蟲使いと呪い (ハーコー)
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プロローグ : 復讐という名の呪い

やってしまった。
読者参加型だってあるのに(自分でハードル上げてくスタイル)

まぁあっためてたものが書けて満足です。


 

この世は、決して平等ではない。

 

 

露魅棗は名門・露魅家の分家に生まれた。

 

分家という立場上、本家により雑用などを押し付けられていた。

呪術師になる為に稽古で徹底的に体を痛めつけられても、立派な呪術師になる為だと思えば平気だった。体中に傷ができても。大人でも音を上げる様な稽古を強いられても。

それでも、人並みに幸せではあった。

 

 

だが。

10歳の頃。

儀式への参加が決定づけられた事により、思い知る事になった。

 

 

その儀式は、継承の儀と呼ばれるものだった。

露魅家の子供は、10から12歳の子供達が15人揃うとその儀式への参加が決定付けられる。

それは、術式で使役する蟲を体内に取り込み、術式に適正のある者を選出するというものだった。

様々な種の蟲を取り込んだ。その中には、毒を持つものも含まれていた。

 

儀式で、親族が苦しむ声を聞いた。

 

「いやだ」

 

「助けて」

 

「誰か」

 

「死にたくない」

 

「ふざけるな」

 

「やめてくれ」

 

「呪ってやる」

 

「この先一生誰もオマエを理解してくれるヤツなんて現れない」

 

「オマエはずっと独りだ」

 

「せいぜい苦しめ」

 

親族達は、決まってそんな呪詛を吐いて死んでいった。

 

彼は儀式の苦しみに耐えた。

耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えた。

 

想像を絶する凄まじい程の激痛。

異物が体内を這いずる不快感。

正気を失いそうになるまでの苦行の数々に耐えた。

 

そうして、彼は家の当主となった。

 

だが、この出来事が、彼の心に暗い影を落とした。

彼に“復讐”を決意させる要因となった。

自分達が苦しむ様を、楽しみながら眺めている老害共を引きずり下ろすと決めた。

 

 

 

──不平等。意味は、この世界の事。

そう思うのは俺だけだろうか。

 

例えば。

 

○○だからという理由で、行動が制限される。

 

何も悪くない無実の人間にばかり不幸が襲いかかる。

 

罪を犯した悪人が、上手いことやってのうのうと生きている。

 

弱い人間が何かの標的にされる。

 

 

この世界には、様々な不平等がある。

気に入らない。

嫌いだ。

辛酸・後悔・恥辱……。

そんな負の感情が渦巻くこの世界が、本当に大嫌いだ。

 

 

しかし、そんな世界で生きているのには理由がある。

 

露魅家への復讐心が、体を突き動かしているからだ。

俺はあの家で、不平等を嫌という程経験した。

 

しかし、それだけでは復讐する理由足り得ない。

 

その不平等により、命を落とした人間がいる。

それだけで、復讐の理由になる。

 

強くなって、露魅家に復讐する。

それだけが、生きる理由だった(・・・)

 

「君、ウチに来ない?」

 

白髪で目隠しをした、やや日本人離れした男に出会うまで。



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面接

俺は、暗闇の中に1人で立っていた。

 

「ここは……どこだ……?おい!誰か居ないのか!!」

 

俺は必死に叫んだ。喉が痛くなっても、俺は叫び続けた。

 

しばらくすると、遥か遠くの方に僅かだが光が見えた。

 

「あそこから出れる……!」

 

俺は光を目指して走り出した。目を凝らすと、人影が見えた。

 

「……ッ!おい!待ってくれ!!」

 

暗闇の中を、僅かな光を頼りに走り続ける。

 

「おい!待てって!!」

 

息を弾ませながら走る。いくら呼びかけても、人影がはこちらを見ず、ただ進むだけ。振り返ることは一度もなかった。

 

「ハァ…ハァ……!待て!聞こえてないのか!!」

 

俺は走り、人影は歩いているのにも関わらず、その距離は何故か離れていく。

 

「待……て!待て……って……ッ」

 

ひたすら走っているので息が切れて来た。それでも諦めずに走り続けると、もう少しで手が届きそうになる。

 

「やっと追いついたぞ……!」

 

手を伸ばし、肩を掴もうとすると、突然何かが物凄い力で俺の首を掴んだ。

 

「カ…ハッ……!?」

 

首を掴まれ息が出来なくなり、バランスを崩すと、次々と俺の体を掴み始めた。手足といわず腰といわず背中といわず肩といわず頭といわず、あらゆる場所を掴まれ、地面に倒れる。

 

「……ッ、なん、だ……!?」

 

力を振り絞り、なんとか後ろを振り返る。

そこにいたのは、身体の皮膚が剥がれ、筋肉が剥き出しになり、目がくり抜かれたさながらゾンビの様なモノたちだった。ざっと数えただけでも20人近くはいる。

 

『いやだぁぁぁぁ』

 

『助けてぇぇぇぇ』

 

『誰かぁぁぁぁ』

 

『死にたくないぃぃぃぃ』

 

『ふざけるなぁぁぁぁ』

 

『やめてくれぇぇぇぇ』

 

『地獄に堕ちろぉぉぉぉ』

 

『呪ってやるぅぅぅぅ』

 

俺の体を掴んでいるモノたちは怨念に支配された様に、そういった呪詛を吐きながら俺の身体にまとわりついてくる。そして手で俺を掴み、爪を立てて引っ掻いたり、肉を抉ったり、力を込めて骨をあらぬ方向に折る。

 

「ぐ…あ…ぁぁ…!…っぐぅ、ッ……!」

 

激痛が体中を刺すように襲う。俺は必死に抵抗し、まとわりつくモノたちを振りほどく。だが、次から次へと湧いてくるモノたちに、次第に身動きが取れなくなっていく。

 

そこで俺は気がついた。

この異形のモノたちが吐く呪詛に覚えがあることに。

そして、彼らの顔に、見覚えがあることに。

 

よく耳を澄まし、よく顔を見る。

そして確信する。

彼らは全て、儀式で死んでいった親族達だった。

 

『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネェェェェ!!!!!!』

 

『死ね』と呟きながら、親族達は俺を引きずり、闇へ飲み込もうとする。耳には、骨が折れる音、肉が引き千切れる音といった生々しい音が届き、全身に想像を絶する程の凄まじい激痛が走る。次第に、肉体が少しづつ無くなっていくのが分かった。

 

俺は必死に手を前に伸ばし、人影の足を掴んだ。

 

「助……け……」

 

人影が振り向く。

 

人影は、俺の兄だった。

 

「兄……さん……?」

 

「助けて、ねぇ……その声を聞かずに俺たちを見殺しにしたのはどこのどいつだよ」

 

そう言うと共に、兄さんの体が俺を掴んでいる親族達と同じ様に変わっていく。

 

「セイゼイ苦シメ、人殺シ」

 

そう言って、口を開ける。

巨大な口が迫ってくる。

俺はどうすることもできずに、頭を、喰われた。

 

─────────────────────────

 

ピピピピピピピピピピピピ!!!!!!

 

「………ッ!」

 

けたたましいアラーム音で目を覚まし、飛び起きる。

自分の部屋のベッドの上だ。

 

「……また、あの時の」

 

鮮明に脳裏に焼き付いた情景を思い浮かべ1人呟くと、スマホで時間を確認する。

 

「今は……6時…待ち合わせの時間まであと1時間か」

 

全然間に合うな。と思った瞬間、

 

「……ッ!」

 

吐き気が込み上げてくる。急いでトイレに向かい、

 

「お"う"え"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"」

 

と吐瀉物をぶちまける。

 

「ハァ…ハァ…」

 

吐瀉物を流し、リビングに着くと、リモコンを手に取りテレビを付ける。

朝のニュースを聞きながら朝食を作る。

まぁ、朝食と言っても、トースト2枚とコーンポタージュなんだけど。

 

「ごちそうさまでした」

 

朝食を食べ終えた俺は洗面所へ向かう。

歯を磨き、顔を洗う。2階へ戻り着替える。

諸々の支度を整え、時刻は6時50分。

 

「いってきます」

 

誰もいない家の中に向かってそう言い、俺は家を出た。

 

─────────────────────────

 

待ち合わせの場所に到着する。

 

「流石にまだ来てないよな」

 

時刻は7時。あの人はもうそろそろ来るだろう。

 

数分後。車が俺の前で止まる。

 

「ごめん、待った?」

 

車から出てきたのは、白髪で目隠しをし、身長190cmを超えるであろうやや日本人離れした男。目立つ。

 

「いや、別に。さ、早く行きましょうか」

 

男は笑みを浮かべ、

 

「やる気マンマンじゃん、棗」

 

と言った。この人は五条悟。最強と呼ばれ、呪術師と呼ばれる者達の頂点に立つ人。そして、俺の名前は露魅 棗(つゆみ なつめ)。15歳。これからとある学校に入学する。

 

「別に、そんなんじゃありませんよ。早く呪術を学びたいだけです」

 

「それがやる気マンマンって言うんだよ。さて、行こうか────“呪術高専”へ」

 

呪術高専とは、日本に僅か二校しか存在しない四年制の呪術教育機関の一つで、東京都の郊外に位置する学校のことだ。正式名称は『東京都立呪術高等専門学校』。私立の宗教系学校を装っているが、実際は都立で、公費で運営されているらしい。多くの呪術師が卒業後もここを拠点に活動しており、教育だけでなく任務の斡旋・サポートも行っている呪術界の要とも言うべき存在だ。そして、五条さんはそこの教師である。

 

会話を交わした後、俺と五条さんは車に乗る。

 

「伊地知、行っていいよ」

 

「分かりました。では、行きますよ」

 

眼鏡をかけた痩躯のサラリーマン風で、神経質そうな顔つきをしているこの人は伊地知潔高さん。こう言っては何だが、老け顔だ。しかし、意外にも実年齢は20代半ばで、五条さんより若い。

 

「あ、そうそう。着いたら先ず学長と面談ね。因みに面談に落ちると入学取り消しだから、頑張ってね」

 

「え?」

 

ちょっと待って欲しい……入学、取り消し?

 

つまり。面接に落ちれば、露魅家への復讐が出来なくなる。それだけではない。今まで自分なりに磨いて技術や、それにかけた時間、労力、努力の全てがまた無駄になる。

 

「そんなの、聞いてませんけど」

 

「ごめん、言ってなかった」

 

殴りたい。それでも教師かこの人。

 

「ほらほら、呪力漏れてるよ。落ち着いて」

 

五条さんに本気で殺意が沸いた。伊地知さんが震えていて可哀想だった。

 

 

「お、着いた着いた。荷物は車の中でいいよ、こっからは僕が1人で案内するから」

 

着いた場所は学校というか……なんか、山の中に無理矢理神社を詰め込んだという感じだった。

 

聞いていた通りの宗教中心なのかと関心したが、五条さん曰くハリボテらしい。

 

「こっからは歩いて向かうからね」

 

玉砂利の敷地を進み石畳みを歩くと神社の様な所に辿り着いた。

 

「学長はこの中にいるよ。五条悟でーす!新入生連れてきました!」

 

ノックもなく堂々と入る五条さん。ノックぐらいしたらいいと思うんだけど。中に入ると、まさに本堂と言った場所で幾つもの蝋燭に照らされた空間が広がっていた。

 

そして、奥には刈上げ頭で顎髭を蓄え、サングラスを掛けた、パッと見は……何と言うか、ヤから始まる名前の職業の人のような強面の男性がいた。そして何よりも目を引いたのは、制作中と思われる縫いぐるみ。恐らく手作りだろう。

 

……ギャップって、こんなことを言うのか。デザインはともかくとして、完成度が高い。やっぱり、呪術師は変人しか居ないらしい。

 

「遅いぞ。10分の遅刻だ」

 

「だってさ」

 

「お前に言っているんだ、悟」

 

イケボだな。ダンディな声。

そんなことを考えていると、声を掛けられる。

 

「さて、君が露魅棗君だな。俺はこの都立呪術高専の学長、夜蛾正道だ。早速聞こう、君は何故呪術師を目指す?」

 

態度が変わった。サングラス越しに此方を見ながら、シリアスなトーン問い掛けてくる。

どうやら、もう面接は始まっているらしい。

 

「高みでふんぞり返ってる奴らを引きずりおろす」

 

1歩前に出て、本心を少し隠して目的を言ってみる。

 

「嘘であって嘘ではないな。ふむ、もっと正確に言ってみろ」

 

バレてるな。仕方ない、言うか。

 

「高みの見物を決め込んでる露魅家の奴らに復讐する。

そして玉座から引きずり下ろして、露魅家を変える。これが本音です」

 

「…復讐とは幼稚だな。だが、そういう確固たる信念があるのは気に入った。君を歓迎しよう。ようこそ、呪術高専へ。悟、露魅君に寮を案内してやれ。」

 

あれ、これだけなのか。もっと厳しいと思ってた。

まぁとにかく、これで復讐への第一歩ってワケだ。

 

「合格おめでとう棗!じゃ、次は寮に案内するから。荷物は後で伊地知に届けさせるよ」

 

………伊地知さん、苦労人だな。

というか、ココ本当に大丈夫なのか?自分で言うのもまぁ何だけど……結構危険思想だと思うんだけど。

 

「面接って、アレだけで大丈夫なんですか?人手不足って言うのは噂通りらしいですね。というか、あの回答で合格って…深刻な人手不足ですね」

 

「うん、本当に人手不足。ま、僕の推薦だから落ちること無いんだけどね。それに、もし君が呪詛師になっても僕がいるからね。道を外れるつもりなら精々気をつけた方がいいよ」

 

呪詛師って……。流石にそこまでは腐ってないんだけどな。

というか。

 

「随分、自信があるみたいですね」

 

「あるよ?だって僕、最強だから。あ、なんなら、寮に案内する前に君の術式の把握も兼ねて少し遊んであげようか?大丈夫、手加減はするから」

 

…別にそういうの求めてないんですけど……最強とかそういう称号に興味ないし……

あ、でもこれがキッカケで強くなれるかもだし。

 

けど。

さっきの面接の件も含めて色々とイライラしてるし。

本気で殺意湧いてたし。

 

この人に一発入れられれば、さぞスッキリするだろうな。

 

「じゃあ、宜しくお願いします」




色々と詰め込みすぎたと思う。
反省。


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手合わせ

俺達は寮へ向かわずに、学校の道場で向かい合っている。

 

「じゃ、取り敢えず術式見てあげるから、一発ぶつけてみてよ」

 

構えを取ることなくポケットに手を突っ込み、余裕綽々と佇む五条さん。

 

舐め腐ってるよな、あの人。

 

「入れる前に一つだけ聞きたいんですけど、五条さんの態度って、挑発して呪力のコントロールを乱すのを狙ってやってるとかですか?」

 

「え、何の話?」

 

素なのかよ。タチ悪いな。

 

ポケットに入っているケースを開き、カマキリを取り出す。呪力を込めて手で印を結び、

 

緑蟷螂(りょくとうろう)

 

と唱える。すると、人間の身の丈程もある巨大なカマキリが出現する。

 

「やれ」

 

緑蟷螂は地面を蹴り、一気に五条さんに近づく。

そして、両手の鎌を振り下ろす……が。

五条さんに当たるギリギリで止まる。

 

……いや、止まるというより遅くなってる?

近付けば近付く程遅くなっているのか?

 

「うん、悪くないよ。大振りで無駄が多いから、コントロールはまだまだだけど、並みの術師ならそもそも捉えられない速さだし、この威力なら二級の呪霊で二発は耐えられない」

 

返答せずに更に呪力で虫を創る。

 

黄蜂(おうほう)紫蜘蛛(しぐも)赤蠍(せっけつ)

 

四匹で攻撃を繰り出すが、やはり届かない。

 

体感時間で五分程叩き込んだ。

が、全て無駄に終わった。

 

どうなってんだよあの人。

アレをやるしかないか。

 

「もう少し付き合って貰えませんか?」

 

「うん、いいよ」

 

「俺の術式は『呪蟲操術』と言って、虫を媒体として呪力を込め、擬似的な式神である呪蟲を作り出し、それを使役するというものです」

 

「へえ。術式の開示か」

 

術式を相手にバラすという『縛り』を課す事で自らの呪力を底上げする。それを術式の開示と言う。

 

「話を続けますね。呪蟲は一度に七種まで呼び出すことが可能です。普通の式神より弱いですが、破壊されても同じ種の虫に呪力を込める事で作り出せます。つまり、俺の手元の蟲が尽きない限り破壊は意味を成しません。そして、今俺が創れる蟲は蠍、蝶、蜂、蟷螂、甲虫、鍬形、蜘蛛の七種類です」

 

言い終えると同時に、俺の呪力が跳ね上がる。

 

よし、これでアレをやれる。

 

ケースの中身をぶちまけ、今作れる蟲全てを作る。

 

「そして、呪蟲は異なる種の呪蟲を融合させる事で、強化することができます」

 

「成程、だいたい分かった」

 

「今から、俺の奥の手をお見せします」

 

連続で印を結ぶ。

 

呪蟲将 虹獣(じゅちゅうしょう こうじゅう)

 

そう唱えると、七種類の虫を継ぎ接ぎした様なグロテスクな呪蟲が出現する。

 

「うわ、凄いねコレ」

 

少しフラつく。マズイ、呪力が尽きかけてる。

術式の開示で呪力を底上げしても、虹獣を使うのはマズかったか。呪力消費が段違いだ。

 

「行けッ!!」

 

虹獣が駆ける。

 

「流石にコレは攻撃した方がいいかな」

 

五条さんは構えを取る。瞬間、虹獣は右手の鎌を勢いよく振り下ろす。

 

が。

一発。

五条さんのパンチ一発で虹獣は破壊された。

 

「嘘だろ……ッ」

 

呪力が尽きたのかふらついてバランスを崩し、そのまま仰向けに倒れる。

 

「君の術式、良かったよ」

 

五条さんに褒められる。

別に褒められても嬉しくないが……。

 

「そのまま寝てていいから話を続けるね。君の術式は『虫を媒体として擬似的な式神を作り出し、操る』というものだけど、力は普通の式神の半分ぐらいしかないし、操るにしても君の呪力コントロールが下手で無駄が多くなってる。しかも作るのと操るの両方に呪力を使う。しかも手元に虫が居ないと発動すら出来ない」

 

やっぱりな。コントロールが下手なのは分かってるし直せると思うが……両方に呪力が使われるのはどうしようもない。

 

虫切れとか呪力が尽きた時の為に呪具でも持っておくかな。

 

要するに、俺の術式は不便すぎるってことだ。

 

「そのコントロールが良くなれば、五条さんに一発入れられます?」

 

「うーん、無理だね。そもそも攻撃が入ってないじゃん。頑張ればやれるかもね」

 

言ってる事は本当だな。

あの近付いているのに遠くなる感覚。

 

あれが無下限呪術……俺に攻略は無理だと悟った。

 

取り敢えず立ち上がり、五条さんに頭を下げる。

 

「ありがとうございました。あと、舐めててすいません」

 

一発入れてやろうか、という考えをした自分が愚かだ。

というか、五条さんと俺では月とスッポンどころではなく天と地……いや、それ以上の差がある。

 

「別にいいよ。それより、術式を見て確信したよ。君は将来、俺に並ぶ位の術師になる」

 

…は?

 

「マジですか」

 

「マジマジ!術式見て悪いとこだけ改善させようと思ってたけど気が変わったよ。ワンツーマンで教えてあげる」 

 

嘘だろ?日本に4人しか存在しない特級呪術師の1人である五条悟にワンツーマンで教えて貰える。

 

つまり、俺の成長の幅が広がる。

 

「取り敢えず、今の棗の課題は二つある。一つは呪力コントロール。虫の動きの無駄をなくす。もう一つは使う呪力の量を調節する。君の術式は君の思っている以上に呪力を使うからね」

 

あれ、めっちゃ優しい。

それに凄く教師っぽい。

 

もしかしてこの人、性格“以外”は凄く優秀な教師なのか……?

 

「それじゃあ、教室行こうか」

 

教室……あ、そうか。他にもココに来る人はいるのか。

 

「そうですね、じゃあ行きましょう」




ということで次回はあの3人が出てきます。


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自己紹介

道場を出てしばらく歩くと、教室に着く。

 

教室の中には3人……3人?

眼鏡を掛け、何やら細い袋を背負ったポニーテールの女子生徒とネックウォーマーをしたツンツン頭の男子生徒とあとパンダ……パンダ!?

 

……取り敢えず席に着こう。

 

「さぁーて、1年生のみんな!僕が担任の五条悟です!よろしくねー!」

 

さっきまでと変わらず明るく話し出す。

……この人本当に最強なのかと思ってしまったのは口が裂けても言えない。

 

「じゃ、自己紹介しようか。まずは君から」

 

と言って、眼鏡を掛けた女子生徒を指名する。

女子生徒は前に出て、

 

禪院真希(ぜんいんまき)。階級は四級。苗字は大嫌いだから名前で呼べ。よろしく」

 

と言った。

禪院家……御三家の1つだが、苗字は嫌いって言ってたな。恐らく、家で冷遇されてたとかだろうな。

 

「ありがとう、じゃあ次は君!」

 

次は男子生徒を指名する。

男子生徒は

 

「しゃけ 高菜 明太子」

 

と言うと、席に戻った。

 

…いや、何も伝わってねえけど!?

 

「彼は狗巻棘(いぬまきとげ)。階級は二級。呪言師の末裔だよ。語彙がおにぎりの具しかないから、コミュニケーションは頑張ってね」

 

…どうやってコミュニケーションを取れと………

 

「ありがとう、パンダについては僕が説明するね」

 

やっと気になってた奴の説明が来た。

恐らく呪骸だと思うけど……

 

「パンダは動物じゃなくて“突然変異呪骸”って呼ばれる呪骸なんだ。本来、呪骸は己の意思を持たない。けどパンダは自我を持って生まれたから喋るし感情も持ってる。流石、傀儡呪術学の第一人者、夜蛾学長の最高傑作って言ったところだね。あ、階級は三級だよ」

 

……喋るし感情も持ってる呪骸、か。夜蛾学長滅茶苦茶凄い人じゃん。

 

「ありがとう、じゃ最後は棗!」

 

最後は俺か。しぶしぶ席を立つ。

 

「露魅棗です。好きなものは甘いもの、嫌いなものは辛いもの、露魅の家、罪のない他人を傷付ける奴。よろしくお願いします。あ、準一級呪術師です」

 

準一級だということを告げると、3人──厳密には2人と一体だが──は驚きの表情を浮かべる。

 

「オマエ、そりゃ本当か?」

 

眼鏡の女子生徒──禪院真希がそう俺に聞いてきた。

待って、目が怖い。めっちゃ睨まれてる。

 

「本当だけど」

 

学生証を見せる。これで納得してくれれば良いんだけど。

 

「オマエ、外出ろ。私が試してやるよ」

 

え、俺ってそんなに弱そうなの?準一級に見えないって事?

 

「ほら、さっさと出ろ」

 

という訳で、グラウンドに出た。

真希は薙刀を構え、こちらを見据えている。

 

「じゃあ……行くぞ!」

 

次の瞬間、真希が俺の目の前にいた。薙刀を既の所で躱し、距離を取る。

何処が四級だよ……準二級ぐらいはあるぞ。滅茶苦茶強い。避けるので精一杯だな。呪蟲を呼ばないとマズい。

 

「緑蟷螂」

 

ケースを取り出し、蟷螂を手に取る。

印を結び、緑蟷螂を呼び出す。

 

「それがお前の術式か?気色悪い」

 

「褒め言葉として受け取っておくよ、真希」

 

こっちのターンだ。緑蟷螂と共に駆け出す。

緑蟷螂が鎌を振り下ろすが、真希はそれを薙刀で受け止める。隙を突き、俺が下からアッパーを繰り出す。しかし、真希は跳んで避ける。呪力を込めた打撃を繰り出すが呪具で防がれる。薙刀での刺突を避ける。真希の足を払う。真希は跳躍して避け、薙刀で緑蟷螂を破壊される。

身体能力が人間離れしてる。術式を使う気配もないし、呪力が一般人程度だ。まさか……

 

「ねぇ真希。もしかしてだけど、“天与呪縛”持ち?」

 

真希の表情が変わる。

天与呪縛……生まれながらにして肉体に強制された『縛り』。俺の予想が正しければ、真希の人間離れした身体能力、一般人程度の呪力は天与呪縛によるものの筈だ。

 

「そうだよ。私は術式と呪力を持ってねぇ代わりに、人間離れした身体能力を持って生まれた。おかげでこのダセェ眼鏡がねぇと呪いが見えねぇ」

 

「やっぱりね。で、四級なのは家の妨害ってワ……ケ?」

 

体が浮いた。と、思ったら地面に叩き付けられた。

 

「…痛ったぁ……」

 

「油断してる方が悪いんだよ」

 

どうやら投げられたらしい。気が緩んでたせいだ。

 

「ほらよ…っと」

 

手を借りて立ち上がった。

 

「悪かったな。試す様なマネして」

 

「いや、気にしてないから大丈夫」

 

「いや〜、良い戦いだったよ。これなら任務も任せられそうだ。ということで、君達にはある廃墟に行って貰うよ!」

 

つまり、初任務?

 

「オイ、いきなりすぎだろ」

 

と真希。

 

「しゃけ」

 

と狗巻。同意ってコトか?

 

「流石に心配だな」

 

とパンダ。

 

「確かにそれは言えてる」

 

と俺。

 

「いやいや、みんなならイケるって!」

 

絶対根拠なしだろ。

 

「それじゃ、廃墟へGO!」

 




やっと2年ズが出せました。


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初任務

初任務書きたかったので前回のラストを修正しました。


俺達は伊地知さんの車に乗って廃墟に来た。

廃墟……寂れたビルだ。呪いがウジャウジャ居そうな所だな。

 

「此処に肝試しに来た高校生5人が行方不明になってる。すぐそこに墓地もあるから確実に呪霊の仕業。なので、君達に呪霊を祓って貰います!じゃ、伊地知、帳下ろして」

 

「分かりました。『闇より出でて闇より黒く その穢れを禊き祓え』」

 

五条さんの説明の後、帳が下ろされ夜になっていく。

 

「よし、行こう」

 

俺達は廃墟の中に入っていった。

取り敢えず中を見渡す。二手に別れるか。

 

「二手に別れようと思うんだけど、どう?」

 

「賛成」

 

「しゃけ」

 

「いいと思うぞ」

 

全員納得したのでペアに別れ、呪霊を探し始めた。

俺・狗巻ペアは1、2階、真希・パンダペアは3、4階を探す事になった。

 

少し進むと、呪霊が現れた。

俺が呪蟲を出そうとすると、後ろから

 

「『潰れろ』」

 

という声が聞こえた直後、呪霊が潰れた。

狗巻の方を見ると、右手でグッドマークを作ってた。

これが呪言……凄いな。

 

ドゴォン!ドゴォン!

 

感心していると、2階の天井を壊して呪霊が出てくる。ダイナミック。

数は10体程。いや多くね?

どうするべきか迷っていると、

 

「『動くな』」

 

と狗巻が発した。そして呪霊共の動きが止まる。それを逃さず、

 

「緑蟷螂、斬っていいぞ」

 

緑蟷螂が呪霊を斬る。今の、なかなかのコンビネーションだよな。

そんなことは置いといて。

 

「生存者を探そう」

 

「しゃけ」

 

1階を散策していると、左腕と下半身が無くなっている男の遺体と、人間だったであろう肉塊を見つけた。呪霊に殺されたのだろう。

 

「……ッ」

 

黙って手を合わせる。

そのまま2階に行き、1階と同じ様に捜索した。が、遺体は見つからなかった。

 

「狗巻、どうする?」

 

と聞くと、

 

「高菜」

 

と言って上を指差した。

真希達のところに行けって事だな。

 

「了解」

 

そう言って3階に向かおうとした瞬間、何かが後ろに落ちてきた。

振り向くと、真希とパンダだった。

 

「なっ……!?」

 

驚いたのも束の間、上から人型の呪霊が降って来た。

 

「なっ……!」

 

待て。こんなのがいるとか聞いてない。恐らく一級ぐらいはある。

 

「『ぶっとべ』」

 

狗巻がそう言った。が、呪言が効いていない。ゴフッ、と狗巻が吐血する。

恐らく呪言を使い過ぎたのだろう。呪霊が狗巻を殴り飛ばす。続け様にこちらを殴ろうとしてきたので

 

「藍鍬形!」

 

事前に作っておいた藍鍬形を呼び、ガードする。

 

恐らく一級。ということは祓える可能性はゼロじゃない。大いにある。

が、問題は残りの呪力の量……呪蟲のコントロールがゴミなおかげで残りの呪力が少ない。しかも緑蟷螂を出しっぱなしにしてた。この残り少ない呪力でどう祓う?

……考えててもどうにもならないな。取り敢えずは足掻けるだけ足掻く。

 

「行くぞ」

 

緑蟷螂、藍鍬形両方を操りながら呪力を纏わせた拳を振るう。

全く効いてないが、攻撃し続ければいつかは効く。

殴り、斬り、挟み、殴り……を繰り返した。流石に疲労してきたのか、攻撃の手が少し弱まる。

 

「が…はっ……!」

 

その隙を突かれ、反撃を食らう。上に殴り飛ばされ、天井を突き破って4階に転がる。

 

「ぐ……っ!」

 

立ち上がろうとしたが、いつの間にか背後にいた呪霊に足を掴まれ、為す術なく振り回され、壁に向かって投げ飛ばされる。

 

「…っ……!」

 

ボロボロになりながらも尚呪蟲を作ろうとする。

 

虫切れかつ呪力が練れない。視界もぼやけてきた。

こんな所で死ねるか。俺はまだ、アイツらへの復讐をして……

 

「…ッフッフッフッ……アッハッハッハッハッ!アッハハハハッ!!」

 

“復讐をしていない”?そんな理由で?こんな所で死ねるかと思ったのか。

馬鹿か。ロクに呪蟲を操れず、「攻撃し続ければいつかは効く筈」と無駄な攻撃をし、ただでさえ少ない呪力をすり減らした。

そんな馬鹿が“復讐”?阿呆らしいにも程がある。

 

「やめだ」

 

両手を上げ、降参のポーズをとる。

 

「今持ってるモン全て吐き出せ」

 

「具体的なモンは後回し」

 

「呪力を練ったそばから押し出せ」

 

「先の事なんて考えるな」

 

「今は ただ」

 

「“作る”事だけを考えろ」

 

そう呟くと、虫を出さずに(・・・・・・)印を結ぶ。

 

「来い」

 

と言うと、緑蟷螂が現れる。

 

ハハッ、やりゃ出来んじゃねぇか俺。わざわざ虫を媒体にする必要なんざねぇんだ。呪力から作れば良いんだよ。そんな簡単な事、何で今まで思いつかなかったんだ。

 

「斬れ」

 

と言った瞬間、呪霊の腕がポトリと落ちる。

 

呪霊が腕に気を取られている内に殴る。吹っ飛ぶ隙も与えず殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。

 

ただひたすらに殴る。

 

「アハハハハハハハハ!!!」

 

笑いながら殴る。

 

そして、

 

「オラァァッ!!」

 

呪霊が外まで吹っ飛ぶ。

殴った瞬間、空間が歪み、呪力が黒く光った。

 

「黒閃」を出した。

黒閃とは、打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪み。

威力は平均で通常の2.5乗。

狙って出せる術師は存在しない。

 

動きが遅く見える。

何でもできる様な全能感。

もう一度、キメられる。

 

「もういっちょォ!!」

 

外に吹っ飛ばされた呪霊にもう一度黒閃を叩き込む。

もう一度やれる。

 

「トドメだァッ!」

 

呪霊の顔面に叩き込んだ。

 

「黒閃をキメたんだね、棗」

 

下で待機していた五条さんが話しかけてくる。

 

「…五条、さん。上に、真希、達が……」

 

俺はそのまま気を失った。




棗は呪力で呪蟲を作れるようになり、黒閃も出しました。

強くない?(自分で書いたんだろ)


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特級呪具

久々の投稿です。霊媒師の方やってたら唐突にモチベが上がったので書こうかなって(そして霊媒師は凍結なるかもしれない)。作者の悪い癖。


目を覚ますと、木製の天井が飛び込んで来た。

なんかエ〇ァにこんなんあったよな。『見知らぬ、天井』じゃん。

いや、そんなこと考えてる場合じゃ無いな。とりあえず起きよう。

 

「…!」

 

体が少し痛む。あれ、俺こんなダメージ少なかったか?まぁ起き上がれたからいいけどさ。

パッと見、医務室って感じだな。おそらく高専の医務室だろうな。そんなことを考えていると、扉が開く。

 

「おっ。目、覚ましたんだね」

 

入って来たのは五条さんと、長い髪に濃い隈、右目の近くに泣きぼくろを持つ気怠げな雰囲気の女性だった。確か、家入さんだったっけな。

それはともかく、真希達は無事なのだろうか。

 

「五条さん、真希達は?」

 

「大丈夫だよ、問題はない」

 

良かった。あ、あと言う事があったな。

 

「呪力で蟲を創れる様になりました。あと、黒閃も。そのおかげで呪力の核心に近付いたというか……」

 

「そこまで出来たなら上出来だよ。やっぱ棗は僕と同じ位強くなれるよ」

 

褒められた。別に嬉しくはない。

だけど五条さんの言う通りだ。現時点での俺の課題2つ……『呪力をコントロールし、虫の動きの無駄を無くす』、『使う呪力の量を調節し、呪力切れを起こさない様にする』の両方を黒閃を発動した事でものの見事に達成できた。

 

しかし、先程から疑問に思っている事がある。

 

「ところで、体が軽いんですけど。反転術式って他人に使えましたっけ?」

 

そう。俺は任務で重傷を負った筈だ。しかし実際には重傷のじの字もない。反転術式だとは思うが、せいぜい自分の傷を癒すのが精一杯の筈だ。もしかすると、家入さんか?

 

「それは私がやった」

 

俺の問いに家入さんが答える。

 

「えっと…家入さん、でしたっけ」

 

「家入硝子よ。よろしく」

 

「硝子は呪術高専東京校所属の医師で、反転術式による傷の治療が出来る数少ない人物なんだよ。硝子は学生時代から使いこなせてて、他人の傷も癒せるんだ」

 

にわかには信じ難いが、どうやら予測通り反転術式を他人に使えるらしい。凄いな家入さん。

 

「……で、五条さん。何の用があってここに来たんですか?」

 

「あ、そうそう棗。渡したい物があるんだ」

 

そう言って手渡されたのは、黒い鞘に収まった1本の刀だった。

 

「これは……」

 

「それは特級呪具『斬喰(きりぐい)』。僕が出張先で見つけた物だよ」

 

「でも、何で俺に?」

 

「ほら、この前手合わせしたじゃん?その時思ったんだけど、棗って接近戦に弱いっぽかったから、助けになればと思って」

 

接近戦に弱い…か。確かにそうだな。いくら蟲がいるとはいえ、破壊されれば距離を詰められる。そうなればもう詰みだ。

しかし、思わぬサプライズだな。ただの呪具ではなく特級呪具ときた。

 

「術式効果は?」

 

「よくぞ聞いてくれました!斬喰の術式効果は『斬ったモノの呪力を吸い、斬れ味を上昇させる』というものなんだ」

 

流石は特級呪具。術式効果も強力だな。1度使って試したいな。まぁ、そう上手く行く訳はないだろうけど。

 

「あ、1回試してみる?」

 

……上手く行ったわ。タイミング良すぎだろ。

まさか見越してた……なんて事はないか。

 

「…あの、俺一応は病み上がりなんですけど」

 

「大丈夫大丈夫!今回のはイージーだから」

 

嘘臭い。まぁ、試す分には丁度良いかもな。

 

「で、俺は何処に行けば?」

 

「町外れの廃校だよ。呪霊がうろついてるらしい」

 

町外れか。うろついてるって言っても三、四級あたりだろう。

そう思いながら制服を着る。

 

「分かってると思うけど、くれぐれも無茶はしない様に」

 

「分かってます」

 

無茶をするな、と念を押す家入さんに返答してから医務室を後にした。

 

 

 

 

 

廃校前。予想通り伊地知さんが送ってくれた。

 

「ありがとうございます。すぐ終わるのでここで待ってて下さい」

 

帳まで降ろしてくれた伊地知さんに礼を言って、俺は廃校に入った。

入るなり呪霊に襲われる。すかさず斬喰で呪霊を斬る────

 

が、全く斬れない。

…何だコレ。鈍か?五条さん、癖のある呪具持ってきたなぁ……

呪霊は全く聞いていないという様子で襲いかかってくる。そりゃそうだよな、と思いながらもう一度斬る。

 

──ん?

少しだけ、斬れ味が増した気がした。

気のせいかと思いもう一度斬ると、やはり先程より斬れ味が増していた。

 

「そういうことか…」

 

五条さんは『斬ったモノの呪力を吸い、斬れ味を上昇させる』とだけ言っていたが…何も初めから斬れるとは言っていなかった。

つまり、『初めは鈍だが、斬れば斬る程呪力を吸い斬れ味を上昇させる』という事だ。

 

「しかし、五条さんもこんなじゃじゃ馬、一体どこで見つけたんだか……」

 

一振りして呪霊を祓う。

よし、いいウォーミングアップになったな。

 

「やるか」

 

1人呟き、廃校内を駆ける。

 

 

 

 

──十数分後。俺は廃校内の呪霊を全て祓い終え、高専に戻っていた。

 

「おかえり棗。どうだった?」

 

五条さんがニコニコと笑みを浮かべてどうだったかを聞いてくる。

人の気も知らないで……!

 

「コレ、とんでもないじゃじゃ馬じゃないですか。最初は斬れないとか、聞いてないですよ」

 

「あれ、言ってなかったっけ?」

 

わざとらしい笑みを浮かべる五条さん。

正直、物凄く殴りたい。無限で防がれるけど。

 

「まぁでも、これで接近戦が多少は楽になりますね」

 

呪具という思わぬギフトのおかげで、接近戦にも対応できる様になったからな。そこだけは五条さんに感謝だ。

 

 




次回から乙骨先輩出そうかなって思案中。
しかし0巻持ってないからセリフが分からん。適当でいいのだろうか……


オリジナル呪具

『斬喰』
見た目は普通の日本刀。
術式効果は呪力を持ったものを斬るとその呪力を吸収し、斬れ味に変えるというもの。
なので八十八橋の特級呪霊が撃ったようなビームっぽいのでも斬れば斬れ味が上がる。


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転校生

今回から0巻の内容です。ちょいちょいカットするかも。
原作があるからある程度書きやすくはなったし更新頻度も上がる……かも……しれないです。


突然だが、高専に転校生が来るらしい。

 

「聞いたか?今日来る転校生、同級生4人をロッカーに詰めた(・・・)んだと」

 

早速パンダが話題を持ち出す。

詰めた……か。

 

「へぇ、なかなかエグい事するじゃん」

 

「殺したの?」

 

「ツナマヨ」

 

「いや重傷らしい」

 

重傷か。ま、中途半端に生きてる方がキツいけどな。

 

「ふぅん。ま、生意気ならシメるまでよ」

 

真希が一昔前の不良の様な事を言い出す。もしかして真希ってヤンキーなのか?

 

「それはやめとけ」

 

「おかか」

 

ほら、狗巻も俺に(多分)同意してる。

 

さて、一体どんな奴なんだか。

 

 

教室。五条さんがハイテンションで話す。

 

「転校生を紹介しやす!!!テンション上げてみんな!!」

 

しかし、全くテンションは上がらない。凄くしらけてる。

 

「上げてよ」

 

「随分尖った奴らしいじゃん。そんな奴のために空気作りなんてごめんだね」

 

「しゃけ」 

 

真希と狗巻はテンションを上げたくないらしい。

真希はともかく狗巻が反抗的だなんて意外だな。

 

「……」

 

「……」

 

そして俺とパンダは黙ってる。

 

「ま、いっか。入っといでー!!」

 

転校生、冷めた空気感じてんだろうな。

真希はシカトこいてやろうとか思ってそう。

 

次の瞬間。転校生らしき人物が教室に入ってきて、背筋が凍りついた。

 

『あ"?』

 

「乙骨憂太です。よろしくお願いします」

 

転校生が名前を言い終わる前に真希の薙刀が黒板に刺さる。

 

「これ なんかの試験?」

 

「試験だとしたらシャレにならないですよ」

 

「おい オマエ呪われてるぞ」

 

真希は薙刀を突き刺し、俺は緑蟷螂を創り、パンダは拳を構え、狗巻は呪言を放とうとしている。

見事にそれぞれが戦闘態勢になっている。

 

「ここは呪いを学ぶ場所だ。呪われた奴が来る所じゃねーよ」

 

「日本国内での怪死者・行方不明者は年平均10,000人を超える」

「そのほとんどが人の肉体から抜け出した負の感情“呪い”の被害だ」

「中には呪詛師による悪質な事案もある」

「呪いに対抗できるのは同じ呪いだけ」

「ここは呪いを祓うために呪いを学ぶ都立呪術高等専門学校だ」

 

事前に言ってよ、という風に転校生である乙骨は困惑している。

それを見て俺達は(おそらく俺含め4人とも)今教えたの?と思いながら五条さんの方を向き、五条さんはメンゴと口に出さずジェスチャーで謝る。

 

「あっ 早く離れた方がいいよ」

 

と五条さんが言う。離れた方がいい?一体何が…と考えたところで。

 

『ゆう"たを"ををを』

『虐めるな』

 

と乙骨の背後からおぞましい何かが姿を現した。

 

「待って!!里香ちゃん!!」

 

 

 

「……てな感じで、彼のことがだーい好きな里香ちゃんに呪われている乙骨憂太君でーす 皆よろしくー!!」

 

乙骨を呪っていた何か…特級過呪怨霊・祈本里香に攻撃された後、軽く事のあらましを説明された。

五条さん曰く、交通事故で死んだ幼馴染に呪われたらしい。それにしても、だ。

ただ呪われただけにしては呪力量が桁違いだった。おそらく、何かカラクリがあるのだろう。

 

「憂太に攻撃すると里香ちゃんの呪いが発動したりしなかったり。なんにせよ、皆気をつけてねー!!」

「コイツら反抗期だから僕がちゃちゃっと紹介するね」

 

全部アナタのせいですけどね。

 

「呪具使い、禪院真希。呪いを祓える特別な武具を扱うよ」

「呪言師、狗巻棘。おにぎりの具しか語彙がないから会話頑張って」

 

「こんぶ」

 

「パンダ」 

 

「パンダだ よろしく頼む」

 

「呪蟲使い、露魅棗。蟲を操るよ」

 

「よろしく」

 

真希、狗巻、パンダ、俺の順で紹介される。

 

「とまぁ、 こんな感じ」

 

困惑している乙骨。まぁ癖のあるメンツだからな。仕方ない。

 

「さぁ、これで1年生も5人になったね」

 

厳密には4人と1匹だけど。

 

「午後の呪術実習は2-2のペアでやるよ。棘・パンダペア、真希・憂太ペア」

 

格好つけながらペアを告げる。

……あれ、俺は?

 

「あの、俺余ってんですけど」

 

「棗は真希と憂太の付き添いだよ」

 

……何かロクな事にならない様な気がする。

ふと横を見ると、早速ギスギスした空気になっていた。

 

 

「よ……よろしくお願いします」

 

「…オマエ、イジメられてたろ」

 

「図星か。分かるわぁ、私でもイジメる」

「呪いのせいか?“善人です”ってセルフプロデュースが顔に出てるぞ、気持ち悪ィ。なんで守られてるくせに被害者ヅラしてんだよ」

「ずっと受け身で生きてきたんだろ。なんの目的もなくやってるほど、呪術高専は甘くねぇぞ」 

 

流石に言い過ぎだろう。そう思いながら仲裁に入ろうとする。

 

「おい…」

 

「真希、それくらいにしろ!!」

 

が、パンダが先に仲裁に入った。

パンダって結構世話焼きなのか?

 

「おかか!!」

 

狗巻が真希を諌める。

 

「分ーったよ、うるせぇな」

 

うん、お前の方がよっぽど尖ってると思うのは俺だけか?

 

「すまんな。アイツは少々他人を理解した気になるところがある」

 

「……いや」

 

「本当のことだから」

 

 

 

──小学校

どうやら本当に五条さんに言われた通り、俺は付き添いらしい。

 

「ここは?」

 

「ただの小学校だよ。ただ校内で児童が失踪する小学校」

 

それはただの小学校とは言わないでしょ。

 

「失踪!?」

 

「場所が場所だからね。恐らく自然発生した呪いによるものだろう」

 

「子供が呪いにさわられたってことですか?」

 

「そ。今んとこ2人」

 

「大勢の思い出の場所にはな、呪いが吹き溜まるんだよ」

 

「学校、病院。何度も思い出されその度に負の感情の受け皿となる」

「それが積み重なると、今回みたいに呪いが発生するんだ」

 

説明を聞きつつ校内の呪力を探る。まぁ、気になる程の反応はない。これなら真希と乙骨がギスギスしてるこの雰囲気でも余裕で祓えそうだな。

 

「呪いを祓い、子供を救出。死んでたら回収だ……闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え」

 

「夜になってく…!!」

 

帳が降ろされる。案の定、乙骨は驚いている。

 

「“帳”。君たちを外から見えなくし、呪いを炙りだす結界だ。内側から簡単に解けるよ。そんじゃくれぐれも 死なないように。あ、棗もこっちに来て」

 

「……橙蝶(とうちょう)、視覚、聴覚共有だ」

 

橙色の蝶を創り、五条さんについて行く。

呪蟲の1種、橙蝶。視覚や聴覚を共有でき、偵察などに使える。あと様々な効果のある鱗粉を出せるが、今は必要ないな。

 

 

 

──“帳”内部

 

「死って……先生!?」

 

「転校生。よそ見してんじゃねぇよ」

 

早速目の前に呪いが現れた。3体。

 

『は……い……る は……い…る?』

 

入る?と聞きながら体を開く。本当、呪いってどういう構造してんだよ。

 

「こっちに来る!!どどどどどうしよう!!」

 

ビビってる……まぁ当然か。少し前まで一般人だっただろうからな。

 

「覚えておけ。呪いってのはな、弱い奴程よく群れる」

「まぁそりゃ人間と同じか」

 

真希が薙刀を一振りし呪霊を祓う。

 

「すごい…一振りで」

 

「オラ さっさといくぞ」

 

「えっどこに?」

 

校内(なか)に決まってんだろ」 

 

 

──“帳”外部

「五条さん、何で俺を連れてきたんですか?」

 

「呪力操作のトレーニングっていうのが主な理由かな」

 

絶対に適当だと思っていたが、案外違った。たまにそういう所あるからなこの人。

 

「呪力操作のトレーニング……あの時よりはマシになったと思うんですけど」

 

「確かに、少しはマシになったよ。だけど、今の棗は呪蟲を呪力で顕現させているだけ。今やってるのは呪蟲を維持し続ける為のトレーニングってとこだね」

 

五条さんが言いたい事が何となくだが分かった。つまりは呪蟲を維持し続ける為に呪力の操作性を高める。そういうことだろう。

 

「だったら狗巻とパンダのとこでも良かったんじゃないですか」

 

「いや、それだと駄目だ。実は棗に見せたいものがあるんだよね」

 

見せたいもの……一体、何なのだろうか。そう思いながら橙蝶に意識を集中させた。

 

 

 

一方、校内に入った真希・乙骨ペア。

 

「禪院さん、怖くないの?」

 

「苗字で呼ぶな」

 

「ごっごめん。でも滅茶苦茶出そうだよ…いやもう出てるけど」

 

確かに、“帳”が下りてるのに呪いの数が少ないとは感じていた。

…いや、違う。呪力の反応はある。つまり、いるのに襲ってこないということだ。

まさか、乙骨がいるからか…?

 

「おい」

 

「はい!??」

 

「お前何級だよ」

 

真希も同じことを思ったのか、乙骨に級を聞く。

 

「え?」

 

乙骨は何の事か理解出来ていない。五条さん、ちゃんと説明しといて下さい。

 

「呪術師には四~一の階級があんだよ」

 

「でも僕呪術高専来たばっかだし」

 

「あーもういい学生証見せろ。バカ目隠しから貰ったろ」

 

バカ目隠し……結構秀逸だな。

 

「はい、どうぞ」

 

真希は憂太から学生証を取り上げた。やはり真希は乱暴だ。

 

「ま 前歴なしで入学なら四級……」

 

真希が固まった。そんなに衝撃だったのかと橙蝶を学生証に近づける。

……と、特級!?

特級……一級の更に上。五条さんと同じレベル。

乙骨はそれ程の実力を持っているという事か……。

 

「禅院さん!!後ろ……」

 

後ろを見る。そこには巨大な呪霊がいた。

瞬間、壁を壊しながら呪いが襲いかかってきた。

 

「クソッ!!!無駄にでけぇな!!!」

 

呪霊が口を開くと、牙がビッシリと生え揃っていた。あんなんに喰われたらひとたまりもない。

 

「げ!!」

 

あ、喰われた。

 

『ごちごちごちごち ごちそぉさまぁあああん』

 

 

呪霊の腹の中。

真希の怒号で乙骨が目を覚ました。

 

「クソ!!呪具落とした!!出せゴラァ!!」

 

「ここは?」

 

「アノ呪いの腹の中だよ。こん位で気絶してんじゃねー」

 

呪霊の腹の中ってこんな感じになってんのか。

 

「ってことは食べられたの??」

 

「そうだテメェ、呪いに守られてんじゃねーのかよ!!」

 

「里香ちゃんがいつ出てくるか僕にもわからないんだ!! それよりどうするの!??」

 

「時間がきて“帳”が上がれば助けがくる。恥だ クソ!!!」

 

帳が上がったら俺が行くから大人しく待ってろ。

 

「助けて」

 

「あ?」

 

「お願い こいつ死にそうなんだ 」

 

声のする方にはには子供が2人居た。1人は衰弱しきっており、もう1人も呪いにあてられてる。

 

「良かった 生きてた…」

 

「よくねぇよ ちゃんと見ろ」

「デカい方も完全に呪いにあてられてる。2人ともいつ死んでもおかしくねぇ」

 

そうだ。この中で死んでしまう可能性もあるにはある。

 

「そんな!!そうすれば…!!」

 

「どうにも!!助けを待つしかねぇよ!!」

「誰もがオマエ(・・・)みてぇに呪いに耐性があるわけじゃねーんだよ」

 

フラッ、と真希がよろめく。

 

「?……禪院さん?」

 

真希はいきなりその場に倒れた。

 

「禪院さん!?」

 

まさかと思って近付くと、足に傷のようなものができていた。

お前まで呪いにあてられてんのかよ。

 

「なんだこの傷…呪いがかかってるのか…?」

 

「お姉ちゃん 死んじゃうの?ねぇ 助けてよ お兄ちゃん!!」

 

「そんなこと 言ったって」

 

真希が憂太の胸を掴んだ。

 

「乙骨 オマエ マジで何しにきたんだ 呪術高専によ!!!」

「何がしたい!!何が欲しい!!何を叶えたい!!」

 

「僕は……もう誰も傷つけたくなくて…閉じこもって消えようとしたんだ。でも、一人は寂しいって言われて、言い返せなかったんだ」

「誰かと関わりたい。誰かに必要とされて、生きてていいって、自信が欲しいんだ」

 

「じゃあ祓え」

「呪いを祓って祓って祓いまくれ!!自信も他人もその後からついてくんだよ!!」

 

呪術高専(ここ)は そういう場所だ!!!」

 

乙骨は座りこんで誰かに呼びかけた。

 

「里香ちゃん」

 

『なぁに?』

 

「力を貸して」

 

指輪をはめ、そう言った。

 

 

──“帳”外部

 

突如として巨大な呪力を感知すると同時に、全身に鳥肌が立つ。

 

「これ…は……」

 

「凄まじいね。これが特級過呪怨霊 折本里香の全容か。女は怖いねぇ」

 

「もしかして、俺に見せたかったのって」

 

「そう。特級過呪怨霊 祈本里香さ」

 

 

 

程なくして、乙骨達が帰ってきた。

 

「おかえり。頑張ったね」

 

乙骨達は倒れている。

 

「先生、運びますよ」

 

五条さんは棗がやってよ、という顔でこちらを見る。

ブン殴りたい。

 

「あぁ、棗。近いうち、出張行ってもらうから。一級昇格任務ね」

 

本当、そういうとこだ………

突然の報告に、心底うんざりした。




棗の蟲は花御みたく全て自身の呪力で具現化・顕現させている状態です。
自由自在に出し入れ可能にするっていうのが五条先生の目的です。

どっかで特級とエンカウントさせたいなぁ。領域展開習得させたい。
〇〇に対する恐れから生まれた呪霊って思い浮かばん。何かいい感じのアイデアください。


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北海道へ

今回は導入みたいなものです。


 

初夏。

呪術師にとっては、最も大変な時期だ。

冬から春までの人間の陰気が、初夏にドカッと呪いとなって現れる。いわゆる繁忙期。

 

 

その真っ只中、“そのこと”は唐突に告げられた。

 

「北海道で一級呪霊を退治してもらいまーす!」

 

乙骨が転校してきて1ヶ月が経った頃。

俺は出張で昇格任務を受けるという名目で北海道に連れていかれた。

そういや昇格任務なんてあったな。普通に忘れてた。

 

恐らくこの為だけに呼び出された伊地知さんを気の毒だと思いつつ、車で空港に向かい、飛行機で札幌空港へと旅立った。

 

今はロビーにて五条さんと迎えを待っている。

 

「あの、そろそろ概要位話してくれません?」

 

「まあまあ、そう急がずにさ。取り敢えず迎えを待とう。今日は少しハードな授業だしね」

 

ハードな授業ね…どの位ハードなのだろうか。それより、何時もより少しだけ真面目な五条さんに気味悪さを覚えた。絶対ロクな事にならないでしょ。

 

暫く迎えを待っていると、2人組のスーツを着た男が此方に歩いてきた。

 

「失礼、呪術高専の方でしょうか。私、北海道警察の佐々木と申します。此方は同僚の高木です」

 

「どうも。呪術高専から来ました、特級呪術師の五条悟です。こっちは僕の助手の露魅棗。よろしく」

 

「では、早速ですが移動しましょう。着いてきてください」

 

先生の言う迎えとは警察だった。いかにも真面目な刑事と言った感じの2人組は移動を促してくる。

 

何か素っ気ないな。五条さんだけならまだしも、一緒にいた俺にも目もくれない辺り、単純に関わりたく無いといった感じだ。

まあ、一般人からしたら理解不能な存在だろうからな。仕方ないだろう。呪霊も見えない一般人が下手に関わる方が危険だ。

 

警察の車で移動し、裏口から警察署に通された。人目につかないように案内され、ある扉の前に到着する。

扉には「死体安置所」と書かれていた。

 

「では、我々はこれで」

 

刑事二人は入り口への案内までが仕事の様だったらしく、立ち去っていった。

 

「さて、棗。今から見てもらうのは呪霊の被害を受けた人の遺体だ。まぁ厳密には被害を受けたと“される”人だけど。覚悟はいい?」

 

恐らく、呪霊によるものの可能性が高い死体が発見されたからその調査が任務……ということだろうがそれも建前だろう。

五条さんは鑑定するまでもなく一級呪霊の仕業と考えているらしい。直接発見現場に赴き、残穢を辿る。

それが今回の任務だろうな。

 

俺への授業と死体を見る覚悟を確認したかったのだろう、と勝手に推測する。

 

「俺が今まで何の為に生きてきたと思ってるんですか。死体なら“あの時”に目の前で腐る程見ました。今更何にも無いですよ。ついでにこれ以上罪の無い人々を死なせたくないですしね。後、俺の成長の糧になるなら何でもします」

 

何があろうと、俺が呪術師である目的は変わらない。

奴らに復讐する。それだけだ

 

それとは別にこれ以上の被害は防ぎたいし、仇討ちもしてやりたい。

 

俺にとってこの二つは全く別の話。混線することは無い。

 

「そっか、しっかりイカれてて良かったよ。よし、早速確認しようか!」

 

覚悟の確認も終わり、中へと進む。

解剖台には袋が四つ並んでおり、二人で合掌する。

袋を開き、遺体を確認していく。

 

確認が終わった。

取り敢えず分かる事は死体は全てどこかを欠損し、大きな傷を負っているということ。見た感じ、獣害の様だ。

 

「死体は全て山で狩りを行っていた猟師で、全員一週間前に発見された。ここ見て」

 

「…撃たれた跡……みたいなのが有りますね」

 

五条さんが遺体の胸を指差すので確認すると、確かに銃で撃った跡らしきものがある。

 

「鑑識の結果を見たけど、これは生前のモノで死後にこの状態になったみたい。だから発見当時は殺された後、熊に食い荒らされたかと思われた」

 

「猟師を狙って殺すなら有り得なくも無いですけど現実的じゃないですね。しかも、4回とも殺した後に熊が……というのも非現実的でしょう」

 

明らかにおかしい。殺した後に熊が…なんて事がそう何回も続く訳はないだろう。

 

「だから僕らに呪霊の仕業か確認の依頼が来たんだ。さて、棗。何の仕業だと思う?」

 

「…やっぱ、呪霊ですかね。熊に対する恐れから生まれた呪霊とか。現に、三毛別羆事件なんてものもありますし」

 

「多分正解。獣害に対する恐れから生まれた呪霊だろうね」

 

この被害は呪霊によるものだ、というのは合っているらしい。しかし、銃で撃った跡があるというのが引っかかる。

 

「もし俺の言う通りだとして、撃った跡があるのは何ででしょうね。熊が猟銃に抱いた恐れ……とかですかね」

 

「そこまでは分からないけど、そうなんじゃない?」

 

適当さは相変わらずだなこの人。

 

今回の場合、主に熊が起こす獣害に対する畏れから来る負の感情による呪力によって一級呪霊が生まれている、と五条先生は推測している。

 

昇格任務ってこんなハードなのか?

 

「今は猟師を襲った程度だけど、この事件をきっかけにして、新しい恐怖が生まれるから下手したら特級になるかもね」

 

「それを俺にやれと?」

 

「そ。できる?」

 

できる?じゃねえよ。無茶振り過ぎない?もっとマシなのあったでしょ。

 

「じゃ、取り敢えず被害者が見つかった山に行こうか。かなり山奥らしいけど移動は手伝うから。」

 

移動は手伝う、という言葉に違和感を覚えたのも束の間。

 

「はい、到着。」

 

いつの間にか山の麓にいた。

驚きを言葉にする前に、とんでもない威圧感に気圧される。

 

「……」

 

ここの呪霊、相当危険なのでは……?

 

「ん?どしたの?」

 

俺の心情を知ってか知らずか、五条さんはいつもの調子で話しかけてくる。

 

「…呪力のレベルが桁違いですね、この山全体から感じるんですけど」

 

活動範囲が相当広いのだろうか。

 

「多分、それ程恐れが積み重なってるんだろうね。しかもそういった恐れは今も残ってるからずっと呪力を得てるって感じかな。さて、帳降ろすから頑張ってね」

 

やれやれ、と思いながら、俺は山に入った。




呪霊のアイデアは読者様に頂きました。ありがとうございます。


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畏怖と恐怖

今回ははっきり言って自信ないです()
ほとんどノリで書きました。


気を引き締め、緑蟷螂を顕現させながら山に一歩入った瞬間。

 

「ッ!!!」

 

膨大な呪力を頭上に感知し、上を見上げる。

そこには、弾丸の雨があった。

 

紫蜘蛛(しぐも)っ!!」

 

即座に緑蟷螂を消し、人より一回り大きい蜘蛛を顕現させる。紫蜘蛛は粘着力が非常に高い糸を出せる蟲。こういう時に便利だ。

紫蜘蛛が糸で弾丸を絡め取り、難を逃れた所で一息つく。

 

「これはキツそうだな」

 

はっきり言って厄介。術式は、呪力で弾丸を作り出すといったものだろう。

 

ふと上を向くと、既に百を越えるであろう弾丸が雨の様に降り続けており、紫蜘蛛が片っ端から必死で絡め取っている。

完全に殺しにかかってるな。どうやら向こうは呪術師だということに気付いてるらしい。

 

チラリと後ろを見ると、五条さんはいつも通りの余裕そうな態度で木に寄りかかっている。

五条さんの周りには弾丸が降り注いでいない事から、どうやら範囲はこの山限定らしい。

 

本物ではないと分かっているが、試しに斬喰で斬ってみる。しかし、斬った瞬間に霧散していく。

 

「やっぱ呪力で作ってるのか。だったら……」

 

紫蜘蛛を消し、素早く木の後ろに隠れる。

 

「来い、赤蠍(せっけつ)

 

人間より一回り程大きな蠍を顕現させる。赤蠍は硬い皮膚に加え、素早く移動することが可能な蟲。

少し聞こえは悪いが、赤蠍を盾にし、弾丸を斬って斬喰の斬れ味を上げながら、そのまま呪霊を叩く。

 

「悪いけど、少し耐えてくれ」

 

赤蠍が俺の意思を汲み、斬喰を振れる程度に尻尾で俺を包む。

 

「行くぞ」

 

と声を掛けると、勢い良く駆け出して山頂を目指し始めた。

残穢の濃さから、呪霊は山頂に居るということは分かっている。

 

弾丸は尽く斬喰に斬られている。

斬れ味が上昇した斬喰で周囲の弾丸を斬り山頂へ進むと、黒い物体が現れた。

 

呪霊はアレか。

山頂にいたのは黒い毛皮で覆われた巨大な熊だった。

 

四足で歩行している姿に最初は野生の熊かと思ったが、右腕の猟銃を見て呪霊だと理解する。

 

『ニン、ゲン!!コロス、コロス、ウツ、コロス!!!』

 

支離滅裂だが、言葉にはなっている。右腕に猟銃があるのはやはり猟師への恐れだろうか。

 

呪力量、姿、術式、知性。どれをとっても到底二級とは思えない。

 

赤蠍の顕現を解除し、今までの勢いのまま熊に突っ込み、斬喰を振り下ろす。が、躱される。

見かけによらず素早いのか、背後に回り込まれ、右腕の猟銃から弾丸が放たれる。

 

「っ!」

 

斬喰で弾くが、その衝撃で斬喰が吹っ飛ぶ。

さっきまでの弾丸とは大違いだ。込める呪力の量によって威力が変わるのか、と考えていると、熊の拳が眼前に迫ってきていた。

 

「!」

 

ギリギリで避ける。

 

「接近戦も得意ですよってか。面白い、来いよ!!!」

 

『ヒト、コロス!』

 

俺の拳と熊の拳とが激突する。僅かに俺の方が押し勝ち、熊が少しだけ仰け反る。

その隙を見逃さず、頭を掴み膝蹴りを食らわせる。すかさず踵落としを脳天へ叩き込む。

 

瞬間、黒閃を発動したあの時の映像が一瞬だけよぎる。

 

が、しかし。その映像は、殴られた痛みによりかき消された。

左ストレート。辛うじて左腕でガードしたが、骨が折れる音がした。

痛みに顔をしかめていると、ある事に気付く。

 

熊に、山全体から呪力が集まっている(・・・・・・)

 

『コロス、コロス、コロス!!!!』

 

なるほど。術式を解除して、呪力による身体強化を行うつもりか。一級呪霊との肉弾戦……最悪だ。

 

メキメキと音を立てながら、熊の体が変質していく。腕や胴体、足はより太く。右腕はアンバランスな程大きく。爪や牙は伸びてより鋭く、より凶悪に。更には山全体に張り巡らせた呪力を吸収し、元の姿以上の大きさへ。

 

『コロス!!!!』

 

「デカくなったから強くなったぞ…ってか。あとお前殺すしか喋れないのか?」

 

と軽口を叩いた次の瞬間。俺は地面に倒れ伏していた。

熊に叩き付けられたと理解する。痛い。

 

体勢を立て直す暇もなく、跳躍した熊に真上から叩き潰される。そして、ここぞとばかりに追撃の拳を叩き込み続ける。

 

「はっ、その程度か!?」

 

全身に痛みが走るが、全身を呪力で覆っていた為、ダメージとしてはそれ程重くない。向かってくる拳を掴み、無理矢理逸らし脱出する。急いで距離を取ろうとするが、無防備な脇腹に殴打が入る。

 

「ぐ…っ…!」

 

大きく吹っ飛び、木に叩き付けられる。急いで体制を立て直そうとしたが、追撃として空中に吹っ飛ばされる。跳躍し両腕を振り上げた熊を見て、感じた事。

 

 

あぁ、俺、ここで死ぬのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

──否。

 

思考を振り払う。

 

まだ死んでない、骨が何本か折れたがまだ反撃の余地はある、と頭を回転させる。

 

何をする?何をすれば祓える?

呪蟲か?いや、今では呪力のコントロールが上手くいかない。出した瞬間消されるのがオチだ。

ならば接近戦か?いや、今ではそれ程威力が出ない。

 

ならば、残る手段は──

 

と、今度は鮮明に、ハッキリと黒閃を発動した時の映像がよぎる。

 

───黒閃のみ!!

 

拳に呪力を込める。

 

宙返りをし、振り下ろされた熊の拳を足で受け衝撃を吸収し、着地する。

 

狙うは1点。落ちてきた熊の、隙だらけの胸。

外したら死ぬ、という緊張感が集中力を更に上げる。

 

 

そして────

 

 

  黒  閃

 

 

拳が放たれた瞬間、黒い火花が散った。

 

衝撃を殺し切れなかったのか、両腕がちぎれた熊が吹っ飛ぶ。

 

あの時と同じ。

動きが遅く見える。

何でもできる様な全能感。

もう2発はいけるかな。

 

既にダウンしかけている熊との距離を詰め、もう1発。

右膝蹴りがヒットした。

 

『グオォォォォォォォォォァァァァ!!!!』

 

激昂か痛みか、雄叫びを挙げる熊。

こちとらお前にボコされたせいで頭痛いんだよ黙ってろ。

 

「うるせぇ」

 

と一言放ち、顔面にドロップキックを放つ。

 

よし、また3連チャン。

熊の頭がちぎれ飛び、木にぶつかって木っ端微塵になる。

うわぁ、グロい。

 

兎にも角にも昇格任務は完了だ。おそらく、問題なく1級に昇格できるだろう。

 

山を下り麓に戻ると、五条さんが暇そうに待っていたので報告する。

 

「終わりました」

 

一言。疲れてるからもう体力消費したくない。

 

「お疲れサマンサ~!じゃ、帰ろっか」

 

そうして俺たちは、北海道を後にした。

……あ、お土産買ってくれば良かった。




オリジナル呪霊

熊の呪霊
主に熊が起こす獣害に対する恐れと、猟銃に対する恐れが合わさって生まれた呪霊。右腕に猟銃が付いている。
術式は呪力で弾丸を作り出すというもの。込める呪力の量によって威力が変り、多ければ多いほど威力が増す。また、呪力の量が多いと作れる弾丸が少なくなり、少ないと多く作れる。
今も獣害に対する恐れが積み重なっている為、強大な呪力を得ていた。成長次第では特級になっていたと思われる。


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