思いの外あっけなかったな。
目の前に吊るされた銀髪を持つ女を見て外道衆が一人、キメラヘッド・サンラクは思う。
暗い部屋に二人きり。サンラクの上司だったサイガ-ゼロは、両手を頭上に括られ、この電脳世界において【魔封じ】の効果が定義された手錠で拘束されている。その手錠と足は鎖で繋がれており、逃げられない事を示していた。
服は彼の攻撃によってエフェクトを散らしており、所々裂けた場所からその白い肌がさらされている。特に胸部は損傷が激しく、その大きな双丘は今にもこぼれ落ちそうだ。元々露出があった脇は両手を上げていることで丸見えで、そこから胸にかけての曲線が剥き出しになっている。もう諦めているのか、サイガ-ゼロは抵抗もせず、ただ下を向いてつられているだけ。
無口冷徹無慈悲。外道衆の面々に聞けばそんな評価が返ってくる、外道衆の頭目である白銀鎧、サイガ-ゼロ。
そんなボスが『終焉の魔法少女』であると、つまりは御しやすそうな華奢な少女であると判明したのは、つい先日のことだ。
『ボス、弱そうじゃーん!』と反乱を提案した人間に多くが賛同し、本日作戦が決行となった。サンラクは集合時間を遅れて知らされていたために、彼が着いた頃にはすでに外道衆の面々はおらず、サイガ-ゼロが一人、黒く禍々しい大剣を持ち、円卓に立っていた。他の輩は全員この大剣に塵にされたのか、とんずらこいたのか。
とりあえずサンラクはボスに挑んだ訳だが、あっけなく、そう、思っていた500倍はあっけなく勝ててしまった。さすがに彼以外の外道衆全員を倒すのは耐えかねたのか、最後に彼と相対した時点で力を使いきってたらしく、一切攻撃されることもなく、彼はサイガ-ゼロを捕らえることに成功した。
つるされ下を向くサイガ-ゼロの顎を掴み、己の方へ顔を向けさせる。頬にサッと入った朱は、怒りか、恥辱か。自分の口角が上がるのを自覚しながら顔を覗き込むと、その黒い仮面の奥にある赤が揺れた。
「なあ、サイガ-ゼロ。今の状況わかってるか?」
「…………」
(無言。ふむ、あくまでも話さない、という訳か)
外道衆頭目しか知らない、円卓に隠されたコマンド。それがない限りはシステム的にもまだこのサイガ-ゼロが、外道衆のボスである。
顎を掴んだことによって、少し開いた口に親指を突っ込む。
「っ……!?」
「話さないつもりなら、話したくなるようにしないといけないな」
頭が冷えていくのを感じる。口の端がさらにつり上がるのを自覚した。
サンラクは笑う。これだよこれ。電脳世界は
街を破壊するのも、暴虐の限りを尽くすのも、かつての上司、それも華奢な女を拘束するのも。全部システム的に可能な事だ。『外道衆』の名の元に行う悪のロールプレイの範疇なのである。
と言っても、サンラクは鉛筆と彼が呼ぶ女ほど吹っ切れている訳じゃないのだが。
「なあ、サイガ-ゼロ。お前は外道衆の頭目はってたんだから知ってるよな?」
───この部屋は、倫理コードが解除されているってさ。
その言葉に、サイガ-ゼロはビクリと肩を震わせる。しかし、拘束されているが故に抵抗することはできない。
サンラクは彼女の顎から手を離し、身体へ手を滑らせる。
「……ひっ」
ピチリピチリ、と音をたてながら、元々損傷が激しかった胸の上部を覆っていた透け感のある布がゆっくりとサンラクによって破かれていく。
この部屋は元々、拷問などをすることで情報を吐き出させるための部屋である。倫理コードが解除されるとはすなわち、電脳世界において課されている一種の制限が解かれ、年齢制限を伴うあれそれが可能となる。
それは血を共にする事も、そして、性的な事も、だ。
先ほどよりも真っ赤に熟れた頬、涙の溜まる瞳。サンラクには多少挙動がおかしいものの、いつも無表情で眉ひとつ動かさなかったサイガ-ゼロが、自分の行動一つで口元を戦慄かせ、顔を歪めている。しかし、彼女はあくまでも無言。
(どれだけ脅せば話すかな)
サンラクがサイガ-ゼロに対して取った手段は、手っ取り早く女の尊厳を傷つける事だ。強制ログアウトまでのタイムリミットもある。再ログインをすればまた彼女は拘束されたままだが、ログインすることを止めてしまえば、サンラクが円卓のコマンドを聞く手段はサイガ-ゼロの現実を突き止める他なくなる。話せば重々、話さないなら、また別の手段を取るまで。
「話すのが早いほど、楽になれるぞ?」
そう言うも、彼女はまだ話さない。仕方がないか、と説得のために止めた手をサンラクは再び動かす。か細く残っていた双丘の上部を覆っていた布は、最後にプチリと音をたて、今、切れた。
ここから仮面をいつとるかとか(仮面に認識阻害があるため外すとリアルフェイスなゼロちゃんが玲さんだと判明する)、ゼロちゃんがいつ我にかえるのかとか(無言なのは想い人に色々されて声だす余裕がないからのため)で色々派生すると思われます。続きが、読みたい……
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