Double Guardian (nonota)
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第一話 「邂逅」

神台村…道が整備されたが、都市に行くまで、車でも時間かかる山奥の村である。

自然豊かだが、冬になれば、雪に閉ざされ、雪が融けるまで外に出るのにも一苦労するそんな村だった。

今年中学に入学する王白ヒム(きみしろひむ)は、父親の実家であるこの村に春休みを利用してやってきた。最初は何もない村に驚いたが、すぐに順応して山を駆けまわったり、川で泳いだりと、その行動力を見せた。同世代の子供が意外に多かったのが、良かったのかもしれない。

 

「釣れないなぁ」

 

今は、村の真ん中を通る川に糸を垂らしてのんびりと釣りをしていた。透き通った川の水を覗き込むと、確かに魚の姿はあるが、釣りを始めて30分、ヒムの竿には、何もかからない。

今日は誰とも都合が付かなかった為、仕方なく始めた釣りだったが、ここまで釣れないとは、思わなかったのだった。

 

「ねぇ、釣れてる?」

 

「ッ!?」

 

突然かけられた声に跳び上がる。慌てて振り向くと、まだ4.5歳の女の子がいた。女の子は、ヒムの返答を待たずに、川を覗き込み、からっぽの網を見て、ため息をついた。

 

「全然じゃん」

 

「う、うるさい。これからだ、これから!」

 

いきなり腹立つガキだなと、睨んで釣りを再開する。女の子は、何が楽しいのか、ニコニコしながらヒムの隣に座り、一緒になって川を見つめた。

 

(変な子だな……あれ? でも、こんな子供いたか? こんくらいの子供って曷さんちのケンとジュウだけじゃなかったっけ?)

「なぁ、おまえ、どっから来たんだ?」

 

「ん? あっち」

 

指差す先は、山の中に青い屋根の一軒の家だった。村からも少し離れたところにある。

よくあんな所から来れたなぁと感心しながら、釣りを続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が傾き、夕焼けに照らされながら、ヒムは釣りの片づけを始めた。

 

「結局、一匹も釣れなかったね」

 

「うるさいよ。そんなことより、家まで送ってやるよ。今から帰ったら、夜になっちまうしさ」

 

そういって手を差し出すと、女の子は、うれしそうにその手をとった。その手は、子供特有の温かい物ではなく、少し冷たかった。

 

(冷た!? って、ずっと、外でじっとしていたもんな)

 

二人は手をつないだまま、山道に入り、ずんずんと進んで行く。思いのほか、険しい山道ではなかった為、日が沈む前に家にたどり着いた。

 

「お兄ちゃん、ありがとう」

 

「ああ、悪かったな。一匹も釣れなくて」

 

「ううん、楽しかった」

 

「今度は、抱えきれないほどいっぱい釣ってやるからな」

 

「期待しないで待ってる」

 

最後まで可愛くないガキだと思いながら、家に向かって走っていく女の子を見送る。

家の柵をこえる直前に、女の子がポケットからハンカチを落とすのが見えた。

 

「おい、何か落としたぞ!」

 

ヒムがすぐに声をかけるが、女の子は気づかなかったのか、戻ってくる様子はない。しょうがないなと思いながら、歩を進め、ハンカチを回収して家の敷地内に入って声を張る。

 

「おおい、ハンカチ忘れてんぞ!」

 

だが、女の子の返事は帰ってこなかった。

 

(どうなってんだ?)

 

疑問に思いながらも、庭の方へと足を向ける。雑草が生い茂った庭を歩き、縁側にたどり着く。

 

「お~い!」

 

「誰?」

 

声を張ると、奥から、妙歳の美しい女性が現れた。

 

「こ、ここの子がこれを落としたまま、帰ったんで、と、届けに来ました」

 

まさか、こんな美人が出てくると思っていなかったヒムは、頬が熱くなるのを感じながら、ハンカチを差し出す。

女性はハンカチをチラッと見てから、ヒムの方を向いた。

 

「そう…今度は、あなたなの……」

 

「え……」

 

女性の黒い瞳と眼が合った。ヒムは、その瞳に吸い込まれていくような感覚にとらわれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、坊主、こんなとこで寝てたら、風邪ひくぞ!」

 

「ッ!?」

 

頬の痛みに眼を開くと、目の前には、毛深いおっさんの顔が合った。

 

「うわッ!」

 

思わず飛びのき、辺りを見回すと、すでに日は沈み、暗くなり、ヒムが寝ていたのは、釣りをしていたあの川だった。

 

「ここの魚は賢くて中々釣れねえから、退屈になって寝ちまうのはわかるけど、気をつけないと風邪ひくだけじゃなくて、熊にくわれんぞ」

 

ガハハと笑ってヒムの肩をたたくと、男は、自分の家の方へと去って行った。

しばらく、その場にいたヒムも、釣り道具を抱えて帰路についた。

その翌年、両親が交通事故で亡くなり、ヒムは母方の祖父母に引き取られ、それ以降、神台村に足を踏み入れることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日から、君達と一緒に勉強する転校生の飛虫コウ(ひちゅうこう)くんだ。仲良くするように」

 

担任の隣立つ少年を見て高校二年になったヒムが最初に思ったのは、ライオンだった。鋭い目と、タテガミを思わせる髪。制服の上からでもわかる体格の良さ、それらが教壇に立つコウという少年に強者の風格を感じさせた。

 

「飛虫コウです。よろしくお願いします」

 

そう言って、教室内を見回したコウの視線とヒムの視線が重なった気がした。その瞬間、ヒムは睨まれた様な気がした。

担任の指示を受け、コウが開いている席に向かう。

 

(俺、あいつになんかしたっけ?)

 

自分よりも後ろの席に行くコウの後姿をチラ見したが、相手も気がついたように振り返ってヒムを見た。

 

(なんで、転校生に目を付けられてんだよ、俺!?)

 

心の中で、絶叫したヒムだった。

いつ、あの転校生にお呼び出しされるか、ビクビクとしていたヒムだったが、そんなこともなく、一日が過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後、掃除で出たゴミをゴミ捨て場に運ぶ為、校舎裏に行こうとした時、ヒムは数人の不良と称される生徒たちに囲まれて歩くコウの姿を見た。

 

「おいおい、マジかよ…」

 

本来ならば教師に知らせるべきだが、好奇心が勝ってしまったヒムは、こっそりと後をつけることを選択した。

コウ達は、校舎の死角となる辺りで立ち止まった。ヒムも、校舎の陰で立ち止まった。

ヒムの位置では、よく聞こえないが、不良たちがコウに難癖をつけているようだ。

 

「どうしたんだ? ヒム」

 

「ッ!? って、脅かすなよ。イノコ」

 

突然、背後から声を掛けられて、跳び上がって振り返ると、友人の月海イノコ(つきかいいのこ)がいた。成績優秀だが、運動音痴な男で何故か、馬が合ってヒムとイノコはよくつるんでいた。

 

「なんだよ。誰かの告白シーンか?」

 

そう言いながら、のぞき込み、そんな色っぽい話じゃ無いことを理解したらしく、青い顔をして振り返った。

 

「おい! これって!?」

 

「シッ! 気付かれるだろ」

 

騒ごうとするイノコの口に手を当てて、黙るようにジェスチャーする。しばらくもがもが言っていたが、大人しくなった為、手を放して、二人揃って裏を覗き込む。

 

「そういえば、転校生が、三年の鈴元をぶちのめしたって噂を聞いたぞ」

 

「鈴元って不良の?」

 

「ああ、だから、報復なんじゃないか?」

 

不良たちが、怒鳴っているが、コウは黙っている。痺れを切らした不良の一人がコウの腹に拳を叩きこんだ。

しかし、痛がっているのは、拳を繰り出した不良の方であり、コウは微動だにしない。

それを皮切りにコウを囲んでいた不良たちが殴る蹴るの暴行を始めた。

 

「やばくないか、これ…」

 

「あ、ああ…」

 

コウは一切反撃することなく一方的に殴られ蹴られ続けた。だが、痛がる仕草もなく、頭部を守る以外は、総ての攻撃を受けるに任せていた。

効果がないことに気がついた不良の一人が懐から、ナイフを取り出した時、ついにコウが動いた。

一瞬で間合いを詰めてナイフを持つ腕を掴んで捻り上げる。痛みで叫ぶ不良の手からナイフがこぼれ落ちる。それを踏んで圧し折り、不良を解放した。

不良たちは、コウに何かを叫ぶと、ヒム達がいる方へと走り出した。二人は慌てて、身を隠す。不良たちが走り去った後、そっと顔をのぞかせると、制服についたほこりを払ってコウが歩き出した。

ヒム達の方に来た為、今来ましたといった体でいると、チラッとヒムを見るだけで何も言わずに去って行った。

 

「なんなんだ、あいつ」

 

「良くわかんないけど、硬派な感じだな」

 

「ああ」

 

コウの後姿を見つめながら、二人は頷き合った。

それから、しばらく、コウが不良たちに呼び出されることが続いたが、一ヶ月もすると、それも無くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「♪~~♪~~」

 

コウが、不良たちのお呼び出しを受けなくなってから、しばらく経ったある金曜日、鼻歌を歌いながら、下駄箱を開けて上履きを取り出すと、下駄箱から、封筒がひらひらと落ちてきた。

 

「ッ!?」

 

それを大急ぎで拾ってカバンの中に隠して、慌てて男子トイレの個室に駆け込んだ。

 

(こ、これはもしかして、あれか!? ラブレターという、伝説のアイテムか!!)

 

恐る恐る封筒を開けて手紙を出す。

女の子っぽい丸っこい字で、「あなたの事が気になって見ていた。どうしても会って話がしたいので、今日、空き教室に来てほしい」と書いてあった。

 

(間違いない……これは、幻と言われたラブレターだ!! ついに俺の時代が来たんだ!!)

 

叫びたくなる気持ちをぐっとこらえ、便器のハンドルに何度も踏みつけてじゃあじゃあと水を流し続ける。

個室から出て手洗い場にある鏡で自分の顔を見ると、だらしなくたれた顔が合った。それを自分の手で整えて格好付けたポーズをとってみる。なんだか、自分が凄くかっこよくなった気がした。

それを飽きることなく、予鈴がなるまで続けてもトイレに誰も来なかったのは、最大の幸運だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒムにとってその日一日の時間の流れがとても遅く感じた。心境はまさに一日千秋だ。

やっと放課後になった時、飛び出したくなる衝動をこらえ、出来るだけ、落ち着いて席を立ち、教室を出ようとした。

 

「ヒム、この間、お前が見たいって言ってたプロレスの試合のビデオ手に入ったんだけど見に来ないか?」

 

「フ、悪いなイノコ、俺は今、そんなことよりも行かなきゃいけない場所があるのさ」

 

そう言って、誘ってきたイノコの肩を叩いて教室から出ていく。

 

「変なヤツ」

 

訳がわからないと肩をすくめるイノコだけが教室に残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

指定された空き教室の前に立ち、ガラスに反射する自分に変なところがないかを確認して深呼吸してから、空き教室に入った。

 

「手紙をくれたのは……あれ?」

 

空き教室には、誰もいなかった。

 

「ちょっと、急ぎ過ぎたか? 放課後としか書いてなかったしなぁ」

 

手ごろな椅子に腰かけて誰かが現れるのを待つ。外から部活をする生徒たちの声が聞こえる。

 

「……もしかして、いたずらだったのか?」

 

ふとそんなことが頭によぎる。一度そう考えてしまうと、もう、止まらない。一体だれが自分をハメたんだと、疑心暗鬼してしまう。

そんな時、扉が開けられた。振り返ると、飛虫コウがいた。

 

「待たせたな…」

 

「お、おまえが、俺を呼んだのか!?」

 

「ああ、俺は、字が汚いから、知り合いに代筆を頼んだ」

 

なるほど、この男があんな女の子っぽい字を書くなんて、悪夢以外何ものでもない。

 

「で、何なんだよ」

 

「……いつまで、正体を隠しているつもりだ? ここで何をたくらんでいる?」

 

敵意全開で睨んでくるコウにヒムは、思わず、後ずさりする。

 

「正体を隠す? たくらむ? 何の話だよ。SF小説の読み過ぎで夢と現実がわかんなくなったのかよ」

 

「あくまでも隠すのか? なら別にかまわない。死ね」

 

手に持っていたカバンを投げ捨て、コウの顔が変化する。顔に筋が走り、顎が割れて虫の口のようになり、眼も大きくなり、赤い複眼となった。額からは二本の触覚が生えて中央に赤い眼の様なものが生まれ、服が内側から破け、肉体は虫を思わせるモノとなり、皮膚も深い緑色へと変わった。

 

「ば、バケモノ!?」

 

「バケモノ? 貴様らが、どの口で!!」

 

驚異的な脚力で、教室の隅から隅まであったはずの距離が一瞬で詰められ、鋭い爪の一撃がふるわれた。ヒムがとっさに回避できたのは、奇跡だった。

 

「ヒィっ」

 

「変身しなければ、死ぬだけだぞ」

 

「何言ってんのかわかんねえよ!!」

 

変身したコウに椅子を振り下ろすが、それよりも速く、コウの手刀がヒムの持っている所から先を斬る。

続けて繰り出された拳に、反射的に自分の前で手をクロスして受け止めた。

そう、受け止めたのだ。

恐る恐る、ヒムは眼を開くと、コウの手とよく似た形に変化した腕があった。

 

「何なんだよ……なんなんだよ、これ!?

あ、あ、ああああ……がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!

 

ヒムの絶叫に反応するかのように服が裂け、両腕から全身が変化していく。コウの深い緑よりも明るい緑の皮膚、鋭い三本の指の手と、脇から左右一本ずつ、二本の腕が生え、額から触覚と青い眼が現れ、複眼の色はオレンジ。

 

「それが、おまえの姿か…」

 

「GGGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

絶叫と共にヒムがコウに襲いかかる。鋭い二本の腕を避け、拳を繰り出すが、脇から生えたもう一組の腕がその手を掴んだ。

 

「何っ!? グハッ!」

 

腕を引こうとするが、掴まれた腕はビクともせず、止まった一瞬の隙を突かれてコウは殴り飛ばされた。いくつもの机と椅子をなぎ倒して、転がり、身体を起こしたコウが見たのは、手当たり次第に爪を振り回すヒムの姿だった。

 

「GUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!!」

 

「…暴走している? 脳の強化を受けていないのか? だったら!」

 

ヒムが背を向けた瞬間に跳びかかり、四本の腕を抑え込んだ。

 

(クソ、なんてパワーしてんだ! 振りほどかれないようにするだけで精一杯だ!)

 

コウの額にある第三の眼が点滅する。

それに合わせてヒムはより一層暴れるが、しばらくすると青い第三の眼がコウの点滅する眼と同じように点滅し、段々と大人しくなった。

暴れなくなったのを確認してコウがゆっくりと離れる。

 

「ったく、敵の構成員かと思ったら、不良品かよ……」

 

「……お、俺は…」

 

腰をおろして、ため息をついたコウは、ゆっくりと起きあがったヒムに舌打ちする。

 

「質問だ。おまえの名前は?」

 

「き、王白ヒム」

 

「歳は?」

 

「16」

 

「性別は?」

 

「男」

 

「家族は?」

 

「両親は、交通事故で死んで、今は、ばあちゃんたちと一緒に住んでる」

 

「最後だ。おまえはどこで改造された?」

 

「かい、ぞう?」

 

「そうだよ、今のお前の姿は、どこで改造されたんだ?」

 

そう言って、近くに落ちていたガラス片を床に滑らせてヒムに投げた。

ヒムの前で止まったガラス片には、バッタを思わせる怪物になったヒムの姿が映っていた。

 

「な、なんじゃこりゃ!? うわ、手が四つある!? な、何!? 何これ!?」

 

「知らなかったのか…」

 

「し、知らねえよ!! 何なんだよこれは!!」

 

「……本当に知らないみたいだな。とりあえず、戻れよ。説明はそれからだ」

 

そう言うと、コウの身体が、先ほどの逆再生のように人間の姿へと変わっていく。全裸のコウは、最初に投げ捨てたカバンから新しい制服を取り出して着替える。

その様子を呆然と見つめているヒムに気がついたコウは、少し考えてから、聞く。

 

「もしかして、戻り方がわからないのか?」

 

コクコクとヒムが頷くと、コウは、大きくため息をついて。頭だけ、再び変身した。

 

「俺のテレパシーで導いてやるよ」

 

コウの第三の眼が点滅し、ヒムの第三眼も同じように点滅する。そして、ヒムの身体が、段々と、人間の物へと戻っていく。

 

「服もねえんだろ? とりあえず、これ着とけ」

 

そう言って投げつけられたジャージに大人しく袖を通す。

 

「じゃ、帰るぞ」

 

「え?」

 

「こんなところにいたら、何言われるか、わかんないだろ」

 

言われて周囲を見回すと、チェーンソーでも使って暴れたかのような無数の傷と、拉げた机といすがあった。

ヒムはコウに促されるままに学校を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校からほどなく離れた廃ビルの中に二人はいた。

 

「なんで、こんなところに…」

 

「仕方ないだろう。家に連れて帰って、てめえが暴走したら、こっちが迷惑なんだよ」

 

埃っぽい床にどっかりと腰を下ろしたコウに続いてヒムも腰を下ろす。

 

「で、説明してくれるんだろう?」

 

「ああ、まず、この世界には、悪の秘密結社みたいなもんがいる」

 

「みたいなもん?」

 

「俺も良くわかっていない。そんな組織が存在しているけど、名前や目的なんかは分からない。

んで、その組織は、人間を改造する技術がある。それによって改造されたのが、おまえや俺みたいな改造人間だ」

 

「改造人間…」

 

「その組織が改造した存在に付けた名称だ。そして、その改造人間には、段階がある。

第一段階は、肉体の改造。肉体と神経を強化して変異した肉体にならしていく段階らしい。

第二段階は、脳の強化。第一段階の肉体を完璧に使いこなせるように強化し、第一段階でならした神経と脳を接続させる段階だそうだ。

そして第三段階、脳を改造して、組織に絶対的な忠誠心を持つようにする。

俺は、第二段階の際に俺の改造ベースとなったバッタの統制である超能力のおかげで、逃げ出すことが出来た。

その時に手に入れた資料からある程度だが、知識が手に入った」

 

「お、俺は?」

 

「さぁな。

でも、変身できることも知らなかったみたいだし、変身時に暴走したってことは、第一段階だったってことじゃないのか?」

 

不安そうに聞くヒムに俺が知るかよと言いたげな投げやりな返答をした。

 

「俺、何時の間に改造なんて……」

 

「施設にいたとか、無いのか?」

 

「ないよ…」

 

「どういうことだ? 肉体改造だけしてポイ、なんてするのか?」

 

「でも、どうして、俺が改造人間だって思ったんだ?」

 

「さっき言ったように俺には、バッタの超能力が備わっている。で、俺のテレパシーの領域に、テレパシー垂れ流しのおまえが引っかかったんだよ。

連中が何か企んでいるのかと思ったら…」

 

「な、なるほど…

そういえば、この身体って、もとの人間に戻るのか!?」

 

「ムリだろ」

 

すがるように聞くヒムにあっさりとコウは首を振った。

 

「人間に必要な部分を抜き取られてんだぞ。それを入れ直したとしても、たぶんできないんじゃないか? 専門的なことは知らんが」

 

「そんな……飛虫は、戻りたくないのかよ!?」

 

「それ以前に、こんなことしてくれた糞どもをぶっ潰さねえと気がすまねえ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「で、おまえ、これからどうするんだ?」

 

「どうするって?」

 

「そんなふうになれることがわかった。まぁ、俺の勘違いっていうのもあったけど、普通に暮らすなんて無理だろ」

 

「あ……」

 

「まぁ、急に言われても、すぐにはこたえなんてでねえわな。

ゆっくり考えろ」

 

そう言うと立ち上がって、コウは廃ビルから出ていく。慌ててヒムも追いかけたが、外に出ると、すでにコウの姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




自身が、改造人間という人ならざるモノであったことを知った王白ヒム。
動き出した時計の針は、彼の心を置き去りに物語を進めていく。
現れた敵にヒムは、コウと共に戦場に立つ。

次回 Double Guardian 第二話「共闘」


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第二話 「共闘」

 

 

 

制服をなくして帰ってきた孫を祖父母は、優しく迎えた。

変身してしまった数日、特になにもなく過ごしていた。何かに触れる時、ふとした瞬間、あの力が出るんじゃないかと、恐る恐るになってしまう。

教室でチラチラとコウを見るが、コウは気にした様子もなく、普通に過ごしているように見えた。

 

「今日から教育実習の先生が来ることになった。なんでも、書類のミスがあって学校も今日になって急にわかったんだ」

 

担任は困ったようにそう言うと、細身の男性が入ってきた。男性がイケメンであった為、女子たちが歓声を上げた。

 

尢鳥キョウ(おおとりきょう)です。教科は数学です。宜しくお願いします」

 

爽やかな笑みに女子たちの喜びの悲鳴が沸き起こる。

コウは面倒臭そうに顔をしかめ、ヒムは言いようのない不安を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暦の上でも夏となり、むしむしとする暑さに多くの生徒たちが、体育のプールの時間だけを心のよりどころにして授業を受ける季節に入り、目の前に迫った期末試験と、それで赤点を取った際の夏休み返上で行われる勉強会と追試におびえる時期となった。

 

「王白くん」

 

「あ、はい! 尢鳥先生、なんスか?」

 

「ちょっと、放課後、手伝ってほしい事があるんだ」

 

多くの生徒の類に漏れず、勉強会と追試におびえ、英単語帳とにらめっこしていたヒムに、キョウが声を掛けた。

 

「来週が実習最後だからね。ちょっと、サプライズをしようと思っているんだ。その準備を手伝ってほしいんだけど、ダメかな? ジュースくらいならおごるから」

 

申し訳なさそうに言うキョウにヒムは少し考えてから、頷いた。

 

「了解ッス」

 

「じゃあ、部活を見なくちゃいけないから、17時過ぎに進路指導室に来てくれ」

 

「はぁい!」

 

「じゃあ、僕はもう2.3人に声を掛けてくるから」

 

ヒムは、どうやって放課後の時間をつぶすか考えながら、キョウを見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「尢鳥先生が声を掛けたのってお前らかよ」

 

「ま、暇だったしね」

 

「……」

 

キョウに指定された時間に3階にある進路指導室の前に集まったメンバーを見て、ヒムは顔をしかめた。集められたのは、イノコとコウだった。

運痴のイノコでは、正直、足手まとい以外何物でもないし、コウと同じ空間にはあまりいたくない。

 

(尢鳥先生! この面子、お駄賃がジュースだけじゃ、割に合わないッスよ! せめてお菓子もつけてください!)

 

心の中で嘆き、進路指導室に入った。すでにキョウがいた。

だが、キョウの言っていたサプライズに使うような物など何もなかった。

 

「尢鳥先生?」

 

「やぁ、待ってたよ。半端者くんたち」

 

キョウの声は、実習中、教室で聞いていたさわやかな感じではなく、どろっとしたどす黒いものを感じさせた。

コウが、ヒムやイノコを押しのけて前に出た。

 

「途中半端に改造されて、しかも、組織にケンカを売ろうなど……片腹痛いわ!!」

 

キョウの身体が膨れ上がり、服が裂けて背中から大きな翼が生え、体中が羽毛に覆われ、口が嘴に変化する。両手が鋭い爪に変わる。

 

「ヒイイイ!! バ、バケモノ!!」

 

イノコが目を見開いて叫んだ。

 

「死ね!!」

 

翼を大きく羽ばたかせ、羽を飛ばした。羽が着弾した机に深々と突き刺さった様子から、その威力が伺える。

変身したコウが両手を前に突き出すと、羽は見えない壁にぶつかったように止まって床に落ちた。

 

「ほお、サイコバリアか。飛虫くん、中々、訓練を積んでいる様じゃないか」

 

再び、羽手裏剣を放とうとするが、それよりも早くコウは間合いを詰めて必殺の貫手を放つ。

 

「「ッチィ!」」

 

ギリギリで回避運動を取られ、脇腹を浅く切り裂いた。

コウは、今の一撃で仕留められなかったことに、キョウは、反撃をされたことに舌打ちをした。

キョウも鋭い爪を振り落すが、そのときすでにコウは爪の間合いの外へと逃げていた。

 

「飛び跳ねるしか能の無い虫の分際で! よくも!!」

 

キョウは、羽ばたいて外へと飛び出した。

 

「おまえたち、逃げろ!」

 

コウが背後にいる二人にどなりつける。

 

「あ、ああ! イノコ、逃げるぞ!!」

 

「ご、ごめん……こ、腰が抜けて立てない」

 

座り込んでいるイノコの手を引っ張るが、脱力している人間の体は、普段以上に重く、動かない。

 

「そら、ハチの巣になってしまえ!!」

 

「クソ!」

 

再び放たれた羽手裏剣をコウがサイコバリアで防ぐ。

 

「おや、飛虫くん、さきほどより、バリアのサイズが小さくなっているんじゃないかな?」

 

たしかに、先ほどよりも、羽が近くに刺さっている。

 

「「うわあああ!!」」

 

「くぅ…」

 

「そらそら、ちゃんとバリアを張らないと、お友達が死んでしまうぞ!」

 

休む間もなく、羽手裏剣が放たれる。段々と、受け止められる範囲が狭まっていく中、コウは、拳を床に叩き込んだ。その攻撃で床が抜けた。

 

「お、お助けえええ!!」

 

「わああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「飛虫、助かったよ… イノコ、大丈夫か?」

 

「あ、ああ、なんとか……」

 

「まったく、世話がかかる…」

 

床が抜けて落ちる中、背中に羽手裏剣を受けながら、コウが二人を抱えて着地したおかげでヒムとイノコは無事だった。

 

「おまえたちは、このまま、隠れていろ」

 

「勝てるのか?」

 

イノコが不安げにコウに聞くが、コウは首を振った。

 

「わからん。さすがにあの高さには届かないが、何とかする」

 

「飛虫、俺も戦う!」

 

「いらん。ってか、お前は自分で変身もできないだろ」

 

ヒムが身を乗り出すが、即座に却下された。

 

「前みたいに、お前に手伝ってもらえば…」

 

「……わかった。今は、猫の手でも借りたい」

 

コウの第三の眼が点滅する。それに合わせてヒムの身体が変化していく。

 

「ヒ、ヒム、おまえ……」

 

「悪いな、イノコ。実は、俺もバケモノだったんだ」

 

眼を見開いてヒムを見つめるイノコに頭を下げた。

 

「……俺が、精神を支えているから、暴走もなさそうだな」

 

「あ、うん。大丈夫だ」

 

「少しでも、違和感があったら言え。すぐに気絶させるから」

 

「助けてくれないのかよ!」

 

「気絶させてやるんだから助けだろ」

 

背中に刺さった羽を抜いてコウが立ち上がり、跳んだ。慌ててヒムも追いかけて跳ぶ。

2階から3階へ上がり、そこからさらに跳んで屋上へと出る。

 

「ほお、王白くんも変身したのか。だが、虫けらが一匹増えた所で! このイーグルに勝てるものか!!」

 

放たれた羽手裏剣を二人は左右に分かれてかわす。そして、ヒムは、落ちていた物を拾ってイーグルに向かって投げつける。

プロ野球のピッチャーが投げる剛速球よりも速いまさに弾丸となって飛んでいくが、イーグルは、それを軽々とかわす。

 

「中々可愛い反撃じゃないか」

 

(腕力だけで、あの速さかよ!)

 

コウは、ヒムの攻撃を見て、眼を見開く。そして、以前、暴走したヒムとの事を思い出した。

 

(確かに、あいつは、力があった……それを使えば…

ダメだ、後一手足りない)

 

羽手裏剣をかわしながら、4本の手で次々と石や瓦礫を投げつけるを横目で見ながら、コウも石を拾い投射した。

ヒムの攻撃に意識を向けていたイーグルは、コウの投げた石に反応が遅れて顔をかすめた。

 

(ッ! そうか!!)

 

『王白! 作戦がある、聞け!』

 

『うわッ! 何だこれ!?』

 

『テレパシーによる通信だ。とりあえず、手を休めずに黙って聞け!』

 

『わ、わかったよ』

 

『足場になれ』

 

『は?』

 

『俺とお前でジャンプして空中でおまえが俺の足場になる。そして、おまえの脚力と俺の脚力を同時に使ってあいつのところまで跳ぶ』

 

『そんなの、避けられて終りだろ』

 

『大丈夫だ。あいつは、反応できない』

 

『何を根拠に?』

 

『最初、あいつは、俺の攻撃をあれだけの機動力を持っているのに躱し切れなかった。たぶん、動体視力は、そこまで高くない。

あの高さでこちらの様子が見えるくらい眼は良いみたいだが、それにあいつは驕ってる。そこが、付け入る隙だ』

 

『本当に大丈夫なのか?』

 

『ああ、奴の行動がそれを示している。大丈夫だ』

 

「わかったよ! おまえを信じる!!」

 

ヒムがコウに向かって走り出し、コウもヒムに向かって走る。そして、二人同時に跳んだ。

 

「フン、貴様らの様な翼を持たない者が、ここまで届くものか!!」

 

二人が重なる瞬間にイーグルの羽手裏剣が殺到する。

それをコウがサイコバリアで防ぐ間にヒムが身体を180度反転させる。

ヒムの足にコウが乗った瞬間、ヒムがコウを蹴り出し、コウもそれに合わせて跳ぶ。

 

「何いいいぃっ!?」

 

「オオオオオオオオオオオオオオっ!!」

 

ヒムの脚力をプラスしたコウの跳躍の速さにイーグルは、完全に反応できず、繰り出されたコウのキックが腹部に直撃し、身体を引き裂いた。

 

(王白とのテレパシー、他のやつとするときよりも、クリアに聞こえた気がするが…同じバッタだったからか?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

校庭に着地したコウは、もう一度ジャンプして屋上へ上がった。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「ああ、何とか…」

 

コウの大ジャンプの為にヒムは、地上に向かってジャンプしたようなものなのだ。勢いよく屋上に突っ込んだ様で、フラフラとヒムが姿を現した。

 

「戻るぞ」

 

「あ、ああ」

 

校内に戻り、コウに手伝ってもらい、人間の姿に戻ったヒムだったが、頭に手をやった。

 

「ど、どうしよう! 制服、また破いちまった!!」

 

「Nooooo!!」と叫ぶヒムに横からビニールに包まれた制服が差し出された。振り返ると、制服を持ったイノコがいた。

 

「制服、破けてたから、いるかと思って……」

 

「サンキューー!!」

 

ヒムは、喜々として制服を受け取って着るが、ハッとしてイノコの方を向く。

 

「怖くないのか? 俺たちの事……」

 

「怖くないって言ったら、ウソになるけど、助けてくれたんだし、やっぱり、ヒムは大事な友達だし…」

 

「おおお! おまえってやつは!!」

 

恥ずかしそうにそっぽを向くイノコに歓喜極まったヒムが抱きついた。

 

「そ、そう言えば、制服をとりに行った時も、誰とも会わなかったんだけど…」

 

「組織の奴が校舎から、人間を追い出したのさ」

 

「そんなことできるのか?」

 

「一定範囲の人間の脳にここにいたくない、いてはいけないと思わせる脳波を送って追い出したんだ」

 

「まるで超能力だ」

 

「超能力だ。俺たちのテレパシーだって超能力の一環だ」

 

「じゃあ、おまえにも、こんなことが出来るのか?」

 

「俺には無理だ。知り合いに、それが出来る奴はいるがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休みを挟んで登校日、あれだけ、暴れて壊したはずの校舎は元通りになっていた。

ヒムがコウに問うと、コウの仲間が何とかしたとのことだった。

そして放課後、ヒムとコウとイノコの三人は、誰もいなくなった教室にいた。

 

「改造人間とそれを作る秘密結社か…まるで、ヒーロー漫画の世界だ」

 

「生憎と、現実だがな」

 

説明を受けたイノコの感想をコウが鼻で笑った。

 

「ヒム、本当に心当たりはないのか? 不思議な出来事があったとか」

 

「そうだなぁ…」

 

記憶を呼び起こしながら、ヒムは何気なく窓の外へと目を向けた。部活に汗を流す生徒たちと激を飛ばす教師たちの向こう、校門の前を小さな子供が通るのが見えた。

 

(小さな子供……子供?)

 

「あッ! あった! あったぞ、不思議な出来事!」

 

「本当か!?」

 

叫んだヒムにイノコが飛びつく。

そして、神台村であった出来事を話した。

 

「なるほど……確かに、その時に王白が改造された可能性は高いな。

親が死んで、その村に行かなくなったため、第一段階以上の改造がされなかったと…

行ってみる価値はありそうだ」

(だが、その程度の理由で、せっかく改造した王白を手放したのか?)

 

「だよな!」

 

「待ってくれ。

もうすぐ期末試験だし、もし、赤点なんて取ったら、強制参加の勉強会と追試が待ってるんだぞ」

 

「王白、行くのは夏休みになってからだ。保護者に心配をかけるわけにもいかない」

 

「それもあるだろうけど、ヒム、試験大丈夫なのか? 去年、追試メンバーのレギュラーだったけど」

 

「うッ」

 

イノコの指摘にヒムは胸を押さえて膝をついた。

 

「あんまり、褒められた方法じゃないが、テレパシーで助けてやる。赤点をとらない最低限でだけどな」

 

呆れ顔でコウが、そう言うと、ヒムはコウに縋りついた。

 

「本当か!? ありがとう、飛虫さま!!」

 

「ええい、放せ! ったく、今回だけだぞ」

 

「あ、でも、飛虫って勉強出来んの?」

 

「こう見えても、勉強はできる方だ。この学校のレベルなら余裕だ」

 

イノコの言葉に失礼なと、コウはイノコを睨んでから、ハァっと息をついて席を立った。

 

「王白、ついてこい、今後の為に、自力での変身と変身中の意識の確保はできるようになった方が良いからな。特訓するぞ」

 

「了解!」

 

「僕も行くよ」

 

立ち上がったヒムに続いてイノコも立ったが、コウが制した。

 

「いや、来るな。こいつが暴走した時、守れるとは限らない。最悪の場合、死ぬし、王白に友人殺しをさせたいのか?」

 

「イノコ、これって本当に危ないから、な?」

 

「わかったよ。帰るよ。早く、ちゃんと制御できるようになれよ」

 

「オウ!」

 

教室を出ていったイノコを見送り、ヒム達もカバンを手に学校を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以前と同じ廃ビルに二人はやってきた。

 

「で、何すりゃいいんだ?」

 

軽く屈伸をしたりと、準備体操をしながら、コウに聞く。

 

「仲間を呼んでおいた。俺よりも遥かに高い超能力を持っている奴だ」

 

「へぇ」

 

しばらく、そこにいると、不意にコウが視線を扉の方へと向けた。

 

「あら、ホッパー、早かったのね」

 

「ホエール、遅いぞ」

 

いつの間にか、二人よりも年上の女性が立っていた。

 

(すっげぇ美人! そして、何てデカさ!!)

 

薄暗い屋内でも、光っているように見える金髪と白い肌、メガネの奥にある蒼い瞳、そして何よりも眼が行くのは、その大きな胸。

 

「王白、さすがにガン見はどうかと思うぞ」

 

呆れ顔のコウの指摘に、ヒムは慌てて眼をそらす。

 

「中々、面白い子ね」

 

「……ジャミングをかけて近づくな。反射的に殺しそうになったぞ」

 

「それは怖いわねぇ」

 

クスクスと笑ってから、ホエールと呼ばれた女性がヒムの方を向いた。ヒムは、慌てて立ち上がった。

 

「は、はじめまして、王白ヒムです。よろしくお願いします!」

 

「あら、元気ね。私は、ミヤコ・パイシーズよ」

 

「あれ? でも、飛虫がホエールって……」

 

「それは、改造された時につけられる名前よ。まぁ、丁度いいから、コードネームみたいに使っているんだけどね」

 

「それで、バッタに変身する飛虫がホッパーなのか。

あ、じゃあ、パイシーズさんも?」

 

「改造人間よ。私は、クジラの特性を与えられた。でも、能力だけで、外見的な変化はないんだけどね。それと、ミヤコでいいわ」

 

「なら、俺もヒムで」

 

差し出されたミヤコの手を掴み、握手を交わす。

 

「ヒムくんもそこのと同じ、バッタなのよね?

じゃあ、ホッパーがホッパー・アインス。ヒムくんがホッパー・ツヴァイね」

 

良いことを思いついたと言わんばかりに、ミヤコが言う。

コウは、どうでもよさげに、息を吐いた。

 

「なんで、ドイツ語なんだよ……

そんなことよりも、さっさと始めるぞ。時間を無駄遣いしている暇なんて無いんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王白、服は全部脱どけよ。一々破いていたら、金がいくらあってもたんねえしな」

 

「あ、確かに…って、ミヤコさんがいるのに、マッパになんてなれるか!」

 

コウに言われるがままに服を脱ごうとして、ここ女性もいることを思い出し、ツッコミを入れた。

 

「あ、気にしなくていいわ。男の子の裸なんてよく見てるし」

 

「こいつ、こんなでも医師免許を持っててな」

 

ニコニコしているミヤコの言葉足りない部分をコウが補足する。

だからと言って、はいそうですかと脱げるわけがない。

相手が、恰幅の良いおばちゃんとかなら、平気だったかもしれないが、どっからどう見ても美女であるミヤコの前で全裸になる勇気は、ヒムには無かった。

仕方ないとコウが妥協案で、腰に巻くタオルを用意した。コウにしてみれば、これ以上、くだらないことで、無駄に時間を使いたくはなかったのだ。

 

「はい、脱げたところで、これからやることを説明するわ。簡単に言うと、私が、王白くんの精神に働きかけて擬似的に第二段階まで引き上げます。

その状態に慣れてもらうと同時に超能力の訓練をして自分でその状態にできるようになってもらうわ」

 

「そんなことできるんですか?」

 

「さっき言ったようにホエールは、脳の強化に批准が置かれた改造人間だ。その為、俺たちみたいな化物の姿に変化することはないが、高い超能力を持っている。

俺とおまえが、あのワシ野郎と戦った時、大分ボロボロにした校舎が綺麗に直っていただろう? あれは、ホエールが超能力を使ってその手の職の人間を操って直させたんだよ。

それに変だと思わなかったのか? あの時、あれだけ大暴れしていたのに誰も見に来なかった事とか」

 

「そういえば…」

 

イーグルと戦っていた時、そればかりに意識が向いていて気が付かなかったが、よくよく考えてみれば、校舎が壊れる音とがだいぶ大きな音であったはずなのに、誰も現れたり、悲鳴が聞こえるということはなかった。

 

「あれはたぶん、向こうにもホエールみたいなやつがいて、事前に人払いしていたんだろうな」

 

「なるほど…」

 

「納得したみたいだな。ホエール、後は任せた」

 

「ええ、任せて」

 

ミヤコがヒムの前まで歩み寄り、両手で頭を押さえて顔を近づけながら、眼を閉じる。

 

「え? ちょっと、これって!?」

 

近づいてくるミヤコの唇に真っ赤になりながら、ヒムも目を閉じる。だが、想像したような柔らかい感触は、口にはこず、額にコツンと何か当たった感触があった。

 

「あれ?」

 

恐る恐る目を開けると、目の前にミヤコの顔が合った額に当たったのは、ミヤコの額だったのだ。

 

「ちゃんと集中して。あなたがホッパーと同じなら、きっと超能力も使えるわ」

 

「それってどういう意味?」

 

「ホッパーは肉体をメインに改造されたのに、超能力も使える珍しいタイプなの」

 

「へぇ」

 

「話は、ここまで、集中して」

 

「え、あっ、すみません…」

 

「テレパシーの送受信は、額なの。その部分を直接あわせるのが、効果的なの」

 

コウは、あたふたしているヒムに同情の視線を向ける。

女性にあまり免疫のないヒムには、絶世という言葉が付きそうな美女であるミヤコにあれだけ近くにいられて集中しろとは、拷問の様なものだ。その事態を招いた身でありながらも、がんばれと他人事のように思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッチィ、途中まで追えたのに、ジャミングされた! バッタどもめ!

……いや、待てよ。こんなことができるってことは、奴らの味方に超能力特化型がいるということか、これはこれで情報として価値がありそうだな」

 

 

 

 

 




訓練を終え、自分の意思で変身することができるようになったヒム。
ついに神台村に旅立つ。
だが、組織は、黙って旅をさせたりはしなかった。
送り込まれた刺客に苦戦を強いられる二人の取った策とは?

次回 Double Guardian 第三話「旅路」


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第三話 「旅路」

「ヨッシャ! 全科目、赤点回避!!」

 

「まさか、全科目、俺頼りとは……」

 

ガッツポーズをしているヒムの横でコウが、呆れたもんだとため息をつく。

ついでにコウは、本当にヒムに赤点をとらないギリギリのラインのカンニングしかさせなかった。

後々、ヒムの答案用紙を覗くと、選択問題をまぐれ当たりして2.3点プラスさせている以外、コウの教えた答えの場所しか正解していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終業式が終わった翌日、ヒムとイノコは、コウに「村へ行く準備が出来た」と呼び出された。

呼びだされた場所へ行くと、ライダースーツを着たコウが待っていた。そのすぐそばには、荷物が括りつけられたバイクが二台止められており、そのうち一台にはサイドカーが取り付けられていた。

 

「調べてみたら、村までは結構距離があって、大体2.3日はかかるから、その間の荷物も用意した」

 

「でも、バイクなんて乗れる?」

 

「王白に、変身の訓練と並行してバイクも乗れるように訓練したから、大丈夫だ。

王白、これに着替えろ」

 

「え? なんで?」

 

「変身する度に服を破いていたら、服を何着用意すればいいか、わからんだろうが、だから、仲間に頼んで、これを用意してもらった。これなら、変身しても破れる心配はない。おまえ様に変身後の腕の分もちゃんとつけてある」

 

コウは、ライダースーツを広げて見せた。確かに、脇のところに袖の様なものが付けられていた。普通に着る分にも、飾りのように見えて、違和感はなかった。

 

「おお、カッケぇ!」

 

早速、ヒムは、服を着替えに、物陰に入って行った。しばらくすると、ライダースーツを身につけて戻ってきた。

コウは、二人にヘルメットを投げて渡す。ヒムがバイクに跨り、その後ろにイノコが乗ろうとしたが、コウがイノコの襟首を掴んで止める。

 

「おまえは、こっちだ」

 

「どうして?」

 

「王白の運転は粗い。あいつはコケても大丈夫だが、おまえ、あいつの巻き添え食らって紅葉卸になってもいいのか?」

 

「……飛虫さん、よろしくお願いします」

 

イノコは、そそくさとサイドカーに乗り込んだ。

コウもバイクに跨ると、エンジンをかけ、バイクを発進させた。その後をヒムが追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二台のバイクが走り去る姿を遠くのビルの上から、一組の男女が見つけていた。

にやりと笑ってトランシーバーを手に持った。

 

「このカメレオンと…」

 

「スパイダーにお任せください。組織に逆らう者たちを地獄へ送って見せます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コウが言った通り、ヒムの運転は荒く、何度か転倒しかける姿もあった。それを見る度にヒムの後ろに乗らなくて良かったとイノコは思うのだった。

そして、途中で休憩をはさみながら、走り続け、暗くなる頃、三人は森の中にいた。

 

「今日はここで寝るぞ」

 

「「ええ!?」」

 

「宿泊施設だと、金がかかる。万が一敵に襲われたら、周りの迷惑になる。ここなら、もし、襲われても好きなだけ暴れられる。

王白、向こうに川があるみたいだから、水をくんでこい」

 

コウは、荷物の中からバケツを取り出してヒムに投げて、森の奥を指差した。

ヒムはバケツをキャッチすると、指差された先を見る。

 

「なんか出そうなんだけど……

ペットボトルあるんだから、それ使えばいいじゃん」

 

「これは飲み水。おまえが汲んで来るのは、火の始末とかに使う分だ」

 

「あ、なるほど。でも、暗くて見えねえよ」

 

まだ日は落ち切っていないが、森は暗かった。

 

「改造人間なんだから、大抵のことは何とかできる。目を強化すれば、暗視が出来る。大丈夫だ」

 

「本当かよ……本当だ、良く見える!」

 

コウの言う通りにしてみると確かに、真っ暗だったはずの森の中が、見えるようになった。

ヒムが歩いていくのを見送り、コウは手早くテントを立てると、荷物の中から食材を取り出して、料理を始めた。

 

「へぇ、なかなか、上手なんだな」

 

「やっていれば自然と慣れる」

 

感心したように眺めるイノコに目を向けることなく、食事の準備を続けるコウの手が不意に止まった。

道路の方を見ると、そこには、コウたちが乗ってきたバイクのそばに一台のサイドカーが止った。

 

「……」

 

「なんだよ。あの人がどうかした?」

 

「……」

 

コウは、手に持っていた包丁と食材を置き、サイドカーから降りてこちらに向かってくる男の方へと歩き出した。

 

「お、おい!」

 

「下がってろ」

 

止めようと声をかけてくるイノコにそう声をかける間近に迫った男に視線を向ける。

 

「どうしました?」

 

「いや、火が見えたから、気になってね」

 

「友人たちと夏休みを利用して旅をしているんですよ」

 

普段のコウからは想像できないような、優等生のような受け答えをイノコは吹き出しそうになるのを必死にこらえていた。

その気配を感じ取ったコウは、秘かに後で殴ってやると決意した。

 

「飯の準備の途中なので…」

 

「まだいいじゃないか、どうせ、食べることなんてできないんだし、な!」

 

男の顔が一瞬で異形に替わり、口から何かを吐いた。

 

「ッ、やっぱりか!!」

 

とっさに横に跳んでそれを回避したコウは、すぐに変身して、敵に飛び掛かるが、それよりも早く、全身をクモの異形へと変えた男は、手から糸を出すと、それを使って木の上に跳びあがり、コウの攻撃を避けた。

 

「クモか、めんどくさそうだな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、何がすぐだよ。結構歩くじゃないか」

 

ブツブツと文句を言いながら、ヒムは水を汲んで帰ろうとした。

 

「ねぇ、ちょっとそこのカッコイイボク?」

 

振り返ると、ライダースーツを着た女が立っていた。

 

「はい? うわっ、すげっ!」

 

ミヤコを上回るであろう、圧倒的な胸囲に思わず、声を上げた。

 

「うわぁ……」

 

だが、そのまま視線を上にあげて、ベタベタに塗りたぐられた厚化粧に思わず、声のトーンが下がった。

 

「失礼なガキね。こっちだって、好きで厚化粧してんじゃないのよ。お肌のノリが悪くてしょうがないのよ」

 

不快そうにつぶやく女の顔から化粧が剥がれ落ちていく。

 

「まぁ、気に入らない方がいいんだけどね。

殺っても心が痛まないし、ね!」

 

「うわっ!?」

 

口が裂けて口の中から何かが飛び出してきた。咄嗟に両腕を変化させて防御したことで身を守ることができたが、衝撃で、吹っ飛ばされた。

 

「いってぇ…やろぉ!」

 

「あたしは、野郎じゃないわよ」

 

顔が完全にカメレオンに変化した女は、肥大化した体がライダースーツを破き、木に飛び乗った。

 

「これでも喰らいやがれ!」

 

ヒムも完全に変化すると、近くにあった石を全力投球する。しかし、カメレオンは、それを軽々と躱す。

そして、身体の色を周囲と同化させた。

 

「き、消えた!?」

 

それは、保護色などというレベルではなく、完全なる同化、透明になってしまったんじゃないかとさえ思えた。

 

「ほぉら、ぼさっとしてんじゃないわよ!」

 

「ぐおぉっ!?」

 

どこからともなく飛んできた攻撃が脇腹を直撃し、木に叩きつけられた。

痛みに呻きながらも、体を起こしたヒムはじっとしていたら、ただの的になると判断して走り出した。

 

「逃がさないわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コウは、木々を足場にして跳び回り、拾った石を投げつける。だが、スパイダーは、それを糸の盾で防ぎ、糸を吐いてくる。それを躱し、接近戦を試みるが、糸の弾幕に阻まれる。

 

「クソっ! っ!?」

 

糸を回避し着地した瞬間、足元に違和感を感じた。スパイダーの糸を踏んでいた。

放たれる糸を避ける為に跳ぼうとするも、糸の粘着力の前に思うように飛べず、とっさに左腕でガードしたが、糸によって左腕が胸にくっついてしまい、動かせなくなってしまった。

 

「これで、自慢の足と、腕が一本使えなくなったわけだ」

 

「まだだ!」

 

強引に地面を蹴り、糸と糸がくっついた地面ごと跳んだ。

 

「ほぉ、なかなか頑張るじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらほら、逃げろ逃げろ!」

 

「クッソぉ」

 

ヒムは、ひたすら走っていた。敵の位置がわからない。

ワザと攻撃されて位置を特定して攻撃を仕掛けてもその時すでに敵はいなくなっていたり、攻撃に使われる舌を捕まえようとするも、早すぎてつかめない。

ヒムは、何かに導かれるように駆け抜けていく。この方向に進めば、必ず、現状を打開することができる。

ヒムは無意識のうちに、何故か、そう確信していた。

そして、不意に、目の前に飛んできたモノとぶつかった。

 

「いってぇ……って、飛虫」

 

「変身しているってことは、お前の方にも敵が来ていたのか」

 

「やっぱり? どういうことだよ?」

 

「俺のところに来た敵が、誰も何も乗せていないサイドカーに乗っていたから、そう、予想していたが……ッチ、追いついてきたか」

 

コウが睨む方を見ると、そこにはスパイダーの姿があった。

 

「合流したか。だが、雑魚が集まったところで!」

 

吐き出された糸をヒムは咄嗟に跳んで躱すが、コウは反応が遅れて唯一残っていた足にまで糸を浴びてしまった。

 

「何やってんだよ! んなもん!」

 

身動きが取れなくなったコウに駆け寄り、糸をたやすく引き千切った。

 

(俺の力じゃ、どうやっても引き千切れなかった糸をこうもたやすく……)

「伏せろ!!」

 

「どわぁっ!?」

 

自由になったコウは、ヒムの身体を掴むと、地面に叩きつけた。その直後、二人の頭があった場所を、カメレオンの舌が通過した。

 

(飛虫のやつ、見えてんのか!?)

 

「へぇ、良く躱したわねぇ」

 

姿を現したカメレオンがギョロッとした目で二人をとらえて、ニタリと笑った。

 

「おい、王白」

 

「なぁ、飛虫」

 

「「相手代えないか?」」

 

二人とも同じことを考えていたらしい。

二人ともそれ以上何も言わず、ヒムはスパイダーに、コウはカメレオンに、それぞれ飛び掛かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラァッ!!」

 

「なっ、こいつ、糸を!?」

 

吐き出した糸を両腕で受け止め、そのまま引き千切り、脇から生えた第三第四の腕で、殴りかかる。

すぐに糸を出して、進行を妨害しようとするが、四本の腕でたやすく引き千切り、スパイダーの顔面に拳を叩き込んだ。

 

「げはぁっ!?」

 

「まだまだぁっ!!」

 

連続で繰り出されるヒムの拳がスパイダーの身体に突き刺さる。

殴られた勢いで、木から転落したスパイダーを追って飛び降りたヒムに向かってスパイダーは、両手と口から糸を出して、ヒムの全身を拘束する。

 

「死ねぇ!!」

 

そのまま地面に向かって叩きつけようとする。

 

「うざってぇ!!」

 

だが、ヒムは、それを力任せに破り、着地すると、スパイダーとつながっている糸を左手二本で掴み、引っ張った。

 

「よいしょっ!」

 

「うおおっ!?」

 

堪えようとしたスパイダーだったが、純粋な力ではヒムに敵わず、引き寄せられ、二つある右拳を顔面と腹部に叩き込まれ、吹っ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カメレオンは、保護色で姿を消して、コウに攻撃を仕掛けるも、コウは、危なげなくカメレオンの攻撃を回避して見せた。それだけにはとどまらず、コウは迷うことなくカメレオンに向かって跳び、蹴りを繰り出した。

咄嗟に躱すことができたが、カメレオンは驚愕していた。

 

「何故、私の居場所が!? まさか、見えているとでもいうの!?」

 

「いや、見えねえけど、テレパシーで感知できる。そこだ」

 

木を足場にして跳んだコウの放ったパンチが直撃したカメレオンが吹っ飛ばされる。

 

「ぎゃあぁっ!?」

 

殴り飛ばされた先には、同じように殴り飛ばされたスパイダーとぶつかった。

 

「グハッ」

 

「あぐっ」

 

しかも、スパイダーの糸が絡まり、身動きが取れなくなってしまった。

 

「は、離れろ!」

 

「あんたの糸でしょ、あんたが何とかしなさいよ!」

 

「行くぞ、王白!!」

 

「オウよ!!」

 

コウとヒムは同時に飛び、二体に必殺の跳び蹴りを叩き込み、貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

死んだ二体をヒムは、黙って見つめていた。

 

「殺さなくても良かったんじゃないか? 助ける方法があったんじゃないか? ってことろか?」

 

「ッ!」

 

コウに自分の思いを言い当てられてヒムは顔を上げた。

 

「どうしてわかるのかって? てめぇから、そういう電波が出てるんだよ。

言っておくが、不可能だ。

こいつらは第三段階…つまり、脳改造を受けた改造人間だ。

そこまで改造された奴を直すなんて、少なくとも、俺は方法を知らない」

 

「……飛虫は何も思わないのか?」

 

口にしてから、酷い質問をしたと思った。

コウという男は悪ぶっているが、けっして嫌なやつじゃないことは、この短い付き合いでもよくわかっている。

そんなコウは、前に学校でイーグルを躊躇なく殺し、今も無我夢中で戦った結果、殺してしまった自分と違い、間違いなく殺すつもりで戦い、実際に殺した。自分と会う前から戦ってきたコウは、きっと、もっとたくさんの改造人間を殺してきたはずだ。

 

「考えてもしょうがないと諦めたのが半分。これが俺にできる救いなんだと思うようになったのが、半分だ」

 

「救い?」

 

コウの言っていることが分からず、聞き返した。

 

「中には望んでなったやつもいるかもしれない。でも、俺やお前みたいに勝手に改造された奴もいる。

人を傷つけたいと思っている奴は多くない。そう思っている奴でも、改造されれば、それをするようになっちまう。

本当は望んでないことをやらされる。そういうやつを救っているんだって思えば……」

 

コウは、自分の手を見つめてそう言った。

ヒムにはわからなかったが、コウには、見つめた自分の手が拭ってもぬぐいきれないくらい紅く血に染まって見えた。

 

 

 

 

 

 




ついにたどり着いた神台村。
村の様子はおかしい。
警戒する三人に、組織の罠が襲い掛かる。

次回 Double Guardian 第四話 「分断」


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第四話 「分断」

野営しようとしていた場所に戻ると、イノコが待っていた。

 

「良かった無事だったんだな!」

 

「おう!」

 

先ほどまで暗い表情をしていたヒムだったが、イノコの元に戻ったころには、いつもの明るい表情に戻っていた。

それがカラ元気だと、コウはわかっていたが、あえて何も言わなかった。

 

「あ~、腹減った! コウ、飯まだ?」

 

「あいつらが来て、飯の準備どころじゃなくなったんだよ。すぐ作ってやるから、お前も、もう一度、水汲みに行ってこい」

 

ヒムが自分のことをファーストネームで呼んだことについては触れず、命令を出した。

 

「ええ~」

 

「……」

 

不満げな声を上げるヒムだったが、コウの無言の圧力に屈して再び水汲みに向かった。

 

「いつの間に仲良くなったのさ」

 

「知るか」

 

ヒムが見えなくなると、イノコが喜々としてコウに話しかけてきたが、コウはそれをバッサリと切り捨てて調理を開始した。

 

「僕もコウって呼んでいい?」

 

「やめろ」

 

料理の手を止めずにイノコを睨みつける。

 

「ヒムだけずるくない?」

 

「……」

 

それ以上、コウは返事をすることなく料理を作り、ヒムが返ってきたころには、食欲をそそる薫りが漂っていた。

 

「ったく、バケツ探すのに、時間かかった! なんかいいにおいがする! マジで腹減った!!」

 

「どんだけ欲望に正直なんだよ…」

 

喚きながら戻ってきたヒムに、コウとイノコはため息をついた。

それから、コウは作った料理をよそって二人に振る舞う。

 

「「うまっ!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日からも、バイクで走り続けた三人は、スパイダーとカメレオンの襲撃以降、襲われることもなく、ついに神台村にたどり着いた。

そこは、ヒムの記憶にある村と変わらず、時代に取り残されたような畑と森のある誰もが想像するような田舎の村だった。

 

「ふぅ、ようやくついたな!」

 

「疲れたぁ…」

 

バイクから降りて凝り固まった体をほぐすヒムやイノコ。

バイクにまたがったままだが、コウも大きく息を吐いた。それから村全体を見回し、違和感を覚えた。

それが何なのか、思考を巡らせる。

もう一度、村を見回してから、コウはバイクのアクセルを吹かして村に爆音を響かせた。

 

「うわっ! コウ、どうしたんだよ?」

 

「誰も出てこない……」

 

「え?」

 

コウの言葉にヒムもイノコも村を見回す。

コウがもう一度、アクセルを吹かすも、やはり誰も出てこない。

 

「急にバイクが入ってきて、警戒されちゃったのか?」

 

「それなら、それで、窓や隙間からこっそり様子を窺ったりするだろう? それすらない」

 

コウの様子に二人も周囲を警戒する。

 

「とりあえず、じいちゃんチに行ってみないか?」

 

ヒムの提案に頷き、三人はヒムの祖父の家へ向かった。何年も来ていなかったため、うろ覚えだったが、王白の表札を発見した。

インターホンがないため、ヒムが戸を叩く。

 

「じいちゃん! 俺だ。ヒムだよ! 遊びに来たんだ!」

 

だが、戸の向こうからは、何の反応もない。

 

「じいちゃん!!」

 

もう一度、ヒムはノックするも、やはり反応はなかった。

 

「どけ」

 

コウが、ヒムを押しのけて戸の前に立つと、戸を掴んで力任せに引いた。

鍵が壊れるバキッという音共に戸が開いた。

 

「ちょ、ちょっと、コウさん!?」

 

「まずいよ、飛虫! ヒムのおじいさんが帰ってきたらどうするのさ!?」

 

「何度も声をかけるも返事がなかった。高齢だったから、もしかしたら中で倒れているのかもしれないと思ってやった。

緊急事態だと思ったんだ」

 

慌てる二人に、とても緊急事態だと思っているとは思えない態度で応えて中に乗り込む。

 

「そ、そうだよな! 緊急事態かもしれないもんな!」

 

一緒にいた故に連帯責任になりそうだと思ったヒムもそれに同調して自分を納得させるように何度もうなずいてそう言うと、中に乗り込んでいく。

最後に残されたイノコは、チラリと周囲を見てから、二人の後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さほど広くない祖父の家を探し回ったが、倒れた老人はいなかった。それどころか、屋内は、埃がたまっており、年単位で人がいた様子が見られなかった。

 

「どうなってんだ?」

 

「わからん」

 

「ケホケホ、と、とりあえず、ここを出ようよ。埃っぽくてかなわない!」

 

三人は、外に出るが、入った時と同じく、誰もいなかった。

それから、他の家を回って見るも、ヒムの祖父の家のように埃まみれではなかったが、どの家も、もぬけの殻だった。

 

「王白、お前の言っていた女の家はどこだ?」

 

「えっと……あ、あそこだ!」

 

コウの問いに、ヒムは周囲を見回す。

自分の遠い記憶の中にある山中の家を探し、村の周囲を囲む山の一角を指差した。

その方向には、小さく青い屋根が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バイクで向かおうとしたが、山道は、とてもサイドカーで走れそうなほどの広さのある道幅ではなく、そこまで険しくなかったがヒムの運転技術では、転倒すること間違いなしと判断し、結局徒歩での移動となった。

三人が登り切ったそこには、朽ち果てた門と一切の手入れがされず、ツタが伸び放題になった家があった。

 

「行くぞ」

 

コウが先導して家に入って行く。

先ほどのヒムの祖父の家は、まだ、掃除をすれば人が住めそうだったが、この家は廃墟とか廃屋と呼ぶのがふさわしそうな状態だった。

 

「何にもないじゃないか」

 

期待外れだと言いたげにイノコが声を漏らした。だが、ヒムは何かを感じていた。

 

「下?」

 

「お前も感じたか?」

 

感じ取った何かの方向を追いかけていくと、下からそれが漏れていた。ヒムのつぶやきに、同じものを感じ取ったコウも同意する。

 

「下って言っても、階段なんてどこにもなかったぞ」

 

「どこかに隠し通路があるかもしれない」

 

コウが床に手を付いて、頭だけ変身した。そのまま、ゆっくりと四つん這いで進み、廊下の途中で止まった。

 

「ここか」

 

その周辺を調べると、物や植物に隠されるようにして取っ手を発見した。

 

「おお、隠し扉!」

 

無邪気なことを言うヒムを、頭を人間に戻したコウは小さくため息をつき、手招きする。

 

「任せた」

 

そう言って場所を譲ったコウをヒムは軽く睨んだ。

 

「力仕事ばっかり俺に押し付けるなよ」

 

「お前の方が、力があるのは事実だ」

 

コウは、ヒムの睨みに対して「早くやれ」と逆に睨み返す。

眉をひそめたヒムだが、おとなしく促されるままに取っ手に手をかけ、力任せに引っ張った。

 

「重っ、ふぅぬうううううううっ!!」

 

予想以上に重たかった隠し扉を変身してこじ開けると、梯子がついていた。中は暗く、そこが見えない。

 

「奇襲はなしか」

 

「き、奇襲!?」

 

「開けて無防備なところを、攻撃されるかと思ったんだがな」

 

「そんな危ないこと、俺にさせてったのかよ!?」

 

「逆だ。危ないからこそ、お前に開けさせて、万が一攻撃されたら、俺のバリアで防ごうと思っていたんだ」

 

「先に相談しろ!」

 

「したら、文句言うだろ、おまえ」

 

「うぐっ」

 

「そんなことよりも、早く降りよう」

 

イノコに急かされて、コウ⇒イノコ⇒ヒムの順で、降りることとなった。

変身したコウが、飛び降りるように梯子を滑り降り、イノコが続いて梯子を下りる。最後に恐る恐る変身したヒムが梯子を下りる。

 

「変身してても暗くてよく見えないなぁ」

 

「どこかに電気とかないかな?」

 

「おい、動きまわッ!?」

 

「「うわっ!?」」

 

突然、さっきヒムがこじ開けた隠し扉が閉められた。

驚く三人の足場がガタガタと音を立て、壁がせり上がる。

 

「「ッ!?」」

 

咄嗟にヒムとコウは、真ん中にいたイノコの方へと跳ぼうとするも何かに阻まれてはじき返された。体勢を立て直した頃には、壁が完全に、三人を分断していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、マジか!? イノコ! コウ!」

 

壁に向かって叫ぶも返事は聞こえない。

 

「こぉのっ! ってええええっ!?」

 

壁を殴って破壊しようとしたヒムだったが、ヒムの拳でも壁を破ることはできず、拳に激痛が走った。

 

「ッ!?」

 

どうするか考えていると、急に明るくなった。

自分たちのいた場所は、そこそこの広さがあり、ホールのようであった。周囲を見回すと、扉が開いており、通路が見えた。

 

「進めってことか?」

 

罠の可能性を考えたが、ヒムは覚悟を決めて、ゆっくりと警戒しながら、歩みを進めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分断されたか」

 

コウは、軽く壁をノックして硬さを確かめる。自分の力じゃ破れないと判断し、周囲を見回す。

進む以外に道はないと判断し、ホールを出ようとしたところで、明りがついた。

 

「招待されているようだし、遠慮なく進ませてもらおうか」

 

通路を進んでいく。

何度か曲がり角を通過して、コウは、一つの扉の前にたどり着いた。

 

「ここがゴールってわけか」

 

扉を前にして、大きく拳を振りかぶり、振り抜いた。変身したコウの腕力で扉は、接続していた金具が弾け飛び、中にたたずんでいた存在に激突した。

だが、その存在は、扉が激突しても、何も感じていないかのように微動だにしなかった。

 

「刺激的なノックありがとよ」

 

「軽くたたいただけで、吹っ飛んでいったぜ。もう少しちゃんとした扉を付けた方がいいんじゃねぇか?」

 

「じゃあ、てめぇらを血祭りにあげたら、そうさせてもらうぜ!!」

 

室内にいたのは、巨漢。サイの異形は、右足で床を数回擦ると、凄まじい速さで突撃してきた。

コウは、その突撃を躱しつつ、横っ面に蹴りを入れた。

 

「ッ!」

 

「あ? 痒いぞ、もっとまじめにやれ」

 

ぼりぼりと、コウに蹴られた場所を掻きながら、ライノスは平然と言い放った。その仕草は、本当にダメージを受けていない様子だった。

逆に攻撃したコウは、足のしびれを感じていた。

 

「やっぱり、力があるっていう、もう片方の方がよかったぜ」

 

「……」

 

ぼやくライノスの一挙一動を注視する。たった一度の攻防で、コウは自身の攻撃力でライノスを倒すのは難しいと認識した。

だからと言って諦める気は、全くない。

今度は、コウの方から仕掛ける。バッタの跳躍力を持って接近しての連続攻撃。

 

「うぜぇ!」

 

「くっ!」

 

硬い装甲で守られたライノスには、コウの攻撃は一切効果を見せず、振り下ろされた拳の一撃を回避するために、距離を取ってしまった。

その直後、ライノスの突進が迫る。先ほどと違い予備動作など一切なしに繰り出された大型車両が全速力で突っ込んで来るかのような突進。

 

(回避、出来ない)

 

サイコバリアを展開して受け止めるのではなく、受け流そうとするも、ライノスの突進にコウの全力のサイコバリアは、簡単に破壊された。突っ込んで来るライノスに咄嗟に後方へ飛んでダメージを少しでも軽減しようとするも、ライノスがぶつかった胸部から骨が砕ける嫌な音がコウの体の中で響く。

ライノスは、コウの身体をそのままに走り、壁に激突した。

 

「ガフッ!!」

 

ぶつかった壁もライノスを止めるに至らず、ライノスは壁をぶち破って隣の部屋へと入り、そのままさらに壁をぶち破った。

何枚もの壁をぶち抜き、ライノスはようやく止まった。

慣性の法則により、コウの身体だけが、ライノスの突進の勢いのまま、吹っ飛び、薄暗い部屋に転がった。

 

(腕は? 動く。

足は? 感覚がない、時間が必要だ。

なんとか心臓は守れたが、他の部分のダメージは無視できないレベルだな。

……どうやって勝つ?)

 

ほとんど動かない体で、コウは、勝つ方法について思考を巡らせていた。

霞む視界に何かが映った。

 

(なんだ? ライノスか?)

 

一瞬、ライノスかと思ったが、明らかにサイズが違う。

 

(おん、な…のこ?)

 

それは、4.5歳くらいの女の子だった。

 

 

 

 

 

 




圧倒的な力の差を見せつけられたコウの前に現れた女の子。
コウが己を自覚した時、真の力が目覚める。
そして、二人と離れ離れになってしまったヒムは、思いがけない出会いをする。

次回 Double Guardian 第五話 「自覚」


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第五話 「自覚」

 

 

「ゴフッ、カヒュ……」

 

なんでここに子供がいるんだと、声を出そうとしたが、コウの口からは、血とかすれた息しか出てこなかった。

 

「こっち」

 

女の子は、バッタの異形に恐怖する様子もなく、手招きする。

敵の罠? 死にかけた自分のみている幻覚? そんな言葉が、脳裏をよぎる。

 

「どこに行ったぁ!? 隠れていないで、出てこい!」

 

(隠れてねぇよ。ああっ、もう、罠だろうが幻覚だろうが、どっちでもいい! ついて行ってやるよ!)

 

そんな思いで、コウは何とか動く腕を使って匍匐前進で女の子の後に続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女の子に導かれてたどり着いたのは、隠し部屋だった。

改造人間故の回復力をもってしても、下半身が治りきらず、匍匐前進で進んでいたからこそ、入り口に気付けたし、入れた。それくらい小さく、そして隠されていた。

 

「くゥッ…」

 

歯を食いしばって、何とか起ち上がり、部屋の中を確認する。

デスクの上に乱雑に置かれた書類。

ガラスケースのようなモノに収められたライダースーツのようなプロテクターのついた服とバッタのようであり、骸骨のようにも見える意匠の口の部分が開いたフルフェイスマスクが、二組あった。

 

「……なんなんだ、ここは?」

 

振り返り、女の子の方を向くも、女の子の姿はどこにもなかった。

コウは狐につままれた気持ちだった。

近くにあった書類を手に取り、主題に目を向ける。

 

「超能力による身体強化?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここかぁ!!」

 

派手に壁をぶち抜いてライノスが、コウのいる隠し部屋に現れた。

 

「…遅かったな」

 

ケースに収められていたライダースーツを着たコウが、静かにライノスを見返す。

その姿にライノスは、違和感を覚えた。少し前に自分に手も足も出ないまま…いや、手も足も効果を出せずに一方的に潰されたはずなのに、恐怖している様子も、怯える様子が見られない。

自分が反逆者を見失ってから、今まで、一時間と経っていない。

それなのに、起ち上がれるまで回復しているその回復力に驚くも、そんな短期間に自分よりも強くなれるとは思えない。

そんなライノスを横目で見つつ、コウはフルフェイスマスクを取り出して、被った。

 

「ずっと違和感は、あったんだ」

 

「あ?」

 

「俺は、肉体改造に批准を置いた変身可能な改造人間なのに、脳改造に批准を置いた改造人間のように超能力が使えた」

 

「舐めてんのか?」

 

ゆっくりと語りだしたコウをライノスは、にらみつけ、突進の予備動作に入った。

 

「悪いな、どうしようもなく昂っててよぉ……」

 

コウは拳を握り、腰を落としてライノスと対峙する。

ライノスは、その姿に驚きの感情を、次いで笑いの感情を覚えた。

目の前のムシケラは、ただ、玉砕する事を覚悟して、対峙しているだけなのだと。

ついさっき、自分に完封されたのに、あの余裕のある様子も、ここの装備に手を出したのも、全て見掛け倒しだ。

たぶん、あのスーツの中身、反逆者の身体はボロボロで、それを隠すために体よくあったあのスーツを着たんだ。自分にこの俺の意識を向けさせておくことで、他の仲間が生き残れる可能性を少しでも上げようとしているんだ。

ライノスは、そう結論付けて、突進しようと一歩目を踏み出した。

 

「先に言っておく。今の俺は、加減が分からないぞ」

 

その声が届くか届かないか、音を置き去りにするそんな疾さでコウは、ライノスの横面に、拳を叩き込んだ。

 

「ッ!?」

 

ほんの一時間くらい前なら、殴ったコウの拳が砕けていたはずなのに、今の一撃は、ライノスの突進の進行方向を変えさせたのだった。

強制的に方向を変えさせられたライノスは、そのまま、隣の部屋へと壁を突き破って止まった。

 

「てめぇ、何しやがった」

 

「ただ殴った」

 

とてもシンプルで簡潔な答えだった。だが、そんな返答で納得できるわけがなかった。

ライノスにとって自分の装甲と突進力は、自慢であり、誇りだった。それを虫けらごときに止められたことに、プライドが深く傷ついた。

 

「笑えるよな。あいつがパワータイプで、俺がテクニックタイプだと思っていたら…」

 

コウは、ボクサーのようなファイティングポーズをとると、まるでマシンガンのように高速のジャブがライノスに襲い掛かる。

 

「ぐ、ぐううううっ!?」

 

強固な装甲を持つが故にガードすることのなかったライノスが、とっさに顔を守る。

一発一発は、確かに強くなっているが、耐えきれないほどではない。

だが、その連打が10、20と終わりなく叩き込まれる。

 

「う、うおおおおおっ!!」

 

ライノスはダメージ覚悟で、コウに突進する。その攻撃を待っていたかのように合わせて放たれたコウの右ストレートが、顔面に突き刺さった。

 

「ぎゃがあああああああっ!?」

 

長らく、痛みとは無縁な日々を送っていたライノスは、鼻と口を砕かれて絶叫した。

両手で顔を抑えて、見上げた先には、天井に張り付き、こちらを見上げるコウの姿があった。

 

「ッ!?」

 

コウと目が合った瞬間、ライノスは足元から這い上がってくる今まで感じたことのない感情に支配される。

コウが、天井がひび割れるほどの力で下に向かって跳躍した。

身体を反転させて、右足をライノスに向けて突き出す。

足がライノスの喉に突き刺さり、そのまま、突き破った。

首を失ったライノスは、そのまま、仰向けに大の字になって倒れた。

ライノスは、先ほど感じた感情が、死への恐怖だったのだと、自分の身体を見ながら、思い、逝った。

 

「あいつを探さないとな……」

 

コウは、倒れたライノスを振り返ることなく、部屋を出た。

 

「テレパシーは、ジャミングされているな……どこにいるんだ?」

 

そんなことを呟きながら、歩くコウのすぐそばの壁がぶち破られた。

 

「ッ!?」

 

敵かと身構えたコウの前に現れたのは、変身したヒムだった。

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!」

 

「暴走している!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒムは通路を歩き始めてしばらく経つも未だにゴールが見えないことに苛立ちを感じ始めたころ、ようやく一つの扉にたどり着いた。

ドアノブを回すと、あっさりと開いた。警戒しながら中に入る。

 

「遅かったわね」

 

思わず聞きほれてしまいそうな声に、ヒムがそちらを向くと、ヒムたちと同じ年頃の少女がいた。

 

(ッ!?)

 

その少女の美しさにヒムは、声を失った。

ゆっくりと歩み寄ってくる美少女が、裸であることに気が付いた。

透き通るような白い肌。長く艶やかな烏の濡羽色の髪。スレンダーな体系が少女を幻想的に魅せる。一切隠そうとしない姿にヒムは、魅入られていた。

 

(甘い…匂い……)

 

ヒムの思考に霧がかかっていく。だが、何かをしようと思えなかった。

いつの間にか美少女の背中から、白い美しい羽が生えていた。

 

「フフフ、あなたは、もう私の、と・り・こ♡ さぁ、私のおねキャアッ!?」

 

妖艶に微笑んで、ヒムの顔に触れた美少女にヒムは鋭い爪を振り下ろした。

 

「な、何!?」

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa」

 

獣の咆哮とでも言えばいいのだろうか、雄叫びを上げたヒムは、所かまわず、腕を振り回して暴れ出した。

脳改造を受けていないヒムは、コウにサポートしてもらったり、自身の超能力で自我を保っている。それを奪われれば、暴走は当然の結果だった。

 

「ちょ、ちょっと、何よこれ!? 聞いてないわよ!!」

 

ヒムはそのまま、壁に爪を突き刺し、引き裂き、美少女のいた部屋を飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、暴走したのか? 運がいいな。

訓練していた時と違って、今日はすぐに鎮圧してやるよ」

 

両腕を振り回して迫ってくるヒムに笑みさえ浮かべてコウは、対峙した。

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

振るわれる四本の腕をいなし、コウはヒムの懐に入り込む。

 

「フン!」

 

「GUAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」

 

ヒムの腹部に、コウの拳が容赦なく叩き込まれた。

余りのダメージに暴走していたヒムですら、腹を抑えて蹲ってしまった。その隙に、以前と同じ要領でヒムを人間の姿に戻した。

 

「ったく、こんなところまできて暴走するなよ」

 

文句を言いつつも、気絶したヒムを背負い、隠し部屋へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…んあ……あれ? 俺、どうしたんだっけ? いってぇ、なんでかわかんねぇけど、腹が痛い」

 

意識が戻ったヒムは、腹を抑えながら、起き上がる。

デスクに座って片っ端からファイルを開いて中を見て、凄い速さでページをめくっているコウがいた。

 

「知るか」

 

ヒムの腹痛の原因であるはずのコウは、それをおくびも見せずに切り捨てた。

 

「コウ?」

 

「暴走して暴れていたから、止めさせてもらったぞ」

 

「え? あ、ありがとう…

あれ? コウ、なんか服、代わってないか?」

 

「安心しろ、おまえの分もある」

 

そう言って、部屋の反対側を指差す。そこには、ヒムの着ている物よりも色の薄い似たモノが入っていた。

 

「なんで、俺の分があるんだよ?」

 

「…よく聞け。組織は、俺とおまえを結構重要なポジションにするつもりだったらしい」

 

「は?」

 

戸惑うヒムに見せつけるように手に持っていたファイルを振る。

 

「この紅月ウミって科学者の書いているモノが本当なら、俺はG1(ガーディアン1)というコードネームで、改造テーマは攻勢型ガーディアンだったそうで、おまえはG2(ガーディアン2)というコードネームで、改造テーマは防衛型ガーディアンだったらしい」

 

「こうせいがた? ぼうえいがた?」

 

「俺が攻撃特化型で、お前が防御特化型だったってことだ」

 

「え? でも、俺の方がパワーあるじゃん」

 

さっき、もっと強く殴ってやればよかったと内心思いつつも、出来るだけ平常心でコウは話を続ける。

 

「元々、バッタには、戦闘能力の他にも、潜在的に強力な回復力や超能力があったらしい。

俺はホエールに超能力のレクチャーを受けていたせいか、テレパシーやサイコバリアに念動力といった感じのことしかできないと思い込んでいたが、どうやら俺にとってそう言った能力は副次的なモノで、本来の能力はその超能力を自身の物理的戦闘能力の強化にあったらしい」

 

「ゴメン、意味が全然分かんない。つまり、どゆこと?」

 

コウは、痛くなった頭を押さえた。

 

「俺は超能力を正しく使うと力が強くなったり、速くなれるってことだ」

 

「へぇ……ってスゲェじゃん!!

なら、なら俺は!?」

 

身を乗り出してくるヒムが、理解できるように説明する方法を考えつつ、コウは話す。

 

「おまえは、本来、防御能力に批准が置かれている。つまり、ガードが得意ってことだ。

俺が使うのよりももっと強力なサイコバリアができるはずだし、超能力も俺よりうまく使えるはずだ。この資料によれば、物理的防御…殴るや蹴るみたいな攻撃だけじゃなくて、精神的防御…精神攻撃にも強力な耐性があるはずらしいんだが……ムリか」

 

コウは、これを読んだことで、自身の中にあった嚙み合わない何か(超能力の使い方)を解消することができた。だが、ヒムの頭でこれが理解はできないだろう。

さて、どうするかと思考を巡らせようと思ったところで、ふと疑問が浮かんだ。

 

「そう言えば、なんで暴走したんだ?」

 

「え? え~っと……そうだ、コウたちと離れ離れになって、通路を進んでいったら、部屋があって、そこですんごい可愛い女の子に会ったんだよ。

ミヤコさんが女神なら、あの女の子は天使か妖精だなぁ…

あれ? そこから先が思い出せないな」

 

「ホエールが女神? ハッ! あり得ねぇ……

たぶん、その女に精神攻撃を受けて、自身の制御ができなくなったんだろうな」

 

コウは、ヒムの話を聞き、推測を立てる。それから思い出したかのように残されていたスーツとマスクを指差した。

 

「ああ、そうだ。そこにあるスーツとマスクをつけろ。俺たち専用の強化服らしい。

安心しろ、変な装置だとか細工はなかった」

 

「あ、うん、わかった」

 

コウに何があったのかを説明していた時に思い出した美少女のことで、何か引っかかりを覚えた。美少女の全裸は、とりあえず置いといて、顔だけ思い出す。

 

(凄く可愛かった…

あ、そう言えば、この村に、同い年くらいでかわ……)

「あああああああああ!!」

 

「ッ!? うるせぇぞ!」

 

「思い出した! あの子! 糸文ハクちゃんだ!」

 

「あ?」

 

「さっき、俺が見たって言った女の子、ここに住んでた女の子で、名前が糸文ハクっていうんだ」

 

迷惑そうな顔をしていたコウの表情が、ヒムの話を聞いて真顔へと変化していく。

 

「……おまえ、ここで待ってろ」

 

そう言って出て行こうとするコウの尋常じゃない気配に、思わず、ヒムはコウの手を掴んで止めた。

 

「どこ行くんだよ?」

 

「敵を倒してくる。俺のサーチに引っかかった」

 

「なら、俺も行く」

 

「お前は、洗脳されたダメージが抜けきってない。ここで休んでいろ」

 

コウはヒムの手を振りほどいて部屋に押し込もうとするも、ヒムは踏ん張ってそれに耐える。

サーチに引っかかったというのもウソだと確信していた。

 

「……敵って、ハクちゃんの事だろ? 倒すって、まさかおまえ!?」

 

「……」

 

コウの力が弱くなり、ヒムはたたらを踏むも、コウの襟首を掴んで怒鳴った。

 

「ダメだ。絶対させねえ!」

 

「なら、どうする気だ? 説得でもするか? ボクはキミとは戦いたくないんだってか?

俺やお前みたいに最終段階に行ってないなんて、甘い想像してんじゃねぇぞ。間違いなく、その女は最終段階まで改造されている。

組織の指示なら、お前を殺しに来るぞ」

 

「俺が、俺が何とかしてやるよ!」

 

「なんとかって、どうやって!?」

 

「それは……」

 

勢いで怒鳴ったが、考えなんてない。視線を巡らせたヒムの目に、先ほどまでコウが読んでいた書類が目に入った。

 

「口先だ「あれだ! お前がさっきまで読んでたヤツ! アレに何か書いてあんだろ!!」 だったら、お前が自分で探せよ」

 

「俺に書いてあることの意味が分かるわけないだろう!!」

 

「……結局他人任せとか、自信満々に言って良いセリフじゃねえぞ」

 

書類を指差すヒムに、舌打ちしつつも、書類に目を通し始めた。

あの日、諦めを口にしたコウだって、救う術があるのなら、探したいそんな思いが心のどこかにあったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

ファイルを次々と読み進める。そして、ピタリと手が止まり、少し前に読んだファイルを再び目を通す。

 

「あった…」

 

「ヨシ!! で、どうするんだ!?」

 

「いや、正確に言うと、上手くやればできるんじゃないかと思われる、だ。

防衛型のおまえには、精神攻撃に対してカウンター・ハックができると予想されている」

 

「?」

 

「…精神攻撃してきたやつに対して、お前はそれをやり返せるってことだ。

これが正しければ、精神攻撃を仕掛けている間、攻撃している側は、反撃に弱いらしい。

ボクシングのカウンターパンチは、わかるか? あれの精神バージョンだ」

 

「へぇ、それで俺はどうすればいいんだ?」

 

本当にわかっているかどうか怪しいが、先を促されたコウは、説明を続ける。

 

「前にも話したが、改造人間は、三段階の改造を受けるんだが、三段階目で組織に忠誠を誓う人格を植え付けているそうだ。

向こうの精神攻撃に対して、お前はカウンター・ハックして作られた人格を何とかすることができれば、元の人格に戻すことができるかもしれない」

 

 

 

 

 

 

 

 




昔、神台村に遊びに来た時に遊んだ友人・ハクを救うべく、ヒムはコウの手を借り、一人行く。
そこで知る過去が何であろうと、腹を決めた男は止まらない。

次回 Double Guardian 第六話 「心界」


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第六話 「心界」

 

隠し部屋から出て、暴走したヒムが破壊して開けた壁の穴を通って進んでいく二人の前に研究員や警備員と思われる虚ろな目をした人間が十数人現れた。

その全員が銃器を手にしており、その奥にはヒムの話していた少女・糸文ハクがいた。

 

「全員、洗脳したってとこか? 先に言っておくが、相手が人間でも、組織のヤツなら、俺は躊躇しない」

 

「えぇ…俺は躊躇するんだけど」

 

「お前はあの女のところへ行く事だけを考えてろ。雑魚は俺が相手する」

 

二人が変身すると、ハクが手を振った。それに合わせて研究員たちが、銃器を構えて一斉に発砲を始めた。

 

「前に壁をイメージ」

 

「オウ!」

 

ヒムの後に隠れるように下がったコウの指示を聞いて四本の腕を前にかざす。

銃弾の豪雨がヒムの前だけ見えない壁に阻まれて弾かれる。

その様子を見て、コウは内心舌打ちしていた。

 

(そっち特化型だからって、実戦一発目で成功させるなよ……こちとら何日も訓練してやっとできるようになったことなんだぞ)

「出る。おまえは、前だけ見て進め!」

 

加速したコウは、ゆっくりと向かって来る銃弾を躱し、時には弾いて研究者たちの中に飛び込む。

 

「来い!」

 

「オウ!」

 

銃撃を防いでいたヒムが跳び、コウの肩を足場にしてもう一度跳ぶ。閉鎖空間の為、十分に跳躍力を活かせないが、コウが中継点となって再度跳躍することで、ヒムは糸文ハクにたどり着いた。

研究員たちは、コウを四方八方から銃撃するが、加速するコウは銃弾の雨の中を舞うように脱し、壁や天井を使って縦横無尽に跳びまわる。

味方が隣接した状態で躊躇なしに射撃して味方を殺している姿にコウは、違和感を覚えた。

 

(細かい指示がされていない? なんだ? 甘い…匂い? ッ!?)

「王白! 退け! そいつは超能力じゃなくて、毒で洗脳しているんだ!!」

 

コウは声を上げたが、ヒムはすでにハクの前まで行ってしまっていた。

 

(いまさらそんなこと言われたって、退けねぇよ! こうなりゃ、だ!一か八かだ! たしか、ミヤコさん曰く、テレパシーは額から!)

「うおおおおっ」

 

ハクが背中から羽を出して、蝶の異形に変身したが、ヒムは四本の腕で彼女を拘束するとそのまま頭突きをする勢いで、自分の額と相手の額を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ!? あれ? ここ、どこだ?」

 

気が付いた時、ヒムは長い通路に立っていた。曲がり角などなく、ただ一本道の通路。

 

「とりあえず、進むしかないか……ってなんか、少し前にも似たようなことがあった気がする」

 

そんなことを呟きつつ、ヒムは通路を歩き出した。

 

「あれ?」

 

通路には窓がなかった。

外がどうなっているのだろうと思いながらも歩いていると、小さな窓があった。外を覗くと、小さな子供を抱えた大人がいた。何か話しているようだが、窓越しには聞き取れなかった。

 

「?」

 

少し進むと、再び窓があった。覗き込むと、何人もの幼い子供が遊ぶ姿があった。

 

「ン? ンンン?? あそこにいるの俺じゃね? いや、でも……あれは上ノさんちのシチジンだよなぁ、あっちは牛予さんちのサトちゃんだし……」

 

ヒムは、遊ぶ子供の中に幼少の自分やこの村の友達たちを見つけた。

さらに進むと同じように遊ぶ子供たちの姿が見える窓があった。ただ、明らかにさっきよりも成長していた。

 

「ケンとジュウもいるなぁ……

あれ? そういえばハクちゃんの姿がない?」

 

疑問を抱えたまま、進む。

次の窓では、先ほどよりもさらに成長した姿があった。だが、その光景に、ヒムは、目を見開いた。

 

「う、ウソ…だろ……なんで、なんでだ!?」

 

そこにあった光景は、改造される友人たちの姿があった。この村が危険であるとわかった時に覚悟はしていたつもりだった。だが、実際に見せられて「やっぱりか」などと簡単に納得できるほど、割り切れてはいなかった。

全力で窓を殴り、友を助けようとするが、窓はヒムの全力の拳でもビクともしないほど強固だった。

 

「クソッ、行くしかないのかよ!」

 

先へ進むと再び窓があった。窓の先には、鏡があり、そこには、糸文ハクの姿が映っていた。だが、ヒムと鏡の間にハクの姿はない。

鏡の中のハクの身体が変化し、囚人服のような服が破けて蝶の異形へと姿を変える。

 

「もしかして、今までのってハクちゃんの記憶?」

 

それなら、今までの窓にハクがいなかったのも、鏡に映るハクにも説明がつく。

次の窓の外を見た時、先ほど以上の力で窓を殴り付けた。

そこには、トラの異形となったシチジンとバイソンの異形となったサトが戦っていた。何かを訴えかけているサトに対して、虚ろな様子のシチジンが一方的に攻撃していた。

シチジンの様子が、ここに来る前に見た研究員たちの姿にダブって見えた。

 

「ハクちゃんが…やらせてるのか……」

 

目の前で見せられている光景は、過去の出来事の記憶であり、干渉することはできない。それでも、じっとしてはいられなかった。

サトがシチジンに噛み殺される姿を、何度も窓を殴り付けながら見せられた。最後の瞬間、わずかに窓の外がゆがんだ気がした。

ヒムは、進むべき先を睨みつけ歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒムの前に大きな扉が現れた。

ここにたどり着くまで、ハクによって狂った人間、味方同士での殺し合い、それをいくつも見せられた。

ヒムは、四本の腕で、力任せに扉をこじ開けた。

中には、二人の糸文ハクがいた。一人は、小さな檻に押し込められていた幼い糸文ハク。もう一人の糸文ハクは、サディスティックな笑みを浮かべて、檻に足をかけていた。

 

「あら? お客さんね」

 

「……」

 

檻の中の方は、虚ろな表情で視線もどこを見ているのかわからない。

 

「久しぶりだな、ハクちゃん。俺だ、王白ヒムだよ!」

 

ヘルメットを外して人間に戻ったヒムが声をかける。

 

「ヒム…くん?」

 

檻の中にいるハクがわずかに反応した。もう一人のハクはわずかに考えるそぶりをしてから「ああっ」と声を出した。

 

「思い出したわ! 裏切者の孫で逃亡者の子だったわね」

 

「裏切者? 逃亡者?」

 

「そんなことどうでもいいけどね」

 

聞きなれない言葉に反応するヒムだったが、ハクは黒い蝶の異形へと体を変えると、ヒムに襲い掛かった。

 

「このバタフライが、毒だけの怪人だと思わないことね!」

 

ヘルメットをかぶって変身したヒムが突っ込んで来るバタフライをバリアで受け止める。

 

「チィっ! 硬いわね! で・も、毒は防げないわよね?」

 

バタフライが羽をはばたかせると、キラキラと光る鱗粉が舞う。

 

「うわっ!」

 

慌ててヒムは飛びのくも、離れた分だけバタフライは追いかけてくる。

 

「このぉっ!」

 

「ハズレぇ」

 

反撃に出たヒムだが、繰り出した拳をバタフライはヒラリと躱し、ヒムの背中を蹴り飛ばす。

 

「っと、この野郎!」

 

「ざぁんねぇん」

 

振り向きざまに放った裏拳も軽々と躱し、脳天に踵落としが叩き込まれた。

ヒムが反撃するも、どの攻撃もバタフライはまさに蝶の如く舞って躱して攻撃してくる。さらにバタフライが羽ばたくたびに毒の鱗粉が舞い、ヒムを追い詰めていく。

 

(クッソぉ……うまく体が動かなくなってきた。

ただの蝶なら、虫取り網とかで…いや虫なら両手でバチンと……

あ……)

 

「そろそろ、毒が回ってきたみたいね」

 

「うるせぇよ。こっから、大逆転かましてやるよ」

 

「あら、それは楽しみねぇ!」

 

向かってくるバタフライに対してヒムは四本の腕を突き出した。

 

「また、サイコバリアなんて、芸がなさすぎよ」

 

前面に展開されたであろう不可視の壁をヒラリと乗り越えて背後に回り込んだバタフライだったが、ヒムはそこからバタフライの予想外の行動をした。

パンッという音と共に四つの手を拝むように合わせたのだ。

 

「ひぎっ!?」

 

その次の瞬間、バタフライは左右から何かに挟み込まれた。

 

「言っただろう、こっから逆転するってさ!」

 

思うように動かない体を引き摺るように反転させてバタフライと対面したヒムは、ゆっくりと腕を振り上げた。

 

「これなら逃げられないよな?」

 

「何を!?」

 

「名付けてサイキックバリアサンド! んでもって、これでも喰らいやがれ!!」

 

繰り出されたパンチは、毒の影響で普段の力の何分の一程度の威力しかなかったが、バタフライを弾き飛ばすには十分な威力だった。

 

「くぅ……まだ、身体が動くうちに…」

 

鈍い身体を無理やり動かして、ヒムは檻の前まで行くと、四本の腕を使って檻を引き裂いた。

 

「ハクちゃん、早く出るんだ」

 

「ヒムくん……」

 

ハクに向かってヒムは手を伸ばすも、そこで、限界が来て倒れた。

 

「ヒムくん!?」

 

倒れたヒムにハクが縋りつくが、ヒムに殴り飛ばされたバタフライがフラフラと近づいてきて、ハクを蹴り飛ばした。

 

「キャッ」

 

「ハクちゃん!? やめろっ!」

 

「何、囚われのお姫様みたいな顔してんのよ! シチジンにサトを殺させた時も、組織に邪魔な人間を殺した時も、あんただって、楽しんでたでしょうが!」

 

自分を睨むヒムに気が付いたバタフライは、そんなヒムを踏みつけた。

 

「何? お前がやったんだろうとでも言いたそうね? そうよ、私がやった。でも、私はそいつだし、そいつは私なの。

私は、脳改造で誕生した人格なのは事実。でぇも、何もないところから、私みたいなのが生まれるわけないじゃない。

こいつには、他人を跪かせて支配したい、貶めたい、殺したいって思いがあったのよ」

 

「……るせぇよ」

 

「ん? 何か言ったかしら?」

 

「うるせぇって言ったんだよ! 綺麗な心だけのやつなんているわけないだろう!! どんなやつだって大きい小さいあっても汚い心ってのを持っているんだ!! それを自分の中で抑え込んで、向き合って生きているんだよ!」

 

ヒムは、動かない体でも精一杯の声を張り上げて怒鳴った。

 

「うるさいわね!」

 

「アグッ、イギィッ!?」

 

ガンガンと苛立たし気に、バタフライの足が何度もヒムに振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コウは向かってくるバタフライに操られた男たちを次々と倒していった。

 

「……動きが変わった?」

 

先ほどまでは、離れれば銃撃。近づけば、警棒やナイフを振り回す。と、単調な動きばかりだった男たちの動きが急に変化し、明らかに連携された動きになっている。

バタフライが、細かな指示を出しているのかと思い、そちらに視線を向けるが、未だ、ヒムと抱き合うような恰好のまま、動く様子が見えない。

 

「ッチ、こそこそと、そこか!!」

 

コウが手刀を振り抜くと、何かを斬った感触があった。

 

「毛? いや、触手か?」

 

斬ったそれを掴んで何かを確認しようとするも、銃撃に晒され、とっさに加速して敵を倒したが、加速した際の摩擦で、手の中にモノが焼けて塵になってしまった。

 

「あ、クソッ! まだうまく使えてないな」

 

まだ、ヒムは帰ってこない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




自分が自分でなくなっていく恐怖、自分なのに自分じゃない別の自分が、大事なものを奪っていく。
閉じ込められた暗闇の中、一縷の光が差した時、少女は立ち上がる。

次回 Double Guardian 第七話「反逆」


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第七話 「反逆」

 

「……もう、やめて」

 

それはとても静かな声だった。

バタフライがヒムを踏みつける音と、ヒムの呻き声だけだった。空間でハクの声は良く通った。

 

「何か言ったかしら?」

 

「ッ!! もう、やめてって言ったの」

 

バタフライがにらみつける。今までのハクならば、すぐいおびえだしただろう。だが、今のハクは、バタフライをまっすぐに睨み返した。

 

「ずっと、あなたが怖かった。だって、私よりもずっと強かったから。だから、助けてくれる誰かが来るまで閉じこもって自分を守ってきた。

最悪、あなたが消せるなら、身体を殺されてもいいって思ってた。みんなに酷いことをしたんだから、それが当然の報いだと思うし。

でも、助けてくれる誰かが来た。

あなたを倒して、私は私を取り戻す!」

 

ハクの背中に白い羽が生え、白い蝶の異形へと変化して、羽をはばたかせた。キラキラと鱗粉が舞う。

 

「私よりも弱い、あんたが何を吠えたってムダムダ」

 

「そうでもないよ。私とあなたは、同じ毒を生成する能力がある」

 

「何を当たり前のことを……まさか!?」

 

バタフライ(白)の言わんとしていることに気が付いたバタフライ(黒)が、慌てて飛び退こうとするが、それよりも早くヒムの腕がバタフライ(黒)の足を掴んでいた。

 

「うおりゃああああああっ!!」

 

そしてそのまま、腕力にものを言わせて、バタフライ(黒)を投げ飛ばした。投げられたバタフライ(黒)は空中で体勢を立て直す。

 

「なんか、急に動けるようになった!?」

 

「私が、あいつの毒を中和する毒を撒いたから」

 

体を起こしたヒムの隣にバタフライ(白)がふわりと降り立った。

 

「ってことは、もう、あいつの毒を気にしなくていいってことか?」

 

「限度はあるけどね」

 

バタフライ(白)の言葉に、仮面の中でヒムは笑った。

 

「なら…勝ったな!」

 

「え? 私も加勢するけど、勝利宣言は早くない?」

 

ヒムに、バタフライ(白)が諌めるように声をかける。

 

「そうよ。たとえ、毒が効かなくても、あんたは私をとらえられるのかしら? さっきみたいなラッキーはもう起こらないわよ!」

 

「閃いちゃったんだよね。ちょっとコウの戦い方を参考にさせてもらうけど!」

 

そう言うと、ヒムはバタフライ(黒)に向かって跳び出した。

当然、ヒラリと躱すバタフライ(黒)だったが、すぐに再び迫ってくるヒムに慌てて再度回避する。

おかしい。躱された後、再び跳びかかってくるまでのタイムラグがあまりにも短すぎる。

バタフライ(黒)の疑問は、目の前で実演されてすぐに解消された。

躱されたヒムは、空中で着地してバタフライ(黒)に跳びかかっていく。

 

「ッ!? サイコバリアね!? バリアを足場にして!」

 

「正解!!」

 

コウが、閉鎖空間でやっていた軌道を、ヒムはサイコバリアを用いてやっている。

しかも、段々とサイコバリアの展開に馴れてきているのか、躱されてからサイコバリアを展開するまでのタイムラグまで短くなってきた。

元々、鱗粉による洗脳や毒殺を得意とし、また、蝶特有のヒラヒラした飛び方で相手に狙いを定めさせない回避能力を持つ。

だが、その反面、直接的な攻撃力や防御力は、常人をはるかに超えているとはいえ、改造人間としては、貧弱だ。

バタフライ(黒)は、回避の合間に毒を放つもバタフライ(白)がそれを中和してしまい、ヒムの攻撃精度が向上していく事で、毒を散布する暇を失い、必死に回避する。

だが、そのあがきも、ついにヒムの鋭い爪が、バタフライ(黒)の左の羽を切り裂いた。

 

「取った!」

 

「ひっ!?」

 

ヒムは、足元にサイコバリアを生み出し、下へ向かって跳躍する。急激な加速にバタフライ(黒)は自身の制御を完全に失った。

ヒムは、自身の足でバタフライ(黒)の頭部を挟み、四本の腕で腕と足を掴み、そのまま、床へと高速で降下する。

 

「イケええっ!!」

 

床に叩きつけられたバタフライ(黒)は、ヒムが手足を開放すると、ばたりと倒れ、そのまま光の粒子となってバタフライ(白)に溶け込み、彼女の羽に黒い紋様が浮かび上がった。

 

「ハ、ハクちゃん、ちょ、大丈夫なの!?」

 

「うん。私の中にあった、一部が戻ってきただけだから」

 

人の姿に戻ったハクがにっこりと笑う。

絶世の美少女の笑顔を間近で見せられたヒムは、つい視線を反らしてしまった。

 

「な、ならよかった。じゃあ、戻ろっか……って、どうやって戻ればいいんだ!?」

 

「大丈夫」

 

そう言ってハクが手をかざすと扉が現れた。

 

「へ? ハクちゃん、何やったの?」

 

「ここは、私の世界だもん。出口ぐらい簡単に作れるわ」

 

早速、ヒムが扉の方へ向かおうとすると、ハクがヒムの手を掴んだ。

 

「ハクちゃん?」

 

「ヒムくん、助けに来てくれてありがとう!」

 

「うん!」

 

ヒムは、扉をくぐった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぁ、うわああっ!? イってえええっ!!」

 

ヒムが目を覚まして周囲を見回すと、医務室のような場所で寝かされていた。しかもすぐ隣にはハクの姿があった。

すぐそばにあるハクの顔に驚いて、飛び退いてベッドから落ちて、悲鳴を上げた。

 

「うるせぇよ」

 

「あがっ!? コウ、いきなり叩くなよ!」

 

「叩いてねぇよ。殴ったんだよ」

 

「なお、悪いわ!!」

 

ヒムが振り返ると、マスクを脱いで、面倒くさいというのを隠そうともしない顔でコウが、立っていた。

 

「ン……ンン…」

 

ヒムに遅れてハクも目を覚ました。

 

「ハクちゃん、大丈わぁっ!? こ、コウ、何すんだ!?」

 

目を覚ましたハクに、声をかけようとしたヒムの首にコウの腕が巻き付き、強引に後ろを向かせられた。

文句を言うヒムを無視して、コウは手に持っていた袋を後ろを向いたままハクに差し出した。

 

「落ち着け。それと、これ服だから着てくれ」

 

「え? あ……」

 

「え? きゃぁっ!? あ、ありがとうございます!」

 

コウの言葉で、ハクが裸だったことを思い出した。

背後でごそごそという服を着る音を聞きつつ、コウに手を引かれて隣の部屋に移った。

 

「……上手くいったみたいだな」

 

「ああっ! コウが、やり方を見つけてくれたおかげだ」

 

「いや、あの女の能力は超能力じゃなかった。俺の言っていた方法なんて使ってない。おまえが、自分で考えて自分で何とかした結果だ」

 

「それでも、コウのおかげであることには違いないよ。ありがとな!」

 

「……」

 

コウからの返事はなかったが、ヒムは気にしなかった。

少しして大きめのYシャツ、ベルトで無理やりウェストを合わせて裾をまくったズボンを穿いたハクが隣の部屋から現れた。

 

「あ、あのぉ……下着とかなかったの?」

 

「すまん。探したけどなかった。誰が穿いたかわからない男物ならあったけど……」

 

「あ、うん、それはちょっと…」

 

恥かしそうに聞くハクに、コウは頭を下げた。

 

(え? 下着とかなかった? ってことは今のハクちゃんはっ!?)

 

思わず、ヒムはハクの身体に視線を向ける。それに気が付いたコウの肘が、ヒムの脇腹にめり込んだ。

 

「ゲフッ!?」

 

「時と場合を考えろ」

 

「ヒムくんのエッチ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コウは椅子に、ヒムとハクは寄り添うようにベッドに座った。

 

「いくつか聞きたいことがある」

 

「はい」

 

「まず、この村は何なんだ?」

 

コウの質問に、ハクは一息おいて答えた。

 

「ここは、改造人間を作り出すための材料を生み出し、育てる為の牧場の一つ。

そして、改造人間を作り出す研究所でもある」

 

「はっ、産み育てて加工までしてんのかよ」

 

「おい、言い方!」

 

「他になんと言えと?」

 

身も蓋もない言い方をするコウをヒムが注意するが、効果は見られない。

 

「あ、そう言えば、俺の爺ちゃんが裏切者で、父さんが逃亡者ってどういうこと?」

 

「ヒムくんのお父さんは、ヒムくんに手を出さないことを条件に、組織に協力していたの。役目は、適性の高い子供を集めること。

でも、ヒムくんは博士の求めるガーディアンの適性があったらしくて、組織は約束を破ってヒムくんを改造したの。

それで、ヒムくんのお父さんは、第三者の協力を受けてヒムくんを連れて逃げたわ。

そして、お爺さんは、それを黙認した裏切者として処刑された……おじいさんの家がそのまま残っているのは、裏切者がどうなるのかを忘れさせないためだって」

 

「妙に詳しいな」

 

「組織の連中が、教えていたから。逃げたら、裏切ったらどうなるかって」

 

「でも、先に約束を破ったのは組織だろ」

 

「博士は、組織の幹部だから、その決定の前には、そんな約束なんて何の意味もないの」

 

コウは考えるそぶりを見せてから、切り出した。

 

「その博士って言うのは、ここにいるのか?」

 

「え? ええ、たぶん」

 

「そいつのいる場所を教えろ。殺しに行く」

 

「ちょ、ちょっと待て! そんなことよりも、他のみんなを助ける方が先だろう! それにイノコのことも探さないと!!」

 

「他のみんな? そいつみたいに全員を救うとでもいうつもりか? 一度うまくいったからって、調子に乗るなよ」

 

ヒムに冷たく言い放つコウに、ハクが待ったをかけた。

 

「もしかしたら救えるかもしれない。

私の教育係だった改造人間の人が言っていたわ。20歳を過ぎれば、苦悩もなくなるって。

たぶん、今の私とは逆に、脳改造で作られた人格に今までの人格が取り込まれるってことだと思う」

 

「そういえば、人格形成の未熟な未成年の方が、改造するのに適していると書いてある資料があったな」

 

そうつぶやいた時、突然、二本の角が壁を破壊して現れ、コウを挟んだ。

 

「ぐおおっ!?」

 

即座に変身したコウは、角を掴んで、押し広げようとするも、角の挟む力の強さもコウの力に負けつ劣らずであった。

角は、コウをぶんぶんと振り回して投げ飛ばした。

投げられたコウにヒムとハクが駆け寄ろうとするも、コウに手で制された。逆の手にはいつのまにかマスクを持っていた。

破壊された壁から、黒光りする装甲をまとった巨体の異形が現れた。先ほど角だと思っていたのは、顔の横から前に生えた大顎だった。

 

「おい、女」

 

「お、女!? それって私の事!?」

 

「こいつは?」

 

名前ではなく、女呼ばわりされたハクが、怒りの表情を浮かべるも、コウはヘルメットを装着して敵から視線を放さずに問う。

その問いの意味を理解したハクは、小さく息を吐いて心を落ち着かせる。

 

「スタッグビートル。ベテラン中のベテランよ」

 

「ベテランか……

王白! その女連れて先に行け! こいつは、俺がやる」

 

「でも、みんなで戦った方が「効率の問題だ。先に行け!」 わかったよ! すぐに追いつけよ!」

 

ヒムは、ハクの手を取り、スタッグビートルがいるのとは反対の壁を変身してぶち破ると、走り出した。

 

「このワシを一人で相手にするか」

 

「ああ、あいつらはいても邪魔だ」

 

加速したコウの拳がスタッグビートルの腹に叩き込まれる。

 

「ッ!?」

 

「その程度の力で、よく大口をたたけたものよ」

 

まるで生身の身体で分厚い鉄の壁を叩いたかのような感触に驚愕するコウに、スタッグビートルの丸太のような腕が振り下ろされる。

とっさに後ろに飛んで躱すも、待ち構えていた大顎が迫る。

 

「チィっ!」

 

両腕を強化して大顎を受け止める。

 

「あれだけの力しかないかと思ったら。ワシの鋏を受け止める力がある……よくわからん奴だのぉ。

だが、その状態でこれは受けられんだろう?」

 

再び、大きく振りかぶった拳が迫る。

コウは身をかがめて大顎から脱して後ろに転がって距離を取ろうとするも、スタッグビートルの脚が迫る。

ブレイクダンスをするかのように身体を捻り、迫る脚に強化した回し蹴りを叩き込んで狙いをそらす。

そして今度こそ、距離を取った。

 

「フムフム、なるほどのぉ」

 

何かを納得したスタッグビートルは、その巨体からは想像できない速さでコウに襲い掛かる。

 

「舐めるな!」

 

コウはそれに対して、加速せずに拳に力を貯めて、自分からもスタッグビートルへと駆ける。繰り出される大顎の下をくぐって懐に潜り込む。

 

「甘いわっ!」

 

だが、その動きを読んでいたスタッグビートルの裏拳が、コウに叩き込まれた。

 

「ぐおっ!!」

 

ギリギリのところでガードしたが、コウは吹っ飛ばされて壁に叩きつけられた。壁が崩れてコウの上に降り注いだ。

 

「目にもとまらぬ早さ動けたかと思えば、速いが、把握できなくはないくらいの速さしか出さぬ。ワシに力負けせぬ力があるのかと思えば、簡単に吹き飛ぶ。ちぐはぐだのぉ」

 

瓦礫を押しのけてコウが姿を現した。

 

「ほほぉ、あれだけ派手に飛んで、すぐに動けるとは、耐久力が……違うな、回復力が高いのか」

 

肩で息をしているコウを見据えてスタッグビートルはつぶやいた。

 

 

 

 

 

 




手に入れた力でも、敵わない。
それで、戦士は立ち上がる。
物事を正しく認識した時、コウは真の力を得る。

次回 Double Guardian 第八話「誤認」


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第八話 「誤認」

 

「……ふぁ…」

 

「お帰り、ヒムくん」

 

差し出されたハクの手を取り、起ち上がったヒムは横に視線を向けた。蠍の異形が自分よりも年下の少年たちに変わった。

 

「ケンくんとジュウくん、二人とも大丈夫?」

 

「うん、助けられたよ。

でも、まさか、二人で一体になっているとは思わなかった」

 

「良かった。じゃあ、次お願いね」

 

頷くヒムにハクは、にっこりと笑い、自分の背後を指差す。

そこには、体を痙攣させている蝙蝠の異形がいた。

 

「二人を助けに行ったヒムくんを倒そうとして襲い掛かってきたんだけど、私の毒のこと忘れてたみたいで。

ほら、リカちゃん、うっかりさんだから…」

 

やれやれと言いたげなハクに、ヒムは困った顔をしつつ、仲間を救うために精神世界に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コウの通常の身体能力では、スタッグビートルには敵わない。

攻撃力と防御力は言うまでもなく、速さは勝っているが、ヤツの反応できない速さではない。

超能力を使えば、一つ一つの分野で上回ることができるが、劣る部分で上回った分を帳消しにされてしまう。

加速して連続攻撃をするもスタッグビートルの耐久力を削りきることができない。

手足に力を集中させるもスタッグビートルの間合いの方が広く攻撃が届かない。

幾度となく、スタッグビートルの攻撃で弾き飛ばされる。

 

(まだ、まだだ……こんなところで、死んでたまるか…)

 

「まだ立つか…

だが、気力だけで立っているようじゃのぉ」

 

フラフラなコウにゆっくりと近づいたスタッグビートルが腕を振りかぶり、振り下ろした。

 

「ッ!?」

 

途切れ途切れの意識の中、迫りくる剛腕をコウは、本能的に受け止めた。

 

「ム?」

 

「ッ!?」

 

今までならば、その一撃は受け止められても、威力で吹き飛ばされて壁に叩きつけられていた。だが、今の一撃は、吹き飛ばされることなく、その場で受けきっていた。

 

(今、俺は何をした? あの腕を受け止めようとして、脚を踏ん張り、腕を上げて受け止める態勢を取った……

腕を強化して、ダメージを抑えつつ、脚も強化して踏ん張った?

二か所同時に強化した?)

 

「まだ、意識がはっきりせんようじゃのぉ!」

 

再び振るわれる腕を今度は加速して、距離を取ることで避けた。

 

(俺は、大きな思い違いをしていたんじゃないか? 超能力による身体能力の強化はスイッチのON・OFFによる切り替えじゃなくて、分配なんじゃないか?)

 

冷静に思考すると、コウの想像は間違っていなかった。

何故なら、加速するために強化しているのはどこか?

速く動くための足、思考を速める為の頭、大気の壁を突破するための全身、これらを強化して初めて加速することができていた。

何故、コウがそのことに気が付かなかったのか? それは、自身の能力を自覚した時、最初に戦った相手が悪かったのだ。

ライノスの強固な装甲を突破するには、一点集中で、それも100%の力を込めなければならなかった。

ぶっつけ本番でそれをやったコウは、無意識のうちに“必要な個所のスイッチ(100%)を入れる。同時押し(割り振り)不可”と思い込んでしまっていた。

できることが分かれば、100%を理解しているコウの順応は、早かった。

スタッグビートルの間合いに踏み込む。

繰り出される攻撃を受け止め、捌く。

 

「急に、何故!?」

 

「慣れたのさ。俺が俺自身に」

 

コウの足が鋭く振り上げられ、振り下ろされた。

その二撃だけで、スタッグビートルの最大の武器である二本の顎を切り落とした。

 

「な、何いいいっ!?」

 

「言っただろう。慣れたって、なっ!」

 

繰り出した拳を掴まれ、スタッグビートルは投げ飛ばされた。

 

(……まさか、本当に、ワシと戦っているこのわずかな間に、自分の力をものにしたのか?

何という才能……あのお方が守護者に選ぶわけじゃ。が、顎を失ったとはいえ、ワシはまだ、戦える。ならば、戦士として戦うのみ!

確かに、関節は弱い故に顎を落とせた。じゃが、逆に言えば、関節を狙わねば、ワシに攻撃を通せないということ!)

 

スタッグビートルは、拳を固めて、コウに向かっていく。

コウも、臆すことなく、スタッグビートルに向かっていく。

両者の距離が近づいていく。

お互いがお互いの間合いに、必殺の一撃を逸るには十分な距離。

両者が、攻撃のモーションに入る。

スタッグビートルは、大きく拳を振り上げ、真っ直ぐに振り下ろした。

 

(こやつの技は蹴り、ならば!)

「この距離ならば、拳の方が!」

 

スタッグビートルの予想とは裏腹に、コウの選んだ攻撃は、貫手…正確に言えば、貫手突きだった。

クロスカウンターで放たれたソレは、スタッグビートルの胸部の装甲と装甲のわずかな隙真を正確に突き刺さり、心臓を貫いた。

 

「ふはっ、見、ご…と……」

 

スタッグビートルの身体から力が抜け、コウに寄りかかるように、力尽きた。

かに思われた次の瞬間、スタッグビートルは、コウの身体に手を回し、締め上げた。

 

「なッ!? がはああぁっ!!」

 

相撲の鯖折りと呼ばれる技だった。ただ、相撲のように膝を着かせて終わりに等しない。腰をへし折る、いや、真っ二つにするまで、とまらないだろう。

 

「このっ、大人しく死ね!!」

 

コウは、スタッグビートルに突き刺していた腕を振り抜き、身体を斜めに切断した。

 

「ココデ、サラニ、進化スルカ……」

 

絞り出すようにスタッグビートルはつぶやくと倒れ、動かなくなった。

 

「進化? 進化、ねぇ……」

 

その言葉を自身になじませるようにつぶやきながら、コウは、膝を着いた。

 

「手持ちのカードを必死になって切っていくのが、進化なら、思いついたようにカードを増やしていくあいつは何だよ? 革命でも起こしてんのか? ん? これは?」

 

コウは、スタッグビートルの首筋に何か細い糸のような物があることに気が付いて、手を伸ばそうとした時、不意に感じた気配に、コウは振り返った。

 

「ッ!? おまえは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何人も現れる同郷の改造人間たちを、ヒムは精神世界にダイブして救った。

最初に仲間になったハクが、毒を操り、敵の行動を不能にできたこと。次に仲間になったケンとジュウの兄弟が防御力の高さから、精神世界に入って無防備になっていたヒムをハクの毒の射程外からの攻撃から守った。さらにリカの超音波によるソナーによって潜む敵の発見もできた。

 

「誰か来る!」

 

リカの声に全員が変身して身構えた。だが、それをヒムが止めた。

 

「大丈夫。仲間だよ」

 

部屋の出入り口に現れたのは、コウだった。

その肩には、気絶したイノコが乗っていた。

 

「コウ! イノコを助けてくれたのか!」

 

「いや、助けてない」

 

コウは、イノコを床に下ろすと、どっかりと床に座り、背中を壁に預けた。

 

「これから、お前が救ってこい」

 

「……それって、まさか…」

 

「ああ、こいつ、改造人間だった。しかも、ホエールと同種だ。

少し休ませてもらうぞ。外側の傷は治りやすいが、内側の傷は治りにくくて、な……」

 

そのまま、崩れ落ちるように横に倒れ、静かに寝息を立て始めた。

コウを知らないリカたちがコウに対して警戒している様子に、ヒムとハクがフォローを入れる。

それからヒムはイノコの精神世界へ旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒムがイノコの精神世界から帰ってくるのと、コウが目覚めるのはほぼ同時だった。

本来の心を取り戻したイノコは、ヒムとコウに土下座した。

 

「お前の目的…いや、お前が受けていた命令は何だったんだ?」

 

「……ボクが受けたのは、ヒムの監視だ」

 

コウの問い掛けにイノコは、チラリとヒムを見てから答えた。

 

「俺の監視?」

 

「ヒムを連れ戻せとか、殺せとかじゃなくて、監視しろって言われていた。

飛虫が転校してきてからは、飛虫も監視しろって命令に変わった」

 

「だから、転校した後、良く話しかけてきたのか」

 

「うん」

 

素直にうなずくイノコにコウは、思考を巡らせる。

 

「おかしいくないか?」

 

「それはボクも思ってた。飛虫の人間の顔は、全然知られていなかったけど、レジスタンスに寝返った裏切者のバッタの改造人間が組織の施設を破壊して回っている組織内でも有名だったから」

 

そう言ってイノコがヒムの同郷たちの方に、同意を求めるように視線を向けると、大半がうなずいた。

 

「だから、飛虫がそのバッタの怪人だってわかった時点で、ボクの方から飛虫の洗脳とか、殺しとかを提案したんだけどすべて却下された。

二人がここに来るって報告しても、同行しろとしか言われなかった。

施設内に入って上司に報告したけれど、何の返答もなかったから、飛虫を殺して功績としてのし上がろうと思ったんだけど、ね。

飛虫、ずっとボクのことを疑っていたんだろう?」

 

「疑われていないと思ったか? 最初から怪しさしかなかったぞ。

おまえ、洗脳ありきだろう? 俺に洗脳は効かないからな」

 

潜入任務にはそれなりに自信があったイノコは、がっくりとうなだれた。

 

「ついでに、どの辺りから怪しいって思ってたのさ?」

 

「ワシ野郎と戦った頃からだ。化物を見て腰が抜けていたやつが、服のことに気がまわせるかよ。

ついに、その前までは、やたらと話しかけてくるから、気持ち悪いやつだと思ってた」

 

コウの告白に、イノコは渋い顔になった。

 

 

 

 

 

 

 

 




ヒムとコウ、それぞれに襲い来る刺客たち。
強さへの、チカラへの渇望が、高まり、限界を超えた時、彼らの進化は加速する。

次回 Double Guardian 第九話 「発光」


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第九話 「発光」

 

 

「これからだが……王白、こいつら連れて、脱出しろ」

 

コウは、施設内で回収した栄養ブロックを口にしながら、ハクたちを指差して同じように栄養ブロックを食べていたヒムに命じた。

 

「え?」

 

「月海、テレパシーでここの見取図と、ここのトップがいる場所を送れ。俺はそいつを殺りにいく」

 

立ち上がったコウが、早くしろとイノコを急かす。

 

「勝手に決めんなよ。みんなで行動した方が、安全だろ?」

 

「ダメだ」

 

「どうして?」

 

「それは、ッ!? そこ!!」

 

詰め寄るヒムを突き飛ばし、コウは、変身すると、サイキックバリアを展開し、手刀を振るった。

その場のほぼ全員が、コウの突然の奇行に目を見開く。

その中で、コウは床から何かを拾うと、見せるように突き出した。

 

「なんだ? 髪の毛か?」

 

コウの持つそれを見てヒムは首を傾げた。

 

「今、これが、通気口から出てきて、俺たちの方に近づいてきていた。糸文の操っていたやつらの中にもこれが付いている奴らがいて、急に動きが良くなった。さっき俺が戦っていたヤツにも付いていて、殺したはずなのに、動き出した」

 

「どういうことだ?」

 

「わからない。だが、これが良い物じゃないことはわかるだろう?」

 

ヒムが、村の仲間たちに問うも、誰一人として、それが何なのか、それを操ったのがだれなのか、わからなかった。

 

「感知能力の低いやつを守りながらみんなで一緒にこの先に行くなんて無理だ。さっさと、ここから脱出しろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コウと別れたヒムは、イノコの案内で施設から脱出しようとしていた。

改造人間を生産するための開発場兼、実験場兼、訓練場であったこの施設には、もう、改造人間が残っていないのか、銃火器で武装した兵士が向かってくるが、改造人間である少年少女たちの敵ではなかった。

 

「ヒム、もう少しで出口だ」

 

「そうなのか! よし、みんなもう少しだ。頑張れ!」

 

イノコの報告を受けてヒムが、仲間たちに声をかける。

 

「ヒム」

 

「なんだよ?」

 

再び声をかけてきたイノコに、振り返ったヒムの額にイノコの人差し指があたった。

 

「うわっ、なんだよ!?」

 

「飛虫の方に行きなよ。気になってるのが丸わかりだよ。

飛虫に情報を伝える時にこっそり、マーキングしておいたんだ。

で、今、ヒムの頭に、その位置情報を送った」

 

「……でも」

 

「こっちはもう大丈夫だよ。もうゲートは目の前だし、こっちよりも、向こうの方がきっと、ヒムの力を必要としているはずだから」

 

「……わかった。みんな、ゴメン! 俺、飛虫のところに行ってくる!」

 

そう言って走り出したヒムにハクたちは、いってらっしゃいと送り出した。

ヒムを見送ってしばらく間をおいてから、イノコは息を吐いた。

 

「ふぅ……行ったね」

 

それから、ハクたちの方を振り返った。

 

「何人かは、わかっているみたいだけど、止めなかったね」

 

「ヒムくんが、彼のことを心配していたんだもん」

 

イノコの言葉に、ハクが笑って答え、後にいる少年たちも笑ってうなずく。

 

「そっか」

 

イノコも笑い。それから真面目な顔になった。

 

「もう少しでゲートであることはウソじゃない。でも、施設の中だから、敵も気にしての武装だったけど、ゲートを出れば、それを気にする必要がなくなる」

 

少し進むと、ゲートが見えてきた。

 

「うわぁ、バズーカ砲や爆弾なんかも用意しているよ」

 

ゲートに近づき、外の様子を超能力で探ったイノコは困ったように笑う。

 

「御行儀良く待っていてくれているみたいだけど、だからってこっちも、御行儀良く、ゲートを開ける必要はないよね」

 

そう言って、イノコはゲートに手をかざす。バキッという音と共にゲートが枠ごと外れ、外で待機していた兵士に向かって飛んでいった。

 

「あとは、各自、命を大切にね」

 

その言葉を聞くか聞かないか、異形の姿へと変身した少年少女たちは、飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通路を進むコウは、通路に立つ存在に気が付いた。

自分は前を見て進んでいたというのに、いつの間にか立つソレに今まで気が付かなかった。そんなことが起こるわけがない。超能力によるジャミングの気配もない。カメレオンのように保護色で隠れたいたわけでもない。

何をしたのかわからない。

警戒心を強め、それを注視するコウの目の前にソレは現れた。まだ、10m以上離れていたはずのそれが、一瞬でコウの懐に入ってきたのだ。

 

「ッ!?」

 

「おっそ」

 

小ばかにするように笑うチーターに、コウは反射的に攻撃を繰り出すも、いつの間にかチーターは消え、先ほどの位置にいた。

 

「なるほど、速いのか」

 

コウは、腰を落とし、構えた。

合図はなかった。

ほぼ同時に高速で動き、瞬きをする一瞬で二人の立ち位置が入れ替わっていた。

 

「クッ!」

 

コウが脇腹を抑える。

 

「あの方に見初められただけあって結構速いけど、その程度? 期待外れなんだけど」

 

あからさまに肩を落とすチーターに、コウは再び加速して襲い掛かった。

 

「おおぉ、さっきよりはえ~」

 

揶揄うように笑いながら、チーターはコウの攻撃をいなし、反撃の一撃を叩き込む。

 

「がはっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒムは、イノコたちと別れ、コウと合流すべく通路を走っていた。

コウの強さは知っている故に、焦る必要なんてないと思っているのに、何故か足は速くなるばかりだった。

 

「オラあああああああああっ!!」

 

「うわっ!?」

 

突然の怒鳴り声と共に、壁が破壊され、そこから現れた存在の体当たりをヒムはギリギリで回避した。

 

「外したか! んじゃ、もっかい! どすこおぉい!!」

 

力士のように腰を落とし、勢いよくワイルドボアは、ヒムにぶちかましを仕掛ける。

それをヒムはサイコバリアで受け止める。

 

「クっ、重いっ!?」

 

「おおっ、これ、耐えるか!」

 

ワイルドボアは、喜々としてもう一度、ぶちかましをかまそうとし、ヒムも動いた。

 

「防戦一方っていうのは趣味じゃないんだよ!」

 

サイコバリアを展開せず、四本の腕でワイルドボアを受け止め、二本の足で踏ん張る。

勢いを殺すことはできたが、じりじりとヒムが押されていく。

 

「フハハハッ、電車道ぃ!!」

 

「なめんじゃ、ねぇ!」

 

ヒムは強引にワイルドボアを持ち上げ、バックドロップを叩き込んだ。

 

「グハハハッ!! プロレスか! いいぞ、お前のプロレスと、俺の相撲、どっちが強いか勝負だあっ!!」

 

「なんなんだよ、こいつ!?」

 

突っ込んで来るワイルドボアを迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おうおう、がんばるねぇっ」

 

「くっ!」

 

チーターの速さにコウが追い縋るも、チーターはさらに速く動き、コウを追い詰める。

 

「…戦い方を変えるか」

 

「あ?」

 

コウは、背中を壁に当てて構えた。

 

「感覚器官を強化してのカウンター狙いってとこか? 壁を背にすれば、背後からの攻撃って選択肢も削れると? 舐めてくれるじゃないの」

 

「……」

 

コウの取った行動から、チーターはその意図を読み取り、その程度の策で自分の速さを敗れると思うなんて、もっと痛めつけてやらないとと、残虐に嗤い、加速した。

それとほぼ同時に、コウも加速し、跳んだ。

そして、壁を足場にしてチーターへ向かって跳んだ。

 

「ッ!?」

 

壁を足場にして地面と水平に飛んだコウの速さは、チーターの加速を越えた。

たった一撃、今まで届かなかった攻撃が届いた。回避行動をされたため、クリティカルヒットとはならなかったが、当たったことには変わりはない。

 

「アハッ、まさか、こんな方法で当てに来るなんてさぁ。すごいすごぉい!

……もう、手加減しなくていいよな?」

 

コウの拳が当たった肩を抑え、チーターは、ゆらりと立ち上がった。そして、予備動作もなく加速した。

コウも即座に加速して、対応しようとするも、今までのが手加減という言葉は嘘偽りなく、コウがガード体制を取ろうとするよりも速くチーターの拳が、十数発、コウに叩き込まれた。

 

「ガフッ!? 今まで……舐めやがってっ!」

 

壁を利用して加速するも、その速さでもチーターの本来の速さに届かず、カウンターをくらう。それでも、コウは止まらずに駆ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおおおおおおおおっ!!」

 

「ふははははははははははっ!!」

 

ヒムの四本の腕によるラッシュと、ワイルドボアの連続で繰り出される張り手。手数こそ、倍の数あるだけあってヒムの方が上だが、力は完全にワイルドボアの方が上だった。そして、ダメージに対する耐久性もワイルドボアの方が上だった。それ故、ヒムのラッシュをワイルドボアは体で受け止め、攻撃に集中する。

ダメージ覚悟で攻めに徹するヒムだったが、蓄積されていくダメージに段々と防戦を強いられるようになった。

 

「どうした、どうした? どうしたああっ!?」

 

「グガッ!?」

 

ワイルドボアの張り手がヒムの顔面をとらえ、体勢を崩した。その隙を見逃さず、ワイルドボアは、ヒムの腰を掴んで、相撲の投げ技をかけようとする。ヒムがそれに耐えようとすると、ワイルドボアは、その大きな体からは想像できないような素早い切り返しで、ヒムの耐えようとする力も利用して、ヒムを投げた。

 

「ぐはっ!?」

 

床に叩きつけるようにヒムを投げ飛ばし、痛みに悶えるヒムに向かって大きく足を振り上げ、ヒムに向かって四股を踏もうとする。

ヒムは慌てて、横に転がり、難を逃れる。

即座に起き上って攻撃に転じようとしたヒムだったが、ぶちかましが直撃した。そのまま、壁をぶち抜き、ホールのようなところに出た。

ヒムは、ワイルドボアに投げ飛ばされ、ホールの中央に転がされた。

 

(このままじゃ、ダメだ。でも、どうすればいい?

バリアで受け止めても、反撃するのに、バリアが邪魔になるし……あ、もしかして!!)

 

起き上がったヒムに、もう一度、ぶちかましをしようとしたワイルドボアだったが、まるで段差を踏み外したかのようにバランスを崩した。

 

「ッ!? な、何をした!?」

 

「さぁ? なんでしょう?」

(上手くいった! ミヤコさんに教えてもらってた時は、上手くできなかったけど、今の俺なら、出来る気がする。次はこれだ!)

 

サイコバリアをワイルドボアの足元に小さく展開し、踏み出してバリアに乗った瞬間にバリアを消す。そんな技を使い、自信をつけたヒムは、ワイルドボアに向かって走る。

ワイルドボアも、ぶちかましで迎え撃とうとするが、踏み出した瞬間、後ろ足が後方に引っ張られ、再びバランスを崩した。そこに大振りで、走った速さが乗ったヒムの拳が、顔面に突き刺さった。

 

「だりゃああああっ!!」

 

「ふがああっ!?」

 

悶えるワイルドボアにヒムは、追撃に出る。だが、ワイルドボアもやられて黙ってはいない。張り手でカウンターを狙うも、繰り出した張り手が、ヒムから反れた。

そして、がら空きになった顔面に、さらにヒムの拳が叩き込まれた。

 

「グフッ、や、やるじゃないか。だが、お前は逃げた! 俺との真っ向勝負から逃げて姑息な手に走った。見損なったぞ!!」

 

はっきり言って、言いがかり甚だしい。言われたのが、コウならば、殺し合いをしているのに何を言っているんだと鼻で笑って終わりだろう。

だが、ヒムは違った。

 

「いいぜ、そう言うんなら、やろうぜ。全力と全力をぶつけ合う真っ向勝負!」

 

「ふははははっ!! そうこなくてはな!」

 

笑い声をあげ、ワイルドボアは、蹲踞の姿勢を取り、身体の前で手を叩くと、前傾姿勢になり、ぶちかましを仕掛けた。それをヒムは正面から受け止めた。

 

「ふんぬうううぅっ!!」

 

力で勝るワイルドボアがヒムを押しこもうとした時、不意に下から上に向かって持ち上げられるような力が加わり、ワイルドボアは、ヒムに上下逆さまに持ち上げられた。

 

「いくぞっ!」

 

ヒムは、ワイルドボアの首を自分の肩口で支え、四本の腕でワイルドボアの手足を掴み、跳んだ。

 

「貴様ぁ! 騙したのか!?」

 

「騙してねえよ。俺はちゃんと言ったぞ、“全力と全力”だって。これも俺の全力の一部だよ!」

 

サイコバリアを足場にしてホールの天井近くまで駆け上がり、そこから床に向かって落ちていく。

 

「こんな卑怯者に負けるわけにはぁ!! ぬおおおおっ!!」

 

「逃がすかぁっ!!」

 

ヒムのマスクの複眼がオレンジに発光し、サイコプレッシャーを発動させ、降下速度が加速した。

そして、ヒムは、床に尻もちをつくように着地。同時にワイルドボアには、首の骨は折れ、背骨は粉砕され、さらに股裂きのダメージが襲い掛かった。

 

「がはっ!?」

 

ヒムが手を離すと、ワイルドボアは、床に倒れ、二度と動くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

加速したコウは、一方的に攻撃してくるチーターに追い縋っていた。

駆ける足が遅い。

 

(もっと…)

 

足が速くなる。だが、思考が追い付かない。体の挙動と思考が乖離する。コウが拳を振り抜くまでにチーターの攻撃が四度、コウを襲う。

 

(もっと…)

 

思考が、身体に追いつく。コウの攻撃一つの間にチーターの攻撃が三度あたる。

 

(もっと、もっとだ)

 

超能力の振り分けが、より細かく、綿密になっていく。コウの蹴りの間にチーターは、コウを二度殴打した。

 

(足りない)

 

思考と行動の間にある神経による伝達のタイムラグが、限りなく0へと近づく。コウの手刀にチーターは、カウンターで蹴り飛ばす。

 

(まだ、足りない)

 

五感が、感覚が鋭利になる。コウの拳が、チーターの拳とぶつかる。

コウは、一撃ごとにより速く、より早く、より疾くなっていく。

チーター自身も限界まで加速している。自分の本気の速さには、誰も追いつけないはずなのに、そう言われてきたのに、目の前の敵にチーターは恐怖した。

 

「いいかげんにしろおっ!! ゲハァッ!?」

 

コウの顔面を撃ち抜いたはずの拳は外れ、自分の脇腹にコウの拳が当たっていた。その拳を、チーターは認識できていなかった。

そんなはずはない。

絶対にありえない。

それが意味することをチーターは必死に否定する。

 

「追いついたぞ」

 

「ッ!? ふ、フン! 一度のまぐれ当りで、悦に入るなんて、おめでたいヤツだね!」

 

同時に加速、最初の時と同じように立ち位置が入れ替わった。だが、今回膝を着いたのは、チーターの方だった。

 

「まぐれじゃなかったな」

 

「あ、ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないいいいい!!!!」

 

チーターは、地団太を踏み、頭をかきむしり、荒々しく息を吐く。

そしてそれがピタリと止まった。

 

「もういい、この後どうなろうと、おまえだけは絶対に殺す」

 

狂気を宿した静けさに、コウも覚悟を決める。

 

「これが最後の追いかけっこだ」

 

全ての音を置き去りにして、コウとチーターは駆け抜ける。

壁を、床を、天井を、足場にして、縦横無尽に走る。

限界を超えたチーターとそれに負けぬ速さのコウ。

幾度となくぶつかり合い、距離が開いた。すぐさま、両者は走り、距離を詰める。

 

「もらった!」

 

コウの首に向かってチーターの爪が振り下ろされる。だが、それは宙を斬った。その攻撃は、完璧なタイミングだったはずだ。それは、まるで、自分だけが世界に取り残された、そんな感覚だった。

瞬時にコウが何をしたのか、チーターは理解した。

単純な話だ。

一瞬だけ、ブレーキをかけ、高速移動を止めたのだ。

再び加速したコウは、チーターを掴んで、更に加速する。マスクの赤い複眼が発光した。

 

「ッ!?」

(アツっ!? まさか、空気との摩擦で発火するほどの速さ!? そんな速さで動いてなんで平気なんだ!?)

 

チーターは、自分の身体が発火したことに驚愕した。抵抗しようにも、全身が発火し、それも叶わない。

そして、その勢いのまま、チーターは床に頭から叩きつけられ、絶命した。

 

「余計な寄り道……じゃなかったな。おかげで、チカラの使い方がより分かった」

 

そうつぶやくと、コウは、歩みを再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ついに、紅月ウミと対峙した。
自分たちを改造した元凶との最後の戦い。
ヒムとコウ、二人の力が限界を超える。

次回 Double Guardian 第十話 「決戦」


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第十話 「決戦」

「ここか」

 

コウは、一つの扉の前で立ち止まった。イノコの示した見取り図通りならば、ここにこの施設の責任者である紅月ウミという科学者がいるはずだ。

変身すると、扉に拳を叩き込み、室内に乗り込む。

 

「騒々しい入室ね」

 

部屋には無数のモニターが存在し、そこには、コウの姿、戦うハクたちの姿、走るヒムの姿が映っていた。

モニターの前の椅子から人が立ち上がり、ゆっくりと振り返る。

床についても余るほどに長い髪の美しい女性がいた。

 

「…紅月ウミだな」

 

「G1。私の傑作で、最強のガーディアン。

あなたの成長、見せてもらったわ。

素晴らしい、私の予測を超えていたわ」

 

「その力で、お前は殺されるんだよっ」

 

高速で拳を繰り出す。だが、ウミの髪が意思を持ったかのように動いてコウの腕に絡みつき、ウミに拳が届く前に止めた。

 

「予想を超えた速さではあったけれど、私の想定したレベルには、まだ届かない」

 

ウミの身体が変化してジェリーフィッシュへと変わった。

コウの腕に絡みつく髪が触手へと代わり、それの数が増えてコウを覆いつくそうとする。

 

「チィ!」

 

加速し、触手を焼き切って離脱する。

 

「高速移動を離脱に使うか、さらに応用性が出てきた。やっぱり、あの子たちをあなたにぶつけたのは、間違いではなかったわ」

 

「何をごちゃごちゃと!」

 

ウンウンと一人で納得し、頷くジェリーフィッシュに再び、今度は加速して襲い掛かろうとした。

 

「同じ加速では芸がないわ」

 

「ぐはっ!?」

 

一瞬、何をされたのかわからなかった。加速したはずなのに、床に転がる自分がいた。

 

「加速とは、脳が加速を決めて身体が加速を行うことで起こすことができる。脳の判断を体へ伝達するまでにある一瞬のタイムラグを突けば、加速は妨害可能なのよ。もっとも、私も自分の思考を加速させて、そのタイムラグを見切っているわけだけど」

 

まるで、出来の悪い子供に諭すようにジェリーフィッシュは言い、触手をコウに向けて伸ばす。

それを、強化した手刀で薙ぎ払おうとしたが、脚に激痛が走り、体勢を崩した。

 

「一点集中での身体強化を改善させたようでも、つける穴は多い」

 

「な、なめるなぁ!!」

 

腕を振り抜く。放たれたサイコウェーブが、触手を弾き飛ばし、ジェリーフィッシュに迫る。

 

「超能力を放つのは、G2の仕事、そんな脆弱なサイコウェーブで ッ!?」

 

「チっ!!」

 

苦も無く、コウのサイコウェーブを弾いたジェリーフィッシュが講説を口にしようとした時、眼前にコウの爪が迫っていた。ジェリーフィッシュは、それをギリギリで回避することで、顔面に貫手が突き刺さることはなかったが、頬が深く切り裂かれた。

 

「サイコウェーブを放った直後、加速による急接近、身体強化した貫手…

これだけの動作を連続して行えるなんて、加速の速さも身体強化も制度が下がっていたけれど、超能力の操作がさらに上がっている」

 

ジェリーフィッシュは自分の頬に手を当ててすっと撫でると、コウの付けた傷は、消えていた。

 

「いい、凄くいいわ!」

 

ジェリーフィッシュが、楽しそうな声を上げてコウに触手を放つ。

 

「あぶねえ!!」

 

飛び込んできたヒムがサイコバリアで触手を防いだ。

 

「王白!? なんで、お前がここに?」

 

「ゴールまでついたから、お前の方に行けってみんなに押し出された」

 

「それは……そうか、正直助かる。俺一人じゃ手に負えない」

 

「お前がそんなこと言うなんて、よっぽどの相手なんだな」

 

「俺たちの製作者さまだよ」

 

「なるほど、それはそれは」

 

ふら付きながら立ち上がったコウと肩を並べてヒムも構えた。

 

「G2、あなたの成長も素晴らしい。

第一段階までの改造でありながら、そこまでの力を発揮するとは思わなかったわ。第二段階まで改造して、そっちに回していた超能力を戦力に使用したら、どれくらいになるか、楽しみでしょうがないの」

 

「丁重にお断りさせてもらうぜ!」

 

多方向から向かってくる触手全てをヒムがサイコバリアで弾き、コウが加速して攻撃する。

ヒムがいるせいで、先ほどのようにコウの加速の妨害ができない。さらに、ヒムの弱点を攻めようにも、コウがいるせいでそれができない。

コウの攻撃で傷付いた身体を、すぐに再生させる。その間にヒムが接近し、力任せに攻撃をする。それをするりと躱し、死角から触手を伸ばすも、コウが弾き飛ばす。

 

「フフフ、攻防一体、私の理想とした運用法がされているわ」

 

自分が不利な状況のはずなのに、楽し気にジェリーフィッシュは言う。

その時、不意に、アラームが聞こえた。

 

「まったく、楽しくなってきたところで」

 

深いそうな声とともに、ジェリーフィッシュは、触手でスイッチを押した。

 

『博士、ヘリの準備ができました』

 

「予定はキャンセルよ」

 

『そんな!? キャンセルなど不可能です!』

 

「本当にタイミングの悪い、わかったわ、すぐに行く」

 

『はっ!』

 

モニターが消え、ジェリーフィッシュが振り返る。

ジェリーフィッシュが部下と会話している間、コウもヒムも手を止めたりはしていなかった。だが、触手だけでなく、超能力も行使するジェリーフィッシュに二人は、攻め切ることができなかった。

 

「っというわけで、申し訳ないのだけど、これから出かけないといけなくなったの」

 

「「はい、そうですかって、いくかよ!」」

 

二人が攻撃を仕掛けようとするが、天井が崩落し、床が抜けた。

 

「野郎っ、触手で床ぶち抜いて、念動力で天井崩落させやがった!」

 

「ウソだろ!?」

 

ヒムはジェリーフィッシュのやった荒技に驚愕するも、即座にサイコバリアで足場を作り、さらに上に“Λ”の形にバリアを展開して落下してくる瓦礫を受け流し、コウは瓦礫を跳んでわたる。

崩落は、すぐにおさまったが、そこにジェリーフィッシュの姿はなかった。

 

「逃げられた!」

 

「いや、まだ追える。ヘリの準備ができたって、言っていたってことはあいつら、ヘリを使う気だ」

 

「ってことは?」

 

「どんなヘリかはわからないが、外だ。月海のくれた見取図には載っていなかったが、8割近くわかっていれば、おおよその見当はつく。行くぞ!」

 

「おう!」

 

走り出したコウの後に続いてヒムも走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妨害もなく、二人は、格納庫までたどり着いたが、すでにヘリは飛び立っていた。

 

「クソ、遅かった!」

 

「いや、まだだ、アレを使うぞ」

 

自分たちのジャンプ力では届かないであろう所にいるヘリの姿に、地団駄を踏むヒムの肩を叩き、コウはそこに置かれていたバイクを指差した。

 

「え? バイク!? いや、向こうは、空を飛んでんだぞ! そぉらぁを!」

 

「大丈夫だ。俺と、お前ならな」

 

「っていうか、鍵は!?」

 

「問題ない」

 

コウは、バイクに跨ると、手をかざした。すぐに、エンジンがかかった。

 

「え? どゆこと?」

 

「念動力だ」

 

「超能力って便利なんだな」

 

「その便利な超能力を俺以上に使えるはずなのが、お前だぞ」

 

ヒムが、コウの後に乗ると、コウはバイクを発進させた。

鋪装されていない悪路をバイクが恐ろしい速さで疾走し、ヘリとの距離を詰めていく。

草木が生い茂る場所で出す速さではないが、コウが自身の感覚を強化することで、安定した走行を実現させていた。

 

「そろそろ、お前の出番だぞ」

 

「何しろっているんだよ」

 

「サイコバリアで道を作れ」

 

「あ、なるほど!」

 

「跳ぶぞ。それに合わせろ」

 

「あいよ、了解!」

 

コウが、木の根を利用してバイクをジャンプさせた。それに合わせてヒムがサイコバリアを展開して、バイクに見えない道を作る。

真っ直ぐにヘリへと向かって行く。ヘリの方も、空を走るバイクに気が付いたらしく、ヘリから、マシンガンを持った兵士が身を乗り出してきた。引き金が引かれ、マシンガンが火を吹いた。

だが、コウは、ハンドルを切らない。

銃弾がコウに当たる前に、コウの位置が下がった。ヒムがサイコバリアを解除したことで足場を失い落下したのだ。

銃弾を回避するとすぐにヒムはサイコバリアを再展開して道を作る。

コウがアクセルを全開にすると、バイクは、ありえない速さでヘリに突っ込む。

ヒムのサイコバリアの上を疾走し、コウのサイコバリアでコーティングされたバイクは、ヘリの装甲を貫き、メインローターを破壊した。

ヘリは、火を噴いて真っ逆さまに墜落し、爆発した。

地上に着陸してバイクを傍に止め、二人はバイクから降りた。

 

「クフフっ、アハハハハハハ!! 素晴らしい、本当に素晴らしいわ、あなたたちは!

マシン・ゲイルを完璧に操り、空まで走って!

精神をリンクさせて会話もなく、意思疎通をしている!

あなたたちの進化の早さは、私の想像を超えていく。

あなたたちを選んだ私は、間違っていなかった!!」

 

触手で、ヘリを跳ね飛ばし、炎をかき消してジェリーフィッシュが、狂気の笑い声を上げて姿を現した。

 

「ヘリが壊れたんじゃ、遅れても仕方ないわよね?」

 

そう言いながら、触手を二人に放つ。

ヒムが前に出てサイコバリアで防ぎ、加速したコウがバリアの影から加速して飛び出し、ジェリーフィッシュの腕を切り裂く。

即座にジェリーフィッシュは、腕を再生させ、コウに向けて、腕を伸ばすも、不可視の巨大な腕に下方向に押し付けられるように、下に叩きつけられた。

 

「ハ、ハハハっ! そういえば、G2は教わりもしないでサイコプレッシャーが使えるようになっていたわね! さすが、今の私が選んだガーディアンよ!

あなたもよ、G1! 高速移動の速さがさらに上がっているわ! 次の私が手助けしただけのことはあるわね!」

 

「今の私? 次の私?」

 

「おっと、余計なことを考えてしまった。さぁ、もっと見せて!」

 

ジェリーフィッシュの楽し気に声を上げ、不可視の巨大な腕を持ち上げるように、サイコプレッシャーを片手で押し返すように上に伸ばし、逆の手を振り下ろした。

 

「なっ!?」

 

「グぉっ!!」

 

ヒムは、撥ね返されそうになったサイコプレッシャーを必死に抑え込み、コウはジェリーフィッシュのサイコプレッシャーを叩きつけられ、地面に膝を着いた。

身動きできない二人を触手が襲い、二人は吹っ飛ばされた。

 

「「ぐはぁっ」」

 

吹っ飛ばされた二人はすぐに起き上がろうとするも、サイコプレッシャーが再び叩きつけられ、地面に押し付けられる。

 

「くっそおおぉっ」

 

ヒムは、先ほどジェリーフィッシュにされたのと同じようにサイコプレッシャーを撥ね返そうとする。

 

「ぐ、ぐうううっ」

 

コウは、自身の力で強引に立ち上がる。

 

「へぇ…」

 

それぞれの抵抗に、ジェリーフィッシュは、感心したような声を漏らす。

 

「「ああああああっ!!」」

 

複眼を発光させ、それぞれの方法で、サイコプレッシャーを撥ね退け、ジェリーフィッシュに、拳を振り上げ襲い掛かる。

同時に繰り出された拳は、ジェリーフィッシュの数cm手前で止まった。サイコバリアが展開されていたのだ。

コウは二本の腕で、ヒムは四本の腕で、不可視の障壁を殴り続ける。止まることなく繰り出されるラッシュによって、障壁にひびが入り、砕ける。

そのままの勢いでジェリーフィッシュに殴りかかるが、再び二人は、直前で拳が止まり、そのまま、後方へと弾き飛ばされた。

いくつもの木をなぎ倒して、二人は止まった。

 

『遊んでやがる』

 

『え?』

 

『これだけの力があったら、施設で…いや、お前が助けに来る前に俺を殺すなり、それこそ戦闘不能にしてとらえるなりできたはずだ。

こいつは、俺に、自分の改造人間たちを戦わせてよかったと言っていた。

俺たちを、あいつらの言い方で言うところの進化させるためにあえて手加減してやがる』

 

『舐めやがって!!』

 

ヒムは、自分が激突してなぎ倒した木を持ち上げ、ジェリーフィッシュに次々と投げつける。それら全てが、ジェリーフィッシュの眼前で止まる。その木の中から、コウが飛び出し、蹴りを放つが、それも後に数mmのところで触手に絡め捕り、締め上げる。

 

「ぐううううっ!!」

 

「とばされてから一瞬で、反対方向まで回り込んで奇襲……まだ、精神リンクは継続中と」

 

不意にジェリーフィッシュに影が差した。上空から、木がジェリーフィッシュを串刺しにせんばかりの勢いで降ってきたが、木は空中で静止した。

 

「まだだ!」

 

その木に向かって、ヒムが踵落としを叩き込み、ジェリーフィッシュへ押し込もうとするが、ジェリーフィッシュのサイコバリアは破れない。

 

「おい」

 

不意にコウが、ジェリーフィッシュに声をかけ、指を振る力だけで尖った石を投げた。その石は、正確にジェリーフィッシュの目を射抜いた。

 

「ッ!?」

 

そのダメージで集中が乱れたジェリーフィッシュのサイコバリアが破れ、その身体の左半分を押しつぶした。それにより、コウは拘束から脱する。

ジェリーフィッシュから距離を取り、ヒムもその隣に着地した。

 

「っ!」

 

「おい、大丈夫か!?」

 

コウが不意に膝を着いた。

 

「まだ、大丈夫だ。だが、そろそろ、終わらせないと俺もお前もガス欠だ」

 

「あ~、それはなんとなくわかるわぁ。そろそろ、限界っぽいな」

 

コウはゆっくりと立ち上がった。

半身を破壊されたジェリーフィッシュだったが、驚異的な再生力で半身を復活させていた。

 

「誇りなさい。この短時間で、あなたたちのした進化段階は、今までの研究データを優に超えているわ」

 

身体を半壊させられた跡だというのに、ジェリーフィッシュの声は楽しげだった。

 

「もう、てめぇを喜ばせるもんなんてねぇよ」

 

「楽しませたりなんてしない」

 

「「先に言っておく、さっさと終らせるからな!!」」

 

マスクの目の部分が、コウは赤にヒムはオレンジに発光し、それぞれ開いていた口の部分が閉じた。

コウが加速する。ジェリーフィッシュが、その加速の隙を突くことができないほどの速さだった。超高速で接近し、ジェリーフィッシュを掴んで跳ぶ。

空気の摩擦によってジェリーフィッシュの身体が燃える。即座に再生と同時に攻撃をしようとするも、触手は次々と燃え上がる。コウの動きを止める為、コウが木々を足場にした瞬間に木に掴まって急ブレーキをかけたり、サイコバリアやサイコプレッシャーを使用して止めようとするも、コウは何もない空間で跳躍し、使おうとする超能力がことごとく妨害され、ジェリーフィッシュの目論見を外す。

 

(G2のサイコバリアにサイコジャマー!? 加速状態でもリンクを維持している? 違う、こちらの思考をジャックしているのね!)

 

燃える体を何とかしなければならないのだが、しようとする全てが、妨害される。

その間も、コウはさらに加速する。

 

(G1の方が、私の思考加速よりも速い!? このままでは、身体が維持できなくなる!?)

 

鋭く尖らせた触手を全身から放ち、強引にコウの拘束を逃れた。

即座に欠損した肉体を再生させるが、そちらに気を取られたジェリーフィッシュは、自分の落下地点にいるヒムに気付いていなかった。

 

「オラああああああああっ!!」

 

「うげええええええええっ!?」

 

四本の腕による嵐のようなラッシュに晒され、再び肉体を砕かれていく。

 

「パスだ!!」

 

その声とともに叩き込まれた頭突きによって、上空に飛ばされたジェリーフィッシュに向かって跳んだコウとすれ違う。その瞬間に、コウの手刀がジェリーフィッシュの首を落とした。

 

「ゲはぁっ!?」

 

頭と体から触手が伸びてお互いをつなげようとする。

 

「ヒム! 下は任せた」

 

「オウよ!!」

 

ヒムが、サイコバリアを利用して高く飛び、身体を回転させながら、蹴りを放ち、体を粉々に蹴り砕いた。

コウが、地面を蹴り上げ、舞い上がった石や木の枝を足場にして超高速でまるで稲妻のような軌道で跳び、残った頭部を蹴り抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




ついに、紅月ウミを倒した。
だが、それが戦いの終わりとはならなかった。
最後の後始末の為、二人は止まらない。

次回 Double Guardian 最終話 「終演」


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最終話 「終演」

 

 

 

 

「何とか片付いたね」

 

「ええ…」

 

銃撃で破損した眼鏡を適当に放り捨てて「疲れた」と瓦礫の上に腰を下ろすイノコに同意するリカ。

周辺には、多くの兵士の死体。

改造人間の少年少女たちは、怪我をしている者はいるが、死んだ者はいなかった。

リカの聴力が、生き残った兵士がいないことを確認する。

 

「じゃあ、村に帰ろうか?」

 

イノコは、仲間たちにそう言うと、腰を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コウとヒムは、バイクに乗って施設に戻ってきた。

 

「一瞬見えただけなんだけどさ、紅月ウミの記憶が見えたんだ。

俺じゃ意味がよくわからなかったけど、お前なら、わかるんじゃないかと思ってさ」

 

「お前よりは、頭がよくても、俺はホエールみたいな天才じゃないんだがな」

 

ヒムの案内のままに歩き、二人は、ジェリーフィッシュが崩壊させた部屋にたどり着いた。

 

「えっと、たしか、あの辺か」

 

変身したヒムは壁の一角に飛ぶと、拳を叩き込んだ。隠されていた扉が、吹き飛び、隠し部屋が姿を現した。

コウもヒムの後を追って跳んで隠し部屋の中に入る。そこには無数のガラスの円柱が設置されており、その中はやせ細った人間と液体で満たされていた。

 

「なんだよこれ…」

 

「わからん」

 

二人は、ガラスの円柱から視線を放した。

 

「「ッ!?」」

 

気配を感じた二人は、身構えてそちらを向く。そこには幼い女の子がいた。

コウをあの隠し部屋へと導いた女の子だった。

 

「おまえは…「なんで、お前がこんなところにいるんだ!? それに前にあった時と全然姿が変わってない!?」 王白?」

 

コウ以上に驚いているヒムがいた。

 

「こっち」

 

ヒムの問い掛けに応えず、そう言って歩き出した女の子の後を二人は慌てて追いかける。

二人が導かれた先には、小さな部屋があった。資料庫のようだった。

そして、女の子は一つのファイルを指差した。

コウがそれを手に取り、中に目を通す。

ファイルを見るコウから段々と怒気がはなたれ始め、最後まで見終わると、コウは、ファイルを粉々に砕いた。

 

「え、えっと、飛虫さん?」

 

「……紅月ウミは、不死の研究をしていて、様々な人体実験を繰り返したらしい。その数は優に万を超えてやがる。

そして、たどり着いた方法は、クラゲの持つ若返りの力に着目して自身を改造人間にしたらしい。ただ、クラゲの力を持っても元々が人間だったこともあって完全な若返りができなかった。次の取った手段が、クローニングだ。自身のクローンを用意して、そこに自身の知識や記憶を埋め込む。

クラゲの特性のおかげで細胞の劣化もなかったらしい。問題は、成長速度の速さだったらしいが、さほど問題視していないみたいだな。

お前が会ったっていう女の子は、さっき俺たちが倒した紅月ウミで、そこの紅月ウミは、次の紅月ウミだ。

この資料通りなら、肉体が成熟してからじゃないと知識や記憶を埋め込めないらしいから、まだ、ただ成長の早いガキだけどな。

で、さっきのあれだけどな。あれは紅月ウミがクローンを作り出すためのエネルギーを得るための餌らしい」

 

「難しい話は分からなかったけど、その子はまだ、紅月ウミじゃない。んでもって、本物の紅月ウミがまだ生きているってことで、さっきのは人を食っているってことだな?」

 

「ああ」

 

「だったら、することは一つだな」

 

「ああ」

 

変身している二人には、薄暗いこの隠し部屋など、昼間のようによく見えた。

そして、資料庫の反対側、隠し部屋の奥の方に息を殺している巨大で醜悪な存在に視線を向けた。

 

「これで終いにするぞ。いい加減、限界だ」

 

「同感!」

 

女の子を資料室へ押しやり、二人は、クローンを生成するためのケースも、餌にされた人間が入っているケースも次々と破壊し始めた。

 

「Giiiiiiiiiiiiiiieeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee」

 

醜悪な怪物が奇声を発し、触手を伸ばして二人を止めようとするが、そんなもので二人は止められない。すべてのケースを破壊し、残った紅月ウミと対峙する。

言語できない奇声を上げ、触手が二人を襲う。

 

「そんな姿になって、言葉まで失って…不死って、哀れだな」

 

「アレに知性はない。知性のある紅月ウミは、俺たちが殺した。アレは、クローンをつくる為に生かされているだけの、モノだ」

 

「Ogyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa」

 

床に転がったミイラたちが突然、動き出して二人に襲い掛かる。

 

「うわっ、なんだよこれ!?」

 

「よく見ろ、首にヤツの触手が刺さってる。そこから、神経を操って動かしているんだろうな。何度か見たが、その時は、統制が取れた動きをしていた。

たぶん、あの時はクローンが操っていたんだろう。

こいつの場合は、ただ、自分の命を狙ってくる敵を排除するために本能で、動かしているだけだ。恐れるに足りないな」

 

襲い来るミイラたちを難なく倒した二人の複眼が発光し、マスクが展開する。

二人が同時に飛び出し、コウが怪物の下に潜り込むように入って担ぎ上げた。

 

「おおおおおっ!!」

 

そして、投げ飛ばした錐揉み回転する怪物の上の跳んだヒムが、コウと同じモーションで、ただし、逆向きに空投げをする。

 

「でりゃああああああっ!!」

 

右回転と左回転、反発する二つの力に晒され、醜悪な怪物・紅月ウミは粉々になって消滅した。

ヒムとコウは、向かい合うと、二人そろってそのまま、仰向けに倒れた。女の子が心配そうにのぞき込む。

 

「もぉ、だめだ…」

 

「くそ、一歩も動けねぇ」

 

コウとヒムは、女の子が連れてきたハクたちに助けられた。

それから、コウのバイクに仕込んでいた通信機を使ってミヤコと連絡を取り、ミヤコが組織の人員を連れてきた。

ハクたちを保護し、神台村はそのまま組織が管理することとなった。

神台村で住んでいた大人たちは、ヒムとコウの二人が倒したミイラたちだったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱ、俺も一緒に行く」

 

「ここを、あいつらを、守るんだろう。防衛型ガーディアン?

攻めるのは、俺に任せておけ」

 

「でもよぉ」

 

施設で手に入れたバイクに跨ったコウにヒムが心配そうに声を出す。

戦いが終わり、一週間が過ぎている。

ヒムは仲間を守り、これからも救われるであろう改造人間が安心して暮らせる場所を作る為、神台村に残ることを決めたのだが、いざ、コウが出発しようとすると、言いようのない不安を覚えてしまった。

 

「俺とおまえは、同時運用を前提としている。お互いのピンチは、わかる。

お前がピンチなら、俺が駆けつける。俺がピンチの時は、お前が駆けつけてくれ」

 

「おう、任せてくれ!」

 

コウが右拳を出すと、ヒムも右拳を出してコウの拳に当てた。

 

「じゃあな。ヒム」

 

「ッ!? おまえ! ああ! またな、コウ!!」

 

発進したバイクをヒムは手を振って見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて、完結となります。
ただ、書きたいと思ったことを書きたいように書いた駄作ですが、ここまで読んでくださった皆様に深く感謝いたします。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。


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キャラクター紹介

キャラクター紹介

※人間体及び怪人体のイメージを乗せていますが、あくまでも外見のイメージであり、性格などは、一切関係ありません。




 

王白ヒム(ホッパーG2)

主人公。16歳。

良くも悪くもごく普通の高校生だったが、コウと出会ったことで自分が改造人間であったことを知る。

趣味はプロレス鑑賞。

怪人体はオレンジの複眼、青い第三の眼、三本指の四本腕、クリーチャーな外見をしている。

防衛型ガーディアンであり、サイコバリア・サイコプレッシャー等の超能力を得意とし、他者の精神世界に入ることもできる。

第一段階の改造しかされていない為、超能力の何割かを自我を保つために割いている。第二段階まで改造された場合、身体能力及び超能力も強力になると思われる。

身長:185.7㎝

体重:80㎏

ジャンプ力:20m

走力:100mを5秒

パンチ力:15t

キック力:20t

人間体のイメージはゲットバッカーズの天野銀二。怪人体のイメージは仮面ライダーBlack(漫画)のバッタ人間。

名前は、飛蝗を崩して王白飛虫(きみしろひむ)

 

 

 

飛虫コウ(ホッパーG1)

主人公。16歳(多分)

自分を改造した組織を壊滅させるために戦い続ける戦士。改造される前の記憶はほとんど持っていない。

怪人体は、赤い複眼、赤い第三の眼をしている。改造は第二段階までされたところで脱出した。

攻勢型ガーディアンであり、超能力で身体能力を強化する。サイコバリア等も使用可能だが、超能力特化型やヒムに比べると貧弱である。戦闘に関しては高いセンスを持ち、戦闘経験も豊富である。戦闘中にも成長していく為、強化時のスペックは未知数。

幼少期、神台村にいたことにしようかと思ったが、面倒になりやめた。

身長:190㎝

体重:85㎏

ジャンプ力:25m(通常時)

走力:100mを3秒(通常時)

パンチ力:10t(通常時)

キック力:15t(通常時)

人間体のイメージはゲットバッカーズの美堂蛮。怪人体のイメージは仮面ライダー真序章の仮面ライダー真。

名前は飛蝗を崩して飛虫皇(ひちゅうこう)

 

 

 

月海イノコ(ドルフィン)

スパイ。16歳(多分)

主人公たちを監視していたスパイ。高い超能力を持っており、身体能力は人間に毛が生えた程度だが、通常の改造人間を圧倒するだけの戦闘能力を有していたが、多少強化された程度の感覚では、反応できないような速度で動くことのできるようになっていたコウに瞬殺され、精神世界ではヒムを相手に序盤こそ圧倒していたが、超能力を学習したヒムにやり返され、身体能力で圧倒された。

コウと同じく、神台村に幼少期いたことにしようかと思ったけど、コウと同じくめんどくさくなりやめた。

イメージはサイコメトラーEIJIの葛西祐介。

名前は海豚を崩して月海豕(つきかいいのこ)

 

 

 

尢鳥キョウ(イーグル)

刺客。20代。

教育実習生としてやってきた主人公たちに放たれた刺客。教育実習生としての面は、授業はわかりやすく、優しく、話しやすい雰囲気で、イケメンと完璧超人だった。

怪人としては飛行能力を有し、羽を武器にした遠距離攻撃と、高高度から爪を使ったHIT&WAYが得意。

人間体のイメージはBLEACHの藍染惣右介。怪人体のイメージは仮面ライダーSPIRITSのタカロイド。

名前は鷲を崩して尢鳥京(おおとりきょう)

 

 

 

ミヤコ・パイシーズ(ホエール)

コウの仲間。20代。

イノコと張り合えるくらいの超能力を有する改造人間。普段は医者として活動している巨乳美女。

コウに超能力を教えたり、コウの無茶の尻拭いをさせられたりしている。ヒムの訓練にも協力した。

コウと肉体関係にある描写を入れたり、恋人風な立ち位置で登場する描写を書くも「あっ、これじゃ、18禁や」と気が付き、削除。結果、登場が8割削られてしまった。

イメージはリリカルなのはのシャマル。

名前は鯨を崩して京・魚(座)(ミヤコ・パイシーズ)

 

 

 

虫咮ジュウヤ(スパイダー)

刺客。20~30代。

いろんな場所に行けるという理由で、暗殺から誘拐まで様々な任務を進んで受けている。

怪人体では、口から糸を吐くだけでなく、手からも出してスパイダーマンができる。口に猛毒の牙が備わっているが、相手が完全に動けなくなるまで近づかない慎重派。

人間体のイメージはBLEACHの市丸ギン。怪人体のイメージは仮面ライダーのクモ男。

名前は蜘蛛を崩してくっつけて虫咮虫矢(むちゅうじゅうや)

 

 

 

立甩亦チシキ(カメレオン)

刺客。20~30代。

スパイダーの相棒。勝手に任務を請け負い、一ヵ所に留まらず、西へ東へする相棒に振り回されている苦労人。改造の影響で人間体でも肌の一部にうろこが見えてしまうため、化粧で誤魔化しているが、肌の関係で化粧のノリが悪く、厚化粧になってしまう。

怪人体では、周囲の色に同化し、認識外から攻撃する慎重派。

人間体のイメージはBLEACHの松本乱菊。怪人体のイメージは仮面ライダーフォーゼのカメレオンゾディアーツ。

名前はカメレオンの中国での呼び方の一つ変色竜を崩して立甩亦夂色(たしゅつまたちしき)

 

 

 

尸牛スイ(ライノス)

施設防衛。30代。

改造前より人を傷つけることに何の罪悪感も感じていなかった。自身の力と装甲には自信を持っており、似ているタイプのワイルドボアをライバル視している。兄貴分のスタッグビートルを尊敬している。

怪人体では、その強固な装甲と突進力を武器としているパワーファイター。

人間体のイメージはストリートファイターのザンギエフ。怪人体のイメージは仮面ライダー龍騎のメタルゲラス。

名前は犀を崩して「二|二」をくっつけて尸牛水(しぎゅうすい)

 

 

 

糸文ハク(バタフライ)

刺客。16歳。

改造されて生み出された別人格と、自身の能力の相性によって基本全裸で生活していた貧乳美少女。

自身を助けてくれたヒムに好意を抱く。

改造前は、かなり女子力が高かったが、改造されてからは、洗脳した下僕に世話をさせていた為、大分錆び付いており、現在は錆を落とすため日々精進している。

洗脳するための毒鱗粉を放つ羽を出すだけでいいので、完全に怪人体になることは少なかった。また、直接的な戦闘能力はかなり低い。

人間体のイメージはかぐや様は告らせたいの四宮かぐや。怪人体のイメージはイナズマンVSキカイダーの風田御世(変身体)。

名前は紋白(蝶)を崩して糸文白(いとふみはく)

 

 

 

上ノシチジン(タイガー)

訓練兵。14歳(享年)。

バタフライの洗脳の実験体にされ、仲間を殺す。その後も毒の実験体にされ、衰弱死した。

虎の怪人とか絶対に強キャラだけど、丁度いいのいないし、いっか。という作者の雑な考えでヒムのライバルキャラとして用意されていたのに殺された不遇キャラ。

怪人体では、鋭い爪と銜えたら死ぬまで放さない牙が武器。

人間体のイメージは暗殺教室の寺坂竜馬。怪人体のイメージは仮面ライダーZXのタイガーロイド(白虎)。

名前は、虎を崩して上ノ七儿(うえのしちじん)

 

 

 

牛予サト(バイソン)

訓練兵。13歳(享年)。

タイガーと同様にバタフライの洗脳の実験体にされ、戦わされて死んだ。

気弱で引っ込み思案な巨乳ポチャ系美少女。

怪人体では、ライノスと丸被りな戦闘スタイル。

人間体のイメージは恋姫無双の斗詩。怪人体のイメージは仮面ライダーBLACKのバッファロー怪人。

名前は野牛を崩して牛予里(うしよさと)

 

 

 

金形シュウ(スタッグビートル)

施設防衛兼教官。40代。

ライノスやワイルドボアに兄貴として慕われている巨漢。一人称は「ワシ」だが、老齢というわけではなく、ただの方言的なもの。筋肉だけでなく、思慮深い面もある。

怪人体では、強力な強靭な顎はもちろんだが、屈強な四肢による打撃、硬い装甲を持つ。

人間体のイメージはバキのビスケット・オリバ。怪人体のイメージは、ワンパンマンの阿修羅カブト(クワガタなのに)。

名前は鍬形を崩して金形秋(かねがたしゅう)

 

 

 

曷ケン&曷ジュウ(スコーピオン)

訓練兵。13歳。

二人で一体の怪人になる双子。兄がケンで弟がジュウ。自信家な兄と引っ込み思案な弟だったが、改造された別人格の性格は逆になっていた。

怪人体では、強固な殻、強靭な鋏(ケン担当)と猛毒の毒針(ジュウ担当)で攻める。

人間体のイメージは黒執事のファントムハイヴ兄弟。怪人体のイメージは仮面ライダーBLACKRXのトリプロン。

名前は蠍を崩して曷欠(かつけん)曷虫(かつじゅう)

 

 

 

保波リカ(バッド)

刺客。17歳。

元気が取り柄で面倒見のいいお姉さんだが、どこか抜けている微乳美少女。

改造された影響で明るいところが苦手で耳が良くなった。

怪人体では、暗闇の中、無音で飛行し、強襲する奇襲攻撃が得意。

人間体のイメージはアイドルマスターの菊地真。怪人体のイメージは仮面ライダークウガのズ・ゴオマ・グ。

名前は平安時代の『本草和名』でのコウモリの呼び方、加波保利を並べ替えて保波利加(ほなみりか)

 

 

 

ワイルドボア

施設防衛。20代。

かつて相撲部屋に入門していたが、問題を起こし破門された。やたら騒がしい性格で敬遠されがち。スタッグビートルをライノスと共に兄貴と慕う。

怪人体でも相撲で戦う。意外と技巧派であり、仏壇返し等、投げ技が豊富にある。

人間体のイメージは鬼滅の刃の伊之助。怪人体のイメージは仮面ライダーキバのウォートホッグファンガイア

阿修羅バスターを見て、ヒムならできるなぁと思い、それを受ける相手。っという条件で逆算的に考えて誕生したキャラクターの為、人間の頃の名前は考えていなかった。

 

 

 

チーター

施設防衛。20代。

相手を小馬鹿にした態度をとる。

怪人体では、圧倒的な速さで相手を襲撃する。ある程度速さのある敵に対しては、ワザと相手の対応できるギリギリの速さで仕掛け、弄ぶ悪癖がある。

怪人体のイメージはHUNTER×HUNTERのヂートゥ。

ワイルドボアのおまけ。ヒムが阿修羅バスターするから、コウには飯綱落としさせようと思い、逆算的に考えて誕生した。その為、人間の頃の名前どころか、人間体のイメージさえ考えられていない。

 

 

 

紅月ウミ(ジェリーフィッシュ)

科学者。年齢不明。

死なない体を求めて、自身を改造するも、予定通りいかず、本体が生成するクローンに自身の記憶・知識を移すことを繰り返していた。記憶・知識をクローンに移してからは本体は人間を栄養として取り込み、クローンを生成するだけの肉になった。

組織より、化学技術面での貢献である程度の自由を認められている。

怪人体では、触手と超能力を使用し、自身は一歩も動くことなく、相手を一方的に蹂躙する。

触手は、伸縮縮小が自由自在であり、髪の毛ほどの細い糸状にして死体に刺して神経を支配し、人形のように操ることができる。

超能力は、イノコやミヤコに勝るとも劣らない実力を持つだけでなく、コウの高速移動に対応可能。

人間体のイメージはToLOVEるのティアーユ・ルナティーク。怪人体のイメージは仮面ライダーアマゾンズのクラゲアマゾン。

名前は紅海月を並べ替えて紅月海(こうづきうみ)

 

 



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