ジャッジメントですの!に転生したけど おねぇさまぁ!した方がいい? (ゆうてい)
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日常
わたくし風紀委員ですのおおおぉぉぉぉ!


 

「ジャッジメントですの!!」 

 

 

 近くでこんな叫び声が聞こえた。

 この声を聞いた素直な感想は「めっちゃ似てるなぁ」だった。

 正直言って本物だとさえ思った。でなければこんな反応するはずもあるまい。

 

「新井さとみさん!?サインください!」

 

 サインを貰うべきだ。そう思い手に持つカバンを漁ろうとするが、その手は空を切った。そのときようやくカバンを無くしたと気づいた。

 近くにあるかと周りを見渡すが、カバンは見当たらない。やばい、何処かで失くしたのかと焦り、交番に行こうかと座っていたベンチから立ちあがろうとする。そのとき、何かの影が近づいてきていた。

 それが拳だと気づいたのはしっかり避けたあとのことである。殴りかかってきた男は、目をパチパチと瞬かせて自身の拳を見つめている。それほど避けられたことが衝撃だったのだろう。

 俺は少し遅れながらも反応を示した。

 

「っ、なんか恨みでもあんのかぁ!?」

 

 このときはまだ、出した声が到底三十路のおっさんが出せる声でないことに気づいていなかった。折角の機会を邪魔された俺は拳を握り、襲いかかってきた男にぶつける。

 

 ばぎぼぎっ! 

 

 しっかりと、相手の骨が折れた感触が伝わってきた。やってしまったと後悔したが、先に殴りかかってきたのはあっちである。あきらかに正当防衛の範囲でないが、今はそれしか言えなかった。

 

 公衆の面前で殴りかかってきた男が泣き喚く。その姿は赤ちゃんのようだ。その姿を見て嘲笑の目を向ける者もいれば、男を退治した少女(三十路おじさん)を見て驚く者や、憧れる者もいる。しかし、同僚は違ったようだった。

 

「白井さん、やりすぎですよ!」

 

「ごめん、急に殴りかかってきたからつい!」

 

 同僚は変態退治をした三十路おじさんを、白井と呼ぶ。三十路のおじさんは振り返ると言い訳を始める。殴ってきたあっちが悪いと。しかし、その話し方に彼女は疑問を浮かべた。

 

「白井さん、頭でも打ちましたか?」

 

「白井?俺の名前は白仁(しらに)だが……。あれ、もしかして俺に話しかけてないのか!」

 

 少女に話しかけるおじさんの構図がまずいと感じた三十路は、走り出した。過去最高のパフォーマンスで走ることができたらしい。

 

「白井さん、急にどこいくんですかぁー!?」

 

 

 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 走り出してから5分が経った。三十路のおっさんは疲れた足に鞭をふるい走り続けていた。しかし、限界が来たのか目に見えたベンチにダイブするように座った。

 辺りを見渡すとそこは、大きなショッピングモールだった。目の前にはガラスのショーウィンドウに服がいくつも飾られている。おしゃれでお高そうなモノばかりだ。

 

「ん、なんだあの子」

 

 歩きながらショーウィンドウをみていると、ガラス越しにこちらを覗く少女に気がついた。なんとも不思議そうな顔をしている。いや、ショーウィンドウの中で何をしてるんだよこの子は。きっと俺はこのとき、この少女と同じ顔をしていたと思う。

 好奇心が勝ってしまった俺は、少女へと近づく。それに合わせて、少女も一歩一歩こちらへ足を進める。

 

(あれ?)

 

 ここで俺の頭の中に疑問が浮かぶ。真似にしてはノータイム過ぎないかと。首を傾げると、少女も同時に首を傾げた。ここでようやく俺は気づいた。

 

「ガラスに映った俺かよ!」

 

 そのあとは早かった。近くの服屋に入り、適当な服を選んで更衣室に入った。大きな鏡には思った通りちんまりした少女が映っていた。髪の毛はピンク色に近い栗色。それを横で2つに結えていた。

 

「こ、これはぁ……」

 

 身長は140センチメートル程度だろうか、あまりの小ささに驚きを隠せない。そんなことよりも、俺はこの顔を知っている。さらに、声を出してみるとそれすら知っているものだった。

 

「白井黒子だぁ……」

 

 はっきり言うと俺は混乱していた。なんの拍子にこの体へとなったのかがわからないからだ。けれどこの体になったからには、したいことが沢山あるのは確かだった。

 

 

 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 かなりの寄り道をしていたらしく、現場に戻るのには少し時間がかかった。担架に乗せられたさっきの男が救急車で運ばれて行くのが見えた。走りながら初春のそばまで行くと、彼女はジト目でこちらを見つめてきた。

 

「あの人、鼻が原型をとどめていませんでしたよ」

 

「えっと、あはは、やりすぎでしたの、ね?」

 

「固法先輩から伝言です。『白井さん、反省文3枚!』らしいですけど?」

 

「う、初春?何かの間違いではぁ!?」

 

 ……初仕事が反省文、そういうことですのね。

 まだ常盤台の制服にも袖を通していない小学生相手に大人気ない(おとなげない)とは思いませんの?

 

「まあ、白井さんの行動は以前から問題視されていましたからね」

 

「わたくしは一体何をしてたんですの……」

 

 憑依転生──状況から考えて──する前の白井黒子を早速恨んだところで、背後から数人の足音が聞こえてきた。

 

「落ち込んでるところすまない。ご協力感謝するじゃんよ」

 

 後ろを振り返ると、長身長髪の女とその他数名のアンチスキルがいた。話しかけてきた長身の女を見つめる。主に顔よりも少し下のあたりを。決して、そういう欲求があったのではない。ただの、好奇心だ。

 私は、その小さな手を前へと伸ばした。むにゅり、とおかしな擬音を耳にした。手はどんどんと飲み込まれていく。天国、まさにその一言だった。

 

「こ、これが!巨乳ッ!?」

 

「なにするじゃん!?女子とはいえどがみがみがみがみがみがみ」

 

 なんだか、怒られている気配がするが聞こえない。聞こえないもんねぇ!私は満足したところで手を離して話を始める。

 

「初めまして、ですの。早速質問ですがその胸はどのようにして手に入れたのでしょうか」

 

「がみがみがみ、あ、すまん私は毎日ムサシノ牛乳を飲んでるじゃんよ」

 

「なるほど、噂は本当だったと言うことですのね!固法先輩も飲んでいましたし!」

 

 数年後には巨乳になれるかなぁ。と、今はまだ無い空虚を揉めるものはないが揉んだ。未来の()()()を夢見ながら、ワクワクの感情をとどめることなく出しまくった。

 

「そうそう、小萌せんせに言われて飲んでるんじゃん」

 

 この言葉を聞くまでの間は。

 何かが割れる幻聴がきこえる。

 

(うがああああ言わないでくださいまし!もう、私の心は砕け散りましたからぁ!)

 

 つまり、うまい話など存在しなかったのだ。

 

「小萌せんせが、体大きくするには牛乳ですよーって言ってたけど、あんなちっこい人に言われてもな」

 

 幻想をぶち壊された白井は、頬を涙で濡らす。それだけだった。

 

「白井さん、残念ですが一歩遅かったですね。私もムサシノ牛乳のヘビーユーザーなんですよ!既に半年は飲み続けていますからこの通り、おっぱいは膨らむ一方です!」

 

 無い胸を張っている初春であったが、その姿でさえ今の白井にはムカつくものであった。うつむき、白目を剥くように初春を睨み付ける彼女の姿は、まるで鬼のようであったとはじゃん(黄泉川)の語りである。

 

(こ、この、この小娘がぁあああああ‼︎

 こちとら小萌先生くらい生きてたんだわ。胸を大きくする方法くらい知ってるんだワァ!?)

 

 さて、初春の胸が成長することはあるのだろうか。そして、小萌先生の歳はいったい幾つなのだろうか。知らないほうがいいこともあるのである。。。

 

 


 

 

 それから数週間して、胸を揉んだことで枚数の増えた反省文を漸く書き終えた私は、一人寂しく能力の訓練を続けていた。

 私、白井黒子の能力はテレポートである。前世の知識で言うと、めちゃくちゃ便利に違いない能力だ。しかし、パシリになることも間違いない、そんな能力のような気がしていた。

 だからこそ、それを回避するためには相応の慣れが必要だろう、という考えのもとこのような行動をとっていたのだ。

 

 確か、11次元がどうだの言っていたはずだが、全くもって見当はつかない。本をさらっと読んだり、初春にそれとなく聞いてみたはものの、やはりまぁったくわからなかった。

 風紀委員(ジャッジメント)の仕事でも、能力は使えないので自力で解決してみせた。

 もうこれしかないか……。

 

 

 テレポート! 

 

 最終手段として用意していた、がむしゃらに叫んでみる作戦。これは本当の本当に最後の手段だったのだが、どうもこれでさえ能力は使えないようだった。

 

 最初に頭の中に浮かんだ言葉は絶望。それだった。

 せっかくの転生だったのに。白井黒子という一人の少女の体を乗っ取り、人生を大きく変えさせたというのに。

 なんだか涙が出てしまいそうだった。

 

「白井さん、何かあったんですか!?」

 

「っえ?」

 

 しかし、どうしてなのか目の前にいた初春がそれを慰めてくれた。

 これが友達の、親友の暖かみなのだと気づいた。

 

「ぐすっ、すみませんの。初春、あなたのその無い胸を貸していただけませんの?」

 

「白井さん、私はいつでもあなたの味方ですよ。悲しいことがあったなら相談してください。最後のは聞き捨てならないですけどね!」

 

 座っていた私の頭を優しく抱きしめた初春は、子どもをあやすかのように背中をさすってくれている。

 数分が経ち私が落ち着いたのを見計らってか、初春は立ち上がり台所に向かった。

 

「烏龍茶でいいですか?麦茶は切らしてて」

 

「かまいませんの」

 

 彼女は、身長の高さゆえ届かないはずの冷蔵庫から烏龍茶を取り出すと、マグカップにそれを注いだ。なみなみと注がれた烏龍茶をいただきますと言ってごくりと飲むと、ちょっとした苦味が痛む心を少しだけ鎮めた。

 

「さあ、言ってください。何に悩んでるんですか」

 

 いつもは子どものように幼く見える初春が、今日だけは聖母のように大人びて見える。

 

「初春、実は私、転移ができなくなってしまいましたの」

 

「はい?」

 

 初春が、信じられないと言いたげな表情を浮かべる。

 

「レベル0になってしまったんですの!」

 

 それを無視して、彼女が喋る隙を与えないように次々に言葉を紡いでいく。初春につっぱねられるのが怖かったのだ。

 しかし、次第に言葉は尻すぼみになっていった。彼女の暖かい視線に気づいたからだ。

 

「大丈夫ですよ、もしそれが本当だったとしても、私は白井さんを軽蔑したりしません」

 

 今度こそ、私は涙を耐えられなかった。どんどんと溢れ出てくる涙を初春は胸で受け止めてくれる。えずく私の背中を何度もさすり、大丈夫ですよと甘い言葉をかけてくれた。

 

「というか、それってどんなドッキリですか?」

 

「へ?」

 

「白井さん、ここ私の寮ですよ?」

 

 そこまで言われて漸く気づいた。私はもともと自分の部屋にいたはずなのに。烏龍茶の件でどうして気づかなかったのだろうか。そうとう思い詰めていたんだな、と自分でも思った。

 

「ふふふ、初春がいつまでも私の味方だと確認したかっただけですの」

 

「はいはい、そういうことにしておきますねー」

 

「んなっ、本当だから言ってるんだぁ!」

 

「はいはい、顔が赤いですよー」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「──ろこさん。白井黒子さん?」

 

「は、はい!」

 

 先生の元気な声が眠気を覚まさせた。

 何故名前が呼ばれたのかというと、お嬢様学校だからか毎朝点呼などという古風なことを毎日しているからである。

 同じクラス三十余名の点呼が終わり、一時間目の授業が始まる。小学校なのにも関わらず、二次関数だ。本来ならば、中学生で習ったような記憶がある。

 私の今通うこの学校では、毎年常盤台中学へと進学する児童が多数存在する。この学校自体もそれを誇りとして思っているため、それに連れて授業の難易度が上がっているらしい。

 

 さて、これでも精神年齢は小萌先生の実年齢に程近いのだ。流石に解けないはずもなかった。

 とはいえ、白井黒子は今までのテストで満点学年一位を貫き通していると聞いた時は肝を冷やした。彼女の記録に泥を塗らないよう頑張らなければ……。

 いやな緊張感に付き纏われてしまったようだ。

 

 

 ♦︎

 

 

 家に帰ると、念のため各教科の教科書を読み漁る。

 胸を成長させるため買い占めておいた、冷蔵庫いっぱいのムサシノ牛乳を一本飲み干し国語の教科書を開いた。古文、漢文、作者の気持ちを考えよ。

 

 ムサシノ牛乳を流し込んで、次は数学。二次関数に因数分解、ついでの平方完成。

 

 ムサシノ牛乳を口にして、次は理科分野。すいへーりーべーぼくのふね———。

 

 パックを傾けて、次は社会分野。大戦、季節風に偏西風。

 

 牛乳を呷り、次は英語。あいあむべりーきゅーと あーはん。

 

 牛乳パックを空にして、次は技術家庭科。調理実習でピーラーを使わないことにムカつきつつありますの。

 

 白いのをごっくん飲み込んで、次は保健体育。いやっ、そんなっ、言わせないでくださいまし///

 

 

 ♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 一日経ってテスト当日。

 ほとんどの科目は百点を取った自信があった。

 ほとんど、というのは()()のテストが格闘技の実技であったことを要因とする。勘違いして欲しくないが、おそらく点数は満点のはずだ。何と言ったって、わざわざ相手役として来た格闘家を私はボコボコにしたのだから。

 

 問題はそこではない。加減ができなかったことなのだ。

 生徒指導室から見える満開の桜を、頬杖をつきながら見ていた。

 

 

 ノックが聞こえると、反射的にどうぞと言ってしまう。

 

「お前に許可なぞ求めていないのだがな」

 

 開かれた扉を見ると、何故か目の前にはあの常盤台の寮監様がいた。

 

「あ、あら、寮監様?」

 

「ふっ、私も思ったより有名人らしい」

 

 わ、悪い意味でですわよぉ!などとは言えるはずもなく、この場は苦笑いで済ますことにした。

 

「かひゅっ」

 

 対面に座った寮監の胸が机にどぅっしんっと音を立てて乗っかったときは息が止まる思いであった。眉間に皺を寄せてこちらを睨む彼女にもう一度苦笑いをこぼす。

 

「なぜこの場に呼ばれているか、お前もわかってはいるだろう?」

 

 その問いに、主張の強い大きなメロンを見ながら頷く。正直なところ質問の内容は聞いていなかったが、こればかりはしょうがないだろう。

 さらに、彼女は難しい顔をして腕を組むものだから、さらに強調された胸に視線が自然に向かってしまう。なにあれ、本当に擬音が聞こえたんだけど!

 

 流石に熱心な視線に気づいたらしく、寮監様は私の頭を持って躊躇いもなくねじった。ぶちぶちと自分の体からは聞きたくなかった音が漏れ出る。

 さらには、話を聞けぇ!と、鼓膜や骨伝導という概念を無視する大声に骨の髄まで震えてしまった。

 

 

 ここからは真面目に話し合いをした。寮監からもある程度の理解を受けたので、このまま解放をしてもらうところだった。

 

「私、()()御坂美琴さんと同じ寮の部屋に住みたいんですの」

 

 最近、新たなレベル5として台頭して来た彼女の名前は、もはや世界で知らないものはいないほど有名になっていた。

 

「お前如きが、栄ある常盤台中学の、しかも超電磁砲と同部屋だと?」

 

「ひぐっ、涙が出てきましたのぉ。これでも主席卒は確実なのにぃ」

 

「調子に乗るな。そもそも寮は同学年と同部屋になるようにしている」

 

 嘘泣きがガチ泣きになって来たところで、最終下校時間のチャイムが鳴った。

 

「まあいい、お前が小学校を卒業するまでに御坂と肩を並べられるような者になったなら、考えてやらんこともない」

 

「ほ、本当ですの?」

 

「ああ、嘘はつかん」

 

「よっしやぁぁあああぁ!!!!」

 

「うるさいぞ!」

 

 普通に首を捻られた。そのあとゲンコツを何発も喰らった。

 

 


 

 

 あの後、私はアイスクリームのように重なったたんこぶを晒したまま下校の途へとついていた。

 たまたま方向の被っていた同学年の少女は、純粋な顔でさっきの格闘技すごかったぁ!と褒めてくれているが、単純にあの格闘家が弱かったのだ。その証拠に寮監様にはこのように一方的に負けたのである。

 

「どうして、ずっと右を向いてるの?」

 

「ぐふっ!」

 

 それだけは聞いて欲しくなかった。寮監に首を捻られてから体の様子がおかしいのだ。特に首は右に曲がって……。

 もう前を見ることはできないのだろうか。

 

「たまには現実から目を逸らすのも大切ですのよ」

 

「ふふふ、白井さんカッコいいこと言うね!」

 

 それっぽいことを言ったら納得してくれましたの。なんというか、軽く罪悪感を覚えましたわ。謝りはしませんけど。

 

 

 それはさておき、寮監様もなかなかのものをお持ちでいらっしゃいましたわね。

 あの大きさは、まさにメロンと呼称するのが正しいでしょう。黄泉川先生と同等か、それ以上の大きななのですから。

 ふふふ、私の胸カップ図鑑は着々と埋まっていっていますの。あとは私がこの大きさを超えるだけ。それほど時間は要さないでしょう。

 ぐふふ、うっふふ、あはははははははぁ!

 

 

 この通り、白井黒子は白井黒子(原作)よりも変態感が強いのであった。

 

 

 

黒子現在! AAAカップ!! 

 

 

 ちなみに初春はwwwAAAAAカップでも足りないくらいですのwww

 

 はい。







 初めまして、作者です。
 この一話を編集するのはこれで何回目なのでしょうか。もちろん、ストーリーに影響するような変更はしていませんが、月日が経ってから読み直してこの表現が嫌い。とか、寒いなぁと思ったものを消したりその分追加したりしています。
 それにしても、なんだか感動路線になってしまいました。最初書いていた時は白井が初春に結構辛辣な話をしていたりしたのですがね・・・。
 ちなみに、白井が能力使えない!と初春に打ち明けたとき、既に初春はそのことを察していました。彼女の何かあったんですか!?とは能力が使えるようになった要因をつい聞いてしまったわけです。ここ数週間様子のおかしかった相棒の復活に、初春も泣きたい気分だったはずです。
 ですが、それ以上に自分に会いに来る(テレポート!と叫んだ時に実は能力は発動していたんですね。演算を無視した発動だったので、白井宅から初春寮までの距離を移動するために脳が無意識に時間を使っていたのです)ために能力を復活させてくれた。と彼女の心は嬉しさの方が占めていました。
 なんだか、第一話はこれで安定しそうです。漸く納得できる話が完成しました。第一話投稿からなんと二年丸々かかったわけですけど。これからこの一話を編集する時は誤字を見つけた時くらいです。あ、もしかすると、それから数週間して。の部分の数週間を描写するかもしれませんが。
 つくづく自分のことが嫌になりますね・・・。
 てか第一話が7,000文字超えるって長すぎますねぇ。正直見辛かったでしょう、なんだか申し訳ないです。
 さて、この時点で600字を超えるこの後書きはこれで終了としましょう。
 以後、この作品や作者の他の作品をよろしくお願いいたします。



 まあ、エタってるんですけどね。
 2022年11月7日...........。


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謝罪と言って近づきますの

 

 

ふこぉーだぁー!

 

 私こと上条当麻は不幸の申し子である。中3にもなって手から買ったばかりの卵を落としたり、買った扇風機が壊れていたり。本当はまだまだあるが、自分で言っていると悲しくなって涙が出そうになるので割愛しておこう。ちなみに彼女もできたことのない非リアというやつでもある。

 そんな俺に、不覚にもドキッとすることが起きたのだ。それは目の前の女の子、ピンクのツインテールをしている、妹感漂う幼女。なんと可愛いことだろう、ロリコンではないのだが助けてあげたいというか、妹にしたいというか、とにかくときめいてしまった。

 俺が少女を見つめていると目が合い、おもむろに少女はポケットに手を入れ緑の腕章をポケットから取り出してこう言った。

 

ジャッジメントですの! 

 

 私こと上条当麻は、不幸なのである。

 

 


 

 

(偶然ですが、見つけましたの。くくく、上条さんったら卵を落としていますの。お金がないですからねぇ、恩を売っておこうかな?あっ、すっごい目が合ってますの。ふふふ、からかってやりますの、おほほほ)

 

 ジャッ—————

 

 ♦︎

 

 今、俺はジャッジメントの一七七支部というところにいます。なぜかというと、ロリコン疑惑。つい妹属性っぽい子を見つめていたら連行された。俺はお姉さんキャラが好きなんです。ちなみに細かく言うと、寮監のお姉さんみたいな人で、俺が学校のうちに合鍵を使って家に入り、掃除をしてくれる優しいお姉さんだ。疲れた時には「おっは○い揉む?」と問いかけてくれるお母さんの片鱗を見せつけられるのもとても良い。

 そう、今目の前にいる女性、固法美偉と名乗った女性の方が圧倒的にタイプなのだ。あの少女は自意識過剰であり、私に罪はないのです。

 

「そう、ありがとね」

 

 どうやら声に出ていたらしい。とても冷たい目で見られるのは心が痛む。さすがに本気で言ったわけではない。いや、お姉さんキャラが好きなのは嘘偽りなく事実だ、そのことだけは譲れない。どっかの青髮野郎はなんでもいけるらしいが、譲れない。胸はDカップ以上、断じてロリコンではないのである。

 

「心の声が漏れ出てますの、こんな幼女を見つめていたくせによくもそんなことが言えますわね」

「Dカップ以上ですのね、身長はそこまで関係ない? だったらいけるかもしれませんね。………………いや!Dカップ以上ですの!?大きくするために上条さんに揉んでもらうはずでしたのに、上条さんはDカップ以上しか揉まないんですの!?誤算ですの、今のうちに大きくする方法を見つけておかなければ!」

 

 幼女が何かをボソボソ言っていた。とくに聞こえなかったが、大丈夫なのだろうか。それと、俺の熱弁は奇しくも無視された。冷たい目をした女性に見送られ、俺は家へ向かう。

 

(いやぁ酷い目にあった。まあ、慣れてるからきにしないけど……。ぐふっ、自分で言ってて悲しいですよー!)

 

 


 

 

 さてさて、今日も1人寂しくぼっち飯ですとのことよ。今回作らせていただくものはなんと、主夫上条の得意料理であるカルボナーラでございます。

 

 さーて、みんなも一緒に作ってみよう! 

 

 鍋に適量の水を入れ、沸騰させる。沸騰したら塩を適量入れ、麺をお湯にトルネードin(あの渦みたいにするよく見るやつ)。なんてことはなく実は即席めんの麺です。は?

 次はソースの時間です。切ったベーコンをフライパンに入れる。ベーコンは脂がすごいから油やらバターはお好みで。

 はい、ここで柔らかくなった麺を投入! 牛乳一杯、のはずだったが、なぜか牛乳が一本もなかったから、ここでは生クリームを使用。そこに粉チーズを三振りくらい入れてコンソメキューブ2個、そうしたらかき混ぜる!

 え? 卵? 鶏の卵は高すぎるので、うずらの卵黄を20個ほど入れてやりましたよ。

 はい! 皿に盛り付けて、うずらの卵黄を10個乗っけて完成! 

 

 

上条主夫のカルボナーラ うずらversion.

 

 

 ズズッ! ズズッ! 

 

 美味しいですね。このコンソメが効いてます。

 はい、生クリームを感じさせないのもいいですね。ベーコンもしつこくなくて、うずらっていうのもいいですね、独特の食感というか、割らずに口に入れるとイクラみたいな。まあ、点数は100点ですよね、お店に出しても全然いいと思います。ぜひ、うちの店に来てもらいたいです。

 

 

 ドン ドン

 

かみやん独り言うるさいにゃー!! 

 

 

 今のは全て、上条の独り言である。

 

 


 

 

 そして、場面は1週間ほど先のスーパーマーケットに移る。

 

 今から1時間前に買った惣菜どもは完全に姿を消してしまった。そのためお金がなくなったので、今日からはもやし生活に突入するのである。残っている300円でもやしを9袋買い、残った6円で1つのチョコボールだ。もったいなく思うかもしれないが、これがかなり大事、糖分がなければ人間は頭が回らない。この1玉で今日の残り5時間の運命が決まる。昨日、カルボなんて贅沢しすぎたと後悔の最中である。

 あ、調味料もきれてますね。もやしは無味で食いませう。

 

「あら、お金がないんですの?」

 

 いつの間にか俺の押しているカートに幼女が乗っていました。それも、いつかのジャッジメント。確か名前は……。

 

「白井黒子ですの、一目惚れした相手の名前くらい覚えてくださいな」

 

 そう、白井黒子だ。妹にしたい女の子一位に輝きそうなその顔は、なんだかムカつく表情をしていた。誰が一目惚れだ!

 

「まだそれ続いてるのかよ」

 

「かみやん、ロリの良さにやっと気付いたん!?」

 

「うわぁ、なんか来ましたの」

 

 来ました、1番やばいやつ。俺からすると白井は妹にしたく思うが、こいつは違う。恋愛(変態)対象になってしまうのだ。もし白井さんをこいつに紹介してしまうと、次の日から白井さんの姿が見えなくなることが想像できてしまう。一応は友達だから、せめて自首を勧めよう。

 

「かみやん、この子誰⤴︎!?彼女なん?

 別にいいんやで、僕だってたまに、気持ちが爆発することがあるんよ!でも流石にジャッジメントの子に手を出すのはなぁ、ってあれ?どこいったん、話の途中やん!」

 

 ごめんな青ピ、流石にこの子をお前の毒牙によって傷つけさせるわけにはいかない。まだ何も知らない無垢なんだ。

 

 

 ♦︎

 

 

 上条たちは、どっかの変態にバレないうちに会計をして外に出た。夏に差し掛かる頃で外は半袖で充分なのだが、店内を走ったせいか汗ばんでいる。

 

「すまん白井、あのキモいのは見なかったことにしてくれ」

 

「ええ、あまり良くないものでしたの」

 

(くそっ、これがアニメと現実の違いか。耐えられねぇよ!)

 

 というように白井は暑さというよりも、イケないモノ見た感覚で冷や汗をかいていた。外野から見る分には面白いのだが、当事者になってしまうとどうしても耐え難かった。

 

「あぁ、そういえば、黒子でいいですわよ」

 

 今思いついたかのように白井が言った。上条は急なことに驚くが、すぐに気を取り戻し聞く。

 

「ん、なんでだ?」

 

「いや特にですの。ただ白井とはあまり呼ばれ慣れていないので」

 

 そんなわけがない。彼女は基本白井さんとしか呼ばれたことがない。仲のいい人が居ないのではない。どうしても周りからの評価が高い故に尊敬されてしまうからというわけだ。

 

「そうか、じゃあ黒子だな」

 

 もちろんそれを上条が知るはずもなく、彼は信じて黒子と呼ぶようになる。しかし、意外なことに白井が動揺していた。

 

(名前で呼んでほしいとはいいましたが、目を見て呼ばれると恥ずかしいですの)

 

 赤い顔の白井を見て首を傾げた上条が口を開いた。

 

「んで、なんで俺のカートに乗ってたんだ?」

 

「あなたのことをつけてきたんですの。またいつロリコンが発症するかわかりませんので、せめて私以外には被害を拡げたくないですから」

 

「そうですか、黒子からしたら俺はもうロリコンなんだな、定着しちゃってんだな!?」

 

 上条は大声で涙を目の端に溜めながら叫んだ。彼でもロリコン呼びは心にくるものがあるのだ。心なしか、顔も青ざめている。

 

「当たり前じゃないですの。初めて会ったとき、鼻の下が異様に伸びていましたから」

 

「そ、そんなはずは」

 

 もちろんない。

 

「まぁ嘘ですけれど。でも、私を見て妹属性とか思ったんではないですの?」

 

「それは……思ったかもしれないな」

 

「はい、顔にペンキで書いてありましたわ。しかも金色で」

 

「そんなに主張激しく!?」

 

 周りの視線が気になってきたところで、もう一度スーパーマーケットに向かう。本当ならジャッジメントする対象にしていたところなのだ。白井は感謝しろと胸を張っていた。

 

「あ、ああ、そうだな、って俺会計したぞ?」

 

「あら、手作り料理は食べたくないんですの?」

 

「是非お願い致します。できれば肉のような力の付く食べ物が食べたく存じます」

 

「おーほっほっほ、作って差し上げてもいいんですわよ?」

 

「おぉ、神様仏様、白井様ぁ!」

 

 白井を崇める声が数分響いていたという。

 

 

 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 じゅーじゅー、と肉を焼く音が響く。焼いているのは、つい最近冤罪をかけてきた白井黒子。妹キャラの頂点に降臨するであろう容姿の持ち主はこう言った。「冤罪の謝罪ですの」と。それならしょうがないと、俺は少女の料理宣言を受け入れた。流石はお嬢様と言いたくなるような高級肉を買われた時は失神するかと思ったが、謝罪の気持ちと言われてはしょうがない。しょうがないから食べてやりますよ!

 いやしかし、こう見ると可愛いものである。サイズの合わないエプロンに、高いキッチンに届かない身長。全てがロリコンホイホイである。俺も警戒しとかないとホイっとされるかもしれない。

 

「できました!」

 

 小学生とは思えないほどの手際で焼肉を完成させた黒子は、運べと言わんばかりの視線を向けてくる。仕方ないと上条が運べば、黒子はニマァ、と顔を緩める。

 前世の上黒作品*1を思い出しているのだろう。上条に見られれば、俺の妹可愛すぎ!とベッドに押し倒されるような緩みきった顔を引き締めて感想を聞く。

 

「どうですの!?」

 

「………………」ゴクリ

 

「…………」ゴクリ

 

 少しの間沈黙が流れる。上条は肉をよく噛み、飲み干し、対する白井は瞬きすらせずに反応を待つ。緊張の瞬間が流れる。

 

「うめぇよ、これ」

 

「ふふふ、それはよかったですの。それで、もう許してくださいましたか?」

 

「冤罪のことなら元々許してたけどな。まぁ、嬉しいよ、なんかいま、青春って感じがする。今度は俺に作らせてくれ」

 

「いいんですの?なら、その時を楽しみにしておきますの。さて、門限ですのでそろそろ帰りますわ」

 

「送っていくか?」

 

「わたくし能力者ですの。お送りは大丈夫ですわ」

 

「そうか、ならわかった。出来るだけ早くご馳走させてくれ」

 

「では、ごきげんよう」

 

 初めて見たテレポートに驚きつつ、残ったステーキに喰らい付く。何度噛んでも溢れ出てくる肉汁の味に幸せを感じた。

 

「いや、ほんとうっめぇなこれ」

 

 そしてインターホンが鳴る。肉の余韻を楽しんでいた彼にとって、最悪の、恐れていたことが起きていたのだ。

 

「かみやん」

 

「なんだ土御門」

 

「流石にジャッジメントの子はヤバいと思うぜ!」

 

 それだけ言うと、隣人は部屋へと帰っていった。上条には薄い壁に文句を言うことしかできなかった。

 

 


 

 

 ベッドに横たわる白井は、拳を突き上げて宣言する。

 

巨乳に、私はなる!

 

 

 黒子 AAカップ

 

「ふはは、もうすでに原作乳に追いつきましたの。このまま大きくなり続ければ、食蜂なんて余裕ですわぁ!」

 

 

 初春 AAAAAAAAカップ

 

 前回は正確に伝えることができませんでした。計測したところ、上記カップが妥当だということになりました。

 

「白井さんよりはデカイはずだから気にしてませんよ」

 

 残念、黒子の半分も無い! 

 

 

 

*1
上条×黒子の二次創作作品のこと。マジでなかなか見掛けない。誰か書いて欲しい。




 @ 白井黒子

 身長 141センチ

 体重 34キロ

 能力 瞬間移動 (テレポート)

 説明:転生特典により、一度訪れたことのある場所ならラグなく転移できる。座標を教えて貰えば一応は転移できる。
 憑依転生にアレイスターは気づいていない。転生黒子は計画やらなんやらを止める気はないが、当麻と美琴など自身の知人に許容できない被害を及ぼすと、たっぷり時間を掛け、某窓のないビルを東京湾の底に転移させる。


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私を見るとしいたけが食べたくなるらしい。

 

 皆様、お知らせが御座います。なんとこの度見つけることができました。まだ胸も小さい食蜂さんを。私の前世であれば橋本環○氏を余裕で超える顔の持ち主ですの。世界のどこに出しても恥ずかしくない顔の持ち主です。金髪は自分で脱色したらしいが、その判断は最良と言えるだろう。なぜなら美しいから。今はまだ小さいので美しいというよりも可愛い感が強いが、あと1年もすれば男の煩悩を詰め込んだ魅惑の女になる。まあ、黒子の方がボンキュボンになる予定ですがねぇ。

 

(あぁ、なんだか無性に鍋が食べたい気分ですの。ついでに言えば、しいたけが欲しい。あんな目を見せられたらこうなるはずだ、あんのしいたけ女め!)

 

 みぃーつけたぁ!

 

「上条さーん」

 

 ということで、たまたま見つけたロリコンツンツン男にせびります。多分、彼は優しいので財産を切り叩いてでもどうにかしてくれることでしょう。

 

「おお黒子か、どうした?」

 

「いま、鍋が食べたい気分ですの」

 

 上条は寒気で震えた。肉を食べさせてもらったのはついこの間のこと。そのお返しがしたくとも、まだ奨学金が入金されていない上条には鍋を作りうるようなお金がない。お辞儀をしながら頭の前で手を合わせて、恐る恐る黒子に告白する。

 

「すまん、まだ金が入ってない」

 

「材料は用意してますから大丈夫ですのよ?」

 

 女が食べたいものを食べさせることもできないのか。そんなふうに言われるかと勘違いしていたが、返ってきた言葉は意外なものだった。しかし、疑問が残る。

 

「いや、それじゃあ俺がまた食べさせてもらう側になるのでは?」

 

 この間食べさせてもらったばかりなのに、また食べさせてもらう側になってしまう。これではヒモのようになってしまうではないか。上条は食べさせてもらうことを決めた。

 

「いいんですの、いつか返してくだされば。でも、返さなかったら分かりますわよね?」

 

 わかるに決まっている。この少女に借りた恩、返さなければこうなるだろう。

 

「もちろんだ! 俺は綺麗な三枚おろしになる!」

 

「大正解ですの!」

 

 


 

 

 今、俺は黒子と共に鍋を突こうとしている。黒子は鍋を見て目をキラキラさせている。とても少女らしい表情をしていると言えるだろう。でも、俺はあまり素直に喜ぶことができない。というのはこの鍋に思うことがあるからだ。

 

 一応聞いておこう、なあ黒子。

 

「なんでしいたけしか入ってないんだ?」

 

「鍋といえばしいたけですわよね?」

 

 質問に質問で返された。もちろん鍋にしいたけが入っているのは見たことがあるし、実際実家でもしいたけは入っていた。しかし、もう一度言うがこの鍋には思うところがある。

 

「なんでしいたけしか入ってないんだ? 俺の知ってる鍋はしいたけが2つ3つも入ってないんだが」

 

「あら、鍋も知らない貧乏人なんですの?」

 

「ぴえん」

 

 

(たっぷり30秒の沈黙)

 

 

 2人が膝に手を置いたまま、短時間にも十数時間にも感じられる時間が過ぎた。その間2人は瞬きすらしない。いや、空気が凍りついてそれすらできないのだ。そんな悲しい時間がやっと終わり、黒子がごほんと喉を鳴らして話し始める。

 

「さて、冗談はおいといて。友人にしいたけみたいな目の人がいまして、目が合うとしいたけが食べたくなりましたので、しいたけ鍋を用意しました」

 

「そっか、冗談は置いとくって言ってたのにしいたけは消えないんだな、しいたけは冗談じゃないんだな」

 

 上条はしいたけの量とぴえんに反応してくれなかったらことに悲しみを深め"しいたけ柄の目の友人"というパワーワードにツッコむことすらできなかった。

 

「それでは、食べますわよ?」

 

 やがて、黒子が手を合わせるように催促し、上条は手を合わせた。そして食事開始の儀式を執り行う。

 

「「せーの、いただきます」」

 

 食事が始まった。2人が同じ机で鍋をつつく光景はまるで仲睦まじい兄妹。

 

「こうして人とつつく鍋もいいものだな」

 

「そうですわねぇ」

 

 上条は食費が浮いたことを切実に喜んでいた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 私にはムカつく女がいる。女と言っても小学六年生だから、ほぼ幼女の様なものだろう。知り合ったのはドリーの秘密を知ったり、施設を支配下に置いたりして常盤台に入った後のことだ。

 ちなみに、私が想像していた学園とは、操祈さん今日もカフェにご一緒しませんか?であるのだが、思っていたものとは全く違う環境になってしまっている。どうにかならないものだろうか。

 しかも、御坂美琴とかいう同じレベル5が私より人気が高いし、なんとなく心が痛んできたときその女は私の前に現れた。要約すると、私の落とし物を届けてくれた風紀委員がその少女だった。少女とはその後も何度か出会い、その回数が片手で数え切れなくなったくらいの頃には、一緒にカフェに行くような仲になっていた。

 その際、当然だがお互いのことを話し合ったりしたのだが、その少女、白井黒子は私のことを×××の×××××だと思っていた。さすがにそれを聞いた温厚篤実で有名な私は、机に置いていたバッグで彼女の顔をぶん殴ってしまった。あの判断は今でも間違っていなかったと確信できる。

 逆に私からの彼女への印象と言えば可愛いの一言だった。

 ピンクの髪にクリクリの目、極め付きには甘えっ子。この間私のほうから膝枕をしてあげたときに、彼女の顔はフニャフニャしていた最初は嫌がっていたのにもかかわらず、最後には私の膝の上でごろごろと。その姿を何度も見せられてきた私にとって黒子ちゃんは天使なのだ。さっき私はムカつく女がいると言った、それは全くの嘘だ。彼女は私の天使であり女神であり癒しなのである。

 それを彼女に言ったとき、彼女は真っ赤な顔で俯いた。その姿にも私は可愛いわぁ!と思わず鼻血を流してしまった気がするがあまり覚えてはいない。気づいた時には黒子ちゃんの膝の上だったからである。

 

 そんな彼女に、私は聞く。

 

「ですのってなんなの?」

 

 なぜそんなことを聞いたのかというと、彼女のしゃべり方に問題がある。彼女の言葉の語尾には大体『ですの』がつくのだ。

 そういうと、貴方は将来だゾ☆みたいな喋り方しますわよ絶対。いや、まじで。などと意味がわからないことを言ってくるのだ。なのにも関わらず彼女は風紀委員(ジャッジメント)をしている。ちゃんと仕事はできているのか聞くと、かなり真面目な顔で親指を立てていた。

 

 ちなみに一番辛かったのは彼女の友達と会った時だ。

 同僚の花の化身(黒子ちゃん命名)に関しては「常盤台の生徒!」と言って憧れの目を向けてくる。嫌ではないが、1時間ぶっ通しでお嬢様のいいところを話された時、私は泣いていたと思う。あとたぶんあの子の目からはビームが出てるんだと思う。だって視線、痛いもん。

 彼女の話していたお嬢様の良い点は、所詮理想である。本物のお嬢様というのがとてつもなく黒いものだと言うことは、この数ヶ月で私自身が痛いほどに理解していた。

 

 他には彼女の同級生も会った。その子はロリコンじじいを木っ端微塵にしたらしい。この子が噂に聞いていた《変態じじい、襲った少女に半殺しされる》の正体だった。レベル4で将来有望に間違いなかった。残念なことに常盤台には来てくれないらしいが、長点上機学園付属の中学でも彼女の伝説は語り継がれるだろう。

 

「うふふ、サインもらっちゃったゾ☆」 

 

 ふぁっ!これが黒子ちゃんの言っていた「ゾ☆」の喋り方なのか!なんだか口癖になっちゃいそうだゾ☆あ、まただゾ☆んクソがッ! 

 

 そんな黒子ちゃんはとても良い子。例えば、運動神経が皆無な私に運動の仕方を教えてくれたりする。中1なのに50メートル走で幼稚園生レベルの記録を叩き出した私は、彼女のおかげで小3くらいの足の速さになった。あと、能力頼みの私に護衛術を教えてくれる。空手で負けたことがないらしく、強い自信はあると言っていた。型みたいなのを見せてもらうと、言っていた通り強い感じがした。それは、大人になればあの寮監様より強くなるのでは。と感じさせられるほどのものだ。

 その話を彼女にすると「お母様ですのね」と意味のわからない発言をされた。詳しく聞くと面白い話が聞けた。数ヶ月前にテストのお手伝いとして来た格闘家をボコしたとき、寮監に注意を受けたらしい。その際、胸を凝視していたら首を折られたとか。そのあとお母様と呼んで抱きついた結果、たんこぶのアイスクリームを頭に乗っけられたらしい。

 ふふふ、いい気味ね!私をボコボコにしてる子が寮監には頭が上がらないなんて!

 笑ってやったその日の特訓はいつもより3倍キツかった。ちなみに寮監のおっぱいは両手でも覆いきれない大きさだったらしい。私だってもうすぐしたら・・・!

 

 でも、憎めないところが彼女の魅力。なんというか妹力、そんな感じの気配がぷんぷんするため保護欲が溢れ出てしまう。思わずママデビューしかけたこともあった。風紀委員のときの彼女は頼れる人なのに、日常ではおっちょこちょいであるギャップのせいだ。

 ここからは真面目な話。彼女の能力について。彼女の能力は明らかにレベル3の域ではない。レベル4の転移系能力者と会ったことのある私だからこそわかることだ。一度の転移で70メートルの移動が可能なだけで凄いのだが、その上彼女は転移の際に生じるタイムラグが異常なほど少ない。つまり、他の能力者に比べて演算を早く、簡単に済ませているのだ。なぜレベル5になっていないのかわからない。

 しかも、ちょっとお邪魔しようとした私の能力を簡単に避けるし。はっきり言って彼女は超能力を含めて全てが常軌を逸している。ここだけの話、彼女は闇が深そうだ。

 

 ごほん、それよりも異常力が高いのはおっぱいよ。黒子ちゃんのおっぱい力はちょっと驚異的なの。最初会った時はまな板だったのに一、二ヶ月くらいでふっくらしてきてるの!何故かと聞いたら「おっぱいアンチスキルとおっぱいジャッチメント曰く、ムサシノ牛乳がすごいんですの。でも、当たり外れがあって、うん十年飲み続けて身長が135センチのおば、こほん、先生もいらっしゃいますからね」と、なんか聞いたことのあるような気がするこもえの話だが、今は無視しておく。

 

「おほほほ、この通り私は当たりの人間でしたようですわ!」

 

 みるみる膨らんでいく胸を張る黒子ちゃんは正直ムカつくわぁ。聞いた感じだと、胸が大きくなったのはその牛乳のおかげなのかもしれないわねぇ。歳的に成長期なのも関係していんだろうけど、ここは信じてみるしかないわね!あの子ったら牛乳を買い占めたらしいから、貰いにでも行こうかしらぁ。

 

 


 

 

 その日はというと、食蜂操祈は黒子の家に有り余った牛乳を譲ってもらいにきていた。その家はとても大きく豪華だ。根がお嬢様ではない食蜂には少しだけ無理をする必要があったが、インターホンを押し、開いた門の奥へ足を動かす。

 そうして食蜂はドアにノックし、叫んだ。

 

「黒子ちゃーん!きたわよー!」

 

 彼女にしてはなかなか大きい声なのは、襲われそうになった時の対処法の一つ、大声を出すを黒子に教えてもらった成果だ。腹式呼吸がどうだの言われていたが、今ではそこまで覚えていない。体に染み付いている証拠だ。

 そうして待つこと数秒程、お目当ての少女の声がした。

 

「少々お待ちくださいなぁ!」

 

 家の中からドタドタと騒がしい音が聞こえてくる。なんだか微笑ましくなった食蜂は手を口に添えてくすりと笑った。

 

「お久しぶりですの」

 

「久しぶりね、黒子ちゃんッ!!?!!??」

 

 食蜂は目を飛び出るほどに見開きながら白井の手元を覗き込んだ。そこには、約束通り牛乳が持たれていた。それはいい、問題なのは本数である。基本的に牛乳は紙パックであれば1リットルのものが主流である。それが巨大な袋いっぱいに詰められていたのである。ぱっと見だけでも十数本は確認できた。

 

「な、何本あるのよぉ、私が持てるはずないじゃない!」

 

「20ですの。さあ、持つんですの。10キロずつですのよぉ!」

 

 片手で10キロは中1女子には厳しい。そんなこと白井にはわからなかった。彼女はやはりズレているのであった。

 

「まさかこれくらい持てないとは。着いていきますから、頑張ってくださいな」

 

「え、能力は使わないのぉ!?」

 

「はいはい行きますわよ」

 

「ねぇ持ってくれないの!?え、ねぇ、もってよぉ!」

 

 そんな食蜂の叫びは虚しく、とあるボロアパートの前で汗だらけの金髪少女が倒れているのを発見されたらしい。さらに、ピンク色の髪をした少女が頭に手を当てて、テヘッと呟くのも同時に目撃されていた。

 

 

 

 

 黒子 AAカップ

 流石に1週間じゃデカくなりませんの

 

 NEW!! 食蜂 Bカップ

 黒子ちゃん!?成長早くない!?追い越さないでよね!?私もムサシノ牛乳飲むから!まだ大丈夫だよね!?

 

 初春 AAAAAAAAAAカップ

 前回書いたカップを覚えていないのでもしかしたら小さく......

 

 あれ?大丈夫ですよね。私、白井さんにまだ勝ってますよねぇ!?

 

 

 

 

 




 新能力 ロリコン殺し(ペドキラー)
 ロリコンだけに効く訳じゃない。通常威力1200、下から殴ればトラックはちょっと浮く。ロリコン相手には威力186倍、北半球が吹き飛ぶ?

 なんか、急に食蜂さんの喋り方がアニメ寄りになりましたね........。あら不思議。

 時系列が変になっていたので修正させていただきました。


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虎穴に入らずんば心の奥底に秘めたる好奇心は満足しないですよねぇええええええ!??!!!?

 7月5日

 

 小学校の帰り、友達と別れた私は寮に向かっていた。

 来年入学する予定の中学校の寮に引っ越していた私は、通う小学校からは遠いなぁ。なんて思って早道を開拓していたのだ。5日前に通った道はなんなら遠回りだったので、その日は全く違う道を通っていた時のこと。

 

 ぱらぱらと運悪く小雨が降って来た為、念のため道を戻ろうとした。

 そのとき、聞こえてはいけないはずの音が聞こえた。

 

 バンっ! バン! 

 

 それは銃声だった。

 よくテレビドラマで聞くあのまま。ダメだとわかっていても足が勝手に動いていた。好奇心に負けて、そのまま音が聞こえた方向に進む。

 目にしたものは、黒ずくめの男らしき人物が銃を持っている姿。そして、その足元に倒れている大人の男の人だった。

 

 ごくりと息を呑む。今度こそ来るべきじゃなかったと焦って逃げようとする。

 カラン!と転がっていた空き缶を蹴ってしまった。男と目が合う。今日は本当に運が悪い日だと自分の不幸を呪った。

 

 すぐさま、私は後ろを振り向いて走り出した。

 幸い、銃を持つ男よりも身体が小さいので小回りが利いた。大人には通り辛さそうな場所を通って路地の出口を目指した。

 威嚇のためなのか、ばんばんと銃声が何度も響く。私は思惑通りに足がすくんでもつれそうになる。足音がさらに近づいて、それがさらなる恐怖を誘ってしまう。

 

 こんな状況を打破する方法は一つしかない。そう考え携帯電話を取り出す。頼るのは他でもない"自分よりも強い人たち"である。

 

 すみません風紀委員(ジャッジメント)ですか!?

 銃を持っている男に追われてるんです!

 第七学区のカフェの路地裏あたりです!

 早くお願いします!!!!!!!

 

 震えて掠れた声だったが、連絡は済んだ。

 風紀委員に連絡をした場合、自動的に警備員(アンチスキル)にも連絡が入るようになっているため、そちらに電話をかける必要はない。

 あとは時間まで逃げ切るだけ。

 

 しかし、急に足に力が入らなくなった。

 連絡を済ませただけで安心してしまったのだろう。そして、幼いゆえの体力不足が何よりの原因だった。

 もとより大人の男より体力が多いはずがなかったのだ。火事場の馬鹿力は既に効果を切らしている。

 

 近づいていた足音が異様な速さで迫る。

 

(まさか、能力者?)

 

 最悪の想像をしてしまった。ここで私の人生は終わりなのかと、まだまだやりたいことがあったのに。と己の人生を悲観した。

 

「みんなっ」

 

 せめて家族のことを思って死のうと、家族の名前を心の中で叫ぶ。

 かちゃりと音がした。銃口が向けられているのかな、と思わず他人事のように考えてしまった。

 涙が頬を伝い、地で弾けた。

 

 

 

ジャッジメントだ

 

 その瞬間、力強く、それでいて優しい声が聞こえた。

 安堵の念だけを胸に、私は意識を手放した。

 

 


 

 

ジャッジメントだ

 

 自分でも、こんなに低い声が出たことには驚いた。

 

「俺は人を傷つけようとする奴が大嫌いだ」

 

 少女の危機に駆けつけた男、上条当麻はポケットから取り出した腕章をつまみながらそう言った。

 

「風紀委員か。なんだ、銃用の装備でも着て来たのかぁ?」

 

「っ、街中に銃なんか持ってる奴がいんのかよ」

 

 だが、上条にとって誤算だったのは男が銃を持っていたこと。

 上条は少女がした電話を聞いて駆けつけたわけではなかった。いつものように不幸に巻き込まれていただけだったのだ。

 だからこそ銃に対する装備なんて1つもしていない。

 

「さっきの電話聞いて来たんじゃねぇのか。じゃあ、銃に対策なんてしてねぇわけだ。

 死んだな、お前」

 

「だからといって負けるわけにはいかねぇな」

 

 上条は男だ。酷い目に遭っている少女を見て、拳銃程度が助けようとする気持ちの障害になりはしなかった。

 

「テメェが好き勝手に人の命を弄ぼうってんなら、まずはその幻想をぶち殺してやるよ!」

 

 

 男が、構えた銃の引き金を引く。

 それに素早く反応した上条は体を無理やり捻ることで弾丸を避けた。男の足元へと滑り込み、銃弾を避けられた衝撃で固まった男を力任せに殴りつける。

 追いかけて更なる追撃を加えようとしたが、男が能力を使い上条を蹴ることで距離が離れた。

 

「ぬおっ!」

 

 腹を強く蹴られた上条は壁に打ち付けられ、呻き声を出す。

 男の能力は身体強化系のレベル2 だった。対象を触らなければ能力を消せない上条の幻想殺しでは相手が悪い。

 男はもう一度銃を構えようとする。しかし、そこで男の少しだけ後ろを向いた上条が叫ぶ。

 

「黒子、今だ!」

 

「なにっ!?」

 

 男は上条に気を取られていて気付かなかった。後ろにもう1人の人間がいたことに。

 

「でやああぁ!」

 

 ぎゃりごんっ

 

 金属同士を打ちつけたような音が路地に響く。殴り飛ばされていった男が壁にぶつかり、それでも勢いを弱めず突き進んでいった。

 男がピクピクした動きを止めるのを見届ける。上条は引き気味だ。

 そんな様子を気にすることなく、白井黒子は上条に話しかける。

 

「上条さん、今日も人助けとは素晴らしい事ですねぇ」

 

「うぐっ、すまん。わざとじゃないんだ」

 

「し・か・も、今回はどこで手に入れたのか風紀委員の腕章を使ってまで」

 

「い、いや、これは落ちてたのをちゃんと支部に届けようとしてたんだぞ!?」

 

 そう言って彼は手に持つ腕章を白井へと手渡す。彼女はそれを手に受け取ると、誰の落とし物なのかを確認しようとした。

 

「どうだか。ん、どうやら何か書いてありますわね」

 

 そう言われた上条は腕章を睨みつける。裏返したちょうど真ん中にはリーダーと英語で書いてあった。

 

「リーダー。なんだこれ、役職とかか?」

 

「リーダーとなると、相当高い役割の方のものですわ。彼らがこれを無くすとは思えないのですが」

 

 と言ってヒラヒラと彼女は腕章を振る。

 

「んー怪しさ満点ですが、一応確認しておきますわ」

 

「ああ、頼む」

 

 白井はポケットに誰かの腕章をしまいながら、上条に顔を向けて話を始める。上条の顔はどんどんと青ざめて行き、これがどれほど大事な話なのかを物語っている。

 

「ーー風紀委員の名を騙った場合、本来なら拘束案件ですのよ?

 私の権限で()()()()は見逃してあげますが、次はないと思ってくださいな」

 

「は、はい」

 

 冷や汗をかきながら流石にやばかったかと反応する上条を尻目に、弱い雨の中晒されたままの少女を見つけた。

 

「彼女が通報者ですのね」

 

 うつ伏せで倒れている彼女を横抱きにして、壁に寄りかかるように起こした。瞼を閉じる少女の顔を見る。

 

(佐天ですわね)

 

 大方好奇心に負けたのだろうと察して、呆れるようにため息を吐く。それよりも、彼女が無事でよかったと安堵の意味の方が大きかったのであろうが。

 

「警備員が来るのにもまだ時間が掛かるでしょうし、少しだけ話をしましょう」

 

「な、なんでせうか?」

 

 意味もなく古風に言ってみせた上条は内心ドキドキ状態だ。

 やっぱり拘束するね、お縄につけ!などと言われた場合、抵抗できる気がしないからだ。

 だが、その心配は現実になることはなかった。

 

「あなたの腕を見込んでのことです。ぜひ、風紀委員になってほしいんですの」

 

 しかし、それよりも大きな衝撃が上条を襲った。風紀委員へとお誘い。それは、暗にさっきの黙っててやるからこっちの仕事手伝えよ。そんなふうに言われている気がしたのだ。

 いや、負けちゃダメだ。今は少しでも金を稼ぐことが先決。自分の時間が減るようなことはしてはならないのだ。

 

「いや、そこまで暇じゃないと言うか」

 

「支部ではコーヒーが無料ですわよ」

 

「あまり魅力的では無いかな?」

 

「コーヒー飲める男はかっこいいですよ」

 

「え、そんなことないでしょ」

 

「内申がプラスされますわよ」

 

「よし、やってやろうかー」

 

 即堕ち数コマ。なんとも言えない清々しい顔をした上条が柔軟の体操をしながらほざいていた。

 

「それでいいんですの」

 

 満面の笑みで少女を担いだ白井が、能力で中空に浮遊した。

 

「この子に関しては私が病院に送りますので。貴方はこいつを縛っといて下さいな」

 

「わかった、任せとけ」

 

 上条は白井が去るのを見届け、その姿が見えなくなったところで男の方へと向かった。その大きな背中を見せつける姿は、まさに路地裏のギャング!

 

「いてててて、何があったんだ?」

 

「おっと、起きちゃダメだろ。素直に捕縛されなさい」

 

 そう言って上条は男を亀甲縛りにし、そのまま抱えてアンチスキルの車に乗せる。アンチスキルが感謝の言葉を口にするが、上条は去り際に手を振るだけ振り去って行った。

 

 


 

 

 風紀委員本部に上条は電話をかける。内容は先日、白井と話し合った風紀委員入隊の件だ。あのあと本当に風紀委員に入ることを決めた上条は、かけた電話が繋がるのを待っている。

 

『はい、こちら風紀委員本部です。なにか御用でございますか?』

 

 ワンコール鳴り響いたあと電話が繋がった。

 

 

「風紀委員に入りたいんですけど、何か条件とかってありますか?」

 

 上条は風紀委員に入るための条件を聞いた。先日の白井との会話では聞き忘れていたのだ。白井の勧誘のためそこまでの心配はしていなかったのだが、彼はそれでは安心できなかった。

 

(もしこれで入らなかったら結構やばいなぁ)

 

 そんなことを考えながら上条はドキドキしながら話を聞く。

 

『えーと、お幾つでございましょうか?』

 

「中学3年生です」

 

『なるほど、採用です』

 

「はやっ!」

 

 つい言葉に出てしまった。上条もあんなに早く採用されるとは思っていなかった。もう少し能力とか学校の成績とかを聞いてくるのかと思いきや10秒で入隊できたのだ。これにはアレイスターさんも大喜び。

 もちろんこれで話は終わりではなく本部の誰かさんは話を続ける。

 

『ちなみに風紀委員でお知り合いの方はいますか?』

 

「えーと、確か一七七支部だったかの白井黒子はよく会う人です」

 

『ええ!?あの白井さんとお知り合いなんですか!?これは期待大ですよ!すみません、今からこの場にいるトップの副会長を呼んできますので待っていて下さい!』

 

「は、はい」

 

 なんだか大ごとになってしまったようだ。白井の名前を出しただけでこの大騒ぎ、白井は風紀委員ではかなり優秀な人材なんだろう。

 そして友人ってだけで上条まで期待の大きい人になるのだ、上条はプレッシャーがすごい事になっているだろう。

 それから1分程度経ったとき、かなり大慌ての副会長さんが話しかけてきた。

 

『もしもし、君が白井くんの友人でいいのかい?』

 

「はい、上条当麻っていいます」

 

「そうか、上条当麻くんだね。おい君たち! 今すぐ上条くんを調べるんだ! 君は白井くんに確認をとってくれ! 

 

 上条には結構色々聞こえていたが、上条は気付いていないふりをしながら話を進めた。

 

「はい上条です。風紀委員に入りたいのですが」

 

『そうだね、風紀委員に入りたいっていう話だったよね、少し待っていてくれるかい?』

 

「わかりました」

 

 上条は言われるがままにわかりましたと言ってしまう。そのまま少しの間無言が続き、また何かが聞こえてくる。

 

白井くんと連絡は取れたかい?調べたところ幻想殺しっていう能力意外は何も書いていなかった。露骨だろう。だから、この子には何かがあるはずなんだ。

 

 学生の情報が載っているページでほぼ見かけない、一行しかない説明。副会長はそこに何かを感じている様子。

 

白井さんからメールが届きました! 彼女曰く上条さんは、何も習っていないのにもかかわらずスキルアウトを拳1つで沈める、肉弾戦が得意な男。とのことです。

 

 黒子、ハードル上げ過ぎなのでは?肉弾戦が人並みよりも少し慣れている自信はあるが、スキルアウトを拳1つで沈めるような強さを持っている自信はない。現に先日は黒子がいなければ死んでいたのかもしれないのだから。

 

 拳銃の弾を避ける時点で常人ではないし、白井がいなくても、どうにかして男を倒せるだけの実力があることに、この男は気づかなかった。なぜ女に関してだけでなく、そこまで鈍感なのか。それは魔神のみぞ知るということなのだろうか。

 

 そこからは何も聞こえなくなり、3分ほど経ったところで副会長が話しかけてきた。

 

『上条くん、聞こえているかい?採用だよ。君が担当する支部は白井くんと同じにしておいたから、今度からよろしく頼むよ』

 

「あ、ありがとうございます!」

 

『いやいや、こちらもこんなに優秀な子が風紀委員に入ってくれると嬉しいからね』

 

「そこまでじゃないですよ。ありがとうございました」

 

 プツッ

 

 上条は風紀委員に入った。これから忙しくなるだろう。時間配分を考えなければならない。はたして上条にそんなことができるのだろうか。

 

(しっかし黒子と同じ支部か、嬉しいけど嬉しくないかもなぁ)

 

 そう、彼が今後仕事をする支部は一七七支部。彼がロリコン容疑で連れてこられた場所なのだ。

 上条は少しだけ嫌な予感を感じながらも、眠気に逆らわず睡眠を始めるのだった。

 

 


 

 

 お邪魔しまーす。

 

 

 上条は一七七支部支部のドアを開けてそこに入っていった。

 そこには天国が広がっていた。

 逆にいやらしいことを考えられないほど素晴らしい体。大きなメロンに、それを彩るピンクの布。できることなら布を消、げふんげふん。エロいことを考えられないほどの美人が着替えていた。

 

 両者が停止することたっぷり5秒。状況を理解した固法美偉は机の上に置いてあったハサミを手にして、明確な殺気を放ちながら走り出す。

 

 しかし、上条には逆効果だった。走る度揺れる胸を見てしまい、鼻から血が出そうになったのだ。その血が出そうな鼻を上条はつまんだ。

 

 それに対して固法はやっぱり私臭い!?と考える。先程仕事で走り回っていたため、汗の匂いがするのだと勘違いしてしまったのだ。

 

 上条はもちろんそんなことを思っておらず、むしろ汗が素晴らしいエロスを醸し出しているでござる。なんで考えていた。いやまあ匂いは届いていないのだが。

 

 そんなことを考えているとは知らず、固法はその衝撃でハサミを落としてしまった。しかし足は止まらなかったようで、上条の元へ突っ込んで行く。

 

 

 ドンガラガッシャーン

 

 

 衝突時のテンプレのような音を出して2人は倒れた。上条が下で固法が上。それは見た者はどう思うだろう。

 

 その通り!固法が襲ったように見えるのだ!運が悪いことにちょうど部屋に入ってきた初春はそれを見てしまった! 

 

 きゃあぁぁぁああああぁぁああ!!!!!!! 

 

 目の前の少女が急に叫び出したのを、まだ状況を理解していない2人は相当迷惑そうにしていた。

 しかし、上条は気付いてしまった。己の体に乗っている柔らかいモノが固法という美しい女性の胸だということを。初春と並ぶと、初春の頭と同じくらいあるように見える。本当にそうならこりゃ煩悩の塊だぜ。

 

 それに気づいた上条はとち狂ったのか、手を伸ばす。彼からすると離れて!の意味だったのだろうが、揉まれた本人はそう思わない。そんなことをされた固法は、今度こそハサミを上条に突き刺した。

 

 この事は食蜂の能力により隠蔽され、上条は初任務中に女の子を庇って刺されたということに改竄され、病院に運ばれた。

 

 


 

 

 そして、固法美偉は黒子に長いこと説教されていた。

 

 胸を揉まれたくらいでなんですの!?っていうかそんなのぶら下げてるあなたが悪いんじゃ無いですの!?しかも、ドアの前で着替えるっておバカなんですの!?ジャッジメントの支部ですわよ!?誰かが入って来るかもってわかるでしょう!?えぇ!わからないんですの!?分かりますわよね!何歳なんですかあなた! 

 

 

 ごめんなさい

 

 

 謝って済むならジャッジメントもアンチスキルもいりませんわよ!傷害ですわよ!?あの方が並の男より頑丈だったからよかったものの。だからって刺していいわけじゃないだろ!みさきさんに頼んで隠蔽してもらったけど!もし彼女がいなかったら貴方は刑務所行きだぞ!カッとなったって言って減刑されると思ってたんか!?思ってねぇよなぁ!?もういいです!お見舞いに行ってきます!みさきさん!周りの人の記憶改竄しといてください! 

 

 

 まったくぅ〜!人使いが荒いんだからぁ〜!!ぷんぷん!

 

 ぴっ! 

 

 

 愚痴を言いながらもいうことを聞くレベル5を見て、固法美偉は涙目ながらに思った。

 

 まさか、白井さんにこき使われてるのがレベル5だとは思わなかったわ。妹枠の白井さんに食蜂さん。初春さんは……………………知人か.............

 

 


 

 

 さっきの流れの通り、白井は上条のお見舞いに来ている。同僚の事故だ。心配しないわけがない。

 

「上条さん大丈夫ですの?」

 

「いやぁ、自分でも驚くくらい頑丈なことに、もう直りましたことよ」

 

 上条の腹に穴が空いてから2日、不思議なことに、彼の腹にはもう傷跡が残っていなかった。それには白井も安堵する。

 

「それはよかったですわ。それで、風紀委員はどうしますの? 辞めることもできますわよ」

 

「いや、辞めないよ。こんなに早く辞めちゃったらいろいろと言われそうだし」

 

 こういうのには愚痴が付き物なのだ。

 お前内申あげるためだけに入ったのかよ。とか

 そういえばあの支部にはすげぇ可愛い人たちばっかいたよな、それ目当てだったんじゃねぇの?とか。

 

 とにかくあることないこと全部言いふり回されるのだ。それの回避方法、それは今回の場合風紀委員を辞めないことに限るだろう。

 

「それはよかった。仕事に着くようになったらペアですからね、デートお楽しみにしてますわ」

 

「デートっておい、まあ俺も楽しみにしてるよ」

 

 上条としては妹のように可愛いがってやりたい少女。

 白井としては体を許せるただ1人の男。

 白井には結構な下心があったが、楽しみにしているのはどちらも本心だった。

 

「では、先日の女の子のお見舞いに行きますの」

 

「ああ、俺たちが助けた子だな、お大事にって伝えてくれ」

 

「はい、わかりましたの」

 

 そう言って白井は先日助けた少女、佐天涙子の病室へと向かう。

 

 


 

 

 白井は佐天の病室の前に到着した。

 

「確か病室はここでしたわよね。しつれ———」

 

「———あの、私の病室の前ですけど?」

 

 部屋に入ろうとしたとき、幼い少女の声が聞こえてきた。声の方向を向くと、この病室の主が視界に入る。

 

「あら、さてぃんさん。風紀委員ですの。お見舞いに来ました」

 

 と、佐天を変な風に呼びながら白井はあるものを取り出した。

 

「さ、さてぃん?あっ!ありがとうございます!なんですかこれ!」

 

「こちら、学園都市産の腐らない牛乳ですわ」

 

 それは牛乳だった。本当にどこでも売っている、ムサシノ牛乳だった。市販の、特別でもない。

 

「へ、へぇー、ウレシイデス」

 

「酷いですわ。わたくしの渾身のお見舞い品でしたのに」

 

「あ、あぁ!そうですか!そうですよね!最近ムサシノ牛乳は売り切れが多かったからうれしいなぁ!」

 

 佐天は無理矢理笑顔を作って、白井をフォローしまくる。

 

「本当ですの?」

 

「ほ、本当ですよ!」

 

 白井の涙目&上目遣いの破壊力に、佐天は勝てなかったようだ。

 

 ♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「へぇ! 私を助けてくれた男の人は風紀委員じゃなかったんですか!?」

 

「えぇ、入ったのはそれから3日後くらいですの」

 

 佐天の能力は誰でも仲良くなれることなのかもしれない。

 

 

 

 

 黒子 AAカップよりのAカップ。

 

 前回より2日経っただけで成長。2週間じゃ成長しないと言っていたが、2日で成長。

 

 くくくくく、ついに大台のAカップに入ったぁぁ!! 

 

 食蜂 Cカップ

 

 黒子にムサシノ牛乳を勧められて飲んでみたら、ちゃくちゃくと成長している。

 

 ムサシノ牛乳の成長力凄いわね! あくまでもムサシノ牛乳よ! 

 

 NEW‼︎ 佐天 Cカップ

 

 実は今は食蜂よりもでかい。身長はまだ154センチだが、その割にかなりデカイ。銃を持った男に追われているとき、白井と上条に助けられた。入院中食蜂と会っており、その際能力を使われた。ムサシノ牛乳なしでこのおっぱい力はすごい。と変に驚かれていた。

 

 牛乳なくてもこれくらいは成長しましたよ? 

 

 初春 AAAAAAAAカップ

 

 初期乳に戻り、2カップも大きくなったが結局めちゃ小さい。実は小萌せんせよりも4カップ小さい。

 

 はっははは。白井さんの方が大きい気がしなくもないような、いやそんな事はないはずだけどなぁ! いや、ないないない! 白井さんは貧乳! 私は微乳! 

 



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黒子ぉ 上条ぉ 涙子ぉ 食蜂ぉ 固法ぃ 

 番外編 縦ろぉ〜る 帆風潤子ぉ



 さてぃ、ごほんごほん。

 涙子ぉ〜の病室に『イツメン』が集まっていた。

 

 白井は気になる事があったのか、食蜂を呼ぶ。

 

「ねぇねぇ、しょくほぉ〜。ですの」

 

「黒子ぉ〜ちゃん? どうしたの?」

 

 なんなのだろうこの悪ノリは、おそらくこの場の5人以外はそう思っているだろう。

 白井に呼ばれた食蜂は首を傾げながら言葉を返した。それに続くように上条、固法、佐天も入り込む。

 

「上条ぉ〜さんも気になるぞ?」

 

「私の、ううん! 涙子ぉ〜さんの病室で皆さんは何をしているんですか?」

 

「今だけは読み方を変えて。こほぉ〜先輩はここで何をするのか知らずに来たのよ」

 

 他の3人の掛け合いによるとどうやら、この場のみんなは白井に呼ばれてきたようだ。

 白井は4人に対してこんな質問をする。

 

「みなさん、病室といえばなんですの?」

 

「こほぉ〜先輩的には休む場所。かな?」

 

「こほぉ〜先輩。ブッブーですの」

 

 固法の回答はほぼあっている気がするが、白井はそうは思わないようだ。

 続いて上条が質問に答える。

 

「上条ぉ〜さん的にはもはや俺の居場所。かな?」

 

「上条ブッブーですの」

 

 どうやら上条の渾身のボケはスルーされたようだ。

 しかも、あの悪ノリがなくなっている。お気の毒に。

 

「しょくほぉ〜様的には私たちの溜まり場。かな?」

 

「しょくほぉ〜ブッブーですの」

 

 食蜂はこの病室を、みんなの溜まり場だと思っているようだ。たしかにこの5人はこの病室でよく集まっているが、ここを溜まり場だと言うのはなんというか失礼だろう。

 

「涙子ぉ〜姉さん的には、私の部屋だったはずの部屋。かな?」

 

「涙子ぉ〜、さてぃんブッブーですの」

 

 どうやら、佐天もこの病室を溜まり場だと思っていたようだ。まず、この病室は佐天の部屋だ。もちろん佐天本人は容認しているが、病院側は見て見ぬふりの状態。ここがあの医者の病院だからでしかない。

 

 そして、この場の全員が問題に間違えた。

 だからといって何があるわけでないが、白井は苦虫を噛み潰したような表情になり、4人を睨む。

 が、すぐに何事もなかったかのように、表情をいつもの可愛いものに戻した。

 

「というか少し聞き方が違いましたわ」

 

 毒気が抜けたように優しい表現をした白井は、悪びれることもなくそう言った。用意していた質問と回答がチグハグじゃあ、回答者が間違えるのも無理はない。

 白井は大きな声でもう一度問いかける。

 

病院といえばなんですの!? 

 

 

「「「「 ナースだ! 」」」」

 

 

大正解ですのおおぉぉぉ!!! 

 

 

 

「まあ関係ないんですけどね」

 

 なかなか響き渡ってうるさかったが、そこまでしたのに関係がなかったようだ。5人はスッキリしたようで、表情まで清々しいものになっていた。

 

「じゃあ静かにしてくれるかい? 他の患者さんに失礼だよ?」

 

 ほら、先生が来ちゃった。

 

「あ、カエル先生。お久しぶりです」

 

「白井くん。いつも元気なのはいいけど、中には傷に響く人もいるんだよ?」

 

 その通りだ。この病院は比較的ヤバいことになった人たちが入院するような病院、ここで大声を出したらびっくりして傷開いて血ぃだばぁ。なんてことになってしまうかもしれない。

 

「すみませんですの。

 あ、そうだ前話したあれ、もう出来てたりしますか?」

 

 一応一大事なことなのに、その注意を華麗(てきとう)に受け流した白井はカエル先生に、例のあれが完成したか問う。

 

「あれの事かい? あれは少々危険だと思うんだがね、上条くんが使うのかい?」

 

「そうですの、使った時の顔を思い浮かべるだけで、白飯が10杯は食えますの」

 

 カエル先生の危ない発言に対して、白井は不自然ににやけながら、箸でご飯をかき込む仕草をする。

 

「それは良かったよ。まあ、君たちも静かにしておくんだね?」

 

「「「「はい、わかりました」」」」

 

 白井のご飯発言を、何故か良いと言ったカエル先生は5人に注意をして出て行った。

 それに答えたのは4人、しなかったのは上条だ。その理由は言うまでもなくこれから訪れるであろう恐怖に身をこわばらせていたからだ。

 上条ぉ〜は焦っている。自分に何か嫌なことが起こると気付いてしまったのだ、当然だ。

 青かったはずの服は、上条の汗により紺色へ変化している。ワックスによってツンツンしていたはずの髪も、心なしか垂れ下がっている気がする。

 

「なあ黒子ぉ〜様。俺に使うあれってなんだ?」

 

「そこ、聞いちゃいますの?」

 

 上条は耐えきれなくて聞いてしまう。それに対して白井は嫌な顔をして返した。しかし、上条は怯まずもう一度聴く。

 

「おう、なんだかとても、不穏な様子だったが?」

 

「不穏ですの? まあ、たしかに不穏っちゃ不穏ですの」

 

 上条が不穏な様子がするというと、白井はたしかに不穏だと言った。その発言により上条はさらに汗をかき始める。床には少しづつ池ができていく。

 

「だよな、うん、何をするのか知らんけど、なんか、やめておかないか? 黒子はおにぃちゃんが傷つくのは嫌だろ?」

 

 上条はおにぃちゃんという切り札を提示しやめさせようとする。

 

「え? 兄妹だったんですか!? 涙子ぉ〜的には驚いたっていうか」

 

 それを真面目に信じた涙子はとっても可愛いと言えるだろう。

 

「いや、違うわよ、って食蜂ぉ〜は説明しとくゾ♡」

 

 それを的確に否定する操祈も、語尾をいつもとは違うハートにして、なぜか少し萌えている。

 

「混乱するから静かにしといてって、こほぉ〜先輩は注意しておくわ」

 

 これからの展開を、真剣に推理している美偉はすごく美しい。

 

「おにぃちゃんが傷つくのは嫌だけど、それ以上にあれは楽しみですの、個人的に」ニヘヘ

 

「おおおぉぉぉいぃいいぃ!!! その笑顔はなんだぁぁぁぁぁあ!!!」

 

「ふはははははははははははははは」

 

 上条と白井はカエル先生の注意をしっかりと破り、そのまま少しの間出禁を食らったらしい。

 

 白井のニヘヘの顔はとても可愛い。

 危機が迫っている上条には、そんな当たり前のことに気づいていなかった。

 

 

 


 

 

 上条達四人は、白井の持ってくる『あれ』というものを待っている。あの感じ、どうやらまともなモノでは無いのだろう。

 数分経つとシュン、と白井が転移しやってきた。

 

「上条さんこちらですの」

 

 彼女はドヤ顔で『持ってきたモノ』を掲げる。そして、それを見たこの場のみんなは思った。

 

 趣味悪いわ!!! 

 

 そのツッコミも声に出すことが出来ず、四人は白井に対して恐怖する。

 それでもこれは上条へのプレゼントだ。もらう本人は一応、これが何のためのモノなのか、聞いておかなければならない。

 上条は震える声で白井に聞く。

 

「ちなみにこの右手はなんなんでせうか?」

 

「いや、これが上条さんに着けてもらうものですの」

 

 残念ながら彼の、これは置物だ! という常識的ではない考えはどこかへと消えていった。

 着ける。その恐怖は何かと比べられるモノではない。

 

「何故右手!? 誰のだよ! すぐ戻してこい!」

 

 白井が掲げている、その緻密にできた右腕を上条は、どっかの誰かから無理矢理転移させたやつ。とまたちょっと意味のわからない勘違いをしている。

 いや、それならまだ納得ができる。これはそう、

 

「残念ながらお兄様の右手ですの」

 

「えええぇぇ!? 俺の右手なかったっけ!?」

 

 これは上条の右手だったのだ。上条は己の右腕を恐る恐る確認する。

 もしやすると、自分の腕はもうない。そんな恐怖がまた上条を襲う。

 しかし、自分の右腕の生える場所には、しっかりと自分の右腕がある。それを確認すると、上条は静かに真顔になった。その顔は死んだ魚の目をして、さらには口を一文字に閉じている。

 

 その顔を見て、白井以外の三人は大声で笑う。それもしょうがない。先程までの焦った顔とは打って変わって、真顔(アホヅラ)になったのだ。それを直視した三人は笑って当然。

 しかし、白井はそんなことも気にせず、上条の()()にツッコんだ。()()()()()()()()ツッコんだ。

 

「いや、本物でも義手でもないですの。手袋みたいに着けるやつですのよ?」

 

 白井は当然のように言ってみせた。だが、周りに納得する者などいない。当たり前のように疑問が残る。

 

「なんで手袋なのよ」

 

「実は上条さん、今日誕生日だったりします?」

 

 食蜂と佐天が聞くも、上条は産まれがみずがめ座なので、7月の今じゃ半年近く差がある。なのでもちろんそれは違う。

 早速行き詰まった四人は顎に手を当て考える。すると、固法がなにかを思いついたように手を叩き、少しニヤけながら言った。

 

「恋人なんじゃないかしら、付き合って1ヶ月とか?」

 

 ニヤけ顔をドヤ顔に変え、四人にどうどう? と聞く固法。それを肯定するように佐天が言い、さらに食蜂が固法を褒める。

 

「お〜! 固法先輩、合ってるんじゃないですか?」

 

「固法先輩ったら頭いぃ、褒めてやってもいいんだゾ☆」

 

「ありがとうみんな!」

 

 そう素直に称賛を受け止め、満面の笑みで言う固法美偉は、もうほんとに可愛いとしか言えないのだ。

 しかし、それを白井と上条が否定した。

 

「断じて違いますわよ。今はですが」

 

「あのな、俺は幼女趣味なんてないの」

 

 きっぱりと断言する白井は、最後の一言を誰にも聞こえないような声で呟く。隣にいたカエル先生にはどうやら聞こえてしまったようだが、優しい顔で微笑むだけだった。

 

 そう、コイツ(上条)に幼女趣味はない。ただあるのは妹趣味(疑惑)。とはいえ、上条が白井を初めて見たとき、鼻の下を伸ばしたことは事実。最初の連行も間違いではないのだ。

 

「あら、初対面では卑猥な目で見てきたのにも関わらず言い逃れですの?」

 

 やはり彼女はこのネタを、死ぬまで擦り続けるようだ。いやーな顔をした白井は、上条から身を守るように自分の肩を抱いた。

 いつだって女のいうことが正しくなる。今日の被害者は上条だったよう。白井の言葉を聞いて、この場の女子それぞれが非難の声を上げる。

 

「上条さんそうだったんですね。」

 

「違うぞ佐天さん!」

 

 上条は必死に否定するが、佐天は全く信用していない。

 

「上条くん、やっぱりあの時逮捕しといたほうがよかったかしら」

 

「固法先輩!?」

 

 上条は必死に違うという目で固法を見つめるが、固法はその目を逸らしてもう目を合わせたくないと言いたげだ。

 

「やたら見てくると思ったらそういう事だったのねぇ、軽蔑するゾ」

 

 食蜂に関してはもはや、軽蔑を口に出してしまっている。

 

「食蜂まで!? 違うぞ騙されるな! 

 俺は寮の管理をしてくれるようなお姉さんキャラで、学校の間に部屋の掃除までしてくれて、その時エロ本が見つかっても、うふふ大人になったのね。って逆に褒めてくれる人で、疲れて帰ってきたら、おっは〇い揉む? って聞いてくれる、お母さんの片鱗的なのを見せてくれる、最高のお姉さんが俺のタイプなんだ!」

 

 言い終わったあと、上条ははあはあと息を整える。しかし、数秒経たぬうちに自分が言ってしまったことを後悔した。

 

(あれ? 俺ってばなかなかキモいこと言ってない?)

 

 御名答。今の上条のキモさはレベルで言えば、優にレベル100分の100を超えている。

 この場の女たちは鳥肌を身に纏い、上条を批判する。

 

「上条さん、よくそんな事大声で言えますね」

 

 佐天は顔を引き攣らせながら、上条を人間だと思っていないかのような顔にらめつけた。

 

「上条さん、どっちにしろキモイゾ☆☆☆☆☆☆☆☆」

 

 食蜂はいつもより☆を多くつけてそれだけ引いてることを演出し、女の敵ね! という感じでにらめつけた。

 

「そういえば最初会った時もそんな事言ってたわね」

 

 固法は頭の上に、雲のようなものを浮かべながらその場面を思い出す。少しすると思い出したのか、頭上の雲を振り払い、そのまま視線で焼けるほどにらめつけた。

 

「お兄様、自業自得ですの。

 さてどうでもいいのでつけちゃってくださいな」

 

 白井はさもありなん。というように、どうでも良かったのかすぐに話を切り上げた。

 手袋を着けるよう催促し、上条に押し付ける。

 

「ひどい! まあ付けるけど、本気でこれなんなんだ?」

 

「まあまあ、早く着けるんですの」

 

 付ければわかる、と言って白井は上条を落ち着かせた。この場にいる3人のガヤはその上条の扱いを見て、さすが白井さんね。

 とか、黒子ちゃんはまだまだこんなもんじゃないわ。

 とか、白井さんはなんでも出来るんですね!

 などと彼女を褒めちぎる声が聞こえたが、2人はそれを無視しておく。

 その間にも上条は、右手に趣味の悪い手袋を装着し。

 

「はいはい…………………………うおっ!」

 

 上条にはとてつもない、おrrrrr感が溢れていた。

 

「どうですの!?」

 

 白井がすごいテンションで聞く。

 が、もう一度言う。彼にはとてつもないおrrrrr感が溢れている。

 

「なんだか気持ち悪い」

 

「そりゃそうですの、手に手をはめるって意味わかんないですもの」

 

 白井はすごく普通なことを言ってみせた。この白井、今までまともなことを言ったところを上条に見せたことがないため、それはそれで困惑してしまう。

 

「…………じゃあなんで付けさせた!?」

 

 どちらに反応しようか少し迷って、上条は無難な方を選んだ。

 

「はいはい、右手出してくださいな」

 

「なんだ?」

 

 白井に促されるまま、意味もわからずに手を出す。

 すると、シュンと音を残して、白井と上条の姿は掻き消された。

 

「消えた!? なんでですか!?」

 

「佐天さん、白井さんはテレポーターなのよ」

 

「そうそう、確かレベルは3だったかしらぁ」

 

 佐天の驚いた表情に、残った2人はつくづく可愛いなぁと思う。

 それをどうにか言葉にせず、彼女の疑問に答え、白井の能力を伝えた。

 

「でも、おかしいわ。上条くんは何故か能力が効かないはずなのよ」

 

「たしかに、私の能力も効かなくて驚いたわねぇ。

 黒子ちゃん曰く、幻想殺しって言ってあらゆる能力を殺してしまう能力。だったかしらぁ」

 

 続くように二人は、上条の能力も明かした。彼女たちも、この状況に違和感を覚えたのだろう。

 

「なんですかその素敵な能力は! 

 ん? 確かこの前見たサイトに! パソコンか携帯貸してくれますか?」

 

 やけに急いでいる佐天に、固法がテーブルの上のパソコンを指差す。

 そこには開いたままのパソコンが置いてある。デコレーションから見るに白井の物だ。それを躊躇なく差し出す固法はなんというか、少し抜けているのやもしれない。

 

「ありがとうございます」

 

 佐天はしっかりと感謝を伝えると、己のタイピング力をフル使用しとあるサイトにアクセスした。そこまで急ぐのは何故なのか。

 

「ほら! これですこれこれ! どんな能力も効かない男! まさか本当にいたとは!」

 

 佐天が指を指している行には、どんな能力も効かない男。と書いてあった。なんともうさんくさい話だが、さっきまで目の前にいた彼がその男だ。。。

 

「へぇー、上条くんって意外に有名人?」

 

 固法はあまり違和感を覚えずに、普通にすごいと思った。

 しかし、食蜂は少し違和感を覚えたようだ。

 

「いやいや、能力の詳細がバレバレすぎるわよ、これはただ、てきとうに書いただけだと思うわぁ」

 

「それもそうですよね、こんなすごい能力本当にあるなんて思わないですもんね」

 

 食蜂はこの記事自体がてきとうなものだと言い、佐天もそれに同意した。

 普通の思考ならそうなるだろう。なんて言ったって『どんな能力も効かない能力』。そんなモノがあってしまったら超能力界の均衡が一気に崩れてしまう。

 今までこの学園都市が機能してこれたのは、その能力の持ち主が上条だったからに他ならない。

 

「今度はみつあ————」

 

 そうして、固法が何かを言おうとしたとき、

 

 また、シュンと音を立てて二人が転移した。

 帰ってきたのは良いが、なんだか上条の様子がおかしい。

 

「あら、おかえりなさい。どうしたの上条くん?」

 

「放心状態って感じですね」

 

「能力が効くことに驚いてるのかしらぁ?」

 

 ただいまと言った白井の隣には、動くことのない石像のような上条が立っている。しかし、少しすると震え始めたのだ。まるで、ポケモ○が卵から孵化するときのように。

 

「上条さん? なんか震えてますよ!? 自爆する気ですか!?」

 

 佐天はありえないことを真剣な顔で言う。

 その例えがあったか! 白井はふざけたことを考えていた。佐天の可愛さに悶える他三人を他所に。

 

 時を待たずして、上条の震えが止まった。

 

 

いやっほ〜い! 幸運だぁ〜!!! 

 

 

 その声はとても大きく、この場にいた全員の耳がキーン状態になった。その上叫んだ彼自身も喉を壊してしまったので、彼は本当にどうしようもないのかも知れない。

 耳キーン状態が終わると、呆れながらに白井は事情の説明をする。

 

「幻想殺しって能力は、不幸を呼び寄せるらしいんですの。

 インなんとかさん曰く、空気に触れるだけ不幸があーだこーだ。

 だから、学園都市産の超密着素材で使った右手をつけることによって、空気との接面を0にする。それによって不幸を元から殺しました。

 ふふふ、チェックメイトですの。これで上条さんは女性を引っ掛けてこない!」

 

「へ、へぇ、上条さんって意外にモテるんですね」

 

「いやいや、モテるだからじゃないですの。助けた人、女男関係なくに惚れられて、その対応に丸一日使ったことがありますの」

 

「例えば誰とかありますか?」

 

「1番驚いたのは佐天が引っかかったことですが、1番やばいと思ったのは、統括理事会メンバーの娘さんに惚れられた事ですの」

 

「へ、へぇ、ソリャスゴイデス(私かかってないですよねこれ?)」

 

 かみやん病に罹る者に境界線はない(ある)ようだ。

 

 



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あぁぁぁ!!ふこぉーだぁー!!!

 黒子の能力は幻想殺しをしっかり無視します。前回病院で転移したのは手袋の説明をしていたからです。特に聞かれて悪いことはないですが、これを作るためだけに暗部組織を2つ潰したのは黒子だけの秘密です。
 もしかして:ブロックとDA?



 7月13日

 

 今どこからか、上条さんの誑しは遺伝だと聞こえた気がします。気のせいだとは思いますが、一応、一応、い! ち! お! う! 確認しておきましょう。

 

 


 

 

 クソッ、悲鳴が聞こえたのにどこにいるかわからねぇ!

 

 上条は、手袋のおかげでかなりの幸運になったが、自分から事件に首を突っ込むことに変わりはなかった。それでも、運の良さのおかげか、すぐに事件の起きた場所を見つけることができるようになっていた。

 

(よしいたぞ。まだ犯人にはバレてない!いくぜ、黒子直伝の正拳突き!)

 

 ドガンッ! 

 

 白井直伝の正拳突きは綺麗に犯人の頭に吸い込まれた。もちろん殴られた側は瀕死でピクピク状態。風紀委員じゃなかったらまず逮捕案件であるが、運のいい上条はそんなこと全く知らない。

 

 その後、やはりというべきか上条は女に惚れられていた。

 ヤンキーに襲われそうになったところを助けられた少女は、上条に連絡先を教えろと詰め寄っている。もちろん監視していた白井に少女は捻られ、記憶を少し改竄され、家に帰っていった。

 

 ♦︎

 

 白井は地面に頭をぶつけて悔やんでいる。

 

 

 誤算も誤算、上条さんの誑しが遺伝だとは知らなかった。しっかり禁書目録も見とけばよかったなぁ!?

 あれ、苦労して手に入れたのにこれで右手(手袋)の役目は終わり?いや、上条さんは幸運になって嬉しがっているし、取り上げるのは違うし、どうしよ。

 まあ、いつかの任務で消えてもらおう。あの手袋には! 

 あくまで事故で!

 

 

 頭から致死量ギリギリの血を垂れ流す白井は心に決めた。

 

 

 7月17日 

 

「上条さん合同任務、よろしくですの」

 

「ああ、よろしくな! 黒子と一緒なら安心していられる!」

 

 ああ、遺伝ですのね、本当に、遺伝ですのね!手袋が馴染んだら誑すこともないと思ってたけど、変わらず誑しだ!

 危ないところでした、危うく恋に落ちるところでしたよ、2、3ヶ月前までは男だったことを忘れていましたの。

 そんなことは今更どうでも良い。パイロキネシスが来ればあの手袋は燃え尽きるはず。

 

 そう考えた白井は、風紀委員のくせに事件を望んでいた。

 あの手袋をあげてから一週間程度が経つが、上条はすでに百人もの女を引っ掛けている。この町に、所謂ブサイクなど住んでいるはずがなく、白井も内心、誰かに取られるのでは。とヒヤヒヤしているのだ。

 と言っても上条は鈍感だ。しかもわざとかと思うほど。これまで通り周りの好意に気が付かず、何事もなく時間が過ぎ去って行くのだった。

 

「黒子も安心ですの。上条さんはどんどん強くなっていますからね」

 

「嬉しいな、教えてくれる黒子がすごいからかな?」

 

 上条は白井に訓練を受けている。何度も言っているが、彼女は空手で負けたことのない()だ。その強さはプロのヘビー級ボクサーを相手に完封勝利してしまったり、あの寮監様と渡り合えてしまうほどだ。そんな相手に師事された人間が、弱いわけがない。上条も着々と成長中である。

 

「そこまで自惚れていませんの。あなたの才能と努力ですのよ?」

 

「謙遜すんなよ、黒子のおかげだ」

 

「は、はあ、素直に受け取っておきますわ」

 

 しかし、彼は頑固なところも譲り受けてしまっていた。これが長引いては一生擦りつけ合いが続くと気付き、白井は素直に受け入れる。ほんのり頬が赤いのは、風邪でも引いているのだろうか。

 

「そんな顔するなよ、黒子は笑顔のほうが可愛いぞ」

 

 笑顔のほうが可愛いぞ・・・。上条、それではいつも可愛いと言っているのと一緒だぞぉ!!

 なんというか、ここまでくると清々しいと思う。白井はもう少し顔を赤くした。それを隠すかのようにわざとらしい笑顔をこぼした。

 

 

 

「ニッ!」

 

「そうそう、その笑顔!」

 

「いや、今のはふざけたつもりですの」

 

「そうだったか?いつも通り可愛かったぞ」

 

 こいつ言いやがったあああああ!?!???

 

「///」

 

「顏赤いぞー?」

 

「あなたのせいですの」ボソッ

 

「なんか言ったか?」

 

 これが鈍感主人公の実力である。

 ただし、今のは聞こえるはずもない声量だったのだが。

 

 


 

 

 風紀委員一七七支部、白井は事件の通報を受けていた。

 

「上条さん!任務ですの!」

「おう、聞いてたぜ。駅前のコンビニだな!」

 

 白井が上条を呼ぶと、彼はすでに準備は終わっていた。流石歴戦のパートナーである。後は現場に向かうだけ。白井が手を差し出すと彼は手を握った。シュンと空気を裂く音が聞こえると、そこから二人の姿が消え失せた。これも白井が用意した不思議な手袋のおかげだ。

 

 

 

 

「ジャッジメントですの!」

「ジャッジメントだ!」

 

 任務で急行したのは駅前のコンビニ。場所のせいだが、人通りが多い分それだけ野次馬も増えていた。二人の突然の登場に野次馬がにわかにもざわつく。

 通報の通り、犯人は人質を取り店内に立てこもっていた。初春によると、ハッキングした防犯カメラには跪かされた人質が二人、そして彼らに刃物を向ける強盗ら三人が映っていたらしい。

 残念ながら、そんなことは白井には関係がなかった。店内に転移した瞬間に人質二人に触れて再度転移。店前の駐車場へと戻っている。よって既に人質の問題は解決していた。

 

『白井さん、どうやら犯人のうち二人は能力者のようです。気をつけてくださいね』

 

 片方が爆発系のレベル4、最強爆弾(ストロングエクスプロージョン)。もう片方は水流操作のレベル3、水流祭典(ウォーターパレード)。自分で能力名を付けるのはいいが、もう少しだけでも良いものはなかったのだろうか。

 聞いた瞬間、上条は咳き込むように笑った。しかし、白井にはあなたの能力も恥ずかしさ満載ですわよ。と言われてしまいかなり落ち込んでいる。彼の血の涙はせめてもの反抗だ。

 

「それでは、私は人質だったお二方を病院に連れて参りますので。あとはよろしくですの」

 

 引き止める前に三人とも転移によって姿を消していた。ようやく上条の口から出た言葉は引き止めの言葉ではなかった。

 

「あ、はい」

 いい返事だ。

 ということで、彼は店内は入っていく。

 どこかのタイミングでストロングエクスプロージョン!という叫び声が聞こえたが、ソレに応えるようにパキィーン!という音が響いていた。

 

「ただいま戻りましたの。あら、流石ですの上条さん」

 

 白井の口調は仕事を終わらせていた上条を、一見労うかのようだったが、視線は彼の右手に向いている。

 

(くくくくくくくく、やはり爆発で燃えたようですのね!ほーら、早く不幸になってくださいのおおおおお!)

 

 ちなみに、未だ手袋の消失に気づいていない上条は縛り付けた犯人三人をアンチスキルに受け渡していた。

 

「またお前らか、どれだけ私たちの仕事を取れば済むんじゃん?」

 

「あら、おっぱ!じゃなくて黄泉川先生じゃないですの」

 

 犯人を引き渡されたアンチスキルが護送車へ向かったあと、一つの影が二人に近づいていた。またもや黄泉川である。名前を白井はわざとらしく間違えるが、そのことに彼女は気付いていない様子。ならばと黄泉川の横腹を突こうとすると、呆れた上条が先に白井の横腹を突いた。ひゃん!と反応する彼女に、ナニがピクリと動いたことは絶対に内緒だ。

 

「お久しぶりです」

 

「お久しぶりじゃないじゃん、こっちはいつ税金泥棒とか言われるかビクビクしなきゃならないじゃんよ」

 

 学園都市の犯罪者拘束数は白井上条の二人だけで一割を越えていた。全ての風紀委員を合わせた場合、四割は軽く越える。ただのボランティアに精を出しすぎではないだろうか。とはいえ、彼女たちのせいでアンチスキルが割を食っているのは事実。アンチスキルからすれば同業者というよりも邪魔者だ。

 黄泉川は基本的に、子供が命の危険に晒されることが許容できない人間だ。良くも悪くも子供を思う善良な女性なのだが、この二人に関しては範囲外らしい。

 私よりも強いから保護する必要なくねぇ?ということだ。

 

「黄泉川先生、ビクビクとかいうと上条さんがよからぬ想像をしてしまいますの」

 

「すまないじゃん…………たしかにこの顔は変態の顔じゃん」

 

 黄泉川のビクビクという言葉に上条は反応していた。彼の顔は下衆に変化していく。これには流石の黄泉川も引き気味だ。

 

「特に黄泉川先生は、上条さんのタイプど真ん中だと思いますので」

 

 上条がいつも言っているタイプにドンピシャ。

 どうやら黄泉川は自分の魅力に気づいていないようで、首を傾げて不思議そうにしている。動作ひとつひとつが要因で胸がのっさり動いている。

 

「私のどこがいいんじゃん?」

 

「あなた意外に面倒見がいいでしょう。お世話をしてくれるお姉さん系がタイプらしいですの」

 

「まあ、普通の生徒の世話するけど、お前らを世話することはそうそうないじゃん」

 

 黄泉川は何が言いたいのか、いまいち分かっていない様子。

 さらに白井は話を続けた。上条の志望校が黄泉川のいるとある高校だと。それに黄泉川は、ハッとした。確かに学力が低いとは言え、数ある高校の中でこの学校を選ぶのは奇跡だ。これはたしかに何かある。

 白井はこれで、敵が一人いなくなることを確信した。

 

「そうとも限りませんが、お気をつけてくださいの」

 

 しかし、ここで白井の間違いといえば、

 

「上条は結構いい男だから、私はウェルカムじゃん」

 

 黄泉川が意外に少年もイケる事だった。

 彼女がサムズアップしながら、もう片方の手を腰に当てている姿はかなり様になっている。胸を張るだけで、彼女の大きな胸はのっさりとぶっるるんした。

 

「聞かれていたらどうするんですの!狙われますわよ!」

 

 白井は大慌てで黄泉川の口を閉ざした。だが、黄泉川はイケるのだ。

 

「だから、いいって言ってるじゃん。

 ん、ああ、上条を奪われたくないんだな?そういうことなら言ってくれればいいじゃん」

 

 黄泉川は察したようだ。

 

「/////\\/\/////\/\//\」

 

「それじゃあ10本アニメみたいじゃん」

 

 白井の変な恥ずかしがり方に、黄泉川は少しだけふざけながら指摘した。白井としてはそんなつもりはなかったようだが、いや見れば見るほどN○Kで見そうなやつだ。

 そんなことよりも、さっきから何かの音が聞こえる。こう、なにか獣のような、それとも嗚咽のような。

 

 答えから言うと、その音の正体は上条だった。

 黄泉川が彼を見ると、項垂れた様子でいた。少し顔を覗いて見ると、白目を剥きあんぐりと口を開けている。うががががという唸り声は死んだことに気づいていないゾンビのようだ。

 

「し、死んでる」

 

 一度言ってみたい言葉、10位くらいに位置する言葉を放つ。が本当に死んでいる訳もなく、上条は『この世の終わり』のような顔をしているだけだ。その理由は白井の目論見が達成されたから。

 

「黒子」

 

「なんですの?」

 

「黒子」

 

「なん……ですの?」

 

「黒子」

 

「な…………ん…………ですの?」

 

「手袋が燃えてたぁぁああああぁぁぁ!!!!!!」

 

「知ってますのぉ!犯人捕まってるのにコンビニ無事ですしぃぃぃぃ!そりゃ能力消してますわよねぇええええ!」

 

「慣れって怖いな、手袋の存在を忘れて、能力殺しちまったよ」

 

「まあまあ、落ち着いてくださいの。スペアがないんですから」

 

「え、あるんじゃなくて?」

 

 白井はさらっと、彼を絶望のどん底に落としてさらに埋めるような言葉を言い放った。それに上条が涙目でどうにか用意してくれと頼む。だが白井がそんなことを聞くはずもなく撃沈。そこから反応することのない肉塊が出来上がった。

 

「あんなの二個もつくれるほど材料は揃っていませんのよ」

 

「白井、なんの話じゃんっていうかもう帰って欲しいじゃん」

 

 黄泉川は2人を少し鬱陶しそうにしながら話しかけて、遠回しに、いいや、直に帰れと言った。

 白井は素直に引き下がることなく、事情の説明をする。

 

「私のあげた手袋が燃えてしまったらしいですの。別にいいのですが、上条さんはかなり落ち込んでいるようで」

 

 しかし、それがまた黄泉川の心に火をつける。

 

「手袋を渡すなんて恋人みたいじゃーん?」

 

 語尾をいやに伸ばし煽る煽る。

 いやよいやよも何とやら。白井は違いますと叫びながらも、赤い顔をしている。嫌な気持ちにはなっていないようだ。

 白井の焦り具合を見て、にやけながら背中を押して帰らせる。

 

「はいはい、分かったじゃん。帰った帰った!」

 

「はいはいですのぉ〜!」

 

 

 

 


 

 

 そしてその一日後、いつものメンバーとでも言うべきである5人が、一七七支部に集まっていた。

 ちなみに初春はパフェを食べにどこかへ行っている。いつも通りだ。

 

 佐天は支部に入るとすぐに見えた、(返事がないやつ)のような上条を見て腰を抜かしかける。鋼の精神で有名な彼女はすぐに気を取り直し、固法の座るソファーに腰掛けた。

 佐天は上条の亡骸の詳細を尋ねる。

 

「なんですかコレ」

 

「佐天さん、まずはここは溜まり場じゃないってことを説明しておくわ」

 

 誰も気づいていないようだが、ここは風紀委員の支部。佐天のような部外者は、聴取でもなければそう入ることはできない。

 筈なのだが、そこはなんとかしてくれる白井さん。佐天達はすでに風紀委員の護衛対象になっているので、問題なくここに滞在できている。固法も知らないわけではないが、この支部だけがこの高待遇など受け入れられない真面目なのだ。

 

「まあ、それは置いといて、上条くんったら、ドジしてあの手袋を燃やしちゃったらしいのよ」

 

「え、それくらいであんなになります?」

 

 その通り、佐天の言う通りだ。たった一つ手袋を無くしたところで、白井からのプレゼントという点以外はとくに損失はない。

 苦労して制作した彼女でさえアレは消したがっていたのだ。ならばそれで良いと思うのだが。

 

「それがなっているのよ。

 白井さんが言うには、彼の手は不幸を呼び寄せるらしいの。それがあの手袋のおかげで無くなった。と思ったらすぐに燃えて手袋の方が無くなって、どん底なんだとか」

 

「ああ、この一週間くらい、上条さんすごい調子良かったですもんね」

 

 そう、佐天は目にしている。いつになくハイテンションな上条が、事件を一瞬のうちに片付けているところを。

 あんなに絶好調だったのも、全てはあの手袋一つによるモノ。しかし、ここまでの急転落下もあの手袋一つによるモノだ。もしかすると、アレもまた神の何かに関係する物なのかも知れない(しない)。

 

「そうなのよ、男手が欲しいときもあんなだから」

 

 固法は頭に手を当て、参ったように言った。後ろの積み重なったダンボールが早く運べと言ってきている気がした。佐天も苦笑いである。

 

「どうやったら元気になるでしょうか」

 

 そう佐天は深く考えているが、男は単純なものである。

 白井が彼の元気を取り戻す方法を探しに旅に出ている。佐天が彼女なら安心だというが、あの変態は本当に役に立つのだろうか。

 固法によると固法が代役になるらしい。

 

「なるほど、大きなモノをお持ちの方ですね」

 

 佐天は察する。大きなモノを持っている人。白井や食蜂、佐天には無い、大きな大きなソレ。

 

「本当に上条さんは単純よねぇ」

 

 存在感がかなり薄かった食蜂も漸くここで会話に参加した。

 

「でふよね」

 

「佐天、噛んだ?」

 

「佐天さん、噛んだわね」

 

「噛んでましぇん////」

 

 噛んだことをツッコまれ、恥ずかしさと二人からの謎のプレッシャーのせいでもう一度噛んでいる。赤く染まった顔を二人から背ける。

 

「食蜂さんまたよ。可愛いわね」

 

「年は一歳差のはずなのに、可愛くてやばいわぁ。妹っていう関係に改ざんしようかしら」

 

 食蜂はリモコンを取り出して、真剣に悩んでいる。

 まあしたところで、白井あたりがどこかに疑問を覚えて能力を消されるのだが。

 彼女はレベル3で、食蜂はレベル5。そのはずなのに立場が逆転している。普通なら不可能、逆で然るべきだ。佐天を除く2人は白井の能力に改めて疑問を覚えた。

 

「まったく、黒子ちゃんったら結構おかしいと思うのよねぇ」

 

「そうよね、白井さんったら本当にレベル3なのかしら」

 

「違うんですか?」

 

 佐天は先日見たばかりの、白井の情報のことを思い出す。そこには確かに、レベル3と書いてあったはずだ。

 佐天はそれが間違っているのかと思い首を傾げた。

 

「佐天はまだ知らないわよねぇ。黒子ちゃんの能力はテレポートでしょ?」

 

「はい、見ましたよ?」

 

「それがね佐天さん、白井さんは能力に限界がないの。例えば距離によって時間は掛かるけど、ブラジルでも転移できるのよ」

 

「すごいんですか?」

 

 佐天はテレポート自体をあまり知らない。テレポートなら、どこにでも転移ができると勘違いしているのだ。だが、現実はかなり違う。

 

「当たり前じゃない。レベル4のテレポーターでさえ、一回で転移で移動できるのは100メートルもないのよぉ。

 だから、黒子ちゃんは————」

 

 

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

「食蜂さんってレベル5なんですねぇ………。 え、食蜂さんレベル5なんですか!なんで教えてくれないんですかぁ!」

 

 話の流れで、食蜂がレベル5であることを固法が話していた。佐天はそんなこと1ミリも気づいてなかったらしく、かなり驚いている。

 

「佐天ったら気付かなかったの?黒子ちゃんから聞いたりもしてないのぉ!?」

 

「初めて知りましたよ!いや常盤台の生徒だし、それなりの能力者だとは思ってましたけど!」

 

「私って思ったより有名じゃないのねぇー」

 

 食蜂は自己評価が高すぎたことに気づき、今の上条並みに落ち込んでしまった。もうひとつの屍の出来上がりである。

 

「何言ってんですのみさきさん」

 

 シュンと音を立てて転移してきた白井は、現場の惨状を目の当たりにした。すぐそこには、さっきは倒れていなかったはずの少女。そして、少し奥には十時間ほど前から体制を全く変えていない少年。

 

「あら、黒子ちゃんじゃないのぉ」

 

「はい、黒子ですよ? 寝っ転がって無いで座ってくださいの」

 

 屍のような少女が脅かすように、急に話しかけてきた。本人はそんなつもりなかっただろうが、白井は表に出さないだけで内心バクバク。心臓が鳴り響かせていた。

 

「白井さん、次のシステムスキャン頑張ってください!」

 

「もちろん頑張るつもりですの」

 

 今度は佐天が驚かせてきた。いや、本人はそんなつもり(以下略)。

 そして、白井の連れてきた最終兵器(上条専用)がついにその口を開いた。

 

「おい、4人とも、ちょっと人を待たせすぎだと思うじゃん」

 

 黄泉川だ。白井に手を引かれ転移した後、実に三分近く待たされていた。不憫である。休日の時間を勝手に使われていた。

 

「すみません、正直言って白井さんの頭と同じ大きさの胸に驚いていました」

 

 固法の目線では、白井の頭と黄泉川の胸が全く同じ距離の所にある。しかし、どう見てもサイズが限りなく近いのだ。白井の顔が縦二十センチ弱、横がそれ以下だとして、今の時点で推定Fカップ。しかも彼女は今ジャージを上まで上げている。それはピッタリしている為、かなり抑え込まれているはずだ。

 

「ま、まあ、い、いつかは同じくらいになるから、な、なんとも思ってないんだゾ☆」

 

「私も自信はあったけど、まだまだね!」

 

 食蜂と固法は各々かなりの自信があったらしいが、見事に一打ち砕かれた。共に冷や汗をかく姿は意味さえ違えど、魔王を討伐した後の勇者のようだ。

 

「挟まれたいという気持ちはとてもありますの」

 

 白井からすれば堪能、ではなく、揉みしだきたい、でもなく、枕にでもしたい。

 

「黒子ちゃん、多分窒息すると思うわぁ」

 

「それもそうですわね」

 

「ううん! それで、なんのようなんじゃん?」

 

 一向に進まない会話にイライラし始めた黄泉川は叫んだ。周りも実はふざけていただけで、別に本当に胸に挟まれたかった訳ではない。断じて無い。

 

「簡単です。そこの上条さんに、おっぱい揉む?と聞いてくださいな」

 

「私はいいけど、白井はいいんじゃん?」

 

「よくないなら呼びませんの」

 

「そうか、なら遠慮なく、、、。

 

 上条、疲れているだろう、おっは○い揉むか?」

 

「はい揉みたいですっ!」

 

 先程までの沈黙は嘘のように消え去り、彼は大きなおっぱいへと飛び込む。

 

「そうか、ほら」

 

 と黄泉川が胸を張って見せるが、上条の目には何か違う物が映った。

 

 バッチィーン! 

 

「流石に無理です! 見てられないです!」

 

 佐天のそれはそれは鋭い拳だった。

 上条の欲望に打ち負けた姿が、気持ち悪くて見てられなかったようだ。

 

「佐天、元々止めるつもりだったと思うわよ?」

 

「そうよ佐天さんちょっとやりすぎよ、やるなら歯が抜けるくらいに留めて置かなきゃ」

 

「そうですよね、少しやりすぎでした。流石にほっぺが消え去るのはやりすぎでしたよね。ごめんなさい上条さん」

 

 上条なんかに胸を揉ませるわけがない。

 頬がどこかに吹き飛んだ上条を見ながら、佐天は深く頭を下げる。

 

「一応ここは風紀委員の支部じゃん。しかもアンチスキルの前じゃん?暴力はいけないと思うじゃん。っていうか謝っても聞こえてないと思うじゃん」

 

「完全に骸ですねぇー」

 

 最初と変わらない格好に戻ってしまった上条をつついて遊んだ♡

 

 ♦︎

 

てんこ(佐天涙子を略しただけ)。先ほどの平手打ち、私の教えを忠実に再現出来ていましたの。私が教えることはもうないですの。旅立ちなさい」

 

「白井師匠、今までご教授、ありがとうございました!これからは私が誰かに師事できるように頑張ります!」

 

「てんこ、てんこ、辛い時は帰ってきなさい」

 

 師匠が鼻を啜りながらてんこを抱擁する。

 

「はいっ!」

 

 

 

「ちょっと茶番が長くないかしらぁ?」

 

「一つの劇みたいで面白かったわ。またいつか続きか過去編が見たいわね」

 

 急に劇が始まった気がする。とにかく、言いたいことは先程の平手打ちが白井直伝だった。ということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、上条さんの心配をする人はいないんでせうか?」

 

 いるはずがなかった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 黒子 Aカップ

 

 え、御坂越え? 

 

 え、おねぇさま越え? 

 

 

 食峰 Cカップ

 

 限りなくDに近い

 

 ふふふ、もう巨乳の部類よ! 

 

 

 佐天 Dカップ

 

 牛乳を飲みすぎてどんどんと、羨ましい。

 

 これはキツイな、また買い替えないと

 

 

 NEW!! 固法 Iカップ

 

 完全に私の予想である。初春の頭と同じくらいに見えてビビった。流石に羨ましいとは思わないくらいの大きさ

 

 白井さんの言っていたおっぱいアンチスキルがこんなに手強いとは! 私だってまだまだ行ける! 

 

 

 NEW!! 黄泉川 Jカップ

 

 これくらいなら現実にもいるらしい。これも予想。見た感じ固法先輩よりも大きいんじゃないかな? 大人だしこちらも小萌先生の頭の大きさ位あるゾ! 

 

 上条に揉まれたらもっと大きくなっちゃうじゃん

 

 

 

 NEW寮監 Iカップ←予想

 

 私の好きなキャラ。レベル5すら一撃で倒し、さらには暗部の猟犬部隊の隊員もポキリとしたのだ。

 

 

 

 〜四日後くらい〜

 

 

 

 寮監こと通称白井のお母様は買い物のために外出していた。彼女の目的地はセブンスミスト。萌え萌えな寝巻きや、食料品を買いにきていたのだ。

 道中、信号待ちをしている最中、彼女に話しかける男たちがいた。彼らの口から発せられる言葉は、もしもこの場に常盤台中学生がいたならどれほど無謀なことだと思わせたか。

 

「ねぇお姉さん、モデルにならない? きっとお姉さんなら人気出るよ」

 

「すまない、興味がないな」

 

 寮監は男たちからの引き留めに対し、一刀両断に断りを告げようする。しかし、男が彼女の肩を掴んで引き止めた。

 寮監は怒りに身を震わせながら手を振り払い、男たちと向き合った。彼女は腕を伸ばし、男たちの肩を掴むと、バキッッッッツ!ボコボコッッッッツ!!という音が響く。

 男たちはバタバタと倒れ、彼らの頭は寮監の足に踏みつけられるような状況となる。どこぞの魔王だろうか。

 寮監はこのような状況の中で考える。彼女の心には様々な思いや考えが渦巻いていた。

 

(い、良い身体?どう言う意味なんだ?)

 

 さすがはお堅い寮監。そう言う経験は一つもないようで、男達の意図に気づいていなかった。いや、気付いていても特に気にしなかったし、結果は変わっていなかっただろう。

 寮監がホイホイついて行った場合、ホテルで撮影とか言われて、きっと寮監はあられもない姿に。途中、男に脱げと言われた瞬間死体が何体も出来上がるだけだ。

 

 周りの人達がこちらを見ていることに気付かないまま、信号を渡る。すぐ後ろから風紀委員の声が聞こえてきた。聞き覚えがある声に頬を緩ませ、後ろを向いて走ってくる少女を抱きかかえる。

 

「白井じゃないか、なんのようだ?」

 

 抱っこする姿はなんだか様になっている。これが上条の求めた、母性の片鱗を醸し出すお姉さんなのだろうか。

 しかし、そんなこと上条ならまだしも、白井に関係あるはずない。

 

「なんのようだじゃないですの!こんな往来でころ、処するなんて!」

 

「すまない、肩を掴まれたので反射でな」

 

「貴女、自分がどんな格好しているのか気付いていますの?」

 

 寮監は首を傾げ、自分の身体、服装を確認する。

 

「・・・・・!!!」

 

 寮監の服は、汗によってピタリと肌に張り付き、紫色の下着がスッケスケになっている。彼女はそんな状態を目にした。今もなお、周りのDTたちはそれに釘付けだ。漸く気づいた寮監は屈んで体を隠すが、むしろそれがなかなかいい味を出している。エロスという新たな元素が発見され得る状況だ。

 

「はぁ、ようやく気付きましたのね」

 

 鈍感だったのは計算外なのか、呆れ続けている白井。寮監は涙目になりながら白井を見上げ、小さい声で問いかける。

 

「し、しらい、私の体は魅力的にゃ、なのか?」

 

「そ、そうですわよ。女でもくらっとなるくらいには!」

 

 涙目と噛んだことの破壊力に白井は負けた。寮監の続く質問に答えていく。

 

「今年のバレンタインはチョコが四桁を超えた!関係あるのか!?」

 

「ありますわよ! 煩悩の塊が何言ってんですの!」

 

 またまた呆れる白井だが、実は彼女にもチョコは数万個届いている。譲ったチョコによって初春が巨漢へと変貌を遂げたのは、言うまでもないだろう。

 

「白井、私に服を選んでくれ」

 

 白井は相手の言葉に混乱し、首を傾げた。その表情からは、意味のわからない言葉に困惑していることが窺える。寮監は自分自身が魅力的であると感じるなら、それにふさわしい服を着てみたいのだと、恥ずかしげに口にした。

 この言葉を発することができたのは、自称娘と名乗る相手であるということによる特別な関係性があったから。彼女の顔は赤みを帯び、火が出るのではないかと思えるほどに赤く染まっている。

 

「なんですのこの女は、可愛すぎますわ。少し刺激がつよいですけれど」

 

 白井は鼻頭が熱くなっていくのを感じながら、セブンスミストで涼しい中コーディネート(魔改造)しようと誓った。

 

 

 ♦♦♦

 

 

「まずは、ブラジャーですの。えちえちにして差し上げますわヨォ!お母様何カップですの?」

 

「胸か?前測った時はKだったな」

 

「ぶふぉっ!」

 

「どうした白井ぃぃ!!!」

 

 

 NEW! 寮監さま Iカップ Kカップ

 

 特に白井に服を買ってもらってからはヤバい、モテすぎてヤバい。

 常盤台中学の生徒からは、急にスーツ姿じゃなくなったことに戸惑われながらも、今では白井のように常盤台生徒からもお母様と呼ばれるようになった。

 ちなみ今回白井が買った服は、薄紫のもこもこしたハイネックニット。下はデニム。

 正直工□ゐ。

 

 

「白井、お前に相応しい母になれたか?」

 

「え? お母様? 萌えるんですけど!」

 

 

 

 

 初春 AAAAAAA

 

 1カップ大きくなったが、もちろん誰も気づかない。

 

 ちょっとくらい反応しても良くないですか? と思ってるらしい

 




 なんという奇跡でしょう、まだ佐天と初春は会ったことがありません!さてんを略して、てんこです。
 私は初春が嫌いなわけじゃありません。なので、アンチヘイトのタグもつけていません。安心してください。


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第七位 

 前回のは寝ながら書いてたみたいで全く覚えていません。

 クリスマス楽しく過ごしました。




 白井黒子はいつものように風紀委員(ジャッジメント)あての通報を受けていた。

 内容はと言うと、5人の見るからな悪そうな男たちが派手な男に返り討ちにあったという、犯人の特定が簡単すぎるものだった。白井は軽い頭痛を覚えながら、怪我人の搬送をするため能力を使用した。

 

「風紀委員ですの!」

 

 テレポートしてすぐ、鉢巻を巻いた派手な男を確認できた。足元には通報通り5人の男が転がっている。よくも生きていたものだ。

 

「また、やっぱりあなたでしたのね」

 

 長めのため息を吐く。倒れていた5人の男は白井の声に反応して、助けてくれと涙を浮かべていた。

 

「それがモノを頼むときの態度ですの?」

 

 冷たい対応をされた男たちは、今度こそ涙を流しながら喚く喚く。

 

「誰かと思ったらパンダじゃねぇか!」

 

 男たちと白井の駆け引きを見ながら首を捻っていた男が、突然頭に電球を浮かべた。なるほど、と手を打った衝撃は重い音を響かせながら地面を駆け巡っていった。

 

「そろそろ懲りませんの?何度も注意しているではありませんか」

 

「ない!なら根性対決だ!お前にはあれから逃げられてばっかだからな!」

 

「話を聞いてくださいまし!」

 

 知らんと言いたげな表情をした派手男は、白井の手を無理矢理引っ張りながら意気揚々と歩き出した。

 ひきずられながら、白井は思い出す。以前も同じようなことがあったと。

 

 

 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 風紀委員一七七支部では、2人の風紀委員がお茶を飲んでいた。片方はお姉さん感漂う女性。もう片方はまだ10歳ほどであろう少女。

 お姉さん——固法美偉は頭を抱えながら唸っている。当たり前だが、目の前で唸られたら気になるものだ、少女は問う。

 

「固法先輩、なにかありましたか?」

 

「ん〜、何かあるかと聞かれたらあるのよ」

 

「どういう意味ですの?」

 

 返ってきたのは曖昧な答えである。今度は少女——白井も同じように頭を抱えた。

 

「特に何も無いんですの?なら見回りにでも行きますけど」

 

「あ、いや、ちょっと待って。問題あるから」

 

 どうやら深刻そうな雰囲気だった。てきとうに引っ張り出した椅子に座ると、辛そうな顔をした固法が彼女に抱きついた。

 

「何があったんですの?」

 

「問題があってね…………」

 

「それはさっき聞きましたの。それで?」

 

 早く話せと言う。

 

「えっとね、最近新しいレベル5の子が出てきたじゃない、その子に喧嘩を売る人が多くてね。怪我人が増える一方なの」

 

「え、自業自得じゃないですの」

 

 その通りである。スキルアウトのような不良は、よく自分の能力の低さを他人のせいにする。今回はターゲットがレベル5だからなすすべなく返り討ちにあったと。

 

「それで、それがどうかしたんですの?」

 

 白井は基本的にそんなの放置しとく派だ。自分から殴り掛かっといて返り討ちにあったら助けてと喚く、そんなの迷惑なだけだからだ。

 

「うん、お願いがあるの。No.7 ()()()()さんの相手になってほしくて」

 

 白井の視界がちらちらっと白く点滅した。

 

 

 ♦︎

 

 

 河川敷に大きな竜巻が起きていた。いつもならば清流のせせらぎや、子供達のはしゃぐ声が聞こえる時間だが、今はそのかけらも見られない。その竜巻の中心からは、怒号のような声が聞こえる。これは気合い、覚悟を決めているように感じられた。

 

 ふと、竜巻が止む。なんともいえないような、肌のひりつく空気が流れていた。

 

「これがレベル5の力、ですのね」

 

 竜巻に巻き上げられた土が煙となり視界を遮る。舞うことをやめない土煙を見つめながら白井はつぶやいた。彼女の目には覚悟とも受け取れる何かが煌めいていた。

 土煙が晴れた。

 

「根性のある目してるじゃねぇか」

 

 互いの視線が、衝突した。

 

「うおおおぉらああああ!」

 

 瞬時に距離を詰めた削板が、人知を超えた速度の拳で白井を襲った。しかし、彼女は半歩下がることでそれを寸前で躱す。

 

「そんな大振りな拳、避けろと言ってるようなモノですわよ」

 

「すげぇ!」

 

 まるで他人事かのように反応する削板の背中に触れることで中空に転移させ、降ってきた頭に足を伸ばした。

 

「うがっ!」

 

「あなたやっぱり、戦いに慣れていませんわね」

 

「」

 

「能力が強すぎるが故まれに起きるギャップ。きっとあの人と同じなんでしょう」

 

 地面に伏した削板に語りかけるが返事はなかった。

 

「当たりどころが悪かったのでしょうか」

 

 一方こそこそと着いてきていた固法はと言うと、予想だにしなかった結末に腰を抜かして驚いていた。それもそのはず、なったばかりとはいえ削板は歴としたレベル5。まさかレベル3の少女に呆気なく敗北するとは思いもしないのが当然だ。

 

(あ、あんまり怒らせると怖いわね……)

 

 年上とはいえ、怖いものは怖いのである。

 

(でも白井さん可愛いからどうでもいいや!)

 

 

 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 こうして回想を終わらせ、問題だらけの男との会話に戻る。

 

「俺は心のどこかで調子に乗ってたんだ。さっきみたいに根性ないやつばっか相手にしてたからな」

 

「それはお気の毒にですの。でもあなたのおかげで風紀委員はてんやわんやでしたのよ」

 

「でも、今の俺はあの時と違うぜ。お前と根性する時のために鍛えてたんだ」

 

「根性する?」

 

「この日を待ってたんだ。お前より俺の方が根性あるって証明する日をな!」

 

「ちょっと、いや結構迷惑ですの」

 

「ってことで白井!前の河川敷にワープだ!」

 

「テレポートと言ってくださいましぃ!」

 

 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 拳がぶつかり合う。

 前のように避けられたりはせず、削板の拳が白井の拳を捉える。大木二つがぶつかるような鈍い音が鼓膜を揺るがせた。

 

「よし!」

 

 今度はうまくいったと目を見開いた削板は能力を展開。腰を捻り力を加えて拳ごと白井を押し返す。体重の差なのか、白井は抵抗もできずに退いた。

 

「たわけ、ですの」

 

 彼女はニヤリと笑うと、押された力のままに体をくるりと横に回転させた。伸ばしたままの拳が裏拳となって削板の頭を狙う。しかし、不意打ち気味の一撃でさえ、削板は屈むことで直撃を逃れた。

 

「やっぱすっげぇな」

 

 掠めた額は切り傷のような横一文字の裂傷ができていた。流れる血がずれた鉢巻を赤く染めていく。

 

「やっぱりやるな!」

 

「レベル5の方に褒めていただくのは光栄ですが、わたくし超電磁砲(レールガン)以外の方に褒められても興奮しませんのよ!」

 

 削板が微妙な顔をしているのが見えた。もしかすると白井なりの惑わせ方だったのだろうか。

 

「でも今の俺はあの時の俺よりも強い。自分よりも強い年下に引き分けたのは恥ずかしいからな!改めて特訓しなおしたぜ!」

 

「そうですの。ですが、こちらも強くなっていますのよ!数ヶ月、何もしなかった訳じゃないですから!」

 

 当然、白井もこの数ヶ月間は特訓の毎日を過ごした。能力を使った格闘術を一段どころじゃなく、三段程度は進化させている。

 名付けるなら白井流。いや、転生流のほうが格好付くだろうか。

 

「そうか!だが今のままじゃ俺の勝ちだ!」

 

 だが、それだけでは簡単にいかないのがレベル5である。削板は、少しだけ配慮していた周りへの影響を無視して、本気を出そうとする。

 

「舐めんじゃないですの!」

 

 削板の能力にモノを言わせた戦闘スタイルは変わっていなかった。しかし脅威なのはその単純性を理解した彼が適度にフェイントを仕掛けてくること。流石の白井も無傷ではいかなかった。

 

 二人の戦いの声が河川敷を響く。もはや、二人だけの問題ではなくなりつつあった。

 

 ♦︎

 

「むぎの!」

 

「ん?どうした滝壺」

 

 とあるアジト、いつもは静かにしている滝壺が突然叫ぶ。隣でシャケ弁当を食べていた麦野は、焦った様子の滝壺に何かあったのだと察し、話を促した。

 

「AIM拡散力場の規模からして、推定レベル5同士が戦闘を開始した!」

「こんな昼間っからアホかよ、誰だ?」

 

(体晶を使っていない滝壺が反応できるならそれなりに近くて、それなりに大規模か。1、2、3位なら、間に割り込んで殺してやるか)

 

 超能力者(レベル5)第四位の原子崩し(メルトダウナー)、麦野沈利は自身よりも上位の三人を理不尽というほど嫌っていた。殺してでもその地位を奪いたいと思う程には。大好物のシャケ弁当さえも放りっぱなしにして、彼女は外に出る準備をしている。

 

「いや、わからない、どっちも普通の能力者とは大きく違うAIM拡散力場だった」

「てなると、ありふれた電気系の第三位は違う。第一位と第二位か。あいつらなら周りを気にしなくても不思議じゃねぇ」

「第一位じゃないと思う。絹旗の能力とは根本から違ってた」

「一方通行の『反射』の演算パターンが植え付けられているアイツは、確かAIM拡散力場でさえ少し似るんだっけか。つまり殺り合ってんのは第二位とその他有象無象」

 

 麦野は存在を忘れていた第五位以下を思い出す。彼女からすれば格下も格下。記憶にすら残していなかった。

 

「多分、二位はいると思う。規模が大き過ぎるから。もうひとつの反応も大きいけどまだ常識の範囲」

「どこで殺ってんだ?」

「遠い。大き過ぎて発信源がわからないけど、多分十キロは離れてると思う。むぎの、どこにいくの、無謀だよ」

 

「その口焼き切ってやろうかぁ?」

 

 ここで麦野の怒りのボルテージが限界を迎えた。AIM拡散力場の規模はその能力者の強さをある程度表している。力場が大きいほど周りへの影響は甚大。十キロも離れた場所から力場を本当に確認できたのなら、当人の能力は麦野のそれを軽く越えていておかしくない。

 その事実に、彼女は青筋を立てる。睨まれた滝壺に至っては体晶を使った時のように汗をかいていた。

 

「ごめん、むぎのを心配したつもり」

「わかってる、今は時期じゃねぇよな。でも、いつかぜってぇ殺すぞ」

 

 麦野沈利は世界を知らない。自分よりも強い者が本当の意味では存在していないと考えていた。学園都市というとても小さな箱庭では、本当を知る術はなかったのだ。

 

 

「っ!?どうして、AIM拡散力場が消え去った!」

「ちっ、死ぬのが早かったな」

 

 AIM拡散力場とは自分の意識外で漏れ出ている能力と言う表現が正しい。それがないということは、能力開発を受けていないこと。突然消えたと言うならば、死んだことになる。

 

「まさか、お互いに本気を出した様子はなかったのに」

「それでも、第二位様が圧倒的だったんだろ」

「っ!むぎの、また力場が確認できた。死んでなんかいなくて、一瞬だけ能力を失ってたんだ」

「そんなことあるかよ、能力を使い切ることなんてどうやっても無理だろ」

「いや、誰かに一時的に消されたんだと思う。そうじゃなきゃ絶対におかしい」

 

 どうしてなのか、体を取り巻く嫌な予感。麦野は顔を顰める他なかった。

 

 

 ♦︎

 

 

 上条当麻の前には世紀末のような光景が広がっていた。竜巻によって巻き起こる土煙や、定期的に鳴る破裂音。生え揃っていたはずの芝は禿げ散らかされ、いつもの河川敷の面影はかけらも残っていなかった。

 通報を受けて来たらこれである。不幸の申し子は相変わらずだ。

 

(やべぇ、アイツら周りが見えてねぇ)

 

 旭日旗の描かれたシャツを着た男が拳を突き出せば、それに白井が拳を合わせる。先ほどから聞こえていた破裂音は二人の拳がぶつかり合う音だった。吹き寄せる風には闘気や闘志といったものが乗っているように感じる。

 

「結局、怒った麦野でもあれほどは怖くないわけよぉ」

 

 その様子を諦観したように見つめる唯一の野次馬は、風圧でパンツが見えていた。青のストライプである。むくっ。

 

「君、スカート凄いことになってるからすぐに離れておきなさい」

 

 上条が声をかけるが、どうにも気付く様子はない。肩を揺さぶるも効果なし。上条は眉をぴくりと痙攣させ始めた。

 ふと、少女がこちらを見る。

 

「さっきからうるさいわねぇ、ナンパはお断りってわけよ!」

 

 とんでもない言いがかりである。

 

「パンツ見てたくせに言い訳するってわけぇ?」

 

「うぐ、知らないぞ俺は!」

 

 言いがかりではなかった。

 

 

 ♦︎

 

 

 外国人の少女を説得し、家に帰らせようとしたあとのこと。河川敷の土手を降る上条は考えていた。二人の戦闘を止める方法である。

 白井はともかく、彼女と戦っている男は誰か知らないため未知数だ。見たところ身体能力を高めるような能力に見えるが、そうとの限らないのがこの世界である。

 

(と、飛び込んだらどうにかなる……よな?)

 

「結局レベル5に突貫は頭悪いわけよ」

 

 なぜか帰っていない少女にメンタルを削られた。

 

 

 ♦︎

 

 

 勝負に終焉が差し迫っていた。

 

「これで終わりですの!」

「受けて立つ!」

 

 白井の叫び声が轟くと、削板もまた己の叫び声を響かせた。

 

「ちょっと待ったぁ!!」

 

 ついでに上条も。

 しかしながら、この騒々しい喧騒の中で、上条の声など微かにも聞こえるはずはない。仮にその声が耳に届いたとしても、幻聴として軽んじられてしまうのだろう。

 

 

 激しい打ち合いの中、白井が地面に手をつく。芝が踏み荒らされ、土や砂利が剥き出しになったグラウンドが一瞬にして揺れ始めた。それは転移の前兆だった。彼女は地面ごと転移させて、この場を根底からひっくり返そうとしていたのだ。

 防衛本能が最大限に警鐘を鳴らす。削板は白井の行動によって戦況が大きく変化することに気づいた。彼は固く拳を握り、力を込めた手を身体の後ろに引いた。その瞬間、まばゆいばかりのカラフルな煙が立ち上り、周囲を包み込んだ。

 

(準備万端。根性で全部跳ね返してやる)

 

 白井が転移によって宙に浮き上がると、それとともに足をつけるべき地面が消え去った。足場を失った削板は身体のバランスを崩し始める。どうにか無事な足場のあるところに下がるが、その瞬間、周囲の光が一切消え失せた。彼の向けた視線の先には、天を覆い隠すほどの土砂が広がっていた。

 

「こ、これが白井の気合いなのかぁ!」

 

 体制を直してもう一度、ソレに向けて拳を突き出そうとした。

 

「ちょっと待ったぁ!」

 

「上条さん!?」

 

 上条は降り注ぐ土砂の及ばない場所にいる白井の肩に手を置いた。その一瞬の接触によって、白井の能力は打ち消された。白井が転移させた地面そのものは行く宛がなく、逆再生のように元の場所に戻り、耕された土のように積み上がった。

 

 削板は腕を引っ込めようとする。それは突然現れた存在を殴らないための動作だった。しかし、彼の最大の力は、彼自身でも止めることはできなかった。

 

「避けれねぇなら根性で耐えろぉ!」

「なんでぇ⁉︎」

 

 迫り来る拳に右手を伸ばす。彼の手のひらは能力は消すことができるが、その拳の質量そのものは無くすことはできなかった。ゆえに、手のひらから伝わった衝撃は肘、肩を抜けていき全身を襲った。

 

「いてえええええええよおおおおお!能力消してこれええええええ???」

 

 削板は口をパクパクさせ、何も話せない状態にあったが、白井は黙って頷きながら一人で納得した様子をしている。河川敷は荒れに荒れている。土手の階段は戦いの余波により破壊され、川は芝が浮いて濁っていた。我を忘れた戦闘狂が二人もいればこうなるのも当然か。

 

「少しやり過ぎでしたわね」

「いや、やり過ぎなんて言葉じゃ済まされないのでは」

 

 風紀委員本部による懲罰を恐れる上条は早くこの場から去りたかったが、それを削板が止めた。

 

「————なんだぁぁああぁぁぁああ!!!!!!?!???今の根性はぁぁああああぁぁああぁあぁあ!?!?」

 

「ぎゃああぁぁぁぁ!!急にさけびはじめたああぁぁ!!!」

 

 上条の言う通り。突然叫び出した。それもかなりの声量で。

 

「うるさいです。隣にいる黒子のことも考えて欲しいと思いますの」

 

 小声で白井の呟きが聞こえた。耳を抑えてかなり迷惑そうだ。

 

「どうやった!? 俺の本気のハイパーエキセントリックウルトラグレートギガエクストリームもっかいハイパーすごくてこれもっかいハイパーエキセントリックウルトラグレートギガエクストリームもっかいハイパーすごすぎる〜からのビブルチそげぶライダーパーンチをどうやって打ち消したんだ!?やっぱり根性か!????」

 

 まるで魔法の詠唱のようなクソ長い意味の不明な技名を噛まずに披露した。とても凄い。

 

「うおおおおお暑苦しい!そうだよ根性だよ!」

 

「能力を掻き消すほどの根性。良いことを聞いたな!また鍛え直すしかねぇ!」

 

「いやいや、努力がどうこうの話じゃないと思いますよ!

 あ、聞いてねぇなこれ、レベル5ってもしかして皆んなこんなの?食蜂もたまに話聞かないし、黒子もたまに聞かないよな。強いやつってやっぱりそうなのか?」

 

 ひどく落ち込んだ様子の上条に白井は問いかける。

 

「黒子、話聞いてないことありますの?」

「いやいや、初対面の時のロリコンうんぬんかんぬんとか、明らかに聞いてなかったよな」

「それは、わざとですの。てへっ!」

 

 うわぁ、可愛い。と言う感情を覆い隠すほどの、大きなショックが上条を襲い、大きな声で叫ぶ。

 

「やっぱりか!もう数ヶ月以上そう思ってたけどやっぱりか!」

「ふふふ、面白いですわね」

「笑うなぁ!」

 

 その後、削板は急に走り出し、どこかへと向かって行った。話していた特訓でもするのだろう。一方、白井と上条は仲良く支部に帰るために一緒に歩き始めたのだった。

 

「ふ〜ん、結局期待はしていなかった訳だけど。

 まさかレベル5を止めるとわね、結局、麦野に言わなきゃいけない訳よ」

「フレンダ、超何してるんで———ってこの河川敷超どうなってんですか!?」

 

 たまたま通りかかった超超女、絹旗は河川敷の惨状を目にした。電話を掛けながらだが、彼女はそれよりも優先すべきだと思い、金髪外国人女ことフレンダにこの状況の説明を願う。

 

「アジトで話すって訳よぉ〜」

「どうしたんですか? 超キモいですよ今のあなた」

 

 辛辣な言葉だ。フレンダは可愛い。

 これは未来の佐天さんが証明している。

 

「ふふふ、麦野に言わなきゃいけないけど、言ったら殺されるって訳よぉ〜」

「はえ!?フレンダがやったんですか!?」

 

 河川敷の惨状が、とても彼女一人で出来るものではないはずだと気付きながらも、念のために聞いておく。

 

「あとでね♡」

「うっ、超吐き気がしました」

 

 結局今は言わないようだ。

 ふわふわしている同僚き嫌気が刺した。

 ここは一つドッキリを仕掛けてやろう。

 

「そのまま帰ったら超麦野に超殺されますよ」

「ふふふ、超麦野ってなによ、超麦野ってwwwwwwww」

「今麦野と電話超繋がってますよ?」

「えっ!?」

『おいフレンダァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!! 覚悟しとケェェェェェェェェェェ!!!!』

 

「ぎゃぁぁあああぁぁぁああ!!! 鬼ババァ!!!!」

「ふふふ、超録音ですよ」

「え?よかったぁ〜って訳よぉ」

「ふふふ、あははは」

 

 

 ♦︎

 

 

 ただいまって訳よぉ〜! 

 

 フゥレェェェェェンダァァァァア!!!!! 誰が鬼ババァだ!? ゴラァ!? 

 

 ぎゃぁぁあああぁぁああぁぁ!!!! 録音じゃなかったのおおぉぉぉぉおおおおお!?!!???!!!!??? 

 

 ドッキリ、超大成功ですね。

 

 ちょっとふれんだが可哀想かも、、、

 

 滝壺だけが良心って訳よおぉぉぉぉぉおおぉ(涙)。。。。。

 

 

 



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番外編 あけおめのことよろ

 ※全く本編と時間軸が違います。
 あと、こうなる未来もあるかなぁ?って感じです。
  でも、伏線(笑)みたいなのはありまんすごんす。


『大晦日ですわね』

 

『そうだな黒子』

 

『あっという間でしたの』

 

『ああ、あれから一年だもんな』

 

『ええ、そうですの』

 

黒子と上条さんの交際1周年ですのッ! 

 

 

『ああ、早かったなぁ。最初はビックリしたよ、黒子があんなこと言ってくるなんてな』

 

『うふふ、黒子も恥ずかしかったんですわよ』

 

『そりゃそうだろ、確かこうだったか? 

 

「黒子の×××に上条さんの××××で×××××してくださいの!」

 

 こうだったよな』

 

『///やめて欲しいですの。そのときの黒子はちょっとどうかしてましたの。でも、黒子の×××に上条さんの××××で×××××してくださったのは嬉しかったですの』

 

『そりゃよかった。今日もやるか?』

 

『昨日やったばかりでしょう? あなたがしたいだけですね?』

 

『ははは、バレたかぁ。じゃあしょうがない。 と見せかけてドーン!』

 

『きゃあ! ま、まだ朝ですのよ? ふふふ、まああなたがヤリたいならいいですの』

 

『黒子も存分に感じてくれよ?』

 

 


 

 

 どひゃあ! 

 

「な、なんだ夢か、そうだよな、あの黒子があんなこと言う訳がない」

 

 

『黒子の×××に上条さんの××××で×××××してくださいの!』

 

 

「ぬぬぬ、夢の姿じゃすげぇお姉さんだったな。あれは固法先輩レベルだったぞ。あんなこと言われたら襲っちゃうよな」

 

 嫌な夢をみた。

 いつもは大人ぶっていそうな黒子が、その夢の中では本当のとびっきりのお姉さんだった。黒子は俺に誘うような言葉をかけてきた。俺はヤッてしまったようで何故か感謝されている。その後も何度もヤッていたようで、お腹は少し膨らんでいた。あれ?

 

「俺、最低だな」

 

 その通りである。嫌がっていた少女を犯し、その上孕ませた。

 相手が黒子でない場合、上条当麻は逮捕されていただろう。

 上条当麻は落ち込んでいる。でも、あれは夢である。

 

「まぁ、夢なら良いか。今何時だ? って時間ヤバい!」

 

 ちなみに言うと、今日は元日。

 例の『イツメン』や、とある中学の三バカトリオなどで参拝に行こうという話になっている。集合時間は7時。それなのに6時半に起きてしまう上条は、アホなのかバカなのか。

 

 

 

 ピンポーンとインターホンが鳴り、上条が服に手こずって対応が遅れていると外から大声が聞こえてきた。

 

『かみやーん? やっぱり寝坊してたぜよ。はいるぞー』

 

「なっ! 土御門、勝手に入るなよ!」

 

 土御門はとても優秀なので、結局寝坊するであろう上条のために手伝いに来たのだ。

 静止を気にもせずズカズカと入ってくる友人に、軽くムカつく。

 

「あーあ、浴衣の着方も知らないのか?」

 

「しょーがねぇーだろ、こっちは妹なんていねぇんだよ」

 

「なにいってんだにゃー、俺は帯なんて巻かないぜ? しょうがないなぁー、かみやん特別に舞夏をよんでくるにゃー!」

 

「巻かないっておい、またお世話してやろうか」

 

「あぁ、そうだかみやんが風紀委員になったのは驚いたぜよ。でもかみやんに職質されたのは辛かったにゃー。

 誰が不審者だよ、かみやんの方が不審な人物だろぉ!?」

 

 土御門たち中学の同級生はかなり驚いただろう。何てったって3バカの頂点と言われている上条が風紀委員になったのだ。特に吹寄様はそれを聞いたとき、白眼を向いて倒れていた。

 青髪は学級委員だったので、これで何もやってないのは土御門だけだな! とか言っていたが、その後、上条に職質される姿が目撃されたらしい。

 

「何言ってんだよ、サングラスにアロハシャツ1枚に短パンって、それのどこが不審者じゃないんだ?」

 

 もっともな事を言う上条の前に、シュンと音を立てて白井が転移をしてきた。土御門との間に立つと、彼女は自分の意見を語り始めた。

 

「そのグラサン変態もまあまあの不審者ですが、上条さん。あなたの方が不審者寄りですの」

 

「おお、青髪が言ってたピンクの風紀委員にゃー」

 


 

 一時期、クラスの中で話題になったことがある。それはピンクの風紀委員というものだ。

 出どころは青髪ピアス。彼が言うには、上条がピンクの風紀委員を買い物のカートに乗せて連れ回していた。というものだった。

 すぐに、俺はスパイの天才だにゃー。と正体バレまくりまくりシティーな感じの土御門が立候補し、調査が進み始めた。

 まず、青髪からの情報で、ピンクの髪の風紀委員。そして上条をお兄様と呼んでいた。ということがわかった。もちろん上条に妹なんていなく、クラスでは上条ヤバい、変態説が浮上する。

 土御門は上条を尾行することにした。多角スパイの土御門くんは、尾行の腕前も凄かった。しかし、今回は相手が悪かったのだろう。

 相手はテレポーターだ。空間把握能力が化け物並みに優れているため、誰かが尾けてきていることはバレバレだった。

 

 黒子は上条と話しながら帰宅しているとき、土御門に気付いた。上条にお手洗いに行きますの。と言って土御門のところに転移する。

 目の前に現れた少女に驚くが、関係もなく白井が詰め寄る。

 

「何つけて来てんですの?」

 

「ば、バレてたかにゃー?」

 

「当たり前ですの。それに先ほどからの動き、わざとバレようとしていたでしょう?」

 

 土御門はプロのスパイだった。本気でやれば見つかることはなかっただろうし、だからこそ上条には見つからず、白井だけには見つかることもできたのだ。

 

「話がある。簡単なことだ、お前、なんでかみやんに能力が効くんだ?」

 

「もしかして、上条さんの能力の話をしてますの?」

 

 2人の、可視化出来ない戦いは激しい。

 多角スパイの視線は鋭く、黒子の表情を観察している。

 そして黒子は、前世と合わせて30年強の人生経験から土御門の意図を勘繰っていた。

 

「まあ、そんなところだ。かみやんに能力は効かないだろう? なんでお前のは効くんだ? さっきの転移は明らかにかみやんも一緒に移動していた」

 

「ふふふ、簡単ですのよ?」

 

「なにが言いたい?」

 

「黒子にもわかりませんの。

 確かに、上条さんには色々な能力が効かないとかは知っていますの。心理掌握も、爆発系も、水流操作も風紀委員として対象して来ましたが、彼はその全てを打ち消していましたから」

 

 ズコー! 勿体ぶってわからないのかよ! 

 と言うように黒子は土御門を困惑させてしまったようだ。

 額に汗をかいた土御門が何かに気づいたように、目を見開き顔を上げた。

 

「ってまてよ心理掌握までだと!? かみやんどーゆー交友関係してるんだにゃー」

 

「素が出てしまってよ?」

 

「ふっ、お前は何者だ?」

 

「黒子はただの小学生ですの。ね? ただの魔術師さん?」

 

「ッ!? 何でそんなことまで!」

 

「それでは、上条さんを待たせていますので」

 

 そのまま黒子は上条のところへと転移し帰っていった。

 

「白井黒子か、これはヤバい気がして来たな。アレイスター、これはお前の計画通りなのか?」

 

 黒子は土御門に少しの恐怖をもたらした。

 

 

 

 次の日の学校にて

 

「みんな、かみやんは変態決定だにゃー!!!」

 

「何言ってんだ土御門!」

 

「しょうがないとおもうで? 流石に小6はヤバいらしい。でも、俺はかみやんが同じステージに立ってくれたことが本当に嬉しいねん」

 

「おい! 俺はロリコンじゃなくて、胸の大きいお姉さんが好きなんだ! 例えば寮の管理人で、俺が学校に行ってる間に部屋の掃除をしてくれてたり、エロ本見つけても、大人になったのね。って逆に褒めてくれる感じの人で、風紀委員とかで疲れた時は、膝枕をしてくれて、おっぱい揉む? とか最高の優しさを浴びせてくれる人がタイプなんだ!」

 

「例えば?」

 

「風紀委員の固法先輩はヤバい。あれは悪魔のようだよ、もしもあの人が寮の管理人だったら、俺はあの長点上機学園にも入れそうだよ」

 

「へぇー、そりゃすごいやんなぁ」

 

「みんなぁー結局かみやんはヤバい変態で決定だにゃー!!!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「知ってたぞぉ!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 上条はその後の半年間、変態魔神として崇められたという。

 

 

 


 

 

 ここで話を戻そう。

 

「何で黒子を知ってんだよ! っておい黒子? 俺のどこが不審者なんだよ! どう考えても土御門はパーフェクト変態不審者だろ!」

 

 上条は簡単に受け返し叫んだ。しかし、黒子にそれはイケなかった。

 

「そうやってすぐに叫ぶところですの。その点そのグラサンは妹さんにしか欲情しないんでしょう? だったら被害に遭う人が多い上条さんの方が不審な人物ですの。わかりましたか?」

 

「かみやん」

 

「なんだ土御門」

 

「ぶふっ! くくく、はっはは!」

 

「笑うな土御門ぉ!」

 

「ふふふ、おもしろい方々ですのね」ニコッ

 

「///」

 

「か、かみやん!? 顔赤いぜよ!? ま、まさか、堕ちたのか? 今の微笑みで堕ちたのか!?」

 

「んなわけねぇだろ! こんな幼女に発情なんてしねぇよ!」

 

「はぁ!? 私のどこが幼女なんですの!? ちゃんと胸もDはありますの!」

 

「俺にはわかるぜよ。君のお胸が本物だってことがにゃー」

 

「変態死すべきですのぉー‼︎‼︎」

 

 どちゃ

 

 頭が落ちた。

 

 上条家では、どひゃあで始まりどちゃで終わる。

 

 


 

 

 

「黒子ちゃーん! 遅いわよぉ」

 

「申し訳ないですの。上条さんが思った以上に遅れてしまって」

 

「しょうがないですよ、上条さんなんですから」

 

「佐天、それには同意ですの」

 

 集合場所には既に、沢山の人が揃っていた。 

 

 食蜂操祈 佐天涙子 固法美偉 帆風潤子 初春飾利 青髪ピアス 吹寄制理 姫神秋沙 御坂美琴

 

 そこに、白井黒子 上条当麻 土御門元春 が遅れて到着し総勢12名が揃った。

 

「遅れておいてなんですが、私黒子が仕切らせていただきますの。まずは3バカトリオと御坂佐天黒子チームとそれ以外のチームに分かれてもらいますの」

 

 ということで、6人6人で別れ、それぞれのチームに行動は任せた。

 

「10時に集合しますのでわすれないでくださいまし」

 

「「「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」」」

 

 

 

 


 

 

 〜Side黒子〜

 

「黒子ってなんでもできるわよね、なんか新しくできるようになったことある?」

 

「黒子はインデックスさんを拉致ることが出来るようになりましたの」

 

「へぇ! 黒子ってそんなことまでできるの?」

 

 一年弱同じ部屋で過ごした黒子のまた新しい器用さに美琴はまたまた驚かされる。

 

「おねぇ様、黒子にできないことはほぼないですのよ?」

 

「そうですよね、白井さんが何かができないところなんて見たことないですもん」

 

「あれ? 佐天さんって黒子との仲ってそんなに長かったの?」

 

「今まで気づいてなかったんですの?」

 

「気付いてないっていうか、めっちゃ初対面の感じだったじゃない!」

 

「そうでした? 白井さんと上条さんに助けてもらったことがあって、それからの付き合いなんですよ」

 

「そうそう、俺がまだ風紀委員やってた頃だよなぁ」

 

 かれこれ、黒子 上条 食蜂 佐天 固法の付き合いは2年近くになる。そして、美琴には地雷となった。

 

「へぇ、あんたが風紀委員だったのは置いといて、そんなときから女の子引っ掛けるんだぁ」

 

「かみやんの誑しは親譲りなんだにゃー」

 

「そうなんよ! かみやんのお父さんもなかなかなもんやったで! ごっついエロいおねぇさんと話してたんよ! もうこぼれそうでな!」

 

「私はもう、どうしようもないと思っている」

 

 佐天は小6からの2年間の付き合いでやっと気づいた。上条たち3バカトリオはどうしようもないことに。

 しかし、美琴は未だに気づいていないが故にドドンとやってしまう。

 

 バリバリバリっ! 

 

 もちろん上条は能力を打ち消し、美琴を叱る。

 

「おいおい! 人がこんなにいるところで能力を使っちゃダメだろ!」

 

「知らないわよ! あんたって前からそんな人だったの!?」

 

「そんなってなんだよ!」

 

「そんなって! 女の子と見ると私以外の女の子を引っ掛けて来たり、その、色々と///」

 

 美琴は人差し指の先をツンツンさせながら、顔を赤くさせ上目遣いわなわなと涙目で乙女てんこ盛りで猛アピールをする。

 

「何言ってんだ?」

 

 が、やはり上条は上条なので気付くはずがない。

 

「かみやんの鈍感はなんかの主人公のレベルだぜよ」

 

「なあかみやん? そのくせモテるのはなんなん!?」

 

「上条さんは仕方ないですよね、私も最初はくらっと来ましたよ」

 

「佐天、あいつはロリコンですのであなたのようなボンキュッボンに興味はありませんの」

 

「黒子!? じゃあわたしにもチャンスがあるの!?」

 

「ありませんわよ?」

 

「なんなんだよ! どんな嘘だよ!? アメリカンか!?」

 

「あぁ、耳キーンですの」

 

「御坂さん、そのツッコミは意味がわからないですよ」

 

「御坂さんすっごい声出るやんなぁ」

 

「すっごいぜよ、みんなに謝るときのかみやんくらいは出てたぜよ」

 

「え、俺ってあんなにうるさいの? みんな見てるよ?」

 

「気づいてなかったんですの? 可哀想な男ですね」

 

「なあ、俺と黒子の仲だろ?」

 

「どんな仲ですの?」

 

「え、ほら、交際1周年って」

 

「え?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 最後には、発言をした本人のはずの上条までクエスチョンマークを浮かべ、この場の6人全員が呆然と立ち尽くす結果となった。

 

「ちょ、あんた何言ってんの? 冗談でしょ?」

 

 美琴は真っ白な顔と真紫の唇で白眼を向きながら上条に問う。

 

 

「かみやん? 俺は信じてたんよ、かみやんが抜け駆けなんてことしないって」

 

 青ピは無視しておこう。

 

 

「か、かみやん? お、おおおお、俺は、俺は応援すすす、するするにゃー!!」

 

 土御門は驚きに声や体を震わせ応援する。

 

 

「上条さん? いままでそんな素振り見せてなかったですよね? でもおめでとうございます!」

 

 佐天は持ち前の明るさで祝福した。

 

 そして、問題の黒子である。

 

「か、

 か、

 か、

 か、

 か、

 か、

 か、

 か、

 か、

 か、

 か、

 

 

か"み"し"ょ"う"さ"ん"わ"た"し"の"き"も"ち"に"や"っ"と"き"つ"い"て"く"れ"た"ん"て"す"の"ぉ"!? 

 

 

「いやごめん夢だったみたい」

 




 たぶん没ネタだけど意外に重要な話かも

 というか魔が差した。


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一章 とある科学の心理掌握 1部
大切な親友


 サブサブタイトル: 前一周年


 旧約の前一周年です。(一年と一ヶ月)


 大幅コピーのギリギリになっちゃったかも


「ここ最近の病院のご飯は秋田産ですごいわねぇ」

 

 と呟いたのは食蜂操祈。学園都市全体で七人、あの常盤台中学に二人しかいない超能力者(レベル5)の一角である。その蜂蜜色の長い髪に、人形のように整っている顔立ち。対して、いかにも『中学生っぽい』と評価を受けるそのスタイルは、とある病院の病衣を()()()()()()()()()()()()だ。

 というのも、食峰操祈は患者である。

 

 食蜂は乙女とは思えない格好で(腕を組んであぐらをかきながら)病室の分厚いテレビを睨め付けていた。いまどき病室でも薄型モニターくらいあるだろ、という声は聞こえない。この病院が少しだけ貧乏なのである。

 

 睨め付けるテレビには、つい昨日起こった謎の大爆発時間を報道するだけで、特に気になるものは見当たらない。彼女が眉を顰めるのも理解ができた。

 テレビの電源を消そうとすると、扉から音がした。

 

「お待たせしました」

「ありがとう帆風さぁん!」

 

 扉が開くと、縦ロールこと帆風潤子がクローシュをテーブルに置く。それの蓋は開いていないものの、食欲をそそる馥郁とした香りが漂っていた。

 帆風がゆっくりと蓋を開くと同時に腹鳴が聞こえた。彼女が視線を少し動かすと、赤い顔をした食蜂がお腹を押さえて鼻をひくつかせていた。

 

「疲労にはお肉が一番ですから、お召し上がりください」

「い、いただきます」

 

 微笑んだ帆風がカトラリーを渡す。

 私じゃないわよ?と食蜂は強がりながらも、ナイフでそれを一口大に切り分け、口に入れた。その瞬間、思わず声が漏れ出た。

 

「おいしい」

 

 幸せそうな顔でそう言った彼女は、次々と米を口に含み旨味を楽しむ。

 

「恐縮です」

 

 帆風の言葉を聞き流すほどに、食事の虜になっていた。

 

「で、あの殿方はどうなさったのですか?」

 

 この言葉を聞くまでは。

 

「え?」

「たしか上条様。と言いましたかね、お慕い申し上げていたのではなかったのですか?」

「げふゥ!」

 

 口から、米と黒毛和牛の焼肉が噴火する火山のように噴き出た。

 

「そ、そんなわけじゃ……で、でも」

 

 否定しようとするが、それから先は言葉が出てこなかった。

 今でも食蜂操祈は思い出す。

 ツンツン頭の少年、上条当麻と出会ってからの日々を。

 いつだったか、あの日々を。彼女の人生の中でも1、2を争う『幸せ』を。

 

 

 


 

 

 出会いは知人を介してだった。白井黒子という友達に呼ばれて行ったところに彼はいた。

 

『えっとぉ、初めましてぇ?食蜂操祈よぉ』

 

『あ、あぁ、俺は上条当麻ですぅ?』

 

 正直に言って、友達の友達というのはかなり気まずいものがある。お互いに変な空気のまま挨拶を交わした。

 私たちを会わせた張本人はジト目で見てくるし、どうするのが正しいのかわからなかったというのもある。

 

『なんですの、そのだらしない挨拶は』

 

 熱血教師なのぉ?という言葉は飲み込んで、仕切り直して挨拶をもう一度した。どうやらこの()()()()男は上条というらしい。

 上条は不思議な髪型をしている。まるでウニのような見た目だ。話を聞いてみると、毎朝ワックスでわざと一本一本丁寧に立たせているらしい。

 うん、ダサい。鼻で笑ったのは黙っておこう。

 

『今、鼻で笑ったよなぁ!?』

 

 バレていたが無視をする。知らんぷりだ。

 

『無視ですかそうですかそうなんですね!』

 

 決して、鼻で笑ってなどいない。心の中で嘲笑っているのだ。

 

『う、なんだかもっと嫌なことを言われた気がする……』

 

 なんて勘が鋭いの!?

 

 


 

 

 1

 

 

『きゃあ⁉︎』

『わっ、悪い‼︎』

 

 セミのうるさい真夏、8月の炎天下。特に用事もないのに歩いていた交差点。

 

 バラバラバラ!と乱雑な音が響き、荷物がアスファルトに散らばる。理由というのも、人の流れを逆行し走っていたツンツン男(前に話題になったおでんツンツン男ではない)が華奢な少女、食蜂操祈とぶつかってしまったからである。

 

 ぶつかった相手は、食蜂よりも二歳年上の男。彼女は目を凝らしてよく見るとその男が知人であることに気づいた。

 彼は四つん這いのような恥ずかしい格好で手早く荷物をかき集めていた。それを食蜂に押し付け、謝罪する。

 

『本当にごめんさい、急いでたんだ!って食蜂か』

『えっ、なによその残念そうな反応はぁ!!』

『すまん!怪我がなくてよかった!とにかく急いでんだ!』

『えっ、あ? ちょっとぉ……!』

 

 彼女の怒りに返答はなかった。

 ツンツン頭の男こと、上条当麻は彼の荷物をかき集めてから、走り去って行ってしまった。渡っていた横断歩道は青色が点滅を始めていたので渡り切った。

 

『……あら?』

 

 抱えた荷物の中に、明らかに食蜂の私物ではないものが入っていた。

 安物のケータイデンワーだ。持ち主の名前は携帯を開かなくてもわかる。これは上条当麻の携帯だろうと彼女は推測できた。これは彼が前に踏み潰しかけた携帯と同じ機種で、さらにストラップは趣味の悪いウニだ。極め付けは、電源を勝手に点ければ、画面には上条と、彼に少しだけ似ている少女。

 食蜂は後ろを振り返ったが、真っ直ぐの道にはもう彼の姿はなかった。

 

『どうするのよぉ、これ』

 

 風紀委員として大丈夫なのかとは思いもしたが、黒子とパートナーならば、なんとかなっているんじゃないかと思い、返すのは遅れた。

 

 

 

 

 2

 

 

 何となく、人と会いたくなくなった。 

 

 汗でシャツが肌に張り付く最悪な熱帯夜。もう慣れて迷うことも無くなった学生街をぽつぽつと歩き、人のいない方へと吸い込まれていく。より静かな方向へ、より気配のない方へ。学区を跨ぎ越え、気づけば暗い静寂の中に包まれていた。

 歩き回ってやっと見つけた土を被った看板には、見えづらい字で第21学区と書かれていた。学園都市には稀にしかない自然の残る場所で、そこそこ厳しい山が聳えている。ダムや人工湖などの超貴重な水源や天文台などが並ぶ、学生には全く無縁の学区だ。

 

 それでも彼女の足は止まらない。

 歩みを進め、延々と続く山道を歩く。森に囲まれているからか、心なしか冷涼な道だ。不思議なことに、虫は気配すら感じられなかった。

 彼女が最後にたどり着いたのは、何個かある山の1つ、その山頂部分。直径50メートルを超える円形の人工湖だった。

 真円の湖の中央には金属の塔が建てられており、その周囲はコンクリートで敷き詰められているのが水面に浮かんで見えた。

 

 木の葉に隠れていた日もようやく暮れて、夜空には綺麗な月が出ていた。うさぎが餅をつく様子がよく見える。彼らほどまで忙しくはなりたくないものだ。

 学生寮の門限はとっくに過ぎていた。寮監もとい白井(友達)お母さん(勝手に娘になった)は大騒ぎしているだろう。もしかしたら、白井まで連絡が飛んでいるかもしれない。

 

 楽しい。みんなとの語り合いが、遊びが。一緒にいる時間が。

 でも、何かが違う。食蜂操祈はそういうのがめんどくさくなっていた。白井たちや帆風に頼まれればやる気は出るが、それ以外の人間とは顔も合わせたくなかった。

 

『んにゃ〜〜〜』

 

 ころりと、湖の周りの緑に寝転ぶ。太ももの大部分が見えるほど短いスカートを気にもせずに。ちなみに猫の鳴き声を出したのに意味はない。伸びをしたら勝手に出ていたのだ。

 ハンドバッグからテレビのリモコンを取り出し、それを手の中で弄ぶ。そうしながら、食蜂操祈の頭の中で、彼女へのいたずらがぐんぐんと膨らんでいく。まるで、受精卵が細胞分裂を繰り返し、成体へと成長していくように。

 

 自身にとって大き過ぎるといって良いまで存在であるいつものメンバー。彼女たちと関係切るようなタイミングば既に遥か彼方。いつまでも続けていきたいと思っている。

 関連し、秘匿性が高いかもしれない彼女、白井黒子の件については、不本意ながら調べがつかなく、ひとまず休憩中である。

 

『なんていうか、疲労力っていうか、ずうぇーんぶめんどくさくなっちゃったわよねぇ』

 

 記憶。

 思い出。

 人間関係。

 それらすべて。

 なくても変わらないように感じた。

 いや、私なんかには不釣り合いなものなんだ。

 

 彼女はくるくると回していたテレビのリモコンを、儚げな手でゆっくりこめかみにあてた。その行為はまるで、銃で己の命を絶とうとしているかのように見えた。

 

 230万分の7の存在であり、当然ながら人命を軽んじている研究者に振り回される事も珍しくはない。そうした陰謀蔓延る場所に対処する忙しい毎日の中では、こんな感じに考えられるような暇はなかった。

 こうした時間に存在した食蜂操祈が現状の自分を見てしまえば、それこそ激昂してリモコンを鷲掴み、人格を改造してでもこんなバカなことはさせないだろう。自分を大切にしなさいと。

 

 だから、これは『魔が差した』のだ。

 五月病、適応障害のように気が緩んで、気が抜けていたのだ。

 そうでもなければ、絶対こんな言葉は口から出ないから。

 

『一度、頭の中、まるっきりリセットしちゃおうかしら? そうしたら、こういうの、まとめて取り除けるかしらぁ……』

 

 わざわざ口に出すことではない。食蜂はこんなことをまず思うはずがない

 

『なにやってんのかしらぁ、黒子ちゃんの秘密を暴いて見せるって決めてたのに』

 

 食蜂は何も面倒だと思っていない。疲労もしていない。彼女には大切な、素晴らしい、最高の親友がいるのだから。

 

『何を言ってるのかしら、恥ずかしいわぁ』

 

 食蜂は赤面状態である。自分で思っていて恥ずかしいことが何度も何度も頭で回っている。友達、大切、最高、忠誠。自分には少しもったいないかもしれないが、そんなものを持ってきてくれた彼女たちに感謝しよう。これからもずーっと一緒に進んでいく親友、仲間達を。

 

 

『ふふふ、結構なことが言えるのねぇ私ったらぁ』

 

 

 ♢

 

 

『あれ?お前、そんなトコで何やってんだ?』

 

 男の声があった。聞き覚えはかなりある。つい先日もぶつかったし、その前から遊んだりしていた彼の声だ。さっき言った、親友、仲間だと思っている人のうちの一人でもある。普通、そんな人が来たらどう思うのだろうか。

 

 やっばいわよぉ!親友とか仲間とか言っちゃった人よ!?どう顔を合わせればいいのかわからないわぁ!はっずかしい! 

 

『ななな、なん、何でもいいでしょぉ…………』

 

『いやいや、俺は風紀委員だぞ?黒子に言われたんだ、まだ寮に帰っていないらしいって。黒子曰く、義母様は今沸騰しているらしい』

 

『へ、へぇ!そうなのね!あ、これあなたの携帯!黒子ちゃん呼んですぐに帰るわぁ!!!』

 

 沸騰ってなによ!顔真っ赤で怒ってるだけじゃないの!?

 いやでも、寮監ならありえそうで怖いわね。

 

 

『あ、食蜂が持ってたのか!見つかってよかったぁ』

 

 上条は走り去っていく食蜂操祈に感謝を伝える。そして、携帯を開き食蜂にメールを送る。

 

《あんなに大の字で寝てたからパンツ丸見えだったぞ〜》

 

 

 

 

 

 黒子ちゃぁ〜〜〜ん!! 今すぐ戻ってェェェェェ!! 

 

 

 いやですのおおぉぉぉ!! 私まで怒られてしまいますのおおぉおぉぉ!! 

 

 

 どいて!! 上条殺せない!!! 

 

 

 何てこと言うんですのおぉぉぉぉおぉ!!! 

 

 

 あいつ私のパンツ見たのよおおぉぉお!! 

 

 

 そんな短いスカートじゃ当たり前ですの!!!! 

 

 

 本人に言うってデリカシーないよあの男!!! 

 

 

 本人じゃなきゃいいんですの!?!??? 

 

 

 そういうわけじゃなぁぁ〜〜〜い!!!! 

 

 

 

 

 夜中の学園都市に、とても大きな声が響き渡った。

 




 いままで食蜂操祈を食峰操祈と書いていて申し訳ありませんでしたっ!






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黒子は凄いんだな!

 黒子は凄いんだな!こんな運動音痴を矯正出来たなんて!

 アンケートおねげぇしやす。

 ついでに、お気に入りとここすきと評価も10でおねがセイヤッ!

 そげぶっ!



 3

 

 

『現在』の、病室の食蜂操祈は帆風の前にも関わらず、ふふふと笑ってしまった。不思議な子だね。みたいな目で見られたが、帆風に限ってそんなことはないと信じる。

 笑うとその度に、夏の暑さで汗をかいてしまう。悲しいことに、持っているものはあまり揺れない。

 帆風の料理を楽しんだ彼女は、いつもなら学生寮に戻る時間だが、今はここがマイホームなので帆風にお別れの挨拶をして横になる。

 そしてまた、思い出す。

 あれはひどい『出会い』だった。

 きっと、人間関係の中に彼が入り込んできたのはもっと前だが、明確に周りからも認知されてしまったのはその時だっただろう。

 

 

 4

 

 

 …………夏季都市水害防止プログラム。それは毎年やる、水害に対する訓練、もしくはテストだったりする。

 

『うううう、なんなのよぉ、これぇ』

 

 第7学区。ホームグラウンドとも言える、学園都市を代表する街並みの広がる学区だが、今は見る影もなかった。膝の高さまである水は、食蜂には高かったらしく、水の前で立ちすくんでいた。荷物は、ビニールを被せただけのいつものハンドバッグに入れていたが、問題はそこではない。これは、簡単に言えばプールなので泳ぐことのできない彼女には酷だろう。

 

『これやる! 一緒に潜ったら絶対に楽しい‼︎』

 

『えー? 防水機能付きハンドミキサーで何するのよ』

 

『もしかしたら速く泳げるかもよ!』

 

『あんた、日本代表としてどうなの?』

 

『いやいや、いつもはちゃんと泳いでるから!』

 

 きゃーきゃー言いながら小さな子供達があちこちを走り回っている。一回、聞き捨てならないことが聞こえたけど、多分気のせい、ハンドミキサーを試そうなんて思っていない。これは家に帰って作るお菓子用だから! 

 

 

 じょおぉ!!! じょぉぉ!! 

 

『あれ、意外に進む?』

 

 

 

 別に、地下街を通らなくても街は移動することができる。ただ、最短ルートはどこかと聞かれるとここなのだ。

 まして、この猛暑を耐え抜くことなど、ここ以外の道では出来ない。エアコン最高、冷たい水最高。結局地下街を通るのである。

 彼女の服装は水着だ。最初からここを通ると決めていたので、見栄張ってしまった。もちろんここからバスに乗ることもできるが、水着である。もちろん電車も乗れるが、水着である。

 夏休みの1日。ほんのちょっと買い物に出かけて寮に戻るだけでソフトクリームのように溶けてしまう。周りではきゃーきゃー叫んだり、浮き輪やボールで遊んでいる子供や大人。大人も遊ぶんですか? そんな人たちとは違い、食蜂操祈の周りだけ『逆スポットライト』のように世界が暗かった。

 と、そこへ足音が聞こえてきた。人混みの中なのに、なぜかそれは不思議と彼女の耳に響く。

 

『あれ…………? お前、階段の真ん中でぐったりして、何やってんだ? 熱中症とかじゃないよな?』

 

『…………黒子ちゃんの奴隷男』

 

『上条当麻様だよ知ってんだろキンキラ小娘』

 

『食蜂操祈様よぉ……‼︎』

 

 なんとなく、ここで全力で否定をしておかないと、黒子や固法先輩に今後一生のあだ名として呼ばれてしまいそうな悪寒に襲われ、即座にキンキラ少女は叫び返していた。

 

『そーいや、しょくほうってどんな字だ? 食品サンプルの食に宝とか? それとも色に奉仕の奉とか?........え、なんでそんなに全体的にしんなりしてるわけ?』

 

『どっちも違うわよぉ、なんで1ヶ月も知り合いなのに知らないわけ!?』

 

『いやいや、教えてもらってないし、連絡先もひらがなだし』

 

 あ、そうだった。私の漢字が全く出てこなくてひらがなにしたんだった。

 

 これはどちらの責任? 

 判決を下す。 

 

 有罪 上条

 

 よっしゃぁああぁあぁあ!!!! 

 

『私の脳内裁判ではぁ、あなたの責任よ?』

 

『何言ってんだ、俺の脳内裁判じゃお前の責任だよ』

 

『はぁ!? どこが!? 説明しなさいよ!』

 

『全部だよ! お前が教えなかったんだろ!』

 

『はあ!? 聞いてこなかったあなたが悪いんでしょ!?』

 

『なんだとぉ!? —————』

 

 

 プルプルプル プルプルプル

 

《すみません、地下街で痴話喧嘩してるカップルがいるんだけど、俺が通れなくて困ってんだ》

 

《そうですの、もしかして金髪とツンツンだったりしますの?》

 

《そうだよ。ほんっとうにけしからん! あんな格好で! うぃへへ》

 

《ついでにあなたも拘束させていただきますの》

 

 ガチャ

 

 おい!なんだこれ!おれは上級国民だぞ!拘束なんてしていいと思ってんのか!?政府に言いつけてやろうか!それとも理事会がいいか!?おい!どうにか言ったらどうなんだ! 

 

『上条さん』

 

『なんだ食蜂』

 

『あんな人にはなりたくないわ』

 

『ああ、喧嘩なんてやめようか』

 

 

 

 

 

 

 

『がっ、がぼ………⁉︎』

 

 とくに人に押されたわけでもない食蜂は、滑って水に落ちていた。無闇に手足をバタバタ振り回すが、ハンドミキサーを全開で回すが、何かが良い方へ行くことはない。まるで、車輪型のおもちゃの中で走りまくるハムスターのようだ。そうこうしているうちに、身体中の酸素が別のものに変わり果てていく。頭の中が、とてつもない熱に苛まれる。

 

『ああもう‼︎』

 

 そんな、人を憐れむ声が聞こえた気がした。

 すぐに、巨大な気泡の塊が突っ込んでくる。それは水中でもがく食蜂の細い腕を掴み、そのまま一気に水上へと引きずり上げる。

 黒子の奴隷こと上条当麻だった。

 

『げべっ! ごぼっ‼︎』

 

 涙目で咳き込む美少女に、そいつは至近距離から叫ぶように言った。

 

『黒子達から聞いた通りだな!ここ、水深1メートルもないから!膝までだぞ!?子供用のプールで溺れてバイトの係員を困らせる人だったんだなアンタ‼︎』

 

『う、うるさいわねぇ…………』

 

 はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁパァはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁにゃあはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁあらまぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ

 

『だ、だいじょうぶか?気分悪いか、待ってろ民間の即応救急呼ぶから。いや、俺風紀委員だったわ、背中乗れ』

 

『だいじょうぶよ! わたしはがっこうでたいいくのせいせきいちいだったんだもん!』

 

『呂律が回ってない。すぐにいいとこ連れてってやるからな。っていうかその成績は改竄したんだろ』

 

 頭の先までずぶ濡れになった食蜂操祈は全身を真っ赤にして、そのまま上条当麻の体にガシイ‼︎と抱きついた。

 

『おいおい、少しキツイぞ?』

 

『ふん、水に浮かび上がるのがそんなに偉いわけ? カエルの真似事するのがそんなに勝ち組なワケェ!? 陸上生物の人間がわざわざ無理してまで水中を進む技術なんてもの作るから、私みたいな幼気(いたいけ)な少女達が成績やらなんやら低くされなきゃならないのよぉ!』

 

『お前元気だろおい!』

 

『ふんっ! たまたま黒子ちゃんに教えてもらってなかっただけだし!他のことはなんでも出来るし!』

 

『あっそう、なんとなく黒子が凄いってことはわかったぞ。ってだから、なんでそれが俺の首を絞めるほど強くおんぶする必要があるんだよ!お前健常者だろ!?』

 

『もうこうなったら私のプライドにかけて流れるプールのようになった地下街を通る必要があるのよ、でも浮き輪なんかに頼ってちゃ無様だし、それなりにエレガンシィーな見栄えを用意する必要があるからよぉ』

 

 ようするに、実は水深1メートル未満のプールで溺れる笑える食蜂操祈嬢という目撃談を抹消し、ちゃんと水の道は進めまっせぇ!というアピールをしなければならないのだ!

 そのためには両手を掴んでもらいながらバタ足ではなく、男の手を取って優雅にプールを進む格好にするべきなのだが、これでは水が怖い妹のためにおんぶをしてあげる良きおにぃちゃんになって、上条の好感度上がってしまう。だが、そんなことを考える暇のない食蜂は気づかない。

 

『いや、当たってるから!なんかさっきからお前のが背中に当たってるから!』

 

『ほんっとにうるさいわねぇ!きゃあ!揺らさないでよ!こっちは揺れて揺れてそれどころじゃないのよぉ‼︎』

 

『たとえどんなに慎ましくても、女性の象徴は女性の象徴なんだぁ‼︎』

 

『なぁんですってぶごばぁ!』

 

 食蜂の鼓膜を破りそうな叫びが途絶えたのは、彼女の顔の真ん中にイルカの浮き輪がクリーンヒット、激突したからだ。

 少し離れたところにいる、結構奇抜なファッションの黒髪ロング少女が、あまりにも見事に無様な食蜂を目の当たりにして、ぶっふぉぉ!!と腹を抱えて笑っていた。

 そして、上条当麻の一声がトドメをぐっさりと刺した。

 

『はぁ、もー、またかよ。さっきも後ろからきた子に気づかなくて迷惑かけて、そりゃあんなに抱きついてたら避けれないだろ』

 

『あなたが避ければよかったんじゃないの!?』

 

『いや、俺はしゃがんだぞ?』

 

『ふふ、ふふふふふ。ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふっふっふふふふふふふふふふふふっふふふふふふふふふふふっふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ』

 

 もう、食蜂操祈はなりふり構わなかった。

 暗い笑みと共にバッグの中に手を突っ込み、無数の中から2つのリモコンを取り出し、ボタンを押しながら両手を振り回す。

 

『記憶を消去ぉぉ!!!私の無様力に関する記憶ぅぅ!みぃーんなしょうきょおおぉぉぉぉ!!!!!あははははははは!』

 

『おまっ!暴君すぎるだろそれは!』

 

 ちなみにターゲットはこの場の全員だったが、上条の異様に早い対応で食蜂のコマンドを空中で打ち消していた。

 

『ちょっとぉ!それじゃ私の無様力がこの世に残っちゃうじゃない!』

 

『バカか!だからって人の記憶を消して言い訳がないだろ!?』

 

『ふんっ!学園都市のレベル5、心理掌握の食蜂操祈サマのお供を務めているんだから、それくらい見逃してよっ!』

 

『はっ!第5位がこんなんじゃ、他のレベル5もしょうもないやつばっかかもなぁ!』

 

『はぁ!? 私のどこがしょうもないのよ!しょうもないのは御坂さんだけよ!』

 

『そいつが誰かはしらねぇが、お前ほどじゃねぇだろうな!』

 

『むっきぃいいいい!あんなぺったんこよりも私の方がしょうもないわけがないでしょ!』

 

『はんっ!お前もそんなないだろうが!』

 

『なによ!じゃあ私をしょうもないぺったんこ人間に仲間入りさせようっていうの!?』

 

『んだと!? ロリコン殺し(ペドキラー)なんて得体の知れない能力者のサインもらって興奮してたやつがしょうもなくないわけがないだろ!』

 

『まじで言ってんの!?ロリコン殺し(ペドキラー)さんの悪口よそれ!』

 

『被ってんだよ俺の能力と!殺し(ブレイカー)殺し(キラー)で読みがちょっと違うだけだろ!』

 

『あなたが被ってきたんじゃないの!?』

 

『んなわけねぇだろ!あーあ、心理掌握なんてできてねぇんじゃねぇの?』

 

『ふっ! 今あなたが喋っている言葉は私が思っていた通りよ!』

 

『ふぅ。う、嘘だ、聞きしに勝る精神系最強の超能力者はナイスバディでバリバリのお姉様だっていううわさだったのに‼︎これも思い通りかぁ!?』

 

『それ私のこと初めて知ったときのセリフじゃない!っていうかお姉様でしょうがよぉ‼︎これでもクラスの中では随分と大人っぽいねの位置をキープしているのだから!』

 

『食蜂君』

 

 地下街は急に静寂に包まれた。人々は皆、二人の会話に耳を傾けていたが、こんなにも静かになるのは初めてだった。上条当麻が立ち止まり、彼の口から発せられる言葉に、周囲の全てが注目した。不思議なことに、上条は優しい表情で言う。

 

『食蜂君、食蜂操祈君。私はね?たしかに先ほど、どんなに慎ましくても女性の象徴は女性の象徴だ、といった()の発言をさせていただいたのだがね?』

 

『な、何よぉ!』

 

 ゴクリと、この場の人間が唾を飲み込む。

 

『いいか小娘。前も言ったが、お姉様とは学生寮の管理人を務めていたり、エレベーターガールさんだったり、アナウンサーさんだったり、みんなの相談を聞いてくれるくらいの包容力あってこそのお姉様だ。その点、キサマのような小娘にはどうしても、明らかに足りないものがある。ここまで言えばわかるだろう?小娘、言ってみろ』

 

 カップルの男どもは、「そうだそうだ足りてないぞ、俺の彼女みたいに!」などと言ってお相手にボコされているが、ソロの女性の方々は、「やっぱりそれが大事なのか!」と絶望している。

 

 分かる訳がない。

 怪訝な目を向け返す食蜂に、傍のツンツンツン男はこう言い放った。

 

『分からないのか?こんなギリギリな胸はお姉様サポートのギリギリ対象外だ。顔を洗って出直してこい』

 

『なぁんですってぇッッッ‼︎⁉︎⁇』

 

 上条の腕や足にはナニかに噛まれた跡がバッチリ残っていたと言う。。。

 





 原作文章にオリジナルを挟んでる。って感じになっちゃいました。原作の文章も変えてはいますが、自分の力じゃないって感じが丸見えですね。もちろん、上級国民とかペドキラーとかはオリジナルですよ♪

 上級国民はやっぱ寒いですねぇ


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か、かかか、間接キッス!?

 5

 

 

『現在の』食蜂操祈は、思わずそこで頭を抱えていた。

 女子中に通っている彼女は普段、『平均的な男子』というのに会ったことがない。あったことのある男性と言えばクッソみたいな研究者とか、記憶にほぼない父親くらいだ。それにしたってあのつんつん頭の男、よくよく考えてみればかなり最低な位置にいるのではないだろうか。

 

 っていうかいるでしょうが!!何ナノあの男!!帆風さんの言っていることは間違ってる、私があんなのを好きになるわけがない。

 

 思い出すだけでさすがアホ!と言いたくなる言葉を頭で反芻させながら、彼女は視線をわずかに落とす。

 ペタン、という珍妙な効果音がついてきそうな、少しビミョーな塊二つ、病衣の胸元を少しだけ持ち上げている。

 

(この、黒子ちゃんと同じ大きさになった胸も、もうすぐ爆発しそうだけどぉ☆)

 

 食蜂は何かを感じていた。この胸がもうすぐしたらどうにかなってしまうんじゃないかと。

 彼とはその後も何度もいつものメンバーとして遊んでいたが、不思議と二人の時間が増えていた気がする。

『友達』として会うことに特別な価値を見出していたようだ。

 そしてもう一つ、食蜂は自分に課していた『自分ルール』がある。『心理掌握』を使って、いつものメンバーの頭の中は覗かない、というものだ。

 

 どうしてそんな風に決めたのか。

 結局、彼達に特別な価値を見出していたのだろう。

 ベッドから立ち上り、カーテン、窓を開ける。

 九月上旬の空気は肌をジリジリと焼き付ける。周りを見てもビル群の真ん中に位置するこの病院はそれでも緑に囲まれ、あの時と同じものを感じられる。

 そして、少し奥にまで目を向ける。この辺りで一番緑が深い場所。

 公園の入口だ。

 食蜂はふと目を止め、自転車止めのポールで守られたその入口へ目をやる。

 何気ない思い出の香りなら、そこかしこに染み込んでいる。

 あの公園もそうだった。

 

 

 6

 

 

 ある日のことだった。

 食蜂操祈は、公園のベンチで項垂れているツンツン頭の男を見つけた。効果があるのか分からないが日の当たらない木陰にいる。日焼け止めを塗る方が効果的ではないだろうか。

 彼は読書、というよりも 大学ノートを見て勉強をしているのだろうか。気になった食蜂が話しかけてみると、上条はこう答えた。

 

『食蜂!催眠術って信じるか!?』

 

『さ、さいみんじゅつぅ〜!????』

 

『やっぱり「センパイ」は凄いな!女子高校生っていうのはなんでもできるんだよ!』

 

『例えばぁ?』

 

『固法先輩はバイク通勤でかっこいいし、センパイはなんでも知ってるし、すげぇよなぁ。やっぱ高校生に進む第一歩ってのは大きいんだな!』

 

『あぁん!? さっきから腹の立つ言い方ねぇ!』

 

 たったの半年前にやっと中学生になった食蜂にとってはあまり面白くない論である。無駄に周回遅れを知らされているのは気分が悪くなるだけだ。

 

『その点黒子は小学生なのになんでも知ってるよな、中3よりも頭のいい小6ってなんなんだ?』

 

『そうかしらぁ?』

 

 黒子の中身は三十路のおじさんなので、元々上条と比べると頭がいい。と言っても上位の大学生と比べたら流石に劣る。常識や知識で言えばおじさんが勝つだろうが、計算などの分野では食蜂などのお嬢様学校所属の小童どもの方が有利である。だからこその疑問だ。上条のように頭の非常に悪い方が彼女らにとって珍しいのである。

 

『いやいや、今のは皮肉だぞ、何も知らないお嬢様ぁ〜』

 

『はぁ!?何も知らないですってぇ!?!?』

 

 上条は食蜂に対して皮肉りこんな提案をする。

 

『じゃあこの問題解いてみろよ』

 

『言ったわね!これくらい絶対すぐに解いてやるんだからぁ!』

 

『はいはい、頑張って頑張ってぇ』

 

 隣に腰掛けた食蜂は上条のペンを折る勢いで握り、問題を解き始めた。

 

『ふふふ、こんな簡単な問題を出したのが間違いよ、もう終わるわぁ』

 

『はえーな、ごくろーさん。そこの「雲川芹亜のさいみん☆ノート」ってノート取ってくれ』

 

『はいどうぞ、もうすぐよあと5秒で終わるわぁ!』

 

 食蜂は言った通りすぐに解き終わった。その字はとても女の子のような字ではなかったが、これは上条にとって好都合。

 

『さすがは常盤台のお嬢様。こんなに早く終わるとはな』

 

『どうかしらぁ、解いちゃったわよ?』

 

『ありがとな、ここ分からなかったんだよ。黒子は自分で解けっていうしさ、ちょうどよかった』

 

『え!? まさかそんな理由でやらせたのぉ!?』

 

 上条は宿題を人にやらせたのだ。黒子は騙さなかったようだが、食蜂はちょろかったようだ。

 

『うんうん、ここで催眠術! この石を見なさい!』

 

『え、えぇ?』

 

 食蜂は上条が突然出した石をじっくりと見る。

 

『と見せかけてドーン‼︎』

 

『うひゃあ!何すんのよ!って、きゃあ!』

 

『おっと! 壊滅的だな』

 

 上条は食蜂の目の前で手を叩いた。猫騙しを食らった彼女は大きくのけぞり倒れかけたところを上条が手を引っ張る。それに食蜂は顔を赤くするが、やった本人はなんとも思って無いようだった。

 

(なによ、乙女の手を握るのはそんなに簡単な訳!?)

 

『ありゃ? 効いてないのか?』

 

『い、今のが催眠術だったの!?』

 

 食蜂は呆れた。まさかそんなので催眠術がかかる訳がないのにこんなことをするなんて、と。呆れた顔の食蜂を気にせず、上条は続ける。

 

『もう一回! 次は掛かると思うから!』

 

『掛かるわけが、まあいいわぁ。もしかかったらあなたにも同じことをするからぁ』

 

 食蜂は、ハレンチなことをされないための保険として先に注意しておく。

 

(こう言っておいたらさすがの変態ロリコンツンツン男も変なことはしないだろうしぃ)

 

『おう、じゃあもう一回』

 

『この石をじっくり見てください。そうです、そしたらすーっと意識がなくなって』

 

 食蜂はからかってやろうと考える。

 

(バカらしいわねぇ、ふふふ、かかったふりをしてあげるわぁ)

 

『と見せかけてドーン‼︎』

 

 ビクッ! 

 

『2回目でも驚きはするんだな。っておい、聞いてるか?んな!き、効いてるだと!?』

 

 上条は驚くのと同時にノートを素早く開いた。そこには手順2として、こんなことが書いてあった。

 

『えーと、本当に効いてるか確かめるためにスカートを捲らせましょう。っておい、こんなことさせられるわけが、させようか』

 

 上条は好奇心に負けた。もしかすると、いつだかのように蜘蛛の刺繍がされたパンティーを穿いているかもしれない。もしくは、あのときよりも過激的なものを、

 

『食蜂、スカート上げれる?』

 

『……………………』

 

『おーい、スカート上げれる?』

 

『…………………………』

 

『くっそぉ! なんでこれは効かないんだ!?』

 

『当たり前でしょう!? そんなバカみたいなのが本当に効いてると思ってたの!?』

 

『うおぉ! 効いてなかったのか!? すげぇ恥ずかしいことしちまったよ。よくよく考えりゃこんな小娘のパンツなんて見て何がいいのかわかんねぇや』

 

『なぁんですってぇ!? 自分で命令しといてそのてきとうな感じの反応はなんなのよぉ! 見たいでしょ!? このわたしのパンツよぉ!?』

 

『なあ食蜂、恥ずかしくないのか?』

 

『恥ずかしいに決まってるでしょうがぁ!!!』

 

 エアコンのリモコンの角が上条の脳天に突き刺さった。

 

 


 

 

 7

 

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はぁ」

 

 食蜂はもう一度頭を抱えた。

 いいや、彼が悪いのは私のことをガキ呼ばわりしたことだけ。

 もっと悪いのはあの本当に正体が謎の年増なのであって、ツンツン男は騙されただけの可哀想な人のはず。

 もしかしたら、全部わかった上で被害者ヅラして乗っていたのなら『かなりのやべぇもん』だが、黒子ちゃんはあの人は嘘がつけない人と言っていたから、そういう腹芸は出来ないだろうと呑み干しておく。

 緑青々と映える木の葉。明確な温度を表してくる電光掲示板のような温度計、それには41℃と書いてあり(日陰ではなく日向に設置されている温度計)、さらなる暑さを感じさせる。ここは食蜂操祈と上条当麻の普段の行動圏が重なる場所だったのだ。あれ以外にも、いくつかのメモリーをシェアしていたりもした。

 

 そう。たしかあんなこともあった。

 

 

 8

 

 

 ばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばざはざばざばざはざばさばざばさばさばさばさばざはざはざばさばばはざばさばざはざはざばさばさばざばさらばばさはばさばざばさばざばざはばさばさばざばさばさばさばざばさばさばさばざはさばさばさばざばさばさばさばさばさばさばさばサバサバざばサバサバサバサバサバサバさばサバサバサバサバサバサバばさばさばさばばさばさばさはばさ

 

 夏なのにセミの音なんて聞こえなかった。聞こえるのは何故か鳥の羽ばたく音ばかり。

 

 バサバサばサバサババサバサばサバサバばざばざバサバサば

 

『…………………………………………………………』

 

 バサバサばサバサババサバサばサバサバ

 

 ついでに言えば、前は白が蠢いている。頭は鳥につつかれ鳥の巣状態、持っているバッグも鳥の住処。

 理由は単純。

 夏の日。

 食蜂操祈は全身鳩まみれになっていた。

 

 バサバサばサバサババサバサばサバサババサバサば

 

『…………』

 

 バサバサばサバサババサバサばサバサババサバサば

 

『…………………………………………………………………………………………………………』

 

 バサバサばサバサババサバサばサバサババサバサばサバサバ

 

『…………』

 

 バサバサばサバサババサバサばサバサババサバサば

 

『なあ食蜂、聞こえるか?』

 

 バサバサばサバサバさバサバサばサバサバ

 

『………………………………………………』

 

 バサバサばサバサババサバサばサバサババサバサば

 

『まあ、聞こえるわけがないよな』

 

 バサバサばサバサバばざバサバサばサバサババサバサばサバサバ

 

『…………………………………………………………』

 

 バサバサばサバサババサバサばサバサババサバサばサバサバ

 

『そうだ、そういや飲み物買ってきたんだった。飲むか?』

 

 そういってヤシの木サイダーをベンチに置く上条。食蜂に反応はなかった。

 

 バサバサばサバサババサバサばサバサババサバサばサバサバ

 

『•…………………………………………………………』

 

 バサバサばサバサババサバサばサバサバばざバサバサばサバサバ

 

『お、置いといたからな?いやしかし、すごいなその手品。鳩を呼び寄せるんだろ?すげぇよな』

 

 バサバサばサバサバばさバサバサばバサバサばざ

 

『えっと、それって一回やったら解けないマジック?』

 

 バサバサばサバサバ鯖はザバザババサバサばさはざば

 

『なあ、それって助けた方がいいのか!?もしかして!』

 

 バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサ

 

い、今まで助けようとすらしてくれてなかったのぉ!?

 

 バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサ

 

『い、今なんて言ったんだ!?』

 

 バサバサはザバザバザバザバザバザバばさ

 

『う、うわぁ、どうしよ!どっか行け鳩!』

 

 バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサ

 

 上条は持っていたバッグを食蜂に投げた。

 何ということでしょう。投げられたバッグを、鳥は避けてしまったのです。そのまま鳥はどこかへ飛んでいき、見えなくなりました。

 そして、バッグはどこに行ったのだろうか、上条は鳥に向かって投げたのだ。鳥がいなくなったところには食蜂操祈がいる。つまり、

 

 ばちこーん☆

 

『さすがです食蜂操祈さん』

 

『うふふ、ありがとう上条さん』

 

 上条に皮肉られた食蜂は上条を鬼の形相で睨みつける。上条は少しだけ怯んだがすぐに気を取り戻し、バッグに手を突っ込んだ。

 

『これやるよ』

 

『これはなにかしらぁ?』

 

『ただの防災用ホイッスルだよ』

 

 上条特製カルボナーラのようにぐちゃぐちゃになった髪を梳かしながら、差し出した左手にはホイッスルが乗っけられた。何のためのものかわからない彼女は疑問に思う。

 

『なんのためか聞いてもいいかしらぁ?』

 

『お前、おっちょこちょいのドジっ子だろ? 何かあったら吹いてくれれば直ぐに行くからよ』

 

『余計なお世話だとは気づかないのぉ?』

 

『それだけ心配してんだよ』

 

『ほ、ほんとぉかしらぁ?』

 

 食蜂は顔を赤くし俯いた。上条からはその赤い顔は見えていないため首を傾げたが、

 

『試してみろよ』

 

 と、一言。

 それには食蜂もびっくり。

 言われたままに紐を首にかけホイッスルを口に咥えた。そこで上条のもう一声。

 

『俺も風紀委員のときに何回か使ったけど結構うるさいからな』

 

 ぴゅろ〜

 

 公園に彼女の甘い吐息が鳴り響いた。

 



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死の開幕

 9

 

 

『現在』の食蜂はバッグを漁った。バッグから出てくる手には、一つの笛が握られていた。

 その笛は上条当麻からもらったもので間違いない。

 食蜂はそれを首にかけ微笑む。

 

「ふふふ」

 

 周りから見れば、そこらに売っているただの笛。それでも食蜂にはその何倍もの価値がある。忘れることはできないあの人との日々。

 

「お見舞いにきてくれたりしないのかしらぁ」

 

 食蜂は自分の恋を認めた。きっと、彼女がこの先恋に落ちることはないだろう。何故ならば、この恋心は叶わぬものと決まったわけではないからだ。

 病室の扉が開く音に肩がびくついた。

 

 

「へ!?か、か、か—————」

 

 

 10

 

 

『はっ、はっ、はっ』

 

 上条当麻は夜の学園都市を走り回っていた。いつも通り彼は追いかけられていたのだ。しかし、彼の手には女の手が握られており、その点だけはいつもと違うところだろう。

 

『か、上条さん! 私のことは気にしなくていいのよ!』

 

『なんだ? あいつらお前のこと追ってたのか!?』

 

 その握られた手の主、食蜂操祈にはわかっていることが一つだけあった。それは、私たちを追っているあの『追っ手』が実は、私だけを狙っている。ということだ。

 食蜂は上条にそのことを伝える。彼は少しだけ驚いた顔をするが、すぐに顔を走り疲れたものへと戻す。ただそれだけで上条は覚悟を決めていた。

 

『だったらなおさら、お前の手を離す理由がねぇな』

 

 食蜂は、上条が何故そこまでしてくれるのか分からなかった。彼女の目には涙が浮かんでいた。

 

『なんでそんなに助けようとしてくれるの!?』

 

 涙を浮かべる彼女に上条は、にっこりと笑いかけるとこう言った。

 

『お前は俺の、いいや、俺たちの大切な仲間だろ?』

 

 それを聞いてしまった食蜂は、涙が止まらなくなった。啜り泣く声と、2人の足音が大きな音を路地裏に響かせていた。

 

 

 ♦︎

 

 

 くそっ! 道を間違ったか! 

 

 上条と食蜂は、振り切っていたはずの赤いライダースーツの『追っ手』から逃げていた。

『追っ手』は体中に車輪をつけており、それは見るものを笑わせてしまうだろう。しかし、それを見て上条は笑うことが出来なかった。その理由は、背中に乗っている小型のジェットエンジンのせいだ。先ほどから、そのエンジンが音を立てる度距離がグッと近づいている。

 

『食蜂! 一回後ろ見れるか!?』

 

 上条は前だけ向いて走ることしかできない。だから食蜂に頼んだ。

 

『わかったわ!』

 

 食蜂は後ろを見たことを後悔した。

 

『ぎゃぁぁああぁあ!!!』

 

『どうした!?』

 

 食蜂はイケナイものを見てしまった。後ろを向いた彼女の目には大量の赤色で埋め尽くされていた。

 

『いっぱいいるんだけどぉ!!!』

 

『そんなにいんのかよ!?』

 

 そう言って釣られた上条は後ろを見てしまった。彼としてはそんなわけないだろ。のつもりだったのだが、彼の目にも大量の赤が埋め尽くされていた。

 

『ぎぃやぁああぁあぁ!!!!』

 

『ちょっとぉ! なんで後ろ見るのよぉ!』

 

 食蜂は後ろを向いた上条をつついて咎めるが、変わらずこちらに余裕はない。

 食蜂はあれだけの人がいるなら、1人くらいは能力にかかるのではと思い、リモコンをバッグから取り出した。

 

 ぴっ

 

 この場に似つかわしくない、軽快な音が聞こえたときにはもうそれが起こっていた。

 

ギュヴィィィンン!!!! 

 

ドガァァアアンン!!!! 

 

 彼女の能力はおよそ20人の『追っ手』のうち1人に当たるとき、その男の前にブロック塀が現れ、そのヘルメットを砕いた。露となった顔に彼女の能力が当たり、その転倒に巻き込まれたことにより半数の『追っ手』が転倒した。そのままスピードを落とすことなく壁に突っ込んだ者たちは爆発に巻き込まれ、おそらく死んだ。

 

『食蜂!? 何をしたんだ!?』

 

『能力で止めようとしただけよぉ!』

 

『その割にはすごく爆発音がしたような気が』

 

『しないわよぉ!』

 

 食峰は、自分が人を殺してしまったことに焦りを感じていた。襲ってきた彼方が悪いことは誰が見ても明らかだが、彼女本人は違う。どんどん汗が吹くようにでてきて、上条と繋いだ手がぬるりとすっぽ抜けてしまいそうだ。

 

『どうした食蜂! 足が動いてない!』

 

 それを心配した上条は声をかけるが、食峰は反応しない。彼女は真っ青な顔の目を閉じて、上条の先行だけを頼りにして走っている。

 

(くそっ! どうすりゃ良いんだ! 携帯もさっきの爆発でどうかしてるし!)

 

 その時には上条と食蜂を挟むようにまた、赤い人間が現れた。

 

(チッ! 囲まれた!)

 

『テメェらこいつにかなりご熱心なようだが、何のようだ?』

 

 上条の問いに対して、低めの声で答えが帰ってきた。

 

『レベル5に死を』

 

 その言葉に呼応するように、赤い人間たちが洪水のように2人を取り囲んだ。

 

『レベル5に死を』

 

『レベル5に死を』

 

『レベル5に死を』

 

『レベル5に死を』

 

『レベル5。我らから全てを奪った、レベル5に死を』

 

 ただの、度を超えた八つ当たりが食蜂を死地に送り出す。

 

 

 ♦︎

 

 

 いくつもの建物を飛んだ。中には落差5メートル以上のモノもあり、跳んだつもりもなく飛んだのだ。

 その衝撃で少しだけ足を止めてしまうと、全周を囲まれた。

 時間が経つにつれ増えていく赤い人間たち。その数はもうすぐ50を超えてしまう。

 この状況じゃ、がむしゃらに突っ込んでも死者が少し増えるだけだろう。あの様子じゃあいつらは食蜂を殺すためなら些細な、いや、ここのデッドロック全てが死ぬのも厭わないだろう。

 そんな中、1人の男が前に出た。その男は食蜂ではなく上条に話しかけた。

 

『まだやるのか?』

 

『まだやるとも』

 

 即答。

 デッドロックはここで手を引けば、お前は助けてやるという譲歩だったのだろう。それを上条は容易く却下した。

 上条の背に守られながら、食蜂はもう一度涙を浮かばせていた。さっきの言葉を思い出したのだ。

 

『そこまで言うからには、余程の能力者なのか? だが、道具に頼る我々を侮るなよ。たとえお前がレベル5でもこの群勢には勝てない』

 

『そんな大層なモノじゃねぇよ』

 

 少年は強い目のまま吐き捨てた。

 

『ゼロだ、レベル0。…………それでも許せねぇ事があんだよ、だったらカッコつけるくらいカマわねぇだろ?』

 

()()()()()()()()()()()()

 

『ふっ、一緒にして欲しかないけどな』

 

『『ふははは!!!』』

 

 2人は大声で笑った、それでもお互いを嘲る事なく。

 

 その笑いがお互いにおさまったとき、簒奪の槍(クイーンダイバー)が喋り始めた。

 

『君は考えないのかい? 君自身が彼女に操られている可能性を』

 

はっ

 

 少女の息を呑む音が嫌に響いていた。

 




 まだ編集中ですが流石に間を開けすぎるのは良くないと思いましたので。

 白井出てなさすぎたので、少しだけ出しときました。(能力だけ)
 気づいたかな?


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忠誠蟻

「白井様!風紀委員のお仕事お疲れ様です!」

「あ、有難う御座いますの」

 

 白井は帰宅の道中、後ろをカルガモの親子のようにつけてくる女を見た。わたがしを思わせるような長いフワッとしたチョコレート色の髪の毛に、モデルを思わせる端正な顔立ち。少し視線を下に向ければ、未来の食蜂程とは行かないまでも、大きく主張をする果実が見られた。

 着ているのは常盤台の制服であり、先述の容姿も合わせてみると、彼女もまたお嬢様の血を引くものなのだろうと思えた。

 

(この方は何故私についてくるのでしょう。いや、まあ確かに彼女を助けたのは私なのですが、それだけでこんな忠誠的な・・・)

 

 あのような状況からここまで元気になれた彼女に安堵するものの、どうしてこんなアホの子みたいな成長を遂げてしまったのかと頭を抱える。これでは食蜂と帆風の関係のようだ。自分の性に合っていない。

 

(あなたあんなにも淑女でしたわよねえええええ!?)

 

 少しだけ前の話を思い出す。

 ひとりの少女の、悲劇の幕開けを。

 

 


 

 

『上条さん、来てくれるかなぁ』

 

 蟻は第二十一学区のとあるダムの前で携帯を触っていた。ブルーライトが彼女の表情を照らす。窺えたのは悲しみや絶望といった感情だろうか。目は赤く腫れていた。

 てろりん、とメールを送信したメロディーが鳴る。彼に向けて送るメールの内容は以前から似たようなものばかりだった。

 

《上条さん、また相談があります》

 

 蟻は返信を待つ。

 もう一度だけでいいから、彼の声が聞きたかった。

 

 

 ♦︎

 

 

 自殺を決意した日、最後に美味しいコーヒーでも飲もうかと有名な喫茶店に向かっていた。街の喧騒が嫌になる、私はこんなにも辛いのになぜみんなは幸せそうにしているのかと。

 

 私は自分の才能の無さに絶望していた。私にレベル5に成れる素質があると言ってくれた研究者はもう何処にもいない。私を捨てて他の能力者に目をつけてみんな去っていったのだ。

 

 でも、そんなことこの学園都市では珍しくなかった。研究者はより上限値の高い能力者に傾向する。それが私ではなかっただけなのだ。ただ、それだけなのに、私の心はカラになった。生きる意味などないのだと気付かされた。

 

『死にたい。』

 

 周りに隠していたはずの感情がこぼれ落ちる。

 良いことなんかない、そう思っていた。

 

 信号を大勢の人が渡る。前を見ていなかったから、誰かと肩がぶつかった。謝ろうと後ろを振り返る。ああ、どうして、涙が止まらない。

 

『助けて、』

 

 出て来たのは謝罪なんてものではなかった。身の程知らずの懇願。

 今度こそ本当の謝罪を口にしようとした。

 

『わかった』

 

 しかし、そこには真剣な顔をした男がいた。

 信号が赤に変わる。二人だけの世界が始まった。

 

 

 ♦︎

 

 

 静かな午後、彼女は男とともに喫茶店にいた。店内は暖かな灯りで照らされ、ほのかなコーヒーの香りが漂っている。

 彼女は自分の心の内を思いのままに解き放ち、過去から現在までのすべてを男に伝えた。彼女の言葉は男の心に深く突き刺さり、時間が止まったかのように感じられた。男には思索が巡っており、彼女の言葉に真摯に向き合っていることが伝わってくる。彼女は彼の反応を見つめながら、自分の心の奥底に眠る想いを明かしていく。

 彼女の胸には緊張と同時に解放感も広がり、彼女はその瞬間を深く刻み込んだ。男はしばらく黙り込んだ後、穏やかな声で彼女に語りかけた。

 

『よかった、君とぶつかることが出来て』

 

 その言葉に、少女は戸惑いを感じていた。ぶつかって、何が良かったのか。

 彼女は、男の口から続く言葉を待ちわびながら、内心で胸躍る期待を抱いていることに気づいた。一瞬が永遠のように感じられる瞬間、彼女の魂はこの刹那に集約されていた。そして、彼女は自分の運命がこの男の言葉にかかっていることを悟った。彼女は心の中で微笑みながら、運命の糸が彼らを結びつけるように願った。

 

『絶対に死なせない。これから俺と楽しい毎日を過ごすんだ。拒否なんてさせないぞ』

 

 少女は、今度こそその言葉の意味を理解できなかった。彼女が待っていたのは単純な引き止め。これではプロポーズの間違いではないか。

 顔が熱を帯び始める。グラスに反射する自分の顔が赤いことに気付いた。次第に体までもが熱くなっていく。沸騰するような思考回路の中、少女の考えはぐるぐると廻っていた。

 

『えっと、今の聞いてた?聞いてもらえてなかったらすごい恥ずかしいんだけど』

『あ、ごめんなさい』

 

 聞こえた声に思わず返答する。何も考えずに答えた言葉は、まるで彼を否定しているようなものになってしまう。

 

『あ、そういうことじゃなくて・・・!』

 

 喫茶店に俄かにざわめきが広がった。

 

『にぃちゃん振られてんじゃねぇか!』

『まだ若いんだから頑張れよ!』

『次があるって!』

 

 次々と声がかけられる中、目の前の男は赤い顔のまま、冗談めかした声に対して言い返している。周囲の人々は笑い声を上げながら、楽しそうなやり取りを眺めている。彼は明らかに注目の的となっており、喫茶店はますます活気づいていくようだった。

 

『ちげぇわ、告白じゃねぇよ!

 今のは風紀委員として言った訳であって!

 しかもこの子の言ったごめんなさいもそう言う意味じゃないし!』

 

 彼が全力で否定する姿を目の前にして、少女の心は微かに乱れる感覚を覚えた。しかし、不思議なことに、その喧騒の中で笑いが蠢き上がって来た。

 

『ふふっ』

 

 笑いを零した。

 

『笑えたな。なあ、今楽しいだろ?』

『ふふっ、今は恥ずかしい方が強いかな』

 

 少女は笑いをもう一つ零した。

 その男も喧噪の中で微笑みを浮かべながら、ひとつの笑い声を響かせた。

 

 


 

 

「ねえ、あなた暇なんですの?」

 

「暇? いいえいいえ! 白井さんの事を見ることが叶っている今、暇なんてことはありません! 寧ろ人生サイコー、今までのはこの為だったのか! って感じです!」

 

 白井はもう一度頭を抱えた。

 

(彼女の言う彼女の過去と今が乖離しすぎて、困惑が隠し切れませんの)

 

 それでも彼女は白井のお願いを数十回目でやっとこさ聞き入れ、白井に"様"を付けなくなっている。このままいけば普通に接することが出来る様に、ならなそうだなぁ。と思う白井であった、、、

 

 白井は今尚ついて来ている女を一瞥し、問題は山積みだなぁと思いつつも、彼女が家までついて来た場合に、持て成す為の晩御飯を何にしようか考えていた。

 



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Valentine
VALENTINE'S DAY 1


上条「モテる男はツラいぜ」

白井「自意識過剰乙ですのぉッッッッツ!!」

 ※前書きです。番外編です。寄り道すみません。


 ○インデックスの場合

 

 

 今日はバレンタイン。前はツインテに拉致されて渡せなかったけど、今回こそは渡してやるんだよ。渡してやるったら渡してやる!!! 

 

 

「ねぇとうま! 今日はなんの日か知ってる?」

 

「ん? 今日かぁ。噂に聞くチョコレートデイですかい?」

 

「ちょっと違う気がするけど、大体合ってるんだよ。って事で今日はバレンタイン! 一緒にチョコを作ろう!」

 

「おおおっ! インデックス! さすが女神だ!」

 

「へへんっ! このインデックスさんに任せんしゃい!」

 

 流れの通りチョコを作り始めた二人。しかし、異変が起きている。

 

「あの、インデックスさん? どうして湯煎したチョコレートを飲み干してしまったんでせうか?」

 

「チョコレートを飲み干すのは計算外だったけど、美味しくて楽しかったんだよ! また来年、楽しみにしてるんだよ!」

 

「おいおい! こいつ全く悪びれてねぇ! あれ? チョコレート全部湯煎しちゃってたよ。ってことは、ああぁっ! 不幸だァァアアアっっ!!!!」

 

 午前七時、上条1回目の不幸。

 

 

 ウヒョヒョ! 短髪の単発で短パンからチョコが届いたんだよっ! 

 

 

 

 

 ○御坂美琴の場合

 

 

 今日はバレンタインよね、どうしよう。やっぱり、作るのは佐天さん家にお邪魔させてもらおうかな? 

 うん、そうしよう。揶揄われるのはあれだけど、常盤台のみんなに見つかるのよりは何倍も良い! 

 べべべべべ、別に! アイツに渡そうなんて思ってないんだから! 黒子とか、お世話になってる子達に感謝への気持ちだから! その中にアイツがいただけだから!!!!! 

 

 

「御坂さん、流石ですねぇ、恋する乙女は何とやら、いやいや流石ですよ!」

 

「ちょっと佐天さん! 揶揄わないでよ! って言うか? 恋なんてしてないし? これは黒子の分だし、これは初春さんの分だし、これはあの修道服の子の分だし、これは佐天さんの分よ? アイツのなんてないもの!」

 

「あ、私の分もあるんですね? 嬉しいです! でもこれ、明らかにあの人をモデルにしたチョコですよね。ツンツンしてますよ?」

 

「あ、いや、手が滑ったって言うか? ああ! じゃあついでにアイツにも作ってあげようかなぁ! 

 ねぇ佐天さん。喜ぶわよね! アイツ、喜ぶよね!」

 

「え、ええ、御坂さんにチョコ貰えたら失神しちゃうなぁ」

 

「うんうん! そうよね! この私が作ったチョコなんだから!」

 

 

 はぁ、御坂さん完全にヤバいやつになっちゃったなぁ

 

 

 ♦︎

 

 

「あ、アンタ! 止まりなさい!」

 

「ん? あ、御坂か、インデックスにチョコありがとな。何の様だ? 今日は朝からチョコを全部飲まれて泣いてんだ、手短に頼む」

 

「チョ、チョコを飲まれた? いや! それは置いといて!」

 

「お、おお、いつもにまして元気いっぱいだなあ」

 

「そ、そうよ! こ、これ、あああああ、あん、あああああ、アンタに、」

 

「急に挙動不審だな、あ、もしかして、変なの貰っちゃった? 俺」

 

「そんなわけ無いじゃない! これは、こ、こ、これは、チ、チチ、チョコよ!」

 

「ん? チョコかこれ、いや何でインデックスの分と一緒に渡さなかったんだよ、明らかに不効率だろ」

 

「い、いや、アンタには、ちゃんと、手渡ししたかったから」ボソッ

 

「ん? なんて言ったんだ? あ、そうだ! これ、インデックスが黒子に渡せって言ってたから、すまん黒子に会いにいくんだよ。あと十分しか無い! じゃあな!」

 

「え? え? え? ちょっと、ちょっと待ってよ! 待ってって! 

 待てって言ってんだろコラァー!!」

 

 ぎゃぁぁぁあああ!!! バリバリしたァァアアア!!! 

 

 午前八時前、上条2回目の不幸。

 

 

 ふははっ! 私の手ずから食わせてやったよ!!! 

 

 

 

 

 ○白井黒子の場合

 

 

 むぅ、昨日からお姉様の寝言がうるさ過ぎて全く眠れませんでしたの。そのくせ起きたら居なくなってるし、何て無責任な、

 さて、今日はバレンタイン。メールによると、インデックスさんが私にチョコをくれるらしいのですが、なぜ本人が私に来ないのでしょう。恥ずかしがり屋? それとも毒入り? まあそんなことは気にせず、当麻さん達にチョコを作って差し上げなければ。

 

 

 

「おーい、黒子ー」

 

「はーい、黒子ですのー」

 

「いやぁ、間に合ったか?」

 

「いや、十八秒遅れのギリギリアウトですの。遅れた理由は、まあ焦げ臭いんでお姉様に追いかけ回されたんでしょう」

 

「すまん。だからといって、遅れちゃったからなんか奢るよ」

 

「そうですの? まあお言葉に甘えさせていただきますの」

 

「ああ、これ、インデックスのチョコだ」

 

「まあ! かなり精巧に作られていますのね」

 

「そうなんだよ、作ったのはほぼほぼ俺だけどな」

 

「ふふふ、インデックスさんが料理をしたら、それはそれでキャラ崩壊ですの」

 

「はははっ! 確かにそうだな。あれはあれで完成しちゃってるもんな」

 

「ええ、可愛らしいものですの。それで、これが私からのチョコですの。あまり時間が無かったので、特段すごいものではありませんが」

 

「良いのか!? ありがとう! 今日はチョコ貰えない(御坂のは忘れ去られた)と思ってたから!」

 

「いやいや、あなたに限って貰えないなんてことないでしょう。というか、お姉様はまた渡せなかったのですか。あの弱腰チキンめ! というのは言わないでおいて、インデックスさんには大容量50ℓバケツ! なるバケツで作った超巨大チョコですの。重かったらお持ちしますからね」

 

「ん? いやいや、前半も全部聞こえてたぞ? 俺がチョコ貰えたらノーベルなんたらだろ。って言うか何で御坂の話が出たんだ? あと、50キロくらい全く重くないぞ?」

 

「50キロが重くないのはそうそう居ませんのよ? じゃあ喫茶店にでもいってお茶でもしましょうか」

 

「そうだな、昔の話とかしてみるのも面白いかもしれない」

 

「確か、初めて会ったのは———」

 

 午前八時過ぎ、上条1回目の幸運

 

 

 はぁ、またお姉様は上条さんに、チョコを渡せなかったんですのね? しょうがないですよ。いいえ、何も言いませんの。ただ、今度からチキンと呼ばせて貰います。え? 渡した? 上条さんは覚えてすらいなかったみたいです。ほらチキン、早く渡して来なさい。

 

 

 

 ○とある少女のの場合

 

 今日はバレンタイン。私の気持ちを改めてあの方々に言わせて頂く、またと無い機会です。さぁて、どんなチョコを作りましょうか。白井さんは糖分控えめにして、上条さんは女体型とかですかね。

 

 あら、幸運なことに、白井さんと上条さんが、お二人でお茶していますわ。眼福ですわ。ああ、何て神々しいのでしょう。あれはまさに私のための光景!早速チョコをお届けしなくては! 

 

「なあ黒子、俺の目には巨大なチョコを押して、こっちに突っ込んでくるのあいつが見えている。気のせいか?」

 

「いや、すごい偶然ですの。わたしにも同じ光景が見えていますの」

 

「ああ、よかった。偶然なんだな、ってことは見間違えってことだな。うんうん」

 

「ええ、見間違えで——」

 

「——上黒様ぁ! 眼福です!」

 

「いや、偶然じゃ無かったな」

 

「いえ、わたくしはまだ現実逃避っつてやつですの」

 

「お二人聞こえていますか? 今日はバレンタインなので、お二人への気持ちを爆発させてしまいました。半年以上我慢し続けていたんです。しょうがないと思いませんか?」

 

「有り難いのですが、周りの目というのを気にして欲しいものです」

 

「ああ、それは俺からも頼む」

 

「これは! 申し訳ありません白井さん! いやしかし、上条さんは人目憚らずに叫びますよね?」

 

「ええ、どの口が言ったんでしょう」

 

「この口です」

 

 シーン....

 

「さて、ではチョコを保存しに帰りましょうか」

 

「上条さんは?」

 

「勝手に着いてくるでしょう」

 

「そうですね」

 

 

 午前九時過ぎ、上条は楽しんでいた。

 

 

 

 

 




会話文オンリーだとすごい楽ですよねぇ。

それはそうと、巷では受験やら何やら騒いでおりますが、勉強は程々に、そうしないと私のように、受験日前日にぶったおれ気絶なんて事もあるかも知れません。お気をつけ下さい。



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VALENTINE'S DAY2

上条「今年のバレンタインは日曜だから、チョコ貰えないと思ってたけど、家のポストにも次の日行った学校でも大量だったよ」

白井「残念!全部お姉様作のチョコです!さて何が入ってるか分かったものではありませんねぇ!」

 ※前書きです。寄り道です。めんご。


 ○食蜂操祈の場合

 

 ふふふ、今日は所謂チョコレイトデイ。あの人に想いを伝える大チャンスなのよぉ。でも、私にチョコなんて作れない。でも! 私にはそういうことに関しての最強の味方がいる! 

 

 そう! 帆風順子ちゃん! 

 

 

 ♦︎

 

 

「ねぇ、帆風さぁ〜ん? 私の為にチョコ、作ってくれな——」

 

「——そう言われると思ってあらかじめ作っておきました。さて、上条様に渡しに行きましょう」

 

速ッッッッツ!! って! 誰が上条さんに渡すっていった訳ぇ!?」

 

「違うのですか?」

 

「あぇ? いや、ち、ちがくわ、ないわよぉ〜?」

 

「では、行きましょう」

 

「え!? いや! おんぶする必要はないわよぉ!」

 

「以前、女王が上条様らしき人におんぶされているのを見ました。構わないのでは?」

 

「イヤァァァァア! だから言ったじゃない! 記憶は消しといたほうが良いってエエェェエエエェェエ!!!」

 

「詳しくは本作の11話。つまり、とある科学の心理掌握の2話、黒子は凄いんだな! をご覧ください」

 

 流石帆風さん。さりげない番宣。

 

 

 ♦︎

 

 

 結局おんぶされたまま、少々恥ずかしい格好で学園都市中を回り、漸く見つけた上条に()()()声を掛ける。つまり、

 

 ○食蜂操祈の場合

 ○帆風順子の場合

 

「上条様で宜しいですよね?」

 

「おう、合ってるぞ。えっと、確か帆風だったか?」

 

「そうです。覚えていてもらい嬉しい限りです。さて、本題ですが女王からチョコを預かっております。半分は私の気持ちです(いつも女王と仲良くしていただきありがとうございます。と言う気持ち)」

 

「お、ありがとな。ん? 今背負ってるのって食蜂だろ? 酔ってんのか?」

 

「ええ、どうやら私のスピードに魂がついて来れなかったようです」

 

「魂という概念があるのかは置いといて。おい! 顔真っ青だぞ! 早く病院に!」

 

「これは! 女王! すみません! 今すぐゲコ太病院に!」

 

「ん? お、おう! カエル先生のとこだな!」

 

 正午、上条助ける

 

 

 ぐすん。起きた時には2月15日だったわよぉ! 

 

 

 

 ○佐天涙子の場合

 

 さぁて、御坂さんは渡せたかな? あの様子で渡せてなかったらそれはそれで天才だよなぁ。うん! 渡してないな! それは置いといて。

 私も皆んなにチョコ配ろう! まずはういは、いや、春上さんだね! 

 

 

 ♦︎

 

 

「春上さん! ハッピーバレンタイン!」

 

「あ! 佐天さん、ハッピーバレンタインなの!」

 

「はい、チョコあげるよー」

 

「ありがとなの! 私からもはい、チョコなの」

 

「ありが、え!? これって予約三年待ちの新井☆(アライスター)菓子店のチョコだよね! こんなの貰っちゃっていいの!?」

 

「いいの。いつものお礼なの」

 

「いやぁ、持つべきものはなんとやら。ありがとう春上さん!」

 

「いいえなのぉ〜」

 

「そうだ! 今から友達皆んなにチョコ配ろうと思っててぇ、それで、一緒に行かない?」

 

「それはいいことなの! 是非御一緒したいの!」

 

「よし決まった! じゃあ次はマコちゃんだね」

 

 

 ♦︎

 

 

 佐天の数多くの友人にチョコを渡した後、二人は上条を見つけた。

 

 ○佐天涙子/春上衿衣の場合

 

「上条さぁん!」

 

「お、佐天か! なんか久しぶりだな」

 

「えへへ、お久しぶりです。こちら、友達の春上衿衣さんです」

 

「よ、よろしくなのぉ」

 

「よろしくな! その話し方は、どこかのレベル5に似てるぞ」

 

「??? ちょっと意味がわからないのぉ」

 

「はい! 春上さん! チョコを渡して帰ろう! どうせてきとうなこと言って、こちらを襲う機会を探ってるんだよこの人は!」

 

「そ、それはイケナイ匂いがプンプンするの! これチョコなの! サヨナラ!」

 

「お、おう、なんか、凄いこと吹き込まれたな。っておい! 襲うって何ダァ!」

 

「「逃げろぉ!」」

 

 

 午後一時、上条補導の危機

 

 

 ふぅ、危なかった。春上さんまであの男の毒牙に侵されるところだった! (迫真)

 

 

 

 ○固法美偉の場合

 

 今日はバレンタインね、面白くないけれどそこら辺で買っていきましょうか。

 

 

 ♦︎

 

 

「あら、以外に安い物なのね」

 

「おっとお客さん! 彼氏さんにあげんのかい?」

 

「かっ! 彼氏って///」

 

「お嬢ちゃん顔真っ赤だぜ? よし! おっちゃんが恋を応援してやる! これたったの一円だ! 買うか?」

 

「え? そんなに安くて良いの?」

 

「おいおい嬢ちゃん。恋を応援するんだ。金なんて取ってられるか。って言ってもまあ、無料って訳にはならねぇ、俺と嬢ちゃんが逮捕されちまうからな」

 

「そう、ありがとうお爺さん。これ百円よ、流石に一円は言い過ぎだと思うわ」

 

「そうかい、毎度あり! 絶対成功させろよ!」

 

「はいはい、ありがとね」

 

 そう言って店を出るが、彼女の思考では誰に渡せば良いのよ! とかなり困惑していた。

 

 

 ♦︎

 

 

 結局、白井に渡すと決めた固法は彼女の実家に向かっていた。

 

「うん。毎回思うけど広いわよね」

 

 毎度のことながら、家というかもはや屋敷な感じの家に驚きつつ、インターホンを押し、彼女が出てくるのを待った。

 

「あら、固法先輩ですの? どうぞお入り下さい」

 

 インターホンから少女の声が聞こえ、そこから少し経つと、門が一切の音も出さずに開いた。

 門が一杯に開く。固法はドアの前まで歩く。その途中で白井がドアから顔を出し、その顔は笑顔へと変わる。

 

「固法先輩、こんにちはですの」

 

「ええ、白井さんこんにちは」

 

「とにかくお上がり下さいな」

 

「ありがとう、お邪魔するわね」

 

 白井の先導に固法は着いていく。三階に上がり、突き当たりの部屋に案内され、その部屋に入る。

 

「お座りくださいの。お茶を用意しますの。烏龍茶でよろしかったですわよね」

 

「じゃあそれでお願いするわ」

 

 白井は分かったと言い、能力を使ってまで素早く用意する。

 

「お待たせしましたの」

 

「いや、全く待ってないわよ。それで、今日はバレンタインよね? だから、白井さんにチョコをあげようと思って」

 

 話しながら取り出したチョコを見て、白井は嬉しそうにする。

 

「まあ! いいんですの?」

 

「いいわよ。さあ、開けて見て?」

 

 そう促された白井は箱を開ける。

 

「ええ、早速開けますの。え?」

 

 しかし、白井は目を大きく開けて声を出してしまう。

 

「ん? どうしたの白井さん」

 

 白井の驚きように、何かがあったのだと察して固法は様子を伺い、

 

「こ、これは本気ですの?」

 

「本当にどうしたの? 見せて頂戴」

 

 箱の中を見せてもらう。

 

「これですの」

 

「えっ!」

 

 その箱の中には、

 

大本命 I ♡ YOU

 

 と書かれたチョコが入っていた。

 

 

 

 

 この後メチャクチャ誤解を解いた

 




VALENTINEの2時14分投稿ッッッッツ!

完璧だッッッッツッッッツ!!!

次回からは通常の話を進めまっす


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とある科学の心理掌握 2部
チェックメイト


 1

 

 

 ここで、おさらいをしておこう。

 彼、上条当麻は単なる中学三年生ではない。彼は風紀委員(ジャッジメント)という、学園都市の治安を守る機関に身を置いている。路地裏での激しい戦いを経て鍛えられた彼の身体能力は、並の成人男性をも凌駕している。彼は超越者である師匠によって厳しく鍛え上げられ、その力を得たのだが、それでもこの大人数に打ち勝つのは少々困難であると言わざるを得ない。

 だが彼の耳には、黒いイヤホンのような装置が接続されていた。そこからは位置情報や音声情報が風紀委員本部や近隣の支部に絶え間なく送信されている。

 これで、察することが出来ただろうか。そう、彼は最初から食蜂操祈を一人で守ってなんかいない。百人単位で守護しているのだ。

 赤いライダースーツの男たち────デッドロックは気配の欠片すら気付いていないようだが。

 

 

 2

 

 

「もうすぐですのね、上条さんとみさきさんがいるのは」

 

『はい。学園都市製のGPSには1ミリの狂いもありません。端末に示された通り、そこから三時の方向に三十メートルほどの距離です』

 

 白井は上条から発された緊急信号を受け取り、すぐに現場に急行していた。ちなみに緊急信号にはレベルが設定されているのだが、今回上条が発したのはその中でも最大の警戒度のもの。命に危機が迫っている際にしか許されていないシグナルだった。

 

 白井のサポートには守護神(ゴールキーパー)と呼ばれる、世界最強の現代っ子がいる。もはや、上条たち二人の命は助かったようなものだった。

 現在、上条と食蜂は共に路地裏を必死に駆け抜けている。彼らが今まで逃げ延びることができたのは、偶然路地裏であったからに他ならない。もしもここが直線の道だったならば、彼らは既に命を落としていただろう。運命の歯車が彼らを遊ばせ、偶然と必然が交錯するなかで、生死を分ける微妙な線上を彷徨っていたのだ。全くもって、こういうところは幸運と言う他ない。

 

 食蜂操祈が能力を使う。

 事前に捕まえておいたデッドロックの装備するスーツを調査した結果、驚くべき事が明らかになった。それは、食蜂操祈の能力である心理掌握(メンタルアウト)を打ち消す効果がこれらのスーツに備わっているということ。そのため、簒奪の槍たちは超能力者(レベル5)の攻撃を受けても、まるで何事もなかったかのように振る舞っていたのだ。

 食蜂は驚きの表情を隠すことなく、手元のリモコンを何度も操る。

 

「流石に2人だと不利ですのね。あら、丁度良い場所にコンクリが」

 

 白井は足元に置かれたコンクートブロックを、自身の超能力を駆使して簒奪の槍の前方へと転移させた。その瞬間、物体が砕けるような音がエンジン音の響き渡る中に鳴り響いた。

 突然、大きな爆発音が轟く。その威力は周囲の建物をも巻き込み、崩壊させるほどのものだった。爆風が荒々しく吹き荒れ、破片が空中を舞い散る。煙と埃が立ち込め、場の光景は一瞬にして混沌とした状態へと変わっていた。

 

「やりすぎでしたかしら」

 

 遠いところで青ざめた食蜂の顔が望めた。

 風紀委員の後輩が恐怖や畏怖といった念を含んだ表情で白井を見つめていた。彼らにとっては信じがたい光景だったのだろう。建物の上から眺めると、赤い服を身にまとったいくつかの人物が倒れているのが見えた。中にはヘルメットの部分を大破させた者(白井にコンクリートをぶつけられた本人)もいた。

 

「群れですから、何人か巻き込めると思っていましたの」

 

 苦笑いを浮かべながら、後輩は炎に包まれたまま地に倒れ伏している簒奪の槍を巧みに捕縛した。白井が瞬く間に屋上へと彼らを転移させると、男たちの意識が徐々に戻り始めた。

 苦悩と闘いの痕跡を浮かべながら、彼らは目を開け、周囲の状況に気づいた。炎が舞い上がり、崩れ去る建物が目の前に広がっていた。

 

「これはお前らがやったのか。ははは、ここまで転移させたのもお前らが能力者だから出来たってわけだ!

 あはははははははははははは‼︎クソ能力者め、ぶっ殺してやるよ!」

 

 狂気に満ちた男たちは、自らの行動が正義であると信じ込んでいた。縄で縛られ、制約されている身でありながらも、彼らは執拗に立ち上がろうとし、白井たちを殺そうとしているのだった。

 その瞳には狂気と憎悪が宿り、炎のような情熱が燃え盛っている。彼らは自己の信念を貫くために、あらゆる手段を用いる覚悟を持っていた。縛られた身体を引き裂くかのように激しく暴れる彼らの姿は、まさに凶暴な獣のようだった。

 白井は無線を通して白井に指示を出す。

 

「これは………初春、アンチスキルを呼んでくださいな」

 

『分かりました。五分後には到着するはずです』

 

「ありがとうですわ。

 しかし、声でバレるとイケませんわね。上条さん聞こえていますの?聞こえていましたら首を何度か横に振ってくださいの。違和感は内容にですわよ」

 

『はぁ、はぁ』

 

 無線が繋がり、そこから上条の疲れ切った息遣いが聞こえてくる。その息遣いは重く、疲労と戦いの熾烈さが感じられた。だが、食蜂の息遣いは聞こえてこなかった。おそらく距離の問題によるものだろう。

 無線が聞こえたのか、少し先で首を横に振る上条の姿が見えた。

 

「聞こえているようですわね。全ての準備が整いました。

 あとは対面するだけです。そこから百メートルほど先の曲がり角におびき寄せてくださいな。こんどこそ、それで準備は完了ですわ。

 理解したのなら先ほどと同じように」

 

 もう一度上条が首を横に振った。

 

「チェックメイトですの」

 

 簒奪の槍(クイーンダイバー)が拘束されるのも、もはや時間の問題だった。



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簒奪(さんだつ)風紀委員(ツインテール)

 3

 

 

「ぁあアアアァあぁァァアァああアアァァアア!!!!!」

 

 それは突然の出来事だった。後ろの少女が悲鳴を上げ、痛みに耐えながら頭を掻きむしり始めた。その光景はまるで恐怖の極地に身を置いているかのようだった。少女の顔には苦悶の表情が浮かび、狂おしいほどに髪を引っ張りながら悶え苦しんでいる。絡まった髪は彼女の手をからみつけ、血がにじむほどの力で引っ張られている。

 

「どうした食蜂!テメェら何したんだ!」

 

 上条は絶叫した。

 しかし、この状況を唆した彼らでさえも、予想以上の展開に困惑の表情をヘルメットの下に浮かべていた。

 

「食蜂!」

 

 何度名前を呼んでも彼女の反応はなかった。彼女は止まることなく四方八方に目を動かし、真っ青な顔を地面に向けることだけに集中しているようだった。

 

「黒子、食蜂が大変なことになった!」

『ええ、聞こえていましたわ!すぐに向かいますの!』

 

 すると、白井の姿が直ちに現れた。彼女に続いて、上条にも見覚えのある風紀委員たちが現れた。彼らは比較的近場の支部で活動する能力者たちであり、その能力は白井にも劣らないものだった。

 

「食蜂様は私が護送車まで送ります」

 

 少しだけ落ち着いた様子の食蜂は、地面に膝をつき、絶望の表情を今もなお浮かべていた。その目には深い哀しみと無力感が宿り、彼女の心の内がうかがえるようだった。

 彼女を横抱きにした女が、まるで掻き消えるかのような速度で身を動かしていった。その動きは滑らかで、俊敏さを感じさせるもの。彼女の姿が次第に遠ざかり、影となって消えていく。

 

「しかし、よくこんな人数を集められたな」

「本部はそれほど重要だと考えたんでしょう。まあ、レベル5と貴方の為なんですから、もっと多くても不思議じゃ有りませんわ」

 

「ありがとうな」と上条は肩をすくめながら恐縮そうな表情を浮かべた。その様子からは、自身の不甲斐なさや不完全さを感じ取ることができた。

 

「さて、そろそろ始めましょうか」

 

 後に簒奪(さんだつ)風紀委員(ツインテール)と呼ばれる大事件が始まりを告げた。

 

「ここからは断罪(ジャッジメント)の時間ですわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4

 

 

 八月某日

 とある路地裏

 

 この場には、総勢五十人にもなる赤服の男達——簒奪の槍(デッドロック)。群れのように行動し、圧倒的な数で敵に立ち向かう戦術を得意としていた。

 そして、たったの四人からなる、左腕に緑色の腕章を掲げた者たち——風紀委員(ジャッジメント)がいた。その腕章を掲げた者達は、それぞれひとりひとりが一騎当千を思わせる力を持っている。

 

 安寧を壊す者(偽りの力を求めた者)たちと、治安を守る者(自分の力を信じている者)たち。対照的な存在がこの場で対峙し、緊迫感が漂っていた。

 

 何拍かの沈黙の後、風紀委員の少女が簒奪の槍に向かって話しかけた。彼女の声は静かで穏やかだったが、明確な怒りがあるのは間違いなかった。

 

「今降参するなら楽に拘束して差し上げますが?」

 

「くくかかかか、後悔させてやるよ」

 

 そして彼らは最初の一歩を踏み出す。

 いや、最期への道を踏み出してしまったのだ。

 

 

 ♦︎

 

 

「あら、抵抗するんですの?」

 

 白井の心優しい言葉とは裏腹に、男たちはあらゆる武器を手にして彼女たちに襲いかかった。

 ある者は銃を手にし、ある者は刃物を構えていた。しかし、白井たちは軽々とそれらの攻撃をかわし、たじろぐことなく彼女たちは優れた身のこなしと瞬時の判断力で鋭い反撃を繰り出していった。その姿はまるで風のように俊敏であり、彼女たちの存在感は敵を圧倒していた。

 

 武器を奪われた彼らは、音速に迫る勢いで相手を目掛けて突撃した。その数は十人ほどもいたが、その全員が白井の能力によって無理矢理縛り付けられ、次の瞬間、近くのビルの屋上に転送され、捕縛されたまま放置される。

 白井の意図は明確ではなかった。しかし、彼女は簒奪の槍という装備だけを特別扱いし、転送させずに爆発させる選択をした。

 まるで天地が揺れ動くかのような轟音が響き渡り、爆風が空気を裂き、炎が舞い上がった。その破壊の力は猛烈に増していく。爆発音が十度響き渡り、その度に周囲を壊滅的に滅ぼしていく。

 

 簒奪の槍のリーダー格の男は舌打ちしながら、白井たちの異常な力に戸惑う。彼女たちを規格外と認識していたが、たったこれだけの攻撃で簒奪の槍が壊滅するとは予想していなかったからだ。

 白井たちはまさに異端の存在であり、彼女らの力は通常の枠に収まりきるものではなかった。男は深い失望感を抱きながら、その光景を目の当たりにする。

 

 熱さによって皮膚が悲鳴を上げる中、ピッチリとしたライダースーツに身を包んだ男たちは、次第に意識を失っていった。ライダースーツは一見頑丈そうに見えるが、その内側には蒸し焼けるような熱が溜まり、男たちの抵抗力を徐々に削いでいた。

 彼らは苦しみながらも、身を捩り、喉から漏れる絶望的な叫び声を上げる。その熱によって脳が揺さぶられ、意識は混濁し、彼らは自身の存在すら忘れ去るような感覚を覚えた。

 数人が次々と同じ運命に繰り返される光景は、まるで地獄のようだった。彼らの苦しみが、その場を支配し、闇に包まれていく様子は、誰もが目を背けたくなるほどの恐ろしさが存在していた。

 

「うまく行きますわね」

 

 白井は微笑みを浮かべた。彼女が簒奪の槍という装備をわざわざ爆発させていたのは、それが彼女の計画の一環だったからである。計画は特殊な薬を辺りにばら撒くことだった。そこには微細な粉末が空中に舞っている。一息吸えば判断力を低下させる幻惑剤だ。

 残るは二十もいない程度。上条を除く風紀委員は己の能力を発動させ、それぞれ各方向へと超スピードで飛んでいった。

 辺りは一瞬にして静寂に包まれる。目を凝らして周囲を見回しても、姿を現すのは二人だけ。簒奪の槍のリーダーと上条の存在が、静かな舞台の中心に立っていた。

 二人の間には沈黙が広がり、彼らの視線が交錯する。互いに対峙する姿勢を崩すことなく、彼らは対決の刹那を迎えた。

 

 

 5

 

 

 場所を変えた白井は、後を追ってくる赤い服を能力を使って縛り付けた。

 

「一応聞いておきますが、自分の意思ですわよね?」

 

 白井が問うと、意外にも男は話だした。

 

「ああ、確かあれは半年も前のこ——」

 

「——いやどうでもいいですの。そんなことはアンチスキルに言ってください」

 

 だが、そのまで聞くのはアンチスキルのお仕事で、白井に言うのはお門い。他の縛られた仲間にも笑われて赤くなった男の顔は、とても見れるものではなかった。恥ずかしがっていて可愛いのは女性だけである。

 あと九人。

 

 

 ♢

 

 

 黒部(くろべ)遥綺(はるき)は南に数百メートル移動し、男達が追ってくるのを待っていた。数秒後、身の程知らずな赤い弾丸が飛んでくる。女は身を捻りそれを避け、通り越して行ったところを縛った。

 

「白井に言われた通り一応聞くが、自分の意思でこんな事をしたんだよな?」

 

 女が問うが、男は言葉を返さない。

 

んん!(おい!)んんんんーんん!(喋れねぇだろ!)

 

 というか返せない。

 縄が顔にまで巻きつけられ、口を閉ざされているのだ。まるでお前は喋るなと言われているかのように。簒奪の槍で最高齢である三十後半のおじさんの言葉なんて、所謂JKが聞きたいとは思わなかったのだろう。

 あと五人。

 

 

 ♢

 

 

 春日井(かすがい)千夏(ちなつ)はマッハを超える速さで簒奪の槍を追い詰めていた。彼女は少し遊び心があり、相手を舐める癖があった。今回もそれは例外ではなく、本来ならば数秒で終わるべき仕事も、まだまだ終わる気配はなかった。

 彼女は敵を見下すような微笑を浮かべながら、相手を翻弄し続けていた。その速さと技巧によって、簒奪の槍は追い詰められ、苦しんでいた。

 

 彼女の能力は加速調整(アクセラレーション)。その最大出力を出し、ある地点で一瞬止まり、疑似的に分身していたのだ。殺せんせーみたいに。

 そして距離を少しずつ縮めて行く。簒奪側の九人は行き場を失い中央へと追いやられていく。いつの間にか、三人の仲間が縛られていた。気づいた時にはもう遅かった。

 簒奪の槍唯一の女は亀甲縛りをされ、檻槍の前に座らされていた。

 

「一応聞くけど、この男達に変なことされてない?」

 

 女は先程の二人とは全く違う質問をした。

 

(いやお前がしてるんだよ!)

 

 そんなこと、言えなかった。たっぷり一秒悩んだ後、精一杯に嘘をついた。

 

「この男達に弄ばれたんです!」

 

 すぐにバキバキと何かが折れる音がして、誰の声も息遣いも聞こえなくなる。そして、やっと気付いた。

 

(あれ、私今一人になったんだ?)

 

 女の勘はやはり素晴らしい。

 

キィヤァアアァァァアァアア!!! 

 

 女の叫び(性的に喰われたような)声が聞こえた。

 あと二人。

 

 

 ♢

 

 

簒奪の槍(クイーンダイバー)だったか?」

 

「まあそうだが、我々のことはデッドロックと呼んで欲しい。そうだ!レベル0同士楽しく話し合いでもしようじゃないか!」

 

 男は突然浮かんだアイデアを、冗談めかして口にした。

 

「食蜂をあんなにしたやつと話すと思うか?」

 

「そうか、話し合えば分かってくれると思ったんだが、残念だよ、同士をまた失ってしまうことは」

 

 男は上条を心の底から認めた。それから言葉はなかった。

 

 

 6

 

 

 

 簒奪の槍が空気を裂く音が聞こえた。男は性懲りも無くまた、相手に突っ込んだ。それしか攻撃方法がない訳じゃ無い。それが『簒奪の槍(デッドロック)』が選んだ、認め憧れた男に対する敬意だ。

 しかし、男が突っ込んだ先には上条の姿はありはしなかった。上条はその愚直な突進を何十回も見てきたのだ。類い稀な才能を持っている彼にとって、そんな攻撃に対処することは朝飯前のことだった。

 

 上条を殺した感覚がないことに気づいた男は目を見開き、驚きを隠せずにいた。

 

(やられた、コイツも能力者!今考えてみればあれ程の能力者達の中に居る男が、無能力者の筈がない!)

 

 男は思い違いをした。この勘違いが上条にとって幸いな展開に繋がるのか、それは分からない。しかし、どのような結果になろうとも、男が持つ警戒心が一層強まったことは間違いない。その瞳には新たな決意が宿っていた。

 男は気配を感じ素早く後方を振り返った。まさにその時、上条が拳を振り上げる姿が目に入った。警戒はしていたが、突然の光景に対する男の反応は鈍く、時間の遅れが顕著だった。

 

 金属同士が重くぶつかり合うような鈍い衝突音が轟く。

 

(見えない!)

 

 それは計算された結果ではなかったが、上条の拳は偶然にも装備の視界機能を担うカメラの位置に命中した。男の視界は砂嵐によって完全に支配されている。甚大な損傷である。彼は瞼を閉じた。

 

 

 ♢

 

 

 ぱきりと小石を踏み割る音が響いた瞬間、男は即座に反応した。エンジンを吹かして音の方向へと素早く転身、突進したのだ。しかし、再び何の手応えも感じられないでいた。男は失望しながらも目を閉じ、耳に集中力を集める。彼は感覚だけを頼りに状況を把握しようとしていた。

 

 すると、男は何やら聞き覚えのある音を耳にする。

 

 響き渡る音の正体は、アンチスキルの搬送車両のサイレンだった。車両はただ一台、こちらには向かっていないようだが、その騒音によって上条の位置が完全に把握できなくなった。

 男は眉を寄せ、耳を澄ませるが、音の振動は彼の感覚を欺くばかりであった。

 

 

 

 この好機を逃すまいと、上条は慎重に気配を消し、男の背後に忍び寄っていった。足音を消し、息を潜め、全身の筋肉を緊張させる。彼の心臓は静かな鼓動を刻んでいた。

 慢心の余地など微塵もなかった。だが、運命は容赦なく彼に突きつけられた。

 

 カランという軽快な音がした。上条が足元に目を落とすと、そこには薬莢が転がっていた。その小さな光沢を放つ金属の残骸が、彼に何かを伝えているように思えた。

 視線を前に向ける。こちらが見えないはずの男と目が合った気がした。まるで運命の糸で結ばれたような感覚に陥った。交わるはずのない視線の交差に彼の内なる予感を掻き立てた。

 

「そこか」

 

 聞きたくなかった発言。上条は顔を引き攣らせるように笑っていた。

 腹の底に響くような、そんな鈍い音が響いた。

 

 

 ♢

 

 

 夜の帳が都市を包み込み、静寂が支配する中、ただひときわ耳に響くのはサイレンの音だけだった。男は疲れ果てた身体から壊れたヘルメットをゆっくりと外し、そっと風がそよぐ音を感じた。その風は熱くなった彼の体を優しく撫で、彼の戦いがついに終わりを告げた。

 

「ふぅ」

 

 男は胸を躍らせながら息を吐き出す。その息には、達成感が溶け込んでいた。あの男から授けられた武装によって、能力者たちを狩ることができたのだ。時間が経つにつれて、その実感がますます増していく。男は悪役さながらの笑みを浮かべ、その勝利に満ちた喜びを隠すことなく言葉にした。

 

「もう誰も残って居ないか。まあいい、くくく、この(デッドロック)の前では噂に名高い風紀委員も赤子の——」

「——なんて事してくれた訳ぇ!?」

 

 思考が芽生える前、女の声と共に何かが男の腹に強く衝突した。一瞬にして激しい吐き気が襲い、涙が目に溢れる。

 

「な、なぜお前がまだいる!」

 

 男の瞳に映ったのは、風紀委員に保護されたはずの食蜂操祈だった。

 

「悪い予感がして、戻ってきて良かった!」

 

 アンチスキルの車両で意識を取り戻し、急いでこの場所まで戻ってきたというわけだ。彼女は自分よりも遥かに速いはずの車から降りてここまで来ていた。その一連の行動が、彼女の焦りという感情を鮮明に表していた。未だにどこかで響き渡るサイレンの音はこういう訳で鳴り続けていたのだ。

 

「くそッ!お前さえ来なければ俺は!」

「私が誰かなんて関係無いわよ!!」

 

 食蜂操祈はかつてないほどの焦り包まれていた。彼女の視界には、倒れ伏したツンツン頭のだけ男が映し出されている。血溜まりがその周囲に広がり、悲痛な現実を物語っていた。食蜂操祈は心が震える思いをしながら、迷わずに彼の側へと駆け寄った。

 男が邪魔をすることを阻止するべく、彼女は能力を使い男を昏睡させた。

 食蜂は震えるような声で、救急隊に緊急連絡をするために電話を取り出した。指先が微かに震えながら、彼女は声まで震えないよう慎重に言葉を口にした。

 

「上条さん、大丈夫よ。今すぐお医者さんが来るからぁ!!」

「………………」

 

 上条が答えることはなかった。

 

 

 ♦︎

 

 

 ブレーキ音が轟き、救急車のドアが一気に開かれた。白衣に身を包んだ救急隊員が車から降り、駆け足で上条の容態を確かめるために駆け寄る。

 

「ショック症状が出ている。弱めではありますが、とにかく我々に任せてください‼︎」

 

 切羽詰まった声に、上条が生死の瀬戸際にいることは理解ができた。

 隊員が彼の服を破り腹部を露出させた。

 

「腹部に大きな破片が刺さっています!ここでは止血することしか出来ません、病院側に準備を早くするよう連絡してください。すぐに搬送します!」

 

「今取れないの!?搬送する暇なんかあるわけないじゃない、絶対間に合わないわよ!」

 

 救急隊員が首を横に振る。まるで、どちらにしろ上条に未来が訪れる可能性が限りなく低いのだと言っているようだった。

 食蜂は搬送の準備を始める救急隊員を横目に、頭を抱えた。どうすれば彼を助ける事ができるのだろうかと。割れるような頭の痛さにうぅ、と苦痛を漏らす。

 その瞬間、頭に少女の存在が()ぎった。

 

「いやいける、これならいけるわよぉ!」

 

 もう、食蜂は青白い顔をしていなかった。

 自信に満ち溢れた顔になっていた。

 

「同乗をお願いします!一緒にいた方が彼も心が安らぐでしょう」

「いいや大丈夫よ!」

 

 救急隊員の叫びに一言で答え、彼女は担架に乗った上条の耳へと手を伸ばした。

 

「触らないで下さい!」

 

 隊員の静止を無視してさらに手を伸ばす。食蜂のか細い指には、小型無線機が握られていた。

 

「黒子ちゃん、早く戻って来て!」

 

 その無線機で連絡を取ったのは白井黒子だった。

 すぐに、期待していた答えが無線機を通して返ってくる。

 

『もう向かっていますの!』

 

 通信の後、すぐに彼女の声が目の前から聞こえた。

 転移してきた少女を一目見た救急隊員が、食蜂の目論みを理解し救急車から上条をストレッチャーごと降ろす。白井は額の汗を拭かずに、その手を強く握った。途端、上条の顔が和らいだような気がした。

 

「とある病院に運びます!手術の準備を命令して下さい!」

「分かった!……っ準備完了!」

 

 白井の姿が一瞬で消え去った。

 

 

 

「死んだら許さないわよぉ、当麻ぁ!」

 

 蜂の少女は心の中で何度も何度も、祈り続ける。

 

 

 

 

 

 あと、ひとり……?

 


 

 

 

 

 

 

 風紀委員組織図

 

風紀委員本部

風紀委員中央管理センター

風紀委員支部

 

♢別枠♢

犯罪対策班

強行(オーバーワーク)

裏暗(うらやみ)

 

 

 本部

 パワータイプではない人々が多く居り、実はその一人一人が初春に届き得るコンピュータ強者。

 しかし、創設者でもある会長はかなりの肉体派で、八十歳を超える老人でありながら、亀仙人マッチョver.のような肉体をしている。

 

 中央管理センター

 その名の通り本部と支部を繋げる架け橋。一人でやってるらしい。

 

 支部

 交番のような役割をしている。基本的にパトロールなどに出回る風紀委員はここから。

 

 犯罪対策班

 犯罪対策を強化する班。班長になる人間は頭が異常に良い。IQは百五十をゆうに超えるとか。メンサかよ。

 

 強行班

 立て篭もりなど凶悪な犯罪が起きた時、解決を強行する班。今のところ失敗は無いが、学生にやらせるには危険すぎるので廃止案が出ている。

 

 裏暗(うらやみ)

 top secret.

 世間には名前すらも知られていない三つ目の班。何が起きても問題ないほどの圧倒的な強さを持つ風紀委員しかその存在を知っていない。

 班員になるには立候補制。班員は白井を併せても五人ほどしかいない。(白井談)

 

闇を見る事となる

 

 

 

 

 

 

 





独自設定乙

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投稿する度にお気に入りが、少しずつではありますが増えています。しかし、皆さんもお気付きでしょう。私に文の才能はあまり無いです(定期的に編集して分かりやすい?表現にしてます)!それでもお気に入りに登録、評価してくれた方々にもう一度、応援ありがとうございます!

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日常

 結果から言って、上条当麻の手術は無事成功した。彼の体には後遺症などは何もなく、一ヶ月も寝ていれば退院出来る程に良い状態だ。これには上条自身もニッコリ、入院費が少なく済みそうと喜んでいた。

 そんな彼の病室に、手術をした張本人——カエル顔の先生(ベブンキャンセラー)が入ってきた。

 

「いいかな、上条君」

 

「いいですけど、それって入る前に言うものなんじゃ……?」

 

 上条の応えに頷き、カエル顔の医者は話を始める。彼の言葉の後半は無視である。

 

「君ね、こんな無茶を一ヶ月に何回もしちゃ困るよ。まぁこうして生きているからいいのだがね」

 

「う、それはすみません」

 

 今月だけですでに三回……。上条がカエル医者から視線を逸らす。

 心なしか触診をするカエル医者の手が急に荒々しくなった気がする。

 

「いや、謝る事は無いんだがね。

 手術代は風紀委員側が払ってくれるらしいけど、君の治療だけでも本部は大分痛い出費をしてると思うんだよ?」

 

「それは、本当に申し訳ないと思っています」

 

「いや、それは僕に言うことじゃないと思うけどね?」

 

 少しの静寂が二人を気まずくさせた。

 

「えっと、結局デッドロックはどうなったんですか?」

 

「ふむ、それは彼女が話してくれると思うよ」

 

 そんな言葉を最後に、カエル顔の医者は静かに病室を去った。彼の後ろ姿が遠ざかる中、その場にはもう一度静寂が広がった。

 しかし、まもなくして、病室の扉が勢いよく開いた。

 

「本っ当に貴方って人は!どれだけみんなを心配させたと思っているんですの!?」

 

 それは上条当麻の白井黒子(パートナー)であった。いや、この言葉に風紀委員(ジャッジメント)相棒(パートナー)という意味以外の言葉は含まれていない。

 

 彼女は泣き腫らして赤くなった目元を隠すことなく、上条に怒鳴りつけた。上条はこの時、ようやく自分の『日常』が戻ってきたのを感じた。

 思わず笑みを浮かべていた彼は、思わず白井へと腕を伸ばしていた。届いた手が、彼女の髪の流れに沿って頭を撫でる。引き寄せられるように、白井は上条の胸に頭を埋め(うず)める。嗚咽混じりの涙が流れた。

 

「本当に、死んでしまうのではないかと心配しましたのよ!」

 

「すまん。無茶しちまったな」

 

「無茶なんて言葉じゃ済まされませんの!」

 

 顔を上げた白井の目と目が合う。何故だか、微妙な時間が流れた。

 もう一度上条の胸元に(うず)まった彼女が話を続けた。

 

「やっぱり、あの時あなたを止めておくべきでしたの」

 

「いや、いいんだ。俺がやりたいって言ったんだから」

 

 上条が簒奪の槍(デッドロック)のリーダーとタイマンを張ったのは、当然彼自身の意思だった。止めないでおいて大変無責任ではあるが、白井はこんな風になるだろうことは予想が付いていた。それでも彼女が上条を止められなかったのは、この男の目が強く語っていたからだ。絶対に俺がやるんだと。

 

「そんなことより食蜂は大丈夫か?あの後どうなったのか分からなくて」

 

「操祈さんなら、身体的精神的疲労両方が大きいので近くの病院で入院しておりますわ」

 

「そうか、大丈夫なんだよな?」

 

「はい、そこまで重くないようでして、上条さんより早く退院する予定ですの」

 

 そこまで聞いて、ようやく上条は息をホッと吐いた。安堵の念が彼の心臓を増幅させる。

 結果的には、彼にはデッドロックを止めることが出来なかった。しかし、その行動が食蜂を守ったのだ。彼は人を、いや、彼女を守ったことを誇りに思うだろう。

 

「良かった。アイツおっちょこちょいだからな、心配になるんだ」

 

「貴方は自分の心配をして下さいな」

 

 上条の優先順位は、超えられない壁よりも高いところに他人がいて、その真逆の位置に自身がいるのだ。彼は優先するものを間違え過ぎている。だが、それが白井との相性が抜群な理由なのかも知れない。

 

 これは白井の切実な願いだったのだが、上条は浅く頷くだけだった。

 

「言ったところで止めないだろうと思っていましたの」

 

 彼女は諦めることにした。それでも、彼は強くなっていくから。

 

 

 私に師事してもらう事によって(笑)

 

 






短くてすみまんせ。すみません。


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睡眠時間約五分ノ女

「お見舞いにきてくれたりしないのかしらぁ」

 

 食蜂は自分の恋を認めた。きっと、彼女がこの先恋に落ちることはないだろう。何故ならば、この恋心は叶わぬものと決まったわけではないからだ。

 病室の扉が開く音に肩がびくついた。

 

「へ!?か、か、かみじょうさん!ん?」

 

 そこに入って来たのは上条当麻その人。ではなかった。思わず食蜂の口からだ、だれ?という言葉が溢れた。

 食蜂が全て(魅力度)で負けを認めるほどに完璧だといえる女性だった。彼女の制服は()()()()()()

 

「えっと、どちら様ですか?」

 

「それはちょっと失礼なのでは?」

 

「えっと、会ったことあります?」

 

 食蜂の口調が変わり果てているのは、彼女の寄せていた期待とはまったく異なる人物が現れたからである。

 上条、白井、帆風などなど。食蜂の見舞いに来る者など両手だけで数えられる程度、それは彼女自身重々承知していた。しかし、病室に訪れた女に関しては見た記憶がなかった。

 食蜂の疑問はまったくもって正しいものだった。なぜなら、彼女たちは会話はおろか、顔を突き合わせたことすらもないのだ。

 だが、そんな状況は茶髪の女にとってまったく異なっていた。彼女にとって、食蜂操祈という存在をただ恨むだけでは足りないのだ。彼女の心には、食蜂を殺したいという強烈な願望が渦巻いていた。

 

「あ」

 

 運命のような不可解な感覚が食蜂の内に湧き上がる。それはまるで風が予期せぬ方向から吹き付けるようなものであり、彼女の心を揺さぶった。どこからやってきたのか理解できないまま、彼女はその感覚を言葉そのまま言葉にした。

 

「あなたは、私に近い。それも、どうしようもないほどに」

「それはそうよ」

 

 対する少女はうっすら笑みを浮かべ、それが当たり前だと応えた。

 

「私の能力は『心理穿孔(メンタルスティンガー)』。今は強能力(レベル3)止まりだけど、本来なら超能力(レベル5)まで育つはずだったんだもの」

 

「え?」

 

 その言葉は今の食蜂にとって、とても理解できるモノでは無かった。

 話を続ける女に冷や汗が流れる。

 

「『素養格付(パラメータリスト)』っていう秘密のファイルは知ってる?それは研究のため、利害のため、人類の発展のため、大人の事情のため。誰を育てて誰を切り捨てるか、えこひいきに使う内部資料。貴女は知らないでしょう」

 

「そ、それで、何が目的かしらぁ?」

 

 気付かれないようにリモコンに手を伸ばす。

 

「あ.........え?」

 

 その手がリモコンに届く前に体が後ろに倒れた。

 

「ど....うし......て」

 

 体が完全に倒れた時、異様に大きな声で確実に聞こえた。

 

「私の名前はね、蜜蟻愛愉。蜂になれなかった蟻」

 

(ああ、そういうことか)

 

 途切れる意識の中理解した。彼女もまた、事情に巻き込まれた人間だった事に。

 

「そして、貴女を育てるために世界から切り離された、もう一人(ひとつ)可能性(レベル5)だったの」

 

(わ...たしの...せ...い)

 

 食蜂の意識は途絶えた。

 

 

 


 

 

 

 蜜蟻愛愉は、意識を失った食蜂を目の前にしながら、小さな声でつぶやいた。その言葉は風に揺れ、微かな響きを放ちながら、空虚な部屋に広がった。

 

「まあ、別に恨んでもいませんけどね」

 

 実のところ、彼女は食蜂を恨んでいない。

 

(ここまで私が変われたのも、一応あなたのおかげですから)

 

 彼女は日々、その思いを忘れずに胸に刻んでいた。彼女は過去の風景を追憶し、遥かなる記憶の彼方に浸っていく。

 一ヶ月程前の自分を思い出した。

 

 


 

 

『上条さん、来てくれるかなぁ』

 

 蟻は第二十一学区のとあるダムの前で携帯を触っていた。ブルーライトが彼女の表情を照らす。窺えたのは悲しみや絶望といった感情だろうか。目は赤く腫れていた。

 てろりん、とメールを送信したメロディーが鳴る。彼に向けて送るメールの内容は以前から似たようなものばかりだった。

 

《上条さん、また相談があります》

 

 蟻は返信を待つ。

 もう一度だけでいいから、彼の声が聞きたかった。

 

 

 ♦︎

 

 

 何分何十分。いや、何時間が経過したのだろうか。彼からのメッセージをすぐに見るためにつけっぱなしにしていた携帯は、バッテリーを残すところ五パーセントとなっている。

 巨大なダムに向けて視線を落とす一人の少女。彼女を照らすのは月と携帯電話の灯りだけ。

 その灯りが、少しだけ暗くなる。

 

「あ」

 

 携帯が、今、シャットダウンした。何度電源ボタンを押そうが、その灯りを取り戻すことはない。画面が月夜の光を映し出した。

 

 堰き止めていた感情が、彼女の口から吐き出される。

 

「ふふふ、私は、やっぱりいらない子ですね」

 

 膝から崩れ落ちる。膝から血が流れるのも気にせず、もう何も悔いはないと言うかのように。

 そしておもむろに、周囲に転がっている小石を拾い上げ、ひとつずつポケットや服の中にしまい始めた。小石は次第に数を増し、セーターの重みが増していく。

 

「もともと覚悟は出来ていましたし、何ともありません」

 

 彼女は目の端に涙を溜めながら、終わりへの歩みを進めていった。その瞳を閉じ、涙が頬を伝う一瞬で、彼女は勇気を湧き立たせ、足を前に進ませた。

 浮遊感がその身を襲う。向きを変え始める体に、肌が粟立つような恐怖を覚えた。頭が下を向く。

 

 水しぶきが舞い、波紋が広がる。石の重みによって、ゆっくりと体は深みへと沈みゆく。

 蟻は死ぬ。その筈だった。

 

 しゅんと風を切る音がした。宙を浮いた少女が、項垂れる女を抱えていた。

 

「自殺未遂者を発見しましたの!水面と強く衝突し気絶しており、水も大量に飲み込んでいます!早急に準備を!」

 

 白井黒子が世界の運命を導いている。

 

 

 ♦︎

 

 

 

 目を開けると知らな、いや知っている天井だ。どこまでも続いて行きそうな程白いこの天井には見覚えがあった。

 彼に出会う前、私は一度自殺未遂をしていた。その時と同じ病院だ。

 それより、あのダムの状況からどうやって助けられたのか、いやこの地獄へと引き摺り上げられたのか分からない。

 体を起こす。何かに左手が触れた。そちらに視線を送れば、椅子に腰掛けた少女がベッドに頭を預けていた。その寝顔には酷い隈ができている。彼女の苦労が窺い知れた。

 少女の腕には緑の腕章が付いており、なんとなくこの人が私を助けたことは予想が付いていた。

 

(善意のつもりなんでしょうけど、ほんと迷惑ですね)

 

 また死ぬことが出来なかった。何故か、それが私の心を酷く締め付ける。

 

「蜜蟻さんですわね?」

 

 私の思考に声が割り込んだ。寝ていた少女だ。

 軽く頷くと、少女の口からは、ぐちぐちとした言葉が絶え間なく流れ出る。彼女の説教は延々と続き、私はほとんどを耳に入れずにいた。しかし、その中で響いた名前に私は一瞬、身を乗り出した。

 

「上条さんが報告しなければ、貴女今頃ダムの底ですわよ?」

 

「今上条って言いましたか!?」

 

 私が急に叫ぶと、少女はツインテールが逆立たせて、驚きの表情を浮かべた。はぁとため息を吐いた彼女は呆れたように言葉を投げかけた。

 

「元気モリモリじゃないですの。携帯を無くしたから、貴女のことを見張ってくれないかと言われましたので。案の定と言う感じでしたわ」

 

 たしか、彼はよくツインテールの小さな先輩の話をしていた。彼女がそうなのか。

 彼が私を無視したわけではなかったことに、私は心から安堵した。その事実が私にとっては、嬉しい驚きと共にやすらぎをもたらしてくれた。

 

「へくちっ!」

 

「あ、私の為にダムに飛び込んだからですね」

 

 少女のくしゃみに、私の良心が痛んだ気がした。

 

 

 ♦︎

 

 

 その後、私の人生は再び大きく変わっていった。病院には、上条当麻さんと白井黒子さんがお見舞いに訪れた。彼らとの出会いは私にとって新たな展開をもたらすこととなった。彼らとの会話の中で、様々な話題が交わされた。

 

 特に白井さんは、お決まりのネタを繰り出してくれるようで、上条さんと初対面の時の出来事をおもしろおかしく語ってくれた。その鮮やかな話術とユーモアに、私たちは笑いがこみ上げることがしばしばだった。

 

 そして、上条さんは白井さんの話にツッコんだり、やり取りに加わったりしてくれた。こんなに笑ったのは初めてだと思う。その瞬間が、私の人生で最高の時間となった。彼らとの交流は、喜びや楽しみを私に与えてくれるものだった。

 

 退院後、私は二人と一緒に買い物に出かけた。上条さんの絶望的なファッションセンスに、白井さんと共に呆れることもしばしばだった。笑いながら服を選ぶ様子は、私たちにとって楽しい思い出となった。

 

 また、上条さんと私の思い出の喫茶店にも訪れた。そこで上条さんと私が出会った時の出来事を話し合い、白井さんが上条さんをからかったり、面白いエピソードを披露したりした。その場の笑い声が店内に響き渡り、楽しさと幸せな時間が広がっていった。

 

 その日々の中で、私の恨みや憂いを忘れるくらいの楽しさが私を包み込んでいった。上条さんに対する恋心だけでなく、白井さんへの感情も次第に芽生えていった。彼らへの愛おしさと絆が、私の心を満たす。

 

 喜びと笑いに満ちた日々は、食蜂操祈への恨みを遠ざけ、新たな感情を抱くようになった。

 私は地獄に引きずり上げられてなんかいなかった。

 

 


 

 

 幸せな記憶の中、携帯のバイブレーションが蜜蟻の体に響いた。

 スカートのポケットから携帯を取り出し、彼女の目に映ったのは、上条が目を覚ましたと言う白井からのメール。蜜蟻はほっとしたのか座り込み、涙を流し心の中でよかったと叫んだ。

 彼女が座り込んだまま一分ほど経っただろうか。まだ足は震えているものの、涙は引いていた。

 寝かせておいてごめんなさいと、蜜蟻は躊躇しながら少し恥ずかしい気持ちで食蜂を叩き起こした。彼女はおそらくたった五分程度しか眠っていないだろう。

 

「ん、んぅーん」

 

「寝ぼけているの?早く起きなさい」

 

「お、お母さんのような暖かみぃ!?」

 

 食蜂が半分も開いていない目を擦りながらほざいた。

 しかし、彼女の上条に対する執着は高いらしく、彼が起きたことを伝えると目を大きく見開いていた。

 蜜蟻が細かいことは彼が入院している病院で聞くことを伝えると、食蜂が可愛くおねだりする。

 

「わ、私も連れて行っていいんだゾ☆」

 

「では、背中に乗ってくださいね」

 

「こんな姿もう見せられないわよぉ!」

 

 などと彼女は悲痛な声をあげながら、自分の能力を辺りにぶちまけた。が、それに応じるように蜜蟻が似たような能力でそれを打ち消していた。

 

「もう!これデジャブじゃないのぉ!」

 

 食蜂は上条によって今と全く同じ状況が作られたのを思い出す。

 

「ああいやだああああ!ってそういえば蜜蟻さん?私の事恨んでるんゃなかったのぉ?」

 

「あら、まだ勘違いしていたんですね」

 

「えっ?」

 

「えぇ!」

 

 

 ♢

 

 

 能力で支配したタクシーに乗り込んでから、十数分の間、車は時速百キロで疾走し続けた。風景が一瞬にして駆け抜け、周囲の建物や車両がぼやけたまま通り過ぎていく。その速度とスリルに心臓は高鳴り、髪は風になびき、目に映る光景はただの一瞬の幻と化した。

 

 そして、やがて上条の入院する病院に到着した。タクシーは急ブレーキを踏み、轟音と共に停車した。食蜂が振動とともに座席から浮き上がり、瞬間的に体が重力に引き戻される感覚を味わう。車を降りる頃には彼女の顔は青くなっていて、むしろそちらの心配を優先したいほどだった。

 

「カエル先生!上条さんに会いに来ました!」

 

「あぁ蜜蟻くん、それと食蜂くんだね。彼はいつもの部屋だよ」

 

 蜜蟻がカエル先生に挨拶をし、部屋の確認をするとすぐに病室へ走り出す。道中食蜂はご自慢の運動神経の悪さを披露し、またもや蜜蟻に背負われたまま病室へ向かっていた。これでも白井に改善されているのでこれはもうどうしようも無いのかも知れない。

 

 

「蜜蟻さん、上条さんとの関係はぁ?」

 

「ふふふ、貴女よりも深い関係よ?」

 

 食蜂の質問に蜜蟻は自信を持って答えた。その答え方にムカついたのか首を絞めようとする食蜂だが、彼女の力では出来るはずもない。

 

 

「それで? 深い関係ってなにぃ?」

 

 そう聞かれた蜜蟻は、懐かしむような顔をして話し始める。乙女らしい顔が食蜂の腹を立たせる。

 

「そう、確か一ヶ月前のこと、私が上条さんと初めて会ったとき、私は上条さんに告白された」

 

 雷のような衝撃が食蜂の体に走る。目を泳がせながら食蜂は問う。

 

「ッ!?つ、つまり!?」

 

「私は彼にこう言われたの。

 『これから俺と楽しい毎日を過ごすんだ。拒否なんてさせないぞ』ってね」

 

「あはは、嘘はいけないんだゾ☆!!!」

 

 乾いた笑いをしながら食蜂は体を後ろに倒そうとするが、蜜蟻が背負っているので倒れようにも倒れられない。

 

「嘘じゃ無いわよ、ちゃんと私が覚えてる。見せてあげるわよ」

 

 ぴっと音がしたその瞬間、食蜂の体に衝撃がまた走る。

 

「う、うそよ、そんなわけない。上条がこんな人に告白するわけがない」

 

 もちろん、蜜蟻が見せたのは記憶の一部だけ。本来なら『これから俺と楽しい毎日を過ごすんだ。拒否なんてさせないぞ』の後に色々な事が起こるのだが、食蜂は知るよしもない。彼女は白目を剥いて体の自由を手放した。

 

 

 


 

 

 

 ぼふっ!

 

 

 ドアへと手を伸ばしたとき、何やらベッドに人が倒れ込むような音が聞こえ、蜜蟻は食蜂を背負ったまま静止した。

 

「静かにして下さい」

 

 食蜂は言われた通り息を潜め、蜜蟻は小声で病室の中で起きている事を的確に予想する。

 

「これを聞いても静かに出来ると約束できます?」

 

「できるに決まってるじゃないのぉ」

 

 食蜂は蜜蟻に乗ったまま自信満々に頷いた。そして、蜜蟻は話し始める。

 

「あくまでも予想、でもかなりの確率で当たっていると思われる事だと言えるのですが」

 

「???」

 

 食蜂は、回り諄すぎる感じのある気がする表現に首を傾げる。

 

「おそらく、今この病室のベッドに白井さんが上条さんに押し倒されています」

 

「ふぁッッツツツッッッ!?!!!???!!?」

 

 あまりの衝撃に食蜂はまた白目を剥いた。しかし、よくよく考えると上条の事なので、よくある事だとすぐに意識を取り戻す。

 

「えーと、それで?」

 

 彼女はまた首を傾げる。その様子に痺れを切らしたのか蜜蟻は、徐に携帯を取り出してカメラを起動した。ここで食蜂はいけない予感がビンビンすることに感づく。しかしもう遅い。蜜蟻は食蜂を振り解きドアを開けた。

 

 カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ

 

 おそらく二十枚くらい写真を撮った後、蜜蟻は病室から出てきた。その顔は真っ赤に染まっている。まるで恋する乙女なのかと勘違いするほどに。流石の食蜂でさえその顔を見てしまえば、撮られた写真を見たくなってしまうのが人間というもの!

 

「み、見せてくれないかしらぁ!?」

 

 かしらぁ!?の部分で声が裏返っていた事はさておき、その写真にはしっかりと、上条が白井を押し倒しているところが写されていた。

 

「く、黒子ちゃんってこんな顔するのね。顔が真っ赤じゃないのぉ」

 

「ふふふ、流石に知らなかったでしょう?他にもこんな写真がありますよ」

 

「ぶっ!鼻血が出てしまったわぁ!上条さんの体はムキムキね!他には他には!?」

 

「これとかどうですか?白井さんがパンダの着ぐるみを着ているところです!」

 

「かっわいいぃぃい!!いいじゃないこれぇ!送ってくれる?早速アドレスを交換しましょう!私も色々送るからぁ!」

 

「いいですね!じゃあ!これからもよろしくお願いしますね!」

 

「ええ!よろしく!」

 

 ふたりは かたく てを むすび ちかいあった 。

 

 ♦︎

 

 あと、零人。

 

 






死の開幕という話の続きから始まっています
たったの五分しか寝れなくても妙にスッキリする事ありますよね


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二章 暗部編 天体水球
女王


 俺の名前は白仁黒斗(しらにくろと)。いや、それは一年前までの名前だったか。

 改めまして、わたくしは白井黒子。柏木幸(かしわぎさわい)小学校に通うエリィート!でエレガンチュ!って感じの淑女ですの。

 

 私には今、抜群に成長しているところがありますの。それは(まさ)しくおっpではな〜い!空間移動(テレポート)の能力ですわ。

 私の能力は以前まで、微妙にめんどくさい縛りのあるものでした。しかし、先ほど言った通り私の能力は伸びていますの。例えるならばステイルくんの身長くらい!

 一度では七十メートル程度が限界だったはずが、今では百メートル近い転移が可能に!そんな事実に大興奮ですの〜!この感覚は上条さんの裸を見た時以来!

 あぁいや、そんなことより今は中間テストの勉強ですわね。

 

 


 

 

 〜システムスキャン〜

 

 説明しよう。システムスキャンとは、定期テストの週末に行われる能力測定のことである。学園都市の学生はすべからくこの日のための毎日を過ごしており、また、この日に歓喜と絶望を味わう二つのグループに分けられるのだ。

 

「白井さん、またこの日が来ましたね」

 

「ええ、レベルが上がっていればいいですわね」

 

 ちなみに今、白井に話しかけてきたのはクラスメイトの少女。本作には全くもって関係してこない。少女は、白井と話せたことを嬉しそうに叫んでいた。間反対のクラスのこであった。

 

 白井はこのシステムスキャンで出すことはない。あかさたなはまやらわからである。せっかくなら常盤台でなりたいですの。というわけだ。

 

 ♦︎

 

「さてぇ、今学期もこの時が来ましたぁ、システムスキャン!早速出席番号一番の者が出てきたぞッ!」

 

「彼女の能力は発火系のようですね。現状ではレベル5にパイロキネシスはいませんから、この子が超能力者になってくれるよう願いましょう」

 

「おおっとぉ!炎によって的が砕けたぁ!かなりの威力ぅ!しかしぃ、これは少しコントロールが悪いかぁ!?」

 

「えぇ、これは惜しいですねぇ。コントロールさえ良ければレベル4にはいけたんじゃないでしょうか」

 

 総合評価 レベル3

 

「惜っしぃ!あと0.6ポイント足りればレベル4と認定されていたカァ!!?次に期待だあああああ!!」

 

 

「さて続いては十番の方ですね、資料によれば彼女は水流操作の能力者のようです。前回は惜しくもレベル二だったみたいですね」

 

「気になるのは前回から威力が上がっているかと言うところとぉ、水以外の液体が操作できるかだあ!」

 

 

「水が放たれたぁ!おっとお?威力も申し分ないようだがぁ!?これはいい威力だぞぉ!!続いては泥水ぅ!前回は泥水の重さに負けてしまったのだが、今回はどうなるかァ!!」

 

「持ち上げることができましたね。しかしこれは前回も一緒、ここから運ぶことができるかですよ」

 

「いいぞぉ!泥水は十メートル先まで進んで落ちたぁ!」

 

「次はアルコールのようですが、これはすこし難しかったですかね」

 

「いーやいっやぁ!これほどできればレベル3は確実だぞぉ!」

 

 総合評価 レベル三

 

 

「キタァーー!待ち侘びたこの時が漸くやってきたんだぁ!登場するのは、白井黒子ォ!ツインテールが風に靡いているぅう!!!!」

 

「いやぁ凄い人気ですねぇ。彼女が出てくるだけで会場がわっと盛り上がりました」

 

「なんて言ったって彼女はこの学校唯一空間移動(テレポート)だああああ!その上、体術では負けなしの紛う事なき女王様ですからねェェェェェ!!」

 

「私の娘に会ってもらったことがあるんですが、とにかく凄い子でして、周りの子全員を友達にしちゃう感じなんですよ、本当に娘も彼女のファンでしてね。」

 

「やはり天性のカリスマなんだろうかああああああ!」

「さて始まッたァあああ!まずは飛距離だッ!」

 

「前回は、七十メートルを超えて素晴らしい数値でした。今回は超えることができるのでしょうかね」

 

「おっとぉ!?どうなったんだあ!?白井の姿が見えなくなってしまいましたああああああ!」

 

「いや、かなり遠いですがあそこにありますよ」

 

「あぁそこだったかァ!いつの間にか百メートルも先にいたぞぉおおお!」

 

「確かにそれくらいはありそうですが、どうなのか」

 

 飛距離 九十七、六メートル

 

「おぉ!素晴らしい記録ぅぅぅう!この飛距離は結標淡希さんに並んだのではないかあああああ!」

 

「一般的なテレポーターの記録を軽々しく抜かしていきました。やはり女王様、格が違う」

 

「次は能力の精度だッ!彼女の能力の七割程度の位置、七十メートル先の的を狙うぅ!!!!」

 

「はい。七十メートルといえば、結標淡希さんも三センチ離してしまう距離です。誤差がそれ以下なら、彼女を超えたと言ってもいいでしょう」

 

「さぁ飛ばされた!私の目には完璧に印と一致しているように見えるがっ!どうなんだっあああ!」

 

「さ、さて、私にも完璧に見えますヨッ!」

 

「我々には機械の判定を待つしかなああああああい!なんでよおおおおお!」

 

 誤差 0.4センチ

 

「きたおおおぉおおおおお!!!」

「おおおおおおおお!」

「キタコレーーーーー!!!!」

「気になりすぎりゅーー!」

 

 総合評価 A以上

 レベル4以上

 

「「やりました!レベル4以上!」」

 

 宴のような賑わいが起き、誰もが彼女を祝っていた。学校の校庭は活気に満ち、笑い声や歓声が響き渡る。

 後日開かれたパーティーには、友人や家族、同僚、そして彼女の大切な人々が集まり、彼女のことを称賛した。美味しい食べ物や飲み物が供され、祝福の言葉や贈り物が彼女に届けられ、彼女は喜びに満ちた笑顔を浮かべていた。この特別な日は、彼女の人生の中で忘れられない瞬間となる。

 上条が食費浮いた〜と喜んでいたからだ。

 

 


 

 

 

 ○白井黒子 Bカップ

 

 本作のとある科学の心理掌握はここで終わり。期間は八月から九月にかけて密集されていた。彼女はその間も努力を惜しまず、成長をした。そう、能力も胸も。何とBカップ。お姉様なんてもはや過去のもの。今後は固法先輩を目指す。

 

 ○上条当麻

 

 本作のとある科学の心理掌握において重傷を負ったが、カエル先生と言うドクターXを踏み躙るようなスゴすぎる医者のおかげでほぼ無傷に回復。しかし傷跡は残ってしまった。お腹に刃物で切られたような一本の傷は、不謹慎だが何故かカッコよく見える。

 

 ○食蜂操祈 Eカップ

 

 本作のとある科学の心理掌握のメインヒロイン。上条と共にデッドロックから逃げる場面は非常にハラハラするもので、気を失った時はもっと焦った。終盤では上条の命を救い助けた今回のMVP。

 入院前はDカップだったが、入院中の質の良い生活のせいか、一カップアップ。固法先輩も目前かもしれない。まだまだ成長途中。

 

 ○佐天涙子 Dカップ

 

 とある科学の心理掌握には、全くと言っていいほど出演はしなかった。それでも、蜜蟻愛愉の退院後は風紀委員の支部でよく会って遊んでいた。そのため友達としては一番の仲良し。黒髪清楚の大和美人。胸は前回から大きくなっていないが、やはり身長のおかげか全てが素晴らしい。

 

 ○固法美偉 Iカップ

 

 とある科学の心理掌握には、名前が一度出ただけだがこちらも蜜蟻愛愉の退院後は支部でよく話をしていた。主に蜜蟻のメンタルケアは固法先輩が担当しており、蜜蟻も彼女は姉のような存在だと思っている。

 胸は前回から大きくなっていないが、これでも規格外だと思う。白井には胸の目標地点として登録されている。

 

 ○NEW!! 蜜蟻愛愉 Dカップ

 

 とある科学の心理掌握のメインヒロインの少女。食蜂操祈に能力開発の機会を奪われた彼女を恨むこととなるが、食蜂を抜いたいつものメンバーによって改善されることとなる。食蜂との初対面時には魅力度で食蜂を軽く抜き去る足元の魅力を披露した。趣味は白井と上条の観察や写真を眺めること。最後には食蜂と握手をして仲を深めた。いつものメンバーとして退院後すぐに馴染んだ。彼女にとって一七七支部は一番の場所。

 

 

 ○初春飾利 AAAAAAカップ

 

 記憶にはないが、とある科学の心理掌握において一度も名前すら出てこなかった。はず。

 友達にはこの設定に不満を言われる。しょうがない。ネタキャラは必要なんだ。だからといってこの可愛い子をネタキャラにする必要は、、、大丈夫。イン○○○○さんがいる。

 

 

 ◯解説者

 

 ・北之(きたこれ) 喜田多(きたお)

  とにかく叫んでれば解説になってると思ってる変な人。学園都市ではかなり有名。

  キタコレーー!

  きたおおおぉおおおおお!!!

 

 ・古賀(こが) (ふぁん)

  普段は物静かに解説しているが、最後の最後、興奮すると変な口調が出てきてしまう。

  気になりすぎりゅーー!

  うちの()()()()()でしてねぇ。




https://syosetu.org/font_maker/?mode=font_detail&font_id=109

使用させて頂きました。


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海の王 白髪の王

 七月某日

 

 ここは、無数に聳えるガラス張りの高層ビルのうちの一つ。『天体水球(セレストアクアリウム)』と呼ばれる巨大な水族館。最上階に着いたエレベーターを降りると、まず見えたのは一面に広がる巨大な海(すいそう)。そしてそれらの中にいる魚たちだった。夜はほかの建物や月の灯りを揺らめかせるそれは、あまりにも幻想的で『媚薬を盛るより効果がある』とまで揶揄(やゆ)されている。この学区一番のデートスポットであった。

 

 その水槽の一つ、一番目を惹くであろう大きな水槽の中には海の王者とも呼ばれるシャチがいた。存在を主張するかのように、水中で優雅に舞踊していた。その身体は瞬く間に波紋となり、一糸乱れぬ流れとなって連続してくるくると回り続ける。水しぶきが空気と交じり合い、彼の周りには幻想的な輝きが生まれる。自らの美しさに酔いしれながら、シャチはその勇姿を誇示し続けるのだった。

 

 水族館の中を声が響いた。

 

『報告です。蜜蟻愛愉が風紀委員によって保護されてしまったため、手が出せない状況になりました』

 

「はぁ?」

 

 機械を通したような声に応えたのは、なんと水槽を自由に泳ぎ回るシャチだった。彼は静かな海の底から返事を返す。澄み渡る水の中で、シャチは聞こえた声に向かって怒鳴りつけるのだった。その威厳ある姿は、まるで海神のようであり、その響きは波間に響き渡り、驚きと畏敬をもたらした。

 

「何をしてるんだ、お前らを信用してやったと言うのに!

 くそ、風紀委員となると、あいつらのうちの誰なのか!?」

 

『風紀委員の映像を送りました』

 

 そういうと、水槽の前に垂れ幕のようなプロジェクターが現れた。そのプロジェクターに表示されたのは蜜蟻をダムから引き上げる白井の姿。その映像を見たシャチは叫ぶ。

 

「やっぱりかぁ!何故一番の厄介者がここで現れるんだ!」

 

『申し訳ございません』

 

 丁寧な言葉で謝るものの、それは上部だけ。機械越しに話す男はこの魚と話をしたくなくなっていた。

 

(大金積まれて女を拐いに行ったが、まさか白井黒子まで現れるとはな。面倒ごとに巻き込みやがって、この魚野郎はブラックリストに追加だな)

 

 彼の所属する暗部組織は、このシャチを相手に商売をしなくなったと言うわけだ。この男はもともと入っていた組織を白井に(ジャッジメント)されていたので、その反応は実に正しいものであった。

 

「もういい、お前たちには頼らん」

 

『了解』

 

 そうして通信は途切れた。

 

「チッ、使えない奴らだったな。暗部の中でも有名なところだったのにも関わらず」

 

 通信が終わった後一人怒鳴り、呟く。

 

「まあいい、私の目標は食蜂操祈の能力を奪う事。デッドロックに簒奪の槍(クイーンダイバー)は渡した。あとは時間の問題だ」

 

 

 

 

 八月某日

 

 ぴこりん、と一つの通信がシャチへと繋がる。彼の性格に合わないようなその電子音は一ヶ月ほど前と同じ、彼の苦しみの始まりの音色だった。

 

『報告、デッドロック壊滅により食蜂操祈を取り逃がしました』

「はぁ!?」

 

 食い気味の反応である。あまりの驚きに水が左右に大きく揺れ動いていた。水槽の縁から水が溢れるほどであった。

 

「おいおい、どうしてくれるんだ。蜜蟻愛愉に続いて食蜂操祈も取り逃がしたのか?」

 

 ぷかぷかぁ、と水面に浮かぶシャチは痙攣を起こすかのように小刻みに震えていた。これが人間の姿だったのならば、貧乏ゆすりだとでも表現できていたのかもしれないが、それが魚では可愛いだけである。

 

「あぁ、全て終わりだ。私の計画は全てが終わりだ」

 

 シャチ、その名前は蠢動俊三(しゅんどうとしぞう)。彼は全てを諦めるかのように、水死体のように浮かんでいた。

 

 

 

 九月某日

 

「いんやぁ!まだだ、私の計画はまだ終わっていないぞ!」

 

 そうしてまた一ヶ月後のこと、蠢動は見苦しく足掻く事を決めた。それが、可能性の一欠片しか無いと分かっていても。

 

一方通行(アクセラレータ)を私の計画に参加させる」

 

 


 

 

 一方こちらは、退院をした上条を家へと送り届けた白井黒子である。彼女は風紀委員のパトロールがあると言って家を抜け出していた。街を煌びやかに演出させる街灯が、彼女の影を映し出していた。

 

「やはり、私が本物の白井黒子でなくともパトロールは必要ですわよね」

 

 本来なら、小学生の彼女が外を出回るようなことは出来ない時間だが、今は右腕に掲げる腕章のお陰でアンチスキルに咎められることもない。つまり、今の彼女は無敵であった。

 

「今までの傾向だとやはり、この時間は路地裏が事件の多発地帯ですか」

 

 そう言って、白井は路地裏へと足を進めた。

 

 

 

 ♢

 

 

 

「お前が一方通行(アクセラレータ)だな」

 

「あァ?何の用だ黒ずくめさンよォ」

 

 白い髪の少年と、とある組織のエージェントが邂逅を果たした。エージェントの男は、路地裏の涼しい気温なのにも関わらず額に汗をかいている。まるで少年に対して恐怖を覚えているかのように。

 男が少年に、揺れ動く声のまま提案をする。資料を提示して分かりやすく丁寧である。内容は食蜂操祈の捕縛であった。

 

「面白いこと言うじゃねェかァ、それで?それに対するモノはなンかあンのかァ?」

 

「ッ!引き受けるのか。対価は次のページだ、読め」

 

 眉間に皺を寄せながら次のページを読む。資料を見た一方通行の目が大きく開いた。

 

「おい、これは本当かァ?だとしたら——」

 

 ——この会話を覗く者がいた。すぐに気配を察知した一方通行は、能力を使ってその位置を確認しようとした。しかし、気配は彼が能力を展開する前に消えていた。まるで一方通行の能力から逃げるかのように。

 

 空を切るような音がした。気配は能力から逃げていたのではない。一方通行を魔の手(変態)から助けようとしていたのだ!

 

 すぐに何か硬いものが折れるような音がした。一方通行がその方向を見ると、そこにはエージェントの姿が無い。少しだけ視線を下げると、一方通行は眉間の皺をより深く刻ませた。

 

「なんだァ、このチビはよォ」

 

「ふぅ、よかったですの。貴方が変態(エージェント)に連れて行かれなくて」

 

 目に映ったのはピンク髪の少女であった。腕に巻かれていた腕章で少女の正体がわかる。どうやらパトロール中の風紀委員だと。

 一方通行は、実は状況を理解できていない頭のまま少女に問う。

 

「テメェ、こんなとこで何してンだァ?」

 

「見てわかりませんの?貴方と言う少年をこの変態から守ってあげましたのよ?」

 

「ハァ?」

 

 一方通行には言っている意味が分からなかった。こいつは何処をどう見てエージェントを変態だと勘違いしたのか、皆目検討がつかない。しかも、男同士である。そんな間違いなど起こり得ないはずだ。

 

「まだ理解していない顔ですわね、ひとまず休憩できる場所に行きましょう」

 

 そう言って、エージェントを触れて消し去った少女は、一方通行の手を引き路地裏を出て行く。やがて着いた場所はお高そうなカフェだった。

 

 ♦︎

 

「えーと、じゃあ私はいつもので、貴方は何か食べますの?オススメはこのフレンチトーストですわ。口に入れた瞬間甘さがいっぱいに広がるんですの」

 

「いや、俺は肉が食いてェ」

 

「いやいや、ここはカフェですのよ?お肉なんてあるわけ無——」

 

「——ございますよ」

 

「じゃあそれで頼む」

 

「え、あぇ?半年通っている私の知らないメニューがあるんですの........」

 

「えぇ、開店当初からあります!」

 

「あ、あぁ、そうですのね、じゃあこれで頼みますの......」

 

 死んだ目のまま俯く白井を、一方通行はつまらなそうに眺めている。数十秒経つと、白井は意識を取り戻して生きた目をするようになりそして、白井はイキイキと話し始めた。

 

「先程の『テメェ、何してんだァ?』の答えですわ。私は風紀委員としてパトロールを行っていましたの。

 傾向的に、やはり路地裏の事件が多いので路地裏へと進みました。そうしたら怪しげなスーツのおじさんが歩いていたんですの。あぁ、これは犯罪者だ。そう思ったんですの。だからつけて行って、犯罪を犯すまで待っていました。

 思ったよりも早かったですわ、あの変態が貴方をターゲットにするのは。なんてったって、貴方を見つけた瞬間早歩きになったんですもの。それはもう驚きました。

 貴方があの変態が話しているとき、私は貴方の身が心配で心配で仕方ありませんでしたの。でも良かった。貴方が無事で」

 

 無言で話を聞いていた一方通行は、喋ろうとして口を開けるが呆れてなのか言葉が何も出なかった。ため息をついたところで、少女が話しかける。

 

「ところで、先程貴方はあのエージェントの提案を呑み込もうとしましたか?」

 

 少しだけドキリとした。このチビは最初から分かっていたのか?そんな考えが一方通行の頭によぎる。

 

「さっきまでのは演技ってわけか」

 

「ええ、学校では人気があるんですの。さすが女王!なんて言われたりもしますの」

 

「いやそんなことは聞いてねェ、俺はあの男の提案を呑もうとしたとして、だから何だって言うんだ?」

 

 一方通行は御自慢の学園都市一位の頭で考えていた。

 

(こいつは風紀委員で確定。それでおそらく能力は転移系、俺の能力でどうとでもできる。恐れることもない。問題はこいつの目的だ、この俺に接触してきたんだからそれなりの理由があるはず)

 

「だから何、ですか。いいえ特にはありませんが、そのポケットに入っている資料を見せて欲しいんですの。それには貴方が提案を受ける対価が記されているはずです」

 

「見せると思ってんのかァ?」

 

「あら、見せてくださらないんですの?なるほどよほどエッチなモノなんですね、配慮が欠けていましたわ。おほほほほ」

 

「何言ってんだお前」

 

 一方通行はつい資料を机の上に置いた。ドンと大きな音がするが、そんなことも気にしない。ただ、間違いを正したかった。

 

「ふふふ、それでよかったんですの?」

 

 過ちに気付く。馬鹿なふりをして資料を見させるところまで彼女の罠だったのだ。普段ならば相手にもしなかっただろうに、この日ばかりは。

 

「ふむふむ、なるほど私でさえ聞いたことのない計画です。あまり信用しない方が良いですね」

 

「当たり前だァ、風紀委員みてェな()の奴らが知れるようなことじゃねェ」

 

「表、表ですか」

 

 白井の唇が動く。羨ましい、一方通行にはそう言っている気がした。

 この学園都市には色々な都市伝説がある。その中でも、特に裏側に精通している人間の間でだけ真しやかに囁かれている噂。

 

「どういうことだァ!風紀委員はこんなチビまで裏側に持ち込んでんのかァ!?」

 

 それは裏暗(うらやみ)班と呼ばれる暗部組織の存在であった。様々な説があり、その中でも有力なのが()()()()()()()()()()というモノだった。これは、組織のエンブレムと呼ばれるマークが、風紀委員のそれに酷似していたからである。

 確か、彼らが現れるとき、彼らは表の平和を()()()()と呟くのだとか。

 

「うるさいですの。皆さんこちらを見ております。ここはカフェですのよ?」

 

「ちっ、クソがッ」

 

 一方通行は許せなかった。彼だって人間。こことは違う世界でも、妹達(シスターズ)を殺すまでは少し心の壊れただけの子供だった。

 それゆえ、彼の中の小さな良心が白井を助けようとした。

 

「いいから足を洗え、その後は俺が何とかする」

 

「貴方、それ余計なお世話ですのよ。私は自分から裏側に足を突っ込みましたから。それに羨ましいとかも実際は思ってもいませんし」

 

「うるせェ、いいから足を洗えって言ってんだ」

 

「それに、もう遅いですの。私はこれでもリーダーです。壊滅させた暗部だっていくつもありますのよ」

 

「あ、アァ?」

 

 彼にはそれが信じられなかった。少女が腕の確かな能力者だと言うことは分かっていた。それでも、こんなちっぽけな少女に、暗部の辛さを耐えられるような精神があるとは思えなかった。いや、思いたくもなかったのだろう。

 

「全部、話せ。隠し事は、無しだ」

 

「こんなところでですの?今は食べる事を進めましょう」

 

「チッ、五分で食いやがれ」

 

 ご飯を食べ終わった頃には、空を覆っていたはずの雲は消え去り、月と星だけが世界を支配していた。

 

 


 

 

「蠢動様、どうやらまたあの風紀委員に阻まれたようですよ」

 

「え、ん?もっかいいってくれる?」

 

「ですから、一方通行は提案に乗りかけたのですが、例の風紀委員が邪魔をして失敗したようです」

 

「へ、へぇ、そうなんだ」

 

 シャチは叫ぶ。それはもうあの人かってくらいに。

 

 

あぁ!!もう!!私は不幸だああぁああァー!!!!!

 

 

 

 彼は自暴自棄(頭がパァ)になった。

 

 

 


 

 

 

 裏暗班(うらやみはん)

 

 風紀委員直属の対暗部班。白井はそのリーダーになっている。

 白井が潰した暗部とは、上条の右手を封印するときに潰したブロックとDA、そしてその他もろもろ。

 蠢動も暗部の人間なのでその二つが壊滅したことは知っているが白井が潰したと言うことまでは知らない。風紀委員の厄介者とは、白井、上条、初春、その他数人。そして、誰も知らないはずの裏暗班の五人。(この五人の内一人は白井なのでかぶっている)

 

 ()()()()。それは組織が破壊される始まりの一声だ。







しらが、ではなく、はくはつ、でございます。


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Help as a friend.

「美味しかったですわね」

 

「金を払ったのは俺だがなァ。それで、どこで話すんだ」

 

「せっかちですわね本当に、すぐに着きますから」

 

 ご飯を食べ終わった二人は、夜道を歩いていた。目的地は白井が風紀委員として活動する上での活動拠点、風紀委員一七七支部であった。

 この建物が近づくに連れて一方通行の表情は難しいものに変化していた。なにか、上条のような苦い思い出でもあったのだろうか。

 

「さて、着きましたわ」

 

「おい待て、まさかこんなところで話すわけじゃねェよなァ」

 

「そのまさかですの。どうせ誰もいないんですから気にしなくともいいんですのに」

 

 とは言われても心配なものは心配だ。正直なところ、闇に通じている白井に対して一方通行からの信用は小さい。

 部屋の中に大勢の風紀委員がいて、とにかく拘束ですの!なんて言われたら支部ごと破壊して逃亡生活が始まるからだ。

 

「……まあいい、とっとと開けやがれ」

 

「本当にせっかちですわね」

 

「はいはいごめんなさいねェ」

 

 ♦︎

 

 特に不自然な様子もなく、白井は支部の部屋の電気をつけていた。蛍光灯の明かりが鋭く瞳を突き刺すが、それでも人の気配はしなかった。

 

「さて、お座りくださいな。ブーブークッションは置いていませんわよ?」

 

「黙れよチビこの野郎」

 

 一方通行は半分くらい本気でムカつきながら、勧められたソファに座る。能力による空間認識を行うが、やはり気になるところはなにもなかった。

 

「そんなに気になりますの?何も仕掛けてなんかいませんのに」

 

「仕掛けてたら今ごろお前は星屑だ」

 

 視線の動きを見て仕掛けを警戒していることに気づいたのだろうか。やはりこの少女は何から何まで全てがふつうとはかけ離れていた。

 それが暗部の最低ラインなのは確かだが、彼女はそれ以上に何かが違う。彼は不思議な感覚に首を傾げた。

 

「さて、まずは暗部への経緯ですわね」

 

「アァ、簡単でいいから話せ」

 

 白井は頷いて話を始める。

 

「半年前、私は闇を見ました。それはとても濃くて、普通の人には耐えられないものです。でも、私はそれを何故か理解してしまったのです。そのときが丁度、風紀委員に対暗部組織が作られる事となったときでした」

 

 今のところ、話におかしなところはない。しかし、話をしている少女が少女なので違和感が大きい。この様子は、宛ら学園都市のブラウン管テレビのごとく、とでも表現するべきか。

 

「私はその当時から事件解決数がトップレベルでしたので、私に話が回ってきたんです」

 

「信じられねェ。だからってクソガキのお前にそんな話が来る訳がねェ」

 

「真実ですのよ?貴方いったい、暗部に子供が何人いると思ってんですの?」

 

 盛大なフリの予感がするが、一方通行の頭にそんな芸人はいない。

 

「そりゃいっぱいだろォ」

 

「三十五おk、なんでもありませんの。それで、だったら何で私は心配するんですの?偶然会ったから?そんなこと、なんの理由にもなりませんのよ」

 

「ッ!あのなァ!風紀委員ってのは、そう言うもんじゃねェだろ」

 

 少しだけ、部屋を静寂が支配した。その後すぐに、声が響く。笑い声が。

 

「おほほほほほ、あなた、以外に優しいんですのね」

 

「あ、アァ?」

 

 急な変わりように彼は対応できなかった。

 

「そうです、よね。風紀委員(ジャッジメント)はそうあるべきですよね。

 私、貴方のことを勘違いしていましたの。いい人だって分かりました。ですから、これから話すことも全て事実ですの」

 

「い、今までのモノも本当だったのかよ」

 

 一拍おいて、白井が続きを話し始めた。

 

「話が回ってきてすぐ、私はその提案を呑みました。それから私が信頼できる人間を四人呼んで出来たのが裏暗班。最初の仕事はそれから一週間後のこと。私はその日初めてレベル5に会いました」

 

「そのレベル5ってのは誰のことだァ?」

 

「第五位の食蜂操祈さんですの」

 

 一方通行は考える。先程、彼が提案されたのは食蜂操祈の捕縛。それに対する報酬は、それが事実ならば学園都市が揺らぐモノだ。もし食蜂の捕縛が白井の初仕事と関係があるのならば、事は重大。

 

「詳しく話せ」

 

「なに、簡単な事ですの。レベル5の素性の再確認です。今では一位を争うほど仲がいいんですけどね」

 

「じゃあ、これもその内の一つってわけか?」

 

「いいえ、貴方と会ったのはただの偶然ですの。貴方みたいに闇にどっぷりとハマっていそうな人間に、私を会わせたくは無かったんでしょうね」

 

「ひでェ言い様じゃねェか」

 

「おあいこですのよ」

 

 話はその後も長々と続いた。とある男の為に暗部を二つ潰したことや『アイテム』と言う暗部組織と接触しかけたこと、そして、今絶賛とある暗部の人間を壊滅へ導いていることまで。

 

「そのとある人間ってのは誰なんだ?」

 

 もちろん、その事に一方通行が興味を持つことも含めて白井の考え通り。

 

「それは明日のお楽しみですの。携帯を出してくださいな」

 

「どういうつもりだァ?渡すつもりはねェぞ」

 

「貴方が渡さなくとも、転移が出来ますの」

 

「お前は触らなきゃ転移が出来ねェ。違うか?」

 

「流石の推察力ですの。でも、触ればいいんですの」

 

 一方通行は先程エージェントを転移させる際、白井がエージェントをわざわざ触れていたことを見ていた。それによって触れる必要があると気付いたのだろう。流石の目敏さだ。

 

「俺に触ったらどうなるかは知ってんだろォ?」

 

 ただ、白井が彼を触れられないのも事実であった。

 

「はぁ、いいから携帯を出してください。ただの連絡先交換ですから」

 

「そんなことかよ、わかりやすく言いやがれ」

 

 また呆れるように言葉を言い放ち携帯を出した。そうして連絡先を交換する。

 

「はい、また明日ですの。明日の夜九時、ここまで来てくださいな」

 

「ったく、意味が分からねェ何でこの俺がわざわざ出向く羽目に」

 

「いいですから、何だったら家まで送りましょうか?」

 

「いらねェ、俺はガキかってんだ」

(どうせ、俺が話に食い付いたことも大凡の計画通りなのかもな。まァ、この可哀想なガキに少しくらいは付き合ってやってもいいかもなァ)

 

 レベル5の頭脳は、スーパーコンピュータと同等かそれ以上の情報解析能力を持っている。そんな彼からすれば、白井の考えていることはそれこそ透視でもしているようにバレていた。

 まだ、一方通行の方が上を行っているようだ。

 

「デート楽しみにしておりますのぉ」

 

「デートじゃねェよ!」

 

 支部の防犯カメラには、白髪の男が勢いよく振り返る場面が、しっかりと記録されていた。

 学園都市の誇る第一位でさえ、白井にはたじたじであることに変わりはなかった……。

 

 

 


 

 

 

 指定通りの時間。午後九時に風紀委員一七七支部のドアに手をかける男、一方通行(アクセラレータ)。彼は勝手に部屋に入ると、少女来るのを待っていた。

 待つこと数十秒、ドアがガチャリと開いた。そこには昨日と同じ見た目の少女。連絡先で知ったことだが名前は白井黒子、今日は彼女とデート。そんな筈がある訳もなく、とある暗部の人間を潰すことが目的であった。もちろん一方通行は白井には人を殺してほしくないと思っている為、殺すのは彼だ。

 

 

「お待たせしましたの。あら?今日はおしゃれな服を着ていますが、もしかして私に惚れてしましましたの?」

 

「はぁぁぁあ黙れ。いいからそのとある暗部の人間ってヤツのとこまで行くぞ」

 

「本当にあなたってせっかちですわねぇ、嫌われますのよ?」

 

「もう十分嫌われてる。さっさと教えろ」

 

「そんなことありませんのに。はいはい、場所は天体水球です、行きましょうか」

 

 ドアを開けて、二人は恋人のように他愛もない事を話しながら、水族館へ出向いた。それをとある人が見ている事はいつか話そう。

 

 ♦︎

 

 他愛もない話をしていたと言うのは嘘で、彼らが無言のまま歩き続けて十数分。目的の水族館へ着いた。周りにはカップルが沢山いて、その場にいるだけで二人はむず痒くなってしまう。

 

「おい、本当にここにいるんだよなァ?」

 

「ええ、風紀委員の情報力を舐めないでくださいな」

 

「舐めちゃいねェが、お前は信用出来ねェ。ったく、こんなとこにいる暗部のバカの顔が早く見てェ」

 

「貴方ねぇ、周りがカップルだらけなんですからそんな話はおかしいでしょう?そう言うところもちゃんと考えて欲しいです」

 

 白井にしては正論である。周りのカップルたちは二人の会話に気付いた様子もなく話を続けていた。お互い、一緒にいる相手に夢中と言うことだ。媚薬よりも凄いと言うのも案外嘘ではないか。

 

「さて、そろそろ客も少なくなってきましたわね」

 

「そうだなァ、そンなことよりも俺はこんなにしっかりと魚鑑賞をしている事に驚いてる」

 

 

 ♦︎

 

 

 時刻は十時を少し過ぎたころ、閉店したはずの水族館に二つだけ残る影があった。白井と一方通行である。二人は防犯カメラに映らないよう、白井の能力を使って移動していた。

 エレベーターに向かい、最上階へ上がって行く。エレベーターのドアが開くと、そこには美しい夜景が広がっていた。しかし、ただの夜景ではない。水槽の水によって無数に反射された光が、ステンドグラスのような華麗さを表現していたのだ。

 

「メモメモ、上条さんと今度来ましょうかね」

 

 白井の呑気なお喋りが終わったところで、白井でも一方通行でもない声が響いた。どこか疲労を感じさせる声である。

 

「まさか、まさか、まさか来るとは、私のテリトリーに」

 

「おいおい、何なンだよありゃ」

 

「話に聞いた事はありましたが、本当に魚になっているとは」

 

 二人が思った事をそのまま口に出す。それに応えるかのように、水槽の中で優雅に過ごすシャチは笑った。それでも、どこか疲れが見えていた。

 

「ククククク、わざわざ死にに来てくれるとは、白井黒子、一方通行。まあ、海の王であるこの姿を見て萎縮するのも無理はない」

 

 自信ありげにそう言うシャチに、シャチと話し合うと言う異常事態でも落ち着いている二人。

 その光景は、絵本のお話だと思うかもしれない。側から見ていれば、幻想的だとでも言えたかもしれない。それでも両者の間に蟠るものは明らかにかけ離れていた。

 この街の暗部、それが三人も集まっている。その濃密な黒いオーラが、今にも目に見えるようだった。

 そうしたものを象徴させる、あまりにも不吉な匂いが広がっていく。

 風紀委員の一位を冠するテレポーターは尋ねた。

 

「その脳に達するまでに、どれだけの犠牲を強いましたか?」

 

「まあ色々だな。脳の大きなゾウで試したことがあったが、あれはダメだ。『俺』を定着させるのは難しすぎた。でも、類人猿などでは退化、劣化に近いからな。俺は生物として進化したかったのだよ」

 

 人間とその他の動物で圧倒的に違うのは、その脳の構造だ。ただの小学生でさえ、(あたま)以外では動物に勝てる部分がないと気づいている。

 ただ、それは奇妙だ。人間の脳はどこが優れているのだろうか、単純に言えばゾウには大きさで負けている。体が大きな動物なら当たり前だ。

 でも、人間の頭脳(あたまのよさ)はゾウなんかを軽く凌ぐ。

 では、その不足を補ったとするならば、本当の怪物が出来上がるのだろうか。

 つまり、これがその完成系(カタチ)だと言うことだ。

 

「一ヶ月前『デッドロック』を追い詰め、一方で他の窓口から『簒奪の槍(クイーンダイバー)』を貸与することで、食蜂操祈さんや蜜蟻愛愉さんを犠牲にしてでも『心理掌握(メンタルアウト)』を奪おうと図った、大人達(研究者)の代表」

 

「ほう、やはり分かっていたか。だがもう遅い、お前達二人の脳も私が解剖してやる。特に一方通行のものは俺がさらに進化するために必要不可欠だ。さあ、さあ潔く脳をよこすんだな」

 

「いいえ、却下しますの。

 蠢動俊三、貴方は風紀委員としてではなく、彼女たちの友達として拘束しますの!」

 

「ガキ如きが大きく出たな」

 

 蠢動の声が掻き消えるほどの、凄まじい噴射音が炸裂した。

 ジェット機のような爆音の出どころは十字状に配置された出入り口から転がってきた、一方通行の身長を大きく超える直径の球体の群れだ。全周を囲んでいる深い穴の奥から強烈に空気を吐き出す事によって、一トンを超える物質を自由自在に動き回せる仕組みとなっていた。

 それらは、あっという間に子供二人を取り囲んでいく。

 

「『鋼の臼歯(モラトゥース)』と呼んでいる。盾や武器、果てには心理圧迫効果まである。色々と重宝してるよ」

 

「「・・・・・・・・・・。」」

 

「ククク、怖くて声も出せないか、まあ、子供だからしょうがない。死ね、俺の為にな」

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、もう少し調べがついてると思っていたのですが」

「まさかな、暗部の人間が俺の能力を知らねえとは、お笑い(ぐさ)だ」

 

 静寂を二人の声が喰い荒らす。それ以外の物音は、それを許さない。

 一方通行(アクセラレータ)は手を伸ばした。

 ただ、それだけだった。

 

 少し前まで二人を囲んでいたはずの球体は粉々になり床に積もっていた。能力の奔流の名残なのか、荒々しく流れる風が粉を煙に変えた。

 

「な、ん!?」

 

 蠢動は知らなかった。自身の力を過信しすぎていたのか、学園都市第一位と言う子供を舐めていたのか。これほどの力の差があるとは考えもしなかった。

 放心状態の蠢動のいる水槽へ白井は拳を殴りつけた。穴から流れ出る水をどこかへ転移させると、水槽の中にはぴちぴちと跳ねるシャチ一匹だけになっていた。

 白井と一方通行は呆れたように蠢動へ呟く。

 

「自分の力を過信する者の末路としてはもはや、テンプレのように馴染んでしまっていますわね」

 

「暗部のクソにしては優しすぎる結末だがなァ」

 

「く、くうぇ〜」

 会話用の機械の損傷により人間の言葉が話せなくなった蠢動である。

 

「・・・とはいえ、助かりましたの」

 

「いやァ、俺がいなくても転移して避けてただろォ」

 

 どこか恥ずかしそうに、少女の力を信じているような言葉を放つ。白井は思わず目をガンギマらせていた。誤解がないように言い直すと、目を見開いていたと言うことである。

 

「それを言ってしまえば、私たちがこんな事をしなくとも、何とか一族の何とかさんに目を付けられていたようですけどね」

 

「・・・木原一族かァ?」

 

 そうだと頷き会話を終える。一方通行は一人帰路へ着いた。

 その一週間後、彼は白井のレベル四以上認定お祝い会に参加させられることとなる。

 

 残った白井は、とある協力者のいる場所へ電話をかけた。

 

「一匹シャチはいりませんか?偶然手に入れたのですが」

 

『シャチかぁ、そりゃ良い。よし貰おう!サイズはどんくらいだ?』

 

「全長は十メートルを超えていますの」

 

『おぉ!そりゃデカイな、うちで出す事にするよ。そのサイズなら、えーと、三千万はくだらないな。いつもの口座に送っとくよっ!』

 

「ありがとうございますの。では第三倉庫に送っておきます」

 

『こちらこそありがとうね、いつも助かるよ。今回みたいなのは特に珍しいからな!』

 

「ええ、それでは」

 

 今夜はお寿司だけは食べないでおきましょう。流石にそこまでヤバいやつじゃ無いですからね、私めも少しくらい、常識はあるのですからぁ!?

 

 ♦︎

 

 次の日とある魚市場で、それはそれは大きなシャチが並んでいたとかいないとか、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いないです。

 

 






食蜂蜜蟻編の消化試合ですのであっさりと。


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暗部編 絶対能力者
絶対悪


 昼間、一方通行は目を覚まし、虚ろな眼差しで街へと繰り出す。

 途中、彼を指差して笑う者たちがいても、彼はただ音を反射させるだけだ。そのような些細な挑発に応じる余裕などない。こちらから喧嘩を始めることはない。それが真の強者としての適切な振る舞いなのだ。

 

 ファミレスに到着する。その日は休日だったためか、周囲には幸せそうな家族連れの姿が目立った。しかし、周りへの関心がない彼には見えていなかった。

 呼び出しボタンを押し、店員を待つ。いつものように、ステーキとコーヒーを注文した。肉の塩味がコーヒーの苦味に殺された。口の中に残る余韻は、一方通行にとって悪くはないものだった。

 

 会計を済ませた後、デパートに向かった。その目的は、留守の間に燃やされた服を補充することだった。彼が余ったお金を使うのは、このような場面に限られていた。

 いくつかの服を手に取り、それを会計カウンターへ持っていく。店員が何か話しかけてくるが、反応はしない。手に入れた服を家に持ち帰り、適当にベッドに放り投げた。

 

 テレビのスイッチを入れる。あれこれチャンネルを切り替えても、面白そうな番組はどこにもない。興味も湧かぬまま、ニュースの波が絶え間なく押し寄せる。

 これもまた、富余した財産を浪費する方法なのかもしれない。

 

『今年の積雪量は昨年の二倍と予想さ──────』

 

 テレビの雑音を浴びながら思い返した。

 

 最後に人と話したのは、一ヶ月ともう少し前のことだったか。それはピンク髪の不思議な少女との三日間だった。

 少女は実は闇の奥の人間であり、今でもどこか見えないところで戦っている。こんな風に言えば格好良いだろうが、実際にやっているのはヤクザ紛いの事。カチコミして潰す→カチコミして潰す。これの繰り返しだ。

 つまり、力もそんじょそこらの組織の人間よりも強い。更には情報においても風紀委員と言う組織に所属しているためそれなりにある。

 天体水球(セレストアクアリウム)のシャチのことや、木原一族の存在を知っていたことからも全方向につてがある事がわかっていた。

 

(意味がわかンねェ)

 

 それが正直な感想だった。

 その後彼が調べた情報によると、少女──白井黒子は表舞台において正義の象徴のような扱いを受けていた。風紀委員に明るい者なら知らないはずもないほどの人物だ。

 

「そンなやつが、裏で暴れまくってんのかァ」

 

 何と言うか幻滅である。アイドルがタバコを吸っていたときのような感覚。一方通行をそんな感覚が襲っていた。

 

 それから二時間が経過し、空が赤くなってきた頃に散歩へ出かける。何も考えずにてきとうな道を進んでいった。そこで懲りないカスどもにバットで殴られても傷は付かない。むしろ殴った男の腕がひしゃげるだけ。能力を使われても全く効くことはない。炎なら跳ね返し燃やす。水なら跳ね返し溺れさせる。それだけで終わる。暇つぶしにもならない雑魚ども。

 アンチスキルのサイレンが聞こえてきて、一方通行は姿を隠すように高速で消えて行った。サイレンが聞こえなくなる程遠くへ移動すると、彼の姿は現れた。

 いつも通り、余りに余った金で缶コーヒーを買った後家に帰る。落書きが増えてドアが吹っ飛んでいた。毎日のように荒らされる家はもう気にはしない。無駄な体力を使うだけだから。カチリと缶コーヒーを空け、ゴクリと一口コーヒーを飲む。

 

「うめェなァ」

 

 そんな、いつもと変わらない日々だった。

 

 


 

 

 そのいつもと変わらない日々が変わったのは、その数日後の夜だった。近道で進んだ薄暗い路地裏で、スーツで身を包んだ男が角から現れたそのとき。顔を見ただけですぐにわかった。裏の人間だと。あの風紀委員のように表の匂いで隠しているのではなく、嘘偽りのない純粋な闇の雰囲気が溢れていた。

 

 目の前で止まった男に、一方通行は睨むように声を掛ける。

 

「なンのようだァ?」

 

 男は緊張し震えた声で応える。

 

「とある計画に参加してほしい」

 

 またかァ、くだらねェなァ。と一方通行は思う。この調子だと、前のようにクソガキがエージェントを組み伏せてくれるのだろうか。しかし、その男の続く言葉に目を見開いた。

 

「お前は、レベル五なんかで満足はしていないだろう?この計画はお前がレベル六へと進化する為の計画だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「面白そうじゃねェか」

 

 

 

 









一方通行って実験の前なにしてたんでしたっけ、、、?



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そんな生き様

 十一月にしては暑い空気を肌に感じながら、一方通行は路地裏を抜け、エージェントに促された車に乗り込む。冷房のひんやりとした風が体を流れる。シートの光沢からは高級な匂いが感じ取られ、そう言う面には気を使っている事がわかった。……その割にタバコの匂いが車には充満しているが気にしない。一方通行であっても呼吸は止められないのだ。

 

 彼はこの車に乗るまで、計画に関する説明はほぼ受けていなかった。これがもし罠だった場合でも何事もなく生還することができる。そんな能力があるからだ。

 そうとはいっても、彼にとって気になるものであることに変わりはない。

 

「それで、そのレベル六ってのはどうやったらなれンだァ?」

「すまないがそれは言えない。なんて言ったって、俺もよく知らないからな!」

「アァ?舐めてンのかテメェらはよォ」

「す、すまない。本当に聞かされていないんだ、です。俺が知っているのは計画名だけ」

 

 胸を張るように無知を晒した男が、計画名を何処かから出したホワイトボードに書いた。振り仮名まで丁寧にである。

 

「『絶対能力者進化(レベルシックスシフト)計画』。それが計画の名前だ」

「ハッ、安直なこったぁ」

 

 彼はどうやって絶対能力者(レベル6)へと進化するのかを知らない。

 

 


 

 

(まさか、考えが一つも当たらねェとはなァ)

 

 一方通行は見渡す限りのクローンの姿に、唖然とするしかなかった。

 こうなってしまった理由を説明するには、少し前に戻る必要がある。

 

 

 ♦︎

 

 

「もうすぐ着くぞ」

 

 その言葉に一方通行は目を覚ました。あまりにもつまらないこの車内に辟易していたため眠ってしまっていたのだ。やはりタバコの匂いが鼻につく。鼻腔を蹂躙される気分であった。

 彼が覚醒してから一分も経たない間に車は止まった。エージェントの降りろという言葉でドアを開き、外へ出た。しとしとと降る秋の雨がさっきと打って変わって寒い空気を感じさせた。

 

(反射だ反射ァ)

 彼の能力の前では天候でさえも無力である。

 

 先導する、隣に座っていたエージェントに合わせて歩いて行く。

 男が入って行った建物へ入ると、もう一人の同じような格好をした男が現れた。どうやら計画の詳細を知るのはこの男のようで、計画について簡単な説明をされた。しかし、その内容も先程と変わらない程度で、レベル六になる為の計画であるとしか話されることはなかった。

 

 突き当たりまで進むと、一方通行(アクセラレータ)様控室と書かれた紙の貼られた部屋。いつの間にか扉がひしゃげていた。部屋の中には白い四角の机が一つとセットの椅子が四つ置かれている。男らが座ったのを見ると一方通行も席につく。

 

「さて、計画の詳細を教えてやろう。この資料を見ろ」

 

 放り投げられた資料の束がテーブルを滑る。手に取った一方通行は眉間に皺を寄せながら、一行一文字をじっくりと読んだ。次第に胡散臭いものを見るような目に変わっていく。

 そこには幾つものあり得ないことが綴られていた。そもそも、ここに書かれていることは再現ができない。特に、超能力者を数百回殺すなんてものは無理だと断言できた。

 

「まあ落ち着け、お前の考えていることはよく分かる。第三位を百二十人も用意することは現状、いやこれ以降も不可能だ」

 

 そんな言葉に彼は騙されたような感情を覚えた。自分の目標のために、この機会は逃したくなかったのに。

 資料によると、一方通行が絶対能力者へと進化するには、第三位である超電磁砲(御坂美琴)を百二十回ほど殺害する必要があるらしい。問題は山積みと言ったところだろうか。まず第三位は一人しかいない。さらに言えば第三位の頭脳は一方通行のそれに近しい、もし殺さずに百回の戦闘に及ぶとするならば、少女は確実に対抗手段を見つけるだろう。そうなれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「じゃあなンで俺を呼ンだンだァ」

 

 怒りのままに、地を揺るがすような声が響く。計画の詳細を知らなかった男は、これだけで椅子から転げ落ちて漏らしている。しかし、もう一人のエージェントはかろうじて正気を保っていた。

 

「落ち着け!まだ続きはある!」

 

 額から流れる汗がテーブルを汚している。

 男のその言葉に気を落ち着かせると、一方通行は席についた。話を続けさせると、資料には書かれていないことが次々と知らされた。

 

「わ、分かった。さっきも言った通り、第三位を百二十人も用意することは不可能だ。だが、お前も知っている通り、お前以外のレベル五は六人いる。第二位に至っては第三位の数十人分もの戦闘経験値が得られる」

 

 第三位は百二十人もいないが、他のレベル五を殺せば、いわば経験値が事足りる。つまりそういうことだろうか。

 

「第四位以下の奴らは第三、二位ほど強くはねェンじゃねェのか」

 

「そういうと思った。だから、さらに代案を用意しておいたんだ」

 

 まだ何かあるのか。そう思わずにはいられなかったが、目標へ少しでも近づけるのならばと頷く。

 

樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)によると、第三位のクローン二万体と戦闘を行えばレベル六へと進化が出来る」

 

 思わずため息が溢れた。クローンは日本国の憲法によって製造が禁止されている。それこそ、憲法違反が出るとしたならば学園都市トップの連中の────あぁ、そういうことか。

 

「メインプラン、そォゆゥことかよ」

 

「は?」

 

「それで、二万体のクローンは本当に居るンだろうな」

 

「あ、あぁもちろんだ。着いてこい」

 

 

 そうして先程の場面へとつながる。

 

(まさか、考えが一つも当たらねェとはなァ)

 

 一方通行は見渡す限りのクローンの姿に、唖然するしかなかった。培養器に入る一人ひとりは、どこかで見たことのある第三位と変わりはおそらく一つもない。見る人が見なければ違いは分からないほどに精巧だと言えるだろう。改めて、学園都市の技術に吐き気がした。

 

「これがクローン、思ってた通り違いが全くわからねェな」

 

「当たり前だ。これは第三位のDNAマップを回収して、培養した物だからな。見た目に違いは絶対ないと言い切れる。違いがあるとするならば、育った環境が環境だけに性格がな」

 

「そンなもンどうでもいい。本当に成れるんだろォなァ」

 

「あぁ、これは樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)による計算の結果だ。今までアレに間違いはなかっただろう?」

 

 彼は信じる事にした。

 

「分かった。その計画に参加する」

 

「いい答えが聞けて嬉しいよ。では早速だが、十日後に実験が始まる。場所はここだ。夜十時に来い」

 

「あァ」

 

 

 


 

 

 

 俺が最強になれば、世界中の人間を恐怖で救うことができる。全人類が絶対能力者に怯えながら、皆、心を合わせて生きるために活きる。誰もが傷つくことのない、本当の平和が享受されるのだと。

 

 気付けば研究施設に着いていた。白衣の男に促されるまま大きな部屋にたどり着いた。その真ん中には第三位のクローンが立っている。一方通行にはそれがとある少女と少しだけ重なって見えた。

 部屋の中に入ると入り口だった扉が閉じられる。スピーカーから声が聞こえた。

 

「第一次実験を開始する」

 

 スピーカーの音が切れると、目の前のクローンが話を始めた。

 

「はじめまして、あなたが一方通行ですね?と、ミサカは念の為確認を取ります」

「あァ、それで合ってる」

 

 流暢な言葉に嫌な感覚を覚えた。

 

「質問なのですが、私は貴方に対する銃の使用が許可されています。本当によろしいのですか?」

「別に、そンぐらい構わねェよ」

 

 あまりにも巨大すぎる違和感、頭を突き刺すような痛みが襲う。いつだか以来の汗が背中をむず痒くさせる。

 

「話には聞いてきましたが、相当な能力者なのですね」

「はっ、お前よりは上等な能力だ」

「そうですか。それでは世間話もそろそろ終えて、戦闘を開始します」

 

 クローンはまるで西部劇のように一方通行から距離を取った。それでも、彼からすれば一秒以内に移動できる距離だ。

 銃を構えたクローンの謝る声が聞こえた。引き金を引かれる。遅く動く視界の中、銃弾は一方通行に当たる前にクローンの方へと進行方向を変えた。

 一方通行は加速する思考で考える。

 これで良いのか。何かおかしいところはないか。

 どう考えても何も思いつかない。

 銃弾が()()の体に飲み込まれる。あまりにも呆気なかった。

 水風船を破裂させたかのように血が吹き出す。少女の体は地面に倒れ込んだ。床には血の池が出来ている。彼女の顔は苦しみで溢れている。

 苦しみ?そんなものはない、あれはクローン。心を持たないただのリアルな人形だ。

 本当にそうなのか?彼女の表情は苦しそうにしている。それが痛みを感じている、心を持っている証拠じゃないのか?

 彼には痛みが分からなかった。分かるのは彼が一番味わった、苦しいという気持ちだけ。

 

(アァ、苦しみかァ。なンだ、分かったじゃねェか)

 

「これじゃねェ。俺が目指したのはこンなのじゃねェ」

 

 少女へと歩き始める。

 

「いや、俺が目指したヤツも間違ってたンだ」

 

 倒れ込む少女の体に触れた。

 

「血流のベクトルを操作して止血する」

 

 血はいつの間にか流れていなかった。

 

「な、何故助けたのですか?貴方は私達を殺す事で——」

「——これは借りだとでも思っとけ」

 

 携帯を取り出した一方通行が、どこかへと電話をかける。

 

「お前のことだから聞いてたンだろォ?病室を二万部屋くらい貸し切ってくンねェかァ?」

 

『あらあら、丁度空き病院を貸し切ったところですの。そんな偶然もあるんですのね』

 

「………俺はそンな偶然があってもイイと思うがなァ」

 

 今、一方通行の物語が動き出した。











一方通行とガロウって考え方似てるんじゃないですかね。
悲しみを知ってるからこその彼らなりの正義(絶対悪)。そんな生き様が。
ちなみにガロウのセリフをもろ使ってます。


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よんぶんのいち?

 一方通行は計画を潰すことを決めた。当たり前のことだ。この計画は彼に二万人という大量の()()を殺させる事が前提の条件。思い直した今の彼にとって、この実験は悪でしかないものだ。

 一方通行の明らかに実験に反する行動に、エージェントと研究者が慌てながら問う。

 

「何をしている!早く殺せ!」

 

「おォい、言葉には気をつけろって習わなかったのかァ?」

 

 睨め付ける一方通行に、研究者が怯む事もなくもう一度叫んだ。それは薬物を摂取しているかのような表情で、それだけこの実験に命を賭けているのが理解できた。

 

「だ!か!ら!早く殺せと言っているんだ!」

 

 ブチリ、と人間からは聞こえてイケない音がした。

 

「しっかり捕まっとけェ!」

 

 そう言って、少女を抱えた一方通行は能力を全開にし、殺せと言った研究者のいる部屋に穴を開けて突っ込んだ。轟音と共に、瓦礫が出来て行く。

 彼がこちらにまで危害を加えるなどとは、研究員は思ってもいなかった。驚きのまま、彼らは頭を抱え、しゃがみ込んで恐怖に震えていた。

 一方通行はその頭を掴み顔を上げさせた。

 

「殺せだァ?テメェは誰に向かってモノ言ってンだ」

 

 研究員の目の前で赤い瞳が輝いた。普段なら美しくも見えるはずのそれは、今ではどろりとした血を連想させて恐怖の象徴となっていた。

 

「テメェらもだ」

 

 一方通行が屈んだ体勢から立ち上がり、周辺の研究社とエージェントを睨みつけた。エージェントは腰から取り出した銃を彼に向けるが、銃口はブレにブレて的が定まっていない。

 

「あ、一方通行(アクセラレータ)、何故暴れるんだ」

 

 一人の勇気ある研究者が質問を投げかけた。

 

「この計画は俺の賛同がなきゃスタートにすら立たねェだろォ?そうだなァ、気が変わったからとかどうだァ?」

 

 考えるような動作をし、その後に続いた子供の癇癪のような言葉に唖然が支配した。それも束の間、一方通行は抱えていた少女を床へと降ろすと、自身の片足を上げそれを研究者に向けた。

 

「一方通行!殺してはイケません」

「お前には聞いてねェよ」

 

 少女の静止も効かない。ヒッ、と研究員の息を呑む音が響く、そのはずであった。その音をかき消すように聞こえたのは爆発音。一方通行の足が打ち付けられた音だった。土煙の煙幕が張られていて辺りを確認することが出来ない。少女の咳き込む音だけが響いていた。

 

 経つこと数分。煙幕が晴れると真ん中に立っていたのは一方通行。そして彼に守られるようにがしゃがみ込む少女だった。煙幕が晴れた事に気づいた少女はゆっくりと目を開いて立ち上がる。目の前にいるのは一方通行だけ。恐る恐る聞く。

 

「殺したのですか?」

「いや、殺しちゃいねェ」

 

 言われて思い返すが、確かにあれに人を消し飛ばすほどの威力はなかったはず。それに悲鳴も何も聞こえないことは流石にありえない。少女は彼を信じコクリと一度だけ頷いた。歩き始めた一方通行の後をついていく。

 

 

 ♦︎

 

 

 二万個に及ぶ培養器の前に来た。そこからの眺めはやはり、人を呆然とさせるものがある。一方通行はミサカ(道中そう名乗った)と共に培養器と培養器の間を歩く。胸糞の悪い景色にため息を一つこぼした。それにミサカがビクリと反応をするが、さほど気にすることなく先に進んで行った。

 

 培養器に浮かぶ少女と、隣にいるミサカを見比べるが違いは分からない。だが、これで完成なのかどうかは確証がないため判断がつかない。早速研究者を逃した事に後悔する一方通行だったが、それはミサカに聞く事で解決した。

 

 聞いたところ、どうやら体の方は完成しているようだった。問題は資料に書いてあった通り、殺される予定で製造されたために短命という事だ。彼は()()()()()に頼んで病院を貸し切って貰ったものの、この短命を治せるとは限らなかった。

 頭に手を当て、困ったように言葉を吐き出す。

 

「この多さだぞォ。二万人、こりゃ大変だなァ」

「何を言っているのですか?まだ五千体しか製造されていませんよ。とミサカは驚愕の事実をお伝えします」

「ンはァ!?」

 

 キャラがブレ始めた一方通行を置いといて、ミサカはさらに言葉を続けた。

 

「貴方はこの実験を完璧に潰すのでしょう。その場合、残った一万五千体は製造する必要はないのでは?とミサカは至極真っ当なことをお勧めします」

「アァ、それがあったかァ……。いや、元々産まれるはずの命だったンだ」

「はぁ、とミサカため息を零しつつも、ミサカは初めて本当の優しさと言うものを感じ取り感動しています」

「な、急に泣くンじゃねェ」

「嘘泣きですよ」

 

 思わず手をあげそうになったが、取り乱さないように息を整える。彼は人の命を守れた事に大きな達成感を感じていた。ひとりだけの空間であれば頬を緩めていたかもしれない。

 

「これで、お偉い方々には総スカンっつう訳だなァ」

 

 それでも嫌な顔はしていない。なんなら、憑き物が落ちたような清々しい様子である。ミサカも嬉しそうにする彼を遠巻きにして指差していた。

 空気を裂いて何かが現れる音が聞こえた。音のした方向に視線を送れば、ピンク髪の少女が立っていた。彼女に対してミサカは警戒心を表して銃を構えるが、一方通行が味方だと言うと銃を下ろして安心した様子を見せた。

 ピンク髪の少女、白井黒子は険しい顔を見せ、一方通行へ詰め寄る。

 

「どォしたンだァ?」

 

「あのですねぇ、実験などを潰すのなら私に少しは連絡を頂きたいですの。先程のように『気が変わったァ』の一言だけで片付けられても困るんですの。怒られるのは私なんですわよぉ!?」

 

「知らねェ知らねェ、つーかお前盗聴してたンだろォ?それについては謝罪もなしですかァ」

 

 白井の頭をグーでゴリゴリしようとするが、彼女はスパッと転移して逃げミサカの後ろへ隠れた。そこで白井は、ミサカさん助けてくださいですのぉ。などと言っていたが、ミサカは急な展開に急な展開を重ねられた事で理解が追いついておらず、あたふたしていた。

 そんな姿に二人はクスリと笑う。彼女はそれに不思議そうな顔をする。説明をすると恥ずかしそうに俯いた。

 白井がこれに対して、可愛い!と思うのは当たり前のことで、何故白井(原作)が御坂美琴に惚れ惚れも惚れ惚れなのかが少し理解出来た事も当然な事だ。

 

 

 ♦︎

 

 

「ああちなみに、彼が逃した研究員は捕まえておりますので安心してくださいな。

 あのクズ共は貴方々の短命を治す事に、あくまで合法的に協力的になりましたの。ですのですぐに良くなるはずですわ。

 準備が整い次第お呼びさせて頂きます。そしてこちらが貴方専用の携帯電話ですので、連絡をお待ちくださいな」

 

「わかりました。とミサカは初めて触る携帯にしか視線が行っていない状況で、てきとうに頷きながら答えます」

 

 携帯を手に取ったミサカは、情報でしか知らないそれに興味津々。目をキラキラさせながら携帯のあちこちを触り、その勢いは携帯の故障を心配させるほどだった。

 

「使い方ならお教えいたしますの」

「助かりますありがとうございます。とミサカは感謝の気持ちを赤裸々に告白します」

「そんな固くなくてよろしいのですわ。えーとですね、これはこれでこれがこれ———」

 

 一方通行を除け者とした二人の話し合いは、一時間に及んだのであった。その間、彼は本当に五千人しか居ないのかと、培養器の数を数えていた。

 



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Shun-Do

 そして二日後、よく分からないことは研究員に任せて、白井は後処理に努めていた。

 

「まずは、実験が潰れた事が暗部に広がった事で資金が実験に回って来なくなりました。つまり今必要なのは資金ですわねぇ」

 

 実はこれがかなり痛い。あの実験はかなりの上の方々が実験に賛同していたことから多額の支援金が回ってきていた。しかし、実験が潰れたことによって当然支援金は断絶。妹達(シスターズ)が造られた建物に残っていた金額は、彼女達のホルモンバランスを整えるのに到底足りない程度のモノだった。

 

 更に、一方通行の意向により残りの一万五千人の妹達を製造することが決まっている。単価十八万円の彼女達だが、一万五千人となると金額は最低でも二十七億円もの大金が必要となる。ホルモンバランスを整える事も考えれば三十億円でも足りないはずである。

 

 とにかく、建物に残っていた件の十億円のほかに、最低二十億円が必要となるのだ。これでも白井はいいとこのお嬢様。親に頼めば半分はなんとかなるだろう。でもそれが限界である。だとすれば残りの半分はどうすればいいのだろうか。

 

「あぁ、何処かにこの実験のことを知っていて、しかもお金を沢山持っている人はいないのでしょうか」

 

「おい、それは俺に言ってるンだよなァ」

 

 と、反応する一方通行。白井のわざとらしい言い方に貧乏ゆすりが開始されていた。

 彼はテーブルの下からやけに大きな紙袋を取り出し、その袋からアタッシュケースを取り出した。それに対して白井は目を見開く。

 

「え、えぇ、貴方に言ったつもりでしたが、まさか持って来ているとは思いませんでしたの」

 

「あいにく、金は余るほど持ってンだ」

 

 はぁ、と呆れる白井に追撃のような衝撃発言を放つ。

 

「俺は全額払うつもりだァ」

 

「はぁ!?あ、貴方一体幾ら持っているんですの!?」

 

「うるせェ。お前の家がわざわざ払う必要はねェって事だ。締めて二、三十億円。それくらいは払える」

 

「ああららら、そうですの。もう、あまり反応しない方が宜しいですわね」

 

 レベル四とレベル五でこれほどまでの差が……。と、軽く目眩が起きそうな金額に無視を決め込んだ。正しい判断である。

 

「では、ここくらいは私が払わせて頂きます」

 

「アァ、前のお返しだと思っておく」

 

「あら、まだ覚えていましたのね」

 

「当たりめェだァ」

 

 レベル五は記憶力も良いらしく、一ヶ月前のカフェの記憶も健在のようだった。

 

 


 

 

 次の処理(仕事)は風紀委員への報告、もとい説明だ。

 噂のうの字もなかった件の計画をどのようにして知ったのか、何故その計画が失敗に終わったのか。おそらくそれらが主に聞かれることだろう。

 

 ガチャり、と扉を開けて白井が部屋に入る。奥の席に筋肉のだるまが腕を組んで座っていた。とても話しかけづらい様子である。

 

「おお、待っていたぞ白井。さあ、席についてくれ」

 

 腕を(ほど)けば態度は一変、優しい老人へと変貌していた。ご自慢の肉体でシャツをピチピチにした男──風紀委員会会長が白井を座るよう促す。分かりましたと一言、白井は席についた。背もたれに背をつけないお嬢様振りである。秘書にお茶を出してもらい、ゴクリと一口飲んだところで報告会が始まった。

 

「まずは、計画の詳細を教えてくれ」

 

「はい。樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)の計算により、御坂美琴さんのクローンを二万人殺す事で一方通行がレベル六へと進化する事が判明したようです」

 

「それがそのまま計画になったと言うわけか」

 

「そのようです」

 

 実験の内容のせいか、表情を辛いモノにした会長。同じく暗い表情をした白井が応えた。会長の近くに立っている秘書も嫌なものを聞いた表情をしており、この場の空気は最悪だ。

 

「次にだが、その実験はどこで知ったものなのだ?やはり君のことだから、独自の情報網があるのかな?」

 

「いいえ、そんなものはありませんの。ただ、偶然出会った一方通行さんの携帯に盗聴機能と、GPSの信号を私の手元に来るように細工をしただけです」

 

「うーむ、情報を得るためとは言え、正義である風紀委員が盗聴はなぁ。捜査中ならまだしも、偶然出会っただけのときは流石にやめようか」

 

「はい、わかりましたの」

 

 会長はその行為の問題点をしっかりと挙げて注意する。やけにアッサリと快諾する白井だが、もしかすると辞める気はないのだろうか。

 

「それで、この計画が失敗に終わった理由は?白井の力でも流石に第一位を躾ける事は難しいだろう」

 

「もちろん、私にそのような力はありませんの。その事ですが、実はよくわからなくって」

 

「わからない?」

 

「ええ、一方通行さんに聞いても、『気が変わったァ』としか言わないんですの」

 

「そうかなら、いつか言ってくれるまで待つしかない。そういう訳だな?」

 

 これで白井の出番は終わり、これからは他の風紀委員が様々な報告をする時間だ。幾つか興味深いものがあったが、どうせそちらは領域外で白井が捜査する事は難しい。興味深い事は今度、対応した風紀委員に聞いて今は妹達(自分たちの問題)に専念する。

 

「おぉそうだ。最近家の水槽にシャチを飼ったんだ。名前はShun-Do(しゅんどう)と言ってな、それがまた可愛いのだよ。飼ったのは一ヶ月と半月くらい前だったな。三千万もしたが、それに見合う可愛さだよ。あと————」

 

 

 ♦︎

 

 

「なんだかどっと疲れましたの」

 

「あら白井さん、お疲れ様」

 

「おかえり黒子、お疲れ様だな」

 

「あ、白井さん!また私の机に白井さんの仕事を開きましたね!全く、白井さんの仕事は桁違いに多いんですから、言ってくれればやりますから!」

 

「皆さんただいまですの。

 初春ぅ、今、言いましたわね?じゃあこれをお願いしますの」

 

「言いましたよ!では上条さん、固法先輩、一緒にやりましょう!」

 

「そうだな、黒子は寝てていいぞ。ここは俺たちに任せろ!」

 

「ええそうね。じゃあ白井さんは私の膝の上で寝ましょうか」

 

「固法先輩?サボろうとしてるのがバレバレですよ?」

 

「冗談よ!白井さん、頑張りすぎは良くないからね」

 

「あ、ありがとうございますの。って、罪悪感しかないですわ!私もやりますわ!」

 

 風紀委員一七七支部は、仲良しの集まりである。

 

 




GWは毎日投稿しようとしてたのに、早速無理でした..........



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暗部の皆さん大集合の、段‼︎

御坂美琴さん! 佐藤利奈さん! 誕生日おめでとうございました!

なぜ昨日の分に書かなかったんだろ、、、





 一ヶ月後、一方通行がレベル六へと進化しようとしていたことと、そのための実験を拒否した事などは、実験の内容を除いた全てが暗部に広がっていた。理由は単純白井が一方通行の許可を取り流出させたからである。

 

 

 〜アイテム〜

 

 一般的なマンションの一室にて女が四人集まっていた。茶髪ロングのレベル五である女——麦野沈利は顔を鬼のようにさせ怒り、それ以外の女——フレンダ=セイヴェルン、滝壺利后、絹旗最愛はかなり困ったような顔をしていた。

 

「どういう事だ? この資料によればレベル六になれるのは一方通行ただ一人。ありえねえなぁ」

 

(でも、樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)の計算は100%合ってる)

 

 なんてこと言えなかった。今できるのは彼女のご機嫌を取ることだけ。

 

「でも、一方通行は実験を超降りてますよ? 何か彼を不満にさせたとかじゃないでしょうか」

 

「そうよ! 結局、レベル六にはなれないって気づいたから拒否した訳よ!」

 

「私もそう思う。今は今度の任務のことを考えよう」

 

 三人がそれぞれにご機嫌を取るが、それでも彼女の苛立ちは治らない。鬼のような顔のまま立ち上がり、

 

「シャケ弁買って来い」

 

「「「わかりました」」」

 

 結局、むぎのは超シャケ弁当でご機嫌が取れるって訳。

 

 


 

 

 〜スクール〜

 

 こちらもまたレベル五の男が悩みに悩んだ顔をしており、その周りにいる男女三人は困った顔をしている。

 レベル五の男、垣根提督はずっと前から手を口元に当て何かを考えたままだ。

 

「つまり、一方通行は自分から『第一候補(メインプラン)』を降りたとも考えられるか。でもそりゃあアレイスターが許すわけがねぇ。第一、あのアレイスターがそんなことで怯むこともない。あぁわかんねぇなぁ。どうなってんだこりゃ」

 

 長々とぶつぶつ呟く垣根は、結論を出す事ができず悩む。そんなことを延々と続けていた彼はついにツッコまれた。

 

「ねぇ垣根君、私たちにも説明してくれない? 一人で呟かれても対応に困るわ」

 

「すまねえ。お前らも知ってる通り一方通行が例の実験を辞退した。つまりアイツはレベル六に興味がねえのか、実験自体に不備があったのかその二択だ。だがこの実験にはあの樹形図の設計者が使われている。なら後者は考えにくい。なら前者だとは思うが、これがアレイスターの『計画(プラン)』ならばアレイスターが許すとは思えねえ。今のところアレイスターに動きはないところを考えると、これはアレイスターの『計画』とは無関係だとも考えられるが、そうとも限らないのがア——」

 

「——長いわね」

 

「そうですね」

 

「長いですねぇ」

 

「あぁつまり、俺が『第一候補』になる可能性が少しだけ高くなったって事だ」

 

「「「おお、おめでとう」御座います」」

 

 意外に仲の良い四人のようです。

 

 


 

 

 〜木原数多〜

 

 とあるビルの最上階。イスに座り、両足をテーブルに置く男は、一方通行の噂を聞きそして、懐かしんでいた。

 

「あらぁ? あのガキンチョ歯向かうつもりじゃねぇよなぁ。まあ今はいいか、アレイスターの事だ何か考えてんだろ」

 

 楽観的な考えだが、それほど彼にとってアレイスターは絶対的なのだろう。

 ドアノブが傾き男が入ってくる、男は防具を着込んでおり、背中と手には銃を持つ完全装備だった。そんな男でも、木原を怒らせないよう細心の注意を払いつつ彼に話しかける。

 

「木原さん、準備が整いました」

 

「ああそぉ、じゃあそろそろ行くか」

 

「はい」

 

 最上階からエレベーターを使い降りた。ロビーはかなり広く、玄関前の車に着くまで時間がかかりそうだ。

 

「今回はめんどくさそうだよなぁ。何人殺せばいいんだよ」

 

「最低でも五千と言われております」

 

「まあ、一人一人が雑魚でよかったわ。で、何処だっけ」

 

「まずはとある実験施設のようです」

 

「ああそうだった。たしか製造元だろ」

 

「その通りです」

 

 任務の確認をし車に乗り込む。

 

「出せ。そいつら殺したら、あのガキンチョどんな顔すんだろぉなぁ!」

 

「きっと、木原さんの望んだ顔をするでしょう」

 

「だったらオモシレェなぁ」

 

 夜道を車は進んで行き、今日も任務を全うするため命を賭ける。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 とある教室の中、一人の少女は退屈そうに机で突っ伏していた。

 

「あぁ、やっぱり私ってコミュ障なのかなぁ」

 

 彼女は人との話が苦手なわけではない。しかし、そのネームバリューから友達と言えるほど仲の良い知り合いは出来ていない。だからいつも通り休み時間は一人でご飯を食べたり、たまにちょっかいをかけてくる同級生をあしらったり、あまり充実してるとは言えない生活を続けていた。

 そんな中、廊下から気になる話が聞こえてきた。

 

「ねえねえこの間の話なんだけど、御坂様が殿方と二人で歩いてるのを見たのよ!もう私ったらドキドキしちゃって!やっぱり御坂様の彼氏かしら!?」

 

(なにそれ、私にそんな事をした記憶はないけど)

 

「あぁそれ!私も見ましたわ。隣の殿方はあまり冴えない方でしたが、御坂様はパフェを手にしてとても楽しそうでした」

 

(ぱ、パフェ?食べるには食べるけど、前食べたのはもう覚えていないくらい前なのよ!?

 って、ていうか!さ、冴えないって!私のかかかかか、か、彼氏はもちろんカッコよくて、それで頭も良くて私を大切にしてくれる人がいいわよ!)

 

「さ、冴えない方?私には目つきが少しだけ悪い感じの、体の細いイケメンに見えたけど.........」

 

(ほ、ほら!そっちの子はイケメンって言ってるじゃない!)

 

「あ、貴女本当に御坂様の話をしているんです?殿方は黒髪で顔は冴えない感じはありつつも、体は鍛えられた鋼を感じさせるものでしたよ?」

 

(さ、冴えないって言うのはやっぱり気になるけど、鋼のように鍛えられた身体!?

 い、いや、別に見たいって訳じゃないんだけど、あの子が本当のこと言ってるのか気になぁ、って。)

 

「嘘!体は華奢でもはや女の子と言われたら気づかない感じの殿方!髪は雪を思わせるような白髪だった!目は見つめられたら即堕ちしちゃうような赤だった!」

 

(は、白髪!?気になって仕方がないじゃない!あ、赤い目・・・。べ、別に!見つめられたいとか思ってないんだから!)

 

「本当に見たんですか?」

 

「見たわよ!つけていったら、その後二人は廃墟みたいなところに入ったの。流石にこれ以上はプ、プライベートだから帰ったけど///」

 

「そ、それは私も見ましたわ///」

 

(んな!?私がそんなことを!?しかも鋼のような肉体の男と見つめられただけで即堕ちする男と!?さ、三人で!?)

 

「「えっとつまり、ふ、二股?」」

 

「はいちょっと待ったぁ!!!」

 

「「みみみ、御坂様!?」」

 

「ちょっと二人とも話をしよっかぁ。ん?別に大丈夫だよ?ちょっと躾が必要かなぁ、って思っただけだから」

 

「「ひ、ひぇ、、、」」

 

 

 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

「えっと、つまり、私たちが見たのは御坂様ではないと言うことですか?」

 

「うん、そう言うこと。誤解が解けてよかったわ」

 

「で、でも、」

 

「見た目は絶対御坂様でしたよ?」

 

「そんなわけ無いじゃない。見間違いよ見間違い」

 

「「そ、そうですかぁ」」

 

 

 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 学校の帰り道、御坂は話を思い出しその不気味さに体を震わせた。

 

「本当になんだったんだろう。私と同じ顔の人なんて、誰かが体型変化の能力でも使って私の顔に化けてるとか?それとも・・・クローンとか・・・。そんなわけ無いか!多分あの子達の見間違いね」

 

「よし!気を引き締めてお買い物行こう!」

 

 向かうのはセブンスミスト。新しく入荷されたゲコ太を買い求め彼女は放浪の旅に出掛ける。

 

「ってあれ、あそこに居るのって」

 

 

 

 

 

 私と同じ顔してるじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 














私事ですが、トゥイッターを始めました。
投稿したよ! とか、本作のこと呟きまくると思います。私の作品を読んで面白いと思った方はよろしくお願いします。

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御坂00001号(いちご)

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 自分に瓜二つの何者かを見つけてしまったとき、普通なら怖くてその場から立ち去るのが普通なのかもしれない。しかし、彼女はそれとは大きくかけ離れていた。御坂は何者かもしらぬ自分と同じ顔の女に話しかけた。

 

「ねぇあんた、なにしてんの?」

 

「お、まさかお姉ちゃんに出会うとは、今日は幸運が続くなぁ。とミサカは静かながらも喜びます」

 

 話しかけてみると、圧倒的な不思議ちゃんの予感がした。つまり、嫌な予感である。

 顔を突き合わせて、見れば見るほど少女は御坂に似ていた。鏡を見ているのではと錯覚するほどの一致。周りからすれば待ち合わせの双子だ。

 

 それよりも御坂が一番気になったのは()()()()()と呼ばれたことだった。彼女は、自分に妹が居るなんて両親から聞いたことがあるはずもなく、困惑するばかり。さらに困ったことに少女の声には抑揚がなく、事実なのか嘘なのか判断することができなかった。

 

「お、お姉ちゃんって、私に妹はいないはずなんだけど」

 

「お姉ちゃんは知らないかもしれませんが、私はれっきとした妹ですよ、とミサカは驚くべき事実をドヤるようにお姉ちゃんに知らせます」

 

 なんなのだろうこのドヤ顔は。少しだけ片方の口角を上げる姿は可愛らしいものはあるが、なんだか無性に腹が立ちそうになる。

 自称妹によると彼女は本当の妹らしい。と言っても信じることは全くできない。敢えて言うなら、無信全疑のような顔で自称妹の顔に自身の顔を近づけた。

 

「なんかその顔ムカつくわね。それで?何をしていたわけ?」

 

「見ても分からないのですか?とミサカはお姉ちゃんを嘲笑いつつも優しい心の持ち主なので説明を丁寧にします。知人紹介されたカフェに行くと見せかけて、知人に紹介された服屋に今から行くところですよ」

 

「いや分かるかーい!ってなんか調子狂うわね。ああそうだ、そこ一緒に行かない?丁度暇だったのよ」

 

 見てわかる筈のないことを、さも当然のように話され思わずツッコミを入れたが、気を取り直す。そして自分の妹と名乗る女の詳細を知るために、彼女と行動を共にすることを決めた。

 

「それはいい提案です。ミサカがお姉ちゃんの服を選んであげましょう。どうせお姉ちゃんのセンスは絶望的なので」

 

「あのねぇ、見てもいないのにそんなことを言えるの?驚かせてやるんだから!」

 

 ♦︎

 

 ミサカと適当な話をしながら歩くこと十数分、エスカレーターに乗り着いたのはセブンスミスト二階に位置する服屋だった。

 服屋に入るとまず御坂の目に入ったのはカエル柄のパジャマ。吸い込まれるように彼女はその服を手に取った。鏡で見てみると、よく似合っていると思う。

 

「えへへ、ねえ似合う?」

 

「こ、これは、ミサカはお姉ちゃんのセンスのなさに驚いていることを精一杯に伝えようとしますが.............」

 

「あ、あはは、そうよね冗談よ冗談。さあちゃんと決めましょう!?」

 

 純粋に引かれたことに心を痛め、涙を目にため込むが、見栄を張り名残惜しそうに服を元の場所に戻す。カエルさんが御坂を悲しい目で見ている。彼女はそれさえも鋼の精神で無視した。ゲ、ゲコォォォォォォオオオオオオ!!!!??

 何事もなかったかのように服を選び始める御坂に、それを冷たい目で見るミサカ。その視線に耐えかねた御坂はたまたま目に入った服を指さす。

 

「こんなのはどうかしら、アンタに凄く似合うと思うんだけど」

 

 それは壁に掛かっていた洋服。上着は黒色でその内側は白色のシャツ。シンプルなその服をミサカは手に取った。体に合わせてみると、案外似合っているように見えた。

 

「お姉ちゃんにしてはなかなかのモノです。とミサカはこれに合うズボン又はスカートを探しながら褒めてあげます」

 

「アンタ態度デカイわね本当に。まあいいんだけど。私は自分で自分の服を探しておくから、アンタも好きに探してて」

 

 適当に選んだ服を褒められ罪悪感が残る。その場から逃げようと自分の服を選ぶと言い御坂が後ろを向き歩き出すも、その手をミサカが掴んだ。何事かと後ろを振り返ると、ミサカは悲しそうな顔をしてこちらを見ていた。

 

「それはダメです、お姉ちゃんの服はミサカが選びます」

 

「しょ、しょうがないわね、じゃあアンタの服は私が探すわ。それでいいでしょ?」

 

「はい、それがいいです」

 

 ニコッと笑いながらそう言った彼女の顔に、不覚にも可愛いと思ってしまった御坂はその提案を丸々呑み込んだ。そして先程選んだ合うズボンを探そうと店内を歩き始めた。

 

(あの服にスカートはなんか違うわね。やっぱりデニムの長ズボンかしら)

 

 目に入った服を姿見の前で体に当て、服に合うかどうかを確かめる。

 

「うん、悪くないわね。私に似合うってことはあの子にも似合うはず。って私何恥ずかしいこと言ってるのよ」

 

「決まりましたか?と、ミサカは気になって仕方がなく時間も経たない間に来てしまいました」

 

「私は、あと帽子とかバッグとかを探したいところね」

 

「そうですか、では選び終わるまで待っています」

 

「悪いわね、アンタは決まったの?あれだけ言っといてセンス悪かったら分かってるわよね?」

 

「大丈夫です。何があってもお姉ちゃんよりもセンスが悪いことはありません」

 

 キリッとした顔で断言する彼女に、そんなに言わなくてもいいじゃない。そう思いつつも彼女が手に持つ服は、明らかにセンスで御坂に勝っていたので言葉には出さないでおく。惨めな気持ちになるだけだからだ。

 次に探すのは帽子。この服に似合う帽子ならば、キャスケット帽だろうか。と考えて手に取り被る。鏡に映るのは美しい少女。

 

「このお店、結構良いものあるわね。まあ、着る機会なんてそうそうないんだけど」

 

 常盤台中学には、普段から制服を着なければいけないというルールがある。おしゃれをしたい思春期の少女からすれば邪魔すぎる校則なのだが、そんな学校を選んでしまったのだから仕方がない。

 

「うん、これでいいわね。決まったわよ、それじゃあ着替えましょう」

 

 御坂は選んだ服をミサカに渡し、着替え終わるのを待った。ゴソゴソと更衣室から音が聞こえてくる。彼女は自分が選んだ服を妹が着ることに特別な意味を見い出したようで、早く出てきて欲しいのか体を横に揺さぶっている。

 

 待つこと一分、着替えました。と中から声が聞こえ、カーテンを開けたミサカが出てきた。その姿はとても中学一年生の見た目とは言えない、綺麗な大人の女性を思わせるモノだった。

 

「どうですか?ミサカはお姉ちゃんの反応が気掛かりで仕方がありません」

 

「似合ってるじゃない、カッコよくてオシャレな大学生みたいよ」

 

「その表現は私には分かりづらいのですが、褒めていそうなので素直に喜びます」

 

 嬉しそうにしているミサカを見つめると、御坂もまた嬉しい気持ちになる。二人の笑顔は絶えなかった。

 更衣室に入りミサカが選んだ服を着ていく。選んでいた時から思っていたようだが、ミサカの服のセンスは御坂からしてかなり高い。カゴから服を出して、それを自分が着ている姿を想像する。

 

「ふふ、さすが()()()ね」

 

 よく合っている気がした。

 含みを持つような言い方だがそんなことはない。

 数分後、着替え終わった御坂はカーテンを開けて更衣室の外に出る。彼女の姿を見たミサカは手を叩き褒め称えた。

 

「さすがミサカです。お姉ちゃんに似合う服をよく選びました。センスや可愛さは姉以上、もはやミサカは御坂なのでは?」

 

 ミサカ自身を。

 

「怖いわよ!もっと表情を見せなさいって、無表情でそんなこと言われても漏らすだけよ!」

 

「ふふふ、冗談ですよ。知人にお姉ちゃんは意外とツッコミ担当だと聞いて試したくなりました」

 

「全くもう、ふざけるのも大概にしなさい」

 

 腰に手を当て上半身を前に倒して叱るその姿は、姉のようであり母性を感じさせるものだった。

 よほど気に入った服なのか、御坂のお叱りをなかば無視しながらミサカは会計に進む。待ちなさいよと声を掛け御坂も後を追うように会計を済ませて店を出た。

 

「えっと、この後どこに行くの?」

 

「先程言ったカフェにでも行こうかと思っています」

 

「そう、分かったわ。じゃあ、ゆっくり話を聞かせてもらえるわね」

 

 額を冷たい汗が流れる。

 ミサカの顔を覗くようにそう言った彼女は、とてもとてーも怖かった。

 

 

 ♦︎

 

 

 何人かのスキルアウトを潰しつつ、路地裏を抜けて行き着いたのは大きなカフェ。席は見渡すだけでも百以上あり、二階もあることを考えると学区内最大のカフェと紹介されても信じられるほどだった。

 

「こんなところにカフェがあったなんて知らなかったわ」

 

「お姉ちゃんには場違いなほど綺麗なカフェです。という冗談は置いておいて、路地裏を抜けなきゃ見つからないここは、あまり知られていません。それでも人気は異常に高く、一度来てしまうとこの沼にハマってしまうとかなんとか」

 

「たしかに、席はほぼほぼ埋まってるわね」

 

 一階は空席が見当たらないほど人がいる。しかし、逃げるかのように二階へ上がると、まばらといった程度で席はあまり埋まっていなかった。ちょうど室内の中心、近くに誰もいない席があった。そこであれば誰にも話を聞かれないで済むだろう。ミサカが先に座ると、隣に腰掛けた御坂が息が掛かるほどの距離で詰め寄った。

 

「それでアンタ、本当に私の妹なのかしら?」

 

「さっきも言いましたが、ミサカは正真正銘の妹です」

 

「証拠は?」

 

「証拠と言われましても、瓜二つのこの顔、体以外に思いつかないです」

 

 そう言ってミサカは立ち上がり一回転。何の一つも違いのないその体を御坂に見せつける。

 

「あぁ、もうそう言うことでいいわ」

 

 呆れたように言った御坂にミサカは愚痴を垂れ流す。はいはいとてきとうに聞き流す御坂に不満を見せるミサカ。彼女は御坂が奢るということで上機嫌になり、一番高いステーキや肉に合うとは思えないブラックコーヒーを頼み始めた。

 その代わりなのか御坂は質問攻めを始めた。ミサカがあわあわし始めても止めず、ついには機能を停止したかのように動かなくなるまで止めることはなかった。

 

「み、み、みみみ、ミサカは情報量の多さに対処が不可能ですぅ.........」

 

「ちょっと!?だ、だれか助けてぇ!」

 

「ッ!?ここは僕の出番なんだね!?」

 

 そこに現れたのは、カエル顔の白衣を着たおそらく医者であろう男。御坂は彼を見た瞬間、にゃにゃんと表情を猫のように変えた。その短い間にカエル顔の医者はミサカの体を調べ異変がないことを確認。さらにはミサカのことを正気に戻したのだった。

 

「はっ!?ミサカは何を!?」

 

「君は錯乱状態にあったんだ。どうやらもう大丈夫みたいだね?」

 

「は、はい、大丈夫です」

 

「よ、よかったわ!ちょっと流石に質問しすぎたみたいね、もう少しだけゆっくり聞くことにするわ」

 

 結局質問はするのかよチッ!とどこからか聞こえて来たが、愛する妹(仮)の筈がないだろう。

 御坂は気を取り直して質問攻めを再開した。だが、今回は言った通り質問の答えが聞けるまで次の問が出ることはなかったため、ミサカは錯乱する必要はない。

 

「アンタってどこから来たの?」

 

 もしもずっと同じ第七学区内にいたのなら、今まで見かけなかったことが不思議。ならば、どこかの学区からわざわざ第七学区に来ているのだと考えた。

 

「遠くの病院から来ました」

 

「え、病気でもあるの?」

 

 返って来た言葉は御坂をかなり慌てさせた。彼女の心臓はバクバクと鳴り響き、汗は大量に流れ落ちていた。聞いてはイケないことを聞いてしまった時の反応そのものだ。

 

「いえいえ、ホルモンバランスが悪いとか何とかで今は通院しています。ですが、もう退院していいレベルなので、今は居座ってるだけと言っても過言ではありませんね」

 

「お、驚かさないでよ、病気とかじゃなくてよかったわ」

 

 クールに言ったつもりの御坂だが汗は未だにかき続け、心臓はバクバクと鳴り響き続けている。もちろんミサカにはバレバレだ。

 

「驚かしたつもりはないのですが.......」

 

 そうは言っても御坂の焦りように心の中では楽しんでいた。

 

 それから他愛もない話を話し合い、もうすでに日は暮れ始めていた。そのとき御坂は自分の失態に気付く。

 

「あ、私アンタの名前聞いてなかったわ」

 

 それは名前を聞いていなかったこと。

 

「ミサカはミサカ一号ですよ?」

 

 ミサカはあまり考えずに、一号と名乗ってしまった。

 

「ん?い、一号?」

 

 御坂が首を傾げたときに間違いに気付く。実験の関係者以外にこの名前を教えてはダメだった。ミサカはその自慢の脳で解決策を探す。考えること僅か一秒、ミサカは完璧な解決策を見つけ出した。

 

「あ、いいいい、いえいえ、()()()ですよ!」

 

 いちごと名乗ることにしたのだ。

 

「ああ、いちごね、いい名前じゃない。さすがママね」

 

「ええ、私たちのお母さんのネーミングセンスは素晴らしいです、ね」

 

 愛する姉に褒めてもらい、顔を真っ赤に興奮している彼女にとっては、小不幸中の大幸いだった。と思う。







漢字は一護にでもしますか笑あはははは

十日以上休んですみません。と、このように遅れてしまう時はTwitterに理由が書かれていると思います。
あとがきはTwitterで書きます。
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廃ビル群(デレリクト・ビルディングス)

Twitterゴリ押しの術

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 日が沈みカフェを出ると、そこには場違いなほどに汚い男たちがたくさん集まっていた。何人かは見覚えがある。このカフェに来る時にボコしたスキルアウトだ。髪はモジャモジャになり、顔だけでなく服まで真っ黒焦げの炭男状態。

 男たちはお決まりのセリフである「よくもやってくれたなぁ」的なことを言って御坂たち二人に襲いかかった。もちろん十数人いたはずのスキルアウトは一人残らず電撃によってさらに黒焦げになり、地面に突っ伏していた。

 

「私の妹に手ェ出したらどうなるか覚えておきなさい」

 

「か、カッコ良かったです。お姉ちゃん!私一人だったらどうなっていたことか……」

 

「大丈夫よ。アンタは絶対に私が守るんだから」

 

「ぐすん。ミサカは、ミサカは姉の暖かさに感動しています」

 

 御坂は妹にカッコいいと言われて御満悦である。

 このスキルアウトを倒したことが、彼女たちの命運を分ける出来事だったとも知らずに。

 

 


 

 

 スキルアウトのリーダーの男はポケットから携帯を手にし、上部組織へと連絡を入れた。

 

「す、すんません。下っ端が捕まりやがりました。犯人は御坂美琴、それとそいつに瓜二つの女の二人です」

 

 その連絡を受けた男はよくやったと応え、詳細を話すように促す。話を聞き終わったところで、上部組織の春田(はるた)春田(しゅんた)は上司に話を通すと言って電話を保留にした。

 

 ここで春田sideに移る。電話を切った春田は自身の所属する組織のトップに会いに行く。エレベーターで四階から最上階まで上がり、突き当たりの部屋をノックした。中から聞こえたのは入室を許可する声。その声はかなり苛立った様子で、春田は心臓が凍りつくような想いのまま部屋に入った。

 部屋の壁はコンクリートで出来ており、装飾は何も無いため少し寂しく感じてしまう。ドアから数メートル先に進んだところに男はいた。彼──木原数多はチェアーをくるりと回してこちらを向いた。

 

「木原さん、報告があります」

 

「なんだ?」

 

 木原は片眉を上げて春田を睨め付ける。苛立った様子のまま低い声で聞き返した。

 

欠陥電気(レディオノイズ)が見つかりました」

 

「やっと見つかったか。それで、何処だ?」

 

 イラついた顔を少し和らげ、少し安堵したようにも見える顔で続きを促した。

 

「第七学区です。発見したスキルアウトの電話を保留していますが」

 

「スピーカーに繋げ」

 

 携帯のスピーカー機能を付けて、木原にも聞こえるように通話を再開した。

 通話の男が言うには、路地裏を通る女を襲うも相手が強く返り討ちに遭い、仕返しをしようとスキルアウトの大半を連れて行ったとのこと。結果は敗北、こうしてスキルアウトは破滅してしまったのだ。

 

「チッ、全滅かよ。殺しておけ、ソイツらもういらねえから」

 

 木原が全滅した無能たちを殺すよう命令すると、春田は笑みを浮かべた。いたいけな少女たちを潰すための一歩目だ。

 

 

 ♦︎

 

 

 はぁと息を零しながらに、春田は使えないスキルアウトに銃弾をぶち込み続けた。第七学区の大きなカフェ近くの路地裏は、蜂の巣のように穴だらけの死体と、まるで血の雨が降った後だとでも言うような赤色に染まっていた。

 もう一度ため息をつき、死体を一瞥するも男に心の変化はない。ただ、木原数多に従わなければいけないことと死体処理。その両方が面倒くさいという事しか考えて居なかった。

 

「死体処理班を呼べ。死体は五つだ。ったく、抵抗もしないカスどもを殺すのは楽しくねぇんだが」

 

 了解と返事が返ってくると無線を切る。上司からの指示を待っていると無線に反応があった。

 

「欠陥電気の足取りはどうだ?」

 

『今のところ、オリジナルと見られる人物とどこかへ向かっている途中です。そろそろ日も暮れますし、住処とかそんなあたりでしょう』

 

「そうかわかった、そろそろだな」

 

 作戦実行が近づいてくるにつれて、心臓が高鳴ってゆく。だって今日は、

 

「何体も殺せるから」

 

 

 ♦︎

 

 

 それから数分。春田は木原と無線により連絡を取り、欠陥電気の尾行を開始する旨を伝えた。

 春田達猟犬部隊(ハウンドドッグ)の隊員にはカメラがつけられており、リアルタイムで少し遠くから車でゆっくりとついて来ている木原に映像が送られていた。その映像の中には、奥の方に米粒ほどの御坂姉妹が映っていた。何故こんなにも離れているのかというと、御坂の能力により付けていることがバレないためだ。

 

「どうやらオリジナルと別れたようです」

 

『ああ、見てた。分かってるだろうが欠陥電気だけを追えよ。今回に限ってオリジナルに価値は無い』

 

「了解」

 

 通信の後も男たちと黒塗りの車はミサカを付けていく。

 遂に行き着いたのは廃ビルが多く立ち並ぶ地域。第十九学区、通称廃ビル群(デレリクト・ビルディングス)と呼ばれる、都市開発に失敗した暗い空気の漂う地域であった。その映像を見た木原は独り言つ。

 

「あーれぇ、結局ここなのかよ。最初からここ潰しときゃよかったなぁ」

 

 当たり前な話だが、ミサカ達を製造する機械はかなり大きい。そのため場所は移動しなかった。することが出来なかったのだ。だが、同じ場所に居続ける筈がない、という勝手な勘違いで今まで最悪の事態をスルー出来ていたのである。

 

「対象が建物に入った。無防備だな、何か罠があるかもしれない。気をつけろ」

 

 春田の一声で気を引き締めた男達(猟犬部隊)は、ジリジリと牛の歩みを進めて行く。完全に欠陥電気の姿が見えなくなったところで、木原の命令により建物の影に展開して待機する。

 

『春田の言う通り静かすぎるか。ってなると一方通行(アクセラレータ)もどこかにいるはずだ。失敗すんなよ』

 

「了解」

 

 凄みのある声で命令され寒気が体を貫いた。血の気が失せる感覚である。いや、体を貫いたのも、血が失せたのもただの比喩などではなかった。カメラの映像が突然エラーを放つ。かろうじて生きていた無線機能が、誰かの声を拾う。

 

「あァ、木原くンの手下共はこンなに弱っちィンですかァ。こりゃ期待はずれだなァ、わざわざ色々隠す必要もなかったかもしンねェ」

 

 黒塗りの車の中、木原の表情が一変した。鬼が威嚇でもしているかのようなそのオーラは、その車の運転手のハンドルを誤らせるほどに恐怖を感じさせていた。

 

 一方通行の足元、何かが接続されるような機械音が響く。

 

『よぉ一方通行。俺の手下を全員潰してくれちゃった感じかぁ?』

 

「さァねェ?そんなカス共、俺はしらねェよ」

 

『ちっ、おい餓鬼そこで待ってやがれ、マジでぶち殺してやるからよォ』

 

「クカカカ、お前にゃ出来ねェだろ」

 

 無線を切ると木原は、一方通行の待つ廃ビル群へと車を最高速度で走らせた。廃れたビルの間を突き進む大量のエンジン音。それは彼の手下、猟犬部隊(ハウンドドッグ)の全てだった。

 

 ♦︎

 

 移動すること数分、目的地に着いた猟犬部隊は建物に向けて兵器を並べた。濃厚な火薬の匂いが男たちの股間を膨らませる。それは破壊衝動という欲求であり、破壊することでしか発散できない。

 地を揺るがすような爆発音のあと、残るのは瓦礫だけであった。

 

「これでビビって出てきてくれりゃ良いんだけどよぉ」

 

 すっかり見渡しの良くなった景色の向こうに、人影が見えた。体の線は細く、猫背気味の華奢な人間だ。それは黙々とこちらへ歩みを続ける。誰かがポツリと零した。あれは一方通行ではないかと。もしやと考えていた者も周りの反応に確信を持ち、それならばと銃を構えた。

 

「発砲の許可を」

 

「いやアイツは俺が直々に殺すからよ。オメェらはクローンを探しにいけ。んで、見つけた場合は徹底的に鉛玉喰らわせてやれ」

 

 銃の隊列が真ん中で二つに裂け、それぞれに散らばっていく。彼らはその全員が殺しを娯楽だと捉えていた。妹達(シスターズ)が見つかってしまった場合、どうなってしまうのかは想像に容易い。

 

 そんな隊員たちを見逃し、木原と久方ぶりの対面を果たした一方通行は、彼は軽めの挨拶だと言うように軽く足を上げて軽く地面に叩きつけた。

 その軽々しい行動とは裏腹に、転がっていた瓦礫一つ残さず吹き飛ばされ、残ったのはひび割れたアスファルトの地面に少しの粉塵だけ。

 更に見渡しは良くなり、遮蔽物の無くなった二人はさらに距離を近づけた。

 

「木ィ ハ ラ くゥン

 ギャハハハッ‼︎久しぶりじゃねェかキハラくんよォ、俺のツラァ見ンのが怖かったインテリちゃんには見えねェよォ‼︎」

 

「はぁ、俺としてもテメェのいる可能性がある場所には行きたくなかったんだけどな、アレイスターに言われちまって仕方なかったんだよ。計画があぁだこぉだで手段選んでる暇ねぇんだ。

 だからまあ、どっかでおねんねしててくんねーかな」

 

 盛大に煽っていた筈が、大人の対応で返される。はぁ、とつまらなさそうにする一方通行は口を開こうとする木原の言葉を待った。

 

「てか、その能力は何処の何奴が開発してやったと思ってんだよ」

 

「なにお前、今更お礼でもして欲しいンですかァ?それともそンな理由で命を見逃してもらえるとでもォ!?」

 

「はぁ、お前って本当にムカつく奴だよなぁ。あー殺したいわぁ、あァ殺してェなァ」

 

 額に青筋を立て下を向く姿と、先程とは打って変わった言葉遣いは彼がイラついているのを良く示していた。それでもなお、木原を煽り続ける一方通行だが、冷や水をかけられたかのように突然口を閉じた。

 真剣な顔付きになった彼は木原の冷たい言葉を自ら浴びる。

 

「実を言うと、前からそのキレイなお顔をぶっ潰したかったんだよ。そりゃ昔は研究素材だし、何よりガキのガキだったから踏み止まった訳だけどぉ」

 

 木原は強く手を握ることで気を鎮めさせ、血走った目を一方通行と合わせた。

 

「そんな訳で、殺すわクソガキ」

 

「アホかオメェ」

バゴンッッ‼︎‼︎

 

(な……に………⁉︎)

 

 避ける必要もないと思っていた、ただの拳が一方通行の顔にめり込んでいた。

 

「おいクソガキよぉ、もっぺん言ってやるが、そのクソみてぇな能力は何処の誰が与えてやったと思ってんだ、よッ!!!」

 

ゴツッッ‼︎

「ほらヨォ、思い出したかー?」

 

 木原は放心状態の一方通行に優しく教えるように耳元で囁く。彼の瞳だけが木原の動きを追っていた。

 

バキッ‼︎!

 

 幾度となく繰り出される拳は全てが一方通行の顔面を捉えた。拳を受けた顔は鼻が潰れて血だらけになり、既に青痣が浮き出ている。顔の痛みをヒシヒシと感じながらも、一方通行は信じられないと言いたげな顔で呟く。

 

「おいおいおい、テメェもなのかよ」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 一方通行と木原が遭遇する五時間ほど前、学園都市第一位の名を(ほしいまま)にする男、一方通行(アクセラレータ)は何かがおかしい、そんな違和感を感じていた。まるで不幸の前兆のようなピリつく空気に嫌気がさし、心に引っかかる何かを吐き出したい気分だった。

 

 彼はすぐに裏との繋がりを持つ少女へと通話をかけた。裏で何か大きなことが起こっていないかどうかを聞くが、彼女は何も知らないと答えるだけ。

 

「クソ、なンなンだこの感覚はよォ」

 

 白井には裏の事を調べておくように言い、彼は個人で出来ることをしようと動き始めた。

 まず最初に考えたのは違和感の正体。彼はこれを不幸の前兆のようなものだと考え、未然に防ごうと無くなっては困るものを隠していた。

 実験の中止から既に一ヶ月と少し経っており、製造したクローンは一万人に達している。産まれた彼女たちは今、一人を除いて絶対にバレることの無い病院に入院させている。ならばと材料やお金もそこに隠そうと、白井を呼び出しそれらを転移させた。

 

「それで、アイツらについて調べて何か出てきたか?」

 

「あぁ、それならそれっぽいのが見つかりましたの」

 

「ッ!ならさっさと言いやがれェ」

 

 情報を急かすが、出てきたのは彼の望んでいたモノではなかった。

 

「っとその前に、私を良いように使わないでくださいまし。今回の様な場合ならともかく、御使いじみた細事に呼び出されると仕事が間に合いませんの」

 

「・・・ちっ、それぐらい守ってやるから早く言え」

 

「はいはい、言質は取りましたわよ。

 それでですが、アレイスターの命令で猟犬部隊(ハウンドドッグ)が動いているようですの。目的ははっきりとしていませんが、どうやら妹達を探しているとか」

 

「猟犬部隊だと?そりゃ木原の野郎がいるとこじゃねェか」

 

 あっさりと話し始めたことなんかよりも、彼の頭は考え得る最悪のシナリオが支配していた。アレイスター直轄の部隊が妹達を探しているとなると、その目的は明瞭。もし、それが本当に起こってしまったらと考えると、彼は肌が粟立つ思いだった。

 

「貴方の考えはよく分かりますわよ。でも、絶対にどうにかなりますの」

 

「当たり前だ。俺を誰だと思ってやがる」

 

「天下の第一位、アクセラレータ様ですか?」

 

「そォゆゥ事だァ。クカカカ、木原クンのアホ面が早く見たくてたまンねェよ」

 

 嵐のような不穏な空気を吹き飛ばすように、一方通行(アクセラレータ)は笑い声を放ちながら佇んでいた。彼の姿はまるで、お姫様を守る騎士のような強い自信が満ち溢れて見えた。

 

「それと、宿題はお忘れずにー」

 

「あァ、確か()()()()()()()()()()()()()。だったな」

 




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きぃふぁ!? るるるうぅぅら くぅん(犬)

テスト期間が終わりましたので投稿を再開しようと思います。
今気づきましたが、この小説を始めて丁度半年らしいです。時の流れは速いモノですねえ。でも、35話しか投稿してないのは少ないですかね笑






 白井黒子という少女により課された宿題『何故白井黒子の拳が一方通行に当たるのか』を解き明かそうと考えるが、なかなか根拠のある答えが思い浮かぶことはなかった。

 

 例えば、白井黒子の能力が実はベクトルを変換する能力だった場合、攻撃が一方通行に当たることはあり得ることだ。しかし、それならば一方通行には()()()()()()()()()()()()()()()()()、という大きな違和感があったはず。それが無いためこれは考えられなかった。

 

 他には、白井黒子の能力である空間移動(テレポート)が、物以外も転移させられる可能性が考えられた。つまり、能力を使い殴った衝撃を直接一方通行の内部に移動させているということだ。これなら反射をする以前の問題であるためあり得ないこともないが、やはり証拠が全くない答えだと早々に吐き捨てた。

 

 あと考えられるとすれば、()()()()()()()()()()()()ところで一方通行(アクセラレータ)という能力を攻略していると考えられるわけだが。それこそ最も考えられることではなかった。

 

(この答えが俺を助ける事になるなンて、あんまり思えねェけどなァ)

 

 

 ♦︎

 

 

 そして時間は経過して。答えを出さなかった事を悔やんでしまう結果となっていた。

 

(クソッ、一日の間にこンなに殴られるか!?普通ゥ!)

 

 痛そうに顔を抑える一方通行を見て、木原は愉快に口角を上げている。

 

「おいおい良い顔すんじゃねぇか、つっても顔の半分も見えねぇが。もしかして、最強が破られて泣いちゃってんのかぁ?」

 

「クカカ、そンな訳ねェだろ。なンとなく分かったから笑みが溢れて仕方ねェンだよ」

 

「おお、今のだけで分かっちまうのか」

 

 さすが第一位様のお坊ちゃんだ。と皮肉を効かせたような言葉を木原は後に続ける。直後、彼は感心したように手を叩き始めた。意味がわからなかった一方通行は木原を睨むように見上げるが、それすらお構いなく拍手を続ける。

 腕が疲れたのか十数秒で拍手はやめたが、その代わりには木原のすすり泣く音が響いた。今度こそ一方通行は木原を奇異の目で彼を見た。

 

「俺は感動で涙が止まんねぇよ。あのクソガキ野郎がまさかこんなに成長するとは思って無かったからな」

 

「泣いてる暇があンならさっさと消えて欲しいけどなァ」

 

「消えんのはお前だよ。まあその前に答え合わせでもしようか。分かったのはなんとなく、だろ?だからキッチリ教えてやる」

 

 早く答えを教えたい。まるで親に新しい発見をいち早く知らせたい子供のようである。よほど自慢したかったのか欲望のそのまま答えを口に出そうとするも、一方通行はそれを許さなかった。

 

「アホかオメェ、それじゃあカンニングになっちまうだろ。当たってンのかどォかはお前で試してやる」

 

「そぉ?俺が言いたかったんだけどなぁ、名付けるとしたら木原神拳とかどうだよ」

 

「だから勝手に語ってんじゃねェよ、俺が叱られちまうだろ」

 

 一方通行の言うことの要領を得ていない様子の木原。どう言うことなのか聞くも軽く笑われるだけだった。痺れを切らしたのか、木原は一方通行目掛けて拳を振り下ろす。

 一方通行の行動パターンなど、全てを知る彼には算段があったのだろう。だが、幼少期の何年も前の古いデータだ。もしも木原には知り得ない感情が彼に存在していたら。それは絶対に違う結果となる。

 自分を完璧だと勘違いした男は、真反対の道を選んでしまったのだ。

 

バキッと言う音と共に辺りに血が吹き飛んだ。もちろん痛みを感じていたのは、一方通行ではなく他ならない木原数多。

 木原は普段とは全く違う方向を向いている右腕を見開いた目で見た。腕の肉は断裂しその中からは鮮やかな赤い血が泡を立てながら吹き出していた。その血は木原の顔だけでなく、血から逃げるように離れた一方通行まで届く勢いだった。

 

「おいガキ、テメェ何したんだ?」

 

 それでも気絶どころか、目を見開くだけでいるのはさすがと言ったところだろう。いや、それとも痛すぎて喚くことすらできないのか。

 

「お前が考えそうな事の逆の事をしたまでだ。つっても、アイツにはこれじゃ通用しねェだろうな」

 

「あり得ねえ。お前の思考回路やらなんやら、俺は全て知ってんだぞ?」

 

 彼の敗因は一方通行のことを知りすぎていたこと。それと一方通行が精神的に成長していると考えていなかったことだった。

 全てが、一方通行の考えたままのシナリオ通りに進んでいたとでも言うように、彼は見下ろす木原を鼻で笑った。

 

「知らなかった。それだけだろ」

 

「クソガキ、テメェは呪ってでも殺してやる」

 

「これ以上顔面ぐちゃぐちゃにされちまったら、あのガキに何言われるか分かったもンじゃねェ。つーわけだじゃあなクソ親父、来世ででも会おうや」

 

 貧血に耐えきれず地に仰向けで倒れた木原の顔に、一方通行の足が置かれた。

 

 

 その後、綺麗な木原さんが生まれたとか、生まれていないとか。。。*1

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

「先生、もうよろしいのでは?」

 

『うん、済まないね。一方通行が思わぬ成長をしていることに驚いただけだよ』

 

「・・・たしかにそうですね。彼に交友関係が出来るとは、この段階では早い気がします」

 

『まあ、結局のところ良いことなのではないのかな?アレイスターくんに取ってどうなのかは知らないがね』

 

「脳幹先生」

 

『あぁ、分かっているよ。急ごうか、彼を待たせてはこちらも危ない』

 

 

 

 


 

 

 

 

 一方通行の顔の怪我が治った現在、一方通行の携帯に入っている連絡先は4つあった。そのうち一つはもちろん白井黒子。

 そしてもう一つは妹達の共通携帯だ。

 一万を大きく超えたシスターズのうち、今稼働しているのは千人程度。もちろんクローンの存在がバレないためにもその全員が外に出て良い訳ではなく、最高でも一学区に一人と言うのが現状。それと、午前と午後で違う個体が外に出ることで経験を記憶越しではなく、本人が得るという成長の観点も考慮している。

 その一環で御坂美琴本人と会ってしまうのは誤算ではあったが、その中でシスターズ00001号は御坂いちごと言う個性を手にした。それに伴い彼女にはアイデンティティが確立し、さらには自分だけの現実(パーソナルリアリティ)までが強固なものとなった。それにより、元々あった超能力者の才能が少しずつ、開花しつつあった。ネットワークを通じて感化されたのか、ほかの個体まで能力の強さが上がる良い誤算であった。

 

 そして、そのネットワークを司る者が存在する。みなさんご存知打ち止め(ラストオーダー)である。彼女はネットワークの構築のために最初に製造された、つまり本当の1号さんという事。彼女と一方通行は毎日のように連絡を取り合っていた。

 この打ち止め、研究者の言葉が確かならば、管理を楽にするため幼いまま留めていた。ならば、今この状況で幼い必要は無いのではと思っただろう。実際その通りである。

 

 最後の一つはその場のノリで連絡先を交換してしまったもの。それを使うことはほぼないと言っても過言では無いだろう。

 

「一方通行!ってミサカはミサカは用もないのにただ呼んでみたり!」

 

 しかし、このように幼いままなのは、完全に一方通行のしゅm、ゴホンゴホン。白井の願望が強く反映されていた。彼女曰く「子供の成長は、自分では分からないので見てみたいんですの」とのこと。確かに、自分の成長は自分では分かりづらいのかも知れない。が、恐らく彼女の屁理屈であろう。おそらく白井はロリコンだ。*2

 

「でもよォ、まさかガキってのがこンなに面倒な生き物だとは思ってなかった」

 

「ぬぬぬ、そのガキって言うのはミサカの事? ってミサカはミサカは睨みながら聞いてみたりぃ!」

 

「アァお前だよ。静かにすることもできねェからガキなんだよ」

 

「それは聞き捨てならないかも!それ以上酷いこと言ったら例の人を呼んじゃうよ!」

 

「そ、それはヤメロ!はぁ、俺の攻略者がドンドン増えてる気がすンだが」

 

 実に仲の良いことである。一方通行がため息をついている間に、打ち止めは携帯を取り出して誰かに連絡を入れた。

 

「ふふふ、これで貴方はミサカに反抗出来ないのだ!ってミサカはミサカはご満悦にしてみたり」

 

「おい待て!まさかアイツに連絡したわけじゃないよな!?」

 

「それはお楽しみだよ?」

 

 ブブッ

 

「あ、あの人かも!って、ミサカはミサカは早く携帯を見やがれって命令する!」

 

「アァ、分かったたよ。開ければいいんだろ?」

 

 訂正、使うことがほぼ無いと言っても過言ではなかった。ちょうど今、その連絡先からメールが届いた。

 

《おいアクセラレータ、ラストオーダーから聞いたぞ?あんま酷いことはやめとけよ?じゃなきゃ俺の右手が火を吹くぜ!》

 

 と言うような内容だった。一方通行は鳥肌がたった。憧れの人(笑)と連絡ができた事もそうだが、単純に痛々しいメールの内容に鳥肌がたったのだ。

 

「アクセラレータ?なんてメールがきたの?」

 

「チッ、知らねェ。ただの出会い系だろ」

 

「あ!嘘はいけないよ?タイミング的にあの人以外ありえないもん」

 

「うるせェ、残念だったな予想が外れて」

 

「むぅ、絶対あの人なのにぃ、、、やーいぼっち!」

 

 そのとき、ミサカネットワークに一方通行のセクシーな写真が拡散された。一方通行の知らぬうちに。

 

「ふん!これでおあいこだぁ!ってミサカはミサカは一方通行の知らないうちに勝ち誇ってみたりぃ!!!!!」

 

 そのセクシーな写真は一方通行の上半身が豪快に写されたもの。貧相ではあるが、それなりに需要がある。例えばミサカ達妹達(シスターズ)、他には、、、あまり思いつかないwww

 

 以上、実況は天の声でした。

 

 

 


 

 

 

 それから一ヶ月と少しが経ち、学園都市は雪が降り草木が枯れる季節に変わった。本来ならば実はこの日、白井と初春が出会う日なのだ。何故既に出会っているのかと言うと、それはご都合主義と言うやつなのだろうか。既に原作で言えば大覇星祭くらいの仲の良さであった。

 

 今日は風紀委員(ジャッジメント)に入隊を希望する者たちの体力計測の日。初春は何故か、腕立て伏せが十回も出来ないくせに鬼教官の真似事をしている。すぐに白井にどつかれては居たが、白井の目に見えないところではずっと続けている。

 

「おいゴラァ!テメェらそんなすぐにバテてたらすぐに死ぬゾォ!?風紀委員(ジャッジメント)には自分の命を顧みない部隊があってなぁ、そこに所属する奴らはもれなくマチョマチョのマッチョだぁ!能力だけに頼り切るバカアホはここで死ぬかぁ!?今のうちになぁ!」

 

「「「ひ、ひぃ、がんばりますぅ!!!」」」

 

 入隊を希望する者たちは絶望に涙を流し汗を流す。十数人の年下を支配しているという興奮が初春を、さらに激しくさせる。

 

「その心意気よく分かった!じゃあ腹筋1,000回だ!」

「いやバカなんですの?常人に出来る筈がないでしょう」

 

 そこにすかさず現れたのが白井。デジャブを感じた初春は冷や汗をかきながら言い訳を始める。

 

「でも、白井さんも上条さんも出来るじゃないですか」

 

「あのねぇ、あの方が常人の訳がないでしょう?あと、私はそんなに出来ませんわよ?筋肉痛は嫌いなので、じっくりコツコツと続けて行くのが一番ですの」

 

 まるで鬼教官(初春)を否定するような言葉遣いだが、正しいのだろう。他ならぬ白井が言っているのだから。うんうん、そうに決まっている。

 そして、指導員が初春から白井に変わったことで、男たちのモチベーションはグインと上がっていた。適度なランニングに計測という名に相応しい五十回程度の腹筋、腕立て伏せ、背筋、スクワット。初春の独裁的な方針とは打って変わったやり方に、彼らの風紀委員に入りたい気持ちがさらに増加した。

 

「なあ俺、白井さんのためなら強行(オーバーワーク)班に行ける気がする」

 

「まじかよ、まあ俺もそう思うけど」

 

「まじで何だったんだろうな、あの花頭」

 

「もう忘れようぜ、俺らには白井さん。いや、白井黒子様がいるんだ」

 

「「「「「「「「「その通りだ!」」」」」」」」」

 

 男とは単純なもので、可愛い子の為ならなんでも出来てしまうらしい。数年後、彼らが現場で活躍する日があったとか。。。。

 ちなみに、先程集まっていたのは男だけ。では女はと言うと、初春とはまた違った厄介な人間に捕まっていた。

 

 ♦︎

 

「指導員の上条だ。よろしくな」

 

「「「「よろしくお願いします!」」」」

 

 上条の挨拶に、四人の少女が元気よく応えた。上条は元気があってよろしい!と、上機嫌ながらに少女たちを褒めた。早速とでもいうように、上条はホワイトボードに今日のメニューを記していった。

 

「今日は初めてだから、皆んなの体力を見せてもらいます」

 

「何をするんですか?」

 

「そうだなぁ、まずはランニングだな。ここを何周出来るかを見てみよう」

 

 少女の問いに目線を合わせながら、借りている大きな駐車場の外周を走るように言った。その間は少女たちの走り方を観察する。

 

「んー、あの子は結構速いな。姿勢も良いし何も言うことはないだろ。

 あの子は、少し腰が揺れすぎかもな。後で矯正しておくか。

 んー、あとの二人は一般的って感じかな」

 

 本部に提出する紙に四人の評価を書き、その後の改善点などを例に挙げた。この紙、本部が希望者をどの支部に配属するかなどを決めるための、ものすごーく大事なものだ。この紙を上条に渡して良いものなのか、白井はすごく悩んだが、結局上条の手に渡ってしまった。ついでに上条は南京錠付きの箱も渡され、これにしまっておけとのこと。そこまで信頼されていない上条さんには、同情の気持ちが湧いてしまう。。。

 

「よし、皆んなすごいぞ! 十周はすごい!」

 

 中3にしては少ない語彙で精一杯褒める上条に、少女たちは鬼畜な一言を言った。

 

「お兄さんご褒美は?」

 

 なんてったって、上条に金はない。それも子供四人の食欲なんて測れるものじゃない。あぁ、きっと、今月はもやしの毎日だ。なんて思いながらも、ご褒美にアイスを選ぶ上条だった。

 

 ♦︎

 

「お兄さん、冬のこんな日にアイスはセンスないかも」

 

 10度を下回る日に汗だくで冷えているのにもかかわらず、アイスを食べさせられた少女たちは上条を批判する。

 そんな時だった。一人の少女が小石に躓いて転びかけてしまった。不幸なことに手に持ったアイスは上条の股間、ち○このあたりにぶちまけられた。

 

「怪我はないか?」

 

 そんなことを聞くが、股間がアイスでベトベトでは格好がつかない。少女四人に笑われ、悲しみにふけていると、少女は爆弾発言を落とす。

 

「お兄さん、私が舐めて拭いてあげよっか?」

 

 ピクリ 何がとは言わないが、ナニがピクリと蠢いた。己の欲望という名の電車が前に進もうとするのを理性で堪えて、上条は提案を断った。

 

「..............い、いいや、自分で拭くよ。流石に風紀委員がそんなことしたらジャッジメント案件だから」

 

 流石は純粋無垢の少女たちと言ったところか、首を傾げて不思議そうにするのだった。その様子がとても良い。ではなく、とても可愛い。でもなくいややっぱとても可愛いもので、上条は断ったことを後悔するのだった。

 

「上条さん? 今、何を、ナニを考えていたんですの?」

 

「ヒェッ」

 

 後ろから声が聞こえた。それはとても冷たく、発言の主が怒っている。いや、こちらを気持ち悪がっていることを明白に示していた。上条の振り返る速度は、亀のように遅かった。数分が経ち、ようやく発言の主が目に入った。

 

「く、黒子さん?」

 

 冷たい目がこちらに突き刺さる。それだけで上条の腕は鶏小屋の中ようになっている。

 

「あ、あはは、なんだ? そっちはもう終わったのか?」

 

「はい、あまりに遅いので見にきたら、少女が上条さんの股間を舐めると言っていたんですの。これがどう言う意味かわかりますか?」

 

「わ、わかりません」

 

「つまり逆レ〇〇です。是非見させてくださいの」

 

「いやちげーよ!」

 

 学園都市はとても平和な所です。みんなも来てね!

 

*1
生まれてません

*2
嘘です違います









あまり関係ない話ですが、とあるIFでウエディングドレス五和とオルソラが2000ジェムで出ました。さいこうっす!


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ヒーロー

 名付けて股間アイスだとか、逆○○プだとか騒いだ数日後、白井と初春は風紀委員(ジャッジメント)に入りたいと希望する子供たちを連れて研修に出かけていた。

 

 まず研修の第一歩として、一番多いケースである迷子に道を教えるための知識を教えた。地図の読み方である。読めない漢字が多いだろうと、白井は少年少女たちのために平仮名表記の地図を持ってきていた。初春の知らぬ間に、白井の好感度がまた爆上がりしていた。

 

 小学五年生にとって地図を読み取ることは、歴史の偉人の名前を覚えることと同じくらい難しいものだった。

 十数分程度で彼らが覚えられたのは現在地である第七学区周辺の地理。今回の研修であれば十分過ぎる範囲である。

 

「さて、それでは今度こそ実践ですわよ!」

 

 発破を掛ける白井に、初春を含めた子供達が拳を掲げた。

 迷い人は人の多い場所にいるだろうと目安をつけ、駅の方向へと向かうと、辺りをキョロキョロと見渡す少年が視線に入った。獲物(迷子)を見つけましたの!という白井は男子の研修生に話を聞いてくるように行かせた。

 最初は不審そうな目でいた少年も、風紀委員の研修生であると知ると歳が近いこともあってかすぐに話を聞き出すことができた。

 

 本人いわく、第六学区からはるばる学校見学に来たは良いものの、学校の場所を忘れて迷子になってしまったのだとか。

 きらん、と地図を持つ少女の目が煌めく。これが私の初仕事なのかと興奮気味の彼女は、少年に学校への道を教えていく。後方腕組みおじさんと化した白井と初春は、少女の手際の良さに感動していた。

 

「成長って素晴らしいものなんですね」

 

「私も今、ひしひしと感じているところですの」

 

 打ち止め(ラストオーダー)という小さな友達がいる白井にとっては、ある意味初春よりも感慨深いものに感じていたことだろう。

 頭を大きく下げてありがとうと叫んだ少年が、急いで学校の方へ走っていく。

 

「なんか風紀委員って感じだった!」

 

「よくできましたの。将来は優秀な風紀委員ですわ」

 

 白井に頭を撫でられた少女が嬉しそうに声を上げて喜んでいた。白井は母性(父性)全開で微笑んでいたが、初春には不気味だと言われていた。その後初春の姿が見当たらなくなったのは言わなくてもわかるだろう。

 

 

 さて、子供特有の第六感とでも呼ぶべき驚異的な感性をご存知であろうか。大人であればそういう事もあるだろうとスルーするような細事を、彼らのような幼い者たちは率直に疑問に思う。思考放棄する大人たちとはひと味違った思考、関心を隠さないのだ。

 少年の一人がどこかを指差した。

 

「あの郵便局なんで閉まってんだ?」

 

 その先に目をやると、そこにはシャッターの降りた郵便局があった。平日の正午を目前にした時間、郵便局が閉まっていることなどそうはない。それ以前に、第七学区の郵便局は午前九時に開くと決まっているのだ。

 見たところ臨時休業などのアナウンスはされておらず、違和感があるのは確かだった。二人は嫌な予感を感じていた。

 

「初春、念の為ですが 警備員(アンチスキル)を呼んでおいてくださいな」

 

「分かりました。存分にヤっちゃって下さい!」

 

 初春が研修生たちを連れて離れていく。彼女の目には白井に対する心配は欠片も無く、それは信頼しているからだろうということは明白だった。

 

 シャッターに耳を当てて中の様子を伺うと、何かが慌ただしく動いているような音が聞こえた。しかし、それだけでは中で何が行われているのかという確証にはなり得なかった。

 

「足りねぇぞ、このバッグから溢れるくれぇ詰め込めや!」

 

 数十秒の後、男の吠える声が微かに耳に入った。痺れを切らしたのだろうか、声つきが次第に荒らぎ始めた。局員のものであろう焦った足音が聞こえる。

 

 何かが爆発する音が聞こえた。強盗犯の能力の可能性も考えたが、おそらく違うだろう。

 白井は原作から記憶を辿る。原作のこの時期にあった郵便局の事件といえば白井の初任務のことで間違い無いだろう。ならば、先程の音は警備ロボが故障した音というわけである。犯人は確か、一人ではなかったはず。

 

「待ってても仕方ないですわね」

 

 白井は能力で郵便局の中へ入り、すぐに能力を展開する。つもりであった。犯人である男を拘束するための能力を何かが阻害していたのだ。

 少し落とした視線の先、彼女の呆れたような目には映っていた。犯人の男に組み伏せられる上条を。

 

「・・・ふぅ、なんだかどっと疲れた気分ですのぉ」

 

「く、くろこか?丁度よかった。相手が二人だと思ってなくて」

 

「あの本当に、風紀委員始めてから半年の人間には思えませんの」

 

 どうせいつも通り強盗という不幸に巻き込まれたのだろう。どうせ正義感に駆られて強盗を捕縛しようとして、もう一人の強盗に脅されて組み伏せられたのだろう。

 こういう風な時はどうすれば良いのだろうか。肩に手でもおいて慰めてやれば良いのだろうか。いや、逆に罵倒することで事の深刻さをきちんと知らしめてやるべきなのだろうか。不毛な思考である。

 

 犯人と思われる男は、白井の急な登場に驚きを隠せていなかった——それは郵便局員、客もそうだが——。しかし、白井と上条が呑気に話している間に気を取り直していた。男はこの図太いガキは誰なのかと白井の顔をまじまじと覗き、そしてハッとして目を見開いた。

 

「ま、まさかお前は!?」

 

「ふふふ、気付きましたのね、この私のことを!」

 

「し、知らないはずがない。第七学区に置いて一、二位を争う犯罪検挙率の女!」

 

「そうその通り!私こそが!」

 

「白井黒子(だな!?)ですの!」

 

 白井黒子という名前は、もはや伝説となりかけていた。第七学区において、彼女はトップの犯罪検挙率を誇っている。そればかりか、第七学区を抜け出し、第十三学区や第九学区、そして第一学区の検挙率においてもトップの記録を持っているのだ。

 曰く、彼女こそが風紀委員(ジャッジメント)

 曰く、彼女こそが女王(キラー・クイーン)

 曰く、彼女こそが世界(ザ・ワールド)

 

 

 男の運命は最初から決まっていた。そう、必然である。

 

 

 

断罪(ジャッジメント)

 

 

 白井から小さな拳が突き出された

 

 男からはパチンコ玉のような金属が数十個も射出された

 

 

 一体、その差は何だったのか

 

 

 白井の拳は女子相応の大きさだ。しかし、それに纏う気は遥かに男を超え、凌駕していた

 

 白井の拳は男の絶対等速(イコールスピード)という能力を上から塗り潰し、全てを消し去る

 

 残ったものは、丸かったはずの金属の成れの果て。そして、風圧で気を失った男

 

 

 誰が見ても白井の圧勝であった

 

 

 少しの静寂の後、上条が立ち上がり白井に向かってありがとうと言う。それに続くように郵便局員も客も、皆が白井に感謝を言って讃えた。郵便局の中を歓声の嵐が巻き起こる。開いたシャッターの影に隠れる彼女を見た相棒は、ずーっと遠くで、ニコリと笑った。

 

「さすが私の相棒といったところですね」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 御坂美琴は、ヒーローに憧れている。

 と言ってもなりたいだとか、本気で憧れているわけではない。ほんの少しだけ興味があるというだけだ。

 

 彼女は気晴らしに散歩にでも出ようかと思い、成り行きで普段通ることのない、よく知らないところまで歩いて来ていた。冬だというのにも関わらず、周りは半袖の子供がはしゃぎ回っている。大して歳の変わらない筈の小学生達に呆れる気持ちであった。

 

 そんな子供たちの間を走り抜ける少年がいた。

 

 目に入ったのは郵便局だ。この地域ならば、この時間に閉店していることはかなり珍しい。見たところアナウンスもなく、異変があるのは明白なことだった。

 

 少し近づいてみると、中からは声が聞こえる。金を出せと。

 

 強盗だ。気付いてすぐに御坂は行動に出ようとした。ポケットからコインを出し、自慢の電磁波で人間の位置を把握、誰も傷つけずにシャッターを壊す。

 

 しかし、電磁波の届かない箇所があった。郵便局だからこその厳重なセキュリティなのか、それが仇となった。

 

 御坂は少しだけ焦った。中に乗り込む方法は幾つでもある。だがしかし、中にいるであろう人質たちの安全は保証ができない。

 

 

詰んだ

 

 

 そう気づいてしまえば、汗が額から少しずつ流れてくる。もう気にせず超電磁砲をぶち込んでやろうかと思ったとき。また、違和感を感じた。

 

 中で何かが起きた。自分の対応のできない状況が、さらに自分を焦らせる。どうすれば良いのかわからなかった。

 

 中で、大声が響いた。

 

「白井黒子(だな!?)ですの!」

 

 何処かで聞いたことのある名前だった。しかし、心配なのは変わりない。レベル5である自分に出来ないことが出来るのか。そう思うとハッとする。また自分のことがつくづく嫌になった。今はその子に任せよう。心の中で無事を祈った。

 

 以外にも結末は早かった。1分もしない間にシャッターは開き、そこでは小さな少女がいた。こんな少女がやってのけたとは信じられなかった。隣にいるツンツン頭の男が助けた訳でもないのだろう。無傷の少女と気絶した強盗であろう男を見て、中での出来事を予想した。

 

 強盗に勇敢に立ち向かった少女が、手こずることなく強盗を倒したのだと。

 

「ふふふ」

 

 なんだか面白くてしょうがなかった。

 御坂は少し赤い顔で少女を最後に一目見て。自分にしか聞こえない声で呟いた。

 

「凄いじゃない、小さなヒーローさん」

 

 御坂美琴はヒーローに少しだけ憧れている。

 

 

 

 

 








なんか、最終回の〆みたいになった気がする。


ソンナコトナイヨォ


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(ゼロ)章 とある学園の常盤台中学
二大派閥


 学園都市第七学区、学舎の園、常盤台中学。

 

 ここは、数百人の超人を抱える日本国最強の中学校。

 通うのは英才的な教育を受けた生粋のお嬢様たちだけ。

 しかし、庶民とは浮世離れしすぎた教育は少女たちの性格を捻じ曲げ、ひどく歪ませた。

 

 

 ここで問われるは門地。全ては上位者に帰属し、派閥と成る。

 

 

 彼女たちを形成せしめた先祖の偉業の数々。それは己を縛り、縛られ、縛り合い、足を引っ張る。

 

 御坂美琴、食蜂操祈。この二人だけを除いて。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 御坂と食蜂の二人が入学する一年以上前のこと、常盤台中学一年生には二つの大きな派閥が存在した。

 

 水鏡凪紗(みかがみなぎさ)率いる、水鏡派閥。

 

 支倉冷理(はせくられいり)率いる、支倉派閥。

 

 水鏡派のメンバーは良すぎるほどの家柄に生まれた人間が多く集まり、対する支倉派のメンバーは、前者に比べてしまえば自慢はできないような家の生まれが多くいた。

 もちろん、そうなったのは偶然であった。最初のうちは誰もが気にすることはなかった。いつからだったか、話すうちに彼我の差に気づいたのか、水鏡派の人間は支倉派を見下すかのような行動が増えた。

 

 たとえ、支倉派が自身を旧華族や有力者の生まれでないとわかっていても、生まれ育った家に対する侮辱は受け止めきれるはずがなかった。いつしかそれは二年生や三年生をも巻き込み、そうして対立が始まった。

 

 二つの派閥の対立により離れた場所に寮が新しく作られ、両派閥に埋められない溝が深く刻まれた。

 

 

 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 一年が経ち、水鏡と支倉は二年生へと進学した。対立は依然続く。

 

「はあ、お気に入りの下着のサイズが合わなくなってしまいました」

 

「それは大変ですわね。大きいサイズのものはないんですの?」

 

「それが、売っていなくて・・・」

 

 胸の成長の悲しみを友人に話す女がいた。美しい黒色の髪を肩くらいの長さまで巻いてい眉目秀麗な少女だ。名を相道(あいどう) 帆乃華(ほのか)。学園都市の外に展開し、ある程度の知名度を誇る家具店の令嬢で、支倉派閥の新入りである。

 

 話し相手の暗い茶色の髪を後ろで一つに括る彼女も、同様に支倉派に入ったばかりの新入生だった。彼女も学園都市の外に展開する有名衣服生産会社の令嬢。名前は火奈倉(ひなくら) 潤美(うるみ)

 2人が学舎の園の敷地内に入り、話も終わりに差し掛かって来たところで彼女たちに話しかける者がいた。

 

「ごきげんよう」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

 

 それには相道も火奈倉も挨拶を返さなかった。理由はこちらに挨拶をしてきたとは思わなかったからだ。なんと言ったって、挨拶をしてきたのは水鏡派閥の人間。支倉派の人間に水鏡派の人間が話しかけるなど、限りなく有り得ない事案だったからだ。

 

 それが、自分たちにした挨拶だと気づいたのは、すれ違ってから少し経ったときのことだ。水鏡派の女が小さな声で「流石は支倉派、挨拶もできないなんて」と言った。周りにはこの三人以外に誰もいない状況である。

 女はさらに言葉を続けた。

 

「落ち目の支倉派には貧乏人しかいないのね。下着も買えないなんて」

 

 先程の話を聞いていたのだろうか。

 

「っ、お気に入りの柄の物が売っていないの」

 

「お隣の方のご実家に作って貰えばよろしいのでは?と言ってもオーダーメイドの下着を買えるお金なんて、貴女のご実家にはないのでしょうけど」

 

「私のことは許せるけど、家の侮辱は許さないわよ!」

 

 相道が歯をギリギリ鳴らしながら女の胸ぐらを掴み上げた。

 

「気安く触れるな!!」

 

 女は相道の手を強く叩いて離れさせる。少し距離が離れると女ははあとため息を吐き、また小さな声で呟いた。

 

「こんな下賤の裔を入学させるなんて審査はどうなってるのかしら」

 

 相道は、もう耐えられなくなった。その後のことを考えることもなく能力を発動した。

 

「落ち着いて下さいの‼︎」

 

 火奈倉が落ち着くように言うが、聞く耳を持たない相道は正面の女に向けて能力を解き放とうとした。

 手のひらから微かな風が(そよ)ぐ。それは髪を靡かせるほどのささやかな風だったが、徐々に勢いを増し、数瞬で手のひらには収まりきれなくなった。風は途方もない力を持って舞い上がり、宙を舞うようにして駆け巡ろうとする。

 しかし、彼女が能力を展開しようとする前に、小さな影が二人の間に姿を現した。目を凝らすとそれは少女だった。

 

「「「はっ!?」」」

 

 相道も、火奈倉も、水鏡派の女も、全員が声を出して驚いた。能力を停止した相道が間に入った少女に駆け寄る。

 

「なにをしているんですか!」

 

「すみませんでした。お二人が危うい雰囲気でしたので思わず」

 

「う、そうは言ってもこんなこと。いや、私の責任でしたね」

 

 純粋な良心をもっての行動に心が痛くなる。返す言葉が頭の辞書から見つからずにいると、能力から逃げていた火奈倉が駆け寄る。少女の体を確認すると、ほっと安堵の息を漏らした。

 

「どうやら怪我はないようですの。しかし、能力者の間に入るのは感心しません。もし彼女たちの反応が遅れていたら、あなた今頃肉塊でしたわよ?」

 

 焼き肉になっているのは間違いない。

 

「ご、ごめんなさい」

 

 少女はもう一度謝ると、ぺこりと頭を下げた。彼女の低い身長がさらに低い位置まで下がる。

 

「頭をお上げください、陛下!」

 

「へ、へいか?」

 

 彼女たちは主従関係にあったのかと火奈倉が困惑する。と言うよりも、そもそも陛下とは常盤台中学においては派閥の長が構成員に呼ばれるときの言葉だ。

 

「なんだったんでしょう。ってあぁぁ!!」

 

 火奈倉は相道の反応に同意しながらも、彼女の少し後ろに視線を移した。その瞬間、彼女は叫び声を上げ、一瞬で凍りついたかのように動かなくなった。

 歯がガタガタと震え、火奈倉の顔は次第に真っ青に変わっていく。その肉体に宿る恐怖と戦慄が、彼女の全身を駆け巡っていた。何か忌まわしいものが体を這いずり回り、意識を消えさせようとするのに気づいた。目は恐怖に満ち、全身の力が抜けていく。彼女は自分の立ち位置から一歩も動けないでいた。全てがまるで時間の停止したかのように感じられた。

 火奈倉の味わう恐怖の正体は一体何なのか。相道には彼女に何があったのかわからなかった。でも、後ろを振り返れば答えがあることだけは理解していた。六分の恐怖と四分の好奇心に突き動かされ、ゆっくり、ゆっくりと、後ろを振り返った。

 

「ひゃうっ!」

 

 相道は後悔の念に苛まれた。生易しい気持ちで見るべきではないものを見てしまったことを、彼女は痛切に悔やんだ。その後悔は、押し寄せる津波のように、全身を覆い尽くした。

 その津波のような後悔は、彼女の心に深く沈み込んでいく。相道は自分自身の軽率さと無謀さを痛感し、悔やむ言葉も口に出せなかった。その罪悪感が、彼女の内面を引き裂くかのように広がっていった。

 

「ご、ご機嫌よう、寮監様・・・???」

「お、おはようございます・・・???」

 

 相道と火奈倉が声をかけると、寮監は眼鏡をくいっと掛け直した。

 

「常盤台生が騒いでいると聞いて来てみれば、朝から随分と元気そうじゃないか」

 

「「かひゅっ」」

 

 濃厚な威圧感が漂い、二人は息が詰まる思いをした。その圧倒的な存在感に彼女たちの胸は苦しさで満たされていく。これが、魔王に謁見する配下のような感覚なのだろうか。

 

「そんなに元気ならば、私が相手をしてやろうか?」

 

「「え、遠慮させて頂きましゅ、す。。。」」

 

 

 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 それから数日後、相道は担任に頼まれた書類を保健室に運んでいた。途中、因縁の水鏡派の女とすれ違ったが、まるで他人のような反応だけで、今回は挨拶もバトルも無しだった。

 ふぅと吐息を吐き、保健室のドアを開ける。すると、ちょうど中から少女が用事を終えて出てくるところだった。あの女とバトルしそうになったとき、間に入ってきた少女だ。

 

「あら、この前はありがとうございました」

 

 数日前は寮監に軽く捻られ、感謝の言葉がのひとつも言えなかったことを少し気にしていたらしく、彼女は頭を下げて感謝の言葉を伝えた。もし少女に止めてもらっていなかったら、相道は今ごろ他に通う学校を探していたことだろう。

 彼女の感謝の言葉に、少女は少し頭を下げ、携帯を取り出した。

 

「ん?どうしたのですか?」

 

 首を傾げながら聞くも、少女はズイッと顔の前に携帯を押し付けるだけだった。

 

「えーと、もしかして連絡先を交換したい、とか?」

 

 その言葉を聞くと、少女は微かに頷いた。わかりましたと言った相道が手元から携帯を取り出す。携帯をお互いに向け合って、二人は連絡先を交換した。

 

「さたんおおぎ。ええと、お名前はなんと読むのでしょうか」

 

 携帯の画面に映る漢字は彼女にはわからない物だった。

 

沙淡扇(シア=タンシャン)、呼び方はなんでもいいですよ」

 

「そう、じゃあ、シアちゃんって呼ぼうかな?」

 

 相道が呼び方を提案すると、シアは優しい笑みを浮かべて相道に寄り添う。シアは軽く笑ってから、彼女に抱きついた。

 

「そ、そんな 私にそう言う趣味はないわよ///」

「ううん、私もそう言うのじゃなくて、友達、嬉しいな」

 

 食い気味にそう言ったシアは、至近距離で顔を合わせながらまたニコリと笑った。

 その笑顔は100億カラットのダイヤにも負けない価値があるだろう。

 

「あぅ、可愛い」

 

「そっちこそ可愛いよ?うるみちゃん!」

 

 プシュ〜と顔を赤くした相道穂乃果は保健室でダウンすることとなった。要因は、シアと名乗る少女の可愛さである。

 

 終わり。

 

 

 

 


 

 

 

 常盤台中学

 御坂美琴、食蜂操祈入学の一年前の情報

 

 レベル4 支倉(はせくら) 冷理(れいり)

 

 能力 圧力操作(プレス ハンド)*1

 

 二大派閥の内、支倉派閥を率いる2年生。

 圧力操作の能力によって、筒に詰めた弾を銃弾のように射出したり、ただ握力を強くできたりもする。本人もかなり強く、能力に頼ることなくスキルアウト数人くらいなら1人で片付けられる。

 本人は気づいていないがかなり好戦的で、強い奴がいればバトルが先でスカウトは後。他の派閥を蹴落としていったため常盤台においての最大派閥。

 派閥の構成員は好戦的な人が多く、幹部には支倉と似た性格の人が多い。派閥全体のイメージは思ったよりも悪い。

 茶髪ロングを垂らした美人。

 

 

 レベル 4水鏡(みかがみ) 凪沙(なぎさ)

 

 能力 油性操作 原作ではまだ読み方が判明していないと思う。

 

 二大派閥の内、水鏡派閥を率いる2年生。

 油性操作の能力によって、人間などの体型を変えることができる。その能力によって豊満な胸を手に入れることも、モデルのようなウエストでも手に入れることができる。能力目当てでもあるが、忠誠心は二大派閥だけでなく全ての派閥の中で随一。

 元々派閥を作る気は無かったが、能力目当てに周りに人が集まった結果水鏡派閥が出来上がった。本人の意思とは裏腹に、下っ端が支倉派閥に喧嘩を売ってしまったため争いが起きている。

 見た目はやる気無さそうだがやるとなったら……???

 金髪三つ編みにそばかすの美少女。

 

 

 レベル4 沙淡扇(シア=タンシャン)

 

 能力 ???

 

 他の生徒は彼女の能力をかけらも知らない。知っているのは教員の一部や、学園都市の研究員。

 パンダのぬいぐるみをいつも持ち歩いており、話す時はこのぬいぐるみを通してでないと話せない。メガネの左目のフレームが涙のようにペコリとへこんでいる。

 かなり病弱で、毎日のように保健室で寝ている。保護欲そそられる彼女にはすでに彼女にはファンが多数おり、休み時間になると彼女の寝顔を拝みに来た生徒や、守ろうとする生徒で保健室がほぼ埋まる。

 入学してから半年間、無派閥で居続けている。何かに気付いた様子の支倉はスカウトを仕掛けているが、今のところ反応は無し。おそらくしつこ過ぎた。

 趣味はボランティアで、すでに何処かの砂漠を買って緑を生やしているらしい。日に日に常盤台の好感度が上がっていくのはこの子のおかげ。

 黒髪ロングの美少女。

 

 

 

 レベル3 相道(あいどう) 穂乃果(ほのか)

 

 能力 空力使い(エアロ ハンド)

 

 支倉派閥の構成員。

 最初は無派閥だったが、かなり強いので支倉本人にスカウトされた。

 肩までの黒い髪をショートくらいの長さまでウェーブさせている。寮監に軽く捻られた。

 沙淡扇と連絡先を交換した日、保健室に仕事で行ったはずがいつの間にかベッドで寝込んでいた。隣のベッドには沙淡扇が眠っており、寝顔を見ると心臓がバクバク鳴り響いてしまったらしい。1年生。

 

 

 レベル3 火奈倉(ひなくら) 潤美(うるみ)

 

 能力 発火能力(パイロキネシス)

 

 支倉派閥の構成員。

 最初は無派閥だったが、相道に着いていく形で支倉派閥に入った。実際のところ、相道とは能力の相性的に勝てないが、発火能力を持つ能力者の中ではレベル4を除いてトップクラス。もしかしたら名前に火と言う字が入っているから!?

 暗めの茶髪を後ろで一本に纏めている。髪の匂いも常盤台トップクラスにいい匂い。1度嗅いだらもう抜け出せない(相道もその被害者)。あの後訪丸も沙淡扇と連絡先を交換した。1年生。

 

 最後の二人はオリキャラ、、、、。

 

*1
原作では水流操作っぽい?





 うおおおお!!!!

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最大派閥

「知らない天井だ」

 

 目を開けるとそこには、知らない天井が広がっていた。体を起こし辺りを見渡す。どうやら、状況からして保健室で寝ていたようだ。

 カーテンを挟んだ隣のベッドから吐息が聞こえた。おそらくシアが寝ているのだろう。

 

「ほのかちゃんおはよう」

 

 名前を呼ぶ声が聞こえると、カーテンが凄い勢いで開かれた。目を向けると、いつものパンダのぬいぐるみを口元に持ち、笑顔をこちらに向けるシアがいた。

 

「おはようごさいますシアちゃん」

 

 挨拶を返すと、さらに笑顔を深めて笑ってくる。微笑ましい笑顔にしっかりと微笑んだ相道はベッドに座り直し、それに合わせてシアも姿勢を正した。

 

「なんで急に倒れたの?」

 

 シアがそんなことを聞く。原因はシアが可愛過ぎたからだと前話でも書いたが、もちろん彼女自身は知らない。だからといって本人に「あなたが可愛すぎたから」なんて恥ずかしくて言えもしない。

 

 相道はその常盤台に入学できるレベルの頭で考える。どうやってこの場を乗り切ろうか、と。

 

「そ、そんなの決まってるじゃないですか。体調不良ですよ、ただの」

 

 そんな頭を持った口は、一般的な普通のことを言ってしらばっくれた。その結果、座っていた相道がシアによってベッドに強制的に寝させられたのは、勘の鋭い読者に言う必要はないのだろう。

 

 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 2人で長い間世間話をしていると、大きな音を立て入り口のドアが開いた。そこから訪丸が顔を覗かせ、彼女はベッドに座る2人を心配し、声をかける。

 

「2人とも大丈夫なんですの?」

 

「ええ、大丈夫ですよ」

 

「大丈夫です」

 

 問題ない旨を伝えると、訪丸はふぅと息を吐き、額に腕を当てた。どうやら話を聞きつけ焦って来たようで、訪丸の額には汗がうっすらと浮かんでいた。友人の優しさに心を暖かくさせながら、3人は同じベッドに座りながら話をしていく。

 

「そういえば、あの水鏡派の女とすれ違ったのですが、何かお話になったのですか?」

 

 ここで言う水鏡派の女とは先日、喧嘩を売って来た女のことだ。相道は保健室に来る前、その女とすれ違っておりそれを疑問に持った。

 

「うん、大事なお話があってね」

 

「そのお話とはなんなんですの?」

 

 訪丸が心底疑問に満ちた顔でそう聞くと、相道も続いて頷いた。少し間を開けた後言うことを決心したのか、シアは2人に向けて叫んだ。

 

「私、派閥を作るつもりなの!」

 

 返ってきた言葉は2人にとって信じられるようなものではなかった。このヒョロヒョロの少女が派閥を支配できるとも思えないし、それをあの女に話すのもよく分からない。

 

「あ、あなたが?」

 

「そう」

 

「し、シアちゃんが?」

 

「そう」

 

 やはり、とても信じられるものではなかった。

 シアはまだ何か続けようとしていたが、決心が足りなかったのか口をモゾモゾさせながらパンダの人形を見つめていた。

 そのことに気付かず、相道と訪丸が応援してるよ。などと言おうとした時、また、ドアが大きな音を立てて開いた。

 

 そこには先ほども話に上がった水鏡派の女が立っている。なんの用かと訪丸が聞くもそれを無視し、彼女は急ぎ足で歩きシアの元まで足を運んだ。

 シアのその小さな肩をガシリと掴み耳元へと口を動かし、耳元でゴニョゴニョと何かを話した。シアは強く頷き相道と訪丸の手を掴む。

 

「私と一緒に派閥を作りませんか?」

 

 相道と訪丸は目を見開いた。どれくらいかと言うと、普段が1とするならば3ぐらいに。眼球の水分が全て飛ぶくらい。むしろ血が出るんじゃないかというほど。目の精度が顕微鏡になるくらい。

 

 

 


 

 

 

 それから数ヶ月が経過した訳だが、前述の通りシアが率いる派閥が出来上がった。勢力的にはすでに支倉派、水鏡派ともに追い越し、最大派閥になっている。

 理由は簡単、単純に人が多いのだ。今まで無派閥と呼ばれていた人や派閥を抜けた者がシア派閥に入り、派閥メンバーは50人を超えた。

 

 リーダーはシア。そして幹部には相道、訪丸、さらには例の水鏡派の女。

 彼女の名前は枯夜波(こやなみ) 楓歌(ふうか)。水鏡派だったころシアにスカウトされ、シア派閥の創設に関わったメンバーだ。すでに相道とは和解しているので気にする必要はない。

 

 さて、シア派閥と言う新しい派閥が出来てから、常盤台は大きく変化した。それは前述の通り、権力の1番強い派閥が支倉派閥からシア派閥に変わったことだ。

 2つの大きな派閥がある中、新しい派閥が最大派閥に君臨するとは、流石の常任理事会でさえ思わなかったらしい。

 

 常盤台の最大派閥がシア派閥に変わったことにより、今年の大覇星祭は幾年ぶりの優勝を果たしたり、善良なシア派閥の知名度向上により常盤台の評判がかなり良くなったり。常盤台にとってプラスになることが多く起きたのだ。

 それに気をよくした常盤台中学理事長や学園都市理事会は、シアやシア派閥の幹部を雑誌やテレビなどの特集で大きく取り上げ、空前の常盤台ブームが始まった。

 

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 4ヶ月ほど前のことだ。入学予定の中学、常盤台中学で革命が起きたらしい。それくらいの時からだ。テレビを見ても雑誌を読んでいてもシア派閥の話題しか書かれていないなんて事態が起きたのは。

 どこに行っても常盤台中学。何を見ても常盤台中学。そんな生活に、御坂美琴は辟易していた。

 

「ねぇママ、シア派閥って知ってる?」

 

 久しぶりに学園都市に来た母親に、美琴はやけに疲れた顔でそう聞く。久しぶりに娘に会えてにこやかにしてる母、御坂美鈴はここ2日よく聞く名前に反応した。

 

「少しくらいわね。学園都市に来て2日だけど、テレビでもなんでもよく見るから。美琴ちゃんの先輩になる人達たちよ? 会ったら挨拶はしなさいよ」

 

 う、うん。と美琴が引き気味に言うと、可愛い子がいっぱいいるわよねぇ。と美鈴が続けた。

 美琴が引いた理由は、母の鈍感さだ。この2日、一緒にテレビを見ても内容はほぼシア派閥及び常盤台中学関連。他にあるのは合間の小さなニュース番組だけだ。これだけ見て何も思わない母にため息を吐きつつ、シア派閥が映る大きなモニターが目印の店で買い物を続けた。

 

 そして、未だ勢い止まぬ常盤台をさらに勢い付ける出来事が起きる。

 それが彼女自身であるとは、この時は知るよしもなかった。

 

 

 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 とある中学からの帰り道、とある男2人がいつも通り話をしながら帰宅していた。

 

「なぁ土御門、最近気づいたことがあんだけど」

 

 真剣な顔つきで話を切り出した上条に対して、土御門は彼の今までにない真剣な顔つきに、彼もようやく気づいたのだと察し話を促した。

 

「かみやんやっと気づいたか」

 

「あぁ、俺思うんだ。お前シャンプー変えただろ」

 

「あぁそうそう、金髪にしたから髪の痛みは気にしてます。っておい! それか? 数ヶ月も引っ張っといてそれか?」

 

「ん? 他に何かあるのか?」

 

 土御門のノリツッコミも虚しく、上条は顎に手を当て考え始めた。彼の変わらぬボケ具合に言葉を躓かせながら聞く。

 

「お、おいおい、お前はテレビを見てても何も思わないのか?」

 

「そういえば、常盤台中学の特集をよく見るけど」

 

「そうそれだ!」

 

 ドンピシャに答えを言い当てた上条に、やはり気づいていたか!と土御門は魔術師的な不気味な笑顔で彼の肩を掴んだ。

 

「おかしく思わないかかみやん。これはおそらく理事会の印象操作に違いない」

 

「なんだよそれ、根拠はあるのか?」

 

 上条が胡散臭そうな顔で土御門を見ると、

 

「いやないぜよ。しかし、何か強く匂うんだ」

 

 いつもとは違う低い声でそう言い放った。

 

 


 

 

 レベル4 枯夜波(こやなみ) 楓歌(ふうか)

 

 能力 無音植物(クワイエットプラント)

 

 水鏡派閥からシア派閥に移籍。

 相道に挨拶をして無視された人。

 水鏡の能力によって大きな胸を作ろうと水鏡派閥に入った。しかし成長期な事もあり、能力に頼らずしてかなり大きな胸を手に入れてしまった。

 植物を無条件で生やす能力を持つ。能力名は背後から無音で近づく、肉食獣のような巨大な植物の根が由来。

 かなり不器用で常盤台中学生には珍しく料理が苦手。さらには人間関係も不器用で、少し話そうと思うと何故か悪口が出てしまう(同じ派閥の人は普通に話せる)。

 胸は手に入れてしまっているので、何を理由に水鏡派閥にいるのかが分からなくなっていた。そこでシアに声をかけられ、今はシアの派閥にいる。

 シア、相道、訪丸と同じ1年生。

 




早く原作行きたいので大幅に話を削減しています。
話のつながりなど、わからないことがありましたら感想かなんかに書き込んでください。


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友情!熱狂!そして誕生!

 

 そして、未だ勢い止まぬ常盤台を、さらに勢い付ける出来事が起きる。それは他でもない、二人のレベル5の誕生だ。

 


 

 総勢72人の少女達が礼儀正しく、綺麗に整列している。その右端の前から5番目の席に茶髪の少女が座っていた。つまらなくて長い理事長の話を聞きながら、退屈そうにしている。

 

 彼女の能力は電気系で、彼女レベルになると常時、微弱な電磁波により周りの動きを感知することができる。この入学式の間も、例外ではない。例えば、理事長の話が5分に差し掛かった頃、少女の三つ隣の列の少女が尿意に悶え始めたことも。さらに5分後、四つ後ろの席の子が隣の席の子に寄りかかったことも。

 

(な、何やってんのよ///今は入学式の最中よ!?)

 

 まあこのように、結構なことが感知できてしまうのだ。

 もちろん感知といっても、彼女自身が無心でいればそんな事は気にしなくて済む。だが、まあ、

 

(今度は五つ隣の子が前の席の子に抱きついた。どうなってんのよ!)

 

 この状態で無心には入れないだろう。

 

「——こと。御坂美琴!」

 

「は、はい!」

 

 今は入学式の真っ最中。理事長による新入生の呼名がある事を忘れずにいよう。そう思う御坂美琴であった。

 

 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 まだまだ続く、入学式。今度は理事長の孫が話を始めた。やけに御坂美琴を見ている気がするが、まさかそんなことはないだろう。

 どうやら彼は親譲りのモノをお持ちのようで、話はなかなか終わらない。唯一興味が出たのは飼っている犬の話で、家に帰ると自分だけ吠えられるのだとか。

 話を聞き流し、あくびを一つした後、左に座っていた少女が同じように退屈そうな顔で御坂に話しかけてきた。

 

「ねえ、御坂さん。だっけ、あの人結構イケメンじゃない?」

 

「あ、えっと、何さんだったっけ、さっきぼーっとしてて名前聞いてなかったの」

 

 御坂が申し訳なさそうな顔で謝ると、それを見た相手の女は少し慌てながら謝る必要はないと言った。すぐに御坂が名乗ると、彼女も笑顔でそれに応える。

 

「初めまして、私は潔斎(けっさい) 雪紫(きよし)。色々と頑張ろうね」

 

 御坂からして、彼女の第一印象はかなり良かった。黒のショートを真ん中で分けたような髪型はとても可愛く見えて、笑顔も曇りのないモノだったから。

 そして話は戻り、理事長の孫がイケメンかどうかだ。

 

「いやまあ、一般的な顔よね」

 

「御坂さん意外に辛辣?」

 

 理事長の孫。そう、海原光貴は最初から好かれていなかった。話が長いからである。

 

 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 入学式が終わると、校内の案内が始まった。

 まず入学式を行った体育館から始まり、そこから紆余曲折、学校を隈なく周り最後には校門に到着した。

 ここから向かうのは「学舎の園」外部にある常盤台中学女子寮。

 すでに「学舎の園」の内側に住む生徒たちは、もう一つの寮で今日の疲れを癒していることだろう。

 

 バスに乗ること数分、寮に到着した。今は同部屋が誰なのかで生徒は大盛り上がり。それもそのはず、未だに同部屋の組み合わせが明かされていないのだ。

 

「なんだか緊張するわね」

 

「だね、御坂さんが同部屋だったら私嬉しいな」

 

「け、潔斎さぁん」

 

 常盤台中学校の校内を共に見回った二人はもはや、旧知の仲のような関係になっていた。

 御坂が目を潤ませながら潔斎の名前を呼ぶと、彼女は微笑みながら御坂の手を取った。

 

「ねぇ、美琴。私たちもう友達でしょ?」

 

「き、雪紫ぃ〜」

 

 ズズリと御坂の鼻を啜る音が響き、和やかな空気が溢れる。そんな二人の様子を優しい笑顔で見守る他の新入生達という、少し不思議な空間が広がった。彼女たちの穏やかな微笑みは、初めて足を踏み入れたこの場所での絆の芽生えを象徴していた。

 

 ♦︎

 

「よし!じゃあお前ら入学式の並びに並べ」

 

 緊張の瞬間が訪れた。御坂と潔斎は腰のあたりで互いの手を握り合いながら、祈るように瞼を閉じていた。

 

「今隣にいる人が同部屋になる人だ。仲良くしろよ」

 

 生徒が俄かに盛り上がった。

 先生が立ち去ると、御坂は隣に立つ生徒の手を握りなおす。

 

「きぃよぉしぃ〜♡❤︎♡❤︎♡❤︎♡❤︎♡」

 

「みぃこぉとぉ〜❤︎♡❤︎♡❤︎♡❤︎♡❤︎」

 

 入学初日にして大親友を手に入れた御坂美琴であった。

 

 


 

 

 シア派閥が発足してから半年ともう少しが経った。依然、勢力はシアの派閥に軍配が上がっている。

 時期は4月の真っ只中。入学した人数は、先月の卒業生の数と同じく70人程度。彼女たちはこのような新天地にて学業に励んでいた。内訳としては、

 レベル3が60人程度。

 レベル4が10人。

 レベル5が1人。

 

 そう、その中には超能力者と呼ばれる少女が一人存在していた。

 それだけで学校側はウハウハ気分だった。期待し続けた待望のレベル5というわけである。既にシア派閥の売り込みに合わせるように、心理掌握(メンタルアウト)に対しても同様に動きを始めていた。テレビでその少女の姿を見るのも遠くないのかもしれない。

 

 しかし、生徒側は少しだけ違った。

 超能力者であれば手放しに喜べる、そんな簡単な話ではなかったのだ。レベル5の少女の能力は精神を操るモノだ。そんな少女に誰が近づこうと思うのだろうか。入学式から何週間かが経つも、レベル5の少女。食蜂操祈(しょくほうみさき)はほぼ孤独のままだった。

 

「はぁ、正直言って暇ねぇ」

 

 昼下がり。食蜂操祈は当てもなく広い校舎を彷徨っていた。周りには、和気藹々と友達と青春を過ごす少女たちが多くいる。その中で1人、食蜂だけがひとりぼっち。どこかで使った表現だが、そこだけ逆スポットライトのようにくり抜かれていた。

 授業の合間の時間に気分転換を求めに来たのだが、やはり周りには青春を見せつける少女たちばかりだ。

 

(私だって能力を使えば友達くらいできるわよ!)

 

 リモコンの入っているカバンを強く小脇に挟む。言葉に反して、この学園内では能力を行使しないという宣言のように見えた。

 時計に視線を移すと、針はもう少しで授業開始時間を指すところ。教室に向けて踵を返す。

 このまま孤独はいやだなぁ。そんな言葉が彼女の心を蹂躙した。

 

 

 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 食蜂に友達が居ないと思っていた諸君。残念だが彼女には従者を除いて唯一の友達と呼べる存在がいた。それは食蜂の同部屋に住む少女である。少女といっても、食蜂に比べれば体は大きい。特に胸元の主張はその歳にしては反則級。生物学的にはロリ巨乳とでも分類されそうだ。

 射干玉の長髪は人の視線を惹き寄せるようだった。黄金に輝く瞳はガラス細工のように宝石を思わせるもの。

 

「こうして支倉さんの派閥に入ることになったわけです」

 

 少女はことの経緯を話す。

 派閥に入ると言うことは常盤台中学においてステータスのようなものだ。レベル5ともなればそこに身を置く必要はないが、彼女以外においては必要になってくるものだ。

 

「なるほどねぇ、でもそんな荒くれ者しか居ないイメージの派閥に入ってよかったの?」

「そんな心配はいりませんよ。支倉さんは話してみれば慕われているのがよく分かる人でしたから」

「確かに、頼れる姉御みたいな人なのは分かるけどぉ」

「そうだ、食蜂さんもそろそろ派閥に入ってはどうですか!仲良くなれるかもしれませんよ」

「私には派閥なんて向いてないわぁ。今までの通り一匹狼として生きていくの」

 

 はぁ、とため息を吐いた少女は食蜂と向き合った。

 

「食蜂さん、あなたにまだ私以外のご友人が居ないのは、能力のせいだけじゃないと思いますよ」

「目と目を合わせて言われると悲しいわねぇ……。そういう性格なのよ?

 う、そんな目で見るんじゃないわぁ。分かった、分かったからぁ。雅葵(みやびあおい)さん。じゃあ半年以内に友達を作ることにするわ」

 

「それじゃ遅いです!夏までに友達を作って私に会わせてください!」

 

 五月も目前の四月の最終日。期限はあと三ヶ月といったところ。さて、本当に間に合うのだろうか。

 そして、食蜂がピンク髪の少女と出会うのはこれから、一ヶ月後のことである。

 

 


 

 

 五月一日、この日は入学して初めてのシステムスキャンの日だ。新入生72人が一同に会するこの場は緊張感が漂っており、まさに戦場と言えるだろう。

 

 そのなかで、一際目を引く少女がいた。少女は用意されたパイプ椅子に足を組んで座ると、能力測定器にカバンから取り出したリモコンを向けた。

 彼女の能力を知らないものは居ない。学園都市に五人しか居ない超能力者の一人であるという肩書きはそれだけ巨大なものだ。それが末席であろうと、彼女を忌み嫌う者は確かに居た。

 しかし今日、本当の意味で格の違いを見せつけられるのだ。

 

 ぴっ、と軽快な音が響いた。

 周りを囲んでいた教師たちがおおっと声を上げる。

 

総合評価Aレベル5

 

 そして、今回もまた、超能力者の角印を押されたのであった。

 

 


 

 

バリバリィ!

 

 広大なグラウンドの中央で、大きな雷が轟音を立てながら突如として落ちた。驚きに満ちた瞬間、ある者は悲鳴を上げ、ある者は腰を抜かした。恐怖と不安が一斉に漂い、周囲の新入生たちはその大雷に固まってしまった。数瞬の間、静寂が支配し、彼女らの心臓が激しく鼓動するのが聞こえた。

 ただひとり、食蜂操祈だけが雷を落とした少女を震えた目でじっと見つめていた。彼女の表情は驚きと戸惑いに満ちていた。

 

「にてる。あの子が成長したみたいに……」

 

総合評価Aレベル5

 

 

 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 学園都市に六人目(常盤台中学に二人目)の超能力者が誕生したことは瞬く間に世界に広がった。明確に、学園都市が世界の頂点に立った日だった。

 






夏休みってこんなに忙しいものでしたっけ、、、
とにかく遅れてすみません。

あと、登場人物の名前を変更しました。これもまた申し訳ないです


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きよしちゃんの派閥講座‼︎

長いので分けて読むことをお勧めします。




 五月上旬

 

 御坂美琴がレベル5になってからすぐの事、御坂はとある公園の自動販売機に万札を飲み込まれていた。

 

「え、あれ?うそって言ってよ!万札よ!?」

 

 現実は悲しいものだ。どれだけものを言っても飲まれた万札は出てこない。

 

「ま、万札よ?1000円札の十倍。100円玉の百倍。10円玉の千倍。1円玉の一万倍。ふはは、ふへへ、あは、終わった」

 

 ガチャガチャと自動販売機をいじくるものの、やはり万札は出てこない。やはり終わった。そう天を仰ごうとした時、誰かの声が聞こえた。

 

「おーい、そこの期待の新入生」

 

 女性の、かなり元気な声だ。誰に話しているのかは分からないが、自分の可能性もある、と念のため御坂は声の聞こえた方を向いた。

 

「お札でも飲まれたかぁー?」

 

 常盤台の制服を着た金髪ギャルがこちらに手を振っていた。しかし、制服というには色々と足りていなかった。シャツのボタンは第二ボタン以外が空いていて、半分以上の肌が晒されている。学舎の園でなければ通報ものである。御坂にはゲコ太風の髪型に見蕩れて気づいていない様子だったが。

 

 知っている人ではなかったが、目のやり場に困った彼女が頭を下げると、ギャルは勘違いしたのか手を上げて、ヨッ!と元気に挨拶をしてきた。見た目に反してちゃんとしている人なのかもしれないと考えた御坂は挨拶をする。

 

「ど、どうも」

 

「あぁどうも。ちょっとどいてミソ」

 

「え、ミソ?あ、はい」

 

「こういう時は〜、伝統に則って」

 

 御坂は押し付けられたカバンを両手で抱えるように持つ。自動販売機の前で軽くジャンプをしているギャルの揺れる胸に目を奪われていると、急にギャルが一回転して、

 

ちぇいさー!

 

バコンっ‼︎

 

 ギャルの回転上段蹴りが自動販売機に当たっていた。大きな音が止んだ後、衝撃が伝わったのかゴトリと音を立てて飲み物が出てきた。丁度二本、人数分が。

 

「えぇぇえー!?なにやってんですか!」

 

「まあ、長年やってりゃこんなもんよ」

 

「あ、あの、これ大丈夫ですか?」

 

「ん?」

 

 御坂の心配虚しく、公園に大きな警報が鳴り響いた。

 

 ♦︎

 

 警報の聞こえない、少し離れた公園に逃げてきた二人は椅子に座りながら話をしていた。御坂はまだアンチスキルを警戒しているのか、小声で話している。

 

「御坂」

 

「あ、はい。って私のこと知ってるんですか?」

 

「そりゃ知ってるよ。なんてったって常盤台長年の悲願、超能力者の輩出。それが君だもの」

 

 確かに、今はシア派閥と同時に御坂と食蜂を推す教員も増えていて、それゆえ派閥の力も微妙に下がっている。

 

「君は今、食蜂操祈と並んで有名だよ。レベル5としての自覚は持っといたほうがいい」

 

「いやぁー、超能力者最弱だの、大能力(レベル4)と大差ないギリギリライン越えとか言われてますけど」

 

「やっかむ奴はどこにだっているもんさ、たとえお嬢様学校でもね。現実はこんなもんだよ、夢見る子達もいるだろうけど。てか、あんなでかい雷落としといてレベル4はないかな〜」

 

「レベル5としての自覚、ですか……」

 

 そう小さく呟く。

 御坂にはまだ、何のことかわからなかった。

 女が学校へ向かっていくのを見て、足を進めた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 超能力者である御坂美琴と、私──潔斎雪紫の二人は現在、プールの授業前のシャワーを浴びていた。周りには同じ寮の生徒達がシャワーを浴びているが、美琴ちゃんがレベル5になってから、少し距離が離れた気がしなくもない。羨ましいと恨めしいはここまで紙一重なものだっただろうか。

 

 それはさて置いておいて、常盤台は派閥という組織によって大きく区分されている。それ故派閥に入っていない人間など珍しく、もっと言えば派閥の詳細を知らない人間など本当に限りなくいないのだ。

 

 そのはずなのだが、そんなことには興味が無い御坂美琴は派閥にも入っていない。さらに派閥の詳細もほぼ知らないようだった。世間知らずにも程があるだろうと、私は言いたい。

 

 

それでは生活に支障が出よう!

んてことでぇ!この潔斎雪紫が!

美琴ちゃんに教えてやろうじゃないか!

 

題して‼︎

 

 

「きよしちゃんの派閥講座‼︎」

 

 御坂は一旦無視をしようかと思ったが、彼女なりの良心が痛みを訴えた。一拍おいて、シャワーにギリギリ負けない声量で答える。

 

「なによそれ」

 

「そのまんまだよ。美琴ちゃんは派閥について全く知らないでしょ?」

 

 潔斎の言葉に少しずつ、嫌な記憶が掘り返される。

 

「ウ、テレビシアハバツシカウツッテナイ。ヨウツベキュウジョウショウシアハバツシカナイ。ザッシノトクシュウシアハバツ。ゲコタノコラボモシアハバツゥゥゥゥアアアァァァアアァァ!!!!」

 

「あ、うん。確かにシア派閥は知らない人いないよね」

 

 狂ってしまった御坂を軽くあしらい、シャワーから出た潔斎は御坂を待ちながら話を続ける。

 

「数ある派閥の中でも、図抜けて人が多い上位三つの派閥は常盤台三大派閥って呼ばれてるんだよ。

 まずはその中でも最大人数を擁し、最も永代姫君(マジェスティ)に近いとされるシア派閥。率いるのは二年生の沙 淡扇(シア=タンシャン)

 

「マジェスティ?」

 

 御坂が聞き慣れない言葉に首を傾げる。

 

「そう。最大派閥を一年以上、かつ卒業まで維持した派閥を率いた者に与えられる称号。永代姫君(マジェスティ)には、将来学園都市統括理事の席やらなんやらの出世コースを約束されるんだって」

 

「へー、じゃあシアさんはこのまま最大派閥を率いることができたら、雲の上の存在なわけね。今のうちに胡麻をすっておこうかしら」

 

 狡賢い!と二人で笑い合い、先生が来るのを待った。数分後、先生が来て指示を出し終わると、話の続きを始める。

 

「シア派閥は主にボランティアのような慈善活動をしているの。常盤台の評判は彼女のおかげでかなり良くなったみたい」

 

「あぁ確かに、ロコミで五つ星が一気に増えた時があったわね」

 

「そうそう、それもシア派閥の影響ね。

 ちなみに、最大派閥のてっぺんは女帝と呼ばれるのが定説。シアさんは体が弱いから保健室の女帝って呼ばれてるよ」

 

「な、なんかいやらしいわね……」

 

「ん、それどういうこと?」

 

「あ、あぁ!なんでもないわよ!別に保健室は休むための部屋だしね」

 

「う、うん。続けるよ?

 次は、三年生水鏡(みかがみ)凪紗(なぎさ)率いる水鏡派閥。ここは水鏡先輩の能力に惹かれて集まった人も結構いるところ。能力は『油性操作』で、胸を大きくしたり、お腹をキュッと引き締めたり、いろんなことができるらしいの」

 

「へー」

 

 女性からすれば最高に魅力的な能力なのにも関わらず、御坂は興味がなさそうな反応をした。そこに違和感を感じたのか、潔斎は御坂のまな板を半目で見ながら質問した。

 

「あれ、美琴ちゃんは体型とか気にしない系?」

 

「まだ中学にあがったばっかだしスタイルとか気にしてもしょうがなくない?能力でそういうのをどうにかするってインチキくさいし。

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なんでそんな壮大な死亡フラグ立てちゃうかな.....

 

「ん?まぁ、大丈夫でしょ」

 

「あ、これダメなやつだぁ」

 

 潔斎雪紫は御坂美琴の悲しい未来を見通していた。

 

 ♦︎

 

「で、最後は私が所属している、支倉冷理先輩率いる支倉派閥ね。自分で言うのもなんだけど、三大派閥では一番古い派閥だよ。でも、他の派閥に抜かされちゃったの。周りを蹴落としてでも上に行こうとしてる派閥なんだけど、それが仇になったのかな」

 

「なるほどねぇ。あ、そういえば今日一緒に登校した先輩が居たんだけど、すっごい格好のギャルな人!あの人はどの派閥にいるの?見事な回転上段蹴りだったから気になって」

 

「あぁ、そりゃルリ先輩だよ」

 

「ルリさん?」

 

神苑小路瑠璃懸巣(しんえんこうじるりかけす)。通称ルリ先輩。先生達も手を焼いてるんだって、派閥はたしか入ってなかったはず。でも三大派閥もルリ先輩のことは一目置いてるんだよ」

 

「手を焼くって、あの寮監も?」

 

「うん。寮監から逃げ切れたのはルリ先輩だけだね」

 

「うへぇ、そりゃ派閥の人たちも勧誘したがるわけだ」

 

「そうそう、多分美琴ちゃんも勧誘されるんじゃないかな?」

 

「んー、派閥かぁ。興味ないなぁ」

 

「だよねぇ、支倉派閥に美琴ちゃんが入れば良い梃入れになるんだけどね。そうだ、もう一人の超能力者(レベル5)、食蜂操祈ちゃんは知ってるでしょ?」

 

「あぁ、話したことはないけど、お人形さんみたいに綺麗な子でしょ?」

 

「そうそう、その子なら入ってくれるかなぁ。でも能力のせいで少し勧誘し辛いというか」

 

「今度会ったら話してみる?興味もあるし」

 

「そうだね、なんでそんなに可愛いの?とかね。

 あ、もう部活の時間だ!」

 

 更衣室で着替えていると、潔斎は血相を変えて走り去って行った。御坂の着替えが終わり、ふと視線を落とすと机の上に、月の形をした何かが残されていた。

 

「これって、雪紫のだよね」

 

 その何かを握りしめて、御坂美琴は歩き出した。

 

 


 

 

 更衣室を出て周りを見渡すが、もうそこには潔斎の姿は見えない。携帯を取り出し彼女の部室へ向かいながら、潔斎の携帯に電話をかけてみる。しかし、電話は繋がることはなかった。

 すぐに忘れ物の連絡をしようとメールアプリを開くが、下を向いていたせいか他の生徒とぶつかってしまった。

 

「おっと!ごめんなさい」

 

 御坂が謝る。するとぶつかった生徒——3人の少女はこちらを横目で見ながら御坂を何故か嘲笑った。

 

「今のが例のレベル5……おっと!ですって」

 

「謝ることはできるようですが、おっと!ってねぇ……」

 

「能力が強くても、この学校に見合うような所作は備えてないようですね」

 

 どんどんと歩いていく3人は聞こえていないとでも思ったのか、御坂のことを悪く言い始めた。

 もちろん御坂に聞こえていないはずもなく、3人の内リーダー格であろう女が「きっと計測器の故障でしょうね」に対して「彼女がレベル5なら、私たちでもレベル5になれそうですわね」と言ったのも聞こえている。

 そこで御坂は思い出す。今朝、ルリ先輩に言われた言葉を。

 

やっかむ奴はどこにでもいるもんさ たとえお嬢様学校でもね

 

「はぁ、まったく、その通りってわけねぇ」

 

 御坂が嫌味を言われて黙っているはずもない。磁力を使い天井にくっつくと、そこから、先に進んでいた3人の目の前に落ちる。その時驚かす声を出すのも忘れずに。

 

「わっ!」

 

「「「キャァ!」」」

 

 計画通り3人は簡単に驚き、腰を抜かしたように地面にへたりと座り込んだ。先程までの悪い顔をした少女とは打って変わったように表情を変え、今はまるでオバケに恐怖する少女のよう。

 

「座り方は可愛らしいけど、パンツを曝け出したままなのはお嬢様としてどうなの?」

 

 御坂が呆れながらにそう言うと3人はまた表情を変え、スカートに手をやってそれを隠した。

 

「私の力が信じられないのなら、一回手合わせでもしてみるかしら? いちご柄ちゃん」

 

「だ、誰がそんな野蛮なことをっ!それと今日はたまたまこれを履いただけですからね!毎日じゃありませんから!」

 

 いちご柄を履いていた少女が、顔をタコよりも紅くして叫んだ。

 電気をビリビリと発しながら一歩一歩と近づいてくる御坂に3人は、蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。流石にこれを追いかけていくほど御坂も悪い人ではない。

 

「んー、これはたしかに、メンドーかもしれないわねぇ」

 

 先が思いやられる。しかし、それでも彼女が思っているほど彼女の未来は甘いものではなかった。そう知るのはまだまだ先のことだった。

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 御坂が向かった方向の反対側には、かなり広い庭のような場所がある。そこには特に何かがあるわけでもなく、ただ芝の地面が広く敷かれているだけだ。

 

 緑の芝生の上には、一人の少女が静かに座っていた。彼女は携帯電話を手に握りしめ、真剣な表情でその画面をじっと見つめていた。何を考えているのか、彼女の内面を知ることはできないが、少女の顔には微かな陰りがあり、何かを後悔しているようにも見えた。携帯電話には、彼女にとって重要な何かが秘められているのだろうか。

 

 携帯はメッセージアプリが起動していた。画面には一つの着信履歴と新たなメッセージが浮かび上がっていた。メールを開くと、少女と同部屋の子が部室まで忘れ物を届けてくれると書かれていた。

 

「ごめんね美琴ちゃん」

 

 少女——潔斎雪紫は笑顔をつくり、とある女へと電話をかけた。それが新しくできた、一番の友達を裏切る行為だとしても。

 電子音が優雅に鳴り響くそのコールは、心地よいリズムで二度響き渡った。

 

『どうしたの雪紫さん、もしかして超能力者のお話かしら?』

 

 繋がった電話に応答するのは大人びた声の女だった。

 

「美琴ちゃんがルリ先輩に会ったらしい、です。多分偶然だとは思いますけど」

 

『そう、今はまだ問題ないわ。でも、超能力者とルリがね』

 

 潔斎の言葉に驚くこともなく、女は冷静に分析する。

 

『もしかしたらあの子が……』

 

「またあの子って。いったい誰なんですか?」

 

 彼女との通話で何度も聞いた、あの子と言う言葉。

 例の如く、今回も教えてもらうことはできなかった。

 

『あなたに話せることではないわ』

 

「…………わかりました」

 

 話さないのは理由がある。何事にも理由がある。

 

 

 

 プツリと電話を切った潔斎はそのまま寮に帰ることを決めた。

 

「なんか、やってられないなぁ」

 

 なんだかどっと疲れた気がする。

 いいや、気のせいではないのだろう。

 命令で作った偽りの友情のはずだったのに。

 裏切るのは簡単なはずなのに。

 心は痛みを増すばかりだった。

 

 

 ♦︎

 

 

 潔斎へメールを送った後、御坂は彼女の部室を訪れていた。しかしそこに潔斎の姿はなく、同じ部活の生徒に話を聞いてみてもまだ姿を見ていないようだった。

 潔斎が部活に向かってから御坂が追いかけるまで全く時間の差はない。3人組に絡まれた時間を考慮すると、彼女がここに着いていないのはあり得ないことだ。

 

「まあ、同部屋だし寮で渡せばいいか」

 

 未だにつかない連絡に少し焦りもあったが、結局は同じ部屋に帰るのだと気づいた御坂は帰路についた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

○ 頂の集い

 

 

 

 常盤台はとても入り組んでいる。学校だというのに廊下が十字路になっているのはとはや当たり前のこと。数年働いた教師が離任の日に迷ってしまうなんてことは珍しいことではなかった。

 

 御坂は潔斎の忘れたアクセサリーを手に持ちながら下駄箱へと歩いていた。そのとき、御坂の右手から長身の見覚えのある女が現れた。彼女は御坂の手を一瞥すると、パンダのぬいぐるみを構え話しかける。

 

「珍しいアクセサリーをお持ちですね」

 

 御坂に近づき興味深そうにアクセサリーを見る女は、やはり見覚えがある。

 

「こ、こんにちは。シア先輩ですよね?」

 

「あら、知っているんですか? 私も有名になってしまいましたね」

 

 シアはわざとらしく、おほほと口に手を当てて言う。

 御坂はなんて可愛い子なのだろうと内心思った。

 

「そりゃそうですよ。テレビでもよく見てましたし」

 

「そうですか、テレビはあまり見ないので知りませんでした。おっと!皆さん集まってしまいましたね」

 

 お嬢様でもおっと!って言うじゃない。などズレた思考を止め、御坂は左と前方から歩いてくる誰かを見た。彼女たちもシアと同じように御坂の目の前で止まった。三大派閥の長たちである。

 

「おいシア、勧誘か?」

 

 茶髪ロングを垂らした美女——支倉(はせくら)冷理(れいり)がシアに詰め寄る。

 

「いえ世間話を少々、うちはもう勧誘はいたしませんので。元々私の派閥は友人と楽しむために作ったモノです。それなのにどういうわけか大所帯になってしまいまして」

 

「ぐうっ!やっぱり腹黒いわねアンタ」

 

 一瞬で追い抜かれてしまった支倉は思うところがあるのか、綺麗なぐうの音を披露する。

 

「はぁ、どうでもいいけど、くだらない政治ゴッコで道塞ぐのやめてくんない?」

 

 金髪三つ編みにそばかすの美少女——水鏡(みかがみ)凪紗(なぎさ)が冷たい目をシアに浴びせながら言った。

 

「アンタもその一員でしょ!」

 

 支倉さんはもうツッコミ担当だと言うことがわかった。彼女ははぁはぁと息を切らしながらもう嫌だと呟いている。

 

 水鏡は派閥にあまり興味が無いらしく、支倉のツッコミを無視してどこかへ歩いて行った。

 それに続くようにシアも、またねの言葉を残して去って行く。

 この場には御坂と支倉、それと彼女の派閥幹部が四人が残っていた。支倉が幹部に帰るように言うと二人になり、少しの沈黙が場を包む。

 

「超能力者、ちょっと付き合いなさい」

 

「タイマンですか?」

 

「アホか」

 

 嬉しそうな顔でタイマンを望む中学一年生。

 これが御坂美琴の正体であった。

 

 


 

 

 支倉の後を着いて行くと、裏庭へたどり着いた。

 中央には綺麗な二匹のイルカの銅像が建っている。その周りにベンチがいくつか並べてあり、昼休みならばここはかなり賑わうのだが、いまはその気配すらしない。

 

「そうだ、私のこと知ってる?」

 

 質問したのは支倉。意図は特に無い。支倉もまさか御坂が自分のことを知らないとは思っていなかっただろう。なんて言ったって支倉はあの三大派閥のリーダーなのだから。

 

 対して御坂は額から汗をながら考えている。潔斎から三大派閥長達の能力などは聞いていたが、容姿については全く聞かされていなかったからだ。

 

 だが、わかる!完全にわかる!

 水鏡の能力は胸を大きくできる素晴らしい能力。目の前にいる茶髪ロングさんは胸が大きい。それに対して金髪三つ編みのそばかすさんは、あまり大きくなかった。こんな能力を持っているのに、自分の体を煩悩の塊に、つまり胸を大きくしないなんてことはないだろう。

 ならば答えは出た!

 胸の大きい方が水鏡先輩だと!!

 

「もちろん!水鏡先輩ですよね!」

 

「……いや、支倉よ。支倉冷理」

 

「…………ぁれ?」

 

 御坂の考えは虚しく外れる。呆れた支倉が御坂をどやしても、それすらも聞こえていない。

 どうして? 水鏡先輩はなんで自分自身に能力を使わなかったの?

 彼女の思考は今、これで埋まっているだろう。無理もない。

 

 

「私と勝負しない?」

 

 支倉の言葉で引き戻される。気を取り直し、御坂はなんの勝負なのか聞いた。

 

「言っとくけど喧嘩じゃないわよ。あそこの的をこの球で貫けばいいだけだから」

 

 支倉は貫くだけと言ったが、それ自体がかなりの難易度だ。的を破壊するのではなく貫くことが目的。もし御坂が手加減せずに能力を打ち付けてしまえば、的ごと消滅するのは確実だ。

 

「お手本とかできます?」

 

 御坂が図々しくお願いすると、支倉は金属の筒を持ち腕を的へ向ける。ボンッ!と音が鳴るとすでに的には穴が空いていた。筒に詰めた金属球を彼女の能力で射出したのだろう。

 

「どうよ」

 

 支倉が大きな胸を張って御坂に自慢するが、御坂には見えていなかった。彼女は思考の渦に巻き込まれていた。

 

 

 距離は五十メートルほど離れている。

 雷撃では手前にある鉄製バリケードに避雷針のように引っ張られて、的に届かないのがオチだ。

 磁力操作なら的に命中こそできるが、支倉のように貫くことは難しいだろう。

 つまり、彼女の真似をして()()するのが最適解のはず。

 

 目標に向かう二本のレールをイメージして、磁力線を的に向け伸ばす。その上を滑るように突き進む金属球を幻視した。

 

「これならいける!」

 

 御坂は確信する。

 バチバチと紫電が体表を迸り、それが彼女の手元の一点へと集まる。

 手に持つ金属球を、親指で想いのままに弾いた。

 金属球は彼女の造った二本のレールに従い真っ直ぐ的へと‼︎

 

 

 進むことはなかった。

 磁力のレールを最初の一歩目から脱線した金属球は進行方向を変え、地面にぶつかりゴッヴァァと鼓膜を破裂させるような音を立てた。さらに、地中に潜ったそれはズガガガガガガガガが!!!!!!!と地を揺るがしながら進んで行った。

 

「えっ」

 

 風圧に負けた支倉が、数メートル先を風船の如く浮かんでいる。数秒間の浮遊ののち、地面へ打ちつけられた彼女が小さなうめき声をあげる。

 強い風によって土は舞い、電気熱で芝生は焼き焦げた匂いを撒き散らした。倒れている支倉と裏庭の惨状を御坂の視線が行き来する。

 

「えっ?」

 

 まるで災害の後のような光景に眩暈がする。幸いなことに、金属球は御坂の能力に耐えられず溶け消えていたらしく、校舎まで影響は及んでいなかった。

 だが、御坂は自分が殺人事件(死んでない)を起こしてしまったのだと察していた。重すぎる責任が彼女の背中にのしかかる。

 

「えっ??」

 

 支倉はようやく体を起こすと、一思いに叫んだ。

 

「御坂あああああ!!!殺す気か!!!!」

 

 その叫び声は先の御坂の能力よりもっと強くて、とある最強の魔術師がビーカーの中を三回転半回るほどだったのだとか。。。

 

 

 


 

 

 

 支倉とのあれこれが予想よりかなり時間を使っていたらしく、気づいた頃には空が赤く染まりかけていた。ちなみに裏庭は支倉の部下が能力を使い、なかった事にしているので問題はない。

 

 帰りはかなり遅くなり、どうせなら彼女と一緒に帰ろうと携帯を開いた。しかし、画面に映る潔斎からのメッセージにはすでに帰っている旨の内容が記されていた。

 

「遅くなっちゃったわね」

 

 御坂が一人呟く。返答はない、その筈だったのだが。

 

「なら私と帰る?」

 

「ひえっ」

 

「そんなに驚くことはないだろうが、御坂」

 

 ぬるっと御坂の肩口から覗いて来たのは、今朝一緒に登校していたルリ。暗くなり肌寒いのにも関わらず、シャツ一枚を羽織るだけのかなり攻めた服は健在だ。

 

「こ、こんにちは。ルリ先輩」

 

「お、名前は誰かに聞いたんだね。まあ改めて、神苑小路瑠璃懸巣(しんえんこうじるりかけす)だよ。さっきと同じルリでおっけー」

 

 朝と変わらず、絡みやすいのか絡みづらいのかわからないノリで下駄箱まで一緒に移動する。この道中で、御坂がルリと呼び捨てにするのを恥ずかしがるという最高の光景が見れたのは内緒だ。

 

「それで、今日はどうだった?」

 

「えっと、どうだったって?」

 

「ほら、朝言ったでしょ?やっかむ奴らがでてきたんじゃないかなって」

 

 今日あった出来事を思い出す。例の三人組には完全には嫌われている気がしたが、派閥の長であるシアと支倉には案外認められていると思っていた。

 

「あー、居たには居ましたね」

 

「まぁ、私は御坂のこと認めてるから、何かあったら言いな。はいこれ連絡先」

 

 携帯を突き出したルリは、御坂に携帯を出すように催促する。御坂は携帯を取り出そうとするがその時、ルリの秘密を知ってしまった。

 

「あああぁぁァあぁぁゥゥぁ!!!??」

 

 瞬間、御坂の叫び声が轟く。ルリはあまりの声量に屈んで耳を塞いでいた。

 御坂は屈んだルリの手元をじっくりと見つめ、そっと、そーっと近づいて行く。ルリは猫のような顔をして近づいてくる御坂に、恐怖を感じたのかじりじりと後退って、ついに、背中が壁にぶつかった。

 

 もう逃げ場はない。ルリが能力を使って逃げようとした時、御坂は懐から何かを取り出した。それは、銃。などではなくただの、いや、カエルをモチーフにした幼稚な携帯だ。

 

「ふふふ、ルリってゲコ子推しなのね」

 

「な、み、御坂、お前はゲコ太推しなのか」

 

「「ふふふ」」

 

 同志、それに気づいた二人はもう遠慮しない。さっきまでとは打って変わる。緑とピンクの携帯が交差する。

 

「ねぇルリ、明日ゲコ太のイベントあるじゃない」

 

「そうだな御坂、一緒に行く?」

 

「うん。やっと見つけた同志」

 

「これからもよろしくね」

 

 

てを にぎりあい ふたりは

 

ばすに のりこんだ 。

 

ばすでは ふたりの しょうじよの

 

なかむつまじい こえが きこえてくる。

 

ふたりはとても ここちよかつた という。

 

 


 

 

「ただいまー!」

 

 御坂は寮に帰ると一目散に潔斎の元へ行った。

 

「今日ルリが同志だと気づいちゃったわけよ!」

 

「よ、呼び捨て?」

 

 潔斎は急過ぎる二人の展開に驚くが、御坂は気にすることなく話し続ける。

 

「明日は土曜日、ゲコ太のイベントよ!ルリと出かけてくるから!」

 

 潔斎は戸惑う。展開が早過ぎるのだ。御坂に友達ができたことは素直に喜ぶべきことなのだが、それができなかった。

 罪悪感を覚えながらも、彼女は命令に従う事を決めた。

 

「う、うん。気をつけてね」

 

「そうね、限定品ゲコ太とゲコ子が先に誰かに取られないように、すっごく気をつけるわ!」

 

「そういう意味じゃないんだけど……」

 

 

 ♦︎

 

 

 深夜、御坂は明日のイベントのためにぐっすりと眠っている。その隣のベッド、その上には本来寝ているはずの少女の姿がなかった。

 

「はい、わかりました」

 

 やけに響きこもった声だった。風呂場だろうか、その方向からぷつっと通話の切れる音が響く。

 

「はぁ」

 

 そこには暗い顔をした潔斎が居た。お湯に浸かりながら思考に思考を重ねる姿。

 

「ほんとどうしよ」

 

 一番の友達を裏切り、自分の身を保全するか。

 自分の身を危ぶむことで、友達を守るか。

 

 彼女は決めることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 レベル4 神苑小路瑠璃懸巣(しんえんこうじるりかけす)(通称ルリ先輩)

 

 能力 ???

 

 能力は現在不明。しかし、体術に関してはあの寮監を抑えて現在の常盤台中学で随一。

 スカートと短パン。そしてルーズソックス。完全に御坂に影響を与えた人物。

 シャツ以外は何も着ず、スカートの中には短パンという痴女感溢れる服装でそこら辺を歩いている。白井さーん、ここでーす!

 日焼けサロンに行っているのか、肌は褐色。とても良い。

 髪は金色に輝いており、髪型は熊の耳。と聞いて思い浮かべるやつ。ゲコ子をモチーフにしたモノらしい。

 派閥は作っていないものの、彼女を慕う者は多い。最近は御坂とよくいるところを見かける。

 支倉はシアをスカウト失敗し、さらには御坂も失敗したのでルリに的を絞っているらしい。まあどうせ無理だろう。

 

 

 レベル3 潔斎(けっさい)雪紫(きよし)

 

 能力 蒸気使い(スチーム)

 

 蒸気を体のどこからでも出すことができる。熱気は100℃超まで上げることが出来るが、まず出す機会は来ないのでは?蒸気は目眩しにも使えるため、バトルの際はサポーターとして本領を発揮する。

 支倉派閥に所属しており、下っ端。

 御坂の情報を流しているのは支倉派閥ではない。

 能力強度的には3なので、常盤台だと普通。しかし勉強に関してはかなり上位で、単純な学力と雑学なら御坂をも超える。

 友達思いのいい子。なのだが、今はかなり揺れ動いている。

 

 

 レベル4 切斑(きりふ)芽美(めぐみ)

 

 能力 念動力(テレキネシス)

 

 え、誰?

 そう思っているあなた、いちごパンツちゃんです。

 知名度は微妙だが、原作キャラ。時には婚后さんを転げ落としたり、バルーンハンターでは出オチ感のあるキャラクターを演じたり。

 常盤台に47人しかいないレベル4を、多分一番無駄に使っている。

 だが、とある科学の超電磁砲の最新巻(予定)では御坂にパンツ(ショーツ)を見せびらかした。残念なことに読者はもう少しアングルを下にしろぉぉ!!!と叫び散らかしたが。パンツのおかげで株が大暴騰。

 少しだけ鋭い目付きとショートカットの彼女は、魅力が詰まっている。そして、、、恥ずかしがった顔のギャップが素晴らしい。ぜひ皆さんも見てください。

 

 能力は念動力。物体の中に念力を送り込むことで、物の操作を触れることなくできる。バルーンハンターに置いて、玉を同時に十個以上も操っており、能力の強度は言わずもがなである。

 御坂に絡んだのはたまたまぶつかったから。根は悪くない。実際、今後彼女は物語に、、、、。

 

 


 

 

 NEW!! 御坂 Aカップ(以後変化なし)

 

 いやいや、まだ入学したばっかよ?(死亡フラグ)

 

 食蜂 Aカップ

 

 ふふふ、私には未来があるわぁ!

 

 NEW!! 潔斎 Bカップ

 

 美琴ちゃん……私、未来が見えたよ……

 

 NEW!! ルリ先輩 Eカップ

 

 この格好?暑いからだよ

 

 NEW!! シア Fカップ

 

 一年前からすると、身長は15センチ伸びて、お胸は四つくらいカップが変わりましたね

 

 NEW!! 支倉 Fカップ

 

 くそっ!揺れて邪魔だぁ!

 

 NEW!! 水鏡 Cカップ

 

 はぁ、胸がステータスになんかなるわけないでしょ?

 

 NEW!! 切斑 Cカップ

 

 あ、あれ? アニメではもっと大きかったのに!

(漫画だとまな板だからアニメ版くらいにした....)

 




三話連結潔斎講座大作戦超電磁砲誕生秘話


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美琴×操祈 気味(ぎみ)

 

 御坂とルリが同志になってから一ヶ月という濃くて長い時間が過ぎた。この間に変わったことといえば、季節が移ろい制服が冬服から夏服に変わったことだろうか。

 

 ブレザーを着ていては暑いためそれを避ける夏。代わりのつもりなのか、ボタンひとつ留められていない、全開のポロシャツ一枚で出歩くルリが発見されるものだ。男子禁制である『学舎の園』の中なので一応、大丈夫とも言える。

 

 しかし、同学年は既に慣れたものだが、後輩達はすれ違うたびに赤い顔で目を逸らしている。この3年でもはや風物となっていた。

 

 ♦︎♢♦︎

 

 打って変わって、御坂は新たな出会いに胸を躍らせている。

 とでも思っただろうか。御坂はもはや、そういう星の元に生まれたのではないかと疑うほど友達に関して無縁。友達ではなく、因縁の相手が誕生していた。

 

 


 

 

 常盤台敷地内の裏庭。御坂は前を歩く、同じレベル5の少女に話かけようとしていた。好奇心、と言うよりも同じレベル5仲間として少しでも交友を持てればいいと考えていたのだ。

 

 後ろから近づき肩をトントンと叩くと、少女が振り返る。髪が靡くと、風に乗って甘い匂いがした。

 御坂が手を振り、笑顔で挨拶をしようとするが、少女は御坂の顔を見るなり血相を変えた。少女は肩にかけた小さな鞄をぶんまわす。

 

 すると、いつの間にか頭を押さえた御坂が蹲っていた。心なしか頭がぷっくり膨らんでいる気がする。

 少女に何故そこまで拒絶するのかと聞くと。

 

「あなたの顔面の不愉快力が高いからよぉ」

 

 というように、乙女に対して言ってはいけない言葉で返され、またダウンしてしまう御坂。

 

 やはりそこまで言われると流石にキツいものがある。しかし、ほろりと目からこぼれ落ちた涙は、地面を暗い色に変えるだけだ。

 

 レベル5の少女——食蜂操祈からすると、御坂の顔は辛い記憶を思い出させる。なので迷惑に違いないのだが、それを知らない御坂に強制するのは酷というものだろう。

 

「それは酷いですよ!」

 

 そして、御坂の言葉を代弁するかのように、誰かの声が裏庭に響いた。

 

「み、雅葵(みやびあおい)さん!?」

 

 食蜂がそちらを向くと、どうやら見覚えのある顔がこちらに駆けてきている。

 彼女は食蜂と同部屋の少女だ。今現在、食蜂唯一の友達で。いや、そんな悲しい話はやめておこう。

 二人の元まで駆けてくると、雅葵は息をこれ以上なく切らしながら食蜂を叱る。

 

「はぁはぁ、食蜂さん。はぁ、そんな、はぁ言葉はぁ使っちゃ、はぁ、ダメですよぅ!」

 

 しかしそれは、文章になっているのか分からないほど途切れ途切れなモノだった。

 

「だ、大丈夫なの? この子」

 

 御坂は心配すらしていない様子で食蜂に聞く。

 いやダメだと思う。と食蜂に返されると、御坂の肩は徐々に縦揺れを始める。それに呼応するように食蜂の肩も揺れ始め、次第にそれは笑い声に変わっていった。

 

「ふぇ?お二人ともなんで笑っているのですか?」

 

 当の本人は何もわからず、きょろきょろと二人を交互に見ている。その姿まで可愛らしく、二人は微笑ましく思いつつ笑っていた。

 

 十数秒は笑い続け、ようやく笑いが止んだ頃には御坂と食蜂は険悪な仲に戻っていた。これからも二人は喧嘩をして、ときには奪い合うをすることもあるだろう。

 とは言っても、少しは打ち解けたことは間違いなかったはず。

 

「ふんっ、馴れ合いはしないわぁ」

 

「こっちこそ、こんな性格の悪い子とはごめんよ」

 

 しかし、御坂と食蜂の携帯にはしっかりと、新しい連絡先が登録されたのだとか。

 

「てかアンタ、なんであの子を名字と名前も呼んでるのよ」

 

「フルネームじゃないわぁ。雅葵、これだけで下の名前なのよぉ」

 

「今流行りのキラキラネームってわけね」

 

 

 


 

 

 

 何という遭遇率なのだろうかと、食蜂は自分を呪った。あれから次の日、校内をなんとなしに散歩していると御坂と出会したのだ。

 またか、と彼女はため息を吐きつつベンチに腰掛ける。

 これはボッチ同士ゆえに引力でも働いているのだろうか。いくら考えても答えは出ない。

 

「はぁ、雅葵さん助けに来てくれないかしらぁ」

 

「あのねぇ、私がアンタを襲うみたいに言わないでよ」

 

 食蜂が昨日のキラキラネーム少女に助けを求めると、御坂は呆れるようにそれを笑う。

 それが食蜂にはおかしく見えたのか、彼女を丸い目で見つめた。

 

「ん、なによ」

 

「いいや、何でも無いわぁ。ただ、自動販売機を蹴ってる人が人は蹴らないとは思えなくてぇ」

 

「アンタの分も取ってあげたんだからいいじゃない」

 

 いいわけがないじゃない。と叫ぶ食蜂であったが、御坂は気にせず、自販機の中では当たりのヤシの木サイダーを飲んだ。

 呆れた食蜂は渡された"濃縮栄養飲料"を一口飲む。口に入れた瞬間、強烈な酸味が目を覚まさせる。

 

「くぅ〜!やっぱレモンよねぇ」

 

 彼女は身体中に栄養が回り始めるを感じ、体を伸ばした。

 御坂としては、初めて見たその缶を嫌がらせ気味に渡したのだが、どうも思ったより美味しそうに飲んでいる。

 御坂は味が気になりこんな提案をした。

 

「そうだ、アンタそれ飲ませてよ。これあげるからさ」

 

 もしかすると彼女はそういう趣味を持っているのかとも思った。

 

(そ、そんなはずないわよね!)

 

 顔を伺えば、彼女は純粋な笑顔を見せていた。この行為にそのような特別な意味(百合)はないはず。食蜂は勇気を振り絞って缶を御坂に手渡した。御坂はそれをゆっくりと口に運ぶ。食蜂には、彼女のジュースにより潤った唇がとても妖艶に見えた。

 御坂の嚥下に合わせ、ゴクリ。と息を呑む。

 

「ぷはぁ!んー、結構酸っぱいわねこれ。私は苦手かも」

「あ、ありがとう」

 

 食蜂は缶の飲み口を見つめた。縁の部分に御坂の口に触れた跡が残っていたのだ。その様子に、彼女の心臓の鼓動が速まっていく。深呼吸をして心を落ち着けようと効果はなかった。

 食蜂は返された飲み口に何度か口を近づけようとするが、結局できないでいる。

 

「飲まないの?それなら私が飲むけど、勿体無いしね」

 

 食蜂は手から離れていく缶を切なげに見つめる。口元からは微かにため息が漏れていた。

 飲むわよぉ。と彼女は即座に言葉を返すが、心の中では少し勇気が足りなかった。間接的ではあるものの、キスだと言う事実が彼女を苦しめていたのだ。乙女同士であっても、いや、乙女同士であるからこそ憚れた。

 しかし飲まないわけにも行かず、ゆっくりと缶を口にやり、ゴクリと一口飲み込む。

 

「んっ」

 

 口から胃へと飲み物が流れていく。ビリビリと痺れるような刺激が体を包んだ。もしやなにかを仕掛けたのか勘繰ったが、やはりさっきの燻りのない笑顔でそれはないだろう。

 

「ぷはぁ」

 

 御坂の飲んだ飲み物には電気が流れるのだろうか。

 もう一度飲んで強めの刺激を楽しむ。

 そしてもう一口。ピリピリするのが気持ちよくてたまらない。

 

 ふと気づく。これは売れるのでは?炭酸とはまた違う新たな刺激。

 商売心に火がつきかけるが、そんな不埒な事が今出来るわけがない。

 また飲みたいと言う心を押さえて御坂に缶を押しつけた。

 

「じゃあね御坂さん。それはやっぱりあげるわぁ」

 

 押し付けられた缶を落とさないように持ち直した御坂は、去っていく彼女にありがとうと声をかけながら最後まで見送った。

 ゴクリと音を立てて渡された缶を飲み干す。

 酸っぱいはずのそれは、なんだか甘く、青春を感じた。

 

 まあ、そんな訳がないのだが。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 その姿を遠いところから見ていた食蜂は、強い衝撃を受ける。

 自分はあんなに飲むのを渋ったのにも関わらず、あの女は気にもせず飲んだのだ。

 しかし、それよりも、

 

「わ、私の飲みかけを飲んだ。しかも二回も」

 

 それが食蜂の心、思考を埋め尽くした。

 鼓動が高鳴り、頭に血が上っていく。

 ぶつっ。と何かが切れる。すると鼻から血が出てきた。

 

「ほ、保健室に行かなきゃだめね」

 

 全身が血だらけになりながらそこへ向かった。

 そこで、不思議な出会いをしたらしいのだが。

 

 


 

 

 対して御坂は、新たな出会いにうつつを抜かすこともなく、教室で授業を受けていた。

 周りの生徒たちは初見の問題に手こずっているが、彼女の類稀な頭脳からすれば簡単なもの。指名される度に答えを当てる御坂に、学友達は心の中で拍手を送っていた。

 

 しかし、彼女の能力強度(レベル)や能力自体を信じていない者は、鬼のような表情で歯を剥き出し、御坂を睨みつける。これには御坂も苦笑いをした。

 

 授業が終わるとすぐに潔斎と共に帰寮の準備をする。

 今は派閥間の空気があまりにも悪い。

 少し、悪い予感がする。

 



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正殿清水(せいでんしょうず) 雅葵(みやびあおい)

 もし、常盤台中学にて流血事件が発生したなんて噂が流れてしまえば、それこそ学校の印象は暴落してしまうだろう。

 しかし、その噂が校外に流れる事はなかった。それどころか、延長線上のもっと大きな事件でさえ。それは、派閥の大きすぎる力ゆえか、それとも実際は起きていないのか。

 

 真実を知るのは常盤台学生のなかでも、一部だけなのである。

 

 


 

 

 六月上旬、学園都市は地球温暖化のせいなのか、すでに暑い日が続いていた。気温は30℃を目前にし、テレビでは毎年更新される過去最高気温が報道されている。

 そんな暑い日のなか、潔斎雪紫は御坂との待ち合わせ場所に向かい走っていた。待ち合わせの時間まではあと数分。額に流れる汗は留まるところを知らない。

 

「えっと、ここは近道だったかな?」

 

 久しぶりに行くカフェの道に迷いつつも、運良く近道になる路地を見つけ、潔斎は躊躇いもなく奥に進んでいく。そこは日が届かないからか、じめじめとした空気が肌に絡みついて少しだけ気持ちが悪くなってしまう。狭い路地裏は入り組み、なかなか出口に辿りつかない。

 ふと腕時計を見ると、針はすでに待ち合わせの時間を示していた。

 

「やっばい! あぁ、美琴ちゃんなら許してくれるかな.....」

 

 親友が遅刻に厳しくありませんように。と祈りながら足を速める。

 水滴に波紋を広げる水溜りには、潔斎を追う何かが写っていた。

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 路地裏に入り何分が経ったのだろうか。腕時計を見ると、長針は先程から大きく位置を変えていて、もはや謝っても済まない域に達している。『学舎の園』内部だとはいえ、少女一人でこんな不気味な場所を抜けるのは怖いはずだ。それに加えて路地裏特有の冷たい空気が、潔斎の体温を奪い不安を募らせていく。

 

「流石におかしいよね」

 

 彼女の以前の記憶は、とっくに路地を抜けていていい時間だと言っている。それなのに、灯りすらないこの場所から抜け出せる気は一向にでてない。やはり、この路地裏はおかしい。

 

「これってもしかして、危機的状況ってやつ?」

 

 思い出すのは流血事件。聞いた話では、実家を馬鹿にされた支倉派閥の人間が、水鏡派閥に攻撃を仕掛けたのだとか。そのときは血こそ流れなかった。その首にはしっかりと、濃く絞められた痕が残っていたと聞く、被害者は花山院という日本屈指の御令嬢。

 

 次の日、事態を重く見た両派閥が一堂に会する。共に手は出さなかったものの、話し合いは紛糾した。支倉派閥はやってないの一点張り。対する水鏡派閥は能力の特徴から、支倉派閥の炎乗(えんじょう)の仕業で間違いないと考えていた。

 

 結局その日は、なにも解決する事はなかった。それがいけなかったのだろう。帰路に着く水鏡派閥の一人が襲撃された。頭から血を流した仲間を見た彼女達の怒りは歯止めが効かなくなった。

 それがつい昨日のこと。一人で路地裏を通る支倉派閥の潔斎は、いい的でしかない。

 

 

 

 ただでさえ暗い路地裏に、もう少しだけ影が差した。額にさっきまでとは違う冷たい汗が流れる。完全に上を取られた。覚悟を決め潔斎は顔を上げる。

 

 そこにいたのは二人の女。氷のように冷たい視線が潔斎を突き刺す。もはや潔斎はたじろぐことしかできない。二人の女は屋上から飛び降りると、潔斎の前に並んだ。

 

 三人を支配するのは沈黙。口を震わせながら、潔斎は能力を使って逃げようとした。しかし、そのとき片方の女の体に異変が起き始める。

 長い金髪の女の額から、黒い渦が生まれ、それは時間をかけるごとに長く、伸びていった。ようやく止まったかと思うと、額には山羊を思わせるようなツノが生えている。それだけではない。女の腕はゴーレムを彷彿とさせるように変わっていた。彼女が拳を握ると、ぐりりと鈍い音が鳴った。怒りを抑えるための行動にも見えた。

 

 ふぅ、と息を吐いた頃には、すでに体が動いていた。防衛本能なのかどうかわからないが、これが潔斎の運命を左右したと言っても過言ではない。彼女はこの行動によって報復から逃げ仰るかもしれないのだ。

 

 潔斎の体から大量の蒸気が噴射された。100℃近い高温は、潔斎を追う二人にとっても脅威になりうる。さらには蒸気は白く漂い、視界を遮断している。視界の効かないこの状況で彼女を追うことは難しい。

 

「好機!!!」

 

 紛うことなき好機だ。潔斎は後ろを振り返り走る。足が水溜りに浸かって靴がびしょびしょに濡れたとしても、足を止めることはなかった。

 それからすこし、出口の光が見えた頃だろうか、後ろを追っていたはずの女たちは姿が見えなくなっていた。

 

「助かった、のかな?」

 

 足を止めた。

 携帯をバッグから出して、御坂に連絡を取った。内容は遅れてしまったことと状況が危ないこと。

 そこからは疲れた体に鞭を打って無理やり歩いた。一度止まるともう一度走り直すのは難しい。それが疲労しているのならなおさらだ。そして、路地を抜けた。

 

「あら、待っていましたのよ」

 

 また、冷たい氷のような視線が突き刺さった。さっきまでとは違う。四つなど少数ではなく、十の鋭い視線が向けられていた。今度こそは無理だと潔斎は諦めるしかなかった。

 五人の女は各々の能力を手の中で転がし、遊んでいる。

 

「逃げられたと思ったのでしょうけど、残念。この路地は()()ここに辿り着くようできていますので」

 

 潔斎は絶望に落ちた。逃げていると思っていたら追い込まれていたのだ。人生最悪の勘違い。彼女は手をぶらりと落としてその手を震わせていた。それだけではない。唇は青く変わり果て、膝は笑っていると言うのが正しい。

 

「これは報復よ、恨むなら馬鹿なことをしたあなたのお友達を恨みなさい」

 

 この中のリーダー格であろう女——空染(そらぞめ)が、腕を上に掲げながらそう言った。その腕からは常に紅い液体が飛び散っている。彼女の足元を覆い尽くすほどには浸っていた。

 

「では最低でも、怪我をしたあの方と同じ程度の怪我は負ってもらいます」

 

 女は手を赤い水溜りから手を抜くと、指に滴る水を潔斎に向けて弾いた。すぐに体を捻りそれを避けるが、驚くべきは避けた赤い水の威力。掠っただけなのに服には穴が空き、路地の壁に至っては、散弾銃をぶち撒かれたのかと思うほどに抉られていた。

 

 潔斎は体から血の気が引くのを感じた。今避けられていなければ、確実に死んでいたと気づいたから。あれは、確実に過剰で——異常なんだと。

 だが、神は彼女を見捨てなかった。まるで、女神のように美しい声が路地を通り抜ける。

 

「あ、あれぇ?道に迷ってしまったのですが、皆さんここがどこだかわかりますか?」

 

 五人ともう一人の視線が声のした方を向いた。彼女のことはここの誰もが知っている。潔斎は同じ派閥のメンバーとして、そして五人の女達はやむを得ず報復の対象外にした少女として。

 

 彼女は支倉派閥の新入り。歴で言えば潔斎とそう変わらない。特徴は身長の割に胸がでかいことだろうか、それとも彼女の後ろ盾が強大だと言うことだろうか。

 後ろ盾が強大というのは、彼女がレベル5の友達だからだと言えばわかる。いや、レベル5の友達と言う点では潔斎となんら変わらない。

 問題は、彼女の友達の能力である。精神支配。それはおそらく能力の中で最も恐ろしく、近付き難いものだろう。

 

「あ、あなたは食蜂さんの……!」

 

「え、ああ!そうです、食蜂さんの友達、正殿清水(せいでんしょうず)雅葵(みやびあおい)——気軽に雅とか葵って呼んでください!!」

 

 この路地は()()、ここに行き着くように細工されていたのだ。

 

「厄介なのが来たわね」

 

 潔斎が追い込まれた時点でこの路地を普段通りに解放しておけば、少しだけ未来が違ったのかもしれない。

 

「ところで、お遊戯の最中でしたか?」

 

「そんな可愛いものじゃ......!」

 

「いえ、わかっています。お手伝いしますよ、潔斎さん」

 

 まさに、神は見捨てていなかったのだ。

 

 


 

 

 潔斎にとって、雅は今まで食蜂操祈の友達であり、同じ派閥に所属する存在という程度の認識しかなかった。

 この初対面の場で言うのはなんだが、この路地に迷い込んだ時点で自身と同レベルの、あまり頭のよくない人間だと考えていた。彼女が最初に言った迷ってしまいましたぁ。なんて、完全に命の危機の迫るこの状態には似合わない発言だ。

 

 しかし、雅が口にした次の言葉は、潔斎の心を不意に震わせた。その変わり果てた態度に対して、敵の視線も戸惑いを隠せなかった。雅が意図的に披露した間抜けな振る舞いは、相手を欺くための巧妙な手法だったのだろうか。

 

「いえ、わかっています。お手伝いしますよ、潔斎さん」

 

 その強気な姿勢に、潔斎も自信を取り戻していった。

 

 

「五人に対して二人で何かできるとは思えないけど」

 

 潔斎がその言葉を口にすると、雅も無言でそれを受け入れるように微笑んだ。潔斎にとっては予想外の賛同に、彼女は頭に血が登る思いだったことだろう。雅はそれに気づいたのか、嫌味のない笑顔で言った。

 

「全て任せてください」

 

 清々しいその笑顔にペースを崩される。潔斎は信じられない言葉に落胆するが、自身が何もできない現実を受け入れざるを得なかった。命運を雅に委ねることを渋々と了承したのだ。

 

 

 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 雅が潔斎の腕を掴んだ瞬間、二人の姿が消える。

 驚きに顔を染めた空染(そらぞめ)が二人がいた場所に紅い水しぶきを飛ばすが、彼女らを捉えることはできなかった。コンクリートが穿たれ、土煙が立ち込める。その後に続くように、生気溢れる角を持つ女が空を殴り始めた。しかし、その拳は空気を切り裂くだけであった。

 

 

(思ったよりも上手く行きました!)

 

「まさか私の能力にこんな使い方があるなんて」

 

 それを見下ろすように、路地の壁の上に二人の姿があった。

 この壁を登ったのは他でもない、潔斎の能力によるものだ。普段は体全体から出していた蒸気を、足に集中させることで浮遊、さらにはある程度の飛行をやってのけたのだ。蒸気に関してはどうやら、土煙に紛れたらしく、誰も気づいていなかった。

 こんな考えが思いついてしまうのは、やはり常盤台の異端児であるからなのかどうなのか。潔斎は雅の思考回路が気になって仕方がなかった。

 

「今回ばかりは、私の能力がパッとしないもので助かりましたねぇ」

 

 そして、潔斎の能力により空を飛べたとしても、姿が見えていれば良い的が完成するだけだ。

 それを解決したのが雅の能力——光線屈折(リフレクト・レイス)。この能力はその文字の通り光を曲げる能力である。

 見えるという事象には、光が物から反射して目に入る必要がある。逆を言えば、反射した光が目に入らなければ見えないと言うことになる。

 潔斎と雅から反射された日光を空に向けて曲げるだけで、二人の姿が消えたように見えるわけだ。

 

「派手じゃないけど、ヤバい能力ってわけだね」

 

「ここからはバレないように、静かにここを逃げましょう」

 

 ここまで来たからと言って安心してはいけない。油断は禁物、大きな音を出してバレたら元も子もない。二人は忍者のように、抜き足差し足忍び足で建物の上を歩いて行った。

 水鏡派閥の彼女たちが困惑のまま話し合う姿が見えた。全てにおいて、雅の考えが相手を上回ったのであった。

 

 

 


 

 

 

 学舎の園にある高級カフェから、騒ぐ声が聞こえる。聞く側によっては喧嘩とも捉えられてもおかしくないそれは、潔斎と雅からすれば仲のいい少女が戯れてるように見えてしまう。

 

「ねぇ雅さん、二人ってこんなに仲良かったの?」

 

「んー。いつも通りですねこれ」

 

 これがいつも起きているのかぁ。と肩を落とす潔斎であるが、対する雅は母性のあふれる顔で戯れ合う二人——御坂と食蜂を見ている。

 なぜこの四人が一堂に会しているのかというと…………。

 

 ♦︎

 

 路地から問題なく逃げ果せた二人は、各々が目的地に向かうことになった。もちろん二人は別れて別々の方向に向かうはずだったのだが、潔斎の少し後ろを雅が付き纏っていた。

 

「えっと、雅さんもこっちに用があるの?」

 

「はい!」

 

 潔斎が声をかけると雅は簡単な返事をして、もう少しだけお話しできそうです。と嬉しそうに言うのだから、潔斎は無碍にもできなかった。

 

 カフェに着いたのはもう数分経った頃。もともとカフェ向かう近道の路地裏で襲われたのだから、逃げ回ったとてそこまで離れることはない。

 まだ、御坂の姿は見えなかった。

 

 〈美琴ちゃん変なメール送ってごめん。もう解決したから〉

 

 御坂にメールする潔斎の隣には、何故だか未だ雅がいた。潔斎は色々と勘繰るものの、答えもなにも見つからない。

 揶揄っているのかと勝手な解釈で落ち着こうとしたそのとき、

 

「「心配かけないで!」」

 

 カフェに突っ込むように入ってきた誰かが叫んでいた。視線を向けると、自分が待っていた少女だと気づく。御坂は明らかに怒りの表情をしていた。そして何故か隣にいる食蜂も同様に。

 

(あぁ、そういうことか)

 

 態々私たちを探してくれていたんだと気づいた。とんでもなく申し訳ない気持ちが溢れ返る。

 

「ごめんなさい」

 

 素直に謝った。続く怒りの言葉を待つが、沈黙が続いていた。

 

「本当に心配したんだから。何かあったら私に言いなさいよ」

 

 顔を上げると、悲しそうな顔をした御坂が目に入った。目に涙を溜め込んで、懇願するようにこちらを見ている。

 だけど、派閥間の争いに二人のような無所属の人間を巻き込んではいけない。それが暗黙の了解として存在しているのだ。

 

「え、なんでわかってない顔してるの?」

 

 それを伝えたところで、二人のような人間には聞き入れてもらえない。

 

「そんなの友達見捨てる理由になんないでしょ?」

 

「こればかりは認められないわぁ。友達に危険が及んだのに、派閥に入ってないからなんて言い訳通じないんだから」

 

(ほんとに、レベル5は何もかもが私たちと違う)

 

 潔斎は声を出すことも出来なかった。呆れているとはまた違う、不思議な喪失感。今度は潔斎が涙を流してしまいそうだった。

 

 


 

 

「美琴ちゃん、みんなの迷惑になっちゃう。ほら、食蜂さんも」

 

 周りの視線に気づいたのか、2人は顔を赤くして姿勢良くソファに座る。さっきのことがあったので今更ではあるが。

 

(ぐぬぬ、やっぱ美琴ちゃんも食蜂さんも可愛いなぁ!!)

 

 潔斎の頭の中では2人のカップリングが作り上げられている。その頭の中を、今回は特別に紹介することができるらしい。。。。

 

 

 

 

 

 

 

「御坂さん、こ、これ、プレゼントよ」

 

「な、なによ食蜂、あんたにプレゼントなんて頼んでないんだけど」

 

「私だって渡したくないわよ! で、でも、今日誕生日でしょ?」

 

「そうだけど。それで? プレゼントってなによ、あんたなんも持ってないじゃない」

 

「や、やだ、言わせないでよ」

 

「からかってるの? 私はプレゼントが何か聞いてるの」

 

「わ、わかったわよ! 言うから! 引かないでね」

 

「な、なんで涙目なわけ? 私にプレゼントを渡すのがそんなに.......」

 

「わ、私よぉ、プレゼントは私。不満は言わせないわぁ」

 

「な、食蜂頭でも打ったの? 急に服なんか脱いで」

 

「だからぁ! プレゼントは私なのぉ! いいから貰いなさい!」

 

「し、食蜂.....」

 

「御坂さん、誕生日おめでとう」

 

「わかったわよ。貰えばいいんでしょ貰えば! 食蜂、いや操祈!」

 

「み、美琴さぁん.......」

 

 

ちゅ

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪紫? 顔が赤いけど」

 

「えっ」

 

 名前を呼ばれて幻想から引き戻される。私はまた中学生丸出しの妄想をしていたのか。最後の最後でいい話を台無しにしてしまった気がする。

 

 

「いや、なんでもないよ美琴ちゃん。うん、美琴ちゃんが食蜂さんとあんなこと........いやなんでもない!」

 

 もはや最後まで言いかけたけど、なんとか持ち堪えた。三人の視線が少し痛いけど、全然大丈夫。私は全く問題ない!

 

「御坂さんのお友達は面白い人が多いわねぇ」

 

「いやあんた、雪紫以外知らないでしょ」

 

「まあ御坂さんに友達はいないものねぇ」

 

 また戯れ始めた。その間に、私は頼んでいたサンドイッチと共にコーヒーを飲み干して腹を満たした。

 雅さんは美琴ちゃんに聞いた通りあわあわしてて、面白い人だった。

 なにはともあれ、美琴ちゃんに友達ができた。その事実が私には幸せだった。

 

 それは、雅も同じ気持ち。

 

「食蜂さん、お友達ができてよかったですねぇ」

 

「「誰が友達よ!!!」」

 

 ここまで息が合っているのだから、もう認めてもいいのではないだろうか。

 なんのプライドなの? そんな言葉が頭にひらめく。

 

 多少の罪悪感を苛まれつつも、また、妄想の世界へと連れていかれる潔斎であった。



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