かつて彼女は英雄だった (初月)
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設定集
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一応ネタバレ注意
・機械化海上歩兵部隊
艦娘艦隊の正式名称。
出来て間もないころは主にこちらのほうで呼ばれていた。
小型・高速のアーマーを操る急襲部隊、中~大型のアーマーを操る強襲部隊に分かれている。
急襲部隊は哨戒や船団護衛、艦隊護衛を主な任務としており出撃数に見合うよう数は多いが損耗率も高い。
強襲部隊は敵拠点襲撃や揚陸支援、掃討を主な任務としており数は少なく出撃の機会も少ないが多大なる戦果を挙げている。損耗率は少ない。
司令部は横須賀、呉、佐世保、舞鶴にあり、室蘭への設置も検討されている。
なお長距離護衛中の指揮権は護衛戦隊の旗艦へと委譲される。
・艦娘
深海棲艦に襲われている艦隊に突然あらわれ、普通の軍艦の火力でやっと沈む深海棲艦を排除していくその姿からいつの間にか呼ばれるようになった。
商船ではかなり早くから使われていたようだ。
なお正体は機械化海上歩兵である。
・機械化海上歩兵用特殊アーマー
艦これの艦娘の艤装とほぼ同じものではあるが、一部違うところがある。
艦娘の艤装は防御を超過する攻撃を受けても一定時間は耐え、搭乗者を守ってくれるが、
こちらは防御スクリーン用エネルギーが切れたらそれから先は一切守ってくれない。
パーツごとに交換可能で航続距離は搭載されている燃料電池によって左右される。
武装やFCSを交換することはほとんどないが、行動の肝となる脚部は大まかに安定性がない分よく動くことができる反重力浮遊型と安定性が高い分あまり派手な動きは出来ない反重力浮遊水中翼併用型に分かれる。
あとブースターをつければ飛べなくもない。
略称は特殊アーマーや装備。
・機械化海上歩兵
海上機械化歩兵用特殊アーマーさえ装備できればなることができる。
ただこの特殊アーマーはサイバーコネクトによる操作や、そもそも被弾を避けるために小さいので小柄でなければ乗れないなどの欠陥を多く含んでおり多くはこれと、身体機能向上のために投与されるナノマシンに耐えうる人材だけになるのでかなり少ない。
また、海上機械化歩兵になると身体的成長をとめる薬が投与される場合が多い。
駆逐艦などによる対艦ミサイルの弾幕展開が不可能な艦隊に近づいた深海棲艦の撃滅や、船団内に入り込んだ深海棲艦の駆除を主な任務とする。
桟橋から海に飛び降りて発進は相当高錬度でなければできないため、通常は専用の運用施設から出撃する。
ちなみにこの運用施設は比較的に小さいので艦船に取り付ければその艦を母艦として運用することも可能。
また、本名で呼ぶことは禁止され特殊アーマーについている名前で呼ぶことも義務づけられる。
・朝風(二代目神風型)
二代神風型アーマーの二号機であり名前は初代神風型アーマーからとっている。
小型レールガン4基と連装特殊ロケット弾連装発射基2基に7.7mm機関銃2基を搭載した状態で運用開始。
安定性重視のため水中翼併用型脚部を装備している。
・春風(二代目神風型)
朝風のアーマーとほぼ同じだが、試験的にブースターがつけられているため短時間の低空飛行が可能。このため脚部は反重力浮遊型のものとなっている。
・松風(二代目神風型)
二代目神風型アーマーの標準型に軽いカスタムが施されているため少し機動性がいい。
その分の安定性マイナスを補うため水中翼併用型を装備している。
・旗風(二代目神風型)
二代目神風型アーマーの標準型に長距離レーダーを搭載したモデル。
駆逐隊の目である。その分重くなっているのだがレーダーに気を配りながらの戦闘が多いので安定性重視の水中翼併用型を装備している。
・初代神風型機械化海上歩兵
初期につくられた量産型特殊アーマー。
このアーマーの登場によりアジア方面においての撤退戦が終焉を迎えた。
成長抑制剤の投与により後継がでるまで対深海棲艦戦の最前線に立ち続けた。
性能としてはイ級より少し弱い程度である。
パーツの換装機能はなく、水中翼と小型化されたウォータージェット推進で動く。
いまでは戦死および退役により全員除籍済み。
略称は初代神風型
・二代神風型機械化海上歩兵
初代のあげた戦果にあやかり同じ名前を付けられた最新型駆逐艦級機械化海上歩兵。
中型アーマーが登場しているいまでは表舞台では見ないが、海上護衛戦での活躍はかなり期待されている。
量産が画策されており、チューニング用のキットも存在する。
性能としてはロ級並。
略称は二代目神風型
横須賀で提督を始めてから早1年が経とうとしているけどそんなにたった気がしないのは艦これ以外も結構やっているからなんだろうか。
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プロローグ
海の守護者
燃え盛る貨物船
大爆発をおこして船体が折れた護衛のフリゲート艦
一体どの船のものかわからないカッター
地獄すら生ぬるい。
そんなことを思っているとまた一つ爆炎をあげてタンカーが沈んでいった。
悲鳴に似た声が近くのカッターから聞こえてきた。
多分今爆発したタンカーの乗組員だったのだろう。
その近くでは艦尾が水没した状態のフリゲート艦が未だに動いていた主砲を乱射していた。
あいつらはそれに気がついたのだろう。
直後大量の閃光弾が降ってきてフリゲート艦は跡形もなくなっていた。
遠くから段々と近づいてくる深海棲艦が見えてきた。
時々見える閃光弾がカッターや燃えながらも浮かんでいた貨物船にあたり水柱や爆発をあげていた。
ああ、死ぬのか。
そう思ったとき突然深海棲艦が爆発を起こし砕け散っていった。
◇
『房総半島南方20km地点付近を航行中の輸送船団からの救難信号を確認した。哨戒中の海上機械化歩兵は向かえ』
「こちら朝風、了解しました。春風とともに向かいます」
普段どおりの応対をしたものの突如入った通信に私は軽く緊張していた。
今まで私たち海上機械化歩兵部隊が行っていたのは精々日本列島近海に出没した駆逐艦級の排除であり、船団を襲撃しにくるような軽巡洋艦クラスのものとの交戦経験はなかった。
それ以前にこの機械化海上歩兵が必ず装備する特殊アーマー自体が操縦者をかなり絞られていて、適正がないと使えない代物らしい。まあおかげで使う人に合わせて作られるのでかなり使いやすいものなのだけれど。
まあ相手がそこまで強くない駆逐イ級の場合が多いので特殊アーマーについているエネルギーシールドを展開すれば無傷で済むのであまり苦に思うことはなかったが今回はどうだろうな…。
正直かなり怖いが、それでも人が助かるのなら行こう。
「春風、行くよ」
そう私のパートナーである春風に告げて全速力で救難信号の発信地点へと向かっていった。
◇
それから航行すること20分ほど、司令部からの誘導に従い航行していると突如私たちの周りに水柱が上がった。
救難信号発信地点から10kmほどのところだがらホ級とかへ級あたりの何かがいるのだろう。
まだ当たる気配はないが用心深く動いて損はない。
「春風、蛇行で接近するよ!」
そう告げると威勢のいい返事とともに水柱にはさまれた。
もう補足されてしまったようだが全速で蛇行する私たちには当たらない。
ただその自信が油断を招いたのだろう。
接近する白い航跡に気づけなかった。
それは私にまっすぐと向かってきたのだけれど、あたることはなくそのまま後ろへと流れていった。
「朝風危なかったな」
そういうパートナーのほうは軽々しく魚雷をよけていた。
「気づいているならいって」
危うく死ぬところだった、とはいわない。
雷撃に有効かは分からないが、気づかずに被弾してもエネルギーシールドを自動展開してくれるはずだから。
まああまりあてにはできない。
当たり所が悪ければエネルギーシールドなんかと関係なく吹っ飛ぶからだ。
実際それで大怪我した子もいるようだ。
敵との距離が十分縮まったと判断した私は遂に砲撃を開始した。
これもまた特殊な一品で、人に持てるサイズなのに大砲並みの威力がでるらしい。
なんでか聞いたら意味のわからない単語を羅列されたので気にかけないことにした。
春風に至ってはもはやそんなことを気にしていない様子である。
戦うことそれ自体を楽しんでいる節があると思うが、気にすることはやめた。
機械化海上歩兵であるかぎり戦うことから逃れられないから楽しんだところで問題はないだろう。
そんなことを考えながら撃った弾がカッターを沈めていた駆逐艦イ級の致命弾になった。
◇
突然爆発した深海棲艦の影に見えたのは、砲撃を行っている少女だった。
隣に居た三郎が
「あれが…噂に聞く艦娘なのか?」
と呟いた直後周辺が歓喜の渦に包まれた。
その姿はまるで天使のようだった。
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伊豆諸島補給戦
1
この小説は1~2ヵ月に一話更新を予定しているのでご了承ください。
「それではデブリーフィングを開始します。」
私たちのオペレーターの冷たい声でデブリーフィングが始まった。
「朝風、春風両名の行動により駆逐イ級2の撃破及び軽巡洋艦ホ級の中破が確定しました。
第一目標である房総半島方面通商破壊艦隊の弱体化は成功です。
新人にしてはよくやりましたね。」
そういうとスクリーンの戦力ゲージが半減した。
いくらなんでも本土近海、大きな戦力は即座に発見され、対艦ミサイルの餌食だろう。
直後スクリーンに表示される戦力ゲージが変わった。
「第二目標である船団救援は失敗です。
イ80船団は護衛のフリゲート艦が5隻、商船16隻が沈没したため横須賀へと撤退しましたが、そこで再編され一週間後には再度出航し硫黄島への輸送任務へ向かいます。
その時に護衛任務が降りるかもしれません。準備をしておいてください」
またスクリーンが変わる。
今度は伊豆諸島の地図であった。
まだ何かあるのだろうか?
そう思っていたらまたオペレーターが話しはじめた。
「また今回の被害に伴い伊豆諸島近海の通商破壊部隊の間引き作戦が承認されました。
この作戦は明日から三日間にあわせて実行し、その間は伊豆大島簡易基地及び横須賀軍港を根拠地とする汎用駆逐艦くろしおに拠点を置くこととなります。移動の準備を行ってください。
それではデブリーフィングを終了します」
電気がつき、スクリーンが収納された。
被害については軽く触れられるに留まったものの、イ80船団の戦力ゲージは三分の二ぐらいになっていた。
休みもほとんどなく間引き作戦が発令されるということはかなりまずい事態なのだろう。
無理だとはわかっていてももっと助けられなかったのかと思ってしまう。
でも慣れなきゃいけないんだ。
ここまで大きな壊滅は最近では少ないが、それでも壊滅することはある。
反省はするべきだが気に病むのはいけない。
それは自分を壊してしまうかもしれないから…。
◇
デブリーフィング終了から64時間後、私は春風、松風、旗風とともに出撃準備を行っていた。
本来ならば私たちは普通の水兵さんたちと一緒に乗り込むのだが、新人だということで着艦作業の訓練をかねて海上から行くということになった。
「着艦か…。訓練以来だな」
という春風。
事実そうなのだが、いくら新米の私たちとはいえども寸分の狂いもなく行えるようになっていたはずだ。
「いくら新人でも私たちをなめているとしか思えないわ」
私が思ったことを松風が代弁してくれた。
だが同時に思ったことがある。
「まあ、実戦で失敗するよりはましでしょ」
失敗すれば高速で動いている母艦に体当たりするかバランスを崩して溺れてスクリューの餌食だろう。
前者ならどうにかなるが後者ならそれ即ち死である。
久しぶりになる着艦なんだから慣れておいて損はない。
そう思いつつ装備を身につけ私はカタパルトを足に装着した。
電磁によってそこそこな速さになったところで私たちは打ち出された。
目指すは汎用駆逐艦くろしおだ。
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2
予想通り何の問題もなく着艦に成功した私たちは波に揺られながら武器の整備を行いながら過ごしていた。
勿論専門の整備員もいるのだが、使うのは私たちなので軽いものは自分でも出来るようにしている。
そのついででカスタマイズしたり試供品の感想等を言ったりしているのだ。
ほかのみんなには何かしらの試作装備が積んであったりするのだが、私のものには通信装備が司令部との交信や作戦指揮を行えるよう複雑になっているだけなので雑談しながらでもかなり早く終わってしまうのはいつものことである。
だから私は整備員たちとよく話していた。
といっても私のを担当している人たちだけなので3人だけではあるのだけど。
「朝ちゃん最近無茶しなかったか」
そう話しかけてくるのは駆動系担当の木更津さんである。
30代くらいの優しい人で、整備隊でも一目置かれているくらいの腕がある人だ。整備がはやく終わるのはこの人のおかげでもあったりする。
「ちょっと春風と演習をしたときに跳びましたね」
「・・・できればそういう無茶はさけてくれ。
一度ぐらいなら大丈夫だろうが何回もやられると安定装置がもたん」
「わかりました」
と注文をつけられることもしばしばだ。
まあこれに関しては私が悪いんだろう。
おかげで関節部分を強化するという話がでてしまうくらいに私は気がつくと無茶をしていることが多かった。
そのうち私の装備にもカスタムが施されるのだろう。
「相変わらず防御系のエネルギーの減少が少ないところをみると無理してでも避けてるんだろう。
イ級とかロ級の砲弾なら下手に避けて機体を壊すより受けて守ったほうがいい」
というのは防御系と通信系を担当している能登さんである。
口調からは感じられないが本人はかなりかっこいい系の美人だ。
「・・・当たるの結構怖いんですよ。
脇にはロケット弾抱えてるし」
「まあその心がけは悪くないさ。
ただ無茶してまで避けるのは本当に不味いときだけにしておけ」
なんだか教官みたいではあるのだけどそのことは何故か言う気にはなれなかった。
武装系の整備の人は・・・今日は休みみたいだ。
能登さんが防御スクリーン発生器と一緒に各種武装を取り付けていた。
「よし、整備は終わりだ。相変わらず駆動系以外の整備は楽だな」
「これから行くのは最前線の次くらいに危険な海域だからな。気をつけていけよ」
そういうと珍しく二人は去っていった。
時刻を確認するとすでに1149。
今日は着艦と整備だけで午前中を潰してしまったようだ。
まだ春風や旗風の整備は続いているが昼食に向かうことにしよう。
◇
先ほど話したとおり春風、旗風の整備は未だに続いていたのでただでさえ人の少ない私達のテーブルは松風と私の二人だけになっていた。
「新兵ってのは案外つらいものみたい」
「でも慣れなきゃいけないと思いますよ」
「そうね」
と余り会話がはずまない。
なんだかんだで同じ部隊でも今まで話すことが少なかったのだ。
今の人類戦線は硫黄島-マリアナ-トラックの防衛線がマリアナ陥落により崩壊し、南太平洋撤退作戦と硫黄島防衛線を同時に展開することとなり絶えず襲撃を受けている日本も私達神風型みたいな新兵くらいしか残っていなかった。
おかげで部隊を組んでも分割されることが多かったのだ。
要するに今までほとんどあっていないのだった。
だから食器が少し鳴る音だけの昼食となっていた。
話すこともないのだからしょうがない。
そうおもっていたのだけれど
「ねぇ、この戦争勝てると思う?」
という松風の声で私は一瞬固まった。
「わからないとしか言えませんね。まあ私は勝つことを願ってます」
10秒くらいおくれて出た私の声。
それに対する松風の反応もまた微妙なものであった。
それからはまた何も話さない状態が続き警報が鳴るまで続いた。
キャラ作りって難しい。
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3
昼食時に突然なった警報。
直後艦内放送がはいる。
『総員第一種戦闘配置!機械化歩兵部隊は直ちに出撃せよ!』
要するにスクランブルだ。昼食のことは放り出して私達は駆けだす。
幸いここからそこまで遠くもない。
だからこそ早くつき、まだ整備が終わってなくて出撃できる状態じゃなかった春風と旗風を置いて出撃した。
おかげで地獄だった。
『こちら朝風、ロ級1にイ級4を発見しました。単縦陣にて接近します』
『了解、こっちは朝風の後方50mにつくわ』
全速力で接近しつつレールガンを撃つ。
だが所詮は新兵の放った弾丸。
ほとんど当たることはなく、数発がイ級の胴体を掠めその威力のおかげで穴を開けただけに止まった。
「駄目かぁ···」
ちょっとした声が漏れた。
1隻を撃沈し、1隻を撃破したとはいえ多分こいつらは斥候。
あとにホ級かへ級が来るだろう。
対する我々は新型とはいえ強いとはいえない神風型だ。
『大丈夫でしょうか···』
つけっぱなしの通信にふと呟いた声が拾われる。
『最悪の想定はすべきだけどそんなこと考える余裕はないと思うわ』
保護機能が多いとはいえ死人が出るかもしれない。
暗にそう伝えられ、そして実感した。
更に10個増えた光点を確認して。
すぐさま飛んできた砲弾を回避しつつ残りのイ級を十字砲火で殲滅する。
着弾したときの水柱を見て事態が最悪の方向に進んでいることに気がついた。
敵は通商破壊艦隊どころか侵攻艦隊の斥候によく見られるへ級だ。
そういえば機械化海上歩兵は艦船扱いだから戦死ではなく沈没だった。
まあ死にかけて10分も浮いていることなんて無いから基本は轟沈となるけど。
軽い現実逃避もすぐ上での敵弾暴発で終わる。
耳当てと緊急消音装置によって耳鳴りは避けられたものの少し動きが鈍った。
その瞬間肉薄していたイ級から雷撃が行われる。
咄嗟に回避したものの一発を回避することが出来ずに被弾するのを覚悟した瞬間目の前の水面が爆発した。
多分レールガン。
味方の増援だろうか?
そんな淡い期待はすぐさま否定された。
『残念ながら私たちには絶望する余裕もないわ。それに勝手に死なれても困るの』
無線とともに松風は突撃していった。
こんな私でも隊長なのだ。
死ぬ気は無いがもしものことは考えるべきだろうか。
ふと後方より爆風が駆け抜ける。
どうやら私が離れたのを合図に死にかけのイ級に対して弾幕が展開されたようだ。
勿論即座にイ級は塵となり消えた。
『朝風、敵戦力が多すぎるわ。私たちだけじゃ無理』
既に接触を試みた松風からの要請。
レーダーで見たところ安全圏にはいるようだ。
これで攻撃要請の準備は良し。
『朝風からくろしおへ、データリンクの後支援攻撃を要請します』
『了解した、至急松風は朝風と合流しろ』
了解という声が重なる。
返信もかなり早いものだった。
対艦誘導弾による攻撃が一番有難いとは思ったのだけれど流石にそれは期待しすぎかもとか思っていると、低空をくすんだ白い煙を曳きながら何かが通りすぎていった。
レーダーから光点が3つ消えると同時にくろしおから通信が入る。
『弾着確認。朝風は突撃せよ。松風は朝風が接近するまで待機しろ』
通信終了と同時に私は全速で突っ込んだ。
同時に敵の頭に砲撃を始めた。
まだ射程ギリギリだが敵の弾幕を松風に任せるよりはましだろう。
小さな水柱を確認すると航路をジグザグに変更する。
予測が狂って大きな水柱が近くに上がっていく。
時間を置いて降ってくる海水を全身に浴びながら松風と合流した。
一部至近弾があったのか防御エネルギーのバッテリーが残り84%だが問題は無いだろう。
『単横陣でジグザグ航行で肉薄します。雷撃準備を』
『了解、攻撃タイミングは各自でいいわね?』
『ええ』
軽いやり取りのあと無線を切ると空に黒煙が立ち込めはじめた。
被弾した奴が炎上しているのだろう。
光点の減りと空の色から5、6隻は撃沈もしくは撃破したはず。
希望が見えてきた。
この程度の戦力差ならよくあることだ。
2名だけというのは不安だが死にさえしなければ増援がくる。
あとは味方の駆逐艦に砲撃させなければいいだけだ。
まあ、倒しておくんだけどね。
砲弾の雨の中そんなことを思った。
感想は基本大歓迎です!
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4
性能的には格上のへ級に肉薄する。
数発の砲弾がシールドに当たり消えていった。
飛んでくる砲弾は正直怖い。
でも訓練学校での演習で突撃時には怖気づいたら駄目だと身をもってしらされていた。
だから私は突き進んだ。
射点まであと少し。
HMDにもカウントダウンが出た。
直後カウントダウンが1になると同時に噴進弾2発をセットする。
とにかく威力を求めたために今ではとても珍しい無誘導兵器だ。
ただ、その代わりといってはなんだがトーチカを一発で消すことが出来るらしい。
味方への誤射を気をつけなければいけないが、幸いというか生憎というか射程距離はせいぜい15kmの代物だ。
遠慮なく撃ち出した。
間も無く飛来していく噴進弾1発が容赦なくヘ級の半分を消し飛ばす。
半分残ったとはいえそんな状態で無事でいられるわけも無く、残った射撃装置らしきものが爆発して海中へと没していった。
『へ級1を撃沈しました。噴進弾1発が迷走中のため注意してください』
『こちらはロ級2撃沈にハ級2を撃破。こっちは半分大破してたわ』
ほぼ同時に二人の無線が入った。
一応先行部隊は撃破したようだ。
『もう深追いはやめましょう』
敗走する敵の姿も見えたが残念なことに追撃を行えるほどの戦力は無い。
味方艦隊から離される前に指示を送る。
ついでに旗艦にも帰還の旨を伝えた。
もう離脱を始めていた味方との距離は10kmぐらいにはなっていた。
比較的安全とはいっても通商破壊部隊が船団を消滅させたりするくらには危険なんだ。
さすがに二人での強行進軍は怖い。
HMDにも帰還ルートが表示された。
「じゃあ、帰ろうか」
そんな私の一言をきっかけに味方艦隊へと足を進めた。
◇
デブリーフィングが終わり、食堂にて軽く休憩していた。
海風にあたるのもいいが、今日は既に浴びすぎた。
正直なところ、今日はもう浴びる気にはなれない。
それで休み方に困った結果やってきたのが食堂というわけだ。
別になにかあるわけではないが、食事中以外は基本的に静かで広いから休むのには最適だった。
あと、先ほども使った直通通路があるという点でも便利なのだ。
出来れば自室に戻って眠りたいのだが、アーマーの損傷が少なかったためにまだ任務を解かれてはいない。
春風と旗風のアーマー。一応出撃できるようにはしたらしいのだが、まだ一部システム系の修復が終わっていないようだ。
特に春風のほうは深刻で、無理に出撃できるようにしたためかまだ整備に時間がかかるとのこと。
・・・早くバトンタッチしたいです。本当に。
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伊豆大島防衛戦
1
食堂で平和に寝ている時、突然妨害が入った。
「おーい」
春風が揺さぶって来るのだ。
「おーい」
正直スクランブルでも無いんだし起こさないでほしい。
「至急第二会議室に来いって連絡きてるぞー」
「なんで最初からそれを言わないんですか」
少し怒りつつ体を再起動させた。
春風はこういうときもテンションが変わらないのが厄介だ。
「もう皆集まってる。急ごう!」
さらに常に全力だからいつも私は置いてけぼりだ。
少しはこちらのことも考えてくれ。
そんなことを思いながら狭い艦内通路を駆け抜ける。
◇
私が入る頃にはもういつでも出来るような状態になっていた。
「朝風。集合が遅いです。今回は罰則無しにしますが次回からは整備室清掃を行ってもらいます」
いつも無感情なオペレーターもなんだか怒っていた。
松風もなんか冷たい目でこちらを見ている。
まあしょうがない。
ほとんど私の責任だ。
「総員集合したのでブリーフィングを開始したいと思います」
その一声で少しざわついていた第二会議室が静まった。
同時にスクリーンに表示されていたただの日本地図から三浦半島あたりを中心とした地図へと拡大される。
「衛星写真及び航空偵察により敵の中規模侵攻が確認されました。目標は伊豆大島簡易基地及び九
十九里浜と思われます。対する当方の戦力ですが、横須賀にいる部隊・艦隊だけでは双方に対応
するのは難しい状況といわざるを得ません」
相変わらずあまり感情の篭っていないオペレーターの声。
その後ろでスクリーン上に北東方向から伸びてくる矢印が増えた。
あれが侵攻ルートなのだろう。
「そこで私たちなど哨戒、通商防衛などを行っていた艦隊にも攻撃命令が降りました。もちろん貴
方たちにもです。具体的に説明致しますとこの艦隊は現在位置から一旦東へと向かいその後北上
し、支援ポイントへと向かいます。その間に遭遇した敵の撃破は勿論ですが、今回は敵の掃討も
行ってもらいます。こちらに関しては特に作戦はありません。臨機応変な対応をお願いします」
そんな彼女の発言に対して徐々に恐怖を感じてきた。
まだ通商破壊部隊で苦労するような新人が、先ほど戦った艦隊の数倍もの戦力をほこる侵攻部隊の相手だ。
私を含めて本当に死ぬかもしれない。
そう思うと体が震えてきた。
いつそうなってもおかしくはないのに。
皆も同じことを思ったのか場の空気が変わった。
「あと、技術廠のほうから連絡がありまして今回の戦いに新型の弾道誘導弾を導入するという話も
上がっています。そのときにはこちらから通信を入れるので聞き逃さないでください」
ここまで聞いた後、しばらく私は動かなかった。
どう状況が転じたって私が現場の指揮官となるのは確実だ。
皆を生きて帰さなければいけない。
その覚悟を決めなければいけなかったから。
◇
隣の整備室では相変わらず作業が続いている。
とはいえもうほとんど終わっているようだけど。
「朝風大丈夫?そんなに怯えたって貴方が突撃する未来は変わらないわ」
そんな声をかけてくる松風。
「怖いのは私の突撃より貴方たちの突撃です。こんなことをいうと甘いとか思うかもしれませんが
私は貴方たちが死ぬのが怖い」
そんなんじゃない、と反射的に言おうかと思ったのだがやめた。
松風はどこか達観してる気もするが基本的に私たちとあまり変わらないはずだ。
「確かに甘いかもしれないけど、ほとんど形式上だけのリーダーだとしてもそう思ってくれるだけで有難いと
思うわ。まあそんなことを思うのは私だけかもしれないけど」
「その言葉だけでも十分です」
まだ頼られてるだけでもいい。
そう思うことにした。
明日からは忙しくなる。
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2
出撃命令は直ちに降りた。
どうやらもうここまできているようだ。
そんな話が艦内に広がっているなか私たちは往く。
まだ準備とかが整っていないのかデータリンク完了の文字がHMDに出てきたのはカタパルトで海に打ち出されたあとだった。
既に敵との距離は20kmを切っていた。
奇襲にならなかったのは幸いだが、これでは艦隊が逃げ切るのは厳しいだろう。
どれだけ時間を稼げるかが勝負だと思った。
『旗風より朝風へ、レーダーに敵反応を探知。編成からピケットと予想する』
『了解しました。総員反転後データリンク射撃を行います』
カタパルトの衝撃を受け流しつつ回頭する。
隊形はまったく組めていないが、衝突さえしなければ大丈夫だ。
あとはデータやレーダーに従って自動射撃をしている後部レールガンの弾道に気を付ければいいだけだ。
まあそこら辺はある程度装備のほうでやってくれる。
例えば射線上に味方IFFの反応があればロックされたり、とか。
ただこれは装備が無事なときの話であって戦闘の結果電気系統が故障したりそもそも電気が届かなくなったりするので過信してはいけない。あたりまえの話だけれど。
目の前を通っていく光の筋が鳴らす爆音の中でそんなことを思った。
瞬く間に幾つかの衝撃波が伝わってくる。
海面か敵に当たったのは確実だ。
その後も数射すると遠方に黒煙が見え始めた。
『弾着確認。敵ピケット全滅した模様』
観測・索敵が主任務である旗風からの通信が終わると同時に射出の勢いを殺し切れずに不恰好な単横陣のまま全員が加速した。
ちょうど右舷側から射出された私と春風が前に出るような状況だ。
『総員梯形陣を組んでください。艦隊行動を心掛けて』
みんなから了解、と通信が入る。
速力は大体35ktくらい。
相手と比べたらほぼ同じだろうか。
主力はまだ見えないが露払いと思われる前衛は射程に捉えたらしく後部レールガンの照準完了を告げるブザーが鳴っていた。
奇襲なんかを掛けられればいいのだが先ほどピケットを沈めているから掛けられはしないはず。
そう判断して支持を飛ばす。
『目標は敵前衛。砲撃を開始してください!』
こちらの発砲音とともに遠方に散発的な水柱が上がり始める。
方向はバレたが距離までは把握できなかったよう。
これなら単なる突撃はやめたほうがいいかもしれない。
『単縦陣に組みなおしてください。反航戦に移行します』
そう告げながらも砲撃を続ける。
徐々に水柱が近づいてきたがまだ敵の散布界には入っていない。
情報の通りなら、だが散布界を広げることはまずないから問題ないだろう。
だが近いのは事実。
保険を張るのは悪くない、と思ったが相手に見切られては意味がない。
ジグザグ航行の命令を出すべきか迷っているとレーダーマップに新たな反応が出た。
『敵本隊捕捉。同時にデータリンクに新たなシークエンスを確認、一応注意したほうがいいかも』
本隊が映るのが少し早いと思ったが送ってきたのは味方の偵察機のようだ。
なら納得である。
横須賀の司令部としては部隊を回せなくても最低限の支援をしてはくれるということらしい。
まったく支援がないと思っていた私としては少しだけ安心した。
『了解。敵前衛への攻撃を集中しつつ味方の攻撃に注意してください』
その指示を行いながら私は微かな不安を感じていた。
正体のわからない新型弾頭に。
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3
駆逐艦から放たれた巡航ミサイルや私たちが放つプラズマ化された徹甲弾の中を駆け抜ける。
HMDに不穏なゲージが表示されているがまだ余裕はあるハズ。
本当はそんな余裕は無いのかもしれないけどそれを考える前に敵の前衛を撃破しなければならない。
照準を付けて砲撃。
言葉に起こせば八文字で済んでしまうことを淡々とかつ高速に繰り返しながらそんなことを思っていた。
まだ敵前衛の一部にしか被害を与えられていない。
味方航空隊の支援攻撃までに六割は潰しておきたいところだがそう上手く行くのだろうか。
水柱も徐々に接近するなかくろしおの艦隊からと思われる対艦ミサイルが頭上を駆け抜けだした。
敵弾の着水音と味方の着弾音で耳がやられそうになる。
耳あてがなければ大変なことになっていたことだろう。
『こちらはAWACSホークアイ、銚子沖で戦闘中の敵部隊の一部が南方へ動いている。警戒してくれ』
短い返信が無線を駆け抜ける。
敵の本来の目的はこちらということだろうか?
だとすればとても不味い状況だ。
こちらは小規模な艦隊にたった四人の海上機械化歩兵。
対する相手は何度か硫黄島やマリアナ諸島の防衛戦でよく見られたものと一致するくらいの大規模侵攻部隊。明らかな火力不足だ。
例の新兵器に頼らざるを得ない状況なのかもしれないが、それは出来るだけ避けたい。
もう敵までの距離は8kmを切った。
左右に水柱が上がりだしている。
引くなら今だ。
『これ以上の足止めは危険です。総員一斉回頭ののち単横陣にて撤退します』
言い終わると同時に回頭を始める。
それと同時に聞こえる若干小さくなった爆発音。
一瞬のうちに海水に包まれる。
エネルギーシールドが反射的に発生して至近距離で炸裂した敵弾の破片を防ぐ。
巻き上げられた水で周囲が見えなくなるのもつかの間。後部レールガンの反撃と同時に晴れた。
背後でかなり大きな爆発音が聞こえる。
どうやら反撃で相手のどれかに止めを差すことに成功したようだ。
焼石に水かもしれないが少しは水柱も減るだろうか。
希望的観測を始めたとき、空を切り裂くような音とともに天使が訪れた。
『こちら第一次攻撃隊、攻撃を開始する』
そんな普通の無線がとてもありがたかった。
あの音がするたびというわけでもないが、爆発音のうち2割くらいは奴らが爆発四散しているのだ。
そう思うと後方で聞こえるロケットモーターの作動音と炸薬の炸裂音もとても頼もしく聞こえる。
気づいたら歓喜の声を出していた。
少し遠くを航行していた松風に見つめられ恥ずかしくなったが無線を切っていたのは幸いだったと思う。
だがここで安心して気を抜いたのが仇となったのか、もしくは既に回避行動を読まれていたのか。
連続して聞こえる着弾音とともに突然意識が刈り取られそうになるほどの衝撃が訪れた。
直後耳は聞こえなくなり、頭と右腕に激痛が走る。
それのほんの少し後、連続で展開された強力なエネルギーシールドが放った光によって視界も閉ざされた。
視力が少しづつ回復していくと同時に損害も明らかになってくる。
HMDと航法装置は半壊、機能を喪失。
ただこんな事態も想定されており、アナログな小型羅針盤が装備されている。
が、本来なら自動的に展開されるはずなのだが故障か損傷によってまだ格納されたままだ。
展開装置も壊れたとみるべきだろう。
ならば通信して味方に誘導してもらうしかない。
そう思い、邪魔になる右腕のレールガンと重機関銃をラックに預けようと思ってあることに気が付いた。
本来あるべき場所にあるはずのものが無いのだ。
咄嗟に左手の装備をラックに預け確認する。
やはり、無い。
その代わりにあった証拠として赤黒い液体がついてきた。
頭が真っ白になる。
少し経った頃右の視界が赤く滲み、思い出したかのように頭も確認した。
どうやらこちらは出血だけで済んでいるらしい。
ただ頭部の機器を使っている照準器とかの結構重要な機器類はもうダメだろう。
切れかけのバッテリー残量とエラーと表示された残弾数しか表示しないHMDもそれを物語っていた。
こうなると後部レールガンはあるていど自律射撃を行えるが、腕装備のほうはもう近距離でしか使えない。
ほかの電子機器もダメだと思ったほうがいい状況だ。
唯一通信機が首に装着されているのは不幸中の幸いか。
かつて教官が熱心に教えてくれた情報を思い出しつつ自分の状態について思考を巡らせる。
治療用ナノマシンは少量が投入されているはずなので失血に関しては問題ないハズだ。
ただ次にシールドを抜けて体のどこかに当たったらもう無理だろう。
そしてここは完全に敵に圧倒されている戦場。
さらにもう一回シールドを展開すれば尽きるバッテリー残量。
至近弾ですら耐えられるかわからない現状での答えなどわかりきっていた。
帰還は不可能。
その現実が重くのしかかってくる。
要するにここで死ぬのだと、そう実感し視界が滲みだす。
死に場所がきれいな海なのは悪くない。
そう思った頃、聴力が回復した。
『朝風!応答しろ!』
無線機から叫んでいるかのように大きな春風の声が聞こえる。
もう会えないという思いもまして悲しくなるが歯を食いしばり無線を開く。
『指揮権を松風に移譲します。皆、ありがとう』
か細く流れたその無線が終わると同時に、更なる衝撃が襲いかかり、私の意識は途絶えた。
これは最終話ではありません。
大事なことなのでもう一度言いますが、
最終話ではありません。
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