転生・転移主人公の実力至上主義 (時雨日和)
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第一章 実力至上主義開始
第1話 類は友を呼ぶ


お久しぶりですね。
別作品とか、同作品だけど別のお話とか放っぽって書いちゃってます。

いや、まあ、はい。ごめんなさい。他のやつ待ってる方申し訳ないです。

ですが、あれなんです。私は軽井沢さんが好きですが、坂柳さんも好きなんです!なので、前の奴はメインヒロイン軽井沢さんでしたが、今回はメインヒロイン坂柳さん(予定)です!続くかわかりませんが!


俺は夢を見る。

毎日ではない…と言うよりは記憶していないだけかもしれないが、感じている時は大体同じ夢であり、違う夢だ。

 

そこは普通の人間の世界であったり、魔術が確立している世界であったり、はたまた魔術どころか魔法やモンスターとかがうようよいる世界。他にも様々だ。

 

これだけ聞けば同じ夢では無いだろう。確かに殆ど違う。だが、同じ部分は確かにある。

 

それは、全ての夢の主役は俺であり、それらの世界へ連れていかれる時は同じ人物に出会い、行かされる。

 

だから、俺はよくこう思う。この話ももしかしたら俺の見てる夢なのではないか…と。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ここか…」

 

高度育成高等学校

 

進学、就職率100%と呼び声高い国が運営する超名門校らしい。

"らしい"と付けたのは元々俺自身全くと言っていいほど興味がなかったからだ。実際、この学校の存在も父さんからの勧めで知ったレベルであり、何も無ければ普通に近くの高校へ進学するつもりだった。姉さんもその方がうるさくないし。

 

ただまあ、どうやら俺はやらなければならないことに関しては真面目にやる性格らしく、思考とは裏腹に合格してしまうレベルには真面目だったようだ。

 

だが、やはり終わってしまえばその真面目さは糸が切れたように無くなったようで絶賛気だるげだ。

 

『ちょっ!あの人レベル高過ぎない?!』

 

『ほんとだ!!超かっこいい!』

 

『片目が隠れてるとかミステリアスなのがまた良い!!』

 

『同じクラスになるといいなぁ…』

 

…帰りたくなってくる。女子達の好奇な視線と言葉、男子達の嫉妬の視線。

顔が良いことは自覚しているし、そういう体験が初めてではない。まあ、それも"ああなった"原因の一つと言えば一つだろうな。

 

そんな言葉たちを尻目にゲンナリとしながら歩いていると目の前に杖を使いながら歩いているベレー帽を被った銀髪の女子生徒がいた。すると、つまづいたのか風でやられたか何かは分からないが女子生徒の体勢がよろめく。

俺は少し歩みを速めその女子生徒を支えた。

 

「大丈夫か?」

 

「おや、ありがとうございます。少しつまづいただけですので大丈夫ですよ」

 

「そうか、それならなにより」

 

「お優しいのですね」

 

と、少しだけ微笑みながらその女子生徒は言った。

ふむ、かなりの美少女である。これまでさぞかし人気があったであろう雰囲気も見える。

 

「俺が優しいとか勘弁してくれ、もしかしたら打算で手を貸した可能性もあるんだぜ?」

 

「おや、ふふふ。それを自分から言うのはそのような事が無いという証明ではないですか?」

 

流れで横に並び歩きながら話している。杖をついているせいか、少しゆっくりとした歩速ではあるが別に苦でもなければ気になる速度でもない。

 

「さあ?そう思わせてからの裏をかくなんてパターンもあると思うが」

 

それを聞いた女子生徒はまた優雅に笑った。

 

「ふふ、随分と自分を低く下劣に見せたいのですね。珍しいです」

 

「そういう性格だから仕方ないのと、お前がそういうのに絡まれそうな程美少女ってのがあるがな」

 

「美少女ですか、褒め言葉として受け取って置きましょう」

 

「褒め言葉だからな」

 

「それでは、褒め言葉を貰った相手を知るためにお名前をお聞きしても?」

 

「烏丸鈴桜だ。褒め言葉を渡した相手の名前を知りたいが?」

 

「坂柳有栖です。烏丸君」

 

「坂柳か、お前も新入生だよな?」

 

「はい、と言ってもここは全寮制ですから校門からここまで歩くのは新入生しかいませんよ」

 

「それもそうだな。だが、もしかしたら在校生が新入生を見るためにわざわざ校門まで来ていてこれから学校へ行くような物好きもいるかもしれないぞ」

 

「ふふふ、本当に言葉の裏をかくのがお好きな方ですね。面白いです」

 

「こういう性格だからな。相手をするのは面倒だろ」

 

「いいえ、私は楽しいです。烏丸君とのお話はまた違った見方が出来るので」

 

「相当物好きだな」

 

「ええ、そうかもしれません」

 

ここまで話してみて分かったのは坂柳有栖というのは物好きである事と高い知性、観察力を持ったものだと感じた。

実際、俺と話すと大抵は途中で無理矢理切り上げると言った事が大半、残りが話には付き合うが途中と終わりには不快そうな表情をされる。まあ、慣れてはいるがな。

 

そうして坂柳と2人並んで歩いているとクラス表の所まで来た。その間に周りから色々と声が聞こえたがもちろん全てスルーだ。

 

「…ん、あそこか」

 

なぜが自分の名前より先に坂柳の名前が目に付いたがその近くに俺の名前もあった。つまり同じクラスである。

 

「同じクラスですね烏丸君」

 

「みたいだな、なら少なくとも1年よろしくと言ったところか」

 

「そうですね、よろしくお願いします」

 

そう言って2人でまた並んで教室へと向かう。

 

「疾患持ちで階段は大丈夫か?」

 

「問題ありませんよ。

しかし、驚きました。わざわざ病名すら言ってくるとは、それほどまで自信がおありですか?」

 

そう坂柳はクスリと笑いながら言った。

 

「別に、そんな事はない。何となくだ。

杖を使ってるにしては歩き方に違和感は無かったから怪我とか不随では無い事だけが確かだった」

 

「なるほど、ですが私としても心配事がございますよ」

 

「なんだ?」

 

そう聞き返した俺を横に並ぶ坂柳は俺に目を向ける。いや、正確には俺の隠れている『右目を』。

 

「烏丸君のその右目です。顔立ちや髪などから烏丸君は純粋な日本人。なので恐らくほとんどが黒色の左目が本来の烏丸君の目。

それに対して右目が黄色か金色に近い、義眼、いえ移植ですね。わざわざカラーコンタクト等で隠さず前髪で隠しているのは相当思い入れがあるのですね」

 

そう言った坂柳の目は俺を試す、いや見定めているもしくは品定めをしているような感じがする。

確信する。こいつは今まで出会った奴らとは違う。明らかに生きている世界というか、見ている世界が違う。敵意にも近いが、これはどちらかと言うと好意、楽しんでいるような風にも捉えられる。

 

自らにも匹敵しうる何かを坂柳は感じ取ったのか、しかし俺は別段そんなものには興味も関心もあまりない。

確かに普通にするよりは面白いだろう程度だ。だが、何となくこいつからは逃れられそうにないとも思ってしまう。

 

「はぁ…別に大した思い入れなんてねぇよ。コンタクトはいちいち入れたり外したりするのが面倒なのとそんなのに金かけんのが馬鹿らしいだけだ。

髪で隠してんのもあんま見られて目立つのが嫌なだけだ。と言うよりもよく見てたな外にいる時にでも見たか?」

 

「ええ、烏丸君に支えられるときに風で少し靡きましたから」

 

「随分と目敏いな」

 

「お互い様です」

 

「そうだな。

ここか?」

 

話しながら歩いていると"Aクラス"の教室の前まで来た。扉を開けると中には恐らくほとんどのクラスメイトがいる状態だった。

扉が開いたことによりこちらの方に注目が集まる。

 

「そのようですね。では入りましょうか。これからよろしくお願いします烏丸君」

 

「こちらこそよろしく坂柳」

 

そう言葉を交わしてから2人で教室へと入って行った。

 

座席はボードに張り出されていた。ふむ、どうやら窓際の最後列。恐らく学生が1番望む席だろうな、その例に漏れず俺自身も最高だと思う。

そして、その隣の席は坂柳だった。これはあれか、何か運命的なものでも背負わされているのか?と感じるほど今日1日どころか数十分の出来事のうちに坂柳との関係が多すぎる。

 

「どうやら隣同士らしいな」

 

と、隣にいる坂柳に俺は話しかけた。

 

「ええ、そのようです。しかし、通学から接点のある人物とここまで関係が深くなるとは、偶然にしては出来すぎていますね」

 

と、それに応じて微笑みながら返す坂柳。

俺はそれにそうだなと返しながら2人で席へと向かった。

席に座って思った。なるほど、この席が人気になる理由を改めて実感するな。前や斜めの席の生徒によっては教師からの視線に入りずらく、窓から入る日光によって心地の良い暖かさを感じればすぐにでも睡眠へと移行できるだろう。

 

「気持ちよさそうですね。烏丸君。そんなにその席になれて嬉しいですか?」

 

…僅かに口角が上がってしまっていたか。やれやれ、どうやら俺は自分が思っている以上には顔を出ているようだ。

 

「中々に心地良いぞ。今すぐに眠ってしまいたくなる程度にはな」

 

「ふふっ、まるで幼い子供のようですね。烏丸君にも可愛らしい一面もあったのですね。意外です。ですが、先生が来るまでそこまで時間も無いでしょうし我慢しなくてはですね」

 

「確かにその通りだな」

 

その後も他愛のない会話や遠目から見ている奴らの声や視線をスルーしながら担任の先生が来るまで待っていた。

そうすると、ガタイの良い男性教諭が入ってくる。

 

「はじめまして、Aクラスの諸君。私がこのクラスの担任となった真嶋智也だ。担当教科は現代文だ。この学校では、クラス替えは存在しないので、君たちとは3年間の付き合いになる」

 

…クラス替えがない…か。

 

「それではこれから、入学案内の時に配ったこの学校についての資料と学生証カードを配布する。

学生証カードについてだが、クレジットカードのように施設の利用や商品の購入などに使用できる。そのために自らのポイントを消費する。この学校においてポイントはお金だと思ってくれて構わない。学校内や敷地内にあるものはなんでもポイントで購入可能だ。使い方は機械にこのカードを通すか、提示する。簡単だから迷う事はほとんどないだろう。

そして、ポイントは毎月1日に自動的に振り込まれる。君たち全員、平等に10万ポイントが支給されているはずだ。なお、気づいていると思うが1ポイントにつき1円と同価値だ」

 

その真嶋先生の言葉にクラス中が軽くどよめいた。それもそうだろう。1人に10万円、このクラスだけでも400万円、学年だと1600万円。それだけの大金だ。それだけの大金が入学してすぐの学生に配られた。その事実に流石に驚くだろう。

 

「大金を与えられて驚いただろう。これは我々から君たちへの入学祝いだと思って受け取ってくれ。ちなみに言っておくがこのポイントは卒業と同時に回収され、ポイントが卒業後の資金になることはないので貯めるのは損だぞ。

これで私からの説明は以上だ。質問を受け付けるが?」

 

真嶋先生がそう言うが、流石に今は振り込まれた大金に驚きまともに思考が回ってないのだろう。誰も質問しなかった。

 

「質問はないようだな。この後1時間弱後に入学式が行われる。それまでは自由時間だ。これから3年間過ごすクラスメイト達と親睦を深めるために互いの事を知っておくのも良いだろう」

 

そう言って真嶋先生は教室を出た。それからすぐ坂柳が立ち上がった。

 

「真嶋先生の言ったように、これから3年間私たちは同じクラスのままとなります。少しでもお互いの事を知って親睦を深めるためにもこれから自己紹介をこの時間でするのはどうでしょう」

 

坂柳のその提案にあちこちから賛同の声が上がる。なるほど、大したカリスマ性だ。こういう事を率先してすぐに行動に移せる。そういった点から見ても坂柳は良い指導者になるだろうな。

 

「それでは私からいきましょう。私は坂柳有栖です。生まれつき疾患持ちで、日常生活に杖は欠かせないような体で皆さんにはご迷惑をおかけすると思いますが、仲良くしてくださると嬉しいです。3年間よろしくお願いします」

 

当たり障りの無い自己紹介が終わると拍手が起こり、あちこちから歓声すらも上がる。それが収まると坂柳は俺の方を向く、それに釣られるようにほかのクラスメイトも俺の方を向く。次は俺の番なのだろう。それに応えるように俺は立ち上がる。

 

「俺は烏丸鈴桜だ。ある事情で右目を隠している髪型になっているが気にしないでくれると助かる。社会科目が得意だが勉強に関してはそこまで誇れるものでもない。まあ、なんだ、これからよろしく頼む」

 

終わると拍手とまた歓声が起こる。それに俺はため息をつきながら座る。

 

「人気ですね。烏丸君」

 

「お前もな」

 

それから自己紹介は滞りなく進み、入学式へ。

 

「階段、下りも平気か?」

 

体育館への移動中流れでまた坂柳と並んで歩いていた俺は話しかけた。

 

「ええ、問題ありませんよ。慣れてますから」

 

「そうか、辛いなら言えば手伝うくらいはするぞ」

 

「あら、本当に烏丸君は優しいですね」

 

「…はぁ、もうそういうことでいい」

 

2人で並び、ゆっくりとした足取りで体育館へと向かい、入学式を受けた。

 

その後の日程も滞りなく終わり、放課後となる。よって各々がそれぞれ好きに行動している。

 

「烏丸君」

 

そんな中で俺は坂柳に呼び止められた。

 

「なんだ?」

 

「少し、お時間よろしいでしょうか?お話したいことがありますので」

 

「…それは、この場で話せる事か?それとも、別の場所の方が良いか?」

 

「そうですね…出来ることなら場所を移した方がよろしいかと。この後何かご予定が?」

 

「まあ、強いて言うのなら推理の答え合わせと言ったところか」

 

「…ふふ、なるほど。ではその後なら構わないでしょうか?恐らく、同じ内容ですので」

 

「……」

 

なるほど、案の定坂柳も気づいたか。要件としては、俺が今からするのと同じ答え合わせだろう。大方、先生の話に感じ取った部分があった時、俺の様子も確認したんだろう。

それで、俺も何かに勘づいたと感じ取った。時折横からの視線を感じてた訳だしな。

 

「わかった。じゃあ、先に適当な場所でも見つけて待っていてくれ。カフェとかあるだろうしな。それで、着いたら俺に場所を連絡してくれれば終わり次第向かおう」

 

そう言って俺は携帯を取り出す。察したように坂柳も取り出してお互いの連絡先を交換する。

 

「じゃ、また後でな」

 

「えぇ、また後ほど」

 

俺は坂柳と別れた後、職員室へ向かった。職員室側から来る生徒はほとんどいなかった。

まあ、当たり前だろうな。

 

職員室の扉を叩いた後に、近くの先生に許可を取り入室し、真嶋先生の元へ行く。

 

「真嶋先生。今よろしいですか?」

 

真嶋先生は手を止め、俺の方を向いた。

 

「烏丸か。問題ないが、どうした?」

 

「予定では、2つ。回答次第では幾つか増えますが質問をと思いまして」

 

「回りくどい言い方だが、まあ、いいだろう。答えられるものなら答える」

 

言質は取った。

 

「それでは、質問を。真嶋先生は、説明の時『毎月1日にポイントが支払われる』と言いましたが、そのポイントは10万ポイントですか?」

 

「…ほう、なるほど。いい質問だが、それについて答えることは出来ない」

 

これで、確信は得た。

 

「わかりました。では、次に移ります。クラス分けについてですが、クラスによって優劣が付けられていますか?」

 

「…残念ながら、先程と同じく答えることは出来ない」

 

…ふっ。

 

「お忙しい中ありがとうございました。色々と知ることが出来ました」

 

「いや、生徒のために時間を割くのが教師の務めだ。答えられず悪いな」

 

「いえ、問題なく。先生にも立場と仕事がありますから仕方ありません」

 

「そうか、帰り道気をつけて帰るように。明日からは本格的に授業も始まるからな」

 

「はい。それでは、失礼します」

 

礼儀正しく職員室を出た。自然と笑みが零れる感覚がした。実際に笑っているのかかは自分自身でも判断つかないが、内心は嬉嬉として愉しんでいる。

 

さて、と携帯を確認したが、まだ坂柳は着いていないのか、連絡は来ていない。カフェに行くことは確定しているため、それがありそうな方向へ歩いていけばそのうち来るだろうと思いながら学校を出た。

 




もう1話だけ上げます。

一応導入だけ書いて様子見るので、出来れば感想お待ちしてます。

特に、前に書いた方と今回どちらが良いとかありましたら是非。


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第2話 会話・問答・舌戦

この子、意外とハイスペックなのよ?


俺は1件の店に入る。後々考えて見れば、カフェという選択肢を言っただけで、確定はしていなかった事に気づいた。

まあ、その後に坂柳から連絡があり、結局カフェだったので、問題ないが…

 

店員に待ち人がいる事と名前を言うと案内してくれた。テーブル席にいた坂柳、そのまま店員にお礼と注文をし、俺は坂柳の向かい側に座った。

 

「待たせた」

 

その言葉に坂柳はニコリ微笑み

 

「いえ、連絡を入れた時ですので思ったよりは。むしろ、烏丸君がここまで早く着くとは思ってませんでした。先生への答え合わせが早く終わったという事でしょうか。それとも、私がこの付近に行く事を読んだのでしょうか」

 

「まあ、そうだな。答えは両方と言いたいが、後者については半分だな。勝手な先入観故にこちらを目指した。

…坂柳は、それを見越してカフェを選んだんじゃないか?」

 

その言葉に坂柳、ふふっと笑った。

 

「それはどうでしょう?烏丸君は私を過大評価しているのでは?」

 

「いいや、少なくともあの説明に疑問を持った点で既に、俺の中で坂柳はクラス内において頭の切れる奴であり、上位の存在である事は確かだ。その様な奴ならそれを考えられると見越しての発言だ。

それに、確信は無い。否定するのであれば、それはそれで俺の推理は外れていた事になる。ただ、それだけだ。俺は名探偵でも何でもないからな、外れたからと言ってどうということは無い」

 

「おや、最初部分は自己紹介でしょうか?」

 

坂柳は楽しそうに言っていた。人の事は言えないが、随分と言葉遊びが好きなようだ。

 

「はぁ…まあ、そう捉えられてもおかしくは無いな。別にそれに関しては否定はしない。

それで、そろそろ本題に移るが…その前に、そろそろ俺の品定めと収集は終わったか?」

 

「おや?何のことでしょうか?」

 

「視線、動かしまくっているからな。言葉や仕草を判別しての品定め。それに伴い、どの言動、感情でどういった言葉を放つか、仕草を取るかを見つける収集。

コールドリーディング…高校生になりたてで出来る芸当じゃねぇよ。これで俺の推理は多少傾いたぞ」

 

坂柳は笑みを崩さないまま俺を見ていた。真っ直ぐに俺の眼を、表情を、逸らさずに。

先程までの雰囲気が変わるのを肌で感じる。表情を変えぬまま威圧感を上げるとは、それを行うのも相当だと単純に思う。

 

そして、絵面がヤバい。悪い方…悪い方だろうか?傍から見れば笑顔を美少女が男を見つめ、男はそれに表情を変えずに見つめ返す。

 

…どう写っているだろうか?少なくとも、良い雰囲気に見える可能性が無いとは言えない。この威圧を感じ取らなければの話だが。

 

「…出逢って数時間、話をした累計の時間では1時間にも満たない相手にここまで…貴方の眼はどこまで見えているのでしょう」

 

「目の前」

 

注文したコーヒーが到着し、一口含む前に放ったその言葉に数秒ぽかんとする坂柳。しかし、すぐにその表情は戻る。

 

「…ふふふ、なるほど、確かにそうですね。ええ、確かに烏丸君の眼は目の前を見ていますね」

 

「当たり前だな。俺は草食動物じゃないから、横とか向いてない」

 

「ふふふ、貴方はやはり面白い方です」

 

「その様な評価をお前から得られたのなら嬉しい限りだ」

 

「その割には表情があまり動いておりませんよ?流石に私もずっと無表情なままでは悲しくなってしまいます」

 

「そうは言っても、そういう性分でな」

 

実際、意識してないなら俺は表情を変えない。まあ、分かっているさ。無愛想で人好きはされない。

顔が良いのは多少なりとも自覚はしているが、負の要素もある事は理解していただきたい。

 

「では、そろそろ本題に入りましょう。

推理の答え合わせを」

 

雑談が過ぎたな。閑話休題と言ったところか。

 

「まあ、そうだな。

結果から言うとなれば、概ね正解だったと言えるだろうな」

 

「なるほど。では、そう結論した根拠となるに至った質問の答えは?」

 

「俺は、毎月支払われるポイントは10万ポイントかと質問した。その答えが答えられないだった。その前にいい質問だと言っていたがな」

 

坂柳は顎に手をやるとすぐに笑みを浮かべ、口を開く。

 

「つまり、定額ならばその質問に答える事が出来る。ですが、それに答えなかった。その時点ならまだ、濁しただけとも捉えられますがその前のいい質問との言葉で、用意していたと思ったわけですね」

 

「これだけでそこまで考えられるなら流石の一言だ。その通りだ。

だから俺は、何らかの要素で月に支払われるポイントが増減するのではと判断した。その何らかが」

 

「学校の各所にある監視カメラですね」

 

俺の言葉を遮るように言葉を放った坂柳。その言葉に俺は小さく頷いた。

 

「ああ、だと思う。

恐らくは授業態度等を厳正にチェックすると判断する」

 

「私も同意見です。それが、必要か不要かは明日の授業等で判断できますし」

 

「そうだな」

 

俺は残ったコーヒーを飲み干した。

 

「答え合わせはこんなものだ。それで、他に何かあるか?」

 

坂柳も俺同様コップの中身を飲み干して答える。

 

「では、私は今後クラス内を掌握するつもりです。そのために既に少しだけですが、お話も進んでおります」

 

「そうか」

 

「はい。

そこで、ご質問です。烏丸君は如何致します?」

 

坂柳は顔を前で両手を組み、肘をついた。

ちょうどとある有名アニメでそんなワンシーンがあったな。

 

「何が言いたい?」

 

「ふふ、分かっているのでしょう?

私が聞きたいのは、烏丸君はそのクラス掌握戦に参加するか、それを狙う者の下に着くか、中立でいるか。ですよ」

 

「…お前の中では俺がその掌握戦に参加する可能性があると。

なら、何故わざわざ俺にそれを言う?自ら俺の敵になると公言しているようなものだが?」

 

「簡単ですよ。烏丸君にその気が無いから言ったのです」

 

「随分と断言したな」

 

「ええ、そう判断した要因は幾つかありますが、何よりも」

 

そう言って坂柳は端末の画面を見せた。そこには簡単な文章が書かれていた。

 

『○○中学校、生徒会長による暗躍か!!

学校の損失は!?』

 

とある地方誌の記事だった。

 

「これ、貴方の事ですよね?烏丸鈴桜君」

 

「……」

 

俺は無言で坂柳を見ていた。それに微笑みを絶やさない坂柳。

 

「私も最初は半信半疑でした。ですが、最近の社会情報というのはすぐに出てくるものです」

 

「ネットの情報を簡単に鵜呑みにするというのは」

 

「もちろんこれがデマなのは承知しておりますよ」

 

また、坂柳は被せ気味で答えた。

 

「そのすぐ後にこの地方紙でこの件について真犯人が出たことは承知しております。

それに、その様な事件を、しかも学校側に損しかない事件を学校側が受け入れるとも思いませんし」

 

「…それがどうした?それに、それが誤認なら尚更確証には至らないと思うが?」

 

「いいえ、貴方は既にその様な目立ち、人を引っ張るような立場の役職には懲り懲りなのでは?」

 

「分からないぞ?俺がその様な事に屈せずむしろ、躍起になり熱く人を引っ張るかも」

 

「その様な思想をお持ちの人がクラスメイトにすら愛想無く無表情だと?」

 

「……そうだな」

 

ぐうの音も出ない。

 

「これらの事も踏まえ、貴方が掌握戦に出場しないと思いました」

 

「まあ、事実そんなものに興味無いしどうでもいい」

 

「そういうと思いました。なので、私からのお誘いです。

私の下に…いえ、私と共に戦って下さいませんか?」

 

俺は坂柳に向けていた視線を1度外し、天井を見た。

数秒後また坂柳に向けて答えた。

 

「さっきの俺の言葉を聞いていなかったか?俺は興味無いと言った」

 

「ええ、聞いておりました。それでも尚です。貴方のその知性と機転、判断力は目を見張るものがあります。貴方のような方が共にいるのならば大抵の事は目ではありません。

それに、目立とうとせずとも貴方は自然と人を惹きつける容貌をしておりますから」

 

その言葉に少しジト目で見た。

 

「それは自己紹介か?」

 

「ふふふ、否定はしません」

 

「あっそう」

 

「お考えは変わりませんか?」

 

「変わらないな。やらぬとも良いものはやらない主義に変わったんだ」

 

「…では、譲歩致しましょう。烏丸君は考えが変わるまでは中立を貫く。変わった時は私でも、後に出るかもしれない別の掌握戦の出場者に付く」

 

「そうだな。それについては俺の自由だしな。だが、お前はそれでいいのか?坂柳。

自分で言っていたが、お前が能力を高く評価している俺と敵対する事になるが」

 

挑発とも取れる俺の言葉に坂柳はふふ、と微笑んだ。

 

「確かに烏丸君は味方に付ければとても心強い方だと思っております。それは、先程までの問答や会話で確証済みです。

ですがーー」

 

一呼吸おいて坂柳の微笑みは消えた。

 

「敵対したならそれはそれで楽しめますから」

 

強者の雰囲気とも言えるだろう。それを遺憾無く発揮する。

なるほど…これはこれは。

 

「…はぁ、これは、とんでもない奴とクラスメイトになっちまったもんだ」

 

「それはこちらも同意見ですよ」

 

坂柳はまた微笑み顔に戻っていた。

 

「分かった分かった。とりあえず俺は何もしないで傍観者でいよう。その気になるまでな」

 

「ええ、承知しました。

さて、そろそろ寮の方に向かいましょうか。色々とやるべきこともあるかもしれませんし」

 

「そうだな」

 

そう言って2人で立ち上がり会計を済ませた。ちなみに、奢ろうとしたら断られた。

 

カフェを出て、2人で向かっている時。

 

「そう言えばだが、ここら辺の学校ってのは同級生を苗字でしか呼ばないのか?」

 

「どういう事ですか?」

 

坂柳は少し小首を傾げながら聞いてくる。

 

「いや何、俺の地元の学校じゃあ、同級生何て下の名前で呼びあってたし」

 

「なるほど。ですが、特にそのような取り決めはございません。人の好き好きだと思いますよ」

 

「そうか、ならこれからは俺はお前を有栖と呼ぶが問題ないか?」

 

「ふふふ、ええ、構いませんよ。では、私も鈴桜君とお呼びしましょう」

 

「好きにしていいぞ。むしろ、そっちの方がしっくりくる」

 

そして、有栖に歩速を合わせているためゆっくりとした足取りで向かいながらも寮へと着いた。

男女共同、多少制限があるものの思春期の学生にこれは如何なものかとの疑問はあるが、まあ、どうでもよかった。

 

2人でエレベーターを乗る。女子の方が上階だった。

 

「そういえば、有栖」

 

「同級生に下の名前で呼ばれるのは慣れませんね…

何でしょうか?」

 

最初の方聞き取りずらかったが、難聴系ではないので聞こえていたが、気にしなかった。

 

「支払われるポイントの増減について、恐らく普通にしていれば問題ないと思う」

 

「突然どうしたのです?」

 

「俺は真嶋先生にもう1つ質問していたんだ」

 

その時に俺の部屋がある階に止まり、扉が開いた。

それで俺は出ようと歩みながら言葉を繋げた。

 

「クラスは優劣によって、属されている可能性が高い」

 

その言葉で有栖は少し目を見開いていた。

 

「また、明日な」

 

「…ふふふ、ええ、また明日。

やはり、鈴桜君と同じクラスになれて良かったです」

 

その言葉と共にエレベーターの扉は閉まった。

 

閉まった事を確認した後、振り返り部屋まで向かった。

 

部屋の前に着き、鍵を開けようとした時、右隣の扉が開いた。中から出てきたのは明るめな茶髪の男子だった。

いやまあ、男子の階だから男子しかいないだろうとは思うけど。

 

俺の髪型の性質上、首を大きく傾けないと見れないのがちょっと難点だな。

その男子生徒もこちらに気づいたのか、こっちを向いた。

 

「1年生か?」

 

「そうだけど」

 

「まあ、隣同士これからよろしく」

 

「あ、ああ、こちらこそ」

 

簡単な挨拶をした後に扉を開け俺は、部屋へと入っていった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

烏丸 鈴桜(からすま りおう)

5月18日生まれ、AB型

 

学力B+

知力A

判断力A

身体能力B

協調性C+

 

評価

学力や身体能力も平均よりもやや高め。そして、何よりも機転と咄嗟の判断力が優れており、面接時の質問に対しても自らの答えを明確に的確な答えを出せていました。やや、良くも悪くも人を惹きつける事に忌避感を覚えていますが、Aクラスに配属しても問題ない逸材です。




やや、乱暴な感じなのが否めませんが、何とかやってみました。

前話のあとがきでも書きましたが、前に書いていた話とどちらが良いとかありましたら是非。

好評だった場合は今後も暇みて書いてみたいと思います。


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第3話 束の間の休息という名のプール回

何となく筆が乗り書きました。

今回は前回の鈴桜君とは雰囲気が違うと思いますが、実際こんなものです。
シリアス時はシリアスしてくれますが、それ以外だと内心は割と面白おかしい感じです。
あと、心の声が煩いです。注意して下さい。

あ、あと今回坂柳さん極小です。


入学から数日経った朝の教室。今日も遅刻無しの優等生達。問題なし。

 

授業も本格化し、なかなかにまとまりがあり分かりやすい授業だし、教師陣も親しみやすい。流石は育成に力を入れている学校である。このクラスも真面目に授業を受けている。もちろんだが、俺もその内に入る。こう見えても真面目なのだ。

 

ただ、入学式の日から危惧していたポイントの増減に関わる要素は予想通りかもしれないと思う。

ほとんど無いに等しいが、授業中の私語がある場合でも教師陣は指摘しない。義務教育では無いからか。もしくは、多少なら目を瞑るのか。

 

否、だろうな。莫大なポイント、もとい金をかけていると考えるなら、そこは矯正すべき点だ。

ならば、『当たり前なのだから、そこは自ら考え、出来なければならない。出来ないなら評価を下げるべき』と考えるべきかもしれない。

そうなると、想像通りだろうな。

 

そして、それは隣の席の有栖も思い至っただろうな。授業中、その指摘すべきものを見つけた有栖は薄く笑っていたし。

 

さて、もう1つ危惧していた件がある。それが、クラス掌握戦。

宣言通り、有栖は動いており既に何人かのクラスメイトを手元に置いている。もう、流石の一言である。

だが、もちろんのこと簡単に有栖が手中に収められるほどこのクラスは1つ岩では無かった。それに台頭してきたのが、葛城康平。

ガタイのいい体格にスキンヘッド。特徴的な容姿をしている彼も、戸塚弥彦を始めとした取り巻き、もとい配下がいる。

 

他にもいるのかもしれないが、少なくとも俺の耳には入って来ていない。それに、いたとしてもこの2人には着いて来れないだろうな。

特に、有栖に食い潰されるだろう。どんまいである。

 

閑話休題

 

ここまで色々とあれこれ考えているが、流石に理由はある。

いや、まあ、大したことは無い。大したこと無さすぎて怒られるレベルの話だ。本当に、全くもって。

 

何?早くしろ?

 

…分かった。

 

理由としては……今日、水泳授業がある。

 

…………………

 

あー、うん。まあ、言いたい事は分かるさ。しょうもないって思うだろ?

でもな?知っての通り、俺の右目は少々特殊だ。ナチュラルオッドアイじゃないしな。目立つ。

多少込み入ったような事情はあるにはなる。

 

まあ、どうでもいいんだがな。説明するのが面倒なだけで、聞かれて困るものでもない。

 

視点を教室に移そう。

 

先程も述べた通り、今日は水泳授業がある。4月にも関わらずにこれを行うのは、流石だと言える。ただ、わざわざそうまでして行う事については、流石によく分からないな。

理由はあるんだろうけど。

 

そして、心做しか表には出さない様にしているのだろうが、男子達の何名かはソワソワしている雰囲気が見られる。

思春期の性何だろうな。

 

「鈴桜君は今日の水泳授業は出られますか?」

 

隣の席に座る有栖からの質問。

 

「まあ、特にこれと言って休む理由は俺には無いからな。有栖は休まざるを得ないもんな」

 

先天性疾患持ちの有栖は水泳のみならず、激しく体を動かす授業、主に体育は全てにおいて欠席。

当然という気持ちと少し、残念と思う気持ちも僅かにある。

 

「しかし、まあ、有栖の水着姿が見られないのは残念だな」

 

「ふふふ、そうですか?ですが、私の水着姿など見ても面白くもありませんよ?」

 

こいつは何を言っているんだ?

 

「何を言う?有栖のような美少女の水着姿は世の男は大抵見たいと思うぞ?もちろんだが、それに俺は含まれる」

 

「…っ!セ、セクハラですよ?」

 

「ごめんなさい」

 

照れなのか、いつもの余裕を持った微笑み顔を崩し、少し頬を赤らめ、軽いうつむき加減の有栖の言葉に俺は間髪入れずに謝罪した。

 

『か、烏丸が坂柳さんを口説いてる!!』

 

『烏丸もあんな事言うんだな…』

 

『いいなぁ、私も烏丸君にあんな風に言ってもらいたな…』

 

『お互い名前呼びだし、やっぱりあの2人って…』

 

俺がどう思われているか分かるな。

中学の頃からだが、元々からあまり表情に出さないタイプだし、そういう類いの話をしてこなかった結果。俺にはそんな感情ないので?とか、実は女よりも男の方が好きなのでは?など散々な言われようだったが。

 

まあ、俺も健全な思春期男子な訳で、そういう類いのものに興味はあるし、女の方が好きだ。

ただ単にそれらしい素振りと反応を見せなかっただけである。

 

まあ、つまり、俺が悪いなごめんなさい。

 

恙無く授業も進み、水泳授業。

早々に着替え終わり、プールサイドに出た。男子達が少し早く、その後少し遅れて女子達も合流。

 

普段制服姿しか見ないために、ほとんど肌を晒すことの少ない中でも貴重だと言えるだろう。その者の体格がよくわかる。

 

ある程度見れば何となくではあるが、身体能力は判別できるが、やはりと言うべきか、運動部員、もしくは元運動部はいい体付きをしている。

体育祭などのイベントがあれば活躍できそうだ。

 

「烏丸」

 

声をかけてきたのは、現実逃避中に考えていた有栖に対立する形で掌握戦に参加する、葛城だ。

身長が高いだけでは無く、体格も良い。筋肉量も悪くは無いと思う。

 

「葛城か、どうした?」

 

「いや何、烏丸は運動部には所属していないと聞いていたが、中々引き締まった体付きをしていると思ってな。

中学の頃は何か部活動をしていたのか?」

 

「いや、中学の頃は文化系の部活に入っていた。

だが、運動自体は嫌いでは無いからな。気分が乗れば、ランニングもするし、ジムにも行くこともあった」

 

「なるほどな」

 

「葛城こそ、体格は流石だと言えるだろうな。

恵まれた体付きをしていると思う」

 

「ありがとう。

丈夫な体に産んで貰った親には感謝せねばな」

 

ふむ、意外と言うべきか、流石と言うべきか。

葛城も掌握戦…いや、葛城はクラスのリーダー的ポジションを狙っている。そして、それに有栖が入っている事は知っている筈。

そして、その有栖と良く話している俺が、有栖側に付いている可能性は大いにある。にもかかわらず、親しみやすく、嫌悪感…とまではいかずともそれに近い感情を出さずに俺と会話をした。分け隔てなく、か。中々良い心掛けだろうな。

 

「ところで、1つ聞きたい」

 

葛城が再度質問したいようだ。

 

「何だ?」

 

「…何故、頑なに右目を隠す様な髪型をする?」

 

「…癖みたいなものだ」

 

「そうか…」

 

そんな話をしているうちに、先生が来る。

 

簡単に諸々の説明したが、やはりと言うべきか、気になる発言をしていた。

 

それは、水泳に苦手意識を持つ生徒に対し、『泳げるようになっておけば、必ず後で役に立つ。必ず、な』と。

 

確かに今後の人生の中で何が起こるかわからない。自然災害等で海又は川等に流される事も無いとは言いきれない。

だが、それはあくまで不確定要素だ。にもかかわらず、先生は必ずと言った。まるで、今後何がある事を示唆するように。

 

俺は、一抹の不安…いや、疑問を残しながら授業を開始。

特に問題なく進む授業。内容としても泳法についてや水の中での事等、普通の内容だ。確かに水泳に不安がある生徒にも分かりやすく、的確であった。

 

その後、全員50m泳ぎをする。やはり、運動部中でも水泳部員は頭1つ抜き出ている印象を持った。

 

そして、授業も終盤に差し掛かる前、先生から競争をするとの事。しかもボーナス付き。1位は5000プライベートポイントを貰えると。それによって、やる気を上げる生徒。

だが、現実は非情なもので、最下位には補習が待っている。それに対して俄然、やる気を出す。

 

当然だろうな。俺も嫌だ。

 

形式としては、予選を行い、タイムの速かった上位5名で決勝を行い、1位を決めるらしい。

女子からスタートだが、まあ、案の定水泳部員が1位。確かに他の者も良い泳ぎをしていたが、経験値等の差は大きいものであるだろう。

 

「ようよう、烏丸。随分とまあ、真剣じゃないの、眼差しが」

 

俺の肩に腕をかけながら話しかけてきたのは橋本正義。金髪のオールバックという見た目通りと言うべきか、フランクで、男女関係なく話しかけるようなタイプだ。

一言で言うならチャラい。

 

「橋本」

 

「なんだなんだ?良い子でも見つけたか?でもお前は坂柳さんだろ?浮気か?」

 

ふむ、確かに俺と有栖は付き合っているのではないか?等と噂があるが、その実、そんな事はない。

 

「そういうものでは無いがな。単純に分析だ。誰が、どの程度の身体能力を持っているか、それを知っていれば今後の学校生活で役立つ可能性があるからな。

それと、俺と有栖はその様な仲ではないがな」

 

「ふーん…ま、今はまだって付きそうだけどな。つーか、こういう時にも表情変えないんだな。

まあいいか、とりあえず、これから俺らも泳がなきゃならないからな。お互い頑張ろうぜ!補習は嫌だしな」

 

と、にこやかに笑いながら橋本は準備に向かって行った。それにつられるように、俺も移動する。

 

さて、男子ももう開始する。俺自身水泳は苦手というか、忌避するものだ。

理由は様々あるが、1番はこの右目に原因があるだろう。

 

…何となく、もう面倒だから語るか。

 

この右目は、事故によって右目を損傷した事により移植して貰ったものだ。

本来なら義眼でも良かったが、提供元の強い希望で押し通った。まあ、視神経がやられてたせいで見えはしないのだがな。

 

それでも、行為については感謝している。可能性が低くとも行った事は勇気のなせる業だ。素直に凄いと思う。

 

さて、最後のグループである俺も出番になってくる。事故や手術による傷も完璧に塞がっている。水が付こうが問題ない。準備運動も問題ない。先程やった50mも最後までやり抜けた。体に不調はない。寒さで体が悴んでもない。

 

さあ、始めるぞ。目指すは1位。ポイントは多ければ多い程困る事は無い。

 

一斉にスタートした。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

結果、俺は予選タイム6位。

 

ふむ…だから言っただろう。苦手だと。

負けず嫌いの気はあるが、元々から苦手意識を持つもの、出来ないものについてはそれは起きない。

 

泳ぎ終えた俺は、水気で張り付く髪をかき揚げながらプールサイドへ戻る。右目はもう、気にしない。その行為によって多少黄色い声が聞こえたようだが、これも気にしない。

そこに、先生がいた。

 

「惜しかったな烏丸!だが、運動部で占めていた上位にくい込むのは凄いぞ!後は経験だな!水泳部にどうだ?」

 

勧誘だった。

 

「お誘いありがとうございます。選択肢の1つとして考えておきます。ただ、右目の事もあるので可能性は低くなってしまうことを先に申しておきます」

 

「そうか、確かにそれは言えているな。それなら無理に水泳の授業を受けずとも良いぞ?無理して受けて取り返しのつかない事になって困るのはお前自身だ」

 

この学校の先生は良い先生が多いようだ。嬉しく思う。

 

「いえ、そこまでのものでもありません。完治しておりますし、ただの念の為です。長い時間水中にいる事はして来なかったので」

 

「そうか、無理はするなよ!」

 

「はい」

 

そして、その後の展開はお察しの通り水泳部が1位を取り終了となった。




キャラ崩壊と言われても文句の言えない仕上がりでした。

ただ、まあ、今後多くの話が出た後にこんな時もあったな。と思っていただけたら嬉しいですね。

さて、割と今回も自己解釈が多いような感じだったのでご指摘ありました遠慮なく。
あと、感想はいつでもお待ちしております。励みになるので。


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第4話 探索と含羞と牽制と悲哀

筆ってふとした時に乗るものですよね。

書き始めたら止まらない感覚がすごくて書いちゃいました。

今回は色々な鈴桜君が見られると思います。ただ、先に言っておくと、鈴桜君のほとんどの言葉はほぼ無表情で語られています。


時は有限であり、流れは必然である。戻る事は無く、早くなる事は物理的にはない。

そんな日々思う今日この頃。既に入学してからあと数日で1ヶ月。時の流れが早く感じる。それほどまでに充実していると感じるのなら幸せだろう。

 

大抵の生徒が授業を嫌うが、俺はそこまでだ。知識が増えるというのは好きだ。

 

「鈴桜君」

 

「どうした?有栖」

 

隣の席の有栖から声をかけられる。俺はそこまで友達が少ない訳でも無い。他クラスにもいるしな。

だが、有栖と話す事は断トツでトップだ。挨拶を抜かしても毎日最低でも5、6回は話す程だからな。隣の席と言うのもあるだろうが、決め手は入学初日のあれからだろうな。

 

「もうすぐ5月になりますね」

 

「そうだな。早いものだ」

 

「そろそろ"本当"の答え合わせが出来ますね」

 

「あぁ、ただ、2人とも同回答なら賭けも出来ないな」

 

「ふふ、そうですね。ですが、それならそれで問題ありません。今後、別で機会があるでしょうし」

 

不敵に微笑む有栖に俺はそうだなと感情の起伏がほぼ無く答える。

 

今日も刻々と問題なく進み、5時間目。

 

昼食も終わり、眠気を誘う暖かな陽射しを受ける。このまま眠ってしまうのは簡単だが、生憎とそれは許されないな。

ちなみに、5時間目の科目は現代文。担任の真嶋先生の受け持つ授業だ。

 

「席に着けー、日直、号令だ」

 

チャイムと共に入ってくる真嶋先生。

その言葉に従うように号令が掛かり、それに従う。

 

「突然だが、今日は授業内容を変更して抜き打ちテストを行う」

 

その真嶋先生の言葉に大きく騒ぎ立てる事は無いが、困惑の表情を見せるクラスメイト達。

 

「不安に思うだろうが、安心しろ。このテストは今後の参考用であり、成績には反映しない。だが、カンニングが厳禁なのは普通のテストと変わらないぞ」

 

そう言って、テスト用紙が配られる。

 

ふむ、成績に"は"反映しないか。暗にそれ以外になら反映すると言われている様な気もするが、あまり関係無いな。俺は自分の力を出すだけだしな。

 

などと意気込んでみれば、内容は高校1年生にしては簡単過ぎると言っても過言ではない。確かに俺は理数科目は苦手分野だが、このレベルならば問題無く解ける。

 

主要5科目、全20問による、100点満点のテスト。

楽々と手が進む。だが、18問目は違った。それまでの問題とは一線を画す難易度の問題。先を見てみると、残りの2問も同様に難易度の高い問題だ。恐らく、高校1年生までには習うことの無い問題。

 

さて、そんな難易度、しかも最後の20問目は数学。俺が取る行動は?

 

答。理数は諦める。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「中々、面白いテストでしたね」

 

「そう言えるのは恐らくお前くらいだよ。有栖」

 

「鈴桜君はどうでした?終盤の3問は」

 

「生憎と、俺は理数科目が苦手でな。特に最後の20問目は、恐らくは無理だ。解いては見たものの、後半自分でも訳の分からない事になっていた」

 

実際そうだった。最後の問題については残り時間の暇つぶし気分だった。結果、頭がショートするかと思った。

 

「そういう有栖はどうだったんだ?」

 

「確かに難易度の高い問題でした。ですが、多少の問題はありますでしょうが、解くことは可能でした」

 

「流石だ」

 

学力に関して、こいつの右に出るものはいないなと思う瞬間だった。

 

それから、すぐに6時間目が始まり、今日も1日の学校生活が終わりを迎えた。その時に、葛城に声をかけられた。

 

「烏丸。少し良いか?」

 

「…あぁ、問題ない」

 

そう答えて、2人で教室を出る。

教室から離れ、人通りの少ない廊下の隅。

 

「それで、俺を呼び出して何の用だ?」

 

「今まであまり触れないようにしていたのだが、お前は坂柳の下に付いているのか?」

 

ふむ、いずれは来るだろうと思っていた質問。

 

「なるほど、クラス内のリーダーになり得る可能性が残っているのは今やお前と有栖の2強。そして、俺は良く有栖と話をする。故に今まではこの手の事に関して触れないようにしてきた。俺が有栖の下に付いている可能性が高い。

だが、真実を知らぬまま答えを出す訳にもいかない。故に聞いた。と言ったところか」

 

「…その通りだ。坂柳と話している内容が聞こえる事があるが、お前は何手も先を読んでいる。今のもそうだ。そんなお前が、リーダーとして台頭しないのなら坂柳の下に付いていると思っている。

だが、お前が言った通り、決めつけて行動を起こさない事に大きなデメリットが生じる可能性を感じた」

 

「なるほど。では、質問に答えよう。答えは否。

俺は、誰の下にも付いていないし、リーダーとして台頭しようとも思わない。そして、今のところ誰の下にも付く気は無い」

 

「…理由を聞こう」

 

「簡単だ。興味が無い。

誰がリーダーになろうと、俺は気にしない。今のところは」

 

前にも有栖に言った言葉に似たような事を葛城にも言った。

それに対して、葛城は少し表情を暗くした。

 

「そうか…時間を取らせた」

 

「気にするな」

 

そう言って2人で教室に戻る。既に教室内にいる生徒は疎らであり、有栖の姿も無い。

 

特に用事のない俺はそのまま鞄を持ちすぐに教室を出た。

他のクラスも帰り際。幾人かの生徒とすれ違ったり、同じ方向に向かう生徒のいる中、俺は、見知った顔を見つけた。その人物も俺に気付いたようで手を振りながらこちらに向かって来る。俺もそれに対して、軽く手を上げる。

 

「こんにちは、烏丸君!」

 

「あぁ、こんにちは一ノ瀬」

 

1年Bクラス一之瀬帆波。有栖とはまた違った系統の美少女で、持ち前の明るさとコミュニケーション能力を持って、Bクラスをまとめている。

しかも、それに対して全く不満が無いのが凄いところだろう。

 

「今から帰り?」

 

「あぁ」

 

「そうなんだ!あれ?そういえば坂柳さんは?」

 

俺の横や後ろを見ながら聞いてくる一ノ瀬。

 

「残念ながら有栖はいない」

 

「え?そうなんだ。てっきり一緒に帰ってるのかと思ってたよ」

 

「そんなことは無いぞ。普通に別で帰ることも多い。一緒に帰るのは偶にだ。

最近だと、神室と一緒にいるようだしな」

 

「へ〜、なんと言うか、ほら。烏丸君と坂柳さんは噂があるし」

 

そこで付き合っているのではと明言しないのが、一ノ瀬が一ノ瀬たる所以だと思う。

 

「別にそんな事は無い。クラス内でも良く言われるが、席が隣同士で話が合うだけだ」

 

まあ、それ以外の部分もあるが、特に話すことでも無い。

 

「へ、へ〜、でも私は2人はお似合いだと思うよ?ほら、坂柳さんは可愛いし、烏丸君はかっこいいし!」

 

「確かに有栖が美少女である事に異論はない。それに、俺も自分の容姿が良い事に関しても、嫌でも自覚している。

あ、別にナルシスト的な感覚は持ち合わせていないぞ」

 

「う、うん!それは分かってるから安心して!」

 

「そうか、それに、それを言うならば一ノ瀬もかなりの美少女だと俺は思うぞ」

 

その言葉に一ノ瀬は少し頬を赤くした。

 

「ふ、ふぇっ!?いきなり何を言うの?!

そ、それに!私は全然そんな事ないよ!?」

 

かなり動揺している。声量も大きくなり、人目を集めてきた。

 

「ふむ、事実だとは思うのだが、まあ、それについては本人によるものだ。

さて、そろそろ視線が痛くなってきた。俺は帰ろう。またな」

 

「ふぇ?あ、うん。ま、またね。烏丸君」

 

俺は逃げるようにその場を去った。

…ふむ、言われ慣れていないのか、自己評価が低いのか…一ノ瀬の場合は両方だろうな。確かに、面と向かってその様な言葉を言えるのは通常の思春期男子には難しいか。

 

軽く早足で昇降口へ向かっていると、また知っている顔を見つける。

 

「くく、人気者だなぁ、烏丸」

 

「龍園か」

 

1年Cクラス龍園翔。Cクラスを力で纏めあげた"王"。独裁的で、クラスメイトを駒扱いする。その実力は本物なのだろう。それに対して、恐らく異議を唱える者もクラス内にはいただろう。だが、龍園は未だに王として君臨している。

 

「お前の話は聞いてるぜ?うちのクラスにもお前に夢中な奴もいるからな」

 

「そうか、俺もお前の話は聞いている。恐怖政治のような統治の仕方だとか」

 

「くくく、あぁ、そうすりゃ、簡単に動いてくれるからなぁ」

 

「確かに、それについて異論はない。効率としてはその方がクラスを纏め易く、異論なく事を進めることが出来るだろうからな」

 

「へぇ、何だよ。ただの優等生かと思ったら中々面白そうじゃねぇか」

 

「…気に入って貰えたのなら光栄だが、その統治法については最適かと聞かれれば否と答える」

 

「…へぇ」

 

「王が独裁で統治しているなら、その王を崩せばなし崩しで他も崩れる」

 

「はっ、ならやってみな。ただ、簡単に俺は死なねぇぞ?

むしろ、てめぇのそのクソも動かねぇ表情を恐怖に染めて殺してやる」

 

「そうか」

 

俺は、龍園の隣を抜け、学校を出た。

 

ふむ、全く。大した男だ。有栖もそうだが、高校1年生が出せる雰囲気ではない。

それに、力で物を言わせるようなタイプに見え、それだけでは無い。巧妙に色々と策を練り上げてから力を行使するタイプだ。正直、葛城や一ノ瀬よりもこういうものについては上手だろうな。

 

学校を出たところでまた見知った顔を見つけた。

どうやら今日は色々な者と出会う日なのだろう。

 

「烏丸君!」

 

「平田」

 

1年Dクラス平田洋介。女子からの人気が高く、サッカー部に所属で身体能力も高い。リーダーシップを発揮しようとしたが、かなり個性的な生徒の多いDクラスはまとまらず、ほぼ、無法地帯の様だと言う。

 

「今から帰りかい?」

 

「あぁ、お前は部活か?」

 

その問い掛けに爽やかな笑顔で答える平田。

 

「そうだよ。烏丸君は部活には入らないの?」

 

「あぁ、他の事に時間を使うことがあってな」

 

「そっか、それなら仕方ないね」

 

「それよりも、幾度か聞いたが、Dクラスはかなりの回数、遅刻や欠席があるらしいな」

 

その問いに平田は少し困ったような笑顔で答える。

 

「うん…でも、先生達も何も言わないし、その人達も何れわかってくれるよ。僕は、そう信じてる」

 

「…そうか、まあ、大変だとは思うが頑張れ。応援しているぞ」

 

「ありがとう!それじゃあそろそろ僕は行くね。またね烏丸君!」

 

「あぁ、またな平田」

 

そう言ってグラウンドの方へ走っていく平田。

 

無法地帯のDクラス。悪いな、平田。俺にはそれは、どうする事も出来ない。それと、感謝する。ここまでわかりやすいと俺の推理も現実味を帯びてきた。

 

それも、答えがわかるまではあと数日。

 

さて、それによって、この学校はどう牙を剥くか。はたまた、生徒たちはどう生きていくか。

中々、楽しみなものだな。




いやぁ、うん。なんと言うか、2、3時間クオリティなので、大目に見てください。

ご指摘、感想はいつでもお待ちしております。

出来れば欲しいですね。

あ、そういえば、鈴桜君の見た目を細かく言っていませんでしたね。なので、下記に少し、簡単なプロフィールと共に書いておきますので、興味がある方は見てください。本来なら絵が描ければ描きたいのですが、私に絵心がないばっかりにすいません!

烏丸鈴桜(からすま りおう)
見た目:黒髪で前髪が右目を隠す様に伸びていて、後ろ髪は肩にかからない位の長さ。右目は作中でもある通り、移植していて金色に近い黄色をしていて、左目は黒色。ジト目とツリ目を合わせたような形をしている。作中でも表情をほとんど変えないと言っているが、ふとした時に軽く微笑む等全く変えない訳では無い。そして、イケメンである。イケメンである!(2回目)
身長:175cm
体重:68kg
生年月日:5月18日生まれ

他の事は何れ本編で。


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第5話 偽を持って義と為し、布石となる

いやぁ…久しぶりだなぁ…
なんかもう…ごめんなさい。出来るだけ今後は書くように頑張ります。



誰でも突然の出来事には、動揺や驚嘆の声をあげるなどアクションがある。

それに対するため、予測や対策を立てる必要がある。だが、それを行える者は恐らく少ない。

俺はきっと、その少数になり得るのかもしれないな。自惚れ無しににもそう思える。

 

何故、俺が今このような独白をしているかには流石に理由はある。それは、目の前に張り出されている紙に記されている文字や数字に起因している。

 

Aクラス940。Bクラス650。Cクラス490。Dクラス0。

 

今日振り込まれたポイントが9万4000ポイント。これで、確定したのはこの数字が振り込まれるポイントに関係していること。

それと、クラス毎の優劣についてだ。

 

「これはこの1ヶ月間で君達1年生の授業態度や成績をクラス毎に評価し、それをポイント化したものだ」

 

それを裏付けるように真嶋先生から告げられる。

 

「見てわかるとおり、この数字は各クラスの中で最高点であり、この高度育成高等学校の歴史の中でも偉業と言っても過言ではない」

 

しかし、俺の考察が確証されること自体は問題ないが、少々味気の無さとつまらなさがあるな。

 

その後は真嶋先生からこのポイントが毎月振り込まれるポイントに直結している説明をしている時。

 

「先生!毎月振り込まれるポイントは10万ポイントでは無いのですか?」

 

「む?何だ烏丸から話は聞いていないのか?」

 

唐突に話を振られる。それによってクラス中の視線が俺へと向けられる。心做しか真嶋先生の目が笑っているように感じた。チラリと視線を横にすると有栖も笑ってた。

 

「…先生に確認に向かいこの事について聞いたのは事実ですが、先生から得た回答は明確なものでは無いどころか無回答に近いもの。確かに自分自身の中では確証に近いものはありましたが、確定事項ではないため、クラスの不安と混乱を招く可能性を危惧した結果伝えない事が最善だと判断しました」

 

「だが、逆に伝えた結果もっと減点は防げたかもしれないぞ」

 

「それは結果論で、推測論です。それに、今後にとっては分かりませんが決して大きな減少には思えないため、最悪妥協点ではないでしょうか?」

 

「…ふっ、中々の反論意見だ。流石は初日でこの仕組みを理解しただけある」

 

その言葉におぉと、歓声が上がる。

 

やめて欲しい。

 

その後、先日行った抜き打ちテストの結果も張り出された。主に75点や80点が平均的であり、何人かが85点以上を出し有栖に至っては満点であった。

流石すぎる。

 

HRが終わり先生が出て行った後、俺の周りに人集りが出来ていた。

 

『烏丸君凄すぎ!?』

 

『烏丸は天才か?!』

 

『やべぇだろ?!マジやべぇ!!』

 

うん、まあ、やめて欲しい。そんなに持ち上げるな。大したことでは無い。それに有栖だって分かっていた。

 

などなど、どんな言葉を放てば良いのか。全てにおいて言い訳のような事になってしまう。

…ふむ、つまり、どうやら俺は少数派の人間では無かったようだ。自惚れであった。

 

「…むしろ、それに気づかなかったお前たちは驚く程に愚かだった」

 

故に、俺は偽を通す。

 

『……ぇ?』

 

集まっていた者、集まらずとも聞き耳を立てていたもの、立てていないもの、クラスの中にいた全員の耳に聞こえていたのだろう。クラスの時が停止したような沈黙の後声を漏らすものもいた。

 

だが、そのようなもので俺は止まらない。腕を組み、目を閉じながら言葉を放つ。

 

「愚かだと言った。そう、この仕組みに気づかず無為に60ポイント分の違反行為があった。少なくとも俺はその様な素行はしていない。つまり、俺以外の者がそれを侵した。

真嶋先生はこのクラスは優秀であると言っていた。この数値は偉業であると言った。果たしてそうか?確かに偉業なのかもしれない。だが、過去"最高得点"とは言わなかった。つまりは上がいる。

…いや、それ以前の問題であったな。そもそも、これは難解な問題ではない。一般常識であり、当然行わなければない事だ。それを当たり前に出来ずして優秀?笑わせるな」

 

クラス中の沈黙が続く。自らの素行を振り返っているのだろう。一体幾人の者が自分は問題ないと言えるのだろうな。

俺は偽とは言っているが、嘘を言っている訳では無い。悲しくも辛い現実を語っている。

 

「つまり、お前たちは先生に持て囃され天狗となった所である。そんな事を他のクラスが知った時、そんな隙を付かぬほど甘いとは俺は思えないな」

 

「す、隙って…なんでそんな事に何だよ…?」

 

「そのような事も分からぬか?この学校は実力主義である。先生はそう言った。ならば実力が伴わぬのであればそれは現時点での下位クラスに喰われるという事だ。

何故、そう言いきれるのか?という風だな。なぜならそれを容易く行うような存在を知っているのだから。この天狗となり慢心しきった状態なのであれば、少なくとも半年と経たぬ内には順位は変わっていような。まあ、それも中々に面白き事ではあるがな…」

 

「ね、ねぇ…烏丸君?じょ、冗談だよね?全部…そんな風に言う烏丸君じゃないよね?…」

 

そんな時窓から少しだけ風が吹き、俺の髪を靡く。そんな中で俺のアンナチュラルのオッドアイの双眸がそう発言した者を捉える。

 

「ひっ!?」

 

「俺が、このような冗談を言うように思えるか?」

 

その様子を見て集まっていた者たちが、少し後ずさった。その後、ゆっくりと大きく離れていく。

 

これでいいな。

そこで、俺の端末にメッセージが届く。

 

『放課後、最初に行ったカフェに来て頂けませんか?』

 

有栖からである。俺はそれに『了解』と簡略に返信する。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「お待たせしてしまいました」

 

先に着いていた俺の元に有栖が来た。

 

「問題は無い。俺も来てから大して時は経っていない」

 

「それは何よりです」

 

有栖は店員に注文をした後に席に着いた。店の端、壁面に沿った席だ。

放課後が始まって間もない時間。客の数は少量、しかもわざわざ遠い、景観も良いとは言えないこのような席の付近に座る者は少ないだろう。

 

「それで、俺を呼び出して何の用だ?」

 

「分かっているのでしょう?本日のHR後の発言についてです」

 

「…ふむ、やりすぎたか?」

 

「…自覚はあったのですね。何故あのような事を?自分自身を偽ってまで、何故あのように傍若無人…とまでは言いませんが、反感を買うような?」

 

「簡単だ。意思表示と警告だ」

 

「意思表示と警告?」

 

有栖は小首を傾げながら俺の言葉を反芻する。

 

「ああ、警告は分かりやすいな。最後の辺りに言った実力主義の部分だ。慢心は身を滅ぼす。自信と慢心は別物故な」

 

「えぇ、そうでしょうね。確かにその通りです。鈴桜君の言ったとおり今後どのような事が起こるかは未確定、それも実力主義を謳うのであればそれなりにそれ相応の事が起こる事態がある。そう考えるのは必然であり、他のクラスの事を警戒するべきである。そういう事ですね?」

 

少ない言葉でもここまで読み取れるのは流石の一言である。俺は今日一日でどれだけ有栖に対して流石と思っているのだろうか?

 

「ああ、その通りだ」

 

「では、意思表示というのは?」

 

それに対して応えようとした時先に有栖が口を開いた。

 

「まさか、今後このようにクラス中を馬鹿にし続けるという事でしょうか?酷い人ですね鈴桜君」

 

「おい、分かっていて言っているだろ」

 

そんなゲンナリとした風に話す俺にクスクスと笑いながら有栖は、冗談です。と言った。

 

「まったく…クラスの中心として導く存在にはならない。という事だ」

 

「…なるほど。あえてクラスから反感を買うような言葉を放ちつつ、それでいて、的確な指摘。

…ふぅ、あなたは中心に立ちたいのか立ちたくないのか分かりませんね」

 

「立ちたくないと言っている」

 

「ならばただただ反感を買うような言葉だけで良かったのでは?」

 

「それでは、皆が成長せぬであろう?」

 

「…発言が矛盾に近いですよ…」

 

はぁ…と、額に指を当てながらため息を吐きながら注文していたコーヒーを飲む有栖。

 

「確かにそうかもしれぬが、俺は反感を買うような真似はするが、クラスの敵になりたい訳では無い。やり方は少々過激であり、苛烈であった。だが、問題ない。これも今後の布石として作用する可能性がある故な」

 

「布石…ですか?」

 

「ああ、それはーー」

 

……………

 

「…鈴桜君、あなたはこれを事前に想定していたのですか?」

 

「いや?考えついたのは皆が俺に対して言葉を浴びせている時だ」

 

「まったく…あなたは私の想像を軽々と超えてゆきますね」

 

「お前からそのような評価を与えられた事は光栄に思おう」

 

「当然の評価です。それにしても鈴桜君。1つ聞いても良いですか?」

 

「なんだ?」

 

「HR後の時から思っていたのですが、途中からちょくちょくおかしな口調になるのは?」

 

…完全に無意識下だった。

 

「…笑うなよ?」

 

「ええ、もちろんです」

 

「…癖のようなものだ。中学の生徒会長への決意表明等の時にな。少しでも奇抜であり、生徒たちの印象に残るように少々威圧的な口調にしてみた。その結果意外とそれが受けたようでな。それから前に出る場ではそのような口調で話すように半強制的にされたのだ。

その結果、生徒会長時代のあだ名は"悪逆の魔王"だった」

 

「……」

 

「……」

 

少しの沈黙が流れる。

 

「ふっ…ふふ…あはは!」

 

沈黙を破るように耐えきれなくなった有栖が噴き出した。

 

「り、鈴桜君…ふふ…あなたという人は…中々に可愛らしい所もあるのですね、ふふ…」

 

「笑うなと言った」

 

「も、申し訳ありません。しかし…ふふ…本当に意外な一面です。それでいてとても様になっていましたので」

 

「……」

 

「拗ねないでください鈴桜君」

 

「別にそのような事実はない」

 

「私から顔を逸らしそっぽを向いている状況でそれは苦しいですよ?」

 

有栖の言うとおりである。

 

「…まあ、いい。俺の意図は理解してくれた。それでいいな?」

 

「はい、もちろん。しっかりと理解致しました。鈴桜君が思ったよりもクラスの皆のことを大切にしていることも」

 

「別にそれはいい。まあ、結果それで俺は俺自身の首を少しだけ締めたような気がするがな」

 

「本末転倒ですね」

 

「…そうだな」




坂柳さん相手だと偶に知能が低くなる鈴桜君です。


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第6話 集中力は持続しない

名誉挽回、頑張って書いてみましたよ。

ええ、筆が乗って乗ってまあ…

それと、いつも言うのを忘れていましたが、誤字報告ありがとうございます。私の拙い文章ですので、これからも多々あると思いますので…


次の日、俺は登校する。

昨日の1件があり、クラスから少し遠目で見られている。しかし、俺が着席した時声をかけてくる者がいた。

 

「烏丸」

 

「葛城か、なんだ?」

 

葛城である。その後ろに取り巻きの戸塚がいる。

 

「昨日の事でだ。お前が気にするのなら場所を変えるが」

 

「必要ない。俺にそのように聞く時点で少なくともお前にとっては聞かれても問題ない。しかし、俺には聞かれたら困るかもしれないという事だろう。だが、問題ない。ここでどのような事を皆に聞かれようと俺はさして気にしない。なぜなら昨日の事で既に評価は下がっている」

 

「り、理屈っぽ過ぎるだろ」

 

戸塚が呆れ気味に話すと、葛城がその後に話し始めた。

 

「…わかった。ならば話すが、昨日の事だ。何故あのような言い方をした?」

 

やはり昨日の件か。これは、恐らく俺を注意し、改善させることによりクラスからの注目度を集め、支持率を上げる作戦か…もしくは、単純に俺を心配してか…

さて、どちらだろうな。

 

「何故…か…確かに少々言い過ぎた面もあるかもしれない。だが、別に考え無しにそのような言い方をした訳では無い。それが分かるか?」

 

「なに?」

 

「いや、すまない。分からないから聞いてきていたのだったな」

 

「烏丸お前!葛城さんを侮辱しているのか!?」

 

「別にそのようなつもりは無い。だが、クラスの中心に立とうとしている者が自らの考えも持たず、分からないから教えろ。などと人に問うのは些か浅慮なのではと、思っただけだ。『~ではないかと思うがどうなんだ?』という問い方をするのがそれらしく思えるがな」

 

俺の言葉に対して戸塚は睨みつけてくる。

 

「そうだな。俺の考えが浅はかだった。すまない」

 

「か、葛城さん?!こんなのただの揚げ足を取ってるだけですよ!実際は何も考えてないんですよ」

 

「いや、烏丸は無意味に物事を行うタイプではない。必ず考えがある。少なくともあのように、普段とは違う態度を取るような事ではな」

 

「随分と俺の事を持ち上げているようだな」

 

「俺は事実を言ったに過ぎない。

それで、そうだな、俺が感じたのは威圧的でありながら的確な指摘をして、クラスを支配…は言い過ぎだな、纏めあげるのではと考えた」

 

「つまり、お前は俺がクラスのリーダーになるために行った。そう言いたいんだな?だが、お前は知っているだろう?俺はクラスのリーダーになるつもりは無いし、誰がなろうと興味は無いと」

 

「だが、人の心というのは移ろいやすいものだ。以前に言っていた事が覆ることなどよくある事だ。それに加えて、あの時俺に言ったことが嘘である可能性も捨てきれない」

 

中々に疑り深い。まあ、当然ではあるし、葛城が言っていることも一理ある。

 

「お前が言いたいことは分かる。だが、俺は以前に言った事に対して嘘偽りも無ければ心変わりもしていない。

故に、真実を語る…と言いたいところではあるが、全て語るつもりは無い。だが、俺の昨日の発言はクラスを思ってのことだ。それだけは素直に語る」

 

「…全てを語らないのなら信用にならない。何故言えない?」

 

「真実をすぐに語るのは重要性が減る。何もかも俺が答えると思うな。嘘偽りは無くとも秘密にしたい事だってある。お前はそうでは無いのか?」

 

「烏丸!葛城さんが言えって言ってるんだから言えよ!」

 

やれやれ、1人で騒がしいな。

 

「それは恐喝か?言いたくも無いものを無理矢理言わせようとするのは、中々に酷な事だと思うが…それとも命令に当たるか?

まあ、何にせよ」

 

と言葉を続けようとしたところで葛城が割って入る。

 

「やめろ弥彦。俺の質問にそんな強制力はない」

 

「し、しかし、葛城さん。こいつ明らかに馬鹿にしていますよ!」

 

ふむ、別にそのような事実はないのだが?

 

「烏丸にそんな気は無い。それに、お前がそのような態度を取ることで、俺にも影響がある事を考えているか?」

 

「っ!?」

 

ふむ、俺が言おうとしている事を葛城は理解していたか。言われて戸塚も気づいたようだ。ハッとしている。

 

「すまなかったな、烏丸。」

 

「なに、気にはしていない」

 

「助かる。

実際、昨日お前が指摘した事は正しく、こちらとしても助かった。だが、言い方というものをもう少し考えて欲しかった。これは、今後のお前の事を案じて言っている。そのような事では、いずれ孤立するぞ」

 

やはり、そういう事だったか。葛城は俺の身を案じていた。何とも優しい奴だな。好感が持てる。

 

だが…

 

「ふむ、では、優しい言葉で取り繕い、仲良しこよしで話せば良いと?だが、そのようなぬるま湯のような事では、今後に不安があるぞ?現実はそう甘くはないし、簡単なことでは無い」

 

「それは分かっている。だが、お前の行った行為は、熱した石に冷水をかけるかのような行為だ」

 

「まさに焼け石に水だと?中々に上手い事を言うが、むしろそれが功を奏する結果になるとも言えるが?」

 

「なに?」

 

俺と葛城の問答が続く中で、それを遮る者がいる。

 

「まあまあ、お2人さん。朝っぱらからそんなバチバチしなさんなって」

 

「…橋本」

 

「なっ?!橋本!?邪魔すんなって!」

 

クラスのムードメーカーでもある橋本だった。

 

「いやいや、別に邪魔してるわけじゃないぜ?」

 

「だったら黙ってろよ。

…いや、ちょうどいいじゃん。橋本にも聞いてみましょう葛城さん。昨日の烏丸の事について」

 

その戸塚の発言で俺と葛城が橋本の方を見る。

橋本はそれになんてこと無くいつもの表情で答えようとする。まるで、そうなる事が分かっていたかのように。

 

「昨日の烏丸の?ああ、別にそんなに悪く思ってないな」

 

「はあ?なんでだよ」

 

「いや~、確かに言い方もあれだったし、厳しい発言だったと思う。でも、逆によ、それでハッとしたというか、目が覚めたっていうか。最初はマジでビビったけど、後からあいつなりの優しさ何じゃねぇかって思ってよ。

だから、烏丸!俺、授業中に気抜いてた時とかあった。これからはそんな事の無いようにするぜ!"優秀なAクラス"って胸張れるようにな!」

 

…予想外であった。まさか、しっかりと受け止めていて、なおかつわざわざ俺に直接言いに来るとは思わなかったな。

 

橋本、ムードメーカーで少々お調子者である事が要因か…感じ取ってくれている者がいることを嬉しく思うぞ。

 

「ふっ…何を当たり前の事を、当然だろう。それに」

 

「あー!!こいつ笑ったぞ!皆!!烏丸が、烏丸が笑った!」

 

ふむ、俺はあの有名な歩けない少女か?

 

『なに?!マジか!?』

 

『え?烏丸君が笑ったの?!見たい見たい!!』

 

『うわー!いつもの無表情だー!見逃したー!!』

 

このような反応をされると心外だ。俺だって表情な変わりづらいだけで笑う時だってある。稀であることは自覚しているが。

 

「…別に笑ってない」

 

「嘘つけよお前。何だよ、中々面白いじゃんか。それに、俺はある意味、あの時のはお前の本音だったんじゃねぇかって思うぜ。だから、そういう事を知れただけでも俺は少し嬉しかったんだぜ?だから、俺はこれからお前の事は鈴桜って呼ぶからよ、鈴桜も俺の事正義って呼んでくれよ」

 

「ふむ、気が向いたらな」

 

「それ絶対呼ばない奴じゃねぇか!」

 

そんなワイワイと騒いでいるせいか、興が冷めたように葛城と戸塚は離れていく。その後少ししてから有栖が来る。

一言挨拶を交わした後、少し経ってもうすぐ真嶋先生が来てHRが始まる時間。そんな時に隣の有栖が俺の制服の袖を引っ張る。

 

「なんだ?」

 

「笑っていた様ですね」

 

「心外だな。まるで、俺が笑わない者のように捉えているようだが、俺は笑う時だってある」

 

「…そういうのでしたら、もう少し頻度を増やしてください。

……ずるいです」

 

「何をそのように拗ねたような表情をしている」

 

「拗ねてません…」

 

年相応の愛らしい表情。普段とは違う可憐さを持ったそれを、いずれもまた見てみたいと思った。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

それから時が経ち、5月も1週間と少し経った頃。つまり、中間テストまで2週間を切った所だ。

 

夜、部屋で勉強していたところ、少し集中力が切れてきた所で、気分転換に自動販売機でジュースを買いに行った所。面白そうな者を見つけた。

隣人である綾小路が何か寮の壁に張り付き何かを覗いている様であった。

 

「ふむ、あれは堀北兄妹か。中々に修羅場だな」

 

小声ではあるが唐突に聞こえた声に綾小路は肩をビクつかせる。

 

「っ!?お、お前は、烏丸…」

 

「こんばんはだな。綾小路」

 

「こんばんは…なんでこんなところに?」

 

「ふむ、それはこちらのセリフではあるが…なに、気分転換に飲み物を買いに行ったらお前の覗き姿が見えたが故…な」

 

「だからって…って」

 

その時、綾小路は走り出し、堀北兄の腕を掴んだ。ふむ、中々の反射神経だ。

 

「何だお前らは?」

 

「綾小路くん?!と…誰?」

 

「ふむ、何ただの見物人だ。どうぞ、俺に構わず続けてくれ」

 

「…まあ、いい。あんた今堀北を投げ飛ばそうとしただろ。ここはコンクリだぞ、わかってんのか。兄妹だからってやって良いことと悪いことがある」

 

「盗み聞きとは感心しないな」

 

「いいからその手を離せ」

 

「それはこちらのセリフだ」

 

2人の睨み合いが続き、沈黙がその場を襲う。

 

「やめて、綾小路くん…」

 

堀北妹の絞り出したような弱々しい声。それに応じるように綾小路は掴んでいた腕を離した。

その瞬間堀北兄は綾小路に裏拳を放つ。それを綾小路は身体を仰け反らせかわした。

 

ふむ、お互いかなりの身のこなしだ。実力者同士の勝負は凄まじい。だが、そうも言ってられないようだな。

 

堀北兄が綾小路に蹴りを放とうとしている。綾小路もそれに反応してかわそうとした時、俺はその蹴りを放ち切る直前に、放とうとした脚を止めようとした。

だが、それを察知した堀北兄はすぐにそれを中断し、少し後ろに飛んだ。

 

「ふむ、流石ですね生徒会長」

 

「お前こそ、躊躇なく行なおうとするとは、中々えげつないな烏丸」

 

「ほぉ、俺が知られているとは光栄ですね」

 

「入学初日に仕組みを見抜いたような奴を知らぬ筈がない」

 

「…え?」

 

「それと、お前。綾小路と呼ばれていたな。お前もいい動きだ。初撃をかわしたこともだが、その後の蹴りも烏丸が止めずともかわされていた。まるで、おれな何をしようとしたか理解しているように。何か習っていたのか?」

 

「ピアノと書道なら」

 

「ふむ、天体観測を少々」

 

「お前には聞いていない。綾小路、お前もDクラスか?中々ユニークな男だな。鈴音」

 

「堀北と違って、無能なんでね」

 

「鈴音、お前に友達が居たとはな。意外だ」

 

「彼は…友達なんかじゃありません。ただのクラスメイトです」

 

哀れ、綾小路。友達認定されていない。

 

「…可哀想だな、綾小路。どれ、このジュースをやろう」

 

「いや、要らねぇよ」

 

「…相変わらず、孤高と孤独を履き違えているようだな。それから、綾小路。お前が居れば、少しは面白くなるかも知れないな」

 

そう言って堀北兄は俺たちの横を通り過ぎ、闇へと消えていく。

 

「上へ上がりたいのであれば死にものぐるいで足掻け、それしか方法はない。特に、そこの烏丸は危険だぞ」

 

「ふむ、危険認定されてしまったな。まあ、良い。

さて、帰るとするか、お前たちも長居し風邪を引かないようにな」

 

振り返り、帰ろうとした時、呼び止められた。

 

「待って…あなたは…何者なの?」

 

「ふむ…まあ、折角ここで会ったのも何かの縁だ。自己紹介をしよう。1年Aクラスであり、そこの綾小路の隣人。烏丸鈴桜だ」

 

「初日で仕組みが分かったって、本当?」

 

「ふむ…まあ、2、3割程確証は無かったが、結果的に言うのであれば、そうだと言えるのだろうな」

 

「っ!?」

 

「まあ、またいずれ出会う事にはなるだろうからな。またの機会にゆっくりと話すとしよう」

 

そう言って俺は寮へと帰って行った。




原作の話に繋げるのって難しいなぁ…ほんと…


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第7話 想像超越者



……最近、坂柳さん成分が足りないとおもいますか?

そうですよね。私もおもいます。

今回は少々長いかも知れません。


あれからまた少し経ったある日。この間、テスト範囲の変更を聞き、最近ではよく図書室を利用している。やはり、調べ物が捗る。

参考書の類も豊富にあるしな。

 

そんな俺が静かに勉強を進ませていた時、ある一角が騒がしくなっている。

 

流石に看過出来ぬと見に行くと。どうやらCクラスの生徒とDクラスの生徒が言い争っている。

 

そんな中で見知った顔を見つけた。

 

「ふむ、トラブルの中によく居るようだな、綾小路」

 

唐突な俺の声がけに以前と同じように肩をビクつかせる綾小路。

 

「っ!?またお前か烏丸。何の用だ?」

 

「騒々しいのでな。様子を見に来てみたら隣人のクラスが困っているようなのでな、手を貸してやろうかと」

 

「お前は聖人かなんかか?」

 

「ふむ、俺が聖人か面白い冗談を言う」

 

「先に言い出したのはお前だろ…」

 

なんの事やら?

まあ、良い。まずは止めるとするか。

 

「双方静まれ。ここは静寂を守られるべき図書室だ」

「はい、ストップストップ!」

 

俺ともう1人の声が重なる。

 

「ん?ああ、一ノ瀬か奇遇だな」

 

「あはは、そうだね烏丸君」

 

「んだ、テメェらは、部外者が口を出すなよ」

 

「ふむ、部外者か…確かにお前たちの口論に対しては関係ないだろう。

だが、俺と一ノ瀬は同じくこの図書室を利用していた者だ。その場所で騒々しくしている者を注意する権利はある筈だが?」

 

俺の言葉に同調するように一ノ瀬が続ける。

 

「そうそう。だから、もし、どうしても暴力沙汰を起こしたいなら、外でやってもらえる?」

 

「一ノ瀬に…げっ、烏丸…」

 

ふむ、げっ、とは、なんだ?げっ、とは。

 

「それと、君たちも挑発がすぎるんじゃないかな?これ以上続けるなら、学校側にこのことを報告しなきゃいけないけど、それでもいいかな?」

 

「わ、悪い。そんなつもりは無いんだよ、一ノ瀬」

 

「おい、行こうぜ。こんなところで勉強してたらバカが移るし」

 

「だ、だな」

 

そう吐き捨て、Cクラスの生徒は出て行った。

その理屈であれば、俺は今後バカになるのだろうか?

 

「君たちもここで勉強を続けるなら、大人しくやろうね。以上っ」

 

「流石だな。一ノ瀬」

 

「にゃはは、そんな事ないよ。それに、私が出なくても烏丸君が何とかしてそうだし」

 

「そうだろうが、俺ではもう少し相手が騒ぎ出し兼ねないような話になりそうだからな」

 

「…ごめん、想像できちゃった…」

 

「1の言葉に、10の正論をぶつけたくなる性格故なのだ。自覚はしている故、気にするな。あと揚げ足を取りたくなるのも要因だな」

 

「うん、だからだよ?」

 

一ノ瀬に呆れられてしまったようだな。

 

「まあ、良い。ではな、一ノ瀬。お互いに頑張ろうぞ」

 

「うん、またね、烏丸君」

 

俺は少し場所を移して綾小路たちの元へ行ってみる。

 

「さて、何故騒いでいたのだ?」

 

「烏丸」

 

「…また、あなたなの?それこそ部外者だわ。話す気はないわ」

 

「ふむ、では、俺の考察を聞き、それの合否を取るとしよう」

 

「な、なんだ?いきなり出てきてこいつは?」

 

「えっとね、彼は烏丸鈴桜君。1年Aクラスだよ」

 

混乱していたDクラスの生徒に対して、櫛田が説明した。

 

「え?!Aクラス!?」

 

「いかにも、Aクラスの烏丸鈴桜だ。以後お見知り置きを…と。そうでは無い。さて、過程は省こうこれ以上は流石にお前たちにも悪い。

そうだな、テスト範囲が違うと言われたのか?」

 

「え?合ってる…やばっ」

 

Dクラスの男子生徒が驚いていると、堀北妹がそれを一閃する。

 

「馬鹿馬鹿しい。元々聞こえていたか、開いている教科書を見ただけなのでしょう?考察と聞いて呆れるわ」

 

ふむ、バレた。

 

「まあ、後者だな。だが…ふむ、それは困ったことになっているな」

 

「本当にテスト範囲が変わっているのか?」

 

「ああ、間違いない。俺もそれに備えて勉強していたのでな。お前たちは聞いていなかったとは…担任の先生に確認に行く事をオススメしよう」

 

「あ、ああ…」

 

そう言うとDクラスの面々は図書室を出て行った。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

それから俺は教室へ戻った。

自らの席に座り、テスト範囲を確認した。

 

「テスト範囲を見直してどうしたんですか?鈴桜君」

 

有栖が話しかけてきた。

 

「ふむ、何。どうやらDクラスにて問題が起きているようだからな」

 

「問題、ですか?」

 

「ああ、どうやら、テスト範囲の変更について説明されていないようだ」

 

「おや、それはそれは災難でしたね。これでは、もしかしたら成績不良によって、退学者が出るかもしれませんね」

 

その有栖の言葉に俺も同意する。だが、納得がつかない。

 

「腑に落ちないな。仮に担任が伝えるのを忘れたとしよう。それは、教師として信用を落とすのではと思ってな」

 

「確かに、それに関しては、確かに落ち度はありますが、授業を受けていればある程度の問題は解けるのですからその人たちが悪いとなるのでは?」

 

「確かにその通りだ。だが、全員が全員。その通りではない。このAクラスでもそれが厳しい者もいる。そのために事前にテスト範囲が発表され、そこを重点的に勉強する。そうではないか?」

 

「確かにその通りです。

つまり、烏丸君は、意図的に説明を怠ったとおっしゃいたいのですか?」

 

「その通りだ」

 

「何のためにですか?」

 

そこだ。何故?という部分に辿り着かない。

俺は間違えている?いや、それは考えずらい。担当しているクラスに退学者が、ましてや単純なテストの赤点によって出るなど汚点となるだろう。

しかもそれが、自分が説明を怠ったが故になど。

 

……………

 

なるほど。まさか、そういう事か?

 

「……」

 

「鈴桜君?」

 

「…待たせたな。有栖」

 

「何か分かったのですか?」

 

「可能性の1つだ。これが正解かは分からないが、少なくとも俺はこれが1番納得した」

 

「では、お聞かせ下さい。鈴桜君の考えを」

 

「ならば、まず有栖に質問だ。プラべートポイントの説明について、なんと言っていた?」

 

「…なるほど。『学校内や敷地内にあるものなら"何でも"買うことができる。』ですね」

 

「その通りだ。つまり、点数やテストの解答用紙なども買えるという事だ」

 

「確かにそれであれば、答えを覚えるだけで済みます。ですが、それは簡単では無いのでは?恐らくかなりの高額に設定される筈です」

 

俺もそれには同意だ。そのような事を簡単にするほどここは甘くないだろう。

 

「同じく俺もそう思う。だが、もう一度見方を変える。説明を怠った。だが、それでも問題ないと考えた時、別の考えに辿り着いた。

それは、このテスト範囲の変更は決められていた事なのでは?と」

 

「つまり、わざと最初に間違ったテスト範囲を説明し、時間を置いて本来のテスト範囲を発表する。と?」

 

「しかも、それが定例化しているとしたら?」

 

「!?…なるほど、そうだとするなら。上級生にそのテストを見せて貰えれば…交渉次第では、より安価に解答用紙を手に入れられますね」

 

「その通りだ。つまり、Dクラスの担任は生徒にポイントで何でも買えるという認識を深めさせるため、あえて説明を怠った。それと、ポイントの重要性、か。

まあ、偉そうに話してはいるが。これが、正解かどうかは、定かではない。単純に怠っていたかもしれぬしな」

 

「いえ、中々面白い推理でした。お陰でどのような策をするか、幅が広がりました」

 

楽しそうに微笑む有栖。

さて、隣人よ。この困難、お前ならばどう乗り切る?お前の事は何となく想定しておるぞ?

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「おーい、鈴桜?大丈夫か?」

 

「ふ、む…問題…ない」

 

「めちゃくちゃありそうじゃん…いつもの無表情に加えて目がヤバいぜ?死んでるってか、澱んでるぞ?」

 

日は進み、テスト当日の朝。完全にして無欠なまでに寝不足である俺。

 

なぜ俺がこのような状況になったか。それは、少し時を遡り、あの推理を行った日の夜。

有栖から1本の電話が来た。

 

内容を要約すると『今回の中間テストの合計点数で勝負をしよう』という事だ。

当然俺は、それに意を唱えた。俺は理数科目が苦手であり、有栖はどの教科を取っても完璧である。勝負にならない。と。

 

しかし、それで折れる有栖では無かった。勝負を受けない場合、強制的に有栖の部下として使う。という。だが、この程度で受ける程俺の精神も弱くない。

 

そして、最後に投じたのは、これすらも受けない場合、今後一切の口を聞かない。だった。

この世の終わりか?

 

つまり、俺は受けざるを得ないという事であった。

ちなみに、両方とも同点だった場合は俺の勝ちとしてくれた。苦手科目がありながら同点にするのならばそれなりの対価である、と。

 

そして、肝心の報酬は『命令権』である。

可能な範囲内であり、倫理的に反しない命令をさせる。との事。

 

まあ、別にそれはあまり気にしないが、これは、勝負。少し負けず嫌いの性格を持つ俺は、意外とムキになって勉強した。これは、どうしようもない戦いではないからな。

 

そして、今に至るのである。

 

「災難だったな。相手が坂柳さんとか、ほぼ負け確じゃん」

 

「そう…とは、言い切れぬ。上限が決まっている勝負。それに、有栖も人間だ。完璧に近いと評価はするが、人間、いつ何が起こるかは分からぬからな」

 

「ふーん。まあ、お前が良いなら良いけどよ。あんま無理すんなよ」

 

「ふむ、心配感謝する。お前も、自らの心配をする事だな、正義」

 

「!?お、おう!!」

 

驚いた表情の後、満点の笑顔でそう答えた正義。

 

そう、俺は俺の最善を尽くす。負けるつもりなど毛頭ない。さて、来い、準備は出来ている。さあ、行くぞ、完璧な少女。知識の貯蔵は、充分か?

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

結果

 

俺 486点

有栖 493点

 

惜敗

 

「………」

 

「ふぅ…返された点数を確認した時は、流石の私も肝を冷やしましたが、結果的に私の勝ち、ですね」

 

点差、僅か7点。されど7点。

ふっ、ラッキー7とはよく言ったものだ。最善は尽くした。だが、やはり、短期的なものでは、ボロが出る。それを痛感させるものだな。

 

「…ああ、紛れもないお前の勝利だ。噛み締めると良い」

 

「鈴桜君は潔いので好感が持てます」

 

「結果は点数に出ている。それをとやかく言うほど俺は落ちぶれては…」

 

待て、この解答…

 

「ふむ、有栖。しばし待て」

 

そう言って俺は席を立ち、真嶋先生に指摘する。採点ミスを。

それは、受理され俺の点数は上がった。

 

最終結果

 

有栖 493点

俺 491点

 

惜敗

 

いや、結局負けてるな。うん。

 

そこで、クイッと袖が引かれた。有栖だった。

 

「…焦らせないで下さい」

 

「ふむ…俺にとっては、ぬか喜びだ」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

夕方

 

自室にて、夕食の用意をする俺。

そして、それを待つ有栖。

 

有栖の命令はこうだ。

『手料理を食べさせて下さい』

 

意外にも簡単であったためすぐに了承。だが、普段は簡単なものしか作らぬ故、お世辞にも人に出せるようなものを簡単には作れぬ。

簡単だと侮った自分を殴り飛ばしたい気分である。

 

まあ、そのような事を考えていたが、泥沼に嵌るような事はせぬ。簡単に考えてみた。もう、よく作るもので良いのでは?と。

 

まあ、それなら肉じゃがとかで良いだろう。後は、ご飯と味噌汁、簡単にサラダも作るのも良いだろう。これにするか…

 

……

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

鈴桜君が台所で食事を作っている頃、私は今回の事を考えていました。

 

彼は、類稀なる観察眼と思考能力、考察力を兼ね備えていて、それを更に補う知識量を持っています。それは、入学してからこれまでで、嫌という程思いました。

実際は、別に嫌ではありませんが。

 

そんな彼に対して、勝負を仕掛けました。

理由は単純で、子供っぽい、ただ彼よりも優位に立ちたい。それと、抑えられない好奇心でした。

 

そのために、少しずるい条件を出して、半分…いいえ、ほとんど我儘でその勝負を取り付けました。

この、テスト当日までの中で彼と戦えるという想いは、とても強かったです。何故なら、彼は私の想像を超えてくる。そんな相手が、とても近くにいる。とても、ワクワクします。

 

彼が想像を超えてくるのであれば、私がその超えた先よりも、もっと先へと行けばいい。

 

きっと、彼は…烏丸鈴桜君は、あの施設で育ったと言われる"彼"とも良い勝負をするでしょう。

ですが、そのような事はさせません。"彼"と戦うのは私です。

 

そして、結果発表。点差は7点で私の勝利。本当にギリギリでした。結果を見た時に、急に体の重さが取れた気がしました。

 

なんて、安堵している時に、鈴桜君は私に一言掛けてから席を立ち、真嶋先生の元へ。

テスト用紙を持っていったため、採点ミスがあったのだろう。そう感じた瞬間、背中に冷や汗が流れるのを感じました。そして、戻ってきた鈴桜君の点数を確認した結果。勝敗変わらず点差を2点に縮めたのみ。

 

とっっっても焦りました!!

 

本当に鈴桜君は私の想像を超えてきます!

 

等と考えていると、鈴桜君が持ってきたのは、ハンバーグプレートに近いもの。恐らく、本来のものとは、多少アレンジを加えたようなものでしょう。

 

「とても、上手に焼けていますね」

 

「お褒めに預かり光栄だ。ならば、食すとしよう。いただきます」

 

「はい、いただきます」

 

鈴桜君は、私と2人の時は魔王口調みたいです。

 

そんな事はさておき、1口食べてみました。

適切に火が通り、味付けも重た過ぎず、軽過ぎない。付け合せも、彩りも考えられていてとても綺麗です。

スープも栄養が偏らないような味付けがされていました。

 

とても美味しいです。ファミリーレストラン等で出てくるような簡素なものでありながら、それでいて、細部にまで気遣いが見られるようなものだと私は感じました。

 

「とても、美味しいです。鈴桜君」

 

「それは、光栄であるな」

 

その後も軽く会話を挟みながら食事を終えました。

 

「ご馳走様でした」

 

「お粗末さま。であるな」

 

その後、食器等を下げました。

 

「申し訳ありません。洗い物までさせてしまって」

 

「気にする事はない。命令とはいえ、ここは俺の部屋であり、有栖は客人だ。

故に、洗い物などさせる訳にはゆかぬ」

 

そう言って、洗い物を終えて、戻ってきました。

 

「本当にありがとうございました。何度も言うようではありますが、とても美味しかったです。見た目も良く、栄養バランスや味付け、どれもとても素晴らしいです」

 

「そうか、俺としては、お前が満足してくれたのであれば、それで良い」

 

「えぇ、大満足です。

ところで、何故この料理を?何か意図はありますか?」

 

正直に言ってしまうと、あまりそのようなものがあると思っていません。ですが、鈴桜君は様々な物事に意味を込めて行う方。

なのでこれは、半分期待を込めて聞きました。

 

「ふむ、実を言うのであれば、途中まで意味など考えずに振舞おうと考えた。

だが、その考えを改めた。命令とはいえ、この学校に来て初めての友人を、初めて部屋に招き、初めて料理を振る舞う。そう考えた時には、無意識的に作り始めていた」

 

「その様に思ってくださっていたのですね。では、何故?」

 

「これは、俺が母と共に作った初めて料理だ。今とは違い、1人で出来る訳もなく、形も歪で、味も疎ら、お世辞にも美味いものでは、無かった。だが、そのようなものを、父と母は美味しいと食べてくれた。そのような思い出の品だ」

 

そう語る鈴桜君の表情はいつもと変わる事無く、無表情でしたが、感情が…とても暖かい想いが伝わって来たような気がしました。

元々、表情は変わらずとも、感情と言いますか、雰囲気は感じ取れるような方でしたから。

 

「とても素敵な思い出ですね。微笑ましいです」

 

このようなお話を聞けただけでも、とても大満足なものでした。

しかし、それでも、鈴桜君は話を続けました。

 

「ああ、それで、俺は考えた。折角なのだ、この思い出の品に、また新たな思い出を含めてしまおう。それが良いだろう。と思ったのだ。

有栖との思い出を詰めたいと思うたのだから」

 

そう言った鈴桜君の表情には、微笑みが浮かんでいました。

それを聞いた瞬間、それを見た瞬間、私の頬に熱を帯びた気がしました。

 

「ぁ…ふふ、笑っていただけましたね」

 

「む?そうか、俺は笑っていたか」

 

「ふふ…はい、とても、素敵な笑顔でした」

 

私は、今日という日を、この瞬間を忘れません。この、初めての感覚も、感情も、私の中の素敵な思い出となりましたから。

 

……

 

本当に彼は、私の想像を超えてきます。




いかがでしたでしょうか?

ちょっと初めての試みをしてみましたが、上手くできていたのならば、嬉しいです。

少し、甘めの表現をしてみました。皆さんの反感を買わないようにしたいですね。

まあ、買われたところで好きに書きますけどね!自己満足万歳!

ごめんなさい!!


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第二章 一難去ってまた一難
第8話 お友達


少し期間が空きましたが、無事にかけました。

最近は、評価や感想が増えてきてとても嬉しいです。モチベーションが上がります。いつでも待ってます。

今後ともよろしくお願いします。

この前から章区切りにしてみましたので、今回から第2章、つまり、2巻に突入です。まあ、2巻の内容はAクラスあんまり関係ないので、長くするつもりはあまりありません。


どこでもない場所。

そこには何も無く、ただただ空間だけが広がっている。そんな場所。

 

そこに、1人の人物だけが存在していた。

その人物は、少し楽しげに口元に笑みを浮かべていた。

 

「うん、君は君なりにそのセカイを楽しんでいるようで安心した。

しかし、うーん…過去や経歴とかを根回ししているとはいえ…これは、やり過ぎちゃったかな?私の趣味と悪ふざけを少々…まあ、いいか。

他のセカイでも似たような事はしていた訳だし、その記憶は君にはない。大丈夫だよね」

 

その人物は楽観的であった。

 

「うーん、でもやっぱり記憶ってあった方が良いのかな?今までの経験を活かせる的な?

でもなー、この子の場合複雑過ぎるからなー、流石に何十個ものセカイの記憶の保持は危険だよねー」

 

そして、中々に鬼畜であった。

 

「簡単に壊れないでね。壊れたとしても、また、直してあげるけど。

君は私にとって"お気に入り"だからね」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

中間テストという初めての明確な試練を乗り越えた俺たち1年生。

退学者を出さないまま終えたというのは恐らく大きな事だろう。

 

しかし、事実は小説よりも奇なりという。そんな事を思う6月。一難去ってまた一難、どうやらプライベートポイントが支給されていないようであった。

 

「…ふむ、これは不具合…という訳では無さそうだな」

 

身支度を終えて、部屋を出ようかと思った時、着信が入る。

 

「もしもし、烏丸だ」

 

『おはようございます。鈴桜君』

 

有栖だった。

 

「おはよう。このタイミングという事はポイントの支給の事か?」

 

『ご名答です。鈴桜君も気付いていましたか』

 

「まあな、不具合とも考えづらい。故に何かしらの問題が起きたことによる措置なのではと思う」

 

『そうですね。それには同意します。

…では、わかり次第それについて考える事にしましょう。後ほど学校で』

 

「ああ、またな」

 

そうして通話を終了する。

 

そこから何事もなく学校へ着き、教室へと入る。

やはりと言うべきか、クラスは少々騒がしくなっていた。俺は、挨拶もそこそこに自らの席に座る。

 

「おっす!鈴桜!」

 

「ああ、おはよう。正義」

 

「なあなあ、ポイント振り込まれているか?」

 

「いいや、俺も支給されていない」

 

「やっぱりかー、なんかあったんかね?」

 

「詳しくは俺も把握していないが、何かしら問題が起きたのだろうと推測する。まあ、それ故に先生からの説明が無いという事は無いだろう」

 

「ん、そうだな。流石に朝起きたら支給されるのは0ポイントです。なんて事は無いよな」

 

笑いながら言う正義。ふむ、そんな事が本当であったら笑えないを通り越して大笑いしてやるところではあるな。

 

「ふむ、そうなったら逆に面白いな」

 

「いや笑えねぇよ!」

 

激しくツッコミを入れる正義。朝から元気なものだな。

 

「それに、問題なかろう。俺たちはAクラス。他のクラスに比べれば潤沢にポイントはあるのだから」

 

「そうだけどよー…ほら、多くあって損は無いだろ?」

 

「もちろんだ。多くあればそれだけ選択肢が増える故な。戦略の幅が広がるというものだ」

 

最悪交渉材料にもなり得る。

 

「いきなり物騒になったな…」

 

そんな事を話しているうちにHRの時間が迫ってきていた。

その少し経った後に真嶋先生が来た。

 

「みんなおはよう。早速で報告だが、気づいているものも多いだろうからな。今日振り込まれるべきポイントが無い事についてだが、少々他のクラスで問題が起こったようでな。その対応でポイントの振り込みが遅れてしまっている」

 

「では先生。ポイントは必ず振り込まれるんですね?俺たちのポイントが0になったとかでは無く」

 

「それはついては問題無い。問題が解決次第、確実にみんなにポイントは振込まれる。そして、これが今月の振込まれるポイントだ。1学年のクラス全て発表する」

 

そう言って真嶋先生は、持ってきていた紙をボードに張り出した。

 

Aクラス1004クラスポイント、つまり今月は、10万4千ポイントである。

クラスの中から、おぉ、という声が上がっている。

 

「今回、初めての中間テストを突破したということで、最低100ポイントご褒美として支給されている。以上だ。これにてHRを終わる」

 

そう言って、真嶋先生は教室を出た。

 

「…87。どうやらDクラスはまだ死んだ訳では無いようですね」

 

ちなみに俺は、思考の海へと潜っていた。

 

他のクラスで問題が起こった…その対処としてのポイント支給停止…中々大事なものであるのは確か…

 

「…?鈴桜君?」

 

どのクラスだ…可能性として高いのは、龍園の率いるCクラス…では、相手は?最近は龍園は良くBクラスにモーションをかけているらしい…だが、DクラスはDクラスで喧嘩っ早い者も少なくない…故に、DクラスとBクラスという事も…

 

「…あのー?」

 

そもそも何が原因だ…下位クラス同士の抗争…下位クラスから上位クラスへの嫌がらせ…いや、今考えるのは…

 

「無視は良くありません…」

 

今回の結末…そうだな…こちらの方が面白いか…となると…だが…なるほど…つまり…そうか…これか…こうなる…か…

 

「……ムー」クイクイ

 

「……ん?どうした?有栖」

 

俺は、袖を引かれて思考の海から脱した。そこには見るからに不機嫌そうな有栖がいた。

 

「無視は良くありません」

 

「む?そうだな」

 

「そうだな。では無く…はぁ…いえ、何となく想像はつきます…何を考えていたんですか?」

 

「ふむ、そうだな…いや、少し待ってくれ」

 

そう言って俺は、ルーズリーフ1枚を取り出しそこに書き留めた。

そして、それを丁寧に折り、有栖に渡した。

 

「こちらは?」

 

「これに、今回起こった問題の結末を書き留めた。流石に、どことどこの問題というのは分からないため、結末のみではあるがな」

 

「…なるほど」

 

「そして、これは半分…いやほとんど俺の我儘になるが…もし、その紙に書き留めてある俺の予想した結末が合っていたのならば、俺の命令に1つ応えてくれ」

 

賭けにも勝負にもならない。そんな願い。はっきりいって受けて貰えるかどうかなど、俺にも分からない。

 

「…ふふふ、何か先日の事で意趣返しをされた様な気分です。ええ、構いません。私も先日は我儘で通した勝負ですし、こちらはこちらで面白そうです。

その代わり、そこまで言うのです。外れていた場合は、理解しておられますよね?」

 

そうだったな。有栖はこういう者であった。

 

「愚問だな。その点について、俺が弁えているに決まっている」

 

「ならば、問題ありません。楽しみにしていますよ」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「昨日話した問題の件だが、Dクラスの生徒とCクラスの生徒とのトラブル。言ってしまえば喧嘩が起きた。それによって、少々両者の意見の食い違いがあり、結論が出ない状況だ。最終的な結論は来週の火曜日に出るため、ポイントが支給されるのは翌日の水曜日となる」

 

翌日のHRにて真嶋先生からの新情報である。

ふむ、なるほど…そうなっていたか。

 

クラス内で中々にDクラス、Cクラスに対する反感の声がチラホラと聞こえる。

まあ、当然の帰結であろうな。

 

そして、俺は、その日の昼休みにCクラスの教室前にいた。

 

教室室内からこちらを伺う生徒が何人か。警戒している生徒もいる。そんな中で、1人の生徒がこちらに向かってくる。龍園に忠誠を誓っている石崎だ。

 

「おい、烏丸!なにそんな所でつったてんだ?!うちの偵察か?」

 

「ふむ、いや何、偵察などという訳では無い。どうやらトラブルが起きているようであるからな、心配で来ただけだ」

 

「心配だと?お前がそんな風な奴には見えねぇな」

 

「流石にそれは傷つくぞ?それこそ、石崎。お前のその顔の痣…それがトラブルによって起こったものだろう?」

 

「…だったら何だよ」

 

「何、折角お友達がいるクラスだ。少しは手を貸してやらないことも無いと言いに来たのだが」

 

「お友達?」

 

「ああ、龍園がそうだが?」

 

「はぁ?龍園さんがお前みたいな奴と友達な訳無いだろ」

 

石崎が俺の言葉を軽く鼻で笑った後、教室の中から声が響く。

 

「おい、石崎!いつまでそんな所でくっちゃべってんだ!」

 

その声に石崎は肩をビクつかせる。

 

「りゅ、龍園さん!しかし、烏丸が!」

 

「あ?烏丸だと?

…くく、よし連れてこい」

 

「え?!で、でも良いんですか?こんな奴」

 

ふむ、こんな奴呼ばわりは酷いな。

 

「良いんだよ。良いから早く連れてこい」

 

そう言われて、石崎は渋々俺をCクラスの教室へと連れて行く。中に入ると案の定警戒している。

そして、俺は龍園の前へ。

 

「よぉ、烏丸。何の用だよ」

 

「ふむ、まあ、先も言った通り心配でな。トラブルが起きたようなので、様子を見に来た」

 

「はっ、こんなもん別にトラブルでも何でもねぇ、それに、仕掛けてきたのはあっちだ。俺らは被害者。こっちに大きなマイナスはねぇだろうぜ」

 

「そうか、それは何よりだが…」

 

「にしても、随分と警戒心が薄い様だなぁ、こんな敵地ど真ん中でよぉ」

 

「その点に関しては心配はしていない」

 

「あぁ?」

 

「お前とて、このような監視の厳しい教室で、暴力行為などは絶対に行わない。理由としては、その暴力行為でどれ程までのマイナスが来るか分からぬからな」

 

そして、俺は龍園の方へ少し近づき、龍園にだけ聞こえる小声で放つ。

 

「此度は、それを調べる目的も含まれているのだろう?」

 

そして、再度俺は龍園から少し距離を取る。

そんな龍園は怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「てめぇ…何が目的だ?まさか、恩を売ってやろうなんて考えじゃねぇんだろうなぁ?」

 

「何を言うかと思えば、そのような事は思ってはいない。何、お友達が心配なだけだ。他意は無いぞ?」

 

「けっ…そうかよ。だが、さっきも言ったろ、何も心配は要らねぇ。あんなDクラス見てぇな雑魚相手には特にな。

くくく、まあ、そんなに急かさなくても他のところ潰した後は、お前らAクラスを潰してやるよ。特に、てめぇは、その仮面みてぇな無表情を恐怖で歪めさせるほど念入りになぁ」

 

「ふむ、そうだな。その時は俺も全力で相手をしてやろう。楽しみにしている」

 

そう言って俺はCクラスの教室を出た。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ちっ…クソが」

 

近場の机を蹴り飛ばす龍園。

 

「ど、どうしたんですか?龍園さん」

 

「あの鉄仮面野郎…どこまで知ってやがる」

 

「ど、どういう事ですか?烏丸が何か?」

 

「あいつは全部知ってやがる。今回の事なんざなぁ」

 

「じゃ、じゃあヤバいんじゃ…」

 

「…いや、それはねぇ。あいつはそんなたまじゃねぇ。だから、わざわざ来やがったんだ

…くく、まあいい。そんだけ、あいつらを潰した時に楽しめばいい」




実はちょっとやりたかった話なんですよね。今回のは


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