俺と君はコロシアイの下に出会う ―君死にたまふことなかれ― (音佳霰里)
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コロシアイクルーズ編
コロシアイクルーズ編 プロローグその1



初めましての方は初めまして、そうでない方はこんにちは。
作者の音佳霰里と申します。
この作品を書こうと思った理由は、『せっかちクズ達のクトゥルフ神話TRPG』様と、スパイク・チュンソフト様の『ダンガンロンパシリーズ』に影響を受け、こういったサスペンス物を書こうと思ったからです。
それと、次回以降からはアンケートを多用して、ストーリーを読者の皆さんに決めていただく形にしたいと思っています。
それでは、本編どうぞ!


 

 

 ―――四月五日、午後十時。

 

 

 

 俺の名前は『藤内弘貴(ふじうちひろき)』。毎日課題とバイト、そして趣味に明け暮れている、どこにでもいるような、普通の大学三年生だ。

 俺は今、普通の人だったら出歩くことなどそうそう無いであろう時間に、とある場所を目指して歩いている。

 俺がどこを目指して歩いているのかというと、自宅から車で三十分かかる、近いとも言えないでもない、何の変哲もない、寂れた漁港だ。

 これはGoogleマップで調べたことだが、その漁港の周りにはこれと言って何も無いらしく、遊びたい盛りである一大学生が向かうのには少々物足りない様に感じる。が、なぜ俺がその漁港にわざわざ歩きで向かっているのかというと、昨日の朝、俺の家に届いた一通の手紙に理由があった。

 

 

 

 

 ―――四月四日、午前七時。

 

 

 

 フジウチ

「ふわぁぁぁ……」

 

 俺は、いつもの様に趣味の片づけをした後、二階建てである自宅の、二階にある自室から一階へと降り、これまたいつもの様に朝食を摂っていた。

 ちなみに、先ほど『二階建ての家に住んでいる』と言った俺だが、この家の本来の持ち主である両親は、海外出張という体でシンガポールへと遊びに行っており、ここ一年は帰ってきていない。もう二度と帰って来るなこのラブラブカップルめ。

 俺は慣れた手つきで朝食の後片付けを終えると、午前九時から始まる大学に間に合うように、余裕を持たせて七時半位に家を出た。

 家を出て、玄関のカギを閉める直前に、視界の端にあるポストの中に、何か白いものが見えた。

 

 フジウチ

「……? なんだろ……」

 

 普段から俺、というか家族全体が、新聞とかチラシとか、とにかくそういった郵便物の類をお断りしているので、形だけのポストの中に手紙が入っている、という事態がどれだけ異常なのかをわかっていただけるだろうか……

 そんな風に我が家の事情を脳内で披露しながら(誰かに聞かせるわけではないが)、ポストの中を覗いてみると、中には一通の高級そうな手紙が入っていた。

 その手紙は、いかにもお金持ちの使っていそうな、黒のバラがあしらわれた真っ白な便箋に入っていて、中央は手紙が飛び出ないように、とご丁寧にも赤いバラの封蝋*1で留められていた。

 オンライン上で何でも済んでしまう様なこのご時世に、わざわざ手紙―――それもこんな高級そうな―――を家なんかに送り付けるような物好きはいったい誰だろう、と思いながら開けると、次のような内容の手紙が入っていた。

 

 

藤内弘貴様

 

 私は貴方の『秘密』を知っています。それもバレたら貴方の人生に重大な影響を及ぼすような。

 もしその『秘密』がバラされたくなかったら、四月五日の午後十一時、S県N市の〇〇漁港にお越しいただきますようよろしくお願いいたします。

 また、この手紙は招待状も兼ねておりますので、お越しの際はこちらのお手紙を必ずお持ちいただきますようお願い致します。

 

木宮きらら

 

 

 フジウチ

「……なんだって?」

 

 思わずそんな声が出てしまう。

 気のせいだろうか、そう思って目をこすってから改めて見直してみても、その文面はちっとも変わるそぶりを見せない。

 首を傾げながら、俺はこの手紙について考える。

 

『木宮きらら』

 

 木宮きららとは、日本有数の財閥、『木宮財閥』の一人娘。

 両親の愛情とその権力を一身に受け、すくすくと育った、いわゆるボンボン。

 そんな木宮きららだが、面白い噂には事欠かさない人物……否、木宮きららという人物を語る上で、そういった噂は欠かすことの出来ない人物だ。

 例を挙げるとするならば、『木宮きららは複数の影武者が常にいる』『木宮財閥は全員が何かしらの武術を極めている』といったものだろうか……

 そういった噂が出る理由は、彼女が毎月の様に開催している、あるイベントにある。

 イベントには毎回十六人の人間が招待されて、完全非公開で『パーティー』を開いているみたいだ。

 彼女の所有する『ユスティノフ号』という豪華客船がパーティーの会場になっているらしい。

 あとは……そうだな、あの噂についても少し触れておくか。

 

『木宮きららのある噂』

 

 一時、木宮きららのファン達(ファンがいること自体が意外だった。なんにでもファンは付く物なんだな……)の間に流れた噂がある。

 それは、『木宮きらら死亡説』というものだ。

 この噂は、木宮きららのパーティーに参加したと名乗る女性が、SNS上にアップした『木宮きららが目の前でバラバラになって死亡した』というコメントが発端となって、一か月もの間、論争が巻き起こっていた。

 このコメントがアップされた当初は、テレビニュースでも取り上げられるほど話題となったが、彼女が再びパーティーを開いてからは、テレビでもニュースでも一切合切その話題を見なくなってしまい、奇妙な感覚がしたのは、当時中三だった俺もしっかりと覚えている。

 

 ……こんなところだろうか。

 もう少し調べてみたかったが、これ以上は授業に遅れてしまうし、ネット上の情報もあまり良い物が無さそうだったので、ここいらで切り上げることにした。

 俺は手に持っていたスマホを着ている上着のポケットにしまい、最後に手紙に一度目を落としてから、玄関の鍵を閉める。

 しっかりと鍵が閉められているのを確認した俺は、改めて学校へ向かうのだった。

 

 

 

 ―――四月五日、午後十時半。

 

 

 

 俺はようやく集合場所の漁港へと到着した。

 集合時間の三十分前だからだろうか、まだ参加者と思しき人は二、三人しかおらず、Googleマップの画像データで見た通りの寂しい印象が与えられた。

 まだまだ全員が集まるには余裕がありそうだったので、俺は一番近くにいた、気弱そうな、黒縁の眼鏡をかけた茶髪の男性に話しかけてみることにした。

 

 フジウチ

「こんばんは」

 

 ??? 

「……こ、こんばんは……」

 

 フジウチ

「えっと……あなたもこのパーティーの参加者なんですか?」

 

 ??? 

「は、はい……ということは貴方も……?」

 

 フジウチ

「えぇ……昨日の朝に手紙が届きましてね……」

 

 ??? 

「僕もです。いったい何が何だか……」

 

 そういうと男性は、腕を組んでイラついたような雰囲気を出している。

 それに俺は苦笑しながら答える。

 

 フジウチ

「それはみんなが思っているなんじゃないですか? ……それはそうと、ここで会ったのも何かの縁です、お名前を伺っても?」

 

 俺がそう言うと、男性は「忘れてました」なんて言いながら、こちらに自己紹介をする。

 

 ??? 

「はい、僕の名前は『四宮眞樹(しみやまさき)』と言います」

 

 フジウチ

「なるほど、四宮さん……ですね。俺は『藤内弘貴』と言います。よろしくお願いしますね」

 

 シミヤ

「えぇ、よろしくお願いします……藤内さんは、見たところ大学生、ですか?」

 

 フジウチ

「はい、そうですけど……」

 

 シミヤ

「やっぱりですね! 経済学部ですよね、〇〇大学の?」

 

 フジウチ

「えぇ、まぁ……」

 

 俺は、俺の個人情報をポンポンと出してくる目の前の男に、不信感を抱く。

 そんな俺の様子に気付いたのか、四宮は急いで謝ってくる。

 

 シミヤ

「あっ! すっ、すみません! 別にストーカーとかそういうのじゃないんです! だから引かないで!」

 

 さすがにそれは無理があるんじゃないか? 

 半歩後ろに下がりながら、そういった思いも込めて半目で睨む。

 

 シミヤ

「あぁっ! 全く信用されていない目線っ!! 違うんです僕は貴方と同じ学年で学部だから敬語は必要ないって言おうとしたんですだからそんなに引かないでっ!!!」

 

 フジウチ

「……それは無理があるだろ」

 

 シミヤ

「あっ! ようやく敬語が抜けましたね! ……でも信用してませんね!? なら良いです! こちらをご覧下さいっ!」

 

 そう言うと、四宮は肩にかけているショルダーバッグから、財布を取り出す。

 何をするのだろうと見ていると、彼は中から1枚のカードを抜き出し、こちらへ突き付けてくる。

 

 シミヤ

「ほ、ほら! 学生証ですよ! これで問題はないと思いますぅ!」

 

 フジウチ

「ん……まぁそうだな。……でもお前本当に同じ学部か? 見た事無いぞ? お前みたいなやつは」

 

 シミヤ

「……ほら、僕ってなんか印象薄いじゃないですか、だから覚えてないんだと思いますよ? きっと」

 

 フジウチ

「……そんなもんか?」

 

 シミヤ

「えぇ、そんなもんです」

 

 正直言ってそれはよくある。

 俺も俺自身があまり目立ちたくないのもあるが、一ヶ月ぶりに会った人とかに話し掛けると『誰?』とかよく言われるからな……ああいうのってなかなかに悲しいんだぞ。

 

 フジウチ

「そう言えばお前、なんで敬語外さないの? タメなんだろ?」

 

 シミヤ

「いやー、これはもう癖みたいなものでして……今までに何度か『敬語を外せ』と言われましたが、いずれも10分も持たず……」

 

 フジウチ

「んー、まぁお前がそう言うなら良いけどさ……とにかく! これからよろしくな、四宮!」

 

 シミヤ

「えぇ、よろしくお願いします!」

 

 そうして、俺達は握手をする。

 四宮に断りを入れてから、もう一人居た男性に声を掛けようとする。

 すると、もう集合時間になっていたのか、いつの間にか周りには年齢の違う、十五人の男女が居る。

 ……なんだアレ。どう見ても未成年な和服の子とかいるぞ。良いのか? 確か青少年健全育成条例とかあっただろ……

 俺が周りの人達を見回していると、黒服を来た人が、暗闇の奥からぞろぞろと、俺達を取り囲む様に出て来る。

 自然と俺達は、黒服の作る円の中央に集まるような形になる。

 俺達の間に緊張感が走る。

 すると、黒服の円の外から、新たに1人の黒服が入ってくる。

 その黒服は確認する様に俺達を見回すと、口を開く。

 

 クロフク

「皆さん、お集まりですね。……それでは、皆さんにはこれより木宮きらら様主催のパーティー会場へと移動して頂きます。なにか質問のある方はいらっしゃいますか?」

 

 黒服が、俺達に確認する様な声で聞く。……が、誰も声を上げない。

 黒服はそんな俺達を、30秒程待った後、頷いて、ほかの黒服達に指示を出す。

 俺達にその指示は聞き取ることは出来なかった。

 指示を出し終えた黒服は、俺達に向き直ると、先程よりも少し大きな声で、俺達にしっかりと届くように言う。

 

 クロフク

「かしこまりました。それでは、これから皆さんには、パーティーの舞台である『ユスティノフ号』へと移動して頂くのですが、場所が分からないように、皆さんには少しの間、眠っていただきます。少々手荒になってしまいますが、お許しください」

 

 そう言うと、黒服が一人一人の腕を掴む。

 その手には中に液体の入った注射器が握られており、誰でもこの後注射器が刺される事が、容易に想像できる。

 そして、俺の腕に注射器が刺さり、中の液体が体内へと流れ込む。

 

 フジウチ

「うっ……!」

 

 いきなりの鋭い痛みに声が出てしまうが、それよりも眠気が身体を蝕んだ。

 薄れゆく意識の中で、俺が最後に見たのは、段々と光を失いゆく、集合場所である漁港の姿だった―――。

 

 

*1
封蝋……蝋を溶かして、糊替わりにした物。少し昔の洋画等で見ることができる。





疲れた(唐突な脱力)
この作品を書こうと思った理由なんですが、元々は『せっかちクズ達のクトゥルフ神話TRPG』様のリスペクトをして、TRPGのシナリオを一本書きあげ、それのリプレイ風小説にしようと思っていました。
が、自分には書き上げるだけの技量がなかったので、この形に落ち着きました。
ちなみにこの話、及びあらすじの辺りからもう伏線が増し増しになっております(だから疲れた)。
それでは、次回でまたお会いしましょう。
以上、音佳霰里でした〜。


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コロシアイクルーズ編 プロローグその2

何だかんだで第2話の投稿です。
前回はすっごく投稿時間を間違えた…!

それはそうと、最後の方にアンケートがあるので、投票していって頂けると助かります。主に作者のアイデアが。

それでは本編、どうぞ!


 

 

 ―――??月??日、??時??分。

 

 

 ―――俺が目を覚まして、辺りを見回してみると、そこは豪華な部屋の中であった。

 

 

 そんなどこぞの雪国を題材とした小説の出だしのような現実逃避を出来る位には、俺も余裕があったみたいだ。

 俺が目を覚ました部屋には、かなりの広さがあり、等間隔に白いテーブルクロスの掛けられた丸テーブルが配置されている。

 しかし、何よりも俺の目を引くのは、部屋の中央にある、垂れ幕の下がったステージだろう。

 そこだけ何かを隠すようになっていて、誰も近づけまいという念すら感じることができる。

 次第に他の人たちも目覚めてきて、俺も混乱から回復する。

 集合場所のあの寂れた漁港にいた、俺以外の十五人のパーティーへの参加者と思しき人達が全員立ち上がり、さてどう動こうか、という話をしようとした時、唐突に部屋の電気が消え、俺たちは暗闇の中に放り出される。

 突然のことに驚いていると、次に、あのステージに覆いかぶさっているように垂れ下がっている垂れ幕へと、スポットライトが当たる。

 指名を受けたその幕は、まるで、心得たと言わんばかりに、ステージからゆったりとした動作で引いていく。

 そして、そんな隠されていたステージの上にあったのは、一脚の豪華な椅子、そして一人の茶髪の女性の姿だった。

 女性は、待ち望んでいたかのように俺達の事を確認し終えると、口を開き始める。

 

 ???

「ようこそ皆さん、この私の主催するパーティーへ」

 

『私の主催する』

 

 その言葉から俺は、彼女こそが俺達をこのパーティーに招待した『木宮きらら』本人なのだと推測する。

 

 キララ

「本日は私の主催するパーティーにご出席いただき、誠にありがとうございます。もうお分かりになられた方もいらっしゃるかもしれませんが、一応自己紹介を。私の名前は木宮(きのみや)きらら。一応皆さんのご自宅に招待状を送り、このパーティーにお越しいただくよう仕向けた、張本人です」

 

 優雅に洗練された動作で一礼をしながら、彼女は言う。

 ……張本人って言っちゃったよこの人。

 

 キララ

「さて、私自身あまり長い話を好まないので、さっそく本題に入らせていただきます。ご存じの方もいらっしゃるとは思いますが、私はよく、今回の様にイベントを開いては、様々な方の人生経験や、野望等を見て、聞いて、体験してきました。私は、そういった人間の内側に隠された、本性が好きなのです。ですので、皆さんには私の出す『課題』をクリアするために、競い合い、蹴落としあって頂きたいと思っております。……何かご質問等はございますか?」

 

 彼女は、うっとりとした様子だったり、何かを思いだすような様子を見せている。その変わりようは激しく、何も知らない人に同一人物であることを伝えたら、否定され、姉妹説を疑われるだろう。

 ……一応警戒しておくに越したことはないな。

 そして、一人の男性が、イラついた雰囲気をにじませながら、質問を投げつける。

 

 ???

「おいお前! 財閥の令嬢だなんだとかは知らんが、俺たちの中には仕事や学校があるやつもいるんだぞ! それに俺は締め切りが明後日にまで迫ってきているんだ! もし間に合わなかったらどうしてくれる!?」

 

 眼鏡をかけていて、先程までは知的な雰囲気を醸し出していた男性が、今は発狂寸前のような声を出している。

 その落差に俺たちはドン引きする。

 しかし木宮は、そんな(精神的な)悲鳴に近い怒声を聞いても、顔色一つ変えることなく、淡々と質問の答えを返す。

 

 キララ

「……そうですね、あなたの言うことももっともだと思います。ですが、世の中の学生たちはまだ春休み中、サラリーマンでも、忙し……いですね。でもご心配なく。このクルーズは最短二、三日で終わります。長くても、そうですね……一週間もかからないでしょう。ですので、心置きなく本イベントを楽しんでいってください。……他に何かご質問は?」

 

 彼女がそういうと、痛い位の沈黙が場を支配する。

 先の彼女の質問への返答を見る限り、この時点でこれ以上引き出せるような情報はないだろう。

 それを皆理解しているのか、誰も何も言うことはない。

 木宮はそれをしっかりと理解したのかしていないのか、説明の続きを始める。

 

 キララ

「……何もないようですね。そうしましたら、これからイベントの説明に入りますので、皆さんはいったん荷物を部屋に置いてきてください。皆さんのお部屋までは、黒服の者が誘導しますので、決してはぐれないようにしてくださいね」

 

 そういった彼女が手を軽く二回ほど叩くと、いつの間にやってきていたのか、俺たちのそばには一人につき一人の黒服が現れていた。

 ……というか俺たちはいったい何歳児だと思われているのだろうか。

 黒服は俺達の先を歩き、自室であるとされる場所まで誘導してくれる。

 この時間に、二、三個ぐらいなら質問ができそうだ。何を質問しようか……。

 

『過去の参加者について』

 

 フジウチ

「あの……過去にこのパーティーに参加した人について教えていただけますか?」

 

 俺は部屋へと向かう道すがら、そんなことを質問してみる。

 黒服はまさかそんなことを聞かれると思っていなかったのか、サングラス越しでもわかるくらいに目を大きく開け、オウム返しで聞き返してくる。

 

 クロフク

「は……?過去の参加者について、ですか……。それまた何故?」

 

 フジウチ

「いえ、昔木宮きららが死亡したって説が流れてたじゃないですか」

 

 クロフク

「あぁ……。木宮お嬢様にお仕えする身としては否定したいものですが、そんな噂も一時期はやっていましたね……それで?」

 

 フジウチ

「その噂の発端って、過去にこの『パーティー』に参加した人が流したらしいんですよ。それで、この後参加者たちは何をするのかな、と思いまして」

 

 俺は話しながら、黒服の動向を探る。

 嘘をついたりしている人の特徴としては、急にそわそわしだす、呼吸が変わるなど、不自然な動きをしたり、どこかぎこちない言動を取ったりする、等が挙げられる。

 嘘を嘘と見抜ける人でないと、この先生きていくには難しいのである。

 

 クロフク

「……このことはオフレコで頼みたいのですが」

 

 フジウチ

「……わかりました」

 

 よし、食いついた。

 ただ言動に違和感が無いのが不思議だな……。忠誠心からか? でもそれならこんな風に情報を出してはくれないはずだが……。

 

 クロフク

「実はですね、このパーティーを担当する黒服は、四、五人を除いて毎回違う黒服が担当しているんですよ」

 

 フジウチ

「なっ……!?」

 

 クロフク

「ですので、私共はそういった件に関しては、お力添えをすることができません。……申し訳ありません」

 

 思いもよらない返し方に、少し動揺してしまうが、俺は落ち着いて黒服の観察を続ける。

 呼吸や歩き方、仕草なんかに異常は見られない……? まさかこれは本当の事なのか?

 俺に怪訝な目で見られているのに気付いたのか、黒服は、「ですが」と続けてくる。

 

 クロフク

「ですが、固定メンバーの四、五人の内の一人に、コンタクトを取ることならできます。そこから先はご自分でやっていただけると……」

 

 フジウチ

「……本当ですか!? ありがとうございます!」

 

 クロフク

「ですが、会うときは指定した時間に、一人だけで来てください。もし我々が情報を流している事がバレたら、お嬢様に何を言われるかわかりませんので……」

 

 フジウチ

「分かりました……。でもどうして俺に情報を渡してくれるんですか?」

 

 クロフク

「さぁ、自分でも良く分かりません。ですが、あなたのような目をした方を、私は見たことがある。その方は、お嬢様の凶行を止める直前まで至られた。だから、あなたがお嬢様を止められることを願っております……」

 

 フジウチ

「……」

 

 俺は黒服の真剣な表情に、言おうとしていた言葉がすべて抜けていくような感覚を感じていた。

 この人は、俺のことを本気で信じてくれている、と。

 忠誠を誓う主のためなら、どんな手段だって使ってやる、と、そういう黒服の強い感情が、俺の心の中を駆け回って、揺さぶった。

 

 クロフク

「……さ、着きました。こちらが藤内様のお部屋となっております。中には、ベットやシャワールームのほか、スタッフルームや他の方のお部屋に繋がる内線もございます。また、テーブルの上には、今回のイベントで使うアイテムがご用意されておりますので、荷物を置かれましたら、そちらをご確認ください」

 

 フジウチ

「……なんか、ありがとうございます。色々と」

 

 クロフク

「……いえ、貴方のような存在は、我々にとっての希望ですから。これくらいは大目に見たってかまわないでしょう。……それと、貴方が会う予定の黒服の名前を教えておきます。名前を『大矢野玲羅(おおやのれいら)』と言います。私達『反きらら派』のトップです。会うときは、私の名前、『天川隆吉(あまかわりゅうきち)』を出してください。それだけで通るよう、話をつけておきます」

 

 フジウチ

「もう、ほんと、ありがとうございます……。何から何まで……。俺、皆さんの期待に沿えるよう、頑張りますから」

 

 クロフク

「えぇ。……それでは失礼します。そろそろ戻らないと、怪しまれてしまうでしょうし」

 

 フジウチ

「ありがとうございました。そちらも、お気をつけて」

 

 クロフク

「えぇ……お互いに、ですね」

 

 そういって黒服―――天川さんは去っていく。

 俺は、天川さんが見えなくなるまでずっと頭を下げ続けていた。

 天川さんが信じてくれたから、俺はこれからのイベントを乗り切っていこうという気持ちになれたんだと思う。

 そんな風に自分のことを振り返りながら、俺は割り当てられた自室へと入っていく。

 部屋の中には先程天川さんが言っていた通り、ベットにシャワールーム、それに小さめだが冷蔵庫とクローゼットがあり、なんだかビジネスホテルの一室に来た時の感じを思いださせる部屋の作りになっている。

 ベットの横には小さいサイドテーブルがあり、その上にはティッシュボックスやスタンドライトの他に、固定電話が備え付けられている。

 なるほど、これが言っていた内線電話か、と俺は思う。

 電話の本体には十二個のボタンが付いており、受話器と本体をつなぐケーブルの根元には、一枚のプラカードが付けられていて、そこには各部屋にかけることの出来る電話番号が書かれているようだった。

 一通り部屋の構造の把握が終わった俺は、荷物を置こうと、ようやく机の上に目を向ける。

 机の上には、一通の手紙と、一枚の裏返しで置いてあるカードがあった。

 俺は先に、カードよりも手紙を見ることを選んだ。

 手紙には、こう書いてあった。

 


 

 藤内弘貴様

 

 この手紙の隣に置いてあるカードは、次のイベントで必要となるものですので、常に肌身離さず、言われない限りはご自身のカードの柄を見せないようにしてください。

 もしも貴方がカードに描かれている絵の意味を知っているなら、私が行うイベントは、『アレ』であることが分かるでしょう。

 ですが、ネタバレはあまり面白くないので、もしも再び広間に戻る途中で誰かに会ったとしても、私が行うイベントの名前をばらさないであげてくださいね。

 

 木宮きららより

 


 

 ……なんだこれ。

 手紙に書かれている文面を短くまとめると、『カードを見ろ。そして自分の絵柄と私が何を行うのかをバラすな』という、今北産業……どころではなく、たったの一行で済む文面だった。

 このパーティーの主催者のアレっぷりに軽くうんざりとしていると、いまだ机の上で放置されているカードが目に入った。

 じっくりと、手を触れずにカードを観察してみると、裏面の一部に俺の名前が彫り込まれていて、尚且つ表面がキラキラとしている。何か特殊な加工等をしているのだろうか?

 俺は、カードの絵柄を見てみよう、と思う。カードを持ってみると、先程見つけたラメの影響か、見た目よりもずっしりとくるカードであることが分かる。

 そして俺は、カードを裏返して、そこに描かれている絵柄を見る。

 その絵柄を見て俺の脳裏には、ある一つのゲームが思い浮かぶ。

 あぁ、あのゲームか。確かに複数人でプレイするのにはいいよな、なんて俺は思う。

 

 

 そこに、描かれていた、絵柄とは―――。

 

 

 

 

 

 ―――??月??日、??時??分。

 

 

 俺はカードの絵柄を確認した後、机を調べた。

 机の一番上の引き出しには、おそらく予備の物であろう、カード類一式が入っていた。

 ラッキー、なんて思いながらそれをカバンに全て入れ、今俺は、目が覚めた時にいたあの大広間に、再びやってきていた。

 ステージ上には既に木宮が居て、こちらを見てニコニコと微笑んでいた。

 どうやら俺が一番最後だったらしく、既に大広間に入っていた十五人の目が、一斉にこちらへ向けられる。

 そのことになんだか気恥ずかしさを感じながらも、俺はさりげなーく広間の隅っこを陣取る。

 そして全員が落ち着いたタイミングで、木宮が話し出す。

 

 キララ

「皆さん、お集りになりましたね。それでは、ただいまから行う『イベント』の内容についてお話します。もうお気づきの方もいらっしゃることかと思いますが、これより始まりますは、『人狼ゲーム』になっております。人狼ゲームはご存じでしょうか?」

 

 木宮がそういうと、俺達の内の何人かは、頭から『?』マークを出す。

 その事に気付いた木宮は、いったん話を打ち切って、人狼ゲームの説明を始める。

 もう知っているよ、という方もいらっしゃると思うので、ここでは簡単にまとめたものを以下に書いておこう。

 

 ・人狼ゲームとは、味方になりすましたウソつきを会話で見つけ出す10名前後から楽しめるパーティーゲームである。

 

 ・プレイヤーは、全員とある村の住人として振る舞うが、その中の何名かは人狼役で、村人に化けて村を滅ぼそうとしている。

 

 ・村人たちは毎日、発言や仕草を頼りに見分けのつかない人狼を探し、多数決でもっとも疑わしい 1名を人狼とみなして処刑する。一方、人狼たちは人知れず毎晩誰か1名を選び餌食にしていく。

 

 ・こうして昼と夜が繰り返されて犠牲者が増える中、人狼をすべて処刑できたら人間の勝利。それよりも早く人間を減らし、生存者の半数を人狼で占めたら人狼の勝利。

 

 ・人狼や人間の他にも、夜に人狼を見つけることができる予言者や、昼間に処刑した相手が人狼だったか分かる霊媒師など数多くの役割があり、これらはプレイ開始前に配られたカードによって決まっている。そのため、同じメンバーで遊んでも毎回異なる展開を楽しむことができる。

 

 ・人狼は巧みなウソで、人間は的確な推理で、会話を通じて仲間を説得し相手を追い詰めていくのが「人狼」ゲームの醍醐味である。

 

 ……というのが、一般的な人狼ゲームの説明となっている。

 が、木宮は「ですが」と言葉を続ける。

 

 キララ

「ですが、今回皆さんにプレイしていただく人狼ゲームは一味違います。そう、その名も……!」

 

 キララ

「―――コロシアイ人狼ゲームです」

 

 ―――殺し合い……? いきなりそんな単語が出てくるとは思っていなかった皆の間に、緊張感が走る。

 しかし木宮は、何故か嬉しそうに言葉を続ける。

 

 キララ

「最近ニュースとかで騒がれている、いまだ逃走中の凶悪な連続殺人犯いますよね? 私は財力を使って、その犯人を突き止めることに成功しました。で。今回のこの人狼ゲームに、人狼役としてご招待しています」

 

 木宮の言葉を聞いたみんなの中から、困惑の声が上がる。

 それはそうだ。クルーズ中の客船という閉鎖空間の中に、十五人の人を殺している殺人犯が紛れ込んでいるのだから、怖くなって当たり前だろう。

 実際に、俺は今も恐怖で軽く体が震えている。

 が、木宮はそんな俺達にかまわず、ルール説明を続ける。

 

 キララ

「今回の人狼ゲームに参加している人狼は、その凶悪殺人犯の一人だけです。それで、人間側の勝利条件は一つだけ」

 

 キララ

「―――その人狼である凶悪殺人犯を、裁判で吊るし上げることです」

 

 キララ

「ただし、今回の人狼ゲームは、本来の物とは一味違います。頭に『コロシアイ』と付いていますからね。今回の人狼ゲームで犠牲者が出る方法は、大きく分けて二つあります。まずこちらは、皆さんが知っているように、人狼によって殺害されること。そして、もう一つの方法は―――」

 

 キララ

「―――人が人を、殺すことです」

 

 殺す……? 人が人を……?

 それはいったい誰がつぶやいたものだったか。

 そんな突拍子もない、人狼ゲームというゲーム内ではあり得ない事に、皆の頭はもうパンク寸前だ。

 しかし『人が人を殺すのか?』という呟きだけを拾った木宮は、嬉しそうに、赤くなった顔を両手で覆いながら、まるで運命の人との出会いの時を語るかのように、息継ぎもせず話し始める。

 

 キララ

「えぇ! もちろんそうです! 殴殺刺殺撲殺斬殺焼殺圧殺絞殺惨殺呪殺……殺し方は問いません。

『人狼を殺し、生き残った人だけがここから出られる……』

 ま、それだけのルールです。簡単でしょう? では、最悪の手段で最良の結果を導けるよう、せいぜい努力してください」

 

 それだけ言うと木宮は、いまだ固まっている俺達を尻目に、去って行ってしまう。

 

 ―――本当に、始まるのか……? この殺し合いが……?

 

 

 

 

 

 こうして、俺達の人生を左右することになるコロシアイ人狼ゲームが、始まってしまった。

 

 

 ―――拭っても拭い切れない、恐怖と不信感だけを置き去りにして―――

 

 




《キャラ紹介のコーナー》
・藤内弘貴(ふじうちひろき)
本作のコロシアイクルーズ編の主人公。
男性、大学2年生。一人称は俺。20歳になったばかりだったりする。


いかがでしたでしょうか?
アンケートの方をよろしくお願いいたします!
以上ほんへでした!


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一日目 ―――導入―――

やる気と執筆スピードが反比例していく作者の図

ちくしょうッ…!どうして…、どうしてやる気が出ないんだッ!!!

※シナリオは次から次に出てくる

それでは本編、どうぞ!


 ―――コロシアイ人狼ゲーム。

 

 それは、俺達にいきなり投げかけられた『ゲーム』であり、俺達がクリアしなければならない『課題』。

 それはあまりにも突然で、現実味のないまま始まってしまった。

 

 俺達があまりの出来事に呆然としていると、一人の女性が口を開く。

 

 ??? 

「あ、あの! 先程きららさんが言っていたことが本当なら、皆さんは全員カードを持っているはずです。これから一緒に過ごす仲間なんですから、自己紹介と一緒に、カードの公開をしてみませんか?」

 

 ……なるほど。確かに女性の言うことは理にかなっている。

 もしも、この中に重要な役割―――『霊媒師』や『狩人』、それこそ『人狼』だったり―――のカードを持っている人が居たら、その情報を持っているだけでも、人間側も人狼側も、ひとしく情報面でのアドバンテージを持つことができる。

 だが、人狼がカードを公開することはあり得ないだろう。第一、いくら人狼役が連続殺人犯だったとしても、やすやすとカードを公開してしまったら、一瞬でゲームが終了してしまうではないか。

 それはとてもつまらないし、木宮だって望んでいる結末ではないだろう。

 俺がそんなことを考えていると、先程『カード公開をしよう』と言っていた女性の隣にいる、優しい雰囲気を持つ男性が話し始める。

 

 ??? 

「……少し、良いかな? 僕の名前は『川守田正紀(かわもりたまさのり)』。神社の神主をしている。……それでカードの話だが、公開する、というのは無しにしないか?」

 

 すると、先程声を上げた女性が、男性―――川守田さん、というらしい―――の言葉に反応する。

 

 ??? 

「……何故、でしょうか?」

 

 カワモリタ

「いや、先程木宮さんが言っていたように、これは『ゲーム』なんだ。だから、先にカードの中身を公開してしまったらつまらないだろう? 僕が見た所、僕たちの部屋にはカードの替えっぽい物は無さそうだった。だから、そんなことを言ってしまったら困る人が居るわけだろう? 例えば、占い師とかね。それに……」

 

 ―――人狼とかね。

 

 彼ははっきりとは言わなかったが、言葉の裏に、そんな意味を隠しているかのように聞こえた。

 そして、彼の言葉を皮切りに、他の参加者も、次々と辞退し始め、それぞれの部屋に戻っていく。

 そうして残ったのは、俺と四宮、そして先程の女性を含めた、七人の男女だけだった。

 まず、先程の女性が口を開く。

 

 ??? 

「私の考えに賛同していただき、ありがとうございます。私の名前は『籃谷千紗都(かごたにちさと)』。特にこれといった職業でもない、……普通の専業主婦です。えっと……カードの絵柄はこれになりますね」

 

 おっとりとした、とても若々しい女性―――籃谷さん―――がそう言う。

 彼女は専業主婦だと言っているが、とてもそうとは思えない。もし彼女が女子高の制服を着て、自身を高校一年生だと名乗っていたのならば、恐らく俺は、あっさりと騙されていたのかもしれない。それくらい彼女は若々しく見えるのだ。

 

 そして、彼女の示したカードの絵柄は―――村人だった。

 

 それに続いて、今度は本物の女子高生(……だと思いたいが)が、歩み出てくる。

 

 ??? 

「じゃ次はウチねー。ウチの名前は『則岡(のりおか)くるる』。チョーイケイケのギャルだから、よろしくねー! ……はいこれ、カード」

 

 金色の髪をツインテールにして、ギャル特有の盛りまくったメイク、魔改造された学校の制服を身にまとった女性がそう言う。……ここまで露骨だと、逆になんか田舎者っぽいぞ……。

 

 そういう彼女の手(ネイルやらなんやらで見辛い)には、しっかりと村人の役職であることを示すカードが握られていた。

 

 そして次に、周りの視線を受け、俺が前へと進む。

 

 フジウチ

「どうも、俺の名前は『藤内弘貴』と言います。大学生になります。えっと……あ、これ、カードです」

 

 ……しまった。

 考えていたことの三分の一も言えなかった。まぁよくあることだろう、そう思いながら、俺は自身のカードを、絵柄が相手によく見えるようにして突き出した。

 そして次に、俺の隣へと移動していた四宮が、カードを手に自己紹介をする。

 

 シミヤ

「なら次は僕が。僕の名前は『四宮雅樹』です。僕も大学生で、さっき自己紹介した、そこの人……藤内さんと同じ学部になりますね。それと、カードはこちらになります」

 

 しれっと俺を巻き込みながら、四宮が自己紹介をする。

 少し色白な彼の手には、しっかりと村人のカードが握られていた。

 ……良かった。彼が狂人とかのカードを持っていなくて本当に良かった。

 俺は四宮のカードの引きの強さに感謝しながら、次の人の自己紹介を待つ。

 すると次に、茶色い髪の、パンチパーマがかかった女性が話し始める。

 

 ??? 

「なんや声が小さいなぁ。ウチの同期でももうちょい声出るで! ほら、しっかり挨拶しぃ! はいこんにちはぁ!」

 

 ゼンイン

「「「こ、こんにちは……」」」

 

 ??? 

「んー……声がまだちっさいけど、許したるわ!」

 

 ……何だこの人。

 急に言われたため、俺も思わず挨拶を返してしまった。

 誰がどう聞いても関西弁だと分かる言語を話す目の前の彼女は、まるで先程『コロシアイ人狼ゲーム』の事を伝えられていなかったかのような快活さで話し始める。

 

 ??? 

「んで、ウチが何者かっちゅう話やな。……ウチの名前は『古郷(ふるごう)ナツミ』。今は『砲丸社(ほうがんしゃ)』言う雑誌売っとるとこで働いとるんや。ヨロシクな!」

 

 そこまで話すと、彼女―――古郷さん―――は、今この場にいる全員分の名刺を、一人一人に渡し始める。

 全員分を渡し終えた古郷さんは、先程まで自身がいた場所に戻り、話を続ける。

 

 フルゴウ

「いやー、えらい昔の事やった……あれはウチが中学出た直後やから15の時くらいか、そん時たまたまその砲丸社のコラムを一般向けに応募しとってな、たまたまウチが出した『織田信長と明智光秀の禁断の関係!? 本能寺の変の裏で起こった愛憎劇を狙う!!!』みたいな中身のコラムがたまたま受けて金賞とってな、いやーすごいことやったわアレは。もうひっきりなしに次から次へと電話がかかって来てな、もうウチの両親も『電話線引きちぎったろか!?』なんてもーカンカンに怒るくらいヤバかったわアレは。んでな、その受かったあとなんやけどな……」

 

 …………………………ハッ! 

 いきなり話が飛躍しすぎて、少し意識が飛んで言ってしまったみたいだ……

 周りの人の様子を見てみたが、誰も似たような感じだった……ただ一人、当事者である古郷ナツミを除いて……。

 古郷さんの話を受けて、再起動出来ているのは俺だけみたいだ。

 もしここで俺が止めたりしなければ、彼女の(今は入社して3年目に入った所まで話している)笑いあり涙ありの話が、何時までも続いてしまうことになる。

 そんなことをさせない為にも、俺は意を決して口を開く。

 

 フジウチ

「あのー……古郷さん……?」

 

 フルゴウ

「それでウチと先輩は三億円事件を独自に追ってたんやけどな、後一歩ってところで時効を迎えてな、先輩と『惜しかったなー』なんて話してた所や!!! 何とウチらが三億円事件の犯人て睨んどった奴が拳銃持って出てきたんや!!! もーウチと先輩はビックリしてもうてな、声も出なかってん。でな、そこでまぁ犯人は拳銃をバーンて撃ってくるわけやん? でもウチらはそれに冷静に対応してな、ヒュって避けるやん? ほんだら……」

 

 ……聞いていないみたいだ。

 というか話めちゃくちゃ気になるぞ。良いのか、週刊誌の記者なんかよりもよっぽど向いてる仕事あるんじゃないのか、あの人。

 が、話が進まなそうなので、ここは心を鬼にして、大声で話しかける。

 ……後で個別で聞かせてもらおうかな、あの話……。

 

 フジウチ

「あのー!? 古郷さーん!? 自己紹介はー!?」

 

 フルゴウ

「うるさいわ!!! そんな大声出さんでも聞こえとるわっ!!! ……って、そう言えば自己紹介しとるんやったな、ウチら」

 

 フジウチ

「はい、後はカードの絵柄を見せていただければ……」

 

 フルゴウ

「ん、そやったそやった。ほら、これがウチのカードや! その目ん玉ひん剥いてよぉーく見ときや!」

 

 そう言って、彼女はパン屋の絵柄の描かれたカードを見せつける。

 そして、次の人は誰だ、なんて言うかのように周りを見渡し始めた。

 そうすると、頭を布で覆い、ボディラインのくっきりと出るような、独特な衣装を着た女性と、今時珍しい着物を着た小学生くらいの女の子の、親子……だろうか、が前に出てきた。

 最初に、親と思しき女性の方が話し始める。

 

 ??? 

「どうも皆さん、私の名前は『中願寺彩葉(ちゅうがんじいろは)』と申します。こちらは娘の『中願寺緋紗子(ひさこ)』でございます。……ほら緋紗子、挨拶を……」

 

 そう言われ、娘の方―――緋紗子ちゃん―――が前に出て来る。

 

 ??? 

「どうもー、わたくしの名前は『中願寺緋紗子』でしてー。そちらの『中願寺彩葉』の娘にございまするー。よろしくお願いいたしますのでー」

 

 お、おう……何と、言うか……とても、個性的な挨拶なんだな……最近の子は……

 いや、そうでもなかったみたいだ。なんか軽くだけど怒られてるぞ、母親の方に。

 そして母親―――彩葉さん―――が続きを話し出す。

 

 イロハ

「緋紗子……ゴホン、わ、私は寺にて尼僧をしております。娘の緋紗子はその見習いのようなものでして……そうです、こちらがカードになります」

 

 そう言うと、彼女達はそれぞれのカードを前に出す。

 彩葉さんの方は、カードに村人の絵柄が、緋紗子ちゃんの方は霊能者の絵柄の描かれたカードを手に持っている。

 

 フルゴウ

「はー……。アンタ……緋紗子、やったっけ? 意外やな……霊能者やったんか……」

 

 古郷さんが、目を大きく開いて、驚く様子を見せている。

 それは皆も同じだったようで、しきりに頷いている人が何人かいる。

 ……でもそんなに驚く事だろうか? 人狼ゲームってそういうもんじゃなかったのか……? 

 だが、話題は皆の役職の事から、他の話題に移って言った。

 

 フルゴウ

「……ま、ええわ。そういやウチら、どこに連れてこられたんやろうか……」

 

 クルル

「マジそれなー……ケータイも電波入んないし、マジ最悪……インスタ見れねーじゃん……」

 

 カゴタニ

「でも、きららさんの話から、ここが船の上だって言うことは分かっています、よね?」

 

 フルゴウ

「せやな。んー……」

 

 何かを考え込む古郷さん。

 ……一体何を考えているんだ? 

 すると、考え込んでいた為に下に下がった彼女の頭が、急に上へと飛び上がってきた。

 

 フルゴウ

「せや! みんなで探検しぃひん!? 探検!」

 

 シミヤ

「探検……ですか?」

 

 フルゴウ

「そ! 探検や! ウチらはアイツの……木宮きららの船……ユスなんたら号に閉じ込められたんやろ? んでここの事なんも知らんやろ? なら探検や!」

 

 クルル

「確かに……でもさー、探検するんだったら1人じゃヤバくない? 何かあったら危ないじゃん」

 

 フルゴウ

「うっ……ならテキトーに分かれりゃええやろ……そんなん……」

 

 探検、か……。確かに理にかなっている。

 俺達は何も知らないのだから、知る為に行動しよう、という事か……。

 でも組分けがネックになってしまっているな……。

 誰かに案がないか聞いてみようか……? 

 

 フジウチ

「なぁ、四宮。何か案無い? 案。このままだと単独行動する事になっちまうぞ、俺達」

 

 シミヤ

「そうですね……。ではここは任せてください」

 

 フジウチ

「そうか、なら頼んだ」

 

 そう言って、俺は四宮に後を任せる。

 ……何となくだが、こいつなら何とかなるような気がする。

 四宮は話し合っている古郷さんと則岡さんの近くに行くと、大きな声でこう言った。

 

 シミヤ

「そーれーなーらー! いーいーあーんーがーあーるーんーでーすーけーどー!」

 

 クルル&フルゴウ

「「キャッ!? /ウオッ!?」」

 

 フルゴウ

「なんやアンタ!? でっかい声出して……あー耳痛」

 

 クルル

「嫌々だけどそこの関西弁の奴と共通点見つけちゃったわ……でもさ、どうする訳? 実際」

 

 則岡さんがそう言うと、四宮は嬉しそうにその『案』とやらを語り始めた。

 

 シミヤ

「はい、僕の提案する『良い方法』。それは……」

 

 クルル&フルゴウ

「「そ、それは……?」」

 

 緊張感が場を支配する。

 静寂が場を満たし、誰かの唾を飲む音までもがはっきりと聞こえてくる。

 

 シミヤ

「それは……そう、複数人で動けばいいということです!」

 

 ゼンイン

「「「「「あっ……………………」」」」」

 

 全員が黙り込む。

 ……俺たちはどうしてそんな簡単なことにも気が付けなかったんだ……

 

 フルゴウ

「はぁ……なんやそないな事やったんかいな……緊張して損したわ……」

 

 古郷さんのその言葉に、この場にいる全員―――勿論四宮を除く―――が、一斉に頷く。

 

 シミヤ

「えぇ……中々にいい案だと思ったのですが……」

 

 カゴタニ

「は、はい。少なくとも私はその事に考えが行くことが出来ませんでしたので、私的には良い案だと思いますよ?」

 

 クルル

「まぁ……ウチも特に異論なしって感じかな。それでテキトーに分かれて動けば良いっしょ」

 

 フルゴウ

「なら決まりやな。よし、それじゃあここにいる全員で、この船の中を探索してみよか! 取り敢えず、2人以上のグループで絶対に動く事! ええな!?」

 

 その言葉に皆がそれぞれ肯定の意を示すと、古郷さんは満足した様にそれに頷き返し、「じゃあ解散! 2時間後位にまた集まろか!」という言葉で一時解散となり、それぞれが状況を把握する為に動き出すのであった―――。




 よ う や く 終 わ っ た 

この話を書き始めてから、書き終わるまでに1ヶ月近くかかったとかいう恐怖
この小説のシリアスシーンよりも恐怖してますねこれは…

という訳で、次回も楽しみにお待ちください!
以上、作者でしたー。


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