ルカリオにこんな設定があってもいいと思うんです (hareth)
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波導の扱いは難しい
「ルカリオ、”ボーンラッシュ”!」
「キリキザン、”つじぎり”!」
金属音が響き渡り、技のぶつかり合い衝撃による突風が吹き荒れる。実力は互角。が、両手で”つじぎり”を使用しているキリキザンと違いルカリオの”ボーンラッシュ”は一本だ。手数では劣っている、ならば──
「”ストーンエッジ”展開、
「”でんじは”で動きを止めろ!」
「短めの”ボーンラッシュ”で防げ!」
機動力を削ぐ”でんじは”には当たってはいけない。ルカリオは両手に出した骨のエネルギー体を振り回し打ち消した。その間にルカリオの視界からキリキザンが消え、対処し終わった頃には”ハサミギロチン”を構えていた。
「!?受け止めろ、骨持ったまま”れいとうパンチ”!」
「押し切れキリキザン!」
凍った骨と必殺の刃がぶつかりあう。咄嗟に技を出したため大した威力にはなっていないが、元々かくとうタイプであるため持ち直し弾く。
さて、ルカリオという種族は波導を扱うことに長けている。その波導を球状にして打ち出す技は多くの人が知っているであろう攻撃であり、タイプ相性的にも使えば有利に進むはずなのだがこのルカリオはまだ一度も”はどうだん”を使っていない。
「……”はどうだん”を何故使わない?」
「得手不得手は誰にでもあるだろう?種族で決めつけると痛い目にあうぞ。
相手選手が疑問を口にした瞬間、バトルが終了した。
俺――ユウマは幼少期を独りで過ごした。誰もかも――親ですら俺を気味悪がった。
親も祖父母もそのまた前の世代にもオッドアイどころか灰と紅の目をした人間はいなかった。
生まれはカントー。カントー生まれにそんな目をした人間はいない。
いじめられもした。親からは人として生きる権利は守ってくれたものの愛情を注がれることはなかった。
そんな俺の唯一の拠り所が現在の相棒の進化前、リオルであった。
彼は種族柄波導を感じることができる。が、それを練ることができなかった。ルカリオに詳しい人から聞くと、波導の総量が大きすぎてリオルはおろかルカリオになっても制御がままならないだろうという言葉を受けていた。
彼をゲットした人は例外なく彼を捨てた。ルカリオ以外で”はどうだん”を使えるポケモンは少なく、またルカリオという種族が絶大な人気を誇ることから、「自分の指示で”はどうだん”を撃たせたい」という願望を持つ人は多い。しかし、このリオルは進化しても”はどうだん”を使えない。それが分かった瞬間切り捨てる。
身勝手なことだ。
だからこそ俺たちは惹かれ合った。お互いに色眼鏡を通して見られてきたからお互いを素直に見ることができた。――初対面では流石に驚き驚かれたが。
対戦後。
「……すまなかった」
「分かってくれるならいいさ。疑問に思うのも仕方ないしな。俺の方こそ悪かった」
知らない相手からしたらその疑問は当然のもの。お互いに謝罪をして終わらせる。
対戦相手の青年はアラン。パートナーをリザードンとして修行に出ているそうだ。またとある事情からメガシンカができるトレーナー及びポケモンと多く戦っているとのこと。俺とバトルをしたのもその辺の事情があるのだが、あいにくメガストーンは持っていてもキーストーンがないのでお互いを鍛えるためにも普通のバトルを行った。…結果ああなってしまったのだけれど。
「キーストーンさえあればメガシンカはできるんだがなぁ……」
「その口ぶりだとやったことはあるんだな?」
「あぁ。さっきも言った通りこのルカリオは少し事情があって”はどうだん”が使えない。メガシンカしたら使えるかもしれないと思ってやっては見たが……」
メガシンカしてもダメだった。”はどうだん”を使うために波導を練り始めた瞬間暴走しメガシンカ強制解除。以後波導を安定させられるようにいろいろ研究しているところである。
メガストーンを持ったままなのは、あれがあると波導の流れがある程度安定する(ルカリオ談)からだ。
「それとあのピンボール?というのはなんだ?」
「あれか?波導を制御するために練習したんだ」
「現状あれが精一杯なんだと。あんまり無理して体壊しても嫌だから少しづつ頻度と量、大きさを増やしてるところだ」
「なるほど…いや、真似はできないな。あそこまでの身のこなしは付け焼き刃でどうにかなるものじゃないし失敗したら危険すぎる」
ちなみに同じ技をほぼ同じ練度で使えるポケモンがもう一匹いる。あちらは特性により自身を加速させていくので、ルカリオより瞬発力は劣るものの最大速度はルカリオを超える。
「ところで、カロスリーグには出場するのか?」
「現状はそのつもりだ。ある意味育ちはカロスだし、地元の大会には出たいからな。バッチは既に集め終わってる」
バッチ自体はルカリオの修行のためジム周りを進められていたので同時に集めた。
とはいえ真面目に優勝を目指しているわけではない。自分の、自分たちの経験がどこまで通用するかが知りたいからだ。
「もう一戦やりたいのだがいいか?」
「俺は構わないが…何故?」
「純粋に興味が湧いた」
なら、こっちも真剣に行かなければ。
その日、そこのポケモンセンターのバトルフィールドは荒れ地と化した。当然俺たちは怒られ、整備が終わるまでそこから離れることはできなくなった。
要望がない限り続かないよ
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仕留めるまでの時間は短いほうがいい
天気は快晴。その予報だったはずだ。
なのになぜ
ここはフウジョタウンとヒャッコクシティを繋ぐ17番道路。年がら年中雪が降っているため、たとえ天気予報で快晴と言われても鵜呑みにしないのが基本である。
「天気予報なんて絶対信用しない」
「グレィ♪」
「お前はこおりタイプだから嬉しいだろうよ……」
せっかくの雪なのでグレイシアを外に出してあげていた。
しばらく歩いていると、豪雪地帯から抜けることができた。目の前には廃坑の様な広がっている。
「…グレイシア、なにか聞こえないか?」
「…レイッ」
強く頷くグレイシア。廃坑の奥でなにかが起きているのは確実だった。それも……人為的なものが。
ユウマは光源確保のためにバシャーモ、索敵のためにルカリオを出し洞窟を駆け抜けていった。
――その頃最深部では。
「ゲッコウガ、”みずしゅりけん”っ!」
「テールナー、”かえんほうしゃ”!」
「レントラー、”スピードスター”!」
4人の少年少女が謎の朱服集団と戦っていた。
「ドラピオン、”ミサイルばり”よ」
「クリムガンは”きあいだま”!」
朱服集団の方もなかなか実力が高く、攻めて攻められての繰り返しを行っているようだった。
「ピカチュウ、”10まんボルト”!」
「びぃかぁぁぁあ、ぢゅうぅぅ!!」
ここまで何度も攻撃を繰り返していたためか、彼らの十八番でもある”10まんボルト”も威力が下がってきている。敵の攻撃を相殺できず直撃。ピカチュウは地面に叩きつけられたが、すぐに立ち上がった。
しかし、これ以上でんき技を使うことはできないだろう。ピカチュウのトレーナーである赤いキャップの少年、サトシはそれを直感的に理解していた。
「ピカチュウ、一回下がれ」
「ぴぃか!?ぴかかぴかちゅぅ!?」
「違うそうじゃない!別方面の攻め方で行くんだ!」
「!ぴか!」
この2人、長く旅をしているから会話による意思疎通ができている。
「バシャーモ、”まもる”!」
そんなちょっとした作戦会議をしていると、後からバシャーモが飛び出しドラピオンとクリムガンの攻撃を防いだ。そして、
「ルカリオは”ストーンエッジ”、そのまま飛ばせ!グレイシアは”れいとうビーム”!」
そのバシャーモの仲間であろうポケモンによる追撃。攻撃は当たらなかったものの、”ストーンエッジ”が砂煙を巻き起こしこの戦闘におけるブレイクポイントを作ることができた。
「大丈夫か?」
「私たちは大丈夫ですが…あなたは?」
「俺はシャラシティのユウマ。ちょっとした野次馬だよ。ルカリオ索敵だ、動きがあればグレイシアと突っ込め」
「バゥ!」「グレイっ!」
気を抜けない状況なので、索敵はルカリオに任せ簡単な自己紹介を済ませる。
どうやら彼らの仲間である’プニちゃん’がこの洞窟の奥へ向かっていったので、それを追っていたところあの朱服集団――フレア団に遭遇したとのこと。今はそのプニちゃんがどこに行ったかはわからなくなっているが、金髪のちびっこ――ユリーカはこの奥にいると言っている。
「シャーモっ!!」
「!?助かったバシャーモ!」
どうやら話が長かったらしい。バシャーモたちが警戒していなければ吹き飛ばされていた。
「君ら消耗してるだろ、オボンの実があるから少しでも回復させて。あとそのピカチュウにはこれを」
そうしてユウマが取り出したのはでんきだま。ピカチュウの火力を上げるためのアイテムである。
「ありがとうございます、ユウマさん!」
「タメでいい。それにお礼はここを切り抜けたら、な」
「…あぁ!」
5人全員が前を向く。そこには先程のドラピオンとクリムガンに加え、レパルダスとライボルトが加わっていた。
「せっかくでんき補給したのに間が悪いな…」
「確かにな…シトロン、レントラーってなにが使えたっけ?」
「”かみなりのキバ”、”スピードスター”、”エレキフィールド”、”ワイルドボルト”です」
「間が悪いことこの上ねぇ…」
言っても仕方のないことだろう。あれこれ煮詰めたいところではあるが、状況が許してくれない。
「おしゃべりなんて余裕じゃない、レパルダス”シャドークロー”!」
「ライボルト、”でんげきは”よ!」
”まもる”の連続使用は成功率を大幅に下げる。2連続で使えたのはほとんど奇跡のようなものだ。だからこそここは、
「バシャーモ、”ストーンエッジ”展開!足場にしてレパルダスに膝!」
「ゲッコウガ、”みずしゅりけん”で相殺しろ!」
「テールナー”めざめるパワー”!」
バシャーモはルカリオがいつもやるように”ストーンエッジ”を展開、”シャドークロー”をかわして”とびひざげり”を叩き込んだ。
ルカリオはユウマたちトレーナーの前に出て波導の盾を出して爆風の余波から守る。ゲッコウガはテールナーの援護を受けて”でんげきは”を打ち消したあと、距離を詰めて”いあいぎり”。スピードタイプなポケモンを押し返した。だが、まともに戦えば先に息切れするのはこちらだろう。ほぼ全快なのはユウマのポケモンたちだけだ。
さらにゴーグル野郎共の後から更にフレア団のしたっぱが現れ、デルビルやスコルピを出してきた。
「…プニちゃんとやらはどこに」
「さっき銃みたいなので撃たれたんだ。多分湖の中だ」
「…擬態しているのかもな」
こうして相手している間は別のことに気を割くことはできないはず。なら……
「グレイシア、こっちはいい。プニちゃんとやらを探せ」
「なら、わたしも!」
「頼む!」
「…ならレントラーはユリーカについていって上げてください」
なにかためらうような言い方ではあったが、シトロンもユリーカに護衛を付かせる。
さて、スピード型であるレパルダスとライボルトはおそらくどうにでもなる。最終的にはサトシのゲッコウガとピカチュウ、ユウマのルカリオとバシャーモが崩せるからだ。だがその全員をそっちには付けられないとなると……
そうやって思考していると、件のライボルトとレパルダスがユリーカの方へ向かった
「サトシ、ライボルトたちを追え!」
「わかったぜユウマ!行くぜ、ゲッコウガ!」
「コォォォォォゥガァッッ!」
「は?え、あの、あれ、え?」
突如雄叫びを上げたサトシ。それと同時にゲッコウガが水流に包まれ変わっていく。ゲッコウガが
――メガシンカ。この世には進化を超える進化というものが観測されている。特定のポケモンが持つ潜在的な力を開放する途方も無い力。ユウマもその身で実感している。当然ルカリオも。
目の前で起こっている現象も似たようなものなのだろう。サトシはメガストーンを所持していないからメガシンカでないことはわかる。メガシンカ特有の繭のようなものも出ていない。彼らにしかできないことなのは確かだ。だが、
「不安定すぎる…。ルカリオ、指示は出さない。ゲッコウガにつけ」
「バゥウン!」
「セレナ、”めざめるパワー”をあそこの岩に」
「わかったわ」
「シトロンは」
「僕も分かってます。行きますよ、ホルビー!」
ホルビーは”あなをほる”の準備を始めた。さらにセレナのボールから飛び出したヤンチャムがそれに続く。
「ちっ…しつこいわねぇ、ドラピオン”ヘドロばくだん”!」
「クリムガン、”ドラゴンクロー”よ!」
遠近両方の攻撃を同時に行うことで対応を惑わす作戦か、頭はキレるようだ。だが、それだけじゃ
「ドラピオンは頼んだぞ」
「えぇ!」
「バシャーモ”フレアドライブ”、薙ぎ払え!」
「テールナー、”めざめるパワー”よ!」
「バッッッシャァァ!!」
「テーナッ、テナッ!!」
バシャーモは”ストーンエッジ”を展開し、縦横無尽に跳ね回ってクリムガンを叩き落とした。
一方セレナとシトロンはユウマの策通りに岩を破壊して視界を遮り、ホルビーの”あなをほる”について行ったセレナのヤンチャムの”ストーンエッジ”と、ドラピオンの真正面に躍り出たホルビーの”マッドショット”を顔面に叩き込みダウンさせた。
そこに緑のナニかがユウマたちとフレア団の間に乱入してきた。次の瞬間その体が輝き、小さな体にエネルギーを溜めていく――
「プニちゃん!」
「あれが…?」
輝きが収束するとそこには、ヘルガーのような黒と緑のポケモンが大地を踏みしめていた。
その後はプニちゃんによる圧倒的蹂躙により、フレア団のポケモンのほとんどが戦闘不能。ライボルトの”フラッシュ”により全員撤退した。
プニちゃんはそのまま去ってしまった。あれ程の力を持つポケモンはおそらく伝説のポケモンだろう。ならば人の元から去るというのは当然のことだし、それなりに長い時間一緒にいたなら離れるのもわかる。
「まぁ、またきっと会えるさ」
「……うん!」
それからユウマはサトシたちと別れ、ヒャッコクシティに向かった。サトシもカロスリーグに向けてポケモンを鍛えているところと言っていたから、対戦するのはその時がいい。それまでにルカリオたちもきっちり鍛えなければ。
新たな決意と約束を胸に、この道を歩いていく。
「それにしてもルカリオ、さっき俺がお前の視界を見ることができたのってなんだったんだろうな」
「バゥウン!?」
続いちゃったよ
最低でもカロス終わるまでは続けたいです
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結局神様は味方しない
「ルカリオ、”はっけい”!」
碧い輝きが樹齢そこそこの木を穿つ。次の瞬間、当てた場所から見て12時と1時の中心に倒れた。
森の奥深く、修行と称して木を倒しているユウマとルカリオ。しっかりと許可は頂いているのでそこの心配はしないで欲しい。
「こんなもんか。これ以上波導を込めるとどうなる?」
「バゥ…」
「了解。なら今日はこの威力でだな」
首を振って「これ以上はキツイ」と表現するルカリオ。今日は修行よりも頼まれごとの消化の方が優先度が高いので、いつもよりゆるくやる(とはいえルカリオはギリギリまで波導を使っている)。
何本か木を倒してルカリオに休息させていた時。それまで吹いていた風が急に北からの暴風となり、咄嗟にルカリオが波導壁を作ったおかげで吹き飛ばされることはなかったが状況がわからなくなってしまった。
「ルカリオ無理はするなよ」
「バゥ!……ッハ!」
その短い気迫と共に”はっけい”を発動。その威力は突如吹き荒れた吹雪をかき消し、風を吹かした招待にを微量のダメージを与えることに成功した。
「あれは…フリーザーか」
フリーザーはこちらを真っ直ぐ見据えて羽ばたいている。どうやらバトルをする気らしい。
ルカリオは気合を漲らせているが、片膝をついている。先程の”はっけい”はそれまでのものより波導が込められたもので、その消耗具合は計り知れない。
「…ルカリオ。少しだけ休め」
「…?」
ユウマの指示の意図がわからなかったルカリオ。自身が消耗していることには気づいているだろうが、まさかそのままの状態であれ程の相手と戦うというのか。
「消耗しすぎだ。アイツのめあてはお前だと思うが、消耗しすぎているお前を戦わせるほど俺は冷たくないつもりだ。だから少しでも体休めろ。時間は稼ぐ」
「……バゥゥン!」
返事のあとすぐに俺の後ろで瞑想を始めたルカリオ。俺は1つだけ色が違うボール、ハイパーボールを取り出した。
「頼むぜ……エースバーンっ!」
「バーンッッ!!」
エースバーン。ガラル地方御三家炎枠。ここカロスでは全く見ないポケモンである。なぜユウマが持っているかは、簡潔に言えば育ての親が親戚からもらってきたからとだけ言っておく。
「ちゃんとした初陣が伝説相手で悪いなエースバーン。”かえんボール”!」
「バぁニバーンッ!」
小石をリフティングし着火、インフロントキックで蹴り出す。その火球はフリーザーより一回り小さい程度の大きさで襲いかかる。
「フォォォォォァァァァァッッ!!」
「!」
その火球を”みずのはどう”で打ち消すフリーザー。これで互いに小手調べは終わりだ。
”みずのはどう”で打ち消したということは、れいとうビーム等他の技では打ち消せないと判断したものだろう。そして注意がそちらに行くなら……
「”アイアンヘッド”ッ!」
「バァァニッ!」
フリーザーは動かない。ギリギリまで引き付ける気だろう。なら回避のタイミングを指示しなければ。
ルカリオが立ち上がり、背中に両手を添える。同じようにユウマも手を伸ばし意識を集中させる。フリーザーが息を吸い込むその瞬間を狙って、
「今!とびはねろッ!!」
「バーンッッッ!!」
「フォ!?」
新たな技を指示した。
射線上から姿を消したエースバーンに驚くフリーザー。溜めていた”れいとうビーム”は外れ、無防備な背中に自由落下の速度が乗った”アイアンヘッド”が突き刺さる。
思ったより痛かったのか少し暴れる。それもそのはず、本来エースバーンの特性は「もうか」なのだがこのエースバーンは非常に珍しい特性、「リベロ」を持つ。自身のタイプを使う技と同じにするという特性で、簡単に言えば「覚えるすべての技をタイプ一致で撃てる」というもの。故に威力も上がる。
飛び上がったフリーザーが”みずのはどう”を撃つ。それもあまり狙いを付けずに適当とも言えるように。
「ルカリオの動きを見てるお前なら見切れるよな、詰めろ!」
回避しつつ接近するエースバーン。すべてかわしきり”とびひざげり”の体勢に入った瞬間――
「フォオオオオオオ!!!」
「バニッ!?」
――フリーザーはエアスラッシュを至近距離で発動させた。かくとうタイプに変わっていたエースバーンには効果は抜群だ。
「大丈夫か!?」
「…ッバニ!」
当たりどころも悪かったようで次の攻撃が最後になりそうだ。ぶっつけ本番にはなるが、
「エースバーン、自分の真上に”かえんボール”」
「バニッ!」
ほのおタイプに変化し、火球を蹴り上げる。続けてユウマの指示。蹴り上げた”かえんボール”めがけて、時計回りに回転しながら跳躍。同時に”ブレイズキック”を発動させた。
「もっと回れ…!……そこだ、”ブレイズキック”で蹴り出せッ!」
「バニバニバニバニバーーーッッ!!!」
空中という安定感のない場所で高速回転し、その力と腰の入った”ブレイズキック”は”かえんボール”の中心を捉えた。炎の竜巻を纏い奔る
フリーザーはその火球に対して、”みずのはどう”に”れいとうビーム”を重ねて球体の盾を作り出し受け止めようとしていた。しかし火球自体が高速回転をしているため貫通力が増しているので、火球は盾を貫きフリーザーに命中した。
直後、”みずのはどう”が”竜巻かえんボール(仮名称)”の引き起こした水蒸気を突き破ってエースバーンに命中。戦闘不能になった。
「おつかれさまエースバーン、よくやった。ルカリオ、弔い合戦だ」
「バゥン…」
「……言葉の綾だよ」
「フォウ?」
何言ってるだお前は、とルカリオの目が言っている。許してよ、あの攻撃を耐えられるとは思ってなかったんだから。
それはそうとルカリオは回復を済ませていた。決して本調子では無いが、漲る闘志は最も調子のいいそれ。加えて、体は暖まっているので小手調べも必要ない。最初から全力を出す。
先手はフリーザーの”みずのはどう”。ルカリオは身のこなしで回避、すぐさま”ストーンエッジ”を展開して機動戦に持ち込む。
「フォゥッ!」
「オゥン!」
フリーザーはそれに”はがねのつばさ”を繰り出し、こちらのリズムを崩そうとする。対するルカリオは”つるぎのまい”を舞いながら”ブレイズキック”で応戦。その間波導で”ストーンエッジ”の石片を操りながら死角に、フリーザーの上に、常に有利に立ち回れるように絶えず動きながら”はがねのつばさ”をいなす。
「……ッつ…!今、”はっけい”ッ!」
”ブレイズキック”による蒼い炎を嫌い、距離を取ろうとした瞬間を狙って渾身の”はっけい”を撃ち込む。
さて、今日ルカリオが大木を倒すために使っていた”はっけい”だが実はかくとうタイプが覚える本来の”はっけい”とは少し違う。あちらはかくとうタイプのエネルギーを手のひらに集め相手の体内へ流すものだが、ルカリオが使っているのは簡単に言えば”波導発勁”である。文字通りかくとうタイプエネルギーではなく、ルカリオ自身の波導エネルギーを流すものであり技ではない。
即ち――
「そこから”しんそく”ッ!」
「バゥゥンッッ!」
第5の攻撃の隠し玉として扱うことも出来る。そして、ルカリオならば展開された”ストーンエッジ”により鋭角的な動きによる攻撃を当てることができる。
その攻撃に対するフリーザーの行動は、その強靭な翼から放たれる暴風であった。
「グッ……!そりゃズルいぞっ!」
ユウマの視界には今2つの景色が広がっている。一つはフリーザーとルカリオが対峙している光景。もう一つはルカリオを吹き飛ばさんとしている
「ルカリオッ!行けるな!?」
「バゥ!」
その時、暴風を空中で躱し続けていたルカリオから突風のようなものが吹き荒れた。
手の甲にあるはがねのトゲが無くなり前腕を覆う。碧く煌めくソレは、さながらカタナの様だ。
それ以外は殆どメガルカリオの様だが、その瞳に光る色は深紅と灰のオッド。ユウマの目と同じ色をしている。
「行くぞルカリオッ!”波導発勁”!」
「アォォォォォォンッッ!!」
雄叫びを上げて宙に浮かぶ石片を蹴り加速する。先程までの動きよりも疾く、鋭く迫っていく。フリーザーは姿を変えたルカリオを警戒して最初は動かなかったが、トップスピードで迫る碧い閃光に暴風で対抗した。が、
「アォォォンッ!」
「フォ!?」
放たれた暴風はルカリオではなく、舞い散る粉雪を吹き飛ばしただけだった。暴風に呑まれる直前にフリーザーの真下に回避、そして無防備な腹に発勁を叩き込んだ。
フリーザーは吹き飛ばされるもすぐに体勢を整え、急降下を始める。おそらく”ブレイブバード”の構えだ。
「相手もなりふり構わず突っ込んでくるぞ!ルカリオ、”せいなるつるぎ”ッ!」
両前腕からあふれる碧い輝きが剣を形作った。蒼炎の纏い突っ込んでくるフリーザー。それに対しルカリオは目を閉じたまま腕を交差させ集中力を今まで以上に高める。そして、
「フォォォォォォオオオッッ!!!」
「……シッ」
ルカリオが上体を反らし、先程掌打を与えた腹を”せいなるつるぎ”で振り抜いた。
その後目を回したフリーザーを一時的にモンスターボールに入れ、一番近くのポケモンセンターにて自身の手持ちポケモンとフリーザーを治療した。ユウマはポケモンセンターについた瞬間倒れたのでその辺の受付はバシャーモが行ってくれた。
エースバーンとフリーザーの治療はすぐに終わったが、ルカリオは3日間事実上のバトル禁止、ユウマ自身はそこのポケモンセンターに3日入院することになった。主な要因はルカリオの腕からシビレが取れなかったこと。そして丸一日目を覚まさなかったユウマの治療のためだ。
「なんでこんなに無茶したんですか!」
「バトルを途中で投げ出したらフリーザーに失礼じゃないですか」
「そういうことじゃありません!」
というように、ユウマはかなり絞られた。これにはルカリオとエースバーンを除く手持ち全員がジョーイさんに味方していた。
幸いにも体力を使いすぎただけだった様ですぐに回復した。
「さて無事退院できたことだし、あとはお前をどうするかだな」
そう言ってフリーザーを出す。ユウマとしてはあくまで一時的な処置としてゲットしたのであって、今後行動を共にするためにゲットしたのではない。なので逃がす前提でフリーザーを出したのだが。当のフリーザーはユウマの前から飛び立つのではなく、翼でボールと自身を指した。
「いいのか?俺と一緒にいるとこれまで以上に面倒なことになるぞ?」
「フォゥ」
うなずき返されたので元々入っていたモンスターボールをしまい、新たにダイブボールを取り出しフリーザーをゲットした。
「出てこい、フリーザー」
ユウマはフリーザーの背に乗り、現在地から真反対の西を目指し飛び立った。
俺とルカリオに起きたエセメガシンカの謎を調べるため、ユウマたちはシャラシティへ向かった。
あけましておめでとうございます。
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