独裁者の転生戦車道 (会津潘)
しおりを挟む

第一章「大洗戦車道始動編」
第一話「独裁者 転生」


 ――――()()()()()()()()()()。国の栄光とはいつの日か崩壊し、その崩壊へと導いた指導者も国の後を追うだろう。

 私も例外ではなく、独裁という形で国の指導者となった私は、ドイッチュラント(ドイツ)を世界の敵へと変貌させた。

 しかし忘れてはならない事がある、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 国民の熱狂が私を首相の座に入れた。国民の熱狂がドイツを戦争へ向かわせた。

 逆にその国民が興味を示さなければ、私は首相などにはなってはいないと断言できる。

 

 我がドイッチュラント(ドイツ)は直に戦争の終わりを迎える、私もすぐにドイッチュラント(ドイツ)の後を追い拳銃を右のこめかみに構え、撃った――――。

 

 

 

 ……しかし私はドイッチュラント(ドイツ)の後を追う事は叶わなかった。

 死んだと思っていた私は、地獄に着いたかと目を開いた。しかしそこは地獄ではなく、ただの綺麗な病室であった。

 私が赤ん坊の姿になっていると気づいたのは遅くなかった。

 目の前には両親らしき男女が私を見ている。

 

 ……ここで私は新たな命として生まれ変わったと理解した。

 しかし記憶は全て残っている、何故かはわからないが残っている分には悪くない。

 これで私が大人になっても知識は十分というわけだ。

「可愛いなぁ、()()()かー」

「ふふっそうねぇ……」

 

 ……は? ()()()だと?

 まさか、今の私の体は……!?

「ばぶぅーーーー!?」

 

 女だというのかぁーーーーーー!!?

「おお、元気な女の子だなぁ」

 

 なんということだ。まさか転生後に女になるとは、これは予想外すぎた……。

 現状況だと、これからの人生の選択肢が二つある。

 一つは画家や建築家の夢を遂に叶え時を過ごすこと、そしてもう一つは、このままただつまらなく人生を過ごすかだ!

 どうすれば良い? どっちを選べばいいのだ……?

「なあ、キミはこの娘にどう育ってほしい?」

「ふふっ、私はこの娘が()()()()()()()()()()()に育ってほしいわ」

 

 ……優しい子か。この母親を見ていると、オーストリアにいた母さんを思い出す。

 ……それにこの父親も、私の父と違って優しい雰囲気を感じる。

 まあ、ひとまず何も考えずに過ごしておこうかな。

 

 

 

 ――――こうして私は第二の人生を歩むことになった。

 私の新たな両親は優しく、時には厳しく叱ってくれている。

 そうして私はだんだん成長していき、そして私の本当の物語は高校生から始まっていく……。

 

  

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話「戦車道への帰還」

 ――――十六年が経った。

 私の名が「独逸(どいつ) ひとみ」という珍しい苗字なので、ちょっと驚いた。

 だが転生して翌年、私に一人の妹が出来た事は非常に嬉しくなり、二足で立てるようになるほどであった。

 そしてわかった事があった。この時代では戦車道という伝統の競技があるらしい、乙女の嗜みらしいが……戦車を女が動かすとは予想外だった。

 あとわかった事と言えば、私の家はどうやら代々戦車道を行っている「独逸流」という家系らしい。

 

 独逸流の主な説明はこうだ。

 戦車道には「西住流」「島田流」「独逸流」という圧倒的権力をもった流派が存在する。

  ・勝利至上主義者であり、いかなる犠牲があろうとも勝利を求める「西住流」

  ・臨機応変に対応し確実に勝利を達成する「島田流」

  ・そして規律を重んじ、相手を敬い勝利を掴む我らが「独逸流」

 

 これらの流派は少し対立しているらしい、母さん曰くどうも考えが合わないそうだ。

 私も家柄の為、戦車道の道へと行こうとした。しかし母さんは私に言った。

『ひとみ、戦車道をするのは良いけれど……あなたの道を進んでも構わないのよ? あなただって人生やりたい事もあるのだし、それにこんな流派の対立なんてつまらないだけよ?』

 ――――と、言われてしまい。私自身は母さんの言うとおりに自分のしてみたい事をしようと思った。

 私は家を出て、大洗の学園艦に移住し大洗女子学園に転校することとなった。

 正直前の高校にも知り合いは多くいたのだが、好きなことをしてみたいのも事実だったもので知り合いや友人達に暫しの別れを告げて、この大洗女子学園に入った。

 

 校門前には風紀委員長の園みどり子が立っている。

 私はこういった規律のあるものは元々ドイツにいたのだから慣れている。

「あ、独逸さん。今日も遅刻せずに来たわね」

「おはようございます園風紀委員長。転校して間もないのに名前を憶えていただいて、ありがとうございます」

「風紀委員長だから当り前よ、それにしても学園艦に移住して間もないのに遅刻を全くしないなんて、私的には評価できるわ」

 そう風紀委員長はニコリとして言う。こういった人間というのは規律を守っていれば何も言ってはこないのは理解している。

「ほら、そこで立ってたら本当に遅刻しますよ」

「おっと……では風紀委員長。風紀委員長は毎回朝立ちっぱなしなので、お体にはお気を付けください」

「気をつかってくれてありがとう、じゃあ今日も学校頑張ってね」

 

 こうして私は風紀委員長と別れて、教室へと向かった。

 教室に到着し、机に座った。ちゃんと今日も間に合ったみたいだ。

 周りは生徒達がワイワイ喋っており、私はまだ転校して間もないから喋る相手がいない。 

「……」

 ちょっと寂しいが、一人故の良さもある。

 そう、絵を描くことだ。私は生前、画家になるのが夢であった、しかし試験不合格によって夢は途絶えた。

 しかし私は諦めたわけではない、絶対に画家か建築家どちらかになってみせる!

「ふんふーん♪」

 鼻歌を歌い、私は建築物の絵を描き始める……。

 

 

 

 

 

 ――――()()()()()()()()()()()()、まるでアイツ(アドルフ)と一緒に居た時と同じ感じがしている。

 いつの間にか俺は、鼻歌をして絵を描いている生徒を見る。その描いている絵は、まさにアイツ(アドルフ)の絵だった。

 ……ああ、そうか。そこにいるのか、我が親友(とも)よ――――。

 

 

 

 

 ……何故だろうか、絵を描いていると懐かしい雰囲気になる。

 そう、まるで親友(クビツェク)と一緒に暮らしていた、あの時のような……。

 私はいつの間にか、教室端の席に座っていた生徒を見た。

 その生徒は私を嬉しそうな顔でじっと見つめていた。 

 ……やはり、お前なのか。我が親友(クビツェク)よ。

 懐かしき感じのする生徒はゆっくりと私に近づいてくる。

 そして私の前に立ち、口を開いた。

「――――久しぶり」

「……ああ、久しぶり」

 やはりこの生徒は、クビツェクだ。私の最大の親友だ。

 ああ、こんなに嬉しいことはあるだろうか? いや無い。

 

 いつの間にか私は椅子から立ち上がり、クビツェクに握手をしていた。

 クビツェクも私の握手に応じ、笑顔で私の手を強く握っている。

「たくさん話したい事があるが、もうすぐショートホームルームが始まる。お昼また話そう」

 クビツェクの言葉に対し、私は首を縦に振る。クビツェクは手を振りながら席に戻り、ショートホームルームが始まった。

 

 

 ……お昼の時間になった。私とクビツェクは共に昼食を食べている。

 ソーセージをかじりながら、互いの事を話し合った。

 やはりクビツェクもこの時代に女として転生していたらしい、私の他にも数名が転生してきているらしい。

 クビツェクはその転生者達と知り合い連絡を取り合っていたという。

 それも都合のいいことに、全員大洗女子学園に通っているそうだ。

 ついでにクビツェクの転生した名前は「芥川 栗子(あくた くりこ)」というらしい。

「一応聞いたいんだが、他に誰が転生しているんだ?」

「ヨアヒム・フォン・リッベンドロップ、ヨーゼフ・ゲッベルス、テオドール・アイケの三名が転生し、この大洗女子学園に通っている」

「アイケも転生したのか? まあアイケは私の部下の中でも優秀な奴だ」

 しかし中々濃い転生メンバーだ、絶対に私と再開はするだろうが、実際いたら頼もしい部下達だな。

 

「そういえばアドルフ……おっとすまん。ひとみ、お前はあの戦車道の「独逸流」の家系に生まれたんだったよな?」

「ああ、そうだが……」

「なら、これに入ってみないか?」

 ニヤリとした顔でクビツェクは言う、もしやと思うが……。

 クビツェクは一枚の紙を取り出してテーブルに置いた。

 その紙には大々的に「戦車道」と書かれている。

「私に戦車道をさせる気か? 別に構わないが……条件があるぞ。クビツェク……いや栗子、お前も戦車道に入れよ」

「はっはっは、元々そのつもりだよ。仲間も呼んである」

 私の意見関係なく転生者集めて戦車道する気だぞこいつ。別に構わないのだが、後で母さんに連絡しなきゃなぁ。

 

 

 ――――こうして私は、戦車道をすることになるのだが……まだわからなかった。

 これから大洗女子学園の存亡をかけた戦いを始まることを、まだ私はわかっていなかった……。

 

 

  

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話「友人との再会」

 ――――私はクビツェクと共に戦車道へ志願した。

 そこでクビツェクは、私に部下であった転生者のリッベントロップ、ゲッベルス、アイケとの面会をさせた。

 しかし困ったのは……、面会した時であった。

「ハイル!」

 アイケが私に会った途端にナチ式敬礼をしてしまったのだ。

 しかも公衆の面前で行ってしまうものだから、周囲からヒソヒソが絶えなかった。

 その後、事態に気付いたアイケも罪悪感で私に謝罪をしていたが、まあ罪悪感があるならと思い許した。

 

 ゲッベルスとの再会は私にとっても嬉しく、握手を交わした。

 私に対しゲッベルスは、ドイツが敗北したことや、私が銃で自殺した後に首相となったがすぐに同じく自殺した事への謝罪を涙ながらに謝罪していた。

 しかし私も鬼ではない、ゲッベルスを許して飲み物を奢った。

 ゲッベルスは驚きながらもお礼を言った。

 長く会話した結果、どうやら今後も私の部下であるらしい。

 

 リッベントロップとの再会も、握手を交わし互いの事を話し合った。

 話によれば、以前まで西住流が主の黒森峰女学園にいたらしいのだが、此処は合わないと感じ大洗女子学園に転校してきたという。

 戦車道の経験があるのなら頼もしい限りだ。かく言う私もこの時代に来てからは実家で戦車道の模擬戦をかなり行っていた。

 実戦経験が無いとたまに思われがちだが、実は大洗女子学園に来る前まではちょくちょく戦車道を実家で行っていた。

 

 ……と、このように再開を果たした私は、戦車道を始める前日に母さんへこの事を報告した。

 電話から聞こえてくる母さんの声は、優しく私に言った。

『何時この道に来るとは思ってたけど……、早かったわね。ひとみ、やるからには独逸流の娘として一層奮励努力するのよ』

 とのことだった。母さんは私に頑張れと言って電話は終わった。

 応援してくれている母さんの為に、私は戦車道を頑張ると誓った……。

 

 

 ――――そして翌日、戦車道が始まる日に私達転生者は生徒会長の言う通りガレージに集まった。

 周りを見ると、色んな生徒達が少なからず集まっている。

 その中に一人、見たことがある生徒がいた。

「あれはもしや……」

 私は誰なのか気づき、見たことがある生徒に近づいた。

「そこの方、もしや……みほでは?」

「え、私ですか?」

 やはりだ。戦車道の流派の一つ「西住流」の次女、西住みほだ。

 私は西住家とは同じ戦車道の家系同士という事で、親睦を深めるため熊本には行っていた。

 だから彼女の姉とは友人同士でもある。

 穏やかで優しい性格の彼女は黒森峰女学園にいるはずであった、しかし昨年の全国大会決勝戦で起きた事件で大洗女子学園に転校したと聞いていたが、まさかまた戦車道で再開するとは……。

「久しぶりだな、私だよ」

「ええ!? ひとみさん、なんで此処に!?」

 みほは予想外の人物に驚いている。無理もない、なんせ知り合いが目の前にいるんだからな。

 私はハハハと笑いながら言った。

「予想通りの反応だな、まほが大洗女子学園に転校していったと聞いていたから居るとはわかってたんだ」

「あっええと、その……」

「事情はまほから聞いているよ、辛い思いをしたな」

「ひとみさん……」

 

 やはり責任を感じているか……、悲しいことだ。まだ若い時にこんな辛い思いをしているなんて。

「此処は黒森峰女学園でない、大洗女子学園だ。また何時も通り仲良くやろう」

「……! はい、こちらこそ!」

 西住みほは私の差し出した手を握り、握手を交わした。

 ……やっぱりいい娘じゃないか、この娘は。

 私もだいぶ丸くなってしまったな、やれやれ。転生したとはいえ親が違うとこうも変わるのか……。

 

「あっ西住さん!」

 リッベントロップが私と西住が会話しているのに気づいたのか、軽く走ってこちらにやってきた。

「ホナコさん! 此処に転校したって聞いてたけど、まさか戦車道でまた会うなんて!」

 西住にホナコさんと呼ばれているリッベントロップ、こいつの転生名は「李弁下 (りべんか)ホナコ 」というらしい。なんか変な名前だが何も言わないでおこう、可哀想だからな。

「これからも、よろしくお願いしますね!」

 話によると、どうやらリッベントロップは不良に絡まれている時、西住姉妹に助けてもらったらしい。

 それ以来、二人は仲良くしてるらしい。リッベントロップも知り合いが増えて良いことだ。

 

 西住はキョロキョロと周囲を見て、私達に小声で言った。

「……正体は、ばれてないんだよね?」

 実は西住姉妹は、私の正体を知っている。

 理由としては、昔よく熊本に行ったり、西住家からこちらに遊びに来たりしていた。

 互いの流派が対立しているとはいっても、独逸と西住の二つは戦車道流派の中でかなりの友好関係にあるらしい。

 独逸流は西住流の連勝する戦い方を尊重し、西住流も独逸流の相手を敬うその姿勢に好意を示した。

 

 

 そして私と西住姉妹は、互いに仲良くなっていき。

 次第に転生しているという隠し事をしているのを私は辛くなっていた。

 西住姉妹の優しさに負けた私は、遂に私が何者なのかを話した。

 私は彼女達に嫌われる覚悟で正体を明かした。しかし彼女達はニコリと笑顔で言った。

『嫌うなんてしないよ、だって今は反省してるんだもんね?』

 まほも、このみほの言葉に同調して二人は私の手を握った。

 

 私は泣いた。ボロボロと涙を流した。そして私は何度も何度も言った。

『ありがとう……! ありがとう……!』

 その頃から私の性格が大きく変わったのかもしれない。困っている人を助け、親の為に手伝って、差別的思考も改めた。

 今の私を知人が見たら、全くの別人と思うだろう。

 私が生まれ変われたのは、西住姉妹のおかげとも断言できるだろう。

 

 

「……大丈夫だ。ばれていない」

 こうして現在に至る、リッベントロップは先ほど言っていた不良に絡まれ西住姉妹に助けてもらった時、名前を言うときに間違って"リッベントロップ"と名乗ってしまったらしい。

 それから正体がばれてしまったとのこと、なんという馬鹿な事だ。

「それなら安心だね……、ひとみさん。お姉ちゃん、私が転校した後……なにか言ってた?」

「まほの事か? 確か私が転校する前に電話で"みほの事をよろしく頼む"だってさ」

「お姉ちゃん……」

 安心したのか、みほはホッと息を吐いた。

 まほが怒ってないか心配してたのか、アイツはそんな事みほがしても怒らないのにな。

 

 

 

 ――――しばらくして、生徒会長の角谷杏が現れた。

 私達の前に立つと、杏会長は軽い雰囲気で言った。

「やあやあ、皆集まってるようだねぇ」

 軽い雰囲気だが、少なからず必死な雰囲気も感じる。

 しかし身長は小さいのだな……。

「あの、戦車はティーガーてすか? それとも…‥」

 むむ、今質問していた生徒、そこでティーガーを出すとはよくわかっているじゃないか。

 やはり我がドイツの戦車が一番、気分がいい!

 

「うーんと……、私はわからないから、まあ見てみればわかるんじゃない?」

 と杏会長は言い、ガレージのシャッターを開けた。

 そこには錆びついているⅣ号戦車一両のみが置いてあった。

「錆くさーい……」

 一年の生徒達が嫌そうに言う、まあ確かに錆びだらけだな。

「……」

 すると"みほ"が黙ってⅣ号戦車に近づいていった。

 集中して戦車を見続けた"みほ"は装甲を触って言った。

「……装甲も転輪も大丈夫そう、コレでいけるかも」

 

 それを聞いた生徒達は凄いと言わんばかりに"おおー"と声を出した。

 やはり"みほ"は凄いな。

『みほは私よりも良い戦車道をする、そんな気がするんだ』

 ……まほの言ってた通り、みほ自身の戦車道をするのかもしれないな。

 

 

 

 ――――私達の戦車道が始まった。

 大洗女子学園が大会で優勝できるように、私も頑張らないとならんな……。 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話「戦車の発見」

 お久しぶりです。 お待たせしました!


 ――――大洗女子学園が戦車道を始め、私も遂に戦車道への一歩を踏み出した。

 これからどんな戦いがあるのだろうかと、ワクワクしていたのだが……。

「あ、あの……戦車が一両だけなのですが」

 ……一両しかなかった。

 どういうことだ、何故一両しかないのだ? そこはちゃんと集めておくべきだろうが。

「わが校の戦車道は一度廃止されている」

 生徒会広報の河嶋桃が我ら生徒達に言う。それでは残り人数分の戦車はどうするんだ?

「というわけでさぁ、手分けして探してみてー」

『ええ!?』

 杏会長の言葉に生徒会を除く全員が驚き声を出す。

「それじゃあ、頑張ってねぇ」

 

 

 ……どうするんだこれ、どうやって探すんだ?

「よーし、じゃあひとみ! 早速戦車を探しに行こうか!」

 クビツェクは楽しそうに私に言う、なんで楽しそうなんだお前?

 私とアイケ、そしてリッベントロップはクビツェクと共に戦車を探しに向かった。

 ゲッベルスは生徒会と残り河嶋広報と何か話したいことがあるそうだ。

 もしや同じ宣伝系として何か言いたい事でもあるのだろうか。

 

 とまあ長い時間あるわけだから、ゆっくり戦車を探していこうと思っていたのだが。

「「あっ」」

 "みほ"とバッタリ会ってしまった。それに友達らしき三人を連れている。

「ひとみさんも此処を探してたの?」

「みほもか、そっちはどうだ?」

「ううん、まだ何も……」

 お互いまだ見つからずか。

 

「ねえみぽりん? もしかしてこの人が独逸さん?」

 後ろにいたオレンジ色の髪が目立つ生徒が"みほ"に聞いた。

「うん、独逸ひとみさん」

「独逸って、あの独逸流のですか!?」

 みほの言葉に、特徴的な髪形の生徒が驚く。

 そういえばこの驚いている生徒は、先ほど此処の戦車がティーガーか聞いた生徒だったか?

 もしや戦車が好きなのか?

 

「私が独逸ひとみだ。君たちはみほの友達か?」

「そう、武部沙織さんと五十鈴華さん」

「武部沙織だよ! よろしくね独逸さん!」

「五十鈴華です。よろしくお願いします」

 "よろしく"と私は二人に言う、後ろでは先ほどの戦車少女がソワソワしながらこちらを見ている。

「君は先程ガレージで戦車に詳しかった娘か、私は独逸ひとみだ。君の名は?」

 私が自己紹介をすると、戦車少女は驚きつつも嬉しそうに言った。

「わ、私ですか!? わっ私は秋山優花里と申します、独逸流の方にも会えるなんて……、私は幸せです!」

 どうやらよほど戦車道が好きらしい、表には特に登場しなかった私にも喜んでくれるなんてな。

 

「あれ? そこにいる人は……?」

「ああ、私の友人である芥川栗子だ。偶然大洗女子学園で再開してな」

 私が言うとクビツェクは"みほ"に一礼する。

 すると"みほ"は私に近づいてヒソりと小声で言った。

「もしかして、この人も?」

「ああ、生前の親友クビツェクだ。お前の事は説明してある」

「そっか。」

 

「どうしたのみぽりん? 急に独逸さんに近づいて」

「ううん、なんでもない。 芥川さん、よろしくお願いしますね」

「ああ、よろしく」

 

 

 

 みほ達と一旦別れて、私達は再び戦車の捜索を始めた。

 しかし一向に戦車は見つからず、体力が減り始めていた。

「さ、流石に疲れてきた……」

 クビツェクは草むらに座って言う、それに対しアイケが口を開く。

「まだまだこれからですよ、もう少し探したら戦車が見つかるかもしれません」

「そういえばゲッベルス宣伝相はガレージに留まって何をしているのでしょうか?」

 それには私も首をかしげた。 ゲッベルスは生徒会広報に用があると言って捜索にはついてこなかった。

 関係ないのだが、正直ちょっと彼が何をしているのか気になっている。

 

 しかしゲッベルスのことだ。 きっと我々に役立つ優秀な事をしているのだろう。

「……んん? 何か遠くに大きな物体が見えるな、それも鉄っぽい」

 クビツェクが遠くをよく見て言う、遂に戦車が見つかるのかはわからないが、行ってみて損はない。

「よし、行ってみよう」

 私達はクビツェクの言った場所へと向かった。

 

「こ、これは……!」

 その鉄の塊は間違いなく戦車であった。 それに車体にはお馴染み鉄十字のマークが付いていた。

「これは、V号戦車パンターか!」

 アイケが戦車の正体に気が付く、私達は戦車の発見に喜び叫んだ。

 そしてリッベントロップが携帯で生徒会に戦車発見の連絡を取り始める。

「はい、はい……了解しました」

 リッベントロップは生徒会への連絡を終えると、私に言った。

「総統、生徒会が自動車部に連絡をするからその場で待機するようにとの事です」

「わかった。では休憩とするか」

 それにしても、よく見るとこのパンターはG型のようだ。

 大洗の良き戦力になると良いのだがな。

 

 

 

 

 ――――その後、休憩中に自動車部がやってきてV号戦車をガレージへと運び出した。

 私達は自動車部の後を追いながらガレージへと戻ってきた。

 後々戦車道メンバーも帰ってきて、整列を始めた。

 整列を終えると、生徒会広報が戦車の名前を順番に言い始めた。

「八九式中戦車甲型、38(t)軽戦車、M3中戦車リー、Ⅲ号突撃砲F型、Ⅳ号中戦車D型、それからV号戦車パンターG型。 どのように振り分けますか?」

「んー、見つけたもんが見つけた戦車に乗ればいいんじゃない?」

「では38(t)は我々が、西住たちはⅣ号で」

 そんな決め方で良いのかと思ったが、まあ見つけた戦車は見つけた者が使うのが一番良いのだろう。

 しかしⅣ号か、黒森峰などはティーガーを多く使用していると聞いている。 本当にこんなごちゃ混ぜのような戦車達で大丈夫なのだろうか?

 

 ……とまあそんな感じで生徒達が乗る戦車は決まっていった。 私達も乗る戦車はパンター戦車に決まった時にゲッベルスがやってきた。

「総統、戦車が見つかったみたいですね」

「ゲッベルスか。 生徒会広報と何か話していたようだが……?」

 私が聞くとゲッベルスはニコリと笑った。

「実はちょっと河嶋さんに頼まれまして、私の能力を見込んで広報、そして宣伝の協力をしてほしいとの事なので協力することにしました」

「それは頼もしいな。 お前の宣伝能力は凄まじいからな」

「お褒めに預かり光栄です総統、しかし……」

 

 ゲッベルスは発見した錆びついている戦車達を一通り見て言った。

「こんなに錆びついていたら、洗うのは大変でしょう」

 苦笑いしているゲッベルスに私は言った。

「ああ、しかし皆探すので疲れているかもだから、そんなにすぐには洗わないだろう」

 

 そんな会話をしていると、クビツェクが走ってやってきた。

「おーい! 戦車が錆びついているからすぐに洗車するってさー!」

「「……(今やるのかよ)」」

 

 ……こんな感じで戦車洗いが始まった。

 その後、私は夕方になるまでゴシゴシとたわしで車体を洗っていたのだった……。

 

 

 

  

 

 




 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話「寄り道ショップ」

 ―――戦車を洗い終えて、生徒達はふらふらと整列に加わって言った。

 "みほ"や私達は何事もなかったかのように至って元気に整列した。 まあ戦車道経験のないクビツェクはかなりふらついていたが……。

「皆ご苦労だったな。 後は自動車部に任せる、それに明日には教官のお二方がお見えだ。 しっかり休養を取るように、以上解散!」

 生徒の皆はぞろぞろと家に帰っていく、そんな中私は"みほ"と話をしていた。

「みほ、明日の教官って誰だと思う?」

「確か、男女二人って聞いたけど……」

 男女か……。 どんな人物なのかが気になるが、ひとまず今日の分の疲れを取らなければ。

 ……ん? 待てよ、どうして戦車道の教官に男がいるんだ。 確か戦車道は乙女の嗜みのはずだ。 本物の戦争なら男が居るのもおかしくはない、しかしこれは戦争ではなくただの競技の一つだ。

 もしや私の知っている人物なのか、そうだとしたら同じ転生者の可能性がある。

「なあみほ、男の教官の名前はわかるか?」

「うん、確か山下―――」

 

 

 

「あの…‥、よかったら寄り道しませんか?」

「「え?」」

 先ほどの少女「秋山優花里」が私達に言った。

 私と"みほ"は突然の誘いに驚いた。 秋山もかなり私達を見て緊張していたからな、思い切って誘ってみたのだろう。

「あっ……嫌だったら、別に……」

「いや構わないよ。どこに行くんだ?」

 私がニコリと笑いながら言うと、秋山は嬉しそうな表情をして言った。

「はい! ではついてきてください!」

 

 

 

 ―――秋山についていった先には、戦車のパーツや本などが売っている店があった。

 寄り道について来たメンバーは私と"みほ"にゲッベルスやアイケ、そしてクビツェクやリッベントロップ、沙織と五十鈴がいる。 

「こんな店あったんだ……」

 沙織がぼそりと独り言を言う。 しっかし沙織の言う通り、大洗の学園艦にこんな店があったのか、寄り道してみるもんだな。

 私達は店内へと入り、各自戦車のパーツを見て回り始める。

 クビツェクとアイケは興味津々に色々なパーツを見て、ゲッベルスは店内にあるテレビを視聴、リッベントロップは私と"みほ"と同行している。

「中は結構広いですね」

 リッベントロップが言う、私もその言葉に頷いた。

 ちらっと向こうを見ると、秋山がプレイしている戦車ゲームを武部と五十鈴がじっと話しながら観戦していた。

 私もああいったゲームは嗜むぞ、パンツァーフロントと言うのだが……。

「ひとみ。 多分お前の考えているものはかなり古いぞ」

「え、マジで? というか何でわかった?」

 戦車パーツを見ていたクビツェクは苦笑いしながら私に言った。 おかしい、パンツァーフロントは古くないはず……。

「あはは……」

 "みほ"も苦笑いをする。 そんなに古かったのかあのゲーム、せっかく母さんが私の15歳の誕生日にくれたゲームだったのだが……。

 

 

 コソ コソ

 

 

 ……目の錯覚かな。 今何か"みほ"の後ろで誰かがコソコソしてたんだが、誰だ?

 

 

 ジー……

 

 

 うん、やっぱり誰かいるな。 しかしあの姿は、まさか……。

「……ちょっとお手洗いしてくる」

「わかった。 じゃあ先見てるね」

 よし、みほ達は向こうの商品を見に行ったな。 さてと―――。

 

 私は先程からコソコソしている人影に近づいた。 "みほ"は気が付いてないみたいだが、私は正直見てしまった以上放ってはおけない。 何故ならば……。

「一体何をしてるんですか"しほさん"、こんな所で……」

 コソコソと"みほ"を見ていたのは、西住流の師範であり"みほ"の実の母親の西住しほだったからだ。

「「……」」

 しほさんは何も喋らない、というよりも何故ばれたのかって顔をしている。

 そして平常心を無理矢理保とうとしてゆっくりと立ち上がる。

「い、いつから気が付いてたのです?」

 あ、駄目だ。 平常心を取り戻せてないぞこの師範。

「つい先ほどからですよ」

 

「ま、まさかバレてしまうだなんて……」

 ほんといい歳してなにコソコソと娘の様子を見に来てんだか、堂々と会えばいいのに。

「というかどうやって学園艦に? ヘリで来たんですか?」

「貨物船に密かに侵入して大洗の学園艦に忍び込んだわ」

「えぇ……」

 急に何てことしてんだこの師範は。

「……このこと、みほには内緒ね。 こんなこと娘にバレたら……!」

 ガクブルとしほさんは震えている。 どんな想像をしたんだろうか?

「まあ言わないでおきますから。 でもきちんと帰らないと私の母に言いますよ?」

「え、ちょっと待って!? わかったもう少ししたら帰るから、(はじめ)には黙ってて~!?」

 

 

 ―――こうして"しほ"さんは"みほ"の様子を少し見てから帰った。

 なんでもこの間厳しい事言ったから大丈夫かと心配していたらしい。 じゃあ素直に謝ればいいのにと思ったのだが、そう簡単にいかないのが家族ってものだ。

 

 

 





 しぽりん。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話「蝶野教官と山下教官」


 大変お待たせしましたぁー!
 


 ―――戦車関連の店に寄り道した次の日。 私は何時も通りの時間帯で学園に登校していた。

 さて今日は教官がやってきて直々に戦車道を教えるらしい、しかも男女二人だそうだ。

 話を聞くと、女性の方は自衛隊の人物で、男性は知波単学園の教官をしているらしい。

 知波単学園というと、最近実行された新たな戦車購入と共に戦術を変え、一気に強豪校へ上り詰めた学園だ。

 当然の事ながら戦車道強豪校である黒森峰女学園、プラウダ高校、サンダース高校、聖グロリアーナ女学院は軽く危険視しているとのことだ。 人材も優秀で、その中には西住流と同じ苗字の生徒がいて八九式中戦車で奮戦しているという。

 そんな知波単学園の教官が一時的ではあるが、教えに来てくれるのはありがたい。 

 

 しかし、肝心の"みほ"がまだ来ていない。 まあまだ教官も来ていないから大丈夫なのだが、些か心配になる。

「ふー、間に合った……」

 と思っていたら少し急ぎ足で"みほ"がガレージ前に到着した。

「随分とゆっくりだなみほ、何かあったか?」

「あはは、ちょっとね……」

 

「というか教官おそーい、焦らすなんて大人のテクニックだよねぇ」

 何言ってんだと沙織に思ったが、どうやら男の教官も来ると聞いて楽しみにしていると五十鈴から聞いている。

「あれ、何か飛行機がこっちに近づいてくるよ?」

「確かあれは……」

 空から接近してくる航空機、それは航空自衛隊のC-2改輸送機だった。

 まさか空自の機体で来るとは……、普通にくればいいだろうに。

 しかしまあ派手に登場したいのは正直理解はできる、かっこいいもんな。

 

 するとC-2改から陸上自衛隊の10式戦車がパラシュート降下で大洗女子学園のガレージ近くに着陸する。

 めちゃくちゃダイナミックに動いていると思っていたら、誰かの自動車が10式戦車によって踏みつぶされた。

 可哀想だが運転手、貴方の車の人生は終わってしまった。

「学園長の車が!?」

 副会長が潰れた自動車を見て言った。 え、あれ学園長の車なのか? 絶対高い車じゃないか。

 

 そして10式戦車は私達に近づき止まった。 戦車の中から出てきたのは一人の女性自衛官であった。

「こんにちは! 私が今日からあなた達の教官を務めさせていただく蝶野亜美です。 よろしくね!」

 ……うん、正直言うと知り合いだ。 私の母もこの人と交流がある。

 私ともちょくちょく会ってはいるのだが、まだ私が此処にいることは気づいていないらしい。

「戦車道は初めての方が多いと聞いてますが、一緒に頑張りましょ!」

 整列している生徒一同を見ると、蝶野教官は"みほ"と私がいることに気が付いて目線がこちらに向いた。

「あれ……? 貴女、もしかして西住師範と独逸師範のお嬢様ではありません?」

 

「あっはい……」

「お久しぶりです蝶野さん」  

 私と"みほ"は蝶野教官に挨拶をする。

「戦車道未経験が多いって聞いていたけれど、お二人が居るのなら此処の戦車道は百人力よ!」

 ニコニコしながら蝶野教官は言う。 他の生徒達は何が何だか分からずにいた。

「西住って?」「ドイツ師範?」

 おい待て、誰だ独逸をドイツと勘違いしてたのは。 思ってることが理解できるのがちょっと腹が立つな。

「西住流と独逸流っていうのはね、戦車道でも由緒ある流派なのよ!」

 ちょっ持ち上げるな教官、そもそも私は模擬戦経験しかないんだぞ。

 どちらかといえば"みほ"かリッベントロップぐらいだぞ経験があるのは。

「え、凄い!」「そんな人達がいたんだ!」「かっこいい!」

 ほれ見ろ、一年生がキラキラしてるじゃないか。 これ結構こっちのプレッシャーが凄いんだぞ? わかってるのかこの教官は。

 

「あれ、教官! もう一人の教官がまだいらっしゃらないのですが?」

 沙織が蝶野教官に言う、すると蝶野教官は双眼鏡を取り出して校門から先を覗いた。

「……うん、あとちょっとで来るわね」

 蝶野教官が言う、すると校門の先から段々と音が聞こえてくる。

 

 

 キュラ キュラ キュラ キュラ

 

 校門から入ってきて遂に音の正体が判明する。 校門から九七式指揮戦車「シキ」が入ってくる。 どうやらこの戦車の無限軌道の音だったようだ。

 キュラキュラとガレージに近づいてくる「シキ」は私達の前に来てピタリと停車した。

 戦車の中から体格の良い男が現れた。しかしあの顔……、どこかで見たことがある。

「久しぶりね山下さん、知波単の教官生活は順調?」

 蝶野教官に「山下さん」と呼ばれた男は、ニコニコしながら蝶野に握手した。

「久しぶりだな蝶野一等陸尉、知波単では順調だよ」

 もう一人の教官は私達生徒の前に立った。 そしてすーっと息を吸い上げて大声で言った。

「我は山下 貞文(やました さだふみ)、本日から暫くの間はお前達の教官となるので覚悟しておけ!!」

 山下教官に対し生徒達は動揺している、まあ無理もない。 乙女の嗜みである戦車道を男の教官が教えるんだから最初は驚くだろう。

 

 すると蝶野教官は生徒達に説明を始めた。

「山下さんはね、元々陸上自衛隊の陸将だったのだけれど、退役して今は戦車道連盟で教官として働いているの。 暫くの間此処では戦車の戦術を教えてくれるわ」

 なるほど、そんな人が知波単学園の教官だったのか、それならば知波単も強くなるのも道理だ。

 尚更一時的とはいえ、大洗の教官になってくれたのは非常に心強い。

 

「蝶野教官、最初の訓練ですが何を行うんですか?」

 クビツェクが蝶野教官に言う、蝶野教官はニコリと笑顔で言った。

「もちろん、模擬試合よ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『ええぇ!?』』』

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話「勝利の宣言」

 ――――最初の訓練が模擬試合と宣言されたことによって、周囲が慌てふためいて戦車の操縦方法や砲撃のしかたを、さっそく山下教官から教わっている。

 私以外のクビツェクやゲッベルスは、アイケやリッベントロップに戦車の操縦を教わっている。

 違う場所では"みほ"が丁寧に一つ一つ沙織と五十鈴の二人に教えている。

 しかし最初から模擬試合か……、蝶野教官も中々難しいことを言う。 蝶野教官いわく「動かして慣れろ」だそうだが、それだけでは出来ない生徒もいるはずなんだがな。

 多分だが蝶野教官もそれは理解しているが、それでも試合をしなければいけない理由があるのだろう。

「……そろそろか」

 あと10分程で模擬試合の開始だ。 しかし本当に模擬試合など出来るのだろうか、まあ出来なければ意味がないのだが。

「ひとみ、愛華とホナコに戦車の勉強してもらってきたよ!」

 クビツェクが勉強を終えて戻ってきた。 補足だが愛華というのはアイケの転生後の名前「手鳥 愛華」の事だ。

 何故かゲッベルスは「ゲッベル」という名前だそうだ。 なんでも転生後もドイツ生まれだとか言ってたな。

「そうか、みほ達は既に戦車の準備を始めている。 早速こちらも始めるとしよう」

 私達はそのままガレージへと入っていった……。

 

 

 

 

 ※ここから史実の名前ではなく、転生後の名前に表記が変わります。

 

 ガレージにて、パンターG型に乗り込んだ私達は蝶野教官の試合開始の合図を待っていた。

 久しぶりではないが、再び戦車に乗れたと思うと楽しくなってくる。

「楽しそうだね、私は初めて乗るもんだからワクワクするよ」

 栗子(クビツェク)は私に笑顔で言った。 これも補足なのだが、栗子(クビツェク)は操縦手をやってもらっている。

「そうだな……! 愛華、砲手の方は出来そうか?」

「全然大丈夫ですよ総統(ヒューラー)! これぐらい髑髏師団を指揮することに比べたら簡単すぎます!」

 愛華(アイケ)はニヤリと笑って言った。

「ゲッベル、通信の方は出来そうか?」

「私は元宣伝相です。 これぐらいは楽ですよ、総統(ヒューラー)

 ゲッベルは自慢げに私に言う、通信手があの宣伝相ならば非常に安心だ。

「ホナコ、流れで装填手になったが……」

「お任せください。将軍の砲撃には絶対に遅れません」

 こいつ(リッベントロップ)はやる気満々のようだな。

 

『みんな、準備は良いかしら?』

 蝶野教官の通信が入る、どうやら試合が始まるようだ。

「教官、こちらパンターG型、準備は完了しました」

『……うん、皆準備は終わってるみたいね』

 ここで私は軽い深呼吸をした、気を引き締めて試合に挑むためである。

 そして通信越しに蝶野教官が息を吸い上げている音が聞こえてくる。

 

 

 

『パンツァー・フォー!!』

 

 

 

 蝶野教官の試合開始の合図が戦車の車内に響き渡る。 

 私はキューポラを開き顔を出した。 ヘッドフォンマイクを身に着けていた私は声を大きくして叫んだ。

Panzer Vor!!(パンツァー・フォー)

 私の言葉と同時に栗子(クビツェク)が戦車を動かす、エンジンの音がガレージ内に響き渡る。

 そして右手を上げてピンと張り、またしても私は大声で叫ぶ。

 

Sieg Heil(ジークハイル)!!」

 

「「「「Sieg Heil!!(ジークハイル)」」」」

 

 私に続いて四人も勝利万歳と叫ぶ。 この宣言は早くはない、必ず我らの戦車が勝利を掴む為の宣言である。

 そして蝶野教官の指示通り、森の中の開始地点へと向かうのであった……。

 

 

 

 ――――Ⅳ号中戦車が森の中に向かっていく時、蝶野は山下と共に"ひとみ"の言動を見ていた。

「……やはり山下さんの言っていた通り、彼女があの?」

「ああ、()()()()()()()()()だろう」

 山下は険しい表情で蝶野の言葉に応える。

「しかし、独逸師範代のお嬢様が元独裁者だったなんて……」

 蝶野は悲しそうな顔をする、しかし山下の表情は先程の険しい顔とは違い、多少安心した顔をしていた。

「だがまあ、あれほど性格も変わってるんだ。 やはり良い育ちの影響だろう」

「……私は今の彼女に害はないと信じております、山下さんはどう思われます?」

 ニコリと笑って蝶野は山下に聞く。

「そうだなぁ、俺が教官をしている()()()()()()()()()()()()()()。 他の転生者もそうだが、今のヒットラーは害はないと確信できるだろう」

「そうですか。 よかった……」

「さてっ全車両が開始地点に向かったようなので、我々は見晴らしのいい場所で観戦しますか」

「そうですね、行きましょう。 ()()()()()()()()()()

 

 

 

 いよいよ始まる大洗女子学園戦車道の模擬試合、一同が乗った数々の戦車はそれぞれの開始地点に向かっていったのであった……。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話「模擬試合【上】」


 お待たせしましたぁー! いやいや本当にお待たせしました!

 さて今回は"みほ"がメインの回でございます!
 文字数も増えて投稿できましたので、どうぞご覧ください。 

 


 ――――指示通りの開始地点にパンターG型中戦車は停車した。

 試合場所の地図を確認して試合開始の合図を待つ。

 するとゲッベルがヘッドフォンを取り、"ひとみ"に報告をした。

総統(フューラー)、どうやら全車両は開始地点に到着したようです」

「そうか、ではそろそろ蝶野教官のお声が聞こえてくるだろう」

 "ひとみ"が言った矢先に、蝶野教官の声が聞こえてくる。

『みんなスタート地点に着いたようね。 ルールは簡単、全ての車両を動けなくするだけ。 つまりガンガン前進してバンバン撃ってやっつければいいわけ!』

「ハハハ、随分ざっくりした説明だなぁ」

「逆にわかりやすいまでもある」

 栗子と愛華が笑いながら言う。 "ひとみ"も蝶野教官らしいとクスリと笑う。

 

『戦車道は礼に始まり、礼に終わるの。 一同、礼!!』

「「「「「よろしくお願いします!」」」」」

 戦車に乗る者全員が礼をした。 そして蝶野教官は息をすぅーっと吸って大きく声を出した。

 

『それでは、試合開始!!』

 

 

 試合が始まり各戦車は移動を開始した。 "ひとみ"達が乗るパンターG型中戦車も森の中を進む。

 相手には"みほ"の乗るⅣ号中戦車D型がいるため、いくらパンターG型中戦車といえども弱点である車体下部前面などを狙われたらダメージは大きい。

 しかし今のところ"みほ"以外は戦車道経験者が存在しない為、"ひとみ"はこの試合は勝てると慢心をした。

 

 

 

 ――――一方、"みほ"が車長のⅣ号中戦車D型は慎重に森の中を進んでいた。

 Ⅳ号中戦車D型のメンバーである沙織や五十鈴、秋山が戦車道の経験がある"みほ"が車長をやったほうが良いと決まったからだ。

 "みほ"は双眼鏡を覗き込んで向こうにある橋を見た。 橋には相手の戦車はおらず、今なら渡れそうであった。

「五十鈴さん、向こうにある橋を渡りましょう」

 "みほ"は操縦手である五十鈴に言う。

「わかりました。 相手の戦車は居ないのでしょうか?」

「遠くを覗いてみたけど、まだ大丈夫そう」

 

 五十鈴は言われた通りに戦車を動かす。 すると沙織が疲れたような声で言った。

「砲弾って何でこんなに重いのよー・・・・・・」

「大丈夫です、頑張っている分は私が相手の戦車に当てて見せますので!」

 自信満々に秋山が沙織に言う。 そういう事ではないという顔で沙織は秋山を見る。

 

 大洗女子学園の中では戦車道の経験が豊富な"みほ"であったが、その表情は浮いていない。

 他の三人が会話をしている中、"みほ"は黙ってとある事を考えていた。

「・・・・・・(あの時、角谷会長が私に話してくれた事―――――)」

 

 

 

 

 

 ――――先日、大洗女子学園の生徒会室にて。

 角谷杏から放送で呼ばれた"みほ"は、沙織や五十鈴に心配されながら生徒会室に一人で来ていた。 

 しかし生徒会室には珍しく小山副会長と河嶋生徒会広報がいなかった。 二人とも別の用事で生徒会室を後にしていたのだ。

 "みほ"は華道を希望した紙を角谷杏に手渡した。

「なんで戦車道、取らないかなー・・・・・・」

 角谷杏の声が低くなる、"みほ"は気にもせず話の本題に入る。

「私はこの学校で、強制的に戦車道をさせられる意味は無いと思います」

 "みほ"の顔は何時もの少し臆病なくらいの表情ではなく、真剣な表情で角谷杏に答えた。

「・・・・・・まあ、それもそうだけどさ。 でもいいの? 戦車道を取らないと・・・・・・、この学校に居られなくしちゃうよ?」

 

 角谷杏は"みほ"に対し脅しているような言葉をかける。

 しかし"みほ"も今後の学校生活に関わる事、そう簡単には引き下がらない。

「っ・・・・・・!! でしたら理由を教えてください。 私にどうしても戦車道をさせようとしている理由を」

「・・・・・・」

 "みほ"の言葉に、角谷杏は黙りだす。 数分間、お互いの目を見続ける。

 

「・・・・・・はぁー。 今回は私の負けだわ」

 角谷杏は肩の力を抜き、溜息を吐く。 先程までの低い声は戻って、威圧的な表情もなくなった。

「この話は出来るだけしたくなったんだけど、結構ショックかもしれないよ? それでも良いの、西住ちゃん?」

 角谷杏が降参したところで、"みほ"も表情が和らぐ。

「はい、理由を教えてください」

 

 

 

 

「――――この学校、廃校になっちゃうんだ」

 

「っ!?」

 角谷杏の言葉に"みほ"はショックを受ける。 角谷杏は、ここまで言ったのなら教えるしかないと説明を続ける。

「文部科学省の役人に言われちゃってね。 この学校は活動実績が少なく、生徒の数も減少してるからってさ」

「そんな・・・・・・!!」

 "みほ"は思った。 せっかく戦車道もない学校に転校して、此処での友人も出来たのに廃校なんて辛すぎると。

 角谷杏は真剣な顔つきで説明を続ける。

「でも戦車道の実績があれば廃校は免れるらしい。 そこで西住流でもある西住ちゃんに、どうしても戦車道をしてほしかったんだ」

「そうだったんですか・・・・・・、ですがどうして廃校の事を隠してたんですか?」

「・・・・・・どうせだったら、こんな重荷を背負わずに戦ってほしかったからさ」

 "みほ"の言葉に、角谷杏は申し訳なさそうな顔で答える。

 実際"みほ"も、いきなり廃校は自分の力にかかっているなんて言われてはプレッシャーが重すぎる。

 

 暫しの沈黙が続く、その時間は一分や二分と本来は短い時間が今はお互い長く感じていた。

 そして"みほ"の口が開き、沈黙が終了した。

「角谷会長・・・・・・私、戦車道をやります」

 この言葉に角谷杏は驚いた。 こんな荷が重い役目を"みほ"が承諾したからだ。

 実際のところ"みほ"は相当な覚悟を決めて、戦車道に入ることを決めた。

 此処で出来た優しい友人達の大好きな大洗女子学園の為に、"みほ"は戦う覚悟を決めたのだ。

 

「本当に良いんだね?」

 角谷杏は冷静に"みほ"に聞いた。 "みほ"は真剣な顔を緩めず答えた。

「はい、こんな私ですが・・・・・・、お役に立てるよう精一杯努力します」

「・・・・・・ありがとう」

 

 

 

 

 

 ――――そして現在の試合に至る。 "みほ"は角谷杏との会話を思い出していたのだ。

「・・・・・・」

「西住殿・・・・・・? どうかしましたか?」

 秋山が黙って考え込んでいる"みほ"を見て、心配そうに声をかける。

 "みほ"は秋山の声掛けで、今が試合中なのを思い出して考えるのを止めた。

「ご、ごめんなさい。 ちょっと考え事をしていて」

「それよりも、本当に大丈夫なの? あの橋を渡るなんて・・・・・・」

 沙織は心配そうに"みほ"に聞く。

「まだ試合も始まったばかりだから、あの橋の近くにいることはないと思う」

 "みほ"は橋を渡る前に双眼鏡でもう一度橋の向こうを確認する。

 しかし向こうの道には戦車は一両もいない。

 

「大丈夫そう・・・・・・。 五十鈴さん、前進をお願いし――――」

 その時であった。

 ドカンと砲撃の音が後方から聞こえたのだ。 そしてⅣ号中戦車D型に砲弾が直撃するも、少し軽いダメージで済んだ。

 "みほ"はキューポラから上半身が出ていたため、体が大きく揺れるが、過去の戦車道経験がいきたのかバランス良く姿勢を維持していた。

「ちょっちょっとみぽりん、大丈夫なの!?」

「これくらいは大丈夫! それよりも・・・・・・!」

 

 "みほ"は双眼鏡で自分達が向かってきていた道よりもさらに遠くを覗き、戦車を捉えた。

 後方から撃ってきていた戦車の正体は"Ⅲ号突撃砲F型"であった。

 距離が若干遠かったためⅣ号中戦車D型には貫通しなかったものの、ダメージは出ていた。

 後退したら確実にⅢ号突撃砲F型に撃破されてしまう、そう考えた"みほ"は思い切って五十鈴に言った。

「五十鈴さん、前進してください! 幸い橋の向こうにはまだ戦車はいません!」

「わ、わかりました!」

 

 "みほ"の指示通り五十鈴は戦車を橋へ向かわせる。 しかし橋を渡るにしても、五十鈴は操縦手としての経験がなく、間違って橋から落ちてしまう可能性だってある。

 だが敵戦車が後方から攻撃を繰り返していたら、こちらがやられてしまう。

「(やってみせます・・・・・・!)」

 意を決した五十鈴は速度を上げて橋に入る。 この時は、砲手である秋山が奮闘していた。

 

 秋山が撃った砲弾がⅢ号突撃砲F型に直撃する。 しかしガンッと砲弾は弾かれた。

 乗っていた歴女チームの戦車長、エルヴィンも"みほ"と同様にⅣ号中戦車D型を双眼鏡で捉えていた。

「敵はⅣ号中戦車D型。 車長はあの西住流だ」

 双眼鏡を覗きながらエルヴィンは言う。

「西住流はそんなに強いのか?」

 歴女メンバー兼砲手の左衛門佐がエルヴィンに聞く。

「西住流は蝶野教官が説明していた通り、戦車道の三大流派の一つだ。 下手に動けばまず勝ち目はない」

「それではどうするぜよ?」

 操縦手の"おりょう"が言う。 エルヴィンはニヤリと笑って言った。

「・・・・・・一時的な同盟を組むんだ。 それによってあのⅣ号を挟み撃ちにして倒せる」

「その顔だと、もう手は打ってあるんだろ?」

 歴女チームのリーダー、装填手のカエサルがエルヴィンに言う。

「ああ、相手には西住流や独逸流がいるが。 この戦車でどれだけ戦えるか、面白そうじゃないか・・・・・・!」

 

 橋を越えて逃げようとする、"みほ"車長のⅣ号中戦車D型チーム。

 しかし"みほ"達は知らなかった。 逃げた先には、さらに強大な敵が待機していたのだから・・・・・・。

 

 

 

 

  

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 もし何か知りたいことがあれば、言える範囲で説明します。
 次は遅くならないように気を付けますぅ・・・・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話「模擬試合【中】」


お久しぶりです。 お待たせしてしまって申し訳ございません。
やっと更新できました。



 ――――Ⅳ号中戦車D型がⅢ号突撃砲F型と戦闘を繰り広げている最中、"ひとみ"が車長のⅤ号戦車パンターG型はなにをしていたのであろうか?

 実は"ひとみ"は密かにⅢ号突撃砲F型と連絡を取っており、挟み撃ちにする作戦を計画していたのだ。

 Ⅳ号中戦車D型とて相手はかのパンター戦車G型である。 正直あまり勝ち目は見えない。

「向こうの森の奥、その道にⅣ号D型が来るはずの橋があったはずだ」

 "ひとみ"はこの地域の地図を眺めながら言う。

「しかも挟み撃ちの計画場所は平原です、パンターにとっていい的でしかありません」

「それにあのⅣ号の搭載している戦車砲は、よほど近い距離じゃないとパンターには貫通しないさ」

 愛華と栗子が"ひとみ"に言う。

 

 実際その通りであった。 Ⅳ号中戦車D型の戦車砲は短砲身であり、最低100mぐらい接近しなければ貫通しないのだ。

 それにパンター戦車G型は砲塔前面の装甲が110mm、側・後面45mm、車体前面80mmという強固な守りであった。

 しかしそれは砲塔と車体前面のみであって、車体の側面や後面は重量調整の為に薄く、どちらとも40mmであった。

 つまりⅣ号中戦車D型はパンター戦車G型の車体側面、または車体後面を確実に狙わなければ勝ち目はないのだ。

 

「(今のところ"みほ"以外戦車を上手く扱える生徒はⅣ号にはいない・・・・・・。 まだ教えられた赤子程度の知識しか持っていない生徒ばかりだ、こちらには戦車道経験者は私含め2人か・・・・・・フフフッこの勝負は貰ったな)」

 "ひとみ"は自分達の勝利を思い浮かべてニヤリと笑った。

「(生前から思ってたけど、総統閣下ってたまに慢心するよなぁ。 言ったら怒られそうだから黙るけど)」

 ホナコは一人、そう思いながら装填の準備をしていた。

 

 

 ……一方その頃、"みほ"達が乗るⅣ号中戦車D型は"ひとみ"の思惑通りに橋を越えて森を進み速度を上げていた。

 どうやらⅢ号突撃砲F型からの追撃はないようで、"みほ"は五十鈴に戦車の速度を下げるように言った。

 

 しかしその時であった。 まさかの進んでいる戦車の方向に一人生徒が昼寝をしていたのだ。

「あっ! 五十鈴さん、停車してください!」

「はい……、あら? 誰か寝ているようですね」

「あれって……、麻子じゃん!?」

 沙織が寝ている生徒をよく見て言った。

 彼女の名は冷泉麻子、沙織の幼馴染で成績学年トップの生徒であった。

 

 沙織は戦車から下りて寝ている麻子に近づき言った。

「麻子、なんでこんな所にいるのよ。 授業中だよ?」

「……沙織か、そんな事くらい知っている」

 

 授業中にこのような場所にいる麻子に沙織は呆れてため息をつく。

 その時であった。

 

 

 キュラキュラ キュラキュラ

 

 

 遠くから戦車が近づいてくる音が聞こえてきたのだ。 すぐさま察知した"みほ"は急ぎ麻子に言った。

「此処は危険ですから、この中に入ってください!」

 麻子は言われたとおり戦車の中に入った。

 しかし戦車の中に入ると麻子は酸素の薄さで体調が悪くなる。

「さ、酸素が薄い……」

「あー……、麻子は低血圧なんだよねぇ」

 沙織は困った顔で"みほ"に説明する。

「今は安全な場所にも行けないので、試合が終わったら戦車から降ろしますから、それまで耐えられそうですか?」

「だ、大丈夫……耐えられる……」

 

 "みほ"は切り替えて五十鈴に速度を上げるように伝えた。

 遠くから近づく戦車の正体は、バレー部が乗っている八九式中戦車であった。

「M3中戦車っていうのは倒した。 次はあのⅣ号中戦車っていう奴を倒すぞ!」

「キャプテン、あの戦車すごく強そうなんですが……!?」

「こういう時は根性で倒す! この戦車のアタックを信じろー!」

 バレー部のリーダーである磯辺典子は戦車長であり装填手でもある。

 そして装填された砲弾を砲手である佐々木あけびが狙いを定めて砲撃を開始する。

 

 

 ドォン!!

 

 

 八九式中戦車から砲弾が放たれた。 その砲弾は見事にⅣ号中戦車D型へと直撃した。

 威力は低いが、この砲撃がⅣ号中戦車D型の動きを停止させた。

 何が起きたのかというと……、なんと砲弾は操縦席にある装甲に当たっていたのだ。

 そのショックで五十鈴は一時的に気を失ってしまう。

 しかもこのタイミングで"ひとみ"達の乗るパンター戦車G型が前方からやってきていた。

「なにやら違うのが混じっているようだが……、どうやらあの戦車のおかげでⅣ号の動きは止まっているようだ。 この機を逃すな!」

「「「「ヤー!!」」」」

 

 

 突然の事態に"みほ"達は混乱する。

 五十鈴の気絶、そしてパンター戦車G型の襲来、"みほ"のチームは窮地に立たされた。

「ど、どうしようみぽりん!?」

 "みほ"は悩みに悩んだ。 すると先ほどまで体調を崩していた麻子が口を開いた。

「……沙織はこの人を看てやれ、私がやる」

「え、ちょっと麻子!?」

 麻子が五十鈴を退かすと、マニュアルを読みながら戦車を動かす。

 戦車のことなど全く知らない麻子が、いとも容易く戦車を操縦しているので"みほ"達は驚愕した。

「麻子、戦車の運転できるの!?」

「たった今覚えた」

「おお、さっすが学年主席!」

 少し酸素の薄さに慣れたようで、麻子の操縦は快適なものであった。

 マニュアルを読んだばかりとは思えない運転技術が、敵戦車を動揺させた。

 

「秋山さん、最初に八九式を撃破します!」

「わかりました! 任せてください!」

 "みほ"のいう通りに秋山は八九式中戦車に照準を定める。

 麻子もそれに合わせて戦車を動かす。

 砲身が八九式中戦車に向く、そして遂にⅣ号中戦車D型から砲弾が放たれた。

 

 

 ドォンッ!!

 

 

 八九式中戦車はⅣ号中戦車D型よりも前の時代の戦車であり、威力もⅣ号中戦車D型のほうが上であった。

 そもそも八九式中戦車は戦車対戦車を想定して作られておらず、あくまで歩兵支援用であった。

 戦車対戦車を想定して作られたⅣ号中戦車D型の砲弾が見事に直撃してしまえば、勝敗は目に見えていた。

 八九式中戦車は一発の砲撃で撃破された。

 

 

 ――――ちょうどその頃、教官の二人は高い場所から試合の様子を眺めていた。

 双眼鏡で見えたものは、八九式中戦車がⅣ号中戦車D型に撃破されたところであった。

「これで残りは四両……」

 蝶野教官は残りの戦車を数えていた。

 隣で見ていた山下教官はというと、八九式中戦車が撃破されていく様を見て少し悲しい表情をしていた。

「山下さん、どうかしましたか?」

「……改めてみると我が国の戦車は、戦車相手に弱すぎた。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 山下教官はとても悔しい顔をしている、蝶野教官は黙って聞いている事しかできない。

「せめて、三式中戦車が前線に配備されていたらまだ……」

「山下さん……」

 

 

 M3中戦車リーと八九式中戦車が撃破されて、残り四両となったこの試合で一体どの戦車が勝利するのだろうか……?

 この戦いは後半へと続く……。

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話「模擬試合【下】」

 お待たせしました。 
 今回は少し短いですが、次は長くしたいです(願望)


 ――2両は撃破されて残る車両は4両、戦闘は森の中で続いていた。

 "ひとみ"が乗るパンター戦車からの砲撃に、"みほ"達のⅣ号戦車は苦戦を強いられていた。

 Ⅳ号戦車は岩に隠れて応戦を開始するも、パンター戦車の砲撃は岩さえも破壊できそうな威力であった。

「どうしようみぽりん!?」

「このままじゃ……」

 急いで砲弾を装填している沙織と、さりげなく目を覚ましていた五十鈴が"みほ"に言う。

 だがⅣ号戦車に更なる不運が訪れた。

 "みほ"がパンター戦車とは違い後方に戦車が接近しているのを発見して双眼鏡を覗く、接近していたのはⅢ号突撃砲であった。

 

「っ!? いけない、Ⅲ号突撃砲がきた!」

 このままでは挟み撃ちにされてこちらが撃破されてしまう、"みほ"に焦りが見えた。

 すると秋山が何かを発見する。

「西住殿、あれを見てください!」

 "みほ"は秋山に言われた場所を見た。

 そこは森の奥であったが、奥から素早く戦車が走ってきていた。

 生徒会が乗っている38(t)戦車である。

 しかし生徒会が向かっていたのはⅣ号戦車にではなく、Ⅲ号突撃砲にであった。

 そして森の中から驚く勢いで現れ、Ⅲ号突撃砲に接近して側面へと砲弾を放った。

 

 ドガンッ! 

 

 Ⅲ号突撃砲の側面に砲弾が直撃した。

「うわっ、なにが起きたぜよ!?」

「なにっ!? 生徒会の戦車が潜んでいたのか! あんな森の奥に!」

 Ⅲ号突撃砲の内部ではエルヴィンが、森から突然現れた38(t)戦車に驚愕していた。

「まずいぞ……、かなりいいところに直撃した。 このままでは……!」

「おりょう、右に旋回してくれ!」

 エルヴィンはおりょうに指示し、戦車を右に旋回させる。

 だがそれはもう遅かった、38(t)戦車から再び砲弾が放たれる。

「しまっ――――」

 

 ドガンッ!

 

 ――Ⅲ号突撃砲が撃破された。

 これはパンター戦車の5人を驚かせ、すぐさま38(t)戦車に砲身を向けた。

「まずい! 我らのパンター戦車はⅢ号突撃砲と同じく側面に弱い、何としても38(t)戦車を撃破するのだ!」

「「「「ja(ヤー)!!」」」」

 38(t)戦車にパンター戦車の砲弾が放たれた。

 なんとか38(t)戦車は砲撃を避けてパンター戦車に接近していく。

 そしてパンター戦車のエンジン部分を砲撃する。

 

 

 ――"みほ"の視点では、パンター戦車の注意が38(t)戦車に引き付けられて、Ⅳ号戦車へ向かれていた砲身も別方向へ動いていた。

「今ならいける! 冷泉さん、あの大きな戦車の側面に急いで迎えますか?」

「いけるぞ」

「秋山さん、到着したらパンターの側面に砲撃をお願いします!」

「わかりました!」

 Ⅳ号戦車は動き出し、パンター戦車の側面へと向かっていった。

 

 ドガンッ! 

 

 ちょうど38(t)戦車がパンター戦車によって撃破されていた。

「よし、あとは急いでⅣ号を――」

総統(ヒューラ―)!! Ⅳ号が側面に接近しています!!」

「なにっ!? 早く砲身をⅣ号に向けろ!?」

「だめです、流石に間に合いません!」

 愛華(アイケ)が言った瞬間、勝敗は決まろうとしていた。

 Ⅳ号戦車から砲弾が側面に向けて放たれたのだ。

 

 

 ドガァァンッ! 

 

 

 ――38(t)戦車のエンジンへの砲撃、そしてその後Ⅳ号戦車が側面へと砲撃をしたため、パンター戦車は動かなくなった。

 パンター戦車のエンジンは、ぷすぷすと煙が出ている。

 これは正真正銘、()()()()である。

 

『Ⅴ号戦車パンターG型、戦闘不能。 Ⅳ号戦車の勝利!!』

 蝶野が通信で生徒全員に告げる、こうして大洗女子学園初の模擬試合は終わりを迎えた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一話「正体を知る者」

 すっげえ早くかけた。


 ――模擬試合は"みほ"達Ⅳ号戦車の勝利に終わった。

 故障した戦車は全て自動車部が修理するために回収していき、各生徒はガレージの前に集合した。

 これからも訓練を怠らないようにと生徒達に伝えて、今日の任務を終えた山下は宿泊している場所に帰っていった。

 蝶野も"みほ"と"ひとみ"に挨拶をして宿に帰宅した。

 各生徒も下校時刻なのでそれぞれ帰宅していく、転生者組も大体帰宅したので残ったのは"ひとみ"ぐらいであった。

「さて、では私も帰るとするか」

 帰る支度をしようと学園に戻ろうとする、すると「待ってくれ」と"ひとみ"は声をかけられた。

 後ろを振り向くと、そこにいたのは歴女のエルヴィンであった。

「君は確かエルヴィンだったな、私に何か用か?」

「……単刀直入に聞く」

 

 

 

「――貴方は、転生者だな? アドルフ・ヒトラー」

 放たれた言葉は"ひとみ"の予想をはるかに超えていた。 

 

「――――」

 まるで二人だけ時が止まったように、風がピタリと止んだ。

 "ヒトラー(ひとみ)"は驚き目を見開く。

 どちらかが口を開くまで風は吹いてこなかった、そして先に口を開いたのは"ヒトラー"であった。

 

「……何故、そう思う?」

 エルヴィンは今喋っている相手の雰囲気が変化したのに気づいた。

 冷酷な目、何処か普通の人間とは違う何か重みのある言葉遣い。 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()だ。

 そう確信したエルヴィンは、口を開いて言った。

「貴方は模擬試合が始まる前に言っていた。 Sieg Heil(ジークハイル)と、それに共に乗っていた人達は貴方を総統(ヒューラー)と呼んでいた」

「……驚いたな、細かい発言まで覚えているのは素晴らしいことだ」

 話していてもヒトラーの表情は変わらない。

「お察しの通り、私は転生したアドルフ・ヒトラーだ」

「やはり……!」

「だが解せない部分がある、何処から転生者という情報を知った?」

 

 鋭い目つきでエルヴィンを睨む、エルヴィンは黙りこくっていた。

「……今君が聞きたいのは多分、私が何を企んでいるのかという事だろう」

 そう言って"ヒトラー"はゆっくりとエルヴィンに近づく。

 目つきが戻り、多少の溜息を吐きながら困っている姿はエルヴィンを驚かせた。

 先程までの雰囲気が無くなっている、エルヴィンはそう気づいた。

 

「私は今世を楽しい事に使いたい。 これは紛れもない本心だよ」

「……え?」

 エルヴィンは呆然としているが、"ひとみ"は話を続ける。

「転生前、ドイツ国民が私を熱狂的に支持した。 しかし終われば悲しい結末だった」

「戦争もユダヤ人迫害もあの時では必要な出来事だった。 ()()()()()()()()()()()()

「自決し転生した私は"みほ"と"まほ"に仁愛を教えてもらった。 両親の教育が私を変えたのだ」

 "ひとみ"の言葉を聞いてエルヴィンは驚いている。

 そしてエルヴィンは、()()()()()()()()()()()()と感じた。

「……私は、転生したこの人生を無下にする気はないよ。 わかったかな、エルヴィン?」

 

「……申し訳ない、そこまで改心しているとは思わなかった。 無礼を許してほしい」

 エルヴィンは"ひとみ"に頭を下げる。

 "ひとみ"は申し訳なさそうに頭を上げさせる。

「よせよせ、私なんかに頭を下げてどうする? 何にもならんぞ」

「いや、新しい人生を楽しんでいる方に無礼を働いてしまった。 今度お詫びの品を用意しよう」

「まあ、そこまで言うのなら……。 じゃあ今度こそ私は帰るぞ、じゃあな」

 そういって"ひとみ"は学園に戻っていった。

 

 

「……らしいですよ? 将軍」

「――――」

 一人残ったエルヴィンが、近くの木にひっそりと隠れて聞いていた者に声をかける。

 そして穏やかに笑いながら現れたが、この少女の制服は黒森峰女学園のものであった。

 金髪の地毛で青い目の軍人のような気質の少女は、口を開いた。

「そうか、総統閣下は改心してくれたのか……あれなら大洗女子学園は大丈夫だろう」

 そして自動車部がガレージに運んでいるⅣ号戦車を見て、少女は言った。

「ありがとう、西住みほ副隊長。 総統閣下を変えてくれて……」

 少女はそう言ってガレージ前から去っていく。

 そして彼女の制服の右胸にネームプレートが付いている。

 名前はフリードリヒ・ヨハネス・オイゲン・ロンメル、"ひとみ"と同じ転生者であった……。

 

  

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二章「練習試合 聖グロリアーナ女学院編」
第十二話「練習試合の決定 作戦会議」




『――というわけで、是非この練習試合を受けてもらいたいのですが』
「練習試合ですか、わかりました」
 一人の少女が電話をしている、電話の相手は大洗女子学園の生徒会長の角谷杏であった。
「聖グロリアーナ女学院はどんな相手でも、受けて立ちましょう」
『ありがとうございます、では日時ですが――』
 

 ……電話を終えて受話器を置く、そして少女はその部屋を後にする。
 向かった先は学院長が執務をしている部屋、少女は扉をノックする。
『入りたまえ』
「失礼します、先程大洗女子学園からお電話が来ましたので報告に参りました」
 少女は扉を開けて、机に座り執務をしている学院長に報告を始めた。
 しかし学院長はその言葉に戸惑いを見せる。
「大洗女子学園? わが校との接点は無かったはずだが……」
「それが、戦車道の練習試合を申し込まれました」
「なんと、それは本当か?」
 学院長は驚愕する。

「なんでも、かの学園は戦車道を再開したそうです」
 うーむ、と学院長は葉巻を取り出す。
「隊長であるダージリン君のことだ、試合を受けたのだろう?」
「はい、わが校はどんな相手でも受けて立ちます」
 それを聞いた学院長は口から煙を出してニヤリと笑みをこぼす。
「ならば見せてやれ、強豪校の実力をな」


「わかりました、()()()()()()()()


 ――大洗女子学園が戦車道を再開して1週間が経過した。

 訓練の日々を過ごしているが、慣れてくるもので着々と戦車の基本が生徒に身についてきていた。

 "ひとみ"達も元々がドイツ人だったからか、きびきびと訓練を行っている。

 それが他生徒の憧れにも繋がり、他の戦車長もパンター戦車に乗る5人を参考にするほどであった。

 誰よりも目を輝かせたのは一年生達であった。

 一年生が乗るM3中戦車リーの車長、澤梓は"ひとみ”の几帳面さ、"みほ"の心優しい性格を参考にして一年生チームの訓練を行っていた。

 そんなある日の事――。

 

「来週に他校と練習試合することになったから、その詳細を発表するよー」

『ええーー!?』

 唐突に杏から戦車道の生徒達に伝えられる。

 生徒達も動揺しているが、これには"ひとみ"達5人も驚きを隠せない。

「今回の試合の相手は聖グロリアーナ女学院だ、会長自ら試合の話を持ち掛けてきてくださった」

「そういうことー」

 

 生徒達は聖グロリアーナ女学院がどのくらい強いのかは、訓練の際確認した雑誌や前の大会などの映像を確認したので知っていた。 

 最初から強豪校である相手と戦うなど無謀だと思っていた。

 しかし決定した以上、聖グロリアーナ女学院と戦わなければならない。

 これは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の試合なのだ。

 

 ここで河嶋の試合の説明が始まる。

「今回行う試合内容は殲滅戦だ。 聖グロリアーナ女学院は強豪校だが、戦車道の強豪校がどれくらいのレベルかを経験するのが目的でもある。 各車長は今日の訓練が終わり次第に生徒会室に向かうように、試合への作戦会議をするからな」

『はい!』

 各車長である西住みほ、独逸ひとみ、磯辺典子、カエサル(車長はエルヴィンだが、リーダーがカエサルなのでこちらが出席)、澤梓は同時に返事をする。

「そして最後に、これは練習試合であっても慢心をしてはならない。 訓練でした事をよく思い出して試合を行ってくれ、以上解散!」

 生徒達はぞろぞろと別の行動を開始する、普通に帰宅や戦車の手入れなど様々だ。

 

 

 ――場所が変わり、此処は生徒会室。

 "ひとみ"達は来週の試合の為に作戦会議を行っていた。

「試合の場では崖や荒野があるという、そこでなんだが……お前達の意見を聞きたい」

 河嶋は各車長に作戦意見を問うた。

 最初に出た案は典子の根性論だったので却下された。

 次に出たのはカエサルと"ひとみ"の優勢火力で敵を撃退するというものであったが、そもそも火力が出せるのがⅢ号突撃砲とⅣ号中戦車とパンター戦車のみだったので却下された。

 梓はそれらの作戦のメモを取っていた。

 

「うーん、西住は何かあるか?」

 河嶋が"みほ"に問う、"みほ"は少し考えて試合場の地図を確認する。

「では私が乗るⅣ号中戦車が囮に出て、市街地におびき寄せます。 皆さんは市街地に隠れて、合図を出したら一斉に攻撃を開始するのはどうでしょう?」

「しかしそれでは、攻撃が失敗した場合逆に攻撃を食らうんじゃないのか?」

 "みほ"の作戦に河嶋が質問をする。

「確かに今の状態では火力不足でもあります、だから市街戦にするんです」

 "みほ"の言葉に杏は「なるほど」と声を出す。

 

「つまり西住ちゃんは、まずは街の中で潜んで撃って、隠れてをするって言いたいんだね?」

「はい、今の私達には戦車道の経験が必要です。 ですので此処は各戦車の性能を考慮して戦い、勝利を掴まなければいけません」

 これには各車長達も納得する、河嶋も頷いて口を開いた。

「……確かにその通りだ。 わが校はまだ他校の試合をしていない、では今作戦の指揮官は西住が頼む」

 河嶋の言葉に"みほ"は頷く。

「わかりました。 出来る限り最善を尽くしてみます」

 

「ああ、あと負けたら()()()()()()をしてもらうからねー」

「「「「え゛?」」」」

「「……?」」

 

 ――こうして作戦会議は終了して各車長は帰宅していった。

 "みほ"は夜の太平洋を眺めていた。

 そこへ偶然通りかかった"ひとみ"がやってくる。

「珍しいな、こんな時間に」

「うん、ちょっと心配で……」

「……みほ、今回の試合は勝てるか?」

 "ひとみ"の言葉に"みほ"は少し黙る、月に照らされた水平線を眺めながら"みほ"は口を開いた。

「わからない、だけど勝たなくちゃ……練習試合で負けたら、大会なんて優勝できないしね」

「……そうだな」

 

 

 

 ――訓練を続けて数日が経ち、試合の前日となる。

 

 

 

    




 最近たくさん投稿できている、嬉しすぎる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三話「学院長の訪れ」


お待たせしましたー!
更新完了しましたので、どうぞご覧ください!


 ――試合の日がやってきた。

 

 大洗女子学園に対するは強豪校の聖グロリアーナ女学院、勝機は少ないが、大洗生徒は訓練の成果を見せるときと士気は高ぶっていた。

 初めての強豪校との戦いに期待を寄せながら、学園艦は港に停泊した。

 学園艦から降りた"ひとみ"達は、久しぶりの陸地に心躍っていた。

 

「久しぶりの陸地だな、栗子」

 

 "ひとみ"が自販機で飲み物を買っている栗子(クビツェク)に言う。

 

「ああ、この十数年ですっかり第二の故郷だ」

 

 栗子(クビツェク)はそう言いながら、"ひとみ"に飲み物を軽く投げる。

 

「おっとっと……、お前よりにもよって炭酸のやつを投げたのか?」

 

「ちぇっ、もうバレたか……炭酸があふれる姿が見たかったんだけど」

 

 二人が軽い会話を続けていると、向こうから愛華(アイケ)が歩いてくる。

 しかし愛華(アイケ)の顔は困惑した顔をしていた。

 

総統(ヒューラー)、どうやら聖グロリアーナ女学院の方が総統(ヒューラー)にお会いしたいそうで……」

 

「私に? 知り合いなどグロリアーナには居なかったはずだが……」

 

「いえ、あの……なんと説明すればいいやら」

 

 愛華(アイケ)が説明に困っていると、愛華(アイケ)の後ろから声が聞こえてきた。

 

 

「君が独逸ひとみ君かね?」

 

「なっ……!?」

 

 現れたのはシルクハットをかぶった紳士的なイギリス人、小太りで歳を少しとったその姿が"ひとみ"には見覚えがあった……。

 

「いや、私達の間ではこう呼ぶべきかな? アドルフ・ヒトラー」

 

「チャーチル……!?」

 

 ――そう、このイギリス人は聖グロリアーナ女学院の学院長であり、第二次世界大戦のイギリス首相ウィンストン・チャーチルであった。

 

「……愛華(アイケ)、会いたいと言っていたのはコイツだな?」

 

「はい、しかし生前と全く同じ姿だとは……」

 

「転生したら歳も姿もあの頃と同じだったものでね、他人の空似で通してたんだが……最近になって戦車道連盟に正体がバレてしまってね」

 

 そう言ってチャーチルは葉巻を吸う。

 

「いずれかは君も戦車同連盟に正体がバレるだろう、現に各校にいる転生者は半数が正体を掴まれた」

 

 ……各校に転生者が多く存在する事、そしてその情報を既に掴んでいる事に"ひとみ"達は驚愕する。

 

「私は君達に忠告しにきただけだ。 正々堂々、ダージリン達と戦ってくれよ」

 

「あ、ああ……いや、ちょっと待ってくれ!?」

 

「ん、何かね?」

 

「どうして私の事を戦車同連盟に報告しない? 連盟の奴らには重要な情報の一つのはず、何故だ?」

 

「ああ、そのことかね」

 

 "ひとみ"の質問に対し、チャーチルはすぐに答えた。

 

()()()()()()()()()()()()()()、そう君の生前の部下に聞いてね」

 

「私の、部下に……?」

 

 するとチャーチルは、何かを思い出したように腕をポンっと叩いた。

 

「そういえば、その部下から伝言を預かっていたよ」

 

 そう言って、チャーチルは伝言を"ひとみ"に伝える。

 

 

 

『……総統(ヒューラー)。 我が校、黒森峰と相対する日を待っています。 砂漠の狐の力、お見せしましょう』

 

「……と伝えてくれとな、では君達との試合をじっくり見ていくとしよう」

 

 チャーチルはそう言うと、聖グロリアーナの元へ帰っていった。

 取り残されたのは"ひとみ"と栗子(クビツェク)愛華(アイケ)の三人であった。

 

「……砂漠の狐か、私に再会し話をする資格があるのだろうか……」

 

「ひとみ……」

 

「思い返すと私は、彼の人生を大きく変えてしまった……そんな私を、ロンメルは再び受け入れるのか」

 

 ――しばらく静寂の時間が過ぎていった。

 ずっと目を閉じていた"ひとみ"を見て栗子(クビツェク)達は、ただ黙って見ている事しかできない。

 

 

 ……しかし、"ひとみ"の顔は笑っていた。

 

「……そういえば、ロンメルの頼みに応じた事は殆どなかったな。 なら応じるとしよう、二度と私に歯向かわないよう確実に勝利してやろうじゃないか、なあお前達?」

 

 "ひとみ"は二人に視線を移す。

 

「私もロンメルと戦えるのか、腕が鳴るな!」

 

 愛華(アイケ)は楽しそうに答え。

 

「なるほど、じゃあ"ひとみ"の友人として、その勝負を見届けようかな」

 

 栗子(クビツェク)は興味深そうに言った。

 

「ゲッベルとホナコ(リッベントロップ)、隠れて聞いてないで出てこい」

 

 そう言うと、近くの物陰からゲッベルとホナコ(リッベントロップ)が申し訳なさそうに現れた。

 

「いやぁー……出ていくタイミングを見失いまして」

 

「というかホナコ(リッベントロップ)、お前ロンメルがいるの知ってたな?」

 

「すみません、ロンメル将軍が秘密にしててくれって言われてまして……」

 

 "ひとみ"の言葉にホナコ(リッベントロップ)は謝りながら返した。

 やれやれ、と"ひとみ"が言う。

 

「てことは"みほ"も同様に秘密にされてたんだろうな、それなら仕方がない」

 

 

 改めて"ひとみ"は、同じⅤ号戦車に乗る()()()の目を見た。

 それぞれの目には、目標に向かい結束した目をしていた。

 

 "ひとみ"は一度目を閉じて思った。

 

「(私はもう間違えない……、再び皆に相応しいと思われる人間になりたい)」

 

 ――彼女のこの気持ちは、変わる事のない目標になった。

 もう一度やり直したい、その思いは今確信へと変わったのだ。 

 そして、"ひとみ"は目を開いて仲間達に問いた。

 

「……お前達に聞きたい。 再び私の……いや、私と共に来てくれるか?」

 

 "ひとみ"の問いに、仲間達は即座に答えた。

 

『もちろん、共に行きますとも!』

 

「……ありがとう。 よし、もうすぐ聖グロリアーナ女学院との練習試合だ! チャーチルに一泡吹かせてやるぞ!」

 

『おぉーっ!!』

 

 

 ――いよいよ始まるのは大洗初の練習試合、はたして"ひとみ"達は勝利することが出来るのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四話「試合相手へ挨拶」


かなり書き方を変えます。
台本形式ではありませんが、色々変わってると思います。


 ――――試合が始まる30分前、私達は試合相手の聖グロリアーナ女学院に挨拶へ赴いていた。

 やはりグロリアーナの方が戦車道の生徒の数が多い、さすが強豪校というだけある。

 しかも服装なども統率があって且つ、不思議と此処の生徒にも転生者が複数存在しているのを感じた。

 

 相手の隊長へ挨拶に向かおうとしたその時、一人の生徒が私に近づいてきた。

 茶髪で少し長い髪を後ろで縛っていて、鋭い目をしていた。

 格好もまるで将校の軍服である。

 多少の警戒をしながら、私は近づく生徒を見る。

 

「独逸家の長女、独逸ひとみで間違いありませんか?」

「……そうだ、私が独逸ひとみだ。 試合前に挨拶に来た」

 

 そう答えると、生徒は少し考えたのち口を開いた。

 

「やはりそうでしたか。 では隠し事はいりませんな」

「という事は……、貴女も転生者か」

 

 答えると生徒は「yes」と穏やかに言った。

 同じ転生者という事で私は少し安心する。

 

「私は……まあ、もう存じてるかとは思うが、アドルフ・ヒトラーだ」

「もちろん、チャーチル殿から聞いているさ」

 

 そう言って生徒は姿勢を整えて敬礼をする、そして自らの名を名乗った。

 

「私はジョン・モナシュ。 将軍をやっていた、一人のオーストラリア人です」

 

 ――ジョン・モナシュ将軍と言えば、第一次世界大戦で一番有名なオーストラリア人、そしてその大戦でも最高の将軍と言われるほどの人物だったはず……。

 歩兵を重視するにも関わらず、多種多様な兵器も巧みに利用し、アミアンの戦いを勝利に導いたと言われている。

 転生者が多い事はチャーチルから聞いて理解はしていたつもりだったが、まさかこのように著名な将軍まで転生しているとはな。

 

「まさか、かのジョン・モナシュ将軍だったとは……、お会いできて光栄です」

「いやこちらこそ、独裁者としての詳細はチャーチル卿から聞いてはおりましたが……、会ってみれば随分と印象が穏やかだ」

「……何もかも転生後の両親、そして西住姉妹の優しさのおかげです」

 

 ――そうだ、何もかも身近だった人達のおかげで私は変われたのだ。

 感謝しても伝えきれない、沢山の恩が私の心に存在している。

 

「ハハハ、今の貴方であれば思いっきり戦えそうだ」

「はい、私も第一次世界大戦では西部戦線に居りました。 貴方の他にも転生者は居るのならば、私達の学園も全力で挑ませていただきます」

 

 そして私達は握手を交わした。

 互いに良き試合になることを祈りながら。

 

 ……とまあ最初の交流はこんな感じで良いだろう。

 そう思い私は小さなリュックから、ある物を取り出した。

 

「モナシュ将軍。 出会って早々でお恥ずかしいのですが……これを」

「……これは、色紙ですか?」

「独裁者であったにしても、私とて元々ただの兵士です。 それに転生して若くなってしまうと、著名な方がその場に居ればサインなど欲してしまうので……」

 

 私が恥ずかしそうに説明していると、モナシュ将軍は照れた顔をしながら言った。

 

「ははは……、そうまで言われると書かない方が失礼ですね。 わかりました……、はいどうぞ」

「おお……! だ、大事に飾ります!」

「なんだか、そんなに喜んでもらえると嬉しいものですね」

 

 素晴らしい、よくやった私。

 本来こんな貴重なサイン色紙、歴史好きの者達が羨ましい一品だろう!

 

「そろそろ案内しましょうか、ダージリン隊長がお待ちです」

「っは! 失礼しました」

「いえいえ、こちらです」

 

 私はモナシュ将軍に案内されて聖グロリアーナの隊長、ダージリンの元へ向かった。

 

 

 

「――ダージリン隊長、独逸ひとみ殿がおいでです」

「ご苦労様です」

 

 ……今、私の目の前には聖グロリアーナの隊長、ダージリンが立っている。

 外見も佇まいも、なんと淑女らしい女性なんだ。

 

「始めまして、私が隊長のダージリンですわ」

「私が大洗女子学園、副隊長の独逸ひとみです」

「チャーチル学院長から事情は聞いています、……前もった印象とは随分と違うのですね?」

「ははは……、よく言われます」

 

 ダージリンはキョトンとした表情をしている。

 やはり史実を知っていれば皆こういった意外そうな反応をしてくる。

 部下にもされたしもう慣れたぞ、流石に。

 

「とにかく、聖グロリアーナ女学院はどんな相手でも受けて立ちます」

「そうしてもらえると助かります。 私達、大洗女子学園も一層奮励努力します」

「日本海海戦、秋山真之海軍参謀が打電した言葉ですわね、……パンター中戦車がそちらに居るなら手加減は出来ません。 お互い良い試合になると良いですね」

「はい、……そろそろ試合が始まりますので、次は試合会場で会いましょう」

 

 

「……ええ、勝つのはどちらでしょうね」

 

 ――ひとみは試合の為に大洗側の陣営へと向かって行った。

 果たして勝つのは大洗か、又は聖グロリアーナか……、まだ誰も分かってはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オレンジペコ「――――ダージリン様、あれって……」

ダージリン「少し待ちましょう、私も最初はサインを貰いました」

オレンジペコ「あはは……」


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。