鎮守府にて反乱発生! (小魔神)
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1話

「今日も一日頑張りますか」

 

 と、そんな独り言を呟きながらベッドから顔を出す。正直に言えばずっと寝ていたいのだが、そういう訳にはいかない。さっきの独り言も自分を鼓舞するために言っているのに過ぎないのだ。

 ベッドを出た俺は、身支度を済ませて職場に向かう。職場といっても同じ建物内なのだが・・・。

 申し遅れたが、俺の名前は星野。この鎮守府で提督をしているものだ。つまり、職場とは執務室のことである。

 

「職場が近いっていうのはいいねぇ。何せギリギリまで寝ていられるんだから」

 

 通勤の時間というのは人生で最も無駄な時間だと俺は思っている。だってそうだろう? 一体、この時間が自分の人生に何か有意義なことをもたらしてくれる訳でもないのだから。

 

 さてさて、そんな無駄なことを考えているうちに執務室の目の前に来てしまった。はぁ、この部屋に入る前が一番嫌なんだよなぁ。まぁ、入らない訳には行かないのだが。

 

「おはよう、今日も早いんだな」

 

「もー、司令官が遅いんですよ」

 

 部屋の中には、俺の秘書艦でもある吹雪が既に仕事に取り掛かっていた。ちなみに彼女は俺の初期艦でもあり、付き合いは最も長い。故に他の子に比べれば、ある程度気心も知れている関係だ。

 

「そんなことはない、ちゃんと始業時間には間に合っているだろうが」

 

 そう、この鎮守府において俺の始業時間は午前8時半。今はまだ8時15分といったところだ。

 

「何を言っているんですか、その始業時間て司令官が勝手に決めただけじゃないですか」

 

「馬鹿野郎、お前は俺にずっと働けとでも言うのか。パンクしちまうよ。それに今となっては俺がいなくてもお前や大淀なんかが上手く回せるだろ?」

 

「確かに、それは否定できないですけど。でも司令官は司令官なんですから、私にはその代わりを務めることはできませんよ。それに私のことを良く思わない人だっていますし」

 

 と、吹雪は若干暗い表情で発言をする。

 確かに、彼女のことを良く思わない子がいるのは確かだろう。周りから見れば初期艦というだけで俺に贔屓されているようにも見えるだろうしな。

 

「それでも、俺が一番信頼しているうちの一人だよお前はな。言わせたい奴には言わせとけばいいんだよ。それに、お前のことを理解している子だっているだろ? あいつとかあいつとかさ。だから気にすることなんてないさ」

 

「司令官・・・」

 

 なんか、格好付けすぎたかもしれないな・・・。今、若干の恥ずかしさを感じている、というか吹雪のことを直視できないし。

 

「おー何やら、お二人とも良い雰囲気だね。こりゃあ、あたしはお邪魔かなっと」

 

 なんてケラケラと笑いながら部屋に入ってきたのは雷巡の北上。吹雪程ではないが、彼女も古参の一人ではある。

 

「からかうなよ、北上。ほら、吹雪も何か言ってやれ」

 

 正直、北上が来てくれたのは非常に有り難い。おかげで吹雪とも自然に話せるきっかけが生まれた。それよりも、気分屋の彼女がこんな朝から執務室にやって来るというのは、一体どういうことなのか? 鎮守府に鎗でも降らなければいいが・・・

 

「酷いなぁ、提督。せっかく、この北上さんが非常に重要な情報をもたらしてあげたっていうのにさぁ」

 

 こいつ、俺の心を読みやがった。

 まぁそれはともかく、彼女のもたらす重要な情報なんて所詮はたかが知れている。大方、今日の食堂のメニューが豪華だとかその程度のものだろう。

 

「えっと、重要な情報ていうのは何なんですか北上さん?」

 

 吹雪が若干訝しみつつ北上に問いかける。吹雪もきっと俺と同じようなことを考えているのだろう。

 

「お、聞いちゃいますかそれを」

 

「もったいぶらずに、早く言え」

 

「なんだよー提督は遊び心がないなぁ。そんなんだから女の子にもてないんだぞ」

 

 うっ、北上の発言が俺にダメージを与える。べ、別に彼女いないのはもてないからじゃなくて、縁がないだけだからな。

 

「まぁ、そこでダメージを受けている時点で図星だよねぇ。さて、それじゃあ私も落ち着いたから重大な報告をするとしますか」

 

 落ち着いたから・・・? どうも、その言葉が引っかかる。

 

「提督、いまこの鎮守府では反乱が起きてる。それもほとんどの艦娘が反乱側についてるよ」

 

 北上が先ほどまでとは違う真剣な声色でそう告げる。

 

「北上さん、何を言っているんですか。そんなことあるわけないじゃないですかー。流石の司令官も騙されませんよ」

 

 吹雪は冗談と捉えたのか、口元を抑えて静かに笑う。俺も冗談だと思いたいが、いつにもない北上の態度がそれを拒ませる。

 

「北上、真剣に答えろよ。それは本当か?」

 

「提督、私はそりゃあこんな性格だし適当なことも良く言うよ。でも今回は違う、反乱は本当に起きているよ」

 

「分かった、お前の言うことを信じる。流石に今のお前の言うことは冗談だと流しちまうことはできない。吹雪も、分かったな」

 

 彼女は北上は、おちゃらけた言動は多いもののここぞという時には何時でも俺の信頼に答えてくれた子だ。そんな彼女が、ここまで言うのだ。それを冗談と済ませてしまうことは出来ない。

 

「司令官がそう言うなら。それで北上さん、敵の規模はどれくらい何ですか? それに今の状況は?」

 

 先ほどまで、冗談だと笑っていた吹雪はすぐの態度を改める。普段の言動から、勘違いしてしまうこともあるが吹雪は非常に優秀な軍人だ。スイッチの切り替えが早い。

 

「さっきも言ったけど、ほとんどの艦娘は反乱側についていると見て間違いないよ。それに入渠施設や工廠なんかは多分もう占拠されていると思う」

 

 思っていたよりもヤバイ状況だな・・・。この執務室があるA棟はまだ無事のようだが。 

 だが、考えてみるとおかしい。そもそも何で反乱なんか起こした連中は真っ先にA棟を占拠しなかったんだ。俺を捕らえることが目的じゃあないのか?

 

「提督の予想は半分は当たって、半分は外れている。向こうの目的はこの鎮守府の占拠引いては提督の身柄の拘束だとは思うよ。だから本来ならばA棟を占拠して提督をさっさと拘束するのが正しいんでしょうけどねぇ」

 

「でも、それは出来なかった。きっと司令官を拘束することに反対する子も多いと思いますし。だから先に他の施設を押さえて、司令官には自発的に降伏してもらいたいってところなんじゃないですか?」

 

「俺って、案外慕われていたんだな。まぁ、反乱起こされている時点で何とも言えないけどな」

 

 と、冗談めかして俺は言う。

 

「それで、提督どうするー? 素直に降伏すればひどい目に会うこともないと思うし、それも一つの手かもしれないよー」

 

「北上さん、何を言っているんですか! 司令官に反乱するような連中にどうして司令官を差し出すんですか。ここは徹底的に抵抗するべきです。もちろん司令官が矢面に立つ必要はありません。私たちで何とかします」

 

 正直に言うと、北上の言うことにも一理あるとは思う。けれど、それは他のだれでもない吹雪は決して許さないだろう。彼女が俺の安全を考慮していないとかいう訳でもなく、最も俺のことを尊重するが故にだ。

 

 そんなことを考えていると、突如部屋に放送が流れてくる。

 

 



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2話

『鎮守府の全艦娘及び提督に告げる。既に多くの者は事態を把握しているだろうが、既にこの鎮守府は我らの手で占拠されている。無駄な抵抗はお互いのためにならない、素直に出て来てもらえないだろうか? 無論、こちらも手荒なマネはしないことは約束する』

 

 この声はあいつだな、そこまで嫌われるようなことはしたような記憶はないんだけどなぁ。

 

「この声は長門さんですね。彼女が今回の反乱の主犯ということでしょうか? まぁ、司令官の敵には違いないでしょうけど。」

 

 吹雪が顔をしかめる。彼女はどうにも、戦艦や空母の艦娘を毛嫌いしている気がある。無論、彼女にもそれ相応の理由はあるのだろうが・・・。

というか、なんとなく吹雪にそのことを問いただすことが藪蛇になりそうなので、気後れしているだけなのだが。

 ただ、ここに居る北上にはそんな考えは微塵もないようで、いつも通りニヤニヤと笑いながら吹雪に問いかける。

 

「相変わらず、吹雪は戦艦には当たりが強いよねー。ちなみに、何でなん? 私も理由は知らないしさー」

 

「別にそういうつもりはありませんけど。ただ、戦艦や空母の人達は、外見や戦力もあるのでしょうけど、基本的に駆逐艦や軽巡のことをどこか下に見てますからね。兵器に上下関係があるなんておかしいと思いませんか? そういうのは司令官とだけにあればいいんですよ。無論、当人たちにも悪気は無いんでしょうけど」

 

 吹雪の言っていることは分からないでもない。確かに、うちの鎮守府においても戦艦や空母が艦娘の中では主導的な立場にはある。ただ、考えてみれば艦娘には階級なんてものは存在しないのだから、そういう構造自体が歪であるともいえる。

 まぁ、個人的には戦艦や空母は、それ相応に上に立つ資質を持っている奴らが多いし、そもそも他の艦娘からは不満が出ている訳でもないのだから、別に問題ないとは思うけどな。

 

「へー、吹雪ってそんなこと考えてたんだ。こりゃあ、私もあんまり駆逐艦のことウザイなんて言ってると吹雪に嫌われちゃうなー」

 

「北上さんのことを嫌ったりなんてしませんよ。もう長い付き合いじゃないですかー。それよりも、今はこの状況についてどうするかですよ」

 

 吹雪が、手を振りながら北上の発言を否定する。吹雪もこの話題を避けたいからか、強引に話の軌道を修正する。

 

「そうねー。ぶっちゃけ提督はどうしたいわけ? 私と吹雪で話しててもしょうがないしさぁ」

 

 俺かぁ。正直、突然のことすぎて、頭が追いついていないんだよなぁ。そもそも、相手の目的も分からないし。とはいえ、何らかの方針は出さないといけないだろう。

 

「吹雪、北上、悪いけど投降するわけにはいかない。あいつらの目的も分からない以上、下手なことはできないからな。悪いけど、俺に付き合ってくれ」

 

「「了解!」」

 

 これで、俺たちの方針は決まったわけだが、大きな問題がある。

 

「そもそも、俺に味方してくれるのって、お前らだけなのか。なんか、俺の人望って全然なかったんだな」

 

 改めて、考えると数百人の部下がいて味方してくれるのが二人っていうのは、どうなんだろうか?

 いや、別に味方が二人だけとは決まった訳ではないが。

 

「そ、そんなことないですよ。司令官は人間的に、とても良い人だと思いますよ」

 

「吹雪も必死になってフォローしてるけどさぁ、別に提督のことを嫌っている子なんて、そんなにはいなかったとは思うよ 」

 

 そう言われるだけでも、自分の中の沈んだ気持ちが多少はマシにはなる。無論、彼女たちの立場ではそう言わざるを得ないという側面はあるにしてもだ。

 

 結局、俺って単純なんだよなぁ。

 

「まぁいい。それよりもだ、今からの行動を考えよう。まともに考えればこっちの戦力ではどうしようもないが」

 

 こちらと向こうの戦力比は絶望的だ。この俺の発言には吹雪も北上とウンウンと唸っている。

 が、北上が妙案を思い着いたとばかりに両の手を叩き、口を開く。

 

「それなんだけどさぁ、ぶっちゃけ提督が呼びかければ多少なりとも味方してくれる子はいるんじゃないのー? 別に嫌われてる訳でもないんだからさぁ」

 

「けど、北上さん。私たちに味方してくれる人がいたとしてもこのA棟には入ってこられないんじゃないですか? 多分、ここ囲まれてますよ。 向こうからしたら、さっさと突入でも何でもして司令官の身柄を拘束できる状態にはしているはずです」

 

「それもそうだよねー。それじゃあ、こうしようか? 私が長門に直接お願いしてみるよ」

 

 いやいや、こいつは一体何を言っているんだ? そんなこと相手がOKを出すわけないだろうに。

 

「北上、いくらなんでもそれは無茶だろ」

 

「そうですよ北上さん。遂におかしくなっちゃったんですか?」

 

 吹雪も俺に追随して北上に発言する。というか、何気にこいつ酷いこと言っているよな

 

「うげー、二人とも私を信用してないな。まぁ、多分上手く行くと思うよ。もしダメだったとしても他に手段もないわけだしね。それじゃあ、ちょっと行ってくるねー」

 

 そう言うなり、北上はひらひらと手を振りながら部屋を出ていく。

 その動きが余りにも自然なものであったため、俺も吹雪も当たり前のことのように見送るしかなかった。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「と、いうわけで来たんだけど。ていうか、こっちのリーダーは長門でいいの?」

 

 現在、北上は長門と向き合っている。その、長門の傍には陸奥が控えている。

 

「いや、別に私がリーダーという訳ではないのだが・・・。まぁ、いい。それで私たちがそれを許すとでも思っているのか?

 

 A棟から出てきて当たり前のように自分の前に座っている北上を前に、長門は言いようのない不安を感じる。何故、北上はここまで自然体でいられるのだろうか? 長門自身も実際に反乱を起こす際には焦りや焦燥感を感じたものだ。無論、それは今でも消えていない。

 

「ん、逆に聞くけどダメなの? 長門たちにとっても敵が明確になっていいじゃん」

 

 それにと、北上は更に発言を続ける。

 

「これは流石にフェアじゃないでしょ。確かに、戦争に卑怯も何もないけどさぁ。それでも、これは不義理だよ。提督からすれば厄災でしかないじゃん。だったら、少しくらいおまけしてくれもいいじゃん」

 

 口調こそ変わらないものの、その声色には先ほどにはない怒気を孕んでいることは明確であった。だからといって、長門が怯えるということはないのだが。ただ、一つ分かったことは、決して北上も自然体でいたわけではないということだ。

 

「確かに、北上の言いたいことも分かる。私たちもこれが決して褒められるやり方ではないとは自負している。だからこそ提督の身の安全は保証する。それが私たちのせめてもの筋だ」

 

「甘いね。そんなのはただの自己満足に過ぎないし、筋だなんで言葉にすり替えて陶酔しているだけだよ」

 

 確かに、北上の言うことが正しいのだろう。長門自身も今回のことで提督に関して負い目を持っていることには間違いはないのだから。

 と、発言に困窮する長門を見かねて、それまで口を噤んでいた陸奥が口を開く。

「もう、認めてあげてもいいんじゃないかしら。それに北上の言う通り提督の側につく子たちも把握できるのは利点でもあるわ。重要な施設はこっちが押さえているわけだし」

 

 陸奥からすれば、長門に北上の案を認めさせることで吹っ切れさせようとする魂胆だったのだが、長門がそれをどう受け止めるかは分からない。

 一方の北上は、その発言で気をよくしたのか、更なる要求を突き付けてくる。

 

「それとさぁ、提督もいることだしA棟の近くでは弾薬の使用を禁止して欲しいんだよねぇ。もしものことがあったら怖いからね」

 

 北上の言うことを拒むことは難しい。長門たちにとっても、提督の身は案じなければならない事案であるのだから。

 

「分かった。北上、お前のいう二つの提案、両方受けよう。その代わり、もうこちらも遠慮はしない。1日だけ待つ、それまでに投降してくれることを期待している」

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「というわけで北上、ただいま戻りましたー」

 

 部屋を出て行った時のような自然体で北上が部屋に戻ってくる。

 戻った北上から、報告を受けた俺は吹雪と顔を見合わせる。

 

「司令官、何とかなるかもしれませんね」

 

「後は、俺の人望次第だな」

 

「どうやら、この北上さんはお役に立てたみたいだねー 」

 



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3話

()()

 

「翔鶴姉、提督さんのところに行こうよ。確かに目的も分からないわけではないけどさぁ、こんなのやっぱり良くないよ」

 

 どこか懇願するような声色で瑞鶴は姉の翔鶴に話しかける。

 とはいえ、既に彼女の中で方針は定まっているようではあるが。

 

「瑞鶴、あなたの言うことは最もだけど私は提督のところには行けないわ。それはきっと一航戦の方々も同じだと思う。提督の無事は約束するし、瑞鶴も協力してくれないかしら?」

 

 一方、翔鶴の方は諭すかのように瑞鶴に語りかける。それは自分の考えが瑞鶴のそれとは違うということを暗に示すかのようなものであった。

 

「翔鶴姉・・・。ううん、それはできないよ。やっぱり、私にとっては提督さんの方が大事だもん。翔鶴姉が付いて来てくれないのは残念だけど、私一人でも提督さんの所に行くよ」

 

 フルフルと首を振り、瑞鶴は翔鶴を真っ直ぐ見つめてそう言う。その目は、姉妹の決別を示唆するには十分すぎるものであった。

 そうしてどれくらい見つめ合っただろうか? 一瞬にも長時間にも感じるそれの後、瑞鶴は翔鶴に背を向けてA棟に向かうのであった。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「赤城さん、加賀さん、すいません。あの子を引き留めることができませんでした」

 

「別に気にしなくてもいいわ。あの子にはあの子の信念があるのだから。そうよね、赤城さん?」

 

「えぇ、そうですね。私も瑞鶴さんの考え自体は理解できます。とはいえ、こうして敵同士になったのなら、仕方ありません。なるべく傷つけたくはありませんが、戦うこととは避けられないでしょうね」

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「あれー瑞鶴。もしかして提督のとこに行くの?」

 

 A棟に向かう瑞鶴に一人の艦娘が声を掛ける。

 

「そうだけど、もしかして私を引き留めにでも来たの? だったら無駄よ、もう翔鶴姉にも自分の意思は伝えた後だから」

 

 きっぱりと瑞鶴は拒絶の意思を示す。

 一秒でも早く、彼女はA棟に向かいたいのだ。

 

「違うよぉー。私も提督のところに行こうと思っていたから、良かったら一緒に行かない?」

 

「別にいいけど・・・。こんな状況でも相変わらずね」

 

 半ば呆れたように瑞鶴は言う。表面上は平静を装ってはいるが瑞鶴も心のなかでは、不安が、慣れ親しんだ海のように波立っているのだ。

 

「ん? 相手が瑞鶴だからだよ。私も最初は戸惑っていたわ」

 

 ニコリと笑顔を瑞鶴に向ける。

 その笑顔を直視した瑞鶴は、どこか気恥ずかしさを感じる。そして、それを隠すように発言する。

 

「まぁ、私達ってそれなりに縁があるものね。あの時みたいに絶望な戦いかもしれないけど、今回は勝利を掴まないと。瑞鳳も協力してよね」

 

「それでこそ私たちの旗艦様、お互いに頑張ろうね」

 

 二人は決意を新たに、改めてA棟に向かう。

 

「いやー、お二人さん仲がいいね。私も仲間に入れてよ。そこそこ、役に立つと思うからさ」

 

 そんな二人の会話が終わるのを見計らったかのように、声を掛ける存在。

 

「誰・・・って飛龍さん。飛龍さんも一緒に来てくれるの? これなら加賀さんたちにも負けないわね」

 

「いやーそこまで期待されてるのは嬉しい反面プレッシャー。まぁ、できる限り頑張るけど」

 

「それじゃあ飛龍も一緒に行こう。これで仲間が3人ね」

 

 紆余曲折はあったが提督の下に3人の空母が仲間が集った。

 

 一方、瑞鶴は心の中である疑問が生じていた。

 (なんで、瑞鳳って飛龍さんに対しても呼び捨てなんだろう?)

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

()()()()

 

「司令官のところに向かうべきです!」

 

 きっぱりと朝潮は目の前の駆逐艦達にそう告げる。

 それは、彼女自身の信念に基づく発言であった。そう、彼女は司令官に忠誠を誓ったのであって、その他の誰にもそれを向けたことはない。ならばこそ、彼女がその発言をしたのは必然であった。

 

 しかし、他の駆逐艦の反応は芳しくはない。

 

「それなら、朝潮ちゃんが行けばいいじゃない」

「司令官には何もしないみたいだし、むしろ戦うほうが危ないじゃない」

 

 そこには、朝潮を非難する声も少なからずあった。

 無論、彼女たちには彼女たちの言い分があるのだ。そして、それは朝潮のそれとは相容れない。なれば、反発するのは必然であった。

 

 そうして、なし崩し的に場が解散する。

 

 

 

「私だけでも司令官のところに行かないと」

 

 朝潮は一人寮を抜け出しA棟に向かう。

 そんな彼女に声をかける存在。

 

「司令官のところに向かうのかい? だったら私も行くさ。司令官の信頼を裏切るわけには行かないからね」

 

 白い帽子を目深に被った少女はどこか芝居がかったように、同行を申しでる。

 

「雪風も忘れないで下さい。しれぇにはお世話になっていますから、裏切るわけにはいきません」

 

 白いワンピースを着た少女は、ニコニコとした表情を浮かべながら、強い意志を示す。

 

「二人ともいいの? 私もそうだけど仲間や姉妹とも戦うのかもしれないのよ?」

 

「問題ないさ、それに雷や電はともかく暁は私がこうすることなんて、きっとお見通しだっただろうしね」

 

「雪風も大丈夫です。それに多分、同じ駆逐艦ならケガをさせずに倒せると思います!」

 

何はともあれ、また提督側に貴重な戦力が増えることとなった。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

A()()()()()

 

「司令官、見てください仲間が増えましたよ」

 

 吹雪がジャジャジャジャーンと効果音が付く行きおいで両の手を向ける。

 

「イエーイ!」

 

 北上もそれに合わせて場を囃し立てる。

 

「いや、まぁ知っているけど。ずっとここにいるし・・・」

 

 そう、俺は仲間が増える一部始終を0から10までしっかり見ているのだ。

 

「提督ぅ、こういうのは雰囲気だよー。何となくいけそうに感じるじゃん」

 

 まぁ、さっきまでの絶望感は多少なりとも拭えたのは間違いない。

 さて、改めて集まった面子を確認しよう。

 

 駆逐艦

 吹雪 朝潮 響 雪風 Z1 Z3

 

 軽巡

 北上 大井 阿武隈

 

 重巡

 プリンツ

 

 戦艦

 ビスマルク

 

 空母

 飛龍 瑞鶴 瑞鳳 グラーフ

 

「いや、やっぱり厳しくないかこれ? それに大井と阿武隈はいつからいたんだ、全く気付かなかったんだが」

 

 改めて、味方を見回すことで、こちらの戦力の少なさが改めて実感できる。

 てっきり、30人くらいは味方してくれるのかと思っていたんだが・・・。

 

「提督もまだまだね。北上さんがいるところに常に私はいるのよ。そこのフレンチクルーラーは知らないけど」

 

「フレンチクルーラーって私のことですかっ? ヒドッ、心外なんですけどー。私がここにいるのは、遠征の報告で今朝来ていたからです」

 

 なるほど、二人の言い分は分かった。

 ていうか、阿武隈はともかく大井は結局、ここにいる理由が分からないのだが。ちなみに、北上は大井のフレンチクルーラー発言がツボに入ったのか笑いこけてる。

 

「むぅ、北上さん失礼すぎるんですけど」

「ご、ごめん。あぶ・・・フレンチクルーラーちゃん 」

「キーっ。もう知りません」

 

 二人の馬鹿みたいな会話は捨ておいて、もう一つ確かめないといけないことがある。

 

「なんで、ドイツ艦だけは勢揃いなんだよ。いや、有り難いけども」

 

 日本の艦娘よりもドイツの艦娘の方に信頼されていたのか? 

 国籍で贔屓したりはしていないはずだが。

 

 

「バカなことを言うのね。私、ビスマルク以外にあなたが頼れる存在がいるのかしら? いいのよ、もっと褒めても。オイゲンもそう思うでしょう?」

 

「はい、ビスマルク姉様は最高です、世界一です」

 

「「「はぁ・・・」」」

 

 何となく、ドイツ艦がここにいる理由が分かったような気がする・・・。

 

「ちなみになんだけど、ドイツ以外の海外連中はあっち側についているのか?」

 

 一応の疑問をぶつける。ちなみに質問相手はグラーフ・Z1・Z3の3人だ。あそこで馬鹿なやり取りをしている二人は知らん。

 

「他の連中は、静観を決め込んでいるようだ。本当は私たちもそうしようと思ったのだがな・・・」

「まぁ、そういうことよ」

「ビスマルクが提督を助けるって言って出て行っちゃったからね」

 

 なるほど、どうやらビスマルク様様なようだ。

 あとで、お饅頭でもあげよう。

 

 

 

とにもかくにも、状況は整ってきた。

 さて、これからどうなることやら。

 

 

 

 

 

 

 



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4話

私事ですが、新年そうそう胃腸炎になってしまいました・・・。


「さて、とりあえず味方も増えたことだが、正面からぶつかるには、まだまだ戦力が足りていないよな。そこのところ、北上はどう思う?」

 

 まぁ、こんなことは聞くまでもないことかもしれないが。周りの好戦的な奴らの現状を知らせるためにも敢えて問いかける。

 

「ん-、まぁ提督の言う通り正面衝突しちゃったら、勝てる見込みはないだろうねぇ」

 

「えぇ、北上さんの言う通りね。それほどまでにこっちの戦力は心もとないわ」

 

 北上、それと大井の回答は、俺のそれとは相違ないものだった。

 けど、改めて言われると今の状況が絶望的だと実感できて嫌になるな。まぁ、最初に比べれば多少は好転してはいるが。

 

「だな、それじゃあ、このくそったれな状況を打破できるアイデアを持っているやつはいるか?」

 

 とはいえ、上司の俺が士気を下げるような行動がとれるわけもなく、いつも通りの軽いノリで問いかける。

 

 

 ・・・

 

 しばらくの沈黙の後、吹雪ががおずおずと手を上げる。

 

「あの、司令官。今更ですけど他の鎮守府に助けを求めるのはどうでしょうか?」

 

 吹雪の提案は最もなものであったが、いまいち気が進まない。

 

「あー・・・、まぁしょうがないか。あんまり気は進まないんだけどな」

 

 例えそれで解決したとしても、俺の評価は地に落ちるだろうしな。まぁ背に腹は代えられないが。

 

 

「んー、提督さん。多分それは無駄だと思うな。多分、他の鎮守府もここみたいに反乱が起きちゃっているだろうし」

 

 が、その意見は瑞鶴によって否定される。というか、さらっと重要なことを言ったなこいつ。

 

「というか、お前らに聞きたかったんだが結局この騒動の目的は何なんだ? そこまで嫌われている覚えもないんだが」

 

「あ、提督さんは知らないんだ。別に提督さんが嫌われているわけじゃあないよ。少なくとも私は嫌っていないし。簡単に言うと、艦娘にも人権を与えろっていう主張を通すためのものみたいだよ」

 

 いまいち、納得いかない理由だな。勿論、そういった運動が行われていたのは知っているが、こんな暴動に発展するレベルではなかったはずだ。

 

「艦娘に人権って、ちゃんちゃら可笑しい話ですね。人権っていうのは人間に与えられるものなんですけどねぇ」

 

「相変わらず、お前はそこら辺、割り切っているよな」

 

 吹雪が心底呆れたように、相変わらずドライな発言をする。まぁ、今更ではあるが。

 

「吹雪は相変わらずだね。いや、出逢った頃の方がむしろ人間らしさがあったね」

 

 吹雪と並ぶ古参の響が発言する。ちなみに、ここにいる連中ではこの二人と北上が、この鎮守府の立ち上げ当初からいる面子になる。まぁ、他の連中とも付き合いは長いが。

 

「響ちゃん、私のことはお姉ちゃんって呼んでって何回も言っているのに。同じ特型駆逐艦なんだから」

 

「残念だけど、私の姉は暁一人だけだからね。でも個人的には吹雪のことは慕っているつもりだ」

 

「そう? なら、今はその言葉で満足しておくね」

 

 昔から続いている定番のやり取りだが、俺は響が吹雪を姉と読んでいる場面に出くわしたことはない。というか、未来永劫来ないと思う・・・。それほどまでに響は暁に対しての思い入れが強い。そんな響が暁を置いて、一人でここに来ていることに多少の驚きを感じているのも事実だ。まぁ、口にすることではないだろうが。

 

「話を戻すぞ、ってことは長門たちは艦娘の地位向上のために反乱をして、他の鎮守府でも同様のことが起きてるってわけだな。このことは鎮守府の連中は全員知っているのか?」

 

「んー、どうなんだろ? 私は今日になって加賀さんたちから話を聞いたから。瑞鳳はどうだった?」

 

「私は瑞鶴の話を聞いて合点がいったところよ。そっかぁ、この騒動って、そんな目的が有ったのね」

 

「え、そうなの? 飛龍さんはどうだったんですか?」

 

「ん、私? 私は前から知っていたよ。近々、騒動を起こすってことと、その目的も」

 

 おい、今の発言は見逃せないぞ。

 

「ちょ、お前。だったら、俺に教えろよ」

 

「ごめん、ごめん。でも、私も最初は向こうの言い分も分かるなぁって思ってたからさ。提督の身の安全についても考慮していたし。まぁ、最終的にこっちに付いたんだから許してよ、ね」

 

 今さら、グチグチ言っても仕方ないのは確かだし、ここは引き下がるか。というか、全員が反応の目的を知っているわけではないんだな。そうなると、目的を知らない連中のうち、大多数は俺よりも長門の方に従うことにしたわけかぁ。中々につらい事実だな。

 

「ん-、そういうわけじゃなくて大多数の子は長い物に巻かれたっていうか、戦力差を考えて向こうに付いただけじゃないかな?」

 

「心を読むんじゃない、北上」

 

「何? 北上さんに文句でもあるの?」

 

「ないから、お前はそこのフレンチクルーラーでもいじってろ」

 

「ヒドッ!!!」

 

 面倒くさいやつは放っておいて、最初の議題に戻るか。

 

「まぁいい。それじゃあ話を最初に戻すぞ。俺たちの方針決めだ」

 

「んー、幸いにもA棟は入り口が二箇所だけ。近くでの弾薬の使用も禁止したから、入り口に向かい打つっていうのが正道じゃないかな?」

 

「瑞鶴の考えは間違ってないと思うけど、それだとジリ貧になる。私は、逆にどちらかの入口に全戦力を注いで突破するべきだと思う」

 

「でも飛龍さん、それだと提督さんの安全を確保できるかが不安じゃないですか?せめて、もう片方に何人か残って、ある程度相手を引き付けておいた方がいいと思います」

 

 二人のそれぞれの言い分はよく分かる。そもそも、戦力差が大きい上に俺の存在が良くも悪くも行動に制限をかけているのだから、選択肢自体が少ないのだが。

 

 すると、ここまでほとんど発言のなかった雪風が口を開く。どうやら彼女は、持参した双眼鏡で相手方をじっと観察していたようだ。

 

「しれぇ、ちょっと外に出てもいいですか? 確かめたいことがあります」

 

「ん? なにか気になるものでのあるのか? でも、危ないからやめとけよ」

 

「大丈夫です。明日までは休戦なんですから。それじゃあ、行ってきますね」

 

 そう言うと、トコトコと雪風は部屋を出ていく。不思議とそんな彼女を誰も止めることができなかった。

 ていうか、あいつ俺に聞いた意味なかっただろ。

 

 

 なんやかんやで、方針が定まらないな。ビスマルクなんて、俺の上げた饅頭を食って、隅で茶を飲んでるし・・・。

 

 

 

 

 



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5話

 闇夜の中、一人の少女がトコトコと歩く。

 やがて、足を止めて後ろを振り向く。

 そこには、黒い服に身を包んだ一つの人影があった。

 

「よく気が付いたね?」

 

 どこか嬉しそうな様子で声の主は、雪風に話しかける。それはまるで、旧来からの友人に再会したかのようにも思える。

 

「当たり前ですよ、ご丁寧に雪風の名前で信号を送ってきたくせに」

 

 一方の雪風はどこか不機嫌な様子だ。ふんっといった様子で声の主に鋭い目線を向ける。

 

「君に気付いてもらえるかどうかは半信半疑だったけどね」

 

「で、用件は何なんですか?」 

 

「実はね、君が提督のところに行かなければ僕が行こうかと思っていたんだよ。提督にはそれなりに恩もあるしね」

 

「だったら、今からでもそうすればいいじゃないですか?」

 

「フフ、僕がそうしないことは君もよく知っているはずだろう?」

 

「相変わらずですね、このバトルジャンキー」

 

「雪風、それは誤解だよ。僕は君と戦いんだ。それだけなんだよ」

 

「はぁ、なら今やりますか?」

 

 そう言うや否や、雪風は相手の顔面に向かって掌底を繰り出す。

 が、その一撃は当たることなく空を切る。

 

「おっと、危ない。大丈夫、今日はやらないよ。君を呼んだのは僕の決意表明を聞いてもらいたかったからさ。完膚なきまでに叩きのめすから、首を洗って待っておきなってね」

 

「言いますね、この飲兵衛が」

 

「その時が待ち遠しいね助兵衛さん」

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「ただいま戻りました! 結局、特には何もありませんでした。しれぇ、心配かけてごめんなさい」

 

 出て行ったときと変わらない様子で雪風は部屋に戻ってきた。まぁ、見た目も特に変化はないし、何もなかったというのは本当だろうが。

 

 

 

 

「オイゲン、お饅頭はもうないのかしら?」

 

「提督、ビスマルク姉様がお饅頭を欲っしてますよ。早くください」

 

 ワガママお嬢様が何やら騒ぎだしたぞ。ていうか、一箱やったのにもう食ったのか。饅頭って、そんなにホイホイ食べるものでもないと思うが。

 

「司令官に対して物をたかるなんて、失礼です」

 

 今まで、俺の発言を横で黙って聞いてた朝潮が声をだす。相変わらず、真面目だなぁこいつは。一方のビスマルク達は、そんな朝潮をちらっと一瞥しただけだが。言っておくけど、朝潮の言っていることの方が正しいんだからな。あいつらには面倒なやつだとしか思わていないだろうが。

 

「朝潮、別にいいさ。こんな状況だ堅苦しいことは無しにしよう。な?」

 

「しかし司令官、それでは規律が・・・」

 

「ビスマルクは任務に対しては忠実だし、プリンツも言わずもがなだ。あいつらはオンとオフの切り替えは出来るから心配するな」

 

「司令官がそう仰るのなら・・・」

 

 おずおずと朝潮は引き下がる。あれは納得がいっていないって顔だな、まだまだ朝潮も未熟ということか。

 

「生憎だが、もう饅頭はない。お前もそろそろ会話に混ざれ、お前はこれからどうしたらいいと思う?」

 

「あらそう、残念だわ。意外と美味しかったのに。まぁ、いいわ。そうね、私としては、そこの空母二人の案には反対よ。瑞鶴の案だとジリ貧になるし、飛龍の案はそもそも、ここを脱出してどうするのかって問題があるもの」

 

 あっさりと饅頭のことは捨て置き、本題に入るビスマルク。こいつはやっぱり、やればできるやつだな。まぁ、普段がポケポケしているから、そのギャップのせいかもしれないが。

 

「なら、お前はどうするべきだと思うんだ?」

 

「休戦を無視して相手の頭を潰すのがいいんじゃないかしら? 一番、シンプルだし効果的だもの」

 

 まぁ、合理的だな。戦力差が大きいこの状況じゃ、上を潰すのが最も手早い解決方法だ。ただ、問題もある。

 

「それができるなら願ってもないがな。実際は難しいだろ? そもそも、失敗したらどうするんだ?」

 

「その時は負けを認めるしかないわね。けど、ここに籠っていても援軍が来るわけでもないのだから、やる価値はあると思うわ」

 

「ビスマルク、それは無茶じゃないか?」

「僕もそう思うな、ねぇマックス?」

「えぇ。けど、ビスマルクは言い出したら聞かないから・・・」

 

 身内から、思いっきり否定されているけど大丈夫か? 正直、それしか手は残っていないような気がするが。

 

「あら、あなた達。えらく弱気ね、そなことじゃ、ドイツが舐められるわよ。ねぇ、オイゲン?」

 

「はい。ビスマルク姉様の言う通りです。でもでも、相手の頭って誰なんですか? ナガート? 私、ナガートとはやりにくいなぁ」

 

 まぁ、しょうがないですね、とニコリとビスマルクに返すプリンツ。なんというか、こいつが一番得体が知れないな。

 

 

「さて、お前らの言いたいことは大体分かった。大きく分けて俺たちのとる方針はこの3つだ」

 

 1、降伏する

 2、籠城する

 3、攻め込む

 

「1は無いとしてだ、2か3のどっちがいいかというわけだが、平等に多数決で決めよう。2を選ぶやつは左手を3は右手をあげろ。それじゃあいくぞ」

 

 俺の号令と同時にこの場の全員が手を上げる。

 結果は・・・。

 

「3かぁ。まぁいい、そうと決まれば早速動く。相手に気取られたら終わりだからな」

 

「あーそれだけど提督、あたしは3には賛成だけど今すぐっていうのには反対」

 

 北上が口を開く。いつもの軽い口調ではあったが、そこには強い意志が感じられた・・・ような気がした。

 ふと、他の連中も見渡すと何人かは北上の意見に賛同しているのか頷く様子を見せる。

 

「なんでだ? こういうのは早目に動くのが何よりも大事だろ」

 

「提督、忘れてもらったら困るけど今は休戦中なんだよ? もし、私たちがそれを破っちゃったら向こうも律儀にルールなんて守るわけないよー」

 

 北上が俺に向けて諭すように話す。そして、大井が北上の発言に続けて言葉を重ねる。

 

「つまり、もし一撃で頭を潰さなければ向こうがどんな手を使ってるか分からなくなるわ。今は提督の身の安全を確保するという意味でここら一帯の弾薬の使用を禁じているけれど、それもどうなるか・・・」

 

 つまり一撃で決められる確証がないから、その案は取れないということか。ビスマルクのセリフでもないが、少し臆病になりすぎているような気もするな。

 

「北上さん、それに大井さんも何を言っているんですか。司令官がやれと言ったことならば失敗なんて考える必要なんてありません。作戦立案は私たちの仕事ではないんですから。考えるべきはいかに成功せるために動くかです」

 

 吹雪の言っていることは、それはそれで極論だとも思うが。とにかく、吹雪は俺の言う通り早く動くべきだと考えているようだ。成功するかどうかは置いておいて。

 

「吹雪、落ち着きなよ。私からすれば吹雪のほうが何か履き違えているように思えるよ。いいかい? 一番に優先するべきは司令官の安全だ。まぁ、それなら降伏してもらうのが一番だと思わないでもないけど、とにかく今すぐ攻め入るというのはあまりにリスクが大きい。それは作戦の失敗だけでなくし司令官の安全という意味でもね」

 

 そんな吹雪に冷静に反論をするのは響だ。

 なるほど、俺が北上や大井を臆病だと思ってしまったのは、あいつらと俺らでそもそもの前提条件が違うからなんだな。俺はいかにこの騒動を収拾させるかだけを考え、あいつらは何よりも俺の安全を考慮していると。そう思うとなんだか自分が情けなく思えてくるな。

 

「よし分かった。これからの方針を決める。基本的には瑞鶴の案だ。入口で相手の侵入を防ぎつつ、折を見て、片方の入り口に戦力を集中させて相手の頭を取りに行く! いいか、これは決定事項だ。全員これに従ってもらう。いいな」

 

「「「「「 ハイッ! 」」」」」

 

 部屋の全員が承諾を意味する言葉と同時に敬礼を行う。

 よし、これでこっちの方針は決まりだ!

 

 

 

 

 



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