君はプレインズウォーカーだ。 (銅鑼銅鑼)
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カードリスト:1:プロローグとか☆ミ

ちょっと小説へのモチベを上げる為に頑張る。
癖のある文章なのでお気を付けて。


かつて、ユグドラシルにおいて「頭おかしい」「こいつ最高に馬鹿」「ある意味勇者」と呼ばれた変態異形種プレイヤーが居た。

 

 

なんて事はないアイテム一つ一つに最低でもウン万の課金をつぎ込んでいる。

星に願いを・ウロボロスでも叶わない願いをリアルの金の力で通らせた。

神器級アイテムを何個、あるいは何十個持ってるのかまるで予想が付かない。

噂だと世界級アイテムをいくつか持っている。二十もあるのでは?

 

 

だと言うのに俺Tueeeeする戦闘特化ではなく、生産特化。本当にこいつ馬鹿なの?

 

 

そう言われたプレイヤーの名前は、まじっく☆ミ。

悪名高いアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーの一人にして『そこにいるだけの害悪』『運営に魂を売った最悪』『こいつ一人で大体生産系は間に合う問題児』と言われただけのプレイヤーである。

 

そしてもう一つ、異名があるのだが。

それは一部のプレイヤー間でしか言われない異名であった。

その異名こそ、彼女の全てを表すには最適なのだが。それは後ほど。

 

 

★ミ

 

 

あれは昔のことだ。

 

 

「おっすおっす☆

 モモちゃん元気ー☆ミ」

 

「うわぁキツ」

 

「ログインの挨拶がそれとか、私様悲しいぞー☆

 もうマジ無理。ワールドアイテムぶっぱしちゃいそう……」

 

「あはは、嘘ですよ。

 まじっく☆ミさん。おはようございます☆」

 

「おっはー☆ミ」

 

 

モモンガの目の前に現れたのは、るし☆ふぁーと並ぶ問題児。まじっく☆ミである。

見た目は自分より背が低い、金色のふんわりとした髪が肩まで伸びている。毛先は内巻きになっていてカーリーになっている。

まるでお嬢様かと思われる髪型に反して、服装はつなぎのような作業着そのもので所々汚れのような黒ずみが付いている。

もちろん、ユグドラシルでそのような汚れが付く事はほぼ無いので、これも課金による見た目変更によるものなのだろう。

 

こう見えて錬金生命体(ホムンクルス)である彼女は、膨大なデータクリスタルと素材と課金によってその見た目を作り出している。

 

さて、この問題児にどう対応したものか。とモモンガは頭を悩ませて、とりあえず当たり障りのない事を言うことにした。

 

 

「えと、今日も良い日ですね」

 

「そだねー。あ、課金しよっと☆」

 

「またですか。

 今月いくら課金したんですか?」

 

「私様、課金額は数えねーの☆ミ」

 

「うわぁ」

 

 

まるで呼吸をするように課金をするまじっく☆ミ。

何が問題児たる所以なのかと言えば、これだ。

ログインしたかと思えば課金。呼吸したかと思えば課金。PKされたかと思えば課金。

生産に成功したかと思えば課金。ログアウトする直前に課金。と

とにかく金に糸目をつけないことが挙げられる。

 

ただそれだけならば無害なのだが。

 

 

「今回の目玉は。お、そこそこじゃーん!

 私様の生産の種にしよっと☆」

 

「ガチャの目玉を生産の材料にするとか。本当正気じゃないですね」

 

「チャリンチャリンチャリリリリンwwwwwwwwwwwww

 イイィィィイイヤッヒィィィィイイイwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 マジ課金サイコー!!ほら、モモちゃんも☆KAKIN☆しようZE!!」

 

「いや、ちょっと今月は厳しくって」

 

「モモちゃん。我慢は良くないよ?」

 

「いやあの本当に……」

 

「ほら。ちょっとだけだから。微課金なら誤差だからさ☆」

 

「う、ううん……」

 

「モモちゃんのイイトコみてみたーい!」

 

 

豪快なその課金に他も釣られて課金の沼に嵌めようとするのが本当に害悪なのだ。

ただ、まじっく☆ミは本当に善意から勧めているのであって、そこに悪意は全く無い。

本当に嫌がりそうな相手にはそもそも勧めない。欲しい物があるのに我慢している、というプレイヤーに対してだけ。こうして課金を勧めてくるのだ。

 

だから『そこにいるだけの害悪』とか呼ばれるのだとかモモンガは思ったりもした。

 

 

 

ある日。アインズ・ウール・ゴウン最盛期の頃。

まじっく☆ミは唐突にモモンガに問い詰めた事があった。

 

 

「モモちゃんはさー☆

 マジック:ザ・ギャザリングって知ってる??」

 

「え、知らないですね」

 

「へえ……☆ミ」

 

 

そう言って彼女は無限の背負い袋から、カードの束を取り出す。

トランプのようなカードかと思えば、一つ一つが壮大なイラストが描かれたそれ。

小さな文字も書かれたそれは、モモンガにとって初めて見るアイテムであった。

 

 

「これこれ☆ミ

 一世紀前に流行ったカードゲームなんだけどさ☆

 私様の倉庫から出て来たのを再現したの☆ミ」

 

「へえ。アイテムの見た目を変更したんですね。……課金で」

 

「うんうん☆

 それ布教用だけど

 伝説級(レジェンド)から聖遺物級(レリック)まで入ってるデッキだから大切にしてね☆ミ」

 

「!?」

 

 

急いで道具鑑定(アプレイザル・マジックアイテム)を使用すれば。

出るわ出るわ聖遺物級(レリック)のカード達数十枚。中には伝説級(レジェンド)も数枚あった。

 

 

「あ、使用したら本当に魔法が出るぜ☆ミ

 課金アイテムを何十個使ったか☆ミ」

 

「おまっ!?急にこんなの受け取れませんよ!!」

 

「えー☆困るぜモモちゃん☆ミ

 私様はマジックを布教したいだけなんだぜ☆ミ

 一緒にそれで遊ぼうぜ!

 ほら、ルールもちゃんと教えるし。

 私様のデッキも用意してるからさ☆」

 

 

そう言って手慣れた様子でカードをシャッフルするまじっく☆ミ。

どうやら拒否権は無いようだ。諦めておっかなびっくりでカードをシャッフルするが、その手付きはお世辞にも上手いとは言えなかった。

 

 

「そうそう☆ミ

 そこはそうした方がいいね☆」

 

「おっと、それは困るなー☆ミ

 でも対抗呪文(カウンタースペル)で打ち消し☆」

 

「駄目だぜモモちゃん☆

 ブラフも戦術のうちだぜ☆ミ 怖がってちゃ何も出来ないよ☆ミ」

 

 

とりあえずやってみた。色々教えてもらったし、色々意地悪された。

彼女はいつも笑顔のリアクションマークを出しながら、楽しそうに遊んでいた。

他のギルメンも、こぞってそれに倣って遊んだりもした。

一時の流行にもなったりもした。

 

その時は、とても楽しかったんだ。

 

 

★ミ

 

 

あれから、長い時間が経った。

あれだけ賑わいがあったユグドラシルも最早風前の灯火。

ログインする人は全盛期に比べて少なくなった。

最早サービス終了まで、数ヶ月との告知もあった。

なのに。

 

 

「おっすおっす☆ミ

 モモちゃん今日も素材集め頑張ろうね☆

 その後でマジックしようぜ☆ミ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと、課金課金っと☆ミ

 イヤッフッゥウウウウウウウwwwwww」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっほぉ☆ミ

 見てよモモちゃん☆

 世界級アイテムが投げ売りされてるぜ☆ミ

 これ私様の生産の素材にしちゃおっと☆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもと変わらなかった。本当に、いつもと変わらなかった。

減りゆくフレンドも、ギルメンも、まるで気にはしてはいない様だった。

 

 

「聞きましたよ。まじっく☆ミさん」

 

「んー?なんのことかな☆ミ」

 

「ギルドに無断でウロボロス使ったんですか?」

 

「ギ、ギクゥ……☆ミ

 ゆ、ゆるしてくだちぃ……」

 

「……でも、叶わなかったんですって?」

 

「まぁーね☆

 ユグドラシルⅡおなーしゃー☆ミって言ったんだけど駄目だったよ☆」

 

 

あるダンジョン(金策)から帰ってきた後。

ギルド拠点ナザリックで彼女と話し合う事があった。

もちろん、彼女の好きなマジックをしながら。だ。

 

シャカシャカと、カードをシャッフルするモモンガの手付きは。

最初の頃とは違い、手慣れたものになっていた。

 

彼女は、ユグドラシルを、愛していた。……と思う。

だからこそ、そんな事を願ったのだと思う。

まじっく☆ミさんは、果たしてユグドラシルを楽しめたのだろうか。

不意に、そんな疑問がモモンガの頭をよぎった。

 

 

「まじっく☆ミさんは」

 

「――だから金でゴリ押しする事にしました☆ミ はい拍手☆ミ」

 

「は?」

 

「まーぁ無理無理無理かたつむりだったんだけどね☆ミ

 もう未来が無いゲームに投資するのは無理だってさ☆ミ

 その代わりに『プレインズウォーカー』とか言う称号貰ったけどさー☆ミ

 

 ……一ヶ月。サービス終了を延期するのが精一杯だったよ☆」

 

 

モモンガの頭の中が真っ白になった。

一企業を動かすのに、どれだけの金があればそれが出来るのか、想像だに出来なかった。

目の前のまじっく☆ミは、素知らぬ顔をしながらも

 

 

「私様ね。夢があったの」

 

 

シャカシャカと手慣れた風にデッキをシャッフルしながら。

まじっく☆ミは珍しく神妙な声になった。

それは本当に珍しいことで、まじっく☆ミのカードをぞんざいに扱ったりしてブチギレした時以来だった。

 

 

「このマジックのカード、全種類作って、ギルメンの皆で遊ぶのが夢だったんだ」

 

「それは……」

 

 

難しい、だろう。

かつて42人もいたギルドメンバーの皆は、もはやその半数も残ってはいない。

サービス終了まで残ってくれる人は、果たしてその中の何人居る事だろう。

まじっく☆ミも、だ。最後まで残ってくれると信じてはいるが、どうなるかは分からない。

 

 

「モモちゃんはさ☆

 このマジックってカードゲームのカードの種類。どれだけあると思う☆ミ」

 

「え?えっと……千くらいですか?」

 

「ぶっぶー☆

 正解は一万六千種類以上でした☆」

 

 

唐突に、彼女はそんなことを言い出した。

いつもの通りのふざけているのか分からないような声だった。

彼女は何を言いたいのだろう。モモンガが思案していると。

 

 

「大体は出来た。――残り9種類。

 モモちゃんに、手伝って欲しいんだ。

 その為には、時間が必要だったんだ」

 

 

瞬間。彼女を中心にして広がる。カードの山。

ナザリックの一部屋が埋まりかねない程の量だった。

 

どれだけの時間と労力をかけたのだろう。

どれだけの資金をつぎ込んだのだろう。

 

 

「手伝ってくれるかな?我らがギルドマスター?」

 

 

真剣な声で問われては。

 

夢を叶えてやりたいと思わされては。

 

ギルメンの頼みならば。

 

モモンガが答えるのは一つだった。

 



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カードリスト:2:パワーナインとか☆ミ

感想来るとか思って無かったからマジビビる☆
頑張って書いたよ☆褒め称えて☆



シャカシャカと。カードをシャッフルする音が心地良い。

そう思ったのは果たしていつからだったか。

 

まじっく☆ミは遠い昔を思い出しながら、今日も今日とて課金していた。

一部では、サービス終了が決まったのに延期してまで金を搾り取るとかマジ運営……ホンマ運営だな……。

との声があったが、私が望んだ事だからあきらめて欲しい。

 

私は、所謂上流階級と呼ばれる立ち位置に居た。

けれども、滅びゆくこの世界で何をどうしようと無駄な気がして。こうしてユグドラシルにハマった。

 

倉庫から出て来たカードの束を見た時、これは運命だと感じた。

壮大なイラストに素晴らしいフレーバーテキスト。能力。

これを何かで再現したいと思った。

 

だからこそ、私は有り余る資産をつぎ込んでユグドラシル、DMMORPGにハマったのだ。

 

あと9種類。

たった後9種類で、私の夢は一部実現する。

 

そう思うと、居ても立っても居られない。

私は急いでユグドラシルへとログインした。

 

 

★ミ

 

 

私の夢は難航を極めた。

というのも、残り9種類のカードの効果が極大にどうしようもなく極悪だったからだ。

 

あるカードはたった2マナで追加ターンを得る。

あるカードはたった1マナで3枚のカードを引ける。

 

ここで言うマナとは、MPのようなものである。

対効果能力が凄まじかったのだ。

それこそ、世界級アイテムと呼ばれてもおかしくない程に。

そしてもう一つ、どうしても譲れない事が、夢の進行を妨害していた。

 

 

「まじっく☆ミさん!素材集めてきました!!」

 

「でかした☆

 これを、こうして……んー☆」

 

「出来ましたね!!これで残り……」

 

「駄目☆ミ

 こんなんパワーナインじゃない☆ミ」

 

「えぇっ!?」

 

 

瞬間。シュレッダーに破棄されるパワーナインだったもの。

今回のは伝説級(レジェンド)だった。駄目だ。そんなものではパワーナインは語れない。

せめて神器級(ゴッズ)でなければいけない。それでいてイラストは完璧でなければいけない。

 

生産職に付きまとう悩みの種の一つだが。

生産して出来上がるものには、「程度」があるのだ。

それは他ゲームで言う所の強化値であったり、付加スキルなどがあたる。

 

最高でなければいけない。

至高でなければならない。

 

その拘りが、残り9種類のカードの作成を手間取らせていた。

 

 

★ミ

 

 

ユグドラシルのサービス終了日当日となっても、私様は残りのカードの成否に頭を悩ませていた。

頼りのギルマスは最後は玉座で、と言って聞かなかったし。今は円卓で最後の一時を楽しんでいることだろう。

ああ、あの杖を素材として使えたら、などと一瞬脳裏を過ぎるが、駄目だ。それだけは出来ない。

あれは私様達ギルドメンバーの努力の結晶であり、金などでは決して対価としては見合わないものだ。

それ程に輝かしく、どうしようもないほどに尊いものであった。

 

だからこそ、まじっく☆ミはポケットからあるアイテムを取り出した。

 

 

「ウロボロス」

 

 

一部仕様変更を運営に願うアイテムであるそれ。

何かあった時に、と取っておいたとっておきの一つ。

 

それを彼女は。

 

 

「素材選択、っと☆」

 

やや躊躇いはあったが、迷いなく素材欄に入れた。

そして、データクリスタルをふんだんに。

素材も最高級のものばかりを選んだ。

 

彼女の望む、パワーナイン。

それはあと1種類の所まで来ていた。

 

だが、だからこそか。余計にそれを選ぶ目は真剣だった。

 

神器級(ゴッズ)ではもはや足りえなかった。

最大値を引いても、イラストに歪みがあれば容赦なくシュレッダーに入れた。

 

 

「さあ。頼むぜ☆ Black Lotus」

 

 

願う様に。彼女は幾度となく繰り返した生産を始めた。

 

 

★ミ

 

 

「それで……上司が言うには……

 でもそんなこと……!」

 

「ええ。分かりますよ。ヘロヘロさん」

 

 

モモンガは、円卓に腰を据えてヘロヘロと語り合っていた。

いや、語り合っていた、というのは違うか。ヘロヘロが自身の境遇についてひたすらに愚痴っていたのだ。

モモンガは、それでも、それで良かった。

ユグドラシルを、ナザリックに最後まで居てくれるなら。それでよかったのだ。

 

だが。現実は非情である。

 

 

「――ああ、もうこんな時間ですね。

 すみません、愚痴ってばかりで……明日も早いのになぁ」

 

 

そうして、現実へと思考を馳せるヘロヘロ。

そして。

 

 

「お疲れ様でした。モモンガさん。またどこかでお会いしましょう」

 

 

その言葉を最後に、ヘロヘロは、ログアウトして、しまった。

 

誰も居なくなった円卓に。静かさが戻ってきた。

 

 

「何故だッ!!」

 

 

モモンガは両腕を円卓に振り下ろす。

ピコッと0ダメージが表示されるのも五月蠅い。

悲しかった。

空しかった。

空虚だった。

何も残せなかった。

 

あまりにもあんまりな終わりに、モモンガは激昂していた。

 

 

「ここは――ッ!!

 ここは皆で作り上げたナザリック大墳墓だろ!!

 なんでそんな簡単に捨てられる――ッ!!」

 

 

せめて、せめて誰かが残ってくれると思っていた。

この気持ちを共有してくれると思っていた。

悲しみか、怒りか、もしくはその両方か。

 

だからこそ。ああ、だからこそ。モモンガは叫び。

 

 

「いええーい☆ミ

 モモちゃんー!!ついに!!ついに出来たぜー☆ミ」

 

 

本当にタイミングが悪かったとしか言えなかった。

激昂したタイミングで入室してきたまじっく☆ミにその様子を見られてしまったのだ。

 

 

「――あっいえ! すみませ」「馬鹿野郎☆ 何しょんぼりした顔してんのさ骸骨なのに☆ミ」

 

 

思わず謝罪の言葉を口にするモモンガだったが。

それを遮るようにまじっく☆ミはモモンガの下へと走り寄る。あるカードを手にして。

 

 

「それより、ついに出来たんだぜ☆ Black Lotus。

 なんと世界級アイテムだぜ☆ミ」

 

「はい?

 

 

 

 

 

 はい!?」

 

 

思わず、モモンガは聞き返してしまった。

念願の、最後のギルメンの夢が叶ったという事実よりも。

生産職がワールドアイテムを作れたという事実に、だ。

 

都合、ワールドアイテムは仕様上200種類しかないアイテムだ。

そんなアイテムが生産出来て良いはずがない。

そんな簡単に作れるなら今頃ユグドラシルはインフレにインフレを重ねている。

そんな情報は知らないし、そんな事はあってはならない。

だからこそ、その驚きはどうしようもないものだった。

 

 

「えっ!?作れるんですか!?世界級アイテムを!!??」

 

「イヤッフッゥウウウウウウウwwwwwwwww

 これでコンプリート!!夢が叶った☆

 ウロボロスを素材に使ったかいがあったぜ☆」

 

「えっ」

 

 

 

 

「えっ」

 

 

複数あったのか。ウロボロス。二十だからか?

それとも消費されたらリポップするのか?

もしくは叶わなかった願いを察した運営がまじっく☆ミさんにウロボロスを返したのか?

……あの運営が?そんな親切なことを?

 

ぐるぐると思考がまとまらないモモンガは。

 

 

「――なにやってんだアンタはぁぁあああああ!!!?」

 

 

とりあえず叫ぶことにした。

 

 

★ミ

 

 

「ごめーんねっ☆ミ

 出来心でした☆ でも私様は反省もしないし後悔もしてない☆ミ」

 

「はぁ……良いですよもう。とりあえず土下座はやめてくださいよ……」

 

「やだぶー☆ だってモモちゃんおこですもん☆ミ」

 

「怒ってませんってば……」

 

 

ため息交じりにモモンガがそう言えば。スクッとまじっく☆ミは立ち上がった。

そしてズイッと距離を縮めて来た。近い近い、凄い近い!!

 

 

「でね☆ この世界級アイテムなんだけどね☆

 このイラストが良いんだよね☆ミ 新絵の方も好きだよ?

 でもどちらかと言うと私様としては旧絵の黒枠が至高でね??」

 

「近いですって!!まじっく☆ミさん!!」

 

「おっと、失礼☆ つい興奮しちゃったぜ☆ミ」

 

 

そう言って彼女は距離を離すが、声からは今にも飛んで行きそうな程の興奮が伝わってくる。

いや、生産職に全てを割り振った彼女は魔法の類を使う事は出来ないのだが。

それでも飛びかねない。今の彼女なら十分に可能性はある。

 

それに、モモンガとて世界級アイテムに興味がない訳がない。

どんな効果なのだろうか。考えるだけでもワクワクが止まらない。

まさか、サービス終了間際にこんなサプライズが来るなんて思わなかった。

まだまだこんな未知があるとは知らなかった。

 

 

「さて、そろそろ時間だぜ☆ モモちゃん☆」

 

「――っ。ええ、そうですね……」

 

 

興奮が一気に冷めていくように。現実に引き戻されるように。

時間はもう――。1時間くらい。

 

……割とあった。

 

 

「ラストデュエルと行こうじゃないか☆モモちゃん☆」

 

「え?ええ?」

 

「私様の本気のデッキを見せてあげるぜ☆ミ」

 

 

★ミ

 

 

「ずるいです」

 

「そう拗ねるなよ☆ モモちゃん☆ミ

 パワーナイン入りのデッキ相手じゃ頑張った方だぜ☆」

 

「大体なんですか。先手とられたら後私座ってるだけでしたよ?」

 

FoW(意志の力)も無いんじゃあ話にならないぜ☆」

 

「はぁ……もう分かりました。後は玉座に行きましょう」

 

「待ちなよ☆ミ」

 

 

そう言って立ち上がろうとするモモンガに待ったをかけたのはまじっく☆ミだった。

目線の先にあるのは……“スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン”

黄金の杖があった。

 

 

「ほら最後だし☆

 最後はそれ持って行こうぜ☆

 私様はBlack Lotusがあるからさ☆ミ」

 

「でも……、良いんでしょうか……」

 

「私様が許す☆」

 

 

ぷっ、と思わずモモンガは笑ってしまった。

最後だというのに、何も変わらない彼女に対して。

ああ、そうだった。まじっく☆ミさんはこういう強引な人だった。

 

周りでは『そこにいるだけの害悪』『運営に魂を売った最悪』『こいつ一人で大体生産系は間に合う問題児』と呼ばれてこそいるし、モモンガ自身もその通りだと思っている。

ただ、彼らは知らないだろう。知りえない事だろう。

 

『最後のマジックプレイヤー』と呼ばれていたことを。

 

それを悲しく思った彼女が必死にマジックを布教していたことを。

ギルメンに渡したデッキを返された時の彼女の悲しそうな顔を。

また遊ぼうと言って戻ってこなかった人達は知らないだろう。

 

 

プレイヤーは、基本、寂しがり屋なんだぜ☆

 

 

ある時、まじっく☆ミがそう言った事がある。

深くは聞かなかったし、聞けなかった。

けれど、彼女の拠り所がカードならば、モモンガにとっての拠り所はナザリックのギルドそのものだった。

だからこそか、“スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン”を持っていく事を彼女が勧めたのは。

 

 

「ほらほら、モモちゃん☆

 早くいかないと間に合わないぜ☆ミ」

 

「――ええ、そうですね」

 

 

彼女は両手にカードを。

彼女に倣って。杖を手に。

途中で会ったNPC。プレアデス達を引き連れて。

 

ついに、玉座の間にまで。辿り着いた。

 

 

「おぉ……」

 

「へぇ☆ いい仕事してますね☆ミ」

 

 

荘厳な雰囲気と、どこか神聖な感覚にモモンガが声を漏らす。

対するまじっく☆ミは、慣れた調子でテクテクと歩き出した。

 

本当に慣れた調子で、自然と玉座に座ったところで。モモンガがハッとする。

 

 

「まじっく☆ミさん!そこはギルマスに譲ってくださいよ!!」

 

「やだぶー☆ 早い者勝ちですー☆ミ」

 

「PVPで勝負したろかコラ」

 

「きゃあ☆こわいこわい☆ミ」

 

 

ぴょん、と跳ねて跳び出すまじっく☆ミに、はぁ。とため息を吐いた。

傍にはナザリック地下大墳墓守護者統括のNPC……アルベドが居た。

 

 

「あーちゃん、モモちゃん怒らせると怖いな☆」

 

 

NPCに話しかける彼女に、モモンガは頭を抱えた。

きゃいきゃいと一人で笑う彼女をよそに、モモンガは思いをはせる。

楽しかった。本当に。楽しかったんだ。

 

終わりの時間まで、もう3分もない。

 

玉座に座り。感傷に浸って居ようとすると。

不意に横から声が聞こえた。

 

 

「楽しかったよ。モモンガ。

 私様に最後のマジックプレイヤーで居させないでくれてありがとう」

 

 

いつものふざけた口調ではない。神妙な口調のまじっく☆ミだった。

 

 

「君さえよければ。私様の下で働かないか。

 境遇は今よりは改善されるはずだし。給料も上がる。

 悪い話じゃあないはずだ。

 

 なあ、鈴木 悟くん」

 

 

どきり。とした。

何故、本名を知っているのか。

どうしてブラック企業に勤めている事を知っているのか。

困惑で頭が回らなかった。

 

 

「なに、ここまで一緒に遊んで貰った礼と言うやつさ。

 君は最後まで私様を見捨てなかったように、私様も君を最後まで見捨てない。

 マジックに誓って、君を独りぼっちにはさせない」

 

「……え、と」

 

「なに、返事は今すぐでなくても良い。

 君宛てにメールは既に送ってあるし、じっくり考えてくれたまえよ☆」

 

 

くつくつと、いつもと違った彼女の笑い方に、モモンガは――鈴木 悟は終始唖然としたままだった。

だからこそ、サービス終了までの時間が残り僅かである事に、直前まで気付かなかった。

気付いていたのであろう彼女は、悪戯が成功した子供のように笑いながら。

終わりを告げたのだった。

 

 

「ナザリックに――いいや。違うね、違うとも。

 鈴木 悟くん、君に栄光あれ」

 

 

そして、終わりは始まったのだ。

 



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カードリスト:3:異世界転移とかウケる☆ミ

評価まで貰えるとかどうなってるの……。
私にどうしろって言うんですか!!

という事で更新するのが最善と思ったので更新します。
誤字あったらごめーんね☆ミ



果たして、初めに違和感を感じたのはどちらの方だったのか。

 

モモンガはいつまで経ってもサーバーダウンしない事に違和感を覚え。

まじっく☆ミは自身に突き刺さる視線に違和感を感じたのだった。

故に、彼らの行動に差異が生じるのは仕方ないことだった。

 

 

「モモちゃん☆

 誰かいるぜ☆ミ」

 

 

瞬間、まじっく☆ミを中心に広がるカード群の嵐。

それら1枚1枚が使えば魔法が飛ぶ仕掛けとなっており。

生産職である彼女が出来る精一杯の攻撃・防御態勢だ。

 

まじっく☆ミの種族レベルは10。

 

符撃師

アーマースミス

アイテムスミス

アルケミスト

ウェポンスミス

ルーンスミス

 

それぞれに15点の職業(クラス)レベルを合計したレベル100プレイヤーだ。

生産特化ゆえに、PVP経験こそ乏しいが、無いわけではないし、課金アイテムも潤沢にある為。

勝てるプレイヤーが居なかった訳ではない。

だが、ナザリックで見た時下から数えた方が早いほど、彼女は弱かった。

 

だからこそ、モモンガに声を掛けた。助けてくれ、と。

 

 

「――っ!?」

 

 

そしてそれに気付かない程、モモンガは愚かではなかったし。

互いの連携も取れない訳ではなかった。

即時、モモンガが攻撃態勢・及び敵対勢力がどこに居るのか索敵しようとして――。

 

 

「モモンガ様? まじっく☆ミ様?」

 

 

直ぐ傍から聞こえた、アルベドのその声で。彼らは硬直することになる。

 

 

「……あーちゃん?」

 

 

困惑したような声がまじっく☆ミの喉から出たのは、僥倖だった。

 

何故ならば、モモンガは、事と場合によっては索敵の為に一つ大きな魔法を使おうとしていた直前であり。

まじっく☆ミもまた、陽動の為に最悪、手の内の一つである神器級(ゴッズ)をいくつか切る直前であったからだ。

……もしもの話になるが、そうなった時の混乱は、今これからの事を思えば「やらなくて良かった」し、「やってはいけないこと」だったのだ

 

 

予想外の事が起きた時、人はいくつかの行動を起こす。

モモンガの場合、それは錯乱や混乱をしていたし。

まじっく☆ミの場合。

 

 

「イエーイ☆

 あーちゃん喋れるようになったんだね☆ミ

 これはユグドラシルⅡ実装サービスかな☆」

 

「はぁぁぁん♡♡

 い、いけませんわ!まじっく☆ミ様!!

 このような、モモンガ様の御前で……でもそれも燃えるぅぅぅううう♡♡」

 

 

アルベドに抱き着いていた。

 

いやもう、胸部装甲にまっしぐらに抱き着いていた。

何やってるんだコイツ、とモモンガは自身が冷静になっていく感覚に襲われた。

 

 

「何してるんですか まじっく☆ミさん!!」

 

「おい☆ミ やべーぞユグドラシルⅡ☆

 めっちゃやわらけーの☆ こんな感触味わえるとか最高のサプライズだわ☆ミ」

 

「あっ♡ ああっ♡♡」

 

「そんな羨まけしからっ……!! ふぅ……」

 

 

まただ。またモモンガの精神は強制的に鎮静化された。

いよいよもって異常事態だと感じたモモンガは、運営に問い合わせようとして。

 

 

「コンソールが開かない……?」

 

「……ふぅーん?どうやら垢BANもされないようだね」

 

 

互いが互いに違う形であれど緊急事態だという事に気付いた。

 

 

「ちょっとやべーわこれ☆ミ サイバージャックでもされてんじゃねぇかな☆」

 

「ああっ♡♡ さ、さいばーじゃっく……?

 んぅ♡ も、申し訳ございません♡

 私ではさいばーじゃっくという用語をお答えすることがぁっ♡

 出来ませんぅ♡」

 

「おい馬鹿害悪。何ずっとアルベドにくっついてるんだ」

 

「いやね☆彡

 垢BANされないならもう少しだけ味わっておこうかと――。

 ……あ、なるほどね。ははーん理解したわ☆」

 

 

瞬間、ぴょんとアルベドの豊満な胸部装甲から飛び跳ねると。

スタッと、モモンガの横に着地した。

いやもう本当何したいの?

ちなみにアルベドはまじっく☆ミに突き飛ばされて地面に倒れ伏している。

悩ましげな声が聞こえたような気がするが、聞こえないったら聞こえない。

 

 

「悪いね、あーちゃん。

 どうやら本当にヤバイみたいだ。

 ちょっと私様とモモちゃんと二人にして貰えるかな?

 あーちゃんはそうだね。ちょっとナザリック内を警戒してて貰える?」

 

「ああっ♡♡そんな焦らすだなんて……♡

 本当に捉えどころのない 御 方 ♡」

 

 

 

 

「――おい、アルベド、お前は何だ?」

 

 

 

 

 

瞬間、まじっく☆ミさんの声から感情というものが消えた。

まるで目の前のアルベドを道具か何かにしか思っていないような声だった。

心まで凍てつくような、冷たい。道具を見放した様な声だった。

アルベドは、まるで背中に氷柱でもつき込まれたように顔を青ざめる。

 

 

「……も、申し訳ございません。

 ナザリック地下大墳墓守護者統括を任されております……。

 こ、この失態を払拭する機会を頂けるのでしたら。

 これに勝る喜びはございません……」

 

「ふーん、大した忠誠心だね」

 

 

――NPCが会話をしている!?

モモンガは内心、彼女達の会話を聞きながらも驚いていた。

だが、それよりも驚いたのは、まじっく☆ミの変わりようだった。

表情は「可愛く」を設定し笑顔で造形された彼女の顔が、今はどうだ。

まるで目の前の虫けらを見るかのような表情に変わっているではないか。

 

 

「さて、モモちゃん。

 彼女達をどうしたら良いと思う?」

 

 

そこで話を僕に振るのか!?とモモンガこは軽くパニックになった。

目の前のアルベドは瞳をウルウルさせているし、ちょっと可哀想だった。

さっきまでふざけた調子だった、まじっく☆ミもこの調子だし。

これは下手な事を言えないぞ!?

 

と混乱が頂点まで達した時、すぅっとまた平静な状態へと戻った。

なんだこれは。さっきから。しかし、今は助かった。

 

 

「アルベド、命令だ。

 第四、第八を除く各階層守護者に、六階層の闘技場に来るように命じろ。

 時間は……今から一時間後だ」

 

「はい!畏まりました!」

 

「セバス、お前はナザリックの周辺地理を確認せよ。

 プレアデス達は――九階層にて侵入者が居ないか警戒にあたれ」

 

「「承知致しました」」

 

 

これで良かったのだろうか。

と心配してまじっく☆ミを見れば、ニコリと笑顔を向けてくれた。

どうやら上出来のようだった。

 

 

「やるじゃんモモちゃん☆ミ

 ギルマスっぽいどころかちょっと魔王っぽい風格だったぜ☆」

 

「それはまじっく☆ミさんに釣られて……。

 それより、これは一体どういう事なんですかね……」

 

「うーん☆

 最初はサイバージャックかと思ったけど、費用対効果に見合うとは思えないし☆

 何より匂いと味がした。これは今の技術じゃあ出来ない事だよ☆

 多分ナザリックごと次元渡り……もとい異世界転移してきたんだと思うな☆ミ」

 

「は?」

 

 

まるでなんて事ないように語る、まじっく☆ミに、モモンガは思わず顎を落とした。

マジックザギャザリングの世界観の一つに、プレインズウォークという次元渡りの手段がある。

それはモモンガも、まじっく☆ミに教えてもらった。だが、リアルでそんな事あり得るのだろうか。

まさか、「プレインズウォーカー」という まじっく☆ミの称号が悪さをして……?

 

とそこまで考えたところで、頭を振った。

まじっく☆ミさんはそんな事をして喜ぶ人じゃない。

他人を巻き込んでおいてそれを良しとする人ではない事は、自分がよく知っている。

だと言うのに、大切なギルメンを疑うなど、あってはならないことだ。

 

 

「さて、モモちゃん☆

 これからやっておかないと駄目な事が沢山あるぜ☆ミ」

 

「……魔法・スキルの運用と、ここが何処なのかの把握ですね。

 あとは、指輪の効果が適応されるのかと、あとは階層守護者、NPCが私達を信用しているのか……」

 

「それに、だ。モモちゃん☆

 私様の作ったアイテムや装備の効果がどうなっているのかも気になる☆ミ

 てかマジでテンションアゲアゲだぜ☆ 一緒にマジックしたら、楽しいだろうなぁ☆」

 

 

目の前のまじっく☆ミの様子を見るに、先程のまじっく☆ミさんとはまるで気配そのものが違った。

あれは一体何なのだろう。モモンガは不意にそんなことを思い。

 

 

「まじっく☆ミさん、さっきのは……」

 

「ちょっち本気モード☆ミ みたいな☆」

 

 

思わず頭を抱えた。

私なんかよりよっぽど魔王っぽかったですよ。まじっく☆ミさんと付け加えた。

 

 

★ミ

 

 

さて、転移の指輪は問題なく機能して、モモンガとまじっく☆ミは第六階層の闘技場までやってきた。

第六階層の守護者は……確か。

 

 

「モモンガ様ー!!まじっく☆ミ様ー!!」

 

 

そう言って高所からダイナミック着地を決め込んだのは、アウラ。

第六階層の守護者の片割れにして、娘の男の子だ。ううん?何を言ってるのか分からなくなるが、とにかく男装をした女の子だ。

もう片方は今は姿が見えないが、マーレという、女装をした男の娘だ。つまりは女装をした男の子という事だ。

 

誰だこんな趣味をした奴らは。と思案した所で、ああ。と一人納得した。

茶釜さんだったかー。あの人もあの人でペロロンチーノと変わらず業の深い人だった。

 

 

「アウラちゃんおっす☆ おっす☆

 元気だったー?引きこもり生産職のまじっく☆ミだよん☆

 覚えてるかな☆」

 

「わあ!!お久しぶりですまじっく☆ミ様!!

 今日はどのようなご用件でしょうか!?」

 

「うんうん☆ 元気が良くてよろしい☆

 ところで、マーレちゃんはどこかな☆ミ」

 

「マーレぇ!!

 モモンガ様とまじっく☆ミ様がお待ちだよ!!」

 

「ふ、ふぇぇ!?

 今すぐ向かいますモモンガ様、まじっく☆ミ様ぁ!!」

 

「うんうん☆ 怪我だけはしないようにね☆ミ」

 

 

レベル100NPCだから落下で怪我などはしないと思うのだが。

などとモモンガが考えている内に、マーレがまじっく☆ミの元へと辿り着き。

そして、間髪入れずに、まじっく☆ミが二人に抱き着いた。

 

 

「あぁ~☆

 美少年と美少女の匂いhshsするの蕩けるぅ~☆ミ

 あーちゃんの匂いとはまた違った感じがたまんねぇ~☆」

 

「お前は何をしてるんだ何を」

 

 

ついさっきまでの本気モードとやらはどこへ行ったんだ。

その顔じゃ威厳もあったもんじゃないぞ。

モモンガは焦って二人からまじっく☆ミを引きはがした。

 

 

(もしこの子達が僕らに害意を持っていたらどうするんですか!?)

 

(その時はその時☆

 私様は刹那主義なので☆ミ)

 

(あーもう!こういう人だったなあ畜生!!)

 

 

アウラとマーレは顔を赤らめて「いい匂いだって、お姉ちゃん……」「至高の御方に抱き着かれるなんて……」だとか言っていたが聞こえないふりをした。

とにかく。第六階層守護者は大丈夫なようだった。

こほん。とモモンガは咳払いを一つすると。

 

 

「第四、第八を除く各守護者に、六階層の闘技場に来るように命じた。

 じきにここに集まることだろう」

 

「えぇ~。シャルティアもですかぁ……」

 

「どした☆ アウラちゃん☆ミ

 シャルティアは苦手かな☆」

 

「え、えと。苦手っていうか……」

 

 

言葉に詰まるアウラに、ニコニコと笑顔で迫るまじっく☆ミ。

けれど、直ぐに興味を無くしたようにモモンガの方に振り向いた。

何故だろう。凄く、凄ーく嫌な予感がした。

 

 

「モモちゃん☆ モモちゃん☆」

 

「……なんですか。まじっく☆ミさん」

 

「ちょっと試してみたい事があるんだけどさ、いいかな☆ミ」

 

「内容によります」

 

 

本当に、嫌な予感しかしなかった。

だってまじっく☆ミさん、ニッコニコ笑顔なんだもん。

これはアレだ。マジック関係で何か良い事思い付いた時のソレだ。

何気ない事の様に。まじっく☆ミは言う。

 

 

「ちょっと決闘しようぜ?」

 

 

場合によっては内部決裂の危険性も孕んだ言葉を。

彼女は、今日の朝ごはんの内容のように気軽に言い出した。

 



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カードリスト:4:決闘とか☆ミ

独自解釈とか大量に含まれます☆ミ
そういうのが苦手な人は★ミまで読み飛ばして問題ないぜ☆



さて、まじっく☆ミというプレイヤーが何故注目されたのか。

これには理由というものがある。

 

ただの課金狂いなら『ただそこにいるだけの害悪』だけで済む。

では『運営に魂を売った最悪』とは?

『こいつ一人で大体生産系は間に合う問題児』とは?

 

一つずつ、まじっく☆ミというプレイヤーについて紐解いていこう。

 

『こいつ一人で大体生産系は間に合う問題児』というのは、何、単純な事だ。

 

アーマースミス

アイテムスミス

アルケミスト

ウェポンスミス

ルーンスミス

 

以上の職業(クラス)レベルを15点配分するという事は、意外と簡単な事だ。

自身が完全な戦力外であることを理解して仲間に融通(キャリー)して貰えば良い。

そうして苦労してレベル100になって、割り振れば、言い方は悪いが『誰にでも出来ること』だ。

 

問題児とまで言われた所以はそこからだ。

驚くべきは課金金額や執念とでも言うべきか。

あるいは、その両方か。生産職に付きまとう悩みの一つである「程度」が彼女の場合桁外れだったのだ。

 

例えばの話をしよう。

『ロングソードを1本、欲しい』と彼女に頼んだとして。

通常ならばそのまま求められたロングソードを1本渡す事だろう。

彼女の場合は少し違う。

 

『何故欲しいのか、何を求められているのか』まで彼女は察する事が上手かった。

 

例えば、単純に強化したいと思っているプレイヤーには『最大限まで』強化されたロングソードを渡した。リアルマネーや素材がいくらかさもうと、だ。

例えば、魔法による属性付与を望んだ場合、『全ての』属性を付与したロングソードを渡した。これもまた、どれだけ素材が飛ぼうと関係ない。

 

要は、彼女は『お節介』で、『目』と『耳』が良かった。

ゆえに、彼女に一度頼んだプレイヤーは、他の生産職に『頼もうとすらしない』

ここで何が起こるかと言うと。単純だ。そう、彼女は『優秀過ぎた』のだ。

 

一時、生産職のプレイヤーの基準がまじっく☆ミに『なってしまった』ことがあった。

ここからは悲劇だ。一般のプレイヤーが。

「普通に生産した武器が買ってすら貰えない」

「普通に生産した防具が見てすら貰えない」

「普通に生産したアイテムに興味すら向けて貰えない」

ゆえに、どんどん価値は下がっていき、反比例するようにまじっく☆ミの生産したアイテムは価値が上がっていった。

依頼されていない、なんとなくで作ったアイテムや武具にもそれが「起きてしまった」

 

恐ろしい現象が起こってしまったのだ。

道具鑑定(アプレイザル・マジックアイテム)で容易に生産したプレイヤーの名前が分かってしまうのも悪かった。

『まじっく☆ミ』が作ったアイテムじゃなければ駄目。

『まじっく☆ミ』が作った武具が良い。

一時、そうとまで言われてしまうに至ったのだ。

 

これを『付加価値』と言い、または『ブランド』と言う。

もしくは『盲信』とでも言うべきだろうか。

まじっく☆ミという、いちプレイヤーの名前は、瞬く間にユグドラシルに広がった。

なるほど、一般プレイヤーからしてみればたまったものではないだろう。

ゆえに、ついたあだ名が『問題児』。紐解けば納得の内容である。

 

さて、では『運営に魂を売った最悪』とは?

これは先程の問題よりかはとても、とても単純な事だった。

 

彼女の戦い方は『課金アイテムを湯水のごとく使う』のだ。

 

また、例えばの話をしよう。PVPで一戦、彼女と戦うとして。

彼女は数万では効かないアイテム群を、それこそレイドボスに挑むかの如く使った。

繰り返すが、一戦だ。たったの一戦にそこまでの課金アイテムを使った。

 

馬鹿げてる。その一言につきた。

それで負けたとしても、彼女は笑顔で再戦を挑んできた。

そんな狂人と好んでPVPをするのは狂人だけであり。ゆえに、彼女はPVP経験が浅かった。

 

勝ったとしても、負けたとしても。普通のプレイヤーの心象は最悪の一言であり。

ついたあだ名が『最悪』だった。

 

『害悪』で『最悪』で『問題児』となれば、受け入れてくれるギルドはごく少数で。

なるほど、彼女が悪名高いアインズ・ウール・ゴウンに辿り着いたのも必然と言えた。

 

 

★ミ

 

 

さて、話が脱線してしまったが。モモンガは今、凄く嫌そうな顔をしていた。

表情筋が残ってさえいれば、苦虫を嚙み潰したような表情になっていたことだろう。

 

 

「ちょっと決闘しようぜ☆ミ

 モモちゃん☆」

 

「何回も言わなくても大丈夫ですよ、まじっく☆ミさん……」

 

 

モモンガは今日何度目かになるため息を吐いた後。

もしかしたら。と一縷の希望にすがる。

 

 

「もしかして、マジックでの決闘ですか?」

 

「そうだぜ☆ミ

 むしろPVPじゃ私様に勝ち目ないじゃん☆」

 

 

言葉が足りないよまじっく☆ミさん。とモモンガは深いため息を吐いた。

まだまだこの世界に移転してから実験も何もしていないのだ。

だと言うのに最悪殺し合いになり兼ねない提案をするのは本当に、本当に止めて欲しかった。

 

 

「私様はガチデッキで行くからね☆

 ああ、そう固くなる事は無いぜモモちゃん☆

 これは私様による私様のための私様がする実験であって殺し合いじゃあない☆ミ」

 

「そうですか」

 

 

とにかく、早く終わって欲しかったのだ。

だからこそ、モモンガのそれは間違いであったのだ。

 

 

「Mox Sapphire」

 

 

まじっく☆ミが唱えた瞬間。

彼女の手の中には輝かしい程の青い宝石が出現した。

きらきらと輝くそれ。瞬く間に消えてしまいそうな儚さを持ったそれはユグドラシル時代では当然ながらも見た事がないものだった。

 

 

「やっぱりね☆

 ユグドラシルの時とじゃ勝手が違うか☆ミ」

 

 

だから早目に試しといて良かった。と彼女は口を動かすが。

モモンガはそれどころではない。カードが実体化する?馬鹿げてる。

そして、この後の動きを知っているからこそ、モモンガは対応する。

 

 

「魔法三重化(トリプレットマジック)!!

 魔法最強化(マキシマイズマジック)!!」

 

「お☆ モモちゃんも本気だね☆ミ

 じゃあ一気に行っちゃおうか☆

 

 Black Lotus」

 

 

瞬間。黒い水蓮の花が闘技場に咲いた。

ただし、それは一輪の花ではなかった。闘技場の隅から隅まで、黒い水蓮の花が咲き乱れた。

 

 

「アウラ!マーレ!!下がっていろ!!」

 

「「は、はい!!」」

 

「おやおや、良いのかな☆ミ

 もう準備は整ったぜ☆」

 

「こっちも準備は整いましたよ!!

 畜生!!どうせアレでしょう!?」

 

「ご名答☆

 修繕/Tinker」

 

 

瞬間、Mox Sapphireがパキリ。と音を立てて割れる。

そして、その代わりに現れたのは。

黒い、黒い金属の塊。その全体が出てくる。

あまりにも巨大だった。一見ゴーレムのようなそれは、けれど寸胴で。

腹の部分には赤くΦのマークがついていた。

 

 

「出ておいで☆

 荒廃鋼の巨像/Blightsteel Colossus」

 

「させるか!!現断(リアリティ・スラッシュ)!!」

 

「ピッチコスト☆ミ

 意志の力/Force of Will」

 

 

ドドン。と巨像は『二発』の魔法を受けた。

しかし、それでも尚健在であった。

主となるまじっく☆ミの盾になるかのように、モモンガの前に立ちふさがるそれ。

まるでダメージを受けた様子もなく――。

 

 

「『()()()()』か!!」

 

「なるほど☆魔法三重化(トリプレットマジック)じゃあ1発しか打ち消せないのか☆ミ

 これは勉強になったよ☆

 ――お疲れ様でした☆ミ

 

 『()()()()()()()☆』」

 

 

まじっく☆ミの一声で。

シュンと。まるで先程の巨像が嘘のように消えた。

 

見れば、まじっく☆ミはカードを畳み。

いつも通りの笑顔でモモンガを見ていた。

 

 

「いやー大迫力だったぜ☆

 モモちゃんも全力で来てくれてありがとうね☆ミ

 おかげで良い勉強になったぜ☆」

 

「はは……。

 こっちはあまり生きた心地がしませんでしたよ。

 ――ところで、何故あそこで負け宣言を?」

 

「ん☆ミ

 三重化+最大化された現断(リアリティ・スラッシュ)を、先に私様に打たれてたら負けてたからね☆

 いくらなんでも、私様でも死んじゃうって☆

 あとは、どこからどこまでの魔法がゲームと同じなのかを知りたかったのさ☆」

 

 

シャカシャカと、カードをシャッフルする音を立てながら。まじっく☆ミはそんな事を言った。

そう言えば、モモンガもついゲームの時の癖で魔法を使ってはみたが、結果としては上手くいった。

そう思えば、今回の決闘も決して無駄なことばかりではなかったか。

思ったよりも考えてるんだなあ、などと他人事のように思っていれば。

 

 

「モモンガ様!!」「まじっく☆ミ様!!」

 

 

マーレはモモンガへ。アウラはまじっく☆ミへと飛びついた。

その表情は、両方が尊敬の眼差しで各々に向けられていた。

 

 

「す、凄いですモモンガ様!!あんな巨像をやっつけちゃうだなんて!!」

 

「まじっく☆ミ様も凄いです!!あんなの見た事もありません!!」

 

 

キラキラと輝かしい程に煌めく両方の瞳。

何を勘違いしているのか知らないが、どうやらモモンガが巨像を倒したものと思っているようだった。

確かに、巨像は消えた。だがそれはまじっく☆ミの敗北宣言によるものであり、決して現断(リアリティ・スラッシュ)が通用したわけではない。

 

『破壊不能』か、対策しなければならないな。などとゲームの思考に浸りつつあるモモンガに対して。

 

 

「ふ、ふふーん☆ミ

 私様だって本気じゃなかったし☆

 なんならもっと凄いのも出せちゃうんだぜ☆ミ」

 

「もっと凄いのも居るんですか!?凄い!!」

 

 

負けず嫌いのまじっく☆ミはそんな事を言っていた。

アレよりもっと凄いのが居るんですか。とモモンガは辟易しそうになったが。

もしかするとまじっく☆ミの強がりかも知れない。アレより凄いのとか見たくもない。

 

それよりも、目下の心配は階層守護者達だ。

アルベド、アウラ、マーレは大丈夫だとしても。他の階層守護者達はどうなのだろうか。

 

自分達に対して、敵対してこないだろうか。

などと、思った所で。ふと、モモンガは疑問に思った。

 

 

「まじっく☆ミさん。まじっく☆ミさん」

 

「うん☆ミ どうしたいだいモモちゃん☆」

 

「さっきワールドアイテムのBlack Lotusを使いましたよね?

 あの効果って何だったんですか?」

 

「3マナ出る☆」

 

「は?」

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

思わず、モモンガの空いた口が塞がらなかった。

たったそれだけの効果なのに、ワールドアイテムなのか?

などと思ってしまったが。

幸いにしてまじっく☆ミには伝わらなかったようだ。

それどころか、何を誤解したのか。その凄さを理解したのだろうとばかりに彼女は饒舌になった。

 

 

「ふふん☆ 凄いだろう☆

 何もない所から3マナが出るんだぜ☆

 欲しくてもこれだけはあげられないぜモモちゃん☆ミ」

 

「あ、そうですね」

 

 

正に知らぬが仏とはこのことだった。

そして、やがて約束の一時間が訪れた。

 



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カードリスト:5:アンチヘイトとか☆ミ

アンチヘイトタグを付けてる以上、どこまで許されるか試してみるテスト☆ミ
好みが分かれる話だし大した事ねーから飛ばしてもいいぜ☆

12/2追記
コキュートスの口調だけど、カタカナ表記止めて普通にしたぜ☆
脳内補完よろしくぅ☆ミ


さて、これはどうしたものか。

まじっく☆ミは冷静な思考で眼下に広がる光景を見ていた。

階層守護者、シャルティア・コキュートス・アウラ・マーレ・デミウルゴス・アルベド。

以上6名が、皆が皆私様の前にひれ伏し、顔を下げている。

 

シャカシャカと、手遊びでデッキをシャッフルする。

こうすると、思考が上手くまとまるのだ。一種のルーチンに似たものかも知れない。

 

隣にいるモモンガが絶望のオーラⅤを振りまいているのは、まあ良い。

そもそも私様には即死・時間停止対策は勿論のこと、大抵の状態異常にたいする無効能力は付与してあるから何の心配もない。

課金の力は無駄ではないのだ。不意に、両手の十本の指に付けている指輪に目を落とす。

 

これらにも相当課金したねぇ。結局自分で作ったんだけど☆

 

思わず、苦笑してしまう。

このキャラ付けは、最早癖というか習慣に近いものがある。

RP(ロールプレイ)とはまた違うが、親近感をつけるために敢えて道化になっているが。

まじっく☆ミは、リアルでは上流階級と呼ばれているものに属しており。眼下に広がる光景もまた、初めてのものではない。

だからこそ自然体でいられるし、緊張なんてするはずもない。

 

では、隣にいるモモンガは、いいや。鈴木 悟はどうだろうか。

リアルで調べ上げた所、世間一般で言う所のブラック企業に属している。

本当にどこにでもいる一般市民だ。

ただし、中流階級ではなく、低層に属している。

なんら珍しい事ではない。

私様と違うのは、そのくらいだ。

 

……恐らくは緊張しているんだろうなあ。

などと思いながらも手の内でシャカシャカと、デッキをシャッフルする。

 

ふむ、と私様は思案する。

私様が指示するのは、まあ良い。リアルで慣れているし。

だが、ギルドマスターはモモちゃんであり、私はただの生産職でしかないギルメンだ。

私が前に立って指揮するのはおかしいだろう。

 

 

(た、助けてまじっく☆ミさん!!

 忠誠の儀ってなんだよ!?

 俺そんなの命じた覚えないよ!!?)

 

 

不意に、頭の中の糸と糸が繋がる感覚がして。

私様はちらりとモモちゃんの方に目をやった。

『伝言(メッセージ)』か。魔法だから私様には使えないのだが、聞くだけなら聞けるらしい。

一方的な糸電話に近いな。などとつまらないことを考えたりもした。

とても小さな声だからか、階層守護者達には聞こえていないようだ。

 

この距離で『伝言(メッセージ)』なんて使う必要もないだろうに。

よほどパニックになっているのだろう、その事にも気付いていないようだった。

くつくつ、と沸きあがる笑いを堪えて。私様は眼下の階層守護者達に顔を向けた。

 

 

「ウルザの眼鏡/Glasses of Urza」をかけて。

 

 

さて、面白い事になってくれると良いのだけれど。

 

 

★ミ

 

 

「おっす☆おっす☆

 まじっく☆ミちゃんだぜ☆――まあ、知らねー馬鹿は要らねえけどな☆」

 

(まじっく☆ミさん!?)

 

瞬間、階層守護者達の肩がピクリと動いた。

主に『要らない』という言葉に反応したようだが、まじっく☆ミは微塵も気にする様子はない。

まじっく☆ミは笑顔だ。けれども、アルベドだけは唇を震わせた。

あの笑顔の裏にある恐怖を知っているからだ。いつまたあの恐怖を味わうか分からなかった。

 

 

「それでさ☆まずはお話しようじゃあないか☆ミ

 はい☆皆顔あげてね☆我らがギルマス。モモちゃんの顔も見れないでしょ☆ミ」

 

「う、うむ。皆の者。面をあげよ」

 

「はい☆まずはシャルちゃん☆

 モモちゃんの第一印象を教えてね☆ミ」

 

「モモンガ様は美の結晶……

 まさにこの世界でもっとも美しい御方でありんす」

 

「まじっく☆ミ様は――「うん☆そこまでだよシャルちゃん☆ミ 私様はこーんな汚れたつなぎの服だからね☆ 比べるまでもなくモモちゃんの方が上だね?」そ、そんな事は!!」

 

顔面蒼白にして必死に否定しようとするシャルティア。

けれどその言葉の続きは許されなかった。

目線は既にシャルティアには向けられておらず、興味を失っていたからだ。

 

 

「次、こーちゃん☆ モモちゃんの強さはどう思う☆ミ」

 

 

瞬間、コキュートスに訪れたのは絶大な圧迫感であった。

コキュートスは自分で考える事が苦手である。友であるデミウルゴスとは、もはや比較のしようがない。

先のシャルティアの失態が、自分に訪れるかと思うと、コキュートスは言葉選びに悩んでしまった。

 

そのままモモンガ様の強さを褒めたたえれば良いのだろうか。

本当にそれで良いのだろうか。後でまじっく☆ミ様に呆れられてしまわないだろうか。

数瞬の迷いが、空白を生み、そこにまじっく☆ミは容赦なく突っ込んだ。

 

 

「ぶっぶー☆時間切れ☆ミ

 時間は有限だぜこーちゃん☆」

 

「っ!!お、お待ちを――」

 

「次☆ アウラちゃん☆

 好きな食べ物は何かな☆ミ」

 

「……へ?え、えっと。ハンバーグです」

 

「マーレちゃんは☆ミ」

 

「ス、スパゲティーが好き、です……」

 

「うんうん☆可愛い可愛い☆」

 

 

明らかに手を抜いた質問。アウラとマーレは優遇されていると捉えられてもおかしくなかった。

逆に、シャルティアとコキュートスは冷遇されている――。さて、次はデミウルゴスの番のはずだ。

 

 

(なるほど、そういうことですか)

 

 

デミウルゴスは眼鏡を上げた。

敢えて自分が憎まれ役に徹して、モモンガ様を上げる為に。

まじっく☆ミ様はこのような事をされたのだろう。

 

何故、アウラとマーレに対してだけあのような態度を取ったのか。

それは必要ないからに他ないでしょう。

何をしたかは存じませんが、アウラとマーレは先に手回しをされていたのでしょう。

 

 

(全く、お人が悪い。

 何をされてもこのデミウルゴス。御身の忠誠心は揺るがないと言うのに)

 

 

さて、まじっく☆ミ様は自分に何をおっしゃるつもりでしょうか。

などと、デミウルゴスが考えて、そして。

 

 

「さて、最後にあーちゃんだね☆ミ」

 

 

「は?」

 

 

「え?」

 

 

何を言っているのかデミウルゴスには理解が出来なかった。

それは、同じ結論に達していたであろうアルベドも同じだったようだった。

 

 

「でみちゃんは必要ないよね☆

 だって質問の必要ないんだもん☆ミ」

 

 

瞬間。デミウルゴスに衝撃が走った。

無視、されたのだ。意図的に。この程度分かるなら別に良いよ。と。

至高の御方に、ご質問されるという機会そのものを、奪われてしまったのだ。

 

 

(なんてことだ……なんてことだ……。

 こんな事、あってはならないのに。折角の機会を――私は自ら手放したのですか……)

 

「さて☆改めて最後はあーちゃんだね☆ミ」

 

 

恐ろしい。アルベドは思った。

まじっく☆ミ様は変わらず笑顔のままだ。

けれど、恐ろしい。デミウルゴスを手玉に取って見せた手腕が恐ろしい。

あの笑顔の裏に隠された感情が恐ろしい。

何を考えていらっしゃるのかまるで見当もつかないのが恐ろしい。

 

 

「モモちゃんと私様、敵対したら、どっちに味方したいかな☆ミ」

 

「――」

 

 

思考が、止まりかけた。

呼吸が、荒い。

鼓動が、五月蠅い。

 

 

「こ、この身は一つですが。

 私にはどちらの御身も大切で御座います……。

 それゆえに、両方の御身を――」

 

「違うね☆ミ

 八方美人は要らねーんだよ☆

 本心で喋ろうぜ☆ミ」

 

 

気付けば、まじっく☆ミ様は目の前に居た。

あの、冷たい表情だ。切り捨てる寸前の、恐ろしい。貌だ。

口が、震える。思わず、謝ってしまいたくなる。

だが、きっとそれでは許してくれないだろう。

目の前のまじっく☆ミ様は、そういう御方なのだ。

 

 

「わ、私は、モモ――」

 

 

 

 

 

 

「いい加減にしてください」

 

 

 

 

 

 

 

震える私の声を遮ったのは、同じ御身のモモンガ様だった。

 

 

★ミ

 

 

からくりは実に簡単なものだった。

 

「ウルザの眼鏡/Glasses of Urza」は、ピーピング。つまり相手の手札を覗き込めるカードだ。

これはもしかしたら、相手の思考を読めるのではないか?

そう判断した私様は、階層守護者達の心を読み取り、弱所を突いた。

こうでもしなければモモちゃんは、恐らく緊張のあまり要らない事を喋るだろうと思ったからだ。

あとは、自らをヘイトスピーチ。こうしておけば、でみちゃんの思う通り、モモちゃんに指揮権を渡せると思ったから。

 

でもさぁ。モモちゃん。

 

 

「あいてて☆ 急に背後から攻撃とか、痛いぜ、心が☆ミ」

 

 

無詠唱での魔法攻撃とかちょっと酷くない?

まあ確かに私様もやり過ぎた感は否めないし、後で何かされるだろうと思っては居たけどさ。

まさかこの場で分かりやすく攻撃してくるとは思ってもみなかった。

HPバー……はもう無いか。感覚だけど、半分くらいは削られたかな?

 

つまるところ、モモちゃん怒らせたらこえーな☆ってのはあながち間違いじゃなかったって事だ。

 

「ウルザの眼鏡」は割れてしまって、もはや使い物にならない。

また作り直さないとなー。まあアンコモンカードだし素材はあるからいいけど。

 

 

「モモちゃん、あのね。分かりずれー☆と思うけど

 これは君のためを思ってだね☆ミ」

 

「その為にNPCを虐めたんですか?」

 

 

っべー、マジやっべー。

モモちゃんまじおこ☆じゃんか。

 

これは腹を割って話すしか無さそうだ。

あーあ☆面白くなくなくなくなってきやがったぜ☆

 

 

★ミ

 

 

「という訳なんだぜモモちゃん☆

 私様が前に出ても良いけど、それじゃギルマスの顔に泥を塗るじゃん☆ミ」

 

「……」

 

「大体はでみちゃんの考えてる通りだったんだけどさ☆

 いやうん☆ごめんね悪ふざけが過ぎたね☆ミ」

 

「……でした」

 

「だからNPCを虐めて楽しんでた訳でもないし☆

 モモちゃんが怒るのもまあ、当然なんだぜ☆ミ

 だから君は悪くない☆ミ」

 

「すみませんでしたッッ!!」

 

「いや、まあ、なんだ☆

 ――土下座は止めてよモモちゃん☆ミ

 折角の私様の作戦が台無しじゃん☆」

 

 

今、私様は最高に困っている。

というのも、各階層守護者達の居る前で、モモちゃんが私様に土下座を始めたからだ。

別に土下座をされるのは初めての事じゃないが、こちらが申し訳なくなってくるから困る。

『モモちゃん☆魔王作戦』は見事失敗に終わってしまったし、あーあどうしたもんかなこれは。

 

とりあえず、HPは回復しておいた。

「治癒の軟膏/Healing Salve」――ポーションもどきを塗れば、あっという間に私様の傷は治った。

まあ、心の傷は治ってねーけど☆

言ったら目の前の骸骨の頭が地面に陥没しちゃいそうで怖い。

 

 

「ほら見ろよモモちゃん☆

 階層守護者達が困ってるじゃん☆ミ

 だからな、そろそろ顔あーげーよ?☆」

 

「うぅ……でも心臓掌握(グラスプ・ハート)を味方に、まじっく☆ミさんに使っちゃうなんて……」

 

「第9位階魔法かよ☆ 割とガチ目で殺しに来てんじゃねーか☆ミ」

 

「あと何個か実験のつもりで……」

 

「こちとら生産職だぜ☆

 何実験台に使ってんだコラ☆」

 

 

モモちゃんは全く。

これじゃあ威厳も何もあったもんじゃないじゃないか。

先が思いやられるぜ全く。ぽかーんとしている各階層守護者達を横目に、私様はため息を吐いた。

セバっちゃんが言うには外は草原らしいし、本格的に異世界転移したっていうのに。

なんてこったい。あ、いや。なんて骨体! モモちゃんの鉄板ジョーク!

 

 

いや☆ 笑えねーわ☆ ごめん。

 

 



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カードリスト:6:布教活動とか☆ミ

寝て起きたらまた評価されてるとかマジビビる☆ミ
いやマジでありがとうございます。励みになるぞ☆



結局のところ、私様の『モモちゃん☆魔王作戦』は失敗に終わった。

まあ、とは言ってもサブプランがない訳じゃない。

 

私様としてはこの異世界がどんな世界か分からないってのも不安要素でしかないし。

早目早目にプランを決めておきたかったのだけど、まあ良いさ。

幸いにして各階層守護者達の心は読めたし、良くも悪くも『生きてる』NPCってのも良く分かった。

今回はこれで良しとしようじゃないか。って事で私様達は闘技場から転移――する前に。

 

 

「あ、そうそう☆

 私様から皆様へプレゼントがあります☆ はい拍手☆ミ」

 

 

相変わらず、ぽかーんとする各階層守護者達の顔をよそに、私様は無限の背負い袋から布教用のデッキを取り出した。

――かつて、彼らの創造主から『返された』デッキをそのNPCに渡す。

あ、後からセバっちゃんにも渡したぜ?

 

一人一人、手渡しで。

皆恐れ多いって言ったけど私様が良いって言うんだから受け取れよ☆ って言ったら素直に従ってくれた。

うんうん、素直は良い事だぜ。

この場で一人一人ルール説明しながら、遊んであげても良いけど、それだと日が暮れる。

いや、時間は有限だって言う意味でね?私様もやる事沢山なの。

 

だから分かりやすくルールを書いた『まじっく☆ミWiki』を一つ置いていくことにした。

我ながら初心者向けのやり方じゃねーと思うけど、何度も言うように私様もやる事多いの。

 

 

「ルールに不安があったら私様に聞きに来る事☆

 マジックは楽しく遊ぶ事☆

 マナー違反したら――ちょっと怒るぜ☆ミ」

 

 

最後にそう言い残して、私様達は今度こそ闘技場から転移した。

 

 

★ミ

 

 

さて、残された各階層守護者達。

各々の手の中にはデッキ――よく分からない紙の束が大切そうに握られていた。

第六階層の闘技場に、暫しの静寂が戻り。

先ず一番先に口を開いたのは。意外な事にマーレとアウラだった。

 

 

「す、すごく怖かった?ね?お姉ちゃん」

 

「まったく、モモンガ様の迫力にはビックリしたよ。

 まじっく☆ミ様は――よく分からなかったけど……」

 

 

そう言って立ち上がり、互いの顔を確認する。

続いて立ち上がったのは、コキュートスとアルベド。続いてデミウルゴス。

 

 

「……まさか、これほどとは」

 

「――アレが。モモンガ様、まじっく☆ミ様。

 至高の42人のいと尊き御方なのですね」

 

「……ですね」

 

 

次々に復帰していく。各階層守護者達。

デミウルゴスは動揺のあまり下がった眼鏡の位置を直すと、はぁ。とため息を吐いた。

 

 

「どうした。デミウルゴス」

 

「いいや。コキュートス。

 私程度の浅い考えなど、まじっく☆ミ様は簡単に見破ってみせた。

 その知慮深さに、舌を巻いているところだよ」

 

「――失望、されなかっただろうか」

 

「その心配はない。と思う。

 あの御方の言う通り、自身を落としてでもモモンガ様を上げるという策。

 アレは見事と言う他なかった。

 分かっていた私自身でさえも、モモンガ様側に天秤が傾きそうになったからね」

 

「モ、モモンガ様、格好良かったね!」

 

「そうそう、まじっく☆ミ様に攻撃した時は何事かと思ったけど。

 あれも作戦だったのかな?」

 

 

アウラとマーレは、きゃいきゃいとモモンガ様の勇姿を褒めたたえていた。

そう、途中からモモンガ様はまじっく☆ミ様を攻撃した、その勇姿には痺れるものがあった。

その時点で、モモンガ様側に天秤が傾いていた事には疑いようがない。

あれさえも作戦の内というのなら、もはやデミウルゴスの思考外の話だ。

 

だが。

 

 

「それはないと思うわ。

 まじっく☆ミ様は本当に捉えどころの無い御方。

 けれども、あの後モモンガ様は頭を下げてまでまじっく☆ミ様に謝罪していたもの。

 まじっく☆ミ様は焦っていらっしゃったように、見えたわ。

 ――もちろん、そこまでが策、という事を考えなければ、だけど」

 

 

アルベドの言う通り。あれが全て演技であるというのなら、見事と言う他ない。

天秤はいくらかモモンガ様側に傾いたが、それが狙いだと言うのなら最早シモベの我々ではその知慮深さに感服する他ない。

だが、問題はその後の行動だ。

 

 

「まじっく☆ミ様から賜ったこの紙の束だけど。

 何らかのお考えがあってのものだと思うわ、デミウルゴス、どう思う?」

 

「どうもこうも。シモベには過ぎたものだ。としか言いようがない。

 遊ぶ、ということは遊戯目的のアイテムなんだろうけど。

 あの御方の考えには、私でさえ付いて行くのが精一杯だよ」

 

 

目下の問題は、この紙の束だ。

作戦書の類ではない事は分かる。だが、何を目的にしているのか。

まるで見当もつかなかった。

そこに口を挟んだのが、アウラとマーレだ。

 

 

「え、えっと。

 まじっく☆ミ様はこのかーど?を用いてモモンガ様と決闘をしていました」

 

「そうそう!凄かったよね。

 あの黒い巨像がどこからともなく出てくるんだもん!

 あんなの見た事もなかったよ!」

 

「――なるほど、そういうことですか」

 

 

まじっく☆ミ様は恐らく、シモベの戦力の増強を図る為にこの紙束をシモベに渡したのだろう。

貴重な自身の戦力を削ってまで、だ。

なんというお心遣いなのだろう。我々シモベにまでそのお力を分けてくださるとは。

ますます忠誠心が上がる一方だ。

 

 

「え、と確かこんな風に。

 巨大化/Giant Growth!!」

 

 

マーレは、試しにカードの一枚を読み上げた、だが。何も起こらない。

 

 

「あ、あれ?」

 

「おかしいなぁ。まじっく☆ミ様の時はもっとドドーンって何かが起こったんだけど」

 

 

首を傾げる、アウラとマーレ。

それを見て愉快に思ったのか、シャルティアがくすくすと笑みを浮かべた。

 

 

「馬鹿でありんすねぇ、チビ助。

 まじっく☆ミ様の武器である以上、まじっく☆ミ様以外に使える訳があるはずがありんしょう?」

 

「は、はぁ!?」

 

「いいや、それは違うと思うよ。シャルティア。

 ナザリックの防衛の為、ひいては戦力の増強のために、

 まじっく☆ミ様はこれをお渡しになられたのだと、僕は思っているよ」

 

 

それに、これは恐らくは武器の類ではなく、アイテムの一種だ。

まじっく☆ミ様は、生産に秀でたお方であると記憶している。

そんなお方が、ご自分しか使う事が出来ないアイテムを作るだろうか。

 

と、なれば。デミウルゴスは『まじっく☆ミWiki』と書かれた本を手にする。

なんらかの法則があるのだろう。悪用されないような、何かが。

アルベドも同じことに気付いたのか。あるいは既に気付いていたのか。

 

 

「では、各階層守護者に通達します。

 まじっく☆ミ様から賜ったこのアイテムは大切に保管すること。

 並びにこの書物は必ず一読しておくこと。

 ――そして、これからの計画を」

 

 

★ミ

 

 

「さて、どうしたものかな☆」

 

 

私様はあれからモモちゃんと別れて、各個室に戻った。

ゆっくり考える事と、試したい事があったからね。

考えるべきことは、ある程度は決まった。

元々サブプランはあったし、後は追々で良いだろう。

 

問題は、この世界でやりたいことだ。

私様の夢は、MTGの全カードを作って、ギルメン全員と遊ぶこと。

半分は叶ったけど、半分は叶わず終いだった夢。

それを叶えようと思う。

 

まあ、相手は『生きてる』NPCだから、完全な初心者なんだけど。

とりあえず、布教用デッキを渡すという布石は出来た。

後は上手くハマってくれたら良いんだけど。

 

ああ、後はこの世界にもMTGというものを流行らせたい。

人間種というものが存在するのなら、だけどね。

 

 

「まじっく☆ミ様、お飲み物はいかがいたしましょうか」

 

「ああ☆ コーヒーを頼むよ☆

 ウンと甘いやつね☆ミ」

 

 

そうそう、私が知らない間に、メイドが用意されてたのにはちょっと驚いた。

まあ、リアルでも居たから慣れたもんだったけど。それでも少しは驚く。

確か『ルプスレギナ・ベータ』だっけ?赤い髪の二つの三つ編みが特徴的で、神官っぽいね。

まあ後何より可愛いのが特徴かな?まあ、プレアデス達全員に言えることだけどさ。

ああ、そうだ。

 

 

「るーちゃん☆

 口調崩していいぜ☆ミ むしろ崩せ☆」

 

「ご命令とあらば、了解っす!」

 

 

私様の主義なんだけど。どうも堅苦しいのは苦手だ。

そういうのはリアルで十分だし、なによりもこれから私様のメイドになるなら『ある分野』に特化して貰わないと困るからだ。

 

 

「るーちゃん☆

 マジック:ザ・ギャザリングって知ってる?」

 

「んー、分かんないっすね~?」

 

 

千里の道も一歩から。というように。

私様のメイドがMTGを出来ない、という事がないように。

まずは目下のメイドの教育から始めていくとしよう。

 

そうして、私様はいつものように布教活動をすることにした。

 

 

★ミ

 

 

「♪~♪♪~」

 

 

ルプスレギナ・ベータは上機嫌だった。

それは、他のプレアデス達から見ても明らかで。

モモンガのメイドを勤めているメイドのナーベラル・ガンマの目をしても明らかだった。

 

 

「ルプー、随分と機嫌が良いようね?」

 

「あ、ナーちゃん。おはようっす!

 いや~、毎日まじっく☆ミ様と遊んで貰えて凄い楽しいっすよ!」

 

「……そう」

 

 

プレアデス達の仲は、とても良い。

だからと言って、嫉妬しない訳ではない。

至高の御方に直接遊んで頂けるなど、なんと羨ましいことだろう。

 

 

「昨日も遅くまで一緒に遊んで頂けたっす!

 今日もきっと遊んで貰えるから今から楽しみっすよ!」

 

「ルプー」

 

「なんすか?ナーちゃん」

 

「まじっく☆ミ様は、何をして遊ばれているの?」

 

「ふふーん、知りたいっすか~♪

 そうっすよね~♪ 至高の御方の遊びに興味がない訳がないっすもん♪」

 

 

だから、これは単なる興味であり。

好奇心であり、あわよくば自分も遊んで頂けないかという下心でもある。

羨ましい。羨ましい。羨ましい。

 

 

「ナーちゃんは、

 マジック:ザ・ギャザリングって知ってるっすか?」

 

 

そして、それは伝播していく。

 

 

★ミ

 

 

モモンガとまじっく☆ミがこの世界に転移してから3日が経った。

色々なアイテム・魔法・仕様を確認しているうちにあっという間に3日が経ってしまった。

あまり根詰めると良い事はないとは言え、確認したいことは山ほどある。

まじっく☆ミさんは、今頃何をしていることだろう。

 

恐らくは、カードの1種1種の効果を確認しているのだろう。

一万六千種類以上あると聞いたカードの効果の一つ一つを確認するなど、容易な事ではない。だからこそ、モモンガは邪魔をしないように彼女の個室に足を運ぶことは無かったし、こちらに呼ぶことは無かった。

 

 

「モモンガ様、ご休憩されませんか?」

 

「いや、良い。まだ確認したいことは山程ある。

 それに……うん?」

 

 

アンデッドである自分に休息は必要ない。

そう言おうとして、ナーベラル・ガンマに違和感を感じた。

どこか、ソワソワとしている。

手には、なんだろう、凄く見覚えのあるカードがあった。

 

 

「モモンガ様……。

 マジック:ザ・ギャザリングはご存知でしょうか」

 

「ご存知も……何も、

 それは私とまじっく☆ミさんで一緒に遊ぶゲームの一つだ。

 私もデッキは持っている」

 

「まじっく☆ミ様が言うには、これはただの紙だそうです。

 魔法も何も出ない。ただの紙。

 これならば一緒に遊ぶ事が出来るとお聞きいたしました。

 ……どうでしょうか。私と一緒にマジックをしませんか?」

 

「……うむ、そうだな。

 丁度良い息抜きだ。やるか」

 

 

瞬間。ぱぁっと花が咲く様に笑顔を浮かべるナーベラル。

 

だが、モモンガの脳裏に浮かんだのは、ある生産職を極めたホムンクルスの姿。

シャカシャカと、カードをシャッフルしながらニコニコと笑顔を浮かべる顔。

まさかとは思うが、この3日間、布教活動でもしていたんじゃないかと。モモンガは頭を抱えそうになった。

 

モモンガの思考は大体合っていたし、間違ってもいなかった。

ただ、物語はここから歯車が大きく狂い始めることになる。

 

 



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カードリスト:7:実験失敗とか☆ミ

またまた感想頂けるとか有頂天☆
いつも通り頑張って書いたぜ☆ミ褒めたたえて☆

今回のpick upカードは「未来予知/Future Sight」
さてはて、どうなるのかな☆


私様からして大したことじゃない事でも、他人から見た時どうしようもなく大した事だった事は、沢山ある。

 

それは、私様が『問題児』と呼ばれた所以でもあるし。

私様が『害悪』や『最悪』と呼ばれた所以でもある。

有り体に言えば、私様から見て当然のことでも、実はそうじゃないって事だ。

私様はこれをギャップと捉えているし、どうしようもなく埋められない隔たりとも言える。

 

さて、私様は今、第六階層の闘技場に居る。

あるカードの実験の為であり、今後役に立つかも知れないコンボの練習の為だ。

ルプスレギナと一緒にやってきた私様は、笑顔を浮かべる、るーちゃんに声をかけた。

 

 

「悪いな☆ るーちゃん☆

 我儘言っちゃって☆ミ」

 

「そんなことないっすよ!まーちゃんの為なら何でもするっす!」

 

 

そう言うルプスレギナに対して、私様は、笑みを浮かべる。

まじっく☆ミ様、まじっく☆ミ様、と煩わしかったから「もっと口調を崩せ☆」と言ったらこの調子だ。

ただ、他のプレアデス達の前ではまじっく☆ミ様と言わないと怒られると言われたので、そこは許した。

私様としては他のプレアデス達、ひいては階層守護者達にももっと口調を崩して欲しいのだが、中々難しいのかも知れない。

 

さて、実験の内容に移ろうと思う。

私様が使うのは「実物提示教育/Show and Tell」と「全知/Omniscience」コンボだ。

これさえ有用ならば、ぶっちゃけどうとでもなる。

 

分かりにくいかも知れないな。

「実物提示教育/Show and Tell」は、手札にあるカードを一枚戦場に出すカードで。

「全知/Omniscience」は、手札にあるカードをノーコストで踏み倒すカードだ。

 

うん、もっと簡単に言おう。

これさえ行ければ。ぶっちゃけマナは要らなくなる。

私様の戦力はどうしようもない程に増強されるし、ぶっちゃけチートレベルだ。

まあ、有用だったらの話なんだけどね。

 

今回は特別に、私様の手札は操作してある。

ぶっちゃけると積み込みで、実験の為に仕方がない事とは言え、なんだか嫌な気分だ。

 

 

「さて、行くぜ☆るーちゃん☆

 Black Lotus」

 

 

瞬間。いつしかと同じように闘技場一面に咲き乱れる黒い水蓮の花。

私様からしてみれば、それは当然の事なのだけれど、るーちゃんは初めて見るよね。

キラキラと輝く瞳を輝かせて、るーちゃんは周りを見渡す。

だけど、実験はここからだぜ。るーちゃん。

 

 

「準備はいいかな☆ミ

『実物提示教育/Show and Tell』

 からの――『全知/Omniscience』」

 

 

瞬間、辺り一面に咲き誇っていた黒い水蓮の花は散り。

代わりに訪れるのは、何もない静寂。

ルプスレギナは首を傾げ、何も起こらない事を疑問に思った。

 

 

★ミ

 

 

「失敗っすか?」

 

 

ルプスレギナは素直にそう思った。

先程まで、まじっく☆ミ様が使ったカードの一枚一枚は、その効力を発揮し、何かしらを起こしていた。

それは魔法のようで、自身が知る魔法ではなかった。

マジックと名は付いてはいるが、どれも自身が知りえないような魔法で。

ルプスレギナは、素直にそれを尊敬していたし、崇拝していた。

 

どさり。

 

だからこそ。まじっく☆ミ様が膝から崩れ落ちた時。思考が止まった。

 

何かの冗談かと思った。まじっく☆ミ様はそういう事を好んでやる御方だった。

悪戯好きな御方で、慈悲深い御方だった。仕えられていることを誇りに思っていた。

 

 

「まじっく☆ミ様!!!?」

 

 

気付いた時には駆けだしていた。無意識のうちに足が動いていた。

かつてまじっく☆ミ様の呼び方を矯正された事があった。

それは至上の喜びであった。

至高の御方に仕えさせて頂く上に、呼び名でさえも自由にしてもいいだなんて。

なんてお心が広いのだろう。なんて自分は幸せなのだろう。

 

けれど、口から飛び出したのは、様付けの矯正前の呼び方。

無意識だった。後で不敬と思われても構わなかった。

 

 

「大治癒(ヒール)!!」

 

 

お体を横にして、祈りを込めて。ルプスレギナは叫んだ。

真っ先に疑ったのは、外敵からの攻撃だった。

大治癒(ヒール)ならば、あらかたのバッドステータスも回復出来るから。

体力も大きく回復することが出来るから。これしかないと思った。

 

 

「目をお覚ましくださいませ!!まじっく☆ミ様!!」

 

 

必死の呼びかけにも、まじっく☆ミ様は目をお覚ましになられなかった。

綺麗に整ったお鼻から血が流れ始めていた。傷は治したはずなのに!

だというのに、まじっく☆ミ様は目覚めない!!

どうして、どうして。

 

どうして!

 

 

★ミ

 

 

(参ったなこれは☆)

 

 

実は、私様は既に目覚めていた。

『全知/Omniscience』を手札から切ると同時に、意識が暗転したのは確かだ。

世界中の、あらゆる情報が頭の中で一杯になった感覚があった。

未知の情報まで、あらゆる情報が、一気になだれ込んできたのだ。

 

なるほど、確かに「全知」だ。

まさか言葉の通りだとは思いもしなかったけど☆

 

さて、ふざけている場合ではない(キリッ

ちょっとふざけて目を閉じたままにしているが(キリリッ

これは決してルプスレギナの胸部装甲がやーらかいとか(キリリリッ

涙で顔がぐちゃぐちゃになった彼女がかーわいー☆ とかそういうのではないのだ(シャキーン

 

 

(やべーわ☆

 今から演技でした☆ で許されっかな☆ミ)

 

 

だが、収穫が無かった訳ではない。

周辺地理。及び、その地域で使われている文字。これからの国の動き。とかとか。

偶然にしても、様々な事が分かったのは僥倖だ。

あと胸部装甲って人によって感触が違うことも分かった(キリッ

いやごめんこれは知ってたわ。この前るーちゃんに断って触らせて貰ったわ☆ミ

 

ん?あ、やべっ!ルプスレギナってば気が動転して私様に抱き着いて来たわ☆

やっべ☆ これ起きてねー方が良いんじゃねえかな☆

 

ルプスレギナってば、もう声が声になってないし☆

伝言(メッセージ)でモモちゃんに緊急事態とかで大事になる前に起きねーといけねーのに☆

役得過ぎて起きれねー☆

 

おっふ☆ やっべ鼻血が出る☆

 

 

「まじっく☆ミさん!!??」

 

 

オイオイオイ☆

やべーわ☆ モモちゃん本人来ちゃったわ☆ミ

 

何しに来たんだよ☆

ああ、実験しに行くって言ったから様子でも見に来たのかな☆

今ほど至福の時はねーってのに☆ミ

邪魔すんなよな☆ミ

 

 

「――至急!!ナザリックの警戒レベルを最大に!!

 まじっく☆ミさんはペストーニャ・S・ワンコの下へ運ぶ!!」

 

「んぅー……(自然に起きた風)」

 

「まじっく☆ミさん!?意識が!!?」

 

「モモちゃん……☆

 大したことねーって……☆

 ちょっとドジっちまったんだぜ……☆ミ」

 

 

――よし☆

これで良い☆

これがベスト☆

このまま自然に起き上がれば――

 

 

「まじっく☆ミ様ぁ……!!」

 

 

おふぅ☆

抱きつく力が強まった☆ミ

出るとこ出てて締まるとこ締まってるルプスレギナの身体は最高でおじゃるな☆ミ

てかめっちゃ体温たけーの☆ このまま寝ちゃいそ☆

 

 

「まじっく☆ミさん?」

 

 

あっ……やっべ☆

モモちゃんにはバレたか☆ミ

っべー☆なんて言い訳しよう☆ミ

 

 

「ルプスレギナ。ちょっと二人きりにしてくれないか?」

 

「んぅ……ひゃい……」

 

 

涙ながらに名残惜しそうに私様から離れるルプスレギナ。

うーんポイント高いぜこれは☆

さて。

 

 

参ったぞこれは。

 

 

★ミ

 

 

「それで?狸寝入りをしていたと?」

 

「うん☆ 反省もしてないし謝りもしないよ☆

 だってあんなの起きた方が損じゃん☆ミ」

 

 

私様は現在進行形でモモちゃんの前で正座している。

反省もしてないし、これからも迷惑をかけることだろうから。土下座はしない。

だっておめー☆ 美少女が抱き着いて来たんだぜ☆ 起きる訳ねーじゃん☆

起きるならキスって相場が決まってるんだぜ☆ミ

 

 

「一度ぶん殴りましょうか?」

 

「いやん☆ いたいけな生産職にそんなひどい☆

 

 あいたぁっ!!?本当に殴ったな!?

 ぐへぇっ☆ 二度もぶった!!」

 

「すみませんちょっとイラっと来たもので」

 

 

綺麗な右ストレートだった。

モモちゃんからのフレンドリーファイアはこれで三回目か。

仏の顔を三度までという名セリフを知らないのかよ☆

いや別になんもしねーけど☆

 

 

「どれだけ心配したと思ってるんですか。

 私はともかく、ルプスレギナにはちゃんと謝ってくださいよ?」

 

「やだぶー☆ るーちゃんにバレたら絶対嫌われちゃうもん☆」

 

「まじっく☆ミさん、そういう所気にしますよね」

 

「仲良くなれるに越したことねーじゃん☆」

 

 

私様としては、仲良くなれる=マジック布教対象であり。

嫌われる=布教失敗を意味する。

そういう訳で、可能な限り仲良く接したいのだ。どんな存在であっても、だ。

 

「ところで、なんの実験をされていたんですか?」

 

「うーん☆ 秘密☆」

 

 

いつもの笑顔で、いつも通りに。振舞う。

モモちゃんは、これ以上言っても無駄かと察したのか。私に背を向けて歩き出した。

私様は、目を細めた。そう、秘密。秘密なのだ。

 

全知で記憶が暗転する直前。『未来予知/Future Sight』を咄嗟に使った。

するとまあ、出るわ出るわ、これから先の未来について。

あまりにも弱い、この世界の住人達。

異形種狩りの反対、人間種狩りと言っても良いモモちゃんの暴君っぷり。

お世辞にもハッピーとは言い難い、世界になること。

 

世界征服だなんて。実に止めて欲しい。切実に。

その先に待っているのは、リアルと同じディストピアだ。

 

何をどうしようと下層民では覆しようのない世界。

そんな世界に、この世界を変える事は、あまりにも最悪だった。

『害悪』『最悪』とは彼の名になる程に。

 

はぁ。営業妨害だぜ、モモちゃん。

それらは私の専売特許であって、君のじゃあない。

 

さて、目下の問題は、カルネ村の一件か。

 

 

「――モモンガが、アインズに。ねえ。

 あーあ、面白くなくなくなくなってきやがったぜ」

 

 

あーあ、参ったぞ。これは。

 

 



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カードリスト:8:世界征服とか☆ミ

またまた感想貰ったよ☆
すげー励みになるねこれ☆

嬉しいから更新早くなるし☆
更新したら感想が来る☆

無限機関を発見したぞ私☆褒め称えろ☆ミ



 

あれからというもの、ルプスレギナがちょっと過保護になったのは誤算だった。

 

 

「ちょっと外出してくるお☆」

 

 

などと私様が言えば、ちょっと前までは「いってらっしゃーい、夕ご飯までには帰ってくるっすよ?」

とか言っていただろう彼女が神妙な面持ちで。

 

 

「近衛兵の準備を致しますので。

 少々お待ちくださいませ」

 

 

とか言って頭を下げてくるのだ。

私様としてはこれはとっても困った問題で。

モモちゃんとでみちゃんが外出する時、なるべくそこに居なければならないのだ。

モモちゃん一人だと、でみちゃんが誤解する。世界征服とか企み始める。

 

これは未来予知から見えたことだから、ほぼ間違いないだろう。

うーん☆ 困ったぞ☆

このままじゃ、この世界がディストピアになっちまうぜ☆

この秘密をルプスレギナに話した所で、恐らくは何も変わらないし、賛同もしてくれないだろう。

だってディストピアになったリアルを知らねーんだもん。

 

食べ物は美味くねーし、低層の人間は生命の維持すらも危うい環境。

そこでカードゲームなんて娯楽が流行る訳もなく、ただ廃れていく一方だった世界。

マジック大好きな私様としては、ぶっちゃけそんな世界、死んでも御免だった。

 

 

「るーちゃん☆ 私様はちょっと外に出れたら満足なんだぜ☆ミ」

 

「……誠に申し訳ございません。御身の安全を思っての事です」

 

「どうしても駄目かな☆

 あと口調を崩せ☆ って私様は前にも命令したよね☆ミ」

 

「……っ。ごめんなさいっす……。

 それでも何の護衛も付けずには。承服しかねるっす……」

 

「ふーん☆ なるほどなるほど☆

 

 

 

 

 じゃあるーちゃんと一緒に行こ☆」

 

「へ?え、あっ!?」

 

 

多少無理を通してでも私様は自分の意思の力を押し通す。

ユグドラシル時代からそうだったように。それは今も何ら変わらない。

 

ルプスレギナの手を取って。

リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを起動する。

移転先は、第一階層へ。地下大墳墓地表部中央霊廟へと。

 

 

「到着~☆」

 

「ま、まずいっすよ!

 まじっく☆ミ様!外は何があるか分からないっす!!」

 

「んな心配する事ないっての☆

 この世界の住人は驚くほどよえーんだから☆ミ

 あ、ごめ☆ これ秘密だったわ☆ミ 聞かなかったことにしてな☆」

 

「もし何かあった時はすぐ御身の盾になって死ぬっす!!」

 

「どーやっても死なんよ☆ミ」

 

 

それより、と私様は足を進める。

この先には、確か未来予知だとでみちゃんが居たはず。

なのに。

 

 

「嫉妬、強欲、憤怒の三体だけか☆

 これは先を越されちゃったかな☆ミ」

 

 

私様だと分かるや否や、彼らはすぐに頭を下げて片膝を付く。

けどまあ☆ 私様はそれを当然ながら無視して先に進むよ☆

だって目的はお前らじゃねーもん☆ミ

 

 

「モモちゃんとでみちゃんはもう外に行っちゃったか☆」

 

「モ、モモンガ様もお外にいらっしゃるんすか!?」

 

「私様の勘だと多分もう空の上だね☆」

 

「た、大変っす……!」

 

 

はぁ、と私様はため息を吐いた。

確かに大変だ。これからのプランは全てぶち壊しになったし。サブプランもおしゃかになった。

ここから走って外に出て、空を飛んで彼らを見つけて、誤解を解くのは、いささか手間に思えた。

幸いなのは『大地の大波(アースサージ)』が発動する前という事か。

ふむ、先回りするのは良いかも知れない。

 

でも、私様、そういう面倒くさいのは嫌いなの☆

 

 

「るーちゃん☆

 ちょーっち☆ お願いがあるんだけど☆ミ

 聞いてくれる☆ミ」

 

「な、なんすか?」

 

「でみちゃんに『伝言(メッセージ)』繋いでくんね☆ミ」

 

 

★ミ

 

 

「――世界征服なんて、面白いかも知れないな」

 

「……っ!?」

 

 

デミウルゴスは、至高の御方の願いを聞き入れた。

この世界に、ナザリックを、アインズ・ウール・ゴウンを知らしめるには、最適の様に思えた。

流石は、至高の御方だ。器の大きさが違うように、願いの大きさもまた、大きい。

そう思い、感服していると――。

 

 

『デミウルゴス?聞こえるっすか?』

 

「ルプスレギナか、すまない。少し待っていてくれ。

 後で、こちらからかけ直す」

 

『了解っす!』

 

「どうした?」

 

「いえ、モモンガ様。

 ルプスレギナから『伝言(メッセージ)』が」

 

「ふむ。私がここに居る事をばれないように上手くやってくれ。

 ばれると……後で怒られるからな」

 

「承知致しました。

 『伝言(メッセージ)』」

 

 

そう言ってかけ直すと、先程のルプスレギナの声とは、少し違っていた。

いや、声自体は同じなのだ。ただ、雰囲気が、全く違っていた。

 

 

『おっす☆ おっす☆

 でみちゃん☆ げんきー☆ミ』

 

「……ルプスレギナ、なんの悪戯だい?

 それは不敬というものだよ?」

 

 

まじっく☆ミ様の口調を真似て、話していた。

思わず、顔をしかめる。不敬だ。あまりにも。不愉快な程に。

だからこそ、続けてルプスレギナが話した内容は、私の心臓を鷲掴みにするものだった。

 

 

『正真正銘☆ 私様だぜ☆

 今ちょっち☆ るーちゃんに伝言をして貰ってるんだけど☆ミ

 

 ――今頃、世界征服を企んでるんじゃねえかな☆ って思ってさ☆ミ』

 

「――っ!!!?」

 

 

思わず、息を呑んだ。

思わず、周囲を見渡した。

どこかで見られているのではないかと思った。

それほどに、タイミングが良かった。……いや、悪かった。

 

 

『それ、やめろ』

 

 

ひゅっ、と口から空気が抜ける音がした。

冷たい言葉だった。ルプスレギナの声ではあったから、まだ意識を保てたと思う。

まだ、まだ、言葉を続けることが出来た。

 

 

「何故、です、か?」

 

『私様の作戦の邪魔にしかならねえから。

 ああ、でも、やるならやってもいいぜ?

 

 そこにモモちゃん居るだろ。 了承得られたらだけどな?』

 

 

今度こそ、デミウルゴスは言葉を無くした。

どこで分かったのか、まるで見当がつかなかった。

モモンガ様がこの場に居るというヒントは、何も与えなかったつもりだった。

だというのに、まじっく☆ミ様は、簡単に、見破った。

 

まるで手の内で遊ばれているようだった。

恐ろしい。あまりに恐ろしかった。

 

 

『――勝手な行動はするな。

 

 いじょ☆ じゃーねー☆ミ』

 

 

ぷつり。音を立てて。伝言(メッセージ)は途切れた。

最後こそ、いつものまじっく☆ミ様の口調だったのに、それすらも恐ろしく。

デミウルゴスは言葉にならなかった。

 

傍には、そわそわしているモモンガ様が居た。

ああ、言葉にしなくては、そして、確認をしなくては。

世界征服を成すべき、なのか。まじっく☆ミ様と敵対してまで……。

 

 

★ミ

 

 

「お疲れちゃーん☆

 るーちゃん大変だったろ☆ミ」

 

「い、いえ。なんてことなかったっす!楽勝だったっす!」

 

 

嘘だ。

本当は、恐ろしかった。怖かった。

冷たい言葉が怖かったのも、勿論だ。だが。

――まじっく☆ミ様には『伝言(メッセージ)』の内容は聞こえてないはずだった。

だと言うのに、まるで相手がそう言う事を知っているかのように。私に伝言を頼んだ。

どれだけの智略があれば、そんなことが出来るのか、まるで想像すら出来なかった。

 

聞きたい事は山ほどあった。

何故、デミウルゴス様の狙いが分かったのか。

何故、傍にモモンガ様が居る事が分かったのか。

何故、世界征服という事をそこまで嫌がるのか。

 

まさか、ここに私を連れ込んだ事まで、策略の一つだったのか。

至高の御方の思考とはこれほどまでなのか。

 

ルプスレギナは、ここにきて初めてまじっく☆ミ様という存在に怯えた。

けれど。

 

 

「んー☆ 偉い偉い☆ミ

 ナデナデしたるで☆ ほれほれ~☆」

 

「ひぇっ……あ、あぅ……。

 くすぐったいっす……」

 

 

今、今だけは。暖かい手のひらに惑わされるのも良いと思った。

この優しいまじっく☆ミ様は、本当だと、演技だと思いたくなかった。

 

無論、どちらにせよ、まじっく☆ミ様に対する忠誠心は変わらない、けれど。

 

 

「帰ったら一緒にマジックで遊ぼな☆

 今日はどのデッキを使おうかな~☆ミ」

 

 

優しいまじっく☆ミ様だったら、嬉しい。そう思った。

 

 

★ミ

 

 

さて、これで布石は出来たはずだ。

私様の言葉を無視して世界征服を企むつもりなら、それはそれで良い。

私様は私様のやりたいようにするだけだ。

 

あと、どうでも良いことだけど。盗聴対策はしっかりした方が良いと思った。

私様の作ったアイテムの一つに、そういうのがある。大抵の妨害系は突破出来るのだが。

聞こえるのは音声だけ。こちらから発信することは出来ないという。微妙アイテムだ。

 

この程度のアイテムで内部情報が漏れるのはちょっと勘弁して欲しい。

私様が手慰みに作ったアイテムだぜ?これ。

 

それより、ルプスレギナだ。

なんかさっきからプルプル震えてんの☆ちょー可愛い☆

頭撫でたらビクッて!ビクッてしたの☆ミ

可愛すぎて鼻血出そうになったわ☆

 

人狼(ワーウルフ)だからか、ケモ耳生えてるのもポイント高いね☆

耳毛って言うの?これこちょこちょしたら☆ くすぐったいって☆

もうたまらねえよ☆ミ

 

今日は一日中マジックだ☆

あ、次はカルネ村だっけ☆ 忘れてたわ☆

 

でもまあ、悪い様にはならないっしょ☆

 



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カードリスト:9:お茶会とか☆ミ

感想また貰う、私様、更新する……☆ミ

あらやだこの無限機関最高にハイになるわ☆
感想・評価頂けた方々☆すげー励みになってるぞ☆ミ

結構急いで書いたから誤字あるかも☆
ごめーんね☆ミ


今更のことだけど。私様はMTGが好きだ。

マジック:ザ・ギャザリングが大好きだ。

 

ありとあらゆるカードが好きだ。

白枠のカードも好きだ。

黒枠のカードも好きだ。

銀枠のカードも好きだ。

 

私様にとってMTGとは他の何をどうしようとかけがえのないものであり。

MTG仲間というのは、どうしようもなく尊いものである。

 

だからこそ、今の状況は私様にとって、とっても喜ばしいことであり。

私様にとって、理想の状況と言っても過言ではなかった。

 

何が起きたかと言うと、プレアデス達の中で『MTGが流行』した。

 

 

「ナーちゃん、MTGで遊ばないっすかー?」

 

「良いわ。今度こそ負けを認めさせてあげる」

 

「……エントマ、一緒に遊ぼ……」

 

「いいですよぉー、シズ」

 

 

プレアデス達のお茶会にお邪魔して、私様はプレアデス達と一緒に居た。

最初こそ、妙に緊迫した雰囲気があったが。

私様が『普段通りにしろ☆楽にしろ☆命令だぜ☆ミ』って言ったらこの調子だ。

 

お茶会用のテーブルをよせて、今は四角く、長いテーブルに各々が座っている。

私様も誰かとお相手したかったんだけど☆希望者が全員だったから諦めた☆ミ

ていうか☆全員て☆ミ魔王戦でもやりたいのか☆

ボコボコにしたるぜ☆

 

今は、ユリ・アルファとソリュシャン・イプシロンを傍に、優雅に佇んでいる。

 

 

「本当によろしかったのですか?まじっく☆ミ様」

 

「ん☆何がだよ☆ミ」

 

「至高の御方の時間をとってまで、我々プレアデスが自由な行動を取って良いなど。

 ボ……失礼しました。私では、その思慮深さについていけません」

 

「本当は、ゆーちゃん☆そーちゃん☆君らも自由にして良かったんだぜ☆

 それとも、今からMTGで遊ぶか☆二対一でも私様は構わないぜ☆ミ」

 

 

是非。と口を動かそうとしたところで。

他の四名のプレアデス達に睨まれて。言葉につまった二人。

そんな羨ましい行為は認められない、という意思の力が籠ったその複数の瞳。

そんなにモテモテとか、私様もドン引きだぜ☆

 

私様はウンと甘いコーヒーを口にしながら。言葉を発する。

 

 

「ま、良いけど☆

 次のイベントまで時間はあるみたいだし☆

 そこで私様がやる事は限られている☆

 だったらその間、可愛い可愛いプレアデス達の面倒を見ても良いかなって☆ミ」

 

「次のイベント、とは?」

 

「ん☆良い質問だね。そーちゃん☆

 その可愛い美貌に免じて答えてあげる☆

 

 近々☆周辺の村に接触を図る機会が来る☆

 そこで、現地の人間達に出会うんだけど☆ミ」

 

 

ぴた、と。

プレアデス達の手が止まる。

何故、そんな事が分かるのか。って顔だね☆

だって、未来予知で知ってるもん☆

 

でみちゃんに布石は打ったけど、その程度で未来は変わりえない。

カルネ村での一件は、まず間違いなく起こることだろう。

私様はいつも通り、ニコニコと笑顔を浮かべながら、なんでもないことのように続ける。

 

 

「私様がそこで最低限やりたいことは☆

 現地の人間達に今君たちがやっているMTGを流行らすこと☆ミ」

 

「人間風情に、至高の御方のご遊戯を教えろ、と?」

 

「なーちゃん☆

 これは私様が良しと言ってるんだ☆

 君に拒否権はない☆ミ」

 

「し、失礼致しました!!」

 

「まあ☆気持ちは分かるよ☆

 君は人間が嫌いなのは分かるし☆見下しているのもまた、分かるお☆

 知らねーと思うけど☆この世界の住人、マジでよえーから☆ミ」

 

 

でも、と私様は言葉を続ける。

ルプスレギナが今回用いているデッキは5C人間。

対するナーベラルが用いているのは、デス&タックス。

両方に言えることだが、種族『人間』が入った強力なデッキだ。

 

 

「例えよえーからって油断もしちゃいけないし☆見下しちゃいけない☆

『ルーンの母/Mother of Runes』はパワーもタフネスも1だけど、強力だろ☆ミ

『スレイベンの守護者、サリア/Thalia, Guardian of Thraben』は、メタを張れる良いカードだ☆

 私様が言いたいのは☆甘く見てると足元を掬われるぜ☆ってことと☆ミ」

 

 

私様は数あるカードの中の二枚。

「ルーンの母/Mother of Runes」

「スレイベンの守護者、サリア/Thalia, Guardian of Thraben」

を手元に呼び出すと、からからと笑うように言い放つ。

 

 

「人間は、君たちが思っているよりも可能性を秘めた種族だ☆

 時に、私様が思いつかねー事を時に思いつくし、発明する☆ミ

 要は、私様が知らない未知のデッキを作り得る可能性を潰しちゃいけないんだぜ☆ミ」

 

 

それを聞いたプレアデス達はごくり。と喉を鳴らした。

私様がMTGを流行らせた上で予想外だったのが、

意外や意外。人間に対する卑下の感情を薄れさせる効果があったという事だ。

これは、MTGは人間種族に強力なカードが多いと言うことが挙げられる。

 

長く遊んでいれば、遊ぶほど。

『若き紅蓮術士/Young Pyromancer』

『瞬唱の魔道士/Snapcaster Mage』

『闇の腹心/Dark Confidant』

例えば、これらの強力さに気付く事だろう。

 

今はまだ、マジック歴が浅いからパッとしねーかもしれねーけど。

こいつらは全員人間で、どれもが強力無比なカード達だ。

 

MTGに触れさせる事で『人間ってやべえ』と思わせる事が出来るという事だ。

ま☆私様はそんなこと微塵も考えてなかったんだけど☆ミ

 

 

「流石はまじっく☆ミ様。そこまで考えていらしたとは」

 

「まあね☆もっと褒め称えたまえよ☆ミ」

 

「流石は至高の御方です」

 

「……人間も凄いね。考え付かなかった……」

 

「蟲もいいよぉ~。

『秘密を掘り下げる者/Delver of Secrets/昆虫の逸脱者/Insectile Aberration』

 とか凄い好みですぅ~。

 

「よっ、流石は人たらし、っす!」

 

「あっはっは☆

 るーちゃんは後で私様から説教な☆ミ」

 

「そ、そんな~!」

 

 

誰が人たらしだ☆誰が☆

見れば、くすくすと他のプレアデス達も苦笑していた。

ふむ、プレアデス達とは良好な関係が築けているようでなによりだ。

あと、心配なのは各階層守護者達なんだけど。

 

皆、忙しそうだからなぁ。

ちゃんとマジック出来てるか不安だ。

 

心配と言えば、モモちゃんもだ。

最近はあまり会ってはいないし、マジックで遊んでもいない。

根詰めてなければ良いけど、根が真面目な人だからなぁ。

 

あ☆そうそう☆ミ

プレアデス達に渡したのはただの紙で、いくらでも作れるカード群なんだけど。

各階層守護者達とモモちゃんに渡したのは、私様が持っている、唱えれば魔法が出てくる、最低でも聖遺物級(レリック)のカードだ。

雑に扱っていたら、いくら私様でも、怒る。

 

というのは、生産が難しいとかそういうのではなく。

心を込めて作ったカードをぞんざいに扱って欲しくはないという事だ。

ま☆プレアデス達に渡したただの紙でも、雑に扱ってたら怒ってたけどな☆

 

幸いにして。そんな事はないようだから安心だ。

さて、お茶会が終わったらモモちゃんの所に行こっと☆ミ

 

 

★ミ

 

 

モモちゃんの居る一室。

そこに向けて私様とルプスレギナは歩いていた。

 

 

「モモンガ様に何かご用件でもあるんすか?」

 

「うんにゃ☆

 そろそろ周辺の村に接触を図る頃だと思ってね☆ミ」

 

「なんでそんな事分かるんすか?」

 

「だって私様、知ってるもん☆ミ

 知ってることをどうして知ってると言われても☆困っちゃうぜ☆ミ」

 

 

不思議そうな顔をして。ルプスレギナが問いかけて来たが。

私様はそれを適当にはぐらかす。

未来予知した、なんて言ってもどう解釈されるか分かったもんじゃねーし。

 

扉を開けようとして。

その扉の先から声が聞こえて来た。

 

 

「これは――祭りか?」

 

「いえ。これは違います」

 

 

お、ギリギリ間に合ったかな?

まあ、カルネ村は絶賛襲撃され中☆なんだから間に合ってはいねーんだけど☆

まあ、祭りと聞いて私様が黙ってる訳ねーよな☆

 

 

「祭りと聞いて☆飛んできたぜ☆ミ」

 

 

バン。と扉を開いて、私様は入室する。

本当はダイナミック入室☆とか言って扉を破壊しても良かったんだけど☆

モモちゃんに後で何言われるか分かんねーからやめといた☆

 

反応は――薄い。

遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)でカルネ村の様子を伺うのに神経を集中しているからか。

私様が思ったようなビックリ☆リアクション☆は得られなかった。

ちょっとぶー垂れながらも、私様はモモちゃんの隣に立って鏡の中をのぞき込んだ。

 

そこで行われていたのは、強者による弱者の一方的な踏襲。

農民が騎士のような鎧をつけた輩によって攻撃されている。

 

 

「野党では――ないようだな」

 

「襲撃☆かな☆ミ」

 

「――どういたしますか?」

 

 

セバスの問いかけるような声。

それに対してモモちゃんが答える。

 

 

「見捨て「行くに決まってんじゃん☆祭りだろ☆参加しねー訳ねーじゃん☆」

 ちょ、ちょっとまじっく☆ミさん!!?」

 

 

前に私様がそれを遮った☆

私様からしてみれば人間がいくら殺されようと心は痛まねーんだけど。

それでも、MTG布教の可能性が次々と潰されていくのは面白くねー。

 

だからこそ助けるのであって、そこに温情とかはありえねーし。

だからと言ってこのまま踏襲される様を見て面白いとか思える訳がねー。

 

 

「セバっちゃん☆私様はこの村に行くわ☆

 モモちゃんは留守番な☆ミ」

 

「待ってください!!まじっく☆ミさん!!

 この世界での俺達の戦闘能力も分からないっていうのに!早計です!!」

 

「私様が行くと言ったら行く☆ミ」

 

「だああ!!もう変わらないなあこの人は!!」

 

「お供致します、まじっく☆ミ様」

 

「うん☆そうだね☆

 るーちゃんも付いてきて良いよ☆

 繰り返すけど、モモちゃんは留守番☆ミ

 私様じゃ倒せない敵が居た時の保険ね☆」

 

 

ま☆そんなの居る訳がねーんだけど☆

モモンガがアインズに変わるよりかはマシだし☆

私様が行った方が、現地民の反応とかもマシでしょ☆ミ

 

 

「ちょ、本当に行くんですか!?

 せめて後詰めや援軍の有無とかの確認だけでも――」

 

「もう遅いぜ☆モモちゃん☆

 Black Lotus――からの☆

 瞬間移動/Teleport」

 

 

ルプスレギナの手を取って。

私様達はさっさとカルネ村に瞬間移動した――。

 

やっべ☆そう言えば「瞬間移動/Teleport」の実験とかもやってなかったわ☆

ま☆いいっしょ☆何とかなる☆何とかなる☆ミ

 

 



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カードリスト:10:ニコル・ボーラスとか☆ミ

シャンクス!!評価バーが……赤に!!
いや☆マジびびったわ☆
励みになるぞ☆ありがとね☆ミ

お陰様で毎日楽しく小説を書けております。
これもひとえに見てくださる皆様のおかげでございます。


 

……結論から言おうかな。

 

「瞬間移動/Teleport」は上手くいったし。

私様とルプスレギナが離れ離れになるなんて事はなかった。

*石のなかにいる*なんて悲劇も起きなかった。

 

まあ。そうなんだけどさ。

 

 

「ん☆ちょっと痛てーなオイ☆ミ」

 

 

私様、刺されちゃったぜ☆

 

何がどうして刺されたかってーと。

どうも、森の中で暫定野盗?っぽい輩に襲われてた女の子二人。

ちょうどぶっ刺されて殺されるその時に、運悪くその剣先に「瞬間移動/Teleport」しちゃったみてーなの☆

しかも運悪くクリティカルしたみてーで、胸元にぐっさり☆ミ

 

モモちゃんみてーに『上位物理無効化Ⅲ』があったら良かったんだけど。

生憎私様、生産職なの☆ んな戦闘向けのスキルはねーから、ものの見事にぶっ刺さっちゃった☆彡

 

とは言え、私様もレベル100プレイヤー。

こんななんて事はねー低レベルに殺されてやるほど柔らかく出来てねーし。

剣もただのロングソードなのか、何の付与効果やバッドステータスも感知できねー。

 

HPバーがあったら、ちょっぴりミリ減った程度かな?

胸元を貫かれてるんだけど、大した痛みは感じねー。

ちょっと胸に爪楊枝をツンツンしてる感覚って言えば分かりやすいかな?

つまり、実質ノーダメージに近い。

 

やっぱ、この現地民よえーな☆

ユグドラシルだったら秒で殺されてるぜ☆

 

 

「――フーッ!!フーッ!!

 ――この、人間風情が!まじっく☆ミ様を――」

 

 

お、やべーな☆

るーちゃん、ちょー☆げきおこぷんぷん☆じゃん☆ミ

 

完全に目が血走ってるし、犬歯も剥き出しだ。

全身から殺気を飛ばしてるし、毛が逆立ってる。

可愛い見た目が、それじゃあ台無しだぜ☆

 

人間を甘く見るな、って言ってたのが功を奏したのか知らねーけど。

考え無しに突っ込む事はねーようだ。うんうん☆教育の成果だね。

 

さて。

私様を刺した輩は、激昂したルプスレギナを恐れてか、剣から手を放して一歩後ずさる。

もう一人居た輩も、剣を構えて、私様を無視してる。

もう既に、私様を殺した気でいるようだ。

 

 

「おいおい☆私様を無視するなよな☆ミ」

 

 

瞬間、私様を無視していた輩が、信じられない物を見るような目で私様を見る。

しゃーねーよな。今まで弱いもの虐めばっかりしてきた奴らだし。

普通は即死だと思うよな☆胸元に剣ぶっ刺したんだし☆

 

私様は、ゆっくりと胸元にぶっ刺さってた剣を引き抜いていく。

 

 

「大丈夫、大丈夫☆

 刺さった所は悪かったけど☆ 私様はほぼ無傷☆」

 

 

赤い血が流れるけど。それも微量だ。

ずるずると剣は引き抜かれて行き、もう先端近くまで抜けた。

剣にはべっとりと血が塗られてるけど。エフェクトかな?正直なんも痛くねーからな☆

 

 

「私様はこの通りだし☆君達も私様に対して敵意や害意はなかった☆

 だからこそ☆これは事故で、どうしようもなく運が悪かっただけ☆ミ

 だから――」

 

 

ずるん。と音を立てて、剣先が私様から離れる。

がらん。と音を立てて、ただの血塗られた剣が私様の足元に落ちる。

 

 

君は悪くない(私様が悪い)☆ミ」

 

 

私様はそう言い放ち。ニッコリと笑顔を浮かべた。

 

唖然とする二人の輩。

そこに敵意や害意は存在していない。

 

緊張してるのかな☆

二人とも歯をガチガチ震わせてるぜ☆

安心したのかな☆

二人とも足を震わせて座り込んじゃったぜ☆

信じられないのかな☆

二人とも目が虚ろで現実から目を逸らしてるぜ☆

 

それとも――

 

何か面白い事でもあったのかな☆

二人とも、愉快そうな顔をしているぜ☆ミ

 

 

「ば、化けも――ぅぎゃっ」

 

 

言い切る前に、ルプスレギナが二人の息の根を止めた。

隙を見て、聖印を象ったような巨大な聖杖を思い切り振りぬいて。

二人分の頭蓋を叩き割った。

 

 

「ああ、君達も運が悪かったんだねえ☆」

 

 

そう言い残して物言わぬ亡骸となった二人を他所に。

私様はぱちぱち、と手を叩く。

 

 

「おっつー☆るーちゃん☆」

 

「まじっく☆ミ様!!お怪我はありませんか!!?」

 

「ねぇーよ☆ この程度でどうにかなるほど私様は弱くねーの☆ミ」

 

 

あわあわと慌てるルプスレギナに、

私様はへらへらと笑って、それに応える。

さて、と。これを見ているモモちゃんは大層肝を冷やしたことだろうけど。

こうして無事アピールをしているからまあ、大丈夫だろう。

 

さて、目下の問題は。

背後に居る二人の女の子か。

 

私様が普通じゃない事を知られたのは、ちょっち不味いかも知れない。

はて、どうしたものかな。

 

私様としては、傷を負っている様だし、治してあげても、まあ良い。

そこそこ綺麗だし、後々で恩返しされることを加味して、先行投資するのも良いだろう。

 

だが、それは私様がやらなければならない事じゃあないし、私様にとっての義務ではない。

ここで死んでもらえるなら、私様が普通じゃない事を知る人間が減るし、別に悪い事じゃあない。

そういう意味では、ここで始末するのがベストなんだぜ☆

だけど。

 

 

「るーちゃん☆そこの子に回復魔法な☆」

 

「え?なんでっすか?」

 

「MTGを流行らす人材が減るのは、私様がちょー困るの☆」

 

「……分かったっす。大治癒(ヒール)」

 

 

生きている事に理由が要らないように。

死んでいく事に理由が要らないように。

人を助けるのに理由は要らない。

まあ助けない事にも理由は要らねーんだけどな☆

 

どーせなら生きてた方が楽しいしな☆

それはそうと、野盗共には死んで貰うけど☆ミ

 

 

「ん☆ミ」

 

 

突如、私様の目の前に現れたのは、転移門(ゲート)。

私様の予想だと。まあ、モモちゃんだろうな☆

私様じゃ倒せない敵が居た時の保険だっつーのに、心配で来たのか?

随分と堪え性のないギルマスだこと。

 

 

「まじっく☆ミさぁあああん!!?

 平気ですか!!?怪我は!!?」

 

「ははは☆大丈夫だっての☆

 オイ抱き着くな抱き着くな☆セクハラで訴えるぞ☆ミ

 骨訴訟っすっぞテメー☆ミ」

 

 

あ。今のは骨粗鬆症と訴訟をかけたジョークな☆

目の前のモモちゃんは気が動転して気付かねーし☆誰に言った訳でもねーけど☆

 

さてさて。困ったことに目の前の女の子二人は、突然骸骨が現れた事に大層怯えちゃってやがる。

ま☆そーだよな☆ふつーはそうだし。私様も逆の立場なら当然、警戒する☆

まったく、ややこしくしやがってモモちゃんめ☆

 

 

「あ、あの……あなた方様は……?」

 

 

お☆意外と勇気あるな金髪の女の子☆

傷は癒えたようだし☆無視しちゃっても良いけど☆

 

 

「私様はまじっく☆ミ。しがない生産職だぜ☆

 ――こっちはモモンガ。こう見えて優しい優しい私のリーダーだぜ☆」

 

「ちょっ!?まじっく☆ミさん!!?」

 

 

先んじて、アインズ・ウール・ゴウンと名乗るタイミングをへし折っておく。

――大体、アインズって名乗るのが気に入らねー。モモちゃんはモモちゃんだろ。

そしてそれ以前に鈴木 悟くんでもあるし、名前は大切なんだぜ。

ここで実名をバラさなかっただけ温情であると思って欲しい。

 

 

「モモちゃん☆

 どうせいつかは、私様とモモちゃんに繋がりがある事はばれるんだ☆

 それが、早いか遅いかの差だけで☆

 私様としては、あとでややこしくなる前に先手を打つのが良いと思ったり☆ミ」

 

「それでも、早すぎるでしょう!?

 後々面倒ごとが起きたらどうするつもりですか!

 ええい、この際、記憶操作(コントロール・アムネジア)で聞かなかった事に――」

 

「その暇はねーよ☆

 一度私様が関与した祭りだ☆

 どうしようもねー程にとりかえしがつかねー状況にしたる☆」

 

「何を――」

 

 

自慢じゃねーが☆私様は『害悪』で『最悪』で『問題児』だ☆

こーんな実験に最適なタイミングがまた来るとは思えねーし☆

どの道祭りだ☆存分に楽しませて貰おう☆ミ

 

 

「Mox Sapphire。

 Mox Jet。

 Mox Ruby。

 Mox Emerald。

 

 からの――

『破滅の龍、ニコル・ボーラス/Nicol Bolas, the Ravager』」

 

 

瞬間。私様の頭上に現れたのは。巨大な龍。

大きな翼をはためかせ。長い尻尾をぶらつかせている龍。

 

いいや。私様からしてみたら『伝説』の種族『エルダードラゴン』であり。

かの悪名高い『ニコル・ボーラス』 彼の者そのものである。

 

 

「ニコル☆私様の言う事は聞けるかな☆ミ」

 

『小さきものが、命令するのか?――この私に向かって』

 

「あはっ☆笑わせるなよ、ニコル☆

 今の君はただのクリーチャーで、対する私様はプレインズウォーカーだ☆

 どちらが上かだなんて。分かりきっていることだろう☆」

 

『――……フン。どうやらそうらしい。

 光栄に思うが良い、私に命令することが出来るなど、そうないぞ』

 

 

っふー☆やっべー☆

万が一☆ボーラス様のコントロール効かなかったらどーしよかと思ったけど☆

思ったより理性的で知性的で助かったぜ☆

ま、ぶっちゃけ4/4のスタッツは私様からしてみたらどーってことねーから。

万が一の時はモモちゃんに助けて貰えば良かっただけなんだけどな☆

私様は刹那主義で他人任せなの☆

 

 

「近くの村でそこの鎧を着ている奴らを滅ぼせ☆」

 

『ハッ!なんとも分かりやすく容易い願いだ!!

 良いだろう。聞き届けてやろう』

 

そう言い残して翼をはためかせて飛んで行くニコル・ボーラス。

素直で良い子だわニコル☆プレインズウォーカーで呼び出さなくて良かったとも思う☆

 

 

「さて、これで良し☆」

 

「何も良くねーよ!!この馬鹿害悪!!」

 

 

べちん。とモモちゃんに頭を叩かれた。

いってぇー☆具体的にはグサァーって剣が刺さった時より痛い☆

頭をさすりながら、モモちゃんの方を見る。

 

 

「痛たたた。私様何かしたっけ?」

 

「なんなのあのドラゴン!?

 それに報告!連絡!相談!(ほう!れん!そう!) 社会人の基本でしょ!!」

 

「私様☆そんなのには囚われねーの☆ミ」

 

「くっそ!!こういう人だった!!

 ユグドラシルの時と何にも変わらねえ!!」

 

「あ、あの……ありがとうございました?」

 

「人間、こーゆー時は口を挟まないのが吉っすよ」

 

 

なんだかどうしようもなくカオスな状況なまま、物語は静かに狂っていく。

 



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カードリスト:11:マッチポンプとか☆ミ

オイオイオイ☆評価バーが伸びたぞ☆ビビるわ☆
本当にありがとうございます☆

ちょっちテンションが上がって書いた話だからおかしい所あるかも☆
ごめーんね☆


それは突然の事だった。

誰もが逃げる足を止め、誰もが振るう剣を止めた。

あるいは――取り落した。

 

あまりに突然だった。

稲妻が落ちて来たかのような、咆哮が聞こえて来た。

続いて、嵐のような風切る音が聞こえて来た。

 

見れば、そこには黒い、空飛ぶナニカ。

目を凝らさずとも分かる、巨体。翼の生えたそれ。

 

もしかしたら、ひょっとしたら、見間違いかも知れない。

そう思ったのは、無理もない。

 

 

それはドラゴンで、龍で、翼の生えた災厄だった。

 

 

英雄譚や、お伽噺の中でしか、実在し得なかったそれは。

あっという間に近付き。その全容を明らかにした。

 

黄金色の巨体。

一対の巨大な翼。

二本の、大きな角。

三本の異形なる指先。

 

何もかもが、信じられなかった。

目の前の事を。現実だと受け入れられなかった。

 

だから――。

 

 

「小さきものよ――。脆弱なる――人間ども」

 

 

耳を叩くこの音は、きっと幻聴なのだろう。

きっと夢や幻で。目が覚めたらきっと現実に戻れるのだろう。

 

 

「嘆き――苦しみ――絶望せよ。

 ――我は――等しく滅ぼすものなり」

 

 

覚めろ、覚めろ、夢ならば、はやく――

――ああ、悪夢は未だ覚めやらぬ。

 

 

「待てぇーい☆ミ」

 

 

★ミ

 

 

さてはて☆私様だぜ☆

急に出てきてビックリしたかな☆

 

あの後、私様、やーっぱ心配になったんだよね☆

モモちゃんに怒られたからじゃねーけど。やっぱり初手ニコル・ボーラスはやり過ぎたかなって☆ミ

上手くコントロール出来てるか心配になった私様は、モモちゃんに連れられて一足先にカルネ村に到着したわけ☆

そしたら案の定、暴れん坊将軍になりかけてるニコルの姿☆

あっ☆やっべ☆これほっといたらモモちゃんにまた怒られる奴じゃん☆

 

そう思った私様、サブプランの一つ、『モモちゃん☆勇者作戦』に移行した訳さ。

 

作戦を説明する(キリッ

 

 

1、モモちゃんと私様参上☆

2、ニコル撃破☆

3、モモちゃん☆勇者っぽくね☆ミ

 

 

やっば☆私様ながら完璧な作戦内容じゃね☆ミ

私様、天才じゃね☆褒め称えて☆ミ

 

ってモモちゃんに言ったら殴られた。解せぬ。

 

 

って言う訳で、モモちゃんには骨骨ボーンが見えない恰好をして貰って☆

(私様特製ひょっとこ☆仮面☆と手先指先完全防備☆最大強化ガントレットを渡した。

 仮面の方は渡したらまたぶん殴られた☆痛いわ☆)

上手い事タイミングを見計らってニコル・ボーラスの前に立ちふさがったのさ☆

 

そしたらモモちゃん恥ずかしがってか知らねーけど、なんっも言わねーの☆

仕方ねーから私様から名乗る事にした訳☆モモちゃんってば恥ずかしがり屋さん☆

 

 

「私様はまじっく☆ミ!ただの通りすがりの人だ!!」

 

「……えっと、すみませんモモンガです、こいつの保護者です……本当すみません……」

 

「やいやいやい☆ドラゴンめ☆ミ

 いたいけな人間をぶっ殺そうだなんて良い度胸してんな☆ミ

 やっつけてやるぞ☆ミ」

 

「はい……今すぐ倒しますんで……この件は無かったことにしてください……はい……」

 

 

オイオイ☆モモちゃん声ちっちぇーぞ☆ミ

今回の主役はモモちゃんなんだから☆

もっと腹から声出せー☆

 

私様?私様は囃し立て役だぜ?

だって生産職だもん☆戦闘スキルなんてありましぇん☆ミ

 

 

「――クッハハハハ!!成程、成程。そう言う事か!!

 なんと馬鹿げた催しに出てきてしまったことか!!」

 

 

お☆ニコルは気付いたみてーだな☆ミ

察しが良い奴は嫌いじゃねーぜ☆ミ

 

 

「魔法三重化(トリプレットマジック)

 魔法最強化(マキシマイズマジック)

 

 ……いや本当すみません。現断(リアリティ・スラッシュ)」

 

 

瞬間。ドドドーン☆と世界が揺れた。

私様が召喚したニコルはあえなく爆発四散☆

 

さすがモモちゃんだ、違うなぁ☆

生産職の私様じゃこうはいかないぜ☆

 

 

「あ、あんなドラゴンをいちげきでたおすなんて――」

 

 

あ、囃し立て役その2は、るーちゃん☆

混乱してる奴らに分かり易く伝える為に一芝居打って貰った☆

ちょっち棒読みっぽいけど、そこは私様が許す☆

 

 

「た、助かったのか?」「あのドラゴンを倒したのは彼か!?」

 

「ゆ、夢じゃなかったのか!?」「俺たちは助かった!助かったんだ!!」

 

「英雄だ!!」「英雄だ!!!」「英雄だ!!!!」

 

 

効果は劇的だったみてーだな☆

野党だったはずの輩まで、モモちゃんに向けて賛美している☆

滑稽☆滑稽☆ あとは傷を負った村人を治療しておけばおっけー☆

 

 

「お、お前ら!!何をしている!!」

 

 

おっと☆ 馬鹿一人はっけーん☆

 

 

「Mox Pearl。

 からの『沈黙/Silence』」

 

「早く村人を襲――」

 

 

そういう馬鹿は黙ってて貰おう☆

空気の読めねーような馬鹿は要らねーよ☆

そういう奴は、後で私様の黒の魔法の実験台にしてやる栄誉を与えよう☆

私様はルプスレギナに目配せして、こっそりとその馬鹿を連れ出すように言った。

 

さてさて、モモちゃんは――。

ん☆順調に村人と野盗に揉まれてやがる☆

今にも胴上げが始まりそうだぜ☆

 

それじゃ☆私様は邪魔にならねーようにクールに去るぜ☆

 

 

「ちょ、ちょっとまじっく☆ミさん!?

 聞いてないですよこんな……ちょ、ちょっと胴上げとか止め――」

 

 

クールに去るぜ☆(キリッ

 

 

★ミ

 

 

さて、私様はささっと森の奥までやってきた。

理由は簡単簡単。多分モモちゃんの事だ。

アルベドを援護として呼んだことだろうから、その後処理をしに来た訳☆

援護に来たはずが守るべき対象がいねーとかとんだ拍子抜けじゃん☆

そのフォローをしに来たわけなのよ☆私様ってばやっさしー☆

 

あ、あと、アルベドはタンクとしてはすげー優秀なんだぜ☆

鎧も私様が一から作ったから大抵の攻撃/状態異常に対する耐性もバッチリだ☆

武器も『ちょっち本気出した』から少しはマシなはず☆

ま、戦闘職じゃねーから知らねーけどな☆

 

 

「まじっく☆ミ様」

 

「あーちゃん☆やっはろー☆ミ」

 

 

私様の姿を見るや否や、アルベドは片膝をつけて頭を下げた。

ん☆どしたアルベド☆ミ おなかでも痛いか☆ミ

 

 

「先程まで遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)でご勇姿を拝見させて頂きました。

 至高の御方のお傍に居られなかった事、お時間が掛かってしまい、申し訳ございません。

 この失態を払拭する機会を頂けるのでしたら。これに勝る喜びはございません」

 

「うんにゃ☆あれで良かったんだぜ☆あーちゃんは☆ミ」

 

「ですが」

 

「そもそもの話☆

 ガチ装備の奴が二人も居たらなんかおかしいって思う奴が居るかも知んねーだろ☆

 今回の策はあれで良かったし☆あれがベストだったのさ☆ミ」

 

 

そう、モモちゃんは別に良い。

マジックキャスターはある程度の完全防備をしていても許される。

それは近接攻撃に弱いからであって、油断が即死に繋がるからだ。

 

そういう意味では、私様は汚れたつなぎ姿なんだからそもそも戦力外だ。

まあ、実際の所戦力外なんだから、文句は言わないし言えない。

 

完全武装が一人居たら、それは偶然で済むし、実際済んだ。

だけど二人だったら? 念には念を入れておくにこしたことはないだろう。

 

それに。

 

 

「それにただの野党から守った奴よりも、ドラゴンから民を守った奴の方が印象が良い☆

 この先の事を考えておけば、こっちの方が都合が良かったからな☆ミ」

 

「まじっく☆ミ様」

 

「ん☆どした☆ あーちゃん☆ミ」

 

「まじっく☆ミ様は、どれだけ先のことを考えていらっしゃるのですか?」

 

 

ふむ。難しい質問だね。

未来予知で見えた未来は――大体百年後か、二百年後か。

まあ知らねーけど。本格的なディストピアになるにはそのくらいはかかるだろう。

人間種狩りが行われて、国を建国して。そこから徹底的に他国を苛め抜く。

名ばかりの平等の下に、くだらねー平和が訪れる。つまりは停滞だ。

 

私様からしてみれば地獄も良い所だ。

実に馬鹿馬鹿しい。そんなのリアルとなんら変わりねーじゃねーか。

 

 

「もっと楽に考えようぜ☆あーちゃん☆ミ

 私様はMTGを流行らせて―だけなんだ☆

 百年先を見てようがそれは変わらねーし変わりえねー☆ミ」

 

「ひゃくっ……失礼致しました」

 

 

ん?私様なんかおかしな事言ったか?

まー良いか☆

 

 

「どの道、私様が関わった以上、MTGを残すのに全力を尽くす☆

 これは譲れねーし変わらねー☆ あーちゃんも協力してくれよな☆ミ」

 

「はっ、御身の願いとあらば」

 

「かてーな☆ あーちゃんは☆

 もっと楽に楽しく生きよーぜ☆」

 

 

からからと笑いながら、私様は笑った。

 



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カードリスト:12:転機点とか☆ミ

日刊ランキングに載ってる。おいどういうことだってばよ。

皆様のおかげです☆励みになります☆

すっげー急いで書いたから短けーけど許してな☆ミ


私様とアルベドがカルネ村に戻った時。事態はちょっぴり進行していた。

先程まで胴上げされていたであろうモモちゃんは、今は村長っぽい存在とお話合いをしていた。

周辺地理とか、ユグドラシル硬貨が使えねー事とか、そんな話だった。

あとは、襲撃してきた輩が、実はバハルス帝国の鎧を着たスレイン法国の差し金とかだったりもした。

そのリーダーの行方が不明だとか、色々と情報を貰ったみてーだった。

 

まあ☆私様は全部知ってる事だけど☆

敢えて全部知らねーフリをしておいた☆ミ

 

そんな事より、モモちゃんと私様達一行がどこから来たのかって質問に、

遠い辺境の地からやってきた、あのドラゴンに故郷を滅ぼされた一行と返したら、あっさりと信じられた。

いや☆そこは信じるなよ☆ どー考えても怪しいだろ☆

 

ま、今はそんな事より、だ。

 

 

「モモちゃん☆ MTGして遊ぼうぜ☆」

 

「い、今からですか!? もう少し情報を集めてからでも……」

 

「やだぶー☆ 難しい話ばっかりじゃ疲れちゃうぜ☆

 ここは一息ついて休息も大事だと私様思うな☆ミ」

 

「……MTGやりたいだけでしょ」

 

「その通りでございます☆ミ」

 

 

村長さんの会話を遮って。私様はモモちゃんに提案する。

ま、提案ってほどでもねーんだけど。これ以上既知の情報を貰っても無駄でしかねーし。

なにより私様がそろそろ飽きた☆

 

リ・エスティーゼ王国の騎士が来るまで時間はあると思うし、それまでの時間潰しだ。

村長夫妻は、突然会話を止めてMTGのカードを並べる私様達に、最初は疑問を思ったが。

ゲームが進むにつれて、それは興味へと変わっていった。

 

 

「あ、あの。お遊びの途中、申し訳ございません」

 

「ん☆どした村長さん☆」

 

「そのゲームは、私どもでも遊ぶ事が出来るのでしょうか?」

 

「勿論☆」

 

「本当ですか!」

 

 

釣れた☆

 

元々娯楽っていう娯楽がねー村だからか知らねーけど。

私様が思っていたよりも反応は劇的だった。

カードの一枚一枚をプレイするだけで、そのイラストを確認するだけで。

村長夫妻の反応は面白く変わり、そして、警戒心も解けていった。

 

そりゃそうだろ☆

 

ドラゴンを討伐した勇者なんて近寄りがたい存在が、遊んでいる。

そのゲームに興味が湧かねえ訳がねーし。そもそもゲームに触れる機会ってのが無かったのもあったのかもな。

モモちゃんが対面で「ぐぬぬ……」って唸ってるのも効果があったのかも知れない。

近寄りがてー存在が、親近感を持てる一面を晒すってのは、意外と効果的なんだぜ☆

 

 

「ただ、使ってる言語がちげーな☆

 私様が今度、君達にも分かるような言葉にしたのを持ってくるから、それまで我慢な☆ミ」

 

(まじっく☆ミさん、ここの言語分かるんですか!?)

 

(知らねーけど☆ 勉強したら何とでもなるだろ☆ミ)

 

(そんな無茶苦茶な!)

 

 

モモちゃんが私様に耳打ちしてくるけど、私様は適当にはぐらかす。

ま☆本当は全知で言語なんかも全部知ってるんだけどな☆

ここで私様が知ってます。なんて言っても面倒事にしかならねーし。何より面白くねー☆ミ

 

さて。そろそろかな。

 

 

「そ、村長! この村に騎士風の者達が!!」

 

「なに!?」

 

(どうします?まじっく☆ミさん。

 ここでやるべき事は大体終わりました。これ以上ここに居ても――)

 

(馬っ鹿☆ 関わるに決まってんだろー☆ モモちゃん☆

 これはイベントだぜ☆ 私様達が関わらねーでどーすんだよ☆ミ)

 

(……まじっく☆ミさんは、慎重とか様子見とか。

 そういう言葉を、後で辞書で調べた方が良いと思いますよ?)

 

(私様の辞書にはない言葉だね☆

 変えた方が良いんじゃない?その辞書☆ミ)

 

 

さてさて。面白くなってきやがったぜ☆

 

 

★ミ

 

 

そう言えば、アルベドやルプスレギナはどうしたんだろう。

不意に、モモンガの脳裏を過ぎったのは、そんな事だった。

 

村長の家から出て、暫く。

辺りの様子を伺うと、森の中へ――、比較的安全な所へと村人を避難させている彼女達の姿があった。

ルプスレギナはともかく。アルベドのカルマ値は――確か、極悪。

-500だったはずのアルベドまで、率先して村民の避難を優先させている光景には、いささか違和感があった。

 

 

「どした☆ モモちゃん☆ミ」

 

「――いえ。なんでもないです」

 

 

まさかとは思うが、まじっく☆ミさんが何か吹き込んだのだろうか。

有り得る。と思った。目の前の生産職であるまじっく☆ミさんは、時に突拍子のない事を言い出す。

結果として、それが彼女にとっての「楽しい」ことへと繋がり、利益になったり、不利益になったりもした。

 

ユグドラシル時代、それで何度彼女を説教した事か。

基本的にまじっく☆ミさんは縛られる事を嫌う人だった。

自由に、何でも作って、何でも遊んで、MTGをこよなく愛する人だった。

 

 

「まじっく☆ミさん」

 

「うん☆ どしたの☆ミ」

 

 

だからこそか、モモンガは、いや、鈴木 悟は。再び声をかけた。

 

 

「困った事があったら、いつでも言ってください。

 困った人がいたら、助けるのは当たり前。ですよ」

 

 

瞬間、まじっく☆ミさんは呆けたような顔をした。

ポカーンと、擬音があったら出ているような、そんな顔だった。

 

 

「くっ、くっ。あはははは☆ミ」

 

 

瞬間、聞こえて来たのはまじっく☆ミさんの爆笑した声。

目尻に涙を作って、腹を抱えて笑っていた。

一瞬、馬鹿にされているのかと思ったが、手を振るまじっく☆ミさんの様子を見るに、違うらしい。

 

 

「ごめんごめん☆

 私様としたことが、こんな愉快な事に気付かねーだなんて☆

 これだから、面白れー☆ミ」

 

 

けたけたと、ひとしきり笑ったまじっく☆ミさん。

その後、少し真面目な顔をして、けれども口調はそのままに、語る。

 

 

「モモちゃん☆ 君に秘密にしていた事がある☆

 これが終わったら、後でそれを話そうじゃあないか☆

 ああ、まったく、面白くなくなくなくなってきやがったぜ☆ミ」

 

 

愉快そうに、そう言い切るまじっく☆ミさん。この場で言う話ではないようだ。

それ、フラグですよ。なんて事を思いながらも。

その姿からは、少しだけ、肩から重荷が下りたように感じた。

 

 

★ミ

 

 

さて、私様としたことが気負ってしまっていたのかも知れない。

世界征服を阻止するために、MTGを布教するために、なんて私様らしくもなく頭を働かせ過ぎていたらしい。

アルベドにも言ったように、もっと楽に楽しく生きるがモットーの私様。

そんな私様が策を巡らせるだなんてらしくねーし、何より楽じゃあない。

 

もっと刹那的に生きれば良いのだ。

もっと楽しく生きれば良いのだ。

 

一人では大変な事でも。二人なら、三人ならば、皆ならば乗り越えられる。

実に簡単で単純な事だったというのに。

そんな事にも気付かない程、私様は追い詰められてしまっていたか。

 

 

「さて、モモちゃん☆

 君に選択肢をあげようじゃないか☆」

 

「はい?」

 

 

私様はしなやかに、指を二本立てる。

 

 

「片方は、簡単だ。だけど向かう世界は全く楽しくない。

 片方は、難しい。けれど向かう世界がどうなるか分からない。

 

 ――鈴木 悟くん。君はどちらを選ぶ?」

 

 

だからこそ、これは私様なりの感謝という奴だ。

モモンガに、いいや。鈴木 悟くんに、選択肢を託そう。

 

片方は、簡単だ。既知の世界。

私様が未来予知で見た通りに進めば、簡単に、単純に事は運ぶだろう。

 

もう片方は、お世辞にも簡単だとは言えない。いばらの道。

未知の世界に飛び込んで、知らない選択肢に出会うことだろう。失敗するだろう。

そして向かう世界がどうなるのか、一切不明の、そんな世界。

 

どちらを選ぼうと、私様は恨まないし、後悔しない。

目の前の鈴木 悟くんが鈴木 悟くんじゃあなくなったとしても、私様は笑顔でそれと向き合おう。

 

 

ここが転機点だ。

 

 

私様は、選択肢を君に委ねたぜ。

 

鈴木 悟くんは、変わってしまった見た目を他所に。

顎に手を乗せ――ることもなく、即答した。

 

 

「決まってるじゃないですか。難しい方が燃える。当たり前の事です。

 それに、つまらない世界なんてリアルみたいでクソ喰らえ、ですね」

 

「そう言うと思ってたよ」

 

 

くつくつ。私様は笑ってしまう。

そうさね。君ならばそう言うと信じていたよ。

だからこそ私様も君を見捨てなかった。

目の前のガゼフ・ストロノーフ率いる騎士団を目の前にして、私様は気が楽になった。

 

 

 

 

 

 

 

あ☆やっべ☆傍にいる村長さん忘れてたわ☆

全部聞かれてるだろこれ☆

ま☆大丈夫か☆何とかなる☆何とかなる☆

 

 



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カードリスト:13:秘密とか☆ミ

正直どうするか迷った話。

好き嫌いが出るだろーから飛ばしてもいいぜ。


私様には秘密がある。

 

全知で、この世界の言葉が分かることもそーだし。

周辺地理、これからの国の動きだって分かることもそーだ。

 

私様にはまだ秘密がある。

 

未来予知で、得た。これからの既知のこと。

モモちゃんがアインズになり変わったこと。これは阻止した。

彼が人間を殺したところでなんも思わねーってこと。

彼がニグンとか言う奴らとその一味をぶちのめすこと。

 

――将来、彼がディストピアを作ること。

 

私様には、秘密が、ある。

モモちゃんに秘密にしている。

誰にも言った事のねー事。

 

 

世界級アイテム。私様の切り札。

『私様が作った世界級アイテム』は何も一つだけじゃねーって事。

 

そう、私様には、秘密が多い。

モモちゃんにも話した事のねー事なんていくつもある。

NPCになんて事実を話した事の方が少ねーくらいだ。

 

私様は、秘密が、多い。

 

それら全部を、モモちゃんに話しちまおうと思う。

今からそれを思うと、私様の胸が軽くなったような気がした。

ま、モモちゃんは慌てふためくだろーけどな☆

 

くつくつ。今からそれを思うと、おかしくてたまらない。

モモちゃんはどんなリアクションをするだろうか。

 

ああ、駄目だ。

ガゼフ・ストロノーフが率いる騎士団が目の前に居るってーのに。

笑いが止まらねえ。ここまで可笑しいことは今まであっただろうか。

 

なーにが。

『困った人がいたら、助けるのは当たり前』だ。

 

それを言ったそいつは、私様の作ったデッキを返した『引退者』でしかねーし。

そんな奴より、今MTGにハマってるモモちゃんを何とかするために今の今まで頑張ってたってーのに。

それをモモちゃんが、鈴木 悟くんが、助けようとするだなんて――。

ああ、面白い。これだから人間は素晴らしい。

 

輝かしい。眩しい。希望に満ちている。可能性だらけだ。

私様みてーな『害悪』や『最悪』じゃあない、正真正銘の希望だ。

 

ああ、面白れーなあ☆

 

 

★ミ

 

 

「私はリ・エスティーゼ王国」「んふふ☆」「戦士長ガゼフ・スト」「くひひ☆」

「この近隣を荒らしまわっている」「ふひひ☆ミ」「……」

 

「失礼致しました!!」

 

 

瞬間。ゴツン、と私様の頭にモモちゃんのげんこつが落ちた。

痛ぇーな☆私様が何をしたって言うのさ☆笑ってただけだろ☆ミ

 

目線でモモちゃんに訴えると、そこには嫉妬マスクの顔。

やっべ☆また笑っちゃいそう☆ミ

 

そしたらモモちゃんてば私様の頭を掴んで地面に突き刺しやがった☆

いってぇー……☆けどなるほどね☆これなら思いっ切り笑うことが出来るぜ☆

 

 

「私の仲間が大変失礼をおかけしました!」

 

「くひゃひゃ☆」

 

「……失礼ながら、彼女は気狂いの類か? それとも頭の病気を患って?」

 

「……(どうしよう!否定出来ないぞ!!) い、いえ。至って正常です。恥ずかしながら……」

 

 

失礼だな☆モモちゃん☆

私様はいつも通り正常に異常だぜ☆

 

まあ、そっからは既知の内容だ。

王の命令だとかを受けて、村々を回っているだとか。

モモちゃんがモモンガと名乗って互いに自己紹介したり。

ドラゴンを倒したマジックキャスターだと名乗ってガゼフがちょっとビビったりもした。

 

ま☆警戒するよな☆

この世界の住人じゃ、束になってもドラゴンなんて倒せる訳ねーからさ☆

あ、そもそもまともなドラゴンなんて、見たことねーのか☆これは失敬☆ミ

 

 

「この村を救って頂き、感謝の言葉もない」

 

「い、いえ。そう大した事をした訳では……」

 

「うひひ☆」

 

(まじっく☆ミさん!全部貴方のせいなんですからね!?)

 

 

分かってるぜ☆モモちゃん☆

それでもこの先の展開を考えると、笑いが止まらねー☆

 

 

「戦士長!

 周囲に複数の人影。村を囲むような形で、接近しつつあります!」

 

 

ガゼフの近衛兵がそう言って。私様達との会話を打ち切る。

そうして、可能な限り身を隠せるような屋内へと、入っていった。

恐らくは、ガゼフ自身。罠に嵌められた自覚はあったのだろうね。

だからこそ、自身が見えないように。隠れた。

 

うん、なるほど。理にかなってる☆

 

 

「モモちゃん☆ 分かってると思うけど☆」

 

「……ええ。等間隔で囲まれてますね。これは――」

 

「撤退する、なんてつまんねーことは言わねーよな☆ミ」

 

「けれど、数が分からない。相手の強さが分からない。目論見が分からない。

 情報が足りないんです。これじゃあ――」

 

「情報か☆ それなら私様の出番だね☆」

 

「何を――」

 

 

私様は、秘密の一部を暴露する。

 

相手はスレイン法国の陽光聖典であること。

レベルは――ぶっちゃけ並以下であること。

第三位階の魔法を使えるかどーかってこと。

ガゼフ・ストロノーフの討伐が目的ってこと。

奴ら自身、上の奴らから監視されてる事に気付きもしてねーってこと。

 

 

「私様の秘密の前払いだ☆

 どーだい☆これなら何をどうしても勝てるだろ☆ミ」

 

「……まじっく☆ミさん、その情報をどこから――」

 

「おっと、ここから先は有料コンテンツだぜモモちゃん☆

 支払いは、私様を楽しませることだ☆ミ」

 

「……情報は正確なんですね?」

 

「マジックに誓って、正確無比だぜ☆」

 

「はぁ……」

 

 

モモちゃんは、そう言って頭を抱えた。

ああ、今、彼の頭の中では色々な事が巡り巡っていることだろう。

何故、私様がそんな情報を持っているのか。

何故、こんな状況に自分は陥っているのか。

そもそも、彼らと、この村を助ける利点はあるのか。

 

ああ☆考えるだけで面白い☆思わず笑みが漏れそうだ☆ミ

 

確かに、この村を捨てるなんて簡単なことだ。

迷わず私様達が撤退すれば、それで済むことだ。

私様もそれに異論はねーし。それでも良いとも思う。

 

ただ、面倒くせーことに。

モモちゃんがドラゴンを倒した勇者であるって事は、この村の民にはバレている。

見捨てた場合、どうなるか。

デメリットは、正直私様でも予想出来ない。

 

まず、異世界への足掛かりになる最初の一歩を失うことだろう。

これはぶっちゃけ、私様からしてみれば、どうってことない。

MTGの流行源が一つ無くなるのが、ちょっと悲しいくらいか。

 

次に、カルネ村を救った――ひいてはマッチポンプした意味が、全くなくなる。

 

あと、ドラゴンの出処と、私様達の見た目が周知の下に晒される事だろう。

悪名高いアインズ・ウール・ゴウンだ。無条件で敵対するギルドは沢山あるし、実際あった。

他のプレイヤーに対して、ここに居るぞ。と大声で宣伝して回るようなものだ。

情報で、一歩遅れを取ることだろうな。

簡単に思いつく所だと、そんなところか。

 

ま☆もし仮に他のプレイヤーが居たら、なんだけどな☆

私様は、敢えてその情報を渡さなかったし、今は渡す気もない。

まあ、『今は』な☆

 

 

「はぁ――。何が望みですか」

 

 

長いため息を吐いて。モモちゃんは言葉を吐いた。

苦虫を嚙み潰したような雰囲気が、すっげー出てる☆

うっわー☆嫌そー☆

 

でもね☆ミ

 

 

「ちょっち☆実験さーせて☆」

 

 

その言葉が聞きたかったんだぜ☆モモちゃん☆ミ

 

 

★ミ

 

 

「――正気か?」

 

「はい、本当にすみません」

 

「村長殿から貴殿の勇姿は聞いた。

 ――ドラゴンを屠った貴殿ならともかく」

 

「くひひ☆ミ」

 

「こちらの……お嬢さんを戦場に連れて行くなど」

 

 

お嬢さん☆お嬢さんだって☆

精一杯言葉を選んだのは分かるけど☆無知ってこえーな☆ミ

少なくともレベル30くらいのおめーよりかはマシだってのに☆

不意に、モモちゃんがすげー真面目な顔になった。

おや、どしたモモちゃん☆

 

 

「ああ。そうだ。注意すべきことが一つあります」

 

「何だ?」

 

「彼女を、まじっく☆ミさんの戦い方を、決して馬鹿にしてはいけません。

 ――死にますので」

 

 

おいおい☆そりゃねーだろ☆モモちゃん☆

何も殺しはしねーよ☆

 

――なーんて思ってたんだけどさ。

ごめん。あれ嘘だわ。

 

私様の眼前には、倒れた兵士の数々。

そして戦士長のガゼフが精一杯戦ってるのが見える。

そろそろ私様、実験を兼ねて参戦しよーかと思った時さ。

 

声が聞こえたんだよね。

 

 

「なんだ?その紙切れは?」

 

 

おや?聞き間違いかな?

おかしいな、私様、耳と目だけは良い方だと思ったんだけどさ。

 

 

「それともあれか、遊戯で勝負を決めようとでも?

 ハハハ!!これは傑作だ!!」

 

 

途端、戦場に木霊する笑い声。

 

 

「炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)!!

 始末してしまえ!!」

 

 

瞬間。私様の前に、現れた天使――を。

捕まえて、引き千切った。

 

唖然としてる奴がいるけど、もう、どーでも良いわ。

ごめんなモモちゃん。どうやら私様、我慢の限界みてーだわ。

 

 

「Mox Pearl

 Mox Sapphire」

 

「な、何かの間違いだ!!

 全天使を――」

 

「おせえよ。『Time Walk』」

 

 

瞬間、時が止まった。

ああ、ごめんな。ちげーわ。『追加ターン中』なんだわ、これ。

私様の世界級アイテムの一つ。『Time Walk』

効果は――時間の凍結。

時間停止じゃないぜ?

だから耐性なんて関係ない。

 

 

「ああ。どう料理してやろうかな

 SnTが好みかな?それともANT?

 感染?ヘックスメイジデプス?ベルチャー?」

 

私様は手持ちのデッキをいくつか選別する。

決闘じゃねーんだから。途中でデッキを変えても良いよな?

 

ああ、全部って言う手もあるなあ!

アイテムリキャストを無くす課金アイテムがあるんだし!

 

ここから先は一方的な虐殺なんだから。

 

 



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カードリスト:14:君はプレインズウォーカーだ☆ミ

感想ありがとな☆ミ
厳しい感想でも励みになるぜ☆

この話がやりたいが為の物語だけど☆
多分、もうちょっと続くんじゃよ☆ミ




気付くと私様は、カルネ村に戻っていた。

何がどーなってるか分かんねーけど、実験しようとしたところからの記憶が定かじゃない。

お☆記憶操作でもされたか私様☆それとも記憶喪失か☆

なーんてとぼけてみるけど、まーじで記憶がねえ。

 

っかしーなー。私様、マジでどこかに落としてきたか?

傍には倒れているガゼフとか言う戦士長と、兵士の姿があったし、ピンピンしてるモモちゃんも居た。

んん?おかしいぞ☆確か私様の記憶だとガゼフは確かボロボロのボロだったはずなんだけど☆

まるで傷がねえ。ってか兵士の皆さんの傷もねーし、倒れてこそいるものの命に別状はなさそうだ。

 

手持ちを確認すると――いくつかの蘇生アイテムと、回復アイテムが無くなってる。

( ,,`・ω・´)ンンン?これはおかしいぞ?私様、カンストまで持ってたはずのアイテムが少し無くなってるのはちょっち、おかしい。

分かるように説明すっと、999個あったアイテムが900くらいまで減ってやがる。

それも回復系が全体的に減ってる。何があったのか聞きてー。

 

 

「モモちゃんモモちゃん☆私様の回復アイテム知ーらね☆ミ」

 

「まじっく☆ミさん」

 

「ん☆どしたモモちゃん☆おなかいたいか☆ミ」

 

「何も無かったんです、良いですね?」

 

「アッハイ☆」

 

 

何もなかったなら仕方ねーな☆

私様、細かい事は気にしねー主義だ。

信頼するモモちゃんが何も無かったって言うならその通りなんだろう。

まあ、回復アイテムに関してはまた作ればいーし☆

ヨシ☆

 

 

「「モモンガ様、まじっく☆ミ様」」

 

「戻ったか、アルベド。ルプスレギナ」

 

 

お?あーちゃんとるーちゃんも気付いたら戻ってきてら☆

って事はあれか。これで終わりか☆呆気ねーな☆

私様的には、実験がまるで出来てねーから、ちょっち物足りない。

だがまあ、良いか☆また実験する機会があったらその時で良い。

それよりも今はマジックしてぇ☆

 

 

「ま☆ 帰りますかね☆」

 

「あ、転移門(ゲート)で帰りますからね?

 瞬間移動は、便利っぽいですけど、どうも安定しなさそうですし」

 

「だなー☆ 実験不足だわ☆」

 

 

失敗☆失敗☆と思いながら、モモちゃんの傍に居ると。

 

 

(約束通り、秘密は吐いて貰いますからね?)

 

 

モモちゃんが私様に耳打ちしてきた。

そう言えば、そんな約束もしてたな☆すっかり忘れてたぜ☆

なんて嘘だぜ。そこはしっかり覚えてる。

私様の秘密は、モモちゃんには知っていて貰いたいし、これからの事を思えば必須の事だ。

 

なにせこっから先は未知の世界だ。

未来予知で得た情報も、全知で得た情報も、何もかもが価値がある情報になり得る。

さてさて、つまんねー事にならなきゃいいんだけど。

 

そんな事を思いながらも、カルネ村を後にする。

 

――近くの平地には、大きなクレーター。いや。底の見えない大穴が空いていた。

その事は、敢えて言及しなかった。

 

 

★ミ

 

 

さて、私様達は無事にナザリックに戻ってきた。

今は、私様とモモちゃんは、私様の個室に居る。

別にどこでも良かったんだけど、ここならNPCに聞かれる心配も無いし、何より私様が落ち着く。

ああ、ルプスレギナには悪いけど二人で話し合いたいことがあるから出てってもらった。

モモちゃんのお付きのメイドである、ナーベラルも同様だ。

 

私様は自分で淹れたウンと甘いコーヒーを口にしながら。モモちゃんに問う。

 

 

「それで、どこから聞きたい☆」

 

「全部、ですね」

 

 

ふむ、全部と来たか。

まあ、その方が都合が良いか☆

 

 

「私様の本名は星見 るい。

 こう見えてリアルじゃ上流階級の……まあ分かりやすく言うとお貴族様だぜ。

 MTGをこよなく愛することに関しちゃ、誰にも負ける気はしねーし、負けるつもりもねー。

 年齢は28歳、まだまだピチピチ☆の女の子だぜ☆いえい☆

 ユグドラシル歴は10年くれーかな?

 バリバリの生産職をしてて、課金に目を付けねー事やらなんやらで色々なあだ名がある。

 スリーサイズは上から83/59/87で、体重は――」

 

「違う、そうじゃない」

 

 

瞬間、モモちゃんからげんこつが落ちる。

いてーな☆ほんの冗談じゃねーか☆

 

さて、それじゃあ気を改めて。暴露といこうじゃあないか。

 

 

★ミ

 

 

私様は暴露した。

全知の事で知り得た全て。

未来予知で得た全て。

そして、私様の切り札。世界級アイテムのこと。

 

今考えてるプランのこと。これからの展開について。

この世界のプレイヤーの扱いについて。

ツァインドルクス=ヴァイシオン、通称。ツアーについて。

NPCが世界征服を企んでいただろうことについて。

 

リアルでの私様の立ち位置について。夢について。

何故課金していたのかまで、事細かに話した。

 

モモちゃんは私様の話を途中で遮る事もしなかったし。

相槌を打つこともしなかった。

ただ黙って、私様の話を聞いてくれていた。

 

ひとしきり話し終わった後。

そうさね。どのくらい時間が経ったのか。私様もわからねーくらいの時間が経った頃。

すっかり冷え切ったコーヒーを口にしながら。私様は締めくくる。

 

 

「このくらいだ。私様の秘密は」

 

 

おちゃらけた口調じゃない。

リアルの時と同じ口調で、私様は締めくくった。

 

 

「どうして言ってくれなかったんですか」

 

「理解してくれるとは思わなかったからだ」

 

「……少なくとも、力にはなれたはずです」

 

 

モモちゃん、いや。失礼。これは鈴木 悟くんだね。

君は、私様――星見様に対してそう言った。

うん。リアルでは中々出来ない話をしたからかな。凄くスッとした。

リアルじゃ対等な立場の人間は少なかったからか、新鮮だ。

 

 

「まじっく☆ミさん――貴女は」

 

「星見でいいよ。鈴木 悟くん」

 

「……星見さん。

 話は分かりました。俺がこの先、リアルと同じような世界を作るだなんて。

 想像もしていませんでしたが、展開を聞いていれば、心のどこかで、納得する自分も居ました」

 

「そうだね、そこは私様もそこは思った所だ。

 けれど、馬鹿には出来ない話であり、『そうだった』話だ。

 私様が黙って君についていけば。必ずそうなっていたことだろう」

 

 

私様は、言葉を続ける。

 

 

「鈴木くん、君は、この世界をどうしたい?」

 

「……今の俺には、判断しかねます」

 

「けれど、今の君にしか聞けないことだ。

 いずれ、鈴木くんの残滓は無くなってしまうことだろう。

 だからこそ、今しかない」

 

 

我ながら、残忍なことを言っている自覚はある。

ただの一般人だった鈴木くんに、世界を左右する決断を迫るだなんて。

考える時間は、そう長くない事を加味すると、なんとも惨いことだ。

 

鈴木くんは、骨だけになった手で頭をかかえた。

ちょっと可哀想になったから、ちょっとだけ、手助けをしてあげよう。

 

 

「鈴木くん。私様は、前にも言った。

 君は最後まで私様を見捨てなかったように、私様も君を最後まで見捨てない。と。

 マジックに誓って、君を独りぼっちにはさせない、と。

 ナザリックにではなく。鈴木 悟くん、君に栄光あれ、と」

 

 

「……ええ。でも、俺は、この世界を好き勝手に変えても良いとは思えません。

 けれど、仲間を傷付けられて、平静で居られる自信もありません。

 俺は――」

 

 

どうしたら良いのか、という言葉が聞こえてくる前に。私様は、言葉を遮った。

 

 

「鈴木くん」

 

 

私様は。言葉を続ける。

 

 

「君はプレインズウォーカーだ」

 

 

呆気にとられたような表情をしているであろう彼を他所に、私様は続ける。

 

 

「プレインズウォークしてきた、プレインズウォーカー、鈴木 悟。

 プレインズウォークしてきた、プレインズウォーカー、星見 るい。

 

 これから物語は始まるのだし、物語は最初の一ページを捲ったに過ぎない。

 冒険は今、ここから始まるのであって最後の一ページを捲った訳ではない」

 

 

それは、語るような口調で。お伽噺を話すような口調。

胸に手を当てて、私様は自己紹介を始める。

 

 

「星見 るいは、青を主とするプレインズウォーカーだ。

 時におちゃらけたその口調は、物語をかき乱す。

 けれど、時に魅せる一面は、冷静沈着そのもので、何物にも邪魔されない」

 

 

ポカーンと、している君に、私様は胸に当てた手を向ける。

 

 

「さあ、君は?プレインズウォーカー、鈴木 悟くん?」

 

 

そして、そこまで来てようやく。自分が何を求められているのか分かったのだろう。

鈴木くんは、重い。いいや、『重かった』口を開いた。

 

 

「……俺は、黒を主とするプレインズウォーカーです。

 時に残忍な行動を、時に温厚な行動を取る。

 ナザリックの……リーダーにして、皆を、導くもの」

 

 

上出来だぜ。鈴木くん。

君はプレインズウォーカーだ。オーバーロードなんかじゃない。

死の支配者なんか辞めちまえ。もっと楽しく生きろ。

 

 

「二人は仲が良い」「二人の性質は真逆です」

 

「二人は仲間だ」 「二人は、仲間、です」

 

「星見 るいは、仲間を見捨てない」「鈴木 悟は、仲間を、見捨てない」

 

 

そうさ、胸に灯を燃やせ。

プレインズウォーカーの灯を。

 

 

「星見 るいは楽しく、生きていたい」「鈴木 悟は、仲間と一緒に居たい――だから!!」

 

 

灯れば、君は。プレインズウォーカーだ。

 

 

「俺は!! 仲間と一緒に居たい、から!!

 仲間と世界の全てを見て回りたい!仲間と冒険したい!仲間と未知を知りたい!!」

 

「だったら、仲間を見つけよう。新たな仲間を。協力者を。

 支配するのではなく。心を捕まえよう」

 

 

私様は星見 るいだ。まじっく☆ミは仮の姿であるように。

君は、鈴木 悟であり、オーバーロードなんかじゃない。

 

 

「やりたいことは見つかったかな?」

 

 

鈴木くんにそう尋ねれば、彼は力強く頷いてくれた。

そうさ、君は、プレインズウォーカーだ。

 

 

 



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カードリスト:15:食事をしたい☆ミ

感想ありがとさんくす☆ミ
励みになるぜ☆

前回でちょっちやりたいことの一つを書いたから☆
ちょっち省エネで書いちまったわ☆
ごめーんね☆



 

あれからというもの、モモちゃんは変わった。

 

NPCに対する反応も、支配者面するのではなく。共にゆく仲間としての対応になった。

秘密を共有するからか。私様に対する対応は柔らかなものになった。

いつか、冒険をするために、定期的に冒険の段取りを組むことを楽しみにした。

あと、二人きりの時は『星見さん』と呼ぶようになった。

 

結構☆結構☆

やりたいことを見つけた人間は強いんだぜ☆

それは素晴らしいことだ☆

 

私様は、午後の休憩タイムに。一人きりで甘いコーヒータイムを満喫していた。

べべべ別にぼっちな訳じゃないぜ☆

たまには一人きりになる時間を作らねーといけねーとおもったからであって☆

これはたまたまその時間に起きた出来事なだけであって☆

別にサボってる訳じゃないお☆ ホントだお☆ミ

 

不意に、扉の向こうが騒がしいと感じた。

つっても、ざわざわとした雰囲気があった訳じゃねー。

扉の向こうの話し声が、たまたま耳に入っただけだった。

 

 

「まじっく☆ミさんは居るか?」

 

「申し訳ございません。

 まじっく☆ミ様は只今休憩中でして」

 

 

お?この声はモモちゃんじゃん。自分から私様の部屋に来るなんてめっずらしー☆

そう思った私様。すぐに扉まで近付いて、声をかける。

 

 

「おっす☆おっす☆

 まじっく☆ミちゃんだぜ☆ ただいま留守にしておりますん☆

 ぴーっていう音の後に、ご用件をどうぞ☆ミ」

 

「――という事ですので。留守だそうです。

 伝言が御座いましたら。発信音の後にどうぞ。はい、ぴー☆っす!」

 

「あ、そうでしたか。

 これは申し訳ございません。

 私、鈴木と申します。■■■会社の営業で――。

 

 ――いや!?居るじゃん!!?

 ルプスレギナ!?お前も悪乗りが上手くなったな!!?」

 

 

なんて愉快なことになってやがった☆

るーちゃんは私様が教育しているからな☆

息はバッチリだぜ☆

 

さて、改めて扉を開けた私様。

るーちゃんとハイタッチを決めた後で。

 

 

「どした☆モモちゃん☆

 急に私様の部屋に来るなんてめっずらしー☆

 ――真面目な話?」

 

「あ、まあ。そうですね……どちらかと言えば真面目な話です」

 

 

急にスイッチを切り替えて☆真面目☆モードになった私様に

モモちゃんはついてこれねーみてーだったけど。

真面目な話なら仕方ねー。

 

るーちゃんに断って、私様の部屋の前から少し離れて貰い。

私様の部屋の前に立ち寄るものを退けて貰うように言った。

 

そうして改めて、私様の部屋に入れたモモちゃん。

「はあ」とちょぴっと疲れたような声をしていた。

私様は、コーヒーを淹れながら。鈴木くんに声をかけた。

 

 

「どうした?鈴木くん。随分と疲れているみたいじゃないか」

 

「いえ。星見さんは良いなあ、と思いまして。

 NPCとの仲が凄く良いじゃないですか?

 俺にもそんなことが出来たら、ってつい思っちゃいます」

 

「それは私様の教育の賜物という奴だよ。

 私様が得意な事があるように。君にも得意な事はある。

 砂糖は……いらないかな?」

 

「匂いだけで結構ですので。大丈夫です」

 

 

なんて雑談を交えながら、私様は彼の分のコーヒーを用意した。

そして相対するように、席に座る。

 

 

「『例の件』だね?」

 

 

短く確認するように。

指を口の前で組んで。顎を乗せる。

瞳を細めて、私様は意味深な言葉を乗せた。

 

モモちゃんは、ちょっと呆れたような顔をしていた。

 

 

「……なんですか『例の件』って、まだ何も話してませんよ」

 

「だって恰好良いだろう?」

 

「……本当に変わらないですね。星見さん」

 

「こうして見る分には、鈴木くん。君も大して変わらないよ」

 

 

ふふ。と私様は笑って魅せる。

と、同時に目を光らせた。耳を澄ませて、声に集中する。

 

この声質。

声の抑揚。

話の持って行き方。

 

ユグドラシル時代に何度も経験したから知っている。

これは、私様に何かを依頼したい声だ。

 

 

「で、どんなアイテムが欲しいんだね?」

 

 

瞬間、ごくり。と無いはずの唾をのみ込んだような音が、鈴木くんから聞こえた。

 

 

★ミ

 

 

「なるほど、人間種になるアイテム、か」

 

 

依頼内容は簡単だ。

異形種のまま、冒険に出る事は。なるほど、難しいだろう。

その為に、人間種になるアイテムを鈴木くんは望んだ。

 

だが、恐らくはそれだけじゃあない。

異形種から人間種になることで、鈴木 悟くんの残滓を取り戻したいのだろう。

なるほどなるほど。そういう事か。

 

 

「出来るよ。私様を誰だと思っているんだ。

 『大体生産系は間に合う問題児』と呼ばれたのは、伊達じゃあない」

 

「――本当ですか!?」

 

「現に、ここにサンプルがある。

 仮に、『人化の指輪ver0.5』としようか」

 

 

虚空から――インベントリから取り出すのは、私様が生産したアイテム。

銀色の指輪に空色の宝石を嵌めたそれを手にして、私様は続ける。

 

 

「これは、まだ開発途中なんだがね。

 これを付ければ、君は人間種になれるだろう」

 

「それです!!それをください!!」

 

「まあ、鈴木くんが良いなら別に良いが。

 実はそれには欠点があってね。

 正直欠陥品なんだよ」

 

 

意気揚々と指輪をつけようとする鈴木くん。

おいおい、人の話は聞いておくべきだぜ?

 

 

「付けると、人間種にはなれるが。

 1時間後に爆死する

 

 

ピシっと、鈴木くんの動きが止まった。

 

丁度、指に嵌める直前だった。

静寂が、私様の部屋に充満する。

無いはずの汗が、鈴木くんの頬を伝ったような気さえした。

 

 

「冗談だよ」

 

「おまっ!!?冗談にしては質が悪過ぎますよ!!?」

 

「話を聞かない君が悪いし、私様は何も悪くはないぜ?

 本当は、付けて24時間後に自爆する」

 

「大して変わってないじゃないですか!!やだー!!」

 

 

まあ、ぶっちゃけるとネタアイテムの一環で作ったアイテムだったのだ。

品質も材料もさほど良くない物を使ったし、狙って作ったアイテムだ。

 

 

「おいおい、だったらどのくらいで自爆するのが良いんだい?

 まさか付けて1分後とか言わないだろうね?中々面白いじゃないか!」

 

「そもそも自爆するのを止めろって言ってるんですよ!!この馬鹿害悪!!」

 

 

くつくつと笑う私様に対して、叫ぶ鈴木くん。

ユグドラシル時代に何度も見たし、経験した光景だ。

 

私様、手慰みに作るアイテムは大抵がネタアイテムだ。

依頼されたアイテムとあれば、マジになって作るが、それ以外だと趣味が出る。

 

さて、冗談はここまでにしよう。

 

 

「ver2.0なら、あるぜ?

 これも欠陥品だけどな」

 

「……また自爆するとか言いませんよね?」

 

「失礼な。私様を誰だと思っているんだい」

 

「害悪、最悪、問題児」

 

「ぐうの音もでねえ」

 

 

私様は呆れた表情をする鈴木くんを他所に。

手のひらの上でころころと指輪を転がす。

オリハルコンとヒヒイロカネ、少量の熱素石(カロリックストーン)を散りばめた。見た目『面白くない』指輪だ。

 

 

「これを付けると人間種になれる」

 

「……デメリットは?」

 

「困ったことに、これが無いんだよ。

 実に面白くない。捨てるべきだ。

 私様が今持ってるのは奇跡とも呼べるね」

 

 

しんと、静まり返る。私様の部屋。

おや?やはり何か面白みに欠けただろうか。

私様がそう思った所で。

 

 

「お願いします!!それを譲ってください!!」

 

 

鈴木くんが綺麗な土下座をした。

いや、ちげーな。椅子の上で土下座してるんだから正確には……なんて言うんだろうな?

 

 

「――別にいいぜ。ほらよ」

 

 

まあ、私様にとって別にどうでも良いアイテムだから。

別に渡すのは良い。そう思って鈴木くんに投げ渡すと、彼は焦ったようにそれを受け取った。

ナイスキャッチ!俺!と聞こえたのは、恐らく空耳じゃねーだろう。

 

 

「――さて、それで対価の話をしようか」

 

 

私様は口を歪めて、そう言う。

けど。

 

 

「一緒にご飯食べながらな☆」

 

 

ぶっちゃけそろそろ疲れたし☆腹も減ったから飯にしようず☆ミ

 

 

★ミ

 

 

そうして私様達はナザリック一般食堂までやってきたんだが。

食事をしていた一般メイドの手が止まった。動きが止まった。

顔は青ざめて、中には震えるものも居た。

 

豆知識だけど。

国王陛下とか偉い偉い目上の人が来たら、先に食べてはいけないんだぜ。

テーブルでは最初の一口を召し上がるのが習慣で。食事を終えたら、他のものもそうしなければならない。

 

 

「ん☆ 遠慮することはないぜ☆

 ご飯を食べ続けなよ☆ 生産者に失礼だぜ?」

 

 

でもまあ、ぶっちゃけ必要ねーだろ☆んなもん☆

美味くご飯が食べれればそれで良いんだぜ☆

 

どんだけ目上の奴がこよーが、気にしてたらご飯が不味くなる。

それは生産者にとって非常に失礼な事だ。

ま、私様は農民(ファーマー)じゃねーから生産者かと言われると怪しいけどな☆ミ

 

見れば、食券機の前に長い行列があった。

丁度お昼頃だったからかな。ちょっち混んでる☆

 

 

「あちゃー☆タイミング悪かったなモモちゃん☆」

 

「そ、そうですね」

 

「どした☆ モモちゃん☆ お腹いっぱいか☆ミ」

 

「い、いえ。ちょっと他のメイド達に迷惑じゃなかったかな。と」

 

「ま、確かに迷惑だったかもな☆

 でもモモちゃん。知らねーだろーけど☆ ご飯は皆で食べると美味いんだぜ☆ミ」

 

 

そう語っていると、目の前にあった長い行列がみるみるうちに霧散していくではありませんか。

これはあれだな?遠慮して先に譲ってくれたんだな☆ミ

 

私様は遠慮なく食券を買いに向かうが、モモちゃんはちょっと唖然としているみたいだった。

善意には応えるのが吉だぜ。モモちゃん☆

 

 

「おーいモモちゃん☆ 先に頼んじまうぜ☆ミ」

 

「あ、はい……」

 

 

と、ここで私様。面白いことを思い付いた☆

 

 

「焼き肉食わねーか☆ モモちゃん☆」

 

「は?」

 

 

食券機にないメニューを頼んだら、面白くね?ってな☆ミ

普段なら絶対許されねー事だけど、私様。ちょっと我儘を通してみたくなった☆

 

 



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カードリスト:16:食事をしよう☆ミ

『人化の指輪ver2.0』を指に嵌めたモモちゃんは、わりかし普通だった。

黒髪、黒目の20代のサラリーマンを代表する普通さで。

私様も、ちょっち言葉を失った。特徴的な特徴も無いような普通さで。

普通な事が特徴なくらい、普通だった。

 

 

「変、でしょうか?」

 

「あー。いや。なんて言うかな。普通だわ☆」

 

 

それを聞いて、ホッとするモモちゃん――いや、鈴木 悟くん。

そう言えば、私様は、彼のリアルの姿を見た事がない。

オフ会に参加することは立場上無かったし。出来なかった。

ここまで普通だと、何か特色を足したくなるのは職業柄か。

惜しいことをしたかな。と私様はちょぴっと思ったりもした。

 

さて、気を取り直して。焼き肉を頼もう。

私様は、調理場の前の台座を前にした。

 

 

「ご注文を、どうぞ!!」

 

「焼き肉☆

 ああ、もう焼いてる奴じゃねーぜ☆

 出来れば炭火で。網を乗せて。焼くのを楽しみてーな☆

 肉は――特上を、たくさん☆」

 

 

瞬間、調理場に緊張が走ったのが見えた。

ひゅっ、と声が無くなるのを感じた。

 

出来ない、と言うのなら、ここが最後のタイミングだ。

私様は、無茶は言うけど。無理は言わない。

出来ない事を出来ないと言って、何を恥じる事があるのだろうか。

 

私様も、悪ふざけが過ぎたのなら謝るし、今からでも注文を取りやめる。

そうさね。数瞬。数瞬だけ間が空いたのを、私様は見逃さなかった。

『出来るか、出来ないか、じゃない。やるんだ――。だが、本当にやれるのか?』

 

なんだか社畜根性が垣間見えたような気がして。

私様も、悪いことをしたかな。と思った瞬間だった。

 

 

「焼き肉!!特上たくさん!!注文承りましたぁ!!」

 

 

料理長と思わしき人影が、声をあげた。

『やれる、やるんだ』と意思の力を含んだ目をしていた。

良いシェフだ。大成するぜ。と私様は心の中でそっと笑ってみせた。

 

 

★ミ

 

 

肉の美味さとは、風味、うま味、柔らかさであると思うんだ。

 

少なくとも、焼き過ぎてゴム状になった肉はどんな肉でも台無しだし。

下味を付けない肉は、肉本来の味を生かすに留まる。

私様は、コショウで下味をつけた肉が好みだった。

勿論。タレでまぶした肉も好きだが、網が汚れるから苦手だった。

 

 

「鈴木くんは、どんな肉が好きだい?」

 

「ちょっ、まじっく☆ミさん!!周りにメイドが居るんですよ!?」

 

「構うものかよ。食は誰にとっても平等に与えられた権利だ。

 それを取り上げるだなんて、拷問も良い所だ。

 自由だ。食の時は、常に自由でなければいけない」

 

「え、えと。星見さん?」

 

「なんだね?」

 

「申し訳ないんですが、俺。焼き肉を食べるのは初めてで……。

 どの肉が好きかと言われても……」

 

「――そうか。ごめんな」

 

 

しょんぼりとした顔になった私様。

そうか、そうだよな。低層の君には、食の自由さえ奪われていたのか。

ますます、リアルで会った事がない事が悔やまれる。

もっと早く、その境遇から救っていれば、と今更の『もしも』を考える。

 

 

「まじっく☆ミ様」「モモンガ様」

 

 

と、そこへプレアデスの二人。

ルプスレギナ・ベータとナーベラル・ガンマ。

どちらも、自然な雰囲気で。私様達の前に現れた。

 

 

「お席を確保して参りました」「どうぞ。ごゆるりと」

 

 

おや、と私様は目を丸くした。

人化の指輪で人化しているのに、ナーベラルが嫌悪していないのには、ちょっち驚いた。

あと、人化しててもモモちゃんってちゃんと分かるんだね。結構意外だった。

まあ、装備が一緒なんだから、当然か。と私様は思い流した。

 

 

「ご苦労様、るーちゃん☆ なーちゃん☆

 褒美に同席する権利をあげようじゃないか☆ 良いよな☆ 鈴木くん☆」

 

「……ああ、そうだな。

 ナーベラル。ルプスレギナ。私の真の名は鈴木と言う。

 ……どうか、秘密にして欲しい」

 

「私様は星見☆

 気軽に星見ちゃんって呼んでも良いぜ☆ミ」

 

「「身に余る光栄、感謝致します」」

 

 

さて、席の確保は出来た。

私様の席は、中央。ど真ん中の席だ。

ぽっかりとドーナツ状になるように、その周辺にはメイド達の姿がない。

気にしねーってのに☆ ま、無理もねーか☆

 

 

「るーちゃん☆

 ちょっちビールをいくつか持ってきてくんね☆」

 

「了解したっす!!」

 

「ナーベラルは何が飲みたい……のだ?」

 

「私はモモ……鈴木様と一緒であれば何でも」

 

 

未だに敬語が取れてねー鈴木くんと、呼び慣れてねー呼び名に困惑してるなーちゃん☆

うんうん☆それも良きかな☆

 

この際だ、最初は皆、ビールで乾杯といこうじゃないか。

そう私様が言えば、鈴木くんもそれに同意してくれた。

ルプスレギナとナーベラルも同様だ。

 

さて。私様は、焼き肉と言えばビールかリンゴ酒が良い。

口に残った、しつこい油をリフレッシュ出来るからだ。

 

ギトギトした油は、程度はあれど飽きが来てしまう。

それを加味するに、ビールで良いと思った。

 

 

「では☆

 乾杯の音頭はナザリック大墳墓のギルマスが~☆ミ」

 

「ちょ、ちょっと聞いてないですよ星見さん!!?

 ……か、乾杯!」

 

 

ああ、面白れぇなあ☆

 

 

★ミ

 

 

先にコショウをまぶした肉を、そっと鉄網の上におく。

鮮烈な赤色をした肉がじうじうと焼けていき、トロリとした琥珀色の汗をかきだす。

やがて、唾液を誘うその匂いが辺りを充満して、思わず顔が綻ぶ。

 

炭火で焼いているから、こんがりと香ばしい。こうすると肉のうま味が増すのだ。

ひっくり返すと、まだ、ところどころが赤い。けれど。これで良い。

 

私様は、レアが好みだ。

柔らかい肉質の旨味と、肉汁が噴き出すのが、どうしようもなく好きだ。

私様は、ウェルダンが好みだ。

しっかりとした肉質に、噛み応えを感じて。幸せを感じるのが好きだ。

 

肉は、美味い。

焼き肉は、美味いのだ。

 

皆で、わいわいと騒ぎながらの焼き肉など、最高だ。

そこにマナーは必要ないし、必要足りえない。

リアルでは出来なかった事を、今、実現しよう。

 

 

「るーちゃん☆

 ほーれ☆新しいお肉よ☆ミ」

 

「ありがとっす! 星見ちゃんは野菜食べるっすか?」

 

「食べるー☆ あ、るーちゃんお芋好きだったよな☆ミ あーげる☆」

 

「わー!嬉しいっす!!」

 

「ルプー、不敬よ」

 

「いいや、ナーベラル。これで良い。これが良いんだ」

 

 

★ミ

 

 

口に運ぶ、ピーマン特有の苦みが心地良い。

玉ねぎのピリッとした辛みと甘味が素晴らしい。

こうして、口の中を一度リセットするのだ。まっさらにする。

 

私様は、どちらかと言えば野菜はシャキシャキとした食感を楽しむ派だ。

しなしなとなった野菜にタレを漬け込むのも、勿論好きだ。

だが、どちらかと言えば私様は、新鮮な野菜の味を楽しむのが好きだった。

 

 

「うめー☆

 肉も、うめーし。

 ビールも、うめーし。

 野菜も、うめー☆

 これ最高かよお!!」

 

「良く食べるっすねー。星見ちゃん」

 

「ああ、そうか。

 星見さんはホムンクルスだったから、人一倍食べるのだな」

 

「軽く数人前は食べていますね。

 見てるこっちがお腹一杯になります」

 

「ふふ、そうか。

 楽しいな……」

 

 

★ミ

 

 

あれから、暫くが経った。

私様が満足するまで食べ終わると、皿の山が出来ていた。

鈴木くんとルプスレギナとナーベラルは既に食べ終わっていた。

もっぱら、鈴木くんの話題で盛り上がっているようだった。

 

MTGの事で盛り上がったり。周囲の村に行った時の事を語ったり。

その際に感じた事について、色々と考察しているようだった。

 

鈴木くんは私様の全知と未来予知で得た情報を持っているからこそ、色々と視点が異なり。

ルプスレギナとナーベラルは話に置いてかれてしまっていたが。

それでも楽しそうだった。

 

変に畏まるかと思ったが、そこは酒の力だ。

ほろ酔いの私様達は、程よく口が回り、色々と話したりもした。

 

 

「そうだ。星見さん。

 対価の件は、どうなったんですか?」

 

 

不意に、思い出したように、鈴木君はそう言ったが。

 

 

「対価は、もう貰ったからな☆

 その指輪は、鈴木くん、君のものだ☆」

 

 

思い出という金では買えない対価は、実に私様を満足させた。

 

 

 

 

 

翌日、私様とモモちゃんは二日酔いになった。

あったまいてぇ……。

 

 



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カードリスト:17:悪戯とか☆ミ

どーでも良い事言うね☆

前話でご飯の描写してたらちょっちお腹空いた☆
カップ麺食べた☆
美味しかったです(小並感)


私様は弱い。

 

なにを今更、って思われるかもしれねーけど。私様は、とてつもねー程に弱い。

この世界じゃそこまで気にならねーかもしれねーが、ユグドラシル時代は何度もPKされた。

 

まあ、その度にちょっとした嫌がらせをしてやったりもした。

だがゲームの方で嫌がらせをしようにも、ほら。私様ってよえーから。仕返しも出来ねー。

だから嫌がらせをしたのは『リアル』の方であって。ちょっとしたプレゼントをしてやった。

 

ああ、嫌がらせっても本当に嫌がらせをした訳じゃねーぜ?

私様も、そこまで子供じゃあない。

 

例えば、自宅に頼んだ覚えのねー出前を取らせたり。(金は私様が支払った)

例えば、実家に高級品の野菜を文字通りに腐る程送りつけてやったり。

例えば、勤め先の会社の上司から覚えのない事で褒められさせたりもした。

 

それらに、一筆、あるいは一言。付け加えて。

『この前のお礼です』ってな☆ミ

 

こうすれば、大抵の人間は。再びPKをする事は無くなった。

掲示板に書き込む事もしなくなったし。私様の情報が漏れる事もなかった。

 

ただ、PKした奴らは揃って、被害者面していたのが興味的だった。

警察に駆け込んだり、運営に問い合わせたりした。

 

その度に私様は、追加でもう一筆。書き足したのだ。

 

『お前を見ているぞ』

 

ってな☆

 

 

★ミ

 

 

「どんなホラーですか、それ」

 

 

モモちゃんは、私様の話を聞きながら。ちょっち身体を震わせていた☆

寒いのか、モモちゃん☆暖房器具必要かな☆ミ

なーんて思いながらも、私様。モモちゃんの部屋でくつろいでいた☆

 

他愛のない雑談をするにあたって。

ユグドラシル時代の私様の事を聞かれたから答えただけなのに、酷い言われようだ☆

 

ギルドに所属してなかった頃はそんな事をしていたんだぜ☆

ま、アインズ・ウール・ゴウンに所属してからは、もっぱらナザリックに引きこもってたから。

そういう事をする頻度は減ったんだけど。

 

 

「ああ、『そこにいるだけの害悪』ってそう言う……」

 

「何を納得したのか知らねーけど、まあ。『害悪』って呼ばれ始めたのはそっからかな☆」

 

「PKしたらリアル特定されるとか、可哀想に……」

 

「誓って悪用はしてねーぜ☆ むしろ良い事してあげたんだから。感謝して欲しいくらいだぜ☆」

 

「いや、最後の一文とか、ホラーでしかないですよ……」

 

 

もし自分に起きたら、人間不信になりますよ。

とモモちゃんは締めくくった。

そんなもんなのか。と私様は茶菓子に手をつける。

 

もっぱら、悪戯する側の人間だったからか。そういう後始末の心配はしたことがねー☆

こうすれば私様が面白く、愉快だから。って理由でやった事だからかな☆

 

あ、良い事思い付いたお☆

 

 

「鈴木くん。良い事思い付いたぜ☆」

 

「うわあ」

 

「なんだいその反応は☆

 まるで厄介事が起きたみたいな反応じゃないか☆」

 

「これから厄介事が起きるので間違いではないですね」

 

 

まったく、人を厄介事ばかり起こす問題児みたいに

――いや、そう呼ばれてたから間違いじゃねーわ☆

 

いやいや。違うぜモモちゃん☆

私様が考えたのは、各階層守護者達にもっと仲良くなって貰おうってだけのアイディアだ☆

 

プレアデス達と私様との仲は良好だ。

けれども、よくよく考えたら階層守護者達とコミュニケーションを取る機会が、あんまりにも少ない。

だから今回は、それを設けるってだけの話だぜ☆

 

それを聞いたモモちゃんは、暫く考えた後。

指先の『人化の指輪ver2.0』に視線を落とした。

 

 

「俺が人間になれる事を知らせられる、良い機会でもありますね」

 

「だろ☆ 一石二鳥のアイディアだ☆」

 

「星見さんがこんなまともな事を考えるだなんて。

 今日は槍でも落ちてきそうですね……」

 

「ははは☆ もっと褒め称えたまえよ☆ミ

 

 

 ――この時、モモンガは気付くべきだった。

 星見 るいが、まさか、あんなことになるだなんて……☆」

 

「やめてくださいよ!? 不吉な!!?」

 

「あは☆ 冗談だぜ☆ 冗談☆」

 

 

そう言って私様は段取りを始めた。

時間は今から一時間後。

第六階層にて、第四、第八を除く各階層守護者達に向けて。

まじっく☆ミ交流会を行うこと。

持ち物は、お弁当とかおやつとか自由な☆ と。

 

そう、アルベドに伝えるように、モモちゃんに頼んだ。

「なんだか、転移してきたあの時みたいですね」とか言いながら。

モモちゃんは二つ返事でそれを承諾し、伝言(メッセージ)でアルベドに連絡した。

 

 

さて☆面白くなってきやがったぜ☆

 

 

★ミ

 

 

各階層守護者達と仲良くなりたい。

それは確かに今回の狙いでもあるし、それが叶えば私様にとってそれは非常に喜ばしい事だ。

ただまあ、当然と言っちゃなんだけど。私様の本当の狙いは他にある。

 

どうも、各階層守護者達の間で、私様が持ち上げられ過ぎている気がしたのだ。

確かに、私様が初めて第六階層の闘技場で起こしたヘイトスピーチは衝撃的だったろう。

確かに、でみちゃんの世界征服を読んだ様に見えたのは異常だったろう。

 

プレアデス達から聞いた噂によると。

『信じられない程に知慮深い御方』

『未来を予知する力を持った御方』

『どうしようもなく慈悲に満ちた御方』

 

と、階層守護者達の間で噂になっているらしいのだ。

一部は合ってるだけに否定しにくいが。

私様は元々、『害悪』で『最悪』な『問題児』だ。

『弱く』て『引きこもり』で『ただの生産職』なのだ。

 

どうも、ここまで食い違いがあると。私様も少しくすぐったい。

その評価を崩したくて。今回の交流会を企画した訳なんだけどさ。

事態はどうも私様が考えてるよりも深刻だったみてーだった。

 

 

「ん☆ミ」

 

 

モモちゃんより一足早く第六階層の闘技場に到着していた私様を待っていたのは。

観客席全てが埋まらんばかりのNPC、あるいはモンスター達。

( ,,`・ω・´)ンンン?おかしいぞ?私様が考えていた交流会とはちょっち違う雰囲気だ。

 

なんだか今から闘技場で決闘が行われるような雰囲気で。

まるで観客席にいる奴らは、それを今か今かと待ちわびているようだった。

 

どういうことだってばよ☆

 

私様が唖然としていると、途端。闘技場が真っ暗になる。

数瞬して、スポットライトを浴びるのは、デミウルゴス。それにアルベド。

 

 

「お待たせいたしました。

 今回行われるのは、まじっく☆ミ交流会――とは名ばかりの」

 

「まじっく☆ミ様による。まじっく☆ミ様のご威光と、その本当の実力を。

 我々に実演して頂けるご機会、でございますよね?」

 

 

瞬間、私様にもスポットライトが当たる。

 

でみちゃんとあーちゃんはこっちを向いている。

その瞳は、期待に満ちており、他のNPCやモンスター達も同様だ。

 

なるほど?これは私様に対してのビックリ☆ドッキリ悪戯企画☆なのだろう。

仕掛けられるのは初めての機会だけど、この際だ。ノリに乗ってしまおう。

 

 

「そうそう☆ミ

 これは私様による私様だけの私様からの企画であり☆

 ここまで彩りをして貰った二人に感謝をしたいな☆ミ」

 

 

瞬間、地震と雷が同時に起こったかと思ったぜ☆

見れば、歓喜の叫びと、喜びのあまりに足踏みをした観客席の連中が起こした様だった☆

オイオイ☆ そこまで喜ぶなよ☆前振りにノッてあげただけだぜ☆

 

それに。

と私様は笑みを浮かべる。

 

私様に対して悪戯するだなんて。良い度胸だ☆

ああ、楽しみだ。いつネタばらしをするのだろう☆

そこから私様が本当の悪戯というものを見せてあげたい☆ミ

 

 

「では――最初の相手は。

 ナザリック地下大墳墓5階層――コキュートス!!」

 

「至高の御方、モモンガ様と並ぶ、いと尊き御方に!

 コキュートスはどこまで挑む事が出来るのでしょうか!!」

 

 

瞬間。パッと明るくなる闘技場。

 

目の前に居たのは、コキュートス。

2.5メートル程の巨体は、私様が見上げてしまう程だ。

傍から見れば、まるで私様が小人のように見えたことだろう。

 

4本の手には、

神話級アイテム「斬神刀皇」

白銀のハルバートである「断頭牙」

ブロードソードとメイス

が握られている。

 

( ,,`・ω・´)ンンン?おかしいぞ?(ストーム2)

あれは確か、私様が知る限り、コキュートスの本気の装備だったはず。

悪戯にしては大仕掛けだな☆コキュートスもノリが良い☆

 

オイオイ☆そろそろネタばらしの時間だぜ?

コキュートスの顔を見ろよ☆ ちょっち本気モードじゃんか☆

 

 

「至高の御方に挑めるなど、この身に余る光栄。

 ――感謝致します」

 

 

あれ☆おい☆ミ

止めない感じ?そろそろ私様がミンチよりひでぇ☆状態になっちまうぜ☆ミ

 

止めるならここが最後のタイミングだぜ?

と、でみちゃんとあーちゃんに目配せすると――。

 

 

「では! 早速ですが開始させて頂きます!!」

 

「至高の御方による御力を、とくとご覧あれ!!」

 

 

オイ☆始まっちゃったぞ☆ミ

オイオイ☆冗談はよしこちゃんだぜ☆ミ

 

オイオイオイ☆死んだわ私様☆

 

 



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カードリスト:18:宿敵とか☆ミ

私様 対 コキュートス。

 

先手を取ったのは、意外や意外、私様だった。

 

 

「Black Lotus」

 

 

世界級アイテムの一つを切り、辺りに黒い水蓮が咲き乱れた。

アイテムリキャストタイムを0にする――砂時計型の課金アイテムを手で握り割る。

そして、コキュートスから距離を離し、私様のカード達を取り出す。

 

その間。コキュートスは礼儀正しく、待っていた。

 

 

「は?」

 

 

私様の口から、間抜けな声が出た。

手数にして――四手。彼は何もしなかったのだ。

むしろ。

 

 

「おお、これが至高の御方による『カード』の力……!」

 

「ご覧ください。これが至高の御方にのみ持つことを許された世界級アイテムです。

 解説のデミウルゴス。あれをどう思いますか?」

 

「どうもこうも、素晴らしいという他ないよ。アルベド。

 話によればあれは、とてつもない力も持つと言う。ここからが楽しみで仕方ないよ」

 

 

呑気にそれを眺めて感嘆していたり。毒にも薬にもならねー解説なんかもしていたりもした。

さて、ここで私様は思案する。

……何故、ここで私様が考えなきゃならねーのか分かんねーが。

 

これでコキュートスは『詰んだ』

 

ぶっちゃけると、『勝敗は決した』のだ。

 

私様はその場に座り込むと。コキュートスに話しかける。

 

 

「ちょっち☆ お話しよーぜ☆ こーちゃん☆」

 

 

敗者に対しての、感想戦を始める為に。

 

 

★ミ

 

 

突如、闘技場に座り込んだまじっく☆ミ様に、

コキュートスもアルベドもデミウルゴスも、その他も。思わず目を疑った。

コキュートスの戦闘力、及び戦術眼は、高い。

至高の御方にしても、ある程度の戦いにはなる程に。

 

だと言うのに、目の前の光景はなんだ。

まるでもう戦いは終わったかのように。至高の御方は振舞っている。

 

 

「何の真似ですか、まじっく☆ミ様」

 

「感想戦の時間だよ☆

 コキュートス。お疲れ様だお☆」

 

 

不敬と思われるかも知れぬ。

が、コキュートスは冷気をまき散らした。

 

まだ戦いは始まってさえいないのだ。

まだ剣を、槍を、武器を一振りさえしていないのだ。

まだ至高の御方の御力を引き出してすらいないのだ。

これは戦闘に対する侮辱ととらえても仕方のない事だ。とさえ思った。

 

 

「まだ戦いは始まってさえおりませぬ」

 

「そうかな☆ミ

 私様が考えるに、もう終わってるぜ☆

 

 ――君は、ここから五手で詰むんだから☆」

 

 

ざわざわと、闘技場に集まったNPCやモンスター達が騒ぎ始める。

デミウルゴスは、声を失い。アルベドもまた、言葉を無くしていた。

 

勝利宣言だ。

 

聞き間違いなどではない。

まじっく☆ミ様は、本当にここから五手で勝つつもりだ。

これ以上の戦いは不要とし、余計な手間を省こうとしている。

 

 

「こーちゃん☆ お話をしようぜ☆

 

 ――何故、最初の四手、君は動かなかった?

 戦闘を舐めているのか?」

 

 

瞬間。コキュートスは思わず身震いをした。

だが、声を出せたのは僥倖とも言えた。

何せ、至高の御方によるご質問だ。答えねば、不敬では済まない。

 

 

「……失礼ながら、まじっく☆ミ様は。生産職でございます。

 戦闘には不向きかと思い、準備が終わるまで待った次第です」

 

「なるほどね☆合点がいったわ☆ミ

 ……なめてんじゃねーぞ?」

 

 

一瞬だけ、まじっく☆ミ様は口調を戻したが。

それも束の間、また冷たい言葉を口にした。

今度こそ、コキュートスはあまりの冷たさに身を凍えさせられた。

 

まじっく☆ミ様は続ける。

しなやかに、四本の指を立てて。

 

 

「四手、四手だ。

 これはコキュートス。君なら分かると思うが。

 相当なハンデだ。それこそ、弱者に対する行動であって。

 私様達プレイヤーにすることじゃあない。

 

 私様達プレイヤーは、最後まで何をするのか分からねー。

 それはこの世界の住民に至るまでそうだし。同じことだ。

 コキュートス。君は私様とこの世界の住民を侮辱した」

 

 

無論、コキュートスにそのようなつもりは微塵もなかった。

ただ、万全の状態で戦闘をして欲しかった。それだけだった。

 

戦闘に対する経験が、コキュートスには足りなかった。

だから、君は悪くないんだぜ。コキュートス。

油断をしても、怠慢したとしても、思考破棄しても。

君は悪くないし、私様が悪い。

 

まじっく☆ミ様は、そのように言われた。と思う。

思う、というのは、思考が止まってしまっていて。思う様に声が聞こえなかったからだ。

 

不意に、それまで感じていた圧力がフッと消え失せた。

まじっく☆ミ様を見ると、いつもの笑顔に戻っていた。

 

 

「悪いな、こーちゃん☆

 厳しい事を言ったようだが。これは君の為を思っての事だ☆

 ……で、まだやるかい☆ミ」

 

「――無論、続けます。

 例え既に詰んでいたとしても。最後まで続けるのが礼儀です」

 

「そうだね☆

 私様も全力で立ち向かおうじゃないか☆ミ」

 

 

残り五手。

コキュートスに残された時間は、あまりにも短い。

 

 

★ミ

 

 

やっべー☆

恰好付けてあんな事言っちゃったけど本当に五手で詰むかな☆

私様、ちょっち調子に乗っちまったぜ☆ミ

 

さて、コキュートスだけど、あれで戦意喪失しなかったのは褒めても良い☆

ちょっち怒っちゃったけど☆あれで終わるのもつまんねーしな☆

さて、コキュートスに出来る最善手は、だ。

 

 

「行きます!!」

 

 

そう、真っ直ぐ突っ込んで来ることだ。

私様、言われた通り生産職だから、本当に弱っちい。

攻撃の一撃一撃を受けるだけで致命傷になり得るし。

だからこそ、コキュートスに先手を取られたらいよいよ死ぬしかねーなって思ってたんだけど。

 

 

「真の名の宿敵/True-Name Nemesis

 ――プロテクション、コキュートス」

 

 

残念ながら、これでほぼ詰みだ。

さてさて☆解説の時間だぜ☆

目の前に現れた半魚人。マーフォークなんだけど☆

スタッツは3/1。正直このままじゃコキュートスの一撃にも耐えられる訳がない☆ミ

だけど。

 

 

「なっ!?」

 

 

おお、スゲーな。

神話級アイテム「斬神刀皇」も

白銀のハルバートである「断頭牙」も

ブロードソードとメイスも、全部掴み取りやがったぞネメシス☆

まるでダメージも受けてねー☆

 

まあ、当然なんだけどな☆

タネを明かすと、これはプロテクション(コキュートス)のおかげだ☆

コキュートスによるダメージは受けねーし。

コキュートスによる魔法は対象を取れねーし。

そして防御すら許さない。

 

無敵のクリーチャー☆と言いたいんだけど☆

プロテクションに取れる対象は一人だけなんだよな☆

だからこそ、この世界じゃ微妙扱いしてたんだけど。

こういう機会があるなら丁度良い☆

 

 

「チィッ!!」

 

 

おっと、コキュートスは武器を手放したか。

それは――

 

 

「Mox Sapphire

 Mox Jet」

 

 

悪手だぜ。コキュートス。

 

 

「Time Walk」

 

 

★ミ

 

 

さて。時間が凍結した世界の中に、私様は居た。

『真の名の宿敵/True-Name Nemesis』は動いているから、私様がコントロールするクリーチャーは、適応範囲外なんだろうと思う。

この辺りは、ゲームと同じなんだな。

 

さて、それじゃあ生産の時間だぜ☆

 

神話級アイテム「斬神刀皇」も。

白銀のハルバートである「断頭牙」も。

ブロードソードとメイスも。

 

全部が全部。私様の手によって『最大強化』してあげようじゃあないか☆

 

((私様☆生産中☆ミ))

 

それを全部ネメシスに装備させて――おお、恰好良いぞネメシス☆

ちょっとしたモンスターみてーな見た目になってやがる☆

 

さて。そして時は、動き出すぜ☆

 

 

「まだやるかい☆ミ」

 

 

私様は、コキュートスに向けてそう言う。

先程から、私様の位置は変わらず、座ったままだ。

 

コキュートスは武器を持たず、手ぶらで。

ネメシスは四つの武器を装備している。

まあ、これで降参してくれねーと私様の☆五手詰み計画☆は破綻するから。

粘られると、正直恰好が付かないんだけど☆

 

 

「まだ、やれます!!」

 

 

わーお、☆五手詰み計画☆破綻のお知らせだぜ☆ミ

まあ、良いか。心が折れるまでやろう☆ミ

心を折るのは、青の専売特許ってな☆

 

あーあ☆格好悪くなっちまったぜ☆ミ

 

 

★ミ

 

 

ここまでか。

デミウルゴスは、抵抗するコキュートスに対して攻撃を続ける怪物を見ながら、俯いた。

コキュートスは四つの腕で防御しようとするが、上手くその隙間を縫うように武器を扱う怪物を見て舌を巻いた。

 

あれが、まじっく☆ミ様の持つカード。その力の一部ですか。

コキュートスの攻撃を軽く受け止めた時は、幻かと思ったが、どうやらそうではなかったらしい。

『妙に攻撃力の上がった』武器を使いこなし、まじっく☆ミ様の指示も受けずに立ち回る怪物。

思わず、汗が頬を伝う。

 

あれさえいれば、私共は必要ないのではないのか。

と思う程に、あの怪物は途轍もなかった。

 

まじっく☆ミ様は、相変わらず同じ場所に座ったままだ。

『五手で詰む』 その宣言をしてから、実際まじっく☆ミ様が動いたのは『三手』

怪物を生み出し、宝石を二個作り出した。それだけ。

 

指示らしい指示はまるで出していないし。

魔法らしい魔法は見受けられなかった。

つまりは、『最悪でも五手』で詰む予定だったのであり。コキュートスは『悪手』をしたことになる。

 

失望されないだろうか。

デミウルゴスは、不意にそう思った。

友であるコキュートスが良く使う言葉だ。

 

失態を犯した訳ではない、が。

至高の御方による読みから外れた行動を取ってしまった事は確かだ。

 

コキュートスの外殻は、次々とひび割れ。役割を為さなくなっていく。

友が戦う姿を見て、無残にも負けそうになっている姿を見て、心が痛む。

もう勝敗は喫していたのだ。

まじっく☆ミ様が、座った瞬間から。

もう負けても良いんだよ、コキュートス。

 

デミウルゴスは、そう思わずには居られなかった。

 

だから。

 

 

「私様の負けだぜ☆」

 

 

その言葉を聞いた時には、思わず耳を疑ってしまった。

 

 

「良い根性してるじゃねーか☆こーちゃん☆

 私様の方が心が折れちまったぜ☆」

 

「身、に余る、光栄、です……」

 

「無理して喋るんじゃねーよ。私様達は仲間だろ?」

 

 

見れば、あの悪夢のような怪物はどこかへと霧散し、消えていた。

暴風の様に扱っていた、コキュートスの武器だけを残して。

 

 

「あーあ☆ 勝てなかったぜ☆

 格好悪い所見せてごめんな皆☆ミ」

 

 

けらけらと笑うまじっく☆ミ様。

 

慈悲深き御方。知慮深き御方。

 

どうか。

どうか最後までお仕えさせてくださいませ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あっぶね☆

 勢い余ってコキュートス再起不能にする所だったわ☆

 五手で詰め切れなかったし失望されちったかな☆

 ま、まあ?私様のイメージを崩す為だったから結果オーライ的な☆ミ

 あとでモモちゃんに怒られないといいなぁ……)

 



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カードリスト:19:寸劇とか☆ミ

地味に難産だった回。
荒いさんが多いから見逃してくれよな☆


さて、一対一の対決が終わり、私様はコキュートスに『最上位の』ポーションを渡した。

勿論、私様手製のアイテムであり、ちょっち本気で作ったアイテムの一つだ。

まあ、だからと言って私様のこれ、数に限りこそあれど貴重な訳ではない。

どうせまた作れば良いだけのアイテムだ。材料はまだまだ残っているしな☆

 

 

「こーちゃん☆ これで回復したまえ☆」

 

「私などには、勿体ない、もの、です」

 

「オイオイ☆

 私様の厚意を踏みにじるつもりかよ☆

 それにボロボロのボロじゃねーか☆

 いいから飲め飲め☆グイっといっとけ☆ミ」

 

 

無理矢理、瀕死のコキュートスの手にポーションを握らせると。

コキュートスはそれを大切そうに口にした。

私様はニヤリと顔を歪める。

 

『一滴飲めば舌が痺れ。一すすりで心臓がドクン、と早鐘を打つ。

 そして一飲みすれば――。身体を鍛え直す』

 

たしか、私様手製の『最上位の』ポーションはそんなフレーバーテキストを書いていた筈。

丁度良い実験だ☆どんな効果があるのか見てみよーじゃねーか☆

などと考えていると。

 

一瞬。コキュートスの身体が大きく跳ねた。

そして素早く立ち上がり、私様の前に片膝を付いて、頭を下げる。

 

傷は――見当たらない。それどころか、ひび割れていた筈の外殻も元通りに戻っている。

いや、ライトブルーの外殻が少しばかり輝きを増している事から、前とは少しばかり様子がちげーな☆

 

 

「調子はどうだね。こーちゃん☆」

 

「万全……いえ。万全以上です。

 あのような貴重なものを賜り、恐悦至極に存じます」

 

「ま、在庫はあとそんなにねーからな☆

 そう思ってくれて何よりだ☆」

 

 

さて。と私様は視線をデミウルゴスの方へと向ける。

手札は晒した。ネメシスが有用な時点で、一対一が意味を為さねーのは良く分かって貰えたと思う。

私様も、二度三度同じことを繰り返すつもりはねーぞ☆

と、アイコンタクトを図ると、デミウルゴスはコクリ、と頷いた。

分かってくれたらしい。

 

 

「では次は、ナザリック地下大墳墓 第一から第三階層守護者

 シャルティア・ブラッドフォールンで御座います!!」

 

「御方の御力は良く分かったことでしょうから、今度はシャルティアの望む方式での挑戦となります!!」

 

 

コキュートスと入れ替わるように。シャルティアが闘技場に入ってくる。

 

長い銀色の髪を片方に纏め、真っ白の肌に漆黒の舞踏会用ドレスが良く似合っている☆

ふりふりのフリルとリボン。ヘッドドレスも相まって可愛さが倍増しているぜ☆

ぺロロンチーノから聞いたが、実は貧乳を恥じてパットを何枚も重ねているとか☆

この設定を聞いた時。私様は思わず『天才だな☆』と称賛したことを思い出したりもした☆

 

 

「シャルティア・ブラッドフォールン、御身の前に」

 

「オイオイ☆ 堅苦しいのは無しだぜ☆

 さて、シャルちゃんは何をもって私様に挑むのかな☆ミ」

 

 

『まじっく☆ミさん!!ウチのシャルティアに酷い事したらぶっ飛ばしますよ!!』

『しかし、鮮血の戦乙女……だったか? 酷い事をされて「クッ、殺せ!」というのは王道すぎるな。

 ここは一つ、ギャップ萌えとして「いやああ!?恥ずかしいですぅ!」と恥じらう方が萌えるな?』

『オイ、タブラさん。何ウチの子をギャップ萌えの対象として見てるんですか。

 大体王道が王道たる理由を知っていますか?』

『萌えと言えばメイド服、皆さんご存知ですね?』

『『は?』』

 

心の中のぺロロンチーノ、タブラ・スマラグディナ、ホワイトブリムが喧嘩をしているが。無視☆

わりかしギルメンの中でも私様は、彼らと交流がある方だったと自負している。

だって話してておもしれ―んだもん☆あいつら☆

 

喧嘩するにしても理由がおもしれーし☆見てて飽きねー奴らだった☆

だからこそ、脳内再生される言葉は、大体合ってると思う☆

 

シャルティアは、片膝を地面につけて、頭を下げる。

堅苦しいっちゅーに☆私様はちょっち笑うが、耳だけは反応した。

ちょっちしか聞けなかったが、この言葉の抑揚は。私様に何か頼み事があるものだ。

 

 

「何がお望みかな? シャルちゃん☆」

 

「……流石は至高の御方、わたしの考えることなどお見通しでありんしたか。

 わたしの挑戦――いえ。

 望みは、この身に『萌え』たる文化を教えて欲しいのでありんす!」

 

 

 

 

 

『『『シャオラァッ』』』

 

心なしか、心の中の三馬鹿がハイタッチを決めたような気がした。

 

 

★ミ

 

 

私様が萌えという文化を伝えるにあたって。1時間程、時間を貰うことにした。

まあ、じゃねーと……。

 

『萌えを語るならばメイド服!メイド服以外は認めませんよ!まじっく☆ミさん!!』

『何を馬鹿な事を、萌えと言うのは世間一般的に服装だけに求められているものでは――』

『ああ!うちの子が萌えを理解したいだなんて言うなんて、夢みたいだ!!』

 

心の中の三馬鹿が暴れまわって意見が纏まらねーからだ。

 

『まじっく☆ミさん、分かりますか?萌えとはシチュエーションなのです』

『そう、シチュエーションだ。大切なのはシチュエーションですよまじっく☆ミさん』

『そこにメイド服も足しましょうよ』

 

まあ、うん。言わんとしてる事は分からんでもねー☆

メイド服はともかく。シチュエーション・服装・言動の全てが揃ってこそ、『萌える』のだ。

例えばの話、私様がメイド服を着て『着てくれるんですね!?ヤッター!!』……例えばだ。

 

ただ単に、オムライスの上にハートマークのケチャップを乗せたとして。

『萌え萌えきゅん☆』なんて言っても、それは『萌え』じゃねー。

 

『違いますね』

『違うな』

『全く分かってない』

 

例えば。

メイド服を着た事のねーような奴。そいつがメイド服を着て。

べちゃべちゃになったオムライスを、作ったとしよう。

手指には、慣れない事をしたのか……絆創膏なんかも貼っても良い。

『ごめーんね☆失敗したわ☆……でも、食べてくれると、嬉しいよ』

なんて言ったら。

 

『惜しいですね、75点』

『ギャップ!萌える!!最後の「嬉しいよ」で素になるってのもポイント高いですね!!』

『分かってるなぁ』

 

例えば。

病人の君に。焦った様子で駆け付けた子。

お粥を作ってくれて。『はい、あーん。無理しちゃ駄目だぞ☆』と言うだけ。

 

『90点!王道ですね!!素晴らしい!!』

『うーむ、もう一捻り欲しいな』

『メイド服だったら良い』

 

 

萌えというのは、奥が深い。

だからこそ、見せてあげなきゃわからねー。

百聞は一見に如かずというように。

百見は一考に如かずというように。

百考は一行に如かずというように。

 

私様が、行動して、分かってくれねーと意味がねー。

だからこそ。私様が着て、私様が考えて、私様が行動する必要がある。

 

『メイド服!!メイド服!!』

『王道!!王道!!』

『ギャップ萌えですよ!!』

 

小道具は、生産で作るとして――。

……まあ。先ずはメイド服である事から始めるか。

 

『『『シャオラァッ!!』』』

 

心なしか、心の中の三馬鹿が全力のハイタッチを決めたような気がした。

 

 

★ミ

 

 

「……これはどういう事なんですか?」

 

 

モモンガは、第六階層闘技場に転移して、

まじっく☆ミさんが何かおかしな事でもしないか。監視に来たつもりだった。

場合によっては、人化の指輪で、人間になれる事をそこで発表するつもりだった。

 

だと言うのに、闘技場にはNPCやモンスターが勢ぞろいで、これから何かが始まるような雰囲気を醸し出していた。

 

 

「なにをしでかしたんですか、まじっく☆ミさん」

 

 

思わず、モモンガがそうぼやいてしまったのも無理はない。

近くに居たメイドに言われるがままに。

なんだかこう、偉い人が座るような観覧席にまで連れられて来てしまった。

これから何が始まるっていうんですか。とモモンガが思ったその時。

 

辺りが急に暗くなった。

――敵襲か、とモモンガが立ち上がろうとして。

スポットライトが照らされる。その中に居たのは――。

 

金色の、長い髪。

黒いワンピースに、白いエプロン。

ロングスカートのメイド服だ。

肩には大きめのフリルが付いていて。

頭には小さめのフリルが付いたヘッドドレスがある。

 

ホワイトブリムさんが居たのなら。

『こういうのでいいんだよこういうので』とでも言いそうな正統派のメイド服だった。

 

服装から僅かに見える白い肌は、可憐で、綺麗だ。

メイド服を着ているというのに、長い見事な金髪を、ほどけたターバンみたいに床に垂らしている。

第一印象は、あんなメイド、ナザリックに居たか?と思う程には個性的だった。

 

彼女は軽く、礼をすると。こちらを見てニコリ。とほほ笑んだ。

思わず、無いはずの心臓が飛び跳ねたような感覚に陥った。

ナザリックのメイドは、モモンガに畏まりこそすれど、このように微笑む機会は無い。

だからこそか。彼女が口を開いた瞬間。モモンガは何を言うのか気になった。

 

 

「――この度は、このような催しを開いて頂き、誠にありがとうございます。

 最後までご覧いただけますと、私としても嬉しく存じます」

 

 

丁寧な口調だ。だが、この声質。どこかで聞いたことがあるような気がする。

が、思い当たらない。顎に手を当てて、熟考する。はて、何処で出会ったのだろうか。

 

軽く、モモンガに向けて礼をする。これも初めての事だった。

いつもメイド達は深々と礼をする。こちらが申し訳なくなるほどに。

 

あのメイド、後で自分に付けることは出来ないだろうか。

ナーベラルには悪いが、どこか堅苦しさ・息苦しさを感じる毎日を送っていたモモンガは、思わず一考してしまう。

 

あの微笑みを向けられることが日常になれば、さぞ癒されることだろう。

深々と礼をされないだけでも、ただそこにいるだけで良い。

彼女は言葉を続ける。

 

 

「これから始まる寸劇は、一人では不可能な事。

 それ故に協力者が必要なのですが――。

 

 モモンガ様。大変申し訳ないのですが。

 一緒に協力しては頂けないでしょうか」

 

「えっ」

 

 

下心がばれたような気がして。素っ頓狂な声を出してしまった。

周囲を見れば、期待に満ちたNPCやモンスター達の瞳。断ることは、出来なさそうだ。

 

 

「んぉっほん!!

 ……良いぞ。だが演技というものは、あまり得意ではなくてな」

 

「構いませんわ。モモンガ様はそこに居るだけで構いません。

 必要であれば、後は私の言う通りに。立ち振る舞って頂ければ良いのですから」

 

 

そう言われては、断ることは出来ない。

モモンガは飛行(フライ)を使用すると、彼女の近くへと降り立つ。

ああ、スポットライトが眩しい。などと考えていると。

 

 

「それでは、寸劇をご覧くださいませ」

 

 

そう言い残し。軽く、礼をして。彼女はスポットライトから外れてしまう。

残されたモモンガは、少しばかり困惑して――。

 

すぐに、辺りは明るくなった。

周囲には、ベット。クローゼット、机、絨毯など。

小道具が用意されていた。

 

瞬間、モモンガの警戒心が高まった。

まるで気付かなかった。物音一つしなかった。

これらが彼女の仕業だとすれば、もし彼女が敵対者であれば――。

と、そこまで考えた所で。彼女の姿が見えない事に気付き。

 

 

「ふふ、だーれだ?」

 

 

目元を隠されて。モモンガは更に警戒を高めた。

背後に回っていた。彼女がもし敵であれば、先手を取られていた。

不味い、このまま主導権を取られては――。

 

 

「はい残念☆ 私様でした☆ミ」

 

「え」

 

 

また素っ頓狂な声が口から漏れた。

この口調。声質。間違いない。まじっく☆ミさんだ。

振り向くと、そこに居たのは先程まで一緒に居たメイドの姿。

 

んんん?

どういうことだ?

モモンガは困惑のあまり暫し硬直してしまう。

アンデッドの種族特性により。すぐに平静を取り戻した、が。

 

 

(モモちゃん☆人間になーれ☆ミ)

 

 

急に人化の指輪が輝き出し、オーバーロードから人間になったモモンガ。

ハプニングの連続に、モモンガは、再び困惑の頂点に達してしまう。

そうして再び硬直していると。

 

 

「モモンガ様、少し横になりましょうか?」

 

「えっ。あっ。はい」

 

 

言われるがままに、推定まじっく☆ミさんに連れられて。ベットに横になる。

毛布は柔らかく、布団は丁度良い固さを感じる。心なしか、温かみを感じた。

香る匂いが心を安らがせる。安心する匂いだ。

 

 

「お疲れ様です。モモンガ様」

 

 

彼女はすぐ傍でしゃがみ込み、目線を同じ高さにする。

――安心する。ここに来てから、睡眠を取ったことがないからか。

それとも、ずっと気が張っていたからか。

思わず、モモンガは目蓋を落とした。

 

 

「いつも頑張ってるね、モモちゃん」

 

 

優しい声が、耳を叩く。

 

 

「頑張り過ぎはよくないぞ」

 

 

心地よい睡魔が、ゆっくりと寄ってくる。

 

 

「疲れたね、モモちゃん」

 

「――ああ、疲れた。疲れたよ。星見さん」

 

 

思わず、モモンガは、鈴木 悟になっていた。

思わず、まじっく☆ミさんを星見さんと呼んでいた。

 

ここに、異世界に来てからというもの、本当に大変な毎日だった。

周囲の安全を第一に、と頑張った。

NPCを、なるべく気遣うように振舞った。

ご飯は凄く美味しいと、初めて感じた。

安心出来る時間なんて、そう多くはなかった。

 

 

「くすくす。ご褒美に一緒に添い寝してあげます。

 ……光栄に思えよ☆私様の添い寝は初めてなんだからな☆ミ」

 

「え」

 

 

鈴木 悟に戻っていた精神が、急に爆発しそうになった。

思わず目を開けると、星見さんはいつも通りのニコニコ笑顔だった。

その笑顔のままに、布団に横になろうとしていた。

男女で同衾するなど、初めてのことだった。

緊張でどうにかなってしまいそうだった――。だが。

 

 

「安心して。私様はどこにもいかないよ」

 

 

まただ、また。安心してしまう。

硬くなっていた身体から、緊張が解けてしまう。

 

 

「いつもお疲れ様。モモちゃん」

 

 

不意に、頬に柔らかい感触を感じて。

傍に、星見さんの気配を感じて。

息遣い、口から吐かれる空気の温度さえも感じて。

鈴木 悟は、目蓋を閉じた――。

 

 

「す、ストップ!!ストップでありんす!!

 十分『萌え』は分かったでありんすから!!」

 

「おや☆そっか☆

 じゃ、これでお終いな☆ミ」

 

 

顔を赤く染めたシャルティアが乱入してきた。

そこから現実に引き戻され。寸劇が終わったことを知らされてなお。

 

 

頬に残った柔らかい感触は、残ったままだった。

 

 



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カードリスト:20:夢だとか☆ミ

また日刊ランキングに載ったのを見て目を疑ったぜ☆
まあ一瞬だから誤差です誤差☆

……いや本当に見て頂きありがとうございます。
大変励みになります。

本来ここまで大勢の方々に見られると思って無かったので緊張しちゃうぜ☆ミ



私様の寸劇は最後の最後でシャルティアの乱入により打ち切りとなった。

 

ちぇー☆なんだよシャルちゃん☆あそこからが本番じゃあないか☆

添い寝するメイドの女性。同衾する男女。何も起こらない訳がなく……☆

 

――だが、私様は☆敢えて私様は☆ギューッと抱き着くのみで終わらせる☆

悶々とする男性に萌えるのだ☆我慢出来なくなった男性を煙に巻くのが萌えるのだ☆

そこに言動を加える。「ご主人様?」と普段言わねーような口調で、だ☆

ちょっと心なしか声を震わせても良い☆涙目になっても良い☆

理性と野性の間で揺れる男性の姿に萌えるのだ☆

これには心の中の三馬鹿も拍手喝采だろう☆ミ

 

『悪魔か。いや悪魔さんに失礼だわ』

『そこまで行くと性悪ではなく害悪だな』

『でもメイド服なら……悔しい!萌えちゃう!』

 

おやおや☆拍手が聞こえねえな☆ミ

これには私様、ぷんぷんだぞ☆

 

さて、シャルティアの望みは終わった。次は、アウラとマーレの番だろう。

 

私様、こう見えてもどっちかっていうと、アウラ萌えである☆

だって男装してる女の子だぜ☆胸のサイズ気にしてるんだぜ☆

将来ボインボインになる事が約束されているとしても、今、彼女が気にしているのが重要だ☆

それに加えて、元気な子だ☆実に私様好みである☆ミ

 

心の中の三馬鹿が何か言ってるが、無視だ☆

萌えの時間は終わったんだぜ☆君たちはお役御免だ☆ミ

 

さてさて、シャルティアと入れ替わるように出て来たのは。

予想通り、アウラとマーレの二人だ☆

はぁぁぁ☆アウラちゃんきゃわわ☆ミ

 

勿論、マーレも魅力じゃあ負けちゃあいないぜ☆

男の娘ってのは、とても可愛らしい☆

ぴっちりした胴鎧に、ベストとスカート。白色のストッキングは高得点だ☆

そのスカートとストッキングとの間から覗く素肌なんて、hshsしたくなる☆なるよな☆なれ☆ミ

 

 

「アウラ・ベラ・フィオーラ、御身の前に」

 

「ま、マーレ・ベロ・フィオーレ、御身の前に」

 

「堅苦しーな君らも☆

 私様が良いって言うんだから省略しても良いんだぜ☆ミ」

 

 

なーんて言ってはいるが、私様。

片膝を付いて頭を下げる二人を前にして、hshs欲求を我慢するので精一杯だ☆

 

はあはあ☆お嬢ちゃん可愛いね☆ミ 何歳?76歳?そっかそっか☆ミ

じゃあお姉ちゃんが良い事教えてあげるからちょっとあっち行こうね……☆ミ

 

『キモイぞ、まじっく☆ミちゃん♪』

 

おおっと。心の中のぶくぶく茶釜ちゃんがストップをかけた☆

わざわざ萌え声を作ってまでストップかけるとかこれはやべーぞ☆げきおこだ☆ミ

 

……おやおや保護者同伴でしたか☆

これは失敬失敬、私様決して怪しい者ではございませんので☆ミ

 

『嘘を吐け、嘘を。

 さっきの言葉をワールド全体にメガホンしても良いんだぞ?』

 

そ、それだけはゆるしてくだちぃ……☆

垢BANされるのだけは嫌だお……☆

 

とか何とか、茶釜ちゃんも私様の数少ない交流仲間の一人だ☆

同性ってのも手伝ったのかな?茶釜ちゃんは色々と私様に対して教えてくれた☆

 

声優ってお仕事を目指しているとか☆

弟がHENTAI過ぎて困っているとか☆

お前も同類だとは思わなかったとか☆

 

その夢は、私様の手によって叶えてあげようかと思ったけど。

本人の熱意に負けた。あれは実力で為そうとする人間の声だ。

邪魔する訳にはいかないし。邪魔しちゃあいけない。それは本人に対する侮辱だ。

 

ユグドラシルにインして来なくなった事。

茶釜ちゃんの仕事場が変わった事。

茶釜ちゃんの本名がゲームとかでちょくちょく見るようになったことから。

きっと夢は叶ったんだろう。それも自分の力で。

なんて素晴らしく、なんて眩しいことだろう。

 

人間と言うのは、可能性の塊だ。

それを潰すのは論外としても、邪魔することはしちゃいけない。

人間は素晴らしい生き物だ。時に私様みてーな害悪も生まれるが。

まあ、それはそれ、これはこれである。

 

 

「茶釜ちゃん元気かな☆」

 

 

不意に、私様の口から言葉が漏れた。

それがいけなかったのだろう。アウラとマーレは顔を上げると、私様に飛びついて来た。

 

 

「ぶくぶく茶釜様の事、知っているんですか!!?」

 

「ぶくぶく茶釜様は、どこにいらっしゃるんですか!!?」

 

「おおう☆」

 

 

美少女と美少年が同時に突撃してきたぞ☆

はぁぁぁ(*´Д`)いい匂いだお☆hshsしちゃう☆

ちょっと私様の頭をグラグラ揺らしてくるけど、許しちゃう☆

 

メイド服のままの私様は、いつも以上に弱っちい。

ぶっちゃけ先手取られたら、

100レベルのNPCの誰にも勝てねーんじゃねーかな?ってくらいには。

だからちょっち頭がシェイクされて辛いんだけど。繰り返す。私様許しちゃう☆

 

だっておめー☆必死な顔してるんだぜ二人とも☆

ギャップ萌えも相まって、これは高得点が期待できますね(冷静な視点)

でも漂う匂いには勝てません☆だって私様こういうのによえーの☆ミ

 

だからこそ、私様、嘘は言わねーし。言えねー。

 

 

「ちょっち☆離れな☆

 今から全部説明してあげっからな☆ミ」

 

 

その言葉に、冷静になったのか。

二人は青ざめた顔をして私様から距離を離した。

いや、そんなに距離とることねーじゃん……(´・ω・`)ちょっち私様傷つくわ☆

 

まあ嘘なんだけど☆ミ

さてさて、どう説明したもんかな☆ミ

 

 

★ミ

 

 

至高の御方に思わず抱き着いてしまった時、頭の中はぶくぶく茶釜様の事で一杯だった。

お頭を揺らしてしまった。不敬だった。

お言葉を遮ってしまった。不敬だった。

わざわざ離れるように言われてしまった。

 

まじっく☆ミ様は、慈愛に満ちた御方であるとは言う。

きっと許してくれるんじゃないかと、希望があった。

許してくれないのかも知れない、と絶望があった。

ぶくぶく茶釜の事も相まって、頭が混乱していた。

 

 

「私様は、茶釜ちゃんの居る場所を知っているよ☆」

 

 

だからこそ、その声が聞こえて来た時、頭が真っ白になった。

 

 

「私様は、茶釜ちゃんのやっていることを知っているよ☆」

 

 

息をするのが、難しかった。

鼓動が、五月蠅かった。

希望が見えたような気がした。

慈愛に満ちた御方ならば――きっと。

 

 

「だが、それを話す事はできねーし。

 邪魔する事は、私様が許さない」

 

 

思わず、まじっく☆ミ様のお顔を見た。

真剣な表情だった。

強い、意思の力を持ったお顔だった。

いつものまじっく☆ミ様とは、違う。厳しい言葉だった。

絶望のど真ん中に居た私が、声を出せたのは、本当に、奇跡だった。

 

 

「どう、して、ですか……?」

 

「茶釜ちゃんのやっている事は、ずっと夢見ていた事だ。

 茶釜ちゃんの居る場所は、その夢を叶える場所だ。

 

 君たちが、そこから茶釜ちゃんを取り戻すと言うのなら」

 

 

まじっく☆ミ様は、私達へと顔を向ける。

冷たい、冷たいお顔だった。

 

 

「それは茶釜ちゃんへの侮辱や邪魔にしかならないと知れ」

 

 

言葉が、出なかった。

ぶくぶく茶釜様を侮辱など、したくなんてない。

ぶくぶく茶釜様の邪魔なんて、考えたくもない。

 

頭が真っ白になった。

どうしたら、まじっく☆ミ様は、お答えになってくれるのか。

考えようとしても、頭が動いてくれなかった。

どうすれば、良いのか、まるで身体が動かなかった。

 

思わず、涙が落ちた。

視界がぐちゃぐちゃになる。

このような格好を、至高の御方に見せる訳にはいかないのに。

涙が、抑えきれなかった。

 

 

「でも、君たちは悪くない」

 

 

不意に、まじっく☆ミ様はお言葉を発した。

先程とは違い、優しい、蕩けるようなお言葉だった。

 

 

「親を求める子の何が悪いのだろう?

 親がいない子供は、不幸でしかないのに

 秘密にする私様が悪いのであって、君たちは絶対に悪くない」

 

 

まじっく☆ミ様は、私達を優しく抱きしめてくれた。

心の隙間が埋まっていくような。そんな気がした。

優しい香りが、息遣いが。鼻を、耳を埋め尽くした。

 

 

君は悪くない(私様が悪い)

 

 

瞬間、涙が溢れ出た。

 

 

★ミ

 

 

おっほ(*´Д`)たまんねぇ~☆ミ

美少女と美少年の泣き顔と匂いたまらねぇ~☆

これだけでご飯三杯は行けちゃいますね☆

 

まあ、嘘は言っていないぜ私様☆

場所は知ってるぜ。リアルのな☆

やってる事も知ってるぜ。リアルのな☆

 

ただ説明するのが多分どうしよーもねーくらいに面倒だし☆

それに信じてくれるとも、諦めてくれるとも思ってはいなかったから☆

感情論で誤魔化してみたら、これですよ奥さん☆

たまんねぇ~☆ミ

 

『うっわ、子供泣かせて恥ずかしくないの?』

 

そう言うなよ茶釜ちゃん☆

ゲームよりも夢を取った君は悪くない☆

人の夢は尊いものだ☆それを邪魔しちゃつまらねーだろ☆

 

例え君が作ったNPCを見捨てたとしても。

例え君が私様達を残して辞めたとしても。

 

君は悪くない。

 

『……そう、なのかな』

 

そう、私様が悪い。

 

『は?』

 

夢を邪魔しちゃあいけないって言ったろ?

私様の手で叶えちゃいけないって言ったろ?

 

 

だけど手助けしちゃいけないっては言ってない。

 

『え。ちょっと待って本当にどういうこと』

 

ちょっと知り合いに声優関係のお偉いさんが居て。

ちょっと知り合いにオーディションを開く様に言って。

ちょっと知り合いにこんな声が欲しいって言っただけで。

 

私様は、何もしてないぜ?

 

だから、君は悪くない(私様が悪い)

 

『……リアルで会ったら、殴ってやるからね♪まじっく☆ミちゃん♪』

 

おお、萌え声でも怖い怖い☆

良い事したってのに、殴られるだなんて不条理も良い所だぜ☆

 

私様、心の中の茶釜ちゃんに蓋をする。

これ以上心の中で会話をしていたら、私様。何をされてたか分かったもんじゃねー。

次元の壁を蹴飛ばして、殴られてたような気さえするぜ☆

 

ま、それは良いんだけどさ☆

私様、いつまでこうしてれば良いんだろうね☆

 

 

「やれやれだぜ☆」

 

 

私様は、両手に花を抱きながらそう呟いた。

 

 



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カードリスト:21:多数決とか☆ミ

アンケート機能を初めて使おうと思う☆ミ
やり方分かんねーから間違ってたらごめんな☆ミ

反映は次の話書き始めたらにすっから☆
何時までとか決めないからよろしくな☆ミ


私様の意図した形とは違ったが、結果としてはうまくいったまじっく☆ミ交流会は、無事に幕を閉じた。

 

私様個人としては、もうちょっと穏便に出来なかったのかな?と思わねーでもなかったけど☆

まあ、楽しかったから、ヨシ☆何事も楽しい事が第一だぜ☆

 

デミウルゴスとアルベドとも交流してあげても良かったんだけど☆

それは彼らから辞退された。これ以上お手を煩わせるのは悪いからだって☆

別に構わねーのに☆私様、面倒事は嫌いだけど必要なことはやれる子だぜ☆ミ

 

ま、それはそうと。だ。

 

 

「鈴木くん☆ 鈴木くん☆ミ」

 

「うわあ」

 

「なんだいその顔は、まるで嫌な事が起きたような顔じゃないか☆

 また上司から厄介事でも回されたのかい?」

 

「うわあ、上司の尻拭いとか勘弁……。

 いや、思い出させないでくださいよ。

 単に星見さんから言い出す事って碌なことがないだけです」

 

「失礼だな君は☆

 私様がいつ何回、厄介事を言ったかね☆」

 

「今まで食べたパンの枚数は覚えてませんね」

 

「そこまでは言ってねーよ☆」

 

 

冗談を言い合いながら、私様と、人化した鈴木くんは。

定期的に行われる会議(出席者二名)をしていた。

ま、そんなに大事じゃねーぜ?いつか冒険をするための段取りをしているだけだ☆

二人して楽しくこの世界を冒険するにあたって、いきなり飛び出す訳にはいかねー☆

色々と装備を準備しなきゃいけねーし、アイテムも準備しなきゃいけねー。

 

この世界がどんなに低レベルだとしても、準備を怠るのは論外だ。

全知である程度世界を知り得ているからと言って、油断はできねー。

 

私様が持っている最上位の回復アイテムを分けて持つ事は当たり前として。

未知のタレントに対する対抗手段。

実力がバレて問題にならねーようにする隠ぺい手段。

基本パーティ単位で行動する事。一人では絶対に行動しねー事。

とかとか、決めることは沢山あった。

 

ただ、目下の問題は。

 

 

「前衛が足りねーな☆ミ」

 

「そうですね。これだと接近戦に弱すぎます」

 

 

どちらも後衛職の為。前衛が全く居ないことだった。

鈴木くんは言わずもがな、マジックキャスター。完全な後衛職であり、攻撃の要(かなめ)だ。

上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)で鈴木くんが前衛に出る案もあったが。

万が一、偶然、ツアーなどのどーしよーもねー相手が敵に居た事を考えるに、残念ながら却下だ。

 

常に万全でなければならねーし。

常に全力を出せる状態でなければならねー。

それでいて未知を楽しめるように冒険するってのは、思ったよりも難しい事だった。

 

私様?私様は遊び人だぜ☆

暇さえあればカードをシャッフルしてる自信がある☆

なんて言ったら鈴木くんからげんこつを貰った。いてぇー☆ミ

 

ま、冗談だぜ☆

私様は暇さえあればポーションを投げる係。すなわち回復役である。

攻撃役にも回れない事もないぜ?それ用のポーションもあるし、今ならMTGのカードの力もある。

とは言え、前衛には出れねー事は確かだけどな☆

私様は弱いもん☆ミ

 

 

「アルベドとかを、仲間に入れますか?」

 

「うーん☆それもアリだけどさ☆

 最初っから完成してるパーティってのも面白みに欠けるな☆」

 

 

仲間ってのは次第に集まっていくものである、と私様は考える。

最初から前衛・後衛職が揃ってるのは、ちょっち違和感がある。

それに、あーちゃんには悪いけど。角と翼が隠しようがねーから却下☆

 

ふむ。と鈴木くんと私様は熟考に嵌まる。

ここでいつも議論が止まるのだ。

他の所は、大体は決まった。残るは前衛だけなのだが……。

 

 

「時間がねーのも問題だな☆」

 

「――ですね。『死の螺旋』でしたっけ」

 

「そう、大量の人間を生贄にする……とかなんとかだね。

 それが近いうちにエ・ランテルで起こる。それは阻止しなきゃいけない」

 

 

未来予知で得た情報の一つに、エ・ランテルで起こる一件がある。

私様としては、それだけは阻止したいし。阻止すべきだと思う。

MTG布教活動の可能性が潰れるのが一つ。

大量の未知の可能性が潰れるのが一つだ。

 

その為に、鈴木くんと私様は即急に冒険者になる必要があった。

情報は、正直間に合ってるんだけど。ロマンを追い求めたくなるのが人間だろ☆

名声も、正直私様は興味がない。けどまあ、あって困るものでもない。

 

ふーむ、最終手段として『謎の二人』によって『死の螺旋』を阻止するか?

でもそれって私様好みの展開じゃねーしなー。と私様はぶー垂れる。

 

あくまでも英雄的でなければならない。英雄ではなく、英雄的だ。

英雄はなろうとしてなるもんじゃねーし、簡単になれるもんでもねー。

 

そもそも英雄は色々と行動が縛られてしまうのが難点だ。それは私様好みじゃない。

私様は、自由にこの世界を楽しみたいのだ。

 

 

「ま、ここはでみちゃんとあーちゃんに聞いてみるのが一番だと私様は思うぜ?」

 

「……そうですね。俺達以外の視点で見ないと分からないこともあるかも知れません」

 

 

なんて喋りながら、でみちゃんとあーちゃんに声をかけたのが数十分前。

 

 

「「駄目です!!」」

 

 

円卓にて。鈴木くんと私様は、正座させられていた。

 

 

「至高の御方が二人も揃って外にお出かけになるなど、

 それも、シモベを連れずに行くなど……あってはならないことです!」

 

「情報が必要なのであれば我々が集めて参ります。

 名声が必要なのであれば、いずれナザリック、

 ひいてはアインズ・ウール・ゴウンの名は世界中に広がる事でしょう。

 今、焦らなくても良いのではないでしょうか?」

 

 

うん、何をされてるかって言うと、正論でぶん殴られて説教されていた。

デミウルゴスとアルベドは、ちょっと引くくらいマジになって私様達を引き止めにかかった。

いやー☆参ったぜこれは☆予想外ですわ☆

 

ごめん嘘言ったわ。大体こうなるんじゃねーかと思ってた☆ミ

でもどーせ遅かれ早かれこーなるんだ。今言われた方がマシじゃねーかと思っただけ☆

まあ、ここまでガチで引き止められるとは思わなかったけどな☆ミ

 

 

「しかしだな、アルベド。デミウルゴス。

 これには事情があって……」

 

「万が一御方に何かあってからでは遅いのです!

 どんな事情があっても、近衛を連れて行かなければいけません!」

 

「アルベドの言う通りで御座います。

 このデミウルゴス、至高の御身に何かあったとあれば、死んでも悔やみきれません」

 

(どうするんですか星見さん!

 アルベドもデミウルゴスも、引き止める気満々ですよ!?)

 

(そう焦るなよ、鈴木くん☆

 これは私様のプラン通りの展開だぜ☆)

 

 

そう言って、私様。ポケットからポロっとアイテムを一つ落とした☆

 

 

「あー☆ しまったー☆

 残り一個だけの人化の指輪をおとしてしまったぞー☆ミ」

 モモちゃんとお揃いの指輪なのにー☆

 あーん☆ しまったなー☆」

 

(棒読み過ぎるっ!!?

 寸劇の時の演技力はどこに落としてきたんですか!!?)

 

 

瞬間、アルベドの目とデミウルゴスの目が光った。

地面に落っこちた指輪に手を伸ばそうとして、手と手が触れ合うデミウルゴスとアルベド。

やだ☆ロマンティックだわ☆

 

 

「あら? デミウルゴス?

 何のつもりかしら?私はただ単にまじっく☆ミ様の、この指輪を、拾おうとしただけなのだけれど?」

 

「こっちの台詞だよ、アルベド。

 君の事だ。モモンガ様とお揃いとあれば、もしかしたら、返さないのでは、ないかと心配してね?」

 

「――そんな事はないわ?

 デミウルゴス?貴方の事だから、悪魔の姿を人間と化して。

 至高の御身に付いて行こうと考えているのではなくって?」

 

「――そんな事はないよ?

 アルベド。『もし仮にそうだとしても』至高の御身の旅に必要なのは情報だ。

 ここは私にその席を譲るのが道理だと、私は思うね?」

 

「正体現したり、ね?

 至高の御身が真に求められているのは前衛職。

 私は前衛職よ?ここは私がこの指輪を拾うべきだわ?」

 

「おやおや、化けの皮が剝がれたね?

 私はもしもの話をしただけだと言うのに――」

 

「あらあら。これは面白い事を言うのね――」

 

 

双方争う様に、手を伸ばす、がもう片方が妨害してそれを阻止する。

視線は指輪に。けれど意識は相手に。バチバチと火花が散る音がしている気さえする。

 

 

(おーっと☆

 デミウルゴス手を伸ばすが、アルベドがそれを許さなーい☆ミ

 双方互角の様に見えますが、解説のモモちゃんはどう思われますか☆ミ)

 

(そうですね。前衛職であるアルベドが一歩リードでしょうか。

 おっと、ここでデミウルゴスの反撃です。

 守護者統括が外に出てはいけない、とのことで。これは良いカウンターですね。

 勝負が分からなくなってきました)

 

(モモちゃん自身はどちらに勝って欲しいですか☆ミ)

 

(そうですね……難しい所ですが、ここはアルベドでしょうか。

 長く黒い髪が高ポイントです。性格が玉に瑕(きず)ですが……。

 って何言わせるんですか)

 

(まあまあ、良いじゃないか☆

 うまく私様達から意識を逸らせたぜ☆ミ)

 

(……いや、何の解決にもなってないでしょうが!)

 

 

小声でデミウルゴスとアルベドの応援をしていると、鈴木くんからげんこつが飛んできた。

――が、私様☆それを華麗にスウェーで回避する☆ミ

甘いぜ鈴木くん☆私様もいつまでも進歩しない訳じゃあない☆回避の一つや二つ――☆

 

と、回避したその先は私様の☆豊満なお胸☆ 鈴木くんの手がちょっちかすったか☆ミ

イヤン(/ω\)☆ のび太さんのエッチ☆ あ、今のは一世紀前に流行ったジョークな☆

 

 

「もっ、申し訳ありませんでしたァァ!!」

 

 

途端、土下座をかます我らがギルマス。

おいおい☆そう大袈裟に謝るなよ☆減るもんじゃねーだろ☆

私様☆けたけたと笑ってみせるが、どうやら人間形態のモモちゃんには刺激が強かったみてーだな☆

 

おいおい見ろよデミウルゴスもアルベドも君の大声で正気に戻っちゃったじゃねーか☆

私様の『隙を見て☆逃げる作戦』が台無しじゃねーか☆まあ良いけどさ☆ミ

 

 

「も、申し訳ございません。御身の前で無礼な姿を」

 

「いや☆私様は構わねーぜ☆ミ

 それで、私様が思うに、どっちを連れてくか、だけど☆ミ」

 

 

ゴクリ、と二人の喉が鳴る。

呼吸を止めて、私様の言葉を待っている様だ☆

 

 

「でみちゃんとあーちゃんによる、多数決で決めたいと思いまーす☆

 あ、同率の時は私様達二人で行くからな?」

 

 

瞬間、空気が凍った。

マジで空気が凍ったわ☆ミすげーな☆

デミウルゴスもアルベドも目がマジだ☆

 

さて☆面白くなってきやがったぜ☆

 

 

★ミ

 

 

「申し訳ございません、少しデミウルゴスとお話をしても大丈夫でしょうか?」

 

「丁度良いタイミングだね、アルベド。私もアルベドと話し合いをしたく思います」

 

「構わねーぜ☆ ただし、時間はそこまで待てねーよ☆ミ」

 

「「勿論で御座います」」

 

 

さて、至高の御方二人を背に。デミウルゴスとアルベドはとある一室に向かう。

そこは何の変哲もない、ただの部屋であり、だが、防音対策だけは完備していた。

 

本来ならば、至高の御方に付いて行くのがシモベの役割だ。

ただ、まじっく☆ミ様はおっしゃられた。デミウルゴスとアルベドによる多数決によって決める。と。

まじっく☆ミ様は、慈悲深き御方であると同時に、お言葉は絶対通す意思がある。

それ故に、同率だった場合、本当に至高の御身二人のみで出掛けるつもりだろう。

 

 

「分かってるとは思うけど、デミウルゴス」

 

「ああ、分かってる。同率だけは避けなければいけない」

 

 

どちらかが、折れなければならない。

どちらかが、相手に投票しなければならない。

どちらかが、諦めなければならないのだ。

 

まじっく☆ミ様は、なんという、酷く惨い選択肢を委ねたのだろう。

 

 

まじっく☆ミ様は、顔を歪められて、おっしゃられたような気がした。

 

 

 

 

『さあ、君はどっちを選ぶ?』

 

 

 

 



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カードリスト:22:暴露をしよう☆ミ

違うんだよ。

21時頃に見た時は確かに優勢だったんだよ。
だからプロット練り直して書き終わった24時近くには、逆転していたんだ。

またプロット練り直しかと思うと絶望するじゃん。
また書き直しかと思うと悲しいじゃん……。

だから、何を言いて―かっていうと、私様が悪い。
ごめんなさい。



 

さあ☆旅立ちの日だ☆ミ

 

朝日と共に目覚めた私様は、長い髪をルプスレギナに梳かして貰う。

ああ、勘違いして欲しくねーんだけど。別に私様一人で出来る。

出来るけど。メイドに仕事を与えるのも主人の役目だ。そこは奪っちゃいけない。

 

続いて、今朝の朝食だ。

私様、この世界に来てから人一倍食べるようになったから、量はちょっち多めだ。

今日は山盛りのベーコンエッグか。私様、ベーコンエッグは大好きだ。

 

ナイフとフォークを音を立てないように気を付けて。

トロリ。と落ちそうになる黄身を崩して。厚いベーコンに絡める。

そうして口に含むと、幸せで一杯になる。

 

勿論、白身も忘れちゃいけねーぜ。

口の中がちょっち濃いめになったそれを、白身でリセットする。

こうすれば、口の中が丁度良くなる。

 

ご機嫌な朝だ。

今日も頑張れる。

そう思えるようになる。

 

最後に、私様好みのウンと甘いコーヒーを一すすり。

メイドのルプスレギナの頭を撫でてやる。

今日も美味かったし、調子も抜群だぜ。と。

 

暫くの間留守にするから、その間掃除をよろしくな。

と、仕事を与えてやることも忘れない。

帰ってきた時に、褒める口実を作ってやる為だ。

 

ああ☆ 良い旅立ちの日だ☆ミ

 

 

★ミ

 

 

円卓まで降りてくると、そこには人化の指輪で人間になったモモちゃんの姿。

それに、ギルド武器を除いて、万全の装備。

毎回思うけど、あの装備重くねーのかな?

私様に頼めば、もっとピッタリに作ってやるのに。と思う、がまあ良いだろ。

 

モモちゃんと私様で相談した結果。

あまりにも私様の装備が貧弱だと言うことで、暫時の装備を作った。

ま、つっても動くのを阻害しない程度の鎧に、アームとレッグカバー程度。

 

『最大強化』してあっから、大抵の攻撃には耐えられっけど、まあ頼りないわな。

普段着も用意してある。まあいつものつなぎの服だお☆

 

 

「お待たせ致しました。

 モモンガ様。まじっく☆ミ様」

 

 

片膝を付いて、頭を下げたのは――デミウルゴス

 

多数決の結果、軍配はデミウルゴスにあがったようだった。

ま、私様としてはどっちでも良かったんだけど☆ 彼らが考えた結果なら問題ねーだろ☆

 

人化の指輪を付けたデミウルゴスは、ちょっち背が低くなって☆

大体モモちゃんと同じくらいになったと思う☆

見た目はそんなに変わってねーんだけど、尻尾が無くなってるのがちょーっち特徴的か☆

 

 

それより、だ。

 

 

「オイオイ☆

 分かってねーな☆ でみちゃん☆ミ」

 

 

私様は、デミウルゴスに向けて笑いかける☆

瞬間、ビクリとデミウルゴスの身体が跳ねるが、気にしない☆

どーせいつもの失態だとか何か深読みしてるんだろうぜ☆

 

くつくつ、と笑うだけの私様を他所に、モモちゃんがデミウルゴスに話しかける。

 

 

「デミウルゴス、これから私達は仲間となる。

 様付けは、……些かおかしいだろう?」

 

「――ですが」

 

「っても、そのままじゃ確かに畏まっちゃうのも無理はねーかもな☆

 だから私様達の事は本名で呼んでいいぜ☆ミ」

 

「そんな軽々しく……

 あー、んんん。デミウルゴス。これは私達の真の名だ。

 私は鈴木 悟で――」

 

「私様は、星見 るい。

 親しみを込めて星見ちゃんって呼んで良いぜ☆ミ」

 

「――確かに、拝聴致しました」

 

 

かてーな☆でみちゃん☆ミ

ま、そこは、おいおい教育していくとしますかね☆

 

モモちゃんに頼んで、転移門(ゲート)を開く。

行き先は――エ・ランテルの外。その近くにある平野だ。

 

転移門(ゲート)に入る私様達三人を、プレアデス達が、アルベドが、シャルティアが、アウラとマーレが、コキュートスが見送ってくれる。

おいおい☆随分と豪勢な見送りじゃねーか☆

今生の別れじゃねーんだから、そこまでやらなくても良いんだぜ☆ミ

 

 

「んじゃ☆ ナザリックの事は任せるわ☆ミ」

 

「……すまん、任せたぞ。皆」

 

 

本当はモモちゃんが言うべきなんだろうけど、柄にもなく緊張してんのかな?

モモちゃんは口少な目にそう言うと、デミウルゴスに続いて転移門(ゲート)に入っていっちまった☆

 

 

★ミ

 

 

さて、早速だけどでみちゃんに話さなければいけない事がある。

私様は、ちょーっち真剣な表情を作った。

 

 

「ここから話すのは、トップシークレット中のトップシークレットだ」

 

「……あれも話すんですか?」

 

「オイオイ☆

 ()()()()、秘密は無しだぜ☆ミ」

 

「はぁ……本当にこの人は……」

 

 

呆れた様に、そう言うけど。本当に必要なことなんだぜ。

私様の秘密。その一部を暴露しようと思う。

 

私様は、この地域の地理と、その言語。

ここから国がどう動くかまでもを知っている。

 

『死の螺旋』について。

大量の人間を生贄にすること。

それが近いうちにエ・ランテルで起こるということ。

それを阻止する為に、私様達、至高の御身自らをもって動くということ。

 

さて、今開示出来る情報はここまでか。

と私様が口を閉じた所で、デミウルゴスは珍しく唖然とした表情を作っていた。

 

 

「何故、そのような事を、知っておられるのですか……?」

 

「くつくつ、どうして知っているかと言われても☆

 知っているからとしか言いようがねえな☆」

 

 

私様は笑みを深くして、そう言うが。

デミウルゴスの続きの言葉に、私様はちょっち真顔になった。

 

 

「それになぜ、人間になど、そこまで――」

 

「デミウルゴス。これは一度しか言わねーから良く聞きな」

 

 

しなやかに一本の指を立てて。

私様、いや、まじっく☆ミは。

――ううん、ちげーな、星見 るいは言う。

 

 

「人間っていうのは、素晴らしき種族だ。

 希望があり、絶望があり、可能性があり、光があり、闇がある。

 デミウルゴス、君にはまだ分からないかも知れないが。

 

 決して人間を舐めるな。

 決して人間を侮るな。

 決して人間を――全てを下に見るな」

 

 

ハッとした表情を浮かべるデミウルゴスを無視して、私様は言う。

 

 

「私様は全てを知っていた。かつては全知だった。

 だけど今は違う、違うんだぜデミウルゴス」

 

 

それはまるで、歌を歌うように気軽に。

けれど、詩を言葉にするように、重厚に。

 

 

「これから始まる物語は、未知の物語であり、最早既知ではない。

 ここで終わりを迎えた物語は、既知の物語であるし、過去のものだ」

 

 

ああ、デミウルゴスが私の言葉を噛みしめるように、意味を知ろうとしている。

それがおかしくて、私様はくつくつと笑う。けっして嘲る訳ではなく、素晴らしいものを見るような目で。

 

 

「何が言いてーかってーと、デミウルゴス。君の頭脳が必要だ」

 

「……それは」

 

「必要ないんじゃないか?とでも言いたいんだろう?デミウルゴス。

 でも、違う、違うんだよデミウルゴス。

 

 勘違いを解いておかなければならない。

 私様と鈴木くんは、君より頭が良くない。

 

 君ほど頭は回らねーし、考える事も不得意だ」

 

 

そんな事あるはずがないって顔をしたデミウルゴス。

そこまで言うのかって顔をしたモモちゃん。

 

私様は、くるくると回った。

 

世界は、未知に溢れている。

 

空気が美味しいだなんて初めてだ。

 

緑が溢れているだなんて、初めてだ。

 

知らない事は沢山で、知らない事は、面白い。

 

だから、と。デミウルゴスに顔を向け。

 

 

「デミウルゴス。どうか私様達を助けてくれないか?」

 

 

私様は、はにかんでデミウルゴスにそう言った。

 

 

★ミ

 

 

「――確かに、承りました。

 このデミウルゴス、この身をもって、御身に助力の限りを尽くさせて頂きます」

 

「ありがとな☆ でみちゃん☆ミ」

 

「……ああもう!!なんで星見さんそこまで言っちゃうんですか!!?

 これじゃ俺が今まで分かってきたフリしてたのバレちゃったじゃないですか!!」

 

「良いじゃねーか☆ 嘘はいずれバレるんだぜ☆

 それが早くなっただけで、私様は悪くない☆ミ」

 

 

モモンガ様。まじっく☆ミ様は、そう言って私を無視して言い合い始めた。

ああいえ、失礼。鈴木さ――さんと。星見さんでしたね。これは苦労しそうです。

 

どうしようもなく、秘密を暴いてみせた星見さんは。

敢えて弱所を晒して見せた。

一瞬、私を試しているのか、とも思ったが、決してそうではない。

 

私を、信用しているのだ、と。そう思いたかった。

 

さて、と。専らの問題は、金銭の問題ですか。

その前に、冒険者の登録と文字――これは星見さんが居るから大丈夫ですね。

それに、宿は先に取っておくように提言しなければならない。

 

ああ。やることは沢山だ。

シモベとして、仲間として見て貰えるなど。

身を焦がれる程の光栄だ。

 

思わず、身震いしてしまう。

 

これからの事を思うと、ああ。

 

デミウルゴスは一人。感嘆の息を漏らした。

 

 




アルベド16 / 18%
デミウルゴス37 / 42%
同率で二人旅36 / 40%

最後に見た時がこれでした。
あ、やっべ逆転するわこれって思ったけど
筆が止まらなかった。
ゆるしてくだちぃ……。


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カードリスト:23:お金の問題とか☆ミ

貨幣価値についてはweb版を参考にしたよ☆
1000銅貨=100銀貨=10金貨=1白金貨 だね☆

まあこの話くれーでしか使わねーから気にしなくても良いんじゃないかな?
分かんねーけど☆ミ

あと誤字報告ありがとな☆ミ
すっげー走り書きで書いてるから多いと思うから助かるぜ☆


城塞都市 エ・ランテル。

そこは材料を石材を中心とした建造物が立ち並び、どこか中世西洋を思わせる。

建造物は2階以上の建造物が基本的で、平屋建ての建物はあまりない。

地震とかねーのかな。なーんて他人事の心配をしていた私様。

いや、魔法がある世界なんだから。そこは心配いらねーのか。とすぐ私様は興味を無くした。

今はそれよりも、だ。

 

 

「あは☆ 見ろよ☆

 人がこんなにも大勢外を歩いてるぜ☆

 有害物質とかの濃霧もありゃしねー☆

 これが外の世界か☆ 感動するね☆ミ」

 

「ちょ、ちょっと星見さん。

 街の中でそんなはしゃがないで下さいよ!

 恥ずかしいですって!」

 

「そう言うなよ☆ 何事も初めての経験だ☆

 あ、ごめん☆ そーいやカルネ村でも外出てたな☆ミ

 でもこりゃあすげーな☆ でみちゃんもそう思うだろ☆ミ

 あ、おっちゃん☆ この林檎いくら?……3銅貨?オイオイ☆そりゃたけーな☆

 そこらの安宿が5銅貨だぜ?……タダで良い?んじゃ貰うわ☆ありがとな☆ミ」

 

「そうですね。星見さ――さん。

 ただ、鈴木さんの言う通り。あまり遠くまで行かないように」

 

「……デミウルゴス、あまり星見さんを甘やかしすぎるなよ?

 彼女は、本当に、本ッッッ当に、問題児なんだ」

 

 

異世界の街並みとは、活気ある世界とは、希望に満ちた世界とは。

ここまで素晴らしいものか。林檎も美味――くねえ☆あの親父、渋い林檎渡しやがったな☆ミ

でも許しちゃう☆ 私様は今ご機嫌なのですから☆ミ

 

私様、鈴木くん、デミウルゴスの胸には、それぞれ銅(カッパー)の冒険者プレートがある。

ん?お金はどうしたのかって?そりゃあ君。私様はアイテムスミス。

アイテム作成の応用で、偽造通貨なんてちょちょいのちょいよ☆ミ

 

(偽造通貨作成とか犯罪ですよ!!?)

 

などとのたまう鈴木くんには、じゃあ無一文で行くかい?と正論で殴ってやった。

カルネ村でお礼としてお金を要求しなかったのがいてーな☆

 

無一文じゃ宿も取れねーし、冒険者登録にも最低限、お金が必要なことだろう。

じゃねーと冒険者ギルドとかやってけねーしな☆ミ

 

まあ、騙される方が悪いんだ☆と言葉にすれば。でみちゃんも頷いてくれた☆

まあ、アイテムスミスを極めた私様からしたら。

見分けのつかねー銅通貨くれーなら作るのは朝飯前だぜ☆

なんせ私様も見分けがつかねーからな☆

 

 

「それで、宿ですが」

 

 

でみちゃんの言葉に。私様と鈴木くんは足を止める。

 

 

「至高の御身に見合う。最も良い宿――ではなく。

 そこそこの宿を取るのが良いかと」

 

「良い案だな☆ でみちゃん☆ミ

 私様もそれが良いと思うし☆ それが良い☆」

 

「……ああ、確かに。

 登録したての銅(カッパー)の冒険者ですからね。

 そこまで良い宿を取っては逆に怪しまれますか」

 

「……至高の御方には、大変ご不便をおかけしますが――」

 

「いや、良いぜ私様が許す☆ミ

 むしろ一番良い宿とか、冒険の最初には不釣り合いだ☆」

 

「――ですね、冒険は始まったばかりなんですから」

 

 

先ず、目指すは宿だ☆ミ

 

 

★ミ

 

 

さてさて。私様。ちょっち忘れてた事がある☆

未来予知で知ってはいたんだけど、うっかり忘れてた☆ミ

 

 

「ちょっと、ちょっとちょっとちょっとぉ!!?

 あたしのポーション弁償しなさいよぉぉおお!!?」

 

 

目の前の女性――確か、ブリタ(だっけ?)がポーションが割れたとか何とかで突っかかって来たのだ。

元はと言えば、君が悪いだろうに。金貨1枚と銀貨10枚だっけ?

そんな高額な品をそのまま置いておくほうが悪いのであって、私様は悪くない。

 

弁償する手段は――まあ、ない訳じゃない。

1金貨が銀貨10枚だから……合わせて銅貨200枚か。

ちょっち時間をくれたら、銅貨200枚くらいポンと偽造出来るんだけど。

 

 

「……」

 

 

何も言わねー☆でみちゃんがこえー☆

多分この顔の下では、この人間をどう抹殺するかを検討してるよこれ☆

それに、だ。銅貨200枚ってのもちょっち不味い。

銀貨と金貨については偽造すると足が付きそうだからやってねーし。

全部銅貨で払うのも、おかしいだろう。違和感に思われるだろう。

 

だから仕方ねーから私様の回復ポーションを渡してやることにする☆

 

 

「まあまあ☆ 落ち着きなよ☆

 これしかねーけど☆ 私様の一番良いポーション渡すからさ☆ミ」

 

「え、ポーションあるの?」

 

(ちょ、ちょっと星見さん!!?

 それは『()()()』ポーションじゃないですかやだー!!?

 そこまで渡す必要、絶対無いですって!!勿体ないですって!!)

 

(うひゃひゃ☆ まあまあ☆ そう言うなよ鈴木くん☆ミ

 元はと言えば彼女は悪くないし、酔っ払いを投げた君が悪いのであって。

 ひいては仲間である私様が悪い。――それに、下心がねー訳じゃねーしな☆)

 

「これで良いだろ☆ミ」

 

「……『()()』ポーション?」

 

「ああ☆効果に疑問が思うなら☆

 薬師組合の、バレアレ薬品店にでも持って行くと良い。くひひ☆」

 

 

そう言えば、そんなイベントもあったな☆

すっかり忘れてたぜ☆ しっかり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に見せてくれよ☆

私様の自慢の一品だからな☆ミ

 

 

★ミ

 

 

私様達は無事に宿を確保することが出来た。

ま、後は『死の螺旋』が始まるまで待つだけなんだけどさ☆

ぶっちゃけそんなん面白みに欠ける☆

 

だからこそ、私様は作戦会議をすることにした。

デミウルゴスを筆頭に、これからどうすれば良いのか、って作戦会議だ。

 

 

「星見さん。これから起こるイベントを確認しようか」

 

「うん☆そだね☆ミ

 先ず、叡者の額冠がクレマンティーヌによって盗まれる☆

 これはもう終わってるかもな☆ 時期が不明だ☆

 

 次に、エ・ランテルの墓地で『死の螺旋』儀式をしているカジットの元へと☆

 叡者の額冠を彼女が持って行く☆

 

 最後は夜。いつ始まるかは不明だけど。

 ンフィーレア・バレアレが攫われて『死の螺旋』が始まる☆」

 

「……簡単な事では?」

 

 

とまあ、つらつらと述べていく私様☆

でみちゃんが首を傾げるのも当然だ☆

ここまで知っているなら妨害するのは簡単だからな☆ミ

 

ンフィーレア・バレアレを防衛しても良いし。

エ・ランテルの墓地でクレマンティーヌを待ち伏せしても良い。

最悪、『死の螺旋』が始まるまで酒飲んでて待ってても別に良い。

 

本当、何をどうしても私様達の勝ちは揺るがないし、

『死の螺旋』はほぼ起こり得ないと言っても過言ではないだろう。

 

私様達がここに来た時点で、詰んでいるのだから。

でも、でもだ☆

 

 

「でみちゃん☆ それじゃあ面白くない☆

 私様達は()()()()()()()()()()()。この物語を楽しみたい☆」

 

「でもそれとさっきの『最上位』のポーションを渡したのは関係ないですよね。

 本当に勿体ない。下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)で良かったんじゃ?」

 

「モモちゃん☆ 私様がそんなつまんねーポーション持ってると思うか?」

 

「……あ、そうですね。はい」

 

「それに、だぜ?」

 

 

私様は指を1本立てる。

 

 

「バタフライエフェクト、なんて言葉があるように。

 私様の未来予知で見た光景に変化があるかも知れねー。

 もしかしたら、万が一、を潰す為に。でみちゃん、君が必要だ」

 

 

デミウルゴスは私様の言葉に感涙の涙を流したんじゃねーかな☆

言葉にして。もっと褒め称えても良いんだぜ?私様、人の懐柔は得意だからな☆

 

 

「至高の御方のお力添え出来る様。望みを叶える一助とさせて頂きます。

 ――つきましては、一つ。策を思い付きました」

 

「へえ。良いぜ☆ 言ってごらん☆ でみちゃん☆ミ」

 

 

私様は、笑みを深くして笑う☆

さてさて、面白くなってきやがったぜ☆

 

 

★ミ

 

 

()()』ポーション。

それは今、リイジー・バレアレの前にあった。

 

 

「道具鑑定(アプレイザル・マジックアイテム)

 付与魔法探知(ディテクト・エンチャント)」

 

 

魔法を用いて。そのポーションを鑑定する。

だが。それでも尚、その全てを知ることが出来ない。

それでも知ることが出来た、その一部。それだけでも。

――有り得ない。リイジー・バレアレは愕然とした。

 

これまで鑑定してきたアイテム。

それに付与されている魔法の数。

 

そのどれよりも、このポーションは優れていた。

完全治癒など烏滸がましい。

完成されたポーション、伝説の神の血などとんでもない。

 

これはそれよりも遥かに優れている。

 

そして、製作者『まじっく☆ミ』が居るという事。

 

このポーションは、この名前の者が『創り出した』という事。

 

 

「どこで!! どこでこのポーションを手に入れた!!?」

 

「お、落ち着いて!お婆ちゃん!!」

 

「え、えぇ!?」

 

「金か!!?金ならいくらでもやる!!

 100金貨じゃ!!100金貨でどうじゃ!!

 ……ええい!!足らんか!!なら200金貨!!」

 

 

ブリタは、今最高潮に困惑していた。

鑑定を頼んだと思ったら、目の前に金貨の山が積まれていくのだ。

言葉が出ないのも、さもありなん。

200、300.400――と金貨が積まれた所で。

ブリタが言葉が出せたのは、奇跡と言っても過言は無い。

 

 

「え、えと。そこの宿の、冒険者から、貰いました……」

 

「――!

 行くよ!!ンフィーレア!!」

 

「えぇ!?待ってよ!!店はどうするのさ!!」

 

「放ってでも置きな!!

 こんなものどうだっていい!!」

 

「あーもう!!お婆ちゃんは本当に!!」

 

 

慌てた様子で出ていく二人を他所に。

ブリタは400枚の金貨を前に立ち尽くしていた。

 

 

「あ、あれ?これ貰っちゃっていいの?

 る、留守番とかした方が良いのかな?」

 

 

誰に言うでもなく。場違いな独り言を言葉にする。

有り体に言えば、彼女は善性で。バレアレが戻ってくるまで律儀に留守番をしていた。

とだけ、この物語には記しておこう。

 



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カードリスト:24:仲間だとか☆ミ

……どうなんだろうねって思った回。主に前半は書く事に困った。
ホント前半は大した事書いてねーから読み飛ばしてもいいんじゃないかなって思った。



物語は常に喜劇的でなければならない。

喜劇的であるのなら、そこには笑顔が溢れていなければならない。

笑顔が溢れているのならば、物語の終わりは、ハッピーエンドでなければならない。

 

バッドエンドは私様が許さねえ。

ハッピーエンド以外は、全て等しく無価値である。

私様は、そう思う。

 

だからこそ、私様の思い描いていたものと、今の状況はかけ離れていた事に。

私様はとても、とても悲しくなった。

やりきれない気持ちで一杯になった。

 

エ・ランテルは、今。

おびただしい量のゾンビ達で溢れかえっている。

脆弱な市民や女子供は逃げまどい。勇敢な兵士や冒険者達はそれに立ち向かっている。

 

しかし、悲しいかな。ゾンビの物量に、彼らは勝つ事は出来ない。

徐々に、徐々に。押されていく。

希望が一つ、また一つ潰えていく。

 

その中で一つ。

大量のゾンビ達に囲まれた。冒険者の姿があった。

 

武器は手に持たず、互いが互いを抱きしめ合っている。

今のエ・ランテルでは、珍しくない光景だった。

 

顔は恐怖に塗れ。身体が震えている。

ゾンビたちは、「あ……う……」と声にならない声を漏らす。

今か、今かと絶望の瞬間を迎えようとした。

 

 

「英雄は、どこだ……?」

 

 

誰かが声を漏らした。

 

 

「英雄は、どこだ?」

 

 

次第に、声は大きくなる。

 

 

「英雄はどこだ!!」

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

突然、まばゆいばかりのスポットライトがある冒険者の姿を映し出す。

胸には銅(カッパー)の冒険者プレートを掲げ。豪勢な飾りを付けた、ローブ姿の男性が居た。

手には持っているはずの杖は見当たらない。代わりに持っているのは、マイクだ。

 

 

「EI-YU-Uは」「どこだ!!」デンデデ デデデ

 

 

ステージに鈴木くんの声が響く。

詰めかけたオーディエンスは、鈴木くんの久々のステージに期待で爆発しそうだ。

今晩も伝説が始まる。これから始まる物語の、伝説の一部を見ることが出来るのだ。

 

ローブを脱ぎ捨て、ロックなオーバーサイズのTシャツを着た鈴木くんが叫ぶ。

 

 

「EI-YU-Uは」「どこだ!!」デンデデ デデデ

 

 

私様はドラムを叩きながら、鈴木くんに目で合図をする。

 

重たいサウンドがスピーカーから響く。ショウの始まりだ。

 

 

「俺がEI-YU-U」「敵がA-U-」「戦うBAN-YUU」「君のためにFOR YOU」

 

 

ムーンウォークを決めるデミウルゴス。

キレのあるその動きに、オーディエンスの熱狂は怖いくらいだ。

ゾンビたちはデミウルゴスの動きに同調するように。踊りだす。

バックダンサーとして雇った彼らの動きも、好調だ。

 

 

「俺はEI-YU-U」「味方はKAN-YU-U」「いつでもKO-YU-U」

 

「HEY YOU!」(YOU!!)「誰でもKAN-YU-U」(YOU!!)

 

 

サウンドのピークが近付いてきた。デミウルゴスの動きがマックスに近付く。

ゾンビたちの動きも徐々にキレが増していく。観客のボルテージは天井知らずだ。

 

いま、私様達の伝説は始まったばかりだ。そんなメッセージが鈴木君の口から飛び出していく。

本物の喜劇が、ここにあるのだ。

 

 

★ミ

 

 

「こういうプランで行こうと思う」( ー`дー´)キリッ

 

「どういうプランだこの馬鹿害悪!!」

 

 

スパーン、と。頭を叩かれた私様。

いてーな☆ほんの冗談じゃねーか☆ミ

涙目になりながらも頭をさする私様。

 

ただ、デミウルゴスだけは真剣な表情だ。

 

 

「作戦の一つとして考えましょう」

 

「マジで言ってるのかデミウルゴス!!?」

 

「冗談です。ははは」

 

 

おおよそのプランが決まった私様達は、そんな談笑に勤しんでいた。

時間が経って、私様達の空気に慣れたのか、デミウルゴスもたまに冗談をかましてくる。

これがまた、いつもとのギャップがあって面白い。

 

まあ、半分は冗談、半分は本気だぜ?と私様がぼやくと。

鈴木くんとデミウルゴスの動きが止まった。

おっ、ナイスリアクションだ☆

 

 

「……冗談ですよね?」

 

「私様、冗談は言うけど、嘘は言わねーの☆

 最終手段の一つとしてこういう喜劇も悪くねーかなって☆ミ」

 

「……星見さんの考えは、私共には理解しかねますね」

 

「デミウルゴス、今のうちに目を光らせておけ。

 星見さんは本当にしでかしかねないから」

 

「失礼だな君ら☆ 私様を誰だと思ってるんだね☆ミ」

 

「害悪、最悪、問題児」「ち、知慮に長けた御方かと」

 

「お~☆ でみちゃん☆ミ

 分かってるじゃね~か☆ 褒美に撫でたる☆ミ」

 

おぉ……これは慈愛に満ちた御方と呼ばれる訳ですね、納得です

 

「だから甘やかすなって!デミウルゴス!!」

 

 

時たまデミウルゴスを褒めておくことも忘れない。

こうしておくと、私様をよく褒めてくれるようになるのだお☆

私様は褒めると伸びる子だから、ほら、もっと褒め称えたまえよ☆ミ

 

 

「まあ、冗談はさておいて、だ。

 私様達は、今の所。なーんの後ろ盾もねー。

 これじゃ、何かを成し遂げても、どっかの馬鹿に手柄を横取りされる危険性がある」

 

「……まあ、そうですね」

 

 

温度差凄くて風邪ひきそうです。

と、鈴木くんはぼやきながら頷いた。

 

 

「王国を後ろ盾にでもしますか?」

 

「いんや。それは駄目だな。 自由に動けなくなっちまう。

 いずれ、丁度良い程度の大きさの後ろ盾が必要となってくる。

 私様達の言う話に、若干の信用性を持たせるんだよ」

 

「ふむ、となると地域の有力者を支配することが優先されますね」

 

「ちげーな、でみちゃん。『支配』じゃなくて『協力』したいと思わせるんだ」

 

 

私様は、しなやかに指をくるくる回す。

 

 

「『支配』と『協力』は、似てるようで大きく違う。

 『支配』は簡単で、押さえつけることが出来る。

 これは必要なのは恐怖や武力であって、今の私様達には簡単だ。

 でもな、これが簡単に寝返るし、裏切る。

 

 『協力』はその真逆と言って良い。

 難しいし、簡単には得られねーけど、一度そうしたら簡単には寝返らねー」

 

「勉強になります」

 

「なーに☆ でみちゃんならすぐに分かるさ☆ミ」

 

 

そして、私様は続ける。

既に、種は撒いた。それも特級の種だ。

私様の考えが正しいのならば、遅くとも明日にでも芽が出るはずだぜ☆

 

ゴクリ、と二人は喉を鳴らした。

未来予知で得ている情報だからこそだろうな。でみちゃんとは見えてる視点がちげー。

鈴木くんは、考える事は苦手でも、整理する事は得意な人間と見た。

私様の話にちゃんとついていけているのが何よりの証拠だ。馬鹿には出来ねー。

 

ニヤリ、と笑った私様は、宿屋の入り口の方が何か騒がしい事に気付いた。

段々と足音が大きくなってくるのを考えるに、バレアレ達だろう。

良いタイミングだ。

 

身構えるデミウルゴスを手で制して。私様は言う。

 

 

「ほら、もう芽が出たみたいだぜ?」

 

 

★ミ

 

 

そこからの話は、実に簡単だった。

リイジー・バレアレとンフィーレア・バレアレが私様達の部屋にやってくるなり。

白いポーションを突き出して「このポーションを渡したのは誰か」と聞いてきた。

 

突然の事に、鈴木くんとデミウルゴスは顔をしかめたが、私様は正直に言う。

「はい☆ 私様だぜ☆ミ」ってな☆

 

そしたら矢継ぎ早に飛んでくる飛んでくる、質問の嵐。

あのポーションの出所から。

まじっく☆ミという存在の居場所。

他にも色々と聞いてきたけど、わりーけど聞き流したわ☆ミ

だって長ったらしいんだもん☆ミ

 

だからこそ、私様は実演してあげることにした☆

 

 

「一度しか見せねーから良ーく見とけよ?」

 

 

錬金術師の道具を、材料を、無限の背負い袋から取り出す。

気付けば、狭い狭い部屋は、私様の錬金術の道具で溢れかえっていて。

足の踏み場もねー状態だった。狭いなこの部屋☆ミ

 

そうして、幾度となく繰り返した生産を『手作業』で行う。

これがまた不思議なもんでな?

調合する材料の分量、タイミング、温度まで身体が覚えてるみてーに動くわけだ。

 

アイテムスミス

アルケミスト

ルーンスミス

を上限一杯まで極めてっからかな?なんて他の事を考えながら。

よそ見しながら手だけが素早く動いていく。

おお、すげーな☆私様ながら手の動きがまるで見えねー☆

 

そうして出来上がったのは、『白い』ポーション。

かかった時間は――大体10分くれーかな?

 

リイジー・バレアレの震える手に、それを渡すと、目の前で魔法を使いやがった☆

おいおい☆でみちゃんが警戒してるってのに命知らずだな☆

 

 

「道具鑑定(アプレイザル・マジックアイテム)

 付与魔法探知(ディテクト・エンチャント)」

 

 

そうして、鑑定が終わったリイジー・バレアレは、急に両膝をついて頭を下げた。

いわゆる土下座って奴だな☆ 鈴木くんがよくやる奴だぜ☆ミ

 

 

「まじっく☆ミ様……この、製薬のレシピを、どうかこの私めに譲っては頂けないでしょうか」

 

「お、お婆ちゃん!?」

 

「へえ。対価は?」

 

 

私様は、椅子に座りながら悠々と言葉にする。

老婆が土下座してるのに失礼だって?頼んでるのは向こうだぜ?

だから私様は悪くない。

 

 

「金なら、いくらでも」

 

「いくらだい?」

 

 

私様は、笑みを深めた。

 

 

「……金貨2万枚、それにこの婆の残りの生涯を捧げます」

 

「ふーん」

 

 

私様は、無限の背負い袋から一枚の紙を手にする。

 

 

「これが、私様の『白い』ポーションのレシピだ」

 

「おお……これが」

 

 

手を伸ばそうとする、リイジー・バレアレ。

だが。

 

 

「金貨2万枚?馬鹿言うなよ」

 

 

それに火を点ける。

みるみるうちに、燃えていく。紙切れ。

まるで信じられないものを見るような目で、リイジー・バレアレはそれを眺めていた。

 

 

「金貨4万枚!!」

 

「全ッ然足りねーな」

 

「金貨6万枚!!」

 

「まるで分かっちゃいねー」

 

 

燃え滓になったそれを、投げ捨てる。延焼?しねーよ。

そのくらい、火はもうほぼ残っちゃいねー。

 

投げ捨てられた燃え滓を、老婆は必死になって火を消そうとする。

 

 

「お婆ちゃん!!火傷しちゃうよ!!」

 

「ンフィーレア!!これがどれだけの価値があるのか、分かっていないのかい!!」

 

「――そんなのより!!僕はお婆ちゃんのが大切だ!!」

 

 

その声に、リイジー・バレアレは手を止める。

燃え滓は――みるみるうちに灰に変わっていく。

けれど、ああ。リイジー・バレアレは気にも留めていない。

ンフィーレア・バレアレは、声を荒げた。

 

 

「こんな、ポーションよりも!!

 僕はお婆ちゃんの作ったポーションのが良い!!

 そのポーションが、どれだけ治癒しようと、どれだけ効果が凄くても!!」

 

 

ああ、私様は目を細める。

 

 

「僕は、お婆ちゃんのポーションが、一番だよ……!!」

 

「ンフィーレア……」

 

 

二人は、抱きしめあった。

 

人間とは素晴らしい。

時に、価値を見誤る事があるが。人間は素晴らしい生き物だ。

眩い程の可能性がある。妬ましいほどの光がある。

 

 

「デミウルゴス、人間とは。素晴らしい生き物だよ」

 

「――そう、かも……知れませんね」

 

 

私様は小声でデミウルゴスにそう伝える。

分かってくれたかは知らないが、私様の言葉に頷いたのを見るに、ちょっとは分かってくれたかな?

 

まあ、良いさ。ここからが私様の出番であり、ギルマスである鈴木くんの出番だ。

 

 

「ああ、困ったねこれは。私様のレシピが無くなってしまった。

 これじゃあ残るは私様の頭の中にしかレシピは残されていないじゃあないか。

 ――時に鈴木くん」

 

「……はい。なんでしょうか」

 

「私様は、楽しく生きていたいと言ったあの日。君はなんと言ったか覚えているかい?」

 

 

プレインズウォーカーの灯が灯ったあの日、あの場所で。

君は、私様は、互いにプレインズウォーカーだと認め合ったあの日だ。

 

 

「……勿論、覚えてますよ。

 仲間と一緒に居たい。

 

 仲間と世界の全てを見て回りたい。

 仲間と冒険したい。仲間と未知を知りたい。

 俺は確かにそう言いました」

 

「私様はそれに返したね。

 ――だったら、仲間を見つけよう、と」

 

 

私様は椅子から立ち上がる。

 

 

「私様が欲しているものは、金じゃあない。

 仲間だ。

 金では買えない仲間が欲しい。

 金では買えない絆が欲しいんだ」

 

 

抱きしめ合っている老婆とその子供。

目だけは私様達の方を向いていて。

その目は、どこか光に満ちている。

 

涙のせいかも知れないが、それでもかまわない。

 

 

「バレアレよ。どうか、私様達の仲間になって欲しい。

 私様に出来ることなら、何でもする。

 知識が必要ならば、授けよう。

 力が必要ならば、与えよう。

 

 けれど、決して人の道からは外れないで欲しい。

 それだけ約束してくれたら――」

 

 

私様ははにかんだ笑顔を浮かべる。

 

 

「君たちは、私様達の仲間だ」

 



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カードリスト:25:卑猥は一切ないぞ☆ミ

アニメを見返す度に、クレマンティーヌの太ももに目が行くんです☆
教授、これは一体……
まさかこれが恋……!(トゥンク



私様の手を取ったのは、意外や意外。ンフィーレア・バレアレの方だった。

リイジー・バレアレはどうしてたかってーと、ンフィーレアの手を取り、私様の手へと添えていた。

彼はやや困惑したように、リイジーを見ていた。

 

 

「私めよりも、ンフィーレアの方が適任でしょう。

 先の短い私めでは、役には立てそうにありませんから。

 

 それに、この子の言う通り、私めには私のポーションがあります。

 それが一番とまで言われたのですから。私はそれで十分です」

 

「お婆ちゃん……」

 

「こう見えて、この子は天才です。――貴女には及ばないかも知れませんが。

 それでも。自慢の、たった一人の家族です。どうかこの子を、ンフィーレアを。宜しくお願い致します」

 

 

げに美しきは、親子愛かな。

ンフィーレアの瞳には、困惑こそしているものの、強い意志の力を感じた。

良い目をしている。金色の瞳の奥には、確かな光がある。強い決意がある。

 

それは私様には足りねーもので。仲間には欲しいものだ。

ンフィーレアは、私様の手を強く、強く握ると。決意の言葉を紡いだ。

 

 

「――僕を、仲間にしてください」

 

「その言葉が聞きたかった☆」

 

 

私様は、はにかんだ笑みをそのままに。彼の手を握り返した。

 

 

★ミ

 

 

アインズ・ウール・ゴウンに加入するにあたって。二つの加入制限がある。

一つは社会人であること。

一つは異形種であること。

 

ンフィーレアは、そのどちらにも当てはまらない。

だが、私様が思うに、そんな制限は最早形骸化していて。今の私様達には枷にしかならない。

だからこそ、私様は、彼を仲間に引き入れる事を良しとしたのだけれど。

 

 

「またこんな拾い物をして来て。良いですか?ギルメンを増やすのであれば

 必ずギルマスである俺の許可を取ってからにしてください。

 大体、星見さんはいつもそうです。感情とその場のノリで生き過ぎです。

 決まり事は必ず守ること。前から言っているでしょうに。それに星見さんは……」

 

 

リイジーがその場を後にした後、

残されたンフィーレアを前にしながら。私様は鈴木くんの説教を喰らっていた☆

なんでやねん☆ ここは和やかに歓迎する流れやろがい☆ミ

だから私様は反省はしてないし☆ 後悔もしてない☆

あ、嘘嘘☆ げんこつは止めて☆ 私様の整ったお顔がボコボコになっちゃう☆ミ

 

ひとしきり説教が終わった頃には、すっかり日が暮れていて。

その間、ンフィーレアは口を挟まなかった。偉いな☆ 私様だったら諦めてるぜ☆

 

 

「鈴木くんはンフィーレアが仲間になる事に反対かい☆ミ」

 

「……そうは言ってないでしょう。彼のタレントは優秀です。

 それに、これから起こる事を考えると、彼は身内に欲しい人材でもある」

 

「だったら良いじゃねーか☆」

 

「それとこれとは話が別です」

 

 

マジか☆ 私様だったら別に良いんじゃね☆ で通しちゃうけどな☆

根が真面目と言うか、何と言うか☆ ま、そうじゃなきゃギルマスなんてやってけねーか☆

ともかく、私様達が今やる事は説教じゃない。それだけは伝えたい☆

 

 

「鈴木くん☆ 鈴木くん☆ミ」

 

「発言はギルメン以外には認められません」

 

「はいはい☆ギルメンです☆ミ」

 

「……はい、なんですか星見さん」

 

「腹減ったわ私様☆」

 

「はぁ……この人は本当にマイペースだな……」

 

 

馬鹿言うんじゃないよ☆ ご飯食べてンフィーレアの歓迎会をするのは、立派な行動だろ☆ミ

そーれーにー☆ 私様もこの辺りで安くて美味いご飯を食べてみたい☆

ナザリックに比べたら豪勢な感じじゃ負けちゃうだろうけど☆ 外食を楽しみたいのだ☆

私様達は、ンフィーレアにこの辺りで安くて美味い飯屋を聞いて。そのまま宿屋を後にした☆

 

のは良かったんだけどさ☆

 

 

「――気付いてるね?でみちゃん」

 

「はい。後を付けられていますね」

 

 

なーんか違和感を感じた。

なんつーんだろな?見られてる感じ☆

適当にでみちゃんに声をかけると。なんと追手が居るとのこと☆

なんでじゃい☆ 私様悪い事はしてないじゃろがい☆

……偽造通貨作成? あれは仕方のないことですしおすしー☆

……宿屋の放火未遂? 燃えなかったからセーフ☆

 

――となるとまあ、十中八九クレマンティーヌだろう☆

ターゲットであるンフィーレアに接触する為に、やって来たんだろう☆

 

もし自警団とかの怖ーいお兄さんだったら?

お兄さん許して☆ とか言って全力で逃げるぜ☆ミ

 

 

「鈴木くん☆ 二手に分かれるよ☆ミ

 私様とンフィーレアは路地裏に☆

 君とでみちゃんはそのまま真っ直ぐ行って飯屋で合流な☆」

 

「……了承しかねますね」

 

「もしも自警団の人だったら困るだろ☆ミ

 無意味に警戒を上げてもしょうがないぞ☆」

 

「そこの路地裏で一旦別れて、俺達は暫くしてから戻ってきます。

 これ以上は譲れません」

 

「しゃーねーな☆ じゃあそれで☆ミ」

 

 

私様の仲間以外には聞こえないように、小声で喋りながら。

私様達は二手に分かれる。――追手は、路地裏に進んできたか☆

んー☆ これはもう、クレマンティーヌ確定で良いんじゃない☆ミ

 

細い路地裏を、私様達は進んで行く。途中、行き止まりになった。

そして、振り向こうとして。

 

ドスリ。と背中に衝撃が走った。

 

なんやろ☆ って背中を触ってみると。ちょっちドロッとした感触。

んー☆ これは刺されたな☆ミ

 

 

「――んー?っかしーなー?

 確かに刺したと思ったんだけどー?」

 

 

見れば、そこに居たのはビキニアーマーのような軽装をした女性の姿。

手には、血濡れのスティレット。――なるほど、なるほど。

 

 

これは浪漫の塊ですね☆ミ

 

 

だっておめー、ビキニアーマーだぞ☆

ユグドラシル時代じゃぜってー垢BANされて然るべき装備だぞ☆

それにスティレットってのも良い。

 

短剣の一種であるそれは、瀕死の重傷を負った相手にとどめをさすものであって、武器じゃあない☆

別名ミセコルデとも呼ばれるその武器は、刺突以外には向いていない。ってか刺突しか出来ねー産廃武器だ☆

これは君、凄い事だぞ☆ミ

 

ユグドラシル時代だったら「ははーん、さてはお前馬鹿だな?」とか言われても反論できねー☆

私様もウェポンスミスの一人として、色々試行錯誤した結果、「他の武器でええやん☆」ってなった。

それを目の前の女性は、武器として使用しているんだ。スゲーなこいつ☆

 

 

「これは参ったね☆」

 

 

私様は肩をすくめて言葉にする☆

主に浪漫重視で負けた☆

勝つ負けるの次元じゃねー。勝負には勝てるだろうけど、試合には負けた気分だった☆

 

 

「へえ。このクレマンティーヌ様の実力が分かった?

 英雄の領域に足を踏み込んだクレマンティーヌ様の実力が分かっちゃった?」

 

「凄いな君☆

 私様だったら真似出来ないよ☆」

 

「あはっ、だったらさあ――とっとと死ねよ」

 

 

瞬間、目の前から立ち消え、たように見えたクレマンティーヌの姿。

お、結構早いね。私様じゃなかったらだったら見失っちゃうね☆

まあ嘘なんだけど☆ 生産職の私様に捉えられる時点で、ぶっちゃけ大した事ない。

私様の背後に居るンフィーレアにだけ注意して、いると。

 

ずぶり。と胸にちょっちチクリとした感触が三つ。

 

見れば胸元にスティレットが三本、深々と刺さっているではあーりませんか☆

本当、浪漫しかねーな☆ この武器☆

スニークキルが失敗した時点で真っ直ぐしかないこの武器は、本当、戦闘向けじゃないと思う☆

 

うーん☆困ったな☆浪漫を見せてくれたお礼に。

痛がってあげても良いんだけど。それにメリットがない。

どうしたもんかなーって私様、暫くそのままで居ると。

 

 

「人間種魅了(チャームパーソン)!!

 雷撃(ライトニング)!!

 火球(ファイヤーボール)!!」

 

 

おっ、ちょっち痛いなこれ☆

クリティカルでこそないものの、体力の一割は削られたかな?

100レベルがここまでやられるってのもなーんか悲しいけど☆

 

 

「これで――」

 

「終わりかな?クレマンティーヌ?」

 

 

笑顔を浮かべる私様☆

いやー、良いものを見せてもらったお☆

浪漫装備って良いよね……。実用度外視だけどさ☆

 

信じられないものを見るような目で。私様を見る、クレマンティーヌちゃん☆

 

その隙に私様、回復ポーションを手に取ると、一飲みする。

苦労して削った一割。それが完全に治癒する。

 

 

「さあ、さあ☆ 次を魅せてよ☆

 次はどんな武器で来るのかな☆ミ

 私様、楽しみでしょうがないぜ☆」

 

 

おっ☆ おっ☆ なんか楽しくなってきたお☆

スティレットは――装備出来ないからその辺に捨てて。

私様は、笑顔で彼女を見つめる。

 

血濡れとなった路地裏で、ンフィーレアがゴクリ、と唾を飲みこむ音が聞こえた。

ああ、そっか☆ ンフィーレアは私様の戦闘を見た事がなかったっけ☆

基本、私様は何もしないよ☆ 実験するならともかくとして。弱いもの虐めはしたことがない☆

だって私様より弱い奴なんて居なかったんだから☆

 

課金アイテム?装備?それは外付けの強化であって、私様本体の強さじゃあない。

話術?それは戦いから逃げる為の手段であって、強さじゃあない。

 

私様は、強くあることから逃げた人間だよ☆

強くあることも出来たのかもしれねーけど、それを諦めた人間だよ☆

あ。ごめん嘘言ったわ☆私様今ホムンクルスだから人間じゃねーわ☆

大丈夫☆ 諦めない心があれば、きっと勝てるよ☆ だって、君はまだ強さを諦めてないんだから☆

 

 

「君は、まだ頑張れる」

 

 

クレマンティーヌの呼吸が荒い。

じゃり。と後ろ向きに足を向けようとする。

――逃げようとしているのだ。彼女は。

 

そっか、ここまでか。クレマンティーヌちゃん。

 

私様は、諦めた彼女に向けて。ポーションを投げる。

珍しく私様製ではなく。課金アイテムだ。『白くねばつくポーション』は。

クレマンティーヌの頭に直撃すると、その中身を散乱する。

 

スライムのように広がり、明らかにポーションの内容量よりも多いそれ。

粘着性があり、移動を阻害出来るそれは。クレマンティーヌの身体中に巻き散らかされた。

 

 

「なにこれっ!ネバネバして気持ち悪っい!!

 動き、づら――い!!クソッ!!」

 

 

『ナイスです!!まじっく☆ミさん!!

 女の子に対して白くねばつく液体ぶっかけとか!!最高ですね!!』

 

心のペロロンチーノがガッツポーズを掲げたが、いや。そんなつもりは一切無い。

卑猥はない。いいね?と心に蓋をする。

 

 

「星見さん、無事でしたか?」

 

「お、鈴木くん☆ おっすおっす☆

 やっぱりクレマンティーヌちゃんだったお☆」

 

 

お、良いタイミングで、鈴木くんとも合流出来た。

さてさて、クレマンティーヌちゃんはどうなることやら。

 

 



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カードリスト:26:卑猥は一切なかった☆ミ

クレマンティーヌは可愛い。筆が進んでプロットは崩壊した。
諸君らの愛したプロットはもう見る影もない。
クレマンティーヌは可愛い。よってこうなったのは仕方のないことであって。
コラテラル・ダメージに過ぎないのだ。
クレマンティーヌは可愛い。

あ、キャラ崩壊するし、原作がどんどん崩壊すっから注意な☆ミ



さてさて、私様達は、「路地裏で女の子に対して白くねばつく液体をぶっかけて」それを眺めていた。

おっと、誤解を解いておこう。何も卑猥はない、ないったらないのだ。

決してそういうことをして楽しんでいる訳ではなく、捕縛した結果のことだ。

 

繰り返す。卑猥は一切ない。

例え女の子がビキニアーマーとか言うすげーアレな恰好をしてるとしても、ないったらないのだ。

 

『畜生!!どうして俺は今そこに居ないんだ!!』

 

心のペロロンチーノが何か叫んでいるが、無視☆

女の子の方は何をしているかと言うと、必死になってもがいている。

もがけばもがくほど、白くねばつくそれは、粘着性を増す。

初めは糸を引く程度だったそれは、段々と動きを阻害する程にネトネトしてくる。

 

それでいて滑るのだ。立とうとすれば、足元がおぼつかず。

歩こうとするだけで精一杯。走るなどもってのほかである。

滑って転倒したクレマンティーヌちゃんは、顔をしかめる。

 

 

「うげ。口に入った……にが……」

 

 

ふむふむ。どうやら白くねばつくそれは苦いらしいな☆

心のペロロンチーノが血の涙を流すが、無視☆

再三言う様だが、卑猥は一切ないぞ☆ ただの課金アイテムだぞ☆

私様は、彼女を他所に鈴木くん達の方へと歩み寄る。

 

 

「とりあえず捕獲しといたけどさ☆ クレマンティーヌちゃんどうする☆ミ」

 

「うーん、どうしましょうかね? 俺、どっちでも良いですよ?」

 

「生かす理由はないかと」

 

「で、でも殺しちゃうのは可哀想です!」

 

 

ふむ、中立が1 始末が1 生存が1か。

ンフィーレアは単純に善性なだけで。デミウルゴスは利益を考えてだね。

鈴木くんは――うん、仲間じゃないんだから無関心なだけかな?

まあ、私様としては本当、どっちでも良いっちゃ良いんだけどさ。

私様の1票でクレマンティーヌちゃんの生死が決まるってのはちょっち重い。

私様は楽しく面白く生きていたいのだ。

 

 

「うーん☆ クレマンティーヌちゃんはどう思う☆」

 

「……」

 

 

生存か死か。つまらない命乞いをしたらまあ。殺すつもりだし。

面白い事を言ってくれるならば、生かしてあげてもいい。

つまり。単純に「生きたいです」って言うのは悪手だぜ?クレマンティーヌ。

私様は笑みを浮かべて、彼女に問う。

 

さあ、君は何と言うのかな?

 

 

「あの、その、……もしかして、『ぷれいやー』様、でしょうか……?」

 

 

ふむふむ。そう来たか。

 

 

「そだね☆私様はまじっく☆ミっていうプレイヤーで☆ミ」

 

「……俺はモモンガ、という。プレイヤーだ」

 

「――さてさて☆

  これは困ったね☆ミ

 私様達がプレイヤーと知られた以上。誰かに知られる危険性がある。

 やっぱ、ここで殺しちゃおっかな☆ミ」

 

「――っ!!」

 

 

今の所、まだセーフだぜ?クレマンティーヌちゃん。

ちょっち私様の心象が悪くなっちゃったけど☆ まだ面白くなる余地はあるぜ☆

さあ、次の一言だ。私様の興味を引くような一言が無ければ。

 

――君はここで死ぬ。

 

――ああ、でも分かりにくいかな?

 

 

「ヒントをあげよっか☆ミ」

 

 

瞬間、クレマンティーヌちゃんの首が上下に激しく動く。

自分がどんな立ち位置に居るのかよーく分かってるみたいだね☆

関心関心☆

 

 

「私様はかつて『全知』だった。

 君が知っている程度の情報は既に持っているし。

 君程度の戦力は必要としていない。

 君に、私様が求めているのは、『未知』だ」

 

 

ごくり。と喉を鳴らしたクレマンティーヌちゃん。

 

情報、戦力、魅力、行動力、尊敬、畏敬。

いずれも私様は必要としていない。って事は理解してくれたかな?

私様が求めているのはそれ以外の何か、という事も理解してくれたかな?

 

さあ、ヒントはあげたぜ?

 

答えを聞こうじゃないか?

 

私様は、スッと、指を三本立てた。

 

 

……一本折り曲げて、残るは二本。

それが――カウントダウンと知った彼女は、叫ぶ。

 

 

「――!!お、お待ちください!!」

 

「待たねーよ☆」

 

 

焦る彼女。クレマンティーヌは、必死に頭を回していることだろう。

私様は笑みを深める。面白い、面白いなあ。

くひ☆ くひひひ☆ 愉しいなあ☆

 

……一本折り曲げて、残りはあと一本。

 

 

「あ、兄貴」

 

「――クインティアだっけ?今更そんな奴の情報は」

 

 

その時、私様は。『()()()()』を感じた。

私様の殺意に対して、対抗する()()を感じた。

 

 

「わ、私は、兄貴の事が好きです!!」

 

 

瞬間、私様達は静まり返る。

鈴木くんは、困惑している様だ。

デミウルゴスは、眉をひそめている。

ンフィーレアは、ポカーンと口を開けていた。

 

そして私様は、笑みを更に深めた。

 

 

「へえ。ただ単に好きなだけかい?」

 

「兄貴の事が、()()()です!!」

 

「どういう風に好きなんだい?」

 

 

私は――。

 

 一人師団と呼ばれる兄貴の事が好きです。

 漆黒聖典第五席次に居る兄貴が好きです。

 ビーストテイマーとして戦場を駆ける兄貴が好きです。

 

 笑顔の兄貴が好きだ。

 整った顔の兄貴が好きだ。

 英雄としての兄貴が好きだ。

 存在感の強い兄貴が好きだ。

 指揮をとる兄貴の事が大好きだ。

 

 クリムゾンオウルを召喚する、凛々しい表情をした兄貴が好きだ。

 ギガント・バジリスクを呼び出した時なんて、身が震えるくらいに好きだ。

 

 平原で、草原で、山中で、山道で、森林で、湿原で、平地で。

 戦う兄貴の姿を見るだけで、心が躍る。想うだけで、胸がときめく。

 

 ――ああ、蕩けるくらいに、私は兄貴の事が好きだ。

 ――ああ、想うだけで、濡れるくらいに兄貴の事が好きだ。

 

 ――この手で、終わらせてあげたくなるくらい、兄貴の事が大好きだ」

 

 

「おやおや? 私様が知るに。

 君は兄貴に対して劣等感を感じているのでは無かったのかな?」

 

「――それは、その。あまりに眩しい兄貴の妹として。私はふさわしくないから。

 ――あまりに穢れて、狂ってしまったから。ずっと、ずっと秘密にしてきたんです……」

 

 

最後は消え入るような声で、顔を俯けたクレマンティーヌちゃん。

その顔は真っ赤で、まるで恋する乙女のようだった。

 

くひゃひゃ☆ ああ、なるほど。なるほど。それは()()だ。

()()()()()()()であるのならば、それは私が知り得ない訳だ。

 

素晴らしい未知だ。素晴らしい『()()()()』だ。

私の殺意など簡単に打ち消されてしまった(カウンターされた)

 

『これは。ヤンデレ、ですかね?』

『ううむ、素直になったヤンデレというのも乙なものだな』

『メイド服は着せないんですか?』

 

不意に、心の三馬鹿が舞い降りて来た。

目の前の恋する乙女は、白く白濁とした粘液に塗れているし。

赤面もしている。心なしかもぞもぞと身をくねらせるようにしている。

 

だが、卑猥は一切ない。いいね?

 

『もっと刺激的に行きましょうよ』

『うむ、触手が良く似合う外見をしているしな』

『ハッ!! メイド服ビキニアーマー×触手+白濁粘液!!』

『『――ふむ、続けて?』』

 

心の三馬鹿はさておいて。

なるほど、彼女は私様を満足させる回答をしてみせた。

加えて、素晴らしい未知を提供してくれた。

 

何か、私様からの褒美がなければならないだろう?

 

 

「クレマンティーヌちゃん」

 

「は、はい!!」

 

「私様のペットにならないかい?」

 

「……えっと?ペット?」

 

 

『『『戦士奴隷キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』』』

 

『どうします?まずは王道のナデナデしてサンドイッチを食べさせますか?』

『馬鹿野郎-っ!!お前ーっ!!やって良い事と悪い事があるだろうが!!』

『メイド服……いやしかしビキニアーマーも捨てがたいですねこれは。一体どうしたら!』

 

卑猥は、一切、ない、いいね?

 

 

「鈴木くん☆ 鈴木くん☆」

 

「うっわぁ」

 

「なんだい鈴木くん☆ 何か嫌な事でもあったのかな☆

 まるでおろしたてのスーツにコーヒーをこぼしたサラリーマンみたいな顔をしているよ☆」

 

「いや、今回はいくら何でも分かりますよ。

 クレマンティーヌをペットにしたいんでしょう?」

 

「うん☆ 駄目かな☆ミ」

 

「ちゃんと一人で世話出来ますか?

 散歩にはちゃんと連れてくんですよ?」

 

「うん☆ 私様約束守る☆」

 

「あのー……私の意思は……」

 

「あると思うかね☆ミ」

 

「ですよねー……アハハ」

 

 

クレマンティーヌちゃんは苦笑いを浮かべて、そう言うが。

悪い話じゃあないと思うぜ?だって、だってだぜ☆

 

 

「君さえ良ければ、クインティア……だっけ?

 兄と肩を並べるくらいの実力は付けさせてあげてもいい。

 穢れているというのなら、それを塗りつぶすくらい綺麗にしてあげてもいい。

 狂気的であるというのなら、狂うことを忘れるくらいに正常に戻してもいい」

 

「わん!!」

 

 

それを聞くや否や、クレマンティーヌちゃんは態度を改める。

掌柔らかいですね☆

 

私様は、それが出来るアイテム・武具・装備・設備・環境がある。

何なら、流れ星の指輪(シューティングスター)をいくつか使っても良い。

いやはや。我ながら、破格の条件だ。

 

まあ、私様のペットとなる以上、そうでなければ困るし。

ある程度の教育は受けて貰わなければならないのだけど。

今は黙っておこう。その方が都合が良いからな☆

 

 

「クレマンティーヌちゃん、何も犬になれとは言ってないぜ☆

 あと、私様の事は親しみを込めて星見 様と呼ぶように☆ミ」

 

「はいはいはーい!!分っかりました星見 様!!」

 

「そだ☆ 叡者の額冠持ってるか☆ミ

 持ってたら渡せ☆ミ」

 

「これですね!!はい!!」

 

 

元気の良い事で☆ミ

クレマンティーヌちゃんは私様の言う通りにホイホイと叡者の額冠を渡してくれた☆

うんうん☆ 素直なのは良い事だぜ☆

これでデミウルゴスの思っていた形とは違うけれど、おおよそはプラン通りだ☆ミ

 

ンフィーレアは、私様達の仲間となったし。

クレマンティーヌちゃんも無力化した。

叡者の額冠も手に入った。

 

くつくつ。ああ、こうも思い通りに行くと後が怖いな☆ミ

私様は、決して顔には出さないようにするが。付き合いの長い鈴木くんにはバレてしまったか☆

「うわあ」って凄い表情をしている☆ オイオイ☆ そう嫌そうな顔をするなよな☆

 

今夜はパーティだ☆ 楽しくいこうぜ☆ミ

 

 



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カードリスト:27:アイテムとか☆ミ

運営様から必須タグ「クロスオーバー」が未設定との事で警告が来ました。
……う、うん。クロスオーバーね。知ってるよ。MTGとのクロスオーバーだもんね?
……すっかり忘れてたわ。と一人しょんぼりしてました。

どうせクロスオーバータグ付けるんだし良いよね、っていう回。



叡者の額冠は私様の手の中にある。

 

魔法マニアである鈴木くんは、アイテムコレクターでもあり。

ユグドラシル時代では存在しなかったこのアイテムに、とても興味を持っていた。

 

だが、それも道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)を使用するまでの事。

鈴木くんに聞けば、これは着用者の自我を封じることで、

人間そのものを超高位魔法を吐き出すだけのアイテムへと変えるものだそうだ。

 

なお、一度装着すると安全に取り外すことはできず、取ってしまうと着用者が発狂してしまう。

要するに鈴木くんにしてみたら珍しいだけのネタアイテムであった。

 

だが、私様にとっては違う。

 

アイテムスミスを極めた私様から言わせて貰うと、これは明らかに異常なアイテムだ。

それは何故か。……大抵のアイテムの作成レシピを知っていて、覚えている私様が。

こんなアイテムを知らない。こんなアイテムがあったことさえ知らなかったのだ。

 

要するに、このアイテムが存在していること自体がおかしいのだ。

こんな世界にあって良いものではないのだが、ユグドラシル産のアイテムでは決してない。

 

蜘蛛の糸のような細さの金属糸の所々に、無数の小粒の宝石がつけられた作りをしたサークレット。

中心には水晶のような形をした黒い宝石が埋め込まれており、明らかに誰かが作成したものだ。

要するに、だ。

この世界に移転してきたことで、私様が知らないアイテムのレシピが増えているという事だ。

 

本職が生産職である私様にとって、これほど面白いものはない。

知らないという事は面白いし、未知に再び挑めるというのは楽しい。

 

私様は、ちょっち楽しくなって、手の内の叡者の額冠をもてあそぶ。

 

何がどうして、どうなって、どうすればこんな面白い効果が生まれるのか。

ああ、今すぐにでも分解して隅々まで調べ上げたい、という欲求がふつふつと湧き上がる。

どんな法則性があるのだろう。どんな魔法がかけられているのだろう。

この装飾には意味があるのか。素材には何を使っているのか。

 

無意識のうちに私様の手が、叡者の額冠を分解する方向で動いていたのに、鈴木くんは目ざとく気付いたようだった。

 

 

「星見さん、気持ちは分かりますが。それはナザリックに帰ってからです」

 

「……あいよ☆ ちょっち気持ちが焦っちまったぜ☆ミ」

 

 

助かったぜ☆ 鈴木君☆

君が止めてなければ、私様は今頃こんな路地裏で何時間も研究をするところだった☆

いくら私様でも風邪の一つでもひいちゃいそうだ☆

まあ☆ 風邪なんてこのかた一度もひいたことねーんだけどな☆ミ

さて、それじゃ改めて、飯屋に行くとでもするかね☆ミ

 

 

「あ、あのー。この白いネバネバなんとかして欲しいんですけど……」

 

 

あ、ごめ☆ 忘れてたわ☆ミ

 

 

★ミ

 

 

飯屋に着いた私様達は、色々な物を食べて、色々な物を飲んだ。

お世辞にも上品な料理はなかったが、雑多に種類があり、そのどれもが新鮮な味がした。

舌がピリピリとする辛みの効いた料理があり、口がキュッとする酸味の効いた料理があった。

飲み物の種類も豊富だった。酒しかなかったが、色々な種類があり、度数はそこそこ高かった。

エールに似たような飲み越しのある酒を飲みながら、私様達はのんびりとしていた。

 

 

「でみちゃん☆ミ」

 

「はい、なんでしょうか?星見さん」

 

「私様、良い事考えたわ☆ミ」

 

 

そんな時に、不意に頭を過ぎったアイデアに私様はティン☆ときた☆

ンフィーレアとクレマンティーヌちゃんは違うテーブルで飲み食いしている☆

例え聞かれなくても構わないし、聞かれてもかまわない☆

そう思ってデミウルゴスに声をかけたのだが、鈴木くんはうんざりとした表情を浮かべた。

 

 

「気を付けろ、デミウルゴス。

 星見さんがこう言う時は、決まって碌でもない事だ」

 

「承知致しました」

 

 

失礼だな君は☆ まあそれでこそ我らがギルマスなんだけど☆

それで素直に承知しちゃうデミウルゴスも問題があるぞ☆ まあ私様が許すけど☆

私様はからからと笑うと、一言言葉にした。

 

 

「私様達のチーム名を決めてない」

 

「……確かにそうですね、チーム・ナザリックってのはどうでしょう?

 もしくは全員黒で固めて漆黒軍とか?」

 

「……うん☆ なんとも君らしいネーミングセンスだな☆」

 

 

顎に手を当てて、真剣な表情で口にしたチーム名を、私様は軽く一蹴する。

いや☆ いくらなんでもそれはねーだろ☆ とは言えねー☆

ちょっと一瞬言いかけた私様を、誰が責めることが出来ようか。

 

デミウルゴスは、ふむ。と私様に目を向けた。

 

 

「星見さんは何か良いアイデアが浮かんだのですか?」

 

「ああ☆ それも喜劇にふさわしいアイデアだ☆

 いいかい?偶然ながらも、私様達は五人集まった訳だ☆

 それで必要なのは、チームワークであり、五人で集まってこそだと皆に思わせることだ。

 誰か一人だけが飛びぬけているんじゃあ、チームの意味がない」

 

「まあ、確かに一理あります。ユグドラシルの時もそうでしたからね。

 あのギルドの、誰々さんだけが強い、みたいな感じで思われるよりも、

 ギルド単位で、あそこのギルドを相手にすると厄介だと思われた方が価値があります」

 

「そこで必要なのが、チーム名であり。そして口上だ」

 

 

なぜ口上を?と鈴木くんは首を傾げた。

ちょっち分かりにくかったかも知れねーな。

 

 

「ここにはユグドラシルの様に、分かりやすいギルドってものが存在しない。

 ゲームの時みたく頭の上に名前と所属ギルドが出ねーだろ?それだと分かりにくい。

 登場した時の口上があれば、それは解消される。チーム名を高らかに口上とすれば分かりやすいし。

 何より、格好いいからな☆」

 

 

それ、最後の格好いいからってのが大部分ですよね?

と鈴木くんが突っ込みを入れるが、無視☆

浪漫は大事だぜ☆ミ

 

私様は、無限の背負い袋から手元に紙とペンとを取り出すと。

カリカリと、チーム名と口上を書き出した。

 

それを二人に見せるや否や。鈴木くんが口から酒を噴き出した☆

きったね☆ミ 私様にちょっちかかったぞ☆ミ

 

 

「ダッッッッ……!!

 ――独特なネーミングセンスと口上ですね!?」

 

「ふむ、それでよろしいかと」

 

「正気か!!?デミウルゴス!!?」

 

 

瞬間、声をあげてその場を立ち上がる鈴木くん――だったが、周囲の目を気にしてすぐに座り込んだ。

そしてデミウルゴスに顔を寄せて小声で言う。

 

 

「お前アレだぞ。星見さんは冗談抜きで言ってるんだぞ?

 毎回あの口上を言うんだぞ? 恥ずかしいとは思わないのか?」

 

「別によろしいのではないでしょうか。

 どの様な名前であれ、至高の御身であればその実力はすぐに頭角を現します。

 そこで名声と実力を認められるのであれば、どの様な名前であってもよろしいかと」

 

「デミウルゴス、俺は反対だぞ!!」

 

「ふむ、そこまで気になるのでしたら私も――」

 

「でみちゃん☆ 賛成してくれたらナデナデしたるぞ☆ ほーれナデナデ☆」

 

「賛成ですね」

 

「星見さん!!それは買収ですよ!!?」

 

 

頭を抱える鈴木くん。賛成2 反対1 により、可決されました☆

さてさて、そうなるとプランをちょーっぴり改良してあげなくちゃならない☆

 

私様達は飯屋を後に。今回の最終地点である。エ・ランテルの墓地の霊廟へと向かった。

 

 

★ミ

 

 

さて、改めて。私様達はエ・ランテルの墓地の霊廟に居る。

そこにはカジット・デイル・バダンテール(だったかな?)と幾人かの人影。

完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)を使った鈴木くんと私様(完全不可知化アイテム使用)はこっそりとそれを覗き見ている訳なんだけどさ。

 

 

(どー見ても悪の秘密結社による、闇の儀式☆ って感じだな☆)

 

(……否定はしません)

 

 

これが怪しいのなんのって☆

思わず私様、噴き出しちまった☆

ま、完全不可知化中は音や気配も消えるから何の問題もなかったんだけどさ☆

 

全知や未来予知で得た知識によると、

30年前にカジットは母親を亡くし、それを今も後悔していて。

母親を蘇生する為にこーんな怪し気な儀式をしているらしい。

 

正確にはこの儀式は自身をアンデッドにする儀式であって。蘇生の儀式じゃあない。

私様からしてみれば、なんともまあ、遠回りな事をするものだ。とも思った。

 

不幸に不幸が積み重なったような境遇だけど、残念ながら私様。同情はしない。

だって『死の螺旋』は大量の人間を犠牲に成り立つ儀式だ。

それを自身の我儘を通したいが為だけに使うだなんて、馬鹿げてる。

 

私様からしてみれば、こいつはただの人類に害なす悪でしかないのだ。

害悪は私様の専売特許だぜ?

 

 

(さて、鈴木くん。

 口上の準備はいいかな? 小道具の準備は万全だぜ☆)

 

(うっわ、こういう時だけ仕事早いですね)

 

(そう褒めるなよ☆ 照れるだろ☆ミ)

 

(一切褒めてないです)

 

 

げっそりとした鈴木くんを他所に、地上に居るであろうデミウルゴス達に伝言(メッセージ)を送る。

さあ、準備は出来たぜ☆ 喜劇の始まりだ☆ミ

 

 

★ミ

 

 

カジットが先ず違和感を感じたのは、足音だった。

三人分の足音が、こちらに向けて近付いてくるのが耳を叩いた。

 

時刻は――夜。

こんな時間に三人も霊廟に向かう者は居ない。

 

まさか、儀式をしていることが露見したのか。

彼がそう思うのも、無理はなく。

そして、現実に露見していたことを確信したのは、三人の胸元にある冒険者プレートを見てからだった。

 

プレートの種類は、銅。

一番下の冒険者が、どこでどうやって、この儀式を聞きつけたのか。

疑問に思った彼だったが、それよりも先に。一人の冒険者の姿に見覚えがあった。

 

クレマンティーヌ。

 

自称、英雄の領域に足を踏み込んだ人外。

けれど、それが嘘やハッタリでない事を、彼は知っている。

回避力や俊敏性。残忍な性格と魔法を付与した武器の凶悪性も相まって。

その強さは折り紙付きだ。

 

後の二人には、見覚えが無かったが。

まあ、良いだろう。銅程度の冒険者であるのならば、そう手こずる事はない。

 

 

「――よく、ここが分かったな。

 クレマンティーヌ、お前が喋ったのか?」

 

 

対するクレマンティーヌは、何も言わない。

秘密、ということか。なら。

 

 

「まあ、良い。ここでまとめて始末してや」「待てぇーい☆ミ」

 

 

瞬間、軽快な音楽が鳴り響く。

女の声と、姿が突然現れた事も相まって。彼は困惑する。

女の髪は長く、金色だった。よく手入れされているのであろう。傷一つない。

服装は――クレマンティーヌよりかはいくらか肌が隠れてはいるが、それでも軽装。

首にかけられた冒険者プレートが、彼女も冒険者であることを物語っていた。

 

 

「はい、すみません……うちの馬鹿が本当にご迷惑をおかけします……」

 

 

続いて姿を現したのは、男性。こちらも突然姿が現れた。

外見は、普通だ。いや、黒い髪と黒い目は普通ではないのだが。

装備は物々しく、魔術師という事がありありと伝わってくる。

だが何故か、普通だと感じされられるような印象だった。

こちらも首に冒険者プレートがかけられている。

 

 

「悪の組織、ズーラーノーンめ☆

 お前らが『死の螺旋』で人間達を生贄にしようとしている事はまるっとお見通しだ☆ミ

 五年もかけた計画!!ここで私様達が破綻させてやるぜ☆ミ」

 

「はい……本当にすみません……」

 

「御覚悟を」

 

「が、頑張ります!!」

 

「えっと、まあ。そういうことだからさ。 諦めて?」

 

 

――狂人の類か。

金髪の、ふざけた口調をした女は。

どうやって忍び込んだかは知らないが、良いだろう。

始末してやれば、何も問題はない。

 

 

「ふん。馬鹿どもが――不死者創造(クリエイト・アンデッド)」

 

Force of Will(意志の力)

 

 

死の宝珠を得た彼は、複数のアンデッドの同時作成が可能である、というのに。

――なにも、起きない?

 

 

「おいおい☆

 駄目だぜ?まだ私様達の口上が終わってないんだから☆

 攻撃はそれからにしてくれたまえ☆ミ」

 

 

疑問に思うと同時に、狂人と思わしき女が口を開ける。

同じく、その仲間と思しき奴らも、なんだ。何が始まるのだ。

 

 

「私様は星見!!

 またの名をホシレンジャイ!!」

 

「デミレンジャイ!!」

 

「ン、ンフィーレンジャイ!!」

 

「ク、クレマンレンジャイ……」

 

「……モモレンジャイ(´・ω・`)」

 

 

「五人揃って!!」

 

 

「「「「「ゴレンジャイ!!」」」」(´・ω・`)」

 

 

瞬間、彼らの背後が爆発する。

爆炎を背に、彼らはポーズを決めていた。

チリチリと熱量が感じられる。

軽快な音楽は鳴り響いたままだ。

 

 

なんだ、これは。なんだというのだ。どうしろというのだ。

 

唖然としているのが悪かったのか。あるいは、既に終わっていたのか。

 

 

「モモレンジャイ☆ やってしまいなさい☆」

 

「アッハイ……龍雷(ドラゴン・ライトニング)」

 

 

カジットの目論見は、そこで炭となって全て終わってしまったのだった。

 

 

 



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カードリスト:28:ロマンとか☆ミ

ロマンって大事だよね☆
皆はロマンと言えば何かな?
そんな話。



 

こんなものか。

デミウルゴスは一人。至高の御方と我々のみを残して、誰も居なくなった霊廟を見てそう思った。

悪の組織と言うからには、多少手こずるかとも考えていたが、杞憂に終わった。

第五位階魔法程度で灰になるなど、なんともまあ、貧弱なことだ。

 

ふう、と息を吐いて。

ここからのプランを再確認する。

プランと言っても、単純なものだ。

星見様は、人間を見殺しにする事を良しとしない、お優しい御方だ。

 

叡者の額冠を奪取した後。

ンフィーレア・バレアレの身柄の確保。

その後でカジット率いる『死の螺旋』を台無しにして。

そこから不死の軍勢(アンデス・アーミー)に代わる魔法を用いて、エ・ランテルを襲撃。

――襲撃とは言うものの、あくまでも怪我をさせるだけに抑え、殺しはしない。

そこを我々『ゴレンジャイ』が無力な街の人間達を救い出す。

 

プランは順調で、残るは僅かな手間。

それさえ終わってしまえば、策は完遂したと言えるだろう。

 

だからこそ、デミウルゴスは気を抜き、周囲の安全の再確認を行おうとした所で。

 

 

「待て、デミウルゴス」

 

 

星見様の、まじっく☆ミ様の鋭いお言葉に、身を凍らせた。

 

見れば、まじっく☆ミ様は、顔を歪めて何かを思慮されているようだった。

そして、口を開けて、お言葉を続けられる。

 

 

「一度、ナザリックに戻るぞ。出直しだ」

 

「……ですね。このままだと不味い。

 転移門(ゲート)を使います」

 

「ンフィーレア、クレマンティーヌ。君たちも付いてくると良い。

 少し驚くかもしれないが。君たちも安全な場所に連れて行く」

 

 

モモンガ様も、まじっく☆ミ様のそれに同調する。

プランは順調だったはずだ。障害となるものは全て取り除いたはずだ。

残るは、ほんのわずかの手順で済むはずだった。

 

何だ。自分は一体、何を見逃した――?

 

デミウルゴスは、思案する。が、答えはすぐには浮かばない。

後で聞きに行かなければ。とデミウルゴスは心に決めて。

ナザリックに続く転移門(ゲート)を、くぐり抜けた。

 

 

★ミ

 

 

さて、私様と鈴木くんは、ナザリックの円卓の前に座っていた。

クレマンティーヌは、ナザリックのNPCに私様のペットであるから。

ンフィーレアは冒険をする際の仲間だから。

どちらも丁重に扱うように、と伝えたから問題はないはずだ。

 

この円卓がある部屋には、私様を含め。二人しか居ない。

NPCも、階層守護者達も入室は認めなかった。

それほどに重要な内容だった。

 

重い、重い沈黙が。部屋の中を支配する。

 

先ず、口を開けたのは鈴木くんだった。

 

 

「――シャルティアの居場所はどこですか?」

 

「第二階層の死蝋玄室に居る。

 これは戻ってきた時、アルベドに確認したから、間違いない」

 

「そうですか。先ずは安心ですね」

 

「そうだね」

 

 

そう、次のイベントは。シャルティアの寝返りである。

とは言え、本当に寝返った訳ではなく。世界級アイテムである『傾城傾国』によって支配されたものだ。

だからこそ、シャルティアの今現在の居場所の確認は必要不可欠な事であった。

デミウルゴスには悪いが、これはまだ話していない事だから。後で説明しておく必要があるか。

 

私様は、口の前で手指を組む。

さて、これで私様の知っている既知とは大きくズレた事になる。

どこにしわ寄せが来るのか、それも心配だが。

 

私様が今悩んでいることは、そこじゃあない。

 

 

「星見さん」

 

「なんだね」

 

 

私様は、短く言葉を返した。

頭の中を回すので精一杯だったから。少し突き放した様な言葉遣いになってしまったか。

後悔するも遅く、覆水が盆に返らないように。吐いた言葉は元には戻せない。

さて、なんと弁解したものか。と少しだけ思案していると。

 

 

「何に困っているんです?」

 

 

……鈴木くんは、私様の核心をつきやがった。

長い付き合いだからだろうか。それとも存外、私様は顔に出やすいタイプなのだろうか。

もしくはその両方か。鈴木くんは見事に私が困り果てている事に気付いてみせた。

私は組んだ手指を解すと、今度は頬杖をついた。

 

 

「困っているなら、力になります。カルネ村の時に力になれませんでしたから。

 今度は、俺が力になります」

 

 

NPCにも聞かせられないような事なんでしょう?と鈴木くんは言葉を続ける。

ふむ、確かにそうだ。NPCには聞かせられない話ではある。

かと言って鈴木くんに聞いた所で、答えが返ってくるとも限らない。

だが、そうだね。話してみるのも悪くないか。

 

 

「鈴木くん」

 

「はい」

 

 

強い意志を持った瞳が私を貫く。

良い意志だ。私様には真似出来ない瞳だ。

 

 

「足りないんだよ」

 

 

一瞬、鈴木くんはギョッとしたような顔をした。

そうか、鈴木くんも感じたか。

 

 

「この喜劇には、ロマンが足りない」

 

「……ロマン、ですか?」

 

「良いかい、鈴木くん。物語を体験するにあたり。私様は大切なものはロマンであると思っている。

 誰かを助ける意志だとか。何かを守る為の意思がそれにあたる。

 

 この喜劇には、そういったものが一切ない」

 

 

デミウルゴスのプランは、おおよそ完璧で万全だった。

残るは、デスナイトやそこらをエ・ランテルに解き放ち、私様達がなぎ倒すだけで、この喜劇は幕を閉じる。

そう、閉じてしまうのである。私様達には、エ・ランテルを守るという意志が全くと言って良い程にない。

そこに義務は存在しないし、ただ単に私様がちょっと嫌だからって理由だけで助けただけの話だ。

要するに、暇つぶしに助けただけなのだ。

 

 

「少し、難しい話をしようか。鈴木くん。君はロマンとは何だと思う?」

 

 

指をくるくるともてあそびながら、鈴木くんに問う。

彼は少し考えたような顔をした後、口にする。

 

 

「そうですね、ロマンビルドとか。ロマン装備とか。そういう言葉があるように。

 何かに執着して、それを守る為の縛り、みたいなものでしょうか」

 

「ふむ。なるほどね」

 

 

私様は、ふう。と息を吐いた。

やはり。期待したような答えは得られなかったか。

再び、頭を思案に回そうとして。

 

鈴木くんは、思い付いたような顔をして。言った。

 

 

「あとは、そうですね。『変身』とかでしょうか?

 俺もよく分からないんですけど、ペロロンチーノさんがよく言ってました。

『変身』は男のロマンだって……星見さん?」

 

 

 

 

 

「――それだよキミィ」

 

 

後で聞いた話だけど。鈴木くん曰く。言わなきゃよかった、らしい。

 

 

★ミ

 

 

「ということで、ンフィーレアくん。これを君にプレゼントしよう☆」

 

 

私様は手に持つアイテムを、ンフィーレアに渡した。

見た目は鋼鉄製のベルトのようなそれ。

蜘蛛の巣状の飾りを施されたそれ。

真ん中には黒い宝石が埋め込まれている。

 

どこかでそれを見かけた覚えがあるが、思い出せないのだろう。

ンフィーレアは首を傾げながらそのベルトを受け取ると、身に着けてみせた。

 

 

「え、えっと。なんでしょうか。これ」

 

「これは私様製のベルトだよ☆ 叡者の額冠を材料にしたから☆

 『叡者のベルト』、とでも名付けておこうか☆

 いやはや、大変だったんだぜ☆

 このベルトを作るのに、三時間もかかっちまったぜ☆ミ」

 

 

叡者の額冠、叡者の額冠。とンフィーレアは反芻するように繰り返し。

やがてその正体に気が付いたのだろう、焦ってそれを取り外そうとする、が。外れない。

 

 

「ああ、私様の許可無しには外れないようになっているから、注意したまえよ☆ミ

 言っておくけど、下手に壊そうとしたら、気が狂うのも叡者の額冠と同じだぜ☆」

 

 

サァーっと。ンフィーレアの顔色が青く染まっていくのが分かる。

自分の意思で取り外し不可能な装備なんて、欠陥品も良い所だからな☆ だが、それが良い☆

 

 

「君には、ゴレンジャイの一人、ンフィーレンジャイとして。

 エ・ランテルを守護する役目を与えよう☆

 ああ、勘違いしてくれるなよ☆

 これは呪いの装備ではなく、君を強化する為のアイテムだ☆

 君は丁度良い事に「あらゆるマジックアイテムを使える」んだから。そのベルトも使えるだろう☆

 レベルが足りないとか、装備制限を無視して、な☆」

 

「は、はあ……」

 

「ただし、それを使用するにあたり、一つだけ制限を掛けた☆

 君のタレントでも今のままじゃあ、使用不可能だぜ☆

 

 そのベルトは、君の『強い意志』に応じて使用可能になる☆

 あ、使用する時は簡単だぜ☆ 一言、『変身』と言葉にするだけで良い☆」

 

 

一気に話されたから困惑しているのだろう。ンフィーレアは分かったような分からないような表情をしている。

まあ、これで良い☆ これで舞台と小道具は出そろった☆ 後はクライマックスだぜ☆

 

鈴木くんと何故かビクビクしているクレマンティーヌ。

未だ顔を歪めて何かに悩んでいるデミウルゴスをそのままに。私様達は再びエ・ランテル墓地に向かった☆

 

ああ、そうそう。シャルティアには暫く外を出歩かないように、と伝えておくことは忘れずにな☆

 

 

★ミ

 

 

ンフィーレア・バレアレは、目の前の光景が信じられなかった。

幾体もの、アンデッド。それも大型のモンスターばかりが、エ・ランテルを襲撃していた。

話には聞いていた。モモレンジャイさんが、モンスターを召喚して、襲撃の真似事をすることも。

怪我に留めて、決して死にはしないようにする事も。

 

けれども、それを知ってもなお、ンフィーレアは目の前の光景に愕然としていた。

街の建物は崩れ落ち、あちこちから火があがっていた。煙もいくつもあった。

 

助けに行かなければ。話をしなければ。

僕は、星見さんに声を掛けようとして。

 

 

「んじゃ☆ 私様は先に行くから☆

 あ、クレマンティーヌちゃんも付いてきな☆ミ」

 

「は、はい!!」

 

 

僕を取り残して、飛び去って行ってしまう。

僕の足の速度では、到底追いつけやしない速度だった。

 

モモレンジャイさんも、デミレンジャイさんも。モンスターを召喚こそすれど、そこから動こうとはしない。

僕は、一体どうしたら。

 

 

――君には、ゴレンジャイの一人、ンフィーレンジャイとして。

  エ・ランテルを守護する役目を与えよう☆

 

 

不意に、星見さんの言葉が頭を過ぎった。

僕が、守らなければいけないんだ。

この街を。お婆ちゃんと一緒に住んでいた、この街を。

僕が――。

 

気付けば、僕は走り出していた。

途中、足がもつれて、転びそうになる。転んだ。でも走った。

お婆ちゃんのお店を目指して、真っ直ぐに。一直線に。

 

 

「お婆ちゃん!!」

 

 

お店の前に着いた時、冒険者の人たちが沢山倒れていた。

きっと、僕なんかよりも数段強い冒険者の人たちが、だ。

 

息が切れて、足が震える。手が、がくがくする。

 

 

「ンフィーレア!!」

 

「お婆ちゃん!!」

 

 

だからこそ、お婆ちゃんの姿を見つけた時は、安堵のあまり座り込みそうになった。

けれど――。

 

 

「ンフィーレア!! 後ろじゃ!!」

 

 

背後からの、強い衝撃に、僕の身体は軽々と吹っ飛ばされた。

石で出来た壁に叩きつけられ、肺から空気が根こそぎ奪われる。

 

目を開けば、僕よりも数段大きな体をした、骸骨の騎士の姿。

――デスナイトとか、モモレンジャイさんは言ってたっけ。

 

痛い。怖い。辛い。恐ろしい。

 

僕の心は、真っ暗闇になりかけて。

不意に、デスナイトは、僕に背を向けた。

 

向かう先は、お婆ちゃんの、お店。

 

僕とお婆ちゃんで、一生懸命になって、頑張って、やっとここまで来たお店だ。

 

それを、デスナイトは、壊そうとしている。

 

 

「それ、に。手を、出す、なあ!!」

 

 

必死の思いで、僕はデスナイトの足にしがみつく。

けれど、その思いも、届かなかった。

デスナイトは足を軽く振ると、それだけで僕は、再び石壁に身体を叩きつけられる。

 

また、身体中に鋭い痛みが走る。

また、心が折られそうになる。

 

だけど。

 

目の前のデスナイトが、お婆ちゃんに向いた時。

それが手を振り上げた時。

 

 

 

 

 

僕は。僕は。

 

 

 

 

 

『I'm ready ☆(用意は出来たぜ☆)』

 

 

「変身!!ンフィーレンジャイ!!」

 

 

思わず、叫んでいた!!

 

腰のベルトに両手を回して、力いっぱいに握りしめた!!

 

瞬間、僕の身体は太陽に等しいくらいに輝いた!!

 

 

黒く、真っ黒な手と足の先。

腕と太ももは、深い緑色をしている。

どこか機械的で、どこか生物的な身体。

 

お婆ちゃんは、驚いた表情をしているけれど。

僕には、不思議とこの身体の動かし方。動き方を理解していた。

 

一瞬のうちにデスナイトの懐に入った僕は

デスナイトの腹にめがけて『2発』の拳を撃った。

 

撃った、というのは、殴った時の音が凄まじかったからだ。

バシン、ではなく。ドゴン。という音がした。

それに、『2発』撃ったはずなのに、音は1回しか聞こえなかった。

 

 

不意に、星見さんの声が聞こえてくる。

辺りを見る、が居ない。

どうやら今ここに星見さんが居る訳ではないらしい。

 

 

『いえーい☆ 星見ちゃんだぜ☆

 この音声は録音で時間制限があるから、簡単に説明するぜ☆

 

 今の君は意志の力がそのまんまパワーに繋がる。

 それはすなわち守りたいものがあるほど、力が出るってことだ。

 

 ふむ、でも今の君には名前が必要だね。

 

 そうだね、リボーン(生まれ変わり)から頭を取ってRを。

 今の君は人間とはかけ離れた力を持つから異種/Xeno(ゼノ)からXを。

 

 ンフィーレンジャイRX とでも呼ぼうじゃないか☆ ハッピーバースデー☆』

 

 

「お婆ちゃん……」

 

「ンフィーレア、なのかい……?」

 

「僕は」

 

 

不意に、口が止まる。言葉が出てこない。

こうしているうちに、次々とアンデッドモンスターの被害者が出ていく。

僕が、今。やるべきことは。

 

 

「僕は、ンフィーレンジャイRX!!」

 

 

もう、きっと大丈夫。

 

僕の意思の力が続く限り。

 

エ・ランテルを守って見せる!!

 

 

「エ・ランテルを守る者にして、ゴレンジャイの一人!!」

 

 

そう言い残して、僕はその場から走り去っていく。

 

 

さっさと片づけて。星見さんとモモレンジャイさんを怒るのは、その後だ。

エ・ランテルを滅茶苦茶にして、沢山の人に迷惑をかけて……ああもう!!

言いたいことだらけだよ!!

 

 

 



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カードリスト:29:喜劇とか☆ミ

 

エ・ランテルは混乱の真っ只中にあった。

それもそのはず、いたるところにアンデッドモンスターが居るのだ。

無力な人々は安全な場所を求めて逃げまどい、

勇敢な冒険者や衛兵はそれを対処しようと必死に戦っていた。

だが。

 

 

「なんだあの化け物!!」

 

「畜生!!剣で切りかかったら剣が折れやがった!!」

 

「魔法もまるで効いちゃいねえ!!」

 

 

目の前にいる、10体もの骨の騎士達。

そのどれもが強力で、凶悪だった。

建造物を破壊し、見境なく人を吹き飛ばしていくその様は、災害と言っても過言ではない。

幸いなのは、手に持つ大きな剣を使わない事か。

攻撃には、必ず盾を使い。殺すまでの事はしない。

 

だが、かえってそれが不気味だった。

単に戦いを遊びと勘違いしているのか。

それとも、知性を持って敢えてそうしているのかは分からない。

 

前者ならまだ、良い。だが後者だったのなら。

こいつらを操る存在が、居るということ。

冒険者達は冷たい汗を流しながら、必死に戦っていた。

 

だが、それもそこまでだった。

 

突如として、現れた異形の人影。

それが骨の騎士に向かって立ち向かう。

 

 

「皆さん!! ここは僕に任せて逃げてください!!」

 

 

外見は、まるで人間とは思えない。黒い姿。

だが、その背中からは意志が伝わってくる。

必ず、守ってみせるという、確固とした意志だった。

 

聞こえて来たのは、男性の――いや。年端もいかないような少年の声。

だからこそ、冒険者達は、逃げる事を躊躇った。

 

 

「あんたはどうするんだ!!」

 

「僕は――」

 

 

瞬間、爆音が聞こえた。

音の出所は、あの異形から。

見れば、骨の騎士の一体が吹き飛ばされて、斃される。

信じられないようなものを見たような気がして。思わず、異形に目を向けた。

 

拳を振りぬいたような恰好をしたまま。

握りしめたその手を、天高く上に掲げる。

 

 

「僕は、ンフィーレンジャイRX!!

 ゴレンジャイの一人にして、エ・ランテルを守るもの!!」

 

 

ゴクリと、思わず、息を呑んだ。

今まで歯が立たなかった化け物を、倒してみせた、その姿に。

心が、しびれてしまった。

 

 

「おっと、私様も忘れるなよ☆」

 

「星見さん!?」

 

「クレマンティーヌちゃんも居るぜ☆

 ちゃんと周りを見るんだね、ンフィーレンジャイRXくん☆」

 

 

気付けば、その異形――RXと呼ばれたそいつの仲間なのか。

女性が二人、どこからともなく姿を現していた。

どうして女性がここに。という疑問を言う前に。

 

 

「mox ruby。

 稲妻/Lightning Bolt」

 

「武技――。

 疾風走破。

 流水加速。

 能力向上。

 ――トドメ!!」

 

 

彼女らは、華麗に立ち振る舞い。魔法に似た何かを用い。

あるいは、俊敏に立ち回り、骸骨の騎士をもう一体。倒してみせた。

 

 

「私様は、ホシレンジャイ。

 ゴレンジャイの一人にして、物語を楽しむ者」

 

「私は、クレマンレンジャイ。

 ゴレンジャイの一人にして、付き従う者!!」

 

 

声高らかに名乗る彼らに、見覚えはない。

だが、実力は確かなようで、首に吊り下げている銅級で済むようなものではない。

 

しかしながら、骸骨の騎士は、残り8体。

未だ戦況はこちらが不利か。と思ったが。

 

 

「遅くなりました」

 

「いいや。良いタイミングだぜ☆

 デミレンジャイ☆」

 

 

3体の骸骨の騎士が、同時に斃れる。

現れたのは、赤色の軽装装備を身に着けた男性。

彼も――銅級か。

 

 

「ご紹介に与りました。デミレンジャイ。

 ゴレンジャイの一人にして、至高の御方を守るもの」

 

 

勝てる、この四人が居れば。勝てるのではないか。

そう希望を持った瞬間だった。

 

 

「おやおや☆ 一人足りねーな☆ミ

 モモレンジャイが居ねーぞ☆」

 

「そうですね、ここは皆さんで掛け声をしてみるのも悪くありません」

 

「だな☆

 じゃあみんな!大きな声で呼ぶんだぞ☆ミ

 ゴレンジャイの一人にして、我らがリーダー☆ミ」

 

 

「「「「モモレンジャイ!!」」」」

 

 

「はい……モモレンジャイです……。

 どうして俺はこんな辱しめを……(´・ω・`)」

 

「すぐに来ねーのが悪い☆」

 

 

モモレンジャイ、と呼ばれた男性は、はあ。と一息吐くと。

内部爆散(インプロージョン)、と一言だけ呟いてみせた。

それだけ。たったそれだけで。残りの骨の騎士達は爆散し、瀕死の状態となった。

 

骨の騎士達を、無力化してみせた、英雄たち。

彼らはお役御免とばかりにその場を後にしようとする。

 

 

「後はキミたちに任せるぜ☆

 私様達の出番はここまでだ☆」

 

「ま、待ってくれ!!あんた達は」

 

「ふふふ☆

 私様達の名前だね☆ミ

 改めて、ご紹介しようじゃあないか☆」

 

 

瞬間、どこからともなく流れてくる痛快な音楽。

 

 

「ホシレンジャイ☆ミ」

 

「デミレンジャイ!!」

 

「クレマンレンジャイ!!」

 

「ンフィーレンジャイRX!!」

 

「……モモレンジャイ(´・ω・`)」

 

 

「五人揃って!!」

 

 

「「「「「ゴレンジャイ!!」」」」(´・ω・`)」

 

 

彼らは、それぞれがそれぞれのポーズを取る。

 

『ゴレンジャイ』

 

そのチームの名前が、エ・ランテルの冒険者達の心に刻まれた瞬間であった。

 

 

★ミ

 

 

「と、いうのが。エ・ランテルで起こった喜劇だね」

 

「流石は至高の御方でございます。

 お聞きしているだけで、このアルベド。

 胸の高まりが抑えきれそうにありませんわ」

 

「ん☆ 可愛い奴め☆ ほれ、ナデナデしたる☆ミ」

 

「はわわぁ~」

 

 

さて、私様達はあれからナザリックに帰って報告をしていた。

『死の螺旋』は無事に阻止出来たし、冒険者達に私様達の事が知れ渡った。

最初の冒険としては、上出来だったのではないだろうか。

 

 

「アルベド、至福の時を邪魔して申し訳ないけどね。

 いくらなんでも至高の御方を前にしてその顔はいかがなものかと、私は思うよ」

 

「なんだい嫉妬か? でみちゃん☆

 可愛い奴め、お前もナデナデしたる☆」

 

「勿体なき幸せでございます」

 

「いや、デミウルゴス。お前はそれでいいのか」

 

 

未だにしょんぼりしている鈴木くんを他所に。

私様はあーちゃんとでみちゃんの頭をナデナデするので両手が塞がってしまった。

 

 

「なんだい鈴木くん。随分と元気がないね☆

 最初のクエストが終わったんだぜ☆ もっと嬉しそうにしろよ☆ミ」

 

「あのチーム名さえ何とかなれば元気になりますよ」

 

「それは無理な相談だな☆」

 

 

『ゴレンジャイ』のチーム名は既に冒険者達の間で話題になっていることだろう。

それを上書きするとなると、相当な手間になる。

記憶操作(コントロール・アムネジア)で一人一人記憶を消すか?

いや、それは現実的じゃあないだろう。

鈴木くんには慣れて欲しい、もとい諦めて欲しいものである。

 

それが伝わったのかどうかは知らないが、鈴木くんはため息交じりに言葉を吐いた。

 

 

「ところで、シャルティアの件ですが」

 

「ああ。そこは問題ねーぜ☆

 今の所ちゃんと約束を守って外出は止めさせている☆

 次のイベントは起こりえねーな☆」

 

「そうですか」

 

 

ほっと一安心したのだろう。鈴木くんは玉座に背を預けた。

ンフィーレアとクレマンティーヌは、私様の部屋に待機させてある。

どうやら前にクレマンティーヌをナザリックに入れた時、メイド達に――もといプレアデス達が嫉妬してきたらしいのだ。

「まじっく☆ミ様のペットなんて、羨ましい」とばかりに。

自分よりも数段強い存在に威嚇されたのが悪かったのか、クレマンティーヌはナザリックに来る時、酷く怯えていた。

 

まあ、そこは私様が「めっ」ってプレアデス達に叱れば良いのだが。

それをするとプレアデス達がなーんか自害しそうな気がして止めといた。

代わりに安全地帯である私様の部屋に入れといた訳だが。

元殺人鬼と元一般市民で会話は成り立つのだろうか、とどうでも良い事を考えたりもした。

 

ところで、全知と未来予知で知ってはいるが。

『傾城傾国』で支配されたシャルティアに、鈴木くんが勝ってみせたのは正直驚きだった。

いくら初見殺しだったとしても、だ。

あのガチビルドをしたシャルティアに私様が勝てるかどーかってーと。正直微妙だ。

 

真の名の宿敵/True-Name Nemesisを使えば、なんとか戦いにはなるだろうが。

問題はそこからだ。私様、多分だが手札が足りなくなるし、マナも足りなくなる。

持久戦になればなるほど、私様が有利になるのは間違いないのだが。

初手突撃されると、一番困る。ってか、それされると私様が詰むな。

 

 

「シャルティアがどうかしたのでしょうか?」

 

「ん☆ いやなんでもねーよ☆ミ

 もう終わった事だ☆ミ」

 

 

ま、いずれにせよシャルティアの寝返りは万に一つもなくなった。

今更それを考慮しても意味はねーから関係ないか。

 

私様はあーちゃんとでみちゃんの頭から手を離すと、一言だけ付け加えた。

 

 

「次のイベントは、正直私様も分かんねー。

 だからそれまでナザリックでダラダラしても良いし、冒険者として遊んでもいい。

 そこら辺りは、鈴木くん、君に任せるぜ☆」

 

「分かりました。デミウルゴスとアルベドと相談しながら決めましょう。

 ――星見さんもですよ?」

 

「おいおい☆ あれからずっと動きっぱなしじゃねーか☆

 休息も大事だぜ、鈴木くん☆ 第九階層の「ロイヤルスイート」で息抜きでもしてきな☆

 ショットバーのバーテンの副料理長も寂しがってるんじゃねーかな☆」

 

「――さては逃げるつもりですね?」

 

「ぎ、ギクゥ……☆

 難しい事は苦手なのん☆

 ゆるーして☆ミ」

 

「はあ……まあ良いです。

 俺も少しだけ疲れましたしね」

 

 

それだけ言って。鈴木くんは私様から視線を外した。

やれやれ、鈴木くんの働き好きも良い事だけど。働き過ぎは身体に毒だぜ?

もっと軽く楽しく生きればいいのに。

 

私様らしくもなく、ため息を吐いて。私様の自室へと歩を進めた。

 

ひとまず安心したし、やる事と言えば、ペットの躾くらいか。

ああ、でもンフィーレアにポーション作成を教えても良いな。

 

なんて、これからの事を考えながら。

 

 

 



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カードリスト:30:おねショタとか☆ミ

おねショタに関して。
お姉さんとショタっ子が絡むのは非常に良い物だと私様は思う。
頼りがいのあるお姉さんとショタっ子が絡むのなど尊いものだ。
逆に、頼りがいのあるお姉さんがショタっ子に頼るというのも等しく素晴らしい。
どんなジャンルにも先駆者たるパイオニアが居る。
私様はそんな彼らに称賛をしたいと思う。
もしも先駆者たる彼彼女に出会えるのなら、私達は万雷の拍手をもってそれを迎えるべきである。
おねショタは良い文化だ。ショタおねも素晴らしい。


だが途中で逆転物、てめーは駄目だ。(個人の意見です)



 

私様は一人しか居ない。

 

なにを言い出すんだコイツは、とか思われるかも知れねーけど。

事実、私様は一人だ。

あ、ぼっちって訳じゃないお☆ 鈴木くんとかナザリックの皆とか居るしな☆

 

私様が言いたい事はそうじゃなくて。

私様、まじっく☆ミこと『星見 るい』はただの一人しかいねーってことだ。

プレイヤーをコピー出来るアイテムとかそんな都合の良いものや呪文はありゃしねー。

『星見 るい』は私様一人しか存在出来ないのだ。

 

( ,,`・ω・´)ンンン?そう言うとちょっと格好良いな?伝説のプレインズウォーカーっぽい。

旧ルールのレジェンドルールがそれに当たるかも知れない。

あ、でも駄目だわ☆ 旧ルールだと対消滅しちゃうから今のナシな☆ミ

 

話を戻して、何を言いて―かってーと。

ンフィーレアとクレマンティーヌ、どちらから先に仲良くしていくか。ちょっち迷った。

私様は一人しか居ねーから、どちらか片方としかコミュニケーションを取れねー訳だ。

つまり「はい、二人組作ってー☆」状態になった訳だな☆ミ

さて、どうしたもんかと私様の部屋にやって来てみると。

 

 

「く、クレマンティーヌお姉ちゃん」

 

んふ~!! もっかい言ってもっかい!!」

 

「いやです……」

 

「なんで?(ガン見)」

 

 

あらやだ。目の前でおねショタが展開されているではあーりませんか。

いや?これはそうと見せかけたショタおねの可能性も無きにしも??

 

本当にどうても良い事なんだけど、私様、おねショタとショタおねのどちらも好きだ。

だが、途中で攻守が入れ替わるのだけは認めない。一切認めない。

ここだけは譲れないポイントだ。はいココテストに出るからね☆

 

それにしても、随分と仲良くなったものだな。と私様は一人感心していた。

元殺人鬼と元一般人は相容れないものだとばかり思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。

 

 

「随分と仲が良いね☆ミ」

 

 

スッと暫定おねショタの間に挟まる私様☆

基本的に百合の間に挟まるのはギルティらしいけど☆

おねショタの場合はどうなんだろう?半ギルティ?それって半殺しじゃない?

なーんて凄くどうでも良い事を考えながらダイブした。

 

両者はビックリしながらも犯人が私様だと分かるとちょっと安心した様子だった。

なして?私様そんな突拍子もないことした覚え……しかねーわごめん☆

 

 

「星見さ――様の方がいいんですかね?」

 

「さんで良いぜ。クレマンティーヌちゃん。

 あ、ンフィーくんは特別に星見お姉ちゃん☆ って呼んで良いぞ☆ミ

 と・く・べ・つだからな☆ 崇め称えたまえよ☆ミ」

 

「……えっと、はい。

 じゃなくて!!星見さん!!何してくれてるんですか!

 エ・ランテルが滅茶苦茶になっちゃったじゃないですか!!」

 

「えー☆ そこはお姉ちゃんと呼びたまえよ☆

 ――まあ、エ・ランテルに関しては必要な犠牲だったんだぜ?

『死の螺旋』が決行されてたらエ・ランテルに住む人間全滅だったからな。

 そこは許して欲しいなって☆ミ」

 

 

ンフィーレアはガミガミと私様に向かってあれこれ言って来るが。

私様を舐めるなよ? 問題児と言われてからずっと叱られ慣れている☆

ゆらりゆらりと言葉の矛先を避けながらケタケタと笑う。

 

ひとしきりンフィーレアの気が済むまで一方的な口撃を避けた後。

そう言えば。と私様は、インベントリから指輪をちょいと取り出した。

 

 

「なんですか? それ」

 

「流れ星の指輪(シューティングスター)っても分かんねーか☆

 要するに願いを叶えるアイテムだよ☆

 これはあと三つ使用可能なんだけど――今回のクエストの報酬はこれにしようかと思ってね」

 

 

瞬間、口をポカーンと開ける二人。

ん?分かりにくかったかな?

 

 

「ま、もっと噛み砕くと、だ。

 願い事を言いな? 私様が一つだけ叶えてやろう☆ミ」

 

「「えっ」」

 

 

さらに口を開けて唖然とする二人。

そっくりさんだな☆ 良いリアクションだ☆

 

 

「そ、そんな急に言われても――」

 

「兄貴と恋人になることって出来ますか?」

 

「クレマンティーヌさん!?」

 

 

お、クレマンティーヌちゃんはそう来たか。

でも駄目だね。その願いは聞き届けられない。

 

 

「残念ながら、()()()()()()()()()

 人の恋をこういうアイテムに頼るのは、私様としては反対だからな」

 

 

私様は首を横に振る。

恋や愛ってのは人の原動力足りえるものだ。

そこを端折って達成しても、なんの達成感も得られない。

苦労して、苦労して。頑張って頑張ったその先に結果が得られてこそだろう?

 

クレマンティーヌちゃんもある程度察していたのだろう。

それ以上食い下がるような事はしてみせなかった。うんうん☆偉いぞ☆

 

 

「なら、私は。穢れてしまったこの身体を。

 狂ってしまったこの思考を、直したい……です」

 

「くすくす。良いだろう。

 さぁ、指輪よ☆  I wish☆ミ

 

 

瞬間。私の指輪が白く輝き。一筋の流星が見えた、かと思うと。

それはクレマンティーヌちゃんに直撃する。

彼女は衝撃そのままに壁に激突、はせず。その場に倒れ込んでしまう。

意識を失っているようだ。

 

善性なンフィーレアくんは心配したのか、慌てて彼女に近寄り、安否を確かめる。

ふむ、間違ったかな?なーんて訳もなく。無事だった様だ。

ンフィーレアくんは安堵のため息を吐くと。私に向かう。

 

 

「あれで、クレマンティーヌさんの願いは叶ったんですか?」

 

「くすくす。私様は冗談は言うけど嘘は言わないよ。

 流れ星の指輪(シューティングスター)はキチンと効果を発揮したみたいだね。

 ただ、こう見えて彼女にも色々とあったんだろう。

 思考の修正となると、気を失ってしまうみたいだね」

 

 

ま、実験がてら使ったから、効果が無かったらごめーんね☆ミ

で済ます気満々な私様は適当な事を口からポンポンと吐く。

 

さて、残る願いは、ンフィーレアくん。君の番だぜ?

 

 

「僕は、願いは()()()()()

 

 

へえ。と私様は笑みを深めた。

 

 

「君は確か、エンリ・エモットに好意を抱いているんじゃなかったのかい?」

 

「どこでそれを……ああ、もう驚きません。

 確かにそうです。僕は彼女の事が好きです。

 彼女に相応しい男になる、というのも魅力的です、が」

 

 

彼は、私様の目を見る。良い瞳だ。

やはり君にあのベルトを渡して正解だったよ。

 

 

「それは僕が、僕自身で叶えることです。

 星見さんも言った通り、そういうのをアイテムに頼るのは、違うかと」

 

「そうだね。私様もそう思うよ」

 

「それに、今の僕にはこのベルトがあります。

 ――僕には、これだけでも十分です」

 

 

思わず、私様は笑みをこぼした。

確かに、私様は君にそのベルトを渡したよ。

だが、正直な所、君が本当に変身出来るかは()()だったんだよ。

 

君には、重荷に耐えかねて弱音を吐く権利があった。

君には、怖さを耐え切れずに逃げ出す選択肢があった。

君が勇気を出して、意志の力を出さなければ、そのベルトは応えなかった事だろう。

 

君は私様の予想を裏切って、『変身』してみせた。

君は私様の甘い蜜を吸う事を、自分の意志で辞退してみせた。

 

これだから、人間というものは面白いのだ。

 

 

「ああ!!でもこのベルト外せないんだった!!

 これじゃお風呂も入れませんよ!!? 今から願い事をするのは……」

 

「オイオイ☆ せっかく格好つけたのにそれじゃ台無しだろうが☆

 次の報酬に期待してみることだね☆ミ」

 

 

私様は、くつくつと笑いを抑えきれずに笑ってしまった。

ああ、面白い。

 

 

「ああ、その代わりと言っちゃなんだが。

 私様の錬金術師道具を貸してやろうじゃあないか」

 

「ほ、本当ですか!!?」

 

「私様、冗談は言うけど――ああ、これは二度目だな☆

 今まで錬金出来なかったアイテムやポーションが色々作れるだろうぜ☆ミ

 ああ、使い方が分からねーか。なら今から説明してやるよ☆」

 

 

そうして、クレマンティーヌちゃんが目覚めるまでの間。

私様とンフィーレアは錬金術師の道具の説明をして回った。

 

私様の部屋に所狭しと並ぶ錬金術師道具達を、

ンフィーレアくんはまるで欲しかった玩具を見るような目で見ていたから。

私様としては、ちょっち笑いを堪えるので精一杯だったけど☆

 

 

「あ、あの。星見さん?」

 

「なんだい?ここが重要なポイントだから良く聞くんだよ?」

 

「あっはい……って!!胸が当たってます!!

 

「馬っ鹿☆ おめー☆ こう言うことは黙ってるんだよ☆ミ

 ほらほら、一度しか言わねーぞー?大丈夫かー?」

 

「集中できません!!」

 

 

まあ、そんな事もあったけど、

ンフィーレアくんは見事に一発で私様の錬金術師道具の使い方を覚えてみせた。

 

ふむふむ。流石は天才と呼ばれるだけあるね。

現地での薬草やらの効能は私様は知らないから、彼に任せてみるのも良いかも知れないね☆

なーんて、思ったりもした。

 

ああ、心の馬鹿三人組はずっとおねショタに関して討論していたぜ☆

ここじゃ省略させてもらうけどな☆

 

 

 



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カードリスト:31:私様はプレインズウォーカーだ☆ミ

書きたかったことその2

ふひひ☆
まだまだ書きたいことリストはあるぞー☆



ナザリック地下大墳墓、第九階層の「ロイヤルスイート」

そこのショットバーに、私様は居た。

 

いや、私様だけじゃねーか。ペットのクレマンティーヌちゃんと。

私様の横に座るのは、モモレンジャイこと鈴木くんだ。

 

おい☆ 急に頭を小突こうとするんじゃあないよ☆

私様が何をしたって言うんだね☆

いや、冷静になると色々やったな。ごめーんね☆ミ

 

さてさて。今日は副料理長はバーテンを務めていない曜日だった様で、

落ち着いた照明が、私様達三人を照らしている。

 

酒を並べたカウンターに、椅子の数は八つ。どうして八つなんだろうな?

まあ、それが丁度良いからなんだろうけど。私様的には七つで縁起良くいきたい感がある。

あ、でもそれだと二人組を作ったら一人だけ仲間外れになっちゃうのか。

なるほどね。と一人納得していたりもした。

 

私様。クレマンティーヌちゃん。鈴木くん。と。

私様と鈴木くんとは距離をちょっち置いている。

勘違いして欲しくはないのだけど。別に不仲って訳じゃないお☆

モモレンジャイって言うのも、半ば強制ではあったけど、それでも不機嫌になる程じゃあない。

 

さて、じゃあなんで鈴木くんと距離を置いてるか、なんだけどさ。

ほら、クレマンティーヌちゃんに流れ星の指輪(シューティングスター)使ったじゃん?

その、まあ、なんだ。

 

少しくらいなら、ばれへんやろと思ったら、ものの見事にばれたのである。

 

それこそンフィーレアくんと錬金術師道具をいじっている最中に。

物凄い勢いでドアがノックされまくったのである。

コンコンコンコンドンドンドンドコドコドコドーン!!って感じで、ドアが解き放たれた。

 

ルプスレギナとナーベラルはどうしたんだと思えば、どうやら突然の事に怯えちゃってるみてーだ☆

部屋に入る前の廊下からちょっぴり見えたその姿はカタカタと震えていた。

 

おいおい、可哀想だろ☆ミ なんて言葉にする間もなく、

ズンズンと私様の目の前までやって来た鈴木くん。

 

人化してて良かったな鈴木くん。

骨骨ボーンの姿だったらンフィーレアくんが気絶してたろうぜ?

私様はニコニコしながら鈴木くんに声をかけようとして。

 

 

「流れ星の指輪(シューティングスター)使いましたね?」

 

「おいおい☆ なんのこったよ☆ミ

 私様はおかしな事は何もしてないぜ?」

 

「はっはっは、何を言ってるのか分かりませんね?

 それ以上とぼけると怒りますよ?」

 

「あい☆ 土下座一丁☆ミ

 ゆるーして☆ミ」

 

 

私様は滑らかな動きで土下座スタイルを完成させる。

両手を地面に付け、頭も地面に。HAHAHA、どうだ参ったか☆

ま、私様からしてみれば流れ星の指輪の一個や二個でなんだよー☆

と思わんでもなかったけど、貴重なユグドラシル産のアイテムを消費したのだ。

そりゃあ小言の一つや二つ言いたくなるわなと、思ったりもした☆ でも反省はしません☆

 

それで何に流れ星の指輪を使ったのかと聞かれたら。

まあまあ、ここじゃあ何だからバーにでも行こうぜ?と言う訳だ。

 

さて、そう言う訳で私様はクレマンティーヌちゃんを連れてロイヤルスイートのショットバーまで来た訳なのさ。

私様はマスターの居ないバーで、空のグラスをくるくると回しながら笑う。

 

 

「さて、クイズだぜ☆

 鈴木くん、私様は何に流れ星の指輪を使ったでしょーか☆ミ」

 

「クイズ形式にする理由は?」

 

「あると思うか☆ミ」

 

「無いんですね……まあ分かってましたよ……」

 

 

はあ。と疲れたようなため息を吐いた鈴木くん。

おいおい、そんな辛気臭そうな顔をするなよ。あ☆ 良い事思い付いたお☆ミ

 

 

「じゃあ、見事一発で正解したら

 流れ星の指輪を1個プレゼントしようじゃないか☆ミ」

 

「えっ」

 

「はい☆ 制限時間は30秒だぜ☆

 おらおら☆ 早く考えるんだよー☆ミ」

 

「ちょちょちょっと待ってください!!」

 

 

そう言って鈴木くんは真剣な表情になる。

くつくつ。面白い面白い。こういうくだらないことでも楽しむのが大切なんだぜ。

それはとても幸せな事だし、面白いと感じる事は素晴らしい事だ。

 

 

「残り10秒~☆」

 

「早くないですか!!?」

 

 

当ったり前だろお前☆

流れ星の指輪は安くはねーんだよ☆

私様の在庫も、あと三個しかねーからな。あ、さっきの使いかけを合わせてな。

つまり願いはあと8個しか叶えられねーわけだ。

 

うん?廃課金だったはずの私様が三個しかねーのはおかしいだろって?

はー、分かってねえな☆ 私様が流れ星の指輪なんてアイテム。そのままにしとく訳ねーだろ?

生産の材料にしたり。成功率を高めるために使ったり、魔法付与に使いまくったんだよ☆

むしろ三つも残ってたのが奇跡ってもんだぜ☆

 

さて、鈴木くん。答えを聞こうか。

 

 

「……クレマンティーヌ関係ですね?

 レベルを上げたりでもしたんですか?」

 

「くつくつ。私様がそんな実利目的に使うと思うてか☆」

 

「くっそ!!違ったか!!」

 

 

実に悔しそうな顔で鈴木くんはカウンターに顔をうつ伏せた。

そう言えば、鈴木くんはボーナス全額を使ってようやく一個手に入れたんだっけか。

報われねーな。私様もちょーっち悲しくなる。

 

さて、答え合わせをしよう。

私様は、クレマンティーヌちゃんの願いを聞き届けた事。

ンフィーレアくんの願いも聞いたが要らないと言われた事。

錬金術師道具をンフィーレアくんに貸し出した事を言葉にした。

 

鈴木くんは、意外そうな顔をすると、言葉にする。

 

 

「そんな事を願いに……。

 じゃなくて、それよりも錬金術師道具を貸し出しても、良かったんですか?」

 

「ふむ、良い悪いで言えば、悪かったかも知れないね。

 あれは私様の最終的に行き着いた錬金術師の道具の完成形だ。

 私様のユグドラシルでの成果の全てが、あの道具達だ。愛着もある」

 

「なら、どうして」

 

「鈴木くん。ここはバーだ。

 まずは酒の一杯でも飲もうじゃないか」

 

 

私様は、カウンターから酒瓶を二本取ると、栓を抜く。

 

ふむ、この芳醇な香りは、リアルじゃとてもじゃねーけど真似出来ねーな。

って事は、私様でも飲んだことのない酒という事だ。

なるほど、これはちょーっち楽しみだな。

 

私様はグラスに少しだけ酒を注ぐ。

なるほど。これは赤ワインの一種かな?

残念ながら私様、酒については詳しくない。

 

というのもリアルのワインとかが私様をして、とてつもねー値段がしたってのが一つ。

そもそも飲むよりも鑑賞用だったり、他の貴族に自慢する為のものだったってのがある。

 

うーむ、これは本当に楽しみになってきたぞ。

鈴木くんのは、……蒸留酒の一種かな?

うん!!分からんがともかくヨシ!!

 

 

「鈴木くん、君の、栄光に」

 

「星見さん、貴女の、輝かしい未知に」

 

 

「「乾杯」」

 

 

私様達は、二人。グラスを鳴らす。

すやすやと寝ているクレマンティーヌちゃんを他所に。

クイッとグラスを傾けた。

 

うん、なるほど。これは美味しいね。

中々飲みやすいってのに奥が深いし、コクがある。

それらが全て両立していて、お互いを邪魔していない。

酒も中々悪くはないね。

 

 

「それで、星見さん。話の続きを」

 

「ん、ああ。

 錬金術師の道具の話だったね」

 

 

ごめんごめん、と私様は口にしながら。改めて言葉にする。

 

 

「私様は、人間の持つ可能性を見て見たくなったのさ。

 この世界に住む人間が、どんなものを作り出すのか。

 どんな失敗をして。どんな成功をするのか、とね」

 

 

私様は、グラスを揺らす。

今度は中身の入ったそれは、少しちゃぷちゃぷとした音を鳴らす。

 

 

「星見さんは、現地の材料でまた何かを作ろうとは思わないんですか?」

 

 

鈴木くんは、少し身を乗り出して。言葉にした。

くつくつ。そうだね。君ならそう言うだろう。

けどね。

 

 

「私様はね、ちょっとだけ、疲れたんだよ。

 

 ユグドラシルで得られたレシピ以外がある事を知った時は興奮したぜ?

 まだ未知がある、また楽しめる、とね。

 

 でも、叡者のベルトを作った時。

 無意識に、勝手に。手元が動いた時、気付いたのさ。

 私様はこれ以上進歩出来ないって。

 

 進歩が出来ないのなら、私様はきっとこの世界の人間より価値はない。と私様は思う。

 何故ならば人間は生きて、進歩するものだ。時に進化するものだ。

 前向きであれ。後ろ向きであれ。人は歩いて行くものだ」

 

 

「星見さん」

 

 

「私様は、この世界ではあまりにも完成され過ぎている。

 きっと、関わるだけでこの世界には毒になることだろう。

 

 道具であってもそうだ。武器や防具についてもそうだ。

 この世界のありとあらゆる技師よりも、私様は優れている。

 

 それは、この世界への侮辱だ。

 だからこそ、私様の物語は、ここで終わった方が――」

 

 

「星見さん!!」

 

 

不意に、鈴木くんの大声で、現実に引き戻される。

ああ、私様としたことが、語り過ぎてしまったみたいだ。

あるいは、この酒の力か。自分に酔うだなんて恰好がつかないな。

鈴木くんは、私様を見る。どこか意志を感じる瞳だった。

 

……ああ。眩しいな。

 

 

「――そんな悲しい事を言わないでください。

 この世界の人間より価値がない?

 それがどうしたんですか?貴女はかつて『最悪』と呼ばれたでしょう?

 

 この世界にとって毒になる?

 笑わせないでください。貴女は間違いなく『害悪』だったでしょう?

 

 ここで終わるなんて、言わないでください。

 貴女は『問題児』で、俺の……僕の『仲間』です。

 そんな悲しい事、言わないでください……。

 

 それに――」

 

 

鈴木くんは、そこで一旦、言葉を切る。

 

 

 

 

 

 

「星見さん、貴女はプレインズウォーカーです」

 

 

 

 

 

そこで、私様は。目を見開いた。

 

 

「プレインズウォーカーな貴女は。

 ――心優しい貴女は、世界の為に終わることを選ぶのかも知れない。

 でもそれは、同じプレインズウォーカーである、僕が。それを許さない。

 僕は、黒を主とするプレインズウォーカーです。勝手に終わるのは許せない。

 

 死が労働を止める理由にはならないように。

 勝手に終わる事は、僕が許しません」

 

 

ああ、なるほど。

それは殺し文句だぜ。鈴木くん。

くつくつ。私様としたことが、ちょーっと自暴自棄になっていたのかも知れない。

何事も楽しく生きるのを優先していたはずが、世界なんて馬鹿馬鹿しいものを優先していた。

 

 

「そう、貴女は」

 

 

そうさ、私様は。

 

 

「「プレインズウォーカーだ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、それと。さっきから寝たふりをしてるクレマンティーヌちゃん?

そろそろ起きてくれよ?

さっきから聞き耳を立てるだなんて、随分と随分な態度じゃあないか?なあ?

 

 

 




酒飲んで動画見ながらだったから粗あるかもしれません。
ごめーんね☆ミ


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カードリスト:32:日常とか☆ミ

 

私様はプレインズウォーカーだ、という事を思い出した所で。

クレマンティーヌちゃんの脇をチョンチョンと突く。

気付いてるぜクレマンティーヌちゃん。とばかりにつつく。

 

ショットバーには私様達3人しかいない。

反応をある程度返してくれる鈴木くんはさておいて。

クレマンティーヌちゃん、君も反応を返してくれてもいいんだぜ☆ミ

ずっと無言は私様、ちょっとだけ寂しいぞ☆

 

クレマンティーヌちゃん。クレマンティーヌちゃん。と私様が言葉を吐くと。

クレマンティーヌの身体が面白い様に跳ねる。

それからおずおずとした感じで起き上がった。

 

 

「ぷ、ぷれいやー様達の会話に入るだなんて……」

 

「何、そう固くなることはないお☆」

 

「そうですよ、クレマンティーヌさん。星見さんはさておいて。

 俺にもそんなに固くなることはないですから」

 

「おいコラ☆」

 

 

私様は、鈴木くんに向けて文句の一言を言いたくなるけど。まあ冗談☆

鈴木くんの顔色もちょーっち赤い。丁度良い感じで酒が回って来たのかも知れないね。

私様も、ちょっと酒が進むな☆ 酒のツマミが欲しくなってきた。

 

 

「モモンガ様、まじっく☆ミ様。遅くなって誠に申し訳ございません」

 

 

おや。私様達しか居なかったショットバーに現れたのは副料理長。

名前は知らねーけど、異形種(茸生物)の彼、彼?は本当に申し訳なさそうにその場に現れた。

キノコ頭を下げる彼は、本日がショットバーの担当日じゃない事くらいは分かっている。

副料理長のはずの彼は、きっと多忙なはずだ。だというのに、ここにやって来たという事は。

 

 

「気にすんな☆ マスター☆

 私様達は勝手にやって来ただけであって。君は悪くない☆」

 

「そうですよ、マスター。

 俺達は何も気にしてませんし。星見さんの言う通り、勝手に来た俺達が悪いんです」

 

 

どこからか、聞きつけて来たんだろう。私様達がショットバーに居るという事を。

NPCからしてみれば、至高の御方を待たせるなんてとんでもないことだ、なーんてつまんねー事を思っているんだろうな。

こちとら秘密の会話をしながらだったから、丁度良いタイミングっちゃタイミングだったんだけど。

ま、来た以上、何かの役割を与えないといけない。

バーのマスターを放置したまま話に花を咲かせるのも良いんだけど。

それだと私様が気になる☆

マスターに何か花を持たせてあげてもいいだろう。

 

 

「んじゃま☆ マスター☆

 私様達に丁度良いお酒のお代わりとツマミを頼むわ☆ミ

 あ、クレマンティーヌちゃんの分も忘れんなよ☆

 三人前な☆ミ」

 

「かしこまりました」

 

 

そう言ってバーの奥へと入っていくバーのマスター。

直ぐにじうじうと小気味の良い音が聞こえてくるのを見るに、相当に焦っていたのだろう。

くんくんと鼻を利かせると、なんだか肉系のツマミなのか。魚介系のツマミなのか。

良い感じの匂いが鼻をくすぐる。あ~☆ いい匂いなんじゃあ~☆

 

私様がそう思うと、クレマンティーヌちゃんも同じことを考えていたのだろうか。

鼻をスンスンとしている。うんうん。美少女がやると絵になるね☆

 

 

「星見さん、と……鈴木、様?」

 

「ああいや。俺の事も『さん』呼びで良いですよ。

 ただのしがないギルマスですし」

 

「あは☆ 君も人が悪いな☆

 彼はこのナザリック地下大墳墓の主にして。 かつて別世界でも名前を轟かせたプレイヤーだ。

 甘く見てると、殺されるぜ? ……主にNPC達にな☆ミ」

 

「ちょっ!?

 人が悪いだなんてそんな!!?

 ……ただNPC達に殺されるのは、否定は出来ませんが……。

 

 なら、ナザリックでは俺達三人の時と、冒険している時のみ『さん』付けしてもらうのはどうでしょうか?」

 

「良いんじゃねーかな☆ミ

 そういう訳だからな、マスター☆

 私様達は『良し』とするから、気にすんなよ☆ミ」

 

 

ちょっと物々しそうな雰囲気になりかけたのを気付いたのであろう、

クレマンティーヌちゃんは、少しだけ身を固くしたものの。私様の言葉で態度を軟化させた。

周りにはバーのマスターを除いて私様達三人しか居なかったのも手伝ってか。

あるいは、バーの雰囲気に飲まれてかは知らないが、ともかく、クレマンティーヌちゃんは口を開いた。

 

 

「そ、それじゃ鈴木さん。

 お二人がぷれいやー様なのは、よく分かりました。

 ……その……」

 

 

ふむ。流れ星の指輪(シューティングスター)の効果かは知らないが。

どうもクレマンティーヌちゃんがやや奥手になってるのを感じるな。

これまであった積極性はどこへやら、借りて来た猫みてーな感じだ。

使ってみた私様からしてみれば。キャラクター設定でも弄ったんじゃないのか?ってくらいの変わりようである。

もじもじして次の言葉を選んでいる彼女は、非常に愛おしく感じる。

ま、つっても猫とか犬とかに感じる程度に済んでるのは、私様が異形種たるホムンクルスだからかも知れねーが。

 

人間形態である鈴木くんは、と言えば。

意外や意外。これまた普通の鈴木くんと至って変わりはない。

彼女がペットとは言え、新しい仲間だからだろうか。その目は真剣そのもので。

私様をしても、ちょっち背が伸びる勢いだ。

 

さて、意を決したのだろう。クレマンティーヌちゃんは口を開いた。

 

 

「私は、これまで多くの人を殺してきました。

 私は、これまで多くの人を穢してきました。

 それが、いけないことなのは。今の私なら分かります。

 

 それに、今まで穢された私も、星見さん、に癒して頂きました。

 狂ってしまった私も、治して頂きました。

 

 私は、どうすれば良いのか、分からないんです。

 これまでの事を謝罪すれば良いのか。お礼を言えば良いのか、何をしたら良いのか」

 

 

ふむふむ。なるほどね。

要するにクレマンティーヌちゃんはあまりに変わってしまった自分に混乱しているのだろう。

流れ星の指輪は、彼女の願いを聞き届けたのだろう。

正常に、清浄されたクレマンティーヌちゃん。

さて、彼女になんと声をかけたものか、と私様が思案していると。

 

 

「クレマンティーヌさん」

 

「は、はい!」

 

 

咄嗟に声をかけたのは鈴木くんの方だった。

彼女の手を取って。真剣に彼女の方を向く鈴木くん。

クレマンティーヌちゃんは頬を染めて、困惑しているような表情だ。

それから、鈴木くんはニッコリと表情を変えた。

 

 

「確かに、俺達はプレイヤーです。

 でも、同じ人間です。それに、俺達はもう仲間です。

 やっちゃいけない事をしたなら、ごめんなさいで。

 良かったことがあったら、ありがとう、で。

 それで良いんじゃないでしょうか」

 

「ひひひ☆ ごめーんね☆ミ」

 

「そこの馬鹿は何度も苦労させられましたからね。

 今更ごめんなさいの一度や二度じゃ済みませんよ?」

 

 

じゃあ三度なら良いのかな、などと口走ると。

クレマンティーヌちゃんの前を通り過ぎて、私様にげんこつが落ちる。

なんでや☆ ここは許しますって言うところやろがい☆ミ

 

その様子に、クレマンティーヌちゃんも腑が落ちたのだろう。

えへ。と擬音が付くような笑顔を浮かべて。

 

 

「これまで、ごめんなさい。 ――ありがとうございます。星見さん」

 

 

うんうん☆ 良い笑顔だ☆

満点をあげたくなっちゃうような美少女の笑顔に、私様も頭をさすりながらも満足だ☆ミ

流れ星の指輪を使ったかいがあったというものだ。

 

さて、とだ。

 

 

「それはそうと、鈴木くん」

 

「なんでしょうか?」

 

「私様の回復アイテム使ったね?」

 

 

瞬間、先程のイケメンムーブはどこへやら。

鈴木くんは全力で顔を私様の方から背けた。

 

少し前に、私様の回復アイテムのいくつかが無くなるという、事件とも呼べねーちょっとした出来事があった。

あの時はまあ良いかで済ませておいてたんだけどさ、やっぱり気になるじゃん☆

アルベドに頼んで、そのアイテムの行き先を調べてたんだけどさ、分かっちゃったんだなこれが☆

 

鈴木くんは、カルネ村での死傷者達に、私様の回復アイテムを使ったのだ。

中には蘇生アイテムもあっただろうに。最上位ではないにせよ、そこそこのポーションもあったはずだ。

 

 

「鈴木くん?」

 

「ハイ……」

 

 

ギギギギ、と鈴木くんの顔をこちらに向ければ。

彼の表情は、怒られる寸前の子供のような顔であった。

ま、いわゆるしょんぼり顔である。

 

 

「すまんね☆ ありがとな☆ミ」

 

「えっ」

 

 

意外そうな顔をする彼。誰も怒るっては言ってねーだろーが☆ミ

異形種となった私様は、ちょっち論理観ってのが抜け落ちてしまっていた。

つまりは人が死んでも傷付こうとも、そこまで何とも思わなくなってしまったのだ。

 

人が死んだとしても、あの時の私様は蘇生しようだなんて思わなかったし。

傷が原因で生き死にしようが、そいつの勝手だなんて、思ってさえいた。

そんな私様に、鈴木くんはアイテムを使用して傷を癒したのだ。蘇生させたのだ。

それを褒めなくてどうするよ。

 

 

「ま、私様のアイテムを使った、ってのは気に入らねーがな?」

 

「アッハイ、本当にすみません……」

 

「はい、許しまーす☆」

 

 

へらへらと笑ってみせる私様。謝る彼の姿に。

クレマンティーヌちゃんはちょっち微笑んで見せた。

 

 

「ぷれいやー様って、私が思ってたよりも、ずっと親しみやすいんですね」

 

「まあな☆ 基本的には良い奴ばっかりだよ☆ミ」

 

「例外はありますけどね」

 

 

なんて、私様達が和やかに談笑しているところに、バーのマスターがやって来た。

手には三種類の料理と、三種類のグラス。

色とりどりの肉や魚介が散りばめられたそれは、一種の宝石と言って良いくらいの料理だ。

青い色をした液体が注がれたグラスは、まるでおとぎ話に出てくる夢の産物だった。

 

くつくつ。こうも面白いくらいに未知が溢れると、まるで物語の主役になった気分だな。

と私様は独りごちる。

ま、あながち間違いじゃねーか。

この物語の主役は私様と鈴木くんと、それからこれから仲間になる奴らだ。

それを邪魔するってんなら容赦はしないし、手加減はしてやらない。

 

私様達は満たされたグラスを手にして。

 

 

「これからの未知に☆」

 

「これからの冒険に」

 

「これからの……うーん。世界に!」

 

 

「「「乾杯」」」

 

 

ちりん。とグラスを鳴らす私様達。

そこから私様とクレマンティーヌちゃんは二人して笑う。

なんだよ鈴木くん、世界に乾杯って。

 

面白いから私様が声真似してやったり。

料理の美味さに鈴木くんとクレマンティーヌちゃんが感激したり。

飲み食いした挙句、お金も払わずに帰っちゃったりもした。

 

途中、酔いつぶれた鈴木くんとクレマンティーヌちゃんを抱えて部屋に帰るのは相当手間だったけど。

ああ、今私様は生きているのだな。と感じたくらいには面白かったし、充実していた。

 

大袈裟かも知れないけれど、こういう日常がありふれていることが幸せに感じた。

 

 

 



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カードリスト:33:旅とか☆ミ

ここからは独自解釈と独自展開とかの嵐になるぜ☆
おもしれ―ものがあるのに行かない理由はないよな☆ミ


 

「だーれだ☆ミ」

 

「いきなりなにするんですか」

 

「馬っ鹿おめー☆

 私様が暇だからに決まってんだろ☆

 仕事なんて堅苦しいぜ、マジックしようず☆ミ」

 

 

アルベドから次々と渡される報告書の山を切り崩す鈴木くんに、私様は後ろから抱き着く。

アルベドには悪いけど、鈴木くんはちょっち働き過ぎだ。そんなんじゃ身体壊すぜ?

 

クレマンティーヌちゃんにお願いされて、修行と言う名の一方的な(私様への)攻撃/防御訓練が終わった頃、私様は鈴木くんの居る玉座の間に居た。

うん?クレマンティーヌちゃんに対して非戦闘員である私様が訓練するのはおかしくないかって?

そだね☆ 私様もそう思うんだけどさ。

 

彼女がこれから真っ当に強くなるにあたって、何が一番効率的か、と考えた時。

必要なのは対人戦の経験もそうなんだけど、対モンスターの戦闘経験を積むのが一番だと思った。

彼女はこれから冒険者になるのだから、色々なモンスターと出会う事だろう。

それらは毒を持っているのかも知れないし、特殊な技能を持つ敵も居る。

さっさと逃げた方が良い相手と、そうではなく片付けた方が良い相手。

 

それらを見極める観察眼というものを鍛えてあげようと、

様々なクリーチャーを生み出す事が出来る私様が相手しよう。って当初は思っていた訳なんだよ。

 

まー、最初のうちは

「羽ばたき飛行機械/Ornithopter」とかの無害な奴らから相手して貰ってたんだけどさ。

段々と面白くなってきて「エルドラージ/Eldrazi」系のクリーチャーを出し始めた所で。

クレマンティーヌちゃんが根をあげた。

 

曰く、あんな化け物を相手にするくらいなら逃げる。だってさ。

まだエルドラージ三柱のうちの一柱も出してないうちにそんな事言われちゃあ仕方ない。って事で。

今日はお開き。まあ「エルドラージ/Eldrazi」を相手するのも疲れるだろうからね。

 

次はもっとすげーの相手にするからな?って言ったら尻尾を巻いて逃げ出した☆

あは☆ ちょっちビビらせ過ぎたかも知れんね☆ でも私様は反省しない☆ミ

 

ンフィーレアくんの方も順調な様で、色々と私様の技術を見て盗んでは失敗や成功を繰り返している。

うんうん、トライアンドエラーは大事だぜ。もっと失敗しろ、失敗を怯えるな若者よ☆

 

しかし、本当に筋が良いようで。時折私様も迷う質問も多くなってきた。

その大半が現地産のアイテムと掛け合わせた場合どうなるのかってもんなんだけど。

大抵は質が落ちる。と私様は思っている。けど、実際に試したことがねーから迷う訳だ。

そろそろ現地産のアイテム素材収集を目的に行動してみても面白いかも知れねーな。

なーんて思う日常だ。

 

そうそう。

後変わった事と言えば。私様の正体(つってもホムンクルスってことくらい)と鈴木くんの正体の骨骨ボーンを彼らに教えたくらいか。

ンフィーレアくんは案の定気絶して、クレマンティーヌちゃんがなんだかちょっと感激していた。

多分、スレイン法国に居たスルシャーナちゃんと似てるんだろうね。

 

居た、というのは既に居ない、ということで。

私様はスルシャーナちゃんの事をあんまりよく知らない。

意外に思われるかも知れねーけど、私様が全知で見た情報は一部だけだ。

全部が全部知ってるわけじゃあない。何でもは知らないんだぜ?

 

だけど、多分スルシャーナちゃんはプレイヤーかなんかなんじゃねーかなって私様は思っている。

根拠として、今まで復活を試そうとした奴がまるで居なかった事が挙げられる。

いや、居なかった訳じゃねーんだろうけど、正確には「復活に成功した例が一例もない」んだ。

ユグドラシルであれば、手段によってはデメリットはあれど手軽に復活出来たが、ここは異世界ながらも現実だ。

そんな簡単にプレイヤーが復活できるとは私様は思えない。

あ、NPCについては多分復活出来るんじゃねーかなって思う。

だって全知と未来予知でシャルティアは復活してたし。

まあ、根拠としてはよえーな。でもあながち間違いではないと思う。

 

この世界におけるプレイヤーの命の重さが発覚した事でもあったし。

鈴木くんに報告すると、深刻そうな顔をして「復活出来ないとかマジか」って言ってた。

私様が「いや、リアルと同じなだけじゃねーか」って言ったらそれもそうですね、って笑ってたけどな☆

 

さて、話が長くなったね。

私様は今、無性に暇である。暇ならマジックがしたい。いや、するべきだ。しよう☆

って短絡的な思考になるくらいには暇だ。

 

 

「そろそろ一息抜いて、冒険者になるかい☆ミ」

 

「……魅力的な相談ですが、仕事がありますから」

 

「とかなんとか言って☆ 実はゴレンジャイの名乗りが恥ずかしいだけだろ☆ミ」

 

 

瞬間、跳ねる骸骨。

図星か☆ 分かりやすすぎんだろおめー☆

しかしまあ、そこまで嫌がるんなら仕方ない。

 

 

「仕方ねーな☆ んじゃモモレンジャイは今回は欠席だな☆

 あーあ☆ 残念だお……今回はバハルス帝国辺りのクエストにしようと思ったんだけど」

 

「帝国、ですか? 今回は随分とまた遠出ですね」

 

「まーね☆ミ ちょっち帝国辺りも見て回るのも悪くねーかなって☆」

 

「……何か企んでますね?」

 

()()()()、があるらしいんだお☆

 バハルス帝国の東に」

 

「ふむ?聞いたことがありませんね。

 アルベド、知っているか?」

 

「申し訳ございません。私共には、何も」

 

「そうか……」

 

 

ちょっちしょんぼり(´・ω・`)した顔をしたアルベドは後でナデナデしたるとして☆

私様は地面に大きな紙を広げると、地図をさらさらと書きなぐり始める。

地図っても正確なもんじゃねーぜ?本当に分かれば良い程度のもんだ。

そこで、バハルス帝国の東の海の上にくるくると丸を描く。

 

全知が正しいとしたら、ここだ。

ここに海上都市があるらしい。なんとも良い響きじゃあないか。実に心くすぐられる。

 

鈴木くんとアルベドは覗き込むようにして、私様の地図を見て、唖然とする。

ん?どした?私様なんか変なもんでも描いたか?

 

 

「……アルベド、星見さんのこの()()は正確か?」

 

「……はい。少しながら異なる部分はありますが、おおよそは」

 

「なんでもっと早くに地図書かないんですか!!?

 周辺地理の把握に凄く、凄ーく必要なものだったんですよ!!」

 

「いや☆ 言われなきゃ分かんねーお☆ミ

 それにほら、あーちゃんならやってくれるから問題ねーかな☆ って思って☆」

 

「報告!連絡!相談!」

 

「前にも言ったけど、私様は縛られねーの☆ミ

 それに私様、君には一回だけ言ったお☆

 周辺地理も知ってるって☆ミ」

 

「畜生!!こんの馬鹿害悪があ!!」

 

 

凄い剣幕でまくし立てられる私様だけど。反省はしない(キリッ

聞かれなかった方が悪いのであって、聞かれてないのにこちらから報告するような。

そんなエスパーじみた事は私様は出来ねーの☆ミ

よって私様は悪くない(キリリッ

 

私様はささっと旅支度をすると。鈴木くんに声をかける。

 

 

「そんな訳だから、鈴木くん。転移門(ゲート)頼むお☆」

 

「頼むお、じゃないですよ!!

 何が起こるか分からない場所に、ハイそうですかと送れる訳ないじゃないですか!!」

 

「そこを何とか☆ミ」

 

「駄目です!!」

 

「しゃーねーな。徒歩で行くか。トホホ☆ミ」

 

 

私様の渾身のギャグもだだ滑りしたようで。

鈴木くんとアルベドの反応は芳しくない。うーむ。これは困った。どうすれば良いだろう。

ああ、そうだ。あれがあったな。

 

 

「鈴木くんは、十三英雄のお話は聞いたことがあるかい?」

 

「……少しだけです」

 

「あーちゃんはどうだい?」

 

「およそ二百年前に存在していたという話だけは存じております」

 

「ふむ、ならちょっとだけ端折ろうか。

 二百年ほど前。確かに十三英雄は()()()()()()

 魔神が世界を滅ぼしかけて。

 それに対して多種族が対抗し、最終的には九体の女神を降臨させ滅ぼした。

 おとぎ話としては、こんなもんかな。多分十三英雄はプレイヤーだよな。

 でさ――。

 この海上都市、その()()()()()()()()()()くせーんだよな☆」

 

 

瞬間。鈴木くんは言葉を失った。

私様がその隙を見逃すわけがなく。言葉を続ける。

 

 

「未だプレイヤーが居るとしたら、そこだ。

 そこで協力者を探そうと思う訳なんだよ」

 

「危険です」

 

 

鈴木くんの代わりに、アルベドがそう応える。

その目は真剣そのもので、私様を射止めている。

私様は、ケラケラと笑いながらも続ける。

 

 

「危険?良い事じゃあないか。

 無謀?素晴らしい事じゃあないか。

 無茶?それは私様達がずぅっと続けてきたことだ。

 冒険には危険がつきもので。物語にはそれが必要だ。

 ずっと弱いもの虐めばかりじゃあ飽きちまうぜ?」

 

 

指をくるくると回しながら。髪を弄りながら。

アルベドに向かって言葉を続ける。

それとも、と。

 

 

「君は、この程度の冒険で私様がくたばるとでも?」

 

「……っ」

 

 

ああ、アルベドの中では至高の御方が、この程度の難題を踏破出来ないのか、

と問われているのだろう。なーんてつまんねー事を思案しているのだろうな。

それともあれだろうか。実はアルベドは私様を恨んでいて、これ幸いとばかりに送り出すだろうか。

いいや、それはない。それはないだろう。アルベド。

 

君は所詮は私様達が作り出したNPCに過ぎない。

だからこそ。君は私様の強い意志には抗えない。

だから、ああ。だからこそ。

 

 

「分かりました。俺も行きます」

 

「モモンガ様!!?」

 

 

君も乗ってくるよな。鈴木くん。

安全を見るならば、100レベルとは言え生産職で非戦闘員の私様を送り出すのは良しとは言わない。

プレイヤーが居るかも知れないと見るならば、こちらもプレイヤーの頭数を多くするべきだ。

かつてPVPでは一対一だったかも知れないが、この世界では平気で多対一が成り立つ。

それを思えば、君が乗ってこないわけがない。

 

そもそもの話。君は冒険好きだ。

こんなもってこいの機会を逃す君じゃあないだろう?

 

 

「デミウルゴスも連れて行く。何かあったらでは遅いからな」

 

「ンフィーレアくんとクレマンティーヌちゃんも忘れずにな☆

 ゴレンジャイ、結成だ☆」

 

 

さて、下心を話そうじゃあないか。

私様、英雄譚というものが好きだ。大好きだ。

だからこそ。十三英雄というものには惹かれた。

面白そうだ、とも思った。それが居たはずのバハルス帝国にも興味がある。

何があって、何がないのだろう。

どんな文化が発展して、どんな文化が衰退したのだろう。

 

十三英雄というものが本当に未だ居たのならば。私様は話を聞きたい。

さぞ面白い英雄譚が聞けるだろうから。さぞ悲しい悲劇が聞けるだろうから。

 

それに、面白いお宝が眠っているかも知れねーから☆

 

 

 

 

 

さてさて、面白くなってきやがったぜ。

 

 



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カードリスト:34:バハルス帝国での日常とか☆ミ

深夜までVCで話してたら一話出来てビビる☆
先の展開色々話してたら、当初のプロット吹き飛んだわ☆ミ

でも反省はしない☆


 

揺れる揺れる馬車の上。

ゴロゴロと炉端の石ころが跳ねる音が小気味いい。

私様と鈴木くん。デミウルゴスとンフィーレア、クレマンティーヌちゃんは向かいに座っている。

 

ちなみに、馬車を引くのはエ・ランテルからの馬車馬。

最初は、王国領土からの馬車だから帝国に向かえない、と言われるのかと思ったけど。

向かう分には問題ないらしい。近くで下ろしてくれるそうだ。優しいね☆

幾ばくかの種金があった私様(偽造通貨)は、それを用いて馬車に揺られている。

振動さえ気にならなければ、馬車というものは意外と快適だ。あとは虫とか☆

私様作成の対振動性に優れた座布団を尻に敷いた私様達は、快適な馬車旅を楽しんでいた。

 

時折、道端にある動植物を見てはきゃいきゃいと騒ぐ私様。

丁寧にそれを解説してくれるンフィーレアくんとクレマンティーヌちゃん。

変わらぬ景色に早くもウンザリとしている鈴木くん。

デミウルゴスは、何が面白いのか終始笑顔だ。本当に何が可笑しいのやら。

 

 

「馬車で向かう理由はあったんですか?」

 

「馬っ鹿☆ こっちの方が楽しいだろうが☆ミ」

 

 

そんなもんですかね。と鈴木くんは独りごちるが。私様からしてみれば、景色に飽きてる鈴木くんの方が信じられないぜ。

今まで荒廃したリアルじゃ見る事も難しいであろうそれらが、自然な状態でそこにあるのだ。

そこに興奮しないはずがない。

ま、これがあと数日続くのだから飽きる気持ちも分からなくもないが、ちょっとせっかち過ぎやしないかね。鈴木くん。

徒歩でトホホと歩くよりは、随分とマシだぜ。と私様はちょっぴり笑ってみせた。

あ、今の笑う所だぞ☆ミ

 

目的地である海上都市。その近くにあるバハルス帝国に到着するまで。

馬車では数日といった所だろうか。

もっとも、モンスターの類に襲われなければ、なのだけれど。

 

 

「あ、ゴブリン。

 Mox Ruby――からの稲妻/Lightning Bolt」

 

「群れでしたか。石化の視線」

 

「面倒ですね。内部爆散(インプロージョン)」

 

 

なんて具合で。私様達は呑気な馬車旅を楽しんでいた。

てか内部爆散て君☆ ゴブリンやオーガ相手に第10位階魔法使うんじゃないよ☆

なんか可哀想になってくるじゃないか。同情はしないけどな☆

私様も、「稲妻/Lightning Bolt」で炭どころか灰になったゴブリンを見ながらのんびりとする。

今日も世界は平和だ☆

 

そんな旅も、数日経てばあっという間に終わってしまう。

私様としては名残惜しいのだけれど、他の皆はそうではない様で、皆いそいそと下車していく。

私様が馬に人参みてーな野菜を食わせてやれば、それを嬉しく思ったのか。ブルル、とひと鳴きした。うんうん☆ 可愛い奴だ☆ミ

 

さて、と。バハルス帝国にやって来た私様は、エ・ランテルの雰囲気とは随分と違うそこに圧倒されていた。

エ・ランテルの人の多さにも圧倒されていた私様は、中央市場と呼ばれるそこの場所の人の多さに、ちょっち固まった。

イモ洗いと称すのが正しいと言わんばかりにそこは見渡す限りの人だらけだった。

少しだけ、ちょっとだけ見て回ろうとする私様を。

 

 

「星見さん、行きますよ」

 

「わ、分かってらぁ☆」

 

 

鈴木くんは私様の手を引いて先導する。

うーん。面白そうだったのに。

 

と、残念がる私様の目に止まったのは、大きな建造物。

あれはなんだろう、と疑問に思った所で、全知で得た情報が役に立つ。

あれは、帝国唯一の大闘技場。死人が出るほどに盛り上がるとか。

 

ふむ。面白そうじゃあないか。

鈴木くんの手を引き、そっちに誘導しようとするが……。

 

 

「いいから行きますよ」

 

 

残念!私様の筋力が足りない!!

ああ~と言葉を漏らすが、悲しきかな大闘技場は私様の目の前から遠ざかっていく。

続いて、目に入るのは奴隷たち。

 

ふむふむ、中世西洋に似ているとは思ったけど、こんなところも似ているのだね。

ただ、その身分は奴隷に等しいものの、生存が困難な程に困窮している奴隷は少ないようだ。

この辺りは、リアルとの大きな違いだね。

リアルじゃあ低層の市民は生きることも難しかった。

 

なんとなく、視線を巡らせると。一人の人間と目があった。

金色の肩口辺りでざっくりと切られた髪。やや痩せてはいるが、気品のある顔立ち。

年齢は十代中盤くらいだろうか。

自分の伸長ほどある長い鉄の棒を持っている彼女は、私様を見るとハッとしたような表情をした。

 

おや?どうしたのかな?とちょっち気になって鈴木くんの手を再度引く。

 

 

「今度はどうしたんですか?星見さん」

 

「いやね。私様、達?を見ている子が居てね?」

 

「どこに?」

 

「そこに☆」

 

 

私様が指さすと、彼女はビクッと身体を見震わせた。

別に人を食う訳じゃないんだから。そこまで気にすることないのに。

私様達は、その子の所まで近付いて。軽く接触してみることにした。

第一村人……村人じゃねえな☆ 接触☆ミ

 

 

「はろはろ☆ 私様は星見様だぜ☆

 君ちゃんの名前はなーに?」

 

「え、えっと……?」

 

「ウチの馬鹿が本当にすみません。

 ご迷惑をおかけしましたか?」

 

「い、いえそんな事は! ただ……」

 

 

そう言って彼女は私様の持っているカードの一枚に目を落とした。

ふむ?おやおやなるほど?

君はMTGに興味があるんだね☆

MTGに興味を持った瞬間から彼女は仲間だ!!

私様は手早くカードを広げ始め。彼女に宣伝しようとして。

 

 

「この紙……魔法が込められている……?」

 

 

おっと?

私様と鈴木くんは耳ざとく、その声を拾った。

そういうタレント持ちか。なら逃がせないな。

 

 

「鈴木くん。私様はこの子に話がある☆」

 

「奇遇ですね星見さん。俺も話があります」

 

「でしたら、そこの――歌う林檎亭でお話してはいかがでしょうか。

 お嬢さんも、それでよろしいですか?」

 

「え? えぇ……まあ……」

 

 

ナイスだ。デミウルゴス。私様は心の中でサムズアップした。

表面上はにこやかで紳士的に振舞ってはいるが。

私様達の心の内を拾ってみせたその手腕は大したもんだ。

 

幸いな事に、彼女も、歌う林檎亭……だっけ?そこに入る事を了承してくれた。

善は急げと言うだろう?私様達は、いそいそと彼女をそこに連れ入れた。

 

 

★ミ

 

 

歌う林檎亭は、エ・ランテルで言う所の冒険者用の酒場や宿屋に似たような場所だった。

年季が入ってはいるが、どこも隙間風は無いし。床も綺麗に磨かれている。

人も賑わっているし、丁度良い。

 

私様、鈴木くん、彼女、と同じ席に座って。

もう一席にデミウルゴス、ンフィーレアくんとクレマンティーヌちゃんが座る。

彼女よりも入り口側に。もし逃げられても捕まえられるように。

 

 

「さて、自己紹介がまだだね?

 私様は星見。親しみを込めて星見さんと呼んでくれたまえよ☆」

 

「俺の名前は鈴木と言います」

 

「……アルシェ、です」

 

 

ふむふむ。警戒しているね。それもそうだろう。

見知らぬ奴らに連れ入れたのだから。ここで警戒しなかったらどんな楽観的な奴だよってなる。

私様はカードを並べる。片方は、私様が魔法を込めたカード。片方は、なんの変哲もないカード。

アルシェの視線は――やはりというべきか。魔法を込めた前者に向けられていた。

 

 

「見分けられるようですね」

 

「君のタレントかな?」

 

「……」

 

 

アルシェちゃんは沈黙を押し通しているが。沈黙はイエスと受け取るぜ。

私様は、別に彼女をどうこうしようと言う訳じゃない。

彼女のタレントが、私様のアイテムを看破しているかどうかを知りたかった。

具体的には、デミウルゴスと鈴木くんが、高位の魔法を使えると言う事を知っているのか。否か。

知りたいのはそこだけで、彼女自身には用は無い。

 

ちょっと冷たい言い方だったかも知れない。だが、これが事実だ。

彼女がもし私様達に悪意を持っていたら。

高位のマジックキャスターが居ると、言い広められたら、困るっちゃ困るからな。

一応、そう言った事が無いように、自身のステータス・スキル・使用可能な魔法を偽造する指輪を事前に渡しておいたが。

看破されるタレントが身内に居なかったから分からない、というのが、正直なところだ。

 

私様は、金貨を一枚取り出すと(もちろん偽造通貨)、彼女の目の前に置いた。

アルシェちゃんは目をパチクリとさせている、うん。まずは説明しようか。

 

 

「アルシェちゃん。君は看破持ちのタレントだね。

 ああ、答えなくても良いよ。それが分かっただけでも十分だ。

 まずは一緒にご飯を食べようじゃないか。知らない奴同士、にらめっこしてても仕方ないだろ?」

 

「……何が目的でしょうか」

 

「仲直り☆ 私様達が勝手に警戒して悪かったね☆

 私様達はここに来たのが初めてなんだ☆

 色々と教えてくれると嬉しいな☆ミ」

 

 

私様は屈託のない笑顔を浮かべながら、そう紡ぐ。

アルシェちゃんも、緊張感が少しだけ和らいだのか。素直にそれに従った。

それから先は、飲み食いし放題だった。

 

私様もひたすらに食べたし、飲んだ。

私様の仲間の皆もそうだったんじゃないかな。みんな仲良く飲み食いしていた。

 

次第に、アルシェちゃんも。警戒が解けて。飲み食いし始めて。

あっという間に酔いが回り始めた頃だっただろうか。

 

デミウルゴスも楽しそうに飲み食いしているし。ンフィーレアくんとクレマンティーヌちゃんもそれに続いている。

鈴木くんは自分のペースを守って、のんびり飲み食いしている。

ロイヤルスイートのショットバーでの一件以来だろうか。鈴木くんは自分のペースを守って酔いつぶれないようになった。

関心関心、と私様は思いながらも。アルシェちゃんに絡む。

 

折角テーブルに女が二人も居るのだ。

話は次第に色恋沙汰になっていく。

 

 

「アルシェちゃん、美人さんだよねー☆

 良い人とか居ないの~☆ミ」

 

「べ、べつに居ませんけどぉ……?」

 

 

頬は赤く。酔いが回っているのか、口調がちょっとだけ怪しい。

色恋沙汰にはあまり慣れていないのか。目を私様から逸らしている。

やれやれ。こんな美人さんを放っておくなんてこの世界は間違っている。

私様なんて可愛い美人さんも孤独なんだからこの世界はおかしなものだ。

 

私様は、指先をそっと指すと。言葉を紡いだ。

 

 

「そっかそっか、――そこに居る鈴木くんをどう思う?」

 

「どうってぇ……特に何も感じませんけどぉ?」

 

「そっか☆ミ」

 

 

()()()()聞ければ私様は満足だ。

 

 

 




アルシェちゃん魔法付与された道具まで看破出来るんだろか?
気になって夜しか眠れません。
まあ、ウチのアルシェちゃんは看破出来るってことで☆ミ


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カードリスト:35:時には昔の話を☆ミ

 

時刻は、夜。

未だ私様達は、歌う林檎亭に居た。

テーブルには、飲み食いし尽くした私様と、アルシェちゃん。あとは鈴木くんか。

デミウルゴス達は、宿の手配にでも向かったのか、この場には居ない。

 

海上都市について、アルシェちゃんに聞いてみると。

意外や意外、素直に話してくれた。

 

そこには遺跡があるのみで何もないとか。

とてつもない魔物がそこを守っているだとか。

そこは信じられないようなお宝が眠っているとか。

書籍によれば、最下層には何かがあるだとか。

 

ちょっと眉唾物の情報ばかりが出て来た。

情報の出所を問うと、これがまた怪しいもので。彼女は曖昧な答えを返す。

 

 

「いやー……、あそこは海に囲まれてるから、準備にも相当な時間がかかるし。

 何があるのか分からないから、尻込みするワーカーも多いんですよね。

 だから情報も不確かなものが多くて……」

 

「あー☆ なるほどね☆ミ」

 

 

なるほど。そういう事だったのか。

ここで言うワーカーというのは、冒険者に近い物らしい。

いや、未知を探検するという点では、私様達よりも冒険者らしいか。

 

だから危険だ、という事をアルシェちゃんは言いたいのだろう。

その場所は止めておけ、という事を言いたいのだろう。

見知ったばかりの私様達を心配するだなんて、なんともまあ善性な人間なのか。

 

だからこそ。余計に燃えると言うのにね☆

 

 

「くつくつ。くつくつ」

 

「星見さん、失礼ですよ」

 

「ああ、ごめんよ☆ 悪気は無かったんだよ☆ミ」

 

 

鈴木くんに咎められて。私様は口元に手を寄せる。

思わず吊り上げてしまった口の端を隠す為に。

 

しかし、危険だからやめておけ。と私様に言うだなんて。なんて分かってる子だろうか。

鈴木くんは凄く、顔をしかめて。苦虫を数十匹奥歯で嚙み潰したような表情をした。

なんだろうね、とても失礼な事を考えられてる気がするよ。

きっと鈴木くんは私様が余計な事をしでかさないか、考えていることだろう。

 

全く失礼しちゃうぜ☆ 私様がいつ余計な事をしでかしたよ☆ミ そう、いつもだね☆

 

 

「アルシェちゃん、君は悪くない」

 

 

私様の一言に。アルシェちゃんはちょっとポカンとしたような表情をした。

鈴木くんは、頭を抱えた。

 

 

「私様は行くぜ、アルシェちゃん」

 

「星見さん、俺は反対ですよ?」

 

「おいおい、つれねーな☆ 鈴木くんは☆」

 

 

私様は両手を広げて、天を仰ぐ。

 

 

「遺跡があるのみで何もない? 私様はそれでも行くよ。

 信じられないようなお宝が眠っているかも? 私様が行く理由としては十分だ。

 最下層に何かあるかも? 実に魅力的だ。ああ、最高に面白い。

 

 鈴木くんはワクワクしないのかい?」

 

「……はあ」

 

 

鈴木くんはため息交じりに黒い髪を掻く。

 

 

「最高ですね、ワクワクします。今すぐに行きたいくらいだ」

 

 

そうだろ、それでこそ鈴木くんだ。

だけど、その目はどこかまだ現実を見ている。もっと夢を見ろよな☆

だからこそ、私様は発破する。

 

 

世界級(ワールド)が眠ってるかも知れねーぜ?」

 

「わーるど?」

 

 

それは、私様と鈴木くんとの間でしか分からない暗号めいたものであり。

鈴木くんのコレクター魂をくすぐるようなものであり。私様の手札の一つだ。

これで動かないなら、と思ったが。

 

 

「――それは、魅力的ですね」

 

 

鈴木くんは、ものの見事に心揺さぶられたのだろう。

ガタンとその場で立ち上がると、そのまま向かいそうになる。

オイオイ、いくらなんでも急ぎすぎだろ、と今度は私様が鈴木くんを抑える側に回る。

 

結構酔ってるんだろうか?

千鳥足で歩く鈴木くんを止めるのはとても簡単なことで。

私様の筋力でも簡単に止める事が出来た。

鈴木くんをテーブルの席に座らせると、彼はすっかり酔いがまわったようで、そのまま眠りについてしまった。

 

 

「やれやれ☆ まったく頼れるリーダーなのか、そうでないやら☆」

 

「ふふっ」

 

「うん? どうしたんだい?アルシェちゃん。

 随分とご機嫌みたいじゃないか。何か良い事でもあったのかい?」

 

「いえ、その。

 随分とリーダーさんと仲が良いのだな、と思いまして」

 

 

ふむ。と私様は思いを馳せる。

思えば、鈴木くんとも長い付き合いだな。

ゲーム上での付き合いでしかなかったし、リアルでは会おうにも会えなかったから。

どうしようもないのだけれど。複雑な関係であることには間違いない。

まあ、馬鹿正直に話すつもりは無いけれども、それでも私様は話す事にした。

 

 

「まーね☆ 鈴木くんとは長い付き合いでね☆ミ

 色々と迷惑をかけたり、かけたり、かけたりしていた訳だよ☆」

 

「かけたり、かけられたりではなく?」

 

「一方的に私様が迷惑をかける側だったね。これは今も変わらないさ☆」

 

 

私様は指先でちょいちょいと髪の毛を弄りながら。言葉を吐き続ける。

少し、酔いがまわったことにしよう。こうでもしないと、話せないからな。

 

 

「私様は、『害悪』で『最悪』で『問題児』だ。

 そんな私様を受け入れてくれた事に、恩義を感じない程、私様は人間終わっちゃいない。

 どうしようもなく弱い私様を守ってくれた事も、一度や二度じゃない。

 

 時に、昔の話をしようか。

 私様が今よりもずっと弱くて――まあ、今も弱いんだけどね。

 どうしようもなかった頃の話をしよう」

 

 

★ミ

 

 

私様は弱者だ。

 

私様は絶対的弱者だ。

 

狩られる者であることは間違いないし、狩られることに、何の疑問も抱かなかった。

 

勿論、復讐はしてやったさ。まあ、善意の復讐とでも呼ぶべきかな?

ちょっぴり「脅かして」やったりもしたし、「悪戯」もしてやったりもした。

 

それでも尚、弱者としての私様は狩られる側だった訳だ。

いくら「脅かして」も、「悪戯」してやっても、狩る側の奴は飽きる事をしなかった。

 

この頃からかな。私様は『そこに居るだけの害悪』と呼ばれ始めて。

私様も、それを認めていた。弱者であることを良しとして、強者になることを諦めていたんだね。

 

いやはや。あの頃は悲惨だったね。

何かしら作ったとしても自慢出来る仲間や友達も居なかったし。

それを売ったら、今度は『最悪』呼ばわりだ。

この頃の私様は、本当の意味で『最悪の害悪』だったと思う。

 

半ば自棄になっていたようにも思う。目は死んでいて。生産にしか楽しみを見いだせなかった。

未知なんて知らねーものに興味なんて欠片も無かったし、私様は私様を守るので精一杯だった。

 

まあ、そんな時だったんだね。このリーダーと出会ったのは。

 

 

「これがユグドラシル……」

 

 

見るからに、初めたての彼がそこに居て。私様は何となくの善意からか。

あるいはただの気まぐれだったのか知らないけど、彼に話しかけた訳なんだ。

今になって思えば、自分の悪名を知らない初心者の彼に付け込んだ訳だね。

 

 

「はろはろ☆

 君ちゃんの名前はなんてーの?

 私様はまじっく☆ミ 親しみを込めてまじっく☆ミさんと呼びたまえよ」

 

「あ、こんにちは。

 俺の名前は、すず――モモンガです」

 

「くつくつ☆

 初めたての君じゃこの世界で生き残るのは難しいだろう。

 どうだい? 私様のアイテムと武器と防具を使わせてあげようか☆ミ」

 

「本当ですか!!? いやー良い人と出会えて良かった!!」

 

 

まあ、あげたのは私様製の呪われた装備だったんだけどね☆

装備した途端悲鳴をあげた彼の姿と言ったら……爆笑ものだったよ☆

 

 

「こんの……!騙しましたね!?」

 

「騙される方が悪いのであって、私様は悪くない☆ミ

 それじゃあ、ユグドラシルを楽しみたまえよ☆ モモンガくん☆ミ」

 

「この、待っ……逃げ足はやっ!!?」

 

 

それから暫く経ってからだったかな?

再びモモンガくんと出会ったのは。

異形種狩りが横行していて。これがまあ治安が最低な時だったんだよ。

彼はどこか疲れた様な顔をしていて、お世辞にも生気が感じられなかった。

まあ、骸骨なんだから生気も何もねーんだけどな☆ ここ笑う所だぞ☆ミ

 

 

「はろはろ☆

 モモンガくんおひさー☆ミ」

 

「あ、はい。えーと……どなたでしたっけ?」

 

「忘れたのかい☆

 ならどうだい?また私様のアイテムと武器と防具をあげようか☆」

 

「……あっ!!あの時の!!?」

 

「思い出した様で良かったよ☆」

 

 

私様は相も変わらず弱者で。モモンガくんもまた、弱者だったんだろうね。

異形種の彼は、私様と同じように狩られていたんだよ。

彼はどこか疲れたような声で。けれども未だ心は折れてはいなかったんだ。

私様とは違ってね。強さを諦めちゃいなかった。

 

 

「おや☆ まだ頑張るんだね☆

 ――どうしてそこまで頑張るんだい?」

 

 

私様みたいに、強さを諦めれば楽になれるのに。

私様みたいに、弱さを認めれば楽になれるのに。

 

 

「……俺は」

 

 

そこで、彼は言葉を断ち切って。

再び冒険に出かけたんだ。まあ、またやられると思ってたんだけどさ。

 

知らないうちにアインズ・ウール・ゴウンとかいうギルドに所属する事になったらしい。

ってのを風の噂で聞いて、ビックリしちゃったね。

 

私様の知らない所で何がどうなったらそうなるのさ。って感じだった。

残されたのは、一人。私様という弱者だけ、になるはずだったんだけどさ。

 

ある時、アインズ・ウール・ゴウンからギルドの招待を受けたんだよ。

それもギルド長がモモンガくんだったから余計にビックリだったね。

 

なーんで私様みてーな『最悪の害悪』を招待したのか。訳を聞くとさ。

彼はこう言った訳なのさ。

 

 

 

 

 

「困った人がいたら、助けるのは当たり前。です」

 

 

 

 

 

くつくつ。

今思い返せば中々面白い事だったね。

特に、困っている人じゃなくて『困った人』ってのがダブルミーニングで笑えた。

彼の面白い所が、私様に似たような問題児で構成されていたギルド。

アインズ・ウール・ゴウンを、上手く纏めていたことだね。

 

あれは彼にしか出来なかった事だろう。――だから。……おや?

 

 

「……すぅ」

 

 

ふむ。アルシェちゃんも酔いがまわってたのかな。

すっかり眠ってしまっている。いつから寝ていたんだろうね。私様も気付かなかったよ。

まあ、丁度良かったかな。私様もちょっと話し過ぎてしまったからね。

それにしても、ああ。

 

 

「やれやれ☆」

 

 

寝落ちが二人。デミウルゴス達を待つしかねーな。

ここの代金は私様持ちで良いとして。暫く暇になってしまった。

こんな日は、昔の事を思い出して飲むのも悪くないな、と思った。

 

 

 

 



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カードリスト:36:クエストとか☆ミ

 

バハルス帝国のある宿屋の一室にて、私様は頭を悩ませていた。

海上都市に向かうに至って。私様達は大きな課題に直面している。

 

それは、どうやって海上都市に向かうか。という根本的な問題。

最初は木材などを繋ぎ合わせたイカダを用いて、海の上を渡ろうとしたが、これは皆に却下された。

なんでさ☆ と私様が猛反発すると、出るわ出るわ問題の嵐。

 

海上都市に向かうのに、どれだけの時間がかかるのか分からないのに。それはあまりに非効率だ。

イカダの強度を考えるに、私様達五人を乗せるイカダを作るのに、かなりの労力が要るという事。

材料はどこから? 勝手に樹を伐採して運ぶ手間は? そもそも転移門(ゲート)で良いのでは?

とまあ、色々と問題があった訳だ☆

 

結局のところ、私様は楽しく冒険がしたかったのだ。

楽しく冒険するのに、面倒くさい事が重なってしまえば本末転倒だ。

面倒くさいのは、面白い。とはいえど限度があった。

 

これには私様も黙って意志を曲げざるを得ない。

結論として、転移門(ゲート)を用いて海上都市に向かう事になったのだが。

 

問題はもう一つあった。

 

そもそもの話、

海上都市を探索するのに、私様達だけでは手が足りないのではないか。というもの。

 

デミウルゴスに指摘されて、初めて気付いたぜ☆

そう。ここは現実だ。ゲームじゃない。

ダンジョンを探索して、ボスを倒して、ハイ終わり。ではないのだ。

 

宝箱なんて分かりやすいドロップアイテムは落ちていない。

場合によってはトラップの有無を確認する必要性も出てくる。

どういう場所かも分からないので、人手がとにかく必要なのだ。

 

ナザリックから人手を借りる、というのも考えた。

だが、それはあまりにも私様が意図している冒険とは遠くかけ離れてしまう。

だっておめー。冒険するのに数十人規模で行くか?という話だ。

そもそも、私様が思い描く冒険というものは、危険や危機があって良いものなのだ。

それは鈴木くんも同じようで、ナザリックから人手を借りる案は無しになった。

 

さて、困ったぞ。

……うん、本当に困った。

困った時のデミウルゴス☆ 君に決めた☆

 

 

「という訳で、私様。凄く困っているんだよ☆」

 

「なるほど。それで相談に来たという事ですね?」

 

 

今更ながら。鈴木くん達男性陣と私様達女性陣は別室だ。

そこまで部屋自体は悪くはねーけど、よくもない。ありふれた宿屋だった。

男性陣の部屋にやって来た私様は、デミウルゴスに言葉を続ける。

 

 

「まーね☆ 私様より、君の方が頭が良い、というのは前も言ったね☆

 たすけてー☆ デミちゃん☆」

 

「ふむ、では。こう言ったプランは如何でしょうか」

 

 

デミウルゴスの言った内容は次の通りだ。

 

研究と称して、海上都市の探索。及び研究に役立つものの回収に行く。

いち冒険者の手だけでは足りないから。ワーカーのチームを集める。というもの。

 

とは言え、あまり知らないワーカーに依頼を出すのはいけない。

信頼の出来るワーカーにのみ依頼を出す。

 

必要なのは、レンジャーや戦士などの脅威に対する斥候・防衛。

出来る事を全て、なにも私様達だけで済ませる必要はないのだから。

 

私様のあんまり賢くない頭では、これくらいを理解するのがやっとだった。

ふむふむ☆

確かにこれなら私様の想像している冒険とさほどかけ離れてはいない。

これならば鈴木くんも同意してくれる事だろう。

 

 

「ふむ、ワーカーとの合同のクエストですか」

 

 

デミウルゴスの言葉に、鈴木くんは暫く考える素振りをした後。

良いんじゃないでしょうか。と答えを出してくれた。

うんうん☆ やっぱり相談しに来て良かったよ☆ と私様が安心したのもつかの間。

デミウルゴスが、ですが。と言葉を濁した。

 

 

「転移門(ゲート)を使う以上。至高の御方の御力が露見してしまいます」

 

「「あー」」

 

 

ここで話が振り出しに戻ってきてしまう。

どうやって海上都市に向かうのか。という問題に突き当たる。

 

私様達が知り得ている情報では、転移門(ゲート)が使える現地の人間は居ない。

特に今のところ、高位の魔法が使える事が露見して不味い事はないのだが。

それでもやはり、可能な限り隠した方が良いだろう。要らない問題は、必要ないのだ。

 

となると、船で行くのが無難な落としどころだろうか。

資金は、偽造通貨が山の様にあるので心配はいらない。

金貨を偽造してもなんら問題ない事を知った私様に、今や資金難というものは存在しない。

――とは言え、あまりに使い過ぎると毒だから、あまり使いたくはないのだが。

 

ここでの毒と言うのは、世界にとっての毒、ということだ。

金の価値が下がってしまえば、物価が高くなる。

物価が高くなれば、人間皆が困ってしまう。

困らないのはいくらでも偽造通貨を作成出来る私様だけだ。

うん、こりゃあ害悪だわ。名前負けしてねーな。

なんて私様は自嘲気味に笑ってみせた。

 

鈴木くんも、偽造通貨を使う事に慣れて欲しくは無いし。

出来れば正当な手段を持って金貨を手に入れたいのだが、如何せん我々『ゴレンジャイ』は銅級の冒険者である。

多くの金貨を手に入れようとしてもどうしようもないというのが専らの問題である。

 

 

「という事で、船で行くとしようかね☆」

 

「まあ、その辺りが落としどころでしょうね」

 

「時に、鈴木くん。船酔いはする方かい?

 私様が特製の船酔い薬作ってあげようか☆」

 

「なんか要らないバフ付けてきそうなので遠慮します」

 

 

なんでや☆ 私様の特製のお薬はしっかり効くぞ☆

具体的には筋力があがったり、HPが増えまくったりするぞ☆

副作用として船酔いに効くだけだ☆

 

 

――さて。

信頼出来るワーカーを探す、という事で。

翌朝、私様達は再度歌う林檎亭に来ていた。

 

アルシェちゃんも――居た。

辺りを見回した私様の目に入った彼女の下に近付くと。

慎まやかながらもしっかりとある胸元へと抱き着いた。

 

 

「はろはろ☆アルシェちゃん☆

 昨日ぶりだね☆あの後はちゃんと帰れたかい☆ミ」

 

「――わっ!? ……えっと、星見さん?」

 

 

突然の事にビックリしたのかな?

アルシェちゃんは目をパチクリしている。かーわーいーいー☆(語彙消失)

あとちょっち胸は硬めだね、見かけによらず結構鍛えてるのかな?筋肉質だね☆ むきむき☆

 

 

「はい、ごめんなさいねウチの馬鹿が」

 

「あ、いえいえ」

 

 

至福の時間も長くはなかった。

鈴木くんに引き剥がされて私様はアルシェちゃんから離された。

 

なんだよぶー☆

もうちょっと居させてくれても良いじゃないか☆

 

まあ、良いか。私様はアルシェちゃんに目を向けると。

 

 

「アルシェちゃん、クエストしねーか☆ミ」

 

「クエスト……依頼ですか?」

 

「そそ☆ 私様ちょっと仲間探してんの☆ミ」

 

 

そう言うと、私様は空いているテーブルに座り。

対面にアルシェちゃんも座るように促す。

 

 

「まずは報酬の話をしようか。前払いで金貨200枚。

 クエスト達成で金貨500枚だ」

 

「……!!」

 

 

おや。目の色が変わったね。

まだ内容も話していないというのに、せっかちなことだ。

くつくつ。そう急くなよ。まだまだ話はこれからなんだからさ☆

 

私様は金貨200枚をテーブルの上にぶちまける。

じゃらじゃらと音を立てながら、テーブルの上に広がる金貨の山。

嘘じゃないことを先ずは証明しようじゃないか。

 

もちろん私様製の偽造通貨ではあるけどな☆

 

周りの目が気になるが、気にしない。

これは他のワーカーに対しての宣伝も兼ねているんだからな☆

 

アルシェちゃんはゴクリ、と息を呑んだ。

目の前の金貨の山に目を奪われているけど、私様の言葉にも耳を傾ける余裕はあるようだ。

いいね、欲には忠実だけど、冷静でいられるのはポイントが高いぜ☆ミ

 

 

「先ず、君を雇いたい。

 後は、そうだね。信用できるワーカーを何人か。

 斥候・防衛が出来るレンジャーと戦士が居れば尚良い。

 これに追加で報酬を出してやっても良い」

 

「……やります」

 

 

くつくつ。まだ内容も話してないってのに。アルシェちゃんは本当にせっかちだ。

自分がどんな困難に立ち向かうのか分かってないのに、無謀と言うか、何と言うか。

それでこそ冒険者なんだけどね。ああ、あと。

 

 

「マジック:ザ・ギャザリングを知っているかね」

 

 

宣伝・布教も忘れないでやっておかないといけない。

 

私様はカードの一枚を見せると、アルシェちゃんの顔色が変わった。

伝説級(レジェンド)の一枚だったんだけど。比較的強力な魔法を込めたカードの一枚。

「抹消/Obliterate」を見せると。彼女は口を押さえてえずきそうになる。

 

あらあら。可愛そうに。

私様はカードを仕舞うと、彼女は楽になったのか。テーブルにうつ伏せになる。

 

 

「私様は、これらのカードを用いて戦闘をする。

 いちいちそんな反応をされると、困るわけなのさ」

 

「……」

 

「ああ困ったな、やっぱりこの話は無かったことにしようか☆

 足手まといを連れて行くつもりは私様全くねーからな☆」

 

「……慣れます。慣れてみせます!!」

 

 

彼女は強い意志を持った瞳で私様を見る。

ふむ、声色と態度から判断するに、彼女は金が相当必要なようだ。

そこに付け込む訳じゃねーけど、私様は口の端を吊り上げて。

 

 

「なら、まずは練習から始めようか」

 

 

MTGの布教活動、兼クエスト達成に向けた訓練を始めることにした。

 

 

 

 

 

あ、言っとくけどMTGで遊びてーだけだから☆

特にそこまで深い理由はないぜ☆ミ

 

 

 



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