クロガネシティの石屋さん (G大佐)
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クロガネシティの石屋
ポケットモンスター、縮めてポケモン。彼らは山や河、海、街中、果ては宇宙にまで生息する不思議な生き物。
そんなポケモンの中には、『進化の石』と呼ばれるアイテムで姿が変わる種類もいる。ポケモンを育てバトルする『ポケモントレーナー』と呼ばれる者にとっても重要な石だが、中にはその美しさから、単純に宝石としてコレクションしている者も居る。
「よーし! 久しぶりの開店といきますか!」
「カイッ!」
橙色の髪と琥珀色の瞳を持つ青年がエプロンを着て背伸びをしながら言うと、彼の相棒の一匹であるカイリキーが笑顔で返事をした。
彼の名前はアンバー。炭鉱の街『クロガネシティ』にて、石屋を営んでいる。
彼の相棒であるカイリキーは、アンバーが幼い頃……まだワンリキーだった頃からの仲で、もはや家族同然である。
「ハガネール、外だよ! 子供たちが遊びに来たらすべり台になってあげて!」
「ネェェル!」
アンバーが腰に着けているモンスターボールは3つ。そのうち2つはカイリキーとハガネールのものだ。
店の庭でとぐろを巻いているハガネールは、『クロガネ炭鉱』に住むイワークだった頃に、アンバーと出会った。彼の仲間になってからは、カイリキーと後もう一匹と共に過ごしてきた。
「ガバイト! カイリキーと一緒に接客するよ!」
「ガブ!」
残り一匹はガバイト。彼もまた、フカマルの時にアンバーと出会った。地面に潜るのが好きで、よく彼の“採掘”に同行している。
クロガネシティの石屋。そこに居るポケモンはカイリキー、ハガネール、ガバイトとゴツいポケモンばかりである。しかしその見た目とは裏腹に、アンバーも含めて笑顔で生活しているため、周りの住人たちが怖がる事は無い。子供たちが庭のハガネールですべり台をする程度に親しまれている。
ハガネールすべり台ではしゃぐ子供たちにアンバーが微笑んでいると、店のドアベルが鳴った。
「いらっしゃいま……何だ、ヒョウタか」
「『何だ』は無いだろう、『何だ』は」
入ってきたのは、赤いヘルメットを被った青年ヒョウタ。
クロガネシティにはポケモントレーナーがチャンピオンリーグに挑むために必要な、ポケモンジムがある。彼はクロガネジムのジムリーダーを務めているのだが、たまにアンバーの店に訪れていた。この2人は幼馴染みと言う関係である。
「で? 今日も化石を見に来たのか?」
「勿論だとも! どんなのが掘れたか見せてくれないかな?」
「そうだなぁ、このタテの化石とか?」
「おぉっ、タテトプスかぁ!」
シンオウ地方には広大な地下通路が広がっており、アンバーはそこで、数日かけて沢山の石を掘る。それは進化の石であったり、ポケモンの化石であったり、タマと呼ばれる宝石であったりと様々だ。その発掘したものを土産物やトレーナー向けアイテムとして売っているのである。
アンバーもヒョウタも大の化石好き。2人が“化石談義”をして盛り上がるのも、この店の名物であった。
「さて、そろそろジムに戻るよ」
「今度はお客として来てくれよ、ジムリーダーさん?」
「幼馴染みだからサービスを頼むよ、店長さん」
軽口を叩きあえるのも、2人の仲が良いからである。
夜になると店じまいをするのだが、この時がアンバーにとって一番注意する時間帯である。
「……ハガネール、ガバイト。ヤミカラス達が来ないように見張ってて」
「ネェル」
「ガブガブ!」
2匹が言われたとおりに店の玄関に並んで空を見上げると、向かいの家の屋根に沢山のヤミカラス達がいた。光るものを好む彼らにとって、宝石を扱うアンバーの石屋は格好の的なのだ。
「「グルルルルル…………!」」
2匹が低い声で唸ると、ヤミカラス達は慌てて飛び去っていく。それでも彼らは懲りずに毎日来るのだから、油断ならないのだ。
一方店内では、カイリキーが商品の入った箱を丁寧に運び、最後の一箱を片付け終えた。
「カイ!」
「終わった? じゃあみんな、ご飯にしようか! ハガネールー! ガバイトー! もう大丈夫だよー!」
『CLOSED』と書かれた看板を提げると、3匹と共に庭で夕食を取る。
こうして、アンバーの1日が終わるのであった。
もしダイヤモンド・パール・プラチナのリメイク来てくれたら、凄く嬉しいですね。Switch専用タッチペンとか付属させれば、地下通路とかポフィン作りとか出来そうな気がするんですけどねぇ。
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追跡、メガヤンマ!(前編)
今回は、明らかにゲームでもアニメでも出てないシーンですので、ご了承ください。
シンオウ地下通路。シンオウ地方全体に広がる広大な地下通路で、その地層には宝石や化石、遺物などが眠っている。
「こいつは……たまげたなぁ…………」
ヘルメットを被り、ピッケルとハンマーを使って化石を掘り当てたアンバー。だが彼は、目の前にある巨大な化石を前に呆然としていた。
「ガーブ、ガブガブ~♪ ……ガブッ!?」
他のところで宝石を掘っていたガバイトが上機嫌で戻ってきたが、自分の主人の前にある化石を見て驚いた。
目の前には、巨大なトンボの化石が眠っていたのである。
クロガネ博物館。ここでは、発見された化石の展示や石炭の解説などが行われている。
また、化石からポケモンを復元する装置も所有しており、ポケモントレーナーの中には古代のポケモンの入手を目的として訪れる者もいる。
「しかし、これは今までにない新発見ですねー」
「うむ。姿形は、ヤンヤンマの進化形であるメガヤンマに似ておるがの」
(何で俺、ここに居るんだろう……)
博物館の奥にある研究スペース。そこにあるポケモン復元装置の側には、3人の男がいた。
1人は、博物館で化石の復元を担当する研究員。もう1人はポケモン研究者のナナカマド博士。そして発見者のアンバーである。
「まさか、かのナナカマド博士も立ち会うとは……」
「新種かも知れないポケモンの化石と聞いて、年甲斐もなくワクワクしてな。大急ぎでここまで来たのだよ」
「それでは、復元しまーす!」
研究員が復元装置のレバーを引く。トンボの化石は大きなポッドのようなものに包まれ、光で見えなくなっていく。復元されるまでの間、3人は話し合うことにした。
「ナナカマド博士。先ほどあの化石を『メガヤンマに似ている』と仰ってましたよねー?」
「そうだ。メガヤンマは、『げんしのちから』と言う技を覚えた瞬間に、ヤンヤンマから進化したと報告されておるな」
「つまり、俺が見つけたあの化石が仮にメガヤンマだとすると、その進化前であるヤンヤンマも、どこかで化石になってる可能性があるのでしょうか?」
「うーむ……。ジーランスやカブトと言った、大昔のポケモンが生きていたと言う例もある。『現代で生きているポケモンが、実は大昔も生きていた』と言う可能性も捨てきれんな」
「だとしたら、ですよ? 大昔の空はプテラやメガヤンマ、もしくはヤンヤンマが飛んでいたと言うことでしょうかー!? ロマン溢れる話ですねー!」
そうして話し合っている内に、復元完了のランプが点いた。3人は緊張しながら、ポッドが開くのを待つ。
「……………………」
プシューと言う音と共に姿を現したのは、深緑色の体と大きな赤い複眼、そして4枚の羽。間違いなくメガヤンマである。
「メガヤンマだ……!」
「何と……!」
メガヤンマはゆっくりと顔を上げ、3人を見つめる。そして――
「ビィィィィィィィ!!」
「ぐわぁぁぁぁ!?」
「な、何ですかこれはー!?」
「まさか、『むしのさざめき』か!?」
あまりの音量に、3人は耳を押さえてうずくまる。それを見たメガヤンマは好機と捉えた。
「ヤンマッ!」
そのまま飛びながら壁へ突っ込んでいった。ポケモンの耐久力は中々のもので、例え虫であろうとも建物の壁を壊してしまう程だ。メガヤンマは博物館の壁を壊し、外へ出ていってしまう。
「いかん! 外へ行ってしまった!」
「俺が追いかけます!」
「アンバーさーん! これ、モンスターボール! 使ってくださーい!」
研究員が空のモンスターボールを投げ渡し、アンバーはそれを片手でキャッチする。
「うおおおお! 待てぇぇぇ!!」
博物館の外に停めてあった自転車にまたがると、全速力でメガヤンマを追いかけた。
技を覚えて進化するポケモンなのに化石から甦るのはおかしいと思うかもしれません。
ですが、劇場版ポケットモンスター『ミュウと波導の勇者ルカリオ』では、世界のはじまりの樹と呼ばれる場所で、化石ポケモンが登場するシーンがあるんです。私の記憶違いでなければ、そこではヤンヤンマも飛んでいたような気がします。だとしたら、ヤンヤンマやメガヤンマが生きた化石でもおかしくないと思い、このような話にしました。
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追跡、メガヤンマ!(後編)
それは、『きのみタグ』です。木の実の味とか生態とかメモされてるあの機能、結構好きでした。
メガヤンマは目の前の景色に驚いていた。目の前に広がるのは、自分の知る森の中では無い。
ふと視線の先に、広い森が見えてきた。メガヤンマはそこで一息つこうと、森の中へ入った。
ハクタイの森。緑豊かな悠久の森。そこには沢山の鳥ポケモンや草タイプのポケモン、虫ポケモンなどが生息している。
しかし、そんな豊かでいて静かな森は、騒がしくなっていた。
「コロー!?」
「ミノっ!?」
木陰に居たコロボーシが吹き飛び、木にぶら下がっていたミノムッチ達は凄まじい風に揺さぶられ目を回す。
メガヤンマは、力強く飛び立つ時に大木をなぎ倒す事があると言う。彼のスピードによって生まれた強風は、小さなポケモン達を驚かせていた。
しかし、そんなメガヤンマを止めようとする野生のポケモン達もいた。
「テッカッ!」
「メガ?」
ハクタイの森に住むツチニン達のリーダー、テッカニン。彼が目の前に現れた事で、メガヤンマは飛び回るのを止めてホバリングする。
「テッカ! テーッカ! ニン!!」
「メガ……? ヤンマ、ヤー、メッガ」
「テッカー! ニンッ! テニッ!」
2匹の言葉を人間の言葉に訳すと、以下のようになる。
『おうおう! この森を荒らすとは良い度胸じゃねえか! あぁん!?』
『荒らす……? 俺は休むところを探していただけだ』
『嘘つけ! 周りを見てみろよ! メチャクチャじゃねえか!』
ホバリングしながら見ると、確かに吹き飛ばされたポケモンは目を回し、中には折れた木もある。幸いなことに下敷きになったポケモンは居ないようだった。
「メガ…………」
メガヤンマは落ち込んだ。自分はただ休みたいだけだったのだ。そして、彼は飛ぶことが誇りだったのだ。悪気があって騒ぎを起こした訳では無い。
そこへ、声が聞こえた。
「おぉーい!」
メガヤンマが振り返ると、何と自分が目覚めた時にいた変な生き物の一匹が、こっちへ来ていた。
「メガッ!?」
メガヤンマは驚いた。自分にとって速く飛べることは誇りである。どうせ自分には追い付けまいと思っていた。だと言うのに、この生き物は自分を追ってきた。今まで自分を追おうとした奴らは、みんな諦めて帰っていったと言うのに。
「メガヤンマ、大丈夫か?」
「ヤンマ……」
「……ごめんな。ビックリしたよな。いきなり見たこともない場所に居て、怖くなるよな」
「…………」
この生き物は、自分の気持ちを分かってくれている。少なくとも目の前のこの生き物は悪い奴ではない。不思議とそう思えた。
「メガヤンマ。俺には、仲間のポケモンがいる。お前も、俺の仲間になってくれないか?」
自分を追ってきた執念。そして、この生き物の放つ安心感。こいつについて行くのも悪くないかもしれない。メガヤンマはそう思った。
「……ヤンマ」
「っ! ありがとう、メガヤンマ! それじゃあ……」
アンバーはモンスターボールを取り出し、メガヤンマにコツンと当てる。ボールは3回揺れ、そしてパチンと音が鳴った。
「これからよろしく、メガヤンマ」
メガヤンマの入ったモンスターボールを腰のボールベルトに着けると、テッカニンに礼を言う。
「テッカニン、ごめんな。お前達の住む森を荒らしてしまって」
「テッカ!」
『気にすんな!』と言わんばかりに鳴くと、テッカニンは森の奥へ行ってしまった。それを見届けたアンバーは、自転車に再び跨がり、クロガネシティへの帰路を目指した。
赤髪の女性が、自分のカバンをまさぐる。
「ない、ない、ない! あぁもうどうしてこんな時に毒消しが無いのよぉ!」
「ブニャウゥ……」
「うぅ、ごめんねブニャット……」
運悪くドクケイルと遭遇してしまい、自分の手持ちの一匹であるブニャットが、毒の鱗粉を浴びてしまった。そのせいでブニャットは毒状態になっているのである。よりによって毒消しも無く、解毒作用のある木の実である『モモンの実』も切らしていた。
比較的近いのはクロガネシティだが、走ってもかなり時間の掛かる距離だ。
「どうしよう……」
このままではブニャットが危険だ。途方に暮れていた時だった。
「どうしました?」
自転車に乗った、琥珀色の瞳の青年が声を掛けてきた。
これが、運命の出会いとなる――。
果たして最後に出てきた女性は何者なのでしょうか? 次回をお待ちください。
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運命の出会い
お願いしますゲーフリさん、殿堂入り後とかで良いから、もう片方のソフトのポケモンが出るようにしてください……。ぼっちに救済を……!
メガヤンマをゲットし、クロガネシティへの帰路についていたアンバー。その道中、赤髪の女性と出会った。
「どうしました?」
女性のほうは、まさか声をかけられるとは思っていなかったのか、少しだけ間が空いた後に事情を話した。
「実は、さっきドクケイルと出くわしちゃって……。ブニャットがそれで毒に……」
「えっと、毒消しとかは……」
「……お金が無くて、買えてないんです」
「あちゃー……」
だとしたら、残された手段はポケモンセンターに連れていくしかない。あそこは無料でポケモンの傷を治してくれるのだ。
ここから近いのはクロガネシティだが、女性は見たところ自転車を持っている様子ではない。徒歩だとかなり時間が掛かるだろう。
「うーん、これはかなり危険だけど……。俺の自転車に乗りませんか?」
「え?」
「俺もこれからクロガネシティに帰るんです。そこまで送りますよ」
「で、でも……」
「ポケモンが危ないなら、ジュンサーさんも見逃してくれますって。さぁ後ろに乗って」
ここで「あぁそうですか、頑張ってください」とは言えなかった。アンバーもポケモンを持っている以上、仲間が病気や毒で危険になったことはあり、その時の焦る気持ちは痛いほど分かる。見過ごすことは到底出来なかった。
女性の方は少しだけ迷ったようだが、苦しむブニャットを見ると決心したようだ。
「あと少しだけ頑張って……」
「ニャァ……」
モンスターボールに戻すと、ボールを着けるためのベルトにくっ付け、アンバーの乗る自転車の後ろに乗った。
「よろしくお願いします」
「それじゃ、飛ばしますよ! しっかり掴まって!」
アンバーは行きと同じく、全力でペダルをこいだ。
それからしばらくして、クロガネシティのポケモンセンター前に到着した。
「ありがとうございます!」
「お礼は良いですから。ほら、早くポケモンを」
「あの、お名前は……」
「良いから早く!」
女性がアンバーに名前を尋ねようとしたが、それよりもポケモンの治療が先だと言って、ポケモンセンターの中に押しやる。
「それでは、俺は用事があるのでこれで」
「あっ……」
女性がセンターに入ると、アンバーはさっさと自転車に乗って博物館に行ってしまった。颯爽と走り去るその背中を、彼女はただ見ることしか出来なかった。
「くそぉ、ジュンサーさんめ。見逃してくれたって良いじゃんか。なぁ、カイリキー?」
「リッキ」
「えぇー。お前も俺が悪いって言うの?」
「リキリキ」
「まぁ、そりゃ2人乗りは危ないけどさー……」
あのあと博物館に戻り、メガヤンマの捕獲を伝えた。メガヤンマはアンバーを慕っているらしく、それを察したナナカマド博士は彼がメガヤンマのパートナーになることを提案。元からそのつもりだったアンバーは喜んで引き受け、メガヤンマは正式にアンバーの手持ちポケモンになった。
しかし、最後は締まらないオチがついてしまう。ポケモンセンターまで女性を乗せて走っていた所をジュンサーさんに見られ、博物館から出たあとに厳重注意を受けたのである。その事をカイリキーに愚痴ったのだが、まるで『自業自得だ』と言うような反応されてしまい、ため息をついた。
そうして愚痴りつつも店内の掃除を終えた時、ドアベルが鳴った。
「いらっしゃいませー。……あっ、さっきの」
「ブニャットが、無事に良くなりました。お礼が言いたくて……。ありがとうございました」
「それは良かった!」
「それにしても……凄いですね、ここ」
店内を見ると、商品棚には沢山の宝石が並んでいて、カウンターに近い中央テーブルにはポケモンの化石が丁寧に置かれている。値札が付いている事を除けば、小さな博物館のようだった。
「改めまして、いらっしゃいませ。『クロガネストーンショップ』へようこそ。店主のアンバーです」
「えっと、マーz……じゃなくて、マナです。旅をしてます」
「マナさん、か。よろしく」
「えぇ、こちらこそ」
マナと名乗った女性が微笑んだ。
さて、赤髪でブニャットを手持ちにしているキャラと言ったら、もう分かりますよね? そうです、ギンガ団幹部のあの娘です。
ただ、ゲームとは異なり、ここでの彼女はアカギが行方不明になった後すぐにギンガ団を辞めています。
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勧誘
本名を名乗ったものの、自分をコードネームで言う癖が残っていたのか、危うく自分の正体を明かすところだった。
マナ。コードネームは『マーズ』。かつて、『ギンガ団』と言う組織の幹部をやっていた。忠誠を誓っていた人物の目指す『心の要らない新世界』を作る事に協力していたが、あともう少しと言うところでトラブルが発生。組織の主は行方知れずとなってしまった。
主のいない組織にいる意味は無い。どこかに主は居る筈だ。そう希望を持って旅を始めたのは何時だったか。訪れる先の全てに手掛かりは無く、全く先の見えない旅となっていた。
やがてそれは、『自分は何のために旅をしているのだろう』という自問自答の状態に陥る。主を見つけるためと始めた旅だったが、見つけたとしてどうするのか。主が消える直前に見たあの『恐ろしいポケモン』がいたら、果たして自分は戦えるのか。考えれば考えるほど、自分の本当の目的が分からなくなってしまった。
マナは、自分の正体を隠しつつも、人を探すために旅をしているとアンバーに告げた。
「旅をしている、とは言ったものの……目的が本当にそれなのか分からなくなっちゃって」
「……なるほど」
何の旅をしているのかと尋ねたアンバーが、コーヒーを淹れてくれた。椅子だけじゃなく飲み物まで用意してくれたのは素直に嬉しかった。
「もしかしたら、私の探し人は、もう自分の世界を見つけたんじゃないかって。そう、思ってしまうんです」
「…………」
アンバーは、彼女に何と言えば良いか分からない。長い旅をしてまで探すということは、よっぽど大切な人なのだろう。そこで「そんなこと無いよ」と励まそうにも、自分はマナの探す人の事を何も知らないのだ。何か理想を求めて彼女の前から姿を消したのならば、彼女の言う通りなのかもしれない。
「……すみません、長々と喋っちゃって」
「いえ、俺の方こそすみません。そんな深い事情があったなんて……」
「でも、話したら何かスッキリしました」
話し終えた彼女は笑みを浮かべているが、それは愚痴を聞かせてしまったと言う苦笑いであった。完全には、心のモヤが晴れていないのだろう。
「あ、もうこんな時間……。そろそろ行かないと」
「行かないとって、こんな暗い時間にですか!?」
ヤミカラスの鳴き声が聞こえ、遠くからコロボーシ達のコーラスが微かに聞こえてくる。夜は何かと危険だ。洞窟にいるズバット達が出てくるし、マナのブニャットが苦しむ原因となったドクケイルなども飛び始める。運が悪いとゴーストポケモンまで出てくるのだ。その中を出歩くと言うのは、流石に心配だった。
「ですが、迷惑を掛けるわけには行かないですし……」
「夜が危険なのはご存知でしょう。それに、その、毒消しとか買えないほどに金銭的な余裕も無いようですが」
「うっ……」
バッサリと言うアンバーだが、確かにその通りだ。旅費は底を尽きかけており、ポケモンフーズを買うお金だけは何とか確保していた。正直、旅を始める前よりも自分が食べる回数は減っている気がする。
「そんな丸腰にも近い状態で旅を続けたら、本当に取り返しのつかないことになりますよ」
「それは、そうかもしれませんけど……」
マナは悩む。確かに、ここ最近は野生のポケモンたちに警戒しながら野宿をすることが多く、そろそろ危ないんじゃないかと言う気はしていた。
一方で、ポケモンセンターに送ってもらった上に、自分の愚痴まで聞いてもらった以上、アンバーに負担を掛けさせる訳にはいかないと言う思いもあった。
(これは……もう少し強く引き留めないと、この人は危ないかもしれない)
そして、アンバーはとうとう、“ある事”を提案する。
「それなら、俺の店で住み込みで働きませんか?」
「…………えぇっ!?」
マーズっぽくない口調かもしれませんが、アンバーとは他人と言うことで「ですます」口調です。
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かなめいしの声(前編)
マナがアンバーの店で働くようになって、数週間が経った。その間に、ちょっとした一悶着があった。
アンバーが女と同棲している。そう言う噂が出回るのに時間は掛からなかった。クロガネ炭鉱の鉱夫たちは噂の真偽を確かめるために店を訪れ、近所のおばちゃん達からは「変なことしたら……分かってるよね?」と言われる始末である。なお、アンバーとマナは別室である。
「ったく、みんな好き勝手言いやがって」
「あははは……」
口を尖らせて呆れるアンバーに、マナは思わず苦笑い。なお、彼女の手持ちポケモンの内、ブニャットはホールで接客、ドータクンはハガネールと共に近所の子供たちの遊び相手をしていた。夜行性のゴルバットはカーテンを閉めたマナの部屋で寝ている。
「それにしても、宝石とかって買う人少ないと思いましたけど、結構トレーナーとか買いに来るんですね?」
ついさっき、ピカチュウを連れたトレーナーが『かみなりの石』を買っていった。ライチュウに進化させるために必要な石なので、そのためだろう。
「少なくとも、フレンドリィショップで買い取られる値段よりかは高くしてるよ。それでも、他所で売られている進化の石ってのはここより高いみたいだね」
「お手軽に進化の石や化石が買えるから、ですか」
「そう言うこと。まぁ、化石に関しては完全に俺の趣味もあるけど」
そう言うと、アンバーは木箱から何かの石を取り出した。
「それ、何です?」
「俺もよく分からないんだけど、ズイタウンから来た遺跡マニアが言うには、『かなめいし』って言うみたい。片手ほどでしかないけど、壊れた物はいくつか発掘したことがあるんだ」
だがアンバーの持つそれは、傷ひとつ無くとても綺麗な状態だった。
「あまりにも綺麗に掘れたもんだから、なんか売るのが勿体無くてねぇ」
「記念にとっておくのもアリなんじゃないですか?」
「そうしようかな」
レジの後ろの棚に『かなめいし』を丁寧に置く。
シンオウ地下通路は、時に遺物が発見されることもある。赤、青、緑、黄の謎のかけらや、何かしらの石板なんかも見つかることがあるのだ。特に石板や『かなめいし』のような大きな物はめったにストーンショップに並ばず、遺跡マニアからすればまさに、目玉商品なのである。
「さて、休憩おわり! お掃除タイムに入ろうか」
「はい!」
ブニャットは意気込むマナに応援の眼差しを送った。ドータクンは『ねんりき』で子供を浮かして喜ばせ、起きたゴルバットはどうやってマナに会おうか悩んでいた。
ホーホーの鳴き声が響く夜中。アンバーもマナも、店のポケモン達も眠りについている。
しかし、店のホール……レジの後ろにある棚から、物音がした。ガタゴトと何かが揺れるような音である。
揺れていたのは、アンバーが発掘した『かなめいし』だった。昼間は普通の石だったのに、今は怪しく光っている。
「ユラァ…………」
果たして最後の声は何だったのか……? 次回をお待ちください。
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かなめいしの声(中編)
朝。眠い目を擦りながら、アンバーは店のホールへ降りてきた。
「…………ん?」
ふと、棚に置いていた『かなめいし』を見た。昨晩置いたところよりズレているような気がする。
「……気のせいか」
石の模様が見えるように置き直すと、朝食の準備を始めた。
「ユラ……」
「?」
何かを感じて後ろを振り向くが、何もいない。
「うーん……? 勘が鈍ったかな?」
ちょっとした過去を持つアンバーは、気配を察知するのを得意としている。だが何も居ない事に首を傾げつつ、再び朝食の準備を始めた。
「……あれ?」
翌日。石はまたもや置いていた場所からズレていた。昨日ちゃんと元の位置に戻して、それ以降手をつけていない。
「おかしいな?」
「どうしたんです?」
「いや、『かなめいし』がまたズレているんだよ。」
「底が丸い形してるし、ズレるのは仕方ない事なのでは?」
「そう言うものかなぁ……?」
アンバーとマナは首を傾げていた。しかし……。
「ゴル……?」
日の光を避けるように降りてきた、マナのゴルバットはその石を不思議そうに見つめていた。なお、仲間外れは可哀想だからとホールの天井の角で寝かせていた所、その寝姿が可愛いと小さな話題になった。
その日の夜。
「……ゴル」
「ニャウ……」
ゴルバットとブニャットが目を覚ました。下の方から何か気配を感じたからである。
「ニャー、ブニャッ、ウニャー」
「ん、んん……。なぁにぃ、ブニャット……」
いきなり体を揺すって起こされ、ゆっくりと起きるマナ。ブニャットはベッドから降りると、ついて来てと言わんばかりに歩き出した。ゴルバットも続く。
「ちょ、どこ行くの?」
部屋を出ると、アンバーの部屋からもカイリキーとパジャマ姿のアンバーが出てきた。
「あれ? どうしたんだ?」
「ブニャット達が突然起こしてきて……。アンバーさんも?」
「カイリキーがな……。それに、俺も下の階から何か感じるからな」
2人は懐中電灯を点けて、慎重にホールへ降りていく。そこで2人が見たものとは…………。
「おんみょ~~~ん」
「キャアァァァァァ!?」
「うわぁぁぁぁぁ!?」
「ミカッ!?」
飾っていた『かなめいし』から、得たいの知れない何かが飛び出ていた。しかもそれは目を光らせ、鳴き声を発した。2人は思わず叫んでしまい、驚かせた本人(?)も驚く。
その拍子で石が棚から落ちた。
「「あっ」」
「ミッ!?」
ゴドン!と言う鈍い音を立てて、落ちてしまう。石はかなり頑丈なのかヒビは入っていなかったが……。
「ミ、ミカァ~……」
弱々しい声で、その丸い顔のような物を俯かせた。
「な、なんでしょうか、これ……」
「ポケモン、なのか?」
「でもなんだか……」
「ミィ~……」
「泣いてません?」
「声の感じはそうだけど……」
アンバーは恐る恐る近づき、声を掛ける。
「なぁ」
「ミカッ!?」
ポケモンのような生き物はアンバーに驚くと、石の中に体を引っ込めてしまった。そして、少しだけ顔のような物を出してアンバーを見る。
「もしかして、落ちたのが痛かったのか?」
「……ミッ」
生き物は素直に頷く。
「……ごめんな、驚かせちゃって。俺たちも驚いちゃったんだ」
「……………………」
その生き物は少しだけ体を出して、アンバーを見つめた。
「このポケモン?は何なのでしょうか……」
「朝になったら、ナナカマド博士に聞いてみよう」
そう言って振り返ると……。
「ゴルゴル~♪」
「ミッカ! ミカル~♪」
ゴルバットとホールの中で追いかけっこをしていた。
子供のようなミカルゲを意識してみました。明日はナナカマド博士に相談するお話です。
それでは、次回をお待ちください。
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かなめいしの声(後編)
不思議な生き物と出会った翌日。パソコンのビデオ通話機能を使って、ナナカマド博士に相談することにした。先のメガヤンマの件で、博士の連絡先を手に入れていたのである。
『おや、アンバー君。何かあったのかね?』
「おはようございます、博士。実は初めて見るポケモンが家に現れまして……」
『現れた? 手に入れたではなく?』
「はい。ほら、おいで」
近くでカイリキーと遊んでいた例の生き物が、下の石を揺らしながらやって来た。
『む!? そ、そのポケモンは……!』
「ご存知なのですか?」
『うむ。そのポケモンの名はミカルゲ。ふういんポケモンとも言われておる』
「封印……」
『昔、悪さをして何者かが封印したと言う話が残っておるらしい。他にも108個の魂が集まって生まれたとも……。だが、未だに目撃例は少なく、所有者もシンオウでは君を含めて3人しかおらん』
「その2人は、どんな人なんです?」
『1人は君も知っておる、チャンピオンのシロナ君。もう1人は儂が図鑑制作の協力を頼んだ子供じゃよ。だが……君のミカルゲは2人とは違うのぉ』
ナナカマド博士は、自分が見たミカルゲは紫色の体に緑色の目と口だと言う。
だが、アンバーのミカルゲは青色で、黄色い目と口をしていた。
『ごく稀に見られると言う色違いか、もしくは集まった魂によって色が異なるのか……。不思議なポケモンじゃわい』
「先ほど、悪さをして封印されたと言ってましたけど……」
自分のもとを離れたミカルゲを見る。
「リッキ!」
「ミカァ~♪ ミカル~♪」
カイリキーに高い高いされて、無邪気に喜んでいた。
「……なんと言うか、悪さをしていたように見えないんですが。会ったときも俺たちに驚いて、棚から落ちて泣いてましたし」
『うむむ……。謎が深まるの……』
だが、アンバーやマナのポケモン達と仲は良く、人間の2人にも怖がらなくなっていた。段々と雰囲気に慣れてきたのだろう。
「あのミカルゲは、俺のところに居させます」
『分かった。何かあったら、すぐに連絡してくれ』
こうして、博士との話が終わった。相変わらず楽しそうに遊ぶミカルゲに、アンバーは思わず笑みがこぼれた。
お昼。昼休憩と言うことで休んでいたアンバーは、空のモンスターボールを取り出す。
「ミカルゲ、おいで」
「ミカ?」
呼ばれて素直にやって来るミカルゲ。到着すると、アンバーのことをじっと見つめた。
「お前、俺のポケモンになるか?」
「ミカッ! ミカル~!」
顔のような渦のような物をグルグルと回転させて喜んでいる。アンバーに懐いたようだ。
「よし、なら一度だけ、このボールに入ってくれるかい?」
「ミッ!」
ミカルゲがコクリと頷くと、アンバーはメガヤンマにやった時と同じように軽くモンスターボールを当てた。三回ボールが揺れてパチンと閉まると、アンバーは再びミカルゲを出す。
「出ておいで、ミカルゲ!」
「ユラァー!」
鳴き声を上げたあと、再びアンバーに向き直る。
「これから宜しくな、ミカルゲ」
「ミカッ!」
ミカルゲの色違いとは別の色違い……少しややこしいかもです。
読んでいただき、ありがとうございます。次回もお待ちください。
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遠方からの客
ドォーンと言う音が遠くから聞こえたあと、店の窓ガラスが少しだけ揺れる。店の営業時間になってから、ずっとこの調子だった。
「何が起きてるんですか?」
「音の方角からみて、クロガネジムかな? ジムチャレンジャーが来てるんだろう。朝から続いてると言うことは、チャレンジャーはかなりの実力者かもしれないな」
ポケモンジムがあるクロガネシティでは、このようにポケモンバトルによる爆音や揺れと言うのは日常茶飯事であった。何せ普段から、石炭などを採掘する重機の音なども聞こえる街である。ポケモンのバトルの音が加わった位で動じる住人達ではない。
最初こそ近くでバトルが行われていることに驚いたマナだったが、すぐに慣れたのかそのままアンバーの手伝いをする。しばらくすると、バトルの音は収まっていった。
バトルの音が聞こえなくなってから数十分後。店のドアベルが鳴ったため、マナが対応した。
「いらっしゃいませ!」
「こんにちは、マナさん。アンバーは居るかい?」
「はい。アンバーさーん!」
店の奥で商品を並べ直していたアンバーは手を止めると、ヒョウタの元へやって来た。
「いらっしゃい! 随分と激しいバトルのようだったな?」
「あぁ。何せ、本気のパーティーによるバトルだったからね」
「……は? お前の本気パーティーってバンギラスとかいるじゃねえか!」
ジムリーダーは、皆かなりの実力者である。しかし、ジムの順番によって所持ポケモンの数やレベルは決まっており、ヒョウタはシンオウポケモンリーグでは最初のジムである。よって本当ならば所持ポケモンは少なく、レベルも低めになっている筈なのだ。
しかし、それはあくまで“ジムにバトルにおいて”の話。ヒョウタ個人としての手持ちのメンバーは、バンギラスを始めとする強力なポケモン達ばかりである。
「何せ、相手もジムリーダーだからね」
「え?」
すると、少女が遅れて店内に入ってきた。少女は店に並ぶ石たちを見て、目を輝かせている。
「わぁ…! 凄い! 凄いです! こんなに心踊る石屋さんは初めてです!」
「彼女が、そのジムリーダーさ。ツツジさん、自己紹介して」
「あっ。し、失礼しました。私、ホウエン地方から来ました。カナズミシティのジムリーダー、ツツジです!」
少女ツツジは、自己紹介をして丁寧に頭を下げる。まさかの遠方からの客に、マナは驚いた。
「ホウエン地方から!?」
「彼女は、僕と同じく岩タイプのジムリーダー。お互いに本気のパーティーでバトルになったんだ」
「なるほどな。初めまして。『クロガネストーンショップ』の店長、アンバーだ。こっちは店員のマナさん」
「マナです」
「初めまして。それにしても、凄いお店ですね。こんなに宝石や進化の石、化石まで売ってるなんて」
「石に囲まれた生活をしたいって言う、俺の趣味なんだけどな」
他の地方から、それもジムリーダーが来たと言うのにあまり態度を変えないアンバーを、マナは不思議に思った。
「あの、アンバーさん。意外と冷静ですね?」
「そりゃな。他の地方から来たって客は、結構居るんだ。特にホウエンでの実力者が来たのは、これが初めてじゃない」
その言葉に反応したのは、ツツジだった。アンバーの言葉を聞いてしばらく考え込むと……段々と震えていった。
「ホウエンの実力者で、石屋を訪れるような人……? ………………………………ま、まさか、
「お、よく分かったな。結構前にこの店を訪れたんだよ。リゾートエリアの方に別荘持ってるらしいけど、今はどうしているのやら」
「えぇぇぇ!? ホウエン地方チャンピオンって、『ツワブキ・ダイゴ』ですよね!? ここに来てたなんて初めて聞きましたよ!?」
「そりゃ、聞かれてないからな」
それがどうかしたか?と言わんばかりの態度に、唖然とするマナとツツジ。幼馴染みの見慣れた態度に、ヒョウタは苦笑いした。
「ところで、バトルの結果はどうだったんだ?」
「引き分けさ。お互いに良い勝負が出来たと思ってる」
「お互いにジムバッジを交換したんです」
2人の表情は良い笑顔だった。お互いに納得のいくバトルだったのだろう。
「何ならアンバー、君も彼女とバトルしてみるかい? 君だって元は……」
「おっとヒョウタ! 人の過去はあんまりベラベラ喋るもんじゃねえぜ? 今の俺はただの店長さ」
「……そうだったね。ごめん」
ヒョウタがバトルを勧めようとした時、一瞬だけアンバーの表情が変わったのを、マナは見逃さなかった。
(アンバーさん、昔は何だったんだろう? 少し気になるな……)
そんなマナの気持ちを露知らず、アンバーはツツジとのバトルを断ろうとする。しかし、少し顎に指を当てて考えると、ツツジと向かい合った。
「ヒョウタの本気パーティーには及ばないだろうが、俺なんかで良ければ」
「喜んで! バトルはいつにしましょうか?」
「今日はヒョウタとのバトルで、ポケモン達も疲れてるだろう。明日以降だな。ヒョウタ、フィールド借りるぞ」
「任せて!」
「アンバーさん、よろしくお願いします!」
ツツジがアンバーと握手する。マナがそれを見た時だった。
ズキンッ
(……あれ?)
一瞬胸が痛くなったような気がした。不思議に思ったが、痛みはもう無くなっており、気のせいだと思うことにした。
次回、アンバーvsツツジ! 初めてのポケモンバトルシーン、 頑張ります!
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vsツツジ!(1)
クロガネジムは、遠い地方のジムリーダーがアンバーとバトルをすると言うことで、多くの観客で席が埋まっていた。マナはアンバーの店のスタッフという特権で、バトルが見やすいベストポジションに座っていた。
審判を引き受けたヒョウタが大きな声で宣言する。
「それではこれより、アンバー対カナズミシティジムリーダー、ツツジとのバトルを開始します!
アイテムの使用は無し。先に3体のポケモンを戦闘不能にした方が勝者です!」
「素晴らしいお店の店長さんでも、遠慮はしませんよ!」
「上等だ。…………俺も全力で行かせてもらう」
その瞬間、アンバーの目付きが変わった。琥珀色の瞳は、まるで獲物を狩るムクホークのようである。
「バトル開始!」
「ゴローニャ!」
「カイリキー!」
ツツジはゴローニャを、アンバーはカイリキーを出した。
「(格闘タイプだから向こうが有利……)けど! ゴローニャ、『いわなだれ』!」
「ゴー………ロォ!」
「カイリキー、『インファイト』で迎え撃て!」
「カァァァイ!!」
ゴローニャの叫びでカイリキーの頭上に岩の雨が降り注ぐ。だが、それをカイリキーは拳のラッシュで、直撃する岩を全て破壊した。
それでもツツジの指示は早かった。
「今です! 『ステルスロック』!」
「っ! 動きづらくしてきたな」
カイリキーが岩を破壊してる間に、ゴローニャは尖った岩をばら蒔いた。この状況にアンバーは苦い顔をする。辺りに広がった岩は、カイリキーを動きづらくさせている。下手に動けば足にダメージを負ってしまうリスクがあるからだ。
「まだまだ! 転がって!」
「ロォ!」
普通の『ころがる』攻撃とは違い、まるで錯乱させるかのようにフィールド中を転がり回るゴローニャ。右へ左へと動く相手に、迎え撃とうとするカイリキーの動きはますます迷いが生まれる。しかし。
「カイリキー、まずはステルスロックを破壊する! 地面に向かって『きあいパンチ』だ!」
「っ! リィィィィキッ!!」
「何ですって!?」
2本の右腕によって放たれたパンチは、周りに衝撃波が出来るほどの威力だった。尖った岩は殴った衝撃で浮き上がり、一瞬だけ遅れて放たれる衝撃波で粉々に砕かれた。さらに、地面に振動まで発生し、転がり回っていたゴローニャを転倒させる。
「ゴロッ!?」
「今だ! 距離を詰めてそのまま投げ飛ばせ!」
「ゴローニャ、相手の進んでくる方向に『ストーンエッジ』!」
4本の腕を構えて、そのままゴローニャへ突進してくるカイリキー。体勢を立て直したゴローニャは、鳴き声を上げて地面から岩を隆起させた。カイリキーはそのまま突き上げられる……はずだった。
「っ! 今だ、乗れぇ!!」
「なぁっ!?」
足元が隆起し始めた瞬間、カイリキーはジャンプ! せり上がってくる岩をそのまま踏み台にして、突き進む!
「ゴッ!?」
「リィィキ……!」
捕らえたぜと言わんばかりにニヤリと笑うと、ゴローニャを掴んでそのままジャンプ。勢いよく地面に叩きつけた。
「ゴローニャ!」
「ゴッ、ロォ……」
目をグルグルと回し、動けなくなっていた。
「ゴローニャ、戦闘不能! カイリキーの勝利!」
「お疲れ様、ゴローニャ」
優しく声をかけ、ボールに戻す。
「想像以上です。アンバーさん、あなた本当に『ただの石屋』ですか?」
「ポケモンの得意なことを引き出すのが、パートナーの役目。俺はそう思ってるさ。……さぁ、俺のカイリキーはまだまだやる気満々だぜ」
「リィィキ!」
「ふふ、私もまたまだこれからです!」
ツツジは2体目のポケモンを繰り出した。
読んでくださり、ありがとうございます。次回をお待ちください。
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vsツツジ!(2)
ツツジは2体目のポケモンを繰り出した。
「ダイノーズ!」
「ノォォォ…………」
「ほう、ダイノーズか」
ノズパスが特殊な磁場によって進化すると言われる、ダイノーズが相手のようだ。
「カイリキー、連戦になるけどいけるか?」
「カイ!」
「へへっ、OK! そう来なくちゃな!」
アンバーからの問いかけに、カイリキーは不敵な笑みを浮かべて頷いた。やる気は十分である。
「カイリキー、『マッハパンチ』!」
「ダイノーズ、『てっぺき』で守りを固めて!」
カイリキーが目にも止まらぬ速さでパンチを繰り出すが、ダイノーズは敢えて避けず、自身の体を硬くして耐えた。
「そのままゼロ距離で『パワージェム』!」
「しまった! 避けろカイリキー!」
だが避けるよりも早く光線が発射され、カイリキーは大きく吹っ飛んだ。
「まだまだ! そのまま『トライアタック』に繋げて!」
「ダイノォォォ!!」
すかさずパワージェムからトライアタックへと切り替える。
「カイリキー、リミッター解除!」
「っ! リッキ!」
カイリキーのベルトが少しだけ緩む。すると、筋肉が徐々に膨張していった。
「カイリキーのベルトを!?」
「外しはしねえが、緩ませることは出来るさ。防御しつつ距離を詰めるんだ!」
身を守るように腕を構えると、そのままダイノーズへ突っ込んでいく。再び掴んで地面に叩きつける作戦だろう。
「させません! ダイノーズ、『トライアタック』を精密射撃!」
ダイノーズの周りに炎、氷、雷の球が現れる。それらから一直線に光線が放たれたが、通常とは異なっていた。
炎の光線はカイリキーの頭に、氷は腕に、雷は足に命中したのである。頭までは膨張していなかったのか、炎を受けると嫌がるように首を振った。カイリキーは取りあえず相手を掴もうと腕を動かそうとした……が、出来なかった。
「リキッ!?」
「なっ!? 腕が凍って……!」
「リッ……!」
「足は麻痺状態だと!?」
手足を封じられ動けなくなるカイリキー。アンバーは急いで対策を考える。
「『トライアタック』は、普通は3つの光線を一点に集中させる技……。そして火傷、氷、麻痺のどれかになるはずだが……」
そこでアンバーはハッとする。ツツジの指示を思い出したのだ。
「まさか……三点攻撃を確実に当て、状態異常も確実に引き起こす! それが精密射撃の正体か!」
「正解です。ダイノーズはチビノーズと呼ばれるユニットを操れるほどの知能があります。特に私のダイノーズは思考の切り替えが早く、そしてレーザー攻撃などを当てることが得意な子なんです! ダイノーズ、『マグネットボム』!」
「まずい、カイリキー!」
足が痺れて動けないまま、カイリキーはマグネットボムによる爆発を受ける。そして……
「リ、リキィ~……」
「カイリキー、戦闘不能! ダイノーズの勝利!」
いかにタフなカイリキーでも、連戦&連続攻撃には耐えられず、戦闘不能となった。アンバーは相棒をボールに戻す。
「お疲れさん。俺も2体目いくか! ガバイト!」
「ガァァブ!!」
ガバイトとダイノーズが睨みあった。
次回はガバイトvsダイノーズ。どうなるのか、お待ちください。
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vsツツジ!(3)
ボールから出てきて一鳴きするガバイト。そして、ギラリとダイノーズを睨んだ。向こうも同じように睨んでくる。
「ダイノーズ、『トライアタック』!」
「ガバイト、『かげぶんしん』だ!」
ダイノーズが得意の技で攻撃してくるが、ガバイトは持ち前の素早さを活かして分身してきた。トライアタックによるレーザー攻撃は、分身を撃ち消すだけで終わってしまう。しかし、消されてしまった分身も再び出現した。
「ダ、ノォッ!?」
あっという間に分身に囲まれ、ダイノーズは自由にユニットを展開出来なくなってしまった。だがそれでもツツジは、持ち前の頭脳で打開策を作り出す。
「回転しながら『ラスターカノン』!」
「ダァァイノォォォ!!」
「やばっ!?」
コマのように回転しながら360度にラスターカノンが発射される。次々と分身は消えていき、とうとう本体に命中した。
「ガブァッ!」
「ガバイト、大丈夫か!」
「ガァブッ!」
「……だよな! よーしガバイト、
「ガブッ! ガブガブ~♪」
「ダンス……タイム……?」
ガバイトが目を輝かせて喜んだのも一瞬のこと。すぐに顔つきがバトルのものになり、ダイノーズへ接近してきた。
「『ドラゴンクロー』!」
「『てっぺき』!」
鋭い爪の一撃だが、硬くなったダイノーズに傷はつかない。
「もう一回『ラスターカノン』!」
「回避だ!」
光線が放たれるが、ガバイトはこれを回避。
「ガブガブ」
「ダッ!? ダイノォォ……!」
「『ちょうはつ』!? 駄目よダイノーズ、落ち着いて!」
『どうした? 来いよ』と言わんばかりに爪をクイクイと動かして挑発する。ダイノーズを怒らせるためだと察したツツジは落ち着くように呼び掛けるが、ダイノーズは完全に頭に血が昇ってしまった。すっかりガバイトを倒す思考になり、むやみやたらに『トライアタック』のレーザーを撃ちまくる。
「ダァァイノォォ!!」
「ガァブ! ガブガブ~、ガブ!」
まるでおちょくる様に攻撃を避けるガバイト。ツツジはそこに違和感を感じた。
(攻撃をしてこない……? 疲れさせるのが目的かしら……?)
先ほどから避けるばかりで、全く攻撃を仕掛けてくる気配が無いのだ。疲れさせるのが目的かと思ったが、岩や地面、鋼タイプのポケモンは中々タフである。疲れさせると言うのは非効率のように感じた。
「ダイノーズ、落ち着いて! 何か嫌な予感がするわ!」
「へっ、もう遅い! 『ドラゴンクロー』だ!」
「ガァァ……ブッ!!」
「ノォッ!?」
「何ですって!?」
避ける姿勢から一転、一気に距離を詰めて相手を切りつけるガバイト。ところが、先ほどよりも明らかに移動速度と『ドラゴンクロー』の威力が上がっていた。予想以上のダメージにダイノーズも思わず声を上げてしまう。
「素早さと攻撃力が上がって……ま、まさか! ダンスタイムとは『りゅうのまい』の事だったのですか!?」
「正解。ガバイト、『あなをほる』攻撃だ!」
一瞬で地面に潜るガバイト。穴を掘るのが得意ではないポケモンがやると、地面が盛り上がってどこを移動しているか分かってしまう技だ。
だが、宝石を好むガバイト……特にアンバーの発掘作業を手伝うために穴を掘り続けてきたガバイトにとって、穴を掘り進めることなど造作もないことだった。
「くっ、何処から出てくるの……!」
すると、ダイノーズの真後ろから一気に飛び出てきた。
「溜めたエネルギーを解放しろ! 『ドラゴンブレス』!」
「只で終わるものですか! 『しねんのずつき』!!」
元々覚えている『りゅうのいぶき』が、『りゅうのまい』によってエネルギーが蓄積され、より強い威力になった。それをアンバーは『ドラゴンブレス』と名付けている。そのブレスがダイノーズを襲う。
しかしダイノーズの動きも早かった。頭にエネルギーを溜め、今までおちょくられた分の恨みも込めて勢い良くガバイトに頭突きをした。
「あっ、ちょっ!?」
その瞬間、凄まじい爆発が起こった。
「ガブゥ~……」
「ダイノ~……」
「え、えー、両者戦闘不能!」
「えーと、ダイノーズの頭突きがガバイトに命中して……」
「口に溜めていたブレスのエネルギーがその衝撃で暴発した、と言うことですね……」
まさかの引き分けに、アンバーとツツジはおろか、審判役のヒョウタも、マナを初めとする観客達も唖然としていた。
オリジナル技『ドラゴンブレス』
タイプ:ドラゴン 特殊技
竜のエネルギーを溜め込んでブレスとして放つ、『りゅうのいぶき』の強化版。その威力は、強い衝撃を与えると暴発して自身もダメージを追うほど。
エネルギーを溜めないといけないので、初手から放とうとすると、最悪の場合『りゅうのいぶき』よりも弱くなる。使いどころが試される技。
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vsツツジ!(Final)
お互い2体のポケモンが倒れ、残るは1体。アンバーとツツジのバトルは、いよいよ最終ラウンドへ突入した。2人は同時にモンスターボールを投げる。
「お願いします、ボスゴドラ!」
「いっくぜぇ、ハガネール!」
「ゴオォォォォォ!!」
「ネェェェェェル!!」
どちらも巨体を誇る鋼タイプ。ボールから出て咆哮を上げると、どちらも睨みあった。
「ハガネール、『ラスターカノン』!」
「ボスゴドラ、『きあいパンチ』で打ち消して!」
ハガネールが銀色の光線を放ち、ボスゴドラは一瞬パワーを溜めると、その拳を勢いよく突き出した。直線だった光線は分かれ、ボスゴドラの周りの地面に着弾するだけで終わる。
「ネルッ!?」
「おいおい、俺のハガネールの『ラスターカノン』は結構自慢の威力だぞ? 何つーパワーだ……」
「最初の戦いでアンバーさんのカイリキーがやった、『インファイト』で迎撃する方法……。そちらを真似させていただきました」
「こりゃ仕返しされたなぁ。だが、これはどうだ! 『アイアンテール』!」
「ネェェルァ!」
尻尾を硬くさせ、ボスゴドラの足を狙う。
「グウウッ!」
「そのまま『しめつける』攻撃!」
「ネェル!」
「グウッ! ゴ、ドォ……!」
長い体を活かしてボスゴドラの体に巻き付くハガネール。ギチギチと締め付ける音が聞こえてくる。だがツツジまやられっぱなしではない。どのように締め付けられていたのか気付いた彼女は、とんでもない指示をする。
「(腕が締め付けられていない……ならば!)ボスゴドラ、相手の顔を掴んで投げ飛ばして!」
「ゴォッ!」
「ッ!?」
ハガネールの巨大な頭を掴み、自分の体をグルグルと回転させながら遠心力で徐々に引き剥がしていく。そして遂にハンマー投げのような状態でハガネールの体がピーンと伸びると、そのまま勢いよく投げ飛ばした。
「ハガネール!」
「ガッ、ネェル!」
「……そうだな。まだ終わっていない!」
ハガネールの目がアンバーの瞳を見据える。彼の意思を悟ったアンバーは不敵な笑みを浮かべた。
「例の“アレ”行くぞ! まずは『てっぺき』だ!」
「さっきのガバイトのように何かするつもりですか。ボスゴドラ、近付くのは危険です! 『ラスターカノン』!」
「ゴアァァァァ!!」
ボスゴドラの口から鋼の光線が放たれ、直撃する。土煙で見えなくなったが、すぐに晴れた。ハガネールは無傷のままボスゴドラを睨んでいる。
「そんな!? 直撃の筈……!」
「まだだ。もう少しいけるよな?」
「何をする気か分かりませんが……! 『ストーンエッジ』!」
ボスゴドラが拳を地面に打ち付けると、尖った岩が次々と隆起してハガネールに迫り来る。
「危ない!」
観客席にいたマナが思わず叫んだ。そのままハガネールは突き上げられ……なかった。
「攻撃を堪えた!?」
「よぉし! 一発デカイのぶちかますかぁ!」
その瞬間、観客たちは顔を青ざめた。
「おいおいおいおい!」
「アンバーのやつ、“アレ”をするつもりかよ!?」
「急いで耳を塞げー!!」
マナは訳が分からないまま耳を塞ぐが、一部の観客は地面に身を伏せている。一方ツツジも、観客の慌てようを不審に思った。
「あのハガネール、一体何を……?」
「今だハガネール!」
そして、その技を叫んだ。
「『だいほうこう』!!」
その瞬間――――
「ネェェェェェェェェル!!」
ジム全体が揺れた。
耳がキンキンする。ツツジは何とか頭を振り払って現状を確認する。
「い、今のは一体……」
「ゴ、ド、ラアァアァアァ~……」
「こ、混乱してる!?」
『だいほうこう』。それは、漢字で書いて『大咆哮』の名のように、息を大きく吸い込んで吼える技だ。その威力は凄まじく、ダブルバトルならば味方も巻き込んでしまう程である。そして爆音による攻撃を受けた相手は、その音量に混乱してしまうのだ。
「そのまま仕掛ける! ハガネール、『アイアンヘッド』!」
「ネェェル!」
「ボスゴドラ、落ち着いて! 相手が来てる!」
「ゴド!」
ふらつく体を何とか押さえ、頭を振り払うことで混乱状態から解けたボスゴドラ。ツツジも続けて指示を出した。
「爆音のお礼です! 『メタルバースト』!!」
「しまったぁ!?」
ボスゴドラの体が鈍く輝き、強いエネルギーがハガネールを襲った。あまりの威力に吹き飛ばされる。
「ネェェ……ルゥ」
体をふらつかせながら立ち上がったものの、そのまま目を回して地に伏せてしまった。
「ハガネール、戦闘不能! ボスゴドラの勝利! よって勝者、ツツジ!」
ヒョウタの声がバトル終了を告げ、観客席からは歓声が上がった。まさにスタンディングオベーションだ。
「うおおおお!」
「よくやった嬢ちゃーん!」
「アンバーもジムリーダー相手にすげえぞー!!」
「お疲れさん、ハガネール。よく頑張ったな」
アンバーは優しく微笑みながらハガネールをボールに戻すと、ツツジと向かい合う。
「久しぶりだったよ。こんなに燃える戦いしたのは」
「私も、ハガネールの『だいほうこう』とかガバイトのダンスタイムなど、見たことない技を見させて頂いて……。本当にありがとうございました」
頭を下げてお礼を言うと、あるものを取り出す。
「それは……」
「ジムチャレンジャーが私に勝利した時に渡すことになっている、ストーンバッジです」
「俺は負けたんだけどなぁ」
「いいえ。私、ヒョウタさんだけでなくアンバーさんとも戦えて良かったです。これは私から出来る精一杯の感謝の気持ちです」
「……分かった。ありがとう」
バッジを受け取ったアンバーは、そのまま右手を差し出す。その意味を理解したツツジは笑って握り返した。2人が握手した瞬間、拍手はより一層大きくなった。
オリジナル技『だいほうこう』
タイプ:ノーマル 特殊技
数ターンの間、攻撃を堪えつつ息を吸って爆音を響かせる技。相手はダメージ&混乱状態になる。
味方も巻き込む技なので、ダブルバトルでは使えない。
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トバリシティへ行こう
いつもはアニメの方はあまり観てなかったのですが、見てみようかな?
ツツジとのバトルから数週間が経った。ジムリーダーから認められたと言う箔がついたアンバーの店は、そこそこの繁盛を見せていた。
ここ最近で一気に普及してきたSNSをツツジも利用しており、そこで『石マニアがお薦めするストーンショップ!』と言う題で投稿したのである。初めはアンバーも、店の宣伝になるならと言う軽い気持ちで承諾したのだが、恐ろしいのは現地の住人達による口コミであった。
観光客が訪れて石屋の場所を尋ねる。すると住人たちは喜んで話すのだ。
「そこの店主はホウエンのジムリーダーと良い勝負をした」
「店主は負けたが、相手の手持ちを残り一匹まで追い込んだ」
「ツツジ本人が彼の事を認め、バッジを渡している」
このような話を聞いていざ店を訪れてみればストーンバッジが飾られており、さらにツツジが絶賛する程の品揃えであるため客は満足する。
そしてその客がSNSで店を紹介して、それを見た観光客が店の場所を尋ねて……このようにループを繰り返すようになったのだ。
だが、その繁盛の裏で問題が発生していた……。
「商品の在庫が少ない!!」
「え?」
ある日の朝。コーンポタージュを飲み終えたマナは首を傾げた。
「ここの所、店の客足が凄い事になってるじゃん?」
「色んな地方の人が、進化の石とかポケモンの化石とか買っていきますもんね」
「だけどさ、俺の店の商品って現地調達したものなんだよ。だから最近は、商品調達と趣味を兼ねた化石発掘が出来てないわけ」
「ま、まさか……」
「そう。このまま行くと在庫切れを起こしてしまう」
さらにアンバーには、客の対応、ポケモンのケア、宝石を狙うヤミカラス達への対処などやることは沢山ある。それらに追われて化石発掘が出来ない事に、彼は精神的に疲れつつあった。
「よって今日からしばらくの間、店は休業です!」
「えぇっ!? 良いんですか突然そんなことやって!?」
「大丈夫。店のブログにも『在庫補充のためにしばらく休みます』って書いておいた。あと、いい加減俺も休みが欲しい! マナさんも働き詰めだったでしょ?」
「そりゃあまぁ、お昼とかは多忙でしたけど……」
「よし決まり! 今日は化石発掘に出掛けるよ!」
「あのー、その道具を私持ってないんですけど……」
「あっ……」
朝のリビングに微妙な空気が流れた。
シンオウ地下通路に潜るための道具などを買うために、ちょっとした気分転換も兼ねて、デパートのあるトバリシティを目指すことになった。2人は自転車をこぎながらヨスガシティを通りすぎ、ズイタウンで一泊し、210番道路を通っていた。
「中々、ここはキツい所だよね……」
「ぜぇ、はぁ、そろそろ休憩、したいです……」
背の高い草や勾配の急な坂道など、お世辞にも通りやすいとは言えない場所に、2人はヘトヘトだった。
「そう言えば、近くにカフェがあるみたいだよ。ズイタウンの牧場からモーモーミルクを仕入れてるんだって」
「良いですね! 行きましょう!」
「凄い元気になった……」
マナが元気になるのも無理はない。モーモーミルクは栄養満点で、美肌効果もあるらしい。やっぱり女性はそう言う話も好きなんだなぁと、アンバーは苦笑した。
そうしてたどり着いたのは、カフェ『やまごや』。ミルタンクの看板が立っており、マナはさらに目を輝かせた。
自転車を停めて店内に入る2人を、1人のウェイトレスが迎えた。
「いらっしゃいませ~☆ カフェ『やまごや』へようこ、そ……」
そのウェイトレスの笑顔が引きつった。一方マナも目を見開き、口角をヒクヒクと引きつらせながら固まった。
(こんな所で何やってんのよ、ジュピター!)
ジュピター。マナと同じくギンガ団の幹部だった女である。
ゲームならハクタイシティで「たんけんセット」を貰えるんですけどねぇ。意外と店とかでも売ってそうなのでトバリデパートにも売ってる設定にしました。
あと、単純に他のギンガ団幹部と絡ませたかっただけと言うのもあります。
それでは、次回をお待ちください。
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自覚する時
「えーと、お知り合い?」
「あはは、前まで一緒に居たことがあって……」
「そ、それでは、2名様ご案内いたしま~す☆」
(キャラじゃない! キャラじゃないよジュピター!)
2人がギンガ団の幹部である事をアンバーは知らない。何とか誤魔化しつつ、ジュピターは2人を席へ案内した。
「俺はモーモーミルクだけで良いかな」
「私はミルクと、モーモーチーズケーキで」
「かしこまりました~☆ ごゆっくりお待ちください~☆」
(だからキャラじゃないって!)
語尾に「☆」をつける喋り方に、マナは違和感を覚えっぱなしだった。何せジュピターは幹部時代、ドSな笑みでしたっぱ達を怖がらせていた事がある。そんな彼女がぶりっ子な態度を取ると言うのが信じられないのだ。
最も、マナも幹部時代の強気な態度から一転して、ですます口調で話しているため人の事は言えないが。
「それにしても、お客さんも結構居るね。それほど人気なんだな」
「男性が多いように見えますけど……」
「それはほら、彼女目当てなんじゃない?」
客の注文にジュピターが応えているが、彼女を呼んだ本人は鼻の下が伸びている。何人かの客も彼女に対して熱い視線を送っていた。
「あの人、人気なんだねぇ」
「そう、ですね……」
アンバーはジュピターに対して他の客と同じような顔をして居なかったが、マナは不思議とそれが面白くなかった。少しモヤモヤした物を胸に感じる。
「……あの、すみません。ちょっとお花を摘みに」
「分かった。ごゆっくり」
アンバーはメニューに目を落とし、追加で何か頼むべきか考え始めた。
化粧室にて、マナは鏡に写る自分の顔を見ていた。
「……はぁ。何かおかしい」
「何がおかしいって?」
「うえぇ!?」
驚いて隣を見ると、ジュピターが手を洗っていた。
「ジュピター……」
「シェリィよ」
「え?」
「シェリィ。それが私の本名。もうお互いギンガ団を抜けたんだし、コードネームで呼ぶんじゃないわよマーズ」
「……マナよ。私の本名はマナ」
「……そう」
軽く化粧を整え直すシェリィ。2人の間に僅かな沈黙が訪れた。
「……あんた、普通の女の子に戻れてるわね」
「突然何よ。あんたこそ、あんな喋り方するなんて思わなかったわ」
「ふふふっ、こう見えて店では人気なのよ?」
「みたいね」
一瞬だけ、マナが面白くなさそうな顔をしたのをシェリィは見逃さなかった。そしてその理由はすぐに分かった。
「まさかマナが男の人と一緒に居るなんて思わなかったわ。……あんたの彼氏?」
「ブフッ!? ちょ、何よ! 彼氏とかそんなんじゃ……!」
「その反応だと益々それっぽく聞こえるわよ~?」
「あ、あの人の家に居候させてもらってるだけよ! 後はお店のお手伝いしてるだけ!」
「うーん、ますますカップルに見えるわね~」
顔を赤くしてアタフタと慌てるマナ。ニヤニヤが止まらないシェリィ。
「あんた、その男の人をどう思ってるのよ?」
「どう、思ってるって?」
「あの人が他の女と居るのが面白くないんじゃない?」
「うっ!」
「……はぁ。あんたは本当に感情を隠すのが下手ねぇ」
この手のパターンの小説は何度か読んだことがある。ここは敢えて遠回しに応援するのがセオリーだろうが、この場合は直接教えた方が良いのかもしれない。
「あんた、あの男の人に恋してるんじゃない?」
「……はぁ!? 私が!? アンバーさんに!?」
「胸に手を当てて考えてみなさいよ。そのアンバーって人の事を考えるとどうなるの?」
マナはアンバーの事を考える。毒で弱っていたブニャットを助けるためにポケモンセンターまで送ってもらい、お礼を言おうとしても受け取らず「ポケモンを治すのが先だ」と言ってそのまま去ってしまった。
その後彼の元へお礼を言いに訪れ、自分が旅をしている理由を話し、そして気付けば彼の店で生活することになっていた。
その間の生活は楽しいものだった。子供たちとのふれ合いも楽しくて、ポケモン達とも充実した生活をしている。
そして……ホウエンからやって来た、ツツジとのバトル。相手がジムリーダーだと分かっていても、心の中ではアンバーを応援していた。そして何より……。
(バトルをしていた時の顔……凄くカッコよかった……)
普段は笑っている事が多く、フレンドリーな印象があるアンバー。だがバトルの間の彼の目付きはとても鋭く、口調も熱いものがあった。いわゆるギャップと言うものがあった。
マナは自覚していなかったが、おそらくそれが決め手となったのだろう。
「あ、う……」
「あーらら。結構彼の事を想ってたのね」
「け、けど! 私はギンガ団だった女よ……。もしアンバーさんが本当の私を知ったら……きっと……」
マナの顔が曇る。どれだけ笑顔を振る舞っていても、どれだけ丁寧な口調でいても、「ギンガ団の幹部だった」という過去は付いて回る。もし自分が犯罪に手を染めていたと知ったら失望されてしまう。そう考えると、恐ろしくなった。
だがそんなマナを見て、シェリィは呆れるようにため息をついた。
「そんなの、私や他のしたっぱ達も同じよ」
「だけど!」
「他にも辞めた連中だっている。あいつ等は、ノモセシティのサファリのスタッフやってたり、トバリシティの道場でジムリーダーのスモモと一緒に空手やってたり、色んな事をやってる。彼らだって『ギンガ団員だった過去』を背負って生きてるのよ」
「…………」
「それとも何? あんたの恋人は簡単に女を捨てる人でなし?」
「そんなこと!」
「だったら、シャンとしなさいな! ウジウジしてる間に好きな人取られたら、あんたは正気でいられるの!?」
マナは俯く。かつて自分が慕っていた人物、アカギ。彼はどこかへ消えた。彼を探す旅であったが、心のどこかでもう、諦めていたのかもしれない。
このままで良いのだろうか。同僚ですら過去を背負って強く生きていると言うのに、自分は過去を恐れて、好きな人を想う事すら出来ていない。
「…………」
「……そりゃ、私だって過去と向き合うのに時間は掛かったし、すぐに決別しろなんて言わないわよ。でも、少しくらいは我が儘になっても良いと思うわ」
そして、シェリィは仕事に戻っていった。マナは俯き、泣いた。
何とか泣き止み涙を拭いたマナは、アンバーの元へ戻ってきた。テーブルには頼んでいた物が届いている。だが手をつけてないのを見ると、戻ってくるのを待っていたようだ。
「すいません、遅くなっちゃって」
「ううん、大丈夫さ。……あれ、少し目が赤いよ?」
「あ、あはは! さっきの友達に旅の事で励まされて、つい……」
「そっか……。ごめん、デリカシーが無かった」
「そんなに謝らないでください。さ、食べましょう」
2人が頼んでいた物を食べようとすると、シェリィがやって来た。
「お客様、こちら私からのサービスです☆」
「え、これって……」
出されたのは、ラブカスの形をしたクッキーの盛り合わせ。これはカップルの間では人気のメニューで、特に口の部分がくっ付いてキスしてるような形のクッキーが見つかると良いことがあるらしい。。
「それでは、ごゆっくり~☆」
シェリィがマナにウインクする。それを察したマナは小さく笑った。
(ありがとう、シェリィ)
一方、周りの声からクッキーがカップル専用のメニューだと知ったアンバーは……。
(カ、カップル……。やっぱり、俺とマナさんってそう見えてるのか……?)
顔が少しだけ赤くなり、内心ドキドキしていた。
読んでいただき、ありがとうございました。次回をお待ちください。
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新しい商法
トバリデパート。トバリシティの名物とも言える建物で、トレーナーに欠かせない道具から食材、家具など豊富な品揃えを誇っている。
アンバーとマナは探検セットを購入するためにデパートを訪れていたのだが、折角だからとジュエリーコーナーに寄り道していた。
「わぁ、綺麗……」
「腕利きの人が加工したんだろうなぁ。宝石の輝きを失っていない」
赤い宝石のペンダントを見て感想を述べる2人。同じような宝石はアンバーの店でも取り扱っているが、流石に加工する技術も設備も無い。そのため原石のまま売られている。
「これは……ハートのウロコ?」
「へぇ、これもアクセサリーに加工できるんだなぁ」
「ふーむ……」
「マナさん?」
ふと、顎に手を当てて考えるマナ。アクセサリーに何か思うところがあるのだろうかと、アンバーは疑問に思う。
「アンバーさん。確か、お店の方でもハートのウロコとかありましたよね?」
「あるよ? まぁ土の汚れとか落とす為に、 軽く洗浄してるけど」
化石や原石を扱うクロガネストーンショップだが、流石に土埃がついたまま出品しない。壊れないように丁寧に洗浄して綺麗にしてから商品棚に並べている。
そして、これは不思議なことなのだが、シンオウ地下通路からはハートのウロコ等も出土する。ラブカスと言うポケモンから手に入る事があるアイテムが、なぜ地層から出てくるのか。これはアンバーも未だに判っていない。
「アンバーさん……。もしよろしければ、私にアクセサリーの加工をさせてくれませんか?」
「……へ!? マナさん、加工出来るの!?」
「手先は器用な方なので。まぁ、このお店のような物じゃなくて、簡単な物ですけど……」
まさかの新しい商法である。アンバーは少し考えた。
(どのくらい器用かによるけど、試してみる価値はあるかもな……。来てくれたマダムの中には、アクセサリーならもっと嬉しいって声もあったし……)
だからと言って、すぐ採用という訳にもいかない。仮に彼女の腕が客に通用せず売れないならば、心苦しいが販売を諦めなければならなくなる。売れないものを売り続けても意味が無いため、その時は心を鬼にしなければならない。
「それじゃあ、一週間……は少し厳しいか。二週間お試しでやってみて、お客さんから好評だったら本格的にって感じで良いかな?」
「っ! はい! ありがとうございます!」
喜ぶマナに、ボールの中にいるブニャットやゴルバット、ドータクンも嬉しそうに揺れた。
トバリシティには、ギンガトバリビルと呼ばれる建物がある。かつては『新世界の創造』のために活動していたギンガ団の本拠地だったが、アカギが不在となり多くの団員が抜けた今は、宇宙研究センターとなっている。
「どうだ?」
「申し訳ありませんサターン様。行動記録が全て削除されており、足取りが……」
「くっ……!」
苦々しい顔になった青髪の男、名はサターン。マーズ、ジュピターと並ぶギンガ団幹部だった男である。アカギが行方不明となった今は、自らの組織を『ギンガ宇宙研究センター』と名を変え、行く宛の無い下っぱたちを纏めあげている。事実上センターのトップとなっていた。
センター内は現在、慌ただしい状況にあった。幹部の中でも下の立場にあった男が、複数の下っぱ達を連れて突如行方を眩ましたのだ。彼の厄介な所が、アカギに忠誠を誓って居ないと言うこと。詰めが甘い部分もあり勝手に消えているだろうと思い、放置していたのが仇となった。
「どこへ行ったんだ、プルート……!」
サターンはその老人の名を呟いた。
忙しい時期になり始めるので、更新は遅くなると思いますが、どうぞ次回をお待ちください。
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ミカルゲの実力
オリジナル技・個人設定がある内容ですので、原作のままが良いという方は戻ることをお奨めします
マナの提案で、クロガネストーンショップは新商品を発売することになった。それは、マナお手製のアクセサリー。ハートのウロコなどを加工して作った簡単な物だが、これに注目したのはクロガネシティに住む女の子達だった。只でさえストーンショップは、先のツツジ戦で注目を浴びていたのに、そこに住んでいるマナ(しかも結構可愛い)が作ったアクセサリーなのだ。試しにと立ち寄って見てみたところ……。
「わぁ、綺麗~!」
「ホント! マナさん才能あるよ!」
「そ、そうかな……?」
街の住人達とすっかり打ち解けたマナは照れているが、それでも嬉しそうな顔をしていた。
しかし、それを狙う輩がいたのである……。
夜。いつも通り店じまいをするアンバーとマナだったが、ふと視線を感じて空を見上げた。
「うわ、また来てる……」
「ヤミカラス達か……。何か前よりも増えてるな」
光るものが好きなヤミカラス。マナが住み始める前もストーンショップを狙っていたのだが、特にここ最近はその数を増やしつつあった。
それもその筈、アクセサリーの金属部分も光り物。ヤミカラス達は宝石だけでなくそれも狙っているのだ。
「ゴル! ゴルバッ!」
「クァー! カァーッカッカッ!」
ゴルバットが鳴き声を上げて抗議するが、ヤミカラス達は数が多いのを良いことに、馬鹿にするような鳴き声を上げる。
「ハガネール! 睨み付けろ!」
「グルルルル……!」
「カッ、クァー!」
「カァ! カァ!」
「くっそ、あいつら! 街中で俺たちが暴れられないのを理解してやがる!」
「そんなぁ!」
ハガネールの『だいほうこう』を使えば、追い払うことは可能だろう。しかしそれは、周りの建物や住人にも被害を及ぼすために不可能だ。ヤミカラス達はまさに、『ねぇどんな気持ち? 戦えないってどんな気持ち? ねぇねぇ?』という感じで煽っている。
だが、それに立ち向かおうとするポケモンがいた。
「ユラァ……!」
「ミカルゲ……?」
ミカルゲは、沢山の魂が集まって生まれたポケモンである。そしてアンバーのミカルゲは、未練を残したまま彷徨う子供の魂が集まり、奇跡的に悪霊が混ざらなかった個体だ。
子供の魂だからこそ無邪気なミカルゲは、アンバーとマナの事を肉親のように慕っていた。とても懐いていると言っても良いだろう。だからこそ、二人を悩ませるヤミカラスに腹を立てていた。
「ミカ!」
「ミカルゲ、何を……」
すると、顔(?)を構成しているモヤがどんどん大きくなっていった。
「ミ゛ィィィィガア゛ァァァァ…………!」
「カ、クァー!?」
「こ、これは、『こわいかお』か?」
アンバー達からは見えないが、ミカルゲは表現のしようが無いほどの恐ろしい顔を見せ、ヤミカラス達は本能から命の危機を感じた。
「カッ、カッ、クワァー!」
「クワァー! クワァー!!」
心の底から恐怖したヤミカラス達は大慌てで逃げていく。それを見届けたミカルゲはシュルシュルと元に戻っていった。
「ミカ!」
「凄いじゃないかミカルゲ! お前にそんな得意技があったなんてな!」
「本当に良い子ねミカルゲ!」
「ミカ~」
笑顔で誉めるアンバーとマナに、照れて少し赤くなるミカルゲ。
だが2人のポケモン達は先ほどの光景を見て、『アイツだけは怒らせないようにしよう』と心の中で思ったのだった。
オリジナル技紹介
『おそろしいかお』 タイプ:あく
『こわいかお』の上位バージョン。言葉に出来ない程の恐ろしい顔を見せ、相手の全ステータスを「がくっと」下げるか、逃亡させる。ただし、格上の相手には耐えられる事もある。
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クロガネシティの空中戦
今回は、前話「ミカルゲの実力」の続きとなっております。それでは、どうぞ。
アンバーは、基本的に昼間はポケモンをモンスターボールから出している。ボールの中はポケモンにとって快適になるよう作られているらしいが、それでも伸び伸びとさせてあげたいと言うのがアンバーの思いだった。
カイリキーやガバイトは荷物の運搬や接客のために店内で、ハガネールとミカルゲは庭で子供達と遊んでいる。ではメガヤンマはどうしているかと言うと……屋根の上でのんびりと過ごしている。
「…………」
ミカルゲの『おそろしいかお』でヤミカラスを追い払った翌日。その日はどんよりとした、それでいて雨は降らないと言う中途半端な天気だった。メガヤンマはいつもの通り屋根の上で過ごしていたのだが、好きな日光浴が出来ないため不機嫌だった。
「……メガ?」
ふと、遠くの空から何か黒い影が見えてきた。影が大きくなると、その正体が分かった。
「クワー! カー、ギャー!」
「カー! カー!」
「グワッガッガッガッ……」
突如、ヤミカラスの集団が襲ってきたのだ。
「子供達を中に!」
「はい! みんな、こっちよ!」
近所の子供達の悲鳴を聞いて、大急ぎで外へ出たアンバー。その群れの規模はかなり大きく、近所の大人達も驚いている。
「何でこんな昼間に!?」
「曇り空で日光が無いからか……? それにしてもこの規模の群れなら……!」
その時アンバーは見つけた。帽子のようなトサカに、マフラーを思わせる白い体毛。ヤミカラスよりも大きなそのポケモンを。
「ドンカラス! 手下がやられて仕返しに来たのか!」
よく見ると、何羽かのヤミカラスは少しボロボロだ。良いように追い返されてボスに泣きついた事を、ドンカラスがお仕置きしたのだろう。
その鳴き声に迷惑を感じた近所の人たちは、自身のポケモンを出しながらアンバーに依頼する。
「アンバーさん! ドンカラスを何とかしてくれ!」
「俺たちはヤミカラスを相手にするからよ!」
「私は子供達を守ります!」
「分かった!! 空中戦なら……メガヤンマ!」
「ヤンマ!」
屋根から飛んできたメガヤンマを、ドンカラスは睨み付ける。
「クァー……!」
「メェガ……!」
一方は群れを率いるボス、一方は太古から復活したポケモン。
互いのプライドがぶつかり合う戦いとなった。
クロガネシティの空中戦にて、最初に動いたのはドンカラスだった。
「カァー!」
「『つばさでうつ』攻撃か! 避けろメガヤンマ!」
「ヤンマ!」
翼を羽ばたかせ、その羽を弾丸のように飛ばしてくる。大きな体のメガヤンマだが、持ち前の素早さで簡単に避けていく。
だが、ドンカラスは避け終わって動きが一瞬だけ止まる所を狙った。
「クァ!」
「メガ!?」
「しまっ!? あれは『ドリルくちばし」か! 体勢を立て直して『むしのさざめき』だ!」
「ガァァァヤン!」
「グガァ!? カァー……!」
危うく地面に落ちそうになったメガヤンマだが、アンバーの指示にすぐ従い、その鳴き声をくらわせる。虫タイプ故に効果はいまひとつだが、虫に反撃されたと言う事実がドンカラスを怒らせた。
「カァァァァ!」
「『バインドボイス』に負けるな! 『むしのさざめき』をボリュームアップ! かき消せ!」
「ガァァァァァ!!」
大音量がぶつかり合い、その余波で小石が飛ぶ。
この時ドンカラスは気付いていなかったが、今2匹は低空を飛行している。それは、メガヤンマが最も技を発揮できる高さであり、アンバーがそこまで持ち込む事を狙っていたのだ。
「『げんしのちから』!」
「メェェェェガ……!」
「っ!? お前……!」
メガヤンマの目が赤く光ると、岩の塊がどこからともなく浮いてくる。だがそれだけではない。
「いっけぇ!」
「ヤァァァン!」
「グゲェェェェ!?」
飛行タイプに岩タイプの技は効果ばつぐん。大きな岩のダメージと小石による追加ダメージで、ドンカラスは戦闘不能になった。
その後、放っておくのも駄目だと思い、倒れたドンカラスにオボンの実を与えた。体力を取り戻したドンカラスはアンバー達を脅威と見たのか、そのまま飛び去ってしまった。もちろん、手下のヤミカラスたちもその後を追っていった。
「ナイスだったぞ、メガヤンマ。お前、凄い力を持ってるんだな」
「ヤンマ……」
メガヤンマは少し照れながら、定位置の屋根の上に戻っていった。
それから、アンバーの店にヤミカラス達が来ることは無くなったという。
アンバーのメガヤンマは、「げんしのちから」を使う時に、周りの石なども巻き込んで攻撃します。つまりその気になれば、ステルスロックなども浮かばせて攻撃できると言う設定です。
読んでいただき、ありがとうございます。次回もお待ちください。
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ハードマウンテンの異変
ハードマウンテン。今もなお噴煙を上げ続けている活火山である。アンバーとマナは、防塵ゴーグルとマスクを着用してこの火山の麓を訪れていた。
「本当に宝石とか化石があるんですかね?」
「火山は何万年、何億年という年月をかけて大きくなるから、あっても不思議じゃないはずだよ」
2人がハードマウンテンに訪れたきっかけは、今から数日前にさかのぼる。
クロガネストーンショップに訪れる客というのは、石マニアが多い。どのような石なのか鑑定を願う者もいれば、珍しい石が見つかったと言う情報が持ち込まれる事もある。今回は後者だった。
「これは、随分と見事な物だ」
「だろう? ハードマウンテンで発掘したんだ。マナちゃんも見てみなよ」
珍しい石を発掘してはアンバーの元へやってくる一人の山男が、手の平より大きな紅色の鉱石を見せる
「どれどれ……? わぁ~、大きくて色も立派ですね!」
「はっはっは! アンバーと暮らしてる内に、石を見る目が身についてきたようだね」
「あはは……。でもハードマウンテンって、危険地帯ですよね?」
ハードマウンテンは活火山であるだけでなく、炎タイプや岩タイプなどのポケモン達がうようよ居る。そのため、とても危険な場所として知られていた。
「ポケモン達が寄り付かなくなる『むしよけスプレー』を使ったのさ」
「あぁ、なるほど」
「アンバーの実力なら、ハードマウンテンに行っても問題無いと思うがなぁ」
アンバーは、ホウエン地方のジムリーダーであるツツジとのバトルで敗北したものの、相手のポケモンを2体も倒している。その実力はクロガネシティの住人全員が知っている事であり、特にカイリキー、ガバイト、ハガネールの3匹の古参組は高レベルだ。新参のミカルゲとメガヤンマも、それぞれ得意技を持っており、アンバーはそれを引き出す才能もある。
「確かにハードマウンテンの鉱物には興味あるな……。マナさんはどうする?」
「行ってみます。実際に行ったこと無いので」
「決まりだな。情報ありがとう」
こうして2人は、「あなぬけのヒモ」や「おいしい水」等をカバンに詰め、発掘道具を手にハードマウンテンへ向かったのである。
そして現在。近くの手頃な石に座って休憩していたのだが、アンバーは周りを見て奇妙に思っていた。
「何でゴローンが、こんな麓まで居るんだ……?」
ゴローンはその岩のような見た目通り、ゴツゴツした岩のある場所に生息する。ハードマウンテンの周りは溶岩が冷え固まった場所であるため、別に外に居てもおかしくは無い。しかし、今アンバーたちが休憩している場所は麓のエリアであり、そこの近くには、火山を訪れた人が休憩するための山小屋が建ち並んでいる。いくら人の前に飛び出す野生のポケモン達でも、よほどの事がない限り人の集まる麓まで降りてこない筈である。
「アンバーさん、あれ!」
「バクーダの群れだと!?」
火山をケンタロスのように下っていくのは、バクーダの群れだった。彼らの目は何かに怯えていて、そこから逃げようとする気持ちが感じ取れる。火山の上で何かが起きているのは明白だった。
「……行ってみよう」
「はい」
それぞれ、カイリキーとドータクンのモンスターボールを構えながら、火山の上を目指すことにした。
道中マグマッグやイシツブテなどが逃げてくるのをやり過ごし、慎重に2人は火山を上っていった。すると、遠くから岩の砕ける音が聞こえてきた。アンバーはその音を何度も聞いているため知っている。筋肉のあるポケモンが拳で岩を砕く音だ。
その音が徐々に近付き、その雄叫びが聞こえてきた。
「サァァァイドォォォン!!」
「サイドン!?」
「か、かなり怒ってる……!?」
ドリルポケモンのサイドンが、その拳で辺り一帯を破壊していた。その目は怒りで真っ赤に染まり、正気とは思えなかった。
「何があったかは分からないが……このまま暴れ続けたら、他のポケモン達が怖がって寄り付かなくなってしまう!」
「まずは落ち着かせましょう!」
「そのつもりだ! 行け、カイリキー!」
「カァァァイ!」
「ドータクン、お願い!」
「ドォォォ!」
「グルァァ……! サァァァイドォォォン!」
ポケモンの声がしたことに気付き、アンバー達の方へ顔を向けるサイドン。見慣れないポケモンが現れたことで警戒心を強めたのか、より大きな雄叫びを上げた。
さてさて、なぜサイドンは暴れていたのか。次回をお待ちください。
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異変の真実
火山の鉱物を探しにハードマウンテンへ訪れたアンバーとマナ。しかし探索している途中で、本来ならば麓に下りてこない筈のポケモンや、何かから逃げ惑うポケモン達を目撃する。その異変を調べるためにハードマウンテンを上ると、何故か怒り狂い暴れているサイドンの姿があった。放っておけないアンバーとマナは、サイドンを落ち着かせるためにポケモンを繰り出したのだった。
「カイリキー、『きあいパンチ』!」
「ドータクン、『ジャイロボール』!」
カイリキーが得意のパンチでサイドンを吹っ飛ばすと、そこへドータクンがコマのように回転しながら追撃をかける。
しかし、それでもまだサイドンの怒りは解けない。
「グガァァ!」
「ド、タ……!」
「単純に暴れてるだけみたいね……! 一旦離れるのよ!」
「ドッタッ!」
腕を振り回して暴れるサイドンから距離を取る。するとサイドンは近くの大岩を持ち上げ、ドータクンとマナに向けて投げつけた。
「サァァァイ、ドォンッ!」
「っ! カイリキー、岩を受け止めて投げ返すんだ!」
「リッキッ!」
カイリキーが走り、ドータクンに当たる寸前に大岩をキャッチする。かなりの豪速球だったのか少し歯を食い縛ると、4本の腕によるフルパワーでサイドンに投げ返した。
岩はサイドンに命中するものの倒れる様子はなく、むしろ激しさが増している。
「ガルァァ! グギガァァァァ!」
「アンバーさん。あのサイドン、確かに怒ってますが、それと同時に苦しんでるようにも見えます」
「あの叫び方は普通じゃない。何か、サイドンの体に異常でもあるのか……? カイリキー、『クロスチョップ』で弱らせるんだ!」
「ドータクンは『ねんりき』で出来る限り暴れさせないで!」
ドータクンが念力を送り込み、サイドンの腕や足の動きを鈍くさせる。その間にカイリキーがサイドンに向かって走り、『クロスチョップ』を決めた。
「カァァァイリッキ!」
「グルァ!? ガ、グゥゥ……」
ズシンと言う音を立てて地に伏せるサイドン。その時、彼の体から何かが落ちた。それに気付いたアンバーが慎重に近付いて拾い上げる。
「これは……『どくバリ』じゃないか!」
『どくバリ』とは、弱めの毒が染み込んでいる針で、持たせると毒タイプの技の威力が上がると言う、不思議なアイテムである。
しかし、針なので自身のポケモンに刺さると言うリスクがある。そのため、毒タイプ以外のポケモンに持たせる場合は、先端を丸くして刺さらないようにするのだ。
アンバーが『どくバリ』を見て驚いたのは、その先端が尖っていると言うことだったのだ。すると、サイドンの様子を見ていたマナが声をあげた。
「アンバーさん! このサイドン、弱めですが毒状態になってます!」
サイドンは息が若干荒く、怒りから覚めたその目は虚ろだった。
「つまり、何者かが人為的にサイドンの体に『どくバリ』を刺して、暴れさせていたのか……!」
体をチクチクとした痛みが襲い、体を蝕む毒の不快感がサイドンを怒らせたのだろう。自然に刺さったとは思えず、人為的であることは明らかだった
バックから、もしものためにと用意しておいた『毒消し』を取り出し、針が刺さっていた場所に振りかける。傷口に薬を掛けられて染みたのか、痛そうな声を上げた。
「少し我慢してくれ……。すぐ解毒するからな」
「グゥ……」
「オボンの実よ。食べれる?」
「グルル……」
マナが差し出したオボンの実を、サイドンはゆっくりと食べる。段々と彼の目に光が戻ってきた。苦しくなくなったことが嬉しいのか、笑顔で声を上げる。
「グルァ! グルル!」
「ははは、声が元気になってきたな」
「良かったわね、サイドン!」
「おやおや。人が入り込んでるじゃないか」
突如聞こえた声の方向へ顔を向ける。そこには、淡緑色のおかっぱ頭の男たちと、白衣を着た老人がいた。
「せっかく『火山の置き石』を探すために、人が入らないようにしていたと言うのに、やれやれ……。やはり野生のポケモンに任せても意味なかったか」
「お前か……! お前がサイドンに『どくバリ』を刺したのか!」
「若者は短期でイカンねぇ。それに儂自らがやったわけじゃない。儂に怒りを向けるのは間違っとるよ」
老人が馬鹿にするような目でアンバーを見ていたが、ふとマナの存在に気付くと、驚くように目を見開いた。
「おやおや……。まさか裏切り者のマーズが居るとは思わなかったわい」
「プルート……!」
プルート……ギンガ団幹部の1人である老人は、ニヤリと笑った。
ギンガ団幹部(の中では下っぱ)のプルート登場! マナはどうなってしまうのか? 次回をお待ちください。
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明かされる時
アンバーは少しだが混乱していた。サイドンが暴れていた黒幕であろう老人は、マナを見て「マーズ」と呼んだ。そして彼女も、老人のことを「プルート」と呼んだ。つまり、あの奇妙な集団のことをマナは知っていると言うことだった。
「マナさん、あの人たちの事を知ってるのかい?」
「…………えぇ、そうよ」
「っ! マナさん、その喋り方は……」
いつもは敬語だったのが、強気な性格と思わせるような口調になった。しかし、口調とは裏腹に俯いている。
「彼はプルート。ギンガ団幹部の1人で、研究開発を担当していた男よ」
「ギンガ団!?」
アンバーも、ギンガ団の事は知っていた。発電所などを占拠したとか、リッシ湖を爆破したと言うニュースを聞いたことがあった。
なぜ彼女がギンガ団幹部の事を知っているのか。まさかと思いながらも、彼は問いかけた。
「マナさん……。君はまさか」
「何じゃマーズ、この若造を騙しておったのか? まぁ言えんじゃろうなぁ、自分自身がギンガ団幹部の1人だったとはなぁ!」
「…………!」
アンバーの質問に対して答えたのは、プルートであった。まるで見下しているかのような口調にマナは苛立ったが、恩人を騙していたのは事実であり、幹部であった過去も事実だ。言い返すことも出来ず、拳を強く握るしか無かった。
「若造。その女はな、かつてのボスであるアカギに、それはそれは強い忠誠を誓っておったんじゃよ。じゃがアカギが行方不明となると、探しに行くと言ってギンガ団を抜けおったんじゃ」
「君が探していたのは……そのアカギって人なんだね」
「……そうよ。それだけじゃない、アカギ様の命令で私は、谷間の発電所を占拠したこともある。そのニュースは聞いたことあるでしょ?」
「……あぁ」
軽蔑されている。マナはそう感じた。今までの楽しかった日々が、ガラガラと音を立てて崩れていく。アンバーと送ってきた思い出が壊れると思うと、目の前が段々と滲んできた。
「ジュピターも抜け、サターンは行く宛の無い下っぱ共の面倒を見ると言って宇宙センターを立ち上げた。だがそんなことで変われる訳じゃない。世の中を動かすのは金じゃよ」
「……低俗な野郎だ」
「今こそ、新生ギンガ団の第一歩として、この火山に眠ると言われる伝説のポケモン『ヒードラン』を目覚めさせる! その力を見せつけ、あらゆる場所から金を搾り取ってやるわい。じゃが……その目撃者と裏切り者には、罰を与えんとな!」
ギンガ団の下っぱ達がモンスターボールを投げると、マグカルゴやゴローン、ハガネールなどがアンバー達の前に立ちはだかった。
「行け! 裏切り者のマーズには特に徹底的にやれ!」
マナは、これは自分自身への罰なのだと悟った。聞いてくれないと分かっていても、アンバーに声をかける。
「アンバー。これ私への罰よ。あなたまで巻き込まれる必要は無い。だから―――」
「カイリキー、『きあいだま』だ!」
黄色の光弾がゴローンを吹き飛ばした。まさか反撃されるとは思わず、プルートも、下っぱも、そしてマナも驚きで目を見開いた。
「複数バトル、久しぶりだな。『こうてつ島』でポケモンの群れを相手にした時以来かもな」
首をゴキゴキと鳴らしながら、2つのモンスターボールを投げた。
「ハガネール、ガバイト! お前達も暴れたいよな!」
「「グオオオオオオ!!」」
「ば、馬鹿な! ポケモンに指示を出せるのは2体までが限界の筈……!」
「ごちゃごちゃうるせぇジジイだな! 下っぱに任せきりのお前が、新生ギンガ団とか伝説のポケモンとか出来る訳ねえだろうが!」
マナが見たアンバーの目つきは、ツツジとバトルした時よりも鋭く、そして口調も荒々しかった。彼はマナを見て軽く微笑む。
「俺も、君には隠してた事があるんだ。後で話すけど」
「何、で……。私はギンガ団の幹部だった女よ! 何で私を……!」
「泣いてる店員を放っておくのは店長失格だろう? それに、あのジジイの口調といい目的といい、ムカつくんでね!」
獰猛な笑みを浮かべながら、アンバーは下っぱ達に宣言した。
「まとめて掛かってきやがれ!」
バトルモードに突入したアンバー。まさかの、3体同時バトルです。
読んでいただき、ありがとうございます。次回をお待ちください。
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蹂躙
ハードマウンテンに眠る伝説のポケモン『ヒードラン』を目覚めさせ、その力を金儲けに利用しようと企むプルート。目撃者を排除するために下っぱ達に攻撃を命令するが、アンバーは何と、3体のポケモンに1人で指示を出し始めた。
「ガバイトは『きりさく』攻撃、ハガネールは『ラスターカノン』、カイリキーは『きあいパンチ』だ!」
その瞬間、ガバイトは下っぱのイワークを切りつけ、ハガネールはマグマッグに砲弾を撃ち込み、カイリキーは別の下っぱが出したゴローンを一発で倒した。どのポケモンに攻撃するかと言う指示もなく、各自で判断している。しかも、攻撃で吹っ飛んだ所に積み重ねるように他のポケモンを飛ばすことで、追加ダメージも与えていた。
「な、何をしておる! たかがトレーナー1人だぞ! 数で押し込めば限界が来る! とっとと片付けんか!」
プルートが慌てて下っぱ達に命令するが、当の下っぱたちは慌てて攻撃を指示したり、酷い者はマグカルゴに『かえんほうしゃ』を指示して仲間のポケモンごと燃やしかけるという有り様だった。
(あいつらのポケモン、傷ついてる個体が多いな……。ハードマウンテンで捕まえたのか? 腰に着けてるモンスターボールを見るに、捕獲用のポケモンは居たようだが、捕まえた時にかなりダメージを負って戦闘に出せないって所か)
瞬時に判断したアンバーは、攻撃の手を緩めない。
「ガバイト、ハガネール。合体技だ! 『りゅうのいぶき』と『ラスターカノン』を合わせるんだ!」
「ガブ!」
「ネェル!」
先にハガネールが『ラスターカノン』を放ち、少し遅れてガバイトが『りゅうのいぶき』を放つ。銀色の砲弾に紫とも取れるような不思議な色のブレスが纏われることで、鋼タイプとドラゴンタイプ両方のタイプを持つ技となった。名付けるならば、『ドラゴンカノン』と言ったところだろう。
貫通力の高い砲弾が、射線上にいる下っぱ達のポケモンを次々と吹き飛ばし、着弾した瞬間にドラゴンエネルギーで大爆発を起こす。
「く、くそ! イワーク、2体まとめて締め付けろ!」
「イワァァァ!」
1人の下っぱがイワークに指示を出すが、それに待ったを掛けたのは、意外なポケモンだった。
「グラァ!」
「サイドン!? お前……!」
「グルル……!」
「……そうか! よし! そのまま投げ飛ばせ!」
何と、先ほどまで弱っていた筈のサイドンが動き出し、イワークを角で突き刺して持ち上げたのだ。それに驚くアンバーだったが、彼の目を見て、「自分も戦いたい」という気持ちを感じ取った。
投げ飛ばすように指示を受けたサイドンは、持ち前の怪力でイワークを投げ飛ばした。その先にいたのは、拳を構えてニヤリと笑うカイリキー。
「『インファイト』!」
マシンガンのように高速で打ち出される拳。イワークは瞬く間に体力を削られ、ついに地に伏した。
「マ、マグカルゴ! 『かえんほうしゃ』だ!」
「ガバイト、カバーしろ! そのまま『りゅうのいぶき』!」
マグカルゴによる火炎放射がハガネールに向かって放たれるが、庇うようにガバイトが立ち塞がると、腕を交差して炎を防いだ。そのまま振り払うとお返しにと強力なブレスを食らわせる。
「ゴローニャ、『いわなだれ』!」
「カイリキー、『インファイト』で岩を落とせ!! サイドンはゴローニャに向かって『とっしん』!」
ツツジ戦の時のように、カイリキー降り注ぐ岩を拳のラッシュで破壊する。そして技を発動するために動けないゴローニャをサイドンが勢いよく突っ込んだ。
「な、何なんだよアイツ!? 3体どころか4体に指示出してるぞ!?」
「お、おい! 他にポケモン持ってる奴居ないか!?」
「殆どやられちまったよ! 捕獲用のポケモンたちは戦力にならねぇ!」
数で圧倒的優位に立っていた下っぱ達も、まさか全滅させられるとは思わずパニックになる。
「や、やってられるかよぉ!」
「に、逃げろぉ!」
「金なんてどうでもいい!」
「何をしておる貴様ら! 逃げるな! おい!」
「逃がすかよ!」
尻尾を巻いて逃げようとする下っぱを、必死で呼び止めようとするプルート。
しかし、アンバーはそんな彼らに慈悲を与えなかった。常に持ち歩いている『あなぬけのヒモ』を使い、まるで西部劇のカウボーイのように次々と投げ縄で彼らを捕まえていく。ついにプルートも捕らえられ、一ヶ所に集められた。
「さて、と。ミカルゲ」
「ミカ!」
「“あの顔”を頼むぜ」
「ミッ!」
そしてミカルゲがぐるぐる巻きにされたプルート達の前に立ち―――
「「「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」」」」
それから暫くして、彼らは「ハードマウンテンに不審者が居る」と通報を受けて駆け付けた国際警察によって逮捕された。縛られていたプルートたちは、まるで“恐ろしい何か”を見たかのような顔で気絶しており、その頭には「私たちはギンガ団です。捕まえてください☆」と書かれた紙が貼り付けられていた。
「しかし、これは誰がやったんだ……?」
コードネーム『ハンサム』は、激しいバトルがあったと思われる地帯を見渡すが、あるのはモンスターボールの破片のみだった。
後にボールに埋め込まれているチップを確認した所、ハードマウンテンに生息するポケモンたちが捕獲されていた事が判明した。ギンガ団を捕まえた人間は、彼らを縛った後に、ボールを壊して元の場所に戻したのだろう。
その後の事情聴取でプルートは、「ギンガ団幹部のマーズを連れた男にやられた」と証言したのだが、調査員が調べてもマーズに関する情報は得られず、信じてもらえないまま牢屋に入れられたのだった。
オリジナル技紹介
『ドラゴンカノン』 タイプ:ドラゴン&鋼
ラスターカノンによる砲弾に、りゅうのいぶきを纏わせて威力を上げた合体技。相手を吹き飛ばすだけでなく、砲弾が着弾すれば大爆発を起こすおまけ付き。
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昔話の始まり
今回は、キリを良くするために短めなお話です。
ハードマウンテンからクロガネシティ帰ってきたアンバー達だったが、予想以上に疲労し、アンバーの事についての詳しい話は、その日はお預けとなった。
ベッドで横になっているマナは、まさか自分が此処に帰ってこられるとは思わなかった。
『俺は、店員としてのマナさんを知ってるから。それに、普段からポケモンやお客さんを大切にしてる人を、追い出すなんて事はしないよ』
本当に帰ってきて良いのかと聞いた時に、アンバーはそのように返した。
救われたような気持ちだった。過去ではなく今の自分を見てくれている。それが嬉しかった。
だからこそ、アンバーが言っていた「隠していたこと」とは何なのか。それが気になって仕方がなかった。
「みんなー! ご飯だぞー!」
アンバーがそう言って、ボールからポケモン達を放つ。そこには、新たな仲間が加わっていた。
「グラ!」
「サイドンおはよう! ゆっくり眠れたか?」
「グルル!」
「そうかそうか! お前の分もちゃんと出すから、他の子たちのご飯盗るなよ?」
ハードマウンテンで共闘した、サイドンである。ギンガ団をミカルゲの『おそろしいかお』で気絶させたあと、捕まえられていたポケモン達を元の場所へ帰してやった。その後、麓に降りようとしたのだが、サイドンが着いてきたのだ。
助けられた恩を感じていたらしく、そのまま彼はアンバーの手持ちになった。いわゆる『友情ゲット』である。
ブニャット達にポケモンフーズを与えながらも、その様子を見ていたマナ。今のアンバーは、バトルの時に見せた獰猛な顔とは180度違う、穏やかな顔だった。
ツツジ戦の時、そして今回のハードマウンテンでのバトル。どう見ても只のトレーナーとは思えなかった。まるで、ギンガ団にいた頃にアジトに乗り込んできた“あの子供”のような……。そのような気がしてならなかった。
今日は休業日。ポケモン達にご飯を与えた後に、アンバーが自身のことを教えてくれるとのことだった。
リビングにて、向かい合うように座るアンバーとマナ。アンバーは困ったようにポリポリと頬を指で掻いている。
「さて、どこから話すべきか……」
聞かれることは分かってる。「どうしてそこまで強いのか」、「何で強いのに自営業をしているのか」。彼の過去を知っている人物は僅かだ。
「……最初は、石屋をやるなんてことは考えて無かったのさ」
ポツリと話し始めた。その顔はどこか後悔しているような、そのような顔だ。
「昔の俺が目指していたのは、ジムリーダー。だから、かつてはジムリーダー候補生だったんだ」
そうして、彼の昔話が始まった。
ドサイドン、カッコいいけれど通信交換する友達が居なくて進化させることが出来なかった思い出が……。なので小説の中でアンバーの手持ちにサイドンを加えました!
さて、次回はアンバーの過去が明らかになります。
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アンバーの過去
ジムリーダー候補生とは、文字通りジムリーダーになれる可能性のあるトレーナーの事である。そこからジムトレーナー、そしてジムリーダーへと昇格していくのだ。
アンバーは、昔から“ポケモンにとって得意なこと”をバトルに活用するのが得意だった。時に奇想天外な方法でバトルに勝っていき、周りは彼の事を「天才」と誉め称えるようになった。実際に、彼は成績をどんどん伸ばしていき、ジムトレーナーを飛び級してジムリーダーになってもおかしくないと言われる程だった。
しかし、上位に行けば行くほど、その相手が強くなるのは当然の事である。彼の戦績は伸び悩んでいき、ついには連敗し、低迷することもあった。
絶好調な道を歩んできた彼にとって、連敗と言う事実は大きな衝撃だった。初めての挫折とも言えるだろう。やがてそのショックは、ジムリーダーになれないと言う焦りや、敗北の悲しみ、そして苛立ちへと繋がっていった。
「ゴーリキー、もっと早く避けろよ!」
「フカマル! 技を出すのが遅すぎんだよ!」
「イワーク! お前もっと速く動けるだろうが!」
そしてとうとう、言ってはいけない事を言ってしまったのである。
「お前らのせいで、また負けたじゃねえか!!」
その瞬間、アンバーは何者かに殴り飛ばされた。
彼を殴ったのは、当時アンバーの才能に注目していた、ヒョウタの父親でありミオシティのジムリーダーである、トウガンであった。
「アンバー! お前は今、バトルの敗北をポケモンのせいにしたな!」
「よく聞けアンバー! ポケモンの実力を発揮させるのがトレーナーなら、足を引っ張るのもトレーナーだ! お前の敗北は、お前が実力不足だからだ!」
「自分の実力不足をポケモンのせいにするような人間は、ジムリーダーに相応しくない!!」
ポケモンセンターで傷ついたポケモンを治して貰っている間、アンバーはずっと俯いていた。トウガンの言葉が、ずっと頭の中に響いていたからだ。
(俺は……皆を……)
その時、治療が終わったことをジョーイさんから告げられたが、暴言を吐いた手前、どのような顔をして会えば良いか分からなかった。しかし、いつまでも放置するわけにはいかず、ゴーリキー達に会いに行った。
「ゴゥ……」
「グルゥ……」
「ガッブ……」
3匹とも、アンバーの事を心配そうに見つめていた。彼が俯いて元気が無いことを気にかけていたのだ。
アンバーは、その事に驚き、そして自分が情けなくなった。
(みんな……! あんなに俺は酷いことを言ったのに……それなのに俺は……!)
涙が止まらなかった。3匹を抱き締めながら、大声で泣いた。
「ゴメンよ……! 本当にゴメン……! もっと俺がちゃんとやってれば良かったのに、俺、俺……! うあぁぁぁぁぁぁ!!」
それから数日後。アンバーの後をヒョウタが追いかけていた。
「アンバー! 候補生を辞めるってなんだよ! 一緒にジムリーダーになろうって、約束したじゃないか!」
「……ごめんよ、ヒョウタ。でも、俺はジムリーダーになれない」
「……父さんが君に何か言ったからか?」
「違うよ。トウガンさんは、俺にトレーナーとしての在り方を教えてくれただけさ。それを聞いて俺は、ジムリーダー以前に、トレーナーとして失格だと思ったんだ」
「アンバー……」
「泣くなよヒョウタ。俺はトレーナーとして修行をするだけさ。まだまだ修行中なのは、お互いに一緒だろ?」
「……分かった。だけど、僕は絶対にジムリーダーになるから。絶対だよ!」
お互いに拳を軽くぶつけると、アンバーはリュックを背負ってヒョウタの前から去っていった。
ミオシティの船着き場。そこで腕組みをして海を見ているトウガンの後ろで、アンバーが頭を下げていた。
「お願いします、トウガンさん。俺を、トレーナーとして鍛えてください! お願いします!」
「……着いてこい。もうすぐ『こうてつ島』行きの船が出る。そこでお前を鍛えてやる。ヒョウタの幼馴染みだからって、加減はしないぞ」
こうてつ島。かつては鉄鉱石を採掘する島だったが、廃鉱となってから人が住むことは無くなった島である。強い鋼タイプや岩タイプのポケモン達が洞窟内をうろついており、また海が近くにあるため水ポケモンも生息している。そのため、修行として訪れるトレーナーが多い。
アンバーが島に到着してから課せられた修行の内容とは、サバイバルだった。単純に聞こえるかもしれないが、アンバーは何度か死の覚悟をしたこともあった。
何せ通常のトレーナー同士のバトルとは違い、相手は群れをなして生活しているポケモン達である。昼間にゴローンの群れと、夜はヤミラミやゴルバットの群れと戦うこともあった。酷いときは、撃退された恨みとして同じ群れが襲ってくることもあった。その時は同じ戦法が通じず、相棒のポケモン達と涙を流して逃げ回ったものだ。
だが、戦法が通じなければオリジナルの技を使えば良いと理解した。また、進化したカイリキー、ガバイト、ハガネールの特技を見抜けるようになり、それらを活かした戦法を編み出していった。
ボロボロになりながらも、時には野宿をしてポケモン達と共に過ごし、トウガンが使っている山小屋に到着すれば、トウガンが作ってくれた男飯を食べて、生きている事を実感した。
そうして修行を続け、アンバー達はとうとう、島のポケモン達から強者と認められるようになった。その時をもって、修行は終わりとなった。
「ポケモン達と繋がり、時には意思を汲み取り、状況を見て戦う。……強くなったな、アンバー」
「あの時に殴ってくれなければ、俺はポケモン達にとって最悪な人間になってたかもしれません。師匠が気付かせてくれたおかげです」
「……そうか。ところで、これから先はどうするんだ」
「それなんですが……石屋を開こうかと」
「石屋?」
「修行の途中、この石を拾ったんです」
「『ほのおのいし』に『かいのカセキ』か」
「気ままに石を掘って生活する。そんな生活を送りたいんです」
「フッ、ハッハッハッ! そうかそうか! 良いじゃないか! 石屋をやるトレーナーと言うのも、中々居ないんじゃないか?」
アンバーの背中を、笑いながらバンバンと叩くトウガン。あまりの力強さに、アンバーは苦笑したのだった。
読んでいただき、ありがとうございます。次回もお待ちください。
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変な形の……
「……とまぁ、こんな所かな」
話し終えて、過去の天狗になってた自分を思い出したのか苦笑いするアンバーと、話を聞いて唖然とするマナ。強いとは思っていたが、まさかジムリーダーになれるレベルだとは思わなかった。ましてや、こうてつ島でサバイバルをしていたなど、逞しいにも程がある。
「ははは、これでお互いに隠していた事を明かし合ったね」
「そうなりますね」
「無理に敬語にしなくて良いよ? もうハードマウンテンで素の口調聞いたんだし」
「あ……」
ついいつものように丁寧な口調で話してしまい、可笑しくなって2人でクスクスと笑ってしまった。
ふと、マナも、自分の過去を話したくなった。
「私は……最初はトレーナーだった」
「ふむ?」
「ある時、手持ちのポケモンに乱暴しているトレーナーを見つけて、注意をしたの。けど、『関係ない奴は引っ込んでろ』って言われちゃって……。暫くしてそのポケモンが捨てられていたのを知って、引き取ろうとしたんだけど……その子は人間を嫌いになっちゃってて……」
「………………」
「とても悲しくて、悔しくて、それが苦しく……。、何でこんな辛い気持ちがあるんだろうって、何でポケモンを虐めるような心を人間は持ってるんだろうって思うようになって。その時に……」
「……アカギって人と出会った訳だね」
マナはゆっくりと頷いた。
「心の無い世界を、ギンガ団にいた頃は素晴らしい世界と思ってた。だけどあなたと出会って、人とふれ合って、ポケモンと一緒に生活して感じた。もし世界から心が無くなったら、嬉しいとか照れるとか、そういった気持ちも無くなってしまう……。もしあの時、止める人が居なかったらと思うと、怖くなった」
「……そうか」
自分がギンガ団に入るきっかけを話した上で、もう一度、アンバーに質問をした。
「……アンバー。私はこんな話し方をする女で、しかも元ギンガ団幹部よ? 本当に、此処に居て良いの?」
真っ直ぐ見つめてくるマナの視線を、アンバーはしっかりと受け止めた。彼女を真っ直ぐと見つめて彼は答える。
「さっきの話を聞いて、尚更、ポケモンを大切にする人だと知ったよ。マナさんが此処に居たければ、ずっと此処に居て良い」
“ずっと此処に居て良い”。確かに、アンバーはそう言った。一瞬きょとんとしたマナだったが、段々と顔が赤くなる。
「そ、それって、プロポー……!」
「……あっ!? え、えっと、これは……!」
自分が何と言ったかを思い出し、アンバーも顔を赤くした。
何と言えば良いのだろうか。確かに彼女の事は、一緒に暮らしていくうちに惹かれていった。ここでもしも、「これは違うんだ」のような事を言ってしまえば、彼女を傷付けてしまう。それだけは避けたかった。
(……えぇい! ちゃんとした場で言おうと思ったけど、こうなったら!)
マナに悟られないように決心して、改めて真剣な顔になる。
「変な形になったけど、ずっと此処に居て良い。貴女の事が、好きだから」
言った。これ程ドキドキしているのは、このクロガネストーンショップを開店した時以来かもしれない。
そして、彼女からの答えは……
「こんな私で良ければ……お願いします……!」
目に涙を浮かべ、微笑みながら頷くマナ。アンバーは目を見開いたまま固まり、そして感情が爆発した。
「いぃぃぃよっしゃあぁぁ!」
彼の叫びに答えるかのように、モンスターボールからポケモンたちが飛び出す。
「リッキリッキ!」
「ガブア!」
「ミカァー!」
「お前ら……ありがとう!」
体の大きさの関係上、部屋に出れないハガネールとメガヤンマとサイドンは、ボールをカタカタと揺らして祝福した。
「ブニャーオッ!」
「ゴルゴル!」
「ドォー、タァ~」
「ブニャット、ゴルバット、ドータクン……あなた達もありがとう!」
マナのポケモン達も、ボールから飛び出して祝福した。
こうして、変わった形の告白となったが、1つのカップルが生まれたのであった。
次回、最終回です。どうかお待ちください。
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エピローグ:石屋の未来の光景
評価、お気に入り登録、感想、本当にありがとうございました!
キッチンで、マナが鼻唄を歌いながら料理をしていた。作っているのは、ブリーの実を使った甘いポフィン。すっかり作り方を覚えた料理の1つである。
「もうそろそろかしらね……」
愛する家族は、今日はシンオウ地下通路に潜って化石発掘している。もうそろそろ帰ってくる時間だ。
「ただいまー!」
(来た来た)
遠くから聞こえる元気一杯な声に、思わずクスリと笑みが漏れた。外にいるポケモン達に声をかけてるのだろう。そしてキッチンに顔を見せる“2人”。
「『お母さん』、ただいまー!」
「お帰りなさい『アンナ』、『あなた』」
「あぁ、ただいま。マナ」
琥珀色の瞳が輝く青年、アンバー。彼は父親になっていた。顔を少し土で汚しながらも、ニッコリと笑みを浮かべる。
そして、元気一杯にキッチンへ入り込んできたのは、愛する人との間に産まれた、大切な“娘”。名前は『アンナ』。
アンナは、カバンからごそごそと何かを取り出そうとするが、それをマナが止める。
「はいストップ。帰ってきたら何をするんだっけ?」
「ただいまの挨拶~!」
「残念! 正解は~?」
「お父さんとお風呂だ~!」
「きゃ~!」
アンバーが娘を抱き上げた。突然視界が高くなったことに驚くアンナ。楽しそうに風呂場へと向かう父娘に苦笑しながらも、マナはポフィンの焼き上がりを待った。
お風呂から上がり着替えたアンナを待っていたのは、大好きなお母さん特製のポフィンだった。
「ポフィンー!」
「今日はブリーの実を入れました~!」
「パチパチ~!」
席に着き、マグカップにモーモーミルクが注がれる。食べるとブリーの甘みが広がり、自然と笑みがこぼれる。
「美味しいー!」
「今日はお父さんのお手伝いを頑張ったから、もう一個良いわよ」
「わーい!」
笑顔で食べ進めるアンナを見ながら、夫婦は話し始める。
「どうだったかしら?」
「偶然かもしれないけど、アンナが凄いのを見つけてな。アンナ、お母さんに見せたいのがあるんだよね?」
「うん!」
ポーチから取り出したのは、化石だった。
「これって……」
「アンナが見つけたのー!」
「そうなんだよ。アンナが見つけてな。俺も手伝ったけど、アンナ自身で掘ったんだ」
「あらまぁ。何の化石かしら?」
「これは恐らく、カブトだな」
「……あの娘、大切そうにしてるけど、どうするの?」
目をキラキラさせて『こうらのカセキ』を眺めているアンナ。それを見たアンバーは聞いてみる。
「……アンナ」
「なーに?」
「その化石、ポケモンになるんだ。そのポケモンと一緒に暮らしたい?」
「っ! アンナ、ポケモン持てるの!?」
「あぁ。アンナにとって、初めてのポケモンになるな」
「わーい! ポケモン、ポケモン!」
無邪気に喜ぶアンナに、2人は笑みを浮かべた。
「あの娘も、ポケモンを持つようになるのね」
「出会いは繰り返す。当然、別れもな。けれど別れは悲しいことばかりじゃない。そうだろう?」
「……えぇ」
アンバーと出会い、そして結ばれ、娘を持ったマナ。幸せに感じているのは彼女だけではない。
マナと出会い、そして結ばれ、娘を持ったアンバー。こうして笑いながら過ごすことに、幸せを感じていた。
これは、クロガネシティにある石屋さんの、そんなホッコリとした風景。
~Fin~
今回で、この小説は完結となります。読んでいただき、ありがとうございました。
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