを手伝ってくれ」

「分かりました。すぐ行きます」

 

京子先輩に呼ばれたので手伝いに向かった。

 

「武器・武装の追加だけじゃなくて二式の改良をするとは思わなかったぞ」

「改善出来る点をやって、出来なければ別の物で補うしかありませんよ」

「それもそうだな。二式の方は簪に本音、虚先輩に任せてこっちは新しい武器を造ろうぜ」

「はい」

 

装備だけではなく、打鉄二式を改良する事になっている。簪の大まかな欲しい武器を教えてもらったがそれだけでは足りないと感じたので打鉄二式にも手を加えることにした。

背中に搭載された2門の連射型荷電粒子砲の春雷を三点バースト方式に出来るように改良し、両脇に移動出来るようにして手動で出来るようにもしてカートリッジに変更できるので燃費改善する事も出来た。

三点バースト方式にしたのは弾は限りがあるのでフルオートによる弾の消費を避けるためにした。

対複合装甲用の超振動薙刀の夢現には高周波電流を流して切れ味を強化した。高周波電流を流すことによって金属結合が高まり、それにより切味が今より格段に上がる。

その他にもブースターやクラスターを別の物にしたりして速度上昇、機動強化された。

新武装は箱型ランチャー、試験型MLRSと手持ち型ランチャー、ミサイルスロアー。そして以前から秘密で作っていたスマックショットの三つだ。

試験型MLRSは箱型ランチャーから、誘導ミサイルを連射する。山嵐のマルチロックオンシステムを流用しているので同じくマルチロックオンが出来る。

なぜ試験型と言うと時間があまりないからだ。クラス対抗戦まであと数日なので今から時間をかけると間に合わなくなる可能性があるので出来る範囲で仕上げた。

名前の由来は同じく箱型ランチャー車両の「MLRS」から付けた。ちなみにMLRSはMultiple launch rocket systemの略である。

ミサイルスロアーは最大ロック数は1、一射でマガジン全弾を発射で、単体への集中攻撃となる。

この二つをそれぞれ二つずつ今作っている。この二つをそれぞれ二つずつ展開(オープン)し、山嵐と同時に使うと複数の敵に放つ事ができ、単体の敵には凄まじい量のミサイルを避けるか撃ち落とす事になる。と言っても撃ち落とさないといけないのだがね。実はミサイルスロアー以外には追尾ミサイルになっている。

打鉄二式にはMLRSを腕部に付けられるようにジョイントパーツを付け終え、山嵐にはすでに作業を終えて、試験型MLRSは二式だけにしている。なので完成した暁には打鉄二式はミサイル倉庫とも言える物になる。

ちなみにこの二つは京子先輩が作った設計図から作られた。先日、完成した設計図を俺に見せて、多少改善したので後は作るだけになっていた。

スマックショットはポンプアクション式の実弾ショットガン。威力・弾数・拡散率の総合バランスに優れ、中距離での牽制と近距離戦を両立しやすい物になっている。

本当は俺が作ったD90カスタムを渡そうと思ったがリロードに時間が掛かるため、やめた。中距離から長距離は山嵐と春雷で大丈夫だが、至近距離から中距離までの装備がなかった。

そこで以前から作っていたこのスマックショットを渡す事にした。春雷か山嵐で時間を稼ぎ、その間にスマックショットのリロードの隙がなくなる。これでどの距離にも対応出来るようになった。

 

「まさかこんなに早く出来るとは思わなかったな。これも士郎のおかげだ」

「ちょうどクラス対抗戦もありましたし、簪から要望もあったのでいい機会です」

「そうだな。でも本当に材料もそうだけど、全部出して大丈夫なのか。なんなら私も出した方がいいんだが」

「大丈夫ですよ。印税でかなり貯まっているので思っている以上にあるので心配はありません」

 

そう。38式狙撃銃シリーズでかなり貯まっている。この間通帳を記載した際見て見るとびっくりして思わず通帳を投げてしまった。鈴からは聞いていたが、まさかこれほどとは。折角なので使っておくのも悪くはない。全額俺が負担しても大丈夫というわけだ。

 

「お前がそう言うなら大丈夫か。よし、これで大丈夫だよな?」

「大丈夫です。部品の位置も配線も問題ありません。このまま順調にいくと終わります」

「そうか。さっさと終わらすぞ!」

「はい」

 

こうして作業は順調に進み、打鉄二式の改良、新装備の製作が終わった。MLRSの腕部装着も問題はなかった。

 

「ゴールデンウィークはみんなはどう過ごすのかしら?」

 

片づけが終わり、一服していると不意に楯無さんが質問してきた。

 

「私は親の工場を手伝いに行くぞ。たまに親孝行でもしないとな」

「んー私はー。家に帰るねー。家族がちょっと恋しくなっちゃってさー」

「私はお姉ちゃんの職場見学に行くわ」

 

京子先輩は親の工場で手伝い。フィーネ先輩は帰国して、祖国で過ごす。薫子先輩は姉の職場見学。色々だな。

 

「家に戻ってのんびりする。息抜きしないと持たない」

「私もかんちゃんと一緒に家に戻ってのんびりする―。お母さんのお菓子食べたいしー」

 

簪は息抜きで家に戻り、本音はそれに付き添う形か。本当に本音はメイドなのだろうか。一度もそんな事見た事ない。

 

「楯無さんはどうするんですか。ゴールデンウィークを」

「私は特にないわね。生徒会の仕事は大方済ませたし、気軽に過ごすわ」

「虚さんは楯無さんの付き添うんですか?」

「基本そうですね。なるべくいるようにします。従者ですから」

 

楯無さんは予定なしに家に戻るか寮で過ごすか分からないが気軽に過ごすらしい。虚さんはその付き添い。本音と違ってちゃんと仕事をしている。さすがだ。

 

「そう言う士郎君はどうするの?」

「俺ですか。弓塚家の実家に行きます」

「へえー。そうなんだ。………………え?」

 

どういう家なんだろうか。いや、形はともかく掃除はされているだろうが細部までしているのか。そもそも毎日とは無理だろうから何日おきか週に一度が限界なはず。すでに人は住んでいないから生活器具がないと思うが多少は残っているだろう。なかったら買いに行けば問題ない。

 

「え、えっと、士郎。今なんて言ったの?」

「ん?弓塚家の実家に行くと言いました。何か変ですか?」

「……え」

「はい?」

「「「「「「「ええええええええええええええええ?!」」」」」」」

 

なぜか大声を出す。しかも全員。家に帰るのがそんなに驚くのだろうか。

 

「それいいの!ていうかいつ決めたの!?」

「今日、藤村先生に呼ばれてのがその事でした。その時に決めました」

「あの時か。でもいいの」

「何がですか?」

「あなたの両親は駆け落ちしたって母さんが言っていたわよ。親子の縁を切ったんじゃ―――」

「それなら大丈夫です。昼に実家の事を久宇企業の社長に連絡した時に聞いたんですが、縁は切っていないそうです」

「そ、そうなんだ。でもなんで?」

「それが分からないんですよ。社長も分からないと言っていたので」

 

聞いた時は驚いた。普通なら親子の縁を切るはずなのに切っていなかった。真相は爺さんが墓場まで待って行ったので分からない。

 

「ね、ねえ士郎。その、家に行ってもいいかな?」

「いいぞ。一人で行くのも味気ないし誰かと行くのもいいだろう」

 

簪が家に行きたいと言ってきた。断る理由がないので連れて行くことにしよう。

 

「わ、私も行くー!」

「本音もか。いいぞ。他に行く人はいませんか?」

 

行く人を全員に聞いた方がいいだろう。予定変更が出来ないのが決まっているが一応聞こう。

 

「今更行けないなんてさすがに言うのは気が引けるから無理だ。てことで私は無理だ」

「私もー。チケット買っちゃったし、電話で言っているから無理ー」

「私もね。行きたいのは山々だけど、職場見学は念願だったから、今更お姉ちゃんに断りの電話できないわ」

「私は大丈夫ね。生徒会の仕事は済ませたし、何かしろ連絡がない限り大丈夫だわ」

「会長が行くのなら私も同伴します」

 

行けないのは京子先輩、フィーネ先輩、薫子先輩の三人で、行ける人が簪、本音、楯無さん、虚さんの四人になった。俺を含めて計五人。

 

「少し多くなったがいいか。そうだ。何か質問ありますか?」

「はい!」

 

真っ先に薫子先輩が手を挙げた。質問の内容は聞かずとも分かるが聞いておこう。

 

「代わりに写真撮ってきて。なるべく多くお願い」

 

だと思いました。写真か。カメラないのだがどうしよう。

 

「予備のカメラ渡しておくからお願いね。デジカメで大容量のメモリーカードだから百枚以上撮っても大丈夫よ!」

 

カメラの心配はないようだ。しかし、百枚以上撮れるとはすごい。百枚以上は撮らないと思うが。

 

「あとは?」

「はーい」

「本音なんだ」

「お菓子は五百円までですかー?」

「制限はないがあまり汚すなよ」

「はーい」

 

遠足かよ。

その後はそれぞれの寮に戻り、夕食を食べ終えた。

 

「ここでいいな」

 

目の前のはドアがある。場所は静寐の部屋である。ちょうど頃合いだと思い、ドアを叩いた。

 

「はーい。あ、弓塚君どうしたの?」

「休み時間に言っていただろ。真美ちゃんには電話かけたのか?」

「まだだよ。これからするところ」

「そうか。電話をしてくれ。そして途中俺に代わってくれないか?」

「そういうことね。部屋に入って。早速電話かけるね」

 

部屋に入り、携帯電話を取り出して真美ちゃんの携帯電話にかける。

しかし、静寐の部屋に初めて入ったな。簪と本音の部屋とはまた違う。女性向けの雑誌にぬいぐるみといった物がある。今時の女子はこんな風なのだろうか。

 

「……でね。子供の日に連れて行ってくれる人に変わるから失礼のないようにするんだよ」

 

考え事をしている内に電話で話しが進んでいたようだ。静寐から携帯電話を手渡され、出る。

 

『……もしもし?』

「どうしたんだ真美ちゃん。随分と声が沈んでいるが大丈夫か?」

『え?もしかして……!』

「ああそうだ。士郎だ。子供の日には俺が遊んであげよう」

『……や…』

「ん?」

『やったぁぁぁぁ!!』

「―――ッ!」

 

相変わらず大きい声だ。こうではなくては真美ちゃんではないからな。

 

「それでどうする。生憎、何もないがどこか行きたいとこはないか?」

『大丈夫だよ。お母さんから遊園地のチケットもらっているから』

「ほう。そうか。それでは大丈夫だな」

『うん!()()で行こうね!』

「そうだな。三人で……ん、三人?あと一人は誰だ?」

『持ちろんお姉ちゃんだよ。元々お父さん、お母さん、私の三人で行く予定だったんだけどお父さんもお母さんも急に行けなくなっちゃったからさ』

 

元々そういう予定だったからそれはそうだろう。てことは。

 

「そ、そうだな。静寐は知っているのか?」

『知らないよ。お兄ちゃんから言って』

「はい?」

『じゃそろそろ切るね。あまり電話し過ぎるとお母さんに怒られるから』

「ちょっ―――」

『それじゃお休みお兄ちゃん。子供の日、楽しみにしてるからね。バイバイ~』

 

舞い上がっていたせいかこちらの声が通じなかったようだ。すでに通話は切れて、虚しくもツー、ツーっと音が鳴るだけである。

 

「えっと、どうしたの?」

「どうやら静寐も一緒に行くことが決まったようだ。元々三人分のチケットだから一人分余ってしまうからもったいないと思ったのだろうな。真美ちゃん」

「それって決定事項?」

「そのようだ。あ、待ち合わせ時間を決めていなかった。どうする?」

「えーと。五月二日にメールで集合場所に時間をメールで送るから」

「分かった。それでは五月五日にまた会おう」

「そうだね。お休み」

「ああ。お休み」

 

部屋から出て自分の部屋に向かう。

さて、大方予定は決まった。五月一日、二日は弓塚の実家で過ごし、三日、四日は予定はないがこのまま弓塚の実家で過ごしか。あ、服を買わないと。今ある服では少々恰好がつかない。

そこの所は簪たちに聞けばいいか。で、五日は真奈美ちゃん、静寐と遊園地か。その遊園地少し調べるか。

 

こうしてゴールデンウィークの予定が決まった。

この時の俺はまだ知らない。弓塚の実家に驚くべき事が知ることになることを。

 

 

 

 

 




誤字脱字、感想などがありましたらお願いします。
次回は弓塚家の実家の話になります。
そしてタイガーを出したぜ。正直いつ出すか迷っていました。年は千冬よりも1つ上です。
他にもFateキャラを出します。いつ出すか私自身分かりませんが。
あと言い遅れましたがお気に入りが400件超えました。
これもみなさんのおかげです。
てことで次回もよろしくお願いします。


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第39話「実家と出会いと過去」

今回はちょいとデカいことがあります。
そんで書いている内に一万字が超えているので長いです。てか初めて一万字超えました。
文章は相変わらず駄作ですのでご了承ください。
では、どうぞ!


五月一日、土曜日。世間で言うと大型連休の始まり。天気予報は連休中はどの日も晴れで外に出かけるには持って来いだ。

IS学園で朝食を済まし、着替えなどを入れた大き目のバックを持って学園から街までの直通モノレール駅で簪達を待つ。本当なら学園の門で会う予定だったが、久しぶりの私服が恥ずかしいとかで直通モノレール駅で待つことになった。

 

「ふむ。時間までは三十分前だが暇だ」

 

時間より十五分前に来ようと思ったが、念の為もう十五分延ばして早目に来た。ホームには同じが一年や二、三年生の先輩達が街に行くようで何回か待っている間見かける。

近くにあった椅子に座り、簪達を待つ。

 

「ねえ。あれって弓塚君じゃない?」

「あ、本当だ。誰か待っているのかな?」

「声かけようかな~」

「じゃ私が」

「いやいや私が」

「それじゃ私!」

「「どうぞどうぞ」」

「ごめん。無理。私にそんな勇気ない」

 

良からぬ事が起きる前に早く来てほしい。十代の乙女の考える事はよく分からん。それ以前に女というものは男にとって一生分からないものだろう。

 

「ゆーみーん!」

「お。来たか」

 

俺の事をゆーみんと呼ぶのはただ一人。分かるが本音だ。声がした方を向くと私服姿の簪達が見えた。こうして見るのは入学前までだな。

 

「どうかな士郎君。お姉さんの格好は?」

「値札が付いたままですよ。よくその格好で来れましたね。さすが生徒会長です」

「え、うそ!?虚ちゃん!値札付いているの!?」

「ええ。気付いたまま着るとは。さすがお嬢様です」

「気付いてないわよ!あと、お嬢様って呼ばないで!」

 

虚さんが珍しくイタズラに便乗する。休日のせいか破目を外している。

 

「簪ちゃん値札取って。お願い」

「お姉ちゃん凄いね。私は無理だね。恥ずかしくて外に出られないよ」

「現在進行形が私よ!それよりお願い取って!」

 

簪もまたそっと距離を置く。普段からアドバンテージが上な姉がこうも慌てているとどうも弄りたいようだ。ほんっと普段と逆だ。

 

「簪ちゃんも取ってくれないなんて……。こうなったら本音ちゃんに……ってあれ本音ちゃんはどこ?」

「ゆーみん。この自販機に珍しいジュースあるよー」

「すでに距離を取っている!?」

 

いつの間にか本音は自販機に移動していた。多分すでに状況を読んでの行動だろう。本音は何かと鋭い。

 

「もー!誰でもいいから取ってー!」

 

弄るのはここまでにしておくか。簪、本音、虚さんは笑いを堪えるのも限界なようだ。

 

「楯無さん。値札なんてないですよ」

「誰か取っ…………え?」

「だから、値札なんてないですよほら」

 

投影した鏡を手渡し確認する。すると、楯無さんがプルプルと小刻みに震える。

 

「騙したわね?」

「ええ、騙しました。でも、こんな簡単に引っかかるとは思いませんでしたけど」

「「「あはははははははははは!」」」

 

我慢が来たようで三人は一斉に笑い出した。楯無さんは一人顔を赤くして恥ずかしいようで頭を抱える。

 

「慌てる会長も中々でした。くくく……」

「お姉ちゃんの慌てっぷり初めて見た。っぷ……」

「会長面白かったよー。あははは!」

「まさか、みんなして騙していたなんて……不覚だわ……」

 

そうこうしている内に時間のモノレールが来た。出て来る人はほとんどいない。まあ、IS学園に来る人なんてかなり限られているから分かりきっている。

 

「モノレールが来たから乗りますよ。ほら楯無さん。いつまでもいじけていたらまた笑われますよ?」

「うぅ……。この恨み、いつか晴らす……」

 

なにはともあれ、モノレールに乗り街に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モノレールから降りて街に着く。街から実家まで少々掛かったが無事に着いた。着いたのだが……

 

『…………………………………』

 

誰も喋らない。喋れないと言うより言葉にならないと言った方がいい。

目の前にあるのは門。そう、道場とかにある木で出来た門があるのだ。それも大層立派に。

 

「場所合っているよね?」

「ああ。藤村先生に簡単な地図を書いてもらった通りに来た。場所も予めネットで確認しているから間違いはない」

 

念の為に調べているから間違いはまずない。ここで合っている事は確かだ。

 

「とにかく入りましょう」

 

意を決して中に入る。ちなみに入ったのは小門、つまり小さい門である。大門のわきなどにある。

 

「これは……」

「わあ……」

 

広い。とにかく広い庭がある。しかも家は武家屋敷ときた。パッと見ただけでもそれなりに古い。っと言っても所々リフォームされているようだ。

裏の方に回ると土蔵と道場、弓道場の三つががあった。土蔵と道場二つの間には中庭がある。表ほどではないがそれなりに広い。

 

「これは私達の家より広いんじゃないの?」

「そうですね。確実に広いです」

「道場二つあるんだ……」

「あ、蔵があるよー」

 

確実に楯無さんの家より広い。面積が目で分かるくらいだ。向こうにも道場はあったが、こっちは二つ。そのせいで自然と面積が広くなる。

 

「立ったままのあれですから、中に入りましょう」

 

再び表に戻って、玄関を鍵で開けて中に入る。当然人っ子一人いない。いるのは俺、簪、本音、楯無さん、虚さんの五人。とりあえず今に行く。

 

「思ったほど埃が少ない。窓や廊下も隅々までキレイにしているな」

「そうね。普通は埃があってもおかしくないのに、よほどあなたのお爺さんは慕われていたのね」

「父さんと母さんの友人も来ているそうなのでそれもあるでしょう」

 

これほど広いと掃除するのも一苦労すると思う。外は晴れているので窓を全て開けて換気することにした。

 

「まずは掃除をします。掃除する順序は上からで」

「なんで上からー?」

「埃を掃くと下に落ちるだろ。だから上からだ」

「分かったー」

 

掃除するのは居間に玄関、廊下、トイレ空室、父さんが使っていた部屋の計六ヶ所。実際掃除すると思ったほど汚れてはいなかった。時間が掛かると思ったが予定より早く終わりそうだ。

父さんの部屋はあまり物はなかった。あったのは布団一式だけだ。二十年以上前に出て行ったきり帰ってこなかったようでほとんど整理されていた。

 

「簪、そっちは終わったか?」

「もうすぐ終わる。士郎は終わったの?」

「ああ。廊下を掃除終えた所だ。あとで布団を探して外に干しておこうと思うんだが、どこにあるか分からん」

「ちょっと待ってて。今終わらせるから」

 

そう言うと簪は瞬く間に掃除を終えた。普段掃除しているのだろうか随分手馴れていた。あ、そういえば織斑先生の部屋大丈夫か。また散らかっていないといいが。

まあ一夏がやっているだろう。

 

 

その頃、IS学園では。

 

「あー!千冬姉!なんでこんなに散らかっているんだよ!ゴミもこんなに溜めて!」

「やろうと思っているんだが時間がなくてな。ほら、教師は何かと忙しいだろ?」

「それは千冬姉だけじゃないんだぞ。とにかく、このゴミ捨てて来て」

「いや、これから書類を……」

「いいから捨 て て 来 る !」

 

あまりの汚さに一夏が奮闘して立場が逆転している事を俺は連休明けに聞く事になる。

 

 

「これで五人分だな」

「そうだね」

 

五人分の布団を外に干した。夕暮れ前に回収して寝る時には気持ちよく寝れるはず。

 

「あ」

「どうしたの?」

「昼食の事忘れていた」

「えー……」

 

いかん。こっちに来ることだけを考えていて、ご飯の事を忘れていた。料理する者としてなんという失態だ!

 

「どうするの。今から買い物に行く?」

「それは夕方にしよう。昼は外食にするしかあるまい」

 

昼は外食に決まり、身支度を済ませて再び外に出た。

 

「所で士郎さん。どこで外食をなさるのでしょうか?」

 

唐突に虚さんに質問された。当然だろう。

 

「俺が知る限り美味しい店ですよ。味は保証します」

「そうですか。では楽しみにしますよ」

「はい」

 

途中コンビニに立ち寄り現金引き下ろす。念の為十万ほど下ろしてきたので休日中は大丈夫なはずだ。

 

「ここです」

 

来たのは食堂。名前は五反田食堂と書かれている。

 

 

 

 

 

中は昼という事もあり席が大体埋まっているように見える。

 

「いらっしゃいませー!ってお。なんだ士郎じゃねーか。久しぶりだな」

「ああ。一月振りだ。今日はここで昼食を食べに来たんだ。俺含めて五人なんだが席空いているか?」

「空いているよ。あそこの奥だ」

「分かった。注文が終わったら呼ぶから来いよ」

「分かってるよ。じゃ、手伝いの続きしないといけないからあとでな」

 

厨房では厳さんが鍋を振っているのが見える。あの年でよく中華鍋を振る事が出来るとはすごい。

 

「どれにしようかな」

「これはどうです?」

「食べきれないからこれは二人で食べよう」

「そだねー」

 

メニューを見てどれにするか迷っている。俺も選ばないといけないな。

 

「…………よし、決めた。みんなは?」

「大丈夫よ」

「決めました」

「うん」

「おーけー」

「呼ぶか。おーい弾。注文決めたから頼む」

「おお!今行く!」

 

すぐに弾が来た。蘭も手伝いをしているようでエプロンを着ているのを見かける。似合っている。

 

「注文はなん…………」

「ん?どうかしましたか?」

「あ…い、いえ、なんでもありません!」

 

虚さんを見て弾がぼんやりする。虚さんが訪ねるとなんでもないと答え、注文を聞いてくる。注文を聞き終わるとすぐ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ士郎」

「なんだ?」

 

料理を食べ終えたのち会計を済ませて店から出ようとすると弾に引き留められた。

 

「眼鏡を掛けて三つ編みの人ってさ、なんて言うんだ?」

「布仏 虚さん。三年で主席だ。それがどうした?」

「あ、いやなんでもない。じゃあな、また来いよな」

 

店に戻っていった。なんなんだあいつ。

 

「士郎さん」

「なんですか」

 

今度は虚さんだ。弾の事を不審に思ったのだろうか。もしそうなら誤解を解かねば。

 

「あの赤髪の男の人はなんと言うのですか?」

「五反田 弾。俺と一夏の友達です。それがなにか?」

「いえ、なんでもありません。屋敷に戻りましょう」

 

一人足早に行く。なんなんだ。…………もしかして。

 

「楯無さんもしかするとあれって……」

「そうね。あれは恋よ」

「ですよね。もしかすると弾もそうかもしれません」

 

互いに気づいていないような素振りを見せているが第三者から見ればバレバレだ。

 

「お姉ちゃんに春が来たんだねー。いやー良かった良かったー」

「兄弟がいない俺はよく分からないんだが。本音としてはどういう気持ちだ?」

「んーと。なんとなく分かるなーって」

「どういう意味だ?」

「教えなーい」

 

そう言うと本音は虚さんを追いかけて腕にしがみ付く。よく分からん。

 

「ねえお姉ちゃん」

「なに?」

「もしかして本音も士郎の事が……」

「まさか……いえ、ありえるわね。最近士郎君の事、見る目が違ったように見えるし」

「やっぱり。でも私負けない」

「その意気よ」

 

で、簪と楯無さんは俺に聞こえないように何やらボソボソと言っている。はあ。これ以上気にしないようにしよう。疲れるだけだ。

 

 

 

 

 

 

そうして家に戻り午後は特に何もする事がないので俺は作業着を着て土蔵で藤ねえから預かったビデオテープの再生機を直している。

 

「配線に問題はない。回路も焼け切れていない。てことは何が問題だ」

 

少しずつ分解して中の様子を見ているのだがどこも異常が見当たらない。調子が悪いと聞いていたがどこも悪くないのだ。もう少し奥を見て見るか。

 

「どう。直りそう?」

「ん?簪か。見ているんだがどこが原因なのか分からないんだ」

 

出入り口に簪が立っていた。何か用だろうか。

 

「何か見つけたのか?」

「それはお姉ちゃんと本音がやっているよ。私と虚さんはテレビを見ていただけで士郎が何しているか気になったから来ただけ」

 

探索という名の漁りではない事を願おう。仕方がないか。それくらいしかやる事ないし、宿題もないから余計暇だろう。

 

「水持ってこようか?」

「頼む。集中していたせいか喉が渇いてきたところだ」

「分かった。すぐ持ってくるからね」

 

土蔵から出て行き家に戻る。また一人になった。

 

「この中を見ながら休憩するか。何かあるかもしれん」

 

土蔵の中はあまり整理されてはいなかった。もっぱら物置代わりのように扱われていたのか様々な物が置かれている。

 

「これはブラウン管テレビか。今では薄型テレビが主流になっているから見たことがないな。明日にでも分解してみよう」

 

他にも鉛筆削り、などがあった。

 

「ん?」

 

車のタイヤを退()かしてみると床にな何か書かれている。文字は日本語のようだが埃や汚れでうまく見えない。

 

「気になる。手で掃けば大体見えるはずだ」

 

手で掃くと簡単に見えるようになった。手は黒く汚れてしまったが文字ははっきり見える。

 

「えーとなになに」

 

床に書かれていた文字はこう書かれていた。

 

 

             ☆はじめて記念☆

              ゴロウ&みき

 

 

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?

 

「ちょっと、待てよ。父さんの名前が悟郎で母さんの名前が美樹だ。このはじめてというのはあれということだろう。で、書いたのはおそらく……」

 

母さんだな。文字が女性が書くような感じになっている。

はぁー……。余計なもん見つけてしまった。これは誰にも見せないようにしないと―――

 

「士郎。水持って来たよ」

「お、おう!!」

 

突然の声に思わず裏返って返事をした。咄嗟にタイヤを元の位置に戻し、何事もなかったように装った。

 

「どうしたの。変な声出して?」

「そ、そうか。それより水ありがとうな」

 

簪から水が入ったコップを貰い、喉を潤す。あの文字のせいか渇きが消えない。今は忘れよう。その方が身のためだ。

 

「どこが悪いんだろうね」

粗方(あらかた)見たんだがどこにも異常が見当たらないんだ。一体何が原因なんだ」

 

どこか見落としがあるのか。それ以外ないのだが隈なく見たからそれはないと思うが。

 

「あれ?ここ緩んでいない?」

「どこだ?」

「ここ。隅にあるネジ緩んでいると思うんだけど」

「どれどれ。………………本当だ。俺とした事がこんな初歩的な事を見落とすとは。助かった。簪が見つけてくれなかったら夜まで掛かっていたかもしれない」

「そんな事ないよ。たまたま見つけただけだから大した事していないよ」

「いや、それでも見つけたのは簪だ。本当に助かった」

 

部品のネジが緩んでいただけとは思いもしなかった。すぐにドライバーで少しきつめに閉めて組み立て直した。

 

「動くかどうか確認しないとな。早速するか」

「あ、士郎待って」

「どうした?」

「汚れているから着替えてきた方がいいよ」

 

体を見ると作業着が所々汚れていた。さっき周りの物を触って回っていた時についたのだろう。これでは居間には行けない。

 

「すまないがこのビデオデッキを今まで運んで来てくれ。俺はその間に着替えて来る」

「いいよ。居間で待っているね」

 

ビデオデッキを紙袋に入れ簪に渡す。部屋に戻って普段着に着替えて居間に戻る。

居間には虚さんがいる事を知っていたが楯無さんと本音もいた。どうやら探索は終わったようだ。

 

「直ったのー?」

「それを今確認する所だ。少しの間テレビを借りるぞ」

「どぞどぞー」

 

テレビにビデオデッキの接続ケーブルを繋げる。ビデオデッキの電源をコンセントに差し込み起動させる。あとはテレビをビデオデッキでで見れるように調整する。

最後に確認用に藤ねえから渡された洋画が録画されているビデオテープを入れるだけっと。

 

「お。ちゃんと映っている。直っているようで良かった」

 

画面には主人公の男が機関銃を派手に撃っているのが映っている。ちなみにこれはランボーだ。

 

「そうだ。士郎君、これも見たら」

 

楯無さんからビデオテープを渡される。タイトルが書かれていない。

 

「これをどこで?」

「棚の中にあったわよ。見れないと思ったけど一応持って来たのよ。それも直っているようだし見て見ましょ」

「そうですね。もしかすると学生時代の父さんと母さんが映っているかもするので」

 

一旦ビデオテープを出して、家にあったビデオテープを入れる。

 

「それじゃ再生します」

 

再生ボタンを押して画面に映る。

 

「「「「「!!」」」」」

 

映っている。映っているがあるのは赤い目であった。これは呪いのビデオなのか。

 

『おい楯無。もう映っているぞ。離れろ』

「「「「え?」」」」

「違うわよ。私じゃない」

 

つい全員が楯無さんを見てしまう。違うという事はこの赤い目は。

 

『これでいいわね。こんにちは。私は更識 楯無。君達の生徒会長よ。覚えてね』

 

赤い目をした人が離れると画面に映る。そこには楯無さんによく似た人だった。扇子を持っている。

 

「これ、もしかしてお母さん?」

「そうかもね。母さんは士郎君のお父さんとは幼なじみで学校が同じだったと聞いているからそうよ」

 

学生時代は同じ学校に通っていた言っていたらそのはず。しかし、本当に楯無さんに似ている。親子だからそれは当然か。

 

『ほら、彩乃。あなたも自己紹介したら』

『待ってください。今これを削っているんですからあとにしてください』

 

カメラが横に動くとそこには机の上でプラモデルを作っている虚さんに似た人が映る。

 

「わー。これお母さんだー」

「そうね。この時からもうやっていたのね」

 

実は彩乃さんの趣味は模型作り。つまり、ガンダムとかのプラモデルを作るのが趣味なのだ。ちなみに虚さんもそうである。

 

『しょうがないわね。カメラ持つからあなたが先に紹介したら』

『分かった。では頼む。これは借り物だから壊すなよ』

『当然よ』

 

カメラが反転するとそこに映っているのは俺によく似た男がいた。

 

『俺は弓塚 悟郎。生徒会副会長で弓道部の部長だ。何か困ったことがあれば相談に乗ろう』

「父さん……」

 

俺の父、若き弓塚 悟郎が映っていた。初めて更識の家に行った時に沙織さんが間違えるのも無理はないか。

 

「本当に似ているわね。あなたのお父さん」

「楯無さんも沙織さんによく似ていますよ」

『次はこの人よ。かわいいからよく見てね』

 

またカメラが動くとそこには黒い髪が背中まで伸びて誰が見ても美人だと思える女性がいた。

 

『…………ん?ちょ、ちょっと。何撮っているの!?』

『生徒会の記録って事で撮っているわよ。何か問題ある?』

『そんな事昨日言っていなかったわよ!』

『言っていないだけよ~』

 

そこには写真でしか見た事がない弓塚 美樹、俺の母さんが映っていた。画面の向こうでは沙織さんとじゃれあっているのか画面がぶれる。

 

『まあまあ。自己紹介だけでいいからお願い』

『はあ。分かったわ。祖川(そがわ) 美樹です。生徒会書記をしています』

 

姿勢と整えて自己紹介をする母さん。とても礼儀正しいと感じた。

 

「士郎のお母さん、美人だね」

「大和撫子って感じがするよねー」

「ありがとうと言うべきなのか。返答に困るな」

 

すると突然生徒会室の扉が開き、一人の男子生徒が入ってくる。

 

『悪い悪い。遅くなった。お!なんだ。撮っているのか?』

『そうよ。自己紹介したらどう?』

『おうよ。俺は前田 孝司だ。生徒会雑務をしている。喧嘩なら負ける自信はねえぜ!』

 

なんと孝司さんだった。今とは違い、昔は随分と活発だな。制服の上着をいくつか外している。

 

『そうだ。このまま学園の中を映しましょ。うん、それがいいわね』

『ちょっと。まだ仕事終わっていないわ。彩乃も何か言ってよ』

『ここは慎重に削らないと反対側とバランスが崩れる。こっちは家に帰らないと出来ないから後回しにして……』

『まったく。こうなったらどうにも出来ないのに。早く戻って来てよ』

『分かっているわ。あ、悟郎も連れて行くから孝司君、美樹の手伝いお願いね』

『おうよ!』

 

今の楯無さんと同じだ。自由奔放で周囲の人間を自分のペースに引き込んでいく。親子して同じ事をやっているとはなんともな。

 

「お姉ちゃんと同じ事している」

「これはもはや遺伝だな。こうも似ていると親子というより同じ人というべきか」

「私ってこんな風なの?」

「「「「当然」」」」

「うっそーん……」

 

そうこうしている内に次々と部活の紹介をしていく。野球、サッカー、バドミントン、ソフトボール、テニス、卓球などといったよくある部活を突撃紹介をしていくのであった。

そんでいつの間にか父さんがカメラを持っているようだ。

 

『あら?何をしておりますの?』

 

突然に声をかけられ振り向くと金髪の女子生徒と男子生徒がいた。

 

『エミリアじゃない。それにギーレも一緒に』

『急な用事が出来たので帰る所ですわ。それよりもなぜ撮っておりますの?』

『ただ撮っているだけよ。気にしないで。そうだ、自己紹介お願い。ギーレも』

『いいですわ。私はエミリア・オルコット。イギリスから留学して来ましたのよ。貴族ですから分からない事がありましたら聞いてくださいまし』

『えっと、自分はギーレ・ウィウェールです。エミリアお嬢様の執事です。見習いですが』

 

これは驚いた。オルコットという事はこの女性はセシリアの母親なのか。だとしたら凄い偶然だな。

 

『二人とも相変わらず日本語上手ね。学園に来たときからそうだけど苦労したでしょ』

『なんの問題もありませんわ。これしきの事は覚えて当然ですわ。ねえギーレ』

『え、ええ。お嬢様はスポンジで水を吸うように覚えが早かったです。僕は苦労してました』

『そうなの。あ、彼はどうしたの。あなたが帰るのなら彼も一緒のはずでしょ』

『ああ彼ね。彼はあの人と何か手伝っていたわ。ギーレ一人で大丈夫ですので彼は後で帰りますわ。それでは』

『僕もこれで。……ここだけの話なんですがお嬢様はかなり苦労していたんですよ』

『え、なんで?』

『さっきの話は逆で僕がスポンジで水を吸うように覚えが早かったでお嬢様が苦労されたんです。なにせ外国語が苦手なので』

『そうなの』

『ええ。ではこれで。では楯無に悟郎、また明日会いましょう』

 

二人は校門に向かって行き、学園の外に出る。

 

『お次はここ、剣道部に行きまーす』

『おいおい。あの人がいるかもしれないんだぞ。三年は部活は終わっているがよく来るんだぞ』

『気にしない気にしない。私は気にしていないわ』

 

道場が映る。それなりに立派である。

 

『こんにちはー。みんな頑張っているかなー?』

『おい、生徒会長だぜ』

『いつ見ても美人だよな!』

『女の私から見て羨ましいプロポーションだわ』

『どうしたらあの体型になれるのかしら?』

 

熱心に打ち込んでいる男子女子が集まってくる。楯無さんと同じく支持が強いようだ。

 

『なんだこの騒ぎわ。誰か来たのか』

 

一人の男子生徒の声が聞こえる。沙織さんの方に近づき、溜息をした。

 

『お前か更識。天才なのか厄介なのか。全く相変わらずだな』

『これはどうも篠ノ之先輩。三年生の部活は終わっているの熱心ですね』

『剣道は私にとって私そのものと言ってもいい。別に三年が来ても問題ないだろ。少しだけだが指導もしている』

『そうなんですか。あ、せっかくなので自己紹介お願いできます?』

『自己紹介だけだぞ。私は篠ノ之 柳韻(りゅういん)。元剣道部の部長だ。篠ノ之道場の次期当主でもある』

 

篠ノ之?てことはこの人は箒のお父さんなのか。顔立ちが箒に似ている。

 

「あなたの同じ組の篠ノ之さんに似ているわね」

「多分そうですね。顔が所々似ていますから」

 

なんだってこんなに身近な人の親がいるんだ。一体どうなっている。

 

『随分賑わっているわね。誰か来たの?』

 

カメラが後ろに回るとそこにはあの教師によく似た女性がいた。

 

『あら、秋美じゃない。ちょうどいいわ、あなたも自己紹介しなさい。これは生徒会長の命令よ』

『そんな権限ないでしょう。いいわ。私は―――()() 秋美(あきみ)。剣道部の部長よ。今、全国大会に向けて頑張っているわ。応援よろしくね』

 

驚愕。これ以外に表すには他ない。ただただ驚いた。

 

「なっ!?」

「お、織斑先生!?」

「そんなはずはないわ簪ちゃん。だってこれはざっと二十年前以上の映像よ。それはまずありえない」

「どういう事なのー。訳分からないよ~」

「一体このビデオは何なのか分かりませんが、とにかく昔の事を映していたものである事には間違いありません」

 

虚さんの言う通り。これはただのビデオテープ。写した映像を保存しただけだ。それに。

 

「織斑先生が言うには両親から捨てられたと聞いています。もしかするとこの人は一夏と織斑先生の母親にかも」

「そう考えるのが自然よね。でもなんなのこのビデオテープは。まったく、頭の整理が追い付かないわ……」

 

そうしている内もテープは次々と職員室、屋上と映していく。

 

『あ、まずい』

『どうしたの?』

『バッテリーがなくなりそうだ』

『ええー。まだ紹介したりないのにー』

『仕方ないだろ。そこまで長持ちはしない。あと精々十分くらいだ』

『そんなにないわね。あ!あそこの二人にしましょ!』

『あいつらか。そうだな。締めにはぴったりだ』

 

残りのバッテリーがなくなりそうでちょうど通りかかった男子二人後姿が見える。片や黒髪で片や金髪で。

 

『おーいお二人さーん。何やっているのー』

 

振り向くと二人はプリントを両手で運んでいるようであった。

顔を見るとこれまた驚くであった。

 

『あーなんだ、楯無と悟郎か。お前達こそ何をしている?』

『はっ。デートじゃねえのか』

 

二人の顔は同じだった。しかもそれは一夏に似て。

 

「おいおい。これはどういう事だ」

「もうダメ。頭が追い付かない……」

「え、なんなのこれ。訳が分からないよ」

「プシュ~………」

「ああ、頭が痛い……」

 

辛うじて俺は何とか理解をしようとしているが俺以外はほとんどアウトになっている。

 

『ただ撮っているだけよ。それとデートではありません。残念でした』

『こいつはただの幼なじみだ。腐れ縁とも言うがな』

『なんだつまんねえな。エミリアとギーレはもう帰ったか?』

『帰ったわよ。それがどうしたの?』

『家に戻るのに時間が掛かるんだよ。車はお嬢しか呼べねえから歩き確定だ。はぁ……』

『それはご愁傷様。頑張って帰ってね』

『そうだ。何か喋った方がいいか?』

『ええ。自己紹介だけでいいわ。バッテリーも切れそうだし』

『俺からでいいか?』

『別にいいぜ。後でも先でもな』

『じゃ俺からだ。俺は衛宮 春人。時々生徒会の手伝いをしている』

『次は俺、エリ・クロードだ。エミリアお嬢の護衛をしている。ま、もっぱら大した事してねえが』

『ありがとう。最後に私が一言を―――』

『すまないがもう切れるぞ』

『え?』

 

ブツンっとここで終わり、画面は暗くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人の女性が暗くなった空を見上げ、星を見つめている。

 

「白騎士事件が起きて十年。そして、娘が罪を犯して十年か」

 

星々は光り輝き、無限と思われるような数が夜空を輝かせる。

 

「あの人はもういない。けど、あの人の意思は()が受け継いだ。彼の息子に」

 

一人淡々と語る。まるで懺悔のように。

 

「この写真を見ると学生時代の思い出をよく思い出す。色々あったが、それでも楽しかった」

 

写真には多くの学生服を着た男女がいる。そこには士郎の両親や美沙夜の両親の学生時代が写っている。他にもセシリアの両親()()()

 

「さて、少しだけ星を見てから戻りましょう」

「お母さん。外で何しているの?」

 

後ろから声をかけられる。

 

「ちょっとね。昔の事を思い出してね」

「そうなんだ。外で何しているか気になったから来て見たけどなんでもなかったんだね」

「なんなの。私をなんだと思っているの?」

「私のお母さん」

 

声をかけたのは一人の少女。大体高校生くらいである。

 

「…………いつになったら思い出すのかな」

「さあ。それは分からないわ。でも、必ず思い出す。そして必ず帰って来る。これは確実よ」

「お母さんがそう言うならそうだよね。私、信じる。だって彼女で恋人だもん」

「流石私の娘ね」

 

何気ない会話が続き、ふと、少女は思い出す。

 

「あ。お母さん」

「なに」

「雷電とサムがまた試合したいってさっき言っていたよ」

「またか。懲りないわね」

「だってお母さんは強いからね。サイボーグよりも」

「あの二人も強いわよ。でも経験の差だけ。その内、私に勝てるようになる」

「そうかな。それじゃ先に寝るね」

「ええお休みなさい。―――円夏(まどか)

 

 

 

 

 




感想や誤字脱字がありましたらお願いします。
さてさて今回はこういうもんでした。
色々とデカいことをやってしまったな私。
まだゴールデンウィークの話をあと二話くらいしたらクラス対抗戦にします。
ではまた次回もよろしくお願いします。

それと関係ありませんがハーメルンに来て私は一年が経ちました。時が過ぎるのは早いね。


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第40話「思い出色あせず、過去分からず」

どうも梅雨が終わって蒸し暑い日が続いていますね。こまめに水分補給して熱中症にならないように皆さんも気をつけてください。
今回は繋ぎだけの話なのであまり期待しないでください。
ではどうぞ!


早朝。いつものように素振りはせず、走っている。動きやすいように市販で買ったジャージを着ている。IS学園の運動着でもいいが、あれは少々街中では恥ずかしい。なにせ、絶滅危惧種のブルマだ。なぜそれなのかは不明。理由も聞きたくはない。

それはともかく、外はとても気持ちがいい。人の姿はそんなに見えないが少し肌寒い空気や見慣れない街の様子は俺にとっても新鮮で気持ちがいい。

 

「は……は……は……」

 

あのビデオを見た後は全員で買い物をした。ちなみにカレーで、料理したのは俺以外だ。俺は料理をしていないのではなく、料理をさせてもらえなかった。

楯無さん曰く、料理だけだと俺が一番上と言っていた。そこで見返すために俺は料理が出来なかった。寂しくは……ないとは言い切れないが。

味はバランスが良く、なめらかで美味しかった。特にジャガイモが煮崩れしてのは素晴らしい。使っているのは煮崩れしにくいメークインだろう。

 

「はあ……はあ……はあ……」

 

考えている内に実家まで戻ってきていた。軽くストレッチをして家に入る。

 

「あ、士郎君戻ってきましたか」

 

茶の間には虚さんがいた。テレビは朝のニュースをやっている。

 

「おはようございます、虚さん。みんなはもう起きましたか?」

「私と楯無様だけです。簪さんと本音はまだ寝ていますよ」

 

時刻は六時。俺にとってはもうすでに起きている時間である。毎朝五時に起き、マラソンに筋トレをするのが日常になっている。

 

「シャワーを浴びたらすぐに朝食を作ります。少し待っててください」

「いえ、それは私とお嬢様で作ります。士郎君はゆっくり浴びて大丈夫ですよ」

「なら、お言葉に甘えます。朝食お願いします」

「はい」

 

部屋に戻り、タオルと換えの服と下着を取り、風呂に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……朝……」

 

目を開けると見慣れない天井が見える。えっと……

 

「あ、ここ士郎の実家だった」

 

隣には本音が寝ている。部屋割りは私と本音、お姉ちゃんと虚さん、士郎と分けられている。士郎以外は空き部屋になって、士郎は士郎のお父さんが使っていた部屋になっている。

 

「まだ六時前。少し早く起きちゃった」

 

いつもは六時半頃に起きるけど今日はいつもより早く起きた。寝不足ではないが、むしろいつも以上に寝付けた。

 

「ん……」

 

少し汗をかいていた。このままでも乾きそうだけどお風呂に入ろう。

タオルを持って洗面場で服を脱ぐ。

 

「……………………………」

 

鏡に映っているのはなにも着ていない私。そこで私はいつも思う。お姉ちゃんは胸が大きい。虚さんも大きい。そして本音も……大きい……!

小学生までは私と変わらなかったのに中学に入ってしばらくすると変わった。最初は少しだけだったが徐々に大きくなって今ではかなりの差が出来てしまった。

そう。私だけが胸が小さい。周りが大きくて、私だけが小さい。今最大のコンプレックス……。

 

「はあ……士郎も胸が大きい女性が好きなのかな」

 

最近本音が士郎を見る目が変わった。あれは私と同じ、恋する乙女。だから早目に士郎にこ、告白しようと思うけど恥ずかしくてできない。

 

「どうしよう……」

 

悩んでもしょうがない。お風呂でさっぱりしてご飯を食べよう。

 

 

ガラ

 

 

「?」

 

洗面場の戸が開いた。てっきりお姉ちゃんが驚かせに来たと思ったが全く違った。

 

「士郎?」

「え、簪?」

 

着替えとタオルを持った士郎だった。

………………今私は何も着ていない。………!!!!!!

 

「あ…………きゃああああああああああああああああああああ!」

「すま―――ごふぉ?!」

 

二式の腕を部分展開して士郎を殴った。すぐにお風呂に入って頭までスッポリ入る。

 

「何があったのって士郎君どうしたの!?」

「簪が悪いのでもなく俺が悪いのでもない……ただタイミングが悪かっただけ……それだけは確かだ……」

「何言っているか分からないわ!それに簪ちゃんがどうかしたの!?」

 

頭まで湯につかっていたのでまったく外から聞こえる声は分からなかった。今は一人にさせて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、士郎大丈夫?」

「ああ。顔以外は」

「ごめんね。殴っちゃって」

「いや、ノックぐらいすべきだった。どちらかというと俺の方が悪い」

 

朝食を食べ終え、簪が謝ってきた。あの後、本音に介抱された。楯無さんは……トドメといわんばかりに素手で殴られそうになったところに虚さんに助けられた。

楯無さんはおかず抜きでご飯と味噌汁だけでおかわり禁止となった。決めたのはもちろん虚さん。

 

「それよりこのビデオテープの事を沙織さん達に話そうと思う」

「いいの?」

「ああ。織斑先生にはこのビデオテープの事は黙っておこうと決めた。もちろん一夏にもだ」

「そうなんだ」

「セシリアは……少ししたら見せようと考えている」

 

せっかく両親が映っている映像だ。クラス対抗戦が終わった辺りに見せるか。

 

「十時過ぎにここを出よう。沙織さん達にこのビデオテープの事を見せて、聞かせてもらう」

「分かった。お姉ちゃん達には私が言っておくね」

「ああ」

「それで士郎」

「なんだ。行く前にどこか寄っていくところでもあるのか?」

「えっと、あのね……」

「?」

「見ちゃったよね……」

「何を……あ」

 

言いたい事が分かった。風呂での事だろう。ここは素直に言った方がいい。はぐらかすとどこに転ぶか分からない。

 

「言いにくいんだが……見た」

「/////////」

 

一気に顔が赤くなる。それもそうだよな。男は大抵見られてもどうとでもなるが女はどうにもならないからなおさらだ。

 

「変な所なかった?」

「なかったぞ。むしろきれいだった」

 

あまり思い出さないように率直に言う。肌はきれいで髪はさらさら。目はルビーのように赤い。楯無さんに負けないくらいきれいであると俺は思う。

 

「そうなんだ。えへへ///」

「どうしたんだ?」

「な、なんでもないよ!じゃ、じゃあお姉ちゃん達に言ってくるね」

 

部屋から出て行く。まあ嬉しそうだったからいいか。

予定通りに十時過ぎに家を出て、更識の屋敷に向かった。途中お茶請け程度のお菓子などを買って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更識の屋敷に着いて久しぶりに沙織さん達にあった。一か月ほどであるが。

 

「実は見せたい物があります」

「あら、なにかしら」

「このビデオテープです。中身は見てからのお楽しみという事で」

 

茶の間にあるテレビを借りてビデオデッキと繋げる。茶の間には部下はいない。必要がない限りは部下は呼ばないそうだ。

 

「それじゃ再生します」

 

再生ボタンを押してあの映像が流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビデオを見終わり、沙織さん達に早速聞こうと思ったのだが…………

 

「はあああ………家から出たくない……一生外に出たくない……」

 

沙織さんが思った以上に恥ずかしかったようで聞くにも聞けない。孝司さんと彩乃さんはというと。

 

「青臭い青春していたな俺」

「今じゃいい思い出ね」

 

平然としている。今とほとんど変わらないからなんともないようだ。

 

「あれ?和也さんはどこで彩乃さんと出会ったんですか?」

 

ふと思った。なぜ和也さんはビデオテープに映っていなかったのかと。

 

「私と和也さんが出会ったのは高校を卒業して数年してからよ。だから写っていないの」

「……話では聞いていたがこうして高校時代の彩乃を見るのは新鮮味を感じる。とても良かったぞ」

「もう!和也さんたら!」

 

仲がいいのはいいが目の前でイチャイチャしないでほしい。虚さんと本音は慣れているかの平然としている。

それはいいとして。

 

「孝司さん。沙織さんをどうにかしてください。聞きたいことがありますから」

「別に俺でもいいだろ」

「それもそうですが念の為沙織さんに聞いた方がいいと思ったので」

「そうか。お前が聞きたい事は概ね分かった。なら、沙織の方が知っているはずだ」

 

すぐになんとか沙織さんを復活させた孝司さん。さすが夫婦。だが、イチャイチャしないでくれ。楯無さんと簪の顔が真っ赤になって恥ずかしくなっているし。

 

「で、何が聞きたいの?」

「父さんと母さんの事もありますが一番気になったのは一夏によく似た男二人と織斑先生に似た女の人です」

「そう……」

 

どこか寂しそうな顔になる。なぜ寂しそうな顔になっているのか気になったが敢えて聞かない事にした。

 

「分かっているけど黒髪が衛宮 春人で金髪がエリ・クロード。この二人は顔がよく似ているけど双子じゃないわ。春人君はずっと日本に。エリ君はずっとイギリスに。稀に見る世界に自分によく似た人って事よ」

 

そうなのか。世界には自分と同じ顔を持つ人が三人いると聞いているがこの二人そうなのか。だが、それは本当の事なのか。

 

「次に女の人、織斑 秋美。秋美は小学生の時から剣道していたそうよ。出会ったのは高校の時。その時はもう剣道の世界では知らない者はいないと言われていたわ。あと、剣術も出来ていたわ」

 

剣道の世界では知らない者はいないか。父さんと同じように有名だったのか。それは後で調べれば分かるか。

 

「その三人と連絡は取れないんですか?」

「ごめんね。それが出来ないのよ。高校を卒業した後、私は更識の長として色々と面倒事があってようやく落ち着いて連絡取ってみたんだけど―――行方が分からなかったの」

「―――――――――」

 

分からない?そんな馬鹿な。更識家の事はもう知っている。情報面の事であれば日本では恐らく一番、そして世界に通ずるかも知れないほどだと言うのにか。

 

「私も驚いたわ。足跡ぐらいは辿れると思ったのに分からなかった。尻尾すら掴めなかったわ」

 

この三人は何か大きな事に巻き込まれた。もしくは自らから行ったのか。他にも可能性があると思うが今は考える必要もないだろう。今回はただの確認だけ。

 

「今も捜しているの。それでも見つからないなんて……。まったく、あの三人はこうもかくれんぼが上手かったかしら?」

「いやいやかくれんぼって。………まさか高校の時にかくれんぼしたとかないですよね」

「あるわよ。体育祭のメインイベントでやった事があるわ」

「「「「「あるんかい!!」」」」」

 

俺、簪、本音、楯無さん、虚さんは咄嗟に叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ。父さんと母さんは駆け落ちした後どうなったか分かりますか?」

 

駆け落ちしたのは知っていた。が、その後はよく知らない。そもそも知られたのは十年前の事故で発見されたからで発見されるまで何をしていたのか分からない。

 

「聞いた話だと海外の遺跡に入ったり、戦争中の国で欲しい物があるから介入したり、色々聞いたわ。てか大半が美樹が悟郎君に涙目で頼んだみたいよ」

 

俺の両親はなにやってんだよ。海外の遺跡に入るのは分かるぞ。でも、戦争中の国で欲しい物があるから介入するって。父さんも母さんの涙目だからって行くか普通。

 

「なんやかんやで楽しんでいたみたいよ。私には無理だけどね。美樹は遺跡とか古代文明とか好きだったし、悟郎君は美樹といればいいって言ってたわね」

「結局の所、仲のいい夫婦って事ですね」

「そういうこと」

 

駆け落ちした後の事の詳細は誰も知らない。だけど、二人が仲が良かった事だけは確かだ。

 

「所でよ。今日はこのまま家に泊まっていくのか?」

「着替えは実家に戻ればありますが……止まった方がいいですよね」

 

孝司さんが泊まるかどうか聞いてくる。実家に戻れば着替えなどがある。後半に声を小さくしたのは理由がある。

 

「和也さんがどことなく寂しそうな顔しているような気がするのは気のせいじゃないですよね」

「良い目しているな。本音ちゃんと虚ちゃんが二人ともIS学園に行っちまって寂しいんだとよ。あいつはああ見えても親馬鹿だからよ」

 

普段、ほぼ無表情な和也さんが寂しがっているのだ。よーく見ないと分からないくらいに。

 

「まだ日が高いので戻って着替え一式に夕食の材料を買ってきます」

「分かった。夕食の材料は沙織達に聞いてくれ」

「分かりました」

 

昼食を食べて休んでから実家に戻り着替え一式を持ち、大型スーパーで買い物をした。

その日の夕食は大いに盛り上がった。で、また楯無さんと虚さんがいつの間にか酒を飲んでしまってストリップショーになりかけたので止めた。そしてまた孝司さんの大事に取っていた酒が飲まれていた。

 

 

 

 

 




次一話やってからいよいよクラス対抗戦です。
あと一か月すればこの小説一年になります。色々あったなー。主に金銭問題が……。
別に記念するような話は作りません。てか作れません。
だってそんなに頭良くないんで。
次回は早いと今週の火曜で遅くて来週になります。
感想、誤字脱字などがありましたらお願いします。
では、次回で!


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第41話「影からの訪問者」

やっと書けた。少々忙しくちまちま書いて今日出来上がりました。
内容はグダグダですので勘弁してください。
ではどうぞ!


今日は晴天。曇り一つのない青空が広がる。掃除洗濯には持って来いの日だ。

そんな中俺は駅前の噴水で待ち合わせをしている。

 

「少し来るのが早い気もするが待たせるよりはマシか」

 

服装は灰色のVネックシャツの上に黒のテーラードジャケットを着て、下は黒いパンツ。分かっていると思うが下着の方ではないぞ。昔はズボンと言われているが今ではパンツという方が多い。

これを選んでくれたのは楯無さん達だ。今日の事を一昨日、三日に今日の事を言ったら午後からは大型スーパーで買い物にするハメになった。服には疎いので楯無さん達に任せた。

それほど時間はかからず決まった。流行に敏感な女子が身近にいて助かった。適当な恰好では折角の遊園地が台無しになってしまう所だった。

 

「ねえ。あそこにいる男の人、カッコ良くない?」

「本当だ。誰を待っているのかな?」

「私声かけようかな」

「あんた彼氏いるでしょ。なにやるつもりよ」

 

やはり一人でいるのはまずいか。さっきから周りから視線がこちらに集中している。そのうち知らない女に何をされるか分からん。いくらなんでもこんな人の目が多い場所ではさすがにしないと思うが、それでも不安だ。しかし時間はもうすぐ。もうそろそろ来るだろう。

 

「おにぃぃぃぃちゃああああん!!」

「おっと」

 

背中に衝撃と大声が重なる。転倒はせず、一、二歩ほど進んだ程度で衝撃を和らげる。

 

「こうして直接会うのは一ヵ月とちょっとぶりだな。元気にしていたか真美ちゃん」

「うん!元気にしていたよ!」

 

背中に乗っかっている子は静寐の妹である真美ちゃんだ。元気そうで何よりだ。

 

「ご、ごめん待った?」

「いや、こっちも今来たところだ。それよりどうした。息を切らして」

 

すぐに静寐も来た。が、なぜか息切りして顔が赤い。

 

「家を出た途端に競争だ、って一方的に言ってそのまま一人で走っていったの。私も当然走ったよ。でも真美が足が速い事を忘れていて、運動もそれなりにしか出来ない私にとっては辛い」

「そうだったか。それはご苦労だな。チケットは三枚分持って来ているか?」

 

ポーチから三人分のチケットを見せてくれた。これで大丈夫だな。

 

「なんだ兄妹で遊びに行くだけか」

「賭けは私の勝ちね」

「どうせそんな落ちだと思っていたけどね」

 

周りは散らばって行く。やっと落ち着ける。

 

「では行くか」

「うん!」

「そうだね」

 

遊園地までの切符を買い、電車に乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう」

「わあ!人がいっぱい!」

「聞いていたけど本当に人気ね」

 

目的地の遊園地に着いた。駅から降りて少しだけ歩くだけだったのであまり時間はかからなかった。

まず一目で分かった事は人の数が多い。親子連れや恋人同士、友達同士など様々だ。ここの遊園地の総面積はなんとディ〇ーニーランド並みに広い。電車の中からでもすでに見えていた。

事前に調べて分かった事なんだがこの遊園地を造った理由はディ〇ーニーランドに対抗出来るような遊園地を造りたいという社長と社員、その他諸々達によって出来たものである。

まあ、なんだ、真っ当な理由というか子供の対抗心というか。理由はともあれ、とても充実した娯楽施設と言えるのは確かだ。アトラクションが多く、休憩所も的確に配置しており、飽きることないようになっている。考えた者は相当な切れ者だな。

 

「ねえねえ。あれに乗りたい!」

 

真奈美ちゃんが真っ先に指をさしたのがジェットコースター。いきなりアクセル全開だな。

 

「俺はいいぞ。静寐はどうする?」

「私も大丈夫だよ」

 

早速ジェットコースターに乗る事が決まった。ほんの五分ほどで乗れた。待っている間、他の所も列が出来ているが円滑に進んでいる。どうやれば円滑に進むかは分からないがこれなら待つのにそれほど苦労はしないで済む。

 

「わあああああ♪」

「ああああああ!!」

 

カタカタと登って行き、ガタンと勢い良く落下する。体が右へ揺れて左と揺れていく。三回ほどグルグル回るのも面白いな。普段はISで飛んでいるが、これはこれで良いモノだ。

一分もしないうちに元の場所に戻ってきた。

 

「おもしろかった!」

「本当ね。今度はどこにする?」

「次あれ!」

 

真奈美ちゃんが指をさしたのはまたジェットコースター。さっき乗ったのと別の物だ。

 

「たて続けて乗って大丈夫なのか?」

「うん!大丈夫だから行こ!」

 

すぐさま俺と静寐の手を掴み、真奈美ちゃんに引っ張られて列に並ぶ。これまた順調に列が進む。

 

「真奈美ちゃんは速い乗り物が好きなのか?」

「ちょっと違うかな。遊園地とかに行くと乗り物に必ず乗るの。だから速いとか遅いとか関係なく乗っているの」

「そうなのか。ちなみに姉の予想としてはあとどのくらい乗る予想だ?」

「うーん。少なくても半分以上は乗ると思うよ。覚悟はしているわ」

 

なぜか遠い目をする。そこは聞きたい所だが聞かないようにしよう。きっとナニかがあったに違いない。

その後は昼までアトラクション(主に乗り物だが)を可能な限り乗り尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「午後はどうする?」

 

昼食は食べ終えた。決めるのは真美ちゃんにしているのでどうするのかは分からない。

 

「えーと……」

 

すぐには決めるのは無理のようだ。時間はまだある。ゆっくり考えればいい。

 

「えーん!私のふうせんがー!」

「ん?」

 

泣き声がした方を見ると小さい女の子が泣いていた。傍には女の子の親と思われる男性と女性がいた。

風船は木に引っ掛かっていた。だが取ろうにも高くて取れないようだ。

 

「ちょっと風船を取って来る」

「大丈夫。高いよ?」

「あのくらいなら大丈夫さ。朝飯前だ」

 

泣きじゃくっている女の子に近づき、目線を合わして話しかける。

 

「あの風船は君のか?」

「うん。でも高くてお父さんでも取れないの……」

「そうなのか。じゃお兄さんが取ってあげよう。だから泣くのはやめるんだ」

「ほんと!」

「ああ。だからもう泣かないか?」

「うん!」

 

早速取るか。少々高いが研究上の訓練でもこういったこともやっているから問題はない。

 

「よ、は、と……」

 

難なくと登り、風船を掴む。すぐに下に降りて女の子に風船を渡した。

 

「ほら。もう離さないようにしっかりと掴んでいるんだぞ」

「うん!ありがとうおにいちゃん!」

「すいません。娘の風船を取っていただいて」

「いえいえ。こちらが勝手にやっただけです。お気になさらず」

 

女の子は両親と共に人ごみの中に消えていった。静寐と真奈美ちゃんの所に戻った。

 

「お兄ちゃん凄かったよ!ポンポンと飛んで忍者みたいだった!」

「はは。そんな風に見えたか」

「私も忍者みたいだと思ったよ」

「姉妹して言うことは同じか。まあいい。それよりどこに行くか決まったか?」

「うん。次はね…………」

 

そうして時間はあっという間に過ぎた。ゴーカートやコーヒーカップ、観覧車など様々な乗り物に乗った。

待ち合わせをした駅に戻ってきたときには時刻が六時を過ぎ、日が落ちているので暗くなっている。

 

「わぜわぜ来なくても大丈夫なのに」

「暗い夜道を女性二人にするわけにもいかんだろ。何があるか分からんだろ」

 

このまま二人で返させるわけにもいかず、家まで送る事にした。新しく住んでいるマンションまではさほど遠くはないそうだが途中暗い夜道があると聞いたのでなおさらだ。

 

「ふんふんふーん♪」

 

真美ちゃんはスキップしながら歩いている。よほど楽しかったのか時折鼻歌をしている。

 

「そろそろクラス対抗戦だね。織斑くんは勝てるかな」

「優勝出来ればいいんだがそうはいかないだろう。三組と四組に専用機持ちがいる。それにこの間の転校生がクラス代表に変更になって専用機持ちだから一組から四組まで専用機だらけだ。注意すべきは専用機持ちもそうだが一夏はまだ慣れない事が多いから練習でも打鉄やラファール・リヴァイブでも苦戦している。せめて一回戦でも勝ってくれれば上出来だろ」

「そうだよね。織斑君と士郎君はまだISを動かして一ヵ月ちょっとだもんね。でも士郎君はよく動かせているね」

「柔軟に物事を考えているからな。俺は銃が使えるからいいが一夏の場合は近接ブレード一本しかない。どうやって避け躱し、いかに近づくかが問題だ」

 

織斑先生に鍛えてもらっているから何かしろ一つ位の技術は覚えさせられているはずだろう。多少は対抗策はしていると思う。

 

「ここでもう大丈夫だよ」

 

話している間にマンションに着いたようだ。ここまで来れば後は住んでいる階まで登るだけだから大丈夫だな。

 

「それじゃ俺は帰る。IS学園でまた会おう」

「うん。士郎君も夜道気をつけてね」

「じゃあねお兄ちゃん。また遊ぼうね」

 

マンションに入って行く。俺も帰るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い夜道を一人で俺は歩いている。街灯二つだけ灯る所で足を止める。

 

「…………いるのは分かっている。出て来たらどうなんだ」

 

街灯の一つ下には俺が立ち、もう片方の街灯には暗闇から来た黒ずくめの長身痩躯で髑髏の仮面を付けた男がいる。

 

「お気づきになられていましたか。いやはやこれは驚きました」

「この道を通った一瞬だけ妙な視線を感じただけだ」

 

静寐と真美ちゃんとここを通った時にほんの僅かだけ視線を感じたのだ。まさか堂々と出て来るとは思いもしなかった。

 

「で、何の用だ。俺は早く帰りたいんだが」

「別に何もしません。私はただあなたの護衛をしただけ。ただそれだけですぞ」

「何?」

 

護衛だと?一体何の為に。

 

「私のマスターはあなたに命を救われています。今でもそれは変わらず恩人と慕っています」

「待て。俺がお前のマスターとやらの命を救っただと?それはいつだ」

 

マスターとは知らないが今は俺がいつ救ったことかを聞かなければ。

 

「ほんの二年前です。それに私はあなたと何度も会っています。と言っても記憶を失う前の事ですが」

 

俺が記憶があるのは今年の三月の中旬からだ。二年前だと記憶を失う前の事で間違いはない。

 

「さて、私はそろそろ戻ります。あ、名前を言っておりませんでした。私はザイードと申します。それではまたお会いしましょう。―――伝説の傭兵の遺志を受け継ぐ弓兵(アーチャー)

よ」

「おい、待て!!」

 

暗闇に溶け込むように戻り、姿が消える。無鉄で索敵をしたが反応はない。

 

「一体何がなんなんだ。伝説の傭兵?アーチャー?訳が分からん」

 

ほとんど向こうが一方的に喋っていた。こちらは聞きたい事がまだあったのに消えてしまった。

しかし何者だったんだ。俺の護衛と言っていたがなぜそんな事をする必要があるのか。理由としては俺がISを動かして存在価値があるという事。それ以外の理由としたらさっきのザイードという者の言う通りマスターとやらの命令なのか。

ああ考え出したらきりがない。

 

「こういう事は楯無さんに相談するのが最善だな」

 

正直自力で調べようとしてもそれは表の情報で公式での事しか分からない。だから、更識家の情報網でありのままの事実を探してもらうしかない。

 

「伝説の傭兵か…………」

 

不思議と懐かしく思う。なぜそう思うか分からないがどことなく安心する気がした。

 

 

 

 

 




次はいよいよクラス対抗戦です。
上手く書けるかな。
それでは次回もお楽しみに!

それと活動報告でアンケートがあります。
回答はメニューのメッセージを送信でお願いします。


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第42話「クラス対抗戦」

ようやく上げる事ができたー!
最近忙しくてパソコンに打ち込めることができなかった。
ちまちま書いてようやくできた。
遅くなってしまってすいません。
それではどうぞ!


静寐と真美ちゃんと遊園地に行ってから数日が経ち、今日はいよいよクラス対抗戦の日だ。

一夏は織斑先生から一つだけ技術を教わったと言っていた。どんなのだと聞くと見てからの楽しみと言われた。楽しみにしていようじゃないか。一夏もクラス代表の時よりも様になっているようで多少なりとも期待しよう。

簪と美沙夜も準備万端である。それぞれクラス代表に恥じぬように訓練をしているようで簪は完成した打鉄二式をほとんど乗りこなして、試験型MLRSとミサイルスロアーの二つずつを展開して山嵐と組み合わせの同時多数発射をうまく使っているようだ。

そういえば美沙夜のIS見たことがない事に気付いた。専用機を持っていると聞いただけで実際に見たことがないし、どんなものかと聞いてもいない。まあそれもクラス対抗戦の時にでも見れるからいいか。

 

それはそうと鈴なんだが……

 

「絶対ぶっ飛ばしてやるんだから……一夏なんか、一夏なんか……」

 

ものすごく不機嫌である。原因はこれまた一夏だ。実はクラス対抗戦前日までクラス代表はアリーナを優先的に使えるようになっていて、鈴も使っていた。

一夏、箒、俺、セシリアは鈴が帰るころに鉢合った。そこで鈴が約束の事をどうのこうのと一夏と口論になった。そこまでは別にここまではならなかったんだが一夏はあろうことか女性に言ってはいけない事(タブー)を言ったのだ。貧乳とな。身体的特徴は女性にとって敏感であるから絶対言ってはいけない言葉の一つだ。

それで鈴は完全に怒ってしまい今現在でも不機嫌である。

 

「あー鈴。一夏も咄嗟に言って悪いと言っていた。機嫌を直せとまでは言わんがせめて試合に集中した方がいい。せっかくの試合を感情で戦うのはいいものではないだろ?」

「分かっているわよ。私は中国の代表候補生。そこまで試合を感情で戦うつもりはないわ。一夏には私が勝って謝らせるからね」

「それならいいが。そうだ鈴」

「なに?」

「謝らせた後に告白でもしたらどうだ?」

「なっ!?」

「うん。その方がいいな。いつまでも胸に閉まってはいけない。せっかくのいい機会だ。勝って謝らせて告白するがいい」

「ちょ、ちょっと!そんな事出来るわけないでしょ!」

「はぁ……。付き合いはお前の方が長いだろ。一夏の鈍感ぶりには」

「そ、それはそうだけど……」

「あいつはまわりくどい言い方では絶対と言っていいほど伝わらん。直球でなおかつ異性としての告白でなければその想いは一生伝わることはない」

「いや、だけど。……………ああもう!分かった、分かったわよ!一夏に勝って謝らせて告白するわ!」

「いい覚悟だ」

 

ようやく腹をくくったようだ。箒とセシリアには悪いが今回だけは鈴に加担しよう。一夏がどう答えるかは知らんが言ってすっきりさせた方が今後のためにもいいからな。

 

「では、観客席に戻る。試合を盛り上げて、勝って告白しろよ」

「分かっているわ!よっしゃー!」

 

なんかすごく機嫌が良くなったからいいか。テンションもかなり高くなっていたがそれはそれで良しとしよう。

 

 

 

 

 

「ゆーみーん!こっちこっちー!」

 

見慣れた袖の長い服がぶんぶんと回っている。本音に頼んで座席を確保してもらっているのが大丈夫ようだ。

 

「鈴の様子どうだった?」

「簪か。こっちにいても大丈夫なのか?」

 

隣には簪が座っていた。出場する生徒はアリーナの待機室で待つようになっているのだが。

 

「うん。二式の点検と装備は大丈夫。いつでも出れる。それに一試合の時間は三十分で私の試合は中盤だから大丈夫」

「なら大丈夫だな。それと鈴なら大丈夫だ。なんとか機嫌を直せた」

「良かった」

 

簪は鈴と友達になり互いの部屋に行き来するまでに仲が良い。俺は友達増やそうとしてもここ(IS学園)では女友達が増える一方だ。別に悪くないんだが男友達も増やしたものだ。今の所は一夏に弾の二人だけだ。……やはり増やしたい。

 

「おりむー大丈夫かなー?」

「本人に聞いたが自信があると言っていたぞ。まあ付け刃な所もあるが現状で代表候補性である鈴とどこまで渡り合えるかは分からんが」

「一回戦でも勝ってほしいけど鈴ちゃん結構強いって言ってたから難しいよねー?」

「そうだな」

 

一回戦が一夏と鈴か。最初から大目玉とは。偶然かそれとも誰かの意図か。そんなことはどうでもいいが無事に大会が終わってくれればいい。

 

「ポップコーンいる?」

「ああいただく……って美沙夜か。お前もこっちに来てたのか」

「ええ。私と簪は同じ中盤。だからまだ大丈夫よ」

 

後ろの席から声をかけられて向くと美沙夜がいた。いつもと同じように見えるがどこか高揚しているように見える。

 

「自分の試合が始まるのが嬉しいのか?」

「ええそうよ。今とても嬉しいわ。今までずっと私のISを見せることが出来なかったから余計にね。見せたくてもお母様の指示で今日の今日まで見せる事が出来なかったのよ」

「そうだったのか。研究所での訓練でもそれで別々だったのか」

 

久宇研究所での訓練で美沙夜と合同ですると思ったのだがいつも別々だった。それは今日のクラス対抗戦まで見せず、あまり情報を漏らさず、優位にたつためだったのか。

 

「ほら、そろそろ始まるわよ」

 

アリーナ中央には白式を纏った一夏と第三世代、甲龍を纏った鈴が向かい合っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日までの特訓の成果を出す時だ。千冬姉に教えてもらった()()は一度っきりした通用しない。出し所を間違いなければ代表候補生の鈴と渡り合えるはずだ。

今は試合開始の合図まで鈴とそのIS「甲龍」が静かに待っている。

 

「一夏、私が勝ったらなんでも一つ言う事を聞かせるって事忘れていないわよね」

「ああ。俺が勝ったら説明してもらうからな」

 

約束を覚えているのになんで謝んないといけないんだ。説明してくれればいいのによ。ちゃんと覚えていたのに意味ってなんだよ。

 

『それでは両者、試合を開始してください』

 

ビーッと鳴り響くブザー、それが切れる瞬間に俺と鈴は動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴の初撃を一夏は雪片弐型で物理的な衝撃にはじき返されるが三次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターン)で鈴を正面で捉えた。

 

「へー思ったよりいい感じじゃない」

「それもそうだろ。織斑先生の特訓を受けているからな」

 

美沙夜は初撃は喰らうと予想していたようだが当てが外れたな。

 

「世界最強との特訓ね。それは当然強くなるわけだわ」

「ああ。一夏に聞いてみたが相当厳しいと言っていた。セシリアも一度参加したようだが容赦なくダメだしされたと言っていたぞ」

「あはは。ご愁傷様」

 

一夏は雪片弐型で果敢に攻めているが鈴はそれを躱し避けて、青竜刀でいならしている。

 

「おりむーがんばれー」

「織斑君ガンバ!」

「攻め過ぎないでよー!」

「そこだ!」

「いけいけー!」

 

一組のクラスメイトは一夏の事を応援している。純粋に勝って欲しい事もあるだろうが優勝商品の方が主だろう。

試合はこのまま平行線を辿ろうとした時、甲龍の肩アーマーがスライドして開き、一瞬光り、一夏がよろける。続いて一発喰らってアリーナの地面に打ち付けられた。

 

「え?今の何?」

「どういう事。訳が分からないんだけど?」

 

数名のクラスメイトが動揺している。周りを見ると他の学年も動揺しているようだ。

 

「士郎、貴方なら分かるでしょ」

「ああ。あれは衝撃砲だ」

「それってなにー?」

 

本音が質問してきた。何気に可愛らしく首を傾げている。

 

「衝撃砲は空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲撃化して砲弾を撃ち出す。セシリアのブルーティアーズと同じ第三世代のイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器だ。しかも砲身の射角がほぼ制限なしで撃てる。つまり死角がないということだ」

「さすが。これくらいは常識ね」

「それはそうだろ。情報は小まめに収集している」

 

甲龍を調べたのは鈴が転校してきた翌日。大まかなデータは学園のデータベースに登録されていたので苦労せず調べる事が出来た。

 

「ねーゆーみん」

「なんだ?」

「もうちょっと分かりやすくしてもらえると助かるんだけどー」

 

簪や静寐は分かっているようだが夜竹や谷本など数名が唸っている。かなり砕けた言い方になるがこれくらいでいいか。

 

「ドラえもんの空気砲だと思えばいい。原理は大体合っているからな」

『なーるほど!』

 

世界中で知られているドラえもんを例えにしたから納得がいったようだ。

さて、一夏。どう攻める。避け続けるのも時間の問題だぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いってー……」

 

思いっきり地面にぶつかった。衝撃砲はハイパーセンサーで空間の歪み値と大気の流れで感知して反応する。だが、これだと撃たれてからの事だ。撃たれる前に感知しないのは計算が追い付かいないからだ。

 

「ほらほら。逃げてばかりじゃ勝てないわよ!」

「くっ!」

 

勘と千冬姉との特訓でなんとか躱しているがそれも時間の問題だ。どこかで先手を打たないと。しっかりしろ。俺は千冬姉と同じ武器を使っているんだぞ。

ふと、右手にある雪片二型を握りしめると、この間までしていた特訓を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「白式の武器ってこの雪片二型だけなのか?」

「私もそれだけで優勝した。その一振りだけで十分だ」

「世界大会優勝者にそう言われても……困るんだけどな」

「それ以前に雪片の特殊能力で拡張領域(バススロット)が埋まっているのを忘れたのか?」

「忘れちゃいないけど。せめて銃一つ位は……」

 

千冬姉は箒の実家の道場で剣術を教わっていた。それ以前に千冬姉は他の人より運動がずズバ抜けている。束さんとも仲が良い?ようでISの事をよく知っている。なので知識だけじゃなく、実力もあるので第一回モンドグロッソ大会では優勝をした。

 

 

バシッ!

 

 

「うっ?!」

 

竹刀を叩きつける音に思わず、ビビってしまった。普通に怖い。

 

「大体お前のような素人が射撃戦闘などが出来るものか。反動制御、弾道予測からの距離の取り方、一零(イチゼロ)停止、特殊無反動旋回(アブソリュート・ターン)、それ以外にも弾丸の特性、大気の状態、相手武装による相互影響を含めた思考戦闘……他にもあるぞ。出来るのか?お前に」

「うぅ……ごめんなさい」

 

どれも俺には出来ない事だ。考えてみれば銃なんて一度も撃った事がない。精々祭りにある出店の射的ぐらいだ。

 

「一つを極める方が、お前には向いているのさ。なにせ―――私の弟だ」

 

千冬姉がこう言っているから言われた通りした方がいい。千冬姉が自信満々に言うのは早々ない。

 

「そういえば士郎は銃を使っているけど、千冬姉から見てどう?」

 

士郎は基本俺と同じく剣での近接戦闘をするが銃を使う。素人の俺からすればよくあんなにポンポンと使えるのが羨ましい。

 

「そうだな。基礎、基本を忠実に守りつつもアイツなりにアレンジをしている。良いか悪いかと言われれば良い方だ。銃の特性に弾丸の特性をよく理解しているし、距離の取り方も申し分ない。アイツ自身、ISの武装を作っているからそこに興味はある」

 

おお。千冬姉が他人を褒めるなんて初めて見た。士郎が聞いたら喜ぶだろうな。

 

「さて、話しはここまでだ。特訓を続けるぞ」

「はい!」

 

 

 

特訓は厳しかったがセシリアと初めて戦った時よりは随分マシになった。箒には剣道で昔の感覚が少しづつ思い出してきて、間合いと特性を再度把握出来た。

あとは気持ちで負けないってことぐらいだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お?」

 

一夏の動きが変わった。先ほどよりも動き、ただ避けているだけのようにも見えるが。

 

「彼、織斑君は何をするつもりなのかしら」

「アイツが今出来るとすれば…………………もしかしたら瞬時加速(イグニッション・ブースト)かもしれん」

「士郎君、その、イグニッション・ブーストってなに?」

「教科書にも載っているぞ静寐。瞬時加速(イグニッション・ブースト)とは一瞬にしてトップスピードを出し、相手に接近する奇襲攻撃だ。出し所さえ間違いなければ代表候補生でも渡り合える事が出来る」

「そうなんだ。でも、なんですぐに使わないの?」

「それは通用するのは一回だけだからだ。確かに一瞬にしてトップスピードを出し、相手に接近する奇襲攻撃だが、一度使ってしまえば相手に距離を取られてしまう。しかも一夏の武装はあの雪片二型しかない。そうなると相手は近接戦闘を避けて中距離から遠距離での戦闘に切り替える。それに瞬時加速(イグニッション・ブースト)はあまり多用することが出来ない。」

「どうして?」

「シールドエネルギーを消費するからだ。通常の加速ならそれほど消費しないが、急激な加速はかなり消費する。例えで言えば車でアクセルを思いっきり踏むとスピードがかなり出るが代わりにガソリンを大幅に消費すると言ったところか」

「なるほど」

 

うんうんと静寐は納得したようだ。

しかし、よく動けるようになったな一夏は。織斑先生との特訓の成果が目で分かる。鈴の視界に入らないように動いている。ISには360度見えるがつい目で追ってしまう。そこに目を付けるとは。俺もうかうかしていられないな。

 

 

ドクン

 

 

「?」

 

なぜかアリーナの上を見た。ただ青い空が広がっているよう見えるが……。

 

「………!なんだ……アレは……」

 

空を集中して見るとそこには――――――黒いISがこちらに桃色が収束している両腕を向けていた。

 

「まずい!」

 

このままではいけない。すぐに管制室にいる織斑先生に通信をした。

 

『どうした弓塚。今は試合中だぞ。話しなら後で―――』

「急いでアリーナの遮断シールドを上げて下さい!上空から黒いISが―――」

 

 

ズドオオオオンッ!!!

 

 

言い終わる前に撃たれてしまった。アリーナの遮断シールドを貫通し侵入して来て、大きな衝撃がアリーナ全体に走った。

 

 

 

 

 




さあ次回はゴーレムの登場だ。ようやくラノベだと一巻が終わる。長かったな。
まあ多少オリジナルをしてから終わりますが。
あと1周年記念としてのアンケートを応募続いていますのでジャンジャン送ってください。
詳しくは活動報告に書いています。
では、次回もよろしくお願いします。

関係ないですが楽天優勝しそうですね。


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第43話「挑むべきは」

今回はいつも通り一週間で出せました。
今の所リアルが落ち着いているのでなるべく少しでも多く出せるようにします。
それでは、どうぞ!


黒煙がアリーナ中央から立ち上る。今だ状況が判断出来ない生徒達はただただ困惑している。

 

「な、なに?」

「地震?」

「砲弾が逸れたの?」

 

状況が呑み込めないのは当たり前か。今日のような行事には多少なりとも警備を教師達がしている。一部生徒達にも協力してレーダーや電波を受信したりと警備を手伝っている。

 

『試合中止!凰、織斑直ちにピットに戻れ!』

 

織斑先生の怒声で事態をようやく理解したのか騒ぎ始めた。アリーナのシールドを隔壁で閉める事で強度を上げる。アリーナの中を見る事が出来なくなったが時間稼ぎにはなるだろう。

 

「俺達も非難しよう。ここにいては危ない」

「そうね。いくら私達、専用機持ちでもこんな狭い所ではISを展開するのはまずいわね」

「扉はあっちだよ」

 

扉はそれほど遠くはなかったがなぜか列が出来ていた。

 

「どうしたんだ。出ないのか?」

「それが扉が閉まっているようで出られないの」

「何?」

 

扉が閉まっているだと。なぜそんな事に。……あの黒いISのせいか。いや、まだ断定は出来ない。

 

「別れてそれぞれ別の扉を調べてくれ。美沙夜は左に。簪は右の方を」

「いいわ」

「分かった」

 

すぐに行動して左の扉に美沙夜が右の扉に簪が行った。残った俺は目の前の扉を調べる事にした。

 

「どう?」

「だめだな。完全にこちらの操作を受け付けていない。配線を弄ってみてれば開くかもしれんが下手をしたら今以上に悪くなる可能性がある」

 

本音と一緒に調べてみたが配線には問題はなかった。となると電子的な問題か。

 

「そっちはどうだ?」

『だめね。閉じているわ』

『こっちも。他の人にも聞いてみたんだけど、どこの扉も閉まっているみたい』

「そうか」

 

無鉄で美沙夜と簪のISに通信をして状況を聞いた。全ての扉が閉まっているか。厄介だな。

 

『織斑君!凰さん!今すぐアリーナから脱出してください!すぐに先生達がISで制圧に行きす!』

『―――いや、先生達が来るまで俺達で食い止めます』

 

管制室に連絡をすると通信中だった。本来は通信が終わった後に話しをするんだが状況が状況でそうは言ってられない。

 

「通信割り込み失礼。一夏、鈴、観客席にいる人達を全員避難させるまで頼む」

『士郎か!?お前どこにいるんだ』

「観客席だよ。避難したいところだが、どこもなぜか閉まっているから避難が出来ん。こっちはなんとか開けるようにしておく。お前は鈴と共同であのISを相手してくれ」

『もちろんさ。鈴もそれでいいな?』

『当たり前よ。士郎もなるべく早く扉開けなさいよ』

「当然だ。それと目的は倒すのではなく時間稼ぎと言う事を忘れるな。あのISはアリーナの遮断シールドを突破出来る威力を持っている。下手に倒しにかかると観客席に被害が及ぶ可能性がある」

『分かった。そんじゃ行くぞ鈴!』

『遅れないでよね一夏!』

 

一夏と鈴との通信が終わる。何分持つか分からんがなるべく早く非難せねば。

 

『弓塚君、なんて事するんですか!二人だけで止める事なんて出来ません!先生達がISで制圧するので―――』

「それは恐らく無理でしょう。織斑先生アリーナの扉だけではなく、ISの保管庫も閉まっているのではありませんか?」

『……ああ。ISの保管庫も閉まっている。今は二、三年の警備であたっていたISはアリーナの出入り口を開けようとしている。教師で警備にあたっていたISは突入部隊を編成していつでも行けるが遮断シールドが強くて入れない。これでは避難する事も救援に向かう事も出来ない』

 

八方塞がりで今動けるのは管制室にいるセシリアと観客席にいる俺、簪、美沙夜だけか。楯無さんは虚さんとシステムクラックをしているはずなので動けないはずだ。

 

「聞きたい事があります。遮断シールドのレベルはいくつですか?」

『レベル4だ。すでに緊急事態として政府に助勢をしている。扉は現在、三年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドを解除出来れば、すぐに部隊を突入させる』

 

レベル4か。これもあのISのせいなのか。今は三年の精鋭がシステムクラックを実行中で、いずれ開くだろうが今は時間が惜しい。

 

「織斑先生。アリーナには保険が入っていますか?」

『ああ、入っている。まさか、扉を壊すつもりか。アリーナの扉は通常のIS武装では壊れないように出来ているんだぞ』

「はい。ですがそれは通常のIS武装であればの事です。無鉄の投影で何か剣を出せば問題ありません。他の扉にいる簪や美沙夜も通常武装ではないのでなんとか大丈夫です」

『……分かった、許可しよう。こちらも手は打っておく。すまないが頼むぞ』

「了解」

 

管制室との通信が終わり、すぐに簪と美沙夜に通信をする。

 

「扉を破壊してもいいと許可が下りた。簪、美沙夜。いけるか?」

『問題ない。夢現の高周波電流を上げれば切れる』

『私は威力のある武装があるから壊せるわ。士郎はどうするつもりなの?』

「俺は無鉄の投影で何か剣を出す。では、扉を破壊してからまた会おう」

 

通信を切る。さて、何を投影すればいい。生半可な物では切れん。だとすれば……………………あれしかない。

 

「……………………」

 

無鉄の右手だけ部分展開し、目を閉じ、前に出す。本来はこのような事をしないが今回は極度の集中をしなければならない。

 

「ゆーみんどーしたの?」

「すまないが本音、話しかけないでくれ。集中出来ない」

「う、うん」

 

今から投影するのは聖剣。聖剣なんて投影したらそれだけで俺はただじゃすまないはずだ。だがこの状況下でそうも言ってはいられない。

 

「――――――――」

 

集中しろ。聖ピエールの歯、バシリウスの血、パリ市の守護聖人である聖ドニ(ディオニュシウス)の毛髪、聖母マリアの衣服の一部と多くの聖遺物。

 

「ぐっ!」

 

手には一つの剣があった。それはまるで芸術のように美しく、宝石のような輝き。

これがデュランダルなのか?とにかく扉を壊さなければ。

 

「はあああ!」

 

勢いよく振る。これで扉が――――――

 

 

パリン!

 

 

「何!?」

 

扉に確かに傷がついている。そう、傷が付く程度だ。デュランダルはガラスのように砕け散った。

やはり聖剣を投影するなんて無理だったのか。

 

「きゃああああ!」

 

隔壁が振動する。一夏と鈴であのISと戦っている影響なのだろう。早くせねば、いつまでも隔壁が持つはずがない。だが俺には……。

 

 

―――今あなたが出来るのは命懸けでやるだけです。

 

 

「!」

 

どこからか声がする。これだけ人が多いのになぜかその声だけがはっきりと聞こえる。

 

 

―――あなたの友はあなたを信じて戦っています。それになのにあなたは諦めるんですか。

 

 

そうだ。一夏と鈴は俺を信じているんだ。俺の失敗は俺だけの事で済む事じゃない。ここにいる観客席全員の命がかかっているんだ。ならば、俺が今成すべき事は!

 

「ぐ……あ…ああああああっ!!」

 

今まで以上に高度な投影をするのは練習でもない。右手が吹き飛びそうだ。千切れそうだ。だがそうなるのはこの後にしろ……!

 

「ぬうううっ!」

 

挑むのは投影じゃない。挑むべきは自分自身。ただ一つの狂いも妥協も許されない。己が精神をの限界を超え、この幻想に本物よりも本物らしい形を与える事こそが今、成すべき戦い。

 

「ぎ……ッううう……くっ……!!」

 

完璧な模造品を作れ。敵を騙し、自らも騙しうる完全無欠のイメージを作り出せ!!

形だけではなく、

創造の理念を鑑定し、

基本となる骨子を想定し、

構成された材質を複製をし、

製作に及ぶ技術を模倣し、

成長に至る経験を共感し、

蓄積された年月を再現し、

あらゆる工程を凌駕し尽くし―――

 

「ぐううう……は、ああああああああああああ!!!!」

 

今ここに、幻想を結び剣と成す――――!

 

 

キィィィィン

 

 

手に再び剣があった。先ほどよりもより芸術のように美しく、より宝石のような輝き。そして、幻想が現実になったモノ。

デュランダル。フランスの叙事詩『ローランの歌』に登場する英雄・ローランが持つ聖剣。

切れ味の鋭さデュランダルに如くもの無しと言われ、岩に叩きつけて折ろうとするが、剣は岩を両断して折れなかったという。それ故に決して折れない「不滅の聖剣」と言われている。

これで完成した。だが………。

 

「はあ……はあ……はあ……」

 

精神も体力も限界だ。剣を確かに握るほど力が出ない。これほどまでに高度な投影をしたのは初めてで後先構わずしたのが今ここでツケがまわったか。

 

「ゆーみん。うううん、士郎。一緒にやろう」

 

そっと俺の手と合わせるように本音が握ってきた。いつものようにのんびりとした雰囲気はなく、どこか聖母のように優しい。

 

「本音……」

「今の士郎一人じゃ剣を振れないでしょう。私一人でも出来ないから一緒にやろう。一人で出来なくても二人なら出来るよ」

「そうだな。まったくそうだ。なら、さっさとやるか」

「うん!」

 

俺の手の上に本音の手が重なる。不思議とどこからともなく力が湧いて来る。

 

「「はああああああああ!!!!!!」」

 

デュランダルを扉に渾身を込めて振り落とし、そして―――

 

 

カラン、カラン

 

 

扉がバターのように切れて通路に出れるようになった。ふらつくが避難誘導をしなければ。

 

「本音、静寐。避難誘導をするぞ。いつまでもここにいるわけにはいかん」

「うん」

「分かった。皆さん、扉が開きました。二列になって外に出てください」

 

簪と美沙夜に通信をして確認するか。

 

「簪。そちらはどうだ?」

『今ようやく切り終わった。今から避難誘導するところ』

「そうか。こちらも先ほど切れたところで避難誘導中だ。美沙夜はどうだ?」

『ちょっと待って。今―――』

 

 

ドォォォォン!!

 

 

『―――終わったところ。今から避難誘導するわ』

「そうか。それにしても随分デカイ音だったぞ。一体何をした?」

『私のISの武装の一つよ。見るのは次の学年別トーナメントでね。それまで楽しみにしてなさい』

「ふ、そうしておこう」

 

通信を切り、避難誘導を再開する。三か所も扉を壊したから思った以上に早く終わりそうだ。

 

 

 

 

 




次回でようやく一巻終わる予定です。
一周年記念としてのアンケートはまだやっているので詳しくは活動報告を見てください。
それでは次回もお楽しみに。

それと楽天が優勝しましたね。三越とか藤崎で優勝セールしていますね。


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第44話「無敗の盾」

本当なら昨日の朝に更新出来る筈だったんですが、凡ミスで上書き保存せず消してしまったので今になります。
皆さんもうっかりしないように気をつけてください。
では、どうぞ!


「お前で最後か?」

「はい」

 

今ので最後の一人。避難誘導は思った以上に終わった。避難した生徒はアリーナの外にいるのでひとまず安心だ。

 

「ふう…………」

 

安心したのか疲れが一気に来たので床に座った。あれほどの高度な投影をしたのは初めてだったのでまだまだ未熟だと思い知った。

 

 

ゴオオオオン!!

 

 

「!」

 

避難し終えて誰もいない観客席に桃色の閃光が当たり、観客席は滅茶苦茶になった。

 

「ギリギリだったか。後少しでも遅れていた危なかった」

「そうだねー。でもゆーみんが頑張ったからみんな無事だよー」

 

残っていた本音がいつもの口調でそう呟く。

 

「そういえば本音。俺の事を名前で呼んでくれたな」

「ま、まーねー。さすがにあんな時までふざけるなんて出来ないからねー」

「ほほう。ではこれからは名前で呼んでもらおうか」

「へ?」

「いつもあだ名で呼んでいると名前を忘れてしまうかも知れんからな。ただ名前を言うだけだぞ。そんな難しい事ではないだろ」

「そ、それは……」

 

この際だから名前で呼んでほしい。いつまでもあだ名のままでは名前を忘れてしまうかも知れん。

 

「なにイチャイチャしているのよ」

「美沙夜か。避難は済んだか?」

「ええ。観客席にいた全員外にいるわよ。ケガをした人が何人かいるけど避難した時に出来たものだからそんなにでもないわ」

「そうか。それはよかった」

 

多少なりともケガ人は出たが、命にかかわるのはなしか。上々の結果だ。

 

「それよりも士郎となにイチャイチャしていたのよ。色仕掛けでもしたのかしら」

「そ、そそそんな事していないよー!ただ名前を呼んでほしいって言われただけだよー!」

「ほんとかしら?」

「ほんとだよー!」

 

何を話しをしているか分からんが別にいいか。

ふと思う。あの時の声は無鉄から聞こえたような気がした。

 

「喝を入れてくれてありがとな」

 

そう言うと赤い勾玉、無鉄が光って答えたようにも見えた。

 

「さて、俺達も外に――――――」

 

 

ドクン

 

 

この感じは何か起きそうだというのか。観客席にいる全員は避難し終えた。いるのは管制室にいる織斑先生とアリーナで戦っている一夏と鈴だけのはずだが。

仕方がない。とにかく行ってみなくては分からん。

 

「くっ!」

 

首筋に注射をする。中身はビタミン剤で注射器は片手で出来るような物だ。これは久宇研究所からいざという時に医療キット使うようにと貰った物の一つである。

 

「士郎、注射なんかしてどうしたの?」

「他に誰かいない確認するためだ。今打ったのは即効性ビタミン剤だからすぐに効く。なに、今はこんなだが、効き始めたら少しばかり走るだけの体力は戻るはずだ」

「それなりに私も手伝うわ。一人より二人の方が早いはずよ」

「せっかくの申し出だが、一人で大丈夫だ。それより本音と共に外に避難してくれ。出来ればそのまま外で避難した人達を守って欲しい」

「なんでよ。外には専用機持ちじゃなくても二、三年生がISで守っているからいいじゃない」

「そうだな。だが、アリーナに侵入して来たISと同じISが増援が来たらいくら数で上回ったとしても量産型では防ぎきれない。そのためにも簪と共に守ってほしい」

「……はあ。分かったわ。なるべく早く終わらせなさい」

「すまないな。本音もそれでいいか?」

「いいよー。ひさーと一緒に外に出るからー」

 

ひさー?ああ、美沙夜の事か。久宇だからひさーか。

程なくして美沙夜と本音は外に行ってもらった。即効性なのか先ほどよりは体が軽くなった気がする。

 

「さて、どこから探せばいいか」

 

観客席には誰もいない。管制室以外に人がいる所はあるのか?

 

『大丈夫か!』

 

アリーナのスピーカーから大声が聞こえた。この声は箒か。

 

『ごめんなさい。衝撃で審判の子が気絶して、私は机が倒れて足を打って動けなかったの』

 

審判の子?そうか中継室だ。なんて初歩的なミスをしてしまった。中継室は試合の判定や外のリアルタイムモニターに繋ぐための場所。予め知っていたが避難する事だけを考えてばかりいたのかすっかり忘れていた。とにかく中継室に急がねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大丈夫か!』

 

突撃姿勢になろうとした時にアリーナのスピーカーから箒の声が聞こえた。

 

『ごめんなさい。衝撃で審判の子が気絶して、私は机が倒れて足を打って動けなかったの』

 

中継室の方を見ると審判をしていた女子が気絶していてもう一人がうずくまっている。あの正体不明のISが入った時にそうなったのだろう。マイクが電源が入ったままのようで箒の声が聞こえるようだ。

 

「まだ避難し終えていなかったの!?」

「観客席の方は避難したようけど、中継室は盲点だった。俺てっきり避難したと思っていた」

 

鈴が驚いている。無理もないか。危なかったのは観客席だけだと今の今まで俺もそう思っていたからな。

 

「………………」

 

赤い複眼が光り、箒がいる中継室に興味を持ったようで俺達からセンサーレンズをそらし、箒の方を見ている。

 

「まずい!箒逃げろ!」

 

正体不明のISは砲口が付いた両腕を箒がいる中継室に向けた。幸いにも撃つのに時間が掛かるようですぐには撃てず動けないようだ。今しかない!

 

「鈴、やれ!」

「分かった!」

 

射線上に出て最大出力の衝撃砲を待ち構える。

 

「ちょっ、ちょっと馬鹿!何してんのよ!?どきなさいよ!」

「いいから撃て!」

「ああもう……!どうなっても知らないわよ!」

 

背中に最大出力の衝撃砲を受け、瞬時加速(イグニッション・ブースト)をした。

瞬時加速(イグニッション・ブースト)は後部スラスター翼からエネルギーを放出、それを内部に一度取り込み、圧縮して放出する事で莫大な速度を発揮する。それはつまり、流用するエネルギーは外部のモノでも構わないという事だ。

みしみしと衝撃砲の弾丸で体が(きし)む音が鳴る。これはしょうがない事だ。シールドエネルギーの残量が60しかない。零落白夜を全力で使うために必要な事だからだ。それに今のままでは瞬時加速(イグニッション・ブースト)が出来ない。なのでこれはしょうがない事だ。

 

「オオオオオオッ!!」

 

俺は……千冬姉を、箒を、鈴を関わる人全てを―――守る!

 

 

ブシュウウウウウウ!!!

 

 

必殺の一撃は左腕を切り落としてオイルのようなモノが吹き出る。しかし、無事な右腕でモロに殴られて背中から地面に落ちた。そして、ゆっくり歩いてゼロ距離で俺にビームを撃つようだ。

 

「「一夏っ!」」

 

大丈夫だって。俺に頼れる友達がいるんだぜ。

 

「……狙うは?」

『完璧だ(ですわ)!』

 

客席からブルー・ティアーズの四機同時攻撃と得意の連続狙撃が正体不明のISを襲う。通常ならシールドエネルギーで絶対防御が発動するが、さっきの零落白夜でシールドエネルギーはない。それに零落白夜を使ったのは遮断シールドを破壊するためでもある。

 

『とどめは任せたぞ』

『了解ですわ!』

 

最後の一撃といわんばかりに胸にスターライトで撃った。容赦ねえ。まあ無人機だからいいのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さすがセシリア。見事に胸のど真ん中を撃った。俺がいた場所は先ほど正体不明のISの攻撃でアリーナの遮断シールドを貫通して観客席に当たった所だ。そこから狙撃していた。一夏と鈴の所まで行き、無事を確認するか。

 

「大丈夫か。一夏、鈴」

「なんとかな」

「わたしも―――わ!」

 

シールドエネルギーが切れたのか鈴のISは待機状態になった。地面に着いていたが突然の事で尻餅をついたようだ。

 

「いたたた……。甲龍のシールドエネルギーが切れかけてのを忘れていたわ」

「大丈夫か鈴?」

「大丈夫よ。あんたの白式もそんなに残っていないでしょ」

「まあな。それより士郎、観客の避難ありがとな」

「当然の事だ。だが、中継室を忘れていたせいで彼女らに危険が及んだ事はこちらに非がある。あとで謝なければな」

 

場所を把握していながら忘れてしまうとは初歩的なミスだ。謝罪をしないといけない。

 

「まあなんにせよこれで終わ―――」

 

 

―――敵ISを再起動を確認!警告!射撃体勢に移行!高出力のエネルギー反応!

 

 

「「「「!?」」」」

 

あれほど喰らってまだ動けるのか!すぐに迎撃してやる!

 

「っ!これは……!セシリア撃つな!」

『なぜですの!今撃たないと一夏さん達に被害が!』

「あいつをモニターしてみろ。お前なら分かるはずだ」

 

一夏にはすでに静止するように腕で合図している。セシリアがISでモニターすると分かったようだ。

 

『士郎さんこれは!』

「ああ。今下手に撃ったらこのアリーナが丸ごと吹き飛ぶ。これでは外にいる人達にも被害が及んでしまう」

「どういう事なんだ士郎?分かるように説明してくれ」

 

一夏は訳が分からないようだ。時間がないが説明するか。

 

「今あのISはどこを切っても撃っても危険な状態だ。だから手出しが出来ない」

「なら避ければいいだろ。あのISは動けないいんだし」

「そうしたいのは山々なんだが外には避難した人達がいる。それにもう時間がないようだ」

 

あのISの構造は知らんがこちらが思っている以上にエネルギーを蓄えているようだ。ビーム兵器はどの国も企業も試験おろか開発していなく空想理論上として出来ていない。どこの誰だか知らんがあのISが再起動した結果、暴走し、過剰なまでの威力を生み出そうとしている。

全身のあちこちから電流が弾けながら桃色の閃光が収束してくる。これは最大威力で撃つようだな。

 

「ならどうするんだよ!」

「簡単な事だ。俺が受け切った後に攻撃すればいい」

 

幸いにも俺にはあの盾がある。俺が知る得る限り、あの最強の盾を。

 

「セシリア!こっちに来て一夏と鈴を守ってくれ!万が一という事もある。そのためにもこっちに来てくれ!」

『分かりましたわ!』

 

すぐに観客席からこちらまで来た。これでいい。セシリアのブルー・ティアーズはさほどシールドエネルギーが減ってはいない。なので一夏と鈴は無事になりそうだがセシリアは多少かそれなりのケガになるだろう。俺は重傷だな。

 

「………………」

 

今にでも撃ちそうな状態だ。方角では避難した人達の方角ではないが貫通して街に被害が及ぶ可能性がある。なので受けきらなければならない。

 

「――――――」

 

恐怖などない。失敗などしない。俺は……守ってみせる!

 

「!」

 

最大出力のビームが右腕から放たれる。地面が融解しドロドロになる。この一秒とも満たぬその間に、そっと目蓋を閉じて。

 

「―――I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)

 

()()から最強の盾を出す。最大出力のビームはどれほどの威力は分からんがアリーナの遮断シールドを貫通する威力だ。生半可な物では防ぎきれない。

 

 

カッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑君!凰さん!オルコットさん!弓塚君!」

 

真耶がこれ以上ないくらい叫んでいる。あのISから放たれるビームを弓塚が受けきると言っていたが……。土煙でよく見えん。

 

「山田先生あれを見ろ」

「え?……あ、あれは……」

 

徐々に土煙が消えてそこには――――――七枚の花弁のような盾が出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の目の前には盾がある。それは花弁の如き()()()()()

この盾の名は―――

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)―――――――!!」

 

大気を振るわせるかのように真名を叫んだ。

 

誰が知ろう。この守りこそアイアス。

ギリシャ神話のトロイア戦争において英雄ヘクトールの投擲を唯一防いだというアイアスの盾。花弁の守りは七つ、一枚一枚が(いにしえ)の城壁一期に匹敵する。

故に投擲される武具、使い手より放たれた凶器に対しては無敵とされる究極の防壁。

このまま防ぎきればいいのだが……。

 

 

パアン!

 

 

「む……!」

 

一枚割れてしまったか。だが六枚残っている。まだ余裕が―――

 

 

パアン!パアン!パアン!パアン!パアン!

 

 

一気に六枚が四散し、一枚になってしまった。本来なら一枚も割れないはずなのだが、まだ基本骨子の想定が甘かったか。ここで愚痴を言っても状況は変わらん。

今もなお、勢いが緩まない。

 

「ぬ……ぬああああああああ!!!」

 

暴風と高熱を残骸として巻き散らしながらなお最後の一枚に襲いかかる。突き出した右腕が亀裂が生まれ、皮膚には裂傷が出来てくる。両脚は吹き飛ばされないように地面に食い込むように力が入る。

もう少し……あともう少しだけ耐えてくれ、アイアスの盾よ!

 

 

パリン

 

 

最後の一枚が砕けるが、同時にそれはビームが撃ち終えた事にもなった。

アリーナが嘘のように静寂になり、沈黙が支配する。俺とあのISは互いに右腕を突き出したままだ。

 

「今だ!今度こそあいつを倒すんだ!」

「分かった!」

 

俺の叫びに答えたのは一夏だった。すぐに切りかかり、そして―――

 

「!」

 

右腕を突き出したまま無防備に切られ、ゆらりと俯せに倒れる。これで本当に終わったな。

 

「終わりましたの?」

「そうみたいね。って士郎アンタ腕大丈夫?」

 

セシリアと鈴も大丈夫そうだ。今回は何とかなったが次はないだろう。それに全神経を使ったのか頭痛がする。右腕と頭痛が治り次第、投影の鍛錬をせねば。

 

「大丈夫と言えないが大した事はない。適切な処置をすれば大事には至らないはずだ」

「おーい。大丈夫かー」

 

走って一夏がこちらに来る。白式を纏っていないという事はエネルギー切れで待機状態になったようだ。

 

「お前こそ大丈夫か」

「何が?」

「衝撃砲の最大出力をモロに背中に当たったんだぞ。なんともないのか?」

「どこも痛い所なんて―――前言撤回。今痛くなってきた」

 

今かよ。神経が鈍くはないはずだが、あの織斑先生の出席簿を何回も喰らっているのにな。

 

「なんにせよこれで本当に―――」

 

終わったと言う瞬間に通信が入った。相手は……美沙夜か。

 

「どうした。こっちは今終わった所―――」

『そっちに識別不明のISが向かったわ。気を付けて』

「何?」

 

識別不明のISだと?まったく次から次へとよく来るものだ。

 

 

―――アリーナに識別不明のIS侵入。警戒してください。

 

 

「「「!」」」

 

アリーナに一機のISが入ってきたようだ。そのISの姿は……

 

「打鉄?」

 

打鉄全体が黒くなっている。バイザーがあるので搭乗者の顔がよく見えない。

 

「………………」

 

どういった顔で見ているのか分からないが、アリーナ全体を見渡して、セシリア、鈴、一夏、俺の順に見た。

 

「最優先捕獲対象を発見。これより――――――弓塚 士郎を確保する」

 

機械のように淡々と喋り、狙いは俺のようだ。

 

 

 

 

 




次回は黒い打鉄との戦いになります。頑張って戦闘描写を現在書いています。
感想や誤字脱字などがありましたらお願いします。
それと一周年記念の意見が少ないです。少ないままでしたら、こちらが考えた話しを上げます。
意見がありましたら送ってください。
それでは次回もお楽しみにしてください。


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第45話「終結」

一ヵ月ぶりに更新できました。
諸事情で書く事が出来ませんでした。不甲斐ない作者ですがどうぞよろしくお願いします。
では、どうぞ!


狙いは俺か。だがなぜ俺なんだ。普通なら一夏の方だ。織斑先生の弟でISを造った篠ノ之 束博士との交流がある。俺はというと爺さんと父さんが弓道で有名だけだ。価値にすれば断然一夏の方が上。

 

「大人しくこちらに来れば他の者に手出しはしない」

「信用出来ないな。いきなり現れて、はいそうですかと言えるか」

 

しかも識別不明。打鉄は確かに日本で造られた物だが、海外にも少なからずある。ISが世に出てから日本語が標準、英語が準標準と確立しているので搭乗者が日本語で話しても日本人とは限らない。

 

「それに一夏の方が価値がある。なぜ俺なんだ?」

「確かにそこにいる織斑一夏に十分過ぎるくらい価値はある。しかし、同等又はそれ以上にあなたに価値がある」

「何?」

 

同等又はそれ以上だと?俺は一夏と違って一般人だぞ。ISの関係を持っているのは久宇企業だけだ。それなのに同等又はそれ以上とはどういう事だ?

 

「疑問に思っていますね。なぜ一般人である自分に価値があるのだと。それはあなたが―――」

『そこのIS!今すぐ投降しなさい!』

 

突然聞こえる大声に言葉が途切れる。アリーナには続々と教師部隊が入って来る。ラファールのみのオールラウンダーで全距離対応した編成部隊か。

 

「少し待っていただこう。話しをつけてくる」

「お、おい」

 

再度声をかけたが応答はしなかった。通信を切ったのか。

 

『名前と国籍、所属している所を言いなさい』

「……………………」

『聞こえないですか。それとも言葉が分からないのですか』

「……………………」

 

言葉は分かるはずだ。さっき俺と普通に話しをしていたから。やはり何を考えているか分からない。

 

『拘束するので警戒してください』

『はい』

 

このまま捕まるつもりか。いや、それはない。なぜなら―――

 

『がっ!』

 

アイツは一度も隙を見せていない。突然の攻撃、近づいて来た教師の一人をアリーナの隅まで思いっきり蹴り飛ばした。動かないようでどうやら気絶したようだ。

 

「なるべく戦闘は避けたかったが、状況が状況。排除してから再度説得を開始する」

『抵抗の意思と断定!全員戦闘態勢!』

 

教師部隊はそれぞれ武器を取出した。アサルトライフル、マシンガン、ショットガン、ハンドガン、グレネードランチャー、シールド、近接ブレード、ヒートブレード、ショートブレードなど多くの武器武装が見受けられる。

IS学園の教師は知識もそうだが操縦技術は最低でも代表候補生と渡り合う事が出来る実力者である。どう考えても勝てる見込みがないと普通は思えてしまうが黒い打鉄はそれを覆している。

 

「………………」

 

僅かにある弾幕の隙に飛び込み、少しずつ前に進む。それはまるで当たらないのが当たり前のように。

 

『あ、当たらな―――ぐあ!』

『掠りもしないなんて……う!』

『なんなんだこのパイロットは!?』

 

実力者である教師達を次々と倒していく。アイツが使っているのは近接ブレードだけだが、ただの近接ブレードではない。

 

「は!」

 

振り払えば斬撃のようなモノが出る。その正体はエネルギー波。アイツの近接ブレードはエネルギーブレード。セシリアのブルー・ティアーズ(ビット)を近接ブレードにしたようなモノだ。イギリスがレーザー兵器を開発する以前に存在していて、使われていたのは第一世代だけ。使い方としては通常の近接ブレードと同じだが、チャージして振り払うと今のようにエネルギー波が出る。射程は中距離までなのでエネルギーブレード一つだけで至近距離から中距離まで戦闘が可能。

しかしこれには問題があった。それは重量が重い。ISには補助動力があってそれによりある程度なら生身で使っているのと変わらない。エネルギーブレードはその補助動力の許容範囲を超えているので動きにブレが生じる。そこまで重くなるのは動力のエネルギードライブが原因だ。当時の日本代表であった織斑先生の専用機の武器、雪片を造ろうとしたが結局出来なかったのでせめてそれに近い物を作る事になった。エネルギードライブは雪片の特殊能力を真似るような物なので必然と重くなってしまった。最初こそはそれなりに使われて、改良も施されたが、第二世代が登場すると境に次第に使われなくなっていった。

だが近接ブレードに限っては雪片に次ぐ威力である。

 

『こんな……わけの分からない者に……』

 

残っていた最後の一人が気絶する。教師部隊八名全員がアイツ一人に負けた。決して先生達が弱いわけではない。アイツが強過ぎなだけだ。使っているエネルギーブレードは学園にあるデータベースで見た事がない。恐らくオーダーメイドのようなものだろう。それにエネルギードライブが小さい。知る限りでは小さい物で辞書二個分なのだが、アイツのは辞書一個分にも満たない。誰が何の為にそこまでしたのか分からないがこちらが知る技術を上回っているのは確か。

 

「さて。こちらは片づきました。考えてくれましたか?」

「……ああ。実力は明白、加えて今の俺は状況が不利。負ける確率が高い」

「ではこちらに―――」

「だが、そちらに行く理由も必要性もない。せっかくの誘いだが断る」

「………………」

 

まったく。なぜ知りもしない相手に誘われ、行かなければならん。状況は不利には変わらない。シールドエネルギー残り四割弱。無鉄の右腕多数損傷しているがまだ大丈夫。生身の右腕は裂傷などあるが出血は止まっている。このままではいかん。

設定変更。絶対防御数値、最小限。拡張領域(バススロット)にある武器を全て廃棄。競技用リミッターは継続。

戦闘は全て投影ですればいい。拡張領域(バススロット)にある武器を展開するより投影の方が早い。

 

「では――――――無効化して連れて行きます」

 

直後にエネルギー波が襲う。が、それは想定済み。

 

「………………」

 

右腕を突き出し、再び熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)を出す。威力は先程の正体不明のIS以下でセシリアのビットより以上くらいか。一枚も割れないのは牽制程度だからか。

 

 

 

 

 

 

土煙が上がる。さっき出した盾のような物は士郎が俺と鈴を守ってくれた盾だ。

 

「ふん」

 

まだ舞い上がっていた土煙から三本の矢が同時に出て来た。それを黒い打鉄はいとも簡単に弾き落とした。俺だったら絶対当っていたな。

 

「はっ!」

「!?」

 

いつの間にか間合いを士郎が詰めていた。そう、黒い打鉄の懐に。

両手にはいつも使っている白と黒の剣が握られている。それを左肩に白と黒の剣の両方で斬り付けた。

 

「っ!――――――ふっ!」

 

一瞬怯んだが、すぐに握っている近接ブレード?で振り払い、士郎は距離を置いた。

 

「あいつはなんなの。一夏、あいつは一夏と同じくらいしかISを乗っていないんでしょ」

「同じというより少し上だ。俺が白式を貰ったのは一か月前で士郎は二か月前なんだよ。ニュースでもやっていただろ」

「そんな事知ら………一夏がISに乗れたニュースを見て以来見ていなかった……」

 

馬鹿かこいつは。

 

「それにしてもあいつ、士郎ってあんなに戦えるの?」

「ああ。俺と同じで近接戦闘するんだよ。銃はもちろんだけど、弓も使うぞ。今の所、士郎は負けていないんだ。一度も」

「そうですわね。入試試験のISでの戦闘でも織斑先生にも勝っていたと言っていましたわ」

「……マジ?」

「マジだ」

 

千冬姉との戦いでは負けそうになった時に突然、能力(スキル)が発動してそのまま勝った、て言っていたな。今の所は一番士郎が勝って、一番俺が負けている。

…………改めて思うと滅入りそうだ。

 

 

キィィィィンッッ!!

 

 

「「「!」」」

 

金属同士がぶつかり合った音が鳴り、目を向ける。士郎と黒い打鉄が打ち合っている。互いに避け難い場所に狙っているが、それを造作もないように互いに避ける。

舞い散る火花が幾度も出る。それは本気で打ち合っている証拠でもある。士郎との戦いでは僅かしかない。セシリアも同じ位だが俺より少しだけ多い。箒が一番多く火花が出ていると記憶している。

正直士郎が羨ましい。俺は昔剣道をやっていた。IS学園に入るまではしていなかったがセシリアと戦うまで箒に鍛えられて、勘を取り戻した。今も箒に剣道で度々鍛えてもらっている。

少しでも強くなっている。それは今でも思っている。でも、今目の前で戦っている士郎を見るとそれは今の自分では到底勝てないと嫌でも思う。それでも、いつかは勝ってみせる。

 

「なあ。あの黒い打鉄が使っているのは近接ブレードなのか?」

「あれはエネルギーブレードよ。第一世代のISの武装で少数だけど使われていた物だわ」

「ですが第二世代のISが出来てからは見る事が少なくなりましたわ」

「なんでなんだ?」

「重量に燃費の問題ですわ。ISの補助動力を持っていてもバランスを保つのが難しく、燃費が悪かったからですのよ」

「まあ近接ブレードに限っての威力だと千冬さんが使っていた雪片、あんたが使っている雪片二型の次にあるわね」

「へぇ」

 

あんまりISの武器、武装の事は知らない。と言うか鍛える方に時間を費やして、基本的な事を勉強しているので分からない。今度から武器、武装も勉強しないと。

 

「せあ!」

 

士郎が上に高く飛び、両手に白と黒の剣ではなく、違う剣を持っていた。それを黒い打鉄に向けて―――投げた。

 

「………………」

 

投げられた剣を黒い打鉄は移動しながら避ける。なぜなら上では士郎が次々と様々な剣を出しては投げて、出しては投げてを繰り出しているからだ。避けられた剣はアリーナの地面にぶつかると砕ける。偶に避けられないのはさっき鈴とセシリアに教えてもらったエネルギーブレードで弾いている。

 

「―――トレース・オン、オーバーエッジ」

 

そう呟くといつもの白と黒の剣が出てきて、鳥の羽のように大剣と成した。

 

「はあっ!」

「ふ……!」

 

再び金属同士、剣と剣がぶつかり合い、火花を散らして戦闘が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄い。弓塚君がこんなに強いなんて……」

 

真耶が言うのも分かる。現時点で一年の中では強いと確信している。基礎、基本の操縦技術に近接戦闘から遠距離戦闘、加えて天候や大気といった不安定要素も考慮されている。

来月にはドイツから転校生が来るとなっている。昔、私がドイツで教官をしていた頃の教え子が。アイツとはいい勝負が出来そうだ。

 

「それで山田先生。解析はどうだ?」

「はい。ただの黒い打鉄ではないのは確かです。細部が違いますし、何より性能が普通の打鉄とはかけ離れています。解析では性能は第三世代とほぼ同等となっています」

「そうか」

 

突然現れた黒い打鉄。すぐに教師部隊が対応に当たったが、全員が気絶させられた。現れた時からなんとなくではあるがただの打鉄ではないと分かった。すぐに真耶に解析を頼み、たった今終わった所だ。

 

「それにあのエネルギーブレードは私達が知っているより数段上の性能で、エネルギーブレードの中枢部のエネルギードライブもかなり縮小していて使いやすい物になっています」

「だろうな」

 

エネルギーブレード。私が現役で使っていた唯一使っていた武器、雪片の次に威力があると言われていた物。第二世代が登場以降、姿が見えなくなった武器。それを使ってここ(IS学園)に現れるとはどういった事なのか。

 

「あとあのバイザーなんですが、どうやらただのバイザーじゃなさそうなんです」

「何?」

「これを見てください」

 

軽快にキーボードを叩くと画面が変わる。

 

「このバイザーから特殊な電波が流れているんです」

「電波だと?だとするとこのパイロットは」

「はい。何者かに操られていると思います。洗脳もしくはマインドコントロールです」

 

洗脳、マインドコントロールか。ISが登場する以前にそういう事は世界中どこにでもあった。簡単な事だと変な宗教に無理矢理入れさせられたのではなく、自らの意思入ったと事もある。

ISの登場後、当初はそういった事もあったが同時に発足したIS委員会による摘発、内部告発、エージェントによって今では無いに等しい。

 

「壊せばいいのか?」

「そうですね。でも近づく事が出来ても壊す事は……」

「……弓塚にプライベートチャネルを」

「はい」

 

本当なら他の教師に当たらせるべきだが、今は士郎にしか出来ない。一夏と鈴はエネルギー切れ。オルコットは接近戦には向いてはいない。

 

「弓塚、聞こえるか?」

『聞こえます。なんですか?戦闘中で少しでも気を抜くと危ないんですが』

「あの黒いバイザーがあるのは分かるな。あれには特殊な電波が流れてその黒い打鉄のパイロットは操られていると分かった」

『操られている?洗脳という事ですか?』

「そうなる。だがバイザーはお前が思っている以上に頑丈だ。何か威力のある武器で壊せ」

『壊せって……はあ。分かりました。元よりそのつもりでしたから。っとそろそろ切ります』

 

あとは士郎に任せるしかない、か。

 

私達(教師)がやらないといけないのに子供達(生徒)にやらせるなんて。なんでこういった時に限って出来ないんでしょうか……」

「それは私も知りたい。だが、今は子供達(生徒)を信じるしかない」

 

真耶の言葉が嫌というくらい分かる。守るはずの私達(教師)が守られる子供達(生徒)に守られているのが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキン!

 

 

これで八本目。投影で出来た干将・莫邪が砕けた。そこいらの近接ブレードよりは強度はあるんだが。向こうのエネルギーブレードは強度は思った以上に頑丈だ。目的のバイザー破壊もエネルギーブレード位に頑丈だと思うと滅入りそうになる。

 

「はあああああ!!」

「しっ!!」

 

本当にこれで操られているのか?俺には本人の意思でやっているようにしか見えない。だが、織斑先生の言っている事もまた事実。少しばかりおかしい所がある。普通なら頭に何か当たりそうになると人間は咄嗟に庇うのだが、こいつはそれをしていない。防衛反応というものが見受けられない。

 

「「―――――――――」」

 

互いに距離置き、体勢を整える。さて、どうする?

 

 

バッ!!

 

 

「!?」

 

急にあいつが空に上がる。上から見下ろしてこちらをじっと見ている。

 

「はあああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

咆哮した。エネルギブレードを腰だめに構えた。刀身にエネルギーを圧縮させて。

威力は先のゴーレムが放った最大出力より低いか。だが十分過ぎるほどの威力であることには変わりはない。

 

「士郎!」

「士郎さん!」

「士郎!」

 

一夏、セシリア、鈴の声が聞こえる。心配してくれてるんだな。

ああ。ここで諦めてはいけない。なぜなら俺は―――

 

「―――投影、開始(トレース・オン)

 

眼はあいつに向ける。両手を見る必要などない。不思議に投影する物が至極当たり前のように分かる。それはまるで自分の一部のように。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

投影した()()()()をあいつに振るように構える。剣には光が収束していく。

 

「……………………………!」

■■■■■■■■■(■■■■■)!」

 

タイミングは同時。それぞれの嵐が放たれる。真名解放はなぜか自分で言ったのに解らなかった。しかし今はそんな事を考える時じゃない。

 

 

ジジジジジジッッ!!!!

 

 

僅かにせめぎ合うがすぐに崩れた。

 

「はああああああ―――はっ!!」

 

俺がせめぎ勝ったのだ。残りのシールドエネルギーを使い、文字通り全力を出した。

 

「――――――ッ!」

 

瞬く間にあいつは黄金の渦に巻き込まれた。

 

「………………………」

 

アリーナはようやく静かになった。

ようやく終わった……。今にも倒れそうだ……。

 

 

ドサ

 

 

「?」

 

音がした。見ると、黒い打鉄だ。シールドエネルギー切れたの、か待機状態になり、パイロットが、見える。バイザーは、ない。壊せたようだ、な。ああ、もうそろそろ限界だ……。

 

「あ……」

 

糸が切れた人形のように地面に倒れる。かなり疲れた……。瞼が重い……。すこし眠らせて欲しい……。

 

「………………………!」

 

誰かの声がする。多分だが心配してくれているんだろう……。大丈夫だって……。

だって俺は……正義の……味方に……な……る……んだ……。

 

 

 

 

 




感想、誤字脱字がありましたらお願いします。
二、三話したら設定を出す予定です。今まで出た人物を出すのでかなり多くなるので分割した方がいいかな?
では次回もよろしくお願いします。

関係ないですが楽天が日本一になったぞ!これは歴史になったな!


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第46話「加速する謎」

今回はかなり長いです。9000字過ぎので余裕を持って見てください。
原作とは少し違う展開があります。
では、どうぞ!


「はっ!」

 

起き上がると外は夕暮れになっていた。身体には包帯やガーゼが張られていた。特に左腕が厳重に。

 

「あ、起きた」

 

近くに簪がいた。手には本がある。小説ではあるがアニメキャラクターが描かれているようなのでライトノベルのようだ。

 

「簪。俺はどのくらい眠っていた?」

「そんなに寝ていないよ。大体一時間半くらいかな」

 

思ったより寝てはいないと少しばかり驚く。眠りが深かっただけか。

 

「織斑先生から伝言で今日の事は誰にも話すなって言っていたよ」

「当然だろうな」

 

無人機による襲撃。識別不明の黒い打鉄。十分過ぎるくらいな理由だ。

 

「腕痛む?」

「まあ痛むが動かしても問題はない。ただ、完治するまでは部活とISを使った練習、腕立て、腹筋といったトレーニングもしばらくは出来ん」

 

日常生活は大丈夫そうだが、弓を持つのが左腕なので当然無理。ISを使った練習も当然左腕に負荷がかかるので無理。念の為トレーニングもやめておこう。

 

「言っちゃいけないのは分かるけど中で何が起きたの?」

「そうだな。色々省くが、予想外と言った所か」

 

どれ話してもまずいからかなりへし折って話すしかなかった。説明が下手だな、俺は。

 

「あ、一夏達は?」

「――――――ああ織斑一夏ね」

「あ……」

 

とても冷めた声で返事が返ってきた。しまった、一夏の事は禁句だというのを忘れていた。

 

「鈴とオルコットさんは大丈夫だよ。……織斑一夏はなんか倒れたみたいだけど。まあ打撲らしいよ」

「そ、そうか」

 

鈴とセシリアは無事で一夏は打撲か。龍砲を背中にまともに喰らってエネルギー変換をしたから仕方ないか。

 

「時間は大丈夫か。一品だけだが作れそうだ」

「なにするの?」

「料理をするだけだ。小腹を満たす程度の物を作ろうとな」

 

俺は大丈夫だが一夏と鈴は小腹程度空いているはずだ。何を作るかはまだ決めてはいないが小腹を満たす料理であれば何でもいいだろう。鈴は一夏の所にいる可能性が非常に高いから捜さなくても見つかるはずだ。

 

「あ。楯無さん達は?」

「お姉ちゃんと虚さんは生徒会の仕事で生徒会室にいるよ」

 

ご愁傷様です、楯無さん、虚さん。二人の分も作ろう。

ちなみに本音はあの黒い打鉄にやられたラファールを修理の手伝いをしているそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けると鈴が顔に当たりそうに近い。

 

「何してんだ、お前?」

「お、おおおお、起きてたの!?」

「たった今な」

 

身体中が痛い。龍砲の最大出力を背中に受けたのが結構響く。あれしか方法なかったし、後悔はしていないぞ。

 

「あの黒い打鉄のパイロットはどうなったんだ?」

「先生達が連れて行ったわよ。あの無人機ISもよ」

「そうか」

「ケガ人は避難の時に数名でまともなケガをしたのはアンタと士郎だけよ」

「まともって。まあそうだよな」

 

ケガの詳細は俺は背中が打撲。士郎は左腕裂傷に擦り傷などである。

 

「あと試合は無効だって」

「だよなー」

 

あんな大事になったんだ。仕方がないと言ったら仕方がないよな。

 

「なあ、酢豚の話をしたのもこんな夕方だったよな」

「え?」

 

外に映る夕暮れを見て約束を思い出した。小六の時で場所は教室。ちょうど俺と鈴だけにいる時に言われたんだ。

料理が上達したら、毎日あたしの酢豚を食べてくれる?、て夕暮れのように顔を真っ赤にして。

 

「あの約束って違う意味なのか?俺はてっきりタダメシを食わせてくれるんだとばかり思っていたんだが?」

「ち、違わない!違わないわよ!ほ、ほら誰かに食べてもらったら料理って上達するじゃない。あは、あははははは……」

 

そのままの意味だったのか。深読みし過ぎだな、俺。

 

「お前の酢豚も食ってみたいけどさ、鈴の親父さんの料理うまいもんな。また食べたいぜ。こっちに戻って来たんならまた店やるんだろ?」

「あ……その、お店は……しないんだ」

「え?なんで?」

「あたしの両親、離婚しちゃったから……」

 

鈴の表情が暗いので冗談ではないようだ。鈴の両親は誰から見ても仲睦まじく見えていた。中学ではお世話になっていた。そんな仲が良かった鈴の両親が離婚したというのは正直信じられない。

 

「国に帰る事になったのも、そのせいなんだよね」

「………………………」

 

中国に戻る数か月前から鈴がやけに明るく振る舞っていたのを当時俺は気になっていた。

 

「親権は母さんがあるの。今はどこでも女の方が立場が上だし、待遇もいいし。だから……」

 

鈴の顔が一層暗くなる。こんなに暗い顔を見るのは初めてだ。

 

「父さんとは一年会っていないの。ううん。正確には分からないの」

「え?」

 

分からない?どういう事だろうか?

 

「国に帰ってから父さんには電話で話すことは出来たの。離婚したからって電話しちゃいけないって決まりなかったからね。国に帰って慣れた頃に電話かけると……出なくなったんだ」

「それって……」

 

別な女性と。

 

「あんたが思っているのと違うわよ」

「まだ言っていないぞ」

「あんたは顔に出やすいから分かりやすいのよ」

 

そんなに分かりやすいのか?

 

「話しを戻すわ。最初は都合が合わないだけだと思ったの。でも、何度かけても出なかった。不審に思って警察に電話をして家に行ってもらったら……」

「どうだったんだ?」

「誰もいなかったの。それに戻ってきた形跡がないからようやく行方不明と分かったわ」

「なっ」

「今も警察が探しているけどいまだに手がかりの一つもないの」

「……悪い。無神経だった」

「大丈夫よ。父さんはどこか元気でいるわよ」

 

明るく振る舞うがやっぱり暗い表情だ。……よし。

 

「なあ鈴。今度どこかに遊びに行かないか?」

「え?それって、デート……!」

 

ぱあっと明るくなって鈴。それと同時にドアが開く。そのせいで鈴が言った最後に言ったのが聞こえなかった。

 

「一夏さーん。具合はいかがですか♪わたくしが看護に来て―――あら?」

 

出て来たのはセシリアだった。つかつかと足早に入ってきて鈴に詰め寄った。

 

「どうしてあなたが?一夏さんが起きるまで抜け駆けはなしと決めたでしょ!」

「そういうお前も、私に隠れて抜け駆けしようとしていたな」

「そ、それは……」

 

すぐに箒も入ってきた。なんだか賑やかになってきたな。

 

「ぐぅぅ……。二人とも出てってよ!一夏は私の幼なじみなんだから!」

「それなら私も!」

「大体二組のあなたが!」

「……あれ?」

 

そろそろ来るはずなんだけど、中々来ない。

 

「千冬姉は?」

「そういえば……」

「どこに行っちゃったのかしら?」

「さっきまで私達と一緒にいたのだが……」

 

教師の仕事が急に出来たのか?案外そうかも。前に愚痴の二、三は言ってたっけ。

 

「なんだ。随分と賑やかだな」

「お、士郎か。どうしたんだ?」

 

いつの間にか士郎が部屋にいた。左腕を見ると痛々しく包帯が巻かれていた。

 

「小腹が空いていると思って一品だけだが料理を作ってきた」

「おお!ありがとう!ちょうど腹が減っていたんだ!」

 

大皿に熱を逃がさないようにカバーがかけられている。中は見えない。

 

「お前達もどうだ。大目に作っておいたから小腹位は満たすぞ?」

「私は食べるぞ。腕前を再確認したい」

「わたくしもいただきます」

「当然私もよ!」

 

みんなも食べるのか。この前作った士郎の料理はどれもおいしかったから当然だろう。鈴はまだ食べてないんだよな。

 

「今回は中華料理だ。得意ではないからあまり期待しないでくれ」

「へえ。開けていいか?」

「ああ」

 

テーブルに置いて、カバーを外すと……。

 

「酢豚だ!ちょうど食べてみたいと思っていた所だったんだよ!」

「そうだったのか」

 

鈴の親父さんの中華料理を思い出して食べたくなってきてたんだよな。ナイスタイミングだぜ!

 

「いただきます」

「「「いただきます」」」

「遠慮なく食べてくれ」

 

箸を使って肉を取る。箒達も肉を取っている。口に入れると……。

 

「「「「うまい!」」」」

「それは良かった」

 

肉は柔らかく、とても食べ応えがある。噛めば噛むほど肉汁が広がる。

 

「やはりうまい!」

「野菜がシャキシャキしていますわ!」

「一夏と同じくらい家事出来そうね」

 

箒達も俺と同じ感想みたいだな。ああ、ご飯が恋しくなる。

 

「あれ?この味もしかして……」

「鈴?」

 

突然鈴が考え事を始めた。もたもたしていると全部食われるぞ。

 

「やっぱりこの味は……」

 

士郎の近くに行き、テーブルに置いている酢豚を指差した。

 

「これってあんたが作ったのね?」

「ああ。それがどうした?口に合わなかったか?」

 

本場の料理を作っていたから何か指摘でもするのか。味が向上するなら良いことだ。

 

「…………のよ……」

「?すまん。もう少し大きな声で頼む」

 

士郎がそう言うと鈴は怒ったような顔になる。

 

「なんであんたが父さんの酢豚の調理法を知っているのよ!!」

「?!」

 

鈴の親父さんの?そう思えばそうだ。どこかで食べた事のある味、これは確かに鈴の親父さんが作った酢豚だ。

 

「あんた、父さんの事知っているの!答えなさいよ!」

「なんの話だ?全く分からないぞ。落ち着け」

「これが落ち着けらるはずがないでしょ!いいから答えない!」

 

胸ぐらを掴んで揺する。こんな鈴は初めてだ。てか止めないと!

 

「落ち着け凰!どうしたというのだ!」

「よく分かりませんがとにかく一度冷静になってくださないまし!」

 

箒とセシリアが鈴と士郎の間に入り、鈴を士郎から引き剥がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分してようやく落ち着いた鈴がさっき俺に話した事を箒達にも教えた。

 

「そうだったのか」

「お気持ちは分かります。わたくしは一度家族を失った者ですから」

「先走る事も無理はないか」

 

三人とも納得したようだ。士郎の左腕が滲んでいるが大したことじゃないと言ったが鈴はへこんでいる。

 

「ごめん。頭に血が上って。守ってくれた左腕を……」

「さっきも言ったが大したことじゃない。それに家族を失うのは誰でも怖い。俺にはそんな記憶さえ失くしてしまったが」

「………………………」

「それにお前の父親はまだ死んだと決まったわけじゃない。どこかで生きていて元気にしているはずさ」

「そうよね。私の父さんだもん」

 

士郎は記憶ないんだよな。あるのは今年の三月から。

俺には両親の記憶はない。千冬姉は知っているみたいけどきっと教えてくれないだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと半分終わったー……」

「ご苦労様です。今紅茶淹れます」

「うん。ありがと」

 

空が暗くなっている。時刻はすでに八時を過ぎているのに生徒会室に明かりが灯っている。中には生徒会長の更識楯無と会計の布仏虚がいる。この二人は今日起きた全身装甲のISと黒い打鉄の事後処理をしていった。IS学園生徒会とは表では一般の学校と変わらないが裏では表に出せない事をする。今日のような出来事がいい例だ。

 

「それにしても無人機なんて大層な事してくれるわね。やった方は」

「ええ。無人機はどの国も企業も考え付く事ですが、予算や女性権利団体などでやれないのではなく出来ないんですから」

「そうなんだけど。一体送った人は誰なのかしら?」

「さあ。紅茶が出来ました。どうぞ」

「ん……あーやっぱり虚ちゃんの淹れる紅茶は世界一ね!」

「ありがとうごうざいます」

「そういえば、簪ちゃんは友達の部屋に行くって聞いたけど、本音ちゃんは?」

「本音ですか?あの子は先生達が使っていたラファールを整備して疲れて自室で寝ています」

「珍しく真面目ね。何か思いつくかしら?」

「強いて言うなら士郎君が頑張ったからではないでしょうか。あの子も簪さんと同じく士郎君を好きなようですから」

「恋する乙女はなんとやらね」

 

本音が教師部隊が使っていたラファールを整備していたのは士郎が原因である。アリーナから担架で運ばれる士郎を見て本音は驚いた。なぜ担架で運ばれているのかと。

理由は教師に聞いても教えてくれなかった。当然だが。

考えた末にラファールを修理する事にした。教師部隊が使っていたラファールは黒い打鉄によって損傷していた。本来なら二、三年の整備科に任せるのだが、アリーナの修復に人手が取られているので人手不足。一年生に整備を任せるのは心配であったが三年で主席の布仏虚の妹と分かり、任せる事にした。損傷理由は教えてくれないのはもう分かっているので了承はしている。整備を始めて終わるまで黙々と作業をしていたのであった。

 

「あの黒い打鉄のパイロットは誰だか分かった?」

「はい。髙橋(あきら)、日本人です。職業は自衛隊、IS部隊に所属。五月の頭に山岳の訓練中に行方不明。先ほど先生達の連絡で本人が目覚めて聞いたところによると分からないと言ってました」

「分からない?てことは何も覚えてないの?」

「はい。アリーナに侵入した事も戦った事も」

「はあ……。嘘じゃないよね」

「ウソ発見器を付けながら聞いていたので間違いないかと」

 

あの黒い打鉄のパイロットは髙橋(あきら)、日本人。職業は自衛隊、IS部隊に所属。彼女の交友関係から家族関係を調べてたが何もなかった。学生時代は至って普通。自衛隊に就職し、厳しい訓練に耐えてIS部隊に所属することができた。職場では同僚や上司、後輩に慕われている。

彼女が行方不明になったのは五月、今月の頭である。IS部隊でも自衛隊。ISが使用出来ないと想定した山岳での訓練の最中であった。定時に無線で場所を本部に連絡をするのだが彼女一人だけ返事がなかった。不穏に思った上官が部隊を引き連れて最後に交信で言った場所と各隊員にGPSを付けているので場所を割り出した場所に行った。交信で言った場所にはいなかった。GPSで割り出した場所に行ってみるとそこには無残に壊れた無線機と無傷のGPSがあった。他にも所持していた装備一式があった。現場は何者かと争った形跡があったがそれ以外は何も分からなかった。

その後、自衛隊による捜索が行われたが現場にあった物以外は何も見つからなかった。

すでに自衛隊と彼女の家族に連絡済み。後日、手続きが済み次第、身柄を自衛隊に引き渡す事になっている。

 

「でも一番分からないのは」

「はい」

 

二人が見つめるディスプレイには――――――士郎が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園の地下に隠された空間がある。そこにはレベル4権限を持つ関係者以外は入れないセキュリティーになっている。元より学園の地下の事は教師以外、少数の者しか知らない。

 

「やはり無人機です。コアはどのデータベースにもありませんでした」

「そうか」

「黒い打鉄の方はどのパーツも普通ではありません。パイロットの事を無視をしたモノになっていました」

「コアの方は?」

「こちらはありました。日本が所有しているコアで場所は九州にある実験施設となっています」

「では黒い打鉄はそこで造られたのか」

「いえ。今年の二月に爆発事故があったそうです。幸い死傷者はいませんでしたがコアが一つ無くなっていたそうです」

「無くなった?壊れたじゃなくか?」

「はい。無くなったコアは試作ISにあって、事故の時には別な場所にあったので盗まれたとIS委員会に報告。現場検証で何者かがセキュリティーを落として侵入した形跡があったそうです」

 

黒い打鉄。髙橋晶が操縦していたIS。正確には操れてだが。

見た目は至って通常の打鉄と変わりない。そして、解析によってその全貌が明らかになった。普通なら操縦者の事を考えて、つまり安全を考えてISを作るのが基本だ。いかにISに絶対防御が備わっているとしても万が一を想定しており自滅しないように作られていく。

だが、この黒い打鉄は違う。性能が圧倒的に違うのだ。機体構造は見かけだけで中身は全くの別物。速度、防御力、機動性、反応速度、旋回機能、耐久力等あらゆる数値が数倍もあった。その結果、搭乗者の事を考えず造られた事が判明した。黒い打鉄のパーツには文字や番号が書かれておらず、どこで造られたかは不明。

一体誰が何の為に造ったのか。なぜ連れ去った者を乗せたのか。そして、一夏ではなく士郎を狙ったのか。残ったのは謎だけ。

ちなみにエネルギーブレードは士郎が最後に放った攻撃によりボロボロの状態で発見された。当然ながらほとんど調べることは出来なかった。

 

「結局、何一つわかりませんでしたね」

「いや、一つだけある」

「え?」

 

千冬が軽快に操作パネルを打つとディスプレイが映りそこには――――――士郎がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……」

 

医務室から出てしばらく時間は経って自室で一人溜息をつくセシリア。部屋には基本二人一組か三人一組になっている。士郎は特別だが。

で、部屋にいるはずのルームメイトはどこにいるのかというと病院にいる。原因はそのルームメイト自身である。休日に買ったプリンを食べて腹を壊したのだ。

決してプリンが作った会社が悪いわけではない。そのプリンの消費期限を見落としたルームメイトが悪い。しかもおつとめ品で買った物である事を忘れて、消費期限が二週間も過ぎている。当然腹を壊して入院する羽目になった。

なぜそこまでして食べたのかとセシリアが聞くとルームメイトは笑ってこう言った。

 

 

―――食べ物を粗末にしちゃいけないんだよ、と。

 

 

その言葉に思わず涙が出そうなセシリアだった。帰って来たらおいしい料理を食べさせてあげようと心に誓うセシリアだったが、ルームメイトには悲劇が待ち受けていることをまだ知らない。セシリアの料理が壊滅的だということを。

 

「それにしても意外と家族がいない人が身近にいるんですわね」

 

鈴の話を気にしている。セシリアも家族を亡くしている、両親を。今は屋敷に仕えているメイドと執事。それに年上の幼なじみが家族である。家族を失うのは怖い。身に染みて分かっている。例え嫌いな父親でも失うと悲しいと。

でも、鈴は父親の事が好きである。もしかすると自分以上に悲しい思いをするのではないかと心配する。だが。

 

「行方不明であって、まだ死んだとは決まっていません。士郎さんが言っていましたわ」

 

最初こそ仲は良くなかったが今では良き友人が言っていたことを思い出す。友人、士郎に十年間の記憶がない。それ以前の記憶もない。それはいつ思い出すかは分からない。

 

「ですがこれは……」

 

ディスプレイに映っているのは――――――士郎である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この五人が見ているのは士郎。映像には髙橋晶がエネルギーブレードで最大威力を放つ前から始まる。

肝心の映像はこの後。士郎が黄金の剣を投影し、真名解放する際の言葉がである。

 

『カリバーン!!』

 

この言葉こそ五人が重要としている。

 

カリバーン。それはかの騎士王、ブリテンの伝説的君主・アーサー王が石から抜いた選定の剣の名。

それをなぜ投影出来たのか?そう疑問が浮かぶ。投影は見た物、または投影する物の材料を辿らなければ出来ないのを士郎自身が言っていて、無鉄にもそう書かれていた。カリバーンはあまりにも有名であるがどう作られたのかは分からない。話には何度も出ているがどれも石から抜いたとしかない。それをどうやって投影したのか。

 

「「「「「士郎(君・さん)。お前(あなた)は何者(だ・なの・ですか)?」」」」」

 

疑問だけが残るだけであった。

 

 

 

この事は後に判明する。そう、時間が解決する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

「おかえりなさい。今日はずいぶん早いわね」

 

一人の中年男性が自宅に帰宅する。日はすでに暮れて空は暗くなっていて、時刻は午後九時を過ぎている。中から一人の女性の声が明るく迎える。

 

「一山終わったからな。と言っても明日もあるんだけど大まかにな」

「無理はしないでくださいよ。あなたが倒れると私も悲しみますが子供たちはもっと悲しみますから」

「分かっているよ。そこまではするつもりはない。俺も自分の年の事ぐらい知っている」

「それならいいですが。あなたの職業柄だとそれがよくあるのは重々承知ですが心配だという事忘れないでください」

「自分で選んだ道だ。俺は――――――刑事だからな」

 

ソファーにずっしりと圧し掛かり座る。男性は疲れているようだがそれでも明るい顔である。

男性と女性の間には二人の娘がいる。一人は誰もが知る世界で唯一しかないIS学園に入学して、もう一人は小学生。

刑事という職業柄は危険が伴うのは避けて通れない。それに帰るのが遅い。昔、長女に誰ですか?と言われたのが一番のショックであるのは内緒だ。

 

「あの子はまだ起きてるのか?」

「ええ。見て行ったら?」

「そうする。最近まともに見れなかったからな」

 

立ち上がり、次女の部屋に向かう。だが後ろから見るとなぜか尾行のように移動している。

 

「家の中だけにしてほしいわね……」

 

そんな奥さんの呟きは誰も答えてくれない。

 

 

トントン

 

 

「誰ですかー?」

「お父さんだよ」

「お父さん!」

 

部屋から出て来たのは女の子。この男性の娘である。

 

「今日早いね!」

「頑張ってお前の顔を見たかったんだよ――――――真美」

 

男性の名前は鷹月(たくみ)。静寐と真美の父親。いつも帰りは遅いが休日は子供と遊ぶ事を重視している。

 

「この前は悪かったな。急に仕事が入っちまって」

「ううん。お父さんのお仕事は大変だって分かっているから大丈夫だよ」

「ありがとよ。で、お姉ちゃんと二人で行ったのか?」

「二人じゃなくて三人だよ」

「三人?誰だ?」

「男の人だよ」

「……………………なに?」

 

父は思う。男だと?娘の言い方だと年上を指している。だとすると……………………静寐の彼氏かぁ?

 

「真美。そいつは静寐の彼氏って事か?」

「何言っているのお父さん。私の恩人だよ」

「恩人?えっと、なんて言ったけ?」

「もう!ちゃんと覚えないといけないとダメなんだから!」

「すいません」

 

小学生に怒られる大の大人。シュールだ。

 

「いい。ちゃんと聞いてね」

「はい」

「んん。弓塚士郎。私の恩人だよ。ちょっと前からお兄ちゃんって私は言っているんだ。この前の遊園地に行ってくれたんだよ」

「―――――――――――――そ、そうか。それは良かったな」

「うん!でね、お兄ちゃんは…………」

 

その後の話は男性にはよく聞こえなかったそうだ。

 

 

 

 

 

 

「ふう……」

 

時刻は0時。妻と娘はすでに寝ているが男性はベランダで一人タバコを吸っている。

 

「まさか、あいつの息子とは思わなかったな。想像もしなかった」

 

男性は士郎の事を言っているようだ。しかし、なんで驚いているのかは分からんない。

 

「それに()()から十年になろうというのか。時間はあっという間に過ぎるもんだな」

 

アレとは何か。それはなんなのだろうか。

 

「そして、真美が生まれて九年になろうというのか。ふう……。今だに罪悪感がくっ付いてきやがる」

 

娘が生まれて九年。それと同時に罪悪感とは一体何なのか。語られるのはいつになるのだろうか。

 

「それはそれとして。――――――行方不明の自衛隊隊員が見つかったのがIS学園とは驚きだよなー」

 

行方不明の自衛隊。それは髙橋晶の事である。警察も追っていたので必然に伝わったので知る事になった。自衛隊や警察にはIS学園付近の海辺で発見されたとなっている。当然だが黒い打鉄の事は言ってはいないので知らない。

 

 

 

夜は更けて、空はいつも変わらず星々が輝く。

 

 

 

 

 




感想、誤字脱字がありましたらお願いします。
なんでセシリアが映像を持っているのかはISを起動していたからです。一夏と鈴はエネルギー切れで起動していません。なのでISに記録映像として残っています。
次の話が終わったら設定を載せます。半年以上設定なんて上げていなかったのを最近気づきました。
では次回もお楽しみにしてください。


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第47話「オオアマナ」

遅れました。
本当はこの一話にしようと思ったんですけど長いので分割にして明日の朝もう一話更新して設定を上げます。
それではどうぞ!


アリーナでの戦闘から数日が過ぎた。無人機と実験中の機体が暴走した、黒い打鉄は機体制御ができなく墜落したと公表された。二、三日ほど世間が騒いだが、今ではすでに過去の事のように誰もその話は出てこない。アリーナは今でも修復作業は行われているが近い内に直るとなっている。

 

「うむ。順序は一通り覚えたようだな。あとは自分でアレンジしてみろ」

「分かった。すまないな、休日なのに時間を割いてしまって」

「大丈夫だ。トレーニングが終わってからは基本暇になっている」

 

で、俺は箒に料理を教え終わった所である。アリーナでの戦闘の翌日に箒に料理を教えてほしいと言われた。理由を聞くと一夏に味なしチャーハンを食べさせてしまった、ということ。

少しだけなら作れるそうだがちゃんとした物は一度も作ったことがないそうなので簡単な料理から教え始めた。同時に調理器具の使い方も教えた。なにせ野菜や魚を切る時なんかまな板がダンッ!と音が鳴るくらい力一杯に切ったんだぞ。まな板もそうだが包丁が欠けそうで危ない。料理を教える前に調理器具の使い方になるとは驚きだった。

でも、今では料理は一人で出来るようになった。スポンジが水を吸収するかのようにドンドンと覚えるので思ったより上達が早いし、小まめにメモを取るので教える身としては嬉しい。

今日は唐揚げを教えた。調節も大切だが揚げ方も大切だ。普通に一度だけで揚げるとベタベタになるが二度揚げる事によって中ジューシーを保ちつつ外サクサクになる。順序は一通り教えたのであとは箒自身がどうアレンジをするかが楽しみだ。

 

「もう十分に料理が出来るようになったんだから一夏に食べさせたらどうだ?喜ぶはずだ」

「それは近い内にする。一夏は放課後も訓練をしているから時間はないから昼に弁当を渡そうと思っている」

「弁当か。それなら冷めてもおいしいように工夫しないとな」

「うっ。私に出来るだろうか……」

「今まで教えて来たのを復習すれば大丈夫だ。自信は持っていいぞ」

「お前がそう言うのなら大丈夫なのだな。では部屋に戻る」

「ああ。分からないのがあったらいつでもいいぞ」

 

作った唐揚げは昼に食べるそうで持って行った。本来なら剣道部があるはずだが顧問の先生、藤ねえが設備点検で使えない事を伝え忘れて急遽休みになったそうだ。明日は日曜なので部活はないが自主練をするそうだ。

 

「はあ………暇だ」

 

本当なら無鉄の調整や試作武装を試すはずなんだが出来ない。

理由は無鉄が整備中だからだ。

無人機に黒い打鉄と連戦でボロボロになったが自動修復でなんとかなるのだが、念のため久宇研究場で検査してもらった。検査の結果は大丈夫だったが、いい機会なのでオーバーホール、つまり全解体して隅々まで見る事になった。なので今俺には無鉄がない。戻って来るのは明日の夕方になるそうなのでそれまでIS学園から出れない。街に出かけ、食材を買う事が出来ないのは残念だが諦めるしかない。

 

「そうだ。今日は本音達が訓練機で練習する日だ。アドバイスぐらいだけだが行っても大丈夫だろう」

 

訓練機一つで複数で使うのはそう珍しくはない。IS学園には多くISがあるがそれが全て生徒が使えるわけではない。

例えばこの前の黒い打鉄の時に対応した先生達が使用するように非常事態に備えて何機か出撃待機している。数は知らないが十機以上なのは確か。それを引くと一気に数が減るので必然的に生徒で使えるのが少ない。なので一つの訓練機で複数で使うのはなんら珍しくもないという事だ。ちなみに使うには申請しなければいけない。しかも紙が多いので書くのが大変だと箒が言っていた。

専用機持ちは自分達のISを使うだけなので使えるアリーナを把握するだけ。

 

「その前に弓道場に行くか」

 

腕はすでに完治したが念のため休めと美射部長に言われたので弓道が出来ない。的張りでもしようと思ったんだがとにかく休めと強く言われたので雑用も出来ない。なのでここ数日の放課後は暇になった。完治した後はトレーニングで鍛えているのでそれほど衰えていない。だが、感覚は実際にやらなければ分からない。

とはいえ、言った所で怒られるがオチなのでデザートを渡すだけにする。それぐらいは(おこ)りはしないはず。

 

「量はこれで十分。人数分と予備も揃っているから不備はない」

 

弓道場に行くか。デザートが少々重いが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「持ち手が緩い!しっかり持て!」

「的完成!」

「ずれてるよ」

「やり直しだー!」

「少し的を下にした方がいい。そうそう」

 

やっているな。俺もせめて的張りだけでもしたい。

 

「あ、士郎君。どうしたの?」

「よ、正弓。実は―――」

「何をしている士郎!」

「「「ひっ!」」」

 

突然の怒号。そのせいか何人か怯えた。二、三年生の先輩を含めて。

 

「的張りも雑用もしてはならんと言ったではないか!」

「まだしてませんし、しません」

「なら何しに来た!」

 

美射部長は弓道となると厳しい。これが良くも悪くあるんだけど。邪魔になるのはこちらとて嫌だから早めに済まそう。

 

「これをどうぞ。人数分あるので分けてください」

「む、中身はなんだ?」

「デザートです」

『!』

 

なんだろう。弓道場が一気に静かになった。怖いくらいに。

 

「ああ、部長。休憩にしません?そろそろ時間ですし」

「そうじゃな。頃合もよい、休憩にしよう」

『やったー!』

 

歓声というくらいに喜ぶ。そんなに部活きつかったのか?

 

「士郎君私にちょうだい!」

「私が先よ!」

「いや、私が!」

「えっと、私が……」

「「「どうぞどうぞ」」」

「ふぇ!?」

 

なぜに漫才している。そんなこんなで全員に配り終わり、渡したデザート―――豆乳プリンを食べている。

 

「甘い!そしてヘルシー!」

「ああ。久しぶりに食べた~」

「士郎君の作るのは全部おいしいよね!」

「うんうん分かる!」

「でも、私達女子よりうまいとなんか悔しいわ」

「あたしは気にしないけど?」

 

豆乳プリンはそれほど難しくはない。豆乳、砂糖またはグラニュー糖、粉ゼラチン。これで十分。好みによっては生クリーム、バニラエッセンス、黒蜜、杏子などある。料理する者によってそれぞれバランスも味も違う。注意すべきするとしたら、冷やす時間を間違えない事だ。早過ぎると液体で遅すぎると固くなり過ぎて味がダメになる。

 

「よ、士郎。元気か」

「元気も何も腕が完治しているのにやる事が限られていますから暇ですよ」

「まあそうだよな。お前のISは修理中だし、部長には念のため休めって言われているからそれは暇になるな」

 

声をかけてくれたのはマナ先輩だ。

 

「今日は部活がきつかったんですか?」

「ん、どうしてだ?」

「みんながデザートの事を言ったら目が怖かったんで」

「ははは……。部活はいつも通りだ。お前のお菓子が欲しかっただけだよ」

「そうなんですか。それは嬉しい」

「結構抑圧されていたようなもんだからな。お前が雑用もしないように部長が言った日から」

「はい?」

 

少し怖いが聞いてみよう。

 

「それはどういうことですか?」

「お前のお菓子だよ。週に三回ぐらいお菓子かデザート作って持ってくるだろ。それがお前が来なくなったイコールお菓子&デザートが食べられない。これ以上言わなくても分かるだろ?」

「なるほど」

 

女子は甘い物が好きだとよく聞くがここまでとは。しかし嬉しいものだな。そこまで思ってくれるのが。

 

「お菓子かデザートなら大丈夫そうなので来るようにします」

「そうしてくれ。チカと正弓だけならともかく弓道部のほとんどがうるさくて敵わないよ」

 

俺がいない間に色々と苦労しているようだな。顔出しでもしとけばよかったか。

 

「それじゃ部活頑張ってください。俺は他の所に行くので」

「そうか。早く部活に出れるといいな」

「まったくです。それじゃ」

 

弓道場から出る。さて、本音達の所に行くか。

場所は確か、第四アリーナだったか。何人で練習するかは聞いていない。練習するのにそこまで聞くのは無粋だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナの中は土曜という事もあるのかそれほど多くはいなかった。見かけない女子もいるようで二、三年生の上級生だろう。

 

「よ。頑張っているな」

 

本音達はすぐに見つけることができた。集まっているメンバーは本音を含めてえーと……四人か。

 

「あ、士郎どうしたのー?」

「練習すると聞いていたから見に来たのさ。ついでにアドバイスをしに」

 

やるとしてたら無鉄を使いたいが、今手元にはない。出来るのはアドバイスだけ。それでも彼女たちには多少なりともプラスになる。

 

「やっほー士郎君」

「調子はどうだ清香。ISには慣れたか?」

「まあまあかな。まだ飛べないけど歩行ならね」

 

ガシャンガシャンと音を立てて来たのは打鉄を纏っている相川清香。本音といつもいるメンバーの一人だ。部活はハンドボールだったか。

あとの二人は癒子とナギだ。

それにしてもISスーツは水着のように見える。女子なら気にしないが男子()は気にする。ボディラインがはっきりするのでまともに見れない。

 

「士郎君も災難だったね。専用機が修理する事になって」

「正確にはオーバーホールだがな。先月は忙しくて時間が取れなかったからしょうがない」

「それより癒子の番だよ。時間はまだあるけど一通り回せないと」

「そうだね。じゃ士郎君。アドバイスお願いね」

 

打鉄から降りた清香のあとに癒子が乗った。ナギと本音はすでにしたそうだ。

 

「歩行は問題ない。だが、あまり慎重にならずに普段歩くような感じの方がスムーズに歩けるぞ」

「了解。お、よっと。本当だ。いつものように歩いたらさっきより良くなっている」

 

ISに乗るとどうもぎこちなく歩く者が多い。ISだからと大丈夫だと思うのだが頭のどこかで危ないと意識してしまうのでぎこちなく歩いてしまう。例えば慣れない靴を履ているような感じか。

 

「その調子だ。それじゃ次は――――――」

「ちょっとなんなの!」

「そっちがやったんでしょ!」

 

もう一つアドバイスをかけようとしたら大声が聞こえた。一年の顔は大体覚えているが見慣れない。恐らく上級生なのだろう。上級生同士での喧嘩のようだが学年は分からない。

 

「ケンカみたいだね」

「関わりないようにしないと難癖つけられそう」

 

清香とナギがそれぞれ言っている。ナギの言う通りに関わらない方が得策だな。難癖付けられるのは(しゃく)だ。

 

「ねーね―士郎」

「どうした本音?」

「あの先輩達、ISでケンカしないよねー」

「さすがにそれはないだろ。俺達より学年は上だ。ISでの模擬戦なら周りに言ってからするはずだし、なによりケンカで使ったら先生達に大目玉を喰らうぞ」

「そうだよねー」

 

模擬戦なら周りに言わなければならない。これはアリーナのルールの一つでもある。さすがにISを使ってまでケンカするとは思えないが。

 

「やっていない言っているでしょ!」

「嘘つかないでよ!さっきから邪魔して!」

 

収まる所かドンドンヒートアップしてくる。これはさすがにまずいと思ったのでアリーナの管制室にいる先生に連絡を入れようとした時、それは起きた。

 

「きゃ!?」

「なっ!癒子大丈夫か!」

「大丈夫。絶対防御で守られたから」

 

信じられない事にケンカが始まった。しかもISを使って。流れ弾が癒子に当たったが絶対防御で守られた。

 

「はあああああ!」

「このっ!」

 

使っていたアサルトライフルを互いに捨てて、近接ブレードで接近戦に切り替えた。

 

「ここから早く出るぞ。さっきみたいに銃撃戦になったらタダじゃ済まない」

「そうだよね、早く出ないと」

 

清香はナギの手を引っ張り走る。俺と本音も走って出入り口に向かう。その後ろに癒子が前方にいる俺達を守るように走っている。

その間も先輩二人は戦いをしている。クソ、上級生ならISはどういうモノか知っているはずなのに……!

 

「あう!」

「うおっ!?」

 

躓いて本音が転び、癒子は踏まないように大きくジャンプする。不謹慎だがいい反応である。

 

「大丈夫か、ほ――――――」

 

 

ドクン

 

 

世界が凍ったかのように見える。

 

何かが本音に迫っていた。それは近接ブレードの一部だ。

滅多にない例だが近接ブレードが壊れる事がある。点検しても金属疲労は分かりにくいもので、そのため発見するのも難しい。

それが今起きた。

何度も打ち合ったせいかどちらかの近接ブレードが折れたのだろう。最悪なのはそれが本音に向かっている。

 

「―――――――――」

 

本音が死んでしまう。

ならどうする。

間に合うのか。

助けられるのか。

 

 

俺は―――倒れている誰かを見捨てることなんて出来ない。迷うこと必要はない。ならどうすればいいかもう分かっている。

 

「本音!」

 

全力で駆けだした。無鉄がない俺は破片を防ぐ術がない。

ならせめて倒れている本音を助け――――――

 

 

バシャ!

 

 

「…え」

「あれ?」

 

本音の顔にナニカがついた。アカイミズのようでどこかでミタコトがある。

 

「なんだ、コレ……」

 

身体の一部がナイ。そこからアカイミズが出ている。ああ、これは血か。

 

「し……ろう?」

 

顔を汚してしまった。これじゃ、虚さんに怒られるのは間違いない。あの人は怒ると容赦ないから覚悟しないと。

 

「……そうか。なんて間抜けなんだ、俺は」

 

本音を突き飛ばしてことはできたが、俺は避けることが出来なかったんだ。そして破片は俺に当たって、勢いもありごっそり腹をもっていかれてしまった。

 

「ごふ!」

 

こんな時に失敗するなんてザマ。らしくない。こういう大一番に限って失敗とは。

 

「士郎!士郎!」

 

立つこともままならず、本音に寄り掛かる。余計汚れるけど済まない、上手く立てないんだ。

 

「いやだよ!死なないで!」

 

顔が見えない。視界が赤一色に染まっっている。

 

「きゃああああ!」

「早く来てください!死に掛けているんです!」

「何……あれ……」

 

周りにも迷惑かけている。ああ、こうも上手くいかないなんて。

 

「士郎死なないで!」

 

声だけだが泣いているんだろうな。ごめんな本音。

だけど、本音が無事で良かった――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

気が付くと俺はどこかにいる。

周りを見るが透明なのか白いのか、それとも元々色がない所なのか。とにかく訳が解らない所に俺は立っている。

 

「おい少年」

 

不意に声をかけられて振り向く――――――

 

「!」

 

が、突然の突風で視界が遮られる。目を開ける事すらままならない。

 

「ここは……」

 

風が止み、目を開けると白い花に囲まれていた。

 

「この花はオオアマナ。花言葉は潔白・純潔・無垢だ」

 

その中に一人、白いライダースーツのような服を着いる女性がいた。かも当然のように立っている。

 

「あなたは誰だ?」

「私はザ・ジョイ。戦うことに喜びを感じる女だよ」

「こう言ってはあれですけど変な名前ですね」

「そうだな。だがこれでも気に入っている」

 

そう言って微笑(ほほえ)む。笑顔がとても似合う。

 

「ここはどこですか。いきなりここにいるのが分からないんですが」

「はっきり言うとここは夢の中。お前のな」

「俺の?」

「と言っても私が無理矢理入り込んでいるだけだ。夢というのは同じものばかりではない」

「そうですよね。でもなぜ俺の夢の中に無理矢理入ってきたんですか?そもそも夢に入れる機械あるんですか?」

 

人の夢に入れる機械があるとしかない。一体誰が。

 

「機械ではない。私は幽霊だから他人の夢に入れる」

「は?」

 

幽霊?あのうらめしやーというあれか?

 

「早く成仏しろよ」

「中々気に入っているので成仏するのは惜しい。すでに四十年以上も過ぎているからな」

「もはや怨霊になるぞおい」

「私以外にも幽霊や怨霊がいるが脅したりと色々していたら怨霊が恐れる幽霊となっているから大丈夫さ」

 

なんだそりゃ。あんたは生前何をやっていたんだよ。

 

「それよりお前に少しばかり話したくて来た」

「俺に?なぜ?」

「ちょっとした世間話みたいなものだ。それに私一人ではない」

「やあ。遅れて済まない」

 

振り向くとそこには眼鏡を掛けた男性がいた。

 

「私はザ・ソロー。ザ・ジョイの夫だよ」

「幽霊夫婦か。もうどうにでもなれ」

 

ツッコンだら負けのよう気がする。聞くのは止そう。

 

「ちょっとした世間話と言うのはお前の事だ」

「俺の?」

「記憶がないのだろう。しかも一つも」

「まあそうですけど。それがどうしたんですか?」

「私とザ・ジョイは君の事を知っていると言ったら」

「なに?」

 

俺の事を知っている?だったら教えてほしい。俺は何をしていたのか。

 

「だが教えない。これはお前自身が思い出さなければならない」

「……理由は?」

「色々あるが自分で思い出した方がいい。無理に思い出すのは脳に負担が大きいからさ」

 

脳に負担がかかるのか。ただでさえ記憶がないのに脳に負担がかかっては元も子もない。

 

「む?そろそろ時間か。案外早いな」

「睡眠ならともかく意識を失っていたからしょうがないさ」

 

周りを見るとさっきまであった白い花、オオアマナが一つ一つ消えていく。

 

「ヒントを一つだけやる。あとは自分で調べろ」

「分かりました。それでヒントは」

「一回しか言わないからよく聞け。―――お前の曾爺さんだ」

「なんでさ?」

 

爺さんじゃなくて曾爺さん?とにかく忘れないようにしないと。

 

「時間だ。じゃあな、また来れたら来る」

「戦士の魂は……常に君と共にある」

 

白い空間だけになり、二人の姿が薄れていく。

 

「あ、一つ言うのを忘れていた。

お前は影に守られている。それと闇に気をつけろ」

 

その言葉を最後に視界全体が白に染まった。

 

 

 

 

 

 




感想・誤字脱字がありましたらお願いします。
ちなみに明日更新する話と今日の話を合わせると10000字数を超します。
読みにくいですよね。


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第48話「修復」

予定通りに更新しました。
修正していたら昨日の半分くらいになりました。
では、どうぞ!


「ま――――――」

 

 

ゴッ!

 

 

「でぃっ?!」

「みにょ?!」

 

いってええええ!なんだ、一体……。鉄でもぶつかったのか。

 

「いつつつ。あれ、本音?」

「うーいたいよー。あ」

 

どうやら俺は本音と頭をぶつけたようだ。ポカンとした本音だったが表情が変わってきた。

 

「う、あ……」

「ほ、本音、どうした?」

 

なぜか分からないが涙目になってきている。俺なにかした?

 

「うわああああ!良かった、良かったよおおおおおお!」

「え、や、ちょっ……」

 

思いっきり泣き始めた。というか号泣している。俺が寝ているベットに来てベッタリと、くっ付いて。

なにをした。俺は何をしたんだ?

 

「どうしたのほん……ね……」

 

中に入ってきたのは簪だった。ちょうど良かった!

 

「簪、本音が急に泣き始めたんだ。何か知っているか?」

「ふぇ……」

「え?」

 

ま、まさか……!

 

「うわああああああああ!」

「なんでさ!」

 

なんで簪まで泣くんだ!訳が解らん!というか簪も俺が寝ているベットに来てベッタリと、くっ付いる。

 

楯無さん達来るまで終始、泣き続けた簪と本音だった。そのせいで身体が涙と鼻水でベトベトだったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

「それで楯無さん俺はどうしてここに寝ていたんですか?」

 

ここはIS学園にある医療施設だそうだ。部屋には本音、簪、虚さん、楯無さん。それに癒子、清香、ナギの計七人がいる。

 

「憶えてないの?あんな事したのに?」

 

はて?あんな事とは一体?

 

「士郎、アリーナで私を守ってくれたんだよ」

「本音を守った?」

 

よし整理しよう。俺は弓道部に豆乳プリンをやって、それからアリーナで本音達にアドバイスをしに来て、それから……。

 

「あ」

 

そうだ。上級生二人がISを使ってケンカをして、逃げていたが転んだ本音を守ろうとして突き飛ばして、俺の腹が裂かれたんだ。

 

「ッ!」

 

僅かに痛みが走る。痛みは腹からだ。見ると―――傷が塞がっていた。

 

「もう治っているのか。さすがIS学園としか言いようがない」

「あ、あのね士郎」

「どうした本音?」

「ここに運ばれて士郎の身体を見た時には――――――傷が治っていたの」

「はあ!?」

 

傷が治っていた?そんな馬鹿な。致命傷といってもおかしくない状態だったんだぞ。それがなんで。

 

「ナノマシン。俺の身体に治療用のナノマシンが入っていたんじゃないのか。それなら納得がいく」

 

ナノマシンは治療用とされている事が多い。なので俺の身体もそれで治っているのが辻褄が合う。

 

「それはないわ。検査したけど身体には一切入っていなかったわ」

「それじゃ、どうやって治ったんだ?」

 

手術する前にすでに身体は治っていた。しかしナノマシンは入っていない。俺の身体、どうなっているんだ。

 

「あのー」

「どうかしたのかしら?えーと……」

「鏡ナギです」

「ナギちゃんね。それでどうしたの?」

 

遠慮がちに手を上げたのはナギ。簪と違って度が入っている眼鏡である。

 

「もしかすると自動修復機能が関係あるんじゃないかと」

 

自動修復機能。どのISにも備わっており、IS本体が損傷を受けても修復される機能である。例えで言えば、ケガをした所が血で固まり、皮膚を再生するという人の身体に備わっている治癒力と一緒。例外としては非固定浮遊部位(アンロックユニット)のモノで鈴の龍砲。あれは本体とは別物とされているので壊れても再生しない。だから、予備がある。

 

「そんなはずは……あるかもしれないわね」

「え?」

「士郎君思い出してみなさい。あなたは誰にも反応しない無鉄を起動させたのよ。それで何らかの原因であなたの身体にも備わったんじゃないのかしら」

「お嬢様。そんな事あり得るのでしょうか。私にはそうとは思えませんが」

「でもこれが一番可能性が高いわよ。虚ちゃんは他にあると思う?あとお嬢様は言わないで」

「……ありませんね。にわかに信じがたいですが」

 

俺の身体にISの自動修復機能があるのかよ。改造人間か俺は。

無鉄と離れていても繋がっているのか。嬉しいようなおかしいような。どっちにしても自動修復機能のおかげで俺は助かったということか。

 

「それじゃ私達は帰るわ。またね」

「お大事に」

「じゃあね!」

 

癒子、ナギ、清香の順に言って病室から出て行った。

 

「あれ?俺は入院なのか?」

「そうだよ。いくら傷口が塞がっていても念の為一日入院しなさいって言われているんだから」

 

本音の言っていることが的確で鋭い一言を言うので言い返せない。悔しいが。

 

「それじゃ私達も……」

「楯無さんと虚さんは少しだけ残ってくれませんか?」

「それはいいけど、どうしてかしら?」

「まずは簪と本音が帰ってから話します。すまない、簪と本音は先に帰ってくれないか?」

「いいけど……」

「でもどうして?」

「無鉄の事でだ。色々と面倒な書類があってな、分からない所を聞くのに時間がかかるからさ」

 

こんなのは当然嘘。話す内容はさっきの夢の事である。簪と本音は裏の事をさほど知らないようだから下手に関わりを持たせたくはない。

 

「分かった。行こう本音」

「うん。じゃね士郎」

「ああ」

 

簪と本音が病室から出て、三人になる。

 

「で、本当はなんなの。無鉄に関しては手続きは終わっているでしょ」

「ええ。その前に虚さん」

「すでに盗聴や近くに人がいないかは確認していますので大丈夫ですよ」

「仕事が早い事で。それで楯無さんに俺の曾爺さんを調べて欲しいんです」

「いいけど、なんで曾爺さんなの?」

「ちょっと自分の家の事を調べようと」

「別に構わないわよ。虚ちゃん生徒会の仕事が終わったら調べましょ」

「分かりました」

「すいません。仕事の途中なのに」

「いいのいいの。お姉さんとして嬉しいから♪」

 

あの二人はなぜ俺の曾爺さんを調べろと言ったんだ。あ。

 

「一ついいですか」

「あら、なにかしら?」

「ザ・ジョイ、ザ・ソロー。聞いた事ありますか?」

「んーないわね。虚ちゃんは?」

「いえ。それがどうしたんですか?」

「知らないなら何でもありません。引き留めてすいません」

 

楯無さんと虚さんが病室から出て行く。いるのは俺だけになった。

 

「美沙夜がすでに報告していると思うが、一応俺から久宇研究場か社長に連絡をしておくか」

 

俺がこんなになったから久宇企業全体が騒いでいるかも。

研究場に連絡がつかなかったので社長の携帯に電話をかけると幽霊やら祟りやらと言われた。

生きてるぞこら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。二人目は大丈夫です。傷が治って、意識も正常です。会話もしていたので大丈夫です」

『そうか。報告を聞いた時は焦ったぞ』

 

IS学園の制服を着ている生徒の一人がどこかに電話をかけている。電話の向こうからは男性の声が聞こえる。

 

「あの時はすいません。私も焦っていたもので」

『仕方ないさ。目の前でそのような事が起きると誰しも焦るのは当然だ』

「ですが本来なら私が守るはずでしたのに咄嗟の対応が出来ずに二人目を危険に晒した事は変わりありません」

『確かにお前は女でISを使える。しかもISに乗っていた。それに対応出来なかったのは何の罰も与えないのは都合が良過ぎる』

「…………………」

 

話の内容は弓塚士郎の事である。二人目というのは弓塚士郎と世界でも認識されている。

 

『お前に対する罰は――――――

 

 

 

     次の休日に帰って来る事だ』

「…………はい?」

『む。通信は良好のはずだが聞こえずらかったか?』

「い、いえ。ちゃんと聞こえていました」

『ならいい。何か問題か?』

「帰るだけが罰なんですか。減給なり行動制限をするなり他にもあるというのに……」

『結果的二人目は大丈夫だった。それでいいじゃないか。それとも自分から責めてほしいとかなのかい?』

「そんなんじゃありません!はあ……分かりました。次の休日に帰ります。国連委員」

『ああ。それじゃまたな、可愛い娘』

 

プツッと電話が切れる。

 

「次の休日、清香とナギの二人とレゾナンスで買い物に行く予定だったけどしょうがないか」

 

次の休日はすでに友達二人と買い物をする予定だったようだ。上司で父親から、次の休日は家に帰る事になった。

 

「ただいま」

「お帰りナギ。本音と清香とのトランプどうだった?」

「全敗。優勝は本音。なんであの子はあんなに強いの……」

「勝負事になると本音は強いわね」

「おかげで私のお菓子は全部なくなった」

「ご愁傷様。そろそろ寝ましょ」

「そうだね。お休み――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        癒子」

 

 

 

 

 

 




感想、誤字脱字がありましたらお願いします。
設定は明日か明後日に上げる予定です。ただ設定が長いので二つに分けるかもしれません。
次回も楽しみにしてください。


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登場人物1

遅れてすいません。
リアルで慣れない環境だったので遅れました。
年末辺りまではなるべく更新したいと思います。
ウィキペディア先生にはとてもお世話になりました。


織斑千冬

元世界最強で現在はIS学園で教師をしている。引退してもなお、その実力は衰えてはいない。一夏と共に両親に捨てられ、自身の力のみで一夏を守ってきた苦労人。

両親の事は知っているが、一夏に両親のことを聞かれても何も答えようとせず、「私の家族はお前だけだ」と一夏に念を押している。

一番古い写真のは一夏が小学校の入学式の写真。それ以前の写真は隠しているか処分されたと思われる。

士郎の発見者の一人。士郎に関することは知らないようだが、それに近いものを知っているようだが。

 

山田真耶

IS学園一年一組の副担任。天然でよくドジをやるが、元日本代表候補で、ISの操縦技術は千冬が認めるほどの高さを誇る。

士郎の発見者の一人でもある。千冬とは日本代表候補生の時に先輩後輩の関係になっており、千冬に少しでも近づくためにIS学園の教師になった。

 

藤村大河

IS学園の英語教師で、剣道部顧問と一年四組のクラスの担任も兼任する25歳の女性。

若くして剣道五段という相当な腕前で「IS学園の虎」の異名を持ち、

学校でのあだ名は「タイガー」。

士郎の祖父、治朗と知り合いだった。治朗が亡くなった後は家を管理していた。当初は家の掃除をしていたが悟郎の友人たちが掃除をしているのでたまにだけになった。

士郎にお姉ちゃんと呼ばせたかったが藤ねえと呼ばれることに。

 

織斑 一夏

物心つく前に両親に捨てられ、その後はずっと姉の千冬と二人で暮らしてきた。両親の顔が分からず、写真すらないが気にしてはいない。幼少期の記憶があまり覚えていないのが気にしている。小学一年から篠ノ之道場で箒と剣道をしていたが、小学四年に上がる前に箒が引っ越したせいか道場に行く機会が減った。それでも、千冬から手ほどきは受けていた。

中学に入ってからは少しでも生活費の足しにするため部活に入らず、アルバイトに精を出していたので腕が鈍った。

IS学園に入学後は士郎や箒、セシリア、時々千冬に特訓、模擬戦、実戦をしていく内に昔の実力を取り戻し、飲み込みの早さで驚異的に成長を遂げようとしている。

 

篠ノ之 箒

実家は剣術道場でもある篠ノ之神社。そのため幼い頃から剣道をたしなんでおり、実力はかなりのもの。一夏とのファースト幼なじみである。

一夏とはIS学園で六年ぶりに再会した。昔、父親の柳韻からの話を思い出し、士郎の父親だと分かると勝負を挑み、引き分けに終わった。

剣道部に所属しているが一夏との特訓のために幽霊部員になりかけていたが、士郎に強さを再認識した。今は剣道部との関係は良好。

幼少期は姉の束のことを慕っていたが、現在はある「事件」を境に束を避けるようになった。その「事件」は束と箒しか知らない。

 

 

セシリア・オルコット

イギリスの代表候補生。イギリスの名門貴族のお嬢様で、過去に両親を列車の事故で亡くし、勉強を重ねて周囲の大人達から両親の遺産を守ってきた努力家でもある。

母親の事を慕っていたが父親の事はあまり慕ってはいなかった。そのせいか、男を見下すようにいつしかなっていた。

最初は一夏と士郎を見下していたが、クラス代表戦後は男に対する認識を改め、クラスに謝罪をする。一夏の事を自分の理想の男性と考え、好きになる。

テニス部に所属している。

実家はメイドと執事に任せている。中でもメイドのチェルシーとは十年前に実家の屋敷に雇われて来たときからの少し年が離れた幼なじみである。

 

(ファン) 鈴音(リンイン)

中国の代表候補生。専用機持ちだが中国に帰国した中学3年からISの勉強を始め、猛勉強の末に1年で専用機持ちの代表候補生になった。

貧乳に最大のコンプレックスを抱いており、指摘されると激怒する。それを過去に一夏に言われて渾身の一撃を放ったことがある。

戦闘力は高く、士郎よりは劣るが動体視力が優れている。

父親と連絡を取っていたが現在は行方不明。士郎がなぜか父親の酢豚の調理法を知っていたので迫った。

 

更識 楯無

ロシア代表操縦者でIS学園生徒会長。二年生。簪とは仲が悪くなっていたのを士郎の協力で、今では昔以上に仲がいい。

肉弾戦・IS戦の双方ともに屈指の実力を持ち、自他共に認める「IS学園最強」。

唯一の苦手は編物。

士郎の失った十年間の記憶を探している所で分かったのが世界のあちこちで姿が確認されているだけ。そのため少々警戒しているため士郎の事を信用はしているが信頼はしていない。

 

更識 簪

楯無の妹で日本代表候補生。当初は打鉄二式を一人で組み上げる予定であったが士郎の無鉄のデータ情報提供により士郎と共に組み上げていき、楯無とのわだかまりの解消後は楯無、虚、本音も参加し、入学後は二年の先輩たちにも手伝ってもらい四月の半ばに完成した。五月に改良を施したので全距離対応になった。

入学前に倉庫で棚の下敷きになる所を士郎に守ってもらい、いつしか士郎に思いを寄せるようになった。

鈴同様に胸にコンプレックスを抱いている。原因は身近にいる人(胸)が大きいため。

最近始くプレイしているのはゲームは恋愛ゲーム(略奪愛)。

 

布仏 虚

更識姉妹の幼なじみ。楯無専属のメイド。眼鏡に三つ編みといういかにもお堅い感じのしっかり者で、本音とは対照的だが、顔立ちは似ている。

ISの操縦はそれなりに上手く、整備の腕は生徒の中では一番と思われる。紅茶を淹れるのがうまく、楯無からは「世界一」と評されている。

士郎とは料理で精通することが多く、料理は士郎が教え、紅茶などの入れ方は虚が教え合っている。

趣味は模型作り。これは母、彩乃の影響によるもの。作るのを邪魔したり、壊されたりすると誰であろうと容赦なく怒る。

現在の楽しみは弾とのメール。

 

布仏 本音

更識姉妹の幼なじみ。簪の専属メイドでもあり、彼女の世話やISの整備を手伝ったりして姉の虚と同じく整備の腕そのものが高い。

士郎のことは仲のいい男友達と接していたが入学前の襲撃で異性として意識し始めた。

いつしかあだ名のゆーみんではなく名前の士郎と呼ぶことが多い。

 

(まゆずみ) 薫子(かおるこ)

IS学園の2年生。整備科に所属しており2年生のエース。部活動は新聞部に所属で副部長を務めている。

士郎と交流があるので格好の取材対象として頻繁にインタビューをしに伺っているが毎度くじで決めるので滅多にできない。

昔からくじ運が悪い。楯無とも仲が良く、彼女を「たっちゃん」と呼ぶ。

父親はフリーのカメラマン、母親は専業主婦、姉は編集者。

 

久宇(ひさう)美沙夜(みさや)

舞弥の娘。久宇企業のテストパイロット。社長の娘だからではなく自分の実力でテストパイロットになった。三組のクラス代表。クラス代表になったのは場の盛り上がりと勢いでなった。

士郎の事は母親の舞弥から話を聞いて、興味を持つ。士郎と接触したのは興味本心。士郎の事を良き友達としており、何一つ悪くは思っていない。

実力は代表候補生以上と言われている。

専用機を持っているが全容は不明。

 

鷹月 静寐

クラス一の常識人。九歳の妹がいる。士郎には入学前に自宅があるアパートが燃えている中、妹の真美を助けてくれたことに感謝している。

真美との話しでは士郎の話題がほとんどで授業よりも疲れている。士郎は恩人として慕っている。

家族は父、母、妹の四人家族で今は違うアパートにいる。父は刑事、母は専業主婦。

 

佐倉京子

IS学園二年生。将来はIS武器・武装開発と考えていて部屋にはIS武器・武装に関する本が多くある。

打鉄二式の製作に関わる。

士郎が38式狙撃銃系統の製作者だと知り、かなり興奮した。武器を作ることを約束して、打鉄二式の改良の際に武器を作れた事を感謝している。

悩みは某魔法少女と名前が同じなのでよくからかわれる。

 

フィーネ・エスタール

IS学園二年生。愛称はフィー。おっとりとして本音と仲がいい。整備・メンテナンスに関しては上位に入る。普段はおっとりとしているが整備をしている間だけしっかりしている。

打鉄二式の製作に関わる。

 

更識 沙織(さおり)

楯無と簪の母親。元楯無で16代目。士郎の父、悟郎とは弓塚家の交流で幼なじみだった。士郎が更識の屋敷に来たときには学生時代の悟郎にあまりにも似ていたので勘違いした。

基本的には優しいが怒るとかなり怖い。夫の孝司とは高校に入ってから出会った。

悟郎と美樹が駆け落ちするのを陰ながら協力していた。二人が亡くなっているのを知ったのは士郎が屋敷に来たとき。

 

更識 孝司(こうじ)

楯無と簪の父親。元一般人でかなりの実力を持つ。沙織に一目惚れをして恋人になるため努力を惜しまなかった。悟郎とは入学式があったその日の放課後に気にくわないと難癖付けて

集団で襲ったが返り討ちにされた。その際に沙織を見て惚れた。

士郎と美樹の駆け落ちの際、沙織と協力して陰ながら協力した。彩乃からの悟郎と美樹が亡くなったことを受けて伏せるように指示した。

 

布仏 和也(かずや)

虚と本音の父親。元殺し屋。いつも無表情だが優しい性格。

雨の中倒れている所を彩乃に助けられ、恩を返すため護衛になる。出会った時にはすでに彩乃は沙織の従者ではなくなっていたが何かと狙われることがあったので雇うことになった。

その内、互いに惹かれ合ってのちに結婚。二人の子供、虚と本音を授かる。

実力は相当な者で例え一般人百人と戦っても勝てる。

 

布仏 彩乃(あやの)

虚と本音の母親。沙織の元従者。沙織が結婚するまで従者になっていたので高校の時に悟郎と美樹の事は知っている。悟郎と美樹が亡くなっていたのは知っていたが当時は問題を抱えて

いたので伏せていて言い出すタイミングがなかった。知っていたのは夫の和也と沙織の夫、孝司の三人。

虚と本音には従者として教育をしていて、虚が理想通りになり、本音が何か抜けているようになった。本音の事はこれはこれでいいと一つの答えとしている。

趣味は模型作り。小さい頃からしていて沙織も知っている。だが、邪魔や壊されたりすると、当時当主であった沙織だろうと教師だろうと怒ったという。

 

久宇(ひさう)舞弥(まいや)

士郎の父、悟郎の元婚約者。婚約を破棄されたことについてはなんとも思っていない。

実はすでに好きな人がいて、婚約が破棄された事が逆に良かったと思っている。

そして、その好きな人は今の夫になり、秘書として支えてもらっている。

現在は久宇企業の社長をしている。

士郎の母、美樹とはとても仲が良かった。

 

久宇亮夜(りょうや)

舞弥の夫で美沙夜の父親。学生時代には舞弥と知り合い、婚約者がいると知り、諦めそうになっていたが、婚約を破棄されたと聞きその場の勢いで告白した。

両思いだと知ったのは告白した後である。

今は舞弥の秘書として支えている。

 

鷹月(たくみ)

静寐と真美の父親。ベテランの刑事でいつも家に帰るのが遅い。静寐がIS学園に入学して寮生活となっているので寂しい。職場では頼りになる存在で何度か事件を解決している。

士郎に関する事を何かしろ知っているようだが不明。最近不審者がうろついていると聞いて真美の事が心配になっている。

 

鷹月 真美(まなみ)

静寐の妹で年は九歳。自宅があるアパートが燃えている中助けてくれたことで士郎の事をお兄ちゃんと呼ぶ。静寐との話の話題はいつも士郎のことで飽きることなく喋り、IS学園での

士郎の事を聞くのが一番の楽しみ。

なにやら秘密があるようだが本人は知らないようだ。

 

谷本 癒子(ゆこ)

IS学園の1年1組に所属。静寐の次の常識人。

一見普通の家庭で育っているように見えるが父親が国際連合の議員をしているので世間ではあまり知られていない事を知る機会が多い。

運動能力は普通の人より高いが目立たないように抑えている。

ルームメイトはナギ。

 

相川 清香

IS学園の1年1組に所属。

ハンドボール部に所属している。部活だけでなく趣味もスポーツの観戦とジョギング。本音といつも行動を共にしているのでクラスで一番仲が良い。

 

鏡 ナギ

IS学園の1年1組に所属。簪と違って度が入っている本物の眼鏡をかけている。勉強は普通で運動は本音より劣る。

ルームメイトは癒子。

 

ラニ・エルトナム

IS学園の1年4組に所属。眼鏡をかけていて褐色肌で紫かかった銀髪。無口なので人と話しているのは滅多にない。

士郎の事を知っているようだが詳細は不明。どこかと連絡と取っているようだがこれも不明。

あくまで噂だが下着を付けていないそうだ。そう、あくまで噂だけで済めばいいのだが。

 

間堂(げんどう)美射(みしゃ)

三年生。高校生で五段錬士という超エリート。「全国高校弓道選抜大会」で惜しくも破れ個人戦2位。弓道部の部長。

弓道の事になると鬼のように厳しいが容姿が整っているためやめる者は滅多にない。

弓道連盟から士郎をしっかり守るように言われている。

弓道部に所属。

 

高橋 (まなぶ)

二年生。愛称はマナ。チカの幼なじみ。理系でデータや知識に基づく理論的な弓道を目指す。

チカの相手だけでも疲れるのに正弓もバカなので苦労人。

士郎がいてくれるだけで助けられている。

弓道部に所属。

 

荒井 (ちから)

二年生。愛称はチカ。マナの幼なじみ。怪力で筋トレ中毒者。

強い弓を使っていている。しかし、力が強すぎるため狙いがずれ、的に中らない事が多い。

弓道部に所属。

 

神崎(かみさき) (いのり)

二年生。美射とは中学からの付き合い。美射のことをお姉さまと呼ぶ。体が弱いが命中精度は二年生の中で高い。

弱い弓を使っているが基礎基本が整っているので非常に安定している。

弓道部に所属。

 

矢澤(やざわ) 正弓(まさみ)

一年生。初日から射法八節の離れをして美射が一番期待している女子。ただし、まだ初心者で体づくりの筋トレを主にしている。

余談ではあるが士郎が来なかった間に弓具店で十万する竹弓を壊した。

弓道部に所属。

 

美綴(みつづり)綾子(あやこ)

一年生。サバサバした性格で男前な口調が特徴。士郎とはかなりフレンドリー。

弓道はIS学園に来てから始めたそうで、それまでは様々な武道武芸を嗜んできていた。弓道部に入ったのは唯一弓道には心得がなかったから。

弓道部に所属。

 

五反田(ごたんだ)

一夏の中学時代からの悪友。実家は食堂を営んでいる。中学時代は一夏、鈴との3人で遊んでいたため鈴のこともよく知っており、彼女をはじめとした女性の想いに無頓着な一夏には

呆れている。士郎が記憶喪失になって初めての男友達第一号。士郎が食堂に食べに来た際に虚に一目惚れをしてメアドを交換してもらえて、時々メールをしている。

 

五反田 蘭

弾の妹。有名私立女子校「聖マリアンヌ女学院」の中等部に通っている3年生で、生徒会長。

一夏に片想いしていて、いざ目の前にいると緊張してしまい、よそよそしくしてしまう。

士郎が街に遊びに来た際不良に絡まれた際に助けられたことがある。

 

五反田 厳

五反田食堂の店主で弾と蘭の祖父。年齢は80を超えているが料理人としては健在で、肌は浅黒く腕も筋肉隆々であり中華鍋を一度に2つ振れるほどの剛腕の持ち主。

食堂を出してすでに五十年以上になる。あまり知られていないが士郎の祖父、治朗とは親友だった。

 

弓塚 治郎(じろう)

士郎の祖父にして悟郎の父。戦後の弓道を普及させた者で弓の実力は十段範士。生涯現役で死ぬまで師範を務めた。実家には剣道場と弓道場があって弓道場で師範をしていた。

生きている間は大河と交流があった。大河は剣道で何度も挑んだが、最後まで一本も取れなかったそうで剣道もそれなりに強いそうだ。

悟郎と比較すると経験の差もあり治朗の方が分がある。だが、将来的に悟郎の方が上だと確信はしていた。

悟郎と美樹が駆け落ちする事は前々から気付いており、駆け落ちした後は不問として代わりに弓道界を世界に広げる事により、世間を次第に忘れさせた。

交友関係は不明だが海外やどこか食堂に親友がいるとか。過去に何度か海外に行った事があるようだが詳細は不明。すでに三年前に故人となっている。

 

弓塚 悟郎(ごろう)

士郎の父。十年前の事故で死んでいるのですでに故人。

お見合い直前に美樹と駆け落ちをした。

駆け落ちした後は各地を転々と渡っていた。美樹の泣き落としで紛争地帯だろうと戦争状態の国であろうと行った。

ある意味苦労人。

 

弓塚 美樹(みき)

士郎の母。旧姓祖川(そがわ)。悟郎と同じく十年前の事故で死んでいるのですでに故人。

考古学者で歴史に詳しい。歴史、その時代に活躍した英雄の話となるといつまでも話しが続く。

ちなみに弓塚の実家にある土蔵の床に文字を掘ったのは美樹本人である。

 

衛宮 春人(はると)

ビデオテープに映っていた一夏に似た男子。

どのような人物か分からないが秋美と仲が良かったようだ。

一夏に非常に似ているので父親という可能性が高いようだが定かではない。

 

織斑 秋美(あきみ)

ビデオテープに映っていた千冬に似た女子。

剣道の大会で優勝を何回もしている。

千冬に非常に似ているので母親という可能性が高いようだが定かではない。

 

エリ・クロード

ビデオテープに映っていた一夏に似た男子で髪は金髪。

かつて幼なじみだったエミリアの護衛をしていた。

卒業後は音信不通のためでもあるが、更識家の情報網をもってしても連絡先が分からなかった。

現在も生きているのかは不明。

 

篠ノ之 柳韻(りゅういん)

箒と束の父親。ビデオテープに学生の頃の姿が映っていた。悟郎とは先輩後輩というより競い合うライバルのような関係だった。

実力はかなりあるとされている。

実家の神社の神主兼道場の師範をしていたが、現在は保護プログラムにより各地を転々としており所在不明。

 

エミリア・オルコット

セシリアの母。勝ち気であるが男女問わずに慕われていた。IS登場以後も男女問わずに慕われ、会社の社長を務め、自ら率先して仕事をしていた。

越境鉄道横転事故で亡くなったとされている。

 

ギーレ・ウィウェール

セシリアの父。昔は執事だった。控えめな性格であるが根性がある。男らしいところが少なかったためセシリアに嫌われていた。そのことに気付いていなく、分からずじまいであった。

妻同様に越境鉄道横転事故で亡くなったとされている。

 

ザ・ジョイ

夢に出て来た女性。

幽霊や怨霊などから恐れられている。

曰く、何百年前からいる怨霊を五秒もかからず、屈服させたとか。

治朗と何らかの関係があるようだ。

 

ザ・ソロー

夢に出て来た男性。

ザ・ジョイと一緒にいて夫婦円満のようだ。

曰く、ザ・ジョイほどではないが幽霊や怨霊などから恐れられている。

忘れたい(恥ずかしい)過去を見せられて悶え死にそうだとか。死んでいるのに。

 

ザイード

遊園地の帰り道で士郎が出会った男。体全身が黒く、顔には髑髏の仮面が付いている。

護衛として士郎の付近に待機していたようで、本人によるとマスターと呼ばれる人の指示のようである。

士郎の事を知っていて、マスターと呼ばれる人は過去に士郎に助けられたことがあるようだ。




これで今まで出た人を出しました。
ウィキペディア先生がいないとこうも書けないとは情けない。
なお、弓道部に所属している間堂美射、高橋学、荒井力、神崎祈、矢澤正弓は射 〜Sya〜から出しました。
次は一周年記念の特別な話になります。現在制作中ですので早くて日曜、遅くて来週の土曜になります。環境に慣れるまで更新が乱れます。
では次回もよろしくお願いします。

ISの設定も上げた方がいいかな?


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エイユウ

かなり遅くなりましたが今回は一周年記念の話です。
この先ネタバレが多いですがまだ確定ではありません。
では、どうぞ!


あいつ織斑一夏と戦ってもう十年になるか。

最初はとんでもなく弱かったが、今ではかつて世界最強だった織斑千冬を越すほどに強くなった。

やはり、あの二人の子ということか。

それとも英雄となるべき者というのか。

 

「ここにいたのね。みんな集まっているわよ」

「分かっている。今行く」

 

そう、今日で何もかも終わる。全てにケリをつける。

 

 

 

 

 

 

ここには日本人、中国人、イギリス人、ドイツ人、フランス人、ロシア人と様々な人種、国籍、等々多くいる。

台座に上り、全員を見る事が出来る。マイクをオンにして話し始める。

 

「いいか。今日で世界と戦い、ちょうど一年になる。すでに多くの友を、家族を、恋人を失っている事を俺は知っている。散って逝った者達に報いるためにも俺達は死んではいけない」

 

世界は俺達にすべての罪を擦り付けてちょうど一年前。突然の宣誓布告、同時に戦闘。準備をしていなかった支部、協力してくれた企業、非戦闘員の家などが襲われた。

最初こそは押されたが、すぐに反撃に転じて戦況を覆した。押したり押されたりと繰り返し一年になった。世界の裏に隠れていたあいつら、闇を同時に殺している。

 

「俺達は勝利を勝ち取るのではない!真実を世界に付き付け、現実を見せる事だ!」

『おう!!』

 

俺達に勝利が必要じゃない。愛国者達のような支配がされていない今の世界に甘い嘘を消して、残酷な今を見せなければならない。

 

「今まで世界に隠れていた闇共も残り僅か!そして、総力戦となる今日、全てが終わる!」

『おう!!!』

 

巧妙に隠れて戦闘に赴いている所を躊躇なく殺してきた。解る者には闇を優先的殺すように指示をして解らない者には通常通り戦闘をするように指示を出している。

 

「決して死ぬなと言っても死ぬ者が出てしまうが敢えて言おう。泥水を啜っても生きろ!木の根をかじっても生きろ!何が何でも生きろ!」

『おう!!!』

 

すでに数えきれないほどの死人を出している。どう死なないようにしても誰かが死んでしまうのは現実だ。非戦闘員でも流れ弾で死んでいるのも。

 

「戦闘開始は一二(ひとにー)〇〇(まるまる)!集合はその十分前だ!それまで各自準備をしろ!解散!」

 

バラバラに散り、それぞれの持ち場に戻る者、遺言を書く者、告白する者、誓い合う者などがいる。

この総力戦でどれほど生き残れるだろうか。一割になる可能性や最悪全滅もある。

願わくば誰一人欠けることなく再び集まって欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ」

「何?」

「この戦いが終わったら、あの人を連れてどこかで三人で暮らさないか?」

 

俺の隣に恋人がいる。もう付き合って十五年もなる。付き合い始めたのは当時十歳。同じ組織にいて、気付いた時には好きになっていた。

 

「うん。そうしよう。お母さんも喜ぶよ」

「そうだな。俺にとってもう家族同然。家族は一緒にいるべきだからな」

 

本当ならこいつの父親、俺にとって恩人と呼ぶべき人はすでにこの世にいない。三年前に亡くなった。

原因は体内のナノマシンが異常になり、ガンになった。余命が一年のはずが五年も生きたのはあの人だからだろう。

眠るようにあの人は静かに亡くなった。

だが、それが決定的ではない。あの人は四十代の時に老人のように急激に老けていた。あの時は驚いた。戻って来たら、誰かと思った。

あの人は遺伝子操作されてそんなに長く生きてられないようにされていたからだ。

 

「それに孫の顔が早く見たいって言っていたから」

「ぶっ?!」

 

な、なんて事をサラッと言っているんだあの母親は……!

たく、お前も恥ずかしいんならわざわざ言うな。顔が赤いぞ。

 

「わ、私もその、赤ちゃん、欲しいんだよ……///」

 

ストレートに言うようになったなおい!

 

「ま、まあ、この戦いが終わったら、その、なんだ。小さくても式をしようと考えているから、それは式が終わってからな///」

「う、うん!」

 

こんな大戦がなければすでに結婚していただろう。実は開戦したあの日は結婚の事を話そうとしていた。それが今日まで言いそびれていた。

 

「話しが変わるが本当に良かったのか?」

「何が?」

「俺がお前の兄と戦う事を」

「………………」

 

こいつの兄は織斑一夏。もう何度戦ったのか100を超した辺りから数えていない。織斑一夏と織斑千冬は今でもあの真相を知らない。知るのは恐らくこの戦いが終わった後になるか。

 

「今度はどちらかが死ぬかもしれない。もしかすると両方死ぬかもしれない。それでもいいのか?」

「……うん。言っても聞かないでしょ」

「ああ。あいつと決着をつかないといけない。それはあいつも望んでいる」

 

今日で何もかも終わる。これから先は、未来は戦争なんてさせはしない。今日で人類最後の流血にしてみせる……!

 

「時間までまだある。それで二人でいよう」

「うん」

 

こいつも戦場に出る。俺より後ろの前線だが危険であるには変わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボス、全員揃いました。いつでも出撃可能です」

「分かった。戻っていい」

「はっ!」

 

ボスか。そう言われてもおかしくないか。俺より年が上の奴なんて大勢いるのにそいつら全員に「お前の方がボスが似合う」て言うんだ。

指揮をするのは確かに上手いと思うが俺でいいのかね。ほんと。

すでに全員、ISと全身装甲のようなロボットを装着している。

全身装甲のようなロボットには男女関係なく乗れる。

名前はブラスト・ランナー。世に出たのはISとほぼ同じ時期だが、白騎士事件でISの方が目立ったのでブラスト・ランナーは世間から忘れ去られた。

ここの組織はISの収集と同時にブラスト・ランナーの研究、開発をしていた。ISは確かに強力な兵器だが、万能ではない。そこを補うためにブラスト・ランナーが必要だった。

ISとは違い、絶対防御やシールドエネルギーがないので死ぬ確率は高いが、それでも十分な性能。基本移動はブースターや歩行、走行だが、オプションの付け替えで空を飛んだり、水中に潜ることが出来る。当然極地対応もだ。

全体としてはISの技術流用をしているので高性能。高い順で言えば、IS、ブラスト・ランナー、既存兵器となる。

男女関係なく乗れるのでISと違って女だけではないので戦術、戦略の幅が広がる。

敵は十年前から研究、開発しているのでブラスト・ランナーに限ってはこちらが優勢。俺達の組織は二十年前から研究、開発をしていたので十年という差はとても大きいといえる。

タイプが多い。汎用性のもあれば分厚い装甲、索敵性能が高いといったモノが数多くある。

 

「行くぞ!今日で全てにケリをつける!」

 

俺は指揮官だが最前線に出なければならない。真っ先に行く必要があるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『弾が足りない!誰かくれ!』

『ぐっ!まだまだぁぁぁぁ!』

『ここまでか。だが、お前も道連れだ!』

『こちらポイントD63-A!至急応援を、があ!』

 

戦いが始まり数時間が経つ。通信が乱れ、敵味方かさえ分からない。分かるのは確実に死人が出ている事。それだけは確かだ。

 

「士郎……」

「分かっている。あそこにいかなければ全てが無駄になる。だから俺達は進まなければならない」

 

破壊すべきモノがある。それを破壊せねばこの世界は終わる。

 

「見えた。あそこだ!」

 

目標に続く洞窟が見える。中には何が待ち受けているのか分からない。だが、それでも進む。

 

「行くぞ!」

「了解!」

 

洞窟に入り、突入する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが……」

「ああ。これが破壊する目標だ」

 

なんともコレはデカイ。想定していたより倍以上。破壊するのは骨が折れそうだ。

 

「やっぱり来たか」

「いると思っていた。織斑一夏」

 

悠然と立つのは織斑一夏。専用機、白式を装着している。白式は四次移行(フォース・シフト)している。世界で初めてだそうだ。

 

「いるのはお前だけか?」

「二人連れて来た。数だと俺達の方が有利だ」

「役に立てればな」

 

傍にいるのは分かる。一人は見知らぬ男。もう一人は―――死んだと思っていた初めての友達。

 

「お前はまだソレが本当に平和のためだと思っているのか」

「当たり前だ。コレは人類にとって重要なモノだと知っている。なのになんでお前達は壊そうとするんだ」

「つくづく甘く、現実を見ない奴だなお前は。ソレはあってはいけないモノ。だから俺達は破壊しに来た。死にたくなければ退け」

「退くつもりはない。それに千冬姉の腕をよくも……!」

「お互い様だ。織斑千冬は利き腕の右腕を。俺は右目を。天秤に賭けても釣り合っている」

 

半年前の戦闘で俺は右目を失っている。織斑千冬が乗っていた暮桜(くれざくら)の雪片の単一仕様能力(ワンオフアビリティー)「零落白夜」で斬られた。しかも競技リミッターなしで。

お返しとばかりに雪片を投影して「零落白夜」で右腕を斬った。

後で分かった事だが、競技リミッターがない「零落白夜」は傷の再生が出来ないと知った。目が少々不自由になるが左目があるので後の戦闘は眼帯をして戦いに挑んだ。

織斑千冬も再生技術が効かないようで前線から身を退いて指揮官になったそうだ。義手を付ければいいのにと思ったが、医者が言うには義手の取り付けもナノマシンが必要となるので当然

出来ないと言っていた。

 

「互いに退けない。なら、戦うだけだ」

「そうだな。こっちにはもう"サーヴァント"はない。そっちにはお前も含めて"サーヴァント"がいるがそれでも戦う」

 

サーヴァント。それは英雄の力を持ったISの事。

何故なるかは定かではないが、ISに聖遺物が混入していた、操縦者が子孫や血をひいている事など言われている。

サーヴァントになるタイミングは一次移行(ファースト・シフト)二次移行(セカンド・シフト)の時になるとされている。

俺の時は二次移行(セカンド・シフト)だった。

 

「なら行くぞ。正義の味方を語る、織斑一夏!」

「お前を倒す。ビッグアーチャー、弓塚士郎!」

 

ここで止まるわけにはいかない。アレを破壊するまでは!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ!」

「はあ……はあ……」

 

戦いは俺達の勝ち。織斑一夏は地面に倒れ、連れて来た男は円夏が気絶させた。

そして、初めての友達は、彼女は――――――俺が殺した。

彼女はあの事件の後、生きていた。ただし、世間にそれが露呈してしまってはいけないのでお偉いさんが安全な場所で過ごし、IS学園にも通っていた。

卒業後はある企業でテストパイロットをしていたがガンになった。もうそんなに生きられる体ではないと。

ナノマシンによってガンの進行を遅らせていたが、それももう限界。

最後は俺に殺されたいためだけに今日まで生きていたと最後に語ってくれた。

 

「では破壊させてもらう。お前はそこでじっとしていろ」

「くそっ……!」

 

持って来た爆薬を出して設置しようとした時、爆発した。

 

「爆薬が!?誰だ!」

 

咄嗟に退避したので大丈夫だったが持って来た爆薬が全て爆発してしまった。

爆発する寸前にナニカが飛んで来たのを見たので飛んで来た方向を見ると気絶していたはずの男が立ていた。

 

「ソレは(オレ)のモノだ。貴様のような雑種が触れて良いモノではない」

 

色が変わっていた。髪は黒から金に変わり、目は赤になっていた。

 

「なるほど。お前、サーヴァントを持っているな」

「ああそうだ。すでに我は持っていた。だが、あいつらは見せるなと煩くて堪らないからしぶしぶこのガラクタで戦っていた」

 

ガラクタとはブラスト・ランナーの事だろう。気絶したのはただの芝居で機会を窺っていたか。

 

「最後までいい見物だ。地面に這いつくばっているその男の様は」

「お前!ブラスト・ランナーのエースだろ!なんでこんなことを!」

「貴様はどこまでも現実を見ないのだな。我は最初から仲間だと一言も言っていない。貴様が知っているのは全て偽物。哀れな道化よ」

 

情報は全て偽物か。正体はもう闇で間違いない。

 

「お前が最後の闇で間違いないな?」

「ふん。そうなるな。で、どうするつもりだ?」

「殺す。お前を殺して、コレを破壊する。ただそれだけだ」

「貴様……」

 

黄金の鎧を身に纏い、空間が歪み、そこから数多の武器が見られる。

剣、刀、斧、鎌、槍等ある。サーヴァントは英雄の力を持つ。どの英雄でもあれほどの量を持つ者はいない。

いや、知っている。担い手ではなく、所有者として。

 

「お前のサーヴァントの正体は今分かった。だから、お前に必ず勝てる」

「口が随分達者だな、贋作。いいだろう、塵一つも残さず消えろ」

 

パチンと指を鳴らし、空間の歪みから三十ほどこちらに向かって来るが、向かって来る三十ほどを投影してぶつければいいだけ。

 

「なに?」

「何を驚いている。防がれた事にか?それとも、偽物が本物と同等だという事か?」

偽物(フェイカー)風情が調子になるなよ。いいだろう。貴様は我自ら葬ってやる!」

 

俺は勝てる。所有者であって担い手ではない。

あいつのサーヴァントは――――――

 

「いくぞ英雄王――――――武器の貯蔵は十分か」

 

人類最古の王、ギルガメッシュ。それがあいつのサーヴァントの正体。

 

「思い上がるな、贋作―――!」

 

"門"が開け、無数の武器を展開する。

最後の激突が開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐは!贋作風情が……」

 

結果的に言えば俺の勝ち。ただ、体は満身創痍。今なら治療が間に合うがそれは出来ない。

 

「妹の事を頼む」

「……うん、分かった」

 

そう言って円夏は織斑一夏と死んでいる■■を連れてここから脱出した。ここにいるのはもう俺と亡骸の英雄王のみ。被害は最小限に留まる。

 

「さて、最後の仕事をするか」

 

目をそっと閉じてあいつが使っている剣をイメージする。

 

「――――――投影開始(トレース・オン)

 

手に重みを感じる。握っているのは勝利の剣。

 

「コレはあってはいけない。これ以上失わないためにも、これから生まれて来る命のためにも、コレは存在してはいけない」

 

目の前にあるコレは禍々しい。ただこの一言に尽きる。こんなモノのために闇共は戦っていたのか。理解出来ん。

そんな事はもう考える必要はない。破壊するだけだ。

 

「さらば、織斑一夏。円夏、約束守れなくてごめん。そして■■、一度も会わずにすまない」

 

最後の言葉を残し、真名解放をした。

 

 

ゴッ!!

 

 

アレから膨大なエネルギーが溢れ出し、瞬く間に飲み込まれた。被害はここだけになるので犠牲は俺だけなる。

痛みはない。いや、すでに満身創痍なのか神経が麻痺して痛みを感じない。

 

「ふ。悪くない人生だったな」

 

これで俺は終わる。間違いなく地獄行きだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから一ヵ月から過ぎた。

あの場所は完全に崩落して原型を留めていなかった。

俺は世界中から英雄だの正義の味方だと称賛された。そんな事言われるような事はしてない。

あいつ、弓塚士郎こそが英雄に相応しい。俺はどこまでも甘く、決断が出来なかった。信じていた者が裏切っても何かの間違い、脅されていると思い込み、事実と真実に向き合おうともしなかった。

弓塚は非情だったが、どこか寂しそうにしていた。決断して故の表情だったのかも知れない。

つい先日、俺の妹と母親と名乗る人が来て、あの日の事を話してくれた。

まだ受け入れることは出来ないが時間をかけて受け入れようとしている。俺も千冬姉も。

 

「なあ、箒」

「どうした一夏?」

 

俺と箒は結婚している。他にも妻が四人いて計五人。今はそれぞれの国に戻って、落ち着いたらすぐに戻って来ると言っていたのでそろそろだと思う。

 

「俺は正しかったのか」

「………………………」

 

幼なじみの箒に聞いても正解はない。いや、誰に聞いても恐らく正解はないのだろう。

 

「私には分からない。戦いが終わってから世界中に真実が(おおやけ)になった。この一年間の戦争や今まで隠され続けて事が。そして、一夏と私にとって永遠に忘れる事が

出来ない白騎士事件も」

「………………………」

 

戦争の事は俺達もあとから知った。闇の事は知っていたが全部が全部あの組織のせいと思っていた。

 

「これから俺はどうすればいいんだ」

「それは……」

「知らなかったとはいえ、大勢殺した。それが正義と信じていた。でも!結局俺は言われたままに動いてだけだ!小さい子供から年老いた老人まで殺した!そのことに疑問を持たずに!」

「一夏………」

 

命乞いをしたのに俺は殺したんだ。殺す事に疑問を持たないままただ言われるがままに動いた。俺は、罰を受けるべきなのに!

 

「何をすべきかは一夏がこれから考えるんだ。起きた事は変えられない、なかった事には出来ない。私は姉さんをあんな目にしたのはあの組織だと戦いが終わるまでそう思っていた。

許せなかった。だから、私は殺した。何人殺したのかさえ忘れるほど」

「……………」

 

束さんは眠り続けている。二年前に何者かが束さんを襲った。幸いにも命は取り留めたが、脳に損傷が出来て植物人間状態になった。

いつ目が覚めるか分からない。明日になるか、来週になるか。もしかすると死ぬまで眠り続けるかもしれない。

 

「人を殺すのに大義名分があってはいけない。それは人を殺すのは正当になってしまう。そんな当たり前のことを私はいつの間にか忘れてしまった。

それに夢に殺した者が時々現れるんだ。だから私は決めた」

「……何を?」

「殺した者を忘れない。それは償いで戒めでもあるから。一夏はどうしたい?」

「俺は………」

 

どうすればいい。俺に出来るのは戦うだけなのに。何も分からない。何をすればいいのかさえ。

 

「箒?」

 

突然俺の手を自分を腹に当てた。

 

「実はな、私の体はもう一人だけのものではない。お前は親になるんだ」

「親?もしかして……」

「ああ。妊娠している」

「ええええ!?」

 

いや、確かにそういう事をしていたけど。なんて言うか、その、えー、あー!

 

「私だけではない。他の四人もだぞ」

「マジで?!」

「ああマジだ」

 

はは。一気に子沢山になったな俺。でもなんで今言うんだ?

 

「私からの案なんだが、父親になるというのはどうだ。それから先の事を考えてもいい。蓄えも十分ある」

「でも、俺は……」

「一夏。お前は確かに親の愛情というモノがほとんど受けてはいない。だが、それ以上にお前は恵まれている。私にあの四人。教師に親友とこれ以上ないほどに」

「……そうだな。そうだよな」

 

過去をなかった事には出来ない。ならこれからは過去を繰り返さないためにも俺は頑張るしかない。

 

「箒。俺、決めた。ISを戦いのためじゃなく、本来の宇宙に行くためにする。ブラスト・ランナーも平和利用できるようにする。そのためにも箒、付いて来てくれるか?」

「ふ、当然だ。夫のために支えるのは妻の役目。そんな当たり前の事を聞くな」

 

各国の軍事力になっているISを本来の宇宙に進出するのは途方もない。だけど俺は諦めない。それが俺の償いで戒めでもあるから。

 

「一夏さん!」

「一夏!」

「一夏!」

「一夏!」

 

玄関から声が聞こえる。彼女たちを元気に出向かう。

 

「セシリア、鈴、シャル、ラウラ。お帰り」

 

今日は豪華に作るか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ISが世に出て八十年以上が過ぎました。当初はスポーツでしたが"一年戦争"後は武器を捨て宇宙進出に各国は力を注ぎました。

今では宇宙でも生活できるコロニーが出来ています』

『いやーこれはとても素晴らしい。今の人はほとんどISは宇宙のためと思いますが私が学生の頃はスポーツと称した戦闘でした。あの"一年戦争"後は世界中の軍が武器を捨てたのを今でも鮮明に覚えていますよ』

『私が生まれた時にはすでに宇宙進出していましたので、想像もつきません。それに"男女平等"になっていたので』

『それは無理もありません。当時は"女尊男卑"のが当たり前。女性が誰しも偉いと思っていので今のように"男女平等"は当時から考えると信じられません』

『それほど信じられませんでしたか?』

『ええ。私が買い物をしていると見知らぬ女性がこれ片付けなさいと言われた事があります。他にもこれ買いなさいやらあれしないさいと言われたものです』

『今の私達には想像も出来ませんね。苦労したんですね』

『本当に苦労しました。ですが"一年戦争"後は世界中の軍がISを宇宙進出したのは皆さんも知っている"織斑一夏"さんが筆頭したからこそ出来ました』

 

茶の間でテレビを見ている。最近は体が思うように動けないので精々庭しか出れない。楽しみは週に一度の外に遊びに行くことだ。

 

「ISが出て八十年も過ぎれば体が自由に動かないのも納得。それにしても宇宙か。最初は大変だったな」

 

いざISを宇宙空間で動かそうとしても地上とは勝手が違うし、想定外の事が当たり前だった。上下左右前後が分からなくて行方不明になりかけた者もいる。あ、それ俺じゃん。

 

『彼は一年戦争の英雄ですが忘れてはいけない組織があります。

その組織の名は亡国機業またはファントムタスクと呼ばれた組織です。当初は一年戦争を引き起こしたと言われていました。

ですが、終戦後の真実は違った。亡国機業は世界の陰で我々を守っていた。人知れず、ひっそりと。

それからは世界中が亡国機業を称賛して墓石まで立つようになりました』

 

正確には白騎士事件から一年戦争までだ。あの後、どこからともなく世界中に情報が流れた。その時に子供達が箒達に身籠っていた。

千冬姉と束さんが白騎士事件を引き起こしたと知られ、世界中が驚いていた。その責任としてIS学園で定年になるまで教師をする事になり、全うした。

そうそう、その後に千冬姉に彼氏が出来た。その人は昔中学で同じだったクラスメイトだったと言っていた。

本当に良かった。四十過ぎても結婚できないと思っていたから。

 

『他にもたくさんありますがここで一旦CMに入ります』

 

 

ブツ

 

 

「それにしても今日はいい天気だな」

 

テレビをリモコンで電源をオフにする。外は快晴で洗濯を干すにはちょうどいい。

家には俺一人。箒、鈴、セシリア、シャル、ラウラはもう亡くなっている。

今は子供と孫で生活をしているので寂しくはない。

いや、心の中はぽっかり穴が開いているような感じだ。

 

そうそう。子供達が成人式を迎えて帰りに一人で公園に立ち寄った時なんだが驚いたことがあった。

男の声がして振り向くとそこに――――――弓塚士郎がいた。

 

あの時は盛大に驚いた。なにせ死んだはずなのに生きているんだから。

だけど、そいつは弓塚士郎じゃなかった。一度だけ会った妹のマドカの息子だと言った。

弓塚士郎は知らなかったようだがマドカは妊娠をしていた。子供が出来たのを知ったのは俺に会った後の事らしい。

年は子供達と同じで名前は父親と同じ士郎だとさ。名字は衛宮と名乗っていた。

そんなに長くは話さなかった。

最後にお前は幸せか?と聞かれて俺は幸せだと答えた。それを聞いた衛宮士郎はそうかと言ってどこかに行った。

それが最初で最後で、それ以後会うことはなかった。

 

『ただいまー!』

「おう。おかえり」

 

どうやら孫達が帰ってきたようだ。孫は一番上が大学生から小学生までいる。

今来たのは小学生の孫達。

 

「ねえおじいちゃん見て、上手に描けているでしょ!」

「ああ。上手だ。よしよし」

「へへ!」

「あー!ずるい!僕も頭撫でて!」

「私も!」

「俺も!」

「わ、私も……」

「はいはい」

 

全く、目に入れても痛くない孫達だな。あ、そうだ。

 

「手を洗ってきなさい。台所にドーナッツがあるからみんなで食べるんだぞ」

『はーい!』

 

元気がいいな。それにしても今日は本当にいい天気だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……ここは?」

 

目を開けると霧に囲まれていた。どこにいるのかも見当がつかない。

 

「なんでここに。あ、俺は……死んだんだ」

 

死んだ日はどうも体の調子が優れず、家にずっといて孫達と話しをしていたらだんだん眠くなってきたんだ。

そこでああ俺死ぬんだ、てふとそう感じた。苦しむことなく眠るように俺は生涯を終えたんだ。

 

「ここにいずれ来ると分かっていたが随分長生きをしていたな織斑一夏」

「誰だ!てか霧が濃くて全く見えねえぞ!」

「まあ時期に晴れる。ほら、言ったそばに」

 

徐々に霧が晴れるととてもきれいな花々が咲いていた。ここどこだよ。

 

「よ。久しぶり」

「な!?弓塚士郎!?」

 

声をかけてくれたのはなんと弓塚士郎だった。当時のままと違い右目に眼帯がなく、右目があった。

 

「ここどこだよ!?てかなんで目があるんだよ!」

「ここは"座"。簡単に言えば英雄が死後、辿り着く場所だ。あと目があるのはそれは生前の事だから目がある」

「へー。じゃあお前も英雄になっているのか?」

「一応な。それにしてもお前は長生きし過ぎだぞ」

「それは俺自身も自覚している。まさか百歳越しても生きられるとは思いもしなかった」

 

ここまで長生きするとは驚いている。俺が死んだのは120歳。

一世紀を生きるのは不思議なもんだった。

 

「他にも誰かいるのか?」

「ああ。あまり会えないがいるぞ」

「どんな人がいるんだ?」

「そうだな。呂布を知っているか?」

「確か三国志に出て来る人だよな」

「そうだ。その人もここにいる。会えばすぐに戦うハメになるが」

「マジか!?」

「ああ。ちなみに呂布は好戦的だが人見知りだぞ。まあ外見があれだからただの怖い人にしか見えないが」

「ええー」

 

他にも聞いてみた。アーサー王とかヘラクレスとかジャンヌ・ダルクとかいると言っていた。

分かっていたけど千冬姉と束さんここにいるようだ。

 

「まあ一番驚いたのは俺とそっくりな者がいた事だ」

「へえ。どんな感じだ?」

「外見は俺と瓜二つ。性格もほぼ同じだが、あいつは皮肉屋。だが、根底の部分は俺と同じお人好しだ」

「そうなのか。不思議なもんだな」

「まったくだ。しかも少し前までは生前の自分を殺したいほど思っていたそうだが、つい最近そんな事がなくなった。そうあいつが言っていた」

「俺そっくりな人いるかな?」

「いないな。お前ほど鈍感な奴はない。俺も鈍感だがお前ほどではない」

「うっ……言い返せないのがなんとも」

「さて、ここ座の事を話しておこう」

「おう」

 

座の事が全く分からない。知っているのは様々な英雄がいるというくらい。

 

「基本はここにいるだけ。出れるのは世界に呼ばれるだけだ」

「世界?どういうことなんだ?」

「例えば、第三次世界大戦が発生しそうな時や生態系が大きく変わりそうな時だな。地球とも限らんぞ。他にも色々あるがそれは身を持って経験した方がいい」

「なんだか大変そうだな」

「とは言うもののそんなにないから暇が多い。英雄が多いからケンカなんかしたら周りがエライコトになるなんて当たり前。無難に構わない方がいいぞ」

「ここにいる方が大変だということが分かった。うん」

 

どんなことになる分からないけどその内分かるか。

 

「まあゆっくり……ん?」

「どうし……あれ?」

 

何かが聞こえる。よく分からないけど行かないと気がする。

 

「早速か。世界に呼ばれたようだ。お前もそのようだな」

「これが世界に呼ばれるか。なんとなくだけど分かる」

「それなら大丈夫だな。なら行くぞ。どこであろうとやるだけだ」

「そうだな!」

 

さて、どんな世界かな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここどこだ?暗くてよく見えない。

場所が分からねえ。

ん?前が明るくなってくる。

人影が見える。

ん?あれって……!

 

「……れが…………君の……です!」

「……の……」

 

は、ははは。そういうことか。これは驚くぜ。

そうかここは昔の相棒の中か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

む?ここはISの倉庫か?

しかし古いISが多い。打鉄にラファール・リヴァイブか。

それにしても体がピクリとも動かん。

誰か来る。一体誰だ。

あ、あれは……!

 

「織斑先生の弟さんのようにはなりませんね」

「それもそうだろ。そう簡単には見つかりはしないだろう。あいつが特殊なだけだろ」

 

そうか。ここが分かったぞ。

 

「あれは打鉄?」

 

目の前に見覚えのある少年がいる。

 

「この打鉄は何ですか?」

「ああ、これか。これは無鉄、打鉄のプロトタイプだ」

「そうですか。でもなんでIS学園にあるんですか?」

「解体できないから置いてあるんだ」

 

なぜ体が動かないか分かった。

 

「解体できないのは不明だが、これにはコアがあるからな。ここにおいてあるほうが安全だろ」

「そうですね」

 

昔の相棒の中とはさすがに考えもつかない。

 

「触ってもいいですか?」

「いいぞ。そいつは誰が触っても動かなかったからな。ちなみに私も触れてみたが起動しなかったからな」

「そうなんですか」

 

さて、この世界がどうなっているか知らんがお前と共に行こうとしよう。

少年がそっと触れると同時にメッセージを頭に流した。

 

 

―――気に入った。私はお前のISになろう―――

 

 

ここはどんな世界だ――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――弓塚士郎。

 

 

 

 

 




感想、誤字脱字がありましたら報告お願いします。
次回もお楽しみにしてください。


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第49話「後ろ盾」

皆さんあけましておめでとうです。
初夢見れましたか?自分は……ありませんでした。なんでさ。
それではどうぞ!


一日だけの入院をしてから一週間が経った。これといって問題はなかったが、俺の周りは騒がしかった。

まずはクラス全員に心配をかけた。腹は大丈夫とか体が真っ二つになったとか首と体が別れたのかなど色々言われた。

どうやらあの事故?が学園中に広まったようで知らない者はいないそうだ。

幸いと言ったらいいのか分からないが世間には漏れる事はなかったが、IS学園はIS委員会に報告義務があるそうなので事実知っているのはIS学園の者とIS委員会だけになっている。

で、事故?を起こしたのは二年生と三年生だった。

発端はただの接触しただけだったがそこで三年生が難癖付けて言い合いになった。後は俺が知っている通りにISによる戦闘が始まり、折れた近接ブレードが俺の腹を裂いたとなった。

 

「放課後、いつものように訓練するけど士郎もどうだ?」

「参加する。無鉄も返ってきてから一度も動かしていなかったからな。最初は慣らしから始める」

 

今は四時限目が終わり昼休みになっている。

一夏から訓練の誘いは一日一回聞かれる。部活をしているからいつも訓練に参加出来るとは限らないからだ。

 

「そうだ。あの二、三年生がどうなったか聞いているか?」

「それなんだけどな、なんでも最初は裁判ごとになりそうだって千冬姉が言っていたな」

「普通そうだよな。命にかかわったから」

「でも、最終的には一ヵ月の反省室に反省文になったみたいなんだ」

「そうなのか」

 

これには俺が関係している。一日入院して退院した翌日に織斑先生に呼ばれた。

内容は二、三年生の処遇について。強制退学させて裁判にかけると言われた。

だが、俺にはどうも納得がいかなかった。そこでなんとか学園に在学できないかと言った。当然織斑先生は呆れていた。被害者が加害者を庇うようなことを言ったのと同じだからな。

話し合った末に三ヵ月以内の反省室に反省文となった。織斑先生に無理なお願いをさせてしまったのが心苦しかったが二、三年生も悪気があって事故?を起こしたわけではないから退学にさせてほしくなかった。

 

「所で話しは変わるが勉強は大丈夫か?」

「ギリギリな。箒、セシリア、鈴に教えてもらっているから入学した時よりは大丈夫だ」

「それは良かった。だが注意しておけ。織斑先生だからいつ抜き打ちテストをするか分からないぞ」

「げ、そうだよな。ははは……」

 

時々我がクラス、一組では織斑先生による抜き打ちテストがある。いつ来るが分からないので他のクラスよりは平均点数は上と俺は思っている。

ちなみに最低点数を取った者はありがたい宿題(褒美)があるのでみんな必死である。今一番多く最低点数を取っているのは一夏だ。

 

「それはそうとして飯食いに行こうぜ」

「ああ。今日は弁当を作っていないからな」

 

今日は朝から織斑先生がいない。学園にはいるようだが山田先生に聞くと用事があるので今日は来れないと言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

 

「食事を持って来たわ。ちゃんと食べてね」

 

IS学園には地下が存在する。この間の無人機を解析した場所よりもずっと上である。地下一階のここでは全教師と一部生徒が入ることが出来る。

 

「……………………」

 

この地下一階には監禁室があり、ここはその一室。その中にはIS学園の服を着ていてリボンは赤色。つまり三年生である。

 

「返事をしてほしいんだけど。まあこんな所にいると気が滅入るけど一ヵ月経てばここから出れるんだから辛抱して」

「……………………」

 

この三年生こそ事故?を起こした張本人。あの後すぐに教師達に押さえられてここ、監禁室に入れられた。

 

「織斑先生の力で退学の取り消し及び裁判沙汰はなし。それに事故とはいえ、死にそうになった本人、弓塚士郎君からも在学させてほしいと言われたからね」

「……………………」

 

反省室に入れられて一週間。部屋の中はトイレがある。刑務所のように見えるようにはなってはいない。ここはあくまで反省するための部屋なので精神的苦痛をなるべく与えないようにしている。

食事は毎日三食出される。いくら反省室に入れられているとはいえ、食事は栄養のある献立にしている。

部屋には監視カメラが設置しているので異常が起きたら別室に待機している人がいるので即時対応が出来る。

 

「じゃあね。私もお昼食べるから戻るわ。夕食も楽しみにしてね」

 

そう言って去ろうとした時、反省室から何かが聞こえた。

 

「…………い」

「え?どうしたの?」

「お腹が……痛い」

 

見るとお腹を押さえてうずくまっている。よほど痛いのか額には汗が出ている。

 

「待てて。今人が来るから我慢して!」

 

そう言っている間に別室に待機していた人が来た。手には医療薬品を持って来ている。

 

「状況は!」

「この子が急にお腹が痛いと言ったの。食事は衛生に配慮されているから問題はないわ。多分ストレスによる腹痛ね」

「ここにいればそれが妥当だな」

 

手際よく部屋のロックを解除して中に入った。

すると――――――

 

「きゃ!」

「ぐっ!」

 

跳ね飛ばされた。さっきまでお腹が痛いと言っていた三年生に。

 

「こんな所にいられない。どこかに逃げなきゃ……」

 

三年生はとにかく必死で逃げ出した。だがここはIS学園。人工の島なので周りは海。唯一の交通手段のモノレールには遠い。

 

「こちら反省室!三年生が逃げ出した!すぐに対応に当たって欲しい!」

『了解。すぐに対応する。そちらは残っている二年生を見張るように。あとで二人ほど送る。それまで待機』

「了解!」

 

このあとこの三年生が思いもよらぬ行動をするとはこの時、誰も予想がつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日もおいしかったな」

「ああ。IS学園だから料理する者は一級品の腕前だろう。今度教えてもらおうと思うのだが一夏も来るか?」

「マジか!行く行く!でもなんで教えてもらえるんだ?」

「それなりに食堂の人と交流があるからな」

「へえ。すごいな」

 

食堂で食事を食べ終えた俺と一夏は適当にぶらついている。食堂で箒、セシリア、鈴がいた。俺は敢えて一人で別の場所で食べようとしたが鈍感な一夏は「一緒に食べようぜ」と言って一つのテーブルで食べた。

三人には謝った。恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死ねというからな。

 

「ん?」

「どうした?」

「いや、なんだか騒がしくないか?」

「昼なんだから騒がしいのは当たり前だ。とはいえ、生徒より教師の方が騒がしいのは事実だ」

 

普通は昼だから生徒達が騒がしいのは当然だが、教師の方が騒がしいのは何かおかしい。問題でも起きたのか?

 

「っと!」

 

ものすごい勢いで女子が来たので咄嗟に避けた。なんなんだ?

 

「なあ。今走って来た女子は三年生だったよな」

「ああ。一瞬だが胸のリボンが赤だったから間違いはない」

 

限定メニューを食べるために走っていたのか。限定メニューとは一日十食しかないはかなり値段が高いが非常においしいと評判のメニューだ。今度食べてみるか。

 

「織斑君に弓塚君、あ、あの今三年生を、見ませんでしたか……」

「見ました。というか何で走っているんですか?」

 

山田先生が走って来た。息がぜいぜいとなって顔が赤い。運動不足か。

あと関係ないと思うが走っている時に胸が揺れているのを見ていた一部の女子が舌打ちしたような気がする。

 

「それは、ちょっと言えないんです」

「え?」

 

それにしてもさっきの三年生どこかで見たような。あ。

 

「思い出した」

「なんだよ急に」

「さっきの三年生だ。この前、俺が死にかけたきっかけを作った人だ」

「はあ?その人なら二年生と一緒に反省室に入っているだろ」

「そんなの知らん。待てよ、山田先生もしかしてあの三年生は―――」

「織斑、弓塚。今三年生が通らなかったか?」

 

いつの間にか織斑先生がいた。山田先生ほどではないが息が少し荒れている。

 

「ついさっき通りました。その三年生は俺が死にかけたきっかけを作った人で間違いありませんね」

「………ああ。そうだ。その三年生なんだが―――」

『発見しました!至急、校舎屋上まで来てください!』

「分かった。すぐに行く。山田先生行くぞ」

「は、はい!」

 

すぐに走って屋上に向かったようだ。

 

「なんで屋上に行ったんだ?」

「俺に聞くな。そんな分かるわけ―――」

 

もしかして、自殺するつもりじゃないだろうな。

だとしたら!

 

「お、おい!どこに行くんだよ!」

「屋上だ!もしかするとやばいかもしれん!」

 

後を追うように俺と一夏も屋上に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋上に着くとすでに事態は深刻になっていた。

 

「危ないから戻りなさい!」

「まだやり直せるから諦めないで!」

「そこにいないでこっちに!」

 

数名の教師が叫んでいる。叫んでいる先を見るとあの三年生が転落防止ネットの外にいる。つまり、今にでも自殺するつもりだ。

 

「なんであの三年生は自殺しようとしているんだよ!」

「お前は馬鹿か。俺達は男なのにISを動かした。今現在、世界で二人しかいないんだ。その片方を事故とはいえ死にかけたんだ。今あの三年生はどうしようもないくらい不安や恐怖で

いっぱいいっぱいのはずだ」

 

もし、俺が織斑先生に何も言わず、あの三年生と反省室にいる二年生は退学になり、裁判にかけられていた。憶測だが死刑判決として本人を死んだ事にしてどこかで実験体として過ごす事になっていたかもしれない。有り得なくはない。生き地獄はこの世で最も経験したくないモノの一つだ。

 

「私はもう……生きてられない。ISの成績がますます下がって、大好きだった弓道もどんどん嫌いになっていく」

 

弓道?確か二週間前辺りに美射先輩から今度会ってほしい人がいると言っていた。もしかすると、この人のことだったのか。

 

「それに、弓塚君を死なせるようなことをしてしまった。そのうち私は、死刑か実験体にされる……そんなのいやっ!」

 

今は大丈夫だがIS学園から出ればそこは日本。中立であるIS学園から出れば外で起きた事とされてどこかに連れ去られる可能性がある。それどころかあの三年生の家族も何かしろのことが起きる可能性だってある。

 

「死んではいけない!」

「私達が守るから!」

「まだ望みはある!」

 

先生達が叫んでやめさせようとしているが三年生は聞く耳を持っていない。

 

「それじゃ先生達ありがとう。さよなら」

 

すっと落ちて行く。

 

 

―――士郎。短い時間だったけどありがとう。さよなら

 

 

「!」

 

頭に幼い声が聞こえた。気付くと駆け出して両手に干将・莫邪を握っていた。

 

「はっ!」

 

転落防止柵を干将・莫邪で切り裂いて、落ちていく三年生に向かって無鉄を緊急展開して落下する。

そして三年生が地面に着く前に抱きしめて俺が下になる。

 

 

ドッ!

 

 

「ぐっ?!」

 

背中に激痛が走る。肺が圧迫されて息が止まるかと思った。絶対防御があるので死にはしなかったが死ぬほど痛い。

 

「う……うう……」

 

三年生も大丈夫。これといったケガは見えない。代わりに俺の背中を強打したが。

 

「大丈夫ですか?」

「え?弓塚君?」

「はい。えっと、先輩はどこにもケガはありませんか?」

 

とりあえず先輩と言った。名前も名字も知らなかったので。

 

「うん大丈夫。でもなんで私、屋上から飛び降りたのにどうして……」

「それは俺が助けたからですよ」

「なんで……」

「ん?」

「なんで助けたの。私は弓塚君を事故で死にかけさせたのよ!なのにどうして!」

「なんでって。それは目の前で死のうとしていたから助けたいと思ったからです」

 

考えるより先に身体が動かく。目の前で誰かが死にそうになったら誰でもそうなると思うのだが?

 

「先輩。IS学園は確かにISを学ぶための学校です。だけどあくまで学校なんですからあまり気にしていたら勉強が疎かになってしまいますよ」

「そうだけど。でも、大好きだった弓道が最近嫌いになって……」

「多分ですけど美射先輩からつい先日会わせたい人がいると言われました。恐らく先輩の事だと思います」

「美射が?でもなんで」

「これはただの想像なんですが先輩と美射先輩は弓道で知り合ったんじゃないですか」

「ええ」

「先輩が思いつめていたので美射先輩がどうにかしようとした。それで俺に会わせてなんとかしようと思った。だけど、中々タイミングが合わなかった」

 

そして限界を超えてあんな事が起きた。そこに俺が巻き込まれて余計に追い込んでしまった。運がないな俺は。

 

「気にするなとは言いません。むしろ、二度としないように憶えていたほうがいいです」

「でも、私このままじゃ……」

 

うーむ。これではまずい。どこかの後ろ盾がなければ身の保証がない。

……………………………一つだけある。

 

「ところで先輩。聞きたい事があります」

「え、なに?」

「近接武器と言ったら?」

「ドリル」

「…………………………」

 

もしかするとこの人。アレか。

 

「射撃武器と言ったら?」

「ガトリング」

「爆弾と言ったら?」

「C4」

「倒れている敵に向ける武器は?」

「ショットガン。ゼロ距離で撃つ」

「ISに乗ってやりたい事は?」

「全身にミサイルを装備して放つ」

「………………ちょっと失礼」

 

携帯電話を出して美沙夜にかける。

 

『珍しいわね、あなたが私に電話をかけるなんて』

「用事があって電話をしたんだ。今大丈夫か?」

『ええ。それで何?』

「この間、無鉄を取りに行った時なんだがテストパイロットを探していたようだがどうなんだ?」

『ああ、もう耳に入っているのね。実の所、募集は問題ないんだけど誰も採用されていないのよね』

「ドンマイ。それは久宇企業独自の問題だろう」

『ちゃんと変態企業としてこっちも受ける側も自覚はしているわ。でも、合格通知を出しても断るのが多くて』

 

久宇企業は打鉄を量産採用されたとして多く知られている。武器・武装はマイナーな物からピーキー、マイナーの物まで作られて、多くの国や企業に使われているのでIS業界で知らない者はいない。

だが、変態企業である。自他共に認める変態企業である。大事な事なので二回言ったぞ。

就職しても研究者達の趣味、趣向、浪漫などが詰まった武器・武装の試験、実験のせいでテストパイロットがやめていく人が後を絶たない。一見人数が大丈夫だと思うがそうではない。

試験、実験でのテストパイロット。警備のためのパイロット。非常時用のパイロット。これらの予備のパイロット。この四つが循環しないとバランスが崩れる。

なので現在はギリギリなのでパイロット達もストレスが徐々に溜まっている。

今一番悩みの種という事だ。

 

「そのテストパイロットに目星がついた。聞くか?」

『もちろんよ。それで誰?』

「俺達と同じIS学園の生徒だ。学年は三年。今しがたちょっと質問したら研究者達と上手くやっていけそうな答えが出てきた。すまないが詳しい事はこっちに来てくれないか?」

『いいわ。信号の発信地点が分かるから今行くから動かないでよ』

「分かっている」

 

さて、これで大丈夫。後ろ盾を確保した。問題なし。

 

「えっと、何の話をしていたの?」

「それは後で。今はあの人達をどうにかしますか」

「え?」

 

教師数名がやって来た。まったく、こうも厄介事が多いと呪われていると思ってしまう。

 

「大丈夫だったか、弓塚!?」

「大丈夫ですよ。今回は無鉄がありましたので。前よりは比較的いいですよ」

「まったく、お前というやつは。こっちの身にもなれ」

「状況が状況なだけにそういうわけにもいかないですよ」

「まあいい。そこの三年生をこっちに寄越すんだ」

「……その後はどうするつもりで?」

「反省室に戻すだけだ。それだけだ」

「この先輩はなんの後ろ盾がありません。この学園から一歩出れば織斑先生なら容易に考えがつく筈です」

「それはこっちで考える。早くこっちに寄越すんだ」

「いいですよ。美沙夜が来てから」

「何?どういうことだ?」

「はいはいちょっとどいて」

「こら!ちょっと君!」

 

すぐ来ると思ったら時間掛かり過ぎだ。にしても強引だな。

 

「この人がそうなの?」

「ああ。お前から説明した方がいいだろう」

「それもそうね。どうも先輩。私は久宇美沙夜です。士郎からテストパイロットに良いと聞いています」

「へ?え?」

「試験はいつにしますか?別に今すぐとは言いませんので決まりましたら私に連絡をください。この紙に連絡先を書いているのでどうぞ」

「ど、どうも」

 

営業トークと営業スマイル。実に完璧だ。先輩はおどおどしている。なんとなくだがかわいい。

 

「おい久宇。どういう事だ」

「あら織斑先生。どうもこうも我が久宇企業のテストパイロットを希望する先輩に紹介していただけですよ。何か問題でも?」

「そういうのは学園を通してからやれ。直接の勧誘は禁止されているのはお前も知っているだろ」

「ええ。ですが聞くところによるとこちらの先輩は反省室に一ヵ月だけになっていますが、その後はどうなるか決めていますか?」

「さっきも弓塚に言ったがこちらで考える」

「でしたら久宇企業にお任せください。(のち)のテストパイロットを受けますので一石二鳥です」

「……はあ。なら頼むぞ」

「はい」

 

普段ならこうも簡単には織斑先生が納得するわけがない。それには理由がある。

久宇企業、久宇家は旧家。正確ではないが明治より前から続く任侠一家……簡単に言えばヤクザである。

家の事情までは知らないが世間で知られているヤクザではない。普通ヤクザと言えば怖い印象を持つが久宇家ではそれがない。それに街の悩みを解決したり、事件があれば警察に情報を提供している。他にも色々あるが、良い人達と認識されているのは確かだ。

 

「では先輩、テストパイロットの事を詳しく話しますので私の部屋に行きましょ」

「いいけど大丈夫なの、時間?」

「そこは織斑先生がなんとかしてくれますよ」

 

いやいや。向こうで頭抱えているぞおい。

 

「あ、先輩」

「どうしたの弓塚君?」

「すいませんが俺、先輩の名字も名前も知らないので良ければ教えてくれませんか?」

「私も知らないわね」

「あ、言っていなかったね。私は古式みゆき。もう知っているけど三年生だからね」

 

その後は美沙夜と共に美沙夜の部屋に行った。

数日後、見事に合格して久宇企業のテストパイロットになった。三年生で最初に就職先が決まったと噂にもなった。

 

 

だが、後日。この事が無鉄にあんなモノが追加されるとは思いもしなかった。

 

 

 

 

 




感想、誤字脱字がありましたらお願いします。
初売りの人混みはシャレにならないな。身動きが取れにくい。
次回もお楽しみください!


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第50話「食堂と親友」

三ヵ月ぶりの更新です!こっちの諸事情ですいませんでした。
週に一回更新できればいいと思います。

なにわともあれ、どうぞ!


六月頭、日曜日。

久宇企業や研究場からの呼び出しもないので墓掃除に行った。大体は手入れされていたので簡単に終わった。やったのは精々花の水替えと墓石を拭くだけ。

後はIS学園に戻って訓練でもしようと思ったら一夏に会った。どうやら友達の家に行くというので俺も行くことになった。

 

「それにしても意外だな」

「何がだよ?」

「士郎と弾が友達になっている事にさ」

「蘭も入っているぞ」

「そうだった。て、いきなり奥義使うなよ!」

 

五反田食堂。つまり、弾と蘭の家に来ている。

一夏と弾はゲームをしていて、俺は護身用の銃を磨いている。

 

「で、どうなんだお前ら?」

「は?」

「何がだ?」

「女の園の話だよ。いい思いしてんだろ?」

 

何回目だろうかこの話は。IS学園でいい思いをするのはごく僅か。残りは精神を削られることが大半。

 

「まあそれはいいとして。士郎それはマジもんか?」

「そうだ。正真正銘の銃だ。外に出る時は必ず護身用として所持している。弾はゴム弾だが、当たると結構痛いぞ」

「当てんなよ。てかいいのかそんなもん持って?」

「ふ、大丈夫だ。バレなければ問題にはならん」

「えー……」

 

気にしたら負けだ。仮にバレても許されるだろう。なにせ、世界で二人しか男でISを動かす事が出来るからな。稀少価値というヤツさ。

 

「で、話しは戻るが、鈴の事は―――」

 

 

ドカン!

 

 

「お兄!さっきからお昼出来たって言ってんじゃん!さっさと食べに―――」

 

ドアを蹴り破って入ってきたのは蘭だった。それにしても、ずいぶんとラフな格好。IS学園ですでに見慣れた。寮の中だと女子は薄着とかになっているからさ。

 

「あ、久しぶり。邪魔している」

「元気で何よりのようだな」

「い、一夏さん!?士郎さんも!?」

 

さらに夏が近いのか暑くなってきたので胸元が開いた服を着ている女子が大半となっている。

服装に文句とは言わないが男子がいることを忘れては困る。特にノーブラの時が一番こちらが困る。

簪も周りの女子と同じく薄着になっていて部屋を訪ねた時に恥ずかしかったようだ。

しかし本音は相変わらずあのキツネのような服を着ている。他にもあるそうだが熱くないのだろうか。何か特殊な作りになっているのか。疑問だけが残る。

 

「お、お二人とも来てたんですか?全寮制と聞いていましたけど……」

「今日はちょっと外出。家の様子を見に来たついでに寄ってみた」

「俺は両親の墓掃除に。帰り道に一夏に会って成り行きで来た」

「そ、そうですか」

 

話には聞いていたが蘭も一夏が好きなんだな。それに気付かないのはなんとも。

 

「蘭、お前なあ、ノックくらいしろよ。恥知らずな女だと思われ―――」

 

 

ギンッ!!

 

 

鋭い眼光を放った蘭は弾を委縮させた。恋する乙女は怖い怖い。

 

「……なんで、言わなかったのよ……」

「い、言っていなかったか?それは悪かった。ハハハ……」

 

せめて一言言えば良かったかもしれん。と言っても今気が付いた。

 

「あ、良かったら一夏さんと士郎さんもお昼どうぞ。まだですよね?」

「そうしよう。久しぶりに食べる事にするか」

「ああ、そうだな。いただくよ。ありがとな」

「い、いえ……」

 

嵐が過ぎ去ったかのように静寂が訪れる。

 

「しかし、アレだな。蘭ともかれこれ三年の付き合いになるけど、まだ俺に心を開いてくれてないのかねぇ」

「「は?」」

 

なんてこった。ここまで気付かないとは筋金入りの朴念仁だろう。

 

「いや、ほら、だってよそよそしいだろ。今もさっさと部屋から出て行ったし。士郎には心開いているけど、なんで俺には心開いてくれないのかなーって」

「「…………はあ」」

 

弾と一緒に溜息がこぼれ出る。弾は三年も苦労しているんだろう。一夏のせいで。

 

「なんだよ、二人揃って?」

「わざとじゃないのが凄いなって事だ」

「そうそう。天然というか鈍感というか、素なのが信じられねぇけど、本当なんだろうとよ」

「どういうことだよ?」

「「自分で気付けバカ」」

「なんでだよ!?」

 

昼食を食べるために食堂に入る。中には少数のお客さんがいる。

余談だが蘭にはここ五反田食堂のアイドルのような感じだと弾が言っていた。いつだったか、蘭に文句をつけたお客がいたそうだ。一方的に言われて当然蘭は涙目になってたまたま?常連のお客達+厳さんによって物理的交渉術、いわゆる粛清を受けて蘭に土下座をした。

その後、その客はどうなったかというと蘭のファンになったそうだ。

 

俺達が座る所に蘭がいてテーブルの上にはすでに料理があった。蘭の格好は白いワンピースになっていて髪もおろしている。一夏のためにわざわざ着替えたのだろう。

 

「あれ、蘭」

「は、はい?」

「着替えたのか?どっかに出かける予定?」

「い、いえ。これは、えっと、ですねっ」

 

こいつはなんで分かろうとしないのかな。敢えて聞くなよ。

 

「なあ、弾。蘭は何度も今のようにした事はあるのか?」

「ああ。それでもあのバカは気付きもしないんだ。わざとじゃないんだよな、これが」

 

このままだと一生独身で終わりそうだ。学園にいる間の内に俺も何かしてみるか。

 

「分かった!デートだ!」

「違いますっ!」

 

ダンッ!とテーブルを叩いて全力で否定した。周りの客も驚いているぞ。

 

「ご、ごめん」

「い、いえ……とにかく、違います」

「兄としては違って欲しいもんだ。にしても気合入った服装だな。精々するのは数ヵ月にいっか――――――」

 

 

ガッ!

 

 

速い。瞬時に弾の口と鼻を同時に片手で塞いだ。つまり、弾は今呼吸が出来ない状態。

ちなみに織斑先生の出席簿を振り落す速度に近い。

 

「……!…………!」

「(コクコクコク!)」

 

アイコンタクトで何やら言っている。俺には分からないが弾は分かるのか、ただひたすら頭を縦に動かした。

その後、厳さんに注意された。で、弾がいらない情報(学園生活)を漏らして蘭に説教されることが確定したようだ。

 

「あ?そうだ。一夏さん」

「なんだ?」

「私、来年IS学園に受験します」

「お、お前、何言って―――」

 

 

ヒュ―――ガン!

 

 

おたまが弾の顔面に当たった。出て来たのは厨房から。料理しながらとは器用だな厳さん。ちなみにおたまはブーメランのように厨房に戻っていった。

 

「なんで受験するんだ?確か、蘭の学校はエスカレーター式で大学まで出れるし、ネームバリューは超が付くくらいのあるところだろ?」

 

名前は確か聖マリアンヌ女学院だったか。有名私立女子校でその学院から卒業した生徒達は大手企業に就職する者はもちろん多いが、国会議員や海外で活躍する者達が数多くの優秀な人材だと言われている。

 

「心配はいりません。私の成績なら余裕のよっちゃんです」

「IS学園には推薦ないぞ……」

 

よろよろと弾は立ち上がった。それより蘭。それはどこで知った。あ、厳さんか。

 

「お兄と違って、私は筆記で余裕です」

「いや、だけど……実技があるんだぞ!」

「あったな。IS起動試験っていうのがあって、適性がない人はそれで落とされるらしいぜ」

「女性全てがISに乗れることには乗れるらしいが、適性つまり相性がいい方だけを取った方が後にも先にもいいからな」

 

この世界全ての女性はISに乗れることには乗れるらしいがそれでもISとの適性が合わなければ満足に動かす事も出来ない。無駄に時間と金を消費しないためにIS委員会が設けたそうだ。

 

「これ見れば文句ないでしょ」

「なんだよ………………げぇっ!?」

 

蘭が弾に紙を渡す。それを見た弾はなぜか驚いている。

 

「IS簡易適性試験……適正A……」

「問題は解決済みです」

 

なんとなく決め台詞に聞こえる。しかし、簡易とはいえAとは凄い。

IS簡易適性試験は各国の政府がIS操縦者を募集する一環として希望者が受けられる。値段はタダである。

 

「で、ですので」

 

こほんと咳払いをして姿勢を正す。

 

「い、一夏さんにぜひ先輩としてご指導を……」

「ああ、いい―――」

「ダメだ」

「―――ぜ、て、え?」

 

このバカが。考えもなしで返事するな。

 

「なんでダメなんだよ?」

「お前が指導できるわけがないだろ。知識もそうだが、一度でも勝ったことがあるのか?」

「…………ないです、はい」

 

ようやく理解できたか。理解できなかったら、千冬さんに言うつもりだった。

 

「えっと、どういうことなんですか?」

 

蘭がどういうことかが分からないようだ。まあこれは知らなくて当然か。

 

「知っての通り、俺と一夏は男でありながらISを動かせる。それまでISの知識なんてなかったから周りと比べると付け刃みたいなもんだ。知識はそれはしょうがないとして問題は訓練についてだ」

「訓練ですか?」

「ああ。知識は何とかなる。一夏は頑張っているのは誰しも知っているが、一度も勝っていないんだ」

「一度も?」

「ああ。一度もな」

 

蘭が信じられないといわんばかりな表情になっている。すまないがこれは事実だ。

 

「一夏のISは近接戦闘のみの機体だからもあるが、戦い方が猪なんだ」

「そうか?」

「もう少し頭を使え。今まで剣道をしなかったツケが廻ってきたんだ」

 

昨日なんか模擬戦として戦ったんだが、覚えたばかりの瞬時加速(イグニッション・ブースト)をして接近戦に持ちかけたのはいいが読みが分かりやすかったので当たる前に顔に目掛けて殴った。グーで。

瞬時加速(イグニッション・ブースト)中は軌道修正できないわけではないが、軌道修正したら最悪骨折する。

地面に落ちた一夏を上に上がらないように38式狙撃銃、改、新式、遠雷の順でシールドエネルギーをゼロにした。

 

「それに納得していないのは弾だけではない。でしょ、厳さん」

「ああ」

「お、おじいちゃん!?」

 

いつもなら蘭に対して甘い厳さんだが、こればかりは厳しいだろうな。

 

「あら、すぐにいいと言うと思ったのだけどダメなのね」

「あ、どうも蓮さん」

 

五反田 蓮さん。弾と蘭の母親。五反田食堂の自称看板娘。実年齢は秘密であり、本人曰く、「28から歳をとっていない」だそうだ。つまり、28+何か月ということ。

 

「なんでダメなのおじいちゃん」

「お前の為だ。可愛い孫娘を危険な目にあわせるわけにはいかねぇ」

「危険って。ISはスポーツなんだよ!それのどこが危険なの!」

 

このままだと平行線になる。助け舟でも出すか。

 

「蘭。ISはどういうのか分かっているのか」

「それは……」

「ISは兵器だ。ISが出て来る前の既存の兵器を遥かに凌駕する兵器。それにスポーツと言われているが、有事の際は人を殺す事になる。そうなると当然蘭自身も危険にあう。だから厳さんはいいとはすぐには言えないんだ。それに俺達は戦争を知らないからさ」

「え?」

「厳さんが子供の頃は第二次世界大戦が起きた。戦争がどれだけ悲惨のモノか目の当たりしたから余計に行かせたくないんだよ」

 

そう。俺達子どもだけじゃない。今の大人も知らない。知っているのは厳さんのような老人ぐらいだ。

 

「ま、そうならないように俺や一夏も頑張りますよ。身近にいる人位は守れるように強くなります。それにIS学園に入ったとしてもパイロットになるか技術者になるか分からないですし、卒業しても普通の大学や専門学校に行く人もいます。入った後でも考える余裕はありますよ」

「それでもダメ?」

「んー…………………」

 

約一分ほど経ち、ようやく厳さんが口を開けた。

 

「分かった。いいだろう」

「やった!」

「ただし、困った事や相談してほしい事あったら遠慮なく言うんだ。弾と坊主二人も頼れ。いいな」

「うん!」

 

いつの間にか巻き込まれたが、可能であれば引き受けよう。一夏は頼りないからな。知識も実績も。

 

「ん?」

 

厳さんの近くに写真立てがある。家族の写真に少し若い頃の写真がある。それと奥には…………!!

 

「ごほ、ごほっ!?」

「うお!?どうした?」

 

な、なんで写っているんだよ!

 

「げ、厳さん。その写真に写っているのは?」

「ああこれか?これは俺が若い頃の写真だ」

「じゃなくてその隣に映っているのは俺の爺さんなんですよ。なんで一緒に映っているんですか?」

「そういや言っていなかったな。俺とおめぇの爺さんは親友だったんだぞ」

「はあ!?」

 

寝耳に水とはまさにこのこと。爺さんと親友とは驚き。

 

「他にもあるから今度来る時にでも用意してやるよ」

「ありがとうございます」

 

次来る時が楽しみだな。

夕暮れになるまで弾と一夏で色々と遊んだ。とても有意義だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ。お前が死んでもう四年になるのか。月日は早いもんだ」

 

自室で五反田食堂の店主、五反田 厳は亡き親友、弓塚 治郎が映っている写真を肴に日本酒を飲んでいる。

 

「それにしても()()()はどこで何をしているんだ?もう四十年以上も会っていねぇ」

 

近くにあった写真立ては三人写っている。まだ若かった五反田 厳、弓塚 治郎。それに東洋人が一人。

 

「軍やめて、傭兵になったしか分からねぇがどこかで生きているんだろう」

 

写真の裏にはそれぞれの名前が書かれており、その東洋人の名字は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジョン。愛称はジャック。

 

 

 

 

 




感想、誤字脱字がありましたらお願いします。

やっとIS9巻の発売日が決まりましたね。待ったかいがあった!
楽しみだな!

それでは次回もお楽しみに!


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第51話「転校生」

今回は久々に短いです。
それではどうぞ!


熱い。熱い。熱い。

 

周りはどこも火が付いている。

 

喉が渇く。水が欲しい。でもどこに?

 

周りは火に囲まれている。

 

どこに行けばいい。どうしたらいい。

 

もう、意識が……

 

 

 

 

 

 

 

「……んっ」

 

なんだ今の夢は。訳が解らない。いつもの時間に起きたようだ。変な夢を見たせいで集中出来そうもなかったのでトレーニングを軽めにした。日曜なので身体を休めるにもちょうどいい。

 

 

 

 

 

 

「なあ簪」

「なに?」

「なぜか分からんが周りが俺をジロジロと見ているのは気のせいか?」

「そ、そうかな?」

 

食堂でいつも通り朝食を食べている。ジロジロと見られているのは気のせいではない。普段とは何かが違うような気がするからだ。

 

「簪。もしかして何か知っているんじゃないのか?」

「そ、そんなことないよ。もう食べたから、整備室に行くね!」

「あ、おい!」

 

逃げるように食堂から出て行った。何かを知っているのは違いない。いずれにせよ、分かるず。……多分。

食堂の一角では女子数名が集まっている。そして、時折こちらをチラチラと見ている。間違いなくいつもと違う。

 

 

 

 

 

 

「やっぱりハヅキ社製のがいいなぁ」

「え?そう?ハヅキのってデザインだけって感じしない?」

「そのデザインがいいの!」

「私は性能的に見てミューレイのがいいかなぁ。特にスムーズモデル」

「あー、あれねー。モノはいいけど、高いじゃん」

 

月曜の朝。クラス中の女子が各々のISスーツのカタログを持って意見を交換している。本音も持っていたな。どれがいい?と尋ねられた時は少々驚いたが、どれでも似合うよ、と答えたら顔が赤くなって、簪が怖い顔になった。なぜだ?

 

「そういえば織斑君と弓塚君のISスーツってどこのやつなの?見たことない型なんだけど」

「あー。特注品だって。男のスーツがないから、どっかのラボがつくったらしいよ。えーと、元はイングリッド社のストレートアームモデルって聞いてる」

「俺も特注品、久宇企業のオーダーメイドだ。ちなみに一般的なISスーツよりは性能がいい」

「オーダーメイド!?それじゃ、世界にたった一つだけのISスーツてことなの?」

「そうだ。頭から足までCTスキャンで読み取って、骨格、可動範囲などを事細かに分析して作られている。性能は大口径の拳銃でも受け止めることができて、衝撃は三分の一に緩和できていて、反応速度は生身で動かしているのとほぼ同じだそうだ」

「すごいね。だとすると結構高いよね」

「ああ。数万ではなく数十万だぞ」

「「「oh……」」」

 

今着ているのと予備があるからいいがそれが破れたら口座から引かれると研究員が言っていたな。

 

「ISスーツは肌表面の微弱な電位差を検知する事によって、操縦者の動きをダイレクトに各部位へと伝達、ISはそこで必要な動きを行います。また、このスーツは耐久性にも優れ、一般的な小口径拳銃の銃弾なら完全に受け止めることができます。ちなみに衝撃は消えませんので注意してください」

 

教科書を読んでいるかのように説明したのは山田先生だった。

山田先生は8つほど愛称がある。知っている限りでは山ちゃん、山ピー、まーやん、マヤマヤ、ヤマヤの5つ。中でもヤマヤは過去に何かあったのかヤマヤだけははっきりとノーと言っている。

 

「諸君、おはよう」

「お、おはようございます!」

 

教室のざわめきが消え、全員席に座った。まるで軍隊だな。織斑先生は尊敬と畏怖で出来ているとか言ったら殺されそうだから間違っても言わない方がいい。

 

「今日から本格的な実戦経験を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定の物を使うので忘れないように。忘れた者は代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それも無い者は、まあ下着で構わんだろう。」

 

下着はまずいだろう。今年から俺達男子がいるからなおさら。

そういえば、この間久宇研究場に行って来たんだけど、何かしたようなので使ってみてと言われていたことを思い出した。自信作だと言っていたので模擬戦の時でも使ってみるか。

 

「では山田先生、ホームルームを」

「は、はいっ」

 

最初よりは落ち着いてきたけど、それでも相変わらずわたわたしている。

 

「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します!しかも二人です!」

「え……」

「「「ええええええっ!?」」」

 

突然の転校生紹介にクラス中が一気にざわつく。この情報は俺は知っていた。

昨日の夕方に当然のように俺の部屋で楯無さんがくつろいでいた。休日中ずっと転校生の書類を整理したそうでクタクタで休み為に俺の部屋に来たそうだ。邪険に追い出すわけにもいかないのでオレンジジュースとドーナッツを出した。食べ終えて数分したらすぐに部屋から出て行った。満足そうに。

 

「失礼します」

「……………」

 

教室に入ってきた転校生二人を見て、ざわめきが止んだ。それもそうだ。

一人は女子、銀髪で左目に眼帯をしている。

もう一人が

 

 

 

 

 

 

 

 

男子だったから。

 

 

 

 

 




感想、誤字脱字がありましたらお願いします。
次はいつも通りの長さになる予定です。原作よりも多少違くなります。
次回もお楽しみに。


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第52話「CQC」

へい、転校生二人が来たよ。
ちょっといざこざあるけど、気にしないで。
それではどうぞ!


「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

転校生の男、デュノアがにこやかな顔で一礼する。

 

 

 

「お、男……?」

 

誰かがそうつぶやいた。

 

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方が二人いると聞いて本国より転入を―――」

 

しかしデュノアか。デュノアと言えばデュノア社、量産機ISのシェア世界三位の大手企業しかない。その社長の息子なのか。

だが、俺が気になっているのはそこじゃない。本当にデュノアは男なのだろうか。

身長はやや低く、中世的な顔立ち。髪は濃い金髪。髪は長いようで邪魔にならないように後ろに丁寧に束ねている。。

どちらかと言えば俺には女にしか見えない。胸はないように見えるが何かで胸部を圧迫してにすれば胸がないように出来る。本人に直接訊くのはすぐにしなくても大丈夫だろう。情報を盗みに来たスパイなら慎重に行動するはず。

このことを昼辺りに楯無さんに言った方がいいな。

 

「きゃ……」

「はい?」

『きゃああああああああ―――っ!!』

 

鼓膜が破けそうだ。これがソニックウェーブというやつか。咄嗟に耳を塞いだが、それでも十分過ぎる。

 

「男子!三人目の男子!」

「しかもうちのクラス!」

「美形!守ってあげたくなる系の!」

「地球に生まれて良かった~~~!」

 

疑いもせずよくこの一組の女子は歓迎している。すでに他の教室にも伝わっているだろうから教員の方々は教室から出ないようにさぞ苦労しているだろう。お仕事お疲れ様です。

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

「み、皆さんお静かに!まだ自己紹介が終わってませんから~!」

 

そう、まだ一人いる。こちらは女子なんだが格好は軍服を模した制服を着ていてデュノアの紹介からずっと微動だにしない。

銀髪で腰近くまで髪が長い。左目に眼帯。開いている右目は赤。その目はとても冷たく、誰一人も興味がないと言っているようにも見える。

小柄だが全身からは凍り尽くすのような鋭い気配を発している。

デュノアと並んでいるので温かい太陽、冷たい月と印象になる。

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

 

教官?ということはコイツの軍で織斑先生が教えていたのか?放課後に聞いてみる価値はあるな。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではない、ここではお前も一般生徒だ。私の事は織斑先生と呼べ」

「了解しました」

 

どうみても軍人だな。そうでなくても軍の関係者に違いない。しかし、年は同じ位なのにすでに軍所属とは少し妙だ。国によっては軍に入る年齢が違うが日本で言えば中卒で自衛隊に入るようなもの。そんな事は当然だが無理だ。てことは訳ありか?

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

…………それだけ?

 

「い、以上ですか?」

「以上だ」

 

山田先生が確認を訊くと即答かつ素っ気ない回答だった。何気に涙目になりそうな山田先生はなんとか耐えている。頑張っている事はこのクラス全員が分かっていますよ。

 

「!貴様が―――」

 

俺の一つ前の席、一夏を見るとなぜか不機嫌になり、向かって来る。何かするつもりだな。

 

 

 

パシッ!

 

 

 

平手打ちをしようとしたのを止めた。中々速い。

 

「へ?」

 

何間抜けな声を出しているんだコイツは。何をされようと分かっているのか。

 

「邪魔をするな、二人目」

「出来れば名字か名前で言ってほしい。それより、何をしようとしていた?」

「お前には関係ないだろう。そこを退け」

「確かにそうだな。だが、友達を守るのは当然だろ」

「そうか。ならコレなら退くか」

 

振り払うと後ろ腰に隠していたのを取り出した。拳銃を。

拳銃はH&K USPか。メーカーは確かドイツの銃器メーカーのH&K社。なるほど、ということはボーデヴィッヒはドイツ軍か。ドイツ軍は9mmパラベラム仕様でP8の名称で制式拳銃になっているので納得がいく。

 

「うそ」

「あれって本物?」

「だとしたらヤバくない」

 

ザワザワと教室が騒ぎかけている。物騒なモノを持ってもいいが人目に付くにするなよ、まったく。

 

「………………」

「………………」

 

その間に織斑先生に視線が合った。なぜか言っているかのように分かった。任せると。

 

「……………」

「なんだ、怖気づいたのか。ISに乗らなければ何も出来ないのか?」

 

随分と上から目線。なんという傲慢。入学当初のセシリアを思い出せるようだ。

 

「……安全装置(セイフティ)がかかっているぞ新米(ルーキー)

新米(ルーキー)だと?私は10年以上のベテランだ!」

 

10年以上か。かなり興味を持つが、今は後回しだ。

 

「はぁ……」

「……んっ」

 

呆れたように余所見をしているかのように装い、右目でしっかり見る。

視線を銃に向けたのを見計らい―――

 

「……ふ!」

「がっ!うわっ!?」

 

両手で銃口を床に向け、瞬時に右手を顎に強く当てる。ボーデヴィッヒの両手が緩んだ瞬間に、ボーデヴィッヒの身体を一回転して地面に落として仰向けにさせた。

周りはポカンとしている。

 

「ふ、これでよく10年以上も生き残れたな」

「お前は、それをどこで……!」

 

持っていたH&K USPは俺が持っていて、銃口をボーデヴィッヒに向けている。

それにしてもこの銃、よく手入れされている。分解したいな。

 

「……ではHRは終わりだ。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦を行う。ボーデヴィッヒの銃は私が預かる。解散!」

 

織斑先生の一声でテキパキとみんなが行動する。銃を織斑先生を渡す。

 

「織斑、弓塚。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」

「はい」

「分かりました」

 

当然だろう。さて、早く教室から出ないと。

 

「織斑君と弓塚君だよね?初めまして。僕は―――」

「自己紹介は後でいい。それより移動が先だ。女子が着替えはじめるから」

「確かに」

 

一夏はデュノアの手を取って教室を出る。コイツ、躊躇なく出来るのが凄い。

 

「男子は実習のたびに空いているアリーナの更衣室で着替えることになっているから早めに移動することを覚えてくれ、そして慣れてくれ」

「う、うん……」

 

頬が赤くなるデュノア。本当に男だよな。ますます怪しい。

 

「おい一夏そろそろあの集団が来る頃だ。気を引き締めろ。デュノアも」

「そうだな。今日はどうするか」

「へ?何のこと?」

「すぐに分かる。お、言ったそばからもう来たか」

 

何のことかデュノアは分からないようだがこれは絶対に覚えておかなければならない。

一階に降りるため階段がある廊下差し掛かったところにあの集団が来た。

 

「ああっ!転校生発見!」

「しかも織斑君と弓塚君もいるわ!」

 

あの集団とは各学年各クラスから来た情報収集に特化した女子のこと。この団体行動には先輩も後輩も関係ないそうで集団行動が凄まじい。

毎度違うルートを使っているのに先に待ち受けているので若干怖い。

 

「こっちよ、こっち!」

「者ども出会え出会え!」

 

城でも武家屋敷でもないのにそんな呼び方あるか。

 

「織斑君と弓塚君の黒髪もいいけど、金髪もいいわよね」

「しかも瞳はアメジスト!」

「きゃああああっ!見て見て、織斑君と転校生が手を握っている!」

「IS学園に入って良かったー!ありがとうお母さん!今度、ケーキ買うからね!」

 

手頃の値段がいいぞ。ショートケーキとか。

 

「な、なに?なんでみんな騒いでいるの?」

「ここには俺と一夏、デュノアの三人だけだからだろ」

「?」

 

なぜ首を傾げる。意味が分からないと顔に書いているぞ。

 

「男でISを動かせるのは世界で俺達三人しかいないからなおさら」

「あっ!―――ああ、うん。そうだね」

 

本当に男か。それはいいとして今はこの状況をどう打破するか。近くには窓がある。……よし。

 

「今日は窓から出るぞ」

「おいおい。飛び降りるのか?」

「ここ二階だけど危ないよ」

「大丈夫だ。安全に降りられる方法がある。俺がけむり玉を投げるから一夏は窓を開けろ。いいな」

「分かった。信じるぞ」

「僕も信じるよ」

 

作って良かったけむり玉、それ!

 

 

 

ボンッ!

 

 

 

「なにこれ!?」

「前が見えないよー!」

「ちょっと、私の胸掴まないでよ!」

 

色々と混乱しているが今のうちに逃げるか。

 

「肩に捕まれ。出るぞ」

「ちょ、ちょっと!」

 

右に一夏、左にデュノアと捕まっているのを確認して身を乗り出して外に出た。

 

「よっと!」

 

左手にしている腕時計からアンカーを出して屋上のフェンスに引っ掛けてゆっくりと下に降りた。

 

「007かよ」

「ちょっと工夫をすればできるぞ。使い捨てだが」

「いやいやできねーよ」

「それよりショートカットはできた。後は真っ直ぐアリーナに向かうだけだ」

「そうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの二人目。よくも私を……!」

 

生まれながら軍人である。戦うための存在でずっと訓練をしていた。あらゆる武器も熟知している。

昔は落ちこぼれと言われていたが、今では私は一部隊の隊長になった。

なのに……あの男は容易く私を地面に付けるとは!!

 

「覚悟しろ。弓塚 士郎」

 

見事なCQCだ。だが、私の身体にはあの()()のソルジャー遺伝子があるのだから、次は負けん!

 

 

 

 

 




感想、誤字脱字がありましたら報告お願いします。
ちなみにですが、ラウラの近くで着替えてた女子は怯えていました。ブルブルと。
では次回もお楽しみに!


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第53話「教員の実力」

お待たせしました!
それではどうぞ!


第2アリーナの更衣室に着くと時間はあと五分もなかった。

 

「うわ!時間ヤバいぞ!すぐに着替えちまおうぜ」

 

急いで一夏は制服を脱ぐ。中にISスーツを着ていないから急ぐ羽目になるのになぜあらかじめ着ない。

 

「わあっ!」

「どうしたデュノア?」

「な、なんでもないよ?き、着替えるからあっち……向いててね?」

「いやまあ、別に着替えをジロジロ見るつもりはないぞ。なあ士郎」

「当然だ。まあ文化の違いだろう。日本ではあまり気にしないが外国では気にする者がいると聞いている。デュノアもそうなのだろ?」

「そ、そうなんだよ!まだ慣れなくてね、ははは……」

 

本当に女だったなら色んな意味で問題だ。見えないように裏のロッカーに移動させた。

 

「あ、僕のことはシャルルでいいよ」

「なら俺も一夏でいいぜ」

「俺も士郎でいい。これからよろしく頼むぞシャルル」

「うん。ありがとう、一夏、士郎」

 

声だけ聞こえるが弾んで聞こえる。嬉しいのだろう。

 

「僕は終わったけど2人は大丈夫?」

「俺は大丈夫だが……」

「ちょっと待っててくれ、もうすぐ終わる」

 

ジッパーを閉めるのに一夏が必死になっている。このままではまずい。

ここは―――

 

「先にシャルルと一緒に出てるぞ」

「え、でも……」

「なに大丈夫さ。一夏だからな」

「ちょ、ま―――」

 

―――見捨てる事にした。わざわざ怒られるような事はしたくないから。

更衣室に一夏を置いて(見捨て)先にシャルルと出た。

 

「良かったのかな?」

「覚えておくといい。織斑先生の授業がある時は何が何でも遅れないことだ。許されることはないと思った方がいいぞ」

「そうなの?分かった覚えておくね」

 

アリーナにはすでに1組と2組が集まっていた。

 

「弓塚、織斑はどうした?」

「後できます」

「はぁ……分かった」

 

いつも常備している出席簿からメキメキと音がするのは気のせい。そう気のせいだ。

 

「すいません!遅れました!」

「遅い!」

「ぐはぁ!」

 

謝罪をしたのに出席簿を喰らったか。それを見たシャルルがポカンとしているので肩を叩くとこっちを見て、遅れるとどういうことか分かったようで納得したのかコクコクと頭を縦に動かした。

 

「ゴホン。では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

『はい!!』

 

今日は二組と合同実習なので人数は倍。織斑先生から直々の指導があるので気合が入っているのか声がドンピシャに揃っている。

 

「今日は実践してもらおう。誰にするか。―――凰!オルコット!」

「「はい!」」

「専用機持ちならすぐに始められるだろ。前に出ろ」

 

鈴とセシリアが指名された。だが、2人は不満があるようでブツブツ言っている。

 

「めんどいなぁ。なんで私が……」

「はぁ、なんか見せ物のようで気が進みませんわね」

 

そんな2人に織斑先生が近づいて行く。何か言うのか?よし、集音機能を上げて、と。

 

「お前ら少しはやる気を出せ。―――アイツにいいところを見せられるぞ?」

「「!!」」

 

よく分かっている。すぐに鈴とセシリアはやる気になった。

 

「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわ!」

「実力の違いを見せるいい機会よね!専用機持ちの!」

 

やる気になったのは良いことだ。でも、それに一夏が気付かないんだよな。

 

「先生今何か言った?」

「いや、さっぱり。士郎は聞こえたか?」

「こっちも聞こえなかったぞ」

 

言ってもどうせ気付かないだろ。言ったら言ったで鈴とセシリアが傷つきそうで言わない方が正解のはず。

 

「それで、お相手は?わたくしは鈴さんとの勝負でも構いませんが」

「ふん。こっちの台詞。返り討ちよ」

「慌てるなバカども。対戦相手は―――」

 

 

 

キィィィィン………

 

 

 

ん?この音は物が落下する時の音。てことは―――

 

「ああああーっ!ど、どいてください~っ!」

 

上から山田先生がラファールに乗って落下している!?

 

「全員散開!」

 

 

 

ドゴーン!

 

 

 

ふう。なんとか指示をしたのでみんな無事ようだ。あれ、一夏はどこに?

 

「いてて……」

 

声がした方を向くと一夏がいた。だけど、下にいるのは山田先生だった。

傍から見れば一夏が山田先生を押し倒しているように見える。しかも胸を掴んでいる。ガッチリと。

 

「あ、あのう織斑君……ひゃんっ!」

 

なんと揉んだ。気付いていないとはいえ不用意に触るものではないのに。

 

「え?」

「そ、その、ですね。困ります……こんな場所で……。場所の問題もですが、私と織斑君は教師と生徒ですし……ああでも、このまま行けば織斑先生が義理のお姉さんってこともそれはそれで魅力的な―――」

「す、すいませ「ピュン!」へ?」

 

急いで離れるとさっきまでいた場所に青い光線が横切った。

 

「ホホホホホ……外してしまいましたわ……」

 

顔は笑っているが額に血管が浮いているセシリア。落ち着け。確かにやってはいけないことを一夏はしたがせめて殴るだけにしろ。

 

 

 

ガッシーン!

 

 

 

「一夏ぁぁぁぁ!!」

「うおおおおっ!?」

 

考えるより行動する鈴が双天牙月を連結させて両刃状態にして一夏に躊躇なく投げやがった!手間がかかる友達だ!

 

「はっ!」

 

 

 

ドンッ!ドンッ!

 

 

 

双天牙月が軌道を変えて地面に刺さる。一夏を救ったのは山田先生だ。山田先生の実力は織斑先生から聞いていたがこれほどとは。

両手でしっかりとマウントしているのは51口径アサルトライフル《レッドバレット》。アメリカのクラウス社製実弾銃器で、その実用性と信頼性の高さから多くの国で正式採用されて

いるメジャー・モデル。代表候補生、国家代表にも使われているので目にすることも多い。

だがあれほどの命中精度は山田先生の腕だからこそである。火薬銃は当然ながら反動(リコイル)が生じるので狙うにしてもブレてしまう。それを踏まえて山田先生は狙った。さらに凄いのは狙った場所で双天牙月の両端であること。回転している物を両端をほぼ同時に狙えるのはそれほどいない。命中精度が極めて高いことが見受けられるということに結論が付く。

 

「織斑君、ケガはありませんか?」

「は、はい。ありがとうございます……」

 

驚きながらも答える一夏。まあ俺は聞いていたが一夏は聞いていなかったから驚くのも無理もない。

 

「山田先生は元代表候補生だからな。今くらいの射撃は造作もない」

「昔のことですよ。それに候補生止まりでしたし……」

 

山田先生で候補生止まり。つまり国家代表を狙うなら山田先生を越えなければならないということか。

 

「さて小娘どもいつまで惚けている。さっさと始めるぞ」

「え?あの、2対1で……?」

「いや、さすがにそれは……」

「安心しろ。今のお前達ならすぐ負ける」

「「む……!」」

 

あーあ。セシリアと鈴はまんまと踊らされている事に気付いていない。熱くなるなと言わないが冷静になることを心がけないと。

 

「では、はじめ!」

 

号令で山田先生、鈴、セシリアは上へと飛翔し、体勢を構えた。

 

「手加減はしませんわ!」

「さっきのは本気じゃなかったし!」

「い、行きます!」

 

先制攻撃はセシリア鈴組だったが、簡単に回避された。というより山田先生が先手を譲ったように俺には見えた。

 

「デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみせろ」

「あっ、はい」

 

急に言われたことに驚きつつ答えたシャルルは落ち着いて説明を始めた。

 

「山田先生が使用されているISはデュノア社製『ラファール・リヴァイブ』です。第2世代開発最後期の機体ですが―――――――」

 

説明を聞きつつ、上での戦闘を見ている。

セシリアのビット攻撃をよく見て回避行動をとって、続いて鈴の衝撃砲を避けて、避けきれない時はシールドでガードしてダメージを最小限にしている。俺は目のおかげで衝撃砲が見えるが、山田先生は経験と予測で補っている。伊達に元代表候補生ではないということか。

 

「―――といった全タイプに切り替えが可能で、参加サードパーティーが多い事でも知られています」

 

シャルルの説明が終わるのと同時にセシリアが面白いように山田先生の射撃で誘導され鈴と衝突して、グレネードを撃ち込まれた。

 

「うう……まさかこのわたくしが……」

「あ、アンタねえ……!何面白いように回避先読まれているのよ……!」

「鈴さんこそ、無駄にばかすかと衝撃砲を撃つからいけないのですわ!」

「それはこっちの台詞よ!ビット出すの早いし、エネルーギー切れるの早いし!」

「ぐぐぐぐっ……!」

「ぎぎぎぎっ……!」

 

どっちもどっちだろうが。山田先生を甘く見たのがそもそもの誤算。いや、最初から勝てるはずがないか。

 

「さて、これで諸君にも教員の実力は理解できただろう。以後敬意をもって接するように」

 

織斑先生がそう言うとみんなは「はい!」と答えた。山田先生は織斑先生に褒められたのか「えへへ……」と顔が赤くなっていた。

 

「時間が思ったよりあるな。織斑、弓塚」

「「はい!」」

「どちらか山田先生とやってみるか」

 

これはまたとない機会やってきた。

 

 

 

 

 




感想、誤字脱字等がありましたら報告お願いします。
ISの9巻買いました。個人的にはブルマの解説が驚きました。
次回は山田先生VS士郎になります。ちょっとやりたかったことをやります。ちょっとガンダムネタもやります。
それとマジコイ思ったよりかかっているのでお待ちください。すいません。

では次回もお楽しみに!


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第54話「杭と奥の手」

さあ、今回は山田先生とバトルです。
戦闘描写難しいですね。
山田先生は元代表候補生ですけど、どのくらい強かったんでしょうね。
では、どうぞ!


やるなら今しかない。次が出来るのはいつになるか分からない。

 

「辞退します。俺の白式ではすぐにやられると思います。それに雪片しかないので」

「織斑は辞退か。弓塚はどうする」

「やります」

「わかった。ISを展開しろ」

 

無鉄を纏い、全システムをチェックする。

 

―――新しい武装が選択できます。使用しますか?

―――はい

―――いいえ←

 

武装?最近研究所でメンテナンスしたときに何も言われなかったんだが。言うのを忘れたのか。後にするか。全く知らない武器を下手に使うのはかえって不利になってしまう恐れがある。

いいえを選択して画面から消えた。

 

「それでは山田先生。よろしくお願います」

「はい。全力でかかってきてください」

「言われずともそのつもりです」

 

エネルギー充填にさほどかからず山田先生が戻ってきた。右腕下部にカモフラージュされている()()には気付いていないようで好都合。

 

「では、はじめ!」

 

山田先生と一緒に上に飛翔した。

 

 

 

さて、どう攻める。射撃はさっき見たから分かるが、剣の腕前はどれほどのモノか。なら―――

 

「はっ!」

 

確かめてみるか!

 

 

 

キィィィィン!!

 

 

 

「速いですね、弓塚君。驚きました」

「それはどうも。中々の反応ですね、山田先生」

 

干将・莫邪を即座に投影して斬りかかったがシールドでガードされた。せめて掠るくらいしたかったのだが。これも経験の差か。

 

「はあああ!」

「やあああ!」

 

山田先生は近接ブレードを右手にソードブレイカーを左手に持って、近接戦闘を続行した。二刀流なのかは知らないが対応力は優れているな。

 

「ちっ。厄介な物を」

 

近接戦闘事態はそれほど苦ではない。だが、ソードブレイカーが厄介。

ソードブレイカーとは 敵の剣、レイピアやサーベルなどの比較的細身のものを峰の凹凸にかませて折ったり、叩き落としたりするのに使う。名前の由来は剣を折ることからだ。

扱いは十手や琉球の古武術の武具にある釵に近いが、より積極的に武器を破壊する事が可能。相手を突くために先端は尖っている。

ISの武器なので斬れるように片面は刃があって、片方が峰の凹凸がある。

なので……

 

「はっ!」

「くっ!?」

 

こちらの干将・莫邪でどちらかをワザと噛ませること。折れはしないがしっかりと溝にはまっているので抜けず手から離されてしまう。すぐに残った片方を投げても弾かれた。

 

「まだ始まったばかりなのに手詰まりですか?」

「まだまだ……!」

 

とはいえ、接近しても今の繰り返し。なら射撃に切り替える。

 

「また新しい武器を造りましたね!先生驚きですよ!」

「M90サブマシンガン。これはサブマシンガン系統になります。つい先日完成したばかりなので今日がお披露目です!」

 

 

 

ガガガガガガガガガガッッ!!!

 

 

 

薬莢が次々に舞い散る。すでに出ているサブマシンガンを参考にして製作したので弾詰まり(ジャム)も起きていないので安心。すぐになっては欠陥品だ。

威力はそれほどないが連射速度と集弾率を考えれば有効材料になる。

 

「はっ!」

 

 

 

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

 

 

「そう簡単にいかないか」

 

さっき双天牙月を落としたレッドバレットで応戦してきた。移動しながらだと照準がズレやすいというのにまったくブレもしない。

威力はレッドバレッドの方が上。加えて山田先生の精密動作でよりダメージが増えるチャンスが多くなっている。

ならば……

 

「うおおおおおお!!」

 

M90サブマシンガンを左手に持ち替え、山田先生に接近する。傍から見ればヤケクソに見えるだろうが思考はいたって冷静だ。

 

「それでは負けてしまい―――え?」

 

言葉に詰まるのも無理はない。なにせ―――M90サブマシンガンを山田先生に投げたからな。

 

「っ!?」

 

当然とっさにシールドでガードする。それにより視界が一時的に遮られる。

その瞬間に瞬時加速(イグニッション・ブースト)で近づき、右腕下部のカモフラージュをパージさせて()()を出す。

 

「え、ちょっ!?」

 

シールドを退かした山田先生が慌てている。このまま順調に行け!

 

「おりゃ!!」

 

これはアームパイク。火薬の力で内蔵された杭を打ち出す近接兵器。すでに出ていたパイルバンカーの資料を元に造った。造るのはさほど難しくはなかったが、どの火薬でするかが手間がかかった。弱過ぎるとダメで、強過ぎると壊れる恐れがあるからだ。

それにこれは射程が狭いので近づかないといけないのでこの武器だけは完全な奇襲用、もしくはカウンター用である。

 

確実に決めるために身体を捻り、威力を上げて渾身の一撃を撃ち込む!

 

 

 

ドンッ!

 

 

 

右腕から衝撃が走り、薬莢が宙を舞って地面に零れ落ちる。

これで勝った―――

 

「うーん。びっくりしましたよ、弓塚君」

 

―――と思ったが決まらなかった。

山田先生は本当に強い。当たる瞬間にとっさに後ろに退き、さきほどガードした反対のシールドを出したのだ。さらに受け止めたのではなく、受け流したのでダメージは最小限に抑えられた。

一瞬にしてそれを実行するとはすごいとしかいいようがない。

 

「そろそろ時間ですのであと1分で終わりにしましょう」

「そうですね。授業が出来なくてはいけませんから」

 

残りは1分。俺に残された勝つ方法は―――1つだけある。

ただ、それはあまりコントロール出来ない。が、もう迷っている暇はない。実行に移すのみ。

 

「―――投影(トレース)開始(オン)

 

残された時間は今この時も減っていく。なら数は20以上を選択。

細部までとはいかなくても大まかに構成。

 

「―――憑依経験、共感終了」

 

やるのは簡単。だが、それをいかにコントロールするかが決め手。

出来ないのであれば、数の暴力でやるしかない。

 

「―――工程完了。全投影、待機」

 

イメージは十分。あとは出すのみ。

 

「っ!行きます!」

 

山田先生が動いた。投影した剣の数を見て即行動に出たか。

後手になったがまだ間に合う!

 

「―――停止解凍、全投影連続層写……!!!」

 

 

 

ドドドドドドドドドドドドッッッ!!!!!!

 

 

 

20以上の大小、形がそれぞれ違う剣が前方に放たれる。放たれた剣は弾丸並みの速さで放たれる。

 

「ひゃあああああああ!?」

 

必死に両肩のシールドでガードしている。どうにか持ちこたえそうとしているが僅かにバランスを崩した。

その瞬間を見逃すわけにはいかない―――!

 

「追加!」

 

さらに20以上の剣を出した。それにより完全にバランスが崩れ、雪崩れ込みように当たっていく。

 

「うわあああああああああ!?」

 

悲鳴と共に山田先生が下に落ちて行き、ラファールのシールドエネルギーがゼロとなり勝敗は勝ち。かなりギリギリに。

 

「はあ……疲れた……」

「お疲れゆーみん。すごいね、やまちゃん勝っちゃったよ~」

「それでもギリギリだ。だが、次は勝てるかどうかは怪しい。対策を立てられて看破されることが多いかもしれん」

 

下に降りると本音が喜んで近づいて来た。教師に勝てるのはそんなにいないから喜んでいるのか?

 

山田先生との戦いが終わり授業が始まる。

 

 

 

 

 




感想、誤字脱字がありましたら報告お願いします。

今回は前々からやりたかったのを出せたので満足しています。
今は大丈夫なんですが九巻からどうしようかなと考えています。原作を待ちながらするか、それともオリジナルに進むか。その時にならないと分からないですが、八巻まではとにかく大丈夫です。

それでは次回もお楽しみに!


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第55話「過去の彼」

いやいや遅れてすいません。リアルが思った以上に忙しくて遅くなりました。
今年に入ってからペースダウンしてきているのでどこかでペースアップしていきたいです。
それではどうぞ!


「さて、グループになって実習にする。専用機持ちは各グループのリーダーになること。では分かれろ」

 

織斑先生が言い終わるとみんなは均等に分かれ―――

 

「織斑君、一緒にがんばろう!」

「わからないところ教えて~」

「デュノア君の操縦技術を見たいなぁ」

「弓塚君、山田先生を吹き飛ばした武器すごかったよ!」

 

―――るはずもない。俺、一夏、シャルルの方に大勢寄って来た。セシリアと鈴、ボーデヴィッヒには少数ながらいた。どう見ても偏りが激しいのは明白。

 

「はぁ……バランスよく考えないのか馬鹿共が……」

 

ああまずい。このままだと間違いなく、雷が落ちる。

あ、そうだ。確か、拡張領域(バススロット)に紙と色ペンをメモか部品の種類を分けるなどのためにに入れていた。それを使えば班分けに使える。

手際よく作り、一分とかからずできた。

 

「みんな聞いてくれ。これだと授業にならないからこれを引いてくれ」

 

丸い穴が一つ開いているなんてことのないただの箱を出す。箱は投影で作った。

 

「それなに?」

「くじ引きだ。中には白、黒、赤、青、オレンジ、紫の紙がある。白は一夏、黒は俺、赤は鈴、青はセシリア、オレンジはシャルル、紫はボーデヴィッヒになる。引く順番は出席番号順。これなら平等だろ?」

 

納得したのか反論はなかった。順調にくじ引きが進み、それぞれの決まった場所に行った。

で、俺の所に来たのはほとんど1組で1名が2組の班になった。

 

「君が弓塚君ね。私はティナ・ハミルトン。2組だからあまり知らないよね」

「そうだな。だが、名前はもう覚えた。ハミルトンはISに乗ったことはあるか?」

「ええ。1、2回ほどあるわ」

「なら、先に乗ってくれないか。経験者の方が次に乗る者の参考になる」

「いいわよ。でもあまり期待しないでね。そんなにうまく動かせないから」

 

乗せる順番はハミルトンが1番。次に乗せるのは……別に決めなくてもいいか。その時に決めれば。

 

「いいですかーみなさん。これから訓練機を1班1体取りに来てください。打鉄が3機、リヴァイブが3機です。早い者勝ちですので文句はなしですよー」

 

今日のようにいつもしっかりしていればあだ名で呼ばれることもないのに。

しかし山田先生が時折見せる眼鏡を直すくせで、自分の肘に当たり、胸がこう……ぷるんと揺れる。

 

 

ギュウ!

 

 

「いででででで!!」

 

急に横っ腹を抓られて、思わず悲鳴を上げてしまった。抓った奴は誰だ。

 

「ゆーみんどこを見ているのかな♪早く取りに行かないと余ったのを使うことになるよ♪」

「ほ、本音?何怒っているんだ?」

 

抓ったのは本音だった。いつも通りの笑顔だが殺気と怒気が混ざり合っているかのような感じがする。

 

「怒っていないよ。どっちでもいいから早く取ってきて♪」

「あ、ああ」

 

とりあえず持ってこよう。どっちでもいいと言われたので無鉄と縁がある打鉄にするか。

 

「ハミルトン、早速頼む」

「はいはい~」

 

すぐに乗って設定をチェックして動かし始めた。

問題なく歩いているのでこれといって何も言うことはないな。うん?

 

「………………」

『………………』

 

ボーデヴィッヒの班だけ何もしていない。いや、何も出来ないようだ。軽蔑したような目と冷徹のオーラで沈黙している。

仕方がない。織斑先生に通信するか。

 

『なんだ弓塚。何か問題でもあったか?』

「いえ、自分の班は大丈夫です。実はボーデヴィッヒの班が遅れているのでサポートをお願いできますか。多分ですが、まだ来て日の浅いボーデヴィッヒがコミュニケーションをとれていないのでうまく会話が出来ていないそうなので」

『確かにそうだな。デュノアはすでに会話が出来ているがボーデヴィッヒは出来ていないのは明白。分かった、サポートをしてやろう。連絡ご苦労』

「いえいえ。では」

 

これでいいだろう。さて、ちょうどハミルトンも終わったようだ。

 

「お疲れ。何も問題なかったぞ」

「授業で乗った事あるから当たり前よ。問題ある方がマズイわよ」

「それもそうだ。次の人」

 

ハミルトンと入れ替わってきたのは金髪の女子。背はやや高く、髪は肩にかかりそうなくらい長く、どこか男勝りな感じだ。

 

「乗ってもいいか?」

「ああ。順序は分かるか?」

「当然だ。オレも乗った事あるから大丈夫さ」

 

自分のことをオレと言う女子を見たのは初めてだ。見ればよく身体が鍛えられているのが分かる。一体どれほどの実力だろうか。

 

「よっ、ほ」

 

ハミルトンよりも動きがいい。動きに無駄がなく、歩行はおろか走行ができている。……て、おい!

 

「走るな!歩くだけでいいんだ!」

「それじゃつまんねぇよ。走った方がオレは楽だ」

「走るのは次だから今は歩くんだ!」

「ちぇ」

 

本当に男勝りだ。いや、お転婆と言うべきか。

 

「よっと。走る時は1番にしろよ」

「ああ分かったよ。次の人」

「私だよ~」

 

次は本音だった。あまり見ない方がいい。服を着ていたから分からなかったが本音は胸が大きい。とにかく集中しよう。また抓られる。

 

「乗れないんだけど」

「そんなはずは……あれ?」

 

本来ならしゃがむ姿勢になっているはずなんだが立ったままになっていた。さっきの金髪の女子が立ったまま下りたので当然ISもたったままになる。

 

「仕方がない。本音ちょっと我慢してくれ」

「わっ!?」

 

無鉄を展開、装着をする。本音の腰と足を持つ。俗に言うお姫様抱っこだ。こうではないと安全に運べない。おんぶでは胸が俺の背中に当たるのでセクハラになってしまう。

更識家から和也さんが来そうなのでそれだけは絶対阻止しなければ。リアル鬼ごっこはもうゴメンだ。

 

「しっかりまってくれ。ケガはしたくないだろ」

「う、うん……」

 

顔が赤いのが気になるが多分緊張しているのだろう。

 

「乗り方は分かるな。頑張れよ」

「あいあい~」

 

それにしても俺の班は順調だな。これといった問題は今の立ったまま下りないようにするだけ。

同時刻に簪がシャーペンとボールペンを折ったことを俺は知らない。

その後は順調に進み授業が終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では午前の授業はここまで。午後は今日使った訓練機の整備を行うので、各人格納庫で班別に集合すること。専用機持ちは訓練機と自機の両方を見るように。では解散!」

 

時間に余裕があったので早々と片づくことができた。問題があったのはあの金髪女子は走る時に一番にしたのだが、ジャンプして着地した際に砂埃ができたので周りに迷惑をかけたことだけ。

あ、名前聞いておけばよかった。

 

「はぁ……あんなに重いなんて……」

「疲れてクタクタだな一夏」

 

したかないだろうな。訓練機を運ぶのはIS専用のカートで運ぶのだが、動力は人。本来は数人で運ぶのだが、こいつは男だから大丈夫と啖呵を切ったので1人で運んだ。俺も1人で運んだが、投影を応用した強化で全身を強化したので難なくできた。

強化とは投影を応用した能力。分かりやすく言うと物体の材質を解明して強度を高めること。これが強化である。他の使い方は肉体能力を一時的に高めること。

 

「士郎、シャルル、着替えに行こうぜ。俺達はまたアリーナの更衣室まで行かないといけないしよ」

「ぼ、僕はちょっと機体の微調整をしてからいくから、先に行って着替えててよ。時間かかるかもしれないから、待ってなくていいからね」

「ん?いや、別に待ってても平気だぞ?待つのには慣れて―――」

 

 

ゴン!

 

 

「いってええええ!なにすんだよ!」

「機体の微調整は重要なことだ。専用機持ちならなおさら。お前はしたことがないのか?」

「いや、ないけど」

「はぁ……。午後は整備の授業。そんなんじゃ午後は大変だぞ」

 

機体の微調整は重要である。少しの調整で感覚が変わり、動きが良くなる可能性がある。逆に悪くなる可能性もある。しかし、一度もしていないとは……今後厳しくなることが容易に

想像がつく。

 

「それじゃシャルル。俺達は先に更衣室に行っている。微調整にあまり時間をかけ過ぎると食べれなくなるからきりのいいところでしておけよ」

「うん。またね」

 

制服を着て教室に戻る。その際に屋上で食べようと言ったので行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり僕のこと覚えていないよね」

 

彼、弓塚士郎とは一度会ったことがある。去年の12月、公園で迷子の子を見つけて母親を探していた時に出会った。フランス語が流暢に話せていたので会話は困らなかった。ほどなくして母親を見つけることができた。

その後彼と街を案内してあげて、ちょっと事件にも巻き込まれたけど、いい思い出になっている。

 

「でもなんで名字も名前も違うんだろう?」

 

弓塚士郎ではなく―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――衛宮切嗣と名乗った。

 

 

 

 

『キリツグ』という発音が難しかったので僕は彼をケリーと言ったのでよく覚えている。

 

 

 

 

 

 




感想、誤字脱字がありましたら報告お願いします。

金髪女子は今後重要になってきます。シャルさんは士郎のことを一日しか会っていません。

それでは次回もお楽しみに!


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第56話「料理とは最高にも最悪にもなる」

この頃スランプになりかけています。なにかしないと!
あ、お気に入り600件超えました。これもみなさんのおかげです。
それでは、どうぞ!


断っておくべきだった。

屋上に来て見ると一夏、箒、鈴、セシリアが来ていた。シャルルは少し遅れて来た。

その中でも箒が不満ありげな顔をしていた。恐らく、一夏と二人っきりで昼食をしようと思ったが俺達が来たことで予定が台無しというところだろう。

あとで何か埋め合わせるように考えておくか。

 

「天気がいいから屋上で食べるって話だっただろ?」

「そうでなくてはだな……!」

 

鈴とセシリアがいるので余計にイラついている。箒の手は2つの弁当がある。片方は自分の、もう片方は一夏のために作ってきたか。ちなみに鈴も自分のと一夏のを用意していてセシリアはバスケットがある。何が入っているんだ。

 

「せっかくの昼飯だし、大勢で食った方が上手いだろ。それにシャルルは転校してきたばっかりで右も左もわからないだろうし」

「そ、それはそうだが……」

 

バチバチと火花が見えそうなくらいに3人は互いに睨めっこしている。

 

「えっと、本当に僕が同席しても良かったのかな?」

 

それは俺も同意見。正直俺とシャルルはどう考えてもこの場には居づらい。この状況を作った一夏は何も気にしていない。悪気がないのが余計に腹がたつ。

 

「はい一夏。アンタの分」

「おお、酢豚だ!」

「そ。今朝作ったのよ。アンタ前に食べたいって言ってたでしょ」

 

今のところ、鈴の父親に関する記憶はない。何度思い出そうとしても結局思い出せなかった。楯無さんが頭に強いショックを与えれば思い出せるかもと言ってバールを取り出して俺の頭を叩こうとしたら、本音が押さえつけて、簪がバールを奪って楯無さんの頭にガン!と強いショックで気絶した。正直簪と本音のコンビネーションの方が怖かった。

 

「コホンコホン。一夏さん、実はわたくしも今朝はたまたま早く起きましたのでこういうものを用意してみました。よろしければおひとつどうぞ。イギリスにもおいしいものがあると納得していけませんとね」

 

バスケットの中身はサンドイッチだった。きれいに並べている。どれもおいしそうな感じだ。

 

「へえ、言うだけあるな。それじゃ1つもらうぞ」

「ええ。士郎さんもどうぞ」

「なら1つもらおう。どれほどの味なのか試してもらうぞ」

 

野菜と卵が入ったのを選び、口に運ぶ。その味は―――

 

「!?」

 

―――地獄だった。

なんだこれは!甘い、しょっぱい、辛い!素材の味を根こそぎ殺しているではないか!

これは料理ではない。テロだ!

 

「うう……」

 

一夏もどうやら地獄を味わっているようだ。顔が若干青い。

 

「どうですか。お味は?」

「あ、ああ。えっと……」

「まずい」

「え?」

「まずいと言った。聞こえなかったか」

「なっ!?どうしてですの!」

 

一夏は誤魔化そうとしているがこのままではこの学園全体が危ない。それに俺は料理を、素材をここまで殺しているのは我慢ならん。

 

「セシリア。味見はしたのか?」

「いえ。本に書いてあったようにできたのでしていませんわ」

「そうか。なら食べてみろ。本に書いてあったようなままにしたらどうなるか」

「ひどいですわ。こんなにおいしく―――」

 

サンドイッチを1つ食べるとセシリアがみるみる青くなってくる。

 

「とても……まずい……ですわ……う……」

 

自分の料理がのどれくらいのモノかよく味わったようだな。味見は重要。食べてもらう相手のことも考えなくてはならないからだ。

 

「で、どうすんのこれ」

「全部食べるのはどうだ?」

「それじゃ午後の授業は出れなくなるぞ。俺はもう十分だし」

「でもこのままじゃまずいよね」

 

とにかくこれをどう処分すればいいか。

食べる。これは却下。午後は保健室のベットでお休み行きだ。

捨てる。これも却下。捨てる場所がない。それにここは屋上。ゴミ箱がない。

さて、どうすればいいものか。あ。

 

「このサンドイッチ全部もらうぞ」

『え?』

 

バスケットにあるサンドイッチ全部を俺の弁当の包みに入れて影に移動して一夏達に見えない位置に来た。

 

「……おい。ザイードいるか?」

「ここいいますぞ」

 

一夏達に見えない位置にきた。常に監視しているとこの前聞いていたがすぐに来るとは驚き。

 

「これおまえにやる」

「え?これは?」

「サンドイッチだ。とある代表候補生が作ったものだ。作り過ぎたから貰ったんだ。まだ食べていないだろ」

「これはこれはありがとうございます。では少々抜けますのでしばらく警戒を怠らぬよう注意してください」

「ああわかっている。じゃあな」

「はい。では」

 

煙のように消えて去って行く。

すまんザイード。そして死ぬなよ。

 

「あれ?サンドイッチはどうしたんだ」

「この前出かけた時に知り合ったやつに送った。味のことは一切言わずに」

『うわぁ……』

 

後悔はしていない。反省もしていない。俺はタダで食べ物をあげただけ。

 

「次は箒のをもううぞ」

「あ、ああいいぞ。私のはこれだ」

 

弁当の中は鮭の塩焼きに鶏肉の唐揚げ、こんにゃくとゴボウの唐辛子炒め、ほうれん草のゴマ和え。バランスがとれた献立になっている。

 

「おお!どれも手が込んでそうだ」

「つ、ついでだついで。あくまで私が自分で食べるために時間をかけただけだ」

「そうだとしても嬉しいぜ。箒、ありがとう」

「ふ、ふん……」

 

鶏肉の唐揚げは先日教えたことので早速使って来たか。

 

「ねえ、ケ……士郎。一夏ってもしかしてあれが普通なの?」

「もしかしなくてもそうだぞ。あれくらいのアピールだと誰しも気付く筈なんだが一夏はそれでも気付かん。つまり鈍感ということさ」

「ははは、そうなんだ」

 

一夏のアレは鈍感を超えた鈍感。シャルルが疑問に思っても不思議じゃない。

それよりケ、てなんだろうか。何か言いかけていた気がするが……気にするほどではないか。

 

「おお、うまい!これって結構手間がかかってないか?」

「味付けは生姜に醤油、おろしニンニク。それとあらかじめコショウを少しだけ混ぜてある。隠し味には大根おろしが適量だな」

「本当にうまいぞ、箒」

 

生姜、醤油、おろしニンニクは教えたが、コショウと大根おろしは箒なりの工夫か。

料理を教える前は味のないチャーハンだったのに自分で工夫するまでになるとは教えたかいがあったものだ。

ちなみに料理を教えているのは誰にも言っていない。そうでないと鈴とセシリアが押しかけて来そうな気がする。

 

「箒も食べてみろよ。ほら」

「そ、そうか。それもそうだな。食べてみるか。あむ」

「「ああああああああああ!!」」

 

何やっているんだこの馬鹿は。一夏が箒に唐揚げを箸で食べさせた。なんでそんな風にできるのか不思議。一夏に関しては考えるのをやめた方が楽だとこの頃感じてきた。

 

「あ、これってもしかして日本でカップルがするっていう『はい、あーん』っていうやつなのかな?仲睦まじいね」

「ただしカップルでもないのにするのが一夏だけいうことだと付け加えておくぞ」

「それもそうだね」

 

何気に一夏に毒吐いたなシャルル。

で、その後は1つずつおかず交換となった。人気だったのはなぜか俺の卵焼きだった。一夏達は「こんなうまい卵焼き食べたことない!」と言っていた。

それと今日の俺の弁当はゴマ塩をかけたごはんに卵焼きの2つだけ。なぜこの2つだけになったのかというのは朝の料理番組を見ながら料理をしていたらフライパン一杯に卵焼きをしていた。そのせいで他のおかずを作るのをやめて、この2つになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方あのザイードはどうなったのかというと―――

 

「おーい。飯にしよう」

「え、俺達別に食べなくても大丈夫なんだぞ?」

「そう言わずによ。ほれ」

『おおおお!』

 

ある森の中で髑髏の仮面をかぶった者達がいた。それはザイードの中まである。人数は10人ほどで年齢はそれぞれ違い、体格も違う。子供のように小さい者や背が2メートルを超える者とバラつきがある。

 

「これどうしたんだよ」

「へへ。士郎殿からいただいたのさ。なんでもある代表候補生が作り過ぎたから貰ったそうだ」

「ほー。なら食べてみるか」

「そうだな。そんじゃいただきまーす」

『あむ………………………………!?』

 

食べてすぐに彼らの表情がみるみる青くなった。

 

「辛い!」

「甘過ぎ!」

「苦い!」

「しょっぱい!」

「味がねぇ」

「噛めば噛むほど味が……変わる!」

 

セシリアのサンドイッチはどれも味にバラつきがあり過ぎ。それゆえにまともなサンドイッチが1つもない。

 

「このまずさは……あの人が作ったのに似ているな」

「ま、まさか!」

「ああ。だとするとこれはあの人の娘が作ったのだろうよ」

「今思い出したんだが娘さんは確か代表候補生だったな。それで士郎殿はとある代表候補生と言ったのか。人が悪い」

 

彼らが明日の昼まで苦しんでいた。

そして胃薬がこれほど恋しいほど思ったことはないと後に語る。

 

 

 

 

 




感想、誤字脱字がありましたら報告お願いします。
実はですね、この頃行き詰る事が多くなってきたので別のを書こうと思っています。
内容はシリアスじゃないようにするつもりです。
それでは次回もお楽しみに!


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第57話「アリーナ騒ぎ」

ちょっと遅れてすいません!ここ二日腹がやばくてそれどころじゃありませんでした。
それでは二ヶ月も更新できませんでしたがようやくできます。
出来はそれほどよくないと自負しております。
それではどうぞ!!


今日はアリーナで一夏達と模擬戦をすることになっている。すでにアリーナには一夏達が来ており、一夏とシャルルが模擬戦をするところのようだ。

 

「今から模擬戦か?」

「あ、士郎。そうだよ、僕はまだ一夏の白式とは戦ったことないから戦ってみたいんだ」

「そうか。ケガしない程度に頑張れ」

「うん」

 

一夏とシャルルの模擬戦が始まった。

シャルルのことは楯無さん達にすでに伝えている。楯無さんの情報によるとデュノア社は最近経営不振になっているそうで、このままだと国からの援助が打ち切りに会社が倒産する恐れがあると。脱却するためにも一夏か俺のデータを取って、どうにかしようとする、と楯無さんはよんでいる。

 

「何をやっているんだ一夏は!」

「いいように当てられているんじゃないわよ!」

「なぜそこで避けないですの!」

 

指導者たち(箒、鈴、セシリア)はカンカンに怒っている。この所、一夏の訓練を任せっきりにしている。

実は今度の学年別トーナメントに向けて新しい武器を考えている。トーナメントは3日間なので武器の消耗を考えると近接武器は大丈夫として射撃武器はマズイ。試合中に問題が起きると考えられるのは暴発、または弾詰まり(ジャム)。そうならないように1日目は使用して、2日目は使用せず、3日目は使用する。こうすれば、極めて問題は減ることができる。

 

「このぉぉぉぉ!」

「甘いよ一夏!」

 

すでに1つは出来ている。それは藤ねえからとあるDVDを渡されたことが始まりだ。

なんでも爺さんが演技指導をした洋画がある言われて強制的に見せられた。その時簪と本音もいたので2人も見ることになった。というよりも見たいと言った。

ストーリーはそれほど悪くなく、何気に見れるものであった。

で、肝心なのは終盤近くに銃撃戦。主人公が銃と日本武術を駆使して、大勢の敵を倒していく。この場面以外にも使っていたが、この場面が印象的だった。

銃と日本武術を駆使したこの戦い方はガン=カタ。これはあまり普及しておらず、使える人は少ない。使っている国は日本、アメリカ、イギリス、ロシア。それも警察、自衛隊、軍のほんの一部だけ。

このガン=カタを考えたのが爺さん。というとより戦い方は曾爺さんが考えたそうだ。戦時中に敵と出くわしたときでも銃を持ったままでも戦えるようにしたと言っていたそうだ。

戦い方は曾爺さんで修正と効率を高めたのが爺さんとなっていて親子2代で作った新しい格闘術である。

 

「まだまだ!」

「行くよ一夏!」

 

教えてもらう人がいなかったのでDVDと藤ねえから貰ったガン=カタの参考書でモノにしようと頑張っている。まだまだだが、学年別トーナメントまでには100%といかなくてもそれに近いようにすればいい。

あ、そういえば新しい武装があると無鉄からメッセージがあったな。すっかり忘れていた。明日にするか。

 

「だあああ!シャルルに負けた!」

「でも一夏すごいよ。まだISを動かして二ヶ月なのに僕が思った以上に動かしているんだもん」

 

ん?終わったか。今の会話を聞いていのを察するに一夏が負けたようだ。

 

「負けがこのところ増えているのは気のせいか一夏」

「ソンナコトナイデスヨ」

「片言で言ったらバレバレだぞ。なんで負けるか分からないのか?」

「それほんと?一夏分からないの?」

「うーん。すまんさっぱり」

 

俺とシャルルの問いに分からないと一夏が答える。知っていて戦っていると思っていたのだが知らないまま戦っていたか。

はぁ……。それでは負けが増えるわけだ。

 

「なら俺とシャルルが戦って、なぜ負けが増えているのかよく考えてみろ。シャルルいいか?」

「うん大丈夫。いつでもいいよ」

「ありがとう。なら今すぐするぞ」

「分かった」

 

上昇して十分な高度になった。

シャルルのはラファール・リヴァイブか。通常カラーは緑だがシャルルのはオレンジか。それに両肩にシールドが一対ずつあるはずだがない。シャルルの専用機にするように色々と改造(カスタマイズ)されているように見える。となると拡張領域(バススロット)が広くなっている可能性もある。まだ可能性であるがそれが本当なら銃火器の量も相当な数。

ふ、なぜか喜んでしまいそうだ。銃火器を使うのは俺が知る限り、俺と簪。あとは訓練機を使用する生徒。

専用機持ちはいずれも銃火器を使わない。一夏は雪片だけ、セシリアはレーザー兵器がメインでミサイルは最終手段なので滅多に使わない。鈴は衝撃砲を使い、双天牙月を振り回す。

楯無さんのISは最近知ったが、美沙夜のISはよく知らない。同じ所属企業でも教えてくれない。ま、学年別トーナメントには見せてあげると言っていたので焦ることはないと思う。多分。

 

「始めるぞシャルル。用意はいいか?」

「いつでもいいよ」

「では、いくぞ!」

 

開始と同時に互いに銃を取り出して、撃ち合いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、なんで負けたのか分かったか?」

「すいません。全く分かりません」

「あはは……」

 

10分ほどでやめた。今回は一夏になぜ負けたのかを気付かせるためなので試合のようにシールドエネルギーがゼロになるまではしなかった。

それと先ほどの銃撃戦がなぜか懐かしかった。分からん。

 

「士郎、僕が説明してもいい?」

「ああ。説明任せる」

「任せて。えっと、一夏が勝てないのは……」

 

最近の一夏の勝敗は分かっているが詳細は箒達が知っている。聞いてみるか。

 

「一夏がこの頃負けが多いと聞いているが詳しく聞きたい」

「そんなの当然だ。私のアドバイスをちゃんと聞いていないからだ」

「そうなのよ。あんなに分かりやすく教えてやったのに」

「全くですわ。理論整然とした説明が何が不満なのかしら」

 

説明はしているか。単に一夏が物覚えが悪いのか、それともこいつらの説明が悪いかの二択しかない。

一夏は物覚えが悪い方ではないと俺は知っている。教えたその日に完全とは言わないものの全体的にはできる。

ということはこいつらが悪いのか?

 

「ちなみに訊くが、どう説明した?」

「こう、ずばーっとやってから、がっきん!どかんっ!と」

「感覚よ感覚」

「防御の時は右半身を斜め上前方へ五度傾けて、回避の時は後方へ二十度回転」

 

…………………………………………………………は?

説明、なんだよな。これだから一夏の負けが多いのか。いや、一夏自身にも問題あると思うが大まかな原因はこの3人か。

 

「今日は俺一人で一夏と訓練する。お前たちは今の説明を本当に他人できるのか織斑先生に会ったら言ってみろ」

「む。私達の説明が不服なのか?」

「それとも不満」

「分かりやすい説明ですのに」

「はぁ………」

 

自覚していないのはある意味怖い。

箒は子供のような説明、鈴はニュータイプでもない限り解らない説明、セシリアはコンピューターと話すような説明。

正直、これで解る人はほとんどいないだろう。

一夏とシャルルが何かするようで話し合っている。

 

「今から射撃練習か?」

「うん。僕がじゃないけど一夏がね」

「白式には雪片しかなかったはずだが。もしかしてシャルルのを使用承諾(アンロック)して貸すのか?」

「そう。知識だけみたいだから実際に撃ってみれば解ると思って」

「それには賛成だ。どれほど頭に知識を入れても、実際どうなのかは経験してみなければ解らないことが多いからな」

 

言葉で説明できない部分もある。だから、当人が経験しなければならない。

 

「か、構えはこうでいいのか?」

「えっと…脇を締めて。それと左腕はこっち。分かる?」

 

ギコチない一夏をシャルルがサポートして射撃体勢にする。シャルルは誰にでも分かりやすいように教えることができるのだろう。

 

「ねえ、なんかあの2人仲良過ぎるんじゃない?」

「「~~~~~~!!」」

 

男に嫉妬してどうする。お前達はお互いライバルだろう。出し抜かれないように注意すればいいじゃないか。

 

 

 

バンッ!

 

 

 

いつも聞き慣れている火薬が炸裂する音が鳴る。

その音に一夏は驚く。一般にはそんな音を聞くのはほぼないに等しいので驚くのは無理もない。反動はISが自動で相殺するので問題はないだろう。

その後何度か撃って一マガジンを使い切った。

 

「士郎は射撃できるの?」

「ん?できるぞ。それがどうかしたか?」

 

唐突にシャルルが質問してきた。

 

「映像で見たことあるけど、士郎はどのくらい上手いのかなって」

「映像?ああ、4月にしたセシリアとの試合か」

 

あの試合の後に知ったことなんだが、どうやら各国の政府やIS委員会が映像提出を求められたと藤ねえから言われた。なにせ男がISを動かせているのは例外、本来ありえないからそれは

そうだろ。

 

「それなりに上手いと思っている。今から見せよう」

 

無鉄を展開して、38式狙撃銃・遠雷を構える。

射撃訓練のホログラムが表示される。一つ一つが六角形になっている。ちなみに的の色は真ん中が青、その周りが緑、緑の周りが黄色、両端に2つづつあって赤である。

 

「あ、それって遠雷でしょ。僕も使った事あるけどいいよね」

「そうなのか。威力はいいがボルトアクションだから使う人は少ないんだよな。気にしなければいいのに」

「そうなんだよね。ほとんどセミオートかフルオートが多いからやりづらいから使う人がフランスでも少ないんだよ」

 

遠雷だけなんだよな。苦情というか注文というか。

他のはセミオートで何の問題はなかったが、遠雷だけボルトアクションなので使いづらいと言われているのでセミオートにしてくれと言われた。誰がするか。そもそも弾詰まり(ジャム)しないためにしているのでボルトアクションにしている。それをセミオートにしたら弾詰まり(ジャム)するのに。

説明はしたので使い人だけ使ってくれと言った。それでも売り上げが落ちないのは不思議なもんだ。

ちなみに38式狙撃銃系統は久宇企業を通して販売している。

 

「さて、やるか」

 

狙うは真ん中。それ以外は眼中にない。

 

 

 

バンッ!

 

 

 

真ん中に当たり、次の的が表示されて撃ち貫く。

 

 

 

バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!

 

 

 

計5つの的の真ん中に全て当たり、得点は満点になった。

 

「すごいよ士郎!全部真ん中に当てるなんて!」

「すげー!よく当てられるな!」

「それぞれの銃の特性を掴んで、何度も反復練習すればできる筈だ」

 

そういえばシャルルの専用機はラファール・リヴァイヴか。学園にあるのとは違って基本装備(プリセット)がいくつか外れている。他にも装甲素材や各部位も変更されているの

だろう。

 

「シャルルのはラファール・リヴァイヴだったな。専用機として手を加えられているのだろ?」

「うん。一夏にも言ったけど基本装備(プリセット)がいくつか外れているから拡張領域が倍になっているんだ。だから今量子変換してある装備だけでも20くらいあるんだよ」

「それはすごい。まるで移動する武器庫のようだな」

 

簪に見せられたガンダムにも銃火器がほとんどのがあったな。名前は確か、ヘビーアームズだったか。

 

「大抵は銃を使うが弓を使うこともある。それに弓の方が精度は上、威力も使い方次第では上回っている」

「へー。見せてくれてもいいかな?」

「構わない。いつものことだ」

 

左手に使い慣れた洋弓を出す。投影は本当に便利だ。日常ではコップや皿などの小道具、戦闘では剣、刀、弓、矢など昔ながらの武器で使える。今のところ問題は起きていない。

 

「折角だから、決め手の一つを見せてやろう」

「え、いいの?後で不利にならない?」

「決め手はいくつもある。それに意識させておくだけでも牽制になる」

「ははは……」

 

さっきの模擬戦で分かったんだが、シャルルのラファール・リヴァイヴには恐らく高速化処理が施されているのでそれで連続射撃と同時に給弾ができるようだ。気を抜いたらあっという間にシールドエネルギーが減る。

ターゲットを出して適当な剣を出す。

 

「ふぅ………」

 

剣を矢に変えて弓を引く。剣は電気を帯びるように光る。

これは強化の一つのようなもの。弱点は溜めるのに時間がかかるということだけ。最大に溜めるとアリーナを壊してしまう可能性があるので中間ぐらいでいいか。

 

「はあ!」

 

程なくして中間ほど溜まった瞬間に剣を―――放つ!

 

 

 

ゴオオォォォォンンンッ!!

 

 

 

ターゲットは跡かともなく消えて、焦げた匂いが僅かにした。

 

「どうだ。弓も捨てたもんじゃないだろ!」

「う、うんそうだね。ははは、ははは…………」

 

なんで乾いた声なんだろうか?よく見ると一夏達や周りで練習していた人たちはポカーンとしていた。

 

「次はどうする。まだ一夏に射撃を教えるか?」

「うーん。そうだねそれじゃ―――」

「ねえ、ちょっとアレ……」

「ウソっ、ドイツの第三世代型だ」

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いていたけど……」

 

急にアリーナ内がざわめく。注目の的に視線を移すとそこにいたのは……

 

「………………」

 

シャルルと一緒に来た転校生、ラウラ・ボーデヴィッヒであった。

瞳は冷たく、視線が鋭い。転校初日には一夏に平手打ちを仕掛けようとして俺が止めた。その後はクラスメイトには一切無関心。先生達は必要なことだけしか答えないが、織斑先生にはなにか色々と言ってくる。山田先生なんか「私嫌われたことしたのかな……」っと先日ぼやいていた。

 

「おい」

「……なんだよ」

 

ISの解放回線(オープン・チャネル)で一夏に声をかけてきた。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い、私と戦え」

 

冗談言っていると信じたい。今、ここのアリーナは混んでいる。辛うじて模擬戦や射撃訓練をできるスペースしかない。

 

「イヤだ。理由がねえよ」

「貴様になくても私にはある」

「今でなくてもいいだろ」

 

何のことだろうか。それに一夏の顔が少し曇っている。

 

「貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえただろうことは容易に想像できる。だから、私は―――貴様の存在を認めない」

 

よく分からないが織斑先生も関係しているのか。しかし、大会二連覇か。だとすると第二回IS世界大会モンドグロッソの決勝か。ネットや記事では体調を崩して出場できないと欠場した書かれていたが、一夏とボーデヴィッヒの会話からはそれがない。となると本当は別の理由があるとなるな。

 

「もうすぐクラスリーグマッチなんだからそれでいいだろ。じゃあな」

「ふん。ならば―――戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

左肩に装備している大型の実弾砲を放ちやがった!

 

 

 

ガギンッ!

 

 

 

「この密集空間でいきなり戦闘を始めるとは気でも狂ったか?」

「貴様……」

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)を出して、実弾を弾いた。真名解放をしていないのに丈夫だな。さすが無敗の盾。それに7枚ではなく4枚にしている。最低4枚で最高7枚と変えることができると投影の練習に気付いので今回は4枚にした。

 

「まだ戦闘を望むと言うならここでお前のISを修復不可能(スクラップ)にするぞ」

「日本の第二世代型(アンティーク)ごときで出来るものか」

「生憎俺の第二世代型(アンティーク)は色々と訳ありでな。それに周りをよく見たらどうだ?」

「なに?―――!これは?!」

 

ボーデヴィッヒの周囲に50ほど剣に囲まれている。知っての通り、俺が投影で出したモノ。幸いなことにボーデヴィッヒの周囲には人がいなかったのでできた。

 

「今すぐこのアリーナから去ると言うなら手出しはしない。

それでも戦闘をするなら―――容赦はしない」

「くっ……!いいだろう、今日は引こう」

 

戦闘解除をしたので剣を消す。アリーナゲートへ去って行き、ようやく警戒を解除した。

 

「っ!」

 

一瞬、左腕に痛みが走った。受け止めたのが左腕だったから痛めたか?

 

「向こうもそれなり理由はあるようだ。一夏、心当たりはあるか?」

「……ある。ここじゃ人が多いし、寮の部屋でいいか?」

 

俺を含めてシャルル、箒、セシリア、鈴は首を縦に振り、答えた。

 

 

 

 

 




感想、誤字脱字がありましたら報告お願いします。
この時のラウラは堅物でしたね。常に警戒しっぱなし。
早く話が進むように書くしかないか。ブランクがやばい!
それでは次回もお楽しみに!


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第58話「あの時」

遅くなってすいません。
体調は徐々に回復して来たのにスランプ気味になってしまった。
書いて書いて書きまくるしかないか。今回短いし。
それでは、どうぞ!


一夏とシャルルの部屋に俺、箒、セシリア、鈴で合計6人がいる。男女比率が当然偏る。なんかさみしい。

 

「それじゃ話すよ。みんなには世話になっているし、知って欲しい」

 

そう一夏が言うと眼がいつも以上に真剣になった。

 

「ことの発端は3年前の第二回IS世界大会モンドグロッソ。千冬姉まだ国家代表だった時だ。

本当なら俺もついて行きたかったけど大会は平日だから行けないし、学生の本分は勉強だって言って釘を刺されて、行くのを諦めて日本で応援することにしたんだ」

 

3年前か。記憶がないから実感はないが記録では確かにそう書かれている。

 

「予選は当然、突破。本選でも各国の強豪選手に隙を与えないで一撃必殺な感じで順調に勝ち進んでいったんだ。……本当に千冬姉と当たった選手にはご愁傷様とした言えないけど」

 

言いたいことはよく分かる。織斑先生は国家代表の時は雪片の一振りで試合を決めているのが多い。

戦い方はいたってシンプル。試合開始直後に瞬時加速(イグニッション・ブースト)で近づき、一瞬だけ零落白夜を発動して斬る。

今だからこそ瞬時加速(イグニッション・ブースト)はどの国でも使えるが、当時は織斑先生だけだったので無双状態だったといえる。

 

「知っての通り千冬姉は決勝戦まで勝ち進んだ。そして、誰もが大会二連覇を成し遂げようと思っていた。……俺が誘拐されなければ」

『!?』

「………………」

 

俺以外は驚いた顔をした。なぜ俺が驚かなかったのはもしかすると何かに巻き込まれたと思っていたからだ。

 

「決勝戦当日、俺は下校途中で何者かに意識を失われて誘拐されたんだ。気付いたら柱に括り付けられて身動きが取れなかった。どうなるのか不安でいっぱいだった時に千冬姉が助けてくれたんだ」

 

助けてくれた?何かおかしい。

 

「待て一夏。お前は日本にいて、織斑先生は会場、それもドイツだろ。なんで助けることができたんだ?」

 

第二回IS世界大会モンドグロッソの会場はドイツだった。日本にいた一夏がなぜドイツに会場があるところから助け出すことができたんだ?

今でも日本とドイツまでISを使っても数時間はかかる。しかもそれまでエネルギーが待たないはず。

 

「助け出された後に教えてくれたんだけど俺が捕まっていたところがドイツだったんだ。なんで日本にいたのにドイツにいるのか今でもわかないんだ」

 

確かにわからない。日本にいる一夏を誘拐し、わざわざはるばる遠くのドイツまで連れて行く必要があるのか。普通なら日本にいるはず、だが実際はドイツに連れて行った。不可解だな。

 

「事件発生時に独自の情報網から俺の監禁場所に関する情報を入手していたドイツ軍関係者は全容を大体把握していて、千冬姉はそのドイツ軍からの情報によって俺を助けてくれ

たんだ。で、ドイツに借りができたから大会終了後に1年くらいドイツIS部隊で教官してたんだ」

「つまり、そのドイツIS部隊で教官していた教え子の1人がラウラ・ボーデヴィッヒか」

「ああ。千冬姉はここIS学園とドイツでしか教えたことがないってこの前教えてくれた。だから間違いはない」

 

恩人の弟を恨むが恩人自身は尊敬か。今はそれでいいが、ボーデヴィッヒがこのまま何もしないとは言いきれない。アリーナでのあの行動力は目的の為なら周りがどうなっても構わないと思わせる。教室でも警戒しないといけないとは気疲れがする。ケガをするよりはマシか。

 

「それでは今後はボーデヴィッヒを警戒して、専用機持ちは誰かといること。特に一夏は常に二人一組で行動しろ」

「ああ分かっている。でも誰と一緒にいればいいんだ?」

「僕と一緒なら怪しまれないと思うよ。ルームメイトだからね」

「それでいいだろう。一夏とシャルルで常に二人一組でいること、俺達専用機持ちも誰かといること。箒も一応誰かといてくれ。用心に越したことはない」

「分かった」

 

その後は雑談をして自分の部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日はその後は何事もなく終わると思ったが、ある注意していたことを忘れて起きた。

 

「ん?今から夕飯か?」

「お、士郎じゃないか。ああ、今からシャルルとな。お前は何してたんだ?」

「職員室にあるテレビが調子が悪いから見てくれと言われて直してきたところだ」

 

ここ最近学生というより修理する業者のように感じている。確かに俺は色々と直せるがそういうのは本職の人に頼んでくれ。断らない俺も原因だが。

ちなみに簪と一緒に戻っている。今度の学年別トーナメントに向けて調整をしていて帰り道でちょうど俺と鉢合わせになって今に至る。

 

「隣の女子は誰なんだ?学年は同じようだけど違うクラスの子か?」

「そういえば紹介していなかったな。四組の更識 簪。日本代表候補生で入学まで家に住まわしてもらったんだ」

「へーそうなのか。俺は織斑 一夏。よろしく更識さん」

「………………」

 

あれ?人見知りではないはずなのに何の反応もしない。どうしたんだ?

 

「……………す」

「ん?」

「三発殴って織斑 一夏を倒す……!」

 

なんでそんなに力一杯に拳を握っているんだ!何か悪いことでも……あっ!

本音から一夏を会わせないようにしてと言われていたんだ!

 

「一夏逃げ―――」

「ごふっ!がっ!ぶほっ!」

「―――ろ、て遅かったか」

 

右ストレートを腹に一発。左フックを顔に一発。そして右アッパーで一夏が宙を飛んだ。

 

「ふう……スッキリした!!」

 

とてもいい笑顔だな簪。そして一仕事した顔でこの場を去って行く。

地面にはピクピクと痙攣している一夏、目の前のことにポカーンとするシャルル。カオスだ。

 

「おーい生きているか」

「な、なんとか……それよりなんで殴られたんだ俺?」

「一応一夏に関係することだから言っておくか」

 

なんで簪が殴って来たのか、白式のせいで打鉄二式が開発が止まったことなどなど話した。

 

「一度ちゃんと謝った方がいいか?」

「それは本人が望んでいないだろう。頭でわかっていても気持ちまでは抑えきれなかっただけのはず。今度会ったときはごめんの一言と友達なってくれれば十分さ」

 

さて、俺は部屋に戻って学年別トーナメントに向けて対策でも練るか。

 

 

 




誤字脱字、感想がありましたらお願いします。
なんとか以前のように週一で更新出来るようにがんばります。
それでは次回もお楽しみに!


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第59話「新しい武装」

どうもお待たせしました。スランプが続いて今だに遅くてすいません。
一応前より早く更新できたのが救いです。
それではどうぞ!


「ふう…………」

 

学年別トーナメントに向けての対策を一旦やめる。

今のところ問題はない。ガン=カタ用の銃は完成している。テストも何度かしたのですぐにでも使える。

無鉄には追加武装や追加装甲、増設ブースターといったモノは予定はない。強いて言うならマニュアルモードに手を加えようと考えている。

マニュアルモードは本当の意味で思い通りに動かすことができる。パワーバランスや反射速度といった勝負の明暗が決まることがあるからだ。

念のためになにかのパッケージでも準備しておいておくか。色々とあるから選んでおいて損はないだろ。

問題はあるのはボーデヴィッヒだけか。

なぜあれほどまでに織斑先生に執着するのか分からない。いや、執着というより宗教に近いな。信じるのは構わないが、度が過ぎるとそれは狂信者になってしまう。今のボーデヴィッヒはまさに狂信者。本人に言ったら自分は至って正常だと言うだろうがこっちからすれば正常ではないとしか見えん。

 

「あ。なんか武装とか無鉄からメッセージがあったのを忘れてた」

 

山田先生と模擬戦をやる前に出ていたのを思い出した。久宇研究所に言っても使ってみるまで教えてくれないだろうな。向こうでの試作武器、武装も使ったあとで教えることになっているからだ。

明日の放課後にでも一夏との模擬戦で使うか。

 

「っ!また左腕か」

 

どうもアリーナでボーデヴィッヒの攻撃を受け止めてから痛む。それほど気にはしなかったが、念のためにストレッチをしてから寝るか。

 

 

 

 

 

この時はまだ大した問題ではなかった。事の重大に気付いたのは数日後になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「準備はいいか?」

「ああ。いつでもいいぜ」

 

授業は終わり、俺と一夏は第2アリーナにいる。あらかじめ予約をしていたのですんなりと入れた。学年別トーナメントも近いので予約をしておかないと入ることができなくなる。

 

「今回は新しい武装のテストになる。俺自身も使ってみなければわからない。悪いが実験に付き合ってもらうぞ」

「別にいいぜ。色々と世話になっているから気にすんな」

「なら、遠慮せずやらせてもらう」

 

―――新しい武装を使用しますか?

―――はい←

―――いいえ

 

 

ガコン!キュイン!

 

 

 

無鉄から鉄の音が響き、形が変わった。全体の色が銀色というより鉄の色のまま。顔を含めての肉体が見えないように装甲に覆われ、人の形は保っているがISらしさがほとんどなくなった。

……これって確か映画に出てたロボットに似ているような。それと映画のタイトルはなんだっけ?

 

「なんでパシフィック・リムのジプシー・デンジャーになっているんだ?」

「そうそうそれだ。…………なん……だと……!」

 

一夏がなんで知っているんだ?映画になっているから見に行ったか?

 

「公開日に弾と見に行ったからよく覚えているぜ。でもなんでそんな風になったんだ?」

「それは俺が知りたい。てっきり新しいシステムかどこかに内蔵武器があるかと思ったんだが、予想が大きく外れ過ぎる」

 

誰か説明してほしい。って都合よくいるわけないか。

 

『それは私が説明するわ!』

「「!!」」

 

アリーナのスピーカーから待っていましたと言わんばかりに張りきった声が聞こえる。視線を中継室に向けるとそこには古式先輩がいた。

 

「なんで古式先輩がこれについて説明するんですか?」

『だってそれ考えたの私だから』

「なに?」

『といっても実際作ったのは技術班の人なんだけど、私色々と意見も言ったし、責任を任せられている1人になったから当然ね』

「そうですか。では説明お願いします」

 

古式先輩はあの後、久宇企業のテストパイロットになり、将来が約束された。保護のため家族は久宇企業の敷地で過ごすことになった。敷地には他にも寮や家族のための住宅があるので心配はない。しばらく会えなかったが元気そうにしているのは知っていた。しかし、この武装に関わっているとは。

 

『そのシステムの名前はジプシー。織斑くんが言った通りパシフィック・リムのジプシー・デンジャーをそのまんまに変えることができるのよ。

武装は左右腕部に内蔵されたプラズマキャノン、両腕に蛇腹剣のチェーンソード、肘部にパンチ力を増幅するためのロケット推進機「エルボー・ロケットブースター」、胸に火炎砲の

ファイヤーバーナー、胸部から放出冷却。以上が武器の説明。飛行は出来るから安心して』

 

戦闘スタイルとしては一夏に近いな。古式先輩の言った通りならこの状態の時は近距離格闘戦になる。劇中でもそうだったからな。

 

『実際に戦ってみて。習うより慣れろって言うじゃない』

「そうですね。行くぞ!KAIJU!」

「KAIJUじゃねぇよ!」

 

両腕からチェーンソードを出して接近戦を試みた。

 

 

 

キィィィィンッッ!!!!

 

 

 

ちゃんとコーティングされているようなので雪片とまともにぶつかっても大丈夫のようだ。

 

「せい!はあああ!」

「くっ!?うおおおお!」

 

普段は手に剣を持って振るうが、今日は腕全体を動かさないと振れない。そのためか些か違和感があるが慣れれば問題はない。

お次はこいつだ!

 

「こいつでも喰らえ!」

「ちょ!?」

 

左腕のチェーンソードをプラズマキャノンに変えてガラ空きの腹に撃ち込んだ。

 

 

 

ドキュン!ドキュン!ドキュン!ドキュン!ドキュン!

 

 

 

「ぐっ!がっ!」

 

このまま撃ち込む。

 

「うらあ!」

「ちっ!」

 

やはり思い通りにはならんか。大振りにされて距離を空けてしまった。ここで退いたら押し込まれるなら―――

 

「はああああああ!」

 

―――こちらから進んで押し込むまでだ!

 

「これなら剣を振るうことができまい」

「だがそっちもできないだろ」

 

両腕をガッチリ掴んでいるので雪片を振るうことはまずできない。

 

「一夏忘れているぞ。コイツは近距離格闘戦だということを」

「?……あ!」

 

気付いてももう遅い。放出冷却開始!

 

 

 

シュゥゥゥゥウ!!!

 

 

 

「寒!寒い!」

 

こっちもちょいと寒い。だが白式が全体的に冷気を帯びて固まっている。コイツはイケる。

続いてコイツもどうだ!ファイヤーバーナー点火!

 

 

 

ボオオオオオオ!!!!

 

 

 

「あつつつつ!?熱い熱い熱い!!」

 

この近距離での炎はきついだろう。俺は胸が本当に熱い。ここいらでそろそろ決めるか。

 

「おおおおりゃああああああ!!!」

「へぅ!?」

 

空高くブン投げて、一夏より上に瞬時加速(イグニッション・ブースト)で上がり、エルボー・ロケットブースター起動。

 

「うおおおおおおおおおおお!!」

 

これを叫ばなければいけない。それは―――

 

「ロケットォパァァァァンチッッ!!!!」

「ぐほぅ!?」

 

これはまさしく名言。それにワーナーの偉い人も『ロボットって言ったらロケットパンチだろ』と言っていたそうだし。

一夏は大丈夫なはずだ。顔から地面にダイブしたようだが絶対防御があるからな。

 

『どう?このシステムは?』

「色々と言いたい事はありますが、まず全体的に問題はありません。あるとしたらファイヤーバーナーと放射冷却を使用している時温度が感じるのでなるべくこちらに伝わらないように修正してください。それ以外は慣れれば大丈夫です」

『分かったわ。連絡はこっちでするから報告書を簡単でもいいから8時までに研究所に送ってね。修正する部分は後日ファイルで送られるから』

「了解しました。それと元気にしていて何よりです」

『ふふ。これも弓塚君のおかげね。じゃまたね』

 

さて、のびている一夏を起こすか。

 

「おい起きろ一夏。まだするか?」

「やらねえ。最低でも引き分けにするつもりがフルボッコだよ」

「やるからには勝たんとな。今日は上がりにして身体を癒しておけ」

「そうする。にしても凄いんだな、お前の所属している企業は」

「ああ。優秀な者が多いければそれに比例して変態も多いからな」

「なんて言うか、その、頑張れよ」

「お前もな」

 

報告書を出す時にどうやって起動すればいいかと送ったら、「ジプシーON」と言えば起動して「ジプシーOFF」といえば解除されると返信が来た。

夕食後、簪と本音が遊びに来ていたので今日ののことを言ったら見たいと言ったので見せたらすごく興奮していた。

特に簪が怖かったとここに記そう。

 

 

 

 

 




感想、誤字脱字がありましたらお願いします。
今年の更新がヤバいくらいに遅い。前のように週一に戻るようにコツコツと頑張ります。
パシフィック・リムは個人的に好きです。特にロケットパンチと叫ぶところが。
それでは次回もお楽しみに!


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