鈍感な彼氏と直接言えない彼女の物語 完結 (月島柊)
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第1話 女子生徒

この小説は2週間1回を目安に20時投稿になります
卒業まであと77日


 俺は影山蒼。高校3年生だ。就職先も決まり、あとは停学にならなきゃいいだけだ。俺の中学からの友達である勇気も就職先が決まっていて、もう2人で平和に過ごすだけだった。

 

「暇だよなー」

「そうか?昼休みとかサッカーしに行く勇気よりかは暇じゃないけど」

「ただ寝てるだけだろ?いいよなぁ」

「寝ればいいだろ」

 

寝てるのも楽だからいいんだよ、別に。いやけど、ここまで聞けば正反対の性格に見えるかもだが、実は共通点があった。

 

『青春かぁ…』

 

そう、彼女いない歴=年齢なのだ。周りは彼女ができているなかで、俺と勇気ができていない。

 

「気になってる奴とか、見られてる女子とかいないのか、勇気はサッカー部だろ」

 

サッカー部なんだからかっこいいと思う人もいるだろう。

 

「いない。つーかしってる奴しか見に来ないし。蒼は…科学科だからいないよな」

「悲しいこと言うなよ。確かにいないけどさ」

 

科学が好きな女子なんて滅多にいないし。今日ももう帰りか。

 

「じゃあ、俺帰るからな」

「また明日な」

 

俺は近くの駅まで歩いていった。歩いて5分くらいだった最寄り駅はJR西立川駅で、1駅で立川まで行ける。たまに立川まで歩くんだが、今日は歩く気力がなく、立川まで電車だった。西立川から

西立川

立川

八王子

片倉

中央線が運転を見合わせているときは

西立川

拝島

八王子

片倉

の八高線経由で行く。

話題が逸れたが、西立川からは18:35発立川行きで立川まで。電車には同じ高校の生徒が大量に乗る。この時間は10両での運転が多いため、あまり混まないが、席はすぐに埋まってしまう。俺が席の前に立つと、席に座っていた生徒がこっちを見た。

 

(ん?同じクラスの…春風…なんだっけ。春風でしか呼んだことないや)

 

俺は春風をずっと見つめていた。

 

「なに…影山くん」

「なんでもない」

 

俺は目をそらした。そらした先に誰もいない訳じゃないけど。

 

「そう?」

 

俺は立川駅で降りて、家に帰った。なんだろう、春風、よく見ると結構俺のタイプだった。黒髪ロングヘアーに落ち着いてる雰囲気。

 

「いや、付き合ってなんて言ったらダメだろう」

 

俺は自分に言い聞かせた。

 

 翌日高校にいくと、俺は勇気と一緒に体育館に向かった。体育館の朝清掃担当だったから。

 

「なぁ、久しぶりにやらね?人いないし」

「しょうがないな、するか」

 

俺はバク転で体育館に入った。一時期は2人でバク転してたから。

 

「蒼、モップくれよ」

「ほらよ」

 

俺はモップを投げ渡す。勇気はお返しに箒を投げた。

 

「だりー」

「暇だとか言ってたのはどいつだよ」

 

俺は面倒だと思いながらも清掃した。

 

 清掃が終わると、教室に戻った。昼過ぎになると、俺と勇気は屋上で昼飯を食べた。

 

「いつものところだよなぁ」

「落ち着くからいいだろ」

 

あまり人が来ないから落ち着いて食べられる。

ガチャ

言ったそばから人が来た。

 

「あ」

「あ」

 

俺と春風は目が合った。すぐにそらした。勇気には気付かれていない。

 

「どうした?蒼」

「ん?なんでもないさ」

 

俺は食べ始める。俺が屋根の上で、勇気が下で食べている。俺は飲み物を勇気に渡した。落とすだけだけど。

 

「ほらよ」

「サンキュ」

 

勇気が代わりのお茶を上に投げる。俺が掴むと、勇気はグッドサインをした。

 

「影山くーん」

 

下から俺を呼んだのは米坂だった。春風と仲がいいショートカットの女子。

 

「なんだ」

「瑞浪ちゃんのこと好きだったりする?」

「話したこともあんまりないからない」

 

俺は言い切った。話してないのに好きだなんて言ったらただの変人じゃん。

 

「蒼、彼女できるか、ついに」

「まだだよ」

 

俺は屋根の上から飛び降りた。勇気のもとに行き、俺は横になった。

 

「あと3ヶ月だぜ」

「そうだなー。3ヶ月で俺たちも別れるのか」

「いいだろ、そこまで会ってなかったし」

 

ただ、卒業までにはこれだけはしておきたいな…

 

【春風瑞浪視点】

 

 私は昨日の影山くんが頭から離れなかった。あの時の髪の靡き方まで覚えている。

 

「どうしたのー」

 

私の親友である米坂穂波。

 

「あの、影山くんなんだけど、頭から離れなくて…」

「じゃあ直接話しかけよ!」

「え!?ちょっ!」

 

私は穂波ちゃんに引っ張られて屋上へ。屋上では影山くんが屋根の上に、倉山くんが屋根の下に座っていた私と影山くんの目が合った。

 

「あ」

「あ」

 

すぐに目をそらした。そこに、穂波ちゃんが聞きにいった。

 

「影山くん、好きじゃないって」

「好きか聞いてきてなんて言ってないよ!」

 

私は鋭く言った。でも、ちょっと悲しい。もう少し話した方が良かったかな、卒業まではあと3ヶ月。付き合えるかな…




卒業まであと75日


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第2話 呼び出し

卒業まであと74日


 私は影山くんと話したくて、毎日影山くんと同じ電車に乗った。未だに話せてないけど、いつか話したい。

 

 学校にいると、私は2階の廊下から1階の渡り廊下を見ていた。体育館に通じる渡り廊下で、そこに影山くんが1人だけで通っていった。私がじっと見ていると、体育館から倉山くんが出てきた。影山くんは持っていた何かを投げ渡し、体育館に入った。私はそれが気になって体育館に向かった。

体育館では影山くんに見つからないようにこっそり隅にいた。

 

「勇気、今日何する」

 

今日は休日で、体育館の自由活動があった。自由に使っていい日が週に1度だけある。

 

「バク転するか」

「ホント好きだよな、バク転」

 

あれ、影山くんって科学科じゃないの?バク転なんてできるのかな。私はジーッと見ていた。

 

「せーのっ」

 

倉山くんと影山くんはバク転を始めた。少し長い影山くんの髪が揺れる。バク転ができるなんて、かっこいい。私はそう思った。

3回くらいしたあと、影山くんと倉山くんは戻ってきた。私はそこから離れ、高いところの通路に隠れた。

 

「そういえば、蒼ってさ、春風のこと気になってないのかよ」

 

え、私のこと!?だって、少し前に好きじゃないって言ってたじゃん!

 

「話したことないから何とも言えない。ただ、本人には言えないけど──」

 

私はそこまで聞いて逃げ出した。もう聞けない!ドキドキしすぎてもう無理!

 

 私は影山くんと同じ電車に今日も乗った。登校は一緒じゃないけど、下校は同じ電車。もうそろそろ話さないと。

 

「影山くん」

 

私は勇気を振り絞って言った。影山くんはこっちを見る。

 

「連絡先…交換しない?」

「いいよ。LINEでいいかな」

「あ、うん」

 

意外とあっさり交換できた。すぐ立川に着いちゃった気がして、私は家に帰った。影山くんは私とは逆方向の中央線なんだ。

私が家に着くと、すぐにベットに飛び込んだ。スマホを開き、LINEを開く。影山くんと交換したの、夢じゃないんだ。私は枕にぎゅっとした。

 

「影山くんと交換しちゃったーっ!大好きな人と交換できたっ!」

 

私は落ち着いてメッセージを送る。もう告白しちゃおうかな。あ、けど、直接しちゃうとドキドキする…遠回しに言おっと。

 

〈影山くんの好きな色って何?〉

〈紺〉

 

すぐに返ってきた。私と同じだ。

 

〈一緒!気が合うね〉

〈そうだな〉

〈私、大好き〉

 

これで通じるかな。鈍感じゃなきゃ通じるよね。

 

〈俺も〉

 

あ、「俺も」って、両思いだったの!?

 

〈紺色大好き〉

 

え、紺色のこと?なんだ、私のことじゃないんだ。

 

【影山蒼視点】

 

 春風から連絡が来た。

 

〈影山くんの好きな色って何?〉

 

どうでもいいけど、気になってるし返信しよう。

 

〈紺〉

 

冷たかったかな。たった一文字って。

 

〈私も!気が合うね〉

〈そうだな〉

〈私、大好き〉

 

これ、俺のことだろ。体育館に隠れてたの知ってるし。けど、知られない方がいいだろ。

 

〈俺も〉

〈紺色大好き〉

 

なんか会話が成り立ってない気がする。気のせいかな。

 

〈…そうだよね〉

 

俺はスマホを閉じた。明日は休みだし、ゆっくり寝ようかな。6日間よく頑張ったよ、俺の体。

 

 翌日は日曜日。誰にも誘われることなく自由に過ごそう。と思ったが、俺は昨日閉じたスマホを開く。LINEの画面のまま閉じたから昨日の状態だった。更新され、メッセージが数件あった。

 

〈影山くん〉20:10

〈おーい〉20:13

〈聞いてるー?〉20:13

〈明日のこと話したいんだけどー〉20:14

〈もう話しちゃうよ?〉20:14

〈明日、10:30くらいに拝島駅で待ってて〉20:15

〈絶対だよ!〉20:16

〈無視ぃ?〉20:17

〈待ってるから、返事ちょうだいよ?〉20:18

 

次のメッセージは約1時間半後だった。

 

〈返事は?〉21:50

〈もう、明日待ってるよ?〉21:51

〈じゃあ待っててね!〉21:52

 

これでメッセージは終わっていた。来てたのに気付かなかったが、拝島駅だよな。10:30かぁ。今は…

 

「やっべ!10:00じゃねぇか!」

 

俺は急いで支度をして家を飛び出た。集合まであと30分。間に合うのかよ。俺が片倉駅に着いたのは10:10。4分前に出ていった各駅停車八王子行に乗れば拝島には10:30着だったのに、次は10:17発各駅停車八王子行。拝島には30分遅れた11:00。八高線は本数少ないから、30分後になってしまう。俺はひとまず春風に連絡した。

 

〈悪い、30分遅れる。なにか奢るから許してくれ〉

 

俺はとにかく急ぎたいがために10:17発に乗っていった。

 

 八王子には10:20。俺は八高線ホームまで歩いた。次の電車は10:48。やってしまった。俺はそう思った。

そして、LINEが来た。

 

〈今日って何日?〉

〈3月20日?〉

〈ありがとう〉

 

俺たちの卒業式は3月24日。あと4日しかないんだ。

 

 拝島には11:00。すぐに駅前に向かった。そこには、春風が立っていた。

 

「ごめん、春風」

「いいよ、大丈夫」

 

春風は1人で歩いていった。俺、嫌われたかな。

 

「春風──」

「なに、影山くん」

「なんか俺嫌われたかな」

「どうして?だい…」

 

なんか言いかけた気がしたけど、気のせいかな?

 

「言いたいことがあって、月曜日、屋上に呼ぶから」

 

屋上に?というか実際に会わないとダメだったのか?そういって春風は立ち去ってしまった。

 




卒業まであと4日


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第3話 できない

新年一発目ですが、2週間に一回投稿なので今日が最初です。実は製作自体は1/4に終わってるので本当に書き始めたのも2021年ってことですね。


 俺は普段より少し早い、片倉6:38発各駅停車八王子行きに乗った。春風がどこに住んでるかは分からないが、多分国分寺寄り。

八王子には6:41。6:43発快速東京行きに乗り、立川からは7:02発武蔵五日市行き。7:05に西立川に到着した。俺は学校まで歩き、教室に入った。中には米坂だけがいた。

 

「おはよう、米坂」

「おはよう。あ、今日のお昼一緒に食べない?」

「あぁ、いいけど。急にどうした」

「ううん。あ、連絡先も」

 

俺は米坂と連絡先を交換した。LINEだけど。それにしても、なんでこんなに急に来たんだ。

 

「おはよう…」

「おはよう」

 

春風が入ってきた。屋上に呼び出されるんだっけ。朝呼ぶ気配はないから、昼休みか?

 

「春風」

「なに?」

「来て」

 

俺は春風を呼び出した。廊下の隅の方だ。

 

「昼に呼ぶんだったら今言ってくれ」

「どうして」

「米坂と昼飯食うから」

 

申し訳なかった。というか、好きな人なのに。

 

「え…じゃあ、いい。いつか言う」

 

え、いつか言うでいいのかよ。俺がそう言おうとするのを、俺の喉は頑なに拒んだ。なぜだ、喉が言うことを許さない。

 

「じゃあ…今日は話さないで。1人でいたい」

 

春風は俺の喉が働かないまま行ってしまった。喉が動いたのは春風が去ったあと。どうして今なんだよ。俺は自分が悔しかった。

 

 俺は下校間際に、春風の友達である米坂に肩を叩かれた。

 

「なんだ」

「あの…その…付き合ってください!」

「いいよ?」

 

俺はすんなりオーケーした。今度デートする場所も遊園地で決まり、その日を待った。裏があるようには見えなかったし、きっといい人だろう。

 

 そして当日、もう卒業間際だったが、俺は遊園地で米坂と一緒にジェットコースターやメリーゴーランドなどに乗って楽しんでいた。俺はどうしても聞きたくなって、メリーゴーランドから降りたあと聞いてしまった。

 

「米坂」

「ん?なに?」

「どうして俺を選んだ」

「好きだったから」

 

米坂は即答だった。普通だったらこんな即答できないはずだ。それに、顔は何かを嘲笑っているかのよう。

 

「そうか。ならいいや」

 

俺は何もなかったかのようにいたが、明らかに裏がある。俺は米坂が1人でどこか行ったあと、俺は米坂をつけた。

 

「連絡か?」

 

俺は独り言を漏らした。米坂は何か白い画面に打ち続けている。何か書いてるんだ。

 

「おっと、終わりだな」

 

俺は急いで集合場所に戻った。

 

「遅くなっちゃったね」

「ああ、大丈夫。気にするな」

 

俺は次の観覧車に向かった。観覧車でもう打ち明けよう。全くと言ってもいいほどにタイプと真逆。裏があるし、1人でいるときは何かメモってるし。

観覧車の上がりの途中、俺は米坂に言った。

 

「米坂、付き合って早々悪いんだけど」

「うん?」

「別れよう」

「え?」

 

米坂は笑顔を消した。さらに、急に声を怖くして言った。

 

「なんで」

「それだよ。裏がある人、好きじゃないんだ」

「……へぇ……いいよ、別れよう」

 

米坂は俺の顔に手を向けた。何をする気なんだ。

 

「ちょっとくらい残してもいいよね」

 

米坂は俺の目の下辺りを長くなった中指と人差し指の爪で引っ掻いた。

 

「いっ…」

「痛いんだ。もうすぐ終わっちゃうからね」

 

米坂はもう片方も引っ掻いた。俺の目の下がジンジンと痛む。

観覧車が下に着いてすぐ、米坂は走って遊園地を出ていった。俺は取り残された感じになって、あとから遊園地を出た。俺、春風と付き合えないかな…

 

 そして迎えた卒業式当日。卒業式が終わるとみんな正門前で男女や女子、男子同士で話していた。それは渋谷のようで、騒がしさもあった。俺は黙って春風を探していた。

途中で誰かとぶつかり、俺はすぐにぶつかった人に謝った。

 

「すみません」

「こちらこそすみません…」

 

その人は、俺の探していた人、春風だった。

 

「春風…!」

「影山くん?」

 

告白しようかと俺が悩んでいると、春風が俺を校外に連れていった。え、何が起こるの。

結局着いたところは桜並木がずらっと並んだ道だった。

 

「影山くん!」

「あ、はい」

 

俺は返事をした。何をされるのかまず分からないし。

 

「ずっと好きでした!付き合ってください!」

 

ああ、告白か……って、告白!?なんか普通の告白で捻りもなかった。けど、春風からの好意は伝わってきた。まるで覆われるように。

 

「俺なんかで良ければ」

「…うん!」

 

春風が俺に抱きつくと、桜の花びらが祝福してくれるように舞い始めた。春の風が、俺と春風を温かく包んでくれた。

 



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第4話 デート

今回から週1投稿です。
今回の登場人物
影山蒼
春風瑞浪
以上2名


 付き合い始めた俺と春風は、前に交換していたLINEで結構話すようになった。前までは1週間に1回話せれば多い方だったんだが、今は毎日欠かさず連絡を取りあっている。

 

〈影山くん、今度デートしない?〉

〈いいよ。いつがいい〉

〈明日とか?〉

〈オッケー〉

 

俺はすぐに返信した。明日でもどうせ暇だし。俺は春風に場所について聞こうとしたが、「内緒」と言われて聞けなかった。どんなデートだろう。集合場所は両方の中間地点の立川駅になり、時間は7:00となった。

明日、どんな服装がいいかなど、俺は考えていたが、結局いつも出掛けるときに来ている普段着にした。今年は寒波が居座り、まだ寒いから黒に灰色のラインが入ったジャージを上に着て、あとは黒で統一させた。ここまで黒の人もそう多くはいないだろう。

 

 そして朝になり、片倉6:09発各駅停車八王子行きに乗って八王子へ。デートだったら早く行った方がいいし、通勤ラッシュの混雑を避けるとこの時間になる。

八王子には6:12。ここから中央線だが、中央線はもう通勤ラッシュが始まっているため座れない。結構すいてる方だけど。6:21発の中央特快東京行き。立川までは各駅に停車するため混んでいない。

立川には6:32。改札の外に出ても、春風はいない。まだ30分くらい前だしそりゃそうか。

 

 6:40過ぎ、改札口から人が大量に出てきた。電車が着いたんだろう。そこに、春風が俺を見つけて寄ってきた。そして、俺に抱きつく。顔は真っ赤。

 

「なんか本読んできただろ」

「…うん…だって、デートだから楽しませないとって思って!」

 

春風は焦っている。俺は春風を落ち着かせたあと、手をつないで周辺を歩いていた。

 

「ねぇ、影山くん」

「なんだ?」

「呼び方変えない?いつまでもこのままじゃ親近感わかないじゃん」

「わかった。なんて呼んでほしい」

 

なんて呼んだらいいかこっちも分からない。春風は答えた。

 

「名前?」

「分かった。瑞浪」

 

春風はピクッと動いたあと、顔を赤くした。かわいい。

 

「か、影山くんは?」

「同じく名前で」

「うん…蒼くん」

 

俺も緊張しているのか、返事が出なかった。俺は駅周辺を歩いてるだけだった。

 

「蒼くん、行きたいとこある?」

 

早速さっき決めた呼び方だった。

 

「そうだな、御苑とか行くか?」

「新宿の?でも電車混んでない?」

「じゃあ車出すよ」

 

18歳になった途端にくるまの免許を取ったからもう結構運転している。

 

「じゃあ一回帰る?」

「そうなるね。ごめん、戻る方向なんだけど」

「大丈夫だよ。行こう」

 

俺は来た方向とは真逆の電車に乗って帰宅した。

 

 家で車に瑞浪を乗せ、俺はカーナビに新宿御苑までの道のりを調べさせた。

 

「京王片倉の方向まで行ってずっと首都高だな」

「蒼くん、運転できたんだね」

「まぁな。今逮捕されるのは怖いから法定速度もバッチリだ」

 

40km/h制限のところを60km/hでいく人はよくいるけど、逮捕されたくないからちゃんと40km/hで走ってる。急いでても40km/hを1、2km/hオーバーするくらい。

家を出て京王片倉駅の方向に向かって走る。瑞浪は発車前は話してきたが、発車後は話しかけてこない。さらには揺れに合わせて揺れるだけ。

 

「どうした、瑞浪」

「……運転の邪魔かなって…」

「話していいよ。ガンガン話してくれ」

 

瑞浪は遠慮がちな表情から笑顔に変わった。

 

「蒼くんは新宿御苑行ったことあるの?」

「数回だけ。けど、滞在時間はどれも2時間も居なかったな」

 

ただ気分転換に行っただけだったし。今回瑞浪と行くことは楽しみだった。

 

「瑞浪は行ったことあるのか?」

「ない。蒼くんに任せるよ」

 

俺も知ってることは少ないけど、なるべく案内できるようにしよう。

 

「そうか?案内できるか分かんないぞ」

「いいよ。だって行ったことないんだもん」

 

瑞浪は笑って言った。瑞浪がなんかかわいくて、俺は抱きたかった。しかし運転中で抱けない。

 

「蒼くん、あの、自分を責めるようで申し訳ないんだけど、どうして私なんかと付き合ってくれたの?」

「明るい人が、俺、好きになれないんだ」

「どうして?」

 

俺は昔の話しがてら理由を話した。

 

「俺が中学生のとき、転校生が来たんだけど、俺のとなりの人が明るい人だったんだ。その時は明るい人も気にしてなかったんだけど、転校生が来たら仲良くしたいだろ?」

「うん。私も仲良くしたい」

 

俺は話を続けた。

 

「俺も仲良くしたくて、転校生が来たら話そうと思ったんだけど、隣の明るい人がズカズカいって仲良くしちゃってさ、転校生は俺に見る気もなくなったんだ」

「それから好きじゃなくなったの?」

「そう。瑞浪がよかった」

 

瑞浪よりいい人はいない。というか、探したくない。もう1番だと思っていたいから。

 

 新宿御苑の駐車場に10:20に到着。車を止めて中に入る。中で俺と瑞浪は手を繋いだ。周りは平日だからか人はいない。

 

「貸し切りみたい…」

「2人で満喫しよう」

 

俺と瑞浪は手を繋いで端まで歩き始めた。

 



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第5話 デート

今回の登場人物
影山蒼
春風瑞浪
春風瑞希
以上3名


 俺は新宿御苑の1番端まで歩いてきた。3月の後半だからか桜が待っていたりして、春の装いを感じた。瑞浪も桜に見とれていて、俺の事など見る気もしなかった。桜がきっと好きなんだろう。

 

「瑞浪」

「うん」

 

瑞浪はこっちを向いた。俺は瑞浪と手を繋ぎ、庭園の方に歩いた。バラがあったはずだ。

 

「蒼くん?」

「なに、瑞浪」

「誰もいないから…しよ?」

 

瑞浪はハグを要求した。俺はしたいという欲望を抑えて言った。

 

「今は、ダメだ。家でしよう」

「…だったら、蒼くん今日私の家来て?」

「え?」

 

予想外だった。今日家に来てと言われるとは思っていなかった。

 

「分かったよ、じゃあもうそろそろゆっくり戻ろうか」

「うん。あれ、蒼くん、バイトとかやってないの?」

「してるよ。千駄ヶ谷で喫茶店を」

 

毎週火曜と木曜、土曜の3日間。この近くだからすぐ行ける。まぁ水曜日なんかに行く気にはなれないけど。

 

「瑞浪はやってないのか」

「してるよ?でも近くのコンビニだから」

 

コンビニ店員か。電卓とか打つの速そうだよな。

 

「ほら、帰るぞ。どこだっけ」

「えっとね…」

 

瑞浪はカーナビを操作して自分の家を示す。俺はそこを目的地にして車を運転した。

 

「結構近かったな」

「蒼くんの家よりかだったら近いのかな」

 

片倉と小宮だったらそんなに距離は変わらないけど、近い感じがする。

 

「少しはな」

 

俺は来るときとほとんど同じ道を通ったあと、首都高を抜けて一般道に入っていった。

 

 瑞浪の家は思ったより広く、瑞浪の部屋は2階にあった。この時間は誰もいないらしく、直接誰にも会わずに瑞浪の部屋に入った。

 

「……」

「お茶持ってくるね」

 

俺はそう言われても黙っていた。え、もしかして俺、女子の家初訪問?たしかに入ったことないし…

 

「マジかよ…」

「お姉ちゃん、もう部活終わったよ──」

 

声は瑞浪より少し高く、入ってきた影は瑞浪に似ていた。しかし、見てみると髪型や顔が少し違う。身長も少し低いか。

 

『誰…』

 

俺と謎の女の子は同時に言った。聞きたいのは俺なんだけど。

 

「お姉ちゃんは…まさか、殺し屋…」

「違うから。物騒な呼び方は止してくれ」

 

謎の女の子は「じゃあなに」と言わんばかりの目をする。きつく鋭い。明らかに怪しまれている。

 

「蒼くん、お茶持ってきたよ。って、瑞希?」

「お姉ちゃん!怪我ない?切りつけられてない?」

「おいおい…だからそんな奴じゃないって…」

 

瑞浪は笑って答えた。

 

「ふふ、そんな人じゃないよ。蒼くんは私の彼氏」

「…え、彼氏?男なんて興味ないって言ってたお姉ちゃんに?」

 

瑞浪ってそういう感じだったんだ。まぁけど、確かに男と話しているところなんて見たことないからな。

 

「影山蒼。瑞浪とは同い年」

「…春風瑞希…中学3年で、4月から高校1年…」

 

瑞希は未だに警戒している。怪しい人じゃないんだけど…

 

「瑞希、お客さんにそんな目しちゃダメでしょ?」

「……怪しくない…?」

「蒼くんが普段してる事とかないの?」

 

それで平和なことだと喫茶店のバイトくらいか。あとは休日にサバイバルゲーム、平日は瑞浪と会ってる。休日のは怪しまれるだろう。

 

「喫茶店のバイト」

「でしょ?平和じゃん」

「……」

 

瑞希は俺に頭を下げた。

 

「ごめんなさい」

 

瑞希は今度は泣き出しそうになった。俺は瑞希の頭を撫でて言った。

 

「大丈夫。人には勘違いもあるからさ」

「…ごめんね、私も責めるような事言っちゃって」

 

瑞希の長い髪がうつむいてることによって顔を隠す。床に液体がポタポタと落ちていることから泣いてるんだろう。瑞希は長い髪を揺らした。涙が左右に飛ぶ。

 

「瑞希、大丈夫?血昇っちゃうよ」

「そうだ、大丈夫だから、起き上がって」

 

俺は優しく声をかけた。瑞希はゆっくり顔を上げた。顔が赤くなっていて、目は潤んでいる。

 

「私、人を疑う悪い癖があって…先生にもダメって言われてたんだけど、どうしても…」

 

そうか。確かに疑うこともいらないって訳じゃないけど、必要以上にいるって訳でもない。

 

「確かに疑うのは悪くはない。ただ、まずは身近な人と関係がある人は疑わずにいよう」

「けど、それで悪かったら…」

「まずは甘えちゃうんだよ。そのあと見抜くんだ」

「…がんばる…」

 

俺は瑞希に言うと、瑞希は涙を拭き取って、「がんばる!」と自信付いて言った。

 



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第6話 バイト

今回の登場人物
影山蒼
大島先輩
市野穂花
マスター
以上4名


 俺はバイトに行くため、朝早く瑞浪の家を出た。瑞浪の家で泊まることになったため、こうなった。バイト先では俺を雇ってくれたマスター、俺の先輩が1人(実は俺の方が年上)、後輩が3人いる。最初に入っていたのがマスターで、次に先輩、そして俺が入った。

 

「マスター、今日午前ですよね」

「そうだね、影山くん、頼むよ」

「はい」

 

俺は接客で、会計及び品の配り。俺と一緒にするのは2つ下の先輩だ。不思議なんだが、俺は先輩の方が入った時期が咲希のため敬語なんだが、相手も俺が年上だから敬語なのだ。マスターは俺の方が20ほど下だし、入ったのも俺があとだから敬語とため口でいいんだが、敬語同士は少し戸惑う。

 

「大島先輩、今日も会計しますよね」

「はい。影山先輩もですよね」

 

両方先輩呼び。もう慣れたけど、周りからはまだ紛らわしいと言われる。

そして、ドアが開く音がした。俺が咲希に向かう。

 

「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」

「ご注文お決まりでしたらボタンでお知らせください」

 

先輩と一緒に俺は言った。俺は注文を待つため待つため一旦戻った。

しばらくして音が鳴ると、俺が注文を聞きに行った。

 

「ご注文お伺いします」

「アイスコーヒーと、チーズケーキで」

「分かりました」

 

俺は再び戻り、調理係の人たちに言った。

 

「アイスコーヒーとチーズケーキ」

 

調理係の人たちはすぐに作り始めた。大島先輩と俺は出来上がるまで待っていた。

 

「影山先輩、今日午前ですか」

「はい。大島先輩もですか」

「はい。じゃあ、一緒に帰りますか?」

「じゃあ、そうしましょうか」

 

俺は大島先輩と帰りのことを話していた。そこに調理係の後輩が来た。

 

「アイスコーヒーとチーズケーキです」

「あ、分かった」

 

俺はお客様に配りに行った。

 

「アイスコーヒーとチーズケーキです。ごゆっくりどうぞ」

 

俺は再び戻る。客が来ないと結構暇だ。俺の担当の8:00~11:30はピークの時間ではない。人が来るのは12:30~13:30の1時間。午後に入ると12:00からだからピーク。とは言っても平日は会社員が多く、席が埋まることもない。休日昼間がピークだ。

 

「お、客か」

「私行きましょうか」

「あ、すみません」

 

俺は大島先輩に謝った。大島先輩は「いいですよ。気にしないでください」と言って客のところに向かった。

 

「影山先輩、今暇ですか?」

「あぁ、暇だけど、どうかしたか」

「あの…バイト終わったら、ちょっと待ってもらってていいですか?」

「あぁ、いいけど」

 

後輩の名前は市野(いちの)穂花(ほのか)。俺より2つ年下の高校1年生。4月から2年生だ。同じ学校で生徒会長ということもあり、何回か会ったことがある。俺が生徒会長だった3年生では1年生書記を務めていた。

 

「そういえば、来年度から生徒会長は2年生なんだっけ」

「はい。立候補しますよ」

「頑張って」

 

生徒会長だから特別忙しく、嫌になる訳じゃない。

 

 俺の時間が終わり、先に来たのは穂花。俺は穂花に言われた通り待っていた。

 

「穂花、話ってなんだ」

「はい。あの、影山先輩の家、知りたくて…」

「え?なんか知ることでもあったか?」

「あの、生徒会長なので知っておいたいと思って…」

 

俺の家まで千駄ヶ谷から結構距離がある。

 

「確か喫茶店だと2番目に遠いけど大丈夫か?」

「はい。東小金井までだったら定期券あるので」

 

だったら大丈夫か。俺は大島先輩をまった。

 

「影山先輩!あれ、市野さん、どうしたの?」

「影山先輩の家に行こうかと思って…」

「そうなの?じゃあ私も代々木までいいかな。私家が西大井だから」

 

俺は穂花と大島先輩を連れて千駄ヶ谷まで歩いた。千駄ヶ谷から総武線で代々木まで行く。

 

「代々木でお別れですか」

「そうですね。また土曜に」

 

大島先輩は山手線のホームに歩いていった。俺と穂花は引き続き総武線で中野まで乗る。新宿でも乗り換えられるが、遠いから中野にした。

 

「影山先輩、好きです」

「え?何が」

「喫茶店のバイト…あっ、影山先輩の事じゃなくて!」

 

穂花は慌てて言っていた。



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第7話 再会

今回の登場人物
影山蒼
市野穂花
立花桜
以上3名


 俺は穂花と一緒に、長いロングシートに座って帰っていた。俺の左に穂花がいて、右には知らない女性がいる。結構かわいいけど、浮気は許されない。そう心のなかで決めている。

 

「んんんっ…」

 

大丈夫なのかよ…この女の人。俺に寄り掛かったりしないよな?俺は少し不安になりながらも手を出さずにいた。

 

「影山先輩、私、特技があるんです」

「へ、へぇ、なんだ」

 

俺は隣の女性に動揺しながら聞いた。

 

「ある数を適当に2つ言ってください。そのあと、かけるか、2乗するか言ってください」

「あぁ、分かった。えっと、じゃあ、12,530の2乗」

 

穂花は頭のなかで計算している。ちなみに俺も計算が速いで学校1位だった。答えは157,000,900。果たして計算できるか。

 

「分かった!一億五千七百万九百!」

 

数字に直すと157,000,900。合っている。じゃあ次だ。

 

「135,881の2乗」

 

135,881は素数。結構大きい数だが、少数を1番少なく割れる1とその数以外の数は5。27,176.2。

おっと、ちなみに答えは18,463,646,161。

 

「百八十四億六千三百六十四万六千百六十一」

 

18463646161だよな。合ってる。じゃあ、2倍だともっと早いか。

 

「1,234の2倍」

 

これは簡単。偶数を4つ言えばいいだけ。答えは2,468。

 

「二四六八!」

 

分かってて言ってる。じゃあ少数いってみるか。

 

「5,683.64の2乗」

 

俺も時間がかかるが、多分32,303,763.6496。

 

「32,303,763.6496かな…少数だと少し曖昧になっちゃいます」

 

合ってるとは思うけど、一応電卓で計算。

 

「32,303,763.6496。合ってるな」

「やったぁ!」

 

要するに計算を素早く出来るかだろう。結構すごい技身に付いてるな。

 

「すごいじゃん、148の2倍とかすぐ分かるだろ」

「296ですよね」

「レジ向いてるんじゃないか」

「あんまり役立たないですよ。料理も得意なので」

 

そうか、レジでは電卓だから電卓が早い人がいいのか。

 

「なんか役立てれないかな、その特技」

「自慢にしか使えませんからね…しょうがないです」

 

それもそうか。計算を多く使う仕事じゃないもんな、カフェのバイトって。

 

「これだったら役立つかもよ」

 

俺はスマホの地図を開き、穂花に見せた。

 

「俺の家まで、大体駅から500mなんだけど、2往復するとどのくらい?」

 

要するに1往復で2倍だから、1000の2乗、もしくは500の4倍。

 

「2kmですか」

「そう。こういうのだったら役立つんじゃないか」

「けど、使いますかね」

 

確かにそうだ。こんなの使うことまずないし、2往復とか聞かないし。中学生だったら役立つな。例えば、球の体積とか。4/3πr3乗だから。表面積でも、4πr2乗だから使える。

 

「日常生活では使わないな」

「そうですよね」

 

その時、隣にいた女性が俺に寄り掛かってきた。さっきのはフラグだったか。

 

「せんぱぁい、ちょっと眠くなってきたので、肩お借りします」

 

穂花も俺の肩に寄り掛かってきた。両耳から交互にすーすーと寝息がくる。

 

「あの、起きてください」

 

女性に俺は話しかけた。女性は俺の肩からゆっくり離れる。

 

「ん?……ああっ!すみません!」

「いや、いいんですけど…あれ、立花桜さん?」

「なんで名前を…って、生徒会長!?」

 

生徒会長だからというか、生徒会の各学年は生徒全員の顔と名前を覚えている。

 

「覚えててくれてよかった。立花さんも今年卒業だもんね」

「うん。会社も決まってね、生徒会長に影響受けてJR東日本の“東京圏輸送管理システム”なんだ」

「東京圏輸送管理システムってあれか、無線で東鉄指令とか言うあれか」

 

東京圏輸送管理システムは、無線での呼び方は「東鉄指令」。位置は東京の田端駅付近。この近くには「東京支社」のビルもあり、鉄道関係がたくさんある。

 

「そうそう!4月からだから、もうすぐなかなか会えなくなっちゃうね」

「じゃあチャットID交換しようぜ。いつでも連絡とれるように」

「いいよ!」

 

立花さんは俺にIDを見せ、俺は交換を始めた。

 

「よろしくね、あ、家…泊まってもいい?」

「え?いいけど」

「じゃあお願い!」

 

急にどうしたんだろう。俺はその場の流れで許可した。

 



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第8話 彼女

今回の登場人物
立花桜
春風瑞浪
影山蒼
母さん
以上4名


 俺は自分の家に着くと、穂花を家の前で帰らせて、自分の部屋に立花さんを入れた。俺は母さんに事情を話しに行った。

 

「母さん、先に言っておく。彼女じゃないから」

「あら、そうなの?じゃあどういう関係?」

「高校の同級生で、俺が生徒会長で、あいつが生徒」

 

彼女は瑞浪だし。立花さんだってそう聞いたら驚くだろう。

 

「まぁ、彼女と同じくらい大事に扱いなさいよ」

「はぁ、けど、そこまでじゃないだろ」

「女のハートはガラスよ」

 

そんなことを言う年じゃないだろ、母さん。もう47なんだから。

 

「分かったよ」

 

俺は自分の部屋に戻った。俺の部屋のなかで、立花さんはただ立ち尽くしていた。

 

「どうしたんだ、立花さん」

「え!?あ、えっと、男子の部屋来たの始めてだから……それに、付き合ってるようで……」

 

そうか、一般的に考えてデートしてる人たちの帰りみたいだよな。

 

「じゃあ、付き合ってみる?」

 

俺は冗談で聞いてみた。すると、立花さんは本気で捉えたそうで、焦って俺に言った。

 

「え!?あ、あの!え!?生徒会長付き合ってる人居ないんですか!?」

「はぁ!?いや、冗談だから!」

 

こんなになるとは思わなかった。というか、付き合ってる人いないって失礼じゃないか。

 

「ごめん…そんな私に魅力ないよね…」

「あ、いや、そんな訳じゃ…」

「じゃあハグできる!?」

「はぁっ!?」

 

ついにこいつ壊れたか!?と思いながら、俺は立花さんに近寄った。

 

「じゃあ、するよ」

「えにゃ!?するの!?」

 

立花さんが言ったときにはもう俺は立花さんにハグしていた。

 

「うぐ…」

「お前が言ったんだからな。勘違いすんな」

 

俺は数秒ハグしてからすぐに離れた。立花さんはリンゴのように顔を赤くさせて俺を恥ずかしそうに俯き気味にみた。

 

「生徒会長のエッチ!スケベ!変態!」

「言われる筋合いないんだが。さっきも言ったろ、お前が頼んだんだから文句言うな」

 

立花さんは「うぅ…」と怯んだように声をだし、荷物を取りに一旦家に帰った。

 

「ったく、文句言うなよ…」

 

俺は独り言を呟いてベットに横になった。あれ、そういえば、ここに立花さんを寝かせるんだよな?さすがに女子を床に寝かせられないし。そう考えると、俺が床に寝るのか?フローリングだから冷たそうだな。

 

「腹壊しそ。腹巻きするか?」

 

まず第一床が固いか。肩が痛くなりそう。

 

「ああもう!デメリットしかないじゃねぇか!」

 

七次方程式かよ!あのめんどくせぇ式!

 

「はぁぁぁぁ…いいか、死ぬ気覚悟で寝よう…」

 

俺は何も持ってこないままリビングへ行き、母さんに言った。

 

「女の子来たら俺の部屋入れといて。彼女の家行ってくる」

「あら浮気?しちゃダメよ!」

「何が浮気だ。浮気じゃない。そう思うんだったら直径5cmの球の体積微分してろ」

 

俺は数学科ネタを混じらせて外へ出た。球の体積微分するなんて楽しい事だけどな。遊び感覚さ。

 

「あっと、瑞浪だ瑞浪」

 

俺は片倉から13:12発快速八王子行きに乗り八王子まで行った。立花さんとはすれ違いになるはずだ。

 

〈小宮で待ってて〉13:13

〈オケ〉13:13

 

俺は瑞浪に送った。

 

「まもなく、終点、八王子、八王子、お出口は右側です」

 

八王子に着くと、俺は小宮に向かって歩き始めた。瑞浪はここにいるはずだから。

 

 俺が小宮に着くと、連絡通り瑞浪が待っていた。良かった。

 

「瑞浪、用ないんだけど来ちゃった」

「わぁ、いつもの会いたくてってやつ」

 

嫌そうではなく、むしろ待ってたかのようだった。

 

「ハグかな?まずは」

「それしかないよ。ギューッ」

 

瑞浪は俺に抱きついた。やっぱりしたかったらしい。

 

「瑞浪、いつもハグからだよな」

「愛情確認。愛情はちゃんとありました」

 

瑞浪は少し背伸びして俺にキスする。俺はその背中を支えていた。

 

「ぷわぁ…支えるなんて積極的だね」

「もっと積極的にしてあげようか?」

 

俺は再びキスしてきた瑞浪の尻を掴み、上に持ち上げた。

 

「きゃっ、やぁっ、ふにゃぁっ」

「お尻弱いのか」

「うん。性感帯だから…」

「じゃあこのままキスしよっか」

 

俺は瑞浪とキスした。

 

「んあっ、ふっ、ふっ、んんんんっ!」

 

俺が離すと、瑞浪は言った。

 

「いちゅもより、にょうこうだった…」

 

瑞浪はかわいい顔だった。

 



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第9話 立花桜

今回の登場人物
影山蒼
立花桜
以上2名


 俺はちょっと瑞浪と話してからすぐに帰った。立花さんも帰ってる途中だろうから。

 

「母さん、女来てたか」

「えぇ。部屋にいると思うわ」

 

俺は自分の部屋に向かった。部屋の中に立花さんはいて、俺は冗談で名前で呼んだ。

 

「桜」

「うん?あ、蒼くん…」

 

あれ、両方名前呼びになってる。このままいけるかな。

 

「あのさ──」

「ぎゅぅっ」

 

立花さんは目を瞑って俺に抱きつく。えっと、多分寒いんだろうな。3月でも寒い人いるし。

 

「待ってて。毛布あるから」

 

俺は毛布を出して立花さんにかけてあげた。俺は毛布をかけた立花さんの横に座った。しかし、なんか不満そうな顔をしている。

 

「な、なんだよ…」

「ぶーぶー」

 

なんでそんな不満なんだよ…意味が分からないし…

 

「いいだろ、それでも」

「ぶーっ…」

 

俺は部屋から出た。もう意味が分からない。女なんて。

 

「まって!蒼くん!」

「なんだ」

「どこで寝る?」

 

ああ、俺と同じ部屋で、俺が床だけど。

 

「床で俺は寝るけど」

「同じ部屋で?」

「……じゃあリビング」

 

俺は自分の毛布だけをもってリビングの隅に敷いた。

 

「……苦手なんだよな、実は」

「私が?」

「違う。同じ部屋にいるのが」

 

俺は毛布を敷きながら言った。

 

「お前だって子どもじゃないんだから。1人で寝ろ」

「うん……」

 

俺は立花さんに付いていった。そして、部屋に戻り、スマホの充電器を持って再び戻った。

 

「立花さん、桜って呼んでいいかな」

「さっき呼んでたじゃん。もう」

「そうだっけ。お前もさっき『蒼くん』って呼んでたろ」

 

俺は毛布を被った。明日は休みだから瑞浪とデートできる。

 

「まだ19:30だよ?」

「寝てもいいだろ。もう眠いんだ。桜は俺のベット貸すから」

 

俺は目を瞑った。

 

【立花桜視点】

 

 私は蒼くんの部屋を借りて寝ることになった。同じ部屋にいるのが嫌って、絶対私の事じゃん。

 

「ごめんって…」

 

私は泣き出しそうになった。過去の事などを思い出しそうだったから。

 

 

 中学二年くらいのころ、私と仲が良かった女の子の友達がいた。名前ははっきり覚えている。日野春(ひのはる)(もえ)

この子は、勉強も普通、運動も普通で、一般的な生徒だった。しかし、普通ということは、クラスの1/2は萌ちゃんより上ってことになる(萌ちゃんが1/2で、上下共に1/2となる)。そして、上の生徒からの煽りが絶えなかった。

進級してから半年経った10月、萌ちゃんは中間テストの結果が返され、いつも通り上だった非とからあまりにも酷い扱いをされ、煽られたりもした。その時はたまたま私の方が上だったけど、私はテストや立場関係の話を一切しなかった。

萌ちゃんはやがて、私といるときも嫌な顔をし始めて、ついには一緒に帰らなくなった。だけど、私からの友情は消えなかった。

しかし、萌ちゃんは耐えきれなくなり、11月の上旬、11/5に、3階のクラスのベタンダから飛び降り、自殺を図った。しかし、奇跡的に命に別状はなく、中学三年になってから登校を再開した。

一方の私は、萌ちゃんが自殺を図ってからすぐ、いじめを受けた。机に「お前が手助けした」「殺人鬼が」「近寄るな」「このクラスにお前はいらない」などと、その他数ヵ所に油性ペンで書かれていた。酷いものは、彫刻刀で彫られていた。

私はそれから学校に行かなくなった。1ヶ月すると、お母さんから「学校行きなさい」と言われたけど、私は断った。

三年生になると、みんなに会わない時間帯である、7:00に学校に着くようにした。会うと怖いから。

だから高校は離れた場所にした。電車で1時間近くかかる場所で、みんなに会わなかった。

 

 

 萌ちゃんは今どうしてるんだろう。けど、きっと、会ったら、私、また壊れちゃう。結局会わない方がいい。

そう考えたら、生徒会長、蒼くんも似たようなものかもしれない。私にとって、必要なかったのかもしれない。

私は怖くなった。最初から全て考え直した。どうして私を一人にしたのか。そんなの、考えたらまた心臓が締め付けられるようだった。

 



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第10話 怪我

今回の登場人物
影山蒼
立花桜
春風瑞季
以上3名


 私は現実と生徒会長から逃げた。家から飛び出たのは2:30。走り出した。しかし、生徒会長である蒼くんは来ない。私はここで自殺を決めた。高台で、4mはありそう。

 

「もう、いいよね」

 

私は高台の端にある返しの上に乗った。普通だったら怖いって思う。だけど、今は違う。

 

「行こう」

 

私は4m下に向けて体重をかけた。そのまま重力に身を任せ、落ちていく。

 

「桜!」

 

静かな場所に聞こえた蒼くんの声だった。けど、もういいんだ。遅い。

生徒会長はこっちに来ようとしたが、私が先に落ちていった。

すると、何故だろう。生徒会長が私の横から飛び降り始めた。私より速い。体重をかけてるんだろう。私の真下は芝生。しかし、生徒会長の真下はコンクリート。落ちたら即死に決まってる。

生徒会長は凄いスピードで落下したあと、芝生の上に肩から落下した。そして、立ち上がり、私の真下へ。

 

「え……」

 

私はそのまま落ちていった。

 

 私を支えてくれたのは生徒会長だった。私に怪我はなかったが、生徒会長は肩が動かないようだった。重い打撲だったらしい。全治2ヶ月、左手をなるべく使わないようにと言われていたらしい。

しかし、その事を知ったのは私が四月になって、東鉄指令の仕事を始めてからだった。もう遅くて、怪我をしたのが三月で、もう1ヶ月経っていた。

 

「立花さん、中央方面架線支障物撤去完了です」

「あ、はい。それでは、1228Tから順に吉祥寺から再開します。前の電車は安全取れ次第運転再開おねがいします」

 

【影山蒼視点】

 

 俺は怪我をしていたが、バイト先に用事があって、昼間に千駄ヶ谷へ移動した。1228Tだったが、吉祥寺で架線に支障物で止まってしまった。俺はその隙に一緒に付き添いをしてくれていた瑞希に礼を言った。

 

「ありがとう、瑞希」

「ううん。お姉ちゃんはバイトだし、大丈夫だよ」

 

俺が瑞浪の家に行くと、瑞浪がバイトだったため、妹の瑞希が付いてきてくれた。

 

「何しに行くの?」

「バイト先に荷物を置いててさ」

 

俺は固定されている左肩を眺めながら言った。動かすと痛み、なるべく動かさないようにしているが、癖で動いてしまうときがある。

 

「動かすと痛い?」

「うん。結構痛くて、死にそう」

 

俺は瑞希に左肩の包帯を見せた。血こそ出てないが、ずっと打ち付けられているように痛い。

 

「触るのは?」

「それはあんまり。ただ、痛くないって訳じゃない」

 

俺は痛みをこらえて、元の位置に戻った。

 

「なんで怪我したの?」

「人を守った」

 

自分を犠牲にしたけど、大丈夫だ。

 

「流石だね、蒼くん」

 

人は守りたいっていうのが、何か自分の中であったから。理由なんてただそれだけ。

 

「そうかな。けど、ありがとう」

 

俺は目を合わせることなく言った。

全く、いつもみんなそうだ。

この世界の人類、大半が見て見ぬふりをする。

自分に何かあったら助けを求める癖に

他人に何かあってもなにもしない。

言われるまで

というか

最悪言われてもしない人類だっている。

そんなの

どうかしている。

だったら

他人を助けてやった方が

自分を助けてほしいときも筋が通る。

まぁ、どうせ今回はやり過ぎたが。

俺はそんなことを思いながら、ボーッとしていた。

 

「──くん、蒼くん」

 

瑞季から呼ばれていることに気付く。

 

「あ、あぁ、なんだ」

「ちゃんと話聞いてた?」

 

痛いところをつかれ、俺は正直に白状する。

 

「…ごめん…」

「やっぱり。お姉ちゃんだって守ってくれるって話!」

 

本当になにも聞いてなかったな……

 

「あ、あぁ、守るさ」

 

俺は知ってたかのように言った。本当は一切知らないけど。

 

「じゃあお姉ちゃんにも言っとくね。あ!……」

 

瑞季は何か思い付いたかと思うと、急に黙り込んだ。

 

「どうした?」

「いや、お姉ちゃんのコンビニ来てって思ったんだけど、その手じゃ無理だよね……」

 

瑞浪のコンビニかぁ。バイト先ってことだよな。

 

「行ってもいいよ。駅から近いんだよな?」

「うん。歩いて1分くらい」

 

だったら行けるかな。

 

「じゃあ行くよ。ただ、まずは荷物取りに行こうかな」

「うん。行こ」

 

俺と瑞季はお互い触れないようにして座った。



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第11話 瑞季

今回の登場人物
影山蒼
春風瑞季
春風瑞浪
お母さん
お父さん
以上5名


 俺はバイト先の喫茶店に荷物を取りに行った。右手しか使えないから3つの荷物全てを右手にかけた。

 

「待ってるからね。ゆっくり休むといい」

「はい。マスター」

 

俺は喫茶店を出て、瑞季と合流した。

 

「瑞季、コンビニ行くんだっけ」

「うん。っていうか、それ重くない?」

 

瑞季は右手にかかっている物を見て言った。

 

「そうか?そうでもないぞ」

 

瑞季は俺が持っている荷物を1つ持ってみる。瑞季は持った瞬間、ガクンと下にさがる。

 

「重っ!何kgあるの!」

「え、大体10kg前後…」

 

俺はさらっと言った。10kgなんて大した重さじゃないけど…

 

「10kg!?重すぎだよ!」

 

瑞季はそう言いながらも1つだけ持ってくれる。なんか申し訳ない。

 

「俺が持とうか?」

「ううん。だって、蒼くん片手に30kg持ってるんでしょ?だったら私も10kg持つよ」

 

なんか悪いことをしている気分になる。俺は悪い気を持ちながらも瑞季に持たせていた。

 

 俺は一度家に帰ってから、瑞浪のいるコンビニに向かった。小宮駅で瑞季が待っていて、コンビニまで一緒に行った。

 

「お姉ちゃんどんな反応するかな」

「楽しむんじゃないぞ」

 

俺と瑞季はコンビニの中に入った。すると、瑞浪が「いらっしゃいませ」と言ってくれた。俺が小さく右手を降ると、瑞浪も気付いたようで、甘えたそうで、甘えられない気持ちを抑えていた。

 

「瑞浪、耐えてたな」

 

俺は瑞季に小声で話しかけた。

 

「うん。ムズムズしてる」

 

瑞季も笑っていた。さすがにこのまま帰るのは営業妨害みたいになっちゃうから、なんか買おう。

 

「何ほしい」

「うーんと、クリームソーダ!」

 

お、結構いいやついったな。

 

「じゃあ俺はカルピスソーダで。さて、瑞浪に会計してもらうか」

 

俺は瑞浪のいる列に並んだ。

1分もしない内に回ってきた。

 

「お願いします」

「はい。……380円です」

 

おぉ、耐えてるな。俺は追い討ちをかけるかのようにわざと瑞浪の手に直接小銭を置き、手に触れた。

 

「あ、ありがとうございました♡」

 

瑞浪は愛情が爆発したような言い方をした。

 

「じゃあ、どうしようか」

 

俺はコンビニを出てから言った。

 

「とりあえず私たちの家来る?」

「え、いいのか」

「まだ帰ってこないから。あと、お母さんも話したいって」

 

へぇ、お母さんが。俺と話したことなかったんだっけ。じゃあしょうがないか。

 

「分かった。じゃあお邪魔するよ」

「うん」

 

瑞季は家に向かって歩いていく。

 

 家に着くと、瑞季が許可をもらいに行き、俺は許可を得て入った。お母さんはリビングで優しい顔で待っていた。

 

「えっと、話があると伺ったんですが」

「ええ。いつもね、瑞浪があなたの話しててね、楽しそうなの。ありがとう」

 

お礼の言葉からか。俺は話を進めた。

 

「いえいえ。瑞浪も嬉しそうで良かったです」

「ふふ。そうだ、今日はね、お父さんとも話そうかと思って」

 

お母さんはお父さんを呼んだ。お父さんは静かにお母さんの横に座る。

 

「おや、君が蒼くんかい」

「はい。初めましてですよね。影山蒼っていいます」

「話は聞いているよ。瑞浪からね」

 

瑞浪は結構俺のこと話すんだな。けど、そこまで人は居なさそう。

 

「幸せそうにしているよ。瑞浪は、元は文系でね」

 

へぇ、以外だな。俺と話すときは理数系っぽい話し方なんだけど。

 

「君にあってから理数が好きになり始めた」

「そうだったんですか。なんか嬉しいです」

 

俺はお父さんにも話を上手く行くように進めた。

 

「それで、今回はね、瑞浪から聞いたんだけど、今怪我してるんだって?」

「あ、はい。左肩をちょっと。使えないんですよ」

「左手が使えないのかい」

「はい。結構痛みますから」

 

俺は正直に怪我のことを話した。

話し終わると、お母さんは俺のことを見て言った。

 

「怪我してても瑞浪はちゃんと好きでいる?」

「はい。さっきもコンビニ行ってきたんですけど、すごい耐えてそうでした。くっつきたいのを」

 

さっきの状況を伝える。両親は笑って答えた。

 

「本当に好きなんだね。幸せにしてやってくれ」

「はい。任せてください」

 

俺はお父さんとお母さんに決意を言った。そして、安心しきった様子でその場をあとにした。

 

「蒼くん、まだそこに座ってて」

「え、あ、あぁ」

 

俺は瑞季に言われ、その場に座った。

 



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第12話 ポッキーゲーム

今回の登場人物
影山蒼
春風瑞浪
春風瑞季
以上3名


 俺はその場に座らされた。俺は何が起こるのかも分からずにいた。

 

「瑞季、何するつもりだ」

「柊くん、ポッキーゲームって知ってる?」

「ポッキーゲーム?」

 

なんかの罰ゲームかな?なんかの勝負に負けた人がポッキー数個買ってくるっていう。そうすれば納得は……いかないな。

じゃあなんだろう。重心を意識した積み重ねゲームみたいな?俺は楽しいけど、他の人たちは……勇気は無理そう。

 

「知らないな」

「知らないの!?」

 

瑞季は驚いていた。なんだ、そんなに有名なゲームなのか。

 

「何か教えてくれよ」

「えぇ……えっと、その……」

 

すごい言いづらそうじゃないか。どういうゲームなんだ。

 

「とりあえず、やってみれば分かる!」

「え、お、おう……」

 

瑞季はポッキーの端を口に咥えた。いや、もうこの時点で俺の予想は全て砕けた。じゃあどういう遊びだ。どれだけ速くポッキーを食べれるかか?手を使わずに。

 

「ほううん、おっひほっひふあえへ」(蒼くん、そっち咥えて)

 

瑞季は口に咥えたまま言った。なに言ってるの?俺はそのままでいた。

 

「ほっひふあええ!」(そっち咥えて!)

 

「ほっひ」は「そっち」だろうな。「ふあええ」はなんだろう?咥えた状態だからこもると仮定して、さ行や、か行、た行などだろう。

 

「ふあえへ!」

 

何回言っても「え」は変わらない。じゃあ、全てか行にすると?……「くかえけ」になるのか。けど、「か」って言うとき、普通は「は」になるな。「あ」になる言い方は、わ行くらいだろう。じゃあ、「くわえけ」?あ、もしかして、咥えろってことか?

 

「咥えれば良いのか?」

 

そう言うと、瑞季は頷いた。

俺は反対側を咥えた。そして、瑞季はどんどん食べ進めてこっちに来る。寸止めかな。目つぶってるし。俺はゆっくり進んだ。すると……

 

「ん」

 

柔らかい感触が唇に当たった。俺は目を開く。そこには、とても近くに瑞季の顔が。

 

「んがっ!」

 

瑞季は瞬時にはなれた。

 

「引き分け!」

「なにが」

「このゲームは、離れた方が敗けなの。ずっとしてると、キスしちゃうっていうゲーム!」

 

そういうゲームだったのか。

 

「そっか」

 

俺はさっきの瑞季の状態を言った。

 

「さっき、慌てて顔赤くしてた瑞季、かわいかった」

「うん……えぇっ!?ちょっ、え!?」

 

瑞季は今までにないほど慌てている。また顔を赤くしている。

 

「ほら、今だって。顔赤くしてる」

「えぇ!?」

 

瑞季は思わず顔を手で隠してしまう。俺は瑞季の手を退かした。

 

「そんなかわいい顔を隠さないで。勿体無い」

 

瑞季は真っ赤になって、熱くなったあと、天を見上げるように気絶してしまった。

瑞浪にリベンジしたいな。

 

 約15分経ち、瑞季は自分の部屋で寝た。というか、寝かせた。瑞浪が帰ってきて、俺はポッキーゲームをした。

 

「いくぞ」

「オッケー」

 

俺と瑞浪は2人同時に食べ進める。そして、何も躊躇なくキスした。

 

「え!?瑞浪!?」

 

俺はすぐに離れた。瑞浪も恥ずかしかったのか、赤くなった顔を隠してしまう。

 

「瑞浪、か、顔、見せて」

 

瑞浪の顔は赤くなって、ぽかぽかしていた。

 

「いやぁ、みないでぇ」

 

また瑞浪は隠してしまう。

 

「もうちょっと見せてよ、かわいい顔」

「ふにゃぁっ……」

 

瑞浪は瑞季と同じように気絶してしまった。俺はまた瑞季と同じ部屋に瑞浪を運んだ。結構大変で、右手だけだから全く安定しない。

 

「全く、ちゃんと寝ろよ」

 

俺は瑞浪を寝かせた。俺も側にいた方が良いと思い、俺は瑞浪の横にいた。

 

「瑞浪、かわいい」

 

俺は瑞浪に触りそうになった。けど、寝てるんだよな。と自分に言い聞かせ、触るのを我慢した。

 

 瑞浪と瑞季が起きたのは2時間くらいしてから。起きたときにはもう忘れていたらしく、いくら近づいても隠したりはしなかった。さすがにあのときと同じことを言うのは諦めたけど。また気絶されちゃ困るし。

 

「蒼くん?どうしたの?」

「ああ、いや。かわいいなぁって思っただけ」

「ふふ、うれしっ」

 

瑞浪は嬉しそうな顔をした。分かりやすい表情だ。

 

「眠くないか」

「大丈夫!」

 

俺はリビングに戻って、昼食をみんなと一緒に食べた。

 



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第13話 大雨

今回の登場人物
影山蒼
母さん
春風瑞浪(チャットのみ)
以上3名


 桜がすべて散り、緑の葉が生い茂ってきた6月。今日も雨で、一週間降水量は336mmにも達していた。気温も5月は平均23.5℃だったのに対し、6月は15日までだと20.4℃まで落ちた。去年は6月平均は23.7℃だったから、寒いことが分かる。

 

「母さん、最近寒くないか」

「そうねぇ。お父さんは上着を着始めたし」

 

俺は今日のシフトはなく、雨だから瑞浪と会う約束もない。俺は家で過ごしていた。

 

「今日は1時間何ミリだ」

「3mmですって。強いわねぇ」

 

1時間3mmは大雨ではないが、結構強く、本降り程度。

今日はどこも遅れてなさそうだったが、昼の1時を過ぎると、一部路線で遅延が発生し始めた。

13時では1時間あたり12mmの雨が降っていたらしく、土地の低いところでは冠水もあったらしい。

 

「お父さん、大丈夫かしら」

「分からない。父さんの職場三鷹だったよな」

 

俺は中央線の運行情報を見た。それほど遅れていない。

 

「まだ大丈夫だな。ただ、これ以上強くなると危ないな」

 

テレビでは、大雨注意報や、大雨警報、洪水警報などが各地に出ていた。

 

「東京都八王子市、国立市に大雨警報」

 

ケータイでは、東京都八王子市小宮に大雨警報、八王子市片倉に大雨注意報だった。俺は瑞浪が心配になってチャットを送った。

 

〈雨大丈夫か〉13:20

〈ここは大丈夫だけど、孤立しちゃってる〉13:21

〈どういうことだ〉13:21

〈周りが冠水しちゃってる〉13:21

 

周りだけってことは、比較的土地は高いのか。

 

〈分かった。気を付けろよ〉13:22

〈うん。蒼くんもね〉13:23

〈はいよ〉13:23

 

俺はチャットをやめて、運行情報を見た。以下の路線で遅れが発生していた。

 

相模線 遅延[全線] 大雨

 

横浜線 遅延[東神奈川-橋本] 大雨

横浜線 直通運転中止 大雨

 

京浜東北線 遅延[東神奈川-大船] 横浜線内大雨

 

東海道線 遅延[大船-小田原] 大雨

東海道線 直通運転中止 大雨

 

中央線 一部運休[全線] 大雨

中央線 直通運転中止 大雨

 

青梅線 運転見合わせ[拝島-青梅] 大雨

青梅線 一部運休[立川-拝島] 大雨

青梅線 直通運転中止 大雨

 

五日市線 運転見合わせ[拝島-武蔵五日市] 大雨

五日市線 一部運休[立川-拝島] 大雨

五日市線 直通運転中止 大雨

 

南武線 遅延[全線] 大雨

南武線 一部運休[登戸-立川] 車両故障

南武線 運転見合わせ[尻手-浜川崎] 大雨

 

八高線 運転見合わせ[拝島-高麗川] 線路冠水

八高線 遅延[高麗川-高崎] 接続待ち

八高線 遅延[八王子-拝島] 線路冠水

八高線 一部運休[八王子-拝島] 線路冠水

 

川越線 直通運転中止 八高線内線路冠水

川越線 一部運休[川越-高麗川]八高線内線路冠水

 

武蔵野線 遅延[府中本町-吉川美南] 大雨

武蔵野線 一部運休[吉川美南-西船橋] 大雨

 

京葉線 直通運転中止 武蔵野線内大雨

京葉線 一部運休[東京-西船橋] 武蔵野線内大雨

 

総武線 遅延[三鷹-津田沼] 大雨

 

上野東京ライン 一部運休[上野-東京] 大雨

 

宇都宮線 直通運転中止 東海道線内大雨

 

高崎線 直通運転中止 東海道線内大雨

 

湘南新宿ライン 遅延[新宿以南] 大雨

湘南新宿ライン 運転見合わせ[逗子-大船] 大雨

 

横須賀線 遅延[東京-逗子] 大雨

横須賀線 運転見合わせ[逗子-久里浜] 大雨

 

総武快速線 直通運転中止 横須賀線内大雨

 

山手線 遅延[全線] 大雨

 

埼京線 遅延[大崎-赤羽] 大雨

埼京線 直通運転中止 大雨

 

相鉄直通列車 遅延[全線] 大雨

 

 

りんかい線 直通運転中止 JR埼京線内大雨

 

相鉄線 遅延[全線] 大雨

相鉄線 一部運休[西谷-海老名] JR線内大雨

 

京急線 運転見合わせ[堀ノ内-三崎口] 大雨

京急線 遅延[全線] 大雨

京急線 一部運休[品川-金沢八景] 大雨

京急線 直通運転中止 大雨

 

小田急線 遅延[全線] 大雨

小田急線 直通運転中止 大雨

 

京王線 遅延[新宿-京王八王子] 大雨

京王線 直通運転中止 大雨

京王線 遅延[北野-高尾山口] 大雨

 

西武池袋線 遅延[全線] 大雨

 

西武新宿線 遅延[全線] 大雨

 

西武有楽町線 遅延[全線] 大雨

西武有楽町線 直通運転中止 大雨

 

西武豊島線 遅延[全線] 大雨

 

西武秩父線 直通運転中止 西武池袋線内大雨

 

西武国分寺線 遅延[全線] 大雨

 

西武多摩川線 遅延[全線] 大雨

 

西武拝島線 遅延[全線] 大雨

 

東武東上線 遅延[池袋-川越市] 大雨

 

東武スカイツリーライン 遅延[全線] 大雨

 

東急東横線 遅延[全線] 大雨

 

東急田園都市線 遅延[全線] 大雨

 

東急大井町線 遅延[全線] 大雨

 

東急多摩川線 遅延[全線] 大雨

 

東急池上線 運転見合わせ[全線] 大雨

 

東急目黒線 遅延[全線] 大雨

 

東急目黒線 直通運転中止 大雨

 

みなとみらい線 遅延[全線] 大雨

 

埼玉高速鉄道線 一部運休[全線] 東急線内大雨

 

 

都営浅草線 直通運転中止 京急線内大雨

 

都営新宿線 直通運転中止 京王線内大雨

 

都営三田線 直通運転中止 東急線内大雨

 

 

南北線 直通運転中止 東急線内大雨

 

副都心線 直通運転中止 西武、東急線内大雨

 

有楽町線 直通運転中止 西武線内大雨

 

半蔵門線 直通運転中止 東武線内大雨

 

東西線 遅延[西船橋-東陽町] 大雨

東西線 直通運転中止 JR総武線内大雨

 

千代田線 直通運転中止 小田急線内大雨

 

 

以上の線区だ。関東全ての電車が遅れている。

 

「俺、瑞浪のこと心配だから、行ってくる」

「こんな天気よ?大丈夫?」

「大丈夫だろ、小宮駅まで行くだけさ」

 

俺はレインコートとビニール袋を持って、駅に向かった。一応スマホもある。外は風のない大雨。レインコートにうるさいほど雨が打ち付ける。

 

(着いたら瑞浪、どうしてるだろうな)

 

俺は片倉駅に向かって歩いた。

 



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第14話 どんな状況でも

今回の登場人物
影山蒼
お母さん
春風瑞浪
以上3名


 その中でも、横浜線はそこまで遅れていなかった。

とは言っても、今の時刻が14:02なのに対し、今度の八王子行きの電車は13:52発予定八王子行き。

結局13:52発は14:03、11分遅れで到着した。八王子には14:06。ここから八高線で小宮まで行く。

今度の八高線は、1番線から13:48発予定川越行き。当駅始発だが、まだ来れていないそうだ。

そんなとき、1番線に放送が流れた。

 

「1番線ご利用のお客様にご案内いたします。今度の……13:48発予定の川越行きですが……本日……東福生~箱根ヶ崎駅間において、線路内が冠水いたしましたため、本日に限りまして、この電車は運休とさせていただきます……拝島方面ご利用のお客様、ご迷惑をお掛けいたしますが、立川駅で……青梅線のご利用をお願い致します」

 

運休らしい。小宮に行くにはどうしたら……

俺は心の中で絶望しながらも、2番線の中央線ホームで待った。

今度の中央線は、2番線から14:21発中央特快東京行き。時刻通り走っていて、14:21に出発した。

 

(瑞浪、大丈夫か……)

 

俺は早く着いてくれ、と願っていた。

 

 立川に着いたのは14:32。ここから青梅線に乗り換えるんだが、次の電車は通常だと14:39発青梅行きに乗ることができるが、今日は中央線からの直通列車は青梅線内運休。そのため、次は22分後の14:52発予定青梅行き。

しかし、大幅な遅れのため、所定14:30発の電車が出発していなかった。俺はその電車に乗った。

遅れていた14:17着予定だった南武線の電車を待ち、14:40に10分遅れで出発した。青梅行きではなく、拝島行きとして運転する。

昭島~拝島では25km/h以下の徐行運転がなされ、拝島には15分遅れた14:58に到着した。

拝島到着時、八高線は全線で運転を見合わせていた。俺は仕方なく、拝島からなるべく近づくため、バスで田中停留所へ。

16:08発立82系統で田中へ。なるべく小宮に近づく。

16:24に田中停留所。16:44発昭30系統のバスに乗り換え、田中団地西停留所へ。16:46に到着した。

 

(歩きになるのか……)

 

俺はレインコートを羽織り、しょうがないと思いながらも歩き始めた。44分歩きらしい。

 

 44分歩いて、17:30、ようやく瑞浪の家の前まで来た。もうくたくただ。俺は屋根のある場所でレインコートを脱ぎ、ビニール袋の中へ突っ込んだ。そして、ピンポンを鳴らす。

 

《はーい……》

「すみません、影山です。瑞浪が心配していると思いまして」

《影山……ああ、彼氏さんね。入っていいわ》

「失礼します」

 

俺はドアが開くのを待った。開くと、お母さんが出てきた。

 

「こんなところまで……どこから歩いてきたの?」

「田中町団地西ってバス停からです」

「えぇ!?あそこからだと50分くらい歩くわよ!?」

「歩いてきました……」

 

俺は息を吐くように言った。

 

「疲れたでしょう?あ、そうだ」

 

お母さんは何かを思い出したように言った。

 

「瑞浪、部屋で蒼くんのこと待ってるわよ。あの子、蒼くんは来る!とか言って、部屋に籠ってるの」

 

面白い人だな、瑞浪は。俺は瑞浪の部屋に行こうとする。そこを、お母さんが止めた。

 

「レインコート干しとくわ」

「あ、ありがとうございます」

 

置いていったレインコートをお母さんは干してくれた。俺は瑞浪の部屋に行った。

 

「瑞浪、入るよ」

 

俺が開け始めると、瑞浪は「待って!」と言っていたが、もう開けてしまっていた。

 

「え……瑞浪、着替えてた……?」

「うん……あ!みたでしょ!」

「見てない!」

 

俺は反射的にそう言った。瑞浪は恥ずかしそうに顔を赤くした。

 

「うぅ……恥ずかしい……」

「なんかごめん……」

「けど、どうせ見せるんだよね……いつかは」

 

どうせ見せる?そんなことない気がするが……あ、結婚すれば見るか……?

 

「蒼くんっ!私のブラ見て!」

「はぁっ!?」

 

瑞浪は壊れたかのように言った。

けど、こういうのも面白かったりするから、俺は好きだ。



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第15話 泊まり

今回の登場人物
影山蒼
春風瑞浪
春風瑞季
お母さん
お父さん
以上5名


 俺は運行情報を見た。以下の路線が遅延、運転を見合わせ、お知らせが出ていた。

 

  青梅線 お知らせ

  青梅線は、大雨の影響で、終電の時刻が変更となります。立川方面は拝島19:38、拝島方面は立川19:34が最終となります。

 

  中央線 運転見合わせ

  中央線は、八王子駅での停電の影響で、武蔵小金井~高尾駅間の上下線で終日運転を見合わせます。武蔵小金井~東京駅間は、終電の時刻が変更となります。なお、一部列車が運休となっています。

 

  八高線 運転見合わせ

  八高線は、八王子駅での停電、及び、箱根ヶ崎~東飯能駅間での線路内冠水の影響で、高麗川~八王子駅間の上下線で終日運転を見合わせます。川越線への直通運転を中止しています。

 

  横浜線 運転見合わせ

  横浜線は、八王子駅での停電の影響で、橋本~八王子駅間の上下線で終日運転を見合わせます。東神奈川~橋本間は終電の時刻が変更となります。

 

  中央線 お知らせ

  中央線は、大雨の影響で、上りは武蔵小金井19:06、下りは東京19:17が最終となります。また、下り19:17発の電車のみ、豊田まで運転します。それを除く電車は、全列車が武蔵小金井駅で折り返し運転を行います。

 

  横浜線 お知らせ

  横浜線は、大雨の影響で、下りは東神奈川19:12、上りは橋本19:14発が最終となります。明日の運転にも影響がでる場合があります。

 

  五日市線 運転見合わせ

  五日市線は、大雨の影響で、全線で終日運転を見合わせます。立川行きの電車を取り止めます。

 

  JR全線 お知らせ

  本日、関東地方の局地的大雨の為、終点到着が20:00を越える電車の運転を取り止めます。明日の天候によっては朝時間帯の運転取り止めの可能性もあります。

 

今日は帰れるのだろうか。俺は調べてみた。

今は19:20。無理に決まってる。19:38拝島発が最終なんだから。

 

「蒼、止まっていくか」

 

お父さんだ。優しいお父さんで良かった。

 

「はい、申し訳ありません」

「あっはっは、いいんだよ。瑞浪も嬉しいだろうしね」

「うん!嬉っ!」

 

そうか、だったら泊まっていこうかな。今回だけはしょうがないだろう。

ドアが閉まると、瑞浪はベットの中に入って、俺を手招きした。

 

「来て、蒼くん♡」

 

布団を開けて誘惑してくる。俺はその誘惑に負けて、同じ布団の中に入った。

 

「ふふ、入ったね」

「いや、瑞浪が好きだから」

 

瑞浪と俺は一緒にハグしていた。

 

 18:30になると、お母さんが夕食を俺の分も作ってくれていた。俺は瑞浪と一緒にテーブルに座った。

 

「嫌いなものとかない?」

 

お母さんが心配して聞いてくれた。

 

「はい。大丈夫です」

 

俺は食べ進めた。瑞浪は俺のとなりでニコニコしながら食べていた。

 

「瑞浪、どうかしたか」

「ううん、なんか見てると幸せぇ」

 

ホントに、俺がいるとそうなるよな。

 

 夜になり、俺は風呂に入りに行くところだった。すると、瑞浪と瑞季が「一緒に入る!」と2人同時に言ったため、俺は瑞浪と瑞浪と一緒に入ることにした。

 

「瑞季は今何年生だっけ」

「高校1年だよ?どうして?」

「いや、なんか……大人っぽい……」

 

瑞季はきょとんとした顔をして、少しすると顔を赤くした。

 

「良かったじゃん、大人っぽいってさ」

「うん……」

 

瑞季は胸を自分で揉みながら言った。一瞬不思議に思ったが、すぐに分かった。

 

「瑞季もおっぱいおっきくなったねー。今何?バスト」

「85cmだったかな。お姉ちゃん何なの?」

「87。もう近いなぁ」

 

俺がいるところでなんて話してるんだ……

 

「2cmは結構違うもん!このーっ!」

「きゃっ!もう、みずきぃ…」

 

胸の揉み合いをしていた。なんちゅう事を……俺は目をつぶって髪を洗っていた。

 

「あんっ、お姉ちゃんっ!やめてぇ」

「瑞季もっ!乳首はらめぇ」

 

俺は急いで流し、体を洗い、風呂のなかに潜った。声が籠って聞こえる。

 

「蒼くん!」

 

瑞浪は俺を外に出す。

 

「どうしたの?」

「お前らが胸の揉み合いしてるからだろ!」

「っ!ごめん!」

 

瑞浪は手を合わせて謝った。俺は瑞浪の事を撫でた。

 

「いや、いいよ。気を付けて……」

 

俺は瑞浪に言って風呂に入っていた。

 



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第16話 楽しい?

今回の登場人物
影山蒼
春風瑞浪
春風瑞季
お母さん
お父さん
以上5名


 俺は瑞浪の部屋に戻った。始めて知ったのだが、瑞浪と瑞季は同じ部屋だったらしい。ベットは1つだけだけど。仲がいいから問題ないらしい。

 

「蒼くんは丁度真ん中に挟まれるよ」

「あ、そうなの」

 

俺は瑞浪の隣にベッタリくっついた。列車走行位置では、20:10で何も走っていない。

 

  八高線 お知らせ

  八高線は、線路内冠水の影響で、明日(6/18)の始発から12時ごろまでの、八王子~高麗川駅間で運転を見合わせます。12時ごろから通常の3割程度の運行で、箱根ヶ崎~東福生駅間で徐行運転を行います。

 

  横浜線 おしらせ

  横浜線は、13時ごろまでの運転を見合わせます。

 

 明日は結構混んでそうだな。

俺は瑞浪にくっつかれる。瑞季はまだ布団の中にいない。

 

「蒼くん、あの──」

 

俺は瑞浪にキスする。いいかけてたことなんて、もう知っていた。

 

「ん」

 

瑞浪は目をつぶる。同時に俺が離れると、瑞浪は俺の背中から抱き寄せる。

 

「今、すごい幸せ……」

「そうか……」

 

俺は瑞浪の頭を撫でた。シャンプーのいい匂いがふんわりと匂う。

 

「ずっとくっつけてて。一緒に寝るのも初めてだから」

「寝たことないんだっけ、一緒に」

「そもそも泊まりに来たの初めてでしょ」

 

俺は緊張で変な日本語になってしまう。瑞浪はすぐにそれに気付いた。

 

「ふふっ、蒼くんおかしいっ」

「うっ……」

 

瑞浪は小さく笑った。

 

「あしたぁ、蒼くんバイド休みでしょぉ」

「ああ、それがどうかしたか」

「蒼くんの家に、泊まれないかなぁって」

 

お返しか。嫌じゃないけど、俺のベットシングルだし……

 

「お姉ちゃんっ!わ、お兄ちゃんもいた」

 

瑞浪がベットにやってきた。俺は天井を向いた。これだと2人に話せるから。

 

「瑞浪、彼氏とかいないのか」

「彼氏?いないいない。中学校にいい人いないし」

 

そんなもんなのか……?俺は生徒会長なのに生徒会長っぽくなかったが。

 

「蒼くんは、倉山くんと一緒に屋上で寝てたじゃん」

「げ……見られてたか……」

 

瑞季は笑った。瑞季は仰向けで横になった。

 

「こんな感じ?」

「そうそう!似てる!」

 

瑞浪……見てたからって……

 

「ホントに、見られてると思わなかった」

「お兄ちゃん、生徒会長でしょ」

 

ごもっともで……

 

「生徒会長でもこうなるんだよ」

「そうなのかなぁ。さて、寝よっか」

 

瑞浪は電気を消しに行った。電気が消えると、真っ暗になった。俺はどっちに瑞浪と瑞季がいるか分からなくなり、適当に左の人に抱きついた。

 

「お兄ちゃん?」

「あ、瑞季だったか」

「ずるーい!瑞季だけ!」

 

こうなるから嫌だったんだよ、暗くするの。

 

「分かったから、瑞浪もおいで」

「わーいっ」

「ぐぬぬ……物足りない……」

 

2人とも足りないのかよ。もう我慢しとけ。

 

「ほら、寝るぞ」

「はーい」

 

俺はゆっくりと目を閉じた。今日も大変だったな。歩いて瑞浪の家に来たり、なんかお風呂の事件とか。

 

(さて……寝返りうたないようにしよう)

 

俺は心のなかでそう決心した。

 

 

 翌日、昨日の大雨は嘘のように快晴だった。八高線は運転を見合わせ、中央線は一部運休で再開していた。

小宮駅の次の電車は12:36発八王子行。反対方面は少し早く、12:21発所定川越行。だが、直通を中止するため高麗川行で運転するだろう。

俺が起きたのは6:30。俺は一足早く下に降りた。

 

「あら、影山くん。早いわね」

「はい。早起きは三文の徳ですので」

「瑞季も見習ってほしいわ」

 

瑞季、そんなに起きれないのかよ……

 

「お、影山くん。早いね」

「はい」

「瑞季は起きるのが苦手でね。寝るのは得意なんだが……」

 

そんなにかよ……瑞季、叩き起こしても起きなさそ。

 

「休日なんて起きるの12:00だよ……」

「正午じゃないですか!」

「ふふ、それまでずーっと寝てるのよ」

 

ホントに、どうすればそんな寝れるんだ……

俺がご両親からの話を聞いていると、瑞浪は2階から降りてきた。

 

「ふわぁっ……おはよー」

「おはよう、瑞浪」

「起きたか、瑞浪」

「おはよ、瑞浪」

 

3人揃って言った。瑞浪はまだ眠そうだ。

 



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第17話 婚約相手

今回の登場人物
影山蒼
春風瑞浪
春風瑞季
お母さん
お父さん
大島先輩
以上6名


 瑞季が起きて来ると、みんな口を揃えて「遅い!」と言った。高校は俺たちと同じ高校だ。

すると、お父さんとお母さんが言った。衝撃的な言葉だった。

 

「結婚を認めようと思うんだ、俺と母さんは。そこで、影山くんにも意見を聞きたくてね」

 

結婚を認める、か。嬉しいことに限りない。だが、この2人だけで決まるものなのか?

 

「あの、お祖父様やお婆様の許可は大丈夫なのですか」

「ああ、もう了承を得ている。ただ、1つの点が問題なのだよ」

 

お父さんは険しい表情をして言った。

 

「瑞浪にも、付き合っていた人はいた。その人と、別れきれていないそうなんだ。影山くんはいないのかい」

「えっと……大変言いづらいのですが……」

 

これは言ってもいいのか……言ったら怒鳴られないだろうか……と考えつつも言った。

 

「バイト先の女性の方が、俺とベッタリくっついていたりします……」

「それ、本当?」

 

お母さんが口を開けた。

 

「はい。流石に付き合うとかはないと思いますが、一応あと1ヶ月待ってほしいかなと」

「そうだったの。いいわよね、瑞浪」

「うんっ!その代わり、蒼くんとくっついてていい?」

 

すると、瑞浪が言った。

 

「Mizuna and So-kun is a “Love love couple”!」

「Wrong, So-kun and I is marriage partner.」

 

もう何言ってるか分からん。理数系の目の前で英語を話すのやめてくれ……

 

「わ、わぁ……」

「ふふっ」

 

瑞浪が微笑んだ。俺は何を言っていたのか瑞季に聞いた。

 

「何て言ってたんだ」

「え?えっとね、私が『瑞浪と蒼くんはラブラブカップルだね!』って言ったら、お姉ちゃんが……」

 

瑞浪は俺の顔を伺ってから言った。

 

「『違う、蒼くんと私は婚約相手だよ』って」

「おぉ……」

 

なかなかやるな。

この会話を聞いていた瑞浪はニコニコ笑っている。

 

「蒼くん♪」

 

瑞浪は手を胸の前にして、手首を下に曲げ、頭をこっちにアピールしてくる。まるでうさぎが立っているときのような体勢だ。

 

「撫でてほしいのか」

 

俺は瑞浪の頭を撫でた。瑞浪は嬉しそうな声を出す。

 

「きゅぅん……」

 

瑞浪は次に、俺の腹に頬を擦っていた。

 

「すりすりー」

 

俺は瑞浪がしているようすを黙って見ていた。

とてつもなくかわいいっ!

瑞浪がすごくかわいく見え、さらに、世界一なように見えた。

 

「あはは……本当のカップルみたい」

「違うって言ってたじゃないか。婚約相手だろ」

「あ、そっか」

 

瑞浪は照れていた。すごく照れていた。今までにないほどに。

 

「瑞浪……」

「蒼くん……」

 

俺と瑞浪はぎゅっと身を寄せ合った。瑞浪っぽい感触が身体全体に伝わってくる。

 

「蒼くんの温もりが伝わってくる……」

「感触が全身に伝わるよ、瑞浪の」

 

瑞浪は俺が離れようとすると、離れることを許さないと言わんばかりに強く抱き締める。

 

「ダメ。離れないで」

 

瑞浪は顔を向けずに言った。俺も拒否しない。

 

「……分かった。しばらく、な」

 

今日は俺も帰らないといけない。昼飯くらいは自分で食おう。

学校からの特例で月10万、政府へのある協力で月島30万。月に40万貰うのだが。今持っているのはその内の10%とバイトからのお金。日給5000円だ。普通くらいだろう。というか、少し抑えてもらってこの値段。妥当な日給だろう。

要するに、今は45000円持っている。

口座には40万貰ってるのが3ヶ月で、120万近く入っている。もうそろそろ調整しないとな。無駄遣いはしないが、何か必要なものとか買うか。

旅行とかもいいな。親孝行とかもいいかもしれない。生まれてから19年目だし。その分世話になっている。

俺は瑞浪の耳を塞いで言った。

 

「瑞季、瑞浪に、行きたいところないか聞いといてくれ。俺の名前は出すな」

「うん。どこか行くの?」

「それはまたチャットで……」

 

俺は瑞浪の耳から手を離した。瑞浪は微動だにしない。寝てるんだろう。

俺は瑞浪をクッションの上に寝かせた。

 

「……さて、帰るかな」

「あら、帰るの?雨合羽そこに掛かってるわ」

 

お母さんが雨合羽を取ってくれる。

 

「ありがとうございます。また、瑞浪に会いに来ます。俺の家にも来ていいよって、瑞浪に言っておいてください」

「分かったわ。そういえば、まだ電車来ないけど、どうするの?」

 

そうか……八王子じゃなくてもいいし……昭島の方が駅近かったよな。

 

「昭島までバスで行きます。それでは、お邪魔しました」

 

俺は外に出て、小宮駅入口のバス停まで向かった。

行き先は、日野駅か八王子駅。八王子駅行でいいだろう。

9:38発大11の八王子駅北口行。

途中、北八王子駅や、京王八王子駅も経由したが、八王子駅で降りた。10:12、若干遅れて到着。ここからどうするかなぁ。

そう考えていると、後ろから聞き覚えのある声がした。

 

「影山先輩?」

 

先輩呼びで、俺より年下っぽい。ということは……

 

「大島先輩?」

 

俺が後ろを振り向くと、大島先輩がお辞儀していた。

 

「お久しぶりです、影山先輩」

「こちらこそ。どうしたんですか、八王子に来て」

「ああ、その……バス乗りたかったので、八王子に……」

 

そんなこともあるんだな。

 

「大島先輩はこれから帰宅ですか」

「はい……」

「だったら、一緒に帰りましょうか」

 

俺は家に帰らず、大島先輩の家まで一緒に行くことを提案した。

 

「え!そんな、迷惑ですよ……」

「俺はいいんですけど……大島先輩はどうですか」

「……確かに、一緒に帰った方が安心ですし……」

「じゃあいいですね。帰りましょう、先輩」

 

俺は大島先輩と一緒に八王子駅に入った。

 



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第18話 帰り

今回の登場人物
影山蒼
大島茜
母さん
以上3名


 俺は大島先輩と一緒に中央線に乗っていた。

 

「大島先輩、したの名前何ですか」

(あかね)っていいます」

 

茜、か。かわいい名前だな。

 

「かわいいですね。茜先輩でいいですか?」

「へっ!?か、かわいい?あ、茜先輩!?い、いいですけど……影山先輩の下の名前も教えてくださいよ……」

 

すごい恥ずかしそうじゃん。そんな恥ずかしがることか?

 

「あぁ、蒼です」

「蒼?蒼くんってことですか?」

「そういうことです」

「分かりましたっ、蒼先輩」

「茜先輩も」

 

俺はロングシートで2人で話していた。

武蔵小金井に着くと、茜先輩は電車を降りた。ここが最寄りらしい。

 

「着きました。蒼先輩、ありがとうございました」

「はい。気をつけて帰ってくださいね」

 

俺は一回改札を出て、再び改札内に入った。

 

(そういえば……金、余ってるんだよな)

 

折角だ。と思い、俺は隣の東小金井の近くにあるコンビニのATMから5万円自分の口座から引き出し、新宿までの切符を買った。普通は新宿までいかないけど。

今日は時間もあるため、新宿から京王線で片倉まで帰ろうと思った。最寄りはJRだと片倉、京王だと京王片倉だ。

 

 10:52発快速東京行きに乗車。途中、三鷹、吉祥寺、荻窪、中野、新宿、四ッ谷、御茶ノ水、神田、東京に停車する。しかし、俺は新宿で降りる。

11:16に新宿駅に着いた。新宿駅は大きく、京王線乗り換えまでで迷いやすい。一応よく来てるから道は分かるが、乗り換え路線はかなりある。

埼京線

湘南新宿ライン

中央線

山手線

総武線

小田急線

京王線

東京メトロ丸ノ内線

都営新宿線

都営大江戸線

以上10路線が乗り入れる。迷うのもしょうがないのかもしれない。

今度の京王線は、11:27発準特急高尾山口行き。京王線内で速い方から3番目の種別だ。速い方から、

京王ライナー

特急

準特急

急行

区間急行

快速

各駅停車

の7種類。各駅停車、快速、区間急行、急行は都営新宿線にも直通している。

今回乗車する準特急は、途中、笹塚、明大前、千歳烏山、調布、府中、分倍河原、高幡不動、北野、京王片倉、山田、めじろ台、狭間、高尾、高尾山口に停車する。

 

 結構早く府中まで来ることができた。俺は、電車の行き先を見た。「高尾山口」だ。高尾山は近いから結構登ったことがある。

 

(今度、誰かと登りたいな)

 

俺は早速頭のなかに思い浮かんだ瑞浪にチャットを送った。

 

〈高尾山登りに行かないか?明日〉11:52

〈ごめんっ!明日バイトなんだ〉11:52

 

電車は分倍河原に停車した。

 

〈そうか。ごめんな、いつなら空いてる〉11:53

〈今度の火曜日だったら空いてるよ!〉11:54

〈分かった。火曜日高尾山登るんだけどいいかな。無理だったらいいんだけど〉11:55

〈登る!2人で登ろっ〉11:55

〈いいぜ〉11:55

 

火曜か……一応他の人にも聞いてみようかな。

 

〈茜先輩、明日空いてます?〉11:56

〈空いてますよ。どうかしたんですか?〉11:57

 

返信早くね?

 

〈高尾山登りたいなと思いまして〉11:57

〈いいですよ、登りましょ〉11:58

 

よっしゃ。さすが茜先輩。

 

〈明日、高尾山口駅で待ってますね〉11:59

〈はい〉11:59

 

相変わらず返信が早い。

 

 電車が京王片倉に着いたのは12:09。歩いて10分、家に着くと、母さんが昼飯を作って待っていた。

 

「母さん、今日はなんだ」

「チャーハンよ」

 

俺は椅子に座ってチャーハンを食べ始めた。

 

 部屋に戻り、俺はベットに横になった。

 

「疲れたぁ」

 

正直、なんか昨日から帰ってきてないから、慣れていない枕で寝ていた。やっと慣れた枕で寝れたから疲れが取れてくる。

 



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第19話 登山

今回の登場人物
影山蒼
大島茜
以上2名


 俺は京王片倉8:07発準特急高尾山口行きに乗った。空いていて、席に座れた。

これで行くと、高尾山口には8:19に到着する。

 

「あれ、茜先輩……」

 

俺は誰にも聞こえないような小声を発した。そう、待ち合わせ場所こそ言っていたが、時間は教えていなかった。

 

(やべぇ……時間伝えてなかった……)

 

俺はいつの間にか高尾山口に着いてしまった。俺は不安に思いながらも改札を出た。

そこには、茜先輩が立っていた。俺は謝るために急いだ。

 

「あ、蒼先輩──」

「すみませんでした!」

 

俺は頭を下げて謝罪した。

 

「えっ、えぇ!?な、なんでですか!」

「時間を伝え忘れてました……」

「あ、そういえばたしかに……でも、いいですよ!会えたんですし!」

「すいません……」

 

俺は謝ってから、高尾山に登り始めた。未だに敬語を使う癖は抜けないが。

 

「茜先輩は高尾山登ったことあるんですか」

「ないです。蒼先輩はどうですか」

「俺は結構前なんですけど、山頂まで」

 

16歳の時、高校の合格祝いで登った。599mと、結構低めの山だが、登ると疲れる。

 

「結構疲れますか?」

「はい。今日は登るとき慣れて貰いたいので、比較的楽な一号路でのぼります」

 

登ったことがあるんだったら六号路や稲荷山ルートでもいいが、慣れてないんだったら一号路が懸命だ。

 

「……なんか、違和感覚えます……」

「何にですか?」

「なんか、敬語で話してるのです……」

 

敬語は確かに外したことないし、当然だろう。

 

「外しますか?敬語」

「……はい……」

 

俺は茜先輩の手を握った。

 

「ふきゃ!?」

「楽しんでね、茜」

 

茜は顔を紅くして言った。俺は茜の手を握ったまま、高尾山の一号路に向かった。

 

「ケーブルカー乗るか?」

「ううん……」

 

敬語を外して慣れないだろ。急に外したって慣れないんだよ。

茜は顔をブンブン横に振って言った。

 

「フルで登りたいから最初から歩く!」

「よし。じゃあ行こうか」

 

俺は茜から手を離して一号路を登り始める。

 

「蒼……くん……?」

 

ああ、俺が勝手に「茜」って呼んだだけで、茜自身はなんて呼んだらいいかわからないのか。

 

「なんだ?」

 

それでいいと言うように、俺は返事した。

 

「結構キツいね」

「最初は一気に登るからな。ケーブルカーの終点まで来れば楽さ」

 

俺は茜の後ろを歩きながら言った。後ろにいた方が何かあったとき助けられるから。

 

「ここ急……」

「押そうか」

 

俺は茜のことをそっと押した。茜は身が軽くなったように歩き出した。

 

「わぁっ!軽い!」

「よかった。こまめに休憩しような」

「うん」

 

茜は俺の手伝いもあって、金比羅台まで来ることができた。

 

「景色きれぇ~」

「登ってきて良かっただろ。ここから高尾山駅に行って、山頂行くからな」

 

俺と茜は金比羅台で少し休憩した。

 

「蒼くん、新宿見えるよ!」

「そうだな。池袋だって見えるぞ」

 

そんなことをしていると、時間は結構過ぎていた。俺と茜は高尾山駅に向けて歩き出した。

 

 高尾山駅の近くにある高台で、俺と茜はいちごミルクのアイスクリームを買った。2人で一つ食べることにして、スプーンも2つ付けてもらった。「彼女さんですか?」と聞かれたが、俺は「親友です」と答えた。しかし、茜は不満気だったため、「これからデートです」と言い直した。すると、茜はニコニコして笑った。

 

「茜、なんで彼女なんて」

「いいのっ、そういう雰囲気出しておきたいじゃん」

 

そんなもんか。

俺は椅子に座ってアイスクリームを舐めた。両方向から舐め合っていて、途中でくっつきそうになることも度々あった。

 

「あとは茜が食べていいぞ」

「え?もう少し食べよ?」

「……しょうがないな……」

 

俺は茜と一緒にアイスクリームを舐めた。

 

「ほら、終わりだ」

「むーっ……はむっ」

 

茜はアイスクリームの頂点を咥えた。

 

「食い終わったらまた歩くぞ~」

「はーいっ。むぐ……はむっ♪」

 

なんか、瑞浪といい勝負しすぎてる。二股になっちゃうじゃないか。

 

「行こっ、蒼くん」

「あ、あぁ……」

 

俺は山頂に向けて歩き出した。

 



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第20話 嫌……

今回の登場人物
影山蒼
大島茜
以上2名


 俺たちは途中から4号路に入った。吊り橋があり、そこまで下がっていた。

 

「蒼く~ん、まってぇ~」

「茜?速いか?」

「下りだから膝が……」

 

そういうことか。というか、下山するとき大丈夫か?

 

「俺の背中のっていいから。吊り橋の前で下ろすからな」

「ありがと~」

 

茜は俺の背中に乗った。茜は俺の首に捕まる。

 

「……茜は、なんか嫌な思い出とかない?」

「嫌な思い出?」

 

茜は無さそうに言った。嫌なことなんて、一瞬で忘れるか。

 

「あぁ、ごめん……ないよな、茜になんて──」

「あるよ?」

 

茜はその事を話し始める。

 

「すっごいいじめがあって、私の中学校とかすごい荒れてたの。運動部の子達が文化部の子達を弱者扱いしたりとか、放送で呼び出して屋上で突き落とされそうになったり」

「結構あったな。けど、俺は思いすぎだったのかもな」

 

茜はその過去を話し始める。

 

「私は、一応屋上の呼び出しは断って、部活は運動部に入ったの。でもね、ここであることが起こったの」

「立場の逆転、か」

「分かってるんだ。そう。立場の逆転が始まって、運動部に入部した子達に、文化部の人たちが、避けてるんだろ、とか、弱者扱いされたくないからだろ、とか言ってたの」

 

俺のところだと、それで軽い戦争みたいなのが起こった。

 

「私は女子バスケット部だったんだけど、コンピューター部から標的にされて、私たち1年生を思いっきり叩いたりしてたの。それで、20人いた部員はいつの間にか6人まで減っちゃったの。1年生が2人、2年生が3人、3年生が1人でね」

「辞めたってことだよな」

 

茜はうなずいた。

 

「そういうこと。そのあとは、私に標的が向いて、傷つけられることはたくさんあった。水をプログラムで落とされたり」

 

ひどい奴らがいるもんだな。けど、俺は違う。

 

「もう、そんなことにはなりたくないな」

「あぁ……」

 

俺が、いじめていた側になっていたなんて、言えない。

 

「蒼くん、いじめてる側じゃない?」

「っ!」

「分かるよ。そんな分かるはずないもん。蒼くん、降ろして」

 

茜は先に走っていく。俺から離れたかったんだろう。しかし、俺は追いかける。最悪な人間がやることは百も承知だ。

 

「茜」

「なに」

「俺は誰」

 

俺は「殺人鬼」や「罪人」「悪人」とでも言ってほしかった。

 

「殺し屋」

「……そうだ。ありがとう」

 

俺は下山し始める。駆け降りた。誰も追い付けないほどに。駆け降りた。

 

 気付くと、俺は高尾駅まで走っていた。もうどこにいるのか分かっていなかった。

 

「……帰ろう」

 

俺は家に帰った。

 

 

 

 家に帰ると、母さんが言った。それは、今の俺を1番傷つける言葉だった。

 

「おかえり、蒼。早く帰ってきたわね。さすが、()()()だわ」

 

うるさい。喋るな。口を塞げ。消えろ。

俺は心のなかでそう思った。しかし、これら全て、俺が言ったことだ。

 

「ありがとう……」

 

俺が言った言葉にイラついて、なんで自分で自分の首を絞めてるんだ。

 

「今日、夕飯いらね」

「あらそう?どこかで食べてくるの?」

「あぁ」

 

俺は嘘をついた。息を吐くように。

部屋に入ると、写真が大量にあった。そのほとんどに人が写っている。俺は、人が写っているもの全てをクローゼットの中に入れた。

 

「もう、俺は変わってしまったんだ」

 

いじめていた側なんて、非常識で、ヤンキーっぽくて、ガキなんてことは、よく言われる。しかし、嘘じゃない。事実なんだ。

 

「事実に怒っても仕方ないよな」

 

俺は家から出る。夕飯を食いに行くと思っているんだろう。止めもしなかった。

 

「今度の電車は……というか、行くところすら決めてないな……」

「あ……」

 

後ろにいたのは茜だった。そうか、北野まで行くから京王片倉に来るんだ。

 

「なんで降りた」

「ごめん」

 

俺は次の質問に移る。

 

「なんで来た」

「ごめん」

「答えられないか」

「ごめん」

 

れは何故かイラつかなかった。普通だったらイラつくに決まってる。なのに、なぜだろう。

 

「なんで答えられない」

「ごめん」

「……なんで謝ってる」

「ごめん……」

 

茜は謝るうちに泣き出す。俺の方が身長が高く、上から威圧をかけているみたいだ。周りからも、恐喝じゃないかと言われている。

 

「……来いよ」

「ごめん……」

 

茜は俺について来た。

 



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人物紹介

  影山蒼(18)

誕生日:7月25日

好き・得意な教科:理科、数学、地理、体育

嫌い・苦手な教科:国語、英語、保健

好きな動物:レッサーパンダ

好きな食べ物:肉

嫌いな食べ物:辛いもの、苦いもの

趣味:計算、瑞浪とのデート

身長:178cm

あだ名:クロ

 

 何時(いつ)なんどきでもクールビューティー。というか、クール中のクール。何事にも冷静に判断する。さらに、運動神経も抜群。シャトルランでは140回を超えた強者。耐久でも、他の人が3500mで止めるなか、蒼は、15000m走ったらしい。バク転もできて、握力も中学校で46kg。

しかし、意外な過去があり、当時の同級生には会いたくないらしい。嫌われてる人は、結構多い。しかし、瑞浪のことを愛してやまない。何かあると絶対に立ち向かう。

 

  影山楓(18)

誕生日:5月24日

好き・得意な教科:ない

嫌い・苦手な教科:保健体育

好きな動物:レッサーパンダ

好きな食べ物:ホットケーキ

嫌いな食べ物:クルミ

趣味:蒼くんの写真を見る

身長:167cm

あだ名:かえで

 

 すごく蒼に性格が似ている。冷静、というより、蒼の前では尋常じゃないほど落ち着いている。しかし、照れ隠しだと、柚葉は思っている。

蒼との写真は会うたびに撮る。2人きりの写真が何枚もあり、休みの日には1人で蒼と撮った写真を見ている。誰も知らない秘密でもある。

 

  影山柚葉(18)

誕生日:12月3日

好き・得意な教科:英語、国語

嫌い・苦手な教科:数学、理科

好きな動物:  にゃ

好きな食べ物:アイス

嫌いな食べ物:辛いもの

趣味:撫でられること♡

身長:168cm

あだ名:ゆず

 蒼とは従妹。楓とは双子だが、性格は正反対。明るく、何事にも取り組みがち。

柚葉は蒼のことは好きではあるが、楓には及ばない。だが、撫でられることは大好き。写真を見たり、撮ったりはあまりしない。

猫が好きで、甘えるときは思わず「にゃーん」と言ってしまう癖がある。

 

  春風瑞浪(18)

誕生日:4月30日

好き・得意な教科:数学、国語

嫌い・苦手な教科:理科、英語、社会、体育

好きな動物:うさぎ ピョンピョン!

好きな食べ物:野菜

嫌いな食べ物:辛いもの、苦いもの、熱い物(猫舌)

趣味:蒼くんとのデート

身長:169cm

あだ名:うさちゃん、みずっち

 

 その名の通り、春に生まれている。蒼のことが大好きで、蒼の彼女。2人姉妹の長女で、学力も1番上。しかし、理数が低いらしい。

うさぎも蒼の次に好きで、うさぎのぬいぐるみは50匹以上いるらしい。その影響か、うさぎじゃないのに「うさちゃん」と呼ばれている。

体育が苦手で、シャトルランは50回、耐久では2700m。握力は中学校で35kg。

 

  春風瑞季(15)

誕生日:4月30日

好き・得意な教科:主要5教科

嫌い・苦手な教科:保健体育、家庭科

好きな動物:猫 ニャーニャー!

好きな食べ物:なす

嫌いな食べ物:ごぼう、人参

趣味:昼寝

身長:162cm

あだ名:眠り姫、みずっち

 

 瑞浪とは姉妹の関係。誕生日は奇跡的に同じ。

早起きが苦手。休日は10時まで、それどころか、それ以上寝てるときもある。

勉強はまあまあできて、5教科平均は80点らしい。数学は50点らしく、蒼に熱血指導をしてもらったとか。

本人は猫が大好きだが、猫舌で、味噌汁すらのめにゃい(あ、噛んだ)。

 

  大島茜(17)

誕生日:12月12日

好き・得意な教科:体育、家庭科

嫌い・苦手な教科:体育と家庭科以外全て

好きな動物:小動物全般 ちっちゃくてかわいいっ!

好きな食べ物:イチゴ

嫌いな食べ物:ゴーヤ

身長:152cm

趣味:音楽鑑賞

あだ名:あっちー、あっちゃん

 

 体育で運動能力はいいが、長距離が苦手。かっこよく、けどかわいくという、ハイブリットな人。しかし、身長が小さく、蒼とは26cmの差がある。

身長が小さいからか、小動物が大好き。雀などは触ったり、指にのせたりしたことがあるらしいが、カラスだけは嫌い。

 



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第21話 不幸を忘れず、楽しく……

今回の登場人物
影山蒼
大島茜
市野穂花
影山蒼
影山柚葉
以上5名


 ……ごめんだけじゃ分からない。普通は怒るはずだ。しかし、俺は無言だった。何も言わなかった。

 

「あ……蒼くん……」

「……うっせ……」

 

俺が連れてきた場所はホームの死角になる場所。誰にも見えないところだ。

 

「え……」

「……バカだな、俺」

 

茜は「だったら」と言い欠けたが、俺は茜が話す前に言った。

 

「結局、追っかけてくるんだろ、茜が」

「……ごめん……」

 

茜は謝った。

 

「もういい──」

 

俺がそう言うと、俺の手首がどんどん切れてきた。

 

「蒼くん……!」

「痛っ……」

 

茜は俺から出る血を止める。しかし、それでも血が止まることなく、ただ、切れるのが止まっただけだった。

 

「茜……もう、このお願いを聞いたら、近づかなくても、いいから……俺を、助けて……」

 

茜は泣き出しそうな声で言った。

 

「いいよ……助けるから……ずっと、となりにいさせて……」

 

茜は俺の血をタオルを使って止める。

 

「……茜」

「なに」

「俺を助けていいのか」

「……今はしないんだし、いい」

 

茜はタオルを俺の手首に巻く。なんで切れたんだ……

 

「蒼くん、キツくない?」

「あぁ、大丈夫……」

 

しかし、何となく嫌な予感はしていた。こんなことが起きて、ただじゃ済まないことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何があったか。それは、バイト先が潰れた。というか、マスターが亡くなってしまった。死因は、心不全による急死だったらしい。関係者のみで式は執り行い、俺もその内の1人として行っていた。

 

「あ、影山先輩……」

「穂花……」

 

バイトで働いていた人たちは全員来ていた。さらに、その大半はバイトを失い、無職になっていた。

 

「マスター、突然すぎましたよね」

「あぁ……マスター、もう少しでも居てくれて良かったじゃないですか」

 

俺は遺影があるところに向けて言った。

 

 終わったのは14:20。場所が目黒だったこともあり、鉄道に詳しい方である、俺に帰り方を大勢が聞いてきた。

 

「家十条なんですけど、どうすればいいですか」

「だったら、新宿まで山手線で出て、そこから埼京線で帰れます」

「俺中野坂上なんですけど、どう帰れば……」

「そこの女性の方と、一緒に代々木まで出て、大江戸線ですね」

「ありがとうございます!」

 

みんな聞いてくる。俺は片倉だから比較的簡単だ。家からは、JR片倉駅まで徒歩10分、京王片倉駅まで徒歩5分だ。

 

「穂花は家どこだっけ」

「東小金井です」

 

東小金井かぁ。だったら新宿でお別れだな。今日行く予定だった瑞浪との高尾山も、俺の事情でなくなった。まぁ、そのせいで早く帰らないとなんだけど。

 

「そうか……新宿でお別れだな」

「そうなんですか」

 

残念そうに言った。けど、しょうがない。

14:17発で新宿に移動した。新宿から京王片倉まで準特急に乗る。だからお別れだ。

 

「穂花……またいつか」

「はい…また……」

 

俺は京王線の入り口に向かった。

 

 家に着いた俺はもうすぐ来る予定の俺の従妹を待った。俺と同い年で、双子の女子だ。

 

「母さん、どうしてこういう日に限って家空けるんだよ」

「いいでしょう?あの2人だって料理は上手よ」

 

そう、母さんと父さんは今日から1週間家を空けるのだ。だから従妹が来たと言ってもいいんだが。

 

「言ってくるわね」

「はいよ」

 

母さんと父さんは出ていってしまった。

すぐに従妹が来てくれて、俺は2人の頭を撫で回した。

 

「よしよし、よく来たな、(かえで)柚葉(ゆずは)

「えへへー、ありがと~蒼くん」

「くすぐったい……」

 

楓は遠慮気味に言う。そんなに好きじゃなかったか。

 

「俺と部屋を共用するからな」

「うん。私、隣がいい」

「あれ?楓が隣なの?」

「いいでしょ」

 

俺はいいから、もう自由でいいんだけど。

 

 柚葉は走ってくると言って、外に出ていった。俺と楓だけの2人きりになる。

 

「蒼くん、写真撮って」

「いつものだな。いいぜ」

 

俺は楓と肩を組んで自撮りした。すると、写真ファイルが見えた。

 

「あれ、残してあるんだな」

「……うん」

 

楓が残してくれてると嬉しいな。

 

「楓、俺、トイレ行ってくるから待ってて」

「うん」

 

俺は部屋から出た。

楓って、すごいクールで、落ち着いてるから好きだな。早く戻るか。

 

 俺が戻ると、楓は何か独り言を言っていた。俺はドア越しに耳を済ませた。

 

「しゅきぃ、しゅきぃ、蒼くぅん……はぁ……」

 

俺は少しだけドアを開けてみる。楓の声はまだ聞こえる。隅っこでやっているんだろう。俺は静かに入った。

 

「好き……蒼くん……」

「俺のどこが好きなんだ」

 

俺は楓の横に行った。楓は普通に答えた。

 

「優しくてぇ、気が合うとこぉ…………ふにゃっ!?」

 

楓は焦って変な声が出る。

 

「何言ってるんだい、楓」

「はうぅ……」

 

楓は壁に向かって暗い声で言った。頭を壁にぶつけている。

 

「死にたい……」

「あのなぁ……そんな隠さなくてもいいだろ」

「本人の前では言いたくなかった……」

 

なんか、俺が悪いことしたみたいになってる……

 

「あぁ……悪かった……」

「……好きでいたい……」

「従妹としてな。いいよ」

 

俺は楓の頭を撫でた。

 



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第22話 怪我 結婚

今回の登場人物
影山蒼
影山柚葉
影山楓
春風瑞浪
お母さん
以上5名


 柚葉が帰ってくると、俺は食事について考えた。俺の料理スキルは皆無。ゼロに等しいほどだ。

 

「柚葉って料理できたっけ」

「中学家庭科2の私に聞く?」

 

それもそうだ。家庭科2のやつができるわけないな。

 

「じゃあ楓は」

「簡単なものだけ。いい」

「それでもいいさ。食えればいい」

 

俺は楓に食事を着くってもらうことにした。誰も作れなかったら外食かなとか思ったけど。

 

「楓、料理作れるんだな」

「うん。けど、難しいの作れない」

「例えば」

「チャーハン作れる」

 

そう言ったら何となく昼飯のこと分かってきた。

 

「俺、着替えていいか?喪服のままなんだ」

「誰かのお通夜?」

「バイト先のマスターがね」

「そうだったんだ。着替えてきていいよ」

 

柚葉がドアを開ける。俺は見えないところで普段着に着替えた。喪服はハンガーにかけておこう。

 

「お待たせ──」

 

俺が着替えた時間は短かったはず。なのに、柚葉が下着姿に、楓が……あぁ……裸エプロン……

 

「君ら、なんでそんな……」

「だって、蒼くん、男子だから好きでしょ?」

「……エッチ」

 

楓は誤解し、柚葉はなにか勘違いしている。

 

「柚葉、着替えてなさい。俺は外出る」

「え、ちょっ」

 

俺は外出した。目的地も決めてないが、なんとなく瑞浪のところに行こうかと思った。

 

 瑞浪の家に着き、俺は呼び鈴を押そうとした。その途端、ドアが開いた。

 

「あ!蒼くん」

 

お母さんだった。なんで急に出てきたりなんかしたんだろう。焦ってるようだし。

 

「どうしたんです」

「瑞浪が、どこか行っちゃって。蒼くんの家に来てない?」

「いや、すれ違いかも知れませんが、おそらく来てないかと」

 

お母さんは走って探しに行った。どこかに行った?どこに行ったんだ。

 

「瑞浪……」

 

俺は周辺を探した。お母さん1人じゃ大変だろうから。

 

「蒼くん……」

「瑞浪か!」

 

俺は後ろを振り向いた。そこには瑞浪がボロボロの状態で立っていた。

服は茶色く汚れ、肩や膝に穴が空き、穴が空いたところからは切り傷が見える。全体には濡れた跡がある。

 

「蒼くん……」

「瑞浪、どうしてそんな」

「おじいちゃんを説得したの。そしたら、こんな……」

 

説得って……一体何を説得する──あ、違う。

 

「結婚のことか」

「うん……」

 

 

【春風瑞浪視点】

 

 おじいちゃんのところに行って、私は結婚を認めさせようとした。しかし、おじいちゃんは認めてくれた。代わりに、お兄さんが認めなかった。私は必死で認めさせようとした。しかし、お兄さんの怒りは爆発した。

 

「認めねぇって言ってんだろ!諦めろよ」

「嫌っ!結婚する!」

「いい加減にしろ」

 

お兄さんは私を強く叩いた。私は反抗し、叩き返した。

 

「瑞浪!」

 

お兄さんは私を突き落とす。下は川で、川の上に落下した。

 

「痛いっ……」

「やめなさい!君!」

「じいさんだって認めてないだろ!」

「あいつにはできる。見直した。瑞浪、帰りなさい」

「……」

 

私は立ち上がって走った。

 

【影山蒼視点】

 

 俺は瑞浪の傷跡を見た。小さな石が傷の表面に付いている。俺は瑞浪の傷を守り、家に帰した。

 

「瑞浪、傷口洗うから痛いけど、我慢してくれ」

「……うん」

 

俺は水道で瑞浪の傷口についた石を洗い流す。

 

「いっ……」

「瑞浪、大丈夫。おわったから」

「蒼くん……」

 

瑞浪は傷口を付けないように俺にくっついた。

 

「結婚、できるよ。蒼くん……」

「……馬鹿……」

 

俺は傷の周りを触って言った。

 

「こんな傷じゃ、式挙げられないだろ」

「……心配?」

「心配に決まってるだろ」

 

俺は絆創膏を傷のあるとことに貼った。あまり圧迫しないようにして、瑞浪の傷を隠した。

 

「瑞浪、痛くないか」

「うん……早く治んないかな」

「どうして」

「早く結婚したいから」

 

俺は瑞浪のことをハグした。こんな人がいい。こんな人と結婚したい。この人じゃないとだめだ。俺は心の中でそう思った。

 




急ですが、恐らく25話で最終回だと思います。


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第22話 結婚式場

登場人物
影山蒼
春風瑞浪
影山楓
以上3名


 瑞浪が怪我をして帰ってきた翌日、俺は瑞浪が治ったときの為に結婚式場をどこにするか決めていた。丘の上がいいんだろうか。それとも平地?経験がない俺には何も分からなかった。

 

「何してるの」

 

楓が後ろから話しかける。

 

「今度の結婚式場を探してるんだけど……」

「見つからないと」

「そう。楓だったらどういうところで式を挙げたい」

 

参考になりそうなのが楓しかいない。それ以外聞けないし。

 

「眺めがいいとこ」

「丘の上とか?」

 

楓はコクりとうなずいた。そういうのがいいんだな。

 

「オッケー。そこに予約取ってみるよ」

 

俺は丘の上にある式場の予約を取った。

 

「蒼くん、付き合ってるんだ」

「楓は」

「いない」

 

楓だったらいる気がしたけどな。何に問題があるんだ。

 

「そっか。だから俺に甘えられるのか」

「なっ……そんなんじゃない……」

 

恥ずかしがってる楓もかわいかった。

 

 俺は予約が終わると、瑞浪の家に行き、怪我の具合を見ていた。

 

「瑞浪、怪我治りそうか」

「う~ん、もう少しだと思う」

 

傷口は昨日よりは小さくなっている。だが、もう少しかかりそうだ。

 

「結婚式場も見つけたから、あとは俺の心の準備だ」

「もう!?はやーい!」

 

瑞浪は俺の手を握る。さすがにハグはしづらいのか。

 

「蒼くんの手、あったかい……」

「瑞浪の手も小さくてかわいい」

 

瑞浪の手はスマホを片手で操作できないほどの小ささ。それもかわいい。

 

「頑張って治すからね」

「あぁ。結婚式、楽しみだよ」

 

俺は瑞浪の手を握ったまま言った。

 

 瑞浪は怪我が治ると、すぐに俺のところに来てくれた。俺の両親はもう結婚することを知っている。挨拶でもないんだが、ただ会いたいだけだったと言う。

 

「ここ、俺の部屋だから」

「お邪魔しまーす」

 

瑞浪は俺の前で入る。俺がドアを閉めた瞬間、瑞浪は俺の口をふさいだ。

 

「チュッ」

 

キスだった。舌を出さない、普通のキス。そういえば、キスも久しぶりだった。

 

「蒼くんとくっつけないのが寂しかった。今、いろんなことしたい。ハグ!」

 

瑞浪は俺に飛びかかるようにハグする。俺は倒れないようにくるりとその場で回る。

 

「怪我治ったからか」

「もう傷跡もないし、痛くないもん!」

 

瑞浪はまたキスしようとする。俺が瑞浪のことを持っているせいか、背伸びしようとした瑞浪がバランスを崩す。

 

「わっ!」

 

瑞浪が俺を押し倒す形になった。俺は瑞浪のご要望どおりキスしていた。

 

「んぐ!?」

 

俺は息ができなくなった。瑞浪は笑顔になっていたが、俺はつらかった。



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第23話 前日

今回の登場人物
影山蒼
影山柚葉
影山楓
父さん
母さん
(春風瑞季)
以上5名(6名)


 夜が明け、楓たちも起き始めた7時。もう起きる気すらなかったが、柚葉がキスしようとしてきたからしょうがない。

 

「なーんだ、蒼くん起きちゃうんだ~」

「いや起きるだろ……」

 

俺はゆっくり起き上がった。すると、柚葉が俺の口にキスした。

 

「はむっ」

「ん……」

 

一瞬だったが、なんか仕掛けられた気がする。

 

「おはようのキス」

「彼女じゃないんだからさ」

 

柚葉はブーブーいいながら部屋から出ていく。

俺はカレンダーに赤丸をつける。もう結婚式は明日にまで迫っている。

結婚式は土曜日で、休日にしたのは、瑞季や、今日帰ってくる父さんと母さんが来れるようにだ。

 

「もしもし、瑞浪?」

 

俺は瑞浪に電話した。

 

《ごめん、今瑞浪いないから私出てる》

 

瑞季が電話に出ていた。

 

「そうなの?じゃあ、瑞浪に、明日のウエディングドレス楽しみだって言っといて」

《オッケー!私も着たいな~》

「しょうがないよ。彼氏つくるしかないな」

 

俺は瑞季にそう言うと、電話を切った。瑞季にはまず、全然早すぎる。卒業してからだな。

俺は明日に向けて、服装や髪型を考え始めた。服装は式場で着れるからいいとして、問題は髪型だ。どんな髪型にしようか、未だに悩んでいる。

瑞浪に聞こうとも思いはしたが、いないとなるとなぁ……しょうがないけど、なんか不都合だ。

どうしようか。ヘアスタイルに詳しい人なんてそう簡単はいないだろうし……

 

「蒼くん、入るよ」

 

楓の声だ。入れても大丈夫だろう。

 

「入って」

 

俺は楓を招き入れた。楓は髪を整えながら入ってきた。あ、いた。

 

「捕獲」

 

俺はそう言って楓の両肩をつかんだ。

 

「え、なに」

「髪型、明日整えてくれないか」

「明日結婚式だからね」

 

楓は正座した俺に寝た。

 

「明日、行くからね」

「──あぁ」

 

楓のたった一言に、俺は今までにないほど感動した。何でかは分からない。ただ、何となく──。

 

「蒼くん、泣いてる」

「え、あ」

 

俺は楓に言われて泣いていたことに気付く。

 

「蒼くん、結婚おめでとう」

「……ありがとう、楓」

 

俺は楓に礼を言った。なんだろう、結婚式前日ってこんな感じなんだ。そう思った。

楓は膝に寝たまま俺の腹を触った。楓がこんなことするなんて今までなかった。楓からしても、明日が特別な日ということが分かってるんだろう。

 

 夜になり、風呂に入っていた。もうそろそろ父さんと母さんが帰ってくる時間だろう。

空気の入ってくる音が聞こえたかと思うと、父さんの低く太い声が聞こえた。

 

「蒼~、どこにいるんだ~」

「風呂入ってる!」

 

俺は中から叫ぶ。すると、母さんも叫んだ。

 

「すぐ上がってきなさい!」

「あいよ」

 

俺は大声で言う。俺はすぐに体を拭き、服を着てリビングに走った。

 

「なんだ」

「蒼、そこに座りなさい」

 

なんか怒られるのか。俺は緊張しながら座った。

 

「蒼」

「はい」

「……」

 

父さんは黙り込んだ。あ、本当に何かあるか?

 

「蒼、結婚おめでとう。今日は折角5人揃ってるんだ。ケーキ買ってきたから、みんなで食べよう」

「はぁ、なんだよ、紛らわしい言い方するな」

「はっはっは、すまん!」

 

俺は持ってこられたケーキの皿を見た。そこには、「3つの続いた整数は3の倍数である!」と手書きで書かれていた。これって、人生で初めてやった証明問題じゃないか!

俺は書き始める。

 

 3つの続いた整数のうち、中心の数をnとすると、3つの続いた整数はn-1、n、n+1となる。計算式は(n-1)+n+(n+1)=3n

となる。nが整数のため、3nは整数となる。

∴3つの続いた整数は3の倍数であると言える。

 

全て書き終わった。すると、母さんがつっこんだ。

 

「そうだろうなとは思ったけど、こんな時まで数学脳なのね」

『あっはは!』

 

すると、俺以外のみんなが笑い出す。それにつれて、俺も笑い出した。

 



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第24話 当日

今回の登場人物
影山蒼
春風瑞浪
春風瑞季
以上3名


 俺は翌日、結婚式場に向かった。結婚式場では、俺のために髪型や服装のサイズを調整してくれた。

 

「こちらでよろしいでしょうか」

 

白く、整った服装だった。瑞浪にはまだ会えないらしく、俺は同じ部屋に隔離された。俺は椅子に座ってじっとしていた。

すると、瑞季が俺がいる部屋に入ってきた。おそらく許可をもらって入ってきたんだろう。俺は瑞季を横に呼んだ。

 

「瑞季、来たのか」

「うん。お姉ちゃんのことは伝えちゃいけないって言われてるけど、可愛かったよ」

 

そうか。それだけ知れたんだったらいいか。

 

「そっか」

「お兄ちゃんもかっこよくなったね」

「ありがと」

 

瑞季は隣にあった椅子に座る。

 

「あと30分だよ」

「分かってる」

 

俺は椅子から立ち上がった。もうあの式が、30分後に迫っているのだ。

 

【春風瑞浪視点】

 

 結婚式が始まるまで1時間を切った。服はもう着ている。白いウエディングドレス。初めて着るから少し違和感を感じる。でも、今日で蒼くんと結婚できるんだ。もう楽しみ。

 

「お姉ちゃん!」

 

入ってきたのは瑞季だった。瑞季って入ってこれるんだ。

 

「瑞季、入ってこれるの?」

「えへへー、許可もらったの」

 

そっか。許可もらえば入れちゃうのか。親族にはなるし、私たちと苗字一緒だから入れたんだろう。

 

「お姉ちゃん、それウエディングドレス?」

「うん。どお?」

 

私は立って、瑞季に見せた。瑞季は目をキラキラさせて見ている。

 

「いいなぁ、私も着てみたぁい」

「うーん……あ!」

 

私は後ろにあったウエディングドレスを手に取る。

 

「ちょっと待ってて」

 

私はすぐ近くの式場の人に聞いた。

 

「妹がウエディングドレス着たいって言ってるんですけど、私が着なかったウエディングドレス着させてあげてもいいですか?」

「ああ、いいですよ」

 

私はまた部屋の中に戻った。

 

「瑞季、着ていいって」

「やった!」

 

私は瑞季にウエディングドレスの着方を教える。瑞季はゆっくりだったが自分で着ていく。

 

「はい!これで終わり」

 

瑞季は鏡の前に立つ。

 

「うわぁ、すごいっ!」

 

瑞季はウエディングドレスを着ただけですごい喜んでいる。夢だったのかな。

 

「お姉ちゃん、これ着て結婚式出るんだよね」

「うん」

「感想聞かせて?」

 

瑞季、結構熱心だな。好きな人とかいるんじゃない?とか思っちゃう。

 

「いいよ。瑞季も、好きな人とかいるんじゃない?」

「えっ!いないよ!な、何言ってるの!?」

 

これ、絶対いる。もう分かるんだもん。けど、気づいてないフリしておこう。

 

「そお?ま、いずれかするんだもんね」

 

私は瑞季の背中を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ┌俺たちは

もう、結婚するんだ。┤

          └私たちは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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最終回 第25話 思い出の場所

 俺は扉が開いて、中に入っていく。左右には椅子に座った父さんや母さん、楓、柚葉、瑞浪の方のご両親が座っていた。もちろん瑞浪もいる。

俺は壇上にあがる。瑞浪が後から来るが、白いカーテンのようなもので顔が隠されている。

 

「瑞浪」

 

俺はそのカーテンのようなものを上げる。

瑞浪は笑って、俺に言った。

 

「蒼くん」

 

瑞浪は俺の手を握った。

 

「大切にすることを誓いますか」

 

誓う以外の選択肢なんて、あるはずがない。

 

「誓います」

 

同じことを瑞浪にも言う。瑞浪は「はい」と言って、俺に笑う。

 

「ウエディングケーキの入刀です」

 

俺はナイフを持つ。瑞浪が俺の手を握る。そして、ゆっくり、入刀する。

 

 

 

 結婚式が終わると、俺たちは急いで走って行った。行く場所は分かっている。きっと瑞浪だって分かっているはずだ。あの時、瑞浪が告白したあの場所だ。俺はそこ場所に辿り着くと、瑞浪に言った。

 

「覚えてるか、瑞浪がここで告白したの」

「覚えてるよ。蒼くんと両思いだったのも」

 

あれは、俺の人生で1番印象に残っていることだった。瑞浪が俺に告白をして、今こういう関係になっている。瑞浪にとっても、俺にとっても、嬉しい。

 

「あの時は桜が舞ってたんだけどな」

「いいじゃん、もう一回、来年、ここに来よう?」

 

瑞浪は俺の左腕を抱いて言った。

 

「いっそ、告白記念日に毎年来ちゃうか」

「何その告白記念日って」

 

瑞浪が笑って言う。しかし、すぐに笑顔で言った。

 

「でも、いい考えだね、蒼くん」

 

俺はその流れで言った。

 

「婚姻届出すとき、珍しいけど、瑞浪の苗字で出そうと思うんだ」

「え、どうして?」

「ほら、告白したとき、桜が風に乗って来てただろ?あれ、春の風みたいだったから。忘れないって思いを込めて」

 

たまたまだったんだろうけど、そうだとしても奇跡だと思う。あんなこと、もう一生ないと思うから。

 

「そっか。そうだね。そうしよ」

「あぁ」

 

俺はベンチに座った。

いまは緑の葉が生い茂っているだけで、あの時とは全く違う光景になっている。それと同じように、瑞浪に対する気持ちは、あの時と全く違う。あの時はただ「好き」という気持ちだったが、今は「大好き」という気持ちになっている。

 

「瑞浪、大好きだ」

「蒼くん……」

「瑞浪……」

 

俺は瑞浪とキスを交わした。ある意味ファーストキスだ。

 

「蒼くん、私も大好きだよ」

「よかった」

 

俺は瑞浪をハグする。あの時とは全く違うと思っていた。だけど、同じものはあったらしい。それは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      俺たちの身体だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  Fin.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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