Re:DJ道 (Lycka)
しおりを挟む

#1 DJって何なんだろうな


元々バンドリの作品を投稿していたのですがモチベが上がらず......
そこでD4DJに出会ったので気持ち新たに書いてみることに!

不定期ですが続けていくと思いますので、宜しければ感想評価頂けるとモチベupに繋がります。


 

 

 

 

 

Q.DJとは

 

A.ディスクジョッキー(disc jockey)とも呼ばれ、音楽を色々な場面で選曲し操作し、人々に送り届ける人の事である。かつてDJのディスクはレコード盤のみを指し示していたが、時が経つにつれCDやCD-R、デジタルオーディオ等も普及しそれに伴いDJの幅も広がっていったと言える。

 

 

 

 

とまぁここまではネットの力を借りれば猿でも分かる部分だ。あまり認めたくはないが、やはりDJという存在自体世の中で一般化されている訳ではないだろう。

 

 

 

 

だかしかし、そういったもの全てを塗り替えていく。

 

 

 

 

 

 

それが"DJ道"ってもんだ。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

皆さんご機嫌麗しゅう。

 

 

ペラペラとDJとはなんぞや、という事について話してきたが取り敢えず置いといて。まずは自己紹介から済ませておこう。

 

 

 

俺の名前は藤咲絢斗(ふじさきあやと)。身長はピッタリ170cmで体重が50kg。別に169.7cmとかで見栄張って170cmと言っている訳ではなく。正真正銘170cmジャストだからそこんとこよろしく。趣味は音楽鑑賞とアニメ鑑賞。最近では流行りの"異世界転生モノ"や王道である"ラブコメディ"は勿論のこと、ほのぼの日常系やSFチックな世界観のアニメまで何でもござれ状態だ。運動は得意だがあまり気が乗らないので現在帰宅部である。

 

 

 

 

そして、帰宅部の俺が通うのは陽葉学園。少し珍しいかもしれないが、DJ活動が盛んな学校である。俺自身はDJ活動をやっている訳ではないのだが.....まぁここは中等部からの進学者がほとんどだし付き合いなんかもあってDJ活動には携わっている。

 

 

 

 

まぁ長い長い前置きはここまでにして、そろそろ起きるとしますかね。

 

 

 

 

 

 

 

チリリリリリ!

 

 

チリリリリリ!

 

 

チリリリリリ!

 

 

 

 

 

「......あと5時間」zzz

 

 

 

 

 

ガチャン!!

 

 

 

「はい起きます今すぐ起きますだから枕で殴らないでぇ!」

 

 

「お兄うっさい!早くアラーム止めて!」

 

「なんだお前か......何度も言ってるが部屋に入る前はノックをだな」

 

 

 

ガチャン!!

 

 

 

 

「最後まで人の話聞こうねって学校の先生に習わないのか最近の子は」

 

 

 

 

さっき部屋に入ってきたのが俺の妹である藤咲天音(ふじさきあまね)。只今絶賛反抗期真っ盛りであります。その為お兄ちゃんである俺に対しても結構毒吐いてきたりする。流石のお兄ちゃんでも辛いんだからね天音ちゃん。それだけは理解して頂きたい。

 

 

 

「まぁそろそろ時間だし準備するか」

 

 

 

天音の通う中等部も俺達と同じ登校時間のはずだけど、アイツいっつもギリギリで登校してるからなぁ。何故か先生達に怒られてないのが不思議なくらいだ。俺と違って音楽のセンスがあるからって贔屓は良くないと思います。いやまぁお兄ちゃん的にはすっごい嬉しいんだけどね。良く褒められてるって聞くし。人伝だけども。

 

 

 

 

 

「頂きまーす」

「頂きます」

 

「はい、召し上がれ」

 

 

 

 

 

白ご飯を茶碗一杯によそい、右手側にはお味噌汁。そして左手側には焼き鮭とごく普通の朝食を食べ始める。母さんが毎日作ってくれてるお陰で俺も天音も朝食抜きには生きられなくなってしまった。でも朝食取らないって人多いよね。俺だったら2時間目の途中で腹の虫がビートを刻み始めるな。

 

 

 

「ご馳走様」

 

「随分と急いで食べてたけど何か用事か?」

 

「お兄には関係無いよ」

 

 

 

そそくさと自分が食べた分だけ片付けをして部屋に戻る天音。いつもだったら朝食も時間ギリギリなのにな。やっと身だしなみを整えるという事を知ったのだろうか。結構寝癖付いてるのに構わず登校するからな。

 

 

 

「アンタも早く食べなさい」

 

「へいへい」

 

 

 

かく言う俺も寝癖付いてるし学校の準備まだ終わってないんだけどね。俺に関しちゃ男だし多少だらしなくても問題ないけど。いかんせん陽葉学園は男の子に対する女の子比率が割りかし高いからなぁ。そういうの目当てで編入してくる奴がいるらしいし。不純異性交遊反対!

 

 

 

「ご馳走様。今日も美味しかったよ母さん」

 

「良いから準備」

 

 

 

母さんに後片付けを任せて部屋に戻り準備を始める。確か今日は体育があったから体操服忘れないようにしないとな。制汗剤と汗拭き用のシートも完備だ。女の子に汗臭いって避けられると一晩中枕を濡らす自信があるからな。言われて傷つくランキング1位は"臭い"ってそれ一番言われてるから。

 

 

 

 

「んじゃ行ってきまーす!」

 

「いってらっしゃい」

 

 

 

本日は月曜日。休み明けで学校を休みたい気持ちは半分ありつつも仕方ないと自分に言い聞かせて家を出る。

 

 

 

「ん、おはよ」

 

「っと別にいきなり声かけられてビックリした訳じゃないからな。そこを勘違いしてもらっては困る。ええ、驚いてなんていませんとも。むしろ俺が驚かせる側だったりするよな。まぁそんなのはどうでもよくて取り敢えずおはよう」

 

「......朝から何言ってんの」

 

「角待ちは嫌われるぞ」

 

「それしのぶも言ってた」

 

 

 

朝っぱらから俺の事を驚かせてきたこの人物の名前は山手響子。幼い頃からの付き合いで所謂幼馴染ってやつだ。音楽一家の一人娘で音楽に関しては天性の才能の持ち主だったりする。陽葉学園で"Peaky P-key"というDJユニットを結成しており、そのグループのリーダー。家族絡みでの交流も多く、お泊まり会や外食なんかも定期的に行われている。主に親同士のなんだけど。俺も天音もあまり行く機会が無い。最近は響子も来てないみたいだし。

 

 

 

「わざわざ待ってたのか?」

 

「偶々通りかかっただけ」

 

「ん、なら一緒に──」

 

 

ドンッ!!

 

 

「響子さんおはようございます!」

 

「天音ちゃんおはよ」

 

「......妹よ、挨拶より先にお兄ちゃんの心配をしなければいけないのでは?」イテテ

 

 

 

 

はい、見ての通りです。反抗期真っ盛りの天音だが何故か響子には妹パワーをフルスロットルで発揮する。お兄ちゃん分かったぞ、響子に会う為に早く食べて準備してたんだな。それは良いんだけど物凄い勢いでタックルするのだけはやめてくれませんかね。危うく骨の一本くらいはイカれそうだったぞ。

 

 

 

「どうして響子さんがいるんですか?」

 

「偶々だよ」

 

「じ、じゃあ一緒に学校行っても良いですか?」

 

「勿論」

 

 

 

響子と一緒に学校に行くことが嬉しかったのか、その場でピョンピョン飛び跳ねている天音。家では決して見ることのない姿だが、やはりこういった年相応なところを見ると響子に感謝しなければならない。多分だけど響子は天音にとってお姉ちゃん的存在なのだろう。でも実の兄が幼馴染のお姉ちゃんに負けるとかないから。妹取られた感じがしてちょっと寂しいとかないから。

 

 

 

「この前の曲良かったよ」

「本当ですか!?」

 

 

「あのー、一応心配してる風だけでもしてもらってok?」

 

 

「実は新しく作ってきたのがあるんですけど」

「ありがと、助かるよ」

 

 

 

 

俺の事をフル無視で話を進める辺り、君達中々肝が据わってると見た。いや、小さい頃から響子に関しては結構ドライだったんだけどね。天音も小さい頃はお兄ちゃんっ子だったのに。

 

 

 

「まーた響子の為に作ってきたのか?それで昨日あんなに夜遅くまで......って痛い痛いって!!ちょ、耳引っ張んな千切れるゥ!!」

 

「お兄うっさいマジキモい!」

 

「二人共相変わらずだね」

 

 

 

天音が手を離してからも赤くなった耳の痛みは引かず、それどころかまたもや俺を無視して歩き始めてしまった。別にそのくらい響子に言っても大丈夫だと思うけどな。

 

 

「天音ちゃんにはいつも助けてもらってるね」

 

「俺に風当たりが強いのがどうにも解せん」

 

「そこはお兄ちゃんパワーで何とかしなよ」

 

「出来てたら苦労しねぇよ」

 

 

 

 

俺も天音も変わってないが、お前も全然変わってないけどな。まぁ小さい頃は二人共俺の後ろばっかりついて来てたのは一緒だけど。いつの間にか一人で歩ける様になって。お兄ちゃん嬉しい。

 

 

 

 

 

 

~陽葉学園~

 

 

 

 

 

あの後も、結局天音が俺と一言も話すことは無く俺達の通う陽葉学園へ到着。ずーっと響子と楽しげに話してるのを後ろから眺めながら歩くってどうなのよ。まぁ楽しそうにしてるとこに割り込んで怒られるのも嫌だったしな。

 

 

 

「じゃあまた放課後!」

 

「うん」

 

「話は終わったのか?」

 

「取り敢えずね」

 

 

 

天音は中等部に行く為、ここからは俺と響子の二人だけとなる。そう、本当ならね。いつも通りに物事が進むと思ったら痛い目見るから気を付けろよな。誰に言ってんだよ俺。

 

 

 

「おはよ」

 

「ん?おお、しのぶか」

 

「眠そうだね」

 

「ちょっと昨日遅くまでPC触ってただけ」

 

 

 

眠そうにおはようと言って自然と輪に混ざってきた子の名前は犬寄しのぶ。身長は天音とほぼ同じくらいで、リボンを付けてる可愛らしい女の子だ。Peaky P-keyのDJ担当。趣味がネトゲとあってPC関連には強く、音楽スキルも響子に負けず劣らずで我が陽葉学園ではDJクノイチとして有名だったりもする。

 

 

 

「アンタらは二人きりで登校?」

 

「いや、さっきまで天音も居たぞ」

 

「ふーん」

 

「......しのぶ?」

 

 

 

何かと響子とは意見の食い違い等で張り合ったりするが、やはり喧嘩するほどなんとやらという事だろう。結局のところ二人共優しいからな。

 

 

 

「さっきPC触ってたって言ってたけど、もしかしてリミコンの曲作りか?」

 

「よく分かったね」

 

「しのぶなら今回も優勝出来るよ」

 

 

 

 

リミコンとはリミックスコンテストの略であり、陽葉学園で定期的に行われる催し物の事だ。リミックスは簡単に説明すると既にある曲を編集して新しい形にする事だな。しのぶはリミコンの優勝常連客であり、人を寄せ付け魅了する音楽を作り出す事が出来る実力者なのだ。

 

 

 

「俺も期待してるからな」

 

「うん、出来上がったら一番先に聴いてもらうから」

 

「お、おう。別に一番先で無くとも良いんだけどな」

 

「ダメ」

 

 

 

何故かそこは毎回譲らないしのぶ。まぁ俺としてもしのぶがリミックスした曲を真っ先に聴きたい気持ちが無いでもないからな。やっぱしのぶの曲聴いてるとアガるし。

 

 

 

「アンタの後に天音ちゃんに聴いてもらう」

 

「順番が既に決まってるんだな」

 

「私は?」

 

「響子はその次」

 

 

 

 

俺とは違って天音は本格的にアドバイスをしてるから、そういった点でもしのぶは頼りにしているのだろう。天音はどっちかと言うと響子タイプで才能あるからなぁ。まぁ才能云々の前に絶対音感と共感覚のダブルアビリティとか反則だと思いますけどね。お兄ちゃんには一切そんな能力無いよ。神様配分間違ってない?

 

 

 

「っと、話込んじまったな。取り敢えず教室行くか」

 

「そうだね」

 

 

「今日の体育なんだっけ」

「バスケじゃなかった?」

「アンタは忘れずに体操服持ってきたの?」

「舐めるなよしのぶ、しっかり2着ずつ持ってきてやったぜ」

「意味分かんないんだけど」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

キ-ンコ-ンカ-ンコ-ン

 

 

 

「はぁ〜疲れた!」

 

 

 

時は少し過ぎてお昼休みに入ったところ。苦手な数学の授業を終えての救いのお昼休み。苦手って一口に言っても別に点数が低いという訳では無い。ただただ嫌いなだけだ。一番タチ悪いなこれ。

 

 

 

「相変わらず数学嫌いだね」

 

「好きな奴の気が知れん」

 

「絢斗も来るでしょ?」

 

「ん」

 

 

 

()()、というのもかなり抽象的な表現なのだが、俺達の間ではこれで通じるのだから不思議だ。具体的に言うと"今からお昼ご飯食べるけど一緒に食べるでしょ?"と響子は言ったのだ。これで無事ボッチ飯は回避された。

 

 

 

「いつもんとこか?」

 

「うん」

 

「待たせると悪いから早めに行くか」

 

 

 

響子と俺だけなら時間気にせずゆっくり出来るが、そうもいかないのが世の常ってやつだ。俺は待つの結構好きなんだけどな。なんなら妹の為なら火の中水の中何時間でも待てる気がする、だけ。多分そんなこと言ったら普通にウザいの一言で終わりそう。

 

 

 

 

「お待たせ」

 

「もう揃ってるな」

 

「やっほ〜絢斗」フリフリ

 

 

 

 

中庭の5人が座れるテーブル席へ到着し、笑顔で手を振って迎えてくれたのが笹子・ジェニファー・由香という女の子。Peaky P-keyのVJ担当。写真が趣味で最高の瞬間を探し求めているらしく、そんな由香にとって何故か俺は"最高の被写体"と呼ばれている。俺を題材にした写真を撮っては撮り直しを繰り返すし、その為にジムに通わせて鍛えられるしで散々だったりもする。そういえば"最高の被験体"とも言われた事あるな。

 

 

 

「昨日もちゃんと家でトレーニングした?」

 

「......しました」

 

「じゃあ後で天音ちゃんに確認しとくね」

 

「すみません嘘ですゴメンナサイ」

 

 

 

由香は普通にしていれば可愛らしい女の子なのだが......一度トレーニングともなると鬼のコーチに変貌してしまうのだ。まだ運動得意で良かった。そうじゃなかったら由香に潰されてた自信しかない。

 

 

 

「あれ?しのぶと絵空は?」

 

「購買行ってるよ。ほら、帰ってきた」

 

「明日お金返してよ絵空」

「ごめんねしのぶ、今日カードしか持ってきてなかったの」

 

 

 

 

しのぶと共に購買から帰ってきたのが清水絵空。Peaky P-keyの自称ラブリー担当。根っからのエンターテイナーであり、みんなを楽しませる為に響子達のDJ活動に参加したという過去を持つ女の子。誰にでも分け隔て無く接するが、その実は相当レベルの高い策略家でもある。先程の会話でも分かったかもしれないが、お金持ちでもあり金銭感覚が少しおかしな子だったりもする。

 

 

 

「あら、絢斗も来てたのね」

 

「今日もお邪魔させてもらうぜ」

 

「良かっねしのぶ」

 

「ん?」

 

「だってさっき購買で─」

「ちょ!何言ってんの絵空!」

 

 

 

というふうに、俺には聞こえなかったがああやって立ち回るのが絵空なのだ。しのぶが絵空の口を押さえて慌ててるところを見るに、何か言われたくない事でもあるのだろう。案外リミコンの曲の内容だったりしてな。

 

 

 

「取り敢えずみんな座って食べようよ」

 

「よいしょっと、んじゃ頂きまーす」パカッ

 

「絢斗はまた自分で作ってきたの?」

 

「残念ながら今日は母さんが作ってきたやつだな」

 

 

 

 

朝なんて弁当作る時間なかったしな。時々早起きするからそん時は自分で作ってくるけど。ついでに天音と響子の分も作る時あるし。二人分も三人分も正直言えばそんなに変わらないし。因みに天音は俺にあーだこーだ言ってくるが、響子にはお弁当美味しいとか言ってるらしい。残念ながら妹や、響子から情報は筒抜けなのだよ!

 

 

 

「残念、絢斗のなら何か貰おうと思ったのに」

 

「いやいや、由香は自分の弁当あるだろ」

 

「あ〜、私も何か欲しいな〜」

 

「絵空はしのぶに金借りてまで買ってきたヤツあるだろ!」

 

 

 

まぁ母さんの作った弁当美味しいからな。欲しがるのも無理ない。だかしかし、自分で言うのも何だが料理には自信があるのだ。両親がめんどくさがる時は俺が夕飯作るし。マジで小遣いアップして貰わないとな。

 

 

 

「アタシも欲しい......かも」

 

「しのぶさん?購買で買ったものは何処へ?」

 

「人気だね」

 

「そんなこと言ってないで響子も止めてくれ」

 

 

 

 

このように俺の他にツッコミ役が居ないのが最近の悩みの種だったりする。響子は分かってて弄ってくるし、絵空も似たようなもんだし由香が大体先駆けてちょっかいかけてくるし。しのぶは純粋だから悪気は無いと思うけど。しのぶ自身も絵空とかに弄られてるしな。

 

 

 

 

「それより転校生の話聞いた?」

 

「話の切り替えが鬼なんじゃぁ......」

 

「転校生なんて別に珍しくもないでしょ」

 

「まぁそうなんだけどぉ」

 

 

 

 

今までの流れをぶった斬る様に話を変える絵空。そして、それに何事も無かった様子でついていく他の面子。某クセがすごい芸人の真似をしてツッコミを入れてみるが、案の定スルーされる始末。良いもんね!そんな態度取るならもうツッコんであげないんだからね!

 

 

 

 

「そろそろ時間も経ってるし食べよ」

 

「とか言ってる響子はもう食べ終わる寸前だけどな」

 

「ずっと食べながら聞いてたから」

 

「その辺りも器用というか何というか」

 

「流石は我らがピキピキのリーダーだね!」

 

 

 

 

結局、昼休みが終わる5分前のチャイムが鳴るまで駄弁りながら昼ご飯を食べたのだった。

 

 

 

 

 

 

~放課後~

 

 

 

 

 

キ-ンコ-ンカ-ンコ-ン

 

 

 

 

「今日の授業終了!よし、帰るぞ響子!」

 

「何でそんなにテンション高いの?」

 

 

 

 

バカ言え、これはテンションが高いんじゃなくて早くお家に帰りたいだけなんだよ。生粋の帰宅部である俺レベルになると、他の部活と違ってチャイムが鳴った瞬間から部活動開始なんでね。

 

 

 

「じゃあ天音ちゃん迎えに行こっか」

 

「そういやアイツ放課後って言ってたっけ」

 

「帰る約束したからね」

 

 

 

非常に仲の良いことで。本当の姉妹に見えますとも。ええ、別に悔しくなんてこれっぽっちも無いですけどね。

 

 

 

 

「響子さん、お待たせしました」

 

「天音ちゃんお疲れ様」

 

「お疲れさん」

 

「それじゃあ帰りましょう!」

 

 

 

 

朝と変わらずお兄ちゃんの事をガン無視するのは何故ですか。そこまで馴れ馴れしくしてるつもりもないんだけど。そろそろ本気で嫌われてる説あるんだろうか。

 

 

 

 

「絢斗〜!」

 

「ん?由香としのぶと絵空?」

 

「遠くから見えたから来ちゃった」

 

「別に走って来なくても良かったのに」

 

 

 

わざわざ走らなくても携帯で連絡してくれれば待つのにな。待つのは得意だから任せて欲しい。

 

 

 

「今から帰り?」

 

「おう......って言っても俺はお邪魔みたいだから一人だな」

 

「天音ちゃんとは相変わらずみたいね」

 

「まぁ響子と仲良くしてるなら別に気にしないけどな」

 

 

 

 

俺的にも天音が響子と一緒にいる事に関しては嬉しいし。言い方は悪くなってしまうが、ピキピキ以外の奴らと天音が仲良く出来るとも思えない。今の状況だと尚更だろう。それに、俺は天音に二度とあんな思いはして欲しくないからな。

 

 

 

「ちゃんとお兄ちゃんしてるんだね♪」

 

「うっせぇ、これでも頑張ってんだよこっちは」

 

「一人なら私と一緒に帰らない?」

 

 

 

 

 

まぁ機嫌の良い天音の邪魔するのも悪いしな。ただ一つ、由香と帰る時には確認する事がある。

 

 

 

「一応聞くが、俺は真っ直ぐ家に帰って良いんだよな?」

 

「え?ウチこないの?」

 

「何で当たり前みたいな反応してんだよ」

 

「だって最近ウチ来てなかったでしょ?」

 

 

 

 

確かに由香の家には最近行ってないけども。行くと確実にジム連れてかれてトレーニングだから嫌なんだよなぁ。その後も、風呂入っていけだの夕食も食べていけだの言われるし。トレーニング中とか風呂上がりとかの由香は他の奴らがいないからか、大胆な格好になってるから目のやり場に困る。

 

 

 

「それだったら私の家にも来て欲しいな〜♪」

 

「ちょっと待て、普通に俺は直帰したいんだが」

 

「なら間取って喫茶店にしない?」

 

 

 

ナイスアイディアしのぶ!正直、どの間を取ったのか分からないがこの際どうでも良い。由香と絵空の家を避けつつも、まだ居心地のいい喫茶店に行けるのなら上々だ。

 

 

 

「よし、今すぐ行こう!」ガシッ

 

「ちょ、絢斗!?」

 

「しのぶは何食べたいんだ?しょうがないからお兄さんが奢ってやるぞ」

 

 

 

しのぶの手を引いてウキウキ気分で喫茶店へ向かう。あそこなら顔見知りもいるし心配ないだろう。

 

 

 

「......私完全に空気だったんだけど」

 

「絢斗らしいというか何というか」アハハ

 

「響子さん!お兄はほっといて行きましょう!」

 

「キョーコは天音ちゃんをよろしくね♪」

 

 

 

 

響子がついてるなら天音も大丈夫だろうしな。久しぶりにあの喫茶店でも寄ってみるかな。母さんや親父の話で長くなるかもしれんが......まぁしのぶ達も居るし心配ないな!

 

 

 

「二人共置いて行くぞ〜!」

「あ、ちょっと待ってよ絢斗!」

「せっかくだからタクシー拾って行かない?」

 

『却下で』

 

 

 

 

 

 

Next→

 

 

 

 

 






自分の推しは、言うまでもなく響子です( ̄^ ̄)ゞ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#2 親が凄いと子供の肩身狭くなるよな


☆10 たく丸様 ☆9 ルリア03様
いきなりの高評価ありがとうございます!

お気に入り登録して頂いた方も嬉しい限りです。
モチベ上がったので少し早めの投稿が出来ました。

Let"s Dance With D4DJ!!
(アニメOP良いですよね)




 

 

 

 

 

~喫茶バイナル~

 

 

 

 

カランカラン

 

 

 

 

「いらっしゃいませ」

 

 

 

 

陽葉学園から歩きで数十分といったところ。俺達4人が辿り着いたのは"喫茶バイナル"という昔から行きつけの喫茶店だ。割引してくれる時もあるし、サービスも充実しているのでオススメだ。

 

 

 

「あら、絢斗君じゃない」

 

「今日はコイツらも一緒ですけどね」

 

「お好きな席へどうぞ」

 

 

 

 

対応してくれたのは、知り合いであるこの喫茶店の店員の愛莉さん。いつも愛想良く振る舞っている綺麗な人だ。取り敢えず4人が座れるテーブル席へ腰を下ろし、メニューを開いて各々選んでいく。俺はメニュー見なくても覚えてるし、何ならいつも頼むやつ決まってるからメニュー要らないけどな。

 

 

 

「あれ、マスターは?」

 

「今は丁度買い出しに行ってるの」

 

「そうなんですね。あ、俺はいつもので」

 

「はいはい、それで他のみんなは?」

 

 

 

それから一人ずつ注文を取り、愛梨さんはカウンターへ向かい準備を始める。マスターいないのなら少し時間かかりそうだな。

 

 

 

「愛莉さん忙しそうだね」

 

「絢斗も手伝ってきたら?」

 

「そういう絵空が一番多くメニュー頼んでたろ」

 

「女の子は甘いモノで出来てるのよ♪」

 

 

 

ナニソレ聞いたことないんですけど。舐めたりすると甘かったりするんですかね。いや、これ口に出したら確実に変態扱いされるから絶対言わないけど。

 

 

 

「あ、そういえば次のライブどうするんだ」

 

「アタシはいつでもいけるけど、響子次第なんじゃない?」

 

「早めに言ってくれるとありがたいんだけどねぇ」

 

「そうだよね!やっぱり身体作りの時間も必要だし!」

 

 

 

頼むから由香は身体作りより先にVJの方を考えて欲しい。いや待てよ......由香の身体作りが始まるという事は、由香がトレーニングする→それに付き合わされる形で俺もトレーニングするという最悪の方程式が成り立ってしまう。

 

 

 

「由香はそれより先にVJの仕事があるだろ」

 

「ん?それは普段からやってるから問題無いよ」

 

「あら〜?もしかして絢斗は由香のトレーニングが嫌なのかしら?」

 

「何故バレたし」

 

「私にかかればお見通しよ♪」

 

 

 

毎回このパターンで結局トレーニングだ。何か良い手は無いのか。天音を連れて行く訳にもいかないし......そうだ、問題の人物である絵空を連れて行けば良いんだ。それで万事解決、何の問題も無くなるってもんだ。

 

 

 

「だったら絵空もトレーニングするか」ニヤリ

 

「本当!?絵空も一緒にトレーニングしてくれるの?」ガシッ

 

「ちょっとそれは考えさせて欲しいんだけどぉ......」

 

「やろうよ!ね?三人で仲良くね?」

 

「俺は既に決まってんのか」

 

 

 

この状態になった由香は誰にも止められない。手、というか腕をガッチリホールドして目をキラキラ輝かせている由香に困惑気味の絵空。隣でちゃっかりケーキを頬張るしのぶ。うんうん、いつも通りで安心するぜ。

 

 

 

「響子ちゃんは?」

 

「天音と一緒に何処か行きました」

 

「久しぶりに天音ちゃんとも会いたいわね」

 

「だったら今度連れて来ますよ」

 

「お願いね」

 

 

 

 

それから愛莉さんも混ざってワイワイと楽しい時間を過ごした。でも女の子って凄いのな。デザートをあんなにも食べて平気とか信じられん。俺ならケーキ一つで充分なのに。あ、ケーキをハムスターみたいに食べてるしのぶは可愛かったぞ。しのぶに負けず劣らずで由香と絵空もデザート食べてたけど。

 

 

 

そして、楽しい時間も過ぎ去り解散となった。三人が喫茶店を出て家に帰っていくが、俺一人だけは喫茶店に残っていた。

 

 

 

「......ったく、しのぶは最初から奢るつもりだったけど二人分増えるとは思わなかったぞ」

 

「今回のはツケにしとくわよ」

 

「いえいえ、愛莉さんにはお世話になってるんでそのくらいはさせて下さい」

 

「ふふ、相変わらず律儀なのね」

 

「それが俺のセールスポイントですから」

 

 

 

本当にこの人には幼い頃からお世話になってるからなぁ。まぁこの人に限らず他にも沢山いるんだけどね。

 

 

 

「黒那さんは元気?」

 

「そっちも相変わらずです。というか会ってないんですか?」

 

「最近は会ってないわね」

 

 

 

愛莉さんが最近会えてない黒那(くろな)という人物。他人事みたいに言ってるが、俺と天音の実の母親の事なのだ。今日の朝ご飯作ってくれたり弁当作ってくれた人な。この通り愛莉さんと母さんは知り合いで、昔は一緒に仕事をしていた仲らしい。俺も一緒に仕事してるところを見たのは数回くらいかな。

 

 

 

「もうすっかり専業主婦と化してますよ」

 

「何言ってるのよ、まだまだ現役バリバリじゃない」

 

「現役バリバリって今日日聞かねぇな......」

 

「知る人ぞ知る有名人って感じでカッコいいわよ」

 

 

 

仕事というのも少し特殊なモノであり、愛莉さんが言うように母さんは"知る人ぞ知る"有名人だったりする。DJ界隈で一時期名を馳せ、名声を欲しいままにしたDJの二人組がいたという。その名も"DJクロ"と"DJシロ"という者だ。

 

 

 

お察しの通り、"DJクロ"が俺の母さんである藤咲黒那その人である。自分の名前が()()だから"DJクロ"とかいうクッソ安直な名付けなのはスルーして欲しい。普通のDJとは違い、その二人組は一切表舞台に立つ事はなく必ず裏で活動していた為に"知る人ぞ知る"という言葉がしっくりくるのだ。今のところ母さんの正体を知ってるのは家族である俺や天音、愛莉さんや昔の仕事仲間、そして山手一家くらいかな。

 

 

 

「小さい頃は家にいる事があまり無かったくらいですからね」

 

「その関係で私が良く家にお邪魔してたわね」

 

「ウチの両親がホントすみません」

 

「良いのよ、小さい頃の絢斗君と天音ちゃんは可愛かったから」

 

 

 

親が家を開けている間の子守として愛莉さんが色々とお世話をしてくれていたのだ。だから俺や天音は愛莉さんに頭が上がらない。なのに親ときたら......今度愛莉さんの爪の垢でも煎じてガブ飲みさせてやろう。

 

 

 

「天音は今でも可愛らしいですけどね」

 

「あら、絢斗君も充分可愛らしいわよ?」

 

「それ母さんにも時々言われます」

 

「また機会があれば是非お邪魔させて貰うわね」

 

「分かりました、母さんにでも伝えときますよ」

 

 

 

そう言って、残り少なかった珈琲を飲み干して帰る支度を始める。結構長居してしまったらしく、窓から外を覗くとほんのりと街灯が夜道を照らしていた。

 

 

 

 

 

 

~自宅~

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「おかえり」

 

「ん?天音は?」

 

「響子ちゃんの家で夕飯ご馳走になるって」

 

 

 

珍しくお気に入りの靴が無いと思ったらそういう事か。でもアイツあの靴履いて行ったって事は一回帰ったな。幼馴染の家に行くのにわざわざ気合い入れて行く必要もなかろうに。ともなれば天音が帰ってくるのは9時頃になるか。

 

 

 

「ご飯はまだもう少しかかるわよ」

 

「んじゃ部屋で時間潰してる」

 

「出来たら呼ぶわね」

 

「りょーかい」

 

 

 

鞄を持って俺と天音の部屋がある2階へ上がる。幼い頃から"あやとのへや"と分かりやすく掛けてある部屋が俺の部屋だ。天音も同様に"あまねのへや"と掛けてあるが俺と違うのは所々に星やハート、その他キラキラした物が付いているか否か。この前も似た様なのを貼り付けてたし、ああいうのが好きなのだろうか。

 

 

 

「ご飯っつってもさっき食べたしなぁ」

 

 

 

喫茶店のケーキ一つと珈琲一杯で男が何言ってんだって話だけど。こう見えて俺はそこまで大食い出来る人間じゃないんだ。由香とのトレーニング後とかはガッツリお肉とか食べるけど。

 

 

ガタガタ

 

 

「......あんな音立てて母さんは何作ってんだよ」

 

 

 

1階から何やら音がする。料理上手な母さんが今更失敗するわけもない。ご飯作ってる合間に何かやってるとしか考えられんが。まぁ俺には関係のない事だ。それより課題出てたから早めに終わらせとくか。マジで数学は滅ぶべきだと思う。

 

 

ピロン

 

 

「ん?響子から?」

 

 

 

通知音が鳴ったので確認すると響子からのメール。わざわざメールするなら電話一本で済ませりゃ良いのに。

 

 

 

 

"絢斗のお父さんがさっきウチに来てたよ"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待て待て待て待て。親父が何故に響子の家に?天音のお迎え?いやいやいや、天音が親父と一緒に帰ってくるとか地球に生命が誕生する確率くらいありえないから。

 

 

 

「そんな事考えてる場合じゃねぇ!!」ガタッ

 

 

 

兎にも角にも、そんな事を悠長に考えている暇など無かった。最優先にやるべき事がある。それはドアの封鎖。これがどういう意味を持っているのかはすぐに分かる。

 

 

 

 

「クソ!取り敢えず封鎖しとかねぇと──」ガチャ

 

「よぉ絢斗!!元気にしてたか!?見ての通り父さんは元気いっぱいマッスルボンバーだぞ!!」

 

「がはっ!!」

 

 

 

ほんの数秒間に合わずといったところ。勢い良く開かれたドアに身体ごと持っていかれる。

 

 

 

「んー?おーい、絢斗どこにいるんだ?」

 

「マジで毎回こーなるのかよ......」イテテ

 

「おお、何だそんなところに居たのか」

 

「そんなところにじゃねぇよ!何で毎回毎回ドア蹴破る勢いで開けるんだよ!」

 

「はっはっは!」

 

「笑って誤魔化すな!」

 

 

 

親父が帰ってくる時は決まってこのパターンだ。だから毎回帰ってくる時は先に教えろって言ってんのに。さては母さんもグルだな?

 

 

 

「それよりご飯が出来たらしいぞ」

 

「分かったから先に降りて待っててくれ」

 

「それより天音は何処にいるんだ?」

 

「は?響子の家だけど......」

 

 

 

さっき行ってきたのに何で知らないんだよ。まぁ天音が教えてるとは思えないし、もしかするとバレるの嫌で隠れてたのかもな。

 

 

 

「もしかして親父、天音に避けられてるんじゃね?」

 

「.......マジ?」

 

「ぷぷー、親父のくせにだっせぇの!!」

 

 

 

その言葉を皮切りに俺は身動きが取れなくなってしまった。原因は、俺に現在進行形で関節技を決めている親父。

 

 

 

「ちょ、タンマ!!マジでくるしぃ!!」

 

「お前も言うようになったな絢斗ォ!!」

 

 

ガチャン

 

 

 

「二人共何をやってるのかしら」

 

 

 

 

母さんが入ってから部屋の温度が下がった気がするのは何故だろう。ウチの家内カーストの頂点は母さんらしい。今時母親の方が強い家庭って珍しいのでは?

 

 

 

その後、俺は無事解放されて親父は逆に母さんに連れて行かれてしまった。

 

 

 

 

 

~リビング~

 

 

 

「頂きます」

 

 

 

 

今日の晩御飯は母さんの得意料理の一つである肉じゃが。これまた絶妙な味付けに完璧な盛り付け。最早お店で出てきてもおかしくないレベルにまで昇華されていると言っても過言ではない。

 

 

 

「やっぱ母さんの肉じゃがは美味しいな」

 

「ありがと」

 

「んー!んー!」

 

 

 

因みに親父はさっきの罰として両手両足をガムテープで固定して、尚且つ口をロープで縛られている。腹減ってる人を拘束して食卓に座らせるとか鬼畜なのか俺の母さんは。しかもあの筋肉バカの親父をだ。絶対に怒らせない様にしよう。

 

 

 

「貴方もそろそろ反省したかしら」

 

「ッ!!」

 

「だったら仕方ないわね」

 

 

 

ようやく解放された親父。というかまだ親父の事何にも言ってなかったな。

 

 

 

 

親父の名前は藤咲士郎(しろう)。筋肉モリモリの中年親父だ。だがしかし、悲惨な事にこの筋肉バカがあろうことか"DJシロ"その人なのだ。先程も話したように、DJクロとDJシロは二人でコンビを組んでおり、DJ界では知る人ぞ知る有名人。それがまさかの俺の両親。本当に勘弁してくれ。

 

 

 

 

「うん、母さんの料理は世界一だな!」

 

「さっきまで拘束されてたとは思えねぇな」モグモグ

 

「絢斗、由香ちゃんはどうなんだ?」

 

「由香?相変わらず身体作りばっかだよ」

 

 

 

見ての通り聞いての通り、親父は筋肉バカなので由香とは気が合うのだ。筋肉バカと言ってもある程度細身の筋肉バカなんだけどな。由香も由香で親父を気に入ってる節があるし。というか由香はクロとシロのファンって言ってたっけ。いや、それを言うならピキピキは全員ファンだったな。

 

 

「今度父さんも一緒にトレーニングしてみるか」

 

「それはマジでやめてくれ」

 

「何だ嫌なのか?」

 

「当然だろ」

 

 

 

何が悲しくて親と一緒に鬼のようなトレーニングしなきゃならないんだよ。由香に伝えたら喜んでokしそうだから絶対に言えないな。後で親父に由香の家に行かないように釘刺しとかないとな。

 

 

 

「ただいま」

 

「天音が帰ってきたみたいね」

 

「おお!それなら俺が出迎えに─」

 

「貴方はここで大人しくしてて」ニッコリ

 

「はい」

 

 

 

悲しきかな......これが力ではどうにも出来ない権力というものだろう。我が家では結構普通の光景だから嫌になる。

 

 

 

「お兄」

 

「ん?」

 

「響子さんから」

 

 

 

そう言って渡されたのはUSB。ライブのセトリや曲の内容の相談なんかをする時に使っているモノだ。でもアイツから何も聞いてないんだけどな。

 

 

 

「響子さんから聞いてないの?」

 

「全く」

 

「メールしたって言ってたよ」

 

「あ」

 

 

 

急いでポケットにある携帯を確認してみると、やはり親父の連絡から数分後に1件。内容は予想通り、曲の相談をしたいので一度聴いてみてくれとのこと。既に天音には聴かせてあるらしい。親父とのやり取りのせいで気付かなかったな。

 

 

 

「すまん、ありがとな」

 

「ん」

 

「あ、天音?父さん帰ってきてるんだが......」

 

 

 

リビングを出て部屋に戻ろうとしていた天音に恐る恐る声を掛ける親父。最近は二人ではなく、親父一人が主体となって仕事をしている関係であまり帰れていないのが現状だ。

 

 

 

「......お帰りお父さん」

 

「......へ?」

 

 

 

この日は珍しく天音からお帰りの一言が貰えた親父であった。要するに天音の数少ないデレだな。いつもなら部屋に篭りっきりだから顔を見れるかすら怪しいのに。今にも泣き出しそうな親父を見て少し笑いを堪える。

 

 

 

「お風呂先に入ってて良いわよ」

 

「分かった」

 

「天音!?父さんが背中でも流してやろうか!?」

 

「......死ねば良いのに」

 

 

 

こうやって調子に乗るのが悪い癖だ。しかもさっきのように聞こえるか聞こえないかくらいの声のボリュームではなく、蔑んだ目ではっきりと聞こえるようにだ。まぁ中学生の娘と一緒にお風呂は流石にヤバい。

 

 

 

「母さん」

 

「おかわり?」

 

「いや、親父が息してないんだけど」

 

「後で庭にでも埋めときましょう」

 

 

 

 

因みに、天音の精神攻撃Lv.5をモロに喰らって死にかけの親父だが、絶対音感の持ち主でもある。そして、その親父を庭に埋めると言った母さんは共感覚の持ち主。そのハイブリッドが娘である天音という構図だ。残念ながら、俺には親父の"運動神経が良い"というちっぽけな部分しか引き継がれなかった。何故こうなった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「〜♪」

 

 

「んー、いかにも響子っぽい感じだな」

 

 

 

晩御飯を終え、お風呂も済ませて後は寝るだけになったところでUSBの存在を思い出したので寝る前に聴いてみる。やはり響子が作っただけあってピーキーな内容に仕上がっている。しのぶ辺りが聴くとまた尖り過ぎとか言われるんだろうな。

 

 

〜♪

 

 

「ん?着信?」

 

 

 

見計らったかのようなタイミングで響子から着信。丁度良いので思ったこと伝えときますかね。

 

 

 

『もしもし』

 

「どした」

 

『曲は聴いてくれた?』

 

「丁度さっき聴いたところ」

 

 

 

新曲は流石に無かったものの、既存のピキピキの曲を新たに作り替えていたので新鮮味は確かにあった。でも何かいつもよりちょっと足りない気がするのは何故だろう。

 

 

 

「いつもとちょっと違う気がするんだが」

 

『あー......』

 

「何か問題でもあるのか?」

 

『それ天音ちゃんにも言われた』

 

「天音にも?」

 

 

 

響子曰く、いつも通り天音からは絶賛だったようだ。しかしながら、それに加えて天音からは"響子さんの色が足りてない"とも言われた様子。これは共感覚持ち特有の表現だな。それを俺が何となくで感じられているのは、多分きっと長い間聴き続けているからだろう。

 

 

 

『やっぱ天音ちゃんにはお見通しだね』

 

「どういう意味なんだ?」

 

『次はしのぶに任せてみようと思ってたから』

 

「ほーん、それで物足りなく感じたのか」

 

 

 

リミコンも近いしのぶに任せるのは少し重荷にならないかだけ心配だな。まぁ余裕とか言って軽く仕上げてきそうなんだけど。ピキピキの方向性に俺が口を出して良い訳がないので、そこら辺はリーダーである響子の判断を信じるべきだな。俺が出来るのは簡単なアドバイス程度だし。

 

 

 

『夜遅くにごめん』

 

「今更何言ってんだ。というか俺の親父の方が迷惑かけてなかったか心配だ」

 

『久し振りに会えて良かったよ』

 

「親父来てた間は天音何してたんだ?」

 

『私の部屋でPC弄ってた』

 

 

 

やっぱアイツ隠れてやがったな。まぁ偶々そーなってただけかもしれんが。

 

 

 

『私達と別れた後は喫茶店?』

 

「愛莉さんとこ行ってきた」

 

『愛莉さん何か言ってた?』

 

「天音に会いたいって言ってたな」

 

 

 

バイナルには響子と二人で行くことも多いからな。天音はあんまり一人で外出ないし、俺と二人で来るの嫌がりそうだから響子も誘って三人で行くか。

 

 

 

「今度一緒に行くか」

 

『二人で?』

 

「それも良いんだが、愛莉さんに天音連れて来るって約束したから三人じゃ駄目か?」

 

 

 

正直な話、響子が居てくれないとアイツ絶対来なさそう。ケーキとかで釣っても靡かないからなぁ。まぁ響子の名前出すと態度が一変するんだけど。

 

 

 

『まぁ別に良いよ』

 

「......もしかして怒ってます?」

 

『全然』

 

 

 

駄目だ、これは怒ってるなコイツ。でも何で怒ったのかさっぱり分からん。今までの会話の何処にそんな要素があったのか。天音といい響子といい、相変わらず女の子は訳が分からんな。

 

 

 

「んなら今週土日に二人で遊びにでも行くか?」

 

『......』

 

 

 

遂には口を閉ざしてしまいました。機嫌悪くなった時の天音より扱いづらいんだが。

 

 

 

「駄目か?」

 

『......ハンバーガー奢りなら許す』

 

「ポテトでも何でも付けてくれて良いから」

 

 

 

案外可愛らしいじゃねぇか。というかこんな状況でもハンバーガーって。そんなに好きなんですかねハンバーガー。いや、ジャンクフードの中では俺も好きな部類に入るけども。

 

 

 

『じゃあそういう事で』

 

「明日も一緒に行くか?」

 

『良いの?』

 

「その方が天音も喜ぶからな」

 

 

 

俺の事は一切会話に入れてくれないんだけどな。まぁアイツが響子と話してる時は楽しそうだからそれだけで充分かな。妹思いの良いお兄ちゃんしてるだろ全く。それなのにあの妹ときたら。千葉の兄妹を見習えとは言わんが、もう少しお兄ちゃんに優しくしてくれても良いと思うの。

 

 

 

「んじゃ切るぞ」

 

『おやすみ』

 

「ん、おやすみな」

 

 

 

そうして響子との通話は終了。時計を見ると結構話していた事に気付かされる。夜も遅くもう少しで日が回りそうだ。早いとこ寝ないと天音にまた叱られてしまう。

 

 

 

「タイマー早めにセットしとくか」

 

 

 

 

早めにセットしたところで起きられた実績があんまり無いんだけどね。明日はちょっと頑張ってみようと心に決めて、俺はそっと瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

Next→

 

 





肉じゃが被りは、アニメ6話より先に考えてたので私の所為ではありません。

地球に生命が誕生する確率は10の4万乗分の1です。
プールの中に腕時計の部品を投げ入れて、水の流れだけで時計が完成する確率なんだとか。

親父ィ......成仏してクレメンス。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#3 転校生って響き良いよな


☆10 ぴきっくりりっく様
☆9 ファイターリュウ様 スズメの涙様

新たに評価して頂きありがとうございます!
お陰様で第一の目標である評価バーに色をつけるという事を達成出来ました。

感想、評価等ドンドンお待ちしております。



 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

 

 

 

「......ねみぃ」モグモグ

 

「お兄早く」ウキウキ

 

 

 

いきなり結論から申し上げますと、アラームをセットした時間通りに起きれました。ただ、それは天音がセットした時間よりちょっと早めに起こしにきたからです。理由は簡単、今日も昨日と同じく響子と一緒に登校出来るからだ。

 

 

 

「寝癖、付いてるわよ」

 

「親父は?」

 

「朝早くに仕事に出たわ」

 

「相変わらず早いんだな」

 

 

 

マジで台風の様にやってきてウチを荒らしていっただけか。あんな親父だが一家の大黒柱だ。親父と母さんのお陰で生活出来ているということだけは忘れてはいけない。仕方ないからメールしておいてやろう。

 

 

 

一週間は帰ってくんなよっと......あ、そういや母さん」

 

「どうしたの」

 

「昨日愛莉さんのとこ行ってたんだけど、また今度ウチに来たいってさ」

 

「分かったわ。出来れば今日連絡取ってみるわね」

 

 

 

マスターはどうするんだろうか。昨日は会えなかったから分かんないや。まぁそれも母さんと色々と話し合って決めてくれるだろう。でも今週土日は響子との予定あるから無理って言わないとな。

 

 

 

「今週土日は無理って言っといて」

 

「何か予定でもあるの?」

 

「響子と二人で遊びに行ってくる」

 

「.......は?」

 

 

 

さーて、先程の氷の様に冷たい"は?"は誰の声でしょうか!?もう勘の鋭い皆さんならお分かりですね?そうそう、響子大好きな俺の妹である天音ちゃんでした!!

 

 

というかそんな声どこから出してんだよ。ちょっとお兄ちゃん鳥肌止まらないんだけど。母さんも"アンタやらかしたわね"みたいな顔するのやめて。仕方ないじゃん、昨日は響子の機嫌取るので精一杯だったんだから。

 

 

 

「お兄」

 

「ちょっと待て、俺にも言い訳させて」

 

「お兄」

 

「天音ちゃん?偶にはお兄ちゃんって呼んでも良いのよ?」

 

「お兄」

 

 

 

怖い怖い怖い!!ぶっ壊れたロボットみたいになってるし!そんなに響子と遊びたいなら放課後にでも遊べば良いのに!

 

 

 

「あ!そう言えば愛莉さんも天音に会いたいって言ってたから、今度響子と俺と天音の三人で行くのも予定してるぞ!」

 

「本当に?」

 

「嘘ついたら鼻からブラックコーヒー飲むから」

 

「でもなぁ......」

 

 

 

何とか収まってくれた様子。みんなは妹を怒らせるのやめておこうね。しかし何か不服な顔をしている天音。あれだけじゃ満足しないのだろうか。

 

 

 

「何か問題でもあるのか?」

 

「いや、お兄が邪魔」

 

「母さん、妹が辛辣」

 

「馬鹿言ってないで早く準備しなさい。響子ちゃんもうすぐ来るわよ」

 

 

 

 

確かに時計を見るともうすぐ時間だ。あんまり響子が遅れて来る事無かったからな。逆に俺は遅れるのが当たり前みたいになってた時期もあったけど。仕方ないじゃん、朝弱いんだもん。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「おはようございます!」

 

「おはよう天音ちゃん」

 

「んじゃいってくる」

 

「気を付けてね」

 

 

 

天音に急かされてゆっくり朝飯も食えず、結局バタバタ準備してその間に響子が来てしまった。響子は待つと言ってくれたが天音がそれを許してくれるはずもなく、あーだこーだ言われながら着替えましたとさ。

 

 

 

「大丈夫?忘れ物とかない?」

 

「大丈夫だと思う、多分な」

 

「この前みたいに教科書全部違うのとかやめてよ」

 

「......数学と国語、それに科学と物理で合ってるよな?」

 

「正解。それじゃ行こっか」

 

 

 

 

無事答え合わせも済んだところで学校へと歩き始める。ここからは昨日と変わらず、響子と天音の二人が仲睦まじく話している後ろを不審者の如くついて行くだけ。最早これがルーティーンと化しているのは気のせいだろうか。

 

 

 

「お、そう言えば」

 

「どうかしたの?」

 

「昨日の曲の話。夜も遅かったから詳しく相談出来てなかったと思ってな」

 

 

 

響子はしのぶに任せるつもりだと言っていたが、やはりリミコンの近いしのぶ一人に任せるのは少々酷ではなかろうか。あの後ベッドで横になりながら考えていた。だがしかし、俺が手伝える事はあまりないのが現実だ。こうなったら天音にでも手伝ってもらうか。

 

 

 

「何かあるの?」

 

「いんや、やっぱりしのぶ一人だと心配だなと思って。別にしのぶの実力とかを疑ってる訳じゃないんだけどさ」

 

「やっぱりそう思う?」

 

「あんな中途半端な感じだと尚更な」

 

「ちょ、お兄中途半端とか何言ってんの」

 

 

 

少し怒った顔をして迫って来る天音。しのぶに任せたい気持ちもある一方で、やはり一人だけに背負わせたくない責任感との葛藤。きっとそれが響子にはあるのだろう。その結果が昨日渡された曲というわけだ。

 

 

 

「良いんだよ天音ちゃん」

 

「でも響子さん......」

 

「馴れ合いとかで上手くいくほど簡単じゃないからね」

 

昔っからそういうところも変わんねぇな

 

 

 

 

絵空は親御さんの手伝いとかで忙しい時期もあった。由香だって写真が認められたって嬉しそうにしてた時もある。しのぶなんて過去にはアルバム制作の仕事の話があったって言ってたしな。決してピキピキだけが4人のあるべき姿では無いということ。だがしかし、今まで結成した瞬間からずっと側で見続けている俺からすればなんて事ない問題だ。

 

 

 

「そこで俺から良いお知らせがある」

 

「何か良い案でも思いついたの?」

 

「お兄?」

 

 

 

せっかくの久しぶりのDJライブなんだ。この絶好の機会を逃すわけにはいかないんだ。響子やしのぶ達にも刺激になるだろうし、天音にも良い影響があれば尚の事良し。

 

 

 

「また母さんにでも練習見てもらうか?」

 

「そんなの黒那さんに悪いよ」

 

「大丈夫だって。まぁ別に母さんが見たところで何が変わるわけでもないんだけどな」

 

「お母さんには伝えてるの?」

 

「ん?俺の独断だけど」

 

「......流石お兄」

 

 

 

 

今までも何回かピキピキの指導的な事をしてきた母さんだが、最近はめっきり無くなってしまったからな。母さんも親父も何だかんだピキピキのファンだから絶対ok貰えると思うんだけど。駄目なら俺が土下座で頼み込んでok貰うけどな。男は時にプライドを捨てるのも必要なのだ。親父には絶対土下座なんてしたくないけどな。

 

 

 

 

「だからお昼休みにでもみんなで集まって話し合うか」

 

「なら私も─」

 

「お前は駄目。というかそもそも中等部の天音が来られるわけないだろ」

 

「お兄のケチ、意地悪、あんぽんたん」

 

「はいはい、響子もそれで良いか?」

 

「私は大歓迎だけど」

 

 

 

良しこれで決まりだな。帰ったら母さんにも許可貰わないといけないな。親父は帰って来ない事を祈ろう。帰って来ても追い返せば済む話だ。最悪の場合、愛莉さんのところにでも泊まって貰えば良いか。

 

 

 

「この話は決まり。んじゃ学校急ぐぞー」

 

 

 

 

 

~陽葉学園~

 

 

 

 

「それじゃあ放課後に!」

 

「うん、またね」

 

「また天音と約束でもしたのか?」

 

「さっきの件もあるから今日は天音ちゃんの家」

 

「てことはウチに来るのか」

 

 

 

無事到着して天音は中等部へ向かう。俺の知らない間に響子がウチに来ることが決定していた。内緒で事を進めるの上手だね天音ちゃん。まぁ俺が一人で考え事しながら後ろついて行ってたからなんだけどな。

 

 

 

「取り敢えず教室行くか」

 

「そうだね」

 

 

 

上履きに履き替えて響子と二人で教室へと歩き始める。お昼休みに話すとは言ったものの、予め他の三人には俺からそれとなく伝えておくか。話がいきなり過ぎるとしのぶに怒られる可能性も微レ存。絵空とかは乗り気でok貰えそうだけどな。

 

 

 

教室へ入り母さんにどういう風に伝えるか悩んでいると担任が登場。そのままの流れで朝のSHRの時間。やれボランティアの活動の募集やら委員会からのお知らせやらを長々と聞かされる。話の中には昨日絵空から聞いた転校生の話題もあったが、正直俺はあまり気にならないタイプなので右から左へ受け流した。

 

 

 

「それじゃあこの続きで授業始めるぞー」

 

「先生ちょっと早くないですか」

「まだちょっと時間ありますよー」

 

 

「文句言わずに教科書開け〜」

 

 

 

 

1時間目が担任が担当する教科だったのでSHRの続きから授業開始となった。ご覧の通り、一部生徒からはブーイングがある様子だが先生の言う事には逆らえないのが良くも悪くも学校というところだ。逆らうとお叱り受けるからな。響子の方をチラッと見てみると黙々と準備してて偉いと思いました。

 

 

 

「まずは前回の宿題からだな。誰が当たってたんだ」

 

「......あ、やべぇ俺じゃん」

 

「じゃあ藤咲は黒板に書きに来いよ」

 

 

 

そういえば前回の授業の最後であみだくじやって俺になったんだっけか。すっかり忘れてたわ。というか授業の宿題担当をあみだくじなんかで決めるのは如何なものかと。まぁやってないわけじゃないから良いんだけどさ。

 

 

 

「えーっと、問1がこれで......」

 

 

ガラガラガラ

 

 

「ん?」

 

 

 

やっと俺がやる気だして黒板に答えを書こうと思った矢先に教室のドアがオープン。他のクラスはまだ1時間目始まってないから仕方ないね。にしても見た事ない子なんだけどもしかして噂の転校生だったりする?

 

 

 

「失礼します!」

 

『......』

 

「あれ?もしかして授業中?でもまだ1時間目始まってないよね?」

 

「ウチのクラスがおかしいだけだから気にすんな」

 

「おい藤咲」

 

「だったら良かった!」

 

 

 

凄く元気の良い子なのはこの数秒で理解出来た。ウチのクラスがおかしいと言った後に担任が反応してたがそれはスルーの方向で。この子が噂の転校生だとしても、ウチのクラスに入るとは一言も聞いてないんだがそれはどういうことだろうか。

 

 

 

「私の名前は愛本りんくです。今日からこのクラスで一緒に勉強することになりました!よろしくお願いします!」

 

「......愛本さん、悪いけど多分ウチじゃないよ」

 

「へ?でもさっき隣のクラスに行ったら違うって言われたよ?」

 

「ウチの反対にも教室あるからそこじゃないか?」

 

 

 

隣のクラスの奴らも方向くらい言ってやれよ全く。そりゃ隣って言われたら間違えてウチに来ても仕方ない。担任もクラスのみんなも静まり返っている中、俺は転校生らしき愛本さんと二人で話している奇妙な状況。響子なんかちょっと笑ってるしな。それはどういう笑みなのか聞いてもよろしいか。

 

 

 

「ごめん間違えちゃった!ありがとう!」

 

「まぁ愛本さんは悪くないと思うよ」

 

「優しいんだね。名前聞いても良い?」

 

「藤咲絢斗。というか早く行った方が良いぞ」

 

 

 

何故なら担任が俺を睨めつけているから。そんなに授業早く始めたいなら先生が対応すれば良いのに。俺に丸投げしといてそれはどうかと思いますね。というか何で俺は素直に自己紹介なんかしてんだよ。

 

 

 

「ありがとう絢斗君!それじゃあまたね!」ガラガラ

 

「お、おい!教室は出てから右だから......って聞いてないし」

 

 

 

話を聞かずにドアを開けて飛び出してしまった転校生の愛本さん。隙間から若干左向いて歩いて行ったのが見えたが気のせいだろう。いきなり名前呼びなのも気のせいだと思いたい。

 

 

 

その後は特に何事も無く授業は進み、次の国語の授業と科学と物理の授業を終えて昼休みを迎える。

 

 

 

 

 

「はぁ〜疲れた!」

 

「まだ2時間残ってるけどね」

 

「午後の授業は楽だし良いんだよ」

 

 

 

午後からはHRとなっており、何でも次のリミコンの応募者を増やす為にも前回や前々回のリミコン優秀曲をみんなで研究しようというものだ。これも我が陽葉学園特有だといえるだろう。個人的な解釈をすれば適当にやってれば終わるから楽なんだよね。DJクノイチであるしのぶの曲や響子がリミックスした曲は聞く必要があるけどな。聞いてないと響子に怒られるし、何ならしのぶにバレて愚痴られるし。何故バレるし。スパイは響子で間違いないんだろうけどさ。

 

 

 

「中庭行きますかね」

 

「うん」

 

 

 

朝の転校生の件もあり、他の三人には母さんに指導してもらうといった話は伝えられなかった。1時間目が終わってからクラスの奴らから質問攻めにされる始末。やれあの子と知り合いなのかとか可愛い子ばっかり周りにいるだの何だの。後者に関して言えば完全にクラスの男子からの意見なんだが。別に俺悪くないよね?確かに響子とかしのぶ達ピキピキのメンツは全員可愛いけども。何なら今朝の愛本さんも可愛い子だったけども。何故それが原因で俺が責められるし。

 

 

 

 

その事を響子に話してみると"確かにそれは言えてる"と笑いながらの返事を頂きました。

 

 

 

 

「あ、絢斗来たよ」

 

「悪いな待たせて」

 

「別にアタシ達もさっき来たところだし」

 

「んなら良かった」

 

 

 

中庭に行くと既に三人が揃っていたので、昨日と同じくみんなが座れるテーブル席へ腰を下ろす。何故か絵空との距離が近い気がする。しのぶも若干ではあるが怒ってる?

 

 

「ちょっと、由香さんや」

「どしたの絢斗?」

「何で絵空としのぶは怒ってんの?」

「あー、それはね......」

 

「絢斗〜、由香と何話してるのぉ?」ギュッ

 

「うおっ!?」

 

 

 

元々隣に座っていたので近かった絵空。由香とコソコソ話していたのがバレたのか俺の腕ごと引っ張ってくる。お陰様で何がとは言わないが柔らかいものが腕に当たる。由香も由香で知りませんよみたいな顔するのやめてね。

 

 

 

「ちょ、絵空近いんだが」

 

「私達に話しておく事なぁい?」

 

「えーっと......」

 

 

 

話しておくこと?はてさて、絵空には何が見えているのだろうか。もしかして母さんの事?俺絵空達には伝えてないはずなんだけど。響子が先に伝えてるとすればあり得る話だが、そんな話も出てこなかったしな。

 

 

 

「......俺の母さんに練習見てもらう件でございますか?」

 

「んふふ♪ハ・ズ・レ♡」ギュッ

 

「ちょっと!?絵空さっきから当たってるんだが!?」

 

 

この()()()()()は話の的がとかではなく、絵空のダイナマイトな部分がですね。響子達も黙ってないで助けて欲しい。

 

 

 

「転校生の子とイチャイチャしてたのは本当かしら?」

 

「イチャイチャ?」

 

「アタシもそうやって聞いたよ」

 

「待て待て、話がおかしな方向へ進んでる」

 

 

 

一体誰がそんな根も葉も無い噂話を広げたのだろうか。大方、俺の状況を好ましく思わない連中だろうと推測は出来るんだけどな。でもそれにしたって斜め右上のラインいっててちょっと笑えるな。

 

 

 

「クラス間違えたみたいだから教えてただけだ」

 

「あ〜、確か愛本さん?だっけ」

 

「私の名前呼んだ!?」ヒョイ

 

「そうそう、こうやってひょっこり現れてだな......って愛本さん!?」

 

「ちょっと反応遅れたね絢斗」

 

 

 

まさかのご本人登場でビックリした。お昼休みだし中庭に居てもおかしくはないけど。グッドタイミングなのかバッドタイミングなのか分かんねぇなこれ。しのぶなんて警戒する機嫌の悪い子猫よろしく威嚇っぽくなってるし。それでもちょっと可愛いと思ったのはここだけの話。

 

 

 

「愛本さんはどうしてここに?」

 

「お昼ご飯食べに!そこで絢斗君っぽい人見つけたから来てみたら正解だった!」

 

「ふーん、この子が絢斗の浮気相手と......」

 

「絵空さん?いつの間にか愛本さんが浮気相手にランクアップしてるんだが─」

 

「アンタはちょっと黙ってて」

 

「あ、はい」

 

 

 

 

何が起きているか分からずポカンとしている愛本さんを他所に、しのぶと絵空は吟味していくようにマジマジと見つめる。それこそ足の指先から頭のてっぺんまで事細かくだ。多分だが、あれを男の俺みたいなのがやるとセクハラだの変態だの言われるんだろうな。

 

 

 

ピンポ-ンパンポ-ン

 

 

『さぁ本日もやって参りましたお昼休みの時間!』

 

 

「ねぇ絢斗君。この放送って何やってるの?」

 

「ここで話を俺に振るのか......。まぁ簡単に言えば音楽でも聴きながらお昼ご飯食べようねってことだ」

 

 

 

 

それを聞いて"凄い!ワクワクしてきた!"とか言ってはしゃいでる愛本さん。話を振られて答えただけの俺はというと、またしても絵空としのぶに問い詰められる始末。何でこんなに二人は愛本さんを敵対視しているのだろうか。響子と由香も相変わらず笑ってるだけだし。まぁいつものことなんだけどさ。

 

 

 

『それでは参りまショータイム!!』

 

 

「毎度毎度こいつは下らん言い方しか出来んのか」

 

 

 

 

そして、DJが曲を流し始める。誰もが知っているような有名なものから、ウチの学園でリミックスやトラックメイキングされたものまで様々だ。リミコンがあった時には優秀曲や優勝曲等が披露されることもある。

 

 

 

「んー!!」

 

「......今度はどうした」

 

「これどこでやってるの?」

 

「えーっとな......何処だっけ?」

 

「放送室。アンタこの前アタシと一緒にやったじゃん」

 

 

 

 

そう言えばそうだった気もしてきた。この前はしのぶがお昼に流したい曲あるからって言い出したと思えば強制連行されるし。おまけに"ちょっとやってみなよ"って言われてDJっぽいことされられるしで散々だった。しのぶは後ろでちょくちょく笑ってるしな。仕方ないじゃん、俺って天音みたいに音楽の才能やセンスがあるわけでもないんだからね?

 

 

 

「放送室ってどこにあるの?」

 

「......もしかして放送室行きたいのか?」

 

「うん!」

 

 

 

目を輝かせて頷く愛本さん。連れて行ってあげても良いんだが、まだお昼ご飯も食べ終えてないしなぁ。愛本さんは話しながらもパクパクと食べ進めてたお陰で、お弁当の中身はほとんどすっからかんだ。俺はというとまだ半分程度。お昼ご飯はゆっくり食べたい派なんです。というかお昼に限らず食事はゆっくり楽しみたいのが本音だったりする。今朝天音に急かされたのも納得いかん。

 

 

 

「ん〜」モグモグ

 

「絢斗君?」

 

「ああ、ごめんごめんちょっと考え事。しのぶ、ちょっと良いか?」

 

「何となく想像つくんだけど」

 

「だったら話は早いな」

 

 

 

俺としのぶの様に付き合いが長いと何となくで察せる部分も出てくるわけだ。まぁ長いって一口に言っても、時間に直せばそこまでなんだけどな。でもそういった関係になるのは付き合いの時間の長さではなく、あくまでそれまでの過程の方が重要だと個人的には思う。兎に角、俺の言いたい事を理解してくれてるなら話は早いって事よ。

 

 

 

「ん、ご馳走様。愛本さん今から放送室行くけど来る?」

 

「え、良いの!?」

 

「勿論。何なら今日はDJクノイチのパフォーマンス付きだ」

 

「あれ?しのぶ今日やるって言ってたっけ?」

 

「残念ながらさっき決まったんだよ」

 

 

 

 

お昼ご飯も何とか食べ終わったし行きますかね。あんまり時間も無いことだし。ピキピキの面子とぞろぞろ放送室に向かってたら、何人かにはバレそうだけど仕方ないね。俺の目の前でスゲェ嬉しそうにしてる愛本さんを見てると、何だが天音の小さい頃を思い出すな。昔は飴ちゃんあげるだけで喜んでたのに......今じゃ響子大好きっ子になってしまって。

 

 

 

「私達も行っていいの?」

 

「当たり前だろ。この前みたいに俺にDJやらされても困るから、逆に響子達居ないとしのぶの制御が出来ないからな」

 

「何でアタシが悪いみたいになってんの」

 

「私も絢斗のDJ見てみたいかも〜」

 

「マジでやめてくれ」

 

 

 

 

そして、中庭を後にして6人で放送室を目指した。その間に、愛本さんがピキピキにDJやライブの事について楽しく話してたのを見て、ついつい微笑んでしまったのはここだけの話だ。

 

 

 

 

 

 

 

Next→

 

 





アニメもやっとピキピキの出番ですな。
前回は真秀のダイナマイトォ.....が印象的でしたが、今回はりんくも交えてのライブで主も感動致しました。
(クラスとかその他諸々の設定は曖昧なのでご了承を)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#4 何事も準備って大切だよな


☆10 綯花様 Daniel様
☆9 リインフォース様
☆6 わけみたま様

新たに評価して下さりありがとうございます!

皆様遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。
年末年始少しお休み頂きましたので、本日から投稿再開致します。



 

 

 

 

 

 

ガチャ

 

 

 

「たーのもー!」

 

「たのもー!」

 

 

 

 

放送室のドアを開けて中へと侵入していく。おふざけで言ったモノまで愛本さんに真似されて少し恥ずかしい。案の定みんなでぞろぞろと放送室へ向かってたら、数人の生徒に声をかけられましてね。何とか誤魔化してきたけどこの後絶対バレるな。

 

 

 

「誰も居ない?」

 

「放送委員の人が居るはずなんだけどねぇ」

 

「多分DJブースの方じゃない?」

 

 

 

順番に由香、絵空、しのぶがテンポ良く会話を繋げていく。正直なところ、この放送室は俺より常連のしのぶ達の方が勝手が分かっているので任せたい気持ちがあるのだ。だからと言って、ここまできて投げやりになるのも愛本さんに悪いしな。

 

 

 

絵空やしのぶの言う通り、周りに人は見当たらないが音楽は続いている以上何処かに人はいるはずだ。ここに居ないのならDJブースしかないだろうと思い、ささっとDJブースの扉を開けると第一村人を無事発見する。

 

 

 

「......あの〜」

 

「うわぁ!!」

 

「うおっ!?」

 

 

 

恐らく曲を流していたDJであろう子に声を掛けると、いきなりでビックリしたのか飛び跳ねてしまいそれに動揺して俺自身もビックリしてしまった。俺の情けない声がそんなに面白かったのか、響子と由香は笑いを堪えきれていない様子。一旦それは置いておくとしよう。

 

 

 

「すまんいきなり声掛けて」

 

「いや、別に大丈夫だけど......ってえぇ!?」

 

「頼むから大声出さないでくれ。俺もビックリするから」

 

「ご、ごめん」

 

 

 

今度は俺の顔を見てビックリしたらしい。何か変なもんでも付いてるか。今日のお弁当はソース類も無かったし、付いてたとしても道中で他の人に会ってきたから分かるはずなんだけどな。

 

 

 

「もしかしてだけどさ......藤咲絢斗?」

 

「大正解。何で俺の名前知ってるんだ?」

 

「いやいやいや!あの有名なピキピキと一緒にいる君の名前を知らない人はほとんどいないと思うよ!?」

 

「......マジで?」

 

 

 

いつの間にか名前を知られる程の有名人になっていた件について。というか、理由が完全に響子達のついでみたいな感じになってるんだけど。合ってるっちゃ合ってるが、何となく気に食わんのは俺の性格故の問題だろうか。

 

 

 

「良かったわね絢斗〜」フリフリ

 

「随分と楽しそうだな絵空」

 

「えぇ!?ピキピキまで何でここに!?」

 

「いきなりで悪いけど交代してもらって良いか?」

 

「い、良いけど......」

 

 

 

これで何とかいけそうだな。愛本さんは周りにある機材を見て回って楽しそうにしてるし。しのぶは既に準備に取り掛かってるし。というかこの人の名前聞いてなかったな。後でお詫びに何か奢ってあげよう。

 

 

 

「名前教えてくれ。後で何か奢るからさ」

 

「あ、だったら私も欲しい!」

 

「却下、由香は絵空にでも奢ってもらえ」

 

「明石真秀。一応隣のクラスなんだけど」

 

「隣って事は......あの子知ってる?」

 

 

 

愛本さん隣のクラスにも間違えて挨拶に行ったって言ってたしな。何故だか分からんがDJにも興味持ってるっぽいから、この際明石?さんに愛本さんのお世話を頼んでしまおう。俺はピキピキで手一杯なんでね。

 

 

 

「今朝ウチのクラスに間違えて来た転校生でしょ」

 

「おう、んじゃ後の事はよろしく」

 

「......え!?私があの子の面倒見るの!?」

 

「静かに。そろそろ始まるぞ」

 

 

 

 

今まで明石さんがDJブースで流していたであろう曲をパッと止めるしのぶ。生徒達は何が起きているのか分からず少し騒がしい。この離れた放送室にまでザワつきが聞こえてくる。だがしかし、これも立派なDJクノイチの演出なのである。やっぱりウチのDJは最高だな。

 

 

 

 

それから数秒間は静粛が学内を支配する。まるで時が止まったような感覚に襲われる。そして、その止まった歯車は再び最高の形で動き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─Ladies and gentlemen─

 

 

 

─Are you ready?─

 

 

 

 

 

 

 

そこからはDJクノイチであるしのぶの独壇場だ。0から100へ一気にテンションを上げさせるテクニック。それでいて強引になっておらず、巧みな技術で人を魅了し虜にする。俺達は目の前でしのぶのパフォーマンスを見ているから尚更だ。心の奥底から沸々と湧き上がってくるこの感情は、一体何に例えれば良いのだろうか。残念ながら語彙力足らずといったところか。

 

 

 

「す、凄いな本当に......」

 

「まぁ見てなって。しのぶの実力はこんなもんじゃないからな」

 

「なんで絢斗が自慢げに言ってるのよ」

 

「そこは良いだろ別に」

 

「でもやっぱりしのぶは凄いわねぇ」

 

「......雰囲気が変わったね」

 

 

 

 

響子が独り言の様に呟いたのを聞き逃す者は誰もいなかった。先程までとはガラッと雰囲気が変わったのは確か。だが違和感を感じさせる事なくスムーズに進んでいく。明石さんもしのぶのテクニックに驚いているのか、ずっと口が半開きなんだが大丈夫だろうか。

 

 

 

〜♪

 

「ん?天音から?」

 

「天音ちゃんから電話?」

 

「おう、響子出るか?」

 

「私に用事があるなら私にかけてくるでしょ」

 

 

 

それはごもっともの意見でございますな。でも何でいきなり電話なんてよこしてきたのだろう。俺からならまだしも、天音からなんて久しぶりな気がする。それもそれでどうなんだって話だな。

 

 

 

「もしもし」

 

『お兄今何処にいるの?』

 

「そんなこと聞いてどうするんだよ。まさかまだ諦めてなかったのかお前」

 

『違うし何勘違いしてんのお兄。さっきいきなり放送が始まって曲が流れ始めたの』

 

 

 

という事はしのぶが気分で中等部の方にも流したのだろう。実はここ、中等部の方にも放送が聞こえるように設定出来るのだ。まぁリミコンの発表とか特別なイベントとかないと基本やらないんだけどね。それを独断でやってのけるしのぶさんチョーカッコいいです。後で先生に叱られないと良いけど。主に俺が。

 

 

 

「お前の感想は?」

 

『しのぶさんがやってるんでしょ?聴けば一発で分かったよ』

 

「流石我が妹。その才能の一欠片でも良いからお兄ちゃんにも欲しかったよ」

 

『響子さん達もいるんでしょ?お兄ばっかりズルい』

 

「中等部にも流れてるんだったら別に変わんないだろ」

 

『私は実際にその場で聴きたいの!』

 

 

 

謎のこだわりを発揮する天音。こうして俺と天音がごく普通の兄妹の会話をしている間にも、しのぶがあれよこれよと忙しなくDJやってるんだ。アップテンポの曲が流れれば気分がアガるし、愛本さんなんかリズムに乗って踊り始めてしまった。明石さんはしのぶのDJから学ぼうとしているのか必死に見つめてるし。由香と絵空なんて愛本さんと一緒に踊り出す始末。もうこの状況意味分かんねぇな。

 

 

 

「私達も踊る?」

 

「勘弁してくれ響子......」

 

『響子さん!?お兄電話変わって!』

 

「ん、天音が変わってだとさ」

 

「了解、ちょっと向こう行ってるね」

 

 

 

 

悪戯っ子の様な笑みを浮かべて"踊る?"と言った響子。実に魅力的な提案だとは思うが、この状況が状況なのでお断りせざるを得ないだろう。それに踊りなんか俺は出来ないからな。響子の足でも踏んで怪我させたら母さんや親父から何て言われるか。

 

 

 

それからもう少しの間DJタイムは続き、お昼休み終了の5分前となったのでキリの良いところで幕を閉じた。その後、愛本さんに明石さんを紹介してお世話してもらう様にも伝えておいた。愛本さんがDJに興味持ってくれたので、明石さんが教えてあげるらしい。しのぶは"めんどくさいからパス"と言って絵空と由香と一緒に自販機へ向かった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「ん〜」

 

「......」

 

 

 

ドンッ!!

 

 

「あっ、ごめん前見てなかった」

 

「いたたたた.....」

 

 

 

 

時は過ぎて放課後。午後の授業も難なくクリアした。まぁ俺は寝てただけなんですけどね。お昼休みのあれで案外疲れてたのか、授業始まってすぐにウトウトし始めてしまった。そして起きたらほぼ授業が終わりかけていたというね。本当は授業中に響子が出してくれた曲について考えたかったんだけどな。仕方ないから靴箱へ向かう最中に考え事してたら、前から来てた女の子にぶつかってしまった。流石に体格差もあってか女の子の方が尻もちをついてしまった様子だ。

 

 

 

「ちょっとアンタ!前見ながら歩きなさいよね!」

 

「す、すまん.......あ」

 

「あ......じゃないわよ!怪我したらどうするつもりなの!?」

 

「それは悪かったって、マジで謝るからさ。だから─」

 

「だから何よ?」

 

「.......その、見えてる」

 

 

 

完全に俺が悪いのは分かってるが、些か話を聞かなさ過ぎるのではなかろうか。見えてしまったのは仕方ないから早めに伝えようと思ったのに。いや、さっきも言ったけど考え事してて注意してなかった俺が悪いんだけどね!

 

 

 

「はぅ!?」バッ

 

「ほら、立てるか?」

 

「......ヘンタイ」

 

「頼むからそれだけはやめてくれ」

 

 

 

それから、少し愚痴愚痴言いながらも態勢を立て直した女の子。もう一度怪我の確認もしたがそれは問題無いらしい。その後はそそくさと去ってしまった。しのぶくらいの小柄な子だったし、今まで見た事なかったな。それにぬいぐるみっぽいの持ってたし。先輩とかだったらどうしよう。あの子が話を盛って他の生徒に噂でも流せばいよいよ俺も終わりそうだな。

 

 

 

「......取り敢えず帰るか」

 

 

 

響子との約束もあるので遅れないようにさっさと帰ろう。約束したの俺じゃなくて天音ちゃんなんだけどね。

 

 

 

 

 

~藤咲宅~

 

 

 

 

「ただいま」

 

「おかえりなさい、響子ちゃんもう来てるわよ」

 

「知ってる」

 

 

 

だって響子の靴があるんだもん。その横にピッタリと張り付いている天音の靴は靴箱にしまっておこう。親父の靴は......靴箱の中にも無さそうだな。これで安心して過ごせるってもんだろ。まぁ帰ってこない時は1ヶ月くらい帰ってこないからな。

 

 

 

「リビング?」

 

「そうだけど、先に手洗ってきなさい」

 

「ん」

 

 

 

ここら辺は母さんの方が厳しいな。まぁ仕事してた時の方が厳しかったけど。体調管理も立派なお仕事の内なのだろう。

 

 

 

「......ついでに顔も洗っとくか」

 

「顔洗っとくついでに父さんとも遊ぶか!!」

 

 

 

完璧に油断していたところにまさかの親父登場。物陰に隠れていたらしく、洗面台に辿り着く前に拘束されてしまった。

 

 

 

「はぁ!?何で親父がいるんだよ!」

 

「帰ってきたからに決まってるだろう!」

 

「帰ってくんなってメールしただろーが!」

 

「分かるぞ絢斗......あれは所謂ツンデレというやつなのだろう」

 

「ちげーよバカ!!ツンデレならもっと身近にいるだろ!」

 

 

 

俺の妹とか親父の娘とか天音ちゃんとかさ。何であのメールがツンデレっぽく見えるんだよ。マジで気色悪いから勘弁してほしい。こんなムキムキ中年親父にデレる子供が何処にいるんだよマジで本当に。

 

 

 

「頼むから離れてくれ」

 

「無理だと言ったら?」

 

「母さん呼ぶけど」

 

「分かった、今はお前に従ってやろう」

 

 

 

この親父はどんだけ母さんが怖いんだよ。まぁ昨日の今日で椅子に縛り付けられるの俺だって見たくないしな。というか親父に2日連続で会えるのは少し珍しくもある。仕事があまりないのだろうか。それともただ単に親父が帰ってきたかっただけとか。可能性としちゃ後者の方がありえそうだな。

 

 

 

「それより絢斗」ガシッ

 

「だから離れろって言ってるだろ」

 

「お前、響子ちゃんとはどうなんだ?」

 

「響子?それどういう意味だよ」

 

「そのままの意味だよ。ABCならどの辺りなんだ?」

 

 

 

 

このクソ中年親父......響子のこと何だと思ってんだよ。ただでさえ鬱陶しいのに、今は家に響子本人がいるんだからそういうのやめろよマジで。聞かれてたら終わるんだけど。色んな意味で。

 

 

 

「母さ〜ん、変態親父がここにいま〜す」

 

「ちょ、絢斗ォ!?」

 

「......貴方?ちょっと二人でお話しましょうか?」

 

 

 

まるですぐ側にでも居たのかという早さで駆けつけた母さん。親父の首根っこを掴んで寝室へと引き摺り込んでいく様は、さながらホラー映画を見ているようで少しゾッとする。俺は将来ああはなりたくないもんだな。

 

 

 

「......あれ大丈夫なの?」

 

「響子か。気にすんな、いつもの事だから」

 

「それなら良いけど」

 

「天音は?」

 

「リビング。珈琲淹れて待ってるよ」

 

 

 

ああ、やはり俺の妹はお兄ちゃん想いの優しい子だった。反抗期真っ盛りの駄々っ子とか思ってた時もあったのだが、そんな風に思ってたお兄ちゃんを許して欲しい。これからはもっと甘えさせてやろう。

 

 

 

 

 

 

-リビング-

 

 

 

 

 

「そう思っていた時期が、僕にもありました」

 

「一人で何言ってんのお兄」

 

 

 

いやだってさ。ものの見事に天音と響子の二人分しか珈琲ないんだけど。しかも響子の分は響子専用のマグカップに淹れてるし。ねぇ俺の分は?お兄ちゃん専用のマグカップも買ってたはずだよね?お前はお水でも飲んでろ的な意味合いでも込められているのだろうか。

 

 

 

 

因みに響子のマグカップは星がいっぱい描かれている綺麗な物で、天音のは可愛らしいアニメキャラのマグカップだったりする。

 

 

 

 

 

「んで、取り敢えず母さんに練習見てもらう件だが」

 

「本当に良いの?」

 

「大丈夫だって。ここだけの話、ウチの母さん案外俺にも甘いから」

 

「でもお兄そんなに甘えないじゃん」

 

「ばっかお前、高校生のお兄ちゃんがお母さんに甘えてたらどう思うよ」

 

「キモい」

 

 

 

 

はい、天音ちゃんの直球ド真ん中ストレート頂きました。まぁ天音の意見抜きにしても、俺が母さんや親父に甘えるわけにはいかない。天音の前とかだと尚更だな。母さんや親父はそうでもなさそうだけど。悪いがそういう時期はとっくに過ぎ去ってるんでな。

 

 

 

「それで、他に話したい事は?」

 

「次のライブの事かな」

 

「いつやるんですか?」

 

「まだ内容とかあんまり決まってないんだけどね。来週辺りにはやりたいかなって」

 

 

 

猶予は一週間程度ということか。しのぶが参加するリミコンがあと三週間程で開催される予定だから、ダブルブッキングは一応してないみたいだな。それでもやっぱしのぶに任せるのは厳しいだろうけど。

 

 

 

「セトリはどんな感じで組むんだ?」

 

「二人に聴いてもらった曲を中心に考えるつもりだよ」

 

「だとすれば4曲か5曲辺りが妥当かもですね」

 

「トリがあの曲か?」

 

「一応そのつもり」

 

 

 

トリにするのであれば、それ相応のアレンジが必要にもなってくるだろう。ともなれば調整に時間がかかるのは必須。早めに取り掛かるに越したことはない。俺からもアレンジ案として天音にちょこっとだけ弄らせてみるか。そのまま通るって事は無いしな。何しろ響子としのぶが審査員だし。

 

 

 

「あの曲天音に弄らせても大丈夫か?」

 

「大丈夫だけど、どうするつもりなのよ」

 

「アレンジの案としていくつか作っておくだけだ。そのくらいなら天音でも出来るだろ?」

 

「勿論」

 

 

 

 

もし天音の案を気に入って貰えれば、しのぶや響子がそこから更に広げていけば良い話だからな。これで最終的にピーキーな曲が出来上がる事間違いなしだ。こうしてピキピキのお手伝いをしている間に、天音の音楽センスまでピーキーな響子寄りに仕上がらないかだけ心配だな。天音は大はしゃぎで喜びそうだけど。

 

 

 

 

「良し、これで一先ずセトリの件は終わりだな」

 

「あとはハコと日時を押さえるのと、ライブ告知のフライヤーとかかな」

 

「ライブするのって案外大変ですよね」

 

「まぁピキピキレベルになるとゲリラ的に開催しても人集まりそうだけどな」

 

 

 

 

なんてったって学園トップですから。俺が誇って言える立場ではないんだけどね。というか俺なんか何もしてない一人のピキピキファンだから。そういう風に考えると、これだけ側に居られるのは最高の喜びなのかもしれないな。

 

 

 

 

「それについては俺に任せてくれ」

 

「絢斗一人でやるつもり?」

 

「ハコ押さえるのは何回かやったことあるし、フライヤーは見様見真似で取り敢えず作ってみるさ」

 

「......お兄一つ忘れてる」

 

「ん、何だ我が妹よ」

 

 

 

ハコ押さえるのは正直ピキピキの名前出してしまえば一発オッケー貰えるから大丈夫だと思うんだけど。フライヤーは完成したら適当に貼り付けたり各クラスに配ってはい終わりなのでは?

 

 

 

 

「お兄、絵のセンス皆無でしょ」

 

「そんなことねぇよ。幼稚園の頃は"頑張ったで賞"貰った事あるんだからな」

 

「じゃあ人描いてみてよ」

 

「おうよ、絵画みたいな出来栄えでも驚くなよ」

 

 

 

 

頭、肩、腕、腰、脚と順番に持っていたシャーペンで流れるように描いていく。一つ一つに丹精込めてだな。まるで我が子を愛でるかの様な優しいペン捌き。そして、一人の人間の絵が完成する。

 

 

 

 

「どうよ?上手すぎて声も出ないか?」

 

「......絢斗」

 

「お兄、マジの化け物出来上がってるからねそれ」

 

「ば、化け物......だとッ!?」ガクッ

 

「すみません響子さん、フライヤーは私が作っときます」

 

 

 

 

ラスボスの不意の一撃を喰らってしまった主人公よろしく、天音の容赦ない攻撃......いや口撃とも言うべきか。それに膝から崩れ落ちる様にして倒れてしまった。おかしい、幼稚園の頃の頑張ったで賞は嘘だったのか。園長先生が上手だと褒めてくれたのは口先だけだったということか。仕方ない、あの頃の俺は純粋無垢な少年だったからな。今ではこんなに尖った性格になってしまって。親父のせいだなこれは。あと若干響子のせいでもある。だから俺は悪くない。

 

 

 

 

「はい、珈琲淹れたわよ」コト

 

「ありがとうございます」

 

「良いのよ、それで何の話をしてたのかしら」

 

 

 

どこからともなく現れた母さん。気を利かせて珈琲を淹れなおしてくれたらしく、そこには俺専用のマグカップもあった。やっぱ母さんは俺にも甘くて助かる。まぁ甘えないんですけどね。親父に何かされるに決まってるし。

 

 

 

「あ、肝心な事言うの忘れてた」

 

「何かしら」

 

「母さんに頼みたい事が─」

 

「別に良いわよ」

 

「即答!?というかまだ内容とか言ってないんだけど?」

 

 

 

 

母さんはまさかのエスパータイプだった。あれか、子供のことなら何でもお見通し系お母さんなのだろうか。その調子でいくと何もかも見透かされそうで怖い。

 

 

 

「この頃響子ちゃん達の練習見てなかったでしょ?だから久しぶりにどうかなって思ってたところなのよ。最近仕事も少なくなってきたし」

 

「いや、母さんが良いならこっちとしてもありがたいけど」

 

「だったらいっその事ウチでやりませんか響子さん!?」

 

「そこまでしてもらったら流石に悪いよ」

 

 

 

母さんや親父の仕事の関係もあって、ウチにはちょっとしたDJブース兼仕事部屋みたいな場所があるのだ。DJクロとDJシロの全盛期であれば、朝から夕方くらいまでは仕事で外出。夜になって帰って来れたとしても仕事部屋で作業。顔を合わせる事が朝と夜で1回づつしかないとか余裕であったしな。

 

 

 

そういった家庭的な事情も重なって、愛莉さんや色んな人が俺達兄妹の世話をしにやって来てくれてたというわけだ。響子んちの親御さんとかも来てたし、何なら響子自身も遊びに来てくれてたしな。そりゃ俺一人しか関わる人間が居なかった天音にとって大切な存在にもなるわな。

 

 

 

 

「良いのよ響子ちゃん。私からもお願いするわ」

 

「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします」

 

「それじゃあ取り敢えず掃除しなきゃね」

 

「もう暗くなってきたし絢斗は響子ちゃん送っていってあげてね」

 

「りょーかい。んじゃ帰るぞ〜響子」

 

 

 

 

リビングのテーブル席から立ち上がり、何か適当な上着を見繕って玄関へと向かう。響子は鞄を持って俺の後をついてくる。送っていってあげてねとは言われたものの、結局毎回家まで行ってんだよなぁ。まぁそこまで離れてないから良いんだけどさ。

 

 

 

 

「今日はありがとね」

 

「別に俺はまだ何もしてないけどな。これからやる事っつってもハコ押さえるだけだし任せとけ」

 

「うん、頼りにしてるよ」

 

「おうよ」

 

 

 

 

靴を履こうと思ったがそれすらめんどくさかったのでサンダルで我慢しよう。最近のサンダルは軽くて丈夫なので助かる。この前天音のサンダル履いていったらクッソ怒られたけど。そんなに嫌だったのだろうか。

 

 

 

「そういや明日何か課題出てたっけ」

 

「今日の5.6時間目の感想」

 

「......マジ?」

 

「マジ」

 

 

 

さてどうしたものか。ほぼ寝てたから全然聴いてなかったわ。適当に感想なんてでっち上げる事は可能だが、いかんせん担任にバレると厄介なのがなぁ。まぁ響子送った帰りにでも考えるとしますかね。

 

 

 

「明日しのぶ達にも今日話した事伝えないとな」

 

「そうだね」

 

 

ギュルルルル

 

 

 

 

先に言っとくけど、これは俺じゃないからな。俺じゃないとすればもう一人しかいないわけだけど。犯人であろう響子は恥ずかしかったのか、ちょっと顔を俯かせてるけど俺にはバレバレだ。ほんの少し頬が朱色に染まっている事には触れないでおこう。女の子は繊細なんだって母さん言ってたもん。

 

 

 

「響子お腹空いてんのか?」

 

「......うん」

 

「いつから」

 

「絢斗の家にいた時から」

 

「馬鹿かお前。それを先に言え、早く帰るぞ」

 

 

 

 

踵を返して少しだけ歩くスピードを早める。というか俺の幼馴染はいつから食いしん坊キャラに転職したのだろうか。まぁ響子は元より少食ではなかったが。男子の俺より食べてる印象もないんだけどね。

 

 

 

「ちょ、何で戻ろうとしてるの?」

 

「あ?ウチに帰って飯食うからに決まってるだろ」

 

「もしかして私も?」

 

「当たり前だろ。何でこの状況でお前放って帰らなきゃならんのだ」

 

 

 

それに、響子と一緒の方が天音も喜ぶだろうしな。親父が家にいるのがイレギュラーではあるものの、対応は母さんに任せておけば大丈夫。あ、先に母さんには連絡入れといた方が良さそうだな。

 

 

 

「ほら、帰るぞ響子」

 

「う、うん」

 

「晩飯何作ってもらうかな。響子は何が良いんだ?」

「そんな、リクエストなんて出来ないよ」

「良いから良いから。お前も母さんのご飯が美味しいの知ってるだろ?」

 

 

 

 

 

結局、響子と二人で帰ってから晩飯食べるまでは先程と同じ様にライブについて話していた。ほとんど天音と響子の二人が話し合ってたんだけどな。俺は相槌打ってただけ。だって天音ちゃん響子と一緒にご飯食べられるって分かったからテンション高かったからね。良かったね天音ちゃん。お兄ちゃんと一緒の時は無言の時もあるのにね。おかしいね。

 

 

 

 

 

因みに、晩飯は天音のリクエストでハンバーグになった。

 

 

 

 

 

Next→

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ガチャで響子出たのでご満悦の主です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#5 みんなは共感覚持ちに囲まれた事はあるかい


☆9 智如様 大塚竜胆様

新しく評価して頂きありがとうございます!

まさかのモンハンコラボに主大興奮です。
色々とやる気upして書いてたら1万字超えましたが気にしないで下さいな。


 

 

 

 

 

~翌日~

 

 

 

 

「おはよう絢斗」

 

「ん、おはよーさん」

 

 

 

昨日ぶりの響子と校門でばったり出会って挨拶を交わす。実はこれが今日初めての会話だったりする。今日は珍しく親父と母さん二人で仕事に出掛け、そのせいで朝飯も菓子パンだったので天音とも話していない。案外一人で朝飯済ませるのは久方ぶりだった気がする。やっぱ一人だと結構寂しいもんだな。

 

 

 

「感想は考えてきた?」

 

「モチのロンよ。それらしい言葉並べてりゃバレんだろ、多分。知らんけど」

 

「適当にやってるとまた先生に怒られるよ」

 

「そん時は素直に謝れば大丈夫」

 

 

 

人間諦めが肝心って誰かお偉いさんが言ってたもん。別に諦めてないし、何なら諦める様な案件でもないんだけどね。たかが感想。されど感想。担任や学校にとっちゃ重要視すべきものなのかもしれない。生徒一人一人の音楽性の違いを肯定し、その上でどうすべきかを一緒に考えようとかいう作戦なのだろう。みんな違って、みんな良いって言ってる人もいたっけ。だとすれば、感想を出さないというのも一つの手なのかもしれない。

 

 

 

 

というふうに、馬鹿な事を一人頭の中で考えている内に教室へ到着。慣れって怖いね。勝手に教室に向かって歩いてるんだもん。

 

 

ザワザワ

 

 

「何かいつもより騒がしいな」

 

「何かあったんじゃない?」

 

 

「ねぇ昨日の動画見た?」

「見た見た!Photon Maidenの動画綺麗だったよね!」

 

 

 

 

朝のSHRが始まるまでの過ごし方は人それぞれだ。趣味の合う友達と仲良く話すも良し、一人で読書して考えに耽るのも良し。睡眠が足りない時は机に突っ伏して眠るもアリだな。ソースは俺。夜更かしした次の日は大体寝てたし。何なら担任のゲンコツタイマー付きだから結構オススメ。

 

 

 

「よーしSHR始めるぞ。まずは昨日の課題から─」

 

 

 

俺も響子もギリギリで到着した為すぐに担任が来てSHRが始まる。昨日の感想文を書く課題に始まり、今日の授業のちょっとした変更点、そして数ヶ月後にせまったテストの話等を順序良く伝えていく。テストの話になるとほぼ大半の生徒が嫌な顔をするのは、おおよそ何処の学校に行っても同じ様な光景が見られるだろう。

 

 

 

因みに我が陽葉学園のテストで赤点を取ると、もれなく補習という担当教科の先生による特別レッスンが執り行われる。過去に一度だけ補習を受けた事はある。何故かは知らんがその時は母さんや親父ではなく、ピキピキのメンツに怒られたのは未だに謎だ。

 

 

 

「それじゃあ今日も授業頑張るように」

 

 

キ-ンコ-ンカ-ンコ-ン

 

 

 

話が終わったジャストタイミングでSHRの終わりを告げるチャイムが学園内に鳴り響く。今日は昨日と違って移動教室少なめだから多少なりとも楽が出来るってもんだ。まぁ俺の苦手、というか嫌いな数学はあるんですけどね。しかも2時間連続で。滅べ、取り敢えず滅んどけ数学は。

 

 

 

「絢斗、しのぶ達に話すのはお昼休みで良い?」

 

「.......」

 

「絢斗?」

 

「あぁ、すまん。ちょっと頭ん中で数学と戦ってた」

 

 

 

 

ロールプレイングゲームよろしくターン制の戦いを数学と繰り広げていると、SHRが終わってライブについて話に来た響子に気付けなかった。今は俺のターンだから大丈夫。再開したら取り敢えず回復魔法使って体力回復しなきゃな。何の話してんだっけこれ。

 

 

 

「お昼休み?それとも今からでも行ってくる?」

 

「いんや、別に急ぐこともないしお昼にゆっくり話してみようぜ」

 

「それならみんなにお昼休みって連絡しとくよ」

 

「頼む」

 

 

 

それからそれぞれ席に座り、1時間目が始まるまでの時間を潰していた。俺個人として考えるべきはウチで行うライブの練習についてだな。もしかすると母さんもこれから仕事忙しくなるかもだし。そうなれば必然的に俺と天音の二人でフォローしなきゃならないからな。

 

 

 

 

ピキピキのライブの手伝いをしてるだけなのに、何処かワクワクが止まらない自分がいる事に気付く。これほどまでに、俺にとってピキピキが大きな存在だったという事を嫌でも実感する。これはその内天音に響子関係の事で口出すのも駄目になりそうな気がする。周りから見れば俺だってピキピキメンツにべったりだもんな。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「......は?何でここの答え違うんだよふざけんなし」

 

 

 

この独り言は4時間目の歴史の簡易テストの答え合わせに対するものである。授業前に響子からテストの点数勝負をふっかけられて、勝負に負けた方が昼飯奢りという負けられない戦いだったはずなのに。俺の点数は76点に対して響子が79点。俺の敗因は完璧にこの問2の答えの漢字ミス。まぁ要するに俺の凡ミスにより昼飯奢りの刑に処されてしまった。

 

 

 

「漢字ミスるなんて絢斗にしては珍しいね」

 

「だろ?だからそこら辺考慮して欲しいな〜なんて思ったりして。チラッ?」

 

「別にそこの問題間違ってなくても私の勝ちだけどね」

 

「え、マジですか」

 

「だってそこ2点問題だよ」

 

 

 

神は俺を見捨ててしまわれた。歴史の授業案外楽しいから好きだったのに嫌いになりそう。というかこんな話に花咲せるより先に中庭に行かなきゃならん。また遅れたら絵空とかに何言われるか。最悪アイツらの分まで奢る羽目になりかねんしな。

 

 

 

兎にも角にも、早めに切り上げて響子と二人で中庭に向かう。テストの話が盛り上がったのもあってか、他の三人は既に集合済み。というか大体俺達二人が最後だな。

 

 

 

 

「はろ〜絢斗」

 

「すまん遅くなった」

 

「アンタらが遅れてくるのはいつものことでしょ」

 

「ごめんねしのぶ」

 

「まぁまぁ、それより私達に話っていうのは何かしら」

 

 

 

 

やはり一番に食い付いてきたのは絵空か。昨日は多分怒ってたっぽいから忘れてるだろうけど、一応母さんに見てもらうって一言だけ伝えてはいるんだけどね。何故か昨日は怒ってたからな。

 

 

 

「響子から聞いてるかも知れんが、1週間後くらいにライブの予定を立ててる」

 

「1週間か〜。でもしのぶ、リミコンも近くなかったっけ?」

 

「由香の言う通り、リミコンも近いしのぶにセトリや曲のアレンジを任せっきりにするのは良くないと思って良い案を持ってきた」

 

「お、珍しく絢斗が積極的ねぇ。何かあったのかしら」

 

「探りを入れるのはやめたまえ絵空君」

 

 

 

早々に話に移らないと俺が一番乗り気なのがバレてしまう。天音の為とか、母さんに頼まれたからとか理由をこじつける事は出来るがすぐに裏を取られてお終いという未来しか見えない。というか絵空に対してのチョイスであれば、その場の嘘で誤魔化すというのは愚策だろう。そういうのに関しては、この子結構鋭いからね。

 

 

 

 

「俺の家で母さんに練習見てもらうっていう案だ。因みにもう許可は取ってあるから大丈夫」

 

「絢斗のお母様に?」

 

「そ、母さんも乗り気だったしみんなに会えるの嬉しそうにしてたぞ」

 

 

 

 

まぁこれで母さんが言い出したみたいな雰囲気にしとけば俺が疑われる事は無くなるだろう。すまんな母さん。これも大事な息子の俺の為だと思っておくれ。

 

 

 

「それじゃあ絢斗のお父さんもいるの!?」ズイッ

 

「近い近い可愛い良い匂いするし可愛いから一旦離れろ由香!!」

 

「楽しみだなぁ〜♪」

 

「全く......何であんな親父の事気に入ってんのか」

 

 

 

十中八九筋肉やらトレーニング関連の事なんだろうけどな。由香の憧れのDJシロがあんな中年筋肉親父だなんて可哀想に。時に真実とは残酷なものとはよく言ったものだ。後で親父にボロ出さないように忠告しとこう。

 

 

 

「由香は相変わらずだね」

 

「遊びに行くんじゃないんだからね」

 

「そう言うしのぶも何か楽しそうじゃん」

 

「お?そうなのかしのぶ?」

 

「ち、違うから!響子も変な事言わないでよ!」

 

 

 

顔を赤くして響子にポカポカと殴りかかるしのぶ。可愛いな。この前響子が挑発してピーマン食べさせようとしてた時も中々だったが、やはりしのぶにはツンデレキャラがお似合いだろう。異論は認めん。

 

 

 

「そこで一つアンケートを取りたいんだが」

 

「ん?なになにどんなアンケート?」

 

「その練習の日俺の家泊まるかどうかの─」

 

「泊まる!」ズズイッ

 

「ちょ、だから近いって由香。距離感バグってんだよさっきから」

 

 

 

そんなにウチの親父に会うのが楽しみなのだろうか。正直俺には理解し難いのだが、筋肉好きには筋肉好き同士惹かれるものがあるのかもしれない。まぁ俺としちゃ練習しっかりやってくれれば、後のことは親父と筋肉談義しようが一緒にトレーニングしようが構わないけどさ。

 

 

 

「絵空はどうするんだ」

 

「ok貰えたから大丈夫よ♪」

 

「さいですか」

 

 

 

先程の数瞬で親にok貰うために電話交渉したらしい絵空は、満面の笑みでそう答えてきた。というか泊まりに関しては母さんと親父には伝えてないんだけど、これは俺の方が大丈夫か心配になってきたな。

 

 

 

いやまぁ昔に家を改築する時に来客用に部屋をいくつか増設したから大丈夫っちゃ大丈夫なんだけど。問題はそこじゃない。一つ屋根の下で男女が一晩過ごす事が重要なポイントだ。まぁ?間違いなんて起こす気はサラサラないんだが?その場合は天音に始まり母さん、そして親父から非難殺到するに違いないしな。最悪親父にその場で処刑されかねんな。

 

 

 

「響子は当然大丈夫だとして」

 

「泊まるのは久しぶりかな?」

 

「ん?まぁ確かにそうかもな。天音も喜ぶから一緒に寝てやってくれ」

 

「分かった」

 

「......流石は幼馴染って感じの会話ねぇ」

 

 

 

正直なところ、響子に関してだけ言えば何度もお泊りは経験済みなので何も気にしてないからな。他のピキピキメンツは数えるくらいしかないし、そもそもの話先程も言った通り思春期真っ盛りの男女が同じ屋根の下で一晩過ごすのは世間一般的にはよろしくないだろう。

 

 

 

「んで、みんなはこう言ってるけどしのぶはどうする?」

 

「アタシも泊まっていいの?」

 

「しのぶが良ければだけどな。別に強制はしないけど」

 

「泊まる。親御さんにはヨロシク言っといて」

 

「了解。んじゃ全員泊まりで練習って事で伝えとくぞ」

 

 

 

颯爽と携帯を取り出して家族全員に一斉送信する。これで拒否られた事もないし大丈夫だろう。むしろ藤咲家一同大喜びしそうだけどな。多分母さんも親父も仕事で今すぐには目を通せないだろうからもう少し待ってみるか。

 

 

 

「......おい、響子ちょっと」ツンツン

 

「ん、どうかした?」

 

「泊まりがけで練習するなら土日しかないんだけど大丈夫か?」

 

「土日しかって......あー、良いよ別に」

 

 

 

土日、という二文字で響子も察してくれた様子。俺から約束ふっかけといてこんな形で破るのは少々歯痒い気持ちが込み上げてくる。現に少し落ち込んだ顔をしている響子。埋め合わせだけでもやらないと駄目か。

 

 

 

「いや、約束自体無くすわけじゃないんだ。予定を一週間ずらせば良いだけの話だからな」

 

「じゃあ来週の土日ってこと?」

 

「まぁそうなるな」

 

「ちょっとぉ、さっきから響子と二人で何コソコソ話してるの?」

 

「練習についてちょっとな。取り敢えず母さん達にはメッセ送っといたから返信あれば連絡する」

 

 

「お泊り楽しみだね!」

「遊びに行くんじゃないんだよ」

「しのぶも本当は楽しみなんでしょ?」

「どうかな」

 

 

 

 

その後は、いつも通りお昼ご飯を食べながらライブについてや練習の話。時には世間話や昨日の出来事など脱線する事もあったがワイワイ楽しく過ごせた。遠目に愛本さんと明石さんが一緒にご飯食べてるのも見えたが、俺達が行っても注目集めるだけだしそっとしておいてあげよう。明石さんには愛本さんにDJについて色々教えてもらわないといけないからな。

 

 

 

 

 

 

 

~放課後~

 

 

 

 

 

「......ん〜」

 

「お兄お待たせ」

 

「ちょいと遅かったけど何かあったのか?」

 

「提出物出してただけ」

 

「なるへそ」

 

 

 

 

授業も滞りなく終わり、今日は珍しく天音と二人で下校する流れになった。これにはちゃんとした理由がありまして。逆に理由なくして天音と二人で帰ることなんかありえないくらいだからな。

 

 

 

 

まぁ理由というのも簡単な話で、お昼休みに母さんや親父、それに天音に送ったお泊り練習の件で話があるとかで二人で一緒に帰ってこいと母さんから連絡があったのだ。もしかするとok貰えないかもしれないと天音は心配そうに言ってたが、俺からすればその可能性は薄いようにも感じられる。駄目なら駄目ってハッキリ言ってくれると思うし。昨日の今日で気持ちが変わったりもしないはずだ。

 

 

 

「お兄、ok貰えなかったらどうしよう」

 

「大丈夫だって。最悪俺が土下座で頼み込むか天音が親父にお願いでもすりゃok貰えるさ」

 

「本当に大丈夫かな......」

 

「お前のその響子やピキピキに対してだけ発動する心配性も相変わらずだな」

 

 

 

お兄ちゃんに任せなさい、という意味を込めて少し頭を撫でてやる。いつもだったらここで罵声を浴びせられて手を振り解かれるが......やはり今はそんなものに気を回している余裕すらないと見て取れる。

 

 

 

「母さんや親父、それに俺を信じろ」

 

「......お兄」

 

「どうした」

 

「恥ずいからやめて」

 

「お兄ちゃん的にはもうちょっと撫で撫でしてても良いんだが」

 

「マジでやめて」

 

 

 

しかし流石にそろそろやめておいた方が良さそうだ。今はまだ下校途中で周りには同じ学生や仕事帰りのサラリーマン。お買い物に向かう主婦等様々な人達が行き交う、言わば外の世界というやつだ。罵声浴びせられなかっただけ良しとしよう。

 

 

 

「んじゃ天音ちゃんの可愛いところが見えたところで急ぐとするか」

 

「ちょ、お兄待ってよ!」

 

「帰るまで競争な。早く家に着いた方の勝ち」

 

「運動でお兄に勝てるわけないじゃん!」

 

 

 

 

別に天音も足遅い部類ではないと思うんだけどな。男の子且つ運動神経が比較的良い俺と比べるのは駄目か。それでも必死に後ろをついて来てるのは褒めてやろう。帰ったら保管してるデザートでもあげるかな。

 

 

 

 

 

 

-藤咲宅-

 

 

 

 

「ただいま〜」

 

「......はぁ、やっと着いた」

 

 

 

途中歩いてる時間もあったが急いだお陰でかなり早く到着した。肩で息をする天音に対してピンピンの俺。まぁ最後の方は早歩きで天音の横を補助しながら帰ってたんだけどね。愚痴愚痴言いながらも頑張ってた天音。何処となくしのぶに似てたのは気の所為だろうか。

 

 

 

「ん?お客さん?」

 

「知らない靴が二つあるね」

 

「親父のも無い、からと言って居ないわけじゃないんだったな」

 

 

 

昨日の様に不意を突かれないように注意して進もう。本当にお客さんが居るのなら親父もうるさくはしないだろうけど。というかまず親父は居なくても良いんだけどさ。暑苦しいだけだし。

 

 

 

「あら、帰ってたのなら早く入りなさい」

 

「お母さん誰か来てるの?」

 

「そうね、二人に会わせたくてお家に呼んじゃったの」

 

「てことは俺と天音の知り合いか」

 

 

 

余程俺達に早く会わせたいのか、二人共の背中を押してリビングへと向かわせる母さん。だがしかし、先にやらなければならないのは手洗いうがい。母さんを先にリビングに向かわせて、俺と天音は二人洗面所へ歩いて行き順番に済ませる。みんなもちゃんと手洗いうがいしようね。

 

 

 

「さてと、鬼が出るか蛇が出るか」

 

「お兄失礼だよ」

 

「ここまでさせといて親父とかいうオチは勘弁願いたい」

 

「流石にそれは私も嫌だよ」

 

 

 

 

若干ワクワクしながらも二人でリビングへ向かう。先程も言った通り、俺としちゃ親父以外なら良いんだけどね。昨日みたいに何処に潜んでるか分かったもんじゃないからな。襲いかかってきても対処出来る様に準備しておく必要がありそうだ。

 

 

 

 

そして、ドアを開けて俺達に会わせたかったお客様とご対面する。

 

 

 

 

「やぁ絢斗君に天音ちゃん。元気にしてたかい」

 

「......もしかして姫神さん?」

 

「随分と久しぶりかな」

 

「え、マジか」

 

 

 

 

この人の名前は姫神紗乃。愛莉さんと同じく母さんや親父が仕事で忙しかった頃に面倒を見てくれた人で、俺と天音が顔の上がらなかったり足を向けて寝れなかったりする人物その2だ。というかマジで久しぶりだな。会うの何年振りだろうか。仕事が忙しいって母さんから聞いてからだから1年か2年振りくらいか。それにしても相変わらず綺麗だなこの人は。勿論愛莉さんも綺麗な人なんだけどさ。

 

 

 

「今日は朝早くからお仕事行ってたでしょ?それは紗乃にお呼ばれしたからなのよ」

 

「一緒に行ってた親父は何処にいったんだよ」

 

「士郎さんはまだ事務所でお仕事中だよ」

 

「暇だったからお家に呼んじゃった♪」

 

「時間も少々余裕があったし久しぶりにと思ってね」

 

 

 

呼んじゃった、とか言って何気に一番ウキウキしてる母さん。親父を置き去りにして自分は家でお茶するとか俺の母さんヤバすぎるな。でも姫神さんが母さんや親父を呼んだって事は、やっぱり何か仕事を頼むのだろうか。それで母さんウキウキしてるのかもな。昔の全盛期の頃の秘蔵映像見てる限りだと、母さんは親父と仕事してる時は凄い生き生きしてたしな。

 

 

 

 

ともあれウチの親の話は置いといて。知らない靴の一つはお世話になった姫神さんで......もう一つの正体がさっきから俺の事ずっと見つめてきてるんだが。それこそリビングに入った瞬間からずっとだな。

 

 

 

 

「それで、姫神さんの隣の子はもしかしてお子さんですか」

 

「絢斗君も面白い冗談を言えるようになったんだね」

 

「さっきからずっと見られてて恥ずかしいんですけど」

 

「あぁ、その子はね─」

 

「黒那さん、私から説明します」

 

 

 

何かを言おうとした母さんを遮って姫神さんは椅子から立ち上がる。同時に隣に座ってた子も姫神さんに習って姿勢良く立ち上がってお辞儀する。何かどっかで見たことあるような気がするんだが。

 

 

 

「この子の名前は出雲咲姫。この子には黒那さんの指導を受けてもらおうと思って連れてきた」

 

「母さんの指導?」

 

「そうよ、それで今朝早くから事務所に行ってたの」

 

「もしかしてPhotonMaidenの出雲咲姫さんですか?」

 

「はい」

 

 

 

あー、何か今朝教室でそんな事話してた人がいた気がする。てことはPhotonMaidenていうユニットのプロデュースが今の姫神さんの仕事って感じか。それで母さんや親父に仕事を依頼してきたと。段々と話の内容が掴めてきたぞ。

 

 

 

「貴方、不思議な色をしてる」

 

「不思議な色?」

 

「この子は私の可愛い息子の絢斗。それにその隣の可愛い女の子が娘の天音」

 

「貴女は私と同じ色を感じる」

 

「......姫神さん、もしかして咲姫さんって」

 

「あぁ、この子も天音ちゃんや黒那さんと同じく共感覚の持ち主だよ」

 

 

 

 

だから俺や天音の事を色で例えたんだな。というかこの部屋に共感覚持ちが三人いるのはどういう事なのだろうか。まるで共感覚のバーゲンセールじゃないか。でも一口に天音や母さんと同じといっても本当に同じモノなのか。

 

 

 

ここで共感覚についておさらいしておくと、簡単に説明するならば共感覚とは文字や音、それに味や匂いに色や形を感じたりすることの出来る能力みたいなもんだ。複数の共感覚を持つ人がいれば、一つの共感覚しか持たない人だって勿論いる。それぞれ種類は様々で研究が進んだ現代では150種類程が確認されているらしい。天音や母さんは複数の共感覚を持っており、それでいて少し特殊なタイプで人を見ると色が分かったり分からなかったりする。もしかするとこの子もそういったタイプなのかもしれない。

 

 

 

 

 

因みに共感覚の英名はsynesthesia(シナスタジア)。感性間知覚とも言われている。なんかカッコいいよね。

 

 

 

 

「いつもならこんな事ないのに......どうしてだろう?」

 

「ふむ、もしかすると同じ共感覚を持った二人と接触した結果かもしれないな」

 

「言わば共感覚持ち同士の"共鳴"といったところかしら」

 

「お兄そんなことあり得るの?」

 

「俺にそんな科学的な事を聞かれてもさっぱりだ」

 

 

 

当の本人が分からないと言っているのに俺に分かるわけないだろう。しかし、実際のところ気になる部分ではあるな。天音だって共感覚は先天的に持って生まれたものの、人を見て色を感じることが出来るようになったのは小学生になってからだ。もしかするとそれ以前にも見えていたかもしれないが、天音の成長がまだ追いついていなかった説もあるしな。まぁこんなSFめいた話は一旦パスだ。

 

 

 

「それで、母さんに指導してもらう件はどんな感じでまとまってるんですか?」

 

「今すぐに、という話ではないよ。次のPhotonMaidenのMVの撮影に間に合わせる形で黒那さんにはお願いしてるからな」

 

「MVの撮影?」

 

「昨日upしたのだが、絢斗君は見ていないのか?」

 

「私は見たけどね」

 

「おい、お兄ちゃんを悪者みたいな扱いするな妹よ」

 

 

 

 

 

今朝教室が少し騒がしかったのはそのせいだったのか。そこら辺はノーマークだったからな。今度からチェックするようにするか。

 

 

 

「......すまない、少し電話してくる。黒那さん、あとの説明は任せてもよろしいですか?」

 

「大丈夫よ」

 

 

 

 

そう言って姫神さんはリビングを出て行く。部屋に残されたのは俺と共感覚持ちの三人。一人は初対面だしどうなってんだよこれ。一先ず母さんの話でも聞くとするか。

 

 

 

「咲姫ちゃんで良いわよね?」

 

「はい」

 

「咲姫ちゃんは好きな人とかいるのかしら」

 

「ぶっ!!ちょ、何聞いてんだよ母さん!?」

 

「お兄汚い」

 

 

 

 

お仕事の話をするかと思ったら好きな人の話になっている件について問い正したい。初対面の女の子にする話じゃねぇな。母さんは姫神さんと一緒に事務所で仕事の話聞く時に会ってるから初対面って訳じゃないかもだけどさ。この子の事も考えてあげようぜ。

 

 

 

「いえ、あまり話す事が得意ではないので......」

 

「出雲さんも母さんの話に無理矢理合わせなくて大丈夫だからな」

 

「うん」

 

「咲姫ちゃん、絢斗は照れてるから放っといて良いわよ」

 

「そうなの?」

 

「違うからな」

 

 

 

母さんが会話に混ざると一気にやり辛くなるなぁ。親父だと最早話す暇もなく戯れてくるからな。まぁ結局のところ親二人共めんどくさいんだけど。消去法で天音と話すのが一番楽だな。未だにお兄ちゃんに毒舌っぽいのが気になるが。というか天音から見える出雲さんはどのような色をしているのか少し疑問だ。

 

 

 

「天音、出雲さんはどんな感じなんだ」

 

「んー......よく分かんないけど雪?というか澄んだ空みたいな。とにかく綺麗な白のイメージかな」

 

「貴女も綺麗な色をしてる」

 

「天音で良いですよ咲姫さん」

 

 

 

 

俺やピキピキメンツ以外に天音が普通に話せてるところを見るのはいつ振りだろうか。多分だけど、天音と同じく共感覚を持つ出雲さんだからこそなのだろう。直感的に、本能的に大丈夫だと。この人なら安心するとかそういった類のものなのかもしれない。願わくば今後も天音と良い関係を築いて欲しいものだ。

 

 

 

「お母さんは咲姫ちゃんが天使に見えるかな」

 

「いや、共感覚関係ないだろそれ」

 

「だって咲姫ちゃん可愛いんだもの」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「出雲さんも律儀に合わせなくて良いってば」

 

 

 

少し顔を赤くしてるのは気のせいにしておこう。出雲さん元々肌が白くて綺麗だから尚のこと分かりやすいな。そろそろ姫神さん戻ってきて欲しいんだけど。

 

 

「......」ジ-ッ

 

「どした」

 

「絢斗君」

 

「お、おう。いきなり名前呼んでどうした出雲さん」

 

 

 

昼間に由香にも詰め寄られたから分かるけど、何で女の子ってこんなに良い匂いすんの?というか何で最近出会った女の子全員レベル高いんだよ。いやそもそもの話、何故に出会うのが女の子ばかりなのか。この先女の子にしか出会えない呪いにでもかかったのだろうか。早いとこ教会に行って呪い解いてもらうしかないかな。

 

 

 

「咲姫」

 

「出雲さんの名前?それはさっき聞いたけど」

 

「違うの。咲姫って呼んで」

 

 

 

そういうことか。最近の女の子は出会ったばかりの男の子を名前呼びするのが普通なのか。絵空や由香は比較的早かったが、しのぶに今ぐらい気を許してもらうのにどれだけ時間が掛かったことか。最初なんて警戒されっぱなしだったからな。

 

 

 

「いや、いきなりはちょっと」

 

「呼んで」

 

「はい。咲姫さん」

 

「さんはいらない」

 

「......咲姫。これで良いだろ、取り敢えず離れてくれ」

 

「あっ......ご、ごめんなさい」///

 

 

 

この子案外頑固なところあるんだな。まぁ段々と体ごと近付いてたのには気付いてなかったっぽいけど。またしても顔を赤くして俯く出雲さん、じゃなくて咲姫。その様子を見てニヤニヤしている母さんと天音。こんなところ親父にでも見つかったら一生弄られるに違いない。今日親父居なくてマジでラッキーだった。

 

 

 

「絢斗、咲姫ちゃんを大切にするのよ」

 

「お兄幸せに」

 

「おい待て身内。誤解しか生まない言い方はやめろ」

 

「......そろそろ話し合いは終わったかね」

 

「ひ、姫神さん?戻ってたなら先に声掛けて下さいよ」

 

「何やら面白そうだったので見学させてもらったよ」

 

 

 

姫神さんが戻ってきてからは打って変わって仕事の話に戻り、どのような日程で進めて行くのか大まかに決まったとのこと。どうやら先程の電話の相手が親父だったらしく、未だに事務所で打ち合わせをしているということのなので帰ってこないで欲しい。

 

 

 

話が一通り終わると時刻が8時を過ぎてちょっと。姫神さんは相変わらず仕事が残っていると言って事務所へ帰る支度を始める。そしてもう一人の客人であった咲姫はというと、母さんと天音の提案により夕飯をウチで食べることになってしまった。まぁ大半は母さんのゴリ押しに咲姫が根負けしたみたいなもんだけどな。

 

 

 

 

「本当に良いの?」

 

「俺に聞かれてもな。咲姫のしたいようにすれば良いんじゃないか」

 

「私のしたいように?」

 

「おうよ。DJだって咲姫がやりたいと思ったから始めたんだろ?自分の気持ちに嘘ついてまで隠す必要もないだろ」

 

 

 

それらしい言葉を咲姫に投げかけるが、当の本人である俺が嘘つくことなんてザラにあるんだけどね。だって人間だもん。仕方ないよ。でもほとんどの場合親父とか限定だから許して欲しい。

 

 

 

「......うん、分かった」

 

「んじゃ手洗って夕飯にするか」

 

「ふふ、絢斗君は優しいね」

 

「"女の子には優しく、親父には厳しく"がウチの家訓だからな」

 

 

 

俺が危惧してるのはこの事が変にピキピキメンツに伝わらないかだけだ。愛本さんの件だけでもめんどくさかったのに、今回も同じようになると身が持たない。

 

 

 

 

神様、頼みますんでややこしいことになりませんように。

 

 

 

 

 

 

 

Next→

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





主、モンハンほぼ全シリーズプレイ済
      ↓
グルミクまさかのモンハンコラボ
      ↓
10連でキリン咲姫&バンギス衣舞紀お迎え
      ↓
一人部屋で寂しくガッツポーズ

今回のコラボ報酬滅茶苦茶良いんで、暇あれば一発だけでも殴っときましょうね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#6 修羅場の抜け方を教えて下さい


☆10 イーディス好き増えて様

新しく評価して下さりありがとうございます!

アニメもモンハンイベントも終わってしまいましたな。
次はぷっちみくですかね。可愛いので早く見たいです。

感想、評価の方もどんどんお待ちしております。


 

 

 

 

 

 

 

 

気持ちの良い朝とは。

 

 

 

 

 

動物や植物、或いは菌類や藻類等ほとんどの生物には"概日リズム"というものがあり、簡単に説明すると体温や様々なホルモン分泌等を体内で調整している言わば体内時計のようなものだ。その概日リズムとらは25時間周期で動いており、地球の1日の時間である24時間とは少しズレが生じてしまう。そのズレを調整するのが日光の役割だったりする。毎朝、日光を浴びるとリズムが整い質の良い睡眠が取れるようになったりと良い事づくしだとさ。

 

 

 

「あ〜や〜とぉ!!」

 

「まだアラーム鳴ってないだろ......」

 

 

 

因みにお婆ちゃんの知恵袋的な話をもう一つするならば、朝起きたら冷めたい水を一杯飲むのが良いらしい。というのも冷たい水を飲むことによって新陳代謝を高めて眠気を覚まし、一日のやる気を与えてくれる事が研究で明らかになっているだとか。まぁ考えてみりゃ人間の身体の約60%程度は水だからな。水分補給、大事。

 

 

 

「早く起きないとラリアットするぞぉ!!」ドゴォ

 

「がはっ!!......言ってる事とやってる事が違うんだが」

 

「それはお前が起きないからだ」

 

「朝くらいゆっくりさせてくれ」

 

 

 

するぞって言った1秒後に食らったし。しかもラリアットじゃなくてエルボーだったから。普通に痛いしなんなら怪我するレベルだったし。

 

 

 

昨日の姫神さん&咲姫の来客により、DJクロとDJシロである両親に仕事の依頼が舞い込んだ。それは現在世間様で話題沸騰中のPhotonMaidenのDJである出雲咲姫並びに他メンバーへの指導。DJである母さんや親父が他のメンバーに何を教えるかは分からん。帰り際の姫神さんの"他のメンバーの件もお願いします"の一言だけしか聞けなかったし。というか姫神さんが帰った後もめんどくさかったんだからな。母さんと天音による咲姫への質問攻め。それを避けるかの如く俺に助けを求める咲姫。助けを求めてくれるのは良いが、一々俺の腕にしがみつかなくてもいいと思うの。

 

 

 

「母さんが朝食作って待ってるぞ」

 

「着替えてすぐ行く」

 

「それで昨日咲姫ちゃんとは─」

 

「母さん親父が虐めてくる〜」

 

「ちょ、おい卑怯だぞ絢斗!か、母さん?俺を信じてくれるよな!?」

 

 

 

すぐに駆け付けてくれた母さんによって親父は下へ連れて行かれた。親父に咲姫の話題について聞かれるのも面倒だったので母さんに任せよう。パジャマからハンガーに掛けてある制服へと着替え終わったタイミングでアラームが鳴る。親父のせいで早起きする羽目になったな。

 

 

 

「はよ〜」

 

「おはよお兄」

 

「お、珍しく天音が俺より早いな」

 

「お父さんが起こしに来ると思ったから予めアラーム早めにセットしといた」

 

「俺もそうするべきだったな」モグモグ

 

 

 

でも親父が帰ってきたのなんか俺と母さんが咲姫を送って帰ってから1時間後くらいだぞ。それから飯食って風呂入って寝てもそんなに睡眠時間無いと思うんだが。まぁ筋肉おバカの親父の事だから早起きなんかお手の物なのだろう。というか仕事の関係もあって、親父が遅くまで寝てたところなんか見たことないけどな。

 

 

 

「お兄今日は響子さん来ないの?」ワクワク

 

「お前本当に響子の事好きだよな」

 

「当たり前じゃん」

 

「そう言うと思って昨日の夜誘っといた」

 

「返事は?」

 

「アイツが無理って言ったことあるか?」

 

 

 

それを聞くと天音は小さくガッツポーズをする。いやまぁ用事とかあれば普通に断られるんだけどね。基本的に誘うとok貰えるから大丈夫よ天音ちゃん。時間的にももう少しで来るし。早く朝飯食わないと待たせることになりかねんな。そうなると天音がオコだから気を付けようね。誰に言ってんだよ俺。

 

 

 

「ねぇお兄」

 

「どした」

 

「咲姫さん達の件でお母さん達忙しいんだよね?」

 

「まぁ仕事だから仕方ないだろ」

 

 

 

俺達が昨日姫神さんや咲姫と楽しくお話してた間、親父はせっせこ仕事内容の確認やら何やらしてたらしい。帰ってきた時にはゲッソリした顔してたけどな。母さんは親父が頭使ったり会議とか打ち合わせするの苦手なの知ってるはずなのに。母さんのスパルタっぷりが俺達兄妹に向けられなくて本当に良かった。

 

 

 

「でもお母さん達楽しそうにしてたよ」

 

「久し振りに二人一緒に仕事出来るからじゃないか」

 

「そういうモンなの?」

 

「多分な。まぁお前も好きな男の子とか出来りゃ少しは理解出来るかもな」

 

「別に必要ないけどね」

 

 

 

またまたこの子は強がっちゃって。ほんの少し前に響子の話しただけで嬉しそうにしてたクセに。......いや待てよ。もし仮に天音に好きな異性が出来たと仮定しよう。そう、もし仮にだ。だとすれば、今の響子へ向けられているものがそのまま好きな子に向けられかねない。......うん、駄目だなこりゃ。想像もつかないし当の本人にも難ありだしな。妹が響子離れ出来るか不安になってきたお兄ちゃんです。

 

 

 

「取り敢えず今は天音の大好きな響子の為にも早く準備するかね」

 

「お兄ウザイ」

 

「ねぇ何でお兄ちゃん罵倒されたの?」

 

 

 

 

お兄ちゃんそろそろ本気で泣いちゃうかもよ。いや天音が本気で言ってるんじゃないのは分かってるんだけどね。え、本気じゃないよね?本気だったらお兄ちゃん泣くの通り越して病んじゃうよ。

 

 

 

 

というか何でこんなにシスコンっぽくなってんだ俺は。どうも天音相手だと本音がダダ漏れするから気を付けないとな。知らない人からすれば、お節介焼きの妹好きお兄ちゃんにも捉えられかねないから。そんなことになれば本格的に終わりかもな。

 

 

 

 

 

 

~陽葉学園~

 

 

 

 

「そう言えば絢斗、昨日は天音ちゃんと二人で帰ったみたいだけど何かあったの?」

 

「ん?別に何もねぇな。母さんに買い物頼まれたくらいか」

 

「ちょっとお兄」

「今は俺に合わせろ。響子達にはまだ内緒だ」

「どうしてよ。お母さん達の事知ってるんだから良くない?」

「良いから」

 

 

 

 

時間通りウチに来た響子と一緒に登校中、昨日俺達二人で帰った事に疑問を持ったのか響子は探りを入れてくる。探り、という表現は響子に悪いか。多分純粋な疑問なんだろうな。だがしかし、ここで響子に昨日の出来事が伝わるとピキピキに伝染しかねん。絵空なんて何処で聞き耳立ててるか分かんないからな。噂話なんて音速で広がるし。ここは天音には悪いが合わせてもらおう。

 

 

 

「言ってくれたら付き合ったのに」

 

「いやいや、響子達は練習とか色々あるだろ。そうだよな天音?」

 

「ウン、ワタシタチナンテホットイテイイデスヨ」

 

「......やっぱり何かあった?」

 

 

 

 

チクショウ!!俺の妹使えねぇ!!まさか響子相手だと嘘つけないとか?平均的にスペック高い天音がこんなにも使えないとは。というか何で片言になってんだよ。お陰で物凄い怪しんでるわ。

 

 

 

「実は天音は時々片言でしか話せなくなる病気なんだ」

 

「ちょ、何でお兄嘘つくの」

 

「秒でネタバラシするなよ」

 

「やっぱ響子さんには嘘つけないよ」

 

「いや、さっきの片言さえ無けりゃいけてたわ」

 

 

 

もう響子云々ではなく普通に兄妹の素の言い合いに発展してしまった。俺相手だと容赦無く言い返してくるのに、響子相手だと一瞬で固まりやがって。何だよいきなり片言って。今時の芸人でもそんなおもしろ要素取り入れてないぞ。

 

 

 

「はぁ......まぁ話したくなるまで待つよ」

 

「悪いな響子。また後日改めて─」

 

「あれ、絢斗君?」

 

「......さ、咲姫?」

 

 

 

 

しかし、兄妹の言い合いなんてしてる場合じゃなくなってしまった。まさかまさかの最悪のタイミングで咲姫と遭遇。響子は笑顔でこっち見つめてるし、天音なんか展開を悟って響子側に寝返りやがった。全てはお兄ちゃんが悪いんですってか?いいや、これは少々空気が読めなかった咲姫が悪いと思います。よって俺は全然悪くない。

 

 

 

「用事思い出したからトイレに─」

 

「ごめんね、ちょっとお話聞いても良いかな?」ガシッ

 

「良いですけど......」

 

「き、響子さん?咲姫と話すなら俺は要らないのでは?」

 

「天音ちゃんは中等部に行っておいで」

 

「は、はい!それじゃまた放課後!」ビュ-ン

 

 

 

 

アイツ今まで見たことない速さで中等部に向かって走っていきやがった。そろそろ響子に掴まれてる腕が悲鳴あげそう。咲姫よ、心配そうな目で俺を見るな。そう思うのなら次からはちゃんと空気読んで欲しい。昔はKYとか言われていじめられることもあったんだからね。

 

 

 

「時間もあるし中庭にでも行こっか」

 

「......はい」

 

 

 

 

普段は滅多に怒らない響子だが、こうなってしまうと俺でも手の付けようがないので注意。というか女の子を怒らせると良くないね。良い子のみんなは女の子には優しくしようね。それがモテモテになる秘訣だぞ。おかしいな、俺とかメチャクチャ優しいはずなのに。

 

 

 

 

響子に腕を引っ張られながらも中庭へ到着。その後ろをテクテクとついて歩く咲姫。あの〜、君のせいで響子さん絶賛怒り心頭中なのだがそこんとこどう思ってる?いや咲姫が何かしたわけではないけども。タイミングの問題よ。最近は空気読めないと仲間入れてくれないってお兄さん聞いたよ。咲姫はそこから勉強すべきだと思う。まぁ俺も大概で空気は読めんけどな。もういっその事空気と仲良くしてた方が良いんじゃないか説が出てるくらいだ。

 

 

 

 

「説明してくれるよね、絢斗?」

 

「勿論でございます」

 

「......?」

 

 

 

一人頭の中で変な事考えてる場合じゃねぇ。今はどうにかして響子を落ち着かせるのが先決だな。このままだとマジで俺の立場が無くなる。タダでさえウチの家内カースト第三位なのに。学校やピキピキメンツ内でも危うくなると行き場も無くなっちゃう。因みに家内カースト一位が母さんで最下位が親父。

 

 

 

「こいつの名前は出雲咲姫。......昨日久しぶりに会った遠い親戚だ」

 

「嘘ついてるね」

 

「な、何でそんなこと分かるんだよ」

 

「自分で気付いてないかもだけど、絢斗が嘘つく時は目線が斜め下にいくんだよ」

 

「......マジ?」

 

「何年幼馴染やってると思ってるの」

 

 

 

 

ということは、今までの嘘も全て響子にはお見通しだったわけだ。天音が間違えて響子用のプリン食べた時に俺が嘘ついて自分で食べたって言ったのも、響子に持ってくるよう頼まれてた物を天音が忘れた時に俺のせいにしたのもバレてたのか。やべぇマジで恥ずかしくなってきた。ていうか分かってたなら先に言えよそれ。まぁ癖みたいなもんだからすぐに直せるわけではないと思うけども。

 

 

 

「絢斗君、私が説明するよ」

 

「その方が良さそうだな」

 

「咲姫ちゃんだっけ?まず絢斗とはいつ知り合ったの?」

 

「咲姫で良い。絢斗君とは昨日会ったばかり」

 

「昨日?昨日は確か天音ちゃんと帰ったんだよね?」

 

「それが咲姫と関係してたんだよ」

 

 

 

 

それからは咲姫が順序良く響子に説明していった。まぁ俺の両親の事を知ってる響子になら教えても然程問題はないだろう。響子も仕事の話ならと納得してくれたみたいだし。これで一件落着だな。

 

 

 

「ピキピキの練習の件は大丈夫なの?黒那さん忙しくなるんじゃない?」

 

「日程聞いたけど今週土日は大丈夫らしいぞ」

 

「迷惑だった?」

 

「咲姫は悪くないよ。それに仕事の話なら私達の方が迷惑になるかもしれないし」

 

「響子も悪くないだろ。というか母さんは絶対やるって張り切ってたから、是が非でも土日やると思うけどな」

 

 

 

最早一番乗り気なのはウチの母さんなのかもしれない。次点で天音。次に俺。親父に関してはピキピキにはあまり近付けたくないのでランキング外。そもそもの話、母さんがフォトンの仕事の半分以上を親父に押し付けてるからな。ピキピキの練習なんて見てる余裕ないと思われる。でも筋肉バカなだけあって絵空とか由香、それに響子達のダンスを時々考えてくれてるのも親父なんだよなぁ。ダンスの練習動画だけでも送ってやるとするか。

 

 

 

キ-ンコ-ンカ-ンコ-ン

 

 

「お、5分前のチャイムだな」

 

「そろそろ戻らないとヤバいね」

 

「咲姫、分かってると思うがあんまり俺の母さんや親父の事は言いふらさないでくれ」

 

「......?どうして?」

 

「はぁ......ちょっと見てろよ」

 

 

 

 

可愛らしく小首を傾けて不思議な顔をする咲姫。これには響子も苦笑いするしかなかったみたいだな。良くも悪くもここは陽葉学園というDJが盛んな学校だ。それ故の弊害が発生するのも仕方のないものだが......この子本当に分かってないらしい。

 

 

 

「いきなりで悪い。DJクロとDJシロって─」

 

「貴方もDJクロ&DJシロのファン!?私には分かるわ!だって私もファンだもの!貴方にはクロとシロに対する人一倍の想いを感じる!さぁ!私と一緒にクロとシロについて語り尽くしましょう!!」

 

「いや、さっき5分前のチャイム鳴ったし駄目だろ」

 

「あら残念ね。また語りたくなったらいつでも来てね」

 

「遠慮しとく」

 

 

 

 

通りすがりの生徒に適当に声を掛けただけでこの有様。さっきの奴は少し過剰な気もするが一旦スルーの方向で。ご覧の通り、クロとシロについては全生徒に認知されていると言っても過言ではないレベルなのだ。DJクロ&DJシロ愛好会なんてものも存在するレベルだ。正直言って子供の俺からすれば気持ち悪いレベルなのだが、それに加えて俺が子供なのがバレでもすれば大変なことになる。そういう理由もあって、ピキピキメンツにすら教えてなかったのだ。別に誰かに言いふらすような奴らじゃないのは分かってるんだけどな。

 

 

 

 

「これで分かったか?」

 

「うん、絢斗君のお母さんとお父さんは凄い人」

 

「だからそれを言うのやめてねって言ったんだが......」

 

「あ......ごめんなさい」

 

「まぁそういう事だから気を付けてな」

 

 

 

咲姫とかちょっと天然入ってそうだから尚更心配なんだよなぁ。母さんや姫神さんからも気を付けるように釘を刺しといてもらわないと駄目か。中等部の頃に響子から"いっその事オープンにすれば?"とも言われたが、流石に俺の性格や天音の事もあって無理だったな。まぁ最悪俺だけに被害が出るなら良かったんだけどな。天音と俺が兄妹なのは調べれば分かることだ。出来る限り天音に被害が及ぶ可能性の芽は摘みたいのがお兄ちゃん的な考えだ。もう本当に良いお兄ちゃんで自分でも泣けてくる。

 

 

 

 

「んじゃ教室戻りますかね」

 

「うん」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「まずは何枚かプリント配るぞ〜」

 

 

 

 

咲姫とは別れて現在は自分のクラス。SHR中でまたもやボランティアの紙やリミコン関係の紙を配られる。いい加減全員に配るのやめた方が良いと思います。だってこれ集まってるところ見たことないし。各クラスに一枚ずつとかで良いんじゃないですかね。

 

 

 

「次に連絡事項だな」

 

「先生、リミコンの紙が一枚足りません」

「じゃあ後で印刷して持ってくるから」

「はーい」

 

 

 

どうやら俺の横の列の枚数が足りなかったらしく、担任が後でわざわざ印刷して持ってきてくれるらしい。まぁ確かにリミコンの紙にはイチオシDJとか課題曲とか色々書いてあるけども。毎度印刷するの面倒だしお金も無駄な気がするんだけどな。あ、因みにイチオシDJの欄には我らがピキピキのDJクノイチことしのぶが毎回選ばれている。本人はこれも当たり前じゃんみたいな感じで言ってるが、裏で頑張ってるのを俺達は知ってるからな。響子とか絵空が毎回それでしのぶのこと弄ってるし。

 

 

 

「あ、忘れてた。藤咲はこの後職員室に来るように」

 

「......え、俺?」

 

「お前以外に誰がいるんだよ」

 

「俺なにかやらかしました?」

 

 

 

 

時間厳守で職員室に来るように忠告されてしまった。みんなの前では言えないようなことだろうか。直近で変な事やらかした自覚はないんだが。響子も少し不思議そうな顔してるしな。また厄介ごとにならなければ良いんだけど。

 

 

 

 

「それじゃあSHR終わるぞ〜」

 

 

 

 

 

~職員室~

 

 

 

 

 

SHRが終わり、不安に思ったのか響子が一番早く声を掛けてきた。そこには今朝の様な怒りや疑いの表情は無く、ただ純粋に俺の事を心配してくれている様な気がした。母さんや親父の事が今更学校にバレてもおかしくはないが、それを先生達が言いふらす様にも思えない。んー、駄目ださっぱり分からん。もうストレートに担任に聞くしかないか。

 

 

 

 

「失礼しまーす」

 

「コラ、途中で伸ばさない」

 

「すみませんでした」

 

「藤咲、こっちだ」

 

 

 

 

職員室なんか久しぶりに入ったからなぁ。つい教室感覚で挨拶が伸びてしまった。早々に俺に気付いた担任に呼ばれて個室へと向かう。

 

 

 

「こんな個室にまで呼び出して何するつもりですか」

 

「少し聞きたい事があってな」

 

「まぁ答えられる範囲でなら」

 

「それで良い」

 

 

 

 

担任が先程からソワソワしている様にも見えるが......もしかして、このタイミングで尿意でも催してしまったのだろうか。早くトイレ行ったほうが良いと思いますよ。大人がお漏らしとか常識的にNGですし、目の前でそんなの見たくないんで。

 

 

 

「今朝中庭で藤咲が話し込んでるのを見かけてな」

 

「ああ、まぁ確かに居ましたね」

 

「それでだな。一緒にいた女子生徒の事なんだが......」

 

 

 

一緒に、ということは響子と咲姫の事だろう。その二人に何か用事なのだろうか。それなら二人を呼び出せば良いものを。まぁ流石に個室に女子生徒と二人きりとはいかないだろうからな。でも、だからって俺を代わりにするのはどうかと思いますね。

 

 

 

「響子に何か用事ですか?」

 

「いや、山手ではないな。その、もう一人の生徒はもしかして出雲咲姫......だったりするのか?」

 

「ええ、まぁそうですけど。というか先生達なら知ってるんじゃないですか?PhotonMaidenのメンバーですよ?」

 

 

 

 

とか言う俺も、昨日まで全然知らなかったんだけどな。天音はMVとか見てたらしいけど。他のグループならまだしも実際にメンバーに会ったり、母さんや親父の仕事関係ともなると聞いておくに越した事はないだろうからな。それに全然聞かなかったら咲姫に何か言われそうだし。アイツ案外頑固なところあるからな。

 

 

 

「勿論知っている!というか私はフォトンのファンなんだぞ藤咲!舐めてもらっては困る」

 

「いや別にそういうつもりで言った訳じゃないんですけどね」

 

「それよりだ。何故藤咲が咲姫ちゃんと仲良く話してたんだ!?」

 

「おい担任教師落ち着け。さっきまでと人が変わったみたいで怖いから。それと呼び方。咲姫ちゃんになってるぞ」

 

「咲姫ちゃんは咲姫ちゃんだろうが!」

 

「他の人の前ではやめた方が良いですよそれ」

 

 

 

自分のクラスの担任が恐ろしいほどにフォトンのファンだった件について。いきなり熱弁されても困るんだが。咲姫にはこの人に気を付けろって言っといた方が良さそうだな。流石に咲姫本人に何かする事はないだろうけど。

 

 

 

「今朝偶然会って仲良くなったんですよ」

 

「それにしては少し重苦しい雰囲気だった気がするが?」

 

「まぁそれに関しては色々あるんですよ」

 

「お前......もしかして咲姫ちゃんに何かしたのか!?」

 

「んなわけないでしょ。というか時間大丈夫ですか?」

 

 

 

時計を見ると、既に1時間目の予鈴のチャイム寸前。ここから教室までは歩いて数分といったところか。そろそろ帰してもらわないと遅刻するんだけどな。まぁこの場合は担任の所為って事で言い訳出来るから良いけどさ。

 

 

 

「そ、そうだな。一旦この話は置いておこう」

 

「出来ればこれで終わりにしてほしいんですけどね」

 

「藤咲、お前に特別な任務を与える」

 

「嫌です」

 

「まだ何も言ってないんだが......」

 

 

 

どうせこういう時はロクでもない事を言われると相場が決まってるんだ。それなら二つ返事で却下するのが当たり前だと思います。ただでさえ面倒な事に巻き込まれるのが多いんだから勘弁してほしい。

 

 

 

「まぁフォトンの話が聞けたら先生にも話してあげますよ」

 

「ほ、本当か!?藤咲、お前実は良い奴だったんだな!結構見直したぞ!」

 

「これくらいで見直すんですか。というか前まではどういう風に思われてたんですかね」

 

「リア充爆発しろ、としか言えんな」

 

「完璧に私怨じゃないですかそれ」

 

 

 

 

その後、何故か熱い握手を交わした俺と担任。俺の方も担任については少し見直したことがある。それは我がクラスの担任はフォトンのガチだということ。それはそれは熱く語るのでやや止めにくかったが、生憎と1時間目の授業が目の前に迫ってきていたのでお開きとなった。本当にこれで終わりにしてほしいもんだな。

 

 

 

 

 

Next→

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





コラボガチャ響子だけ引けなかった......
推しキャラだけ引けないの、あるあるだと思うのは私だけでしょうか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#7 LovelyでCuteな学園Days


前回に引き続き日常回でございまする。

感想、評価等お待ちしておりまする。

それでは、ごゆるりとご覧くだされ。


 

 

 

 

 

 

『ありがとうございました』

 

「次までに課題終わらせておくように」

 

 

 

 

本日4時間目の授業も何事もなく終わりを迎え、終了の号令と共に各々待ちに待った昼休みが始まる。ある者は購買へ行ってパンを買い、またある者は友達と一緒にワイワイ楽しくお弁当を食べる。俺はどっちかと言うと後者に当てはまるが、時間が無くて弁当作れなかった日は購買だから結局どっちもだな。

 

 

 

 

この日も相変わらずピキピキのメンツとお昼ご飯の予定だったので、終わり次第弁当を持って中庭へと向かう。その足取りが妙に軽いのは、きっとお昼ご飯が待ち遠しいからだと思う。決してピキピキメンツと早く会いたいとかそういうのじゃない。男の子のツンデレって需要ある?というか俺自身そんなキャラじゃねぇしな。男の娘とかなら話は別だけど。

 

 

 

 

「お待たせ......って、絵空どうしたんだ?」

 

「いつものだから気にしないで大丈夫だと思うよ」

 

「ああ、そういうことね」

 

 

 

 

明らかに一人だけうなだれているのが分かる。由香が"いつもの"と言ったが、そんなに頻発するものでもないはずだけどね。こうしてる間にも、絵空は机に突っ伏して"ん〜"とか"あ〜"とか、声にならない声を出してだらしなくしている。

 

 

 

この状態の絵空は俺達からすれば然程貴重なものでもないのだが、多分他の奴らからすると秘蔵映像並みのものだろう。この状態はラブリー欠乏症(命名俺)といい、ラブリーが生きる源の絵空にとってエネルギー不足の状態を指し示す。まぁこの状態の絵空も案外可愛いから俺は好きなんだけどな。

 

 

 

「しのぶはまたゲームしてんのか?」

 

「ん、今日から新イベント始まるからね。アンタもやらないと報酬ゲット出来ないよ」

 

「え、マジ?それを先に言ってくれ。俺もやる」

 

「二人共食べる時は携帯触るのやめなよ」

 

 

 

響子に注意されるが正直今は従えないのが本音。このゲーム、最近になって俺としのぶはやり始めたのだが案外面白くてハマってしまったのだ。それから二人で時間が合えば一緒にゲームしたりと楽しくやっている。前回のイベント順位は僅差でしのぶに負けたから今度こそ勝つんだ。

 

 

 

「おーい!」

 

「そのゲームしのぶと絢斗どっちが強いの?」

 

「ふっ......そんなの言わなくても分かるだろ」

 

「確かにね。アタシが負けるわけないじゃん」

 

「はぁ!?しのぶより俺の方が強いから!」

 

「何言ってんの?アタシの方が強いに決まってるじゃん」

 

「また始まった......」

 

 

 

いやこれだけは譲れない。実はしのぶの方が若干ではあるが先にゲームを始めている。レベルや装備が整っているのは確かにしのぶだが、ゲームとは単にレベルや装備が勝敗を決めるわけではないのだ。PS、所謂プレイヤースキルに関して言えば負けてない。というか別にレベルも装備もそこまで変わったもんじゃないしな。よって俺の勝利。

 

 

「大体アンタのレベル低いじゃん」

「レベル低くても勝てばよかろうなのだよ!」

「はっ、アタシにイベントで勝てたことないクセによく言うよ」

「イベントって言ってもまだ2回だろ!」

「2回だけでも勝ちは勝ちだよ」

 

 

「お〜い、絢斗く〜ん......って、あれ?もしかして取り込み中?」

 

「りんくちゃん?何かあったの?」

 

「うん、絢斗君に渡したい物があったんだけど」

 

「ごめん、もうすぐ終わると思うから座ってて」

 

 

 

 

なんやかんやでしのぶと少し議論を交わした後、気が付けば愛本さんも昼食に混ざっていたので一旦やめにして俺達もお昼ご飯を食べ進める。

 

 

 

 

「それで、愛本さんは今日は何の用事?」

 

「ひつはあやとふんにわたひたいものが」モグモグ

 

「取り敢えず口の中無くなってから話そうな」

 

「......んっ。実は絢斗君に渡したい物があるの!」

 

 

 

ふむ、俺に渡したい物とな。正直皆目検討もつかないのだが、愛本さんの性格を考えればこの先を予想するのはそもそも無理って話だ。まぁ貰えるもんなら貰っておくに越したことはないからな。流石に現金とかなら話は別だけど。傍から見れば俺が現金せびってるみたいで誤解されかねん。

 

 

 

「これあげるね!この前のお礼に!」

 

「......お、おう。ありがとな」

 

「どういたしまして!」

 

「因みに聞くが、これは?」

 

「ん?貝殻だよ?」

 

 

 

可愛らしく首を傾げる愛本さん。いや、見れば貝殻なのは分かるんだけど何故に?この前のお礼ってことは放送室まで案内した時のことか。別にお礼なんて良いのに。そこまでのことしたわけじゃないしな。

 

 

 

「綺麗な貝殻だね」

 

「何処で取ってきたのりんくちゃん?」

 

「前に住んでたところでいーっぱい!」

 

「前に住んでたところ?」

 

「あぁもう、席に居ないと思ったらこんなところに」

 

 

 

 

そこで前に放送室に居た明石さんが登場。どうやら愛本さんとお昼ご飯を食べる約束してたらしいが、愛本さんが勝手にここまで来てたので探していたっぽい。何というか自由気ままというか、それも愛本さんの良いところなのかもしれないが振り回されるのは御免被るといったところか。

 

 

 

それからは新たに明石さんも加えて、まだ聞いたことのない愛本さんの話を沢山してもらった。何でも前に滞在してたのがアフリカの国らしく、ここに来た時にもお弁当を大事そうに抱えていたのだが、向こうでは猿にお弁当を奪われた経験があるのだとか。聞けば聞くほど謎が深まるばかりだったので、途中から聞き流す程度にしておいた。

 

 

 

 

「ふぅ、んじゃそろそろ時間だし教室戻るか」

 

「ごめん、私今日日直だから先に行くね!」

 

「アタシも次の授業発表で当てられてるから」

 

「ん、二人共頑張ってこいよ」

 

 

 

 

由香は日直でしのぶは授業の発表か。確かウチのクラスの5.6時間目は特に何事も無かったはずだから大丈夫だな。

 

 

 

「教室戻りたくないかもぉ」

 

「そういや絵空(ラブリー欠乏症)がいたんだっけ......」

 

「どうするの絢斗」

 

「どうするって言ってもなぁ」

 

 

 

この状態の絵空を教室へ返したところで5.6時間目の授業をまともに受けられるわけもなく、内容が右から左へと受け流されるだけだろう。今回は珍しくお昼休みに発症したのもあって少しめんどくさいな。いつもなら放課後だから、その後すぐにラブリー成分を補充しに行けるのに。

 

 

 

「仕方ない。絵空保健室に連れて行くから響子は先に教室戻ってろ」

 

「分かった」

 

「ほら絵空、保健室に行くぞ」

 

「ん〜、めんどくさい〜」

 

「んなこと言ってもな。中庭にずっと居ると先生に見つかって怒られるぞ」

 

 

 

 

一回昼休み終わってからも駄弁ってたら担任きて怒られた事あるからな。主に俺だけ。だって他の奴ら先に気が付いて逃げてたし。俺だけ教室に帰る支度してたら怒られたんだけどな。まぁ遅くなった俺が一番悪いんだけどね。

 

 

 

「絢斗おんぶして♪」

 

「お前本当は普通に動けるだろ......」

 

「じゃあ私は先に行ってるね」

 

「ん、もし授業遅れたら説明しといてくれると助かる」

 

 

 

 

こうして響子は教室へ向かい、俺と絵空は保健室へと向かった。響子に俺の分の弁当は渡してあるし絵空は今日は購買だったので手持ちはナシだ。問題があるとすれば俺の背中に絵空を背負ってるってことだな。おんぶなんて天音が小さい頃以来してなかったから久し振りだな。にしても女の子って見た目の割には案外軽いのね。少しでも重かったら冗談混じりに言ってやろうかとも思ったが全然そんな事なかったです。柔らかい感触が背中にあるのが凄く気になるが、それは気にしてないフリしておこう。

 

 

 

「絢斗、変なこと考えてるでしょ?」

 

「まぁな。絵空が実は今回演技してる可能性はないのかとか考えてたわ」

 

「もしかしてバレてた?」

 

「知ってるか?本当にラブリー不足の時は、お前異常にお菓子とか甘いもん食べるんだぞ」

 

 

 

まぁこれでも結局は推測の域は出ないんだけどな。これまでのラブリー欠乏症の絵空を見てきて思った事を言っただけだ。今日は購買のパンをちまちま食べてたしな。演技だと思い始めたのも少し前だし。まぁ誰にでも授業をサボりたいと思う気持ちはあるだろう。これで俺も堂々とサボれるってもんだしWin-Winってやつだな。

 

 

 

「ほれ、保健室着いたぞ」

 

「ベッドまで運んで欲しいかなぁ」

 

「はぁ......全く人使いの荒いお嬢様だな」

 

 

 

一応保健室に入る前にノックは3回したが反応は貰えず、絵空を背負っている事も相まって忍びないのだが中へ入らせてもらった。見た感じ保健室の先生が今は不在のようだ。このタイミングで不在なのは少々気掛かりだが良いだろう。さっさと絵空を置いて教室戻らないとな。

 

 

 

「んじゃ教室戻るから」

 

「待ってよ絢斗」

 

「ん?時間も時間だし早く戻りたいんだけど」

 

「一緒に寝ない?」

 

「却下だ。そんなところ先生にでも見つかってみろ。停学やら退学どころの騒ぎじゃなくなるぞ」

 

「ちぇ、絢斗のケチ」

 

 

 

 

何で却下しただけなのに俺がケチ扱い受けなきゃならんのだ。というかそういうの云々より俺のメンタルが持ちそうに無いんで却下だな。ただでさえさっきまでのおんぶで内心ドキドキしてたのに、一緒に寝るとか想像しただけで顔が熱くなるわ。それに絵空だから色々とちょっかいかけてくると思うし。兎にも角にも早く教室戻るんだ。

 

 

 

「また放課後に迎え来てやるから」

 

「じゃあその後も付き合ってもらおうかしら」

 

「買い物でも何でも良いから。取り敢えず大人しくしとけよ」

 

「はーい♪」

 

 

 

 

そして俺は保健室を後にして教室へ向かった......のだが、やっぱり今から戻ってもギリギリか遅れるのは確定してるから5時間目はサボるか。先生に見つからないように屋上にでも行って俺も寝るかな。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

 

「......んぁ、もう終わったのか」

 

 

 

 

屋上でサボってたらサボり仲間が来て楽しく遊んだり、意中の女の子と一緒にラブラブしたりとアニメじみた展開は一切無く5時間目の終わりを迎える。絵空を背負って保健室まで歩いたのが案外効いていたのか、屋上に着いてからはすぐに眠ってしまった。まぁ屋上でサボってる時点で普通の学生ではないかもしれないな。

 

 

 

 

やべぇ、もしかして俺はメチャクチャ青春してるんじゃね?まぁピキピキメンツと一緒にいる時以外は基本ぼっちなんだけどな。悲しきかな、"現実は小説より奇なり"とはよく言ったものだ。アニメだとなんやかんやで友達とか出来るはずなんだけどな。親の能力値が天音に極振りされてる件といい、俺の周りが女の子だらけで友達がほとんどいない件といい、この世界の神様は俺の事を随分と嫌っているらしい。

 

 

 

いや待てよ、むしろ女の子だらけなのは得をしているだけなのでは?という意見も少なからずあるのは認めるが、実際そういう状況になると面倒な事が多くなるのは経験済みだ。修羅場とか目のやり場とか身だしなみとかね。まぁ得をする事が無いわけでもないが。

 

 

 

「......教室戻るか」

 

 

 

 

そんな馬鹿な事を頭の中で考えてる俺に言い聞かせるように独り言を呟きながら教室へ向かった。

 

 

 

「んーっ、もうちょっと......んーっ!!」

 

「......」

 

「はぁ......もうこれで─」

 

「ほい、これで良かったか?」ポチ

 

「あ、絢斗?何でここにいるのよ」

 

 

 

 

教室へ戻る途中で自販機で飲み物を買おうとしてるしのぶに遭遇。どうやら一番上の段のいちごオレを飲みたいらしいが、もう少しのところで手が届かないっぽい。その姿が可愛かったので少し様子を見てたが諦めて下の方のジュースを買おうとしてたので助太刀する。確かここの自販機先週末に中身総入れ替えで上下逆になったんだっけか。

 

 

 

「俺も飲み物欲しくてな。ぶらぶら自販機探してたらしのぶ見つけた」

 

「は、はいこれ。アンタの分」

 

「ん?このいちごオレはしのぶが飲みたかったんじゃないのか?」

 

「別にそんな事ないし」

 

「そうか?だったら貰っとく。んじゃ俺からもこれやるよ」ポチ

 

 

 

しのぶから受け取ったいちごオレと全く同じ物、ではなく一列横のいちごオレを押して購入する。まぁ結局同じ物が出てくるんですけどね。知ってたか、自販機のボタンを両方同時に押すと必ず決まった方の物が出てくるらしいぞ。自販機はそういう制御になってるらしい。実際に試した事無いけど。だって一人で同時押しとか寂し過ぎるだろ。

 

 

 

「あ、ありがとね」

 

「どいたま。それじゃまた放課後」

 

「うん、また放課後」

 

 

 

6時間目始まる前に教室戻って響子にちゃんと先生に伝えたか確認しないとな。伝えてなかったらサボりだと思われるし。いやまぁサボってたのは事実なんだけどな。

 

 

ガラガラ

 

 

「絢斗お帰り」

 

「ん、ちゃんと説明してくれたか?」

 

「勿論。藤咲君は保健室でサボってますってちゃんと言っといたよ」

 

「おい幼馴染。軽い感じで俺のことを売るのやめようか」

 

「冗談だよ。絵空の付き添いで保健室行ってるって説明しといたから」

 

 

 

 

5時間目は確か国語のメンドクサイ先生だった気がするからな。国語科の先生だからなのか、妙に古臭い言葉使って愚痴愚痴言ってくるからな。"貴方には気品の欠片も感じませんわ"とか"私のような大和撫子はあまり居ませんよ"とかな。気品とか生まれてこの方一度も気にした事は無いし、あの40も50も過ぎたオバサンが大和撫子とかちょっと笑える。ほんのちょっとだけな。

 

 

 

 

本来であれば"大和撫子"というのは容姿端麗であり、態度や言葉遣いも綺麗で男性を立てる様な女性の事を指し示す言葉だ。まだ高校生である響子達の方が綺麗に見えるし言葉遣い......に関してはしのぶとかは結構悪かったりするな。でもあれはしのぶ特有の照れ隠しとかだからナシ。素っ気ない感じ出してるけど、響子とか絵空に弄られると照れたりするのは控えめに言って超可愛い。

 

 

 

 

 

 

閑話休題(結論、しのぶは超可愛い)

 

 

 

 

 

 

「絵空の体調どうだった?」

 

「そこそこかな。寝てれば治るだろ」

 

「5時間目はずっと一緒に居たの?」

 

「いんや、絵空保健室に置いて教室戻ろうかと思ったけど怠かったからサボった」

 

「また屋上にでも行ったの?」

 

「ビンゴ。というか何で一発で分かるんだよ」

 

 

 

 

これまでも時々授業サボる時はあったけど、響子達にはサボってる間に時間潰してる場所とかバレてないはずなんだけどな。まぁ場所って一口に言っても屋上か保健室くらいしかないんだが。うろちょろしてると先生に見つかるし、トイレでサボるのはプライド的にNGだし。そもそもサボりにプライドもクソも無かったな。

 

 

 

 

「そういえばさっきりんくちゃん来てたよ」

 

「なして愛本さんがウチのクラスに?」

 

「絢斗って時々訛るよね」

 

「別に普通だろこれぐらい」

 

「せっかくだからって私達にも貝殻くれたの」

 

 

 

 

貝殻って言ったらお昼休みに突然渡されたアレか。というか何個持ってるんだよあの子。貝殻拾ったって言っても普通は2つ3つが限度じゃないか?まぁ確かに綺麗だったけども。あれか、向こうではお金と等しいくらいに価値のあるものだったりするのか。だとするならばタダで貰ったのに罪悪感を覚えるくらいだ。いくらお礼とは言えお金と張り合える価値のある物を貰うのは少し気が引ける。

 

 

 

 

「後でもう一回お礼しに行くか」

 

「うん」

 

「一つ一つ形や色合いが違うんだな」

 

「でもこれで絢斗とお揃いだね」

 

 

 

 

貝殻を持って嬉しそうに笑みを浮かべる響子に一瞬意識を奪われる。......あれ、俺の幼馴染ってこんなに可愛かったっけ。多分これが幼馴染じゃなくて普通の人だったら"君の方が綺麗だよベイビー"とか言って告白して振られてその夜に枕を濡らすんだろうな。自分で言っといてあれだけど気持ち悪いな。

 

 

 

 

国語の先生覚えておいて下さいね。これが本当の大和撫子っていうやつですよ。響子は綺麗だし言葉遣いもそんなに悪くないし、親父とか俺の事も貶す事なく立ててくれるし。あらやだ、こんなにも身近に完璧な大和撫子がいるなんて。というか意識したら顔を直視出来なくなりそうだからやめておこう。

 

 

 

 

「その理論でいくなら貝殻貰った全員とお揃いだけどな」

 

「それでも良いじゃん。なんか仲間って感じする」

 

「青春してんねぇ」

 

「絢斗もその内の一人だからね」

 

 

 

 

嬉しい事を言ってくれるのはありがたいのだが、いかんせんあまり素直に受け取れるような性格を持ち合わせていないので少しむず痒い。こういう事をパッと言えるのは響子らしいのだろう。それに俺だけでなく他のピキピキメンツや天音だって助けられてきた部分は少なくない。

 

 

 

 

「そろそろ始まるから席戻るわ」

 

「今度はサボっちゃ駄目だからね」

 

「分かってるよ」

 

 

 

 

さっき寝たから大丈夫だと思いたい。だが残念ながら次の授業は俺にとって死の宣告も同然の数学。5時間目の国語じゃなくて6時間目の数学サボるべきだったかもな。

 

 

 

 

 

 

~放課後~

 

 

 

 

 

皆さんにとって"心地の良い"という言葉は何を指し示すのだろうか。

 

 

それは人によって様々なものである。ある人にとって心地の良い空間とは、部屋いっぱいにお人形があって囲まれているだとか。また他の人にとって心地の良い食感とは、外はカリッと中はトロトロの食べ物だとか。例に漏れずこの私にもそんな"心地の良い"というものは存在するわけで。

 

 

 

「絢斗〜。もう授業終わってるよ〜」

 

「......んぁ」zzz

 

「これは駄目だね」

「だったらこれならどうかな」ムニュ

「んなっ!?ちょっと由香何してんの!」

「え〜、これぐらいしないと絢斗起きないと思って」

 

 

 

 

ふと鼻腔をくすぐる様な甘い香りが漂ってくる。それと同時に何やら柔らかい感触も。まるでつきたてのお餅の様な柔らかさだが、割としっかりと弾力もある様に思えるそれは、段々と重くのしかかってきていた。だがしかし、悲しきかな男の性よ。これには逆らえないのが本能的に分かってしまう。

 

 

 

 

そう、何故ならこれは紛れもなくおっp──

 

 

 

 

バシンッ!!

 

 

 

「いってぇ!!ちょ!今さっき俺の頭叩いたの誰!?」

 

「ア、アンタが早く起きないからでしょ!」

 

「それにしてももう少しマシな起こし方なかった?」イテテ

 

「フルスイングの方が良かった?」

 

「トンデモゴザイマセン」

 

 

 

 

 

数学の教科書を丸めてバシバシいわせてるしのぶ。こういう時は素直に従っておくのが吉。女の子って怒るとチョー怖いからね(n回目)

 

 

 

しのぶを宥める由香にそれを見て笑う響子。そういえば絵空は保健室だったか。というか結局数学の最後の方でギブアップして寝てたのか。......ふむふむ、周りのメンツを見るにさっきの心地の良い感じの正体は由香だな。にしてもどういう状況だったのか説明を求む。妄想じみたことしてたけど半分寝てた様なもんだから誰か詳細プリーズ。

 

 

 

 

「皆さんの今日のご予定は?」

 

「絢斗こそどうなのよ」

 

「ん〜、後のことは絵空迎えに行ってから考える」

 

「絵空体調は大丈夫?」

 

「5.6時間目保健室だったから大丈夫だろ、知らんけど」

 

 

 

 

由香とかしのぶは真面目に心配してくれてるみたいだが残念だ。絵空の今日のラブリー欠乏症は演技だという事が既に発覚している。まぁ"ベッドで休んでたから大丈夫♪"とか言えば誤魔化せるんだろうけども。秘密にする代わりに、最近家の近くに出来たクレープ屋で絶品と噂のダブルクレープでも奢ってもらうとするか。

 

 

 

 

「てことで俺は絵空迎えに行ってくる」

 

「ついて行こうか?」

 

「いや、響子達は先に帰っててくれ」

 

「何かあったら連絡してねー」

 

 

 

 

そこで三人とは別れて保健室へ向かう。

 

 

 

 

ガラガラ

 

 

「失礼しまーす」

 

「あら、こんな放課後に何か用事?」

 

「絵空......ツインテの可愛らしい子ってまだ居ます?」

 

「向こうのベッドよ。貴方が話に聞いてた彼氏かしら」

 

「誰に聞いたか大体予想がつきますけど間違ってますよ」

 

 

 

 

お昼の時とは違って保健室のドアを開けると、保健の先生が忙しなくPCと睨めっこしていた。いつの間にか俺が絵空の彼氏認定を受けているが、これは多分絵空本人の仕業だろう。保健の先生とかって生徒の相談係も兼任しているのも相まって、そういった話題については生徒達より詳しかったりするんだよな。今回に限って言えば完全に絵空の仕業だけど。大切な事なので2回言いました。

 

 

 

「おーい。絵空迎えに来たぞ〜」

 

「......スヤスヤ」zzz

 

「寝てるんだったら先に帰るわ」

 

「あらおはよう絢斗。来てたのに気付かなかったわ」

 

「それは俺の影が薄いって言いたいのか」

 

 

 

狸寝入りしてたのは見たらすぐ分かったけど反応早すぎません?普通に冗談のつもりだったけど、俺が振り向く前に腕掴まれたんだけど。サラッとディスっぽいこと言うのもやめてほしい。影が薄いのとか若干気にしてるんだからな。圧倒的人気のピキピキの横に並ぶと小物感凄いし。最近は変な方向で悪目立ちしてる気がせんこともないけども。

 

 

 

「それで、体調は良くなったのか?」

 

「もうバッチリよ♪」

 

「だったら一人で帰れるよな」

 

「あぁ急に目眩が......」

 

「お前最早騙す気ゼロだよな」

 

 

 

起き上がってたのにベッドに倒れ込むフリをする絵空。何故かは知らんが体操服に着替えてるのもあってか、今の体勢だと思春期男子高校生には少々刺激が強い。おへそもチラ見えしてるし。多分ワザとなんだろうけど。そこに自動的に視線が向けられるのも仕方ないよね、男の子なんだもん!

 

 

 

「はぁ......しゃーねぇか。ウチの近所のクレープでも食べに行くか?」

 

「おんぶして♪」

 

「それは流石に歩けよ」

 

「絢斗のケチ」

 

 

 

だから何でそれだけでケチ呼ばわりするんだよ。それもう本日2回目なんだけどな。せっかく奢ってやろうと思ってたのに。いやまぁ奢りは奢りで確定なんですけどね。絵空達にお金払わせたりなんかすれば何故か親父が怒るし。響子に至っては天音が払わせた分俺の財布からお金抜き取るし。というか払わせたとか言っても響子が奢るよって言ってくれた時だけなんだよなぁ。理不尽な世界である。

 

 

 

 

「ほら、遅くなると親御さんに悪いから行くぞ」

 

「は〜い」

 

「藤咲君」

 

「ん?」

 

 

 

絵空の手を引いて保健室から出ようという時に先生に引き留められる。別に下校中の買い食いくらい見逃して欲しいんだけどな。お金の貸し借りの件なら自分のは自分のお金で買うって言っとけば大丈夫だし。

 

 

 

「ちゃんとゴムはつけなさいよ」

 

「だから違うっての」

 

「やん♪絢斗は私を何処に連れて行くのかしら?」

 

「うっぜぇ......」

 

 

 

 

 

そんなこんなで陽葉学園での楽しい一日が過ぎ去っていく。最初はピキピキメンツだけだったけど、最近は愛本さんや明石さん、それに直近の出来事だと咲姫達PhotonMaidenの件もあるからな。これからも楽しい日々が過ごせると良いな。

 

 

 

 

 

この日の帰り道、クレープ屋でバッタリ響子達と出会って全員分のクレープを奢ったのはまた別のお話である。

 

 

 

 

 

 

 

Next→

 

 

 

 

 

 

 

 





これを機にR-15もタグに付け加えておきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#8 練習と書いてお泊まり会と読む


☆10 たっつ&みー様 とっかず様
新たに評価して頂き、ありがとうございます!

アプリ、結構ガチなDJが出来るようになるみたいで楽しみですな。




 

 

 

 

 

 

~数日後~

 

 

 

 

「......クソ眠い」

 

「おはよう絢斗ォ!!父さんが直々に起こしに来たぞ!」ガチャ

 

「もう起きてるから帰れ」

 

「ん?珍しく早起きなんだな」

 

「これで早起き認定されるのもちょっと嫌だけどな」

 

 

 

 

色々な事があって楽しかったりしんどかったりした平日が終わり、本日は待ちに待った休日の土曜日。時刻は既に10時を過ぎており、早起きと言うには少し遅い時間だった。だって仕方ないじゃん。昨日の夜もなんやかんやで夜更かししてたし。主にピキピキメンツとの電話対応のせいだけど。なんで一人終わったと思えば違う奴から電話掛かってくるんだよ。なに、もしかしてみんなグルで俺の睡眠時間削る作戦?だったらその作戦は大成功だよチクショウ!

 

 

 

 

「親父は仕事だろ早く行ってこいよ。寧ろ帰ってくんな」

 

「残念ながら父さんは何があっても帰ってくるぞ」

 

「帰ってきても寝室から出れないと思うけどな」

 

「......父さん一応この家の家主なんだが」

 

 

 

 

親父が帰ってくるのはこの際どうでも良いとして、今日から明日にかけての土日はピキピキの練習の予定が入っている。母さんが一番やる気満々で、昨日から夕飯は何にするかとかデザートはフルーツなのかそれ以外にするかとか言い出す始末。頼むから母さんはピキピキの練習内容とか考えといて欲しい。

 

 

 

「響子ちゃん達はお昼から来るんだろう?だったらお前も早く準備しろよ」

 

「言われなくても分かってる」

 

「じゃあ父さんは仕事行ってくるから」

 

 

 

仕事ってことはPhotoMaidenの件で姫神さんのところだろうか?これまでも、親父は仕事内容に関してはあまり話すことが無かったので分からないな。まぁ別に俺が気にすることでもないか。

 

 

 

 

ベッドから出てパジャマから着替えてリビングへと向かう。親父が言った通り響子達はお昼過ぎから家に来る予定だ。それまでに色々と準備を済ませておく必要がある。とは言ったものの、俺がするのはしのぶや由香達のお迎えくらいだな。母さんや天音が他の事はやってくれるので俺は必要無いらしい。響子は少し早めに到着するように家を出るって言ってたから、響子が家に着いてから出ても間に合いそうだな。

 

 

 

 

「ねぇお兄」

 

「ん、なんだよ」

 

「これ変じゃないかな?」

 

 

 

朝飯とも昼飯とも言えない時間だが一応俺的には朝飯なので朝飯にしておこう。母さんが作り置きしてくれていた物を食べている途中で天音に呼ばれたので見てみると、これまた綺麗にお洒落をしているではありませんか。あの天音ちゃん?別に今日はどこかに出掛けたりするんじゃないんだが?という考えが一瞬浮かんだがすぐに端へと追いやる。そういう野暮な事を言ってしまうと天音の機嫌を損ねる原因になるからな。

 

 

 

「良いんじゃないか?響子なら褒めてくれると思うぞ」

 

「本当に?」

 

「ちょっち待ってろよ......ほれこの通り」

 

 

 

 

最早達人のレベルまで昇華されている俺の撮影技術で今の天音の写真を撮って響子へ送る。すると数秒で響子から"可愛いね、何処かお出掛け?"との返事がくる。それを天音に見せると、態度にこそ見せないが嬉しそうな顔は全く隠せていない様子。その後、響子には"お前に見て欲しかったんだとさ"とお兄ちゃんなりのフォローを入れておいた。こういう気配り上手なところは流石お兄ちゃん。しかし、もう一回見せてと天音に言われて見せてからは2.3回ビンタされました。何でなのん?

 

 

 

 

「ったく、少しは加減を覚えて欲しいもんだな」

 

「アンタも着替えなさい。その格好で迎えに行く気じゃないでしょうね」

 

「え、駄目なの?」

 

「駄目」

 

「えぇ......めんどくせぇ」

 

 

 

さっき着替えたはずなのに何故か母さんにもう一度着替えろと言われてしまった。別に今時ジャージで外に出るのなんか普通だと思うんだけどな。天音じゃないが、買い物とか遊びに行くわけでもないんだしさ。これは女の人にしか分からない部分なのだろうか。所謂女心というやつか、難しいな。

 

 

 

「ん〜、どれ着て行くかなぁ」

 

 

 

服やズボンは響子達の付き添いで買い物に行く時のついでに買うので、困らない程度には持っていると言ってもいい。でもファッションとかその辺りに関しては疎いので、大体は絵空とか響子が決めてるんだけどな。まぁ不慣れな俺が選ぶよりバリバリの現役JKが選んだ方がマシなのは火を見るよりも明らかだ。自分で言ってて嫌になるなこれ。もうちょっと気にした方が良いかもしれん。

 

 

 

 

"君に決めた!"と心の中で決め台詞を言いながら、フィーリングで着るものを選んでいく。白のTシャツに黒のストレッチ素材のズボン。そして上に羽織るものを一着適当に選んで再度リビングへ向かう。

 

 

 

「母さん、これで良いのか?」

 

「ちょっと今は忙しいから天音にでも聞いて」

 

「りょーかいっと......天音、今度はお兄ちゃんの見てくれ」

 

「やっぱセンス無いねお兄」

 

「な、なん......だとッ!?」ガクッ

 

 

 

 

即答でセンス無し宣言をされたのでショックで膝から崩れ落ちてしまった。そんなに酷いのか俺の服装選びのセンス。だったら私服登校の学校とかじゃなくて良かったわ。危うく学校生活でも行き場を無くすところだった。あぁ、我が陽葉学園万歳!!

 

 

 

「白Tと黒のスキニーまではok。でも上着で虹色は無い。しかも変に蛍光色で目がチカチカするし」

 

「そ、そうなのか?」

 

「何でこんなの選んだのお兄」

 

「フィーリングだ。あ、ちょっと待って言い直すわ。Feelingだ」

 

「マジで有り得ないし発音良く言い直さなくてもいいし。というか何処で買ったのコレ」

 

「結構前だから覚えてないな」

 

 

 

天音ちゃん、分かってたことだけど結構ボロカスに言うのね。いや良いのよ、お兄ちゃんのセンスが無いのが原因だからな。これを機に勉強しようと思う。だからそんな蛇が獲物見つけた時みたいな目で睨みつけるのはやめてほしいかな。

 

 

 

「仕方ない、私がカッコよくコーデしてあげる!」フンス

 

「お、おう。ありがとさん」

 

 

 

 

 

̶中̶学̶生̶ら̶し̶い̶発̶展̶途̶上̶の̶胸を張ってコーデをすると言い張る天音。そういえば、天音は響子と服とか買いに行く機会が多いからファッションについては詳しいんだった。ここは任せてみるか。

 

 

 

「ん〜、お兄だったらこれかなぁ」

 

「......ちょっとこの体勢キツイんだが」

 

「お兄動かないで」

 

「はい」

 

「こういうのもアリかなぁ」

 

 

 

ここは任せてみるか、とかちょっとカッコつけたのが運の尽き。着せ替え人形よろしく数十分は天音の"これかな?あれかな?"審議に付き合わされていた。同じ体勢で何分か耐えてる時は由香との地獄のトレーニングを思い出したね。無駄に種類が多いお陰か天音もちょっと楽しそうだから止めるにも止められんな。

 

 

 

「天音、あんまり時間も無いからパパッと決めてあげて」

 

「そ、そうだぞ天音!お兄ちゃんお迎えに行かないとだから」

 

「だったらこれかなぁ」

 

「これだな!よし、じゃあこれ着てすぐ行ってくる!」

 

 

 

 

母さんがナイスタイミングで助太刀に入ってくれたな。まぁ天音の方は渋々って感じだけど許してくれ。これ以上付き合わされると母さんの言う通り、時間に間に合わなくなる可能性が出てくる。それ即ちピキピキメンツからのお叱りを受けるということに違いない。練習前に機嫌を損ねる様な真似はしたくないんでな。

 

 

 

 

響子には悪いが先に天音が選んでくれた服を早速身に付け、携帯や財布等必要不可欠な物だけ持って家を出る。因みにこのコーデは天音曰く"ちょっぴり大人な休日コーデ"らしく、確かに俺がチョイスしたちんちくりんな虹色ファッションとは違って落ち着いた雰囲気だ。服装のセンスまで妹に負けてしまってはお兄ちゃん立つ瀬が無いんだけどなぁ。

 

 

 

「気を取り直して行くとしますか」

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ピンポーン

 

 

「......ん?もしかしてまだ寝てんのか?」

 

 

 

お迎えミッション一件目に到着。少し服装を整えてチャイムを鳴らすが反応ナシ。俺よりお寝坊さんが居たとは驚きだな。これは一発お灸を据えてやらなければならないかもしれない。もう一度だけチャンスをやろうと思ってチャイムを押す。

 

 

 

ピンポーン

 

 

「お〜い由香〜。まだ起きてな──」

 

「おはよう絢斗!ごめんねすぐに......ってあれ?もしかしてこれが噂のピンポンダッシュ?」ガチャ

 

「元気が良いのは結構なことだが......流石に勢い良く開け過ぎだ」イテテ

 

 

 

思いっきり開かれたドアの対処に間に合わず頭に鈍痛が走る。顔面は勘弁と思って咄嗟に下を向いたのが吉と出たな。多分あのままだと鼻が折れてたわ。そのくらい勢い良かったからな。未だに自分で頭撫でてないと痛くて顔も上げられんし。

 

 

 

「ごめん気付かなかった!頭大丈夫?」ナデナデ

 

「その言い方は誤解生むからやめてくれ」

 

「お詫びに頭撫で撫でしててあげるから」ナデナデ

 

「それよか準備は出来てるのか?」

 

「勿論!お泊まりセットもバッチリだよ!」ナデナデ

 

 

 

器用に片手で俺の頭を撫でているにも関わらず、もう片方の手も忙しなく動かして表現する由香。心なしか自分で撫でている時よりも痛みが和らいで感じる。あぁ、これが俗に言うバブみってやつだろうか。同級生の女の子にバブみを感じてるとか若干アウト気味だが仕方ない。お陰ですっかり痛みも引いてきたしな。

 

 

 

「んじゃ次のお客さんを迎えに行くか」

 

「レッツゴー!」

 

 

 

それから由香と二人並んで他愛のない話をしながら犬寄宅へと到着。案の定、由香には服装について根掘り葉掘り聞かれたが軽く流しておいた。遂にオシャレに目覚めたのかとか言われたけど別にそんな事無いし。でも"それなら私もお洒落してくる!"と言って一旦帰ろうとしてたのは流石に止めたな。だって時間無かったし。

 

 

 

由香の時と同じくチャイムを鳴らす。まぁ一つ違う点があるとすれば、玄関のドアにぶつからないように距離を取っているという点だろうか。しのぶに限って言えば勢い良く開けるなんて事は無いはず。......だよね?信じても良いよな?

 

 

 

ピンポーン

 

 

「......絢斗君か。朝早くにすまないね」

 

「おはようございます。しのぶ起きてますか?」

 

「さっき準備し始めたところだ。申し訳ないが少し待っててくれるか?」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ」

 

 

 

玄関のドアを開け出てきたのは、しのぶの祖父である犬寄傳之丞(でんのじょう)さん。実はこの人にも幼い頃からお世話になっており、母さんや親父の正体を知っている数少ない人物の一人だったりする。親父の昔の仕事仲間であり、親父個人としてはDJ技術を教わった事もあるらしく親子揃って頭が上がらないな。

 

 

 

「親御さんは元気かな?」

 

「親父は相変わらずうるさいですし、母さんはしのぶが泊まりにくるの楽しみにしてますよ」

 

「それは良かった。しのぶには菓子折りを持たせてある。みんなで食べてくれるとありがたい」

 

「......いつもすみません。また後日しのぶにでもお返しを持って帰ってもらいますね」

 

「絢斗君にはしのぶがお世話になってるからな。そのお礼とでも思ってくれて良い」

 

 

 

 

可愛がってくれてるのか、昔っからお菓子とか食べ物を買ってくれたりするんだよなこの人。だけど、いかんせんチョイスが渋いから俺も天音もあんまり食べた記憶が無いんだよなぁ。まぁ親父と母さんにあげてたから無駄にはしてなかったんだけど。

 

 

 

「お待たせ絢斗」

 

「おう、おはよーさん」

 

「じゃあ行ってくる」

 

「迷惑かけないようにするんだぞ」

 

 

 

 

さっき言ってた通り、しのぶの両手には紙袋に沢山菓子折りが入っている様子。お泊まりセットも背負っているので少し歩き辛そうにも見える。ここは気配り上手の絢斗お兄さんが一肌脱ぐとしよう。

 

 

 

「ん、紙袋だけは持っててやるよ」

 

「いや良いよ。別に重たくないし」

 

「さっき聞いたぞ。その菓子折りウチにくれるんだってな。だったら俺も持たないといけないだろ?」

 

「.......だったら」

 

「じゃあもう片方は私が持つね!」

 

「ちょ、由香!?」

 

 

 

いきなり手持ち無沙汰になったしのぶ。俺もまさか由香がもう片方を積極的に持つとは思わなかった。さっきまで門の前で携帯弄ってたのに切替早いな。

 

 

 

「由香返してよ!」

 

「やだよ〜。紙袋は返してあげないけど手なら繋いであげる!」

 

「何でそうなるのよ!」

 

「ほら、早く絵空の家に行くよしのぶ」ギュッ

 

 

 

由香としのぶが仲良く手を繋いで歩く姿を後ろで眺める俺。客観的に見ればストーカーになるのだろうか。それだけは勘弁してほしい。由香と同じように、俺もしのぶと手を繋げばストーカーには見られないだろうか。いや、それをするとしのぶから何言われるか分からんな。子供扱いしないで、とか大体予想は付くけど。

 

 

 

 

そんなこんなで絵空の家に向かう事になったが、荷物が重いので途中からタクシーを拾う事に。母さんから何かあった時のためにとお金は渡されているのでセーフ。でも家まで帰るのに足りるだろうか。最悪の場合、俺の小遣いからの支出になるやもしれん。これは親父のへそくりから頂戴する必要があるな。すまん親父、へそくりの場所は母さんからリーク済なんだ。

 

 

 

ピンポーン

 

 

 

さてさて本日三件目。荷物はタクシーの中で、由香としのぶにもタクシーの中で待ってもらっている。別にそこまで時間がかかるようなことじゃないからな。

 

 

 

「おはよう絢斗君!」

 

「......何やってんだよ絵空」

 

「むむ?えそらんの名前はえそらんだよ?」

 

 

 

ドアが開いたと思えばカエルのご登場。このカエル、えそらんという名前の通り絵空の所有している人形である。前に"VJ講座とかやってみる?"という絵空の半分お遊び的考えを由香が真面目に受け取ってしまった結果、"カエルでもわかるVJ講座"とかいう動画を作ってしまったのだ。その際に絵空が用いた人形で、いかにもな演技をしてたがここで出てくるとは。今は時間もあんまり無いから付き合ってる場合じゃないんだが。

 

 

 

「準備は出来てんのか?」

 

「えそらんは準備バッチリだよ〜」

 

「んならウチに行くぞ」グイッ

 

「キャ〜、えそらんが絢斗に連れて行かれるぅ♪」

 

「はぁ......ほら、絵空も行くぞ」

 

 

 

無計画でえそらんと同じく絵空の手も握って連れ出してしまったが、肝心なお泊りセットやらの荷物はどこにあるのだろうか。まさか一泊二日なのに手ぶらとか?いやいや、流石に絵空でもそれは無い。

 

 

 

「いきなり引っ張って悪いな。タクシーで待ってるから荷物持ってこいよ」

 

「あ、荷物は後で車で送ってもらうから平気よ♪」

 

「それを最初に言えよ」

 

「だってそれだと面白く無いじゃない?」

 

 

 

相変わらずのえそらんと絵空である。まぁこれでメンバーは揃ったことだし、早速家に帰るとしますかね。

 

 

 

 

 

~藤咲宅~

 

 

 

「たでーまー」

 

『お邪魔します』

 

 

 

結論、タクシーの中は軽く地獄であった。普通なら男の俺が助手席で、あとの三人が仲良く後部座席で解決するはず。なのにアイツらいきなりジャンケン始めやがって。タクシーのおじさんも軽く困ってたじゃん。結局ジャンケンで決着は着かず、一番先に迎えに行った由香が助手席で、俺と絵空としのぶが後部座席となった。家に着くまで絵空は詰め寄って来るわ、その反動でしのぶの方に身体が寄って良い匂いがするわで本当に大変だった。

 

 

 

「みんないらっしゃい」

 

「お久しぶりですお母様」

 

「これ、じいちゃんからです」

 

「あら、毎回ありがとうしのぶちゃん」

 

「私も何か持ってくれば良かった」

 

「良いのよ由香ちゃん。今日と明日はゆっくり寛いでいってね」

 

「待て待て、練習が目的だってこと忘れんな」

 

 

 

 

各々母さんと挨拶を交わし、荷物を持って練習部屋へと入っていく。靴箱を見てみると、既に響子の靴もあったので無事に来ているらしい。天音の部屋で時間潰してると予想。みんなが母さんに導かれて練習部屋へ入ったのを確認して、俺は一人ニ階へ上がり天音の部屋をノックする。

 

 

 

「響子、みんな連れて来たから練習を─」ガチャ

 

「絢斗!?ちょっと待って!今は駄目!」

 

「ん?もう練習部屋にみんな集まってるんだが」

 

「......」

 

 

 

いきなり返事が無くなった。さっきの声色的に焦ってた様にも思える。さては何かあったのだろうか。転んで怪我でもしてたら大変だ。すぐに確認を。

 

 

 

「響子、入るぞ──」

 

「お兄は見んな!!」ベシッ

 

「あべしっ!?」

 

 

 

丁度、俺の目の高さでフルスイングされたハリセンに激突。お陰で後ろに倒れ込みながら頭を打ってしまった。かなりの痛さに目から涙が出そうだ。というか天音も一緒に居たのか。だったら普通に部屋の中から状況を説明したら良かったのに。

 

 

 

「......ってぇな。何だよ急に」

 

「絢斗」

 

「ん?」

 

「......見た?」

 

 

 

 

いつもの練習着を着ているが、少し顔が赤いようにも見える響子。ショートパンツを押さえるようにして隠しているのだが、その動作があると余計な考えが浮かぶのでやめてほしい。それに、俺の頭によぎった余計な考えは多分的中してると思うし。いや、本当に全然見てないよ。だって天音特製のハリセンでしばかれたからな。

 

 

 

 

「何をだよ。いいから早く降りてこい」

 

「う、うん」

 

「はぁ......響子さん良かったですね」

 

「ありがとね天音ちゃん」

 

 

 

 

その後、一階の練習部屋にノックせずに入ったのが運の尽き。今度は完全に見てしまったのだ。すぐに目を隠すが、やはりそれを許してくれるような状況では無かった。もう一発キツイの頂き、力尽きてノックダウン。

 

 

 

みんなも気を付けような。最近の女の子っていざという時に身を守る為に、特製の大型ハリセン持ってるからね。いやマジで、個人的な意見を述べさせてもらうと天音よりしのぶのハリセンの方が若干大きかったです。頭張り裂けるかと思った。

 

 

 

 

 

To be continued on the second half→

 

 

 





気付けば日間ランキング入りしてたり、お気に入り100超えてたりUA1万突破してたりしたので、この場をお借りしてお礼致します。

今後ともご贔屓に(`・ω・´)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#9 練習と書いてお泊まり会と読む 後編


☆10 Bellさん様 ☆9クロムス様 ヴィラン・シラユキ様
☆4ケチャップの伝道師様
新しい評価ありがとうございます!

更新に少し時間が掛かってしまい申し訳ありません。
不定期更新なのでご了承を。




 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、一旦休憩しましょうか」

 

「んじゃ飲み物でも注いでくるわ」

 

 

 

若干ラッキースケベがあったものの、なんとか説得することに成功したので本題である練習を始めて既に2時間が経過していた。その間、母さんは主にしのぶに付きっきりで指導を行い、響子は天音と一緒にセトリとフライヤーの作成。そして、絵空と由香の二人はセトリに合わせたダンスパフォーマンスの確認を行っていたので、俺はそれにずっと付き合っていた。まぁ付き合ってたって言っても、ほぼ二人が踊ってたのを見てただけなんだよな。

 

 

 

「それにしても、2時間動きっぱなしとかスゲェな」

 

「絢斗も一緒に踊れば良かったのに」

 

「うおっ!?ゆ、由香?ビックリするからいきなり声掛けるなよ」

 

「ごめんごめん、一人じゃ全員分は辛いだろうから手伝いに来ちゃった」

 

 

 

手伝いに来てくれたのは素直に嬉しい。嬉しいのは間違いないが、今の由香や絵空の服装は布面積が少ない。練習着とはよく言ったものだ。動きっぱなしで汗もかいてるから、余計に変な感じに見えてしまう。由香に関しては、ジムとかでトレーニングしてる時に見てるから若干慣れてるけど、やはりそれでも目のやり場に困るのだ。

 

 

 

「トレイに乗せて持ってくから大丈夫だ。ここは俺に任せて由香達は休んでてくれ」

 

「わかった」

 

「......本当にわかってんのか?」

 

「うん、私は放っておいて絢斗は飲み物運ばなきゃ」

 

「だったら早く部屋戻れよ......」

 

 

 

なんだか由香がワザとらしく怪しい手の動きをさせているのは気のせいだろうか。この場合、俺は由香を信じても良いのだろうか。嫌な予感しかしないけど、ここで時間使うのも馬鹿らしいから持っていくか。

 

 

 

「ほら、由香も早く部屋にぃ!?ちょ、おま!脇腹は勘弁してくれぇ!!」

 

「ほらほら〜、絢斗は脇腹が弱いんだよね〜?」

 

「ばっかお前なぁ!!ふっ、弱いわけが......ふひひ。ちょ、マジで無理ィ!!」

 

「あら、二人揃って何してるの?」

 

「絵空か!?頼むから、由香を止めてくれぇ!!」

 

 

 

飲み物持ってくのが遅れたせいか、絵空が心配そうにやって来たので急いで救援要請を出す。だがこれも虚しく届かず、絵空相手だと寧ろ逆効果になってしまうことにも気付くことが出来なかった。一瞬ニヤリと笑った絵空だが、すぐに可愛らしい笑顔に戻る。まぁこの後の展開はお察しの通りである。

 

 

 

「知ってた由香?絢斗は脇腹だけじゃなくて、耳も案外弱いのよ」フゥ

 

「ほえぇ......って絵空も楽しそうに加わるなよ!!」

 

「じゃあ私は逆の耳に」フゥ

 

「ちょ......あ、駄目だコレもう立てん」ガクッ

 

 

 

アニメや漫画なら、普通この場合立場が逆だと思うんだけどな。誰も男が好き放題に弄られてるシーンなんて必要ないだろ。まぁ一部のコアな人間にとっては受けが良いかもしれんが。いやでも真面目に立てなくなってきたから、そろそろ勘弁してほしい。というかどこでその情報手に入れてきたんだよ。

 

 

 

 

その後も数分間は二人のオモチャにされてしまった俺であった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

コンコン

 

「入るぞ〜」

 

 

 

由香と絵空にオモチャの様に弄ばれてから数分、やっと回復したので響子の様子見がてら天音の部屋へと足を運んでいる。ドアは開いていたが、ノックしないと天音に何言われるか分からんからな。これぞ紳士的対応というやつだな。

 

 

 

「絢斗どうかしたの?」

 

「いんや、ちょっと様子見に来ただけ」

 

「お兄邪魔」

 

「いきなり邪魔者扱いですかそうですか......」

 

 

 

 

何やら天音は響子の持ってきたノートパソコンと天音のデスクトップとを忙しなく行き来している。邪魔なら避けて通れば良いものの、わざわざ足の指を踏んでまで通っていく我が妹。もしかしてお兄ちゃんとの秘密のスキンシップだろうか。いや違うな、絶対違う。響子が居るからいつにも増して俺の事など眼中にないのだろう。

 

 

 

「調子はどんなもんだ」

 

「うん、天音ちゃんのお陰で進んでるよ」

 

「響子さん、ここはどんな感じにします?」

 

「ん?どれどれ......」

 

 

 

入室から僅か1分、既に空気より存在が薄くなっているのは気のせいか。周りを見た感じだと水分補給もロクにしてなさそうだし、仕方ねぇから俺が珈琲でも注いでやるとしますかね。まぁさっきは三人分しか用意してなかったから当然っちゃ当然か。にしても水分補給で珈琲ってのもアレだが、残念ながらウチには珈琲か水かお茶くらいしかないからな。

 

 

 

「何か欲しいもんとかあるか?」

 

「んー、じゃあお茶で」

 

「響子さんと一緒で良いよ」

 

「ならお茶二つな。あと適当にお菓子も持ってくるから」

 

「ありがと」

 

 

 

そう短くお礼を言ってくれた響子は、すぐにPCの画面へと再度意識を集中させ天音と話し込み始めてしまった。やはりこの二人は似た者同士というか何というか、集中力で例えるなら天才と言えるのかもしれない。天音に関しちゃ俺がいると思考のノイズになるから機嫌悪くなるんだけどな。

 

 

 

とか考えてる間もリビングへ降りて、手だけはせっせこ動かしてお茶やお菓子を用意する。先程のように不意を突かれないように警戒しながら。いやマジで、次やられると俺のメンタルが持たないからな。既にほぼ無いに等しい俺のメンタルがね。何故だろう、ピキピキメンツには立場的な意味でも勝てる気がしない。学内カーストでも家内カーストでも低ランクに位置する者の宿命なのだろうか。

 

 

 

 

「おまちどーさん。一旦休憩にしようぜ」

 

「天音ちゃんも休憩しよっか」

 

「あれ、もうこんな時間なの?」

 

「時間忘れるくらい集中してたんだな」

 

「あんな絵で済ませようとしたお兄は黙ってて」

 

 

 

酷い、あれでもお兄ちゃん真心込めて描いたんだけどな。化け物とか言われて結構傷付いたんだからね。

 

 

 

「フライヤーは綺麗に仕上がってんな」

 

「天音ちゃんの力作だよ」

 

「これぐらい普通ですよ」ドヤッ

 

「んで、さっきまでは曲についてアレコレ考えてた訳だ」

 

「色々話し合ってたら、こんな時間になってたけどね」

 

 

 

誇らしげに胸を張る天音をさておき、お菓子を口へ運びながらお茶を啜る。なんだろう......わびさびとでも言うのだろうか。何とも形容し難い感情が沸々と沸き上がってくるのを感じる。The・日本人って感じのブレイクタイムだからか。Theとかブレイクタイムとか使っちゃう辺り、やはり俺の語彙力はアニメや漫画に少々毒されているのだろう。

 

 

 

「他のみんなの調子はどう?」

 

「ん?そりゃもう相変わらずキレッキレよ」

 

「何その感想。もしかしてお兄も一緒に踊ったの?」

 

「んなわけ。俺はずっと眺めてたからな。まぁ特になーんにもしてねぇな」

 

 

 

まぁ色々弄られはしたんですけどね。しのぶは母さんと一緒に部屋に篭って練習してるし、絵空と由香のダンス練習は俺がボーッと見てるだけだし。あれ、もしかしてこの家で一番要らない存在は俺なのか?いや、もしかしなくとも俺だけ何もしてねぇな。やべぇ働かざる者食うべからずが俺の密かなポリシーなのに。まぁ良いよね、普段結構苦労してるし。主にピキピキ関係で。

 

 

 

「お、この漫画懐かしいなぁ。読んでも良いか?」

 

「好きにすれば。でも絶対ベッドには上がらないでね」

 

「分かってるって」

 

「絶対だよ。上がったら怒るから」

 

 

 

口調から察するに、もう半分くらい怒ってませんかねぇ天音さん。大切な事だから2回言ったのだろう。別に読めるなら地べたにでも座って読むけどな。寝転がってると眠くなるし。久しぶりにこの漫画見たから、今すぐ読みたい衝動に駆られてしまった。俺も天音も漫画とか小説からアニメに入る事が案外多いからな。二人共本棚が部屋に2つか3つは置いてある。

 

 

 

「響子さん、このお菓子美味しいですよ!」

 

「見た感じだとそこら辺で買えるような物じゃなさそうだけど」

 

「えーっと......お兄、コレどこで買ったんだっけ?」

 

「それ親父が仕事帰りに買ってきたヤツな。1ヶ月前くらいに1週間くらい家空けてた時だと思うけど」

 

 

 

 

帰ってきた時に"コレは絢斗には食わせん。母さんと天音と俺だけだからな!"とか言って隠してたけど。残念ながら天音に隠し場所教えてる時点で終わりだな。美味しく頂きました。

 

 

 

 

 

それからはお菓子とお茶を楽しみつつ、響子と天音が作業しているのを横目に漫画を読んでいた。どうせ降りても絵空と由香に捕まってしまうだけだ。それならここで堂々とサボってしまおう。どのみち俺が居ても見てるだけだしな。

 

 

 

 

「んー......ここはどうしますか?」

 

「もうちょっと音の変化は欲しいかもね」

 

「こんな時のお兄......って、寝てるし」

 

「まぁ寝かせておいてあげよっか。色々と頑張ってくれてるみたいだし」

 

「相変わらず響子さんもお兄に甘いですね」

 

 

 

 

漫画読みながら色々と体勢変えてたら、いつの間にか横になってていつの間にか夢の世界へ。何回か漫画が顔に落ちてきて痛かったけど。まぁ仕方ないよね。甘くて美味しいお菓子食べたし、温かいお茶も飲んだしでお腹いっぱいだったからね。

 

 

 

 

 

~数時間後~

 

 

 

 

 

「......」zzz

 

「寝顔は可愛らしいんだけどね」ナデナデ

 

 

 

 

良い睡眠の3箇条とは。

 

 

 

 

"寝つきが良い" "ぐっすり眠る" "寝起きがスッキリ"の3つだとさ。この3つが当てはまると良い睡眠が取れているらしく、睡眠の質が良いと疲労回復や健康維持的な意味合いでも良いらしい。

 

 

 

 

「......んぁ」

 

「起きた?」ナデナデ

 

「やべぇ......今何時だ」

 

 

 

時計を確認すると、既に7時を半分ほど回っていた。寝始めた時間を正確には把握してなかったが、予想だと2.3時間くらいは余裕で寝てたな。というか起きたら響子の顔が凄い近いんだが。これは世間一般的に言うと膝枕というやつでは?

 

 

 

「何で膝枕してんの?」

 

「覚えてない?絢斗寝ぼけてたのか知らないけど、天音ちゃんのベッドに上がろうとしてたんだよ」

 

「腕とか付いてる?片足無くなったりとかしてない?」

 

「大丈夫。天音ちゃんがベッドから強引に離そうとしてたから、仕方なく膝枕で我慢してもらったよ」

 

 

 

 

響子の膝枕は勿論嬉しいが、違う意味で天音が怒ったりしなかったか心配だ。あの響子大好きな天音のことだから、何か文句の一つでもあったのではなかろうか。まぁ俺としては、膝枕のお陰でとても良い睡眠が取れたから良いんだけど。

 

 

 

「他のみんなは?」

 

「一段落着いたからご飯にしようって何分か前に来たよ」

 

「そうですかい。っと、そろそろ俺も起きるか」

 

「もうちょっとこのままでも良かったのに」

 

「また機会があればな。俺達も降りて飯にするか」

 

 

 

本音を言うとするならば、結構寝心地良かったから是非お願いしたいな。寝る前にお菓子とか食べたはずなのに、起きたらお腹減ってるとか俺はいつから食いしん坊キャラになったのだろう。今の気持ち的にはガッツリお肉っていうよりかお魚の気分かな。

 

 

 

 

散らかった漫画を本棚に戻して電気を消し、先に洗面台に行って顔と手を洗ってからリビングへ向かう。すると既に良い匂いがしており、それによって益々空腹感が増したような気がした。

 

 

 

「あら、二人共早かったのね」

 

「まぁな。夕飯は母さんが作ったのか」

 

「ハズレ。今日はみんなに作ってもらったのよ」

 

「味付けとか大丈夫かね」

 

「そこは大丈夫だよ!O型で大雑把な絢斗と違って、私達A型だからね!」

 

 

 

何だその意味不明な超理論。由香の言った通りの理論なら、A型のお前らはええざっぱなのかよ。AB型だとエビざっぱにでもなるのか。新しい言葉完成しちゃったよ。何だよエビざっぱって。結構面白そうじゃねぇか。

 

 

 

 

由香に絵空にしのぶ、それに加えて天音は奇遇にも全員A型。レシピ通り作れるのなら、きっと今日の夕飯は美味しいのだろう。であれば、俺はさっさとお皿やらお箸やらコップを食卓に並べるとしますかね。さっきから腹の虫がうるさいしな。

 

 

 

 

『頂きます!』

 

「まずはこれから食べるとするか」パクッ

 

 

 

やはり最初に目に入ったのは焼き魚。綺麗な焼け目が付いており、香ばしい匂いがより一層海の味を引き立てる。親父があんな筋肉バカだから、昔っからタンパク質を効率良く摂取出来る魚料理が多かったのだ。それに加えて料理上手な母さんときたもんだ。魚料理に関しては舌が肥えていると言っても過言では無いだろう。まぁウチで出てくる料理全般美味しすぎて、外食があんまり無いレベルなんだけどな。

 

 

 

「ふむふむ」モグモグ

 

「......」

 

「美味い!」

 

「良かったぁ......」

 

 

 

 

言っちゃ何だが、母さんの料理と遜色無いレベル。焼き魚なんて誰にでも簡単に作れるじゃん、と思っていた時期が俺にもあった気がする。実際のところ、やはり普通の人が作るのと料理上手な人が作るのでは何かが違うのだ。それに関しては経験済みだからな。ソースは俺と母さん。俺も料理は人並みに出来る自信があったが、母さんと比べるとその辺の蟻レベルなのだと実感する。

 

 

 

「それはしのぶが作ったのよ」

 

「ちょ、絵空!」

 

「良かったなしのぶ。将来は良いお嫁さんになれると思うぞ」

 

 

 

想像してみて欲しい。あのしのぶが好きな人の為に、一生懸命になって料理を頑張る姿を。それだけで萌えるというもの。きっと旦那さんになるヤツは幸せに違いない。それで幸せじゃないというのなら、その時は俺がしのぶを貰おう。畜生、毎日しのぶが作った飯食えるとか前世でどんな徳積めばいいんだよ。

 

 

 

「次はこれか」

 

「それは私のよ」

 

「うむ、普通に美味い」モグモグ

 

「あら?しのぶの時と違うのは気のせいかしら。もっと他に意見はないの?結婚して欲しいーとか」

 

「絵空に関して言えば、手料理何回か食ったことあるからな」

 

 

 

最後の方は聞かなかったことにしよう。絵空はハンバーグか。まぁハートマークのソースとか、俺のだけ大きかったりとかしたから若干分かってたけどな。そして、残念な事にもう一人あからさまに分かりやすいヤツが居るのだ。

 

 

 

「由香のも美味しいから安心しろよ」モグモグ

 

「え!?何でそれが私のだって分かったの?もしかして絢斗は超能力者?」

 

「いや、だって天ぷらとか由香しか考えられんだろ」

 

 

 

覚えてないの?俺と初めて会った時に、好きな食べ物聞いたら"スシ、テンプーラ!!"って大声で言ってたの。あれ結構恥ずかしかったんだからな。周りに他の生徒いっぱい居たのに、気にせず胸張って言ってたんだよ君。流石に家で寿司は作れなかったんだろうな。

 

 

 

「というか、今日の夕飯まとまりが全然ねぇな」

 

「焼き魚にハンバーグ、天ぷらにサラダにお吸い物だからね。サラダは天音ちゃんが作ってくれたんだよね?」

 

「はい!響子さん用にアレンジしてみました!」

 

 

 

 

何だよ、サラダを響子用にアレンジって。曲をアレンジしてみました、みたいに軽く言ってるけど。食卓だけ見れば、何処かのバイキングにでも来てる気分になるな。まぁ味は一級品ばかりなんだが。

 

 

 

その後も、ライブや学校の事を話しながら食べ進めていった。最初は全部食べ切れるか心配だったものの、どんどん食べ進めていき知らぬ間に完食してしまった。やはり、料理が美味しいと食べ過ぎてしまうのだろうか。そろそろ運動しないと太ってしまいそうで嫌になる。

 

 

 

 

因みに、前に俺が母さんに料理の秘訣を聞くと"お料理が上手くなるコツは一つ。それは愛よ"とか意味の分からんことを言ってました。おかしいな、家族愛なら地味に自信あったんだけど。親父以外で。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜、さっぱりした!」

 

「由香おかえり」

 

「はい、次は絢斗の番よ」

 

「......なぁ」

 

 

 

 

皆さんはトランプで遊んだ事があるだろうか。

 

 

 

ダイヤ、ハート、スペード、ジャックの4種類のスートというものと、1から13までの数字が書かれたカードで色々なゲームが出来る優れものだ。まぁ説明しなくても分かると思うが。

 

 

 

「絢斗お風呂ありがとね!」

 

「あぁ、それは良いんだけど......」

 

「はい私アガり〜」

 

 

 

 

"スート"と一口に言っても、世界各地でその内容は異なっておりラテンタイプでは剣や杖がスートとなっているらしい。他にもドイツタイプやフランスタイプ等も存在しており、フランスでは基本的にフランス語を使用するのでAやJ、QやKといった英米式のカードは使わないんだってさ。

 

 

 

「これかな?」シュッ

 

「......くそっ、また負けた」

 

「絢斗3連敗中〜」

 

「アンタはもっと練習して出直してきな」

 

「今回は勝てると思ったのに......って違ぇよ!!」

 

 

 

絵空の言った通り、現在3連敗中の俺である。いやいや違くて、そもそも何でババ抜きまったりやってんの?流れで3回もやっちゃった俺も俺だけど。君達は今日練習をしに来たのでは?

 

 

 

「負けたからって怒らないの」

 

「いや怒ってないから。なんでトランプなんかやってんだよ。ダンスの練習は?ライブの曲作りは?」

 

「負けた人が次の準備する約束は?」

 

「おい、質問を質問で返すな」

 

 

 

夕飯を終えた俺達は練習の疲れを癒す為、次はお風呂へ入るという流れとなった。もちろん風呂掃除は俺がやらされましたよ。まぁ肝心なのは順番なんだが、先に入れば"後から覗くつもりなんでしょ?"と言われ、後でと言えば"私達が入った残り湯で何するのかしら?"と言われる始末。発言者は絵空である。別にナニもしねぇよ。

 

 

 

 

という事で、比較的安全だと判断して先にお風呂へと入った。しかしながら、男子高校生には少し刺激が強すぎる状況の為、"この後アイツらがこの風呂入るのか......"とか変なことを考えてしまうのも仕方ないのだと思いたい。無事何事も無くお風呂を終え、次々とピキピキメンツがお風呂を終わらせて部屋へと戻ってきたその後、今のような状態へ流れるようにシフトしていったというわけだ。

 

 

 

「次は神経衰弱しようよ!」

 

「ダメ」

 

「んー、じゃあ7並べ!」

 

「どうあってもトランプ自体をやめないつもりか」

 

「アンタも負けたままでいいの?」

 

 

 

しのぶの安い挑発も毎度のことである。ゲームや遊びに関しては俺としのぶはライバルと言ってもいい。そんなライバルの安い挑発になど乗るはずもなく。俺は誰にも指図されず、我が道を行くと昔から決めているのだ。

 

 

 

 

「あ、やんのか?まだ本気出してないだけだから。言っとくけど、負けすぎて泣いても許してやらないからな」

 

「またしのぶと絢斗のいつものやつが始まったよ」

 

「これはこれで面白いから良いんだけどね♪」

 

「何言ってんだよ絵空。お前も参加するに決まってんだろ」

 

 

 

 

こうなりゃヤケだ。全員まとめて相手してやろうではないか。自慢じゃないが、今まで遊ぶ相手が居なかった分、一人回しして技術を磨いてきたのだ。マジックから一人ババ抜き、果てには一人神経衰弱や一人ポーカーを極めてしまったからな。

 

 

 

......何だよ一人ババ抜きって。一人神経衰弱とかマジで俺の神経が衰弱しそうで怖いわ。別に寂しくなんてないもんね。一人だけでも出来るもん。

 

 

 

 

「じゃあ負けた人は勝った人の言うこと聞くっていうのはどう?」

 

「ナイスアイディアねキョーコ」

 

「それって何でもアリとかじゃないよな?」

 

「何?もしかして負けるの怖いの?」

 

「おっしゃマジで本気見せてやるよ。とことん付き合ってやるから覚悟してなベイビー」

 

 

 

 

 

それからは負けた人が勝った人の言うことを聞くという、いかにも青春っぽい感じの罰ゲームをかけた戦いが繰り広げられた。1回戦目は先程の延長戦ではないが、5人でババ抜きを開始。結果、最下位は俺。まぁ序盤はこんなもんだろうと高を括っていたのがそもそもの間違いだったと思う。

 

 

 

2回戦目はポーカー。それぞれ持ち点を与えられ、それを賭け金として戦っていくシステムを提案。しかしながら、最初の親で俺が全ての賭け金を無くすという最悪の事態が発生。結果、俺の一人負け。

 

 

 

最終戦は神経衰弱。これに関しては記憶力に自信があったので、大差をつけて勝てる......はずだったのだ。だが忘れてはいけない。他の4人も基本的に能力は高い傾向にある。しのぶは勿論のこと、絵空や由香だって地頭が悪い方ではないし響子に関しちゃ幼い頃から良く知っている。総合順位は火を見るよりも明らかだろう。

 

 

 

 

「やっぱりアンタ最下位じゃん」

 

「はい、すみませんでした」

 

「じゃあ誰からいく?」

 

「私からいこうかしら」

 

「ちょっと待て。言うこと聞くのは一人だけじゃないのか?」

 

「そんなこと一度も言ってないわよ?()()()()()()()()の言うこと聞くんでしょ?」

 

 

 

 

いや、そりゃ最下位の俺からすれば全員に負けたようなもんだけどさ。そういうことは先に言っててくれないと。俺は今から4回分コイツらの言いなりにならなきゃならんのか。勘弁してほしい。

 

 

 

 

「なるべく可能な範囲で頼むぞ」

 

「今日は私と一緒に寝てもらうわよ」

 

「......は?無理に決まってんだろ」

 

「ちょっと絵空?流石にそれはダメだよ」

 

 

 

そーだそーだ、もっと言ってやれしのぶ。大方、前の保健室での誘いの続きとか思ってるんだろうけど。そもそも女の子が家に泊まりにきてるだけでもヤバいのに、それに加えて一緒に寝るとか俺捕まっちゃうよ。別に変なことする気も余裕もサラサラ無いんだけどね。ホントだよ、絢斗嘘つかないもん。

 

 

 

「じゃあ私も一緒に寝る!」

 

「じゃあってなんだよ!というか由香も悪ノリしてくんなし!」

 

「なら私も1票入れようかな」

 

「バカなこと言ってないで止めてくれよ響子......」

 

「......だったらアタシも

 

 

 

 

それからも絵空を筆頭にあれよこれよと無理難題を押し付けられること数十分。なんとか全員説得に成功し、また今度買い物やら何やらに付き合うということで罰ゲームは幕を閉じた。まぁ響子に関しては来週既に約束しちまってるからな。その時に飯でも奢ってやるとするか。

 

 

 

 

そして、由香と絵空としのぶの三人はリビングで、響子は天音の部屋にて布団を敷いて眠りについた。思い返せば今日一日は中々に濃い内容だった気がする。まぁ偶にはこんな休日も悪くはないか。天音も楽しそうだったし、なんなら母さんも生き生きしてたし。ウチの親父?俺が風呂から出たタイミングで帰ってきやがったから、適当な理由付けて母さんに捕獲してもらいました。それからは見てないな。親父が迷惑かけなくて助かった。

 

 

 

 

 

 

 

そして翌朝、俺が起きたら目の前に楽園が広がっていたのは別の機会に話すとしよう。

 

 

 

 

 

 

Next→

 

 

 







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#10 1に才能2に筋肉、34飛ばして5に可愛い!!


☆9 KURO蓮夜様
新しく評価頂きましてありがとうございます。

まさかのごちうさコラボ。
自分の好きなものとコラボしまくるD4DJ。
運営はもしかしなくとも天才なのだろうか。


 

 

 

 

 

 

 

 

~陽葉学園~

 

 

 

 

「おはよ〜」

「おはよ。昨日のテレビ見た?」

「見たよ。あの女優さん結婚するんだってね」

 

 

 

「クソねみぃ......」フラフラ

 

 

 

 

 

今日は月曜日。昨日一昨日とピキピキメンツをウチに招き入れて練習、という名のお泊まり会イベントをこなして疲労が溜まっている。結局、日曜日もご飯や休憩を除いてフル稼働で練習に付き合わされてしまった。元々が俺の提案だっただけにサボる訳にもいかず、絵空や由香のダンスを見て所々アドバイスしたり響子の手伝いしたりと大変な土日だった。

 

 

 

 

「お?絢斗おはよ〜、何だか眠そうだね」

 

「俺が眠そうなのはお前らが主な原因なの分かってる?」

 

「あら?そんな言い方しても良いのかしら?」

 

 

 

 

今日は珍しく一人で登校してきたにも関わらず、玄関で由香と絵空にバッタリ出会ってしまった。ここ最近の玄関での友人エンカウント率が高いのは気のせいか。学校で俺の友人と呼べる人物なんてごく少数なのにね。ほらそこ、"お前そもそも友達いないだろ"とか口が裂けても言わない。俺は狭く深くの友人関係の持ち主だから。広く浅くだと何か適当っぽい感じするじゃない?しなくない?

 

 

 

 

「というか響子と一緒じゃないんだね」

 

「まぁな。流石に毎日一緒には来ないだろ」

 

「じゃあ響子の代わりに私が一緒に登校してあげる」

 

「勘弁してくれ絵空。俺だって偶には一人でゆっくりしたい時もあるんだ」

 

 

 

 

......だからそこ、"いつも独りの癖によく言うよ"みたいな感じの顔するのやめろ。確かにピキピキメンツと一緒にいる時以外はほぼ1人だけど。何なら家にいても一人だから。この前天音がリビングにいて俺が部屋から降りてきたら"お兄居たんだ"って素で言われたんだからな。俺はそんなに存在感無いですかそうですか。

 

 

 

「さっきの子達も話してたけど、あの女優さん結婚するんだってね!」

 

「どの女優さん?」

 

「絢斗見てないの?」

 

「そういうのあんまり興味無いからな」

 

「絵空は?」

 

「見たのは見たけど、私もあんまりかも」

 

 

 

正直な話、芸能人同士の結婚なんて珍しいものでもないからな。それが人気の女優さんだったとして、俺にとっちゃ何の関係もない話だ。まぁファンの人達からすれば重大な問題かもしれないが。静かにしといてやれよっていうのが俺の素直な気持ちだな。

 

 

 

「じゃあPhotonMaidenの新しい動画は?」

 

「え、新しい動画出てんの?」

 

「昨日upされてたわよ」

 

「やべぇ見てないわ」

 

 

 

まぁ今までのやつも見てないんですけどね。だからメンバーも咲姫以外知らんし、何なら咲姫ですらどんな感じなのか知らないまである。あのゆるふわガールがどんな風にDJをこなすのか見てみたいとは思う。今日帰ってから動画確認するか。

 

 

 

 

「ねぇねぇ絢斗。一つ相談があるんだけど──」

 

「やだ。今日はお家帰って寝るって決めてるんだ」

 

「そんなこと言わずにさ!可愛いカノジョからの頼み事だと思って聞いてよ!」

 

「いつの間に彼女になったんだよ。というか勘違いされるから大声でそんなこと言うな」

 

「もう遅いと思うわよ」

 

 

 

絵空の言う通り、周りの生徒からの視線が痛い。由香も由香であんなだが、やはり可愛いのは確かでさぞかしモテるのだろう。そんな由香にあんな事言わせてる俺は、周りからは"どんな弱みを握ってるんだ"とか思われても仕方ないレベルだ。その内後ろから刺されないか心配になってきたぞ。

 

 

 

「放課後ウチに寄っていかない?」

 

「......もしかしなくともトレーニングか?」

 

「トレーニングはするけど、今日は見てるだけで良いよ。一人じゃ分からないことも多くてさ」

 

「それなら俺じゃなくても絵空で──」

 

「私は放課後用事があるから♪」

 

 

 

コイツ適当な理由付けて逃げるつもりか。この完璧な作られた笑顔は嘘をついてる時のモンだ。伊達に色々と付き合わされてねぇからな。特に絵空に関しては苦労させられる事が多かったくらいだ。何とか由香を味方に付けて絵空も道連れにしなければ。

 

 

 

「絵空は親御さんの手伝いがあるから駄目だってさ」

 

「そうなのよ。だからまたの機会にお願いね♡」

 

「畜生ッ!!最もらしい理由だから難癖すら付けられん!!」

 

「残念でした〜」

 

 

 

嬉しそうにしている絵空を前に、膝から崩れ落ちる俺。客観的に見れば絵空に土下座している風にも見えなくはない。これはさっさと諦めて付き合うしかねぇか。

 

 

 

「んじゃあ仕方ない。俺でよければ付き合うよ」

 

「やった。じゃあ放課後迎えに行くね」

 

「本当に見てるだけで良いんだよな?」

 

「んー、気分によるかな?」

 

「何でさっきと違うこと言ってんだよ」

 

 

 

急に不安になってきたんだが、まぁこうなってしまえば断るのも忍びない。せっかくジムにいくのなら、俺もトレーニングの一つや二つ付き合うのも悪くないか。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

 

 

 

授業の終わりを告げる慣れ親しんだチャイムだが、今日ほどこの音を聞きたくなかった日は無いだろう。今朝決まった放課後のトレーニングジムの件、時間が経つにつれて俺の心を支配していきドンドン憂鬱な気分に。土日の疲れが取れてないのに、とかいう理由でサボれたらどれだけ良かったことか。だがしかし、それを理由にするなら由香達の方が余程疲れているはず。しかし弱音を吐かないのが響子達ピキピキの凄いところだ。俺も少しは見習わないといけないかもしれない。

 

 

 

 

「放課後は由香のトレーニングに付き合うんだっけ」

 

「まぁ仕方なく。響子も一緒に来るか?」

 

「天音ちゃんとしのぶと私の三人で曲の相談したいから今日はパス」

 

「あー、そう言えばアイツそんな事言ってたな」

 

 

 

 

まぁウキウキ気分で独り言呟いてたのを聞いただけなんですけどね。これは盗み聞きにならないからセーフ。歯磨きしようと思って洗面所行こうと思ったら、天音が先にいて楽しそうにしてたから様子見てただけです。別に変態じゃありません。

 

 

 

「それじゃあ私は帰るね」

 

「おう、天音の事よろしく頼む」

 

「そっちも頑張ってね」

 

「善処する」

 

 

 

そして響子は帰り支度を済ませて教室を後にする。俺もそろそろ支度するか。とか思ってたらすぐに由香がルンルン気分で迎えに来たので急いで済ませる。

 

 

 

「そういえば絢斗がジム来るのって久しぶりかな?」

 

「んー、1ヶ月くらいは顔出してなかったかもな」

 

「きっとダディたちも喜ぶよ!」

 

「出来れば由香の親御さんには会いたくないんだが......」

 

 

 

嫌いだとかそういう理由では全くないので安心して欲しい。ただ、由香と同じかそれ以上にトレーニングに熱心なのだ。それに俺に対して色々と甘かったり世話焼いてくれたりするのも困る。それと俺の親父と由香の両親で筋肉談義してるのも困る。これ以上親父に筋肉要素を詰め込まないで欲しいのだ。

 

 

 

 

「よし!それじゃあレッツゴー!!」

 

「相変わらず元気なことで」

 

 

 

 

 

 

~トレーニングジム~

 

 

 

 

 

『よっしゃぁ!!もう一本もう一本!!』

 

『うっす!!』

 

『おいおい!筋肉イジメ足りてないんじゃないの!?』

 

 

 

 

「......こっちも相変わらずで安心したよ」

 

「ん?」

 

「いや何でもない」

 

 

 

 

 

ジムの入り口を抜けた瞬間聞こえてくるのがアレだ。まぁみんなあの人達みたいな感じではないんだけどね。静かに一人で黙々とトレーニングしてる人も中にはいるし。友達同士でワイワイ楽しくやってるのもちょくちょく見かける。俺はどれに属するかと言われれば......帰りたいと思いながら泣く泣くトレーニングしてる人達のグループだろうか。多分だけど滅茶苦茶少数派だな。

 

 

 

「んで、今日は何のトレーニングするんだ」

 

「この器具使うんだけど、ちゃんとバランス取れてるか見ててほしいの」

 

「そんなことか。だったらお安い御用だ」

 

「あと客観的にどう見えるか知りたいから絢斗にもやってもらうつもりだよ」

 

「......トレーニングに見映えは関係無いのでは?」

 

 

 

 

俺の言葉を待つ事なく準備を始めてしまった由香。準備が整うまで手持ち無沙汰になってしまった俺は、ジムのドリンクコーナーで飲み物でも取ろうと思い荷物を置いて足早に向かう。

 

 

 

 

「......由香に何飲むか聞いてくれば良かったか」

 

「私はプロテインでお願い」

 

「了解。味はどれに......って、え?」

 

「やっほー絢斗。元気にしてた?」

 

「なんだ衣舞紀か。プロテインなら自分で作ってくれ」

 

 

 

 

いきなりプロテインお願いなんて言われるから誰かと思えば。この人は新島衣舞紀といって、由香に連れられてジムに通う中で自然と仲が良くなった一つ歳上の先輩だ。最初は敬語でよそよそしく話してたが、どうやら衣舞紀はそういうのを嫌うらしく、もっとフレンドリーで良いと言われたので歳上だが敬語は使わなくなった。まぁ簡潔に説明するなら由香と同じくトレーニング好きの美人お姉さんって感じだな。

 

 

 

 

「今日はジェニーの付き添いか何か?」

 

「んまぁそんな感じ。衣舞紀は一人か」

 

「そうよ。良かったら私のトレーニングにも付き合ってくれないかしら」

 

「由香に聞いてくれ。俺にその権限は無いらしいからな」

 

「相変わらず優しいのね」

 

「だろ?もっと褒めてくれても良いんだぞ」

 

 

 

 

 

小さい頃から家族と女の子には優しくしなさいと躾けられてきたからな。男の子には優しくなくても良いらしい。まぁ心配しなくとも男の子で仲良い友達が俺にはいないから。そもそも友達少ないんだけどね。

 

 

 

「絢斗、準備出来たよ......って衣舞紀もいたのね」

 

「時間空いたからトレーニングしようと思ってね」

 

「......待てよ。衣舞紀がいるなら本格的に俺は必要無いのでは?」

 

『駄目』

 

「あ、はい。すみませんでした」

 

 

 

 

二人共笑顔なのに恐怖を感じるのはどうしてだろう。そんなにも俺にキツいトレーニングをさせたいのだろうか。確か衣舞紀も由香と同じくトレーニングとなると鬼コーチに変身するタイプだったな。俺は果たして無事に帰宅できるのか。

 

 

 

 

そんな俺の気持ちなど一ミリも関係無く、由香と衣舞紀が交互にトレーニングしているのを俺は側でボーッと眺めていた。決して鍛え上げた太腿がセクシーだとか、胸元に垂れる汗を拭いてあげても良いとか考えてない。俺はそんな変態では無い。断じて否である。

 

 

 

 

「......ッ!!......これ、結構キツいね!」

 

「でしょ?前から衣舞紀にはオススメしたかったんだよね〜」

 

「......ん?」プルプル

 

「次は絢斗の番だよ!」

 

「すまん、ちょっと電話」

 

 

 

携帯を確認すると親父からの着信だったので、いつもなら拒否するか放っておくかの二択なのだがこの状況下ではグッドタイミングだ。トレーニングを親からの電話という最高の言い訳で回避出来るのだから。正直、親父からの電話は嫌な予感しかしないのだがこの際どうでも良い。

 

 

 

「......もしもし」

 

『もしもし絢斗か!?』

 

「んじゃお疲れ」

 

『待て待て!父さんからの久し振りの電話だぞ?息子として嬉しくはないのか?』

 

「要件は?無いなら切るぞ」

 

『ちょ、本当に待てって!』

 

 

 

 

百歩譲って要件無しの電話でも許してやるから早く切りたい。そしてジュースでも飲みながら時間潰して"ごめん、電話が長引いたわ"って言えば二人も納得するだろう。

 

 

 

『お前に頼みたい事があるんだが』

 

「俺に?嫌だよめんどくさい」

 

『残念だがお前に拒否権は無いぞ。位置情報は送っとくから』

 

「位置情報?というかまだ納得してないんだけど」

 

『時間厳守。着いてからのことは任せてある』

 

「ちょ、おい待て親父!......切りやがったな」

 

 

 

 

さっさと要件だけ伝えりゃ良いのに、最初のはただのかまってちゃんだったのか。電話の通り、親父から位置情報が送られてくるがパッと見は全然分からんな。どこかのビルっぽい事だけは分かるけど、まためんどくさいのに巻き込まれた気がする。

 

 

 

 

「絢斗?」

 

「ん?あぁごめん。俺行かなきゃいけないところあるから帰るな」

 

「それなら衣舞紀も用事が出来たって言ってたよ」

 

「付き合えなくてすまん。また今度時間が合えばな」

 

「うん!約束したからね!」

 

 

 

 

サラッと次の約束をしてしまう辺り、コイツらにはとことん甘いなぁと思う俺である。親父があんな感じで言ってくる時は、大体面倒な案件を押し付けてくるのが相場だ。そんくらいなら由香や衣舞紀達のトレーニングに付き合ってた方がマシなのかもな。まぁつべこべ言わずに目的地に向かいますかね。

 

 

 

「あら?絢斗も帰るの?」

 

「親父から電話で用事。ちょっと行かなきゃいけないところが出来たんでな」

 

「私もいきなり呼び出しよ。今日は休みって言ってたのに」

 

「バイトか?」

 

「残念ハズレ。まぁ絢斗にはまだ秘密かな」

 

 

 

衣舞紀は俺に対して基本的にお姉さんっぽく振舞おうとするのだが、時々イジると照れたり恥ずかしがったりするのが非常に良い。これは所謂ギャップ萌えというやつだろうか。

 

 

 

「んじゃ俺はこっちだから」

 

「私もそっちの道だから途中まで一緒に行こっか」

 

「おう。喉乾いてるから自販機寄っても良いか?」

 

「大丈夫だよ」

 

 

 

衣舞紀の隣を歩いていると、すれ違う人が振り返っているのがよく分かる。そりゃこんな美人が歩いてたら二度見したくなる気持ちも分からんでもない。でも俺の方を見て嫉妬心を燃やすのはやめてほしいものだ。別に衣舞紀は俺の彼女でもなければ家族でもないから。

 

 

 

「ほい、これで良かったか」

 

「ありがと。財布財布っと.....」

 

「今回は奢りにしといてやるよ」

 

「そんなの悪いよ。というかいつも奢ってもらってるし」

 

「俺は人から金は取らない主義なんでな」

 

 

 

但し、親父は例外である。お小遣いが足りない時は親父のへそくりから頂戴してるし。これについては母さんも承認済みだ。親父相手だと母さんか天音を味方につけると圧勝だな。俺と1対1だと大体は肉弾戦になって負けるけど。......いや、全然負けてないから。俺は武力で勝つより頭脳とか戦略で勝つタイプだから。

 

 

 

「おーい、絢斗聞いてる?」

 

「ん?あぁ、トレーニングの話だっけ」

 

「それはもう終わったでしょ。大丈夫?ボーッとしてたけど体調とか悪くないの?」

 

「大丈夫だ、問題無い。ちょっと考え事してただけだから」

 

「だったら良いけど。じゃあ私は先に行くね」

 

「俺はもうちょっと休んでから行くわ」

 

 

 

飲み干した空き缶をゴミ箱に入れて、衣舞紀はジョギングで目的地へと向かっていった。用事とか言ってたが急ぎなのだろうか。それとも単に運動がてらジョギングでもしてるのか。後ろ姿でさえ絵になるなぁとか考えてる内に数分が経過してしまっていた。

 

 

 

 

「......やべ、俺も行かなきゃ親父に何言われるか分かんねぇな」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

ゴミ箱シュートに手間取って、ついつい10投程してしまい更に時間をロスしてしまった。あれ中々決まらないとイライラしてくるよな。まぁ普通に近付いて入れればすぐに終わるんだけど。だがしかし、これは誰しもが通る道なのだ。

 

 

 

「......ここだな」

 

 

 

 

親父から送られてきた位置情報によれば、このビルで間違いないだろう。何の理由があってビルなんかに呼び出されたかはサッパリ分からないが、放っておくと後から倍以上に面倒なことになるからな。

 

 

 

「取り敢えず入ってみるか」ウィーン

 

 

 

自動ドアを抜け、受付らしき場所が見えるが果たして受付に行っても良いのだろうか。そんな風に頭を悩ませていると、ふと後ろから聞き覚えのある声がしたので振り返る。

 

 

 

「おや、絢斗君遅かったね」

 

「姫神さん?何で姫神さんがここに?」

 

「何故と言われても、ここが私の職場だからとしか言えないな」

 

「職場?というと.......PhotonMaidenの事務所があるビルか」

 

「随分と冷静だな。正直もっと驚くかと思ったんだが」

 

 

 

コンビニのレジ袋を持ってやって来た姫神さん。色々と察するに、親父の頼み事はPhotonMaiden関係なのだろう。それにしても、俺に頼むような用事でもないように思えるが。それこそ母さんとか他の仕事仲間に頼むような案件じゃないか。

 

 

 

「これでも驚いてますよ。それで俺に何か用事ですか」

 

「まずはゆっくり話せる場所に行こうか」

 

 

 

それから姫神さんの後ろを付いて行き、すんなりと事務所の個室らしき場所まで到着。途中社員さんにチラチラ見られてしまったが、一般人で部外者の俺をおいそれと中へ通しても良いのだろうか。

 

 

 

「取り敢えず座ってくれ」

 

「なるべく手早くお願いします」

 

「そう警戒しなくても良いよ。用事と言ってもたいした話ではない。君に紹介したい人がいてね」

 

「はぁ、紹介したい人ですか」

 

 

 

何となく先の展開は読めてきたが、もうここにきて拒否するのもアレだしさっさと終わらせて帰ろう。こちとら土日の疲れが取れてないからな。

 

 

 

「入ってきていいぞ」

 

「ん?」

 

『失礼します』

 

「え?」

 

 

 

 

姫神さんの合図で一斉にやってくる美少女軍団。2人ほど顔見知りがいるのだが、ここは安定のスルーといこう。というかさっきまで一緒にいたんだけどね。もう一人は最近知り合った仲で、あとの二人は全然知りません。まぁ普通に考えればメンバーの人なんだろうけどさ。

 

 

 

「紹介しよう。PhotonMaidenの子達だ」

 

「絢斗君、どうしてここにいるの?」

 

「知らん、姫神さんと親父に聞いてくれ」

 

 

 

可愛らしく小首を傾げて聞いてくる咲姫。衣舞紀は驚いた表情を一瞬見せるが、何もなかったかのように振る舞っているし、他の二人は"咲姫ちゃんの知り合い?もしかして彼氏だったりする!?"とか騒いでるし。本当に女の子って恋バナが好きなんだな。

 

 

 

「まずは一人ずつ自己紹介していこうか」

 

「出雲咲姫。絢斗君には先週色々とお世話になった」

 

「言い方を考えような。俺じゃなくて俺の親父と母さんだろ」

 

「新島衣舞紀......って改めて言う必要も無いか。何で絢斗がここにいるのよ」

 

「俺が知りたいくらいだ」

 

 

 

まさか衣舞紀がPhotonMaidenのメンバーだったとは。PhotonMaidenの動画の一つも確認してなかったから、咲姫以外のメンバー知らなかったんだよな。そりゃ道行く人が衣舞紀を二度見するのも無理ないか。大人気グループ、って程でもないにしても全世界に公開されている動画だ。知っている人が周りにいてもおかしくはないからな。

 

 

 

「私は花巻乙和!君って陽葉学園の1年生だよね?」

 

「まぁそんな感じ。そっちはもしかして中等部の子?」

 

「私は2年生で先輩だよ!何で歳下だと思ったのかな!?」

 

「ぷっ......くくっ。乙和歳下に間違えられてるし」クスクス

 

「あーっ!!ノアが馬鹿にしてくる!」

 

 

 

身長が天音と同じくらいだったから、てっきり中等部の子なのかと早とちりしてしまった。しかしまぁ......一部は強烈なまでにたゆんたゆんなのに俺の一個歳上だったとは。第一印象も妹っぽかったからつい敬語を使うのを忘れた。

 

 

 

「私は福島ノア。さて、私は先輩でしょうか後輩でしょうか?」

 

「......先輩?」

 

「正解!やっぱり先輩感が溢れ出ちゃってるからかな?」

 

「ノアもどっちかというと妹っぽいもん!」

 

「何言ってんの乙和。妹っぽいっていうのは咲姫ちゃんみたいな子の事を言うんだよ」

 

 

 

確かにそれは一理あるかもしれない。何というか、庇護欲を掻き立てられるというか守りたい存在というか。そういうのが咲姫にはあるのかもしれない。まぁ花巻先輩?にもそれはあると思うが。

 

 

 

「乙和もノアもその辺りにしときなさい。プロデューサーもいるんだから」

 

「別に構わないぞ。今は仕事中では無いからな」

 

「姫神さん。そろそろ本題を聞かせてもらえませんか」

 

 

 

すっかりと流れに乗ってしまったが、今日ここに俺を呼び出した理由を聞かなければ。どうせ親父が一枚噛んでるんだろうけど、姫神さんもグルの可能性があるからな。案外、親父と姫神さんは仕事での相性は良かったらしい。

 

 

 

「本題も何も、士郎さんから言われたのは顔合わせだけだったからな。もう終わってしまったよ」

 

「......何の為の顔合わせなんだよ」

 

「士郎さん曰く"アイツは友達が少ないから、是非フォトンの子達と仲良くさせてやってくれ!"だそうだ」

 

「あんのクソ親父。帰ったら母さんに言いつけてやるからな」

 

 

 

友達が少ないのは認めても良いが、何でその流れでこの子達と友達にさせようと思ったのか全然理解出来ないな。一度研究機関にでも行って、親父の脳みそを見てもらったほうが良いかもしれない。もしかすると世紀の大発見に繋がるかも。"大発見!?脳の9割が筋肉で出来た人間が存在する!?"という題目で、明日の朝の新聞にでも載るかもな。

 

 

 

「先程から話に出てくる絢斗君の親御さんは、もしかして私達に指導してくれてるDJシロなんですか?」

 

「えぇ!?あのオジサンが君のお父さんなの!?」

 

「どのオジサンの事言ってるか分かんないですけど、筋肉筋肉うるさいオジサンだとすれば正解ですね」

 

「あ〜、確かにあの人のレッスンかなりキツかったよね」

 

 

 

既にPhotonMaiden......長いからフォトンで良いか。フォトンのメンツにレッスン付けてるんだな。親父はあんな感じだが、DJの才能は勿論のことダンスやその他諸々の知識や経験も豊富らしいからな。本当に人間なのかどうかすら怪しいレベル。どうやったらあんなオジサンから天音のような子が産まれるのだろうか。きっと天音には親父の血が1%くらいしか引き継がれてないのだろう。その1%で親父の絶対音感を受け継いだのは流石としか言えないな。

 

 

 

「私はまだ仕事が残ってるから失礼するよ」

 

「プロデューサー、私達はどうすれば良いですか?」

 

「自由にしてくれて構わない。せっかくだし絢斗君と食事でも行って来れば良いさ」

 

「いや、俺は家に帰って食べるんで──」

 

「じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらいます」グイッ

 

「ちょ、衣舞紀!?やめ、やめろぉぉ!!って力強っ!」

 

 

 

 

ガッチリと衣舞紀にホールドされてしまい、何一つ身動きが取れなくなってしまった。そして逆からは咲姫が、後ろからは花巻先輩と福島先輩が背中を押しながら部屋を後にする。警察に連行される犯罪者の如く事務所を歩いていたお陰か、またしても社員さんにチラチラ見られてしまった。というかさっきより暖かい視線が多いのは気のせいか。

 

 

 

「そろそろ離してくれ。さっきも言ったが、俺は家で飯食うから大丈夫だって」

 

「でも絢斗君の分は作ってないらしいよ?」

 

「何で咲姫がそんなこと知ってるんだよ」

 

「さっき教えてくれたから」

 

 

 

咲姫の携帯を確認すると、そこには確かに俺の母さんからの連絡が入っていた。だから何で咲姫が俺の母さんの連絡先知ってるんだよ。というか知ってても夕飯の話なんかするなよマジで。俺のプライバシーはどこにいったのか。

 

 

 

「でも響子とかしのぶも居るから帰る必要性が──」

 

「大丈夫、他のみんなも呼んでおいた」グッ

 

「おいぃぃぃぃ!?何やってんだお前はぁ!」グリグリ

 

「絢斗君くすぐったい......」

 

 

 

可愛らしい笑顔で親指立てながらキメ顔をする咲姫。またしても咲姫の天然ボケが炸裂してしまった。お仕置きも兼ねて頭をグリグリしておくが、女の子相手に本気になる訳にもいかないので軽くで抑えておく。

 

 

 

「そういうことだから、絢斗もそろそろ観念しなさいよ」

 

「ねぇねぇ絢斗君!これから何食べに行こっか!」

 

「そうですね、先輩だったらお子様ランチとかどうですか?」

 

「だからそのイジリはやめてよ!」

 

「絢斗君は乙和の扱い方が上手いね」

 

「褒めても夕飯奢ったりはしませんよ」

 

 

 

 

しかしながら、自然と話の中で居心地の良さを感じている自分がいることに少し驚いてしまう。ピキピキのメンツとはまた違った意味で、この4人にもそういうものがあるのだろうか。若干ながら騒がしくもあるが、これはこれで良いのかもしれないな。

 

 

 

「んじゃ遅くならないうちに行きますか」

 

「よーし!それじゃあレッツゴー!!」

 

「乙和、子供じゃないんだから静かにしてよ」

 

「ノアだって本当は楽しみなクセに」

 

 

「乙和と違って私は()()()()だから」

「それとこれとは別でしょ!」

「そんなのじゃいつまで経っても可愛くなれないね」

「だからそれも別でしょ!!」

 

 

 

 

「......店で怒られないか不安だ」

 

「まぁあの二人も普段は良い子だから」

 

「みんなでご飯、楽しみ」

 

 

 

それから響子やしのぶ達にまたしても問い詰められました。別に俺から誘ったわけでも無いのにな。まぁ咲姫や衣舞紀の援護のお陰で多少は助かったが。これからは、今までよりもっと忙しくなりそうな予感がする。今のうちに神様にでもお願いしておくか。筋肉神とかそういうのじゃなく、普通の良い神様に。

 

 

 

 

 

Next→

 






タイトルの方向性が行方不明です助けて下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#11 "可愛い"は正義!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「んふふ〜、ねぇ天音ちゃん天音ちゃん」

 

「な、なんですか」

 

「こっち向いて?出来れば写真撮らせてくれない?勿論、お代はいくらでも支払うよ!?」

 

「別に要らないですけど......」

 

 

 

 

 

何故このような状況になったのか。どうして我が妹が質問攻めに合っているのだろうか。本来、そのポジションにいるのは俺だったはず。いや、全然違うんだけどね。まぁそれは置いておくにしても、我が家にまで上がり込んで何の用事かと思えば、まさか本当に天音に会いたいだけだったとは。この先輩、中々に侮れない。

 

 

 

 

「好きな食べ物は!?どんな曲を聴いたりするのかな!?も、もしかして私達の曲が好きだったりするのかな!?」フンス

 

「お兄......」

 

「すまん、家に上げた俺が間違ってた」

 

「絢斗君!天音ちゃんの昔の写真プリーズ!!言い値で買い取らせてもらうから!!」グイッ

 

「衣舞紀達も連れてくるべきだったか......」

 

 

 

 

 

こうなってしまった原因は、今から遡ること数時間前。

 

 

 

 

 

 

 

~陽葉学園~

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

 

 

「はぁ......やっと終わった」グッタリ

 

「お疲れ様。授業の途中ウトウトしてなかった?」

 

「まぁな。というか何で響子が知ってるんだよ」

 

「見てたからに決まってるでしょ」

 

 

 

おかしい、俺より響子の方が席は前の方のはずなのに。何故俺の事を見ていたのかは聞かないでおこう。変に話が拗れて絵空や由香達にバレると面倒臭いからな。

 

 

 

「今日の予定は?」

 

「ごめん、家の用事があるから先に帰るね」

 

「りょーかい。んじゃ一人でのんびり帰りますか」

 

 

 

昨日は結局夜までフォトンのメンバー達とご飯行ってたからな。帰ろうと思って立とうとしても止められるし。トイレのついでにこっそり帰ろうとしても阻まれてしまった。それからは隣に咲姫がピッタリと張り付いて見張られたし。結局食べ終わってから1時間後くらいに解散だ。帰って風呂入って時計見たら22時過ぎてた時は終わったと思ったね。まぁ1日はほぼ終わってるんだけどね。......全然上手くねぇな。

 

 

 

 

「今日は親父も居ないし、帰ってからものんびり過ごせそうで安心だな」

 

 

 

 

独り言で呟いたこの言葉が見事にフラグを回収してしまうことになるとは。今にして思えば、親父の部分のフラグ回収をしなかっただけ良しとするべきか。いつだって暑苦しい中年親父より、今時の可愛らしいJKと話したいものだろう。

 

 

 

「あれ?絢斗君みっけ!」

 

「本当だ。乙和の事だから見間違いか何かかと思ったのに」

 

「先輩方お二人も今から帰りですか?」

 

「うん、絢斗君も一緒にどうかな?」

 

 

 

"一人で帰りたいのでゴメンなさい"とは言うに言い切れず、昨日知り合ったばかりの乙和先輩とノア先輩と帰路を共にすることにした。だって仕方ないじゃん、断ろうとすると乙和先輩が涙目の上目遣いとかいう卑怯なスキル発動するんだぜ?男子高校生なら負けて当たり前だろう。あ、二人を名前呼びしてるのは俺が勝手に呼んでるわけではなく、先輩二人にお願いされたからなので悪しからず。

 

 

 

 

「今日はフォトンの方は大丈夫だったんですか?」

 

「昨日と今日の二日間はオフの予定だからね」

 

「私はこれからスイーツを食べに行く事を提案します!」

 

「スイーツかぁ......乙和にしては良い提案ね」

 

 

 

如何にもJKらしい提案だが、スイーツならピキピキメンツと幾度となく経験している。本当に女の子って凄いよな。デザートは別腹という魔法の言葉があるらしく、ご飯をお腹いっぱい食べた後でもスイーツなら美味しそうに頬張るんだもん。俺も甘い物は嫌いじゃないが、流石に腹一杯メシ食った直後は勘弁してほしい。

 

 

 

 

「というわけで、やってきましたクレープ屋さん!」

 

「へぇ、こんなところにクレープ屋なんかあったんですね」

 

「乙和って変にこういうところ詳しいよね」

 

「別に変じゃないでしょ!」

 

 

 

 

少し入り組んだ細道にポツンとある"クレープ"の看板。廃れているようにしか見えないが、案外と売れ行きが良いのか何品か売り切れてしまっていた。店主の名札を付けているオバさんがこちらを睨む様に見てくるので、咄嗟に目を逸らしてしまった。

 

 

 

「ん〜、私何味にしよっかなぁ?」

 

「種類が多いから余計に悩むわね」

 

「......さっきからすっげぇ睨んでくるからそれどころじゃないんだが」

 

 

 

二人がメニューと睨めっこしながら楽しく何頼むか話している最中、俺はというと店主のオバさんと睨めっこをしていた。まぁオバさんが一方的に見てきてるだけなんだけど。早いとこ俺も食べるクレープ決めないと気まずい。

 

 

 

「決めた!やっぱり王道のイチゴ味にする!」

 

「じゃあ私はミックスベリーにしようかな」

 

「俺もイチゴ味で──」

 

「......」

 

「じゃあミックスベリーで──」

 

「......」

 

 

 

早く注文したいのだが、俺の時だけオバさんが無言で首を振り続けるのは何故なのか。残るは練乳アイス味と抹茶味......そしてオクラ納豆味。明らかに一つだけ異色を放つフレーバーがあるのはスルーだ。

 

 

 

「練乳アイ──」

 

「......」

 

「まっt──」

 

「......」

 

「......オクラ納豆味でお願いします」

 

「......あいよ」

 

 

 

 

もう最後まで言わせてくれないのね。売れないから半強制的に買わされてしまった感が半端ない。オクラ納豆味なんか食べたら、クレープという概念がゲシュタルト崩壊しそうで怖い。

 

 

 

注文してからはパパッと事が進み、数十秒ほどで全員分のクレープが完成してしまった。先輩二人のクレープは普通に美味しそうなのに、俺の分だけ明らかにドロドロなのは見間違いか。

 

 

 

「絢斗君......案外度胸あるんだね」

 

「これには色々と理由がありまして」

 

「絢斗君ってもしかしてゲテモノ好き?」

 

「断じて違います」

 

 

 

既に変な勘違いをさせてしまっている。料理上手な母さんの元ですくすくと育ってきた俺は、生まれてこの方ゲテモノ料理等は勿論口にしたことはない。そもそもオクラ納豆はゲテモノ料理では無いと思うけど。まぁそれにしても普通クレープと掛け合わさる事はないであろう一品なのは間違いない。

 

 

 

「ん〜、やっぱクレープは美味しい!」

 

「乙和はクレープばっかじゃん」

 

「好きだから良いの!」

 

「ふぅ.......よし、覚悟は出来た」

 

 

 

 

─いざ、実食─(逝ってきます)

 

 

 

 

 

 

「......」モグモグ

 

「どう?オクラ納豆の味する?」

 

「そりゃオクラ納豆味なんだからするに決まってるでしょ」

 

「う......美味い」

 

 

 

 

というか、コレは完全にデザートじゃなくて食卓に並ぶ系の味だ。俺自身オクラも納豆も嫌いじゃないし、むしろ健康や栄養面でも優秀なこの二つはウチの食卓に並ぶことも少なくない。いつもは白ご飯と合わせて食べてるだけで、今回はそれがクレープに変わっているだけだ。うん、普通にオクラ納豆の味がして美味しい。でもおかしいね。デザート食べにきたはずなのに、いつの間にか晩飯になってた。

 

 

 

「じゃあ一口ちょーだい!」

 

「良いですけど伸びますよ?」

 

「大丈夫!たぶん!」

 

「服とか汚れても知らないですからね」アーン

 

「んっ......本当だ美味しい!!」モキュモキュ

 

 

 

 

何だろう、やっぱり乙和先輩には凄く妹属性を感じる。味はオクラ納豆(アレ)だが、美味しそうにもきゅもきゅしてるところを見ていると味とかどうでもよくなってくる。だがしかし、妹属性とは言え舌でぺろりとクリームを舐めとる仕草を見ていると艶やかさも持ち合わせている様子。......いかんいかん、変な方向に思考がシフトしてるぞ俺。頭をオクラ納豆にやられてしまったのかもしれない。

 

 

 

「じゃあ私も一口」パクッ

 

「あっ、そこ一番中身詰まってるところですけど......」

 

「ん〜っ!!」

 

「ほら言わんこっちゃない。ちょっと止まってて下さい」

 

 

 

 

死角からノア先輩がクレープにパクついたが、残念ながら一番中身が詰まっているところを引き当ててしまい糸が伸びに伸びてしまっていた。持っていたティッシュで拭き取り、ようやく落ち着いた様子。ノア先輩も同じく舌で唇を舐めていたが、こちらは乙和先輩と違い"美しい"という言葉が似合いそうだ。まぁ味はオクラ納豆なんですけどね。

 

 

 

「案外イケるかも」

 

「でしょ!」

 

「何で乙和が自慢げにしてるのよ」

 

「だってここ私のオススメだから!」

 

 

 

 

それからは近くのベンチに座って、三人で楽しく駄弁りながらクレープを食べていた。その中でフォトンの話題を少ししてもらい、成り立ちや各々の想いなんかも話してくれた。やはりと言うべきか、途中から話が脱線して変な方向に進んだのは最早お約束だろう。

 

 

 

 

 

そして陽も落ちつつある時間となり、帰宅しようとした時。

 

 

 

 

 

「ねぇ絢斗君」

 

「なんですか」

 

「さっき妹がいるって言ってたよね?」

 

「いますよ。絶賛反抗期の妹が一人」

 

「......可愛い?」ズイッ

 

 

 

 

予想はしてたがこんなにも早いとは。ノア先輩は可愛いものに目がないらしく、最近は咲姫にお熱らしい。まぁお兄ちゃんの贔屓目無しでも天音は可愛らしいと思うが、アイツが果たして心を開いてくれるかどうか。咲姫の場合は"共感覚"という共通の話題や咲姫自身の性格もあって良い感じだったが......この先輩ちょっと怪しいからな。今でも興奮気味だし天音が怖がらないかだけが心配だな。

 

 

 

「俺には毒舌ですけど、まぁ可愛らしいですね」

 

「い、今から会いに行っても良いかな!?」

 

「今からか......天音がOK出せば俺は良いですけど」

 

「あ、じゃあ私も行きたい!」

 

「んじゃ今から聞くので待ってて下さい」

 

 

 

携帯から天音に電話を掛ける。履歴には応答なしが連続しているが、時々出てくれるし何回か掛ければ大丈夫だろう。その代わりに俺が怒られそうだけど。

 

 

 

『......なに?』

 

「お、久し振りに出てくれたな」

 

『用事無いなら切るけど』

 

「待て待て、お前に会いたいって人がいるんだが」

 

『......どんな人?』

 

 

 

少し前なら問答無用で嫌と言っていたのに、この変化はやはり響子のお陰なのだろうか。咲姫にも懐いてたしアイツのお陰かもしれないな。まぁどちらにせよ天音が頑張って進むのなら、お兄ちゃんとして支えてあげるのが俺のやるべき事だろう。

 

 

 

「んー、一人は小柄で妹っぽい可愛い感じの先輩」

 

『あんまりイメージ出来ない』

 

「もう一人は可愛いを探究してる......変態?」

 

『余計に分かんなくなったし、変態なら嫌だよ』

 

 

 

視界の端で少し顔を赤くしている乙和先輩と、俺の肩に向かってパンチしてくるノア先輩。いや、パンチと言えば可愛らしく聞こえるが結構痛いのよコレ。謝ります、変態って紹介したのは謝るのでパンチの構えは解いて下さいお願いします。

 

 

 

「どうだ?」

 

『......でもなぁ』

 

「一回だけでも良い。嫌だと思ったら俺が追い出すから」 

 

『......お兄がそこまで言うなら』

 

「よし、んじゃこれから帰るから準備して待ってろ」ピッ

 

 

 

どうやら俺の会話で何となく察したらしく、嬉しかったのかガッツポーズをするノア先輩。乙和先輩はというと、俺と同じタイミングで電話が終わったらしく携帯をポケットへしまった。気付かないうちに誰かから電話でも掛かってきたのだろう。

 

 

 

「乙和先輩は何か用事でもあったんですか?」

 

「ん?衣舞紀に電話してただけだよ」

 

「それは何故?」

 

「衣舞紀も一緒にどうかなって思って。でも忙しいからパスだって」

 

 

 

誘うのは別に良いので、今度からは俺に許可を取ってからにして頂きたい。まぁ俺というか天音になんだけどね。さっきからノア先輩は興奮気味で一人で盛り上がってるし。本当に大丈夫なのだろうか。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「天音ちゃんは中等部だよね?」

 

「そ、そうですけど」

 

「はぁ〜!!何でこんなに可愛いのに早く教えてくれなかったの絢斗君!!」

 

「いや、教えるも何も昨日会ったばっかじゃないですか」

 

 

 

 

という長い回想を経て今に至る。今も天音が俺を盾にして身を隠しているが、それですらノア先輩には可愛く映ってしまうので困りものだ。乙和先輩は出来る限り刺激しないように会話してくれてるのが見て取れる。

 

 

 

 

「ずっと絢斗君に隠れてるけど、天音ちゃんはお兄ちゃんのことが好きなのかな?」

 

「違います」キッパリ

 

「......間接的に俺がダメージ受けるのでその質問はやめましょう」

 

「じゃあ私からのお願い聞いてもらっても良いかな!?」

 

「出来ることなら良いですけど」

 

 

「別に嫌なら断っても良いんだぞ」

「いや、でも断ったら何されるか分かんないし」

「それ絶対本人の前では言うなよ」

 

 

 

天音にも危険人物扱いされてるノア先輩。可愛いものに目がない、とは聞いてたがこれほどまでとは思わなかったからな。二重人格とまで錯覚するレベルだから仕方ないと言えば仕方ないか。

 

 

 

「天音ちゃんの制服姿が見たい!」

 

「それくらいなら......まぁ別に」

 

「やったー!!乙和、出来るだけ写真撮って後から送って!」

 

「はいはい、分かったから大人しくしてて」

 

 

 

先程までとはまるで立場が逆転したように見える先輩二人。こうして見ると姉妹みたいだなとか思ってボーッと眺めていると、三人から逆に視線を集めていることに気付く。何か顔に変なモノでも付いてるのか。それともボーッとしてた顔がマヌケだったとか。それなら早く言って欲しい。

 

 

 

「ん?」

 

「絢斗君?」

 

「どうしましたノア先輩」

 

「分かるよね?」

 

「いや、何のことやら──」

 

 

 

言い切る前に、天音からのフルスイングのビンタがモロに入る。

 

 

 

「お兄は部屋から出て行って!!」

 

「へぶしっ!?」ピューン

 

「......絢斗君って案外抜けてるところあるよね」

 

「出来ればビンタより先に言葉で伝えて欲しかったです......」

 

 

 

 

 

それから数分間、俺はドアの前で正座してずっと待っていた。赤く腫れた頬を手で優しく撫でながら、中から聞こえるノア先輩の叫び声とも思える声を聞きながら。完全に忘れられてるのでは?と思い立ち上がろうとした瞬間、ドアが勢い良く開いて額にマッハでぶつかってくる。もうやだ、お家にいるのにお家に帰りたい気分だ。

 

 

 

 

「あ、絢斗君ッ!!」

 

「いってぇ......なんすか急に」

 

「今度一日天音ちゃんを借りても良いかな!?」

 

「ん〜......」

 

「......」フルフル

 

「駄目みたいですよ」

 

「がはっ!!」バタッ

 

 

 

 

福島ノアに 999ダメージ!

 

......返事が無い。ただのしかばねのようだ。

 

 

 

 

「まぁウチに遊びにくるくらいなら大丈夫だと思いますよ」

 

「......まぁそれくらいなら」

 

「本当に!?ありがと天音ちゃん!!あぁ天音ちゃんのほっぺ柔らかいなぁ。髪の毛もサラサラだし良い匂いするし可愛いし!あとあと、目がくりっとしてて可愛いし鼻もシュッとしてて可愛いし口も可愛いし眉毛も可愛いしまつげも──」スリスリ

 

「回復はえぇなマジで」

 

「ほら!天音ちゃんに迷惑かけすぎ!じゃあ私達も帰るね!」

 

 

 

天音に頬擦りするノア先輩を無理やり引き離して、引きずるようにして玄関へ向かう乙和先輩。この二人の上下関係があやふやでハッキリしないのは何故だろう。まぁ同い年だし上下もクソもないか。同じグループの仲間だし友達だし。こりゃピキピキも気が抜けないかもしれないな。

 

 

 

「それじゃお邪魔しました!また今度遊びにくるね!」

 

「その時は衣舞紀も連れてきてくれると助かります」

 

「うん、咲姫ちゃんも連れてフォトン全員でお邪魔するね」

 

「天音ちゃーん!!絶対また今度遊ぼうねぇ!!ぜーったいだからね〜!!」ズルズル

 

 

 

 

天音に向けて熱い想いをぶちまけながら、乙和先輩に引きずられて帰るノア先輩。当の天音はまたしても俺の背中に隠れているが、案外気を許しているのか最後に手を振って送り出していたのが伺えた。

 

 

 

 

 

 

~夕食後~

 

 

 

 

「ふぅ〜、今日も美味かった」

 

「お粗末様。今日咲姫ちゃんのお友達が遊びに来たんでしょ?」

 

「お友達っていうか同じグループメンバーだけどな」

 

「お母さんも会いたかったなぁ〜」

 

「仕方ないだろ。入れ違いで帰ったんだから」

 

 

 

乙和先輩とノア先輩が帰ってから数十分後、母さん達が帰宅して夕飯の準備を始めてくれた。今は夕食後の珈琲のお時間だ。脳筋親父はと言うとすぐにお風呂に向かって走って行った。というか居座られると面倒くさいのでお風呂へと追いやった。これでリビングの平穏が保たれる。

 

 

 

「どうだった?可愛いかった?」

 

「何で真っ先にそんな事聞くんだよ」

 

「天音は?」

 

「ん〜......色々と変な人だったよ」

 

 

 

やはり天音から見ても結局ノア先輩は変な人扱いなのか。いやまぁ言いたい事は十分過ぎるほど分かるんだけどね。だって、あの人変だもん。可愛いものに対する執念というか執着というか、とにかく変なのは確かな事だ。まぁだからと言って嫌だった訳でもなさそうだったけどな。

 

 

 

「でも嫌じゃなかったんだろ?」

 

「まぁそれは......うん」

 

「あらあら。今度お礼言っておかないといけないわね」

 

「母さんはややこしくなるから引っ込んでてくれると助かるんだけどな」

 

 

 

 

咲姫の時といいピキピキメンツの時といい、母さんが絡むと面倒くさくなる事の方が多かった印象が強い。天音のお眼鏡にかなっていることもあって、多分母さんも気に入ってくれるのは間違いないと思うが。唯一心配なのは既に天音ガチ勢になりつつあるノア先輩と母さんが結託しないかどうかだな。

 

 

 

「そういや気になってたんだけど、二人はお前から見てどんな風に見えたんだ?」

 

「どんな風に?」

 

「共感覚的な意味合いとか」

 

「ちょっと待って、お母さん当てて見せるから」ムッ

 

「いやそういうゲームしてるんじゃないんだけど」

 

 

 

 

額に手を当て唸りながら考える母親、を見て少し笑顔になった天音と俺。母さんはこうやって場を和ませるのは上手だ。それに比べて親父は周りの雰囲気をぶち壊すのが得意ときてる。時折会話の中に混ざる寒いオヤジギャグのセンスも皆無だし、なんなら筋肉で会話してるのが平常運転まであるからな。本当に母さんと親父が夫婦なのか怪しく思った事が何回あったか。

 

 

 

「ノアさんはちょっとアレだったけど......乙和さんは優しそうで良い人だったよ」

 

「ノア先輩......南無三」

 

「でもノアちゃんも良い子だったんでしょう?」

 

 

 

ノア先輩があまりに可哀想だから、俺の携帯の中にある秘蔵の天音コレクションを一枚だけ送っておこう。ちゃんと悪用厳禁ってだけ書いとくか。あの人マジで額縁とかに飾りそうだからな。

 

 

「グイグイくるのはやめて欲しいけど......でも暖かい色だったよ。まるでお兄──」

 

「ん?」

 

「な、何でもないからこっち見ないで変態!」

 

「母さん、俺は今から親父を殴りにいこうと思う」グッ

 

「腹いせにお父さんを殴るのはやめなさい」

 

 

 

じゃあ殴るのはやめにして、親父に"天音が嫌いって言ってた"と伝えておこう。そんな事言われたら親父にとって、過呼吸起こして病院に搬送されるレベルだろう。だが妹よ、百歩譲ってお兄ちゃんに毒吐くのは許しても変態呼ばわりはやめてもらおうか。ノア先輩と一緒にしないでほしい。別に俺はシスコンではない。

 

 

 

 

まぁでも母さんじゃないが、あの二人にはちゃんと後でお礼言っとかないといけないな。天音に良くしてくれる人が増えるのは良い事だからな。周りから見れば完全に浮いてしまっている天音に対して、普通に接してくれたり好意を持ってくれたりするのは俺達にとっちゃ珍しいことだ。避けられたり無視されたり、果てにはイジメに発展したりするケースも少なくないと思うし。お兄ちゃんとしては辛いが、俺に懐かない分は他の人に任せるしかないだろう。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「今日はありがとうございました。天音も楽しかったと思います」

 

「いえいえ、こちらこそノアが迷惑かけてごめんね」

 

「......ごめんね絢斗君。天音ちゃんが可愛すぎてつい」

 

「まだ隠せてないですけど、まぁそれは別に良いです」

 

 

 

 

 

「お二人は天音をどう思いましたか?」

 

「天音ちゃんは凄く良い子だと思うよ」

 

「ちょっと引っ込み思案なところもキュートだね」

 

「.......変な子とか思ったりしないんですね」

 

 

 

 

 

 

「どうして?」

 

「詳しくは言えませんけど、ああいう難しい子って避けられたりするじゃないですか」

 

「ん〜、まぁ普通はそうかもしれないね」

 

「じゃあなんで──」

 

「絢斗君、お姉さんから一つヒントをあげるよ」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

───可愛いは正義なんだよ!!───

 

 

 

 

 

 

「お兄聞いてる?」

 

「ん?おう、勿論聞いてたぞ」

 

「お母さんも二人とメル友になっちゃおうかな〜」

 

「頼むからやめてくれ。というかメル友って今日日聞かねぇけどな」

 

 

 

 

 

 

すみませんノア先輩、全ッ然ヒントになってないです。最後にキリッとした顔で何を言うかと思えばあれだからな。乙和先輩も呆れたような顔してたし。もう本当、フォトンのメンバーと出会ってから数日しか経ってないのに疲れた。今日は早く風呂入って寝るとしますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

Next→

 

 

 






感想&評価頂くとモチベに繋がります
(主は嬉し泣きします)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#12 Let's Peaky P-key Time!!

 

 

 

 

 

 

目覚まし時計というのは何かと難しく、自分が設定した時間ピッタリに設定した音で起こしてくれる便利機能だが、結局二度寝三度寝して遅刻しそうになる。設定した音は嫌いになるし、二度寝を見越して何度もアラームを設定した経験があるのは俺一人ではないだろう。だがしかし、それでも人間の三代欲求の一つである睡魔には勝てるわけがなく。今日も今日とて、時間ギリギリで陽葉学園へと向かった。

 

 

 

 

でも安心して欲しい。俺の携帯のアラームに設定しているのは、我らがピキピキの曲である。よって、これで寝過ごすことがあろうものなら天音からの天誅待ったナシだ。これ安心できるような事じゃねぇな。でもアラームの設定音変えようとすると、それも天音に怒られるからな。もう俺にはどうすることも出来ないのだ。たった一つ出来ることがあるとすれば、二度寝しないでアラームでしっかりと目を覚ますことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

~陽葉学園~

 

 

 

 

 

「───であるからして、俺は遅刻ギリギリなわけよ」

 

「長ったらしい説明ありがとう。半分くらい聞いてなかったわ」

 

「でも私達の曲を設定してるのはポイント高いよね!」

 

 

 

何だよそのポイント。ピキピキポイント貯めれば特典あるとか?ついうっかり100万ポイントくらい貯めちゃいそうで怖い。

 

 

 

「天音ちゃんには怒られなかったの?」

 

「怒るも何も、アイツの方が先に家出てたからな。というか響子、お前天音と一緒に登校したんだから分かるだろ」

 

「うん、怒ってたけどそんなにかな」

 

「大体アンタが朝弱いのがダメなのよ」

 

「うっせぇ。しのぶだって起きれない時あるだろ」

 

「それは徹夜した時だけじゃん」

 

 

 

それから俺vsピキピキの"どっちが悪いか"について討論したが、ものの数分で俺の負けが確定してしまった。1対4は卑怯だと思います。まぁ屁理屈ばっかの俺が勝てるわけないんだけどな。

 

 

 

「あ、そうだしのぶに聞きたいことあったんだ」

 

「なに、言っとくけどリミコンの話なら完成するまで教えないから」

 

「それも聞きたかったけど今ので諦めた。リミコンちゃーくてゲームの話だよ」

 

「今度のイベント?それとも新キャラの性能?」

 

「どっちもだ。昨日も一昨日も忙しくてな」

 

 

 

 

公式から出てくる情報を追うだけなら出来たが、俺が知りたいのはプレイヤー側の意見そのものだ。もっと具体的に言えば、俺やしのぶのような上位プレイヤーの意見だな。前回のイベントの総合順位は、俺が35位でしのぶが12位。勿論、プレイヤーの総人口は千や二千のレベルではない。俺の順位がしのぶと比較して低いのは、単に最近のリアルでの忙しさが原因だ。

 

 

 

「まず今度のイベントね。アンタが前に当てたキャラがメインのストーリーらしいよ。その関係で装備も追加されるって話もあるし」

「ん〜、でも俺の推しキャラじゃないんだよなぁ」

「新キャラ枠でいたような気もするけど」

「しのぶさんそこんとこ詳しく」

 

 

 

「あーやって話してるの見てると、なんだか二人が兄妹っぽく見えるよね」

 

「仮にそうだとしても、しのぶって天音ちゃんと似てるところあるから今とあまり変化は無さそうね」

 

「まぁ二人とも子供っぽいところあるから」

 

「キョーコにとっては弟と妹って感じ?」

 

「それにしてはちょっと大きすぎる気もするけどね」

 

 

 

 

しのぶからおおよその情報を得て満足した俺だが、ふと周りを見てみると温かい目で見守られていた事に気付く。話に夢中で我を忘れていた。この目は多分アレだ。親が小さい子供達の遊ぶところを見守るような目だ。でも仕方ないよね、男の子はゲームとか大好きだからね。かと言って女の子でゲーム好きなのも全然問題ない。俺的にはむしろウェルカムまである。

 

 

 

 

とまぁゲームの話は一旦置いておくとして。遅刻ギリギリの言い訳、もとい弁解......これじゃ言い方が変わっただけか。ともかく何故か響子達にバレていた為に説明していたのは、みんなで昼ご飯を終えて少し経った頃。最初に聞かれなかったから案外イケると思ったのも束の間、食べ終えて一発目に全員から尋問されるとは。

 

 

 

 

「......コホン、俺から一つ提案があるんだが」

 

「あ、じゃあ私はパフェが食べたいな♪」

 

「俺今提案って言ったよね?何で絵空(お前)の中で奢ってもらう話に変換されてるんだよ」

 

「違うの?」

 

「違うわ。まぁ俺の提案聞いてくれたら奢ってやらんこともないがな」

 

 

 

 

可愛くお願いされると自然と奢っちゃおうかなとか思う辺り、随分とコイツらには甘いなと自分でも気付かされる。昨日に引き続きデザートなのが気になるが、背に腹はかえられぬということか。まぁ別にそんなに大した事じゃないんだがな。

 

 

 

「それで、アンタの提案ってそもそも何なのよ」

 

「よくぞ聞いてくれたしのぶ君。ライブのハコは押さえたし告知のフライヤーも完成した」

 

「フライヤー作ったのは天音ちゃんだけどね」

 

「だからライブの告知をするゲリラライブを放課後にしよう!......っていう提案なんですが如何でしょう」

 

「何で絢斗は営業先のサラリーマンみたいになってるの」

 

 

 

提案って言っても結局やるのは響子達だからな。要するにこれはピキピキファンの俺からのお願いというか何というかだな。案外ライブを待ちきれない俺がいるのは内緒にしておくが、ピキピキにとってもリハのような感じでメリットは多いはずだ。断られても文句は言えんが、軽く気を落としそうで怖いのが本音。この後の授業とかまともに受けられなくなりそうだ。

 

 

 

「私は大歓迎よ」

 

「私も!身体動かしてる方が楽しいし!」

 

「でもゲリラライブのハコはどうするのよ」

 

「そんなこともあろうかと今朝こっそり取っておいたぜ!」

 

「アンタもしかしてそれが遅刻ギリギリの理由じゃないの?」

 

「.......そんなことありませんですよ」

 

 

 

 

半分当たりで半分外れといった感じだな。職員室に入って予約取ったはいいものの、あれやこれやと先生の頼まれごとをこなしてたらギリギリの時間になったからな。よって、俺は悪くないのだ。何かと理由を付けて俺に用事を押し付けてきた先生達のせいだ。

 

 

 

「んで、そういうしのぶはどうなんだ?」

 

「別にいいけど」

 

「......なら決まりだね」

 

「おっ、やっぱ響子は乗り気だな」

 

 

 

 

まぁ最初からこうなることは想定済みだ。今から楽しみな気持ちが抑えられそうにないが、その前に午後の授業という難敵を倒さなくてはならない。正直寝ときゃ何とかなるが、それをするとピキピキメンツから何言われるか分からんからな。

 

 

 

「しのぶ、セトリとかどうする?」

「授業中にでも適当に考えとく」

「じゃあ私は振り付けを──」

「それは元から決まってるでしょ由香」

 

 

「......」

 

「何を考えてるの絢斗」

 

「別に何でも。お前らとの付き合いも長くなったなとか、そういうのをふと思っただけだ」

 

 

 

 

頭の中を様々な思い出が駆け巡り、それら一つ一つを懐かしんでいるところを絵空の一言で現実へと引き戻される。セトリやら何やらの話をする他の三人を見て、出会った最初の頃を思い出した。何故今になって急にそんな事を思い出したのかは分からないが、その時と変わらず今もコイツらの隣に居られる事に感謝するべきなのかもしれない。

 

 

 

「高等部に上がってすぐのことは覚えてる?」

 

「上がってすぐってことは......あれか」

 

「あの頃の絢斗は一生懸命で可愛かったわ」

 

「......忘れてくれ恥ずかしい」

 

 

 

高等部に上がってすぐのこと、と言えば俺史上でも類を見ないレベルの黒歴史だ。絵空は勘違いされやすい性格......というかお家柄の為、逆らったら何されるか分からない等といった変な噂が流れてしまっていた。そういったものを全て払拭するべく動いた俺だったが、空回りをしてしまい俺の方まであらぬ疑いをかけられてしまうという事態に。

 

 

 

「私はあのままでも良かったのに」

 

「......アホか。それは流石に俺が許せねぇよ。それに響子達だって同じ気持ちだったし」

 

「あら、私はそっちじゃなくて絢斗の方の噂の話をしてたんだけど?」

 

「俺に対するヘイトが尋常じゃなかったからな。まぁ結局は時間が解決してくれたんだけど」

 

 

 

 

俺が絵空の件で色々と動いていたのが原因で、何故か俺と絵空が付き合っているという噂話が流れてしまったのだ。絵空の時と同じく、他にも尾ヒレの付いた噂話がどんどん増えていき、終いには子供が既に居るだとか理事長を従えているだとか意味の分からん事態になっていた。本当にあの時は苦労させられた。しかしながら、人の噂も七十五日と言うべきか、時が経つにつれて噂も無くなり今に至るというわけだ。

 

 

 

「今度あんな事になったとしても、絢斗はまた助けれくれるのかしら?」

 

「最後は絵空が解決したようなもんだろ」

 

「そこはロマンチックに"どんな事になっても俺が助けるよ"とか言うんじゃないのぉ?」

 

「勘弁してくれ。俺はそんなにキザな奴じゃないし、ロマンを俺に求めるのはナンセンスってもんだ」

 

 

 

アニメや漫画の主人公のように力があれば、それもまた選択肢の一つなのかもしれないが、残念ながら俺にはそんな力はないからな。身内を見ればプロの世界で活躍する両親に、音楽センスが限界突破しててダブルアビリティの妹ときてる。本当に、この世界の神様は力の配分間違ってると思います。

 

 

 

「でも私は絢斗に助けて欲しいかな」

 

「......まぁそん時に暇だったらな」

 

「あ、デレたわね絢斗。案外、絢斗は攻略される側なのかもね♪」

 

 

「絵空、絢斗と何話してたの?」

 

「ん〜?それは二人だけの秘密よ。ね?」

 

 

 

 

可愛らしくウインクする絵空にドキッとしてしまう。だがそれも束の間、聞きつけた他の三人にまたしても尋問されるハメになった。こういうのも全て絵空の読み通りなのだとすれば、やはり恐ろしい女の子だと思う。

 

 

 

しかし同時に、清水絵空という女の子は素敵な女の子なのだと改めて実感する。絵空は、物事を冷静に俯瞰的に考えることが出来る人間だ。自分がどういう立ち位置で、どういった立ち回りをすれば上手くいくかを計算して動くことの出来る人間なのだ。まぁそれが出来てしまうからこそ、しのぶにちょっかいかけたり俺に何か仕掛けたりするんだろうけどな。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『それでは授業を終わります』

 

『ありがとうございました』

 

 

 

 

特に何事も無く終わりを迎えた午後の授業。俺の前の席の前田君は授業中に寝てたから注意受けてたけど。時を同じくしてウトウトしていた俺だったが、前田君のお陰で難を逃れた。前田君、そんなに思ってないけどありがとう。

 

 

「っと、もたもたしてる場合じゃなかったな」

 

 

教科書や筆箱、その他諸々を鞄に詰め込んで教室をすぐに出る。響子には先にフロアの控え室に向かうように言ってある。今向かっているのは俺の最後の仕事をする場所だ。

 

 

 

最後の仕事と言ってもそれほど難しい事ではなく、今から行おうとしているゲリラライブの緊急告知の放送をするというものだ。俺一人じゃ何かと心配だったらしく、しのぶと二人で放送を行う手筈となっている。まぁ俺が意気揚々と放送するよか、DJクノイチ本人が放送したほうが効果も高まるってもんだな。

 

 

 

ガチャ

 

 

「遅いよ。もうコッチは準備終わってる」

 

「しのぶさん早すぎません?俺も結構急いで来たんだけどな」

 

「つべこべ言わずに席に着く」

 

「はい、すみませんでした」

 

 

 

放送室に入ると準備万端のしのぶを発見。隣の席に座るよう言われてしまったので、ここは大人しく従っておく。放課後の過ごし方は人それぞれであり、部活だったり居残り勉強だったり、はたまた男女二人だけでアオハルしてたり。若干最後の一つは許し難いが、そういった人達全員を虜にさせる準備は整った。

 

 

 

 

──Let's Peaky P-key time!!(ここからは俺達の時間だ!!)──

 

 

 

 

 

〜♪

 

 

 

 

『いきなりですが陽葉学園アフタースクールグルーヴのお時間です』

 

『ランチタイムグルーヴの丸パクリでは?と思ったそこのあなた。今から発表する内容を聞けば、一目散にフロアに向かうこと間違いなしでしょう』

 

 

 

俺の演技を見て隣のしのぶはやれやれといった様子。だって仕方ないじゃん、こういう形でしか放送出来ないんだから。ミサミサみたいにイケイケな感じで放送しても上手くいかないし、そもそもそんなの俺のキャラじゃないし。

 

 

 

『では早速今回のゲストをお呼びしましょう。我が陽葉学園が誇る人気No.1ユニットのDJであるDJクノイチさんです!』

 

『......どーも』

 

『おや?何だか不満そうな顔をッ!?』

 

 

「続けるようならもう一発入れるよ」

 

「はい......すみませんでした」

 

 

 

しのぶの容赦ない一撃が顔、ではなく足元へ直撃する。途中でマイク切っといて正解だったな。流石に演技っぽくやりすぎたか。まぁここから先はしのぶに任せても大丈夫だろう。

 

 

 

『アタシから言いたい事は一つだけ。ピキピキを感じたいなら、今すぐフロアに来ること』

 

「しのぶ、それだけで本当に良いのか?」

 

「別に良いよ。アタシ達も早く移動しないと巻き込まれるよ」

 

「へいへい。んじゃ行きますかね」

 

 

 

放送室を出てフロアの控え室に向かう最中、放課後であるにも関わらず生徒達が一心不乱にフロアを目指しているのが分かる。これには先生達もお手上げの様子だ。俺の最後の任務は、この生徒達から見つかることなくしのぶを無事送り届けることになるな。

 

 

 

 

 

~フロア控え室~

 

 

 

 

「はぁ......やっと着いた」

 

「あら、二人とも遅かったわね」

 

「途中でちょっとな。それよりフロアの方はどうなってるんだ」

 

「予定通り満員!しのぶの一言が効いたみたいだね!」

 

 

 

控え室に向かう途中で他の生徒にバレそうになったから隠れてて遅れた。由香の言った通り、控え室を出てフロアを覗くと生徒達で満員。その最前列には明石さんと愛本さんの姿がある。まぁ俺が二人には事前に伝えてたからなんだけどな。愛本さんはDJに興味あるみたいだったし、それならピキピキのライブを見せるのが一番だと思ったからな。

 

 

 

「それじゃあ待たせると悪いから行こっか。みんなも準備は良い?」

 

「勿論よ」

 

「いつでも大丈夫!」

 

「アタシもいけるよ」

 

 

 

全員準備万端でやる気マックスの最高のモチベーションだ。かく言う俺もテンションマックスだしな。他の生徒には悪いが、俺は特等席とも言えるフロアすぐ側で見学させてもらおう。

 

 

 

そして、俺を含めた全員で円陣を組んでから控え室を後にする。響子達がフロアに現れてからは声援とも悲鳴とも聞こえる声がフロアを揺らす。それほどまでにピキピキは人気だということだろう。軽いメンバー紹介を終えたピキピキが各々配置に着いてから、一度フロアは静粛に包まれる。流石は鍛え上げられた観客(生徒)だけあるな。こういう時にどうするべきかを全員が理解してる。最早ドルヲタ顔負けの訓練された兵達だな。

 

 

 

「それじゃあいくよ!!」

 

 

 

響子の合図とともに一気にフロアの熱気が上がる。一曲目に始まったのは俺の推し曲でもある"Gonna be right"である。浅く直訳すれば"まぁ大丈夫でしょ?なんとかなるべ"みたいな意味になるな。歌詞とか曲調とか諸々含めて大好きなこの曲に、響子達ピキピキの力が合わさって最高の作品となっている。身内贔屓になってしまうかもしれないが、やはりピキピキが学園No.1というのは間違い無いだろう。

 

 

 

『響子さぁーんっ!!』 『DJクノイチマジカッケェ!!』

 

「声援も全然負けてねぇな......」

 

 

 

短い間奏があればすかさず声援を送り、それに対してメンバーは一つ一つ丁寧に反応していく。絵空や由香であればダンスをしながら手を振ったり、響子なら目線を送るだけでも黄色い声がいくつも上がる。しのぶならDJのテクニックでフロアを沸かせる。

 

 

 

最前列にいる明石さんと愛本さんを見てみると、明石さんはしのぶのDJに釘付けになっていた。少し口が開いてぽかーんとしているが大丈夫だろうか。愛本さんの方は......うん、すっごいノリノリで楽しそうですね。今にもフロアに上がって一緒にダンスでもしそうな勢いだ。

 

 

 

「次でラストの曲だね!」

 

『えぇ〜』

 

「みんなありがと。今日はゲリラライブだったけど、来週にまたライブを予定してるから来てくれると嬉しいな」

 

『絶対行きます!』 

 

 

 

今回のゲリラライブの主目的であった、次の本命のライブの告知がやっと終わる。生徒達の中にはライブを見ながら携帯を操作して、今週末の予定の確認をしている猛者なんかもいる。まぁそれもそのはず、本来であればピキピキのライブチケットの倍率は比較的高い水準にある。今日だってフロアに入りきれていないだけで、フロアの外で少しでも楽しもうと生徒がぞろぞろと集まっているのだ。その内フロアの改修工事とかした方が良いのかもしれない。

 

 

 

そして、最後の曲も終わり挨拶を済ませて控え室へと帰ってくるメンバー。戻ってきたみんなの額には大量の汗が流れており、ダンスをしていた絵空や由香は肩で息をしている。それでも観に来てくれている生徒達にはそんな姿は見せまいと平然を装っていたのだろう。少ない時間でもパフォーマンスの質を下げずに観客を魅了する。言うなればピキピキクオリティというやつか。

 

 

 

「お疲れさん」

 

「ありがと絢斗。ちゃんと見ててくれた?」

 

「勿論。相変わらずの人気で安心したよ」

 

「響子、2曲目の途中でちょっと走り気味だった」

 

「しのぶごめんね。ついつい気が乗っちゃって」

 

 

 

早くも反省点を洗い出し始めたしのぶ。だが控え室のソファに寝そべってするものでもないだろう。今は休むのが一番だ。

 

 

 

「取り敢えずは休憩な。言いたい事とかあるんだろうけど、体調崩したら元も子もないから」

 

「明石さんと愛本さんも見に来てくれてたわね」

 

「まぁな。俺が予め呼んでおいた」

 

「二人共楽しそうで良かった」

 

 

 

そう言って嬉しそうに微笑む四人。俺の我儘で決まったゲリラライブだったが、本番のライブの告知も出来たし響子達も満足そうで良かったかな。こうやって接してるとマネージャーみたいな感じだな俺は。

 

 

 

いずれはもっと大きなライブ会場やイベントでライブをするのだろうか。だったらその時にも今のような関係性を築けていれば良いんだけどな。......こんなたられば話はやめにして、取り敢えずライブ成功の余韻に浸るとしよう。

 

 

 

 

 

Next→

 

 

 





もっと感想と評価くれてもええんやでぇ......



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#13 激突!?(実)妹vs(偽)妹!!


ついつい長く書き過ぎて更新が遅れました。
こんな感じで不定期更新で遅くなる時もありますが、今年も何卒よろしくお願い致します!




 

 

 

 

 

 

「なぁ......そろそろ機嫌直してくれよ」

 

「ふん!お兄のバカなんか知らない」

 

 

 

 

現在、我が家へと向かう帰り道。何故こんなにも天音の機嫌が悪いのかは察して欲しいのだが、いつもより機嫌悪い時間が長いので少々困りものだ。まぁ確かにピキピキのゲリラライブの事を教えなかったのは悪かったと思うけど。それにしてもお兄ちゃんに対する態度が酷くない?今回に限った事じゃないんだけどさ。

 

 

 

「次のライブチケット響子から貰ったんだろ?それで機嫌直してくれても良くない?」

 

「それとこれとは別なの!」

 

「あ、さいですか......」

 

「お兄は何も分かってないよね」

 

「いや待て、俺にも言い訳させてくれ」

 

 

 

という事で俺が言い訳する度に天音からキツいお言葉を頂き、それでもめげずに立ち向かった結果、最終的に"その場で響子さんを感じたかった"という若干危ない発言で兄妹喧嘩(一方的)は幕を閉じた。

 

 

気が付いた段階でライブスペースに来たとしても、あの人混みの中をすり抜けてベストポジションまで来られる可能性は低かっただろう。それに天音(コイツ)の性格やら身体能力からしても......いや、ピキピキや響子の為ならいつも以上の力が発揮出来たとしてもおかしくないか。出来ればお兄ちゃんに対しても少し優しさを向けてもらえるとありがたい。

 

 

 

「当日は絶対一番先に良く見える位置に行くから。その時は頼むよお兄」

 

「そんなに見たいなら特等席に案内してやっても良いぞ」

 

「本当に!?」グイッ

 

「特等席って言ってもアイツらがライブしてる横なんだけどな」

 

 

 

長い間ピキピキの世話や手伝いをしている俺からすればもう慣れた景色だが、確か天音は未だにあの位置からライブを見た事は無かったはずだ。ライブを前から見るか横から見るかで結構変わってくるもんだと個人的に思う。

 

 

まぁ偶に絵空とか由香と目があったりするし、なんならウインクとかしてくるからな。絵空は狙ってワザとやってるのは分かってるが、時々しのぶと目が合ってすぐに逸らされる事がある。その時に頬が若干赤く見えるのは照明のせいなのだろうか。DJって案外やる事多いから汗かいたりしてたのかもしれないな。

 

 

 

 

「そこで見たい!」

 

「ん、なら特別に招待してやろう」

 

「やったー!」

 

「あれれぇ?こういう時に何か言う事がありませんですか天音ちゃん?」

 

「くっ......あ、ありが──」

 

 

 

俺のテンションに合わせて"言いたくないけど仕方なく....."感を演出する天音。こういうところは、やっぱ兄妹してんなって思うんだけどな。中二病みたいだねとかっていうのは禁句。これも立派なコミュニケーション術の一つですから。

 

 

 

「......というかお兄、響子さんは何で居ないの?」

 

「おい妹、感謝の言葉より先に出たのがそれか。因みに響子は愛本さんと一緒に愛莉さんのところ行ってるぞ」

 

「最近転校してきたっていう人だよね?」

 

「まぁそれにしては仲良くなるのが早い気もするが」

 

 

 

愛本さんの性格あってか、俺達ピキピキや明石さんと仲良くなるのに1日も掛からなかったからな。流石は陽葉学園のコミュ力お化け(褒め言葉)だな。まぁさっき適当に思い付いた言葉なんだけどね。お礼に貝殻貰ったりと、多少不思議ちゃん要素もあって退屈しない子でもあるな。

 

 

 

「まぁ響子さんの方が可愛くて美人でカッコいいけどね」

 

「お前が威張って言うことじゃねぇけどな」

 

「じゃあお兄は響子さんと愛本さんどっちが良いの!?」

 

「ちょっち待ちなさい天音さんや。興奮し過ぎて情緒不安定になってるから」

 

 

 

その内泣き出したりしそうで怖い、主に俺の身の安全が。天音を泣かせたとなれば親父は勿論の事、響子達ピキピキや愛莉さんにまで怒られそうだ。そんな事態になれば骨の一本どころか塵一つ残るか分からんな。まぁ十中八九親父からの被害なんだろうけど。

 

 

「それで、お兄は響子さんと愛本さんどっち選ぶの!?」

 

「もう主旨が変わってきてるぞ」

 

「いいから答えて!」

 

「......まぁそれなら──」

 

「それは勿論響子さんだよね!流石のお兄でもそこは理解してるんだ」

 

 

 

まだ響子の"き"の字も口にしてないんだが。いやまぁ響子って答えるつもりだったし、響子って言わないと駄目な雰囲気だったし別に良いんだけどさ。ここで愛本さんを冗談でも選ぶ事があるならば、天音からの鉄拳制裁は間違いないだろうからな。というかその類の質問を俺にするのは間違ってると思う。これで天音から響子に変な伝わり方したら多分死ねるぞ俺。

 

 

 

「お前の響子愛も大概だな。まぁ今に始まった事じゃ無いから良いんだけど」

 

「当たり前じゃん。だって響子さんだよ?」

 

「それそれ。絶対他の人にその価値観押し付けるなよ?」

 

 

 

響子に絶対的信頼を置き、ある種で盲目的な信仰を捧げている天音である。響子も響子で、その期待に割としっかり応えるので何とも言えない感じになる。お兄ちゃんにもそのくらいの間柄でいて欲しいんだけどな。本当に幼い頃の俺にベタベタだった天音が懐かしい。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

それからしばらくの間、主に天音による"響子さんのここが凄い!"のコーナーが披露され、それを適当な相槌をしながら聞き流していた。聞いたことあるような事から、俺が聞いちゃっても良かったのかと思うようなシークレット情報まで盛り沢山。シークレット情報は取り敢えず聞かなかったことにしておこう。

 

 

 

「はぁ〜疲れた」

 

「ちょっとお兄聞いてる?」

 

「聞いてる聞いてる」

 

 

 

家まで帰ってきてもこの調子である。このまま晩御飯の最中まで話が続きそうで若干怖い。まぁ話してる当の本人である天音は機嫌良さげだから別に良いか。機嫌悪いと飯食ってる間でも事あるごとに足踏まれたりするからな。母さんは当然のようにスルーしてるし。親父?知らないなそんな人物は。

 

 

 

「早く飯食って風呂入って寝るぞ〜」

 

「お兄、私がお風呂は先に入るから」

 

「了解。母さんただい──ぼへぇ!?」ガチャ

 

 

 

玄関の扉を開けた瞬間、何者かに突撃されて綺麗に吹き飛ばされてしまう。というか鳩尾入って息が出来ないんだが......。何とか息を整えてから、どうせ親父の仕業だろうと思いすぐに引き離そうとするが、今回ばかりは犯人が違うらしく良い匂いがしていた。絶対に親父からする匂いじゃないし、かと言って母さんの作る晩飯の匂いでも無い。強いて言うなら......風呂上がりの女の子のシャンプーの香り?

 

 

 

「よくお戻りになられたお兄様!」スリスリ

 

「ミ、ミチル!?何でウチにいるんだよ!というかほっぺ擦り付けてくんのやめろ!」

 

 

 

レスリング並みのタックルをかましてきた犯人の名前は海原ミチル。これまた親父と母さんの仕事仲間関係の人物であり、バイナルのマスターが所属していたユニットの元メンバーの姪っ子という微妙な立ち位置の子だ。ミチルとは両親が仕事で手を付けられない時に遊んだ事はあるが、そこまで気に入ってもらえるようなことはしてないはずなんだがな。因みに陽葉学園中等部3年生であり、俺達の一つ歳下で天音の一つ歳上だ。

 

 

 

「帰りが遅いので待ちくたびれていたのだ!」グニュ

 

「分かったから!取り敢えず離れてくれ!」

 

「ミチル、お兄離してあげて」

 

「おぉ!我が妹天音も帰っていたのか!」

 

「妹じゃないから」

 

 

 

俺の次は天音にターゲットを変更し、猪突猛進気味にハグしようとしたが残念ながら天音から拒否されてしまう。顔面に天音の両手押し付けられて尚進もうとする意志がある様子。というかそれ前見えてんのか。怪我されると嫌だから勘弁してくれよ。

 

 

 

「お姉ちゃんにもっと甘えて良いのですぞ!」ムギュ

 

「私はお兄の妹!ミチルはお姉ちゃんでも何でもないでしょ!」

 

「んじゃ後はよろしくな天音」

 

「ちょ、お兄!?」

 

 

 

ミチル曰く、俺はお兄様で天音は可愛い妹でミチル自身は俺の(偽)妹らしい。だから理論的に俺の(実)妹である天音も、ミチルにとっては妹となってしまうのだ。我ながら言ってて意味分からんな。

 

 

 

兎に角、玄関前でこんな事をしていても埒があかないので三人共家に上がって手を洗う。正確には、手を洗っている俺と天音を横でミチルが見てたんだが。狭いからついてこなくても良かったんだけど。すると、リビングの方から美味しそうな香りがしたので吸い寄せられるようにリビングへ向かった。

 

 

 

「あら、お帰り二人とも」

 

「ただいまお母さん」

 

「ただいまですぞお母様!」

 

「あらあらミチルちゃん、まだお母様は気が早いわよ」

 

「......ふん」ゲジゲジ

 

「いってぇ!!え、何で今俺の足踏んだの!?ちょっと天音さん?」

 

 

 

いきなり足を踏まれて驚いたが、さらに驚いたのは親父が既に拘束されてソファに寝転がっていたことだ。今度は何したんだよ。理由を聞いてやるから話してみ。まぁ口にもガムテープ貼られて話せないんだけどね。母さんは絶対に怒らせてはいけない(戒め)

 

 

 

「というか何でミチルが居るんだよ母さん」

 

「ん?ハルキ君にお世話を頼まれたからよ」

 

「ハルキは反対してたが、無理矢理泊まりに来たのだ!」

 

 

 

会話に出てきた"ハルキ"こと海原ハルキという人物が、ミチルの叔父であり親父と母さんの昔の仕事仲間だ。母さん達によると、ミチルは叔父であるハルキさんの事を人間的に舐めているらしく、ハルキさんもミチルには手を焼いているとのこと。ハルキさんには少し同情してしまう。まぁ会った事あるの数回だけだから、俺自身あんまり知らないんだけどね。

 

 

 

「んで親父......はどうでも良いとして。腹減ったしご飯食べたい」

 

「もうすぐ出来るから用意してくれるかしら」

 

「りょーかい。天音はお皿とお箸よろしく」

 

「ん、分かった」

 

「私は──」

 

「座ってろ」「座ってて」

 

 

 

珍しく俺と天音の意見が重なり、ミチルは不服そうではあるが大人しく席に着いた。それから数分のうちに食卓を豪華な夕飯が飾り、あっという間に高級レストランの様なテーブルとなった。途中堪らずつまみ食いしようとするが、母さんから器用に箸で手をつつかれてしまった。顔は笑ってたが目が全然笑ってなかった。普通に寒気がしたのでそれ以降はやってない。

 

 

 

『頂きます!』

 

「召し上がれ♪」

 

「ん〜っ......やっぱ母さんが作るご飯が一番美味いな」

 

「それには同意するよお兄」モキュモキュ

 

 

 

相変わらず料理上手な母さんで褒めると嬉しそうにするのだが、今は親父とソファでオハナシ中らしい。邪魔すると悪いのでそっとしておこう。

 

 

 

「はい!」

 

「.....何、どしたの」

 

「お姉ちゃんが食べさせてあげるのだ!」

 

「いや良いから。そういうのは響子さんにやってもらうから」

 

 

 

拒否した後に、すぐ響子の名前が出てくるのは流石だと思った。普通この流れだとお兄ちゃんになったりしない?そんなことない?いやまぁそこまで好かれてるとは思ってないが。

 

 

 

「じゃあお兄様!」

 

「いや俺もいらんぞ」

 

「ん?何言ってるのだ?お兄様が私に食べさせるのですぞ?」

 

「自分で食べられるだろ」

 

「そういう問題じゃないのだ」アーン

 

 

 

既に準備万端で物欲しそうに口を開けて待つミチル。......あ、断じてR18展開では無いので御了承を。両親や妹がいる前でそんな事したら心身共に再生不可能になってしまう。待ってても仕方がないので、適当に母さんの作った絶品肉じゃがの大きいじゃがいもを放り込む。味はしっかり染み込んでるのに煮崩れせず、これぞまさに肉じゃがの理想と言わんばかりの大きなじゃがいもを。大事なことなので2回言いました。

 

 

 

「あふっ、ほっ、あふいですぞおにいはま!!」ハフハフ

 

「そーか?しっかり噛んで食べろよ」

 

「わかっはのら!」

 

「......」ゲジゲジ

 

「左足ィ!?」ガツン

 

 

 

まだ天音の機嫌が悪いのか、今度は左足を踵で踏まれてしまい反射的に右足をテーブルの下部にぶつけてしまった。テーブルの上に並ぶご飯達は無事だが、俺の両足は悲鳴を上げている。ミチルはキョトンとした顔で口を動かして一生懸命じゃがいもを食べている。それに加えて両親はオハナシ中ときたもんだ。何だこのカオスな状況は。

 

 

 

それからもミチルの無理難題をこなしていき、その都度天音から睨まれたり肉じゃがを横取りされたりしてしまった。母さんと親父のオハナシも滞りなく終わり、途中からではあるが親父も食事が出来る様になって一安心だ。その後は、延々と親父の昔話が続いたのでパパッと終わらせて天音のお風呂が終わるまで時間を潰すべく自分の部屋へ向かった。

 

 

 

「ふぅ......食った食った」

 

コンコン

 

「ん?」

 

「お兄様!今からゲームでもしましょうぞ!」

 

「おい、ノックの意味。秒で入って来たら意味無いだろ」

 

 

 

ミチルは既にお風呂に入っていたのを忘れていた。天音が出たら俺の番なんだが、それまでに果たして解放してくれるだろうか。まぁ絵空相手とかじゃないから気軽に出来るのは良い点だな。

 

 

「まぁちょっとだけなら付き合ってやるよ」

 

「ん〜、じゃあ魔法DJグルミクをやるのだ!」

 

「あーあれか。難しくてHardすら出来るか分からんぞ」

 

「一緒にやる事に意味があるのです」フンス

 

 

 

魔法DJグルミクとは、所謂リズムゲームの一種でありスマホゲームでありながらDJが出来るという優れもの。元々はゲームセンターに置いてあるゲームだったが、何ヶ月か前にアプリ版でリリースされた話題沸騰中のアプリだ。ゲームの中に登場するキャラが、若干響子達に似ているキャラがいたりする。もちろん、天音はそのキャラガチ勢であり完凸やスキルマ等は最早リリース直後に終わっていた。まぁ親父のクレカ使って課金してたから当然っちゃ当然なんだがな。みんなは課金し過ぎないように注意しようね。因みに俺は一切課金していないので、キャラがそもそも揃ってなかったりする。

 

 

 

「ここは一つ勝負しませんかお兄様!」

 

「勝負?さっきも言ったがHARDすら出来るか分からんレベルの俺とか?」

 

「負けた方は勝った人の言う事を何でも聞くという罰ゲームをかけて勝負ですぞ!」

 

「何だろう、すっげぇデジャヴ臭がぷんぷんする」

 

 

 

先週のピキピキvs俺の罰ゲームも、確かそんな感じだった気がするのは俺だけだろうか。その勝負に悉く敗れ去った俺だが、またしても負ける流れなんだが?ミチルの事だから変な方向にはいかないと思うが、念の為勝っておくことに他ならないだろう。いやでもこのゲームマジで苦手なんだがなぁ。

 

 

 

『ちょっと待った!!』

 

 

 

「......天音?」

 

「どうしたのだ?」

 

「その勝負、お兄の代わりに私が受けて立つよミチル」

 

 

 

 

お風呂上がりだからだろう、頭にタオルを巻いたまま部屋のドアを開けて宣言する天音。服装はパジャマで左手にはアイス、右手には自分の携帯を持ちつつミチルと火花を散らしている。天音の方が上手だから代わりにやってくれるのは嬉しいんだけど。まぁミチルも上手そうだから良い勝負になるか。

 

 

 

「一つ聞きたいんだが」

 

「ん?何が聞きたいのだ?」

 

「もし仮に天音が負けると、その場合はどっちが罰ゲーム受けるんだ?」

 

「お兄様に決まってるのだ」

 

 

 

有無を言わさず即答するミチル。取り敢えず負けられない勝負だってことは変わらないらしい。既に天音もアイスを口に咥えて器用にパーティーの編成を考えている。対するミチルは選曲に頭を悩ませており、数分の後に決まった曲を高らかに宣言した。

 

 

 

「"WOW WAR TONIGHT"かぁ。意外な選曲だな」

 

「ですがお兄様、この曲はアプリ内でも屈指の難易度を誇る"鬼Remix.ver"ですぞ!!」

 

「安心してよお兄。私が負けるわけないじゃん」

 

「流石っす天音さん。滅茶苦茶期待してます」

 

 

 

やべぇ俺の妹カッコよすぎません?というか何だよ鬼Remix.verって。俺がギリギリクリア出来ないHARDが難易度数値的に表すと9〜11とかだぞ?これ22って書いてるんだが目の錯覚だろうか。普通にやってると指足りなくない?

 

 

 

「お姉ちゃんの実力を見せる時ですな!」

 

「私の方が才能あるってこと、もう一回教えてあげるよミチル」

 

 

 

 

誰が見ても分かるレベルで火花を散らす二人。たかがゲームと吐き捨てる人も多くいるだろうし、実際問題世間一般的に言えばそちらの割合が高いのもまた事実。しかしこの二人にそんな事は一切関係無く、されどゲームむしろゲーム状態なのだ。むしろゲーム状態って何だよ。自分で言ってて意味分からんわ。

 

 

 

それからすぐに曲は始まり、俺がワイワイ楽しくやってる難易度とは違って二人の指が高速で画面をタッチしてコンボを繋いでいく。例えるなら、パソコンのブラインドタッチが一番近しいだろうか。いやまぁ二人共画面に食い付くようにしてるから、ブラインドとは正反対なんだがな。

 

 

 

「......にしてもマジですげぇな二人共」

 

「お兄黙ってて」「ですぞ」

 

「あ、何かゴメン」

 

 

 

俺の独り言さえも邪魔だったらしく、変わらず画面に食い付きながらプレイしつつも二人から"お前は黙って見てろ"宣言を頂いた。しかしながら、こうも上手にコンボを繋げているのを間近で見ると圧巻である。勿論、天音に関しては上手なのは知っていたのだが、ミチルまでもがここまで上手だとは想像していなかったからな。お兄ちゃんで無いにしても、ミチルが楽しそうに天音と遊んでいるのを見ると少し安心するな。

 

 

 

「......ん、終わったのか?」

 

「取り敢えず、はね」

 

「我が妹ながら中々に強敵ですぞお兄様」

 

「それは良かったな。まぁ俺はお兄様じゃないし、天音もミチルの妹じゃないけどな」

 

 

 

両者共画面に"Perfect"の文字が出ており、これはこの曲をフルコンボで終えたという意味になる。俺なんかPerfect出せたの、最初のチュートリアルの曲だけだぞ?ここまで兄妹格差が大きいとは。流石の俺もちょっと練習してみようかな。

 

 

 

そして、どれだけ譜面を正確にこなせたかの詳細な結果が表示され、いよいよこの勝負の勝者が決まる時。

 

 

 

「......む、無念」ガクッ

 

「一から出直してきなミチル」

 

「でも二人共フルコンボだぞ?何で天音の勝ちになるんだ?」

 

「下の詳細欄良く見てお兄」

 

 

 

フルコンボ表示の下にいくつかの数字が表示されており、天音は全て"Excellent"の表示にコンボ数があるのに対し、ミチルは"Good"表示に1だけ数字が表示されていた。確か、ここの表示は正確にノーツをタッチ出来たかどうかの判定だった気がする。ということは、今回の勝敗はたった一つのノーツということなのか。

 

 

 

「魔の10連高速ノーツをミスしてしまったのだ.....」

 

「あれは上級者でもミスを連発するからね。密かにプレイヤーの間で"墓場"なんて呼ばれてる難所だよ」

 

「何か怖いなそれ。でもBad評価じゃねぇって事は、叩けてるって事だろ?」

 

「"Excellent"と"Good"の間には、物凄い差があるのだ!」

 

 

 

ミチルが悔しそうに床へ両手を付いてる隣で、天音は余裕の表情で勝ち誇っている。だが俺は知っている。実は天音も結構危なかったらしく、集中していて二人共気が付かなかっただけだと思うが、バリバリ"やっば......すり抜けそうだった"と口に出していた。なんなら結果発表の画面を見て安心して肩の荷が降りた瞬間も見ている。

 

 

 

「これで私の勝ち。じゃあミチルには言う事を一つ聞いてもらうよ」

 

「......ふっふっふ。まだまだ甘いな我が妹!」

 

「まだ何かあるの?というか私は妹じゃない」

 

「誰も一回きりの勝負とは言ってないのだ!」

 

 

 

まぁ確かに言ってないが、どうせ後付けで負けたく無いから必死に考えたのだろう。ここで俺が出張って変に話をややこしくするよかマシか。二人共なんだかんだ言って楽しそうだし、俺は何も考えず見守りますか。

 

 

 

「次はコレで勝負なのだ!」バンッ

 

『人生ゲーム?』

 

「正式には"人生ゲーム~真剣勝負はDJで決めちゃいなYo!!~"というのだ」

 

「いやいやサブタイトルがおかしいだろ。というかどこからそれ持ってきたんだよ」

 

「ん?さっきお母様に借りてきたのだ」

 

 

 

母さん......頼むから厄介事を持ち込まないで欲しい。ただでさえミチルが泊まりにくるというイベントが発生中なのに、母さんまでもが場をかき乱し始めたらキリがない。まぁ親父は母さんがいるから心配ないのが不幸中の幸いか。

 

 

 

「じゃあ私はコレで」

 

「......お兄様はどれするのだ?」

 

「え、俺もやんの?」

 

「当たり前じゃん」

 

 

 

いつの間にか味方だった天音が敵になっていた。というか1vs1vs1の構図になってんのは大丈夫なのか。人生ゲームとか一人でやってた記憶しか無いからな。一人でお金いっぱい稼いで1位でゴールする一方で、借金まみれでゴールにすら辿り着かないもう片方。あぁ、俺の幼い頃の黒歴史がまさか役に立つ日がこようとは。良い機会だし、この辺りでお兄ちゃんの威厳を見せておこう。

 

 

 

「んじゃ俺からスタートな」

 

「ルーレットを回すのだ!」

 

「よし7だな。7マス進んでっと......」

 

『親の趣味が高じて海外のジムへ!!諸々の費用を払う為、¥100,000を支払う!!』

 

「ちょっと待ておかしいだろコレ!?」

 

 

 

もう色々と面倒なのでジムとかの辺りはスルーしても良いが、どうして俺が諸々の費用を払う羽目になったんだ。親が行くんだから親に払わせろよ!というツッコミをする暇も無く、いつの間にか俺のお金が天音によって銀行へと振り込まれていた。

 

 

「お兄初っ端からダメダメじゃん」

 

「うるせぇほっとけ」

 

「私は10なのだ!」

 

『親が仕事で大成功して海外へ!!お祝い金として¥100,000貰う!!』

 

「やったのだ!」

 

 

 

ミチルチャンヨカッタネ。コレデイイセイカツデキルネ。人生ゲームまでもが俺に対して厳しい世の中なんてクソ食らえ。こうなったら是が非でも1位でゴールしてやる。

 

 

「私は......9だね」

 

『DJの才能が認められてスカウトされる!!職業"天才DJ"となり、給料¥150,000を貰う!!』

 

「まぁ滑り出しは好調だね」

 

「我が妹ながら中々やるのだ」

 

「後でコレ作った人調べてみるか」

 

 

あまりにも現実味を帯びているマスに止まる天音。お兄ちゃん的にもそうなってくれると嬉しいな。だから、お兄ちゃんにもちょっとだけ優しくして欲しいかな。もうこの際、ゲームでの勝ち負けは気にしない。楽しく遊べたら良いや。

 

 

 

 

しかしながら、そこからはお察し(?)の通りボコボコのズタボロのゲーム展開であった。職に就くもいきなり倒産して借金したり、何とか持ち直そうとした途端に空き巣に入られてまたも借金。事あるごとに後退マスに止まり、下がったマスでまたマイナス効果を踏んでしまう負のループへ。勿論、俺がそんな事をしている間に二人は熱いバトルを繰り広げていた。

 

 

 

「今度こそ私の勝ちなのだ!」フンス

 

「偶々勝ったくらいで調子に乗らないでよね」

 

「あの〜......俺まだゴールしてないんですけど」

 

「何やってんのお兄、早く片付けて次いくよ」

 

 

 

次はトランプで勝負するらしく、片付けは最下位の俺が担当することになってしまった。トランプ勝負とか最近ボロ負けしたばかりなのだが、天音とミチルがウキウキでカードを配る姿を見てやるしかないと思った。

 

 

「はいお兄の負け」

 

「お兄様しっかりしてほしいのだ」

 

「だから俺はちゃんとやってんだよ」

 

 

ポーカーでは毎度毎度ブタで負け、ババ抜きでは最初から最後まで俺の手札にジョーカーが居座るという事態に。極め付けは真剣衰弱で俺の番が回ってこないというね。いやまぁ二人が白熱し過ぎて俺にやらせてくれなかっただけなんだけど。

 

 

 

それからしばらく、ありとあらゆる遊びやゲームで勝負してきたが天音とミチルの結果は五分五分と完全に引き分け。既に23時を過ぎており、俺にも睡魔が語りかけてきている時間だった。それなのに二人のバトルは熱くなる一方だ。早くベッドに入って寝たい。

 

 

 

「最後は──」

 

「やっぱ──」

 

「コレで勝負するのだ!」

「これで勝負でしょ」

 

 

 

と言ってやってきたのは、DJに関する機材や資料が置いてある親父と母さんの仕事部屋。フラグ回収と言わんばかりの展開だが、やはり二人の決着はDJで着けたかったらしい。お兄ちゃんもう目が半分くらい閉じてるんだけど。

 

 

 

「なぁ、もう明日にして寝ませんか?」

 

「何言ってんのお兄、これからが本番じゃん」

 

「お兄様に審査員をしてほしいのだ!」

 

「マジかよ......」

 

 

 

そんな俺を他所に二人はルールを決める為に早速話し合っている。チラホラ聞こえてくるのが"10本勝負"とか"10曲メドレー"とか怖い単語ばかりなのは気のせいだと思いたい。頼むから誰か気のせいだと言って欲しい。

 

 

 

「じゃあお兄頼むよ」

 

「私からいくのだ!」

 

「勘弁してくれぇ......」

 

 

 

 

 

拝啓親父殿、今なら頭下げるから助けに来て欲しいです。

 

 

 

 

 

 

Next→

 

 

 

 

 

 





お兄ちゃんになりたかった人生でした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。