とある製薬会社に務めていた研究員のヤケクソ日記の余白 (色々残念)
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デッドライジング編

バイオハザード5編よりも前の時間軸の主人公です


 月 日

ウィラメッテのショッピングモールに買い物にきていたが突如として大勢の人々が避難してきたかと思えば出入口にバリケードを築き上げていた。ショッピングモールの外には大量のゾンビが蠢いている。避難してきた人々はゾンビ達から逃げてきていたらしい。どうやらまた生物災害に巻き込まれたようだ。手持ちの拳銃と左腕義手内蔵兵器程度ではあのゾンビの群れを突破することは出来ない。ショッピングモール内にガンショップがあった筈だが銃の補充が出来れば、この状況を改善することができるかもしれないな。現在地のエントランスプラザに居る人々と会話してみると疲れきっている人々が殆どだったが、リンゼイと名乗った老婆はマドンナという名の愛犬を探していて凄い剣幕で話しかけてきたので印象に残っている。リンゼイが何かその内とんでもないことを仕出かしそうな予感がするんだが、私の嫌な予感はとても良く当たるので何とも言えんな。とりあえずリンゼイには注意しておくとしよう。買い込んでいた食料品で食事をしていると此方を羨ましそうに見ている少年がいたのでこっそり食料を分けてやると笑顔で食べ始めた。少年の近くにいた保護者らしき血塗れな鉈を持った男性が礼を言ってきたので軽く自己紹介と挨拶を交わしてみる。男性の名はクリフ・ハドソンと言うらしい。少年は彼の孫ということだ。クリフは従軍経験もあるらしく屈強な身体つきをしている。この非常時には頼りになりそうだ。祖父と孫は良い関係のようで仲が良いらしい。独身の私には解らないが家族という者は良いもののようだ。

 

 月 日

ヘリで態々危険なこのウィラメッテのショッピングモールにまでやってきたらしいジャーナリストのフランク・ウェストと会話をしていると、リンゼイがバリケードの前で「ああ、ベイビー!ママが助けるわ!」と言いながらバリケードを崩そうと暴れ始めたので気絶してもらうことにした。どうやらバリケードの向こう側に愛犬マドンナがいたようだが、彼女にとって愛犬が何よりも大事だとしても人命がかかっているこの状況下でその行動を許す訳にはいかない。とはいえいつまでもエントランスプラザに居る訳にもいかないので生存者達を連れて2階に上がり守衛室に避難することにした。一応リンゼイも連れていくことにはしたが、やはりこの老婆は面倒事を引き起こしたな。エントランスプラザに通じる扉は溶接されて完全に閉じられた。ダクトを通ってモールへ移動することができるようだが安全な守衛室に閉じこもって避難しているのを選ぶ人間が大多数だ。リンゼイは愛犬マドンナを探しに行くようだが好きにしてくれとしか言い様がないな。私もガンショップに用があるのでショッピングモールに移動しようとしたらクリフから「使ってくれ」と鉈を手渡された。銃弾の節約にはなるのでありがたく受け取っておく。代わりに持っていた食料品を全てクリフに渡しておき、お孫さんと一緒に食べてくれと言っておいた。我先にとショッピングモールへと向かって行ったリンゼイがどうなるかは解らないが、迷惑なことを仕出かさなければ良いんだがな。ショッピングモール内へ向かうらしいフランクが生き残っていたモール従業員のオティスから地図と無線機をもらっていた。私も地図を見せてもらって記憶したので問題はない。とにかくガンショップに向かうことにしよう。

 

同月同日

ダクトから屋上へ先に出たフランクが老夫婦を連れて帰ってきた。老夫婦を守衛室の一室に案内して、フランクと一緒にダクトから出て屋上へ行き倉庫の通路までやってきたところで生存者のジェシーと鉢合わせになったが彼女が足を怪我してしまう。生存者の1人であるブラッドの援護の為に拳銃を持ってきていたジェシーにフランクが「俺が代わりに行く」と言って拳銃を受け取っていた。ブラッドが居るフードコートを目指すらしいフランクに1人よりは2人の方が良いだろうと言って着いていくことに決めて私も拳銃を右手に鉈を左腕義手にフードコートを目指すことにする。到着したフードコートで銃の撃ち合いをしているブラッドと謎の男。フードコート中央部の箱を利用して2階に上がり急接近して鉈を振るい謎の男を斬りつけているとマシンガンで反撃してこようとしてきたので右手の拳銃でマシンガンを持つ手を撃ち抜き思わず緩んだ手からマシンガンを蹴り上げて宙に浮かせて鉈で遥か遠くに弾き飛ばし、追撃を続けていくと勝てないと悟ったのか手榴弾で自爆しようとした謎の男。私が男から手榴弾を奪い取って放り投げている隙に男は素早く逃げていったが、そもそも何故戦っていたのかブラッドに聞いてみても返事は帰って来なかった。

 

同月同日

ブラッドが探している老人が居るようだがエントランスプラザに居るらしい。フランクは着いていくつもりみたいだがそろそろ私は別行動させてもらうとしよう。援護の役目は確りと果たしたので問題はない筈だ。向かった先のガンショップでガンショップの店主がショットガンを向けて発砲してきたので致し方なく鉈と拳銃で反撃を開始すると、ガンショップの店主が素手で店から逃げ出して行きゾンビに襲われそうになっていたので助けると正気を取り戻したようだった。ガンショップの銃をいくらでも持っていってくれと言うので持てるだけの銃を持っていくことにする。ガンショップの店主も守衛室に避難させておくとしよう。ゾンビが溢れる道中でショットガンを持った店主は積極的にゾンビを倒していくので私も鉈は振るったが手持ちの銃を使う機会は訪れなかった。守衛室にガンショップの店主クレタスを案内してクリフに鉈の礼を言っておく。守衛室でフランクがブラッド達に3日後にヘリが迎えに来ると言っていたので何とか脱出は出来そうだ。パラダイスプラザ2階にプロのカメラマンらしいケントという男が居たがジャーナリストであるフランクの腕前を見てやると上から目線で良い印象は無かったが、フランクの方が良い写真を撮れたら逆上して襲いかかってきそうだ。ケントを守衛室に案内するのは避けた方が良いな。ろくでもない事を仕出かしそうだ。望んだ写真を撮影する為ならどんなことでもやりそうな気がする。この非常時に相手をしたい人間ではない。フランクは良く相手をしていると思う。

 

同月同日

中庭で脱走囚人達がジープを乗り回して人を襲っているので木で足止めをしている隙に鉈で囚人達を始末する。襲われていた2人組を守衛室に案内する途中で妙なゾンビがいたので処理するとゾンビから女王蜂が現れたので捕獲してみる。どうやらtウィルスによるゾンビ化とはまた違うらしい。この女王蜂を調べてみるとしよう。

 

同月同日

ゾンビ化を引き起こしているのは寄生虫が原因ということが良く解った。女王蜂を潰すと周囲にいたゾンビの体内から寄生虫が飛び出してゾンビが絶命するということも解ったが、この女王蜂を原料にゾンビ化を抑制するワクチンを作成できないか試してみるとしよう。

 

 

同月同日

守衛室に居る人々が暇を持て余しているようなので何か気晴らしになればと本屋で本を回収しに向かった先で日本人観光客と遭遇。日本語は喋れるので問題なく会話をして山の様な本と共にユウとシンジを連れて守衛室に向かうことにした。とりあえずユウとシンジと同室になる人々に日本語会話入門の本を渡しておくとしよう。これで私以外とも少しは会話が出来るようになればいいんだがね。

 

同月同日

ワンダーランドプラザの中央にあるライドマシンが人を乗せたまま高速で動いている。フランクと共にライドマシンを止めにきたが操作盤を調べると正気を失ったピエロが襲いかかってきた。小型チェーンソーを左右の手に1本ずつ持った2刀流で攻撃してくるピエロの連撃を回避してショットガンの散弾を叩き込んでいく。フランクは日本刀で接近戦を挑みピエロを切り裂いた。遂に倒れ込んだピエロの腹部が両手に持っていた小型チェーンソーで運悪く切り刻まれていく。完全に正気を失っていて倒すしかなかったが自分の武器で自分自身にトドメを刺すことになるとはな。その後はライドマシンを止めると生存者がライドマシンから降りてきたので会話をすると、どうやら守衛室までの近道を知っているらしい。生存者のグレッグに着いていくと何故か女子トイレに入っていく。フランクと顔を見合わせて少し戸惑ったが非常時だから仕方ないと言い訳をして女子トイレに入った。洗面台の上を調べるとパラダイスプラザの女子トイレに移動出来ることが判明。それはそれとして何故女子トイレのことにグレッグは詳しいのかと疑問に思って聞いてみると「先を急ごう」と誤魔化された。グレッグを守衛室に連れていっても良いのか少し不安になったが、流石にこの非常時に問題を起こす様なことはしないだろうと思うので一応連れていくことにする。頼むぞグレッグ。問題を起こすなよグレッグ。何かしたら守衛室から叩き出すぞグレッグ。

 

 月 日

守衛室に戻るとブラッドが探していた老人が籠城していた場所から謎の男に引きずり出されている姿が監視カメラに映し出された。ブラッドは老人を救出に向かうようだ。フランクも着いていくらしい。私も同行しよう。

 

同月同日

謎の男との戦いでブラッドが銃弾を受けて負傷したが謎の男を捕縛することに成功した。老人はフランクが救出していたので問題はない。老人の名はバーナビーで謎の男の名はカリートと言うらしく、カリートはどうやらこのバイオテロ事件の首謀者であるようだ。カリートが何故このような大規模なバイオテロを引き起こしたのか、何か理由がある筈だが黙して語らぬカリートの口を割らせるのは難しそうだな。それよりも今はブラッドの容態が心配だ。弾丸は摘出して応急措置は施したが傷口が炎症を起こし、高熱を出して寝込んでいるブラッドには薬が必要となる。ノースプラザのスーパーに併設された薬局に行けば薬が手に入る筈だ。ブラッドはジェシーに任せて薬を取りに向かうとしよう。カリートは念入りに縛りあげておき、逃げられないようにしておく。急いで薬局に向かうとするかな。

 

同月同日

向かった先のスーパーでスーパーの店長が「ここは、わたしの店だ!」と無数の刃をつけた凶悪なショッピングカートを武器に襲いかかってきた。ショッピングカートには気を失った女性が乗っている。完全に正気を失った店長を小型チェーンソーを使って倒すと「わたしがいなくなったら誰がこの店を守るんだ」と言ってから死亡。ショッピングカートに乗せられていた女性は意識を取り戻し、捨て台詞をはいて立ち去っていく。女性の言った言葉も気になるが、とりあえず今は薬を手に入れてブラッドの元へ向かわなければいけない。薬局で薬は発見した。後はこれを持ち帰るだけだ。守衛室に向かうとしよう。

 

同月同日

ブラッドの容態は安定したがまだ安静にしておいた方が良さそうだ。とりあえず直ぐに動く必要がある出来事は無さそうなので、ゾンビの体内から出現する女王蜂の研究を進めているとゾンビ化を抑制するワクチンを作成することに成功した。後はゾンビが近寄れなくなる特殊な香水も作成してみたが、これはフランクに渡しておくとしよう。ゾンビ化を抑制するワクチンは設備がもっと整っている場所であれば完全にゾンビ化を防ぐワクチンを作成することが出来そうだ。それに関しては脱出することが出来れば問題はないな。

 

同月同日

黄色いレインコートを着用したカルト教団の信者が生存者を生け贄にしようとしていたので小型チェーンソーで全員始末。カルト教団の信者が身体に爆薬を仕込んでいるのに気付いたので自爆される前に手早く始末できたのは幸運だ。カルト教団の信者によって箱に詰められていた女性を救出して守衛室に向かう。

 

 

同月同日

フランクがベージュのスケスケワンピースを着用して身をくねらせポーズを決めて「完璧」と言っている場面に遭遇。この非常時に何やってんだ貴様。何故婦人服を着用しているのだ。はち切れんばかりな胸元から胸毛が見えているぞフランク。とりあえず服を着替えろフランク。その姿の君と一緒に行動したくはないぞフランク。生存者達に此処は危険だと言っても、あんたの方が危険だとか言われて着いてきてもらえないかもしれんぞフランク。何故婦人服を着用したのか聞いてみると「服が返り血で汚れたから仕方なく」とフランクは言うが男性用の服だってあるのに態々婦人服を選んだ理由にはならんよ。身をくねらせながらポーズを決めて「完璧」とか言う必要はないからな。明らかにフランクは嘘をついているが深く追求しても1人の変態が誕生するだけなので、追求するのは止めておくとしよう。まあ正気を失って襲いかかってくる連中よりかはまともだと思うがね。

 

同月同日

婦人警官が若い女性を集めていたぶっている場面に遭遇。まともではない婦人警官に小型チェーンソーで攻撃をくわえて打ち倒すと放送禁止用語を言いながら死亡した婦人警官。縛られていた女性達を解放すると婦人警官の死体を蹴る女性がいた。よほど怒りをかっていたらしい。自分をいたぶっていた相手に対して良い印象など抱ける筈もないから仕方がないな。

 

同月同日

エントランスプラザに入ると狙撃を行なってくる3人組がいたので銃弾を避けながら接近してフランクと同時に襲撃した。日本刀を振るうフランクと小型チェーンソーで切り刻む私に銃口を向けようとする3人組の引き金を引く指を拳銃で狙い撃ちスナイパーライフルを撃たせないようにしておく。2対3ではあったが決着は直ぐについた。私とフランクの勝利だ。彼等の持っていたスナイパーライフルと銃弾はありがたく頂いておくとしよう。

 

同月同日

ノースプラザのスーパーの前でバイクに乗った女性が襲いかかってくる。以前スーパーのショッピングカートに乗せられていた女性だ。致し方なくフランクと一緒に抵抗するとバイクから転がり落ちた女性。フランクが女性を説得し守衛室まで向かうことになった。女性の名はイザベラというらしい。カリートの関係者のようだ。カリートの説得を手伝ってくれるとのことだが、うまくいけばいいんだがな。

 

 月 日

カリートは説得をしようとしたイザベラに逆上した。縛られていた為に危害をくわえることはできなかったようだが、もしも手元に銃があれば発砲していてもおかしくはない剣幕だったな。カリートからの情報収集は諦めてイザベラから話を聞いた方が良さそうだ。フランクが語りかけるとイザベラは静かに話を始めた。

 

同月同日

バーナビーがゾンビ化しかかっていたのでゾンビ化を抑制する薬を投与した。この際だから生存者達全員にゾンビ化を抑制する薬を提供することにしておく。フランクにもカリートにも分け隔てなく薬を提供していくとカリートから「アンタみたいな人がいればサンタ・カベザの被害も少なくなっていたのかもしれないな」と言ってきた。カリートは少しぐらいは心を開いてくれたのだろうか。このままいけばカリートはバイオテロを引き起こした罪人として裁かれることになる。被害者だった彼等が加害者になってしまった今回の事件。やりきれない結果になりそうだ。

 

同月同日

映画館にカルト教団の教祖が居て、生存者達を生け贄に捧げようとしているらしい。カルト教団の信者達の集団を小型チェーンソーで斬り捨てて進み、到着した映画館のシアター内。儀式剣を持った教祖が襲いかかってきた。振るわれる儀式剣を躱し小型チェーンソーで切り刻む。此方に意識を集中させている間に教祖の背後からフランクが日本刀で切り込んでいく。前と後ろから攻撃を受けて倒れる教祖が落とした儀式剣と洗脳術という怪しげな本。フランクは本に興味があるようなので本をフランクに渡しておく。そして捕らえられた生存者達を救出して守衛室に向かうことにした。

 

同月同日

火炎瓶を片手に女性を脅している男がいた。止めに入ると襲いかかってきたので儀式剣で反撃すると、自分の火炎瓶で自分に引火させることになって悲鳴を上げる男。消火器で消火してやると自分の行いを悔い改めて同行者となった男と脅されていた女性2人にもう大丈夫だと言い聞かせて同行させることにした。守衛室にまで連れていくと男が「使ってくれ」と火炎瓶を手渡してきたので受け取っておく。男の名はポールというらしい。

 

同月同日

守衛室に居る生存者達全員に銃器を渡しておく。私の予想通り政府が隠蔽の為に動くなら特殊部隊が派遣されてくる筈だ。その時身を守る術がなければ一方的に殺されることになる。それを防ぐ為には自衛の手段が必要不可欠だ。

 

同月同日

カリートから通信妨害を仕掛けているカリートのパソコンのパスワードを聞き出すことに成功した。パスワードは「Pahamama」だ。カリートの隠れ家にあるパソコンにそれを入力すれば通信妨害を解除することができる。カリートの隠れ家を知るイザベラの案内で向かった隠れ家でパソコンにパスワードを入力するとロックが解除されて通信妨害を解除することに成功。数分後ジェシーから通信が入り本部に連絡がついたと報告があったが、更に数分後暗く沈んだジェシーの声が聞こえた。サンタ・カベザと同様にショッピングモール内の人間もゾンビも根絶やしにして政府は事件を隠蔽するつもりのようだ。予想通りだったので私は落胆してはいないがフランクは憤りを隠せないでいた。守衛室にも特殊部隊が派遣されることになるだろうがそう簡単に根絶やしにされるほど生存者達は弱くない。それに頼りになるブラッドがいる。後はフランクが言っていたヘリを待つだけだがイザベラは隠れ家に残ると言い出した。説得をしようとするフランクに頑ななイザベラ。特殊部隊の突入は明日になるだろう。それまでに説得が出来れば良いがな。

 

 月 日

生存者達はカリートを除いて皆、特殊部隊のヘリを奪取して脱出したらしい。オティスからの書き置きが守衛室に残されていた。ブラッドやジェシーも一緒に脱出したようだ。特殊部隊が続々とショッピングモール内へ突入してきている。フランクはイザベラを説得できているのだろうか。とりあえず取り残されたカリートを縛っていた縄をほどいて自由にしてやった。カリートに協力を求めると「正気か」と言われたので正気だと答える。ウィラメッテでバイオテロを起こした罪を償えとは言わないし窮地であるなら使えるものは何でも使うのが私だと伝えるとため息を吐いて「わかった」と頷いたカリート。カリートを連れてカリートの隠れ家まで向かうことになった。

 

同月同日

イザベラはカリートの隠れ家に残る選択をした。カリートもまた同様だ。私とフランクは約束の時間にヘリポートでヘリを待っていたが、ヘリのパイロットがゾンビに襲われてヘリが墜落した。絶望のあまりその場に崩れ落ちたフランクを連れてカリートの隠れ家に向かうと、ヘリが墜落したことをイザベラとカリートに伝える。するとカリートが中庭にある洞窟からの脱出を提案した。私が以前作成したゾンビを退ける香水を使えばゾンビが多い洞窟も安全に進めるとのことだ。材料となる女王蜂を採取して新たに作り上げた香水を全員分用意して洞窟からの脱出を決行する。

 

同月同日

洞窟の最深部まで向かうとシャッターが下ろされている向こう側に軍用車両が見える。シャッターを開閉するレバーを倒すとシャッターが開いた。ゾンビの群れを突破して 軍用車両に乗り込んで洞窟を抜け出したが、1台の戦車が追いかけてくる。攻撃をしかけてくる戦車に軍用車両の機関砲で対処していると戦車が止まり中から特殊部隊の隊長らしき存在が現れる。サンタ・カベザ掃討作戦も指揮していたと男が語るとカリートが激怒して機関砲を向けて引き金を引いたが弾切れで弾丸が発射されることはなかった。戦車の上で得意気に素手で構えた特殊部隊の長に付き合ってやる必要はないのでショットガンを構えて引き金を引く。放たれた散弾が特殊部隊の長に直撃していき、最終的にはよろめいて戦車から落ちた特殊部隊の長はゾンビ達に喰い殺された。微妙な顔をしていたフランクには悪いがいちいち素手で付き合ってやる必要はないと思うぞ。

 

 月 日

その後はゾンビ化を完全に防ぐワクチンを完成させてウィラメッテの生存者達に投与したり、フランクの新聞記事を読んだりしながら日々を過ごした。政府が隠蔽しようとしていた内容を露にしたフランクの新聞記事は飛ぶように売れているらしい。フランクにとっては念願の特ダネを掴んだといったところかな。ウィラメッテではとんだ買い物にはなったが、これもまた経験ということにしておこう。カリートとイザベラはウィラメッテのバイオテロを引き起こした首謀者としてBSAAに引き渡した。流石にバイオテロをまた引き起こすようなことはないだろう。寄生虫によるゾンビ化を完全に防ぐワクチンもBSAAには提供してあるので、また同じようなことがあっても被害は抑えられると思うが、どれだけ効果があるかは解らない。私の生活圏内でバイオテロがまた起こるようなことがなければ良いんだがね。また巻き込まれる可能性は0ではない。バイオテロのない世界が訪れるのはいつになるのか。私が生きている内に訪れてもらいたいものだ。

 




ネタバレ注意
デッドライジングの主人公
フランク・ウェスト
従軍経験もあるジャーナリスト
屈強な身体を持ち
レベルアップすれば素手でゾンビの内臓を引きずり出して瞬殺することもできるようになる
特殊部隊の相手に対しても同じことができるので人間を辞めている

サイコ
クリフ・ハドソン
鉈を持った男
ノースプラザのホームセンターで鉈を持ってうろつく
極限状態の中ベトナム戦争時の記憶がフラッシュバックし、生存者をベトコンとみなして襲いかかる
家族をゾンビによって殺害されたことが凶行に走る引き金となった
デッドライジングゾンビのいけにえではクリフがゾンビ化して襲いかかってくる

ケント・スワンソン
自信過剰な若手カメラマン
スクープのためなら手段を選ばない
フランクに写真撮影勝負を挑んでくる
デッドライジングゾンビのいけにえではケントもゾンビ化して襲いかかってくる

正気を失ったピエロ
アダム・マッキンタイア
子供達を楽しませる筈のピエロだったが、ライドマシンを止めようとするフランクに小型チェーンソーの2刀流で襲いかかる

ガンショップの店主
クレタス・サムソン
銃器店のオーナー
非常事態の中、店の銃器を奪われるのを恐れ、店内に銃を構えて立てこもる
最後はゾンビに襲われて死亡するがデッドライジングゾンビのいけにえでは生き残り改心して銃を提供してくれるようになる

スーパーの店長
スティーブン・チャップマン
ノースプラザにあるスーパーの店長
仕事熱心で店を愛するあまり、店内に侵入する者を武装カートや銃で襲う
テンションがやたらと高い店長
死に際がちょっと面白い人

婦人警官
ジョー・スレイド
次々と若い女を監禁していく、サディスティックで危ない警官
拳銃やスタンガンで武装している
デッドライジングゾンビのいけにえではジョーもゾンビ化して襲いかかってくる

狙撃をしてくる3人組
ロジャー・ホール
息子2人を連れてエントランスプラザでマンハンティングを行なう父

ジャック・ホール
ホール家の長男

トーマス・ホール
ホール家の次男

カルト教団の教祖
ショーン・キーナン
カルト教団の指導者
世界の終末が来たと狂信しており、生存者を儀式の材料として殺そうとしている

ポール・カーソン
長髪にジーンズの引きこもりの青年
火炎瓶や爆弾を搭載したラジコンでゾンビや人を襲う
救出してやれば、火炎瓶をプレゼントしてくれる


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龍が如く OF THE END編

龍が如く OF THE ENDの事件が2011年の春に起こったので、本編39話と40話の間の主人公です


 月 日

日本の神室町を訪れていた私は日本の裏社会の人間達。ヤクザの事務所を襲撃する怪しい何かを目撃。それは人間の形をしていたが人間ではなく、生物兵器に近いものを感じた。事務所から出てきたそいつは私には目もくれずに人外の動きで立ち去っていく。襲撃の目的は感染者を増やすことであったようでヤクザの事務所からはゾンビとなったヤクザが次々と現れたが、ゾンビの相手は慣れている。私は日本に持ち込んでいたL・ホークを構えて引き金を弾いた。放たれた銃弾がゾンビ達の眉間に穴を穿つと倒れ込むゾンビ達。ゾンビ達の死体を調べてみるとよく解るが、これはtウィルスによるゾンビ化とはまた違うもののようだ。とりあえずサンプルを採取しておこう。近くに人通りがなくて助かったが、銃声を聞いた一般人が通報するであろう警察がくる前に移動しなければいけない。手荷物を検査されては面倒だ。人通りの多い場所に移動した先では逃げ惑う人々が大勢いて、大量のゾンビ達から逃げているようであった。襲撃をしていた事務所は1つだけではなかったようだ。私は懐のホルスターからL・ホークを引き抜くと人々を襲おうとしているゾンビ達を撃ち抜いていく。瞬時に8発の弾丸を発射して8体のゾンビ達の頭部に着弾させると、空になった弾倉を抜いて新たな弾倉を装填する。それを繰り返してゾンビの数を確実に減らしていった。手持ちの弾倉が半分を切った頃には人々の避難が終わり、私だけが取り残された状態となったので移動を開始。とりあえず他の場所に行くとしよう。

 

 月 日

逃げ遅れた人々がいないか確認している間に迅速に対応した自衛隊によって巨大な隔離壁が打ち立てられて周辺一帯が隔離されてしまったようだ。拾った鉄パイプなどを使って邪魔なゾンビを排除しながら進み、辿り着いた地下DVD屋に入ると店内にいた人間が一斉に銃を向けてきたので両手を上げて「人間だから撃たないでいてくれると助かる」と言うと銃は下ろされた。店内はまるで武器庫のような状態になっており、何丁もの銃が陳列されている。どうやらたまたま入った建物が銃を取り扱っている店だったらしい。店内に居た秋山駿と名乗った男が「あんた日本語上手だねぇ、日本に来て長いのかい」と話しかけてきたので「仕事の都合で日本に来る必要があったので覚えたんだ」と正直に答えておくと「へぇ、ご職業は?」とにこやかに聞いてくる。私は嘘はつかずに答えることにして「以前は大手の製薬会社務めで今は違法じゃあないハーブを取り扱う仕事をしているが、そちらは何を」と逆に質問してみたが「しがない街金融をやってます、スカイファイナンスって会社なんだけど、これ名刺ね。ああ、後はエリーゼってキャバクラのオーナーもやってるかな。キャバクラって解る?女の子とお喋りしてお酒飲んだりする場所なんだけどさぁ」と笑顔で答えて会話を続ける秋山に「悠長に会話してる場合じゃねぇぞ秋山」と話しかけるヤクザらしき人物。長濱友昭と名乗った男が「さっさと行こうぜ」と地下DVD屋から出ていこうとするので何処に向かうのか聞いてみると自衛隊が用意した隔離壁の向こう側に行くとのことだ。マンホールを抜けた先にある地下からの抜け道を通るそうだが、私も着いていってもいいかと聞くと「自分の身は自分で守れよ」と了承をされたので着いていくことに決めた。店内の銃を何丁か受け取って装備を整え、地下DVD屋から3人で出ていくと道中でゾンビ達に襲われるが、問題なく打ち倒していく。マンホールを潜り地下を進み、粗悪なLEDライトの光を頼りに地下から隔離壁の外側へ抜け出ると、普段通りの日常を過ごす人々の姿が見えた。隔離壁の外側は、まるで別世界のようだな。

 

同月同日

秋山と長濱と別れて向かった先は飲食店。丸一日食事をとっていないので空腹だった私はとりあえず店に入ると食事をすることにした。注文した料理が目の前に置かれたので両手を合わせて「いただきます」と言ってから食事を始める。食べ終わり「ごちそうさまでした」と言ってから店を後にした私は秋山から貰った名刺に書いてある番号に電話をかけてみることにした。電話に出た秋山は柄本医院で解熱剤を処方してもらったばかりらしい。熱を出している従業員の為にもう一度隔離壁の内側へ向かう秋山に着いていくことに決めて合流すると一緒に行動をする。ニューセレナという店に寝かしつけている従業員の元へ向かう私達だったが店内にはゾンビ達が侵入していた。ニューセレナ店内のゾンビ達を排除して店内を捜索したが従業員は見つからない。店外にでたところでオリエンタルビルに逃げ延びていると従業員から電話が入る。再び出会った長濱の案内を受けてオリエンタルビルに侵入し、身を潜めていた従業員の女性を発見。ふくよかな体型をしている女性の名は花というそうだ。再開した2人が会話を始めようとしたその時、天井を歩き回る不気味なクリーチャーが現れた。リッカーに似ていなくもないが完全に別物であり、胸に打ち込まれた金属片とバーコードの刻印が、この生物を造られた存在であると示している。壁に張り付いた状態で振りかぶった腕を伸ばして攻撃してくる謎のクリーチャーに秋山と協力して立ち向かう。地下DVD屋で入手した銃器をふんだんに使い、壁面から叩き落としたクリーチャーの腹部にある赤いコアらしき部位を狙い撃つとクリーチャーが身悶えて怯んだ。どうやらそこが弱点であるようだった。集中してその赤いコアを狙い続けると遂にクリーチャーが倒れ伏して動かなくなる。このクリーチャーは人工的に造られた実験体であると断言ができるが、どこの誰が造ったものかまでは解らない。今回のこの騒動は人為的に引き起こされたバイオテロということになるが、目的が何なのかが未だ不明だ。実験体はこの1体だけな訳がない。まだまだ油断はできないな。

 

同月同日

秋山達と別れて単身で行動する私の眼前で、全身を岩の様な装甲で覆う巨大な怪物の頭部をバットの様に構えたショットガンで殴打する男がいた。特徴的な髪型に眼帯と刺青の入った素肌を覆う蛇柄のジャケット。男は自衛隊が残した戦車を使って怪物と戦うつもりらしい。戦車砲を発射しようとしている男に怪物がドラム缶を投げつけようとしていたのでサブマシンガンでドラム缶を撃ち抜いて爆発させて怪物を怯ませておく。男が此方を見て「やるやないけ」と凶悪な笑みを浮かべながら言うと戦車砲を発射した。戦車砲を連続で喰らい装甲が砕けた怪物は装甲を脱ぎ捨てると身軽になり俊敏に襲いかかってくるが、問題なく胸にある赤いコアを狙い撃つと遂に倒れ込んだ怪物。眼帯の男が此方に寄ってきて名前を聞いてきたので答えると男は真島吾朗と名乗った。裏社会の人間のようだが独特な雰囲気の人だと思う。その後は真島と行動を共にして隔離壁の外側に移動すると、黒塗りの高級車が真島の前に止まった。車内の後部座席に乗っていた男は神室町ヒルズが襲撃されてえらいことになっているらしいと真島に伝えると去っていく。これは勘だがあの男は、このバイオテロ事件と関わりがあるかもしれない。次に出会うことがあれば問い詰めておきたいところだ。

 

同月同日

神室町ヒルズに到着した真島と私は入り口前のゾンビ達を一掃すると、ヒルズ内部に入り込んだ。内部には関東の裏社会のトップである東城会六代目会長堂島大吾を初めとした東城会構成員やゾンビ達から逃れた人々が身を寄せていた。しかし神室町ヒルズ内部にはゾンビが潜んでいるらしく。完全な安全を確保する為に誘き寄せて始末したいと六代目会長は考えているそうだ。そこで真島が閃いた方法がバカップルを囮に誘い出すというもの。確かにホラー映画だとカップルが襲われるという展開は良くあるが、そう上手くいくものなのだろうかとは思う。とはいえ完全にやる気になっている真島がいる。神室町ヒルズに避難してきたカップルに囮役を頼みにいっては断られ続けた真島は六代目会長の髪の毛が長いことに気付いてしまった。できることがあるなら何でもやると言っていた六代目会長は真島の提案でバカップルの囮役として女装することになる。心底嫌そうな女装した六代目会長と真島が囮役となり本当にゾンビが現れた時はゾンビは何を考えているんだと思った。いや本当に。女装したおっさんに釣られて出てきたということになるからな。六代目会長も「真島さん、あたし怖い」とか言い出すようになってノリノリだ。私はいったいなにを見せられているのだろうか。本人達は真面目にやっているのかもしれないが絵面が酷い。最後の1体のゾンビがなかなか出てこず、遂には真島がキスしないと出てこないんじゃないかと言い出してキス待ちの顔になった。そこまでやるのかと結構引いていた私だったが、キスは必要なかったようで最後のゾンビが現れる。六代目会長はゾンビに対してよく現れたゾンビと言っていたので余程嫌だったのだろう。私だって女装したおっさんとおっさんのキスシーンなど見たくは無かったので助かったという気持ちになった。その後はゾンビを排除して神室町ヒルズを完全に安全な状態にすることができたようだ。

 

同月同日

夜の静寂を破り神室町ヒルズ入り口に突っ込んできたダンプカー。何処の連中かは知らんが迷惑なことをしてくれたものだ。おかげで神室町ヒルズ内にゾンビが入り込むという事態になったのだからな。私と真島で入り口を封鎖する時間を稼ぐ為に外に飛び出してゾンビ達の相手をしていると真島がゾンビに噛みつかれそうになっていたのでL・ホークでゾンビを排除した。押し寄せるゾンビ達を処理しながら真島と六代目会長と共に賽の河原という場所に逃げ延びる。地下歓楽街は地上からの避難民を受け入れているようだ。中枢のモニタールームには神室町の監視カメラネットワークとサイの花屋という情報屋が待っていた。モニターに映し出される無惨な映像達の中には、見るべき情報が映し出されている。六代目会長が二階堂と黒塗りの高級車に乗っていた男の名を口にすると、サイの花屋は二階堂の居場所がバッティングセンターであると突き止めた。賽の河原に来ていた秋山に焚き付けられる形でバッティングセンターに向かうことになった私と真島に秋山。到着したバッティングセンターで鋭い鎌を振り回す巨大な生物と遭遇。こいつも実験体であることは間違いない。止めどなく押し寄せるゾンビ達までもが加わり大変なことにはなったが、修羅場を潜り抜けてきた私達にとってはたいしたことはない。ゾンビ達の相手は秋山に任せて真島と私で巨大生物の相手をするとしよう。鎌を振り回す巨大な生物に弾丸と散弾を叩き込んでいく。右腕の鎌を振り上げたあと、その場で横回転して周囲をなぎ払う巨大生物の攻撃を回避してL・ホークの銃弾を撃ち込む。小さくバウンドするように回転してから大ジャンプして此方を押し潰そうとしてくる巨大生物を50口径の大型自動拳銃で撃ち落とす。地面に鎌を突き立て力を溜めた後、回転しながら此方を追いかける巨大生物の正面からではなく回り込んで側面から銃撃すると巨大生物が転倒する。転倒した巨大な生物にありったけの弾丸を浴びせると遂に倒れ込んで動かなくなった。長く続いた戦いが終わり、秋山の援護に向かおうとしたところで金髪の男が現れる。そして義手らしき男の右腕がガトリングに変形してゾンビ達を一掃していく。どうやら味方ではあるらしい。義手が兵器に変形するあたり少し親近感がある。私も左腕は義手だからかな。

 

 月 日

サンプルを分析した結果として、この生物災害はウィルスによるものではなく細菌によるものだということが判明した。この細菌によってゾンビ化したゾンビに噛まれたら、あらゆるウィルスに抗体を持つジェイク君でもゾンビになってしまう可能性がある。私は噛まれても平気なようだが、好き好んで噛まれたいわけではないので噛まれないように気をつけよう。

 

同月同日

真島と秋山と別れて行動していた私は長濱を発見。少々の会話をした後に行動を共にすることになった矢先、長濱がゾンビに噛まれそうになっていたので銃でゾンビの頭部を撃ち抜き、絶命させて安全を確保した。そうして進んだ先の地下駐車場で女性自衛官と男に出会う。男の名は桐生一馬といって長濱にとっては憧れの存在であるらしい。女性自衛官の名は浅木美涼というそうだ。桐生が素手でゾンビ達と戦っているところを浅木が助けたと言っていたが、事実だとすれば随分と桐生は無謀なことをしていたものだ。腕っぷしはかなりのもののようだが、今回のゾンビ達相手にはあまり効果がないだろう。とりあえず私の持っている銃を桐生に渡しておいたが、流石に素手ではどうしようもないと理解してくれているとありがたい。遠慮なく銃を使ってくれたまえ。

 

同月同日

桐生には何らかの葛藤があったようだが、ゾンビ相手に銃を使っている。人だった者を撃つことに抵抗があるものは少なくはない。情の深そうな桐生のような人間には辛い出来事なのだろう。私のような人間とは違う、まっとうな人間であることの証明だな。人間だったものをいくら撃とうが何も感じない私と比べたら随分とまともな人間だ。長濱が言うには東城会の四代目会長だったらしいが、元裏社会の人間にしては優し過ぎると思う。行動を共にしていた長濱が自分は隔離壁の外側に避難すると言い出した。自分が足手まといになっていると考えていたようだ。桐生一馬という憧れの存在に会えて嬉しかったと言って隔離壁の外側に去っていく長濱を見送り、進んだ先で真島と出会う。桐生を見かけると「桐生ちゃん」と嬉しそうに話しかける真島に「真島の兄さん」と応える桐生。知り合いだった2人は随分と仲が良いらしい。どういう関係なのか知りたいところだが、落ち着いた場所に移動してから聞くとしよう。真島が加わりゾンビを蹴散らす火力が増えて快調に進めている。そして再び賽の河原に到着した。

 

同月同日

秋山とも合流してサイの花屋が待つモニタールームに向かうことになる。花屋の情報網は事件の黒幕に辿り着いていたようだ。見覚えのある武器商人DDが二階堂と共にモニターに映し出されていた。ゾンビを生み出す細菌を開発して売り込みをかけていたDDにスポンサーとして名乗りを上げたのが二階堂だったらしい。こうしたモニタールームでの会話を遮るように賽の河原にもゾンビという危機が迫る。賽の河原へと向かうゾンビ達を全員で始末することになった。もうゾンビ達の相手は慣れたもので誰1人として怪我をすることもなく、賽の河原に向かうゾンビ達を一掃することに成功。その後は北下水道を抜けて児童公園を目指すことになった。到着した児童公園周辺の路上で今度は巨大なコウモリの様な実験体と戦うことになる。補給ポイントで狙撃銃を手に入れて実験体を狙い撃つ。上空を飛び回る実験体に弾丸を浴びせていくと実験体はゾンビ達を呼び出し始めた。浅木と秋山にゾンビを任せて実験体には桐生と真島に私の3人で銃撃を叩き込んでいく。実験体が翼を大きく後方に反らせた後、竜巻の様な突風を巻き起こしてくるのを回避。低く滑空しながら此方に近づいてこようとする実験体をL・ホークで怯ませて追い返す。繰り返した狙撃で遂に撃ち落とされた実験体は、そのまま動かなくなり死亡した。近場の上山ワークスで銃弾を補充して次の戦いに備えることにする。

 

同月同日

花屋からの伝言で真島と秋山と別れて浅木が運転する装甲車に桐生と共に乗り込み凄腕のガンスミスの元へ向かうことになった。幾多の障害を乗り越えて辿り着いたガンスミスの元でバッティングセンターで遭遇した金髪の男と再開。桐生も男のことを知っていたようだ。金髪の男の名は郷田龍司というらしい。ガンスミスの表稼業は、義手や義足を作る義肢装具士であり、郷田の右腕に変形する機関銃を仕込んだのもガンスミスの仕業だそうだ。初めての実戦に疲弊したガトリングアームの調整を終えたガンスミスは、桐生にも1つの銃を差し出す。それは対物狙撃銃というもの。大口径の弾薬を使用し、装甲の貫通、及び長距離狙撃を可能とした大型狙撃銃。小柄な老人にとっては持ち上げるだけで一苦労な鉄塊。それを桐生は軽々と扱い、感触を確かめていた。互いに武器を手にした男2人が言葉を介さずに意志疎通する。桐生と郷田は「けじめをつけにいく」とだけ言って義肢装具士の店から出ていく。私は凄腕というガンスミスの腕前を拝見させてもらうことにした。ガンスミスに「貴方は行かなくてもいいんですか?」と聞かれたので「2人だけにしてほしそうだったからな」と答えてガンスミスの店に居座ることにした。あの2人なら問題はないだろう。

 

 月 日

神室町の事件は解決して町はまた賑わいを見せている。逞しい神室町の住人達は今日もまた、この町で生きていくのだろう。そんなことを考えていると桐生が少女と歩いているところに遭遇。一緒に神室町を歩かないかと言われたので了承。少女の名前は澤村遥というらしい。桐生とは家族同然みたいだが、おねだりのレベルが高いような気がする。それに応える桐生は凄いと思う。たこ焼きを焼いている郷田を発見して、たこ焼きを買ってみたりしながら神室町を歩いていく。素直に良い町だなと思える場所だ。生物災害の被害があったとは感じさせない明るさがある。桐生が「どうだ?この町は」と問いかけてきたので「良い町だな」と答えておく。桐生は笑顔で「そうか」と喜んでいた。そんな会話をしていると私達にチンピラが絡んできたので相手をすることにする。桐生は「変わらねぇなこの町は」と言いながらチンピラ達を容赦なく殴り飛ばしていた。私もチンピラ達に蹴りを叩き込んで卒倒させていくとあっという間にチンピラ達は敗北する。迷惑料といった形で金銭と金目の物を差し出してくるチンピラに完全に慣れた様子で受け取る桐生。そんな桐生に「よくあるのかこういうこと?」と聞くと「ああ、まあな」と答えが返ってくる。私はともかく桐生は明らかに強そうな雰囲気があるのに絡まれるのが不思議で仕方がない。澤村お嬢さんも「おじさん、喧嘩終わった?」と平然としているあたり本当に神室町ではよくあることなのだろうな。思ったよりも物騒だな神室町。良い町ではあるのかもしれないが結構住みにくそうだ。頻繁に絡まれるのは面倒だろうな本当に。まあ町に良いところばかりがある訳ではないのが当然か。それを最後に知れたことは悪いことではない。次にこの神室町に来た時は、いつ絡まれてもいいように気をつけるとしよう。桐生達に別れを告げて神室町を後にする。さて次に行く場所では生物災害に巻き込まれなければいいが、どうなるかは解らない。まあ、何があっても生き残ってやるとするかな。

 




ネタバレ注意
龍が如く OF THE ENDの登場人物

秋山駿
第一部の主人公で、天下一通りに面した雑居ビルにある街金融、スカイファイナンスを営む男
泰平通りにあるキャバクラ店エリーゼのオーナーでもある
桐生一馬とは1年前に起きたある事件で知り合い、事件を解決するべくともに奔走した仲だ
今回は貸付金回収のため街へ繰り出したところ、ゾンビ襲撃事件に巻き込まれる

真島吾朗
第二部の主人公で、東城会直系真島組組長
かつては嶋野の狂犬と恐れられた超武闘派の極道であり、桐生一馬と幾度も死闘を繰り広げた
そんな真島も現在では落ち着き、堂島大吾の後見役として東城会を支えている
しかし、本人は相当退屈していたらしく、組事務所がゾンビから襲撃を受けると、狂喜して討伐に乗り出した
物語の途中ゾンビに噛まれてしまい、ゾンビ化を悟り1人街をぶらつく最中サウナを発見しデトックスを試みるが実際はゾンビが入れ歯だったため感染はしておらず目が赤いのは花粉症だったからである

郷田龍司
第三部の主人公で元近江連合直系郷龍会二代目会長
4年前の近江連合と東城会の抗争で、神室町を恐怖のどん底に陥れた張本人だ
しかしその後極道から足を洗い、都内のたこ焼き屋に弟子入りしていた
厳しい師匠のもと修行に励んでいたが、元舎弟の二階堂哲雄の接近により、再び渦中の人となる

桐生一馬
第四部の主人公で、元東城会四代目会長
かつては堂島の龍と呼ばれ、数々の伝説を残すとともに、東城会と神室町の危機を救ってきた
現在では極道から足を洗い、沖縄で養護施設のアサガオを運営し、身寄りのない子供達を育てている
しかし、最愛の女性の娘、遥を誘拐され、地獄と化した神室町へ舞い戻ってきた

澤村遥
桐生一馬が愛した女性、澤村由美の娘
9歳のときに両親を亡くし、天涯孤独の身となった
またそのときに桐生と運命的な出会いを果たし、以来親子同然の暮らしを続けている

長濱友昭
東城会直系真島組の構成員
桐生に憧れて極道の世界に入ったようだが、さほど肝が据わっておらず、どちらかというと要領よく立ち回るタイプ
四部で桐生達と遭遇した時にはゾンビに噛まれておりゾンビ化してしまう

浅木美涼
陸上自衛隊三等陸曹
当初彼女が与えられた任務は、ゾンビの侵出を防ぐ隔離壁の配置と保守であった
しかし、ゾンビの大量発生により隔離壁が崩壊
仲間が次々とゾンビに襲われるなか、隔離エリアで孤独な戦いを続ける


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デビルメイクライ2編

デビルメイクライ5の発売でデビルメイクライ2の時系列が少し入れ替わったので、本編41話以降の主人公です


 月 日

にわかには信じがたい話ではあるが。単なる生物兵器とは違う何かが、悪魔と呼ばれる存在が実在しているらしい。生物としてはあり得ない存在の映像記録も残されているし、実際に悪魔の被害を受けた被害者達の証言も多数だ。時として悪魔は実体を持ち人に危害をくわえて、命さえも奪っていく。そしてそんな悪魔を狩る悪魔狩人と呼ばれる存在までもがいるそうだ。悪魔も泣き出す凄腕の便利屋として、その名を裏社会にとどろかせている男、ダンテ。常人では両手でも扱いきれない大口径拳銃2丁、黒のエボニーと銀のアイボリーを難なく操り、背にくくられている時代がかった長剣を軽々と振り回して、依頼を受ければどんな悪党も瞬く間に追い詰めてのけるという男だが。ダンテの本業が悪魔狩人という噂がある。それが真実だとすればダンテは何故悪魔を狩っているのだろうか。何か理由がある筈だが聞いても答えてくれるかは解らない。ちなみにダンテはオリーブ抜きのピザとストロベリーサンデーしか食べないという情報もあるが、これは別に必要のない情報だな。何故そんな情報を仕入れたのかが理解できんぞ情報屋。その情報の料金は払わんぞ。

 

 月 日

聖と魔の溶け合う島と呼ばれる場所がある。そこは新大陸の辺海に浮かぶ孤島で、その特異な成立過程により、俗世から長く見過ごされた地であった。何故ならそこは、ヨーロッパの探検家が大陸を発見する以前から、漂泊の異端者達が流れ着く安息の地であったのだ。宗教の主流争いに敗れ、ただ信仰の自由を求めて故郷を離れた者が最後に辿り着く島。そこではあらゆる力あるものが崇拝の対象として受容された。荒ぶる災害をもたらす気まぐれな神も、生け贄を欲する反道徳的な神も、そしてその島の外では悪魔としか呼ばれることのない、ただ暴力と破壊のみを宗とする邪神の類でさえも。逐われた者達の社会であったがゆえに、彼等は新たに持ち込まれた神を拒絶することなく、すべてを寛容に、時間をかけて取り込んでいった。それらを否定することは、自らの存在をおとしめることに等しい行為だったからだ。こうして、世にも稀な異端の聖地が誕生した。聖地の名はデュマーリ。これから私が向かうことになる場所だ。調査を依頼された巨大国際企業ウロボロス最高経営責任者アリウスがデュマーリ島に居るという情報が入った。アリウスが魔道の知識を持ち、人造の悪魔をも造りあげているという噂があるが、これが事実だとすれば厄介な相手であることは間違いない。事前の準備が必要不可欠だ。知り合いの神父に頼んで教会で祝福儀礼を施してもらった銀の銃弾と特殊合金製の槍に、用意してもらった聖水と左腕義手に仕込んだ荷電粒子ライフル。対物狙撃銃も持っていくとするか。切り札として強化薬物P30の神経を研ぎ澄まし筋力を増強する効果のみを抜き出して私にも効くように調整したP30の改良型をアンプルシューターに仕込んでおく。とりあえず持っていく物はこれぐらいにしておこうか。たとえ何があっても対応ができるように常に平常心を心がけるとしよう。

 

 月 日

到着したデュマーリ島でさっそくあり得ない存在に遭遇。用意していた祝福儀礼済みの装備は効果があるようなので問題なく処理することができたが、悪魔という存在が実在していることが良く解った。罪人を拘束し餓死させる為の鉄の檻に覆われた白骨死体が武器を手にして襲いかかってくるとは驚きだ。特殊合金製の槍と銀の銃弾が効かなければ撤退も視野に入れていたが、効果的ではあったのでアリウスの調査は続行ということになるな。前途多難ではあるが仕事はきっちりとこなすとしよう。そういえば悪魔を倒したところ、赤い結晶の様なものを大量に手に入れたが、これには何らかの使い道があるのだろうか。趣味が悪く物珍しいものを欲しがる者達なら喜んで購入しそうだが、人の顔が浮かんだ赤い結晶という不気味なものを欲しがる奴と運良く出会えるかは解らない。

 

 月 日

デュマーリ島でマティエと名乗る老婆に話を聞くとアリウスは島の開発を名目に巨大な市街地を建設し、高層ビルを乱立させ、一方で島のあらゆる場所を掘り返し、地底深くに封印された古代の遺跡を探り当てているようだ。かつて名高い魔剣士と島の護り手に打ち破られ、現世への復活を阻止された邪神の封印を解くことがアリウスの目的らしい。近代化して魔の力を失い、聖地の民であることも忘れた人々は、アリウスによる開発の真の目的に気づくこともないまま、やがて歪みから人間界に溢れはじめた悪魔の餌食となり、無人の建築物群が残されているそうだ。生存者はマティエとルシアという当代の護り手だけのようで、事態を収拾するためにルシアは悪魔狩人のダンテに助力を求めに行ったとのこと。ダンテは、かつてマティエと共に邪神と戦った魔剣士の血を受け継いでいるとマティエは語ったが、随分と長生きしているであろうマティエはいったい何歳なのだろうか。そこのところが少し気になるが女性に年齢を聞くのは失礼なことだ。余計なことは言わずに黙っているとしよう。ちなみに大量に持っている赤い結晶のことをマティエに聞くと、赤い結晶はレッドオーブというそうで、魔族の血の結晶らしい。使い道があるのかも聞いてみたが、大きな砂時計を担いだ石像、歴史の全てを記憶する時空神像を調べるとレッドオーブと交換で体力や魔力を回復するアイテムを入手できたり、武器を強化することが可能だとマティエは言っていた。魔力はともかく体力を回復するアイテムは持っておいた方が良さそうだ。時空神像を見つけたらさっそく調べてみるとするかな。どんなアイテムなのか楽しみだ。

 

同月同日

時空神像を発見。とりあえず体力を回復するというアイテムを手に入れることにすると、レッドオーブを消費して生命の力が込められた緑色で星形の霊石バイタルスターを手に入れることに成功。これが体力を回復するアイテムということになる。念のための備えができたところで遠距離武器の強化もしておくことにした。大量のレッドオーブが必要になったが、足りなければ周辺にいる悪魔を始末してレッドオーブを回収し、遠距離武器の強化を終わらせる。今度は邪悪な力を退ける効果を持った香水スメルオブフィアーを入手するべく、レッドオーブを稼ぐ為に悪魔を狩りにいく。入手したスメルオブフィアーは、使用すると敵からの攻撃を3回まで無効化できるという優れもののようだ。使う機会がない方が良いんだが、備えとして持っておくとしよう。今まで倒してきた下級な悪魔とは格が違う相手が出てきた時の為に用意しておいて損はない。

 

 月 日

絵に描いた様な山羊頭の悪魔が現れた。背の翼で空を飛び、人語も解する悪魔であり、魔法弾の様なものまで撃ってくる連中であったが、特殊合金製の槍で首を切り落としてやれば静かになった。生物として生きられなくしてやれば死亡するのは悪魔も一緒らしい。それが適用されない悪魔もいるかもしれないが、少なくともこの山羊頭の悪魔は生物の範疇を越えてはいないみたいだ。実体を持ち生身がある悪魔は生物として限界があるということが理解できたのは貴重な情報だな。首を落とせば死んでくれるというのはありがたい。貴重な銀の銃弾が節約できるからな。とりあえずウロボロス本社のビルを目指すとするか。アリウスの情報を少しでも集めなければいけない。調査を進めるとしよう。

 

同月同日

進んだ先のトンネルで現れた悪魔らしき白い2頭の狼が乱反射するピンボールの様に縦横無尽に高速で跳ね回り、突進しながら噛みつこうとしてきたり、壁で反転して体当たりをしてこようとしてきたのでそれを回避して槍を振るった。跳ね回る2頭の狼に瞬時に追いついて脳天に槍を振り下ろす。跳躍して回転しながら体当たりを繰り出してくる白い狼へとバットを振るうかの様にスイングした槍が直撃して吹き飛ぶ狼。頭上から襲いかかってくる狼の攻撃を避けざまに槍で斬りつけていく。そういった攻防を繰り広げていると狼は逃げていった。また狼と遭遇しそうな気がするな。

 

 月 日

ウロボロス本社ビルに向かう途中で車体にまるで眼球の様な生々しい部位が存在する戦車と遭遇。発射される戦車砲や機銃の掃射を回避して観察した結果としては、戦車が生物に寄生されているようで眼球の様な部位が寄生生物の本体のようだった。砲身から火炎まで放射する寄生戦車の攻撃を避けながら接近して車体を掴み、本体の寄生生物にこれ以上何もさせないように寄生戦車自体を片手で持ち上げてひっくり返し、眼球の様な部位に特殊合金製で祝福儀礼が施された槍を突き立てて抉り続けると戦車は完全に沈黙。寄生戦車は1台だけではなく他にも数台が存在したので同様に処理して先に進んだが、今度は寄生された軍用ヘリが襲いかかってくる。戦車と同じく眼球の様な部位が存在する機体が空を飛びながら機銃を撃ち込んできたり発射される小型ロケットや誘導ミサイル。果てはヘリのローターによる攻撃までしかけてくる寄生ヘリ。誘導ミサイルが特に厄介だったがなんとか躱してから、対物狙撃銃で寄生生物の本体である眼球の様な部位を狙い撃ち続けてヘリを撃ち落とすことに成功。寄生されていた軍用ヘリが墜落して爆発。寄生された兵器がこれ以上追加されることはなく、先に進むことができた。それにしても機械にまで寄生する生物がいるとは、悪魔というものは何でもありだな。生態が気になるところではあるが飼育するには専門の設備を用意する必要がありそうだ。手間と労力に見合う成果が出ればいいが、それはとても難しいだろうな。生物としての悪魔に興味が無いわけではないが、悪魔に詳しいわけじゃあない私が手を出すには問題が山積みだ。悪魔に軽い気持ちで関わるのは避けた方が良いだろう。実験材料にするには不確定要素が多すぎる。悪魔は敵として考えておく方が良さそうだ。

 

同月同日

遂にウロボロス本社ビルに到着した。幾多の障害を乗り越えて辿り着いたウロボロス本社のビル内部は悪魔達の巣窟となっていて、戦闘は避けられない。手持ちの装備で悪魔達を排除しながら進んだ先で見覚えのある狼2頭を引き連れている槍を持った黒い骸骨が1体。太い骨で形成された身体を持つ悪魔は、これまでの相手とは格が違う。私はアンプルシューターを取り出して自らに強化薬物P30の改良型を投与した。3対1で始まった戦い。薬物で増強された筋力で先に2頭の狼を仕留めると肉厚で剣の様に長い穂先を持つ槍を振るってくる黒い骸骨。横に振るわれた槍が瞬く間に縦に振るわれて次の瞬間には槍が振り上げられている。流れる様な一連の動きは淀みがなく、数え切れない年月を槍に捧げてきた槍の熟練者であることが理解できた。今度は斜めに斬り上げてきた槍の穂先を薬物で強化され研ぎ澄まされた反射神経で躱し、続けて斜めに振り下ろされた槍を回避して、前に突き出された槍を潜り抜けて避けて接近し、此方の槍を叩き込む。近距離で縦斬り2段を繰り出してくる黒い骸骨の攻撃を槍で弾き、最後の斬り上げを後ろに跳び退いて躱す。放たれた袈裟斬りを槍で受け止めて、ほんの一瞬の内に連続で繰り出された3段突きを紙一重ですり抜ける。突進しながらの槍の突きを横に跳躍して避けて壁を蹴り接近し、黒い骸骨の肋骨に槍の石突きで打撃を打ち込む。連続で放たれ続ける突きを全て躱しながら近寄り槍を突き刺した。上昇しながらの斬り上げを回避して相手の着地の瞬間に槍で攻撃する。当て身からの頭部を狙った兜割りを半身になり避けると至近距離から槍の穂先を突き立てた。黒い炎の波を放出してくる黒い骸骨の攻撃を壁を高速で駆け上がり躱す。どういう仕組みになっているのかは知らないが、文字通り伸ばされた槍の穂先が縦に振るわれるのを横に転がって回避する。今度は横に振るわれる伸びた槍を伏せて避けて接近し、高速で放たれた伸びる槍の突きを首を反らして躱す。伸縮する槍を突き刺そうとしてくる黒い骸骨の槍撃を弾き上げてがら空きになった胴体を狙い、渾身の力で突き立てた此方の槍の石突きを蹴りで更に深々と押し込んでいくと黒い骸骨を貫通した。決着はそれで着いたようだ。

 

私の槍に貫かれたまま黒い骸骨が此方に自らの槍を差し出してくるので槍を受け取ると、黒い骸骨は満足気に頷いた後に溶けて消えていく。残されたものは私と黒い骸骨の槍と心臓の形をしたオブジェだけだった。自らの武器である槍を渡されたということは黒い骸骨に私が認められたということなのだろうか。槍が2本に増えてしまったがせっかく渡されたのだから黒い骸骨の槍もこれからは使ってみるとしよう。心臓の形をしたオブジェは何かに使えるかもしれないのでとっておくとして、とりあえずウロボロス本社内部の調査を続けるとするかな。何かアリウスに関する情報が手に入ればいいんだがね。

 

 月 日

社内を探索中にダンテに遭遇。心臓の形をしたオブジェを探しているらしいので探索中に何個か手に入れた手持ちのオブジェをダンテに全て渡しておいた。私が背負っている黒い骸骨が持っていた槍を見たダンテが「その槍を何処で手に入れた」と聞いてきたので倒した悪魔から渡されたと言うと「悪魔が力を認めたか」と言ってから「稀にあることだが、かなり上級の悪魔を倒す腕前があることが条件だ。滅多にあることじゃない」と締めくくる。ダンテは私を見て「ただの人間というわけではなさそうだ」と言うと「何を目的にこの島に来た?」と聞いてきた。隠すことでもないので素直にアリウスの調査を頼まれたと答えておく。ダンテは「嘘は言っていないようだな」と言って「命があるうちに此処から離れろ、此処はいずれ魔界に巻き込まれるぞ」と私に忠告をしてくる。忠告は素直に受け入れておくとしよう。ウロボロス本社から脱出することに決めて移動を開始しようとした私にダンテが最後に「解っているとは思うが、人間として生きることを忘れるな」とだけ言って去っていく。最後の言葉は、今の私の状態を理解していながらの忠告だろうな。私の身体能力が人間を遥かに越えていることを悟りながら、あの言葉を残したのはダンテの優しさだ。人々の中で生きていくことになる私が忘れてはいけないことだな。ダンテがどんな男なのか少し解った気がする。彼の心根には優しさがあると感じた。マティエが言っていたとおりに悪魔の血を受け継いでいて半人半魔の身体を持っていても彼の心は間違いなく人間だ。

 

同月同日

ウロボロス本社のビルから脱出した先で襲いくる悪魔の群れを黒い骸骨から手に入れた槍で排除していく。特殊合金製の槍と比べると切れ味が段違いで、私の意思に応じて穂先が伸びたりする機能までついている。おかげで槍の間合いが桁外れに広くなった。使いこなすには修練が必要になるだろうが、託されたのだから使いこなしてみせよう。槍を振るえば両断されていく悪魔達。この槍を持っていた黒い骸骨はかなり上級の悪魔だとダンテは言っていたが、あの槍の腕前と、この槍の凄まじさを思えばそれも頷ける。完全に槍を使いこなしていたあの黒い骸骨は、かなりの強敵だったな。頑丈な特殊合金製の槍でなければ、あの猛攻には耐えきれなかっただろう。知り合いの神父に頼んで祝福儀礼を施してもらったことも無駄ではなかった。悪魔に対して効果的な武器になってくれたからな。事前の準備は大切だ。用意しておいたものが無駄にならなくて良かった。備えあれば憂いなしだな。アリウスの調査という目的は果たせなかったが、こういうこともあるか。

 

同月同日

ダンテと赤い髪の女性が会話をしているのを遠目に眺めていると、赤い髪の女性が泣いていた。ダンテが女性の涙を指で拭いながら「悪魔は涙を流さない」と言っているのが口の動きで見える。両面が表のイカサマコインでコイントスをして、ダンテと赤い髪の女性のどちらが向かうのかを決めてから、ウロボロス本社のビルに開いた魔界らしき場所に通じる穴にダンテが1人乗り込んでいく。赤い髪の女性はそれを見送っていた。ダンテはおそらくアリウスが復活させようとしていた邪神と戦いにいくのだろう。邪神の名はアルゴサクス。かつて魔剣士スパーダとマティエによって封じられた悪魔。私が戦ってきた悪魔達よりも遥かに強大な相手だ。だとしてもダンテなら必ず帰ってくる筈だ。何故なら私の勘がそう言っている。

 

同月同日

身体の色が緑色になって背から2本の触手を生やしたアリウスと戦っている赤髪の女性が1人。苦戦しているようだったので対物狙撃銃で援護をすることにした。随分と様変わりしたアリウスの頭部を狙い撃ち怯ませると赤髪の女性は2本の剣でアリウスを切り刻む。アリウスの攻撃にも怯まずに果敢に立ち向かう赤髪の女性。その内にアリウスが狼狽えて「お前は悪魔なのだ」と赤髪の女性に言い放ったが、彼女は「ダンテが言ってくれた、悪魔は涙を流さないって!」と力強く言葉を返した。次の瞬間、アリウスの身体から魔力が解き放たれて大地が割れる。そしてアリウスの身体が歪に肥大していき、大地が割れたことで生み出された左右の崖にしがみつきながら赤髪の女性を攻撃しようとしていく。毒液や尻尾による攻撃を回避して攻め続ける赤髪の女性。私もありったけの銃弾や聖水をアリウスに浴びせていく。長く続いた戦いは遂に終わりを迎え、欠片も残さずアリウスは消えていった。赤髪の女性が此方に来て「貴方がマティエが言っていた人ね、手伝ってくれてありがとう」とお礼を言ってくる。マティエの知り合いでこの島にいる女性というと彼女がルシアだろう。邪魔になっていなかったなら良かったと言うとルシアは笑顔を見せてくれた。アリウスが言っていたように彼女の身体は人間ではないのかもしれないが、彼女の心は人間だと私は思う。悪魔は涙を流さないのだから、涙を流せる彼女は人間だろう。ルシアはダンテが帰ってくるのを待つみたいだ。ダンテの本拠地であるデビルメイクライの店で待つことに決めているらしい。

 

 月 日

アリウスの調査の依頼は、調査対象の死亡により無効ということになったが、アリウスが死亡したという情報に関する報酬を受け取ることになっているので損はしていない。デビルメイクライにはダンテが帰ってきたようでルシアはしばらくダンテと行動を共にするそうだが、彼等の関係がうまくいくことを願っておこうか。妙なことになって関係が拗れなければいいがな。まあ、それはそれとしてデュマーリ島で手に入れた物品をどうするかが問題だな。バイタルスターとスメルオブフィアーに黒い骸骨から手渡された槍の3つになるが、バイタルスターとスメルオブフィアーは保管しておくとして、槍はこれからも使っていくとしようか。託されたのだから使いこなしてみせなければな。黒い骸骨から手渡された槍を握り、槍の名前を考えていると槍から意思が伝わり、ボルヴェルクという名を教えられた。槍の前の持ち主の名前がそうらしい。あの黒い骸骨の名はボルヴェルクということになる。戦った相手のことを忘れないように、この槍の名前は魔槍ボルヴェルクという名にしておこう。槍からも否定の感情は伝わってこないので、それでいいみたいだ。それにしても意思を持った武器とは、どうやって造られるものなのだろうか。気にはなるが製造方法には問題がありそうだ。気にしないようにしておこう。悪魔とはあれから出会うことはないが、確かに存在していたのだから常に備えをしておかなければな。とりあえず銀の銃弾を補充して祝福儀礼を施してもらわないといけない。特殊合金製の槍も随分とくたびれてしまったので、新しい槍を造らなければな。魔槍ボルヴェルクを使いこなす修練も積まなければいけない。やることが盛り沢山だが、時間はある。全て済ませておくとしよう。さて、まずは買い物からだな。

 




ネタバレ注意
ダンテ
デビルメイクライ2の主人公の1人
二千年前に魔族から離反し、人間の為に1人悪魔の大軍勢と戦い続けた伝説の魔剣士スパーダと、人間の母エヴァとの間に生まれた半人半魔
その身には偉大な父の能力が、そして一見クールなその心には母の優しさが色濃く受け継がれている

ルシア
デビルメイクライ2の主人公の1人
母マティエの跡を継承してデュマーリ島当代の護り手となったルシア
実はアリウスによる人造悪魔であり、その事実を気にやみダンテに自らの殺害を頼むが、断られる
その後はダンテの優しさに触れて立ち直り、アリウスとの決着をつけるとデビルメイクライでダンテの帰りを待った

マティエ
かつてスパーダと共に戦った先代の護り手
ルシアの母として彼女に戦う術を叩き込んだ

鉄の檻に覆われた白骨死体
アゴノフィニス
罪人を拘束し餓死させる為の鉄の檻が刑死者の怨念に操られて生者を襲うようになった

山羊頭の悪魔
ゴートリング
淫らな欲望の解放を掲げ
長年にわたって多くの迷える民を堕落させてきた悪質な誘惑者
人語を解し強力な魔術を操る

白い2頭の狼
フレキ&ゲリ
ボルヴェルクに付き従う狼型の使い魔
もしかするとかつて彼に寵愛された勇者の霊が転生したものかもしれない

寄生戦車
インフェステッドタンク
インフェスタントに寄生された戦車
魔に支配された車体は敵のいかなる攻撃にも耐える
倒すにはインフェスタント本体を狙うしかない

寄生ヘリ
インフェステッドチョッパー
インフェスタントに寄生されたヘリコプター
その機体は敵のいかなる攻撃にも耐える
倒すにはインフェスタント本体を狙うしかない

黒い骸骨
ボルヴェルク
かつてスパーダと戦い敗れ去った魔界の戦士
そもそもは辺境の神々の王であったが大戦争に敗れ破滅した後に邪神として転生したと言われる
フレキ、ゲリという2体の使い魔を走らせて相手を惑わし、その隙に素早い踏み込みから多彩な槍技を叩き込む

背から2本の触手を生やしたアリウス
ポゼストアリウス
不完全な儀式によりアリウスの体内に蓄積された膨大な魔力が暴走した状態
既に人間性は失われ外見も行動も忌まわしき悪魔そのものとなりつつある

歪に肥大化したアリウス
アリウス=アルゴサクス
魔界の覇王アルゴサクスの強靭な意思と桁外れな魔力がアリウスの肉体を完全に奪った
その姿は魔界の混沌を反映し、その悪意は冥府の闇にも等しい


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鬼武者3編

鬼武者3が2004年の春、バイオハザード4が2004年の秋であることから、バイオハザード4編よりも少し前の時間軸の主人公です


 月 日

僅かに薄曇りの空に、ほどよく和らげられた陽射しを歴史ある都に注いでいるフランスのパリ。エトアール広場から南東に続くシャンゼリゼ通りのオープンカフェで遅めの朝食を食べ終わった私が食後のコーヒーを飲んでいると不意に嫌な予感がして空を見上げた。すると見上げたパリの空を逆光となった黒い翼の群れが覆っていて、翼を持つ爬虫類めいた巨大な生物から落下傘もなしに降下する大軍団は、四足の蜘蛛を思わせる形でありながら、人の特徴も確かに備えた異形のものどもであり、各々が日本刀を構えている。人々が茫然とするのもつかの間、怪物達は白昼夢として消えることなどなく、四本の脚で軽々とパリ市街に着地した。陣笠の下から獣じみた牙を剥き出し、手に持つ日本刀と思しきものをぎらつかせて、一拍も置くことなく降下してきた怪物達はパリ市民を襲い始める。私は懐から取り出した拳銃で応戦を始めながら市民を避難させていく。拳銃の弾丸を受けようとも向かってくる怪物が持つ日本刀を奪い取り、首を切り落としてやると息の根は止まったようだ。どうやら生物の範疇を越えてはいないらしい。無防備な市民を守りながらやけに頑丈な日本刀を振るっていく。助け出した市民を逃していき、謎の怪物達と戦い続ける。助けられた市民もいれば間に合わなかった市民もいた。広場には屍の山が築かれて、目の細かい石畳は血の河で満たされていく。乗用車やバスがあちこちで炎上して爆発し、市街は死者の焼ける臭気と闇をもたらす黒煙に覆い尽くされていった。

 

同月同日

蹂躙された花の都パリで孤軍奮闘する私は、奪い取った日本刀で怪物達を仕留めていく。怪物達を倒すと赤い光の様なものが現れるが、これはいったい何なのだろうか。そんな疑問を抱いていると、ようやく出動した軍隊。しかし銃弾を浴びてなお息絶えぬ怪物達には満足に対抗できず、壊滅を重ねているようだった。送り出される増援は限りなく無意味で、死都と化したパリに呑まれる犠牲者を増やすだけだ。凱旋門の上で、ドクロとオウム貝を組み合わせたような奇怪な容貌の怪人が高らかに笑っている。明らかに知性を持つ怪人は、この惨状を作り上げた怪物達の司令官であるかもしれない。怪物達は自然のものではなく明らかに手が加えられている。怪物達を造り上げたのは、あの怪人の可能性が高い。何故パリ市民を襲ったのか理由を聞いてもろくな答えは返ってこないだろう。それだけは確かだ。特殊部隊員を救助しているともう1人特殊部隊員が現れた。ジャック・ブランと名乗る特殊部隊員にハーブで怪我を治療した特殊部隊員を預け、怪物達を一掃したところで新たな怪物達が現れる。日本刀を構えて怪物達に切り込む私を援護してくれたのは突如として現れた日本の甲冑を着こんだ日本人。籠手を構えて怪物達から現れた赤い光を吸い込んでいる日本人に話を聞こうとした瞬間ジャック・ブランともう1人の特殊部隊員が何かに呑み込まれる。姿を消した2人に困惑する私に日本人が話しかけてきた。ここは何処かと聞かれたのでフランスのパリだと答えるとさっぱり解らんと困っている日本人。まるで戦国時代からそのままやってきたかの様な格好をした日本人に名を聞くと明智左馬介秀満と答えた。私の記憶違いでなければ明智左馬介秀満とは明智光秀の重臣として、その権勢を支えた人物だった筈だ。間違っても2004年にいる人間ではない。これはジャック・ブランが呑み込まれた何かが関係しているのだろうか。

 

同月同日

左馬介によれば怪物達は幻魔と呼ばれるものらしい。パリに現れた幻魔もギルデンスタンという高等幻魔の科学者によって造り出されたものの可能性が高いそうだ。特殊部隊員が使っていたアサルトライフルを拾い上げてから、市街地を左馬介と共に移動しながら進み。地下連絡道を抜けて凱旋門の下まで到着した。設置されている宝箱を開いて、左馬介に矢や傷薬と凱旋門の地図を手渡しておく。左馬介が祭壇を調べると通行が可能になった地下で双剣を手に入れた左馬介。双剣の名は天双刃というらしい。祭壇の地下から左馬介と一緒に出てきたところで女性の特殊部隊員に銃を向けられた。フランス語が全く解らない様子の左馬介と日本語が解らない様子の特殊部隊員の女性。私が通訳して会話をすると女性は銃を下げてくれたようだったが、部下から連絡が入ったらしくその場を後にした女性。左馬介は幻魔に襲われているなら異国の民でも助けなければ、と言って女性を追い始めたので私も着いていくことにした。螺旋階段で襲い来る幻魔を倒し、気絶していた女性を凱旋門の外へ運び出す。女性を運び出してから再び戻ると床に展示フロアの鍵が落ちていた。螺旋階段を登った先にある扉の鍵だ。鍵を使い先に進み宝箱を開けていく。少しからくりがある宝箱も開けて左馬介に中身の石を渡す。到着した凱旋門屋上で左馬介がギルデンスタンと呼ぶ高等幻魔の科学者と遭遇。ドクロとオウム貝を組み合わせたかの様な頭部を持つ怪人の名がギルデンスタンだったらしい。造魔とやらをけしかけてくるギルデンスタンだったが、その造魔とやらがどうみても外見が機械のロボットにしか見えない。動きもロボット同然だったが造魔であるそうだ。天双刃で造魔を切り刻む左馬介にアサルトライフルで援護する私。左右のアームを前方に向けた後に右、左の順に前方へと突き出してワンツーのストレートを繰り出してくる造魔。その攻撃に合わせて一閃を繰り出す左馬介。それがトドメになったのか完全に動きを止めた造魔。

 

同月同日

凱旋門の屋上から戻ってきたところで目を覚ましていた女性が銃を此方に向けてから下ろした。どうやら起きてから警戒を続けていたらしい。私を通訳にした会話を再び続けていると、突如として現れた羽根の生えた小人。その小人が言うには左馬介はパリの幻魔を全て倒さなければ元の時代には戻れないという。やはり左馬介は過去からやってきた存在だったようだ。小人が更に喋った内容は過去の戦国時代で戦っている2人、鬼の籠手を授けられたジャックと銃で戦うフィリップの名を出したところでジャックとフィリップを知っている様子の女性が反応。フィリップは部隊の仲間でジャックは自分の婚約者だと言う女性。女性の名はミシェルというそうだ。どういう訳か小人が現れてから私の通訳無しで会話が通じているミシェルと左馬介の2人。小人の名前は阿児というそうで天狗という種族だと言っていた。ミシェルと左馬介の会話が通じているのも阿児の力によるものだ。天狗という種族は芸達者なのかもしれない。そのときミシェルの元へ、幻魔が下水道に現れたという通信が入った。ミシェルは左馬介と私に幻魔退治への協力を依頼する。引き受けた左馬介に私も同行することにした。凱旋門の下で阿児が開けてくれた宝箱の中身は救急箱。凱旋門地下連絡道の扉を下水エリアの鍵で開ける。第1制御室で発電機の取っ手を下げて第1区画の電源を復旧させ、主任へのメモを回収した。下水道第1区画の電動の跳ね橋を下ろし先へと進む。第2制御室のナンバー式のロックを、室内の梯子を登った先にある作業員のメモを頼りに解いていく。第1制御室にはイスが3つ、ラジカセが1つ、モニターが4つあった。それらの数字を当て嵌めてパスナンバーを解く。下水道第1区画で鉄のハンドルを入手して第2制御室でそれを使い、発電機の前にある柵を動かして第2区画の電源を復旧させる。跳ね橋を下ろし先へ進み左馬介にクリーニングボールの鎖を切ってもらう。ミシェルと共にクリーニングボールを押していく最中、襲い来る幻魔を左馬介に退治してもらった。ミシェルの仲間の元へ辿り着いたところで、生き残りから小さな鍵をもらい、鍵を使って鉄柵の扉を開け宝箱の中身を左馬介に渡す。部隊の救出に成功したミシェルと左馬介に私はマンホールから下水道の外に出た後、ジャックの家に向かうことにした。

 

同月同日

ジャックの家を訪れた私とミシェルに左馬介は、ジャックの息子のアンリに父親の身に起きたことを説明していた。ミシェルやアンリを戦いに巻き込まないようにと、左馬介と阿児が家を出ようとしたその時、ジャックの携帯電話が鳴る。電話の主はギルデンスタンであり、ノートルダム寺院の地下へ来いと言っているようだった。左馬介はその言葉に従い、寺院へと向かうらしい。向かうのは俺達だけでいいと言った左馬介は、これ以上此方を巻き込みたくない様子だった。今回は着いていかない方が良さそうだ。フランスで銃器を扱っている裏の商店に心当たりがある私はミシェルと連絡先を交換してから、店に向かうことにした。到着した店で銃器を補充して戻ろうとした矢先にミシェルから連絡が入る。ノートルダム寺院の手前でアンリを見失ったとミシェルは言った。ミシェルと合流してノートルダム寺院を探索する。購入したRPG7を発射して幻魔を吹き飛ばしながら進む。寺院の地下には不気味な実験室があり剣を持った幻魔が2体現れた。私のショットガンとミシェルの放つSPS15+Gのグレネードが剣を持った幻魔2体を近寄らせずに倒す。幻魔が出てきた小部屋に、さらった人間をブローニュ動物園で改造するという報告書が残されていた。アンリも連れていかれたのかもしれない。ミシェルの元へ駆けつけた阿児によると左馬介も幻魔に捕まったそうだ。私はミシェルと阿児と共にブローニュ動物園に移動することにした。

 

同月同日

ブローニュ動物園に到着した私とミシェルに阿児。阿児が気をつけてよミシェルにジョン、とこれから起こる戦いへの用心を促す。ブローニュ動物園の東ブロックでさっそく襲いかかってきた幻魔は、動物園の動物達を幻魔に改造したもののようだった。ミシェルは冷静にSPS+Gの引き金を弾き、グレネードを連続で幻魔へと撃ち込んでいく。倒れた幻魔から現れた魂を吸魂のブレスレットで吸い込むミシェルは慣れたものだ。西ブロックでは檻の中と檻の上から現れた幻魔。今度は私がRPG7で容赦なく吹き飛ばしていく。出現した魂をミシェルがブレスレットに吸い込んだ。屋内動物舎を通るとガラスを突き破り現れる幻魔。問題なく処理して魂をミシェルがブレスレットで吸う。パンダ舎でレバーを操作してクルーズボートの鍵を入手。東のクルーズボート乗り場でクルーズボートの鍵をクルーズボートに差し込んで、西のクルーズボート乗り場まで移動する。クルーズボートに乗っている最中に襲い来る幻魔を倒して進み、到着した研究棟ホールの地下へ続く階段の前には巨大な植物の様な幻魔が立ち塞がっていた。ミシェルのSPS+Gと私のRPG7で幻魔植物を倒し、進んだ地下の檻で檻から出てきた2体の幻魔を倒す。地下檻に捕らわれていた左馬介とアンリを助け出したかと思えば、突如として現れたギルデンスタンがアンリとミシェルを連れ去ってしまう。床に落ちていた吸魂のブレスレットを拾い上げた左馬介。今度は左馬介と行動を共にすることになる。地下檻から研究棟ホールに向かう道中で宝箱を開けて中身を左馬介に渡し、研究棟前から阿児に宝箱を開けてもらう。西のクルーズボート乗り場に向かい、クルーズボートで移動する。東ブロックを抜けて西ブロックに進み、屋内動物舎で左馬介の持つ空牙刀で封印を解く。倉庫で研究棟の鍵を入手して西ブロックを抜け、東のクルーズボート乗り場に向かう。到着した研究棟ホールで研究棟の鍵を使い、扉を開けて研究室に入る。からくりの宝箱を開けて、中身の石を左馬介に渡し、到着した手術室ではミシェルとアンリの改造手術が始まろうとしていた。ギルデンスタンにRPG7を叩き込んで手術を強制的に中止させ、左馬介と共にギルデンスタンと戦う。ギルデンスタンを倒すと、ギルデンスタンは時のねじれ装置は既に完成したと言い残す。手術室に飾られた絵に描かれているのはモン・サン・ミッシェルだった。時のねじれ装置は、そこにあるかもしれない。

 

同月同日

ギルデンスタンとの戦闘で派手に使いきってしまった銃器の補充に向かう私を置いて左馬介達はモン・サン・ミッシェルに向かうらしい。後で合流しようと伝えて銃器の補充に向かった先の商店で、もう使いきったのかと驚かれながら再び銃器を購入して、モン・サン・ミッシェルに向かうと、左馬介が双頭の巨大な怪物と戦っている真っ最中だったので援護をする。RPG7で横っ面に一撃喰らわせてやり、対物ライフルで狙い撃ちにしてやると確かにダメージを与えているようだった。左馬介が空牙刀で双頭の怪物にトドメを刺すとミシェルが車で駆けつける。ミシェルの運転する車に左馬介を乗せて、私は後部座席に乗り込んだ。爆炎に包まれるモン・サン・ミッシェル。間一髪のところで脱出に成功した私達だったが、時のねじれ装置の破壊には成功したのだろうか。それに関して聞いてみると一足遅かったらしい。時のねじれ装置は森蘭丸がエッフェル塔にまで持って行ってしまったとのことだ。森蘭丸と言えば織田信長に仕えた家臣の名の筈だが、どうやら時のねじれに巻き込まれて蘭丸も2004年に来ていたようだな。これから左馬介達はエッフェル塔に向かうみたいだが、ミシェルとアンリはエッフェル塔の中にまでは同行しないそうだ。私はどうするかと聞かれたがアンリとミシェルだけにしておくのも不安なので、護衛としてミシェルとアンリを守るとする。そろそろ左馬介も元の時代に帰る時が来る頃だろう。達者でな左馬介と声をかけておく。パリに出現した全ての幻魔は後少しだ。森蘭丸を倒せば、左馬介は過去に帰ることになる。短い付き合いだが、彼のことは忘れない。

 

同月同日

エッフェル塔に到着した私達は、左馬介と阿児を見送り。その場で待つことにした。それなりに時間が過ぎ去った頃、エッフェル塔の屋上で轟音を上げて動き出す時のねじれ装置を発見。近場で起きた時のねじれから現れた2人の男。それはジャックとフィリップだった。過去から帰ってきた2人に声をかけるミシェル。ジャックに抱きつくアンリ。フィリップはそれを見て、俺も家族の元に早く帰りたいと呟いた。ミシェルとアンリと手を繋いだジャックがエッフェル塔から立ち去ろうとした瞬間。現れた幻魔がアンリへと襲いかかろうとしたので、対物ライフルで頭部を撃ち抜いてやり、怯ませたところでRPG7を叩き込んでやった。人間を原型にしたような幻魔であったが、もしかしたらあれが森蘭丸だったのかもしれない。ジャックの腕に着いている籠手が光輝くと消えていく。鬼の籠手と呼ばれるものだったらしいが、必要がなくなったから消えたようだった。左馬介の活躍によりパリの幻魔は、完全に居なくなったみたいだ。ジャックは過去で織田信長と戦ったそうだが、幻魔の王となっていた織田信長は並みの相手ではなかったとのこと。織田信長にトドメは刺せなかったがもう1人の左馬介が必ず倒す筈だとジャックは言い切った。私も左馬介は織田信長を必ず倒すと信じている。そんな中でフィリップが疲れたからそろそろ帰ろうと言い出したので、それぞれ帰ることになった。ジャックはアンリとミシェルと一緒に帰るようだ。フィリップは急いで家族の元に帰るらしい。私はパリのホテルは無理そうなので他のホテルを探すことにした。今日泊まれるところがあればいいが、どうだろうな。と考えているとフィリップが泊まるところが無いなら俺の家に来ないか、と言ってくる。あんたに治療してもらったから、俺はまだ生きてるんだ、その恩を返させてくれと言ったフィリップ。こんな時間にホテルを探しにいくよりかは現実的な申し出に、迷惑でなければお願いしたいと言うと着いてきてくれと言うフィリップに着いていく。到着したフィリップの家でフィリップの妻と娘さんに、俺の命の恩人だと私を紹介するフィリップ。何があったのと聞くフィリップの妻と娘に話せば長くなると言うフィリップに、夜遅くだからもう少し静かにと注意する私。とりあえず空いている部屋を貸してもらえることになったので、今日はもう寝ることにする。大変な1日だったが、たまにはこんな日もあるか。

 

 月 日

朝から妻と娘に嘘つき呼ばわりされるフィリップ。何も知らない家族に戦国時代の日本にいたと正直に言っても信用してはもらえないだろう。パリに現れた怪物達と戦っていたということは信じてもらえたようだが、過去の日本にタイムスリップしていたことに関しては駄目らしい。フィリップは嘘など言っていないんだが、流石に信用できないみたいだ。とりあえずフィリップには、考えも無しに不用意に話すからそうなるとだけ言っておく。フィリップの家族には、フィリップは嘘は言っていないが信用できない理由も解る、とりあえずフィリップが無事に帰って来られたことを喜んであげてくれと言っておいた。そんなやりとりの最中、朝食を私の分まで用意してくれていたフィリップの妻に感謝して、朝食を食べることにする。食べ終えて席を立ち、朝食をありがとうございますと言ってから、お邪魔しましたと帰ろうとするとフィリップがもっと泊まっていけばいいと言い出した。流石に迷惑だろうと断り、外に出た私を追いかけてきたフィリップが、あの時助けてくれてありがとう、と一言言ってから帰っていく。助けられた命もあれば、助けられなかった命もある。今回は助けられなかった命の方が多い。幻魔の被害はもう無い筈だが、油断は出来ないな。戦わなければ守れない命があるのは確かなことだ。更に鍛えることにしよう。




ネタバレ注意
鬼武者3の登場人物
明智左馬介秀満
鬼武者3の主人公の1人
かつては武勇の誉れ高き若武者として諸国にその名をとどろかせていたが、23年前、幻魔と手を組んだ織田信長が侵攻する美濃・稲葉山城に乗り込んだことで、鬼の籠手の使い手・鬼武者としての宿命を背負うことになる
本能寺で織田信長と戦う直前時のねじれに呑み込まれて2004年のパリにまで飛ばされてしまう
そして現代のパリにまで伸びていた幻魔の魔の手を知り、パリを舞台に幻魔との戦いを左馬介は始める

ジャック・ブラン
鬼武者3の主人公の1人
フランス対外安全保障総管理局29SAに所属する強靭な肉体と鋼の意志を備えたエリート中のエリート隊員
パリを襲った幻魔と交戦し、窮地を左馬介に救われた後、時のねじれにフィリップと共に呑み込まれた
そして戦国時代で鬼の精霊に鬼の籠手を授かり、もう1人の鬼武者として戦うことになる

阿児
左馬介やジャックの手助けをさせるべく、鬼の精霊につかわされたカラス天狗の少女
異国の者同士に媒介となって相手の言葉を理解させる一種のテレパシー能力や、戦国時代と2004年を行き来する時空跳躍、更には遺品の残留思念から故人の魂を呼び起こすなど、万能とも言うべき様々な神通力を操るが、通常は30センチしかない阿児自身には直接幻魔に対抗する術はない

ミシェル・オベール
女性ながらフランス陸軍中尉の階級にあり、幻魔兵団の強襲を受けたパリ市街に部隊指揮官として果敢に出動する
戦国時代から飛ばされてきたばかりの左馬介に不審の念を抱くも、高潔で義に厚い彼の人格に触れて直ぐに信を置くようになる
ジャックの婚約者であるが、ジャックの息子のアンリとはまだ打ち解けていない様子である

アンリ・ブラン
ジャックの愛息
言動にまだ幼さを残す少年だが、コンピュータの扱いに関しては大人顔負けで、暗号解析などの数学的素養には抜きん出たものを持っている

フィリップ
ジャックの同僚
第29SAの部隊長を務めており、幻魔との交戦中に深手を負ったところを駆けつけたジャックに救われるも、その直後、ともに時のねじれ現象に巻き込まれることとなる
愛する妻と娘に看取られながらの死を願っていたが、その最期を迎えた地がはるか彼方の異国・日本、それも戦国時代であったことは皮肉としか言いようがない


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メタルギアソリッド4編

本編59話と60話の間の主人公です


 月 日

同居するアレクシアとエヴリンを拠点に残したまま知人に呼び出されて向かった知人の豪邸の客間で、使用人が用意した上質な紅茶を飲みながら知人を待っていると、アタッシュケースを幾つも抱えた使用人達を引き連れた知人が現れた。呼び出した用件は何かと知人に聞くと殺してほしい男がいると言い出した知人。その男の名はヴァンプと言うらしい。聞き覚えがある名前だ。確かルーマニア出身のナイフ使いで、かつて海軍特殊部隊SEALS内の対テロ訓練部隊デッドセルに所属していたが、ソリダス・スネークらとともにビッグシェル占拠事件を引き起こした男だった筈で、最期はニューヨーク湾に沈んだと言われていたが情報通な知人が殺してほしいと言うからにはヴァンプは生きていたようだな。知人はヴァンプに深い恨みを持っているようで珍しく激しい感情を剥き出しにしている知人が言うには、2年前に大切な部下達をヴァンプに皆殺しにされたことが今回の殺害依頼を私に望む理由らしい。脳天を銃で撃ち抜かれても死なないこととヴァンプの出身地がルーマニアであることに加えて、ナイフで切りつけた他者の血液を舐める癖がヴァンプにあることからヴァンプは不死身の吸血鬼なのではないかとも言われているそうだが、ヴァンプの不死身には何かしらの理由がある筈だと私は推測する。ヴァンプの血液や細胞を採取出来れば詳細を知ることが可能となるだろう。そうなればヴァンプの不死身の理由を解き明かすことが出来る。ならば殺すことも不可能ではない。

 

私が思案していると知人が机の上に使用人達が持っているアタッシュケースから札束を取り出して載せていく。段々と積み上がっていく札束の山が客間の高い天井に近付いていった。脚立まで使用人に用意させて札束を積み上げていく知人。遂に積み上がった札束の山が天井にまで到達する。ヴァンプを殺してくれるならこの札束は全て君の物だぞ、ジョンと言った知人にここまでやる必要はあったのかと問いかけると一度やってみたかったと返事が帰ってくる。人1人殺すにしては随分と高額な金額を提示されたものだが、それだけヴァンプが殺したい相手であるということなのだろう。今ヴァンプは大手5社のPMCを裏で束ねるマザーカンパニー「アウターヘブン」の統括者であるリキッド・オセロットの元で部下として動いているらしい。永く潜伏していたリキッド・オセロットが中東の戦地に姿を現したことから、ヴァンプもそこにいる可能性が高いそうだ。ヴァンプの殺害を引き受けることにした私は、報酬の現金はヴァンプの殺害に成功したら受け取ることにすると言って机の上に積み上げられた札束の山を指差した。成功が確認されたら直ぐにでも報酬は支払わせてもらうと言った知人の豪邸を後にして、拠点に帰った私は同居中のアレクシアとエヴリンに暫く仕事に行ってくるので好きに過ごしていてくれと言って必要になりそうな物を持ち出して拠点から出ていく。さて、とりあえず中東に向かうとしよう。

 

 月 日

中東の少数派民族による反政府軍と現政府軍との間で、内戦状態になっている地域。そこでは現政府軍の中核にリキッド傘下のPMCが参加しており、民兵側の反政府軍もPMCが加わっているようだった。PMC対PMCという典型的な戦争経済の犠牲となっている現地の中東。民間軍事請負企業ことPMC。世界にはびこるその民間企業と戦争経済。米国の喉元で起きたビッグ・シェル占拠事件によって世論の反発が高まり、米国が他国への軍事介入をしづらくなった状況を利用して急成長を遂げたPMC。それは特定の国家や思想に左右されず、紛争地帯に対して傭兵の派遣や武器調達、現地の民兵の訓練などを行なうことで利益を上げてきた。PMC兵は旧来の傭兵と異なり、アームズ・テック・セキュリティ社が開発した戦場管理システムにより、体調管理から部隊内の意思疎通、戦況全体を見通すマクロな視点を一元化できる新世代の兵士と言えよう。これによりPMCの戦場での民間人に対する虐殺や略奪は、大幅に軽減されたようだ。防弾防刃耐爆服の上に現地の服を重ね着して民兵に紛れてPMCと戦いながら先へと進んでいると途中である男に呼び止められる。ドレビンと名乗った男はあんたは現地の人間じゃないな、俺もそうだがと言って白いハンカチを取り出したかと思えばハンカチから手品で手榴弾を取り出して見せてくる。

 

自分の仕事は武器洗浄屋だと言ってきたドレビンにPMCから奪い取ったがロックされて使えなかった銃を見せると話が早いと笑うドレビン。武器洗浄屋とは登録されたIDを持つ兵士以外は使用出来ない銃を洗浄し、再販売するのを生業としている者のことだ。拡大する戦争経済の中では、そんな闇商人ですらシステムの一部となっている。誰にでも使えるようになったPMCの持っていた銃。手持ちの銃の残弾を気にしなくても良くなったのは良いことだ。ドレビンの狙いが何であれ今は協力者として受け入れておこう。新たな銃を使いながら進んだ先、PMCのキャンプ間近の街では民兵達の快進撃が続いていた。民兵達は戦車や装甲ドーザーまでも駆使して街のバリケードを破ることにも成功している。歓喜の声に包まれた民兵達だったがキャンプ内部への突入自体は未遂に終わることになった。何故なら突如、正体不明の4人の強化兵達が何処からともなく姿を現し、民兵達を襲い始めたからだ。狼のような四肢を持ち、装甲ドーザーを横転させる力を持つ者。鴉のような黒い翼を使って空を舞い、上空から民兵を襲う者。周囲の状況に擬態した上で、蛸のような触手によって民兵をいたぶる者。蟷螂を思わせる多肢で、民兵を操り人形のように弄ぶ者。まるで獣のような姿と戦いぶりに、民兵の中からは「ビースト!」という叫び声まで上がった。そして彼等は4人でありながら圧倒的な戦力で反政府軍を一瞬にして壊滅に追い込んだ。

 

物陰から一部始終を見ていた私は厄介な連中が敵にいることに溜め息をはく。私と同様に物陰から一部始終を見ていたもう1人の男は結構な年齢を積み重ねているように見えるがマッスルスーツも兼ねているスニーキングスーツを身に纏っていることからまだまだ現役と言えるだろう。ソリッド・スネークが年齢を重ねたらこんなご老人になるのではないだろうかといった容姿だが、まさか本人ではないだろうな。伝説の兵士ビッグボスのクローンとして生み出されたソリッド・スネークはまともな生まれではないが、だからこそ40代で急激な老化が始まったのかもしれない。だとするならば、ご本人の可能性が高いな間違いなく。恐らくソリッド・スネークは世界経済にも大きな影響を与える人物であるリキッド・オセロットの暗殺を非公式に依頼されたのだろう。公式に国連が処理するには影響力が強すぎるリキッド・オセロットに消えてもらいたい奴はいくらでもいるが、ソリッド・スネークはロイ・キャンベルから依頼を受けたのだと推測出来る。私はヴァンプを殺せればそれでいい。だが、スネークは自身の痕跡や国連が関与した証拠も残さずに行動しなくてはならない筈だ。目撃者は消さなければいけないと考えているならスネークとは戦いになるが、それは杞憂であった。スネークは此方に目もくれずに先へと進んでいく。現地の服を着ていたので、少し怪しい程度の私は見逃されたようだ。

 

とりあえず私もPMCのキャンプ内に潜入してはみたが、ヴァンプの姿が見えない。リキッド・オセロットは発見できたが、ヴァンプの姿が何処にも見当たらないのはどういうことだろうか。私がヴァンプを探している最中、リキッドに銃口を向けるスネーク、しかしリキッドが無線機で一言合図を送ると、周囲のPMC兵が一斉にもがき苦しみ始めた。手にしていた銃を落とし、地面に倒れ、やがて何かに取り憑かれたように力なく立ち上がり、素手で殴り合いを始める兵士達。その異変はスネークにも現れているらしく、苦しみながらも必死に正気を保ち、リキッドに銃口を向けるスネークだったが意識も朦朧としているようで狙いが定まっていない。スネークとリキッドの視線がかち合い、リキッドはスネークに俺は自らの原点を超えると語りかける。膝をついたスネークの前に現れた1人の女性、名前は確かナオミ・ハンター。ナオミはスネークの前でなんらかの注射を首に突き刺した後、リキッドに連れられて脱出用のヘリに乗っていく。ヴァンプがヘリに乗っているということもないようだ。どうやらヴァンプは別行動をしているらしい。今回は無駄足になってしまったようだがリキッドを追っていれば配下のヴァンプもいずれ姿を現す筈だ。次のリキッドの行き先を探るとしよう。それはそれとしてスネークは一応助けておくとするか。この状況下で正常な状態を保っているのは私ともう1人だけのようだからな。

 

体内にナノマシンを注入された兵士を管理し、必要とあれば銃器などの武器類をロックできるサンズ・オブ・ザ・パトリオット。略してSOPシステム。そのシステムにリキッドが侵入した結果が体内にナノマシンを注入された兵士達の異常に繋がっていると見て間違いはなさそうだ。体内にナノマシンを注入してはいない私ともう1人の兵士だけが正常な状態を保っていたことが、その結果を裏付けている。ジョニーと名乗った兵士に君は何故ナノマシンを体内に注入していないのかと聞くと「注射が苦手なんだ!」と答えが返ってきた。まさかそんな理由だったとは思いもよらなかったが、今の状況下ではまともに動けるのは私以外には彼だけとなる。スネークをジョニーと一緒に救出しながら軽い世間話をしていると、スネークが意識を取り戻した。スネークに軽い自己紹介をして意識がしっかりしているかを確認してみる。特に問題はないようでスネークが此処は何処だと話しかけてきたので、PMCのキャンプからは離れた場所だと答えた。スネークの迎えが来るまでその場で待機することになり、レーションで食事をすることになる。今のレーションはこんな物になっているのかと思いながら食事を続けた。ジョニーが自慢気にデザートだ!と取り出したカロリーメイトを全員で分けながら食べていく。スネークはカロリーメイトを気に入ったらしい。

 

 月 日

連絡先を交換していたドレビンから情報が届く。南米でヴァンプの目撃情報があったようだ。ドレビンは何らかの目的があって南米に向かうらしい。私もドレビンに同行しよう。

 

 月 日

ドレビンと合流して装甲車両に乗り込み、ドレビンのつてを頼りに装甲車両ごと南米に移動する。車両内に存在するNARCのみが陳列されている自動販売機からNARCを3本取り出して1本差し出してくるドレビンに感謝の言葉を伝えて開封した炭酸飲料NARCを飲むことにした。車両内にいる猿にもう1本を手渡して残った1本を片手に話しかけてきたドレビン。元アンブレラの幹部社員で今では裏で有名なあんたがヴァンプを追って動いているとはな、依頼でもされたのかと言って手に持つNARCを開封するドレビン。まあそんなところだと答える私に、1口NARCを飲んでから依頼達成率ほぼ100%のあんたに狙われたんじゃ不死身のヴァンプも遂に永久の眠りにつくことになりそうだなとドレビンは笑う。まずはヴァンプを発見してからの話になるがなと言ってNARCを飲み干した私に、もう1本飲むか?いくらでもあるぞ、と自動販売機を指差すドレビンに、いや1本で充分だと私は断った。それからは中東で見かけた4人の異形の強化兵達、ビューティ&ビースト、略してBBと呼ばれている部隊についてドレビンが知っていることを話す。強化服の下に隠れた絶世の美女達は各PMCと専属契約を結んだ兵士だとドレビンは言い、そして彼女達自身も無惨な戦争被害者の一員であり、スネークを抹殺すれば戦争で深い傷を負った精神を浄化できると信じ込まされているらしい。しばらく続いた会話も終わり、南米に到着した装甲車両。スネークと遭遇することになりドレビンはスネークと会話していた。その後、再び遭遇したスネークとナオミを乗せて装甲車両で脱出する際に月光からの襲撃を受けて装甲車両が横転してしまう。横転した装甲車両から出たスネークとナオミがヘリまで逃げ切れるように特殊な合金で作製された槍を振るい月光達の脚を切り落として動けなくしていく。ドレビンは装甲車両をオクトカムで周囲の風景に擬態させているから問題はない。大量の月光と戦っていた強化骨格を身に纏ったサイボーグは味方のようなので一応様子を見に行くとしよう。

 

見に行った先で月光達から伸びるワイヤーで手足を拘束されて動けない状態になっているサイボーグを発見。そんなサイボーグにくるりくるりと踊るように回りながら近付くヴァンプ。とりあえずサイボーグがピンチなので瞬時に近付き、拘束しているワイヤーを槍の穂先で全て切り落としてやり、サイボーグを自由にしてやる。自由になったサイボーグに名前を聞くと雷電と答えた。ソリダス・スネークを倒した男の名前と一致するが同一人物であるかは後回しでいい。高周波を宿した刀を構える雷電にここは私に任せて行けと言っておいた。着ていた上着を脱ぎ捨てたヴァンプがナイフを片手に襲いかかってきたので槍で迎え撃つ。君はスネークの元に行け雷電と言いながら槍を回して投擲されたナイフ達を弾く。大振りのナイフと槍をぶつけあい、ヴァンプを弾き飛ばす。身体能力は此方が上だが再生能力は彼方が上だ。槍で切りつけたヴァンプの傷が瞬く間に塞がる。何度痛め付けようと立ち上がるヴァンプ。少し試してみたいことがあったのでヴァンプの足を槍で払い地面に転がしてから、ヴァンプの腹部に槍を深々と突き立てて貫通させて地面に縫い止める。それからヴァンプの胸に足を乗せて踏みつけてナイフを振るおうとする腕を掴み、抵抗ができないような状態にして左腕義手を変形させて指先から飛び出した太い注射針をヴァンプに突き刺す。モーターが稼働してヴァンプの血液を吸い上げていき、タンクに血液が貯まっていく。必要な量は入手できたのでヴァンプから槍を抜き取り解放してやる。立ち上がったヴァンプはお前は何者だと聞いてきた。君が知る必要はないと答えてナイフを振るうヴァンプを蹴り飛ばす。真正面から自身の不死身をあてにして向かってくるヴァンプの足を石突きで打ち、足を止めさせてから右腕で振るった槍で袈裟斬りにする。血飛沫が舞う最中にも動きだしたヴァンプの腹部を槍で貫いてそのまま振り回し、遥か彼方に投げ飛ばす。今はヴァンプを殺す手段は無いが血液は充分に手に入れたので、不死身の秘密はこれから解明するとしよう。ヴァンプが帰ってくる前に退避しておく。雷電もスネーク達もヘリで逃げていったようだからな。帰る前にドレビンの横転した装甲車両を元に戻しておいてやるか。

 

 月 日

ヴァンプの血液を調べた結果として解ったことは、ヴァンプの不死身の正体は体内に存在するナノマシンによるものだということだ。このナノマシンを抑制することが出来れば、ヴァンプは不死身ではなくなるだろう。ナノマシンを抑制する強力な抑制剤は作成した。後はこれをヴァンプに注入するだけだ。戦いの最中ヴァンプに仕掛けた発信器の行方はシャドー・モセス島となっている。装備を整えて向かうことにしよう。用意した装備を持ち、到着したシャドー・モセス島。月光を破壊しながら進んだ先でソリッド・スネークを発見。スネークに同行することになり、道中でBB部隊の1人であるクライング・ウルフとヘイブン・トルーパーに囲まれた状態で戦うことになった。クライング・ウルフを打ち倒しレールガンを入手したスネーク。先へと進んだ私達の前にヴァンプとナオミが現れた。そして基地に自爆型月光部隊が向かっていると告げられる。スネークにヴァンプの相手は任せてくれと言って、ヴァンプと対峙した。ヴァンプは笑みを浮かべてお前なら俺を殺してくれるかもな、と言って襲いかかってくる。私は背負っていた槍を掴むと同時に振るい、投げつけられたナイフ達を弾いていく。一直線に突進して至近距離まで近付こうとしてくるヴァンプへ槍を叩きつけて瓦礫の山に吹き飛ばす。瓦礫の山を蹴り、高く跳躍してナイフで切りつけようとするヴァンプを槍を下から上に切り上げながら跳躍して迎え撃つ。ナイフと槍が火花を散らしてぶつかり合い、力で押し負けたヴァンプが空高く弾き上げられた。その状態からナイフを投げるヴァンプに、槍を振るい落ちてきたナイフを弾き飛ばす。着地したヴァンプが強化された脚力で駆けてくる。ヴァンプが近付いた瞬間に十字に槍を振るい深い傷をつけたところで、ヴァンプの背後に回り込み、ナノマシンを抑制する抑制剤が詰まった注射器をヴァンプの首に突き刺す。強力なナノマシン抑制剤を注入されたヴァンプは苦悶の表情を浮かべていた。それから槍を振るいヴァンプの首を切り裂いて盛大に血を噴出させるとヴァンプは膝をつき、俺は死ねるのか?と聞いてくる。ナノマシンが抑制されて傷口が塞がらず血液を吹き出し続けるヴァンプに更に抑制剤を注射して、ああ、お前は死ぬと言った私に救われたような顔をしたヴァンプはゆっくりと倒れ込んでそのまま動くことはなかった。

 

自爆型月光部隊が迫り来る中でスネークがレールガンで月光を排除していくと到着した雷電が月光を切り裂きながらナオミにサニーからの伝言を伝えていた。倒れたヴァンプのそばで自身に注射をしたナオミは最期にオタコンに言葉を残すと息を引き取る。それから起動したメタルギアREXによる脱出が始まった。何とか脱出はできたものの脱出の援護をしていた雷電が爆発に巻き込まれてしまう。瓦礫の山に片腕が挟まった雷電を救出しようと試みる私の背後では、海から襲撃してきたメタルギアRAYとスネークが操るメタルギアREXの戦いが始まっていた。戦いはメタルギアREXが勝利したが、メタルギアRAYを操っていたリキッド・オセロットを追うスネークは体力をかなり消耗していてリキッド・オセロットには追い付けていない。雷電をようやく大量の瓦礫の下から救出したところでスネークが巨大な戦艦であるアウター・ヘイブンに潰されそうになっていた。素早く移動した雷電がヘイブンとスネークの間に挟まってヘイブンを押し留めている内に私がスネークを抱えて避難させることに成功。それを見た雷電も無理をすることなくヘイブンから離れた。アウター・ヘイブンは現れたミズーリという戦艦から砲撃を受けて洋上に去っていく。危機が過ぎ去ったところで抱えていたスネークがそろそろ降ろしてくれと言ってきたのでその場で降ろす。無理をしていた雷電に無事かと聞くとなんとかなと答えが返ってくる。男3人でしばらく休んでいるとミズーリから現れたミズーリの艦長。久しぶり、スネークと話しかけられたスネークはメイリンか、おかげで助かったと言っていた。スネークの知り合いのようなので敵ではないようだ。ミズーリに乗り込んでアウター・ヘイブンを追うことになり、正直に言えばヴァンプを殺すという目的を達成した私は付き合う必要はないんだろうが、これもまあ乗り掛かった船だ、最後まで付き合うとしよう。

 

 月 日

アウター・ヘイブンが浮上して上部装甲カバーが開いた瞬間、ミズーリの射出用カタパルトから発射された私はアウター・ヘイブンに降り立った。スネークが問題なく先に進めるように派手にヘイブン・トルーパーを引き付けることにした私は、ライトニング・ホークを発砲してヘイブン・トルーパーを排除していく。粗方現れたヘイブン・トルーパーを排除した私は先に進むことにして内部に侵入する。進んだ先で俺は雷、雨の化身と言いながら現れた雷電が疲弊したスネークを襲おうとしたヘイブン・トルーパー達を切り裂いていく。ここから先は俺が行くと言った雷電に、スネークはその申し出を断って先に進んだ。残された雷電と背中合わせになりながら周囲をヘイブン・トルーパーに囲われた私は、私達はここでこいつらの足止めだなと言って槍を構えた。それからは絶え間なく襲い来るヘイブン・トルーパーを打ち倒し続ける時間となる。ひたすら戦いを続けた雷電と私はヘイブン・トルーパーが構える刃を弾き飛ばして切り裂いていく。無尽蔵とも言えるようなヘイブン・トルーパーが更に追加されていき、戦いが更に激化した。再び背中合わせになった雷電が疲れたか?と聞いてきたのでいいや、全然だな、ようやく身体が暖まってきたところだと答えると頼もしいなと笑う雷電。今度は私が疲れたのか?と聞くと、いいや、全然だ、まだまだいけると答える雷電に今度は私が笑った。さて、続けるかと言って槍を構えた私の背後で、ああ、続けようと言いながら刀を構える雷電。互いに床を蹴ってヘイブン・トルーパー達に接近した私達は、得物を振るい仕留めていく。しばらく時間が経過した後に、ヘイブン・トルーパー達が突如として苦しみ始めた。スネークが目的を達成したらしい。雷電と私は顔を見合わせて頷く。戦いが終わり無力化されたヘイブン・トルーパー達が連れられていった。雷電と会話していた私は、会いたい人がいるなら生きている内に会った方がいいと助言をする。それを聞いた雷電は会って話を聞くとするよと言って去っていく。こうして長く続いた戦いは終わった。

 

 月 日

ヴァンプを殺害した多額の報酬を受け取り、歩いていた私に連絡先を交換していたジョニーから連絡が入る。結婚式に招待したいとのことだ。私が行ってもいいのかと聞くと一緒に戦った戦友には祝ってもらいたいと言ったジョニー。いつの間にか戦友になっていたらしい。まあ、結婚を祝うぐらいはいいだろう。特に断る理由もないので了承した私は呼び出された場所に服を着替えて向かう。到着した場所で行われたジョニーとメリルの結婚式。盛大な盛り上がりを見せる結婚式に駆けつけたドレビンと酒を酌み交わしながら幸せそうなジョニーとメリルを見た。そんな2人を見ていると、結婚か、それも悪くないかもなと思える。私が結婚の相手を思い浮かべると1人しか思い浮かばないが、まあ断られることはないだろう。とはいえ、結婚となるとやることが盛り沢山だな。結婚前に済ませておくことは済ませておくとしよう。まずは邪魔な連中の排除からだな。油断せずに終わらせよう。なかなか忙しくなりそうだ。結婚指輪を用意するのはその後だな。さて、頑張っていこうか。

 




メタルギアソリッド4の登場人物

オールド・スネーク(ソリッド・スネーク)
メタルギアソリッド4の主人公
核搭載二足歩行戦車メタルギアの脅威を数度にわたり阻止してきた、潜入任務のエキスパート
BIGBOSSの体組織から作られたクローン
米特殊部隊FOXHOUNDを引退後、アラスカでの隠遁生活を経て、反メタルギアNGOフィランソロピーを設立
ビッグシェル占拠事件以降は姿を消していたが、キャンベルの依頼によりリキッド・オセロット暗殺を請け負う
40代にして急速な老化が始まっている

オタコン
ロボット工学の権威であり、天才的ハッカー
メタルギアREXの開発に関与したことを悔い、スネークらとフィランソロピーを結成する

サニー
米国を非公的に陰から支配する組織愛国者達に囚われていた少女
雷電の活躍によって救出され、スネーク達に保護される

ナオミ・ハンター
ナノテクノロジーを利用した遺伝子治療を得意とする遺伝子学者

ロイ・キャンベル
元FOXHOUND指揮官
リキッドがかつて語った戦場の無限の拡大を阻止するため、スネークにリキッド暗殺を依頼

雷電
全身を強化骨格に包んだサイボーグ戦士
愛国者達によるS3計画の実験台として、2009年のビッグ・シェル占拠事件で被験体として利用され、スネークやヴァンプ、オルガ・ゴルルコビッチと出逢う
事件を裏で操っていた愛国者達の存在を知り、人質となっていたオルガの娘、サニーの救出に向かうが、その後行方をくらます

ドレビン
世界を股に掛けて活躍する闇の武器商人
武器や弾薬の販売だけではなく、本来は個人ID認証なしでは使用できないID銃のロック解除も請け負う唯一の業者

メリル・シルバーバーグ
シャドー・モセス事件でスネークに憧れ、共に戦った女性兵士
現在は米陸軍CIDのPMC内部監査機関に所属する特殊部隊ラットパトロール・チーム01の隊長となっている

ジョニー(アキバ)
メリル率いる特殊部隊ラットパトロール・チーム01所属
ミスが多くチームの足を引っ張ることも多いが、一応データ処理とトラップ設置のスペシャリスト

メイリン
中国系アメリカ人の科学者

ヴァンプ
ルーマニア出身のナイフ使い
不死身と言われる程の再生能力を持つが、それは体内のナノマシンによるものである

リキッド・オセロット
大手5社のPMCを裏で束ねるマザーカンパニーアウターヘブンの統括者


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ペルソナ5編

ペルソナ5編に登場するのは、とある製薬会社に務めていた研究員のヤケクソ日記本編40話以降の主人公です

ちなみに雨宮蓮くんは周回済みの雨宮蓮くんです


 月 日

表向きの仕事としてハーブの販売をしている私に、質の良いハーブを大量に提供してほしいと日本の女医から連絡があった。連絡を受けて直ぐに一揃いのハーブを用意して日本に向かう飛行機に乗り込む。この仕事を部下に任せることなく私が直接日本に行くことにした理由は、久しぶりに日本にいる知人の顔を見ておきたいと思ったからだ。

 

日本の四軒茶屋にある診療所にハーブを届けてから、同じく四軒茶屋で純喫茶ルブランという喫茶店を開いていると言っていた惣治郎に会いに行くとしよう。顔は惣治郎が私だと判断できる程度に特殊メイクで変えておくか。始祖ウイルスの適合者である私は老けることがないからな、若いままの顔では異常だと思われてしまうかもしれない。

 

 月 日

飛行機で日本に到着してから大量のハーブが詰まったケースを両手に1つずつ持ち、遅延することなく時間通りに到着する電車に乗って移動する。辿り着いた四軒茶屋で診療所に向かい、診療所内にいる女医らしき人物にハーブを持ってきたことを伝えると、こんなに速くと驚いていた。連絡を受けて2日も経っていないのに現物が届いたのだから驚くのも当然か。

 

武見妙と名乗った女医に私はジョンだと名前を教えてから持ってきた質の良いハーブについて説明していく。グリーンハーブ、レッドハーブ、ブルーハーブの基本的な3種類を2つの大きなケースに詰めて大量に持ってきていた私は、それぞれのハーブが持っている特徴やハーブに手を加えた時に変わっていく薬効を詳細に武見妙へと語っていった。

 

たとえばグリーンハーブであるなら調合する数を増やせば回復量が増大していき3つ調合すれば全回復するものができて、グリーンハーブをメディカルセットと組み合わせて加工すれば解毒剤も作り出せると解毒剤の現物も提供してグリーンハーブについて様々なことを武見妙に話す。興味を示した武見妙もハーブに関して色々なことを聞いてきた。

 

特にグリーンハーブとブルーハーブを調合したものとメディカルセットを組み合わせるだけでと抗ウイルス剤が作製できると聞いた武見妙は、ハーブでそんなものができるのかと驚いていたな。まあ、私もそれを初めて知った時は物凄く驚いたがね。今までの自分のウイルス研究が何だったんだろうかと思う程度には驚愕したことは覚えている。

 

正直に言えば嫌な思い出であるが仕事に私情を挟むことはなく丁寧にハーブから作り出される抗ウイルス剤について説明しておく。私の説明を聞いて更なる使い道を思いついた様子の武見妙は私からハーブを買い取った。日本円で渡された金額はそれなりになるが、私が持ってきたハーブがかなり質の良いハーブであると武見妙にもわかっていたようだ。

 

商品であるハーブを全て売ることができて移動しようとする私に何故か治験をやっていかないかと聞いてきた武見妙。どんな治験であるか聞いてみたが特に異常が出ることがない私にはあまり向いていない治験だったので断りをいれて診療所を出ていく。基本的に異物を受け入れないこの身体では治験で正確な結果を出すことはできないだろうな。

 

四軒茶屋にある純喫茶ルブランの店内に入るとコーヒーを用意していた惣治郎が目を見開いて驚きながら、まさかジョンかと聞いてきたので、久しぶりだな惣治郎と話しかけてみた。客にコーヒーを提供してから私の前にきた惣治郎は何年ぶりだジョンと言って嬉しそうな顔で笑っていたな。会話をしていく私と惣治郎に話しかけてきた青年が1人。

 

雨宮蓮と名乗った青年は惣治郎と仲が良いらしい。3人で会話をしていると純喫茶ルブランの店内から客が立ち去っていき、惣治郎と私に雨宮蓮くんだけが店内に残される。惣治郎にコーヒーを1つ頼むことにしてしばらく待つとルブランコーヒーを惣治郎は用意してくれた。泥水のようなコーヒーとは比べ物にならない素晴らしい味だったことを日記には書いておくとしよう。

 

雨宮蓮くんがかなり積極的にコミュニケーションを取ろうとしてくるのは戸惑ったが、最近の若者というのは、皆このように積極的なのだろうか。そんな疑問を抱きながらも惣治郎を交えて雨宮蓮くんと色々な会話をしていくと、私の身体がかなり鍛えられていることに雨宮蓮くんは気付いたようで何故か身体を鍛えることに話題が移っていく。

 

雨の日だけに購入できる湿ったプロテインを使うと筋トレの効果が上がると力説する雨宮蓮くんには悪いが、何らかの理由で湿っているプロテインが品質的に問題はないのかが非常に気になるところだな。その後も会話は続いて、室内でも可能で効果的な筋肉トレーニングの方法を幾つか雨宮蓮くんには教えたが、彼ならばうまく活用してくれそうだ。

 

私と雨宮蓮くんの会話を聞いていた惣治郎も思うところがあったようで、たまには運動するかと言っていたが無理はしないようにと伝えておく。随分と長居をすることになってしまったがルブランコーヒーの代金を支払って純喫茶ルブランを後にした私は、ホテルを予約して泊まることにした。家族には悪いがしばらく日本に滞在することにしよう。

 

 月 日

夜のセントラル街で鉄パイプや金属バットで武装した複数人のチンピラに絡まれて襲われたが、問題なく全員倒して目的地のバーガーショップにまで向かった。ビッグバンバーガーを購入して遅い夕食を食べている私に話しかけてきた雨宮蓮くんは、チンピラと私の戦いを見ていたようだ。私の身のこなしが、チンピラ達とは格段に違ったと言う雨宮蓮くんは良く見ている。

 

それから自分に戦いの稽古をつけてほしいと言った雨宮蓮くんは強い意志を感じる眼差しで此方を見ていた。雨宮蓮くんには強くなりたい何かしらの理由があるのだろう。若人の成長を助けるのも年長者の役目として引き受けることにした私は、人通りの少ない手頃な場所で戦いの稽古をつけることにして、構えを取った雨宮蓮くんと対峙する。

 

どうやら雨宮蓮くんは完全な素人というわけではないらしい。なかなか素早い動きをする雨宮蓮くんに合わせてスピードを上げていく私は、雨宮蓮くんの限界を見極めることにした。鍛えられた人間が出せる限界ギリギリの速度を出してみると普通に追いついてきた雨宮蓮くんは普通ではないようだ。雨宮蓮くんの体格や筋量では出せない速度が出せるのはおかしい。

 

雨宮蓮くんはウイルス適合者というわけではないようだが、つまりそれ以外の何かで彼は強化されているということになるな。随分と興味深いが流石に惣治郎が預かっている雨宮蓮くんで人体実験をする訳にはいかないだろう。私以外の裏の人間に、雨宮蓮くんの身体能力が知られたら狙われそうな気もするが、それは私が阻止しておくとするか。

 

普通に生活していれば狙われることはないだろうが、雨宮蓮くんは普通とは違うようだから、本人にも気を付けるように言っておくかな。まあ、自分から危険に飛び込んでいくだろう雨宮蓮くんがどこまで気を付けることができるかはわからんがね。とりあえず私が日本に滞在している間は、雨宮蓮くんに戦いの稽古をつけておくとしよう。

 

雨宮蓮くんは素手の動きも悪くはないが、本来は短剣やナイフに短刀などの武器を使っていることもわかったので、次回からは武器を使った戦いをしていこうと考えている。現代の日本では戦うことは殆どない筈だが、雨宮蓮くんは随分と戦うことに慣れていた様子だった。恐らくは私の知らない場所で人間以外の何かと戦う機会があったのだろうな。

 

人間を相手にするには攻撃的過ぎる雨宮蓮くんは、人間と戦ったことは初めてなのかもしれない。私や部下なら問題はないが、普通の人間を相手にするときはちゃんと手加減するようにと伝えておく。雨宮蓮くんならそんなことはないだろうが、人を殺してしまってはまずいではすまないからな。一応手加減も教えておく必要がありそうだ。

 

今日は戦いの稽古で疲れきった雨宮蓮くんを純喫茶ルブランにまで送ることにする。

 

さて、明日から本格的に雨宮蓮くんを鍛えるとしよう。

 

彼はどこまで強くなるだろうか。

 

 月 日

若人の成長とは随分と早いものだと実感できる程度には成長が早い雨宮蓮くんは飲み込みが早く。私が教えたことを直ぐに身に付けていき、日を増すごとにどんどん強くなっている。それでも年長者としては負けていられないので組み手で敗北することなく雨宮蓮くんを倒した。

 

実戦的な組み手を終えてからは刃引きをしてあるナイフを使って、ナイフを使用した戦い方も雨宮蓮くんに教えてみたが、器用にナイフを扱う雨宮蓮くんは我流の粗い動きから洗練された流れるような動きを習得したようである。

 

確実に自分が強くなっていることを雨宮蓮くんも自覚しているのか素直に私に感謝をしてくれたが、まだまだ彼は強くなれる筈だ。日本に滞在できる時間は限られているが滞在期間を少し延長してみるのもいいかもしれない。

 

とりあえずナイフファイトの基本は叩き込んだが、応用編も教えておきたいところだな。

 

こうも教えがいがある相手がいると、つい楽しくなってしまうのが私の悪いところかもしれん。

 

まあ、雨宮蓮くんもやる気があるみたいだから問題はないが。

 

やり過ぎないように気をつけるとしよう。

 

 月 日

やはり物覚えが早いのか僅か数日間という短期間で雨宮蓮くんはナイフファイトの応用編まで習得することができたようで、私が渡した刃引きしたナイフをまるで身体の一部のように扱えるまで成長していた。

 

私の隣でナイフを自由自在に振るっている雨宮蓮くんに必要なのは経験であると判断した私が「そのナイフを使って私と戦ってみようか」と提案すると乗り気になった雨宮蓮くんが構えを取る。

 

ナイフで連続して突きを放つ雨宮蓮くんは本気で私を倒そうとしているらしく、真剣な顔でナイフを扱っていたので私も本物のナイフを相手にした時と同じように行動していく。雨宮蓮くんのナイフによる突きを潜り抜けて距離を詰めていきながら動きを止めることは決してない。

 

刃引きされているとしてもナイフの刃に触れることなく接近した私は雨宮蓮くんを投げ飛ばして追撃の蹴りを放つが、投げられながらアクロバティックに体勢を変えて蹴りを避けた雨宮蓮くんは壁を蹴って反転すると胴廻し回転蹴りを繰り出してきた。

 

蹴り足を掴み壁に叩きつけようとしたところでナイフを投げてきた雨宮蓮くんは、投げられたナイフの柄を私が掴むことを予想しており、片足を掴まれた状態で蹴りを放ち、私が掴んだナイフの柄を蹴りで押し込もうとしてきた雨宮蓮くんは確実に強い。

 

私がただの人間の身体能力のままであればナイフは蹴りで押し込まれて眉間にナイフが当たっていたことは間違いないが、しかし今の私は普通の人間ではなく、並外れた身体能力を持っている始祖ウイルスの適合者だ。

 

腕力で抑え込むことで雨宮蓮くんの蹴りでナイフの柄を押し込まれることがなかった私は、雨宮蓮くんを壁に叩きつけると同時に掴んだナイフを半回転させる。引き寄せた雨宮蓮くんの首筋に逆手に持ったナイフの刃を押し当てて「私の勝ちだね」と勝利を宣言した。

 

負けたことを悔しがっていた雨宮蓮くんに「次は武器を手放さないようにした方がいいんじゃあないかな」とアドバイスをした私は雨宮蓮くんの確かな成長を実感していたので、褒めるところはきちんと褒めるようにする。

 

ナイフを使った実戦的な組み手を終えたところで雨宮蓮くんが、ルブランでコーヒーでも飲みませんかと言ってきた。それも悪くはないかと思った私は雨宮蓮くんと一緒に電車に乗ると四軒茶屋の路地裏にあるルブランにまで移動していく。

 

何か用事があったようで惣治郎は留守にしているようだったが雨宮蓮くんがコーヒーを用意してくれた。味わいとしては極上と言えるルブランコーヒーであり、雨宮蓮くんの腕前が発揮されていたことは間違いない。

 

良いコーヒーが飲めたことを喜んでいた私に、ルブランカレーも作りましょうかと言ってきた雨宮蓮くんは、どうやらルブランカレーも作れるようである。腹は空いていなかったので「それはまた今度にしてくれないか」と私が言うと雨宮蓮くんは少し残念そうにしていたな。

 

ルブランカレーを用意しようとした彼の料理の腕前が気になるところだが、他者に披露しようと思える程度ならば中々の腕前なのではないだろうか。

 

雨宮蓮くんが作るルブランカレーがどんな味か気になるが、それを確かめるのは今日じゃなくても構わないな。

 

また今度にしておこう。

 

 月 日

雨宮蓮くんと組み手をしている最中に、以前私に倒されたチンピラ達が更に仲間を集めたのか大勢で此方に近付いてくる。全員が鉄パイプや金属バットで武装しているチンピラ達が私と雨宮蓮くんに襲いかかってきたが、数が多くても私と雨宮蓮くんがこの程度の相手に負けることはない。

 

雨宮蓮くんは私と組み手を積み重ねることで向上した素手の格闘術で武装したチンピラ達を倒していく。私は私でチンピラ達が持つ鉄パイプや金属バットを容易く折り畳んでやって怯ませてから容赦なく拳を叩き込んだ。

 

此方を見て、化けもんだと言って逃げ去っていくチンピラ達の一部は戦意を完全に喪失しており、倒された残りのチンピラ達がアスファルトの上で横たわって呻いていた。私は死なない程度に加減しておいたが、かなり痛くはしておいたのでしばらくは立ち上がれないだろうな。

 

人が来る前に移動した方が良さそうだと判断した私は、雨宮蓮くんと一緒にセントラル街から移動する。何処に行こうかという話になったところで秋葉原のゲームセンターに行くことになり、そこで雨宮蓮くんの知り合いである織田信也というゲームが得意な少年と出会うことになった。

 

いくつかのゲームをプレイしてから最終的には何故かガンシューティングのゲームでスコアを競うことになり、1人1人ガンシューティングのゲームをプレイすることになったが、銃の扱いに慣れている私は当然のように高得点を取って勝利。

 

雨宮蓮くんと織田信也くんに勝った私に、もう1回と再び勝負を挑んできた2人は、1度の敗北では折れていない。何度でも受けて立とうと勝負を受けた私は、その後も勝利を積み重ねていく。しかし徐々に2人の点数が迫ってきて、最終的には同点の引き分けで終わった勝負。

 

白熱した勝負を終えて喉が渇いていた私達はゲームセンターを出ると自販機に向かって飲み物を購入する。私が奢ることに決めて3本異なる飲み物を購入した私は雨宮蓮くんと織田信也くんに飲み物を渡した。私は246茶、雨宮蓮くんは盆ジュース、織田信也くんは胡椒博士NEOを片手に会話をしていく。

 

またガンシューティングのゲームで勝負をすることを約束した私は246茶を飲み干して自販機の近くにある空缶や空のペットボトルを入れる箱に、空になった246茶を入れると「今日は、そろそろ帰るよ」と雨宮蓮くんと織田信也くんに言ってその場を立ち去り、泊まっているホテルにまで立ち止まらずに向かう。

 

宿泊しているホテルの一室でこうして今日も日記を書いているが、本当に今日は色々な出来事があった日になったな。

 

まあ、たまにはこんな日もあるだろう。

 

 月 日

どうやら雨宮蓮くんは複数の女性と同時にお付き合いしているらしい。9人の女性とお付き合いしている雨宮蓮くんは恋多き男ということになるのだろうか。恋人と過ごすようなイベントの日はどうやって過ごすつもりなのかを聞いてみると、雨宮蓮くんは何故か私と過ごすつもりであるようだ。

 

私が「いや普通に恋人の誰かと過ごしなさい」と諭しても効果はなく、雨宮蓮くんはイベントの日を私と一緒に過ごす気でいる。これはもう、どう考えても雨宮蓮くんの9人の恋人に私が恨まれるような気がするんだがね。というか9人もいる恋人を放置して男と過ごすとか、普通におかしい。

 

雨宮蓮くんも9人の恋人を放置したら問題が起こることは確実にわかっている筈だが、それでも私と過ごすつもりなのだろうか。クリスマスやバレンタインの翌日に、9人もいる恋人達に押し掛けられても私は知らんぞ。

 

そこまでは責任持てないのでな、何か問題があったとしても私は無関係だ。

 

私には助けられんよ。

 

 月 日

鍛練を積み重ねたことで雨宮蓮くんは武器の扱いも素手の格闘術もかなりのレベルに達している。人間相手の喧嘩なら、ジェイクくん以外には負けない程度に強くなっていた雨宮蓮くんは、最初に出会った頃と比べれば別人と言っても良いだろう。

 

夜のセントラル街で私が買ったビックバンバーガー2つの内1つを雨宮蓮くんに渡し、並んで食べていると近付いてきた男が1人。私に用があるようだったので一気にビックバンバーガーを食べ終えると男の話を聞くことにした。

 

どうやらこの男はチンピラ達に襲われている私と雨宮蓮くんを見ていたようであり、チンピラ達をあっさりと倒した私をある場所に招待したいとのことだ。

 

どう考えても怪しい男であるが罠という訳ではないと判断した私は着いていくことを決める。雨宮蓮くんも一緒にどうかと言われて、怪しい誘いに着いていくつもりである雨宮蓮くんは度胸がかなりあるようだった。

 

男の高級車に乗り込んで数十分後に賭け試合が行われている地下にまで連れて来られた私と雨宮蓮くんは金網で仕切られたリングで戦う男達を見ることになる。この場所は地下格闘場と呼ばれている場所らしい。

 

ここで戦ってみませんかと言う男の目的は、私に地下格闘場で試合をさせることだったようである。やってみようかと乗り気になった私と「ジョンさんの勝ちに賭けるにはどうすればいい」と男に聞いていた雨宮蓮くんは賭けるつもりで金を取り出していた。

 

リングに上がった私にさっそく襲いかかってきた相手を一撃で倒した私に歓声が上がる。続けて次の相手が現れると再び一撃で倒していく私に、連続で試合が組まれていき、数多の対戦者をリングに沈めることになったが、1度も敗北することはない。

 

勝利を積み重ね続けて襲いかかってきた全ての相手を倒すと、私はようやくリングを降りることができた。私の勝ちに物凄く喜んでいた男と雨宮蓮くんは賭けに勝っていたようであり、互いに持っているバックに札束を詰め込んでいたようだ。

 

勝ち過ぎたことで地下格闘場を出入り禁止と言われた私は特に気にすることなく、雨宮蓮くんと共に男が運転する高級車に乗って四軒茶屋まで移動していった。私達を四軒茶屋で降ろして「今日はありがとうございました」と言った男は晴れやかな顔で去っていく。

 

札束の詰まったバックを持った雨宮蓮くんは此方を見て「ジョンさんのおかげで稼げた」と笑っていたな。未成年が持つには凄まじい大金を持っていた雨宮蓮くんだが彼なら、無駄遣いすることはないだろう。仮に使ったとしても必要なこと以外には使わない筈だ。

 

「地下格闘場に行ったことは惣治郎には内緒にしておきなさい」と忠告はしておいた。雨宮蓮くんと秘密を共有したことで絆が更に深まった気がしたが、大金が詰まったバックを惣治郎に見つからないように雨宮蓮くんがしっかりと隠しておいてくれないとな。

 

どうやって大金を稼いだのかを聞かれて困るのは私も雨宮蓮くんも一緒だが、私が特に怒られそうな気がするので内緒にしておいてくれたまえ。

 

頼んだぞ雨宮蓮くん。

 

 月 日

雨宮蓮くんと出会ってそれなりに月日が経過したが良好な関係を築けているとは思う。それでも終わりというものは来るものであり、そろそろ日本から帰国する日が迫っていた。世間では怪盗団の話題が広まっているが、私は特に気にすることはない。

 

世間を騒がしている怪盗団のリーダーが雨宮蓮くんだったとしても私は公表することなく、日々を過ごす。ルブランで惣治郎にもう少しで帰国することを伝えると「そうか、元気でな」と笑った惣治郎は、以前よりも雰囲気が穏やかになったような気がした。

 

それなりに付き合いがある雨宮蓮くんにも別れを告げると「今までありがとうございました」と頭を下げた雨宮蓮くんは感謝の気持ちを素直に伝えてくる。何かの役には立つかと思って各種ハーブを雨宮蓮くんに提供した私は、イエローハーブを使った体力増強剤も渡しておいた。

 

最後にハーブパイも渡した私は雨宮蓮くんと最後の組み手をしてお別れすることになる。本当に強くなった雨宮蓮くんは、良い教え子だったと言えるだろう。

 

まあ、何があっても今の彼なら大丈夫だな。

 

恋多き男なのは問題なのかもしれんがね。




ペルソナ5の登場人物紹介

雨宮蓮
コードネーム、ジョーカー
春から秀尽学園高校の2年生として転入することになった本作の主人公
外見からは大人しめな印象を受けるが、とある事件から保護観察処分となっており、周囲から忌避されている
学園生活を送るなか、とあるきっかけでペルソナ能力に目覚め、仲間と共に怪盗団を結成して歪んだ欲望を持つ大人たちと対峙する

佐倉惣治郎
四軒茶屋の路地裏にある純喫茶ルブランの主人
保護観察処分中の主人公の保護司であり、ぶっきらぼうな態度をとりながらも何かと世話を焼く
不思議な包容力と色気を感じさせる態度から、常連客からの評判は悪くない

武見妙
四軒茶屋の裏路地で個人病院を経営している女医
医者らしからぬパンクな外見だが、彼女から渡された薬の効果は確か
独特の持論で調合した薬を作っていることや患者と向き合わない姿勢から、世間では闇医者などと噂されている

織田信也
秋葉原のゲームセンターに通っている天才少年プレイヤー
オンラインガンシューティング「ガンナバウト」で驚異的な強さを誇り、キングの愛称で知られている
ゲームに対する姿勢は厳しく、一緒にプレイした相手に求めるレベルも高い


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メタルギアライジングリベンジェンス編

メタルギアライジングリベンジェンスが2018年であることから、とある製薬会社に務めていた研究員のヤケクソ日記本編の後日談その15くらいの主人公です


 月 日

「ガンズ オブ ザ パトリオット」事件から4年の月日が経過して、今現在は民間軍事警備会社の「マヴェリック・セキュリティ・コンサルティング」に雷電は所属しているらしい。

 

強靭なサイボーグの肉体と真摯な姿勢で、クライアントの信頼を勝ち得ている雷電の評価は高いようだ。現在雷電はアフリカ某国の首相であるンマニ首相の身辺警護を引き受けているが、ンマニ首相を民間軍事会社である「デスペラード・エンフォースメント」の「破滅を呼ぶ風」の1人が狙っているという情報が入ってきた。

 

更には「ジェットストリーム・サム」までもがンマニ首相襲撃に参加するとの追加情報まで入手することになり、戦力分析をした結果として、このままでは雷電の身辺警護は失敗に終わる確率が高いと判断した私は、雷電のサポートをすることに決める。

 

サイボーグと真正面から対峙することを考えて大出力のパワーアシストスーツを着用して装備を整えた私は特製の白衣を羽織ると、最後に穂先に高周波を宿した槍を背負って拠点を出る時に家族にしばらく出かけてくることをしっかりと伝えておいた。

 

快く送り出してくれた家族に土産を買って帰ろうと考えていたりもしながらパワーアシストスーツで強化された脚力で駆けて移動していき、用意しておいた飛行機に乗り込んで雷電の元にまで向かうとンマニ首相が拐われている真っ最中というところだったな。

 

ンマニ首相を拐っていたのは「デスペラード・エンフォースメント」に所属する「サンダウナー」と呼ばれるサイボーグであり、2振りの大振りな高周波マチェーテの使い手であるらしい。とりあえず私は「サンダウナー」が向かう先に先回りすることに決めて移動を開始。

 

先回りして貨物列車に乗り込んだ私は「サンダウナー」の片腕を高周波槍で斬り落としてから改造を施した特製の電磁グレネードを叩き込んだ。爆発と同時に電磁パルスを発生させる特製の電磁グレネードによって動きが止まった「サンダウナー」はサイボーグであることは間違いない。

 

「サンダウナー」の身体の自由を奪ってンマニ首相を奪還して離脱しようとするが電磁パルスで動きを阻害されていない「ジェットストリーム・サム」が立ちはだかることになり、生身の人間であるンマニ首相を庇ったまま「ジェットストリーム・サム」と交戦することになる。

 

戦いの最中「お前は何も感じることなく殺戮ができる男か、ならば殺しの快楽に酔うことはないな」と言ってきた「ジェットストリーム・サム」は、数度刃を交えただけで此方の内心を容易く見抜いていた。確かに他人を殺しても私は何も感じることはない。

 

交戦を続けている内に駆けつけた雷電が「ジェットストリーム・サム」に斬りかかりながら「ンマニ首相を連れて逃げるんだ!ジョン!」と言ってきたのでンマニ首相を連れて離脱することに決めた私は、安全な場所までンマニ首相を運んでおく。

 

「おかげで助かったがきみは何者なんだ?」と聞いてきたンマニ首相に雷電の知人ですよと言葉を返して現在の状況を確認していた私は、雷電が「ジェットストリーム・サム」に片腕を斬り落とされて左目を斬られたことを知ることになった。

 

雷電の窮地に援護に現れた「マヴェリック・セキュリティ・コンサルティング」の人間達による援護により雷電の命までは失われなかったようだが完全に「ジェットストリーム・サム」に敗北した雷電は、今回の敗北を重く受け止めているらしい。

 

ンマニ首相としては雷電に身辺警護を続けてもらいたかったようだが、雷電は「デスペラード・エンフォースメント」を追うつもりのようであり、ンマニ首相はサイボーグの立ち入れない安全な場所で警護されることになるみたいだ。

 

自分だけではンマニ首相を護れなかったことは間違いないと考えている雷電は更にサイボーグ化された禍々しい黒いボディに肉体を換えて戦いに備えることを決めていたが、「デスペラード・エンフォースメント」の次の動きを察知するまで待機することになる。

 

 月 日

ンマニ首相の殺害に失敗したとしても「デスペラード・エンフォースメント」は止まることなく活動を続けており、今度は黒海沿岸の非承認国家アブハジアにて反政府勢力と結託して首都スフミを制圧したとの情報が入ってきた。

 

事態解決を図るべく雷電と共にスフミに向かった私は「ジェットストリーム・サム」への雪辱に燃える雷電を落ち着かせると、スフミの地に展開されているサイボーグ兵士達を冷静に倒す。サイボーグを斬り、自己修復ユニットを奪い取って回復する「斬奪」を行っていく雷電。

 

民間人を拘束しているサイボーグ兵士に特製の電磁グレネードを投擲して電磁パルスによって動きを封じている間に民間人を私が救出し、雷電がサイボーグを斬るという分担作業を行い民間人を安全なところまで逃がしてから先を急いでいく。

 

それからは別れて行動することに決めた私と雷電は別々にサイボーグ達を倒していき、先へ先へと突き進んでいくと工場で雷電と合流することになる。アブハジアのテロの首謀者であるドルザエフの確保を目的としている雷電と私は工場内へと潜入していった。

 

進んだ先で立ちはだかった「デスペラード・エンフォースメント」所属のサイボーグである「ミストラル」の相手を雷電に任せた私はドルザエフの確保に向かう。雷電が「ミストラル」を倒したところでちょうどドルザエフを捕まえた私は、縛り上げたドルザエフを担いで雷電の元へと移動していく。

 

戦いで歪められた過去を持つ「ミストラル」との戦いで雷電の胸中はざわめいていたらしい。雷電自身も戦いで歪められた過去を持っていることは「ミストラル」と同じであり、複雑な思いを抱くことになっていたようだ。

 

 月 日

ドルザエフの確保に成功し、アブハジアでのテロはひとまずの収束を見ることになる。そんな中、とある人権団体よりひとつの情報がもたらされた。それは「デスペラード・エンフォースメント」がメキシコでの人身売買に加担しているというもの。

 

マフィアとの癒着や廃棄物の不法投棄を足掛かりに「デスペラード・エンフォースメント」の暗躍を暴く為、アブハジアのテロで回収されて調整を受けたLQ-84i・ブレードウルフを連れて下水道を辿ることになった私と雷電。

 

数多の無人兵器を破壊して進んだ先で見たものは、子どもの脳を利用した「デスペラード・エンフォースメント」が関わる軍事ビジネス。論理を逸脱したそれは、表向きは正当な手続きを踏んだ医療行為で、法に問うことはできない。

 

しかも背後には政府でさえ動向を無視できない、超巨大PMCワールドマーシャル社が控えている。手詰まりとなった状況の中、それでも雷電は幼い命を救おうと「マヴェリック・セキュリティ・コンサルティング」の肩書きを捨て、無頼のサイボーグとしてワールドマーシャル社の本拠地に向かうことを決めた。

 

もちろん私も一緒に向かうことを決めており、ワールドマーシャル社の本拠地であるデンバーへと向かっていった私と雷電は、警察権をもワールドマーシャル社が掌握する町中で「マヴェリック・セキュリティ・コンサルティング」の人間達から「個人的な」サポートを受けて本社ビルへと進む。

 

しかし立ちはだかるように現れた「ジェットストリーム・サム」と「モンスーン」がサイボーグ兵士達が封印した「感情」を盾に、雷電へと揺さぶりをかけてきた。サイボーグ兵士達の恐怖が音声として雷電に伝わっていき、恐怖する人間を斬ることに躊躇いを見せる雷電。

 

確かにそれは「活人剣」を掲げる雷電を揺さぶったが雷電自身が封印していた戦場と殺戮への渇望を呼び覚ますことになる。「ジャックに戻る時だ」と言い放った雷電は容易くサイボーグ兵士達を斬り捨てると「モンスーン」に高周波ブレードを向けて笑う。

 

私が襲いくるサイボーグ兵士達の相手をしている間に、完全に吹っ切れた雷電は、これまで以上に鋭くなった剣筋で「モンスーン」を撃破した。いつの間にか居なくなっていた「ジェットストリーム・サム」は、雷電を完全に吹っ切らせる為に揺さぶりをかけたのかもしれない。

 

同月同日

己の本質なのか、それとも仕組まれた過去が創り出した望まぬ欲望なのか、掲げ続けた「活人剣」の言葉を自己欺瞞だとしながらも雷電は、今はただ、子ども達の脳を取り戻す為に前へと進んでいく。

 

敵を薙ぎ払い、血を浴びる雷電は殺戮の快楽を感じているようだったが、それでも子ども達の為に戦うことができていた。自分が楽しむ為だけに戦っている訳ではない雷電は、まだまともであると私は思うが、どうやら雷電は気にしているらしい。

 

戦場と殺戮を望んでいることを自覚して自嘲している雷電は私に対して「こんな俺に付き合わせてしまってすまない」と謝罪をしてきたが、特に私は気にしていなかったので「気にするな、私は特に気にしていないさ」とだけ言っておいたが雷電は、やっぱり気にしているようだったな。

 

2人がかりで突き進んでいくと1人だけよりも時間が早く済んだようで、ワールドマーシャル社の本社を圧倒的なスピードで進むことができており、本社で待ち構えていた「サンダウナー」にとっては想定外であったようだ。

 

想定していた時間よりも早く到着した私と雷電を全力で殺そうとしてきた「サンダウナー」の焦りに何かを感じた私に、部下からの情報が入る。部下から教えられたパキスタンにある機上にある大統領が狙われているとの情報を雷電に伝えた私は「此処は私に任せて先に行け雷電」と雷電を送り出す。

 

残されたタイムリミットは6時間と微妙なところだが確実に間に合わせることができる方法を雷電は知っているらしい。戦闘機を凌駕する速度を誇る、宇宙往還機で追う方法を使うつもりである雷電は天才少女サニーが開発したシャトルに乗り込む為に、コロラド州の飛行場を目指して移動していく。

 

「サンダウナー」を引き受けた私は、爆発反応装甲である盾を装備した「サンダウナー」が盾を展開した状態で突っ込んでくるシールドアタックを繰り出してきたところで「サンダウナー」を飛び越えて、盾に覆われていない背面を高周波槍で斬りつける。

 

高周波槍で斬りつけられたところで瞬時に盾で挟み込むように背後へ攻撃を仕掛けてきた「サンダウナー」は「貴様には腕を斬り落とされた借りがあったな」と言うと2刀の高周波マチェーテを巧みに振るう。

 

2刀の高周波マチェーテを交差させた状態で突進してきた「サンダウナー」にカウンターで高周波槍を突き入れると腹部から白い血液が噴き出す。それでも退くことはない「サンダウナー」は2刀の高周波マチェーテを組み合わせて人斬り鋏を作り出すと鋏を連続で振るってきた。

 

巨大な柱を人斬り鋏で切断して振り回してきた「サンダウナー」の攻撃を潜り抜けながら接近して、高周波槍を下から上に斬り上げた私は「サンダウナー」を斜めに切断することに成功。

 

脇腹から斜めに斬り裂かれて上半身だけとなった「サンダウナー」がそれでも振り上げた人斬り鋏が振り下ろされる前に頭頂部から真っ二つに両断し、完全に「サンダウナー」を倒した。

 

「ジェットストリーム・サム」へと何らかの通信をしていた「サンダウナー」は、それを最期に生命活動を停止することになったようだ。機能を停止した「サンダウナー」から人斬り鋏を手に入れた私は高周波槍と人斬り鋏を背負うと雷電を追いかけていく。

 

雷電の位置情報が、ある場所から移動していないことに気付いた私は、とりあえずその場所に向かうことにする。シャトルがある飛行場まで、あとわずかといった場所にある地平線を貫くハイウェイ。

 

そこで雷電は「ジェットストリーム・サム」と戦いを続けていた。荒野で高周波ブレードを振るう両者は、1歩も退かずに斬り合いを続けていく。2人がかりで素早く終わらせるのが合理的な判断ではあるが、この戦いは雷電にとって必要な戦いであると私は感じていたので割り込むことはない。

 

素早い踏み込みから斬り上げを繰り出す「ジェットストリーム・サム」の攻撃を凌ぐ雷電に続けて跳躍し、着地と同時に叩き斬ろうとした「ジェットストリーム・サム」の斬撃を高周波ブレードで受け流した雷電。

 

両手で持つ赤い高周波ブレードを連続で振るう「ジェットストリーム・サム」の攻撃を見切っていた雷電は、攻撃を避けながら突きを放つ。赤い残像を残しながら振るわれた「ジェットストリーム・サム」の高周波ブレードが雷電の突きを弾く。

 

一進一退の攻防が続いていく中で鞘に高周波ブレードを納めた「ジェットストリーム・サム」に対して雷電もまた鞘に高周波ブレードを納めると互いに抜刀術の構えを取りながら接近していった両者。

 

特殊な機能が加えられている「ジェットストリーム・サム」の高周波ブレードを納める鞘には引き金がついており、引き金を弾くことで薬莢の炸薬により突き出された小さな杭が高周波ブレードの鍔を弾き出すようになっていて、それは凄まじい速度の抜刀術を可能とする機能であった。

 

鞘の引き金を弾いた「ジェットストリーム・サム」の高周波ブレードの鍔を弾き出した杭の勢いのまま、抜刀した「ジェットストリーム・サム」の抜刀術は凄まじい速度であったが、雷電の抜刀は更に速く、斬り裂かれた「ジェットストリーム・サム」から流れた赤い血は、サイボーグではないことを示している。

 

「ジェットストリーム・サム」は最期にブレードウルフに笑顔を向けてウィンクをすると背中から倒れ込んで動くことはない。死ぬ前に「ジェットストリーム・サム」が鞘に納めていた赤い高周波ブレードをブレードウルフに預けた雷電は、シャトルの元にバイクで向かっていく。

 

調達しておいた車で雷電を追いかけていく私は「ジェットストリーム・サム」が雷電との斬り合いで満足していたことを感じ取っていた。雷電が言うには戦う前にブレードウルフに「ジェットストリーム・サム」は何かを話していたらしい。

 

穏やかとさえ言える表情を浮かべて、ブレードウルフに何かを語りかける「ジェットストリーム・サム」は戦っている時とはまるで別人のように見えていたそうだ。信念とプライドを賭けた因縁の戦いを終えた雷電も、穏やかな表情をしていたな。

 

荒野での決闘は雷電に良い影響を与えていたようで、剣を交えたことで雷電にも得るものがあったのかもしれない。邪魔をされることのない果たし合いで命を落としたとしても「ジェットストリーム・サム」にとっては本望だったのだろう。

 

同月同日

サニーが用意してくれたシャトルに乗り込んだ私達は、宇宙の渚カーマン・ラインをかすめて、大統領機が到着するパキスタン・シャバッザバード基地に到着。だが、そこは既にワールドマーシャル社と「デスペラード・エンフォースメント」の制圧下にあった。

 

異変を急いで軍に伝えるべく雷電と私は通信権限を掌握しようと管制塔を目指したが、突如として起こる凄まじい地鳴りが私達の足を止める。大地を裂いて現れた巨大なメタルギアに乗っているのは政界の大物であるスティーヴン・アームストロング上院議員。

 

どうやら全ての黒幕はスティーヴン・アームストロングであるようであり、大統領殺害もスティーヴン・アームストロングの計画であるようだ。巨大メタルギアを相手に戦っていく雷電と私は高周波で強化された武器を振るって巨大メタルギアの手足にダメージを与えていった。

 

巨大な両手を振り下ろし、両手で薙ぎ払いを仕掛けてから、片手を振り下ろして踏みつけを繰り出してくる巨大メタルギアの攻撃を避けながら攻撃を続けていく。ダウンした巨大メタルギアの頭部に集中して攻撃をしていくと無人兵器である月光が2体ほど現れた。

 

私が月光を倒している間に雷電が巨大メタルギアに攻撃を続けていくとレーザーを多用してくるようになった巨大メタルギア。直線状に放つレーザーや薙ぎ払うように放ってくるレーザーを避けて攻撃を続けていく雷電。

 

高周波ブレードで脚を破壊することに成功したところでブレードを展開したアームを振り下ろしてきた巨大メタルギアの攻撃を弾き上げた私と雷電は、アームを破壊する。破壊したアームを担いだ雷電はブレードアームを使って巨大メタルギアを切断していった。

 

完全に破壊された巨大メタルギアから出てきたスティーヴン・アームストロングは相撲の四股を踏むように振り上げた片足を振り下ろす。そうすると巨大メタルギアに残っていた電力が全てスティーヴン・アームストロングに吸収されていったようだ。

 

スティーヴン・アームストロングの身体がナノマシンにより強化されていることが理解できた私は警戒を深めていたが雷電は、真正面からスティーヴン・アームストロングに突撃していき、高周波ブレードをへし折られて素手で打ちのめされることになる。

 

サイボーグである雷電以上に凄まじい身体能力を持っているスティーヴン・アームストロングは「上院議員を舐めるんじゃねぇ!」やら「俺はスポーツマンだ!」などと言いながら雷電を豪腕で殴っていく。

 

スティーヴン・アームストロングの主義や主張を聞いていた雷電は「よくわかったよ、お前が本物のクズだってことが!」と言うとスティーヴン・アームストロングに拳を叩き込んでいったが、それでもスティーヴン・アームストロングには効いていない。

 

私も隙を見て高周波槍で何度か斬りかかってみたが攻撃を受ける度に黒く変色して高周波槍を弾くスティーヴン・アームストロングの肉体には、高周波槍の穂先の刃では攻撃が通ることはなかった。魔槍ボルヴェルクを置いてきたことを後悔している私に殴りかかってきたスティーヴン・アームストロング。

 

なんとかその拳を受け流した左腕の義手が軋んでいたが、まだ動かすことはできたので戦いを続けていくことにする。とはいえスティーヴン・アームストロングに有効な攻撃手段を持たない私達が何処までやれるかだが、と考えているとブレードウルフに録音されていた「ジェットストリーム・サム」の言葉が届いてきた。

 

「ジェットストリーム・サム」の言葉が終わると同時にブレードウルフから投げられた赤い高周波ブレードを納めた鞘を受け取った雷電。ロックが解除された赤い高周波ブレードを抜き放つ雷電がスティーヴン・アームストロングに赤い刃を振るう。

 

確かにそれはスティーヴン・アームストロングに傷をつけた。赤い高周波ブレードは業物の刀を高周波ブレードに改造したものであるようで、スティーヴン・アームストロングに有効な武器を手にした雷電は「ジェットストリーム・サム」から受け継いだ赤い高周波ブレードを構えていく。

 

「面白くなってきたじゃねぇか」と獰猛な顔で笑ったスティーヴン・アームストロングに赤い高周波ブレードを向けた雷電。赤い刃が縦横無尽に振るわれていき、スティーヴン・アームストロングに確実に傷をつけていくが致命傷にはなっておらず、直ぐに傷が塞がってしまう。

 

雷電にスティーヴン・アームストロングへ直ぐには治癒できない深い傷をつけてくれと頼んだところで、鞘に赤い高周波ブレードを納めた雷電は鞘にある引き金を弾いて鍔を杭で弾き出すと、その勢いのまま抜刀を行う。

 

赤い残像を残す抜刀術でスティーヴン・アームストロングの首に深い斬り傷をつけた雷電に感謝した私はスティーヴン・アームストロングに接近して、ナノマシンの効果を弱める薬が詰まった注射器を首の傷口から突き刺して薬を注入する。

 

反撃として凄まじい威力の拳を放ってきたスティーヴン・アームストロングの拳の直撃を受けた左腕義手が完全に破壊されて、私自身も大きく吹き飛ばされてしまったが、スティーヴン・アームストロングの体内のナノマシンを弱めることに成功。

 

吹き飛ばされながら「決めろ、雷電!」と声援を送った私に「任せろ、ジョン!」と応じた雷電が赤い高周波ブレードを振るってスティーヴン・アームストロングの胸部を斬り裂いて、剥き出しになった心臓を抜き手で抉り出してトドメを刺した。

 

 月 日

こうして戦いは終わり、「デスペラード・エンフォースメント」とワールドマーシャル社の陰謀を食い止めることはできたが、雷電は「マヴェリック・セキュリティ・コンサルティング」に戻ることなく無頼のサイボーグとして戦いを続けているらしい。

 

「俺は俺の戦いを続けさせてもらう」という言葉を残した雷電を心配している者達は数多く存在しているので、とりあえず心配させている雷電に手紙を渡しておくことにしようか。

 

妻子がいる身で家族を長く放置するのは、良くないことだと思うぞ雷電。たまには家に帰りなさい。

 

戦いだけがきみの全てという訳ではない。帰る場所があるということは幸せなことだからね。




メタルギアライジングリベンジェンスの登場人物紹介
ネタバレも含みます

雷電
メタルギアライジングリベンジェンスの主人公。「マヴェリック・セキュリティ・コンサルティング」に籍を置くサイボーグ。強化骨格の装備や人工筋肉による身体強化を受けている。悪人のみを斬り、多くの人々を守る「活人剣」を掲げ、高周波ブレードを操るが、サイボーグ勢力の一員であるサムに襲われ左腕と左目を損傷。その雪辱を果たす為に新たな肉体を得て戦いに身を投じる。

サムエル・ホドリゲス
デスペラード社に雇われているサイボーグだと思われていたが、実際はパワーアシストスーツを着込んだ人間であり右腕のみが機械化されている。「ジェットストリーム・サム」の異名を持つ。雷電と同じく高周波ブレードを携え、日本の新陰流の影響を受けたブラジリアン剣術を駆使する達人。雷電の太刀筋を容易く見切って目と腕に深手を負わせただけでなく、彼が封じた殺戮への快楽を嗅ぎ付けて翻弄する。雷電との最後の戦いの前にブレードウルフへ遺言とも言える言葉を残しており、彼の言葉の後に高周波ムラサマブレードのロックが解除されてスティーヴンへ通用する唯一の武器が雷電へと託されることになる。

サンダウナー
デスペラード社の実質的なリーダーであり、カリフォルニアの熱風「サンダウナー」の名で知られる。特別仕様の巨大なサイボーグボディに大型の高周波マチェーテ「ブラッドラスト」人斬り鋏を操る2刀流の使い手で「破滅を呼ぶ風」と怖れられる。

ミストラル
デスペラード社に所属する女性サイボーグでサンダウナー、モンスーンと並び「破滅を呼ぶ風」のひとり。地中海に吹く乾いた北風をその名の由来とする。フランス外国人部隊を除隊したのち民間軍事会社を渡り歩いたあと、同社と契約している。

モンスーン
デスペラード社所属のサイボーグで「破滅を呼ぶ風」のひとり。季節風を意味するコードネームを名乗る。かつてはマフィアの幹部として人身売買や麻薬などの国際的な犯罪に関与していたが、組織間の抗争による負傷を機に肉体をサイボーグ化する。釵の達人。

サニー
アメリカの政財界を操る「愛国者達」に囚われていたが、雷電によって救出された少女。「愛国者達」による人体実験の影響か、親代わりとなったエメリッヒ博士の指導によるものか、プログラムのみならず科学全般において非凡な才能を発揮している。

ンマニ首相
アフリカ某国の首相で、内戦からの復興の立役者であり、建国の英雄と称えられる人物。国の再建に高い理想を掲げ、国民の信望も厚く、自らも人格者として知られている。マヴェリック社のクライアントとして雷電が身辺警護に当たるが、デスペラード社の襲撃に遭いサンダウナーに殺害された

ドルザエフ
アブハジアで起きたテロの首謀者で、デスペラード社のクライアント。国際指名手配を受けている。ミストラルが雷電に敗北した後に自爆して自決する。

スティーヴン・アームストロング
ラスボス
アメリカ・コロラドの上院議員で次期大統領候補のひとり。学生時代にはフットボールの選手として名声を得て、現在でも肉体派として知られる。業界最大手の民間軍事会社ワールド・マーシャル社との癒着が囁かれ、2年前には大陪審に調査されたという経歴もある人物。
ナノマシンにより肉体を強化されていてサイボーグである雷電を上回る力を発揮する人間。
最終的には雷電が振るう高周波ムラサマブレードによって胸を斬り裂かれた後に心臓を抉り出されて死ぬことになる。


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デビルメイクライ5編

アンケートは21人の方が投票してくれました。20人が異世界編も見たいを選び、1人が現代編だけでいいを選んだようです。という訳なので異世界編も書きますがその前に書きたかった現代編のデビルメイクライ5編を書いてみました。異世界編は次回の更新になりますので、お待ちください。
アンケートに投票していただいてありがとうございました。
本編マザールート後の主人公になります。


 月 日

出会いというものは突然なものであるのかもしれない。私1人で片付けた方が効率が良かったので1人で出向いた仕事も終わらせ、家族への土産を何にしようかと考えて街を歩いていた私に、大量に購入した煙草を持ったまま話しかけてきた眼鏡をかけた女性が1人。

 

「あんたの左腕を見せてくれ!」と私の左腕義手に興味津々な女性は、一見ただの腕にしか見えないように偽装してある私の左腕が義手であると一目で見抜いていたようだ。初見で私の左腕が義手であると見抜いた女性も技術者だということは間違いない。

 

他の技術者と意見を交換するのも悪くはないと思った私は、左腕義手を取り外して眼鏡の女性に手渡す。「これは思ってたよりも軽いが、強度は想像以上にあるな!それでいて腕としての機能もしっかり備えている。他の機能は?」と左腕義手を眺めながら聞いてきた眼鏡の女性。

 

左腕義手を変形させて飛び出した銃口から荷電粒子を放つことができると伝えると「それも見せてくれ!頼む!」と物凄い勢いで食いついてきた眼鏡の女性の様子を見て、実際に荷電粒子を撃つ姿を見なければ納得しないだろうということがよく理解できた。

 

という訳で荷電粒子ライフルを撃てる場所である拠点の1つにまで向かうことになったが、拠点に向かう途中で「まだ自己紹介してなかったな、わたしはニコだ」と言ってきた眼鏡をかけた女性に、私はジョンだと名前を教えておく。

 

到着した拠点でニコから返してもらった左腕義手を装着した私は、左腕義手を変形させて的に荷電粒子ライフルを撃つ。消滅した的を見て「おおっ!」と楽しそうな声を上げるニコは、私の左腕義手の機能を見ることができて喜んでいるようだった。

 

「なあ、ジョン。他にも義手があるんじゃないか?あるんなら是非見たいんだが」と聞いてきたニコは私の作った他の義手も見たいらしい。様々な用途に応じて使用される私の左腕義手の数々を見たニコは「良いものが見れた」と満足していたみたいだ。どの左腕義手も私の力に耐えられるように強度は高めてあるので、簡単に壊れることはない。

 

それからは技術者としてのニコと意見を交換することになり、有意義な話をすることができた。自身をアーティストと称するニコは、持ち歩いていた自らの作った作品を芸術品と言って私に見せる。強度に難ありといったところが欠点だが、悪くはない作品だと言えるだろう。

 

意見交換も終わり、強度の改善に役立つかと思って私の提供した特殊合金をサンプルとして持ち帰っていったニコ。今後のニコの作品は、強度が多少は改善されるかもしれない。ニコとは連絡先を交換することはなかったが、また会いそうな気がするな。

 

単なる勘だが、勘というものも馬鹿にはできない。私の勘はよく当たるのでね。

 

 月 日

闇の情報屋であるモリソンから連絡が入る。少々詳しくなってしまった悪魔絡みの仕事をたまに持ちかけてくるモリソンは、私のことを悪魔狩人だと勘違いしているに違いない。仕事を引き受けて魔槍ボルヴェルクを振るうことにもすっかり慣れて、悪魔を狩ることにも慣れてしまった。

 

とはいえ特に依頼がなければ積極的に悪魔を狩ることがない私は、そこまで悪魔に興味がある訳ではない。そんな私にモリソンから伝えられたのは、ある悪魔の討伐に向かったダンテが戻らないということであり、ダンテの捜索を頼みたいというモリソンからの個人的な依頼であった。

 

まさかダンテが死ぬなどということはないだろうが、行方不明ということは確かなようだ。ダンテと出会ったのは数年前に1度だけだが、知らぬ仲という訳ではないので、モリソンの依頼を引き受けてダンテの捜索を行うことにした。

 

モリソンからネロという悪魔狩人と合流してレッドグレイブ市に向かうように言われた私は、教えられたネロが現在居る場所にまで移動して、そこでトレーラーを改造しているニコと再び出会うことになる。どうやらニコとネロは知り合いであったらしい。

 

やはり縁というものはあるのかもしれないな。

 

 月 日

ネロやニコと共に行動することになり、私は現在改造された大型のトレーラーの中で日記を書いている。トレーラーを運転するニコの隣で助手席に座ったネロが、煙草を吸うニコが吹き出した煙に嫌そうな顔をして、トレーラーの窓を開けて顔を出していた。ネロは煙草が苦手のようだ。

 

トレーラーの向かう先で悪魔達の姿を発見したニコは、アクセルを踏み込んで悪魔の群れに突っ込んでいく。揺れる大型トレーラーの内部に備え付けられたジュークボックスからは、テンポの良い音楽が流れ出していた。トレーラーの窓から上半身を出したネロが大型のリボルバーを悪魔に向けて片手で撃つ。

 

ニコがハンドルを切り、トレーラーが宙を舞うと同時に窓から飛び出したネロが、素早い身のこなしでリボルバーを扱い、リボルバーの上下に並んだ2つの銃口から放った2つの銃弾で撃ち抜いて悪魔達を倒す。トレーラーが宙を舞う最中に宙に浮いた煙草をニコが器用に口だけで咥えていた。

 

通り道にいた悪魔達を全て倒したネロが窓からトレーラーに戻ってきたところで、煙草に火をつけるライターを探していたニコの隣にいるネロに、私が乗っているトレーラーの後部にまで転がってきたライターを投げ渡しておく。ニコの煙草に火をつけたネロは再び嫌そうに煙を手で払っていたな。

 

到着した道の先では悪魔と軍人が戦いを続けていたが、軍人達の持つ銃では悪魔達に対抗することはできていないようだった。倒れた軍人の1人に悪魔が飛びかかろうとした瞬間に、ジャンプしたトレーラーが悪魔だけを轢いて弾き飛ばす。

 

片腕のネロが倒れている軍人に軽口を叩きながら悪魔へと向かっていった。片腕だけだったネロにデビルブレイカーという兵装が瞬時に装着されていく。悪魔と戦い始めたネロを観戦しながら軍人に向かって「あの義手は、わたしが造った」と言う自慢気なニコ。

 

多少荒っぽい扱いをしても壊れることはないネロのデビルブレイカーは、それなりに強度が高められているようだ。義手に備え付けられた機能を用いていくネロは、右腕義手から放たれたワイヤーで悪魔を振り回し、義手から強烈な電撃を放つ。

 

暴れ回っているネロが戦っている最中に、増援された悪魔達が此方へと近寄ってきた。身に纏っている大出力のパワーアシストスーツによって強化された身体能力で、背負っていた魔槍ボルヴェルクを瞬時に掴んだ私は、一振りで悪魔達を両断する。

 

そこからは私も参戦していき、周辺の悪魔は全て根絶やしにすることができた。これで市民の安全確保には少しは役立っただろう。生き延びた軍人を逃がしてから先を進むことにした私とネロは、魔界樹であるクリフォトとやらの根と戦うことになったが、問題なく撃破して更に先へと向かった。

 

どうやらネロはVという男と待ち合わせをしているようなので、私とネロは別々に行動することになる。1人になった私はダンテの捜索を行いながら悪魔を倒し、クリフォトの根を破壊していくという作業を続けていく。しかしダンテはなかなか見つかることはない。

 

さて、ダンテは何処にいるんだろうな。普通の人間なら死んでいるんだろうが、ダンテは普通じゃあないので生きているだろう。

 

私の勘が、そう言っている。

 

同月同日

ダンテの捜索を続けていくと杖をついた男を発見。話しかけてみると「お前がジョンか、ネロから話は聞いている」と言ってきた男。もしかしてきみがVなのかと聞いてみると「そうだ」と答えた細身の黒髪の男は、悪魔と戦えるほど肉体派には見えない。

 

どうやらVは3体の魔獣を用いて戦い、魔獣が充分なダメージを与えたところでVが杖で悪魔にトドメを刺すという戦い方をするようだ。あてもなくダンテを捜すよりは、何かしら心当たりがあるらしいVと行動を共にする方が見つかりそうだと考えた私はVと一緒に行動することにした。

 

ダンテが討伐しにいった悪魔には配下がいたようで「魔剣スパーダを破壊するのだ」と鳥の様な魔獣の背から上半身だけ生えている重なった3人の女が、悪魔である馬に跨がった魔騎士に命令している姿が前方で確認できている。Vの魔獣で、お喋りなグリフォンが言うには、上半身だけの女はマルファスという悪魔だそうだ。

 

マルファスは転移していき、馬に跨がった魔騎士だけが残された。Vが魔騎士と戦うつもりのようだったので私も手伝うことにする。2人がかりで戦いを続けていく内に、馬の名がエルダーゲリュオンだと言ったVは「ゲリュオンは時を操る力を持っている」と忠告してきた。

 

スロースフィアという此方の動きを遅くする攻撃を行ってくるエルダーゲリュオンナイトは、弾やドーム状、はたまたエリア全体にまで此方の動きを遅くするスロースフィアを放つ。ただでさえ遅い動きのVが更に遅くなったところに突撃してきたエルダーゲリュオンナイト。

 

私はVを抱えて跳躍すると魔槍ボルヴェルクの石突きから黒炎を噴射して高速移動して距離を取る。スロースフィアの効果が解けたところで攻勢に移った私とV。私が魔槍ボルヴェルクでエルダーゲリュオンナイトと打ち合っている最中に、Vが切り札である魔獣ナイトメアを呼び出す。

 

ナイトメアの攻撃でよろめいたエルダーゲリュオンに狙いを定めた私は、パワーアシストスーツで強化された脚力でエルダーゲリュオンへと迅速に接近。魔槍ボルヴェルクを持ったまま身体を横回転させ、穂先から黒炎を噴出させて勢いを加速させた魔槍ボルヴェルクを横一文字に振るいエルダーゲリュオンの首を斬り落とした。

 

体勢が崩れたエルダーゲリュオンに乗っていた魔騎士を蹴り飛ばした私は、追撃をしかけようとするがVが膝をついている姿を見て急いで駆け寄る。「問題ない、少し疲れただけだ」と言うVは、どう見ても調子が悪そうだったので気休めにはなるかとハーブタブレットをVに渡して飲むように促しておく。

 

ハーブタブレットを飲んだことで少し疲れが取れた様子のVは私に感謝していたな。そんなやり取りをしている間に魔騎士は、遥か彼方に逃げ去っており、追撃は不可能となった。残っていたエルダーゲリュオンの死体が消滅すると同時に飛び出した光りが、私に向かって飛び込んでくる。

 

力がある悪魔を倒すと魔具であったり、何かしらの力を残すことがあるらしい。どうやらエルダーゲリュオンを倒したことで私は新たな力を手にすることになったようだ。私自身を高速化することができるようになったこの力を私はクイックシルバーと名付けた。

 

新たな力を私に残してエルダーゲリュオンの死体は消滅したが、何故かエルダーゲリュオンに生えていた角が1本残っていたようで、それをVが拾っていたな。Vはエルダーゲリュオンが残した角をニコに渡すつもりらしい。ニコのトレーラーまで向かっていくVに私は着いていくことに決める。

 

体調の悪そうなVを放っておくのも問題がありそうなのでね。

 

同月同日

トレーラーに到着したところで、魔王ユリゼンに敗北し、アルテミスという悪魔の中に捕らわれていた女性、レディから話を聞くことができた。ダンテが魔剣スパーダと共に吹き飛ばされたという情報を入手した私の勘は、魔剣スパーダを捜せばダンテも見つかると言っている。

 

ニコはVから渡されたエルダーゲリュオンの角を使って新たな義手を造り上げている真っ最中。「こいつは傑作が生まれそうだ」と楽しそうなニコを邪魔しないようにトレーラーから外へ出た私は、魔剣スパーダを捜すつもりであるVと行動を共にする。

 

クリフォトを目指して進んだ先で大剣を持つ魔剣士と盾を構えた魔剣士達と戦うことになり、ネロまで加わって3人で共闘することになった。大剣による袈裟斬り、横薙ぎ、叩きつけと連続攻撃を行ってくる魔剣士のことをVは、プロトアンジェロと言う。

 

私はVに盾を構えた魔剣士達は何て名なのか聞きながら、大剣を振るう魔剣士の連続攻撃の最後に振り下ろされた大剣を魔槍ボルヴェルクで受け止めておく。盾を左手に構えて右手に剣を持った魔剣士の名は、スクードアンジェロというそうだ。

 

盾を構えたスクードアンジェロの堅牢な防御をネロは、ヘルタースケルターというドリルのように回転して攻撃するデビルブレイカーで連続して攻撃を行い、強引に破壊すると剣で攻撃を叩き込んでいった。Vは魔獣シャドウを操るとスクードアンジェロの背後に回り込み、盾で守られていない背面をシャドウに攻撃させる。

 

スクードアンジェロが順調に数を減らしていくなかで、プロトアンジェロと斬り合いをしていた私は大剣を弾き上げて、魔槍ボルヴェルクをプロトアンジェロの腹部に突き刺す。更に黒炎を穂先から放出させて追加で攻撃していくとプロトアンジェロが動きを止めた。

 

魔槍ボルヴェルクを突き刺したままであったので、引き抜こうとした瞬間、プロトアンジェロの身体が魔槍ボルヴェルクに吸い込まれていく。瞬く間にプロトアンジェロの大剣すらも魔槍ボルヴェルクに吸い込まれていき、完全に姿を消したプロトアンジェロ。

 

どうやら魔槍ボルヴェルクがプロトアンジェロを吸収したらしい。プロトアンジェロを吸収したことで、魔槍ボルヴェルクが強化されたようだ。以前よりも強い意思を持つようになった魔槍ボルヴェルクは、更に力が有る悪魔を吸収すれば新たな力が手に入ると私に意思を伝えてきた。

 

新たな力とやらは興味深いが、力だけを求める訳にはいかないので偶然出会うことがあればなと魔槍ボルヴェルクに伝えておく。魔剣士達を退けた私達3人はクリフォトへと向かう道を進む。途中で別行動をすることになったネロとVだが、どうやらネロはユリゼンの元へ行き、以前の借りを返すつもりらしい。

 

デビルブレイカーという兵装を手に入れたネロでもユリゼンの相手は手に余りそうな気がするが、私が止めてもネロは聞かないだろうな。まあ、死なない程度に無茶をしてくるといい。

 

魔剣スパーダを見つけたらネロの様子も見に行くとするか。

 

同月同日

Vと行動を共にして再びプロトアンジェロと戦うことになり、魔槍ボルヴェルクが更に2体のプロトアンジェロを吸収した。力強く脈打った魔槍ボルヴェルクはあと少しで新たな力を得られると意思を伝えてくる。新たな力とやらは、いったいどんな力なのだろうか。気にはなったが目的を忘れることなく進んだ先で、魔剣スパーダを発見。

 

壁面に突き刺さった魔剣スパーダをまるで崇めるかのように踊っている悪魔3体が居た。Vが言うにはノーバディという名の悪魔らしい。仮面を付け替えることで能力が変わり、踊ることで魔力を吸収してくるというノーバディは厄介な悪魔であるようだ。Vと共にノーバディを倒した後に、クリフォトの根を破壊しておく。

 

崩れ去ったクリフォトの根と壁面から目的の魔剣スパーダが落ちてきたが、Vが魔剣スパーダを持ち「やはり俺には扱えんか」と言っていた。魔獣グリフォンが「お前には心があっても力がねえ」と気になることを言っていたな。とりあえず魔剣スパーダを運ぼうかと考えているとグリフォンが何かを発見。

 

グリフォンが見つけたのは意識を失っているダンテであった。1ヶ月も行方不明だったダンテが見つかったことは喜ばしいことだ。どうやらダンテの気配を魔剣スパーダが隠していたことと、クリフォトがダンテの生命を維持していたことが、ダンテが生き延びていた理由らしい。

 

生きていたダンテに魔剣スパーダを引き摺りながら近付いたVは、恨み言を言いながら魔剣スパーダを持ち上げてダンテに切っ先を突き立てようとしていた。魔剣スパーダがダンテに突き刺さるかと思った瞬間、目覚めて瞼を開いたダンテの顔の真横に突き立った魔剣スパーダ。

 

「本当に突き刺されるかと思ったぜ」と言ったダンテは1ヶ月間動かしていなかった身体を動かして「身体がバキバキだ」と言っていたな。1ヶ月間飲まず食わずで意識を失っていたわりにはダンテが元気そうで安心した私は、ダンテの姿をスマートフォンで撮影してモリソンにメールでダンテ発見と題名を付けて送っておく。

 

ダンテの生存が確認できたところで私の目的は達成されたのだが、これからも戦いを続けるであろう彼等を置いて帰るのも後味が悪そうなので、レッドグレイブ市に残ることにした。まずはネロがどうなったのか確かめに行くとするか。私はVとダンテにネロの元へ行ってくると言うと全速力でネロの元へと向かう。

 

さて、魔王ユリゼンの元へ向かったネロはどうなっているかな。

 

同月同日

道中の悪魔を倒して進んだ先の扉を開けるとネロは魔王ユリゼンと戦っている真っ最中だった。私はネロに手を貸すことに決めて、ユリゼンが繰り出す攻撃を避けながら赤い結晶のような媒体へと攻撃を続けていく。強固なバリアによって守られているユリゼンに直接攻撃を当てるには媒体を破壊しなければいけない。

 

ネロと交互に媒体へと攻撃を行っていき、媒体が破壊されたところでユリゼンの右手に一太刀浴びせたネロは「ようやく一撃入れてやったぜ」と言っていたな。ユリゼンは斬られた右手の掌を直ぐに癒すと座っていた椅子から立ち上がり「真の力というものを見るがいい」と言い出す。

 

少し本気になったらしいユリゼンが振るう力は、先程とは段違いに強化されていて私とネロは防戦一方となっていた。苛烈なユリゼンの攻撃は確実に私とネロを削っていく。確かにユリゼンは魔王と名乗るだけの力が有る凄まじい悪魔であるらしい。私が今まで相手をしてきた悪魔達とは格が違う。

 

撤退も視野に入れてユリゼンの攻撃を防いでいた私達だが、空から現れたもう1体の悪魔がユリゼンの攻撃を防ぐ。まるで私達を庇うかのように現れたその悪魔がダンテであると、私の勘がそう言っていた。ネロもダンテであると気付いたようだが「見せ場はくれてやる」と言うと倒れたネロ。

 

どうやらネロは体力の限界が来ていたらしい。倒れて気を失っているネロを背負った私は「後は任せたぞ、ダンテ」と言ってからその場を脱出。クリフォトから少し離れたところでネロが目を覚ますまで待っていると見覚えのあるトレーラーが私達の近くに停車した。

 

運転席に乗っているニコが「急いで乗れ!」と言うのでネロを背負ってトレーラーに乗り込んだ。トレーラーが移動している最中、目覚めたネロが「ここは」と言いながら起き上がった。私はネロにここはニコのトレーラーの中だと伝えて、疲れが取れるハーブタブレットがいるか聞いてみる。

 

ハーブタブレットを受け取って口に放り込んだネロは身体の疲れが少し取れたようで「効くな、このハーブタブレット」と驚いていたな。クリフォトが姿を変えているところを見ていたところで視界の端にVが大変そうな状態になっている姿が見えたので、トレーラーから飛び出して救助に向かう。

 

金髪の女性に落下していきそうなところを間一髪掴まれて、ぎりぎりで助かっているV。なんとかVを引き上げようとしている女性を手助けしてVを引き上げていくと「世話になってばかりだな、すまない」とVが謝ってきた。私は気にしていないと言ってトレーラーの場所までVと女性を案内する。

 

金髪の女性の名は、トリッシュというらしい。人間ではなく悪魔であるようだが、Vを助けていたところを見ると悪い悪魔という訳ではないみたいだな。トレーラーにまで辿り着くとちょうどダンテも到着したところだった。全員が揃ったところで、ダンテとネロとVの3人は別々の道からクリフォトの頂上を目指すようである。

 

トリッシュが言うにはクリフォトの頂上とは地下にあるらしい。ユリゼンの目的は、クリフォトが人間の血を吸って頂上に宿す果実を食べて力を得ることのようだ。とりあえず私もユリゼンの元へ向かうことにしようか。私にも何かできることはある筈だからな。

 

とはいえ魔王ユリゼンに今の私では絶対に勝てないだろう。精々足止めができるかどうかといったところだ。

 

まあ、死なない程度に頑張らせてもらうとしようじゃあないか。

 

同月同日

クイックシルバーまで用いて全速力で道中を進んでいくと3つの首を持つ大きな犬が立ち塞がっていた。「立ち去るがいい!この門は魔界の王しか通れぬ!」と言ってきた超大型犬。「散歩が大変そうなワンちゃんだな」と私が言うと「我を愚弄するか!このケルベロス族の王である我を!」と怒っていたな。

 

「なるほど犬種はケルベロスか、ちなみに餌はどの首が最初に食べるのかな」と聞いてみると「我への愚弄は許さぬ!貴様の肉を食らいつくし、骨まで平らげてくれるわ!」と言いながら身体を繋いでいた鎖を外していくキングケルベロス。完全にやる気になっているキングケルベロスに、私は槍を構えて「散歩は無理だが、遊びには付き合ってやろう」と言った。

 

複数の氷柱を降らせてきたキングケルベロスの攻撃を避けながら、伸縮自在の魔槍ボルヴェルクの穂先を伸ばして真正面から振り下ろす。氷による攻撃を行ってくるキングケルベロスの首の1つに魔槍ボルヴェルクで攻撃を続けて怯ませてから、胴体へと深く魔槍ボルヴェルクを突き刺した。

 

ダウンしたキングケルベロスに続けて魔槍ボルヴェルクによる斬撃を繰り出していくと「我を舐めるな!」と言ったキングケルベロスが立ち上がって炎を宿す首で噛みつこうとしてくる。跳躍して噛みつきを回避してキングケルベロスの背に飛び乗ると切っ先を下に向けた魔槍ボルヴェルクを勢いよく振り下ろす。

 

キングケルベロスに突き刺さった魔槍ボルヴェルクを右手で握り、変形させた左腕義手から飛び出した銃口から荷電粒子をキングケルベロスの頭部へ向けて連続で撃ち続けていく。確実にダメージを与えていったところで勢いよく身体を振り回したキングケルベロスによって背から魔槍ボルヴェルクごと引き剥がされた。

 

キングケルベロスは今度は口から横薙ぎにレーザーを放ってくる。クイックシルバーを用いてそれを避けて接近した私は、高速化した状態で魔槍ボルヴェルクを連続で振るう。幾度もキングケルベロスの血を吸った魔槍ボルヴェルクから意思が伝わり、新たな力が目覚めたと報告されることになった。

 

新たな力とやらを使ってみるかと思った私は、魔槍ボルヴェルクの新たな力とやらを解放してみることにする。力を解放すると私の全身は外骨格で覆われていた。溶けた氷の水溜まりに映る黒い骨のような外骨格に覆われた姿は、魔槍ボルヴェルクの本来の持ち主に酷似していたな。

 

黒い骨のような外骨格はパワーアシストスーツと融合しており、向上している身体能力は凄まじい。私は魔槍ボルヴェルクを両手で握り跳躍すると全力の兜割りを繰り出す。穂先も伸ばしてリーチが伸びた全力の兜割りはキングケルベロスの頭頂部から胴体を通過して下半身まで辿り着き、キングケルベロスを真っ二つに両断していたようだ。

 

先程までは出来なかったことができるようになった魔槍ボルヴェルクの新たな力は、確かに凄まじいものであるが、これでもユリゼンに勝てるとは思えない。しかし足止めくらいならできるかもしれないなと考えていた私に、キングケルベロスから現れた雷と炎を纏う氷が近付いてきた。

 

氷に手を伸ばすと私の手の中に、3つの棍が丸い輪に繋がれたヌンチャクが収まっており、私は新たな魔具を手に入れる。氷のヌンチャク形態、炎の棍棒形態、雷の3節棍形態に変化する3つの姿と属性を持つ魔具であるようだ。今回は新たな魔具から意思が伝わってこなかったので魔具の名は、キングケルベロスと名付けておく。

 

門とやらを壊して先に進むことにした私は、キングケルベロスを炎を宿す棍棒形態に変化させると地面に叩きつけた。壊れた地面に開いた穴の先にユリゼンがいる筈だと考えて飛び込もうとした私よりも先に、いつの間にか現れたダンテが「悪いが、俺が1番だ」と言うと穴へと飛び込む。

 

飛び込んだ先で加速していったダンテを追って飛び込もうとした私を足止めするかのように開いていた穴が結界で塞がれる。次々と現れる悪魔の数々を倒していった私は、ようやく結界が壊れて先に進めるようになった穴へと飛び込んだ。到着した先では姿が少し変わったユリゼンの腹部にある眼球にダンテが魔剣を深々と突き刺しているところであった。

 

もう決着がつくところであり、私の出番は必要無かったなと思っているとダンテが魔剣をユリゼンの腹部から引き抜く。倒れ込んだユリゼンが動くことはない。Vに肩を貸しているネロも到着して、これでようやく終わりかと考えていた私の前では、倒れたユリゼンに乗ったVがユリゼンに話しかけていた。

 

Vが杖をユリゼンに振り下ろすと凄まじい光りと衝撃波が広がり、近付くことができなくなる。光りが収まった頃、ユリゼンとVが居た場所には銀髪の1人の男が立っていた。片手に刀を持った男はVが持っていた本を拾い上げると懐にしまい込む。銀髪の刀を持つ男にダンテが「バージル」と言うと「往生際が悪いんだよ!」と言いながら斬りかかる。

 

バージルと呼ばれた男は鞘に納めたままの刀を横に振るってダンテの魔剣を弾くと、続けて鞘で突きを放つ。凄まじい速度で鞘から刀を抜いたバージルは、ダンテに刀で斬りかかるが、魔剣で刀を受け止めたダンテに「今のお前に勝っても意味はない。まずは出直して傷を癒せ」と言ってダンテを容易く吹き飛ばす。

 

吹き飛ばされたダンテが倒れている間に、刀で空間を十字に斬り裂いたバージルは此方に背を向けて横顔だけ此方に向けると「色々と世話になったな、ネロ、ジョン」とだけ言うと斬り裂いた空間の先に消えていく。どうやらバージルにはVであった頃の記憶も残っているらしい。

 

その後は、バージルがネロの父親だということをダンテが語り、困惑していたネロ。敵や味方だった相手が突然自分の父親だと言われたネロが困惑するのも当然だ。私も驚いてはいたが、流石にネロほど戸惑ってはいない。とりあえずトレーラーに戻ることになった私とネロは、トレーラーでクリフォトから離れていく。

 

崩壊していく道を進むトレーラー内で荒れていたネロはニコに「車を停めろ!」と言っていたが聞き入れられることは無かった。「もういい、勝手に行く!」と言いながらトレーラーのドアから飛び出したネロを引き止めようとしたレディがトレーラーから落ちそうになっていたので、トレーラー内に引き戻す。

 

ネロを1人にしておくのも問題がありそうなのでニコ達に「きみ達は避難するんだ」と言った私はネロを追うことにした。どの道をネロが通ったのか勘だけを頼りにして進むと坂道を駆け上がるネロを発見。「誰1人死なせねぇ!」と叫びながら右腕のデビルブレイカーを伸ばすネロ。

 

デビルブレイカーが壊れていき、ネロに生身の右腕が生えたかと思えば、ネロの背からまるで翼のように透けた青い光りの両腕が現れて、凄まじい勢いで跳躍したネロが見えなくなる。直ぐに追いつくのは難しそうだが放っておく訳にはいかない。

 

とりあえずクイックシルバーも用いて全速力で移動して先に進むとネロがバージルとダンテに裏拳を喰らっている姿が見えた。吹き飛ばされたネロを置いて、魔界に向かうダンテとバージルはクリフォトを根元から斬るつもりらしい。バージルが「預けておく」と言って置いていった本を拾い上げたネロは複雑そうな顔をしていたな。

 

殺し合いを止めることはできたネロは目的を達成したが、魔界に行く2人を止めることは出来なかったからだろうな。しかしレッドグレイブ市の魔界化を止める為には誰かが魔界に行かなくてはならなかった。まあ、私は特に心配はしていない。ダンテとバージルは仲良く喧嘩しながらしばらく魔界で過ごしている筈だ。

 

「預けておく」と言ったのだからバージルはきっと返してもらいに来るだろう。その時はダンテも一緒に帰ってくることは確実だな。だからあまり心配はしていない。レッドグレイブ市での騒動が終わった帰り道で、ニコが運転するトレーラーに乗りながら私はこの日記を書いている。

 

途中まで乗せてもらうことになるトレーラーの後部でニコとネロのやり取りを見ていると、ニコがネロをからかっていた。とても楽しそうだなと思ったので私は邪魔をすることは無かったが、トレーラーの先にまだ残っていた悪魔達が現れる。

 

どうやら今日の日記は、ここまでらしい。随分と長くなったがこんな日もあるか。続きは明日書くとしよう。

 

日記を閉じて懐にしまうとトレーラーから外に出る。ネロの右腕は好きに生やすことも消すこともできるようで、今はニコから受け取ったデビルブレイカーが右腕に装着されていた。ネロと並んで悪魔の前に立つ。

 

「良い声で哭いてみな!」

とデビルブレイカーから電撃を放ちながら言い放ったネロの隣で私は、魔槍ボルヴェルクを構える。

 

「哭いたところで許しはしないがな」

 

そう言って私は悪魔を魔槍ボルヴェルクで貫く。

 

「さて、最後に一仕事しておくとするか」

 

縦横無尽に魔槍ボルヴェルクを振るいながら、私は笑った。




ネタバレ注意
デビルメイクライ5の登場人物

ネロ
移動式便利屋デビルメイクライで悪魔退治を生業とする青年
ある事件をきっかけに悪魔の右腕デビルブリンガーを失ってしまうがニコの協力を得て新たな兵装であるデビルブレイカーを手に入れて侵攻を始めた悪魔達に立ち向かう
終盤で真の力に目覚めて背から生えた悪魔の腕であるデビルブリンガーと魔人化の力を手にすることになる
父親であるバージルに打ち勝ったネロは、ダンテとバージルの殺し合いを止めることに成功
魔界へ行くダンテに人間界を任されることになった

ダンテ
便利屋デビルメイクライのオーナーで、伝説級の強さを誇るデビルハンター
魔族でありながら人間界を救った英雄スパーダと、人間の女性エヴァの間に生まれた半魔の存在
過去に幾度もの苦闘を乗り越え、並み居る悪魔どもの侵攻を退けてきた
いかなる窮地でも余裕の笑みを絶やさないタフガイ
ある依頼主からの仕事を受け、倒魔の地に向かう
魔王ユリゼンに1度は敗北するがユリゼンに折られたリベリオンと魔剣スパーダを融合させて新たな力、真魔人の力と新たな魔剣、魔剣ダンテの力でユリゼンを瀕死にまで追い込む
その後、復活したバージルと決着を着ける為に戦うが戦いの最中に割り込んできたネロによってダウンさせられることになる
ネロに人間界を任せて魔界に行った後は、殺し合いではない勝負をバージルと続けていた


杖と詩集を携え、印象的なタトゥーを纏った痩身の男
レッドクレイブ市での騒乱が拡大する以前に、情報屋モリソンを通じてダンテの元を訪ね、ある魔物の討伐依頼を持ち込んだ
本人に戦う力はほとんど無く、戦闘の際は付き従わせた3体の魔獣に攻撃を命じる
その正体は人と魔を別つ閻魔刀によって別たれたバージルの人としての部分
閻魔刀によって別たれた悪魔の部分はユリゼンとなり、完全なる悪魔となった
最終的にVはユリゼンと融合しバージルとなって戻ってくる

ニコ
ネロと行動を共にする自称武器アーティスト
一流の武器職人ニール・ゴールドスタインを祖母に持つ
隻腕のネロの為に特殊な義手であるデビルブレイカーを造る

レディ
過去のとある事件でダンテと知り合い、紆余曲折を経た現在はハンターの仕事で共闘することも
割の合わない仕事は他人に押し付けて仲介料を取り立てるなど、ビジネスには厳しい一面がある
ユリゼンに敗れて捕まり、アルテミスという悪魔の体内に捕らわれることになるが、ネロによって助けられた

トリッシュ
ダンテの母エヴァと酷似した容姿を持つ美麗な悪魔
かつてはダンテと敵対したこともあったが、命を救われたのちに改心し、今では相棒のような関係となった
気まぐれな性格で、ダンテとも付かず離れずの微妙な関係を保っている
ユリゼンに敗北し捕まり、キャバリエーレアンジェロの体内に捕らわれていたがダンテによって助け出された
ちなみに破壊されたキャバリエーレアンジェロと壊れたバイクが合体して、キャバリエーレというバイクの魔具となる

モリソン
仲介屋の男性
ダンテとは旧知の仲であり、彼の事務所にさまざまな仕事を持ってくる
もって回す言い方を好む皮肉屋だが、ダンテの腕は高く買っている

バージル
ダンテの双子の兄
父親であるスパーダからは閻魔刀を受け継いだ
かつてダンテと戦い敗れ、魔界に落ち、魔帝ムンドゥスに敗北
改造され、ネロアンジェロとしてダンテと再び戦うことになるがダンテによって倒された
しかしバージルは死んでおらず、ネロの元へ向かい、デビルブリンガーと閻魔刀を奪う
その後、閻魔刀により人と魔を別つと悪魔ユリゼンとVに別れることになった
バージルとして戻ってきた後は、ダンテと戦い決着を着けることを望むが、割り込んできたネロに敗北して、ダンテとの殺し合いは止めた
それからはダンテと共に魔界へ行き、クリフォトの根を断つとダンテとの殺し合いではない戦いを続けている


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血界戦線編

デビルメイクライ5編以降の主人公です


 月 日

異界と現世が交わる都市、ヘルサレムズ・ロット。この街で巻き起こる出来事に有り得ないことなどなく、こうして異世界からの望まぬ来訪者である私もヘルサレムズ・ロットで暮らすことを余儀なくされている。事の始まりは自宅の空間に開いた人が通れるほどの穴だ。

 

その穴の向こう側には街並みが見えたが、住人に異形が混ざっており、どう見ても普通の街並みではなかった。そして特に問題だったのは、穴がまるで掃除機のように周囲にあるものを吸い込んでいくことである。凄まじい吸引力で大きな穴に吸い込まれかけたエヴリンと息子を庇って、代わりに私が吸い込まれることになった。

 

どうやらその穴は、私の居た世界とこの異世界を繋ぐ穴であったようで、私と家財道具一式を吸い込むと目的を達成したかのように穴は閉じてしまう。突如として放り出された街並みの中で、とりあえず家財道具一式を纏めて担ぎ、売れそうなところを捜してみることにした私は、発見した何でも買い取るという質屋で家財道具一式を売って金銭を手にした。

 

そしてゼーロという通貨が使われているということを知ることになる。ある程度まとまった金を入手することができたところで、金を持っているものが絡まれるのはこの世界でも変わっていないようであり、異形達に絡まれることになったが、言語が理解できる内容だったので少し安心したな。

 

魔槍ボルヴェルクとキングケルベロスは身体に宿しているのでいつでも取り出せたが、そこまで脅威になる相手ではないと勘が言っていたことから素手で相手をしてやることにして、異形達を全員返り討ちにしておく。するとそれを見ていたらしい別の異形が話しかけてきた。

 

「兄ちゃんうちで戦ってみねぇか」と言った異形はオズマルドと名乗り、地下格闘場エデンのオーナーであると自己紹介してくる。「地下格闘場で闘士として戦えば報酬は弾むぜ兄ちゃん」と言うオズマルドに金銭ではなく情報を頼みたいと言った私は、明らかに私の居た場所とかけ離れたこの世界に関する情報を入手する為に闘士となることを決めた。

 

地下格闘場エデンに案内された私は、武器の使用を禁じて1対1の素手で勝負するというルールを守れば後はルール無用と説明を受けてリングに上がることになり、義手を外して審判に手渡す。義手も私にとっては武器であるという認識であったからだ。私がエデンで戦う最初の相手は人間であるかと思えば、乱入してきた甲殻で覆われた異形が私の対戦相手を殴り飛ばした。

 

「テメエらは俺らにブッ壊されてりゃいいんだよ弱小種族が!ましてや片腕の人間に何ができる!」と言ってきた甲殻の大柄な異形が私の初対戦となったが、賭け試合である戦いで対戦相手が代わったことでオーナーは速攻で発券をやり直させており、ゴングが鳴るまでしばらく待つことになったな。

 

相手が甲殻種であると判断した私は、甲殻の接合部を狙い右拳を叩き込んでいき、対戦相手に何もさせず倒すことに成功した。観客から大歓声が上がることになったので掴みとしての初試合は悪くはない結果だと言えるだろう。審判が「片腕でジャグラノーズを倒すとは、とんでもないな。あいつあれでも一応うちの看板なんだがね」と私に驚いていたようだ。

 

まだまだいけると判断した私は次から次へと現れる対戦相手を次々と倒していき、13連戦を戦うことになる。最終的には現チャンプまで倒して地下格闘場エデン最強の人間として有名になってしまった私は、エデンのオーナーであるオズマルドから必要になるであろう情報を受け取ることになり、ようやくこの世界が異世界であると知った。

 

街の名前がヘルサレムズ・ロットであることもこの時に知ることになったな。3年前、かつてニューヨークがあった街は、異界と現世が交わる都市となっており、見るからに異形の存在達が平然と街中を歩いている。異界存在と人間達が住まう都市では基本的には何でも有りだということも知ることになった。ならば元の世界に帰る方法もある筈だろう。

 

という訳で元の世界に帰還する為の情報を集めることに決めて、オズマルドには世界を越える為の情報を集めるように頼んでいた私は、エデンの闘士としてしばらく活動しながら情報収集に励んだ。オズマルドから得られる情報に限界がきたところでエデンで最後に20連戦して闘士としての活動を辞めることにしたが、随分とオズマルドには惜しまれていたような気がする。

 

まあ、私がエデンで戦うことは、もうあるまい。

 

 月 日

日夜ヘルサレムズ・ロットで比較的安全な店で働きながら金を稼いでは様々な情報屋から情報を買い取るということを行っており、ヘルサレムズ・ロットでの生活にも慣れてきたところで騒動に巻き込まれることになった。音楽狂いとも呼ばれている存在が、時間を巻き戻す魔術と物質転移魔術を用いてまで手に入れたがっていたベインハイザーマークゼロというヘッドフォンのプロトタイプ。

 

何が間違ったのかそれが何故か私の前に落ちてきて、ベインハイザーマークゼロを拾った私に襲いくる音楽狂いと音楽狂いに似たような考えの者達。私が魔槍ボルヴェルクやキングケルベロスまで使って全力で応戦してようやく倒せた音楽狂い達は、かなりの強敵であったがパワーアシストスーツを着用していればもう少し楽に倒せたかもしれない。

 

自宅で過ごしていたのでパワーアシストスーツを着用していないまま、異世界の都市であるヘルサレムズ・ロットに飛ばされてしまったが、ある程度の相手ならば魔槍ボルヴェルクとキングケルベロスにクイックシルバーの力を使えば負けることはなかった。それでも苦戦した音楽狂い達は、厄介な相手であったことは確かだ。

 

ベインハイザーマークゼロはプロトタイプの制作直後、設計者が発狂して研究所に放火し、工学的に再現不可能になったままお蔵入りになった幻の超高級音響機器である。一説ではあまりの完成度に神からの啓示が聞こえたというベインハイザーマークゼロを手にする為に全力を費やしていた音楽狂いは、確かに狂っていたのかもしれないな。

 

ちなみに私が入手したベインハイザーマークゼロというヘッドフォンをどうしたかというと、物凄く欲しがっていた少女に譲渡することにしたので手元には残っていない。私がヘッドフォンを渡した少女の名はミラ・ゴードン。サイボーグ軍事企業であるヴァルハラ・ダイナミクスの経営者だ。

 

とても貴重であるらしいヘッドフォンを渡してからミラには「私の専属秘書兼護衛になれ!」と出会う度に言われるようになってしまったが、音楽狂いとの一件にミラも関わっていたらしい。ミラは部下のサイボーグ部隊を派遣して音楽狂いからベインハイザーマークゼロを奪い取ろうとしていたみたいがサイボーグ部隊が全滅して失敗に終わっていたようだ。

 

音楽狂いを倒した私が現在の部下達よりも役に立つ筈だと考えているミラは、私を自分の陣営に取り込みたいと思っているのかもしれない。軍事企業ではあるが大企業であることは確かであるので入手できる情報も多い筈だと考えた私は、とりあえず期間限定で専属秘書兼護衛の仕事を引き受けてみることにした。

 

さて、期間限定ではあるが仕事はきっちりとこなすとしよう。

 

 月 日

音楽を聴いているミラには音楽を聴き終わるまで話しかけることもなく、ミラがすっかり愛用しているベインハイザーマークゼロが音楽を流すことを止めれば素早く仕事の話をミラに伝えて秘書として円滑に話を進めていき、護衛として動く時はミラを完璧に守り、かすり傷すらもつけないようにしていく。

 

秘書としても護衛としてもしっかり真面目に働いているとミラは、私に色々なことを聞いてくるようになった。まず最初に聞いてきたのが「好きな音楽は何だ?」ということであったのはミラらしいかもしれない。

 

「テンポの良い曲が好きですね」と雇い主に丁寧な言葉を使いながら以前ネロやニコと一緒に聴いたDevilTriggerを歌う私へ「ジョンは歌も上手いな」と笑ったミラは、最初に出会った頃に比べると年相応に感情表現が豊かになっていたな。

 

それからは私と一緒に居る時は、よく笑うようになったミラの頼みで、私は元の世界の歌をいくつか歌うことになった。この世界では誰も知らない歌が聴けたミラはとても喜んでいたので、歌い上げた私の声も悪くはなかったらしい。よほど気に入ったようで「設備を用意するから、また歌ってくれ!録音する!」とまでミラは言ってくる。

 

予定をしっかりと確認してミラのスケジュールが詰まっているので無理だと私が言うと「どうせ幾つかはキャンセルしていい予定がある筈だ!」とミラは言い出す。結局は、とある企業からの技術提携の提案を断り、強引にスケジュールに空白を作ったミラの熱意に負ける形で、設備の整った場所で歌を歌うことになった。

 

私の歌声を録音したミラは、私が譲渡したベインハイザーマークゼロで早速聴いてみたらしい。夢中になって聴いていたのでしばらくは話しかけないようにしておいたが、歌を聴き終えたミラが「ジョンは歌手になっても食っていけるんじゃないか?」と言ってきた。

 

今の私は貴女の秘書兼護衛ですよと言葉を返した私に「今度また歌ってくれジョン」と言うミラは、私の歌う異世界の歌がすっかり気に入ってしまっていたようだ。私はミラの秘書兼護衛として雇われているんだが、これはどう考えても業務外のような気がするな。

 

まあ、別途で報酬も用意されていたので歌った甲斐はあったのかもしれない。無駄働きという訳ではないだろう。

 

ミラとの雇用関係を良好にしておくのは悪いことではないか。

 

 月 日

秘書兼護衛の仕事は必要な情報が集まるまでの期間限定だと雇われる前にミラには最初に伝えていたんだが期間の延長をミラが頼んできた。しかし私は、いつまでもこの世界で暮らす訳にはいかないので期間の延長は断り、ミラの秘書兼護衛としての最後の仕事を終わらせる。

 

するとミラの部下達であるサイボーグ達が私を捕らえようとしてきた。どうやらミラからの指示であるようで、ミラは私を手元に置いておきたいらしい。最新式の軍事サイボーグであろうとクイックシルバーを使った私に追い付ける速度は無く、魔槍ボルヴェルクに切り裂けない強度ではなかった。

 

問題なくサイボーグ達を無力化した私はミラの元へ行き「思い通りにならないものがあるということを知りなさい。だから危険な相手を刺激するようなことはあまりしないように気をつけるんだよ。私は、もうきみの護衛ではないのだからね」と一応伝えてはおいたがミラの今後がどうなるかはわからない。

 

私が立ち去る時にミラが此方に手を伸ばしていたことにも気付いたが、既に雇用関係が解消された私がその手を取ることはなく、迷うことなくヴァルハラ・ダイナミクス社から出ていった。単なる雇われに過ぎなかった私のことは忘れてくれると助かるな。

 

充分な情報を得ることはできたが私の望みを叶える為にはプロスフェアーというチェスと将棋の発展形であるゲームを学ぶ必要があるらしい。

 

まずはプロスフェアーのルールの確認から始めるとしようか。

 

 月 日

プロスフェアーを学び、入手したノートパソコンでプロスフェアーのネット対戦を繰り返す日々が続いていたが、このプロスフェアーというゲームが中々に興味深いゲームであると理解できた。プロスフェアーは実力が拮抗する程、複雑さが増していき、加えて時間が経つ程、指数関数的に難度が上がっていく。

 

大抵の相手には勝てる程度にはプロスフェアーの実力が向上した私でも、ヤマカワという相手には、まだ勝てていない。残りの人生が懸かったプロスフェアーに挑むには、まだ私は実力不足ということだろう。とりあえずヤマカワさんに勝てるようになるまでプロスフェアーのネット対戦は続けるとするかな。

 

そんなことを考えていると街中にある大画面のモニターに堕落王フェムトが映し出された。半分に割ったまま生かしてある邪神のもう半分が13分に1度、1ナノ秒だけゲートが解放されて触手刀で周囲を斬撃すると楽しげに言ったフェムトは、つまり13分に1度街のどこかで真っ二つパーティーが起こるって寸法だと笑う。

 

周囲を見渡していると街中にある建物が1つ程、斜めに斬り裂かれていく姿が見えた。どうやらあそこが邪神の半身が解放された場所であるようだ。邪神を解放するゲートを破壊しなければ今以上に凄まじい被害となることは間違いない。13分ごとにゲートが解放される度に、真っ二つになっていくものが増えていく街中。

 

勘に従って向かった先で猿を追う邪神の半身を発見。私の勘によれば猿を殺した場合、邪神が合体し完全となるだろう。よく当たる私の勘が外れたことはない。とにかく猿を確保した方が良さそうだと考えた私はクイックシルバーを用いて猿を捕まえると邪神の半身から距離を取る。

 

追ってくる邪神の前に立ち塞がった銀髪の褐色の肌色をした男が、どうやら邪神の半身の足止めをしてくれていたようだった。猿を抱えていた私に近付いてきた青年が「猿を見せてください!」と言ってきたので直感に従い、猿を見せると猿についていたノミを潰した青年。邪神を解放するゲートの正体は猿についていたノミであったらしい。

 

猿は青年になついたようで、私の腕の中から離れて青年の肩に乗った。私は猿を捕まえたくらいで特に役立った覚えはないんだが、青年は「この猿を捕まえてくれてありがとうございます!」と感謝をしてくる。これも何かの縁かと思って名を名乗っておくと青年も自己紹介をしてくれた。

 

青年の名は、レオナルド・ウォッチというらしい。邪神を足止めしてくれた銀髪で褐色肌の男はザップ・レンフロというそうだ。騒動が終わったところで平穏を取り戻したヘルサレムズ・ロット。異界と現世が交わる都市に住む人々はこんな騒動には慣れており、街中が荒れていても直ぐに復興がされていく。

 

危機と隣り合わせであっても逞しく生きていく人々は、ヘルサレムズ・ロットに順応していたな。

 

早めに元の世界に帰らなければ私も慣れてしまいそうだ。

 

 月 日

店が壊れていても営業中であるカフェ、ダイアンズダイナーでレオナルドくんが店の手伝いとしてポリバケツを運んでいる姿を横目で見ながら無事だった席で朝食のサンドイッチを食べ終えると、持ち歩いているノートパソコンでプロスフェアーのネット対戦を行う。ヤマカワさんを相手にプロスフェアーで勝負していくと結果は敗北となった。

 

やるじゃないかヤマカワさんと私が言っていると赤髪に眼鏡をかけた下顎の犬歯が口から突き出た強面の大男が近付いてくる。「今ヤマカワさんと確かに聞こえたが、もしやヤマカワさんとプロスフェアーを?」と言った赤髪の強面。私はジョンと言いますが、貴方のお名前を聞いてもと私が言うと「これは失礼した。わたしはクラウス・V・ラインヘルツだ」と言ってきた赤髪の強面は物腰がとても丁寧であった。

 

外見で人は判断してはいけないなと思っていると「今度ネット対戦で、わたしとプロスフェアーをしてみるのはどうだろうかジョンくん」と言ったクラウスくん。たまにはヤマカワさん以外と勝負してみるのも悪くはないかと思った私は、クラウスくんからの申し出を有り難く受けることにしてパソコンのメールアドレスを交換。

 

その後昼頃にクラウスくんからメールが届いてプロスフェアーのネット対戦を挑まれることになる。クラウスくんとのプロスフェアーは、純粋にプロスフェアーというゲームを楽しめることができる勝負であり、とても良い1局だったと素直に言えるプロスフェアーであった。

 

クラウスくんとのプロスフェアーの結果は私の勝利となり、プロスフェアーを楽しむ気持ちというものが大切だということを知ることになった1局。それからもクラウスくんに再戦を挑まれてプロスフェアーを行っていき、勝利を積み重ねていった私は、プロスフェアーを更に理解することができたような気がした。

 

ここぞという時のクラウスくんの粘りも参考にした私は、再びヤマカワさんに勝負を挑んだが今度は引き分けという結果に終わる。しかし確実に進歩していることは間違いない。敗北から引き分けに持ち込めたのならば、次は勝利を目指すだけだ。1歩1歩進んでいくとしよう。

 

 月 日

何故かパソコンにクラウスくんからお礼のメールが届いた。理由を聞くと「ヤマカワさんとジョンくんとの対局がわたしに力を与えてくれたのだ」という答えが返ってきたので、以前行ったプロスフェアーでの対局が何かしらの役には立ったらしい。

 

近頃出回っていたエンジェルスケイルという麻薬が裏で流れることが無くなった影には、秘密結社ライブラの活躍があったと噂されている。そんなライブラの関係者と既に出会っていると私の勘は言っているが、追求はしない方が良いとも私の勘は言っているので追求することはない。

 

何はともあれ今日もヤマカワさんとプロスフェアーを行っていく。ヤマカワさんとのネット対戦の戦績としては、引き分け3回、敗北56回という負け越しとなっているが、私が引き分けができるようになってからヤマカワさんは本気を出してきたのかもしれないな。

 

ヤマカワさんが以前よりも更に強くなっていると感じたのは間違いではないだろう。今まではヤマカワさんに手加減されていたということだ。今のヤマカワさんに勝利するのは現在の私では難しい。更にプロスフェアーを研鑽する必要がある。最近は寝ても覚めてもプロスフェアーを行っているような気がするが、元の世界に帰る為には全力を尽くさなければ駄目だ。

 

早く帰って家族を安心させたいが焦っても仕方がないか。

 

今はプロスフェアーの腕を磨くとしよう。

 

 月 日

最近は部屋に閉じこもってヤマカワさん以外とはプロスフェアーを行っていなかったので、クラウスくんとプロスフェアーを行うことにして気持ちをリフレッシュしていく。久しぶりのクラウスくんとのプロスフェアーは、私に今までとは違う新たな戦法を思いつかせることになる。

 

クラウスくんには粘られたが勝利することができた。「素晴らしい対局だった」とクラウスくんからパソコンのメールで感想が送られてきたので、此方こそプロスフェアーを楽しめたのでありがとうございますと返信しておく。思い付いた新たな戦法を使ってヤマカワさんとプロスフェアーで戦うことにした私は、ヤマカワさんに再び挑戦していった。

 

結果としては遂にヤマカワさんから勝利をもぎ取ることができたので、新たな戦法は悪い戦法ではないようだ。ヤマカワさんとのプロスフェアーの戦績としては、ようやく1回勝利、引き分け25回、敗北226回と、やはり負け越しであるが、この勝利は誇れるものであるだろう。

 

確かに勝利は勝利だが、まだまだ私はプロスフェアーに関しては未熟者であると感じた。人生を懸けたゲームに挑むには、まだ早いと判断した私は、ヤマカワさんに再び勝利する為にプロスフェアーで挑む。結果としては再び敗北となり、ヤマカワさんの実力の高さがよくわかる勝負だった。

 

やはりヤマカワさんは高い壁であるらしい。

 

だがそれでも乗り越えてみせるとしようか。

 

 月 日

レオナルドくん達が号泣しながら寿司屋で寿司を食っている場面に遭遇することになったが、いったい何があったのだろう。随分と腹を空かしていたのか、凄い勢いで次々と皿を空にしていくレオナルドくん達は、止まることなく寿司を食っていく。

 

見覚えのない異形がレオナルドくん達と一緒に寿司を食っていたが生魚が苦手なようだったな。

 

まあ、好みというものは誰にでもあるものだ。

 

 月 日

ヤマカワさんに合計で25勝することができた私は、来るべき時が来たと感じた。今日私は人生を懸けたプロスフェアーに挑むことになる。これから向かう場所に居るドン・アルルエル・エルカ・フルグルシュという神性存在とも並び称される異界側でも有数の顔役と私はプロスフェアーを行うのだ。

 

無類のプロスフェアー愛好家であるドン・アルルエル・エルカ・フルグルシュは、プロスフェアーが好きでたまらないらしく、人生を懸けた対局で願いを叶えると言われている。私が元の世界に帰る為には必要な試練ということになるだろう。

 

タクシーの運転手が運転するタクシーの後部座席で、私はこの日記を書いている。ドン・アルルエルに敗北すれば、元の世界に帰るどころか残りの人生まで奪われてしまうが、不思議と心は落ち着いていた。どんな時でも平常心を保つことができているのは悪いことではないな。

 

ようやく目的地に到着した。タクシーの運転手には料金以外にも手持ちのゼーロをチップとして全て渡しておき、目的の場所まで進んでいくとしよう。

 

今日の日記は、これまでだ。

 

日記を閉じてネジれた廊下を進んでいくと扉の前で振動を感じた。随分と深い所まで降ろされたらしい。完全に異界である部屋に入ると異形が3体居り、中央の異形がドン・アルルエルであるようだ。

 

「ようこそ、さて早速始めるとしようか」

 

歓迎しながらそう言ったドン・アルルエルの前にプロスフェアーのボードが形成されていく。次に作り上げられた庵に入ると一面が真っ白な空間で対面に立つドン・アルルエルとプロスフェアーのボードだけが浮いていた。

 

「時忘れの庵だ。遊戯は何者にも縛られず純粋に心ゆくまで楽しまれねばならない。それは時間の枷とて例外ではない」

 

ドン・アルルエルにとっては時間の流れすら支配の内であることは確かであるらしい。

 

「では、望みを訊こう」

 

「その大きさに応じて遊戯の長さを決める。大それた欲望を叶えるつもりなら、わたしもそれなりに楽しませて貰わねば」

 

此方の望みを訊いてきたドン・アルルエルに私は、この世界に来てから片時も忘れずに望み続けたことを言葉にする。

 

「私を元の世界の元の時間に戻してくれ」

 

「その願いは30時間のゲームに値する」

 

と私の願いが叶うことであると肯定してくれたドン・アルルエルに元の世界に帰る希望を得た私は、やる気に満ち溢れていたことは確かだ。

 

「早指しで30時間。投了させればもちろん。逃げ切りでも引き分けでも君の勝ちだ」

 

「そうか、ではプロスフェアーを始めよう」

 

いつの間にか背後に用意されていた椅子に座って、私は人生を懸けたプロスフェアーを始めていく。

 

それからプロスフェアーが15時間を過ぎた所でドン・アルルエルが話しかけてきた。

 

「君は異なる世界から来たようだが、残りの人生を懸けてまで帰りたい世界なのかね」

 

「ああ、必ず帰らなければいけない世界だよ。なにしろ愛する家族がいるからね」

 

そう言って笑った私にドン・アルルエルも楽しげに笑う。

 

「くっくっく。早指しで15時間を過ぎて笑える余裕があるとは凄まじいな、どうやら君は普通の人間ではないらしい。30時間は短かったかもしれんな」

 

「おっと時間を延長するのは無しにして頂きたい所だな、そこは頼むよ、ご老体」

 

ドン・アルルエルに釘を刺した私に対して、更に楽しげに笑ったドン・アルルエルは攻め手を激しくすることで応えた。

 

時間内に此方を喰い破るつもりであるドン・アルルエルを相手にしていても落ち着いていた私は、冷静に駒を動かす。

 

「ほう、君はわたしとのプロスフェアーを楽しんでくれているようだね」

 

嬉しそうな声で言ったドン・アルルエルは続けて言葉を発する。

 

「わたしとのプロスフェアーを楽しんでくれる相手は、君が初めてかもしれないな」

 

感慨深いといった様子でそう言ってきたドン・アルルエルは、喜びを隠せていない。

 

「遊戯とは楽しむものだ。わたしだけが楽しんでいるのは不公平のような気がしていたのだが、今回は違うようだな。悪くないプロスフェアーだよ、ジョン君」

 

「じゃあ、あと10時間。充分楽しんでもらおうか、ご老体」

 

とてもとても楽しそうなドン・アルルエルに対して、きっぱりと言い切った私は駒を動かす手を止めることはない。

 

「くっくっく。是が非でも君の残りの人生が欲しくなったよ、ジョン君」

 

笑いながら早指しを続けていくドン・アルルエルは更に苛烈な攻めを行ってきたが、私は危うげなく受け流していく。時間は更に過ぎていき、残りの時間はあと僅かとなっていった。

 

「残りは10分か、よくぞここまできたと言っておこうかジョン君」

 

「それはどうも」

 

「君のような指し手と巡りあうことは、奇跡と言っても過言ではないよ」

 

「褒められても負けませんよ、ご老体」

 

「残りは5分となった。このままでは逃げ切られてしまうのは確実だな」

 

「逃げ切りでも勝ちは勝ちだ」

 

「だが、悪くない戦いであったよジョン君。久しぶりにとても楽しかった」

 

「楽しんでもらえたならいいさ」

 

会話を続けながらも交互に行われる早指しは止まることなく続いていき、駒が目まぐるしく移動していく。

 

「30時間。逃げ切りで君の勝ちだジョン君」

 

「それでは約束を果たしてくれないか、ご老体」

 

「うむ、君と出会えたことをわたしは忘れずに覚えておこう」

 

指を鳴らしたドン・アルルエルの隣の空間に穴が開いた。人が通れるくらいに大きな穴の向こう側に私には見慣れた部屋の姿が見えている。

 

「この穴を通れば、君は元の世界の元の時間に帰れるだろう」

 

「感謝するよ、ご老体」

 

「勝者の望みを叶えるのは当然のことだ」

 

「貴方とは2度と会うことがないように願っておくよ」

 

「わたしは再び君と指せるなら歓迎するがね」

 

「それは遠慮させてもらいたいところだな」

 

最後にそう言った私は、ドン・アルルエルが開いた穴に入っていくと見慣れた部屋へと辿り着いた。家財道具一式が無くなっているが確かに自宅の部屋の中だ。

 

「僕達の代わりにパパが穴に吸い込まれて!」

 

「ママ、気をつけて!」

 

と言っている息子とエヴリンの声が聞こえてきたので、帰ってこれたことが実感できた私は、声が聞こえる場所まで向かう。

 

「ただいま」

 

そう言って私は愛する家族達を抱きしめた。




ネタバレ注意
血界戦線の登場人物

クラウス・V・ラインヘルツ
秘密結社ライブラのリーダー
愚直なまでの意志と強さを持ち、赤毛で巨躯と威圧感のある存在だが物腰は穏やかかつ紳士的
ブレングリード血闘術の使い手
ドン・アルルエルと99時間にも及ぶプロスフェアーを耐えきって逃げ切った男
吸血鬼であるブラットブリードの名を知ることで封印することができる唯一の存在でもある
ザップに騙されて地下格闘場エデンで戦うことになった時は、戦っている内にノリノリになってしまうこともあり、ごぼう抜きでエデンの現チャンプまで素手で倒す
その後はエデンのオーナーであるオズマルドを相手に戦うことになり、左拳の拳をオズマルドに叩き込んで頭部を粉砕してしまうことになったが、オズマルドは死体であり、中にはブラットブリードが入り込んでいた

ザップ・レンフロ
秘密結社ライブラのメンバー
銀髪に褐色の肌をした陽気なチンピラ
後輩には面倒見が良い
発火する血液を刃状にしたり様々な形に変える斗流血法カグツチを使いこなす
私生活は完全に女のヒモであり、借金まみれのダメ人間
仲間にさえ度しがたい人間のクズとまで言われる存在
素手でクラウスに定期的に戦いを挑むが返り討ちにあっている

レオナルド・ウォッチ
秘密結社ライブラのメンバー
普通の少年だったが、とある事件から妹の視力と引き換えに神々の義眼を持つことになる
戦闘力は低い
妹を大切に思っておりライブラでの給料の殆どを妹へ仕送りとして送っている
神々の義眼を得た事件で何も出来なかったことを後悔しており、それが深い傷となっていたがクラウスの「光に向かって一歩でも進もうとしている限り、人間の魂が真に敗北することなど断じて無い」という言葉を支えにレオナルド・ウォッチは前を向いた
ブラットブリードの名を神々の義眼なら読み取ることができるので、対ブラットブリード戦においてレオナルドとクラウスが切り札となる

ツェッド
秘密結社ライブラのメンバー
風を操る斗流血法シナトベの使い手
人間ではなく魚と人間を合成して作られた異形である
陸上での生活には特注品のボンベであるエアギルスが欠かせない
魚を食べることには抵抗はないが生魚が苦手であるようだ
言葉づかいは丁寧であるがザップとは性格が合わないらしく、いがみ合う様子を見せることもある
しかし戦闘では斗流血法の使い手同士として息の合った抜群の連携を見せる

オズマルド
地下格闘場エデンのオーナーにして元エデン不倒チャンピオン
ザップの借金をチャラにするという条件でクラウスを地下格闘場で戦わせていたが、クラウスの戦いぶりに自分が戦いたくなってクラウスの前に立った
その正体は死体に取り憑いていたブラットブリードであり、クラウスの一撃で死体の頭部を破壊されるとクラウスを吹き飛ばして地下格闘場エデンから姿を消す

ミラ・ゴードン
サイボーグ軍事企業であるヴァルハラ・ダイナミクスを経営している少女
ヘルメットのようなヘッドフォンを常に身につけており、素顔がわかることはない
ザップの弟弟子であるツェッドのエアギルスをベインハイザーマークゼロだと勘違いして部下のサイボーグ達に奪わせるがライブラに所属するメンバーによる報復を受けることになる


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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか編 前編

思ったよりも長くなりそうだったので、とりあえず前編として更新しておきます
血界戦線編以降の主人公です


 月 日

私は自室で椅子に座りながら紅茶を飲んでいた筈だが、突如として眩い閃光に包まれたかと思えば、見知らぬ街に座っていた椅子と持っていた紅茶ごと移動していた。とりあえず持っていた紅茶を飲み干してから行動に移ることにした私は街並みを見ながら紅茶を飲んでいく。

 

まるで中世のような街並みを耳の長いエルフや、頭部に獣の耳が生えた獣人が歩いている。どうやら私は、また異世界に来てしまったらしい。以前ヘルサレムズ・ロットに移動した時の経験を踏まえて、一見普通の衣服に見えるパワーアシストスーツを出来る限り着用しているようにしていたのは正解だったようだ。

 

椅子とティーカップを持って歩いている私を奇妙なものを見るかのように見ていた人々の視線を感じながら、情報収集をしていった私は色々な情報を入手することができた。使われている通貨の名はヴァリスであり、この都市の名はオラリオで、天界から下界に降りてきた神々が実在しており、人間を眷族としてファミリアを作っているとのことだ。

 

神の眷族となった冒険者と呼ばれる彼等はダンジョンに潜ってモンスターから魔石を取ったり、モンスターが落とすドロップアイテムを入手したり、ダンジョン内で採集などを行って生活をしているらしい。オラリオは冒険者の街だと言えるだろう。

 

神々は神の力を使うことなく過ごしているようで、神の力を使ったものは天界に送還されてしまうようだ。今日天界に送還された神がいたらしく、神の力を使ってしまったから送還されたと情報が出回っていた。しかし神の力を使ったわりには何も起こっていないと他の神々は不思議に思っているようである。

 

天界に送還された神が使った神の力とやらでこの世界に呼び出されたのだと、私の勘が言っていた。なんとも傍迷惑なことをしてくれたものだ。この世界では神々は娯楽を求めて下界に降りてきたようだが、基本的にろくなことをしないみたいだな。

 

この世界に何故呼び出されたのか、その理由は理解できたが、私が異世界からの来訪者であることを娯楽に餓えている神々に知られることはまずいだろう。飽きるまで付きまとわれてしまいそうだ。神々は人の嘘がわかるようなので、言い回しには注意しなければいけない。

 

何処から来たのかと聞かれたらオラリオとは遠く離れた場所から来たとでも言っておくとしようか。それなら嘘になるということはない筈だ。生きていく為には金銭が必要になるので、とりあえずヴァリスを稼ぐことが最優先になる。何をするにも金は必要となるものだからな。

 

ダンジョンに向かおうと歩いているとじゃが丸くんとやらが売っている屋台を発見。良い匂いがして空腹には堪えたが、買うヴァリスが無いので歩き去ろうとしたところで屋台が店じまいとなった。屋台から出てきた少女は人間ではなく女神であるようであり、売れ残りを貰ったのかじゃが丸くんを3つ持ちながら鼻歌を歌っている。

 

そんな女神と目があって、しばらく見つめあうこと数秒、何故か近付いてきた女神が「なんで君は椅子とティーカップを持ってるんだい」と話しかけてきた。置く場所がなく仕方なく持っているんですよと私が言うと「確かに良い椅子とティーカップだから盗まれそうだけど」と唸る女神。

 

しばらく悩んだ様子を見せた女神は「僕が住んでるホームに来ないかい」と言ってくる。良いんですかと私が聞くと「僕ともう1人しかいないホームだからスペースはちょっと空いてるんだ」と言いながら笑った女神。話した感じからして悪い女神ではないと思った私は、女神に案内されて彼女のホームへと向かった。

 

辿り着いたホームは廃教会といった場所であったが居住スペースである地下室があって、そこにベッドやソファーが置いてある。とりあえず空いているスペースに椅子を置き、椅子の上にティーカップを置いた私は、女神に地下室のスペースを貸して貰ったことを感謝しておいた。

 

それから互いに自己紹介をすることになり、女神はジョンという私の名前を、私は女神がヘスティアという名であることを知ることになる。ギリシャ神話の女神と同じ名前ではあるが、ヘスティアという神は、他のギリシャ神話の神々と比べれば比較的まともである女神だ。

 

この世界の神であるヘスティアも他の下界に降りてきた神々と比べれば随分とまともであることは間違いない。それからは女神ヘスティアの唯一の眷族が帰ってきて、再び自己紹介することになった。女神ヘスティアの眷族は、ベル・クラネルという名前だそうだ。

 

ベルくんは、まだまだ駆け出しの冒険者であるようで、今日はミノタウロスに襲われたと言っていた。普通はダンジョンの上層でミノタウロスに襲われることはあり得ないことであるらしい。ベルくんに抱きついて無事に帰ってきてくれたことを喜んだ女神ヘスティアは「よし、ご飯にしようか」と言い出す。

 

じゃが丸くんを取り出してベルくんと私に1個ずつ手渡した女神ヘスティアは「少ないけど皆で一緒に食べよう」と笑顔で言った。その時食べたじゃが丸くんの味を、私はこの先も忘れることはないだろう。じゃが丸くんを食べながらベルくんにダンジョンのモンスターについて聞いてみると、それなりに知識はあるようで色々なモンスターの話が聞けた。

 

食事を終えて寝ることになった全員。女神ヘスティアは1つしかないベッドで、ベルくんはソファーで、私はティーカップを机に置かせてもらって、空いた椅子に座って眠ることにした。

 

さて異世界に来たのは初めてではないが、これから元の世界に帰る為に頑張るとしようか。

 

 月 日

朝になって女神ヘスティアとベルくんが仲良くソファーで寝ている姿を見た私は、女神ヘスティアとベルくんを起こさないように地下室を抜け出すとダンジョンに向かう。ダンジョンの上層で軽く腕試しをしてみたが、今まで戦ってきたBOWに悪魔やサイボーグと比べると弱い相手ばかりであった。

 

魔槍ボルヴェルクやキングケルベロスを使うまでもなく、白衣に仕込んでいた特殊合金製のナイフ2つだけで充分な相手であるモンスターから魔石を取り出しておく。今回は各種ハーブとハーブタブレットにハーブの種も持っているので、ハーブを増やすことも可能であるから回復も万全だ。

 

白衣に仕込んでいたリュックサックを使って入手した魔石をしまっていく。上層でモンスターから入手した小さな魔石をリュックサックに入れていき、ひたすらモンスターを倒す。次から次へと現れるモンスターは無尽蔵に湧き続けている。

 

現れたモンスターを倒し続けていると上層では強敵だと言われていたウォーシャドウとやらが落としたドロップアイテムであるウォーシャドウの指刃が10個くらい貯まっていた。更に下の階層に降りていくとモンスターが強くなっていることがわかったが、この程度ならば問題はない。

 

第7階層で現れたニードルラビットとキラーアントを倒していき、更に下の階層に降りてみると第10階層でオークと戦うことになった。迷宮の武器庫から引き抜いた天然武器の棍棒で武装したオークの群れを倒し、魔石を抜き取り先へと進む。

 

11階層で出会ったハード・アーマードという蜥蜴のようなモンスターは上層最硬のモンスターであるらしいが特殊合金のナイフだけで充分倒せる相手であった。オールバックで長髪の大きな猿といった姿をしたモンスターのシルバーバックが複数体現れたが問題なく倒して更に下へと向かおうとしたが、希少種のインファント・ドラゴンが現れる。

 

事実上の階層主とも言われるインファント・ドラゴンは翼がないがまさしくドラゴンといった姿をしていたので手応えがあるかと思ったが、そうでもなかった。たいして力を込めていない左腕義手のパンチ1発で頭部が完全に弾け飛んだインファント・ドラゴンから少し大きな魔石を取り出して、更に次の階層にまで向かう。

 

中層である13階層に降りると現れたヘルハウンドという火炎攻撃を行う黒い猟犬のようなモンスターが群れで襲いかかってくる。放火魔の異名を持つヘルハウンドの火炎攻撃を防ぐにはサラマンダーウールという装備が必須であるらしいが、あいにくと買うヴァリスが無いので自前の装備だけで戦うしかない。

 

とはいえヘルハウンド程度に追いつかれるほど私は遅くはなく、パワーアシストスーツで強化された脚力であっさりとヘルハウンドの背後に回り込んだ私は、ヘルハウンドの後頭部にナイフを突き立てていく。全てのヘルハウンドを倒し終わってから魔石を取り出して更に先へと進むと今度はアルミラージが天然武器の斧を投げつけてくる。

 

外見は可愛らしいウサギのように見えるアルミラージだが、モンスターであることは確かなので、投げつけられた斧を掴み取って投げ返すと、アルミラージの顔面に刺さる斧。倒れたアルミラージから魔石を抜き取り、階段を探して更に先へと進んだ。

 

16階層に到達するとミノタウロス達がかなりの大群で現れて襲いかかってくる。特殊合金製のナイフで首を斬り落としてミノタウロスを倒していくとドロップアイテムであるミノタウロスの角が30個手に入った。

 

ダンジョンでしか取れない鉱物であるアダマンタイト、その性質を持つミノタウロスの角は武器の素材にうってつけであるらしい。魔槍ボルヴェルクやキングケルベロスは目立つので、この世界で使う武器をミノタウロスの角で作ってもらうのも悪くはないだろう。

 

到着した17階層にある嘆きの大壁から迷宮の孤王である階層主が生み出されていき、現れた長髪の巨人であるゴライアスを特殊合金製のナイフだけで倒した私は、倒したゴライアスから魔石を取り出す。ゴライアスの大きな魔石を持って18階層に移動して、宿場街であるリヴィラに向かうと商店で魔石を全て売ることにした。

 

多少買い叩かれてしまったが荷物が随分と軽くなったので悪いことではない。ひとまず80万ヴァリスを手にすることができた。自らを高速化するクイックシルバーを用いて地上に戻ることにした私は中層から上層へと戻り、上層から上がるとダンジョンを後にした。

 

廃教会に戻ってきた私に「おかえりジョン君、何処へ行ってたんだい」と聞いてきた女神ヘスティアに、単独でダンジョンの18階層まで行ってましたと一応正直に言っておく。「えええっ、18階層」と驚く女神ヘスティアは、私が嘘を言っていないことを理解していたようだ。

 

「君は恩恵を受けた冒険者だったのかい」と言ってきた女神ヘスティアに、内密にしていただきたいが、神々の恩恵は受けていませんし、眷族にもなっていませんよと正直に言うと女神ヘスティアは頭を抱えた。どうやらソロで18階層まで行ける人間が、恩恵を受けていないというのが他の神々にバレるとかなり厄介なことになるらしい。

 

ちなみにゴライアスも単独で倒してきましたよと付け加えると「君は、いったい何者なんだいジョン君」と真剣な顔で言ってきた女神ヘスティアは、女神の顔をしていた。まあ、私は普通の人間ではありませんね、別の世界から来た進化した人間とだけ言っておきましょうかと女神ヘスティアに嘘をつかず伝えておく。

 

「ジョン君は異世界から来たんだね、君みたいな進化した人間というのは異世界では珍しくはないのかい」と聞いてくる女神ヘスティアに、何人かは居ますが珍しい存在ではありますねと答えておいた。すると「ゴライアスをソロで倒せるジョン君に頼みたいことがあるんだ」と言ってきた女神ヘスティア。

 

「ベル君を助けてあげてほしいんだ」と言い出した女神ヘスティアへ、貴女の願いなら引き受けましょう女神ヘスティアと答えておく。とりあえず昨日一晩泊まらせてもらった宿代として渡しておきますんで生活の足しにしておいてくださいと80万ヴァリスの半分である40万ヴァリスを女神ヘスティアに手渡しておいた。

 

「こんな大金どうしたんだい」と驚く女神ヘスティアに、モンスターを倒して回収した魔石をリヴィラの街で売ってヴァリスに変えましたと嘘は言わずに正直に教えると「リヴィラで買い叩かれてこの金額ってどれだけ稼いだんだジョン君」と再び驚いていた女神ヘスティア。

 

「ジョン君は冒険者にはならないのかい、ヘスティア・ファミリアは歓迎するぜ」と女神ヘスティアが言ってきたが、私は何処のファミリアにも所属しませんよ、いずれは元の世界に帰りますからねと正直に言うと「なら仕方ないね」と引き止めるようなことはしない女神ヘスティアは善神であることは間違いない。

 

女神ヘスティアと会話しているとベルくんが帰ってきてステイタスの更新をすることになったので私は地下室を出ていき、廃教会の椅子に座っておく。しばらくして地下室から出てきた女神ヘスティアがコートを羽織っていて外に出るつもりのようだった。

 

何処へ行くのかを聞いてみると「バイト先の打ち上げに行ってくる」とだけ言って出ていった女神ヘスティアは拗ねているように見えたな。遅れて出てきたベルくんが「神様は行っちゃいましたか」と聞いてきたので、バイト先の打ち上げに行くと言っていたが、どうやら拗ねているようだったねと答えておく。

 

女神ヘスティアが拗ねている理由は、ベルくんにも心当たりはないようで困惑するしかなかったらしい。「神様がいないのは残念ですが、ジョンさん一緒に食事しに行きませんか」と気を取り直して聞いてきたベルくんに、私も稼いできたから問題はないよと答えて、一緒に廃教会から外に出た。

 

到着した豊穣の女主人という店に入るとベルくんに話しかけてきた店員が1人。そのシルという店員がベルくんが大食漢であるという偽情報を店主に伝えていたようであり、店主から「じゃんじゃん金を使ってくれよ」と言われていたベルくん。思わずシルという店員に抗議したベルくんだったが「ちょっと奮発してくれるだけで良いですよ、お2人さん」とシルに言われて落ち着いた。

 

カウンター席に並んで座った私とベルくんの隣にシルが椅子を用意して座り、ベルくんに積極的に話しかけているシル。どうやらベルくんは気に入られているらしい。此方は此方で店主にステーキを頼んでおき、用意されるまで出された水を飲んでおく。

 

ベルくんはパスタを頼んでいたようで、シルに話しかけられながら食事を始めていた。ようやくステーキがカウンター席に置かれた時には、ベルくんはパスタを半分食べ終えていたな。まさに肉といったステーキを食べる私にベルくんからの視線が突き刺さる。

 

ちょっと欲しそうにしていたベルくんの皿に切り分けたステーキを3切れほど渡しておくと「ありがとうございますジョンさん」と笑顔になったベルくん。そんなベルくんの笑顔を見てから「随分と仲がよろしいんですね」と言ってきたシルは、今度は私に話しかけてきた。

 

ベルくんとの関係を聞いてくるシルにホームに一晩泊めてもらった関係であると伝えておくと「まさかベルさんと一緒のベッドで」と言い出したので、私は椅子で寝ていたから違うな、どちらかと言えばベルくんが女神ヘスティアと一緒にソファーで寝ていたよと正直に教えてみた。

 

「ベルさん」と何か言いたげなシルに「あれは神様が寝ぼけて僕の上に乗っていただけでやましい気持ちは」とベルくんが弁明しているとロキ・ファミリアの面々が豊穣の女主人に現れる。ベルくんはロキ・ファミリアに所属している金髪の人間の女性に見惚れているようだった。

 

あの金髪の女性がアイズ・ヴァレンシュタインであるらしい。ロキ・ファミリアに所属する冒険者であるベートと言われる狼人らしき男が悪酔いでもしているのか、自分達の不始末を笑い話にして笑っていた。ベルくんが遭遇したミノタウロスが上層に来ていたのはロキ・ファミリアが原因だったようだ。

 

ベートとやらが話す話は聞いていて面白い話でもなく、何処が笑いどころであるのか私にはわからない。ベートが言い放った「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」という言葉が切っ掛けになったのか席を立ったベルくんが食べたパスタ代を払わずに豊穣の女主人から走って出ていった。

 

とりあえずベルくんの食べたパスタ代と自分が食べたステーキの代金を手早く支払った私は、ベルくんを追うことに決めたがその前に軽い殺気を当ててロキ・ファミリアの反応を見てみると、ロキを守るように動いたロキ・ファミリアだが今の私にとっては動きがあまりにも遅く感じる。

 

何処ぞの上院議員や魔王と比べればロキ・ファミリアには雲泥の差があるようだ。殺そうと思えば全員殺せるが、私が今するべきことはそんなことではない。ベルくんを助けてあげてくれと言った女神ヘスティアの願いを叶えるとしよう。迷わずダンジョンへ向かってダンジョン内で無茶をしていたベルくんを発見した。

 

群がっていたモンスターを倒しておき、傷だらけになっているベルくんが倒れ込みそうになったところで支えて背負うと女神ヘスティアのホームへと戻っていく。背負われていたベルくんが「強くなりたいです」と言うので、私がきみを更に先へと連れていこう、折れなければきっときみは強くなれるさ、と言っておいた。

 

その言葉を聞いて安心したのか寝てしまったベルくんを背負って帰ってきた私達を見て「何があったんだい」と驚いていた女神ヘスティア。ベルくんがダンジョンで無茶をしていたんで連れ帰ってきましたと女神ヘスティアに伝えると「ありがとうジョン君」と女神ヘスティアは言ってくる。

 

「無事に帰ってきてくれて良かった」と喜んでいた女神ヘスティアは善神だ。明日からベルくんを鍛えることにしましたと女神ヘスティアに伝えると「頼んだよジョン君」と言った女神ヘスティアは、私を信頼してくれているらしい。その信頼に応えるとしよう。

 

とりあえずまずは軽めの鍛練から始めるとするか。さて、明日から忙しくなりそうだ。

 

 月 日

朝から軽めの鍛練としてベルくんと一緒に筋力鍛練と走り込みを行ってから共にダンジョンへ行き、ひたすらモンスターと戦うことを繰り返した後は、しっかりと食事をして身体を作っていく。ベルくんが14歳であるなら身体は、まだ成長する筈だからしっかり食事をしなければいけない。

 

食事を終えたら今度はナイフの扱いをベルくんに教えていき、ナイフ戦闘に合わせた格闘術も仕込んでおいた。基本が身に付いたところで発展型の技も教えておくとベルくんは素直に喜んでいたな。教えた技がベルくんに使えるかどうか試してみると、荒削りだがどうにか形にはなっていたので更に精進するように言っておく。

 

時間が空いたのでベルくんの防具を一緒に買いに行くことにした。ヘファイストス・ファミリアは末端の職人達にもどんどん作品を作らせて、それを店に並べているので、現在のベルくんに合った手頃な価格の防具を見つけることは不可能ではない。

 

ベルくんがこれだと決めた軽装のアーマーを購入しておき、そのアーマーの作製者であるヴェルフ・クロッゾの名前を覚えておこうと私は考えていると、どうやらアーマーの作製者であったヴェルフ・クロッゾ本人が店に来ていたようで「俺が作った作品を買ってくれるのか」と喜んでいた赤髪の男こそがヴェルフ・クロッゾであったらしい。

 

ちょうど鍛冶師と接触したいと考えていた私がヴェルフ・クロッゾに、ミノタウロスの角が30個ほど有るんだが、これで頑丈なナイフ4つと槍と大剣を作ってくれないかと言うと「任せろ」と言ってきたヴェルフ・クロッゾ。「ドロップアイテムの素材が有るなら安くしとくぜ、全部で10万ヴァリスで良い」とヴェルフ・クロッゾは言った。

 

先払いとしてしっかりと10万ヴァリスを支払ってミノタウロスの角を渡した私に「急いで仕上げてホームに届けるぜ、あんたのホームは何処なんだ」と聞いてきたヴェルフ・クロッゾにベルくんが廃教会の場所を詳しく教えておいてくれた。「わかった、待ってな、しっかり頑丈な奴を作って持ってくぜ」と言うと素早く立ち去っていったヴェルフ・クロッゾ。

 

残された私とベルくんは店内を見て回ることにして、ベルくんに籠手を買っておくことにした。5万ヴァリスはしたが、悪い買い物ではない。ヴェルフ・クロッゾがミノタウロスの角を使って作った武器が出来上がるまで、しばらくはダンジョンの上層で活動を続けるとしよう。

 

ベルくんには自由な時間も必要なものであると考える私は、防具をホームに置いたベルくんに自由時間を与えた。ベルくんはダンジョンに潜るのは明日にしたようで、今日の自由時間はオラリオを走ることにしたらしい。走り出したベルくんは止まることなく前へと進んでいく。

 

私は私でダンジョンに潜ることにして中層に行き、また80万ヴァリスほど稼いで帰ってきた。現在の所持金の合計としては100万ヴァリスといったところだ。オラリオに来て4日も経過しない内に集めたとすれば悪くはない稼ぎであると言えるだろう。とはいえ今日も40万ヴァリスを女神ヘスティアに渡すつもりではあるので、手元に残るのは60万ヴァリスであることは間違いない。

 

地上のギルド以外でも魔石を買い取ってくれる場所を捜してみるのも悪くはないかもしれないな。冒険者とは言えない私がギルドの世話になる訳にはいかないのでね。

 

とりあえず情報を集めてみるとするか。

 

 月 日

ヴェルフ・クロッゾがミノタウロスの角で作製された武器達を持ってヘスティアファミリアのホームへとやって来た。ミノタウロスの角で作られたナイフ4本と槍に大剣を持ってきてくれたヴェルフ・クロッゾに感謝をして、私が武器を軽々と振るって見せると「すげぇ」と驚いていたヴェルフ・クロッゾ。

 

ナイフにはミノタウロスの角を1個ずつ使ったようで、ベルくんに支給されていたギルドのナイフとは比べ物にならない性能があると一目で解る。槍には8個のミノタウロスの角が使われており、上層はもちろん中層でも通用する武器に仕上がっていた。大剣には18個のミノタウロスの角が使用されていて、大振りで肉厚な大剣はそれなりに重量があったが私には問題ない。

 

想像以上に鍛冶師として腕が良いヴェルフ・クロッゾに掘り出し物を見つけたような気分になった私は、とても良い仕事をしてくれたヴェルフ・クロッゾに再び感謝を伝えておく。それからはベルくんと軽くナイフで打ち合ったりしてナイフの調子を確かめてから、ダンジョンに潜ることになった。

 

ミノタウロスの角で作られたナイフは中々の性能を発揮していて、ベルくんは新しい装備にとても喜んでいたようだ。装備に振り回されることもなくナイフが扱えているベルくんは、ステイタスとやらが順調に伸びているらしい。女神ヘスティアによるステイタスの更新は毎日行われており、ベルくんは飛躍的に成長を続ける。

 

明日からはナイフ以外の武器の扱いをベルくんに教えておくのも悪くはないだろう。ベルくんがいずれ使うことになるかもしれないのでね。ちなみに今日も女神ヘスティアに40万ヴァリスを渡そうとしたんだが「貰いすぎだからもういいよジョン君」と断られてしまった。

 

まだ合計で200万ヴァリスしか渡していないんだが、それで充分だと女神ヘスティアは思っているようだ。やはり女神ヘスティアは善神であると私は思う。ベルくんが眷族になったのが女神ヘスティアで良かったのかもしれない。

 

ダンジョンからヘスティア・ファミリアのホームに帰る途中に感じた視線は、神によるものだろう。ベルくんも何かを感じ取っているようだった。

 

放置しておくのは良くないな。

 

書き終えた日記を閉じて懐にしまうと廃教会から外に出る。ベルくんと一緒にいた時に感じた視線の主を放置しておくと問題が起こりそうな予感がした私は直感に従ってオラリオを進む。辿り着いた場所にいたのはロキ・ファミリアの第一級冒険者達よりも確実に強い1人の男。

 

猪人であり猛者の称号を持ち、現在のオラリオで唯一のLv7冒険者でもあるその男は、大剣を携えていた。男の背には女神の姿があり、あの女神が視線の正体だと私の勘が言っている。何故ベルくんと私を見ていたのか問い詰めたいところだが、そう簡単にはいかないらしい。

 

「見極めさせてもらおう」

 

そう言ったオッタルは間合いを詰めると真正面から上段に掲げた大剣を振り下ろす。瞬く間よりも早く黒炎が迸った私の手には魔槍ボルヴェルクが握られており、オッタルの大剣を受け止める。大剣を弾き上げて魔槍ボルヴェルクを横薙ぎに振るう。

 

今度はオッタルが大剣で魔槍ボルヴェルクを受け止めると弾こうとしたが、穂先から黒炎を放出して強引に押し込むとオッタルを吹き飛ばす。吹き飛ばされながら壁を蹴ったオッタルが繰り出す大剣による突きに魔槍ボルヴェルクの突きを合わせ、穂先が大剣と接触した瞬間に魔槍ボルヴェルクの穂先を伸ばした。

 

どうやらオッタルの大剣は魔槍ボルヴェルクほど頑丈ではなかったようで、大剣が割れて破片が飛び散っていく。流石にそれは予想外だったのか眼を見開いたオッタルの首元に、魔槍ボルヴェルクの穂先を突きつける。

 

「さて、武器はその有り様だが続けるかね?私は別にどちらでも構わないが」

 

私がオッタルにそう言うと女神フレイヤが近付いてきた。何かをするつもりだったらしいが、その何かが私には通じなかったようだ。魅了でもするつもりだったのかもしれない。

 

「純粋で透明な魂に寄り添う、水面に映る月のような魂を持つ貴方は何者なのかしら」

 

そう言ってきた女神フレイヤ。私の答えは決まっている。

 

「貴女には教えません」

 

「意地悪ね」

 

何故か楽しそうに笑った女神フレイヤは、此方の頬をつつこうとしてきたので避ける。

 

「それで、貴女は何故私とベルくんを見ていたんですか」

 

私の問いかけに頬を吊り上げて嬉しそうに笑う女神フレイヤの答えは決まっていた。

 

「貴方には教えないわ」

 

「言いそうな気がしましたよ」

 

と言って呆れたような顔をした私に向かって花が咲く様な笑顔を向けた女神フレイヤ。

 

「貴方がわたしの眷族になるなら教えても構わないけど」

 

「縁が無かったということで失礼しますね」

 

これ以上この女神に関わると面倒なことになりそうだと判断し、背を向けて走り出そうとした私にオッタルからの声が届く。

 

「次は負けん」

 

またオッタルに襲いかかられることが確定した私が普通に嫌そうな顔をしていたことは間違いない。




ネタバレ注意
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかの登場キャラクター

ベル・クラネル
主人公
ヘスティア・ファミリア所属
育ての親の影響により、ダンジョンに運命の出会いを求めるヒューマンの少年
英雄への強い憧憬を秘める
ダンジョンでミノタウロスに襲われていたところをアイズ・ヴァレンシュタインに助けられて憧憬を抱いたベルはレアスキルである憧憬一途を発現させた
それからベルはステイタスを飛躍的に高めて成長していく

ヘスティア
ヘスティア・ファミリア主神
信仰皆無の落ちこぼれ女神
ベルの理解者であり、同時に彼に深い神愛を抱く
じゃが丸くんの屋台でバイトをしている

アイズ・ヴァレンシュタイン
ロキ・ファミリア所属
剣姫の名を冠するオラリオトップクラスの冒険者
ベルの憧憬の相手

ベート・ローガ
ロキ・ファミリア所属
凶狼の名を持つ狼人で第一級冒険者
アイズが気になっているが相手にはされていない

ロキ
神界屈指のトリックスター
ロキ・ファミリア主神
オラリオ屈指のファミリアを統べる女神
とある理由からヘスティアを敵視する
己の眷族であるアイズを溺愛

ヴェルフ・クロッゾ
ヘファイストス・ファミリア所属
鍛冶師
凄まじい威力のクロッゾの魔剣を打つことができるが本人は魔剣を打ちたがらない
自分の作ったアーマーを気に入ってくれたベルに好感を持ち専属契約を望む

オッタル
フレイヤ・ファミリア団長
猛者の称号を持つ現オラリオ最強のLv7冒険者
女神フレイヤに忠誠を捧げる猪人

フレイヤ
美の神
フレイヤ・ファミリア主神
超越した美貌と完璧なプロポーションを持つ
あらゆる者を惑わすことのできる美の化身そのもの
ベルに興味を持ち、魔法を発現させるグリモアがベルの元に渡るようにしたり試練を与えたりする


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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか編 中編

前編後編で終わらせるつもりだったんですが思ったよりも長くなりそうなので前中後編ということにしておきます
とりあえず中編となります


 月 日

デメテル・ファミリアからハーブを育てるには最適な土とそれを入れるプランター3つを購入して持ち帰り、廃教会の敷地内で私の世界から持ち込んだハーブを育てることにした。日当たりの良い場所に置いたプランターに植えたハーブの種に水やりをしておく。

 

女神ヘスティアに「ジョン君は何を育ててるんだい」と聞かれたので、私の世界のハーブですよと答えておき、回復効果は中々高いので役に立つと思いますと続けて言うと「育ったらどんなハーブか見せておくれよジョン君」と言ってきた女神ヘスティア。

 

冒険者にとってはポーションが1つあるかどうかが生死に関わるので、回復アイテムを用意しておくのは悪いことではない。持ち込んだハーブとハーブタブレットの数は、以前ダンジョンで無茶をしたベルくんに少し使ったことで少し減ってしまったが、まだある程度は数がある。

 

それでも備えとしてハーブを育てておくことは必要だと感じた。私が元の世界に帰り、この世界から居なくなってしまったとしても、残ったハーブがベルくんの助けになる筈だ。ハーブの世話の仕方を一応ベルくんと女神ヘスティアにも教えておくことにしよう。

 

基本的にこのハーブは生命力が強いので、世話をするのは簡単な部類に入るが、それでも全く世話をしなくていいという訳ではない。各種ハーブについても説明しておき、それぞれの用法に合った使い方をするように教えておく。今はグリーンハーブ、レッドハーブ、ブルーハーブの3種を3つのプランターで育てているところだ。

 

とりあえずいずれ必要になりそうな擂り粉木と擂り鉢と薬包紙も用意しておこうか。ハーブの回復力を実際に使って知っているベルくんなら、このハーブをしっかりと使ってくれるだろう。ポーションに頼ることも必要だが、瓶であるポーションだと割れてしまうこともある筈だからな。

 

それにしても商品であるポーションを無料で配っている神ミアハは何を考えているのだろうか。ポーションの材料費もタダではないのだから、眷族に負担をかけるようなことは控えた方が良いと私は思う。ミアハ・ファミリアのホームでナァーザがたまに死んだ目をしていることに神ミアハは気付いていないらしい。

 

私にも無料でポーションを渡そうとしてきた神ミアハに、ポーションの適正価格を支払って忠告をしておいたが、しっかり伝わったかはわからないな。ミアハ・ファミリアが無くなれば女神ヘスティアとベルくんが悲しむので、少しは気にしてもらいたいところなんだがね。

 

今の私にできるのはミアハ・ファミリアでポーションを購入することぐらいだろうか。ハーブが成長したらナァーザに提供してみるのも悪くはない。

 

優秀なナァーザならハーブを活用してくれる筈だ。

 

 月 日

ヴェルフくんに工房を借りてドロップアイテムであるウォーシャドウの指刃を全て投げナイフに加工しておいた。以前日本で教わった鍛冶が役立って完成した投げナイフをまじまじと眺めていたヴェルフくんが「ジョンさんは鍛冶もできるんだな、しかも中々の腕だ」と言って驚いていたな。

 

「ミノタウロスの角もジョンさんなら自分で武器にできたんじゃないか」と言うヴェルフくんに、作るにしても工房を借りる必要があるから鍛冶師につてがなければ無理だよ、それにベルくんと腕の良い鍛冶師を引き合わせたかったから、ヴェルフくんと出会えたのは無駄ではないさと伝えておく。

 

ウォーシャドウの指刃を使った投げナイフはダンジョンの上層なら充分に通用するだろうが、今のベルくんでは中層で通用しないことは確実だ。この投げナイフは使い捨てを前提とした武器であり、ベルくんの投げナイフの習熟訓練に使う為にある武器である。

 

使い捨ての投げナイフという持ち主と共にあらない武器を作ることに難色を示しそうな今のヴェルフくんに頼む武器ではないと判断して、私が作っておいた投げナイフは100本以上の数があるからしばらくは投げナイフに困ることはない。投げナイフの名は無難にスローイングシャドウという名にしておいた。

 

ちなみに以前ミノタウロスの角でヴェルフくんが作ってくれたナイフはベルくん命名の牛若丸という名になり、槍はタウロススピア、大剣は猛牛殺しという名になったな。ヴェルフくんは独特なネーミングセンスを持っているようだったので、武器の命名をヴェルフくんに任せなくて良かったのかもしれない。

 

ヴェルフくんは私の鍛冶仕事を見て触発されたのか、しばらく工房にこもって武器を作るつもりであるようだ。明日は確か怪物祭とやらが行われる日であるらしくベルくんと女神ヘスティアは怪物祭で出店される屋台を回るつもりだと言っていた。たまにはダンジョンのことを忘れて日常を楽しむことも必要なのだろう。

 

女神フレイヤがことを起こすとしたら明日だと考えた私は、ベルくんに明日は牛若丸を常に持ち歩いておくように忠告しておいた。すると素直なベルくんは「ジョンさんがそう言うなら牛若丸が必要になるかもしれないんですね」と納得して牛若丸を念入りに手入れしていたな。

 

明日何も起こらないなら私の取り越し苦労で済むが、何かが起こってしまったら巻き込まれるのは間違いなく女神ヘスティアとベルくんだ。その何かに抗う為には武器が必要になることは間違いないと私の勘が言っている。明日何かが起こることは確実だな。

 

女神フレイヤに目をつけられているのは私もベルくんも同じだが、私は何とかなるので問題はベルくんということになるだろう。順調にステイタスが上がっているとしても、ベルくんはまだLv1の冒険者だ。迫り来る脅威にベルくんが立ち向かえるかどうかが鍵になるかもしれない。

 

私が常にベルくんや女神ヘスティアと一緒に居られるなら大丈夫なんだが、元の世界に帰る為に動く必要がある私は、単独行動をする時があるからな。それでも明日は出来るだけベルくんや女神ヘスティアと一緒に行動するとしよう。何かが起こるとしても防げる脅威なら防いでおきたいのでね。

 

「強くなりたい」と言ったベルくんの願い、そして「ベル君を助けてあげてくれ」と言ってきた女神ヘスティアの望みを両方叶える必要がある私は、ベルくんを強くして助けなければいけない。その為にはベルくんには死んでもらっては困る。ベルくんには生きて女神ヘスティアの元に帰ってもらわなければな。

 

今日のベルくんとの鍛練は控えめにしておいたので、明日になって疲れが残っているということはないだろう。万全の状態で明日を迎えることができるように、ベルくんには早めに寝ることを進めておいた。

 

さて、明日何が起こるかだな。

 

 月 日

怪物祭当日となりベルくんと女神ヘスティアと共にオラリオの街中を歩いていると、豊穣の女主人の店員であるアーニャという猫人に呼び止められることになった。どうやらアーニャは財布を忘れて怪物祭を見に行ったシルに財布を渡してほしいらしい。

 

引き受けたベルくんは女神ヘスティアや私と一緒に怪物祭が行われている場所にまで向かうことにしたようだった。全員で東のメインストリートに向かって歩みを進めていき、到着した東のメインストリート。怪物祭が行われている場所にまで向かおうとしたところで視線を感じた。

 

明らかに女神フレイヤに見られていたと理解した私の勘は、何かが起こるのは間違いないと言っていたな。シルを捜しながら屋台で購入した食事を食べていく女神ヘスティアとベルくんは怪物祭を満喫しているが、私がそれを止めることはない。楽しめる時は楽しんでもらいたいという気持ちがあったからだ。

 

オラリオにとっては日常の風景である怪物祭。ガネーシャ・ファミリアがモンスターを調教する様を見せ物にしたサーカスのような祭ではあるが賑わっていることは確かであった。そんな祭の最中、恐らくは女神フレイヤが騒動を巻き起こしたらしい。

 

11階層以降に出現するモンスターであるシルバーバックが東のメインストリートに現れた。狙いは女神ヘスティアであるようで一直線に向かってきたが、シルバーバックの突進を片手で止めておき、背負っていたタウロススピアでシルバーバックの首をはねておく。

 

手早く安全を確保した私に「逃げ出したモンスターはこの1匹だけじゃないみたいです」と逃げていた人々から入手した情報を提供してくれたベルくん。女神ヘスティアは狙いが自分だとしても人々に被害が出るようなことは避けたいと思っていたようで「ジョン君ならモンスター達を倒せるかい」と聞いてきた。

 

倒せますよと答えた私に「行ってくれジョン君、オラリオの人々を助けてあげてほしい」と言い出した女神ヘスティアは、やはり善神だ。女神ヘスティアは任せたよベルくんと言って走り出した私は、オラリオに住まう人々に被害が出ないようにクイックシルバーまで用いて自らを高速化させてモンスター達を倒していく。

 

タウロススピアでソードスタッグにトロールなどを倒していった私を捉えられる者はいない。とりあえず発見したモンスターを倒した私は女神ヘスティアとベルくんの元に戻ろうとしたが、そんな私に話しかけてきた冒険者が1人。確かアイズ・ヴァレンシュタインという名前だった筈だ。

 

「わたしが倒すよりも速くモンスターを倒したのは貴方ですか」と私に聞いてきたアイズ・ヴァレンシュタイン。女神ロキまで隣にいるので嘘をついても直ぐにバレてしまうことは間違いない。仕方がないので嘘をつかずにモンスターを倒したのは私だと正直に言って立ち去ろうとした。

 

すると女神ロキが「アイズたんより速いあんたは何処のファミリアの冒険者や」と聞いてくる。この質問には答える必要はないなと思った私は、ミノタウロスの怪物進呈をして、それを笑い話にしているような眷族がいるファミリアの主神には教えませんよとだけ言うと女神ロキに背を向ける。

 

「痛いとこ突くやないか」と言った女神ロキに、酒場で笑い話にする内容ではありませんでしたね、そういう訳で個人的にロキ・ファミリアと関わりたくないので私はこれで失礼しますとだけ言って、素早く立ち去った。流石にここまで言われて追いかけてくるということはなかったようだ。

 

全速力で女神ヘスティアとベルくんの元に戻るとベルくんがちょうどシルバーバックを倒す瞬間に立ち会うことになった。どうやらシルバーバックは1体だけではなかったらしい。ベルくんにも女神ヘスティアにも怪我はなく、鍛練の成果は確実にベルくんの力となっている。

 

ダメージを負うこともなく危うげなくシルバーバックを倒せていたらしいベルくんの実力とステイタスは、Lv1の冒険者の中でもかなり高いだろう。上層なら充分に通用する実力を持っているベルくんは冒険者になってから、まだ1ヶ月も経過していないようだが、その成長力は凄まじい。

 

私が居ない時も女神ヘスティアを守ることができたベルくんを褒めておくと、ベルくんは素直に喜んでいたな。シルバーバックを倒したベルくんを褒め称える人々もいたようで、屋台の男性がベルくんにシルバーバックを倒してくれたお礼として屋台の料理を幾つか手渡していた。

 

今日は夕食がじゃが丸くんだけということは無さそうだ。ヘスティア・ファミリアのホームに帰ってきたところで、無事に帰ってこれたことを喜ぶ女神ヘスティア。ベルくんと私に「今日はボクとオラリオの皆を助けてくれてありがとう、ベル君、ジョン君」と言ってきた女神ヘスティアは自然な笑顔を見せてくれた。

 

一騒動があったが全員無事に帰ってこれたことを私も喜んでおくとしよう。明日は流石に騒動はないだろうが、ダンジョンに潜る時は油断をしてはいけない。一通りベルくんに教えた槍と大剣の扱いの習熟と、投げナイフの使い方もしっかりとベルくんに教えておくとするか。

 

明日も忙しくなりそうだが、鍛えれば伸びるベルくんを鍛えておくのは悪いことではない。私が居ない時でも戦えるようにベルくんを鍛えておかなければな。いずれ私は元の世界に帰るのだから、必ずベルくんとの別れは来る。その時までにベルくんを支えてくれる仲間ができればいいんだがね。

 

出会いに恵まれているベルくんなら仲間は見つかりそうな気がするが、また何かしらのトラブルにベルくんが巻き込まれそうな気もするな。とりあえず多少のトラブルは切り抜けられるようにベルくんを更に鍛えておくとしよう。ベルくんは今日もステイタスが上昇したので鍛練を更に厳しくしても大丈夫そうだ。

 

ダンジョンに潜れる程度には体力が残る鍛練にしておくとするか。疲労回復効果の有るハーブタブレットの使用も考えておこう。

 

明日も頑張らせてもらおうか。

 

 月 日

上層でベルくんに大剣である猛牛殺しを持たせて戦わせてみたが、まだ猛牛殺しに振り回されているといった感じだったので、重さのある大剣の振るい方を更に詳しく説明しておいた。重量で叩き斬るという扱いは正しいが、切れ味も充分にある猛牛殺しを振るうなら力と技術の両方が必要になる。

 

冒険者のステイタスであるなら力と器用が大剣を剣として扱うのに重要な数値であるが、力と器用を鍛える為に明日から猛牛殺しの素振りも鍛練に組み込んでおくとしよう。槍であるタウロススピアの方は猛牛殺しほど重量がある訳ではないのでベルくんにも扱うことはできていたが、まだまだ未熟。

 

ベルくんの槍の技量も鍛える必要がありそうだった。階層を進めて7階層に移動した私とベルくんはキラーアントを倒しながら牛若丸で戦いを続けていき、ナイフを扱う技量を更に高めていく。1番長く扱っているナイフの鍛練をしている時が1番楽しそうなベルくんは分かりやすい。

 

ベルくんに教えることはまだまだ沢山あるので、今日はとりあえずナイフと組み合わせた格闘術をモンスター相手に私が実戦してみせて、ベルくんにもモンスター相手にやってみてもらった。力と敏捷の数値が上がっているベルくんの蹴りは、上層のモンスターであるキラーアントを一撃で倒す威力があったらしく、一撃で沈黙したキラーアント。

 

それからは他の冒険者達との争いもあるかもしれないと想定して猛牛殺しを持った私と戦うことになったベルくんは、手加減している私の攻撃を交差した2本の牛若丸で受けて何度か吹き飛ぶことになった。ダンジョンの地面を転がったベルくんは何度も立ち上がって攻撃をしかけてくる。

 

ベルくんが持つ2本の牛若丸による攻撃を片手で持った猛牛殺しだけで受けていった私は、牛若丸が猛牛殺しに触れた瞬間に押し込んで牛若丸を弾くと素早く振り上げた猛牛殺しを正面から振り下ろしておく。重量がある大剣の直撃を受けるのはまずいと判断したベルくんは身を捻り、私が振り下ろす猛牛殺しを避ける為に動いた。

 

猛牛殺しの刃がダンジョンの地面に触れる前に止めた私は、手首を横に傾けて猛牛殺しを持った手を横にして軌道を変えると振り下ろしから薙ぎ払いに動きを変えてみる。流石にそれは想定外だったのか反応できていなかったベルくんに猛牛殺しが直撃する前にギリギリで薙ぎ払いを止めておいた。

 

ヴェルフくんが作ったアーマーがあるとしても重量のある大剣である猛牛殺しの一撃をまともに喰らえば、ベルくんがダメージを受けることは確実だ。アーマーも壊れてしまうだろう。ただの鍛練でベルくんの命を守る装備を壊してしまうことがないようにしなければいけない。

 

とりあえずベルくんには大剣で軌道を変えてくる相手がいないとは限らないので一度避けることが成功しても安心しないようにしなさいと言っておく。素直に「わかりましたジョンさん」と頷いたベルくんは「もう1度お願いします」と再び勝負を挑んでくる。

 

次はタウロススピアを持った私と戦うことになったベルくんは、2本の牛若丸を2刀流で構えて私のタウロススピアによる突きを受け流そうとした。受け流すことはできなかったが、牛若丸でタウロススピアの突きを受けて吹き飛んだベルくんは体勢を立て直す。

 

牛若丸で連撃を繰り出すベルくんの攻撃を、穂先も長柄も全てがミノタウロスの角で作られたタウロススピアで弾いていき、タウロススピアの穂先による斬り上げを放つ。牛若丸でタウロススピアの穂先を受けたベルくんは、受け止めるのではなく流れに合わせて自ら跳んでわざと吹き飛ばされてからダンジョンの壁を蹴って跳躍し、牛若丸を振り下ろしてきた。

 

技量が確実に上昇しているベルくんは牛若丸の扱いには随分と慣れてきているようだ。戦い方にぎこちなさが消えてきて、自らの強みを理解した動きをするようになったベルくんは間違いなく強くなっているだろう。ナイフを使った敏捷を活かす戦いを基本的な戦法としているベルくんは冒険者になって半月程度で驚異的なまでに実力を上げていた。

 

とはいえまだ未熟なところは多々あり、改善できるところが幾つもあることは確かだ。更に先へとベルくんを連れていくとしよう。私にできることはそれくらいだな。そんなことを考えていた私は血気盛んに攻めてくるベルくんの腹部にタウロススピアの石突きで突きを入れておき、行動を止めたところで槍を回して長柄を叩きつけておいた。

 

タウロススピアの長柄を受けたベルくんは吹き飛んでダンジョンの地面を転がっていく。私が手加減を緩めることはないとしても今のベルくんと私を隔てる差は歴然である。それでも決して折れることのないベルくんは戦いを止めることはない。幾度も倒れても何度でも立ち上がり戦うベルくんは更に先へと進んでいった。

 

体力の限界が来るまで戦い続けたベルくんにハーブタブレットを提供して疲労回復をさせておき、ベルくんが自分の足で歩いて帰れるようにする。私と戦いながら倒していたモンスターから魔石を抜き取ったベルくんは鞄に魔石をしまっていく。鞄がいっぱいになるまで魔石を詰めたベルくんは今日の稼ぎが幾らになるかワクワクしていたようだ。

 

ダンジョンから地上に戻ったベルくんと私は別れて、ベルくんはギルドの換金所に魔石を持ち込んでいくつもりで、私はギルド以外で魔石を購入してくれる場所に魔石を売りにいった。リヴィラほど買い叩かれることもないが上層の魔石であり、鍛練を優先していたので8万ヴァリス程度にしかならなかったが食事代を引いてもプラスになる稼ぎであることは確かだ。

 

先にヘスティア・ファミリアのホームに帰った私に遅れて帰ってきたベルくんはギルドの受付嬢であり、ベルくんの担当アドバイザーであるエイナ・チュールに7階層に行ったことを叱られたらしい。しかしステイタスがDにまで到達している数値があることをエイナに教えて7階層に行くことを許してもらったようだ。

 

そんなベルくんに女神ヘスティアが「ステイタスを見せる為に脱いだのかいベルくん」と何故か焦ったような顔をしていた。上着をはだけてみせたベルくんは「こんな感じでエイナさんに見せました」と実際どんな感じだったのか女神ヘスティアに見せる。ステイタスだけが見えるようになっていたそれに安堵した女神ヘスティア。

 

「良かった、下までは脱いでないんだね」と言った女神ヘスティアに「えええっ、流石にズボンまで脱ぎませんよ神様」と顔を真っ赤にしていたベルくん。自分の言った言葉でベルくんが勘違いしていることに気付いて「いや、違うんだよベル君、そういうことじゃなくって」と女神ヘスティアは困っていた。

 

恐らく女神ヘスティアは上着をはだけてステイタスだけが見える程度でベルくんのスキルが見られなくて良かったと思っていたのだろうが、下なんて言葉を使ったので自分にスキルがあるとは知らないベルくんはズボンのことだと思ったのだろう。女神ヘスティアの言葉が悪かったのかもしれない。

 

「どうにかしておくれよ」という目で私を見る女神ヘスティアの助けとなるように、落ち着きなさいベルくん、下というのはズボンではなく、はだけた上着部分の下のことだよ、いずれスキルが手に入るかもしれないのだから、無闇にステイタスを見せるものではないと女神ヘスティアは言いたかったんだろうさ、そうでしょう女神ヘスティアと言っておく。

 

とりあえず女神ヘスティアも「そういうことだよベル君」と私の言葉に乗っかることにしたようだ。「そうだったんですね」と納得したベルくんは「すいませんでした神様」と女神ヘスティアに謝る。「罪悪感があるよこれは」と言いたげな女神ヘスティアに、耐えてくださいと目で伝えておいた。

 

それからは今日の稼ぎを女神ヘスティアに報告することになり、ベルくんは6万ヴァリス程度で私は8万ヴァリス程度だと報告をしておく。「今日もしっかり稼いできたね2人とも」と笑顔になった女神ヘスティアは「2人が無茶をしていないか心配だったんだぜ」と言ってくる。

 

無茶はしていませんよ、限界を越える手伝いはしましたがと言う私に「そうですねジョンさんと鍛練はしましたが決して無茶はしていませんよ神様」とベルくんも頷いた。「じゃあベル君はステイタスの更新もしておこうか」と女神ヘスティアが言い出したので地下室から出ていった私は、廃教会の椅子に座って更新を待つ。

 

しばらく待っていると地下室から上層の廃教会に聞こえる程大きな女神ヘスティアの驚く声が聞こえたな。地下室から飛び出してきた女神ヘスティアが「ベル君に何をしたんだいジョン君」と言いながら突撃してきたので怪我をしないように優しく受け止めておいた。

 

詳細を聞くとベルくんのステイタスの熟練度の上昇値がトータル800オーバーだったらしい。特に力と耐久と器用が伸びていたようで「正直に吐くんだジョン君、神に嘘は通用しないぞ」と言ってきた女神ヘスティア。ベルくんにはモンスターと戦ってもらって、私とも戦ってもらっただけですよと女神ヘスティアには正直に教えておく。

 

それにベルくんが嫌がるようなことは1つもしていませんよと一言付け加えておくと「嘘は言っていないみたいだね」と女神ヘスティアは項垂れた。「おのれヴァレン何某め、ちくしょお、何だかとってもちくしょおおおおお」と言い出した女神ヘスティアに鎮静効果のあるハーブキャンディを渡してみる。

 

「美味しいじゃないかこれ」とハーブキャンディを食べて落ち着いた女神ヘスティアは「まあ、強くなってくれてることは素直に喜んでおくよ、無事に帰ってきてくれるようになってるってことでもあるからね」と凄まじく上昇したベルくんのステイタスについては納得したらしい。

 

子ども達の為に持ち歩いていたハーブキャンディが役立ったようで良かった。ハーブキャンディの鎮静効果が神にも効果があるとわかったことは悪いことではない。しかしハーブキャンディは数に限りがあるものだから使いどころを間違えないようにしなければいけないな。

 

何はともあれ落ち着いた女神ヘスティアとベルくんを連れて食事を食べに行くことになった。向かう場所は豊穣の女主人であり、女神ヘスティアにとって初めて行く場所であったようだ。ここの食事は美味しいんで期待して良いですよと女神ヘスティアに言っておくと「ここ高いんじゃないかい」とビクビクしていたな。

 

今日は私が奢るんで好きなの頼んでください女神ヘスティアと言うと「ボクは安いパスタにしておくよ」と言った女神ヘスティアは高いものを頼むのに抵抗があるらしい。私は気にすることなくステーキを頼んでおき、女神ヘスティアの隣で食べていく。

 

物欲しげな顔で此方を見た女神ヘスティアの皿にステーキを3切れほど渡しておいた。「ありがとうジョン君」と言ってステーキを食べ始めた女神ヘスティアは満面の笑みを浮かべながらステーキを食べる。私とベルくんに挟まれているカウンター席に座っている女神ヘスティア。

 

いい食べっぷりを見せる女神ヘスティアにベルくんも自分の皿から料理を取って、女神ヘスティアの皿に入れていく。結局パスタ以外にも私とベルくんが渡した料理でお腹いっぱいになった女神ヘスティアは「美味しかった」と幸せそうに笑っていた。

 

会計は全て私が持ち、ベルくんと女神ヘスティアの分の料理の代金も支払っておくと、豊穣の女主人の女将であるミア・グランドが豪快な笑みを浮かべながら「また食いにきなよと」私の肩を叩く。手加減されていても力強いそれを受けて、元冒険者であるだろうミアのLvが6はあると理解することになった。

 

何故第一級冒険者とも言える実力を持つミアが酒場の女将をやっているのかは疑問ではあるが、誰にだって事情はあるので深く追求したりはしない。また来ますとだけ言ってミアに頭を下げて豊穣の女主人を後にした私達は、ヘスティア・ファミリアのホームへと帰っていく。

 

「今日はシルさんいなかったですね」と言うベルくんに、そうだねベルくんと頷きながら帰り道を歩いていると「シルって誰だいベル君」と拗ねているような女神ヘスティアの姿があった。「豊穣の女主人の店員さんで少しお世話になった人です」と正直に言ったベルくんに「それだけの関係かい」と念を押す女神ヘスティア。

 

「そうですよ、どうしたんですか神様」と不思議そうなベルくんに「別に何でもないよ」と言いながら顔を背ける女神ヘスティアは、やはり拗ねているようだったな。女神ヘスティアにとって唯一の眷族であるベルくんの知り合いに女性が多いことが、少し気に入らないようである。

 

そんなことがありながらもヘスティア・ファミリアのホームである廃教会に帰ってきた私達は歯を磨いてから眠ることにした。最近は色々とあったが、これからもベルくんは騒動に巻き込まれるような気がするな。騒動が起こる現場に私が居れば手伝えるが、居ない時に起こったことにはベルくんに対処してもらわなければいけない。

 

その為にもベルくんには強くなってもらうとしよう。これからもベルくんと一緒に鍛練を続けることは確実だが、元の世界に帰る為にグリモアという読むだけで魔法を発現させる本を入手する必要があると私は考えている。数千万ヴァリスや億の値段がつくグリモアを入手する為にヴァリスを稼ぐことも忘れてはいけないな。

 

とりあえず500万ヴァリス以上はあるが、これだけでは足りないことは確実だ。たまには私1人だけで行動する時間も欲しいところだが、ベルくんをLv1の限界まで鍛えることも疎かにしては駄目だと私は思う。ベルくんがランクアップできてLv2になり、仲間もできたら私が一緒に居なくても問題はないかもしれないが、そう簡単なことではないか。

 

今はベルくんを鍛えることに集中しておこう。ステイタスの限界まで鍛えればミノタウロスを相手にしても死ぬことはない筈だ。1度上層でミノタウロスに襲われたのだから、2度目がないとは限らないからね。

 

念の為に備えておくことは必要なことだ。

 

今日の日記はこれまでにしよう。日記を閉じて椅子に座ったままの状態の私がソファーで横になっているベルくんを見ると何か寝言を言っているようだった。

 

「神様を、ジョンさんを、守れるくらい強くなりたい。もうおじいちゃんみたいに失わないように」

 

確かにそう言ったベルくんは眠りながら涙を流している。ベルくんから詳しい話を聞いたことはないが、どうやらベルくんは祖父を失っているようだ。

 

私は寝ているベルくんの頭を撫でてやりながら、届くように言葉を伝える。

 

「大丈夫だよベルくん。私は死なないさ。だからきみは女神ヘスティアを守ってあげなさい。そしてきみも生きて女神ヘスティアの元に帰るんだよ。きみの大切な家族の元に、ファミリアに生きて戻ってきなさい。それを忘れないようにね」

 

私がそう言ってベルくんの頭を撫でていると、いつしかベルくんの涙は止まっていた。

 

「おやすみベルくん」

 

ベルくんの涙を止めることはできたので私も眠ることにして椅子に座る。

 

「おやすみなさいジョンさん」

 

瞼を閉じる時に聞こえたベルくんの声は、嬉しそうだった。どうやら私の声が聞こえていたらしい。

 

まあ、私の声がベルくんに届いていたなら良いさ。




ネタバレ注意
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかの登場キャラクター

ナァーザ
ミアハ・ファミリアに所属する薬師
犬人
かつてモンスターに腕を喰われてしまい、それからモンスターと戦うことができなくなる
失った腕の代わりに魔導具である高価な義手をつけており、義手の借金返済の為にポーション販売を頑張っているようだ

ミアハ
ミアハ・ファミリア主神
医療の神であり、ポーション作りの腕は確かではあるが、冒険者にタダでポーションを配ることもしばしば
ミアハのその行動がナァーザの負担となっていることは確かだろう
ちなみに男神の中ではけっこうモテる方であるらしい

シル・フローヴァ
酒場、豊穣の女主人のウェイトレス
どこか抜け目のない穏和なヒューマンの少女
しかしその正体は女神フレイヤである

ミア・グランド
巨大なドワーフ
酒場、豊穣の女主人の女将
一流冒険者であった過去を持つ豪傑な人物
かつてフレイヤ・ファミリアで団長を務めていたLv6の元冒険者

エイナ・チュール
世話焼きハーフエルフ
オラリオ管理機関、ギルド所属
ベルのダンジョン探索アドバイザー
美しい受付嬢として冒険者に人気
原作ではベルと一緒に防具を買いに行き、ベルに籠手をプレゼントしていた


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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか編 後編 上

後編1つで終わるかと思ったら終わりませんでした
今回は後編、上となります
上、下で終わるか上、中、下になるかはわかりませんがとりあえず書き上がったものを更新しておきます



 月 日

ダンジョンの上層で行うベルくんとの鍛練を少し早めに切り上げてダンジョン内でベルくんと別れた私は、24階層を目指してダンジョンを降りていく。途中の15階層で遭遇したミノタウロスは魔石を喰って強化されているようであり、外見も普通のミノタウロスとは違っていた。

 

赤い角を持つそのミノタウロスは強化亜種といったところだろう。力、耐久、器用、敏捷のステイタスがSSに到達している今のベルくんでもなんとかギリギリで勝てるかもしれない程度には強いミノタウロスを、急いでいたので魔石を狙ったタウロススピアによる一撃で倒す。

 

とりあえず強化亜種のミノタウロスが落としたドロップアイテムである赤い角は拾ってリュックサックにしまっておいた。普通のミノタウロスの角よりも良い武器ができそうなので、今度ヴェルフくんに頼んでベルくん用のナイフでも作ってもらうとしよう。

 

更に先へと進んで18階層を越えていき、現れるモンスターを魔石狙いで倒していくとドロップアイテムが落ちることがあるので一応回収しておく。辿り着いた目的の階層である24階層で、木竜グリーンドラゴンが守る宝石樹に実る宝石の実を採取する為に、木竜グリーンドラゴンと戦った。

 

インファント・ドラゴンよりかは少し強いドラゴンではあったが問題なく倒して、宝石の実を根こそぎ採取する。大容量のリュックサックに宝石の実を詰めていき、リュックサックがパンパンになるまで宝石の実を詰め込んだ。今回の目的は宝石の実であったので、目的は達成できたと言えるだろう。

 

赤いミノタウロスの角以外のドロップアイテムと宝石の実を換金したところ、しめて1000万ヴァリスにはなった。1回のダンジョン探索で手に入れたにしては、悪くない稼ぎである。これで合計で2500万ヴァリス程度の金額は貯めることができたが、まだまだ魔導書であるグリモアには遠い。

 

今後もダンジョンで稼がなければいけないな。換金所からヘスティア・ファミリアのホームにまで帰ってきた私は地下室にあるベッドに寝かされている小人族の少女を発見。ベルくんと女神ヘスティアに事情を聞くと、どうやら冒険者である男に痛めつけられていた小人族の少女をベルくんが助けたらしい。

 

その時ベルくんは初めて対人戦をすることになったようだが、私と戦った経験があったので問題なく相手の冒険者を倒せたそうだ。牛若丸の柄で顔面をぶん殴って冒険者を気絶させてから、気絶している小人族の少女を背負ってヘスティア・ファミリアまで運んできたベルくんは女神ヘスティアと協力してハーブによる治療を施したようである。

 

「すいません、ハーブ使っちゃいました」と謝ってくるベルくんに私は、きみが助けたい相手を助けるのにハーブが必要だったなら、幾らでも使ってもらって構わないよと言っておいた。殴打や蹴りによる外傷にハーブによる治療は効果的だったようで、静かに横になっている小人族の少女の容態は問題ない。

 

ベルくんと女神ヘスティアに教えておいたハーブによる治療は的確であったので、私が手を加える必要は無かった。私とベルくんに女神ヘスティアが見守る中で小人族の少女の目が開く。上半身だけを起き上がらせた少女は「ここは」と見知らぬ場所に困惑しているようだった。

 

ここはヘスティア・ファミリアのホームで、きみを襲っていた冒険者からきみのことを助けたのがこのベル・クラネルくんだ、治療を施したのは女神ヘスティアになるかな、と簡単に状況を説明しておく。すると「ここは医療系ファミリアですか?」と聞いてくる小人族の少女。

 

いや探索系ファミリアだが、と答えてから、どうしてそう思ったのかな、と私が聞くと「死ぬかと思うほど痛かった身体が治療されてるからです」と小人族の少女は答えた。まあ、そのあたりは秘密ということにしておこうか、と言った私は、それで何故冒険者から暴行を受けていたのか理由を聞いても良いかな、と切り出してみる。

 

深く深く息を吐いた小人族の少女は「言いたくありません」とだけ言うとベッドから降りると「それでも、感謝だけはしておきます。ありがとうございました」と頭を下げた小人族の少女は「持ち合わせがないんですが治療費は」と言ってきたので、私は治療費は必要ないと思うがどうかな、と女神ヘスティアとベルくんを見てみた。

 

「必要ないさ」と言う女神ヘスティアと「必要ないですよ」と頷くベルくん。「変なの」と呟いた小人族の少女。それから「失礼します」と逃げるように地下室から立ち去っていく小人族の少女が落とした鍵を拾ったベルくんが、落とし物である鍵を少女に届けに走っていった。

 

小人族の少女とベルくんの居ない地下室で女神ヘスティアと会話した私は、明らかに訳ありである小人族の少女を、お人好しなベルくんは決して見捨てないだろうという結論に至る。ベルくんだけでは手に余るようなことになったら私も手を出すことにしよう。

 

どうやらベルくんはトラブルに愛されているのかもしれないな。

 

 月 日

ベルくんとダンジョンへ向かう途中で「冒険者さん冒険者さん、サポーターはいかがですか」と売り込みをしてきたフードを被った少女。どう見ても昨日ベルくんが助けた小人族の少女であったので、ベルくんが「きみは昨日の」と言うと「初対面ですが」と惚ける少女は初対面ということにしたいらしい。

 

被っていたフードを外して頭にある犬人の耳を見せた少女は「リリは犬人です」と言ってきた。ベルくんは別人だと思ったようだが、私は種族を変える魔法があってもこの世界なら不思議ではないと考えているので、リリルカ・アーデと名乗った犬人のサポーターが昨日の小人族の少女と同じだと判断しておく。

 

ベルくんと私に近付いてきた理由がある筈だが、何が狙いなのか知る必要があるだろう。以前から冒険者の間で出回っている小人族の盗人がいるという噂話が真実であるとするなら、恐らくはその盗人がリリルカ・アーデの可能性があるな。

 

そうだとすればリリルカ・アーデが冒険者に暴行を受けていた理由も察しがつく。冒険者から盗みを働いて、それがバレて逆上した冒険者にリリルカ・アーデは暴行を受けることになったのだろう。そしてそこをベルくんに助けられたということになる。

 

お人好しであるベルくんを利用してやろうとでも思っているのかもしれないが、リリルカ・アーデがしっかりとサポーターとして働いてくれるなら問題はない。魔石の採取に関してはリリルカ・アーデに任せておくことにして、私とベルくんはダンジョンで鍛練を開始した。

 

私とベルくんが鍛練しながら倒していったモンスターをリリルカ・アーデが邪魔にならない位置まで運んでいき、手慣れた様子で魔石を採取していく。とりあえず上層で鍛練を終えて、リリルカ・アーデが回収した魔石を換金してみると10万ヴァリスくらいにはなったようだ。

 

ベルくんが半分の5万ヴァリスをリリルカ・アーデに渡しておくと凄まじく困惑していたリリルカ・アーデ。サポーターであるリリルカ・アーデは稼ぎの半分を渡されるようなことは今まで無かったらしい。サポーターに稼ぎを半分渡すことが当然のことだと思っているベルくんは「これからも頼むよリリ」と笑いかけていた。

 

リリルカ・アーデは「変なの」とまた呟いていたな。優しすぎるベルくんに明らかに戸惑っているリリルカ・アーデは根っからの悪人という訳ではない。環境によって荒んでしまった可能性が高いと私の勘が言っている。リリルカ・アーデが所属しているソーマ・ファミリアの良い噂は全く聞かないからな。

 

ソーマ・ファミリアについて詳しく調べてみる必要がありそうだ。

 

 月 日

今のベルくんのステイタスなら上層で死ぬことはないと判断して、ベルくんとリリルカ・アーデのみをダンジョンに向かわせておき、ソーマ・ファミリアについての情報収集を行っておく。結果としてはソーマ・ファミリアは主神ソーマが酒造りをする為にあるファミリアということがわかった。

 

ソーマ・ファミリアの眷族は主神ソーマに忠誠を誓っている訳ではなく、ソーマが造る神酒を飲む為に金稼ぎを行っているらしい。人を狂わせる酒を造っている神ソーマは神酒を造るヴァリスを眷族に稼がせており、ノルマを達成できた眷族だけに神酒を飲ませているようだ。

 

ステイタスの更新をするにもヴァリスが必要になるソーマ・ファミリアは異質だと言える。ソーマ・ファミリアを脱退するにも多額のヴァリスが必要になるようであるが、リリルカ・アーデは脱退する為に金稼ぎをしているのかもしれないな。そうであるなら常識の範囲内で手伝ってもいいだろう。

 

リリルカ・アーデが盗みをする必要がないほどヴァリスを稼がせてやればいい。それに注意力が上がっている今のベルくんから盗みを働くのが難しいことは直ぐにわかる筈だ。とりあえずリリルカ・アーデには稼ぎの半分で満足してもらうしかないな。それ以上を求めるなら応相談といったところか。

 

さて、これからどうなるかだな。

 

気を引きしめておくとしよう。

 

 月 日

ベルくんが奇妙な本を持って帰ってきた。私としてはその本が非常に気になるところではあったがベルくんには必要になるかもしれないと判断して、本を奪うようなことはしない。何故ベルくんがグリモアを持って帰ってきたのかについて作為的なものを感じるが、これも女神フレイヤからベルくんへの贈り物といったところか。

 

本を開いて直ぐに眠りに落ちたベルくんは明らかにグリモアの影響を受けていたな。プランターに生い茂るハーブの世話をしながら時間を潰していた私に「ただいまジョン君」と帰ってきた女神ヘスティアが話しかけてきた。おかえりなさい女神ヘスティア、ベルくんは今眠ってるところですよと言っておく。

 

「ステイタスの更新するからベルくん起こすぜボクは」と言う女神ヘスティアを止めることはない。それからもハーブの世話を続けていた私は廃教会の敷地内に存在する大きな3つのプランターに丁寧に水やりをしておいた。しばらくして地下室から飛び出してきたベルくんが「魔法が発現しました」と嬉しそうに報告してくる。

 

やはりあの本はグリモアで間違い無かったようだ。今回ベルくんに魔法を発現させる機会を譲った理由としては、ベルくんが魔法を使えるようにならないとベルくんが死んでしまうと直感で感じたからだな。あのグリモアはベルくんにとって必要なものだった。

 

せっかく鍛えたベルくんに死なれては困る。それにベルくんが死んだら女神ヘスティアも悲しむことが確実であるなら、私の選んだ選択は正しいだろう。たかがグリモア程度、自らの稼いだ金で手に入れてやるとするさ。

 

私の進む道は私が決める。

 

ただ、それだけだ。

 

 月 日

今日は何かが起こりそうな気がしたので、ベルくんにグリーンハーブとレッドハーブを調合して薬包紙に包んだものを3つほど手渡しておき、ミアハ・ファミリアでポーションを何個か買うようにベルくんに言っておいた。先にダンジョンに向かうつもりのベルくんを送り出すと、私は二日酔いに苦しんでいる女神ヘスティアの世話をしておく。

 

私が作ったしじみのスープを飲んで状態が落ち着いた女神ヘスティアをベッドに寝かせると私も遅れてダンジョンに向かう。ダンジョンに潜るとキラーアントの強化種が群れで出現しており、3人程度の冒険者の死体がキラーアントの強化種達に喰われていた。死体はベルくんやリリルカ・アーデではなく成人した男性達であるようだったが、見覚えのある鍵と魔剣が落ちている。

 

キラーアントの強化種達を倒してリリルカ・アーデが以前落とした鍵を拾い、魔剣も一応拾っておくことにした。向かった先でキラーアントの強化種達と戦いながらリリルカ・アーデを守っているベルくんに加勢して、通常種よりも動きが素早いキラーアントの強化種達を全て倒す。

 

安全になったところでベルくんに本音として色々なことを言いながらも、お人好しなベルくんに助けられたリリルカ・アーデは涙を流してベルくんに抱きついていた。どうやらリリルカ・アーデとのサポーター契約は続行ということになるらしい。

 

とりあえずリリルカ・アーデに鍵と魔剣を渡しておくと「何処でこれを」とリリルカ・アーデが言ってきたので、キラーアントの強化種に喰われていた死体の近くに落ちていたよ、と嘘を言わずに答えておく。「そうですか」と言ったリリルカ・アーデは複雑そうな顔をしていたな。

 

まあ、恐らくはリリルカ・アーデから鍵を奪った冒険者達が居たんだろうが、キラーアントの強化種に襲われて喰われてしまったということだろう。キラーアントの強化種がこれほど大量に発生した理由がある筈だが、偶然が積み重なった結果としてそうなったと私の勘が言っている。

 

やはりベルくんはトラブルに愛されているようだ。ちなみにベルくんに助けられて改心をしたリリルカ・アーデが言うには、ソーマ・ファミリアを脱退する為に必要な1000万ヴァリスまで、後200万ヴァリスであるらしい。ダンジョンで手早く稼いで、リリルカ・アーデをソーマ・ファミリアから解放しておこう。

 

ソーマ・ファミリアがリリルカ・アーデの脱退を渋るようであれば私が出向いて直接話をつけておくとするか。これでベルくんの仲間が1人増えたことになるが、それは決して悪いことではない。

 

もう何人かベルくんに頼れる仲間ができれば、私も安心して元の世界に帰れるんだがね。

 

 月 日

ベルくんとダンジョン内で鍛練をしながら現れるモンスター達を倒していくと、リリルカが倒されたモンスターから魔石を手早く抜き取っていった。大きなリュックサックがいっぱいになるまで魔石を詰め込んだら、それをギルドに換金しに行ったベルくんとリリルカをギルドの外で待つ。

 

今日の稼ぎは40万ヴァリスくらいにはなったようで、サポーターのリリルカに20万ヴァリスを渡したベルくん。ちょうど今回で1000万ヴァリスを貯めることができたリリルカはソーマ・ファミリアに行って今日中に脱退してくるつもりらしい。

 

ファミリア間の争いにならないように、何処のファミリアにも所属していない私が着いていくことにして、ソーマ・ファミリアにまで向かう。辿り着いたソーマ・ファミリアの本拠地でリリルカからヴァリスを奪おうと襲いかかってきた相手を惨たらしく痛めつけて沈めながら進んだ。

 

適当なソーマ・ファミリアの団員を脅して、ソーマ・ファミリア団長と主神ソーマを呼び出すとファミリア脱退と改宗が出来るように話をつけた。すると神ソーマから差し出された神酒を私が飲まなければリリルカが脱退と改宗が出来ないという話になる。

 

差し出された神酒を飲み干しておき、甘い酒は好みではないので私にとっては好きな味ではありませんねと正直な感想を伝えておくと驚いていたソーマ・ファミリア団長と神ソーマ。神酒を好みではない酒だと言われたのは初めてだったらしい神ソーマは衝撃を受けていたようだ。

 

とりあえず動揺しているソーマ・ファミリア団長と神ソーマを正気に戻らせてリリルカの脱退と改宗が出来るようにさせて、ソーマ・ファミリアから帰る帰り道でリリルカと並んで歩く。自由の身になったリリルカは「今日は着いてきてもらって、とっても助かりましたジョン様」と言ってきた。

 

まあ、確かにリリルカ1人だけだと色々と問題が有ったので、私が着いていったのは正解だったと言えるだろう。無事にソーマ・ファミリアを脱退して改宗も出来るようになったリリルカは、ベルくんの助けとなる為にヘスティア・ファミリアの所属となるつもりであるらしい。

 

もっとも主神ヘスティアが拒めばそれまでだが、女神ヘスティアはリリルカを見捨てるようなことはしない筈だ。そこまで薄情な女神ではないと私は思う。これでリリルカが抱える問題は解消されて、もうソーマ・ファミリアと関わることもない。

 

リリルカからヴァリスを奪おうと考えるソーマ・ファミリアの眷族は全員叩きのめしておいたので、ちょうどいい見せしめになって牽制にもなったことだろう。リリルカに手を出せば、酷い目にあうという惨状は作っておいたので、今後ソーマ・ファミリアがリリルカに手を出すことはないと断言ができる。

 

少々トラブルはあったが悪い結果ではないと言えるな。今日はリリルカの新しい門出を豊穣の女主人で祝ってもいいかもしれない。そう決めてベルくんと女神ヘスティアにリリルカを連れて豊穣の女主人へと向かった。豪勢な食事を全員で楽しんでおく。

 

今日は年長者として私が奢っておくとしよう。女神ヘスティアの方が私よりも歳は上だろうが、そこら辺は深く気にしない。確実に歳上である女性の年齢を追求するのは失礼なことだからね。という訳で支払いを済ませて帰り道を歩いていくとリリルカと女神ヘスティアがベルくんの両腕にくっついていたな。

 

私には微笑ましい光景に見えていたんだが、独り身である冒険者達には憎らしい光景だったようであり、凄い形相で睨まれていたベルくん。とりあえずベルくんを睨んでいた冒険者達に私が強めの殺気を込めて睨み返すと素早く目を逸らして逃げ去っていく冒険者達。

 

流石に実力に差がある相手の連れを睨み続ける度胸はないらしい。リリルカと女神ヘスティアに挟まれた状態で困惑しているベルくんは、自分に好意を示す女性達の積極性に着いていけていない様子だった。ダンジョンに出会いを求めてきた割りにベルくんは純粋過ぎるな。

 

今後のベルくんの女性関係が少し心配になるが、私が気にすることではないか。

 

刺されないように気を付けてほしいところだがね。

 

 月 日

アイズ・ヴァレンシュタインはミノタウロスを逃がしたことで危険な目にあわせてしまったことをベルくんに謝罪したいと思っていたようで、ベルくんの担当であるエイナ・チュールにベルくんを呼び出してもらって、ベルくんにしっかりと謝罪をしたようだった。

 

アイズ・ヴァレンシュタインは個人的に関わりあいになりたくないロキ・ファミリアの冒険者であるが、ベルくんに謝罪したところを見るとベートとやらと比べれば随分とまともではあるのかもしれない。とはいえ謝罪だけで終わりという訳ではなかったようで、何故か普段私と鍛練しているオラリオの壁上にアイズ・ヴァレンシュタインを連れてきたベルくん。

 

「貴方は怪物祭の」と私を見て驚いていたアイズ・ヴァレンシュタインは私のことを覚えていたらしい。簡単に自己紹介をして互いに名前を知ったところでベルくんから詳しい話を聞くと、どうやらアイズ・ヴァレンシュタインは私とベルくんの鍛練がどんなものか見てみたいそうだ。

 

とりあえず観戦者が居ようといつもとやることは変わらず、タウロススピアと猛牛殺しを持った私を相手に戦っていくベルくん。私が振り下ろした猛牛殺しを避けて接近したベルくんが放つ牛若丸による突きをタウロススピアの長柄で受けて弾き、ベルくんに中段の前蹴りを繰り出す。

 

蹴りを回避して身体を回転させたベルくんは、両手に1本ずつ持った牛若丸による連撃を行う。2刀流で淀みなく牛若丸を振るうベルくんの動きは日々の鍛練で洗練されており、我流ではなくしっかりと基礎が身に付いた動きとなっている。牛若丸の白刃が煌めき、蛇が獲物に喰らいつくかのような動きを見せていく。

 

タウロススピアと猛牛殺しで連撃を受けきったところで、猛牛殺しで逆袈裟斬りをすると素早く距離を取ったベルくんの動きは、かなり良くなっていた。限界すらも越えて飛躍するベルくんは確実に強くなっていることは間違いない。かなり手加減した猛牛殺しによる攻撃なら避けられるようになっていたベルくん。

 

しかしまだタウロススピアは完全に回避することはできておらず、今日もまた石突きによる突きを喰らうことになって吹き飛んだベルくんは壁上を転がっていく。ベルくんが立ち上がる前に間合いを詰めた私が猛牛殺しをベルくんの首に突きつけると、ベルくんは降参した。

 

私とベルくんの戦いを見ていたアイズ・ヴァレンシュタインは「凄いね、とても駆け出しとは思えない」とベルくんに向かって感想を言うと「貴方も手加減が上手なんですね」と私に言ってくる。照れているベルくんに笑顔を見せたアイズ・ヴァレンシュタインは私の方を向くと「今度はわたしと戦ってもらえませんか」と言い出してきた。

 

断っても良かったが戦いを見ることもベルくんの為になるかと考えて、私はアイズ・ヴァレンシュタインと戦うことにする。猛牛殺しとタウロススピアを置いて牛若丸を構えた私と剣を構えるアイズ・ヴァレンシュタインが対峙し、緊張した顔をするベルくんが観戦者となった。

 

真正面から斬りかかってきたアイズ・ヴァレンシュタインの剣を牛若丸の刀身を滑らせるように受け流す。ベルくんに見せるつもりで戦っていく私と、徐々に熱が入ってきたのか本気になってきていたアイズ・ヴァレンシュタイン。振るわれる剣が一撃ごとに鋭さを増していく。

 

身体能力と技量では私が上回っており、武器の性能と強度ではアイズ・ヴァレンシュタインが上回っている。牛若丸が壊れないように扱っている私とは違って、自らの剣に遠慮をしていないアイズ・ヴァレンシュタインは全力で剣を振るっていた。全力を出しても壊れることのない武器は私も持っているが、使う必要がない時は使うことはない。

 

牛若丸だけで充分だと判断した私は、アイズ・ヴァレンシュタインの猛攻を2刀流の牛若丸で捌いていく。受け流した剣の腹に左腕義手に持った牛若丸の柄で打撃を叩き込んで更に大きく体勢を崩させて間合いを詰めると、生身の右手に持った牛若丸の刃をアイズ・ヴァレンシュタインの首に突きつけて戦いを終わらせた。

 

「貴方は何故そんなに強いんですか」と聞いてきたアイズ・ヴァレンシュタインに、強くなる必要があったからかなとだけ答えて、それ以上語ることはない。私とアイズ・ヴァレンシュタインの戦いを見ていたベルくんは、目を輝かせながら「途中から動きが見えなかったですけど凄かったですよ、ジョンさんもアイズさんも」と大興奮していたな。

 

それからはベルくんと戦ったりアイズ・ヴァレンシュタインと戦ったりを繰り返すことになったが、ベルくんには良い刺激になったことは確かだ。ある程度時間が過ぎて帰る時間になったのか剣を納めると「明日も此処に来ていいですか」と言ったアイズ・ヴァレンシュタイン。

 

ベルくんがアイズ・ヴァレンシュタインに来てほしそうな顔をしていたので、アイズ・ヴァレンシュタインの鍛練の参加を了承することにした私は、別に構わないよとだけ言っておく。嬉しそうに笑ったアイズ・ヴァレンシュタインの顔に、すっかりベルくんは見惚れていた。

 

アイズ・ヴァレンシュタインが鍛練に参加していたことは女神ヘスティアには黙っておくとしよう。

 

また拗ねられても困るのでね。

 

 月 日

朝はベルくんやアイズ・ヴァレンシュタインと戦い、昼はダンジョンに潜り、夜はヘスティア・ファミリアのホームで過ごすという生活を続けていたある日、戦いが始まる前にアイズ・ヴァレンシュタインが「今日はじゃが丸くんを屋台に買いに行きたいです」と言い出した。

 

好きに買いに行けばいいんじゃあないかな、と言う私に「皆で買いに行きたいんです」と言ってくるアイズ・ヴァレンシュタイン。それを聞いたベルくんが「行きましょう」と即答。2人に懇願されて何故か私も着いていくことになって、じゃが丸くんの屋台にまで向かう。

 

するとそこには女神ヘスティアの姿があり、なんというか少々面倒なことになったが、ベルくんと私が説得してアイズ・ヴァレンシュタインの参加が取り止められるということはなかった。「その代わりボクもベルくん達の特訓を見させてもらうよ」と言ってきた女神ヘスティア。

 

今日はダンジョンに行く日ではないので暗くなるまで戦った私達だったが、女神ヘスティアは戦いに驚いてはいたが確実にベルくんが強くなっていることには納得したらしい。帰り道を歩いている最中に不穏な気配を感じ取った私は、複数人の気配を把握した。

 

アイズ・ヴァレンシュタインに目配せすると彼女も気付いているようである。意図的に魔石街灯が壊された道で、姿を現した槍を持つ猫人。ベルくんに槍を突き刺そうとした猫人の槍の長柄を片手で掴んで槍を止めた私は、空いている片手で拳を握ると猫人の腹部に拳を叩き込んでおく。

 

一撃で意識が飛んだようで、槍だけを残して吹き飛んだ猫人から奪い取った一級品の槍を構えると4人の小人族の相手をする。第一級冒険者であることは間違いない4人の小人族を圧倒していき、容赦なく石突きによる突きを叩き込んでおくと「ば、化物が」と道に倒れ込んだ小人族達に言われてしまった。

 

ベルくんやアイズ・ヴァレンシュタインは他の冒険者達の相手をしているようで、危うげなく戦えていたので問題はない。襲撃してきた冒険者達は目元を隠しているので素顔はわからないが、女神フレイヤの差し金であることは理解できている。

 

新手のエルフとダークエルフに向けてベルくんが魔法を放ったがLvが違いすぎて効果はないようだった。それでも女神フレイヤの眷族達は目的を達成したようで足早に立ち去っていく。気絶している猫人とダウンしている小人族達を抱えて素早く去っていったフレイヤ・ファミリアの目的は、ベルくんの魔法を見ることだったのかもしれない。

 

そんな出来事がありながらもそれぞれのホームに帰っていった私達は、明日も特訓をすることを約束して別れた。ステイタスの更新をしたベルくんは力、耐久、器用、敏捷がSSSにまで到達していたらしい。魔力もSになっていたようで、Lv1としては破格のステイタスを持っているベルくん。

 

ミノタウロスくらいなら倒せそうな今のベルくんなら中層に連れていっても問題無さそうだが、中層にベルくんを連れていくのはベルくんがLv2になってからにしておくとしよう。そろそろ乗り越えられる試練なら与えてもいいかもしれないな。

 

ランクアップに必要な試練。そんな都合の良いものに出会えるかどうかだが、ベルくんなら出会いそうな気がしないでもない。

 

ということは近々何かが起こりそうだな。一応気を付けておかなければいけないだろう。

 

ベルくんは本当にトラブルに巻き込まれる子だからね。

 

 月 日

ベルくん達とダンジョンに潜っていると上層でミノタウロスが現れる。天然武器ではない大剣を持っているミノタウロスは何処かの誰かの差し金であることは間違いない。ミノタウロスを前にしても落ち着いているベルくんは「僕にやらせてくださいジョンさん」と自分から言ってきた。

 

ミノタウロスに恐怖を感じていても立ち向かう勇気を持っているベルくんに今回は戦ってもらうことにして、静観している私に「ベル様を殺させるつもりですか」と言い出すリリルカ。これはいずれベルくんが乗り越えなければいけない壁だ、危なくなったら助けるから見ていなさいとだけリリルカに言うとベルくんを見守っていく。

 

片角のミノタウロスは強化亜種といったところだろうが、大剣の扱いはまだまだ未熟だと言えるだろう。大剣を避けて牛若丸を振るうベルくんはミノタウロスを刻んでいき、ダメージを負わせていたが倒すまでには至っていない。戦いの最中、振り下ろした大剣の軌道を変えたミノタウロスは薙ぎ払いを繰り出す。

 

しかしその動きを読んでいたベルくんは薙ぎ払いを潜り抜けると、ミノタウロスの脚に牛若丸を突き立てた。まずは機動力を削いでいくつもりらしい。このままなら無傷で勝ってしまいそうな気がしたが、トラウマの克服にはなるので問題ないかと思っていると現れたオッタルが魔石をミノタウロスに投げ渡す。

 

魔石を受け取ったミノタウロスは大口を開けて魔石を喰らった。更に強化されたミノタウロスは咆哮を上げる。ベルくんの足がミノタウロスの咆哮で止まってしまい、動きが止まったところに大剣が叩きつけられた。一撃で吹き飛んだベルくんの着ていたアーマーが壊れていく。

 

悲痛な悲鳴を上げたリリルカがベルくんに近付こうとしたので止めておき、ベルくんの戦いを邪魔させないようにする。立ち上がったベルくんは、まだやるつもりであるようだった。オッタルの次に現れたロキ・ファミリアの面々は、アイズ・ヴァレンシュタイン以外はベルくんの戦いを止めようとはしていない。

 

アイズ・ヴァレンシュタインの前に立ち塞がったオッタルは剣帯から大剣を引き抜くと「邪魔はさせん」とだけ言う。今にもオッタルに突撃していきそうなアイズ・ヴァレンシュタインのことを止めたのは、同じロキ・ファミリアに所属しているフィンの言葉であったようだ。

 

「止めるんだアイズ、これは彼の戦いだ」そう言ってベルくんの戦いを見ていたフィンは、ベルくんの戦いを止めるつもりはないようである。ベルくんと片角のミノタウロスの戦いは更に激しさを増していき、互いにボロボロになりながら攻撃を放つ。何度地を転がろうが立ち上がるベルくんと、傷だらけで立ち続ける片角のミノタウロス。

 

魔石を喰らったことで上昇した身体能力で大剣を振り下ろした片角のミノタウロスの攻撃を、牛若丸の刀身を滑らせるように斜めに受け流したベルくんは、受け流した大剣が地面に食い込んだ瞬間、大剣の柄を掴むミノタウロスの手首を斬り落とした。

 

牛若丸を鞘に納めて大剣の柄を掴んだベルくんは大剣を振るう。酷使されていた大剣は明らかに傷んでいたようで、片角のミノタウロスを両断するには切れ味と強度が足りていない。それでも大剣を叩きつけていったベルくんの前で折れた大剣。へし折れた大剣を放り捨てたベルくんは牛若丸を1本だけ鞘から引き抜いて片角のミノタウロスの首を斬り裂く。

 

噴き出した血を浴びることなく身を翻したベルくんに対して、追い詰められたミノタウロスが見せる突撃体勢を見せた片角のミノタウロス。片角を突き出して突進してきたミノタウロスを跳躍して飛び越えたベルくんは、空中で身体を半回転させると牛若丸を片角のミノタウロスの脳天に突き刺した。

 

突き刺さった1本の牛若丸はそのままに、片角のミノタウロスから離れたベルくんは、もう1本の牛若丸を鞘から引き抜く。構えたベルくんの前で脳天に突き刺さった牛若丸を引き抜いた片角のミノタウロス。武器を扱うことを覚えた片角のミノタウロスは、牛若丸を片手に持ったままベルくんへと近付いていった。

 

力任せに振るわれた片角のミノタウロスの牛若丸を、右手に持つ牛若丸で受け流したベルくんは、間合いを詰めるとミノタウロスの胸に牛若丸を突き刺す。振るわれる片角のミノタウロスが持った牛若丸を避けたベルくんは後ろ廻し蹴りで、片角のミノタウロスの胸に突き刺さっている牛若丸を押し込んだ。

 

魔石が破壊されて身体が灰と化した片角のミノタウロスは、ドロップアイテムである角だけを残して消えていく。こうして戦いは終わりとなって観戦していたロキ・ファミリアの面々が去っていった。ほんの少し前までは駆け出しの冒険者であったベルくんが成し遂げた偉業。

 

これで確実にランクアップができるだろう。ベルくんに駆け寄っていったリリルカが用意していたポーションをベルくんに飲ませている姿を私が見ているとオッタルが此方に近付いてきて「俺は再び貴様に挑むぞ」と力強い言葉を残すと立ち去っていく。

 

疲れきったベルくんを背負って帰る途中で、何故魔法を使わなかったのか聞いてみると「魔法に頼らず、今までジョンさんに教わってきて身に付いた自分の力だけで何処までやれるのか知りたかったんです」と答えが帰ってきた。ベルくんが自分の手札の1つを封印していた理由は、どうやらそんな理由であったらしい。

 

次からはちゃんと魔法も使いなさい、今日は私が見ていたから危なくなったら助けられたが、常に一緒にいられる訳ではないからね、と忠告しておいた。「わかりました、ジョンさん」と了承したベルくんは素直な良い子ではあるが少し危なっかしい。

 

私の背中で身を預けているベルくんが「僕、勝ちましたよ、ジョンさん」と言ってきたので、ああ、ちゃんと最後まで見ていたよ、本当によくやったねと言うと安心したのか眠ってしまったベルくん。疲れているようだからそのまま寝かせてあげておいた。

 

ヘスティア・ファミリアに帰り、ベルくんをソファーに寝かせておいた私は、椅子に座って今日の出来事を考えてみる。片角のミノタウロスは、どう考えてもオッタルの手引きによるものだったが、ベルくんをランクアップさせて何がしたいのかを考えると、女神フレイヤが関わっていそうだ。

 

ベルくんも私も厄介な女神に目をつけられてしまったな。

 

今日の出来事を書き込んだ日記を閉じて、眠るベルくんを眺めていると女神ヘスティアが優しい眼差しでベルくんを見ていた。

 

今日はベルくんと女神ヘスティアを2人だけにしてあげようと思った私は、宿を探してオラリオを歩く。

 

さて、何処に泊まろうかと考えていた私に近付いてきた神がいた。

 

「君は何者かな?」

 

そう言ってきた神はテンガロンハットのような帽子を被った胡散臭い男神であり、笑顔であっても眼が笑っていない。

 

「今日のところはただの宿無しといったところですかね」

 

と答えた私に興味を抱いているようだった男神。

 

「俺はヘルメス、君の名前は?」

 

此方は名乗っていないのに自己紹介までしてきたヘルメスは、どうしても私のことが知りたいらしい。

 

名前を言わなければいつまでも付きまとわれそうだと思った私は、とりあえず名前だけは教えておくことにした。

 

「私の名前はジョンと言いますが、これ以上の情報は言いませんよ神ヘルメス」

 

それだけ言って立ち去ろうとした私に向けて楽しげな笑みを浮かべたヘルメス。

 

「今日は俺も忙しいから、挨拶程度で終わりだが、また会える時を楽しみにしてるよ、ジョン」

 

踵を返して立ち去っていったヘルメスとまた会いそうな気がした私は、神には厄介な相手が多いようだとため息をついて宿を探した。




ネタバレ注意
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかの登場キャラクター

リリルカ・アーデ
ソーマ・ファミリア所属のサポーター
小人族
ソーマ・ファミリアの劣悪な環境で散々な目にあって心が荒み種族や性別まで変える魔法を悪用して冒険者から盗みを働いていた
原作ではベルのヘスティア・ナイフを盗む為にベルに近付く
リリルカに裏切られてもリリルカを見捨てなかったベルに強い想いを抱くことになる

ソーマ
ソーマ・ファミリア主神
酒造りにしか興味がない趣味神
ファミリアを作った理由も酒を造る為にヴァリスが必要であるから
人を狂わせる神酒を造り出すことができる

フィン・ディムナ
ロキ・ファミリア団長
小人族
槍使い
原作の時点で年齢42歳
明らかに年下であるリリルカ・アーデに求婚するが断られる


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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか編 後編 中

やっぱり長くなったんで上、中、下ということになりました
次で終わるかは書いてみないとわかりません


 月 日

ベルくんにとっては因縁の相手だと言えるミノタウロス。しかもその強化異種である片角のミノタウロスを1人で倒したことは偉業であったようでベルくんはランクアップできるようになったらしい。Lv2の選択可能な発展アビリティが複数出たベルくんは、どれにしようか迷っていたな。

 

耐異常、狩人、幸運の3つの内1つを選ぶとするなら、私と女神ヘスティアは幸運を勧めておいた。危なっかしいベルくんには幸運が絶対に必要になると思った私と女神ヘスティアだが、発展アビリティを決めるのはベルくんだ。何を選ぼうと特に怒ったりはしないから好きに選びなさいとベルくんに言っておく。

 

ギルドまで行ってエイナ・チュールにも相談してきたベルくんは、幸運の発展アビリティを選んだようだった。Lv2になったベルくんには新しいスキルが2つ発現したらしく、それは英雄願望と短刀剣舞というスキルである。英雄願望がどんなスキルかは、まだ解っていないみたいだが短刀剣舞については解っているようだ。

 

短刀剣舞は短刀、短剣、ナイフのいずれかを装備している時に全てのステイタスに高補正がかかり、発展アビリティ短剣士が一時的に発現するスキルらしい。ナイフや短刀による戦いを得意としているベルくんにはうってつけなスキルであると言えるだろう。

 

英雄願望については、どんなものなのかは使ってみなければ解らないかもしれない。ダンジョンに行けば、この英雄願望というスキルを使う機会もある筈だ。気になるところではあるがベルくんがLv2にランクアップした祝いを近々豊穣の女主人で行うことになっているので、ダンジョンはお預けということになるな。

 

女神ヘスティアは神会に出ることになっているようで「君の為にもボクは無難な称号を勝ち取ってきてみせるよベル君」と強い熱意に満ち溢れていた。どうやら神々は完全に遊び半分で神々にとっては痛々しい称号を、ランクアップした他の神々の眷族達に命名してしまうそうだ。

 

冒険者達が目を輝かせる称号が実際は、そんな決まり方をしているとはと少し呆れたが、下界に降りてきた神々が娯楽に餓えていることは良く理解できた。Lv2にランクアップしたベルくんの称号が無難なものになるかどうかは、それこそ神のみが知るということになるか。

 

変な称号にならなければ良いんだが、大手の力があるファミリアという訳ではないヘスティア・ファミリアでは発言力があまりないのではないかと考えると、他の神々には完全に遊び半分で称号を考えられそうな気もする。しかし私の勘は大丈夫だと言っているので大丈夫だと思っておくとしよう。

 

まあ、どんな称号で呼ばれようがベルくんはベルくんだ。私の教え子であることには変わりない。

 

それだけは確かなことだな。

 

 月 日

ベルくんの称号は、リトル・ルーキーというものになったらしい。他の冒険者に比べれば無難な二つ名になったみたいだが、どうやらそれは女神フレイヤのおかげであるようだった。ベルくんには内緒で私にだけ神会での出来事を教えてくれた女神ヘスティアによれば女神フレイヤはベルくんを庇ったそうだ。

 

ベルくんが短期間でランクアップしたことを女神ロキに追求されそうになったところを女神フレイヤが庇って、神会から一足先に立ち去る時もベルくんの称号を決めようとする神々に釘を刺していたらしい。女神フレイヤが明らかにベルくんを特別扱いしていることに気付いた女神ロキが女神ヘスティアに忠告したようである。

 

私も以前眷族にならないかと女神フレイヤに言われたことはありますね、と女神ヘスティアに言うと「ジョン君も狙われてるのかい」と驚いていた女神ヘスティア。頭を抱えている女神ヘスティアへ、ちなみに女神フレイヤに勧誘される前にオッタルとも戦いました、と言ってみる。

 

「恩恵が無いのにオッタルと戦えるジョン君が、普通におかしいと思うのはボクだけかな」と言いながらため息をつく女神ヘスティアは驚き疲れた顔をしていた。ちなみにオッタルの剣を壊して勝ちましたよ、と付け加えてみると「うん、ジョン君なら多分勝ったんだろうなあって思ってたよ」と苦笑する女神ヘスティア。

 

「ベル君だけでも頭が痛いのに、ジョン君まで加わったらボクはどうにかなってしまいそうだよ」と言う女神ヘスティアを、身体に優しいハーブティーでも作りましょうか、と労ってみた。その後、ハーブティーを飲んで落ち着いた女神ヘスティアは「ボクもフレイヤには気をつけておくよ」とだけ言ってヘスティア・ファミリアのホームから出ていく。

 

女神ヘスティアは知り合いの神と話があるので出かけるらしい。私も先に豊穣の女主人に行っているベルくん達と合流することにしよう。リリルカとヴェルフくんもベルくんと一緒にいる筈だ。豊穣の女主人に行くと「遅いですよジョン様」とリリルカに言われてしまった。

 

既にパーティーは始まっていたので、とりあえず用意されていた席に座るとベルくんが注目されていることが良く解る。最速でランクアップしたベルくんの名は少し有名になっていたらしい。私が居ない時もダンジョンに潜るつもりであるベルくんに忠告として「新たにパーティを増やすべきだ」と言ったリュー・リオン。

 

そこでヴェルフくんから話を切り出してきたが、ベルくんのパーティにヴェルフくんがLv2になるまで加えてほしいようであった。「ヴェルフさんなら良いですよ」とすんなり受け入れたベルくんにリリルカが「簡単に受け入れ過ぎですベル様」と言うが、それでもベルくんが決めたことを無下には出来ないリリルカは折れる。

 

パーティメンバーについての話が纏まったところで、装備品についての話が始まろうとしたが、酔っ払った冒険者が近付いてきた。何の用かと思えばリュー・リオンが目当てであったようで「こっちに来て酌でもしろよ姉ちゃん」と言って触ろうとしてきた冒険者にリュー・リオンは「触れるな」と言いながら持っていたコップに冒険者の手を突っ込んで容易く捻り上げていく。

 

「てめえぇ何しやがる」と言った冒険者の仲間2人の後頭部に、豊穣の女主人の店員である猫人2人による椅子の一撃が叩き込まれていき、一撃で倒された冒険者の仲間2人。「なっ何だっ、てめえらは」と叫ぶ冒険者がナイフを取り出すと、猫人2人が纏う空気が変わる。

 

戦いが始まるかと思われたがカウンターに拳を叩き込んで破壊したミアの一撃と迫力に完全に怯えた冒険者は金を払って逃げ去っていった。基本的に豊穣の女主人の店員は強いので、私が手を出す必要はない。パーティーはそれからも続いていき、装備品についても話が進んだ。

 

中層を目指すならサラマンダーウールを用意する必要があると話しておき、ベルくんに購入を勧めておく。「サラマンダーウールはジョンさんの分も必要ですよね」と言ってきたベルくんに、じゃあとりあえず50万ヴァリスを渡しておこうか、と50万ヴァリスを渡しておいた。

 

「そんなに高いんですかサラマンダーウールって」と驚いているベルくん。そこまで高くはないとは思うよ、だから余ったら小遣いにでもしておきなさい、と私が言うと「余ったらちゃんと返します」と言ってきたベルくんは真面目な子だった。しかし他にも装備品を集める必要があるベルくん達には使えるヴァリスは幾らあってもいい筈だ。

 

装備品を集めるヴァリスは足りているのかな、とベルくんに聞いてみると「以前ジョンさんやリリと一緒に稼いだヴァリスがまだ80万ヴァリスも残ってるんで大丈夫です」と答えたベルくん。それだけあるなら装備品一式を揃えることも不可能ではない。足りなければダンジョンに潜る必要があったが、その必要は無さそうだ。

 

パーティメンバーに加えてもらったお礼としてヴェルフくんがベルくんの装備一式をタダで新調してくれるようで、しかもベルくんと鍛冶師として直接契約もしてくれるらしい。ベルくんにとっては願ったり叶ったりであると言えるだろう。腕の良い鍛冶師と直接契約できたことは良いことだ。

 

それからベルくんが倒した片角のミノタウロスのドロップアイテムについての話になり、ドロップアイテムであるミノタウロスの赤い角でヴェルフくんに新しいナイフを作ってもらうことになった。片角のミノタウロスとの戦いで酷使されたベルくんの牛若丸も打ち直してもらうことになる。

 

ついでに私が入手したミノタウロスの赤い角もヴェルフくんに提供することになったので、2つの赤い角でベルくんの新しいナイフが作られるようだ。ヴェルフくんは新しいナイフの名前を作る前から決めているようで「ナイフの名前はミノたんだな」と言い出す。流石にミノたんという名前は嫌だったようで「牛若丸弐式でお願いします」とヴェルフくんに頼んでいたベルくん。

 

「良い名前だと思うんだけどなミノたん」と残念そうに言うヴェルフくんへ「牛若丸弐式にしておいて下さい」とベルくんは必死に頼んでいた。根負けしたのか牛若丸弐式という名前を了承したヴェルフくんは、明日の早朝にでもドロップアイテムのミノタウロスの赤い角を受け取るようであり、早速工房で牛若丸弐式を作るつもりであるらしい。

 

色々と話をしている内にパーティは終わりとなって支払いを済ませた全員は豊穣の女主人を後にすると、それぞれが別々の場所へと帰っていく。私とベルくんはヘスティア・ファミリアのホームの廃教会に帰り、歯を磨いて就寝することにした。今日は女神ヘスティアは帰ってこないようだ。

 

明日は二日酔いになっていそうな女神ヘスティアの介抱をする必要がありそうだな。二日酔いでも食べられそうな食事を用意しておくとしよう。とりあえず女神ヘスティアは私に任せてもらって明日ベルくんには、装備品を整えてもらわなければいけない。

 

装備が整ってからダンジョンの上層でベルくんのランクアップした身体を軽く慣らしておいてもらう必要もあるだろう。発現したベルくんのスキルについての確認もその時済ませておけば問題ないな。忙しくなるだろうがヘスティア・ファミリアの団長であるベルくんには、団長として頑張ってもらいたいところだ。

 

 月 日

新しい軽装のアーマーと、ミノタウロスの赤い角を使って作られた牛若丸弐式という赤いナイフが2本。ベルくんの新しい装備がある程度は揃ったので、次はリリルカの装備を揃える必要があった。ヴェルフくんに工房を借りた私が作製した特製のボウガンをリリルカに渡しておき、使い心地を確かめてもらうと問題はない様子。

 

ボウガンの威力は高めにしておいたので、ある程度はリリルカも自衛ができるだろう。私のボウガン作製作業を見ていたヴェルフくんは作製意欲が湧いたようで、新しい武器や防具を作っていたな。そして片角のミノタウロスとの戦いで壊れたベルくんの装備は、アーマーだけではない。

 

5万ヴァリスで買った籠手も砕けていたので代わりとなる防具をヴェルフくんに作ってもらう必要があり、ベルくんは籠手よりも重くなったとしても防御面積が籠手より広い片手盾を欲しがっていたので、頑丈な片手盾も作ってもらった。ランクアップしたベルくんなら多少重くても扱えるだろう。

 

ポーションも持ち運べるだけ購入し、全員の装備一式が充分に整ったところでダンジョンに向かうことになる。ダンジョンの上層で私を除いた3人だけのパーティの連携を確認して、中層に向かう前に慣らしを行った3人。装備した牛若丸弐式を2刀流で構えたベルくんが11階層で発生した怪物の宴に単身で突っ込んでいく。

 

スキルの短刀剣舞で高補正がかかったステイタスと一時的に発現する短剣士の発展アビリティは、ベルくんに更なる力を与えていたようで、モンスター達があっという間に倒されていった。ほぼ1人で大量発生したモンスター達を倒しきったベルくんは、Lv1の時とは比べ物にならないほど強くなっている。

 

中層のモンスターを相手にしても充分に通用するであろう今のベルくんは、並みのLv2では相手にならない強さを持っていることは確かだ。ベルくんを中心としたパーティは悪くない連携も見せていて、問題が起こらなければ中層でも戦えるだろう。

 

その後ベルくんの英雄願望というスキルがどういうものか少し理解できる出来事があった。詳細を書くと蓄力した分だけ能動行動の効果が上がるというもので、詠唱が必要ない速攻魔法であり、威力はそこまで高くなかったベルくんの魔法であるファイアボルトが高威力となっていたことから、蓄力による上昇率はかなりのものだ。

 

英雄願望というスキルを使いこなすことができれば、格上相手にも通用する一撃を放つことが可能である。Lv差を覆す逆転の力となるスキルは役立つだろうが、しっかり活用できるようにベルくんには英雄願望というスキルで何ができるかを理解してもらわなければいけないな。

 

何が可能で何が不可能なのか、しっかりと確かめておくとしよう。

 

 月 日

ベルくんと2人でダンジョンに潜って色々確かめた結果として英雄願望について解ったことを日記にも書いておくとしよう。英雄願望のスキルで腕に蓄力すると、ナイフや剣を持っていれば斬撃の威力を高めたりができて、武器を何も持っていなくても拳打の速度と威力を高めたりが可能であることが解った。

 

足に蓄力すれば踏み込みを強化して高速移動することや蹴りの威力を高めることも可能だったので、ベルくんはかなり戦術の幅が広がったと言える。ベルくんが使える速攻魔法であるファイアボルトの威力を引き上げることが可能であることは解っているので、今度は英雄願望のスキルの応用について考えてみることにした。

 

ファイアボルトの魔法とナイフによる斬撃を蓄力して集束することで同時に繰り出すことができれば威力が更に高まるのではないかと私が提案してみると、実際に試してみたベルくんは打ち直してもらった牛若丸から炎雷の刃を伸ばして、モンスターの群れに対して振るう。一撃で切り裂かれたモンスターの死体だけが残り、負荷に耐えきれなかった牛若丸が砕けてしまった。

 

どうやら魔法と斬撃の二重集束は武器に凄まじい負荷がかかるらしい。この応用技を連続で使うには負荷に耐える武器が必要になる。それなりに頑丈な牛若丸でも耐えきれない負荷に普通に耐えられる武器は、かなり高価なものとなりそうだ。二重集束を必要とするこの応用技を、ベルくんは聖火の英斬と名付けたらしい。

 

武器を犠牲にすれば一撃は放てるので、いざという時の為の技ということになるだろう。普段使いはできない技だが、必殺技と呼べる技ができたベルくんは喜んでいたな。女神ヘスティアが称した通りにまさしく「英雄の一撃」を手に入れたベルくんは更に強くなったが、まだまだ手がかかる子であることに変わりはない。

 

砕けた牛若丸の残骸を広い集めて「これどうしましょう、ヴェルフに何て言えば」と落ち込んでいるベルくんに、まあ、技に耐えきれなくて壊れたと正直に伝えるしかないかな、と言っておく。とりあえず英雄願望についての検証は終わったので倒したモンスターから魔石を集めて換金し、ダンジョンを後にすることにした。

 

ギルドを出ると直ぐにヴェルフくんの工房に行き、素直に謝ったベルくんに「牛若丸が壊れたのは俺が未熟だったのと、素材の限界だろうな」と壊れたことは怒っていない様子だったヴェルフくん。それなりに頑丈な牛若丸が負荷で壊れた必殺技が気になっていたヴェルフくんは聖火の英斬を直接見たいようだった。

 

私がウォーシャドウの指刃から作った消耗品である投げナイフのスローイングシャドウを1本ベルくんに渡し、スローイングシャドウで聖火の英斬を使ってもらうことにする。負荷に耐えきれず牛若丸よりも早く砕けてしまったが、どんな技であるかヴェルフくんに見せることはできたみたいだ。

 

「今の俺じゃあ、その技に耐えきれる武器を作ることはできそうにないな」と言ったヴェルフくんだが諦めてはいないようで「Lv2になって鍛冶の発展アビリティを手に入れてみせるから待ってろよベル」と言って気合いを入れていた。鍛冶師として燃えているヴェルフくんなら素晴らしい武器を作ってくれるという予感がある。

 

質の良い素材が手に入ったらヴェルフくんに提供するとしよう。それがベルくんの生存確率を上げることに繋がる筈だ。腕の良い鍛冶師であるヴェルフくんと直接契約できたことは、ベルくんにとって悪いことではない。質の良い装備を手に入れることができるようになるからだな。

 

ヴェルフくんは粗悪品を渡すような鍛冶師ではないので、そのあたりは安心できる。ベルくんは良い出会いに恵まれているのかもしれない。それからヘスティア・ファミリアのホームに帰るとベルくんが女神ヘスティアに「必殺技ができました」と物凄く嬉しそうに言っていた。

 

威力に耐えきれずに武器が壊れてしまうから乱用はできないので最後の切り札ということになる、と私がベルくんの必殺技について語っておくと女神ヘスティアは何かを考えているようだったな。女神ヘスティアはベルくんの為に何かをしてあげたいと考えていたのかもしれない。

 

最初の眷族であるベルくんの力になりたいと思う女神ヘスティアが無茶をしなければいいんだがね。女神ヘスティアはベルくんへの思い入れが、少し強いところがあるからな。それほど大切な家族ということなのだろうか。まあ、それは決して悪いことではないが、限度というものはある。

 

「ボクに任せとけベルくん」と言い出した女神ヘスティアに少々嫌な予感はするが、女神ヘスティアに命の危機があるということではないと私の勘が教えてくれた。ヘファイストス・ファミリアに凄まじく頑丈な高い武器でも作ってもらって借金でもしてくるんじゃあないだろうか。

 

この予想が大当たりなような気がするな。もしも予想通りだったなら、借金返済を私も手伝うことにしよう。とりあえず5000万ヴァリスは貯まっているので、多少高価な程度なら問題はないが、それ以上の値段だったら更に稼いでくるしかない。カドモスの泉の泉水は高く売れるらしいな。

 

今度1人で行ってみるのも悪くはないか。

 

 月 日

女神ヘスティアがヘスティアナイフというナイフを持って帰ってきた。私が持った場合は、なまくらだが、女神ヘスティアの眷族であるベルくんが持った時には別物となり、牛若丸弐式以上の素晴らしいナイフとなる。どうやらこのナイフは女神ヘスティアの恩恵を授かった眷族の経験値を糧に進化していく武器であるようだ。

 

ヘスティアナイフはヘファイストス・ファミリアの主神であるヘファイストスが作った武器だと教えてくれた女神ヘスティアだが、値段は幾らですか、と私が聞くと、それについては答えない。「これは主神としてボクが払うんだ」とだけ言った女神ヘスティアは、バイト先が1つ増えたようである。

 

値段が幾らかはわからないがヘスティアナイフは凄まじく頑丈なようであり、聖火の英斬にも普通に耐えることができそうだった。鞘にヘファイストスの銘がつけられたヘスティアナイフを、まるで宝物を見るかのように輝いた目で見ていたベルくん。

 

主神である女神ヘスティアからの贈り物はベルくんにとって嬉しいものであったらしい。それは悪いことではないんだが、借金が幾らなのかが問題だ。女神ヘスティアの借金は、億単位な気がする。かなりのヴァリスを荒稼ぎする必要がありそうだな。

 

そろそろ中層にベルくん達と一緒に向かうので、あまり時間をかけることはできない。

 

数時間あれば帰ってこれる24階層で宝石の実を採取しに行くとしよう。

 

少しでも稼がなければいけないからな。

 

 月 日

ベルくんがサラマンダーウールを人数分購入してきたようで、各種ポーションもミアハ・ファミリアから購入してきており、中層に向かう準備ができたようだった。という訳で集合した全員でダンジョンへと向かう前に女神ヘスティアへ、もしかしたら18階層まで行ってくるかもしれませんと言っておく。

 

少し帰還が遅れても女神ヘスティアが心配しないように、しっかりと遅れる理由を伝えておいた。これで帰りが遅れたとしてもダンジョンにまで女神ヘスティアが私達を捜しにくるということはない筈だ。神がダンジョンに入ると何が起こるかわからないので、女神ヘスティアがダンジョンに入るような事態は避けておきたい。

 

とりあえず女神ヘスティアは、これで大丈夫だと思いたいな。問題は他の神だが、流石に全ての神々に釘を刺すということは不可能だ。余計なことをする神が居ないとは限らないからな。そこら辺は注意しておかなければいけない。既に何かが起こりそうな予感があるが、私が居れば問題はないと私の勘が言っている。

 

整えた装備とアイテムを持ってダンジョンに全員で向かい、上層を越えて中層の入り口まで来た。サラマンダーウールを全員が羽織って、中層へと移動していく。早速現れたヘルハウンドの群れが口を開いて火炎を放射しようとしてきたので、スローイングシャドウを口内に投げ込んでやった。

 

口内を突き破って後頭部からスローイングシャドウの刃が突き出たヘルハウンドは死亡していたようだ。上層のウォーシャドウの指刃で私が作った投げナイフであるスローイングシャドウは中層でも、ある程度のモンスターなら通用するらしい。ヘルハウンドの火炎放射を事前に防ぐ為に先制攻撃を行うやり方をベルくんにも見せることができた。

 

ベルくんもスローイングシャドウを8本携帯しているので、次にヘルハウンドが現れたらベルくんにも対処してもらうとしよう。私が居なくても中層に行けるようになってもらわなければいけないからな。それからはモンスターが現れれば基本的にはベルくん達を前に出して、しっかり中層での経験を積んでもらった。

 

天然武器のトマホークを投げてくるアルミラージをベルくん扱いしているリリルカとヴェルフくんには余裕がありそうだったので、課題としてベルくんを活かした立ち回りを意識して動くように言っておく。上層でしばらく連携を確認していたベルくんとリリルカにヴェルフくんの3人は中層でも良い連携ができていたようだ。

 

このままならベルくん達だけで順調に中層も攻略できそうだったんだが、そう上手くはいかないらしい。何故なら負傷者を抱えたパーティが此方を突っ切っていき、発生したモンスターの大群を押し付ける怪物進呈が行われたからだ。流石にこれはベルくん達だけに任せておくとベルくん以外が死にそうなので、手を出すことにした。

 

猛牛殺しとタウロススピアが壊れない程度の力と速度でモンスターの大群を全て倒しておき、これからどうするかをリーダーであるベルくんに聞いてみると「さっきのパーティに抱えられてた怪我をしている人が心配なので一旦戻りましょう」と答えたベルくん。それを聞いて「怪物進呈してきた相手のパーティだぞ」とヴェルフくんは言った。

 

「それでも助けられるなら助けたいんだ、僕はダンジョンで助けられたから今も生きてる。助けられた人を助けられなかったら、きっと後悔するから」そう言い切ったベルくんの意思は、とても固そうだったな。結局はヴェルフくんが折れる形で、さっき怪物進呈をしてきたパーティの様子を見に行くことになる。

 

上層の12階層で先ほどのパーティを発見。怪我をしたパーティメンバーの周囲に集まり、切羽詰まった様子でなんとか治療を施そうとしているようだが物資が足りていないらしい。見かねたベルくんが率先して念の為に買っていたハイポーションを渡しにいくついでに私も着いていき、容態を確認して見たが、傷が深く血が止まらない様子である。

 

私達が怪物進呈をされたパーティだと気付いて警戒している相手のリーダーに、殺すつもりなら秒で殺せる、助けたいなら黙って見ていろ、とだけ言って私が治療を行うことにした。トマホークが突き刺さっていた傷口を消毒して殺菌し、レッドハーブから作製した止血剤を投与しておく。ハイポーションと調合したハーブを使って傷口を塞いだら、意識を取り戻した怪我人に私が作った造血剤を飲ませておいた。

 

輸血ができるような設備がないので、現在可能な範囲で出来る治療を施すことになったが、命に危機があるという状態では無くなったので良しとしておこう。助けた相手のパーティメンバー達からは感謝され、ベルくん達に怪物進呈をする判断を下したというリーダーからは土下座での謝罪を受けることになった。

 

そんな彼等が何処のファミリアかを聞いてみるとタケミカヅチ・ファミリアという極東の神のファミリアであるらしい。きみ達が中層に来るのは早かったということにして、今後は怪物進呈などしなくても切り抜けられるように鍛え直した方が良いだろうな、とタケミカヅチ・ファミリアに忠告をしておいた。

 

次も同じようなことをしたら覚悟しておきなさい、と殺気を交えて釘も刺しておき、ヴェルフくんとリリルカの元にベルくんと一緒に戻る。少々物資が減りはしたが、まだまだ充分な物資はあるのでダンジョン探索を続けることにした私達は階層を更に先へと進めていった。16階層まで到着したところで殺気を放ちながらミノタウロスが現れる。

 

殺気に震えるヴェルフくんとリリルカを守る為に、ミノタウロスへと突撃していったベルくんはヘスティアナイフと牛若丸弐式の2刀流でミノタウロスを滅多斬りにして倒すと、ミノタウロスが持っていた天然武器である斧を拾う。強度には問題があるが使い捨ての武器として使える天然武器の斧を構えたベルくん。

 

現れた3体のミノタウロスを相手に英雄願望を発動したベルくんの腕が光り輝き、鐘の音が鳴り始めると蓄力が開始されていく。ベルくんが振り上げた斧に纏わりついた光りは、蓄力によって斬撃の威力を上昇させる英雄願望の光りであった。ヴェルフくんとリリルカの様子を見て、ミノタウロスを一気に纏めて倒してしまった方が良いとベルくんは考えたらしい。

 

振り下ろした斧の一撃でミノタウロス3体を倒したベルくんを見ていたヴェルフくんが「オックス・スレイヤー」と言っていたな。英雄願望で体力と精神力を消費したベルくんにデュアルポーションを渡しておく。デュアルポーションで回復して、まだまだ先に行けそうなベルくんに、18階層まで行くかどうかを聞いてみた。

 

「18階層まで行けるなら行ってみたいです」と答えたベルくん。まだ充分な物資が残っているので18階層まで向かうことは可能である。後はヴェルフくんとリリルカが行く気があるかどうかだが、どうやらそれは聞くまでもなかったらしい。ベルくんが行くなら一緒に行くと決めている2人は良いパーティメンバーだ。

 

更に先へと進み17階層まで到達すると、嘆きの大壁を初めて見ることになった私以外の3人が、階層主が居ないことに喜んでいた。まだロキ・ファミリアによって倒されたゴライアスが発生するまで日数があったようである。とはいえ安全だとは言えない階層ではあるので先へと進み、18階層まで降りていった全員。

 

到着した18階層で偶然アイズ・ヴァレンシュタインと出会うことなり、少し話すことになる。憧れの相手と話せてベルくんは素直に喜んでいたようだが、それを見たリリルカが突撃していってベルくんに抱きついていたりもした。ヴェルフくんは「剣姫と知り合いなのか」と驚いていたが、深く追求することはない。

 

ロキ・ファミリアは遠征の帰りであり、この階層に留まって休息を取っているそうだ。私達もそろそろ休息を取るつもりではあるが、ロキ・ファミリアとは離れたところにテントを張る必要がありそうだった。3つ用意してあるテントに「仕方ありませんね、リリはベル様と一緒に」と言い出したリリルカ。

 

「ええっ」と戸惑っているベルくんに「リリスケお前」と引いているヴェルフくん。私は寝ないで番をしているから、きみ達1人1人は別々のテントで寝なさい、と言っておいた。残念そうなリリルカと、ほっとしているベルくんという図を見ながらヴェルフくんとテントを張っていく。

 

用意できた3つのテントに3人を寝かせておき、寝ずの番をするつもりだった私に近付いてきた小人族が1人。勇者の称号を持ち、Lv6の第一級冒険者でありながらロキ・ファミリアの団長を務めているフィン・ディムナが私の前に現れた。何らかの目的があって接触しにきたことは間違いない。

 

「君にはアイズが随分と世話になったらしい、団長としてお礼を言っておこうと思ってね」と言いながら笑ったフィン・ディムナ。どうやらそれだけの理由では無さそうですが、聞きたいことがあるのでは、と言ってみると「聞けば答えてくれるのかい」とフィン・ディムナは言う。

 

答えられる範囲なら答えましょうか、と言った私に、少し考えていたフィン・ディムナは「何故君はベル・クラネルとパーティを組んだのかな」と聞いてきた。彼の主神である女神ヘスティアに彼を助けてあげてほしいと頼まれたからですね、と正直に答えておく。私が全く嘘を言っていないことがフィン・ディムナにも理解できたらしい。

 

続けて幾つかの質問をされたが、問題が無いものには正直に答えておき、明らかに問題が有りそうなものには、それは秘密です、とだけ言っておいた。ある程度情報を入手して満足したのかフィン・ディムナは帰っていったが「また明日来させてもらうよ」と言っていたのでまた来るだろうな。私は目を付けられてしまったようだ。

 

とりあえずベルくん達に迷惑がかからないように気を付けなければいけないか。

 

ロキ・ファミリアには主神を含めて面倒な相手が多いようだ。

 

 月 日

17階層でゴライアスが現れたらしく、2日後にロキ・ファミリアがダンジョンから帰還する際にゴライアスを倒すそうだ。ちょうどそれに合わせて帰ることに決めたリーダーのベルくん。何も問題が無ければ2日後には無事に帰れたんだが、ダンジョンに神ヘルメスと何故か女神ヘスティアが現れたことで、何かが起こりそうな気がした。

 

神ヘルメスがベルくんを見に行くと決めてダンジョンに向かうと聞いて女神ヘスティアも心配になって着いてきてしまったようだ。タケミカヅチ・ファミリアの3人とリュー・リオンも来ていたようであり、見知らぬ眼鏡を掛けた女性も1人いたが、ヘルメス・ファミリアの団長であるらしい。

 

ヴェルフくんに「ヘファイストスからの預かり物だよ」と言って布に包まれた剣を渡していた女神ヘスティア。その剣はヴェルフくんが作った魔剣であるようだった。女神ヘファイストスからの伝言もあり「仲間を大切に思うなら、意地と仲間を秤にかけるのは止めなさい。だったかな」と言った女神ヘスティアに無言で頭を下げたヴェルフくん。

 

ロキ・ファミリアから話を聞いて2日後まで1日暇ができると判断した神ヘルメスが「リヴィラの街で観光でもしてきたらどうかな」と言い出すと反応した女神ヘスティアとリリルカ。ベルくんを挟んで言い争いを始めていた女神ヘスティアとリリルカに遠い目をしていたベルくんは何かを悟っているかのように見えた。

 

観光に行ったベルくん達と別れて移動した先で、フィン・ディムナと再び会うことになる。これは偶然という訳ではなく、フィン・ディムナは私を捜していたようだ。「やあ、昨日ぶりだね」と友好的に話しかけてきたフィン・ディムナは「また少し話さないかい」と言う。

 

構いませんよ、座って話しましょうか、と言って18階層の草原に腰を降ろした私の隣に座ったフィン・ディムナ。それから会話を少し続けていると神ヘルメスが覗きをしていることがバレたようであり、縄に縛られた状態で木に逆さ吊りにされている姿が遠目で見えた。それを見ると流石にフィン・ディムナも苦笑いしかできていなかったな。

 

神というものは一部の例外を除いて、基本的にろくでもない存在らしい。ちなみにベルくんも巻き込まれていたようだが、素直に謝罪したベルくんは許されたようである。神ヘルメスが主犯で、ベルくんは騙されていただけだということが解ったからだろう。主犯の神ヘルメスは逆さ吊りにされた状態で叩かれていたが、助けようとは思わない。

 

寧ろ余計なことしかしていない神ヘルメスをもっと抉るように打ってやれと言いたいところだった。流石に隣にフィン・ディムナが居たので、そんなことは言わなかったがね。フィン・ディムナとの会話も終わり、ベルくんがテントに帰ってきたところで私は少し眠ることにした。

 

私達のテントを張ってある18階層の草原で横になった私はベルくんに、少し眠るから番を頼むよ、とだけ言っておく。30分程度の仮眠を取って起きるとテントを巡って攻防が始まっていたな。詳細を書くとすると、ベルくんと同じテントで寝ようと女神ヘスティアとリリルカが争っていたということになる。

 

とりあえず、女神ヘスティアはリリルカと同じテントで寝てください、とだけ言っておいた。女神ヘスティア達に着いてきていたタケミカヅチ・ファミリアの面々はロキ・ファミリアにテントを借りるらしい。神ヘルメスとヘルメス・ファミリア団長のアスフィと言われていた女性もロキ・ファミリアにテントを借りているようだ。

 

何かしら問題が起こるとすればロキ・ファミリアが居なくなる明日になるだろう。

 

さて、どうするかな。

 

今日の出来事を書き終えた日記を閉じる。明日は忙しくなりそうなので日記を書く暇はないかもしれない。間違いなく神ヘルメスが問題を起こすと私は確信している。どう考えてもベルくんを見る目が普通では無かったからな。

 

神ヘルメスの私を見る目が妙に輝いていたのも気がかりだが、何があろうと私は問題ないので、気にするべきはベルくんだ。リヴィラの街で絡まれたとも言っていたから、神ヘルメスはベルくんに絡んできた冒険者を使って何かさせるつもりじゃあないだろうか。

 

やはり神というものは基本的にろくでもないものであるようだな。

 

ダンジョンの夜が過ぎて朝が来ると、ロキ・ファミリアが18階層から立ち去っていく。アイズ・ヴァレンシュタインに別れの挨拶を言いに行ったベルくんを追いかけていった女神ヘスティア。

 

そんな女神ヘスティアを透明になった冒険者達が拐おうとしていたので、全員殴り倒しておいた。透明になるには兜が必要であるようなので冒険者達から兜を外しておく。それからベルくん宛に用意されていた手紙を読むと中央樹の真東にある一本水晶まで来い、と書いてある。

 

アイズ・ヴァレンシュタインの所属するファミリアであるロキ・ファミリアを見送り、しばらくして戻ってきたベルくんは何故かフィン・ディムナと一緒に居た。

 

「何故、貴方も居るんですか?」

 

「親指が疼いたからかな」

 

そう言って笑ったフィン・ディムナは此方と行動を共にするつもりのようである。私が殴り倒した相手が全員被っていた兜を見たフィン・ディムナは神ヘルメスとアスフィとやらが今回の出来事に関わっていることに気付いたらしい。

 

どうせなら神ヘルメスの企みを台無しにしてしまおうかと思った私は、勇者も巻き込むことにした。とりあえず全員で一本水晶にまで向かい、女神ヘスティアが拐われかけて怒っているベルくんを突撃させてみる。

 

透明になっていようがお構い無しにナイフの柄で顔面を的確に殴り倒していくベルくん。この程度の相手だけなら、ベルくん1人だけで来ていたとしても問題は無かったかもしれない。

 

しかし容赦をするつもりはないので、全員で冒険者達を攻撃していく。リュー・リオンだけでも充分な相手達であるが、私とフィン・ディムナで冒険者達を纏めて気絶させておいた。

 

「何なんだお前は!」

 

冒険者が透明になった状態でベルくんに斬りかかりながらそう言ったが、振るった剣は当たることはない。

 

「ヘスティア・ファミリアのベル・クラネルだ!」

 

力強い言葉を返して拳を振るったベルくんの拳が、冒険者の顔面に叩き込まれていく。

 

一撃で吹き飛んだ冒険者の被っていた兜が外れると、現れた顔は豊穣の女主人でリュー・リオンに腕を捻られた冒険者の顔であった。

 

勝ち目が無いと悟ったのか逃げようとした冒険者を捕まえた私は、兜の出所が神ヘルメスであると言質を取っておく。

 

これで騒動が終わりであるなら良かったんだが、そうはいかないようだった。何故なら安全地帯である筈の18階層に黒いゴライアスと白銀のウダイオスが発生したからだ。

 

ゴライアスは17階層の階層主であり、Lv4相当である。ウダイオスは37階層の階層主で、Lv6相当の強さを持つ。普通ならば現れない18階層にゴライアスとウダイオスが現れたのは神がダンジョンに居たからだろう。

 

どちらも通常の個体とは違う色をした異常種であり、間違いなく通常の個体よりも強い。黒いゴライアスはともかく、白銀のウダイオスは私しか倒せないと判断して、ウダイオスの元へと向かう私に着いてきたフィン・ディムナ。

 

「明らかにLv7相当のウダイオスが生み出すスパルトイもLv5相当だと思いますが、それでも向かいますか?」

 

「君が向かうなら僕も行くさ、それにちょうど冒険をしたいところだったんだ」

 

私の問いかけに不敵に笑ったフィン・ディムナはスパルトイ相手ならば問題は無さそうだった。

 

白銀のウダイオスが生み出していく骸骨兵士である白銀のスパルトイが数を増していき、Lv5相当のスパルトイの数が直ぐ様30を越える。

 

出し惜しみをすれば死人が出ると判断した私の手から黒炎が迸り、瞬く間に形成された魔槍ボルヴェルクを握った私は、スパルトイ達を魔槍ボルヴェルクの穂先で斬り裂いた。

 

「君に聞きたいことが増えたよ」

 

そう言いながらスパルトイを倒していくフィン・ディムナは魔槍ボルヴェルクに目が釘付けになっており、興味津々といった様子で此方を見ている。

 

「忙しいんで後にしましょうか」

 

残りのスパルトイを斬り裂いて言い切った私は、白銀の大剣を持つ白銀のウダイオスに魔槍ボルヴェルクを向けた。

 

白銀のウダイオスは視界の何処からでも白銀の剣山を生やすことができるようで、反応できていないフィン・ディムナを担いで跳んだ私の足元から凄まじい勢いで剣山が突き出てくる。

 

「貴方は攻撃に反応できていないようなので、ウダイオスの相手は私がやりますよ」

 

それだけ言って安全な場所にフィン・ディムナを避難させてから、ウダイオスに向き直った私は、魔槍ボルヴェルクを構えると白銀の剣山が地面から突き出される前に駆け抜けていく。

 

再び生み出されたスパルトイが投げてくるジャベリンを迅速に疾走しながら魔槍ボルヴェルクで絡め取って倍以上の速度で投げ返しておくと、ジャベリンがスパルトイの頭蓋骨を貫いていった。

 

進行方向に現れるスパルトイの群れを倒しながら突き進んでいき、縦横無尽に魔槍ボルヴェルクを振るいながら前へ前へと止まらずに進む。

 

するとウダイオスが振り上げた大剣を振り下ろし、再出現したスパルトイごと巻き込むように扇状の衝撃波を放つ。

 

衝撃波を迎撃する為に黒炎を纏う魔槍ボルヴェルクから下から斬り上げる斬撃を繰り出して、衝撃波を斬り裂く黒炎波を飛ばす。

 

斬り裂かれた衝撃波。そしてウダイオスに直撃する黒炎波は、白銀のウダイオスを破壊する。

 

しかし再生能力を持っている白銀のウダイオスは壊れた骨の身体を修復してしまう。

 

ならば狙うなら魔石であると判断した私は、パワーアシストスーツで強化された脚力で更に加速し、迅速に疾走してウダイオスに真正面から近付いていきながら構えた魔槍ボルヴェルクの穂先を伸ばすと上段に構えて振り下ろした。

 

白銀のウダイオスの頭頂部から斬り裂いていった魔槍ボルヴェルクが、ダンジョンから上半身だけ生えており、側頭部から角が生えた骸骨といった姿をしているウダイオスを真っ二つに両断する。

 

白銀のウダイオスの魔石が砕け、消滅していった白銀のウダイオスは、白銀の角と持っていた白銀の大剣をドロップアイテムとして残していた。

 

ドロップアイテムを素早く拾ってから黒いゴライアスがどうなったかを見ると、鳴り響く大鐘楼の音が聞こえたかと思えば、突撃していったベルくんが黒いゴライアスを斬り裂く姿が見える。彼方はベルくんがどうにかしたようだ。

 

フィン・ディムナがどうしているかを見ると魔石を喰って強化されたLv6相当のスパルトイ5体を相手に戦っており、手伝いがいるかを聞いてみる。

 

「必要ないよ!助けられてばかりじゃ駄目なんだ!壁を越えたいなら無茶くらいしないといけないのさ!」

 

そう言い放ったフィン・ディムナは間違いなく冒険をしていたので邪魔をする訳にはいかない。スパルトイを相手に戦うフィン・ディムナは振るわれる剣を、斧を潜り抜けて槍を叩き込んでいく。

 

白兵戦の戦闘技術が高いスパルトイが上昇した戦闘能力で振るう武器をギリギリで避けきったフィン・ディムナの槍が、1体のスパルトイの頭蓋骨を穿つ。引き抜いた槍を横薙ぎに振るい、スパルトイから投げつけられたジャベリンを弾くフィン・ディムナ。

 

残りのスパルトイの1体に至近距離まで近付いたフィン・ディムナは身体を捻り突きを放った。上半身だけを使った突きはスパルトイの眉間を貫く。徐々に数が減っていくスパルトイ。

 

最後に残った長剣を持つスパルトイは更に魔石を喰らい、Lv7に限りなく近い力を持っていることは確かである。そんな相手に全力で挑んでいったフィン・ディムナはボロボロになりながらも、最後の最後には槍で魔石を貫き、勝利した。

 

疲れきって槍を支えになんとか立っているという状態のフィン・ディムナにポーションを飲ませてやり、体力を回復させておく。少し元気になったフィンと共にスパルトイの魔石を拾い集めた。

 

ダンジョンに現れた異常種のモンスターは、間違いなく神を殺す為に生み出されたものだということだろう。

 

Lv7相当なウダイオスにLv5相当のスパルトイに加えてゴライアスと随分と神への殺意が高かったが神が2柱も居たからかもしれないな。

 

ここまで問題があるなら確かに神はダンジョンに入ってはいけないという決まりがあるのも当然だと言える。

 

さて、女神ヘスティアは無事なのは解るが、神ヘルメスはどうなったか。

 

何故か普通に生きていそうな気がするな。

 

 

 

ヘルメスは見ていた。ベル・クラネルのゴライアスとの戦いを。

 

ヘルメスは見ていた。ジョンのウダイオスとの戦いを。

 

まさしく「英雄の一撃」で勝負を決めた2人を見ていたヘルメスは狂喜する。

 

「素晴らしい!英雄は居るぞ!此処に居るぞ!」

 

両腕を広げて、口端を吊り上げて笑うヘルメス。

 

「完成された英雄と完成を待つ最後の英雄だ!」

 

狂ったかのように笑い続けるヘルメスは、楽しくて楽しくて仕方がないらしい。

 

「ああ、いつかまた見せてくれ、ジョン!ベル・クラネル!君達が再び輝く時を!」

 

いつかまた来るその時を想像してヘルメスは笑った。




ネタバレ注意
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかの登場キャラクター

ヘファイストス
鍛冶神
ヘファイストス・ファミリア主神
ヘスティアとは天界から長い親交を持つ女神
鍛冶師としての腕は神匠と呼ばれるほど

ヘルメス
ヘルメス・ファミリア主神
眷族のLvをわざと低く思わせている
ベル・クラネルに試練を与えて英雄かどうかを見極める為に動く
試練を乗り越えたベル・クラネルを最後の英雄と認めたようで、ベル・クラネルを英雄とする為に動いていく
暗躍する神

アスフィ
ヘルメス・ファミリア団長
万能者の称号を持ち、特殊なアイテムを開発することができる
作製したアイテムがヘルメスの悪巧みに使われることもしばしば


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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか編 後編 下

何とか後編の下で終わらせることができましたが物凄く長くなりました
読むのが大変かもしれませんがそれでも良ければどうぞ


 月 日

神がダンジョンに潜った罰として罰金でファミリアの総資産を半分持っていかれることになり、女神ヘスティアは250万ヴァリスを罰金として支払ったようだ。ヘスティア・ファミリアの眷族ではない私のヴァリスは持っていかれなかったので私は問題ないが、総資産を半分持っていかれた女神ヘスティアは落ち込んでいたな。

 

そんなことがあったが黒いゴライアスとの戦いでヴェルフくんはランクアップができるようになったらしい。嫌っていた魔剣まで使って黒いゴライアスの足止めをしたことは充分に偉業だと判断されたみたいだった。早速ランクアップして鍛冶の発展アビリティを選んだヴェルフくんは、更に鍛冶の腕が上がったようである。

 

そんなヴェルフくんに白銀のウダイオスのドロップアイテムを見せてみると「こいつはすげぇ」と驚いていた。ドロップアイテムである白銀の角でナイフを、白銀の大剣で大剣を作ってもらえないか頼んでみると「任せてくれジョンさん、今の俺にできる最高の仕事をしてみせる」と気合いを入れていたヴェルフくん。

 

仕事を任せてしまったのでヴェルフくんのランクアップのお祝いは今度ということになるだろう。その点はベルくんに謝罪しておいたが「気にしないでください」とベルくんは言っていたな。今日ベルくんは、お世話になった面々に挨拶回りに行ってくるようだ。色々な人々や神々の元へ行くらしいベルくんにある品を渡しておく。

 

挨拶回りの時に配れるように、人気の菓子の詰め合わせをベルくんが挨拶に行く数だけ用意しておいた私は、これを挨拶に行った時に渡しておきなさい、と言うとベルくんを送り出した。それから私は女神ヘスティアをヘスティア・ファミリアのホームに残してダンジョンへと向かう。

 

ギルドに貼り出されていた紙によるとフィン・ディムナがLv7に到達したらしい。あの冒険がフィン・ディムナのランクアップに必要な経験値であったようだ。これでロキ・ファミリアがフレイヤ・ファミリアに並んだと言われるようになっていたらしく、この話題で持ちきりとなっている。

 

そんなことがあっても私は気にすることなくダンジョンへと潜っていった。上層を抜けて中層に行くと24階層まで進み、番人とも言える木竜グリーンドラゴンを倒しておく。木竜グリーンドラゴンが守っていた宝石樹に実る宝石の実を採取していき、リュックサックが満杯になるまで宝石の実を詰め込んだ。

 

持ち帰って換金し、稼いだヴァリスを持ってヘスティア・ファミリアのホームに戻る。ベルくんもちょうど挨拶回りを終わらせて帰ってきたところであるようだった。夕食は私が作り、甘いものが平気な女神ヘスティアにだけデザートを作っておく。ベルくんも私も甘いものは苦手なのでね。どうやらベルくんと私は味覚が少し似ているのかもしれない。

 

ベルくんが甘すぎて苦手だと言っていた雲菓子は、私も食べられそうにないな。

 

 月 日

ヴェルフくんが私が渡した白銀のウダイオスのドロップアイテムを使用した武器を作り上げてくれたようで、完成した武器を持ってきてくれた。白銀のナイフと白銀の大剣は、まだ名前が付いていないらしく「この武器はジョンさんに名付けてほしい」と言ってきたヴェルフくん。武器達を見て、直感で思いついた名前を名付けることにする。

 

白銀のナイフを月光、白銀の大剣を白夜と名付けた私は、受け取った武器をヴェルフくんの前で軽く振るってみせた。少々強めに力を込めたとしても壊れることなく振るえる武器は、ある程度は私の力に耐えられる武器であるようだ。流石に本気で振るうことはできないが、それでも猛牛殺しやタウロススピアに牛若丸よりも格上の武器だと言えるだろう。

 

値段は幾らになるかなと聞いてみると「2つ合わせて2000万ヴァリスくらいだ」と言ってきたヴェルフくん。明らかにそれ以上の値段がする武器なのだが、ヴェルフくんはその程度で良いらしい。とりあえず私の総資産である9000万ヴァリスから2000万ヴァリスを持ち出して、ヴェルフくんに支払っておいた。

 

買い取って受け取った月光と白夜を一旦ヘスティア・ファミリアに持ち帰り、左腕義手と身に宿している魔槍ボルヴェルクとキングケルベロス以外の武器を置いて、身軽になってからヴェルフくんのランクアップのお祝いを酒場である焔蜂亭で行っていく。ベルくんとリリルカにヴェルフくんと私で祝いをしていくと、パーティメンバーについての話になった。

 

ヴェルフくんがLv2になるまでの臨時パーティということだったので、もう一緒にダンジョンには潜れないのかと残念そうにしていたベルくんに「これからだってダンジョンに潜ってやるさ」と笑ったヴェルフくん。素直に喜んでいたベルくんは、とても嬉しそうにしていたな。お祝いが盛り上がってきたところで少々不愉快な出来事があった。

 

ベルくんに対して色々とくだらない言いがかりを言ってきた小人族を思わず睨んで強めの殺気を当ててしまう程度には不愉快だったと私は感じていたな。私の殺気で小便を漏らし、腰を抜かした小人族に向けて、まだ睨んだだけだぞ、と私が言うと小人族はガタガタと震えることしかできなくなっていたようだった。

 

恐らくはベルくんを怒らせて先に手を出させるのが目的だったのだろうが、小人族がこの様では目的を達成することは不可能だろう。それをまずいと思ったのか他の連中も此方に何かを言おうとしていたが、私の一睨みで何もできなくなる。完全に私に怯えている様子の小人族の連れ達は全員何も言うことはない。

 

「使えん奴等め」と吐き捨てるように言った男が近づいてきた。その男が何かを言おうとした瞬間に先ほどよりも強い殺気を放ち、男を黙らせる。冷や汗を流している男を見ていた周囲の野次馬が「ヒュアキントスだ」と男の名前を言った。ヒュアキントスは凍りついたのかのように動かない。私の殺気に、殺される自分を幻視でもしたのだろう。

 

私が殺気を放つのを止めると片膝をついたヒュアキントス。それを屈辱に感じているのかヒュアキントスの顔が歪んだ。口を開いたヒュアキントスは「この借りは返させてもらう」とだけ言うと震える膝で帰っていく。どうやらまた厄介事がやってきたらしい。ベルくんは本当にトラブルに愛されているな。

 

ヒュアキントスはアポロン・ファミリアの団長であると野次馬が言っていたが、あまり良い評判は聞かないアポロン・ファミリアの目的がベルくんであることは間違いないだろう。今回は私が居たので失敗したようだが、これからもアポロン・ファミリアは強引な手段でベルくんを狙いそうだ。

 

ヘスティア・ファミリアのホームが狙われる可能性もある。しばらく遠出をするのは止めておくとしようか。

 

ダンジョンに潜るのも数時間あれば帰ってこれる中層までにしておくかな。

 

カドモスの泉の泉水を取りに行きたかったんだが、それは今度だ。

 

 月 日

今日はベルくん達だけでダンジョンへ行く日であり、女神ヘスティアもバイトがあったので、私は1人だけでヘスティア・ファミリアのホームに残ってハーブが生い茂るプランターの世話をしていた。日当たりの良い場所に置いてあるプランターに水やりをしている私に近づいてくる気配を感じて振り向くと男神とヒュアキントスが近寄ってくる姿が見える。

 

ヒュアキントスはともかく男神からは敵意は感じなかったので、とりあえず話を聞くことにした。口を開いた男神は「わたしはアポロン、君の名を教えてほしい」と名を名乗ってから此方の名を聞いてくる。ジョンという名前ですよ神アポロン、と私が言うと「良い名だ」と頷くアポロン。ヒュアキントスは黙って護衛に徹しているようだった。

 

「君のことは何度も見ていたけれど、こうして君の口から君の名前を知れて嬉しいと思うよジョン」そう言ってとても嬉しそうに笑った神アポロンは此方をじっと見ると、頬を赤く染めながら「わたしを抱いてくれないだろうか、ジョン」と言い出す。抱きしめてほしいということでしょうか、と聞いてみると「それ以上を望んでいるよ」と言った神アポロン。

 

私にそういった趣味はないので、お帰りください神アポロンと私が言うと「わたしは決してきみを諦めないよジョン、この想い、きっと受け止めてもらう」と言葉を残して立ち去っていく神アポロンと無言の護衛のヒュアキントス。どうやら狙われているのはベルくんだけではなかったらしい。

 

というかあの様子だとベルくんはおまけ扱いなような気がするな。今日の出来事で私が神アポロンに物凄く狙われていることが良くわかってしまったが、正直知りたくはなかった。何故男神のアポロンに想いを告白されなければいけないのだろうか。せめて女神にしてほしかったと私は思う。

 

アポロンのような神が、他にも居ないとは限らないのが何とも言えんな。

 

元の世界に早く帰りたい理由が、また増えてしまった。

 

できるだけ早くグリモアを入手したいところだ。

 

 月 日

少々変わった神の宴が神アポロン主催で行われるらしい。神アポロン主催の神の宴には神々だけではなくお気に入りの眷族を1人連れてきても良いようである。態々招待状がヘスティア・ファミリアのホームにまで届けられていた理由は、神アポロンが神の宴で女神ヘスティアに何かをしかけるつもりだからだろう。

 

「こんなの断りたいけど、行かないと後々面倒なことになりそうだね」そう言った女神ヘスティアは神の宴に嫌々ながら向かうつもりのようだ。お気に入りの眷族としてベルくんも連れていくようなので、神々の宴で馬鹿にされないように女神ヘスティアとベルくんの服を用意することにした。

 

立派な服屋に行き、女神ヘスティアとベルくんが着る服を、合わせて200万ヴァリス程度の予算で購入してもらうことになったが、ヴァリスは全て私持ちなので問題はない。純白のドレスと落ち着いた色合いのスーツに身を包んだ女神ヘスティアとベルくんは、普段着と違って着なれていない服に戸惑っているようだった。

 

後は社交ダンスもあるかもしれないので女神ヘスティアとベルくんに軽く手ほどきをしておく。ある程度はダンスができるようになった女神ヘスティアとベルくんは、しっかりと踊ることができるだろう。私は眷族ではないので神の宴には行けないが、女神ヘスティアとベルくんが神の宴で恥をかくことがない程度には用意をすることできた。

 

明日の神の宴で何が起こるかは解らないが、恐らくは何かが起こる筈だ。

 

神アポロンは一応ベルくんも狙っているようだからな。

 

 月 日

どうやら神アポロンは、女神ヘスティアに戦争遊戯を宣言したらしい。狙いはベルくんと私であったようだが、私が女神ヘスティアの眷族ではなくヘスティア・ファミリアの協力者であることも知られることになり、何処の眷族であるか知りたがる神アポロンに黙秘する女神ヘスティアという状態になっていたようである。

 

完全にヘスティア・ファミリアを潰そうと考えている神アポロンは堂々と「戦争遊戯に此方が勝てばヘスティア・ファミリアには消えてもらう」と言い出したそうだ。とはいえ神アポロンからの戦争遊戯など受けるつもりが無かった女神ヘスティアは普通に断って帰ってきたようだった。

 

どう考えても神アポロンは諦めていないので、どんな手を使ってでも女神ヘスティアに戦争遊戯を受けさせようとしてくる可能性がある。アポロン・ファミリアにヘスティア・ファミリアのホームが襲撃されるかもしれないな。念の為に私だけは外出を必要最小限にしておくとしよう。

 

もしアポロン・ファミリアから襲撃があったとしたら、アポロン・ファミリアには死なない程度に痛い目にあってもらうことになるだろうが、やり過ぎてしまわないように気を付けておかなければいけない。流石に相手に非があっても殺してしまえば問題になるだろうしな。女神ヘスティアやその眷族であるベルくんやリリルカの迷惑になる。

 

そもそも襲撃が無ければ良いんだがね。

 

 月 日

私の予想通りにアポロン・ファミリアからヘスティア・ファミリアのホームへの襲撃が行われたが、とりあえず私1人で襲撃者であるアポロン・ファミリアを全員倒しておき、捕まえた襲撃者をどうするか考えていると象の仮面を被った神ガネーシャとガネーシャ・ファミリアの冒険者達が現れた。

 

私が神ガネーシャに詳しい事情を話してみると「うむ、未遂ではあるが犯罪者であることは間違いない」と断言した神ガネーシャ。ガネーシャ・ファミリアが襲撃者達を引き取ってくれるようで、第一級冒険者でもそう簡単には出られない牢屋にアポロン・ファミリアの襲撃者達は入れられることになるらしい。

 

襲撃者達の中にヒュアキントスの姿は無かったので、アポロン・ファミリアの主力が襲撃に参加した訳ではないようである。そうだとしてもアポロン・ファミリアの戦力が減ったことに間違いはないだろう。アポロン・ファミリアが他のファミリアから戦力を集める可能性があるかもしれない。

 

女神ヘスティアは神アポロンからの戦争遊戯を受けてはいないようだが、神アポロンは執着心が強そうな神だった。ヘスティア・ファミリアのホームへの襲撃だけで終わりではないだろうな。今日ダンジョンに行っているベルくんが無事でいればいいんだが、ダンジョンの方でも何かが起こっていそうな気がする。

 

ベルくんに命の危険は無いだろうが少し怪我をしているかもしれない。一応グリーンハーブを用意しておく必要があるか。そんなことを考えているとベルくんがダンジョンから帰ってきたが、少々怪我をしているようだ。グリーンハーブを使ってベルくんを治療して、怪我の理由を聞くとダンジョンでアポロン・ファミリアに襲われたらしい。

 

Lv3だというアポロン・ファミリアの冒険者達に襲われたベルくんはLv3を相手に戦ったようだが問題なく戦えたようである。優勢に戦えていたベルくんはリリルカやヴェルフくんを庇って少々怪我をすることになったが、ダンジョンでベルくん達に襲いかかってきたアポロン・ファミリアを撃退することに成功。

 

襲撃してきた相手を逃がしてしまったみたいだが、ベルくんはリリルカとヴェルフくんを守れて良かったと考えていたようだな。それから女神ヘスティアがバイトから帰ってきて、ヘスティア・ファミリアのホーム襲撃とベルくんがダンジョンで襲われたことを聞いて激怒した。アポロン・ファミリアに乗り込んでいきそうな女神ヘスティアを止めておく。

 

ヘスティア・ファミリアが戦争遊戯を受けなければアポロン・ファミリアからの嫌がらせのような襲撃が終わることはないだろう。その内、他のファミリアを金銭で買収してヘスティア・ファミリアに襲撃をさせるようになるかもしれない。そうなってしまえばどう考えても面倒なことになるのは間違いないな。

 

女神ヘスティアが言うには戦争遊戯に参加できるのは眷族と助っ人1人だけであるようだ。現在女神ヘスティアの眷族はベルくんとリリルカだけであり、眷族の人数だけならヘスティア・ファミリアはアポロン・ファミリアに負けている。だとしてもアポロン・ファミリアの眷族に、ベルくんが劣っているということはない。

 

寧ろ今のベルくんなら並みのLv3を相手にしても負けることはないと断言できる。Lv3が複数人参加していた今回の襲撃でアポロン・ファミリアもそれを知ることになった筈だが、これからアポロン・ファミリアがどう動くかが問題だな。

 

さて、どうなるか。

 

 月 日

ヒュアキントスが通常のゴライアスを1人で倒して、Lv4にランクアップしたらしい。それで盛り上がっているアポロン・ファミリアは、しばらく此方に関わることはないだろう。ヒュアキントスがLv4になったことでアポロン・ファミリアの戦力が増強されることになったが、これで終わりではないと私の勘が言っている。

 

戦争遊戯が行われるとして、私が助っ人にならなければ敗北するとも私の勘は言っているので、アポロン・ファミリアには切り札がある筈だ。それがなんなのかまでは解らないが、ベルくん達だけでは乗り越えることは不可能な気がする。単なる勘だが、私の勘は1度も外れたことが無いからな。無視することはできない。

 

ベルくんと話し合った結果として女神ヘスティアは、戦争遊戯を受けるつもりのようだった。女神ヘスティアは「頼んだよ、ベル君、ジョン君」とベルくんと私に任せるようである。女神ヘスティアの期待に応えるとしよう。必ず女神ヘスティアに勝利を捧げてみせようじゃあないか。

 

という訳でベルくんを更に鍛えることにした。戦争遊戯が始まるギリギリまでベルくんと鍛練を積み重ねるつもりだが、しっかりと身体を休ませる日もつくっておかなければいけないな。ベルくんにはひたすら月光や白夜を持った私と戦ってもらうことになるので、限界を越えてもらおう。

 

ヘスティア・ファミリアを団長として守るという強い意思を持っているベルくんなら、折れることはない筈だ。

 

限界の更に先へとベルくんを連れていくとしようか。

 

 月 日

Lv2のベルくんの全てのステイタスがSSに到達したが、SSSを目指して更に激しい鍛練を続けることにした。月光とヘスティアナイフがぶつかり合う度に火花が飛び散り、並みのLv2では捉えきれない高速での戦闘が行われていく。私が放つ月光による突きを足を止めてなんとか受け流したベルくんが足に蓄力すると鐘の音が鳴り響いていった。

 

足の蓄力が完了し、踏み込みを強化したベルくんはLv3以上の速度で接近するとヘスティアナイフによる突撃槍のような突きを繰り出す。Lv4でもまともに受ければただでは済まないその一撃を私は月光で容易く逸らし、ベルくんの腕を掴んでダンジョンの地面に叩きつける。

 

倒れたベルくんの顔面を踏みつけようと動く私から離れる為に、両腕の力だけで跳ね上がり、身を翻して距離を取ったベルくん。動きが随分とアクロバットになってきたがまだまだ無駄が多いので、そこは注意しておく必要がありそうだ。しかし動きのキレは段違いになってきているので鍛練の成果としては悪くない。

 

再びぶつかり合う月光とヘスティアナイフ、白銀の刃と刀身に神聖文字が刻まれた刃が交差する。ヘスティアナイフだけの攻撃ではなく、足も使って蹴りを放つベルくんの蹴りは、並みのLv3以上に鋭かった。だが私に当たってやるつもりはなく、蹴りを素早く避けながら肘打ちをベルくんの腹部に叩き込む。

 

吹き飛んだベルくんに接近し、追撃として逆手に持ちかえた月光で下から斜めに斬り上げるが、それはヘスティアナイフで防がれた。ベルくんの反応速度も順調に上がっているようである。確実に強くなっているベルくんは何があろうと諦めることはない。折れることのないベルくんは凄まじい速度でステイタスが上昇していく。

 

私が持つナイフである月光による戦いは、ベルくんにナイフを使った戦い方を教える為の戦いであるが、大剣である白夜を使った戦いは、格上との戦いを教える為の戦いである。月光での戦いを終えて今度は白夜での戦いを始めると、真剣な表情でヘスティアナイフを構えたベルくん。

 

私が振り下ろした白夜をヘスティアナイフで斜めに受け流そうとしたベルくんだが、技量を押し切る圧倒的な力によって受け流しに失敗したようだ。ヘスティアナイフ越しに受けることになった白夜による一撃で手が痺れているようだったベルくんは、ヘスティアナイフを無事な片方の手に持ちかえて構える。

 

進歩しているベルくんに合わせて手加減を少し緩めた私の攻撃は、今のベルくんでは受け流せない一撃だ。最近のベルくんは覚えた受け流しに頼ることが少し多くなっていたので、どう考えても受けられない攻撃は避けるということも必要であると教える為に、この一撃を放ったがベルくんは直ぐに理解したらしい。

 

受け流すことはできなくても避けることはできる程度の速度で白夜による攻撃を繰り出していく。これは速度がそこまでなくても威力が高い攻撃もあるということを教えることにも繋がる。避けるべき攻撃は避けるべきだということを理解したベルくんは白夜による私の攻撃を避けながらヘスティアナイフで反撃を行った。

 

ヘスティアナイフによる連撃を右手に持った白夜で受けていき、ベルくんが振るうヘスティアナイフを弾き上げて、白夜による突進突きを放つ。放たれた私の突きを潜り抜けたベルくんは、しゃがんだ状態から跳ね上がるように下から逆手に持ったヘスティアナイフで斬り上げを繰り出す。私は上体を反らしてそれを避けた。

 

横から薙ぐように大剣である白夜を動かした私の前で、後方に跳躍して白夜を避けたベルくん。間合いが離れたところで疾走し、接近してきたベルくんへと振り下ろした白夜。それを半身になって避けたベルくんはヘスティアナイフで連続突きを放つ。更にベルくんは空いている片手で牛若丸弐式を投擲してくる。

 

怒濤の攻撃を全て回避した私は、白夜の剣身の腹をベルくんに叩きつけた。ダンジョンの地面を転がったベルくんは素早く立ち上がるとヘスティアナイフを連続で振るう。白夜で受けたヘスティアナイフの攻撃。絡めとるように白夜を動かして、ヘスティアナイフを弾き飛ばすと白夜をベルくんの首に突きつける。

 

降参したベルくんに、休憩だよ、と言っておくとダンジョンの地面に座り込んだベルくんは疲れているようだった。ポーションとハーブタブレットを渡しておき、地面に落ちているベルくんのナイフ達を拾っておく。中々悪くない動きができるようになっているベルくんは技量が確実に上がっているみたいだ。

 

これはベルくんのステイタスの更新が楽しみになってきたな。

 

 月 日

数日後には戦争遊戯が始まるが、今日は身体をしっかりと休める日である。ベルくんのステイタスはオールSSSとなっており、技量も判断力も段違いとなっているので、この短期間でやれることは全てやったと言えるだろう。確実に強くなったベルくんは今のヒュアキントスを相手にしても戦えることは間違いない。

 

アポロン・ファミリアとヘスティア・ファミリアが戦争遊戯をすることが知られてから、ヘファイストス・ファミリアのヴェルフくんとタケミカヅチ・ファミリアのヤマト・命の2人がヘスティア・ファミリアに改宗することになったらしい。どうやらベルくんの力になりたいと思っていたようだ。

 

ヤマト・命は1年間だけの期間限定でヘスティア・ファミリアに力を貸すつもりであり、アポロン・ファミリアとヘスティア・ファミリアの戦争遊戯が無ければ、改宗することはなかっただろう。ヴェルフくんの方は本格的に改宗するようで、ヘファイストス・ファミリアには、もう戻るつもりはないそうだ。

 

それでも女神ヘファイストスに認められる鍛冶師になってみせると決めているヴェルフくんは、これからも腕を磨くつもりであるようだった。とりあえず戦争遊戯に向けて魔剣を作るつもりのヴェルフくんは工房にしばらくこもるらしく「戦争遊戯までには間に合わせてみせる」と言っていたな。

 

頼もしい味方が増えて気合いが入ったベルくんが思わず鍛練を始めようとしていたので止めておく。休息も今まで身体を酷使してきたベルくんに必要なことで、本番の戦争遊戯に万全の体調で戦うことができなければ駄目なことは解っているだろう、と私が言うと「わかりました、休んでます」と素直に休んでくれたベルくん。

 

今日1日しっかりと休んだベルくんは、すっかり元気になっていたようである。これなら本番の戦争遊戯で全力を出せるだろう。ちなみにアポロン・ファミリアも助っ人を1人用意していると噂になっており、イシュタル・ファミリアと接触しているヒュアキントスが目撃されていたことから、助っ人はイシュタル・ファミリアの眷族の可能性が高い。

 

おかげで戦争遊戯で、どちらのファミリアが勝つかを賭ける賭け事では、アポロン・ファミリアに賭ける者が多く、ヘスティア・ファミリアに賭ける者は皆無であるようで、もしヘスティア・ファミリアが勝った場合は賭け金が20倍となるそうだ。とりあえず私は6000万ヴァリスを全額、ヘスティア・ファミリアの勝利に賭けておいた。

 

6000万ヴァリスの20倍は12億ヴァリスになるが、きっちりと支払ってもらうとしよう。

 

私は負けるつもりはないのでね。

 

 月 日

戦争遊戯は攻城戦となり、勝利条件は大将の撃破である。ヘスティア・ファミリアの大将はベルくんであり、アポロン・ファミリアの大将はヒュアキントスのようだ。戦いはアポロン・ファミリアがこもる城にヘスティア・ファミリアが攻める形になるらしい。万全の装備を整えたヘスティア・ファミリアの面々は、覚悟を決めた顔をしていた。

 

私を含めて5人だけでアポロン・ファミリアを相手にすることになるが、特に緊張をしていない私にヤマト・命が「貴方は、とても落ち着いていますね」と話しかけてくる。緊張し過ぎるのも良くないからね、自分にできることを全力で行うだけだよ、と言っておき、少々肩に力が入り過ぎているヤマト・命に軽くアドバイスをしておいた。

 

緊張が解れた様子のヤマト・命は深呼吸して、気合いを入れ直しているようである。ヴェルフくんはナイフ程度の大きさの魔剣をリリルカに幾つか渡しており、大剣の魔剣を数本背負っていたな。リリルカは渡された魔剣の種類と使い方をヴェルフくんに詳しく聞いていて、私が作ったボウガンを片腕に装備していた。

 

ヘスティア・ファミリア団長のベルくんは、とても落ち着いた様子であり、ヘスティアナイフと牛若丸弐式を鞘から引き抜いて眺めている。そろそろ攻城戦を始める為に城がある場所まで移動することになるので、ベルくんに声をかけておくとナイフを鞘に納めて「行きましょうかジョンさん」と言ってきたベルくんは、以前とは比べ物にならないほど強い。

 

忙しくなりそうなので今日の日記は、ここまでにしておこうか。

 

日記を閉じて攻城戦が行われる城がある場所まで移動していく。既にアポロン・ファミリアは城の中におり、城門は閉まっていた。ヘスティア・ファミリアの面々が到着したところで攻城戦は開始となり、城から少し離れた場所からヘスティア・ファミリアの面々が城へと近付く前に私が先行する。

 

城壁からアポロン・ファミリアが飛ばしてくる弓矢を左腕義手で払いのけながら、私は真正面から城へと近付いた。固く閉じられた城門の前で立ち止まり、黒い革製のグローブのように見えるパワーアシストグローブに包まれた右手で拳を握る。

 

「それでは、少々派手にいかせてもらおうか!」

 

そう言いながら城門に私の右拳を叩き込むと、完全に砕け散った城門が飛散していき、内部にいたアポロン・ファミリア達に直撃。運悪く城門の近くに居たアポロン・ファミリアの眷族達は、既に戦闘不能であるようだ。城門が完全に破壊されて、通行が可能になった城内へとヘスティア・ファミリアが侵入していく。

 

とりあえず見かけたアポロン・ファミリアを死なない程度に痛めつけて戦闘不能にしておく私に追いついたヘスティア・ファミリアの面々。ベルくんと私を先に行かせるつもりだったヘスティア・ファミリアの3人は、アポロン・ファミリアを相手に足止めをする気であるらしい。

 

ベルくんはヒュアキントスを倒しにいくようなので、私はイシュタル・ファミリアからの助っ人を倒しておこうかと考えていた。Lv3のアポロン・ファミリアを手早く倒して先へ先へと進んでいき、城内を駆けていく私とベルくん。辿り着いた玉座の間に居たヒュアキントスと、その隣に居るヒキガエルのような女。

 

Lv4のヒュアキントスよりも確実に強いヒキガエルのような女がイシュタル・ファミリアからの助っ人であることは間違いない。舐めるような目でヒュアキントスを眺めていたヒキガエルのような女に、嫌そうな顔を隠さないヒュアキントス。ようやく此方に気付いたヒキガエルのような女の視線が此方を向く。

 

「ゲゲゲゲゲ、ヒュアキントス。アタイはどっちをやればいいんだい」

 

「ベル・クラネルはわたしが相手をする。お前はジョンを倒せ、フリュネ」

 

そう言い放ったヒュアキントスは鞘から剣を引き抜き、ベルくんに斬りかかる。水が流れるかのように滑らかに動いたベルくんは、ヒュアキントスの剣を避けるとヘスティアナイフを真一文字に振るって、剣でヘスティアナイフを受けたヒュアキントスの身体を1歩退かせた。

 

「あんたがジョンかい?物凄く良い男だねぇ!とってもアタイの好みだよ!押し倒したくてたまらないねぇ!でもまあ、残念だけど今日は仕事で来てるんだ。エリクサーも有るし、死なない程度には加減してやるから安心しな!」

 

戦斧を片手にそう言ってきたフリュネが、床が砕けるような踏み込みで間合いを詰めると私に向けて戦斧を振り下ろす。私は背負っていた白夜でフリュネの戦斧を受け止めてみて、フリュネのLvがどれぐらいか確かめてみたが、Lv5程度のLvであることは間違いない。右手に持つ白夜で戦斧を弾き上げ、空いている左腕義手の拳をフリュネの腹部に叩き込む。

 

「死なない程度に加減するので安心しなさい」

 

吹き飛んだフリュネに聞こえるように大きな声で言っておき、玉座の間の床を転がったフリュネが立ち上がった瞬間、私は床を砕くことなく踏み込んで間合いを詰めて右手だけで持った白夜を真正面から振り下ろした。両手持ちに切り換えて戦斧を横にして白夜を受けたフリュネだが、完全に力負けしていたフリュネは必死に力を込めている。

 

「そんな馬鹿な!?アタイはLv5だよ!あんたは何Lvなんだいジョン!?」

 

「きみに教える必要はないな」

 

動揺するフリュネの問いかけに答えを教えることはなく、右手に更に力を込めていくとフリュネの足が床に陥没。全力で力を振り絞っているフリュネが、悲鳴のような声を上げているが私は容赦をするつもりはない。左腕義手で拳を握って、フリュネの顔面に打ち込んだ拳をめり込ませた。

 

一撃で意識を失ったフリュネが倒れて動かなくなり戦斧が転がっていく。問題のイシュタル・ファミリアからの助っ人は私が倒した。ベルくんがどうなったかを確かめてみるとLv差が2も有るヒュアキントスを相手に互角に戦っているベルくんは、ヘスティアナイフと牛若丸弐式を全力で振るっており、ヒュアキントスはベルくんの力に驚いているようだ。

 

「何なんだお前は!?」

 

「ヘスティア・ファミリア団長、ベル・クラネル!」

 

叫ぶようなヒュアキントスの問いかけにそう答えたベルくんは、ヘスティアナイフと牛若丸弐式による連撃をヒュアキントスの剣へと叩き込む。SSSに到達した全てのステイタスが、ナイフを持つことで更にステイタスへ高補正がかかるスキルである短刀剣舞で強化されていき、SSSすらも越えた領域へと辿り着いていたベルくんのステイタス。

 

更にはそれに鍛え上げられた技量までが加わり、Lv差を覆す結果となっていた戦い。ベルくんの猛攻に耐えきれず壊れたヒュアキントスの剣。追撃を行ったベルくんの刃を止めたのは、ヒュアキントスが身に付けていたゴライアスの硬皮を使ったゴライアスマントであった。

 

ヒュアキントスが倒した通常のゴライアスが落としたドロップアイテムであるゴライアスの硬皮で作られたゴライアスマントは、ベルくんの牛若丸弐式による攻撃を防ぐことができたようである。ヒュアキントスは隙を見逃さずにベルくんを蹴り飛ばして距離を取ると素早くフリュネが落としていた戦斧を持った。

 

「アポロン様の為にも負ける訳にはいかん!」

 

戦斧を振り上げてベルくんに振り下ろすヒュアキントス。その攻撃を受けることなく避けていったベルくんは、戦斧の扱いには慣れていないヒュアキントスの隙を突こうとするがゴライアスマントによって阻まれることになっていたようだ。防御力の高いゴライアスマントと威力の高い戦斧の組み合わせは、厄介なものとなっていたらしい。

 

何度かゴライアスマントに攻撃をして確認してみていたベルくんだが、頑丈なゴライアスの硬皮が加工されて更に頑丈になったゴライアスマントの防御を突破することができないでいた。聖火の英斬なら突破できると理解していても、それを放つ隙が無いとベルくんは判断しているようである。

 

「我が名は愛、光の寵児」

 

ヒュアキントスは戦斧を振るいながら魔法の詠唱を始めた。ベルくんからの攻撃をゴライアスマントで捌いていくヒュアキントスは冷静さを取り戻していたようだ。

 

「我が太陽にこの身を捧ぐ!我が名は罪、風の悋気」

 

ヒュアキントスの詠唱が続き、戦いは更に激しさを増していく。戦斧を叩きつけるかのように振るうヒュアキントスの攻撃を避けたベルくんは、ヘスティアナイフと牛若丸弐式による連続突きを繰り出す。ゴライアスマントを巧みに使い、ヒュアキントスはベルくんの攻撃を防ぐ。

 

「一陣の突風をこの身に呼ぶ!」

 

ヒュアキントスは魔法の詠唱を止めることはない。回転しながら戦斧を振り回し、連続で斬撃を放ちながら魔法の詠唱を止めようとするベルくんを牽制していった。

 

「放つ火輪の一投!」

 

ヒュアキントスの魔法の詠唱もそろそろ終わりが近いようで、戦斧を振るってベルくんとの戦いを続ける最中に、切り札である魔法を繰り出す為の準備をしっかり進めているようだ。

 

「来れ、西方の風!」

 

最後の詠唱を終わらせたヒュアキントスはベルくんから素早く距離を取り、これから放つ魔法による攻撃が自分に被害がないように気を付けている。そして遂に魔法が放たれる時が来た。

 

「アロ・ゼフュロス!」

 

ヒュアキントスが魔法の名を叫ぶと、放たれた光輪状の魔法。それがベルくんに向けて飛んでいき、避けきれなかったベルくんに直撃したかと思えば、ヒュアキントスの合図で爆発した光輪。魔法の威力と爆発をまともに喰らってしまったベルくんは、確実にダメージを受けていることは間違いない。

 

爆発による煙が消えたところで露になったベルくんの姿。着ている軽装のアーマーが砕けて頭からも血を流していたベルくんはボロボロになっていたが、その眼の力強さは失われていなかった。負けられないという気持ちが強いベルくんは、再びヘスティアナイフと牛若丸弐式を構えて突撃していく。

 

真正面から疾走していったベルくんのヘスティアナイフがヒュアキントスが持つ戦斧とぶつかり合って、激しい火花を散らす。ベルくんは逆手に持ち換えた牛若丸弐式の柄をヒュアキントスの腹部に叩き込んだ。強制的に息を吐かされながらも怯むことはないヒュアキントス。

 

追い払う為に振るわれた戦斧による薙ぎ払いをバックステップで避けたベルくんは、ヒュアキントスに牛若丸弐式を目眩ましに投げつけながら踏み込んだ床を一際強く蹴り、一気に再び間合いを詰めると身体を回転させた勢いを全て乗せて、手に持ったヘスティアナイフを握った拳をヒュアキントスの顔面に叩き込んだ。

 

ヒュアキントスの頬に叩き込まれたベルくんの重い拳が振り抜かれて、強烈なダメージを喰らったヒュアキントスは戦斧を支えになんとか立っていた。ゴライアスマントでガードされていない部位を狙ったベルくんの判断は正しい。そろそろ決着が着きそうな戦いは、終わりが近付いていく。

 

「うおおおおおっ!」

 

震える身体に力を込めて外見に似合わない叫び声を上げたヒュアキントスが全力で袈裟斬りに戦斧を振るう。ヒュアキントスが放つ一撃をギリギリで回避したベルくんは、戦斧を振り切ったヒュアキントスの腕を掴むと投げて、床に叩きつける。

 

床に倒れたヒュアキントスに馬乗りになったベルくんの腕が英雄願望の光りで輝いた。マウントポジションでヘスティアナイフを握った手を鉄槌を打ち下ろすかのように振り下ろし、英雄願望で蓄力が完了したヘスティアナイフの柄をヒュアキントスの顔面に叩き込んだベルくん。ヘスティアナイフの刃を顔面に突き立てていないだけベルくんは優しい方だな。

 

ベルくんのスキルである英雄願望で蓄力されたヘスティアナイフの威力は柄だとしても凄まじかったようで、一撃で完全に気絶していたヒュアキントス。アポロン・ファミリアの大将が倒されたことで決着となった戦い。今回の戦争遊戯はヘスティア・ファミリアの勝利となった。ベルくんは落ち着いた様子でヘスティアナイフを鞘に納めていく。

 

「勝ちましたよ、ジョンさん」

 

そう言ってきたベルくんは、戦っていた時とは全く違う、自然な子どもらしい笑顔を見せてきた。ベルくんが素直な少年であることは確かである。頑張ってくれたベルくんを褒めてあげることも必要だろう。私はベルくんに近付いていき、白い髪の毛が生えた頭に手を乗せて優しく撫でておく。

 

「よく頑張ったな、ベルくん」

 

言葉と行動でベルくんを褒めておくとベルくんは、とても嬉しそうに笑っていた。本当に強くなったベルくんに誇らしい気持ちになっていた私の顔にも思わず笑みが浮かぶ。いずれ私は元の世界に帰るが、今までベルくんと行ってきた鍛練がベルくんの力となっていることは確かだ。私が居なくてもそろそろ大丈夫かもしれないな。

 

まあ、とりあえず今は、ヘスティア・ファミリアが勝利したことを喜んでおくとしようか。

 

それとベルくんの治療もしておかなければいけないな。

 

 月 日

ヘスティア・ファミリアの勝利で終わりとなった戦争遊戯の結果として、アポロン・ファミリアは解散となり、アポロン・ファミリアの財産も土地も全てヘスティア・ファミリアが没収。そしてオラリオからも追い出されることになったアポロンは、付き従う眷族だけを連れてオラリオを去った。戦争遊戯でヘスティア・ファミリアが得たものは大きいだろう。

 

ちなみに今回のヒュアキントスとの戦いでベルくんはLv3にランクアップできるようになっていたようだ。女神ヘスティアが言うにはステイタスも凄いことになっていたみたいだが早速ランクアップしたベルくんには、新たなスキルが発現していた。格上を相手にした時に発動する限界走破というスキルであるようである。

 

効果としては格上を相手にした時にステイタスに高補正がかかり、ステイタスが限界を越えていくスキルだ。ヒュアキントスとのLv差を覆してベルくんが勝利したことがきっかけとなって発現したスキルであることは確かだった。戦争遊戯の最中、神の鏡によってベルくんと私の戦いはオラリオ中で見れるようになっていたらしい。

 

それでヘスティア・ファミリアの入団希望者が増えるのではないかと考えた女神ヘスティアは、ヘスティア・ファミリアのホームを新しい場所に移すつもりのようである。戦争遊戯でアポロン・ファミリアのホームを手に入れたヘスティア・ファミリアは、アポロン・ファミリアのホームを改装してヘスティア・ファミリアのホームとするようだった。

 

改装が終わるまでヘスティア・ファミリアの眷族達は、それぞれが暮らしていた場所で改装を待つつもりだそうだ。私は20倍になった賭け金を受け取りにいき、きっちりと12億ヴァリスを支払ってもらった。私の戦いを見ていた賭けの胴元は「第一級冒険者でも勝てない相手に支払いを渋る勇気はねえよ」と言っていたな。

 

とりあえず12億ヴァリスを手にして私が最初にしたことは念願のグリモアの購入である。10億ヴァリスを支払って購入した高品質なグリモアを持って帰ってきた私は魔法を発現させる為に、椅子に座って早速グリモアを開いた。グリモアからの問いかけに、私にとって必要な魔法とは元の世界に帰る力であると答えておく。

 

ベルくんのように眠りに落ちることなく魔法を発現させた私は、魔法を使えば元の世界の元の時間に帰れるようになったようだ。魔力の消費量は、それなりに高いようだが、1つの魔法で元の世界の元の時間に帰れるならば必要経費だと私は思う。魔力程度は幾らでも消費して構わない。元の世界に帰れるのならな。

 

魔法という帰還する為の手段を手に入れた私であるが、何も言わずに帰還してしまったら、色々と世話になった女神ヘスティアやベルくんに不義理であることは確かである。だからこそちゃんと説明しておく必要がありそうだ。女神ヘスティアやベルくんには、しっかりと別れを言っておきたいとも思うのでね。

 

最初に女神ヘスティアと出会えたことは、私にとって幸運だったと言えるだろう。ベルくんと出会えたことも悪いことではない。女神ヘスティアとベルくんが居たヘスティア・ファミリアは私にとっては、とても居心地の良い場所だったが、私には帰らなければいけない場所がある。ベルくんなら私が居なくても強くなる筈だ。

 

短期間だが確かに私の教え子だったベルくんは、最初に出会った頃と比べたら格段に強くなった。ベルくんの成長速度は並みではないが、特別に才能があるという子ではなかったな。それでも激しい鍛練で弱音を1度も吐かなかったベルくんは強い子であると言えるだろう。真っ直ぐで素直なベルくんは、とても純粋だった。

 

まあ、元の世界に帰るのはもうしばらく先でも構わない。グリモアを使って、帰る手段である魔法は既に手に入れているのだから焦る必要もないな。

 

忙しそうなヘスティア・ファミリアを手伝うとしよう。

 

 月 日

アポロン・ファミリアのホームであった屋敷の改装が完了して、ヘスティア・ファミリアの全員が新しいホームへとそれぞれの荷物を持って移動していった。屋敷を見て回っているとホームの門の前に人だかりがあることに気付く。どうやらヘスティア・ファミリアへの入団希望者達であるらしい。

 

門を開いて面接を始めようとしていた女神ヘスティアとベルくんの元に「ヘ、ヘスティア様あああああ!に、に、荷物の中から借金2億ヴァリスの契約書がぁぁぁ!」と叫びながら契約書を持って走ってきたヤマト・命。借金2億ヴァリスの契約書にはナイフ製作費と書いてある。それがヘスティアナイフの値段だと気付いたベルくんが卒倒してしまう。

 

借金2億ヴァリスと聞いて逃げ去っていくヘスティア・ファミリアの入団希望者達。まあ、借金程度で逃げるような連中が入団しなくて良かったと前向きに考えておくとしようか。その後「この借金はボクが払うんだ」と言う女神ヘスティアから契約書を奪い取った私は女神ヘファイストスの元へと行き、2億ヴァリスを一括で支払っておく。

 

「アポロンとの戦争遊戯や今回の支払いまで、貴方はヘスティアの眷族という訳ではないのに、どうしてそこまで」と問いかけてきた女神ヘファイストスに、じゃが丸くんを1つ、もらったからですかね、と私は答えた。私が嘘を言っていないことが解った女神ヘファイストスは「ヘスティアは貴方に出会えて幸運だったみたいね」と穏やかに笑う。

 

私が新しいヘスティア・ファミリアのホームに帰ってきたところでヘスティア・ファミリアの面々が出迎えてくれた。とりあえず借金2億ヴァリスは全額支払ってきたよ、と伝えておくと安心した様子だったヘスティア・ファミリアの面々。女神ヘスティアだけは「女神としての威厳があ」と落ち込んでいるようだ。

 

貴女の力になりたいと思った私が勝手にしたことですから気にしないでください女神ヘスティア、と私が言うと「ジョン君」と感動している女神ヘスティア。ああ、でもヘファイストス・ファミリアでのバイトは続けるようにと女神ヘファイストスは言っていました、と付け加えておくと「そういう約束だったね」と女神ヘスティアは納得する。

 

借金が全て返済されたとしても1度出回ったヘスティア・ファミリアが借金ファミリアという悪評は既に広まっていたようだ。新しい入団希望者は来ないみたいだと落ち込んでいた女神ヘスティアとベルくんに、今の仲間を大切にすることも大切ですよ、と言っておく。「そうですよね」と直ぐに立ち直ったベルくん。

 

この様子ならベルくんは問題無さそうだ。

 

 月 日

与えられた1室でいつものように雷の三節棍形態になったキングケルベロスが放つ雷を左腕義手で電力として吸収していく。充電中の左腕義手からパワーアシストスーツにも電力を供給していき、フル充電が完了したところで形成していたキングケルベロスを戻す。キングケルベロスを手に入れてから電気が存在しない場所でも充電ができるようになった。

 

それからはヘスティア・ファミリアの面々の荷物の整理を手伝いながら日中を過ごしていたが、早朝あたりにホームを訪ねてきたタケミカヅチ・ファミリアの眷族と話していたヤマト・命の様子がおかしい。明らかに何かを考えこんでいるヤマト・命。その様子を見てヘスティア・ファミリアの面々は気にしているようだ。

 

夜になってヤマト・命がタケミカヅチ・ファミリアの眷族と共に歓楽街へと向かう姿を見て、心配になって追いかけていったヘスティア・ファミリアの面々。命の危険は無さそうだと判断して私は留守番をすることにしたが、ベルくんだけ帰ってくることがなかった。これは朝帰りコースということになるのだろうか。

 

年上の女性に可愛がられそうなタイプのベルくんが歓楽街なんかに行けば、女性に捕まってしまいそうな気もするが、自力で脱出することくらいはできる筈だ。ベルくんの場合は女性に追いかけられて逃げ回った結果として朝帰りになる可能性が高そうだな。帰ってきたら何事も無かったかのように出迎えておくとしよう。

 

 月 日

昨日ベルくんは歓楽街でイシュタル・ファミリアに所属するアマゾネス達に追いかけられて逃げた先で春姫という狐人の女性と出会ったらしい。歓楽街でヤマト・命が捜していた女性が春姫であり、ヤマト・命が幼い頃に仲良くしていた相手だそうだ。春姫はイシュタル・ファミリアの娼婦らしいが、望んで娼婦をしているわけではないようである。

 

そんな春姫をどうにかして助けたいと思っている様子のベルくんとヤマト・命。アポロン・ファミリアよりも遥かに格上であるイシュタル・ファミリアと対立することは避けたいと考えているリリルカが、わざと憎まれ役になってベルくんとヤマト・命に忠告をしていた。それでも助けたいと思っているようだった2人。

 

手伝えることなら手伝おう、と私も2人に言っておく。とはいえ私が役立つとしたらヴァリス稼ぎと荒事程度だな。イシュタル・ファミリアと敵対したとしても私なら簡単に皆殺しにできるが、それは最終手段にしておこう。ベルくんに人を殺す姿を見せるのは良くないことだと思うのでね。

 

教え子であるベルくんに悪影響がありそうなことは、できるだけ避けたいところだ。

 

 月 日

何かを企んでいそうな神ヘルメスがヘスティア・ファミリアのホームにまで現れた。色々と娼婦について詳しい神ヘルメスとベルくん達が話した結果として、春姫が娼婦であるなら身請けができるのでは、という話になる。身請け金の相場は200万ヴァリスから300万ヴァリスであるようだが、それ以上を集めれば確実だと考えたベルくん達。

 

春姫が狐人ということを聞いて殺生石というアイテムの名を出した神ヘルメスは何かを知っているみたいだが、多くを語ることはなかった。狐人と殺生石には何か関わりがあることは間違いない。恐らくは身請け金を幾ら集めても女神イシュタルは春姫の身請けを許すことはないだろう。これは私の単なる勘だが、私の勘は良く当たるのでね。

 

身請け金を集める為にやる気になっているベルくん達に、このことは言えないな。だから今は黙ってベルくん達のヴァリス稼ぎを手伝っておくとするか。女神イシュタルの目的が何かを知ることができればやりようもあるんだが、そう都合良く情報が入手できるかは分からない。ヘスティア・ファミリアに迷惑がかからないように動く必要があるだろう。

 

それからベルくん達と神ヘルメスを玄関まで送ると、玄関では女神ヘスティアがアルベラ商会という商会から冒険者依頼を受け取っていた。アルベラ商会と聞いた神ヘルメスが僅かに表情を変えた瞬間を見た私は、何か知っていますね神ヘルメスと問い詰める。すると「アルベラ商会はイシュタル・ファミリアとも繋がりがあってね」と私の耳元で囁いた神ヘルメス。

 

間違いなくイシュタル・ファミリアの罠ということですか、と小声で言った私に「さあ、それはどうだろう」と言って笑った神ヘルメスは、確信していたとしても同意はしない。言質を取られることを避けている神ヘルメスは、食えない神であることは確かだ。先に手を出してきたのが相手なら、色々とやりようはありますが、と私は神ヘルメスの前で呟く。

 

「何をする気なのかな」と眼を輝かせて聞いてきた神ヘルメスに、それは秘密です、とだけ言っておいた。アルベラ商会からの冒険者依頼がイシュタル・ファミリアの罠であるなら、それはそれで構わない。どんな罠であろうと喰い破るだけだからな。女神イシュタルの目的をイシュタル・ファミリアに吐かせるとしよう。

 

 月 日

アルベラ商会からの冒険者依頼の内容は、中層14階層の食糧庫で石英採取というものであり、報酬100万ヴァリスとなっていた。身請け金が必要なベルくんとヤマト・命が飛びついた依頼を達成する為に14階層に向かったが、やはり罠であったらしい。14階層でイシュタル・ファミリアのアマゾネス達が襲ってきたからだ。

 

ベルくんは知り合いであるらしいアイシャというアマゾネスと戦いになっていたが、Lv3といった実力なアイシャを相手に、同じくLv3のベルくんは危うげなく戦っていたな。今までのステイタスの積み重ねが全く違うアイシャとベルくんでは、ベルくんの方が優勢だった。これまでベルくんが高めてきたステイタスは無駄ではなかったらしい。

 

私の方にはフリュネが現れたが「この前のようにはいかないよ」と何故か自信に満ち溢れているフリュネは少々光っている。横薙ぎに振るわれたフリュネの戦斧を白夜で受け止めると、以前はLv5だったフリュネの力がLv6程度になっていた。短期間でランクアップしたという訳ではないことは確実だ。

 

恐らくは一時的にランクアップしているのだろうと判断した私は、この程度ではな、とだけ言ってフリュネの戦斧を押し返す。Lv6になっても簡単に押し返されることがフリュネには想定外だったのか「いまのアタイでも簡単に押し返されるのかい、あんたは何者なんだいジョン」と驚きを隠せていないフリュネ。

 

今はヘスティア・ファミリアの協力者といったところかな、とだけ答えた私は右手に持つ白夜でフリュネが持つ戦斧を破壊すると、左腕義手をフリュネに叩き込んで気絶させておく。倒したフリュネを左肩に担いでベルくんがどうなったか確認しにいくとアイシャを倒していたベルくんは、近くにいた金髪の狐人に「春姫さん」と言っていたな。

 

どうやら春姫も襲撃に参加していたみたいだが、詳しい話を聞くと春姫は相手を一時的にランクアップさせる魔法を使えるらしい。その魔法が殺生石と関係が有りそうだと思った私が更に話を聞いてみると、春姫は満月の夜に儀式を行って殺生石に魂を捧げるつもりであるようだ。それを知ったベルくんが「何故そんなことを」と春姫に聞く。

 

「不幸しかもたらさない自分にできることはこれくらいしかないんです」と答えた春姫に「貴女が本当にやりたいことはそんなことではない筈です春姫さん」と力強く言ったベルくん。現れたヤマト・命が春姫に「春姫殿、一緒に行きましょう」と言い出す。居場所を伝える魔道具であるという春姫の首輪は、私が魔力を吸収してから破壊しておく。

 

首輪を外されて自由になった春姫がどうするかは、春姫の意思に任せておいた。ヤマト・命が差し出した手をとって涙を流す春姫を見てベルくんは覚悟を決めた様子だったな。完全にイシュタル・ファミリアと戦う覚悟を決めているベルくんは、力強い眼差しで春姫を見ている。ベルくんにとっては春姫も守るべき者であるようだ。

 

ヤマト・命には春姫を連れていくように言っておいた私とベルくんは、ヤマト・命が春姫を連れて立ち去ってから、アイシャとフリュネを起こして私達を襲撃した理由を問いかける。黙っているアイシャとは違って「イシュタル様が、ベル・クラネルを連れてこいって言ってたのさ」と素直に答えたフリュネ。

 

どうやら女神イシュタルは、ベルくんに用があるらしい。なら、此方から出向いてみるとしよう。アイシャとフリュネに私とベルくんを女神イシュタルの元に案内するように伝えると、了承したフリュネが先頭に立って歩き出す。アイシャが「何を考えてんだい、あんたは」と言いながら睨んできたので、女神イシュタルに現実を教えてやるだけだ、と言っておく。

 

日記として書いておくのは、この程度にしておくとしようか。

 

書き終えた日記を閉じて懐にしまう。フリュネとアイシャの案内でダンジョンを抜けて向かった先の歓楽街。イシュタル・ファミリアのホームである女主の神娼殿へと辿り着いた私とベルくんは女神イシュタルと会うことになる。

 

「連れてくるのはベル・クラネルだけで良かったが、愛でるに値する美しい男も連れてきたのは褒めてやろうフリュネ」

 

そう言った女神イシュタルはフリュネに1度視線を向けてから私を見て、笑う。獲物を見るような眼で此方を見る女神イシュタルは捕食者の様な顔をしていた。

 

「貴女が女神イシュタルですか」

 

「そう言うお前はジョンだったな、戦争遊戯は観ていたぞ。フリュネが手も足も出ないお前のLvが気になるところだが、直ぐに蕩かせてわたし以外を見れなくしてやろう」

 

口端を吊り上げて笑った女神イシュタルは、私を魅了するつもりのようだ。近付いてきた女神イシュタルが服を脱ぎ捨てて裸体を見せると動揺していたベルくん。

 

「さあ、わたしの虜となるがいいジョン、ついでにベル・クラネルもな」

 

魅了してきた女神イシュタルに普通に近付いて私の白衣を羽織らせておく。女神イシュタルの裸はベルくんにとっては目の毒になりそうな気がしたのでね。

 

「馬鹿な!わたしの魅了が効いていないだと!?」

 

平然としている私と恥ずかしそうに眼を逸らしているベルくんを見て狼狽している女神イシュタル。魅了が効かないということが女神イシュタルにとっては、有り得ないことだったらしい。

 

「何故だ!何故わたしの魅了が効かない!?こんなことは有り得ない筈だ!」

 

魅了されていない私とベルくんに怒りを抱いている様子の女神イシュタルは、叫ぶかのように声を発する。私が羽織らせた白衣を脱ぎ捨てて再び全裸になった女神イシュタルが、再び魅了をしようとしていた。

 

しかし私とベルくんに魅了は成功することはない。同席していたフリュネとアイシャが魅了されてしまっていたことから、全力で私とベルくんを女神イシュタルが魅了しようとしていることは確かだ。

 

「とりあえず服を着た方がいいと思いますよ女神イシュタル。そのままでは風邪をひいてしまいますからね」

 

床に脱ぎ捨てられた白衣を拾ってそう言った私に茫然とした顔を見せていた女神イシュタルは、魅了が通じない相手にどうすればいいのかわかっていない様子である。

 

それから一応服を着た女神イシュタルは、少し落ち着いたようだったが、有り得ないものを見るかのような眼で此方を見てきていた。女神イシュタルにとって魅了が通じないことは、それだけ信じられないことだったらしい。

 

「それでは話をしましょうか女神イシュタル」

 

白衣をたたんで小脇に抱えながらそう言った私は、女神イシュタルに視線を向ける。明らかに警戒している女神イシュタルは、フリュネとアイシャを正気に戻らせて控えさせると此方を睨んだ。

 

「何が目的だ」

 

吐き捨てるかのようにそう言い放った女神イシュタルは、更に鋭い視線を此方に向けてきた。嘘は許さんと言わんばかりなその視線に笑顔を返して、私は言う。

 

「春姫を自由にしてもらいたい」

 

「春姫を渡すつもりはない」

 

私の言葉に素早く返答した女神イシュタル。春姫は女神イシュタルにとって計画の要であるので、絶対に渡すつもりがないことは私も理解していた。だからこそ女神イシュタルの計画が、成功しないという点を突かせてもらう。

 

「春姫の魔法でイシュタル・ファミリアの全員が階位昇華したとしても、フレイヤ・ファミリアには絶対に敵わないことに気付いていないようですね女神イシュタル」

 

「何だと!?」

 

「私はLv7のオッタルに勝ったこともありますし、階位昇華してLv6になったフリュネと今日戦って余裕で勝ちました。どちらとも戦ったことがある私としては、戦力に差が有り過ぎることが理解できます。オッタル1人居ればイシュタル・ファミリアは潰せるでしょうね。幾ら数を揃えたところで意味は有りませんよ」

 

「ならば、あの気に食わん女の姿を黙って見ていろと言うのか貴様は!」

 

私の言葉に怒りの声を上げた女神イシュタル。やはり女神イシュタルは女神フレイヤに強い憎しみを抱いているようだ。女神フレイヤと比較され、美の女神としてのプライドを傷つけられている女神イシュタルは、どうしても女神フレイヤへの憎悪を捨てることはできないらしい。

 

「女神イシュタル、ベル・クラネルと春姫の魔法で階位昇華したフリュネが戦ったらどちらが勝つと思いますか」

 

「Lv3とLv6で勝負になるはずがあるまい。フリュネの勝ちに決まっている」

 

私の問いかけに素早く断言した女神イシュタルは怒りが収まっていないようで苛立ちながら、くだらないことを聞くなとでも言いたげな顔をした。フリュネが勝つと思っている女神イシュタルと、ベルくんが勝つと思っている私は、入手している情報量に違いがある。

 

「なら、賭けをしませんか。貴女はフリュネの勝ちに賭けて、私はベル・クラネルの勝ちに賭ける。賭けに勝った相手の願いを、賭けに負けた相手は叶えなければいけない、というのはどうですか。貴女が賭けに勝てば、女神フレイヤとフレイヤ・ファミリアを全員私が殺してきてもいい」

 

「そんなに女神フレイヤを殺したいのか?いいだろう、その賭けを受けようではないか」

 

嘘を1つも言っていない私の言葉を聞いて機嫌を直して嬉しそうな顔をした女神イシュタルは、私の予想通りにこの賭けを受けることにしたようだった。恐らくは乗ってくるだろうと思っていた私としては、女神イシュタルの冷静さを先に奪えて良かったといったところだな。

 

「戦うのにちょうどいい場所は有りますか?」

 

「広間を使えば良かろう」

 

話がトントン拍子に進んでいったところで黙って私と女神イシュタルのやり取りを眺めていたベルくんの肩を軽く叩いておく。既にイシュタル・ファミリアと戦う覚悟を決めているベルくんに、ようやく出番が回ってくる。

 

「とりあえず春姫を呼んできてくれベルくん、階位昇華の魔法を使ってもらったら帰ってもらっていいとも伝えて安心させておいてくれると助かるよ」

 

「わかりました、行ってきます」

 

ヘスティア・ファミリアのホームにまでベルくんが行って、春姫を連れて戻ってくるまでの間に、フリュネはポーションで万全に回復して新しい戦斧を持ってきた。

 

ヘスティア・ファミリアが勢揃いで春姫を連れてやってきて、春姫がフリュネに階位昇華の魔法を使う。Lv6になったフリュネとLv3のままのベルくんが対峙する前に、ベルくんに月光を手渡しておく。

 

左手に月光、右手にヘスティアナイフを持ったベルくんは、戦斧を構えたフリュネの前に立つ。スキル短刀剣舞と限界走破が同時に発動してステイタスが限界を越えているベルくんは、フリュネがギリギリで反応できる速度で動いた。

 

戦斧でベルくんのナイフによる斬撃を受けたフリュネは、想像以上に素早く重い一撃に驚いている様子である。Lv3が放ったとは思えない一撃に、フリュネはベルくんの階位昇華を疑ったようだが、現在春姫が階位昇華できるのは1人だけだということはフリュネも知っている筈だ。

 

月光とヘスティアナイフを振るうベルくんは、人を斬る覚悟を決めているようで、容赦なくフリュネを斬り裂くつもりでいた。全力を出さなければ勝てないと理解しているベルくんは、容赦などするつもりはないらしい。

 

「舐めるんじゃないよっ!」

 

そう言って戦斧を振り下ろしたフリュネ。力任せに振り下ろされたそれを避けたベルくん。直撃することはなかった戦斧が大広間の床を砕く。一撃でもまともに当たってはいけない威力であると判断したベルくんは神経を研ぎ澄ませていた。

 

短刀剣舞と限界走破で限界を越えたベルくんのステイタスは、階位昇華でLv6となったフリュネとなんとかギリギリで戦えるまで上昇している。更に戦いは激しさを増していき、フリュネの戦斧で破壊されていった大広間は、床と壁に戦斧による傷痕が幾つも増えていった。

 

遂に避けきれず月光とヘスティアナイフで戦斧による薙ぎ払いを受けたベルくん。大きく吹き飛ばされてしまったが吹き飛ばされながら体勢を立て直していたベルくんは、膝を曲げて壁に着地すると全力で壁を蹴って加速し、弾丸の様にフリュネへと突撃していく。

 

ベルくんの動きに合わせて戦斧を叩きつけるかのように振るったフリュネ。半身になって戦斧を避けたベルくんは、床に叩きつけられた戦斧の柄に乗って、フリュネの戦斧の刃が当たらない位置から月光とヘスティアナイフによる斬撃を連続で繰り出す。

 

戦斧を一旦手放したフリュネは、ベルくんの攻撃を回避して突き出すような中段蹴りを放つ。Lv6の力で放たれた中段蹴りがベルくんの腹部にかすり、腹部を覆う衣服が少々破れてしまった。鍛えられ引き締まったベルくんの腹筋が露となり、思わず舌舐めずりするフリュネ。

 

しかし戦いの最中だということを思い出したフリュネは、床に突き立った戦斧を引き抜き構える。一撃一撃放つごとに力強さと速度が増していくベルくんの動きが止まることはない。限界走破で限界を越えていくベルくんのステイタスは留まることを知らず、際限無く上昇していく。

 

ベルくんのヘスティアナイフによる突撃槍の如き突きを戦斧でなんとか受けたフリュネに、回転したベルくんの2刀流の連撃がLv3とは思えない速度と力強さで繰り出されていった。フリュネにとっては凄まじい連撃に、戦斧が弾き上げられていき、がら空きとなった懐へと入り込んだベルくんのヘスティアナイフへと二重集束が行われる。

 

速攻魔法であるファイアボルトと斬撃の二重集束が瞬時に行われていくと、炎雷の刃がヘスティアナイフから伸びた。放たれたベルくんの必殺技である聖火の英斬がフリュネを斬り裂いていくと苦悶の声を漏らすフリュネ。炎雷で焼かれながら胸部から腹部にかけて斜めに深く切り裂かれた傷口からは血が流れることはない。

 

ベルくんの必殺技である聖火の英斬を喰らって倒れ込んだフリュネが動くことはなく、勝者が誰であるのかは一目瞭然だ。信じられないものを見たかのような顔をしている女神イシュタル。賭けに勝った私が女神イシュタルに望むことは既に決まっていた。

 

「それでは春姫を自由にしてもらいましょうか」

 

「いいだろう、Lv3程度に負ける奴が最高戦力ではオッタルに敵う筈もないからな、春姫はもう必要ない」

 

そう言った女神イシュタルはベルくんの戦いを見守っていた春姫に近付いて改宗ができるようにしてくれたらしい。これで春姫は完全に自由になったようだ。喜ぶヘスティア・ファミリアの面々に近付こうとしたベルくんが倒れそうになったので、支えておく。

 

どうやらベルくんのスキルの限界走破で限界を越えた後は物凄く疲れるようである。聖火の英斬という必殺技まで使ったベルくんは体力に限界がきていたみたいだ。私はベルくんを支えながらヘスティア・ファミリアの面々とヘスティア・ファミリアに新しく眷族として加わった春姫と一緒にイシュタル・ファミリアのホームから立ち去っていった。

 

その後、どうやら女神イシュタルは女神フレイヤによって天界に送還されたらしい。何かが女神フレイヤの逆鱗に触れたのかもしれないな。女神イシュタルがベルくんに手を出そうとしていたことが原因のような気がする。ベルくんは女神フレイヤにとっては特別な存在なのだろう。

 

女神に執着されているベルくんは大変だろうな。

 

 月 日

一騒動も終わり、なんとかヘスティア・ファミリアには被害もなく終わらせることができた。今回の1件で、またランクアップできるようになっていたベルくんは、まだランクアップするつもりはないようだ。そろそろいい頃合いだと思って女神ヘスティアに、そろそろ私は元の世界に帰ろうと思っています、と言っておく。

 

「寂しくなるね、今までありがとうジョン君」と言いながら笑った女神ヘスティアは寂しそうではあったが、私をこの世界に引き留めるようなことはしない。やはり女神ヘスティアが善神であることは確かだ。この世界で始めて出会った神が女神ヘスティアであって本当に良かったと私は思う。その他の神々は基本的にろくでもないからな。

 

ベルくんやヘスティア・ファミリアの面々にも元の世界に帰る前に話をしておくことにして、私が異世界から来たということも皆に明かす。このことを最初に教えていた女神ヘスティア以外のヘスティア・ファミリアの面々は、物凄く驚いていた。

 

神の力で異世界から呼び出されてから帰る手段を求めて、魔法を発現させるグリモアの存在を知り、購入する為にヴァリス稼ぎをしていたことも伝えておき、既に購入したグリモアで魔法を発現させたことも教えておく。後は帰るだけとなっていることも伝えておくと最後に宴会をしようということになったようだ。

 

私の手持ちのヴァリスが700万ヴァリスはあるので、600万ヴァリスをヘスティア・ファミリアに残しておき、残りの100万ヴァリスを宴会費用として使いきっておくとしよう。向かう場所は豊穣の女主人であり、そこで盛大に宴会をすることになる。皆で盛り上がっていると近付いてきたシルが「今日はどうして宴会を」と聞いてきた。

 

私が遠い故郷に帰るから、お別れの宴会ということになるかな、と答えておく。元々オラリオからは遠い遠い場所に居たが神の力で呼び出されてオラリオまで飛ばされてきた私は、元の場所に帰る為に今まで活動してきたんだが、帰る方法が手に入ったから帰ることにしたんだよ、と付け加えて説明しておくとシルは「寂しくなりますね」と言った。

 

宴会も終わりとなり、珍しく酔い潰れたベルくんを背負ってヘスティア・ファミリアのホームへと帰る最中、今までオラリオに来てからの色々な出来事を思い出しながら歩いて進む。沢山の思い出があるなと考えて思わず笑っていた私は、こうしてベルくんを背負って帰るのも最後になるか、と感慨深いものを感じていた。

 

ヘスティア・ファミリアのホームに帰ってきた私は、ベルくんをベルくんの部屋のベッドに寝かせておく。自分の部屋に戻って月光と白夜の手入れをしておき、月光と白夜の手入れが終わったらベッドに横になる。とりあえず明日になったら魔法を使って元の世界に帰るとしようか。湿っぽい別れにならなければいいんだがね。

 

 月 日

ヘスティア・ファミリアのホームでベルくんと最後の鍛練をした。スキルの短刀剣舞と限界走破で上昇したステイタスで喰らいついてきたベルくんには、強くなりたいという気持ちが、私と初めて鍛練をした時と同じくあるようだ。変わっていないベルくんを限界の更に先へと連れていき、疲れはてたベルくんにポーションとハーブタブレットを渡しておく。

 

ハーブタブレットの作り方は教えておいたので、ベルくんも作れる筈だ。プランターを増やしておいた各種のハーブ達をベルくんなら有効に活用してくれるだろう。ヘスティア・ファミリアで使える回復手段が増えることは悪いことではないな。私が育てたハーブがベルくん達の助けとなってくれたなら嬉しい。

 

ベルくんに月光と白夜を託して別れを告げると「今まで、ありがとうございましたジョンさん」と泣きながら笑って言ってきたベルくん。そんなベルくんの頭を撫でておき、きみに出会えて良かったと私は思っているよベルくん、と本心からの言葉を伝えておく。するとベルくんが流す涙の量が更に増えてしまう。

 

ハンカチでベルくんの涙を拭いながら、泣き止むまで待つ。これからも涙を流すようなことがあるかもしれないが、思いきり泣いてしまえばいい、泣けることは悪いことではないからね、と言っておいた。伝えたいことは全てベルくんに伝えたので、私はヘスティア・ファミリアのホームから出ることにする。

 

ベルくん以外のヘスティア・ファミリアの面々とは、昨日話をしておいたので問題はない。私はこれから、呼んではいない客の相手をしなければいけないから、今日の日記はここまでにしておくとしようか。

日記を閉じて懐にしまい込むとオラリオの外に出て、しばらく歩いた私に近付いてきた気配が1つ。猛者オッタルが戦意を滾らせて現れると大剣を構えて、私の前に立った。

 

「お前が故郷に帰ると聞いた」

 

そう言ってきたオッタルは、大剣を上段に構えると、地面を蹴って間合いを詰めてくる。オッタルの大剣が振り下ろされる前に、私の掌から黒炎が迸ると、瞬く間よりも速く形成されていった魔槍ボルヴェルク。

 

「その前に決着を着けておかなければな!」

 

オッタルの言葉と同時に振り下ろされた大剣を魔槍ボルヴェルクで受け止める。以前受け止めた時よりも力強い一撃であることは確かだった。

 

「ランクアップでもしたのか、オッタル」

 

「バロールを単独で討伐した結果だ。前までの俺ではお前に届かぬなら、殻を破るまで!」

 

私の問いかけに力強い言葉を返したオッタルは、どうやらLv8になっていたらしい。ランクアップして明らかに以前よりも強くなっているオッタルは、大剣を連続で振るう。

 

魔槍ボルヴェルクで振るわれるオッタルの大剣を弾きながら戦っていくと、大剣だけで攻撃するのではなく拳打や蹴りも交えて攻撃を繰り出してきたオッタル。

 

大剣と魔槍ボルヴェルクの打ち合いが続き、魔槍ボルヴェルクと刃こぼれすることなく打ち合える大剣は不壊属性であることは間違いないだろう。全力で大剣を振るうオッタルと比べて私には余裕があったが、それでもオッタルは諦めていなかった。

 

私とオッタルの戦いが続いていくと、戦いの最中に獣化をしたオッタルの全てのステイタスが上昇していく。Lv8となっているオッタルの力が獣化により更に増していき、私が右手で持つ魔槍ボルヴェルクを弾き上げようとしたオッタルの大剣。

 

強引に力付くで押さえ込んだオッタルの弾き上げ、しかしオッタルは更に力を込めてきた。Lv8の全力を獣化で更に越えた力を大剣に込めるオッタルと力比べの形となる。魔槍ボルヴェルクや不壊属性の大剣でなければ破壊されていたことは間違いない力比べ。

 

凄まじい力と力の押し合いは、獣化で更に力が上昇したオッタルに軍配が上がったようで、少々押されて魔槍ボルヴェルクを弾き上げられた私は、魔槍ボルヴェルクを両手持ちに持ち換えた。

 

流石にLv8で獣化のスキルを持っているオッタルが両手持ちで全力を出して振るう大剣を右手だけで受け止め続けることは不可能だったようだ。

 

両手持ちに換えた私の魔槍ボルヴェルクがオッタルの大剣を容易く弾き上げるが、素早く体勢を立て直したオッタルはなんとか私の追撃を弾かれながらも受けていく。

 

戦いの最中に魔槍ボルヴェルクの一撃で大きく吹き飛ばされたオッタルが深く息を吐いた。不壊属性の大剣が軋みを上げるほどの連撃を受け続けたオッタルは、それでも此方を力強い眼差しで見る。

 

「お前が俺に隠している全力の姿が見たい」

 

そう言ってきたオッタルは私が全力を出していないことに気付いているようだった。魔力を消費する全力の姿を出さずとも勝てる勝負ではあるが、餞別代わりに見せておくのも悪くはないと判断した私は全力の姿を見せることにする。

 

「悪いが、見せるのは一瞬だ」

 

「ああ、来い!」

 

短い言葉を交わし、互いに構えて対峙した私とオッタルは、全力でぶつかり合うことを決めていた。私の全身を黒い骨状の外骨格が覆い、パワーアシストスーツと融合した外骨格は、これまでとは比べものにならないほど凄まじい力を私に与える。

 

外見が魔槍ボルヴェルクの本来の持ち主であった大悪魔ボルヴェルクへと酷似した姿となった私は、振り上げた魔槍ボルヴェルクを真正面から振り下ろした。不壊属性である筈の大剣を破壊して、オッタルに深い裂傷を刻んだ一撃。

 

「見事だ」

 

それだけ言って獣化が解けて倒れ込んだオッタルの傷は深い。流れ出る血を止血剤で止めた私は、手持ちのハーブと、オッタルが持っていたエリクサーによってオッタルを治療しておく。綺麗さっぱり傷痕が消えたことから高価なエリクサーであったことは確かだ。

 

「世話をかけた」

 

目覚めたオッタルがそれだけ言って立ち上がると此方を見つめて何かを言おうとしているようだったので、しばらく待ってみると口を開いたオッタル。

 

「行くのか?」

 

「ああ、帰らせてもらうよ」

 

口数の少ないオッタルの問いかけに答えた私は、そろそろ元の世界に帰るつもりであった。オッタルとの戦いを終えたのなら、もう此処には用はないと判断して歩き出した私の背に力強いオッタルの言葉が届く。

 

「いずれ俺もお前の領域へと辿り着いてみせる」

 

オッタルのその言葉に片手を上げて応じた私は全力で走り出す。オッタルもオラリオも見えなくなったところで私は元の世界に帰る為に、世界を越える魔法の詠唱を始めることにした。

 

全ての詠唱を終わらせて、元の世界の元の時間に通じる、光で形成された扉を開いて飛び込む。ようやく帰ってこれた元の世界の元の時間に、安堵の笑みを浮かべた私は愛する家族に会いにいくことにする。

 

私にとっては数ヶ月間離ればなれだった家族と再び会えたことは、とても嬉しいことだった。強く家族を抱き締めた私に、抱き締められている家族も嬉しそうに笑う。

 

それからしばらくしてキッチンに立った私が作った料理を家族の元に持っていくと、この料理は何なのかと疑問に思っていた家族。

 

「ああ、この料理は、じゃが丸くん、と言うんだよ」

 

そう言って笑った私に、私の家族は不思議そうに首を傾げていた。

 

色々なトラブルを引き寄せるベルくんは、これからも大変だとは思うが、強くなったベルくんなら乗り越えていける筈だ。

 

女神ヘスティアや仲間達がベルくんを支えてくれるなら、何か問題があってもきっと大丈夫だろう。

 

私は、もうオラリオに行くことはないが、オラリオでベルくん達と過ごした日々を、これからも忘れることはない。

 

出会えて良かったと思えるベルくん達と、オラリオで出会えたことは、悪いことではなかったな。

 

とても良い出会いだった。

 

楽しかった出来事を思い出していた私に家族が飛び付いてくる。

 

私は愛しい家族全員を抱き締めて笑った。




ネタバレ注意
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかの登場キャラクター

ヒュアキントス
アポロン・ファミリア団長
原作ではLv3のままでベル・クラネルと戦うことになる相手
ヘスティア・ファミリアとアポロン・ファミリアの戦争遊戯のきっかけを作るなど主神アポロンに忠誠を誓っている美青年
最終的にはベル・クラネルに敗北して、オラリオを追い出されたアポロンに付き従って、共にオラリオを出ていく

アポロン
アポロン・ファミリア主神
恋多き男神
欲しいと思ったものはたとえ卑劣な手を使ってでも手に入れる執念深き性格の持ち主
自身のファミリアはヒュアキントスを始め、美男美女が多く所属している
ヘスティア・ファミリアとの戦争遊戯に敗北し、財産と土地を没収されてファミリアも解散させられた上で、オラリオ追放となった

ガネーシャ
ガネーシャ・ファミリア主神
象の仮面を被った男神
群衆の主を名乗り、市民を庇護すべき存在だと思っている
「俺がガネーシャだ!」とよく名乗る神でもある

フリュネ
イシュタル・ファミリア団長
ヒキガエルのような女
Lv5の第一級冒険者
男を強引に襲って壊してしまうこともある
原作ではベル・クラネルを襲おうとしたが逃げられて失敗に終わる

ヤマト・命
元はタケミカヅチ・ファミリア所属のヘスティア・ファミリアの眷族
Lv2の冒険者
春姫を捜す為にタケミカヅチの眷族となった

春姫
元イシュタル・ファミリア、現ヘスティア・ファミリアの眷族
Lvは1だが、一時的にランクアップさせる階位昇華の魔法が使える

アイシャ
イシュタル・ファミリア所属
Lv3の第二級冒険者
かつて春姫を救おうとしたが失敗し、フリュネに痛めつけられた後に女神イシュタルに魅了されて逆らえなくなった

イシュタル
イシュタル・ファミリア主神
春姫の魔法を利用して女神フレイヤを倒そうと考えていたが、ベル・クラネルを眷族達に拐わせたことで、女神フレイヤの逆鱗に触れることになり、天界に送還されることになる
ベル・クラネルを魅了しようとしたが、情憧一途のスキルを持つベル・クラネルには魅了が通じなかった


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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか編 ベル・クラネル視点

アンケートに投票していただいてありがとうございます
アンケートの結果としてベル・クラネル視点を見たいが21人で見たくないが3人となったので、ベル・クラネル視点を書きました

ちょっと削ったりもしましたが長くなりました
それでもよろしければどうぞ


上層でミノタウロスに襲われたその日、僕は2つの出会いをした。1つはミノタウロスに襲われた僕を助けてくれたアイズ・ヴァレンシュタインさんとの出会い。もう1つはヘスティア・ファミリアのホームで出会うことになった金髪に菫色の眼をしていた人、ジョンさんとの出会いだった。

 

エルフよりも整った容姿をしているジョンさんは、仕立ての良いスーツの上に白衣を羽織っていて、とても冒険者には見えない姿をしていたけれど、とても強い人であることを僕は次の日に知ることになる。翌日ダンジョンへ行く前に出会った豊穣の女主人の店員であるシルさんに、朝食を食べていないことを知られて賄いが詰まったバスケットを渡された。

 

その代わりに豊穣の女主人に食事を食べに来るように言われてダンジョンに向かった僕は、一稼ぎすることを決める。ある程度魔石を集めて換金し、ヴァリスを稼いで外食ができる位には稼ぐことができたと思った僕はヘスティア・ファミリアのホームである廃教会へと戻っていく。ホームにはジョンさんと神様の姿があった。

 

僕が神様にステイタスの更新をしてもらう時は、ジョンさんは地下室から出て廃教会の椅子に座って待っているようだ。ステイタスの更新が終わった後、なんだか拗ねているようだった神様は、バイト先の打ち上げに行くらしい。神様がホームを飛び出していき、ジョンさんと残された僕は、豊穣の女主人に向かう。

 

到着した豊穣の女主人で女将の人に、何故か僕が大食漢だと思われていたので勝手に僕が大食漢だという間違った情報を女将に教えていたシルさんに抗議した。するとちょっと奮発してくれるだけで良いと言ってきたシルさんの言葉に従って僕は比較的値段が安いパスタを頼んだ。僕よりも稼いでいたジョンさんは美味しそうなステーキを注文していた。

 

思わずジョンさんのステーキを見ていた僕に、ジョンさんが分厚く切ったステーキを3切れ渡してくれたことは嬉しかったな。食事が終わって一息ついたところで豊穣の女主人にロキ・ファミリアが入ってくる。その中に居たアイズ・ヴァレンシュタインさんに見とれていると、ロキ・ファミリアの狼人が話し始めていく。

 

「雑魚じゃあアイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わない」というロキ・ファミリアの狼人の言葉に、豊穣の女主人から飛び出して走り出す。とにかく自分の無力が情けなくなってダンジョンに潜ったその日。ひたすら現れるモンスターを倒していくと、体力に限界が来ていたのか身体が動かなくなった。

 

それでも現れた様々なモンスター達。絶体絶命の窮地に立たされていた僕を救ったのは、疾風のように現れたジョンさんだった。両手に持ったナイフを巧みに使って流麗な動きで全てのモンスターを容易く倒したジョンさん。そのジョンさんを見て僕は、まるで物語の英雄が助けにきてくれたかのように感じた。

 

僕を迎えにきたジョンさんに背負われて帰ったその時、強くなりたいと言った僕にジョンさんは手を差し伸べてくれたんだ。それからは、ひたすらジョンさんと一緒にダンジョンで鍛練をする日々が続く。誰にも教わることができなくて我流だったナイフの扱いも、しっかりとジョンさんに基礎を念入りに叩き込まれることになる。

 

Lv1でしかない僕よりも遥かに先に居るジョンさんにとっては何の得にもならない筈なのに、真摯に向き合って僕を鍛えてくれたジョンさんには感謝しかない。鍛練は段階を踏んで徐々に厳しくなっていたが絶対にできないことはさせないジョンさんは、僕の限界を正確に見極めているようだった。

 

ジョンさんの期待に応えたいと思って頑張りすぎて、帰りはジョンさんに背負われて帰るということも何回かあったけれど、ジョンさんに背負われて帰るこの瞬間は、今はもういないおじいちゃんに背負われていた幼い頃を思い出したりもして、懐かしい気持ちになる僕を優しいジョンさんの声が引き戻す。

 

「頑張ることは悪いことじゃないが、歩けないまで頑張るのは、ちょっと頑張り過ぎだ。まあ、今日は私が居るから構わないが、1人の時は体力を温存するように気をつけなさい」

 

そう言ったこの人はおじいちゃんではないけれど、僕の先生で、頭を撫でる手は、とても優しい。僕が強くなったことを喜んで、とてもとても嬉しそうに笑ってくれるジョンさんと一緒に居ると心が暖かい気持ちになれた。神様やジョンさんと過ごす日々を、笑いあえる日常を、僕は、失いたくないなと思う。

 

神様の眷族になって家族になれた気がした僕は、ヘスティア・ファミリアで共に過ごすジョンさんも家族のように思うようになって、神様とジョンさんを守れるくらい強くなりたいと更に鍛練に励む。そんな僕が無理をしないようにジョンさんが見守ってくれた。ステイタスの伸びが良いのも、ジョンさんのおかげだ。

 

ジョンさんと防具を買いに行ったヘファイストス・ファミリアのテナントで良い防具を見つけることができて、そこで初めて長い付き合いになるヴェルフと出会う。それからジョンさんはヴェルフにミノタウロスの角を30個も渡していて、ナイフと槍や大剣という武器の作製をヴェルフに依頼していたようだった。

 

ドロップアイテムは滅多に出る物ではないから、30個もミノタウロスの角を手に入れているということは、ミノタウロスをそれだけ倒せていることになる。ジョンさんはやっぱり凄いと思う。購入した防具とジョンさんがプレゼントしてくれた籠手を装備してダンジョンに向かうと、防御力が増して前よりもダンジョン攻略が楽に感じた。

 

それから数日も経たない内にヴェルフが完成した武器達を持ってヘスティア・ファミリアのホームへとやってくる。出来上がったナイフ4本の内2本は僕用だったようで、ミノタウロスの角で作られたナイフは、ギルドの支給品のナイフとは比べものにならない程良い出来だった。ジョンさんもナイフ2本と槍に大剣をヴェルフから受け取っている。

 

牛若丸と名付けたミノタウロスの角から作られたナイフを素振りした僕は、早くダンジョンに向かいたい気持ちになっていた。新しいこの武器を使ってみたいと思う僕を落ち着かせたジョンさんは、更に詳しくナイフの扱いを教えてくれるようだ。以前のナイフとは形状が違う牛若丸を、以前のナイフよりも扱えるようになってから向かったダンジョン。

 

牛若丸の切れ味は、とても良く上層のモンスター相手には苦戦することはない。しかし僕と同じく牛若丸を持ったジョンさんとの戦いには大いに苦戦することになる。ナイフの扱いにようやく慣れてきた僕とは違う流麗な動きでナイフを扱うジョンさんは、僕の手本になるように見える速度に手加減しているようだが、今の僕が真似をするのは難しい。

 

ジョンさんがプランターでハーブを育て始めていて、神様と僕にもしっかりハーブの育て方と使い方を教えてくれた。どうやらジョンさんが育てているハーブは、ポーションのように回復できるハーブであるようだ。ジョンさんは貴重な薬草とも言えるその3種類のハーブの種を何処で入手してきたんだろう。

 

気になって聞いてみると、ハーブの種はジョンさんの故郷から持ってきたものであるらしい。故郷では様々なハーブを育てて売るという仕事をしていたとジョンさんは言っていた。ハーブについてとても詳しいジョンさんは、3種のハーブの活用法を教えてくれる。ハーブの調合方法やハーブタブレットの作り方などを教えてくれた。

 

次の日ジョンさんがヴェルフの工房に行ったようで、大量の投げナイフを持って帰ってきたが、ヴェルフに工房を借りてジョンさんが作った投げナイフであるらしい。ウォーシャドウの指刃で作られた投げナイフは、スローイングシャドウと名付けられていて、本職の鍛冶師顔負けな出来だった。ジョンさんは鍛冶もできるようだ。

 

100本以上はあるスローイングシャドウは全て消耗品として作ったとジョンさんは言っていた。ギルドの支給品のナイフよりも見事な出来で、普通にナイフとしても使うことができそうなスローイングシャドウを使い捨てにできるだろうかと迷っている僕に、武器には望まれた在り方があるとジョンさんは言う。

 

「投げナイフとして使う為に作ったナイフであるから、戦いの中で投げたナイフが失われることも間違いなくあるだろう。だが、それで良い、このスローイングシャドウは、その為に私が作った。ヴェルフくんの主と共にある武器とは違うんだ。大量に作った使い捨ての武器を大事にする必要はない。迷うんじゃないぞベルくん」

 

スローイングシャドウを1本持ってそう言い切ったジョンさんは、真っ直ぐな眼差しで僕を見る。その眼差しは、大切にするべきものを間違えるなと言っているかのようだった。使い捨ての武器に固執して、迷うようなことがあれば、ダンジョンで命を落とすことになりかねない。だからジョンさんは武器の在り方を語ったんだろう。

 

明日は怪物祭という祭があるようで神様やジョンさんと一緒に怪物祭に行くつもりだったけど、ジョンさんは何かが起こると思っているようで、明日は僕に牛若丸を持っていくように忠告してきた。ダンジョンのモンスター出現のタイミングをピタリと当てるジョンさんの勘は、とても良く当たるので明日は何かが起こりそうだ。

 

怪物祭に向かう途中の僕を呼び止めた豊穣の女主人の店員であるアーニャさんから、シルさんが忘れた財布を渡されて、それをシルさんに渡すようにリューさんから補足で説明される。怪物祭を見に行ったらしいシルさんを捜しながら祭を神様と楽しんでいると、ジョンさんが背負っているタウロススピアを掴んだ。

 

現れたシルバーバックをジョンさんが瞬く間に首を斬り落として倒す。脱走したモンスターは、この1体だけではないという声が聞こえたので、それをジョンさんに伝えておく。神様はジョンさんに他のモンスターを倒してきてくれるように頼んでいた。頼みを引き受けたジョンさんが凄まじい速度で駆け出すと直ぐに見えなくなる。

 

ジョンさんが居なくなったところで、再び現れたシルバーバックが1体。シルバーバックの狙いは明らかに神様であったので、腰の鞘から牛若丸を引き抜いてシルバーバックと対峙した。シルバーバックの腕に繋がれた鉄の鎖が勢いよく振るわれて、叩きつけられる前に鎖を牛若丸で斬り落として前に進む。

 

間合いを詰めて牛若丸で魔石を狙った突きを繰り出す。すんなりとシルバーバックの外皮と筋肉を貫いた牛若丸は、シルバーバックの胸に存在する魔石を砕いた。一撃でシルバーバックを倒した僕に周囲の人々から歓声が上がる。モンスターを倒した僕を褒め称える声よりも嬉しかったことは、神様をしっかりと守れたことだった。

 

他のモンスターを倒して戻ってきたジョンさんと一緒に、シルバーバックを倒したお礼として屋台の人達から料理を沢山貰うことになって、今日の夕飯が屋台の料理に決まってしまう。沢山貰った料理をジョンさんと2人で持った帰り道。怪物祭の日には牛若丸を持ち歩くように、と忠告してくれたジョンさんに僕は感謝する。

 

おかげで神様を守ることが出来ました、と言った僕にジョンさんは「ベルくんが素直に私の忠告に従ってくれたおかげでもあるから、女神ヘスティアを守ることが出来たのはベルくんの功績だと私は思うよ」と言って笑う。穏やかなジョンさんの笑顔を見ているとかけがえのない大切な日常を僕が守れたような気がした。

 

ヘスティア・ファミリアのホームにあるソファーで寝ているとおじいちゃんが居なくなった時のことを夢に見る。居なくなってしまったおじいちゃんのように、神様やジョンさんを失いたくはないと思っていた僕は思わず涙を流していた。悲しみで頬を伝う涙が止まることはない。涙の冷たさを感じていた身体に暖かい手が触れる。

 

頭を撫でる優しい手には覚えがあった。力強く撫でるおじいちゃんとは違う、とても優しい手で僕の頭を撫でる手がジョンさんの手であることは直ぐにわかった。ジョンさんは優しく僕を撫でながら言葉を発していく。もう起きていた僕に言い聞かせるように優しい声で言ったジョンさんの言葉で僕の涙は止まっていた。

 

死なないと言ってくれたジョンさんは、きっと絶対に死ぬことはないと思えて安心できる。ジョンさんが今まで嘘を言ったことはないからだ。おやすみと言うジョンさんに、おやすみなさいと言葉を返して眠った僕は、それからは1度も悪い夢を見ることはなかった。きっとこれはジョンさんのおかげだろう。

 

ジョンさんと別れて行動していた時に、冒険者に踏みつけられている小人族の女の子を見つけて止めに入った。女の子は気絶しているようで治療が必要だと一目でわかるほど痛めつけられている。僕に止められて怒った冒険者が襲いかかってきたが、長く相手をしている暇はないと判断して牛若丸の柄を顔面に叩き込み、一撃で終わらせておく。

 

初めて対人戦を経験することになったけど、普段相手にしているジョンさんの方が恐ろしく感じたかな。それからは助けた女の子をヘスティア・ファミリアのホームにまで連れていき、神様にハーブを渡して治療を頼んでおいた。女の子の治療が終わったところでベッドに寝かせておくとジョンさんが帰ってくる。

 

勝手にプランターのハーブを使ってしまったことをジョンさんに謝罪すると、構わないと言ってくれたジョンさん。しばらくして眼を覚ました女の子と少し話したけど元気になったようで良かったと思う。女の子が落としていった鍵を拾って落とし物を届けると女の子は、鍵を握りしめて安堵しているみたいだった。

 

そんなことがあった次の日にサポーターの売り込みにきたリリルカという女の子は、小人族の女の子に似ていたけど犬人で、人違いなのかと思っていた僕は、サポーターの女の子を受け入れることにしてダンジョンへ向かう。ジョンさんとしかダンジョンに行ったことがない僕にはサポーターは初めての経験だった。

 

サポーターのリリは、とても良く働いてくれて稼ぎが増えることになったけど、たまにリリが浮かべる暗い顔が気になってしまう。何か事情が有りそうなリリが打ち明けてくれるまで待とうと思っていた。そんなことがあった次の日に魔法が発現して、僕はファイアボルトという魔法を手に入れることになる。

 

魔法を使えるようになって嬉しくなった僕は、ファイアボルトを使う為にダンジョンへと向かうとファイアボルトという魔法を実際に使ってみることにした。ファイアボルトと唱えると放たれた炎雷が上層のゴブリンを一撃で倒す。無理をしない程度に魔法を確かめて帰ったところで、思ったよりも疲れていることに気付く。

 

魔法を使い過ぎると精神疲弊を起こすということは確かであり、魔法に頼り過ぎてもいけないと思った。それから数日が経過したある日、昨日お酒を飲みすぎた神様が二日酔いになってしまって物凄く体調が悪そうだったのでジョンさんがホームに残って世話をすることになり、僕とリリだけが先にダンジョンへ行くことになる。

 

その日何かが起こりそうだと思っていたジョンさんは、僕に調合したハーブを幾つか渡してくれた。このハーブがリリを救うことになるとは、その時の僕は知るよしもない。リリとパーティを組んでいた時、ダンジョンの10階層では霧が出ていた。視界が遮られる霧の中で異常な数のモンスターに襲われている最中、リリが僕の牛若丸を1本持って逃げ出す。

 

スローイングシャドウともう1本の牛若丸を使ってモンスターを倒した僕はリリを追ったがリリは強化種らしきキラーアントの群れに腹部を斬り裂かれていた。キラーアントの群れに突っ込んでリリを助け出して、腹部に調合したハーブを塗り込むと傷がしっかり塞がったみたいで、リリの出血がようやく止まる。

 

助けられたことに安堵した僕へとキラーアントの強化種達が襲いかかってきた。物凄く強いという訳ではなく倒しにくいキラーアントの強化種。そんなキラーアントの強化種達を相手に、リリから返してもらった牛若丸も使って立ち向かう。まだ本調子ではないリリを庇いながら大量のキラーアントの強化種を相手にするのは厳しいが諦める訳にはいかない。

 

そんな僕を、ジョンさんがまた助けてくれた。猛牛殺しとジョンさんが名付けた大剣とタウロススピアという名の槍を振るうジョンさんは、まるで嵐のようにキラーアントの強化種達を倒していく。あっという間にジョンさんに倒されたキラーアントの強化種達は細かく両断されていて、もう動くことはない。

 

ジョンさんが見覚えのある鍵と魔剣をリリへと手渡していて、何処でこれを、と聞くリリにジョンさんは、途中で見かけた死体の近くに落ちていたと答える。確かに死人が出てもおかしくはない相手だったキラーアントの強化種達。襲われて死んだ人が出たと聞いて最初に、リリじゃなくて良かったと思ってしまった僕は酷い奴なのかもしれない。

 

それでも、助けられなかった命があったことは忘れないようにしようと思った。もしも助けられる命があるとしたら、僕は助けたいと思った。アイズ・ヴァレンシュタインさんやジョンさんに助けられたから、僕は今も生きている。だからこそ僕は、今度は誰かを助けられるように強くなりたいと思ったんだ。

 

それから話は進んでいき、ジョンさんがソーマ・ファミリアの団長と主神に話をつけてきて、リリがソーマ・ファミリアから改宗することになり、ヘスティア・ファミリアの一員となる。ファミリアに縛られていないジョンさんに助けられてばかりな僕は、いずれジョンさんを助けられるように強くなりたいと今日も鍛練に励む。

 

ある日アイズ・ヴァレンシュタインさんと話すことになり、何故か僕とジョンさんの鍛練に興味を持ったアイズ・ヴァレンシュタインさんを連れて、ジョンさんの元に向かうことになった。僕とジョンさんがいつも通りの鍛練を行った後、鍛練を見ていてジョンさんと戦ってみたいと思ったらしく、ジョンさんとアイズ・ヴァレンシュタインさんが戦うことになる。

 

アイズ・ヴァレンシュタインさんの剣を受け流していた最初以外は全く見えない戦いを繰り広げていた2人が遥かに格上であることがよくわかった。普段とは違って全く眼で追えないジョンさんの動きに、普段どれだけ手加減されているのかも理解できた僕だけど、ジョンさんとアイズ・ヴァレンシュタインさんのどちらが勝つかはわからない。

 

最終的にはアイズ・ヴァレンシュタインさんの首元に牛若丸を突きつけていたジョンさんの勝利で終わった戦いに、やっぱり僕の先生は凄い人だと思った。それからはジョンさんと僕が戦ったり、アイズ・ヴァレンシュタインさんとジョンさんが戦ったりを繰り返すことになる。休憩することなく1番動いていたジョンさんの体力が尽きることは無かった。

 

また来たいと言っていたアイズ・ヴァレンシュタインさんに了承したジョンさんに僕は内心で感謝しておく。何日か朝はアイズ・ヴァレンシュタインさんと一緒に鍛練をすることになって、憧れの人と一緒に居られるだけで僕は、とても嬉しい。アイズ・ヴァレンシュタインさんが、アイズさんと呼ぶことを許してくれたのも僕にとって嬉しいことだった。

 

ある日アイズさんが皆で一緒にじゃが丸くんを買いに行きたいと言い出す。迷わず僕は、行きましょうと即答していたが、ジョンさんは、あまり乗り気ではないようだった。なんとかジョンさんを説得してじゃが丸くんを買いに行った先の屋台で神様と遭遇。このことが予測できていたからジョンさんは乗り気ではなかったらしい。

 

怒っている神様をジョンさんと一緒に説得して落ち着いてもらったけど、神様も僕達の鍛練を見ることになった。僕とジョンさんの鍛練をびっくりしながら見ている神様は、僕のステイタスの上昇理由に納得していたようだ。ジョンさんとアイズさんの戦いは見えていなかった神様は、何故か遠い眼をしていたような気がする。

 

そんなことがあった帰り道で、襲撃にあった。最初に襲いかかってきた第一級冒険者達はジョンさんが倒したが、他にも襲いかかってきた冒険者達。僕と同じLv1の相手は僕が相手をして、それ以上のLvの相手はアイズさんが倒してくれている。新手のエルフとダークエルフにファイアボルトを放つが、あまり効いていなかった。

 

間違いなくエルフとダークエルフも第一級冒険者。ジョンさんに倒された第一級冒険者達を抱えて立ち去ったエルフとダークエルフには、此方と戦う意思はなかったらしい。襲いかかってきた相手の目的が何かわからないのは不気味だったけれど、戦いが長引かなくて良かったとも思う。神様が巻き込まれなくて本当に良かった。

 

アイズさんと、また鍛練をすることを約束して別れた日に、ステイタスの更新をすると上昇値が凄まじいことになっていて、ステイタスが魔力以外はSSSにまで到達しているようだ。以前とは比べ物にならない程に僕を強くしてくれたジョンさんは、しっかりと僕の願いを叶えてくれている。それがとても嬉しい。

 

ジョンさんとリリとダンジョンに潜ったその日、ダンジョンには上層で現れる筈のないミノタウロスが居た。ミノタウロスをジョンさんに任せれば、きっとあっさりと倒してしまうだろう。本当は任せることが正解なのは、僕にもわかっている。だけど僕はジョンさんに、僕に任せてほしいと言ってミノタウロスと戦うことにした。

 

僕にとって初めて死を意識した相手であるミノタウロス。恐怖は確かにあったけど、それでも僕が1人で立ち向かわなければいけないと思った。逃げることしか出来なかったあの時とは違うことを証明する為に、僕は戦う。腰の鞘から牛若丸を引き抜き、ミノタウロスへと駆けていく。魔法は使わないと決めていた。

 

ジョンさんから教わってきた全てを使って戦うことを決めていた。天然武器ではない大剣を持つミノタウロスは強化種亜種とも言える存在だったけれど、ジョンさんの方がもっと強いと感じる。立ち止まることなく牛若丸による攻撃を叩き込み、ミノタウロスの足を重点的に攻めていった。機動力を奪って刈り取るつもりでいた僕の前で、想定外の事態が起こる。

 

それは、いつの間にか現れた猪人の人が投げつけた魔石を喰らったミノタウロスが更に強化されてしまったことだ。先程よりも速い大剣が叩きつけられて吹き飛んだ僕の身に付けていたアーマーが破壊されていく。リリの悲鳴のような声が聞こえた。それでも止めることのないジョンさんは、僕が立ち上がると思っているのだろう。

 

だったら立ち上がらなければいけないと思った。何度でも立ち向かわなければいけないと思った。咆哮を上げるミノタウロスへと向かっていき、何度でも立ち上がり、戦い続けていく。ボロボロになっていても身体が動くなら戦えるだろう。ジョンさんが振り下ろす猛牛殺しに比べれば、このミノタウロスが振り下ろしてくる大剣なんて大したものじゃない。

 

眼に焼き付けたジョンさんのあの動きを思い出す。アイズさんの剣を見事に受け流していたジョンさんのあの動きが、今の僕なら出来る気がした。振り下ろされるミノタウロスの大剣に合わせて牛若丸を横に構える。大剣が牛若丸に触れた瞬間、牛若丸を斜めにして刀身を滑らせるかのように受け流していく。

 

大剣を受け流されたミノタウロスが、体勢を崩す。この隙を逃さずにミノタウロスの手首を斬り落として、牛若丸を鞘に納めるとミノタウロスが落とした大剣を握る。ジョンさんの猛牛殺しよりも軽い大剣を振るっていき、損傷がかなり激しかった大剣を手早く使い捨てると、牛若丸でミノタウロスの首を斬り裂いた。

 

噴き出した血を避けて距離を取ると、突撃体勢となったミノタウロス。片方だけしかない角を突き出して突撃してきたミノタウロスを飛び越えて、空中で身体を半回転させると、ミノタウロスの脳天に牛若丸を突き刺しておく。体重をかけて牛若丸を深く突き刺したが致命傷にはなっていない。強化亜種であるミノタウロスの肉体は強度が高いみたいだ。

 

脳天から牛若丸を引き抜き、武器として使うつもりのミノタウロスが牛若丸を持つ。力任せに振るわれた牛若丸には技の欠片もなく容易く受け流せた。ミノタウロスの胸部に突き立てた牛若丸。それを更に深く押し込む為に後ろ廻し蹴りを叩き込んだ。魔石が砕けたミノタウロスがドロップアイテムだけを落として消えていく。

 

リリにポーションを飲ませてもらっているとミノタウロスと僕との戦いを見ていた人が、いつの間にか増えていたことに気付いた。戦いを見ていたらしいロキ・ファミリアの人達の中にはアイズさんの姿もある。そしてジョンさんに一言だけ、何かを話しかけていた猪人の人が間違いなく強いということもわかった。

 

ポーションだけでは完全に回復とまではいかなくて、ジョンさんに背負われて帰ることになった帰り道。僕が魔法を使わなかった理由を聞いてきたジョンさん。今までジョンさんと一緒に鍛えてきた成果を見せたいという気持ちがあって、努力の成果とは言えない魔法を使わなかった僕は、思っていたことを素直に言葉にして言う。

 

「今日は私が見ていたから別に良いが、今度今日みたいなことがあったら魔法も躊躇わずに使いなさい。魔法も間違いなくきみの力だからね。とはいえ魔法だけに頼りきることにならないように気を付ける必要もある。魔法の使いどころを間違えないようにするんだよベルくん」

 

背負われているのでジョンさんの顔は見えないが、言葉はしっかりと聞こえた。僕を心配してくれているジョンさんの声は、とても優しい。鍛練の時以外は基本的に優しいジョンさんは、注意や忠告はしても僕に怒るようなことは無かったかな。ジョンさんと過ごしていると時間が緩やかに過ぎていくような気がして、穏やかな気持ちになれる。

 

Lv2にランクアップできるようになって、色々な人からもらったアドバイスで発展アビリティを幸運に決めた。スキルも2つ発現していたようで、英雄願望と短刀剣舞というものである。まだよくわかっていない英雄願望はともかくとして、この短刀剣舞というスキルは、今までジョンさんと努力してきたことが結晶となったかのように思えるスキルだ。

 

短刀、短剣、ナイフを持っている時にステイタスに高い補正がかかり、発展アビリティ短剣士が一時的に発現するスキルである短刀剣舞。基本的にナイフを主力武器として扱う僕にとっては嬉しいスキルであることは間違いない。短刀剣舞によって高補正がかかる度合いを確かめる為に、ジョンさんと牛若丸で打ち合ってみるとかなり強化されていたステイタス。

 

体感で感じた度合いを数値にすれば、全てのステイタスが600ほど上昇したかのように感じる。短刀剣舞が凄まじいスキルであることが理解できた。もう1つのスキルである英雄願望についても理解することができる出来事があり、英雄願望というスキルは能動的行動に蓄力を可能とするスキルであることがわかる。

 

蓄力中は、蓄力している場所が光輝き、鐘の音が鳴る英雄願望。発動すると体力と精神力を消費する英雄願望はあまり多用できるスキルではないが、体力と精神力を回復できるデュアルポーションをミアハ・ファミリアから大量に買い込んできたジョンさんと一緒に英雄願望で可能なことを検証してみることになった。

 

ある程度検証が進んだところで、ジョンさんが「魔法と斬撃を二重集束することができるかどうか試してみてくれないか?」と言ってくる。ヴェルフに打ち直してもらった牛若丸に斬撃とファイアボルトの魔法を二重集束させてみると炎雷の刃が伸びた。そのまま逆手に持った牛若丸で二重集束された魔法と斬撃を一度に放つ。

 

二重集束はナイフに凄まじい負荷がかかるようで、一撃を放った瞬間に牛若丸が砕け散ってしまう。それでも確かに必殺技と言える技が完成したと、僕は思った。聖火の英斬と名付けたこの必殺技。牛若丸が砕けた理由を説明しにヴェルフの工房に行った時もスローイングシャドウを使って聖火の英斬をヴェルフに見せることになる。

 

今のヴェルフでは聖火の英斬に耐えきれる武器を作ることは難しいらしい。必殺技を身に付けても武器が壊れてしまうから、全く使えない技になるとは思ってもいなかった僕は、神様にそのことを軽い気持ちで話してしまった。ジョンさんの更に詳しい補足を聞いていた神様は何かを考えているようだったかな。

 

それから2日後、神様がナイフを持って帰ってきた。ヘスティアナイフと名付けられたそのナイフは鞘にヘファイストスの銘が刻まれていて、憧れのヘファイストスの武器であることは間違いない。神様の眷族が持った時だけ力を発揮するヘスティアナイフは、僕にとって神様から与えられた大切な贈り物だった。

 

ヘスティアナイフなら聖火の英斬にも耐えられると太鼓判を押す神様に感謝をした僕は、このナイフを大事にしようと思う。ヴェルフとジョンさんのおかげで整った装備で初めて中層に向かうと、現れたヘルハウンドの群れにジョンさんが連続で素早く投げたスローイングシャドウが命中して、倒れ込んだヘルハウンドの群れが動くことはない。

 

ヘルハウンドから魔石を抜き取ると灰になったヘルハウンドの頭部があった場所に深々と突き刺さっていたスローイングシャドウが落ちた。まだまだ使えそうなそれを拾ったジョンさんが白衣に覆われた腕を1周するように取り付けられた鞘達に納めていく。モンスターを相手に僕達の手本となる動きを見せてくれたジョンさん。

 

事前に購入しておいたサラマンダーウールの出番が来ることがないように立ち回っていた僕達のパーティに、他のパーティから凄まじい数のモンスターを押し付けられて怪物進呈が行われたが、まるで暴風のように動いたジョンさんによって全てのモンスターが倒される。通りすぎながら怪物進呈をしてきたパーティは怪我人を抱えていたようだった。

 

それがどうしても気になってしまった僕は、パーティメンバーを説得して怪物進呈をしてきたパーティの様子を見に行く。階層を戻って様子を確かめると、怪物進呈をしてきたパーティのメンバーの1人が天然武器の斧で怪我をしているようだったが傷が深く、治療する為の回復アイテムが手持ちにないようで、焦っていたパーティ。

 

思わずハイポーションを持っていっていた僕と、容態を冷静に確かめているジョンさん。警戒していた相手のパーティのリーダーを手早く黙らせたジョンさんは、怪我人の治療を始めていく。あっという間に治療を終わらせたジョンさんは、最後に増血剤を怪我人の女性に飲ませていた。それを見て、相手のパーティのリーダーは安堵の表情を浮かべている。

 

怪物進呈をしてきたパーティのリーダーがダンジョンの地面に頭がつく土下座で謝罪をしてきた後に話を聞くと、どうやらこの人達は神様の友神であるタケミカヅチ様のファミリアであるらしい。ジョンさんから、まだ中層は早いと厳しい評価を下されて殺気も込めた忠告まで言われていたタケミカヅチ・ファミリアの人達は、落ち込んだ様子で帰っていく。

 

そんなことがあったけど僕達は先に進むことにした。モンスターを倒して、先に進んだところで到着した18階層。そこでアイズさんと再び出会えて嬉しかったな。ロキ・ファミリアは遠征の帰りで18階層で休息を取っているようだった。僕達はロキ・ファミリアとは離れた場所に移動するとテントを張っていく。

 

殆どジョンさんとヴェルフに任せることになったテント。3つしかないテントを譲ってくれて寝ずの番をしてくれるジョンさんは、現れたロキ・ファミリアの団長であるフィンさんと何かを話しているようだ。会話の内容が気になったけれど、盗み聞きは良くないと思って眠ることにして瞼を閉じると睡魔が直ぐに襲ってきた。

 

朝になってジョンさんと一緒に走り込みをしていると聞き覚えがある声がする。何故か神様がダンジョンに潜ってきていたらしい。見覚えのない帽子を被った神様も一緒にいたけど、ヘルメスという名前だということはわかった。そんなヘルメス様の真面目な表情に騙されて、着いていってしまった僕は馬鹿だったと言えるだろう。

 

その後水浴びを覗いてしまうことになってバレた時は素直に謝ってなんとか許してもらったけど、ヘルメス様は許されなかったみたいだ。逆さ吊りにされて叩かれているヘルメス様を僕が助けにいくことはない。移動した先でリューさんの水浴びも覗いてしまった僕は謝罪をしたけど、リューさんはあまり気にしていなかった。

 

花を用意して墓参りにいくリューさんと行動を共にした僕は、リューさんの色々なことを知ることになる。それでもリューさんはリューさんだ。伝えたいことを伝えることができて、リューさんと少し打ち解けることができたような気がした。それからテントに戻るとテントの近くにいたジョンさんがそろそろ仮眠を取るそうだ。

 

僕達に番を任せて眠っていたジョンさんは30分程度で起きてきて神様とリリの、どっちが僕と一緒のテントで寝るかという争いを直ぐに止めてくれたけど、仮眠時間が30分で本当に良かったのかと思わなくもない。ちなみに神様とリリを1つのテントに押し込んだジョンさんは、一仕事終えたかのような顔をしていたかな。

 

ジョンさんはいつも書いている日記を閉じると懐にしまって僕達に装備の手入れをしっかりするように言っていた。いつでも武器が使えるようにする。それはまるで18階層で戦いが起こることを予見しているかのようで、ジョンさんの鋭い勘が殆ど未来予知に近いことを知っていた僕はヴェルフ達にも気を付けるように言っておく。

 

翌日、アイズさん達ロキ・ファミリアが帰ろうとしていると知り、お別れの挨拶をしにいったところで、ロキ・ファミリアの団長であるフィンさんが、ラウルという人に指揮を任せて僕に着いてくるつもりであるようだった。ロキ・ファミリアの幹部であるリヴェリアさんがフィンさんに文句を言っていたが、フィンさんは気にせず僕に着いてくる。

 

テントに戻ってきたところで倒れている冒険者達を発見。ジョンさんに理由を聞くと、どうやらこの冒険者達は神様を拐おうとしたらしい。冒険者達が被っていたらしい被ると透明になれる兜を見たフィンさんが、ヘルメス・ファミリアが関与している可能性を言っていたが、僕の頭の中には神様が拐われかけたということに関する怒りしかなかった。

 

冒険者達が持っていた手紙に書かれていた場所に、首謀者がいると理解した僕は怒りのままに突撃していく。透明になっていようと気配で居場所がわかる相手を、ヴェルフに作ってもらった牛若丸弐式の柄で殴り抜いていった。タケミカヅチ・ファミリアの3人とリューさんにフィンさんも参加した戦いは、あっという間に終わる。

 

しかし戦いは、これだけで終わりではなかった。突如として現れた黒いゴライアスと白銀の異様なモンスター達。白銀のモンスター達はジョンさんとフィンさんが対処してくれるようだった。僕達は黒いゴライアスと戦うことになり、皆で力を合わせてなんとか黒いゴライアスを倒すことができたけれど、通常種とは違う、あのモンスター達は何だったんだろう。

 

黒いゴライアスとの戦いでランクアップすることができたヴェルフのお祝いをすることになった酒場で、小人族に色々と悪口を言われたけど、別に僕だけなら何を言われても特に気にすることはなかった。しかしジョンさんは僕への悪口に怒ってしまったようで、小人族に強い殺気を叩き込んで睨み付けている。

 

僕の為に怒ってくれたジョンさんに、嬉しい気持ちになっているとジョンさんに殺気を叩き込まれた小人族がガタガタと震えながら小便を漏らした。やはりジョンさんの殺気を受けた相手はただでは済まない。小人族の連れにも強い殺気を叩き込んで黙らせたジョンさんに逆らえる者は、この場に存在しないようだ。

 

現れたヒュアキントスという名の男が何かをする前に強烈な殺気を叩き込んだジョンさんは、殺気だけでヒュアキントスに膝をつかせていた。Lv3の第二級冒険者であるヒュアキントスを相手に、殺気だけで圧倒するジョンさんは、やっぱり凄い。捨て台詞を吐いて去っていったヒュアキントスは膝が震えていたかな。

 

それからしばらくしてアポロン様から宴に招待されることになった神様は、僕を宴に連れていくつもりのようだ。ジョンさんによって普段着とは違う高価な服を用意された僕と神様は、着なれない服に戸惑っていた。すると社交ダンスもあるかもしれないからと言ったジョンさんは、社交ダンスを僕と神様に教えていく。

 

短時間で的確な指導を受けて、しっかりと踊れるようになった僕と神様。色々と多才なジョンさんには、できないことはないんじゃないかと僕は思う。神々の集う宴に行くことになった僕と神様は、ちょっと場違いな気がしたけど、アイズさんとダンスを踊れたことは嬉しいことだったかな。

 

宴では神様がアポロン様に戦争遊戯を宣言されていたが断っていたようだ。それから宴が終わってから僕と神様はジョンさんが待つホームへと向かう。ホームで椅子に座っていたジョンさんに、アポロン様について話してみると物凄く嫌そうな顔をしたジョンさん。どうやらジョンさんはアポロン様が好きじゃないらしい。

 

僕もアポロン様は、あまり好きじゃないからジョンさんと一緒だ。2日後、ダンジョンにリリとヴェルフに僕という3人だけのパーティで潜っていると襲撃にあった。Lv3が複数人混じっていた襲撃者達に、リリとヴェルフが狙われていたから、庇いながら戦った僕は少し怪我をすることになったけど襲撃者を追い返すことは成功。

 

ホームに戻った僕をジョンさんが治療してくれた。ヘスティア・ファミリアのホームも襲撃を受けていたみたいだ。ジョンさんが居たから問題はなかったようだけど、ジョンさんに倒された襲撃者達は全員ガネーシャ・ファミリアの人達に連れていかれて、第一級冒険者でも簡単には出れない牢屋送りになったらしい。

 

ダンジョンで僕達を襲った襲撃者とホームを襲った襲撃者はアポロン・ファミリアだとジョンさんは言っていた。主神であるアポロン様の命令で眷族が動いているようで、狙いは僕とジョンさんであるようだ。ヘスティア・ファミリアが戦争遊戯を受けるまで、アポロン・ファミリアは襲撃を続けるかもしれない。

 

リリや神様が傷つけられるくらいなら戦争遊戯を受けて決着を着けた方が良いと思った僕は神様と話し合って、アポロン・ファミリアとの戦争遊戯を受けることを決めた。ヘスティア・ファミリアとアポロン・ファミリアの戦争遊戯が始まるまでの数日間、これまで以上に鍛えることを決めた僕は、ジョンさんといつも以上に激しい鍛練を行っていく。

 

戦争遊戯開始まで日数が迫るなかヴェルフとヤマト・命さんが改宗してくれて、ヘスティア・ファミリアの仲間になってくれた。それぞれのファミリアの眷族と助っ人1名以外は、今回の戦争遊戯には参加できないようになっているので、ヴェルフとヤマト・命さんの参戦は心強い。ジョンさんとリリも合わせて5人だけしかいないけど負けるつもりはなかった。

 

戦争遊戯の攻城戦が始まったその時、破城槌よりも力強いジョンさんの拳が城門へと叩き込まれていく。一撃で破壊された城門。城に侵入していったヘスティア・ファミリア。ヴェルフとリリが使うヴェルフが作った魔剣が連続で放たれてアポロン・ファミリアを蹴散らしていった。ヤマト・命さんが刀を振るってアポロン・ファミリア達を倒す。

 

皆が敵を引き付けている間に僕とジョンさんは敵を倒しながら先へと進んだ。ようやく到着した玉座の間には、ヒュアキントスとヒキガエルのような女性が居た。今の僕ではヒキガエルのような女性には勝てないと、戦力差が理解できる。しかし僕の横には誰よりも頼れる人が居た。ヒュアキントスにフリュネと言われた女性の相手はジョンさんに任せておこう。

 

単独で通常のゴライアスを倒したことでLv4となっていたヒュアキントスと対峙した僕は、ヘスティアナイフと牛若丸弐式を構えると連撃を叩き込む。僕がヒュアキントスの剣を破壊するよりも早く決着が着いていたジョンさんとフリュネの戦い。当然のように勝利したジョンさん。

 

倒されたフリュネが落とした戦斧がヒュアキントスの近くに転がってきていた。剣を破壊されたヒュアキントスが通常のゴライアスが落とすドロップアイテムであるゴライアスの硬皮で作られたゴライアスマントで、僕の攻撃を防ぎながら戦斧を拾うと、戦斧による攻撃を繰り出すヒュアキントス。

 

戦いながら魔法の詠唱まで終わらせたヒュアキントスが放つ魔法。凄まじい速度で放たれた光輪が僕に直撃すると爆発。装備していた軽装のアーマーが完全に破壊されてしまった。それでも負ける訳にはいかない僕は両足に力を込めて駆ける。素早く回転した勢いをそのままにヒュアキントスの顔面にヘスティアナイフを握った拳を叩き込む。

 

叫びながら戦斧を振り下ろしてきたヒュアキントスの攻撃を半身になって避け、床に突き刺さった戦斧が引き抜かれる前に腕を掴んで投げる。倒れたヒュアキントスの顔面に、英雄願望で蓄力したヘスティアナイフの柄を叩き込んで戦いを終わらせた。アポロン・ファミリアの大将であるヒュアキントスを倒したことで、僕達の勝利となった戦い。

 

勝ったことをジョンさんに報告すると、僕によく頑張ったと言って頭を撫でてくれたジョンさん。僕がヒュアキントスと戦って勝ったことに物凄く喜んでくれたジョンさんは、とても嬉しそうな笑顔を見せてくれた。今回の戦争遊戯で勝利して、ヘスティア・ファミリアを団長として守ることができて良かったと思う。

 

アポロン・ファミリアは財産と土地をヘスティア・ファミリアに支払うことになり、ファミリア自体も解散することになるアポロン・ファミリア。そしてアポロン・ファミリアの主神であるアポロン様は、オラリオを追放されることになる。アポロン・ファミリアの財産と土地を手に入れた神様は、ホームを引っ越すつもりだったみたいだ。

 

元はアポロン・ファミリアのホームだった場所を改装してヘスティア・ファミリアのホームに変えた神様。ヘスティア・ファミリアの皆とジョンさんも引っ越して、この新しいホームで暮らすことになる。新しいヘスティア・ファミリアのホームで新生活が始まっていくと色々なことがあったけど皆と一緒なら乗り越えていけるような気がした。

 

ヒュアキントスとの戦いでLv3にランクアップした僕には新しいスキルが発現していて、それは限界走破というスキルである。限界走破は格上を相手にした時に発動し、ステイタスに高補正がかかってステイタスの限界を越えていくスキルだった。相手が格上であればあるほどステイタスが高まるのが限界走破というスキルの効果らしい。

 

歓楽街に行ったヤマト・命さんとタケミカヅチ・ファミリアの千草さんを追って、ヴェルフやリリ達と歓楽街に向かうと、年上のお姉さんに捕まって引っ張られて連れ去られそうになって思わず逃げ出す。しかし逃げ出した先で今度はアマゾネスらしき女性の集団に捕まって力付くで連れ去られることになった。

 

ナイフを持てば数人がかりでも力負けすることはなかったけど、この時は武器を持っていなかった僕は逃げ出すことはできずに女性達の本拠地にまで連れ去られてしまう。アイシャと名乗ったリーダー格のアマゾネスの女性に見張られていて、逃げ出すのは難しいかと思っていたら、フリュネが現れて騒動になる。

 

混乱に紛れて逃げ出した先で春姫という狐人で娼婦だという女性と出会った僕は彼女に助けられた。おかげで逃げることができた僕は、ギルドでエイナさんにイシュタル・ファミリアについて聞いてみて、情報を貰ってからヘスティア・ファミリアのホームへと帰る。ようやく帰ってこれたヘスティア・ファミリアのホーム。

 

僕の朝帰りに怒っていた神様に謝罪して、心配してくれていた神様に僕は謝った。ジョンさんは「女性に振り回された男の顔をしているが、大人の階段は上っていないようだな。まあ、疲れただろうし今日は寝ておきなさい」と言ってくる。お言葉に甘えて眠ろうとしていた僕が春姫さんを話題に出すと反応したヤマト・命さん。

 

どうやら春姫さんはヤマト・命さんの知り合いだったようだ。翌日になって、ヘルメス様がヘスティア・ファミリアのホームにまでやってきて、娼婦について詳しいヘルメス様から身請けという娼婦を自由にする方法を知ることができた。ヴァリスを用意する為に張り切っていた僕達はイシュタル・ファミリアの罠にかかることになってしまう。

 

冒険者依頼を受けて向かったダンジョンの中層でイシュタル・ファミリアのアマゾネス達に襲われることになった僕達。ジョンさんに襲いかかったフリュネが直ぐに倒されて、僕もアイシャさんを倒すことができた。何故か近くに居た春姫さんを発見。とにかく春姫さんを自由にしてあげたいと思った僕とヤマト・命さん。

 

春姫さんの首につけられていた魔道具の首輪に触れたジョンさんが魔力を吸収していき、首輪の効果が発揮されなくなってから首輪をあっさりと破壊したジョンさんは「とりあえず、ヘスティア・ファミリアのホームに連れていきなさい」とヤマト・命さんに言うと気絶しているフリュネの元へと向かっていく。

 

僕も気絶したアイシャさんを担いで連れてきて、話を聞くことにする。気絶から目が覚めたアイシャさんは喋らなかったがフリュネはジョンさんに聞かれると素直に情報を語っており、色々と知ることができた。どうやら春姫さんは一時的に相手をランクアップさせる魔法が使えるようだ。そして春姫さんは殺生石というアイテムに魂を捧げるつもりだったらしい。

 

狐人の魂を捧げられた殺生石を砕いて欠片を持てば、魂を捧げたその狐人の魔法が使えるようになると語るフリュネ。「イシュタル様は、春姫の魂を捧げた殺生石を砕いて、欠片を眷族全員に持たせてからフレイヤ・ファミリアと戦うつもりだと言っていたね」と言ったフリュネは嘘を言っている様子はない。

 

イシュタル様の計画を知った僕は、どうすれば春姫さんを自由にできるかを考えていた。するとジョンさんが「私達を襲った理由も知りたいところだな」とフリュネに顔を向ける。ジョンさんの問いには素直に答えるフリュネは「イシュタル様にベル・クラネルを連れてこいって言われてたのさ」と言う。

 

「私とベルくんを女神イシュタルの元に案内してくれないか」と言ったジョンさんに驚いた様子のフリュネ。それからフリュネとアイシャさんの案内でイシュタル・ファミリアのホームに向かった。到着したイシュタル・ファミリアのホーム。直接会ったイシュタル様がジョンさんと会話したかと思えば、いきなり服を脱いできたのでびっくりした。

 

しかしジョンさんは冷静に自分の白衣をイシュタル様に羽織らせていて、まるで動じていない。魅了が通じていないやら何やらと動揺していたイシュタル様。早めに服を着てくれないだろうかと思っていた僕が目線を逸らしていると、ようやくイシュタル様は服を着てくれたようだ。それからイシュタル様とジョンさんは会話を交わしていく。

 

話は進んでいき、階位昇華の魔法を使ったフリュネとLv3の僕が戦って、僕が勝てば春姫さんを自由にすることができるというところにまでジョンさんは話を進めてくれた。相手になるのは階位昇華してLv6となったフリュネであるが、僕は負けるつもりはない。春姫さんを自由にする為に、僕は勝つ。その為なら限界だって越えてみせる。

 

ヘスティア・ファミリアのホームに戻って事情を説明して春姫さんと皆を連れてきた僕は、春姫さんに階位昇華の魔法を頼んで、フリュネを階位昇華させてもらうことにした。それから始まったフリュネとの戦いで発動した限界走破のスキル。短刀剣舞と合わせて発動している限界走破で何度も限界を越えていく。

 

際限なく強化されていくステイタス。相手が格上であればあるほど限界走破は高補正をもたらしていき、限界を越えたステイタスはLv6となったフリュネに迫る。Lv差を覆す限界走破によって減少していく体力。完全に体力を使いきれば、もう僕は立てないと理解していた。最後の力を振り絞り、僕は聖火の英斬を放つ。

 

炎雷の刃がフリュネを斬り裂いていったが、集束された炎雷によって焼かれた傷口から血が流れることはない。聖火の英斬の一撃で決着となった戦いは僕の勝利で終わる。この結果に驚いていたイシュタル様だったが、イシュタル様はジョンさんとの約束をしっかりと守り、春姫さんを改宗ができるようにして自由にしてくれた。

 

それからは全員でヘスティア・ファミリアのホームに帰ったけど、限界走破の多用で体力に限界がきていた僕はジョンさんに背負われて帰ることになる。激しい戦いが終わった後はジョンさんの背中が定位置のようになっている僕。ジョンさんに背負われることは嫌いじゃなかった僕は、自然と笑顔になっていたらしい。

 

春姫さんも自由になって、ヘスティア・ファミリアの眷族となることを選んだ。こうして新しい仲間が増えたヘスティア・ファミリアは、誰も傷つくことなく無事にイシュタル・ファミリアとの戦いを終わらせることができた。これもイシュタル様との交渉を円滑に進めてくれたジョンさんのおかげだと言えるだろう。

 

別れというのは突然なもので、ジョンさんが故郷に帰ると言い出した。そして驚くべきことに、ジョンさんの故郷は異世界であるそうだ。この世界とは異なる世界からやってきたジョンさんは、異世界の英雄だと言える人だったのかもしれない。僕のヘスティアナイフよりも数倍は高価なグリモアで世界を越える魔法を発現させたジョンさん。

 

その魔法で帰るつもりであるジョンさんは、明日には元の世界に帰ってしまう。突然過ぎるジョンさんとの別れに戸惑っている僕よりも落ち着いていたヘスティア・ファミリアの皆は、お別れ会として宴会をしようということになっていた。豊穣の女主人で行われることになった宴会。皆がそれぞれの思いをジョンさんに伝えていく。

 

僕もジョンさんに言いたいことが沢山あった。伝えておきたいことが沢山あった。それでもこの時の僕は酒に逃げてしまう。大量に飲んだ酒でも酔うことはなかった僕は、Lv3になった時に選んだ発展アビリティの耐異常が発揮されていたのかもしれない。酔い潰れたふりをしてジョンさんに背負われて帰る僕が酔っていないことにジョンさんは気付いていた。

 

気付いていても僕が酔い潰れているということにしてくれたジョンさんは、僕を背負ったまま優しい声で僕に語りかけていく。色々なことを語ってくれたジョンさんは誰にも言っていないことを僕に教えてくれる。それはジョンさんが結婚していることだったり、元の世界の世界中に部下がいることだったり、ジョンさんの左手が義手であるということだったりした。

 

色々とジョンさんについて知ることができた僕は、酔い潰れているふりを続けたまま、ジョンさんの背中を見る。広い背中は大人の背中で、ジョンさんがいつも羽織っている白衣には爽やかなハーブの香りが微かに残っていた。落ち着くハーブの香りが、酷く荒れていた僕の気持ちも落ち着かせてくれたようだ。

 

翌日になってジョンさんと話をすることを決めて自分の部屋を出ようとしたところで、僕の部屋に入ってきたジョンさん。部屋を出て最後の鍛練を一緒にすることになり、限界の更に向こうへとジョンさんに連れていかれることになった。疲れきった僕にデュアルポーションとハーブタブレットが渡されて回復して、なんとか動けるようになる。

 

特別なドロップアイテムで作られた白銀のナイフである月光と白夜という名の大剣を持ってきていたジョンさん。どうやらジョンさんは月光と白夜を僕に託すつもりであるらしい。ドロップアイテムである赤いミノタウロスの角で作られた牛若丸弐式よりも遥かに出来が良い武器2つを受け取って、僕はジョンさんを見る。

 

感謝を伝えたら視界が思わず涙で滲んでしまったけど、ジョンさんは僕を泣き止ませようとしてくれた。そのジョンさんの優しさが更に涙を生み出して、涙がしばらく止まることはない。ようやく泣き止んだ僕がジョンさんを見ると、見慣れたジョンさんの笑顔が見える。仕方ない子だなと優しい眼差して僕を見るジョンさん。

 

「もうきみは、私が居なくても大丈夫だ。守りたいものを守れる強さが、今のきみにはある。立派になったなベルくん」

 

そう言ったジョンさんは安心したかのように笑う。ジョンさんと、もっと一緒に居たいという気持ちがあったけど、それを言葉にしないように気持ちに蓋をする。僕が立派になったと言ってくれたジョンさんが安心できるように、今まで僕を強く育ててくれたジョンさんが誇らしい気持ちになれるように、僕は笑うことにした。

 

様々な話をしている間も優しく頭を撫でてくれていたジョンさんの手が離れていき「それじゃあ、さよならだベルくん」と言ったジョンさんが去っていく。行かないでくださいと言い出しそうになった口を引き絞って笑みの形を作る。ジョンさんと別れる時は笑顔でいたいと思った。去っていったジョンさんの姿が見えなくなってから僕は涙を流す。

 

もう2度と会うことはないジョンさんは、僕の先生で、とても優しくて、僕にお父さんが居れば、こんな感じなのかなと思ってしまうような人だった。僕がジョンさんと出会えたことは、間違いなんかじゃないと胸を張って言えるだろう。ジョンさんと出会えて良かったと思う僕は、この出会いには感謝しかない。

 

「僕は、もっと強くなります。貴方が誇らしく思えるように」

 

そう宣言した僕は、ジョンさんから託された月光と白夜を握って振るった。まずはこの武器達の扱いに完全に慣れることから始めるとしよう。きっと使いこなしてみせますよジョンさん。月光という白銀のナイフと、白夜と名付けられた大剣が煌めく。身近に居た、もうこの世界には居ない英雄の姿を思い浮かべて、僕は笑った。




ネタバレ注意
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかの登場キャラクター

アーニャ・フローメル
豊穣の女主人のウェイトレス
猫人
フレイヤ・ファミリアのアレン・フローメルの妹である

リュー・リオン
豊穣の女主人のウェイトレス
疾風の二つ名を持つLv4の元アストレア・ファミリアの冒険者
闇派閥の罠で仲間を失ったことで復讐に走り、ギルドのブラックリストに載っていたりもしたエルフの女性
その実力は高い

ラウル・ノールド
ロキ・ファミリア所属のLv4冒険者
ヒューマン
団長であるフィンの代わりに指揮を頼まれることもある

リヴェリア・リヨス・アールヴ
気高い王族のハイエルフ
ロキ・ファミリア副首領
下界の住人でありながら、多くの女神を越える美貌を持つ
Lv6の冒険者
名実ともにオラリオ最強の魔導士


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