シャドウラン翻訳短編 (CanI_01)
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ワームトーク

以下にシャドウラン初期の短編小説ワームトークの全訳を記載します。
誤訳などもあると思いますので以下の原文もあわせてお読みください。(そして、気づいたら教えてください)

原文は以下のサイトにございます。
http://www.amurgsval.org/shadowrun/imports/WyrmTalk.html

Wyrm Talk
by Tom Dowd
Copyright © 1993 FASA

シャドウランを知らない方の為に用語解説を末尾につけています。
とりあえず、先入観なくお読みいただいた方が語り手である『あたし』の驚きが体感できて良いのではないかと思います。

それでは『ワームトーク』ご覧ください。


ワームトーク

著:トム・ドウド

コピーライト1993FASA

 

「あなたにドラゴンが会いに来ているみたいよ」

あたしは呆然とつぶやいた。

彼はカフェテーブル、あるいはその上に置かれたデータスクリーンにまき散らされた紙から辺りを見回した。あたしは言葉も出なかった。彼の手には切り分けられたピザが積み上がり油を滴らせていた。

「あー」彼は問う。「誰だろうか」

「どうすればあたしは神の名前を知ることができるんですか」あたしは答えた。彼は時々する少し傷ついたような顔をした。「そうか、最初にそれを教えておけば良かったね」

彼は微笑みながら切り分けられたピザをテーブルに置いた。

「もちろんだとも愛しきものよ」彼は腰もおろさず口を開く。「すぐに、すぐに教えてあげよう」

「そうですか?」あたしは手をお尻の辺りに下げた。

彼は眉毛を上げた。「そうだとも」

「そこにくそったれなドラゴンあなたに会いに来てるんですよ」

彼は特に怠惰にに手に付いた油を舐めとる。「うんうん、君はさっきからそう言ってるね」

師はあたしがすぐに手を出さないように言うが、時々・・・。「あなたはあたしに彼を追い払わせたいんですか?」

「もちろん、そんなことはないさ」彼は答える。「何故そのように思ったんだい。それはあまりにも不作法だ。何故そんなことを聞いてきたんだい」

「ドラゴンに対してこの入り口があまりにも小さすぎる気がしたので」あたしは最高に愚かな疑問を口にしていた。彼について知っている期間は短いけれど、このようなことは珍しく明らかに普通ではなかった。

彼は首を傾げ忌々しいことに笑みを浮かべ、「俺は君が知らない様々な方法を知っているのさ」と言わんばかりの表情をしていた。

 

「何故彼にそんな事をしなければならないんだい」

あたしは肩をすくめた。「素敵ね。なぜでしょうね。まあ修理するのはあなたなので構わないけど」あたしは状況を理解し部屋から離れるために振り向いた。あたしが足を止め彼を振り返ると切り分けたピザを折り畳んでいるところだった。

「うーん、あたしにはドラゴンがなんで室内に入りたがるのか見当もつかないけど、」つい口にする。「彼が入ってくる前に服を着ておいてくださいね」

彼はあたしを見定めるように眺め、自らを見下ろした。

「ああ、俺もそう思っていたところだ。ところで、どうやって彼が入ってくるかわかったのかい」

そして、あたしは彼が必要としている衣装箱を激しくなげつけた。

後退し、立ち止まり、服の居住まいを正し、庭に堂々と歩み出た。彼は自らが着陸した場所に当然のように腰を下ろしており、さながら浅い皿に置かれた奇妙な妖精の輪のようだ。それは蒼銀の鱗が遅い午後の太陽を反射しマックスフィールドパリッシュの絵画の中に入ったように庭園を様変わりさせていた。ドラゴンは間違いなく眼前におり、意識しなければ金魚のように口をパクつかせるところだった。そのように恐れたり、混乱したような動作は望まない。もしあたしがそんなことをしようものなら・・・。

「彼は在宅かね?」そう問うてくる。あたしはそれと話すための準備をしていたけど、着陸した後の最初の言葉を聞いた時点でまだ準備はできていなかった。その言葉はっきりと聞こえたにも関わらずそれは口を動かしていない。全く動かしていない。

まずは一歩前進するために半歩下がる。「あたし・・・承りました、もちろん、もちろん、おります」

「知っているとは思うが、ワシは君を脅かしにきたわけではない」その巨大な頭をゆっくり振りあたしの方に向いた。その瞳には深い知性の輝くがあった。それはその気ならあたしを丸呑みにすることができ、それを正しいこととしてそれをしないかどうかの確証はなかった。

「もちろん、理解しております・・・」

「そろそろ中に入れて貰えるかな。このように尻尾を浮かせておくのも骨が折れるものでな。この素晴らしい庭を傷つけるのはしのびない」

あたしは数階分の高さに保持された尻尾を見上げた。その先には顎がある。そこには巨大な牙があり、そこから立ち去りたく・・・。

「ワシはそこに入って良いのかね、本当に?」奇妙な声が届く。

あたしは見下ろした。ドラゴンは行ってしまった、消えてしまったのだ。その場所には若い男、あたしよりも若い、多分20歳程度で、見た限り非常に美しい青い絹で作られたアラビアンスーツを身につけている。その皮膚は青白く、顔の造形はミケランジェロのダビデのようであった。彼の瞳は鋭い銀で青く煌めくのが印象的だった。あたしは笑い始めた、愚か者のように。

彼は微笑む。「愛しきものよ、また驚かせてしまったようですまなかったな」

あたしはわずかに微笑んだ。「あたしにはドラゴンにそんなことができるとは存じ上げませんでした。」

あたしは愚かなことを口にした。更に自覚なく数歩後ずさった。

彼はあたしの方に歩を進め、指を1本唇にあてる。「誰にも言わないでくれたまえ。秘密というやつだ」

 

より多く秘密はあるだろうとあたしは思った。大丈夫。ミズーリの件に興味を持たれるよりろくでもないことはないのだから。

 

 

屋内の近代的装飾は彼に対する陰謀のようですらある。彼は目についた芸術品の作者について順番に質問してきたけど、特に感心をしめしたのはウォーホル1つだけ。理由は神のみぞ知るというところかしら。あたしは少しでも感心してもらえるように2階に彼を通し、入りやすいように大きく扉を開けた。

彼は楽しげに笑いながら滑るように後ろをついてきた。

 

「ようこそダンケルザーン閣下」

 

あたしはそう告げ彼を招き入れた。

 

そのドラゴンの男は招きに応じて室内に入ってきた。その薄汚れた部屋に。そこではソーセージやペパロニが落ちているが、師は黒のブーツに、洗い晒しのデニムのパンツ、白い麻のシャツという簡単な装いだった。その顔には何のメイクも施されていない。

 

「お招き感謝する」

 

師は左手の指を心臓より少し下の胸に触れ告げた。あたしには師がそのような動作をするのは見たことがないし、説明するつもりはなさそうだ。だが、そこに意味があり今は観察できている。このことに神に感謝した。

 

「ありがとう、ハーレクイン」

 

ドラゴンは先ほどの動作を繰り返しながら返事を返す。

 

「ワシは先日の君のキャラハンの結果に従いここに来た」

 

ダンケルザーンは姿勢を変えず告げたが、あたしはその存在を押し留めたかった、もちろん、彼から秘密にできるものなど何もないのだけど。

ハーレクインはにっこりと笑う。

 

「何か閣下にお願いすることがありましたか」

 

俺は彼に黒革のマッシュルームカウチを勧める動作をする。

 

「お座りになられませんか」

 

ドラゴンは頷いた。

 

「ありがたいな」

 

彼は素早くカウチに座り姿勢を整える。そして、背もたれに体重をかけ微笑む。

 

「今日はどのようなご用件でいらっしゃったのですか?」

 

ハーレクインは問う。

 

「私の立場を知っているかね?」

 

ハーレクインは頷き言葉を返す。

 

「ワームトークのホストと言うことであれば」

 

あたしは自らを嘲笑った。ダンケルザーンは覚醒後まもなく国際的なメディアチームのインタビューを受けている。彼はその経験を大いに楽しんだ。特に自ら出資しジャーナリストの相互交流を進め、そのネットワークを用いた自身がホストの番組を要求したのだ。数年間インタビューを行い、その中で長年の興味に従った3つの番組を行ってきた。ハーレクインとあたしはそんな作品の全てを見てきた。ドラゴンは明らかに近代文化に興味があり、その総括的なコメントは多岐に渡っている。ここ二期ほどはジャーナリズムの対立する考え方をとりあげ、その試みを見たあたしの考えではタイトルをワームフードに変えた方が良さそうな状態だった。

ダンケルザーンはニヤリと笑う。

 

「素晴らしい、その通りだ。ワシは今メディアを虜にするような企画を探している。自由で制約のない情報交換だ。誰か心当たりはないかね?」

 

「私にはそんな自由な議論をできる方は呼べませんよ。」

 

ハーレクインは告げる。

 

「違う、違う。何故ワシがここにいると思っているのだ」

 

「と、言いますと?」

 

「わしは次のプログラムに君の参加を頼みたいんだ」

 

「何故ですか!」

 

ハーレクインは驚き、脚を跳ね上げた。

あたしは笑いながら、口の前で両手を押さえた。ハーレクインは数秒間あたしを睨みつけてきた。笑ったのを後悔していたけど、師が驚くのを見るのはなかなかに愉快だった。

 

「君が受け入れてくれたなら」ドラゴンは続ける。「素晴らしいゲストになると思うのだ」

 

ハーレクインは衝撃を受けたように髪の毛をすく。

 

「私には期待される程話すことはありませんし・・・」

 

「だが、ハーレクインよ、君はいままで常に最良の語り手だったはずだ。いかにして人類が生き延びてきたかを話せば皆興味を持つ。本当に理解できるかはわからんが・・・」

 

「ならばこそ、俺には彼らへの言葉などありません」

 

ハーレクインが話を遮る。

ドラゴンは不思議そうに首を傾げる。

 

「しかし、彼らにも知る権利があると思わないかね。彼らの世界がどうなっているのかについて」

 

ハーレクインは深く息を吐き、眉をしかめた。

 

「俺に何を全て話すことを望まれるのでしょうか。宇宙の無数の秘密を明らかにしろとでも?私にそのように望まれるのであれば・・・」

 

師はあたしの方に振り向き、腕を伸ばし狂ったように指を振った。

 

「あなたが望むのであれば・・・」

 

あたしは示唆する。

「グローバルテレビであたしの中身をぶちまけろと言うの」

 

「その通りだ!」

 

師は言葉と共に指を鳴らし、ウインクをしながらドラゴンに向き直った。

 

「グローバルテレビで私の中身をぶちまけるなど、再びパンドラの箱を開けるようなものではありませんか」

 

「確かに」

 

ドラゴンは言葉を紡ぐ。

 

「君には彼らがどのように混乱し、どうなるかわかるかね?どのように世界の変化を見るかわかるかね?彼らにこの意味を知る権利があると思わないかね。」

 

ハーレクインは強く頷き、野性的な所作で部屋の中央に進み出る。

 

「もちろん彼らはすべきでしょう!ですが、何故彼らに話さなければならないのですか。彼らは自ら志向すべきなのです。そこにこそ楽しみがあるのですから!解決策はそこにあるのです!」

 

「解決策・・・?」

 

ドラゴンとあたしは当惑した。

 

「生命の秘密です、ダンケルザーン。世界は巨大な綴れ織りのようなもの。あなた方は最初その直近に立っていらっしゃる。あなた方はその多くを見、望むなら人生を費やしその一部を解き明かすことすらできるでしょう。中にはその一部ですら十分ではないのかもしれません。彼らが望むなら、一歩下がり絵として眺めることもできます。ついには、彼らは十分な距離を取り俯瞰して見ることができるようになることでしょう。最初から後ろに下がり俯瞰すれば混乱をもたらします。彼らは最初にどこを見ていたのかもわからなくなります。そして、全体像を見誤るのです」

 

彼は話終わると腕を胸の前で組み、顔には満足げな笑みを浮かべていた。あたしドラゴンに目を向けると当惑したように見えた。

ドラゴンが話し始める。

 

「君は彼らにある種の警告を与える必要が・・・」

 

「それはインヴェのことですか?」

 

ハーレクインが尋ねドラゴンが応える。

 

「最初にという意味ではそうだ。」

 

ハーレクインはその考えを振り払うような仕草を返す。

 

「彼らに関しては考える必要はありません。実際私をしっかり手伝ってくれています。人類は彼らの到来を知りませんでしたが、彼らは見事に撃退しました。私の内部をぶちまけても・・・」

 

師はあたしに対して頷き続ける。

 

「人類が早く何かに気づくことなどありえません!徐々に見つけだすことが面白いのです。彼らは時には恐怖を感じながら世界の脅威を知っていくべきなのです。ダンケルザーン、本の最後のページをめくる前に物語の結末を話すようなことはすべきではありません。物語が自ら語るに任せるべきです」

 

ドラゴンは今は冷めたピザのようだが、あたしは師が失った思考を話すことができた。ついに、彼は立ち上がり頷いた。

 

「それではワシが頼めることはないな」

 

ハーレクインは笑い、足元を眺め、頭をふった。

 

「君の歓待に感謝する」

 

ダンケルザーンはそう告げるとゆっくりと扉に向かった。

ハーレクインは顔を上げる。

 

「俺はあなたのゲストのスケジュールに合わせることはできませんし」

 

ダンケルザーンは眉毛をあげる。

 

「そんなことは全く必要がない。ワシはダーナッシュシーのレディブランディに君の所在を告げるだけだ」

 

ハーレクインは固まり口を開く。

 

「俺は断ったはずです。」

 

「おや?」

 

「ダンケルザーン、少なくとも我々はあなたに敬意を持って接してきた筈です。」

 

「まさにその通りだな」

 

「しかし、俺はあなたに警告せねばなりません。俺の同朋やあなたの同朋の中には、あなたがすでに話しすぎていると考えている者もいます」

 

「それで」

 

「あなたのグレートドラゴンや竜種全体に対するコメントについてです」

 

ドラゴンは頷いた。

 

「そう、ワシはいくつか、ああ・・・遺憾の意を表明されている」

 

「それでも更に話すと言うのですか」

 

ダンケルザーンは再び頷いた。

 

「ハーレクイン、君の語ってくれた素晴らしい物語と警告に感謝する」

 

ハーレクインは微笑む。

 

「彼らはいずれ動きます。」

 

ドラゴンは指を胸にあてる動作を行い、ハーレクインも同じ動作を返す、二人は部屋から歩み出ようとする。師は足を止めあたしを呼び止める。

 

「君も我らが女王との会見には素晴らしい経験が得られるだろう」

 

「君が継承した誇りが何かわかるだろうね」

 

あたしは微笑みを浮かべたけど、言われた内容には何も感じなかった。そして同じ胸に指をあて頭を下げた。師は微笑み再度指を胸にあて。

あたしは彼が出た扉を後ろ手に閉め、彼らに背を向けた。

 

「最悪。あたしは彼と同類なのね」

 

あたしは悲しくなり呟いた。

 

「俺も動くか」

 

ハーレクインは口に出し紙に目を落とす。

 

「彼は奴らの中では一番筋が通っているようだな。我々が彼らを討ち滅ぼす必要があるなら不名誉なことだろうな」




以下にワームトーク内部で出てくる単語や補足説明を行いたいと思います。

1.時期と場所
時期的には2052年頃、初版のシナリオ集『ハーレクイン/Harlequin』終了後だと思われます。
シナリオにおいてエーラーンとどたばたを演じた結果ダンケルザーンに目をつけられたと言うことでしょう。
場所はハーレクインの隠れ家であるフランスの小島にあるイフ城かと思われます。

2.ハーレクインとは
ハーレクインは7000年以上生き続けるイモータルエルフの1人です。
祖国であるセレアサがホラー(異世界から襲来した敵性の精霊)に滅ぼされたことを気にしており、第六世界においても異世界からの侵略に対して常に最前線に立っている。

3.ダンケルザーンとは
同じく古代から生き続けるグレートドラゴンで、かつてはマウンテンシャドウと名乗っていた。
この後UCAS大統領選に出馬し、大統領に就任するものの就任パレード中に爆死します。
ただ、この死も命がけの儀式魔術の発動により世界を護るためであったと言われています。
グレートドラゴンの長老であり知識の担い手である〈伝承保持者/ロアーマスター〉の地位についていました。
ダンケルザーンの先代の〈伝承保持者〉も他のドラゴンに“おしゃべり”呼ばわりされていたので、この地位が彼らを多弁にするのではないでしょうか。

4.チャル・ハン
エルフの古式に則った挑戦の儀式のことです。
チャル・ハンは象徴的に対象の存在の7つの諸相に対して力を示す儀式として知られています。これは肉体、霊的存在、過去、現在、未来、恋、憎しみの7つです。これらに力を示すことで挑戦者は対象の存在を破壊するのです。
これには相手を滅ぼすチャル・ハン・チェと相手を傷つけず名誉と威信をかけたチャル・ハン・セがあります。
ハーレクインは“書記の”エーラーンに対してチャル・ハン・セを行い見事に雪辱を晴らしました。
この詳細な内容(と言うか巻き込まれるの)がシナリオ集『ハーレクイン/Harlequin
』となります。
これらのエルフの古代からの儀式はフリーメーソンの儀式とも類似点がありイモータルエルフがフリーメーソンと関わりがあるようなこともにおわされています。
ちなみに第六世界の覚醒から100年未満であり、ティルタンジェル独立は言わずもがなな状態で古代の儀式とか意味不明に聞こえますが、第四世界のエルフ宮廷で用いられていた儀式がそのまま生かされていると考えると何らおかしくありません。

5.語り手 語り手である「あたし」は上記のシナリオ集『ハーレクイン/Harlequin』で、平穏に社長秘書をしていたパンクガールだったところをハーレクインにさらわれたフロスティです。
フロスティはエーラーンの娘であり、上述のチャル・ハンの駒として事件に巻き込まれます(PCが誘拐します)。
その後、どういう経緯かハーレクインとフロスティとは師弟関係兼恋人となるようです。

6.レディブランディ
アイルランドに成立した覚醒国家ティルナノーグの女王のことであると思われる。
彼女はエルフだが、ダヌー一族が取り替え子であると主張している。
彼女の教育係には第四世界でエルフ宮廷の女王を努めたアラチアがいる。
アラチアとハーレクインは身内であるとも恋人同士であるとも噂された関係にある。
エルフ同士のしがらみが色々あるのでしょう。


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ポストモータム

以下はシャドウランの掌編Post Mortemの全訳となります。
誤訳もあると思いますので気になる方は以下の原文をご覧の上ご指摘をいただけると幸いです。

https://shadowrun.fandom.com/pl/wiki/Post_Mortem

Post Mortem
by Tom Dowd

ちなみにPost Mortemは検死解剖の意味のようです。

例によって後書きとして注釈を記載しています。
ご参考までに。

しかし、エーラーンとハーレクインが第四世界で恋人同士だったという話があるのですが、出所はどこなのでしょうかね。


数分間、その2人は不穏な沈黙の中でただ座っている。その日公園を訪れ人々はいたが、この2人がベンチに腰掛けていることを気にする者は誰もいなかった。それ以外の反応としても特別な反応を返すでもなくただそこにあるものとして目にするだけでなのだ。この日の2人はオークとドワーフのホームレスのように見え、一方に関しては当たらずとも遠からずであり、少し正気を失っているようにすら見える。

 

年老いた黒褐色の肌のオークはついに少しだけもう1人に顔を向ける。その瞳は部分的な白内障のように灰褐色に濁っている。ドワーフは白い肌に長く整えていない髭を蓄え、その表情は熟考するかのように微動だにせず一点を見つめている。

 

オークは渋々と口を開く。その声は低音で慎重な響きを帯びている。

 

「それで、お前が彼を殺したのか?」

 

ドワーフはその瞳を相手に向け、頭を横にふる。

 

「いや私ではない。君の仕業ではないのかね?」

 

黒褐色のオークはため息をつく。

 

「俺でもない。」

 

ドワーフは頷く。

 

「君の罪をどのような方面からであれ話すことはできそうにないね。」

 

「同感だ。」

 

ドワーフはモジャモジャの眉毛を上げる。

 

「いつものように、君の口車にのるつもりはないよ。」

 

オークは再びため息をつき、返答する。

 

「わかっている。時間がある時に彼を殺すためにいつどのように調整すれば可能か考えてはみたさ。だが、不可能だ。だが実際には行われている。だから俺は混乱しているんだ。」

 

「多く仲間達は君が手を下したと信じているがね。」

 

「あいつらの考えそうな事だ。良いだろう。俺が実行犯なら恐ろしく救いようの無い話にならないか。」

 

オークはそう告げ肩をすくめる。

 

「では、誰がやったと言うのかね?」

 

長い沈黙が2人を覆う。

そして、ついにオークが口を開く。

 

「血と嘆きを積み重ねたリストこそ混乱への最短ルートだ。」

 

ドワーフがため息をつく。

 

「そよ風のように私達の間を長年の月日が過ぎ去った。敵のような友としての関係だったが、噂に踊らされることはなかったはずだ。」

 

オークは大声で笑うと澄んだ湖のようにドワーフを睨みつけた。

 

「お前の知っているより良い場所を誰かに見せることができたことがあるのか?」

 

ドワーフは頭をふり口を開く。

 

「いいや。もちろん噂は耳にするさ。だがそれが真実であった試しはない。」

 

オークは言い返す。

 

「俺は時々奇妙な程他人との疎外感を感じる時がある。だが、こいつは俺が始めて見た覚醒の瞬間だ。普通のことのはずなんだ。」

 

「多分だが…」

 

ドワーフは口ごもり、何かを決断したのか、再び口を開く。

 

「ロフヴィルが断言していたが、彼はこの件に他のドラゴンが干渉していると信じているようだ。」

 

オークは僅かに首を傾げる。

 

「本当に? 一体誰が?」

 

「わからん。彼はアラメイズの復活について話していたが、その方法には触れず私はまだ疑っている。」

 

オークはまたため息をつく。

ドワーフは続ける。

 

「かつて宮廷で、生き延びてきた者達の多くが君に語ったことがあると思うのだがね。」

 

オークは肩をすくめる。

 

「多分な。」

 

「君は私が知らない相手については君も知らないと言うのだろうがね。」

 

オークはドワーフに顔を向け僅かに眉を上げる。

 

「どうやったらあんな爆破を起こしたと俺が言えるんだ? だが、俺達が顔を合わせて以来自分の知識の最良の部分を伝えてきたが、誰もその言葉を気にかけなかっただろう。」

 

ドワーフは視線を外しため息をつく。あたりには再び沈黙が落ちる。

ついにドワーフは本当に尋ねたいことを口にする。その言葉からは彼ができうる限り平成を装った響きであった。

 

「それで私達はここに来ている訳だが、私の娘はどうしている?」

 

黒褐色の肌のオークの外見が突然変化する。薄汚れた色は突然滑り落ち、驚きからその瞳は見開かれる。まるで落ち着きを取り戻すための時間を稼ごうとするかのようにゆっくりとドワーフに顔を向ける。

 

「ああ、すまん?」

 

ドワーフは相手の無造作に絡んだ白髪を見下ろしながらうっすらと微笑む。

 

「もちろん、君が皮肉屋なのは十分知っている。私は完全に君を信頼できてはいない。」

 

「いや、俺はお前が思っているような…」

 

「あの娘はどうしているのだ? 君はあの娘の訓練を図々しくも引き受けたのか? あの娘の習熟速度は速いのか?」

 

その瞳は驚くほど渇望に満ちたものだ。

 

「もちろん、もちろんだ! 彼女は俺の想定以上の速度で熟達して行っている。」

 

更に他人事のように付け加える。

 

「彼女はやらなければならない事をやった上でそれ以外の時間をクソッタレな訓練に費やすと言う変わった人生観を持っている。」

 

「良かろう。」

 

不自然な沈黙の後ドワーフは続ける。

 

「それであの娘は知っているのか?」

 

オークはできる限り悪気が無さそうな雰囲気で聞き返す。

 

「何をだ?」

 

「君が知っている私が皮肉屋な老いぼれであることを正確に知っているのか?」

 

オークはニヤリと笑い答える。

 

「いや、彼女は知らないよ。」

 

「良かろう。」

 

「良かろうだと? 何が良かろうだ? お前が俺の骨をミミズの餌にしようとしたのはそこまで昔ではないだろう!」

 

ドワーフは言葉を返す。

 

「事実だが、あの娘はあの娘のやり方で真実を求めるべきだろう。それにあの娘は私のものではないし、あの娘も私ではない。その目を閉じさせるように何者も強要するべきではあるまい。」

 

オークも口を開く。

 

「本当にグラスゴー人にろくなやつはいないな。」

 

ドワーフも言い返す。

 

「それに関しては言い返すことはないな、目の前に実例もあるしな。」

 

オークは再びため息をつく。

 

「俺は未だにお前が厄介な事を言い出さないことに驚いているよ。俺はこの顔を突き合わせての話し合いで聞かれる内容が娘のことなのか、ドラゴンのことなのか確信が持てなかったんだ。」

 

「君がより多く関わっているのはどっちなのだ?」

 

「娘だ。」

 

そしてオークは少し間を空けて続ける。

 

「お前はドラゴンに関して全く興味が無いわけではなかろう。」

 

「私はドラゴンと険悪な関係にはないからな。彼が何を話していようとだ。」

 

「俺はその時お前と一緒にいたはずだがな。」

 

ドワーフはゆっくりと言い返す。

 

「そんな事よりもあの娘の話だ。君と私はかつて目すら合わせない関係だった。だからといって、今や今後もそのような関係である必要はないだろう。」

 

「ドラゴンについては同意可能ではあるな。」

 

「部分的にはだがね。そして、我々が合意できないにも関わらず、君がその姿勢を続けるのであれば君のことを分別がなく、せっかちで、野暮な、議論好きの、怠け者の…」

 

「怠け者だと?」

 

「黙れ。私が君を表現できる唯一の言葉だ。誰かさんの仮面の後ろに隠された最適な言葉を不特定多数の誰かではなく私が選んだのだ。」

 

オークは再び視線を外す。

 

「私には自分の娘が君の後見を受けたり世話をされたりしている状況で健康で快適な生活をできるとは考えられん。」

 

ドワーフは言い切ると頭を下げた。

サラリとドワーフは頭を上げ新たな話題を口にする。

 

「ドラゴンに話を戻そう。エクスカリバーはまだ見つからないのかね?」

 

鼻を鳴らしオークはドワーフに目を向ける。

 

「お前の方がそんな物は存在しないと俺よりもよく知っているだろう。」

 

「厳密に言うならば、そうとも言えんよ。だが、長の年月を経る中でごくごく僅かに関係のある物が転化している可能性はある。我々はその実例を見てきたはずだ。」

 

オークは再びため息をつく。

 

「鎧は体によく合ったがな。」

 

この言葉にドワーフはクスクスと笑う。

 

「衝撃的な告白を聞いてしまったよ。」

 

そう告げるとドワーフは立ち上がる。

 

「もう行かなければならん。今晩の宮廷の打ち合わせに欠席する訳にはいかんのでな。」

 

「気にするな。お前が宮廷を掌握していれば、あいつらはお前さんと話すだけで済むからな。」

 

ドワーフは鼻を鳴らし、歩み始める。

その背にオークが声を掛けるとドワーフは足を止める。

 

「だが、お前は知っているはずだ。俺達では誰かドラゴンを殺したのか決めることはできない、とな。」

 

ドワーフは頷き返答する。

 

「確かに誰が殺したのかは決めれんよ。だが、君がどうやって仕立てられるかを覚えているなら、我々が知ることで君が何にあるい誰に祈れば良いかを指示することができるようになる。」

 

言葉と共にドワーフは霧をその身に纏い姿を消していく。

 

「そうでなかったとしても、な。」

 

そして、その姿は完全に消える。

 

オークはその後も公園を夕闇に染める頃まで座り続けていた。時々ポケットから取り出した茶色の紙に包まれた琥珀色のボトルから何かを飲みながら。その苦味を味わうように。

誰も彼を気に留めず、いつの間にかその姿は消え失せていた。




ドワーフとオーク

本編のドワーフはイモータルエルフの‘書記の’エーラーンであり、オークは同じくイモータルエルフのハーレクインです。

時代
2057年。ダンケルザーンの暗殺されたしばらく後。
ハーレクインが獅子心王の鎧を手に入れていることからアイナと共にドラコ財団に鎧を受け取った後ではないかと思われる。


エーラーンの娘であるジェーン・フォスター(HN:フロスティ)のこと。
ハーレクインがエーラーンの復讐の為に始めた儀式でハーレクインに攫われたフロスティですが、その後ハーレクインの弟子兼恋人となっている。
この時期はハーレクインの本拠地であるイフ城でお留守番しているはず。

ダンケルザーンの遺産
彼らは以下のものを贈られている。
ハーレクイン:リチャード獅子心王が十字軍のときに着用していた甲冑、エクスカリバー(捜索中)
エーラーン:シェイクスピアの二つ折りフォリオを含む希少な初版文庫
フロスティ:竜の指輪

エクスカリバー
存在しないが関連するものが転化するかもしれない。
ハーレクインとエーラーンはアーサー王が実在したと思われる時代を経験しているための台詞と思われる。
反面アイテムは名前を与えられ、それが結果を出すことで魔力を帯びることがあるためエクスカリバーと命名された剣が今後生まれる可能性があるという話と思われる。

宮廷
ティルタンジェルもしくはシーリーコートのことと思われます。

お話近傍のハーレクイン略年表

2051年
ハーレクインがエーラーンに意趣返しを仕掛けフロスティを誘拐する。
恐らくそのまま自身の拠点フランスの小島にあるイフ城に連れていく。
そのままフロスティはハーレクインの弟子となる。

2052年
小説『ワームトーク』。
フロスティと自堕落に暮らしているところにダンケルザーンが訪ねてくる。

2055年
生きることに絶望しかけていたハーレクインが神の啓示により異世界からの侵略者であるホラーが迫っていることを知り対策に動く。
この際にフロスティを不肖の弟子としてランナーに紹介し古代のエルフの女王チャイラを救出する。

2056年
ハーレクインは1人で世界中を回りホラーの痕跡に対処する。
その過程で第四世界からホラーの目を付けられているイモータルエルフ、アイナ・デュプリーと再会し行動を共にする。


2057年
ダンケルザーン死亡。
この遺産の受け取りにハーレクインとアイナが連れ立ってドラコ財団を訪問
する。
このことから2人で世界を放浪していたと思われる。
その後ハーレクインとアイナは分かれハーレクインはイフ島に戻りドラコ財団と協調する。
本編はこのあたりのタイミングの物語と思われる。

2062年
ティルタンジェルのプリンスをエーラーンが退陣する。



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