レミリアがカリスマなVR幻想郷に飛び込んでしまった件 (mazuton)
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1・VR幻想郷へ
東方プロジェクトのVRが始まる。
その触れ込みに、最初は驚きを感じ、すぐに喜びに変わった。
2045年。
AIが人間のように話す。
現状、普段生きているなかでそれを体感することなどなく、ゲームでNPCがAIで人間と同じように話せる、そんな世界はこれまで実現していなかった。
しかし、VR技術に関しては五感がある、いわゆるダイブができる時代になった。
そして様々なVRでできるオンラインゲームができるなか、そういったゲームを企業だけではなく、個人の集まりで作られるまでになった。
そして、同人ゲームとして何十年も人気が続く東方プロジェクト。
小さい頃に二次創作からはまり、ノーマルシューター程度だが原作も楽しむ。
そんな浅くも長い付き合いだった。
原作もいくつか購入したが、正直いうと二次創作の作品にのめりこんだ。
東方プロジェクトにおけるキャラクターの設定は設定資料である程度わかるものもあるが、二次創作に関しては他のゲームに比べても自由度が非常に高い。
性格は当然ながら、能力に関しても解釈は制作者に委ねられる。
何が言いたいかというと、舞台となる幻想郷がどのような世界なのか、みてみるまでわからないということだ。
そんな、すべてを受け入れた滅茶苦茶な世界観が許される。
それが東方の二次創作の強みだろう。
そしてそんなゲームのVRが新たに発売されるというのだ。
これは買うしかない。
数はなぜか伏せられたが限定的だった。
どうせ駄目だろう。
そんなダメ元の抽選応募にたまたま当たった。
こういうのに応募して当たった経験がなかったので、
当たったときは嬉しいを超えて逆に困惑した。
必要な機材の購入もすませ、待ちに待ったゲームが家に到着する。
VRゴーグルをつけて、五感を共有するための器具を装着完了。
電源をいれた。
そこは、電子的な世界だった。
どこか、HU〇TER×HU〇TERのグリードアイランド編の最初を彷彿とさせる。
妖怪とかが出てくる世界観とこの電子的な世界はミスマッチにもほどがあるが、東方の二次創作でそういった展開に慣れている自分としては特に違和感はなかった。
「ようこそ、幻想郷の世界へ。あなたのお名前はなんでしょうか」
早速、ゲーム定番の名前設定。説明してくれる相手はすごい美人さん。
東方キャラではなさそうだ。
自分の名前をボイスありで呼んでもらえるってすごいと思う。
だが、好きなキャラに自分の名前を呼ばれるのを想像すると、なんだか途端に恥ずかしくなった。
ゲームの主人公に感情移入ができても、自分自身が主人公として、というのがなかなかできない、
「源太郎(げんたろう)です」
その場で、微妙に自分の本名をもじった名前をつける。
昔から、ゲームをするときにはこうしていた。
4文字しか入らないときは「げんたろ」だった。
「源太郎さまですね。では、これから幻想郷について説明いたします」
初めて東方プロジェクト、VRに触れる人のための説明だった。
そんな人はプレイしていないと思うが。
「本ゲームにおいては、幻想郷はAIによるランダム生成となっており、それに対応して登場キャラの性格や関係性が微妙に変化があります。つまり、源太郎さまが体験する幻想郷は源太郎さまにしか体験できないものとなっています」
それはすごい。時代はここまで進んでいたか。
ひょっとすると、AIが話してくれるのか。周回とかもできそうだな。
「残念ながら、本ゲームはオートセーブ機能がついており、一度始めるとやり直すことができません。その点はご了承ください」
そう思っていると、先手を打たれた。
やり直しができないのは珍しい。
まぁ、できないものは仕方がない。
「それでは、幻想郷は全てを受け入れます。源太郎さまの幻想郷をどうか、お楽しみくださいませ」
そうして、説明してくれた美人さんが説明の最後にお辞儀をすると、自分の床がいきなり消えた。
当然、真下に落っこちる。一瞬の浮遊感のあとに、すぐにそんなに勢いがつくこともなく床に尻餅をついた。
「うわっ、あれ?痛くない」
そして、すぐに立ち上がりみると目の前には赤い館があった。
「こ、紅魔館?」
吸血鬼であるレミリア・スカーレットが主であり、居を構える紅魔館。
その名の通り、紅い外装をしており一発でわかった。
だが、サイズは全然違った。
自分がイメージしていた紅魔館は、大きさがせいぜい学校の校舎くらいのものだった。しかし、それはとてつもなく大きな城であった。
というか、原作よりもでかい。上を見上げても頂上が見えない。
昔、東京タワーやサグラダ・ファミリアを見上げたときと同じ感覚だ。
「あなた、そこで何をしているのかしら?」
口をポカンと開けながら上を見上げていると、声をかけられた。
振り向くと、そこにはレミリア・スカーレットの従者の一人、紅美鈴と思われる人物が立っていた。
レミリアは次回登場。
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カリスマおぜう分を補充。
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2・紅魔館へ
「あなた、そこで何をしているのかしら?」
そこにいたのは紅美鈴であろう人物。
赤い髪を現実でみることはなかなかないが、違和感なく受け入れられる彼女の容姿に舌を巻く。
「あ、いえ。私は」
急に声を掛けられたことで、頭が回らずについ言い訳のような口調になってしまった。ゲームの世界に入りました、とそのまま言うのも違和感があったので、もごもごした感じになる。
最低限名前と、いきなりここに飛ばされたと伝えることができた。
「まあいいわ。私は紅美鈴。そしてここは紅魔館。レミリア・スカーレット様を主としている城よ」
ゲームっぽいなと感じる、いかにもな説明が始まる。
ゼロからでも世界観や主従関係などを把握できるような配慮だろう。
「ここにきた者は、まず、レミリア様と会う決まりになっているわ」
そんな決まり、原作にあったっけ。
まぁ、ゲームだしな。全てを理由づけられる。
それに、AIのランダム生成といっていたし、独自の世界観やルール、紅魔館の大きさなど疑問はちょくちょくあるが、まずは受け入れるしかない。
「さあ、きなさい。げんたろう」
呼ばれるがままに、巨大な城に二人で入っていく。
城門のような場所を通って、紅魔館に近づくと大きさがさらに顕著になる。
原作では、十六夜咲夜が時を操れる、すなわち空間を操れるとして紅魔館の内部の大きさを変えているとか。
それにしては外見もとんでもなくでかいが。
「あの、紅さん」
「美鈴でいいわ。私も、げんたろうと呼んでいるしね」
そういって、紅美鈴はフランクに微笑みかけてきた。
さらっと距離を詰めてくる感じ、とてもAIにはとても思えなかった。
人間である自分よりコミュ力が高い。
彼女がAIだとしたら、作った者がいるのだという事実に驚いてしまう。
「美鈴さん。この建物はなぜこんなに大きいんですか?」
「私にとってはこれが当たり前だからなぁ。げんたろうは、なぜ虎が強いのかって聞かれても困るでしょ?」
確かに。そう言われたら何も言い返せない。
この紅魔館に関して、何の情報を得られぬまま、紅美鈴の主であるレミリア・スカーレットの元に連れられる。
「レミリア様は、この幻想郷を支配しているお方よ」
「そうなんですね」
流石に、八雲紫もいるしそんなことはないだろう。
そう思いながらも相づちを打っておく。
連れられた場所は、王宮にも感じる場所だった。
周りが紅いことを除けば。
「よく来たわね。私がレミリア・スカーレットよ」
そして、現在、レミリア・スカーレットが玉座に座り、足を組んで自分を見下ろしている。
自分は美鈴さんに言われたとおり跪いて話を聞く。
「レミリア様。彼は、げんたろうです」
美鈴さんが自分のことを紹介してくれる。
レミリア・スカーレットは、永遠に紅い幼き月と呼ばれる、500年を生きる吸血鬼の幼女だ。
確かに見た目は小さいが、醸し出す雰囲気は玉座や口調も相まって、とてもじゃないが幼女が出せるものではない。
「さて、げんたろう。いや、〇〇か」
さげていた顔をぱっと上げる。
「な、なんで」
唐突に自分の本名が呼ばれる。
ゲーム内では一言も自分の本名など出していない。
ゲームの抽選販売のときにもなんとなく偽名を使っていたので、自分の本名はさらしていない。どこかで、名前を書いていたか。
いきなりの事態に心臓の鼓動が異常に早くなるのを感じる。
彼女の目は紅く、こちらの全てがわかっているかのように見据えていた。
「お前が何を考えているかあててやろうか。なぜ、このゲームのキャラクターは俺の名前を知っているんだ」
そこで、さらにレミリアの言葉で混乱する。
なぜ、彼女自身がゲームの世界だと認識しているのか。
美鈴さんにバッと目を向ける。彼女は首を傾げており、あまり理解していない様子だ。
ただのゲームのメタ発言。
そうだとしても、目の前にいる彼女に全てを見通されている感覚に息が苦しくなる。
「そう。全て、お見通しなんだ。私には運命がみえるからね」
レミリアはくすくすと笑う。
そこだけみると、可愛らしい10歳くらいの少女の様子だ。
しかし、今の自分にはそんな彼女を微笑ましく見る余裕はなかった。
「人間はわかりやすい脅威よりも、わからないことに恐れを感じる。私はお前にとっての恐れに該当するわけだ。そして、お前は安心する。今の自分がいるのは仮想世界であり、命を奪われる心配はないのだと」
ゆっくりと、確実に、こちらの心の流れを読んでいる。
こんなことが、AIにできるのか?
「知識には3つの領域がある。知っている領域。知らないことを知っている領域。そして、知らないことを知らない領域だ」
レミリアは細長い指を一本ずつ上げながら、最後の一つを強調して伝えてくる。彼女はこちらに言いたいのだ。お前ごときが理解しえない事象が起きているという事実を。
ログアウトをしよう、そう頭に浮かぶ。
「つれないじゃないか、
頭に浮かぶメニュー欄が、ここが現実ではないと理解させてくれる。
しかし、そこにログアウトの文字はなく、自分の逃げ場がないという現状をたたきつけてくる。
メニューを見る為にキョロキョロしていた目が、紅いニ点に集中する。
「ようこそ、幻想郷へ。ここは全てを受け入れる。まぁ、手放すこともないがね」
カリスマおぜう分をもっと補充せねば。
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3・勧誘へ
明日も投稿するかも。
「さて、げんたろうの処遇だが」
目の前がチカチカするのを感じる。
そこからすぐに自分の現状を認識した。
たった今、自分の生殺与奪は目の前にいる幼女が握っているのだ。
「そうだな。執事として働いてもらおうか」
「えっ。執事、ですか」
「なんだ、この場でいきなり殺されるとでも思ったのか?」
可笑しくて仕方がない、といったように笑う様子は可愛らしくはあるがこちらとしては気が気でない。しかも執事。話が全然みえてこない。
「意外に人手が足りていなくてね。特に、この紅魔館においては」
彼女曰く、この館を取り仕切る人材がまだまだ足りていないらしい。
こんなにでかければ、そうなるだろう。
「私に忠誠を尽くす優秀な者が数人いれば、それであらゆることは回るものだ。しかし、マンパワーが必要な場面では外様にも頼る必要が出てくる。そして、そいつらを束ねる役割もまた必要になる」
私だけで全て済めば楽なのだがね、とレミリアは愚痴をこぼしたあとに続ける。
「そこでお前だよ。げんたろう。高等な教育を受けていて、こちらの世情をある程度は認識している存在だ。そしてお前は私に従う」
「つまり、自分はここに連れてこられた、その、奴隷のようなものだと?」
そして、何かのきっかけで失敗を押し付けられ、死よりも耐えがたい拷問に合うのだと。
最悪の未来を想像してしまう。
「それは違う」
その考えを、レミリアがきっぱりと否定する。
「私は、家来はともかく奴隷などいらん。奴らは思考を持たぬ人形だ。忠誠の有無にかかわらず、私が求めるのは自ら選択する意志のあるもの」
奴隷を持った経験があるのだろうか。500年も生きていれば不思議ではないか。
ここがゲームの世界ではあるが、現実でもあるという事実を受け入れ始める。
「なぁ、げんたろう。人間は面白いんだ。余りにも愚かな選択しかとらぬ者もいれば、我ら吸血鬼に一矢報いる勇気とそれに見合う実力を持つ者もいる」
いままでの微笑みを一切失くし、こちらの目をしっかりと見てきた。
その姿はこの場にはそぐわず、とても綺麗だと感じた。
「お前がどちらになるかな。まぁ、断るのであれば」
「こ、断るのであれば、どうなるのでしょうか?」
「別に、どうもしないさ」
あっけらかんと、レミリアはそういった。
「どうもしない?」
「嫌なら、現世に五体満足で返してやるさ。だが、宣言しよう。お前はここで働くのを選ぶ。それは必然ともいえる」
「それはこんな強制的なやり方すれば、自分に選択する余地なんて」
「阿呆か。私がそんな器の小さいことをすると思ったか」
「お嬢様ならしそうですし、今もほぼしてますねー」
「美鈴、黙れ」
今日一番の紅く鋭い眼光が美鈴さんを貫く。こちらに向けられているわけでもないのに、その殺気に膝が震えてくる。
ずっと黙ってたと思ったら、いきなり何を言っているんだこの人は。
「すいません。私の認識と齟齬がありましたもんで」
だが、レミリアの殺気を気に止めることもなく、両手を頭の後ろで組みながら彼女は答える。
「ふん。運命が決まったとき、どんな出来事が起きようともそこに収束する。結果には原因があるようにな」
「そして私は即決、即断することを求める。だが、確かにお前にとってこの状況は、強制に近いと言わんこともない」
「やっぱり。レミリア様も思ってたんですね」
美鈴さん、頼むから茶化すのをやめて欲しい。目で訴えるが全く届かない。
居心地の悪さで息が詰まる。
「げんたろう、自分で決めろ。一日だけやる」
そういうと、レミリアは、美鈴さんに部屋へ案内するよう指示を出した。
部屋まで案内され、歩いているなか、自分の中には色々な考えが頭に浮かんでいた。
現世に戻るのが最高だ、そう自分には言い切れなかった。
今の生き方に迷いを隠せない自分がいたのだ。
好きなことで生きていける時代が実現した今になっても。
今、単純労働は大体が機械に置き換えられてしまい、多くの者が失業した。
ベーシックインカムの導入により、働かなくとも生きていける最低限度の金額は保証されている。但し、今のところは、であり未来の保証はない。
学校教育も見直され、AIを扱う側の人間を育てるために、AIが人間に最適な勉強法を教えるという、よくわからない現象すら起きている。
また、昔は仕事として認められなかったゲームなどの娯楽を極めるものがもてはやされるようになった。
好きなことで生きていけるものが生き残る。聞こえはいいが、逆にいうと、好きなものを見つけられなかった者はとことん落ちぶれるのだ。
昔は、学校教育に従って勉強ができればいい大学、いい会社に入り、それなりにお金を稼ぐことが出来ていい暮らしができた。
今はとっくにモノは溢れかえり、ホームレスだろうが餓死することなどありえない、恵まれた時代だ。
なんだかんだ、頑張らなくても生きていける。しかし、何もかも得られるわけでもない。他者の作ったコンテンツを消費することへの欲求は満たされている。だが、自分が何者でもないことにむなしさを覚えていた。
自分には誇れるものがない。だが、ここでなら、彼女たちの元で自分を変えられるのではないかと考えた。
要は、彼女のいう通り答えは決まっていたのだ。
「やります。なんでも、やらせてください」
「そうか。これからよろしく頼む、げんたろう」
次の日。自分はあっさりと承諾の意志を伝えていた。
レミリア様は微笑み、こちらをあの紅い瞳で見下ろしていた。
都合のいい話には注意しましょう。
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4・図書館へ
文字数をじわじわと増やす。
あとで話数をまとめるかもしれません。
執事として働くことになり、いくつかの雑務を美鈴さんに教えてもらったあと、紅魔館内にある大図書館に連れてこられた。
その流れでレミリア様の友人である、パチュリー・ノーレッジの紹介もされることに。
その後、軽く用事があるとのことで待っていて欲しいといわれ、美鈴さんは図書館からでていった。二人きりになり何を話そうか悩んでいると、パチュリー様から、ここにきた理由を聞かれる。
そしてそこで、自分が働くまでの経緯を当時の興奮を思い出しながら話していた。
彼女は最後まで聞いたあとに、軽く鼻で笑った。
「それで。あなたはまんまとレミィに丸め込まれてこの館で働くことになったわけね」
「そんな。私は一応、自分の意志でここに」
自ら決めたことにはプライドがあったので、彼女の意見に噛みつこうとする。
だが、彼女は悪い魔女かのようにニヤニヤとした笑みを浮かべ、他者のかけた魔法を解くがごとく話した。
「全く、笑わせないで頂載。自分の意志できたと思うように仕向けられた、が正解よ。プレッシャーをあなたに直接かけたら脅しになるから、近くの従者に圧をかけたんでしょ。それで、視野が狭くなったところに、自信満々にあなたにとっても悪くない話よ〜、選ぶのはあなたよ〜って。そりゃあ、自分は騙されないぞって思ってそうな真面目くんはコロッといかれちゃうわ」
パチュリー様はそう煽ると、今度はケタケタと笑い始めた。原作では喘息持ちで大人しい印象だったが、彼女は表情豊かにこちらを馬鹿にしてくる、まさに意地の悪い魔女を絵に描いたようだ。
そう言われてみると、美鈴さんが睨まれていたとき、自分に向けられているわけでもないのに心臓がばくばくして、まともに考えられなくなっていた。
でも、それでもあのとき自分は。
「げんたろう、だっけ。あなたの意志とやらがあったとしましょうか。選択権がある状態であなたは彼女の問いにYESと答えた。そこから現実を否定するのには非常にハードルが高くなる。なぜなら、人間には自分が選択した道がより良いものだと思い込む性質があるから」
「認知的不協和、ですか」
「あら、知っているのね。まぁ、知識だけで何とかならないのが、レミィの凄くて、なおかつ姑息なところなんだけどね」
「パチュリー様は、レミリア様のことがお嫌いなんでしょうか」
「そうね。彼女のやり方は嫌いだわ。天然なのか知らないけど人をどうにかして自然に、自分の都合のいい方向にもっていこうとする」
それで私も、なんど騙されたことか。そういいながら彼女は大きなため息をつく。
「でも、そうね。相手に損だと思わせないようにするのが天才的よね。実際、あなたも私から種明かしされた後ですら彼女のことを嫌うことなく、むしろ状況を俯瞰して印象がよくなっているんだから」
彼女の指摘は当たっていた。
もし、レミリア様の真意がどうであれ、自分が選んだのだ。騙されたとしても自分の責任である。少なくとも、あの選択に後悔はない。
「好きか嫌いかで言ったら嫌い。けれど、彼女のあり方は、尊敬しているわ。今みたいに、能力や力をまともに使えないときからあの態度は一貫していた。宣言したことを必ず実現する。彼女は、レミリア・スカーレットという強者を死ぬまで演じきると決めてる」
「演じる、ですか?昔は、あんな感じではなかったとか」
「いえ、少なくとも私が出会ったときからあんな感じよ」
「・・・からかってるんですか」
「かもね。さぁ、仕事に戻りなさいな。たくさん覚えることがあるんでしょ」
はぐらかされたと感じて気になって問いかけようとしたとき、ちょうど美鈴さんがごめん待たせちゃったといいながら図書館に戻ってきた。
そうして、ひらひらと手を振ると、パチュリー様はもう話すことはない、とアピールするように本を読む作業に移った。原作と性格は違えど、本が好きなのは共通しているらしい。
揶揄われたのは少しもやもやしたが、レミリア様をなんだかんだ言って好きそうだし、こちらに悪意を向けてきているわけでもない。
悪い人、いや魔女ではなさそうだ。あの煽りを上手くかわすようになるまで時間はかかりそうだが。
美鈴さんに仕事を教えてもらいながら働き半日が過ぎ、すでに外は暗くなっていた。
その日の仕事を終えて。ヘトヘトになりながらも、自分の部屋まで一人で歩いて戻っていた。
それにしても、真面目くんか。
昔から、あまり良くない意味で言われてきた気がする。
他者との比較、正解不正解で考える性分なので融通が聞かないところがあるのは自分も認識している。
「また、うだうだ考えているのか、げんたろう」
ばったりと、これからが活動時間であろうレミリア様に会った。いや、朝型だったか。
原作の知識もさほど役に立たなそうのはパチュリー様と話していてわかった。気にするのはやめよう。
自分の悩みについても、隠せる気も、必要もないのでパチュリーと話したことを伝えた。
「なるほどな。はっきり言おう。私は、他者や社会を分析し、批評はするが自分の状況は顧みず行動しない。そんな者が大嫌いだ。そいつらは、なんのリスクも負さず安全な保障がある元で、自分の意見を通そうとする」
レミリア様もまた、パチュリー様に対して思うところはあるらしい。
言い方は違えど文句の付け方がなんとなく似ている。
「私は、わが友であるパチュリー・ノーレッジについて、彼女の意見の多くを肯定していない。彼女が価値を露骨に主張する本にしても、読むだけでは解決しない問題も多くあるし、リスクを冒すことのない論では解決しない問題の多さを私は痛感しているからだ。それでも、まぁ、私は彼女を認めている」
相手を褒める前に恐ろしく遠回りするのは、彼女たちのコミュニケーション方法なのだろうか。
レミリア様にも、見た目通りな幼い面もあることに心の中で少し微笑ましく思ってしまう。
「知らない知恵、視点を授けてくれるから、でしょうか」
彼女を認める理由について、自分の答えを話してみる。
レミリア様は、従者に対して自分の考えを伝えるように徹底的に教育していた。
彼女のなかで答えが決まっていても、必ず相手の意見をまず聞く。
誘導することはあっても、強制はしない。
「なるほど。それには助かっている。だが、些末なことでもある。彼女は、私が何も持たぬときから今まで、何も変わらずに憎まれ口を叩きつつも私の傍にいた。いくらでも離れることができただろうに。言葉ではなく行動で示したのだ。それは私の今の富や名声、全て投げうってでも彼女に報いる価値を生み出している」
それは彼女の覚悟だった。レミリア様はそのときになれば本当に躊躇なくそうするだろう。
言霊というものはあるのだと体感する。
話しすぎたな、早く休め。そういってレミリア様は自分の部屋に戻っていく。
確かに、最初は流されたかもしれない。でも今は、この人についてきてよかったと感じている。
今は自分が、行動で示すときなのだろうと思い、これからの仕事にも一層取り組もうと気合を入れた。
「あ〜あ、つまんない。また、あいつの信者が増えちゃった」
自分が部屋に戻ろうと扉を開けたタイミングで、後ろから何か声が聞こえたので振り返る。
そこには誰もいなかった。
悪寒が走るのを感じる。
風邪をひいてはいけないと思い、次の日に備えることにした。
次回、11月12日(木)23:00投稿予定。
カリスマである=みんなに好かれている
というわけでもない。
むしろ、敵は増えていく印象。
好かれる人には好かれ、嫌われる人にはとことん嫌われる。
追記:未完にいたしました。
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