セイズ 〜時の巫女と黄金の力〜 (マトルヴァさん)
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奪還任務
西暦2050年。
『アースガルズ』と名乗る宇宙人が地球へやってきた。
彼等は突然、交渉の余儀なく、多数の揚陸艇(ようりくてい)で侵略活動を開始した。
初めは地球側も、最新鋭の兵器導入により、戦力は拮抗していた。
しかし、アースガルズ側による侵略生体兵器、
通常兵器ではまるで歯が立たないグランドウォーリアに、地球側はなす術がなく、僅か3日で、全世界の主要な都市を制圧されてしまう。
そこで、アースガルズは地球人へこう言った。
時の巫女と、黄金の力を有するグルヴェイグの器を引き渡せ。と――
そして現在――朽歴1年。
『こちら
『
『Yes, sir!』
そこは、ビル等が無数に生えている都会。
しかし、そこには都会ならではの、活気に満ち溢れた騒音や、人々の生活感というものは微塵(みじん)もない。
かつて都会であったその場所は、今では至るところから草木が伸び、さらには野生動物までも、堂々とその場を闊歩し、独自の生態系を構築していた。
『こちらc!
『どうしたc?』
ーーー20分後。
今にも崩れ落ちてしまいそうなほど、絶妙なバランスで支え合っている2本のビルの下を、3台の装甲車が猛スピードで突き進む。
『こちら
「こちらΔ、これよりポイント05から06へ移動します」
『了解した。Δ、先ほどからcとの連絡が途絶している。ポイント06で接敵(せってき)報告を受けたのが最後だ。実力者揃いのc隊に何があったかは不明だが、c隊が壊滅してる状況であれば、間違いなく
「分かっています。くれぐれもα隊……十朱大佐の到着なしに実戦は行いません。俺たちは、あくまで後方支援を」
耳に掛けられるほど小さな通信機。そこから聞こえてくる相手の声から、表情まで分からぬものの、緊迫した様子が伝わってきていた。
しかし……。
『分かってるならいい。今回の目的は、あくまでも時の巫女の奪還だ。無駄な戦闘は避けろ。分かってるとは思うが、少しでも危険と分かったら――』
「即時後方まで退却、十朱大佐と合流ですよね? 大丈夫です。分かっています」
彼の顔は、恐怖に怖気付いた様子でもなく、ただただ嬉しそうに微笑んでいるだけだった。
『……そのとおりだ。雨音(あまね)軍曹、お前はもっと緊張感をだな』
武骨な装甲車が凹凸(おうとつ)とした地面を走るたび、雨音の茶色の髪を揺らす。
「失礼しました。初実戦ということもあり、浮かれていたのかもしれません」
『まあいい。学園での戦闘技術、戦術頭脳ともにトップクラスのお前ならば、誤った判断はしないだろう。しかし、ここは学園ではない。戦場だ。何があるか分からない。くれぐれも気を付けろよ』
「Yes, sir」
通信を終了し、青年、雨音(あまね)海斗(かいと)は軽くため息を吐いた。
Δ隊。海斗はその指揮系統を担わされている。本来ならば、
しかし、時は一刻を争う状況であり、遥か後方にいる、十朱率いるα隊とは合流はせずに、そのまま進行する流れになっていた。
その為、十朱が心配するのも納得がいく海斗だが。
(十朱大佐が心配するのも分かるけど、少しは信用して欲しいな。今回は奪還作戦。成功すれば、大きな手柄になるだろう。絶対に成功してみせる。でも1つ気掛かりなのは……)
「相変わらず心配症ですね! 十朱大佐は」
海斗の横から、華やかな声で言ったのは、同じ隊の皇(すめらぎ)栞菜(かんな)であった。
金髪碧眼(きんぱつへきがん)の美少女だが、少し口うるさい奴だと海斗は思っている。
「仕方ないさ。本来、b隊が俺たちの指揮系統を担うはずが、って……栞菜も初実戦だったな。てか、なんでお前も戦場に来たんだよ。学校でのほほんとやってるのが生きがいのお前が」
「誰が生きがいですか! そんなこと生きがいにした覚えはありません! 海斗くん……あっ、隊長のお守りをしようとですねぇ」
頬を赤らめながら、指をもじもじとさせている皇(すめらぎ)に?マークを浮かべる海斗。
「夫婦喧嘩は済んだかぁ?」
「白羽くん!」
ニヤニヤマジマジと海斗と皇を見て茶化すのは白羽(しらはね)朝陽(あさひ)。オレンジ色の髪でツンツン頭。
学園ではツン太くんと呼ばれる事があるが、彼はそれを嫌う。
「茶化すな朝陽(あさひ)」
「へへっついな」
頭を手でわしゃわしゃと掻き、少し反省する白羽に怒りをぶつける者が1人。
「っるせぇぞツンツン頭! 兄貴を侮辱していいのは俺だけだ!」
角刈り坊主頭のイカツイ顔をして怒鳴るのは田辺(たなべ)猿高(さるたか)。学園では猿と呼ばれるが、彼もそれを嫌う。
「なんだとこの猿ぅ〜!」
「黙れツンツン〜!」
「2人ともよしなよ! もう戦場なんだからさ!」
ついに掴みかかった2人へ、仲裁に入ったのは清水(しみず)涼(りょう)。スポーツ選手のようなガタイの良さを持っている。
彼はそのガタイの良さもあってか、周りの隊員達から頼りにされている。
「皆、少し静かに」
海斗がそう言うと、隣の車両から通信が入った。
『カイト、ここからポイント06だ。作戦通り、通信を開始する』
「分かった。サイハ。確認なんだけど、君が思うに、時の巫女と斑鳩(いかるが)少尉の部隊はどの辺に居ると思う?」
『……空にいるドローンで情報は入らネェが、恐らくポイント06の北側、デカい建物の中かな。周囲は山で、正面だけ守ればいいから守りやすい。少なくとも、俺だったらそこにする。無論、あの斑鳩(いかるが)少尉ならそうするだろ』
海斗がもっとも隊の中で信頼する人物こそ、今現在通信しているサイハだ。
学園の中でもトップの戦術技能の成績を誇る、海斗の隊での軍師のような存在だ。
サイハの指定した地帯が、海斗たちが装着している小型のコンタクトレンズ、特殊装具(ガジェット)にマッピングされていく。
周辺地域の事細かな情報が、視界に流れ込んでくる。
ここで海斗は、1つ気になった事を口にした。
「なるほど……確かに守りやすいな。斑鳩少尉なら確実にそこにいるだろうな。ところでサイハ、c隊の通信途絶の件と、b隊の動き、大量の通信機器を持って行ってさ。何か関係があると思うか? あと、ポイント06についたら何かしらΔ隊で通信をしろって」
『あァ、それは俺も気になっていた。ポイント04当たりでb隊とは別行動。加えて、b隊はわざと通信機器を切ってやがる。もしかしたら、何かに気付いたのかもな。あの隊長さんは』
「何に気付いたんだろうな?」
『それは――』
ザッという音と共に、突然、サイハとの通信が途切れた。
それだけではない。装甲車のエンジン機能までもが停止したのだ。
徐々にスピードが落ちていく装甲車。
「何があったララ」
海斗は装甲車の運転席に行き、語りかける。しかし、運転席は空席だ。
よって、海斗のこの行動は、何も知らない者からすれば変質者だ。
だが、そうでもない。
なぜなら、この装甲車は運転する必要がないからだ。
AIとリンクしているこの装甲車は、目的地をマッピングした情報さえ読み込めば、後は勝手にAIが運転してくれる。
「ごめーん海斗! 何か強力なジャミング波のせいで電力エンジンが停止したっぽい! これ、c隊の時と同じ状況だよ!」
海斗の視界――特殊装具(ガジェット)に映し出されたのはツインテールの美少女だ。
可愛いらしい、フリフリがついたメイド服を着用している。
彼女はAIだ。ガジェットか、モニター越しでしか視認はできない。
「なるほど、そういうことか」
海斗が気掛かりにしていた事、それは、b隊が動かざるを得なかった、何かしらのイレギュラーな存在である。
(c隊が通信途絶した件と、b隊の動き……何か関係があるとおもったけど、当たりみたいだ。ポイント06に入って通信をした後のこの状況。どうやら俺たちΔ隊は、囮りとして使われたみたいだな。だが、本来の目的は変わらない。時の巫女をいち早く奪還しないと)
「ララ、この装甲車、ガソリンでも動くか?」
「動くはず! でも!」
「でも?」
「奴等がきた! 外に出て! 迎撃システムも稼働できない! 早く!」
突然、装甲車の警報機能が作動した。けたたましい大音量のアラームが鳴り響く。
「くそっ! 全員、急いで車外に――なっ!?」
海斗の視界が揺らぐ。
何かに取り付かれた衝撃が来た後に、ギシギシと、金属が軋む不協和音が発せられる。
「な、なんだ! 装甲車を持ち上げてんのか!?」
「も、ももももち、おちつけ落ち着け! 白羽!」
「うるせえ! お前が落ち着け田辺!」
「全員! 何かに捕まるんだ!」
海斗がそう言った瞬間。車内の全員が、フワッと、宙に浮いた感覚に包まれる。
2〜3回転ほど宙で舞い、装甲車は凄まじい衝撃と共に地面へと叩きつけられた。
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