ちょっと数人足してみた (一汎人)
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転校の時間

「聞いてくれ、2週間後に引っ越すことになった」

 

「「………………はい?」」

 

 4月に入って少しした頃の話だ。

 食事の席でいきなり言われた父の言葉は、俺と妹ににかなりの衝撃を与えた。

 いったいどういうことだろうと続きを催促すると、父は母と顔を見合わせた後に、軽くため息をついた。

 

「……今月に入ってからいきなり昇格の話が来たんだ。お前達には悪いと思ってるよ。今まで生まれ育った街から離れるのは苦痛だろう」

 

 俺は別にそんなんでもないけど、妹はどうなんだろうか? 

 

「んー、まあしょうがないや。お父さんは悪くないでしょ。それで、どこに行くの?」

 

 うん、どうやら妹も全然気にしていないようだ。確か友達が沢山いたと思っていたが、割とドライな奴だ。

 

「行くのは椚ヶ丘の辺りだ。お前達には来月から椚ヶ丘中学校に通ってもらうつもりだ」

 

「……マジ?」

 

「マジだ」

 

「……本当? お母さん」

 

「残念ながら、本当よ」

 

「「「「……………………」」」」

 

 沈黙、それがこの場において許されるただ一つの行為であった。

 俺は偏差値の高い進学校に突然放り込まれることによる絶望から、両親は俺たち兄妹をヤベェ進学校に放り込むことによる罪悪感からだ。因みに妹は椚ヶ丘に天敵がいるかららしい。(後から聞いた)

 重たい空気がテーブルに漂ったまま、その日の夕食を終えた。

 

 それからのことは覚えていなかった。

 

 

 ◆

 

 

「きりーつ、れーい、さよーならー」

 

 間延びした声と共に、帰りのHRが終わった。

 父の宣告から1週間くらい経過し、残りの日数もあと数日ということになった。

 転校するということはすでに担任に伝えていたが、クラスメイト(変人共)には打ち明けていない。

 

 それ俺は今とても悩んでいる。来週あたりから始まる新生活についてだ。椚ヶ丘中学校とか恐ろしい学校に行くとか胃が……

 胃痛に苦しんでいると、俺の目の前に3人組が現れた。

 

「なぁ詩音! お前転校するって本当なのかよ!」

「嘘でしょ!? 嘘って言ってよ!」

 

 三人のうち2人が俺に向かって話しかけてきた……というか煩いです。耳元で大声を出さないで。

 

「……なんでも椚ヶ丘に行くらしくてな。お前らとはお別れだ」

「そりゃねぇぜ! まだお前を満足同盟に入れてねぇのに!」

「誰が入るかそんなもの…………」

 

 俺を意味不明な同盟に入れようとしてくる男の名前は神田(かんだ)栄治(えいじ)

 俺の幼馴染その1にして根っからの陽キャ、そして熱血キャラだ。正直暑苦しいので近寄らないで欲しい。

 こいつの父親が自衛隊員らしくて運動神経が以上に良い。体育祭での成績は異常だ。

 ああ、それと野球部の現主将だったな……こいつの投げるボールはレーザービームだからな……恐ろしい。

 異常なまでに激辛料理が好きなので、よく愉悦用麻婆豆腐を作らされる羽目になる。あれ作るだけでとんでもないダメージが入るんだよ。

 因みにこのクラスの男子での人気はNo.1だ。そんな彼が大声を出したらどうなるか? 当然視線が集まります。ゴフッ(重症)

 

「そんな……酷いよ……あの夜の出来事は嘘だったっていうの!?」

「誤解を招く言い方やめろ……ってか俺とお前はそんな関係じゃないだろ……」

 

 およよと泣き真似をするこの女は清水(しみず)麗華(れいか)

 俺の幼馴染その2にしてビッチ、腐女子、レズ、ドMにしてドS、黙ってれば清楚系美少女ととんでもない奴である。

 それと絵が異常に上手いが、油断していると薄い本のような漫画を書かれるので注意した(810敗)

 女も男も両方いけるので、俺含めた幼馴染全員にこのような発言をしている。

 因みに普通に性格も頭もいい奴なのでクラス内人気はそこそこ高く、テストでは3位以内には必ず入っている。納得がいかない。

 そんな彼女が先程の発言をします。さらに視線が集まります。ガハッ(致命傷)

 

「ひぐっ……うぅ……」

「…………………………」

 

 俺の目の前でガチ泣きしているのは天野(あまの)花凛(かりん)

 俺の幼馴染その3にして圧倒的豆腐メンタル。というか豆腐とぶつけたらこいつのメンタルだけが砕けるレベルでマジで弱い。あとよく泣く。非常に泣き虫。中3になっても未だによく泣く。

 甘いものが好きで、ひとまずチョコを与えておけば泣き止む。逆に辛いものや苦いものを渡すとめっちゃ泣く。

 こんなに見てて不安に思える奴だが、こいつの両親が大企業の社長という奴らしく、その会社も様々な分野に展開している。要はヤベェお金持ちだ。

 とても運のいい奴で、不運な俺からしたらとても羨ましい。……考えたら憎たらしく思えてきたのでほっぺでもつねってやろう。

 

「!? いひゃい! いひゃいよ!?」(訳:!? 痛い! 痛いよ!?)

 

 やべ、めっちゃモチモチしてる。てか触り心地いいな。

 

「ひょっひょ!? いいひゃへぇんひはひゃひへ!?」(訳:ちょっと!? いい加減離して!?)

 

 あーあー、なんも聞こえない。

 因みにこいつもこいつで校内の人気が高い。しかし、美少女っちゃ美少女なのかもしれないが、クラスメイトがコイツに向ける感情は恋愛感情とかは一切ない。というか妹とか娘扱いされてる始末だ。

 ではそんな彼女を泣かせたり、ほっぺをつねったり

 

「おう左右田テメェ!」

「何俺たちのむすmゲフンゲフン……花凛に手ェ出してんだゴルァ!」

「羨ましいぞこんちくしょう!」

「それに花凛ちゃんを泣かせるなんて!」

「最ッ低! これはもう左右田君には責任とってもらうしかないわね!」

 

 はい、このようにクラスメイトは全体が騒ぎ始めます。グボァ(overkill)

 

「えっ、ちょっ、まっ」

 

 因みに当の本人はこの光景にあたふたしており、泣き止んでいます。完全に振り回されてやがる。

 

「……で、なんで黙ってたんだ?」

 

 この騒ぎは、栄治が俺に問いかけたことによって収まった。正直助かった。

 

「………………」

 

「先に言っておくが、今日は話すまでお前を帰すつもりはないぞ。すでに扉は制圧した」

 

 言われて見てみると、たしかに教室にある廊下への二つの扉は、クラスメイトは数人によって既に通行不可になっていた。

 どうやらマジで話すまで帰れ無さそうだ。

 

「……あれだ。別に話さなくてもコッソリ転校すれば良いかって思ってた」

 

「「「「「ふざけんな!!」」」」」

 

「!?」

 

 俺が正直にその理由を語ったら、クラスメイト達は俺のことをもみくちゃにした。

 軽く頭をパシッと叩かれたり頬をつねられたりうなじを舐められたり……おい最後。絶対麗華だろ。

 その後も服を引っ張られたり頭を撫でられたりハリセンで叩かれたり鎖骨を舐められたり……ってだから麗華! 

 

「おい! どさくさに紛れて何しやがる!」

 

「ふふん♪ これも私達に話さなかった罰として甘んじて受け入れてね♪」

 

「いやただの変態じゃねぇか!」

 

 こんな奴に俺はテストで負けるのか……納得いかねぇ……

 

 以降、麗華は女子数人に組み伏せられた後も、俺はクラスメイト達にもみくちゃにされていた。しかもそれが引っ越し前日まで続いた。

 

 

 ◆

 

 

 あれから1週間が経過して、引っ越し当日。日曜日という貴重な休日を使って、俺の家族は引っ越すこととなる。ツラい。

 既に荷物はもう纏めてあったり、いくつか送っていたので、後は移動するだけだ。

 

 既に着替え等は済ませており、朝食も取ったところなので今から車に乗り込もうと、住み慣れた家を出て、車に乗ろうとした時だった。

 背後から首根っこを掴まれたので、誰かと思って後ろを見ようとするも、できなかった。

 

「よぉ、詩音。今から出発か?」

 

「……栄治か。ああ、これから行くところだ。お前1人か?」

 

「んなわけねぇだろ。クラスメイト全員できてやったぜ」

 

「「「「「「「「「「ハァイ」」」」」」」」」」

「「「「「「呼んだ?」」」」」」

「「「「「「待たせたな」」」」」」

「アハハッ、逃げれるとおもった?」

 

 ……まさかめっちゃいた。というか鉤括弧の数すごいな。

 

「まああれだ。転校するお前に向けて、お嬢様からお前にプレゼントって奴だ」

 

 そう言って俺から手を離すと、後ろに下がっていった。

 入れ替わるようにして出てきたのは花凛だった。

 

「詩音君……転校しても元気でね」

 

 そう言って、俺に色紙を渡してきた。なんか外野がヤジを飛ばしている気がするが無視しようそうしよう。

 色紙には、クラスメイト全員分の名前とちょっとしたメッセージが書かれていた。頑張れよと言った励ましのメッセージが書いてあったが……その、なんだ。個性を隠そうとしない奴もいた。

 

『俺はまだ諦めてないぞ 神田栄治』

『疼いたらいつでも呼んでね♪ 清水麗華』

 

 前者はいいとして後者……自重しろよ。

 

『忘れないでね 天野花凛』

 

 どうやら花凛のメッセージは普通だったので安心した。

 

 他にも数名個性を隠していない輩がいたが割愛。あと担任も書いてあったけどスルーしておく。「「「「「「酷ッ‼︎」」」」」」

 

 そして中央には大きくメッセージが書かれてあった。なんかヤベェことが書いてそうだなと若干不安に思っていたが、いらない心配だったようだ。

 

『いつでも遊びに帰ってこい馬鹿野郎 クラスメイト一同』

 

「ははっ、冗談キツイぞ」

 

 苦笑しながらもその色紙を持って、俺は車に乗り込む。家族が全員ニヤニヤしたすごく気持ち悪い表情で俺を見つめていた。

 

 

 

「…………何だよ」

 

「「「いやぁ、素直じゃないなぁって」」」

 

「煩い!」

 

 車が発進し、俺に向かってクラスメイトはみんな手を振っていた。相変わらず花梨は泣いていたが。

 それでも、そんな彼ら彼女らも、車が進むに連れてだんだんと見えなくなっていった。

 

 やがてあいつらが見えなくなった。街を出たあたりで、窓の外を見ようとすると、どうやらうまく外の景色を見れないようだ。

 

 こんなにも視界が滲んでいるのだから……




どうも皆様初めまして。らってぃと申します。
ここまで雑な文に付き合っていただき、誠にありがとうございます。そんなあなた方に悲報(もしくは朗報?)があります。

ぶっちゃけここまで長いのは恐らく今回だけです()


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編入試験の時間

 

 俺達の家族が椚ヶ丘に引っ越してきてから1日経った。

 どうやら今日は椚ヶ丘中学校で転入試験をする……というかしている。

 

 椚ヶ丘中学校──それと高等部──は、基本的に学力によってクラス分けが行われるため、今回のテストでA〜Eのどこかに編入させられるらしい。

 そしてそのクラスなのだが、どうやらクラスによって学校側の対価網がだいぶ変わるらしく、A組なら優先して学校施設を使用できる。

 逆にE組の場合は部活はできずボロボロの係校舎にて授業を行うとのこと。

 

 さて、今俺が何をしているかというと英語のテストを受けているのだが……これが一問もわからない。

 今回はリスニングはなかったので単純に読み書きだけなのだが、一問として解ける問題がない。

 既に英語以外の教科は終わったのだが、そちらはだいたい9割はあったと思うが、英語だけは無理なのだ。

 

 前の学校でもそうだったが、俺は英語だけが壊滅的にできず、英語の先生からよくどやされていた。

 いや、あれじゃん。英語って将来使わないじゃん? 日本にいるなら絶対さ。

 そんな思考でグダグダした結果がこれだよ。

 

「……そこまで」

 

 因みにこの試験を担当している先生は、3ーDの大野先生だ。

 俺がここまでテストを受けている待ち時間に他の教科の丸付け等もしており、英語のテストが始まるまでは俺に対して明るく接していた。

 しかし、俺が英語のテストでペンを全く動かさなかったことにより、雰囲気が変わった。

 ああ、こいつはダメな奴なんだ。と言った失望したような雰囲気を。

 

「左右田君……ね。校舎の見学は済んだか? “E組校舎”のほうも見てきたらいい。今はテスト期間中だからあそこの生徒達もいないだろうしな。まぁ真面目な生徒ならあんな校舎には行かないんだがな」

 

 ニヤニヤとやや気持ち悪い表情で、この教師はこんなことを言ってきた。

 恐らく意味としては、『君が通う校舎を見てきたらいい。不真面目な君がね』と言った感じだろう。

 え? そうは読み取れない? ……だいたい作者が悪い。

 

 まあ気にはなっていたし、英語は0点だろうから十中八九E組行きだろうから……見てみるか。

 そうと決めたら早速行動することにする。必要最低限の勉強道具を詰めた鞄を持って本校舎を後にし、隔離校舎のある山へと足を踏み入れる。

 

 

 ◆

 

 

「ゼェッ……ゼェッ……おかし……だろっ……」

 

 本当にこの距離はどうかしていると思う。

 この道はアスファルトなどで舗装されているわけではなく、とても荒れ果てているので歩きにくい。

 いや、人が通った跡が道となっているから普通に山を登るよりかは遥かに楽だと思うが、殆ど運動してない帰宅部員からすれば辛いものだ。

 

「ハァッ……ハァッ……あれ……か?」

 

 息も絶え絶えになりながら、俺はボロっちい木製の学校らしきものを発見した。ここが隔離校舎なのだろうか。

 確かめるために、少し息を整えてから隔離校舎(推定)の入り口に立つ。

 

「…………」

 

 ここで前の学校のクラスメイトである栄治や麗華なら『誰かいませんかー』と声をかけれたんだろうが、俺にはそんなことはできない。

 ので勝手に入らせてもらうことにした。まぁ地図を見る限りはここが隔離校舎だろうから大丈夫だろう。

 

「…………うわぁ」

 

 思わず声を出してしまうほど、その校舎の内装はボロかった。

 木造建築というところはまだ風情を感じるから? といった感じでフォローできるが、それでも歩くたびにギシギシと音が鳴るこの床に関してはフォローのしようがない。

 他にも教室の方をチラッと見てみたが、エアコンなんてものはおろか、ストーブすらついていないように見えた。

 授業環境は相当劣悪とみたが、もしかしたら俺が想像している以上に、この教室はヤバいのかもしれない。

 

 最後に、ここの教師がいたら一応挨拶しておこうと職員室を見てみることにしたが、俺は見て見ぬふりをした。

 知らない、俺はあんなの知らない。職員室で平然と18禁本を読んでいる黄色くてデカイなんかタコみたいな不思議生命体なんて俺は知らない。

 うん、そうだ。これは夢なんだ。だから目が覚めれば俺はまたあのうざ喧しい奴らのいる教室にいるはずなんだ。……それもごめんだが。

 

 今日はもう疲れたし、帰ることにした。

 え? 挨拶? ……知らんな。

 

「おや、お帰りですか」

「ああ。意味不明な光景を見て疲れたから今日は帰……!?」

 

 後ろからごく自然と話しかけられたので、反射的に返してしまったが、よくよく考えていると誰と話しているんだと冷静になり、後ろを振り向いて見たら奴がいた。そう、不思議生命体だ。

 そんな相手にいきなり話しかけられたらどうなるか? 

 発狂? 命乞い? 逆ギレ? どうなるかはまあ色々あるだろう。では俺の場合どうなるかというと……

 

 prrrrrrrrピッ

 

「あ、もしもし警察ですか?」

「にゅやぁッ!?」

 

 そうです110番ですね。

 皆さんも覚えておきましょうね。黄色くてタコみたいで隔離校舎にいるような人物は不審者なのですぐに通報しましょう。

 え? 人種差別? …………いや、まずこの生物は人なのか? 

 

 なんて考えていたら、俺の手からスマホは奴に奪われて、何でもないを連呼して通話を切ると、俺の手にスマホを返していた。

 因みにそのスマホはいつ磨いたんだってレベルでピカピカにされている。それはもう恐ろしくピッカピカだ。

 

「先生とても驚きました……まさか初対面で通報してくる相手がいるなんて」

 

 いや、そのフォルムではどう足掻いても通報ものだろうと、オレは心の中で1人突っ込んでいた。

 それと同時に、俺の直感は告げていた。

 

 ……『あ、なんか面倒ごとに巻き込まれる気がする』と。

 




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説明の時間

 やば、ここから早く逃げなきゃ。と俺の直感が働いたので、この黄色いタコのような意味不明な生物に背を向けて全力疾走した。

 今の俺は必死に走っていた。それはもう全力疾走していた。

 100mのタイム20秒を舐めるなよ。相当遅いわ畜生。

 

「……ん?」

 

 嫌な予感がしたので後ろを振り向くと、もともとあのタコがいた場所には何もいなかった。もういなくなったのだろうか? ……いや、まだどこかにいるような気がする。

 

「……一体どこにいった?」

「ここに居ますよ。ここに」

「ああ、そこか……ファッ!?」

 

 思わず飛び退いてしまった。真横に大きくて黄色いタコがいたんだもん。仕方ないって。

 

「全く、人の話も聞かないで逃げるとは困ったものですねぇ」

「……いや、どう見ても怪しい者だから逃げたんだが? というか人じゃない気がするんだが? 特に皮膚の色とか手足とか」

「失礼な! これでも生まれも育ちもれっきとした人間です!」

 

 ……それはギャグで言ってるのか!? 

 

「おい、一体何が…………おい」

「おや、烏間先生」

 

 何やら出てくる作品を間違えたような男の人が(イケメンッ)現れた。

 俺の直感が告げている……多分人類で2桁の中に入るくらい強いと。

 流石にあの霊長類最強の吉○沙保里レベルまではいかないだろうが、JOJ○のジョ○サンレベルの身体能力はあるんじゃないか? 

 カラスマセンセイと呼ばれていることからこのタコとはなんらかの関係があるのか。

 というか、E組の先生だったりするのか? 

 

 と目の前のタコと先生(推定)をじーっと見ていながら考えていたら、最初は何やら言い争っていたが、二人ともこっちを見てきた。

 

「はぁ、すまないが職員室までついてきてくれないか?」

「あ、はい」

 

 本来なら“いいえ”と答えたところだが、目の前のこの人相手にそんな回答したらほぼ確実にdead endないしbad endまっしぐらなのではいと答えておく。

 流石にまだ死にたくない。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 職員室まで案内され、そこで俺はタコと先生(推定)と向かい合うような形で座ることとなった。

 

「まず先に自己紹介から始めよう。俺は防衛省の烏間という者だ。今は椚ヶ丘中学校3年E組の表向き担任ということになっている」

「3年E組表向き担任…………ん表向き?」

 

 先生(推定)改め烏間先生の言葉を小さく呟きながらすこし疑問に思ったことがあった。表向きってなんだよ。

 

「次にコイツの話だが、その前に君は今年の3月に起きた事件のことを覚えているか?」

「……忘れるはずないですよ。月が蒸発して常に三日月型になったっていうアレですよね?」

 

 確か7割だったか? いきなり月が蒸発していろいろあったけど原因がいまだに判ってない。この事件は殆ど知らない人などいない状態だろう。

 なんでこんな話を聞いてきたんだ? 次はタコの話……まさか……

 

「察してくれたようだな」

「まさか、そこのタコが」

「はい。私が、月を破壊した犯人です」

 

「……はえー」

 

「……え? 何ですかそのリアクション? 先生、もうちょっと驚かれるかと思ってました」

「いえ、なんていうか、世間は狭いと言いますか、人? は見かけによらないというか」

「困惑するのも無理はないだろう。だが、コイツは来年3月に地球を破壊すると言っている。丁度、あの月と同じようにな」

 

 来年3月に地球を破壊……うん、大丈夫だな。それくらい猶予があればミサイルを用意して火星まで逃げて縄で首を吊るくらい余裕だな? 

 それまでに月までに旅行行きたいな。って、月は破壊されてて見る所ほとんど残ってなかったかHAHAHA

 

 と、こんな感じで混乱していたら烏間先生が口を開いた。

 

「この話は本来国家機密だ。このままでは君の記憶を消去するしかない。だが……」

 

 そこで烏間先生は言葉を区切って、スーツのポケットからおもちゃのナイフみたいなのを取り出した。

 

「国はコイツを来年3月までに殺すつもりでいる。それも世間の人間には認知されないうちに。詰まる所……暗殺だ」

「暗殺、ですか。そのタコを……ですか?」

「そうだ。だが、コイツを甘く見ない方がいい。コイツの最高移動速度はマッハ20……生半可に殺せる相手ではない」

「ヌルフフフ。全世界が殺しに来たとしても、私を殺す事はできないでしょうね」

 

 うわっ、なんか黄色と緑の縞々になった気持ち悪」

 

「気持ち悪いッ!?」

「……コイツは感情を表情で表す節がある。今のはナメている表情だ」

「本当に何者なんですかね? そのタコ」

「詳しい正体はまだ判っていない」

 

 その後はこの学校の3年E組が暗殺者としてそだてられていることとか、このタコがここでなら教師をやってもいいからここにいるとか、そういうのを色々この2人から聞いた。

 正直情報量が多すぎてキャパオーバーしそうだ……

 

 

「……それでは選んでもらいたい。記憶消去手術を受けて何も知らなかった日常へ戻るか、暗殺者として3年E組に入るか」

「俺の答えは決まっていますよ。3年E組に入ります。というか、それしか選択肢がないんで」

 

 最後に、烏間先生に選べと言われたが、俺は迷う事なくタコを殺すルートを選んだ。まあ、英語の点数的にこっち行きは確実だろうから仕方ない。

 それに、E組の環境って劣悪だってことも要因の一つだ。

 正直言って、俺はクーラーも効いてて最高の環境で勉強できる本校舎よりも、古ぼけていて環境劣悪なこっちの後者の方が楽しそうに思える。

 

「ヌルフフフ。よろしい、今日から貴方も私の生徒です。……って、そういえば名前聞いていませんでしたね。先生、うっかりしてました」

「……すまない、失念していた」

「いえ、自己紹介してなかったこっちもアレですし……今更ですけど名乗りますね」

 

 

 

「俺の名前は左右田(そうだ)詩音(しおん)です。今日からよろしくお願いします」




(オマケ)
左右田君の編入テストの結果。

国語:97
数学:99
理科:95
社会:96
英語:0





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自己紹介の時間

 あれから3日くらい経って、中学校のテストも終わったようだ。結果も返ってきているんじゃないか? 

 そして今日、ついに俺は椚ヶ丘中学校3年E組の生徒として登校することになる。正直生徒とは誰一人として会ったことは無いけど。

 ああ、そういえばE組にはもう一人教師がいるんだったか。その人とも初めて会う事になるのか? 

 まあ麗華レベルの変態がいなければ俺は大丈夫だ。正直に言うと、俺はあそこまでの変態行為は流石に引く。まあ、それ含めてあいつの個性なんだがな。

 

 っと、そんなことを考えていたらもうそろそろ出ないとな。

 そう思って、俺は机に置いてある腕時計を付けてから家を出る。

 因みに妹はちょっと前に出て行った。部活生だからね。仕方ないね。

 

 

 

 

 山を登って息切れしながらも、ようやく俺はE組校舎にたどり着いた。改めて見てもボロい校舎は、見ていて不安になってくる。

 今日からこの校舎で学ぶのかと思うと、それはもう勘弁願いたいが、同時に貴重な経験でもあるので、まあ適当に期待しておこう。

 

 校舎に入ったらすぐに職員室に向かう。まずは先生方に挨拶することが大事だからな。

 職員室のボロい木製の扉を3回ノックしてから入る。するとそこには、黄色いタコと筋肉質なイケメン、そして金髪の女性がいた。

 この瞬間に俺は悟った。この人アイツ(麗華)と同類だ、と。

 

「ヌルフフフ。左右田君おはようございます」

「ええ、改めてよろしくお願いします」

「アンタが新しく入ってきた子って訳ね。英語担当のイリーナ・イェラビッチよ」

「初めまして。ビッ……イリーナ先生。自分は左右田詩音です」

 

 しまった、ついビッチと言いかけてしまったが途中で言い直せてよかった。なんか訝しんでいるような目をしてるけど無視しておこう。

 

「それでは左右田君。もうそろそろHRが始まるので、君にはその時に自己紹介しておいてもらいます」

「わかりました」

 

 そう言ってタコは廊下に出て行ったので、俺もその後をついていく。

 ……このタコの歩いたところを見てみると、どうやら埃とか汚れとかが嫌いになっている気がする。多分○ンバを足につけているんだろう。

 

 そして教室の扉の前に立つと、タコはここで待つように言い、先に教室の中に入って行った。

 少ししてからタコに呼ばれたので、俺も教室内に入る。

 教壇に立ってクラス内をよく見てみると、なんともまあカラフルな髪の色だこと。黒金茶だけでは飽き足らず、赤青緑まで揃えてるとは思いもしなかった。

 何人かは俺の方を見てヒソヒソとしているが、まあいきなり転校生が入ってきたらそうもなるだろうと一人勝手に納得していた。

 

「それでは自己紹介をお願いします」

 

 タコに言われたので、まあ本当に仕方なく自己紹介することにする。

 

 ここで唐突だが、俺の特技について語るとしよう。

 人間誰しもが得意なことの一つや二つは必ず持っているが、俺の得意な事は演じる事だ。

 家族やアイツら相手だったら看破されてしまうが、それ以外の相手だったら本性を悟らせない自信がある。それこそ、昔花凛の家の会社が経営している芸能事務所からオファーが来たくらいだ。

 唐突な自分語りが挟まったが、ここまでの話を聞いてみたら、俺が素直に挨拶するかどうかわかるだろう。

 つまりはこうなる。

 

「俺の名前は左右田詩音! この1年を皆で“満足“できるような一年にしたいと思ってる。これから宜しくな!」

 

 とりあえず栄治みたいに振る舞っておくことにした。

 理由? あれだよ、本性隠している奴ってかっこいいじゃん? そう言うお年頃がまだ抜けてないんだよ察しろ。

 ……なんか隣でタコが困惑している気配を感じるがまあ気にしないことにする。

 

 んで、だ。そんなタコに俺の席の場所を言われたんだが、赤羽とか言う野郎の隣らしい。

 なんか髪色が赤いけどそれ地毛なの? それとも染めてるの? いや絶対染めてるでしょこれ。

 そして俺の席の前が奥田とか言うメガネの女子だ。

 普通に大人しそうで、所謂陰キャというようなイメージを感じる。それもただの陰キャではなくインテリ系の雰囲気がする。

 ……ひとまず隣の席なので赤羽に声をかけることにした。

 

「赤羽……だよな? これから一年宜しくな!」

「あーうん。宜しくね〜」

 

 こちらが声をかけると、向こうも手をひらひらとして応じた。

 なんだろう、こいつから探られているようなそんな気配を感じる。というかこいつなんかやばい気がするよ。いかにもないガキ対象風の奴が「おいおいアイツカルマの隣かよ。ついてねぇな」とか言って笑ってやがるし。

 などと考えていたら、赤羽から声をかけられた。

 

「ところでさ、ぶっちゃけ左右田君って殺し屋なの?」

「いやいや、俺はただ転校してきただけの一般人だよ。ただちょっと試験でやらかしちゃってな」

 

 とやや苦笑しながら赤羽に返す。まあやらかしたのは事実だしな。うん。

 英語だけ完全に無記入でやってたからな、妹の調べたことが確かならそれだけでE組行きは確実だろう。

 

 俺の答えを聞いた赤羽は、へーと言ってから視線を前に向けた。どうやら興味の対象から外れたようで、内心ほっとしている。

 

 その後はタコの授業が始まった。最初の教科は数学だった。

 試験の時から思っていたが、この学校は他の学校と比べると。少々レベルが高いようだった。まあ俺の元いた学校……というより俺の元いたクラスはトンデモレベルだったけどな。

 因みにタコの授業はとてもわかりやすく、生半可な教師じゃ太刀打ちできないだろうなと素直に思った。

 

 さて、転校生が来て、その日の1時間目が終わった休み時間の時、一体どんな現場になったらどうなるかは大体予想がつく。そう、クラスのみんなからの質問ターイムだ。

 クラスの殆どの奴がわじゃわじゃと群がってきて、すっごく密。そんな感じになっている。そいつらがみんながみんな別々のことを口々に言うものだから、聞き取るのが難しい。

 

「どこの学校から来たの?」

「趣味とかはなんだ?」

「可愛いチャンネーとか知らね?」

「好きな教科とかはなんなの?」

 

 ひとまず聞き取れた4つには答えていこう。

 というか、辛いな……普通こんなに群がるものなのか? 

 

「元々は藤沢中にいたぞ」

「趣味は森林浴だな。心が安らぐんだよこれが」

「悪いな、俺には心当たりがねぇわ」

「社会は結構好きだな」

 

 因みに出産中以外は全て嘘である。

 森林浴ゥ? 森林に行くまでに力つきますけどぉ? 社会ぃ? 勉強してるかしてないかがはっきりわかる教科なんて好きな訳ないだろ? チャンネー? 一度藤沢中に行くといい。全員顔面偏差値が無駄に高いから。

 

 大体答え終わったと思ったら、今度は青い髪した奴が質問してきた。

 

「その腕時計って、アマノコーポレーションの腕時計だよね?」

「え? それってだいぶ高い時計じゃなかったっけ?」

「ああ、これか。友人達からの貰い物だよ。高いものだからいいって言ったんだけどな」

 

 そう答えたら、もうそろそろ授業が始まるということで、それぞれの席へと戻って行った。

 その後も授業が終わっては俺の周りに群がって質問するということが一日中疲れた。

 とても疲れたので、家に帰ってきたら気を失うようにベッドに倒れ込んだ。本当に疲れた1日だった。




ぶっちゃけ左右田君の化けの皮は割とすぐ剥がれます()



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射撃の時間

「修学旅行?」

「うん。来週にある修学旅行なんだけど、よかったら一緒に行かない?」

「んー、わかった。じゃあよろしくな! えっと、潮田……だったよな?」

「できれば渚って呼んでくれないかな?」

「わかったよ、渚」

 

 どうやらこの学校での修学旅行は5月テスト明け直後に行くようだ。うちの学校は確か6月だったから、1ヶ月ずれていることになるのか。

 それにしても修学旅行か……この青いチビ──潮田が誘ってくれていなかったらぼっちになってたのかもしれないな。助かったといえば助かった。転校早々先生から「そこの班空いてるでしょう? 左右田君を入れてあげなさい」と言われたらどうしようかと思ってたからな。

 

 途中でタコが滅茶苦茶浮かれまくっていることが発覚したが、そんなことはどうだっていいので割愛。

 

 そして俺たちは、体育の授業を迎えることとなった。因みに俺にとってはこれが初の体育だ。

 青の体操服に着替えてグラウンドに集合すると、烏間先生が俺たちに修学旅行についての説明を行った。

 なんでも京都でスナイパーがタコの頭にヘッショをキメるらしいから、俺たちはスナイパーのアシストとしてタコの足止めという仕事らしい。

 修学旅行なのに暗殺が関わるということで、数名げんなりしている生徒もいるが──そのうち1人は俺だ──決まってしまったことは仕方ないので諦めるしかないだろう。

 

 説明から始まった体育という名の暗殺訓練だが、今回はどうやら銃を使った訓練を行うらしい。

 暗殺では、基本となるナイフ術以外にも銃を使った暗殺とかもあるため、射撃訓練を行うらしいが……まあ修学旅行で暗殺完了したら無意味になるがな。

 そして烏間先生から最初はハンドガンを使って的に当てるという訓練を行うことを説明され、E組の面々はどんどん的に向かって弾を撃っていた。

 

 今更かもしれないが、タコを暗殺する際には金属製の物騒なものでなく、ゴムでできたナイフとBB弾を使う。今回の射撃も、そのBB弾を使用しているのだが……無駄遣いして大丈夫? コレ? 

 

 しばらくして、俺や数人除いて大体ハンドガンを撃ち終えたらしい。

 何人かは的のど真ん中を撃ち抜いた輩がいたが、その中でも目を見張るのが千葉というメカクレと速水というツインテだ。

 俺のシックスセンスによると、多分この2人は暗殺……それも狙撃という点においてはこのクラスのキーパーソンになるであろう人物だ。

 ハンドガンを終えた生徒は、ライフル系統のものを使うか、ハンドガンの訓練を続けるかを選択できるのだが、この2名はスナイパーライフルを使用して的のど真ん中に弾を撃っている。

 驚くべきその命中率は、千葉が10回中7回で、速水が6回だ。因みに他の人は平均2回(俺調べ)なので、この2人がやや飛び抜けているのがわかる。

 

 ……あ、烏間先生。やっぱりこれやらなきゃだめですかね? いや、あの、ちょっとハンドガンだけは勘弁願いたいかなって……え? だめ? あ、はい……

 

 とうとう俺が撃つ番になってしまった。こりゃあ気分は鬱だが、それでも撃つしかない。あーあ、どうなっても知らないぞ? 

 

 まず的を目で捉え、ハンドガンを構えて引き金を打つ。

 プラスチックでできた銃の引き金は余りにも軽かったが、それでもしっかりとBB弾はまっすぐ飛んでいく。俺はその結果を見ずに、第二、第三の銃弾を放った。

 俺は俺の腕を信じている。だから視界に入れずとも、耳で聞かなくとも、俺がハンドガンで弾を撃ったということが、もはや概念化されているくらい分かりきった結果を、俺は知っている。

 故に、残弾全てを同じように構え、撃つ。

 

 装填されている弾がなくなったことは、引き金を引いた後にカチカチとなる音でわかった。

 この銃での残弾は六発。放たれた六発の弾丸がどうなったかを確認もせずに、俺は烏間先生のところへ向かう。

 

 何人かから視線を向けられるが、そんな視線にかまう必要もないので無視しつつ、先ほど待って使っていた相棒(不良品)を烏間先生に見せるように手に持って、声をかける。

 

「……烏間先生」

「左右田君か。何かあったのか?」

「はい。あの……この銃壊れてません?」

 

 

 

 左右田詩音、ハンドガンでの射撃訓練──6発中0発命中。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 結果として、そのハンドガンは壊れてなどいなかった。分かりきっていたことだが。

 因みに俺はハンドガンの練習は意味をなさないことを知っているので、無理を言ってスナイパーライフルを持たせてもらった。

 

 いや、本当に世界に定義されているのかもしれない……俺はハンドガンを使えないと。

 例えばバ○オとかで俺がハンドガン使っても何故か当たらないし、射撃の屋台とかでハンドガンを使うやつでも外す。俺が当てれるのはゼロ距離射撃オンリーだ。

 たとえ静止していようが動いていようが、ゲームだろうが現実だろうがハンドガンだけは無理なんだ……

 

 まあ、スナイパーライフルなら全然当たるんですけどね、初見さん。

 

 はい狙う、撃つ、当たる。狙う、撃つ、当たる。これを何回も繰り返していく。因みにど真ん中命中とはいかないものの、割と的の中央を打ち抜けていると思う。

 なんか潮田や杉野(潮田がそう呼んでいたはず)、チャラい金髪(後で思い出したが前原)だとかが俺を変なものを見るような目で見てきたが、気にしない。

 引き金に指をかけ、イメージする。BB弾が的のど真ん中を撃ち抜くワンシーンを。

 某正義の味方だって言っていたはずだ。『イメージするのは最高の自分だ』と。……あれ? なんか違うな。……ま、いっか。

 最高の自分……この場においては、的に弾丸を当てる自分をイメージして、弾丸を放つ。

 

 放たれたBB弾は、吸い込まれるように的のド真ん中を撃ち抜いた。

 

 やっぱりあれだ、ハンドガンとかいうクソ雑魚銃なんかとは話が違うな。やっぱ時代はスナイパーっしょ? 

 いやー、ライフルかなーやっぱ。

 

 まあそんな感じで、本日の体育は終了していった。

 ……え? なんで今日ほとんど話してないのって? ……集中している時に人に話しかけるか? つまりはそーゆーこと。

 ……え? 千葉と速水との絡みはないのかって? ……彼らは彼らで友好度を上昇させてるから、うん。ちょっと、ね。

 

 

 

 ◆オマケ◆

 〜同日の彼ら〜

 

「そういえばさ、椚ヶ丘の修学旅行って来週らしいよ。予定表見たけど」

「そうか。まあ都内の学校だから京都に行くんだろ?」

「だろうけどね。いやー、残念だなー、修学旅行の日にちがダブってたら拉致しようと思ってたのになー」

「それでお前あいつを(自主規制)したり(自主規制)したり(自主規制)するつもりだろ?」

「ちょっ! ピー音なるようなことばっかり言わないでよ! 私が変態みたいになるじゃん!」

「でも変態だろ?」

「うん」

「即答すんなよ……」

「………………」

「……花凛? どうかした?」

「! な、なんでも、ないよ!」

「詩音の事……だけじゃなさそうだな。何かあったんだろ?」

「ほ、本当になんでもないから!」

「「いや、目を逸らしながら言われてもねぇ」」

「……まあ、今日のところは勘弁しておいてあげる」

「無理に聞くのも悪いしな。ただ、困ってたらいつでも言えよ?」

「う、うん……」




とりあえず露骨に伏線を張っておきますね。改修するかはともかく()
因みに左右田君は思春期特有のアレにかかってます。

感想・評価等よろしくお願いします。


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修学旅行の時間 1時間目

「そういや、渚もだけどよ、詩音って結構結構童顔ってか女顔だよな。声も高いし」

「あ、それ私も思った」

「声はともかく、顔がなぁ、転校する前からもよく言われててな。事あるごとに俺の女装させようとしてくる奴もいたから困ったな、あの時は」

 

 今現在、俺たち3年E組──というかこの中学校の3年全員──は、京都に向かう新幹線に乗っていた。その待ち時間が暇なので、こうしてクラスメイトとお喋りしているってわけだ。ババ抜きしながら。

 因みにババ抜きのメンバーは渚と杉野、岡田に神崎、そして茅野だ。要するに、赤羽除いた4班メンバーだ。赤羽? 寝てるよ。尚現在の戦局はもいうと、俺と茅野の一騎討ちとなっており、今は俺がババを持っている。

 

「こっちかな? それともこっち?」

「さて、どっちだろうな」

 

 茅野が俺の手札を見ながら、手を右に左に動かしていくが、こちらとしては全力で表情に出さないようにしている。実際相手方も効果がないと悟ったようで、少し悩んだ後に俺から見て右の方のトランプを引いた。その結果は……

 

「やった!」

「チクショウ! 負けた!」

 

 右手に持っていたダイヤのエースを引かれて俺の敗北だ。まあいうて確率二分の一だからそちらを引くのも外すのもどちらも同じ確率だったからな……純粋に俺の運が悪かったのか……

 その後はトランプやら花札やらUNOやらで遊び、途中で菅谷がタコの顔にベストフィットするような鼻を作っていたり、途中で女子3人が飲み物を買いに行ったりもしたが、割愛。無事に京都に着くことができた。

 京都に着いた後も、タコがグロッキーになったり神崎の日程表が無くなっていたりしたが、まあどうでもいいことだろう。

 にしてもあれだな、なんかスッゲェ嫌な予感がする。具体的にいうのなら、神崎と茅野がなんか危険な目に遭う気がするが……まぁ、まさか平和な現代日本で、そんな簡単に危険な目にあうことなんてないだろう。いや、何とも言えないけど……ってか、何故か知らんが、俺の貞操が危うい気がするんだよな……麗華に監禁された時よりかは何とかなる気がするが、なんか怖いので警戒するに越したことはないだろうな。

 

 

 

 修学旅行2日目、京都の街を俺たちは観光していた。歴史ある京都の街並みを眺めながら、京都で暗殺された人を話題に盛り上がっているクラスメイトに内心引きながらも、時間になるまでは普通の学生らしく楽しく修学旅行を過ごす事にした。個人的には物足りなさがあったが、まあいいだろう。

 さて、ひとまずは予定通り回ったので、次は暗殺予定地の下見に来ている。祇園の奥の方は人通りが少なく、神崎曰く一見さんお断りだから見通しをよくする必要もないらしい。まあ普通こんなところに来る人いないわな。

 神崎が考えた場所に、班員達が感心していると、そこに数人のザ☆不良みたいな奴らが現れた。

 

「……何、お兄さんら? 観光が目的っぽくないんだけど」

「男に用はねー女置いておうち帰んな」

 

 不良(ほぼ確定)がこのようなことを言って来たので、不良がこちらに近寄る前に、赤羽が顔面偏差値の低い不良に対して一撃加えるよりも、俺は行動を起こした。

 

「きゃぁーっ! お巡りさん助けてーっ!」

 

 できる限り大きな声で、それでいて、不良にほぼ必ず隙ができるワードを“女子”のような声で発して、こちらに注意を向ける。不良連中は、前に出た赤羽に集中していたが、俺の行為によって、俺たち……というか声を発した俺の方に注目するようになった。

 赤羽は俺の取った行動によってできた隙を使い、不良を2人沈めていた。不良どもの間でも同様が走り、赤羽が渚に向かって余裕ぶっているが、何かすごく嫌な予感がした。

 

「っ、やばっ」

 

 なので、何も考えずに俺は赤羽を突き飛ばした。結果、背後から鈍い痛みを感じると共に、俺の意識はそこで途切れていった。

 薄れゆく意識の中、徐々に体に力も入らなくなっていく中、その中で俺は……不幸だと某幻想殺しさんのようなセリフを思い浮かんだ。

 

 

 ◇

 

 

「なっ! 詩音!」

「おっと、動くんじゃねぇぞガキども。こいつがどうなってもいいならな」

 

 これは俺が後から渚や茅野、神崎あたりに聞いた内容だが、俺を殴った不良は、倒れた俺の頭をいつでも踏んづけれる体制になりながら、渚達を脅したらしい。

 その後は早く、男子メンバーは不良共に成す術なく気絶させられ、女子は初っ端から隠れていた奥田以外の女子2人──茅野と神崎の2名が拉致されていった。……ついでに俺を。どう言った状況かは、奥田曰く以下のようなものらしい。

 

「なぁリュウキ! こいつも連れていこうぜ!」

「はぁ? こいつ男用の制服着てるから男だろうが」

「いやいや、あれだろ、アニメとかでよくいる男装女子って奴だろ!」

「ってかこいつの声さっき聞いたけど女の声だったぜ」

「ふーん、じゃ、こいつも攫ってくか」

 

 ってなわけで俺も拉致されたわけだ。……おい、転校した初日に俺は性別を間違えられなかったぞ? 流石にそこまで俺の容姿はそっちにいってないだろうと安心していた矢先に何でだよ、というか声で俺女判定したの? いくら男が言うより集中度が増すだろうと思ってわざわざ少し声作って発声したのにその結果がこれってなんだよ。

 

「………………」

 

 いや、そんなことはこの際どうでもいい。ひとまず、回想とも呼べるかどうかわからないパートはやめにして、今のこの状況を考えるか。

 

 今の俺の状態はと言うと、それはそれは悲惨な状態であり、具体的に言うとだが……まず目隠しがされており、口も布で声が出さないようにされ、耳栓もされている。そして手足は当然のように縛られているので、どうしようも無い。やばいな、ガチすぎる。

 いや、前に似たようなことを麗華(とたまに栄治)に数回ほどやられたことがあったが、今回は現役の不良の方にこのような目に遭わされているので、ぶっちゃけ不安しかない。

 というかマジで抜け出せないな。まず移動以前に周囲の様子を探ることができず、感覚的に今は車か何か動くものの中にいるのだと思われるが、周りに数人人がいる気配がする。

 

 ……あれ、これもしかして詰んでね? 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回明かされた左右田君の一面
・女顔
・声が高い
・幼馴染にガチモンのヤベー奴がいる


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修学旅行の時間 2時間目

 次に俺の視界に光が入ったのは、目覚めてから体感で1時間くらい経ってからだ。まああくまで体感なんだけどな。

 俺と茅野と神崎を拉致った連中は、ギャハハと下品な笑い声をあげている。うん、すごくうるさいのでなんとかしてほしい。てか平然とタバコ吸ってるのはまだいい、いやよくはないんだが……そんなことよりも気になるのは、奴ら何飲んでるんだ? 瓶のラベルとか思いっきり酒だと思うんだが……やべぇ、マジヤベェはこいつら……

 はぁ、神崎と茅野はなんか2人で話してるしよ、なぜか俺まで拉致られてるしよ……まさかこんなことになるとは思いもしなかったぞ……

 などと心の中で嘆いていたら、数人の男が俺の元に向かって来た。一体なんのようだ? まさかいきなりヤるわけじゃないだろうな? おいおい白昼堂々から始めるつもりかよとんだ猿だな。おまけに男同士でやるとかなんだよこいつらホモかよ……残念ながら俺はノーマルなんだ。あいつら(幼馴染)になんと言われようが、例えどんだけ女顔と言われてようが、実はクラス内身長が最低の渚と身長がほとんど変わってなかろうが、俺自体はノーマルなんだ……混乱してて全然関係ないこと話してたな。

 

「おい、おまえ」

「……なんです?」

 

 男の1人が、俺に対して話しかけて来たので、俺は警戒しつつも相手側の様子を見ることにした。まあ、手足拘束されてるから何もできないんですけどね。まじうける。

 

「一つ気になってたんだが、なんでお前男装してるんだ?」

「……は?」

 

 男に質問された瞬間、俺の脳内がフリーズした。数秒経って再起動した次の瞬間、俺の脳内に浮かび上がって来た大量の何故(why)が、さらに俺の思考をフリーズさせた。

 

「……え?」

「いや、お前女だろ? 声とかもそうだし持った時めっちゃ軽かったしついでに最後なんかいい匂いしたし」

「どんな判断基準だ……!」

 

 男の言ったことに内心頭を抱えていた。ってかいたのにか茅野と神崎もこっち見てるし……おい! 『え? そうだったの?』みたいな目で見てくるのやめてくれないか!? 

 しかしいつまでも誤解されたままでいられるのは茅野や神崎に対しても、この不良に対しても、そして俺の精神衛生上非常によろしくない。どんな結果になるかはわからないが、しっかりと誤解をはらさなければ……

 しかしなぁ、それはそれですごく嫌な予感がするんだよなぁ……具体的にいうならば、誰も得しないような事実が発覚する気がする。……ええい、ままよ! 

 

「あのな……俺はれっきとした男だ!」

「「「「「え?」」」」」

 

 俺が男だと伝えた瞬間……俺と高校生の中の1人を除いて全員が『うっそだろお前』みたいな目で俺を見て来た。……え? 俺女子だと思われてたの? マジで? 冗談じゃなくて? 

 

「……マジ?」

「マジだ」

「……本当に?」

「本当に」

「……嘘じゃないの?」

「本当のことだ……」

「えっ、……えっ?」

 

 なんでこいつらこんな混乱してるんだ? すげぇ苛立たしいんだが……手足が自由だったら思いっきり殴ったな。てか殴る、絶対に殴る。

 

「ってことはお前あれなのか!? (自主規制)が付いてるってことか!?」

「今の質問は色々アウトだろ……」

 

 なんかやばい発言が聞こえた気がするが……てか女子2人はやっぱり(自主規制)というワードが出て来たから赤面してるし……そうだよな、それが普通だよな……麗華とかいう頭おかしい奴が異常なだけだよな……! 

 ……って、よくよく考えれば約1名何も言わずに俯きながら体を震わせている奴がいるんだが……

 

「やばい、いいかもしれない。興奮してきた」

「「「はぁ!?」」」

「いや、お前らには黙ってたけど……俺実はホモなんだ!」

「「ファッ!?」」

「お前……マジか……」

 

 そいつの唐突なCOによって、不良集団はそいつから遠ざかるように少しずつ後ずさっていった。まあ、俺だって同じ反応するな。同じ立場ならば。

 ん? てかホモ? そして何故そのような発言を今ここでしたんでせうか? …………あ、そっかぁ(諦め)……

 ……嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 

 

「おい、お前!」

「ひぃっ!」

「俺と、やらないか?」

「遠慮しますっ! あ、あのっ! そこにイキのいいピチピチの女子中学生があるので! そっちで勘弁して!」

「ちょっ!」「えぇっ!?」

 

 咄嗟に女子連中にタゲを集中させようとした俺は悪くないと思う。誰だって自分の身が一番だ……

 場が既にカオスを極めたような、もう本当に意☆味☆不☆明な状態になっている中、目元に傷のある奴がホモを静止させようとした。

 

「お、おい! 絵面が酷くなるからやめておけ!」

「……おい、お前ら……俺がこいつを襲うことになんの問題があるんだ?」

「え? そりゃあ「確かにこいつは(自称)男だ。だが、ガワはどう見たって女のそれだ」」

 

 おい! 結構女の子に誤解されたりすると傷つくんだからな! だから転校初日の自己紹介で栄治の真似をして、今時の陽キャ男子みたいな役に似せようとしていたのに……

 

「……つまりこう考えられないか? 寧ろ付いている分お得だと」

「「…………確かに」」

「「……え?」」

 

 ホモのセリフを聞いた、目元に傷のある男──長いし傷男でいいか──と俺は何言ってんだコイツという表情になったが、それ以外の高校生共は賛同してしまった。ナンテコッタイ。

 

「左右田君……気を強く持って」「諦めちゃダメだよ!」

 

 ……女子2人からもなんか哀れなものを見るような目で見られ……ってか気持ち傷男からも同情の目で見られてる気がする……

 もう、いやだ……おうち帰りたい……とてもおうち帰りたい……

 

「……なんて日だ……なんで修学旅行だ……絶望的だな……おい……」

 

 などと、軽く絶望していると、突如扉の方から音が聞こえて来た。

 瞬間、不良達の表情が……ってか傷男の表情が変わり、とてもゲスい笑みを浮かべている。さっきまでの困惑したような表情とは違い、なんかスッゲェ気持ち悪い。

 

「ついに来たな。撮影スタッフがよぉ……お前らにはこれから俺たちの相手をしてもらうぜぇ。……!?」

 

 ニヤニヤしながら扉の方に視線を向けたかと思えば、傷男は驚いた表情を見せた。一体どういうことだ? 

 そちらの方に俺も目を向けてみると……そこにいたのは──

 

「修学旅行のしおり1243ページ、班員が何者かに拉致られたときの対処法。犯人の手がかりがない場合、まず会話の内容や訛りなどから、地元のものからそうでないかを判断しましょう。地元民ではなく、更に学生服を着ていた場合は、1244ページ……考えられるのは、相手も修学旅行生で、旅先でオイタをする輩です」

 

 ──残った4班の班員達だった。




渚君が拉致られなかった理由はあまり注目されていなかったからです()



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