ナツキ・スバルとエトワールとの邂逅 (闇の翼)
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1章 始まりの王都で
邂逅


ここは、どこだ。

 

辺りを見渡すと『日本』とは思えない風景。

高層ビルは無いし、周りの人達も金髪や白髪、茶葉が多い。

 

さて、ここに至るまでの経緯を説明しよう。

 

私は『転生者』だ。

前世の死亡原因は交通事故。

 

ただし、転生した世界は『この世界』では無い。

『FAIRY TAIL』という世界に転生した。

 

さて、ここからどうしよ。

 

いや、行き場所は分かっている。

ここは、王都。

 

数メートル先にいる、周りと浮いてる人に話しかけてみよう。

 

「やぁ、君。変わった格好しているね」

 

??「あ?俺に話しかけているのか」

 

そう、この世界ならあまり見かけない『黒髪』短髪のグレーの『ジャージ』を来ている三白眼の青年に話しかけた。

 

「君以外に誰かいるというのだね?まずは自己紹介だ。僕はエトワール。エトって呼んでね」

 

??「あ、ああ。俺の名前は菜月昴」

 

「そうか、よろしく。スバル、深い話したいから路地裏、奥まで行こうぜ」

スバル「りょーかい」

 

 

さぁ、ここから慎重に話さなければ。

 

「『犬も歩けば…』」

スバル「……『棒にあたる』」

 

「『仏の顔も?』」

スバル「『三度まで』…何がしたいんだ?」

 

「……異世界で、日本の慣用句を知っているのはおかしいと思わないか?」

 

スバル「…!エトも転生者という事か?」

 

「一応ね、転生者として生きてきた方が長いからね、薄れつつあるけれど」

 

「話はそこまでだ」

 

「……強制イベントか」

 

小さく歯噛みをする。

 

そこで第三者の登場だ。

見た所20代半ばの男性が3人。

ゲスな笑みを浮かべている。

 

路地裏、ゲスな笑み、男性という3コンボでこれから何が起こるかある程度想像つく。

 

「…戦えるか?」

 

スバル「ああ」

 

「今生の別れは話せれたか?」

 

 

「それはむしろお前らの方じゃないか?さぁ、スバルやっちまえ!」

 

スバル「えぇ!?俺?ま、行くけれど。俺の力見せてやる!」

 

そういい、1人に殴り掛かるスバル。

 

殴った手は赤くなっていることから、初めて殴ったんだろうなと推測する。

 

「…スバル、交代だ。さてお前達殺られる覚悟は出来ているか?」

 

換装で召喚した短剣2振りを構えながら言う。

 

 

「何も無い所から武器か!」

 

「ちっ、殺れ!」

 

1人がナイフ片手で襲いかかってきたので、それを片手で受け止め、ナイフを飛ばす。

 

もう1人を牽制しようとした時、

 

???「動くな」

 

と、3人目に首元にナイフを当てられ怯えているスバルが居た。

 

「ち、大丈夫だ、スバル安心しろ」

 

そろそろ来るはずなのだかな。。

 

???「ちょちょちょ、退いてー!!!」

 

前方から走ってくるセミロングの金髪小柄少女が駆け走る。

 

横通る時、

???「なんか、すごい現場だけど強く生きて!」

 

と、スバルは見捨てられた。

 

 

 

「そこまでよ、悪党達」

 

と、路地に入る入口に銀髪の少女が立っていた。

 

 

時が止まるというのはこういう事を示すんだろうなぁ。

 

男達が入ってきたように一人の少女が立っていた。

背丈は私よりも頭1つ分高い。

 

「それ以上の狼藉は見過ごせないわ。そこまでよ」

 

再び彼女は口を開いた。

 

 

…彼女の魔力量多いな。

 

何をしでかすかわからない。

大人しくしてよ。

 

 




止める所がわからない〜(´;ω;`)

…大丈夫だろうか。。


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路地裏

「待て待て! 待ってくれ! な、なんだかわからねえが、こいつは見逃す! だから俺たちのことは勘弁して……」

 

スバルを人質にしている男が言う。

 

少女「潔くて助かるわ。今ならまだ取り返しがつくから、私から盗った物を返して」

 

 

 

「だから悪かったって……へ? 盗った物?」

 

 

 

少女「お願い。あれは大切なものなの。あれ以外のものなら諦めもつくけど、あれだけは絶対にダメ。今なら、命まで取ろうとは思わないわ」

 

 

 

 懇願の言葉を繋ぐ少女。最後の言葉だけ、怒気をはらんでいだ。

 

 

 

『…地味に話食い違ってるような気がするんだけど』

 

少女「……なに?」

 

少女を注目していた男三人衆は一気にこちらを見る。

 

『明らか、お前達が持ってる様子無いもの。あるとしたら、先程全力疾走で駆け抜けた金髪の少女だと思うけれど…』

 

 

「ああ、そこの嬢ちゃんの言う通りだ」

 

 

「あの勢いなら通り3つは超えてるだろうな」

 

 

少女「そうなのね…」

 

 

私の言葉に続ける三人衆。その言葉に嘘は無いと判断したようでこちらに背を向ける。

 

安堵をした様子を見せる三人衆、そして焦るスバルの表情。

 

少女「だけど、見過ごせれるはずが無いのよ」

 

少女はこちらに手のひらを見せるかと思えば、氷の礫をスバルを人質にしている男以外に放たれていた。

 

これを好機だと捉えた私は、人質を取っている男のナイフを持つ手を手で落とす。

 

『しゃがめ!』

 

その言葉通りにスバルはしゃがんでくれた、空いた空間かできた事で、男の胴体目掛けて魔力を込めて足蹴にする。

 

 

 

「……やって…くれたな」

 

 

少女が礫を放った2人のうち1人が足元ふらつきながら立った。私が足蹴にした男も脇腹を抑えながらも立っていた。

 

 

少女「パック、出てきて」

 

パック「なんだい、リア」

 

少女が声掛けた人?は中に浮かぶ猫だった。

中に浮かんでいるからただの猫では無い、精霊といった感じかな?

 

「――精霊使いか!」

 

少女「ご名答。いますぐこの場から立ち去って。そしてら追わないから」

 

小さく舌打ちをし、男達は倒れている男を担ぎながら、路地表に出ようとする。

 

 

「覚えてろよ、クソガキ。次にこのあたりをうろつくときはせいぜい気をつけろ」

 

 

パック「この子に何かしたら末代まで祟るよ? その場合、君が末代なんだけど」

 

精一杯の牽制だったんだろうが、ソレの言い方が軽いながらも辛辣だった。

 

『ありがとう。お礼といっちゃなんだが、盗人少女の事追おうか?』

 

少女「そんな事出来るの?」

 

『了解。魔力で探すのはあまりなのか?あっと、私の名前はエトワール、エトって呼んでね』

 

少女「魔力…?普通は、体内に有しているマナは感知しにくいんだけど…。私は…サテラよ」

 

少女は自分の名前を言う時少し躊躇う素振りをしていた。

 

スバル「俺の名前はナツキ・スバルだ」

 

『え、そうなんだ。こんな所を全力疾走していたから何があるかなと思い、魔力じゃねぇ、マナ?を覚えいたんだ』

 

どうやら、この世界は魔力でなくマナを使い魔法を使用しているようだ。

 

…私、体内魔力なんだけど、『魔力感知』の魔法がマナを捉えたのか。

 

って事はこの世界の魔法使える…?

 

 



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盗人少女の行方

盗人少女を追いかける事にした私達は、私が前、スバルが真ん中、サテラが後ろという順番で王都内を早歩きで回っていた。

 

 

 

『…やばい。先程まで1箇所に留まっていたんやけど、そこから動き出した』

 

サテラ「な、留まっていた所に案内してちょうだい」

 

『わかった』

 

留まっていた所に印を付ける。

 

 

少し賑わっていた所から貧困街に出た一行。

 

ここまで来るのに1、2時間は軽く経ってしまった。

 

そう、私の『魔力探知』もとい、『マナ探知』は相手の場所は方角で分かるけれど地図までは再現出来てないからだ。

よく知っている土地ならばともかく…。

 

そこで老婆からなにかの実を2つ貰った。

「変わった格好のお2人に」と。

 

変わった格好というのは私とスバルの事だ。

 

私の格好は制服姿だ。

上はブラウス、下はスカートではなくズボンだけれど。

 

貰った実をスバルに渡し、口に含む。

含んでみると、固い感触の中、わずかな甘みを感じ、体の内側からポカポカと暖かくなるような気がした。

 

だが、スバルは違うようで、発熱と発汗、荒い呼吸をしていた。

 

『サテラ、この実は?』

 

サテラ「何かと思えば、ボッコの実ね、これ。食べると体の中のマナを刺激して、傷の治りとか早めるの。効果は個人差あって、だいたいは気休めなんだけど、見た感じだと、スバルってかなりマナの循環性が高いみたい。過剰摂取すると死ぬかも」

 

スバル「食べる前に言って欲しかったな!!」

 

死ぬというワードに焦るスバル。

 

サテラ「仕方ない、パック、ご飯よ」

 

パック「僕、もう眠いんだけどな」

 

サテラ「ごめん、寝る前にお腹満たせれるでしょ?」

 

パック「はーい、スバル、いただくね」

 

パック「ごちそーさまでした」

 

その瞬間、スバルは青ざめていた。

 

『スバル』

 

スバルに火魔法を使って体を温めようとする。

 

サテラ「パック、取りすぎよ」

 

パック「ごめんごめん、久しぶりだから加減間違えちゃった。でも、スバルのゲートは変な感じがするね。使い込んでる様子がないのに素直。だからちょっと吸いすぎちゃった」

 

スバル「大丈夫、熱ぽかったのが消えただけでもありがたい、エトもありがと」

 

『ん、大丈夫なら良い』

 

パック「あー、けれどもう僕限界だ。リア、気をつけるんだよ」

 

サテラの肩に持たれながら消えそうになっているパック。

 

スバル「?パックって夜ダメなの?」

 

パック「ボクはこんな可愛らしい見た目たけど、『精霊』だからね。顕現するのにマナがたくさん消費してしまうんだ。だから夜は依代に戻り、マナを蓄えているんだ。ま、けれど何があればオドを使って顕現させるのよ」

『けっこう大変なんだな、精霊って』

サテラ「わかった」

パック「じゃ、スバル、エトワール、リアを頼んだよ」

 

返事する前にパックは消えていた。

 

 

 

 

 

 

 




追記
エミリアの名前をサテラにしました。
そうする事で原作辿れるしね…。


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1度目の死

『ここが、留まっていた場所だ』

 

大きな倉のような建物に辿り着いた。

 

 

スバル「あの高い壁は...」

 

サテラ「王都の防壁よ。いつの間にか、端っこの方まで来てしまったのね」

 

王都全体を囲むようにして高い防壁が築いている。

 

防壁…。魔物からの襲来や、他の国から攻撃されない為かな。

 

スバル「この中で留まっていたのか?」

 

『ああ、そうなんだが…。気をつけろよ。何が居るかわからな――っ、マナが消えた?』

 

蔵に『マナ探知』を掛けていたが、2人居たのだが、1人になっていた。

 

マナが探知出来ないというのは、その人が死んだか、又はマナを探知出来ない魔法を掛けたかになる。

 

『――マナが1人消えた?…サテラ、マナが消えるってどんな理由がある?』

 

エミリア「基本的にはその人が死んだぐらいしかないかなと思うわ」

 

―この世界はマナが探知できない魔法は無いようだ。

 

『ならば、気をつけないと。スバルは最後に来て。サテラは真ん中で』

 

スバル「りょーかい」

 

 

扉を開け、慎重に歩む。

サテラがロープの中に手を突っ込み、白い鉱石を取り出し壁にぶつける。

 

スバル「サテラ、それは?」

 

サテラ「マグライトよ。今ではマナを使った魔法灯が多いけれど、私はこちらの方が使いやすいし、重宝しているわ」

 

入り口の目の前はカウンターだった。

元は酒場かなにかの建物だったようだ。

受け付けの役割となっていたのだろう机の上には、いくつかの小箱や刀剣の類が並んでいた。

 

その隣にはナイフで削った文字が見える。

見た所人名みたいだ。

刀剣とか気になったから『鑑定』してみたが、価値のある物にはみえなかった。

 

…奥の方が価値高いものかなぁ?なんて憶測してみる。

 

エミリアの盗まれた物を探す為、3人一緒で探してみる。

 

 

――しかし、それは数秒で打ち壊された。

 

歩いているローファーに違和感を感じた。

水とかの液体物っぽいけれど、粘着質な物が。

 

『‐ライト‐光』

 

何があるのが知る為に光魔法で照らす。

―だが、それは悪手だった。

 

光で照らされた事により、ソレが何なのかよく分かった。

血溜まりだ。

 

そして、血溜まりの発生源は、首を大きく切り裂かれ、片腕を失った大柄な老人の死体だった。

 

ソレを見た時吐き気を催しそうになるが、瞬間スバルが大きく壁にぶつけられ、腹部から血を垂れ流しているのが見えた。

 

???「……ああ、見つけてしまったのね。それじゃ仕方ないわね」

 

女の声だった、しかも酷く冷淡な声。

 

『……っ、サテラ!』

 

サテラが返事する前にサテラも倒れてしまう。

 

サテラも倒され、咄嗟に体が反応出来ず、私もお腹を裂かれてしまった。

 

 

―――痛い、体全体が熱をもっているかのようだ。

 

――ああ、これはダメだ。

 

 

 

それは偶然だったんだろう、血塗れたスバルの手がサテラの手と重なり、手を握るように見えた。

 

意識が朦朧としていく中、私は―

 

スバル「……っていろ」

『……まっていろ』

 

お前達2人を

 

スバル「俺が必ず……」

()()が必ず………』

 

 

……救ってやる。

 

ーー次の瞬間、ナツキ・スバルとエトワールは命を落とした。

 



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再開

目を開けると、そこには慌ただしく行き来する往来の道だった。

…ふむ、さっき死んだよな?

 

先程までは夕方だったのに、今太陽がさんさんとしている。

 

『ループかな。ま、良い。同じ行動しよ』

 

声をかけるべき相手は、果物売りのおっちゃんに絡まれているが。

 

『やぁ、君。変わった格好しているね』

スバル「あ?って、エトじゃないか!?」

『?残念だけど、君は誰たい?初対面なはずだけど』

スバル「え、覚えてないのか?」

『……って言うのはウソだけど。の前におっちゃん、その果物二つ頂戴』

 

「あいよ、ありがとよ」

 

お金を渡し、果物…リンガ(スバルから名前を聞いた)を受け取る。

 

お金は『異世界両替場所』でこの世界のお金に変えていたので問題なかった。

 

 

リンガ…それは林檎に酷似している。

味も林檎の味だ。

 

『さて、食べながら状況整理しようか』

 

スバル「ああ。俺達は死んだ…はずだ」

『その通りだ。死んだけれど生きている、しかも時間を逆行して。そして僕達は2度目でもこの世界では皆1度目だ。ま、そりゃ人生1度きりだしな。そう何回もあってたまるものかよって思うよな』

 

スバル「…そうか。さっきなんで、忘れてフリしたんだ?」

『ループしてるというのが掴めなかったから。本来であれば僕も記憶無いしね』

スバル「なるほど。死ぬ前に会った人らに今会っても、会話した記憶が無いのか…」

 

『そういうこと。飲み込むのが早くて助かったよ…って、スバルこれからどうしたい?』

 

スバル「死んだ所に行きたい」

 

『おk、――の前に戦闘かな?』

 

1周目で会った男三人衆が行く手を阻んでいた。

 

名前が分からないからアホポンタンにしよ。

ちなみに、スバルを人質にとったのが「アホ」ナイフで襲いかかってきたのが「ポン」、気絶していたのが「タン」だ。

 

アホ「よぉー、兄ちゃん達遊ぼーぜぇ?」

 

『丁度良かった、お兄さん達、僕と遊ばない?』

と、私はアホポンタンと目を合わせる。

 

合わせ、ソレが発動したのを見たらスバルを連れて、三人衆とは反対の道へ出る。

 

スバル「先程のは?」

 

『幻覚魔法さ。僕の前の世界では多種多様な魔法が合ったのでな。この世界ではどんな魔法があるのか知らないからさ』

 

スバル『ふーん。って転生者って言ってたよな、なんで使えるんだ?』

 

『説明してると長いんだかなぁ、掻い摘んで話すよ』

 

スバルに軽く転生した世界『FAIRY TAIL』の事を話す。

 

僕の魔法は主に『FAIRY TAIL』の魔法が使える事、そして色んな属性魔法が使える事を話す。

 

そんな事を話していたら、1周目死んだ建物の前に辿り着いた。

 

『――さて、スバル。この中からは1人で頼む。大丈夫、危なくなったら加勢するし、話してる内容とかも僕には聞こえるから』

 

スバル「分かった。交渉材料は…」

 

『君の手元にあるじゃないか、その袋の中に』

 

そう、スバルはセブン○レブンの袋を持っている。

この世界にはない『お菓子』という存在を。

 

 

スバルが思いっきりドアを叩き中の人に怒られながらも中に入っていく。

 

私はというと、その建物の屋根に居座る。

もちろん、聴覚を強化して会話を聴きながら。

 

そこから、約20分後。

 

 

話はうまく話せていた。

スバルは持っていたコーンポタージュ味の菓子を上手く使い、老人の名前(ロム爺)、セミロングの金髪少女(フェルト)の名前を聞き出していた。

 

そして、ここが『盗品蔵』という建物である事も。

 

サテラが盗まれた物と交換するために、スバルは一文無しなので手持ちの『ケータイ』を時間を切り取る魔法基としてロム爺に交渉していた。

 

 

 

 

結果交渉は成功した。

 

 

 

 

 



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交渉

交渉が成功してから1時間後、戸を叩く音がした。

 

チラリと上から見てみると、セミロング金髪少女だったので、フェルトだろう。

 

ロム爺「大ネズミに」

 

フェルト「毒」

 

ロム爺「スケルトンに」

 

フェルト「落とし穴」

 

ロム爺「我らが貴きドラゴン様に」

 

フェルト「クソったれ」

 

合言葉か。

 

ようやく主要メンバーが揃ったので交渉と行く所にスバルがゲロった。

 

んー、酒が強かったか、スバルが慣れてないのか、そこは分からないけれど、気をつけよ。

 

 

ハプニングがあったけれど、交渉開始だ。

 

フェルトが出した物は竜を象ったワッペンほどのものだ。

なぜ、見えてるかって?

それは透視しているからだ。

 

そしてそれを鑑定してみる。

 

『徽章』

断絶したルグニカ王国の王を決めるのに必要なもの。

 

…資格条件に必要な物か。だからあんなに焦っていたのか。

 

王…王女?

いや、巫女かな。

龍を信仰しているこの国ならば。

 

龍の巫女とかありそうだし。

 

 

話は戻し、スバルが手にした物は『ケータイ』。

ロム爺にしたように、フェルトの顔を撮り、説明していく。

 

 

 

よく聞いてみると、徽章の交渉相手はこの2人以外にもいるようだ。

フェルトは依頼人から頼まれたのか。

その積立によってはスバルが負けるな。

 

…介入するか。

 

交渉できるアイテムは…あるな。

 

屋根から地面へ飛び降り、扉を蹴破る。

 

『その交渉ちょっと待った!!』

 

3人が振り向く。

 

ロム爺「お主…。扉を蹴破るな」

 

『ごめん、ロム爺。会話は上で聞かせて頂いた。僕はエト。そこにいるスバルの連れだ』

 

フェルト「へぇ、一文無しのこいつに変わって何が出せるのか」

 

『ああ、だが揃ってからにして欲しいな』

 

丁度その時、外から声がした。

 

フェルト「ロム爺、私が出るよ。連れかもしれないし」

 

フェルトは扉の方へ向かっていく。

近くで見るロム爺は人間だけれど、体格が良い事から巨人族かな。

 

スバル「エト、なんで…」

 

『一文無しじゃ、キツイだろうから来た』

 

《スバル、気をつけな。知ってるマナが来ている》

 

スバル《!頭の中に…。念話か、分かった》

 

スバルにウィンクしながら念話で話す。

 

フェルトが連れてきた人は、1周目で殺された相手だ。

 

この世界では珍しい黒髪ロングで服装は胸元が強調させて、身体付きが良い事がよく分かる。

 

 

???「部外者多い気がするんだけど?」

 

フェルト「値踏みされたら困るのでな。弱者なりの答えさ。スバル飲み物を」

 

指名されたスバルが給仕する。

 

給仕している時、値踏みするような視線でスバルを見ていたが、私もされているだろうな。

 

???「そちらのご老人は分かるけど、こちらの兄さん達は?」

 

フェルト「この兄さん達はアンタのライバル。アタシの交渉相手さ」

 

と、最高に悪い笑みでそう言い放つのであった。

 

 

 



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賭けからの失言

明日、リゼロ新作ゲーム発売しますね。
楽しみです(*´ω`*)


エルザと名乗った女性はフェルトの説明を聴きながらも一つ一つの仕草が艶っぽい。

 

少し、色気に当てられそうだ。

 

フェルト「――そんなわけで値段の釣り上げ交渉ってわけだ。別にアタシはどっちが徽章を持ってくんでも構わねーし、高い方に高く売りつけるさ」

 

エルザ「いい性格だわ、嫌いじゃないよ。――それで、お兄さんはいくら付けたの?」

 

 

フェルト達にしたようにエルザの写真をフラッシュで撮るスバル。

それを眉をしかめながらもそれ以上にリアクションを起こさないエルザ。

 

 

スバル「俺はこの魔法器だ。そこの爺さんの言った通りだと聖金貨20枚はするだろうと」

 

エルザ「魔法器ね。――実は私も依頼主から余分なお金を貰ってるの。あなたが渋るようなら上乗せも考えてね…」

 

 

と言いつつ懐から革袋を取り出す。

重量があるソレはテーブルの上に置いた時金属音が響く。

 

スバル「依頼主って事は一緒に受け取る様に…?」

 

エルザ「そうなるわね。欲しがってるのは依頼主の方だけれど。――もしかしてご同業?」

 

エルザのご同業って事は…盗人になる。

スバルは違う解釈をするだろうけど。

 

 

スバル「ご同業って事は無職って事になるぜ!」

 

フェルト「――で、無職のお兄さんが飛び出すような値段をつけた。依頼主の方は?」

 

挑発めいたフェルトが言うと、エルザは革袋から聖金貨を取り出し数える

 

その数

 

エルザ「20枚ジャスト。これが依頼主に渡された数よ。上はそれで値切れると思ったようだけど…。厳しいかしら?」

 

問いかけはロム爺に投げられた。

不安になるスバルにロム爺は、

 

ロム爺「そんな不安な顔をするな。聖金貨20枚は法外な報酬だ――だが、この交渉はスバルに傾く。お前さんと依頼主には悪いが、この金貨袋に戻して返すのだな」

 

 

交渉成立。

 

小さくガッツポーズをしたスバルが少し浮いた。

 

スバル「な、なんだ。俺一人はしゃいで。まぁ、目的は達成だ」

『お疲れ様』

 

フェルト「別に何も言ってねぇじゃねぇか、兄さん。アタシは儲かればいいし」

 

エルザ「私の雇い主も、別にそれが手元になくとも構わないはずだから。そこまで食い下がる必要はないの」

 

 

 

スバル「あー、悪いな、エルザさん。たぶん、怒られちまうよな」

エルザ「仕方のない話よ。私に落ち度があるならともかく、この場合は雇い主が支出を少なく済まそうなんて考えたのが原因だし」

ロム爺「聖金貨二十枚持たせて少ないのじゃ、ちょっち浮かばれんのぅ」

 

フェルト「ま、アタシの運気が絶好調だったんだな! こりゃアタシの時代が到来したか?」

 

ともあれ、これでスバルを悩ませていた交渉も成立したとみていいだろう。

 

今の所、実質的な損害はサテラの精神力とスバルの携帯のみ。

 

ほんの少ししか話していないが、彼女らを牢屋へブチ込む強靭な精神はスバルにはなかった。

 

 

甘いなぁ…。スバルは。しかしまぁ、スバルが行動しないのなら僕も行動しないけどね。

 

エルザ「それじゃ、交渉は残念な結果だったけれど、私はこれで失礼するわね」

 

 

 

 立ち上がるエルザを皆で見送る。

 

 最後に残ったミルクを飲み干して、またもや舌なめずりでそれを舐め取ったエルザは、ふと思い出したようにスバルを見据えた。

 

冷たい視線でスバルを射抜く。

 

 

エルザ「――そういえば、あなたはその徽章を手に入れて、どうするの?」

 

どこか低い、感情の凍えた問いかけだった。

 

 

「……ああ、元の持ち主に返すんだよ」

 

スバルがそう言うとエルザの冷たい殺意を実行させるには充分だった。

 

『スバル!しゃがめ!!』

 

――瞬間、スバルの胴体目掛けてククリナイフを振り回すエルザを換装した短刀で受け止める。

 

 

 

エルザ「あら、受け止められたわね…」

 

 

腰が抜けていて恐怖しているスバルは置いといて、ロム爺とフェルトに素早い指示を出す。

 

『ロム爺!援護する!フェルトは逃げて応援を!』

 

フェルト「でも…!」

『良いから!ここで全員死にたいのか!?』

フェルト「…わかった」

 

雄叫びを上げながら交渉中も離さず持っていた棍棒でエルザ目掛けて振り下ろす。巨人族の腕力も相まってスピードが早い。

 

『フェルトを追わせねぇよ…!』

 

棍棒を避けるエルザに短刀を振り回す。

 

 

ロム爺「――食らえい!」

 

事態は動く、怪しい方向に。

 

ロム爺が雄叫びをあげ、テーブルを蹴り上げる。木造のテーブルは簡単に砕け散り、木屑をまき散らしてエルザの前面を覆い尽くす。

 

破損した木材のカーテンのように。

 

前面が見えない方、私はエルザの後ろを切りかかる。

風で察したのか横に避けるエルザ。

 

 その向こう側目掛け、ロム爺の棍棒が渾身の力を込めて放たれた。

 

 上から手加減抜きで打ち込まれる一撃は、それだけで人を叩き殺しかねない威力が込められていた。だが、

 

 

 

『――ロム爺!動くんじゃねぇ!』

 

私の声が遮られ、エルザの方が上だった。

くるくると、回転しながら吹き飛ぶのは棍棒を握りしめたままのロム爺の右腕だ。

太くたくましいソレが、肩口から切断されて宙を舞い、血をまき散らしながら壁に叩きつけられる。

 

 部屋中にぶちまけられた血の雨を、私もフェルトも頭から浴びた。しかし、その鮮血に意識を向けている暇はない。

 

 

 

ロム爺「せめて、相打ちに――ッ」

 

 

右腕を肩から断たれて、蛇口から水を流すように血をこぼすロム爺。

その巨体を前に飛ばし、傷口を押さえず残った片腕でエルザを狙う。

 

粉砕されたテーブルが床に落ち、その向こうでエルザは刃を振り切った体勢だ。

ククリナイフの刃がひるがえるより、ロム爺が細身を押し潰す方が早い。

 

 そんな儚い、ロム爺の命懸けの一撃は、

 

 

 

エルザ「言い忘れていたけれど――ミルク、ごちそうさまでした」

 

 

 

 エルザの反対の手に握られていた、割れたグラスの一閃によって阻まれていた。

 

グラスの先端は鋭利だ。

ソレがロム爺の喉にたどり着く。

 

右手を失い、喉を切り裂かれたロム爺は大量の血を口から溢れ出し、光を失っていく目をしながら倒れて行った。



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2度目の死

ロム爺が死んだ。

それは紛うことなき、エルザの手によって。

 

――どうする。どうすれば助かる!?

 

フェルトは…まだなのか。

風の加護を持っているから早く見つけられると踏んだのに…。

 

エルザ「そちらのお姉さんの腸は綺麗かしら?」

 

…『腸狩りのエルザ』その名がエルザの2つ名だ。

 

『綺麗かどうかは分からないけれど裂いてみるかい?』

ロム爺が死んだ時からこの周回はアウトだ。

 

エルザ「あら、諦めたのね。良いわ、動かないでね。私刃物扱い不得意だから」

 

近づいてくるエルザに腹を裂かれる。

 

―――いたい、いたい。

 

けれどスバルが死ぬまでは…。

 

『ス…バル、こん…かいは失敗…だ…』

 

それを告げてから気を失うふりをする。

そして出血多量死しないように軽く流れる血の量を少なくする。

 

私が死んだと思いスバルの方を向くエルザ。

 

エルザ「お爺さんとお姉さんは倒れ貴方はどうするのかしら?女の子に逃げられたのは失敗したけれど…」

 

スバル「お、おれは…!…っ、殺してくれ」

 

エルザ「あら、諦めたのね。動くと痛いから動かないでね」

 

エルザがスバルの腹を裂く、そして両目も切り裂いた。

 

スバル「――っががあああ、目は…ちが…うだ…ろ」

 

エルザ「ああ、腸は綺麗な色をしている。目は…ついでよ」

 

―狂ってやがる。

 

エルザ「ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり、痛みに悶えて」

 

――血の量元に戻そ。

スバルもしばらくしたら死ぬだろうし。

 

 

 

―ああ、血が無くなる、だんだんと頭が真っ白になり、血の気が引く。

 

???「おい!エトワール!エト!」

 

誰だ、僕の名前を呼ぶのは。

 

『フェル…ト?良かった、さい…ごに会えて。フェルト…生き…てね、ロム…爺と僕ら二人の分も…』

 

 

フェルトが悲痛な顔で涙を流している。

 

――ああ、可愛い顔が涙でぐしゃぐしゃじゃん。

頭撫でてやりたいけど、ごめんな、体言うこときかないや…。

 

 

 

 

――そうして僕、エトワールとナツキ・スバルは命を落とした。

 

 

剣聖 side

 

風の加護をもつ少女に案内されてやってきた盗品蔵。

 

入る前から血の匂いがしていた。

入ってみたら、酷い有様だ。

 

至る所に血は飛び散り、1番ひどいのは短髪の男の子だろう。

腹を裂かれ、両目も失うという。

 

「…この者達はどうなさいますか?」

 

フェルト「…埋葬させてやりたい」

 

「かしこまりました。近くに埋めますか?それとも時間を頂きますがここを取り壊し、ここに埋めますか?」

 

フェルト「…近くで」

 

 

ー1時間後

 

 

思ったより時間がかかってしまった。

特に巨人族の男を運ぶのに苦労してしまった。

 

「フェルト様、お気持ちが落ち着くまで私は離れていときます」

 

フェルト「ああ、頼む」

 

 

 

フェルトside

 

3人の埋葬が終わり、アタシは混乱していた。

人を探すのに時間がかかりすぎた。

騎士団に行こうにも中に入らせてはくれないし。

 

だから、王都内で非番の人を探していた。

まさか剣聖が非番とは思わなかったけど。

 

盗品蔵に入り、むせ返るような血の匂いに唖然としながら、生存者が居るのか見ていた。

 

ちょうどその時、スバルが持っていたのであろう徽章が落ちたのでソレを拾ったら辺りが眩しい光に包まれた。

 

そこからだ、剣聖の顔色が変わったのは。

アタシの名前を聞き、様呼びしてくる。

アタシの気持ちが落ち着いてから話すようだけれど、様呼びは慣れないな…。

 

 

エトワールと少し話せてたのはよかったけれど、ロム爺が死んでいたのがとてもツラい。

 

 




剣聖sideとフェルトside、どうでしたか?

原作との相違点は、フェルトが死なず、剣聖を連れて来た。
しかし遅すぎた為間に合わず。
フェルトは王選に参加するのかな、この回。
王選参加しようとしたロム爺が居ないしな…。
多分、参加しないでしょう。

次回、3度目!


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剣聖の登場

――戻ってきたか。

 

人が行き来している通りに。

スバルを探そ。

 

 

2回目じゃ半信半疑だったけれど、死ぬ度に初期状態に戻っているな…。

スバルは分かったかな。

 

 

 

 

 

 

なにげなく、リンガの店を覗くと奥に介抱されているスバルの姿があった。

 

 

『リンガのおやっさん、悪ぃけどそこにいる連れ僕のなんだ。今手持ちこれだけしかないから2つしか買えないけど…。また沢山買いに来るよ』

 

「おっ、そうなのか、店先で倒れた時はどうしようかと思ったよ、連れがいるなら安心だ。リンガお待ちどうさん」

 

リンガを1つスバルに渡して食べ始める。

 

『…スバル、大丈夫か?』

 

スバル「ああ、なんとか。これ、死ぬ度にリスタートしてる?」

『その通り。2回目の時は半信半疑やったけど、3回目で確認に変わったよ。…で、注意するのは何やった?』

スバル「あー、今から会う人達は、初対面という事やったっけ?」

『ん、合ってる。あ、サテラのことなんだけど、この世界では『嫉妬の魔女』という恐れられている名前なんだ。…だから、間違っても銀髪エルフの事をサテラと呼ぶんじゃないよ』

スバル「ふーん、しっとのまじょ?」

『ごめん、僕嫉妬の魔女という言葉しか分からないんだ、本屋さん的なのがあれば歴史本買いたいのだけど…』

 

いつの間にか、路地裏の方へと歩いていたようだ。

目の前を遮るようにしてアホポンタンが佇んでいる。

 

アホ「さぁ、服脱げ」

 

『いやぁぁぁぁああ!誰か、来てぇ!!犯されるぅぅ!!』

 

アホが言うと同時に女性らしい声で叫ぶ。

いや、元々女性なのだけど。

 

スバル「エト?何を…というか犯される?」

『えっ、僕女なんだけど?』

スバル「えええぇ!」

 

衝撃の事実、スバルが僕の事男と見ていたみたいだ。

 

 

トン「っ、女か!男を殺すか」

『しまった、情報与えてしまった』

 

 

カンがスバルに襲いかかろうとした時、

 

???「――そこまでだ」

 

1人の背の高い男性がこちらに来ていた。

顔を見上げ見てみると、目に映るのは赤髪。

 

 

 

 

???「たとえ、どんな事情があろうと、これ以上彼女達の狼藉を見過ごす訳には行かない」

 

トン「!??赤髪に」

カン「空色の瞳」

アホ「鞘に竜爪の刻まれた騎士剣」

 

3人「『剣聖』ラインハルトか!?」

 

仲良く3人揃って相手の名前を言う。

 

ラインハルト「自己紹介は要らないみたいだね。…もっとも、その2つ名は僕には重すぎるよ」

 

ラインハルトが腰にある剣をいつでも引き抜ける様にする。

 

ラインハルト「逃げるなら逃げるが良い。もしも強硬手段に出るなら、3対3で相手になるよ?」

 

僕達の方を顎でしゃくり、剣の柄に手をかける。

 

「じょ、冗談じゃねぇ!!わりに合わねぇよ!」

 

ボヤくラインハルトにアホポンダンが蜘蛛の子を散らすように大通りへと抜ける。

 

 

ラインハルト「無事で良かった、大丈夫かい?」

『ああ、大丈夫』

スバル「…助かったよ」

 

 




夜中に更新するスタイルでございます。
着実にしおりの位置が最新話に進んでいて更新しなきゃなという焦りがありまする。

さて、本日双子姉妹メイドの誕生日でございます。
誕生日とかの話も番外編にでも更新出来たらなと思ってます(*´ω`*)

ついでに、節分ですね。
節分といえば、スバルとレムがカララギに逃げた先へのifとして話ありましたね…。

…書きたい事多いけど、言語化、文章化しずらい‪w。
ま、頑張ります。


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剣聖 邂逅

私の声を聞いて路地裏まで来てくれた『剣聖』ラインハルト。

 

 

スバル「あれだけの事をして爽やかすぎる…」

『イケメンすぎるな』

 

顔と声と行動と佇まいがこの世界に来て最高のクオリティをしているラインハルト。

いやぁ、イケメンすぎる。

 

スバルに目配せをすると、

スバルはその場に膝をつき、「へへー」と平伏し、私は左手を心臓の位置に当て、

 

「このたびは命を救っていただき、心からお礼申し上げる。このナツキ・スバル、その御心の清廉さに感服いたしますれば……」

『剣聖ラインハルト、この度は我らエトワール、スバルを救い感謝いたす』

 

 

ラインハルト「そんなに堅く考えなくても構わないよ。向こうも3対3になって、優位性を確保できなくなってのことだ。僕がひとりならこうはいかなかった」

『でも、ラインハルトさんやい、剣聖なんて呼ばれていたけど強いんじゃないの?』

スバル「いや、あのビビりようからしたら3対1どころか10対1でも逃げてそうだったけど……なんだ、このイケメン。本気で身も心もイケメンか。俺ルートのフラグが立つわ!」

 

ラインハルト「家が特殊でね。その呼び名は僕にはまだ相応しくないんだよ。…呼び捨てで構わないよ。スバル、エトワール」

 

『そうかい?なら遠慮なく。僕の声を聞いて助けに来てくれてありがとう』

スバル「さらっと距離詰めてくるな。助けに入ってくれたのがお前だけだったの嬉しいかったよ」

 

 

大通りには大勢の人がいたにも関わらず、助けに入ったのがラインハルトただ1人という悲惨。

 

ラインハルト「珍しい髪と服装に名前…君達はどこから来たんだい?」

スバル「テンプレ的には東の国だが…」

『もっと東の方から来たよ』

 

ラインハルト「大瀑布からかい?すごいね」

スバル「大瀑布…?」

『ああ、私達は大瀑布から来たよ』

 

『大瀑布』という言葉にハテナが思いつくスバルには後で意味を教えるとして、大瀑布から来たというのを断言する。

 

ラインハルト「そうか、今のルグニカは平時よりもややこしい状態にあるが…僕でよければ手伝おうか?」

 

スバル「…それはありがたいけど、予定とかあるのじゃないのか?」

ラインハルト「今日は非番だから問題ないよ。王都が異常ないか見ているだけだし」

スバル「――だったら、人探し願いたい。白いロープを着た銀髪の女の子見なかったか?」

 

ラインハルト「その子を見つけてどうするんだい?」

スバル「無くしているものを届けるだけさ」

 

ラインハルト「――すまない。心当たりが無い。もし宜しければ、探すの手伝うけど」

『そこまでは迷惑かけられねぇわ。――でもこの王都で何があったら空に火魔法打ち上げるから助けに来てくれるか?』

 

ラインハルト「――ああ、分かった」

 

『何があったら』という言葉に怪しみながらも良い返答をしてくれた。

…正義の塊か。

 

 

スバル「ある程度は方針決まったか」

『ああ、ラインハルトには詰所によればお礼できるかな?』

 

ラインハルト「うん、名前を出したらわかると思うよ。または非番の時は王都をうろついてるから」

 

スバル「りょーかい。男探しに街に出かけるとか乙女ゲーかよ」

 

 

『行こう、スバル。ラインハルト、ありがとね』

スバルの腕を絡めながら路地裏を後にする。

 

「お気をつけて」というラインハルトの声を聞きながら。

 

そして、蒼い目が値踏みをするかのように私達を見ていたのを肌で感じながら――。

 

 



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盗品蔵

ラインハルトと別れ、《商い通り》に出た私達。

 

『これからの行動だけと、ここで銀髪を探すというのは絶たれたかも。ほれ、アソコ見てみろ、魔法がぶつかった跡がある』

 

そう言って指すのは四つほど進んだ先にある露店の方角だ。

 

少し穴が空いており、氷の矢でも穿ったのだろうか。

 

スバル「ああ……出遅れたか」

 

『おっちゃん、リンガ2個くれ。次来た時たくさん買ってやる』

 

おっちゃん「なんだ、嬢ちゃん彼氏に奢ってもらわないのか」

『…彼氏は無一文なのでな、ありがとな』

彼氏という言葉に少し戸惑いながらも否定する事はないだろうと思いそのまま返事する。

 

 

『それ、やるから貧困街でも行きな。金髪幼女の場所を掴め。貧困街に行く時は服装汚くした方がいいだろうなぁ』

スバル「ありがと、身なりが綺麗だと警戒されるから?エトはどうすんの?」

『それもある。僕は…盗品蔵の方へ進む。何も攻撃の術を持たないスバルが行くよりかは安心だと思うのよ』

スバル「了解ー、じゃ俺は貧困街に向かうわ」

 

 

そう言ってスバルと別れる。

 

 

 

‐盗品蔵‐

 

私は盗品蔵の建物の上にいた。

ここにいれば誰か中に入ったのが分かるだろう。

 

 

 

 

 

――30分後

 

スバルがフェルトに連れられて盗品蔵にやってきた。

合言葉の返事に茶々を入れながら。

 

聴覚を盗品蔵の方に視覚を盗品蔵の入口に目を向けながら警戒をする。

 

 

それから10分後。

銀髪ハーフエルフが盗品蔵を訪れた。

 

《スバル、落ち着け。僕はその建物の上にいる。何があればラインハルト呼ぶし、僕も参加する》

 

スバル《―了解!》

 

まだこの時間にやってこないだろうと思ってた相手にスバルは激しく動揺している様子が浮かんだので、念話で話しかける。

 

――今は夕方。

僕達の邂逅がなかったら早く着いてたのか。

 

 

 

じっと黒い物が滑り込むようにして盗品蔵に向かおうとしていた。

 

すぐさま空に炎を打ち上げラインハルトが来るように祈る。

 

そして、銀髪ハーフエルフとの間に滑り込むようにして短剣を構える。

 

それはスバルがパックに指示をしたタイミングと同じ時だった。

 

 

 

 

『大丈夫かい?お嬢ちゃん』

 

銀髪「あ、ありがと。えっと……」

『僕はそこの黒髪三白眼の仲間、エトワールさ。気軽にエトって呼んで。ある程度の状況は把握出来てるよ』

 

さて、突然現れた襲撃者とそれを塞いた僕。しかしどちらとも動くことは無かった。

 

 

フェルト「――おい、どーいうことだよ!」

 

叫び、前に踏み出して怒声を張り上げるフェルト。

彼女はエルザに指を突きつけて、自分の持つ徽章を懐から取り出すと、

 

フェルト「徽章を買い取るのがアンタの仕事なはず!ここを血の海にしようってんなら、話が違うじゃねーか!」

 

 

エルザ「盗んだ徽章を、買い取るのがお仕事。持ち主まで持ってこられては商談なんてとてもとても。だから予定を変更することにしたのよ」

殺意が重い。

怒りで顔を赤くしていたフェルトだったが殺意に当てられ、思わず恐怖で後ろに下がる。

そんなフェルトの様子をエルザは愛おしげに見下ろして、

 

エルザ「この場にいる、関係者は皆殺し。徽章はその上で回収することにするわ。――あなたは仕事をまっとう出来なかった。切り捨てられても仕方がないわ」

 

 

 

 

 

 

 

一瞬、フェルトの表情が苦痛に歪んだ。

恐怖ではない別の感情に見えた。

 

それがいかなる彼女の琴線に触れたのかはわからない。わからなかったが、

 

 

 

スバル「てめぇ、ふざけんなよ――!!」

 

《スバル?》

 

実力差も忘れて怒鳴りかかるくらい、スバルを怒らせる原因にはなった。

 

 

スバル「こんな小さいガキ、いじめて楽しんでんじゃねぇよ! 腸大好きのサディスティック女が!! そもそも出現が唐突すぎんだよ、外でタイミング待ってたのか!? うまくいくかもとかぬか喜びさせやがって、超恐いんだよマジ会いたくねぇんだよ! 俺がどんだけ痛くて泣きそうな思いしたと思ってやがんだ! 刃物でブッスリやられるたんびに小金貰ってたら今頃俺は億万長者だ! それは言い過ぎた!」

 

エルザ「……なにを言ってるの、あなた」

 

スバル「テンションと怒りゲージMAXでなにが言いてぇのか自分でもわかんなくなってきてんだよ! そんなお日柄ですが皆様いかがお過ごしでしょうかチャンネルはそのままでどうぞ!」

 

 

意味不明なスバルの怒声に呆れるエルザ。

 

スバル「時間稼ぎ終了――やっちまえ、パック!!」

《準備完了――やっちまえ、 灰 猫!!》

 

パック「見事な無様さだね。――ご期待に応えるよ」

 

少しでも状況が変わるように床に両手を着き凍らせる。

地面を踏み鳴らすスバルに飄々とした声が応じて、エルザが顔を上げる。

 

 立ち尽くす彼女の周囲、全方位を囲むのは先端を尖らせた氷柱――それが20本以上。

 

 

 

パック「まだ自己紹介もしてなかったね、お嬢さん。ボクの名前はパック。――名前だけでも覚えて逝ってね」

 

 

 

 直後、全方位からの氷柱による砲撃がエルザの全身に叩きつけられていた。

 

 

氷柱による砲撃が終われば僕の作った氷の矢をエルザに向けて攻撃する。

 



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エルザvsエミリア&エトワール

氷柱同士と氷の矢による容赦ない交差、それは室内に白い霧を巻き上げ、黒の外套の影を低温の嵐の中に覆い隠す。

 

先端の鋭いそれは容易く人体を貫き、透明な弾頭を鮮血で赤く染め上げるだろう。

 

それが実に二十本と複数の氷の矢だ。命中すればその死は免れまい。なのに、

 

 

エルザは血だらけになりながらも立っていた。

しかし、その傷はすぐに癒えることとなった。

 

『…不老不死か』

 

エルザ「そうであれば良かったけどね、私たち種族は。――あーあ、重かったけど着ていて良かったわ」

 

スバル「ま、まさかそれを脱いだら身軽になる的な―!?」

 

 

エルザ「それも面白いのだけれど、事実はもっと単純。――私の外套は一度だけ、魔を払う術式で編まれていたの。しかし、2度も攻撃が来たのは驚いたわ」

 

(――なんで、ラインハルトが来ない!?室内にいて気づいてないのか!?)

 

エルザの奇襲から2分は経っているはずだ。

 

『――金髪幼女!お前は逃げろ!!そして『剣聖』を呼べ!』

 

そう言いながら後ろに手のひらを空に向け火魔法を放つ。

 

フェルト「な、何言ってる!?アタシがロム爺を置いて逃げれるかよ」

 

スバル「この中で1番逃げ足早いのフェルトだろ」

《逃げれるように援護するしさ》

スバルの後押しでフェルトが逃げる方向に決まった。

 

 

《―銀髪、やれるか》

エミリア「ええ、大丈夫よ。パックもいる事だし」

 

 

 

僕達の会話を聞いて真っ先に殺そうとするのはフェルトだった。

フェルトの前に滑り込むようにして短剣で受け止める。

 

『フェルト、行け!!』

フェルト「ああ、わかった」

 

 

『あまり僕を舐めないようにね、剣術の心得もあるのでね』

 

受け止めたククリナイフを弾くように跳ね返す。

そしてそのまま追撃して行く。

氷の柱が小さく追従してる件については銀髪が僕に当たらないようにしてくれてるんだなと。

 

 

その攻防が約10分。

状況が変わった。

 

ロム爺がエルザに立ち向かうも棍棒を弾かれソレで気絶をした事だ。

――そして、パックが勤務時間外になっていた事だ。

 

「最悪、オドを使ってまで僕を呼ぶことだね」と銀髪に告げ霧状になりながら消えていった。

 

精霊術士は、契約者が防御、精霊が攻撃といったように2人で1つの存在だ。

それが精霊が居なくなれば状況が変わる。

1人が攻撃と防御を兼ねないといけない。

 

しかし今の状況僕が攻撃をしている。

――攻撃が当たらない。

当たらないのなら複数の剣で周りを囲むしかないとした時だ。

 

ラインハルト「――そこまでだ」

 

聞き覚えのある声がこの場を支配し、屋根を貫き、盗品蔵の中央に燃え上がる炎が降臨する。

焔はすさまじい鬼気でもって室内を席巻し、エルザの蛮行すらもその動きを止めた。

 

 

複数の剣を展開しようとしていた魔力を拳に集結させる。

そして眼前、もうもうと埃と噴煙をたなびかせる中に、真っ赤な輝きを見た。

 

 

 

ラインハルト「遅れてしまって済まないだけど、間に合ってなによりだ。さあ――」

 

 

 

スバル「お、お前は……」

 

 

 

炎が揺らぎ、足を前に踏み出す。

向かう先は大きく飛びずさったエルザ。彼女はククリナイフを握り直すと、その表情から初めて余裕を消して、正面の存在に相対する。

 

その圧倒的な威圧感の前に、もはや戦いを余興として楽しむ余裕などあるはずもない。

 

 

 

スバルも、偽サテラも、エルザすらも表情を凍らせる威容。

僕は心強い味方が来たと微笑を浮かべている。

室内の視線を一身に集めて、なお欠片も揺らがないその端正な面持ち。

 

ただひたすらに純粋な、『正義感』を空色の瞳に映した青年が、かすかに微笑み。

 

 

 

ラインハルト「舞台の幕を引くとしようか――!」

 

 

 

紅の髪をかき上げて、イケメンが高らかにそう謳う。

 

 




今日オットーの誕生日だそうですね。
その物語描きたいけど、ifルートは最初にくっつけたらいいかな??。
いや、その前にレムラムの誕生日か…?
オットーはまだこちらに出てないから少なくとも聖域後の時間帯になるし…。
まだ明らかになってないこととがもあるので、少しお蔵入りになりそうです……。

…あと、戦いの描写難しい。


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エルザVSエトワール&ラインハルト

ラインハルトが来て形勢逆転かと思われたが、なかなかに苦戦していた。

 

理由は銀髪がロム爺の手当をしていたからだ。

彼女曰く、「精霊術」を使っている間は本気を出せないと。

 

『ラインハルト、決め手にかけるんだろ、僕も援護するよ』

ラインハルト「良いのかい?エトワール。少し援護してくれ」

 

『任された。――繰り出すは竜の拳。滅竜魔法、火竜の鉄拳っ!!』

 

静かに詠唱し放つ魔法は失われた魔法(ロスト・マジック)の1つでもある古代魔法(エンシェント・スペル)の竜撃退用の攻撃魔法――《滅竜魔法》。

 

滅竜魔法を扱うものは滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)と呼ばれている。

僕はこの魔法以外にも使えるので、一概にとは言えない。

 

 

1発目は避けられるから、2発目3発目と繰り返す。

ククリナイフも避けながら。

 

エルザ「それ、熱くないの?炎を身に纏うのは思わなかったわ」

『残念ながら、本人は熱くないのよ、僕の魔法は違ってるからねぇ。――風よ、空気よ。来い、風天竜の砕牙!!』

 

2つの属性を合わせた複合魔法、《合体魔法(ユニゾンレイド)》を発動させる。

本来ならば2人以上で発動する技。

しかし、僕は時間をかけて1人でも可能になった。

 

下から上にかけて攻撃するが避けられる。

滅竜奥義でもぶちかまそうとした時スバルの声が聞こえた。

 

スバル「――ラインハルト、よく分からんがやっちまえ!!」

 

『ラインハルト、大きいの噛ましたれ』

スバルが指示を出すと同時に僕は後方へ大きく飛びスバル達の近くへ移動する。

 

ラインハルト「ああ、アストレア家の剣撃を見るが良い…!!」

 

ちらりこちらに視線を送り、スバルと目を合わせ顎を引き、彼はそう言った。

 

 

――直後、盗品蔵の中の空間が引き歪むような感覚がした。

 

スバル「は?」

 

大気が歪み、部屋の明るさが一段落落ちたように見える。

……それどころが、先程まで氷魔法の連続で部屋の温度が下がっていたのがもう1つ下がったようだ。

 

後ろを向くと、銀髪が震えているのがわかる。

いや、これは大気中のマナ不足?

『目を凝らして』みるとマナがラインハルトに寄っていくのが見えた。

……あれ、魔力の元となるエーテルナノがある。

魔力切れ起こしても大丈夫だな。

 

 

銀髪の周りに魔力をマナ変換してラインハルトに寄っていかないように結界を貼る。

 

 

エルザ「『腸狩り』エルザ・グランヒルテ」

 

 

 

ラインハルト「――『剣聖』の家系、ラインハルト・ヴァン・アストレア」

 

 

戦況が変わった。

名乗りを上げた2人はこれから一騎打ちにでも持ち込もうとしていた。

 

方や血に濡れたナイフ、もう片方はサビすら浮く両片手剣。

それは英雄譚の戦いのような輝かしいものであった。

 

 

 




ようやく、FTの魔法!
詠唱ありで発動しないといけないという謎ルールの元掲載しています(*´ω`*)



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彼女の名前

『剣聖』ラインハルトと『腸狩り』エルザ・グランヒルテの一騎打ちは『盗品蔵』を全壊へとさせた。

 

屋根を失った盗品蔵を引き抜き空間ごと真っ二つにした。

 

建物だけが真っ二つになっていればこんな事にならなかったんだろうが、空間ごと斬ってしまってるので元に戻ろうとする空間。

大気が歪曲するほどの威力の余波が部屋の中を暴風となって荒れ狂う。

 

逆巻く風が盗品を、家財を、廃材を巻き込んで暴れ回り、柱がこちらへ倒れてくる。

アレに当たったら死ねる。

そんな事はさせない。

 

粉砕(クラッシュ)!!』

 

フェアリーテイル最強の魔道士、ギルダーツの粉砕魔法を掛け、銀髪の周りを囲んでいた結界を解いて、物を弾く結界をかける。

 

スバル「化け物かよ…」

 

たった一振の一撃でこの威力。

剣術を極めれば魔法をも斬れると言われてるが建物も斬れてしまうとは…。

…流石『剣聖』だな。

 

ラインハルト「そう言われるとさすがに僕も傷付くよ、スバル」

 

苦笑しながら破壊の原因ラインハルトが振り返って言った。

 

彼の持っていた両片手剣は力に耐えきれず、粉々に壊れてしまった。

 

ラインハルト「無理をさせてしまったね、ゆっくりおやすみ」

 

建物ごと切り裂くような斬撃のあとは何も残っていない。

その破壊は入口付近のカウンター席ごと吹き飛ばし、その余波は蔵の前の広場にも及んでいる。吹き荒れた暴風は建材を軒並み崩壊させ、今にも建物が崩れそうだ。

一撃で更地にするほどの威力。やはり化け物だ。

 

エルザがいたはずの場所は、当然のようにその斬撃の範囲内。黒衣の長身の姿はどこにも見当たらない。

――だが、エルザのマナがあるので、生きている事が伺える。

 

銀髪「無事に、終わったの?」

 

スバル「ああ、ホントの意味でどうにかな」

 

銀髪が弱々しくスバルに問うが、マナ探知のできないスバルは終わったと思うだろう。

 

警戒しながら辺りを見渡す。

 

スバルが銀髪に生存確認をした後、ラインハルトに感謝を述べる。

 

ラインハルト「お礼はそちらの少女とエトワールに言おうか。エトワールが炎魔法を上げてくれなかったら気づかなかったよ。来るのが少し遅れちゃったけど。――その後は騎士の務めを果たしただけよ」

 

ラインハルトの言う少女はフェルトの事だ。

彼女は今はなくなってしまった入り口付近におずおずとこちらを見ている。

 

スバル「騎士の務めって、平屋を更地にすることか?」

 

ラインハルト「それって意地悪過ぎやしないかい、スバル」

 

痛いところを突かれた、と胸を押さえるラインハルト。

これほどの惨状を生み出しておきながら、その変わらぬ親しみやすさはどこか空恐ろしくもある。

 

 

銀髪「あの子は……」

 

 

銀髪もまた、おぼつかない足取りの中でフェルトの姿に気付いた。

スバルはそんな彼女の視界からフェルトを守るように回り込み、

 

 

 

スバル「タンマタンマ。あいつとエトワールがラインハルトを呼んでくんなきゃ、俺たちはきっと全滅してたんだぜ? ここは俺の顔に免じて、氷の彫像の刑は見送ってくれよ」

 

銀髪「そんな乱暴しないわよっ。というか、あなたの顔に免じてって……」

 

疲れたように眉間をもむ偽サテラ。

そんな仕草のひとつすら、どこかスバルは嬉しそうに見える。

――そんなスバルの姿を見て愛おしいとなる僕である。

…あれ、スバルの事好きなのか。

まぁ、今はスバルの傍に入れたらいいや。

 

 

スバル「あとは俺のネゴシエーション次第か……そこが一番、信用できねぇ!」

 

銀髪「さっきからどうしたの? わたわたして、すごーくみっともないけど」

 

スバルもまた胸を押さえてラインハルトと同じリアクション。もっとも、そこにはひょうきんさがあるだけで、彼のような凛々しさは微塵もない。

 

そんなスバル達のやり取りを見て、ラインハルトは小さく嫌味なく笑う。それから彼はこちらをうかがうフェルトの方へ、片手を挙げて迎えにいった。

 

 

警戒しつつも、助けに応じてくれたことへの恩義を感じているのか、歩み寄ってくるラインハルトからフェルトは逃げようとはしない。

 

 そんな二人を若干、微笑ましいような感じでスバルは見守り、

 

 

 

ラインハルト「――スバル!」

 

 

 

 ふいにこちらを振り向いたラインハルトの叫びに、スバルを守るように前に、短剣を構え滑り込む。

 

 

 

『――生きてるのは知ってるんだよ!!』

 

たった一瞬。それだけに様子を伺っていたのだろう。

たった一撃を退けばラインハルトが来てくれる。

それを弾き返す。

 

エルザ「ち、残念だわ」

 

弾き返されたククリナイフを見ながら舌を鳴らす。

 

ラインハルト「そこまでだ、エルザ!」

 

駆け戻るラインハルトを前に、戦闘続行の無意味さを悟る。

 

エルザは手の中、僕の攻撃で完全に歪んだククリナイフをラインハルトへ投擲。矢避けの加護によってそれは当たることはなかったが。

 

 

 

エルザ「いずれ、この場にいる全員の腹を切り開いてあげる。それまではせいぜい、腸を可愛がっておいて」

 

廃材を足場に、エルザが跳躍する時間を稼ぐには十分だった。

 

 

遠ざかる背中を見送って、ラインハルトは銀髪の少女に駆け寄る。

 

ラインハルト「ご無事ですか――」

 

 

 

銀髪「私のことはどうでもいいでしょう!? それより……」

 

端正な顔に焦燥感を走らせるラインハルト、彼の言を振り払い、偽サテラは僕の方へ向かう。

 

銀髪「ちょっと大丈夫!?」

 

『大丈夫、スバルや銀髪は大丈夫かい?』

 

心配そうにこちらを覗き込む、銀髪に片手で制し無事な事を明かす。

 

 

 

スバル「今度はもう、完璧にいなくなったよな?」

 

ラインハルト「すまない、エトワール。さっきのは僕の油断だ。君がいなければ危ないところだった。彼女を傷つけられていたら僕は……」

 

『あー、大丈夫だよ、スバルも無事だったし。全員無事で良いじゃねぇか』

 

 

流れを変えるかのようにスバルが天に手をかがける。

 

スバル「俺の名前はナツキ・スバル! 色々と言いたいことも聞きたいことも山ほどあるのはわかっちゃいるが、それらはとりあえずうっちゃってまず聞こう!」

 

 

 

銀髪「な、なによ……」

 

スバル「俺が知りたいのはただ1つ。」

 

 

指を一本だけ立てて突きつけ、くどいくらいにそれを強調するスバル。そのあとに指をわきわきと動かすアクションを付け加えて少女の不安を誘い、喉を鳴らして悲愴な顔で頷く彼女にスバルは好色な笑みを向ける。

 

 

 

スバル「――君の名前を教えて欲しい」

 

 

呆気に取られた少女は紫紺の瞳が見開かれた。

 

しばしの無言が周囲を支配し、決め顔を維持するスバルは静寂の中でかすかに震える。

――スバルらしい。

 

 

銀髪「ふふっ」

 

彼女から出た笑いは覚悟を決めたわけでもなくただ純粋に楽しいから笑った笑みだった。

 

銀髪「――エミリア」

 

笑い声に続いて伝えられた単語に、スバルは小さな吐息だけを漏らす。

彼女はそんなスバルの反応に姿勢を正し、唇に指を当てながら悪戯っぽく笑い、

 

 

 

エミリア「私の名前はエミリア。ただのエミリアよ。ありがとう、スバル」

 

彼女は手を差し出し、

 

スバル「まったく、わりにあわねぇ」

 

と言いながらエミリアと握手するスバルだった。

 

『――さて、エミリア、一番最初に言ったかもしれないが、エトワールだ。気安くエトって呼んでくれたらいいよ』

 

エミリア「うん、エトもありがとね」

 

エミリア握手する僕だった。

 

 

 

――それで終わっていたら良かったのだろうが、終わらなかった、この時の僕は知らない。

 

 

 

 



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治療

ラインハルト「それにしてもエトワール、よく無事だったね」

 

 

 一通り、エミリアとのやり取りを終えたタイミングを待っていたのだろう。

 

『ああ、ラインハルトが言ってくれなかったらスバル死んでたかもしれないから、助かったよ』

 

 

ラインハルトが何気なく落ちていた棍棒を拾う。

 

ラインハルト「あれ」

 

 

その手の中で、棍棒は滑らかな切断面をさらして鈍い音を立てて落ちた。

ど真ん中で二つに切り落とされ、その役目を完全に終えている。

 

 

 

 ゆっくりと、ラインハルトがスバルとエトワールの方を切なげな目で見た。

僕もその視線に従って、嫌な予感を感じつつもカッターシャツの裾をまくる。胴体は肌色だったが、そこに変化が生まれた。

 

 

 

 ――ふいに、横一線に赤い筋が引かれたのだ。

 

 

 

スバル「あ、やばい、これ、俺にも先が読めた」

 

 

 

 鋭い痛みが先鋒として訪れる。

 

 そして次の瞬間――スバルと僕のの腹部が横一文字に裂け、大量に鮮血が噴出。

――ここに来て死なせない。

 

ふらっと足が力を抜けるように体が倒れてしまった。

 

エミリア「――ちょ、スバル!?」

すぐ近くで、エミリアの切羽詰まった声が聞こえる。

 

直ぐに僕の傷を魔法で小さくし、スバルに治癒魔法をかけ始める。

 

ああ、ここで仮に死んでしまっても、スバルはまたここに来るだろうな。

――スバルに着いて行くよ。僕は。

 

 

 ラインハルトが焦りを浮かべ、すぐ近くで顔を覗き込んでくるエミリアがその整った面に悲痛な表情を象っている。

 

 

 

 

――気を失うふりをしていたら、エミリアが治癒魔法を掛けてくれた。

 

エミリア「あれ、傷が小さい…?真横にあったはずなのに」

 

ラインハルト「…珍しいですね、傷が小さくなる加護なんて」

 

 

エミリアとラインハルトが話しているのを聞いていたらどうやら、僕らはロズワール辺境伯の所に泊めて貰えるようだ。

 

そして、フェルトが盗っていた徽章を隠していたのを手に持ち、エミリアに渡す。

 

その時、ラインハルトに琴線が触れたようだ。

 

薄目で見ていたが、ラインハルトはフェルトの腕をつかみ、生まれとか出身を問う。

 

拒否権を出さない内にフェルトを手刀で気絶させる。

 

ラインハルト「エミリア様、また近いうちに呼び出しがあるかと思われます。ご理解を」

 

ラインハルトは徽章をエミリアに返す。

持ち主に戻ってきた事を喜ぶかのように薄く発光している。

 

ラインハルト「スバルとエトワールの事をよろしくお願いいたします」

 

徽章を受け取り、無言で自分を見つめてくるエミリアにラインハルトは一礼。

 

そしてしばらくしたら、双子のメイドが来て僕らを屋敷へと運んでくれるようだ。

…スバルと離れないようにしっかり手を握りながら。

 

意識を失う僕である。

 



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激闘の1週間
探索


ふと、目が覚めた僕である。

 

何時だろう?だが、言わなければ行けない事がある。

 

『――知らない天井だ』

 

メイザース辺境伯の屋敷か。

隣にいる寝ているスバルを見て――ああ、生き残れたんだなと思う。

 

よし、探索するか。

 

部屋を出る。

マナ探知をしていたら大きいマナと小さいマナが自分のところから見て、左上の部屋にいる。

そこ目指すか。

 

 

僕達の部屋の最上階の部屋はエミリアかな?

あー、もう1つマナがいる。ちらりとその部屋を除くと水色髪のメイドが寝ていた。

 

…おっと、違った。

 

…トイレどこだろう。

テキトーに部屋開けるか。

 

――何故か、本だらけの部屋に辿り着いた。

その奥に佇むのは金髪の縦ロール幼女が本を抱えて座っていた。

 

???「なんの用かしら」

 

『あー、トイレ探しているんだけど…』

 

???「なら、この部屋を出てもう一度同じ部屋に入ればいいわよ」

 

『そうか、ありがと、僕の名前はエトワール。名前教えてくれるかな?』

 

???「ベアトリスよ」

 

名前に聞き覚えがある。

意識はしっかりしてなかったが、エミリアがその名前を呼んでいた気がする。

 

『ありがと、ペティ。僕とスバルの傷治してくれたよね?それもありがとね』

 

ベアトリス「ふん、半魔が悲しむからやっただけよ」

『うん、それでも助かったからありがとうなのよ、ベアトリス――それじゃあね』

 

 

 

部屋を出てまた同じ部屋に入る。

そこは本だらけではなくトイレがあった。

 

…扉を介して場所が変わるのかな。

凄い魔法だなぁ。

 

 

 

――スッキリしたので、屋敷の主の場所へ向かう。

 

 

 

 

 

 

――コンッコンッコンッ

3回ロックする。

 

???「誰かしぃらぁー?どうぞお入りぃー」

 

扉を開け一礼をしてマナー良く話し始める。

 

真正面に座っているのがロズワール辺境伯か、その膝にピンク髪のメイドが居るがお邪魔したかね?

 

『お初にお目にかかります。ロズワール辺境伯様。この度は我らエトワール、ナツキ・スバルを屋敷内にお泊め下さり、ありがとうございます』

 

ロズワール「うぅむ、わたーしぃはロズワール・Lメイザースだぁよー――こーれぇは随分な丁寧な挨拶だ事。部屋まで来たのには理由があーるのかねぇ?」

 

――ここからが勝負だ。

 

「はい。福音の予定通りに進んでいますか?」

 

それを言った瞬間、勢いよく壁にぶつかった。

 

『――ッハ』

一瞬呼吸が止まる。

喉に手を当て、呼吸を正しくさせる。

 

 

ロズワール「……ラム、下がりなさい」

 

 

ラム「ですが、ロズワール様…」

 

ロズワール「良いから」

 

ラム「わかりました。何があれば呼びください」

―ラムというのか。

 

調子良い話し方ではなく拒否を言い出さない口調でラムを追い出す。

 

ロズワール「――どこまで何故知っているんだ」

 

『未来が見えるもので、全てを』

 

 

 

ロズワール「…そうか。何がしたい?」

 

『何も。強いて言うなら、共有を。そだね、僕の目的はエミリアを王とするスバルの援護かな』

 

 

ロズワール「邪魔はしないんだな」

 

 

『邪魔?する訳ないじゃない軍よりも強いロズワールにさ。ああ、提案なんだが、私スバルに仕えるのが理想なんだけど、同時にロズワールとエミリアに仕えるのどうかな?3人からの命令は聴くしさ』

 

 

 

ロズワール「3人のメイドとしてか。いいんじゃないのぉ?」

 

 

 

『ありがと。未来を知ってる僕から取引だ。ロズワールは福音の通りに動いてくれ。何があれば僕とナツキ・スバルでなんとか対処してみせる』

 

 

 

ロズワール「…ふむ、わかった」

 

 

 

『ああ、最後に一つだけ。明日スバルと一緒に顔を出すけど、その時は初対面のフリをしてくれ。その方がスバルに怪しまれない』

 

 

 

ロズワール「ああ、了解した」

『それじゃ、また、明日、おやすみなさい、ロズワール様』

 

ロズワール「おやすみ、エトワール」

 

就寝の挨拶をして部屋を出る。

 

ラム「―何もロズワール様に危害加えていないかしら?」

 

『何もしてないよ、ロズワール様とお話してただけよ』

 

ラム「そうなら、良いわ」

 

ロズワールのことを様呼びしているから違和感持たれただろうなぁ。

まぁ、しゃーない。

 

――これで、死に戻りしても大丈夫だ。

この内容は忘れない、消えないはずだ。




1章完!!

連続して投稿したから次更新するの遅くなるかも。
でも早く聖域書きたいので頑張りますけど…。


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双子のメイド

ロズワール様との対話を終わり寝ていた部屋に戻った約3時間後。

 

なにやら、スバルがもぞもぞしていた。

 

スバル「――傷とかが残ってたらおヨメにいけなくなっちゃう。エトも生きてるな」

 

そう言って僕の頭を撫でるスバル。

 

『――おヨメにいけなくなったら僕が貰ってあげるよ?スバル』

 

スバル「うおっ!?起きてたのか?」

 

『隣でもぞもぞしてたら嫌でも起きるよ』

 

スバル「そうか。――『死に戻り』はしなかったんだな」

 

『ああ、2人とも生き残れた。これからどうするかだよなぁ』

 

スバル「まぁ、なんとかなるだろ。――っと、尿意がヤバい」

 

『なら、良いけど…。探索ついでにトイレ行ってきな』

 

限界に近いのだろう、内股で部屋を出ていくスバル。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから約10分後。

 

突如眼下に空間が裂けた。

 

なんだろうと思えばスバルが飛ばされた。

 

ベアトリス「ペティの禁書庫で漏らされても困るのよ」

 

『ペティ、転送してくれたのはありがたいけどエミリアに服とタオル借りに行ってもらって良いかな?僕エミリアの部屋わからないし』

 

ベアトリス「…仕方が無いのよ。1回だけなのよ」

 

『ありがとう、ベアトリス』

 

ベアトリスの気配が消えたと同時にに漂うアンモニア臭。

 

……さて、綺麗にさせますかぁ。

 

 

 

 

 

 

約10分後。

 

スバルの服を全て脱がして後は濡れているのを拭くのと新しい服を着せるだけとなった。

 

――その時ノック音が響く。

 

エミリア「エト、大丈夫?」

 

扉を開けて入ってきたのはエミリアだった。

 

『ナイスタイミングだ、エミリー』

 

エミリア「ないす、たいみんぐ?」

 

『好都合って事だよ。この服、洗ってて』

 

スバルの着ていた服をエミリアに預け、持っていた服とタオルを持つ。

 

エミリア「分かった」

 

『起こして悪かったな、助かった』

 

エミリア「大丈夫だよ、おやすみ、エト」

 

おやすみとエミリーに返して、スバルの体を拭き始める。

 

約20分後。

 

この世界の服を寝ている人間に着さすのに時間がかかった。

 

終わったから、僕も寝るか。

 

 

 

 

 

 

 

******

 

スバル「この世界にはメイド服が存在しているのか…!?」

 

ガバッと布団を跳ねのけたスバルの影響で起きた僕である。

 

目を擦りながら体を起こすと双子のメイドが居た。

 

『可愛いな、メイド服』

 

???「大変ですわ。今、お客様の頭の中で卑猥な辱めを受けています、姉様が」

 

ラム「大変だわ。今、お客様の頭の中で恥辱の限りを受けているのよ。レムが」

 

昨日ロズワールの部屋にいたのがラムで、1人寝ていたのがレムというのか。

 

スバル「俺のキャパシティを舐めるなよ。二人まとめて妄想の餌食だぜ、姉様方」

 

両腕を交差して宙で掌をわきわき。無意味な動作にメイド二人の顔に戦慄が浮かび、彼女たちは絡めていた指をほどいて互いを指差し、

 

 

レム「お許しになって、お客様。レムだけは見逃して、姉様を汚してください」

 

ラム「やめてちょうだい、お客様。ラムは見逃して、レムを凌辱するといいわ」

 

 

 

スバル「超麗しくねぇな、この姉妹愛! お互い売るとか、そして俺は超悪役か!」

 

きゃーこわーい、と再び手を取り合って逃げる双子。

ベッドから飛び出し、それを追いかけるスバル。

広い部屋の中、追いかけっこしながらぐるぐると三人は駆け回る。と、

 

『……もう少し静かに起きれないのかしら』

 

エミリア「……もっと大人しく目覚めたりできなかったの?」

 

トントンと空いた扉をノックして入ってきたエミリアと似たような発言をする。

 

服装は町で見かけたローブ姿ではなく、黒い系統が目立つ細身に似合ったデザインの格好だ。

スカートは膝丈よりやや短く艶やかだが、その領域は腿の上まで届くニーソックスが隠している。

 

…うむ、ニーソックスとスカートとの間の見えている肌が良いものだ。

 

『エミリー、可愛い、GJ』

 

スバル「わかってる! 選んだ奴はわかってるぜ、GJ!」

 

 

 

エミリア「……なんのことだかわからないのに、くだらないってわかるのってある意味すごーく残念なんだけど」

 

 

 

拳を握りしめて思わず喝采するスバルと僕。

 

そんな彼らを少女――エミリアが部屋の入口で、呆れたような目で見ていた。

 

 

 

 



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ラジオ体操第2

エミリアの来訪に驚いていたスバルだったが、すぐに喜びの感情へと変わっていった。

 

 

軽く会話をし、ジャージを双子に持ってこさして、スバルは疑問に思っていたことを言う。

 

スバル「――そういえば、俺をこの服に着替えさせてくれたのって?」

 

 

 

エミリア「1回目は、私だけど。ラムとレムが出払ってて、手当てついでに着替えさせられるのが私だけだったから」

 

 

欠片も気にする素振りもなく言い切るエミリア。

スバルはそっと履いている下履きの中を覗き、下着まで取り替えられている事実を確認。その場に崩れ落ち、顔を掌で覆う。

 

スバル「…1回目は?なぜ、下着までも変えられてるの…」

 

『下着は、僕だね。夜中ベアトリスに会ってちょっかい出されたやん?それで服ごと汚れたから体洗うついでに…』

 

 

スバル「そっか……。ありがと、エトワール、エミリアたん」

 

まぁ、スバルの心情は察する。

 

 

スバルは衣装を持って目配せをする。

着替えの意図を察したエミリア達は部屋を出ていく。

 

スバル「――いや、エトも出ていけよっ!」

 

『んー?今更じゃない?大丈夫、僕は気にしないから。なんならスバルも見たいのかい?』

 

スバル「いや、えっと、見たいは見たいけど…ってなんて事を俺に言わす!?」

 

『別にいいのに。どーせ換装で別の服に着替えるだけだし』

 

部屋を出ていかない僕にいそいそと着替え始めるスバル。

 

スバル「…換装?」

 

『んー、異空間または別空間にある服や武器とかを瞬時に身につけてる魔法かな』

 

換装は、FAIRYTAIL最強の女魔道士、『精霊女王(ティターニア)』が主に使っていた魔法だ。

それ以外にも銃を乾燥していたアルザックやビスカの魔法。

 

 

『まぁ、こんな風に着替えられるという事だ』

 

昨日来ていた服に瞬時に換装する。

元々来ていた服は手持ちに残るようにして。

 

本来ならば、来ていた服と交換するように入れ替わるのだが、この服は屋敷にあったものだろうし、手持ちに持っといた方が良いだろうと判断。

 

スバル「ふーん、良いな」

 

『スバルは何が使えるだろうね。パックにでも聞いてみるか。――まぁ、僕もこの世界の魔法が使えるのかが気になるなら見て欲しいけど』

 

スバル「そーだな、よっし、着替え終わった!」

 

『ん、行こうか。スバル』

 

 

部屋を出て着替えるのを待っていてくれたエミリアに服をどうしたらいいか聞く。

 

彼女いわく、置いといてくれたら双子メイドが回収してくれると。

 

…凄いなぁ。

双子の能力もだが、この屋敷も。

 

スバル「しかしやっぱでけぇな。屋敷もそうだけど、庭っていうより原っぱだ」

 

『ああ、それほどまでにお金持ちな屋敷だよなぁ』

 

スバルはさっそくとばかりに屈伸運動を始める。

リズムに乗るスバルを見ながら、傍らのエミリアは不思議そうな顔をして、

 

エミリア「珍しい動きだけど、なにしてるの?」

 

 

 

スバル「ん? 準備運動の概念ってないの? 体動かす前にあちこちの筋をほぐしとかねぇと、思わぬとこで靱帯損傷! アキレス腱断裂! とかするぜ」

 

 

 

エミリア「ふーん、あんまり見たことないかな。でも、確かに体を温めないで急に動かすとケガしやすいものね」

 

『この世界じゃ、運動するというのがあまり無いんじゃない?魔法が発展してるし』

 

スバル「準備運動しねぇのか、んじゃ、仕方ない。教えてやろうじゃあーりませんか。俺の故郷に伝わる、由緒正しい準備運動をな!」

 

スバルの言う準備運動はラジオ体操の1か2だろうな。

スバルはエミリアに自分の隣に並ぶように指示。

二人で横に並ぶと、屋敷に背を向ける形になりながら、太陽を正面に大きく息を吸い、

 

 

スバル「ラジオ体操第二~! ちゃんちゃんちゃちゃんちゃんちゃんちゃん♪」

 

なるほど、2か。

なら―伴奏居るかな?

 

異空間からピアノを取り出し、弾き始める。

 

エミリア「え、うそ、なに?」

 

 

 

スバル「手を前に伸ばして、のびのびと背伸びの運動~! 俺に続け、フォローミー!エト、そのままで頼む!」

 

 

 

戸惑うエミリアを叱咤しつつ、スバルは全国的に有名なラジオ体操を歌う。

最初は怪訝な様子で真似していたエミリアだが、次第に真剣な顔つきで運動に没頭。

最後の深呼吸までしっかりやり通す。

そして、僕は間違えないように弾くので精一杯だった。

 

 

スバル「で、最後に両手を掲げて、ヴィクトリー!」

 

 

 

エミリア「び、びくとりー」

 

 

 

スバル「よし、以上。初めてにしちゃ上出来だ。エミリアたんには『ラジオニスト初級』の称号を授ける。今後も励めよ! ファイト!」

 

『――終わったか』

 

エミリア「スバルの発言はともかく、運動がちゃんとしてたのは事実ね。体の中、マナが綺麗に循環していくのを感じるから」

 

スバル「広めてくれていーぜ。ただし、ちゃんと歌と歌詞を正しく広める条件で」

 

『必要とあらば伴奏係として僕も参加するよ?』

 

ラジオ体操第2はあの音楽と掛け声あって、初めて成立するの物だ。

いつになく真剣なスバルの態度に気圧され、エミリアは頷く。

 

 

 

エミリア「えっと……ちゃんちゃんちゃららら♪ だっけ?」

 

スバル「違う! ちゃんちゃんちゃちゃんちゃんちゃんちゃん♪ だ!」

 

 

しばらく二人で「ちゃんちゃんちゃらちゃん」言い合う時間が続き、最終的にスバルが歌詞を紙に書くことで決着する。

言い合ってる時間は僕はラジオ体操第2の序盤を繰り返し弾いていた。

 

 

『―多分、文字読めないと思うよ、日本語は。僕は街の看板とかで読めてるから、書けるけど』

 

スバル「マジで?。うわー、詰んだ」

 

もうピアノは必要ないか。

異空間に戻す。

 

エミリア「それにしても、スバルってけっこう、体鍛えてるのね」

 

手首と足首を回して関節をいじめるスバルに、ふいにエミリアがそう呟く。

 

 

スバル「あー、まぁ、多少。ひきこもりだし、体鍛えるくらいやっとかねぇと」

 

 

 

エミリア「その、ひきこもりっていうのよくわからないんだけど。スバルってかなりいい家柄の出でしょう? 武術とかならってたんじゃないの?」

 

 

 

スバル「いや、俺はマジ普通の中流家庭出身だけど……俺が名家出ってどこ情報? 高貴な家柄っぽい雅な気風が溢れ出してた?」

 

エミリア「好奇な感じは確かにするわね」

 

 

 

うまいこと仰る、とスバルは両手を挙げておどける。

と、エミリアはその掲げたスバルの両手を素早く掴み取ってきた。

女の子に指を触れられ、スバルの喉が「ぁぅ」と凍る。

 

…スバル、女の子慣れしてないなぁ。

そんな所も可愛いんだが。

 

 

エミリア「この指もそうだけど、肌とか髪の見た目が理由。庶民とは暮らしが違いすぎる手よ。筋肉のつきかたも仕事でついた感じじゃないし……。エトも指とか細いけどしっかりしてるよね」

 

『んー?まぁな、所々傷跡沢山あるけどなぁ』

 

ただの異邦人、では済まない見た目の範疇を話題にされて、めまぐるしく頭を回転する。

その間にもエミリアは、

 

 

 

エミリア「黒髪黒瞳。南方の流民に多い特徴だけど、ルグニカでその状態でしょう。見当たらなかったけど、従者とかもいたんじゃないの? あの衣装だって、見たことない材質だったもの……どう、当たりでしょ」

 

 

押し黙る僕らに勝ち誇るようなエミリアの微笑み。

 

 その微笑み、綺麗だなと思い内容を吟味して僕はスバルの方に向いて頷く。

 

《スバル、任せた》

 

 

スバル「違うか違わないかで言ったら全然違うんだけど、どう言ったら傷付かない?」

 

エミリア「違うなら違うではっきり言ってくれなきゃ、私が恥かくだけじゃないっ」

 

 

 

スバル「大丈夫大丈夫。俺もなんだかんだで無知っぷりを連発してっから気にしない。むしろ3人で仲良く赤っ恥かこうぜ!」

 

 

 

エミリア「一緒に恥をかくのを恐がらないほど、関係を深めた記憶がないんだけど。話進まないから素直に聞くけど、スバルとエトってなんなの?」

 

 

 

恥も外聞も取っ払った質問が飛んできて、僕らは思い悩む。

 

ここで素直に「転生者でーす」なんて言おうものなら、頭のおかしい紅魔族判定食らうだろうな。

この世界に紅魔族は居ないけど。

でも、いつか扉が、見つかって別世界に行けるものなら――考えるんだかなぁ。

 

 

スバル「となると、ここは妄想パターンBでいくのが最善かな」

 

 

 

エミリア「ぶつぶつ言ってるなんて、すごーく感じ悪い。答えるつもりないの?」

 

 

スバル「あるよ! 超ある! でも残念だけど、その答えの持ち合わせが俺にはないんだ。……なぜなら俺、記憶喪失で自分のこともなにもわからないから」

 

エミリア「ナツキ・スバルって名乗ってたじゃない」

 

 

 

スバル「やべ『――僕ら名前しか分からないんだ!』って、エト?」

 

スバルが墓穴掘ろうとしているのを無理やり遮る。

 

エミリア「――事情があるのなら深く詮索しないけどね」

 

そんな僕らを見て見逃すエミリア。

 



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パックに対する願い

彼女は「さて」と一言残し、懐から緑色の結晶を取り出した。

 

 

『それって』

 

 

エミリア「精霊が身を宿す精霊石よ。パックのことは、知ってたわよね」

 

スバル「肝心な場面で居眠りこいた灰色の猫だろ? その後の俺の活躍とか、寝てたから知らないんじゃないの?」

 

 

エルザ迎撃の戦いの最中、姿を消した精霊の寄り代だ。

この世界で見るのは初めてだが、1回目ではちらと確認している。

その緑の結晶が、スバルの悪態に反応するかのように輝き出す。

 

 

 

パック「あいにく、ちゃんと騒ぎが片付いたあとでリアから話を聞いたからね。ずっと寝こけてたわけじゃないよ、スバル」

 

 

 

結晶から漏れ出した光が結集し、次第に小さな輪郭を作り出す。

数秒後にはエミリアの掌に小型の二足歩行猫が出現していた。

 

 

 

パック「や。おはよう、スバル。いい朝だね」

 

スバル「俺にとってはわりと波乱万丈だったけどな。無限廊下と尿意、そして乗り越えた先でエトにお嫁にいけない体に……」

 

 

 

『人聞きわりぃなぁ、スバルよ。もしそうなるなら貰うって言ったじゃん』

 

エミリア「そのセリフ、男女逆なら納得のいく話だけどね…」

 

微笑みながらエミリアは目をつむり、それから掌のパックを見て、

 

エミリア「おはよう、パック。昨日は無理させてごめんね」

 

 

パック「おはよう、リア。でも、昨日のことはボクの方が悪いと思うよ。危うく君を失うところだ。スバルとエトワールには感謝してもし足りないくらいだね」

 

 

パックはその丸い瞳で僕らを見上げ、小さな首を傾げて、

 

パック「お礼をしなきゃいけないね。なにかしてほしいこととかあれば言ってみるといいよ。大抵のことはできるから」

 

 

 

スバル「んじゃ、好きなときにモフらせてくれ」

 

『なら、僕らのどんな魔法が使えるのか知りたいな』

 

大きく出たパックに対して、僕らも即答で返す。

返事の速さもそうだが、その内容も驚きだったのかもしれない。

目を丸くしたのは元から丸いパックだけでなく、聞いていたエミリアもだ。

 

 

エミリア「ちょ、もうちょっと考えて決めてもいいんじゃない? 小さくて弱そうな見た目だけど、パックの力は本当にすごいのよ?」

 

 

 

パック「少し引っかかるけど、そうだよ。こう見えて、ボクはけっこう偉い精霊なんだ。だから欲張っても構わないんだけど。エトワールの願いに関してはこの後調べようか」

 

スバル「おいおい、俺みたいな一流のモフリストからしたら、モフりたい対象をいつでもモフれる権利ってのは、ある意味じゃ巨万の富と引き換えても余りある対価だぜ。モフモフ権――それは人の心をさらなる高みへ導き、荒み切った魂すら浄化するモフモフモフモフモフモフ」

 

『――まぁ、パックって気持ちよさそうな体してるもんな』

 

言いながら権利を履行して、スバルはエミリアの掌の上のパックを思う存分にモフり続ける。

腹に顎、トドメは耳だ。

 

ついでに僕も軽く触る。

 

 

スバル「耳ヤバいな! もう俺はお前のモフっ子ぶりにメロメロだ」

 

『こりゃ、良い触り心地だ。パック、先程の事に追加して僕も好きな時に触れるようにも良いかな?』

 

パック「ふーむ、スバルのすごいところは本気で言ってるとこだね。うすぼんやりと心が読めるからわかるんだけど。エトワール、もちろん大丈夫だよ」

 

 

スバルの手指で自由に弄ばれながら、パックは愉快げにそう言った。

 

『やった!!ありがと!パック』

 

戯れる3人の様子にエミリアははっきりと呆れのため息をついて、

 

 

エミリア「なんだかもう、スバルを理解しようとするのって疲れるわね」

 

 

 

スバル「諦めんのよくないぜ。人生物事、対人関係は相互理解の精神から成り立ってくもんだ。でも、そう簡単に俺を理解できるなんて思わないでよねっ」

 

最後の思わぬツンデレに吹いてしまった僕である。

 

エミリア「なにそれ、すごーく癇に障る」

 

『スバル、それ似合わねぇからやめといた方がいいぜ』

 

 

エミリアはスバルの指先からパックの体を回収。軽く手を振りながら庭の外れの方へ足を向けて

 

 

 

エミリア「それじゃ、私は誓約を済ませちゃうから……エトワール達はえっと、そっちの方で静かに草むしりでもしててくれる?」

 

 

 

スバル「よーし、張り切ってむしっちゃうぞー。って、俺そんなことやるために庭まで下りてきたわけじゃねぇよ!?」

 

『草むしり、任せなよ』

 

「冗談、冗談」と笑いながら離れていく銀髪を見送る。

 

『誓約』、それは精霊と契約者の間で交わされる日々の約束、守り事みたいなものだ。

 

FAIRYTAILの世界でも、精霊と何かしら契約をする時は対価を求められたなぁ。

聖霊の方は何曜日なら召喚しても大丈夫かの確認だったしな。

 

 



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日課

エミリアが日課をこなしている間スバルは腕立てをしていた。

 

僕は素振りを。

 

 

『……結構続くのね』

 

スバル「ああ、ヒッキーだったから、体でも鍛えようとしてて、腕立て100回、腹筋100回、スクワット100回を毎日していたよ」

 

素振り100回をこなし、それが終われば魔力を高める精神統一を地面に座り込んで始める。

 

 

約20分後。

 

スバルの方を見ていみると、木刀…いや木剣を構えていた。

 

『剣道部に所属していた?構えが様になっているんだけど』

 

 

スバル「よく分かるなぁ、中学の時に入ってた。一応、段位も持ってる」

 

『すっげぇ』

 

 

 

 

途切れた集中力を再度集中しようとするが、声が気になった。

 

 

会話の主はエミリアとパックだと思っていたのだが、違っていた。

 

 

エミリアの方を見てみると見間違いでは無く、光っていた。

その光は多分微精霊と呼ばれるものだろう。

ぼんやりと淡く光っており、その中にふわふわと蛍のように儚げな光だ。

 

 

『なに、話してるんだろう』

 

 

それは神秘的で、どこか幻想的な光景であった。

人の手が触れることを思わず躊躇うような情景。超自然的な存在に、許されたものだけが在ることのできる聖域、そんな風景に素振りを中断していた彼は、

 

 

 

スバル「すげーな、これ。ひょっとして、このふわふわしてんのみんな精霊?」

 

 

 

エミリア「――ひゃっ」

 

 

 

わりとずけずけと、構うことなく侵入してエミリアに話しかけていた。

 

驚きの声は彼女の唇から紡がれ、スバルを見上げる瞳は驚きで反射的に浮かんだ涙の滴で潤んでいる。

 

――そんな顔も可愛い

 

 

そして、彼女を取り巻いていた儚げな輝きたちにも動揺は伝染し、

 

 

[わわ] [なに、あの人] [めつきのわるいひと]

[こわい] [こわいよ]

 

声が聞こえた。

 

『フフっ、スバル、精霊さんに怖がられてるよ』

 

「おー、パニくってるパニくってるって、マジで?」

 

 

 

数多の光がおたおたするように左右に揺れ、スバルの意識から逃れようとするようにエミリアの後ろへ回り込もうとするが、数少ない光が僕の後ろにも来た。

 

 

パック「なんかもうすごいな、スバルは。普通は精霊ってもっと触れるのに勇気がいるような存在なんだよ――でもエトワールも凄いね。初めて会ったのに近くによろうとするなんて」

 

 

 

 

スバル「それは暗に『ボクをモフれる君は幸せ者だよ』って言ってんのか、知ってるよ! お前にメロメロだっての」

 

 

 

硬直するエミリアの腕の上、パックの体を今度は背中から攻める。

スバルはいまだに言葉のない彼女に対して首を傾げて、

 

 

 

スバル「どったの? そんな油断してるとまーた徽章盗られるよ?」

 

 

 

エミリア「人の痛いところ突かないの! そうじゃなくて、ビックリするじゃない、エト声聞こえてるの?」

 

浮いた涙を指ですくって、エミリアはスバルの短慮を咎める。

 

彼女の言に精霊たちが同意するように縦に揺れる。意外とノリがいいんだな、と精霊の反応を眺めつつ、

 

『ああ、聞こえてる』

 

スバル「ほら、精霊見るのとかって俺って初めてだからちょっと舞い上がっちゃってさぁ。見た感じ、危ないようには見えなかったし」

 

 

 

エミリア「制御下にあるから大丈夫だっただけよ。未熟な精霊術師に今のやったら、精霊の暴走を招いて……ぼかん、よ。エトワール、貴女精霊術士になれるわよ」

 

 

 

声をひそめてこちらを脅そうとするエミリアだが、後半で語彙が不足したのか出てきたのが『ぼかん』だ。

マジメに聞いてて肩すかしを食らい、スバルは「大げさな」とパックを見る。

 

『ぽかんとか、爆発するのか――褒め言葉として預かっとく』

 

スバル「あんなふわっとした感じの光が危ないとか、あんの?」

 

パック「そうだね。たとえばボクは今、この瞬間にでも君を塵にできるよ」

 

 

 

スバル「舐めた真似してすんませんしたぁっ!」

 

すばやく土下座して謝罪するスバル。

 

小さな手を振るパックは笑い、エミリアは自分との待遇の違いに少しだけ不満そうに唇を尖らせ、

 

 

 

エミリア「どうしてその素直さを私の方に向けないのかしら……ねえ、パック」

 

 

 

パック「年季かなぁ」

 

 

 

ヒゲをいじりながら長閑な返答。

パックの穏当な態度に毒気を抜かれたのか、エミリアはそれ以上の言及を諦めたように吐息したのだった。

 

 

 

 

 

 

エミリア「そう言えば精霊を見たことないのよね?スバルは。マナの扱い不安定なの?エトは見た事あるもんね」

 

スバル「マナ…ねぇ」

 

立ち上がろうとしたスバルは軽く足が痺れたようでひょこひょこしながらも立ち上がった。

 

『見た事はあるけど、こんなに形が安定してないのは初めてだわ』

 

僕の言っているのは聖霊の方。

精霊の方でも人の形を取っていたのが当たり前だと思っていたからな。

 

エミリア「え、精霊っていつもこんな感じだよ?」

 

『ああ、そうなのかい。だったらさっきの話無しで』

 

パック「よく見てる感じ、スバルのゲートってうまく開いてないんだよね。精霊術とか魔法と無関係にしても、閉じすぎじゃない? ってレベルだし、エトワールに至ってはゲートその物がないんだけど」

 

 

エミリア「それって変じゃない。普通に生きてればそんなことないはずでしょう?」

 

パック「うん、だから変なんだよ。普通に生きてなかったんだろね」

 

 

『2人の世界……ジェラシーだね?スバル』

 

スバル「ああ、ってさらっと俺の心の声を読むなっ!」

 

『良いじゃん、聞こえてしまったんだし…』

 

さらっと読心魔法を使っている事を暴露する。

パックが僕達の心を読み取ろうとしてくるが、僕はそれをガード。

 

何も聞かせないという訳には行かないのでスバルの心に似た考えをガードした上に置く。

 

 

『でもさぁ、エミリー、まだ対話の途中じゃないかな?』

 

そういや、と前置きをして話の主導権を握る。

 

エミリア「ええ、そうなの」

 

『だったら続きしてきなよ。僕らはパックと戯れておくし――邪魔をしたスバルが原因なんだけどな…』

 

エミリア「ありがと」

 

 

 

 



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魔法判明 朝食へ誘い

『パック、願いの事教えて貰ってもいい?』

 

パック「うん、エトワールとスバルの魔法判明だったよね。――で、まず魔法に属性あるの知ってる?」

 

『基本的な四大元素、火、水、風、土…だよね?』

 

パック「うん、そして、陽と陰があるんだけど、先に自分の扱えるのを確認した方が良いかな」

 

スバル「そんなのあるんだ?」

 

パック「うん、じゃあエトワール額借りるね?」

 

パックがこちらによってきて尻尾を額に当てる。

 

なんというか、少しもどかしい。

 

パック「……こりゃ、驚いた。エトワール6属性全て使えるよ。マナに似た何かがあるね」

 

『あー、それ魔力だと思う。こんな感じで扱えれるから支障は無いんだけどさ』

 

と言いつつ、右手に炎を纏う。

 

パック「ふーん、じゃ次スバルだね」

 

と言いつつパックはスバルの額に己の尻尾で触れる。

 

パック「陰属性一択だねぇ」

 

スバル「陰魔法って、何に使うの?」

 

パック「相手の目くらましとか音を遮断したり…とか?」

 

スバル「まさかのデバフ特化!?」

 

『ちなみに、陽魔法はどんなの?』

 

パック「身体強化とかがな」

 

『バフ特化なのか』

 

 

僕達の魔法が判明したら精霊との対話を終えたエミリアと魔法の種類について話す。

雷はどこからの派生とか、空は飛べるのかとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言うと空は飛べる。

しかし、翼を生やしてとかいうのでは無く、風を極めないといけないという。

 

なので、この世界では『エーラ(翼)』という魔法が使えない。

まぁ、エーラは使えなくとも他の魔法で補えたりするから特に問題は無い。

 

 

 

双子「「当主、ロズワール様がお戻りになられました。どうかお屋敷へ」」

 

完璧なステレオ音声。

 

それに答えるのは先程まで楽しく会話していたエミリアだ。少し表情が強ばったけれど。

 

エミリア「ロズワールが。お迎えしないといけないとね」

 

 

双子「「はい、それとお客様もお目覚めになられているのならご一緒にと」」

 

 

 

*****

 

ロズワール「あはぁ、目が覚めたんだねぇ。よかったよかったぁ」

 

 

 

濃紺の髪を長く伸ばした長身は、僕達をを見て嬉しげにそうこぼした。

 

 

 

背の高い人物。

身長はラインハルトを上回り、180cm半ばといった所だろう。

僕と比べたら軽く30cmは差があるだろう。

肉体は力仕事とは無縁そうな細身であり、しなやかというよりは純粋に痩せぎすといった印象が強い。

 

瞳の色は左右が黄色と青のオッドアイであり、病人のように青白い肌と合わせて儚げな親和性を保っている。

 

一般的な感性であれば十分に美形、そう断じていい容姿の持ち主だ。

 

 

 

もっとも、息がかかるほどの超至近距離でそれを見せられているスバルにはどんな美形であっても食傷気味になるのは間違いないが。

 

 

 

スバル「顔近っ!!」

 

 

 

ロズワール「ごめんごめぇん。ほぉら、最初に運ばれてきた君を見たときって、もう死んじゃったみたいに血まみれで血の気も失せてたからさぁ。こうして元気に歩いてくれてるのを見ると、感慨深ぁいものがあるよねぇ」

 

 

 

親しげにスバルの両肩を叩いて、相変わらず至近距離で見下ろしてくる長身の男性――ロズワールと名乗った屋敷の持ち主だ。

 

 

 

 

 

スバル「いやいや、こんなでも意外と切れ者みたいなのがお約束だし……」

 

 

 

ロズワール「あはぁ、嬉しい評価だねぇ。もっとまじまじと、見つめてくれてもいいよ? 切れ者な感じがするかい? どーぉ?」

 

 

 

スバルの前でポージングして、くるくると回ってモデル立ち。その堂々とした立ち振舞いに、スバルは自分の足が数歩、後ろへ下がったことに愕然。

 

 

 

スバル「ま、まさか……俺が下がらざるを得ないだと!? 俺よりキャラが濃いとか尋常じゃねぇ……日常生活に支障きたすぞ!?」

 

 

 

エミリア「私からしたらどっちもどっちよ、もう」

 

 

ため息は後ろから届いて、下がるスバルの代わりにエミリアが前に出る。彼女はロズワールに向かい合うと目礼する。

 

 

 

エミリア「お帰りなさい。大事はなかった?」

 

 

 

ロズワール「平気平気。あはぁ、嬉しいねぇ。君の方から私に声をかけてくれるなんて、四日とんで三時間と十九分ぶりぐらいだよぉ。日記に書かなきゃ」

 

 

『結構細かく覚えているんだな…』

 

手をわきわきと動かす長身に、左右からペンとノートが差し出される。

恭しく頭を下げるのは、桃と青の双子のメイドだ。

彼女たちから渡された紙とペンを使って、ロズワールは猛然と文章を書き始め、

 

 

 

ロズワール「タンムズの月、十五日。――エミリア様が自分から私に話しかけてくれたよ。ロズワール、嬉ぴー。この調子で仲良くなっちゃうぞぉ、おー。……と」

 

 

タンムズの月…?

気になったので脳内古文書(アーカイブ)で検索する。

その言葉はバビロニア暦にて使われた4月の月を司る神『タンムーズ』と言われるのがヒットした。

伸ばすのが言い難いからタンムズの月となったのだろう。

 

って事は今風に戻すのなら4月の15日というわけか。

 

 

会心の表情で本を閉じ、メイドに渡して振り返るロズワール。

 

迎えるのは笑顔を微妙にひきつらせたエミリアと、

 

 

 

スバル「いやマジちょっと……ドン引きだな」

 

 

 

ちらっと横から覗いた感じでは、ロズワールが手にしたノート――というよりは手帳のようなものだが、それはびっしりと文字で埋め尽くされていた。

その手帳も後半に差しかかっているようだったので、もしも同じような内容で埋められているのだとしたらもはや恐怖。

 

日々の記録に日記は便利だからなぁ。

 

 

そんなスバルのオブラートも剥がし切った答えにロズワールは膝を叩く。

 

 

 

ロズワール「ドン引き! いーぃ言葉だねぇ! 初めて聞いたけど気に入ったよぉ! んふー、人と違う感性を理解されない気持ちよさ……ああ、すばらしい」

 

 

 

スバル「うわぁ、若干共感できるのがやだよ。おい、これと仲良くできるって?」

 

『ドン引き』を初めて聞くロズワール。

……この世界じゃその言い方は無かったのか。

 

 

自分の肩を抱いて身悶えする変人を前に、スバルはエミリアへ「これと同一視かよ」と不満を込めて話題を振る。

 

 彼女は「うーん」と少しだけ悩ましげに唇に指を当てて、

 

 

 

エミリア「さすがに国でも公認の変態にはスバルも及ばない……かな?」

 

『…国でも公認なの!?』

 

スバル「ギリギリで紙一重じゃないか!!……とりあえず戻ってこいよ、カムバック。そんでもって俺に礼を言わせるがいい。このたびは大変ご迷惑をおかけしました、ベッド貸してくれてありがとうございます、敬具」

 

『スバルに続き、この度は大変迷惑をおかけいたしました。寝床、貸してくれてありがとうございました。ロズワール辺境伯様』

 

エミリア「もうメチャクチャじゃない……」

 

 

 

お礼を言うには尊大すぎるスバルと僕の態度だが、ロズワールは気にした様子もなく口笛を吹いて応じる。

頭を抱えるのは二人に挟まれる形のエミリアだ。

 

 

ちなみに双子は出しゃばる気はないのか静かに控えており、パックに至っては銀髪にもぐったまま消息不明である。

 

 

 

ロズワール「そぉれぇにぃしぃてぇもぉ……」

 

 

ぐるりと少し気持ち悪い動きで戻ってきて、ロズワールがしげしげとスバルと僕を上から下まで観察する。

 

 

んー、怪しまれるよねぇ。

僕は昨日接触してるけれど…。

 

 

 

ロズワール「どぉーもフツーの人っぽいねぇ。そればっかりはちょこぉっと残念」

 

 

 

スバル「おいおい、俺がフツーだと? いい意味でも悪い意味でも決して言われないフツー……その評価は俺にとって屈辱だ! 撤回を求める!」

 

 

 

エミリア「そんなに怒るほどのことだったかしら……」

 

 

『エミリアに同意だ。フツーなのは種族的な意味だろうに…』

 

 

 

果敢な態度をとるスバルにロズワールは「あはぁ、ごめんごめん」と手を振り、

 

 

 

ロズワール「フツーっていうのは種族的な意味で、だよぉ。ほぉら、私ってば『亜人趣味』の変態貴族で通ってるからさぁ」

 

 

 

スバル「自分で断言できるあたり、だいぶ鬼がかってんな、あんた。やべぇ、ちょっと好きになってきた自分が嫌だ!」

 

『亜人趣味ね。話、合いそうだ』

 

ロズワールは頭を抱えるスバルを愉快そうに眺め、それから自分の左右に立つ双子のメイドの肩を同時に抱き寄せた。

 

 

 

ロズワール「この子たちもそうだし、エミリア様を支援するのも同じ理由さぁ。もぉっとも、そのあたりに関しては君達も同類な臭いを感じるよぉ?」

 

 

エミリアはハーフエルフ、双子達は鑑定したからわかった事だが、鬼族。

 

抱き寄せた双子の顎を指で撫で、妙に悪徳っぽい雰囲気を出し始めるロズワール。

されるがままの双子は頬を赤く染め、すでに毒牙にかかってしまっている。

 

エミリアもまさか…と思ったのかスバルがエミリアの方に目をやる。

 

彼の視線の意図を察したのか、彼女は慌てて手を振り、

 

 

 

エミリア「勘違いしないっ。私は変態に惹かれる趣味は持ってませんっ」

 

 

ロズワールが言った支援という言葉に反応する。

僕はその結果を知っているが、初対面という事にしてもらっているからそこは咎められないだろう。

 

 

 

『……ロズワール卿、エミリアを支援というのは?』

 

 

 

スバル「それは俺も疑問に思った。ってか、そもそもの二人の関係性が俺にはわからんわけだけど」

 

 

 

ロズワール「……あれぇ、事情を知らない? んふー、不思議だねぇ」

 

 

 

双子を解放し、手を後ろで組みながらすいすいとスバルの方に歩み寄るロズワール。

再び長身に間近から見下ろされるが、今度は下がらず迎え撃つスバル。

 

 

視線がぶつかり合い、火花を散らすような睨み合いではなく、色々と思惑を探っているかのようにスバルを見つめるロズワール。

 

じーっと見据えられ、徐々に徐々にその距離が縮まる。

 

 

 

ロズワール「ちゅっ」

 

不意にそんなリップ音が響く。

 

スバル「ほぎゃああああああああ!!!」

 

 

 

長身にデコチューされて、思わずアッパーを噛ますスバル。

 

容赦ゼロの一発に長身が吹っ飛び、慌てて双子が倒れる体を受け止める。

スバルはその結果も見届けず、擦り切れんばかりに額をこする。

 

 

 

スバル「なんっ、おまっ、これ……本当になんだよぉぉぉぉ!?」

 

 

 

ロズワール「あはぁ、痛い痛い。――いやぁ、震える乙女のように純真な目で見てくるから、思わぁずむらむらしちゃってねぇ」

 

 

 

スバル「尻の穴がきゅっとなるわ! やめろ、その目! マジで!」

 

 

 

額をこすっていた手を拳に変えてロズワールの前に立つが、それを遮るのは敵意を瞳に宿す双子だ。

 

『スバル、落ち着け、双子が警戒してる。元はと言えばロズワール卿の悪ふざけが悪すぎたけど…』

 

主人を殴られた双子が主を守るかのように進む彼女等を牽制するようにスバルとロズワールの間に割り込む。

 

 

 

ロズワール「やぁめやめ、ラムにレム。今のは私の悪ふぅざけが悪い。彼に落ち度はなぁいよ、乙女すぎたのが落ち度といえば落ち度かなぁ」

 

 

 

スバル「俺の目つきで乙女扱いとか、視力落ちてるぜ、貴族様。俺が花のように可憐だったのは幼稚園までのお話だ。そっからは後頭部カリアゲ一直線だぜ」

 

『へぇ、幼稚園の頃のスバル君の姿見てみたいなぁ』

 

主の取り成しに、不満そうではあるが双子が下がる。

それからロズワールは殴られた顎をさすりながら立ち上がり、

 

 

ロズワール「今のは私が悪かったよぉ、謝罪する。その上で、謝罪を形で示すためにも朝食をご一緒しないかぃ? 奢るよぉ?もちろん、そこの彼女もだ」

 

 

 

スバル「言っとくが、俺は働かないわりには食うぞ。タダメシなら倍率どん、だ」

 

『ロズワール卿、恐縮ですが、お願い致します。』

 

ロズワール「いーぃことだよ。よく食べること、それはよく生きることに繋がる。んふー、今のはなかなかいい言葉だった。日記に書かなきゃ」

 

 

 

またも手を差し出すロズワールに、双子が手帳とペンを渡す。

 

スバル「ともかく、朝飯のお呼ばれは歓迎だ。朝ごはんどころか、俺ってばたぶん昨日の昼前からなんにも食ってねぇしな」

 

 

 

ロズワール「そぉれは重畳。じゃぁ、二人に案内させよう。ラム、レム、頼むよ」

 

 

 

双子「「お任せください、ロズワール様」」

 

 

 

双子がステレオで応じて、スバルの両脇を固める。

そしてそれぞれが片方ずつの腕を担当し、スバルを固く拘束した。

 

 

 

スバル「おいおい、なんですかよ、この護送される雰囲気。そんなことされなくても俺も逃げないし、食卓も逃げな……あれ、おい、痛いよ、ちょっと」

 

 

 

レム「それではご案内いたしますわ、お客様」

 

ラム「それじゃご案内してあげるわ、お客様」

 

 

 

スバル「おい、聞け、そして肘が極まって……さてはお前ら、さっきのアッパー全然許してねぇな!? でもさっきのはどう考えても俺じゃなくてあいつが悪いたたたたたたたた! 肘! 肘ぃ! 二人して反対に力込めんな、おい!」

 

 

 

ぎゃーすか騒ぎながら、関節を極められたスバルが食卓へ連行される。

 

なぜ、僕には無いのだろうかと思うが、主に危害を加えなかったのが大きいのかな。

 

 

 

 

 

 




空を飛ぶのって、風以外にも2つ極めないといけなかったですよね?

その2つが分からなくて、風だけと書いたのですが…。
知っている方居れば、教えて下さい。

そして、初めて出てきた脳内古文書、それはFAIRYTAILのブルーベガサスのヒビキが使っていた古文書です。

本来は情報を圧縮させて相手にダウンロードさせて場所とかを伝えたりするサポート系です。

脳内古文書と言っていますが、本来はPCのようなものを展開して『FAIRYTAIL』内では使っていました。それを脳内でやっているのです。

ですが、私が書いている小説で出てくる古文書という定義はウィキペディアみたいなものです。

なので、検索したら色々と出てくるのと、鑑定を合わせたらその鑑定した物の発見場所とかが出てくるのです。

それでは、また更新する時をお待ち下さいませ。


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朝食

ベアトリス「上から見てた感じ、あれなのよ。……お前、相当に頭おかしいのね」

 

 

 

朝食の場、と関節技をかけられたままのスバルの後を付いて行った食堂で、先に席についていた巻き毛の少女が挨拶代りにそう言った。

 

 

痛む肘を回しながら顔をしかめるスバル。

 

スバル「会って早々、なにを言いやがるんだこのロリ」

 

 

 

ベアトリス「なにかしらその単語。聞いたことないのに、不快な感覚だけはするのよ」

 

 

 

スバル「攻略対象外に幼いって意味だ。俺、年下属性あんまりないし」

 

『スバルは年下属性無いんだ…』

 

ベアトリス「……ベティーにここまで無礼な口を叩けるのも、かえって可哀想なのね」

 

 

 

憐れむような顔で言って、少女は椅子に体重を預けてため息をつく。

そのまま卓上にあるグラスを持つと、琥珀色の液体をすっと喉に通した。

 

形状的にワイングラスに近い食器だ。

まさか中身は……鑑定してみるとウィスキーだった。

 

…呑んでみたいな。

 

 

ベアトリス「なぁに、ひょっとして飲みたいのかしら」

 

 

 

スバル「え、でも、間接キスになっちゃうし。ちょっとイベント進行早いかなって」

 

『スバルが飲まないのなら僕飲みたいな』

 

ベアトリス「腹いせにからかおうとしたら、この初心な感じはなんなのかしら! こっちの方が恥ずかしいわよ。小娘、飲むならそこらにあるグラスを取って」

 

『あいよ、ペティ』

 

彼女に指示されたグラスを手元に渡す。

 

ベアトリスはグラスに突如手にウィスキーのボトルを持ち、それを注ぐ。

 

『……それは、』

 

ベアトリス「転移魔法の1つなのよ」

 

 

『そうか、ありがとう』

 

入れてもらったグラスを受け取り、舌で舐める。

 

『!?!!?……よくコレをストレートで呑めるね』

 

少ししか舐めてなかったのに、舌と喉が焼けるように痛い。

 

ベアトリス「ペティは慣れたからね」

 

グラスに氷を創造してロックにする。

 

現状、食堂の中にいるのが3人だけなのでやりたい放題なスバル。

 

広い食堂には白いクロスのかかった大きな卓が置かれ、奥の上座から手前の下座まで十席近く椅子が並んでいる。

 

すでに食器の置かれている席がいくつかあるので、そのどれかがスバルと僕の席だろう。

 

単純に考えれば下座のどれかが該当席だが。

 

スバル「あえて上座に座ってみる」

 

と、スバルは思い切り間違えている上座に座る。

 

ベアトリス「もの凄い選択肢なのよ。わかりきってるけど、間違いなのよ?」

 

スバル「へっへっへ、ここが普段からエミリアたんが座ってる席だろ。今、俺の尻とあの子のお尻が間接シットダウンしてると思うとほのかな興奮が……」

 

 

 

ベアトリス「高度な変態かしら! 気色悪いというか胸糞悪いのよ!」

 

『…スバル、変態すぎるよ。…所でペティ、スバルが座ってる所ロズワール卿のだよね?』

 

ベアトリス「そうなのよ、だから勘違いしてるのよ」

 

『面白いから黙っておこうか』

 

スバルは上座に座っているまま話を進めていくのでペティと小声で話していた。

 

 

 

スバル「――だからこれらの行動は決して、俺の本意じゃないんだぜ、げへへ」

 

 

 

ベアトリス「説得力皆無なのよ、最後の笑い。……話が進まないにも程があるかしら!」

 

『下卑た笑いをしたらますます悪人面に直進コースだが?スバルよ』

 

額を押さえて頭を振る少女に、スバルは椅子の上で尻を起点に回転しながら摩擦熱で加熱しつつ、温度を上げていく。

 

 

 

スバル「むしっかえさないだけ良心的じゃねぇかな。けっこうきつかったぜ?――ふと気付けば俺の意識消失回数が二日でヤバいレベルに。むしろ起きてる時間の方が少ないとか……あれ、ひきこもり時代と変わってねぇな」

 

 

 

首をひねるスバルを眺めながら、少女は欠伸を噛み殺すような表情で、

 

 

 

ベアトリス「ゲートをこじ開けた影響でどばっとマナが漏れたのよ。こぼすのももったいないから全部飲んであげたかしら。感謝するといいのよ」

 

 

 

スバル「中身漏れたのお前のせいだろ。器に穴開けといて感謝しろとは、態度がでかすぎてへそで茶沸かすついでに風呂まで焚いて極楽気分だぜ?」

 

 

 

スバルの文句をうるさそうにかわし、少女はまたグラスを傾ける。

 

 

パッと見幼女が当たり前のように飲酒している件について。

 

古文書で調べたら15歳以上から飲んでいいとの事。

ついでに成人扱いも15歳以上からだそうだ。

 

 

 

スバル「そして少女は夜遊びを覚え、金回りが派手になり、挙句の果てには十代で出来婚……兄ちゃん、情けなくって涙が出らぁ!」

 

 

ベアトリス「ベティーを勝手に一大悲劇作品のヒロインに仕立てないでほしいのよ」

 

 

スバル「俺からしたら出来の悪いケータイ小説の頭悪い主人公だよ」

 

 

ベアトリス「まあ、いいのよ。それよりお前、ベティーに感謝の言葉はないのかしら」

 

 

 

スバル「感謝って? 貴重な三次ロリの罵倒、ありがとうございますって? 別に俺の業界じゃそれご褒美じゃないし。誰でもいいわけじゃないんだよ!」

 

『僕にとってはありがとうございますなのだかな、ペティ、スバルに代わりエトワールが感謝いたす』

 

 

ベアトリス「ふん、小娘の感謝が聞けたから良いのよ。しかし、誰が死にかけのお前のことを助けてやったと……」

 

 

 

尻すぼみになる少女の声に、スバルは「はぁ?」と疑問を返す。しかし、少女がそれに明確な答えを出す前に食堂の戸が開かれ、

 

 

 

 

 

レム「失礼いたしますわ、お客様。食事の配膳をいたします」

 

ラム「失礼するわ、お客様。食器とお茶の配膳を済ませるわ」

 

 

 

台車を押し、食堂に入ってきたのは双子のメイドだ。

 

青髪がサラダやパンといった、オーソドックスな朝食メニューの載った台車を押し、桃髪が皿やフォークなど食器の乗った台車を押している。

 

2人はテーブルを挟んで左右に別れると、テキパキとそれらの配膳を開始。

 

一糸乱れぬ連携で食卓が彩られ、温かな香りに思わずスバルの腹が鳴る。

 

 

 

スバル「おほー、いいねいいね。いかにも貴族的な食卓だ。……これで異世界チックなゲテモノばっか並んだらどうしようかと思ってたぜ」

 

 

 

『それは同意だ。虫料理じゃなくてよかった。僕虫料理食べられないんだよね…』

 

 

 

 

スバル「それな、虫だけはマジで無理。あいつらなんで存在すんの? わっけわっかんねぇよ、あの形と生き様。あいつらの存在意義って、幼児時代に殺しまくって命の大切さを学ばせるとかぐらいしかなくね?」

 

 

 

ベアトリス「弱者を虐げれば、己が弱者となったときに強者に同じように虐げられる。それを学ぶことに意義があるのよ。静かにするかしら、弱者」

 

 

 

優雅にグラスを傾ける幼女を演じることにしたのか、芝居がかった返答をしてこちらを牽制してくる。

 

 

 

スバル「はーやーくーもー我慢の限界!」

 

 

 

ベアトリス「雅さに欠けるのよ。もっと優雅に典雅に待てないのかしら」

 

 

 

スバル「酒飲んでる幼女に言われたくねぇよ! ほら、メーシ! メーシ!」

 

 

 

置かれたナイフとフォークを取って、カンカン合わせるスバルの不作法ぶりに、さすがに少女も怒る。

 

グラスを置いた手が空間を歪ませ、なにかしらの超常現象的なエネルギーを帯びてスバルを指差そうとする。

 

が、その魔の手がスバルに届くより先に、

 

 

 

ロズワール「元気なもんだねぇ。いーぃことだよ、いーぃこと」

 

 

 

嬉しそうな顔で変態が顔を出していた。

 

その装いは外出着から着替えており、先ほどまでの礼服のような服装から一新。

 

襟がやたらカラフルででかい、悪趣味なものへモデルチェンジしている。いかにも道化じみた姿に、変わらぬ変わり者の態度。

 

――なるほど、まごうことなく変態だな。

 

 

 

ロズワールは食器でビートを刻むスバルを楽しげに見たあと、ふとグラスを静かに傾ける少女の方を見て眉を上げる。

 

 

 

ロズワール「おややぁ、ベアトリスがいるなんて珍しい。久々に私と食卓を囲む気ぃになってくれたのかなぁ?」

 

 

 

ベアトリス「頭が幸せなのはそこの奴だけで十分なのよ。ベティーはにーちゃと食事しに顔を出しただけかしら」

 

 

 

でれでれなロズワールをすげなく断ち切り、ベアトリスの視線は彼の背後へ。

そこには長身に続いて入室したエミリアの姿があり、彼女の銀色の髪の内側には、

 

 

 

ベアトリス「にーちゃ!」

 

 

 

弾むように席を立ち、ぱたぱたと長いスカートを揺らしながら少女が走る。

 

その表情は花の咲いたような笑みが浮かび、これまでの少女の生意気な評価を忘れさせるほどの愛嬌が満ちていた。

 

ようやく、やっと見た目相応の振舞いをする少女、その小走りに反応したのは銀の髪の中に埋まる灰色の猫だ。顔を出した彼は表情をゆるめて、

 

 

 

バック「や。ベティー、二日ぶり。ちゃんと元気にお淑やかにしてた?」

 

 

 

ベアトリス「にーちゃに会えるのを心待ちにしてたのよ。今日はどこにも行く予定はないのかしら?」

 

 

 

バック「うん、大丈夫だよ。今日は久しぶりにゆっくりしようか」

 

 

 

ベアトリス「わーいなのよ!」

 

 

 

エミリアの髪から、抜け出したパックがベアトリスの掌に舞い降り、受け取ったベアトリスは小猫を抱いたままくるくると回る。

 

和気あいあいの2人の様子にスバルが驚いていると、苦笑を浮かべながらエミリアが隣に並んできて、

 

 

 

エミリア「ビックリしたでしょ。ベアトリスがパックにべったりだから」

 

 

 

スバル「ビックリっていうか、なんだよあのロリの態度。猫の前で猫被ってるとか狙いすぎじゃねぇ?」

 

『見ていて癒されるのは僕だけか?』

 

見た目幼い少女が灰猫を喜んで抱き抱えているのに、胸が踊る。

 

「ごめん。スバル、ちょっとなに言ってるのかわかんない」

 

 

 

スパッと切り捨て、それからエミリアは首を傾けて、不思議そうな顔でスバルの座る上座を指差し、

 

 

 

エミリア「その席って……」

 

 

 

スバル「ああ! そう、椅子も冷たいと心まで冷え込んじゃう、みたいなことってよくあるじゃん? そんな隙間風吹き込む心を癒す、君の毛布になりたいキャンペーンを実施中。なわけで、俺が自ら席を温めておいたよ! 別に間接シットダウン狙いとかじゃないよ!」

 

 

 

エミリア「ごめん、なに言ってるのかわかんないし……そこ、ロズワールの席よ?」

 

 

 

エミリアから絶望の言葉を告げられたスバル。

そんな落ち込む彼の姿を見て僕は大爆笑。

 

 

『スバルよ、よく考えたら分かることでしょ』

 

 

スバル「――だが、俺は転んでもタダでは起きない男。かくなる上は……そう、かくなる上は明日に賭ける!!」

 

 

 

エミリア「別に私の席はやらなくていいから。ちょっとヤだから」

 

 

 

スバル「神は死んだ――!」

 

 

 

ついには地面を涙ながらに叩き出すスバル。

もはや世界に希望はない、未来はない、と打ちひしがれる。

 

好意を持っている彼女にそう言われたら落ち込むなぁ。

 

 

と、打ちひしがれているスバルの肩をふいに優しく誰かが叩いた。

 

 

ロズワール「君の温もり、しぃっかり堪能させてもらうよ」

 

 

 

優男がそう語るのを聞いて、スバルは躊躇なく椅子に唾を吐いた。

 

 

 

スバル「俺の尻余熱が穢されるくらいならこうしてくれるわ!」

 

ロズワール「おややぁ、即断即決で意表を突く、すばらしい。でも、ホイ」

 

 

ロズワールが痛快そうに笑ったあと、軽く指を立てて椅子を示す。

 

吐かれた唾に視線がいき、それを確かめたあとで彼は立てた指を鳴らし、

 

――直後、見ている眼前で唾が消失したのを見た。

 

『凄いな、瞬間的に火魔法を放ち、極小の範囲での魔法行使。並外れている…』

 

スバルの吐いた唾を瞬間的に消えた事に感嘆する。

 

スバル「おお!?」

 

 

 

消えたのが信じられず、スバルは思わず座席に手を伸ばす。

 

 

 

 

スバル「蒸発、した?」

 

 

そんな僕達の結論に、ロズワールは感嘆するように口笛を吹いて、

 

 

 

ロズワール「あはぁ、よくわかったねぇ。2人とも。でも、エトワール、先程の一瞬でよくそこまで分かったものだァねぇ」

 

『お褒めに預かり恐縮です。――唾だけを蒸発したのを見るとタダ者では無いですね。さすが領主様だ。タダの変態じゃないってのもね』

 

 

 

 

 

エミリア「そんなでも、ルグニカ王国の筆頭宮廷魔術師よ」

 

 

 

返答したのは隣のエミリアだ。

 

筆頭宮廷魔術師。

名前からして、国とかの筆頭魔術師なのだろうか。

 

それなら、先程の魔法にも証明が行く。

 

 

 

 

*****

 

 

ロズワール「さぁ、朝食の準備もできたぁことだし、食事にしよう。―――木よ、風よ、星よ、母なる大地よ」

 

そういうロズワールを見習い、食前の祈りを捧げる。

 

席順は上座がロズワール、その反対にエミリア、その左側若干エミリア側にスバル、その横に僕。

 

ロズワールの左右には双子が居て、スバルが座っている反対側にベアトリスが居る。

 

スバルの提案で皆固まって食べている。

 

こういう貴族の食事のテーブルとかは細長いからバランスよく座れないのが残念だ。

 

 

 

 

 

 

ロズワール「それじゃ、スバルくん。エトワール、いただいてみたまえ。こう見えて、レムの料理はちょっとしたものだよ?」

 

 

 

ロズワールに勧められ、祈りがいつの間にか終わっていたのだと慌てて食事に加わる。

 

メニューはおそらくサラダと、パンのような食材にハム的なものの乗ったトースト風の感じ。

 

曖昧な表現だが、一般的な洋食での朝食メニューといった風情に思える。

 

鑑定して、毒物がないことを確認。

 

――まぁ、この場で殺すのは場違いすぎるけど。

しかし、異世界だ、何があるか分からないからな。

常に鑑定しなくては。

 

 

人知を超えた食材が出なかったことに感謝しつつ、トースト的なものを口に含む。

 

 

 

『美味しい…』

スバル「む……普通以上にうめぇ」

 

 

2人して絶賛。

 

 

『この料理は青髪の……えーと、レムでいいのか。が作ったの?』

 

 

 

レム「ええ、その通りですわ、お客様。当家の食卓は基本、レムが預かっております。姉様はあまり得意ではありませんから」

 

 

 

スバル「ははーん、双子で得意スキルが違うパターンだ。じゃ、桃髪は料理苦手で掃除系が得意な感じ?」

 

 

 

レム「はい、そうです。姉様は掃除・洗濯を家事の中では得意としていますわ」

 

 

 

『じゃ、レムりんは料理系得意で掃除・洗濯は苦手なの?』

 

 

 

レム「いえ、レムは基本的に家事全般が得意です。掃除・洗濯も得意ですわ。姉様より」

 

 

 

スバル「桃髪の存在意義が消えたな!?」

 

スバルのツッコミが炸裂する。

 

家事全般が得意な片割れと、掃除系だけが得意だがそれも相方に及ばない片割れ。

 

――逆に双子としては新しいパターンだ。

 

あんまりな発言だが、レムの反対側にいるラムは気にした様子もない。

 

 

スバル「もしくは分野が違うのか。ラムちーの方は戦闘職……いや、ここは夜の御勤め系!? やべぇ、今宵の俺は様々なものに飢えてるよ!」

 

『スバル、変態すぎるよ』

 

レム「姉様、姉様。お客様の中であらぬ疑いをかけられてますわ」

 

ラム「レム、レム。お客様の中であられもない姿にされているわ」

 

 

 

ピンク色の妄想たくましいスバルに、双子が互いに手を重ね合って悲劇的に振舞う。

 

そのやり取りを見ながらロズワールは小さく笑う。

 

 

 

ロズワール「いーぃね、君。ラムとレムの二人は個性が強いから、初対面のお客さんにぃはなにかぁと敬遠されがちなんだけどねぇ」

 

 

 

スバル「主がこんだけ欠点まみれなら従者の欠点なんぞ気にならんだろ。それにファンタジーだからなんでも許すよ、今なら俺」

 

 

 

エミリア「有能なことには間違いないもの。そこを見ない人間が多いって話」

 

 

 

割って入ってそう言ったのはエミリアだ。彼女はスープを少しずつ口に運びながら、やや不機嫌そうな声音で続ける。

 

 

 

エミリア「実際、2人はすごいのよ。この大きい屋敷の維持をほとんど2人で回してるんだから。種族がどうとか、馬鹿みたい」

 

 

 

スバル「なんか、色々と複雑な心境なんだな」

 

 

 

義憤的な感情を瞳に灯すエミリアにそれだけ言って、僕は疑問に思った事を口に出す。

 

 

『今、エミリーが2人しか居ないって言ってたけど…』

 

 

ロズワール「あはぁ、現状はそうだねぇ。ラムとレムしかいなくなっちゃったよ」

 

 

 

スバル「――このどでかい屋敷の管理が二人だけとか馬鹿じゃねぇ? 質にこだわるとか以前に二人が過労死すんぜ。――それとも、『召使いが雇えない』みたいな感じの制限かかるような状況ってこと?」

 

 

 

スバルの問いかけにロズワールはしばし沈黙し、手をテーブルの上で組む。

 

 

その表情には笑みが張り付いているが、こちらを見る瞳の感情は明らかに雰囲気が変わった。

 

 

……スバル、やらかしてくれたな。

 

もう少し深く入り込まないといけないかな…?

 

警戒心を顕にしたロズワールを警戒しながら昨日初めて食べたデザートのリンガを食べていた。

 

 




ちなみに、主人公のエトワールちゃん、百合属性アリです。



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国の事情 あの子の事情

デザートのリンガを食べながら話は進む。

 

 

 

ロズワール「本当に不思議だぁね、君達は。ルグニカ王国のロズワール・L・メイザースの邸宅まできていて、事情を知らないんだから。よく、王国の入国審査を通ってこれたもんだね?」

 

 

 

 

 

 

 

スバル「まぁ、ある意味、密入国みたいなもんだからな……」

 

 

気づいたら王都の真ん中にいました…だからな。

 

 

『審査受けてないからなぁ…。ロズワール卿、少し良いかな?』

 

 

 

ロズワール「んー?なぁにかねぇ?」

 

 

 

 

 

『ロズワール卿はさ、異世界とか別世界とか信じる?』

 

 

 

ロズワール「――パラレルとかそういうのかぁい?」

 

 

 

スバルから何を話すんだという視線を感じるが、ウィンクで誤魔化す。

 

 

 

 

 

『それを知っているのなら話は早い。僕とスバルはその別世界から来たんだ。だから、少し常識が違ってたりするんだよ、この国の事情も知らなくてさ…。なぜこの世界に飛ばされたか分からないんだけど、縁が合ってロズワール卿やエミリアと知り合えたのが良かったよ…』

 

 

 

ベアトリス「……そんな世界があるというのかしら」

 

 

 

『ああ、あるよ。例えば、あの時こうやれば良かったのもう1つの選択を取った世界とかね、色々あるよ』

 

 

 

 

 

本来ならば、転生者というのも明かした方が良いんだろうけど、少し常識とかが違うというのを伝えといたら、わかりやすいだろう。

 

 

 

ロズワール「うぅむ、興味深いねぇ」

 

 

 

『興味がございますなら、また別途の機会にでも話しますけど。――常識とかが違ってたりするからご教授お願い致します』

 

 

 

 

 

 

 

エミリア「って事はこの国の事何も分からない?」

 

 

 

『ああ』 

 

 

 

エミリア「だったら簡単に説明するね、今のルグニカは戒厳令が敷かれた状態なの。特に他国との出入国に関しては厳密な状態よ」

 

 

 

 

 

スバル「戒厳令……穏やかじゃない響きだな」

 

 

 

 

ロズワール「あはぁ、穏当とはいえないねぇ。――なにせ、今のルグニカ王国には『王が不在』なもんだからねぇ」

 

 

 

 

『王が不在。ならその子孫たちは?普通ならそこに、王位継承いくだろ?』

 

 

スバル「ああ、エトの言う通りだが、俺ら知って大丈夫?」

 

 

 

普通ならば王が不在となれば国民には知られてなさそうなのだが…。

 

 

 

 

ロズワール「心配、御無用だぁよ! すでに市井にまで知れ渡った厳然たる事実だよん」

 

 

 

 

スバル「さよけ。いや、危うく秘密を知られたからには生かして帰さん展開かと」

 

 

 

『知られたらあかん内容じゃ無かったのか、安心した』

 

 

 

エミリア「こっちからばらしておいてそれじゃ浮かばれないわね。……ともかく、そんな状態だから国を挙げてピリピリしてるのよ」

 

 

 

 

ロズワール「戒厳令もその一環だねぇ。王不在のこの状況で、他国に火種を持ち込むことも、あるいはその逆も望ましくないってぇこぉと」

 

 

…なるほど。

 

王不在、というのは王国という国の行政的には致命的だろう。

 

病没かそれ以外か、理由がなんであれ突然の王の『死』に国が揺れている。

 

 

スバル「でも、王が不在で、子孫たちも居ないんだろ?それってどうやって決めるのよ」

 

 

 

ロズワール「通年なら子供に王位継承が移る。だぁけど、事の起こりは半年前までさかのぼっちゃう。王が御隠れになった同時期に、城内で蔓延した流行病の話にねぇ」

 

 

『流行病…?』

 

 

 

 

特定の血族に発症する伝染病、と発表されたとロズワールは語る。

それにより、王城で暮らしていた王とその子孫は根絶やしにされたのだと。

 

 

『本気で王族が居ないんだな、不在になってからの国の方針?とかは誰かしているんだ?代わりとなるものも居ないんじゃ国民死ぬぞ』

 

 

スバル「じゃ、本気で王様不在じゃねぇか。そうなると国ってどうなるんだ? 王様の血筋いないし、民意優先で総理大臣選出するのか?」

 

 

 

 

 

 

 

ロズワール「代わりの者は居るよ。今の国の運営は賢人会によって行われてるよん。いずれも王国史に名を残す、名家の方々の寄り合いだ。国の政治自体に関しての影響はそこまでじゃぁない」

 

 

 

 

 

 

 

そこで一度間を置き、「しかし」と息を継いでロズワールは表情を引き締め、

 

 

 

 

 

 

 

ロズワール「――王不在の王国など、あってはならない」

 

 

 

 

 

スバル「そりゃそーだ」

 

『その通りだな』

 

 

どんな、軍団や国で合っても頭の存在したい組織などいない。

 

日本だって総理大臣や、教育委員会会長とかがある。

たとえそれが責任取る形で辞任していっても、すぐに代わりの者が担当している。

 

 

 

 

スバル「なら、王不在の王国は新たに王を選ばなきゃならない。でも血族はほぼ壊滅。なら国の誰もが納得いくような形で、王様を選び出さにゃならんと」

 

 

『ああ、なんとかして国民達が納得いく方法で王様を選ばないと国民の暴動起きる可能性あるからねぇ』

 

 

 

 

エミリア「――事情が分からないなりに、そうやって頭が回るんだから。まさに賢い愚者って感じなのよね。スバル達は」

 

 

 

スバル「そう褒めんなよ。褒められ慣れてねぇからすぐ好きになんぞ」

 

『褒め言葉ありがと、エミリア。知らないなりに知識とかはあるからね、僕は』

 

 

 

照れ隠しにスバルはそう言い捨て、エミリアから顔を背ける。

 

…初々しいな。

 

『――だが、今の話を聞いて1つ。僕達の状況怪しすぎるね。』

 

 

スバル「ああ、王国は王不在かつ、王選出のどたばたで混乱中。他国との関係も縮小中のプチ鎖国状態。だってのに現れる謎の異国人俺――俺達超怪しいな!!」

 

 

 

 

 

ロズワール「さぁらに付け加えちゃうと、エミリア様に接触してメイザース家とも関わり合いを持ったわけだしねぇ。気が早ければそれだけで……」

 

 

 

 

 

ロズワールが目を瞑り、首に手刀を当ててギロチンアピール。

 

 

 

そんな仕草を横目で見て冷や汗。

 

『――まさか、ロズワール卿って賢人会と関わりあったりする?』

 

 

 

メイザース家とエミリーと関わった事により何か巻き込まれたりするのだろうか…。

 

 

 

 

スバル「……ふ、不敬のお詫びにせめて小指……小指を収めることで許していただければ」

 

 

僕の発言で最悪な事を想像したスバルが懇願する。

 

 

 

 

ロズワール「恐い想像に走ってる君に朗報だ。安心するといいよぉ? 私は賢人会の構成員じゃぁないし、さしあたって王国の玉座に関わる立場じゃないかぁら。――ねぇ、エミリア様」

 

テーブルの上に小指を差し出すスバルを、ロズワールが笑い飛ばす。

 

彼はそのまま同意をエミリアに求め、彼女はそれに対して渋い顔の沈黙で応じた。

スバルはその違和感に気づいて言葉にする。

 

 

 

 

スバル「さっきから気になってたんだが……屋敷の主が、エミリアたんを様付けで呼ぶ?」

 

 

 

 

そう、最初から気になっていたのだ。

領主とあろうお方がエミリーのことを様呼びしていた事に。

 

 

 

 

 

 

ロズワール「当然のことだよ? 自分より、地位の高い方を敬称で呼ぶのはねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

ロズワールは意地悪く微笑み、机の上で手を組んでそう告げる。

 

 

『なるほど、ロズワール卿よりも上の立場…』

 

 

ロズワールよりも立場が上なエミリア。

 

 

 

 

エミリア「…騙そうとか、そういうこと考えてたわけじゃないからね」

 

 

 

 

 

 

 

スバル「――えっと、エミリアたんてばつまり」

 

 

 

まだ懲りずに「たん付け」するスバル。

そんな現実を否定したがる彼にトドメを刺すように、エミリアが言い放つ。

 

 

 

 

エミリア「今の私の肩書きは、ルグニカ王国第四十二代目の『王候補』のひとり。そこのロズワール辺境伯の後ろ盾で、ね」

 

 

 

 

 

悲報。

 

スバルの好きな人は女王様候補でした。

 

 

 

 

 



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抱擁

スバル「しっかし、俺の恋路は前途多難だなぁ。我ながらビックリだべ」

 

 

好きになった人が女王様候補というのを知り、スバルは唖然としていた。

 

黙り込むスバルにエミリアは心配そうにスバルの顔を見る。

 

 

だが、そんなエミリアを抱きしめていたスバルだった。

 

 

 

――よし、売れる材料来た。

 

そんな2人を写真に収めるべくスマホを取り出し何枚か撮る。

 

ロズワール「エトワール、そぉれはなーにだねぇ?」

 

『僕にしか扱えない魔法器だよ』

 

ロズワール「なぁるほどねぇ」

 

スバルの顔とエミリアの顔片方ずつしっかり映る位置から撮ったりしていた。

 

 

 

 

だが、それはエミリアの必死な抵抗で2人の抱擁は終わりを告げた。

 

エミリア「スバル!急に女の子を抱きしめないのっ! 相手が私だったからそんなでもないけど、普通の女の子だったら本気にしちゃうんだから」

 

 

 

スバル「俺だって別に狙ってやってねぇよ? そう、まさに誰かに命令されたかのように。まさか、エミリアたんが魅了の魔法で俺を……? 悪女だな!」

 

 

 

エミリア「やってないわよっ、濡れ衣だわ。あと、その親指立てるのやめてよ!」

 

 

 

力強いサムズアップが否定されて、すごすご右手を下げるスバルだった。

 

 

ロズワール「なぁんともまぁ、恐いもの知らずだよねぇ、君」

 

 

今の二人のやり取りを傍観していたロズワールが笑いを堪えた顔で言う。

 

 

 

 

ロズワール「相手は未来の女王様候補なんだよぉ? ひょぉっとしたら、今の不敬を長々と執念深く覚えていて、いざ王座に就いた際に君を処断するやも……」

 

 

 

スバル「なにが起きるかわからん明日のために、今の幸せを後悔しろってのか? 刹那の快楽主義であるゆとり教育の被害者を舐めんなよ」

 

 

 

中指を立てて行儀悪く言ってのけ、スバルは空いた手でエミリアを示し、

 

スバル「たとえ未来の女王様だろうと、今この瞬間のエミリアたんはひとりの女の子。そして俺はひとりの男だ。ひとりの男と女が、どんな行きずりで爛れた関係になろうと文句を言われる筋合いはねぇ! だから――!」

 

 

 

椅子に足を乗せて拳を握りしめ、高々とスバルは宣言する。

 

 

 

スバル「たとえ明日処刑されるとしても、俺はエミリアたんを抱きしめて、髪の毛くんかくんかして、その余韻を糧に生きていくぜ――!」

 

 

 

血を吐くようなスバルの断言に、食堂の中を静寂が埋め尽くした。

 

誰もがスバルの剣幕に言葉を失い、荒々しくも誇り高く言い放たれた言葉を飲み込んで、ごくりと喉を鳴らす。そして、

 

ピコンという機械音が鳴る。

 

『あ、悪ぃ。なんか動画撮れた』

 

スバル「えっ!?エトワールさん何を勝手に撮って…」

 

『ごめん、スバル。どうやらエミリアとの抱擁が離れたあとからのようだ』

 

ロズワール「どうやらその魔法器、思ったより便利そうだねぇ。私らにも扱えれないのが残念だぁよ…」

 

先程偶然撮れた動画を再生してみる。

 

スバルの意気揚々と宣言していた言葉が繰り返される。

 

スバル「………!?!?それ、恥ずかしすぎるんだが」

 

『ふふふ、そうだろうね。ま、これは面白いから残しとくけど。これ以外にも先のエミリアとの抱擁あるからね?』

 

 

スバル「……死ねるっ!!」

 

 

四つん這いで床に這うスバル。

 

『だったらテンション任せで行動しない事だな。恐喝のネタが増えるだけよ?この世界、ネットが無いのが残念だけど時間かければ『電気』っぽいの出来るだろうし』

 

『だいぶ話がズレたかもしれん、朝食の続きだ』

 

 

朝食の続きを促した。

と言っても残りデザートを食べ終わるだけだけど…。



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悪徳交渉

デザートのリンガを食べながら質問を再度する。

 

 

『ロズワール卿、1つ質問良いかな?王都でエミリアを1人にさせていたのは?なんでかなかな?『女王様候補』となれば1人にさすのって結構危なかったと思うんだけど…』

 

途中ひぐらしの鳴きが入った。

 

「複数個になぁってるけど、答えてあげるよォ。王都に付き添ってたのはラムがいてくれぇたんだけどなぁ」

 

ちらりと桃髪の方を見るロズワール。

 

「そこの双子、レムそっくりの髪型しても髪色で分かるからなぁ!」

 

ラムが『騙せたぞ、しめしめ』とレムそっくりの前髪の流し方をしたが、スバルが一刀両断する。

 

おずおずと反応したのはエミリアだ。

彼女は気まずそうな顔で小さく手を挙げて、

 

 

 

「ラムが悪いわけじゃないの。その、私が……ちょっと好奇心に負けちゃってっていうか。ふらふらとラムからはぐれちゃって」

 

 

 

「なんだその萌えキャラみたいな理由、鉄壁か。それはそれとしても、主人の命令が守れなかったのは事実だろ? そこんとこ、ドゥーよ?」

 

唇を突き出していい発音で問いかけ、ロズワールはそれに首をひねるアクションで応じる。

 

彼は「一理あるね」と前置きし、

 

 

 

「確かにラムの監督不行き届きは私の責任でもあるかもねぇ。でぇも、それはそれとして君達はなにを言いたいのかなぁ?」

 

 

 

「簡単な話だよ。エミリアたんが帰巣本能忘れてふらふらしてたのに、付き人がそれをサーチできなかったのは痛恨の極み! んでもって、つまるとこ俺はそこにつけ込んだ悪党キャラ。となれば絞れるところから絞れるだけ絞るのが正しい悪徳ってもんじゃねぇの」

 

 

『スバルの話に付け加えるよ、もし僕達2人があの場に居なかったらエミリア死んでた可能性があるだろ。いくらパックが強いと言っても途中からいなかったし。――ロズワール卿、俺らに恩あるだろ?』

 

合点がいった、というように室内の全員の表情が変わる。

 

エミリアが顔を強張らせ、双子が申し訳なさと敵意が同居した瞳でスバルを睨み、ベアトリスは我関せずの顔のままグラスを傾け、パックは卵料理の前で滑ったのか黄身に頭から突っ込んで大惨事。

 

そしてロズワールが納得、とでも言いたげな微笑のまま何度も頷く。

 

 

「なぁるほど。確かに私財としては素寒貧に等しいエミリア様より、パトロンである私の方が褒美を求めるには適した相手だろうねぇ。認めよう、事実だからねぇ。で、その上で問いかけよう」

 

 

 

ロズワールが席から立ち上がり、その長身でスバルを見下ろす。

負けじと下から見上げ返すスバル。

図式は初対面の不意打ちデコチューのときに近いが、二人がまとう雰囲気の重さはけた違い。

 

僕はスバルの横へ移動し、ロズワールを見つめ返す。

 

 

「聞くぜ、耳の穴かっぽじってな」

 

 

 

「君は私になぁにを望むのかな? 現状、私はそれを断れない。君がどんな金銀財宝を望んでも。あるいはもっと別の、展開を望んだとしてもだ。徽章の紛失、その事実を隠蔽するためなら何でもしよう」

 

 

 

「へっへっへ、さすがはお貴族様。話がわかるじゃねぇの」

 

 

悪ぶった態度のままスバルは両手を広げて、

 

 

 

「褒美は思いのまま! そしてお前はそれを断れない! 俺とロズっちの約束だ。破ったら針千本呑ますかんな」

 

 

 

「百本目までに死にそうなお話だねぇ。うん、約束しよう」

 

 

 

「男に二言はねぇな!?」

 

 

「スゴイ言葉だねぇ。なるほど。男は言い訳しないべきだ。二言はない」

 

 

 

互いの男を差し出しての交渉だ。

その上での約束事ならば信じるに値する、とスバルは偉そうに腕を組み、

 

 

 

「じゃ、俺を屋敷で雇ってくれ」

 

 

 

長い長い前振りに反して、すっぱりあっさりと言い切ったスバル。

 

 

「欲無さすぎない?私の名前の時もだし、パックとの時も…」

 

「はっ、俺は自分に素直なだけだよ?あの時は本気と書いてマジと読むくらいに名前知りたかったし」

 

「――で、エトワールは?」

 

『ん?僕?僕は……スバルと同じで屋敷で雇ってくれ。お金だけ貰っても土地勘無いから迷いそうだし、それなら衣食住揃ってるココが良い』

 

「了解だぁよ」

 

『それにさ、ロズ卿本人にとっても僕達手元にいる方が安心するだろ?』

 

 

「まぁ、そうだぁねぇ。2人増えたらこちらとしては大助かりぃだぁよ」

 

少し苦笑しながらもロズワールは頷く。

 

「交渉は成立。これから片付け出来次第、働いたらいいのか?」

 

「そうだねぇ、ラム、使用人の服に着替えさせた後、屋敷を案内してあげて。今日から働くんだ。部屋の場所等は覚えさせないとねぇ。レムは普段通りに。エミリア様は本日のスケジュール通りにお願いします」

 

 

「承知致しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

******

 

ラムとレムが食器を素早く纏めた後、各自各々の作業に取り掛かろうとする。

 

そんな彼女らをロズワールは呼び止め、

 

「折角ココに全住居者いるんだ、自己紹介しようじゃなぁいか」

 

『自己紹介いるかぁ?7人と1匹しかいないけど…』

 

「にーちゃを1匹扱いとは無礼なのよ」

 

『あー、悪かった』

 

「訂正して、6人とドリルといちモフでいいか?」

 

「何度か聞いてるけど、ドリルってなんなのかしら」

 

「ドリルは男の魂、ロマンだよ」

 

 

 

「聞いたベティーが馬鹿だったのよ。ロズワール、ベティーは戻っていいかしら? にーちゃとゆっくりしたいのよ」

 

 

 

疲れた態度で目頭を揉み、少女らしくない仕草でベアトリスはロズワールに向き直る。

 

彼女の前ではいまだに食卓の上に居座るパックが「いちモフ!」と腰に手を当てて胸を張っていて、なんか微笑ましい。

 

 

 

「相性があんまぁりよくないのはわぁかるんだけどね。これから仲良く一緒にやってこうって関係なんだから、もう少し歩み寄ってよ、お願い」

 

 

 

「ベティーにできる譲歩はし尽くしたつもりなのよ。それ以上を求めるなら、メイザース家の当主といえど覚悟することかしら」

 

部屋の空気が悪くなるのがわかる。

 

 

「とにかく、ペティーは部屋に戻るのよ。にーちゃ、おいで」

 

にーちゃ、パックを抱き抱えながら、扉に手をかけるベアトリス。

 

「えっ」

 

スバルが声を上げるのも道理だろう。

それもそのはず、本来なら廊下だった扉が昨日入った本が沢山ある部屋なのだから。

 

 

『凄いな、その魔法。扉を介して移動…』

 

「これが『扉渡り』なのよ。その高尚さを目に焼き付けておくのよ」

 

 

 

 

 




お久しぶりです。
レムラム生誕日に更新です…。

語彙力がなくて、なかなか筆が進まない…。


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約束した朝は……

ベアトリスが部屋に戻り、ロズワールが話を進める。

 

 

「さぁて、水の刻も半分がすぎてしまう、時間は有限だぁよ―ラムとレムはさっき言った通りに。エミリア様は私の部屋に一度寄ってください。それじゃ、解散」

 

 

 

ロズワールのその言葉を最後に、完全に朝食の団欒は終了だ。

 

レムが食卓に並ぶ食器類を手早く片付け始め、エミリアが今後のスケジュールを思ってか物憂げに吐息。

 

 

ロズワールはそれこそ弾むようなステップでスバルに歩み寄ると、微妙に置いてけぼりな彼の肩を叩き、

 

 

 

「それじゃぁ、君達の仕事ぶりに期待させてもらうよ。もちろん、雇ったからにはお給金も出すし、そこの心配はしなぁいようにね」

 

「雇用内容に関してはあとで詳細に詰めるとして……とりあえず、便宜図ってもらってありがとう。旦那様とか呼んだ方がいいのか?」

 

『僕は、ある程度敬語で行きますよ。ボロが出そうなので…』

 

「あはぁ、客人の前でなければロズっちで構わないよ。案外、人にそうした渾名で呼ばれることに新鮮味があってねぇ」

 

 

 

黄色の方の目をウィンクさせて、ロズワールは軽く手を振ると食堂を退室。

 

その直前にラムに軽く目配せし、それを受けた桃髪の少女は頬を赤らめると無言の指示を与えられたように何度も頷く。

 

 表情と語調の変化に乏しい双子なのだが、ロズワールと接するときだけはその淡々とした姿勢が崩れる。忠犬、といった単語が頭をかすめた。

 

 

 

「それじゃ、バルス」

 

「予期せぬ既視感っ!!」

 

目潰しの呪文を唱えられた。

効力はないけれど、有名なのをこの世界でも聞けるとは……。

 

 

「…?バルス。ロズワール様のご指示だから、まずはあなた達に屋敷の案内をするわ。はぐれないでついてきて」

 

 

 

「エミリアたんじゃねぇんだから、そんなふらふらしねぇよ」

 

 

 

「ス・バ・ル!」

 

スバルにからかわれたエミリアが憤慨する。

 

 

 

****

 

ラムに屋敷の説明を受けた後、仕事服を着に衣装部屋に入る。

 

「バルスはコレね。エトワールは、コレね」

 

と、渡されたのはスバルがメイド服、私は執事服だ。

 

「いや、何の嫌がらせだよ!新たな扉開きたく無いわっ!!」

 

『女装は似合いそうだがな。ラム、僕は執事服のままでいいよ。メイド2人、執事2人の方が数的に良くない?見た目だけは男っぽいし、僕は』

 

メイド服で私の着れるサイズがないから執事服の提案をした。

 

 

「それもそうね………。着替えの部屋は、2階の使用人控室の……西側の部屋ならどれでもいいわ。好きなところを自分の部屋にしなさい。着替えたら1階の食堂の奥にある厨房にいらっしゃい」

 

『了解でーす。ラム先輩』

 

「ラジャー」

 

 

そう言ってラムは1階に行ってしまった。

 

『……で、部屋どうする?』

 

「俺は階段の近い方が良いな」

『じゃ、その隣の部屋。僕で――また、着替えたら』

 

 

扉のドアノブを軽くひねり、部屋に入ろうとするが、気配がした。

 

『ごめん、『扉渡り』の正解は開いちゃった。ああ、そうだ。ベアトリス、ここにある本って読んでいいかな?できる限り邪魔はしないし…』

 

 

ベアトリスがパックを撫でているのを確認しながら慎重に言葉を選ぶ。

 

「ペティーの目の届く範囲の本なら読んでいいのよ」

 

『ありがと』

 

 

よし、この回ではベアトリスの禁書庫読める。

これからもループする度に読めるように交渉するのを忘れないようにしないと。

ここにある本は珍しい本や魔法の書などがあるみたいだから。

 

ベアトリスと交渉した後、再度扉を開け『扉渡り』を別の扉に行くようにする。

そうじゃないといつまで経ってもベアトリスの部屋のままになるからね。

 

見慣れた部屋に入り執事服に着替える。

さぁ、今日から頑張るぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

********

スバルの啖呵から4日目の夜。

 

スバルの働きぶりはあんまり、良くなかったけど裁縫だけは得意という事で服の見繕いをよく任させていた。

私は、というとそれなりにこなしているお陰で、料理を任されたりしていた。

 

 

 

夜は各自自由で、スバルは庭で夜にしか会えない微精霊と会話しているエミリアと共に居た。

私は知識を深めるためにベアトリスの部屋にいた。

 

「よくもまぁ、毎日来るのね」

『知識深めるのに本を読むのは必然だろ?』

 

ベアトリスと会話しながら読書を進める。

 

 

途中スバルが一発目で部屋を当て茶化しに入るというのがあった。

 

 

 

「ペティーには関係ないことよ」

 

スバルが扉を閉めた時にかすかに聞こえた。

 

『――、僕はそろそろ寝るね。また、ベアトリス』

 

声をかけようとしたが言葉が見当たらず、禁書庫を後にする。

 

そして…向かう先はスバルの部屋。

 

寝ている彼はこの世で1着しかないジャージを寝巻きに活用し、眠っている。

 

そんなスバルの右手に回り、昼間ラムの買い物に付き添い、子犬に引っかかれた跡を撫でる。

 

 

 

『スバル、ゴメンね。アンタが死ぬって分かってんのに、私は何もせずただ傍観としていた。スバル、アンタが好きだ。――貴方が苦しんで絶望し、苦痛に歪む顔が……』

 

 

……オレは見たいんだよ、とは口にしない。

 

『――でも、苦しむ姿はあまり見たくない、生きて生きて、足掻け……。矛盾しているのは分かってる。スバル大好きだ』

 

 

 

 

 

 

――アタシと同じ様に狂ってるね、アンタ

 

 

不意にそんな言葉が聞こえた。

 

『…近くにいるのか』

 

――ええ、アタシはいつでも見守っているよ

 

『ああ、そうだったな。――サテラ』

 

サテラ…彼女はスバルの中そばに居る、嫉妬の魔女の名だ。

本来ならば、もう少し後で出てくる彼女。

この世界ではエトワールという例外が居るから出てきたのだろうと推測。

 

握っている手がだんだんと冷たくなっていくのを感じる。

 

死にそうな彼にキスを落とす。

 

『寝ている時ぐらいしか今は出来ないけれど、いつかは……』

 

…起きている時にでも出来たらな、と決意する。

スバルの体からエミリア似のサテラが出てくる。

 

『――どうしたの』

 

「貴女を見に来いって」

 

『そう。貴女も好きだもんね。もう1人の方が執着しているけれど。ちなみにループに制限は?』

 

「ないわよ。だから色んな選択して、色んな世界を見たいって」

 

『了解――次へ行くね』

 

「ええ、楽しみにしてるわ」

 

ここで取るべき選択は朝まで知らずに部屋で寝るかそのまま、自殺するかの2択。

 

私は自殺を選ぶ。

異空間からダガーナイフを取り出し、喉に刺す。

1回では死ねないから何回も喉元を刺す。

 

――いたい、痛い、イタイ、痛い

 

出血多量で意識が朦朧とするが、冷たくなっているスバルに再度キスをする。

 

――大好き。

 

 

 

 

 

 

ロズワール邸でのリスタートが始まる。



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