緑谷出久はウルトラマンと出会う。 (魔女っ子アルト姫)
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開幕のベル

何がどうしてこうなったのか分からない、どうしてこうなっているのか理解出来ないまま、私は友人と思われる男に手に貸されながら崩れ落ちてしまった身体を起こす、そんな私へ心配そうに言葉を送ってきている。

 

「あっえっ……?」

「大丈夫かいマグナ!?さあっ確り……大丈夫だ、僕が付いてる」

 

何処か辛そうな声を漏らしながら必死に自分の言葉を止めに掛かっている、如何やら今の私は相当危険な状態にあるらしい。というか友人の表情が一切変化していない……というか周りが凄い眩しい事に漸く気付く事が出来た。周囲はまるでエメラルドの塊で出来たような輝きを放つ建造物ばかりで道行く人々も常識を超えている。

 

赤い身体に鎧のような物を身に着けている者、銀色のラインや模様が赤い身体を走っている者、それらとは別に青い身体が何処か美しい者、そして友人と思われる人物もそれらに該当し自分は彼の事を知っていると思われる。そう彼の名前は―――

 

「ネ、ネオス私は……」

「今はゆっくり休もうマグナ、今回の任務は本当にハードだったものね。君の疲労も当然だ、さあもう少しで君の家だ。そこまでは肩を貸すよ」

 

ウルトラマンネオス……そして私はウルトラマンマグナ、と言うらしい……。

 

 

「お、落ち着こう現状を整理しよう……」

 

自宅と思われる家まで友人(ネオス)が送ってくれたというか、困惑を疲労と勘違いしたのか自室の椅子まで同行し座らされたところで何とかネオスを帰す事に成功した。如何やら一人になりたいと解釈をしてくれたらしく暫くは家で確りと休めと忠告した上で帰っていった。兎も角椅子に深く身体を委ねながらゆっくりと記憶を掘り返してみる事にする―――。

 

自分自身の名前はよく覚えているが、それよりもマグナという名が酷くしっくり来ている。それは今の身体の名前だからだろうか、いや違う、それが今世の名前だからだろう。そう、自分は一度人生を終えた後にこうやって生きている。M78星雲・光の国の住人であるウルトラマンマグナとして生きている、そして任務中に受けたショックによって前世の記憶が呼び起こされた……という事になるのだろう。

 

「しかしまさかネオスが友だとは……ネオスと言えば勇士司令部に所属する超が付くエリートじゃないか……」

 

宇宙の平和を守るべく作られたウルトラ戦士の組織、それが宇宙警備隊。その中でも宇宙警備隊中のエリート部隊とされるのが勇士司令部、そしてそこに所属する戦士こそが彼の友人であるウルトラマンネオスなのである。どこか別の場所で聞いたような名前な気もするが気にしないでおこう。

 

「そして私も……勇士司令部所属のエリートウルトラマンか……実感がない……!!」

 

ウルトラマンマグナ。元文明監視員という経歴を持ちその実力はあの最強最速のウルトラマンマックスにも引けを取らない所か、純粋な身体能力格闘戦に限ってはマックスを上回り、その肉体を駆使した戦いで様々なウルトラマンから尊敬を集める……と言うらしいが前世の記憶を取り戻した影響かその辺りの記憶が全くなく実感がない

 

「―――なんて思っていた時期が私にもありました」

「マグナ先生如何したんすか急に!?」

「いいや何でもないさゼット君、さあ続きだ。君もゼロ君に弟子として認められる為にはもっと頑張らないとね」

「オッス!!」

 

と思っていたのも僅かな間であった。前世その者がウルトラシリーズマニア且つ運動を良くするタイプだった為か、ネオスに組み手をお願いされ付き合うと身体に染みついた経験が反応しマグナとしての力を直ぐに出せるようになっていた。それに安心しつつも光の国の言語が分かるかどうか不安だったりと様々な窮地があったりしたが何とか突破し、今を過ごしている。そして今は―――勇士司令部の司令の孫に当たるウルトラマンゼロから一時的に自称弟子を預かっている所である。

 

「という訳だ、此処まではいいかいゼット君」

「はい勿論です!!いやぁ流石マグナ先生、80先生みたいにウルトラ分かりやすいです!」

「流石に彼と比べられてしまうと困るな……というか照れるな」

 

目の前の若者に対して怪獣の対処法や宇宙人に対する知識を自分なりに噛み砕いて教えているマグナ、そんな教えを絶賛しながら嘗て地球で中学生の先生をしていた80と重ねる自称弟子のウルトラマンゼットはご満悦であった。ゼロが緊急の用件で出動してしまう現場に偶然居合わせたマグナに半ば強引に預けられたゼット、そんなゼットに対してマグナは少々困りつつも取り敢えず師匠代理としての役目を果たしていた。

 

「さてと詰め込み過ぎも良くない、今日はこの辺りにしておこうか」

「今日も授業有難う御座いました!流石勇士司令部所属のウルトラエリート、ゼロ師匠と違って優しいのに俺に合わせて貰えるし、分かるまで親切に面倒見て貰えてウルトラ嬉しいです!!」

 

素直に頭を下げて感謝を言葉にしてくれるのは嬉しいのだが……如何にも……。

 

「それは光栄だけど……ゼット君宿題だ。地球には口は禍の元という言葉がある、その意味を考える事だ」

「へっ?」

「―――誰と違ってだって……?」

 

突然の宿題に頭が真っ白になるゼット、何故突然そんな言葉の意味を考えなければならないのかと首を傾げていると背後から聞こえてきたドスの利いた声に身体を震わせてしまった。まるで駆動系に致命傷を受けたロボット怪獣のような動作で振り返ってみると……そこには丁度任務を終えて帰って来たと思われるゼロがそこにいた。ウルトラマン故に表情の変化はないが……恐らく青筋が浮き上がっている事だろう。

 

「しっ師匠!!?い、何時お帰りに!!?」

「丁度今だよ……それで、お前……何つった……?」

「これは―――ウルトラやってしまったぁぁぁっっ……!!」

 

遠回しにゼロは優しくない上に合わせてくれず面倒も見てくれない不親切だと言っているような物だった。流石のゼロもそんな事を言われてしまったら怒るのも当然だろう、そもそもゼロはゼットの弟子入りを認める訳でもない上に一方的に弟子を自称されている身。それでもそれなりに相手をしてやっているだけ優しい方とも言えるだろう。そんなゼロにそんな事を聞かれたら怒るに決まっている。

 

「悪いなマグナ、こいつの世話を押し付けちまって」

「大した事はしていないよ、面白い子に好かれたねゼロ君」

「付き纏われてるみてぇなもんだ……ったく」

 

怒り混じりの悪態だが、何処か照れも混じっている。うっとおしそうにしていても何処か内心では自分を慕い敬意を込めて接してくれる相手がいる事に対して喜びを覚えているのかもしれない。

 

「あっと忘れるとこだったぜ。ゾフィー隊長がアンタを呼んでたぜ、何でも特別な任務を与えるらしいぜ」

「了解した、それでは私はこれから其方へ行こう。それではゼット君また何時か」

「はっはい!!有難う御座いました!!」

「ゼロ君もまた」

「おう」

 

―――デュォ!!

 

声を上げて飛び上がり、宇宙警備隊隊長であるゾフィーの元へと向かう、そしてそこで命じられたのは―――地球に向かって欲しいという事だった。しかもただの地球へという訳ではない。

 

「別の次元の地球へですか」

「その地球では地球人に進化が起こり様々な特殊能力を開花させるという報告が上がってきている。そこで元文明監視員であり勇士司令部にも所属する君にその地球の詳細な調査任務を頼みたい。頼めるかな、マグナ」

「私などで良ければ喜んで」

 

その任務が全ての始まりだった。別次元の地球への派遣、マグナはウルトラマンとして立派にそれを果たすという志の元でその地球へと向かう事になった。ゼロの力を借りる事でその次元へと到達しその地球へと到達した時―――事故に遭いそうになった少年を救った、のだが……その少年の名前は緑谷 出久。新たな次元、新たな世界でウルトラマンマグナは世界をどう見るのか、これは一人のヒーローを目指す少年と前世で憧れたウルトラマンとなった者が織りなす物語である。




ネオスは作中にてダークマターの影響でアンバランス現象と呼ばれる事が起きておりネオスはその調査の為に別次元の地球に派遣されている、設定的な共通点として友人枠で登場していただきました。

そしてそれを活かす為にネオスと同じ勇士司令部所属ウルトラマンという事にしました。文明監視員だと介入などがしにくいと判断した為です。


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二人の始まり

宇宙に浮かぶ青く美しい星、太陽系第三惑星地球。青い星はM78星雲・光の国では伝説となっているウルトラ兄弟たちを始めとした多くのウルトラマンたちによって守られてきた、守るに値する星であると。そんな戦士達が活躍した地球とは全く異なる次元にある地球、そんな別次元の地球へとやって来たウルトラマンマグナは青々とした美しい地球を見つめなら複雑な嬉しさの渦中にあった。

 

「これが、地球……何だろうこの胸に沸き上がる不思議な思いは……感動と喜びがあるというのに別の思いが……」

 

前世の中では映像ではある青い母なる大地を見た事は何度もあった、だがこうして宇宙空間から直接それを見つめるという経験は初めての事。マグナとして任務に出向きそれなりの数の星々を見た事はある、地球よりも美しい星を見た事もあるのに……胸には複雑な思いが沸き上がってきている。帰って来たという思いを理性が違うと叫んでいるのに違う、自分はもう地球人ではない。光の星のウルトラマンなのだと。分かっているのにどうにも複雑な思いを浮かべずにはいられないらしい。

 

「……儘ならんな」

 

様々な思いが交錯する中でマグナは気を取り直してゾフィーから託された任務を果たす事にした。そしてそこで全く別の進化を遂げた地球人たちの姿を見る事になった。そこにはあったのは―――大きな角を持つ、透明な身体を持つ、翼を持つ、動物の特性を宿すといった様々な力を宿している人間たちの姿であった。確かにこれは全く別の光景だと言わざるを得ない、自分達宇宙人に近い容姿をした存在もいる。

 

「しかしこれは凄いな……」

 

地球にも人種、文化、肌の色などによる個性差は有ったが、それを上回る差異でありながら人々は何の疑問にも思わず共に生活しているその姿に圧倒されていた。前世にあった人種差別の形は目立っていない、いやそこに至るまではきっと壮絶な戦いがあった事だろうがそれを乗り越えた末に今と言う現実があるのだろう、これはレポートの書き甲斐があるなと周囲を見回しているとそこで思わず彼は見た。

 

「―――っ!!」

 

そこにあったのは何やら暴れている怪物と戦っていると思われる人々の余波で起きた瓦礫、それが小さな少女を押し潰さんとしていた。それを一人の緑色のもじゃもじゃした髪形の少年がその子のために我が身を顧みる事も無く、何の躊躇も無く身を投げ出したのだ。その時マグナはその少年から溢れんばかりの輝きを目にした、瓦礫は容赦もなく少年の身体を押し潰し、少年を瀕死の重体にしたのにも拘らず少年は少女が助かった事を確認すると穏やかな笑みを浮かべたまま意識を手放してしまったのだ。

 

「……何て気高くも輝かしい、そして優しい心を持った子なんだ……よし」

 

マグナはある事を決意すると光の粒子へと変貌して瓦礫へと押し潰された少年へと一直線に向かって行った。光は少年の身体へと到達すると―――瓦礫に押し潰されてしまった少年の身体を一瞬に完治させてしまった。暫くした後に少年は目を覚ますのだが……瓦礫によって傷は外から見えなかった為か、少年は運よく瓦礫を避けつつも女の子を助けたとして周囲から褒められ、ヒーロー達からは謝罪を受けるのだが……瓦礫によって身体を押し潰された感覚が残っている身としては何が起こっているのか、全く分からず呆然としたままその場を去るのであった。

 

 

「一体、如何して……だって僕はあの時……」

 

自室の椅子に腰掛けつつも放心状態となりながらも今日起きた事を振り返っている少年―――緑谷 出久は改めて自分の身体に目をやる。そこには傷一つなく健康な状態の自分の姿がある。だがそれは明らかにおかしい事だ、瓦礫が肉を裂き骨を潰した激痛も鮮明に覚えているのに……訳も分からない漠然とした恐怖感が自分を覆い尽くしていた。

 

「もしかしたら個性が……いやある訳ないか、だってお医者さんに言われたし……はぁっ折角プロヒーローに褒められてヒーロー向きだって言われたのに……」

 

そんな暗い暗い独り言を呟いてしまった時、その言葉に疑問を抱いたのかような声が脳裏に響いてきたのである。

 

『私は君は十二分にヒーローだと思うよ、君は人一人の命を救った。それは胸を張っていい事なんだ、尊い人の命を迷う事も無く救うのは偉大な事だ』

「そう言って貰えるのは嬉しいですけど僕はヒーローにはなれませんよ……だって無個性だし……」

『無個性、先程も聞いたが個性とは何なんだ?それぞれの特徴などの事を指す言葉ではないように聞こえるが……』

「いえそう言った意味の個性じゃなくて……ってえっ?」

 

余りにも自然な問いかけるような声だったので受け答えをしてしまったが一体この声は何処から聞こえてくるのか、周囲を見回してみても自分の部屋が広がっているだけで一緒に暮らしている母がいる訳でもなく誰もいない。だが確かに会話を行っていた、それではこの声は一体何なのか!?と思っていると申し訳なさそうに謝罪する声が聞こえてくる。

 

『そうか突然申し訳ない、私は君の心に直接問いかけているんだ。君達に通じやすく言えばテレパシーと言えば分かるかな』

「テ、テレパシー!?もしかしてそう言う個性で僕に話しかけているんですか!?」

『いやそういう訳ではないのだが……そうだな、一つ一つすり合わせを行いながら話をするのが良いだろうな』

 

突然の事に驚くがその声が余りにも冷静で温和で優しそうな声だった故か、出久は少しずつだが冷静さを取り戻していく。深呼吸をすると声も大丈夫かな、と同意を求めてきたので大丈夫だと返すと会話が始まった。

 

「え、えっとそれじゃあ貴方は一体誰で何処にいるんですか!?」

『私がいるのは君の中さ、そうだな……瓦礫に押し潰されてしまった君の身体を治した存在と言えばいいかな』

「えっ……ぼっ僕の身体を!!?」

『良かれと思って君の身体を治療したのだが、如何やら不信感と恐怖を与えてしまったようだね。本当に申し訳なかった、だがあのままだと君は5分もせずに死んでいたんだ、君を助ける為だと思って貰えると有難い』

「いやいやいや!!!それじゃあ逆に僕は命を救われたって事じゃないか!?って僕の身体の中ぁ!!?」

『そう、今私は君と一体化しているのさ』

 

思わず胸に触れて困惑している出久、そんな彼に対して声は話をするならば顔を確りと合わせた上でした方がいいよねっと出久の目の前に姿を現した。銀色の身体には炎のような赤いラインが走りながらも胸にはプロテクターのような鎧とその中心に輝く青い光を放つ装置のような物があった。そして何処か優し気な雰囲気を纏った半透明のホログラムのような形で声は姿を現した。

 

『改めまして……初めまして、私はM78星雲・光の国からやって来たウルトラマンマグナという者だ』

「えっM78星雲って……まさか宇宙人って事ですかもしかしてぇ!?」

『君たち地球人が分かりやすく言えばそうなるだろうね、それで良ければ君の名前も聞かせて貰えないだろうか』

「あっえっと……み、緑谷 出久です!!」

『緑谷 出久君か、良い名前だね』

 

余りにも突然すぎる事に出久は腰が抜けそうになっていた。今の世の中は超人社会という超常的な現象が定着してしまっているが、まさか宇宙人なんてそれを遥かに超えるような出来事と遭遇する事になるなんて思ってもみなかったからである。

 

「宇宙人だなんて、ええっ!!?あ、あのもっとお話を聞かせて貰っても良いですか!!?」

『勿論さ、だがその代わりと言っては何だがこの地球の事や先程の個性などについても教えてもらえないだろうか』

「勿論です!!」

 

こうしてウルトラマンマグナは嘗てのウルトラ戦士たちがそうだったように一人の地球人の少年、緑谷 出久と一体化しながら地球の調査をする事となった。そしてそれは―――新たなヒーローの誕生を祝う日でもあった。



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光が見せた夢

『成程……如何やら地球人と言うのは随分な力を手に入れたらしいな、いや確かに道理だろう。突然手に入れた力、それによる混乱は必定と言える。いや……我々光の国が異常とも言えるだろうな。済まないな出久君、君の説明で良く分かった』

「いっいえ、此方こそなんか、分かりにくい説明ですいませんでした!!」

 

緑谷 出久は瀕死の重傷から救ってくれた存在、光の国からやって来たというウルトラマンマグナに対して先ず今の地球の事の説明を行った。マグナは互いに一つずつ質問をする事を提案するのだが、出久としては命の恩人を優先したかったのもあるが宇宙から来た生命体、しかも別次元の宇宙からやって来たというウルトラマンの話を聞いてはきっと気になってまともな話を出来ないと思ってそちらを優先した。

 

『しかしヒーローと言うのは所謂称号だと捉えていたのだが……この世界だと随分と違うのだな、寧ろ職業、少々複雑だな。それでは名声や富を目的としたヒーローも多くいるという事だろう……流石に我々のようにはならんという事か……』

「あ、あのマグナさん……?」

『ああ済まない、少々考え事をしてしまっていた。いや個性やヒーローと言った物は良く分かった、それでは次は君の質問の番だ。幾らでも気が済むまま聞いてくれて構わないよ』

 

柔らかな優し気な声、それだけでマグナが酷く人格者である事が理解出来る。最早聖人なのではないだろうかと錯覚すら覚える、兎も角出久は色々と聞きたい事を全てぶつけてみる事にした。

 

「それじゃあまず……まずマグナさんってどれ位の年齢なんですか?僕は大人って事位しか思ってないんですが……」

『私の歳か、大体9000歳位かな』

「9000歳!!!?」

 

大声を張り上げながら出久は腰を抜かしてしまった。9000年前と言えば地球で言えば縄文時代あたりだろうか……そんな遥か昔から生きているとんでもない人が自分の命を救ってくれたのか!?と驚く中でマグナは落ち着くように促しながら次の事を話していく。

 

『我々ウルトラ一族は万年単位で生きていく種族だからね、地球人として換算をするとそうだな……26~27歳位になるのかな』

「そ、そうなんですか……それでえっとさっき軽く聞きましたけどマグナさんは宇宙警備隊っていう組織のメンバーで別の次元の宇宙からこっちにやって来たって事なんですよね、でもどうして……?」

『うむ。元居た次元でも地球は存在しているのだが、既に地球人は宇宙へと飛び出しており様々な星へ活動範囲を拡大させているんだ』

「うわぁっ凄いSFみたいなことが現実になってるんですね!!」

 

だが此方側では起こっていない、別の次元故に流れなども違う事も考えられるのでその辺りは問題ないのだが……この地球には個性という超常的な特殊能力を地球人は宿している。そんな地球の調査を行う為に派遣されたのが元々文明監視員として活躍をしていたエリートのマグナという事になる、そして地球へとやって来た際にまず日本へと訪れた際に出会ったのが出久という事になる。

 

『私たちウルトラマンは相手と一体化する事で傷を癒す力を持つ、今回はそれを君の身体を癒す為に使用という訳さ』

「そ、そんな……じゃあ僕はマグナさんのお仕事の邪魔をしたって事になるんじゃ……」

 

話を聞いているだけでもマグナがかなり重要な仕事をしている事は分かる、ウルトラマンの事はまだあまり理解出来ないが相当な力を持ちながら善の心を持っている星に住む人々全てがヒーローのようなものだと出久は解釈をしている。そんな存在の邪魔をしたと彼は自己嫌悪しかけるのだが……それをマグナは笑って気にしないで欲しいと言った。

 

『何心配する事はないさ、それに私の仕事はこの状態でも十二分に出来るさ。済まないが時々で構わないから身体を貸して貰えると有難い』

「あの、どうして僕だったんでしょうか……?」

『んっ?』

「マグナさんの話を聞いているとその、大怪我をしていなくても誰かと一体化する事自体は出来るように思えるんですが……」

『可能ではあるね』

 

それなら如何してプロヒーローに一体化しなかったのかと出久は聞きたい、無個性で何も出来ず周囲からは無個性なのにヒーローになりたがると馬鹿にされているヒーローオタクでしかない自分なんかと同化する事はなかったんじゃないかと。だがそれを言えば自分を助けてくれた人に対する侮辱に当たってしまう、故に言葉を作れなかった。そんな気持ちを察したのか目線を合わせながら肩に手を置いた。暖かな感触に顔を上げるとそこには真っ直ぐ此方を見据えてくるマグナが居た。

 

『出久君、君はヒーローになりたいと言っていたね。だけど自分は無個性だから無理だとも言っていた、だが私はそうは思わない。何故ならば―――君はあそこで誰よりもヒーローであったからだ』

「僕が……ヒーロー……?」

『ああっ私からしたら君は立派なヒーローだ』

 

その言葉は今まで出久が掛けられた事も無いような物だった、慰めは諦めを促す言葉ばかりを浴びてきた彼にとって憧れを肯定しただけではなく紛れもないヒーローだと断言したその言葉がどれほどに嬉しく有難いものだったのかは測り知れない事だろう。思わず瞳から一筋の涙が流れ落ちていくがマグナはそのまま言葉を続けていく。

 

『君はあの時、女の子を守りたいと思う心に突き動かされて少女を救った。躊躇も迷う事も無く、そんな事を出来るのは君がヒーローだからだ。それに―――君は夢を簡単に諦めてしまうのかい、君の想う夢なんてその程度なのかい』

「―――っ……!!」

『君の人生の主人公は君だ、全ての決断は君が行うんだ。そこに他人の意志など介在する隙間などない、君の人生は他人にどうこう言われて直ぐに道を曲げてしまう程に安いものなのか』

「そんな事、ありません……僕は、僕は―――ヒーローになりたい、だって―――!!」

 

―――もう大丈夫、何故って?私が来た!!

 

ヒーローを志すオリジン、史上最高のヒーロー・オールマイト。その動画を見て自分はヒーローに憧れた、例え無個性だと言われてもその夢が色褪せる事なんてなかった、その思いは今も変わらずに在り続けている。そして今決意を固めた、もう迷う事なんてしない、誰になんて言われようが自分はヒーローになってやるんだ!!と決意に溢れる瞳でマグナを見つめ返すと彼は満足気に頷いた。

 

『良い目をするじゃないか、なら協力するよ。君が一人前のヒーローとなる時まで私は君とあろう、そして―――私は君を導く光となろう』

「マグナさん……僕頑張ります!!」

 

緑谷 出久、中学1年生の出来事だった。光の国からやって来た超人、ウルトラマンマグナと一つとなった彼の本当の意味でのヒーローを目指す日々が始まろうとしていた。




マグナの年齢は力の賢者ことウルトラマンタイタスと同じ位。ネオスとは100歳差。


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今の出久の力

『さて今日は休日だというのは酷く幸運だったね、これなら今の君の状態も良く分かる事だろう』

「あのマグナさん、これから何をするんですか?」

『何簡単な事だよ出久君、これからヒーローを目指す君のお手伝いさ』

 

光の巨人、ウルトラマンマグナに命を救われた翌日は運が良い事に土曜日だったので動きやすい服装に着替えて人目に付かない広い場所に行って欲しいという要望を言われた出久はそれに従ってALL Mという独特なTシャツにジーンズを履くとゴミだらけの海浜公園へとやっていた。出来る事ならば標的に出来るようなものもあると好ましいと言われたので此処にやって来た。

 

『随分とお誂え向きな所があった物だね、しかしけしからん。ゴミは所定の場所に捨てるのがルールだろうに……全く』

「此処は海流的な問題もあって良くゴミが流れ着くみたいなんです、そこに託けて不法投棄をしちゃってる人も多いみたいで」

『やれやれ、まあそれについての事は後にしておくとしようか』

 

出久は内心でこれで地球人に対する心証が悪くなってしまったのではないかとやや不安になるのだが、マグナはそんな事は何処かに置いておきながら話を進める事にした。

 

『今現在君と私は一体化している、その関係で君の身体能力などはある程度引き上げられていると思われる』

「ほっ本当ですか!?」

『私は嘘は言わないさ、冗談は言うがね。そうだね……じゃああのテレビを持ち上げてみなさい、出来ないなら無理に持ち上げなくてもいいよ』

「あ、あれをですか!?」

 

声が示した先にあったのは旧型の大型テレビ、様々な機材が一体化しているこのタイプならば軽く20キロは越えている事だろう。自分なら持ち上げる事は出来るだろうがそこまで持ち上げられないと断言出来る、だが不思議とチャレンジしてみようという気持ちが沸き上がって来た。出来ないなら出来なくてもいいよっという言葉があるからか気軽に挑戦する気概を持つ事が出来た。大きく屈みながら折角やるなら思いっきりと思いながら腰を入れて臨む。

 

「それじゃあ……いっせぇの、せぇぇぇぇっっ!!!?」

 

思いっきり気合を入れて全力で持ち上げてみる、きっと無理だろうと思っての破れかぶれだったのにも拘らずテレビは一体化している台ごと持ち上がってしまった。予想外の事にバランスを崩して尻もちをついてしまうがテレビは楽々と保持出来たままであった。

 

「も、持てちゃった……!?」

『ふむっこの程度ならば問題も無くすんなりと持ち上げられると……よし出久君、次は全速力で走ってみようか』

「えっあっあのマグナさんこれって!!?」

『言っただろう、私と一体化している故に君の身体能力は底上げされている。恐らくだが私の力の大きさも影響しているんだろう、自慢出来る立場ではないがこれでも一応エリート部署に所属してた身だからね』

 

茶目っ気タップリに語っているが昨日夜遅くまで聞いていた話を思うと紛れもないトップエリート、そんなウルトラマンと一体化しているだろう出久の力は何倍にも底上げされていたのであった。試しに全力で走ってみると100mを7秒ほどで走り切れる程瞬足、ジャンプすれば9~10メートルは当たり前というとんでもない事になっていたのである。

 

「個性も無しでこんな力が……」

『そしてこの力はまだまだ伸びるぞ、こういう言い方は卑怯かもしれないが……出久君はヒーローを目指すと言っていながら諦めてただろう、身体を全然鍛えていなかった』

「そ、そうです……」

『何これから努力すればいいのさ、それに無個性だなんだと言われてもこれで多少なりとも言い訳が付くだろう。遠慮なく私の影響を使いたまえ』

 

明るく笑うように自分の暗さを吹き飛ばす恩人に思わず胸を撫でおろす、確かにこれならば無個性だからヒーローは諦めろなんて言わせないし堂々とヒーローを目指せるというもの。少しばかり卑怯な気もしない事も無いが……それよりも今あるこの力を高める為に頑張らなければならないと心に誓うのである。とその最中でマグナが何やら考え事をしているのが分かった。

 

『フム……これなら、成程な……』

「あのマグナさんどうかしました?」

『いや如何やら君と私の相性は思いの外高いらしい、これなら光線も使えるかもしれないな』

「光線って……もしかしてビームって奴ですか!?」

『そんな呼び方もあるね、少しばかり身体を借りてもいいかね?』

「はいどうぞ!!」

 

興奮気味になっている出久の許可を得てマグナは出久の身体の主導権を一時的に得る、瞳の色が僅かばかりに青白く変じると雰囲気が一気に変貌する。何処か落ち着きのなさと弱弱しさが一気になくなり冷静沈着な大人な男のような瞳をした出久の姿がそこにある。そこで身体を振るってみると成程……ほうっこれは……と何かを試すようなことをした後に不法投棄されているドラム缶と向き直った。

 

「さて出久君、我々ウルトラマンは様々な技を会得している。その中でも我々の象徴と言っても過言でもない物が―――光線技だ」

『凄いやっぱりウルトラマンって凄いんですね!!プロヒーローにも光線とか撃てるヒーローもいる事は居ますけど話を聞いてると凄い話だぁ!!だって象徴とか必殺技って事は凄い威力とか性質を持ってるって事なんでしょう!?』

「フフフッ期待に応えられるようなものを出せるように努力しよう」

 

顎に手を当てながら微笑む出久(マグナ)、そこまで期待されてしまうとやる身としても力が入ってくる。マグナとしてだった時には色々と苦労したが、ネオスとの組手や任務などをこなしていく内に完璧に出来るようになっていった光線技。それは高いレベルでシンクロ出来ている出久の身体でも恐らく出来る事だろう。心を落ち着けると右手にマイナス、左手にプラスのエネルギーを集積させる。そしてそれらが高まるのを感じるとそれらを左手が前、右手が後ろになるようにさせながら交差させる事でスパークさせ―――

 

「シェアッ!!!」

 

青白く輝く光線が発射された。ジェットエンジンのような音を立てながら光線は寸分違わずドラム缶へと命中すると一瞬で爆発しドラム缶は海へと吹っ飛んでいってしまった。それを見つめていた出久は唖然としながらも感動と驚きの嵐の渦中へとあった。

 

『す、凄い……凄いですよマグナさん!!あれがマグナさんの必殺技なんですね!?なんていう名前なんですか是非教えてくださいいやというかもしかして僕でも今のは撃てるんでしょうか!!?』

「落ち着きなさい出久君、今のは確かに私の使える光線技だがあれは基本中の基本の光線だよ」

『今の威力でですか!!?』

 

信じられなかった、眼前にあるドラム缶があった場所は軽くクレーターのようになっており吹き飛んだドラム缶は爆発によって内部から抉られたかのようになりつつも溶けてすらいる。あれだけの威力を誇りながら基本中の基本技と言うのだから信じられなかった。

 

「今のはスペシウム光線という訓練校で皆が習う光線だよ。今でも抑えたつもりだったが……まだ抑えないとダメだね。私のオリジナルの光線はもっと威力があるから逆に出せない」

『もっとですか!!?』

「ああ、皆あのスペシウム光線を独自にアレンジしたりして威力や様々な効力を持たせたりしているんだよ。そしてご期待通りに出久君も使える筈さ、チャレンジしてみるかい?」

『是非お願いします!!!』

 

この後出久へと主導権を返して早速スペシウム光線の練習へと入ってみるのだが……流石にいきなりで出来る訳も無く失敗続き、何とかエネルギーを溜める事は出来るようにはなったが放出する事はまだまだ先になりそうである。

 

『何事も練習あるのみだよ、これからのトレーニングに光線練習も加えてみるかい?』

「はいっ!!」

『いい返事だ。後出久君、スペシウム光線の構えは左手首が標的側、右手首が顔面側になるようにするんだ。それでは別の光線になる』

「き、気を付けます!!」




スペシウム光線。皆様ご存じウルトラマンこと、マン兄さんの必殺技……

というイメージがあるスペシウム光線だが、光の国の全ウルトラ戦士の光線技の原点であり、光の国の全ウルトラ戦士は打つ事が出来る。マグナの言葉通りウルトラ戦士はまずスペシウム光線を会得してからそれぞれの技へと発展させていく。

マン兄さんはこの基本技を徹底的に磨き上げる事で一撃必殺の光線へと昇華させている。他にもジャック兄さんやウルトラマンパワードなども極限までスペシウム光線を磨き上げていると思われる。

出久がやった逆の構えはウルトラマンゼアスのスペシュッシュラ光線になるので注意。


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繋がる二人、反発する二人。

普段の日常から鍛える事を始めた出久、初めは高すぎる身体能力に振り回される事が多かったが一月も立てばそれらをコントロールする術を見つけられていた。それだけの時間を真面目に身体を鍛えていたお陰か、重すぎる荷物に振り回される事も無く確りとした持ち方を学習したような感じだとマグナは語る。そんな日々の中でも出久が唯一上手くいっていないのが光線技の習得であった。

 

「スペシウゥゥゥッム……光線んんんん!!!!」

『……うぅむ矢張りいきなり宿った力にまだなじみ切っていないかもしれないね、何まだ先は長い。地球の言葉では確か……千里の道も一歩よりというのだったかな』

「ハァハァハァッ……はい頑張ります……!!」

 

身体の中にある光のエネルギーを蓄積させていく方面の才能はかなりの物なようで身体に力をためて能力を強化する事には成功している。だが如何やら放出する方面はまだまだ慣れないらしい、元々人間にはそんな機能がない上に無個性である事が響いているのかまだまだエネルギーの放出にすら踏み切れていない。と言っても初日の挑戦と比べると雲泥の差、日進月歩、継続は力なり。これから続けて行けば何時か出来るようにはなるだろう。

 

「やっぱり発音が違うのかいやでも今のところがこれが僕の中ではかなり力が入るし腕に溜まっているエネルギーもかなり高いって感じられる。という事は発音のベースはこれにしつつもう部分部分で改良を重ねて行く方向で行く事にしつつ……後は撃つフォームとかか!?そうだあの時のマグナさんのフォームは腰を落として重心を下げてたからその辺りも関係が……」

『君のこれにも慣れてきたな私は』

 

ヒーローマニアでもある出久はヒーローへの考察やら個性の分析などをする癖がある、それが何時しかこんな形で現れたらしい。最初は如何にも慣れなかったが流石に一月も一緒に居れば慣れてくるというもの。そんな日々の中でマグナは初めて出久に対して疑問、というよりも疑念を抱いたのか問いを投げかける事になった。そのきっかけは……

 

「おいデクッ!!テメェ未だに雄英受けるなんて戯言抜かしてんじゃねぇか、テメェみたいなクソモブはヒーローになんてぜってぇなれねぇんだよ!!」

「かっちゃん……」

『何だこの傍若無人が人間になったみたいな少年は』

 

思わずマグナが驚いてしまうような出会いだった。授業も終わった帰り際の事、それまで接点がなかったというか純粋に絡まなかっただけに留まっていたのだが、授業にてヒーロー云々を支える側も立派なヒーローだと先生が説いていた。そこで出久に無個性だろうとヒーローにはなれるんだから諦めるな!!とエールを送ってくれたのでそのつもりでヒーロー科最難関である雄英を受ける!と宣言をした為か思いっきり絡まれたのだろう。

 

「(えっと……僕の幼馴染の爆豪 勝己、かっちゃんです)」

「おいクソデク、テメェは精々普通科がお似合いなんだよ分かってんのかクソがぁ!!いやテメェ何ざは雄英に進む事すら間違いなんだよぉ!!」

『……友人は選んだ方が良いと思うけど』

 

とナチュラルな心配が飛んできて内心では頬が引き攣るような感覚がする、確かにそう言われてもしょうがないかもしれない……。幼馴染であり友達と思っているのは出久の一方的な考えだけであり爆豪からしたら単純な幼馴染なだけで完全に下に見ている。全く対等ではない。

 

「僕が何処を目指そうが自由じゃないか、何でかっちゃんが口を出すのさ」

「ハッ決まってんだろうが!!俺はこの中学初の雄英進学者になるんだからな、俺のロードにテメェみたいな奴は邪魔でしかねぇんだよ!!邪魔は今から摘んでおくだけだ!!」

『おいおいおい本当に彼はヒーローになるつもりはあるのかい?ヴィラン方面の才能はピカイチだと思うが……随分と名誉に拘るんだな』

 

短いやり取りだがマグナは爆豪の内面を大体察したつもりでいる、とてつもなく自尊心が強く攻撃的な性格なだけではなく頭が回り自分の利を追求するタイプ。こういった少年の背景には才能のあまり持て囃される事が多いが……彼もその類だろうか、だとしても流石に見逃がす事は出来ない。

 

『出久君、私が一言言うかい?』

「(……いえ僕が言います)」

 

これが出会う前の彼だったら間違いなくお願いしていたか、でなくても絶対に言い返さないで欲しいと頼む事だろう。だが今は違う、自分の夢を応援してくれるだけではなく共に歩んでくれる恩人の存在が脆く小さかった心を大きく頑丈な物へと変貌させている。出久は荷物を担ぎ上げながら真っすぐと爆豪を見据えた。

 

「かっちゃん、君は君で勝手に雄英を受ければ良いじゃないか。僕だって勝手に雄英を受けるから」

「あ"あ"んっ!!?おいクソデク、テメェ何様のつもりで言ってんだ!?」

「緑谷 出久のつもりで言ってるんだよ。僕はデクじゃない、出久(いずく)だ。それに僕はもう無個性じゃない、もう立派な力がある」

「ハッ……!?」

 

突然此奴は何を言ってるんだと爆豪だけではなくクラス全体が固まってしまった、自分が無個性である事は知れ渡っているからだろう。だが出久はやめる事はなかった。マグナに頼み一瞬だけ主導権を握って貰って光線を出して貰えるように頼む、それを快諾し筆箱から出した鉛筆を宙へと投げ―――

 

「シェアッ!」

 

声とともに腕を振るう、すると振り抜かれた腕から光の矢のような物が放たれる。それは鉛筆を両断しながら出久の手へと落ちた。その光景に皆が驚愕する中で最も驚いていたのは爆豪だった。

 

「あり得ねぇ……お前は無個性な筈だろうがぁ!!」

「最近そうじゃなくなったんだよ、僕は―――本当に嬉しかったよ、これで漸く憧れの君と同じになれたからね」

 

その瞳に見つめられて爆豪は一歩退いてしまった、そこにあったのは紛れもない嬉しさだったからだった。怒りや憤りなどではなく紛れもない喜びが……そこにあった。

 

「これで条件は五分と五分、僕は君に負けないヒーローになる。それじゃあかっちゃん……またね」

 

そう言って教室から出て行く出久、残された爆豪は愕然としながらも怒りを灯しながらも拳を力いっぱい握りしめながら―――僅かに口角を上げながら呟いた。

 

「上等じゃねぇかクソデクがぁ……!!無個性から個性持ちになろうが関係ねぇ……テメェは俺の下に変わりねぇ……お前が俺に勝てる訳ねぇんだからなぁ!!!」

 

 

『やれやれ、出久君、君は随分と変わっているな。あんな事を言われたりされたりしてきたのだろう、それなのに彼を憧れと言えるとは……』

「あの……呆れます?」

『フフフッ生憎光の国の人間と言うのは聖人気質が多くてね、嫌いじゃないよ君のような少年は』

「素直に嬉しいです」



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憧れとの邂逅

「スペシウゥゥムゥゥゥッ光線ッッッッ!!!!」

 

気迫の籠った裂帛の叫びが海岸に響き渡っていく中でクロスされた両腕、そして―――初めて聞いたそれよりも遥かに弱い音だが確かな音を立てながら出久の腕から放たれた光は明確な力となり光線となって標的に定めていたドラム缶へと向かって行った。酷く弱弱しいものだったのでまだ表面を温める程度の物でしかなかった、その程度で破壊どころか損傷すら与えてない―――だが

 

「マ、マグナさん今のは……!!!」

『ああ、紛れもないスペシウム光線だね。遂にやったね、おめでとう&ようこそ、此処からが君の本当のスタートとも言えるかもしれないね』

「いやっっっっっったぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

遂に漸く発射する事が出来た光線技のオリジン、スペシウム光線。元々個性がなく感覚的に体内にあるエネルギーを体外へと放射するという感覚を理解出来ない出久にとってそれを放出するという事は酷く難解な物であった。溜めるという感覚は手や腕に力を込めるという感覚をイメージして修得したが、放出は中々上手くいかなかった。だが苦節2年、出久が中学3年となってから漸く光線の発射に成功した。

 

「はぁぁぁっっっっ……凄い、この達成感って凄いですよマグナさん!!苦難の壁にぶつかってはやり方変えたりの連続が遂に報われたって分かった時のこの高揚感と開放感って此処まで凄まじい物なんですね!!」

『フフフッそうだね、それこそが修練や練習の醍醐味と言う物さ。いざこうして成長を実感すると中々癖になる物だよ、私も今日まで指導した甲斐があったと言う物さ、これからは光線の修練にももっと時間を割いていかないとね』

 

そんな風に爽やかな笑いを浮かべているマグナは改めて出久のスペシウム光線の成功を祝った。

 

『では出久君、スペシウム光線を出せるようになったご褒美に今日はお休みにして好きなヒーローグッズや雑誌を買いに行こう。お金はこの位で良いかな?』

 

そう言うと出久の手の中に5万円ほどが出現する。それに慣れているはずだがそれでも高額な金額に戸惑い、驚いてしまう。

 

「十分過ぎますよっというか相変わらず多くないですか!?マグナさんも2年位地球にいるんですから金銭感覚覚えましょうよ!?」

『なら余った分でお母様に対して日頃のお世話になっているお礼でもしたらいいさ、あれほど君を応援してくれているお母様に対する感謝は必要だろう』

「そ、そんな事言われたら使わない訳には行かないじゃないですかぁ……」

『ハッハッハッ気前よく使ってくれて構わないよ。これは君のお金でもあるんだからね』

 

マグナは笑い飛ばしているが実際に彼の財力はまだまだある、何故かと言われればこの地球に来る前に任務で出向いた星などで見つけた石などをブレスレットにして持って来ているのである。これらを活動資金とする為に出久に換金を依頼した際には腰を抜かされたほどだったのだが……

 

『宇宙で最も価値があるのはエネルギーを帯びた鉱石類だ。ダイヤモンドやルビー、サファイアなど言った唯の綺麗な石程度ならば星によっては砂浜の砂位にはゴロゴロしている星は結構あるのさ。私からしたらこんな石は綺麗であるだけで価値はないね、寧ろ集めてたら白い目で見られかねない。実際親友に心配されたよ』

 

と言われてしまい、これが星によって違う価値観の違いなのかと……と思い知った出久であった。その宝石類を売却する際にも色々一悶着あったのだが……その辺りはマグナがウルトラ的な手法で何とかしてしまったので凄まじい資金を得たも同然となった出久は頭を抱えつつも取り敢えず母へのプレゼントを考えるのであった。

 

「そ、それじゃあ遠慮なく使わせて頂きますよ?」

『ああ気前よくな。何だったらこの後レストランにでも行って一番高いメニューでも総なめにするかい?』

「それはそれで恥ずかしいです」

 

出久とマグナが出会って既に2年という時が経過していた。出久は3年生となり受験を迎える事になるのだが、普段から勉強を欠かさない彼は模試では十二分に雄英に合格出来るという結果であった。それは爆豪も同じであるが、あの日の一件以来、爆豪は余り絡まなくなったどころか暴言すら言わなくなり逆に自分に負けないようにしているような感じになっていた。今まで感じた事も無い変化に出久は驚きつつも彼自身もマグナ指導の下で力を磨いていた。

 

彼も彼で定期的なレポートを欠かさずに報告しているのだが引き続き地球に滞在しながら調査を依頼されている。当然、出久と同化している事は報告しており許可も出ている。と言うのも地球人とウルトラマンの寿命は余りにも違い過ぎるので時間的にもあまり問題にならないし過去にも多くの戦士たちが一心同体となるケースが多いので慣れているのである。

 

「まさかオールマイトのプレミアポスターがあるだなんて……!!あぁっ今日はなんて凄い日なんだ!!」

『ご満悦な事は喜ばしい事だと思うけど、4万円もするポスターを即断即決で良く買えたね。気持ちは理解出来るけど』

「フンフンフ~ン♪」

『まあ嬉しそうだし満足そうだし良いか、今日ぐらいは』

 

マグナ自身が前世ではウルトラシリーズどころか特撮マニアな所があるので出久の趣味にも理解が深く、行動や言動にも共感出来る為か二人の相性も酷く良い。その為かこの2年で二人は相棒同士という認識が強まっており酷く仲良しになっていた。兎も角嬉しそうな相棒にマグナも笑みを作りながら帰宅の路へと就きながらも母へのプレゼントを考えている時の事―――

 

「Mサイズの隠れ蓑ォ……!!」

『―――っ出久君済まないが身体を借りるぞ!!』

「えっうわぁっ!!?」

 

ほぼ強制的に身体の主導権を奪い去ると前へと飛び退きながら先程まで居た場所へと振り向く。駅の高架下のマンホールから何かが飛び出してきた、それは緑色の流動体の塊―――いやその中に瞳がありギョロリ此方を見つめ続けている。あれは紛れもないヴィラン。

 

「おっと、逃がしちゃったかぁ……」

「やれやれっ最高と最悪は紙一重か、吉日と厄日と言うべきかな」

『あっ有難う御座いますマグナさん!!僕すっかり浮かれちゃって気付けませんでした!!?』

「何気にする事はないさ、君の気持ちは良く分かる。まあここは任せておきたまえ」

「何をごちゃごちゃ言ってるのかな……?電波系の不思議君かな?」

 

とギョロギョロと瞳を動かしながら此方を見てくるヴィラン、それを見てヘドロ怪獣(ザザーン)を想起しながらも出久(マグナ)は構えを取りながら両腕にエネルギーを纏わせる、それは雷鳴のような激しい音を立てながらヴィランをまるで逆に威圧し返すかのような事になっておりそれを見てヴィランは尻込みしてしまった。

 

「ちっまさか電撃系の個性なんて……相性最悪だ、此処は撤退を―――」

 

今にも逃げ出そうとした時だった、力強い声と共にそれはヴィランから自分達を守るかのように立ち塞がりながら危機を吹き飛ばすような笑い声と共に現れた。

 

「もう大丈夫さっ少年!!私が来たッ―――!!」

 

唸る剛腕、轟く暴風。唯が人間の一撃が超絶的な風圧を巻き起こすとそれはヴィランの流動する身体を粉砕してしまった、流動するそれを力で粉砕するなんてどれ程の力なのだろう、地球人としては異常の一言。ほんの一瞬の出来事だった、正しく電光石火の絶技。ヴィランはあっという間にペットボトルへとつめられてしまった。直後―――主導権を奪われている筈の出久がマグナからそれを強引に奪取しながら叫んだ。

 

『えっちょ』

「オ、オ、オォォォォォオオルマイトォォォオオオオ!!!!?」

「HAHAHAHA!元気がいいね、怪我無くて何より!!」

『……ちょっと戦いたかったかも……』



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光に手を伸ばせ!!

№1ヒーローである平和の象徴、オールマイトがそこにいたのである。単純な実力だけではなく人気、カリスマ性も群を抜いている現代ヒーロー社会の頂点を極めたと言っても過言ではない大英雄の登場にヒーローオタクであり自分がヒーローを志す切っ掛けとなったヒーローの登場に出久のテンションは振り切れてしまっている。それはマグナから主導権を奪ってしまう程に。

 

「ぼ、ぼぼぼぼっぼ僕、貴方に憧れてヒーローになりたいって思って……!」

「HAHAHAそれは光栄だね!!」

『彼が現地球人最強と言うべき存在、オールマイト……確かに並外れた身体能力、単純な能力ならばいいレベルまで行くだろうな』

 

と目の前に現れたオールマイトに対してマグナは思考を巡らせながら観察を行った。彼の次元には様々な宇宙人が存在している。戦闘に長けている者、知略に長けている者、知能に長けた者と様々だが仮に人間でのサイズでの戦闘を想定したとしてもオールマイトはそれの大半に勝つ事は可能ではあるだろうと思える。流石に特殊能力などを使える相手はきついかもしれないがそれもかなりいい勝負する事は間違いないだろう。

 

「おっといけない、済まないがこいつを警察に届けないといけないんでね。悪いがこれで!!」

「あっあえのえっと……い、いえ何でもありません、これからも頑張ってください!!」

「HAHAHAご声援ありがとう!!トゥアッ!!!」

 

と飛び上がってその場から去っていくオールマイト、出久はそれを呼び止めそうにするのを必死に飲み込みながらその場に転がっていたオールマイトのサインが書かれたサイン色紙を見つけた。流石サービス精神も旺盛なトップヒーロー、此方の欲しい物を察して置いて行ってくれただろう。それに感謝しながら拾い上げようとするが……出久はそれより前にしなければいけない事があると思い声を出した。

 

「……ごめんなさいマグナさん、僕今……無個性でもヒーローになれますかって聞きそうになりました……」

『君からしたら致し方ない質問のように思えるから気にならないが、何故謝るんだい?』

「だって、それを聞くって……失礼だと思いまして……」

『やれやれ君は真面目だね』

 

出久が思った事、それは自分に力を与えてくれただけではなく道を照らしてくれた相棒に対する無礼だった。それを問う事は彼との出会いを否定し自分の行いをなかった事にするような事と思ったのだろう、だがマグナからすれば当然の疑問だろうし問いたくなる気持ちも分かるので逆に謝られても困る。

 

『一応聞くが君はオールマイトからなれない、諦めろと言われたらどうするつもりだったのかな?』

「―――そうですか、有難う御座いましたで終わらせたと思います。だって今の僕は無個性じゃないですから」

『そうだその意気だよ出久君。君には私の力がある、漸く光線も打てるようになったしね』

 

気付けば出久の表情はまた笑顔になっていた。もうそこにいるのは昔のオドオドしていた臆病な無個性の少年などではない、偉大な光の巨人と一つになりながら力を授かった一人の少年なのだから。

 

『兎に角今日は幸運続きだね、これで君のコレクションが増えたと言う物だ』

「本当ですね!!!うわぁっこれお母さんが聞いたら驚くぞぉ!!」

『自慢したい気持ちは分かるが貰った経緯は暈かさなければね、お母様が聞いたらきっとひっくり返りかねない事だからね』

「あっそっか……ヴィランに襲われかけた事とかは言わないようにしなきゃ……そうだ、母さん前にアクセサリー欲しがってたような……見に行きましょう!」

『私にそう言うセンスは期待しないでもらえると有難いな、これでも光の国だとモテなかったからね』

「えっ~冗談でしょう、マグナさんは絶対にモテますって」

 

そんな相棒同士の会話をしながらもサインを鞄に入れながらよく向かう商店街へと訪れる。此処ならお土産は大半揃うし何だったらお惣菜を買って帰るだけでも喜ばれるだろうという思いからだったのだが……奇妙な程に騒がしかった。近くまで行くと如何やらヴィランが暴れているらしくヒーローが対応しているらしいが苦戦しているらしい。

 

「あっすいません」

「あっいや此方こそ済まない……」

 

と電柱の近くで胸を抑えている金髪のまるで骸骨のような風貌の男にぶつかった事に謝罪しながら現場へと目を向けると―――出久は全身に電流が走ったような気分だった。何故ならば―――

 

「かっちゃん!!!!」

 

ヴィランに抵抗するようにしながらも取り込まれようとしているのは幼馴染の爆豪だったから。

 

現場に付いた時、そこは苛烈と混乱の極みと言っていい現場だった。巻き起こる爆発が窓ガラスを粉々にし、アスファルトの道路に穴をあけ、建物そのものを破壊していく。その中心に出久へと襲い掛かったヘドロのヴィランがいた。オールマイトに確保されていた筈なのに警察に引き渡した後に逃げ出したのかは分からないがそれが暴れ続けていた。いや正確に言うのであればそのヴィランに囚われながらも必死にもがき続け、脱出を試みる為に爆破をし続けている爆豪が。

 

「がァッ、クソ、クッソがぁぁぁ………ッ!!」

 

既にそれなりの数のプロヒーローが駆けつけている。ルーキーながらも輝かしい活躍をしている女性ヒーローMt.レディ、新進気鋭のシンリンカムイだけではなくデステゴロにバックドラフトもいた。だが……流動するヴィランの身体は捉える事は出来ない、加えて勢いを増して行くヘドロの触手に爆豪の爆破によって救出するどころか全く近づけずにいた。

 

「駄目だっ、誰か有利な個性のヒーローが来るまで待つしかねえ!!」

「何、すぐに誰か来るさ!!あの子には悪いが、それまで耐えてもらおう!!」

 

自分達では何もできない故に応援を待つ、正しい判断かもしれないが……完全に自分達は何もせずに爆豪を見つめているだけのヒーロー達を押し退けるかのようにしながら、叫び声を上げながら出久は走り出した。

 

「うわああああああああああ!!!!!」

「おいバカ、何をしてるんだ死ぬつもりか!!?」

 

走り出していく出久の耳にヒーローの静止の声なんて聞こえてこない、見えているのは爆豪の個性である爆破を利用して此方へと爆破を向けてくるヴィランの攻撃。それらを全て視界に収めながら身体を翻し、回転などを駆使しながらすり抜けていく。

 

『無茶をするな君は!?』

「マグナさんお願いしますかっちゃんを助けたいんです!!!力を貸してください、お願いします!!!」

 

説教なら後で幾らでも聞く、小言ならいくらでも言われてやる、だから今は、この瞬間は力を貸して欲しいと出久は心から願った。目の前で苦しんでいる大切な友たちを助けたいんだと。目の前で苦しんでいるのにも何もせずに手をこまねている事なんて絶対に嫌だと叫び続けている、魂が叫んでいる、本当のヒーローになりたいと。その叫びを聞いたマグナはそれを汲み取るような苦笑するような、嬉しそうな声を出す―――

 

『ならば私の名を叫べ、私も共に君とヒーローになろうじゃないか。偉大な(ヒーロー)となろう!!』

 

その時不思議な光を出久の右手に宿った。そこにはクリスタルが嵌め込まれた指輪が宿った。無意識だったのだろうか、出久はそれを目の前に広がって自分を飲み込まんとする爆炎に走りながらそれを掲げながら大声で叫んだ。

 

マグナァァァァァァァァァッッッ!!!!!

 

その瞬間だった、出久の全身を指輪から溢れ出していく光を包み込んでいきながら更に加速しながら爆炎へと突っ込んで行っていった。ヴィランが声を上げて喜びの声を上げた瞬間、身体から力が抜けてしまった。何故ならば―――彼が力の源とせんとしていた存在、爆豪がいないからだ。

 

「な、何っ!?一体どこへっ……!?」

「デ、デク……なのかお前……?」

 

それは背後にいた、背後からした爆豪の声に気付いたのかヘドロヴィランは振り向いた。そこにいたのは―――眩いばかりの光を纏っていた銀色の人間だった。地球上のどんなに上等な銀よりも美しく輝き、その身体を走る炎のような猛々しく力強い赤いライン、胸には胸部を守るようなプロテクターの中心に青い光を宿すランプがあった。それが何を示すのか分からないが―――確かなのは爆豪はヴィランから助け出されたという事実だけだった。強い光を纏っている故か周囲にはハッキリと認識されていないだろうが、それでもヴィランはそれを警戒した。

 

「テメェ何をしやがる……!!」

「シェアッ!!!」

 

有無を言わせんと言わんばかりに即座に両腕が組まれた、そしてそこから青白い光線が発射されヘドロヴィランの身体へと突き刺さりそれは絶大な効果を齎した。

 

「グギャアアアアアアア!!!!??」

 

阿鼻叫喚と言わんばかりの絶叫が周囲に木霊する、全身にエネルギーが伝導していき全身が爆発しようとしているかのような感覚を覚えながらも許容限界を迎えたのかヴィランは倒れこむ。それを見るとマグナはゆっくりと振り返りながら爆豪へと手を差し伸べた。大丈夫?と言わんばかりの優しい手の差し伸べ方に爆豪は普段の行動からは想像できない程に素直にそれを取って立ち上がってしまった。

 

「無事でよかった……」

「ッ!?」

 

―――デュォッ!!

 

その時、爆豪にだけ聞こえたような声を掛けると光はそのまま空へと飛び立って行ってしまった。余りにも突然すぎる事に周囲は疎かプロヒーローですら唖然としている中―――唯一一人だけ、その光を目で追い続けながら走り出した骸骨のような男。その瞳には不思議と希望と活力で満ちあふれていた。




マグナの変身アイテム初登場。指輪型になりました。

ガイアのエスプレンダーの青い部分の中心部にカラータイマーが埋め込まれた指輪みたいなイメージ。


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地球のヒーローと光の国のヒーロー

既に夕暮れとなりつつある空へと飛び立った出久、暫く飛行をした後に身体を光へと変換するようにしながら一気に降下するようにして姿を眩ませながら一気に着地する。人気の無い路地裏、だが人の気配も無ければ人の目も全くない。周囲に誰もいない事を確認すると思わず胸を撫でおろす出久にマグナは語り掛けた。

 

『大丈夫さ出久君、私が確認しているから』

「それでも気は使いますって……それでも取り敢えず誰にも見られてないみたいで安心ですよ……」

『しかし出久君―――矢張り君は本当にヒーロー気質だね』

 

笑いかけてくるマグナに対して照れるように笑って誤魔化すがそれでも嬉しさが溢れてしょうがない、それはマグナと一体化して爆豪を救い出せた事から来る興奮故か、それとも今まで経験する事無かった翼などによる羽ばたきによる飛行ではない飛行によるものなのかは分からないが兎に角出久は興奮しっぱなしだった。

 

「でもマグナさんが力を貸してくれたおかげですよ!僕じゃ絶対に出来ない事ですし……」

『何を言うんだ、君があの時何の迷いも無く飛び出したからこそ私は君に力を貸したんだよ。君の行動が無ければ今も無いんだ、君の否定癖は直さないといけないね』

「アハハハハッ……」

 

頭を撫でるように笑う中、指に嵌っている指輪が目についた。美しい宝石の中心部にはある意味ウルトラマンがウルトラマン足らしめる存在であるカラータイマーという物によく似ているものが付いている。この指輪の力で自分とマグナは融合してウルトラマンマグナとしてあの場に立ったのだと改めて認識させられてしまう。

 

『それはマグナリング、私の力を開放させる為のアイテムだ。私と君の意志が一つになった時に変身出来るようになる、っと言っても今回のあれはかなり不完全な状態だったがね』

「あ、あれでですか!?」

『君も分かっただろうが私達の身体に靄のような光があっただろう?あれは融合が不完全だった故に起きた現象なのだ』

「あれで……」

 

一瞬で爆豪を救いだし、たった一撃でヴィランを屠る程の光線を出した上にあっという間にも遠い所まで飛んでくることまで出来るのにまだまだ不完全だと語るマグナに出久は途轍もない力の起点になっているのだと喉を鳴らしつつも恐らく自分が足を引っ張っている事を強く自覚しこれからもっともっと力の使い方を覚えて行かなければいけない事を理解した。

 

『いやしかし商店街での買い物どころではなくなってしまったね、あれほどの騒ぎになってしまったのだから』

「お母さんへのプレゼントはまたの機会にしましょうか……残念ですけど」

『そうする事に―――出久君何かが凄い速度で向かって来るぞ!!』

「ええっ!!?」

 

和やかな雰囲気をぶち壊すマグナの警戒に出久は驚きつつも瞳を鋭く作りながら腰を落としながら構えを取っていた、もしかしたらヴィランの仲間がいて自分達を追ってきたのかもしれないと思ったからだ、マグナリングに触れながらも腕にエネルギーを溜めて何時でも牽制の一撃を放てるようにしているとそこへ自分達を追ってきた―――

 

「HAHAHAHA!!!少年がぁっいたぁ!!!」

「オッオールマイトォ!!!?」

『まさかの再会だ……というか、まさか彼は私達を追ってきたというのか、えっ如何やって……』

 

オールマイトがにこやか笑みを湛えながら指を向けてきた、まさかの登場に出久もマグナも酷く驚いてしまう。

 

「えっ何でオールマイトが!!?」

「HAHAHAッ!!!何、個性の無断使用の注意という名目で君に話したい事があってね」

「えっ!?」

「私の不手際のせいで起きてしまった事件を解決して貰って誠にありがとう……!!」

 

何とオールマイトは迷う事も無く頭を下げたのである。あの№1ヒーローが一般人である緑谷 出久に対して深々と頭を下げている、それに思わず呆気にとられるのだが出久は直ぐに頭を上げて欲しいと懇願するかのような半ば泣いた声でお願いする。それを受けてオールマイトは頭を上げつつも理由を述べた。如何やら自分達と別れた後に不手際が起ってしまってうっかりヴィランを詰めたペットボトルを落としてしまったらしい、それを捜索中に自分たちがそのヴィランを倒したという事になるらしい。

 

「そして……恐らく君には話すべき、なのだろうな。何故平和の象徴と呼ばれる私があんな情けないミスをしてしまったのか、君には見る資格と私には言わなければいけない責任がある」

「責任……?」

 

直後の事だった。目の前で突然、あの筋骨隆々のオールマイトが枯れ木のようなやせ細って骸骨のような男へと変貌してしまった。その姿は商店街に着いた時に軽くぶつかってしまった人であった。

 

「―――オール、マイト……?」

「……これが私が隠し続けた真実であり、私が常に笑顔を浮かべ続けている理由―――№1ヒーローの真実だ」

 

オールマイトは5年前、とあるヴィランとの戦いで重傷を負った。呼吸器半壊、胃袋全摘出、度重なる手術と後遺症によって憔悴してしまい今ではヒーローとして活躍できる時間はわずか3時間程度でしかない。今回のヘドロヴィランもその活動時間との戦いであり、出久と出会った段階でもう活動時間なんて残っていなかった。そしてそこでオールマイトはうっかりヴィランを詰めたボトルを落としてしまった……だがオールマイトを責める事なんて出来る訳もない、寧ろ―――

 

「軽蔑したかい、平和の象徴と評される私のこんな姿を」

「そんな事、ある訳ないですよ……!!だって、そんな身体になっても僕たちのために戦い続けてくれてる人に感謝こそすれど軽蔑なんて以ての外ですよ……!!益々ファンになっちゃいました……!!」

「フッ優しいんだな少年は」

「み、緑谷です!緑谷 出久!!」

「ほうっでは緑谷少年と呼ばせて貰おう」

 

例え骸骨のような姿であろうと、どんなに身体が傷つき倒れたとしても彼は何の迷いも無く戦い続けようとするだろう。それがヒーローなんだと、皆が安心して暮らせるような世の中にする為に自分は戦うんだとオールマイトは―――覚悟を決めているんだと二人は感じた。気高くも偉大な英雄としての魂がそこにある、マグナはそんな輝きを持った地球人がいた事に驚きを隠せなかった。まるでウルトラマンのようじゃないか。

 

「……あのオールマイト、貴方の大切な秘密を僕に話してくれたように僕からも言いたい事があるんです」

「何かな、お詫びという訳ではないが話なら幾らでも聞こう」

 

それを聞くと出久は瞳を閉じながら胸に手を当てて小声で良いですよね、と誰かに問いかけるかのように声を発する。それに思わず首を傾げてしまうオールマイトだが、直後に彼の纏う雰囲気が一変した事に驚いてしまった。先程までファンとしての高揚感や不安など様々な感情が渦巻く中央部にいた少年が一気に冷静沈着な大人のようになったのだ。

 

「Mr.オールマイト、貴方に対する敬意に応える為にこれから私達の秘密を語る。そして驚くかもしれないが受け止めて欲しい」

「緑谷少年……ではないな、別の人格……という訳でもなさそうだ、君がもしかしてあの姿の正体かい?」

「流石の慧眼だ、では改めて自己紹介をさせていただこう。私の名前はウルトラマンマグナ、M78星雲・光の国からこの地球の調査を目的としてやって来た異星人と言う奴だ」

「ええええええええっっっっ!!!?えっなに未知との遭遇なのこれ!?M78星雲・光の国って何!?地球の調査!?ウルトラマン!?寧ろ君達の方がとんでもない秘密で私の方が聞きたい事満載なんだけどぉ!!?」

『オ、オールマイトが見た事も無いような狼狽え方してる!?』

「まあ普通に考えたら驚くの当然だろう、寧ろ正常な反応かも」



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結ばれた光の握手

「―――まさか、個性の出現によって消滅したとされる宇宙への切符、その果ての果てに邂逅するであろう存在と今こうして会えるとは……人生とは分からない物だ」

『それは我々ウルトラマンとしても同じ意見です、それ程までにこの地球の存在は不思議だ』

 

場所を変え、普段自分達が使っている特訓場所である海浜公園へとやって来た出久達。ガラクタに囲まれている一部は二人が改造して即席の椅子やテーブルなどが置かれて簡単な休息が取れるようにされている。そこでホログラムのような姿として現れたマグナと直接対面しながらオールマイトは彼の故郷の事、如何して地球に来たのかという話を聞いている。

 

人類社会で超常を発現させる者たちが突如増えだした混乱期。個性による混乱が無ければ人類は惑星間旅行を楽しんでいたという学者も多くいる中で当時からすればもう宇宙人という言葉はある種のいじめの様な言葉として扱われていた、それも何時の間にか無くなっていたがもう既に宇宙への執着が何処か薄くなっている今、目の前に本物の宇宙人がいるという事でオールマイトは今まで感じた事も無いような不思議な高揚感に溢れかえっていた。

 

「しかしウルトラの星と言うのは凄いのですな!!種族全体が最早聖人レベルとは……いやはや地球人としては恥ずかしい限りです」

『いえ寧ろ我々の方が異質なのでしょう、地球人の方が当然とも言えますよ』

「そう言って頂けると幸いです……」

 

とオールマイトは一貫して敬語を貫いていた、マグナ自身は相棒である出久の憧れの人なのだから敬語など必要はないと言ったのだが……年上を敬って接するのは常識である一般的なマナーだと説かれてしまった。彼自身も出久と同じく9000歳のマグナには上に出にくい、光の国ではまだまだ若い部類だと言っても信じられず、宇宙警備隊大隊長であるウルトラの父(ウルトラマンケン)は16万歳であると語ると二人して顎が外れそうになるほどに驚いていた。尚、まだ上はいるのだが……言わないでおいた。

 

「でもやっぱり改めてマグナさんの凄さが分かりますよ!!」

『おいおい勘弁してくれよ出久君、私なんぞウルトラ兄弟に比べたら月と鼈さ』

「まだまだ上がいるとは……」

「やっぱりそんなに凄いんですかウルトラ兄弟って方々は……?」

『ウルトラ戦士の中でも伝説中の伝説さ。宇宙を掌握しようとする数々の宇宙人や凶悪な怪獣などを倒してきた栄光のある方々だ……私の永遠の憧れさ』

 

それを聞いて矢張り自分等の存在はまだまだ宇宙としては小さい方なのだと再認識をするオールマイト、と言っても流石に比較対象がウルトラマンにしてしまうと大抵の存在がそうなってしまう。同じ宇宙人であっても地球人と同じサイズならばこの星でも十二分に戦えるものは割といると言われると矢張り宇宙は広いのかと感心するように頷く。そんな話から遂にオールマイトは本題とも言える話を切り出した。

 

「それでマグナさん、お話と言うのは緑谷少年についてなのです。ですが貴方の事も考えると貴方にも大きく関わってしまう事ですので聞いていただきたいのです」

『聞きましょう、君も良いかな出久君』

「はっはい!!」

 

思わず姿勢を正すようにしながら話を聞く体勢を作る姿を見てから咳払いをした後に語りだした。

 

「緑谷少年は本来は無個性であり、今現在はマグナさんが一体化した事で力が授かったという認識で宜しいのですね?」

『間違っていませんね。恐らくその力は私が離れても持続する事でしょう。彼の遺伝子にと言うべきでしょうか、そこに彼の力として刻まれる事でしょう』

「……緑谷少年―――突然すぎる申し出だが私は既に君にしか言えないと確信を持って言える、私の後継として……私の個性を受け継ぐ気はないかね!?」

「受け継ぐって……えええっ!!?そ、そんな個性ってあるんですかぁ!!?」

『フムッ……後継にして個性を受け継ぐ……』

「順番に話をしましょう」

 

オールマイトの個性、超人社会において最も謎とされている事の一つとして彼の個性は一体何なのかという物がある。元々ある力を強化するブースト系の個性、それとも純粋な超パワー個性などなど様々な憶測が飛び交っておりそれらがオールマイトに質問などが行くがその都度はぐらかされている(本人曰く爆笑トーク)。そんな彼の個性、受け継がれてきた平和を願う者たちへと差し伸べる義勇の心と救いを求める人達への光、それらが紡ぎあげてきた力の結晶というべき個性―――

 

ONE FOR ALL

 

受け継がれてきた超パワー、その八代目がオールマイト。それは他者へと継承させる事を可能とする特殊な個性であり、心からの平和を望む者たちによって現代へと継承され続けてきた神秘の個性。それを出久に継承させたいというのがオールマイトの話の本題であった。

 

『それを出久君へ受け継がせたい、という事ですか』

「はい、そしてマグナさんには不躾なお願いでしょうが……貴方の経験とお力を緑谷少年を育てる為に貸していただきたい……!!」

『成程そうきましたか』

「えっええっ!?」

『何簡単な事だよ出久君、私は出久君と身体を共有させているに等しい状態だ。その状態ならば譲渡される個性の状態などの確認などもしやすく指導も出来ると踏んだのだろう』

「その通りです……お恥ずかしい話ですが私はその、其方の方面の経験はなくて……」

 

オールマイトがマグナに対してのお願いと言うのは出久を育てていく過程やこれから出久を育てる役目を自分と共に担って欲しいという事だった。一心同体となっている存在ならば個性の出力やらの調節なども出来るのではないだろうかという考え方のお願い、というのもあるがオールマイト自身指導経験が乏しいので人生経験が自分よりも遥かに多いマグナの力を借りたいというのが本音であった。さてどうするかと考えていると出久が答えを出した。

 

「やります、やらせてください……!僕の目標は貴方みたいな最高のヒーローになる事なんです、だから……僕が貴方の跡を継ぎます。そして―――マグナさんみたいな立派なウルトラヒーローになります!!」

 

オールマイトにも負けず劣らずの強い意志、崇高で輝くそれを掲げながら出久は断言した。それを聞いたオールマイトは心から熱くなり、嬉しくなってしまった。此処まで強く断言、しかも即答してくれるなんて……と彼こそが自分が求めた本当の後継だと胸を張って言えると思っているとマグナが肩をすくめるようにしながら大声で笑った。

 

『良い事を言うじゃないか出久君。それならば私も力を貸そうじゃないか、まあそもそも私は君が一人前のヒーローになるまで共に居ると約束をしたから君がやるというなら私の答えは決まっているような物だったね。さてこれからはもっと忙しくなるね』

「―――二人とも、本当にありがとう!!」

 

出久は継承に承諾した、それは新しいバトンの受け渡しに等しかった。平和の象徴として日本に平穏と安らぎを届け続けてきたヒーローの世代交代にも等しい宣言だった。だとしても出久は恐れない、自分には強い味方がいる、どんなときにも一緒に居て自分を励まし、一緒に戦ってくれる大きくて暖かくて強い人が。その人と一緒ならばどんな苦難だろうと恐ろしくも辛くもない。

 

「では緑谷少年、これから忙しくなるぞ!!私の個性の継承は並大抵の事ではないぞ色んな意味で!!」

「大丈夫です!!マグナさんと出会ってから鍛えられましたから並大抵の事じゃ挫けません!」

「それは頼もしいね!!まあマグナさんとの邂逅以上の驚くなんて確かに早々なさそうだもんね」



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継承されていく光のバトン

一人は皆の為に(ワン・フォー・オール)。それが出久が継承し真の意味で自らの個性として得た力であった、あくまで今ある力は偶然マグナと融合できたことによる副産物に近いものだが、それは間違いなく彼の力と心が勝ち取った紛れもない明確な成果だった事は確かな事だろう。№1ヒーローから次の跡目を引き継いだことも意味するそれに出久は大きな責任を感じながらオールマイトとマグナ主導の下で修練に励む事になった。

 

「既に十二分にワン・フォー・オールを受け入れるだけの身体となっている、まだまだ練りは甘いとはいえ素晴らしいレベルだ」

『伊達に2年間鍛え続けてませんでしたからね、あの毎日は無駄ではなかったという事さ出久君』

「はっはいぃぃぃぃぃっっっ!!!」

 

と海浜公園中に存在している大量のゴミ、その中でも一際巨大且つ重い軽トラの上に腰掛けているオールマイトとホログラムのような姿のマグナの会話を聞きながらも出久はそれを全身に力を込めて引っ張りながら回収用のトラックの元へと運んでいく。マグナの分の体重はないにしてもオールマイトの255キロも含まれるので相当な重さになっているがタイヤもあるお陰で少しずつだが進んでいるのはそれだけ出久の力があるという証明でもある―――であるが何故こんな事をしているのか、当然出久の修練の為である。

 

 

個性:ワン・フォー・オール。それは複数人分の極まりし身体能力が集約し一つになったような物、当然圧倒的な力を誇るのだが……それ故かそれを受け入れる側も相応の肉体を要求するのである。肉体、即ち器が出来上がっていない人間がそれを継承してしまうと四肢が捥げて爆散してしまうとオールマイトは語るのだが……マグナと共に行ってきた努力の2年間は無駄ではなくワン・フォー・オールを無事に継承出来るだけの身体は既に出来上がっていたのである。だがそれでもMAXパワーを引きだしたら身体が耐えられなくなってボロボロになる事は必至なので、肉体の鍛錬とヒーローになる為の第一歩として海浜公園のゴミを片付けている。

 

「HEYHEYHEYもっと腰を入れないとダメだよぉ緑谷少年」

「は、はいぃぃぃぃぃっっ!!!!」

『フムッあれの出来も中々良いようで』

 

と二人の視線が向けられている視線の先では全身に鎧のような物を纏っている出久の姿がある。その鎧には何やらケーブルのようなものが腕や足に巡っており時折蒸気と共に伸縮して力のセーブなどを行っているように見える。出久の力ならば軽トラだろうと楽々と運べるはずだがそれを引っ張るのが精いっぱいな程しか出来ていない事が良い証明となっている。

 

「あれは光の国でも使われている物なのでしょうか?」

『特殊強化訓練メニューをこなす者に施される処置で一番きついものではありますがね、それよりかなり落としてますが使われているものではあります』

「ほほう」

 

それこそテクターギア。身を守る防具であると同時に装着者の能力を制限し制御する拘束具の役割を持つ、それによって出久の身体能力は大幅に制限されてしまいマグナによって与えられた力も大きく制限されているので2年で鍛えた出久の身体能力+α程度が今の出久の全てになる。だがそれでいい、何せあのウルトラマンゼロも使っていたのだから効果お墨付きである。

 

『お金はあれで足りましたか?』

「逆に余り過ぎて如何しようかと思ったぐらいですよ、私腰が抜けるかと思いましたよ」

『ご冗談を。№1ヒーローという事はかなりのお金があるのでは?』

「だからと言って即金で5000万は腰が引けますよ流石に」

 

材料費としてマグナが資金を出し、オールマイトが自身のコネなどを使用して地球産のテクターギアが完成した経緯がある。その際に久しぶりに親友に連絡したのだが……一体これらを何の為に誰に使わせるのかと聞かれて返答に困ってしまったのは余談である。

 

「キ、キッツッ……オールマイトにマグナさん、このギア……きつ過ぎませんか、後凄い重いです……」

「そう言う訓練だからね、大丈夫その内取ってあげるから」

『大丈夫だよ出久君、私はそこまで鬼じゃないから。片付け以外はちゃんと外してあげるから』

 

ギア自体も重さが15キロ程あるので出久はかなりの重量を抱えた上で動かなければいけないので身体には相当な負荷がかかり続けている。しかも出久本人はこれを外す事は出来ないという仕様まである、この既に大分鬼な気もすると出久は心の片隅でちょっぴり思っている。

 

『大丈夫だ。かのウルトラセブンみたいに滝の流れを断ち切れとかジープで追い掛け回したり地雷レースとかはさせないから』

「「いやいやいや何ですかその修行!!?というか本当に修行!?ウルトラマンってそんなやばい修行してたんですか!!?」」

『絶対にやりません』

「「ならなんでそれを例えに!!?」」

 

とオールマイトと出久が全力で突っ込んでしまう程の事だが、それ程の鬼畜な事はしないからという事らしいが……全く安心出来ない所か逆にウルトラマンですらやらないような修行をやらせたそのウルトラセブンとは一体どんな方なのかと酷く気になった二人であった。

 

「ええっと……あの、マグナさんそれで私の身体の事なんですが……」

『はいっと言っても多少なりともの治療に留まるとは思います』

「それでも是非お願いしたいのです」

 

オールマイトのお願いと言うのはもう一つ、神秘の存在でもあるウルトラマンならば自分の身体の治療が可能なのではないだろうかという事だった。そうすれば仮に出久にワン・フォー・オールを譲渡したとしても自分は彼が一人前になるまでヒーローとして活動が出来るかもしれない……という期待を込めていた。以前話した通りに自身の身体は呼吸器半壊、胃袋全摘出の上に手術などの後遺症で憔悴している状態。それから少しでも良くなればいい……とさえ思っている。

 

『生憎私は専門外ですが……何とかやってみましょう、しかし本当に無茶をしますね……』

「矢張り貴方から見てもそう思いますか……?」

『まあ我々(ウルトラマン)が言えたような事ではないでしょうが……それでも私はそう思いますよ』

 

専門ではない物のオールマイトの治療を了承したマグナ、勇士司令部に所属する彼だが治療を行う為の技は一応修得している。勿論それは専門分野ではないので本職(銀十字軍)に比べたら劣るだろうが……それでもある程度の回復は見込める事だろう。後日、マグナが回復光線である『マグナヒーリングパルス』をオールマイトへと照射。怪我の完治まではいかなかったがそれでも苦しみを和らげ、身体の活力を復活させる事自体は出来た。本人曰く

 

「―――あの日以来忘れていた活力が蘇って来たぁぁぁぁっっっ!!!」

 

とオールマイトとしては予想をはるかに上回る結果を齎したらしく、活動限界だった筈の3時間を超えて活動する事も可能になったと喜んでいる。故か定期的にオールマイトはマグナにこの光線をお願いするようになった。そして約半年後―――出久は海浜公園のゴミを全て片付ける事に成功し、遂に―――オールマイトからワン・フォー・オールを継承する事となった。

 

『そう言えばどんな風に継承をするので?』

「簡単ですよ、私が個性を託すと認めた上でDNAを相手に摂取されるだけです」

「えっそれってつまり……」

「そうっ―――食え」

「ヘェァッ!!?全然イメージが違うぅぅぅ!!!?」

『あっなんかウルトラマンっぽい声が出たね』

 

マグナの影響もあったからかもっと神秘的というか概念的なイメージがあった出久、だが実際は髪の毛を食べるという方法で個性を継承した出久。何やらギャップを感じつつも個性を受け取った出久はその責任を感じていた。今まではオールマイトの個性だったものが今からは自分の物になる……それを考えると呼吸が荒くなる―――と思った時にマグナの声が響く。

 

『慌てる事などはないさ、君は別にオールマイトになる必要はない―――君は君が成せる事をやればいいだけだ、違うかなオールマイトさん』

「ああそうさ、君は君らしいヒーローになってくれたまえ!!」

 

そんな二人の声を受けて出久は―――笑顔を浮かべながら自分が成すヒーロー像を思い浮かべながら新たな一歩を生み出すのであった。




最早伝説のウルトラマンレオの修行シーン。今では放送できない数々の伝説がそこにある。だがそれがレオを育て上げたのも事実、だが見るとマジでうわぁ……となる事間違いなしのシーンだらけ。
それが影響してレオもかなりスパルタな師匠になったのかも……ゼロもそれを語る時はかなり声が暗くなる。アストラがずっと見てて気が散ったりしていたらしい。


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個性を胸に

「ワン・フォー・オール……!!」

『これは……かなりの物だな、これが受け継がれてきた個性―――いやこれは希望の輝きに等しい。暖かく何処か頼りなさげだが力強く身体のそこから溢れてくるようなエネルギーだ』

 

オールマイトはヒーロー活動があるので一旦抜けその場をマグナに任せる事にした。今日は元々予定が入っていたらしく何とか継承までさせられて助かったらしい、そして恒例となった回復光線を受けて体調の好調を感じながらオールマイトは飛び立って行ったのを見送った後に出久は早速ワン・フォー・オールを発動させてみる事にした。意識する途端に全身に溢れ出してくるエネルギーの本流、その感覚は光線を放つ際に力を高める感覚に似ているのか自分である程度制御が行う事が出来ている。

 

「凄い、これがオールマイトの個性……!!」

『もう君の個性だよ、その辺りは確りと認識を改めて行かなければね。さて暫くは自由に使ってみるといい、私はそれらを見ているから』

「分かりました!!」

 

きっと身体の中から個性を見ていてくれるだろうと出久はそれを試してみる事にした、オールマイト曰くコントロールに必要なのは強いイメージと感覚。明確なイメージがあればあるほどに精密な出力を設定出来る上にそれらを感覚的に操る事が出来るらしい……彼は継承してからずっとそれでやって来たらしいのだが出久としてはいまいち解らなかった。如何やら自主申告したように教える方はあまり得意ではないのだと分かる。兎も角光線を出す前の腕にエネルギーを集めるイメージを行う。

 

「明確なイメージ……強い光が少しずつ強くなって大きな星になるイメージ……」

 

暗闇の中、右腕に周囲に浮かんでいる小さな光の粒子。蛍の様な儚げな光が一つ一つ収束していく事で太陽のような圧倒的な輝きへと昇華される、そんなイメージと共に腕に力を集中させながら出久は目の前に広がっている太陽に照らされて輝く美しい水平線が広がり続けている海へと叫んだ。

 

「SMASH!!!」

 

叫びと共に腕を振り抜くかのように正拳突きを放つ―――のだが、その瞬間に腕からは途轍もないエネルギーの本流が暴走するように溢れ出していき青白き光とエメラルドのような光が複雑に絡み合うような光線が飛び出していった。

 

「あっええっ!!?」

『まずい!!?』

 

思いもしなかった事態に出久は呆然としながらも驚愕し、マグナは大急ぎで緊急制御を行った。そのお陰もあって直ぐに光線は収まって光は途絶えたのだが……既に放たれてしまった光線は海へと直撃し巨大な水柱を天高く打ち上げ、水飛沫と共に太陽を包み込むような大きな虹を作り出してしまった。それに出久はあんぐりと顎が外れんばかりのリアクション、マグナは思わず頬を掻くような仕草をする。

 

「えっ……えええええええっっっっ!!!!??ぼぼぼぼぼ僕光線撃つつもりはこれっぽっちも無かったんですけどぉ!!?信じてくださいマグナさぁぁぁぁんん!!」

『謹慎っ……いやそれは分かっているようん、私がそれを良く分かっている……だがこれは、如何やら許容上限を超えた力を出そうとした結果みたいだね』

 

出久は威力こそ出せないが既に光線技を習得してしまっている、それが大きく影響してしまった。イメージとしては優れている物だろうが今回は余りにもワン・フォー・オールの出力が高すぎてしまった、その結果多すぎた個性出力によって身体が壊すのを防ぐために無意識的にそれをスペシウム光線と共に放たれてしまったのが今の光線の正体。だが逆に光線技が使えなければその力が出久の腕の中で暴発して腕がえらい事になっていた事にもなる。

 

「ひえっ……僕のスペシウム光線なんてまだまだドラム缶の表面を温める程度だった筈なのに……あんな威力に……」

『これは思っていた以上にとんでもない出力の個性を継承してしまったようだ……しかも今のはまだまだ全開ではなかった、全力だと更に威力が数倍増す事になる』

「―――マジですか」

『私は嘘は言わないよ……これは個性制御訓練が急務だね……』

 

威力だけで言えばマグナが初めて披露したスペシウム光線の約4倍の威力、それでもマグナの方がまだまだ遥かに上を行っているのは間違いないだろうが地球人がこれだけの力を生み出す事が出来る事に酷く驚いた。だが同時にこの個性を制御できたとしたら出久は途轍もない大成を果たすのだと思うとそれを見たくなってきてしまった。

 

『フフフッそんな不安がる事はないさ、また練習して使えるようになればいいのさ。私の見立てでは今現在の許容限界範囲は10%と言う所だね、さっきのは30%ほどの力を込めてしまったらしい』

「30%であの威力って……仮にオールマイトみたいなイメージで全力放出撃ってたらどんな事になってたんでしょうか……」

『そうだね、流石にそれだけの出力だと君は反動で吹き飛ばされてあらぬ方向に光線が飛んでた可能性も十分に考えられる。威力については……脅かすつもりはないけどそうだね……50m級の怪獣の体勢を崩れさせながらそれなりのダメージを与えられただろうね』

「……それってウルトラマンのマグナさんから見ても十分な技って事じゃ……」

『運用を普通に考えるレベルだね』

「これからもご指導お願いしますぅぅ!!!」

『素直で宜しい』

 

と頭を下げてくる出久に対して笑顔を浮かべるマグナ、兎も角これから自分はこの個性の制御も行わなければならない。下手に力を出し過ぎないように自分がリミッターになる事は恐らく可能、そう言う方面の方が出久のこれからにも良い影響を与えるだろうと思いつつも個性の光の中から此方を見つめてくる複数の気配に頷くとそれは満足そうな笑みやサムズアップを浮かべていくと改めて出久の中へと溶けていく……。

 

『出久君、君は本当に凄い力を授かったねぇ。この力の凄さは我々にも負けないと思うよ』

「それが僕の個性に……マグナさん僕は頑張ります、もっともっと頑張ってオールマイトに胸を張ってこれが僕です!!って言えるように!!」

『よく言ったね、私も協力するさ。さてそれじゃあまずは……取り敢えず個性に身体を慣らしつつ徐行運転位は出来るようになっておこうか』

「で、ですね……さっきみたいに暴発して光線ぶっ放すとかもう嫌ですし……」

『あっでも折角威力出せてたから、さっきの必殺技候補にして名前でも考える?』

「いや先ずやるのそれですか!?」

 

個性を受け取った事で想像以上の力を得てしまった出久、だがそれは単純に光線の力を強化するのではなく身体能力をも飛躍的に引き上げるような途轍もない物だった。そしてそれらの制御を一刻も早く修得する為、許容限界を少しでも引き上げて暴発の可能性を少しでも抑える為、迫る雄英高校への受験に備えて出久の修練の日々は続いて行くのであった。

 

 

【先日海浜公園近くで起こった海上で行った謎の爆発、警察は海などでの活動を中心にするヒーローに協力を要請しながら捜査を行うとの事です】

「あらっ怖いわねぇ……」

「……」

『うん、頑張ろうね出久君』

「……はい」

 

そして、そんな日々の成果を発揮する日が―――いよいよやってくるのであった。




ワン・フォー・オール10%でスペシウム光線強化+余剰出力20%が緑色の光線となって発射。結果、すげぇ威力に。


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新たな光の始まり

二月二十六日、いよいよその日がやって来た。雄英入試試験当日、受験会場である雄英高校を目の前にしながらも出久の表情には不思議と焦りや緊張といった感情や色も見せずにいた。今日この日を迎えるまでの3年近くの時間を必死に生きてきた、必死に修練に励んできた。やり切ったと胸を張って言える今に出久は一歩一歩地面の感触を確かめるようにしながら足を踏み入れていった。

 

『いい精神状態だ、当時の私とは大違いで何よりだ』

 

と脳裏には何処か羨ましそうにしつつも自分の成長に素直な喜びを浮かべている相棒(マグナ)の声が聞こえてくる。それが更に精神にリラックスを促し余計な力を取り払って行く。例えどんな結果になろうとも後悔なんてしない、そうなったら別のヒーロー科を受けてそこでヒーローになるだけでしかない。自分が最高のヒーローになる為には高校は何処なのかは問題ではない―――どんな場所だろうとそこで全力の努力するだけ。

 

大学の講義で使うような巨大な講堂の造りとなっている会場、ずらりと並べられている席には全てに受験票に振られており自分の番号がある席に座り込むと少しした後に同じ中学故か爆豪がドカリと座り込んだ。

 

「やぁっかっちゃん」

「……おう」

 

ぶっきらぼうに挨拶をした後に爆豪は目を閉じて何も喋らなくなっていた。無駄な話をする気はないのとこの後の試験などに集中したいからだろう、自分もそれは同じだと言わんばかりに瞳を閉じているといよいよ時間がやって来たらしく説明が開始される。その為に現れたのは雄英の教員にしてプロヒーローのボイスヒーロー、プレゼント・マイクだった。ファンの一人である出久はその登場に感動しつつも思わずマイクの声に答えてしまった。

 

『今日は俺のライブへようこそぉぉぉお!!!!エヴィバディセイヘイ!!!』

「YEAH!!」

『おっナイスなレスポンスサンキューそこのボーイ!!』

 

恐らくきっと、間違いなく試験に集中するだろうから全無視の塩対応を予想していたマイクは予想外のナイスボリュームの返事(レスポンス)に笑みを浮かべながら出久の言葉に感謝を送り直した。内心で健闘を祈りながら説明に入った。

 

『ふむっ彼がプレゼント・マイクか……しかしよくもまあ返事出来たね、隣の爆豪君も此方を横目で呆れているよ』

「(言わないとファンじゃないです)」

『その気持ちは分かる。ヒーローの登場に名前を叫ぶのと同じだな』

 

巨大なモニターへと試験への概要が投影されていく。様々な情報が出されていく中でそれらを総合しながらどう動くのがベストなのかを考えつつも、爆豪とは全く別の試験場である事に気付いた。矢張り同じ中学などは別々になるように調整が成されているらしい。二人は少しばかり残念そうな顔をするが獲物を喰い合う事が無いと前向きに考え直すのであった。

 

『演習場には仮想ヴィランが三種配置している。そのヴィランは攻略難易度に応じてそれぞれポイントがある、1とか2とかな!!個性を利用して行動不能にすれば、ヴィランに応じて点数が個人に加算される。当然、他人への攻撃などアンチヒーローな行動はご法度!!そして、最後にリスナーに我が校の『校訓』をプレゼントしよう。かの英雄……「ナポレオン・ボナパルト」は言った!「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と! Plus Ultra!! それでは皆、良い受難を!』

 

良い受難を、いい言葉だ。ヒーローを目指すならば進む道は受難しかないと言っても過言ではない。その受難が命に甚大な影響を与えるやり取りになるかもしれない、そんな受難を乗り越えて成長していくものこそが英雄であると思いながら内心で爆豪の健闘を祈った後に各自が割り当てられた試験会場へと進んで行く。

 

人工的に作られたビルが複数並び立つフィールドが広がっている、このフィールド内に放たれる仮想敵を撃破しそのポイントを競うのが実技試験。間もなく開始される試験に脅える者、備える者、格上の他の受験生に圧倒される者と分かれている中、出久はいざ試験の場へと足を踏み入れても酷く落ち着いていた。

 

「(……大丈夫さ、今日までワン・フォー・オールの制御訓練だって一杯やって来たんだ。マグナさんとオールマイトのお墨付きだって貰えた……そんな僕がやる事は全力で目の前の困難にぶつかる事だけ!!)」

 

もう既に準備は万端、何時始まっても対応出来ると言わんばかりの彼に対してそれを試すかのように唐突に―――

 

『はいそれじゃあ試験スタート』

 

それは始まった、唐突且つ軽い始まりの合図に多くの者が反応出来ない中で出久はそれに素早く反応した。身体に染み込んだ感覚は肉体と神経を一気に刺激して個性が循環していき力を滾らせていく。それは肉体の強化と並行して行い続けた鍛錬の結晶とも言える技、ワン・フォー・オールで肉体面を強化するだけではなく神経の伝達速度などを高める事を可能になり思考速度を引き上げるを可能にしていた。人間の神経伝達速度の限界は0.1秒と言われている、だがそれを超えた速度で行う事を可能とし音で聞いたのとほぼ同時にスタートを掛ける事が出来る。全身を強化しながらまるで閃光の如く駆け出せる事からそれを出久は―――

 

「ワン・フォー・オール……フルカウル―――閃光疾走(ライトニング・ダッシュ)!!!!」

 

それは雄英側としても計測の限界、いや寧ろそれだけ素早く反応出来た事は評価点にしかならない。駆け出した出久、その視線の先には雄英が制作したロボットの仮想ヴィランがいた。それへと迫りながら着地しながら跳躍しサマーサルトキックを繰り出す。胸部を捉えた一撃は容易に装甲を穿ちながら仮想ヴィランを空へと打ち上げ爆発させた。

 

「―――行ける!!」

『出久君左に2、右に1』

「シェアッ!!!」

 

地面を蹴りながら右へと跳んでいくと仮想ヴィランに激突の様な着地蹴りをかましながら反動を使いながら今度は真逆に居る二体のロボへと向かって行きながら両足の蹴りを放って同時に蹴り砕いた。

 

「光弾技が出来ればそっちを使うんだけどなぁ!!」

『一重に練習不足だからね、今は我慢しておくとしよう』

「肉弾戦で頑張ろうぉ!」

 

とマグナへの返答を自分への鼓舞として誤魔化すように言いながらも次の標的を探して駆け出していく。まだまだ光線技関連は未熟、故に試験ではワン・フォー・オールなどによる肉体強化のみで戦う事にした出久。その後も順調にポイントを稼ぎながらも途中途中で見かけた他の受験生のサポートを行っていく。瓦礫に潰されそうな子が居れば瓦礫を砕き、完全に戦意を失っていれば代わりに襲いかかって来た仮想ヴィランを打ち砕いた。他の生徒が見れば無駄だと思われるかもしれないが……手を伸ばせば助けられる人を放置するのはヒーローの在り方ではないと出久は思い、それにマグナも賛成する。そんな時だった、会場に明確で巨大な変化が起きたのだ。

 

「影……上!?」

 

それは武骨な装甲などに覆われている巨人、巨大な手がビルなどを抑えるようにしながらも身体を支えながらも至る所を監視する巨人。直ぐに理解する、あれこそが0ポイントの邪魔だけをするヴィラン。この試験における最大の障害、最大とは言っていたが大きさも最大とは質が悪いとしか言いようがない。ビルをも見下ろし此方を狙うように頭部のモノアイを巡らせる姿は恐怖を振りまく災厄に等しい。

 

「あれが0ポイントヴィラン!?デカァ!!?」

『30m位かな、私の知ってるロボット怪獣よりは小さいな』

「マグナさんの世界って本当に規模やばいですね!!?」

 

と言いつつも周囲の受験生たちが逃げ始めていく中で出久は飛び上がりながらビルの屋上へと位置取った。このまま放置する事も考えた、あれを倒したとしても結局は0ポイントでポイントにもならず得にはならない。だが得にならなければ何もしないのか、違うだろう―――仮にこの場がプロの現場だとすればあんな巨大なヴィランは脅威の一言でしかない。何より―――近くには瓦礫に足を取られていた人がいたのにあれを放置するなんて嫌だ。

 

「マグナさん見ててください、僕の―――光線!!」

 

そう叫びながら胸を張る。同時にイメージする、するのは嘗て見せてくれたマグナの光線を放つ姿。それと自らを重ねながら個性を授かった時を思い出しながら腕に力を込めながらそれに合わせるように腕が輝きを持って行くのをイメージする。腕は激しい力を纏いながらも閃光を作り出しながら腕を掲げる。それを見た0ポイントヴィランは出久へと向かって腕を差し向けるが出久は腕を右へと振り被り、右足で踏ん張りながら力を更に高めた。

 

「イズティウムッッッッ―――光線!!」

 

振り被った腕、それを逆十字を思わせるようなフォームで組む事で放たれた青白い光を纏った碧色の美しい光線。それは雷鳴のような轟きを試験場全体に響かせながら0ポイントヴィランの腕へとぶつかった。巨体の腕をそのまま押し戻しながらも腕を吹き飛ばし本体へと光線は到達する。

 

「ぁぁぁぁっっ……デェヤアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

渾身の叫びと共に光線は一際巨大となりながら本体へと炸裂した、そして―――0ポイントヴィランを上半身を飲み込み爆発を引き起こした。爆煙が晴れた時、そこにあったのは……上半身がボロボロとなりながら完全に機能を停止した巨大ロボの姿だった。それを見届けた出久は全身に激しい疲労感を覚えながらも満足そうな顔を浮かべて仰向けに倒れこんだ。

 

「こ、これが僕の……光線の始まりですよ……マグナ、さん……」

『ああ立派だったよ出久君。見せて貰ったよ君の光を』

 

0ポイントの撃破と同時に試験は終了してしまったが……出久は光線技による疲労も心地良く感じられるほどに満たされていた。




イズティウム光線、本来まだまだ未熟であるがワン・フォー・オールの影響で光線技の強化、そして個性の許容限界は10%だが限界を超えると体外にエネルギーを放出するという事を逆手にとって発射可能とした出久オリジナルの光線。
だが光線の扱いが未熟である事は変わりない為に使ってしまうと余分なエネルギーまで使ってしまい激しく疲労する、そして許容限界を超えるので肉体にも負荷を掛ける。故にまだまだ練習が必要な技という印象が拭えない。

ウルトラマンXのザナディウム光線の発射までのフォームを逆にした物だが、発射の際はスペシウム光線のように手首を合わせるのではなく右肘の内側に左腕を合わせて逆十字を作るような形になるのでどちらかと言えばウルトラセブンのワイドショットに近い。
名前はラテン語で始まりを意味するイニティウムにイズクを合わせている。


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夢への扉

「う、腕が……腕だけじゃなくて身体全身が軋むみたい……!!」

『全く無理をするからだよ、私に良い所見せたいと張り切ってくれたのは嬉しい事だがこれでは本末転倒だよ』

 

受験後、何とか自宅に帰ってこられた出久だが無理をしたせいなのかベットの上で全身に襲いかかってくる痛みに苦しんでいた。そんな様子をマグナは呆れ半分で見つめている。

 

『確かに以前のあれをヒントにして逆転の発想で光線技へと昇華させた発想力は称賛に値する』

「そ、そうですか……!?」

『自分の未熟さを逆手に取りながらも良い応用力だとは思う、だけどその結果としてこれだ。君は光線に慣れていない身、それで個性にも身体が馴染み始めている段階だ、双方まだまだ未熟な段階であんなことをすれば当然体にかかる負荷は大きくなるのは必定。褒めるが30、説教60に呆れが10と言った所かな』

「うぅぅ……」

 

イズティウム光線。個性の許容限界を超えると体外にエネルギーを放出するという事を逆手にとって発射する出久のオリジナル光線。威力としては彼が個性を使わずに放つスペシウム光線を大きく上回っている、ドラム缶を壊す程度には成長しているがそれでも30m級のロボを破壊する程の威力ではないのは確か、それ程までに威力には優れているが……如何せん身体に大きな負担がかかりすぎている。

 

『威力を出そうとして照射面積をスペシウム光線からかなり大きくしているね、それも反動増大の原因だ。あんな面積から余剰出力を放ったらそりゃこうもなるよ……容易にアレンジを加えるのは危険だとこれで身に染みただろう。君はまだまだスペシウム光線からスタートしないとダメだよ、あれはまるでウルトラセブンのワイドショットだ』

「セ、セブンというと例のあの……」

『そう……仮にも亡国の王子相手にやばい訓練した方だ』

 

それから数日は出久は反動でまともに動けなかったので暫くは座学とマグナによるウルトラマン雑学が続く事になった。出久としてはウルトラマンの事は非常に興味深く聞いていて楽しい事ばかりだった。特にウルトラ兄弟の戦いの歴史には目を輝かせていた、そしてその話もメビウスの話になった頃の事……。

 

「ええっそれじゃあそのメビウスさんって方はマグナさんよりも2000歳以上も若いのにウルトラ兄弟に入ったんですか!?」

『まあ彼は素質が凄かったからねぇ……それに実績も凄まじい、一応年上だからか向こうは私の事を敬ってくれるし勇士司令部だって憧れてくれてるみたいなんだけど……私的にはなんか複雑だったなぁ』

 

一方では尊敬しつつも永遠の憧れのウルトラ兄弟に入っている年下に敬意を持っている、だがその相手もエリート部署に配属されている自分を尊敬しているという事になっている。マグナ的には幾らエリート部署に所属している身ではあるがそれでもメビウスの方が確実に格上だと思っているのに其方が此方を尊重し敬うような感じなので複雑な思いを募らせ続けている。

 

「でもマグナさんはそれだけ凄いって事ですよ」

『素直にそう思えれば私も良いんだがねぇ……流石に側近の四天王と暗黒宇宙大皇帝を直接討ち取っている方にそう思われるのはこそばゆい』

「えっなんですかその凄いやばそうな肩書は……」

 

やばそうではなく実際にやばいのである。宇宙そのものを暗黒に包み込まんとした強大すぎる存在と直接対峙したメビウス、その凄さを改めて語ろうかとした時だった。部屋の中に大きな声と共に出久の母親である引子が全身を震わせながらその手に一通の封筒を差し出していた。

 

「いいいいいっ出久来てたよ……雄英から!!」

「遂に来たぁっ!!?」

『あのね……』

 

思わず身体を全力で引き起こした際に全身がビギィッ!!!という音とともに激痛が走り出久はベッドに再び倒れ伏しマグナは呆れながらもしょうがないかと、一時的に主導権を奪いながら引子からそれを受け取る。

 

「有難うお母さん、少し一人にして貰っても良いかな」

「うっうんそれじゃあお母さん、リビングにいるからね……でも絶対に結果は教えてよ!?」

 

と気遣うようにしながら部屋から出て行く姿を見送りながら椅子に腰掛けながら再び出久に主導権を返却する、そして出久は机の上に置かれた封筒を見つめながらも酷く緊張してしまい何度も何度も深呼吸を繰り返して何とか落ち着こうとする。そして―――覚悟を決めながら中身を開けてみた。中を出そうとすると書類よりも先に何かある事に気付いた、それを見て見ると……何やらの装置のようだった、500円硬貨程度の大きさのそれを両者とも掌に載せて首を傾げていると突然それから光が伸びて……映像が投影された。

 

『私がぁぁぁぁ……投影されたぁ!!』

「オールマイト!!?」

 

飛び出したのはオールマイトだった、黄色のストライプスーツに身を包みながらネクタイまでしている姿は何処か新鮮な気がする。この時、また痛みが走るのだがもうマグナは突っ込まなかった。

 

『HAHAHA驚いたかな緑谷少年!!実は話すの忘れてたけど来年度からこの雄英の教師として赴任する事になっていてね!!』

「オ、オールマイトが先生に……改めて本当に凄い!」

 

感動する出久、だがマグナはオールマイトにちゃんと教師が務まるのは心配になった。自分達に対する指導に対しても完全な超感覚派……グググッとしたらそれを一気にブワワワァ!!っという感じに擬音のオンパレードでどれだけオールマイトが天才的資質を併せ持っているのかを実感できた。必ずしも名選手は名監督ではない、という事だろう。

 

『それでは発表だ!!緑谷少年、当然のように筆記は合格!!実技ではヴィランポイントは52ポイント、問答無用で合格だ!!だが試験はこれだけでは終わらないんだよねこれが!!見ていたのはヴィランポイントだけにあらず!!』

 

もう既に合格の言葉が出ているのにも拘らず、それに釘付けになっていた。どういうことなのかと思いつつも何処か此方の反応を予測したようにふふんと笑いながらオールマイトは自分を激励するように、だが君にとっては当然だろうがねと言いながら答えを示した。

 

『試験にはヴィランポイントとは別に教員による審査制による別枠のポイントが設定されているのだよ、ヒーローはヴィランを倒すだけの存在かな?NO!レスキューポイント、それがもう一つ設定されていた隠された制度!!』

 

レスキューポイント。ヒーローは唯ヴィランを倒すだけで成立する訳ではない、人を助けてこそヒーロー足り得る。人助けという正しい行いをした物を何故ヒーローを育成する機関が排斥しなければならないのか、寧ろそれは評価すべき対象でしかない。

 

『緑谷少年、ヴィランポイント52ポイント&レスキューポイント60ポイント!!全く以て文句の付けようがない程の超優秀な成績だ!!素直に祝わせて貰うぜ少年、君は自分の力で首席合格を勝ち取った、カッコいいぜ!!』

 

力強い言葉と共に差し出された手、自分達に向けられたそれを見つめながらオールマイトはもう一度問いかけた。

 

『来いよ緑谷少年、此処が君の―――ヒーローアカデミアだ!!』

「僕が首席ごうかっく……いぃィィいやぁぁぁぁだぁぁぁぁあ!!!!??」

『はぁっ……しょうがないな、マグナヒーリングパルスを掛けてあげるよ』

「ゴ、ゴ迷惑おカケしマす……」

 

再びベットの上に転がる出久に対して回復光線を放ちながらもこれからが始まりである事を語り掛ける。

 

『既に始まってるとはいえ、此処からが本格的な始動になる事だろう。大変になるだろうけど私もサポートしてあげるからこれからも頑張ろう』

「はいっ……!!」

『取り敢えずイズティウム光線は改良か出力制御、負担軽減出来るまで使用禁止だからね』

「そ、そんなぁっ……」

『文句は言わない』



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入学の朝日

「出久ティッシュ持った!?ハンカチは!?お弁当は!?」

「大丈夫、もう全部持った」

 

この日、出久は新しい制服に袖を通して新調した鞄と共に玄関に立っていた。海外出張中の父から送られてきた応援メッセージが添えられた新しい鞄は少し重いが大きくなっている自分にはピッタリなサイズだった。自分が大きくなっている事を自覚しながら洗面所の鏡に映り込んでいる自分に少しばかり恥ずかしさを覚えながら

 

「それじゃあお母さん行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 

出掛けようとする息子を呼び止める、振り返った時に玄関の先から漏れてくる光が合わさって眩しく見れるそれは何処か自分の知っている息子がそれ以上に逞しく見えるのであった。思わず涙ぐみながらも笑顔で今の気持ちを伝える。

 

「超カッコいいよ」

 

その言葉にサムズアップに応えるとそのまま歩き出していくのであった。向かって行く先は雄英高校。ヒーロー科最難関と呼ばれる高校への首席合格を果たし、胸を張ってそこへ通う。出久にとっては重要な夢の一歩、人間としては小さなものが出久としては大きな一歩を踏み出す大事な日だというのに特に緊張もする事も無く前へと足を踏み出していった。

 

『ご機嫌だねぇ出久君、君の夢の一部が漸く叶ったのだから当然だろうけど』

 

夢の一部が叶った、果てしない夢だと分かりながら、周囲から諦めろと言われたりもしながらも出久は諦めずに努力を重ねてきた。そして今、夢へと指をかけ始めていた。まだ夢物語でしかないヒーローになった時の自分の姿を明確なヴィジョンにする為の日々がこれから始まっていく。そんな思いを紡ぎながら雄英へとたどり着くと矢張り何処か緊張していたのか乱れている呼吸を整えてから校門を潜って自分の教室を探しに回った。

 

「確か一緒のクラスだった筈……」

『素直に一旦職員室に聞きに行くべきだったかな、おっ良いものを発見したよ出久君』

 

案内表などを運良く見つける事が出来たのでそれを頼りに1年A組の教室に繋がるルートを見つける事が出来た。初日から遅刻なんて出来損ないのジョークにすらならない、加えて倍率300を誇る雄英はその敷地も圧倒的。念の為に何時も以上に早く起きて家を出た事が幸運を作る事に繋がった。早起きは三文の徳とは良く出来た言葉だと実感した瞬間に約3m近いドア、A組の教室を見つけられた。

 

「うっわ大きい……バリアフリーかな」

『今時は個性の関係で大きな人も多いと聞くが……そういう人もいるのかな』

「いえ聞いた事無いです、個性を発動させたら巨大化する人は幾らでもいますけど異形型でも此処までは……」

『なら万が一の備えだろう。個性とは日々進化しているような物だ、未知数の個性が現れても良いようにだろうね。そう私達の様な』

 

そんな感想を述べているマグナに確かに自分達は一般的に考えてしまうと一般的ではない枠組みに入るのかと納得する。マグナ、そしてオールマイトからの個性を考えると確かに妥当だと思いながらも扉を開けた。そこには同じクラスメイト達が―――

 

「机に足を掛けるな!歴代の先輩方や机の製作者に申し訳ないと思わないのか!?」

「思う訳ねぇだろうが!どこ中だこの脇役が!!」

『不思議と安心するのは君がそれを日常的だと捉えているからだよ』

 

如何にもくそ真面目を絵にかいたような眼鏡をかけた少年と典型的な不良―――もとい、自分達の幼馴染で同じく雄英の合格者でもある爆豪が平常運航の真っ最中であった。本当にいつでもどこでもあの姿勢を貫けるというのは最早才能なのではないだろうか、そしてそれに日常の一ページだと思えてしまう自分もそれはそれで如何なのだろうか……。思わず目が合うと爆豪はケッとそっぽを向く、出久は苦笑いを浮かべながらも自分の席……爆豪の後ろへと向かおうとするのであった。

 

『それにしても本当に変わらないね彼、まあ出久君に対する態度は変わってはいるから変化はしているだろうが……』

「(ま、まあカッちゃんらしくて良いじゃないですか。態度はあれですけど勇猛果敢にヴィランと戦ってくれそうですし!)」

『物は言いようだねぇ……』

「あっ、あの時の0ポイントヴィランをぶっ飛ばした人やない!!?」

 

と荷物を置いて一息を吐こうとした時であった、新たに教室へと入って来た一人の少女がそんな声を上げた。振り向いてみると此方を見て酷くにこやかな表情を作り続けている丸顔な少女が駆け寄って来た。

 

「嗚呼っやっぱりそうや!!ねぇっウチ分かる!?ヴィランぶっ飛ばす前にウチの方見てたし!!」

「―――あっあの時、瓦礫に足を取られてた……」

「そうそう、他の子を思わず助けたら瓦礫に足を取られてしもうて……万事休すと思ったら」

 

そう、彼女は出久があの巨大ロボを倒そうと強く決意するきっかけを与えてくれた少女だった。彼女も彼女で人を助けていたら危機的状況に陥ってしまったらしく困っていた所を救われたという事になり、出久にお礼をずっと言いたかったらしく合格している事を祈り続けていたらしい。そして今日、また会えただけではなく同じクラスだった事を喜んでいる。

 

「あの後大丈夫やったの!?なんか救護班の人たちに連れていかれたけど……」

「うん大丈夫だよ、あの時の必殺技は凄い身体に負担掛かっちゃうみたいで……」

「でも本当に凄かったよ!!なんかこう、ズババババァァァッッ!!!って光がロボに向かって行って、光が腕を砕いたと思ったらロボを爆発させたんやもん!!」

 

彼女の身振り手振りに合わせながらの話にその時の感想を素直な言葉にした語り口、そしてあの0ポイントを倒したという言葉に教室中の視線を集める事になっているのだが二人は気付かない。彼女は純粋に気付かないのだが、出久は注目されていても反応しないようにしているだけであるが。

 

「あれが必殺技なん!?」

「うん、まあ必殺の光線技かな」

「ビーム撃てるん!?」

「一応撃てるよ、でもまあお師匠様みたいな人には怒られたけどね」

『私ってお師匠なの?』

 

凄い凄いと言ってくれると改めて光線の凄さ、というよりもマグナより授かったそれらの凄さを思い知りながらも自分の力としての嬉しさも湧き上がってくる。個性を褒められるというのはこんな感じなのかなと素直な喜びと恥ずかしさが沸き上がって来た。

 

「凄いどんな個性なん!?」

「僕の個性はそうだね言うなれば―――超人(ウルトラマン)……かな?」

『フフフッ君はもう』




緑谷 出久。個性:超人と書いてウルトラマン!! 
身体能力を強化しながらも体内エネルギーを放出する事で光線まで打てる!!今も出来る事を模索し増やし続けている!!


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個性の輝き

「お友達ごっこしたいなら他所に行け、ここはヒーロー科だぞ」

 

賑わっているその場にまるで冷や水のような低く気だるげな男の声が場を黙らせた。男はのそのそと寝袋から抜け出ると更に気だるそうな声を出しながら言う。

 

「ハイ、静かになるまで八秒かかりました。時間は有限。君達は合理性に欠けるね」

『そう言う其方は社会性に欠ける、合理性だけで社会を生きていると思ったら大間違いだと思うが』

 

マグナのいう事には尤もだと思いつつも、男は自分がA組の担任である相澤 消太であると伝えると即座に新しい言葉を飛ばす。それは酷く単純な指示だった、体操服に着替えてグラウンドに出ろというものだった。そしてグラウンドで告げられた次の指示は……個性把握テストを行う、という趣旨のもの。突然すぎるそれに皆が困惑する中で一部が動く、それが指示ならば従うしかない。荷物を置くと体操服に着替えてグラウンドへと出た。他のクラスの人間などがいない事などを見るとどうやらA組にだけ行われているものらしい。

 

「あの、入学式とかガイダンスは!!?」

 

グラウンドにて改めて問われる、出久が試験で助けた少女事、麗日が思わず聞いてしまう。入学直後ならば行われるであろうそれを完全無視しての行動に驚いている。だがそれを嘲笑うように答える。

 

「ヒーローになるならそんな悠長な行事、出る時間ないよ。ヒーローを目指すならお前らに使える時間は少ない、雄英は自由な校風が売り文句。それは先生達もまた然り、良き受難を―――"Plus Ultra"って奴だ」

 

便利な言葉だとは思う、これから雄英では様々な事が正当化されているのだろう。ヒーローになる為の高校では通常のそれとは全く異なる物ばかりである可能性は否定出来ない、受難というには重すぎる物が多く圧し掛かってくるだろうがそれらをその言葉を掛けて乗り越えろと言う。都合の良い言葉と取るか、それらを心の支えにして差し向けられる物を超えていくか。それらは人によって変わってくる、それを見るのも一つの試練と言う奴なのかもしれない。

 

「お前達も中学の頃からやってるだろ、個性禁止の体力テストを。平均を成す人間の定義が個性の存在によって崩れて尚それを作り続けるのは非合理的、まあこれは文部科学省の怠慢だけどな。実技入試トップは緑谷だったな。お前の中学時代のソフトボール投げの最高記録は」

「えっと……86mです」

 

それを答えると周囲から驚きの声が聞こえてきた。当然、相澤が述べた通りで個性が禁じられているのにも拘らず、つまり個性使用無しで出久はその記録を叩き出しているのだから。それもマグナの影響と鍛え続けた結果なのだが、相澤は興味なさそうにしながらもセンサー付きの計測ボールを投げ渡してくる。

 

「なら今度は個性使って投げてみろ。思いっきりな。円の中にいる限り何をしようが構わない」

 

ボールの重さを確かめながら円の中へと入りながら集中する、そして同時に身体の周囲に碧色の閃光が走り始めていく。今現在出久の個性許容上限は少しだけ増えて15%、それらを全身に纏いながら出来る限りの力を、全身全霊を込めながら全力で投擲―――しながら

 

「SMASH!!!」

 

爆音と爆風を纏いながらボールは空へと撃ち放たれていった、初めのお試しのような物なので個性だけで投げてみる。それでもボールは重力の鎖から解き放れたかのようにぐんぐんと伸びていく、ボールがまるで豆粒の様なサイズになるまで吹き飛んでいき漸く地面へと落ちていった。相澤も結果に関心の息を漏らす。そして手元の機材にボールの飛距離――1022.4mの記録が表示される。

 

「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

「いっいきなり1キロオーバー!!?」

「すっげぇっなんて個性だよ!!?」

「というかマジで個性全開で使っていいんだねぇ!!」

「ウォォオオ面白そうでやる気満々になって来たぁ!!!」

 

「面白そう、ねえ・・・・」

 

その不用意な一言で、相澤の周りの空気が豹変した。呆れ半分、そしてもう半分浮かび上がっているそれは酷く意地の悪い物だった。

 

「ヒーローになる為の三年間、そんな腹積もりで過ごすのか。決めた、じゃあこのテストのトータル成績最下位はヒーローになる見込みなしと判断して、除籍処分にしよう」

『おいおい……突然無茶苦茶を言うな……』

 

マグナだけでなく、1-A全員が絶句した。だが相澤は続けた、自然災害にヴィランが起こす事件、今の世界にはいつどんな厄災が起きたとしても不思議ではない。そんな理不尽を越えていく力を持つ者こそがヒーローだと。

 

「自由な校風が売り文句と言った筈だ。君ら生徒の如何もまた俺達の自由だ。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」

 

『突然の試練だね、さて切り抜けられるかい出久君』

「当然……僕はヒーローになる為に此処に来たんです。その為の試練なら幾らでもクリアしてやりますよ……!!!」

『流石だね』

 

そんなマグナからの期待に応えるかのように50メートル走、握力、立ち幅跳び、反復横跳び、ボール投げと出久は立て続けに好記録を叩き出していく。特にボール投げでは―――

 

「よし、今度は本気でいこっと」

「えっあれ全然本気じゃなかったん!!?」

「うん全然?」

「だったら本気出してみやがれデク」

「分かった」

 

何処か自分がどこまでやれるのか見たそうにしている爆豪の期待に応えるかの如く、出久は改めて円内に入った。気合を入れながらも構えに入った。ボールを握った右腕を上げるがその手は軽く開かれている、腕を力を込めながらそれに合わせるように腕が輝きを持って行くのをイメージする。だがそのイメージは優しく相手を包み込み相手を抑え込むかのような物、限られた出力を活かす為に出久は頭を巡らせながら―――圧倒的な力をイメージしながらそれを解き放つ。

 

「シェアッ!!!」

 

投げながらも咄嗟に腕を組んで光線を発射する、それはスペシウム光線―――のようだが一直線に伸びるのではなくボール全体を押し出すかのように照射面積を大きくしていた。威力こそ落ちてしまうがボールを押し出す力はかなり強化されておりボールはぐんぐんと伸びていく。そして―――叩き出した記録は4キロオーバーという大記録を叩き出したのであった。

 

『ほぅ、ワザと光線の収束率を下げて威力を下げつつもボール全体に当てて飛ばすのを安定させたのか。考えたじゃないか』

「(前にマグナさんが相手を一切傷付けないウルトラマンがいるって言ってたじゃないですか、それを参考にしたんです)」

『ああコスモスか、慈愛の勇者とも呼ばれる彼を参考にして……フム、君の可能性は未知数だな』

 

そんな大記録を叩き出した出久は周囲から様々な事を問われたりどんな個性なのかと聞かれたりするのだが、少し困ったような顔をしながらも如何だと言わんばかりに爆豪を見つめるがそこにあったのは鼻を鳴らしつつも何処か闘志を燃え上がらせているような爆豪の姿であった。そんな個性把握テストはあっという間に終わりを迎え、出久は優秀な成績で2位に付く事が出来た。

 

『長座体前屈とか反復横跳びはもっと練習しないとね、特に瞬発力は大切だよ』

「(が、頑張ります)」

「あっ因みに除籍は嘘だから、君たちの最大限を引き出す合理的虚偽」

『……はぁっ~!?』

 

このテストで最下位を取ったものは除籍されると脅しを掛けられていたのだが相澤はあっさりと嘘だと白状した。思わず最下位になっていた峰田という少年は愕然としながらも自分の絶望を返せといいながらも酷くホッとした表情をしていた。

 

『あれこそ嘘だな、あれは皆に見所と将来性が確りとあったから嘘にしたみたいだ』

「(そ、それじゃあ除籍しようとしていたのはマジ……?)」

『マジだね、やれやれ教師の割に人が悪いな相澤先生とやら』




コスモスを参考、という事だが何方かと言えばコスモスの力を借りてなったウルトラマンジードのアクロスマッシャーのアトモスインパクトのそれに近い。


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憧れらへの思い

個性把握テストという入学直後に直面した試練を無事に突破した出久は念願の雄英高校での授業を迎える事が出来た。オールマイトの出身校という事もあるが一流のヒーローを目指すのであれば施設なども充実している上に内容もレベルの高い所が望ましかったからだ。そしてそんな雄英高校の学業スケジュールは通常のものよりもハードなものとなっており、前世の感覚で物事を考えたマグナは若干げんなりとした。雄英の授業は平日と土曜日、加えて平日は7時限まで存在している上に土曜日も6限まで。相澤の言葉を借りるのならば、絶えず試練が与えられていく、これもその一つに含まれているのかもしれない。

 

『まあ光の国基準で考えたらまあ……と言った所か、それに任務の方がずっとつらいの沢山あったからなぁ……』

「やっぱりそうなんですか?」

『想像して御覧、約1週間の間ずっと強敵怪獣に難攻不落のロボット怪獣と戦い続ける日々を』

「うわぁっ……」

 

その時のラインナップの中で特にきつかった相手なのは……ブラックキング、タイラント、キングジョーなどなど混沌した任務であった。ネオスと共によく切り抜けられたとお互いに語り草にしたくなったほどの激戦続きであった。それらに比べたらマシかと思いながらも出久と共に授業へと臨むのであった。そんな授業も午後の授業、即ちヒーローになる為の重要授業、ヒーロー基礎学の時間がやって来た。

 

「わぁあたぁあしぃぃがっ……普通にドアから来たぁっっ!!!」

 

平和の象徴、現代における大英雄、皆が憧れる№1ヒーローのオールマイトだった。世界が認める程の超ビッグネーム。オールマイトがデビューしてからというもの日本の犯罪発生率はどんどん下がり、世界最低レベルを保持し続けているほどの影響を誇る。そんなヒーローが教師として教鞭をとり自分達を見てくれる……これに興奮せずにどうしろというのだろうか。改めてオールマイトの活躍を調べたマグナはそれを見て素直に驚きつつ、よくも人の身のままでそんな事が出来ると(なか)ば呆れるように称賛していた。

 

「さてでは早速行こうか!!私が受け持つ授業、それはヒーロー基礎学!!少年少女たちが目指すヒーローとして土台、素地を作る為に様々な基礎訓練を行う科目だ!!正にヒーローになる為には必須とも言える!!単位数も多いから気を付けたまえ!!そぉして早速今日はこれ、コンバット!!戦闘訓練!!!」

 

その手に持ったプレートには「BATTLE」と書かれている。いきなり始まるそれに、好戦的且つ野心家な生徒達はメラメラと炎を燃やす。それと同時にオールマイトが指を鳴らすと教室の壁が稼動をし始めていく。そこに納められているは各自が入学前に雄英へと向けて提出した書類を基に専属の会社が制作してくれた戦闘服(コスチューム)

 

「着替えたら各自、グラウンドβに集合するように。遅刻はなしで頼むぞ」

『ハイッ!!』

 

各自は勢いよく自分のコスチュームが入った収納ケースを手に取ると我先にと更衣室へと向かっていった。そこにあるのは自分が思い描いた自らがヒーローである姿を象徴すると言ってもいい戦闘服、それをプロが自分たちの為に制作してくれるなど興奮して致し方ない、なんて素敵なシステムだろうか。

 

「―――形から入るってことも大切なことだぜ少年少女諸君、そして自覚するのさ!!今日から自分は"ヒーローなんだ"と!!!」

 

それぞれが希望したコスチュームを纏い、皆がグラウンドβへと集結する。皆それぞれの個性が活かせるかのような物、又は苦手な分野をカバーする物になっており正に個性が出ていると言っても良い中で当然出久も自らのコスチュームを纏っていた。それは―――彼がこうでありたいと強く望んだ思いが反映されている。

 

 

「う~ん……違うなぁ、もっとこう……」

『何を唸っているのかな出久君』

 

それは雄英入学が決まってから少ししてからの事だった。雄英には衣服控除という特別処置がある、それは前述の通りに種類を提出すると雄英専属の会社が希望通りのコスチュームを作ってくれるという夢のようなシステム……なのだが、その為の書類作りに出久は苦戦をしていた。書類と言うよりも正確に言えば会社に向けたこうして欲しいという要望に近く、デザインや細かな装飾やシステム面などで悩んでいると言ってもいい。

 

「なんかこう……僕のイメージ通りって言ったら変ですけどこうありたいって姿が形に出来なくて……」

『ふむっ成程、それなら参考程度にだが私の世界の怪獣やらのデザインなどを見てみるかい?参考になるかもしれん』

「是非お願いします!!」

『何か要望はあるかい?こういった傾向、だけでもいいよ』

 

と語られたので出久は折角なのでカッコいい系、それかメカメカしいものをお願いした。コスチュームには機械的なものを選ぶヒーローも多く、自分もそちら方面も悪くないと思っているらしい。それでは早速と言わんばかりに目の前に出力されたのは頭部に大きな回転するモノアイ、両手に大きな武器を携えている銀色のロボットだった。

 

『これは私の親友が戦ったロボット怪獣、ザムリベンジャーだ。強力な火器だけではなく防御も優れていて、バリアが厄介だったと言っていたよ』

「こんなロボットが居るんですね……というかやっぱり其方でもロボットって人型だったりするんですね」

『大体人型だったよ、まあ竜型の物もあったけど』

「ドラゴンのロボットですか!?凄い見たいです!!」

『それじゃあこんなのなんて如何だろうか、日本人の君には受けがいいとは思うが』

 

とワクワクしながら待っている出久の前に映し出されたのは長い髪を束ねた白い人型のドラゴンのようなフォルムをしながらも酷く神秘的な雰囲気を纏っているロボットだった。唯美しいだけではなくこう、男心を擽るようなカッコよさが本当に堪らない。中々にヒロイックなデザインに出久は興奮気味だった。

 

「凄いなんてカッコよくて神秘的な……これってもしかしてマグナさんたちのお仲間が作ったロボットですか!?」

『だったら良かったんだけどねぇ……これはギャラクトロンというロボット怪獣でね、残念ながらウルトラマンとは無関係……ああいやある意味関係はあるのかな……平和を求めていた事だけは』

 

何やら棘があるような言い方に出久は引っかかったので聞いて見たらとんでもないロボットであった事が判明して顔を引き攣らせてしまった。何故ならばこのギャラクトロンは全ての争いを止める為に世界のリセットを望んでいる、その為の手段として全知的生命体を抹殺しようとしていた。しかも別次元の宇宙にも送り込まれた事があり、そこで元凶とも言える存在が倒されているが……それでもまだ活動しているギャラクトロンは存在しており、マグナも戦った事がある。

 

『いやぁ本当に強かったよ……ロボット怪獣特有の恐怖などを感じないのもあったけど純粋に出力やらも半端ないんだよ……ある意味キングジョーより厄介だった』

「ど、如何やって倒したんですかそんなの!?」

『単純明快な力押しさ。投げて倒れている隙に全力で腕を引き千切って残った腕も関節を狙って破壊、戦闘力を奪いながら光線を浴びせ続けてドカンだよ』

「な、なんかすごい意外です……もっとこう、知略活かしたのかと……」

『私は結構パワータイプだからね。関節部は弱いというのはロボット怪獣共通弱点みたいなものだからね、それを力づくで破壊は結構有効な戦法なのさ』

 

他にも強大な怪獣などの話を聞いていった出久だが明確に言うなればそれらは参考にはならなかった、寧ろそれらと恐れる事も迷う事も無く立ち向かう事が出来るウルトラマンに対する憧れが強くなったといえるだろう。そして彼がデザインしたそれは―――マグナをイメージしつつオールマイトへのリスペクトも忘れない、胸のカラータイマーを模した物にはV字の装飾が成されており、二人への思いが込められている。

 

『少々気恥ずかしいね、まあそれが君のコスチュームだ。胸を張るといい』

「はい、確りと張らせて頂きます!!」




ULTRAMANのウルトラマンスーツのプロトスーツに近いが、マグナを意識しているのが身体のラインなどは炎を思わせる。そして胸のカラータイマーにはオールマイトの髪のような金色のVの装飾がされている。


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幼馴染の激突!

サブタイトルは歴代ウルトラマンのサブタイトルを参考にしたりしてます。


「わぁっデク君のコスチューム凄いピカピカだね!!凄いメカメカしい!!」

「まさかこんな感じになるとは思わなかったけどね……というか麗日さんのそれもかなり凄くない……?」

 

出久が提出したのはマグナを基本としながらも胸にオールマイトへのリスペクトを込めた物だったのが、提出した結果としてかなりメカメカしいコスチュームとなっていた。イメージとしては丈夫な繊維と運動性重視のオールマイト的な物を考えていたのだが……細かな装甲が張り巡らせており、ウルトラマンを模倣したパワードスーツのような装いとなったがこれはこれで出久は気に入っている。実はギャラクトロンなどの話を聞いてロボットみたいなのも良いなぁと内心で思ったりしていたのでこのような形になったのは嬉しい誤算である。

 

「私ちゃんと要望書けばよかったよ、パツパツスーツんなって恥ずかしい……」

「そ、それだったらサポート科の先生に相談してみたらいいんじゃないか?!デザインの変更とかコスチュームの装備変更とかも受け付けてるらしいから!?」

「あっそっか!!有難う後で行ってみる!!」

『おやおや女性の身体のラインを注視してしまうのはマナー違反だぞ出久君』

「(す、すみません……でもこれはちょっと……)」

『まあ気持ちは分かるよ』

 

意地悪にしつつもこれはこれで如何なんだといいたいマグナ、女性ヒーローの中にはボディラインをハッキリさせるコスチュームを纏う者は少なくない……というか肌を大胆に露出させている八百万は相当にきつい部類、なのだがこの学校にはそれ以上にやばいコスチュームで授業を行ったり活動をしている人がいる事をまだマグナは知らない。

 

『しかしこのコスチューム……ふむっああやっぱりか』

「(如何したんですか?)」

 

オールマイトがこれから行う基礎学、それに関する説明を行っている最中の事だった。オールマイトもマグナに負けないように教師としての勉強をしてきたのか、カンペを出そうとするが咳払いをして誤魔化しながらも自分の口で頑張って説明している時に何やら眉を顰めるような声が出た。

 

『このコスチュームだよ、君の行動をトレースして各部機能を開放する形になっているが個性因子とやらの活動を検知するらしい……だから光線を撃とうとしてもこれでは撃てんな』

「(ええっ!?あっそうか、忘れてましたけどマグナさんから貰った力は個性じゃないですもんね)」

『そういう事さ、まあこの位だったら私が調整できるさ。専門じゃないから少し時間は欲しいけど』

「(えっ出来るんですか?)」

 

当人曰く、自身をデジタルデータ化する事で機械の中に入り込む事は簡単らしい。そこで内部からデータ書き換えや調節を行う事は十二分に可能、改めてウルトラマンの万能性を思い知りながらもお願いする事になり、少しの間マグナとは会話できなくなった所でオールマイトの説明が終了した。要約すると……

 

基礎を知る為の屋内戦闘訓練でヒーローチームとヴィランチームで分かれて戦闘を行う。ヒーローチームはヴィランを確保するか、ヴィランが隠し持つ核兵器を確保すれば勝利。ヴィランは制限時間までに核兵器を守りぬく、又はヒーローチームを全員確保が勝利。核兵器は張りぼてだが、これは本物として扱う事。そして、チームはくじ引きによって決定されるらしい。そしてくじの結果、出久はAチームとなりパートナーは麗日となった。

 

「それでは最初のチームは……ヒーローチーム:A!!ヴィランチーム:D!!」

 

初戦から出久の出番となった、だがそれだけではない。対戦相手であるDには爆豪と真面目な飯田という組み合わせ、爆破の爆豪とエンジンと言う個性による機動戦が得意な飯田というシンプルだが強力なペアが相手という事になるのだが―――それ以上に出久は爆豪との対決。戦闘訓練をまだ行わない生徒たちはオールマイトと共にモニタールームに向かう最中も緊張した面持ちを作りながらも鋭く爆豪を見つめる。

 

先にヴィラン側である自分がビルの中に入り、その5分後にヒーローチームが内部に突入してくるという流れになっているので出久と麗日は対決の舞台となるビルの外で待機している。オールマイトから貰った図面を見ながらも作戦を立てている。

 

「う、う~ん見取り図って見るの大変やね……実際この通りに行くのも大変そう……」

「大丈夫だよ麗日さん、今回は別に出来ない事があってもいいんだから。何が出来て解らないのかを知る為の訓練だってオールマイトも言ってたじゃない」

「そうだね、精一杯やればいいんだもんね」

「そういう事」

 

素直に麗日は出久の落ち着き払っている姿に安心感を覚えている、初めての対人訓練という事で緊張しているという事もあるが相手も相手なので不安もある。だが薄らと笑みを浮かべつつも戦う男の表情を作れている出久に深い安心を感じる。

 

「ねぇデク君、なんか爆豪君と因縁ありそうな感じだったけど何かあったん?ウチも爆豪君がそう呼んでるからデク君って呼んじゃってるけど」

「幼馴染なんだかっちゃんとは、まあ中学の時に少しあってそれからは少しマシにはなったけど……今日はどうなるかな、本格的にぶつかるのは初めてだし」

「おおっ……男の因縁って奴!?」

「う~ん……ちょっと違うかも、でも大体合ってるかも」

 

そんな話をしていると開始の時間がやって来た、二人は一旦深呼吸をした後にビルへと侵入を開始する。出久は常にワン・フォー・オール・フルカウル10%を発動させ、何時でも戦闘状態を維持出来るようにしながらも同時に神経も強化しながらも周囲への警戒を緩めない。麗日も同じように周囲警戒をするが何処かオドオドとしてしまっているのか、出久の後ろから離れられない。

 

「大丈夫だよ麗日さん、今できる事を精いっぱいやるだけでいいんだ。それに君はもうヒーローなんだ、ヒーローとして頑張ろう」

「ヒーロー、ヒーロー……うん、うんっが、頑張ってみる!!」

 

オドオドしていた少女の顔が少しずつだが勇気を纏い始めていく、それを見て少しだけ出久は笑みを浮かべるが即座にそれは消えた。何故ならば―――廊下の奥から小さいが炸裂音が響いてきている。これは紛れもない爆発、つまり爆豪が迫ってきている。

 

「麗日さん、かっちゃんがこっちに来てる。先に上がって核を探して、室内なら飯田君の強みは発揮しづらい、でも君の個性は室内なら外以上に活きる筈だよ」

「うん、デク君も気を付けて!!」

 

短く伝えたい事と麗日を鼓舞する言葉を纏める、それを受けて俄然やる気と勇気を出しながら上へと上がっていく麗日を見送りながら出久は前へと進んでいく。廊下の曲がり角、奇襲にはもってこいの所に入った瞬間―――

 

「デクゥゥゥゥッ!!!」

「やっぱりそう来るよねぇ!!!」

 

溜めていた爆破にて一気に加速しながら奇襲を仕掛ける爆豪、大振りの右、やっぱりそう来たかと言わんばかりにそれを身を屈めながら回避しながら下に潜りながら爆豪へとアッパーカットを繰り出す。だがそれに尋常ではない速度で反応した爆豪は咄嗟に手の向きを反らしてから爆破を行って空中の軌道を変更して強引にアッパーを頬を掠らせる程度に留めながら回避しきって見せた。

 

「デクゥッ……やってくれるじゃねぇか……」

「言ったろ、君は僕の憧れだった。君の始動は右の大振り、知ってたよ」

「へっストーカー同然の観察で凌げた程度で良い気に慣れると思ったら大違いだ、クソが」

 

そう言いながらも爆豪の表情は好戦的且つ凶悪なヴィランその物でありながら……何処か、心から嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

「そうだデク、俺はテメェが気に入らねぇ。散々ヒーローになるとほざきやがる癖に努力もしねぇテメェが……だから今、テメェに思い知らせてやる。テメェの力が俺に通用するかどうかをなぁ!!!」

「来るなら来い、僕は逃げも隠れもしないぞ!!」




マグナのデジタルデータへの変換。ウルトラマンメビウスにてメビウスがコンピュータによる仮想空間で暴れるマケットゼットンを倒す為に自らをデジタルデータへと変換している。これは同じく円谷ヒーローである電光超人グリットマンのオマージュ。


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激戦の覇者

「緑谷すげぇっ!!あの超高速の奇襲を完璧に読み切った上でカウンター仕掛けやがった!!」

「でも爆豪もすげぇな、あのタイミングで避けれるなんて……」

「やべぇよあの二人とも把握テストでもやばかったのに、どっちも超絶才能マンか!?」

 

モニタールームで映し出されている映像、音声はオールマイトが耳に着けているイヤホンに転送されているので映像のみで観戦している。それらと同時にA組の皆が騒ぎたてるのを聞いてオールマイトは彼らからしたら努力の末の結晶の過程を知らなければ才能の一言で片づけられるのかと少しばかりの苦笑いをする。爆豪の方は分からないが、出久の方の努力は分かっているつもりでいる。

 

「(私はヒーロー活動もあるから常に見られていた訳ではないが……テクターギアとマグナさんの指導は緑谷少年を高みへと連れて行ったのか)」

 

出久が継承した瞬間から10%を許容出来ると聞いた時は素直に驚いた、そして今は純粋な身体能力強化ではなく神経にもそれらを及ぼし思考速度、反射速度などの強化にも及ばせる事が出来ると聞いて彼に個性を渡して素直に良かったとさえ思えている。

 

「(さあ見せてくれ緑谷少年、君の努力を!)」

 

 

「ォラァッ!!!」

「ぐっ!!」

 

片側だけで爆破を引き起こし、その勢いを使った回し蹴りが炸裂する。それらを十字受けするが思わず強く踏ん張ると僅かに身体が沈むかのような威力が響いてくる。爆破によるものもあるだろうが爆豪自身の身体能力も合わさっている、だが爆豪は防がれた事を逆に嬉しそうにしながらも空いていた左腕を差し向けて連続で爆発を引き起こす。

 

「喰らわない!!」

 

素早く払い除けながらも出久は勢いを付けたまま連続でバク転を行って爆破から逃れていく。連続的に起こる爆発の炎から回避しきり構えを取り直すと丁度爆豪の耳に同じチームの飯田からの通信が届いた。

 

『爆豪君!今かなり大きな爆発音が聞こえたが状況を教えたまえ、どうなってる!?』

「状況か。そうだな、少し心が躍る」

『いや気分を聞いているんじゃない!おい爆豪君!?』

「今いいとこだ、邪魔すんじゃねえ眼鏡……テメェの方にももうじき来やがるぞ。備えてろ、精々核を守ってやがれ」

 

言い切ると付けていた通信無視した、これ以上無駄な事を言われて邪魔されたくなかったのだろうか。それ程までに今爆豪の表情はゾクゾクとした嬉しさに包まれているように見える。丁度その時麗日から通信が入る、5階にて飯田と核を見つけたという類の物だった。殆ど爆豪の言葉とタイムラグはない、それを見抜いた爆豪のやばさが窺い知れる。

 

「やるじゃねえかデク……無駄な時間を過ごしてたわけじゃねぇのは分かった」

「この力が宿った時から僕は努力し続けてきたからね、もう僕は唯のデクじゃない―――頑張れって感じのデクだ!!」

「―――ったくウゼェなテメェは……ならそのデクで俺に勝ってみろやぁ!!!」

 

再度爆風で加速しながら迫ってくる爆豪、空中で体勢を維持したまま連続的に蹴り込んでくる。後ろに下がりながら衝撃を殺しながら防御するが徐々に後ろに追い込まれていき遂には出久は廊下の突き当りまで押し込まれた。逃げ場のない所まで押し込んだのを見ると爆豪は笑いながら先程よりも大きな爆破を巻き起こす。爆炎と爆風が迫ってくる、出久は身体をねじりながら腕を構えた。

 

「逃げ場がないのは君だって同じだぁ!!」

「ッ!!」

「SMASH!!!」

 

フルカウルのまま振るわれた剛腕、それは爆豪の爆風と爆炎を逆に押し戻しながら爆豪へと腕圧をぶつける。自分の放った物を逆に利用しながら一撃の威力を倍増させながらのカウンター、悪くない手だと思いながらも爆豪は真横に爆破を起こして廊下の壁をぶち抜きながらそれを避け切ってみせる。

 

「咄嗟に今のが出来るなんて……!!」

 

個性の強さもあるが爆豪の頭の回転も半端ではない、あの一瞬で自分の目論見に気付きながらも焦る事も無く瞬時に自分のダメージを最小限に抑える回避手段を思いついた。単純に強いだけではない、本当に強い相手だと出久は改めて称賛を向けながら同じように口角を持ち上げていた。今まで感じた事がないような高揚感と喜びが身体のそこから溢れてくるかのような感覚に身が震えてしまっている。

 

『出久君遅くなって済まない、漸く調整が終わったよ』

「っ!?(ほ、本当ですか!?)」

『ああ、いやぁこれなら宇宙科学技術局にもっと出入りしておくべきだったと反省したよ。ヒカリさんの手伝いをもっとすべきだったかな、それで今はどんな状況なのかな。随分と君は楽しそうだが』

「(だって、だってかっちゃんとこんなに……!!)」

『ああ成程ね……』

 

マグナは全てを察した、今出久は授業で爆豪と対峙しており出久は自分が思っていた以上に爆豪と戦えている。だがそれと同時に自分が憧れともする爆豪の凄さにも同時に触れる事が出来て本当に楽しいのだ。実力が近しい者同士で戦えている、互角に近い戦いを行えているという実感は実際に感じた事がある者でしか分からない物でもある。そしてそれは酷く心が躍ってしまう物なのだ。マグナにも覚えがある。

 

「こんなに、心が躍るなんて……!!」

「ハッ……テメェもかよ」

 

と壁の奥から爆豪が抜け出てくる、そこには怒りに苛立ちも無ければ悔しさも無い。お前の攻撃を避け切ってやったぞと言わんばかりの笑みがあった、そこには過去の自分を馬鹿にしていた爆豪の姿はなく自分を真っ直ぐと見つめながら戦う意志を見せる姿があった。そしてそれに合わせるように出久も構えを取った。これが好敵手(ライバル)という奴なのかと感動を覚えつつも出久はある事を決めた。

 

「かっちゃん……こっから全力で勝ちに行かせて貰うよ」

「やれるもんならやってみやがれってんだ!!」

「それじゃあ―――ヘェア!!」

「なっ!?」

 

直後、出久は素早く腕を組んだ。瞬間に手首の装甲がスライドしていた、そこへもう一方のスライドした部分を当てると腕からスペシウム光線が発射された。腕を十字に組むだけという最小の動作から光線が放たれる、それは的確に爆豪の足元を爆破して爆煙を作り出して爆豪の視界を完全に奪ってしまった。そして出久は思いっきりジャンプして天井を突き破りながら麗日の元へと向かって行く。

 

「ゲホゲホッ!!あのなげぇモーションじゃなくても撃てるのか……!?」

 

そこが計算の甘さだった。光線を撃つ為にはチャージが必要なのだろうと爆豪は考えており、光線は使ってこないか大きな隙を作らない限り使えないと踏んでいた。だが実際は隙が無いと言っていい程の速さで撃てた。相手を舐めていないと思いながらも心の何処かで舐めていた、今までの出久のように思っていたのかもしれない……普段の自分ならそんな自分に苛立つ筈なのに口角が持ち上がるのを抑えきれなかった。

 

「やりやがって……おい眼鏡そっちにデクが行きやがったぞ!!」

『なんだってうわぁっ!!?下から来るだとぉ!!?』

「ちぃっ俺がいくまで持たせろ!!」

 

と悪態をつきながらも爆豪も後を追ったのだが……結果的にはこの初戦、爆豪が到着するよりも早くなんとか核を確保する事に成功したヒーローチームの勝利となった。オールマイトの勝利判定宣言(それ)を爆豪は不思議と……初めて作るような晴れやかな表情でクソがっと悪態をつくのであった。




カッちゃん軟化……というよりもちょっと好青年化してる……?

因みに前回のサブタイトルはウルトラマンガイア第34話の『魂の激突!』を少しだけ変えた物です。今回は相当解りやすいですけどね、全然変えてねぇもん。


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地球の未来

戦闘訓練が終了しヒーローチームとヴィランチームはそれぞれ集合場所となっているモニタールームへとやってきた。そこでは皆がこちらを向きながらもモニターでは改めて二チームの戦いがリプレイされており自分達の戦いが映し出されていた、何処かくすぐったい気持ちもあるがそれをドンと受け止める姿もヒーローらしい事。 

 

「さてと少年少女諸君、講評と行こう!!皆、この戦いでのMVPが誰だかわかるかな?」

「はいオールマイト先生」

「おっそれでは八百万少女行ってみよう」

 

と手を上げた八百万へと指名するオールマイト、一体どんな事を言ってくれるのかと内心で楽しみにしながら彼女は口を開いた。

 

「今回の訓練は皆さんがそれぞれかなり役目を果たしていたと思います。ですので全員がMVPと言うのが正解だと思いますが、強いて言うならば飯田さんだと思います。緑谷さんが合流する時まで自分の個性が制限される状況下で常に麗日さんを警戒しつつも核を守り続けていました。それは緑谷さんの奇襲染みた登場で崩れてしまいましたが、設定を考慮するならば最後まで核を守り抜いた飯田さんが一番だと愚考いたします」

「うっうむ正しくその通り!今回はみんな本当に頑張ってたからMVP指定は難しい、だからこそ設定を忠実に守っていた飯田少年だ!!」

「有難う御座います!!」

 

と真面目一徹な飯田は大きく頭を下げながら感謝を述べる、本当に真面目だ。マグナも此処までの真面目な性格をした人間は見た事が無いとやや驚き気味、ウルトラの星にもいないタイプの人間だと思う。

 

「だけどオールマイト先生、緑谷と爆豪のあれも凄かったと思うのだけど」

「うむあれは正直私も驚いたよ、短い攻防ながらも互いが互いを警戒しつつ牽制しあっていた。最後には緑谷少年が隠し持っていた光線を足止めに使う事で勝利へと導いた結果となったがね」

 

とオールマイトはカメラを切り替えながら語る、映されるのはビル内の攻防。光線を警戒しながら自分の強みをMAXに引き出したインファイトを行う爆豪に相手の攻撃を防御しつつもカウンターを交えつつも最後には一本を取った緑谷。何方も素晴らしい物だったと言わざるを得ない。

 

「正直今回の流れはある意味理想的な物だったんだ、それぞれが自分の出来る事を全うしている。だからこそ考慮すべき物は核を如何奪うか、如何守るかに絞られてくる。そうなると麗日少女の攻撃を未然に防ぐように部屋を片付け、個性をMAXに出せないながらに努力した飯田少年がMVPになるのさ」

 

だけど麗日少女もよく頑張った、身体を浮かせながら部屋を一杯に使おうとした機動戦は評価できる!と麗日へのフォローも確りする平和の象徴。そんな中爆豪と出久は隣合うように立っているが互いに何も喋らずにオールマイトの方へと集中していた……だが爆豪がその沈黙を破る。

 

「……勝負を放棄して試合に勝ったってツラするんじゃねえクソデク、テメェは俺に勝ってんだ」

「いやでもカッちゃん的にはあのまま戦いたかったでしょ」

「テメェを組み伏せれば俺の勝ちだ」

「あははっなんだどっちもどっちか……」

 

何だかんだで爆豪も意識していたのは出久との戦い……と見せかけながらも確保する隙を狙い続けていた。だがそれを上に行ったのが出久のも事実、故に爆豪は素直に負けを認めながら出久へと言った。

 

「次は俺が勝つ」

「負けないよ」

 

短い言葉のやり取りだったが、出久は酷く満たされたような気分だった。最悪と言っても過言ではなかった関係だった幼馴染と僅かながらに前に進めたような気がしてならなかった。だから本当に嬉しそうにしながら言う。そんな二人の対決が引き金となったのかその後の戦闘訓練は特に白熱していた。自分らも負けてられるかと皆張り切っていた。その中でも飛びぬけていたのは特待生である轟 焦凍と障子 目蔵のBチームである。

 

自身の身体の一部を複製する事が出来る個性『複製腕』を持つ障子がビル内の音などを調査した後に、どのあたりに相手がいるのかを把握した後に焦凍が決めた。それはマグナですら予想もしない物だった。

 

『これは……まさか、個性と言うのは此処までの物もあるのか……』

 

障子が一人ビルの外へと出た直後に異変は起き始めていた、徐々に空気が冷たくなりそして一気にそれがビルを侵食していく。病魔が肉体を食い貪るかの如く瞬く間に冷気は空気中の水分を凍結させ飲み込むかのように生み出された氷はビルを包み込み凍結させていく。氷が自らの意思をもって自己を増やしビルを貪ったとも見える光景に皆唖然とさせられた。規格外とも言える個性の強さと規模、確かにあれならば特待生など容易いのかもしれない。そして焦凍はあっさりと核兵器を回収した後、自ら生み出した氷を自分の力で溶かしていった。

 

『氷と熱、いや炎か……?その双方を身に宿す個性』

「凄い、なんて……一瞬で勝負を決めて見せた……本当に凄い」

『確かに凄い、いやぁ私は彼は苦手かもね』

 

と苦笑いを浮かべながらもマグナは余裕を醸し出させているが内心では結構マジかぁ……と引いていた。光の国出身にとって寒さというのはかなりの天敵に成り得る。それ故かマグナは何処か引いている、と言っても流石に再生能力まではないだろうからグローザ星系人よりは遥かにマシだろうが……と内心で思いつつも純粋に焦凍の個性の凄さに驚く。

 

『個性、2年でかなりの情報を仕入れていたつもりだがこれは少しばかり報告の方向性を変えた方が良いかもしれないな……』

「(マグナさん……?)」

『いや何何でもないさ、ほら授業が続けられるよ』

 

と出久に授業への集中を促しつつもマグナは圧倒的な個性を持っている焦凍が戻ってくると其方へと視線を向けながら、次の提出する筈だった報告書の修正を開始していくのであった。定期報告としてのそれは個性に関する物だが……それは地球への不安などを書き綴ったものでもあった。

 

『個性は世代を経ていく毎に進化を行って行く。氷と炎、本来相反するはずだった物を操る個性へとなる。宇宙ではそれらを行える者はいるが……』

 

そこで終わるのならばいい、だがその先は?その先にもっともっと進化を行った場合はどうなっていくのだ。世代を経る、地球人の寿命での世代の交代はウルトラマンに比べるとずっと早くその都度に個性は進化を遂げる。そしてその具体例とも言える物とマグナは既に共にあると言っても過言ではない。

 

『ワン・フォー・オール……これは既に何代経ている』

 

そう、出久の個性となったワン・フォー・オール。彼の段階で何人目の継承なのかは聞いていないが、オールマイトの段階で天候すら変えてしまうと聞いた。ならば出久の場合は、いや出久の後の世代は如何なるのだ。出久には自分の影響があり、恐らくワン・フォー・オールもそれから程度影響を受け変質し共に継承させるだろう。ならば……どうなっていくのだ。

 

『……何れこの宇宙の地球人は……ウルトラマンのような存在へと到達するというのか、いやそれよりももっと先へ……』

 

マグナは一抹の不安を感じつつも楽しそうにする出久へと瞳を向ける。それは遥か先の事だろう、それに……訪れるのは不幸な物ばかりとは言えない。自分達のようになるかもしれない、そんな希望もあるのだ。故にそう思いながらもある言葉で締めくくる事にする。

 

『私は個性がどのような終着を迎えるのか、それを見届けたいと思う。それらを持つ人々に問いかけを行いながら―――』




前回のサブタイトルはウルトラマンメビウスの第27話『激闘の覇者』が元ネタです。全然変わってないもんね!!

今年ももう終わり、今年の投稿はこれで終わりです。それでは皆さん良いお年を!!


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宇宙の呼び声

あけましておめでとうございます!!
今年もウルトラ宜しくお願いします!!


地球に関する調査において、マグナは的確な人材だったとゾフィーに想われている。何故ならばウルトラマンとしての目線だけではなく地球人としての目線から考えられる事がかなり的を射ており報告としては高い完成度となっている。ウルトラマンとしてだけの目線だけではない所が重要な所となっている、光の国の人間すべてに共通していると言っていいそれ、最早国民性と言っていい程の良心を持つ彼らが人間を見る目は異なる。

 

だが彼はウルトラマンマグナだけではなく人間であった事の記憶を持っている故か地球人としての視線を持ち得る事が出来ている。それは人間として活動した事があるウルトラマンとは何処か方向性が異なる物でもある。最近力を入れているレポートは個性の世代を重ねて行くほどに複雑、強力となっていく事についてだった。

 

『出久君、君は個性をどう捉えている?』

「個性をですか?僕は何時の間にか人の間で当たり前になった物程度の認識位しか……」

『ふむっ成程』

「あの、それってもしかしてお仕事に関係ある事ですか?」

『少しだけね』

 

朝、オールマイト目当てに屯したマスコミを乗り越えて教室へと辿り着いた出久。早めに来た為に周囲にはまだ人がいなかったので声を出して返答をする。

 

『では解り易い例を出そう。ワン・フォー・オール、これはオールマイトから継承した力。同時にこれもオールマイトは師匠とも言える人物から継承して彼は平和の象徴と言えるだけの活躍をしたと言えないかい?』

「た、確かに……」

『ではそのオールマイトまで一体何代の平和の礎になった方々がいるのだろうね、個性の歴史はまだそこまで深くはない。それを考えると数十人いや二桁にすらなっていない事も考えられる。となると……その段階であれだけの力を発揮出来る個性へと進化している事になる』

 

出久は喉を鳴らした。掌を見つめながら出久は僅かに震えた、確かに個性の歴史は全くない、浅すぎる程に。それなのにこの力はどれだけの力を持っているのかと。

 

「あの、マグナさん……もしかして―――個性は地球人が持て余すっていう事でしょうか」

『……YESでもありNOでもあるよ、確かに強大な力に成り得るとは思っている。だが同時にそれらを導く存在であったオールマイトという人も現れた、そして君はその志を受け継いでいる。ならば君も誰かと一緒にそれを歩んだり授けたりする事も出来る、それを行えば何れそれが大きな輪となって地球を包み込むと信じているよ』

「―――ッ僕、頑張ります!!」

「おっ~緑谷如何したんだ、なんか意気込んでるけど?」

「いやなんでも無いよ切島君!?ちょっとその、ほら校門の所に居たマスコミの人達でプロになった時は頑張ろうってさ!!」

 

と思わず大声を出してしまった時に入ってきたクラスメイトに慌てて誤魔化す出久、それに同調しつつもプロはマスコミの対応とか凄いからそれもこれから勉強するだろうなぁと雑談に入る中でマグナは言葉を止めた、出久にはああ言ったが本当にそう成るのかという不安もあった。

 

『ウルトラマンならばこういう時は人間の善性やら良心を信じるのだろうな、そうであるべきなんだろうが……儘ならんな』

 

ウルトラマンであるならば、元々人間であった彼には両面が存在する。だからこそ人間には無理だろうと諦める部分もあれば、出来ると信じている部分が出来てしまっている。ウルトラマンである筈なのに人間を何処か信じずにいる自分が憎らしい、大きな輪など出来るのかと疑う自分が疎ましい。

 

『……あの方々ならばこんな事を思わないのだろうな……やれやれ儘ならんな』

 

口癖のようになりつつある言葉を呟くと何やら出久が騒がしくなっている事に気付いた。如何やら深く深く意識を沈み込ませし過ぎたらしい、自分は出久の相棒でもあるのだからそういう事も確りしなければ……。そして同時に今はそれに集中すればいいのかもしれない、人類の歴史を見ても一人の行動が徐々に人類に与えていった事もある、ならば自分がそれを実践するのも悪くないだろう。そう考えるようにして出久が今何をやっているのかを尋ねる。如何やら委員長に推されたらしいがそれを飯田に譲る事を決意したという所らしい、詳しく聞かなければ……と思った時だった、丁度食堂に戻ろうとした時……

 

「放課後、校舎裏に来て貰えると助かります。待っていますよ―――光の巨人」

『「っ!?」』

 

唐突な言葉に出久とマグナは揃って耳を疑ってしまった。光の巨人、それはウルトラマンを意味する言葉の一つ。それを唐突に投げかけられてしまった、その後の授業は集中する事が出来ずにその事ばかりを考えてしまっていた出久をマグナは窘めながらそちらは此方で考えると言うが出久は考えてしまう。如何してマグナの事を知っているのかと。

 

「(マグナさん、もしかしたらこの地球に潜伏している宇宙人がいるとか……)」

『いない、とは言い切れないね。だがそれが悪質なのかは分からないね、純粋に平和を望んでいるというのもあるからね。君たち地球人にもヒーローやヴィランがいるのと同じだよ』

 

極悪宇宙人(テンペラ―星人)地獄星人(ヒッポリト星人)策謀宇宙人(デスレ星雲人)などなど多くの物騒な肩書の宇宙人はいるがそこに住むすべての人々が悪人という訳ではない。それに実例として平和だけを求めて平穏に地球で過ごしていた宇宙人も多く存在しているのだ。故に行って見るしかない、という事になり放課後早速出向いてみる事になったのであった。

 

『おいおい出久君、緊張しすぎだぞ。案外友好的な方かもしれないぞ、それだったら私以外の未知との遭遇になるのだから君は地球初の事例になるんだよ』

「で、でも僕はマグナさんしか知らないんですよ。他の宇宙人にどんな顔したり対応したりしたらいいなんて分からないですよ……」

『まあそこは地球人らしい感覚だね』

 

そんな会話をしながらも校舎裏へと足を踏み入れてみると―――そこでは一人の少女が自分達の姿を見ると瞬時に駆け寄ってきた。ゴーグルを装備を付けながらドレッドヘアーのようにまとまった癖のあるピンク髪とスコープのようになっている瞳が特徴的な少女は出久へと一気に駆け寄りながら早口に語りだしていく。

 

「おおっ来て頂けましたか本当にありがとうございます実は結構不安だったわけですよ突然あんな事言っちゃいましたからねまあ来てくれたわけですから別段何も思っても無いですし感謝しかありえませんよハッハッハッ!!」

『これはまた、強烈な子が来たね……』

 

息継ぎもせずに今の言葉をば全て話したりテンションが凄い高かったり色々と物申したい事があるのだが、出久は取り敢えず言いたい事を言う事にした。

 

「あ、あのえっと……貴方は一体誰なんですか、光の巨人とかいろいろ言ってましたけど……」

「おおっそうでしたそうでした自己紹介もしてませんでしたねこれは失礼いたしました!!雄英高校サポート科1年H組所属、未来の天才メカニック・発目 明ですどうぞお見知りおきを!!というか是非とも光の国の方とは仲良くしたいのです!!」

「ひ、光の国!!?」

『……如何やら本格的に私の事を知っているらしいね、是非とも話を聞きたいね』

 

光の国の事を知っている、その事は出久を除けばオールマイトしか語っていない。という事は別の宇宙から来た宇宙人から聞いた辺りが妥当になるだろう、事情を知っているならば是非とも友好的な関係を築いておきたい。と出久と変わって貰ってマグナが表に出る。

 

「おおっ一気に雰囲気が変わりましたねという事は貴方が噂の来たぞ我らのウルトラマンですね!!?」

「その方ではないがウルトラマンである事は確かだね、それで君は一体何者だい。いや正確に言えば君と共に居る宇宙人は一体どこの方かね、ああ出身の事だよ、ねぇそこにいるんだろう?」

「矢張りお気づきでしたか、博士出てきた方が良いですよ~」

 

その声と共に発目という少女の背後へと視線を向ける、地球人では気付けないだろうがマグナ自身はとっくに把握していた。そこにいると、そこの景色が僅かに歪んでいくとそこに潜んでいた存在が明確になってきたのである。

 

「申し訳ない、直接顔を合わせるべきと分かっていたんですがね。明ちゃんの立場を危うくする訳にはいかないと光学迷彩を使っていたんだ」

「いや構わないよ」

 

現れたのは全身茶色に近いオレンジの色の様な体表をしたかなり大柄な存在、それは肩には渦を巻いた物がありカタツムリのような突き出た両目を持ったかなり特徴的な姿をした宇宙人だった。それを見てマグナは何処か安心したような仕草をしながら笑う。

 

「いや少しばかり安心したよ、貴方の星の偉人には私の星の偉人がお世話になりましたね―――ファントン星人」

「いえいえ此方こそ、メビウスさんには此方もお世話になった物ですよ」




という訳でウルトラマンメビウス、X、タイガなどに登場したファントン星人の登場です。この人を知ってるという方は多いでしょうし友好的な宇宙人ですので抜擢しました。

前回のサブタイトルは前回のサブタイトルはウルトラマンメビウスの第22話『日々の未来』が元ネタです。


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未知なる仲間

「さあさあこちらへどうぞいやまさか博士からお話を聞きまくっていた光の巨人のご本人とお会い出来るなんて凄い光栄ですよ全くえっとマグナさんでしたっけなに飲みますか!?」

『いえお構いなく、私ではなく私の相棒である出久君にお願いしようかな』

「畏まっ!!」

 

翌日の昼休み、再び合流して話をする事になった一同。流石に食堂は難しいので談話室を借りてそこで話をする事になった、事前の調査でこの部屋にはカメラや盗聴器がないことを発目の発明品で明らかになったのでマグナ自身も姿を現しての話になった。

 

「す、凄い……マグナさん以外の宇宙人なんて初めてだ……」

「それは有難う、でも僕としては光の国の方と出会えている君の方がよっぽど凄いとは思うよ」

 

緊張した面持ちをしたままマグナの隣に座りながら目の前でソファに腰を下ろしながら酷く理性的で温和な声色で話しかけてくる目の前の宇宙人に目を向ける。そこにいるのは健啖宇宙人とも呼ばれるファントン星人のグルテンがいる。マグナ曰く友好的な宇宙人であり星全体の人々が陽気な性格をしており地球人がコンタクトして友好的に成れる代表例としても推せる存在、特に日本人は上手くやっていけると思っている。

 

「さてさてまずは食事をしながらにしようか、ご飯はいいよねぇ……心と身体を満たしてくれるんだよねぇ……本当に、いいよねぇ……」

「はいはい今準備しますから待ってくださいね博士~!」

 

と発目は持ってきたと思われる鞄を開けるとそこには明らかに質量や大きさとして入りきらない様な重箱が入っていた。

 

「ええっ!?どうなってるのそれ!?」

『成程、ファントン星人お得意の圧縮技術だね』

「ええ。あれは入れた物を圧縮して小さく出来るんです。しかも質量まで小さくして元に戻す時に何の影響も起こさない私の自信作です」

 

ファントン星人と言えば先ず上がるのがその突出した技術力。様々な分野に秀でているがその中でも圧縮技術は宇宙の中でもトップクラスと言える、その凄さはあの暗黒宇宙大皇帝の先兵として送り込まれてきた先兵、インペライザーの自己修復を完全に無力化するまで小さくすることも可能にする。近年でその技術を生命体にも応用可能にして身体の内部へと直接入って治療を行えるようにする研究まで行われていると聞いた事がある。

 

「凄い技術力って何ですかこれ満漢全席かこれぇ!?」

 

ファントン星人の凄さに目を見張りながらテンションが上がりそうになる出久だったが、その前に少し離れた所に広げられたシートの上にこれでもかと広げられた料理の数々。和食のフルコースに日本では定番のおかずがこれでもかと並べられている光景、思わずあんぐりと口を開けて呆然としているとグルテンはそれでは少し失礼と……マグナに断るように頭を下げ、了承を得てから料理の前に座り込むと―――何やら不思議な踊りと共に何か神様への祈りのような物を上げ始めた。

 

「あ、あの発目さんグルテンさんは一体……?」

「何やら博士の故郷のファントン星は食べるという事を神聖な行為と捉える特殊な文化を持ち食前には神様への感謝の祈りと踊りを行ってからご飯を食べるみたいですよ。何時もあんな感じなんですお気になさらず、緑谷さんは何を食べますか此方からお食事にお誘いした訳ですから何かお好きな物を言ってください博士の許可は貰ってますよ」

「そうなんだ……成程確かに健啖宇宙人だ……えっとそれじゃあかつ丼をお願いします」

「畏まっ!!」

 

かつ丼を受け取った所で出久はそれを食べつつもグルテンの祈りが終わりまで発目に話を聞く事にした。

 

「博士って呼んでるけど発目さんとグルテンさんはどんな関係なの?」

「単純明快ですよ私は博士に色々と師事を貰いながら日々ドッ可愛いベイビーを生み出しているのです!!」

「ベッベイビー……?」

「私は自分の作った物に愛情を込めているのです!!」

『成程良い心掛けだね、日本には八百万の神という概念があるが宇宙にもそれに準ずるものはあるよ。何れ君のベイビーが自らの意志を持って君へ感謝する日も遠くないかもね』

「おおっそれは興味深いお話を聞いちゃいましたよ流石は光の巨人様!!」

 

嬉しそうではあるが何処か危なげな声を漏らしながらもロボットも良いなぁと思ったりしている彼女にグロテス星人の仕業で巨大化した御神体のコダイゴンやその系列のコダイゴンジアザーを話したら喜びそうだなぁと思いつつも流石にやめておこうと思ったりするのであった。

 

『それでグルテン氏との出会いは?』

「いやぁ本当に偶然だったんです。私が偶然試作型の宇宙観測衛星ベイビー13号に突然舞い込んできたのは博士の乗った宇宙船からのSOSでして私は未知との遭遇やら色んな興奮の中でなんとか博士の船の進路を自宅近くの山の中へに誘導したんですよ。そこで色々あって行動を共にしてるです」

「そういう訳です、いやぁ明ちゃんは本当に命の恩人なんですよ」

 

と如何やら食前の祈りが終わったのか食事を開始したグルテンは口いっぱいに頬張りながらも自らの口で言葉を作る。如何やら彼は地球人換算で30目前の20代、様々な技術を学び自らの糧にすべき宇宙を旅しているとの事。彼の宇宙船は超高性能であり宇宙の次元の壁を突破する事が可能で別の宇宙にも行く事を可能としている―――のだが、次元を跳び越えた直後に最悪のタイミングで出くわしたのが宇宙の災害と言っても過言ではない超新星爆発、何とか逃れる事は出来たが宇宙船は深刻なダメージを負ってしまったらしい。そしてステルス機能を使いながら修理をしている最中に地球へと近づいていたら発目の衛星と出会い、誘導をして貰いながらなんとか地球へと辿り着いた。

 

「今は宇宙船の修理やらをしながら明ちゃんへの恩を返す為に技術提供やら作品を見て上げてるんだよ、まあ多分直っても暫くは地球にいるとは思いますけど」

「何でです?」

「地球のご飯が美味しいから♪」

「えぇっ……?」

『流石健啖宇宙人ですね、地球のご飯が口にあったと見える』

 

とマグナが聞いて見るとグルテンは満面の笑みを浮かべたまま饒舌にどれだけ地球の食事が素晴らしいのかを語りだしていく、単純な味にも多くの工夫と思い、時間が込められているのかを語りつつ特に日本食が素晴らしいと目を輝かせて熱弁する。因みに一番好きなのは親子丼とバラカツ*1との事。

 

「それでそちらの緑谷君はマグナさんと融合なさっているらしいですね」

『ええっまあ、今は彼と行動を共にしています』

「ほほう!!ウルトラマンと同化とは非常に興味深いです緑谷さん是非とも仲良くしてください是非ともお願いします!!」

「ちっ近いです発目さん!!?お願いですから離れて……!?」

 

と顔を真っ赤にしながら目をぐるぐるにして慌てる出久、それもその筈。発目のボディは八百万に勝るとも劣らずのナイスバディなのだから、そんな彼女が自分の身体など知った事かと言わんばかりにグイグイと迫ってくるだけではなく胸が当たっているのだから女性経験がない出久からしたら悶絶物なのである。

 

「わ、分かりましたこれ僕の連絡先ですから!!?」

「おおっこれは有難う御座いますこれは私のです!!今度是非とも私の新ベイビーちゃんの実験に付き合ってくれませんか!?ウルトラマンと一体化している貴方のデータを是非とも取らせてほしいです!!」

「え、ええっ……」

 

何やら人体実験的なニュアンスを受けてちょっと不安になる出久だがそれを打ち消すように良いじゃないかと言ったのはマグナであった。

 

『よく考えてみなさい出久君、地球以上のテクノロジーを持つファントン星人のグルテン博士の弟子とも言える発目さんが君に力を貸してくれる。それに私の事も理解してくれる協力者を得られるのは財産だ。それに―――ウルトラマンの力にも十二分に耐えられるアイテムなんかも作れそうじゃないか』

「おおおおっっ!!!?ウルトラマンの力、是非是非やらせてください!!博士良いでしょ良いでしょ協力しましょうよ!!!」

「うん是非やらせてほしいね。僕としてもウルトラマンの方々のファンだし是非とも力にならせてほしいよ」

『だっそうだよ出久君』

「そ、それじゃあお願いしても良いですかね……?」

「勿論!!!」

 

こうして、出久とマグナは新たな仲間であるサポート科の発目 明とファントン星人のグルテンの協力を得られる事になったのであった。そしてそれは色んな意味で大切な出会いであったのであった。

*1
角煮にできそうな分厚い豚バラをじっくりと出汁で煮込み、十分柔らかくなった物をカツにした物。




ファントン星人のグルテンさんでした。名前はXで登場したファントン星人がグルマン博士だったのでそこからヒントを得て、たんぱく質の一種であるグルテンから。似てますし健啖宇宙人には結構ピッタリな気がしてます。

コダイゴンジアザー、ウルトラマンメビウスに登場した怪獣。ウルトラ怪獣の中でも最強クラスにやべぇ奴。ギャグ回に登場した怪獣なんですがウルトラシリーズにはギャグ回に出てくる敵は強いというのがあります。どのぐらい強いのか簡単に人間で表現すると……

「最強クラスの砲を備えて自律していてファンネルの如く自由自在に飛び回る戦車を相棒にして、どんな相手でも怯ませられるハンマーと鞭のように撓る竿を武器にして光線すら利かない身体、超人的な怪力とあり得ない跳躍力、残像を残す程のスピードを兼ね備えた横綱」

という意味の分からないスペックを誇るやべぇ奴。気になる方はメビウス第12話『初めてのお使い』を見よう。


前回のサブタイトルは前回のサブタイトルはウルトラマンメビウスの第21話『虚空の呼び声』が元ネタです。


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雄英の友達

「いやぁこれは凄いですねぇ!!これで個性使ってないなんて信じられませんよ全く常時発動型の個性でもこんな身体能力なんて信じられませんよ成程なるほどなるほどそれで私はこの身体能力に耐えうる最高のコスチュームを作っちまえばいいんですね解ります良いんです良いんです遠慮なんかしなくても最高の物を作って見せますから!!」

「いやせめて僕の要望とか聞いてから作って欲しいんですけど!?」

「勿論お聞きするに決まってるじゃないですかクライアントの要望を確りと汲み取った上でロマンと実用性の両立そして趣味の確立―――それこそが最高の技術者というものです!!」

「今趣味って言いましたよね!?絶対僕を実験体にする気満々ですよね!!」

「フッフッフッ落ち着いて下さい緑谷さん、よく言うじゃないありませんか―――科学の進歩、発展には犠牲は付き物でーす!!だから大丈夫、All right!!」

「全然大丈夫じゃない人が言う言葉だぁぁぁぁぁ!!?」

 

発目と出会った事で出久の雄英生活は一気に賑やかそして騒がしくなったと言っても良かった。自身のコスチュームの追加アイテム開発やらをお願いする事になったので正確な身体能力やら光線技などの力を測る事になったのだがそれだけで発目は大興奮だった。データを見るだけで今まで思いつかなかったようなアイデアがスパークして止まらない模様。

 

「光線技なんてエキサイティングでアメイジング、そしてセンシティブな物でしょう!!これは技術者としては相当な難題、だがそれが良い!!難しければ難しい程にそれに向けて解決する努力を積み重ねたくなるというものなのですよハッハッハッハ!!という訳で緑谷さん私は全力であなたに協力したいと思うのでこれからは良い友人同士で在りましょう言え寧ろ親友になりましょうそうだそうですよそれが一番いいんですよ私が作って貴方が試すという実に有益でエレガントな関係が生まれるんですよその結果として平和を守る光のヒーローになるなんて最高じゃないですか!!」

「いやそういう風に言ってくれるのは嬉しいですけどそれ絶対に僕を試作品やらの実験に巻き込む気全開で言ってるよね!?いや友達になってくれるって言うのは嬉しいけど絶対そっちが主目的ですよね!?」

「ぶっちゃけそうですね!!」

「そう言う所はせめて隠してぇぇっ!!」

 

常時スーパーハイテンション且つ自分の欲望に超素直&超早口で物事を進行していくという初体験過ぎる相手に出久は既に振り回されておりツッコミが定着しつつあった。誰かに振り回されるというのは初めてではない筈なのに出久は全く慣れず常に発目のペースで進んでしまっている、が幸いなのが発目が超ハイテンションながらも確りと出久の意見を尊重し話を聞いてくれるという事である点だった。

 

『いやぁしかし凄いテンションだね、光の国にはいないタイプの子だ。技術者というのは冷静な人が多いと思っていたが如何やら偏見だったらしい。私もまだまだだな』

「いや多分発目さんみたいな人は少数派だと思いますよ……」

『だが良いじゃないか。自分のしたい事ではあるがそれが同時に誰かのためになると思いながら全力でやってくれる、ああいう人との絆は大切にすべきだよ出久君。必ず君の財産になる筈だ』

「まあそうかもしれませんけど……」

 

目の前ではステルスで姿を隠しながらも通信でやり取りをしているグルテンと言葉を交わしながら出久の光線をどのように制御するアイテムを作るかという事を熱弁している。なんだかんだで出久も発目の熱意と自分の事にあそこまで必死になってくれる人は初めてなので心から嬉しく感じられて、発目の滅茶苦茶にも付き合ってしまっている。人が良いというかなんというか。

 

「緑谷君悪いけど光線制御装置の仮デザインが出来たから見てくれないかい?」

「えっもうですか!?」

「フッフッフッ出来る技術者は優れたデザイナーでもあるんですよしかもそこにクライアントの意見を取り入れる事も忘れないのも一流の証っという訳で制御次いでに剣も出せるようにしました軽くて扱いやすい感じにしてブレスレットみたいにしたいと思うんですが如何ですかね」

「なんかウルトラ兄弟にそんなブレスレット付けた方がいるってマグナさんから聞いたんですけどこれは絶対グルテン博士の趣味ですよね!!?」

「あっバレた?」

 

そんな騒ぎがなんと昼休みの間中だけで起きたという事実、もう既に1週間分程のエネルギーと言葉を発した気分の出久は若干疲れながらも午後の基礎学に臨む事になったのであった。そんな状態で臨む午後のヒーロー基礎学の時間になった時に相澤が今日の授業内容について話し始めた。

 

「今日のヒーロー基礎学はオールマイトに俺ともう一人も含めての三人体制で教える事になった。授業内容は人命救助、即ちレスキュー訓練。今回は色々と場所が制限されるだろう。ゆえにコスチュームは各々の判断で着るか考える様に」

 

人を助けるための授業、ある種ヒーローの本懐ともいえる授業に皆のテンションも上がっていく。相澤はコスチュームを出すと訓練場は少し遠いからバスに乗るので早く来るようにと言うとさっさと教室から出て行ってしまった。当然出久は着る方である。救助では瓦礫などで身体を傷付けるかもしれないのでそれらから身を護る意味でもコスチュームは有効なのである、そして訓練場へと向かうバスへと乗り込んだ

 

「こういうタイプだったのか……」

「意味なかったね……で、でも前もっての練習にはなったとは思うよ飯田君」

 

と落ち込む飯田。委員長へと無事就任した彼の主導の下で出席番号順に席へ着いたのだが、後部はよくあるの二人分の座席、しかし飯田達が座っている中部から前部は左右に座席があって向かい合うタイプだったので出席番号順というのはあまり意味をなさなかった。それをフォローする出久の言葉を受けて次に活かそうとなんとか持ち直すのであった。

 

「私、思った事は口に出しちゃうの。緑谷ちゃん」

「えっあっはい!……えっと蛙吹さん!?」

「梅雨ちゃんと呼んで」

「え、えっと努力します……」

「あなたの個性――オールマイトに似てるわね?」

 

会話量だけならば話した女性トップ4に入りそうな勢いだった発目のお陰で一気に女子との会話に慣れたのか、初めて話すクラスメイトの蛙吹 梅雨にも問題はなく話をする事が出来た。だがその内容は核心を突くような物だったので思わずドキっとなってしまった。

 

「そ、そうかな……」

「ええっ流石にオールマイトは光線を発射したりはしないけど貴方の動きとか凄いパワフルな所とかオールマイトみたいだったわ」

「いやぁマジで緑谷凄かったもんな!!まさか人間からビーム出るとは思わなかったわ、超派手な個性だよな!!」

 

と言われると少々照れる出久、そして少しばかり梅雨の言葉に応えて少しは意識を反らしておこうとする。

 

「僕の個性は身体能力を強化するだけじゃなくて体内にあるエネルギーの放出も出来るからね、と言っても戦闘訓練で使ったのはどっちかというと基礎的な物なんだ」

「結構な威力出るのに?」

「うん。一応発展型はあるんだけど……入試でそれを使ったら全身が悲鳴を上げちゃってお師匠からは改善出来るまでは基礎技だけって言われちゃって」

「けっだったらさっさと改善しやがれ」

 

とそこに少し馬鹿にするように爆豪が悪態をつく。

 

「俺はもっと先に行ってやる、テメェなんざ置いてな」

「アハハッ頑張るよ。まあうん……取り敢えず今は基礎を練習しないとね……でないと発展なんて夢のまた夢だし……」

 

 

そんな話が行われている間にもバスは訓練先である施設へと向かい続けていく。そしてそこで彼らを出迎えるのは―――初めて出会う凶悪な悪意であった。




多分発目さんとグルテンさんはサブレギュラーかな。


前回のサブタイトルは前回のサブタイトルはウルトラマンエックスの第11話『未知なる友人』が元ネタです。


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悪夢の第一楽章

救助訓練の会場となる場に到着してバスから降りていき、相澤引率の元、中へと入って行くとそこにあったのは驚きの光景だった。そして思わず口を揃えて言ってしまった。

 

『USJかよ!!?』

「水難事故、土砂災害、火事、etc(エトセトラ)……此処はあらゆる災害の演習を可能にした僕が作ったこの場所――嘘の災害や事故ルーム――略して"USJ"!!」

『本当にUSJだった……!?』

 

と皆が言葉を漏らす中でマグナがぼそりと

 

『そう言うのって権利関係問題ないのだろうか、あくまで教師内での呼び名とか勝手に呼んでるだけという事なら別に問題はないのか……正式名称は別にある訳だし……いやだからと言っても普通にそこまで堂々と被らせる事は普通しないと思うが……』

 

と何やら割かしガチな考察をしているのを出久は聞こえていたので僅かに口角をピクつかせてしまっていた。そんな事を聞いていると登場したのは宇宙服のような戦闘服を纏っている一人の教師であった。スペースヒーロー 13号。宇宙服に似ているコスチュームを着用している為に素顔は見えないが、災害救助の場で大きな活躍をしているヒーローの一人だった。

 

『これは何とも解り易くていいね、私としてはなじみ深い感じがするのが良いねぇ』

 

と好印象な13号は言いたい事があるらしく言葉を綴った。個性には人を殺してしまうほどの力を持っているものがあると。この授業ではそれを人を助ける為に使う事を学んでほしいという強い思いがあった。それを聞いた出久は思わず強く拳を握り込みながら改めて自分の力の責任を思い知る。何故ならば自分の必殺技でも光線技は撃つ相手を選ぶ、そして出力を間違えれば命を奪いかねない物だからである。だからこそマグナはイズティウム光線の使用を真っ先に禁止にしたのだろう。それらを感じながらもっともっと精進する事を心に決めた所で授業に入ろうとした時の事―――

 

『出久君戦闘態勢!!敵が来るぞ!!』

「っ!!相澤先生、何か来ます!!」

 

嘗て、ヘドロヴィランの経験があるからかマグナやオールマイトにも指導された素早い意識の切り替え鍛錬が役に立ったのかすぐさまにフルカウルを発動させながら戦闘態勢を整えた出久。その直後、USJ全体の照明が一瞬消え、不気味な雰囲気を醸し出す。直後に相澤は出久の言葉通りに悪寒を感じ、噴水広場に反射的に顔を向けた。そこに黒い靄が空中で不気味に渦巻きその中心からは悪意と殺意が漏れた。噴水前の空間が奇妙なほどに捻じ曲がるかのようにどす黒い霧のような広がっていく光景に素早く指示を飛ばしながらゴーグルを装着し、13号も動き出す。

 

「皆さん後ろから出ないように!!これは演習などではありません、完璧な非常事態です!!」

 

まだ何が起こっているか分からないという風な生徒達はきょとんとしていたが、ただならぬ雰囲気を察し直ぐに13号の背後へ集まっていた。出久は何時でも光線を撃てるような体勢を維持し続けながらも全周囲を警戒し続けながらも瞳が黒い渦からゆっくりと大勢の人間が出現したのを見た。

 

『ひい、ふう、みい……参ったな相当な戦力がいるな。ご丁寧に射撃系に近接系と個性まで別けているとは……』

「相澤先生、見える範囲で射撃個性と近接系異形個性なんかが多いです!!」

「合理的な報告ご苦労、前情報でそれだけ分かればやり易い。緑谷お前も引け」

 

出久は相澤の纏っている空気が活動を開始する時のオールマイトに似ている事から抹消ヒーロー・イレイザーヘッドとして活動しようとしている事を察してマグナが出してくれた情報を相澤へと伝達する。相澤はそれを素直に受け取りつつも自分の作戦を決めつつも13号に生徒達を任せるとそのまま飛び出してヴィラン達をかく乱していく。個性:抹消にてヴィランの個性を封じる事で出鼻をくじきながら相手の最大戦力を使えなくし自分のフィールドで戦う、それでヴィランの注目を集めている間に13号が生徒達をUSJから逃がそうと画策するが……

 

「逃しませんよ、13号と生徒の皆様方」

 

瞬時に移動し、出口への道を封鎖するかのように立ち塞がる霧のような姿をしているヴィラン、他のヴィランをここに連れてくる役目も背負っている黒い霧のヴィランは何処か紳士的な口調をしながらも明確な敵意と悪意を向けてくる。それらから守る為のように13号が一歩前に出ながらも出久は何時でもフォローできるように準備を固めておく。

 

「はじめまして生徒の皆様方。我々はヴィラン連合。この度、ヒーローの巣窟であり未来のヒーロー候補生の方々が多くいる雄英高校へとお邪魔致しましたのは他でもない。我々の目的、それは平和の象徴と謳われております№1ヒーローであるオールマイトに息絶えて頂く為でございます」

 

その言葉に思わず皆の意識が一瞬死んだ。あのオールマイトを殺す為に態々雄英に乗り込んできたというのだろうか、単純にオールマイトを目的として事件を起こすだけでも狂っているとさえ思えるのにオールマイトだけではなく多くのプロヒーローが教師として在中している雄英高校に乗り込んでくるなんて普通ではない。だがヴィランの瞳に嘘が滲んでいない、本気で殺すつもりで来ている。そして直後―――

 

「そして生徒の皆様が金の卵という事も承知しておりますので―――散らさせて頂き嬲り殺しにさせて頂きます」

 

今度は黒い霧が伸びて自分達を包み込んでいく。身体が何処かに飛ばされているかのような感覚を味わうが直ぐにそれは明らかになった、身体は空中に放り出され真っ逆さまに真下にある巨大な湖のようなプールへと落下していた。

 

「嘘ぉっ!!?」

『ところがどっこい嘘ではありませんっと言っている場合ではなかったね』

「スペシウム光線、シェア!!!」

 

咄嗟に出久はスペシウム光線を発射しその勢いで真横へと自らを吹き飛ばした。そしてその先には恐らく訓練の為にあったと思われる船がありそこへと着地をする。

 

「うおっ緑谷!?お前そんな事まで出来るのかよ!!?」

「良かったわ緑谷ちゃん、私もう一度潜ろうかと思ったけど余計なお世話だったみたいね」

「峰田君に蛙吹さん、じゃなくて梅雨ちゃん!良かった二人とも、無事だったんだね!!」

 

着地した先には先に転移させられ、此処に避難してきたと思われる二人がいた。そこは13号の説明で言われていた恐らく水難ゾーン、そこに転移させられてしまったのだろう。兎も角互いの無事を喜びつつも大変な事態になってしまったと溜息をついてしまう。

 

「それにしても大変な事になっちゃったわね……まさかオールマイトを殺すなんて目的をもってしかも雄英に来るなんて……」

「うん、凄い自信だった。多分対オールマイトの策を考えてきたんだと思う」

「で、でもさオールマイトだぜ!?天下無敵の№1ヒーローだぜ!?今までだってオールマイト相手を考えてたヴィランを倒してきたオールマイトが負ける訳ねぇって!!」

 

と不安になる心を無理矢理奮い立たせ気持ちを隠そうとする峰田、そんな様子を察して言葉にはしないが梅雨と出久の二人はヴィランが明確な策がある事とそれも向こうが知っている筈であり、確実な対策があるからこそ来ているのだと改めて考える。

 

「兎も角、先生たちが助けに来るまで此処で待つのは危険だよ。見て」

 

出久がそちらを見るようにとそっと目配せをすると無数の水影が見える、恐らく水中であるならば無類の強さを発揮出来たり相性のいい個性を持つヴィランがいるに違いない。此処は完全にホームグラウンドという事になる、このまま先生を待っていたら確実に先制攻撃を受けて水中に引きずり込まれてしまう。何とかしなければならない……故に二人の個性を聞いて作戦を立てようとした時だった。

 

『待て出久君、水中の様子が可笑しいぞ。何だこのプレッシャーは……』

「―――えっ」

「緑谷ちゃんっ気のせいかしら、私は個性は蛙っぽい事なら出来るのだけど……それが関係あるか分からないけど何か水の中が変な感じがするわ……」

 

マグナが発した言葉、それに同調するような事を言う梅雨。顔を見合わせながらそぉっと水中へと目を向けてみると―――何やら巨大な影がうねる様に見えた、そして水中のヴィランと思われる影がまるで痙攣するかのようになりながら水面へと上がってきた。

 

「ひぃぃぃっ!!?」

 

峰田が声を上げるが、それは死んでいない。痺れているかのように痙攣しているだけ―――だが直後に多くのヴィランが絶叫を上げながら何かから逃げ惑っていた。

 

「馬鹿が怒らせるなって言ったじゃねえかぁ!!?」

「俺のせいじゃねえって!?」

「言ってる場合か逃げろぉ!!」

 

「な、なんなんだよ何が起きてんだよぉ!!」

「何かが、水中から来るわ!!」

「皆船に確りと掴まって!!」

 

刹那、まるで爆発でも起きたかのような水柱を上げながらそれは姿を現した。それは上半身だけで15mは硬いであろう途轍もない巨体、黄色っぽく白にも見える体表に黒模様が走っている。本来の動物なら眼がある場所に回転する三日月形の角があり、それは対空レーダーのように回転し続けており目の役割をしているのではと思わせた。そして水中からは酷く長い白い尾と思われる物が伸びておりそれは常に帯電していた。そしてそれは姿を見せると共にキィィィィッッ!!!という甲高い咆哮を上げた。

 

「こ、これって……!?」

『宇宙怪獣 エレキング!?何故こんな所に此奴が!?』

 

出久達の前に姿を現したのはマグナの居る宇宙に存在する宇宙怪獣の一種、エレキングであった。




ウルトラ怪獣からエレキングの堂々のエントリーだ!!いきなりエレキングは攻めすぎかと思いましたがやっぱり解り易く知名度もあった方が皆さんも良いと思いましたしエレキングは魅せやすい上にこの子、電波妨害まで出来るのででこのUSJではかなりの適役だと思って出しました。

あと私がエレキング大好きなのもある。

前回のサブタイトルはウルトラマンエックスの第17話『ともだちは怪獣』が元ネタというよりも着想を得ました。


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雷の王者

水難ゾーンの水中から姿を現したのは龍のようにも見える巨大な怪獣、だが出久達にとってそれらは初めて遭遇する超巨大生命体に驚愕し言葉を出す事が出来なくなっていた。ヒーローでも巨大と言えば近年デビューしたばかりのMt.レディだが彼女でもその大きさは2062㎝でしかない、それなのに目の前の巨大怪獣は水面から出ている上半身だけで15mはあろうかという巨体。感じた事も無いスケールの大きさに圧倒されるしかない。

 

『出久君確りしろ!!君には私がいる、エレキングとも戦闘経験がある私がな!!だから確りしろ!!!』

「―――はっ!?ふ、二人ともしっかり気を保って!!」

「ケ、ケロッ!!?」

「やっやべぇマジで飲まれてたっつうかでかすぎだろなんだこのヴィランンンッッッ!!!?」

 

絶叫を上げながらも咆哮を上げ続けているエレキングを見上げてしまう、如何にも機嫌が悪いのかエレキングは何処か濁りのある咆哮を上げながら電撃を放出しながら周囲にヴィランを痺れさせながら唸りを上げ続けている。余程この水難ゾーンの居心地が良かったのか、自分の縄張りとする事を決めたのか荒ぶりを見せているエレキング。

 

「(マ、マグナさんこれが噂の怪獣って奴ですか!?)」

『ああっ正真正銘の宇宙怪獣、ピット星出身のエレキング。まさかこの地球で初めて出くわすのが此奴とは……』

 

エレキングはマグナにとっても因縁のような物がある。彼の友人であるマックスも戦闘経験があるのもそうだがマグナ自身も同種と戦った事がある、その時は単純な他の惑星に生息していた個体で他の怪獣によって負った怪我の影響で凶暴化していただけなのでマグナヒーリングパルスで治療する事で鎮静化させたのだが……今回ばかりはその手を使ったとしても無駄だろう。

 

『エレキングはその名通りに体内で膨大な量の電力を生みだす、それと長い尾を武器にする。絶対に掴まるな私と融合しているとはいえ君でもただでは済まないぞ!!』

「な、何とかしないと……!!そうだっ!!」

 

エレキングの情報を貰うが聞けば聞くほどに厄介さが深みを増して行く。そして今するべきなのはこの怪獣から一刻も早く距離を取る事だ、マグナリングを使うにしても梅雨と峰田に見られてしまう。個性だと言い張ればいいかもしれないがそれは本当に最終手段、マグナから出来るだけ正体はバレない様に気を付けてくれと言われているので控えたいと思いながらある事を思い出した。

 

「二人とも僕の身体に掴まって!!此処から逃げるよ!!」

「で、でもどうやって逃げるの!?あのおっきいヴィランは水中に潜んでたって事は水中がきっとホームグラウンドよ!?だから私が二人を連れて逃げるにしてもあの巨体じゃすぐに追いつかれるわ!!」

「良いから僕の身体に!!急いで!!!」

「わっ分かった緑谷信じるぜ、信じていいんだな!!?」

「信じて!!!」

 

不安げな二人の言葉を打ち消すかのような言葉、その言葉に含まれた強さに二人は顔を一旦見合わせながら頷くと出久の身体にしがみ付く。梅雨が峰田を蛙のような長い舌で掴み出久の脇腹辺りに、梅雨は出久の後ろに負ぶさるような形にしがみ付いた。そしてそれに気付かれたかエレキングは此方を振り向いてしまった。

 

「いやあああああこっち向いたぁぁぁあああああ!!!!??」

「二人とも確り掴まってるんだよ、絶対に僕を離しちゃだめだからね!?」

「分かったわ信じるわ緑谷ちゃん!!」

「オ、オイラのもぎもぎをお前に付けさせてもらうぜ!?こいつは超くっつくから!!」

 

と峰田は出久の身体に頭の紫色の球体をくっつける、それは峰田の個性のもぎもぎ。単純明快で超くっつくという物で峰田にはそれは発揮されないがそれをくっつけて掴むようにしてよりがっしり掴み掛る。

 

『キイイイイィィィィィィッッッッ!!!!!』

 

振り上げられたエレキングの腕、それは船を瓦を割るかのように一気に叩き下ろされ船を一瞬で潰し割って爆発させてしまう。エレキングは潰したと思ったが自分の顔よりも高い位置で浮遊している出久の姿を見て首を傾げるようにした。

 

「す、すっげぇ緑谷お前飛べるのかよ!!!?」

「凄いわ、凄いわ緑谷ちゃん!!」

「離したり、しないでよぉ!!!」

 

両腕を伸ばしながら空を滑るように飛行をし始める出久、これもウルトラマンとしての力の一つ。そのまま一気に逃げようとするのだが―――

 

『出久君背後から電撃が来るぞ!!!』

「負ける、もんかぁぁぁぁっっ!!!」

 

背後からエレキングから発せられた電撃が無数の閃光となって空を舞う出久を撃ち落とさんと放たれていく。マグナが的確に迫ってくる電撃の方向や数などを教えてくれるお陰で事前回避を行う事が出来ている、背負っている梅雨としがみ付く峰田の影響でスピードが出せないがそれでも必死に二人に電撃が当たらないように回避し続けていく。

 

「み、緑谷すげぇぜ!!このまま陸地まで一気に行っちまおうぜ!!!」

「そう、簡単にはいかないみたいよ峰田ちゃん!!?」

「何で水を差すような事を言うんだよ!?」

 

折角出久が頑張ってくれてるのに何を言ってんだと言葉を返すが、梅雨は心配と不安に満ちた顔で出久を見る。同じように出久を見るとそこにあったのは異常なまでの汗と荒い息、そして青くなっている顔でまるで苦痛に悶えるような声を出している出久の姿があった。僅かな間に異常なまでの疲弊をしていた。

 

「み、緑谷!?」

「緑谷ちゃん、空を飛ぶって貴方にとって途轍もなく辛い事なんじゃないの!?」

「ググググッッッ……うぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ……!!!!」

 

言葉を返す余裕すらないのか最早呻き声しか出せなくなっている出久。ウルトラマンにとって飛行能力は当たり前のようなものだが出久にとってはまだまだその感覚は掴めなく全く出来ないに等しかった。出来るのは光線を出すように体内エネルギーを放出する事で疑似的な飛行をする事のみであり、今の出久にとって飛行とは自分のエネルギーを大幅に浪費しながら飛ぶ事でしかない。

 

「(まだだ、あと少し、あと少しぃっ!!!)」

 

あと一歩のところで水難ゾーンを脱出できそうな所までやってきた。だが其処に―――水中から伸びてきたエレキングの尻尾が目の前に出現し自分達を絡めとらんと迫ってくる。

 

「そんな此処まで来て!?」

「くっそぉぉぉお緑谷がこんなに頑張ってくれたのにぃィィぃ!!!」

「まだだ、僕はまだ―――!!!」

 

迷わず直進、避ける事もしないまま出久は突き進んでいく。そして腕を矢を引き絞るかのように引きながら無我夢中でワン・フォー・オールを発動させて殴り付けた。咄嗟の事だったので力は自分の限界程度だっただろうがそれでもまさか此処までの反抗をされるとは思わなかったのかエレキングが驚いたのか尾を水の中へと引っ込めてしまった。そのまま出久は陸地へと墜落するように着地する。振り落とされながらもなんとか陸地に付いた事を喜ぶ二人。

 

「や、やったわ緑谷ちゃん!!なんとか陸地についたわよ!!!」

「あ、後はおいらたちが運ぶ、だから後は任せろって緑谷何やってんだよ!?」

 

だが二人の視界にあったのは既に満身創痍である身体を必死に持ち上げ、腕を地面に突き刺すように支えにして強引に立ち上がろうとする出久の姿だった。

 

「何やってんだお前もう!?」

「まだ、だ……あいつから少しでも時間を稼がないと……逃げられない……!!」

「で、でもあなたはもう動けるような身体じゃ……」

「だから、だよ……」

 

苦しい筈なのに、疲労しきっている身体の筈なのに出久は満面の笑みを二人へと向けた。

 

「悪いけど身体を支えて貰っても良いかな……最高の一撃を放つから……この後、僕は多分動けなくなるからさ……その時は運んでくれないかな……お願いだよ梅雨ちゃん、峰田君……」

 

そこにあったのは純粋な願いだった。それも自分達の為の願い、此処まで他人の為に尽くせるという姿にヒーローを目指している二人は言葉を失った。まるでオールマイトのようじゃないか……そして二人は顔を見合わせると頷くと確りと出久の身体を支えた。梅雨ちゃんは舌、峰田はもぎもぎを上手く使いながらサポートしてくれている。それに喜びながら出久はマグナに願いでた。

 

「(重ね重ね、申し訳ないで、すけど……二人の事、お願いしても良い、ですか……?)」

『―――全く君って男は……ギリギリまで私に頼る気がないとは……良いだろう好きにしたまえ。そして存分にやりたまえ!!!』

「有難う御座います……行くぞぉ!!!!」

 

迫ってくるエレキング、甲高い咆哮に負けない様な雄々しく猛々しい咆哮を上げると出久はワン・フォー・オールを発動させる。しかもただの発動ではない、先程訓練した許容限界ではなくオールマイトの力でそれを放つのだ。マグナが以前言っていた言葉―――

 

『50m級の怪獣の体勢を崩れさせながらそれなりのダメージを与えられただろうね』

 

それで十分過ぎる、二人を助けるには時間を稼げるだけで十分なんだと思いながらイメージする、偉大な光であるオールマイトとマグナを。その二人が自分の背後にいながら自分と同じ動きをする姿を。徐々に集って行く光は六等星から強くなり、途轍もなく眩い光を放つ太陽のようになる。そしてそれが極限へと集った時―――出久は目を開きながら叫びをあげた。

 

「イズティウム!!光線っっっ!!!」

 

両腕から放たれる膨大な光、絶対的な輝きと力を伴った出久の全力全開最大最高の光線が放たれた。二人によって固定されているはずなのに反動で後ろに下がってしまう程の出力のそれはエレキングへと真っ直ぐと向かって行く。エレキングは放たれてくる光のそれのやばさに気付いたのか、咄嗟に三日月状の放電光線を放つが咄嗟過ぎた為か、エネルギーが足りずに相殺しきれずにイズティウム光線は放電を一気に押し上げていきエレキングへと直撃した。

 

『キィィィィィィィィィィィィッッッ!!!!!???』

「デェェェェヤアアアアァァァァァッッッッ!!!!」

 

渾身の叫び、瞬間的に出力がさらに高まり光線は更に巨大となりながらエレキングへと炸裂する。それを受けてエレキングは大きく体勢を崩しながら一気に倒れこんで水中へと没していく。巨大な水柱が立つ中で出久は―――ゆっくり前かがみになって倒れこんでしまいそうになるがそれを咄嗟に梅雨と峰田が受け止める。

 

「すげぇっすげぇよお前ぇ!!カッコ良すぎるだろがぁよぉお!!!」

「本当に、本当に凄いわ緑谷ちゃん!!!後は任せてねっ!!峰田ちゃん早く!!」

「お、おう!!」

 

二人は出久を担ぎあげると大急ぎでその場を離れようと動き出していく、出久が作り出したこのチャンスは絶対に無駄にしないと思いながら足を進めていく中―――

 

「おい、なんだよ今のはよぉ……?何だよ今のチートみてぇなビームはよぉ?」

 

出久の全てを踏み躙るかのように現れた全身に手を付けた男と脳が剥き出しになっている大柄のヴィランだった。




出久達はどうなるのか、次回をお楽しみに。

前回のサブタイトルはウルトラマンガイアの第37話『悪夢の第四楽章』が元ネタです。


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意志を継ぐもの

「「―――っ……」」

 

思わず言葉を失いながらこんな事があっていいのかとさえ思ってしまう、ヒーローとは困難の連続に立ち向かっていく者だと言われたがこれがそれなのか。たった一人で圧倒的な相手に立ち向かいながら限界を超えた力を発揮し倒れてしまった出久を嘲笑うかのようじゃないかと梅雨と峰田は不条理を恨んだ。目の前にいる全身に手を付けたヴィランに脳が剥き出しになっている大柄ヴィラン、その背後にはボロクズのように倒れこみ重体となっている相澤の姿があってしまった。相澤を倒した二人が今度は此方の目の前にいる。そんな悪夢に等しい現実があった。

 

「あのさぁっ……あいつはさ、偶然見つけられたすげぇ奴なんだよ。強引に言う事聞かせてたはずなのにそれを倒しちまってなにしてんだよ……?」

 

酷く苛立ち怒りに塗れている声を出しながら男は指の隙間から鋭い瞳を覗かせながら抱えられている出久を見た。既に動けなくなっているなんて関係などはなく頭の中にあるのはそこにいる3人への絶対的な怒りのみ。助けられた二人も同罪だと言わんばかりに目を血走らせながら叫んだ。

 

「脳無―――こいつらを殺せぇ!!!」

 

脳無。隣の大柄ヴィランはその命令を正確に実行する機械のようにオールマイトにも匹敵しそうな剛腕を用いて逃げる隙も与えんと言わんばかりの一撃を加える。それは大地に巨大な亀裂を生み出し小さなクレーターをも作り出してしまうような物だった、それを見て男は狂ったような笑みを浮かべた。

 

「ざまぁみろ……あっ?」

 

エレキングは倒れた、だが死んではいないだろうから回収さえ出来ればいいかと思いながらも視線の端に立っていた銀色の人影へと目を移した。そこにあったのは―――

 

「何で、生きてやがる……!?」

 

 

「い、生きてる……生きてる?」

「生きてる、かしら……?」

 

何時までも襲ってこない痛み、それに疑問を浮かべるように瞳を開けると五体満足な身体があった。安堵しつつも何故自分達は無事なのかと視線を巡らせると直ぐに答えがあった。

 

「緑谷、ちゃん……?」

「緑谷お前……!?」

 

静かに膝をつきながらも自分達を腕に抱いていたのは出久だった。閉じられた瞳を上げながらも自分達をゆっくりと地面へと降ろすと落ち着き払った様子で静かに頷いた。まるでもう大丈夫だ、と語り掛けてくるような力強くも暖かで優し気なオーラが自分達を包み込む中で出久のコスチュームが変化する。首の後ろ、肩の間から装甲が飛び出すと顔を覆い銀色のマスクとなって青白い光を灯した。

 

「緑谷ちゃん、貴方動けるの……!?」

 

梅雨の問いに頷きで応えると出久は先程の弱り切った姿とは打って変わって落ち着き払いながらも余裕のあるクールな動きで半身を反らすようにしながら構えを取る。

 

「緑谷お前戦う気なのか!?でもお前限界だって……」

 

先程の憔悴っぷりを知っているからこそ何故戦おうとするのか分からない峰田、梅雨もそれは同様だろう。戦えるような状態ではない筈だろうに動こうとするそれに疑問しか沸かない、だがそれに対してサムズアップが返された。自分は大丈夫だから早く逃げろと言いたいのだろう、そして僅かに顔が横を向いた。倒れている相澤を安全な場所へという意味もあると理解した二人はそれを汲んで相澤の元へと駆けだし、担ぎ上げると声を張り上げながら走り出した。

 

「やっちまえぇ緑谷ぁ!!」

「絶対に無事でいてね緑谷ちゃん!!」

 

そんな声援を受けながらも去って行く二人に出久はマスクの内で苦笑しながらも漸く声を漏らした。

 

「優しい子達だ、そんな子供を守るのも―――そして相棒のお願いを守るのもウルトラマンとしての仕事だね」

 

そこにあったのはマグナだった。既に出久の意識はなく主導権はマグナが握っている、既に限界に近い身体だろうがそれをマグナが自身のエネルギーを供給しながらもヒーリングパルスを使う事で修復しながら動かしている。これならば多少の無理は利くだろう。

 

「おい、お前……何なんだよお前、さっきからよぉっ……チートみてぇな事ばっかりしやがってウザいんだよ……」

 

と男は幽霊のようなふらふらとしながらも明確な怒りを沸々と沸騰させていきながら此方への敵意をむき出しにしてきた。凄まじい怒気を向けられるがマグナは態度を変えない。数々の任務の中で凶悪な宇宙人や宇宙怪獣、中には策略を持って恐怖と混乱を齎す存在と対峙してきた彼にとって悪意や殺意などは仕事柄退治するのが当たり前のもの。しかも何も洗練されずただ漠然とした自分の考えと楽しみを邪魔された程度の物で怯むような精神性は持ち合わせていない。

 

「さてヴィラン連合と言ったか、悪いが君達は此処で終わりだ。君風に言えばGame overだ、君のあれも何処で見つけてきたかは知らないがチートなんて小賢しい卑怯な物に頼るのはこの位にしておくといい。空しいだけだぞ」

「うぜぇっ……!!脳無奴を今度こそ殺せぇ!!!」

 

叫びと共に脳無は先程とは見違えるような速度を発揮した。地面を蹴ると周囲に風圧を巻き起こす、その風圧は周囲の物を吹き飛ばすような物。その加速のまま迫ると剛腕の一撃を放つ、普通ならそれに反応すら出来ずに直撃するだろうが―――

 

「無駄がありすぎる上に雑だ」

「―――はっ?」

 

軽く跳躍しながら放った一撃は脳無の顔面を潰すように炸裂した、出久と脳無の体格差は圧倒的。それなのに一撃は脳無をあっさりと仰け反らせながら逆に宙へと浮かばせた。余りにも異常な光景に間抜けな声が出てしまうがそんな事知った事かと言わんばかりに倒れこんだ脳無の脚を掴むとそのまま殴り付けるかのように地面へと背負い投げた。脳無はそのまま体勢を立て直す暇も与えられないままに何度も何度も天地が返されながらも大地へと叩きつけられていく。

 

「しっ死柄木弔、あれは一体何なのですか!?」

「おれ、俺が知る訳ないだろうが黒霧ィ!!なんだあいつは、なんなんだよ!!!」

 

そこへ出現したのは出久達を転移させた黒靄のヴィラン、黒霧と呼ばれつつも手だらけの男を死柄木弔と呼ぶ。だが問われても訳が分からない、何故一介の、しかも雄英に入学したばかりの筈の生徒があの脳無を一方的な格闘戦を演じる事が出来るのか訳が分からずに混乱してしまう。

 

「ッ―――!」

「デュェッッ……デュア!!!」

 

慣れてきたのか素早く体勢を立て直しながらも今度こそと言わんばかりに殴り掛かってくる脳無、だがそれに対するマグナは素早く後ろに引きつつも胸へと両腕を構えつつも片腕をチョップするかのように掲げるとその手には青白い光がまるで丸鋸のように変形し集っていた。そのまま投げられた光輪は途轍もない勢いで回転しながら脳無へと迫っていく。だがそれから危険を感じた咄嗟に回避する―――が

 

「デュッダァッ!!」

 

回避された光輪へとマグナはウルトラ念力を送り込むと光輪は途端に4つへと分裂しながらコースを変えて脳無の背後から一気に迫って脳無の四肢を瞬時に両断してしまった。脳無は達磨になりながらそのままの勢いを殺せずに地面へと突っ込んでしまう。

 

「な、なんだと!!?」

 

これこそマグナの必殺技の一つにしてスペシウム光線のエネルギーをリング状に高速回転させて投げつける切断技、八つ裂き光輪(マグナスラッシュ)である。それによって完全に動きが取れなくなった脳無だが、切断面から筋組織が伸びていき新たな腕を形成しようとする。恐らく回復系の個性を持っているのだろうがまだ健在だった光輪が再度飛来して再生した四肢をまた切断する―――そのまま光輪は巨大化しながら脳無の身体をホールドする輪となり完全に動きを封じた。

 

「私もね、やる時はやるんだよ―――私の相棒の活躍に、報いる為になぁ!!!」

「まさかあの脳無が此処まで一方的に!?」

 

信じられないと言いたげな言葉にマグナはチャージを開始しながらも言葉を作った。

 

「超獣の類と思って間違いなさそうだな、ならば―――喰らえ」

 

両腕をクロスさせながらそこにエネルギーを集中させる、両腕は激しい閃光を纏いながらも周囲にエネルギーが溢れているのか余波が地面を抉っている。エネルギーを収束させつつも腕を大きく翼のように開け放っていくと収束、圧縮させたエネルギーが元に戻ろうとしているのか、それがまるで銀河の様な光を放つ。

 

「死柄木弔あれはやばい、絶対にやばい!!」

「くっそぉ、クソがぁ!!」

 

黒霧、死柄木弔の両名はマグナの光のやばさを感じ取ったのか大急ぎで撤退していく。それを見てもマグナは止めず集ったエネルギーが臨界を迎えるとそれを腕を十字に組みながら、元に戻ろうとするのも利用した自身の光線を地面に転がっている脳無へ向けて放つ。

 

「マグナリウム光線!!!」

 

真っ赤に滾るマグマのような、宇宙に輝く銀河のような、宇宙の輝きのような光線が十字の腕からは放たれていく。それは脳無を飲み込みながらも地面を抉りつつも水難ゾーンへと炸裂していく。そしてイズティウム光線によってダメージを負い水中で身を潜め続けていたエレキングへと直撃した。そしてそれを受けたエレキングは限界を迎え水中で爆発し巨大な水柱を立てて消滅した。光線を浴びた脳無は全身が焼け爛れながらも尚も息があるようだが、完全に動かなくなり機能を停止したようだ。

 

「出久君、これで君のお願いは果たせた事になるかな」




マグナリウム光線、収束圧縮したエネルギーが元に戻ろうとする勢いすら利用して放つ威力と照射範囲を追及したマグナオリジナルの光線。発射までのフォームはティガのゼペリオン光線と似ているが、開いた腕を後方まで伸ばしている、言うなれば、FERのマン兄さんのスペシウム光線のような感じになる。収束版も放つ事も勿論可能。
名前は嘗てウルトラセブン救出のために使われたマグネリウムエネルギーから。尚、ウルトラマンネオスの必殺光線であるマグニウム光線とは一切関係なし。

マグナスラッシュ、皆様ご存じ八つ裂き光輪のマグナバージョン。発射後はウルトラ念力で操作、分裂、相手の拘束などが可能。何方かと言ったら作中にて『断て!撃て!斬れ!』という助言の後にギロチン王子ことエース兄さんが放ったウルトラギロチンに近いかもしれない技。

前回のサブタイトルはウルトラギャラクシー大怪獣バトルの第8話『水中の王者』が元ネタです。


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漂う謎

光線の構えを解きながら思わず膝を折り腰を降ろしてしまう出久(マグナ)、既に疲弊しきっていた身体を強引に自分のエネルギーを使って補強しつつ回復させて動かしていただけあって流石に限界が近いらしい。恐らくコスチュームで隠れてしまっているが出久の両腕は酷い状態になっている事だろう、このまま自分がヒーリングパルスで治してあげる事も簡単だが、それは自分のエネルギーが回復した時にさせて貰おう。

 

「流石オールマイトの力と言うべきか……私の影響で肉体強度が上がっている筈の出久君の身体でもこれ程までに傷つくか……。その上でのイズティウム光線と私の光線は流石に無理をし過ぎたな……いや傲慢だな、儘ならんな」

 

もう少し自分の力があれば出久を楽させてあげられた、強引にでも自分が主導権を取るべきだったのではと思うがそれは出久の決断と意思を踏み躙る事になると頭を振るう。ウルトラマンは神ではない、救えない命もあれば、届かない思いもある。そんな言葉を思い出しながら自分を戒めつつもエレキングが居た水難ゾーンへと目を向けるとそこに何やら光っている物を確認した。それに対してウルトラ念力を発動させて引き寄せてみると―――そこにあったのは掌に収まるようなサイズのメダルでそこにはエレキングが刻まれていた。

 

「これは……エレキングのメダル……?確かゼット君がヒカリさんに協力して開発しているという新アイテムもメダル関係だった筈だが……」

 

差し詰め怪獣メダルとでも呼ぶべき物を見つめながらもある考えが浮かびながらも一先ずそれを仕舞いながら次の事を考える。

 

「確か死柄木弔だったか、偶然見つけられたと言っていたが……既にこの地球にはそれなりの数の宇宙人が足を踏み入れていると考えるべきなのだろうか。エレキングとなるとピット星人いやレイオニクスの可能性も捨てきれないが……だが何故それがメダルになる……また報告する事が増えたな」

 

最悪の場合は応援なども検討しなければならない事態になりかねない、自分の手に負える範囲ならばいいのだが……水難ゾーンにエレキングによって痺れて気絶しているヴィランなどを見つめながらもあれらも一応水揚げしておいた方が良いかなぁと思っていると背後に爆風の様なものを纏いながら何かが着地した。

 

「緑谷少年大丈夫か!!?」

「―――何事かと思ったら貴方でしたか」

「その喋り方は矢張りマグナさんでしたか!?」

 

やって来たのはオールマイトだった、如何やらUSJから脱出した飯田が雄英へと緊急事態の説明を行いオールマイトは先行する形でこのUSJへと救援へと駆けつけたらしい。結果的には主犯格は既に逃亡してしまっているが、残っているヴィランや生徒達の救助の事を考えるとこれ以上ない人物だと言えるだろう。そしてオールマイトは梅雨と峰田から真っ先に出久の話を聞いて此処へとやってきた。

 

「蛙吹少女と峰田少年から話を聞きましたが緑谷少年はとんでもなく巨大なヴィランを倒す程の力を発揮したと、まさかそれもマグナさんが」

「いやそれは出久君自身だよ。オリジナルの光線をワン・フォー・オールで強化する形で無理をしてね、それでも倒しきれなかったが大きなダメージを与えて撤退するのに十分な時間を稼いでいたよ。まあその直後に主犯格がやって来たから私がバトンタッチしたのだが」

「な、なんと!?」

「取り敢えず申し訳ないが後の事を任せていいですかね、もう出久君の身体は限界で動けそうにない。出来れば休ませてあげたい」

「分かりました。後はこの私にお任せください!!」

 

力強いサムズアップと笑顔に頼もしさを覚えながら、では健闘を……と言い残すとマスクが解放されると同時に身体がゆっくりと後ろへと倒れていく。そこにあったのは年相応の疲れ切った少年の顔があった、それを見てマグナも引っ込んだのだと悟ったオールマイトは、出久を皆の所まで連れて行って安全を確保して貰った後に自分はUSJを回って生徒達の救助と乗り込んできたヴィランの一掃を行うのであった。

 

出久の奮戦とマグナのとどめのお陰でヴィラン連合と名乗るグループの主犯格が雄英から撤退、そしてUSJの各地にて転移させられた生徒達を待ち受けていたヴィランは生徒達に倒された以外は全てオールマイトが対処する事で生徒への怪我人は出久だけという不幸中の幸いを迎える事になった。教師である相澤や13号も怪我こそしたが命の別状はないという事で皆胸を撫でおろすのであった。

 

 

「ぅぁっ……」

 

小さな小さな呻き声が自らの耳に木霊した。全身がだるい、か細い呼吸だけでも身体が軋むような痛みがする―――筈なのだがそれらは一切感じられなかった。先程まで感じていたそれらはなかったので飛び起きるようにするとそこは白い光に満たされているような空間だった。慌てていると背後に気配を感じて振り向いてみると、そこにはやぁっ挨拶をするマグナの姿があった。

 

「マグナさんあの此処は一体!?」

「まあ落ち着きなさい、此処は端的に言えば君と私の精神世界だ。君は未だに眠り続けている、まあ起きようと思えば起きれるがもう少し眠っていた方が良いだろうね。今リカバリーガールという保険医さんが個性で回復を促してくれている、まあ其方にも体力を使うらしいが其方は私のエネルギーで代用しつつも私の方でも回復を促進している。後15分もすれば起きれるさ」

「あっそっか、僕とマグナさんは一心同体でした」

「重要な事なのに忘れたのかい?」

 

僅かながらに呆れながらもまあいいかとその程度にしておきながら、気を失った後の事を話そうとした時に出久は真っ先に頭を下げた。

 

「マグナさん、梅雨ちゃんと峰田君を助けてくれてありがとうございました!!」

「君の辞書には疑うという文字は無いのかい」

「だってマグナさんが約束してくれたんですから必ず守ってくれると信じてます」

「―――やれやれこそばゆいね、まあ彼らに怪我一つないよ。その代償に君の身体を傷付けたようなものだけど」

「僕の身体なら幾らでも」

「自己犠牲もその位にしておこうか」

 

内心では自己犠牲を率先して行うような聖人の塊のような星出身が言うようなセリフではないかと自虐しつつも、地球人でありまだまだ未熟な出久には匙加減を覚えるようにとくぎを刺しておく。

 

「しっかしまあ君も無茶ばかりする子だね。エネルギーを大量に浪費する飛行に全力の光線、それが君の身体をどれだけ傷付けるか分かっているのかい?」

「それは……」

「ワン・フォー・オールの余剰エネルギーが光線となって発射されるとはいえ、あのオールマイトの全力を放射するんだから相当な負担がかかる。言っておくけど君、リカバリーガールさんが酷いと言っていたレベルだったよ」

 

骨は折れ、筋肉の断裂、内出血のオンパレードなどなど……それを聞いて出久はうわぁっ……と顔を歪めるがそれだけでそこに踏み入った事に関しては全く後悔を浮かべていない様子に流石のマグナも溜息しか出ない。本当に緑谷 出久という少年の精神構造はウルトラマンにかなり近しい物だ、そんな彼を上手く導かなければならない事に僅かな不安を覚えるのであった。

 

この後、出久は目を覚ますのだが……その際にクラスメイトだけではなく話を聞きつけた発目まで駆けつけてきたので少しばかりややこしいことなったりもした。

 

「という訳で緑谷さんが大怪我をしたというので私特製回復マシンの実験台になって貰うべくやって来たってもう治ってるじゃないですか何ですか来た意味ないじゃないですかまあ御無事というのは喜ばしい事ですが今度怪我したらちゃんと試させてくださいね」

「いやいやいや普通に嫌です」

「拒否を拒否しますので悪しからず」

「ちょっとアンタ医者の前で何を口走ってるんだい」

「それならまず医者にかかるような大怪我をした緑谷さんに言って下さい」

「正論だね」

「ええええっっ!!!?」

 

『エレキングメダル……グルテン博士に協力して貰って調べてみる必要があるな。そして……私も備えなければならないかもしれないな、来るかもしれない戦いに』




前回のサブタイトルは前回のサブタイトルはウルトラマンティガの第1話『光を継ぐもの』が元ネタです。


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思わぬ事件

マグナは出久と一心同体となっている影響もあり常に彼と共にある。そんな中、雄英でのUSJ襲撃から数日が過ぎて漸く雄英内を対象として警察の調査が終了し残っているヴィランなども存在しないという事が明らかになったので登校が再開するまでの間、マグナは出来る限り自分で出来る限りUSJで入手したそれへの調査を行おうとしていた。

 

『……エレキングの力が宿っている、という以上の事は分からないな……私も戦士であって技術者ではないからなぁ……』

 

マグナの手の中にあるメダル、これには紛れもなく宇宙怪獣であるエレキングの力が宿っている事は間違いない。だがそれ以上の事は全く分からない、それ以上の事は専門的な知識や設備が無ければ難しいだろう。こんな時に光の国のウルトラマンヒカリの力を借りる事が出来たらいいのだが……生憎それは難しいだろうし緊急の報告を上げたとしても直ぐに増援を送るというのは難しいだろう。

 

『やはりゼット君関係だろうか……』

 

前世の記憶から呼び起こしてメダルというウルトラアイテムは思いつかなかった、クリスタルやカプセル、カードに人形というのは思いつくのだが……矢張りゼットが関係しているのだろう。恐らく作品としてのウルトラマンZに深くかかわるものがこのメダルという事になるだろう、生憎それにまで手を回す前に亡くなってしまって解らない。だが光の国でゼットが頻発する怪獣被害への対抗策への協力をしている話は聞いているので十中八九それだろう。

 

『ぁぁぁっ……これなら前情報とか我慢して正式放送されてから一気に見るスタンスなんかしなきゃよかったぁぁぁっ……』

 

頭を抱えつつも前世の自分のスタンスを後悔する、とやっていても何も変わらないのでこの位にしておくがこれは矢張りグルテン博士に協力を仰いで解析をお願いするしかないだろう。技術畑ではないのだから協力出来る人に頼むしかないだろう。そんな風に思っていると早速昼休みになったので出久にそう頼もうとした時であった。教室の扉を勢いよく開け放たれて、そこには発目がいた。クラス中の皆がビックリする中でギョロリと回る瞳が出久を捉えると笑みを浮かべながら近づいてくる発目。

 

「おおっ緑谷さん良かった良かったまだ教室にいてくれましたか本当に良かったですよ実はですね色々とお話したい事があるんですよっほらもう直ぐ体育祭が始まるじゃないですか私も色々と備えておきたいんですよそれで是非とも緑谷さんに協力、いえ実験台になっていただきたいんですよ良いですか良いですよね勿論OKですよねはい有難う御座います流石緑谷さん良く分かって下さってますね本当にありがとうございます!!!」

「まだ一言も喋ってないんですけどぉ!?」

『というか本当に今の良くノーブレスで言えるねこの子……』

 

クラスメイトの皆は初めて遭遇する発目のとんでもないテンションについて行けていない。どうやら発目は問題なく開催される事に決定した日本におけるオリンピックに変わる新たな祭典、雄英体育祭に備えての準備を行っておきたいとの事。雄英の体育祭はそれらの中でも規模も内容も群を抜いている為か全国規模で放送されている。そしてそこで結果を残すか目立つかしてプロの目に留まれば、将来目指すヒーロー像への近道が生まれてくる。己の力をアピールするチャンスなのだ。だからこそ、この雄英体育祭に向けられる熱意は内側からも外側からも並大抵のものではない。皆がこの体育祭で全力を発揮する、その為の協力をして欲しいとの事。

 

「いや途中で別に言い直さなくても良い部分あったよねありましたよね協力でいいじゃん何で実験台って言っちゃうかなぁ!!?いやまあ凄い発目さんらしいけどそこは変えなくていいじゃん本当に自分の欲求に素直だね!!?」

『出久君も大分毒されてるね彼女に』

「いやぁ褒めても何も出ませんよ出たとしても緑谷さんの最高なベイビーしかプレゼントしませんし出来ませんよぉ?」

『ベイビー!!?』

 

その瞬間、クラス中の空気が死んだ。あの爆豪ですら驚きのあまり口が開き時間が停止しているように見える、特に女子連中は一部はまさかの恋バナを通り越してる!?やガチショックを受けている顔も少しある模様。そして男子は徐々に再起動しつつも嫉妬の炎を纏っている。

 

『緑谷ぁテメェェェェッッ!!!何美少女とフラグ立てるどころか大人の階段上ってんだゴラァァァ!!!!』

「ええええええっっ!!?なんか解らないけど凄い怒られてるぅ!!?」

『テメェ認知もしねぇつもりかぁ!!?』

「「えっ認知?」」

 

と思わず出久と発目は揃って首を傾げながら顔を見合わせて何言ってんだこいつら、と言いたげな顔をする。出久だけならまだしも発目までそんな反応をするので徐々にクラスメイト達は冷静になっていくのだが……此処でやや顔が青く震えている梅雨が質問する。

 

「あ、あの……緑谷ちゃん、もしかしてなんだけど……私達が思ってるベイビーと二人が思ってるベイビーって意味が違うのかしら……?」

「……あぁっ!!?そうかそういう事!?それで凄い慌ててるの!?」

「ああっ成程、私も察しましたよ何だそういう事でしたかなんだ私と緑谷さんがヤッちゃったって思ったって事ですか何だ割かし皆さんってスケベな変態なんですね」

 

出久はああそういう事か、確かにそうなるかぁっと……落ち込むかのようにするのだが発目は全く違うのか漸く合点がいったのか手を叩きながらもケラケラと大声で笑っている。とドストレートに言ってしまう発目に周囲は圧倒されている。

 

「私の言うベイビーというのは私の発明品の事ですよこれでも私サポート科に所属してまして緑谷さんに色々と手伝って貰って作ってるんです」

「えっそれじゃあ……二人は唯の友達って事……?」

「そういう事です親友とは思ってますけど流石にそこまで踏み込んでませんよというか常識的に考えてそんな大騒動の種のような事をすると思いますか下手しなくても退学になってお先真っ暗じゃないですかいやぁそんな問題児に見えますか私ッハッハッハッ!!」

『あんな言い方じゃあ無理も無いと思うが……後発目さん、君は問題児だよ十分に』

 

正論の嵐でクラスの誤解を解く発目だが、その原因を作った発目にツッコミもいれるマグナに出久も同意するのであった。しかしそこである事に気付く大問題児発目 明。

 

「いや待ってくださいよ、仮に緑谷さんとのガチベイビーが出来たその場合……(ウルトラマンの因子を持った次世代が生まれる訳でそのベイビーは途轍もない力を秘めている可能性も十二分にある訳で……それはそれで……それ抜きで考えても緑谷さんと……)緑谷さん試しに遺伝子貰っても良いですか?」

「ちょっと発目さん今何考えてる!?絶対にマッドでやばい事考えてるでしょ!?試験管ベビーでも作る気なの!?」

「いやだなぁ私にだって一応良心と常識は人並にあるんですよ。それを超えるレベルの熱意と発想力と想像力が備わっているだけですよぉ」

「十分に問題だよそれ……」

 

この時、出久の発目に関する色々な疑いは一蹴された。それ所かやばい奴に目を付けられて色々と巻き込まれてしまっているのだなぁ……という認識へとすり替わった瞬間でもあった。それに特に胸を撫でおろしている生徒もいたりもした。

 

「……おいデク」

「な、何かっちゃん……騒がしくてゴメン……」

「おう……気張れよ」

「なんかカッちゃんに初めて同情された気がするんだけど僕!?」

『そのレベルの領域の事だったという事だよ出久君』



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強さは優しさ

昼休みに起きた大事件も無事と言えるかわからないが終わりを告げ、授業も終わり放課後になり出久は一応発目との約束をしているので其方へと行こうとした時―――A組の目の前の廊下を埋め尽くすかのような生徒達の山に驚いてしまった。

 

「な、何この人の数!?」

『大方敵情視察がてら見に来たのだろう、雄英中にA組が授業中にヴィランの襲撃にあったが無事に撃退されたという話は出回っているだろう?それを踏まえた場合に体育祭で最も手強い相手は必然的にA組という事になるのだよ出久君』

「ああ成程……」

 

マグナの解説に納得を示す、理由は理解出来たのだがこれでは教室から出られない。自分はまだ雄英から出るつもりはないが他には帰宅する人や約束がある人だっている筈、これでもそれらの人にとっては邪魔でしかない。何とかしないとなぁと思っていると普通に帰ろうとしていた爆豪は不機嫌そうに鼻を鳴らしながら、邪魔だなと呟いた。

 

「(あっやばい、マグナさんカッちゃん最近丸くなってきたとは思いますけどこれ絶対キレるパターンですよ)」

『激しく同意だね。というか普通に帰りたい人にとってこれは普通に迷惑だからねぇ……このまま爆豪君に何か言わせるのもありだとは思うが、それはそれで問題が起きそう……』

 

直ぐに人をモブと言わなくなったりある程度温厚さが出てきて良い傾向が出始めている爆豪、だが不機嫌になった爆豪は何を言い出すかは分からない。以前のような獰猛さが剥き出しになる事も否定しきれない。そんな時、気だるげな顔つきの生徒が人を掻き分けるように出てきていった。

 

「噂のA組を視察に来たんだけど案外普通そうな連中ばっかりか、こうなると普通科とあまり変わんないみたいだな」

「あ"っ?」

「なあ知ってるか、普通科にはヒーロー科に落ちた奴ら多いんだよ、だけど普通科にはヒーロー科への編入もあり得るんだよ。体育祭の結果(リザルト)によっちゃ、俺達のヒーロー科への移籍(ランクアップ)、あんたらにはその逆が、普通科落ち(ランクダウン)だってあり得る。敵情視察、まああってるかもしれないけど少なくとも俺は、ヒーロー科でヴィラン相手に生き残ったからって調子に乗ってると俺達がアンタらの足元ごっそり掬っちゃうぞって宣戦布告に来たんだよ」

 

と明白な挑発と此方を小馬鹿にするような言い方に少なからず出久もムカッとしてしまう、挑発の為か、ゲームのように例えて馬鹿にしている。がそんな事はマジでどうでもいい。それ以上に心配だったのか隣の爆豪から微妙に何かがキレるような音がしている。横目を見ると額に僅かに青筋が浮かび上がっている、長い付き合いの出久は分かる、これはカッちゃんがキレる前兆だと。

 

『いただけないね、素直にいただけない……』

「(僕も同じ気持ちですよ)」

『まあ人それぞれ意見はあると思うよ、だが彼の物言いはいただけない』

「(ですね、でもここは僕に言わせてください)」

 

暗にマグナは変わって欲しいなぁと言っていたのだが、出久は自分に言わせてほしいと言ったので素直に引っ込んで出久に任せた。

 

「君は随分と上からで失礼だね、だから僕もそれで返させて貰うよ。何も知らない人が馬鹿な事言わないでくれるかな?」

「―――何?」

 

明白な敵対心に目の前の少年は此方へと向き直った。

 

「ヴィランとの戦いは授業や訓練とは違うんだよ、本当の命のやり取りなんだよ。それを偶然生き残ったみたいな言い方しないでもらえるかな、それは大怪我をしてまで僕たちを助けようとしてくれた先生たちに対する侮辱だよね」

「いや違う、俺はお前達に対して……」

「何も違わない、君は僕たちを知らない。あの場で僕たちがどれだけが苦しんで、どれだけ怖かったのを何も知らない。実際死に掛けた僕達の事なんて知らないでしょ」

 

それが明確だったと断言出来る、あの場にいたヴィランは明確に此方を敵だと認識して襲いかかって来たのだ。一歩でも選択を誤れば死が待っていた、特にそれを実感しているのは梅雨や峰田だろう。もしも出久が一緒に居なければ、彼が死力を尽くさなければ数回死んでいた事だろう。

 

「一つ聞くよ、ヒーローに必要な強さって何か分かってる?」

「それはっ」

「個性なんかじゃない―――優しさだよ。誰かに手を差し伸べてあげられる優しさだよ、誰かの為に必死になれる優しさだよ。君にとって立ちはだかる相手って言うのは僕たちなのかな、それともヴィランかな。君はヒーローになりたいって言いながら僕達と切磋琢磨して上に行くつもりもないんだね」

 

その言葉は少年、心操 人使の心に突き刺さってきた。ヒーローを目指すと言っておきながらヴィランとの戦いを否定した上にヒーロー候補生と戦うという宣言をしている。そんな君がヒーローになんてなれるのかという単純な問いに彼は言葉が出なくなっていた。

 

「君の考えがそうならいいよ、でもそのままだと君はヒーローになんてなれない。少なくとも―――誰かに求められるヒーローになんてなれないよ、人の心が分からない人にはね」

「っ―――!!」

 

最後の一言は彼の心に深く突き刺さってしまったのか俯いてしまう、彼にも思う所があり何か悩みがあるのかもしれない。だがそれと向き合うのではなく別の方向性にしてしまっている、だがそれを正す事が出来れば―――こう言った人間は果てしない伸びしろを持って夢へ向かって駆け出して行く。

 

「本当に僕達に向かって来るならいいよ、僕達は全力で戦うから。唯生半可な思いじゃ崩れないよ」

「―――ハッ、宣戦布告に来たら逆にされたってか……上等だ、そうやって上からもの見てろ。下克上、ジャイアントキリングって奴を見せてやる……!!」

 

そう言い残してその場から去って行く心操、それに続くかのように生徒の一部は道を開けたり自分も此処にいるのではなく努力しようと移動を開始したりをする。本当の成長を望むなら心から行動をしなければ。これで漸く帰るようになると一息つきながら爆豪に言う。

 

「これで帰れるよカッちゃん」

「フンッ……デケぇこと言いやがって」

 

と悪態をつくが何処か満足そうな顔をしている事を出久は見逃さなかった。爆豪的には自分の言いたい事やらも言われたので溜飲が下がったのだろう。

 

「うおおおっ緑谷お前カッコいいな!?男だぜ!!!」

「本当に大事なのは誰かに手を差し伸べてあげられる優しさ……確かにそうね、あの時の緑谷ちゃんがまさにそうだったわね」

「そうだよなぁ!!あの時、あの馬鹿でかいヴィラン相手にオイラ達を守り抜いてくれたもんなぁ!!」

 

クラスからは出久に共感したり称賛する声が殺到する、それこそがヒーローだと言わんばかりの言葉の嵐に出久は照れてしまう。自分は言いたい事を全部吐き出しただけに過ぎない。そこには単純にUSJでのことを否定されただけではなく、自分の大切な恩人であり相棒のマグナの事を否定されたような気分にもなったからだ。だからあんな言葉が出てしまった。

 

『いやいや中々良い啖呵を切るじゃないか出久君。うんうんおじさんは少年が成長しているようで嬉しいよ』

「(そんなっ……マグナさんはおじさんじゃありませんよ!!)」

『あっツッコム所其処なの?いや地球では27っておじさんの範囲じゃないのかい?いや私の実年齢的には爺さんか』

「(全然違いますから!!)」

 

「よし緑谷一緒に帰ろうぜ!!今日は帰りにオイラが行きつけの店で奢ってやるぜ!!」

「ケロケロッ私も是非USJでのお礼をしたいわ」

「そんないいのに……それにゴメン、今日はもう予定があるんだ……発目さんとの」

『……頑張れよ』



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熱狂襲来

体育祭までの準備期間はあっという間に過ぎて行き、開催までの時間を各々が有効に使ったと確信出来るような日々を送りながら遂に当日の朝がやって来た。出久も自分の事をしながらも発目に振り回さながら今日を迎える事になった。

 

「ちょっと緊張するなぁ……」

『何大丈夫だよ、別段大切な日だからと言って張り切ってしまう事なんてないんだよ。何時も通りにやればいいんだよ、逆に今日を見に来る人というのは普段通りの事を大一番で出来るかどうかを見に来るのさ』

「(そ、そうなんですか?)」

『私の時もそうだったさ、懐かしいねぇ……もう何千年も前の事になっちゃうのかなぁ……』

「(な、何千年……)」

 

やっぱりウルトラマンとは時間の感覚という物が全く違うんだという事を思い知りながらもマグナが当時の事を話して少しばかりリラックスを図る。当然の如く筆記なども存在していたがマグナの場合は当時は文明監視員を志望していたので特殊実技なども存在しておりかなり大変だったらしい、文明監視員は光の国でもトップクラスに難しい役割だったのもある。

 

「(マ、マグナさんでも難しかったなんて……)」

『でもやっぱり一番評価されたのは普段と全く変わらない平常心の維持だったよ、どんな状況でも落ち着いて対処出来るのはどんな戦闘力よりも見られる部分なんだよ。避難誘導をする時に慌ててる人の指示よりも落ち着いている人の指示に従いたくなるのは心情じゃないか』

「(な、成程……)」

 

確かにその通りだった、人の心情的にそれは明白だった。慌てていたら冷静な判断だけではなく様々な物に影響が出てくるという物、それに此処大一番だからと言って見栄を張るのも良くない。逆に普段から出せる力を高めている方が余程有意義だしアベレージを上げる方が応用が利きやすいという物。それを聞くと緊張が解れたのか上がっていた肩がすっと下がった。控室で待機している友達と見ても自分の肩は大分下、かなりリラックスしているらしい。

 

『大丈夫さ君なら。そうだね、終わったらご褒美に私が好きな所に連れて行ってあげようか。オールマイトと一緒に』

「(えっ何処に行っても良いんですか!?)」

『勿論、取り敢えず地球から出てみる?』

「(いや気軽に大気圏突破を選択肢に出さないでくださいよ!?)」

 

普通にありだからね~っと軽く語るマグナに矢張りウルトラマンとは凄い存在だと思い知る中で麗日と梅雨に声を掛けられる。

 

「デク君全然緊張しとらんね、うちなんてもうガチガチやよ……」

「それはしょうがないわよお茶子ちゃん、でも緑谷ちゃんは本当に余裕そうね」

「受け売りだけど普段通りの力を出せればいいんだよ、勝ちあがる事もそうだけどプロにアピールするにはそうした方が大事なんだってさ。それに―――USJのあれに比べたら怖くないし」

「成程ね、確かにあのおっきなヴィランに比べたら全然怖くない物ね」

 

思わず納得しながらも確かにあの時にあのヴィラン(エレキング)が発していた怒気やプレッシャーに比べたら今ある緊張なんて塵芥に近しい、あの時のそれは確実に自分達を葬ろうとするそれらに近かった。峰田もそれを聞いて当時の事を思い出すと自然と身体から力が抜けていく、それ程までにあれは強烈な体験だった。

 

「や、やっぱりUSJの時ってそんなに凄かったん?」

「凄いなんてもんじゃねえよ!!水の中から顔出してるのにMt.レディよりもずっとでけぇバケモンだぜ!?それ相手に緑谷の奴、おいら達を助けながらの大立回りだぜ!?」

「ええっ本当に、でも同時に凄い怖かったわ。あの時の緑谷ちゃん全然自分の身を顧みなかったから」

「ああしないと無理だと思ったからね」

 

もう勘弁してほしそうな顔をする出久、それはその時の事を許して欲しいのもあるが梅雨と峰田がその時の事をそのまま皆に話してしまったから皆からの視線を集めてしまったり質問攻めになってしまったりしたからである。その時から妙な視線を送られるようにもなってしまった、それは―――

 

「緑谷、今此処で言っとく。俺はお前には負けねぇ」

「と、轟君」

 

轟であった。何故か妙にライバル視というよりも何やら仇を見るかのような鋭い視線を送られるようになってしまい、敵視されているような感じがするようになった。明確な敵意を持っての宣戦布告。出久としては今まで全く絡んだ事も無い彼に此処まで言われたり敵視されたりしてしまって困惑が大きかったが矢張りそれだけ轟が目指す者が大きいのか、それを目指す為には自分を超えないと無理だと思っているのかという解釈をするようにしている。

 

「なんかオールマイトに気を掛けられてるようだけどそんな事関係ない。俺はお前も超える、それだけだ」

「僕は君の中でどうなってるのかは分からない、でも多分―――」

 

でもこれだけは言っておきたい、これだけはハッキリさせておきたかった。

 

「僕を超えるのは無理だよ、だって僕が目指すのは轟君のとは違うから」

「……何だと?」

 

そんな視線を送られてから考えた事があった、轟のそれは自分を見ていながらも自分を見ずにいるとマグナから指摘を受けた。言うなれば自分に何かの影を投影させてそれを見つめているようなものだと。そしてそれに込められている物は……酷く暗いものだと気づいた。

 

「轟君が何を目指してるのかは分からない、だけど僕が目指してるのは光みたいなヒーローなんだ」

「……そうか、お前はそんなヒーローになりたいのか」

「うん。オールマイトとは違うかもしれないけど僕にとってはその光みたいなヒーローが最大の目標かな」

『照れるねぇ』

 

そんな言葉を掛け合っている内に入場の時間になってしまったのか、皆控室から出て行くがその中で轟の瞳は僅かばかりに色が変わっていた。自分の両手を見つめながら片方を悲し気に、もう一方を憎らし気に見つめている。

 

「くそっ……」

 

 

 

『刮目しろオーディエンス!群がれマスメディア!今年もおまえらが大好きな高校生たちの青春暴れ馬…雄英体育祭が始まディエビバディアァユウレディ!!?』

 

解説席から聞こえてくるプレゼント・マイクの声、それと同時に打ち上げられる花火の数々が知らしめるのは開始の合図。出場生徒の間に一気に緊張が走って行く。マイクの言葉と共に入場が行われるが矢張りと言わんばかりに視線と歓声が集中しているのはA組。まだ未熟な身でありながらヴィランの襲撃に遭遇しながらも生き延びたクラスに注目が集まるのは必然。大観衆が声援を上げて出迎えてくる。それをプレゼント・マイクの気合の篭った実況が更に加速させていく。それらの勢いに飲まれそうになる生徒、物ともしない生徒に別れる中で全1年が集結した時、一人の教師が鞭の音と共に声を張り上げた。

 

「選手宣誓!!」

 

全身を肌色のタイツにガーターベルト、ヒールにボンテージ、色んな意味でエロ過ぎて18未満は完全に禁止指定のヒーロー、18禁ヒーロー・ミッドナイト・が主審として台の上へと上がった。その八百万以上にやばい姿を見たマグナは思わず絶句した。

 

『―――っ……』

「(マ、マグナさん!?)」

『いやねぇよ……流石にこれは……ねぇよ……』

「(マグナさんが口調を崩したァ!?)」

 

一体化してもう3年近くになるというのに礼儀正しい敬語であったマグナ、それが思わず崩した言葉を聞いて出久は今までにないショックを受けた。

 

『ぇぇっ……これ報告書に上げないとダメなのか、ぇぇぇっ……雄英高校の職員なの先生なのあれ……』

「(え、ええっ……ミッドナイトは先生です……)」

『……如何しよう』

 

素直に頭を抱えてしまうマグナに出久は如何した物かと思ってしまう、流石にこれは何も言えなくなる。と言ってもミッドナイトの場合は個性も関係している……だとしても過剰するかもしれないがあれは確りと意味があると説明するべきなのだろうか。それとも自分も流石にやばいと思っていると素直に言うべきなのだろうかと迷っている自分の名前が呼ばれる。

 

「選手代表、1-A 緑谷 出久!!」

「っ!はい!!」

『いけない落ち着かないと……』

 

首席入学した出久にはこの場での大役が待っていた。一応事前に説明があったので内容は考えてあった、壇上へと上がるにつれて自分へと突き刺さる視線の数々があるが梅雨と峰田(二人)に語ったエレキング云々の事を思い出したのか全く緊張しなくなっていたのかキッチリと決め、呼吸を整えてからマイクの前に立った。

 

「宣誓―――ッ!!今日此処に集いし我ら、それぞれに目標、夢を抱き此処に立ちます。抱く思いは異なり此処に立つ理由も異なる、だからこそ此処に誓います!!!」

 

凛々しい顔つきで語る出久、その声を聴いた者は驚くだろう、以前の彼を知っていればいる程に驚く事だろう。あれほどまでに胸を張り、声を出せる人なのかと。今日までに彼は大きな変化を遂げている、成長を遂げているのだと理解する中出久はそれを否定する。

 

「今までどんな努力、どのような道筋、どんな苦難、どんな原点(オリジン)、それらがあろうと関係はなく意味も無い!!皆等しく今できる事をするだけだと。だからこそ今此処にいる皆は等しく同じ挑戦者、だからこそ僕自身も皆と同じで全力で戦う事を宣言します!!!選手代表1ーA……緑谷 出久」

 

その言葉に会場は一瞬の静寂に包まれ、拍手が生まれそれは大きな熱狂となって全てを飲み込んでく。大歓声で溢れていきながら熱狂の渦が光となって空へと放たれていく。この時を以て、本当の意味で雄英体育祭は始まった。



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狙われる出久

「第一種目はいわゆる予選、毎年ここで多くの者が涙をのむ(ティアドリンク)!!さて運命の第一種目、今年は障害物競走!!一学年の全クラスによる総当たりレース、コースはこのスタジアムの外周で距離は約4㎞よ!!コースを守れば何でもあり!!全力を尽くすように!!」

 

マグナに頭を抱えさせるヒーロー・ミッドナイトによって振られた鞭の先、ゲートがスタジアムの奥の青空とコースを映し出す。これから自分達が走る事となる先へと続くロード、すぐさま誰もが自分に有利な場所へと陣取ろうと動き出していく。矢張り皆スタート地点ギリギリの場所へと進んでいくので満員電車状態と化していく。スタートしたとしても本当に走れるのかと思うほどである。確かに先にスタートを切れれば有利なのだろうが、その立場で初動を活かしきれるならばの話になってくる。

 

『さて出久君私の手助けはいるかね?』

「(いえ大丈夫です)」

『フフフッでは期待させて貰おうかな』

 

そんなやり取りをしている間にゲーム上部に設置されているマシンレースで使用されるかのようなシグナルが光を灯していく、今か今かと全員がそれを見つめる中遂にそれは一斉に緑色の光を灯す―――

 

 

「スタァァアアアトォォオオッッッ!!!」

 

 

遂にスタートが切られた。一気に全員がゲートから走りだそうとして土石流のごとくスタートへと殺到していく選手たち。皆が他人より少しでも早く前へ前へと焦りを持っているからこそ起きている。

 

「ワン・フォー・オール・フルカウル―――!!」

 

そして殆どの生徒達が殺到しているゲートへと出久も走り出していった。だが人混みに接触する前に跳躍するとトンネルのようになっているゲートの壁へと向かうと壁キックを繰り返してゲートの突破を試みると―――ゲートから凄まじい冷気が沸き上がってきた。視界の端で捉えた光景はゲートに殺到している多くの生徒達が氷によって足が取られている姿だった。

 

「轟くんか!!でも僕だって負けない!」

「退けデクッ!!!」

 

壁を蹴った跳躍と同時に自分の隣に躍り出るかのように飛び出したのは両手からの爆発で空を飛ぶ爆豪だった、爆破を推進力にして飛ぶのは空中での姿勢制御などのバランスがとても難しいのにあっさりやってのけている。流石の天才肌と思いつつも出久は轟が行った妨害用の地面の氷を砕くように思いっきり着地しながらも足の力を強めて氷を砕くようにしてどんどん前へ前へと進んでいく。

 

「君だって負けるもんか!!」

「ハッだったら付いてきてみやがれ!!」

「だったら抜いてみせるまでだぁ!!」

 

地面を滑るように先行していく轟を追いかけていく出久と爆豪、地上を激走する出久と爆破により宙を駆けていく爆豪は両者ともに並びながら進んでいくと轟が正面で止まっていた。これはチャンスと思ったのだがそんな意思を砕くかのように前方から巨大な影が徐々に伸びてきた。

 

「これって入学時の仮想ヴィラン……しかも0ポイントの奴が大量に!!」

『さあさあ遂に来た来たやっと来たぜ!!!手始めの第一関門、名付けて『ロボインフェルノ』!!!此処を超えないと次にはいけねぇぜぇえエエエイエエイ!!!』

 

入試の時に投入されていた仮想敵。中には巨大な0ポイントも存在している。避けるべき障害、それが倒すべき障害でもある。何とも素敵な障害物競走の第一関門。流石に入試ほどのサイズの物は少数だがそれでもかなりの数のロボが邪魔として立ちはだかって来る、流石は雄英、金の掛け方が違う。出久は止まってしまった爆豪と轟と共に先へと進んでいく。

 

「エレキングに比べたら―――迫力、不足だぁ!!!」

『あれと比べちゃいかんよ』

 

跳躍した出久へと狙いを定めた一機のロボが腕を差し向けてくる、がそれを身体を捩りながら回避しながらもその腕を蹴って更に回転、宛ら新体操選手の演技。そんなアクロバティックなムーンサルトスピンの後、一直線に強襲するような一撃をロボへと浴びせ掛けて見せた。

 

「SWALLOW SMASH!!」

 

それはロボットの共通の弱点と言っても過言でもない関節部を狙う事も無く分厚い装甲で守られている部分を堂々とぶち破って見せた、それはマグナが見せてくれたウルトラ兄弟の6番目(№6)ウルトラマンタロウの戦闘映像を見て参考した作り上げた必殺キック、スワロースマッシュ。それと同時に真横では爆豪がロボの頭部を爆破で吹き飛ばし、轟がロボを容易く凍結させてしまった光景が見えた。矢張りこの二人は生半可なライバルなどでは―――

 

「アハハハハハハッ!!!さあさあさあ真打登場ですよ私の活躍を見ててくださいよどでかい会社の方々ぁ!!」

 

と甲高い笑い声と共に後ろから何やらとんでもない音がした、それには出久だけではなく爆豪や轟までもが振り向いてしまった。何とそこにはパンチを繰り出したはずのロボが押し戻されて仰向けに倒れこむ姿があった。

 

「おいおい……」

「確かデクにやべぇ事言ってた変な女……」

「やっぱり発目さんだぁぁぁぁっっ!!!??」

Exactly(そのとおりでございます)!!!

 

その言葉に反応するように声を張り上げたのは案の定というか…決めポーズを取ってしまっている発目、彼女も彼女で今日という体育祭を楽しみにしていた。その為に出久を実験台、もとい協力して貰って様々な発明品を作り上げてきたのである。今彼女が纏っている多目的強化骨格、見た目こそ服に隠れる程度の物でありながらも各部に内蔵されている発目式大容量小型バッテリー(パワーセル)によってその出力は0ポイントヴィランを押し返す程の物を誇る。

 

「ありゃ今のでパワーセル2個丸々消費しちゃいましたか、でもご心配なく!!何せパワーセルは即座交換可能ですから!」

 

と両腕からカプセルの様なものを排出すると代わりの物をそこへ装填する、そしてその間に倒れこんだロボは体勢を立て直しながら改めて殴り掛かってくるのだがそれに対して発目は腕の操作パネルのスイッチを押した。すると背負っていたバックパックから何やら砲塔が飛び出した。

 

「フッフッフッ喰らってみなさいこの発目 明が作り上げた―――発目式光子砲!!!」

「発目さんなんつぅ物作っちゃってるのぉぉぉぉっっ!!!??」

 

出久の叫びもむなしく、飛び出した二門の砲塔からは光の弾丸が低い音を立てながら連射されていく。それはロボの装甲を削り取るようにしていきながらも次々と装甲を破壊していくと遂にはロボヴィランを沈黙させてしまった。その光景に思わずトップを独走していた3人は足を止めてしまう程だった。

 

「なんつう威力……」

「……おいデク、お前あいつに改造とかされてねぇよな」

「物騒な事言わないでよカッちゃん!?というか発目さんならやりかねないから割と本気で洒落にならないから怖いんだけど!!」

「……緑谷、相談乗るか?」

「なんか轟君にまで同情的な目で見られてる!?」

 

思わぬところで同情された出久は泣きたくなってきた、そしてギンッ!!と言わんばかりに顔を上げてきた発目に爆豪と轟は出久の背中を叩いて先に行ってしまう、まるであいつの相手はお前に任せるぞっと言わんばかりの行動に出久は大慌てで自分も走り出していく。

 

「ちょっと二人とも今の何!?そんな事するなら手伝ってよ色々と!!!」

「断ァる!!」

「俺もだっ……!!」

「緑谷さん緑谷さん貴方のお陰でこんなにも素敵なベイビーが出来上がりましたよでも聞いてくださいよこの光子砲ってば私考案のパワーセルを使うんですけどまだまだ改良の余地があるので是非とも光線撃てる緑谷さんの力を借りてもっともっと改良したいんですよその為に実験したいんですよですから後日また協力、いえ実験台になって下さいいや流石緑谷さんその目ああ分かってるって感じですね流石私の大親友もう解ってらっしゃるんですね!!」

「だから言い直さなくていいってばぁ!!というか参加する事また勝手に決定されてるぅ!?」

「有難う御座います流石私の親友ですね!!」

「了承もしてないぃぃぃっっ!!!」

 

『……体育祭って可笑しなテンションでするものだったかな……いやロボが体育祭に出る時点で可笑しい気がするけど……』

 

色んな意味で波乱続きとなっている雄英体育祭、だがこれはまだまだ嵐の始まりに過ぎないのである。




発目式光子砲。ファントン光子砲を発目が地球のテクノロジーで再現してみた物。ファントン光子砲と比べてまだまだ威力、精度、エネルギー効率も悪く改良の余地は多く存在するがグルテンからは地球のテクノロジーのみで此処まで出来るならば十分過ぎるとの事。エネルギー源はパワーセルを使用。


前回のサブタイトルはウルトラマンガイアの第28話『熱波襲来』が元ネタです。


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暴走する科学

『さあ障害物走は今トップは予想以上の大混戦っつうかなんかすげぇ事になってねぇか!?A組が独走状態を作ったかと思ったらサポート科の発目 明が一気に追い上げたっつうなんかその発目から轟に爆豪、あと緑谷が全力で逃げてるみたいな事になってんぞぉ!?』

「みたいじゃねぇ!!!ガチで逃げてんだぁ!!」

「巻き込まれたくねぇっ……!!」

「置いてかないでぇ!!」

 

トップ独走中の3人、轟、爆豪、緑谷。だがそれらを恐れさせる存在が今体育祭では最も恐ろしいのかもしれない。今現在第二関門の巨大な峡谷のザ・フォールへと到達しているのだが……一気に爆破で身体をぶっ飛ばして谷を横断する者、直ぐに崩れるように調節した氷の橋の上を滑り渡る者そして……

 

「いやぁ見てくださいよ緑谷さんこのベイビーなんて飛行能力まで付けたんですけどエネルギーロスが大きくて改善すべき点なんですよですから緑谷さんの飛行を参考にさせて欲しいんですよだから今此処で飛んで貰えませんかねぇ」

「いやいやいや僕のあれだって普通に不完全でロス酷いから参考にならないから!!」

「いえ大丈夫ですよその辺りを判断するのは此方ですからハリーハリーハリーハリーハリィィィッッ!!!」

「ちょっと勘弁して貰えませんかねぇ!!?」

 

谷の途中途中のポイントを跳躍し続けて谷を突破する出久の隣にピッタリと張り付くかのようにして迫ってくる発目、彼女は彼女で装着しているそれが飛行能力があるのが平然と飛行して出久と並走している。しかもその間も自分の発明品の次、その次の次の話をし続けているから爆豪と轟からしたら不気味でしかない。もしかしたら彼女にとっては今回の体育祭は試作品の実験代わりであり本当はウルトラマンの力を使える出久のデータ収集が目的になっているのかもしれない。

 

「あっそうでした折角なので緑谷さんの援護して恩でも売って気兼ねなく私に協力して貰えるようにしちゃえばいいんですよねサスが私って天才ですねという訳で―――標的確認&ターゲットロックオン!」

「「ッ!?」」

「えっちょ発目さん!?」

「ついでに稼働データ確保も兼ねちゃいましょう~光子砲発射ぁぁぁっっ!!」

 

ザ・フォールを突破し間もなく第三関門へと到達しようとした時に爆豪と轟が恐れていた事態がやって来てしまった、発目の魔の手が迫って来たのである。彼女からすれば出久の順位を上げるのに協力しちゃえば出久は自分のお願いを聞いてくれ易くなるだろう、そして光子砲のデータ収集程度の事しか考えていないのだがその標的となった二人からすれば溜まった物ではない。

 

「だぁぁぁぁっあのくそ女何なんだぁクソがぁぁぁ!!!」

「今回、ばかりは同感だぁ!!」

 

背後からホバー移動しながら迫ってくる発目、その背中から伸びる砲塔からはアヴェンジャーの30㎜を連想されるような音を立てながら周囲へと光子砲弾をばら撒いてくる。精度が悪いのかバケツの水をぶちまけたかのようなばら撒きっぷりになっているのが唯一の救いだが、それがそれで逆に前に進みづらくなっており二人の速度が大幅に低下し回避に徹するしかなくなってきた。

 

「おおっこれはこれは精度改善のために有益なデータが取れそうです流石は緑谷さんのクラスメイトさん流石ですねぇ有難うそして有難う貴方方の勇姿は光子砲の中で燦然と輝き続ける事でしょう!」

「だったらこれ止めろやボケがぁ!!」

「いやぁすいませんパワーセル使い切るまでフルオートにしちゃってので無理ですねぇそして駄目押しのチャージショットをここで一発!!」

「「ふざけんな!!!」」

 

思わずハモりながら怒鳴り、振り返ってしまった二人の間をすり抜けた光子砲弾は第三関門へと着弾するとまるで燃料気化爆弾でも叩きこんだかのような爆風と爆音、巨大な爆煙を上げて燃え上がった。これは第三関門に仕掛けられている仕掛けに誘爆した結果であり、本来の威力ではないのだが二人からしたらそれは全く分からない。そしてそれを見て思わず血の気が引く二人、仮にもあんな威力の物を躊躇する事も無く相手にぶっ放せるなんてどういう神経をしているのだろうか……と。そして更なる一撃が飛んで来そうになって来た時―――

 

「発目さんストップストォォォップ!!?分かった分かりましたから僕は進んで発目さんの発明の実験台になってじゃなくて協力させて貰うからもう撃たなくていいからもう色々とやばすぎるからもうやめて!?体育祭の後にもう発目さんが満足するまで付き合うからぁ!!」

「分かりました止めますぅ!!」

 

爆豪と轟を救う為に自ら進んで地獄へと足を踏み入れる事を決心した出久、発目のぶっ飛びっぷりは理解しているしその実験もやばいのは承知済み。だが二人を救うにはこれしかない……!!と承諾してしまった、発目は満面の笑みを浮かべながら光子砲を仕舞いこみながら不気味な笑い声を上げながらスケジュールを脳内で組み立てている。

 

「緑谷の奴大丈夫なのか本当に……」

「……おいデク、お前死ぬんじゃねえよな……?」

 

柄にもなく本気で出久の事が心配になってきた二人、それに対して出久はもう心の底から諦めながらまるで仏の様な笑みを浮かべながら大丈夫だよとだけ答えるのであった。どうあがいても大丈夫じゃない事だけは理解した二人はこの時ばかりは本気で出久に感謝しつつも深い罪悪感を覚えるのであった。

 

「ほら取り敢えず今はほら、先に進もうよ。丁度関門が発目さんのお陰で全滅してるみたいだからさ……今は体育祭に集中しようよ!!後の事はほらうん、二人は無視していい訳だしさ!!」

「「(いや出来ねぇよ……)」」

 

無理をして笑顔を作っているのがバレバレな出久に本気で罪悪感を覚えてしまう爆豪と轟、この後4人揃って関門を突破してゴールを潜るのであった。その時、発目も揃って4人が同時にゴールしたのが二人なりの謝罪だったのだろうか……。

 

続く第二種目は騎馬戦。障害物走の順位によってポイントが振り分けられ、3~4人程度でチームを組んでそのポイントの合計が高かった上位4チームが次の種目―――即ち本戦とも言えるトーナメントに進める事になる。そして1位となった物には1000万ポイントが渡されるはずだったのだが、4人同着だったのでそれを4分割して250万ポイントがそれぞれに渡される事になった。出久は誰と組むかと悩んだのだが……発目が絡んできたのでほぼ強制的に組む事になり、後はクラスメイトである麗日と常闇と組む事になったのだが……ここでも彼女はそしてこの後の種目でも発目は大暴れをする事になった。

 

「フッフッフッこの私特製のロボットアーム、ウルトラアームがお相手しちゃいますよ!!」

「発目さんまだそんな物を持ってたの!?」

「で、でもすごい頼もしい!!」

「狂気の技術……だがそれらも正義が使えば正義……」

『というかそのアーム、私からしたら結構複雑だなぁ……まるでUキラーザウルスの触手のようだよ……』

 

発目の活躍もあって無事に騎馬戦を突破出来た出久なのだが……この日から爆豪と轟から何やら優しくされるようになってしまった。




発目さん大ハッスル。この小説で一番強化されたのはマグナと一体化した出久君ではなく発目さんだった……?


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心の本当の優しさ

無事に、無事とは言えないかもしれない騎馬戦。主に発目が開発してしまったロボットアームが大ハッスルしてしまったせいで出久達のチームはポイントを守り抜く事が出来た。爆豪の爆破にも容易に耐え、轟に凍らされても一切動きが鈍る事がないスーパーアーム。それを見てマグナは益々とある怪獣を連想したのかげんなりとしているのを出久だけは気付いていたので余程な目に遭ったのだろうと思う。

 

『何でよりにもよってあれに似せるんだ……いや偶然だったのは分かったが……』

「(まあまあマグナさん、そのお陰で無事に勝ち抜けたんですから)」

『釈然としないなぁ……はぁっなんでUキラーザウルスに助けられるなんて事態が起きるのか……』

 

曰く、今まで生きてきた任務の中で相対した中で最も苦労した上で本気で死ぬ事を覚悟したらしい。マグナ、マックス、ゼノン、ネオス、セブン21という面子で戦闘を行い激戦の末に倒す事に成功した。そんな究極超獣の触手に似ているアームに助けられるというのは中々な皮肉を味わっているような気分になる。

 

『最終的にマックスのマクシウムソードに私達全員の必殺光線をぶつけて収束させて、それをぶつけて倒したのさ……あれ以上の激戦は経験した事ないなぁ……』

「(どんだけやばかったんですかその任務……)」

『ハハハハッ―――過去最高のやばい任務だよ』

 

とマグナが遠い目をしてしまう程の激戦であった。Uキラーザウルス自体がウルトラマン、セブン、ジャック、エースの4人と互角以上に戦った究極の超獣なのに自分達の時は出現した星で研究されていた人工太陽を取り込んでパワーアップしていたので冗談抜きで死ぬかと思っていた、と戦った全員が漏らしたとの事。

 

『まあ私の昔話はいいさ、それよりももう直ぐ第一試合、即ち君の試合だ』

「(ええっもう直ぐなんですよね……ちょっと緊張してきました)」

『ハハハッでも私のピンチに比べたら大した事ないだろう?』

「(流石に人工太陽を取り込んでパワーアップした超獣を相手にするのと比べられても……)」

 

そう言いながらも出久の中の緊張は既に砕け散っている、というよりも此処までくるまでの間に緊張なんて物は言葉にする程作られていない。正確に言えば緊張なんて物が生まれるよりももっとやばい物が生成されて全力で止めに入ったり突っ込んだりをしていたのが原因だったりするのだが……当然発目である。そんな彼女も当然最終種目であるガチバトルトーナメントへの出場が決まっている。

 

「飯田君、大丈夫かな……」

『彼女と戦うのだからねぇ……サポート科は自分で作ったアイテムなどは自由に持ち込めるらしいが、あの段階で彼女が見せた物は既にとんでもないからなぁ……あまりこういう事は言わない方だが、彼が勝てるヴィジョンが見えないよ私』

「(大丈夫ですマグナさん、僕もそう思えちゃってます……)」 

 

ガチバトルトーナメントで発目は初戦として飯田と戦う事になっている、がサポート科はヒーロー科などと違って自らが作ったアイテムならば使用が許可される。寧ろ体育祭では自身の技術力や発想力、独創性などを見せ付ける場であるのも寧ろそうしなければサポート科は体育祭に出る意味さえなくなってしまう。本来それはヒーロー科との実力を埋める為でもあるのだが……発目の場合はその差を埋めたてた上で超高層ビルを作るようなものだから質が悪い。

 

『さあ遂に始まるガチバトルトォォオオオオナメンツゥ!!!!ガチンコ勝負、頼れるのは己のみだ!!心技体に知恵知識、総動員して駆け上がれぇぇぇ!!!!』

 

そんな熱い実況が行われる中入場していくのは初戦を戦う出久、そして―――体育祭前に教室へとやって来た挑発をしてくれた心操であった。何処かその瞳は鋭くなっているが口元はやや上がっている、もう既に勝ちを確信しているかのような雰囲気を醸し出している。何か秘策でもあるのかと警戒を厳にする構えをする中、開始の合図が鳴り響く。心操は高らかに言葉を形にした。

 

「よぉ首席、如何だ高みの椅子の座り心地は。最高か、そりゃよかったな。それも全部個性のお陰か、けっいいよなぁ良い個性はよぉ……この世は全部個性だくそが」

「それは否定しないよ僕だってそれは味わっ―――」

 

途中まで繕った言葉は途中で途切れてしまい、出久の瞳から光が消えてしまった。それを見て心操は笑った、もう既に勝ったも同然だからだろう。出久は知らなかっただろうか彼を探していたクラスメイトの尾白がその事を伝えようとしていた―――が発目に捕まっていた為に知る由も無かった。心操の個性、それは洗脳。人聞きが悪い名前だが洗脳する意志を持ってした問いかけに返事をした者を操るというかなり凶悪な個性、そして本人も認める程にヴィラン向きな個性となっている。そして発動条件が意志を持って問いかけ、それに相手が答えれば良い。とんでもない個性である。もう出久は心操の操り人形で命令通りに―――

 

「そのまま周れ右して全力ダッシュで退場しろ」

「―――色々と苦労をしていたってあれっあれ?」

 

動く筈なのだが……唐突に声が再び発せられた、そこにあったのは突然記憶が途切れたかのように状況が飲み込めないのか周囲を見回している出久の姿。何やら顎に指を当てている仕草をしているが、何が如何なっているのかと心操は内心でパニックになっていた。

 

「(主導権を私が握っている、いや違うなこれは……出久君、聞こえるかい意識はあるかな)」

『……』

「(これは催眠、いや洗脳と言うべきか。主導権は未だ出久君のまま、だが意識がなくなった故に私が操っているのか)」

 

「おい、おいお前なんで洗脳されてねぇんだよ……おい何をやったぁ!?」

「いや何をやったと言われても……逆に何かしたのはそっちじゃないか」

 

と出久の喋り方を模すマグナ、きっとオールマイト辺りは違和感を覚えて自分が動いていると見抜く事だろう。だがマグナはこのまま以前言えなかった事があったので今代わりに言ってやろうと折角の機会を利用させて貰う事にする。

 

「君は個性が全てだと言っているけど素晴らしい個性じゃないか、問いを投げかけるだけで相手を操れるなんて人質を取ったヴィランの交渉役になるだけで解決出来るよ。寧ろヒーローが心から欲しいと思う個性の一つだよ、誰も傷つけないで事件を収める事が出来るなんてオールマイトでも出来ないよ」

「何、を言ってるんだよ……」

 

声が震える、感情が揺れている。今まで散々言われてきた言葉とは全く真逆の事に心が歓喜してしまっている。洗脳という個性を持つ自分が逆に洗脳されているかのような気分に陥る心操だがそのまま言葉は続けられた。

 

「君の個性は誰にも負けない位に凄い優しいんだよ、誰も傷付けないヒーロー……未だ嘗てないヒーローの先駆けだね。ヴィランだけじゃない、個性を扱えきれずに暴走させてしまう人を鎮める事も出来るんだ、優しくね」

「ッ―――やめろ、それ以上、言うな……!」

 

マグナの口から放たれてるのは紛れもない本音、誰かを助けるヒーローやヴィランを倒すヒーローは数多くいるがそれ以上に誰も傷付けないヒーローなんていない。まるでコスモスのようなヒーローになれるなんて素晴らしいとマグナは心から称賛しその個性に敬意を払った。

 

「君は色々悪態をつくけどさ心の中で諦めちゃってるだけさ、自分の個性はヒーロー向きじゃないって」

「―――やめろっ……!!!」

「君はヒーローになれる。時に拳を、時には花を差し出させるヒーローに」

「止めろぉぉっ!!!」

 

その言葉を聞いた時、自分の中の何かが砕け散ったような音がした。それを否定したくないのに今までの自分が許さずに殴り掛かった、振り抜かれた拳が頬を捉えた。敢えて避けなかったそれに対して―――心操の目を見ながら言った。

 

「これが君の本当のオリジンだ、自分に負けるな、自分の優しさで自分を包めっ―――シェアァッ!!」

 

両手の掌底が心操の身体を捉える、剛腕の一撃は彼の身体を易々と戦いの場であったフィールドから吹き飛ばしてしまった。そのまま地面へと倒れこんだ心操は不思議と痛みをあまり感じずに青々とした空を見上げながらも胸の中にある熱くなる心に堪え切れずに笑みを浮かべてしまっていた。

 

『心操君場外!!緑谷君の勝ち!!』

 

「(あ、あのマグナさんなんかほっぺがジンジン痛むんですけど何があったんですか……?)」

『何、私が美味しい所を貰っただけだよ気にしない気にしない』

「(いやしますよ……)」



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迫りくる父

「テメェは俺には勝てねぇ」

 

余りにも圧倒的な試合運びだった。出久の試合に触発されたかのように力を見せ付けたのが瀬呂を一撃で倒した轟だけではなかった。爆豪も同じく、やる気十分であった。何故ならば曲がりなりにも出久に救われているのもあるが、出久と戦う為には決勝まで勝ち上がらなければならないという制約もあるので初戦で負けるつもりは全くなかったのもあった。

 

麗日の個性、無重力を活かすかのような機動戦。自身を軽くする事で機動力を上げつつも瞬間的にそれを解除してインパクトの際に与える衝撃を増させたりする工夫を凝らす麗日に爆豪は真っ向からそれらを粉砕していった。加えて仮に触れられて重力を無効化されたとしても自身は爆破を利用した空中移動が可能なので簡単には負けないという自信もある。そしてその精神的な強さはそのまま彼の実力にも直結していた。

 

「まだまだ、まだっ―――」

「丸顔、テメェはつぇぇ。それは保証してやる―――だが俺とは格が違う、出直してこい」

 

麗日の最後の秘策、爆破によって作られた瓦礫に身を隠すかのように、盾にするようにしながら爆豪に接近する傍らでそれらに触れて空中に留めておきながら時が来たらそれを一斉に落として攻撃するという流星群染みた攻撃も真正面から最大火力の爆破で切り抜けて見せる。自身の全力を超える強さを見せる爆豪を前にまだまだ前に進もうとする麗日に、首筋に手刀を入れて意識を奪うと爆豪はそのまま去って行く―――勝利という錦織()を身に羽織りながら。

 

 

初戦を無事に突破して次の試合に備えていた出久は、心操から何やらかなり熱い言葉と感謝を贈られたのだがマグナから事情を聴かなければまともな返答が出来ていなかっただろう。だが同時にマグナが居なければあっさりと負けていた事も確かな事だろう、その感謝も忘れないようにしながらも廊下を歩いていた。

 

「(マグナさんって何か好きな物ってあるんですか?試合だとお世話になりましたし……というか今まで全然気にしませんでしたけどウルトラマンってご飯とかどうしてるんですか?今までは僕と一体化してるから一緒にご飯食べてるって認識だったんですが)」

『いや私達に食事を取るという習慣はないんだよ、光エネルギーを吸収する事が食事とも言えるかな。因みに出久君との食事は別に味覚なんかは共有してないよ?』

「(そ、そうなんですか!?でもそれはそれで凄いようななんか、美味しいご飯食べれないのは寂しいような……)」

『まあ私が人間態とも言うべき姿を取れば食事を取れるようにはなれるんだけどねぇ……出来る事は出来るけどやめておくよ』

 

ウルトラマンも食事はしようと思えば出来る、過去にもウルトラ兄弟たちが地球を守る際などに取っていた人間態と言うべき姿であれば人間と変わらない状態になる。ならば出久はそれになればご馳走できると思ったのだが……マグナは遠慮してしまった。理由はいくつかあるのだが……久しぶりの食事に理性が抑えられるのかという不安もある。

 

『過去にもウルトラ兄弟が地球での食事に夢中になってしまったという事があってね……そのせいでゾフィー隊長に失礼な事にも……』

「(え、ええっ……)」

『後メビウスが任務を終えて光の国に帰還してからカレーが食べたいと一時期凄い事になったり……』

「(ふ、普段からの生活が違うとそんな風になっちゃうんですね……)」

『うむっ私も是非とも堪能はしてみたいのだが……流石に気が引けてね』

 

加えて言うなれば、ウルトラ兄弟の中には地球を酷く恋しく思う者が酷く多くそれが精神的な疾患として現れる事があった。それがある意味顕著だったのがメビウスだったとも言える。彼は地球で素晴らしい仲間に恵まれ楽しい日常を送りながらも、様々な苦難を乗り越え、仲間との証を身体に刻み新たな力までも手に入れ、最後には仲間と共にエンペラ星人を打倒した。そんな彼が抱く地球への思いは誰よりも大きく重かった―――そして大切にしている証明でもあった。

 

『まあ私の事はいいさ、そうだね……偶にはのんびりと日向ぼっこでもして貰えるかな、それが食事代わりになるから』

「(分かりました)」

 

と出久からの質問を終わらせるマグナ、彼としても地球の食事は味わいたいという気持ちがある。だがそれを望む地球人としての自分は既に希薄になっている、いざ食べた時、自分はどうなるのだろうか。望んでいたものとは違うと失望するのだろうか、これが食事だと喜ぶのだろうか、それとも……何もハッキリしないが兎も角マグナは自分に地球へのホームシックにも疾患を作らない為と言い聞かせる。

 

『まあ本音は銀十字軍に連行されたくはないんだけどね……』

 

光の国は地球に対して友好的、だが……一部ではウルトラ兄弟たちが死んでしまったりするケースが余りにも多い為に地獄の星と揶揄する者もいる。故に彼らは地球に行った事があるウルトラマンには必ず銀十字軍で診療を受けるようにと勧められる、酷い時には拘束されて連行される。彼らなりの善意であるので無下には出来ないのが難しい所。

 

「おおっいたいた」

「えっ貴方は……!?」

 

そんな時、ある人物に出くわした。炎を纏った威圧的なオーラを纏う男、オールマイトに次ぐNo.2、デビューしてから20歳の時点でNo.2に上り詰め、事件解決数史上最多の記録を持つ現役屈指のフレイムヒーロー・エンデヴァー。焦凍の父親であるエンデヴァーが自分を待ち受けるかのようにそこにいた。

 

「初めましてだな、君の活躍は見せて貰った。実に素晴らしい個性だ、単純なパワーもさる事ながら他にも様々な事が出来ると聞いている。そんな素晴らしい個性に巡り合えた事に君は感謝せねばならないな」

 

何処か威圧感を纏いながらのエンデヴァー、№2と呼ばれるヒーローに対する出久は普段のそれとは違っており何処か警戒しているにも等しいそれだった。マグナからして見ても目の前の男には嫌な予感を覚えていた。そしてエンデヴァーは高らかに言うのであった。

 

「焦凍にはオールマイトを超える義務がある、あいつは反抗期なのか半分の氷しか使おうとせん。だからあいつを炎を使わなければならないところまで追い込み現実を教えてやってくれ、君も本当の全力で―――君の個性にはまだまだ真の力がある筈だ、くれぐれもみっともない試合をしないでくれたまえ。言いたい事はそれだけだ、直前に失礼したな。」

 

それだけを言うとエンデヴァーは去ろうとするのだが、出久は察した。轟が、焦凍が見ている相手はこのエンデヴァーだと。だが目指す意味も度合いも異なる、この男を完全に打倒する事が目的なのだと察した。それは……怒りや恨みと言ったそれに近く、憎悪と形容すべき物なのだろう。そしてそれを見てマグナは出久に謝りながら言葉を作る。

 

「そちらも好きな事を言ったんだ、此方も一つだけ言わせて貰っても」

「―――良いだろう、なんだ?」

 

背中を見せたまま聞く耳を持ったエンデヴァーにマグナは言った、自分の中にある感想を。

 

「貴方は私が知っているある男に似ている、そして仮に貴方がこのまま道を変えないのであれば―――貴方は息子によって討たれる」

 

そう言い残して出久(マグナ)はその場から去りながら出久に謝罪する。出久は気にしなくていいと言いながらも焦凍との対決に僅かな胸の痛みを覚えた―――そしてそれらを聞いたエンデヴァーは……

 

「それはそれで悪くないかもしれんな……奴がオールマイトを越えられるならばそれも一興だ」

 

何も理解しないまま、変わらず自分の道を歩く。



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オーバー・ザ・発目さん

エンデヴァーとの邂逅という思いがけない出来事によって心が揺さぶられてしまっていた出久だが、そんな気持ちは直ぐにすっ飛んで忘れてしまっていた。何故ならば自分はストッパーとしての役目を行わなければ冗談抜きでやばい事になりかねないから、という理由がある。それは―――

 

『さあこれから始まる試合も注目だぜぇぇぇ!!』

「だ、大丈夫かなぁ……」

 

これから行われる試合こそ、出久にとってはある意味一番心配の種なのであった。何故ならば―――その対戦カードはクラスの委員長である飯田と自称出久の大親友である発目の試合なのだから。普通ならばクラスメイトである飯田を応援するのが当然の筋なのだがそれ以上に心配なのが発目がまたとんでもない発明品を取り出して飯田を蹂躙するのではないかとこの対戦カードが目に入った瞬間に心から不安になっており、ミッドナイトに素直に相談したのだが……

 

「う、う~ん……確かに不安も分からなくもないんだけど流石にカメラとか全力で回ってる場でそんなことするかしら……」

「既にカッちゃんと轟君に向かって光子砲をぶっ放してるんですよ!?」

「うんそうだったわね私が悪かったわ、それじゃあ悪いけど試合の時は出場口で待機しててもらえる?」

「分かりました!!」

 

という事があって今、出久は出場口で待機しながら不安を胸いっぱいに抱き抱えながら見守っている。だが仮にも飯田も大人気ヒーローでもあるインゲニウムの弟でありその実力も相当に高い筈、きっと発目が相手だろうときっと戦えるはずだろうと思う中で如何しようも拭いきれない思いがある事も事実であった。

 

「発目さん、俺は正々堂々と全力で君にぶつかるつもりだ。それこそが君に対する最大の敬意であると思っている、故に君も全力で来てくれていい!!」

「ほほう!」

「(飯田君それ駄目だよそんな事言ったらマジで発目さん加減しなくなるよというか今まで十分発目さんのあれっぷり解ってる筈だよねぇ!?)」

『あ~あ……これはあれかな、マグナヒーリングパルスの照射スタンバイしてた方が良いかな……』

 

思わずやっちまったぁ!!と言わんばかりの反応をする二人、目を輝かせながらテンション爆上がりな発目にクソがつく程の真面目の飯田。これ程までに相性の悪い二人はいなかったという事だろう。これはもうミッドナイトの言葉通りにいざという時は自分が飛び出して止めるしかないような気がしてならなくなってきた。そして出久にとっては地獄の鐘に等しい開始の合図が鳴ってしまった。

 

「行くぞぉっ!!」

「では―――速度が得意な貴方ですからねぇ、先程調整した精度を試させて貰いましょう!!」

 

一気に加速して駆け出して行く飯田。十二分な広さのフィールドならば自身の最大の長所であるスピードを十二分に活かせる、機動戦で戦ってやると言わんばかりの初動に対して発目は発目式光子砲を起動。付けているゴーグルと連動したロックオン機能で飯田を捉えながらも光子砲を発射していく。低い重低音を響かせながら放たれていく光の弾丸。

 

「なんのぉぉぉお!!!」

 

それらに当たらないように必死に身体を捩りつつも体勢を限界まで低くしてまるで地面と平行に近い角度まで身体を傾けながら激走する飯田。

 

「速く、低い対象はぁ撃ちづらいだろぉ!!」

 

発目の発明品の威力も重々承知済みなので飯田も飯田なりに対策を考えていた。射撃系が苦手とする物の鉄板、高速移動する小さな目標への射撃は得意ではないという点。そこから攻める事にして飯田は大きくカーブを描き狙いを絞らせないようにしつつも距離を詰めていくのであった。

 

「フフフッ中々やるじゃないですかそれなら如何でしょうかぁレッツゴーウルトラアーム!!」

『……後で改名を要請しよっ……』

「マグナさん!?」

 

彼女の知らぬところで大ダメージが入っているのだが、迫ってくる飯田に対して起動したウルトラアームは伸縮しながらも小さくなった飯田を狙うが更に加速しながらそれを振り切ろうとする。だが4本もある腕は的確に迫りながらも進路先へと腕を伸ばし捕縛しようとしてくる、だがそれらを跳躍しつつも身体をねじりながら回避し、そのままアームを越えて発目へと接近した。

 

「はぁっ!!!」

「おっとっ!!」

 

と咄嗟に発目は腕で防御を固める、纏っていたスーツのお陰もあってか十分な防御が出来ていたがアームを簡単にすり抜けてしまった事に驚いている。だが間髪入れずに蹴り込んでくるそれを2本で防御しつつも残りの2本で後方へと飛び退きながら牽制と言わんばかりの光子砲をぶっ放す。それで距離を取った飯田を見つつアームの体勢を整えながら発目は素直に謝罪した。

 

「いやはや本当に驚きましたよ素直にウルトラアームを越えて来ちゃうなんて素直にびっくりですよ緑谷さんの身体能力データを参照したんですがこれは良いデータが取れましたそして私も本当の意味で本気を出さなかった事を謝罪してガチの物を出させて頂きますよ」

「それは光栄だ、そして俺は一切気にしていない!!」

「では遠慮なく!!」

 

そう言いながら発目はあるものを懐から取り出した、それに連動して腕部から何かが飛び出す。それは何かの読み取りを行う装置のように見え、取り出したのは何かのカードだった。そこには何やら機械的な巨大なモンスターのシルエットのような物がありそれを装置へとセットした。

 

【CYBER-ELEKING ロードします】

 

『おいちょっと待って今なんて言ったぁ!?グルテン博士貴方まさか……!?』

 

刹那、ウルトラアーム全てが飛び出すように射出されると発目の右腕へと装着されていく。接続されるとアームは装甲を動かしながらも変形していきまるで巨大な砲塔のような物を形取りながらも発目の上半身を飲み込むようにしながらその姿を現しながらアナウンスが完了のアナウンスを告げた。

 

【CYBER-ELEKING-ARMOR.ACTIVE!!】

 

『やっぱりそれだった!?博士何やってるですかぁ!?貴方恩人に対して甘すぎません!?』

「えっちょマグナさん如何したんですか!?」

 

 

そこにあったのはウルトラアームが集結、連結する事で作り上げられた砲塔を持つ鎧を纏った発目。当然マグナはそれを知っている、というかこの場合それを齎す原因となってしまったのが自分である事になってしまう。あれは紛れもない怪獣を解析して作り上げられるサイバー怪獣の鎧、モンスアーマー。流石にデジタル粒子の再現は難しかったのだろう、だが逆にウルトラアームを変形させる事でモンスアーマーを再現してしまった発目にはもう本気で頭が痛くなってきた。しかもサイバーエレキングアーマーを考えると解析を頼んだエレキングメダルのデータが使われたに違いない……。

 

「さあさあさあ皆さんご唱和ください私の名前を!!これこそ私の本気の超本気サイバーモンスアーマー!!これこそ真の技術革新と成り得る代物、そしてその力をまず飯田さんに体験していただきましょうさあさあさあ!!!」

「―――相手にとって不足無し!!」

『いや君が不足になるんだよこの場合は!!?』

 

この後、発目はサイバーエレキングアーマーの力を存分に発揮する。腕に装着されたアームからは指向性を持った電撃波を放つだけではなく自由自在な方向に転換可能な電撃鞭を放つ事が可能になっており、飯田はそれから全力で逃げる事ぐらいしか出来なかったのであった。流石にマグナも止めるべきと言ったので出久が止めようとした時、大きな音を立てながらモンスアーマーが機能を停止しながら各部パーツが地面へと落下していったのである。

 

「ありゃ~如何やらまだまだ不完全だったから無理が来ちゃったみたいですねぇ私の着てるスーツにも反動が来ちゃったみたいで完全にオーバーロードしちゃってますね。でもまあ十分過ぎる位のデータが取れて大満足なので私は此処でギブアップしますねそれではそういう事で飯田さん貴方の健闘を心の片隅でナノレベルで祈ってますよ~」

「えっ……俺はこれで胸を張って勝ったと喜んでいいのかぁぁぁ!!?」

 

と困惑しながらも絶叫する飯田はミッドナイトの勝利判定に如何したらいいんだと叫ぶ。だがそれに対してマグナは言うのであった。

 

『胸を張っていいんだよ飯田君。君はあの発目さん相手に勝ったんだからな』

「おおっそこにいるのは緑谷さんじゃないですか如何ですか見ててくれましたか私のベイビーたちの活躍いやぁ本当にいいデータがたくさん取れて大満足ですよ本当に緑谷さん今すぐにでも実験を開始しましょうと言いたい所ですが緑谷さんにも残りの試合ありますもんねしょうがないですからまた今度という事にしましょうか後マグナさんに有難うとお伝えくださいねあのアーマーの完成にはマグナさんが博士に預けた物を解析したデータを使って出来てますので」

「いや先ず承諾得ようよ!!?」

『もう何なのこの子……』




―――やっちゃったぜ☆ byグルテン

―――やっちまいました☆ by発目

『もう何なの子の二人……個性なんかよりこっち報告した方が良いような気がしてきた……』


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死闘!出久VS焦凍

『勘弁して欲しいよもう……元文明監視員としてはその辺りも厳しくしないといけないが博士にはメダルの解析でかなりの事をやって貰っているしこれからの出久君のことを考慮すると発目さんの協力と技術発展は必要不可欠、エレキングの一件を考えると対怪獣用アイテムの開発という意味では今回のアーマーは重要な事になり得る、だから出来れば大喜びしたいけどああもう……』

「だ、大丈夫ですかマグナさん……?」

 

発目の試合後、マグナは速攻でグルテンとの通信を繋げつつ今回の一件に対する注意を行った。本来なら宇宙生物関連技術の悪用として検挙されかねない事にもなりそうだったのだがそこは大まけで厳重注意と技術公開などに対する制限を課すという事で解放してあげた、と言ってもグルテンは兎も角として発目は本当に反省してくれているのか分からない。酷く明るくて悪びれていないごめんなさいっ!!という言葉が未だに脳裏をループしており本気で頭痛を覚えている。

 

『本当に分かってくれてるといいんだけどなぁ……ああもうこの事も私が報告しないといけないんだよなぁ……嫌だなぁ……出久君私の代わりにレポート書いてくれない……?』

「いや無理ですって!?」

『うん分かってるよ意地悪言ってゴメンね……』

「や、やっぱり発目さんがあそこまでやっちゃうって不味いんですかね……?」

『そりゃ不味いさ……国際的な機関に技術を提供して完成させたと言うならまだいいけど今回は個人だからねぇ……しかもそれを大々的に使ってしまってるから……まあ発目さんは最高傑作と言いつつもまだまだ未完成な上に私の許可なしで公表しないと誓ってくれたから良いけど……いやまずエレキングメダルのデータを私に一言も無くに流用した事が大問題なんだけど』

 

頭痛を覚えつつも何とか前向きに物事を考えつつも折角生まれた新しい技術の応用やどのように舵取りをすべきなのかを真剣に考えていたマグナだが、もう出久の試合が始まろうとしているので思考をリセットして出久と共に次の試合に挑む。何故ならば次は重要な試合になるだろうから。

 

『待たせたな諸君!!!二回戦第一試合は目玉カードの一つ、一回戦の圧勝で観客どころか対戦相手あと主審まで文字通り凍り付かせたIce Boy ヒーロー科、轟 焦凍ォォォっ!!!その対戦相手はこいつも注目株だぁ!見た目は地味だが開始の演説で中々に熱い事を言ってくれたナイスガイ、だがなんか意外と苦労してるっぽい!?同じくヒーロー科、緑谷 出久ぅぅぅ!!!』

 

大歓声が上がるスタジアムの中心地に立つ出久と焦凍はそれらを一切気にする事も無いような顔をしながらも向き合い続けている。出久もエンデヴァーの話を聞いてからやや顔つきが変わっていたが、いざ戦いの場に立つと一気に凛々しくなっている。精神的にも安定している、というか発目の一件があったせいかリセットは起きているというべきだろうか、兎も角戦いの場に立ったからには余計な事を考えないという事が出来ているらしい。これはオールマイトが知れば喜ぶだろうなとマグナは思いながら目の前の少年を見つめる。

 

『―――超える義務か、それにあれは幼稚な反抗期などではない。いや成程な、個性の事で想定はしていたが矢張り起きていたという事か……儘ならんな』

 

エンデヴァーの言いたかった事を全て理解したマグナは吐き捨てるかのような舌打ちをしてしまった、親の夢を無理矢理継承させるような形で焦凍は育ってきたのだろう。その過程で焦凍は自分の個性を嫌うようになっている、彼は氷と炎を操れる。エンデヴァーを見る限り炎は父親、氷は母親からの物だろう。その二人の個性が合わせる事で双方を併せ持った焦凍がいる、出久に頼んで身体を借りて個性と社会の関係をネットで調べた時に見つけたワード……個性婚、恐らくそうなのだろうと確信が胸を貫いている。

 

『出久君、彼は強敵な事は確実だよ。君は如何する?』

「―――全力で行くだけ、最初っから全開……!!」

「上等じゃねぇか緑谷。あの女の件じゃ世話になったが容赦しねぇぞ」

「ああうん……発目さんが本当にすいませんでした……」

「いやお前が謝る事じゃねえし一番の被害者お前だろ」

 

と戦う前に僅かに曇る出久の表情と本気で心配するような焦凍、そんな雰囲気にミッドナイトは二人に体調が悪いのかと語り掛けると直ぐに大丈夫と帰ってきて顔つきが凛々しくなるのを確認した。そして遂に開始の合図を繰り出した。

 

「ッ!!」

 

直後、焦凍の右足から怒涛の氷結が巻き起こる。自らの背後にも同時に氷を生み出しながらも前方の出久へと向けて地面から氷棘が寒波を纏いながら伸びてくる、それに対して出久は全身に力を巡らせながら左手を横にしつつまるでそれを照準器にするかのように構えながら軽く腕を振るう。すると―――腕から青白い光弾が飛び出して焦凍の放った氷結を瞬時に砕きながら周囲に風圧をまき散らした。

 

『み、緑谷今何をしたぁ!?うっ腕振ったらなんか光が出たぞぉ!?』

『緑谷 出久、個性は全身の身体能力を強化しながら体内にあるエネルギーを放出出来る、俗っぽく言うならあいつはビームが撃てる。A組の全員は知っているがな』

『マジかよ!?ビーム撃てるとかあいつヒーローかよ!?』

『プロヒーローが何言ってんだ馬鹿』

 

実況のマイクと解説の相澤の言葉に会場全体が震えてしまった、ヒーロー全体で見ても遠距離攻撃を可能にする個性は少なくないがそれでもビームが撃てるなんて個性は極極少数。ある意味の憧れに近いそれをやってのけた出久に向けられる視線は凄まじい物になっていく―――が出久はそれらを気にする事はなかった。初めて成功した光弾に興奮を覚えているだけだった。

 

「(やったっ……出来た、マグナさんが撃った光線の感覚が何となく身体に残ってたからそれに合わせてやってみたら出来たっ!!)」

『おやおやまさか私の技の感覚があったなんてね、まあ君の助けになったら良しとするかな』

「後はこれを発展させるだけ……!!」

 

確かな手ごたえを感じつつも再度向かってくる氷へと今度は片手のみで光弾を放つ、氷結は何とか粉砕出来たが助けがなかったからかかなり下の方に落ちてしまった。矢張りまだまだ練習不足という奴だろう、だがそれも良い結果に結びつけるのもヒーロー!!

 

「チッ……何処に!?」

 

出久の放った光弾が地面に炸裂した事で巻き起こった土煙が視界を塞ぐので舌打ちをするがその隙間から出久が既に先程の場所にいない事を見て声を出す。周囲を見回すが姿はなく何処に行ったのかと視界を動かす中で自分に影が掛かる、太陽に雲がかかるのではなく自分だけ影が出来た。

 

「上っ!?」

「SWALLOW SMASH!!」

 

そこには太陽を背負うかのようにしている出久が居る、顔を上げた瞬間に視界を光で塞がった瞬間を見逃さずに出久は飛び込んでくる。それに対して反応が遅れながらも氷を放って反撃を試みるが―――ぐんぐん加速していく出久の一撃は軽々と氷を砕きながら焦凍の目の前まで到達すると光を纏った強烈な拳が焦凍の脇腹を捉えた。

 

「ガァッ……!!?」

「ATOMIC SMASH!!」

 

スワロースマッシュと同じく、タロウ教官リスペクトのスマッシュが焦凍へと炸裂する。重々しい一撃が決まったのにも拘らず焦凍は背後に作っていた氷のお陰で吹き飛ばされずに済んだ。そして激痛が身体を貫く中で特大の氷を持って反撃に出てきた。

 

「スペシウム光線っシェアッ!!!」

 

脚に力を込めて後方へと跳躍しながら迫り来た強大な氷壁へと光線を放つ、光線は氷へと激突すると氷を融かしながら一気に焦凍へと到達してしまうが咄嗟の回避で何とか逃れる、が……出久はまだまだ余裕という表情を見せつつも構えを取った。戦いはまだまだ始まったばかりだ。



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光に憧れるもの

出久と焦凍の戦いが続き続けていく、一度接近に成功こそしたがそこから焦凍は更に警戒を強めたのか中々接近できなくなっていた。更にフィールド全体を侵食するかのよう氷が無数に伸びてきている、だがそれらに向けて練習を兼ねているかのように漸く出来た光弾技を連発して氷を壊していく。

 

「シェアッディアッ!!」

「―――くそっまだまだだ!!」

 

出久の攻撃で砕け散っていく氷、光に照らされて輝く奥でギラついた瞳を向け続ける焦凍は更なる氷を生み出していくのだが出久は氷の勢いが徐々に落ちている事に気付いた。規模も氷の大きさも小さくなっていっている、焦凍の戦闘スタイルは圧倒的な個性の出力に物を言わせたブッパ戦法、それは長期戦には酷く相性が悪いという物だろうか……と思ったが出久は戦いながらも良く焦凍を観察したからか見る事が出来た、彼の身体が震えている。

 

「(轟君の身体が震えてる……そういう事か!)」

『個性も身体機能の一つ、氷を生み出し続ければ身体は冷えていくだろう』

 

徐々に凍て付き始めている焦凍の肉体、彼は唯呼吸をするだけで吐息が白くなるまでに身体が冷え込んでいる。そこまで行ってしまったらまともな運動をする事は出来ないし筋肉の動きも悪くなって肉体のパフォーマンスは最高の半分以下にまで落ち込むだろう。一流のアスリートなどが入念なウォームアップをするのもそこにある、最高の力を発揮する為に準備をする。だが彼の場合は個性を使えば使う程にそれは落ち込んでいく―――だがそれを一気に解決する方法だってある。

 

「(でも片側の炎を使えば……!!)」

『解決するだろうね、だが彼は恐らくそれを使う事はないだろう。彼の抱く炎に対する感情は深い』

「―――ッ!!」

 

その時、出久は瞬間的にワン・フォー・オールの出力上げて空気を殴り付けた。凍て付いたステージに伝わっていく爆弾のような風圧、辺りの氷を全て吹き飛ばしながらも焦凍は軽く吹き飛ばさそうになる、が直後に目の前に出久が飛び蹴りをしてくるのが見えた。

 

「轟君、君がどれだけお父さんを憎んでいるのか知らないだけど―――一度、此処に立ったのなら全力で掛かって来い!!!」

「ッてめぇくそ親父になんか言われたのかぁ!!!」

「関係、無いって言った筈だぁ!!」

 

飛び蹴りと思わせながら首元へと組み付くとそのまま足の力だけで投げ飛ばす、地面に転がりながらも焦凍の視界には身体を踏み潰さんと今度こそ蹴り込んでくる出久が居た。それを咄嗟に身体の片側を押し出すかのように氷を出す事で一気に転がって回避する。

 

「僕も君も挑戦者なんだよ、僕にとっては此処にいる皆全員が超えるべき人なんだ!!それなのに君はっ何時まで片側の氷に固執するんだ!!?」

「黙れっ何も知らねぇお前が……何の不自由もない個性を持ってる奴が……!!」

 

焦凍にとっては個性こそが最大のコンプレックス、母の氷だけならどれだけ良かったのかと思っただろうか。父の炎もある故に自分は父の夢を強制された、そのせいで母は……そんな原因になった自分の個性が恨めしい、母を傷付けた父が許せない……だから父の目的を否定したい。何も知らない奴が自分に踏み込んでくるなと言いたげな焦凍に出久は言葉を続ける。

 

「ああそうだよ何も知らないよっそれはみんな一緒だ!!一緒だからこそ皆全力を出すんだ!!それに僕は中学1年までずっと無個性だって言われてきた、馬鹿にだってされてきたんだ!!」

「っ!?」

 

その時の言葉が一瞬静寂を運んできた。あそこまで強大で凄まじい力を発揮出来る個性を持つ彼が無個性だったという言葉が思考力を奪った。

 

「でも、僕は個性が遂に使えるようになった。それからずっと努力してきたんだ、僕に夢と力をくれたヒーローみたいになりたいから僕は此処にいるんだ!!あの人みたいな光になる為に、ヒーローになる為に頑張ってるんだ!!君が―――僕達に出来る事が君に出来ない訳ないだろう!!!」

 

ワン・フォー・オール・フルカウル。全身から光が溢れながらも更にそれが高まっていく、出久の身体に刻まれているウルトラマンの因子がそれに反応しているのか大きな光のエネルギーを生み出しながら溢れている。これが自分の全力だ、お前の全力を見せてみろよと言わんばかりのそれに焦凍は苛立ちながらも立ち上がりながらもそれを見る。何て暖かい光なんだろうか、自分の身体の傷まで癒すかのように暖かさを感じさせるそれらに思わず自分の左を見る。

 

―――いいのよ。お前は……なりたい自分に、なっていいのよ。

 

「母さん……」

 

―――血に囚われることなんてない。なりたい自分ヒーローに、なっていいんだよ。

 

 

瞬間、光の奔流に対抗するかのような熱いものがこみあげてくる、身体の内側からあらゆるものを燃やし尽くす熱が生まれてくる。忌避していた熱が今、噴火する。正に火山の噴火と見間違えるほどの炎が焦凍から巻き起こっていく、最早爆風と遜色ない熱風を巻き起こしながら焦凍は熱い瞳を燃やしながら出久と相対しながらその噴火の中心に立ちながら片側で絶対零度の氷山を生み出し続けていた。

 

「好き勝手な、事ばっかり言いやがって……!!!俺だって、俺だってヒーローになりてぇよ……なりたいヒーローに、光みてぇにカッコいいヒーローに……!!!!」

 

彼も憧れるヒーローは同じだった、平和の象徴オールマイト。彼に憧れてヒーローになりたいと思っていた、そして出久と同じオールマイトのような光になりたいと望んでいる一人でもあった。氷と炎を生み出し続けている凄まじい光景の源流となっている焦凍に出久は漸く笑みを浮かべながら更に全身に力を込めた。

 

「緑谷、わりぃが炎は加減出来ねぇ……どうなっても知らねぇぞ……!!これで終わりにしてやる―――!!」

「望むところだよ!!」

 

「焦凍ォオオオ!!!」

 

そして、それを喜ぶ者がいる、エンデヴァー。反抗期故に頑なに氷だけに固執していた自慢の息子が炎を使うようになった。その事に歓喜が止まらない。本質を理解せぬまま、感情のままに言葉を発した。

 

「やっと受け入れたか、そうだいいぞ!!これからだ、俺の血を持って俺を超えて行き……俺の野望をお前が果たせ!!」

 

だがその言葉は全く届いていなかった、それを唯一聞いていたのはマグナだけだった。それを聞いて彼はどんな思いを抱いたのだろうか、それは分からないが―――それらを置き去りにするかのように戦いが再開された。

 

氷河期を思わせるのような氷の大波乱が一気に起きていく、ステージを飲み込んでいくように莫大な氷が出久を飲み込まんと迫ってくる。だがそれらをスペシウム光線で迎撃するがその奥では焦凍が特大の火球を放たんとしていた。その光景に思わずギョッとしたのは他でもないマグナであった。

 

『ゼットンの火球みたいな威圧感だ……ええいしょうがない出久君、君も最強の一撃で迎え撃ちたまえ!!』

「言わずもがな!!!」

 

身体の光が収束するイメージをしながらも腕へとエネルギーを収束させていく、そしてその輝きが強くなった時、それを放った。

 

「イズティウム光線っ!!」

 

腕から放出されていく圧倒的な光線、それを初めてみたものは驚愕し目を丸くし腰を浮かしてしまう。だがそれ以上に地面を抉るような勢いで放たれるそれに驚愕した、それへと向けて放たれる焦凍の一切加減をしない全力の火炎球。ダンプカーすら飲み込んでしまいそうな大きさのそれが光線へと激突する、その瞬間に途轍もない光がスタジアム全体を包み込んでいく。火球が光線のエネルギーを受けてまるで太陽の様な輝きを放ったのだ、だがそれでも二人は力を緩めない。

 

「ッ―――ぁぁぁあぁ!!!!」

「デェェヤアアアアァァッッ!!!!」

 

そして一際光線が巨大となった時、火球は大爆発を起こし周囲へすさまじい爆風を巻き起こしながら天へと光が登って行く。何も見えなくなるような真っ白い闇の中、最後まで立ち続けていたのは―――

 

「すげぇな緑谷……お前」

「まだ、まだだよ僕なんて……」

 

勝者、緑谷 出久。



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楽しみの一時

「ぁぁぁぁあぁっっっ!!!?」

『許可が出て即決で使ってたから覚悟してたと思ったんだけど……違った?』

「いえ覚悟してましたけどぁぁぁぁっっっ!!!!??」

 

控室へと引っ込んだ出久はイズティウム光線の反動による激痛と全身に纏わり付いている疲労感に悲鳴を上げていた。イズティウム光線のコントロールは出来つつあるがそれはあくまで低出力だった場合のみ、例えワン・フォー・オールを用いたオーバーロード・シュートではなく、許容範囲内での全力だったとしても身体に現れる物は相当な物なのである、寧ろ声を出して痛がる事が出来るだけまだ元気があるという物なのだろう。

 

『やれやれしょうがないな……デュアッ!!ウァァァァッデュアッ……!!』

「あ、有難う御座います……」

 

一時的に出久の前に姿を現したマグナは両腕から癒しの力を放つオールマイトもお世話になっているマグナヒーリングパルスを照射する。マグナ本人は本職に比べたら圧倒的に劣ると言うがそれでも人間の身体を癒す物としては極上の一言に尽きる、純粋な傷の回復だけではなく疲労などをも取り除いて身体を絶好調の状態へと誘う至福の光。それを体感する出久は思わず表情を崩しながら変な声を出してしまうのであった。

 

「やっぱり凄いもう元気になっちゃいました!!」

『それは結構』

 

そんな時だった、控室の扉を開けて入って来たのは所謂トゥルーフォームの状態であるオールマイトの姿であった。

 

「おおっいたいた、緑谷少年リカバリーガールが絶対に来なさいと言っていたぞ。早く行かないと恐ろしい事になるぞ」

「いやでも僕、マグナさんに治療して貰っちゃいましたし……」

「ありゃそれはまずいな……」

『大丈夫ですよ、肉体の傷はある程度は遺しておきました。取ったのは何方かと言ったら疲労面です、これなら言い訳も付くでしょう』

「おおっ流石マグナさん」

 

予想以上のバックアップとフォローの体勢にオールマイトも舌をまく、矢張りこんな事も出来るのも年季の違いという奴なのだろうか。そもそもウルトラマンと自分達人間の授業を一緒くたにして考えるもナンセンスな気もしなくはないのだが……兎も角リカバリーガールの元へと赴いてそこで診察を治癒を受ける事になった出久。

 

「驚いたねぇ、あんな戦いをしたのにそんなに目立った傷もないじゃないかい。思った以上にタフな子だね」

「ア、アハハハハッ……お師匠様が結構厳しい人でしたので」

「それはそこにいる奴じゃないだろう、もう一人のいるんだろう」

 

思わずその言葉に出久はギョッとした、直ぐ傍には自分を連れてきたオールマイトが居る。だがオールマイトはトゥルーフォームのまま、如何するべきかと思っているとオールマイトは困ったような顔をしながら出久にリカバリーガールには自分の事を話しているという。如何やら個性云々についても知っているらしく、問題はないらしい。

 

「詳しくはそちらの方の承諾を得られておりませんので言えませんが、其方が私に代わって緑谷少年の面倒を見てくださっているのです」

「納得さね、アンタがこんなにいい弟子を育てられるわけないからねぇ……」

「グフッ!!て、手厳しいお言葉で……」

 

と軽く胸を抑えてしまうオールマイトだが事実でもあるので強く言い返す事が出来ない、そして今のでウルトラマンの事は流石に話していないと察して出久もそれに合わせる事にした。

 

「でも多分、直ぐに電話来るじゃないのかいアンタの先生から。手紙書いたんだろ?」

「えっええ確かに書きましたが……ま、まさか今回の一件で私の指導不足を見抜いて直接!!?」

「それは如何かは分からないさね、もしかしたら弟子の良さを褒めながらどんな指導をしたのか聞き出そうとはするじゃないかい?」

「アバババババババッ……もしもそうなったらとしたこぇぇこぇえよぉ……!!」

「オールマイトがガチ震いしてる!!?」

『どんだけ恐ろしいんだその先生とやら……』

 

目の前でケータイのマナーモードさながらの震え方をするオールマイトに驚愕するに出久は更なる驚き方をする。いったいどれほどまでに恐ろしい方なのだろうかとある意味での興味がわいてくる、その辺りはマグナがフォローしておいた方が良いかなと思いつつも出久はベットで眠っている焦凍へと目を向ける。

 

「あ、あの轟君の方は如何なんでしょうか……?」

「そっちの子は全身疲労で良く寝てるだけだよ、今まで使ってこなかったせいで溜まり続けていた力をあそこで全放出しちまったんだ疲れるさね。打撲なんかの傷もあるけどそっちは既に完治済み、後はよく寝てれば元気になるよ」

 

それを聞いて何処か一安心してしまった、自分が齎してしまったような物ゆえか何処か罪悪感を覚えそうになっていた。全力で戦った末の結果なのだからそう思う事自体が失礼だと分かっていてもついつい思ってしまう。だけど―――今日の事で何やら彼とは仲良くなれそうな気が出久にはあった。

 

「僕、最初は轟くんの事ちょっと怖かったんです。でも今は……なんだか仲良く出来そうな気がします、起きたら友達になってくれるって聞いて見たいです」

「それはいいね、目指せ友達100人出来るかな、だね」

「流石に古くないかいそれ?でも、いいねぇ青春だねぇ」

 

そんな話をしていると医務室の扉が勢いよく開け放たれた。そこから麗日、飯田、峰田に蛙吹と出久と仲良くしているメンバーがなだれ込むかのようにやって来ていた。突然の来襲にオールマイトは吐血しそうになるほどに驚くが何とかそれを抑える事が出来た。そしてそんな皆は元気そうに椅子に腰かけている出久の姿に思わずほっと胸を撫でおろすのであった。

 

「怪我とか大丈夫なん!?」

「うん、全然平気だよ。僕は直接的なダメージは受けてなかったから」

「でも本当に良かったわ……あの時の光線って私達を助ける為にやった必殺技よね」

 

その問いかけに偽る事もなく頷く、やっぱり……と言葉を零す梅雨は何処までも心配だったのだろう。流石にあそこまで死力を尽くした一撃ではなかっただろうがあの時の出久は身動きが出来なくなり倒れこんでしまう程に疲弊していた、またそうなるのではないだろうかと心配していてくれたのだろう。

 

「流石にあの時ほどじゃないよ、あれをあそこで撃っちゃったらそれこそ大事だよ」

「でもオイラ達からしたら洒落にならねぇって!!?」

「正直、きっと後でお師匠様に怒られるって思ってるよ。あれ基本的に使用禁止の技だから……」

「禁止なのに使ってしまったのかい緑谷君!?」

「うん。あの時の轟君には全力で立ち向かうのは正しい事だと思ったから」

 

そんな和気あいあいとした話をする緑谷達を二人は見守りつつも寝ている焦凍が居るんだから外でと言われて、既に完治した出久も一緒に行くのであった。そんな皆を見送りながらリカバリーガールがオールマイトへと一言言った。

 

「いい弟子を持てたね、なんだかんだでアンタの先生もあの子の事を喜ぶ筈だよ」

「はい私もそう思っております」




今回はちょっとあっさりめです。


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目指すものと刻む者

『さあ始まるぜ準決勝!!対戦カードはヒーロー一家の次男坊、飯田 天哉ぁ!!バーサス、あの轟との激戦を駆け抜け、最後には超すげぇビームブッパして勝利をもぎ取った緑谷 出久ぅ!!』

「訂正を要求します!!あれはビームじゃなくて光線です!解り易く言ったらイズティウムビームじゃなくてイズティウムレイです!!」

『こいつはシヴィィィッ!!!もう既に名前にこだわってらぁ!!』

 

ステージの上に立つ出久は思わずマイクの実況にツッコミを入れてしまった。本人としては光線という所を譲る事は全く出来ないのである。何故ならば憧れであるウルトラマンの象徴は光線技、光線とビームは全然違うのである。意味合いとしては似ているかもしれないが感じとしては全く異なっておりそれを一緒くたにされると非常にムカつくし腹が立ってしまう。

 

『分かる、分かるよ出久君。光線とビームは全然違うんだよ!!』

「最初からビームだったらいいんですよ。でも光線をビーム、ビームを光線と呼ぶのは絶対に許しませんし絶対に譲りません!!」

『いや意味的には似たようなもんだぞ』

「『黙らっしゃい違うといったら違うんですよDo you understand!!?』」

『アッハイ』

『緑谷お前そんな熱くなれたんだな……』

 

と相澤の呆れた声が聞こえる中で観客からも笑い声と共に分かる!!と同じ意見を述べるヒーローも存在していた。因みにオールマイトはきっと今のはマグナも一緒に叫んでいたんだろうなぁ……と思いながら頬を掻いていた。

 

「緑谷君、こうして君と対戦する事になって俺は心から光栄に思っている!そして同時に君に対する尊敬の心にも溢れている!!轟君とあれほどの戦いをし凄い必殺技も持っている君とこんな風に戦えることを―――僕は本当に胸を張って誇りに思う、故に僕は全力の全力、いやそれを超えて君にぶつかる!!それが雄英生のPlus Ultraという物だ!!」

「僕だって出来る事を尽くすだけだよ、負けないよ飯田君!!」

『それでは準決勝第一戦、STARTだぁぁぁ!!!』

 

 

「……」

 

観客席には腰を降ろさずに通路から瞳を投げかけて試合を観戦している人影、ステージ上ではスピードとスピードのぶつかり合いが起きており目まぐるしい展開が起き続けている。まるで馬上戦を思わせるかのような交差するような激突の後、再度加速を付けてからまたぶつかっていく光景は中世の騎士の決闘を思わせ、そんな戦いをする二人の姿は酷く胸を震わせながらも熱くさせている。

 

「SMAAAAAASH!!」

「たぁぁぁぁぁっっ!!」

 

振り上げられた蹴りが両者に炸裂する。その後に崩れるように地面に転がりながらも体勢を持ち直し、再度加速を付ける為に同時に円を描くかのように駆け出し、タイミングを計る姿には高い計算と戦士としての洞察を感じさせる。そんな光景を見つめていると背後から迫ってくる気配に気づいたのか溜息をつきながらそちらを見ずに問いかける。

 

「んだよ親父」

「いや何、お前が遂に自分を認めたと思ってな」

 

そこにいたのは喜びを表に滲ませながらも表情を歪ませているエンデヴァーがいた、そんな先にいる焦凍は何のアクションも見せぬままに出久と飯田の対決に目を奪われ続けていた。

 

「2回戦敗退というのは情けない話だが、だがそれはいい。これでお前は本当の意味で俺の完全な上位互換となった!炎の操作は未だ危なっかしいがそれはこれからコントロールすればいいだけの事だからなっ卒業後は俺の元へ来い、俺が覇道を歩ませお前を完璧なNO.1へとしてやろう!」

 

何処か歪みつつも我が事のように悦びの声を上げるエンデヴァー、それは息子の成長を悦ぶ物なのか、それとも自分の野望を叶える一歩が漸く形を成し始めた事に対する悦びなのか……。それを焦凍は冷えた思いで聞き流し続けていると手を差し伸べながら野心溢れる表情でエンデヴァーだが……肝心の焦凍は極めて迷惑そうに一言だけ言った。

 

「如何でもいいがうるせえぞ、試合に集中できねぇだろ」 

 

その言葉に僅かな動揺と怒りが芽生える、これからの将来を確約としてやるといわんばかりの提案をしたのに肝心の息子はそれを受け取る所か一蹴したのだ。

 

「お前が望むヒーローにはぜってぇならねぇよ、俺は俺の行きたい道を行く。そもそも覇道を歩むヒーローってのはどんなヒーローだよ」

「決まっているんだろう、オールマイトを超える№1ヒーローだ」

「んで超えた先に何があるんだよ?」

「―――何っ?」

 

不意に焦凍が浮かび上がった質問をぶつけてみるとエンデヴァーは思ってもみなかったのかと言わんばかりに驚いてしまった。

 

「最高のヒーローを超えたヒーロー……ってのは一体どんなヒーローなんだよ、唯強いだけのヒーローなのか?」

「全てを超えたという事はそれだけの到達点だ!!崇高で偉大な存在だ!!」

「なら俺は別にいい、俺は別に誰かに威張りたい訳じゃねえし……」

 

焦凍は唯々、必死ながらも何処か愉しそうな笑みを口元に讃えながらステージを駆けまわっている出久の姿を目で追い続けながらぶっきらぼうに言う。今焦凍の中にはどんな形がヒーローとしての理想形なのかというは何処か曖昧なのかもしれないが、それでもエンデヴァーが求めるそれとは明確に違う物があった。何方かと言ったら単純に自分の個性を活かして誰かの笑顔を守れるような、困っている人に自然と個性を差し出して助けられるヒーローが最も近い形。

 

「SWALLOW SMAAAAAAAAASH!!!!!」

「レシプロォォォバーストエンドォォォオオオ!!!!」

 

刹那、その光景に焦凍は一歩前に踏み出しながらその光景に釘付けになった。自分の時にも使ったアクロバティックなムーンサルトスピンを決めながら一直線に超高速で迫ってくる飯田へと放たれる必殺の一撃。それに対するかのように即座に最高速へと到達しながらその段階からさらに一段階加速を掛け、暴力と言ってもいい程の速度を叩き出しながら回転の勢いと更に距離を稼いだ末に放たれる回し蹴り、その場で飯田が編み出した必殺キックが激突した。

 

「「ッ―――……!!!」」

 

その僅かな瞬間の互いが宙にありながら放たれた蹴りの余韻を残すように上げられた光景は勇ましさではなく美しさすら纏っている。そして互いに着地する、時間の切れ目に生まれた静寂は一瞬にしてスタジアム全体を飲み込んで真夜中のような静けさを生み出した。最高の一撃同士がぶつかり合った末の決着はどうなるのかと皆が固唾を飲んで見守る、そして―――

 

「……んぐぅ……!!」

 

思わず激痛に顔を顰めながら膝をつく出久、それに皆が言葉に出さない動揺を作る。これは飯田が勝者となったのか!?と思われた、膝に手を突いて必死に身体を崩さんとする姿があるその背後で―――

 

「―――完敗だ……緑谷、くん……」

 

全身から力が抜けるように倒れこみながらも称賛する飯田、彼の身体にも紛れもなく出久の一撃が炸裂しており限界を超えてしまった。そしてミッドナイトの飯田の戦闘不能宣言により出久の勝利が確定した。刹那、スタジアム中から大歓声とともに嵐のような溢れんばかりの拍手が生まれて二人の勝負を祝福した。それらを受けながらも出久は飯田の元まで歩くと手を差し伸べた。

 

「凄い一撃だったよ、僕もやばかったよ」

「緑谷君の一撃も素晴らしかったよ、急ごしらえだったのもあったが回転は欲張りすぎたな。回転で威力を上げたのはいいんだが狙いが曖昧になって浅くなっていただろう」

「うん、深く突き刺さってたら間違いなく僕はノックアウトだったよ」

 

手を借りながらも立ち上がった飯田は自らの技に語りながらも出久を称賛する、そして出久もそれに合わせるように一緒に練習したりなどの誘いをすると飯田も是非と声を明るくして頷き、互いに肩を貸すかのようにしながら一緒に退場していく。そんな姿を見つつ焦凍は晴れやかな笑みを少しだけ作りながら振り向いて言う。

 

「あんな感じのヒーローもいいかもな……いねぇか」

 

だが其処にはエンデヴァーはいなかった、何時からいなかったのかは知らないが……兎も角今は出久の決勝進出を祝う事にしていた。

 

「負けてしまったが本当に満足だ!!これは兄さんにも胸が張れる一戦だった」

「お兄さんっていうとインゲニウムだよね」

「ああ早速連絡してみるよ、忙しくなければいいんだが……」

 

通路へと入ると飯田は尊敬し目標とする兄へと連絡を掛けてみる、大人気ヒーローと言われるだけに忙しい時だと逆に迷惑だろうが興奮もある為か迷う事もなく連絡をしてしまった。しかしコール音が重なるが繋がる事はなかった。

 

「矢張り忙しいのか……まあ兄は兄で凄いから致し方ないな」

「だね、じゃあ一緒にリカバリーガールの所に行こうよ」

 

そんな風に共に歩んでいく中で、また新たな嵐が巻き起ころうとしている事を二人は知らなかった……。

 

「ぐっうううううっっ……お前は、一体、何故こんな事を……!!」

 

誰もいない路地裏、そこでは一人のヒーローが血まみれになりながらも倒れていた。そのヒーローとは……飯田の尊敬する兄であるインゲニウムだった。全身に傷を作りながらも尚その崇高な精神は弱まる事もなかった。だが……そのヒーローを以てしても目の前の存在を捉える事は出来ずに逆に一太刀を受けてしまい倒れてしまう。血溜まりの中で倒れるインゲニウムの傍には謎の金属板が落とされていた。まるで刃物で彫られたようなものでそこには―――【KILL HERO】と刻まれていた。



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最終戦、出久 VS 爆豪

『さあ遂に来た来たやって来た!!盛り上がれテメェら!!いよいよトーナメントの決勝、FINAL LAST GRANDだぁあ!!』

 

飯田と出久の勝負に触発されたといわんばかりに爆豪は常闇との準決勝に快勝した。今まで無敵に近い戦いを繰り広げていた常闇も個性との相性もあったのか爆破に一方的に押され続ける結果となり敗北となってしまった。そして―――いよいよ待ち侘びられていた時がやって来たのであった、雄英高校体育ラストトーナメント最終戦、決勝戦。その熱気に飲まれあらゆるものが興奮している、既にステージの上に立っている二人はそれらに気を配れる事もなく、目の前に相手の身に集中し続けている。

 

『ヒーロー科、爆豪 勝己 VS ヒーロー科、緑谷 出久!!奇しくも同じA組同士の対決だ!!しかもこの二人幼馴染っていう話だぜ!!それが決勝の舞台で雌雄を決する超絶熱い展開になってきやがってZEEEEEEEEEEE!!!!!』

『煩い黙れ。だがまあどっちも相当な力を持った者同士だ、如何なるか見物なのは事実だな』

『おおっやっぱりそう思うよなMr.合理主義のイレイザー!!』

 

実況解説の言葉に更にヒートアップしていく観客たちを尻目に二人は至って落ち着き払っていた、いや心は熱くなっているが頭の中は酷く冴え渡っているというべきなのだろう。無用な考えなど昇らせる事もなく唯々集中し続けている、二人にとっては周囲の喧騒などもう耳にも入っていない所か周囲を認識すらしていないレベルに集中してしまっている。

 

「それでは両者、準備は良いわね……!?」

 

主審(ミッドナイト)の言葉が唯一、両者に届く声となり戦闘態勢を取った。溜めに溜められた集中力、高められた純度をそのまま活かすかのように爆豪は両手で小規模の爆破を起こさせながら構えを取り、出久は深呼吸をしながらもまるでイズティウム光線を撃つかのような動作をしながら半身を反らしながら腰を落としたフォームを取る。それが答え、それを見届けると大きな声で幕を開けた。

 

「それでは試合開始!!」

 

開始の瞬間、両者はロケット噴射さながらの勢いを伴って突撃した。一直線に激突するかのような勢いで迫り、ギリギリ身体が掠る様なタイミングで身を捩らせながら互いによけながらも背後を取ると同時に振り向きながら同時に腕が唸りを上げた。

 

「「ッ―――!!」」

 

荒々しく猛々しい、爆破の勢いを細かく使用する事で腕の振りの速度を底上げさせながら本来あり得ないタイミングでのフェイントや本命を織り交ぜながら格闘を行っていく爆豪とワン・フォー・オールで身体能力と神経伝達速度を上げてそれらに対応しながら捌きながら防御をメインに置きながらも動きを窺って行く出久。全体的に凄まじい速度の飯田との戦いとは違って此方は異常なまでの技と速度のぶつかり合いとなっている。

 

「デクぅぅう!!!」

 

小手先の物では上手くカウンターの隙を作られるだけだと理解したのか、爆破を複数回に分けながらも上手く手の動きを見切らせないようにしながらも不意に爆豪の全身が爆破によって浮き上がった。全身を使った膝蹴り、これは捌ききれない。ならばお前は如何するといわんばかりの獰猛な笑みの奥にあった答えに、笑いながらも更に続ける。

 

「だよなぁお前ならそうすると思ったぜぇ!!」

「グッ!!!」

 

飛び上がったそれを防ぐ為に十字受け、だがそれは予想していた。そうしなければ防ぐ事は出来ないだろう、だがそれはお前の的確で素早い動きを殺す事でもあるんだといわんばかりに両腕が後ろへと向くとそこで一気に爆破によって加速して出久が押し込まれる。十字受けを崩さん勢いと自身を場外にしようと言うのか、そんな気概にあるそれを受ける出久。

 

『自分の長所を全て把握しているタイプだな爆豪君は』

「やっぱり、凄いねカッちゃんは……でも!!」

「うぉっ!!?」

 

爆豪の体勢が崩れる、何があったのか。咄嗟に、素早く出久は踏ん張っていた脚から力を抜きながらも上半身を反らしたのだ。半身がそれながらも足が宙に舞いながらも地面と平行なるように攻撃を受け流した。余りにも勢いをつけすぎたからか、空中で慌てながらも前に爆破を起こして制動を掛けつつも振り向くとそこには跳ね起きながら構えを取り直す姿、それを見ると自分らしくないような高揚が溢れて来てしまった。

 

「ウラァァァァッッ!!!」

 

腕を振りながらの連続爆破、宙を舞う汗へと爆破が連鎖させるようにさせて中距離にも対応させた爆豪のその場の思い付き。だが如何に練度が低かろうと爆破というだけで一定のダメージが期待出来る上に爆豪のそれは初めてとは思えないほどに爆破のスピードも威力も凄まじい物だった。それに舌を巻きつつも迫りくる爆破を連続でバク転して回避する。

 

『爆豪連続爆破で緑谷を追い立てるが、緑谷も連続で避ける避ける避ける避けるぅ!!!』

 

だがどんどん追い込まれている事も事実、回避すればするほどに場外が迫りくる中遂にそれが訪れようとした時の事―――

 

「シェアッ!!」

『ととととと、飛んだぁ!!?』

 

出久にとっての切り札に近いそれ、空への飛行を切った。爆炎を切り裂くように飛び上がった出久は上から光弾を連射しながら爆豪へと攻め続ける、が

 

「テメェだけが飛べるわけじゃねぇんだよデクぅ!!」

「知ってるさ、分からないわけがない!!」

 

爆豪にとっては空も自らの領域も同じ。爆破の勢いで空を駆け抜ける事が可能、故か地上戦から一変、今度は激しい空中戦が巻き起こる事になった。

 

『エレキングの一件から飛行訓練を積んだとはいえ、君のそれはまだまだ不十分だ。飛行可能時間は3分程度だろう』

「十分過ぎる、行くぞぉぉ!!!」

「来てみやがれデクがぁ!!」

 

USJでのエレキングとの遭遇戦、あの時の飛行でいかに自分にとって飛行が泣き所なのかを改めて感じた出久は今日までに飛行訓練を課してきた。その甲斐もあってか不完全ながらもウルトラマンと同じ飛行が可能となった、だがそれは3分間だけ。それ以上飛行しようとしたらまた自分のエネルギーを放出するようにして飛ぶしかない、爆豪相手にそれは自殺行為に等しい故に飛行時間の確保は僅かのみだが出久にとってはそれだけでも満足できる時間だった。

 

「SWALLOW SMAAAAAAAAASH!!!」

爆破強襲(エクスストライク)ゥゥゥッ!!!」

 

空中でムーンサルトスピンからのキック、爆破による勢いで加速しながらの飛び蹴りが激突する。その衝撃は周囲に拡散しスタジアムがビリビリと揺れている。それぞれが相手の蹴りを蹴るかのように身を翻しながら後方へと飛び退きながらも再度加速しながら今度が拳のぶつかり合う。

 

「君には負けない、カッちゃん!!」

「ハッでかく出るにははえぇんじゃねえのかデクゥ!!!」

 

その場で静止するかのような攻防の後、互いがもつれ合うようにしながらも地上へと落下していく。その間にも激しい爆破と殴打音が木霊しながらも爆音と爆煙を纏いながらも墜落するが、それを突き破るかのように二人が飛び出していく。全身傷だらけになっているのにも拘らずその表情に痛みや苦しさは一切滲み出しておらず、互いの武勇を讃えるかのようなスッキリしたような笑みが浮かび続けている。

 

「まだまだ、行くぞデクぅ!!」

「来いカッちゃん!!」



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決着のクロスカウンター

「シェア"ァ!!」

「ぐっ、らぁ!!」

「デュワッ……!!」

 

身体の奥深くへと突き刺さっていく一撃、重々しい打撃音が内部を抉り痛みを生み出すのを無視するように我慢して逆に自分の射程内へと入ってくれている相手へのカウンターとする。それらを互いに行いながらもフラフラと千鳥足になるが、腰を落として無理矢理それを打ち消す。

 

「どぉしたデク……足に来てんじゃねぇのか……?」

「それカッちゃんが言える事かい、そっちだって、随分とフラフラじゃないか……!!」

「ハッテメェのが一々生ぬるいからねみぃだけだクソが」

「ならもっと強い目覚ましでもいるかい……?」

「テメェにはもっときついのがいるらしいな、俺以上に頭に靄が掛かってるらしいな……!!」

「ご自由に」

 

僅かに口元から漏れている血を拭いながら軽口を叩く、そこにあるのは決勝戦というよりは何方かと言ったら幼馴染の喧嘩に近い光景だが実際は個性を用いたガチ喧嘩。故に観客たちの反応は悪くなく、寧ろ互いの健闘を祈りつつもあそこまでの時間を殴り合えるタフネスさや攻撃の重さなどを分析して是非スカウトしたいといった策を巡らせている。

 

「おらぁっ!!」

「シャァオラ!!」

「ンだそのパンチはぁ俺を舐めんなクソがぁ!!」

「誰が馬鹿にするもんかぁ!!」

 

罵声を浴びせながらも個性を使いながらパンチスピードを加速させて出久の頬を抉る爆豪に合わせるようなクロスカウンターをブチかます出久、だがその一撃は先程より軽かった為か怒りながら更に殴り掛かってくるのでお返しと言わんばかりの飛び蹴りを炸裂させる。そんな殴り合いを審査する審判である教師であるセメントスとミッドナイトは冷静に何処までがアウトでセーフかを見極めている。

 

「フムッこれなら大丈夫そう、ですかね……これを続けるのは心配ですが続行で問題ないですね」

 

とコメントを零しながらも内心ではあそこまで信頼性を持っての殴り合いが出来る相手がいる事に羨ましさを覚えている、自分の学生時代にはあんな風に喧嘩出来る相手なんていなかった。そう言った意味で酷く羨ましい、そんな思いを振り払うように主審に意見を求めてみる、あくまで自分は副審。最終的な判断は主審に委ねられる、なので其方も聞いておかなければ。男である自分はそう思うが女性であるミッドナイトの意見は別かもしれない。

 

『―――……』

「ミッドナイト、あの聞いてます?」

『ぃぃっ……』

「えっ?」

『良いわよ、良いわよ二人とも!!こういう展開、男と男のガチンコの殴り合いっていう超絶熱くて青臭い展開超好み!!!

 

通信機越しに聞こえてくるミッドナイトは超ハイテンションになっていた。視線を上げてみればそこでは鞭をビシバシ振るい、主審という立場すら忘れているような荒ぶり方をしながらもそれぞれを応援していた光景があったのを見て思い出す。ミッドナイトは寧ろ男以上に青春チックな熱い展開や行動を好む熱血教師だった。

 

『そうよそこ!!もっと深くよ、激しくよっ!』

「ちょっとミッドナイト貴方は主審なんですからそういう発言は慎んで……!!」

『あぁぁんいいわ、もっと行きなさい逝っちゃいなさい!!』

「そう言うのはもっと控えてください!!」

 

いやある意味SM嬢的な見た目を加味すればこれ以上ないピッタリな発言ではあるのだろうが……流石に相応しくないので止めておく。そんな最中―――

 

ゴギリッ!!!

 

酷く鈍く生々しい、重々しい音が周囲に木霊した。それらはスタジアムの歓声を打ち消すかのように静寂を生み出した、その音の中心には出久と爆豪の両者があり互いに深々と拳が突き刺さっていた。真芯で捉えられたクリティカルヒット、互いにノーガードではあったがそれは明確な最高の一撃だった事だろう。それを受け、苦しみに溢れた声が漏れる。

 

「グッガァッ……」

「ゥゥッ……ゥワッ……」

 

両者の身体が同時に傾き倒れこんだ、その姿には既に力が入らないのか四肢がピクリとも動かず荒々しい呼吸音のみが聞こえてくる。

 

『ダブルノックアウトかぁ!!?緑谷と爆豪、両者にすげぇ一撃が決まったぁ!!こりゃどうなる、どうなっちまうんだ!?』

『主審のミッドナイトの判断待ちだな』

「……これよりカウントを10取ります、その間に立ち上がって構えを取った場合に続行の意志ありと判断します!!」

 

つまり、先に立ち上がって構えを取れば自動的に勝者が決まるという事になる。このままならばダブルノックアウトで引き分けになる、これからどうなるのかと観客たちはドキドキしつつも歓声を両者へと送って立ち上がれと叫ぶ。既に疲労とダメージで限界な筈、本当に立てるのか。

 

―――1.2.3!!

 

「グググッ……」

「ぅぅぅっ……!!」

 

呼吸に混じって呻き声がし始める、それと同時に地面に突き刺すかのように腕が、足が動き始めて何とか身体を立て起こそうとする姿が見え始めた。

 

「頑張れ緑谷君~!!頑張れ!!!」

「爆豪気合いだ気合で立てぇぇ!!!」

「ウオオオオッ緑谷あと少しで優勝なんだ気合だ!!立てぇ!!撃てぇ!!」

「爆豪も立てぇぇ!!」

「緑谷さん頑張ってください~応援もちゃんとしますからあとで私の治療カプセル使ってくださいねぇ~!!!」

 

一部何やら変な歓声が混ざっていたが、それらは確実に二人に届いて力を与えていく。不思議と身体に少しずつ力が漲っていくのを感じながらも必死に立ち上がっていく、込み上げてくる物を僅かに吐き出しつつも必死に立ち上がる。ボロボロながらも強く崇高な意志を見せ付けながら不屈の闘志を滾らせる。スタジアム全体で奏でられる英雄への詩、それらが齎すのは一体何のか。

 

「ウァァァァァッッ……!!!」

「ぜぁぁぁぁあぁっ……!!!」

『おおおおおおっ立った、立ったぜおい!!?緑谷爆豪共に未だに健在っつう事は続行だぁぁ!!!』

「シェアァ!」

「ォラァ!!」

 

猛々しい声と共にとられた構え、それに更に表情を滾らせたミッドナイトは恍惚の笑みと共に試合再開の号令を掛けようと鞭を振ろうと掲げるのだが―――鞭の隙間から見えた、グラリッと再度出久の身体が瓦礫のように崩れるように、瞳から光を消しながら背後へと倒れこんでいってしまった。重量の鎖に引かれるように倒れこんだ身体は僅かに四肢をバウンドさせるともう動かなくなってしまっていた。

 

「はぁはぁはぁ……」

「―――緑谷君、戦闘不能!よってこの試合、爆豪の勝利!!」

「ガァッ……!!」

 

その一言を聞いてから爆豪は足をよろめかせながらも腰を降ろした、スタジアム全体から沸き上がる両者の健闘を称える拍手の中で目の前で倒れた出久を見つめながら言葉を作る。

 

「おい、テメェデクの癖に粘りやがって……ざまぁねぇ姿だな」

「ハハハッ、この上で追い打ちなんてカッちゃんらしい、ね……」

 

アドレナリンの効果がなくなったのか、冷静になって痛みがぶり返してきたのか言葉を詰まらせながらも話す出久のそれは痛々しい。ミッドナイトは直ぐに医療室への搬送手続きを済まそうとすると爆豪は痛む身体を引きずるようにしながらも立ち上がって出久へと手を差し伸べた。

 

「おらよ……連れてく程度の事はしてやる……デクが」

「―――有難う、カッちゃん……でも身体動かないから運んでくれるとありがたいんだけど……」

「贅沢言うなら蹴り飛ばしながら運ぶぞクソが」

「分かった、分かったから小突くのやめて……」

 

脇腹を軽く蹴る爆豪の手を取ってフラフラと立ち上がる出久、そしてそんな彼を伴うように彼自身も身体を引きずるようにして医療室へと向かって行くそんな姿に会場の拍手は一段と大きくなりミッドナイトもこれ以上ない程の笑みを浮かべながらサムズアップを作り、最高!!!と述べるのであった。

 

「確かに、今までにない程に最高の決勝戦だったよ―――少年たち」

 

そのオールマイトの言葉に誰もが頷いた事だろう。



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終幕のフェスティバル

『それではこれより、表彰式に移ります!!』

 

色取り取りの花火が空を煌びやかに染め上げながら爆ぜて行く、先程までステージで戦いの為に使われていた爆豪の爆破(それ)とはまた違った側面の爆発は美しさを刹那を持って消えて行く。そんな側面を持った花火がトーナメントの入賞者を祝福している。表彰台のうえには激しいトーナメントを勝ち抜いた故に手に入れた順位の高さに立っているそれぞれが立っている。ミッドナイトも嬉しげに彼らを見つめながらも高らかにマイクを上げながら声を張り上げる。

 

『さぁいよいよメダルの授与よ!!今年のメダル授与を行うのはこの人!!平和の象徴、我らがNO.1ヒーロー!!「私がぁ……メダルを持ってきたぁ!!」オォォオルマイ、ト……』

 

授与するメダルを抱えながら会場へと颯爽と参上するオールマイト、しかしミッドナイトの挨拶とのタイミングが合っておらずミッドナイトの宣言の途中で参上してしまい如何にもしまらない事になっている。それでも会場は大歓声に包まれている辺り、オールマイトの人気が窺えるがオールマイトとミッドナイトは微妙な表情を浮かべている。緑谷達は寧ろオールマイトらしいとさえ思えているのは彼の授業を受けているからだろうか、思わず見合わせる二人が非常にシュールな気もするが咳払いをしつつもメダルの授与へと移る事になった。

 

「二人とも実によく頑張った!!常闇少年、飯田少年!!」

「有難う御座いますオールマイト、出来る限りの力を出し切った故に僕はこの結果に満足しております!!」

「然り。我らは全てを出し切った果てにこの地位へ、ならば此処こそ今の我らに相応しき場所」

「HAHAHA結構結構!!では、今はこのメダルを胸に掲げて胸を張ろうか!!」

 

オールマイト自らがメダルを掛けると一斉にフラッシュが焚かれて二人を明るく照らし出している、飯田はそれに胸を張っているが常闇は少々眩しそうにしている。個性の兼ね合いもあるのか明るすぎるのは少々辛い所があるらしいが、それでも今の此処に満足しきる事はなくこれを糧にして成長する事を誓っている。そんな二人を見つつも次へと目を向ける、そこには包帯を巻かれた少々痛々しい姿の出久がそこにいる。

 

「緑谷少年、準優勝おめでとう!!最後の試合は本当に凄かったよ」

「有難う御座いますオールマイト、でもちょっと情けなかったかなぁって思ったりも……」

「いやいやいや君は最後まで戦おうとしていた、その姿は正しく最後まで戦い抜こうとするヒーローその者さ!」

 

リカバリーガールの処置を受けた身で此処にいる出久、彼女曰く傷はそこまで深くはないが疲労がかなりあるので下手な治癒はさせていないとの事。故に体育祭の後はじっくりと休ませる事が一番だろうとの事。それならばマグナにお願いすれば問題ないかなと思いつつもオールマイトはある事に内心震えていた。

 

―――それは爆豪が出久を医務室へと運んでいる最中の事だった、携帯が突然鳴り響いた事だった。席を立って廊下に出てからそれを取ったのだが……

 

「はいもしもし」

『おう俊典、久しぶりじゃねえか』

 

電話の向こう側の声を聴いた瞬間にオールマイトこと、八木 俊典は声だけではなく全身が極寒の凍土の中立たされたかのごとくに震えまくった。何故ならば電話をくれた相手なのは嘗て自分を育て上げてくれた恩師であるグラントリノ、途轍もないスパルタな実戦形式だった故か身体中にその記憶が刻まれているのか声を聞いただけで当時の記憶がフラッシュバックするのか、震えが止まらなくなってしまっている。

 

「っせっせせせせっせせせっ先生!!!?お、おおおおお久しぶりですぅ!?」

『応。手紙寄越したのは良いが偶には声を聞かせろ、そっちの方が喜ばれる事だってあるんだぜ』

「き、肝に銘じます!!」

『そりゃいい、如何でも良い事だ。それよりもだ―――緑谷 出久、あいつだな手紙に書いてあったワン・フォー・オールの次の継承者って奴は』

 

それを聞いて震えが止まった、その話かと胸を撫で下ろしつつも声色が柔らかく嬉しそうにしている事に気付いた。きっと自分が選んだ相手が素晴らしい素質を持っている事云々なのだろうとホッとしてしまった。

 

「はい、そうです」

『そうか……あいつぁ中々にすげぇ器だな、純粋な肉体のレベルもそうだがもう既に全身で扱えるようにもなってやがる!!俺ぁその小僧も無個性っつうもんだからそれに同情して選びやがったのかと思ったが如何やら違ったみてぇで安心したよ』

「流石に私もそれだけでは……」

『分かってるぜ、だがしかしあいつは本当にすげぇな!!エンデヴァーの息子との激突の最期、光線だったか、あれをぶっ放した時は年甲斐になく燃えちまったぜ。まさかお前にあそこまで教師としての才があったなんて驚いたぜ』

「(や、やばいそういう類のお話だったのかぁ!!?)」

 

再度、オールマイトの震えが起き始めた。恩師であるグラントリノとしてはマグナの存在は一切知らせていない、加えて出久が無個性だったと思っていた云々の為に個性としての扱いに慣れていないのでそれらも並行して鍛え上げたと思われている。それは事実だがそれらをやったのは自分ではなくマグナ、自分は教えてこそいたがメインではなく補助的な役回りだった。オールマイトの教え方は酷く感覚的且つ擬音のオンパレード、それは指導を受けていた頃から透けていたのでグラントリノからすればそんな弟子が立派になったようにしか思えないのである。

 

『俺は嬉しくてな、まさかあの擬音と感覚でしか語れねぇ教え下手なお前があんな立派な弟子を育成できるなんてねぇ……』

「……イ、イヤァそう言って頂けると……しかし、まだまだ未熟でして……少年とはその……そう、一緒に身体を動かしながら私の経験から教えたり、そのデイブに連絡を取ってトレーニング器具を作って貰ったりと……」

『ほう成程なぁ、そりゃ期待出来そうだな。んじゃ俊典、職場体験には俺も名を出させて貰うからその時は融通してくれるように頼むぜ、じゃあなこれから勘を取り戻しに行ってくるぜ』

「あ、あの先生!?先生ってあっ切れてる!?」

 

と言いたい事は言い切ったと言わんばかりに通話が切れてしまった、オールマイトは色んな意味で大変な事になったと震えまくっていた。この後には各プロヒーローから職場体験のオファーなどやってくる、きっと出久にも相当な量が来るはず。だがそれらはグラントリノを優先して貰えるように口利するのは簡単、だがその先、出久が行った時には自分は良い先生だったとフォローして貰えるようにお願いしなければならない。言わなければ……

 

「あわわわわわっ緑谷少年大変な事になったぞ……!?」

 

この場合は何方かと言えばオールマイトが、である。

 

「―――緑谷少年、後で話があるから……」

「えっあっはいってどうしたんですかなんか、顔色が……」

「―――ハッHAHAHAHAHA!!!何ちょっと考え事をしちゃってねぇ!!この後君の活躍を思うと楽しみだなぁっと!!」

 

と無理矢理に内心に募りまくっている物を吹き飛ばすように笑いながら出久の背中を軽く叩きながら大きく笑う、だが背中に回された手だけが異様に震えてる事に疑問を覚えるのであった。

 

「(マグナさんオールマイト何かあったんでしょうか……?)」

『さあ……昔馴染みの人に何か言われたとか、あんな教え下手が立派な弟子を育てられるわけがない!!って』

「(いやそれは流石にないんじゃ……)」

『可能性としては低いと思うけどね私も』

 

尚、奇跡の大当たり(ジャックポット)だった模様。そしていよいよ爆豪へのメダルの授与へと移る。

 

「爆豪少年優勝おめでとう!!本当に凄かったぞぉ!!」

「……あんがとよ」

「最後の戦いなんて私も胸が躍っちゃってねぇ!!」

「そうかよ」

 

と何処かそっぽを向くような爆豪にオールマイトは少々疑問を持つがほんの僅かに顔が赤い事に気付いた、恐らくだが出久との戦いは本人も思いがけないほどに内面を出してしまったりして恥ずかしさを覚えているのかもしれない。特に自分から手を差し出して運んでやるなんて自分がする事じゃないと思っているのかもしれないと思ったオールマイトは荒々しく彼の頭を撫でる。

 

「HAHAHA爆豪少年。君は君でこれからもっともっと伸びている、自分が普段やらないような事が意外と普段やる事への成長を促したりもするんだ、だからこれからも頑張りたまえ!!」

「……おう」

 

とメダルを受け取った爆豪は胸に輝くそれを見て少しだけ口角を緩めて笑った。それを見て大きく頷いたオールマイトは振り向きながら大声を張り上げた。

 

「今回は此処の栄光に輝いた彼等、しかしこの場の皆、誰にもここに立つ可能性はあった!!ご覧頂いた通り、競い、高め合った!!更に先へと昇っていき続けるその姿!!!次代のヒーロー達は確実にその芽を伸ばし成長している!!てな感じで最後に一言。それでは皆さん、ご唱和下さい!!せーの!!」

 

「プルスウルt」」」」」

『お疲れ様でした!!』

 

オールマイトも分かってるなぁ!!と皆が思う中で腕を振り上げながら雄英のあの言葉と共に放たれようとした―――一斉に出ようとした時にそれら全てをぶち壊すように言った本人が全く違う事を言った事で一瞬静寂になった後に思わずブーイングが出てしまった。最後の最後で台無しである。

 

「いやそこはプルスウルトラでしょうよ!!?」

「何でそれなの!?」

「あっそうかいやでも、あの、疲れただろうなって思って……そ、それではOne more!!」

『Plus Ultra!!』

 

何だかんだでオールマイトらしさも残しながらも、改めてのそれで大きな物上がりを見せながら雄英体育祭は終了したのであった―――

 

「さあさあさあ緑谷さんそんなお怪我をしている訳ですから私特性の治療カプセルへとお入り下さいさあさあさあ!!大丈夫ですって危険なんてありませんって事前のテストでも90%の安全性を確保してますから絶対に大丈夫ですよ多分それに失敗したってリカバリーガールのフォローアップも期待出来ますから全然降合いを抱く要素は0ですよ」

「いや90%の時点で絶対ではないしそれだったら最初からリカバリーガールの方に行くからね!!?」

「おいデク、マジでお前付き合う奴は見直せ」

「おおっ折角ですからお隣の爆豪さんでしたっけまあいいんですよねそんな事、貴方もお怪我をしている訳ですし如何でしょうか其方は怪我を治せて私は貴重なデータが取れてWinwinな関係という奴ですよ本当に有益な取引と関係という訳ですよ!!さあさあさあ!!!!」

「ざっけんな俺まで巻き込むなぁ!!」

「逃げようカッちゃん!!?」

「アハハハハハハハハッお待ちになって逃がしはしませんから覚悟してくださいねウルトラアーム&ウルトラジェット起動&レッツゴ―!!」

 

彼らの雄英体育祭はまだ終わってないのかもしれない。



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出久のヒーローネーム

無事に終了した体育祭、それから初めての登校日となった日の事だった。体育祭の熱気によって生まれた雲からの雨が降る中、教室へとやって来た出久。未だ体育祭の興奮の余韻が冷めやらぬと言わんばかりの空気に矢張りかと思いながらも席に着く。

 

「よぉっ緑谷!!お前もやっぱり声かけられたりしたか?俺達すげぇ掛けられちまったぜ」

「うんっ凄い掛けられた、なんか少し疲れたよ」

「そりゃそうだろうな、お前と爆豪の戦いマジで凄かったからなぁ!!」

 

と矢張り雄英体育祭での優勝者、並びに準優勝者は酷く話題にも上がる。朝刊やニュースにも取り上げられるほどでご近所からはお祝いのメッセージやら贈り物が続発、それだけでも大変なのに帰宅した出久を待っていたのは自宅内でティッシュの山に埋もれながら軽い脱水症状になっていた母だった。大慌ててで水分補給やらをさせて事情を聴くと自分の活躍で嬉しくなって泣きっぱなしだったらしい、嬉しいような人騒がせなと言いたくなった。そして今日此処までくるまでに様々な声を掛けられ、サインまで求められてしまって大変だった。

 

「緑谷ちゃん大丈夫?でもそれだけ皆緑谷ちゃんに注目してるって事よ」

「だよなぁ。爆豪も凄かったけど緑谷は緑谷でビーム出せるもんな!」

「ビームじゃなくて光線」

「お、おう悪かった」

 

そこだけは譲れないんだ、と周囲に言われながらも出久は前に座っている爆豪へと視線を向けてみる。普段と変わらずにいる彼だが、体育祭の後の発目との騒動に巻き込んでしまったのは申し訳ないと思っているが―――それ以上に何処か少しだけ昔のように戻れたような気もしている。

 

「カッちゃんあの後大丈夫だった?」

「テメェに言われたくねぇ」

「まあうん……大丈夫、だったようん……」

「……」

 

結局、あの後出久は爆豪を逃がす為に自分から進んで発目の治療カプセルへと入る事にした。問題こそなかったのだが……嬉々として操作する発目もあったからか生きた心地という物を味わえなかった、若干目が死んでいる出久に爆豪は内心で僅かに罪悪感を滲ませていると相澤が入ってくる時間がやってくるのであった。皆は相澤が来る前に席に着く、ある種恒例行事である。

 

「ヒーロー情報学はちょっと特別だ」

『特別?』

 

ヒーロー情報学、ヒーローに関連する法律や事務を学ぶ授業で個性使用やサイドキックとしての活動に関する詳細事項などなど様々とを学んで行く。他のヒーロー学とは異なり苦手とする生徒も多いが、今回は何か異なる模様。

 

「コードネーム、いわゆるヒーローネームの考案だ」

『膨らむヤツきたあああああ!!!』

 

ヒーローネーム、即ちヒーローとしての自分を示す名前の決めるという事。自分の事に関する故にヒーロー足る者として絶対的に必要な物にクラス中からテンションが爆発して行った。オールマイトを始めとしたそれらはヒーローの象徴ともいえる物、テンションがMAXゲージになって行くが相澤が睨みを利かすと一瞬でその勢いが鎮火させられた。

 

「ヒーローネームの考案、それをするのも先日話したプロからのドラフト指名に密接に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積んで即戦力と判断される2年や3年から……つまり今回来た指名は将来性を評価した興味に近い物だと思っておけ。卒業までにその興味が削がれたら、一方的にキャンセルなんてことはよくある。勝手だと思うがこれをハードルと思え」

 

幾ら体育祭で素晴らしい力を見せたと言ってもまだまだ経験も足りない物を採用などはしない、これから力を付けていかなければ今の評価など簡単に引っくり返る。そして相澤は手に持ったリモコンを押してある結果を黒板に表示した。

 

「その指名結果がこれだ、例年はもっとバラけるんだが今年は偏ってるなある意味で」

 

黒板に示されている指名数は矢張りと言うべきか体育祭のトーナメントの結果を反映したものだという事が良く分かる。爆豪、出久、轟の三名が飛び抜けてプロヒーローからの目を引いたからか、2000を突破する指名をそれぞれが獲得している。だが意外だったのが出久の票数と爆豪の票数が逆、爆豪の方が少ないという事だった。

 

「うわっすっげぇハッキリ出てるよぉ……」

「っつうかやっぱりこの3強……っていうか緑谷の方が上なんだ……」

「最後のあれはどっちも凄かったけどやっぱりあれじゃね、光線とか光弾系の技があるからじゃね?」

「あ~見栄えいいし汎用性高そうだもんな」

 

出久の方が上というのもやはり焦凍との一戦、最後の一撃であったイズティウム光線が多くの人の視線を引いたのもあるだろうが、身体能力だけならば爆豪をも追い抜くような勢いを見せたからである。その点では爆豪よりも目を引いたというべきだろう、しかしそれに関しては肝心の彼は予想をしていたのか余りに反応せずに静かに鼻を鳴らすだけ。

 

そしてこれらの指名を出したヒーローの元へ出向きヒーローの活動を体験するという。プロの活動を自らの身体を持って体験し、より実りある訓練をするため。そしてその為にヒーローネームの考案をするという、仮にもプロヒーローの元に行く事になる、それはつまり将来的な自分の立場のテストケースにもなる。

 

「つまりはこれらを使って職場体験をさせてもらうって事だ。そこでヒーローネームを決めるって流れだ、適当なもんは―――」

「付けたら地獄を見ちゃうよ!!この時の名が世に認知されてそのままプロ名になってる人は多いからね!!!」

『ミッドナイトォ!!!』

 

教室に参上したのは18禁ヒーロー事ミッドナイト、相澤曰くそっちのセンスはかなりいいらしいのでその査定の為に来て貰ったとの事。

 

『……やっぱり、なんか苦手なタイプだな私……』

「(マグナさん初めてみた時も凄いリアクションでしたもんね)」

『何だろうなぁ……彼女の性格面とかはあんまり分からないのに苦手というのは失礼になるんだけどなんかなぁ……』

 

単純に苦手なタイプだからかもしれないが、マグナにとってミッドナイトはかなり相性が悪い模様。好みの関係かもしれないと出久は思いつつ前から送られてきたボードを後ろに回しながらヒーローネームの検討に入る。将来自分がどうなりたいか、名を付ける事でイメージが固まっていきそこへ目指していく。

 

「(なりたいヒーロー……)」

『矢張りオールマイトかい?』

「(確かにオールマイトは憧れです、でも僕にとっては……)」

 

オールマイトは出久にとって大切なオリジン、原初であり憧れでもある。だがそれになりたいとか言われたら違うと思っている、憧れは憧れだがそれを目指すのかと言われたら別の問題になってくる。自分にとってなりたいヒーローというのは……そう、光だ。オールマイトが平和の象徴となり、人々に安心を、安堵を齎したように自分は光を齎したい。そんなヒーローに……。

 

「やっぱり、僕にとってのヒーローは……貴方です」

「はい緑谷君!!」

 

そんな言葉を漏らしながら発表形式のヒーローネーム、それを示す為に教壇へと足を進めていく。矢張り、準優勝である彼のヒーローネームに様々な瞳が向けられてくる。その中には爆豪のものもあった。

 

「実はあなたがどんなヒーローネームにするか私気になってたのよねぇ、フフフッ楽しみね」

「僕のヒーローネームは……ウルトラヒーロー・イズティウム」

 

そこに出された名前にあった物を聞いて思わずマグナは苦笑してしまった、これは如何にも気恥ずかしい。今までずっと一緒にいたが、改めて思い知らされた。彼にとってのなりたいヒーローというのは自分の事であった、それをハッキリ言われたような気分になってしまい思わず言葉に詰まってしまった。

 

「(これでも自重したんですよ、本当はマグヌスとかマグニフィウムとかにしようと思ってましたから)」

『それは是非とも勘弁してほしいな、恥ずかしさのあまり火が出そうだ』

 

そう言いながらも嬉しそうな声になっている事に出久は指摘する、そんな会話が誰にも聞こえない所で行われながら出久のヒーローネームが決定した―――する最中で新たな闇が蠢いていた……。

 

「また、か……」

「はいこれで何件目でしょうか……重傷で見つかったインゲニウムから連続してもう7人目ですよ」

 

【KILL HERO】




色々と悩みましたが、やっぱり此処は下手にマグナさんの名前をお借りするよりも、マグナによって成長した出久の象徴、そしてそれを齎してくれたウルトラマンへの敬意という形でこんな風にしました。


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オールマイトの先生

出久への指名は2654、それだけのプロヒーローから眼を向けられているという事に驚きながらも素直に嬉しく思っていた。膨大な量のそれらからどれか一つを導き出さなければならない事態になった、しかもその中から一つを決めるまでの時間制限は明後日までだと相澤に言われてしまいこれもある種の試練の一つかと思いながらも自分へと送られてきた指名を入念に吟味しなければならない……のだが

 

『しかしこれは凄い数だな……』

「確認するだけでも大変だ……」

 

自分を指名したヒーローの名前が書かれた紙、ファイルに閉じられているがそれでもすごい数になっている。此処に自分の指名の全てが詰まっていると考えると少々重苦しい気分を感じずにはいられなくなってくる。その内容もとんでもない事になっている事も事実、トップヒーローと評されるヒーローの殆どからの指名がされており、ヒーローランキングの最上位者、トップテンからも指名が来ておりそれだけ自分への興味が多くの人によって持たれていると実感せざるを得ない。

 

『さて君は此処から何処を選択するかな?』

「まずはこの中からヒーローを得意な系統別に分けつつその後ランキング、実力、傾向、様々なデータを比較しながら今の僕に足りない部分を抽出させて何処に行くべきなのかを判断するべきだからまだまだ判断材料には乏しいか、だとしたら……」

『予想の範囲内だったね』

 

何時ものブツブツを伴った考察に入った出久にもうマグナは完全に慣れきっていた、と言っても此処からは完全に出久へと委ねられた選択なので此処から自分が出る幕はないと素直にそれを聞き続けていく。周囲も出久のそれに慣れているのか何も言うまいと言った感じが続いている。そんなこんなで決まる事もなくやって来てしまった放課後、出久は2654の中から1290までは絞る事が出来たと言いながら帰宅の途へと就こうとするのだが……

 

「私が独特の姿勢で来たぁ!!」

「オ、オールマイト!?」

『また突然だね、まあ私は何か来ている事に気付いていたけど』

「ちょっと、時間あるかい……?」

 

オールマイトからのお呼び、それを素直に受け入れた出久は共に談話室へと足を踏み入れる事になる。何やら震えているように見えたが、それは見間違いでなかった事を直ぐに知った。

 

「単刀直入に言わせて貰うと君にある方の所へ職場体験へと行って欲しいんだ」

「ある方、ですか?」

「ああ、本来贔屓するような事はいけないのだが……その方はワン・フォー・オールの事も承知なされている方でね、私の先代の盟友として活躍し、私の担任だった方なのだ」

 

その言葉を聞いて出久は酷く驚いた、ワン・フォー・オールの事を知っている人が他にもいた事にも驚きだがそれ以上にオールマイトの担任だったヒーローから指名が来ているという事に何処か興奮を覚えずにはいられないというのが素直に現れている相棒にマグナは笑みを溢す。

 

『しかしそんな方から指名を頂けるという事は出久君も期待されていると言ってもいいのかね、何せ平和の象徴の先生に指名を受けた上に此方に来て欲しいとまで言われている。これは熱烈なラブコールという奴かな』

「なんだかマグナさんらしくない物言いですね、でも僕としてはそう捉えてもいいかなぁって思っちゃったり……」

『何、私だってもう数年地球で暮らしているんだから多少なりともそれらに感化されて言葉遣いも変化を遂げるという物さ』

 

何処か笑いが出る会話をしている二人を見つめるオールマイト、がそんな彼の顔色は優れない所か悪くなる一方だった。

 

『如何しました、随分と顔色が……』

「その、実は……折り入って頼みがお二人に……」

『出久君だけではなく私にもですか?察するにその先生の所に職場体験に行って欲しいという事なのでは……』

「それもあるのですがその……」

 

酷く言いづらそうにしながらまるで犯人が警察からしつこく自白を促されたが如く、漸く吐き出した言葉は酷く悲痛な物でありながら切実な物だった。

 

「えっつまりそのグラントリノさんに指導の事を聞かれたら良い風に言って欲しいって事ですか?」

「う、うむ……」

『まさか貴方がそんな事をお願いするとは……それだけ恐ろしい方なのですか』

「い、いや先生は本当に素晴らしい方で私を鍛え上げてくださった、下さったのだがその過程が……余りにも、余り、にも……!!」

 

言葉の末端に入ると携帯のバイブレーションを身体でやってみたか如くに震え出した、最早携帯のそれよりも高周波振動するそれに近いだろう。そしてその言葉から汲み取れるのはオールマイトの記憶どころか魂にすら刻み込まれているかのようなトラウマの数々。それらの数々が経験や糧となったからこそ今があるのだと分かっていても身体が拒否反応の如く震える。

 

『私の言う所のレオが受けたセブンの修行並という認識でいいのかな』

「いえそれらと比べたらあれでしょうが、唯々只管に実践訓練の日々でして……何度吐かされた事か……」

「で、でも流石に先生に嘘を言うのはちょっと……」

「お願いだ緑谷少年ほんの少しいい感じに盛ってくれるだけで良いから!!!」

 

一生のお願いだぁ!!!と両手を合わせたうえに懇願してくれるオールマイトに出久は素直に困惑する、憧れのヒーローからのお願いは出来る事ならば叶えるべきだとは思うのだが、オールマイトの先生相手に下手に嘘をついてもあっさり見破られてしまって逆に怒りを買うのではないだろうかと思っているとマグナが良いじゃないかと声を出す。

 

『誰だって恩師や先生には良い姿を見せてあげたいと思うのは当然の事さ、それに実際に一緒に指導をしてたんだからね。この辺りは私もフォローしますよ』

「おおっマグナさん……!!」

『それに出久君、お師匠様の威厳や名誉を守ってあげるのも立派な弟子の役目だよ』

「そういう物なんでしょうか……分かりました」

 

出久も本当に大丈夫かなとやや不安を抱きながらもそれを承諾する事にしたのだった。オールマイトの事を持ち上げたりすることに異論はなく賛成なのだが嘘を見破られないか、という部分だけが不安。

 

『その辺りは私の指導をアレンジしちゃえばいいさ、それに私は常に出久君と一緒だった訳だからね』

「な、なんかあれな感じがするんですけど……ウルトラマン的にはそれっていいんですか?」

『地球にはこんな便利な言葉があると聞いたよ。バレなきゃ犯罪じゃないですよ』

「「いやそれ貴方が言っちゃ駄目な奴です!!」」

『ハハハハハッ冗談だよ、それに悪い事じゃないんだから良いじゃないか』

 

そんな事よりもある事への相談へと推移していく、グラントリノへマグナの事を話すか否かという事である。

 

「今知っているのは後は発目さん位ですもんね……」

「マグナさんの事は私だけの胸に留めておりますが、矢張りお話しするべきでしょうか」

『私としては別に話してもいいとは思う、ワン・フォー・オールの事も絡んでいるとすると秘密にして貰えると思えるし……それに』

「それに?」

 

その時、声色が鋭く低くなったことに二人は見逃さなかった。そこにあるのは未来に対する危機感を感じている感情、紛れもなくこれから味方を増やしていくべきだと考えているマグナの思考だった。

 

『USJでの一件、エレキングの事を考えると他にも宇宙人や怪獣が潜んでいる事も考えられる。私で対処しきれればいいんだが……どうにもあのヴィラン連合とやらの動きも気になるからね、ある程度の味方は作っておいた方が良いかもしれない』

 

皮肉にも、その考えは限りなく正しい事だとマグナは知る事になる。そして間もなくそのプレリュードが開幕する事も。



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グラントリノ、現る。

職場体験初日、雄英1-Aの姿は雄英から最寄りの駅にあった。此処から各自の職場体験先へと出発していく。担任の相澤から簡単な挨拶と体験先に迷惑を掛けすぎない事や本来公共の場などで着用が許されないコスチュームなどは絶対に落とすなと厳命される。自分だけのコスチュームを落とす間抜けなどいないとは思うが、盗まれる可能性もあるので確りと持っておくのに越した事は無い。なので生徒達はコスチュームケースを繋げておくためのひもや鎖などを用意、それと制服と繋いで対策しておく。

 

「いよいよだな緑谷君」

 

そんな風に語りかけてくる飯田の顔は普段と変わらず明るかった、その姿には無理などは一切無く酷く自然体であったように出久に映っていた。ニュースになっていた飯田の兄であるヒーロー・インゲニウムがヒーロー殺しと呼ばれるヴィランによって重傷を負わされ緊急入院した事を知った。幸いな事に命の別状はないという話だが……その飯田が向かおうとしている職場体験先は保須市にあるヒーロー事務所だった。

 

「そうだね、飯田君も楽しみ?」

「当然さ。プロの活躍を現場で見れるのだからな―――それと兄の事とは関係ないとは言えないが、俺は別に仇を討とうとかは考えていないさ」

 

内心を言い当てるかのように言葉を作った飯田に出久は言葉を飲み込んだ、そこにあったのは本当に復讐と言った事とは無縁の飯田がそこにいる。ならば何故保須を選んだのか、もっと上の事務所からも声を掛けられているはずなのに……。

 

「何と言えばいいのだろうな……兄がやろうとした事、兄が頑張った現場を見たいというのかな……兎も角そんな所さ。大丈夫妙な事なんてしないさ」

 

爽やかに言い残して飯田は去って行くのであった。恐らく大丈夫、だと思うがそれでも何処か不安が心を過るのだが新幹線の時間が迫っていたので急いで其方へと向かって席について出久は自分の職場体験先へと向かう。今の自分に出来る事はない、出来る事は職場体験中は飯田にメッセージを出したり無事を祈る程度の事だろう。

 

『彼の事は大丈夫だろう。私から見ても彼の精神は穏やかな物だった、ヒーロー一家の次男坊なだけあって怪我などは付き物だと分かっているだろうしあの様子ではお兄さんとも話をしたんだろうね』

「(心配、し過ぎですかね……?)」

『誰かを気遣い心配して上げられるという事は立派な美点だよ、だが君も彼と同じようにこれから職場体験をするのだから今はそちらの方に集中しておいた方が良いかもね』

 

確かに正論だと思いつつもヒーロー一家ならばその辺りも分かっている筈だろうと改めて思い直す、新幹線の窓から流れて行く景色を眺めながら貰ったメモに書かれている住所などを見つめながら一体グラントリノというのはどんな方なのだろうかと期待と不安の板挟みになりつつも新幹線は走っていく。そして駅に到着すると住所へと向かう。

 

『鯛焼きとそれに合うお茶も購入完了、社交辞令としては良い方かな?』

「(やっぱりこういうのも必要な事なんですか?)」

『だろうね。それにグラントリノ氏はオールマイトの先生、つまり君にとってはお師匠の先生、大師匠と言ってもいい方だ。そんな方には良い心象を持って貰いたいだろう?それにお弟子さんが良い行いをすると御師匠さんの株も上がるものだよ』

「(そうなんだ……)」

 

なんだか自分以上に地球の人間関係の事を熟知しているような気がするマグナに諭されながらも、確かにこれからもお世話になるかもしれないのだから最初の挨拶は確りと丁寧に行うべきだろうと思い直しながらメモの通りに進んでいき遂に到着するのだが……そこはボロいアパートにしか見えなかった。オールマイトの先生なのだからもっと立派な所にいると勝手に想像していたのか、やや困惑しながらもノックをして扉を開けてみる。

 

「あの、雄英高校から職場体験に来ました緑谷 出久です。宜しくお願い―――」

 

そこまで言った所で思わず、出久は血の気がどんどん引いていく感覚を思い知った。身体が冷えていく、暗い室内の中には血だまりの中に倒れこんだ老人が……しかも腹の辺りから腸のような物が飛び出しているように見える。凄惨な殺人現場を見てしまった出久の正気はガリガリと削れていきそうにあるのだが―――

 

『あれケチャップとソーセージだね』

「―――って死んでないぃ!!?」

「うん生きとる!!」

「あ"ぁぁぁぁぁぁ生きてるぅぅぅぅぅぅ!!!??」

 

と絶叫を上げた所で胸を撫で下ろす、そんな出久を見て老人は何処か面白そうに笑った後に立ち上がりながらケチャップを払いながら此方を見る。

 

「いやぁ切ってないソーセージにケチャップぶっかけた奴を運んでたらコケたぁ……」

「と、取り敢えず大事無くて良かったぁ……」

「誰だ君は?」

「緑谷 出久です、えっとヒーローネームは……イズティウムです!!」

「―――ほぅ良いツラで名乗るじゃねぇかよ、小僧」

 

瞬間、小さな老人が一気にプロヒーロー・グラントリノへと変貌した。鋭い目つきに凛々しい顔立ち、不敵な笑みを湛えながらも先程まで握っていた杖を投げ捨てながら獲物を見定めた鷹のように出久を見貫く。

 

「んじゃ―――早速見せて貰うぜ」

「えっ―――」

 

自然な呼吸から凄まじい風切り音と共に一気にグラントリノは飛び立った、弾丸のように室内を跳ね回りながら此方を見定めるようにしつつも蹴り込んでくる。いきなりの事だが出久は個性を発動させながらそれを咄嗟に回避しつつもすぐさま臨戦態勢へと移行して室内を跳び回っていくグラントリノへと意識を向けて構えを取った。

 

「(突然のことだったが臨戦態勢に入るまでの時間は短い、個性も既に全身に可能。俊典の奴思った以上にいい弟子を育てたか……)」

 

と口角を持ち上げながらもならばその弟子の実際の腕前は如何なのか、漸く戻った感覚に何処まで対応出来るか見てやろうじゃないかと思いっきり息を吸いながら出久を翻弄するかのように超スピードで移動し続ける。

 

「凄いスピード、飯田君よりもずっと……!!」

「くっちゃべってる暇があるたぁ余裕だな小僧!!!」

「シェアッ!!」

「―――ほうっ」

 

背後へと回り込んで所を最大加速からの蹴りをかまそうと飛び出してきたグラントリノに合わせるかのように、出久は背後へと振り向きながら腕を振り被った。短い時間、それだけで自分の行動の先を読んだ先へと向けられた一撃。中々に良いじゃないか、だがまだまだ青いと言わんばかりに空中で軌道変更をするが 

 

「たぁぁぁっっ!!!」

「ぬぉっ!?」

 

神経伝達速度も強化していた出久は急激な軌道変更にも見事に対応して見せた、ジャンプしながらの裏拳が迫ってくると咄嗟に地面へと自身を飛ばして強引に着地するようにして回避するがグラントリノは酷く驚いたような顔をした後に酷く愉快そうに大声を出して笑った。

 

「ハハハハハッ!!こりゃいい、おい小僧お前中々やるじゃねぇか!!今のはワン・フォー・オールで神経を強化してやがったな!!じゃなきゃ対応出来ねぇだろうからな、あいつにしてはいい弟子を育てやがった」

「あ、有難う御座います……でも今のを避けるなんて……凄い判断力だ……」

「フンッ何経験が物を言うのよこういうのはな、お前も何れ息するみてぇ出来るようになるもんよ」

 

と少々誇らしげに胸を張っているグラントリノ、だが実際出久はグラントリノに既に尊敬のまなざしを向けていた。彼の戦い方はまだ室内でしか見ていないが、それだけでも自分に応用出来ればという物で満ち溢れていた。仮に外だとしてもあの機動力で縦横無尽に動き回れるという事になる、学べることが予想以上に多いと出久は嬉しくなっていた。

 

「さてとまあ先ずは茶でも飲みながらゆっくりとお前の師匠の教えでも教えてくれや、色々と聞きたい事もあるしな」

「アッハイ!!そうだ、それとオールマイトから鯛焼きがお好きだとお聞きしたので用意してきました。それとお茶も買ってきました」

「おおっ準備良いな!!俺は甘いものが好きでな、そんじゃゆっくりとそれらをつまみながら聞かせてくれや」

 

こうして出久の職場体験は想像以上の感触を感じさせながら始まる事になった。



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イズティウム、職場体験。

「成程なぁ、俊典の奴も中々に頑張ってたって事か。お前さんもそれに応えようと努力して今があるって事か……」

「はい、オールマイトには感謝だけじゃなくて僕に頑張る目標みたいなものをくれたんです」

「なんだよ小僧、思った以上に師弟関係になってるじゃねぇか」

 

話を聞き終えるとグラントリノは満足気に鯛焼きを頬張りながらお茶を啜った。実際にはマグナが行っていた指導などもオールマイトへと流し込みつつもちょっと下手になっている感じにして指導下手な印象を持たれているオールマイトが行っていたとして違和感がないようにしたカバーストーリーはグラントリノとしても納得がいくものだったらしい。胸を撫で下ろしつつも同じくお茶を啜る。

 

「小僧、ワン・フォー・オールはどの辺りまで扱える?」

「15%位です、無理をすれば25%位までが上限です」

「上等上等。中3で受け継いで今がそれなら上等すぎるぐれぇだ」

 

フルカウルの最高出力、そして無理を言わせれば今の出久はそこまで至れている。改めて思うと僅か1年程度で此処まで仕上げられたと感心する程だろう、それもオールマイトの指導だけではなく元々ヒーローになりたいと身体を鍛えていた出久の努力があったからこそだろうとグラントリノは密かに出久への好感を強めていた。

 

「それと小僧、お前光線とか撃てるだろ。体育祭の中継見て驚いたぜ」

「はい、僕の個性は体内にあるエネルギーの放射とかが出来るしそれを使って身体を強化出来たりもするので」

「ある意味ワン・フォー・オールとの親和性が高かったって訳か……本当に面白い奴を見つけやがったな俊典」

 

嬉しそうな笑みを益々強めていくグラントリノ、それを見て出久は弟子が良くやっていると師匠も褒められるような物だと聞いていた事が本当なんだと思い直すのであった。

 

「グラントリノさんみたいな戦闘方法を学びたいと思ってるんです、僕は短時間ですけど飛行が出来ます。あと室内での戦闘はまだまだ経験不足で……」

「よしよし向上心が大きくて結構だ、それじゃあ早速パトロールに繰り出すとしようや。コスチューム着るの忘れんなよ?」

「はいっ!!」

 

久しく接する少年がお茶を飲み干すと早速コスチュームを着こもうとする姿を見つつも口角を持ち上げた、こいつはどんどん成長して大きくなっていく事間違いなしだと確信的な物が満ちてくる。

 

「着られました!!」

「おおっ思った以上にメカメカしいな、まあいいさよし行くか」

「はい!!」

 

コスチュームであるウルトラマンスーツを着込み終わる出久、それを確認するとグラントリノと共に外へと繰り出して早速パトロールを開始する。出久が赴いた地域は過疎化が進んでおり人通りにいる人の数は少ない、だが逆を言えばそんな場所で活動しているヒーローの数は多くないのでそこを狙って犯行に及ぶヴィランも多数存在している。それらへの牽制としてヒーローのパトロールというのは頼もしい物なのである。

 

「っつう訳だ、一応俺も職場体験らしい経験をさせて尤もらしい事を言っておかんとな」

「成程……やっぱりこの辺りでもヴィランの出現頻度は多いんですか?」

「流石に渋谷とか東京其処らに比べたら少ねぇけどな、それなりって感じだ。まあピンキリだ」

 

街中を行きながら適当な話をしていくグラントリノと出久、そんな二人は街中で酷く目立っている。グラントリノは最近活動を再開していたのでそれなりに町の人からすれば知名度はあるだろうが、そんな老人の隣を歩くメカメカしいコスチュームに身を包んだ出久は如何にも目立つ。そして出久は出久で体育祭で準優勝しているので様々なメディアに露出しているので直ぐに気付かれた。

 

「ねぇあれって雄英の緑谷君じゃない!?」

「ほっほんとだ!!ええっでもどうしてこんな所に!?」

「っていうかコスチュームすげぇなあれ!?」

 

「小僧やっぱりお前結構人気あるなぁ」

「い、いやぁそんな……ちょっと恥ずかしいですね」

「何言ってんだヒーローなんて目立ってなんぼのお仕事だ、慣れとけ慣れとけ」

 

それらに対して手を振るなどの対応をしつつもやっぱりこのコスチュームは目立つのかなぁと思う出久であった。自分で選んだとはいえ流石に見られてどうなるのかという事についてはあまり考えていなかった、これは少し何か考えた方が良いかもしれない。

 

『そう言えば発目さんがマント型の防御アイテムがあるから試して欲しいと言っていなかったかい、ウルトラ兄弟もマントは羽織っていたしマントは悪くないと思うよ』

「(マ、マントですか!?良いかも……でも発目さんの奴は何か不安だ……)」

『まあ気持ちは分かるよ』

 

それでもマントはアリだなぁと頭の中でマントを羽織っている姿を妄想する、グラントリノもそうだがヒーローと言えば風になびくマントというイメージも根強い。この場合のマントは全身を覆うようなタイプかもしれないがそれもそれでカッコいいなぁと思い知らされる。

 

「(でもそれだと戦うのに邪魔ないですか?)」

『ウルトラ兄弟のマントも所謂礼装だからね、戦う時には脱ぐさ。例えば使わない時にはブレスレットになるとかでもいいと思うよ』

「(―――た、例えば戦う時に走り込みながら脱ぎ捨てながらもマントは光となってブレスレットになるとか……!?)」

『「(何それカッコいい)」』

 

と何やら少年同士の心をぶつけ合ってマントの有無やどんな風にするのが一番いいのかと脳内で話し合っている出久とマグナ、マグナが簡易的な物を作ったりしようかなぁと言った方面に発展しそうな時に街中で大きな爆発音が響いてきた。それを聞いて二人は直ぐに切り替えて戦闘態勢を取った。

 

「ハッハァッ!!今日が全国に名を轟かせる大悪党、ウィス様の初陣だぁ!!」

 

そこでは見るからにパワー型だと言わんばかりの筋骨隆々たるヴィランがそこにいた。体格だけで言ったらオールマイトを凌駕する程に巨大なヴィランが車を易々とひっくり返しながら叫び回っている。それを見てグラントリノは丁度良いじゃねぇかと少々笑ってから出久を見た。

 

「さあ早速職場体験の本番と洒落込もうじゃねぇか、行くぜ小僧!!」

「はい!!ワン・フォー・オール・フルカウル!!」

 

飛び出していくグラントリノ、それに続くように疾駆する出久。欲望のまま、個性に対する過剰な自信のままに暴れ狂っているヴィラン。それに真正面から突っ込んで行く出久。

 

「何だ小僧、丁度良い俺のデビューを飾る華に成れぇ!!」

 

真正面から突っ込んでくる出久、それに対して全力で拳を放つヴィラン。だが出久は落ち着き払いながら迫りくる拳を当たる寸前で回転しながら回避、アスファルトを容易に砕く拳だが逆にそれが災いしたのか腕が深々と地面へと突き刺さってしまった。

 

「や、やべぇっ刺さって抜けねぇ!?」

「上出来だぜ小僧!!」

 

動きが止まった隙を突くようにグラントリノが一気に加速して首へと蹴り込む、如何に巨体であろうとも隙だらけ且つ人体の急所へと一撃を加えられたら流石に一溜りもない。小柄だがそこから想像出来ないスピードとパワーを兼ね備えた一撃は容易にヴィランの意識を刈り取ってしまいヴィランは大きく崩れ落ちていった。

 

「小僧やるじゃねぇか、だがお前さんならこいつを逆に投げ飛ばすぐれぇの事は出来たんじゃねえのか?」

「えっとその……僕はまだ免許ないですから危害を加えたらまずい事になると思って……」

「あぁん?……ああそうかお前さんにこれを渡すのを忘れとった!!」

 

解せないと言った表情をしたグラントリノは少し慌てたように懐からあるものを取り出してそれを出久へと手渡した。それは何かカードのような物でそこには許可:グラントリノと刻まれていた。

 

「そいつは言うなれば仮免の仮免みてぇなもんだ、そいつがあれば個性を使ってヴィランを殴って問題ねぇぞ」

「ほ、本当ですか!?」

「お前さんはこれから個性の扱いやらを叩きこんでやるんだからな、それがなきゃ話にならんだろう?まあ問題が起きたら俺が責任を取る事になるからそこだけ気を付けてくれや」

「はっはい分かりました!!」

 

その後、ヴィランを警察へと引き渡した後パトロールを再開するのだがそこで出久は個性を用いてヴィランを確保していきながらグラントリノの戦いを確りと観察していった。そしてあっという間に初日が終了したが、その日の地域ニュースで自分の事が取り上げられ、思わずびっくりしてひっくり返るとグラントリノに大笑いされるのであった。



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混乱を齎すエイリアン

「グラントリノこっちのゴミ拾い終わりました!」

「おう、んじゃ休憩入れっか」

「はい」

 

ヒーロー活動というのは単純なヴィラン退治というだけではない、人々が平和且つ気持ちよく過ごせるような活動も含まれておりそこには地道な事も含まれている。それは地域清掃などの美化活動も含まれている、オールマイトが言っていた本来ヒーロー活動は奉仕活動というのが身に染みる。唯グラントリノは腰を曲げたりするのがくるため、余り出来ていなかったが出久ことイズティウムには素直に助かっているらしい。

 

『君の大師匠なだけはあるね、立派な心構えだ。それに此処数日はかなり充実してるね』

 

マグナの言葉に内心で頷きながらも出久は手ごたえを感じられている事に嬉しさを感じていた。グラントリノとの手合わせを含めながらもパトロール中のヴィラン退治に救助活動など今までにない程に本格的且つ実戦に限りなく近い中で身体を動かせる事は相当にいい刺激になっているらしく、イズティウムはその最中にも成長を見せておりグラントリノに笑みを浮かべさせ、次はどんな事をやってやろうかと思わせ続けている。

 

「イズティウム今日も頑張ってね~!!」

「ゴミ掃除お疲れ様~!!」

「この前は有難うな!!」

 

「い、いえ此方こそ!」

 

たった数日だが彼にもファンが出来つつあった。グラントリノの指導の一環でパトロール中のゴミ拾いなどの行いが好印象を抱かせ、そしてヴィラン退治の普段の謙虚で穏やかな面から一転した勇ましさがギャップを生んでいるのか多くの人から慕われている。そして彼の活躍は地域ニュースからあっという間に全国ニュース、ネットでも記事が出来上がるようになっていった。

 

「まあ当然と言えば当然よ。そもそもお前さんは雄英体育祭で準優勝してんだぞ、そんな奴が職場体験で早速活躍してりゃ話題性としてもいいからな。それを

聞屋やマスコミ連中が見逃がす訳がありゃせん訳よ」

「で、でもまさかこんなにもなるのは予想外過ぎます……」

「思った以上に小心者だな小僧、体育祭での勇姿はどこ行った?」

 

スマホでもクラスメイト達から活躍を祝福したメッセージなどが届いており、それを見て思わず硬直そして緊張してしまっている。今までがあまり人に褒められるという事に慣れずに来た為の反動とも言えるだろう。これから慣れていかなければいかない重要な課題が見えてきたなと悪い笑みを浮かべているグラントリノに言われてしまい、少しだけ肩を落とすのであった。

 

「さてと、そろそろ次のステップでも踏むとするか」

「次ですか……?」

「おうよ」

 

現状イズティウムの活動は午前と午後の定期パトロール、ヴィラン退治の応援に事務仕事に関する勉強にグラントリノとの手合わせ。それらとなっているが同じ戦法を取るグラントリノだけでは妙な癖がつくので別のタイプの相手を求めて遠出をする事に決めた。

 

「渋谷辺りにでも繰り出すか」

「渋谷ですか!?あんなハイカラな街にコスチュームで……!?」

「何、ヒーロー同伴でないと着れん衣装なんだから最高の舞台で披露できるのを喜びんさい」

「はっはい!!」

 

これはやっぱりマントが益々欲しくなってきた出久、活動中などでスイッチが入ると全く気にならなくなるのだがニュースなどで自分の姿を見ると如何にも気になるというか少々気恥ずかしくなる。

 

『そんな出久君へのプレゼントを用意してみたよ』

「(えっ?)」

 

マグナの声と共に左手首辺りが輝きだすとそこには銀色に輝きながらカラータイマーのような宝石が埋め込まれたようなブレスレットが出現した。

 

「(マ、マグナさんこれって!!?)」

『簡素且つ急造品だが用意してみたよ、出久君も頑張ってるし偶にはお金以外のご褒美を渡した方が良いからね』

 

早速ブレスレットに触れてみると瞬時にそれは変化して出久を包み込むようなマントへと変化した、胸部装甲と連結するような作りになっているらしく羽織ろうとする意識もする事もなく身体を覆い尽くす。表地は鮮やかだが落ち着いている赤、裏地はシルバーで見た感じはサテンのような風合いをしておりウルトラ兄弟の羽織っているブラザーズマントが参考となっている。

 

「(あ、有難う御座います!!)」

『何、私の相棒にこの位の事をしても罰は当たらんさ。と言っても本職の品ではないから防御力はないからそこは勘弁して欲しい。あくまで礼装や身を覆う為のものだと思ってくれると有難い』

「(いやでもこれ十分過ぎますよ!!というかこれ凄い肌触りも良いし全然重さを感じませんよ!?)」

 

一応防具としての役目をさせる事も出来なくもないが、流石にそこまでの防御力はないのでいざという時にはあまり役に立たないかもしれないがそれでも喜んで貰えているので今のうちに喜んでおくことにしておこう。加えてかなり気に入ったのか出久はそれを羽織ったままグラントリノの元へと向かって行くのであった。

 

「おおっ洒落たマント持ってるじゃねえか、恥ずかしいだなんだと言いながらもヒーローコスチューム着て歩けることに興奮してるのか」

「えっとそんな所です!!」

「結構結構、似合ってるぜそのマント。ヒーローにマントはお約束みてぇもんだからな、俺のとは違うが中々良いじゃねえか」

 

グラントリノにマントを褒められた事が嬉しいのか、かなり大きな笑みをする。だがそれは単純にマントが似合っているというだけではなく作ってくれたマグナに対しても良い評価が出た事に対する喜びでもあった。出発するまでの間にマントを羽織ってポージングをしてみたり、マントをブレスレットに戻してみたりして確認などをし続ける相棒に心なしか恥ずかしくなってきたマグナであった。

 

―――だがその途中で出久は知る事になった。

 

『お客様、座席にお掴まり下さい。緊急停車しま-』

 

新幹線にて東京へと向かっている途中の事だった。車内アナウンスとほぼ同時の急ブレーキ。車内は騒めく中で唐突にそれは破られてしまった、そしてプロヒーローが壁を突き破って車内に飛び込んできた。全身血塗れの重傷の状態でありながらもそれに対して更なる追撃を加えんとする異形の存在、それはマグナから聞かされ、記憶を共有する形で目の当たりにしたUSJにて乗り込んできたヴィラン連合が連れていた巨漢のヴィラン、脳無と酷く似ている存在だった。

 

「小僧付いてこい奴を遠ざける!!」

「はいっ!!」

 

迷う事もなく列車からそれを遠ざける為に飛び出した二人は脳無の頭部と腹部へと同時に蹴り込んでいき、共に列車から飛び出していく。地面へと脳無をめり込ませるようにしながら着地するが、脳無は即座に身体を引き起こして襲いかかってくる。

 

「グラントリノ僕が!!」

「任せる!!」

「シェアッ!!」

 

向かってきた脳無へとスペシウム光線が発射される、脳無はそれを諸に受けると大きく吹き飛ばされ空中へと舞い上がった。そしてそこを隙を与えんと言わんばかりの超スピードからの浴びせ蹴りをグラントリノが食らわせると脳無は動かなくなってしまった。今の連撃でダメージの限界を超えて動けなくなったのだろう。

 

「ふぅっ……ナイスだイズティウム、噂の光線も中々の威力だったな」

「有難う御座います、でもこれ……USJでヴィランが連れてきたのと酷く似てます。確か脳無って名前だった気が……」

「ああ、話には聞いとる。だが随分と小さいな、まさか量産型って奴か」

「「ッ!!」」 

 

余り考えたくもない言葉を言ってしまった直後だった、二人に対して銀色の閃光が迫ってきた。寸んでの所で回避する、後ろに引きつつも自分達を襲ってきた犯人へと目を向けると―――思わずマグナが大きな反応をしてしまった。

 

『まさか、次はこいつか!?』

 

そこにいたのは酷く人型に近いスリム且つスタイリッシュな体系をしている、が明らかに異常な両腕をしているヴィランだった。両腕はまるで日本刀のような鋭さを感じさせる巨大な刃になっていた。その刃の一撃は道路をまるで果物のようにあっさりと切り裂き深々と斬り痕を残している。それは奇襲に失敗したと判断したのか身を翻して一気に撤退していった。

 

「追うぞ、絶対に逃がすな!!」

「はい!!」

 

『出久君無理はするな、いざとなったら迷うことなく私に代わるんだ!!』

「(もしかして、あれも怪獣なんですか!?)」

『いやあれはれっきとした宇宙人だ、あれは―――奇怪宇宙人 ツルク星人!!』

 

―――宇宙には友好的な宇宙人だけが存在する訳ではない事を、その身でもって。



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ヒーロー殺し、ツルク星人。

「くそったれ!!どこに行きやがった!!?」

「何処に、行ったんだ!?」

 

身を翻し撤退してしまったツルク星人、それを追いかけるグラントリノとイズティウムだが相手は直ぐに姿を消してしまった。それを必死に捜索するが脳無の出現とそれらが暴れ回っている事による人混みによって捜索は上手くいかない、それもその筈と言わざるを得ない。ツルク星人は宇宙に闇に紛れてはターゲットを発見すると徐々に獲物を追い詰め、鋭い刃で相手を仕留める宇宙の通り魔と言うべき凶悪宇宙人。

 

『―――いざとなれば私が問答無用で出るしかないだろう』

 

その判断は出久の実力を考慮しているだけではなく、この世界のヒーローという役職の性質も含まれている。ヒーローは相手を殺す事は容認されておらずあくまで確保などが求められる、だがツルク星人にそんな物は通用しない。確保出来たとしても今の地球のテクノロジーではあれを確保し続けるのは無理だし服役されたとしても体力の回復の後に周囲を破壊して脱出されるのが目に見えている。

 

「目的も見えない奴を追うのは難しい、だが奴は確実にやばい、放置出来んぞ!!」

「でも、脳無が要るこの状況で探し出せるんんんでしょうかぁSMASH!!!」

「んなもん俺が知りたいわぁ!!」

 

先程仕留めた筈だが回復したのか、凄まじい迫ってくる脳無へと同時に蹴りを浴びせながら退けながらも会話をし続ける。何の手掛りも無い所か目的すら分からない、何かを割り出さないと追いようもない。

 

「(マグナさん何か解りませんか!?)」

『詳しい事は分からんが、奴が表通りに出る事は殆ど無い。いるとしたらまず路地裏だ、そこから獲物を探している筈だ』

「(路地裏、それなら逃げた方向とスピード、後脳無の対処のために集まってるヒーローを合算すれば何とか絞り込めるかも!!)」

 

思考を止めず、何とかツルク星人の行方を割り出そうとする出久。必死に考える、戦いながら考える、必死に考えながら拳を振るい脳無を吹き飛ばす。直後に携帯が鳴り響いていた。そこには―――飯田からの救援要請が自分の携帯に入っていた、事前に飯田が登録していたと思われる短いメッセージと位置情報がそこにあった。しかもその位置は此処から近い上にツルク星人が逃げたと思われる方角とも一致する。

 

「(これって!!)グラントリノ、僕友達の救援に行きます!!」

「何だとお前こんな時に!?」

「さっきの奴が逃げたと思う方角とも一致してるんです!!」

「―――ッ分かった直ぐに行け!!責任は取ってやるから暴れてこい、俺も直ぐに行く!」

「はい!!シュエァ!!」

 

脳無の対処などをしているグラントリノは素早く判断を下す、此処は自分を抑えつつも先に行かせた方が良いと思う。既にイズティウムの実力ならば倒せなくても時間を稼ぐ事ならば十二分出来る筈、なによりあのままあれを放置すれば尋常ではない被害が出ると即座に理解したのだろう。それを聞いて全力で地面を蹴りながら飛行を開始する。

 

「飯田君、きっと相当急いでたんだ。だから一斉送信で自分の居場所を……!!」

『彼らしくはないが今回は正解だろう、奴が相手ならば並のヒーローでは返り討ちにあうだけだ!!』

「はいッ急ぎます!!」

 

普段の倍以上の速度で空を疾駆する、空から見れば余計にハッキリ映る今の保須市が如何に地獄なのか。至る所から火の手が上がり悲鳴が木霊するように響いている、脳無の数はそこまでではない筈だがそれでも一体一体の実力はプロヒーローを簡単に凌駕する程なのだろう。それらが複数体いるだけで尋常ではない被害が出てしまう、自分もツルク星人を何とかしてグラントリノと合流した方が良い。

 

「っ此処だ!!」

 

飯田が示した位置情報、その地点へと到達すると眼下にて激しい音が聞こえてくる。それは金属と金属のぶつかり合い、鍔迫り合いのような響きがしている。だが飯田はそのような武器は持っていない筈、ならば飯田と他に誰かがいるのか―――と一気に降下するとそこにある物が飛び込んできた。

 

「痴れ者が……俺を騙り、ただ私欲の為に殺戮を行う悪が……!俺が最も憎む悪がぁ!!」

「―――ッ!!」

 

そこにあったのは包帯状のマスクを身に着け、赤のマフラーとバンダナを纏いながらも刃毀れした日本刀を凄まじい速度で振りツルク星人と激突している男がいた。その男の背後に飯田がいた、だが―――

 

「飯田君!!」

「っみ、緑谷君か!?」

 

思わず顔を上げながら驚いた飯田、彼は腕を強く抑えながら痛みに耐えていた。それだけではなく足にも傷を負っているのか出血をしている。スーツが致命傷を防いでくれたようだがそれでも傷はそれなりに深く出血も多い、そしてもう一人プロヒーローのネイティブが重傷を負っていた。だがそれ以上に―――ツルク星人と戦っている男はまるで飯田を守っているかのように剣を振るい続けていた。味方なのか、と援護するように光弾を発射するとツルク星人は瞬時に後方へと飛んで回避した。

 

「っ―――お前は……」

 

背後に舞い降りながら構えを取った出久を見て男はまるで何か知っているかのような顔をした、だが直に鋭い瞳を作るとツルク星人へと向き直った。

 

「飯田君無事!?ゴメン来るの遅くなった!!」

「いや俺は大丈夫だが、何故君が此処に!?」

「君の救援要請に応えに来たんだよ!!やっぱりあれ飯田君の珍しいミスだったんだね!!」

「まさか、君にまで送ってしまっていたとはすまない、危険な場へ……!!」

「今はいいよ動ける!?」

「何とか……だがネイティブさんを担いでは無理だ……!!」

 

確かに飯田は腕と足を怪我している、これでは担ぐ所か引きずるのも無理だろう。寧ろツルク星人相手に此処までの怪我で済んだのは幸運、ネイティブとやらもまだ生きているし助けられる。

 

「助け、られたんだ……本当の、ヒーロー殺しに……!!」

「ヒーロー殺しって……あのヒーロー連続襲撃犯!?」

 

目の前に立っている男の正体も思わず驚愕した、各地でプロヒーローを襲撃してきた凶悪犯。通称 ヒーロー殺し。これまでに17人を殺害・23人を再起不能に追い込んでおりインゲニウムを襲ったのもヒーロー殺しではないかと言われている。だがある時を境に現場には【KILL HERO】と刻まれた金属板を残すようになったというが……

 

「奴は俺を騙り、殺しを繰り返した」

「じゃあインゲニウムを、飯田君のお兄さんを襲ったのは……」

「そうだ、あのヴィランだ……!!」

『奴らしい手口だ……!!』

 

奇怪宇宙人 ツルク星人。嘗てウルトラマンレオが活躍した地球に出現し、その時にも多くの人々を手に掛けた。そしてその時にはレオを象った宇宙金属製のレリーフを現場に捨てて立ち去っており、レオを殺人犯に仕立て上げようとしていた。今回はヒーロー殺しへと転嫁する事でカモフラージュを行っていたのだろう。

 

「飯田ッそれだけじゃねえなどういう状況だこりゃ……!?」

「轟君!?」

「一先ず―――伏せろ!!」

 

直後、その場に焦凍が到着した。出久がこの場に来たように彼も偶然この保須市に来ていたのだろう、そして飯田の援護の為に足を運んでくれたのだろう。そして援護する為に素早く氷結を繰り出して飯田とネイティブを自分側に滑らせるように上手く調節しながら高台を作る傍ら、出久とステインの頭の上を走り炎を飛ばした。炎は真っ直ぐへとツルク星人へと向かって行くが―――回避しようとしたその動きは突如として停止し、まともに炎を浴びた。

 

「―――ッッッ!!?ッッッッッ!!!!!!」

 

炎に包まれ悶え苦しんだツルク星人はまるで強引に身体を縛った鎖を引き千切るかのようにしながら跳躍して逃亡していく、それを見たステインは舌打ちをしながらも飯田を一瞥した。

 

「……お前は生きろ、そしてインゲニウムにも伝えろ。貴様はもっと堂々としていろとな」

「―――何を」

「さらばだ」

 

そう言い残して、ステインは壁面を何度も蹴ってツルク星人を追跡するように消えていった。嵐のように去っていたそれらに思わず言葉を失っていると飯田に出久が駆け寄っていく。

 

「飯田君本当に大丈夫!?」

「あ、ああっ……だが済まない……俺がもっと確りしていれば二人を危険な場所に呼ばずに済んだのに……!!」

「ヒーローになるんだ、危険に首突っ込むのは当然だろ。肩貸すぞ、緑谷悪いけどこっちの人頼めるか」

「あっうん!!」

 

出久も焦凍も飯田の珍しい失敗に何も思ってはいない、寧ろ友達を助けられてよかったと心からホッとしていた。取り敢えず路地裏から出ようと歩く中、出久へとマグナが言う。

 

『取り敢えず彼を安全な場所へと送った後に追跡を再開しよう、ツルク星人は既にステインとやらにかなり追い詰められていたらしい。最後の炎にも唐突に動きが死んだがあれは如何したのだろうか……』

「(分かりません、でも相当なダメージは負ったって事ですよね)」

『恐らくな、だが油断は禁物だ。奴はまだまだ動けるはずだ』

 

そう言って路地裏から出た直後に三人は言葉を思わず失ってしまった。いきなり視界の中にあった巨大なビルが刃物で切られたかのように二つに裂けるようにしながら倒壊していった―――その先に巨大な影があった事に。

 

「なっ……んだありゃ……!?」

「か、怪物……!?」

「USJの、あいつよりももっと、大きい!?」

 

巨大な蜥蜴のような頭部を持ちながら全身は薄暗い緑色の体表で覆われているそれは先程のツルク星人と同じような巨大な刃を両腕に携えていた。それは振られる度に空気を切り裂きながらビルを容易く切り裂く程の切れ味を誇っていた。醜悪且つ邪悪、そして凶悪な本性を全身から溢れ出させながら咆哮を上げたその姿は正に奇怪。

 

『ツルク星人、巨大化したのか……!!』

「あれが、さっきの奴……!?」

 

To Be Continued……




USJ登場エレキング:約30m。  巨大化ツルク星人:52m。

このでかさのツルク星人にワン・フォー・オール100%のイズティウム光線打ち込んでも、ウルトラ戦士の牽制の光弾を受けた程度しか効果ないです。

あれはエレキングが小さかったからよく利いただけです。


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マグナ、Take me Higher!!

不気味な声を雷の如く轟かせ、腕の刃を振るう。頭部には火傷と思われる傷、そして身体中に残る切り傷。紛れもなく先程のツルク星人である事は間違いないだろうが、それは今までの鬱憤を晴らさんばかりに怒り狂っている。ビルを容易く両断しながら進撃し自らの力を誇示するかのように声を上げる。

 

「な、んだなんだよあの馬鹿でかいヴィランは!?あり得ねぇだろ!?」

「いいから早く避難誘導をするぞ!!」

「慌てないでこっちです!!」

 

大パニックとなってしまっている保須市、市民を逃がす為にプロヒーロー達が避難誘導を行うが彼らとて気持ちは同じ、未知の巨大な相手に対しての恐怖心でいっぱい。大きくなる個性を持つ者はいるにはいるがあそこまで巨大になれる個性などいない。

 

「私が奴を抑えます!!」

「マ、Mt.レディか!?」

 

そこに登場したのは偶然そこへと居合わせた巨大化個性の超大型新人とも言うべきヒーロー、Mt.レディだった。彼女も彼女で個性によって巨大化する事が可能でありその巨体から繰り出されるダイナミック且つ強烈な一撃を活かすのだが―――

 

「駄目だお前でも抑えきれんぞ!?サイズが倍ぐらい違うんだぞ!?」

「50m級だぞ!?お前確か20mそこそこだったろ!?」

「お前も避難誘導を手伝うんだ、そっちの方が大切だ!」

 

それでもMt.レディの巨大化限度は2062㎝、詰まる所約20.62mにしかなる事が出来ない。ツルク星人は52mの超巨体、それでも圧倒的な体格差で勝てる訳もないと皆がやめろという。あれほどの巨大であってもきっと有効な個性がある筈だからそれに任せるべきだと皆が言う、だがそれでもMt.レディは退かなかった。

 

「わ、私だって怖いのよ!!で、でもでも私だってヒーローなんだから、立ち向かわなきゃいけない義務が……あるのよ!!」

 

震えている、自分よりも遥かに大きな相手に対してMt.レディだって恐怖を感じ続けている。自分より大きい所か同格の大きさのヴィランすら中々存在しない程の体格差を作り出せるはずのアドバンテージを一瞬で崩され、優位性は消滅している上に相手にはビルを両断する刃がある。危険なレベルを凌駕しているのにも拘らず彼女は退く事もなく立ち向かおうとする、そんな恐怖に飲まれながらもブレる事のない矜持を見せ付ける彼女に一人が声を掛けた。

 

「―――新人がほざくじゃないか、ならばこのエンデヴァーが退く訳には行かんな」

「えっ―――エッエンデヴァーさん!?」

 

そこにいたのは№2ヒーローのエンデヴァーであった。焦凍を伴って彼もヒーロー殺しを追ってこの保須市まで乗り込んできた、そしてこの現場に遭遇した。ヒーローであるならばヴィランに向かう、ただそれだけだと言わんばかりに炎を燃え上がらせている。

 

「奴とて生き物だ、急所に炎を浴びせ掛ければ倒せる筈だ。Mt.レディ、奴の動きを僅かでいい封じろ、後は俺が引き受けよう」

「―――分かりました、こうなったらやったりますよぉ!!」

「新人の割にいい顔をする、期待させて貰おう」

 

そう言いながらエンデヴァーは足を高熱化させ、ビルの壁面を融かしながら駆けあがっていく。それに合わせるようにMt.レディはツルク星人へと走りながらギリギリの距離まで接近していく、そして―――巨大化しながら精一杯自分に出来る事をしようとした。

 

「行くわよ、キャニオンカノォォォオオン!!!」

 

 

「こっち、早く!!」

「飯田動けるか!」

「あ、ああ何とか……!!」

 

出現した巨大化ツルク星人、それを目の当たりにした出久は焦凍、飯田、そして負傷して動けず意識を失っているネイティブを伴って進路方向から逸れた方向へと必死に進みながら避難していた。まさか先程までの存在があんな巨大になるなんて思いもしなかった、矢張りマグナの世界はスケールがやばすぎる。と思いながらもそれを何とか出来るのは同時に自分だけではないのかと思う。

 

「―――轟君、飯田君、ネイティブさんを任せていいかな。僕行かなきゃ……!!」

「お前、何処に行く気だよ……!?」

「僕にもやれることがあるみたいだ、呼ばれてる!!」

「―――そうか、インターンの方か。では早く行くんだ!!其方でも手が必要な筈だ!」

「そういう事なら行け!」

 

細かい説明をしなかったのだが好意的な解釈をしてくれた二人に感謝しつつも路地裏へと入っていきながらツルク星人の方へと走りながらマグナへと問いかける。

 

「(マグナさん僕ならあいつを何とか……!)」

『無理だな、以前にも言ったがフルパワーのイズティウム光線でも体勢を崩す程度が精々。あのツルク星人を倒せる程ではない』

「でも、マグナさんなら何とかする方法は知ってるんでしょう!?」

『……ああ、マグナリングを使うんだ』

 

その時出久は一瞬でその言葉の先の意味を悟った、一度だけ使ったリングの力。爆豪を救う為にマグナと融合して戦う事が出来た、その時の姿ならばなんとかなるかもしれないという事なのだろうと。だがそれ以上の危険性を秘めているとマグナは警告する。

 

『言わなかったがあの時は私が意図的に融合率を下げて君の身体に対する負担を下げていた、だがあのツルク星人と戦う為に本格的な融合が必要になるだろう……』

「ならそれを!!」

『死ぬかもしれない、それでもいいのか』

 

冷たく突き放すかのような言葉が胸を突き刺した、姿こそ見えない筈なのに酷く鋭いマグナの瞳が向けられているという実感が全身を襲ってきた。

 

『あれを相手にするのはヴィランとはスケールが違う、君はその意味を理解しているか。これは地球のヒーローとしてではない、ウルトラマンとして君は戦う覚悟はあるか』

「ウルトラ、マンとして……」

『そうだ、この星のヒーローが行う戦いとは別次元のそれをする覚悟はあるんだな。それが本当の意味で戦うという事、私と本当の意味で融合し戦う、ウルトラマンマグナになるという事だ』

 

息が詰まる、舌が乾く、喉が枯れる、動悸が激しくなり、思考が鈍くなっていく。それらを感じる、これから自分が向かおうとしているのはUSJでのエレキングとの戦いと酷く似ているが全く違う領域に手を伸ばそうとしているのだ、その為の覚悟は本当にあるのか。酷く重い問いかけに詰まりながらも―――出久は叫んだ。

 

「僕は、僕は―――貴方みたいになれるなら本望です!!僕はマグナさんみたいな皆の光になれるようなヒーローになりたいです、誰かを傷付けて喜ぶような奴を野放しには出来ませんしこのままあいつをそのままにしたら凄い被害が出ます!だからお願いします、力を―――貸してください!!」

『……やれやれ私のように、か……ならばその目で確りと見て、身体で感じるんだ。これから君はウルトラマンとして戦う事を!!』

「はい!!」

 

瞬間、その指に嵌められていたマグナリングが一際強い光を放ち始めた。だが何処か暖かく優しい光が自分の身体から溢れてくるのも感じられた、それは紛れもなくウルトラマンの力―――だと分かった、そしてそれを感じながら指輪を掲げた。

 

マグナァァァァァァァァァッッッ!!!!!

 

 

「行くわよ、キャニオンカノォォォオオン!!!

 

ギリギリの距離まで生身で接近したMt.レディは突如巨大化して必殺のドロップキックをツルク星人へと浴びせ掛けた、先程まで感じもしなかった攻撃が腹部を抉る。自分よりも小さな存在の攻撃だろうと完全な不意を突かれたために有効に作用したのかツルク星人は呻き声を上げながら後方へと下がった。そしてそれを見逃がさずビルの屋上へと達したエンデヴァーは腕の炎の温度を一気に引き上げ、青い炎を作り出す。

 

「貴様とて生物、ならば頭部への炎は利くだろう―――そこだぁ!!赫灼熱拳ジェットバーン!!!!!

 

腕から放射される完全燃焼の青い炎の奔流、それは体勢が崩れたツルク星人の頭部へと浴びせ掛けられて行く。しかも的確に火傷を負っていると思われる部分のさらに脆い部分、瞳へと命中させる事に成功する。エンデヴァーの必殺技である赫灼熱拳、それを受けて絶叫のような声が上げられる。これは流石に利いただろうと皆が確信する中で刃が振られて一瞬で炎がかき消されてしまった。

 

「な、なんだと!!?」

「エ、エンデヴァーさんの炎が利いてない!!?」

 

そこにあったのは炎によって多少なりともダメージは負っているが、なお健在であるツルク星人の姿であった。更に大きな雄叫びを上げると手始めと言わんばかりに目の前のMt.レディへと向かって刃を振り下ろす。

 

「キャアアアッッ!!?」

 

咄嗟に後ろに飛んで回避する、が先程まで居た場所には深々と痕が残されており自分等あっさりと両断されてしまうという現実が押し寄せてくる。それによる恐怖はあっという間にMt.レディの精神を食い破っていく、身体の制御すら容易く奪う恐怖に支配されていく。

 

「あ、ぁぁぁぁっ……!!」

「もう一発来るぞ回避しろぉ!!」

「(だ、駄目っ身体が……!!)」

 

指一本動かせない、絶対的な恐怖によって肉体が縛られている。そして刃を振り下ろさんと迫るツルク星人、エンデヴァーは援護の炎を放つがその炎を受けても軌道を変えるこそすら出来ない。刃が彼女の肉体を貫かん、としたその時だった。Mt.レディの身体を眩いばかりの光が包み込んだ、ツルク星人の一撃は容赦なく炸裂……したはずだったがそこには彼女の姿はなくただ道路を貫いただけだった。

 

「何……何だあれは……!?」

 

その時、皆が見た、あらゆる者がその場を見た。夜を昼間に変えんばかりの圧倒的な光が街の中にあった、それは周囲を照らしながらもその胸にMt.レディを抱き抱えるかのように佇んでいた。彼女に怪我はなく、光は彼女を守っていた。

 

「―――い、生きてる……の?」

 

何時までも訪れない痛みに恐る恐る目を開けるとそこは光の中だった、だが何かに抱き抱えられている感触だけが分かった。ゆっくりを顔を上げてみると―――そこには光の奥にあった銀色の優し気な顔をしていた巨人が自分を見下ろしていた。突然すぎる事に声も出ない、そんな自分を、20mもある自分を簡単に抱き抱えられる巨人は優しくゆっくりとMt.レディを地面へと降ろした。

 

「えっあっ……ありが、とう……」

 

思わず出た感謝の言葉に巨人はゆっくりと頷いた、その時に変化のない筈の巨人が僅かに笑った気がした。そして―――巨人は立ち上がりながら振り返ると拳を握りながら構えを取りながら叫んだ、お前の相手はこの私がすると言わんばかりに……。

 

「デュワァッ!!!」

 

光の巨人、ウルトラマンマグナが初めて真の姿を地球にて見せた瞬間だった。




せ、戦闘まで入らなかっただと……!?


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保須の巨人

「何だ、あれは……!?」

 

誰もが驚いた、誰もが目を見開いた。逃げ惑う人々ですら、人々を誘導するヒーローですら、先程まで戦っていたエンデヴァーですら―――そしてそれらは中継ヘリを通じて日本中へと拡散されていく―――夜の闇を光で照らし払い除けるような巨大な光の巨人を。

 

『―――きょっ巨人です!!巨大なヴィランとほぼ同サイズの巨人が出現しました!!わ、私の目が確かならば、あの巨人は勇敢にも立ち向かったMt.レディを救ったように見えます!!彼は味方なのでしょうか、それとも凶悪なヴィランなのでしょうか!!?』

 

我を忘れていたレポーターは懸命に自分の役目をこなそうとする、状況を余さず正しく伝える為に言葉を尽くす。それに応えるようにカメラマンも巨人へとカメラを向け、ヘリも旋回するように巨人を映し出している。その腕にはMt.レディが抱かれており、まるで割れ物を扱うかのような優しい動きで彼女を地面へと降ろすと静かに頷きながら振り向くとビルを切断する程の凶悪ヴィランへと―――ファイティングポーズを取った。

 

「デュワァッ!!!」

 

 

『こ、これがマグナさんとの本当の一体化……!!』

 

光の中、無数の光の中にいると表現するべきだろうか。出久はその中で自分が巨人となった感覚を味わいながらも急激に高くなった視点に映り込んでいる街に言葉を失いそうになりつつも眼前で吠えて此方を威嚇しているツルク星人へと意識を向ける、だがそれよりも先に身体が戦闘態勢を取った。そのまま走り込みながらその刃を振り下ろさんとするツルク星人、だがマグナは一切動かない。迫りくる刃、今にも切断せんと迫るそれを―――

 

『出久君よく見ておけ、これが―――ウルトラマンマグナだ!』

『嘘ぉ!?』

「ディァ!!」

 

両腕であっさりと受け止めた、出久も見ていたがツルク星人のそれはビルをも容易に両断する程異常な切れ味を秘めているのにそれを両腕であっさりと受け止めて見せる。そのまま両腕を勢いよく開きボディをがら空きにすると素早く正拳突きを叩きこむ。重々しい打撃音が町中に木霊して、Mt.レディの不意を突いた攻撃以上のよろめきを見せた。間髪いれず前へと出て放った小規模の爆発を伴うほどの痛烈なアッパーが、残虐な宇宙人の身体を宙へと舞い上がらせる。

 

「凄い……」

 

まるで動けなくなっている自分をも護ってくれている巨人の圧倒的な力に、Mt.レディは普段ならば自分の専売特許と言っても過言ではない巨大化戦闘を奪われて文句を言いかねなかったが、今は素直にその光景に見惚れていた。アスファルトの地面を隆起させ、舞い上がらせながらも倒れこむツルク星人、それは再度立ち上がりながらも更に速度を上げた一撃を放とうとするが既に見切っているのか前へと出たマグナは腕を弾けながらも連続で蹴りを炸裂させていく。

 

「デュァッ!!!」

 

その時、一瞬だけ見えた。マグナの身体が僅かに光を纏っている事に、その光が刃が身体に到達する前に防いでいるようにも見えた。ツルク星人自慢の腕の刃は完全に無力化されているに等しい、だがそれでも暴れる事もやめない相手をマグナは腹部に一撃を入れながらも50mにも及ぶその巨体を持ち上げると地面へと投げ付けた。

 

「な、なんてパワーなの……!?」

 

圧倒的な力だけではない、先程からあのヴィラン(ツルク星人)は周囲に行こうとする前に攻撃を受けており逃げるにもまず巨人を倒さなければいけない状況を作り出されている。そして巨人は周囲への被害を考えながら避難が終わっている道路からヴィランを逃がそうともしない、格が違う戦闘力と状況判断能力、全てが次元違いそれを見せ付けられたMt.レディが思わず抱いた思いは……彼女が皆に与えてきた安堵と近い、酷く暖かく物だった。

 

 

「凄まじい、あれこそが正義のあるべき偉大な姿……」

 

それを見ていたのはツルク星人を追っていたステインも同じだった、巨人にどんな意図があるのかは直ぐに理解出来た。あれは人々を救う為に姿を現し戦っているのだと理解出来た、その姿は自分が最高のヒーローと思い描くオールマイトとも酷く共通していた。あれこそがヒーローが戻るべきあるべき姿、誰かの為に力を振るい、平和を脅かす刃から人々を守る究極の英雄。あれこそが……

 

「―――ッ……」

 

そんな時だった、自分が握っている刃が酷く薄汚れているように映った。自分も分かっていたのかもしれない、如何するべきで何をすべきなのかを……だが自分には勇気がなかったのかもしれない、だから安直で簡単な方法を取ってしまった。誰かに差し向けられて上げるべき花ではなく、誰かに差し向けてしまう拳を取った。

 

「……光の巨人……」

 

最後に言い残すとステインは刃に残っていたツルク星人の血を舐めてからその場から去っていく、その足取りは不思議と―――初めて感じる程に軽く前向きだった。

 

 

『マ、マグナさんまたあいつの動きが!!』

『よしっ一気に決めるぞ!!』

 

再びツルク星人の動きが不自然に止まった、それはステインの個性によるものだった。彼の個性は凝血、相手の血液を摂取することで、相手の身体の自由を最大で8分間まで奪う個性。だがそれは異星人であるツルク星人にはほんの一瞬動きを奪う程度の効力しか示さなかった、だがそれで十分だと言わんばかりにマグナは両腕にエネルギーを集めながらそれを一気に収束させていく。

 

「デュェッッ……デュア!!!」

 

深く踏み込みながらも両手には超回転する二つの光輪が存在していた、それをUSJのように投げるのではなくそのまま保持したまま相手の刃目掛けて振り抜いた。二つの八つ裂き光輪(マグナスラッシュ)はツルク星人の両腕の刃を一瞬で切断する、それによって最大の武器を一瞬にして失ったツルク星人は絶叫を上げる。

 

「ァァァァッ……デュオオッ!!!」

 

畳みかけるかのような迫ってきたマグナが赤く輝く拳をツルク星人へと炸裂させた、その一撃は頭部を抉るようにヒットした。その拳から光が全身を包み込むように浸透していくとゆっくりとツルク星人は倒れこみながらも光へと還元されていくかのように消え去ってしまって行く。

 

「か、勝った、の……?」

 

静かに放たれた彼女の声に応えるかのようにゆっくりと振り向いた巨人は静かに頷いた、そしてMt.レディには分かった。彼はこのまま去るのだと、唯まだ行かないで欲しいという思いで溢れていた。たった一言、それを聞いてくれるだけでいいから待って欲しい、頭の中を駆け巡っていく言葉の数々、その中で最適な言葉は何かと。自分の気持ちを伝えられる言葉は一体何なんだと今までにない程に頭が回転して導き出した言葉は……

 

「有難う!!」

 

酷くありきたりで当たり前な言葉だった、もっといい言葉があっただろうに思う。自分は命を助けられて自分の代わりに戦ってくれたような相手なんだからもっと感謝を込めた言葉があっただろう、なんて馬鹿なんだろう。これじゃあ幼い子供と同じじゃないかと自罰的に成る中、そこにあったのは此方を見てながら心なしか笑顔になりつつも頷いている巨人だった。それだけで十分だと言わんばかりだった、そして彼は空を見上げ……

 

―――デュオッ!!

 

空へと飛び立っていった。唯々それを見送る事しか出来ないヒーロー達は純粋にその力の凄まじさに驚き、自分達では対処すら出来なかったヴィランを倒してくれた事に感謝した。突如として現れた彼は保須の巨人と呼ばれる事になったという。




『あと一応光線は使わなかったから君との関係性も疑われにくい筈だ』
「えっ戦いながらそんなことまで!?」
『私これでも勇士司令部所属のエリートだからね、この位軽い軽い―――Uキラーザウルスに比べたらね』
「いやあの、比較対象可笑しくありません……?」

やってみたかった事、ギャラクシーファイトのエース兄さんみたいに八つ裂き光輪で斬りかかる。


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光へのクエスチョン

「保須じゃあ悪かったな小僧、お前一人を行かせる事になっちまった。戸惑っちまってな」

「い、いえあの状況ならしょうがないですって!!」

「まあ混沌としとったからなぁ……」

 

チラリと目をズラしてTVを見ればそこには保須で起きた大事件、そしてそこに突如として現れた謎の巨人に関するニュースが引っ切り無しに報道され続けている。№2ヒーロー・エンデヴァーの一撃すら物ともしない超巨大ヴィラン、それを倒す為だけに現れた巨人。圧倒的な力でヴィランを倒すと空の彼方へと消え去って行った正体不明の存在。現在のヒーロー資格制度の観点から見ると正体も個性も不明である上にあそこまでの力を持っている物を野放しにする事は危険でしかない、それ所かツルク星人とのマッチポンプすら疑う声すら上がっていた―――がそれに真っ向から反論したのが現場にて巨人を見たヒーローや民衆。

 

『マッチポンプとかふざけた事言うんじゃないわよ!!あの巨人が居なかったら今どうなっていたか分からないの!?私は命を救われたしエンデヴァーさんの炎すら受け付けないあいつを如何やって倒したって言うのよ!!?ヒーローの資格が何ヴィジランテが何よ!!?私達がするべきなのは感謝でしょうが!!それを最初から疑ってかかって恥ずかしくないの、素直に有難うすら言えないの!!?』

『俺も同意見だ、恥ずかしい話だがMt.レディに隙を作り後を任せろと偉そうな事を言った癖に俺は何も出来なかった……フンッそんな俺ですら理解出来た事が貴様らには出来んのか。愚かだな、あれは言うなればオールマイトの同類のような存在だ』

 

その中心となっていたのが実際に助けられたMt.レディ、ツルク星人に自分の力が通じず無力さを痛感したエンデヴァーだった。あのプライドが高いエンデヴァーが素直に自らの力の無さを認めながら巨人の善性をオールマイトに近いと断言する、それが世間を驚かせながらも保須にて現れた事から通称保須の巨人と呼称された巨人を好意的に受け入れていく要因にもなったという。その一方であのようなヴィランに対する備えが必要なのでは、という話が持ち上がっており様々な意味で世論は盛り上がりを見せていた。

 

「グラントリノはその、あの巨人についてはどう思います?」

「何とも言えんというのが素直な感想だな、謎が多すぎる―――があいつはきっと俺達の側の存在ってこたぁ確かだぜ」

 

グラントリノは空からその戦いを見つめながら巨人が周囲に配慮しながらも後ろにいたMt.レディを守り続けている事を理解していた、そして礼を言われた際に嬉しそうに頷いた事も。それらと自分の勘を総合するとあれは絶対に自分達の味方だと確信を持ちながら何処か不敵な笑みを浮かべた。それに対してその正体とも言うべき出久は思わずほっと胸を撫で下ろしてしまった。

 

『私は意外な展開だね、非難されたり今度は攻撃するべきだとか言われる事も覚悟していたんだけどね』

「(ウルトラマンでもそういう事ってあるんですか!?だってマグナさんは保須を守ったのに……)」

『君からすれば私はよく知った存在だし私の人格も知っているだろうが、他の人たちからすれば私の本当の姿が余りにも巨大だし謎だらけ。そんな存在に歩み寄る事は本当に勇気がいるし大変な事なんだよ、寧ろそれに対して警戒する事は正しい事だ。メビウスのデビュー戦なんかバカヤロー呼ばわりされたらしいからね、まああれは彼が未熟だったせいだけど』

「(ウ、ウルトラマンにバカヤローですか……メビウスさんに原因があるとはいえよく言えましたね……言った人……)」

『ある意味で伝説だよね』

 

ウルトラマンとて最初から全てに受け入れられるわけではない、様々な考えをする人からすれば強い力を持った存在はそれだけで恐怖や警戒すべき対象と成り得る。何時までも味方で居てくれるわけではないと考える人もいる、だがそう思うのは正しいし逆に自分の星の力を高めて今度は自分達だけで対処出来るようにもなる事は良い事だとマグナは語る一方でその思いが真逆に向かう事がある事を知っている。

 

『大切なのはバランスですよ、何事も陰と陽、表と裏が必要なんですよ。光があるからこそ闇もある。闇があればこそ……また光もある、私の好きな言葉だ』

「光があるからこそ闇がある……その逆も……」

「何だ小僧、中々分かったような事言うじゃねぇか」

「えっあっその!?」

 

如何やら思わず口に出てしまっていたらしい、咄嗟に以前オールマイトより前に自分を見てくれて人が呟いていた言葉として誤魔化すのであった。

 

「まあいい、あの一件で色々と時間やらを取られちまった。残りは保須周辺で活動をするぞ、それはそれで復興の手伝いにもなるしな」

「分かりました!」

 

グラントリノの後へと続いていく出久、その中で出久への応援をしながらもマグナは静かに拳を握る。保須での一件で初めて行った本格的な一体化による巨大化、いやマグナからすれば元の姿に戻っての戦闘は彼が思っていた以上だった。悪い意味ではないのだがそれでもこれはある意味考えさせられる内容でもあったらしく思考を巡らせている。

 

『今まで意識もしていなかった、だがそうと考えるべきなのだろうなこれは……』

 

ツルク星人との戦闘、その刃を警戒してエネルギーを纏う事で身体を強化していたがその時に気付いた。自分の力が増している事に漸く気付けた、以前出久の身体を使って戦った時には感じられなかった大きな力のうねりが存在している事に。

 

『私と出久君は一心同体、つまり共にあり同じ存在……』

 

そのうねりの正体は継承され、次へと託され続けてきた平和への純粋な願いの結晶、紡がれてきた希望の光。その光はまるで―――ウルトラマンの力に極めて酷似している、元々そうであったのではなく授かった者達がそう願い続け、そうあれかしと走り続けてきた末にそうなった。その力の中に自分の力を感じ、それを自分も行使出来るようになっている事にマグナは気付き理解する。

 

『成程……これは思っていた以上に凄い事だ。何者にも負けず、決して折れない力……強く崇高な物だ』

 

―――、―――。

 

振り向けばそこには光が形作った人影があった、それは明確な意志を持ち投げかけられた言葉に返答を返した。それは微笑んでいた、そして同時に酷く喜び自分を歓迎していた。そんな存在に会ってみたかったと。そしてそれは告げた、そしてそれは既に考えていた事を貫いた。そして彼自身も笑みを浮かべた。

 

『これも何かの因果、という奴かもしれないな……』

「(マグナさん戦闘に入ります!)」

 

とそこで思考は中断される、出久はグラントリノと共にヴィランと遭遇して戦闘に入ったらしい。グラントリノが望んでいたかのような彼自身とは全く別のタイプの高速移動タイプの個性を用いるヴィラン、それをフルカウルで対応する出久を見つめながら僅かに言葉を漏らす。

 

『おおっさてどうやって君は捉えるかな?というか凄いな、分身してるし……なんかスラン星人みたい』

「くっどれが本物なんだ!?」

『逆に考えるんだ、本物を探すんじゃなくて幻を全て消せばいいさっと』

「あっ成程!!」

 

この後、出久は徐々に速度を上げていきヴィランの速度に追いつきながらも速度を利用して生み出される幻影を全て消し去っていき本物をあぶりだすとそこへスワロースマッシュを浴びせ掛けて見事確保するのであった。

 

『マックスを思い出させるヴィランだったね、それにしても本当にやるなんて……ワン・フォー・オールの出力上限上がってるんじゃないかい?』

「(僕も少しは成長できてるって事ですね!!)」



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未来への飛翔

「グラントリノ、一週間本当にありがとうございました!!」

「礼を言われる程はしてねぇよ」

 

最終日も無事に終わりを迎え保須から戻って来た出久はグラントリノに対して最後の挨拶を行っていた。これで職場体験は終わりになってまた雄英高校での毎日が再び始まってくる、その毎日ではこの職場体験で目に焼き付けた空間戦闘の研究や飛行訓練に当てて更なる高みへと目指そうと思っている。まだまだ自分は成長できる可能性を秘めているのだと実感出来ただけでもこの職場体験はあり得ないほど有意義だったといえる。そんな自分に不敵な笑みで逆に礼を言われた。

 

「礼はこっちだ、もう隠居の身で静かに鯛焼きを喰う事だけが楽しみだったがお前が来てくれたおかげで今日まで刺激的な毎日だったぜ」

 

オールマイトが寄越した弟子、その実力は確かな物だった。雄英体育祭準優勝は伊達ではなかった、これからが楽しみだと言わんばかりにしつつも昔の感覚が戻った影響か少々疼いてしまっている。出久が帰った後にパトロールにでも繰り出すか……と思っていると今まで聞きたかったのだが聞けなかったという質問が飛んできた。

 

「僕はヒーローマニアって周囲から言われてますけど、そんな僕でもグラントリノの事は全然知りませんでした。オールマイトの先生なのに如何して無名なんでしょうか」

「そりゃ俺は名を売る事なんて興味がねぇし活動にも興味なかったからな。資格を取ったのもそもそもが個性の自由使用が認められるからだ、その為だけに取ったみてぇなもんだ」

「そ、そうなんですか!?」

『自由使用、ね……成程、聞いた通りという事だ』

 

何かを知ったかのような口ぶりをするマグナだが、出久はそれに気を回す事も出来なかった。もう直ぐ新幹線の時間が迫っているのだ、そろそろ駅に向かわないといけない。

 

「まあこの先はオールマイトに聞くといい、小僧―――精進せいよ」

「はいっ!!」

「そして―――誰だ君は?」

 

駆け出そうとした出久へと投げかけられた最後の問い、それを受け取った出久は片足で回転しながら振り向いて答えた。

 

「僕は―――ウルトラヒーロー・イズティウムです!!」

 

そう言って立ち去っていくイズティウムの後姿を見送ったグラントリノは無性に身体が疼いてきてしまった、如何にも昔に身体だけではなく精神性も戻ってきているらしい。早速パトロールにでも繰り出そうと思いながら空を見上げる、澄み切った青い空、平和の象徴が次代の自分を託した弟子はこの空でどんな風に輝くのだろう、どんな風に駆け回って、成長して、大きな星になるのだろう……本当に楽しみになって来てしまった。

 

「もう少し長生きするのも悪くねぇかもな……あの巨人の事もあるしな」

 

 

「本当に済まないな緑谷少年、今日はまだ休みなのに……職場体験での疲れもまだ残っているのではないかい?」

「いえグラントリノには良くして貰いましたし、マグナさんに回復光線を一応撃って貰ったので全然平気です!」

「そうか……」

 

帰ってきた出久は一旦家へと帰ってそこで母に色んな事を話したりしながら職場体験後の数日の休みを使おうとしていた、そんな時にオールマイトからの呼び出しの電話がやって来たので修行の場所として使っていた海浜公園へと訪れていた。マグナはきっと自分達の事だろうと言っていたのであのヴィランや変身の事なのだろうと出久も予想はしていた。

 

「あっそうだ、グラントリノさんには上手く言っておきました。なんだか凄い喜んでましたよ」

『その辺りは私も一応フォローしておきましたから大丈夫ですよ、まあグラントリノさんからしたら随分と貴方が成長していると思いますから別の意味でハードルは上がってると思いますが……』

「あっ有難う緑谷少年そしてマグナさん!!ああっこれで漸くストレスから解放される……い、いえその辺りは私が頑張ればいいだけですので……」

 

口からとんでもない溜息の塊を吐き出して胸を撫で下ろすオールマイト、一体どんな修行をグラントリノにさせられたのだろうか。曰く唯々ひたすらに実戦訓練でゲロを吐かせてやったと言っていたが……それだけで此処まで恐れるのだろうか……。暈かしているだけで本当はレオの修行並みだったのではないだろうか……。

 

「そ、それでマグナさんお聞きしたい事があります……保須に現れたあのヴィランについてです」

『ええ、あれは私の宇宙にも存在する凶悪な宇宙人です。奇怪宇宙人 ツルク星人』

「矢張り……あれがマグナさんが戦ってこられた存在の一つという訳ですね」

『私自身は戦闘経験はありませんが知識としては、それにあれは強さ的には弱い部類ですので』

「あれで、ですか……」

 

それを聞いてオールマイトは腕を組みながら思わず言葉に詰まってしまった、ツルク星人による保須の被害はマグナによって最小限に抑えられているがその破壊力に政府は強い危機感を感じているとの事。エンデヴァーですら力の無さを実感し現在は力を高める訓練をし続けているとの事。

 

『他にも宇宙人がこの地球に潜伏しているかもしれませんね、このメダルの事もありますからね』

「これってUSJにいたあの怪獣の……」

『ああ、恐らく光の国の技術を応用した物だろう……』

 

出久の掌に出現したエレキングが刻まれているメダル、此処には怪獣の力そのものが秘められている。これを生み出した存在へも迫っていく必要がある事だろう、現状としては手掛りも何もないのでグルテン博士の解析待ちとしか言いようがないだろう。

 

「それについてなのですが、実は政府は様々な者へと声を掛けてまたあのようなヴィランの出現に対して備えを行おうという動きがあるのです」

「つまり、怪獣や宇宙人に対する組織って感じですか?」

「端的に言えばそうかもしれないね、ヒーローは何方かと言えば警察に近い事しか出来ない。しかしあれらに対してはそれでは不十分だという意見がエンデヴァーから寄せられており、それに多くのヒーローが賛同しているんだ」

 

それを聞いて思わずマグナの脳裏に様々なチームが駆け巡った、それこそ嘗てウルトラ兄弟たちが守った地球でも数々のチームが存在している。それがこの地球でも誕生するかもしれないという事に興奮するなという方が無理があるかもしれない、出来る事ならば参加したい、そしてそのメカを操縦したいという思いがマグナの中でマグマの如く噴き出したりしている。

 

「既に発目少女をその組織にスカウトして様々な発明をさせるべきなのではという意見もある程でね」

「は、発目さん凄い!!?いやでもそれ大丈夫なのかな現状でもあれなのに……」

「最近は何か大人しいって話だよ……なんかパワーローダーがストッパーになってるとかなってないとか……」

「だといいんですけど……」

 

今まで主にターゲット&実験体として犠牲になり続けてきた出久としては不安でしょうがなくてしょうがない、そんな組織にスカウトされるのは良いだろう。彼女の技術力はファントン星人との合作でもあるしこれから訪れるかもしれない宇宙怪獣にも通用する可能性は大いに高い……が、彼女唯一のネックとなっている開発資金云々が全部解決してしまうので、今まで以上にハッチャけるのではないか……と不安になってしょうがない……。

 

「マグナさん、仮にそんな組織が出来たとして発目さん大丈夫でしょうか……?」

『……あ~まあうん……私達が頑張ってストッパーになるしかないかも』

「やっぱり……というか、そうなったら僕も自動的にその組織に組み込まれたりするんでしょうか……」

「あ~……うん、普通にありそうだね」

 

オールマイトの自信無さげな言葉に思わず出久は頭を抱えるのであった。

 

「そ、それはそうとあれがマグナさんの真の姿なのですな!!いやぁ素直にカッコよかったです、私も恥ずかしながらドキドキワクワクしながらあの中継を見ていましたよ!!」

『そう言って頂けると少し恥ずかしいですね、それに私なんてまだまだですよ』




今作品に他のウルトラ戦士を参加させるか否か、というアンケートを取る事にしました。
と言っても第一話にゼロとかゼット出てますが……今マグナがいるヒロアカ世界の地球に登場させるか否かという事になります。

皆さんのご意見お待ちしてます。


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胎動する悪意

職場体験後初の登校日、僅かな間しか会わなかっただけなのに揃ったクラスメイト達をみると何故か久しぶりという感情が浮かんできてしまうのは何故だろうか。自分にとっての1週間がそれ程までに充実していたという事だろうか、他の皆がどんな日々を送って来たのはか分からないが客観的に考えると自分のそれは相当に濃い日々だったと振り返る事は出来た。

 

「えっ~ヴィラン退治までやったの~!?」

「まあ退治って言っても避難誘導した位で戦ったわけじゃないよ」

「それでもすごいよ~」

「私も基本トレーニングとパトロールばかりだったわ。一度、隣国からの密航者を捕らえた位かしら際立ってたのは」

「「いやそれ凄くない!?」」

 

「やっぱり、僕の職場体験って相当あれだったのかな……」

『まあ客観的に考えたらそうだろうね』

 

本来職場体験はプロヒーローの空気を感じるに留める、何故ならば生徒はヒーロー達からすればお客さんという立場に近いので守るべき対象である事に変わりはない。が、グラントリノは完全にワン・フォー・オールの継承者を鍛え上げる事に集中していたのでその内容も相当な物だった。

 

「お茶子ちゃんは如何だった?」

とても……有意義だったよ

「目覚めたのねお茶子ちゃん」

 

バトルヒーロー・ガンヘッドの事務所に行った麗日は何やら目覚めたのか、見事な正拳突きを見せながら構えを取っている。あれはあれで特殊な感じもしなくはないが……。

 

「お前はMt.レディの所だったんだろ、如何だったんだよ」

「最早家政婦扱いだぜ、しかも最後辺りなんて肝心のMt.レディは事務所にいねぇことばっかりだったし」

「あ~……あの保須の一件でMt.レディは中心に居たようなもんだもんなぁ」

 

一時的に保須へと行っていたMt.レディだが、保須の巨人(マグナ)に助けられた事でそれに関するコメントを求められたりして番組出演などで忙しかったらしい、が最終日に峰田は全く違う彼女を見たという。

 

「あのMt.レディがよ、窓の外を見ながら頬杖付きながらため息ついてたんだぜ!!しかも、またお会いしたい……なんて事を言ってよ!!」

「それってもしかしてMt.レディがあの保須の巨人に惚れてるって事か!?」

「あれは間違いねぇな確実に恋する乙女の顔だったぜ!!」

 

それを聞いて思わずマグナはやや渋い顔をしつつ頬を欠くのであった。単純に助けただけで下心があったわけでもないから少々困った事になったなぁと声を上げるのであった、これは次会った時が少し怖くなってくるかもしれないなと出久と共に苦笑する。

 

「でも一番大変なのはお前ら3人だろうなぁ、あの馬鹿でっかいヴィランと遭遇したんだろ!?」

 

そんな中向けられたのは当然出久、飯田、焦凍の三人であった。保須市にいただけではなくその場でヴィランによる攻撃などを受けている、特に飯田は入院する程度には傷を負わされてしまっている訳だから一番大変だっただろう。

 

「本当に驚いたよ、俺達の前では普通の人間と同じサイズだったからな。まさかあそこまで巨大化した時は言葉を失ってしまったよ」

「全くだ、個性って奴はそこが知れねぇもんだと思い知らされたぜ」

「本当だね……僕も本当に驚いたよ」

 

と同調するだけにしておく出久、本当は別れた後に変身してその巨大化したヴィランと一戦交えたなんて言える訳もない。そんな中で爆豪は何処か冷めたような瞳を向け続けている。

 

「……」

「カッちゃんは如何だったの職場体験、ベストジーニストの所に行ったんだよね?」

「くっだらねぇ時間だったぜ……何がジーンズだクソが……」

 

悪態をつきながらそっぽを向く爆豪、如何やら今回の職場体験は彼にとっては全く有益な物にはならなかったらしい。指名された中でも実績も地位も高い事務所であり学ぶところもあるだろうとベストジーニストの事務所を選んだのだが……ジーンズ着用を強制された上に性格を治せやら言動を正せなどばかり言われて酷くげんなりとしてしまった。

 

 

「フッフッフッ緑谷さん逃がしませんよぉさあさあこちらに来てください来てくださいちょっとお話があるんですよ良いですよ良いに決まってますよね痛くなんてしませんから多分!」

「信用がないよ発目さん!!?」

 

昼休み。そんな勢いの発目に連行されていく出久、連れて行かれた先の談話室では一足先に食事を楽しんでいるグルテンの姿があった。そんな光景にも慣れ始めてきたこの頃、そして発目のこれにも段々慣れている感じがして驚きが日に日に小さくなっていく事に恐ろしさすら感じつつある自分がいる。

 

「おおっ良く来てくださいました、マグナさん先日の保須市では大活躍でしたね。噂に名高き光の巨人のご活躍をこの目で見られて幸せな限りです」

『それはどうもありがとうございます。しかしなぜ今回はお呼びに、ツルク星人のサンプルならありませんよ』

「ええっないんですかぁ!!!!???ショックです……」

 

と床に手を付いてガチ凹みをする発目に罪悪感を覚えないでもないのだが……今までが今までなので残していたら何が生まれるか分からないのできっと正解なのだろう。

 

「実はですね、以前からお願いされていたエレキングメダルの解析ですが漸く完了しましたよ。矢張り貴方の懸念通りにこれは光の国由来の技術が大本になっていますね」

『矢張り……』

「ウルトラマンの力を宿す技術、それならば怪獣の力を宿らせる事など容易い事でしょうからね……ですがこれはまた違う技術も使われている、私も見た事がない物です」

「グルテン博士が見た事がない技術……!?」

「興味深いですよねぇ宇宙は奥深いですよねぇ」

 

と凹みながらも同意する発目はスルーしながらもグルテンは言葉を続けた。

 

「加えて今回のツルク星人の犯行、私には何か……陰謀の影があるように思えます」

「影……」

『ええ、それには同意します……ツルク星人を倒した時に感じましたが……恐らくあれもメダルによって具現化した存在、きっとまだまだ出てくるでしょう』

 

それはマグナの直感に等しい言葉、確証もないが……今までの経験が何かを訴えかけてきている、この地球で何かが起こり始めていると。そしてそれは明確な巨大な渦となって個性社会を脅かそうとしている。

 

 

―――さて次はこれを試してみるか、怪獣を超える存在を、お前にもなじみ深いだろう、マグナ……。



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過去からの問いかけ

授業が終わり放課後となった時だった、出久はオールマイトからの呼び出しを受けて談話室へとやって来た。何やら話しておきたい事がある上にかなり重要な事になると言っていた、なのでどんな話になるのかと思いながら扉を開けるとそこにはいつものとは違う雰囲気を纏っているオールマイトは既に腰を降ろして自分達を待ち侘び、静かに掛けたまえと促してきた。普段のそれと違う故に出久は戸惑いを覚えながらも前に腰掛けるとマグナがその隣に出現する。

 

「今回此処に呼んだのは他でもない、今まではなそうとしてきたのだがなかなか言い出せなかった事があったんだ。だが今日こそはそれを話そうと思う」

「それって一体……」

『恐らくだがワン・フォー・オールについて、だろうね』

「っ……!!」

 

その言葉に解り易い程にオールマイトは驚きながらマグナへと視線を向けたのだった、矢張りそうでしたかと言いながらもう少し腹芸を覚えた方がいいですね軽く茶化す。それに僅かに苦笑いを浮かべながら申し訳ないと謝りながらも何やら気持ちが楽になったのか、回りやすくなった舌を動かしながら本題へと入っていく。

 

「ワン・フォー・オール、その成り立ちに関わる事さ。マグナさんも薄々察しているかもしれませんがワン・フォー・オールはある個性から派生して誕生した物です……その名はオール・フォー・ワン、他者から個性を奪い我が物とし更に他者へと与える事すら出来る個性」

「皆は一人の為に……あっワン・フォー・オールって……」

『One for all, all for one. ラテン語の成句、Unus pro omnibus, omnes pro uno の英訳、チームワークの精神を表す言葉ですね。初めてその個性の名前を聞いた時、思いました。そしてワン・フォー・オールの性質を考えるならば、それもおのずと名が体を表す』

 

それは超常黎明期、社会がまだ変化に対応しきれていない頃の話。突然生まれ出た個性という存在によって従来の人間という規格が崩れ去ってしまった、生まれたのは新たな差別と恐怖、それだけの事で法は意味を失い、文明が歩みを止めた。『超常が起きなければ、今頃人類は恒星間旅行を楽しんでいただろう』と指摘する学者もいる。そんな戦慄と恐怖が同居していた時代の中で―――いち早く人々を纏め上げた人物がいた……それこそが個性、オール・フォー・ワンの所持者(ホルダー)

 

「彼は人々から個性を奪いながらも圧倒的な力によってその勢力を拡げていった。計画的に人を動かし、思うままに悪行を積んでいった彼は、瞬く間に悪の支配者として、日本に君臨した」

『今のような時代ではなく、まだ個性に対する理解も十分でなかった時代であればそうでしょう。個性によって人生が狂った、個性によって人生が狂わされた、そんな人々の心の隙間に入り込み個性を奪ったり与えたりすれば自らの配下として手中に収める事になる』

 

突如個性が発現した、個性によって暴力を振るわれた。それによって生まれる怨恨を解決する手段として個性を奪い無個性へ、与える事で対抗出来る個性を。人間の心を良く理解した上手いやり方だとマグナは思う傍らで自分が居た宇宙での出来事と思わず重ねてしまう。

 

「そんな、事が……でも、これがワン・フォー・オールの誕生とどんな関係が……」

『与える個性でもある、恐らくそこだろう……脳無と呼ばれたあのヴィランもきっとそんな風に誕生したのだろう』

「恐らく。そして彼には体も小さく病弱ですが正義感の強い無個性の弟が居たそうです、兄の所業に心を痛めながら抗い続ける男だった」

 

だがそんな弟へ兄はある行いを行った。曲がりなりにも弟に対する愛情があったのか、それとも自らの弟への情けか、弱い存在では示しがつかないのかは謎だが力をストックするという個性を強引に与えたという―――だが弟は無個性などではなかった、個性を与えるだけという個性だけが、それだけでは意味のない個性が宿っていた。そしてそこに力をストックする個性が混ざり合い、一つへとなった。それが―――ワン・フォー・オールの原点(オリジン)

 

「全く以て皮肉な話です、正義は悪より生まれ出ずる……それが私達の正義とは」

「で、でも何で今その話を……まさかそのオール・フォー・ワンって悪人は今も生きているって事なんですか……!?」

「……ああ、恐らくだがほぼ確実に」

 

ワン・フォー・オールはその弟から次の世代へと受け継がれ続けてきた、今は敵わずとも何時か必ずその時は来ると信じながら。少しずつ、力を培い必ず平和を齎して見せると……平和という願いを、永久の思い、高潔にして崇高な精神が形を成した個性、それこそがワン・フォー・オール。そして八代目であるオールマイトが遂にオール・フォー・ワンを討ち滅ぼした……筈だったのだが、生き延びヴィラン連合のブレーンとして動き出している。

 

『成程……つまりこれから私達はそのオール・フォー・ワンとやらも相手にしなければならないという訳ですね』

「はい、私はこの事を緑谷少年に伝えなければいけないのですが……」

「僕は―――僕は戦います!!たとえ相手がどんな相手だって構いません!!だって、僕はマグナさんみたいなヒーローになりたいんだから!!」

『大丈夫ですよ』

 

そんな風に力強い言葉を漏らす出久とマグナをオールマイトは思わず顔を上げて見つめてしまった、そこには立ち上がりながらも窓の外へと視線を向けている光の戦士、自分を真っ直ぐと見つめてくる出久がいた。その瞳に一切の迷いなどはなく力強さと純粋な平和への願いがあった、その瞳の中にある物こそが自分が次代の継承者として選んだ理由なんだと改めて思い知らされる、そして深い感謝と共に頭を下げる中、マグナが話の流れを握った。

 

『私としては出久君が立派なヒーローになるまで共にあるつもりです、それに―――私としてもまだ戦う理由があります』

「例の怪獣について、ですか……?」

『ええ。そのオール・フォー・ワンに協力しているのかそれとも……別の存在が居るのか』

 

メダルの事も考えると間違いなく此方側(マグナ)の宇宙の存在がやってきている事は確実、それがヴィラン連合に協力しているのかそれとも別で動いているのかは謎だが、対処しなければならないのは確実。光の国の技術を野放しにして置く訳にはいかない……それにエレキングの事も考えると相当に強力な怪獣たちをメダルにして確保している可能性すらある、中には星その物を糧として成長する種類……マガオロチの事もある、下手に退く訳には行かない。

 

『それに私だって恐らくですがワン・フォー・オールを継承しているとも言えるかもしれませんからね、だって出久君と私は一心同体ですから』

「そうですよオールマイト、マグナさんだって一緒に戦ってくれます!だから―――一緒に戦いましょうよ、平和を守るために!!」

「―――平和を守る、そうだね。私は何を弱気な事を思っているんだろうか……」

 

何かを振り切るように、不安が断ち切れたかのようにオールマイトは立ち上がりながら大きな声で笑いだした。そしてヒーロー活動をする際の姿、所謂マッスルフォームへと変身しながら改めてお願いした。

 

「マグナさん、ご迷惑をおかけするかもしれませんがこれからも宜しくお願いします!!」

『当然ですっというか嫌だと言ってもこれからもヒーリングパルスは受け続けて貰いますから覚悟してくださいね。あんな怪我をしているのに関わるなと言われて止める程、光の国の人間は聞き分けが良くないですので』

「HAHAHAこれは参った!!」

「アハハハッマグナさんってば」

 

暗かった空気は打ち払われ、明るさと元気を取り戻した一同は遅くなる前に別れる事になった。オールマイトは諦めようとしていた未来へと改めて可能性と希望を見出し、共に歩む覚悟をしながら。出久はこれから訪れるかもしれない苦難と絶望にも負けない事と戦う事を誓う、そしてマグナは彼らを守りながらもこの星の平和の為に戦う事を―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『如何でしたか』

 

―――有難う、感謝の言葉しか出ないよ。存外元気そうで安心した。

 

『望むのであれば力を貸します』

 

―――いや、それは遠慮するよ申し訳ないし……顔が見れて良かったよ、俊典。

 

 

姿を消していく光を見送りながらマグナは拳を握り込んだ。

 

『大丈夫ですよ、ウルトラマンというのはそういう存在ですからね』




先日は投稿出来ずすいません、ちょっとこの先で出す怪獣を選定していたら寝落ちしまして。
いやぁ改めてウルトラシリーズの怪獣って多いですよねぇ!!どれもこれも出してたくてしょうがねぇけど同時にヒーロー側の対処も考えると大変ですわ。でも楽しい、そこが良い!

ちなみに私が一番出したい怪獣は宇宙戦闘獣 コッヴ、あれが一番好きな怪獣なんですよ私……あっそうかカプセル怪獣っという手もあるのか……。

それとアンケートは締め切らせて頂きます、ご投票ありがとうございました!結果、ウルトラシリーズの客演的な感じで他のウルトラ戦士に出て頂く事になります。どのウルトラマンが出るかはまだ未定ですが、お楽しみに!!


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迫る試験、迫る危機。

「期末試験まで残り一週間、お前たちちゃんと勉強してるだろうな。知っての通り期末は筆記だけでなく演習も含まれている。当日に備えて頭と体、同時に鍛えておけ。以上だ」

 

そう言い残して授業も終了した、相澤の言う通り間もなく迫ってきている期末試験。それが告げられ、退室していく姿を確認してから直ぐにクラスは一気に騒めき騒がしくなっていったのであった。特に―――中間での成績が悪かった上鳴、芦戸が声を荒げた。

 

「「全く勉強してないいいいい!!!!!」」

「体育祭やら職場体験やらのイベント続きだったから全然勉強なんて追い付けてねぇよぉ!!!」

「いやぁ全くだよねぇ~!!」

 

芦戸はもう諦めているのか開き直るかのようにもう盛大に笑い続け、上鳴は絶望のあまり顔色を悪くさせながらも頭を掻きむしっている。と言っても彼の言う通り雄英でのイベントが立て続いているだけではなく勉強のペースも早い為その辺りも大変、しかも期末は実技まであるので勉強ばかりしていたらそちらを落とし、身体を鍛えてばかりだと筆記を落とすという事になりかねない。

 

『期末試験か……いやぁ懐かしいね、訓練校時代にもそんな事があったなぁ……』

「(ウルトラマンも受けるんですねテスト……因みにマグナさんは如何だったんですか?)」

『いや特段勉強をした記憶はないね、授業受けてれば普通に分かったし……だからもっぱら実技の方を対策してたよ』

「(流石マグナさん……エリート部署に所属してるだけありますね!?)」

 

例えテスト期間中だったとしても趣味に時間を費やしていたが特にテストを落とした事も無い優等生だったらしい。転生前も後もそんな感じだったマグナである。

 

「緑谷君も確りと勉強は欠かさずにな!君は中間の成績も良かったから問題はないとは思うが!!」

「うん分かってるよ、まあ僕はその前に発目さんにもっと自重して貰って自分の時間を作りたいんだけどね……」

 

と軽く目が死んだ出久に全員が気の毒に思った。発目は体育祭での超有能っぷりが話題を呼んでおりオールマイトが述べたようにスカウトも動き出す程の人材なのだが……その分酷く癖が強い上に色々と問題を起こしてしまう、最近はサポート科で教鞭も取るパワーローダーがストッパーのような役目を果たそうとしているがハッキリ言って抑えきれていない。出久が出張って交渉兼協力して貰った方が素直に言う事を聞いてくれる程なのでパワーローダー直々に彼女の安定を手伝って欲しいとまで言われてしまっている。そこまで言われたら断る訳にも行かず……出久は発目の実験に付き合い続けている、度々死にそうになりながら。

 

「緑谷、流石にやべぇならやめとけ。あいつは優秀だけどその分ネジがネジ穴ごとぶっ飛んでるぞ」

「でも止める訳には行かないんだよ……発目さん僕が居なかったら別の誰かで試そうとするから、流石にそんな事を許したら……」

『やべぇっ……色んな意味で助けられっぱなしだ……』

 

間違いなく発目の矛先は自分達へと向けられると皆が理解した、出久が色んな意味で防波堤を果たしている事になるのである。此処で出久にやめておいた方が良いというのは簡単である、それでやめたら自分に来る。あの出久や爆豪が本気で逃げる姿を見ている身としてはそれが降りかかってくる光景は想像したくないしされたくもない……。そんな彼へと梅雨ちゃんが励ますように肩を叩いた。

 

「緑谷ちゃん、ご飯御馳走するから一緒に食べましょ。相談に乗るわ」

「有難う、でも僕発目さんに呼ばれてるんだよね……アハハハッそれじゃあまた今度……」

 

闇しか感じられない様な笑い方をしながら去っていく出久にクラス中の心はこの時一つになった、彼の無事を祈る事であった。この時ばかりは爆豪も同じ事を思っており、本気であんな女に目を付けられた出久に同情しつつも僅かながらの感謝をするのであった。

 

「……気張れやデク」

 

 

 

「という訳ですね私なりに緑谷さんの新しいコスチュームのアタッチメントを考えてみたんですよそのままでもシンプルで流れるような流線形が本当に美しくて魅力的で変えてしまう事がもったいないんですがそれを敢えて変えてしまう事に魅力を感じてしまう事も事実なんですよという訳でお昼奢るので是非ともご意見をお聞かせくださいよマグナさんも是非お願いしますよ何でもはしませんけどおっぱいをもませてあげる位なら良いですよ緑谷さんなら!!」

「いや何を口走ってるの発目さん女の子がそんな事言っちゃ駄目だってば!!?普通に意見位言うから!!」

『いやぁ本当にアグレッシブだね発目さんは』

「ウルトラの国では見ないタイプの女性ですかね?」

『まあですかね、あまり見ないかも』

 

例によって発目、グルテンが待ち受けている談話室。そこで以前も貰ったバラカツを使ったカツ丼を頂きながらも発目考案の新たなシステムと装備へと目を通すのであった。それは出久にも大きく関係するコスチューム関連のものであった。

 

「実はグルテン博士から色んなウルトラマンのデータを頂けましてそれらを参考にして色んな装備考案をやってみたんですよいやぁすごいですねウルトラマンと一口に言っても色んな方々がいるんですよ!!」

「へぇそれは興味深いかも……」

『というか博士、前に私から注意受けておいてよくもまあそんな事出来ますね……ある意味尊敬しますよその肝の太さは』

「いやぁ発目ちゃんに強請られちゃって、つい☆まあ外見のデータと簡単な技の概要しか見せてないから大丈夫でしょ」

 

溜息をつきながらも確かに、と言葉を濁らせる。技術的な物ではないし再現するにしても使われるにはこの地球の技術……ファントン星人の技術がリバースエンジニアリングされた物と付くがそれでもギリギリセーフ、アウトに片足突っ込んでいるような物……言うなればセウトと地球では言うのだろうか。まあ此処は出久の為にもなるという名分もあるのでマグナの裁量でセーフという事にして置こう……複雑ではあるが。

 

「これなんて如何でしょうかマグナさんの戦友というウルトラマンを参考にした対巨大ヴィラン戦闘想定型、コードネームMAXです!!」

「あっ聞いた事ある!!確か最速最強って言われてるウルトラマンですよねマグナさん!」

『そうだね、唯強いだけではなくその素早さも凄い物が……』

 

それが反映されたならばきっとパワーとスピードが両立された高機動高火力スーツなのかなと思って空間投影型ディスプレイに映し出されたMAXアタッチメントを見て思わずマグナは言葉を失った。何故ならばそこにあったのは強固な装甲で覆われた大柄、そして巨大な盾とマクシウムソードと思われる巨剣を装備している最速とは無縁そうなスーツがあったのだから、本当に戦友(マックス)がモデルなのかと疑いたくなる程。

 

「最速要素皆無!!?」

「いや流石に最速と最強の同居って普通に難しいんですよ最速にしようとする装甲を削ったりしながら軽量且つ排熱に優れた素材を探すとかしないといけませんし最強にすると何処を最強にするのかで迷いますので敢えて最強の部分を強調してみました。高出力による重装甲と盾で攻撃を耐えつつカウンターの巨剣で相手を打ち砕くというコンセプトです!!」

「そこは現実的なんだ!?」

『ああうん、確かに……そう考えるとコンセプト的には間違ってないしいいのか……いやこの場合は彼が異常とも言えるが……』

 

改めて元同僚の戦友の規格外っぷりが理解出来たような気がした瞬間であった。

 

「緑谷さん今度の休日に早速新アタッチメントのテストを行いましょう実はこれ私達サポート科の課題でもありますので私を助ける為だと思って協力してくださいよ良いですよねいいですよねやっぱり私の身体という報酬が無ければだめですか分かりましたそれで受けてくださるのであれば私脱ぎます!!」

「だからなんでそうなるのぼくは全然そういうの望んでないからね解ったから協力させて頂きます!!」

「いや本当にごめんね出久君」

『そう思うなら少しは止めてくださいグルテン博士』

「ごめん無理、僕甘やかしちゃうみたいだから」

 

 

―――手始めと行こう、さあマグナこいつに勝てるかな……?



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超える力、迫りくる獣。

期末試験も迫っている筈の休日、出久は本来自宅で勉強とトレーニングに使う筈だったのだが発目に協力する事になってしまい山奥へとやってきた。岩肌が露出し草木などもなく唯々平らな荒野のような風景が続いている場へと案内されてしまったのだが、此処で出久はある事に気付いたのであった。

 

「そう言えば発目さん、僕のコスチュームとか教室にあるままなんだけど……それなのにアタッチメントのテストをするの?」

「フッフッフッ甘いですね緑谷さん私がその程度の事を考慮していないとでも思っておいでですか甘いです甘すぎな発想ですねまるでおはぎに練乳と生クリームをぶっかけた上でチョコレートソースを掛けたような劇烈な甘さの発想ですねでもいいですよ私甘いもの大好きですからそんな発想する緑谷さん大好きですよ私的に凄い好感度上がりましたよやりました私の攻略にまた一歩近づきましたよやったね緑谷さん私ルートの制覇に近づいたよ!!」

「「『おい馬鹿止めろ!!』」」

「あれま博士だけではなくマグナさんや緑谷さんにもこのネタ通じるんですね意外でした」

 

周囲は全く笑っていない事を愉快に思っているのかケラケラと笑いつつも懐からある物を取り出しながら地面に投げるとボタンを押す、投げられた物は一瞬にして大型のコンテナへと変貌した。これもファントン星人十八番の圧縮技術によって小さくされていたらしい、そしてコンテナが開かれていくとそこにはなんと出久のコスチュームと全く同じウルトラマンスーツがそこに鎮座していた。

 

「ぼ、僕のコスチューム!!?えっ如何して!?」

「私に不備なんてないのですよ此方からお誘いしたんですからその辺りの備えも万端という奴なんですよっといってもこれは私が再現したスーツですので本当のスーツはA組の教室にありますからご安心ください」

「さ、再現って……」

 

一体どうやったのか、もしかして制作を行った会社にハッキングでも行ってデータを盗み出したとかだろうか……と不安に思ったのだが単純に出久のデータは既に手元にあるのでそれらを元にしつつニュースで出ていたイズティウムの活動映像などを参考して再現したとの事。取り敢えず発目製ウルトラマンスーツを纏うのだが……出久の身体などを握ってる発目が作っているので細やかな部分が調整されており、此方の方が圧倒的に動きやすく出力制御もしやすいというおまけもついてきた。

 

「……凄い」

『流石出久君のデータを持ってる事はあるね、細かい部分の調整も完璧だ』

 

試しに軽く動いてみるが全く身体の感覚が違う、自分の想った通りに動ける。コスチュームの方はパワードスーツ的な側面が強く出てしまっているのか飛びすぎたりすることもあったのである程度力を抑える必要もあったがこれはその必要も無い。15m跳躍しようと思ったらその通り跳べる、完璧に自分にフィットしている事に驚く。これが本当の意味で個人に対して調整が成された物なのかと思う。

 

「さあさあ感動するのはまだ早いですよ先ずは此方を試してください体育祭でも使ってた多目的強化骨格を応用して更なるパワーを追求しつつも機動力も確保した高出力近接戦仕様アタッチメントはこれこそエクセレントォな物なのです!!」

 

と先程と同じように小さくされていたキューブコンテナを出しつつも巨大化させ、解放して中に収められているそれを見せ付けた。そこにあったのは―――MAX程の重装甲ではないがそれでもないがそれでも今纏っている物を容易く上から飲み込める程の重量感と威圧感がしている、そして一番目を引くのは酷く大きな両腕。その両腕の圧倒的なパワーで敵を捻じ伏せてやるんだと見るだけで察する事が出来る。

 

「コードネーム:GAIAです博士からお聞きしたんですが如何やらこのウルトラマンさんはマグナさんとは全く別の宇宙のウルトラマンさんらしいですね実に興味深かったので作っちゃいました!!」

『矢張りガイアさんだったか……確かにあの方ならこのマッシブさは納得だね』

「えっマグナさんご存じなんですか!?」

『まあね』

 

ウルトラマンガイア、別次元の宇宙に存在する光の国のウルトラマンとは全く異なる大地の赤い光の巨人。それを元にされているならば納得の外見、あの投げの鬼を再現するならばこの位しなければ確かに駄目だろう。如何やら他にもまだあるらしいがまずはこれからテストを始めて欲しいとの事。

 

「さあ緑谷さんレッツコンバインです!!」

「あっはい、レッレッツコンバイン!」

「あっ別にそれ言わなくてもいいんですよそれとこの辺りは私有地なので個性とか全開でも大丈夫ですよ」

 

と早速出鼻を挫かれてしまった所でGAIAを装着する事になった、装甲が展開してそのままスーツに覆い被さるような形で纏うようになっているらしい。早速纏ってみると感覚的に力が大きく上がっている事を感じる事も出来ており試しにスマッシュの素振りを行ってみると地面を抉るような風圧が巻き起こり岩肌に小さなクレーターを作ってしまった。

 

「す、凄い……全然個性使ってないのに……」

「おおっ成功成功大成功ですね今の軽い素振りだけで最早GAIAの出力が証明されたような物ですよこれには私製作のパワーセルが関節各部に内蔵されておりましてそれぞれが連動共鳴する事で高出力と長時間稼働を実現したのですよ!!ですがその代償に武装は全く乗せておりません乗せてしまうと其方にエネルギーを回さないといけないので賄いきれないんですよねぇ」

『色々と大変な事情があったという訳か……』

「MAXの方は更に大型のシールドと剣がありますからその保持のためにも更なる出力が必要なので機動面に回せないんですよねぇ本当にこれからの課題ですよアッハッハハハハ!!!」

 

と高らかに笑いを上げている発目、参ったといいつつもその表情にはそうでなければ面白くないしやりがいもないという物に満ち溢れている。この辺りは流石に技術者らしさが滲み出ている、科学者や技術者がリアリストと言われるが逆に既存の物や今の常識を打ち破るために研究をしているロマンチストなんだとヒカリが語っていた事をマグナは思い出しながら確かにと納得する。まあ彼女の場合は常識方面が欠如して自重も足りないので大変なのだが……。

 

「私の方で申請しておきますから宜しければ緑谷さんこのまま追加装備としてGAIA使う気ないですかね使って頂けたならデータも美味しいので」

「嗚呼っやっぱりそういう目論見があったんだ……でも僕は出来ればマグナさんが良いかなぁ……」

 

とそんな要望を口にしてマグナが思わず照れてしまった時だった、突如として周囲に殺気のような物が充満していった。出久とマグナは戦闘態勢を取りながら辺りを警戒し始め、それを見たグルテンと発目も流石に異常事態を認識したのか周囲を見回していく。

 

「な、なんだこの身体の奥底まで冷えるような感覚……!?」

『これは、覚えがあるぞ……これはまさか……!?』

「うぉぉぉマグナさんなんか凄いの見つけましたよ三次元レーダーが空間の歪みを探知しましたぁ!!」

「あそこだ、あそこが歪みです!!」

 

とテンションが上がりまくっている発目を他所に指を指すグルテン、その先には青空があったのだがその一角に青い稲妻のような物が走って行くと青空に亀裂が入っていく。それはガラスに入ったように徐々に大きく深くなっていった、異常すぎる光景だがそれをマグナは知っていた。この感覚からしてまさかと思ったが本当にそれだとは思いたくなかった。罅が一段酷くなっていくと遂に空が粉々に砕け散ってしまった。

 

「空が、割れたっ……!?」

「おおおおおっっ何なんですかあの現象すっごい調べたいですぅぅう!!!!」

「って言ってる場合じゃないよ発目ちゃんあれは流石にまずい!!」

 

砕け散った空の奥はおどろおどろしい赤が広がっていた、血の色をした煙で充満したような異常な世界が広がりその奥からゆっくりと姿を現したそれは自分達を見下ろしながら巨大で凶悪な雄叫びを上げていた。

 

何処か柔らかそうな青い身体をしているがまるで相反するかのような鉱物や結晶を思わせる鋭角的なオレンジのアーマーのような物を纏っているそれは天を串刺しにせんばかりの鋭い一本角を携えている。生物としても各部の形が異常でありまるで兵器のような印象を抱かせる。空間を更に突き破りながらその姿をハッキリと見せ付けながら地上へと降りてきた。割れた空間は元通りへと修復されながらも目の前に出現した巨大な存在は雄たけびを上げながらゆっくりと此方へと進撃して来ていた。

 

『ギィィィィィイッッッッ!!!グバァァァァァァ!!!』

 

「うっひゃあああああ超カッコいいぃぃぃぃぃぃっっっ!!しかも空間を突き破って登場とかどういう技術や能力があるんですか超知りたいぃぃぃぃ!!マグナさんマグナさん私あれのサンプル超欲しいです!!!」

「言ってる場合じゃないって発目ちゃん!?マグナさんあれって超獣ですよね!?」

「ちょ、超獣!!?」

『そうだ……怪獣を超えるとされる存在、超獣……しかもあれは一角超獣 バキシム!!』




超獣の代名詞とも言える存在、バキシムのエントリーだ!!何を隠そう私は超獣の中だとバキシムが一番好きだ!!

カッコよさと恐ろしさ、そして大きな身体の圧倒的な存在感が堪らない!!


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超獣の挑戦状。

超獣。嘗てウルトラマンAによって倒された異次元人ヤプールの手によって生み出された怪獣を超える怪獣、それらは超獣製造機と言われる物によって地球上の生き物と宇宙生物を融合させた上で改造を施し全身に武装を追加した生物兵器らの事を指す。既にその黒幕であるヤプールは倒されているのだが……ヤプールは生命体のマイナスエネルギーを吸収する事で何度も復活しその脅威を向け続けている……そしてマグナはそれと対峙した事がある。

 

それこそがUキラーザウルス、それも復活したヤプールが光の国への復讐の足掛かりとして他の星で研究されていた人工太陽に目を付けそれを吸収する事で大幅強化を行って地球への侵攻を企てようとしていた。それはマグナ、マックス、ゼノン、ネオス、セブン21に阻まれる事になったのだが……超獣は未だに宇宙の何処かに漂っているヤプールの怨念から生まれて続けているという話まである程。その超獣の一角でもあるバキシムが降臨してしまった。

 

「おおっまさか保須での一件を悔やんでいる時にこんな機会に出くわすとは!!!博士此処から撤退しつつもデータ収集しましょう緑谷さんとマグナさんのお邪魔にならないように努めましょう!!」

「それには賛成だけど本当にブレないね発目ちゃんは……それじゃあお二人ともお任せしてもいいですよね!?」

 

と聞いてくるグルテンに頷いて返事をすると二人は圧縮解除したホバー式のボードに飛び乗るとその場から高速で去っていく、それらを見つつも出久は構えを取りながらもマグナリングを胸に抱いた。

 

「マグナさん、行きましょう。僕はもう覚悟は出来てます!!」

『言っておくが超獣は普通の怪獣や宇宙人とは全く次元が違う、超獣は紛れもない生物兵器。完全に倒しきるまで攻撃を止める事は出来ないよ』

「分かってます、僕は―――ウルトラマンマグナの相棒です!!」

『―――随分と立派な口を利くようになったじゃないか、よし行こう!!』

マグナァァァァァァァッッッ!!!!!

 

バキシムの前へと溢れ出していく光、それらへと威嚇するような声を上げつつも戦闘態勢を取り続ける。輝く光の中から巨人が―――姿を現す。

 

「ディァッ!!!」

 

大地を轟かし、大地を抉らんばかり勢いで地面が舞い上がった。まるで爆発のような土煙の中から姿を見せた光の巨人、ウルトラマンマグナ。立ち上がると同時にバキシムはゆっくりと進撃しつつも両腕からバルカン砲を連発していく。だがそれらを受けようともマグナは身動ぎ一つしないままそのままバキシムへと向かって行く、それを見ると即座に攻撃を中断しながら今度は両腕の間から真紅に輝く破壊光線を照射する。

 

「デュオ!!」

 

素早い攻撃の切り替え、それに素早く右手からエネルギーバリアを作り出して光線を防ぎつつも逆に押し返すかのように突き進んでいく。そしてバリアをそのまま腕の間へと叩きつけんばかりの勢いで押し付けるとエネルギーが暴発したのかバキシムの両腕がスパークを起こしてしまう。

 

「ギュアアアアアッッッ!!?」

「ディアア、シャアア!!!」

 

怯んだ隙を見逃がさず、アッパーがバキシムの顎を捉える。近接戦においてマックスの上を行くマグナ、そのパワーは近接戦でこそ真価を発揮すると言わんばかりの超パワーは自分よりも巨体である超獣の身体を浮かび上がらせてしまう程。だが相手も超獣、ダメージを受けても怯む事もなく恐怖を覚える事もない。すぐさま反撃だと言わんばかりに腕の棘でマグナへと殴り掛かる。

 

『負っけるもんかぁぁぁ!!!』

『そうだその意気だ!!』

『何のぉぉ!!!』

 

咄嗟に両腕をバキシムの内側深くに差し込んでガードする、だがフリーになった身体へと噛みつこうとしてくる。だがそれを回避しつつも頭と右腕の間で挟み込んで受け止める、出久の反射に近い行動だったがいい行動でもある。

 

『マグナさん、あのこの状態でも個性って使えるんでしょうかぁ……!?』

『試して、見るかい!?』

『ぶっつけ本番ですけど、やります!!ワン・フォー・オール・フルカウルゥゥゥゥッッッ!!!』

 

出久はその時にワン・フォー・オールを発動させた、マグナの全身に光が駆け巡っていきながら身体のそこから力が沸き上がっていく。間違いなく個性が発動している、人間の個性は一体どれ程までウルトラマンの身体に力を齎すのだろうか、超獣という怪獣を超える存在が誇る圧倒的なパワーに対してマグナは徐々に腕を広げていく。

 

「ォォォォオオオオッッ!!!!」

「『SMASHッッ!!』」

 

勢いよく開かれた事でバキシムの体勢は崩れて後ろに下がった瞬間を見逃さず、渾身の一撃がその身体へと突き刺さった。激しい爆発と火花を散らしながら炸裂する一撃、それを受けて大きく下がりながらも再度破壊光線を発射しようと背中の結晶体を輝かせる。二度も喰らうかと言わんばかりにマグナは飛び上がる―――が

 

「ギシャアアアアッッ!!!!」

『悪いが私はメビウス程甘くはない!!!』

 

甘い、と今度はこっちの番だとバキシムの角が撃ち放たれた。そう、バキシムの角は強力なミサイルとしても機能する―――のだがウルトラシリーズマニアでもあったマグナにそれは完全にお見通し、回転しながらミサイルを受け流すとそのまま発射口へと逆に返してしまった。ミサイルが内部へと突き刺さりながらも大爆発してしまい内部でショートを引き起こしたのか悲鳴のような断末魔を上げながらもバキシムは倒れてしまう。

 

『今のによく反応出来ましたね!?』

『何、あんなの軽い軽い。それにバキシムに付いての知識も私は十分にあるからね、まだ油断はできないが……光線技でフィニッシュと行こう』

『分かりました!』

 

蓄積された戦士としての戦闘経験、そこに前世の知識が合わさると自分の知らない怪獣でもない限りイレギュラーな事態は起きにくい。実際任務の最中にこの知識に助けられて切り抜けてきた場面も結構あったりした。兎も角超獣は生物兵器故に最後の最後まで油断が出来ない、今のうちに止めを刺しておく必要があると地上へと降りて光線技を放とうとした瞬間だった。

 

「ッ!!?」

 

空が再び罅割れ、異空間が出現した。新しい超獣が駆けつけてくるかと思ったのだがそこからは二筋の光がバキシムへと伸びて吸収される、直後に眩い光にバキシムから溢れ出していった。

 

『一体何が起きているんですこれ!?』

『分からない、だが良い事でない事は確かだろう』

 

その予感は―――当たっていた。

 

 

 

何処でもない何処か、赤い異空間の中で黒い影が立っていた。そしてその手には何かが握られていた、それは青いクリスタルのような物が付いているアイテムでありそこへ何やらカードを挿入しそれを起動させると立て続けにメダルを出現させた、そこにはエレキングメダルと同じように様々な怪獣らが刻まれておりそれを次々と装填していくとそれらをスキャンしていった。

 

■●▲◆ ACCESS GRANTED

 

―――一角超獣、火炎超獣、満月超獣。

 

〔VAKISHIM〕〔FIREMONS〕〔LUNATICKS〕

 

―――こいつに勝てるか、マグナ……!!

 

 

 

三つの超獣、それらの力が混ざり合って行く。だが単純な融合ではなくバキシムを素体にしてそこに他の超獣の力を加えていきそれらによって新たな存在が誕生し顕現される事となった。光が晴れるとそこにいたのはバキシムではなかった。身体から突き出した紅蓮の甲殻は酷く鋭利で頑強、背中の結晶体は刺々しくなり両腕には真紅の巨大なクローが新たに装着されていた。それらの影響か先程よりも更に巨大になったように見えるバキシムに思わず出久は驚いてしまった。そしてそれはマグナも同様であり、その姿を見て即座に理解した。これは一角超獣 バキシムの強化改良型超獣であると。圧倒的な炎を扱う超獣(ファイアーモンス)、マグマを食料とし時には星すら死の星へと変える超獣(ルナチクス)、それらを力を得たバキシム。その名も―――

 

『す、姿が変わった!!?』

『パワーアップした!?こいつは確か、一角紅蓮超獣―――』

 

 

 

VAKISHIMUM(バキシマム)



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紅蓮の一角、偉大な光。

『一角紅蓮超獣 バキシマム……何か凄い強そうなんですけど!?』

『私も交戦経験はないけど実際強いと思うよ、あれからは他の超獣の気配を感じる……恐らくそれらを吸収してパワーアップしたんだろう』

 

光が晴れた先に出現したバキシム、いやバキシマムは雄たけびを上げながら高らかに跳躍しながら鼻からバルカンを、腕からは火球を放ちながら強襲してきた。先程とは予想もつかない程の機動力を見せながら弾幕を張って迫ってくるバキシマム、それらをバク転して距離を取りながらも回避しお返しと言わんばかりに光弾で牽制しながら体勢を取り直す。

 

『あ、あの巨体でなんて身軽なんだ!?』

 

驚く隙も与えんと言わんばかりに一気に接近してくるとその巨大且つ鋭利なクローで殴り掛かってくる、それを受け止めるが先程とは段違いのパワーに僅かに脚が後退る。そこへ追撃の一撃が脇腹を捉えた、激しい打撃音が響き僅かに呻き声を上げるが一切屈する事もなくバキシマムを押し出すように蹴ると追撃の手刀を幾度も無く打ち付ける。

 

「アアァァッ!!トゥアッ!!」

「ギュワァァァァッッ!!」

 

先程までは身体が浮かされ倒れかねない一撃を受ける、それらを受けても受け止めながら反撃の一撃を加えんと腕を振るってくる。伊達にパワーアップしていないんだと言わんばかりに迫ってくるバキシマム、それを迎え撃とうとするがいきなり後方へと飛び退くと頭部の紅蓮の角が超高速回転しながら射出された。それは紅蓮の炎を纏いながらも光輪のようになりながらも迫ってくる。それを寸前で回避するが―――それが一気にコースを変えてマグナの身体を抉らんばかりに激突する。

 

「デュォ、ァァァッ!!?デュアアアア!!」

 

切断せんばかりの勢いで迫ってくる角、それは身体を蹂躙せんばかりに攻撃するとバキシマムの頭部へと収まった。思わず連続のダメージに膝をついてしまったマグナにバキシマムは歓喜と言わんばかりの声を上げながら特大の火球を作り出そうとしていた。

 

『あの角、あんな自由に動かせる上に何て威力……!!』

『流石に知識だけでは難しい事もあるか、あれが一角紅蓮ミサイルか……儘ならんな』

 

バキシマムとの戦闘経験はないが知識としてしか持ち合わせていなかった、流石にそれだけで完璧な対応は難しかった。あそこまでの速度で角が迫ってくるのは予想外だった、速度だけならウルトラ兄弟の八つ裂き光輪に匹敵する。威力も侮れない、そして恐らく今からやろうしているのはバキシマムの必殺技である

紅蓮コンビネーションの準備動作だろう。

 

『マグナさん、如何しましょう……!?』

『大丈夫だよ出久君、この程度私の人生の中ではピンチにも入らないよ』

 

身体を引き起こしながら構えを取るマグナに出久は素直に驚いていた、3年以上も共に居るがその力は未知数でしかなかった。時々彼の活躍を話しで聞く程度でしかなかった上にその話のスケールは自分の想像の枠を超えており如何にも明確なイメージが出来なかった。それも当然、ウルトラマンとヒーローでは力の差がそれこそ次元違いなのだから。

 

『伊達に勇士司令部に所属していないという事を―――そろそろ相棒に証明するとしようかな!!』

 

刹那、マグナの全身が光輝いた。その輝きは何処か暖かく出久は驚いたがそれよりもその時に背中を力強く叩かれたような感触と共に声が聞こえてきたのだった。酷くノイズが掛かり割れているようだったがハッキリと聞こえてきたそれは荒々しくも力強く、聞いた人に安心感を与えるような物だった。

 

―――何心配する事はねぇよ、お前さんの相棒様は俺達が思ってる以上の人さ。心配しねぇでお前さんはその背中を確り見とけ。

 

『えっ……!?』

 

思わず振り向くがそこには誰もいない、だがその声は間違いなく自分の記憶に刻まれていた。一体何だったんだと思っていた直後、マグナの傍を一筋の光が通り過ぎて行くとバキシマムが作り出そうとしていた超巨大火球を貫き火球は大爆発を起こしてしまった。

 

「ギュワァァァァアアアア!!!?グバギャアアアアアア!!?」

 

火球が炸裂してしまった事でその発生装置を兼ねていた両腕のクローが爆発に飲まれながら誘爆してしまい、バキシマムの両腕は半壊してしまっていた。流石の超獣とは言え突然のことによるエラーが起ったのか、それとも自身の最大火力が自分を襲った事で不具合が出来たのか痛みで狼狽えているかのようだった。

 

『い、今のって……!?』

『超獣の強化改修個体にも通用するのってやっぱり不味いよなぁ……』

 

と言葉を零すマグナが後ろを見るように言ったのでそちらを見てみると―――そこにはなんと地面にアンカーを打ち込んで身体を完全に固定させた巨大な砲塔を構えてバキシマムへと狙いを付けていたであろう発目の姿がそこにあった、先程の光も恐らくあの砲から放たれた物だろう。かなりの出力だったのか砲身は異常な熱を放っており、それの排熱処理が行われていた。

 

「いっよっしゃああああ如何だ見たか巨大怪獣さんこの発目式光子砲とサイバーエレキングアーマーを組み合わせて放たれた最高出力のサイバー光子電撃波の味はぁぁっっ!!贅沢にパワーセルを25個も使っちまう上にシステムがショートしちゃうしパーツも使い物にならなくなるからオーバーホールもやらなきゃいけないからやりたくなかったけどこの成果は私にとって尊いものになるのださあやっちゃってくださいマグナさんそして助けた報酬としてサンプルをプリーズミー!!!そして緑谷さんも頑張ってくださいよォ!!」

「これ、多分また後でお説教だよね……」

 

とこの後に待ち受けるであろうことに汗を溜息をつくグルテン、だがこれは発目が独自且つその場のアドリブで完成させてしまった急ごしらえのブッパ砲。それ故の代償も多々あるらしいがそれでも発目は構わなかった。その程度の代償で得られるリターンは凄まじいのだから。

 

『やれやれ出番とられちゃったかな、まあいいかな。行くぞ!!』

「ウォォッ!!」

 

駆け出して行くマグナ、迫ってくるそれにバキシマムが対応する前に屈みながら深々と拳をその身体へと放った。その一撃にバキシマムは一瞬思考が停止した、それは生物としての名残なのだろうか、それとも強化された自分が何故という高度な知能を持つが故の物だろうかは分からないが拳は突き刺さりながらもそのまま巨体を浮かび上がらせると更なる一撃を加えると首元へと回し蹴りを炸裂させる。

 

「ギュアアアアァァァ!!!!」

 

地面へと叩きつけられつつ蹴りつけられた部分が爆発するバキシマム、異常なダメージが次々と重なってくるのを処理しきれないのか倒れこみ続けるがそれをマグナが立たせるとそのまま、一息に7万9千トンも巨体を持ち上げるとそのまま大地へと叩きつける。最早投げ付けるではなく地球を武器にして殴り付けるかのような勢いに離れていた筈の発目とグルテンが衝撃で軽く浮きあげる程だった。

 

「デュワッ!!シェァァァァッッッ……ディィアアアアアアア!!!」

「ギィィィィッッ、ァァァァッッッ―――!!!」

 

叩きつけられ動けない隙を見逃がさず、透かさずマグナは最強の一撃であるマグナリウム光線を発射。マグマより赤く、紅蓮よりも鮮やかで太陽よりも熱い光の奔流が照射されていく。バキシマムへと到達した光線は一瞬だけ、その身体を焼いたかと思いきやバキシマムは絶叫を上げながらも全身に光が浸透すると各部が大爆発しながら粉々になりながら消滅してしまった。辺り一面にはバキシマムであった物が四散しているが、それらも光の粒子になるように消えていくのだが、その内の幾つかを発目は光になる前に確保して奇声を上げている。

 

『助けてもらったのは事実だからね、まあ後で話はしなきゃいけないけど……』

『マ、マグナさんって本当に、凄いです……』

『フフフッ見直したかい?』

 

そんなやり取りをしつつもマグナは変身を解除しつつ、出久へと戻って行くのだが直後に超ハイテンションになった発目が来襲してこれから実験をするから是非手伝って欲しいと言われてタジタジとなってしまうのであった。そんな発目に素直に呆れつつも今回の事に免じて説教は後日にしてあげる事を決めつつ―――バキシムを強化したであろう存在への危機感を強めた。

 

『まさかバキシムを強化するなんて……一体何者なんだ』

 

 

―――流石に見縊りすぎたか……バキシマム程度じゃダメか……なら次はもっともっと強力な奴をくれてやる。お前に死をプレゼントしてやるよマグナ……この星にお前はいらないんだよ。



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共鳴する光

「はぁっ……本当に大変でしたねマグナさん」

『まあ大変だったのは何方かと言ったら発目さんのほうだったけどね、あの子ってば何処まで私の想像を超えていけば気が済むんだろうね』

 

突如として来襲してきたバキシマムとの戦闘を終えたマグナと出久、唯一の救いなのは実験を行っていたのは山奥且つグルテンが入手した私有地だったという事だっただろう。人的被害などは皆無だったのが本当に良かったと胸を張って言える事だろう。発目は手に入れる事が出来たバキシマムの細胞の研究に入ろうとしていたが流石にそれはグルテンが管理する事になって、渋々納得していた。

 

「でも今回って唯々暴れる為に出現したって訳じゃないですよね……?」

『だろうね、バキシムがあの段階で強化されてバキシマムになった事を踏まえて考えるとあれを操っていた存在がいて私達に対抗するために行った物だろう』

 

超獣は侵略者の侵攻兵器、それらを使用する宇宙人は数多く存在する。あのタイミングでの強化を踏まえると自然発生した超獣の線はない。明確な敵意の上での事があったという事になるだろう。

 

「えっとその、マグナさんは相手が誰なのか目星とか付きますか?」

『う~ん残念だけど無いね、こういう言い方はあれだけど光の国を恨んだりする悪人は相当数いるからね。私が居ない間に光の国で何かが起こっていたとも考えられるから明確な事は言えないんだ』

 

と言っても大体の場合は光の国の戦士達が侵略を防いだり、光の国由来の技術を公開しろと迫られたりとしたものが発端である事が多い。それらを積み重ねていった結果として光の国を良く思わない存在は多いが同時に友好的な関係を築いている星々が無数にある事も事実。

 

『そもそも私がこの地球に派遣される前にも面倒な事が起こっていたからね……』

「えっ!?」

『いや此方の話だ、だがそれも関係していないとも言えない。儘ならんな……』

 

出久は思わず言葉を詰まらせながらもそこに言及する事はしなかった、そちら側の宇宙の事ならば自分が聞いても致し方ないし意味もないと思ったからだろう。何かを考えこんでしまったマグナ、その言葉の切れ端から何か因縁があるかもしれない存在に付いての言葉が僅かばかり聞こえてきた。

 

『―――だとしたら今度こそ倒すだけだな、過去の礼をする為にも……』

「あ、あのマグナさん……?」

『んっ……ああ済まない、心配をかけてしまったかな』

 

何か誤魔化すような素振りだったが出久は余り気には止めずに自分が気になった事を聞いてみる事にした。

 

「あのバキシマムと戦ってる時に声が聞こえてきた気がしたんです、こう背中をバシッと力強く叩くみたいな感じと一緒に……」

『声?』

「敵じゃないと思うんです、マグナさんの事を信頼してるみたいな感じでした」

 

 

―――何心配する事はねぇよ、お前さんの相棒様は俺達が思ってる以上の人さ。心配しねぇでお前さんはその背中を確り見とけ。

 

 

聞いていて安心感を与えるような物だったので悪意に満ちた物なのではない事は分かりきっている、だが一体誰の声なのかが全く分からない。もしかしたらマグナ関係の物だったのではと尋ねてみる。すると何かを知っているかのように思案するような声が聞こえてくる。

 

『成程君も聞いたという訳だね』

「知ってるんですか!?」

『まあね、私達に深く関わる事だよ。私の憶測も混ざるだろうが構わないかい?』

 

即断で頷くと語りだした。まず第一にマグナと出久の関係性、今二人は一心同体の関係にあり出久がワン・フォー・オールを継承した際にそれはマグナにも大きな影響を与えており彼にもワン・フォー・オールが継承された事にもなっていた。そして先程のバキシマム戦ではその力を解放した場合何処までやれるかを試すつもりだったのだが、発目に出番を取られてしまった。

 

「は、発目さん……」

『その事はいいさ、結果的にとはいえ無事に終わった事だからね』

「でもマグナさんもワン・フォー・オールを継承してた事になるなんて……何で言ってくれなかったんですか!?」

『君と一心同体だからワン・フォー・オールを継承しているとも言えるかもしれないって、言ったけどやっぱり気付いてなかったんだ……まああの時は確証が無かったんだけどね』

「あれってそういう意味だったんですか!?」

 

ウルトラマンと地球人、それが一心同体になっている存在への個性の継承。そしてそのウルトラマンが持つ光の因子や力などが複雑に交差した事でイレギュラーが生まれた結果、出久とマグナの双方に個性が継承されていた。ウルトラマンの力を受けたワン・フォー・オール、その力はまだまだ未知数だがマグナは幾つかの確信を得ている。

 

『その過程で私は個性の中の光を見た、歴代ワン・フォー・オール継承者の意志(モノ)だろう。君が感じたのもその類の物かもしれないな』

「そう言えば、俺達が思っている以上にマグナさんは凄いって……」

『ではほぼ確定と言っても良いかもしれないね、今は期末の準備で忙しいだろうから今度オールマイトにも報告に行くとしよう』

「分かりました!!」

 

と出久は自分の中の個性に歴代の光が宿っていると思うと急に緊張して来てしまった、今も見ているかもしれないと思うと不甲斐ない姿を見せる事なんて出来ない。立派なヒーローになる為にも今は期末試験への備えを万全にして置かなければと机に向かい直して勉強を始めるのであった。それと同時に発目が試して貰ったウルトラマンスーツとアタッチメントを正式に出久のコスチュームにして貰えるように申請しておきましたから今度実験手伝って欲しいというメールが飛んできて、嬉しさ半分辛さ半分で肩を落とすのであった。



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最難関へのパスポート

努力と苦労、色々な物を積み重ねながら時間は過ぎ去っていく。それはウルトラマンであるマグナにとっては正しくそうだった筈だろう、ウルトラ族と地球人たちの寿命は何百倍も違う。時間の感覚も異なっている筈だが気付けば当たり前のように地球の時間に適応している彼はいる、それは元々が地球人だったからだろうか、それとも相棒と過ごす地球の一日一日が非常に充実していて楽しい物だからだろうか。光の国へと送る報告書も出久との毎日を書くようにもなっている辺り自分も如何やら地球での日々を楽しんでいたウルトラマン達を笑えなくなってきているらしい。

 

『これは銀十字軍直行かもな』

 

と笑い事ではない筈のことを笑ってしまう、故郷の友人達は帰って来た時にどんな顔をするだろうか。地球の感想を聞くだろうか、それも良いだろう、そんな事を期末テストの出久を応援しつつ考えるのであった。これはあくまで出久の試験なのだから自分が手出しする事は出来ない、まあ自分が手を貸す事もなく出久ならばきっと上手くやる事だろう。それは今日まで彼の頑張りを見続けてきた自分が一番分かっているのだから。そして筆記試験が終わりをつげ、いよいよ―――最も重要とも言える試験、実技試験が始まろうとしていた。各自がコスチュームを纏う中、その前に集結したのは多くの先生たちだった。

 

「それじゃあ実技、演習試験を始めていく。当然だがこの試験でも赤点はある。林間合宿行きたけりゃ、みっともねぇヘマはするなよ」

 

そう、試験の後にはある意味楽しみなイベントでもある林間合宿が待っているのである。赤点を取ったら学校で地獄の補修だという話もあるのでより一層に皆気合が入っている。だが明らかに先生の数が多い。相澤にエクトプラズム、セメントスにミッドナイト、13号にパワーローダーと雄英が誇る教師陣が集結している。試験はロボを使った物だと聞いていたのだが―――と思った生徒達の心情を先読みしたかのように相澤の捕縛布の中から小人のような白いネズミが飛び出してきた、そう雄英の校長である根津が現れた。

 

「今回から内容を変更しちゃうのさ!!」

『校長先生!!?』

「昨今のヴィランの活性化、それらを鑑みてより実戦的な内容へと変更するのさ!!」

 

試験をロボから対人戦、つまり教師との対決へと変更。ヴィランの活性化を警戒してより実戦的な物に変更し、より高みを目指した教育の為との事。

 

「ペアの組と対戦する教師は既に決まっている。動きの傾向や成績、親密度…その他諸々を踏まえて独断で組ませてもらったから発表してくぞ」

 

発表されていく組み合わせ、それらがこれからの試験の命運を分けるという事になるのだから皆が緊張した面持ちで自分のパートナーが誰になるのかを聞き取ろうと神経を尖らせていくのであった。そして舞い込んできた出久の番、そのパートナーは……

 

「緑谷と―――爆豪がチームだ」

「カッちゃんと!?」「デクとだぁ!?」

 

とそれを言われた本人同士が一番驚いていた、まさかの組み合わせに驚愕し続けた。だが其処で終わらせるなんて事はあり得ない、続いて対戦する相手が教師が発表されるのだが直後に頭上から何かが降ってきた、それは見事なスーパーヒーロー着地をしながらゆっくりと立ち上がりながら自分達を威圧するように見下ろしてきた。

 

「私が、する!!」

「「オールマイトが!?」」

「協力して勝ちに来なさいよお二人さん」

 

不敵に笑いながらオールマイトがそう問いかけてきた、やれるもんならやってみなと言いたげなそれに驚き続けていた出久と爆豪は一瞬で笑みを浮かべながら互いに歩み寄ると背中を任せるように立ち直しながらすぐさま構えを取って見せた。それは何なら今直ぐ始めたって俺達は構わないんだぜと言いたげなそれにオールマイトだけではなく教師全員が笑みを溢したのであった。

 

 

数日前。学校の一室では教師らが集まりA組の演習試験によるペアの検討が行われていた。そこで一番の課題とされていたのが出久と爆豪のタッグであった。

 

「にしてもよぉ緑谷と爆豪を組ませちまっていいのか?体育祭の優勝準優勝ペアだぜ。別れさせるのがベターなんじゃね?」

「僕も同感です、こういう事はあまり言うべきではないでしょうがこの二人のペアは尋常ではない強さになると思いますが」

 

マイクの言葉に同調する意見を述べる13号だがそれに関してはほぼ全員の教師が同意見だった。だが敢えてこの二人を組ませたと相澤は言った。

 

「確かにこの二人は実力、個性と共に凄まじい。高いフィジカルと強い個性、そして一見直線的で力押しに見えるが戦闘においては機転を利かせる上に応用も取る爆豪。他の追随を許さない様な圧倒的な身体能力、エネルギーの放出による光線や飛行まで可能な上に頭の回転も相当に速い緑谷。A組でも個性だけではなく肉体面でも優れた最強のコンビであり、プロでもすぐにでも活躍できるでしょうが敢えてこのままで行きます」

 

圧倒的な強さを誇る上に格上との戦闘経験が少ないと判断しその経験を積ませるためにこの二人にした、そしてその超強敵としてぶつけられる事になったのがオールマイトが抜擢された。

 

「今回は経験を積ませる事がどちらかと言えば目的です。立派な壁となって下さいよオールマイト」

「ウムッ任せておきたまえ!」

「うんうんやる気があって結構だね、でも試験という事を忘れちゃだめだからね」

「わかってますとも校長先生、私だって何時までも新米教師という訳ではないのです!!」

 

と厚い胸板を叩きながら自信満々に応えるオールマイト、何故あそこまで自信満々なのか。オールマイトは立派な先生になる為の参考書を読み漁ったりそれを授業で実践したりしているので以前よりも良くはなっているという自負があった、きっとグラントリノにも胸を張れるはずだと……それがこれから試されるという事だろう。

 

「そして教師陣はこれを付けて試験に臨む事になるぞぉ~ジャジャジャジャーン!!超圧縮重りぃ~!!」

『どっかで聞いた事があるような言い方をするね……この地球にも青いネコ型ロボットが居るのか……』

 

言い方はさておき、生徒達が戦闘を視野に入れる為の処置やハンデとして教師陣はサポート科制作の超圧縮重りを装着する。体重の半分を身体に付ける、酷く古典的だが動きは鈍くなる上に体力もその分削られていく事になっていくのでかなり有効な手段、それをテクターギアで味わっている出久は直ぐにその効力の凄さを理解した。

 

あっやべ思った以上に重い……因みにっデザインはコンペで発目少女のが入選したぞ!!」

「発目さん!!」

『本当に何処にでも出てくるね彼女……』

 

何処かからか、私来てます!!という声が聞こえてくるような気がしてきた。出久のコスチュームも彼女製のものへと変わっているのもあるだろうが本当にここ最近、彼女の存在感が薄れたという日がないような気がしてきた。

 

「おいデク、今テメェが出来る事を全部吐きやがれ。相手がオールマイトだろうと関係ねぇ、勝ちに行くだけだ」

「まあカッちゃんならそういうと思ったよ、じゃあカッちゃんも全部出してよね」

「ったりめぇだろそれでオールマイトに勝てると思ってねぇよ」

 

そう言いながら二人は早速作戦会議を始めていく、そんな姿に見送ったオールマイトはこれは壁になりがいがあると思いながらも準備体操をしながら試験を楽しみに待つのだった。そして―――試験の時間となった時、出久&爆豪 VS オールマイトの期末試験とは思えないほどの激戦が始まるのであった。




「ちなみに私、サポート科での試験で提出新しい強化外骨格で首席でした!!尚、実験は全部緑谷さんにお願いしました☆」 by発目


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(おお)きい英雄(ヴィラン)、小さな英雄たち(ヒーローコンビ)

試験会場は以前の戦闘訓練でも使用された運動場β。野外でのヴィラン出現とほぼ同条件且つ出久と爆豪は互いの機動力を100%活かせる場だと思いつつもやれることを純粋にぶつける事のみに気を遣っていた。そして互いのやれることを把握し切ると一旦別れて自分達の番が来るまで精神統一を図ってから互いに試験場へと乗り込んでいった。既にほかの生徒の試験は終わっているが敢えて耳に入れずに自分達の事だけに気を遣っていた、言い方こそ悪いが気を配っている余裕がないのである。何せ相手はあのオールマイトなのだから……。

 

「だから後で胸張って会えるように、頑張るわ」

「オイラだって今回ばかりはマジで行くぜ、後でドヤ顔して会うからまってやがれ緑谷!」

 

そんな声援を送られながらもいよいよ、ラストとして配置されていた出久&爆豪とオールマイトの試験が始まろうとしていた。既にほかの試験は全て終了している、後で聞くそれらを楽しみにしつつも出久は身体を伸ばしながらもコスチュームの調子を確認しながら発目が調整しておいた各種機能も確認する。爆豪は発汗作用を高めるスープの入った水筒を一気にがぶ飲みしてその場に投げ捨て準備万端。

 

『緑谷 爆豪ペア、試験開始』

 

アナウンスが開始の合図を告げると両者はタイミングを合わせる事もなく全く同時に駆け出して行く、超格上相手のこの状況ならば戦う事は愚策。ならば逃げきることを前提するのが上策―――が瞬間、ビル丸ごと含めた街の一角が一瞬で瓦礫に、しかも巨大な石礫と化しながら二人へと襲う。

 

「イズティウム・バスタァ!!」

「オラァッ!!!」

 

それでも焦る事もなく互いの距離を詰めながら攻撃をした。出久は腕にエネルギーを集めながらそれをスマッシュで飛ばす事で光弾をレールガンのような勢いで複数発射し迎撃、爆豪は迫りくる物にのみ狙いを定めて爆破で防御する。石礫はミサイルのような爆発をしながら消し炭へとなっていくが爆煙の奥から異常なまでの威圧感と敵意を纏った存在が迫ってくるの感じた。

 

「「ッ―――!!!」」

 

全身の血液が一気に凍結するような寒気が走って行く、咄嗟に防御をしてしまう程の圧倒的な物。爆煙の奥から姿を現すオールマイト。本来それは平和の象徴として人々に笑顔と安心を与える筈の存在がこの場では自分達に絶望と戦慄を与えるとして―――立ちはだかってくる……あれを相手にするヴィランというのはこれ程までに怖いのかと実感してしまった。

 

「私はヴィランだ。ヒーロー、真心込めてかかって来なさいよ……少年たち!!」

 

さて、如何するかな……とオールマイトは内心で様子を窺っていた。両者の関係はそこまで知らないがあまりいい関係ではなかった事は知っていた、それは戦闘訓練でも透けて見えていた、既に軟化して和解していると言っても良いだろうがそれが自分相手にどんな戦略を取ってくるのだろうか酷く楽しみだった。互いに背中を預け合うように並び立ちながら構えをする姿は酷く絵になっている、殺意に似た闘争心に溢れた爆豪とフェイスカバーを展開しながら瞳が光った出久。これからどうするのだろうか―――

 

「アンタと―――」「真正面から―――」

「「戦う訳ない!!!」」

「そう、来たかっ―――!!」

 

刹那、両者の姿が消し飛んだ。同時に爆炎が一体を吹き飛ばしながら視界を焼きながら発せられた高周波の音が聴覚を襲いかかってきた。言うなればスモークとスタン、双方のグレネードの利点を同時に兼ね備えた一手にて視界と聴覚という人間の情報収集感覚の活動が鈍る―――だがほんの一瞬でしかなかった。コンマレベルの時間しか動きを止めず、即座に行動し距離を取ろうとする両者へと攻撃を叩きこんだ。

 

「私でなければ暫く動けないだろう、だが悪いけど気配で全部丸わかりさ!!」

「だろうな、アンタなら……!!」「知ってたさ……!!」

 

確かに攻撃した位置、そこに二人はいた筈だがギリギリで受け流して掠る程度に留めていた。そしてオールマイトの一撃の風圧を逆に利用して飛び退き、万全な体制を張った。爆豪の身体は十分に温まり発汗が盛んになっている爆破の調子も快調、そして出久の方も備える時間が出来た。その身体は先程よりも巨大となり、大きさだけならオールマイトにもタメが張れる。

 

「高出力近接戦仕様アタッチメント:GAIA接続完了。全パワーセル直結、システムオールグリーン……!!ガイアさん―――大地の力、お借りします!!」

「HAHAHA私対策かな、だがそれがどこまで―――」

「通じるかは此処で試す!!」

 

地面を蹴る、走り出す際には当たり前の動作なのにオールマイトの動作は爆風を伴ったロケットスタートとなり大気圏突破を図るような勢いで迫りながら拳を振り抜いてきた。それだけの動作で相手には絶望を与え、恐怖で身体を縛る。それが齎してきた人々の希望と平和、それへの敬意を込めて―――出久はガイアの力を使う。

 

「ワン・フォー・オール・フルカウル―――20%……!!」

 

それが出久の現在の限界、全身に漲る力と光を纏いながらパワーセルが同調するように音を立てながら出力を上げていく。そして右腕へとエネルギーが集められ赤く輝きながらオールマイトへと向けられる。

 

「GAIA SMAAAAAASH!!!」

 

金属のアーマーでありながら生き物のように膨張していくそれ、そのままの勢いで振り抜かれた一撃はオールマイトの一撃と激突する。周囲に凄まじい爆風と衝撃波をまき散らしながらも出久はそこに立ち続けながらオールマイトを食い止めた、その光景にそれらを見ていた生徒と教師陣は驚愕した。本気ではないだろうがあのオールマイトの一撃を相殺して見せたのだから。

 

「やるじゃないか、私の一撃を相殺するなんて……だがそれで終わりかな」

「まだ、まだ!!」

「決まってるだろうがオールマイトぉ!!!」

 

出久の身体の傍から伸びた爆豪の腕、出久の後ろで衝撃から身を守りながらもこの瞬間を待っていた。0距離からオールマイトが動きを止めたこの瞬間を。この距離で防御も回避の隙も無い状態で可能な限りの一撃をぶつける、それだけの為に無茶をした。そして迷う事もなく爆豪は腕の手榴弾のような籠手のピンを抜きつつも即座に出久の身体に腕を回すと右腕の籠手から大爆発の奔流がオールマイトを飲み込んでいった。

 

「ちったぁ利いたかぁ!!」

「グゥゥゥゥゥッッッッッ……!!!なんて、反動なんだぁ……!!」

「文句言うじゃねぇクソがぁ!!」

 

そして爆煙を突き破るように飛び出していく出久と爆豪、出久の身体へと回した腕は爆発を推進力にして一気に距離を稼いで撤退地点(ゴール)へと向かう為。だがその代償は出久の腕に集中していた。対巨大ヴィランに対する近接戦を想定した筈のGAIA、それとオールマイトの激突は尋常ではない衝撃を出久へと与えていた。発目もその辺りの対策は確りとしていたのにそれら一切合切を貫通してダメージが来ていた。そしてGAIAの右腕にも異常が起きて出力異常、破損が発生してしまった。

 

「―――うんうん開幕ブッパは大成功、それを兼ねつつ距離を取った上で爆発は私が出した所に兼ねるとは素晴らしいねぇ……そして次は!?」

「「ッ!!?」」

 

息を吐く暇もない、そこには迫って来ていたオールマイトの姿があった。先程よりかは時間を稼げているがそれでも雀の涙でしかないなんて、という思いが過るよりも先に二人は空中で体勢を整えながら本腰を入れる事にした。

 

「決まってんだろうが……!!」「もう後の事なんて考えない!!」

「「全力で倒しに行く!!」」

「HAHAHAHA!!!結構結構、来なさいヒーロー共!!」

 

将来有望な二人に対してオールマイトは感激を覚えつつも二人の為に極上の壁となり、成長を促す為の経験となってやろうと勢いを増しながら二人へとぶつかっていく。そして二人はそれに感謝しつつも本気で倒すつもりで挑んでいく―――だがオールマイトは失念していた。

 

「DETROIT SMASH!!!」

「クソが威力が上がってやがる!!こっからが本気って訳か!!」

「負けるもんかぁ!!」

 

先程の一撃と爆発のせいで腕の超圧縮重りが破損して腕から外れている上に耳にあった審判役(ストッパー)のリカバリーガールとの通信用インカムが壊れている事に……。



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限界突破のデッドヒート

「オールマイト、オールマイトアンタ聞こえてるか!?」

『なろがぁっ!!!!』

『SWALLOW SMAAAAAAAAASH!!!!!』

『OKLAHOMA SMASH!!!』

 

モニタールーム、試験中の様子が映されたそれを見ながら審判役でもあるリカバリーガールが必死にマイクに向けて声を飛ばしてオールマイトを制止しようと必死になっているのを麗日、飯田、梅雨が見つめていた。何故ならば彼女が焦る程の事象が起きているのだから。

 

「駄目だねこりゃ、インカムが完全に逝かれちまってる。しかもオールマイトの腕の重りが外れちまってるのにも完全に気付いてないみたいだし……」

「な、ならば早急に止めなければ不味いのではないのですか!?」

「まずいに決まってるよ、見れば分かるだろうけどあの二人は超格上への対応とその経験蓄積。元々あの二人はもうプロに入っても活躍できるだけの力を持っている、だから最難関のオールマイトがぶつけられたのさ」

 

それは理解出来る。傍から見てもあの二人の実力は遥か先に進み続けながらも成長し続けている、それでいながら個性を中心に組んだ戦いではなく個性を自分の戦法に個性や幅を利かせる為として使っている。相手が相澤でも単純な肉弾戦だけで十二分に対応出来る、そんな相手はオールマイトしか務まらないだろうという事も分かる。

 

「だがありゃやりすぎだね……ハンデが半減しているオールマイト、しかも相手が相手だけに本気に脚を半分突っ込んでる」

「そ、そんなっ……本気の半分だとしてもデク君と爆豪君凄い危ないちゃうの!?」

「試験に落ちる所じゃないわ、大怪我必須よ」

「流石にその辺りは加減するだろうがそれでも大変な事になるぞ!!」

 

そんな言葉の直後だった、モニターに映り込んだのはビルを突き破りながら地面を抉るように吹き飛ばされるようにしながら倒れこんだ出久と爆豪の姿だった。控えめに言って既に満身創痍、荒い息を吐き続けているそれらに顔を青くしてしまった。

 

 

「ッソがぁっ……」

「グッガァッ……」

 

抉られた地面、そこに倒れこむ両者は息を吐き出しながらも苦しみに耐える。二人のコスチュームも酷く破損しており爆豪の両手の籠手も完全に粉砕、出久のGAIAも各部が破損し内部の回路が見え隠れしながら時折スパークを起こしながら地面を照らしている。それらの前にゆっくりと歩いて来ながら肩を回してくるオールマイトが迫る。

 

「漸く身体が温まってきた、さあまだ行けるかなぁ―――少年たち」

 

漸くギアが入ってきたと言いたげなそれに二人はうんざりしたくなった、これでまだまだ上があるのかと。流石は日本をヴィラン犯罪発生率世界最低へとした平和の象徴、格が違う。

 

「ぉぃ、まだ動けっか……」

「行ける、よ……」

「―――行くぞ」

「―――うん」

 

迫ってくるそれに対してハンドスプリングで立ち上がりながらまだまだ健在と言わんばかりの対応をする、もう既に身体にガタが来ているのだがそんな事も言っていられない。

 

「よしいいぞっ子供とヒーローは元気でなくちゃな!!」

「ケッ良く言いやがる……」

「こっちはもう、ヘトへとで元気なんて欠片も残っちゃいないのに……」

 

その元気を打ち砕いている人が良く言うよと言わんばかりの言葉にオールマイトは確かにそれもそうだなと少しばかり苦笑いをした、だがそれでも二人は立つのだ。最早精神力の領域に入ろうとしているそれらに敬服しながらも一気に迫っていく、1秒にも満たぬ時間で距離を0にするとダブルでラリアットを炸裂―――

 

「んなろぉォぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

「シャアアアアアアラァァァァァァァァァ!!!!!」

 

する瞬間、その腕を掴んだ二人はその勢いを逆に利用して200キロを超えるオールマイトの巨体を投げ飛ばしてビルへとぶつけた。ぶつけられたオールマイトは全くダメージがなさそうだがその表情には驚きが浮かび上がっており、まさかあの一撃を逆に利用されるなんて思ってもみなかったらしい。

 

「まだ力を温存していたとは、まだまだやれるとは思ってもみなかったよ」

「ザケんな力なんざもうねぇんだよクソが……」

「あれ?」

 

ふら付き、何時倒れこんでも可笑しくもない状態になりつつも何時もの悪態を返す爆豪に思わず疑問符を浮かべる。だが先程のそれは開始直後の全力のそれと何ら変わりない力だった。だが最早力など無いというそれらとは明らかに矛盾している。

 

「ギリギリまで頑張って、ギリギリまで踏ん張ってるだけですよ……!!」

「戦いの最後は気合と根性だ……おいデク、先に倒れたら承知しねぇぞ!!」

「カッちゃんこそ!!」

「「力を出し切るんだぁぁぁ!!!!」」

 

その時、二人の瞳に再度光が灯った。今までにない程の強い光を灯しながら二人は腰を入れながら此方を見つめてきた。そうだ、自分が見たかったのはこれだったのかもしれないとオールマイトは自然と口角を持ち上げてしまっていた。強さ、連携、作戦、様々な物を見たがこれが一番価値がある。決して敗北の恐怖に脅えずに最後まで折れぬ意志と決意を胸に前に踏み出せるか否かを。そうだ、ヒーローとはそうでなければいけないんだ。

 

「ォォォォォッッッッ!!!!」

「ァァァァァッッッッ!!!!」

 

最早言葉すら出す余裕すらないのか、それら全てを行動に変換しているのかという叫びを上げながら出久が突進する背中を爆豪が爆破で後押しして加速させた。衝撃波だけを当てるなんて器用な事をしている余裕もなく、爆風と爆炎が容赦なく出久を襲うがそれに構う事もなく突撃する。その速度はオールマイトも驚く程、その分出久へのダメージも大きいだろうに彼は怯む事無く突撃し自分の蟀谷に飛び蹴りをブチ当てた。

 

「いたぁがぁっ!?」

 

流石のオールマイトも急所に一撃を食らえばたじろぐのかバランスを崩すとその隙を見逃がさずに喉辺りを蹴り上げられ、思わず声を上げながら怯んだ。そして出久はGAIAの出力をMAXに引き上げながら組み付きながら前へと跳んだ。そのまま全体重をかけて地面へと叩きつけようとするのに気づいたのか踏ん張ろうとするのだが―――

 

「ドラァァァァァァッッッッ!!!」

「ぐっ!!」

「ディアアアアアアッッッッ!!!!!」

「ぐぶっ!!」

 

背後に回り込んだ爆豪が後頭部目掛けて爆破の勢いで加速した蹴りを放ち押し込む、完全にバランスを崩してしまいそのまま出久によってフェイスクラッシャーを決められてしまう。流石のオールマイトも長いヒーロー活動の中でも顔面砕きを食らった事は初めての事だった、しかも両者の攻撃が完全に急所狙いであり容赦がまるでない。ならこちらもそろそろ本気で―――

 

『……言おうか迷ってたけどオールマイト、貴方腕の重り如何したんですか』

「えっあれぇっ!?」

 

此処で出久の戦闘の意志が非常に頑強で水を差す事になると黙り続けていたマグナがマジになろうとしていたオールマイトを止める為に遂に声を出した。それで漸く気付いたのかオールマイトは腕の重りが完全に外れている事に気付いた、通りで途中から調子が良くなったと思ったらそういう事なのか!?と納得した所でそこへ出久と爆豪の全身全霊を込めた拳が身体に炸裂するのだが―――そこで二人は完全に力尽きてしまい倒れこんでしまった。

 

『それと一つ、これ試験って事忘れてないですよね。ちゃんとクリア出来る範囲で力出してましたか、壁になろうとしてて加減忘れてませんでした?』

「あっ……」

『……如何するんですか……』

 

完全にやってしまったオールマイト、そんな彼を他所に出久と爆豪の気絶による試験終了が宣言されてしまいもう取り返しがつかなくなってしまった。真っ青になりながら冷や汗をダラダラと流しつつもオールマイトは必死にマグナに如何すればいいのか助言を請おうと心の中で叫ぶのだが先程まで聞こえていた筈のマグナのテレパシーは全く聞こえなくなっていた。

 

「(マグナさんどうか応答してくださいぃぃぃぃぃ!!!!)」

『いやもうどうしようもないよこれ……』




ガイアの投げ技で一番印象的なフェイスクラッシャー。一応スプリームホイップという投げ技の派生らしい。


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最悪の状況

「み、緑谷と爆豪が落ちたぁ!?」

「マジかよ幾ら相手がオールマイトだからってあの二人が!!?」

 

出久と爆豪の試験に落ちた事は教室にて待機していたクラスメイト達に飯田達によって伝えられ大きな衝撃が走っていた。二人の試験官を務めていたのはあのオールマイト、試験の中でも屈指の難易度だと皆が思っていたがそれでもあの二人ならばきっと乗りこえる事だろうと思っていたのだが……まさかの敗北を喫していたという事実は驚きしか生まなかった。

 

「マジかよ……やべぇよオイラぜってぇ受かると思って、ミッドナイト先生相手にやってやったぜドヤ顔するつもりだったのに……」

「それは凄いとは思うけど流石にもう少し考えた方が良いんじゃないかしら峰田ちゃん」

 

当然クラスの中には不合格になった者もいる、なのであの二人が特別という訳でもないが体育祭の優勝準優勝コンビが落ちるという事は十分過ぎる衝撃となっていた。

 

「でもさ、アタシらと違って流石にしょうがないんじゃない……だって相手がオールマイトな訳だしさ……」

「だよな……俺らと違ってな……」

 

と一角で落ち込んでしまっている試験落選組、彼らも彼らで試験に落ちてしまっているがそれでも相手となった先生方は確りとハンデを受けて相手をしてくれていたので比較も出来ない。ほぼハンデなしのオールマイト相手に戦った出久と爆豪には何も言えない……そんな中でやって来た相澤、これから期末試験の総評を発表して誰が赤点なのかが明かされる事になり、補修地獄になるのか、林間合宿行けないのかが決定する……そんな地獄の断頭台に立たされているかのような気分になっているへと相澤から発表がされる。

 

「期末テストだが、残念ながら赤点が出てしまった。よって林間合宿は―――全員行きます」

『どんでん返しが起きたぁ!?』

 

文字通りクラスが揺れた大ボリュームの声が響き渡った。完全に雄英に残っての補修地獄だとばかり思っていたので想像だもしなかった事だろう、だがなんでそうなったのかと問われると相澤は少し悪い顔をしつつ言うのであった。

 

「今回の試練、我々教師側(ヴィラン)は生徒に勝ち筋を残しつつどう課題と向き合うかを見るように動いた。裁量は個々人によるが課題云々の前に詰む奴ばかりだったろうからな、そして林間合宿は強化合宿だ。赤点採った奴こそ力を付けてもらわなきゃならん―――合理的虚偽って奴だ」

 

相澤らしいやり口にクラスから喝采の声で溢れる、のだが直後に赤点は赤点だから覚悟はしておけとくぎを刺されるのであった。そしてそこで麗日たちが手を上げて聞きたい事を聞いた。

 

「あ、あのデク君と爆豪君も赤点なんですか!?」

「そうです先生!!確かにオールマイト先生に負けてしまいましたが二人は精一杯に頑張りました、それこそ考慮されるべきものだと愚考いたします!!」

「それにオールマイト先生途中から重りが外れてたんだからそれで赤点って言うのは理不尽だと思うわ」

「その件か……安心しろ、あいつらは赤点じゃない」

 

その言葉に三人は驚きつつも相澤は頬を掻きながら答える。

 

「当然だろう、オールマイトは途中から重りが外れて完全にハンディがなくなった上に本人はそれに気づかずに試験を逸脱する本気に近いレベルで戦った。それなのにあの二人は最後の最後まで戦い続けていた、その内容も評価に値する。あの内容じゃ誰もクリア出来んにも拘らずだ」

 

そんな事を話しつつも未だに医務室で眠り続けている出久と爆豪に本気で良くもあそこまで戦えるものだと関心する、圧倒的な実力差がある相手に逃げを選択するのは愚行。背中を見せれば背後から襲われ一発KOもあり得る、故に戦い続ける事こそが最適解。そこで隙を作り逃げるのもいい、だが相手がオールマイトなので戦い続ける事が必然的に選択される……そしてあの大立回りは称賛に値する。特にオールマイトがフェイスクラッシャーされる光景は凄かったと皆が口を揃えた。

 

「兎も角、お前達はお前達で林間合宿の事を考えとけ」

 

そんな言葉の裏側では一室で行われているであろうお説教が過るのであった。

 

 

「こんの……大馬鹿もんがぁ!!!」

「ががぶふぅ!!!」

 

雄英高校の一室、発目や出久も良く利用している談話室にて床に直接正座させられながら思いっ切り殴られて宙に舞うとそのまま跳び蹴りが炸裂させられたのはトゥルーフォームのオールマイト。そしてそれを行ったのはそんなオールマイトの先生であり出久が職場体験で赴き様々な事を学ばせて貰ったグラントリノの姿がある。

 

「イズティウムの一件で成長したと思った矢先にこれか大馬鹿もん!!!イズティウムだけじゃなくてもう一人の方も本来なら病院送りものだ、リカバリーガールの処置があるから何とかなっとるがそれでもギリギリすぎる!!」

「申し訳、ありません先生……師として、課題として壁として二人の成長の糧となれればといいと思っていたのですが……」

「だったら加減を知らんか!!!経験を積ませるにしても高すぎる壁が何の役に立つんだ!!?」

 

出久と爆豪の一件から急遽呼ばれたグラントリノ、根津から事情を聴くと青筋を立てながらオールマイトを嘗ての指導のように殴りながら罵声を浴びせ掛けて行く。聞けば聞くほどに如何してこの男がイズティウムの指導を出来たのかと疑問に思う程。

 

「お前は師である前に教師だ、それを考えずに何をやっとる!?しかも最後の最後まで重りとインカム破損に気付かなかったぁ!?注意力が散漫すぎる!!」

「うっぅぅぅぅっ……」

 

もう何も言えず唯々正座したまま喋る事が出来なくなってきているオールマイト。実際マグナに言われるまで気付く事も出来ず、外れた事も調子が出てきた程度の認識でしかなかった上にインカムの事なんて全く気にもしていなかった。リカバリーガールからの言葉がない程度しか……故に何も反論できずに唯々言葉を受け続けるしかない……。

 

「ったくおい俊典、お前まさかイズティウムに自分の指導不足をフォローしてくれるように頼んだんじゃないだろうなぁ……?」

「ッ!!?な、ななななななな何をおっしゃいますか先生!!?」

「お前がイズティウムが言っていた通りに出来たとか仮定したとしても今回の一件は余りにも杜撰過ぎる、そんなお前が本当にイズティウムをあそこまで鍛え上げられたか甚だ疑わしい」

「(やばいやばいやばいやばいバレるバレるバレるバレるバレるバレる!!!??)」

 

実際の指導の半分以上、いやそれ以上はマグナがやっていてくれた事がバレそうになりオールマイトは今までにない程に焦り始めた。マグナからのフォローを無駄にしない為に今まで以上に教師としての勉強を重ねているのだが、今回それを自分で台無しにしたような物。本当にこれから如何したらいいのだろうかと頭をフル回転させている時に談話室の扉が開けられた。

 

「やぁっ待たせちゃったね」

「おう校長」

 

そこには雄英高校校長の根津、そしてもう一人が入ってきた再び扉が閉じられた。校長先生だけでももう辛いのにこの期に及んで誰が来たのだろうかと顔色がさらに悪くなっていくオールマイトが顔を上げてそこにいる人物を見ると思わず硬直してしまった。グラントリノとは別のベクトルで会いたくなかった人物がそこにいたのである。白を基調とした金ボタンのシングルスーツ、白いワイシャツ、赤地に白抜き水玉模様のネクタイというサラリーマンとして見ても違和感なしの服装をしたその人物にオールマイトは更に言葉が出なくなってしまった。

 

「―――お久しぶりですオールマイト、まさかこのような状況でお会いする事になるとは思いませんでした」

「そ、そうだね……うんいや全くだ……あはははは、ははは……」

 

そこにいた人物とは嘗てオールマイトのサイドキックだった男、ヒーロー サー・ナイトアイ。そして眼鏡を一際輝かせると低い声で威圧するように言った。

 

「オールマイト、私も言いたい事が山ほどありますがまず一言―――貴方は本当に教師としてやっていけているのですか」

 

この時オールマイトは思った。今の状況はオール・フォー・ワンと戦うよりもつらいと。

 

『こういう時、地球ではこういうのだったかな―――是非も無いね!!』

「(マグナさん唐突に何を!?)」

『相棒の仕返しですけど何か?』

「(駄目だ味方が完全に居ない!!)」



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変化する心情

すっかり日も傾いて夕暮れが近づき始めている現在の時刻は午後5時、オールマイトに対する説教は一体何時間続いているのだろうか。その日の授業全てが期末の実技として扱われ、その最終がオールマイトの物だったので……軽く見積もっても数時間は経過しているだろうか。その間ずっと正座しっぱなしオールマイトはもう既に脚の感覚という物が薄れて来ていた―――という甘えは存在しない。

 

「ひぐぅわらぁ!!?こ、校長先生止めて下さ……ァァァァァッッッッ!!!!」

「フムッこうして平和の象徴が苦痛に歪む顔を見ながらお茶をやるというのも中々に乙だね」

 

説教はグラントリノとナイトアイに任せながらそれらを見張りつつお茶を啜っている根津、時折痺れている脚を突っついて刺激して苦しみを与えるという事をやったりしながら数時間。その時間がオールマイトにとってどれだけ辛かった事だろうか……もう勘弁してほしいという念が全身から溢れ出しているようだった。

 

「ふぅ取り敢えずはこんなとこで勘弁してやっか……」

「そうですね、この辺りが妥当な所でしょう」

「いやぁお疲れ様。二人の分もお茶入れてあるから喉を潤しなよ」

「た、助かった……」

 

倒れこみながらも安堵の息を吐くオールマイトだが足の痺れから苦しみからは解放されるのは大分後の事、先ずはそれに耐えてからでないと本当の安堵は訪れない。これも計算しての正座だとするとこれが自分へと罰なのか……と重く受け止めるのであった。

 

「ったく俊典、お前今度碌な事しやがったら無理にでもお前を師匠から外させて俺が代わりに付く。まあ幸いな事にイズティウムにはもう一人師匠が居るらしいからな」

「そ、それだけはご勘弁を……!!」

 

もう一人の師という言葉に僅かばかりにナイトアイの瞳が輝くがオールマイトはそれ以上に自分が師から外されるという事に強い危機感を覚えている。自分の不甲斐なさは分かっているつもりだがそれでも出久は自分が全てを掛けてでも育て上げると誓っている、その割にマグナに大分投げている感が半端ないがそれでも彼が自分の弟子である事に変わりなくそれを譲るつもりなどはなかった。

 

「グラントリノ、イズティウム……つまり緑谷 出久にはオールマイト以外にも師が居ると?」

「らしいぞ。小僧はこいつに見てもらう前に見て貰ってた人がいたらしい、話を軽く聞いただけだが随分と信頼してて嬉しそうな顔してやがった」

 

そっちの方が大分師弟らしい関係だろうな、と言うが事実なのでオールマイトはバツが悪そうな顔をしてしまう。ヒーリングパルスを撃って貰ったり出久の指導を任せっぱなしだったり何方かと言ったらマグナの方が師として立派なのは明白だろう。

 

「オールマイト、今回雄英に来たのは根津校長からお話を受けただけではなく幾つかお話したい事があるからです」

「や、矢張り君を呼んだのは校長先生だったか……」

「当たりさ☆」

 

ウィンクをしながら答える校長曰く、恩師に加えて嘗て自分のヒーロー活動を支えてくれていたサイドキックが説教に参加してくれた方が効くだろうからと呼んだとの事。全くもってその通り、もう効きすぎて今直ぐ家のベッドで横になって眠りにつきたい気分になっている。そして何故此処にナイトアイがやって来たのかを聞こうと思う、聞かなければならない。彼は自分の秘密、ワン・フォー・オールの事を含めて全てを知っているのだから……だが彼とは疎遠になってしまっている、お互いに話しづらいと思っていたのだが……何故こうして会いに来たのかを。

 

「……オールマイト、保須の巨人に付いてはどの程度」

「いやニュースで見た以外はそこまでは」

「単刀直入に言います、私が見た未来にあの巨人は存在していなかった」

 

その言葉にグラントリノと根津は眉を顰め、オールマイトは理解した。彼の個性に関わる事なのだと、ナイトアイの個性は対象人物の一部に触れ、目線を合わせることで発動させる事が出来る"予知"。それによってナイトアイはオールマイトの未来を見た事があった、だがそこに保須に出現した巨人は全く存在しなかった。

 

「見逃がしちまったって可能性はねえのか、制限の間じゃ見られない未来もあるだろ」

「そうかもしれないが集中し気になる物は確認する癖は付けています、ですがそこにあの巨人の影も形も無かった。私の予知に存在すらしなかった……」

 

オールマイトはそれを聞いてある意味それは正しいのだろうと納得していた。マグナがこの地球に、いやこの宇宙の地球にやって来たのは偶然の巡り合わせが齎した奇跡のような物なのだから。ナイトアイの個性のそれは別の世界の宇宙までは到底予測出来なくても当然、そしてそこにマグナが存在しなくても当たり前な事なのだろう。

 

「あの巨人は私の個性の外側の存在かもしれない、もしかしたらオールマイト(貴方)の未来を変えられるかも……しれないんだ……!!」

 

まるで縋るような声だった、終わりに近づくたびに小さくなっていくが最後にはまるで振り絞るかのように大きな声を出して胸の中に燻り続けていた言いたい事を、伝えたい事を吐き出す事が出来た。

 

「(ああそうか、君はそれを私に伝えたかったのか……そうか、君の本質は本当に何も変わって、居ないんだね……私という男は本当に……)」

 

それを理解するといかに自分が今まで小さくて馬鹿な事をしていたのかと思えてきた、改めて考えるとオール・フォー・ワンの事を考えるとナイトアイとはさっさと仲直りして共に戦って行く方が良いに決まっている。それなのに自分は意固地になって、気まずいからという馬鹿みたいな理由で彼から眼を背けて来ていたんだ。出久とマグナに自分も一緒に戦うと誓っておきながら……それにナイトアイはずっと自分の身を案じているんだ、想ってくれているんだ、心配してくれているんだ……今度は自分がそれに応える番だと心の中で呟く。

 

「(マグナさんまだお聞きになって居られますか)」

『ええ、何やら覚悟が決まったように感じられますが何かありましたか』

「(はい―――貴方の事を話す許可を頂きたい)」

『―――私が信頼してもいいと?』

「(はい、私の全てを以て保証いたします)」

 

その言葉にどれだけの決意などがあった事だろうか、そしてどんな事を齎すのかと問いかけるようなマグナの問いに凛とした言葉で返す。暫しの沈黙の後、返答が返ってくる。

 

『……良いでしょう、これからの事を考えると協力者がいてくれるのは素直に有難いです。出久君も私と貴方が良いというのならばと言ってくれています、その信頼に応えると誓えますね』

「(勿論です、談話室に居りますが此方に来れますか?)」

『問題ありませんよ、爆豪君はまだ寝てますが……此方は動けますので向かいますよ』

 

そこまでで会話を切ると足の痺れが途端に消えた、もしかしたらマグナがテレパシーと一緒にヒーリングパルスを送ってくれたのかもしれない。それに感謝しながら立ち上がるとオールマイトはマッスルフォームへとなりながら根津、グラントリノ、そしてナイトアイへと瞳を向けた。

 

「これから皆さんに重要且つ大切な話があります、そして同時にお願いがあります。これから伝える事を他言無用に願いたいのです、そうでなければ私は今すぐに退出します」

 

マッスルフォームの威圧感……ではない、そこにあるのは彼自身の真摯な心があった。こんな姿の彼を見るのは何時以来になってしまうのかと思いながらもただ事ではない話が待っていると3人は思いながらも迷う事無く頷いた。それはオールマイトへの信頼、信用、そして―――今までの事を踏まえた結果なのだろう。それらを見るオールマイトもそれが真実である事を感じて口を開いた。

 

「私は保須の巨人の事を以前より知っておりました、そして今彼は此方に来ます」

「何ですって!!?」

「此処に来るってもしかしてそいつは……」

「雄英生いやそうじゃないね、君の弟子なのかい?」

 

流石の頭の回転に感心しつつ頷こうとした時、談話室の扉がノックされた。オールマイトがその扉を開くとそこには普段とは瞳の色が違う出久が居た、それをすぐさま感じ取ったのは職場体験で彼を指導し続けたグラントリノ。続いて根津、そしてナイトアイだった。少年とは思えない雰囲気を纏いつつも綺麗な礼をしながら自己紹介を行った。

 

「皆様初めまして、私はM78星雲・光の国からやって来たウルトラマンマグナと申します。今は相棒である出久君の身体を借りてお話をさせて頂いています」

 

思わず、3人は硬直してしまった。まるで以前のオールマイトのように。そんな姿を見つつもマグナは微笑みながらどんなふうに説明をしようか考えるのであった。



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告げられる光の話

談話室は奇妙な緊張感で満ち溢れていた、先程から一名追加で爆豪が目覚めた事で手が空いてリカバリーガールも合流。彼女もオールマイトへの説教を行おうとしていたのだがそこに広まっていた空間の空気に驚いてしまっていた。そこにいたのはソファに腰掛けながら一点へと集中するかの如く瞳を向け続けている根津、グラントリノ、ナイトアイ。それをオールマイトと出久は何処か苦笑いしながらリカバリーガールを手招きして彼らの近くに座り込んでいる銀色の存在へと驚きながらも改めて話が再開されたのであった。

 

「まさか、いや本当に……」

「宇宙人なんて一時期異形型への侮辱に等しかったが、それが目の前にいるなんてな……」

「―――っ……」

「長生きはする物なんだねぇ……」

 

と自己紹介が成されると思わず皆が言葉を漏らす中でホログラムに近い状態のマグナも何処か微笑んだ。ヒーロー達にとって最早幻想の彼方へと消え失せ、頭に浮かべる事も無くなってしまった宇宙開発の果ての果ての出会うであろう異星の者。保須の巨人とも呼ばれる存在が異星人という衝撃もある。故か根津が先陣を切るように言葉を口にした、僅かに震える声色を整えながら。

 

「それで貴方の事はマグナさん、とお呼びしてもいいのかな」

『構いませんよ、出久君にもオールマイトにもそう呼ばれてますからね。呼び捨てでも構いませんよ』

 

初めての言葉のやり取りに緊張していたのだろうか、ファーストコンタクトが上手くいったことに根津は感激しているのか身震いしながらも思わず背凭れに身体を預けてしまった。今の言葉だけでマグナの性格、人格、価値観などを感じて地球人と極めて近いかほぼ同じである事が分かった。それならば同じ感覚で話しかける事が出来るという確信も得られた。だが思わず力が抜けてしまったのだろう、まるでバトンタッチのようにグラントリノが質問をする。

 

「んじゃ気軽に呼ばせて貰うぜ。マグナさんよ、イズティウムが見て貰ってるっていう人はアンタで間違いないのかい」

『そうとも言えますね。今現在の私は出久君と一心同体になってますから、ですがオールマイトと出会ってからは一緒に指導したというのが正しいですね。ですので彼に対する怒りは収めてあげてください、貴方に話した指導は事実ですから』

「ちっ命拾いしたな俊典」

「せ、先生本当にご勘弁を……!!」

「本当に怖がってるんですねオールマイト……」

 

自分のフォローまでしてくれたマグナにはもう感謝を尽くしようがない、そこに続いてリカバリーガールがする。

 

「それじゃあ次はアタシがしようかね、体育祭の時にその子の身体に余りダメージが無かったのももしかしてマグナさんがやったのかい?」

『はい、私の技の一つであるマグナ・ヒーリングパルスで彼の疲労と共に傷を癒しました。当時は貴方の事も考慮して出力は抑えていましたが』

「そんな事まで出来るのかい……医学的にどんな効力があるのかも興味あるから是非ともその技を見てみたいね、今度お願いしてもいいかい?」

『お手柔らかに、私は本職ではないので』

 

そんな言葉に出久は思わず笑ってしまう、マグナとの間でよく聞く言葉の一つである本職ではない。そう言いながらも彼自身は尽力してくれるので自分達の側としては満足を超えた大満足しかない。それなのに当人は本職ならもっと行けるんだけどね、とこぼすのがお決まりになっている。光の国の本職、銀十字軍の方々はどれだけ凄いんだろうかと思いながらも話を聞き続ける。

 

「それでは次は私が、以前よりオールマイトの活動時間が奇妙に増えていると思っておりました。マッスルフォームとトゥルーフォームを上手く切り替えていると思っていましたがそれでも総合活動時間が6時間を超えているのは奇妙だと、それも貴方が」

「そうだよ。私も半年以上前からマグナさんのヒーリングパルスのお世話になっててね」

「オールマイトアンタ何やってんだい!!そういう事を医者の許可も無しにやるなんて何を考えてるんだい!!?」

 

マグナの凄さと如何に現代の平和に貢献してくれているのかと高らかに語ろうとするオールマイトへと炸裂する拳骨。平和の象徴から聞いた事もないような「痛ぁぁぁぁっっ!!!??」という声が室内に響き渡り同時に吐血する、それにマグナが透かさずヒーリングパルスを照射して痛みの抑制と傷の回復を行うのであった。それに目を見張りつつもみるみるたん瘤が消えていき、同時にオールマイトの体調も回復していくのか血色と肌の艶が良くなっていく事にリカバリーガールは驚いた。

 

「ど、如何ですかリカバリガールこれがマグナさんの凄さでして……」

「こりゃ凄いね……だとしても医者の許可なしにやるなんて言語道断さね!!まあ今回は見逃がしてやるけどその代わりアンタは後で精密検査だよ、ヒーリングパルスとやらがどの程度身体に影響するのか調べさせてもらうからね」

「お、お手柔らかにお願いします……」

 

医者として何かが疼いているのか目つきが鋭く輝きを放つリカバリーガールに圧倒されるオールマイト、まあ彼の身体の事を考えたらリカバリーガールの言葉は正論のそれであるので逆らえないのだろう。

 

『私の目的は先程も説明した通りにこの地球の調査でした、がもうそれ所ではないでしょうね。私が保須の巨人と呼ばれるようになった時に戦っていたあれは私と同じ異星人です』

「マジか……エンデヴァーの炎が利かねぇ訳だ」

 

保須にて直接ツルク星人と相まみえたグラントリノはそれを強く実感した、改めて考えるとあれらはヴィランとは全く別の存在のようにも感じられた。それが今ハッキリとした、あれもマグナと同じく地球のものではないという事ならば確かにそうだと。そしてそれに光の国の技術を悪用している、それを見逃がす訳には行かないし人々が危険に巻き込まれる事をウルトラマンとしては無視する事は絶対に出来ない。

 

「では、マグナさんはこれからも私達と一緒に戦ってくれると思ってもいいのかな」

『勿論です。私は出久君が一人前になるまで共に居ると決めていますからね、そして私もワン・フォー・オールに関わった者として尽力させて頂きます』

 

その申し出は酷く心強く有難い物だった、それを一番強く思っていたのは他でもないナイトアイだった。話をしていてマグナの力を受けてオールマイトがどれほどまでに変化を促された上に傷の痛みを和らげられ、前に進めるような心の余裕を作り出したのかと。そして同時に出久の存在にも目を向けていた、最初こそ認めるつもりはなかった、だが……

 

「じゃあ緑谷君の力は個性じゃなくてマグナさんの影響で身に付いたものなんだね」

「そう、ですね。本当に大変でしたけど色々と助けられて今こうして頑張れてます」

「恥ずかしがるこたぁねぇだろうよ、お前さんの力は俺が保証してやる」

 

笑いながら話をする姿は自分が定めていたワン・フォー・オールの継承先に相応しいと思っていた少年と姿が被る様だった。オールマイトが自分との蟠りを超えてくれたというのに自分はそんな彼が自分の意志で見つけた後継にまるで嫉妬してたかのようだった。それに恥ずかしさを覚えながら顔を上げながらある事を口にした。

 

「オールマイト、その……また以前のように手を取り合う事は出来ないでしょうか……」

「寧ろ私がそれを言うべき立場だよ、君の気持ちを考えず私は意固地になってしまって済まなかった……」

 

手を取り合いながら互いへの気持ちを吐露しながら素直に謝罪しながら、ナイトアイは涙を流しながら感謝をした。またオールマイトと歩む事が出来るという現実に嬉しさと未来を変える事が出来るかもしれないという希望、いや変えて見せるという意志を持ちながら。

 

 

―――さて次の実験だ、精々頑張ってくれよマグナ……。



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指導&過去話

サー・ナイトアイとオールマイトの和解、それはワン・フォー・オールの事情を知っているグラントリノ達からしても願ってもない出来事だった。この事に一番喜んでいたのは当事者でもあるナイトアイだったが肝心要のマグナは自分は何もしていないと彼からの礼を受け取ろうとはせずにこれから一緒に戦えることを楽しみにしているとだけ述べていた。その言葉に報いる為に眼鏡を輝かせながら全力を尽くす事を誓い、先ずその第一歩を踏み出す事にした。

 

『―――オールマイト、貴方の弟子の指導方針や指導内容、試験での出来事などなどを全て余さず私に話してください。この際ハッキリ言っておきますが貴方は名監督ではないのですから私が基礎からタップリと叩きこませて頂く事にします』

『それはいいね、オールマイトの新米教師っぷりもいよいよ卒業の時が来たようだね』

『そうしてくれるとアタシとしても安心出来るねぇ』

『同意だな』

 

その第一歩というのはオールマイトに対する様々な事を叩きこむ事であった。マグナという偉大な存在が居るとしても出久の直接的な師は彼本人なのだから彼のレベルアップは必要不可欠、そんな重要な存在のレベルは酷くお粗末という事が今回の試験で露呈した。流石にナイトアイもこれを見逃す事が出来ない、教師として活動するならば他の生徒達の成長にも関わってくるのだから確りと学んで行って貰わなければならない。未来を担う子どもたちの育成、これもマグナと共に戦う事を意味するのだからナイトアイは一切の加減をする気がない。仲直りを免罪符にする気0のサイドキックに冷や汗を流すオールマイトを見る事になった。

 

『サイドキックの貴方ならばきっとオールマイトの弱点を的確且つパーフェクトに補えるでしょうね、では御手数でしょうがお願いします』

『ええっお任せを……それではオールマイト、早速ですがこの後時間を……!!』

『ア、アハハハハ……お手柔らかに……ね?』

『却下です』

 

初めての休日、出久は自室でのんびりとしていた。というよりも出久と爆豪にのみ与えられた特別休暇に等しいそれはオールマイトとの試験で受けた疲労やらダメージを回復させるために与えられた物、この日は夏休みも近いという事で雄英も珍しく午前授業なので余り恩恵は感じられないかもしれないが出久は普段ではできない様な9時起きをして酷くリフレッシュした気分になりながらも満喫していた。

 

『この時に覚醒した怪獣こそ大魔王獣と恐れられるマガオロチだったんだ。此奴は成体になると惑星に住んでいる全ての物や生命体を喰らい尽くして死の星へと変えてしまう、正しく星をその物を喰い尽くすというとんでもない存在なんだ』

「ひえっ……とんでもなくやばそうな奴じゃないですか……」

『いや全くだよ、私もゼノンから話を聞いて驚きを隠せなかったよ。大急ぎで任務を終わらせて救援に向かったんだ』

 

その満喫方法というのはマグナの過去の体験談、ウルトラ戦士に与えられた任務の話を聞いたり残っている記録映像を見せて貰う事だった。別次元のスケールで展開されていく話や戦いの規模、それらは刺激的且つスリリングな物ばかりで出久は聞き入るばかりだった。

 

『そして無事にマックスを救い出した上でマガオロチの撃破、そして惑星ミカリトを救う事が出来たという訳だよ』

「本当にマグナさんの世界って凄い事ばっかりですね!!?星まで食べちゃう怪獣が居るなんて……というかマックスさんやっぱり凄すぎませんか!?いやリブットさんとかゼノンさんとかも凄いと思いますけどそんなやばい細胞に侵されてるのに三日も耐えたりするのって凄すぎません!?」

『うんそれは私も思うよ、元同僚としてはあの万能最強感はやばいと思う』

 

因みに当時、マグナが請け負っていた任務というのが暴走状態に陥っていた改造キングジョーの破壊任務であった。何処かの宇宙人がペダン星から奪ったキングジョーにゼットンを組み合わせるというとんでもない事をやってくれたおかげで様々な星で暴れ回っていた。流石にマグナ一人では苦戦していたが、ゼノンが来てくれたおかげで何とか切り抜けられた。

 

『それよりも君にとっては明日の方が楽しみなんじゃないのかい、クラスの皆とお買い物なんだろう?』

「じ、実は結構楽しみにしてます」

 

携帯にやって来ていたメッセージ、それはクラスメイト皆で林間合宿に備えて買い物に行こうという誘いであった。出久としては友達からの誘いは酷く嬉しく速攻で行くという返事を返してしまった。明日だというのに今からワクワクして溜まらない様子。

 

「林間合宿も楽しみだけどその前の準備がこんなにも楽しみなんてなぁ~……」

『お祭りの当日よりも準備をしている最中の方が楽しいという人もいるらしいからね、それに類似するような物と考えればいいのかな』

「ああそれですね!!」

 

そんな風にワクワクしている相棒ににこやかな物を向けつつもマグナ自身もそれを楽しみにしているので何も言えなくなるのであった、なので次の話に映る事にした。

 

『さて次はどの話が良いかな……折角だから以前一緒になった事があるトライスクワッドの話でもしようか』

「トライスクワッド、なんかチーム名みたいですね」

『みたいじゃなくてチームなのさ。ウルトラマンタイガ、フーマ、タイタスの三人のウルトラマンで結成された個性溢れるチームだよ』

「何それ凄い興味深いんですけど!?」

 

 

 

―――さあ、準備は出来た。この力に勝てるか見物だなマグナ……。

 

 

 

―――あれがこの宇宙の地球……よし、直ぐに行くか。




遂に、遂にゲストウルトラマンの足音が聞こえてきたかも……!?


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大変、魔王が来た!?

「県内最多店舗数を誇るナウでヤングな最先端、木椰区ショッピングモール!此処で揃わずして何処で揃うと言わしめる程の店舗数とジャンルの多さ、守備範囲の多さは随一!」

『取り敢えず芦戸さん、君の台詞はパストでオールドな死語だという事を自覚しようか』

 

楽しみにしていた日がやって来た、林間合宿に必要な物を購入する為のクラスメイト揃っての外出―――と言いたい所だが2名ほどの欠席が出来ている。予想通り欠席の爆豪と入院中の母の見舞いに行くという焦凍は欠席している。だがそれでもほぼ全員が揃っている事に皆満足気な表情を作る。そんな中でぶっ放されたマグナの突っ込みに出久は吹き出しそうになるのを我慢する。

 

「緑谷ちゃんは何か買う物はあるの?」

「僕はウェイトリストを買い直したいかな、後はアウトドア系の靴も」

「ウチは虫よけスプレーとか買いたいな~」

「それじゃあ折角だから3人で回りましょ、3人寄ればきっといい物を見つけられるわ」

 

梅雨の申し出を受け入れて麗日を入れた3人行動を行う事になった、端的に見れば仲良し3人組の光景なのだが出久は女子と一緒に買い物どころか遊びに行った事もない為に内心バクバクでそれを面に出さないようにするのが精いっぱいでマグナにアドバイスを求めまくっていた。

 

『いや私に言われてもなぁ……任務で忙しかったから私も女性とは縁がなかったから助言と言われても』

「(そ、そこを何とか!!)」

『う~ん……ウルトラ一族の王族とのお見合いをすっぽかした話位しかないよ?』

「(すっぽかしたぁ!?)」

『いや好きですっぽかしたわけじゃないんだけどね……』

 

転生前の人生も一応参照しても女性とは特に接点を持とうとはしなかった、外見は悪くはない私欲もない普通オブ普通。加えて女性との関りを持つよりも趣味を追求しておいた方が有意義だし楽しいと思うタイプだったので彼女が欲しいと思った事も皆無、マグナとしての人生ではそれなりにウルトラウーマンと絡む事はあったがそれは全て任務においてでプライベートではなかった。唯一の女性経験も突然入ってきたゼノンからの救援要請に応える為に出動してしまった為に許可を取った上ですっぽかしている、という訳でそっち面でマグナは全く役に立たない。

 

『まあこれも試練だと思えばいいじゃない、プロになったら必然的にメディア露出とか女性との関りも増えるんだからその練習と思えばいいさ』

「(そ、そういう物ですかぁ!?)」

『何だったら女性陣に何か買ってあげるでもいいと思うよ、幸いな事にお金ならいっぱいあるんだし』

「(そ、それですよ!!それなら何とかこの場を切り抜けられるかも!)」

 

幸いとも言える事はマグナが持ち込んだ宝石の換金によって資金は潤沢にあったという事だった、それで女性陣が買いたいものをプレゼントする事で上手く場を進行させて仲良くなれるのではないかという事に落ち着く事になった。

 

「こっちの靴なんて如何かしら」

「ああいい感じ~、でもちょっと高ない?」

「でもその分長持ちするし長い目で見たら安いと思うよ、こういう時のコツって少し高めを買うだし」

「う"ぅ~ん悩ましい……」

 

林間合宿に備えて様々な物を見る中で矢張りお財布との相談を一番強いられているのが麗日であった。彼女がヒーローを目指す理由というのはお金、両親を助ける為にもヒーローになりたいという物だった。他の皆と比べて俗物的な物である為か本人は恥ずかしがっているのだが決して恥ずかしがる事ないと出久と梅雨は励ます。

 

「だったら麗日さんに梅雨ちゃん、僕に出させて貰ってもいいかな」

「えっ!?そ、そんなの悪すぎるよ!!?」

「そうよ緑谷ちゃん、私達は自分の分は自分で出すわよ」

「いや出させて貰えると助かるんだ、実は……」

 

遠慮するかもしれないという事でマグナと相談して決めたバックストーリー。自分の叔父さんに雄英に入って立派になったと喜んでくれる人がいるのだがその人からお小遣いというには多すぎる額を貰ったしまった上に使わないと酷く嫌な顔をされるから使っておきたいという物。

 

「だから僕を助けると思ってお願いできないかな、僕も叔父さんにはお世話になってるから中々……」

「そ、そう言われちゃうと断りにくいね……」

「でもいいの緑谷ちゃん、本当なら買いたいものを買ってもいいのよ?」

「今の所そんなにないんだ、だから気にしないで」

 

という事にしてごり押し気味だが二人にプレゼント的な形で送る事が出来た、二人は酷く感謝しながらも必ずこの事に対する埋め合わせをすると約束をしてくれた。

 

「いやでも本当にごめんね出久君……」

「良いって良いって、正直僕もお財布の中に大きなお金が纏まってるって結構怖かったから……」

「凄く分かるわそれ」

『まあ預金残高にはかすり傷が付いた程度なんだけどね』

 

それは言わないお約束である、それに宝石のストックなどを考えたらかすり傷にもならないような気がしてならない。

 

「それにしても緑谷ちゃんにはなんだかお世話になってばっかりね、USJの時も凄いお世話になってその時のお礼をも出来ていないのにまた」

「ウチも入学試験の時に助けてもらった時のお礼しきれへんよ」

「別にいいってば気にしなくても、僕は誰かから見返りが欲しくて誰かを助ける訳じゃないんだから」

 

その時にすべき事をしただけに過ぎない、結果的にそうなっただけで自分の為にやった行動が誰かを救った、正しくそれなのだ。麗日の時は自分の合格の為でもあった、USJの時はあの場から脱出する為でもあった。だからそこまで気にされても困ってしまうというのが素直な本音。出来る事ならばこれからもずっと自分と仲良くして欲しい程度の願いはあるが……きっとそんな事を伝えなくても二人はそれを分かってくれている。

 

「そう、それなら緑谷ちゃん一つ聞いてもいいかしら。私ってば聞きたい事は素直に聞いちゃうから断っておくわね」

「いいよ何?」

「実は―――」

 

 

―――気に入らねぇ、ああ本当に気に食わない……。

 

 

そんな思い燻らせながら一人の少年が同じショッピングモールを歩いていた、その瞳にあるのは疑問と盲目的な悪意が混在しながらも今の世界がどれだけ可笑しいのかという未知で溢れかえっている。マグナが居たならば即座に理解しただろう、その少年はUSJに殴り込みをかけたヴィラン連合の頭目と思われるヴィラン・死柄木弔だという事を……。

 

 

―――ヒーロー殺し、お前は保須以降動くことをやめた。世間一般じゃテメェの活躍をツルク星人に奪われたのにも拘らず、何故何も言わねぇ、何も起こさねぇ。

 

 

保須での一件、最も世間の目を引くように活動したステインはその日以降全く音沙汰がなくなっていた。完全に活動を休止したかのようなそれらに疑問を持ちながらもそれらを仕掛けた側である死柄木弔は笑みを浮かべていた、何故ならばそれらの手柄を奪いつつも自分達の元にそれらのシンパと思われる新メンバーが加入したからだ。ヒーロー殺しの思想に賛同する者、現行の社会が気に食わない者らがヴィラン連合に入る中で募る苛立ち、これらの事が起きているのに何故あれは行動を起こさないのか。

 

 

―――こいつらもだ、まるで対岸の火事……いやそうとも思っていない、だったら解らせてやる、俺達の脅威はお前達の喉元にまでいるって事をな……。

 

「やれ」

 

小さく言葉を零すと彼はショッピングモールから去っていくのであった。その言葉は直ぐに、複雑な意味を持ってその場を戦慄と恐怖で支配する事で実現した。

 

 

その呟きに応えるかのように異空間ではまた、影が暗躍を始めた。それは新たなメダルを出現させるとセットしながら構えた。

 

■●▲◆ ACCESS GRANTED

 

―――宇宙恐竜、双頭怪獣、大魔王獣。

 

〔ZETTON〕〔PANDON〕〔MAGA-OROCHI〕

 

―――さあ、過去のリベンジだ……実験、開始。

 

 

出現したそれは大地を抉りながらも大爆発を起こしながらショッピングモールを見下ろす。黒い身体に胸部の発光体は不気味に点滅しながら機械のような音を立てる、長い突起の伸びる両肩から脚部、側頭部にかけては赤い体表はまるで煮えたぎるマグマの如く。サメにも龍にも見えるそれは長く鋭く太い尾はあらゆる物を粉砕するかのように地面を打ち立てながら叫びをあげ周囲に自らの存在を打ち付ける。最強と名が高き宇宙恐竜(ゼットン)、史上最大の侵略の切り札となった双頭怪獣(パンドン)、星を食らい尽くす大魔王獣(マガオロチ)、それらが融合合体した怪獣―――

 

「あ、あれは―――!!?」

『まさか、そんな何故奴がこんな所に!?あれは合体魔王獣―――』

 

ZEPPANDON(ゼッパンドン)




ゼッパンドンのエントリーだ!尚、ジャグジャグは無関係ですので悪しからず。だってあの人、別の宇宙の地球で隊長やってるし。


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銀河の光が我らを呼ぶ!!

「ゼェェェェッッッ……ガガガァァ……ドォン……」

 

低い唸り声のような物を上げつつもピポポポポ……という不気味な点滅音を立てながらも姿を現したそれは周囲を見渡すようにしながらも全ての人間に対して悪意を燃やしながらもそれらを嘲笑うような声を出した後にゆっくりと進撃を開始した。

 

「な、何々あれぇ!!?」

「大きいっ……Mt.レディの数倍はあるわ……!!」

 

ショッピングモールからでも見える程の巨体、60mという圧倒的な巨体の進撃速度は見た目の緩慢な動作とは裏腹に速い。動作の一つ一つの速度は大した事はないだろうがそれでもあれだけ大きければ移動距離はそれだけ大きくなるという物。着々と此方へと向かって来ているそれらに対して人々は恐怖を抱いて我先へと逃げ出していく、保須で出現したそれらとは違う絶対的な戦慄と恐怖が一体を支配していた。

 

「デ、デク君早く逃げよう!?」

「緑谷ちゃん早く!!」

「う、うん!!」

 

出久はマグナリングへと意識を向けようとしたところを麗日と梅雨に連れ戻されてしまった、この場では変身出来ないと思いつつも何とか此処から脱出しなければと足を動かす。向かって来ている怪獣の威圧感はエレキング、ツルク星人、バキシマムとは比較にならない程に圧倒的な物だった。まるで怪獣が持ち合わせている力すら感じられるほど。

 

「っ……!!麗日さん蛙吹さん先に行ってて、僕は逃げ遅れてる子を助けてから行く!!」

「えっデ、デク君!!?」

「緑谷ちゃん!?」

 

この言葉に嘘はない、視界の端で女の子が転んでしまっている姿が目に入った。距離を取るとあっという間に人の波が二人を連れ去っていってしまう、がこれはある意味好都合だったかもしれない。

 

「大丈夫!?さあ立って!!」

「う、うんっ……!!」

「すいませんうちの子なんです!!」

 

立ち上がるのに手を貸していると先程まで一緒に居たと思われる親が大急ぎで駆けつけてきた。普段使用禁止である個性を、翼を使ってまで必死に此処まで戻って来ると我が子を胸に抱き込むと頭を下げて大急ぎで逃げていった。それを確認すると出久は駆け出して行く、ゼッパンドンの進行により電線がやられたのか店舗の灯りが徐々に消えていく中を駆け抜ける。

 

『あれはバキシマムとは比べ物にならない程の強敵だ、覚悟はいいな!?』

「勿論!!」

『よし、行くぞっ!!』

マグナァァァァァァァッッッ!!!!!

 

 

「ゼェェェェッッッパァァァァ……ンガガガドォン……」

 

人々の逃げ惑う悲鳴が木霊する。歩みを進める度に地面が爆発するように抉れアスファルトが宙を舞う、遂にショッピングモールへと足を踏み入れようとした時だった、進撃方向から溢れんばかりの光が合体魔王獣の歩みを止めた。そればかりかその光に戸惑い怯むかのように後方へと仰け反らせるようにしながら後ろへと吹き飛ばした。道路へと倒れこみながらすぐさま起き上がるゼッパンドンが見たのは―――お前の好きにはさせないと言わんばかりに自らへと立ち向かう光の巨人の姿。

 

「デュオッ!!」

「ガガァッドォォン!!!」

「ハァッディッデュォ!!」

 

自らを吹き飛ばした巨人への怒りを爆発させると言わんばかりに大口を開けるとそこから無数の超高温の火球(ゼッパンドン撃炎弾)を放つ。それへと向けてチョップを放つように振るわれた手から誘導式の光弾が無数に飛び出すと空中で撃炎弾を全て相殺していく。それでも放つのをやめないゼッパンドン、マグナは距離を詰めていくと跳び膝蹴りを下顎に命中させながら無理矢理口を閉じさせると口内で撃炎弾が暴発して爆炎が上がる。

 

「ガァガガガァァ!!!」

 

だが流石は火球を放つ怪獣が融合しているだけあってまともなダメージには繋がっていない、それ所か膝蹴りをまともに受けながらも長い爪で身体を切り裂いてくる。反撃と言わんばかりに連続で横腹へと蹴りを炸裂させる、その衝撃で周囲のビルの窓ガラスはビリビリと音を鳴らしながら震えあがる。それでも僅かに身を捩らせるだけで大した事はないのが巨体から来る超パワーでマグナを捻じ伏せようとしてくる。

 

『こいつぅっなんてパワーなんだぁぁぁっっ……!!』

「グゥッ!!ドゥワァァッッ!!!」

 

純粋な腕力でねじ伏せながらも超至近距離から撃炎弾を連発させながら頭の両脇にあるパンドンの口のような器官から発射する紫色の破壊光線を照射、大爆発が無数にマグナの身体を焼いていくがそれでも光の巨人は屈する事など無い。全身に光が纏われると瞬間的にマグナの力が強化されて逆にゼッパンドンを押し返しながらも重々しい蹴りを食らわせる事に成功する。

 

「『SMASHッッ!!』」

「ゼェェガガァァ……!!」

 

拘束から脱出しつつもお返しだと言わんばかりにその首元にラリアットのようなスマッシュが炸裂、ゼッパンドンの巨体を浮かしながら地面に叩きつける。追撃だと言わんばかりに無理矢理ゼッパンドンを立たせると胸部の発光体に向けて再度スマッシュを浴びせ掛ける。思わず後退ってしまうゼッパンドンに構えを取り続けるマグナだが―――突如としてその姿が消えてしまった。

 

『き、消えたっ!?』

『違うこれは―――ゼットンのテレポート!?』

「ガァガガガァァ!!!」

 

そうだと言わんばかりに頭上に転移したゼッパンドンはまだ避難が終わっていないショッピングモールへと特大の撃炎弾を放った。

 

『やめろぉぉおお!!!!』

『させるかぁぁぁ!!!!』

 

特大の撃炎弾を自らの身体を盾にして防ぐ、が撃炎弾は容赦なくマグナの身体で大爆発しながら爆炎で焼いていく。それを見たゼッパンドンは愉快と言わんばかりに声を上げながらもそのまま不気味なチャージ音を響かせながら火球を放ち続けていく。だが今度は広範囲にばら撒こうとしている、自分の身体の盾だけでは防ぎきれないとエネルギーシールドを火球を全て防げるサイズで展開しながらその猛攻から人々を守る。

 

「デュゥゥゥッッ……!!!ゥァァァァッ!!!」

 

流石のマグナと言えどゼッパンドンのチャージ撃炎弾を、広範囲のエネルギーシールドを維持し続けて防ぎ続けるのは難しい。エネルギーの消費は徐々に加速していく。反撃しようにも此方に行動を許さんと言わんばかりの火球を降り注がせてくる、何とかしなければ自分も他の人々も危なくなってくる。瞬間、突然撃炎弾がやむとゼッパンドンの姿も掻き消えた。シールドを解きながらも気配を探ろうとした直後―――自分の真上ながら今までよりも更に巨大な火球を生み出して落とそうとしている姿を確認した。

 

『ここら一帯を吹き飛ばす気か!?』

『そんな、まだみんなが避難終わってないのに!!?』

『そんな事私がさせない!!来るなら来い、伊達に私だって継承者ではない!!』

 

そんな事をさせてたまるかと、マグナの全身が更なる光に包まれていく。青白いスパークを起こしながらもそれらを両腕へと収束させようとしたその時だった―――空の彼方より青白い中に紫の閃光が走る光線が飛来し火球を貫きながらゼッパンドンへと炸裂した。

 

「ガガガガットンッゼゼゼ!!?」

 

火球も大爆発に巻き込まれながらもその爆風で押し出されるように道路へと墜落していく、突然の出来事に驚いているようにも見えた。それは出久も同じだったがマグナは空を見るとそこから光の流星がやってくる事に気付き、思わず笑いながら立ち上がった。その流星は優しく地上へと着地すると纏っていた光を四散させながらその姿を露わにした。そこにいたのは―――マグナと同じ光の巨人だった。

 

『ウ、ウルトラマン……!?』

『そうか、貴方がくるとは……確かに道理ではあるね』

 

その巨人はマグナと比べるとカラフルな印象を受けた、赤や銀だけではなく紫もある為だろうか。何より特徴的なのは胸のカラータイマーが円形、Oの形をしている事だった。そんな巨人はゼッパンドンを見つめながら名乗りを上げた。

 

『俺の名はオーブ。闇を照らして悪を撃つ!!そしてマグナさん、お久しぶりです』

『君と会えるなんて思えなかったよ、だが今は再会の感動に浸っている間ではない。悪いが力を貸してくれるかい?』

『喜んで、俺もあれを放置は出来ないんでね』

 

そう言うとオーブ、ウルトラマンオーブはマグナの隣に並び立ちながら戦闘態勢を取った。突然の事に驚くが、もう一人のウルトラマンの登場に不思議と出久の精神は浄化されていった。一気に落ち着いた精神を燃え上がらせながら同じように瞳を鋭くする。

 

『さあ行くよ出久君、彼が居るなら百人力さ。行くぞ!!』

『はいっ!!』

『はい、僕も頑張りますマグナさん!!』




銀河の光、我らが風来坊のクレナイ・ガイさん、ウルトラマンオーブのエントリーだ!!何を隠そう私オーブ大好きなんだよいやマジで好きなんだよマジでニュージェネの中で一番だよ。

という訳でゲストウルトラマン、ウルトラマンオーブが登場!!


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黄昏の風来坊

「ウゥゥリヤァ!!」

「ディヤァァッ!!」

 

舞い降りた光の巨人、大地より現れた光の巨人、それらが戦う巨大な大怪獣の光景はその地球の人々からすれば形容する事も出来ないような凄まじい物だった。今まで自分達が過ごして来た中にあったヒーローのそれすらも超常ではなく日常の一ページでしかなかったのかと言わんばかりの戦い、神話の中で行われる神々と怪物の戦いのそれと等しいそれら。保須の巨人と似通っている巨人は並び立ちながら巨大な敵へと向かって行く。

 

「デュオッ!!」

「ショラァ!!」

 

同時に蹴り込みつつも新たに現れた巨人、ウルトラマンオーブが切り込むかの如くゼッパンドンの懐に飛び込みながら連続で打撃を加えていく。超至近距離にいながらも即座に撃炎弾の兆候を察知すると赤い光を纏いながらも顎へと強烈なアッパーカットを放たれる。砕かんばかりのパワーで放たれたそれはチャージされ放たれようとする火球を押し潰しながら相手の巨体を浮き上がらせてしまう。

 

「ディヤァァァァッッ!!!」

 

そこへ高々と跳躍したマグナが灼熱の光を纏いながらの必殺キック、マグナスマッシュを叩きこんだ。頭部にそれを受け激しいスパークと大爆発で怯みながら倒れこむとパンドンの口のような器官が砕け散りながらも溶けておりそこへオーブが透かさず重々しい一撃を叩きこんだ。

 

「ゼェェェェッッッ……ドォォン!!!?」

 

『フンッあいつに比べて迫力も実力も不足してるな!!その程度でマグナさんを倒そうだなんて、2万年早いぜ!!』

 

『2万年後でも、負ける気はないけどねっ!!行くぞ、さっきのお返し!!』

『はい!!』

 

「デュッァァァァッッッ……シェオァ!!ォォォオォォオオオ!!!!」

 

全身に青、白、緑、赤。様々な色が混合した閃光が走って行く、無数の光は収束してマグナの身体を包み込むとその力を更に高めていく。ワン・フォー・オール・フルカウル、それを出久とマグナがともに行使した瞬間だった。立ち上がろうとするゼッパンドンの尾へと掴み掛ると一気に持ち上げると4万5千tにも及ぶそれを一気に持ち上げながら振りまわす、腕の力だけで完全にゼッパンドンを圧倒しながら振りまわしている。そしてそれを渾身の力を込めて空へと投げ飛ばす。

 

『今だ決めるんだ!!』

『はいっ!!』

 

素早く意図を察しオーブはエネルギーを高めながら腕を掲げる、彼の肉体には今二人のウルトラマンの力が宿っている。超古代の戦士、ウルトラマンティガ。怪獣退治の専門家、ウルトラマン。その二人の力をお借りし、自らと一つとして昇華させたオーブは高らかに掲げられた腕と真横に伸ばされた腕へと力を集めながらゼッパンドンへと目を向けながら叫んだ。ウルトラマンオーブ・スペシウムゼペリオンの必殺光線の名を―――!!

 

『スペリオン光線!!!!』

 

合わせられた両腕、周囲に展開された光の輪の中心から照射されていく眩いばかりの光線。それは真っ直ぐと空へと投げられたゼッパンドンへと向かって行く、本来ならば光線すら容易に防ぎきる防御力を誇るシールドを展開可能であるが、頭部へのダメージと損傷によってシールドは既に張る事が出来なくなっており光線は直撃し、光はゼッパンドンの肉体全体へと波及していき凄まじい爆発を引き起こした。

 

―――シュアッ!!

―――デュオッ!!

 

二人の巨人は共に空へと飛び立って行く、突如現れた彼らは人々に戦慄と恐怖を与える存在を打ち砕くとあっという間に去っていってしまった。自らの誇示などには目もくれず唯々平和を脅かす存在を討ち取る事が出来ると直ぐに去っていく彼らに人々は感謝し、声援を送った。

 

 

 

 

「うんうん、そっちも大丈夫でよかったよ……うんこっちも何とか、うん大丈夫」

 

自分の無事を友人達に報告し皆を安心させつつ、突然の行いで別れてしまった事を謝罪すると逆にヒーローらしい行動だと称賛されつつも心配させないように!!と釘を刺される、そんな友への謝罪も終わると頬に冷たい感触が襲ってきた。思わず声を出しながら後退るとそこには黒いジャケットと黒の中折れハットを纏っている若い青年が此方へと良く冷えてたラムネを差し出していた。

 

「お疲れさん、友達への報告はもういいのか?」

「あっはい、何とか納得してくれたみたいです。それ所か逆に僕の事を凄く心配しててくれたみたいで」

「いい友達じゃないか、大切にしろよ。友達は一生の財産だからな」

 

笑いながらラムネの栓を開けながらそれを口にする、そんな姿に夕暮れの光は酷く映えており酷くカッコいい様子を醸し出している。そんな姿を見ながらもラムネを開けようとするがなかなかうまくいかない、それを見かねたのかガイが貸してみろ、とラムネを開けて差し出してくれた。初めて会うがこういう人も男が理想にする男性像の一つなんだろうなと思いながらラムネを飲む。

 

「改めて自己紹介だな。俺はクレナイ・ガイ、宇宙を旅する風来坊さ。そしてウルトラマンオーブだ」

「みっ緑谷 出久です!!えっとその、宜しくお願いします!!」

「宜しくな」

 

力強い握手、硬いが柔らかい感触の手。戦士としての強さを持ちながらも誰かを労わり、助け合う精神を持っているのだなと思わず出久は思う。此処は自分達が訓練で使っていた海浜公園、ゼッパンドンを倒した後に此処へとやってきたが丁度周囲には誰もいないので出久の隣にマグナがホログラムで出現する。

 

『久しぶりだねガイ君、旅は順調かい?』

「そりゃもう、この地球も中々に旅のし甲斐がありそうで楽しみですね。マグナさんも一緒にいかがですか?」

『お誘いは嬉しいけど遠慮させて貰うよ、でも何時か一緒に旅をするのも悪くないかもね。その時にまで取っておいてもらえるかな』

「その時は俺の行きつけの銭湯に行って、その後に一緒にラムネを飲み交わしましょう」

 

何処か残念そうにしつつも何時かの楽しみにして置こうという言葉に何処か大人の余裕で応えるガイとマグナに出久は素直な憧れを抱いた。自分もこんな風にカッコいい大人になれたらいいなぁと思いつつもガイが自分を見つめてきた。

 

「彼がマグナさんの相棒っという事でいいんですか」

『ああ、地球に来て直ぐに出会ってね。その心はウルトラ族にも匹敵する程に真っ直ぐで純粋、崇高な物だと思ってるよ』

「それは高評価ですね、これからが楽しみだ」

「そ、そんな僕なんてまだまだですよ……」

「そりゃそうだ」

 

と思わず照れてしまった自分に対して肯定の言葉が飛んできて少し驚くが直ぐにそれは変わった。

 

「お前さんはまだまだ未来がある、未来は未知で溢れてる。それらに触れて経験して皆デカくなっていくんだ、誰だって最初から凄い奴なんていないさ。だからお前さんも努力を欠かさすなよってマグナさんの相棒には言う必要も無いか」

「い、いえ僕これからもっと頑張ります!!マグナさんの相棒としても、僕自身としても!!」

 

そんな風に意気込む彼に満足気に頷くガイ、矢張りカリスマ性があるのかガイに憧れるような瞳をしている出久の気持ちは非常に良く分かる。マグナ自身、転生前にガイに憧れてファッションを真似てみたりしたから良く分かる。

 

『それにしてもガイ君、君よくこの地球に来れたね。ゼロ君の力を借りたのかい?』

「いえヒカリさんが新しく開発したっていう次元刀っていうアイテムを使って此処まで、なんでも時空を切り裂く事で別次元の宇宙に通じるトンネルを一時的に形成するらしいです。俺はそのテストも兼ねて此処へ」

『ホントあの人は何でも作り上げるね……ゴーデス細胞への抗体の時も思ったけどあの人に作れない物ってあるのかな』

「それは俺も思いますね」

 

その辺りの認識はガイも似ているのか僅かに苦笑している、彼自身の力もウルトラメダルになっているのでその辺りで何か思ったりしたのかもしれない。そんな話をしつつもマグナは真面目な声で問いかける。それに対してガイも真面目な声で応える。

 

『今回のゼッパンドンの出現、君としての意見は如何かな』

「間違いなく本物のマガオロチの力ですね、しかもそれをウルトラメダル、いや怪獣メダルと言うべき物にしている。相手がどんな奴か分かりませんが……相当にやばい奴だと思います」

『……矢張りか』

 

それを聞いて二人は揃って黄昏へと瞳を向けた、美しい光景を目に焼き付けるかのように姿に出久は同じように目を向けた。そして同時に想う、これがヒーローとしての役目なのだと。人々がまた同じ日常へと戻れるように、同じ平穏を過ごせるようにする為に戦いながらも自分達もまた守り抜いた平和を享受し戦い続けていく。そんな思いを抱きながらもまだまだ努力しなければならないと心に誓うのであった。



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ウルトラ組織への歩み

終業式も近くなってきた雄英、そんな日々が近づこうが雄英生徒にとっては毎日はあまり変化はしないのである。今日も今日で授業があるので同じように登校して同じように授業を受けてヒーローを目指すだけでしかない、そんな時間を過ごそうとしていた出久はオールマイトから呼び出しを受けて談話室へと赴くとそこには何処か窶れてしまっているような姿になりつつお疲れ気味なオールマイトと眼鏡を輝かせているナイトアイの姿があった。

 

「オ、オールマイト如何したんですか凄い疲れてるみたいですけど……!?」

「ハハハッ……心配無用さ、ちょっと自分の不甲斐なさを再認識させられて凹んでるだけだから……」

『大方ナイトアイさんの指導が堪えているんだろうね、お世辞にもオールマイトの指導は良質とは言えないから』

「その通りです、故に私も全力且つユーモラスな指導を行い続けています。ですがまだまだ、これからも続けていきますのでお任せを」

 

ナイトアイは生き生きとした表情で当人にとっては死の宣告のような言葉を吐く、と言っても本人としては今までの確執がなくなったから望んだ関係を築け直せているのだからこれ以上に嬉しい事はない。故にそれを導いてくれた且つヒーローとして尊敬すべき先人であり恩人であるマグナに対してかなりの敬意を払っているのだと出久は感じている。

 

「では早速、先日木椰区にて出現したもう一人の光の巨人に付いて教えて頂きたい」

『成程。それについてでしたか』

 

保須の巨人と共に出現したもう一体の巨人、世間一般には木椰の巨人と呼ばれている。突然出現したそれらに対しても保須の一件もある為か世間は酷く好意的だった。保須の巨人ことマグナに対しての物が下地になっているのもあるだろうがゼッパンドンが明確にショッピングモールへと攻撃しようとしたり、避難中の人々へと攻撃しようとしていた事、それらからマグナと共に人々を守っていた事が決定打となっている。

 

「ウルトラマンオーブ……酷く神秘的な響きですね」

「確かに、なんだかマグナさんとは別な印象を抱かせますな」

『彼は光の国とは無関係の別の出身ですからね、そう思うのもしょうがないかもしれませんね』

「「「えっ!!?」」」

 

マグナの言葉に思わずその場の全員が驚いた、それも当然かもしれない。ウルトラマンという存在は光の国の住人であるというのが共通の認識のだから、出久も出久で別の世界のウルトラマンの話は聞いた事はあるがそれは別の世界の光の国のウルトラマンなんだという認識であったので余計に驚かされてしまった。

 

『一口にウルトラマンと言っても様々な出身があるのですよ、そして力の出自などは殆ど意味はありません。平和のために戦う戦士、それがウルトラマンなんですから』

 

ウルトラ兄弟の一員として数えられるウルトラマンレオ、アストラ。この二人とて光の国の出身ではない、獅子座L77星が本来の出身地。ウルトラマンという言葉を指す者は非常に広い、だがそれ故にその名前には多くの重責が付き纏うのである。その名を名乗る事自体が名誉であるとも言えるっとマグナは考えている。

 

「その木椰の巨人、いえウルトラマンオーブの事もあっての事なのですが大規模な組織編制、対超大型ヴィラン想定ヒーロー編成組織への関心、編成が一気に加速しています」

「それってマグナさんの世界で言う所の防衛隊……って事ですかね」

『そうだろうね』

 

ツルク星人の一件で対超大型ヴィランへの警戒は一気に広まり、今回のゼッパンドンの事でそれらが従来のヴィランとは全く異なり今までのヒーローでは対処しきれないのではないだろうかという見方が強まっている。その中には得体の知れない巨人に守られ続けるのは危険だからという意見もあるらしいが……兎も角、従来のヒーローを警察に例えるならば軍隊として役割を担うヒーロー選抜、特殊な装備などを許可した上で対処出来るようにしたいという事らしい。

 

「私が以前雄英を訪れた際の本当の目的、それはオールマイトにその組織のオブザーバーとして参加して頂けるように話を通して貰いたいと依頼を受けてからなのです」

「オ、オールマイトに!?」

 

オブザーバー、会議などにおける発言権のない傍観者などを指す言葉。第三者としての意見を求められ、独自の視点から意見を述べたりする事になるのだろう。ヒーローとして経験が豊富でアメリカなどで日本よりも強大なヴィランとも交戦経験があるからこそ求められているのだろう、が―――

 

『オールマイトに務まるのですかそれ』

「「マグナさん!?」」

「仰る通りです、私もお伝えしようとした時にそれを痛感し言葉を控えたほどです」

「「フォロー皆無!?」」

「『じゃあ務まると?』」

 

遠慮なしの全力ストレートな言葉に出久とオールマイトが思わず声を上げるが有無を言わさんと言わんばかりに務まらないでしょうねと断言するナイトアイに二人は絶句するのだが改めて問われると確かに納得せずにはいられなかった。

 

「ですので私が様々な事を叩きこんでいるのです、遅かれ早かれ必要な事ですしこの先も同じような事が起きるのであれば話が来るのは間違いないでしょう」

『確かに……でしたら本格的に発目さんに話を通さないといけないかもしれませんね……』

「嗚呼っマジですかマグナさん……」

『マジだよ君だってわかってるだろう出久君、あの子は仮にも超獣の強化個体に一定の成果を上げる一撃を即興でやってのける程だよ……』

 

それを聞いてナイトアイとオールマイトは思わず顔を見合わせるのだが、試験前にあった事を伝えると酷く驚いてしまった。

 

「は、発目少女君は……!?」

「確かに彼女の技術はブレイクスルーを次々と引き起こしかねない物ばかりでしたが、彼女は既に異星人とコンタクトを……!?」

『一応言っておきますが、発目さんと共に居る方は友好的な方ですので……そして技術面については私としてももう頭が痛い程ですよ……いやもう怪獣云々よりも彼女の方が色々とやばいと申しますか……』

「その辺りは本当に凄いですよね発目さん……クォリティとか凄いんですけどなんかもう……でも安全性とかは大丈夫ですよ僕の身体で実証済みですから」

 

目が死んでいる出久の言葉に二人は全てを察して素直に彼が気の毒になってきた。特にオールマイトは日々発目に追いかけられたりサポート科のパワーローダーから出久に応援を求めたり授業中に出久の名前が頻繁に出たりするという話を聞いたりしている。発目はウルトラマンと共に居る出久のデータとそれらを基準にしつつ発明を進歩させたい、出久は出久で発目の犠牲者を増やしたくないという事で協力している。

 

「……実は巨大化個性を持っているMt.レディの装備開発を委託したいという意見もあったのですが、取り下げるように言った方が良いでしょうか」

『必要になりそうだから何とも言えませんね……お目付け役がいるならいいんでしょうけど彼女を抑えられるのっているんでしょうか……下手したら私か出久君位なんじゃ……』

「い、いやでも彼女だって平和の為に貢献すると分かればきっと自制やらしてくれるはず……」

「オールマイト、自制する人が同級生目掛けて光子砲を躊躇なくブッパすると思いますか?」

「緑谷少年せめて君はフォローする立場なんじゃないのかい!?」

『いや一番の被害者は彼ですから』

 

平和へと向かって少しずつ歩み始めようとする世界の裏側で行われる話し合い、それが迎える最終的な結論とは一体どんな物なのだろうか……。

 

 

 

―――それじゃあこれは好きにさせて貰うよ、感謝する。

 

 

闇の中で嗤うそれが見つめる先にあったのは……不気味に輝く黒い闇色の……瞳。それは小さく呻くと歪んだ笑みを湛えながら声を上げた。

 

 

―――楽しみだ、実に楽しみだ……そう思わないかい、オールマイト……!!



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あるべき精神

「兎も角此方でも発目少女を抑えられるような人材を探すとしよう、というかいざとなったらデイヴに技術部の顧問とかをお願いしてストッパーになって貰おうかな……」

「真剣にそれが良いかもしれませんね。体育祭の彼女を見る限り、良識などもある様ですがそれ以上に好奇心や欲求が上回りやすい精神性のようです。それらを考えると更に上の技術者などに監督して貰うのが良案と言えるでしょう、その点を考慮するならばデヴィット・シールド氏は適任と言えましょう」

「寧ろI・アイランドと提携する事を主軸にする事が良いのではないだろうか」

「成程、良い意見です」

 

一通りの話が終了して出久は談話室を出る事になったのだがその間も話し続けているオールマイトとナイトアイ。そこにあるのは以前は当たり前のような光景だった事だろうヒーローとサイドキックの姿、真剣そのものの表情だがそれ以上にナイトアイが嬉しそうにしている事に出久は頬を緩めながら後にするのだった。直後―――

 

「おおっそこにいますは愛しの大親友様の緑谷さんではあぁりませんかぁいやぁ奇遇ですね本当に奇遇ですねアッハッハッハッ此処でお会いしたのも何かの縁新しく設計したアタッチメントのご意見を聞かせて欲しいのですよ大丈夫ですよ今回は実験ではなくご意見を聞きたいだけですのでOKですよねNOなんて言いませんよね信じてますけど大丈夫ですよねはい有難う御座いますお礼に謝礼として一揉みで如何でしょうか!?」

「ああいや普通に付き合いますけどだから勝手に僕の意見を固定するのやめてくださいませんかってというか最後の謝礼ってなんなの僕に何を揉ませる気なのいや今までからして嫌な予感しかしないから別にお礼はいらないから!!」

『何かと最近過激になってるよね、隙あらば君に楔を打ち込もうとしてないか。それだけ君が実験台として魅力的という事かな』

「止めてください泣きたくなります」

 

そんな事を言いながらも腕を掴まれて引き摺られていく出久と嬉々としてサポート科の工房へと連行していく発目。そんな光景は最早雄英では日常的な何かへと変わっておりヒーロー科からすればまた発目か、となりサポート科からすれば頻繁に彼女の口から「緑谷さんにテストして頂きましたので!!」という発言が飛び出すのでまた緑谷が犠牲になってる、という事になっている。

 

「緑谷、お前さんも苦労するねぇ……だがすまん、俺だけじゃあこれを抑えきれんから素直に助かるのよ……これからちょっと此処空けるけど留守番頼んでいいかい」

「ああはい、分かりましたパワーローダー先生……」

「出来るだけ早く帰ってくるから……」

 

とサポート科の先生でもあるパワーローダーからもベクトル違いの信頼をされてしまう始末。もう彼女に関する事はこいつに丸投げすりゃええわという事になりかけている。彼女を抑えられる人材はそれだけ貴重だが出久だけに丸投げする訳にも行かないのでオールマイトとナイトアイの相談事は出久にとっても重要事項。

 

「見てくださいこの新アタッチメント!!これはGAIAと同じく別世界のウルトラマンをベースにしていてその名もAGUL!!GAIAに比べて機動性を重視しておりましてメインウェポンは手首装着型の蛇腹剣とエネルギーセイバーにして従来の物とは違って武器をメインに据えてみたんですよこういった別側面からのアプローチも開発には必須なんですよ!!」

『アグルさんのもあったのか、いや腰マントというのもイカすね!!!』

「良いですよね腰マントチョーイイですよね!!」

「サイコーですよね緑谷さんにマグナさんやっぱりデザイン面も凝ってみたんですけどやっぱりマントは良いですよねこういうのもサイコーですよね!!」

 

と思った以上に出久とマグナからも好評だったので発目は早速このAGULの制作を決めながらもどんな風に作っていこうかと悩んでいく。GAIAに比べて極端に出力を高めない分、エネルギーセイバーに回しつつも機動力の確保に成功したAGUL。それならばいっその事、ウルトラマンみたいな光線を出せるようにしたらいいのでは!?と思い付いたらしく早速発目式光子砲のデータを引っ張り出しながらどんなふうに組み込んでいくのか、出力は如何するのかと言った事を考えながら設計を始めていく。

 

「あっそうだ緑谷さん。オールマイトとの戦いで壊れちゃったというGAIAの修復はもう終わりましたので何時でも使えるようにしておきましたから!!」

「えっ早!!?」

「オールマイトのデータ何て貴重な物があんだけどんどこどんどこ取れたんですから私もテンション爆上がりで作業が普段の5倍速でしたね!!」

 

そう言いながらも改めて設計を行っている彼女を見ながら出久はなんだかんだ言いながらも自分は本当に助けられているんだなと自覚する。

 

「やっぱり凄いなぁ……発目さん」

『なんだかんだで彼女の存在は私達を助けてくれているね、彼女の作ったコスチュームがあったからオールマイトとあそこまでやれたのは事実だろうからね。きっとプロになっても彼女には世話になると思うよ、いや彼女の技術はきっとこれからの地球を支えていく基盤になっていくのかもしれないね』

「基盤、ですか」

『そうだよ。オールマイトでも出来ない下地になって行くんだ』

 

オールマイトの存在は偉大な象徴、だが発目は全く異なる。圧倒的な個人の力による象徴ではなく、誰もがその恩恵に預かれる基盤となっていくのが発目の力。何れ彼女の技術は世界中で使われて平和の為に更に進化し続けるのだろう、それこそマグナの世界のように宇宙に旅立つ為の―――光の道を作り出すかもしれない、そう思うと自分が実験台にされているのも未来のためになっているのかもと少しだけ前向きに捉えられる。

 

『技術の進歩は人類の進歩さ。その進歩の数だけ大変な事もあるけどそれだけ人の命を救える証でもある、病気に対する治療法や予防。それも進歩によるものなんだからね、それだけ人の命を救える』

「あの、マグナさん……こんな事聞くのもあれなんですけどマグナさんでも―――ウルトラマンでも助けられない事ってあるんですか……?」

 

その言葉で一瞬の静寂が工房を包んだ、木霊するのは叩かれ続けるキーボードの音と発目の声のみ。答えなんて分かりきってるかもしれない、タブーかもしれない、だけどそれでも聞きたかった。そんな質問にマグナは答えた。

 

『あるよ、いっぱいね』

 

そんな言葉に優しくマグナは答えてくれた。絶対的な存在、人類では到底到達できない領域に存在する神秘の巨人たちでも出来ない事はある。

 

『宇宙には素晴らしい事だけはない、理不尽で不条理な事で満ちている。私もそれは幾度も経験して来た、歯痒くて情けなくて辛い事だっていっぱいあった。救おうとしてこの手から零れ落ちて目の前で散った命を見た事だってあるんだ』

「マグナ、さんが……」

 

出久にとってその言葉はどれだけ重かっただろうか、彼にとってマグナは単なる相棒ではなく目標でもあり成りたいヒーローそのものでもある。そんなヒーローも様々な経験をする、膨大とも言える経験の中でも推し量る事も出来ない程に辛い事が沢山あった事を。中には……マグナが心から守りたいと望んだ者もいた、それを目の前で失った。後悔し自分を責め続けた事もあった。だが―――彼は戦い続けている。

 

『ウルトラマンは神ではない。 救えない命もあれば、届かない思いもある。だからこそ戦うんだ。もう二度とそんな思いをしない為にも、誰かにさせない為にも私達は戦い続けるんだ。救える命があるなら全力で、思いを届けられるならば必ず―――それだけなんだよ出久君。自分に出来る事を全力でやる、それも私達の使命だ』

 

その言葉を出久は重く受け止めた、そして決めた。この先自分はどんな事があろうと諦めないし全力で戦い続ける事を―――。

 

「発目さん僕に出来る事ってないかな実験でも何でも今ならやるよ!!!」

「おおっ何時になく熱意に溢れるお言葉ですねそれでは光線のデータを取らせてください!!!」

「喜んで!!」



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合宿開始

いよいよ始まる林間合宿、A組の全員はバスへと乗り込んで林間合宿の舞台へと道路を突き進んでいた。バスの中は非常に騒がしく賑やかなままで相澤が注意もしないのでそのままの喧騒のままバスは突き進んでいく。そんな中出久も楽しみながらもマグナからも話をしていた。皆との会話もいいのだが常に話しかけられるわけではないのでそんな時にはマグナと話をするようにしている。

 

『私が訓練生の時は体験惑星入植という他の惑星の環境に順応する為の長期課外学習があったね』

「(へぇっ!!どんなことをするんですか!?)』

『単純にその星の住人となって一定期間過ごすんだよ、そこで順応性を高めつつもその星に対する見解や情報を纏めてレポートを提出するんだよ。私の世代でもやっぱり地球に行ってみたいという訓練生が多かったなぁ……』

 

と昔話をしながらも過去を懐かしんでいる、マグナにとって懐かしむ時間は地球人にとっては世代どころか時代が大きく変動する時間な事は既に出久は失念しているがそんな事は如何でも良くなる程に興味深い話ばかりだった。そんな会話をしつつも懐かしむように窓の外を見れば夏の晴れ渡った空が広がっている、少し前までこの空の下で雄たけびを上げていた怪獣が居たとは思えない程の平和な光景に一息を吐いているとバスが停車した。

 

「おい、ここで一旦休憩だ。お前ら一度降りろ」

「はーいって……ってあれB組は?何処にもいねぇな」

「つうか、なんだ此処。パーキングじゃねぇな……でもいい眺め、此処で弁当食いてぇな」

 

バスはとある場所で止まった。そこで相澤が降りるように通達すると、生徒たちは疑うこと無くそれに従う。外に出て身体を伸ばしほぐしながら辺りを見渡すとそこは崖の上の何の変哲もない空き地。確かに景色の良い場所ではあるが、公衆トイレも何も無い。ただ、車が一台止まっているだけで特に何もない。特に峰田はジュースを飲み過ぎたからかトイレに行きたいと訴えるが相澤はそれをパーフェクトスルー。そこら辺で済ませろと言わんばかりの勢いのスルーである。そんな所で風鈴の音が響いた。

 

「誰だあれ……?」

「こんないい風景を見ながらラムネをやる、これも贅沢の一つだな」

 

其方へと瞳を向けてみると抜群の景色を見ながら柵へと腰掛けながらラムネを口に運んでいる青年の姿があった、ラムネの瓶が太陽の光で光を反射しつつも口元から僅かに垂れて行く雫、青年のカッコ良さも相まって非常に絵になっている中で思わず出久が大声を上げながらその青年の名前を呼んだ。

 

「えっ何やってるんですかガイさん!!?」

「よぉっ出久、贅沢をしてるんだよ。お前さんも如何だ、ほれっ」

 

名を呼ばれると軽く首を傾けながら笑みを浮かべながらラムネを投げ渡してくるガイ、ラムネを受け取りながらも何故此処にガイが居るのか分からない出久は唯々混乱していたのだが相澤がガイへと歩き出すと頭を下げた。

 

「どうも。貴方がクレナイ・ガイさんで宜しいでしょうか」

「ああそうだ」

「本日は遠い所態々有難うございます、オールマイトに代わってお礼申し上げます」

「気にしないでくれ、俺は俺の目的で来たような物だからな」

 

そんなやり取りをしつつも相澤は集合を掛ける、集まっていく生徒達へと柵に腰掛けたままの彼の事を紹介する。

 

「此方は今回の林間合宿で特別講師を務めてくださるクレナイ・ガイさんだ、彼はオールマイトが直々に依頼を出した超がつく実力者との事だ。お前達もかなり世話になるだろうから挨拶しとけ」

『宜しくお願いします!!!』

「クレナイ・ガイだ、好きなように呼んでくれていいぞ。まあ俺の方で好きにちょっかい掛けさせた貰うからな、後ラムネ欲しい奴いるか?」

 

と気さくそうに笑いながらクーラーボックスにあるラムネを指差すと欲しい~と生徒達は勇んでそれを受け取っていく、中にはガイにラムネを開けて貰いながらも飲み始めているが出久は出久である意味気が気ではなかった。特別講師、それは即ち殆ど自分へのそれだという事にも成り得るのだから。

 

「(マ、マグナさん知ってました!?)」

『うん知ってたよ?というか私以外にどうやって彼にコンタクトを取ったと思うんだい』

「(いやそれは確かにそうでしょうけど!!?)」

 

オールマイトが依頼をした、という建前でマグナがガイに話を通したのである、それは当然出久の面倒を見て欲しいという事。出久の個性強化合宿ではワン・フォー・オールだけではなくウルトラマンとしての力へのトレーニングを行うつもりでいる。その為に同じウルトラマンでもあるガイにスパーリングや指導をして貰う為に来て貰ったのである。旅を邪魔をしてしまうようで気も引けたのだが「マグナさんの頼みを断る理由はありません、お引き受けします」と快諾してくれたので素直に助かった。

 

「やっほ~イレイザー!!」

「ご無沙汰してます」

 

これは予想以上の合宿になりそうだという所で新たなメンバーが到着し其方へと相澤が丁寧に頭を下げた。その相手は小さな少年を一人連れている猫のようなコスチュームを纏った女性が二人。

 

煌めく眼でロックオン!!

キュートにキャットにスティンガー!!

「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!

「そして今回メインでお世話になるプロヒーロー・プッシーキャッツの皆さんだ」

 

見事なポーズを決めながらもヒーローらしい口上を述べる二人の綺麗な女性がそこに居た、クラス一のヒーローマニアが食いついた。

 

「連名事務所を構える4名一チームのヒーロー集団!!山岳救助を得意とするベテランチームだよ!!今いるのはマンダレイとピクシーボブだぁ!!キャリアは12年にもなるあのベテランチームのプロヒーローに遭えるなんt」

「心は18ぃ!!!心はぁ……?」

「じゅっ、18ぃ!!」

『必死かよ……』

 

キャリアが12年辺りでピクシーボブの瞳が強くなりながらも出久の顔をにアイアンクローをしながらも語気を強くしながらも自分の言葉をリピートするように強いる。それらにA組、主に男子勢は退くのだがそれをガイがやんわりとフォローする。

 

「その辺りにしてあげてくれよ、別にアンタらの事を悪く言ったわけじゃなくてそれだけ経験豊富なお姉様方だって褒めてくれてるんだ。それを素直に喜ぶのがレディってもんだぜ」

「そ、そうよねそう思うと、えへへへへっ」

『すげぇ一瞬で鎮まった……』

 

とガイの言葉を受けて一瞬で嬉しそうな顔に変貌して甘い声を漏らすピクシーボブ、ガイ程のイケメンにそんな事を言われた女性としては嬉しいのは致し方ないという物だろう。彼女だけではなくマンダレイもなんだかんだで嬉しいのか赤くなりながらも咳払いして誤魔化しているように思えるがこの後の事への説明へと移行した。

 

「ここら一帯は私らの私有地なんだけどね、あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね」

『遠っ!!?』

「今は午前9時30分。そうね、早ければ12時前後かしらん。12時半までにこれなかったキティはお昼抜きね♪」

 

そんな彼女が指さしたA組の宿泊施設の行方、それは鬱蒼としている森の先にあった。勘のいい者ならばここで思うだろう、何故そんなに遠い此処でバスを降ろされたのかを……全員がまさかと……思い始めた辺りで相澤がニヤリと悪い笑みを浮かべながら言った。

 

「―――悪いね諸君、既に、合宿は―――始まってる」

 

直後、ピクシーボブが地面に手を当てる。そこからまるで土石流のごとく地面が盛り上がっていく。彼女の個性によって地面が操作され、A組を飲み込みながらそのまま崖の下へと叩き落としていっていくのをガイは見守りながらラムネを飲む。

 

「さてこれから始まるは合宿という名の試練だ、お前達はどんな風に突破するか楽しみだな―――少年、お前もラムネ飲むか?」

「……いる、暑いし」

「ほい」

 

ガイはマンダレイの傍に居る帽子をかぶった少年へとラムネを差し出した、それを乱暴に受け取りながらも飲み始める少年は落ちていったA組を侮蔑するような視線で見つめながら「くだらん」と吐き捨てながら車へと乗っていった。

 

「やれやれ……この地球も色々と問題が多いなぁ」




という訳でガイさんが合宿参戦です!!後劇場版に付いてなんですが、現在プロット製作中ですので以前の作品のように番外編としてあげる事を考えておりますのでご了承ください。


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紅の激励

「おおっ~随分と早かったじゃん、予想よりもずっと早い」

 

そんな風に呟きながら笑っているピクシーボブの視線の先には森の木々の間から、姿を現してくる1組の生徒達の姿があった。ピクシーボブの個性によって土を操作されて土石流の如く、崖の下へと落とされてしまったA組。そしてそこへ宣告された施設まで自力で来いというのはなんとなく察する事が出来ていたのだが森が物騒極まりない名前なのは完全に予想外であった。魔獣の森、物騒な事この上ない。それもその筈、その森にはピクシーボブの個性によって生み出された土魔獣の巣窟だったのだから……。

 

そんな魔獣の森、3時間以内に突破出来なければ昼飯抜きと言われて皆は全力で森の突破を試みたのだが……無尽蔵に現れてくる魔獣魔獣魔獣の嵐。約3時間とマンダレイが語っていた道のりを更に時間掛けて到達したのだが突破した頃には5時近くになっており疲労困憊でフラフラとなっている物ばかりだった。タフネスな爆豪ですら爆破の使い過ぎで腕を庇うようにしながら歩き、焦凍も疲労を隠しきれていない。

 

「何が、3時間ですか……」

「ごめんねあれは私ならって意味♪」

「実力差の自慢の為かよ……」

 

と倒れこむように座り込んでしまう面々。もう動けないと言わんばかりの顔をするA組、そんな彼らを予測していたかのような氷が鳴る音に顔を上げるとそこには大量のラムネが入ったクーラーボックスを皆の前にドンッ!!と置きながら労いの言葉を掛けてくれるガイの姿があった。

 

「皆疲れただろ、さあまずは飲んどけ飲んどけ」

『有難う御座いますぅ~!!!』

 

地獄に仏だと言わんばかりにクーラーボックスに殺到してしまう皆、そしてラムネを一気に喉の奥へと流し込んでいく。良く冷えたラムネが疲れて切った身体に刺激を以て活力を与えながら火照っている身体を心地良い感触と共に冷やしていく。此処までラムネが美味しいと感じた日はない事だろう、もうその場の全員がラムネ大好きになる勢いだった。

 

「プッハァ~!!ラムネってこんなにうめぇもんだったんだぁ!!」

「もう最高!!」

「クレナイさん有難う御座いますぅ~!!」

「気にするな」

 

そう言いながらも自分の分もちゃっかり一緒に冷やしていたのか一本取って飲んでいるガイ。早くもA組の皆からの信頼を勝ち得ているのに出久は素直に尊敬しつつプッシーキャッツの他にいる少年に目が留まったか、彼は鼻を鳴らしながら顔を背けてしまった。

 

「俺行く」

「おう。後でメシの手伝い頼むぞ」

「……」

 

その言葉に頷きながらも去っていく少年、何処か自分達に冷たくするような仕草だが何やらガイには心を開いているように見えており如何なっているのかと思っていたがガイが手を叩いてその場を進行した。

 

「ラムネだけじゃ足りないだろ、飯は用意してあるからたんと食えよ。そしてその後は風呂だ、さあ動け動け美味い飯が待ってるぞ」

 

そんな言葉に導かれるように迅速に動いていくA組の皆にマンダレイやピクシーボブだけではなく相澤も何処か感心するような瞳を向けている。関りなんて殆どないに等しかったはずなのに既にA組の皆の動かし方を理解し、誘導も優れている。オールマイトが依頼したというが一体どんな人物なのかという疑問が沸き上がるのだがそれ以上にピクシーボブは別の意味で瞳を輝かせるのであった。

 

 

「ハァァァッッッ……気持ち良いッッッ~……」

「いやぁ染み渡るなぁ……」

「本当……」

 

食事の後の入浴時間。ラムネで程よく胃袋が刺激されていた全員は本当によく食べた、ガイも食事の準備は手伝いはしたのだが物の見事に完食された。それに満足しつつも男子を連れて温泉へと繰り出した。魔獣の森を超えた為に疲れ切った身体を包みこむかのような温かさに思わず溺れそうになりながらも浸かって身体を癒すのであった。

 

「偶には温泉も悪くないもんだぁっ~……」

「本当ですねぇ~……ブッ!!?」

 

と温泉を満喫しているガイの隣で同じように身体を沈めて温泉を楽しんでいる出久。心地良い満腹感と全身を包み込む暖かな感触は身体の疲れを融かしていくかのよう―――がそこに飛び込んでくる上鳴、瀬呂の水飛沫を諸にガイと共に被る。

 

「湯船に飛び込むなぁ!!そしてちゃんと掛け湯してから入れ、マナー違反も良い所だぞ!!?」

「「すっすいませんガイさん!!?」」

「全く次から気を付けろ、まあ気持ちは分からなくもないけどなぁ~……」

 

と怒っていたのも一瞬だけ、すぐさまリラックスした状態へと戻って行くガイを見て同じように湯船に身体を預けて堪能する―――中一人だけ、それらを楽しまずにいる峰田が男湯と女湯を隔てている壁を見上げながら何か悟ったのように言い始める。

 

「まァまァまァ……でもさ、飯とかはねぶっちゃけどうでもいいんすよ。求めれてんのってのはそこじゃないんスよ。そのへん分かってるんですよオイラぁ……」

「何言ってんだあいつ」

「峰田君何言ってるの……?」

 

そんな峰田の言葉の真意はすぐさま明らかになった、壁の向こう側から女子の黄色い声が漏れてきた。

 

「気持ち良いよねぇ温泉とか超サイコー!!」

「本当に気持ち良いわぁ……身体が、癒されていくぅ……」

「気持ち良いですわねぇ……はぁっ疲れが取れていくようです……」

「あぁぁっ極楽極楽……」

「マジで最高……ああっいいっ……」

 

と聞こえてくる女性人の黄色い声、それらに思わず耳を立ててしまう一部男子と壁に耳を当てて懸命に聞いている峰田。それを見ているともう何をしようと思っているのか明白である。ガイも呆れつつやんわりとそれを止めようとするのだが、彼以上に立ち上がるのは……クラス委員長の飯田であった。

 

「峰田君止めたまえ!!君のしている事は己も女性陣も貶めるはずべき行為だ!!」

「壁とは越える為にある!!!"Plus Ultra"!!!」

 

色欲という名の覚悟に身を染めてそのまま壁へと自らの頭のボールをくっ付けて、それを掴んで次々と壁を登っていくのであった。そのまま壁を駆け上がって行く峰田、その手が間も無く壁の上へと届こうとした瞬間―――

 

「あと一歩ォォォッッふがぁ!!?」

 

峰田の頭を風呂桶が直撃した。突然の攻撃にバランスを崩した峰田はそのまま真っ逆さまに落下するのだが飯田がそれを受け止める、突然の事だったがそれを行ったは当然ガイ。これもマナー違反ではあるがそれ以上にやばい事をしようとした事を防ぐ為だったので今回ばかりは勘弁して貰おう。そんな一幕もありながらも入浴後には皆直ぐに疲れもあってか爆睡していくのであった。そして皆が寝静まった頃の事……

 

「マグナさん、出久に対する指導ですけど俺が決める形でいいんですか。此処は数年一緒にいる貴方の方が適切な訓練を出せると思いますけど……」

『いや君流で構わないよ。今回は出久君の強化が重要だ、その為には私では優しすぎる』

「優しいけど厳しい師匠っていうのは良いと思いますけどね俺は」

 

二人のウルトラマンの密談は行われていた。内容は当然翌日から始める予定の出久への訓練の内容、本来は雄英側に任せるつもりだったがゼッパンドンの事を考えるとそうも言っていれられない。早急に強くならなければならない、その為にウルトラマンとしての力に順応し個性との同調を更に進めなければならない。それがこの後も出るかもしれない脅威への備えにもなる。

 

「分かりました、ですが俺はゼロさんとセブンさんの教えを受けてますからそれなりに荒っぽくなるかもしれませんよ」

『大丈夫さ出久君なら。それに私もヒーリングパルスで支援するから』

「優しいのに厳しいですね」

 

肩を竦めるガイに笑う事しか出来ないマグナだがそこには出久への信頼がある、ガイも二人の間には強い絆がある事を感じる。自分が出会ったウルトラマンと人間の間の絆、それらにも負けない程に強く硬い絆がある……それに報いる為にも自分は自分で全力を尽くす事を決めるのであった。




「そう言えば光の国でマグナさんのお見合いの話を伺いしましたよ、今回の任務でまた伸びちゃったらしいですね」
『相手の方怒ってないといいんだけどねぇ……ちょっと不安でね』
「ユリアン王女のお姉さんでしたよね、80さんがフォローしてくださってるらしいですよ。でもあまり気にしてないとも聞きましたよ」
『それでも帰ったらお礼言わないとなぁ……』

とお見合いの方の事を聞きたいという方がいらっしゃったので部分開示。


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オーバー・ウルトラ・トレーニング

翌日の午前5時半、前日の疲れもたっぷりの睡眠などによって疲れも十分に取れたA組は早朝に全員集合していた。何処か眠そうな所もあるが、これから始まる合宿を楽しみにしていたからか全員士気も高い。手始めとして身体能力把握テストにて行われたハンドボール投げを爆豪が行う事になった。入学から3か月、USJやら体育祭やら職場体験などで自分達も成長している、さぞかしとんでもない記録が出るんだろうと皆が期待する中で爆豪が叩き出したのは709.6m、ハッキリ言って期待外れに近い結果。

 

「確かに君達は成長したことだろう、3ヶ月間様々な事を経験して成長しているのは確かな事だろう。だがそれは主に精神面や技術面、後は体力面が少々と言った所で個性そのものは今通りで成長の幅は狭い。今日から君達の個性を伸ばす、死ぬほどキツいが……くれぐれも死なないように―――……」

 

其処までにきつい事がこれから先に待っている、という事に全員が思わず喉を鳴らした。死なないように気を付けなければいけない訓練がこれから待っている……。特に出久は自分に待っているであろう試練に震えてしまう、何せ個性とウルトラマンとしての力を同時に鍛えるのだから。

 

「それじゃあ早速始めるぞ」

 

と相澤が言葉を切った途端にその隣に4つの影が降り立ってきた、一糸乱れぬ動きで降り立った影に思わず全員が身構えた。現れたのは……。

 

煌めく眼でロックオン!!

猫の手、手助けやって来る!!

何処からともなくやってくる……!!!

キュートにキャットにスティンガー!!

ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!!

 

と先日マンダレイとピクシーボブが行ったポーズに二人を加えた本来のフルバージョン、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツの本来の状態とも言える。一人だけ、女性たちの中に屈強な男性である虎が混ざっている事については恐らく突っ込んではいけないのだろう、多分きっと恐らく……そして欠伸をしつつ登場したガイもそこに混ざると説明が始まった。

 

「それでは詳しく説明する。筋肉は負荷をかけて壊し、超再生させる事で大きくなるように個性も同じように負荷をかけ強くなる。故に林間合宿ではそれぞれが個性の限界を突破する事で更なる個性の強化を図る。限界を超えて鍛えるんだ。それでは皆さん、宜しくお願いします」

 

いよいよ始まろうとする林間合宿、それぞれが個性に合わせられたメニューが準備される中で出久はガイに手招きされて森の奥へと足を踏み入れながら説明が行われる事になる。

 

「お前さんも分かってると思うが今回の合宿では個性とウルトラマンとしての力、マグナさんから貰った物を同時に鍛えて貰う事になる。端的に言ってきついから覚悟しておけ、俺はマグナさん程優しくはないからな」

「はっはい宜しくお願いしますガイ先生!!」

「先生か……何かむず痒いな、ガイでいいぞ」

「はいガイさん!!」

 

こうして始まった林間合宿での特訓、それらに遅れるように合流しその光景を見たB組の皆は言葉を失いながらもこれから自分達もこれらを行うのかと……と思いながら突如として空から降ってきた鉄の塊に驚愕した。

 

「うわぁっ何だ鉄哲か!?」

「うぉい俺は此処にいるぞ!?」

「んじゃなんだ!?」

「人デース!!」

 

突然空から降ってきたそれは人間の形をしていた……というよりも人間が鉄の塊を纏っているに等しかった。それは嘗て出久が雄英入学前に纏っていたテクターギアの改良型。個性因子に同時に負荷を与えつつも出力を身体能力と共に抑制するという物で今の出久はそのままでは満足に動けず、出力制限されているフルカウルで身体を強化しなければ歩く事も儘ならず、光線どころか光弾すら容易に打ち出す事が出来ない。

 

「ウォォォリァァアア!!!」

「グゥゥゥゥゥッッッ!!!」

 

そんな出久へと向かって森の木々から飛び出した影が太陽で目晦ましを行いながらも凄まじい勢いで蹴り込んできた。咄嗟に起き上がりながらガードを固める出久、防御するがその際に生じる異常なまでの衝撃波と風圧はB組へと襲い掛かってしまう。小柄な者は思わず吹き飛ばされ、大柄な生徒でも飛ばされそうになる程のそれらに驚愕する。

 

「何だぁぁこりゃああ!!?」

「どういうぶつかり合いだこれぇぇ!!?」

 

「んっ……おっと悪い悪い気付かなかった、出久5分休憩な」

「は、はいぃぃぃっっっ……」

 

倒れこむように休憩に入る出久を見ながらも耳を疑った。倒れこむ際に凄い音が立つ光景が広がっているのだから、あの鎧は一体何キロあるのだろうかという疑問が担任のブラドを含めた全員へと走ってしまった。そんな不安を他所にガイは挨拶をしながらブラドへと握手を求める、求められたそれを取りながらも挨拶をしながら今何をしているのかを尋ねてみる。

 

「貴方が噂のクレナイ・ガイさんですね、今は何を?」

「ああ、出久の個性強化訓練だけど?」

「いや先生が聞きたいのはそういう事じゃなくてその、その鎧の事とか……」

「ああそっちか」

 

出久のメニューは個性のMAXを制限した状態で全身に負荷を掛けた状態での常時組手、可能であれば自分に出来る事を全て行っていいというルールの下でそれを行い続けている。全身に拘束具を纏いながら行う事で体力と判断力などなど実戦で求められる全てを一気に鍛えるメニューとなっている。

 

「ち、因みのそのテクターギアってどのぐらい重いんですか……なんか、緑谷が倒れた地面が凹んでるですけど……」

「そりゃ50キロあるからな」

『50キロぉ!!?』

「ぐぅぅぅ、ぅぅぅうううおおおおお!!!!」

 

地面に腕を突き刺しながら声を上げながら立ち上がる出久、それだけで皆は言葉を失う。単純に50キロを持ち上げろなんて言われたら出来ない者も多いのにそれの重さが全身を包み込むように圧し掛かってくる。しかも個性の出力も抑えられてしまっている上に肉体面の力も制限される、本当の意味で全力を出さなければ動く事も出来ない状況にある出久。倒れこんだ状態から立ち上がるだけでも一苦労。

 

「動けます、ガイさん……!!!」

「よしっんじゃ続きやるか。それじゃあ後でB組の方も回りますんで、行くぞ出久!!」

「はいっ!!」

 

と目の前で組手を再開される、先程の重々しく動けない様な状態から一転して空気が変わり跳躍したり乱打戦を繰り広げたり転げ回って回避したりと本当に50キロもあるギアを付けているのかと疑問に思いたくような光景が広がり続ける。が、それ以上にガイの実力にも驚かせるばかり。

 

「シュウワァ!!リャアアアア!!!」

「ン"ン"ッ!!シェェエア!!」

「ォオリィィィヤアアア!!!」

 

出久の体重を考慮したら100キロは越えるだろうそれを掴んでジャイアントスイングで空高くぶん投げ、そこから体勢を立て直しながら空中に浮かんだまま発射される光弾を避け続けながら木で高さを稼ぎつつも跳躍、飛び蹴りで出久を蹴り落とすという人間離れした技を披露しながら10メートルはくだらないだろう位置から平気そうな顔で着地して撃墜した出久へと追撃を掛けるガイ。ヒーローでもあんなことは出来る人間はそうはない。

 

「如何した出久こんなもんか!!それでもあの人の相棒か!!?」

「まだ、まだぁ!!フルカウル、うおおおおお!!!」

「いい叫びだ!!」

 

発破を掛けられた事で勢いに乗ったのか、更なる出力で個性を発動させながら一気に突進してくる出久。そしてギアの重さを活かすようにしながら攻撃を加えようとするがガイはそれをあっさりと受け流しながらカウンターで深々と拳を突き立てた。

 

「ゼロさんとセブンさん譲りの指導はまだまだやってないぞ、此処でやめるか!?」

「止め、ない!!」




新型テクターギア。以前マグナとオールマイトが出久を見ていた際に使用していたテクターギアの改良型。I・アイランドにて更なる改修が施された結果、個性に負荷を掛けつつも出力制限を行う事が可能になった。

これを使う事で肉体面の強化と個性強化に適したものとなっているが重量も50キロとパワーアップしており使える人間は限られている。


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ウルトラトレーニングとちょっと休憩

「ほれ昼飯持って来てやったぞ」

「あ、有難う……御座います……」

 

昼食時、漸くテクターギアから解放された出久だが酷くぐったりとしていた。単純に重いというのもあるがそれ以上に身体能力の抑制と負荷が想像にキツく体感的に80キロオーバーの拘束具を身に纏っているような気分だった。フルカウルを発動させて漸くまともに動く事が出来るレベル、しかも個性もウルトラマンとしての力も抑えられてしまっているのできつ過ぎるの一言。まだ合宿の初日なのにこの先やっていけるのか酷く不安になりながらも昼食のお弁当を口に運ぶ。昼食までは何とか持って貰えるが、夕食は自分達で作らないといけない……そう思うと今から身体が重い。

 

「ぁぁぁっ白米が甘い……」

「こんな大自然で飯が食えるのも贅沢だな、良く食っとけよ。午後からもっとキツくするからな」

「は、はい……」

 

その宣告にもやってやるという気持ちは湧くのだがそれ以上に全身に纏わり付く疲労感が半端ない、新型テクターギアを纏ったままでのフルタイム組手は相当に利く。その相手のガイは鮮烈且つ過激、流麗にして堅牢。様々な言葉を体現するような戦い方で自分を責め続けてくる。だが午後からはそれももっと辛くなると思うと本当にこの力を使いこなす為には苦労が居るんだと実感する。

 

『大丈夫だよ出久君、始まる前にヒーリングパルス掛けてあげるから』

「えっ……で、でもいいんですか……?」

『疲労が残ったままだと十分な力が発揮出来ないだろう?だから回復してあげるから午後も全力でね』

「流石マグナさん、優しいですけど厳しさの塊ですね」

 

そういう事かなぁ……と肩を落とす隣でガイがニコやかに笑っている。この様子からすると例え言われなくてもガイの方から頼んで回復させられて、常にフルスロットルで戦わされる事になるんだろうなぁと悟りながら鶏肉の梅肉和えを口にする。

 

『ガイ君、午後は他のファイトスタイルも加えて貰えるかな。スペシウムゼペリオンも中々に戦い甲斐あるけどもっと経験を積ませてあげたい』

「分かりました。それじゃあバーンマイトとハリケーンスラッシュも加えます」

『あれは加えないんだね』

「流石に出久が持たないでしょ」

 

笑いながらマグナと会話するガイ、その内容からまだまだガイにも先があるんだと思い知らされてしまう。そしてガイの事もあまり知らないのでその事にもついて尋ねてみる事にする。

 

「スペシウムゼペリオンって何なんですか?」

「そう言えば俺に付いてはあまり話してなかったか、ゼッパンドンと戦った時の姿あるだろ。あれがスペシウムゼペリオンって言うんだが、ウルトラマンさんとティガさんの力をお借りしてるんだ」

「えっお借りしてる?」

『ガイ君は様々なウルトラマンの力を借りて姿を変えて戦う事が出来るウルトラマンだからね』

「えええっそうなんですか!!?」

 

中々良い反応するな、と説明のやりがいがありそうだと笑いながらも自分の事に付いて話すガイ。それに付いて酷く興味深そうに聞きながらも自分のファイトスタイルにも参考出来ないかと思案する出久。そうしながらも様々なウルトラマンの名前を改めて聞く事になり、本当にウルトラマンというのは色んな人がいるんだなと一息つく。

 

「つまり、これからはもっと別の戦い方をするって事だ。パワフルなバーンマイト、スピーディなハリケーンスラッシュって感じにな」

「ほへぇっ~……ヒーローでもコスチュームを変えてスタイルに変化を付けるって人はいますけど姿そのものが変わっちゃうなんて早々いませんよ!!?」

『ガイ君はその辺りが顕著だからね、他だとリク君ぐらいかな。カツミ君とイサミ君は姿はそこまで変わらないし』

「ゼットの奴も入りますね、ヒカリさんの所で開発された新しいアイテムで色々変われるって話ですし」

『へぇっ~……私のメダルとかも何時か使われるのかな』

「俺もマグナさんの力をお借りして変身してみたいとは思いますね、マグナさんとネオスさんとかいいと思いますけど」

 

そんな風に話をしている姿を見るとウルトラマン同士というだけあって話も弾んでいるし他のウルトラマンの話や光の国の話も頻繁に出てくる。それらを聞きながらも自分の知らない事ばかり、と思うが直ぐに逆に今ならば光の国の事も聞けるんじゃないかなと思う。マグナに聞いた話は何方かと言ったらウルトラ戦士の武勇伝やらどんな人たちなのかという話ばかりだったのでその辺りを聞いてみるのもいいかもしれないと思っていたらガイから話を振ってくれた。

 

「そうだ出久、お前聞きたい事ないか?何ならマグナさんのお見合い相手に付いてでも話そうか」

「聞きたいです聞きたいです!!」

『こらこら本人を前にして笑い話にしようとするじゃない、というかおじさんのお見合いは面白くないんじゃないかい?』

「マグナさんはおじさんじゃありませんよ!!!」

「そうですよまだまだお若いじゃないですか」

『少なくとも二人よりは年上なんだけどなぁ私、というか興味あるのね出久君』

 

出来れば触れて欲しくはないと言いたげなマグナだがそこまで聞きたいなら……と渋々流れに身を任せるのであった。出来る事ならば約束事は破りたくはないし破ったらなら直ぐに謝罪なり埋め合わせをしたいタイプゆえにお見合いの事は早急に何とかしたい事。

 

「それでどんな人なんですか、王族って言うのは聞きましたけど」

「ウルトラマン80さんっていう方がいるんだけどその人とお付き合いされてるユリアン王女様のお姉さんだ」

「80さんっていうと地球で教師をされてたって方ですね」

 

お見合い相手の名前はカトレア、年齢は8700歳。

 

「300歳差ですか……!?」

「ウルトラマンにとって300歳なんて大した事じゃないぞ」

『同級生レベルだね、地球の感覚としては』

 

ウルトラマンの感覚的には同級生、同年代レベルなので気にもならない。そしてカトレアはじゃじゃ馬っぷりが光の国でも轟いてしまう程にお転婆なユリアンと違ってお淑やかで大人しい性格らしいが元気を前面に出せているユリアンを羨ましく思っているのか、時々ワザとお姫様らしさを出そうとして失敗してたりする人らしい。

 

「まあそんな人だけど評判は良いな、凄い美人って話題になる位だし」

「凄いじゃないですかマグナさんそんな人とお見合いなんて!!」

『素直に恥ずかしいな……というか私だって突然話が持ち上がって驚いたんだから』

 

任務を終えて報告に行くと突然お見合いの話をされて酷く驚いた覚えがある、しかも相手が王族なのでより驚いた。光の国では身分違いの恋というのは地球程珍しくはない、王族も身分と高い人とだけと言った縛りは基本的にないので好きな人と恋愛できる。それでもやはり身分の違いはあるのでその辺りは慎重になったりする人は多い、その点で80は尊敬を集めたりしている。

 

「でもそんな人とのお見合いをすっぽかし続けちゃってるんですよね……カトレアさんは怒ったりしてないんですか?」

「怒ってはないらしいな、ヒカリさん曰く寧ろ好感を抱くって言ってたらしい」

「良かったですねマグナさん!」

『まあそこは良かったような安心出来るような……まあそれはさておきもう直ぐ昼食の時間も終わるよ、早く食べちゃいなさい』

「「は~い」」

 

そんなこんなで楽しい話をしつつの昼食は終わりを告げるのであった、が、そこから始まるのは出久にとって地獄の猛特訓であった。手始めに腹ごなしを兼ねたランニングとしてガイに追いつかれないように1時間走ると言われたのだが……

 

「俺はこいつで追いかけるからな、こいつより後ろに行かないように気を付けろよ」

「ジ、ジープですか!?逃げるなぁぁ!!!とか言いませんよね!?」

「言わない言わない」

『……ガイ君、ゼロ君とセブンさんにされた修行でそんなことやったの?』

「流石にやってませんよ、似たような事やっただけです」

「『やりはしたの!?』」



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夕食と対話

「さあ昨日のうちに言っておいたからこれからする事は分かってるね~!?」

「己が食う飯位は自分で作れ~カレー!!」

『イェッ……サ……』

 

日も大きく傾き始めた夕暮れ、夏なのでまだまだ日の光はあるがそれでも暗くなってきたのは事実。夕暮れ時にその日の特訓は終わりとなってそれぞれが食事の準備をする時間となったのだが……皆、特訓の厳しさ故か元気がなく疲れ切っている。声にも覇気がなく肩を落としていた。

 

「キャハハハハ、全員全身ブッチブチ!!だからって雑なねこまんまは作っちゃダメね!!」

「確かに……災害時など避難先で消耗した人々の腹と心を満たすのも救助の一貫……流石雄英、無駄がない!!世界一うまいカレーを作ろうじゃないかみんな!!折角ならとびっきり美味しいカレーを!!」

「オ……オォー……」

「(飯田便利)」

 

とラグドールの言葉一つで皆を導こうとする意志と意図を見出して元気を出せる辺り、飯田は他人を牽引する才覚があると言わざるを得ないと思いながら素直にこんな時に場面進行を行える飯田を便利だと思う相澤であった。そして調理が始まっていく、調理場にはガスなどはなく自力で火を起こさなければならない―――のだがその辺りは個性で何とか出来るので苦もない。

 

「流石轟~!!こっちもお願い~!!」

「芦戸君、轟君に頼りすぎるのはよくないぞ!!」

「いや、いいさこの位……」

 

焦凍は手に浮かべた炎をそっと薪へと移し、そこへ新しい薪を焼べる。彼の中での個性の在り方というのもかなり変わってきているのか炎に対する忌避感という物は薄れている、そして何より友達の笑顔の為に個性を使えているという事実に僅かながらの微笑みを浮かべている。そんな変わってきている自分に自覚があるのか、少しばかり驚きながらもこれはこれで悪くないいや、寧ろ良い事だと思いながら友達の為に個性を使うのであった。

 

「緑谷、お前光線で火付けられるんじゃね!?」

「いや大袈裟過ぎない、出力ミスったら爆発しかねないよ」

「いいからやってみてくれよぉ!!」

「しょうがないな……」

 

ガイとの訓練で出久自身もヘトヘトなのだが、全身疲労で完全に動けなくなってしまっていたのでマグナがある程度まで回復させてくれたので動けるようになっている。一応光線も撃てる程度には回復しているが流石にそれで火をつける経験なんてない、上手くいく保証もないが折角だからチャレンジてみようと「シェアッ!!!」とスペシウム光線を発射。疲労の影響もあってか僅かな火花が散る程度だったがそれが上手く着火したのか火を点けられた。

 

「おおっやれるじゃん緑谷!!」

「いやでもあんまりやりたくないかな……意外と光線って疲れるから……」

 

そんなやり取りをしながらもワイワイ賑やかなカレー作りは進行していくのであった、途中火加減の調整に苦戦しているとガイが混ざってやり方を教えたりと言った事をしたりしているとあっという間にカレーが完成した。矢張り日本の国民食はそれぞれ好みのカレーや特色がある家庭がある、故に今回は野菜ゴロゴロのカレーとなった。育ち盛りにとって野菜ゴロゴロであったとしても空腹のみであればバグバグ食べてしまうもの。

 

「うおおおおおっっ疲労と空腹に自分で苦労して作ったカレー超染みるぅぅぅぅ!!!」

「超絶うめぇぇぇ!!店のカレーとは違ったうまさだこんちくしょおおおお!!!!」

「ドリンクにラムネいる奴いるか~、レモン果汁入りだからカレーにあうぞ~」

『頂きます~!!!』

「というかガイさん凄いラムネ推し……」

『昔咄嗟の言い訳で子供達にラムネのお兄さんだよって言う位だしね。筋金入りだよ』

 

そんな事をしつつもガイは皆に断るとカレーを少し貰って行くと何処かに歩いていった。それを見送る出久は森の奥へと消えていった先に先程プッシーキャッツと一緒にいた少年、洸汰が歩いて行った事を思い出した。思えば彼は自分達にはいい顔はしないが何処かガイには対応が柔らかい気がした。

 

「おい緑谷食わねぇのか?だったらその皿寄越せぇぇ!!」

「駄目だって僕だってお腹ペコペコなんだから!!」

 

 

「よおっ洸汰、腹減ってるだろ。カレー食うだろ」

「……」

「ほれっ」

 

鬱蒼とした森を抜けた先にあったのは小さな洞窟と崖、そこから満天の星空と山々を見つめる洸汰に追いついたガイは分けて貰ったカレーを差し出す。気に入らなそうだがガイからという事もあったからか受け取ると食べ始める。それを見ると隣に座りながら共にカレーを食い始める、小さな鍋に分けて貰ったからお代わりあるからなと言いながらも本人もかなり食べている。

 

「んっイケるな、結構才能あるかもな」

「……」

「やっぱり気に食わないかヒーロー目指すあいつら」

「……ああ」

 

とぶっきらぼうに応える洸汰。彼は雄英生どころかヒーローそのものに対して良い感情を抱いていない―――いや抱けない。彼の両親もヒーローだった、だが……ウォーターホースはヴィランによって命を奪われてしまった、それが余りにも大きく影響し今の洸汰を作り上げている。それ故かプッシーキャッツにもいい顔をしないのにガイに対してはある程度心を開いているのは彼がヒーローではないから。

 

「そうだろうな。訳解らないよな、あいつらは自分から危険な世界に飛び込もうとしてるんだから意味分からないよな」

「……目立ちたいだけだ。自分の力を、個性をひけらかしたいのかよ……」

「そう言う奴もいるだろうな、ヒーローは目立つからなぁ」

 

ガイは自分の言葉を全く否定しなかった。寧ろ肯定するような言葉を掛けてくれる、自分の考えを、思いを受け止めてくれるような感覚がして心地良いような気がする。酷く器が大きく否定もせず話を最後まで聞いてくれる……そんなガイに憧れに近い何かを抱いているのかもしれない。

 

「でもこんな奴もいるだろうな」

「……どんな奴」

「大馬鹿野郎さ」

「……ハッ?」

 

思わず聞き返してしまった。大馬鹿野郎、とガイは大笑いしながらそう言ったのだ。

 

「覚えときな洸汰、世の中には自分の事なんて顧みずに誰かを助けちまうなんて大馬鹿がいるんだ。だけどな案外そういうタイプの奴が世界を変えちまうのさ」

「なんでだよ、馬鹿なのにどうやって世界を変えるんだよ」

「そこに打算、つまり助けて何かを得ようなんて思ってないからだ、だからこそ人はそれに惹かれる。だから次に他に人に親切にしよう、出来る範囲で手伝いをしてあげようって気持ちを作り上げるのさ。あの中だと出久がそうなるな、何時か分かる日が来る」

 

そう言い残すと少し強めに頭を撫でてから去っていってしまった、残された洸汰は言葉を失いながらも唯々カレーを口へと運び続けていた。自分の中にあった何かが大きく崩れて全く別のものが生まれたような気分だった。

 

「わかんねぇ……」

 

 

「あっそうだ出久、明日の訓練はもっときつくなるから覚悟しとけよ」

「ウェッ!?あれ以上にきつくなるってどんだけやばい事になるんですか訓練!!?」

「そうだな……闇を抱いて光になる感じ?」

「いやどういう事なんか全然わからないんですけどぉ!?というかなんかそれ若干矛盾している気がするのぼくだけですか!?」

『ああっ遂にあれが来るのか、頑張れよ出久君。明日は本当に気張って行かないとマジでやばいかもしれないよ、ヒーリングパルスの準備はしておくから』

「(何それ怖い!!?)」



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ウルトラトレーニング・オーブファイト

サブタイに他意はない。あの赤い通り魔とは実際無関係だから、イイネ?


合宿二日目。先日と変わらぬ辛い特訓が続き続けているのだが、森の奥で一際巨大な衝撃と爆発音がプッシーキャッツの私有地全体へと響き渡るのであった。その衝撃に思わず動きを止めて其方へと目を向けてしまう程。

 

「な、なんだ今の!?」

「確かあっちって緑谷ちゃんとガイさんが特訓してる方角な筈だけど……」

 

基本的にガイは出久を見ている、それは公認であり寧ろその為に集中して貰えるのは相澤やプッシーキャッツとしても助かる事なのである。実力も個性もある上にその伸び幅もあるのならばそれを鍛える為には集中しなければならない、だがそれは他の生徒達に関われない事になりかねないのでそれを一手に引き受けて貰えるガイの存在は相当に大きい。そんなガイが見ている出久は今日もテクターギアを付けた上での組手らしいので離れた場所で戦い続けている筈……既に4時間ほど経過しているだろうか、そんな所に再び大爆発のような衝撃と爆音が響き渡る。

 

「ラグドール、大丈夫なのよねあの二人……」

「流石にこうも連続して爆音が響くと我も不安になるぞ」

「あのナイスガイさんが下手な事しないって信頼してるけどこれはね……」

 

とプッシーキャッツもラグドールへと視線を向ける、彼女の個性はサーチ。目で見た相手の居場所、弱点などの情報を100人まで知ることが出来る―――故にあの二人がウルトラマンである事を承知している数少ない一人。と言っても意図して知ろうしたわけでもないので二人は一切気にしておらず、口外しない事も約束している。口止め料としてサインは貰ったりはした。

 

「あ~……うん、大丈夫みたいよ。ガイさんが本気の一歩手前であの子とガチバトルしてるみたいだから」

「だからこんな事になるの……?」

「なるみたい、いやぁガイさんの個性も凄いみたいだからねぇ~あの子に負けない位」

 

その言葉だけでその場の全員を納得させつつもガイに対する見方を変える。初日の異常な身体能力だけで凄いとは思っていたが個性も出久に負けない程ならば確かにオールマイトに呼ばれるだけはあるという説得が濃厚になった。その瞬間―――

 

『ッッッッ―――!!!!??』

 

自分達の近くを何かが空を切ったと同時に周囲に風圧の爆弾を叩きつけた。直後に岩壁に何かが叩きつけられたような衝撃音がしてそちらをみると岩肌に巨大なクレーターが出来ていた。

 

「な、なんだぁ!!?」

「漫画やアニメでしか見た事がねぇよ壁に出来たクレーターって!?」

「梅雨ちゃん大丈夫ぅ!!?」

「な、何とか大丈夫よぉ!!」

 

クレーターが出来たのは梅雨が特訓中だった崖の近くだった、丁度登り切った所でこれから降りようとしていた所だったので正直危なかったが怪我もない。そんな彼女がゆっくりと崖を降りながらどうしてこんな事になったのかを確認してみる事にした、クレーターの中心には窪みがあり、それが超高速で激突した事が原因だと思われる。そしてその中心に居たのは……

 

「うううっっっ……」

「緑谷ちゃん!?だ、大丈夫!?」

 

そこにいたのはまるで十字架に張りつけにされたか如く両腕を広げた状態で壁に埋まっている出久の姿だった。という事は激突したのは出久という事になる、ギアのお陰で怪我はしていないらしいがそれでもかなりのダメージが蓄積しているように見える。

 

「梅雨、ちゃん……あれ、何で……?」

「それは私の台詞よ!?とにかく肩貸すわね!?」

「大丈夫、まだ動けるから……!!」

 

強引に拘束を破るように腕を動かして岩壁から脱出するが身体に力が入らないのかフラフラしている彼に肩を貸すが、50キロもあるギアの影響でそれも一苦労だがそんな事を顔に一切出さずに瀬呂が伸ばしてくれていたテープを使って何とか降りる事に成功すると出久は大きな音を立てながら座り込んでしまった。

 

「キッツゥゥゥゥ……」

「大丈夫緑谷ちゃん、少し休んだ方が良いわ。これも外した方が良いわよ」

「ああいやこれ僕じゃ外れないんだ……装着者は絶対に外せないし外す為にはガイさんにお願いしないと……」

「えっとそれならこうしたら楽になるとちがう!?」

 

そこへやって来たのは麗日だった、彼女がギアに触れると一気にギアの重みが消え失せた。個性でギアを無重力にする事で出久への負担を軽くした、それで一気に表情が軟化していく出久にこれを付けて動く事がどれだけ辛いのかが分かる。

 

「いやもうガイさん強すぎ……」

「というかお前らどんな訓練してんだよ、こっちまで届く衝撃波と爆音とか普通じゃねえぞ!?」

 

と声を掛けられた直後に森の奥からガイが姿を現す、彼はクレーターを見てあちゃぁっ……やりすぎたと言わんばかりの顔にながら頭を掻きながら謝罪する。

 

「いやぁ悪い悪い、怪我とかなかったか?」

「こっちは全く……でもガイさんどんな訓練を緑谷ちゃんと……?」

「昨日と同じ組手だ、まあ今回は俺もちょっと本気になってるけどな」

 

 

「という訳で出久、今回の組手は俺もちょっと本気を出させて貰うからな」

「は、はい……!!」

 

出久との訓練の際、ガイは変身せずにオーブの力を一部引き出す。言うなれば生身の状態でウルトラマンの状態の力を発揮出来る技を使う、そのお陰で生身のままでヒーロー顔負けの戦闘を行う事だってできる。使わなくてもガイ自身の身体能力なら問題はないのだが、今回は経験を積む事と出久の成長が目的。そして今回、スペシウムゼペリオン、バーンマイト、ハリケーンスラッシュとオーブの基本とも言える3形態と戦ってきた出久が挑むものとは―――

 

「言っておくが出久、お前も本気で来いよ。出ないと―――怪我じゃ済まなくなるからな」

「えっ!?」

『さてさて見せて貰うよ。黒き王の祝福を受けた力を』

 

その言葉を皮切りにガイは笑顔から鋭い顔つきになりながらその手にグリップの付いた結晶のような美しいリングを掲げた、それはガイが変身の際に使用するアイテムであるオーブリング。自分達で言う所のマグナリングに当たる物、そしてそれらと同時にカードをその手に持った。

 

「ゾフィーさん!!ベリアルさん!!光と闇の力、お借りします!!」

『フュージョンアップ!!』

 

カードをリングへとリードする、瞬間にカードは粒子化しながらも輝きと共に光の影となってウルトラマンの姿を映し出す。その姿にマグナは懐かしさすら覚えてしまう、この地球に派遣する命令をくれたゾフィー。そして……光の国から生まれた悪のウルトラマン、ベリアル。それらは輝きながらガイへと重なっていくとガイは声を上げ、瞳に色が赤みを帯びた黄色へと変化し同時に凄まじい威圧感が周囲に充満していき森の動物たちが逃げ出していく。

 

「何て威圧感……!?」

『これが噂に聞く姿の一端か……』

「さあ準備は出来たぜ、存分に相手してやるから覚悟しな出久!!」

 

僅かに口調も荒々しくなっているガイに僅かに驚くが出久は迷う事もなく向かって行く。先日もずっとガイと戦って来ている、もう恐れる必要も無いと言いたげだったがそれは大きな間違いでありその姿の強さに驚かせられ続けるばかりだった。

 

「イズティウムゥゥッ光線!!!!」

「この程度かもっと気張れぇぇっ!!!」

「えっちょっ効果なし!!?」

 

出久必殺の光線も最初こそガードしていたが、徐々に慣れていったのかそれとも全く効かない事に気付いたのかガードもせずにそのまま歩いてくる姿には驚き上に恐怖を覚えた。そしてその姿の圧倒的なパワーに出久は押され続けていた、片腕で簡単に木を引っこ抜くとそれをまるで武器のように構えて殴り付けてきたりする。スマッシュも全く効果がなく、平然とされた上でジャイアントスイングをされて出久はぶっ飛ばされてしまい、皆の所で岩肌に埋まる事になった。

 

「いやぁ悪い悪い、あれは制御が難しくてな。如何する出久、流石に加減した方が良いよな」

「いえ、続けてください……僕はもっと強くなりたいんです!!」

「良く言った!!よし行くぞ!!」

「はいっ!!でも、少し休ませてください……」

「しょうがないな……まあここじゃあ迷惑になるだろうから向こうでな」

 

と運ばれていく出久を皆は心配そうな瞳で見つめるのであった。

 

「あそこじゃマグナさんもヒーリングパルス撃てないだろうからな」

「ご、ご迷惑おかけします……」

『そろそろ本気の出久君と戦って欲しいし明日からはギアを外すのも検討しようか、後ガイ君ももっと他の姿を使ってくれていいからね』

「分かりました」




イージーフュージョンアップ:オーブではなく人間態(ガイさん)のまま力を発揮する新技。フュージョンアップした姿の力の一部を引き出せるが、引き出せる力はウルトラマンの時と比べると比べ物にならない程に小さいがそれでもこの世界のヴィランなどの相手をするには十分過ぎる力を発揮出来る。

形態によって瞳の色が変化したりする。


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ニューファイト・イズティウム

「シェアッ!!」

「シュワァ!!」

 

午後、遂にテクターギアから解放された出久。抑制され続けてきた個性、ウルトラマンの力、身体能力全てが解放された事により感覚が研ぎ澄まされ今まで以上に鋭敏且つ細やかなコントロールを会得しながらガイとの組手へと望み続けていた。

 

「SWALLOW SMAAAAAAAAASH!!!」

「ヴォォォオオ!!」

 

今までよりも更にアクロバティックになりながらもその速度が段違いに速く、回転数も多くなったことで威力が格段にパワーアップしたスワロースマッシュとサンダーブレスターのガイの一撃が激突する。空間を揺るがし周囲の木々の間に衝撃波を走らせていく、その中で僅かにガイが後ろに後退るが直ぐに腰を入れ直すと一気に押し込まれていき出久は大きく吹き飛ばされてしまう。

 

「まだまだぁっ!!」

 

吹き飛ばされながらも重力を感じさせない様な流動的な動きで着地しながら立ち上がりながら受けた衝撃を全て受け流す、そして一気に迫りながら腕を振り上げながら飛び掛かってくる一撃。それを回転を起こながら受け流して地面へと向けさせる事で自らに迫るダメージを0にしながら勢いのままガイの背中へと蹴りを叩きこむ事に成功する。

 

「グゥッ、少しは成長したかぁ!?」

 

首筋付近に炸裂したというのに一切揺らぐことがない、圧倒的な力は唯のパワーではなく肉体そのものを支えている。そしてそれを受け止めながらも大地に亀裂を生んだ拳を一気に引き抜きながら自らも回転しながら裏拳を叩きこもうとする。しかし出久は先程と同じように回りながら受け流す。

 

サンダーブレスターの力を身に宿しているガイと戦い続けて分かった事、それは自らを遥かに上回るパワーファイター相手に真正面から向かって行く事は大きな危険も伴うという事。対応出来るならば正面から捻じ伏せるという選択も取れるが出来ない場合にそれに付き合い続けるのは破滅を招くのみ、それに対応する術として柔らかな体術をすればいいのではないかと嘗てマグナに聞かされたウルトラマンコスモスを参考にしながらそれを実践した。

 

「(よしっやっぱり正解だ!!このパワー差は覆せない、だったら相手の力を利用すればいいんだ!!利用し、増幅させて、攻撃する。これは研究する価値がある、これにフルカウルを組み合わせて行けば―――!!)」

「コスモスさんの柔拳か、だがまだまだ甘いぃ!!」

「なっ!?」

 

裏拳を受け流せたと思った出久へと再度の裏拳が迫ってくる、それを慌てて受け流すが再び、また同じような攻撃が飛来し続けてくる。そのままガイは竜巻を巻き起こす程の超高速回転のままの連続ラリアットを出久へと向けて放ち続けて行く。それが必殺技の一つであるスピンドルZアタック、突然のそれに何とか受け流しを行おうとするのだが一撃一撃が回転の勢いで威力が倍増している上に尋常ではない速度での連続攻撃となっているので受け流す事が非常に困難になっている。

 

「ぐっうぅぅぅうわぁぁぁあぁ!!?」

「ヴワァァァァァ!!!!」

 

懸命に回転しながら受け流しを試みるが編み出したばかりで練習も経験も不足している為に回転の勢いに負けてしまうスピンドルZアタックを諸に喰らってしまい再び吹き飛ばされてしまう。無数の木々を薙ぎ倒しながら地面を抉る勢いで倒れこんだ出久にイージー・フュージョンアップを解除したガイが傍に座り込みながら見つめてきた。

 

「おい出久大丈夫か?加減はしてたが……それでもきついか?」

「な、なんとか咄嗟にガードが間に合ったので……まあそれも一瞬で壊されちゃいましたけど……」

『いやいやいやあの一瞬でよくもあんな防御を思いついたね、普通に感心したよ』

 

出久は直撃を受ける直前にフルカウルを解除しながら受ける身体の部分にワン・フォー・オールを集中させる事で防御を行った。それで致命傷を逃れつつ大ダメージを受ける事はなかったがそれでも一瞬でその防御も突き破られてしまった、改めてガイの凄まじさを実感させられる。だが今回はガイも出久を褒める気満々であった。

 

「だが出久、お前の今のは伸ばす価値が大いにあるぞ。お前が参考にしたコスモスさんは月の優しき光のごとき、慈しみの青い巨人って言われてる。怪獣を静めたり救う為に極力相手の身体を傷付けないようにするために拳を握らず、平手のまま相手の攻撃を受け流して戦っている。ヒーローを目指すお前としては目指すべきスタイルの一つだと思うぞ」

「そっそうなんですか、やっぱりウルトラマンにも色んな方がいるんですね……僕怪獣って悪いイメージばっかりでした」

『怪獣も人間と同じだよ出久君。何らかの原因で凶暴化したり、苦しむ者もいる。それを救い怪獣と共存を目指し続けた偉大な方だ』

 

唯戦うのではなく相手をも救う為に立ち上がる、そんなウルトラマンもいた事に出久は驚きながらもその考えに共感した。そしてある意味でこの個性社会においてウルトラマンを自分の力として使う道として適切な戦い方の一つを見出す事が出来た事が嬉しかった。そしてこの戦い方を研究してみる甲斐があると強く思う。

 

「あのガイさん、ガイさんのフォームの中でも柔らかな感じの姿ってありませんか!?是非参考にしたいんです!!」

「俺のだとそうだな……コスモスさんとエックスさんの力を借りたフルムーンザナディウムがそれに当たるか。それじゃあ次からはそれに焦点を当ててみるか」

「お願いします!!」

『うんうん青春だねぇ』

 

 

―――さてそろそろ、始めるかぁ……ヴィラン連合としての仕事もキッチリしないと……開闢の名のままに、そしてテストも大詰めだ……見せて貰おうか、悪魔の名前に恥じないかどうかを……。

 

 

 



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イズティウム、胸に刻む。

いよいよ三日目へと入り合宿もさらに激しさを増して行く。出久も新しい戦法、所謂コスモススタイルを見出しその為の訓練を重ね続けている。前日までの激しさから一転、静かな物へと変貌。いきなり衝撃波やら風圧が襲ってこなくなったことに他の生徒達は驚きながらもラグドールが訓練内容が変わった事を聞かれると胸を撫で下ろすのであった。流石にあんな激しい訓練をしているとなればいやでも気になって来てしまう。それは特にA組が顕著で出久が身体を壊しかねない訓練をしない事だけで大分落ち着いた。

 

「まだだ、まだ動きの中に荒さがある。心を無にして眠れる領域に触れろ、そうやってマグナさんの戦友も前へと進んだんだ!!」

「心の中の領域……潜在的な所って事かな」

『傍から聞いてると本当に訳分からないアドバイスだよねこれ』

「マグナさん!?」

 

言わんとする事は分かるような分からないような……これをアドバイスとして戦友ことリブットはパワードとグレートとの特訓中に受けたらしい。その言葉を受ける事でリブットは大きな成長を遂げ、マックスをゴーデス細胞から救いだしマガオロチ討伐に大きく貢献した。それだけリブットの潜在的な力が凄まじかったという事だろう、まだまだ若いのに本当に凄いとしか言いようがない。

 

「やぁっ!!」

「うおおおおぉっっっ!!!?」

 

夕食時を迎えようとするときにガイの腕が唸りを上げながら一気に捩じられた。バーンマイトとの実戦的な組手をつけている際の事。ガイの攻撃を捌き続け可能であれば柔を伴った反撃を行えという指示を受けながら唯々捌き続けていた出久はガイのストビュームナックルの一撃を見事にいなしつつも腕を全身を使いながら回した。捩じられた腕を伝うように一気に迫ってくるそれを咄嗟に地面を蹴りながらの側転染みた回転をする事で無理矢理受け流すがそれでも殺しきれないのか僅かに飛ばされながら着地するガイは出久に不敵な笑みを浮かべながら見つめた。

 

「やるじゃないか、俺の一撃を上手くいなしながらドラゴンスクリューの要領で捩じり飛ばそうとしたな」

「でもまさか今のをいなされるなんて……思いませんでした」

『いやいや今のは中々に素晴らしかったよ出久君』

 

出久としては全く通用しなかったと思える攻撃だったが、マグナはそれを強く評価した。

 

『ガイ君のバーンマイトはスピードを兼ね備えた猛烈なパワーファイターだ、そんな一撃を完全に無力化しつつもカウンターでガイ君を投げ飛ばす事が出来たというのは大きな成果だよ。それに君はそこに個性を混ぜて投げ技のスマッシュの原型を作り出したんだよ』

「えっ!?僕、使ってたんですか!?いや確かにフルカウルはやってましたけど……」

「それじゃあ無意識って事になるな、好機に相手の力に自分の出せる力を上乗せしてぶつけるって事は技術が居る事だし凄い事だぞ?」

 

出久としては信じられないと言わんばかりの顔をしている、ガイの力を利用したカウンターという意識はしたがフルカウルを強めたつもりは一切無かった。それを聞いてガイは腕を組みながら持論を述べる。

 

「もしかしたら出久は元からコスモススタイルに向いてたのかもしれないな」

『其れはあるかもしれないね。気質が元々穏やかで相手を思いやる心が強い人ほど武道に向かないが、護身術には向いている事があるらしいから出久君もそれに近いのかもしれないね』

 

出久はそれを言われて今まで自分がどんな戦い方に向いているのかという事に余り目を向けてこなかった事に気付いた、オールマイトから個性を引き継いだことやマグナに見て貰っていた故か意識していたのは常にこの二人だった。圧倒的な力で相手を屠る、痛烈な一撃を与えるなどなどそれらに目を向け続けてきたが自分に合っている戦法はあまり考えなかった。

 

「お前だけのスタイル、それがコスモススタイルなのかもしれないな。良いんじゃないか、今まではオールマイトとマグナさんの背中を見続けてきたお前が自分と向き合えたって事じゃないか。自分と向き合うっていうのは当たり前のように見えて難しい事だ」

「向き合う……もしかして眠れる領域にタップするってこういう事なんですか?」

『そうとも言えるかもね。ではリブットに合わせてこんな言葉を教えてあげよう』

 

崇高な精神と品格を備えよ

 

自身の言動に責任を取れ

 

創造力と強さを持て

 

同胞を尊敬し、友愛と平和を守れ

 

正義を守り、試練に立ち向かえ

 

一つ一つ、万感の思いがこめられながら告げられた言葉に出久だけではなくガイも背を正しながらそれに向き合った。そこにあるのはヒーローとしてだけではなく、ウルトラマンとして持つべき全てが込められると言っても過言ではなかった。それを聞くと自然に身体に緊張が走り、喉が鳴った。そして自然に思った―――自分もそれに相応しい存在に成りたいと。

 

『出久君、君はまだまだ若い。君には無限の可能性が広がっている、だから焦る事なんてない。一歩一歩確かめながら歩いて行っても良いんだ、私も一緒に行くからね』

「マグナさん……はい、僕今まで以上に頑張ります!!ガイさんお願いします!!」

「よしっ良く言った!!それじゃあ続きを―――っともう夕飯時だな、取り敢えず明日からまた頑張るとしよう」

「はい!!」

 

先を歩きながらも腹減ったなぁと呟くガイと共に皆の元へと戻って行く出久、先程の5つの言葉を胸に刻み何度も何度も確かめながら。そんな出久をマグナは微笑ましく見守りながら純粋にこの先が楽しみになって来た―――が、彼らに悪魔の牙が遂に迫ろうとした。

 

 

―――マグナ、ここいらで消えて貰おう。お前はこの星には無用な存在だ……私の実験場にお前という存在は不要だ。



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救済を語る(騙る)悪魔

「緑谷ちゃん、なんだかいい顔をしてるけど何か良い事でもあったの?」

「顔に出てる?」

「ええっとってもいい顔をしてるわよ」

 

夕食の準備へと取り掛かっている時の事、隣で同じように食材を切っている梅雨が話しかけてきた。周囲が合宿の疲労が出始めてぐったりとして来ているのもあるだろうがこの合宿で大きな手ごたえを感じる事が出来た明るい表情はかなり目立っているらしく彼女に言わせればいい顔をしている、との事。

 

「うん。僕オリジナルって言っていいスタイルを見出す事が出来たんだ」

「緑谷ちゃんオリジナルって事は今までは参考にしてた人がいるのね?」

「前まではオールマイトの戦い方を参考にしてたんだ、パンチとかを主体にする感じ。でもガイさんと戦ってる時にちょっと切っ掛けを貰って、そっちにシフトしてみたら思った以上にガイさんに通用したんだ。だからこれからそれを研究してみようって事になったんだ」

 

コスモススタイルは良くも悪くも衝撃的だった。元々はオールマイトを連想させるような圧倒的なパワーを誇るサンダーブレスター、それに対抗する為にパワーを受け流す事でダメージを抑えつつもカウンターを狙うのが目的だったのがそれを主軸に据える物へと転じようとしている。流石に突然スタイルを変えるのは危険も伴うので暫くは今までのスタイルに組み合わせて徐々に転換させていく事になった。

 

「ケロケロ、でもよかったわ。緑谷ちゃんが無茶な事をしなくなったのは」

「やっぱりそう見えた?」

「私、思った事をハッキリ言っちゃうから言っちゃうけどあんなことがあったのに同じ訓練に向かい続けるのは異常に映ったわ」

 

素直に突きたてられた言葉に出久は第三者からしたら確かにそう見えてしまうのかと思案顔になり、マグナはまあそうだろうなぁ……と納得する。ウルトラマンという個性以上に超常的な存在を知っているのは僅か、皆から見れば出久のそれは生き急いでる行いでしかない。何故そこまで焦るのか、確かに合宿での集中訓練は1週間しかない、そこで伸ばせるだけ伸ばしたいという気持ちは分からなくはないが……それでも行き過ぎていると感じられる。

 

「緑谷ちゃんはもう強いと思うの、体育祭で轟ちゃんに勝って爆豪ちゃんとあそこまで戦えていた。今からプロに行っても活躍できると思うの、だからこれ以上強くならなくてもって思う。知識を付けたり、誰かを導こうとする事を優先しても良いと思うの。寧ろそうしたらきっといいリーダーになれると思う」

 

紛れもない本気、それは単純に出久の強さを知っているからではない。USJでエレキングに襲われた際に出久はあれだけ強大相手にも恐れる事もなく自分に出来る事を全力で勇ましく行い続けた。それは人々の精神的な支柱に成り得る力の在り方でもある。

 

「ウチも、そう思うんよ」

「麗日さん」

 

それに同意したのは野菜を洗い終わった麗日だった、彼女もそれ強く感じている。それは合宿前の買い物でも色濃く表れているように思えた、あの時に出現したゼッパンドン。その圧倒的な存在に飲まれて逃げる事を考えていたのに出久は逃げ遅れていた子供の元へと迷う事もなく駆け出していけるような勇敢さがある、それは何が出来て何をするべきなのかを見据えられていたからだと強く感じている。ヒーローにとって自己判断の素早さは重要だと授業で言われている、出久は出来ているのにまだまだ強くなろうとする。出来る事の幅を伸ばすのではなく、単純に更に自分を大きくしようとしている事が疑問だった。

 

「昨日は特にそれを思った、ガイさんとあんな事になってて……聞いても、その大丈夫?」

「……大丈夫ではあるよ、でもちょっと難しい質問だねそれ」

 

洗われた野菜を手に取りながら包丁で皮を刮いで行きながら言葉を紡ぐ。

 

「僕は単純に理想とするヒーローになる為に必要だと思ったから……かな」

「デク君の理想って……オールマイト?」

「う~んちょっと違うかな、オールマイトは僕にとってはヒーローを目指すオリジンで憧れだけど理想のヒーローは別の人なんだ」

「初耳だわ、緑谷ちゃんってばオールマイトの事を嬉しそうに話したりするからそう成りたいとばかり思ってたわ」

 

ある意味それはカモフラージュ的な側面がなかったとは言い切れない、自分の理想は―――ウルトラマンマグナなのだから。だがその人の事を話す事は出来ないので元々の憧れであったオールマイトの事ばかり話していると言った方が正しい。オールマイトの事をリスペクトしていない訳ではない、だが目指しているのはマグナ、それだけなのだ。

 

「その人が見てる世界って本当に広いんだ、素晴らしい事だけじゃなくてどうしようもない理不尽も潜んでる。平和を守るためには努力を欠かしちゃいけないんだよって。だから僕は頑張り続ける、一歩一歩出来る事をこなし続けていったら何時か振り返った時の景色を見たいから」

 

迷いも戸惑いもない輝くような笑みに二人は抱いていた言葉を取り下げる事にした、唯悪戯に自分を苛め抜いて成長しようとしていたのではない。それが分かっただけでも答えを貰えたに等しい。ガイとの過剰にも見えた組手も階段を上る為の必要な事だった、その階段を登り切って出久が振り返った時に広がっている光景はきっと本当の平和に通ずるのだろうか、それを見てみたいと二人は心から思う。

 

「それにガイさんのあれは本当に意味があったからね、オールマイトみたいな超パワー系ヴィランに対する戦法の確立にもなったしもう一回オールマイトと戦ったら多分良い所まで行けると思うよ」

「フンッ無駄にでかく出やがったなクソデクが」

 

そんな言葉に反応したのは試験で共にオールマイトと戦った爆豪。その言葉に偽りはねぇだろうなと言わんばかりの鋭い瞳に出久は勿論と凛とした瞳で迎え撃つと僅かに愉快そうにしつつも忌々し気に鼻を鳴らした。

 

「だったらそん時思いつけやクソが」

「いや面目ない……」

「合宿終わったらオールマイトにもう一戦申し込むぞ」

「いいね、負けっぱなしなんてカッちゃんの性に合わないもんね」

 

ったりめぇに決まってるだろクソが!!!と叫びながらも超高速で野菜を手元を見ずに刻んでいく爆豪。本当に多方向に優れた才能マンだと言わざるを得ない、母にご飯を作るのを手伝えと言われてなんだかんだ言いながらも手伝っていたのだろうか。出久の脳裏には互いに罵り合いながらも調理を続けていく爆豪親子が過ってありそうだなぁ……と思うのであった。

 

「緑谷、そん時は俺もオールマイトに挑んでも良いか」

 

と声を上げたのは焦凍であった。

 

「俺もオールマイトに見て貰いてぇし、№1の立場から親父を見てたから対処方法とかを体験して炎を伸ばせるかもしれねぇ」

「成程、そういう考え方もあるね」

「ついでに俺もお前と一緒にタッグ組んで戦ってみてぇし、体育祭の時の炎とお前の光線の合わせ技ならオールマイトにも通用しねぇか?」

 

炎を纏った光線、それを聞いてマグナにこっそりと聞いて見るとウルトラマンの中には炎を主軸にする者も居る事を聞く事が出来た。その場合は熱線や火球だったりする。だがその分威力は申し分なく光線としての側面を持つのか水の特性を持つ光線と互いを打ち消す事もなく寧ろ威力が上がるという事もあったらしい。それを含めると爆破よりもシナジーを組みやすいのではと思った時、爆豪が焦凍にかみついた。

 

「おい半分野郎何勝手に決めてんだクソデクと俺でオールマイトにリベンジすんだ邪魔すんな!!」

「邪魔なんかしてねぇだろ、その機会があったら俺も混ぜて欲しいって言ってるだけだ」

「邪魔でしかねぇわ!!!」

 

爆豪としてはその時と同じでなければ雪辱を果たす事が出来ないから邪魔するな!!と言いたいのだろうが何処か出久と共に戦う事を楽しみにしているような節があり、梅雨から良かったわねと声を掛けられ少し照れてしまう。確かにこんな風に彼から望まれるなんて事はあり得なかったなぁ……そう思いながら夕食の準備を進めた。そして夕食後、飴と鞭の一環として行われたクラス対抗肝試しにて―――それは起こった。

 

「あれはっ……!!くそっ出久俺は洸汰を探しに行く、任せていいか!?」

「分かりました!!」

『ゼッパンドンの時点で予測しておくべきだった、まさかこんな事があるなんて―――!!!』

 

出現したそれは叡智の結晶末に悪魔が混ぜられ生まれた怪物……限りない悪意が創造してしまった科学が辿り着いてしまう極致の一つ……。

 

■●▲◆ ACCESS GRANTED

 

―――ベリアル、宇宙ロボット、シヴィルジャッジメンター。

 

〔BELIAL〕〔KING JOE BLACK〕〔GALACTRON-MK2〕

 

―――さあ、貴様の命日は今日になるか試してやる。来い、ウルトラマンマグナ!!

 

 

ARC GALACTRON(アークギャラクトロン)




遂に登場、オリジナル……とまでは言えないけどその要素を持った怪獣のエントリーだ!!キングギャラクトロンの強化を目的にこんな感じになりました。

名前については、陛下が映画・ベリアル銀河帝国で変身したアークベリアルから取りました。悪くないネーミングなんじゃないかなぁと少し思ったりしたり。


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悪意の竜人、光の巨人。

夕食も終わった後の事。合宿中の特訓は言うなれば鞭、それに合わせて確りと飴は用意されていた。それがレクリエーションとして企画されたクラス対抗の肝試し、イベントらしいイベントに興奮する皆だった。これから驚かし驚かされのイベントが待ち受けているんだと思っていた、そう思っていたのだ……その時にそれは現れた。

 

「な、なんだありゃぁ!!?」

「It’s so big!!?」

「前に木椰に現れたみてぇにすげぇでけぇっ!!?」

 

白亜の装甲の上に青い鎧、金色の甲冑を身に纏った竜人。右半身は闇に侵されたかのような漆黒に染まりながらも血のようなラインが走り抜け、ボディの中央部にはより邪悪な闇が広がり続けている。そして背中からは翼にも見えるような赤みがかった碧の結晶が連なっている。それを見た瞬間にマグナはそれらを構成している全てを見抜きながらも途轍もない事を理解した。

 

「あれはっ……!!くそっ出久俺は洸汰を探しに行く、任せていいか!?」

「分かりました!!」

 

洸汰はまた何時ものように夕食時になると何処かに姿を消してしまった、あんな化け物が出てきている時に一人でいるのにはあまりに危険すぎる。だがガイはその行先に心当たりがある、洸汰を助ける為にこの場を出久に任せたいと述べるとプッシーキャッツの面々と相澤に出久と共に洸汰を助けたら直ぐに合流すると述べると直ぐに森の奥へと駆けだしていく。

 

「出久奴はやばすぎるぞ!!あいつはギャラクトロンの強化型のMK2の力を取り込んでる!!」

「ギャラクトロンって確か平和のために知的生命体を抹殺しようとした!?」

『それだけじゃない、キングジョーブラックにベリアルだと!?最悪すぎる組み合わせだ、そもそもなぜベリアルの力を持っている!!?』

「ベリアルさんのメダルを!?」

 

マグナの言葉に思わずガイも驚愕する、出久は何の話をしているのか分からなかった。まだ話されていない事、M78星雲・光の国が生んだ最恐最悪のウルトラマンとも呼ばれる存在……ウルトラマンベリアル。光の国を壊滅までに追い込んだだけではなく、一度宇宙その物を消し去る所まで……だがその存在は既に無く、永久に消し去れたはず。今宇宙にはウルトラマンベリアルがかつて宇宙中で暴れまわった際に残していった細胞の破片から生まれたデビルスプリンターによる被害が出ているが……それこそベリアル自身が意図した訳ではない。

 

「だけどベリアルさんはジードが……!!」

『ああその筈だ、まさかベリアルの配下の残党!?ええい考えるのは後だ、兎に角あいつを食い止めなければここら一体が消し飛ぶぞ!?出久君、今度は冗談抜きでやばい相手だ、以前のゼッパンドンなんて目じゃない程だ。共に来てくれるか?』

「僕はマグナさんと一緒に何処までも行きます!!皆を守る為に、僕は戦います!!」

「良く言った出久!!俺も洸汰を助けたらすぐに合流する、だが無理はするな!!」

 

走りながらもガイと何度も拳をぶつけ合いながらも最後に握手をした後に出久は止まりながらも振り向き、ガイはそのまま走り続けて行く。森の木々すら目隠しにならない巨大な存在に出久は恐れる事もなくマグナリングを掲げながら戦いへと挑む。

 

マグナァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!

 

 

「急げっぐずぐずするな!!」

 

避難誘導を行いながら後方警戒を怠らない相澤、あんな巨大な相手では自分では役に立たない。少しでも遠い場所に生徒達を避難させなければという使命感に駆られながらも皆を誘導している時だった。大地震なんて目じゃない程の壮絶な揺れが大地を揺るがしながらアークギャラクトロンとの間に大爆発が起こったような土煙が舞い上がった。

 

「今度は何だ……!?」

 

また新しい敵が現れたのか、と舌打ちをするのだがそれは直ぐに誤りだったと気づく。土煙のその奥には銀色の巨人が自分達を守るように立っていた。先程の振動はあの巨人が着地した時の物だったと思いながらも生徒達はその存在を口にした。

 

「保須の……巨人」

 

 

「デュオッ!!!」

「キィィィィッッッ―――ァァァァッッッ!!!!」

 

不気味な駆動音を響かせながらも金属が軋んで生まれたような悲鳴染みた咆哮を上げながらゆっくりと進撃を開始する。

 

『出久君、兎に角奴を私達に釘付けにするぞ!!』

『はいっ!!皆に手出しなんてさせません!!』

 

進撃してくるアークギャラクトロン、それに怯む事もなく突進していくマグナ。それに合わせられるかのようにアークギャラクトロンは突然加速するかのように走り出していく殴り掛かってくる。ロボット怪獣を組み合わせたとは思えない程の急激なスピードの変化に驚きながらも咄嗟にパンチを抱え込むかのように受け止める。

 

「ギィィィィッッ―――!!」

「ォォォォォッッッ!!!ダッ!!!ディァァァァアアア!!!」

 

抱え込んで動きが鈍った所へ右腕のランチャーで殴り掛かろうとするが懐へと飛び込むようにしながら膝蹴りをかます。そこから連続でスマッシュを叩きこみ続け、体勢が崩れた所を見計らうと腕を掴んでそのまま全力で投げ飛ばす。がアークギャラクトロンは空中で制動しながら着地するとランチャーと瞳から破壊光線を連発してくる。

 

「デュアッ!!ォォォォォッッッ……ドゥワァァァァァッッ!!?」

 

シールドを展開して防御する、雄英の皆に被害が出かねないので大きめにシールドを展開―――するが直後にランチャーの出力が上昇して中央部をぶち破って胸部へと光線が炸裂し爆発と共に後方へと倒れこむ。更なる光線が撃ち込まれてくる、それに耐えながら立ち上がり光弾を発射するが相手もシールドを展開して防御されてしまう。

 

『こいつっ……想像以上にやばいですよ!?』

『ああっ予想以上だ!!』

 

此方が避難中の皆を守る為にシールドを大きめに展開したのを見て、素早く高出力をシールドの中央部へと照射して突破。これが強豪と称されるロボット怪獣の中でも屈指とも言われる二体を併せた存在の力だと言わんばかりの強さに流石のマグナも驚く。だがそればかりではない、負ける訳には行かないのだからと立ち向かう。それに合わせるように歩み始めるアークギャラクトロン、だが突如として背中の結晶体を輝かせるとそこから赤黒い雷の雨をマグナへと振らせていく。

 

「グゥッ!!ァァァァッッ!!!ォォォォォッッッ……デュオォッ!!!」

 

雷の一本一本がまるで光線のような凄まじい破壊力を秘めている、雷撃を浴び続け苦しむ声を上げるがそれでもマグナは足を止めない。寧ろダメージを負いながらもその雷撃のエネルギーを利用するかのようにそれらを腕へと集めていた。そしてそれらと自らのエネルギーを集めながら巨大な赤黒くも青白い光を放つ特大の八つ裂き光輪を作り出すとそれをアークギャラクトロンへと発射する。それに反応して先程と同じようにシールドを展開する、通常の八つ裂き光輪では突破出来ないだろうがアークギャラクトロン自身のエネルギーも利用したそれはシールドを見事打ち破って肩のシールド発生器官と結晶体を切断する。

 

「ギィィィィッッ……!!!」

「デュアッ……ォォォッッ……!」

 

反撃に成功した、と思ったのもその時だった。マグナは膝をつき、苦しみに悶える声を上げてしまった。

 

『マグナさん、大丈夫ですか……!?』

『何、この程度……Uキラーザウルスに比べたら……!!』

 

―――ざまあないなマグナァ……その苦痛に歪んだ声、ぁぁっ実に愉快、それを聞きたかった……!!

 

声が聞こえた、邪悪で悪意に満ち溢れ全てを見下したような狂気に塗れた声が。それは目の前にアークギャラクトロンから発せられているように感じられる。

 

『マ、マグナさん声が!!』

『ああっ……私にも聞こえる……そしてまさか生きていたとは……』

 

―――あの程度では死なないさぁ……君も詰めが甘いねぇ……それで勇士司令部所属の戦士とは笑わせてくれる!!もう一度、あの時のように悲鳴を聞かせてくれ、哀れにも大切な人を守る所か守られて、目の前で消えた時のあの慟哭を!!

 

『生憎だがもうあんな声を上げるつもりはない!!行くぞ出久君!!』

『はいっ!!!』



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光の怒り、狂気の叫び。

―――アハハハハハッ!!如何したこんな物か、あの時の貴様はもっと鮮烈だったがねぇ!!

 

『大体お前のせい、なんだがな!!!』

 

僕にとってのマグナさんは理想とするヒーローで相棒。オールマイトよりも向けている憧れは大きい、何せマグナさんは他の星からこの星にやってきているウルトラマンでその中でもエリート。その凄さは一緒にいればいる程に実感する、だけど―――

 

「デュアアアアア!!!」

「キィィィィ!!!」

 

僕はマグナさんの何を知っているのだろうか、思えば勇士司令部に所属していてそこでの任務なんかの話は聞いたがマグナさん自身の事はあまり聞けていない気がする。辛うじてお見合いの話がそれに当たると思うけどそれだけ、何で今こんな事が気になってしまうのか……それは一心同体となっている僕だからこそ分かる事なんだと思う。今戦っている相手とマグナさんは浅からぬ因縁があるだけじゃない―――こいつは―――

 

 

『―――救おうとしてこの手から零れ落ちて目の前で散った命を見た事だってあるんだ』

 

 

あの時聞いた話の中にあった命、それはマグナさんにとって掛け替えも無い程に大切な人の事だったんだと。

 

 

「ダァダァダァダァダァッディアアアアア!!!」

 

連続されて放たれていくスマッシュの連打、それらを一転。右腕の付け根に集中させていきながらそこへ回し蹴りをブチ当てる。すると激しい火花と共に右腕が内部の回路とケーブルを露出させながら伸びてしまう。大きな損傷を与えられたと思った直後に超至近距離から左腕のランチャーを接射される。

 

「ドウァァァア!!!」

 

超至近距離からの砲撃によって防御も儘ならず諸に喰らいながらも吹き飛んだマグナは大地に叩きつけられる、その衝撃で土煙が上がる中にアークギャラクトロンはボロボロになっている右腕にエネルギーを集めながら魔方陣を展開させた。そしてそこから無数の腕へと分裂したかのような超高速の連打がエネルギー弾となってマグナへと降り注いでいく。山を焼き、大地を爆ぜさせながらもマグナを追い詰めていくその砲撃。だがそれも次第に限界が来たのか右腕が大爆発しながら吹き飛んでしまった。

 

「グッ……ォォォッッ……ァァァァッッッ……!!」

 

砲撃の雨あられを受け続けていたマグナ、その声にも苦しみがかなり滲み出している―――そしてその時だった。ウルトラマンの象徴とも言える胸のランプ、カラータイマーが青から赤へと変貌しながら点滅し始めた。その時に一体化していた出久も息苦しさと動悸が起こり始めていた。今まで数回マグナと変身しているがこんな事は初めてだった。

 

『何だ、急に……』

『くっ不味いな……私のエネルギーが危険域に入ってしまったらしい……』

 

カラータイマーはウルトラマンにとって宇宙警備隊隊員の証というだけではない、それはウルトラマンの残存エネルギーを示すものでもある。それが少なくなれば色は赤へと変貌し危険信号を発し始めて行く。これまで地球での戦いで一度も鳴らす事が無かったマグナがそれを鳴らした、少ない情報でもそれを察した出久はこの敵が強すぎる事を察する。そしてそれを見るとアークギャラクトロンは狂ったように笑い始めた。

 

――良い様だぁなあねぇマグナァァ!?嗚呼っそうだそうだよその姿が見たかったんだよ!!あの星でのように、あの星の終わりの時のように!!

 

『ぐっ……黙れ、もう二度とお前に何かを奪われてたまる、ものか……!!!』

 

―――もう遅いさ、もう我々は奪っている!!

 

『奪って、いる!?』

『貴様、何をした!!?』

 

出久とマグナの反応を見て狂った笑いを叫びへと変えて辺りに不吉な笑いが木霊する、それは成し遂げられた悪意の所業を祝福するような凶報だった。それを裏付けるかのようにガイからのテレパシーが送られてきた。

 

『(マグナさんに出久聞こえるか!?すいませんこっちも洸汰を狙ってたヴィランを退治してたら連絡遅れました!!)』

『ガイさん洸汰君は!?』

『(怪我一つしてないさ、だが不味い事になっちまった……爆豪が攫われちまったらしいんだ!!)』

『なっ!!?』

『そ、そんな!!?』

 

このアークギャラクトロンの出現自体がそれを容易に運ばせる為のお膳立てであった。巨大な怪物で目を引き付けて、別動隊が確保に動いたらしい。だが爆豪の確保自体かなりイレギュラーだったらしい、当初は轟と常闇が狙われたらしいが相澤たブラドキング、そしてプッシーキャッツらに活躍によって防がれたが最後っ屁で爆豪が確保されてしまったとの事。

 

『そ、そんな……カッちゃんが……!?』

『(俺がもっとヴィランを倒していたら……申し訳ありません!!)」

『いや、ガイ君は何も悪くはない……君は全力を尽くしてくれていたんだ……!!』

 

そう言いながらもマグナの声は震えていた、出久は幼馴染が攫われたという事実に驚愕し強いショックを受けていた。そんな所へと響き渡る狂った叫び、それが唯々両者の心へと乾いた木霊となった。

 

―――何が光の巨人だ、何が平和の使者だ。お前は何も出来ず、何も救えない。そうだマグナお前は何も出来ずにまた私に敗北したのさ、爆豪君とやらを助けられなかったのも何もかもね!!

 

『黙れ……マグナさんの事を、何も知らないくせに……悪く言うな……!!」

 

怒りだった、後悔だった、何もかもが悔しかった。同時に目の前の存在が許せなかった。

 

 

―――思い出さないかい……マグナァ……そう、アサリナを助けられずに君の腕の中で消えていった時をさぁっ……!!!

 

『っ―――僕は……』『っ―――私は……』

『『お前を許さない!!!』』

 

「ディアッ!!」

 

衝動に突き動かされるがままマグナは飛び掛かるかの如く蹴り込んだ、既に片腕も無くまともに防御姿勢も取れないアークギャラクトロンは防御する気もないのかそのまま攻撃を受けた。そしてその身体に無数の閃光が走っていきく一気にその力が増大されたかの如く、残っていた右腕を肩から全て引き千切った。

 

「キィィィィッッッ!!!!」

「デュオッォォオオオオオオ!!」

 

調子に乗るなと言わんばかりに向けられたランチャーを逆に掴むとそのままジャイアントスイングの要領で振りまわしながら一気に真下へと叩きつけた。再度立たせながら今度はフェイスクラッシャーの後に強烈なアッパーカットを浴びせ掛けて吹き飛ばす。各部からスパークを引き起こすアークギャラクトロンは立ち上がりながらもチャージを行いながらランチャーを差し向ける、避ければ被害が出るかもしれんぞっと言わんばかりの挑発に敢えて乗る。

 

「デュワッ!!シェァァァァッッッ……ディィアアアアアアア!!!」

 

それを真っ向から立ち向かってやると言わんばかりにマグナリウム光線が発射されると全く同時に砲門に複数の魔法陣が展開されその中心からアークギャラクトロンの最終兵器、ペダニウムアークランチャーが発射された。マグナの赤い光線とは違う赤黒い闇の光が放たれ激しくぶつかり合う。赤黒い光線がマグナリウム光線を押し込み始めるが―――

 

『まだまだ、まだまだまだまだァ!!』

『私達を、舐めるなぁぁぁぁぁぁ!!』

「デュゥゥゥゥッッ……ディァァァァアアア!!!」

 

一気にマグナから溢れるエネルギーが激増してペダニウムアークランチャーを飲み込んでいきながらアークギャラクトロンへと光線がぶつかっていく。自らの最終兵器のエネルギーさえ帰って来た為に装甲は一気に崩れ去りながら各部が大爆発を起こしていく。

 

―――ハハハハハッッだがもう私の勝ちは決まった、今回はこれで満足しよう!!では近いうちにまた会おうじゃないか、今度はもっといい奴で君の相手をしてやるよ!!楽しみにしてウルトラマンマグナァァァァァァァッハハハハハハハハ!!!!

 

 

山々を昼間に変える程の光を発しながらもアークギャラクトロンは一気に光の粒子へと変換されて消えていく。脅威は排除されたが、まだ終わっていない。マグナは変身を解除し、出久と共に急いで皆の元へと合流したが……そこにあるべき筈の影はなかった……。



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再度の決意、光の意志。

林間合宿における最悪の事態。爆豪の誘拐。マグナと出久はアークギャラクトロン、そしてガイは洸汰を助ける為に別働隊の一人にして洸汰の両親を殺したヴィランであるマスキュラーとの戦闘が発生した故に気を回す事が出来なかった。だがそれを責める事なんて決して出来ない、アークギャラクトロンにしろマスキュラーにしても並のプロヒーローが束になっても倒す事なんて出来はしない相手と戦っていたのだから……。

 

「いっ出久何処に行くの?」

「ごめん、ちょっと……」

「そ、そう……気を付けてね」

 

合宿は中止、生徒達は即座に家へと帰された。その際にこの件に付いて聞きたがるであろうマスコミらには全く応えない事を条件にだが……誰も喋る気にもならないしそもそもマスコミはこの状況であるが故に雄英には同情的だった。それはプッシーキャッツらの証言などもあるが現場に存在するマグナとアークギャラクトロンとの戦いの後が余りにも激しかったからである、その状況を一切考慮せずに雄英を非難するマスコミは極少数。

 

フラフラとした足取りで家を出た出久、彼は今虚無的な無力感に苛まれていた。あの場で最も力があったのは自分なのに何も出来なかった、無様にも手玉に取られて敗北してしまった。そして爆豪を攫われてしまった……その事実が唯々胸を貫いてくるのである。

 

『現在雄英はプロヒーロー、警察と協力し全力で誘拐された爆豪 勝己君の救出作戦を立案中との事です』

 

散歩すれば何処からともなく聞こえてくるニュースの内容に胸が抉られるような思いになる。如何して自分は……と思いながらも唯々幽霊のような足取りで進み続けて行く、そして辿り着いたのは静寂だけが支配する海浜公園だった。既に日も暮れて間もなく夜の帳はおりそうとしている時間だが、構う事もなく砂浜に降りるとそのままそこで膝を丸めながら顔を伏せた。

 

「僕がもっと強かったら……カッちゃんを守れたかもしれないのに……もっとワン・フォー・オールを扱えたら、あいつをもっと早く……」

 

口から溢れるのは後悔の言葉ばかり、それ以外が出ないのである。唯々溢れてしまう言葉が今の出久の心情を現れているかのようだった……己の実力の無さ、不甲斐なさばかりを呪い続ける……そんな時、頬に冷たい感触が触れた。顔を横に向ければそこには冷えたラムネを持ったガイが立っていた。

 

「ガイ、さん……」

「悪いこっちも色々面倒事が多くてな」

「……いえ」

 

ガイも隣に腰掛けながらラムネを飲み始める、出久もそれに倣うようにラムネを口にするが甘い筈のそれが酷く苦く感じられてしまった。これが今の自分の心の味という奴なのだろうか……ガイは何も聞かずに隣に居続けた、出久も何も言わなかった……だが耐えきれずに口を開いた。

 

「ガイさん、も誰かを救えなかった事ってあります、か……」

「……ある」

 

ガイは語ってくれた。別の地球へとやって来た時にとある少女と仲良くなった、とても親切で仲も良かった。だが其処に復活した魔王獣が出現しオーブはそれと戦った、しかしその最中に少女が近辺に来てしまった。少女はガイがオーブだと知らずにガイを探しに来ていた、そこへ魔王獣の火球の爆風が襲いかかり……

 

「俺は怒りに駆られた、怒りのままに力を振るって魔王獣を倒す事が出来たが周囲を巻き込んだ大爆発をおこしちまった……そのせいで少女は消息不明、俺はその時に感じた無力感と罪悪感に苛まれちまって100年以上もトラウマになって本当の姿に成れなくなっちまった。情けない話だ、先輩方の力をお借りする事でしか戦えなくなっちまった」

「そんな、事が……」

「今はそれを振り切っちゃいるが、流石に辛い出来事だった」

 

ウルトラマンでも救えない命はある、それを今出久は強く実感し理解している。そして今自分は如何したらいいのか分からなくなっている、グシャグシャになった心を纏め上げる事が全く出来ずにいる。そんな隣にもう一人、マグナが現れながら肩に手を置いた。

 

「―――出久君、君はこのままでいいのか」

「えっ……?」

 

そこにあるのはホログラムではなく、確りとした実態として立っているマグナの姿があった。所謂人間態というべきそれは酷く凛々しく、一人前のプロヒーローとなった姿の出久と言える姿だった。そんなもう一人の自分が問いかけてくる。

 

「君の心はなんと言っている、このまま黙って見ているだけで良いのか」

「そんな、の……」

「魂が叫んでいるんだろう、今度は自分が確りと助け出したいと」

「っ―――!!」

 

そんなのそうに決まっているじゃないかっ言葉を強くして言いたかった、だが言っていいのか分からなかった。自分がもう一度、戦っていいのかと。不甲斐ないせいでマグナの足を引っ張って、怒りに任せて戦って……その結果として幼馴染を助けられなかった。だがそれを払拭し、今度こそ友達の手を握り込む事が出来るのであればそうしたいと。

 

「ならやってやろうじゃないか、私達3人で。ヒーロー達も動くだろうがそんな事知った事じゃない、そもそも私とガイ君はこの地球の関係者じゃないからね」

「そうですね、そんな俺達が地球のルールに固執して動くのもあれですし。何か言われたら少なくとも俺は元の宇宙に戻ってヒカリさんに報告に行きます、それにヒーロー達じゃマグナさんと因縁のある奴の対応は難しいでしょうからね」

「マグナさん……ガイさん……」

 

二人は黙って立ち上がると手を差し伸べてくれた、それを出久は握り込むと力強さと共に自分を立ち上がらせてくれた。不思議とその時に心も決まっているような感じがして、覚悟が沸き上がってきた。

 

「今回は確かに私達の負けかもしれない、だが負けたらリベンジマッチをするまでだ。完膚なきまであいつに自分が負けたんだと思い知らせてやる、もう二度とアサリナのような事を繰り返させはしないさ」

「この手が伸ばし助けられるのであれば全力で助けるだけ、出久お前も気合入れろ」

「―――はい!!」

 

―――一度は負けた、だが二度目はない。決意を固めながらウルトラマンは戦いを決意する、目的は爆豪の救出。彼らのルールは唯一つ。

 

『私達にこの地球のヒーローのようなルールはない、だが一つだけ決めておこう』

「どんなルールを?」

『シンプルで簡単な物にしておこう、大丈夫守れるよ。ルールは唯一つ―――戦い抜いてまた逢おう』




―――そう、もうあんな悲劇を起こさせない……アサリナ、君に誓ったからね。


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光への進軍

「ご馳走様でした!!」

「だ、大丈夫なの出久。凄いご飯モリモリ食べてたけど……」

 

翌日の事、雄英からの具体的な指示などはなく待機が続いている中で自宅で満足いくまで食事をした出久は手を合わせていた。昨日とは全く違う姿に母、引子は驚きを隠しきれずにいた。何せ昨日散歩から帰ってきて直ぐにベッドに入り、昼近くまで寝ていた出久。息子が落ち込んでいると解釈して特製のカツ丼を用意していたのだがそれを大盛で4杯もお代わりしたのだから。

 

「うんもう全部吹っ切れた!!確かにカッちゃんのこととか色々心配だけど、僕が心配してたらカッちゃんは絶対にこういうと思う。お前が俺を心配するんじゃねぇ!!って」

「確かに勝己君なら言いそうね」

「でしょ?だから僕は僕らしくしながらいる事にする」

 

と何かしら前向きになったら息子に対してこれなら心配はいらないかなっと引子は胸を撫で下ろす。ヒーローを目指すのならば息子が危険な事に首を突っ込むのは当然だが、それを一生懸命に乗り越えようとするのを応援するも親の務め。オールマイトに憧れているのならば猶更……確かに心配もあるが息子を心配して自分は家で帰って来た時にご飯を作ってあげたり苦労をねぎらってあげたりしようと改めて決意する。

 

「それじゃあお母さん、僕友達と約束あるからちょっと行ってくるね」

「いいの出久、出かけちゃって……学校からは極力自宅待機って言われてるけど」

「言われてるけどじっとなんかしてられないから出てくる!もしかしたら泊りになるかもしれないけど大丈夫だから!!」

 

気分転換を兼ねて遠出をするらしい、少し心配だが雄英に合格してから息子は頼もしく、たくましくなる一方だ。そんな息子を母は信頼して送り出すのがいいのだろうと思って笑顔で送り出す事にした。そんな母の思いを受けながら出久は出発して海浜公園でガイと合流するのであった。

 

「すいません遅れました」

「いやいいさ、俺も色んな所で飯を食ってきたからな」

『では改めて話をしよう―――爆豪君救出計画だ』

 

昼前に集まった面々、ガイと合流し、周囲に人がいない事を確認すると人間態としてマグナも姿を現して砂浜をボード代わりにしながらの作戦会議が行われる事となった。

 

「まず第一目標は爆豪君の救出、と言ってもいいのだがこれはヒーロー側に任せても良いだろう。私達はそれが迅速に行われるように別の手段を行使した方が良いかもしれない」

「っというと?」

「俺が聞いた話だと爆豪が攫われるときに脳無って奴も来てたらしい、ラグドールの個性でそいつの位置も判明してる」

 

脳無。ヴィラン連合が使役いや傀儡として扱う改造人間に近い存在、それらは個体にもよるが一般ヒーローよりも強いという認識を持つべきだというのはヒーローそしてマグナの共通の認識。物によっては複数の個性すら操るそれらを如何するのかが爆豪救出のキーになると踏んでいる。相手の戦力を削ぎ落とす役目をする事で円滑な行動を起こせるようにする。

 

「では私達は其方へ行こう、場所は?」

「ラグドールから既に貰ってます、変化があったら随時教えて貰えるように言ってあります」

「ラグドールさんの個性って本当に凄いですね、マグナさん達の事も丸わかりでしたし」

 

全く以てその通り。仮に防衛組織が出来上がった時には是非とも彼女の力を借りたい、自分達の正体を個性で見破ったのだから基地へ侵入して破壊をもくろむ宇宙人への抑止力にも成り得る。今後とも彼女とは仲良くしておきたいとマグナも思うし宇宙警備隊としてもそんな能力があったら喉から手が出る程に欲しいと思える。

 

「ヒーロー達は爆豪君救出と仮称:脳無格納庫への攻撃の二つに分かれるらしい。本隊となるのは当然ヴィラン連合の喉元へと迫る救出チーム」

「マグナさんそっちに例の奴がいる可能性は?」

「何とも言い難いがその場合は速攻で其方に行く必要があるだろう……だが私の勘は脳無側だと言っている」

「その理由は?」

 

ヴィラン連合の本体と言うべき存在は死柄木弔を筆頭するメンバーだがオールマイト共に因縁深いオール・フォー・ワンは背後に隠れる影。加えてオール・フォー・ワンは個性などを操る事が出来る為に脳無格納庫にいるか近しい場所で調整などを行っている筈、ならば奴にとっても有益なのはヴィラン連合の黒幕の傍に居る事。そしてオール・フォー・ワンにとってそちらの方が利益も大きいだろう、互いにとって大きな利を遠ざけたりするとは考えにくい。

 

「私がそう考えると踏んで裏をかく、というのも否定出来ないがその辺りを加味しても恐らく共に居るだろう。ならば危険性が高いのは脳無格納庫側だ」

「成程……流石ゾフィーさんも信頼する勇士司令部のエリート中のエリートですね」

「それはネオスを指すような言葉だよガイ君。私はまだまだだよ」

 

と謙遜するようだがマグナは本気でそう言っているのでガイにしては珍しく溜息と共に肩を落としながら出久へと目をやる。

 

「マグナさんは自分を必要以上に下に見るって出久も思わないか?」

「思います。なんというか謙虚というか……自分に求めるハードルが高いって感じがします」

「だろ?目標がウルトラ兄弟の方々だからしょうがないとは思うけどマグナさんも光の国だと普通にちやほやされる側なんですよ」

「いやそれはない」

「Uキラーザウルスを倒した戦士の一人が何を言ってるんですか」

 

ウルトラ兄弟ですら苦戦させるアンチウルトラマンというべき究極超獣、それを撃破した一人であるマグナには他の皆と同じくスターマーク勲章の授与が真剣に検討される程だった。が、全員が身に余るなどの理由で辞退している。それ程の人物は光の国でも超有名人、皆の憧れになるのは当たり前。

 

「だって大体あれはマックスのお陰だし。マクシウムソードとかマックスギャラクシーで一番貢献してたし」

「ま、まあなんか不毛な議論になりそうなのでこの辺りにしましょうよガイさん。こうなったらマグナさん絶対に譲りませんから」

「そうしとくか」

 

出久も出久で大分マグナに対する扱いを学習してきたのか、話をその辺りでぶった切る。

 

「さてと、そろそろオールマイトにも連絡入れておこうか。前以て別動隊名義で他のメンバーがフォローに入るって事は組み込んでくれたらしいけど……」

「というか結構これってヒーロー側にしたら俺達の事が謎なのによく受け入れてくれましたね」

「オールマイトに根津校長、サー・ナイトアイが保証してくれたおかげだね。感謝しておこう」

「そ、錚々たるメンバーですね……」

 

確かにそんなメンバーからの保証があれば安心して任せられると判断する事だろう。連絡するとオールマイトから声が聞こえてくる。

 

『も、もしもし!?緑谷少年かい!?マグナさんやガイさんはどのように動くのかもう少し具体的にお願いしても良いかな!?』

「あれそんなにふんわりしてましたっけ、結構気合入れて提出したんですけど」

『えっマグナさん!?』

 

出久からの携帯だったので出久だと思っていたオールマイトから驚きの声が漏れてきた、今回はマグナも人間態の形で参戦する事を考えているらしくその前段階として準備運動を兼ねていると伝えつつ話をする。

 

『成程……分かりました上手く伝えておきます―――ナイトアイが』

「それなら安心ですね、信頼してない訳じゃないですけどオールマイトは強気で押されると負けて喋っちゃいそうですし」

『うぐっ……彼にも同じことを弱点として指摘、されました……』

「ああやっぱり」

 

そんなやり取りがありつつもオールマイトからある事が告げられた―――ナイトアイの予知による調査を試みたが失敗に終わったとの事。それはウルトラマンが関与する為か、それとも同じく地球外からの脅威が中核に関わっている為か……謎だが具体的な未来を見る事が出来ず、巨大な影と光のような物が見えただけだったらしい。ヒーロー側はそれを黒幕とオールマイトと見ているらしい、実際は黒幕と繋がるマグナの因縁の相手が操る何かとマグナとオーブの事だろう。

 

『今回も貴方方に助けを求める事になってすみません……』

「オールマイト、一つ言っておきましょう」

『何でしょうか』

ウルトラマン(私達)ヒーロー(人間)を助けるのではない、私達と人間が力を合わせて戦うんです」

『―――ッ……はい!!!』

 

その力強い言葉はきっとマッスルフォームでの言葉だったのだろう。そしてそれを最後に通話は切られた、一同は顔を見合わせながら立ち上がった。

 

「さあ、行こうか―――光があるからこそ闇もある、闇があればこそまた光もある。それを示しに行こう」

「やりましょうマグナさん、ガイさん」

「ああ、やってやりましょう……俺達はウルトラマンだから!!」



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進軍―――前の一幕

目的地へと向かう道すがら、出久とガイはとある人物と面会し準備を整えていた。その人物は……何時もと同じように瞳を輝かせながら装備を広げて待っていてくれていた。

 

「うん完璧な仕上がりだ……」

「全く緑谷さんってば急に連絡してくるんですから大変でしたよこういった場合はせめて三日は頂きたいですねまあその分テンションも高かったので気合入れて間に合わせましたからね全て私の自信作ですよ好きな物を持っていてくれていいですよさあ喝采を浴びる程の大喝采を一心不乱の大喝采を!!」

「話には聞いてたが本当に面白いお嬢ちゃんだな」

『それで済んだら私には頭痛は起きてないんだけどねぇ……』

「いやはや明ちゃんが本当にすいません……」

 

そこに居るのは発目であった、近くにはグルテンも当然のごとくいる。今回の作戦の為に装備類の作成をマグナ経由で出久が依頼していた、突然且つ無茶な注文だったのだがあっという間に完成させて見せた辺り未来の天才メカニックを自称するのは伊達ではないという事だろう。まあどちらかと言ったらブレイクスルーを起こしまくるという意味での天災である事が否定できない。

 

「しかしマグナさん本当に大丈夫なんですか、相手はあのベリアルのメダルをも所有している敵です。アークギャラクトロンの事を踏まえると……この先に待っているのは激戦という言葉では利きません」

『でしょうね、だからこそ私達が出向かなければいけないんですよ。奴の相手は私達でなければ務まる事はないでしょうからね』

「まあ、そうかもしれませんが……」

 

グルテンはマグナたちを行かせる事は賛成とも反対とも言い難い立場で言葉を作れずにいた。この地球のレベルで到底太刀打ちできない事は目に見えているのだから対処出来るマグナらで向かうしかない。だがその彼らですら100%勝てるという保証もないし敗北とてあり得る可能性も存在している、協力者としてだけではなく友人としてそんな場へ送り出していいのかとグルテンは思案し続けている。

 

「どれも最高な品質だな……まさか地球でこんなレベルの物をお目に抱えるなんて驚きだ。お嬢ちゃんアンタ大成するぜ」

「いやはやぁ照れますねぇウルトラマンの方にそう言って頂けるとぉ~♪そんな私を支えてくれているのは数々の協力っ―――いえ実験体になってくださった緑谷さんの功績でもあるんですねぇ!」

「成程こういうタイプだったか」

 

ガイは一瞬で発目の思考回路と性格などをすべて把握しながらもこう言った人間は絶対に裏切る事がないのである意味で仲間として100点を与える事が出来ると思った。しかしながらどんな実験をしたのだろうかとも思った。そんなことを考えながら自分用の装備を圧縮させて懐にしまうのであった。ガイもガイでまさか自分用の物まであるとは思っていなかったのかやや嬉しそうである。

 

「ああでも気を付けてくださいね。大急ぎ且つ貴方のデータがないので基本的な部分は緑谷さんのデータを使いながら様々な点を考慮しつつリミッターを外してますので酷くピーキー、まあウルトラ戦士の方なら大丈夫だとは思いますが付いてこれないと思ったら即座にパージして廃棄してください」

「了解した」

 

発目としても出来る事ならば完璧な品を使って欲しいのだがガイのデータはない、合宿ではコスチュームなども無しなのでそれらからデータを吸い出す事も出来ないので完全な予測と計算でやるしかなくそれらを撤廃した仕様にした。が、それ故に寿命は極端に短いと断言される品となったがそれでも十分過ぎるとガイは満足気。そして出久へは―――

 

「緑谷さんには此方を用意しましたよ調整し直したウルトラマンスーツに新アタッチメントAGULです!!今回は対応力が重要だと思い機動性重視の此方にしたんですけどこのAGULもアップデートしたんですよ聞いてください実はこの前凄い素材を見つけて博士と一緒に研究したんですよそしたらグンバツに硬度が高い上に軽量なんですよそれを今回搭載して機動力重視ながらも防御力の点も確りとクリアするという快挙を達成いたしました!!」

『おおっそれは素晴らしい。アグルさんも体表がボディバリアーという物で身体を覆っているらしいからそれにも合ってるね』

「私に今宇宙と時の流れが来てます」

「否定出来ないから明ちゃんの場合凄いんだよなぁ……」

 

大きく快活に笑っている発目はそう褒めないでくださいとグルテンに言うのだが実際は全く褒めていない、寧ろマグナ的にはもう注意したい気持ちでいっぱいとか自分の発明の危険性とか分かってるのかと問い詰めたい。いや実際問い詰めたがのらりくらりと躱されたり「ハハハッその程度必要経費です!!それにいざという時は緑谷さんも巻き込むので!!」と返されてもう諦めモード。まあいっその事巻き込んでくれた方が自分の目が届くか……という方向に入り始めている。

 

「これなら―――」

「待ってください」

 

カッちゃんを助ける為に全力を尽くせると言葉を止めるように発目が出久の手を掴みながらその目を覗き込むように立ち塞がった。今までにないような行動に出久とマグナは驚き、ガイは素直に頭に?を浮かべ、グルテンも如何したのかと目を白黒させる。

 

「緑谷さん、装備を渡すに当たって条件があります」

「じょっ条件って実験に協力とか……?」

「茶化さないでください」

 

何時にない程に言葉に圧を掛けてくる姿に出久も真面目になりながら向き合う。僅かに顔を伏せ唇を震わせながら彼女は言った。

 

「絶対に無事に帰ってきてください、それが絶対条件です」

「は、発目さん……」

 

その言葉にガイは確かに絶対条件だな、と深い事も考えなかったのだがそれ以外の面々は顎が外れんばかりの思いでそれを聞いた。あの発目がこんな事を言うのか!?と思う一方でマグナとグルテンはほほぅこれはもしや―――と思いながら出久の反応を待つ、そして真面目な言葉に相応しい表情と気持ちを作りながら「約束するよ、絶対に帰ってくるから」――――

 

「でないと次のベイビーが次のステップ踏めないんですよマジで緑谷さんってば私のベイビーにとっての生命線なんですから」

 

言葉を吹き飛ばした上で踏み倒すような何時もの発目のご登場にマグナとグルテンは全力でずっこけ、ガイもコケそうになり肝心の出久は……

 

「そっちの心配ぃぃぃい!!?一瞬でもなんか僕の事を心配してくれて感動してたのに色々と台無しだぁぁ!!!」

「いや心配はしてますよ。だってそうじゃないと私のベイビーが成長しないので」

「色々とかみ合ってなぁぁぁあああああいぃぃぃぃ!!」

 

 

『あ~あ、おじさんってばラブコメの波動を感じてたのに無駄になっちゃったよ』

「僕もですよ。あの明ちゃんが遂に!?って結構ドギマギワクワクしてたのに……まああの子がそう簡単に変わるとは思ったりしませんが」

「発目嬢ちゃんって思ってた以上にあれですね……なんか出久が不憫に覚えてきた」

『あの程度じゃまだまだ不憫の域には入らないよ。雄英だとあれ以上の事にほぼ毎日巻き込まれてるからね』

「あれ、そう考えると出久と一緒だから強制的にやらされるマグナさんが一番不憫なのでは?」

『……あっ確かに言われてみたらそうじゃん』

 

だがこれが一番なのかもしれない、下手に恐縮されるよりも普段通りなまま出発する方がリラックスできるという物だ。まあそれを意図して発目が行ったのかと言われたら絶対にそれはなく本人は自分の欲望に素直に従っているだけなのだろう……。

 

『それじゃあ行こうか改めて、途中でご飯食べてね。何処で食べようか』

「シンプルにカツ丼で如何です?勝負に行くんですしゲン担ぎって事で」

『いいねぇデク君の好物だもんね。私が奢ってあげるから好きなだけ食べていいよ』

「ご馳走になります!!」

「僕のお財布は経由しちゃいますけどね」

『細けぇ事は良いんだよって奴だよ』



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剥き出しになる正体

神野区の一角にあるカツ丼チェーン店。店内には今視線が集まっていた。

 

「カツ丼大盛お代わりお願いします!」

「こっちも頼むわ」

「はっはい畏まりました!!」

 

カウンターでは既に丼が幾つも重ねられて塔のようになっている。傍に店員が数人待機して続けて対応出来るようにしながら必要になれば器を片付けながら大急ぎで洗って乾燥機に掛けながらも調理済みの物を運んでいく、そして運ばれるとカウンターに座っている二人の男によって軽々と平らげられて行く。もう何杯食べたのだろうか、それが一体何時まで続くのかと興味本位で見つめている者やスマホでネット配信してみる者まで居る。

 

「あのすいません、写真いいですか?」

「んっ写真?構いはしないが何が楽しいんだ?」

「記念です!」

「ああ、まあいいか」

 

と一旦手を止めて撮影に付き合うなどをしながらも食べ続ける事約1時間、最後のカツと米を一息に口腔へと収めるとよくよく噛み締めて味わいながら飲み込んでどんぶりを置いて手を合わせた。それに周囲からはおおっ~という声と共に拍手で満たされた。二人が食したカツ丼は全て大盛、合計して50杯も食べた計算になりチェーン店が全国始まって以来初となる数となった。

 

「喰った喰った……もうこれ以上何も入らねぇな」

「ぶふぅっ……ちょっと食べ過ぎましたかね」

「その位が丁度さ後腐れなくて。もっと喰っといたほうが良かったなんて未練起きねぇだろ?」

「ハハッ確かに」

 

丼に隠れながらも残ったお茶を飲みながらも二人は席を立つ事にした。周囲から良い喰いっぷりだった、カッコよかったぞ、ファットガムにも負けない喰いっぷりだったなどなどの声を受けながら会計を済ませる。税込みで4万円を突破した客は初めてだと店員も若干営業スマイルが引き攣っていた。

 

「あ、あのご迷惑でなければお写真いいんでしょうか。お客様さえ宜しければお写真を掲載させて頂きたいのですが」

「嗚呼っその位ならいいぜ、何なら俺たちの写真を使って大食いチャレンジやってくれても良いぜ」

「その時見計らって来る気ですか?」

「そんなつもりはないけどな」

 

と応えつつも感謝を示しながらも現れた女性店長と一緒に勝利と平和のVサインを浮かべて写真を撮って二人は店から出て行った。そしてその時に撮られた写真はその店舗で大切に飾られる事になった。そしてそこに映っているのはこれから戦いへと挑むガイと出久であった。

 

 

「ラグドールから貰った座標……よし此処だな」

 

夕暮れの終わりも迫り始めている頃合、出久とガイは目的地である脳無格納庫へと到達した。夕暮れのか細い光が益々頼りなく始めてきた、廃工場が立ち並ぶ区画の一角に存在する脳無格納庫。いざ前にすると自然と心が引き締まる、それだけ意識が出来ているという事だろう、揺れ始めてくる心を静める為に呼吸を整えながら出久は懐のカプセルを取り出した。

 

「オールマイトからの情報では此方に来るメンバーも手練れ揃い、脳無が完全に動き出す前に制圧出来るだけの戦力を割いているらしい。だから俺達が対処すべきはそれ以外、ベリアルさんのメダルを持っている奴が標的」

『異論はなしだね、地球の平穏は可能な限り地球の手で勝ち取るべきでもある。私達はそれ以外を摘み取ろう』

 

そう言うのもヒーロー側に配慮しつつもウルトラマンとしての考えもあるのだろう、地球の平和は地球人の手で勝ち取るべき。そこに別の力が働いているのならば自分達はそれらを排除するだけ、やや冷たいようにも感じられるかもしれないがそれが当然だと出久は考えながらも覚悟を決める。

 

「行きましょう」

「ああ、行こう」

 

そして足を踏み入れる。敵の敷地、完全なる敵陣、だが躊躇も無く迷いも焦りも恐怖もない。あるのは唯一つだけ―――使命を果たすという意志のみがそこにある。外壁に到達すると出久が壁に触れながらマグナが力を使い、光の扉を作り壁抜けを行って内部へと侵入する。そして中にあったのは―――無数のケーブルやチューブが接続されている水槽のような物の中で静かに眠り続けている脳無たちの姿。

 

「―――っ!!」

「脳無格納庫、その仮称は正しかったらしいな……」

『全くだ。中々如何して気味が悪いな……無数の兵器群と言えばロマンがあるだろうが、実際は人間を元にした生物兵器……』

 

これだけの数の脳無、一体どれだけの人命が犠牲になったのか……素体となった人達、個性を奪われる過程で精神が崩壊してしまい実質的な死を迎えてしまった人を考えると夥しい人々がこの脳無の犠牲となった事だろう……それらに思いを馳せながら前へと進もうとした時だった、奥の暗闇から此方へと向かってくる足音が聞こえてきた。

 

「誰か来るぞ」

「ヴィラン連合……!?」

 

―――その質問にはYESでありNOでもあると返答させて貰おうかな。単なる外部協力者的な立ち位置でね。

 

そう言いながら闇の中から姿を現したのは白衣を身に纏った神経質そうな顔をしながら眼鏡をかけた男だった。男はニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべながらも仰々しく此方を小馬鹿にするようにしながらも胡散臭い礼儀正しさをとって礼をする。

 

「やぁっこうして会うのは初めてだね、私の名前はアウローラだ。お察しの通り地球外生命体という奴さ、ああそれはそこの彼と君の中にいる巨人と同じなんだけどね」

『貴様と一緒くたにされるのは不快極まる事なんだけどな』

「同感です」

「酷いねぇ異星人なのは一緒じゃないかい―――ウルトラマンとて突然他の星に介入するじゃないか、何が違うのかな?」

 

明らかに分かったうえで言っている、煽っている。出久は苛立ちを覚えつつもマグナに落ち着くように言われる。

 

『悪意を持って星々を滅ぼす存在と一緒にされるとは心外だ―――Uキラーザウルスも貴様の差し金だったのだろ』

「何だ知ってたのかよ残念だなぁ折角教えてあげようとしたのに……萎えるじゃないか」

『ヤプールを復活させる手助けをし、その見返りとして光の国の壊滅を目論んだ。あの時そう聞いた』

「んだよ喋りやがったのかよあのクソ異次元人。美学の何たるかが全く分かっていないな」

 

突然口調が荒れ始めた、頭を掻きむしりながら自分のやりたかった事を邪魔された事への怒りをあらわにする。同時に溢れ出すヤプールへの怒りや恨み言、様々な手配と準備をして態々Uキラーザウルスの強化の為に人工太陽のことまで教えてやったのに失敗した上にそこまで話すなんて愚かにもほどがあるだろうがと口走りながら突然だらりと両腕を上げながら、その身体から人間の皮が―――剥がれて行く。古い表皮が剥がれて行くように……

 

「ふざけた真似しやがって……まあいい、今度は俺が殺そう。その前に此処でお前を殺すとするよマグナ……あの時のようにまた助けられるのかなお前は……勝てると良いなぁ……この俺に」

 

現れたそれはまるで身体の外に骨があるような姿をしつつも内側にメタリックな輝きをした身体をしていた。頭部から鋭利な角が二本突き出してまるで悪魔、全身を覆う骨格も酷く硬質且つ冷ややかな印象を与える姿に思わず出久とガイは身構えた。そして何処からともなく出現させた大鎌で地面を鳴らしながら此方を睨みつけた。

 

「さてマグナお前は俺に勝てるのか、あの時よりも強くなった俺に」

『勝つさ。その為に来た―――覚悟しろ、今度こそ貴様を倒し尽くせてみせる。アウローラ!!』

「アハハハハハッ面白い、さあ来いよ俺を殺し尽くして見せろぉ!!レイブラッドの継承者であるこの俺を……殺してみせろぉ!!」




遂にエントリー、今まで怪獣を使って襲ってきた存在。その名もアウローラ。


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顕現する狂気

「高速剣戟戦仕様アタッチメント:AGUL接続完了。全パワーセル直結、システムオールグリーン……!!アグルさん―――大海の力、お借りします!!」

「レイオニクス……って事か、だったら最初から飛ばすぞ!!ギンガさん!!エックスさん!!痺れる奴、頼みます!!」

 

その姿を露わにすると同時に展開される青いスーツ、そしてオーブリングから溢れる光と共に発目から受け取ったアイテムを纏うガイ。それは正しく今回身に宿したギンガとエックスの力と親和性の高い物で体育祭で使用したモンスアーマーを発展応用させた物らしく、ガイとしてもかなり扱いやすさを覚えている。

 

「稲妻光煌くその姿!電光雷轟、闇を討つ!!」

『「光を宿す、大海が如く!荒れ狂う光の嵐!!」』

 

モンスアーマーがガイのウルトラマンの力と共用しつつ出力を上げながら稲妻のようなエネルギーが溢れ出しながら轟を巻き上げる。構えを取りながら同時にマントを翻しながら首元から競り上がってくる装甲の内側から瞳を輝かせながら出久はマグナに主導権を渡しながら共にガイに合わせたような口上を名乗った。それを目の当たりにしながらアウローラは「ク、クカカカァッ……」両腕を拘束しているように伸びている鎖を鳴らしながら乾いた不気味な笑いを響かせた。

 

「さあ祭りの始まりだ、血祭りにあげてやる!!」

 

巨大な大鎌、アウローラデスサイズを軽々と持ち上げながら一気に駆け出しながら一閃する。振るわれる度に空気が切り裂かれ、真空の刃が乱れ飛び彼方此方を傷付けて行くがそれらを全く躊躇しない。脳無格納庫が如何なっても良いと言わんばかりの行動に驚きながらも対応する。

 

「ヴゥァ!!」

「ドゥア!!」

 

低く唸り響くような声を響かせながら両者は大鎌を振るってくるアウローラへと立ち向かう。巨大且つ鋭利な大鎌、それをガイが受け止めつつもそこへ蹴り込んでいくがアウローラはそれを読んでいるのか取り回しが悪い筈の得物を自在に操りながら巧みに防御を行いながらも逆に掌底を浴びせ掛けるがその上から飛び掛かってくるように迫るマグナへと大鎌を差し向ける。

 

「ディアアアア!!!」

「ゥェア!!」

 

右腕から伸びた青白い光で形成された刃、アグルソードとアウローラデスサイズが激突する。火花を散らしながらも迫りながら、激しい剣戟が繰り広げられる中へガイも突撃しながら両腕から光の刃を伸ばしたギンガエックスセイバーで斬りかかる。

 

「アハハハハハッ愉しいな愉しいな愉しいなぁ!!矢張りウルトラ戦士との戦いは心が躍るなぁ血が滾るなぁさあ死ね今すぐ死ねたった今死ねぇ!!」

「ぐっなんだこいつ、さっきから言動がころころと変わりやがる!!」

 

不気味な程に言葉に統一性がなく、人格が幾つも存在し代わる代わる話しているような相手にガイは気持ち悪さを覚えながら大鎌に掴み掛りながら捻りながら抑え込む。そこへ左腕から鞭のように伸びていく蛇腹剣を振るって全身を切り刻むマグナ、その攻撃に一切の躊躇はなく冷静かつ大胆、そして迷う事もなく叩きこんでいくのに抑え込んでいるガイには一切攻撃が当たらない。それに舌を巻きながら鎌を抑えたまま肘打ちを加えるが、狂った叫びは止まらない。

 

「クカカカカカ!!やりますなァオーブッ!!」

「長物相手はレイバトスの時に経験済み何でな!!」

「ではこれは如何だ、アウローラ・ヘルシックル!!」

「シュオッ!!」

 

無理矢理跳ね除けながら鎌へとエネルギーを溜めるとそれを一気に振るう事で放出しながら刃を飛ばしてくる、それに対抗するようにガイはマグナの前に出ながら両腕にエネルギーを溜めながらそれへと拳を放つ。エネルギーの刃はガイの一撃によって砕け散って四散しながら格納庫内を破壊していき脳無へと直撃した爆発を起こしながら炎上する。

 

「オッとぉいけないいけない、ついつい気分が乗ってしまった。此処の番人をお願いされたのに守る物を一つ壊しちゃったよ、あ~あまあしょうがないよねぇどうせ此処にあるのは量産タイプだし」

「協力関係じゃないのか……?」

「いやいやいや正確に言えば互いが互いに利用しあってるってだけよ、この身体も態々エレキングを上げた見返りに用意して貰った物だし」

 

それを聞いて出久は息をのんだ。エレキング、USJで梅雨や峰田と共に襲われた30m級の宇宙怪獣。それも矢張りこのアウローラの差し金だったという事なのか、同時にその代わりに得た肉体というのも気になったがそれについてはマグナが即座に答えを出す事が出来た。レイブラッドの継承者、これを加味すればどういうことなのかも分かる。

 

「あの時、お前は確かに死んだ。だがそれは肉体的な意味でだな、貴様あの時に魂だけ抜け出て生き延びたのか……!!」

Exactly(そのとおりでございます)!!!流石はマグナ君、聡明だねぇ頭の回転が速いねぇ」

「そうか、確かレイブラッドは……」

 

ヤプールやヒッポリト星人さえも恐れた何万年にも渡って宇宙を支配していた全知全能の宇宙人、究極生命体レイブラッド星人。既に肉体は滅び去り亡霊に近い精神体で活動し嘗ての全盛期の肉体を取り戻すべく様々な暗躍をし続けた。そのレイブラッド星人も様々な怪獣やロボットなどを依り代にし活動していた。それになぞるならば……アウローラ自身も同じ手段を用いる事で生き延びたという事になるのだろう。

 

「そうさマグナ、お前がアサリナという犠牲の果てに生き延びた直後にお前は俺を殺してくれた。それは間違いないさ、だがこれでも俺はしぶとくてなぁ……こうして生き延びたって訳だ。そして俺はレイオニクスとして、レイブラッドの力を存分に扱った―――これとかな」

 

そう言いながら見せ付けたのはベリアルのメダルであった。既に存在しないベリアルの力を内包したメダル、それを生み出したのもアウローラの力。

 

「だが此奴の力は不安定で弱くてな、だからこそ強い怪獣で無理矢理安定させてやる必要があるんだよ」

「アークギャラクトロン……!!」

「そうか、だからあの二体を使ったのか……」

 

そゆこと、と小ばかにしたような態度を取りながらもアウローラはデスサイズを消しながらその手に新たな得物を握り込んだ。それを見たオーブは驚いた、何故ならばそれは光の国で開発されたゼットライザーであったからだ。

 

「まさかと思ったが、お前が如何してそれを持ってる!!?」

「私を舐めない方が良いよぉっ……色々と手段を使ったのさ。さてそろそろ次の良からぬ事を始めるとしようじゃないか!!」

 

そう言いながらもアウローラはゆっくりと下がっていくながら闇に紛れようとする、それを許すかとガイとマグナは追いかけて行く。そして直後―――ヒーロー達による脳無格納庫制圧が開始される、のだが最悪の事態は重ねり続けて行くのであった……追い付いた先ではアウローラはゼットライザーへと自らのカードを差し込んで起動させた。

 

 

AURORA ACCESS GRANTED

 

 

「さあマグナ、雌雄を決すとしようじゃないか―――お前の為に取って置きの怪獣を今日の為に認めてきたんだ、大きな拍手で出迎えてくれよ……そして感謝してくれよ。お前をアサリナの元へと送ってやるよ」

「貴様ぁ!!」

「させるかぁ!!」

 

走り出す両者、だがもう間に合わない……宙に浮かび合った3枚のメダルは自らの意志を持つかのようにゼットライザーへとセットされていく。そしてアウローラ曰く、取って置きであり最高最悪の存在へと昇華されていく。

 

―――ベリアル、異次元超人、滅亡邪神。

 

〔BELIAL〕〔MAGNA KILLER〕〔HYPER ELEKING〕

 

―――さあ殺してやる、殺してやるさマグナァ!!!

 

LIGHTNING MAGNA KILLER(ライトニングマグナキラー)




さあアウローラが遂に取り出した切り札―――ライトニングマグナキラーのエントリーだ!!ベリアル陛下、対マグナ用のマグナキラー、そしてなんとハイパーエレキングという飛んでも3セットにて登場する怪獣。巨大な相手にマグナと出久、ガイは勝てるのか。待て次回!!


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始まりと終わりのプロローグ

ヒーロー主導による爆豪救出作戦。脳無格納庫とは別の本命、そこでは作戦が進行していた―――筈だった。だがそれはアウローラの出現によるウルトラ戦士たちへの妨害も重なり、失敗に終わったがオールマイトは即座に脳無格納庫へと跳んだ。そこにあったのは瓦礫の山だった、格納庫制圧班は既に全滅、その中央に立つのは―――悪の元凶、断ち切れぬ数々の因縁、オール・フォー・ワン。

 

その手によって爆豪らを含めたヴィラン連合の主要メンバーは格納庫へと転移させられたが即座に追いつく事が出来た。そして今度こそ倒すとオールマイトが迫り腕を振るう。

 

「もう貴様の好きにはさせんぞ、今度こそ貴様を刑務所へぶち込む!!」

「出来るのかな、君に」

「出来るさっ俺達がさせる!!」

「戦うのはオールマイトだけではない、という事だ!」

 

その場に現れたのはグラントリノ、そしてサー・ナイトアイだった。その登場に思わずオール・フォー・ワンも驚いた様子だった、オールマイトならともかくこの二人がこんなにも早くこの場に現れる事は完全な予想外だったらしい。それもその筈―――彼らは装備していた装備を溜息混じりに脱ぎ捨てた。

 

「ったくあの嬢ちゃんの発明はすげぇがちょいと身体に堪えるな」

「ですがその分高性能。感謝しなければ」

「そうか発目少女の……!!」

 

身に着けていたそれは体育祭で使われた強化外骨格を発展向上させたジェットパック。パワーセルの関係で一方通行にしか使えないがそれでもオールマイトでなければ即座に移動出来ない距離を短時間で移動可能な時点で有能な発明品と言わざるを得ない。そしてオールマイトにとって何よりもない救援、爆豪を助けたいがオール・フォー・ワンが邪魔をするこの状況。その救助を任せられる。

 

「二人とも、爆豪少年を頼みます!!一刻も早く―――」

 

その時だった。大地を突き破るようにそれは姿を現した。

 

「何だあの化け物は!?」

「ほう……あれが彼のとっておきか、流石は宇宙から来ただけはある。彼とはこれからも仲良くしたいねぇ……」

 

それを聞いて3人はもしやと思った、あれがマグナが言ってた奴の物なのかと。青白くも身体中に走っている赤黒い閃光、背中から突き出した巨大な翼で宇宙を駆けるというのだろうか。その上から纏われた紅蓮と黄金の鎧は美しくありながらも禍々しい、初めて目にする超巨大生物にオールマイトとナイトアイは息を呑み、ツルク星人を見ているとはいえそれとは全く別次元の存在に汗を流すグラントリノ。だがそれはヴィラン連中も同じだった。

 

「っ―――!!」

「あっしまったっ!!?」

 

と仮面をつけたヴィランが声を上げた。何故ならば爆豪がその一瞬のスキを突き、爆破で一気に身体を浮かせるとオールマイトの背後まで移動したのだから。流石に味方であろうとも突然あのような存在が出現したら呆然とするのは当たり前だろう、流石に責められないか……と工業地帯のようなマスクを擦る。

 

「よくぞあそこから逃げてくれた爆豪少年!!」

「ッ……オール、マイトあれはやべぇぜってぇにやべぇ……!!」

「ああ分かっている……!!」

 

あの爆豪が汗を流しながら僅かに震えながら進言する、出久が居たら驚天動地だったこと間違いなしだろう。だがそれにはオールマイトも概ね同意であった。あれと戦闘が出来るとは思えない、全盛期の自分だとしても絶対に勝てないと断言出来る。あれがマグナたちウルトラマンが対処すべき存在だと身を以て体験していた。あれから爆豪を逃がしながら戦うのか!?と思っていた時だった―――巨人が、現れた。

 

「行くぞ出久君―――私に力を貸してくれ!!」

『分かってます僕はそのつもりでしたよ』

「言ってくれる―――では行こう!!」

『「マグナァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!」』

 

 

指輪を掲げる二人に同じくガイもオーブリングを掲げその光の中にいた。そここそオーブへと成り得る為の場所、そしてガイはウルトラマン達の宿ったカードを手にして―――オーブリングへと向けた。

 

「ウルトラマンさん!!」

 

ウルトラマン!!

 

―――ヘァッ!!

 

差し向けられたカード、そこに宿るは怪獣退治の専門家、栄光ある初代ウルトラマン。カードは青白い光の粒子となりつつもウルトラマンへと変化しガイと並び立つ。続けて手にされたのは超古代の戦士で地球の守護神とされる巨人、ウルトラマンティガ。

 

「ティガさん!!」

 

ウルトラマンティガ!!

 

―――チャァッ!!

 

「光の力、お借りします!!」

フュージョンアップ!!

 

二人のウルトラマンの間に挟まれながらガイはオーブリングを掲げながら栄光あるお二人への敬意を込めながら叫びをあげた。これから起こる変化の為に、力をお借りしますと。それらにウルトラマン達は快く頷き、同じ動きをしながらオーブへと一体となっていく。それこそがオーブの強さ、フュージョンアップが開始された。ガイ、いやオーブへとウルトラマンとティガが重なるように一体化し、それらを一つにしたオーブへと昇華される。

 

―――タァァッ!!

―――シェアッ!!

 

ウルトラマンオーブ スペシウムゼペリオン!!

 

 

大地を揺るがし轟かせ、降り立った巨人。保須の巨人、木椰の巨人。その両者が今神野へと出現した、目的は唯一つ。眼前の存在を討ち取る為に―――。

 

「あ、あの巨人……!!」

 

爆豪はその姿を見た時に過ったのは合宿の時に出現した巨大ロボットへと向かっていた姿、そしてもう一つ何かが過った。振り向きながら此方を見てゆっくりと頷き任せろと言わんばかりの姿に連想したのは―――雄英に入学する前の……。

 

「ナイトアイ、爆豪少年を頼むぞ!!」

「全く無理だけはしないでくださいよ!!行くぞ爆豪君!!」

「っ~……ったよぉ!!」

「俊典、直ぐに戻る無理はするな!!」

 

グラントリノとナイトアイに連れられてこの場から離れる爆豪、だがそれをオール・フォー・ワンはスルーした。この状況で下手に手を出そうとしたら巨人の標的が向きかねないからだろうか、それとも全く別の狙いがあるからだろうか……。それでもいい、兎も角爆豪を逃がす事さえ出来れば自分は戦いに集中出来る。

 

「済まないがそちらを頼めるか!?」

「ォォッ……ディアッ!!」

「シュオッ!!」

 

オールマイトの言葉にファイティングポーズで応えた、それなら自分も全力で戦うのみ―――!!活動限界も十分にある、力も出せる、ならやる事は唯一つでしかない。

 

「貴様との因縁も今日、此処で完全に終わらせる!!!」

「ほほう嬉しい事を言ってくれるねオールマイト、じゃあ僕もそうしてみようかな……!?」

 

 

―――アハハハハッさあおいでよマグナ、また俺を倒して見せろよぉ!!

 

『ガイ君行くぞ!!』

『はい!!』

『マグナさん行きましょう!!』

 

「ディアアアア!!!」

「ウオオオオリアアア!!!」

 

「キィィィィイッッ!!!」

 

 

―――死闘が、始まる。



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破滅狂騒曲

「ディアアアア!!!」

「ウォォリアアア!!!」

 

「キィィィィイッッ!!!」

 

二大巨人は現れた巨大な怪獣へと激突する。ベリアル融合獣・サンダーキラーの超強化と言うべき存在、ベリアルの力にアウローラがマグナの抹殺のみを目的として作り上げた対ウルトラマンマグナロボット超人、マグナキラー。それらに滅亡の邪神とも呼ばれる最悪とも呼ばれる怪獣の一柱、ハイパーエレキングの力が合わさり生み出されたライトニングマグナキラー。それらに果敢と飛び掛かるマグナとオーブ。

 

右腕の巨大な鉤爪を振りかざし切り裂かんと迫る、それを回避しながらも胸元へと攻撃をブチ当てる。連続してオーブが飛び掛かるような飛び蹴りを繰り出して僅かに後退りさせる。直後にオーブは超高速で動き回り残像を生み出しながら全周囲を取り囲むとその中央への向けて一斉に紫色の八つ裂き光輪、スペリオン光輪を放った。

 

「キィィィィィ!!!」

 

舐めるなぁ!!と言わんばかりにライトニングマグナキラーは頭部のアンテナから夥しい量の雷を巻き起こしそれらをまるでバリアのように展開すると全ての光輪を撃ち落としてしまった。この程度かと言わんばかりの態度のそれにオーブは全く焦っておらず―――逆に本命がそこへ叩きこまれた。

 

「ディアアアアアアアアアアア!!!!」

 

加速したマグナが一気にそこへと蹴り込んだ、だが再度バリアが展開されるが全く構う事もなく一気に蹴りをぶち込む。一瞬止まりかけたが強引にバリアを突破しながら胸部へとマグナスマッシュを炸裂させる事に成功した。 

 

 

「SMASH!!!」

 

マグナ達に負けてられんとオールマイトも全身全霊で戦い続けていた、眼前の巨悪に立ち向かい続ける平和の象徴。その一撃は何処からともなく出現、いや転送してきた量産型の脳無をあっという間に蹴散らしながらもその喉元へと迫ろうとする。だがそこへオール・フォー・ワンの指が赤黒く変色しながら鋭い槍のようになりながら伸縮しながら一気に迫ってくる。

 

「如何した如何したオールマイト、ウルトラマンの力を借りなければ僕を倒せないのかな?」

「借りているのではない、共に戦っているんだぁ!!」

 

事実、オールマイトの身体はマグナのヒーリングパルスによって支えられていると言っても良いだろう。本来ならば3時間を切る筈の活動制限を大幅に増加させているそれらに今も頼っている、そのお陰もあってこうしてオール・フォー・ワンとも戦う事が出来ている……感謝してもしきれない程にマグナには大恩がある。だから今回マグナに協力してもらうのは申し訳ないと思っていた―――だが違った。

 

『ウルトラマンがヒーローを助けるのではない、私達と人間が力を合わせて戦うんです』

 

そう言われた時思ったのだ、彼らでも倒せない者はいる。そして自分達でも倒せない者はある、そしてだからこそ助け合うのだと。だからこそ自分は―――!!

 

「私は貴様を全力で倒す―――私を信じてくれている方々の為にも、私を支えとしてくれている方々の為にも―――お師匠の為にも!!」

「っ!!」

 

精神は時に肉体を凌駕し始める、そして同時に精神が肉体を引き連れて更なる次元へと連れて行く。特にワン・フォー・オールは精神的な部分が相当に影響が出る、オールマイトの中にあるのは残滓ではあるがマグナの力も影響しているのかその力は相当に強く精神的な強さが顕著になればなる程にそれが大きくなっていくのを感じた。放たれた一撃を寸でで躱しながら右手でオール・フォー・ワンの腕を握り潰さんとする勢いで鷲掴みにすると片腕のみだが怒涛のスマッシュのラッシュを繰り出していく。

 

「ウオオオオオオッッッ!!!!ULTRA STAR SMASH!!!」

「―――ぐっ!!」

 

片腕だけで放たれる怒涛のラッシュ、今まで声すら揺らがなかったオール・フォー・ワンが初めて揺らいだ。拳の一つ一つが星々の煌きような光と力を纏いながら放たれてくる。全盛期、即ち自らを倒した時のオールマイトよりも弱い筈―――なのに何だこの圧倒的なプレッシャーと力は、とオール・フォー・ワンは驚きながら蓄積していくダメージに驚きながらもカウンターを試みる。

 

「衝撃、反転!!」

 

一撃が炸裂するごとに衝撃がオールマイトへと反射される、それは明確に効いている―――筈なのにラッシュは止まらない。

 

「私はもう、後退りなどしない!!前進し続ける、そしてともに守る為に戦うのだマグナさん達と共にぃぃぃ!!!」

「(っこれは―――!?)」

 

衝撃反転は確かにされている、オールマイトにもそれは伝達されている筈―――なのに何故攻撃の手が緩まないのか。それはオールマイトが戦いながら成長していた、全盛期は既に過去の産物となっている筈なのにオールマイトは更なる力を、いや技術を無意識的に身に着けていたのである。体内を巡り続けるワン・フォー・オール、オール・フォー・ワンの衝撃反転で反転されてくる衝撃を体内を循環している力をぶつけて相殺し続けている。常人離れした神業としか言いようがない。

 

「DETROIT SMAAAAAASH!!!!」

「グゥッ!!!」

 

遂に呻き声すら上げながらオール・フォー・ワンが吹き飛ばされる、瓦礫へと叩きつけられながらも頭部のマスクが瓦解しその顔が露出する。顔の大半が砕かれて瘢痕で覆われ口元以外は人間とは思わない程にグロテスクな素顔が露わになりながらもそれに向けてオールマイトは地面を踏みしめながら叫ぶ。

 

「立て、オール・フォー・ワン!!!もう私は一人ではない、今の私は過去の私よりもずっと強い!!!」

「ハ、ハハハハハハ……」

 

確かにそうだ、今のオールマイトは以前の自分との決戦よりもずっと強くなっている。何が彼をそこまで変えた、そうウルトラマンだ。宇宙の遥か先、M78星雲・光の国からの使者が此処まで平和の象徴を強くしたのだ。それが示した正義と光の意志が……全く以て粋な事をしてくれるじゃないか―――だった先ずはそれを砕こう、それも直ぐに。

 

「ォォォオオオ!!!?」

「―――っ!!?」

 

その時、激震と共に瓦礫が舞う。思わず其方へと目を向けるとそこには―――吹き飛ばされ、叩きつけられたマグナの姿があった。そしてそこへ馬乗りになるかのように幾度も幾度も拳を叩きつける巨大な怪物の姿が……。

 

『ぐぅぅっっ……!!私のキラーというのは伊達ではないという事かっ……!!』

『半端なく、強い……!!』

 

先程まで、利いていたと思っていた攻撃の全ては全く利いていなかった。宇宙怪獣と思わせながらも内面は何方かと言えばロボット怪獣のそれだ、生物の皮を被った機械生命体……と言うべきだろうか。そしてこの圧倒的なまでのパワー……自分への対抗策を持ちながらそれらを十全に活かす圧倒的な出力がライトニングマグナキラーを支えていた。

 

『スペリオン……光線!!!』

 

背後からオーブのスペリオン光線が炸裂する、それで小揺るぎこそするがそれだけ。実害は殆どない。防御の面が圧倒的過ぎる。このままではジリ貧だとオーブは姿を変える。それはギンガとエックスの力を借りた圧倒的なパワーを持つ姿。

 

『電光雷轟、闇を討つ!!』

 

ライトニングアタッカーへと姿を変えつつも背後から掴み掛った、まるでウルトラセブンへと襲い掛かるキングジョーのように攻撃するマグナキラー。それからマグナを救う為に。だがそれでも全く動こうとしない。

 

「キィィィィイッッ!!!」

 

邪魔をするなと言わんばかりに全身からあらんばかりの雷を放出していく、それはマグナを襲いながらもオーブへも降りかかっていく。だがライトニングアタッカーであるオーブへと対したダメージには成り得ない―――だがマグナには違った。

 

「ドゥワァァァァァァァッッッ!!!??」

「キィィィィイッッ!ギィィィィィイイイイイ!!!!」

 

その悲鳴を聞きたかった、そうだもっと聞かせろ!!とアウローラの声が聞こえるようだった、更に長い尾がマグナへと巻き付かれると更なる電流が襲いかかっていった。そして―――マグナのカラータイマーが赤くなり響き渡った。

 

『マグナさん、出久ぅぅぅ!!!』

 

―――そうだ、その声だぁ!!アサリナを失った時もお前はそんな声だった、そうだもっとだぁぁぁ!!!

 

さらに強まる電撃、闇の炎のようなエネルギーまでもがマグナを襲いカラータイマーの響きは更に早く、弱くなり始めて行く。心臓の鼓動にも似たその響き、それは―――ウルトラマンの死を暗示させるかのようだった。

 

『まずい、出久君今直ぐ私から分離しろぉ!!!』

『な、何を言うんですかマグナさん!!?』

『このまま、では……君の身体が持たない!!』

 

絶え間なく襲い続ける電撃と闇のエネルギーと太陽の如き熱エネルギーが直接襲い続けている、何とか耐えられているがそれも何時まで持つのか分からない。ガイも必死に光線技などをぶつけて引き剥がそうとしているが元々がアンチマグナを目的とされている者、自分のマグナニウム光線を耐えうるだけの力を持っているからかアタッカーギンガエックスでも大した効力を発揮出来ていない。

 

『これ以上の戦いは、もう君の身体が、持たないんだ……!!だから、君だけでも―――っ!!!』

『何でそんな事言うんですか!!?一緒に戦おうって、言ってくれたじゃないですか!!?僕が一人前のヒーローになるまで一緒だって言った癖に、嘘は言わないんじゃなかったんですか!!?』

『言い合いなんてしている暇などないんだ!!』

『いやです、僕は最後まで戦います!!!』

 

強制的に出久だけでも逃がそうとするマグナのそれを精神力だけで拒絶する出久、それに驚きながらもマグナは本気で焦った。冗談抜きでこのままでは出久を死なせる事になってしまう。

 

「ォォォォォ―――……ァォォォォォ……!!!」

 

『最後まで、戦います!!!ワン・フォー・オール・フルカウルゥゥゥゥウ!!!!』

『この、大馬鹿野郎がぁぁぁ!!!!』

 

最後の力を振り絞るかのように、ワン・フォー・オールを共に発動させる。全身に漲る力に任せて強引に首へと巻き付く尾へと手を伸ばし、有らん限りの力でそれを―――引き千切る。

 

「ォォォォォォッッ……ダァァァァァ!!!!!!」

「キィィィィイッッ!!!??」

「シャオラァァァ!!!!」

 

『アタッカァァァァギンガエックスゥゥゥゥウウウウウウウウ!!!!!』

 

今だと言わんばかりに最大出力で自らの雷撃と光線を放つ、それによって遂にライトニングマグナキラーを引き剥がす事に成功する。後退していくそれとマグナの間に盾のように入るオーブ、もうこれ以上は好きにさせないと言わんばかりのそれにアウローラが怒りの声を響かせ更なる雷撃を放った。それはオーブを避けるように湾曲し―――マグナのカラータイマーへと直撃した。

 

『マグナさん、出久!!?』

 

「―――ォォッ……」



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更に向こうへ、新たな光へ。

荒ぶる閃光が撃ち抜いたのは―――巨人の身体、いや魂か。輝ける歪んだ光によってカラータイマーに無数の罅が入り、灯っていた光の色が失せた。それらを目の当たりにしたのは同じ巨人、オーブだけではない。テレビ局のヘリからの撮影映像、それらに乗って日本全国へとその事実が拡散している。幾度も立ち上がった保須の巨人、それが今―――倒れようとしていた。

 

「マグナ、さん―――そんなっ……!!!?」

 

それはオールマイトも同様だった。彼がやられた……!?その事実に言葉が出なくなった、撃ち抜かれたカラータイマー、灯らなくなった光のまま終わろうとする巨人を見つめたまま呆然としてしまった。それに困惑し動きを止めたのはオーブも同じだった……。

 

「笑顔は如何したぁっ……!?矢張り楽しいな、一欠けらでも奪えただろうか……!?」

「そん、なっ……」

 

言葉を失い、立ち尽くす。それは唯単にマグナが倒れたからではない。信じられないような真実が同時に伝えられたからだった、もう既にオールマイトの心の中はぐちゃぐちゃだった。ロクな思考も出来ずに前に進む事も出来ずかと言って後退り事もない。完全な思考停止状態へと陥り、如何したらいいのか全く分からなかった。

 

「オォォォォシャアアアア!!!」

 

―――俺の名は、オーブ……ウルトラマンオーブ!!!

 

その時、ライトニングマグナキラーへとたった一人立ち向かい続けているオーブが誰にも聞こえる声で叫びをあげた。先程までの姿とは違ったその姿が彼の真の姿とも言えるものであり、本当の意味での自分―――自らの名を冠する聖剣を手にしながらアウローラへと立ち向かい続けていた。

 

 

―――まだだ、まだ終わってない!!!そう言ったのはアンタだろう、マグナさん!!!生き抜いてまた逢おう、そう約束しただろうがぁ!!!

 

 

誰にも聞こえる声で叫び続けるオーブ、いやガイ。ウルトラマンオーブ、それが自らの名である叫びつつもマグナへの思いを吐露した。その巨人が自分達と同じように喋れるという事実にその放送を見つめる皆が驚く中で真っ先に声を上げたのは彼に助けられた者達だった。

 

「負け、ないでっ……私は貴方にもう一度会いたかった、それなのにそれをこんな所で終わらせないでぇ!!!」

「マグナさんっ―――私は、私は……戦い続ける!!例えどんな事があろうとも、どんな苦難であろうとも、私は人間だから!!人間はウルトラマンである貴方達に助けられっぱなしなんかではない!!貴方がピンチだと言うならば今度は私が、私が貴方を助ける!!!」

 

Mt.レディが涙を流しながら叫ぶ、オールマイトが有らん限りの声で叫んだ。自らを擲ち危険へと飛び込んで人々を救い続ける神秘の巨人、ウルトラマン。そして倒れた巨人―――マグナ、彼への思いが爆発する。命を救われ、その存在へ恋をしたMt.レディ。何れ作られるという対超巨大ヴィラン組織への参入も本格的に決めた彼女が叫ぶ、オールマイトの雄々しい声が轟いた。そして同時に―――それは大きな波となって日本中へと波及する。

 

「無駄さオールマイト、巨人は死んだ。君も分かっているだろう……君の師のように、死んだんだよ!!」

「違う……違う!!!」

 

拳を握る、全身に力が漲り溢れる。これは怒りか、違う。これは誰かを想う光だ、ワン・フォー・オールの本質とも言える力を感じながら構えを取った。

 

「ウルトラマンは―――負けないんだっ!!!」

 

その言葉を皮切りに、全国各地で声が溢れた。それは保須から始まり、一気に全国へと伝播していく。圧倒的な敵へと立ち向かうウルトラマンへの声援が嵐となって、光となって溢れて行く。

 

「立ってぇっ!!」

「アンタが倒れたら今、お仲間、オーブはどうなっちまうんだよぉ!!!」

「頼むもう一度立ち上がってくれぇぇ!!!」

 

溢れて行く、光が―――。人間はウルトラマンと同じ光になれる……それが証明している。

 

「オール・フォー・ワン……貴様は日々暮らす方々を平和を貪る愚民と笑うだろう、だが違う―――!!感謝しているんだ、今ある平和に感謝しながらそれが続くようにと願っているんだ……そしてその願いを叶える為に、一人でも多くの笑顔が見たいから我々は戦うんだっ……!!!だから立ってくれっ!!!」

 

『ウルトラマンッッッッ!!!』

 

 

―――、―――。

 

声が、聞こえる……自分の名前を呼ぶ声が……酷く懐かしくて、ずっと聞いていたい声が……。でももう聞こえる筈もない声が……。

 

―――マグナ、ほら起きてってば……起きんかぁぁ!!!

 

「ガガブファ!!?」

 

頬を殴られる感触と共に目が覚めた。突然の痛みに困惑しながらも身体を起こす、そうだ自分はまだ戦っている筈だと。周囲への確認をするとそこは―――無数の光に満ちている白亜の空間。感じた事もないような空間の存在感に驚きながらも隣に出久が倒れている事に気付く。

 

「出久君、出久君!!」

「―――フルカウルゥゥゥゥウ!!!」

「うわっビックリしたぁ!!?」

 

突然立ち上がりながらフルカウルを発動させる相棒に飛び退くようなリアクションをしながら驚愕する。だが出久も直ぐに我に返ったのか周囲を見回しながらマグナへと困惑したように問う。

 

「マ、マグナさん此処は何処なんですか!!?もしかしてあの世ですか!!?」

「縁起でもない事を言わないで……いやまあウルトラ兄弟の方々とか死に掛けたっというか死んでる事が多いけど……」

「やっぱり地獄ぅ!!?」

 

―――ううん地獄か、まあ否定しきれない辺りがあれだねぇ。

 

「「ッ!!」」

 

突然の声に振り向きながら構えを取る二人、その構えが瓜二つだった事が酷く愉快なのか背後にいた光は声を上げて喜んだ。何て愉快だろうか、確かにこれは相棒に相応しいと認めながら……その姿を露わにした。

 

「まさか、君はっ―――!!?」

「えっお知り合いですか!?」

 

―――お知り合いっていうか大親友だったよ、僕たちは。

 

光は人の形へと変化していった。それはマグナと同じように銀色の身体に赤いラインが走るシルバー族の特徴がハッキリとあった、だが女性的にラインに加えて胸に膨らみがある為に女性だという事が見て取れた。そしてそれを見るとマグナは言葉を失ったように立ち尽くした。

 

『また、逢えたねマグナ。君が僕の事を忘れてなさそうで安心したよ』

「忘れる、訳ないだろう……馬鹿ッ……」

『ごめん分かってたけど聞いちゃった』

「アサ、リナッ……」

 

そこに立っていたのはウルトラウーマンアサリナ。マグナの大親友にして彼が守る事が出来ず、逆に守られる形で命を散らしてしまった同じく勇士司令部所属のウルトラ戦士。出久もアウローラが言っていた言葉からこの人がマグナさんの大切な人……と呆然としていると肩を優しく叩かれた。振り向いてみるとそこには酷く優しそうで暖かな笑みを浮かべたコスチュームを纏った女の人が笑いながら此方を見ていた。

 

「だが何故君が……私は、出久君すら守れずに死んだのか……!?」

『ううん違うよ、そもそも君達は死んでないよ。それに僕はずっと君と居たんだから』

「私と……?」

 

アサリナは一度出久の方を見てから笑ってから言った。共に挑んだ任務、崩壊する星から人々を救う為に戦っていた時、避難船を守る為にマグナは暗躍し星一つを崩壊させる力を生み出したアウローラの放った一撃を相殺したが、直後にそれを超える攻撃から避難船にした自分達を守る為に身を盾にしようとした―――が、アサリナがそれを務めた。その時、彼女の命は消えた。だがその時に彼女の光は全てマグナと一つとなっていた。

 

『ずっと一緒に居たんだよ僕は、ねっ菜奈さん』

『フフフッそうだね』

 

アサリナの言葉に応えた女性は菜奈というらしい、と出久が思う中でそう言えば出久だけが彼女の事を全く知らなかったと思いながらマグナが教えてあげようとするのだがそれを止めながら菜奈自身が出久へと語りだした。

 

『初めましてだね緑谷 出久。俊典が選んだ君と何時か話したいと思ってんだ』

「俊典ってオールマイトの……」

『志村 菜奈。ワン・フォー・オールの七代目継承者、つまり君の師匠のお師匠様って訳さ』

「えええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっっっっっ!!!!!!?????」

 

顔がムンクの叫びよりも凄い事になりながらも全身でリアクションする出久に菜奈は思わず吹き出しながら笑った。そして少しばかり崩しながら頭を撫でながら語る。

 

『何時もアサリナと一緒になって見させて貰ってたよアンタらの道中を。本当によく頑張ってるよ』

『うんうんっねえねえ聞いてよマグナ、菜奈さんってば出久君の活躍とか見ると凄い嬉しそうにしてるんだよ。後オールマイトさんの情けない所とか見てもう大笑いしたりね』

『それを言うならアサリナも同じじゃないかい?マグナさんが活躍するたびに大騒ぎして私の身体を叩いて一緒に応援しようとか大騒ぎしてさ』

『キャアアアアッ菜奈さんそれは内緒って約束じゃないですかぁぁぁぁっっ!!?』

 

『お返しだよ』と鼻で笑う菜奈と『酷いですよぉ!!』とポコポコと身体を叩くアサリナに思わずマグナと出久は顔を見合わせると大きな声で笑いだしてしまった。何だよこれは、さっきまで大騒ぎしていたのに何だこの空気は、楽しくて嬉しくてしょうがないじゃないかと光で満ち溢れていた。それにつられるように二人も笑いだした。

 

「でもオールマイトのお師匠様がこんな綺麗な人だなんて……オールマイト一言も言ってくれなかったですよ!?」

『全くあいつってばその位話してやればいいのにさぁ……まあこうして話せるのも予想外でね、アサリナの光を受け継いだマグナさんの力もあってこうして話せるんだよ。まあこうしている大分イレギュラーさ』

「アサリナ云々は知らなかったけど私は知ってたよ菜奈さんの事は、ちょくちょく顔合わせてたし」

「何で教えてくれないんですかぁ!?」

『マグナってば意地悪じゃない?』

「君ほどじゃない、一緒に文明監視員になろうって言ったのに突然進路変更した君に言われたくない」

『ヴッそれを言われると……』

 

そんな談笑を暫くし続け、笑い続けているとアサリナが切り出した。

 

『まあそんな話をする為に此処にいる訳じゃないんだけどね、マグナに出久君。君達はまだ戦うつもりはある?』

「当然、アウローラをまだ倒していない」

「僕もマグナさんと同じ気持ちです」

 

出久の変わらぬ態度にマグナは呆れを一周回った尊敬さえ感じていた。あれだけ危ない状況にあって、心臓部とも言えるカラータイマーを撃ち抜かれているのにまだ戦うという選択肢を取れる相棒に感謝すべきなのか、それとも大馬鹿野郎と怒るべきなのか酷く迷うどころである。そんなクソ度胸な出久にアサリナと菜奈は大いにそれでこそヒーロー、ウルトラマンの相棒だと褒めるのであった。

 

『だったら戦えるさ、マグナさん―――ワン・フォー・オールを出久と一緒に継承してくれないかい』

「継承……?」

『ワン・フォー・オールを本当の意味でウルトラマンの力と一緒にさせる、継承いや新しいワン・フォー・オールを作り上げて欲しい』

「新しい―――」「―――ワン・フォー・オールを」

 

その言葉に二人はどれだけ困惑した事だろうか、だが同時に感じ取った。それこそが自分達のすべき事なのだろう、それがどんな意味となるのかも理解しながら……強く頷くと菜奈の背後に新たに6人が姿を現した。その内の一人、スキンヘッドの男は出久によぉっ!!と声を掛ける。それに出久は覚えがあった、バキシマムの時にマグナは大丈夫だと勇気づけてくれた声だ。菜奈が腕が差し出した、そこへワン・フォー・オール歴代継承者たちが同じように手を差し向ける新たな光が生まれた―――そこへアサリナが融合するかのように飛び込んでいく。

 

―――マグナ、これが僕たちの総意だよ。頑張って、僕はずっと君を応援してるから……。

 

その言葉に思わず出久はマグナを見た、分かっている筈だがマグナにとってそれがどれだけ辛い事なのか……だが受け入れた。前に進む為に、今を救う為に。光は更に強さを増しながら出久とマグナへと纏われていき、徐々に身体へと浸透していく。それらが全て身体へと取り込まれた時―――二人は顔を見合わせながら並び立ちながら前を見た。その背後には同じように菜奈たちが続くように立ち並び―――そして叫びを上げる。

 

「願うは平和!!!」

「悠久の想い!!!」

 

 

『「マグナァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!」』

 

 

 

「シュアアアアア!!!」

 

オーブカリバーを振り抜きながらたった一人でライトニングマグナキラーへと立ち向かい続けるオーブ、それを嘲笑うが如く立ち続けるアウローラ。それに対して聖剣に宿る力を解放しようとした時だった。先程までマグナが倒れていた場所から溢れんばかりの輝きが空へと伸びていった。

 

『な、なんだ!?』

「あの光は―――!!」

 

光は柱となりながらも満ち溢れている光を集わせながら、それらを一つへと変えていく。無数の閃光が走る中、誰もが目を奪われ言葉を失う中、光は天から降り注ぎ大地へと降り注いだ。その光の奥に潜む光は嘗てない程に物を秘めていると言わんばかり、まるで光の国のような輝きを放ちながら現れようとしていた。

 

 

―――まさかっ、あり得ないっ……!!!

 

 

狂い果てた怒りが烈火となって雷を呼ぶ、それが光へと向かうが光はそれらを全て消し去りながらその奥に潜ませた真の姿を現した。

 

「あれは―――マグナさっいやあれはっ……!!」

「まさか……っ」

 

全身を包む閃光の輝きをその身に宿し、胸に輝く鎧にはそれらが形となる。集う八つの輝き、それらの中央に鎮座する宝玉は失われた輝きを一層強くしながら輝かせる。その身体に走り続ける光、雄々しくありながらも華奢で美しくあり得ないそれを体現する神々しさにある者は見惚れ、ある者は祈りを捧げる。その姿にオールマイトは―――自らの師、オール・フォー・ワンは自らが殺したオールマイトの先代、志村 菜奈の姿を想起した。

 

『一人は皆の為に、そしてその力の願いは平和へと繋がっていく』

『ウルトラ・フォー・オール……行くぞ出久、戦うぞ!!』

『はいっ!!!』

 

「―――ォォオオオオッッッ!!!」




やりたい事を詰め込んだ結果、凄い長くなった。でもこれがやりたかったの。


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ウルトラマンマグナ、ウルトラ・フォー・オール。

「―――っ綺麗……」

 

誰かがそう呟いた。神々しい光を纏いながらも姿を現した巨人、いやウルトラマンマグナは先程とは姿が一変していた。鎧などもそうだが何より、人間を遥かに超越していた姿が更に極まった印象を受ける。力強く雄々しくありながらも何処か女性的で美しく華奢な身体のラインが眩しい。

 

「ォォォォォッ……」

 

それは彼らと融合したワン・フォー・オールが本当の意味でウルトラマンと一つになったからだろうか、それとももう一人の光、アサリナの光を本当の意味で身体に宿したからだろうか。TV中継を見ている者も変化したマグナから目を反らす事が出来なかった、言葉を尽くすはずのレポーターさえもどんな言葉で表現したらいいのか、失っていた。

 

『ガイ君、まだ行けるか』

『まだまだ行けますよ―――信じてましたから』

『流石』

 

「シャアッ!!」

「ォオオッ!!」

 

―――何故だ、確かにお前の心臓を貫いた筈……何故何故何故何故何故何故何故死んでいないぃぃぃいぃっっっ!!!?

 

確信していた勝利、揺るがない自らの理想、それを崩されたのが気に入らないと言わんばかりに悲鳴を上げながら半狂乱になりながらもマグナへと向かって闇の雷を放つ。オーブカリバーで防御態勢を固めるオーブだがその前にマグナは進み出るとその雷を片手で受け止める。

 

「ォォォォッッ……」

「ギィィィ!!!」

 

更に出力を上げ、雷を光線にして一気に収束させて突破を試みるアウローラ。だがそれはマグナの防御を付き破る事が出来ない、円を描くようにしながら展開されたバリアが完全にそれを受け止めている。そしてそれは腕を広げるのと同時に大きくなっていくと一気に光線を押し戻しながらライトニングマグナキラーへと炸裂し大爆発を引き起こす。

 

―――マグナァァァァァァァッ!!!!貴様、如何してだぁぁぁ折角俺が愛しい愛しいアサリナの所に送ってやるというのになんでそれを拒否するのよぉォおおお!!!

 

『―――要らない気遣い、私とアサリナは常に共にある。もう離れる事など無い』

 

―――許さない許さない許さないぃぃぃぃいっっっっっ!!

 

鉤爪にあらん限りのエネルギーを集めながら一気に迫ってくる、そして一気に振り下ろされた一撃が再度カラータイマーへと炸裂―――せずにその勢いを逆に利用するようにしながらその肉体へとスマッシュを叩きこむ。

 

「ギッィィィイッィィィイュァァァァアアアア!!!!?」

 

マグナキラーの鎧を砕きながらのその奥にある身体へと突き刺さった一撃は先程までとは一線を画す威力、攻撃を受けても大したダメージを受ける事も無かったはずのライトニングマグナキラーが苦しみ、後退っている。行けるという確信と共にオーブと共に駆け出しながら追撃を加えて行く。

 

「ダァッ!!」

「ォォォシャアア!!」

 

自分を大きく傷つけてくれた鉤爪へと掴み掛ると全身に閃光を走らせながらそれへ膝蹴りを加えて粉砕、直後にスマッシュの傷跡へとオーブカリバーの一撃が炸裂する。悲鳴を上げながら倒れこむアウローラへとオーブは中央のリング、カリバーホイールを回転させ聖剣の力の一端を開放させながら大地へと聖剣を突き刺した。

 

『オーブグランドカリバー!!!』

 

大地へと突き刺されたオーブカリバーから這いながら円を描くような黄色い光線が2本向かって行く、アウローラは防御姿勢を固めながら吸収を試みる。マグナキラーの基本機能として光線の吸収機能がある、マグナに特化している関係で他のウルトラマンの物は放出する事は出来ないが吸収だけならば―――

 

『「ULTRA DELAWARE SMASH!!!」』

 

拳をぶつけ合いながらエネルギーを左腕へと収束させる、そのエネルギーをパンチに乗せて一気に放出する。拳の勢いによって放たれたエネルギーは光弾となりながら無数に分裂し一気に光線の吸収を行う頭部へと炸裂しアンテナを粉々に砕く。そこへオーブグランドカリバーが襲いかかっていく。

 

―――ァァァァアアアアアアアッッッッ!!!??どうし、て、如何して貴方の技を、お前のこれを吸収できないいいいいぃぃ!!!?

 

『私だけの技ではないからだ!!』

『これは僕の、いや僕たちの技だから!!』

 

 

「ォォォオオオオ!!!SMAAAAAAAAAASH!!!!」

 

炸裂する一撃、唸りを上げる剛腕が瞬時に無数の連撃となって襲い掛かる。それは両腕が異常なまでの個性によって強化されているオール・フォー・ワンのそれらを圧倒していくほどだった。曰く、自分を殺す為だけに特化した組み合わせらしいがそんな事知った事ではない、仮にそうだとしたら自分は殺されないように更に上から捻じ伏せるだけでしかないのだから。

 

「参ったねぇ……まさか此処までとは……ウルトラマンというのは、実に面倒な存在だ……」

 

思わず毒づいてしまう程にオール・フォー・ワンは呆れ果ててるようになりながら強さが増しているオールマイトに押され続けていた。意志を折り、笑顔を奪った筈なのに復活したウルトラマンの姿を見ると表情に力が戻り、奪われた筈のものを取り戻された。中々如何して―――厄介な存在、としか言いようがない。アウローラが執着する理由も分かる気がする。

 

「私はもう貴様に屈しない、そして此処で貴様を―――終わらせるっ!!!!」

「それはそれは―――出来るのかな、君に」

「やるだけだぁぁぁあ!!!」

 

瞬時に目の前に迫ったオールマイト、そこへ攻撃を仕掛けようとするが再び姿が消える。と頭上から両手を組んでハンマーのように振り下ろし大地ごと自分を砕くような一撃を炸裂させると地面を潜るようなアッパーカットで打ち上げ、そこへ狙いを定める。オールマイトの全身が更に大きくなる、身体に走って行く閃光が右腕へと収束しながら輝きを放つ。まるでウルトラマンのようじゃないかと思った直後に光を爆発させ、超新星のような輝きを放つ一撃を放つ。

 

 

「UNITED STATES OF SMAAAAAASH!!!!」

 

 

オール・フォー・ワンの顔面を捉えながら渾身の力が込められた一撃、持てる限りの全てを注ぎ込んだ会心の一撃が炸裂する。そして―――

 

 

『決めるぞ出久!!!』

『はい!!!』

『俺も続きます!!』

 

―――解き放て、オーブの力!!

 

カリバーホイールが唸りを上げる。オーブカリバーへと秘められた四つの属性、火、水、風、土の力が完全に解き放たれていく。聖剣から眩いばかりの輝きが満ち溢れて行く。頭上に円を描くように剣を振り被る、虹色の光が聖剣へと再度収束する―――

 

「ディエッ!!ォォォォォォォオオオオオッッッッッ!!!!」

 

カラータイマーが輝きを放つ、溢れ出さん光と共に周囲の宝石が更に輝きそこから8つの光が溢れ出してマグナの背後へと集う。そしてその光の中には人影があった、それは腕をクロスさせ大きく開いていくマグナと同じ動きを行う。そして身体を捻るとさらに力をチャージする、それはまるで出久のイズティウム光線のような動作……そして力が極限にまで高まると光は一気にマグナへと重なっていく。

 

『オーブスプリームカリバァァァァ!!!!』

VINCULUM・RADIUS(ウィンクルム・ラディウス)!!』

 

虹色に輝く聖剣の全てを解き放つ最強の一撃、ウルトラマンと人間の絆によって生まれた力の一撃が放たれる。二つの光がマグナを倒す為だけに作られた存在へと直撃する、防御のためのシールドを展開しようとするがそれすら一瞬で崩壊させ光が全身へと伝播していきアウローラは凄惨な叫び声を上げる。

 

 

―――ァァァァァアアアアア!!!駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だぁぁぁぁ!!!私は俺は僕は此処でそこであそこで終われないぃぃぃ!!!!

 

 

「デュァアアアアアア!!!!」

「ディアアアアアアアアアアア!!!!」

「ギュィィィイアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

その時、世界は見ただろう。天へと伸びる光の柱を、巨人が作り出した闇を光に帰る瞬間を。そして人は見ただろう、人間が作り出した嵐を。それが証明したのは平和という願い、人々が願い続ける悠久の物へと突き進み続け、戦い続ける者の力を。オールマイトとウルトラマン達は見つめ合うと静かに頷き合い互いの健闘を称えた。そして―――死闘は終わりを告げる。




ウルトラマンマグナ、ウルトラ・フォー・オール・フォーム。

マグナと共にあり続けたウルトラウーマンアサリナの光とワン・フォー・オールが一つとなり、出久とマグナと本当の意味で融合し進化した末に誕生した姿。アサリナそしてワン・フォー・オールの中にあった志村 菜奈などの力が融合している為か男性的な力強さを感じさせる骨格と女性的な美しいボディラインを併せ持った現実離れした姿となっている。

必殺光線はイズティウム光線とマグナリウム光線の構えを融合させ、加えてワン・フォー・オール継承者らと共に放つウィンクルム・ラディウス。ラテン語で絆の光線という意味で人間とウルトラマンの絆で誕生した事をウルトラ・フォー・オールを象徴する光線となっている。


このウルトラ・フォー・オール・フォームはモデルはウルトラマングルーブをモデルとしており初期からずっと温め続けていました。此処をやりたくてやりたくてしょうがなかった。


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前へと進む二人

戦いは終わった、ヴィラン連合の黒幕とも言える存在―――日本を支配してた巨悪、オール・フォー・ワンはオールマイトによって倒された。彼は間もなく刑務所へと収監され24時間体制の厳しい監視下に置かれる事になる。遂に撃ち滅ぼされた巨悪にオールマイトも胸を撫で下ろし、大きな安心感と漸く一つの終わりを迎える事が出来たのか……と空を見上げてしまった―――その視線の先にあるのは空へと飛び立って行ったウルトラマン達の軌跡もあった。

 

『保須の巨人、木椰の巨人、その名はウルトラマン!!』

『ウルトラマンマグナ、ウルトラマンオーブ!!』

 

様々なメディアで騒がれている、謎だらけであって巨人の名前が明らかになっただけでも大騒ぎも必須なのに彼らが絶対的な人間の味方であるという事が明白になったからか余計に皆その話題が気になってしょうがないらしい。特にマグナは倒れてしまった、だが人々の声を受けて立ち上がりながら新たな姿で強大な敵をオーブと共に討ち果たす、その姿はオールマイトと同じように人々の心に新たな希望の光を作り上げていた。

 

 

「しかし今回はまた派手にやったな……我ながらよくもまあ勝てたと思ってるよ」

「僕もですよ」

「それは同じく、いやぁカラータイマーが撃ち抜かれた時は本気で目の前が真っ暗になったからね。本気でやばいと思ったよ」

 

海浜公園の砂浜に腰を落ち着けながら大海原から顔を覗かせてきている朝日を見ながら出久とガイはラムネを飲み、それらを見ながら横になりながら空を見上げるマグナは今回の戦いによる事を互いに称賛していた。同時にマグナはその手にしている物を空に浮かべるようにしながら見つめる。ライトニングマグナキラーを倒した後にあったそれ、ゼットライザーが今彼の手の中にあった。

 

「これがゼットライザーか……」

「光の国のアイテム……こうしてみるとなんだか迫力ありますね」

「そこにスロットあるだろ、そこにウルトラメダルを入れて使うんだよ」

 

光の国で概要などを聞いているガイは興味津々と言いたげな出久に解説を入れる、前世でも全く情報を仕入れていないので流石にマグナもそれに関しては全く知らないので殆ど出久と同じような立場。だが彼自身も酷く興味深そうに見つめている―――マグナの場合はウルトラマンZではこれがどんな風に活躍するんだろうなぁと行った方向での興味で。そんなマグナへとガイは笑みを浮かべながら語り掛ける。

 

「でもやりましたねマグナさん」

「長年胸に燻ぶり続けていた禍根を晴らせた気分だよ、アサリナの仇を本当の意味で討てた……」

 

ゼットライザーを見つめながら身体を起こし、太陽へと目を向けている彼の表情は非常に晴れやかだった。

 

「でもアサリナさんがずっとマグナさんと一緒にいたなんて驚きました……魂は一緒だって話はよく聞きますけど、比喩的じゃなくて本当に一緒だったんですもんね」

「そうだね、私も驚いたよ」

 

胸に手を当てる、アサリナの光は既に無くそこにあるのはそれとワン・フォー・オールが一つになった末に生まれた新たな力であるウルトラ・フォー・オール。もう自分の中に彼女を感じられる事はなかった、それでも不思議と彼女と共にあり続けられているという不思議な感覚があった。あの日ほど自分を恨んだ日も無かったのに、ずっと一緒にいた……それも不思議な感じがする。

 

「マグナさん、アサリナさんとはどんな関係だったんですか」

「大が付く親友だったよ、家が隣同士だったのもあったし何をするにもずっと一緒な幼馴染さ」

「僕とカッちゃんとは大違いですね……」

 

一緒に平和を守るんだと約束して、共に宇宙警備隊を目指した。自分は文明監視員への道へと進んだが途中から同じ部署の仲間として働けて本当に楽しかった……運命の日が……自分の記憶が戻る切っ掛けとなるあの任務が訪れるまで。だがその運命にもケジメを付ける事が出来たのだからもう言う事はない。それを感じたのかガイはそれ以上何も聞かずに一気にラムネを飲み干すと帽子を被り直し荷物を肩に担いだ。

 

「それじゃあ、俺はそろそろ行きます。流石に長居し続けました」

「えっガイさんまた旅に出るんですか?」

「まあな、いい加減光の国に行って次元刀の事とかも報告しないといけないしゼロさんにデビルスプリンターの事も手伝って欲しいって言われてるんだ」

 

そろそろお暇させて貰うと言葉を作りながらもガイはマグナへと握手をした。

 

「マグナさん、短い間でしたがご一緒出来て本当に光栄でした。有難う御座いました」

「此方こそ君には色々と助けられちゃったね、お礼と言っては何だけど―――君ならきっと有意義に使ってくれると思ってるよ」

「―――っ有難う御座います!!」

 

そう言いながらガイの元へと一枚のカードが飛来した。そこにはマグナの姿が映り込んでいるウルトラフュージョンカードがあった、餞別と今までのお礼を踏まえての事だろう。それに大きく頭を下げながらも今度は出久と強い握手を結んだ。

 

「出久、これからも頑張れよ。お前ならきっと立派なヒーローになれると信じてるぞ、俺との特訓を無駄にするんじゃないぞ」

「合宿から今日まで、本当にお世話になりました!!僕、ガイさんの指導に恥じないように頑張ります!!」

「ああっまた何時か逢おう。その時を楽しみにしてる」

 

朝日を背負いながらガイはオーブリングを使用して海に佇むオーブへとなった、そしてゆっくりと振り向き空を見上げながら……

 

 

―――シュゥワッチ!!!

 

 

大きな水柱を立てて、自ら作った大きな虹を潜るようにしながら大空へと飛び立ちあっという間に姿が見えなくなっていった。黄昏の風来坊、クレナイ・ガイ。短い間ではあったが出久はこの出会いを忘れる事はないだろう、彼が教えてきた技術、スタイル、精神、未来、そしてラムネの味を。偉大な先人に助けられたと思いながら、それに恥じない男にならなきゃと思う。

 

「さてと、出久君私達も行くとしようか。多分だけどオールマイトやナイトアイ辺りが事情を聴きたがっているんじゃないかな」

「そうかもしれな―――〈電話が来たぁっ!!電話が来たぁっ!!〉あっ噂をすれば何とやら、オールマイトからですよマグナさん」

「毎回思うけどその着信音、凄いセンスだよね」

 

そんな事を思いながら繋げてみるとオールマイトから様々な事を聞きたいという言葉が飛んできた、それも当然な筈だろう。自分達も語っておきたいことは山ほどあるのだから。

 

「じゃあ行こうか出久君、やれやれ休めるのはまだ先かな」

「ヒーリングパルス、お願いします」

「「アハハハッ!!!」」

 

そこにあったのは紛れもなく人間とウルトラマンの相棒同士の姿だった。互いの肩を叩き、歩幅を揃えて、愉快そうに笑いながら前へと進む。きっとその道は平和へと繋がっている事だろう。




初期設定ではアサリナはマグナの奥さんでした。そして失ったのはマグナとアサリナの息子にする筈でしたがネクサスとは別の意味で重くなりすぎると判断したので変更しました。


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次への備えに向けて

「ウ、ウルトラ・フォー・オール……では緑谷少年の中にある個性は既に大きな変化を……!?」

「ですね、私の中にあり続けたアサリナの力や菜奈さんの意志もあり進化したと表現するべきでしょうか」

 

雄英高校の談話室。オールマイトからの連絡を受けて移動した先で待ち受けていたのは包帯を巻いているオールマイト、そしてその隣に立つナイトアイやグラントリノ、根津校長の姿だった。談話室へと移動して詳しい話をする事になり、そこで今まで紡がれてきた個性とウルトラウーマンアサリナの力が合わさり新たな物へと変わった事を知らせると驚愕された。特にオールマイトやグラントリノはそれが顕著。

 

「菜奈……あいつは、いやあいつの意志は今もイズティウムとアンタの中にあるって解釈で俺達は考えていいのか」

「ええ、何方かと言えば私の中に。ワン・フォー・オールの中には歴代継承者らの意志が存在していましたが、それらが意志を伝える為には切っ掛けが必要です。その切っ掛けを私が務めているという訳です」

「そうか、そうか……」

 

噛み締めるように言葉を紡ぎ続けるグラントリノ、志村 菜奈の盟友として駆け抜け続けた彼としてもその意志がまだ生き、それが新たな力となって自分達と共に歩み続けるというのはどれだけ嬉しく思える事なのだろうか……出久には何も言えないが瞳を閉じながら涙ぐみながら嬉しそうにしているグラントリノは酷く印象深かった。

 

「兎も角これで憂いが断たれたといってもいい、最大の懸念であったオール・フォー・ワンの打倒はこれからのヒーロー社会において非常に喜ばしく未来に光を齎すニュース。そして同時にアウローラという異星人の撃破にも成功した」

「楽観視はするべきではないとは思うけど僕個人としては喜んでいいかなと思ってる。マグナさんというウルトラマンの存在も明確になり、世界は大きく動き始めている」

 

差し出される新聞にはヘリから撮られたと思われる写真がデカデカと掲載されており、マグナとしては何処か気恥ずかしい。

 

「新たな光、ウルトラマンマグナ。人々に新しい光が生まれた、心の拠り所が出来たんだからね……出来ればウルトラマンオーブであるクレナイ・ガイさんにも是非お礼を言いたかったけど」

「彼は既に地球を発ちました、私の宇宙でも厄介な事が残っておりますので」

「そうか……私もガイ君にはお礼を言いたかったが」

 

出久は拳を握った、ウルトラマンの力は皆の為に(ウルトラ・フォー・オール)。それが自分とマグナの新たな力となる、そこにあるのは絆、自分だけではなく平和を願い戦い続けてきた歴代継承者達とマグナとの絆。紡がれて、託されて、願い続けてきた者たちの結晶が今自分の中にあると思うと緊張が止まらなくなる。

 

「私はゼットライザーを如何するか考えないといけませんね、一旦其方で解析しますか?」

「いえとんでもありません!!それは光の国で生み出された技術の結晶、それを我々が触るなど……!!」

「好ましいのはこのままマグナさんが管理する事だと思われます、仮に解析するにしても発目 明と共に居るというグルテン氏に委託するのが良いでしょう」

「ああそうか、発目さんの事があるのか……まあうん、流石にコピーは出来ないだろうけど不安だなぁ……」

「僕としては興味深いけどなぁ……」

「気持ちは分かるがやめとけ根津」

 

「あのっ!!」

 

その時出久はテーブルを叩きながら立ち上がった、思わず全員がそちらを見る中で出久は汗を流しつつも決意に満ち溢れた言葉で叫んだ。

 

「僕、これからもっと頑張ります!!ガイさんに言われて僕、漸く自分らしさを持てるようになりました。これからもっともっとそれを磨きながらもっと強くなります!!ウルトラ・フォー・オールに相応しい男になる為に頑張ります!!」

 

そんな風に叫ぶ出久に全員が頷いて笑う、そしてグラントリノは景気の笑いを浮かべながらオールマイトを睨みつけるようにしながら言う。

 

「言うじゃねぇか小僧、それじゃあこの後俺と一戦するか。職場体験からどの程度強くなったか見せて貰おうじゃねぇか」

「是非お願いします!!」

「結構結構。俊典、お前の弟子はお前と違って本当に素直だな。何時までも俺にビビり腐ってるお前とは大違いだ、ついでだお前も扱いてやる」

「そ、それだけはご勘弁を……!!リカバリーガールにも安静にしてろと言われてますので……!!」

「では代わりに私が供を。いい機会だ、イズティウム君の力を存分に見せて貰おう」

「はいっ!!!」

 

出久を伴ってグラントリノ、ナイトアイはそのまま開いている運動場βへと向かって行く。マグナも同伴しようとするのだが出久自身の能力を見たいという事なので今回は離れる事になってオールマイトと根津と話を続行する事になった。如何やら根津としても宇宙の神秘を宿すウルトラマンともっと話してみたかったらしい。

 

「やれやれオールマイト、君ももう少し威厳という物を持つべきじゃないのかい?何時までもグラントリノに震えっぱなしというのも情けない話だと思うけど」

「す、すいません反射的に身体が……」

「まあそれはいい、それはそうとマグナさん。貴方は別の宇宙などで地球などにおける防衛組織についても良くご存じですよね」

「ええ。ウルトラ兄弟が活躍した地球には様々な組織がありました、そして他の宇宙にも」

 

それを聞いて安心しつつ根津がテーブルに滑らせるように差し出した資料。そこには―――超巨大ヴィランに対する特殊作戦実行ヒーローチーム、即ち防衛チームに関する資料があった。

 

「今回の一件で正式に組織される事が決定しました、これからもあんな存在が平和を脅かさないとは限りません。ですのでマグナさん、貴方の知る防衛チームのノウハウや情報などを教えて頂きたいんです」

「私などで良ければ喜んで、映像なども踏まえてお教えしましょうか」

「流石マグナさんそのようなことまで……」

「是非お願いしたい」

 

あの戦いの影響は何処までも広がっている、誰もが安心して平和を求められる日が来るようにと。

 

「柔拳とはな、俊典とは別の方向で来るか!!面白い、いっちょ揉んでやるから来い!!」

「存分に来るといい」

「はいっ!!!」

 

 

「様々なヒーローが活躍している事を踏まえるとXIGなどは悪くないと思いますが」

「成程。様々な分野にチームを分けて……」

「この辺りは現行のヒーローも同じ部分がありますので取り入れやすいですね、それにヒーローが怪獣に立ち向かう事も考えなければ」

 

全ては平和の為に―――……。

 

「矢張り発目少女にも協力して貰った方が良いですかね」

「うん。そうだね、幸いシールド博士にも協力要請はしてあるから大丈夫だと思うよ」

「……本当に大丈夫かな……不安が尽きない」

 

 

「おおっ緑谷さんじゃないですか何ですか戦闘中ですかそれでしたら直ぐにウルトラマンスーツ用意しますのでお待ちくださいああ私ですか丁度新しいベイビーのテストをしてたんですけど丁度いい所でお会いしました新アタッチメントがあるんですよ是非試してくださいはい有難う御座います!!」

「本当に急に出てくるね発目さん!?だから僕の了承は!?」

「有難う御座います!」

「有無を言わせず!!?」

「ああ揉みます?」

「だからいいですって!!?僕を峰田君か何かだと思ってるの!?」



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寮生活への移行

「それじゃあお母さん、行ってきます」

「行ってらっしゃい出久……偶には顔を出してね?」

「うんっ!!」

 

神野区での一件、神野の決戦とも呼ばれる事件から日も動いた事の頃。雄英高校は生徒の安全性の確保とより質の高い授業を行う為などを目的にした全寮制を導入する事を決定した。当然それについての了承は各家庭に問われた、雄英側としてはこれについては保護者から反対意見などが多数出ると思っていたのだがそれらはなく自分達の子供を信頼して託しつつ、夢を叶えて上げさせてくださいという言葉を送っていた。それについては神野での一件での雄英での真摯な態度などもあったからだろう、そして―――矢張りオールマイトが子供達を守ってくれるという確信もあった。

 

『しかし意外だったね、君のお母様は何方かと言えば気の弱い方だが君の為ならば強くなる人だと思っていた。故に全寮制へは反対し君のヒーローを目指す事にも難色を示すと踏んでいた』

「実は僕もです、でも……あんな風に思っててくれたのは嬉しかったです」

 

当然緑谷家にもその了承を得る為に先生がやってきた、A組の担任である相澤と共に各家庭を巡っていたオールマイトが今日中に回りきるために一人で訪れてきた。平和の象徴の登場に引子は驚愕し腰が抜けそうになっていたがまるでロボットのような動きで迎え入れつつ話を聞いた。そして引子は言った。

 

『私は、出久がヒーローを目指している時に慰めてあげる事しか出来ませんでした。本当なら応援してあげるべきなのに……それなのに出久は努力してたんです、本当になりたいから、目指したいから……親としては、本当に不安です……でも、でも出久がこんなに幸せそうにしてて、雄英で楽しい事とか話してくれるのは本当に嬉しくて……だから―――これからも出久の事をお願い、しても宜しいでしょうか……!?』

『―――お任せください。私の名に懸けて、お子さんをお守りし立派なヒーローに導いて見せます』

 

「僕……嬉しかったです」

『そうか……大切にしなさい、その気持ちを』

 

雄英へと到着すると既に友達が既にいた、そしてそこには爆豪の姿も……それに思わず胸を撫で下ろしつつもその輪の中へと入っていく。

 

「いやぁ爆豪、本当に無事で安心したぜ!!」

「るせぇ」

「なあなああの場でウルトラマン見たんだろ!!?」

「見たがなんだ」

『感想一言!!』

「……俺に聞く事じゃねえだろそれ」

 

呆れ果てた爆豪のその一言に思わず笑いの渦が出来た、確かに聞くべき事ではなかったと思う中で真面目な飯田はそれを聞いた峰田や上鳴へと注意をする。本当にあの日常が帰ってきたんだなという実感を感じつつもそこへ相澤が登場する。

 

「おはよう、無事にまた集まれて何よりだ。取り合えず俺から一言だ、本来あの場では俺達大人がお前たちを守るべきはずだった。そのせいで皆には迷惑を掛けたな……済まなかった」

「あ、相澤先生のせいじゃねえって!!」

「そうだよあの時先生俺達を守ってくれてたじゃねえか!!」

 

出久は知らなかったが、アークギャラクトロンが出現したあの現場で襲いかかってきたヴィラン連合。それらから皆を守りながら避難指示をしていたプッシーキャッツ、そして相澤やブラドキング。彼らは出来うる限りの事をしていた、だがそれでも守り切る事が出来なかったのはその場に脳無が出現した事だろう。寧ろ爆豪一人だけで済んだ事は不幸中の幸いのレベル。生徒達の言葉を受け取りながら相澤は顔を上げ、有難うと答えてから言葉を続ける。

 

「今回の寮制の導入は一方的だが皆を守る為に必要な物だった。皆、ご家族を説得するのは苦労したと思うが此処にいる事を感謝しておこう。だが今度は大人が君たちを守る、それを信じて欲しい。そして林間合宿に向けて精を出して欲しい。さて……長々と話したがこの位にしておこう、では中に入ろう、元気に行こう」

『はい先生!!』

 

『フフフッ合理主義者の割に真摯な態度だね、なんだかんだで合理的では進められない事も分かっているらしい』

 

そして入寮する事になる学生寮ハイツアライアンス。地上5階地下1階建、2階から左右に分かれており向かって右が女子用、左が男子用となっている。1階は共同エリアになっていて食堂も完備されていて此処で調理して食事を用意する事も出来る。

 

「凄いこんな所で生活するんだ……」

「豪邸やないか!?」

「わ"っ~麗日さん大丈夫!!?」

 

余りの豪華さに卒倒しそうになる麗日を咄嗟に支える出久、彼女的にはこんな所で生活できる事自体がもう驚きでもうキャパシティ管理が出来なくなってしまうのかもしれない。そして今日の所は部屋を作るように言われたので送っておいた荷物を開けて自分だけの部屋を作る事にした。

 

「私も手伝うとしよう、その方が早く済むだろう」

「あっすいませんマグナさん」

 

ウルトラ・フォー・オールへとなってからだがマグナはちょくちょく人間態の姿で現れるようになった、アウローラを倒した事で一種の区切りをつける事が出来たからだろうか、それともまたほかの理由があるのか分からないが兎に角手伝って貰える事は助かる。

 

「しかし豪勢だね、一人一部屋なだけじゃなくてエアコン、トイレ、冷蔵庫にクローゼット付き。間取りは8畳と言った所かな?」

「ベランダもありますもんね、寮というよりちょっとしたホテルみたいな感じがします」

 

ダンボールを開封しながら配置する、出久としてももう数年一緒にいる相手なので信頼して任せる事が出来る上に配置などもすべて把握しているので置いて欲しいなぁと思った所に全て置かれていくので心配する事もない。

 

「仮免に向けて……僕もコスモススタイルを完成させなきゃ……」

 

先日の手合わせではグラントリノ、そしてナイトアイからは及第点という評価を貰う事が出来たがそれではまだまだ満足していない。まだ上を目指す事は出来る、その為にももっと繊細なコントロールをしなければならない。ドライバーが特に意識する事も無く視界内の情報を処理しながらハンドルやブレーキなどを行えるような域にまで持って行かなければならない―――何より

 

「ウルトラ・フォー・オールになってから出力が段違いに上がってる……」

 

今までのワン・フォー・オールの限界出力を100にするならば限界が300以上にも跳ね上がっている、まるでワン・フォー・オールを受け継いだばかりの頃のようなコントロールの不出来さが目立ち、グラントリノからも確りと見極めておけと厳しく言われた。もっともっと頑張らないと……と思っている内に部屋が完成していた、矢張り二人だとあっという間だと思っていると窓がノックされる。

 

「あれっ」

「誰かな、一応戻るよ」

 

カーテンは閉めていたが、開けるに当たってマグナは出久へと戻って行く。立ち上がりながらカーテンを開けてみるとそこには発目の発明品であるウルトラアーム改め発目式多目的アームが窓を叩いていた。窓を開けてみると外から発目が手を振っていた。

 

「緑谷さんお部屋完成したみたいですねそれじゃあ早速本題なんですがいろいろと試して欲しい物がありますので一緒に来て頂けませんかね神野の一件で私の感性が大爆発しちゃいまして本当に色んな物を作り上げたんですよ私なりにウルトラマンの力を再現した物とかありますからいやぁ本当に有難う御座いますそして流石私の大親友ですね言う前から私の言う事を熟知して皆まで言うな分かってるという顔をするとは流石ですね乙女心分かっていらっしゃる私の好感度爆上がりですよやりましたね緑谷さん私の攻略が一気に大進行ですよ」

「何も言ってないのにもう色々と決められちゃったよっという僕どんな顔してたのマジでどんな顔してたのああもう分かった分かりましたお相手しますからちょっと待ってて!!」

「畏まっ!!」

 

「おう緑谷その……うん……」

「いやなら行かない方が……ああいやその……」

「が、頑張れよ……?」

「……気張れやデク」

「気ぃ付けてな」

「……うん行ってきます」



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掴め、必殺技。

入寮も終了し夏休みももう終わりが近づき始めている頃、1-Aの皆は教室へと集まっていた。相澤から集合するようにと言われているからである、これから仮免に向けての事が始まるのかと皆様々な思いを胸にしながらも相澤を到着を待ちわびていると普段と同じ時間通りに相澤がやってくる。当たり前の光景だが何故かこれが久しく感じられる出久にマグナは微笑む。

 

「先日言った様に諸君には仮免の取得を目標として貰う。ヒーロー免許は人命に直接関わる責任重大な資格、その取得の為の試験は厳しい。仮の免許だとしても取得率は例年5割を切っている」

 

半分は取得すらできないという事実に一部生徒が戦々恐々する。簡単に考えればこのクラスの半分が落ちると言ってもいい程の合格率、だがそれにマグナは当然と言わんばかりの表情をする。

 

『人を救う為の資格だ、厳しいのは当然だよ。個性の有資格制は今の社会を保つ為の物でもある、その為に選定が厳しくなるのは当然』

 

それを聞いて喉を鳴らしているとそれと同時に教室に雄英が誇るヒーローでもあるエクトプラズム、セメントス、ミッドナイトが入室してくる。そして相澤が矢継ぎ早に述べる、合理主義者らしい。

 

「其処で君達には今日から、最低でも二つ……必殺技を作って貰う!!」

『凄い学校っぽくてヒーローらしいの来たぁぁぁぁっ!!!!』

 

必殺技を作る、これを聞いてテンションが上がらない者なんていない。全員のテンションが一気にMAXゲージを記録していく。そんな生徒達を見ながら教師たちがそれに対する持論をそれぞれが述べる。

 

「必殺、コレ即チ必勝ノ技デアリ型、技ノ事ナリ!!」

「その身体へと染みつかせた技・型は他の追随を許さず、己のオンリーワンとなる。戦闘とはいかに自分の得意を押し付けるかとなる!」

「技は己を象徴し、己の象徴は技となる。今時、必殺技を持たないプロヒーローなんて絶滅危惧種よ!!」

「詳しい話は実演を交えながら合理的に行う。全員コスチュームに着替えて体育館γに集合、早くしろよ」

『はいっ!!』

 

その言葉が引き金となったように皆がコスチュームを手にとって素早くそれを纏いながら、体育館γへと向かっていく。我先にと皆が掛ける中に当然出久もいる。彼だって興奮しているのだから当然。同時に今の自分を見直すいい機会にもなる、と先日の発目に巻き込まれた事でアップデートされたウルトラマンスーツを纏うと皆を追いかけて行く。

 

「ここは複数ある体育館の中の一つであるγ、トレーニングの台所ランド。通称TDL」

『その通称は絶対に拙い気がする……!!』

 

『矢張りこれは最早意図的な物なのではないだろうか、そうなると確りと対策として連絡が行き渡っており許可も取り付けているのだろうか……』

 

と何時ぞやのUSJのようにガチ考察をしているマグナに汗をかきながらも先生の話を聞く。

 

ヒーローとは事件・事故・天災・人災といった様々なトラブルから人を救い出していくのが使命であり、自らが危険な場へと飛び込んでいく者、蛮勇ではなく正しく勇ましさを持つ者。仮免試験では当人の力の適正を試されて行く事となって行く。情報力、判断力、機動力、戦闘力、他にもコミュニケーション能力、魅力、統率力など、多くの適正を毎年様々な試験内容で確かめられて行く事になっていく。その中でも戦闘力はヴィランが活性化している現在において重要な物とされる。その中でも戦闘力は最も必要とされる物となってくる。

 

「お前達は実感しているだろうが、林間合宿で出現したあのバケモン……レジストコード:アークギャラクトロンと呼ばれるあれらのような存在がまた現れないとも限らない。あの時はウルトラマンマグナの存在で助かったが自分の身は自分で守れるべきだ」

「故に必殺技は絶対に必要となってくるわ、この中で言えば最も分かりやすいと言ったら緑谷君のイズティウム光線かしら」

 

この中で分かりやすさを重視して挙げられるのはイズティウム光線。その威力や見栄えなどの点ではある意味ワントップだが必殺技は単純に攻撃を行う為だけではない。移動、防御、妨害と様々なジャンルに分ける事が出来る。そしてその中から自分に出来る事、合致する物を模索し形にしていく。それがこれから自分達が行っていく事。

 

「林間合宿の個性を伸ばす訓練もこの必殺技を作り出す為の訓練(モノ)だった、残りの夏休みは個性を伸ばしつつ必殺技を開発合宿訓練とする!!個人によってはコスチュームの改良も並行して考えていくように、Plus Ultraの精神で乗り越えろ、準備は良いか」

『はい!!』

 

必殺技。一度は憧れる自分だけの技、それを形に出来るのだから皆のモチベーションも高い。それは出久も同じであった。そんなもとにエクトプラズムの分身が訪れる、彼を相手に必殺技を作っていく事になる。

 

「サテ、緑谷君。君ハドノヨウナ技ヲ作リ出ス」

 

心なしかワクワクとしているようなエクトプラズム、出久の活躍を楽しみしているだけではなく矢張り光線を撃てるというのが好印象らしい。矢張り光線とはロマンの一つなのである。どんな力強い技を生み出すのか楽しみにしていたエクトプラズムに出久の提案は意外な物だった。

 

「僕、コスモススタイルって言う相手の攻撃を受け流す新しいスタイルを作ったんです。それをもっと使いこなしたいというか、無意識的に動けるようにしたいんです」

「コスモス……花ノ名ダナ。パワーヲ活カシタパワフルサデハナク、防御主体トイウ事ニナルガ」

「はい、後発目さんのアタッチメントなんかもありますのでそっちの習熟をメインにしようかなぁって」

「アアッ……例ノ少女カ」

「はい」

 

思わず聞いてしまうと出久の目が死ぬ。先日のあれも色んな意味で大変だった。

 

 

「緑谷さん意外と思われるかもしれませんがこれでも私が怒ってるんですよ何なんですか貴方は確かに私は必ず帰ってきてくださいとは言いましたええ確かに言いましたそう言ってしまった私に非があるんでしょうけどそう言う風に解釈されてしまう貴方にも非はあると思ってる訳ですよええ」

「えっ」

 

新アタッチメントNEXUSのテスト中に発目が普段通りの超早口での長台詞で述べたのはベイビーの称賛ではなく出久へと怒りと込めた注意喚起だった。

 

「私も神野での戦いは博士と一緒に観戦しましたよ噂に聞くもう一人の巨人であるオーブにも酷く興奮しましたよええでもそれ以上に私は本当に心臓が止まるかと思ったんですからねマグナさんのカラータイマーが貫かれて動かなくなった時には」

「あ~……」

「その顔からすると緑谷さんの事ですからマグナさんの強制分離を無視して留まり続けたんでしょうね全く貴方と言う人は約束は守られればいい終わり良ければ総て良しとでも思ってるんですがその間に生じるであろう心配はガン無視ですか」

「め、面目ありません……」

 

マグナは素直に驚いた。以前もそうだったがまさかこの子が此処まで出久の事を心配するとは……まあきっとこの後に待っているのは―――

 

「ちゃんと反省してくださいよ全く」

「はい……猛省します……」

「それじゃあ許しますからその代わりにこのベイビーのテストお願いしますフッフッフッいやぁ是非緑谷さんにテストをお願いしたかったんですよこれは新型のパワーセルを使った新しい物でして従来よりもエネルギー効率が38%も上がってるんですけどその分癖が出ちゃってるのでその辺りの改良とデータ収取を兼ねたいんですから是非お願いしますね最初からMAX出力でお願いしますよ」

『うん知ってた』

「うわぁぁぁぁあっっっ誘導されたァァァァァァ!!!!!」

『それでも拒否しない辺り君も君だよ出久君』




あかん、発目さんが便利過ぎる&存在感ありすぎて他の女性キャラが空気になってしまう……何か考えなければ……。


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導け、必殺技。

「フゥゥゥゥッッッッ……」

 

静かに精神を統一する、荒れ狂う嵐のような猛々しさも良いが今は別のものを追い求める。静かな夜、月の光が美しい景色を満たす凪の夜、そんな心を作りながら出久は嘗てマグナに投げ掛けられ、心に刻んだ心の頭の中で何度も何度もリピートさせながら言葉にする事でさらにはっきりとしたイメージを作り続けて行く。

 

「崇高な精神と品格を備えよ。自身の言動に責任を取れ。創造力と強さを持て。同胞を尊敬し、友愛と平和を守れ。正義を守り、試練に立ち向かえ……ハァッ!!!」

 

閉じていた世界を開けながら、震脚を行いながらも迫ってくるエクトプラズムの猛烈な蹴りを見据える。呼吸を乱すな、気持ちを正せ、思考を一定に、それら三つを軸にするようにしながら首元へと向かって行く一撃を防御するのではなく、攻撃の勢いを何一つ削ぐ事も無く受け流した。それにエクトプラズムは素直に驚きながらも焦った。今までの経験でも受け流されるという事はあったが此処までの物ではない、自分の想った勢いのままの攻撃が全く別の方向へと向かって行く。頭が白くなりそうになるのを強引に正しながらセメントの壁を蹴る。

 

「ゼァッ!!」

「シェァッ!!!」

 

加速した蹴りは又もや完璧に受け流される、しかも今度はそこに出久の力が加えられて猛烈な勢いで壁へと叩きつけられそうになる。が、プロヒーローとして活躍した経験から対処し再び襲いかかる―――が今度は受け流すのではなく完璧に勢いを殺すように回転しながら受け止めるとそのまま速度を上げながら回転していく。更に加速しながら閃光を纏いながら竜巻のような勢いのままエクトプラズムを投げ飛ばした。

 

「ULTRA HURRICANE SMASH!!!」

「グォォォ!!!」

 

爆風染みた竜巻に拘束されたエクトプラズム。爆風によって身動きが完全に封じられている上に周囲の状況把握も出来ぬままに天井へと凄まじい音を立てながら叩きつけられる。ダメージの許容上限を一気に超えたのか分身が四散するのを教師陣も驚いたように見つめた。

 

「まさか初日から必殺技を成立させるとはな……」

「しかも凄まじい威力ですね、緑谷君は光線が目立ってましたが肉体面も凄い事を再認識させられた気分です」

 

セメントスの言葉に相澤も同意する。光線という唯一無二の持ち味、それがどうしようもなく目立ってしまっているがそれはあくまで切り札にしか過ぎない、出久の優れている点は身体能力も含まれている。加えて今までの戦闘スタイルとは真逆とも言える柔拳、防御主体とも言える戦闘スタイルは突然すぎる変更でもある筈なのに既にもう形になっている。

 

「これは凄い台風の目になるんじゃないですかね、緑谷君」

「……いやそれ以上だな」

 

 

「―――フゥッ」

 

ミッチリと行われている新必殺技開発、既に日も傾き始めている。額から滴ろうとしている汗を拭いながら手応えを感じられた事に僅かな満足を浮かべた。ガイとの特訓で見出す事が出来た新スタイルであるコスモススタイルに大分思考も慣れ始めているのか動作から動作へと繋げる隙間、動きとのタイムラグもかなり小さくなってきている。これは成果と思っていいのだろうと拳を握り込む。

 

『調子良さそうだね出久君』

「(はい、大分慣れてきました。でも意外だったのがパワータイプじゃない相手にもこのスタイルって結構有効なんですね)」

『元々がサンダーブレスター対策で生まれたからそう思うのだろうね、だが自分の攻撃を受け流されるというのは相当に厄介な事だよ。パワーとスピードにメタを張りやすいんだ、まあ逆に言えば同じようなスタイルの相手の場合は互いに攻めきれないという事態になりやすいが君にはパワーがあるだろう?』

「(成程……)」

 

技術に対抗出来る代表例が技術、という言葉に納得が行く。だが自分には力はある、ある意味テクニカルスタイルを取る相手にとって一番やりずらいのが今の出久なのかもしれない。そう思いながらTDLを出て校舎へと向かおうとすると麗日に飯田そして蛙吹に呼び止められた。

 

「お疲れ様緑谷君。早速必殺技を開発するなんて凄いじゃないか!!」

「いやまだまだ練りが甘いんだ、受け止めるまでは良いけど最後は力任せだったから」

「ほぇ~……凄いねデク君」

「所で緑谷ちゃんはこれからどうするの?」

「僕はこれからサポート科の開発工房に行くところ」

 

そこで思わず三人の顔が凍り付いた。サポート科、という事は……。

 

「も、もしかしてまた……?」

「ああいや、今回の事でコスモススタイルのデータが取れたからその修正をお願いしようと思って」

「そう、なのね……また発目ちゃんに呼ばれてるのかと思ったわ……」

「済まない緑谷君、俺達で何とか彼女に言ってあげられたら良いんだが……」

「その気持ちだけで十分だよ、それに発目さんは言っても聞かないし―――まあ僕の場合スーツ作ったの発目さんだけどね……」

『言葉が、見つからない……!!!』

 

詰まる所、出久の調整に当たってはどうあがいても彼女と関わる事が必須であるという事である。何とかした上げたいとは思うのだが、出久はまるで悟りを開いたかのような明るい笑みで大丈夫と言いながら行き慣れてるから案内すると先導を始めるのであった。そして到着した工房―――

 

「此処がサポート科の開発工房―――」

 

 

BOMB!!!!!

 

 

『……ええええええええええっっっっっ!!!??』

 

の扉を開けようとした瞬間扉が爆発と共に吹き飛び、爆風が出久を飲み込んでいくという光景は三人の目の前で起こった。思わず一瞬反応出来ず、沈黙を作ってしまったほどに唐突だった。工房の奥から咳き込む声と共に呆れたような怒ったような声が聞こえてくる。

 

「ったくお前って奴は……思いついたもの何でもかんでも組むんじゃないって言ってるでしょうが……」

「フフフフフッ失敗は成功の母ですよパワーローダー先生私にとって失敗とは無意味ではなく更なる成功を呼び込む神風であるわけですよそれは今までの緑谷さんでの実験が実証しておりますそれは今まで提出した私のベイビーが証明しているんですよそして今回のこれも価値があるものなんですあの有名な発明王トーマス・エジソンは作ったものが計画通りに機能しないからといってそれが無駄とは―――」

「今はそういう話じゃないんだよぉ、一度で良いから俺の話と言う事を聞きなさいって言ってるんだ発目ぇ!!ったくやっぱり緑谷君に来て貰わないとダメかこいつは……」

「もう来てますパワーローダー先生……いつものですねお引き受けします」

 

煙が晴れて行くそこには咳き込んでいるパワーローダー、そして―――発目の下敷きになっている出久がもう慣れましたと言わんばかりの顔で手を上げて名乗り上げていた。

 

「OH……いたのか緑谷君」

「はい来てました……」

「おおっ誰かを下敷きにしてしまったかと思えばこれはビックリ大親友の緑谷さんじゃあぁぁりませんかこれは失敬失敬いやぁ常日頃から割かしセクハラブチかましてる私ですけど不意の事故で貴方を押し倒してしまうなんてイケない事をしちゃいましたねついでにパワーローダー先生にも見られてしまってますからこれは私が責任を取った方がよろしいですかね!?」

「いや、明確な事故だから取らんでいい取らんでいい……」

 

そこにある光景に思わず麗日と梅雨は凍り付いたのだが瞬時に解凍される。何故ならば淀みの無い言葉と表情があったからである、もう諦めている顔となれてますからと言わんばかりのそれに何かを言う気が失せた。発目に付き合い続けている出久にとってこの程度の事はもう慣れっこというか日常茶飯事だったりする。今回はラッキースケベ的に発目が出久を押し倒すようになりながら胸を押し付けている構図だが、出久はああっいつものかという事に思考が支配されているのでそれに意識が行っていない、それ程に別の意味で発目と出久の付き合いは長い。漸く退いて貰えたので立ち上がると―――廊下から二つの人影が此方へと小走りになって向かってきた。

 

「凄い音と爆炎が聞こえてきたんですけど大丈夫なんですか!?他の先生方はいつもの事だと気にしないでと仰ってましたが!?」

「心配しないでください、これがお昼時にお話ししたこの大馬鹿娘のやらかしですから」

「これが日常的に……いやパワーローダー先生、貴方はとても苦労されているのですね……」

「いや本当に苦労しとるのはそこの生徒ですよ……」

 

と指を指された先に顔を向けた時、その二人は酷く驚いたようになりながらその生徒とやらを見た。そしてその生徒である出久は此方を見る二人へと顔を向けると同じように驚愕する。

 

「えっメリッサさんにデヴィットさん!!?」

「出久君貴方だったの!?普段から発目さんという方のブレーキになっているというのは!?」

「まさか君だったとは……いやある意味納得が行くが……」

「それはそれで不名誉です……」

 

何とそこに居たのはオールマイトと親交があり、彼のヒーローコスチュームを手掛けたデヴィット・シールド博士とその娘さんのメリッサ・シールドであった。




という訳で劇場版からシールド親子がエントリーです。未だに劇場版のプロットが出来ておりませんが……ラスボスが如何しても決まらなくて……。


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出会う天才たち

思わぬ再会、それは唐突に訪れるという話を聞いた事があるが真だったのかと目を丸くした。現れた二人は世界中の研究者・科学者の集まる学術人工移動都市 I・アイランド、そこで最高峰の研究者と称されオールマイトの親友でもあるデヴィット・シールド博士とその娘でありながら自身も優れた技術者でもあるメリッサ・シールドであった。以前オールマイトの誘いで向かったI・アイランドで起きた事件ではお互いにお世話になった。

 

「でもどうして此処にお二人が……?」

「色々事情があってね」

「しかしまたお会いできるとは……実に光栄です」

「本当ね、また逢えて嬉しいわメリッサさん」

「ええ私もよ」

 

開発工房へと入りながら話を聞いて見る、飯田達もI・アイランドでお世話になったシールド親子との再会を喜んでいる。

 

「しかし緑谷君、君も大変だね……I・アイランドにも周囲の目や迷惑を気にしない類の研究者はいるのだが雄英にもいるとは……しかもそのブレーキ役を担っているなんて……」

「僕がやらなかったら発目さんは誰に目を付けるか分からないですから……」

 

完全に死に絶えた瞳を見てこれまでして来た苦労を察する。この雄英で起きる爆発や爆音の6~7割は発目という女子生徒によるものだという話は昼食時に聞いたがそこに関わっている出久の事は完全にノータッチだった。此処にいる間は彼女を出来る限り止めて欲しいという事をお願いされたのだが、これは予想以上に気合を入れる必要があるらしい。そんな出久にデヴィットはひっそりと雄英に来る意味を伝える。

 

「例の一件でI・アイランドは甚大な被害を被っただろう、そして神野区での一件もありI・アイランドは全面的に対超巨大ヴィラン組織への参加が決まったんだ。それの参加と身の安全の確保の意味もあって雄英でお世話になる事になったという訳さ」

「な、成程……」

「それと―――マグナさん、またお会い出来て光栄です」

『此方こそ』

 

と挨拶を終えると改めて宜しくと述べてからの握手でカモフラージュをしておく。I・アイランドでの一件もあってシールド親子はマグナの事を知っている、というか二人を守るために目の前でマグナに変身したので誤魔化しが利かなくなったとも言える。

 

「おっとそっちの子達はお初だね、騒がしくて悪いね。ようこそ工房へ、イレイザーヘッドから話は聞いてるよ、コス変の話だったね」

「興味あります是非とも私にも絡ませてください!!」

「発目さんには是非とも僕のコスチュームのデータの修正をお願いしたいな今回の必殺技開発で前に言ってたコスモススタイルのデータ取れたからそれに関する調整とかお願いしたいからこっちに集中して貰いたいなぁ!!」

「おおっ何時になくやる気と私を頼って下さる発言にやる気がむんむん湧き上がってくるじゃありませんか良いでしょうやりましょうやりましょうコスモススタイルでのデータも興味ありますしついでに新しいアタッチメントに関するご意見も是非是非お聞きしたいんですよさあさあ早速調整に入りましょうハリーハリーハリーハリー!!!」

「という訳だから麗日さん達はごゆっくりどうぞ」

 

工房の一角に連行されていく出久は穏やかで明るい顔のままだった、もしも発目が関わっていたらという不安もあったがそれも解消された……がその代わりに罪悪感が凄まじく圧し掛かってくる。

 

「普段から出久君はあの、あんな感じなんでしょうか……?」

「ええ、自分以外だとまともに発目の実験に耐えられない事を良く知ってるからこそ自分を犠牲にしてるんですよ。まあそのお陰で彼さえいれば発目も騒ぎは起こしますが問題は起こさないんですよ……その代償が彼ですが」

 

思わず向けられた視線に麗日達は頷いた。異常な程に自分本位、だがその自分本位に耐えうる肉体と興味をそそられる個性を持つ出久は最上の組み合わせとも言える。発目の発明によって出久は自分の力を高められる、そして発目は出久から齎されるデータを使う事で更なる発展へと至る事が出来る。尚、そこで発生する当人への負担は考えない物とする、という前提があるが。

 

「発目さんこれだと取り回し悪くなりすぎない」

「そうなんですよ軽量ではあるんですけど大型になりすぎて取り回し自体に難があるんですよねぇ何か良い手ありませんかね流石に何時までもエネルギー方面一辺倒だと芸がないじゃないですか」

「う~ん……弦の部分だけをエネルギーにするとかどうかな」

「―――緑谷さん貴方天才ですか思いつきもしませんでしたよ」

「いや発目さんに言われても嫌味にしか聞こえないんだけど」

 

絶妙なコンビの二人、だが実際発目の発想力と技術は既にかなりのレベルにまで高まっている。防衛組織の技術部門へのスカウトも本気で検討されている程、その審査も雄英に行くついでに頼まれているのだが……これはやりがいがあるなとデヴィットはニヤリとしながら声を掛ける。

 

「……そこの場合は数値を全体的に4上げてから、各部を0.9下げる必要があるね」

「―――っ!!おおっ一気に安定してきましたよ流石はデヴィット・シールド博士何という事でしょうか一瞬画面を見ただけで瞬時にデータを理解して必要な計算まで済ませてしまうなんて素晴らしいという他ありませんよムムムッしかし緑谷さんは渡しませんよこの方は私の大親友兼大事な協力―――いえ実験相手なのですから!!」

「だからなんでそこを言い直すかなぁ!!!」

「嗚呼っやっぱりいりますかさっきの押し倒されだと足りませんよね?」

「だから僕を本当になんだと思ってるの!!?」

 

 

「お、思ってた以上に大変そうやったねデク君……」

「全くだ……まさかこんなにも発目君がアグレッシブだったとは」

「あれで助けられてると思うと何も言えないわね……」

 

発目のハツラツっぷりは以前教室に来た時に知っていたつもりだったがそれでは足りない位だった、ほぼ毎日あのテンションに巻き込まれていると思うと出久の苦労は測り知れないだろう。加えて出久が断ればその矛先が何処に向くのか分からなくなる、なので安易にやめた方が良いとも言えない……唯々感謝の念を浮かべているとメリッサは笑みを浮かべながら自分達に向かい直る。

 

「さあ出久君の厚意に甘えながら貴方達の事も済ませちゃいましょうか、それに何だかんだで出久君は嫌だとは言ってないわ。あれはあれで楽しいのかもしれないわ」

「あ、あれでですか!!?」

「まあ限度は必要だけど分かっていて引き受けてるのよ」

 

そう言いながら3人のコスチュームの取扱説明書を受け取りながらコンソールに触れて行く。突然身体に装着されていくアタッチメントに驚いて声を荒げながらも出久の声に拒絶の色はない。自重して欲しい程度しか思っていない、それも既に父であるデヴィッドが彼女の扱い方を理解し始めたのか緩和され始め、すぐさまアタッチメントが取り外され改めて説明と了承を取る所から始めている光景がある。

 

「という訳ですよ良いんですよね緑谷さんの事だから拒絶しないとわかってますけど」

「まあやるけど……」

「しかし発目君、緑谷君が拒絶する事は考えないのかい?」

「そもそも拒絶されるような物なんて作りませんしお願いもしませんよ大切な人なんですからその辺りのリスクマネジメントや管理は万全なんですよ」

「それなら有無を言わせないのだけはやめて欲しい……」

「ええだからやる直前に聞くようにしますねこれからは」

「もっと前以て言ってください……」

「アハッ無理です!!」

「ですよね……」

 

酷く落胆しながらも拒絶せず怒りの欠片もない、出久も彼女に対して全幅の信頼を置いている証拠。そして発目も出久の事を知っているからこそ安全性などを確保しつつ拒絶されない程度に自分のやりたい事を詰め込んでいる。これもある意味では絶対的な信頼がなければ出来ない事。

 

「だから偶のお休みに一緒に遊びに連れて行くだけでもありがたいと思うわ」

「そっか、そっかぁっ!!梅雨ちゃんそうしてみよう!!!」

「ケロッそうね」

「うむっ確かに、これからは俺も出来るだけ緑谷君を支える事にしよう!」




発目は 申し訳程度の自重を 覚えた。

出久の苦労が ほんの僅かに 下がった。


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スタイル確立、仮免試験云々。

「フゥゥゥゥッッッッ……」

 

デヴィッドとメリッサとの再会に喜びながらも出久は自らのスタイルの質を上げる為の努力をし続けていた。確立こそ出来ているがそれが優れているのかと言われたら正直眉を顰めてしまう程度のクォリティでしかないと言わざるを得ない。目指すべき理想形は正しくスタイルの元になったウルトラマンコスモスのそれ。

 

「フル、カウル!!!」

 

個性を発動、ウルトラ・フォー・オールが起動して全身の身体機能が一気に上昇していく中で視界の端に円の形になっているゲージが生まれてそれを満たすように光が溢れて行く。

 

「30%……!!」

 

林間合宿での一件もあり上限も増えた事も影響し、一気に出来る事の幅は増えた。前以てセメントスにお願いした山岳部を再現したコースへと疾駆する。他の皆の訓練している場所の周囲を駆け巡るようなコースを駆け抜けながらも更に全周囲に気配を向け続けて行く。半分を過ぎた頃に山肌の一部が隆起し、意志を持つように鋭利な棘を形成しながら向かってくる。

 

「ッ―――!!!」

 

迫りくる棘。大きさ、形、重さ、全てが異なるようにお願いしていたがその通りになっている。最初難色を示していたがだからこそやりがいがあるというと説得した結果がこれだ。思っていた以上の物に感謝しつつもスピードを一切緩めないまま棘の壁のように迫ってくるそれらへと飛び込んでいく。

 

「セエイ、ヤァァァッ!!」

 

加速を付けた猛スピード、であるのにも拘らず棘の全てが全く別の方向へと誘導され尽くしていく。誘導式のミサイルとも言えるセメントの棘の嵐がECMによって妨害されあらぬ方向へと飛ぶように。真上に、真横に、真下に落とされていく。セメントスも驚きを隠しきれなかった。

 

「まさか、こんな事を可能にするとは……」

 

今出久が受け流しているそれらは彼のコントロール下にある。彼によって操作されているそれらが別の方向へと誘導される、分かっていても受け流され全く別の方向へと力を流されてしまう。操っているセメントを砕かれるというのは日常的な事だったが、一切ダメージを与える事も無く流されるなんて経験はプロヒーローとしても初めての経験。

 

「イヤァァッ!!!」

「参ったね、全く……少し自信無くしちゃうよ」

 

そう言いながらも生徒の成長ぶりに嬉しそうな笑みを浮かべている自分がいる、これも先生の醍醐味かと思いながらコースを突破した出久へ素直な称賛を向けた。

 

「HEY緑谷少年、凄いじゃないか。凄い成長振りだ!!」

「あっオールマイト!!」

 

コースを抜けた先ではオールマイトが軽く拍手をしながら待ってくれていた。オールマイトもオールマイトで出久のスタイルの変わりように本当に驚きを隠せずにいた。

 

「以前とは全くスタイルが違うじゃないか、テクニカルスタイルへと転向したのかい?」

「林間合宿でガイさんとの訓練で色々学ぶことが多くて、それで対抗する為も踏まえて実践してみた戦法が僕に合ってるんじゃないかって言われて研究中なんです。コスモススタイルって言うんですけど相手を倒す事じゃなくて無力化する事を目指したスタイルなんです」

「成程……」

 

オールマイトも林間合宿でのことはまだ詳しく聞けていない、特にガイがどんな訓練を出久に施してくれた事については聞く事が出来ていない。だが今までは自分を模していた、またはベースにしていたスタイルから一気に様変わりしている。単純な殴り合いをするのではなく無力化する事を目指したスタイルだと聞き、確かにそれこそヒーローとして適した物かもと思う。

 

「実は少し話があるんだ、この後はB組が此処を使うらしいからいいかな」

「分かりました」

 

オールマイトに連れられてTDLから出ていくと少ししてそこへB組が向かって行くのが見えつつもその後に続いて行く。その先は当然自分達は何時も秘密の会話に使用している談話室、マグナも登場すると話を切り出す。

 

「実はですね。緑谷少年には仮免試験を免除するべきなのでは、という話が持ち上がっております」

「えっ……ええええっっっ!!!??」

 

折角今仮免試験に向けて頑張っているのに免除!?どういう事なの!!?と軽いパニック状態になっている出久に代わってマグナが話を聞く事にした。

 

「単純な話でして、緑谷少年は既にプロヒーローに匹敵する実力と判断力などがあります。故に試験をせずに資格を与えた方が良いのでは?というのがあります。これは私だけではなくナイトアイやグラントリノ、そして根津校長も同意見だそうです」

「フム……」

「と、ぶっちゃけますと緑谷少年が試験に出ると必要以上に試験で不合格者を出してしまうのでは……という不安もありまして」

 

そう言われるとある意味納得する。仮免試験での合格ラインを50だとした場合、出久の場合は既に200を超える力を持っているとも言える。加えて仮免試験の第一次は戦闘関連、逆に他の参加者への巨大な壁となりすぎてしまう。

 

「マグナさんの宿敵のアウローラ、あの存在の発覚そして新しいヒーロー組織の立ち上げに因んで多くのヒーローを望んでいる訳です。言い方は悪いですが組織へと入るヒーローの後釜と成り得る存在を多く確保しておきたいのです」

 

怪獣に対するヒーロー組織。名前こそ決まっていないが発足するのであらば参加すると名乗りを上げているヒーローは数多い、神野区で起こったマグナとオーブの戦いぶりは多くの衝撃を与えている。故に急速に構築が始まっている組織、あれだけの脅威には多くの力が必要になると思われる。そして発足後に起きるのはヒーロー飽和社会とも言われていた現代であり得ないとされるヒーローの不足環境。それを回避する為に今のうちに有望な若者を確保したい思惑がある。

 

「確かにそう言われると……ですがそれでは出久君だけが合格してしまうのはズルいのでは?」

「ですので第二次試験から、という事になると思います。そちらは救助をメインにするという話でしたので」

 

確かにそれならば出久にも多くの事が出来るだろう、寧ろ其方こそがヒーローの本分とも言える。マグナは出久の方を見ると確かにそれなら……と言わんばかりの表情を浮かべている。確りとした事情もある訳だしやや不満げではあるがそれならしょうがないかと肩を落とす。

 

「分かりました、そう言う事なら……しょうがないですね……」

「済まない緑谷少年、分かってくれて感謝するよ。根津校長に推薦状を出すように連絡しておきます」

 

この話は出久だけが特別、という訳ではないらしい。他のヒーロー校でも取られているらしい。推薦を受ける条件として校長だけではなく複数のプロヒーローの認定を受ける必要があるが出久の場合は既にクリアされている。

 

「しかし緑谷少年、君のコスモススタイルだったかな、あれは確かに凄いと思う。だが同時に相手を倒す為の力を磨く事を忘れてはいけないよ」

「やっぱり、そうですよね」

「世の中にはどうあっても和解不能という存在もありうるものさ、それを無力化するなら力で抑えつけるしかない」

 

オール・フォー・ワンと戦い続けてきたオールマイトだからこそ重みのある言葉だった、確かにコスモススタイルでは難しい面があるのも確か。だからこそ他の力を磨く事を忘れてはいけない……それを再認識されたような気分だった。そんな自分を励ますようにマグナが背中を叩く。

 

「大丈夫さ出久君ならやれるよ、それに君が参考にしたコスモスもそんな姿があるからね」

「えっそうなんですか!?お話を聞く限り凄い温厚そうで優しい方ってイメージなんですけど!?」

「だからこそ、彼は一度相手を倒すと決めた時には勇猛果敢に戦うよ。太陽の燃ゆる炎のごとき、戦いの赤き巨人と呼ばれる程にね」

「私も興味ありますね、是非ともお聞きしたいです」

「では御話ししましょうか」

 

話は一度区切りがついたからか、ウルトラマンへの話へと変わっていく。その時にはオールマイトも出久のように少年のように瞳を輝かせながら話を聞いていた。

 

「凄い、戦い方だけじゃなくて姿まで変わるなんて!!」

「コロナモード……確かに凄い太陽の炎のような戦い方。優しい方程内に秘める想いは熱いという事ですね」

「戦闘スタイルもルナモードからガラリと変わるから一部じゃブッコロナとか言われたりもするけどね」

「「ブッコロナ!?」」




色々考えましたが仮免の一次はすっ飛ばす事にしました。

そして組織発足に関連させてヒーローも不足傾向になるのではと考えて、そこら辺も絡めてみました。まあその代わりに何かを仕込むつもりです。例えば二次試験に凄いの入れるとか。


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イズティウム・コスモス・ルナスタイル。

仮免試験が差し迫る中、出久はコスモススタイルの質の向上に精を出し続けていた。ゆっくりとした動きで演舞のようにしながらも時折そこへセメントスがランダムに棘を差し向ける。全方向への集中を行いながらもどんな体勢、状況で受け流しが出来るようにするための訓練。不規則に加速する出久の動き、動きから次の一手を読むことは難しい上にその動き自体がカウンターの前動作のような物。

 

「行くぞ緑谷、準備はいいよな」

「うん、お願い」

 

更にそこに参加するのは炎と氷の同時使用を目指す焦凍、手始めに氷結を行い大地から無数の氷の刃が出久を貫かんと迫っていく。一切の加減なしのそれらに相澤すら目を見開いたほどだった。だが出久はそれに慌てる事も無く演舞を継続したまま―――氷刃を受け流す。

 

「ッ―――此処まで、やるかよ……!?」

 

素直な称賛と驚きが同居する、目の前では氷の大地が意思を持って意図的に一人を害さんと迫る。それを三日月を現すような身のこなしから行った受け流しが大地を二つに裂いた。V字に氷刃の別れた中心に立ちながら構えを取った出久、あれだけの大質量の氷すら受け流す事を可能としたそれに口角を持ち上げながら今度は炎を放つ。零度の大地が獄炎に包まれて燃え上がる、同時に炎を突き破るように出現する氷棘。

 

「ウルトラ・フォー・オール―――コスモス・ルナスタイル……CRESCENT MOON SMASH」

 

落ち着き払ったクールさを保ちながら迫りくる氷と炎に対して身体全体を回転させながらウルトラ・フォー・オールのエネルギーを放出、両腕にそれらを纏わせながら一気に振り抜く。力を纏った腕の残光は空に輝く三日月、その背後では受け流された炎と氷がセメントの壁へと激突して爆発を起こしている。

 

「―――マジか」

 

思わずそんな言葉を呟きながら目の前で起こった事に素直に目を丸くしてしまった。今できる氷と炎の融合という選択肢でもバランスを考えて最強の一撃ではなかったが最高の一撃であった筈。それをいとも簡単に受け流された、驚きもあるがそれ以上に技の美しさと凄さに見惚れた。

 

「……よし、出来た」

 

本格的な防御主体のオリジナルの必殺技、エネルギーを纏う事で物理的な攻撃でなくても受け流しを可能とするスマッシュの完成に出久は静かな興奮を浮かべて笑みを浮かべる。これが本当の意味での自分のスタートだ、オールマイトを模倣し続けるのではなく自分の戦い方を見据えて生み出された必殺技。

 

「すげぇな緑谷、お前そんな事も出来るのか」

「轟くんの今のだって凄いよ、タイミングが少しでもミスったらまともに喰らってたよ今。炎の中から氷が飛び出すって凄いゾッとしたよ僕」

「まだあんま強い炎を出せねぇからな、そこを逆手に取ってみた。悪くはねぇと思ってるが如何だ」

「凄い良いと思うよ。相手に精神的な揺さぶりをかけられるし」

「そうか、随分変わったな。今までとは全く違う」

「ちょっとね、オールマイトに言われて今までのも統合したものに変えたんだ。今のはコスモス・ルナスタイルで今までのはコスモス・コロナスタイルって感じ」

 

先日聞いた詳細のコスモスの話、厳密に言えばこうなるだろうと出久もスタイルの名前を修正がてら新しくした。今までのスタイルは一切無駄にしない、それはそれとしてコロナスタイルとして確立させる事にした。そうすれば自分は二面性のスタイルを持つ事が出来るし対応出来る幅も圧倒的に増える。

 

「それならオールマイトにも通用するんじゃねえか」

「いや如何だろう、ある程度喰らい付く事は出来るかもしれないけど難しいと思うよ」

「ある程度できるだけでも十分じゃねえか?」

「そ、そうかな」

 

そう思いながらも手応えに嬉しく思っている。出来る事ならこれをガイにも見て貰いたかったという欲があるが、それはまた何時か逢えた時の楽しみという事にしておく事にしよう。

 

『しかし随分と上達してきたね、個性の方の許容上限も40%が見えてきている。うんうんっこれは菜奈さんも鼻が高いだろうね』

「(そ、そうですかね……なんだかちょっと照れますよ)」

『君は本当に謙虚というかなんというかだねぇ……もうちょっと自己顕示欲という物を露わにしても良いんだよ、君は体育祭でも活躍して仮免の一次を免除される程の逸材なんだから』

 

相棒の謙虚さにマグナも肩を竦める、だがそんな所が彼の魅力なのかもしれない。

 

『まあそれは置いとこうか。所で好い加減にこれ、使ってみる気ないかい?』

 

そう言うと出久の手の中にある物が出現する。それは人類の叡智を遥かに超越する光の国で生み出されたアイテム、ウルトラゼットライザー。アウローラから奪還し今はマグナが管理しているのだが、折角のアイテムを使わないのも持腐れになってしまう。なので折角なので出久の武器として使用じゃないかという事になった。

 

「(ええっでもいいんですか!!?これ、光の国の物じゃないですか!!?)」

『いいのいいの、アウローラの奴が盗んだか作った物なんだから正しい所有者が扱うって事で。別に使っちゃいけないなんて規則はないしね』

「(ちょっと光の国のエリートウルトラマンがそんな事言っちゃっていいんですか!!?)」

『規則を守っていくのと縛られ続けるのは意味が違うからねぇ……』

「(そ、そういう物ですか……?まあマグナさんが良いって言うなら良いですけど……)」

 

そう言いながらも初めてゼットライザーを手にする出久はやや緊張気味だった。これが光の国で生み出された技術の結晶なのかと不思議と重みも感じられるからだろうか。見た印象としては手持ちの小型両刃剣と言った感じだろうか、青いクリスタルような部分を刃として相手を切り裂く事が可能となっているらしい。試しにセメントの壁へと振るってみるが―――

 

「え"っ」

 

まるで研いだばかりの包丁で果物を切るかのように容易くセメントを切り裂いてしまう程の凄まじい切れ味だった。鉄をも易々と両断できるのではないだろうかと思わせるようなそれに言葉を失う。

 

『と言っても肝心要のウルトラメダルがないからポテンシャルを全く引き出せていない訳だけどね』

「(い、いや十分過ぎませんこれ……ルナスタイルとも噛み合ってないような……)」

『いやだからこそだよ、ジード君という若いウルトラマンがいるんだけど彼も武器を使って光線技を受け流すなんて事もしてたよ』

 

そう言った活用法もあるのかと思いながらも、エレキングのメダルは使用出来るので電撃を付与させる事ぐらいは可能らしい。

 

「緑谷、なんだそれ。またあいつに押し付けられたとかか」

「えっと……そ、そんな所、かな……?」

「……相談、乗るか?」

「だ、大丈夫大丈夫だから!!」

 

 

「―――ハッ今緑谷さんが私の事を考えてくれたような気がしますよいやぁこれが以心伝心という奴ですかねっというか絶対緑谷さん私に何か隠してますよね博士絶対に面白くて楽しい事を隠してますってというか博士好い加減私にも超獣の分析やらせてくださいよ超やりたいんですお願いします」

「こればかりは駄目だって……これを許しちゃったらマグナさんに説教されるじゃすまないって……」



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仮免試験、防衛チーム。

合宿訓練を経ていよいよ仮免習得試験へと挑む1-Aの面々。林間合宿と雄英での合宿訓練は全てこの日の為に蓄えてきた経験と力、それら全てを持って挑むのが仮免習得試験。だが1年の時点で仮免の習得に動き出すのは全国でも少数派、自分達よりも長い期間訓練を重ねてきた者達と鎬を削る事になる―――が出久の場合は一次が免除されてしまっているので少々感じにくくなっている。だがそんな事は何の意味もない、とマグナは語る。

 

『一度試験場に立てば全員が対等に扱われる、それが試験だよ。以前にも言ったが試験の場で全てを出し切る意味はない、寧ろ常に出せる全力を発揮すべきなのさ』

 

そんな事を聞きながら、胸に抱きながら試験会場の国立多古場競技場へとやって来た。矢張り試験会場を前にすると緊張が生まれてしまうのかクラス内からも不安の声が出てしまっている……が、そこを相澤が取れるかどうかではなく取って来いと後押しする。

 

「合格し仮免を取得すれば晴れてひよっ子からセミプロのひよっ子になる出来るという訳だ、気合入れておけ」

「うぉしみんな頑張ろうぜ!!」

「んじゃいっちょ何時もの行きますか!!」

『Plus……』

「ULTRA!!!」

 

皆が心を一つにしつつ雄英のお決まり文句の言葉で元気よく行こうとした所をぶった斬りながら全部美味しい所を全て持って行くかのような雄々しい声が木霊した。全員がそれに驚いて何事!?と騒ぐ中でそんな彼を諌めるかのように同じ帽子を被った男が声を掛けると男は大声を出しながら勝手に円陣に混ざってしまった事を謝罪する、大きく腰を落としながら勢い良く頭を地面に叩きつけながらいい音をしながらも頭からは血が流れている。 

 

「勝手に他所様の円陣に加わるのは余り良くないよ、イナサ」

「ああっしまったっ!!失礼、どうも大変、失礼、致しましたぁぁぁぁ!!!一度言ってみたかったンッス!!プルスウルトラ!!!自分雄英高校大好きっス!!!雄英の皆さんと競えるなんて光栄の極みっス、よろしくお願いします!!!」

 

と自分の言いたい事を全て話しきったと言わんばかりにそのまま去っていく。嵐のようなテンションで全てを押し通るような相手の登場に思わず全員が呆気に取られるのだが、少ししたと後に相澤がその男の名前を口にした事で全員が再起動する。

 

「夜嵐 イナサ……奴は強いぞ」

「今のって士傑高校……」

「東の雄英、西の士傑か……」

 

爆豪の言葉に相澤も頷いた、士傑高校。東の雄英、西の士傑と呼ばれるヒーロー科高校の中でも雄英と肩を並べる最難関と呼ばれる学校。そして先程の超熱血漢、夜嵐 イナサは雄英高校の推薦入試にてトップの成績を叩きだしたのにも拘らず入学を辞退しているという事を相澤が語った。詰まる所推薦入学者である轟や八百万と同じだけ優秀であるという事になるのである。

 

「なんていうか、飯田君に切島君を足したみたいな人やね……」

「それを二乗すれば丁度ああなりそうだよね確かに」

「むっそう見えるのか俺は!?」

「なんか複雑だぞ俺!?」

 

そんな事を話しながら早速会場入りをしようとするのだが―――

 

「緑谷、分かってると思うがお前はあっちだ」

「分かりました。それじゃあみんなごめん僕あっちからだから」

「えっ別れるのか緑谷」

「今に分かる、さっさと行け緑谷」

「分かりました。それじゃあ後でね」

 

手を振りながら一足先に会場へと足を踏み入れる、多くの人達でごった返しているがそこで一人の人影が手招きをしているのを確認してそちらへと向かって行く。そこにいたのはナイトアイだった。

 

「ようこそヒーロー仮免許試験会場へ、と言っておこうか」

「お久しぶりですナイトアイ」

「矢張り推薦を受けたのは君だったか、マグナさんの事を考慮すれば当然の帰結だろうがな」

 

自分を推薦しつつも他の生徒が来ることも一応考えていたらしいが、出久が推薦されるのは当然だろうと思いながらも歩き始める。その後に続いていく。

 

「予め言っておくが君が試験の免除となったのは合格者数を確保する為の方針だ、本来ならば確りと受けるべきだと私も思うが近々正式に立ち上げられる組織に多くヒーローが参加する」

「オールマイトからお聞きしました、その補填の為だと」

「その通り。まあ君の場合はグラントリノやオールマイトのお墨付きがある、戦闘力の確認など野暮だろうがな」

 

そんな話をしながらも通された部屋、そこには多くの資料などが置かれており何故此処に通されたのだろうかと思わず出久は首を傾げるのだが僅かに見えた表紙に書かれていた文章を見て察する事が出来た。これはマグナに向けての物だと、直ぐにマグナが人間態となって出久の隣に座り込むと資料を手に取った。

 

「対超大型ヴィラン対応特殊作戦実行ヒーロー組織についてですか……もう大分纏まっているようですね」

「あくまで人員だけです、問題は組織の拠点やメカニック関連です」

 

この地球の人々が参考しているのはマグナが提供したデータの中にあったXIG(シグ)。様々な分野で活躍いるヒーローがいる故でベースにし易かったのもあるだろう、救助チーム、戦闘チーム、技術チームなどなど既に多くの役割分担が出来ているが、ナイトアイ曰く問題なのは超巨大ヴィランとされる怪獣に対する備えが不十分である事が上げられる。何せエンデヴァーの本気の炎を受けて尚平然とするような連中を相手にするのだから現状の戦力で足りないの一言。

 

「それらを補う為にヒーローの強化装備を、デヴィット・シールド博士と発目 明に依頼するつもりです」

「ああっやっぱり……」

「まあ妥当というか正解だろうなぁ……」

 

発目が関わるのならば自動的にグルテンも関わるだろうし、ファントン星人としての技術が地球に関わる事になる。それらが地球を守るための一助となる事は確実、なのだが彼女の普段のそれらを身を以て体験している二人としては色んな意味で不安が尽きない。主にプロヒーローにあった装備を作る為と称して今まで自分達にやって来たような実験を行う事は確実。

 

「それについてですが……その、マグナさんにも是非組織に関わっていただきたく……」

「そうなると必然的に出久君も関わる事になりますがどうなるのですか、此処で仮免を取れる事を仮定してセミプロがプロに混ざる事になりますが」

「その点は将来有望なヒーロー株に対する教育の一環、ヒーローインターンのような制度の前段階としてねじ込みます」

「まあ僕がいなかったら絶対に発目さん暴走しますもんね……グルテン博士は発目さんに甘いし……」

 

そんな大規模組織の設備や力を借りられると分かればきっと彼女の暴走は今まで以上のものになるかもしれない、それらをプロヒーロー達で抑えきれるだろうか。ナイトアイすらも眼鏡を上げる事でお茶を濁すような事をしてしまう、それだけ発目の暴走はやばいという事である、そして同時にそれを抑える事が出来る出久の価値は大きいという事である。

 

「つまり今回仮免に落ちても問題はないという事だねやったね出久君」

「縁起でもない事言わないでくださいよマグナさん!?」

「何、余計な緊張せずに平常心で臨めると思えばいいのさ」

「発目さんの実験に比べたら怪獣との戦闘以外なら平常心で行ける自信は既にありますよ僕」

 

軽く目が死んでいる出久にナイトアイはこの時、彼女の実験はどれだけ壮絶なのだろうかと気になると同時に同情を浮かべるのであった。

 

「しかしグルテン博士も関わるとなるとXIGじゃなくてXIOだね。体育祭の事も考えるとMt.レディだったかな、彼女がモンスアーマー辺りを装備するんじゃないかと思うと今から頭が痛くなってくる……元文明監視員として何処までツッコミをいれるべきなんだろうなぁ全く……」

「御気持ち、お察しします。そしてこんな事を言うのも何なのですが、是非マグナさんの宇宙の事やウルトラマンの事、防衛組織のお話を聞かせて頂けたらと思います」

「やっぱりナイトアイも気になるんですね、目が輝いてます」

「これ程までにユーモラスでロマン溢れる事に興味を抱かん男などいないさ」

「ではどれから話しますかね……」

 

それらの話は一次試験が終わるまで続き、その話をナイトアイは了承を得た上でボイスレコーダーに記録しつつメモを取りながら熱心に聞いていた。そんな姿に出会ったばかりの出久を想起して微笑みを浮かべてしまった。



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仮免試験、二次試験。

「皆お待たせ」

「おおっ緑谷何処行ってたんだよ!?」

 

時間に限界が来た為、ナイトアイと別れを告げて皆の元へとコスチュームを纏って参上する。一次試験はA組の皆は無事に突破出来たらしく安心していた、話を聞きつつも試験がどんな事だったのかはモニター越しに見ていたが定番とされている雄英潰しにナイトアイは溜息混じり、出久は怒りに近い憤りを感じずにはいられなかった。

 

『唯試験に合格出来ればいい、というのが透けて見えるな……』

『なんかすごいムカつくのって僕だけですかね』

『奇遇だな私もだよ、マグナさんという宇宙規模の正義を知ったからかもしれないな』

 

そんな感想を述べあいながらも直ぐに防衛チームやらウルトラマンの話に移ったりもしたのだが……特に出久は皆の事は心配していなかった、きっと大丈夫に決まっていると確信しながら皆の元へと訪れた。

 

「にしても緑谷お前ずりぃよなぁ、何時の間に校長推薦貰ってんだよ」

「アハハハ……ごめんこれでも僕から抗議して軽くして貰ったぐらいなんだ」

「そうなん?」

 

皆の方でも一部受験者の一次試験免除の話は出ていたらしく、その場で名前を呼ばれた者は係員に誘導されて待合室に移動していたらしい。それに関して受験者からは抗議も出たらしいがその理由について述べられると何も言えなくなり反対意見は皆無だったらしい。

 

「僕の場合はほら、発目さんのストッパーとして強制的に関係させられるみたいだからさ」

『もういいそれ以上言うな』

「大丈夫よ緑谷ちゃん、それは貴方がとても頼りにされているからよ。とても信頼されている名誉ある事よ」

 

その言葉が出た瞬間に全員が事情を察して何も言うなと出久の言葉を止め、梅雨は目が死んだ出久の背中を摩りながら励ました。その光景に他の受験生は一体何があったんだ……と言葉を思わず失ってしまうのだが出久の顔を見て体育祭の事を思い出して彼らも察するのであった。あの超話題になっていた発目に狙われているヒーロー志望として。

 

「というか発目の為だけに声掛けられるってどんだけだよ……」

「おい緑谷、関わりたくねぇならちゃんと言った方が良いぜ」

「大丈夫、諦めたから」

「諦めんなよぉ!!!?」

「じゃあ切島君、僕の代わりに一回発目さんの実験に付き合ってみる?」

 

色がない死んだ瞳、死んだ表情に諦めによって生まれた笑みが張り付いた出久のそれに思わず助けて欲しいならちゃんと助けてやるぞ!!と意気込みを込めた切島は完全に挫かれてしまって何も言えなくなった。そんな出久に同情するように肩に手を置いたのは発目の被害に遭いそうになったが出久に助けられた爆豪であった。

 

「……飯、奢るか」

「大丈夫だよカッちゃん、僕はこれからも頑張っていくから」

「……おう」

『やばい闇が深すぎる』

 

それが待機中の受験生全員が抱いた素直な感想であった。言葉が浮かばなくなっている時にヒーロー公安委員会の目良の声がスピーカーから聞こえてきた。

 

『え~一次試験突破をした皆さまおめでとうございます。それでは手早く次の試験への御話しへと移ろうと思います。ではモニターを見てください』

 

目良の言葉に従うように皆の視線がモニターへと向いていく。そこには先程まで合格者が駆けまわっていたフィールドが映し出されている。中には忌々し気に見つめている者もいるが自分達が合格を勝ち取ったフィールドを見つつ、各自が少々浸る中でフィールドの各所が一斉に爆破されていき、火を噴きながら瓦礫と化していく。突然の爆発に驚きが生まれるが即座に次の言葉が生まれる。

 

『皆さんの中にはもう察した方もいると思いますので次の試験を説明します。次の試験、二次試験にて仮免試験はラストになります、皆さんにはこの被災現場でバイスタンダーとして救助演習を行って貰います。一時選考を突破した皆さんは仮免許を取得した物と仮定して、どれだけ適切な救助を行えるか試させて頂きます』

「「バ、バイスライダー!?」」

バイスタンダー(bystander)だよ二人とも、授業で習ったじゃない」

 

救急現場に居合わせた発見者や同伴者を意味する言葉であり一般人にもこの言葉は適応されるがこの場合においては近くの事務所などで待機していたヒーローとして自分達を適応させる事になり、自分達はそこで救助を行うという事になる。そしてモニター内には老人や子供と言った人影が見え始めた、一体どうしてそこに居るのかと謎になる様だったが―――それはヒーローが人気職業になる現代だからこその職業、あらゆる状況の訓練で要救助者のプロ、HELP US COMPANY、通称HUC。

 

「世の中にはいろんな職業があるのね……」

「映画のスタントマン的な感じかな……」

 

形式としてはそちらに似ているだろう。HUCの面々はそれぞれがヴィランによる事件現場、事故現場などで見られる救助者となり自分達はそれらを救い出す、それらの過程で点数を割り出し、基準を超えていれば合格する事が可能になる。それがこれから行われる試験となる。早速士傑のメンバーが声を出しつつ皆に出来る事を確認しつつ、此方にも協力を願い出ている。その中で出久も自分に出来る事を出す。

 

『出久君、こんな時こそあれが役に立つんじゃないかな?』

「(あれって……もしかしてあれですか?)」

『そうあれ。ルナスタイルと並行して行っていたあれらだよ』

 

マグナの言葉に驚きながらも本当に今の自分でやっても良いのかと不安に尻込みするが、自分の言葉なら信頼出来るだろうと後押しをされ使う事を決意しながら遂にその時が来てしまった。

 

『ヴィランによる大規模破壊のテロが発生!!規模は〇〇市全域、建物倒壊により傷病者多数。道路の損壊が激しく救急先着隊の到着に著しい遅れ。到着するまでの救助活動はその場にいるヒーロー達が指揮を執り行う、一人でも多くの命を救い出す事!!START!!!』

 

それと共に壁が横倒しになってフィールドへと直結した。此処も既にフィールドの一つ、目の前に広がっている無数の瓦礫の山々。この辺り一帯に助けを求める人達がいるのかと思いながらも皆が直ぐに動き出していく中で出久は避難所設営をしているチームへと向かうと一つ尋ねた。

 

「あのすいませんもっと広い方が良いですよね!?」

「えっ!!?ああまあそうだけど今から別の場所にする事は出来ないぞ!?」

「違います場所を作ります!!」

 

それを応えたのは傑物学園の真堂 揺。一体何を言いだすのかと思いながらも出久は瞳を閉じてから何やら忍者が結ぶ印のような動作をしてから両腕を開きながら救護所兼避難所として設営している開けたエリア周辺の瓦礫へとエネルギーを放つ。

 

「ウルトラ……念力!!」

 

両腕から放射されていくエネルギーは波のように瓦礫へと浸透していく、すると僅かな揺れと共に瓦礫が動き出すと次々と宙へと舞い上がっていく。

 

「な、なに!?」

「緑谷 出久の個性はまだ先があるのか!!?」

「嘘だろ、一つの個性で何であんな事が出来るんだよ!!?」

 

ウルトラ念力。ウルトラ戦士にとっては余り特別な能力ではない力、光線技に取り入れて光線の操作、追尾能力を与えたりもする。代表的なのはウルトラセブンのアイスラッガーなどが上がるだろう。出久はコスモス・ルナスタイルを追求するに辺り、ウルトラ・フォー・オールの能力制御の為にこの念力にも力を入れた。光線のエネルギーを操作し腕に纏わせる事で通常では受け流す事が出来ない物を可能にする為。

 

「ディッ……ヘェァ!!!」

 

浮かび上がった瓦礫はまるで自らの自重に押し潰されていくかのように中心に向かって圧縮されていく。幾つものビルの残骸は念力によってあり得ない力で圧縮された結果、小さめの一軒家程度まで小さくされて邪魔にならない場所へと纏められて置かれた。その光景に驚き言葉を失っている真堂に向けて出久は言った。

 

「これでスペースに余裕は出来たと思います、僕は救助に参加してきます!!」

「あっああ……」

 

走り去っていく出久に何も言う事が出来ずに固まってしまった、そして漸く再起動した時に思わず、無意識的に呟いてしまった。

 

「何だあの化け物染みた力……」

 

それがヒーローとして正しい言葉なのか、それに目を光らせる審査員でもあるHUCのメンバーがいる事に彼は気付けなかった。



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仮免試験、ラストスパート。

「デク君この上の瓦礫退かせられへん!?重さは0にしとるけど上からやないと崩れてまう!!」

「分かった、ウルトラ……念力!!」

「うわっそんな事出来たん!!?」

 

避難所の拡張を終えると即座に救助活動へと参加した出久。自身のそれが通用すると分かった故に自信が付いたのかウルトラ念力で瓦礫を退けていき、下敷きになって居たり動けなくなっている人たちを助ける一助へとなっていく。手を触れる事も無く広範囲へと及ばせる事が出来る念力、その力は相当に強く汎用性も高い。そして麗日の個性によって瓦礫の重量と出久の負担も軽減出来るので相性も良好。

 

「緑谷これ、何とかなるかぁ!?」

「流石にこれは―――よし……シェアッヘァッ!!!」

 

今にも崩れそうになっているビル、そこへの応援要請に出久は手が離せないので其方へと以前マグナから習った八つ裂き光輪を発射する。放たれた6つの光輪は瓦礫へと向かって行くとそれらの周囲へと到達するとその場で静止、そしてそれぞれの光輪を結ぶように光を伸ばしていくと瓦礫の時間を止めてしまうかのように完全に固定してしまう。

 

「おおっ!!?お前こんな事出来るのか!?」

「でも早くしてね、こっちの瓦礫を念力で退かしながらッ……ビルを固定するの、かなりしんどいんだから!!多分、後5分が限界!」

「十分だ直ぐにやるぜ峰田!!」

「おうよ!!」

 

一人で何役の事柄を遂行可能な程に幅広い個性の力、それらを十全に扱えるように鍛えている出久はクラスメイト達以外から見たらどれだけ異質に見えるのだろうか。他の皆とて自身の身体と個性を磨き上げるのを怠った訳ではない、それでも出久のそれは明らかに上に行っていると認めざるを得ない。それは単純にウルトラマンの力を宿しているからだけではない。

 

『出久君、もうあと少しだ。外壁も同時に取り除きながら行こう』

「(はいっ!!)」

 

その力はウルトラマンであるマグナとの絆があったからに他ならない。それらを知る由もないだろうが、それが源である事には間違いないだろう……そしてその時、大爆発と共にフィールドの一部が吹き飛んだ。それに多くの者が驚く中で同時にアナウンスが流れた。

 

『ヴィランが現れ追撃を開始、現場のヒーロー候補生達はヴィランを制圧しつつ救助を続行してください』

 

「プロでも高難易度の案件……仮免でそれをやるか」

 

合理主義者の相澤ですら声を上げて驚いてしまった。救助だけでも相当な神経と集中力を要するというのにそれを上回る状況が一気に生み出されてしまった。そのヴィラン役として抜擢されたヒーローの姿を見て更に驚いてしまった。

 

「さあ如何する、全てを平行して出来るか……戦うか守るか、助けるか逃げるか、どうするヒーロー……!!」

 

爆破で吹き飛んだ壁の奥から影が現れ、それは空に向けて威嚇めいた咆哮を放った。そこにいたのは―――ギャングオルカ、ヴィランっぽいヒーローランキングの常連だがそれ以上にヒーローランキング10位に名を連ねる超実力者。それは数多くのサイドキックを引き連れながら登場したのである、突然のヴィラン襲来に困惑する候補生たち、だがその中でも冷静に状況を見極めて行動を起こす者がいる。

 

「―――タァァァァ!!!」

 

侵攻するヴィラン達、それらの目の前に突如として舞い上がった大量の土埃。それらに足を止めて警戒する中で奥から姿を現した出久、構えを取ると同時にサイドキック達は一斉に装備していた武器を一斉に構えてトリガーを引く。そこから発射されるのは拘束用のコンクリート弾、命中すれば即座に固まって動きを封じるそれが一斉に発射されていくが―――出久は一切慌てる事も無く構えを取り続ける。

 

「ウルトラ・フォー・オール―――コスモス・ルナスタイル……CRESCENT MOON SMASH」

 

新たに形にしたそれを使う、迫ってくるそれらを一気に回転するように受け流しながら全てを放ってきた者達へとはじき返していく。寸分違わず跳ね返されていくそれらにサイドキック達は捕まって瓦礫や地面などに釘づけにされていく光景にギャングオルカは素直に称賛の声を上げながら、若いながらもその力の高さに関心を浮かべる。

 

「たった一手で数の優位を覆すとはな……この程度で俺に勝ったと思っているつもりか?」

「いえ全く思っていませんよ、貴方という存在相手にこの程度で優勢を取れたと思う程馬鹿じゃないので―――それに僕一人じゃないので」

 

その言葉の直後に出久の背後に爆破を伴うように空から降ってきた爆豪、氷の上を滑りながら勢いよく跳躍して登場した焦凍が並び立った。その上では旋風を纏っている夜嵐 イナサが到着していた。

 

「遅かったねカッちゃん」

「テメェが早すぎんだクソが」

「わりぃ、ちょっと遅くなっちまった」

「凄い熱いっすね!!素直に脱帽っす!!脱がないっすけど!!」

 

一気に現れた援軍、それによって数の優位は容易くひっくり返されたと言っても良いだろう。だがギャングオルカは意志を崩すつもりなど毛頭なかった、この位やって貰わなければ試験官としてヴィラン役を引き受けた甲斐がない。寧ろここからだ、此処からこのヒヨッコが自分に立ち向かって来るのが楽しみでしょうがなかった。

 

「いいだろう掛かってくるがいい!!貴様らが本当にヒーローになりたいというのであるならば、このヴィランを倒してみせろ、滅ぼしてみせろぉ!!!」

 

叫び声を上げながら一気に迫ってくるギャングオルカ、それを真っ先に迎え撃ったのは出久。突進を受け止めながらも受け流し後ろへと投げ飛ばすとそこへ爆破と氷と炎の拳を突き立てる爆豪と焦凍の一撃が炸裂し打ち上げられるとそこへイサナが自らの個性で起こした風で巻き上げた瓦礫を連続でぶつけていく。

 

「やるなぁっ即席でこれだけの連携を取る事が出来るとはな、だがまだまだ甘い!!」

 

連続で攻撃を受けたにもかかわらず全く堪えてない。それ所か飛んできた瓦礫を足場にして一気に跳躍するとイサナの真上を取ると殴り付けた地面へと叩き落とすと最大出力の超音波を叩きつけてきた。向かってくる超音波は瓦礫を吹き飛ばすどころか粉砕する程のパワーを発揮しており思わず爆豪の表情すら曇る程。

 

「任せて!」

 

その手にゼットライザーを手にしながらも飛び上がった出久はエネルギーを集中させながら一気に回転していく。

 

「ULTRA HURRICANE SMASH!!!」

 

超回転にゼットライザーを加えてのスマッシュ、本来ならば受け流す事が難しい攻撃であろうが受け流す事が可能となる。先程と同じように超音波はギャングオルカへと返されていく、が自分の攻撃が通じると思ったのかと言わんばかりに思いっきり腕を叩きつける事でそれを無へと帰する。

 

「超音波を力でねじ伏せるってマジか」

「伊達に№10じゃねえって事か……」

「激アツっすね……!!」

「やっぱり、強い……!!」

 

これがプロヒーローの中でもトップ10に入る男の実力かと思いながらも全員の顔には諦めや敗北と言った色は全く浮かんでいない。寧ろ強い相手ならば更にやる気が出ると言わんばかりの表情にオルカも良い表情だと思いながらも着地する。が、オルカはペットボトルに入っていた水を暢気に飲み始めた。馬鹿にしているのかと思ったが―――

 

『只今をもちまして、配置された全てのHUCが救出されました。それにより、これにて仮免試験全工程終了となります』

 

それは既に試験が終了する事を見越しての事だった。将来有望なヒーロー候補生の力を見て満足気に彼らを一瞥すると―――オルカはゆっくりとそこから去っていく。

 

「さて、彼らは何方の道を歩むのだろうか。何方に行こうが俺はそれを応援させて貰おう、それが先人の務め。そして大いに励めよ、これからを担う若造共」



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波乱の合格発表。

ヒーロー仮免許取得試験、その全工程が終了しいよいよ合格発表が成されようとしていた。やれる事だけはやった、後は天に運を任せるのみと思っているが皆緊張した面持ちで発表のときを待っていた。出久も同じであり緊張の面持ちでその時を待ち続けている。そして巨大モニター前に目良が立っていよいよ合格発表者が公表されようとしていた。

 

『え~それではこれより、合格発表者を発表したいと思います。モニターに50音順にて名前が表示されますのでどうぞご確認ください』

 

遂に表示されたモニターに映り込む合格者の名前、それらに皆が食い入るように自らの名前を探していく。

 

「みみみみみみみみみっっっっ!!!!」

『いやもうちょっと落ち着いて探しなさい……挙動不審過ぎる、と言いたい所だけど周りもどっこいどっこいか』

 

相棒の震える声と指に呆れようとしたが周りの受験生も同じような物だったので何も言わない事にした。さてさてどうなる事やら……ま行に入り間もなくみ、そこにあるかどうか……と辿って行くと―――そこに緑谷 出久の文字がなかった。

 

「な、い……!?」

『あり?』

 

まさかまさかの事態にマグナも驚きの声を上げてしまった。勇士司令部所属の戦士として、贔屓目を抜きにして判断をしても彼は十二分に良い働きをしていたと思うのだが……まさかの不合格。予想外にも程がある、その展開に出久は言葉を失い倒れそうになる程だった。だがそれは彼だけではない。

 

「ねぇっ……!!!?」

「……ない」

「ゆっが最後……」

 

ギャングオルカと共に立ち向かった爆豪、焦凍、夜嵐も同じ結果だったらしい。爆豪は救助活動において確かに口こそ悪かったが不器用なりに手を差し伸べたり、爆破を上手く調節した物で瓦礫処理などをしていた。それなのに不合格というのは解せない、それは焦凍とイサナも同義。言葉を失っている中で思わずクラスメイト達もどよめいていた。

 

「み、緑谷が不合格!!?な、なんかの間違いだろ!?もう一回探してみろって!?オイラのすぐ近くだろ!!?」

「―――駄目、ないわ。爆豪ちゃんや轟ちゃんのも……」

「おいおい嘘だろ……うちのクラスのトップ3が……!?」

 

『えー、全員ご確認頂けたでしょうか、それでは続きましてプリントをお配りします。採点内容が詳しく記載されていますのでしっかり目を通しておいて下さい。全員100点からの減点方式で採点しております』

 

信じられないと言いたげな皆へとヒーロー委員会職員から次々と合格者へとプリントが配られていく。自分の持ち点と評価内容が詳しく記載され、どんな行動で減点されているのかも詳しく書かれている。そして配られた後に目良は大きな声を出しながらモニターを切り替える。

 

『それでは次の発表を行います―――皆さん、神野区における二大決戦を御存じかと思います。オールマイト、そしてウルトラマンの死闘を』

 

その声に思わず顔を上げると、映し出されていたのは神野区におけるマグナとオーブがアウローラと戦う映像だった。

 

『この戦いは日本、いえ地球そのものに大きな衝撃を与えました。ウルトラマンというこの星のために戦う新たな光の確認は大きいですが、同時にこの星には新たな脅威があると知られました。映像にもありますそれを超巨大なヴィランと全く別の存在、怪獣と定義する事に政府は決定しました。そして―――同時に対怪獣特設特殊作戦実行チームが組織される事に決定しました』

 

長ったらしいが要するに防衛チームの設立である。それは大きなどよめきを生んだ、超常が日常へと変わった現代においても怪獣の存在は完全なSFの領域、それに対する組織が政府によって正式に組織されるという事になった。そしてその組織には多くのヒーローが参加の名乗りを上げている事も上げながらも皆にも平和を守るために共に戦ってくれることを期待するという事を伝えると―――いよいよ本題に入る。モニターが切り替わるとそこには4名の名前が挙がっていた、そこに出久、爆豪、焦凍、イサナの名前があった。

 

『そして今回、試験官にギャングオルカへと依頼を出した理由もお伝えします。彼はトップ10に名を連ねるヒーローなだけではなくパワー、タフネス、テクニック、様々な分野においてもトップクラスのヒーローでもあります。そんな彼を今回、怪獣と仮定し臆する事無く立ち向かう気高く崇高な意志を持ち高い戦闘力を持つ者を選定したかった、その結果としてこの4名を―――対怪獣特設特殊作戦実行チームの特別隊員としての資格そしてヒーロー仮免許の双方を与える事とします』

 

「「「「っ!!?」」」」

『成程そう来たか、落として上げるとは随分と粋な事をするじゃないか』

 

落ちた訳ではなかった、寧ろその逆。壮絶な評価を得ていた。仮免を与えるだけではなく隊員として正式な資格を与えられる、それはヒーローとして社会を支えるだけではなく怪獣という新たな脅威から人々を守る為の盾にも矛にもなる使命を与えられた事になりうる。

 

『勿論、これは強制では御座いません。それぞれ思い描いていた進路、夢、目標、目的などがあると思いますので隊員として活動するにしてもヒーローとして活躍するのもお任せします。ですが私個人の意見としては貴方方は圧倒的な脅威に立ち向かう心、連携を取る程に相手を信頼する心、それらは即ち平和を守る心に直結すると私は考えています。故に力を貸していただけると有難いと思っています、如何か検討してくださると嬉しい限りです』

 

そこで区切られると改めて出久らへとプリントが配られた。そこには点数などがあるが、それ以上に目立つのが特別隊員資格授与の文字であった。ナイトアイに言われていたが改めてこうして目の当たりにするとそれが重々しく圧し掛かってくる。これが平和を守る責任の一端なんだと思い知らされる。そしてその手に与えられる事になった特別枠の資格証が置かれ、出久は不思議と気持ちが切り替わっていくのを感じてしまった。

 

「(マグナさん、僕……頑張ります)」

『ああっ応援してるよ、君がどんな道を選ぶのか楽しみにさせて貰うよ』

 

 

「にしても爆豪お前すげぇじゃねえか!!特別枠とか」

「ったりめぇだ俺が通常の合格程度だと思ってたのかクソが!!」

「良く言うぜプリント配られた時、切島に寄こせとか言ってたくせに」

「あ"あ"ぁ"ん"!!?」

「ぎゃあああ暴力反対ィィィィ!!!!」

 

爆豪にアイアンクローを食らいながら悲鳴を上げる峰田の声が夕焼けの空に木霊する。掌から爆破を起こせる爆豪がやるアイアンクローは冗談抜きで洒落にならないので飯田などが本気でそれを止めに入る。そんなやり取りすら今は何処か微笑ましく感じるのは何でだろう、此処まで満たされている気分は中々ないからだろうか。他の皆とは違う赤、青、黄で彩られている資格証。それの写真を一枚撮ってオールマイトに送ると直ぐに懐にしまう。

 

「それにしてもデク君凄すぎひん!?特別隊員なんてカッコ良すぎるよ~!!」

「僕もびっくりだよ、最初なんて不合格だと思って心臓止まりそうだったのに……発目さんの実験以外だと初めてじゃないかなあんな感覚」

「緑谷、それはそれでどうなんだお前」

 

色んな意味で豊富過ぎる経験が出来る発目の実験。中には冗談抜きで出久が死に掛けた物も存在する、マグナが一緒なので並大抵な事では死なないので彼女も加減はあまりしない所か全くしない。

 

「でも轟君も一緒なんてビックリしたよ」

「俺もだ、特別隊員ってのがどんなのか分からねぇけどなんかいい響きだな。さっき夜嵐 イナサにも謝られるついでに言われた」

「なんかドリームチームだな……もしかしたらあいつも雄英に来てたかもしれないんだろ?」

 

それを加味すると確かにそう言えるかもしれない、だが逆を言えば防衛チームにはそれだけの戦力を集わせないと怪獣に対抗できないという事にも成り得るのである。同時にそこにかかる責任は重大、だから目良もどうするかは自由にしてくれていいと言ったのだろう。

 

「僕は行くつもりだよ」

「そうか、俺も行ってみるか……爆豪お前は如何する」

「行くに決まってんだろぉ!!」




活動報告にて防衛チームの名前についてのご意見を募集中です。


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伝える光の話。

資格取得終了後、雄英へと戻った面々はそれぞれ取れた仮免に笑みを溢しながらも明日から再開となる通常授業に僅かな憂鬱を浮かべてしまう。ヒーローに休息はないとはよく言った物だ、確かにその通りだと思いながらも出久は爆豪と焦凍を除いた皆とは違う特別枠資格証を見つめながら出久は思いを馳せていた。

 

「デク君如何したん?凄い見つめてるけど」

「いや、なんでもないよ。ちょっと思う所があっただけだから」

 

手の中にあるそれを握り込みながら返答する、矢張り重みが違うと緊張しているのだろうかと取られたのか凄いと褒められる。

 

「にしても怪獣か……確かに言われてみたら納得いく感じだよなぁ……ヴィランと違うってのは分かるし」

「ウムッ。俺も保須で実感はしたがヒーロー殺しの名を騙っていた奴も違う印象を受けたし怪獣と言う名称もシックリ来る」

「でも林間合宿のあれって完全にロボだろ、あれも怪獣なのか?」

「ロボット怪獣って感じで良いんじゃない?」

「なんか適当だけどそれでいいのか?」

 

そんな話をしつつも話題は仮免を取る事が出来た達成感や夢に一歩近づく事が出来た事から対怪獣特設特殊作戦実行チーム、その特別隊員の資格を得る事が出来た3人へと向けられる。組織に参加するのは多くのヒーロー、だがヒーローとは全く違う枠組みの存在の組織はどんな形となっていくのか酷く興味があった。仮に自分達も入りたいと思った場合にはどんな風になっていくのかも気になっているのだろう。

 

「緑谷ちゃんはその辺り聞いたりしてるの?」

「いや特には……後日詳しい説明があるって言われた位」

「俺もだ」

 

焦凍も続くように声を上げる、爆豪は何も言わないが恐らく彼も同じなのだろう。だが出久はマグナからこの位は考察として話しても良いだろうと部分的に話をする事にする。

 

「多分だけど、今までのヒーローを警察にするならばそのチームは軍隊になると思うよ」

「軍隊って……どういうことだそれ?」

「ヒーローはあくまで個人が作ったチームでそこまで徹底した組織運営はされてない、だけど今回のこれは怪獣って言うヴィランを超える存在(怪獣)へのカウンター。政府も大きく関わるから設備も装備も大きくなる、だからどっちかと言えば軍隊って表現するべきだと思うんだ」

「成程なぁ」

 

それを聞いて納得する。軍隊と言われると委縮するしあまり入りたくはないという印象も出てくるが事実、ヒーローの目的はヴィランの確保でしかない。だがそれは怪獣には通じない。そもそもが人類とは全く別の存在ゆえに確保という選択肢は余りにも取りづらいので排除や殲滅と言った方向性に向くのは当然の事になる。そんな話をしていると爆豪が隣を通り過ぎながら小声で言った。

 

「―――テメェのいやテメェらに話がある」

「っ!!?」

 

その言葉に身が震えるほどに驚いた、だが噴き出しそうになる冷や汗や震えを抑えつけながらその後に続いていった。爆豪は配慮しているのか、出久の部屋へと向かって行った。無言でドアの前に立ち開けろ言わんばかりだった、それに従うように中へと入れた。思えば爆豪を自分の部屋に入れた事なんて……あっただろうか、子供の頃でも一緒に遊んだりした思い出はあるが家に誘って部屋に入れた事なんて……あっただろうか、そう思うと何故か頬が緩んでしまう。一応お茶を出してドカリと床に座る彼の前に座る。

 

「デク、テメェがウルトラマンマグナだな」

「―――……!!」

 

何となくだが、出久にも話の内容は理解出来ていた。何故このタイミングで話を切り出したのか、何を話すのかを……ずっと前から聞かれるかもしれないと思っていた。聞かれなかったから気付かれなかったなんて都合のいい解釈なんてしていなかった、だから何時かこんな日が来るとずっと思っていた……それが今だ。

 

「―――うん、そうだよカッちゃん。僕自身がウルトラマンって訳じゃないけど……思ってる通り、ウルトラマンは僕と一緒にいる」

 

だからこそ正直に言った。もうここまで来たら隠しても意味はないのだと分かっているから、堂々と告げる。そしてマグナも分かっているのだろう、出久の隣にホログラムのような姿を現した。それに爆豪は確信を得ていたにも拘らず目を見開いてその姿を見つめてしまっていた。その姿は自分がヘドロヴィランに囚われ、何も出来なかったときに自分を助けた光の奥にいた者だと分かった。そしてそれは直ぐに人間態の姿となりながら手を差し伸べて握手を求めてきた、あの時のように。爆豪はそれを拒む事も無く、寧ろ待っていたかのようにその手を取った。

 

「初めまして、でいいのかな爆豪 勝己君。M78星雲・光の国のウルトラマンマグナ、宜しく」

「……思った以上に人間みてぇだな、ウルトラマンっつうのは」

「失望したかい」

「納得だ。オールマイトみてぇに唯助ける為に力を振るう奴が人間らしくねぇ訳がねえからな」

 

ふてぶてしい笑みを浮かべながら力強く握り込んでくる、その顔に滲む感情は喜びと定義してもいいのだろうか。それにしてはまるで獲物を見つけた肉食獣のような顔つきだったと出久は思ったのであった。

 

「確証を得たのは神野だが、もっと前に疑いは持ってた」

「ほほう」

 

様々な事がありながらも何故自分がマグナという存在が出久と共にあるのか、それを聞いて出久は素直に驚きマグナは感心した。その意見のほぼ全てが正解である上に的を射ている。ヘドロヴィランでの出来事、光線などの発射、個性の名前などなど……様々な事が考察する要素となっていたらしい。だが確信を得たのは神野区、ウィンクルム・ラディウスの撃つまでのモーションがイズティウム光線と同じだったらしい。

 

「あ~……成程ああうん、あの時はその辺りに気を配る余裕がなかったからね……」

「ならこいつがずっと前にアンタが戦う姿を見てリスペクトしたってことにすりゃ問題ねぇだろ」

「カッちゃんそれナイスアイディア!!」

「この位自分で思い付けクソが、あのくそ女に絡まれてるせいで知能指数下がってんのか」

「……否定、出来ない……」

「いやそこで真に受けないの出久君」

 

出久の部屋までの重苦しい空気は何処の行ったのやら、旧知の友人同士の空間がそこにあった。爆豪もウルトラマンという存在には興味はあるのかマグナの話には目を輝かせていた。この辺りはナイトアイも言っていたように気にならない者はいないという事だろう。

 

「爆発を使うウルトラマン、あ~……まあいると言えばまあ……」

「いんのか!!」

「ええまあ、出久君は知ってると思うけどウルトラマンタロウだよ」

「えっあの人なんですか!?」

「ウルトラダイナマイトという技なんだけどね、自分ごと相手に突っ込んで行って自爆するという物だから参考にはならないと思うよ?」

「自爆技!!?」

「……いやゼロ距離から最大爆破でヴィランをぶっ飛ばしながら俺は離脱するって風にすれば行けるな……」

「物怖じしないね子だね君は」

 

爆豪については出久と共に生きてきたのだから知っていたつもりだが、思っていた以上に怖いもの知らずな少年だった。ウルトラダイナマイトという自身すら木っ端みじんにする自爆技を聞いて真似しようとするどころか自分に置き換えて実現可能なレベルにまで定めてしまうのだから。本当に将来有望な存在だ。

 

「面白れぇ、俺もそっちに行ってやろうじゃねえか。アンタに俺と一体化しなかった事を後悔した―――そう想わせてやる」

「だっそうだよ出久君」

「負けないよカッちゃん、マグナさんの相棒は僕なんだから!!」

「ハッデクに何が出来んか見物だな!!」




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新学期と新しい展開。

始業式も無事に終わっていよいよ再開される事になった授業。今日は座学のみになるらしいがこれからの訓練は更に厳しい物になっていく事は確定的、故に今まで以上に気を引き締めていけと述べる相澤へと質問、校長が始業式で述べていた内容について。即ちヒーローインターンという物に対しての説明を求める声、如何やら後日やる予定だったらしいが今話した方が合理的だと判断したのか、そのリクエストに応えて話してくれた。

 

「平たく言えば職場体験の本格版、以前体育祭での指名などを得たと思うがインターンではそれらをコネクションとして使用する。指名がない者は活動自体が困難になる―――が、今年は今までにない位に事情があれている。それは仮免試験で話を受けただろう」

 

特別な組織の設立に多くのヒーローが名乗りを上げるのでヒーローが足りなくなる恐れがある、その補填として将来有望な候補生に出来るだけ機会を与えるというのが仮免。そしてそれらを得た自分達はスカウトを出してくれた事務所へとインターンの受け入れなどをしているかなどのを確認をしてインターンへと入る事が出来る。ヴィラン連合などからの襲撃などもあり、インターンの実施には慎重な意見も多くこのような形となっている。

 

「あの先生、それって指名を受けてないウチらって……やっぱりインターン参加できないって事ですかね……」

「職場体験先の事務所に確認をしてそこで受け入れ可能ならばそれでやって貰っても構わん、それ以外だと既にインターンを行っている先輩に相談などしてみるのが良いだろう。更にお前達には対怪獣特設特殊作戦実行組織への進路も存在している、特に緑谷、爆豪、轟はそれが顕著だ」

 

特別隊員としての資格を有している三名へと向けられた言葉、目良も言っていたがヒーローとしての活躍よりも此方に来て欲しいという気持ちがあった。無論出久はそちらに行くつもりだが……。

 

「指名が無くとも此方に応募する事は出来る、向こうも優秀で有望な人材は欲しがっているから。興味があるなら後日詳しく説明するから待っていろ」

 

皆はもっと詳しく聞きたがっているらしいが相澤はそこで話をぶった切って終わりにすると廊下で話が終わるのを待っていたマイクへとバトンタッチして去っていく。

 

「なあなあ、お前特別隊員って事はもう既にコネとか出来てるのか!?」

「いやまだそう言うのは来てねぇな……その内来るんじゃないか、相澤先生も後日詳しく説明するって言ってたし」

「かぁっ~待つしかねぇって事かよ気になるなぁ!!ヒーローにもなりてぇけどそっちも気になるんだよぉ!!」

 

授業も終わった後、寮で寛ぎながらもストレッチをしていると上鳴が焦凍にそんな質問を投げかけてた。同じ資格を持っているが焦凍には全くそれらの情報は入ってきていない。話を聞くとエンデヴァーはそちら側には参加せず、ヒーローとして活動をし続ける程度しか知らないとの事。曰く、多くのヒーローが新たな脅威へと対策を講じるのは良い事だが、今の脅威を野放しにする訳には行かないとの事らしい。

 

「まあ爆豪は知らねぇか」

「ンだとテメェ死ぬかゴラァ!!!」

 

焦凍が知らないなら爆豪も知らないだろうといった事だろう、事実だが爆豪としては怒り不服でしかない言い方に腹が立つ。

 

「んじゃ本命の緑谷は何か知らねぇのか!?」

「なんで僕が本命になってるの?」

「だってあの発目がスカウトされるって噂があるしそれ関連で知ってるかもって思って」

「ああ成程……まあうん、知ってるようん。僕の場合は強制みたいなところあるからね……ハハハッ」

「謝れっ!!!」

「すいません!!」

 

思わず死んだ目になる出久。何ですでに明白になっている地雷原でタップダンスを踊るのかと上鳴を殴る耳郎、そして殴られながら謝る上鳴。だが知っているのか緑谷っ!?と視線が集まってくる、出久の場合はマグナから色々と話を聞いていたりするのである意味では一番情報通な立場になっている。

 

『おっと出久君、詳しく話し過ぎてはいけないよ。一応まだ秘密な部分も多いんだからね』

「(わかってますって)と言っても僕も少しぐらいしか分からないけどね、それぞれのエキスパートチームがあってそれにあったメカを発目さんが関わる位しか聞いてないから」

「おおっそれでもすごい情報じゃないか!?アニメみたいな超兵器メカとか出るって事なのか!?」

「ま、まあもしかしたら―――あっゴメン電話きた」

 

そんな反応をしていると突然携帯が鳴り響いてしまったので断りながら通話状態にする、尚その時に着信音に皆がやっぱりそれなのか……みたいな反応をされた。

 

「はい緑谷です……はい、はいっは、早くないですか!!?あっそっか個性を活用したら……成程、確かに。分かりました伝えておきます、はい失礼します……カッちゃんと轟君、今連絡が来たんだけど」

「連絡だぁ?」

「何の連絡だ」

「特別隊員資格保有者は明日の9時に校門前に集合だって」

 

その言葉に思わず二人は顔付を変えた、出久の声は聞こえていたのできっとチームに関わる事なのだろうと分かる。だがそれが一体どんな事なのか、それを聞いて見ると―――出久はこういった。

 

「案内したい所があるんだって、詳しくは明日話すだって」

「分かった」

「おう」

 

何ともタイムリーな事だと皆思いながらも何をするのか酷く気になる、出久へと集って何とか聞き出そうとしたりするが飯田がそれを取り締まる。そんなやり取りをしつつも出久はマグナと会話をする。

 

『しかし思った以上に早いね、矢張りこういう分野で活躍出来る個性というのは素晴らしい。災害救助にでも避難所を直ぐに作ったりできる』

「(ですね、それでも流石に予想以上のスピードですよ。まさかもう完成するなんて……)」

『これからもっと詰めていく事になるだろうさ、私も積極的に関わる事になるだし……』

「(そうですね、兎も角明日が楽しみにですよ―――防衛チームの拠点に行くのが)」




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到達と大きな衝撃。

午前9時。校門前に集合していた出久、爆豪、焦凍の特別隊員資格を持つ三人を出迎えにやって来たのはナイトアイだった。まさかの人物の登場に思わず目を丸くしてしまう二人、元々サイドキックだった彼だがマグナの正体を伝えてからは以前のようにオールマイトを補佐していることは有名。だがまさかその人物がやってくるとは予想外だった。運転してきた車に乗り込むように言われて乗り込んで向かう先、それは郊外―――徐々に街並みが静かな物になっていく中で爆豪が思わず呟いた。

 

「ンだ……雰囲気が変わったか」

「気付いたか、神野でも思ったが君は中々に聡いな」

 

街を行く人々のガタイ、纏う雰囲気、様々な物が変化していると分かった。何処かゴツイ男が多かったり、余りにも瞳が鋭い者が多い。街の全体の雰囲気も違う、日常にある者ではない……何処かピリついた緊迫したような物が漂っているような気がする。

 

「この街は拠点を作る為に新たに作られた街。この街にいるのは建設関係、研究関係などなど……何らかの形で組織に関わっている者達ばかりだ」

「街一つ、丸々……マジか」

「そんだけ、心血注いでるっつう事か……」

「さあもうすぐ着くぞ」

 

間もなくと迫った所で一同は前を見た、そこには巨大な壁そして関所が設けられている。まるで世界を物理的に遮断するような威圧感に溢れているそれに喉を鳴らす。ナイトアイが身分証明書と書類を見せると許可が下りたのかゆっくりと門の一部が開いてその先の世界が明らかになっていく。そこにあったのは―――雄英の校舎なんて目じゃない程に巨大な要塞とも言うべき建物、その周辺を忙しく飛び回るヘリや資材運搬を行っているトレーラーの数々―――そしてそれらに混じるようにコスチュームを纏った人影も駆け回っている。

 

「あれって―――フロートヒーローのフローティング!?あっちには超パワーヒーローのストロングも!!」

「ヒーロービルボードチャートの上位の常連ばっかりだ」

「……そんな連中が此処に参加してるって事か」

 

敷地内を行き来しているヒーロー、それらが同時にどれだけ怪獣を重く見ているのかという事を明確にしていく。そんな思いを抱きながらも施設内へと入ると車を降りて内部の案内をされる。

 

「改めてようこそと言っておこう、だがこの程度では驚かれては困るがね」

「これ以上に何があるんですか」

「まあ来るといい、今回は君達も世話になるであろう場所へ案内する」

 

と三人を伴ってある場所へと向かって行くナイトアイ。まだ建設というのもあるのか、途中途中で工事が行われているが個性もフル活用されているのか作りかけの通路がみるみる出来ていったり剥き出しになっている回路が一瞬のうちに隠れていったりと個性を活用すると此処まで早く終わらせられるのかというのをマジマジと見せつけられてくる。

 

「知ってるとは思うが建設の分野などでも許可さえ下りれば個性使用は認められる、が此処ではほぼ全員が自己判断での個性使用が許されている。ある意味では最も自由な土地とも言えるだろう、その分制約もあったりはするがね」

「成程」

「……セメントスもいそうだな」

「ああいるぞ」

「やっぱり居るんだ」

 

そんな話をしつつも案内されたのは研究開発部のラボ、それに思わず爆豪と焦凍は嫌な予感が全開になるのだが大丈夫だよと語る出久に何も言えなくなった。何か気まずくなりつつも中へと入るとそこには―――予想通りの光景が広がっていたが、思わず二人は言葉を失った。

 

「えっ~だとすると此処ってどうするのかしら……パパ、此処の配列をBからHに変えてから数値を4.8変更してみる?」

「試してみよう。発目君、光子砲の調整は如何だい?」

「現状だと32%って所ですかね~大型化するとやっぱり問題も出ますね~……エネルギー効率を上げて威力を上げるのはいいんですけどそれだとパワーセルジェネレーターからの戻りが酷くてフレームが負担に耐えられませんね。一回設計からやり直した方が良いですねこれ、やっちゃっていいですか?」

「分かった、どのぐらい時間掛かりそうかね」

「う~ん……ライドメカ搭載も考慮しなければいけないのでじっくりやりたいですね」

「許可しよう。腕を振るってくれ」

 

研究開発部のラボの内部、ラボの名に恥じないだけの研究設備や超大型のサーバーを完備したコンピューターに何かの解析装置などなど様々な物が置かれている。どれもこれも驚かされるような物ばかりだがそれ以上に驚かされるのはあの発目が誰かの指示を聞いて従っている上に常に捲し立てるような口調ではなく、確りと対話をしているという点だった……それが信じられないのか思わず爆豪と焦凍は呆然としてしまった

 

「博士、研究は順調でしょうか」

「おおっ来ていたのか、済まない気付けず。それなりと言った所かね、何しろ初めてな事も多いから手探りな所もあるがなんとか対応出来ていると言った所で今もライドメカのリアクターの開発をしているんだ」

「あらっ出久君、いらっしゃい」

「おおっ緑谷さんじゃありませんかようこそようこそようこそと三回重ね掛けで主張しちゃうほどに素晴らしいラボへようこそ」

 

歓迎すると同時に出た発目節に謎の安心感を覚えてしまう二人がそこにはいた。

 

「本日は特別隊員の案内の為に此処に来ました、そして隊員として活動する場合のコスチューム開発のお話を通す為にお伺いしました」

「コスチュームだぁ?」

「そう、対怪獣災害を想定した特殊コスチュームだ。その為に此処へ来たとも言える」

「あれを想定する……」

 

焦凍の脳裏に過ったのはTVで見た父の姿、保須に出現した怪獣―――ツルク星人へと向かって己が放たれる最大火力で放った必殺技が全く通用しなかった場面。それらに自分達の牙を届かせる為の装備開発……一体どんな風になるのか分からないが本当に力が届かせる事が出来るようになるのかというワクワクも心にはあった。

 

「分かりやすく言えば緑谷さんのコスチュームあるじゃないですか、あれらも実は緑谷さんの力を増幅する役目もあるんですよ。イメージ的には個性の力を強めるマッスルスーツ的な感じです」

「デクのを俺らに適応させるって事か」

「有体に言ってしまえばそうなりますかね、でも個性によって方向性なども変わってきますからその辺りは相談と調整が必要ですね。ご希望とかあるなら聞きますよ、超火力特化型とかバランスとか防御型みたいにふんわりした感じでも結構ですよ~」

 

と発目はメモを用意しながら爆豪と焦凍の希望を聞いて行くのだがその姿に出久は目を丸くしていた。

 

「あの、発目さんが……人と話を、している!?」

「いやはや……本当に苦労したけどある程度は大人しくなってくれた、とは思うよ……」

「一体どんな手段を!?」

「何て言ったらいいのかしらね……純粋に技術者として話をしたり研究をしていく内に落ち着いて行ったって感じかしら……でもやっぱり出久君、貴方といる時が一番あの子が生き生きしてるわよ」

 

その言葉に喜んでいいのかそれとも悲しめばいいのか分からずに素直に言葉に詰まる。

 

「あっそうだ皆さんこの後ライドメカの見学とかなさいますか、私光子砲の調整に呼ばれてますし」

「フムッ興味深いな、見させて貰おう」

「フッフッフ……ライドメカ、ご期待ください」

「な、なんか発目さん大人しくなってるけど別のベクトルで激しくなってる……!?」




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ライドメカ、新コスチューム。

「という訳でやってまいりました此処が整備部の格納庫です」

 

案内役の発目とそのストッパーとしてメリッサに導かれてやって来た格納庫。そこでは忙しくトレーラーなどが行き来して荷台に積まれている巨大な資材などが降ろされていく。それらを受け取った車両やパワー系ヒーローが運んでいく様は圧巻の一言。また激しい怒号や作業音にかき消されないように大声で指示が飛び交っている。

 

「おいE-7を持って来てくれ!!」

「自分でやれこっちだって忙しいんだボケ!!」

「班長ウィング部分の組み立ての最終段階入りますのでチェックお願いします~!!」

「あと5分待てこっちの回路組終わったら直ぐに行く!!」

 

「す、凄い迫力……」

「テレビでしか見た事ねぇような事が目の前でされるってすげぇな……」

「……ああ」

 

ヒーローの現場を目の当たりにしている三人も圧倒される光景。ヒーロー活動とはまた別の物を感じずにはいられない、それもその筈だろう。此処で作られているのはこれからの地球の平和を担う役目になるメカの組み立てなどになるのだから。心血を注ぎ、全力で取り込むのは当然の事だろう。

 

「発目君、ライドメカと言うのは具体的にどのような物になるのかね。私もまだ詳細は聞かされていないが」

「それでは隣のエリアに移動しましょうか、此処は煩いですし隣では試作機なんかのテストを行うので説明も円滑になるでしょ」

「そうね、それじゃあこちらへどうぞ」

 

通されたのは発目の言った通りのテストエリア。此処では実際に配備予定となっているライドメカの試作機が立ち並びそのテストが行われ、そのデータを基にした調整や改善点などを見出される。それだけではなく隊員の対怪獣災害想定特殊コスチュームのテストなども行われる。そこにはヒーロー社会では珍しいとも言える光景、SF映画に出て来そうな形状の戦闘機や戦車などが立ち並んでいる。

 

「今時中々見れねぇ光景だな」

「確かに……わっあの戦車、今真横に回転した!!?戦車ってもっとこう鈍重な感じじゃないの!?」

「やだなぁ緑谷さん古いですねぇ対怪獣を想定するんですから既存の戦車からスペックアップを図るのは当然ですし機動力の確保も当然必要なんですよ。ですから軽量化をしたりしてるんです」

「でもだからって真横にローリングさせるなんて私は思いつきもしなかったわ、あれも発目さんのアイデアなのよね」

「まあ主砲は榴弾とかじゃなくてエネルギー式なんですけどね」

 

『フムッ……見覚えのある形状の物もちょこちょこあるね』

 

マグナの声に出久は耳を澄ませながら彼方此方を見回してみるとそこには翼などを折りたたむようにしてコンパクトな形態へ、そしてそこから再度展開して戦闘機形態へのテスト風景が見られた。他にもその戦闘機の操縦席と思われるモジュールの接続テストなどなど興味深そうなことばかりが行われている。爆豪と焦凍も興味津々なのかあちらこちらの試験機に目を向けたりしている。

 

「これからどんな怪獣が現れるのか分からないですから思い付く限りをやっているというのが現状ですねぇ」

「そうね、これまでに出現した怪獣のデータだけで物事を決めつけるのは危険だし対応力と拡張性を伸ばす方向性よ。幸いな事に世界的に期待されているから資金も潤沢だしね」

 

発目式光子砲もライドメカのメインウェポンの一つとしての採用が既に決まっており、現在はそのスケールアップと出力上昇などの作業を行っている。と言っても土台となる機体がある程度完成しないと難しい面があるのでこうして案内やコスチューム製作に絡む事が出来るのだが。

 

「そして此処で生み出されたノウハウや技術がコスチュームへと転用されるって訳です。例えばそうですね~……えっと、お名前なんでしたっけ?」

「轟 焦凍」

「轟さんでしたか、氷と炎を操る個性ですのでこれなんて如何ですかね!?」

 

そう言いながら懐のスイッチ推すと目の前の床が開閉して何かがリフトアップされてきた、そこにあったのは出久のウルトラマンスーツの亜種のようなもの。左肩に赤、右肩に青い水晶のような物が嵌め込まれているのが特徴的で何処か焦凍を彷彿とさせるような物だった。

 

「これは炎と氷という相反する属性を操る事を目的としたスーツです」

「俺の個性と同じ……」

「お試しになります?氷の温度をさらに下げる、炎の温度を上げると言った事は出来ると思いますよ」

「テストは私達の方でしてるから安全は保障するから大丈夫よ」

 

その言葉に焦凍は少しばかりの不安を浮かび上がらせるが、これを纏う事で前に進んだり自分の個性操作のヒントになるかもしれないとテスト役を引き受ける事にした。尚、一番最初に出久も試着しており最低限の安全は確保されていたがメリッサが発目製のスーツに手を加えてより強固な物になっている。それを聞いて爆豪も思わず胸を撫で下ろしてしまった。

 

「それで其方はえっと……爆豪さん、で良いんでしたっけ」

「ンだよ」

「貴方の個性を活かすに当たってこんなものが適切じゃないかなぁと思いまして」

 

同じように出現したそれはスーツではなく爆豪のコスチュームにもある籠手のような装置だった。だがそれは余りにも大きい、巨大なシリンダーが内蔵されたようなそれに爆豪はこんなもん使えるのかと思わず毒づくが抜かりなくと発目は胸を張ってプレゼンをする。

 

「この籠手は内蔵されているシリンダー、ストライク・シリンダーに圧縮された空気を溜め込んでそれを一気に開放する事で相手を粉砕します。爆豪さんの場合は爆破性の汗を使うとお聞きしたので少し手を加えれば空気と共にそれらを溜め込む事も出来ると思います」

「……成程、俺の爆破に溜め込んだ圧縮空気圧力をプラスすりゃその威力は数倍、いや数十倍にも膨れ上がるって事か」

「おおっご理解が早いですね!?」

 

簡単に言えばパイルバンカーのようなアイテムという事になる。圧縮空気だけでも中距離対応としても十分な威力を発揮するが元々威力が優れている爆豪の爆破、そこに圧縮空気を組み合わせれば爆発の勢いと破壊力は加速度的に倍加するだろう。軽く想像した爆豪はその光景に心が躍るのか凶悪だが嬉しそうな表情を浮かべながらもそれを使わせろとせがんだ。

 

「まあお待ちください、少し手を加えさせてください」

「早くしろ、後重量はどの程度だ」

「一応軽量化してますけど見た目通りにゴツイので5キロありますね。補助用のパワーアシストも準備しますのでお待ちください」

「早くしろクソ女」

 

生き生きとしながら早速調整に入る彼女を見ながら出久は何故か嬉しい気持ちになっていた。それは自分が実験体にならなくていい事ではない、発目は今までの行いの影響で危険人物扱いされてまともなコミュニケーションを取ろうとする者はA組にはいなかった。それが今では焦凍も爆豪も確りと彼女と相談をしながら物事を進めている。それが友人として嬉しいと感じられる。

 

「緑谷さんちょっと手伝ってください~」

「うん今行くよ!!」

 

 

「フッ中々どうしてユニークな関係を築けているじゃないか緑谷、発目君の事も心配いらなそうだ」

「結構いいコンビになっていきそうですね、出久君と発目さんは」

「ああ。もしかしたらあの二人が新しい平和を牽引していく事になるかもしれないな……」




他作品ネタがバンバン入ってますが皆さんは何が何なのか分かりますかね。分かっていただけると嬉しいかも。


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アブソリュート、インパクト。

「着心地は如何かしら?」

「これが緑谷と同じコスチューム……すげぇな、纏ってる感じがしねぇ」

 

初めてウルトラマンスーツに身を包んだ焦凍はその感覚に驚きを隠せなかった。手袋などをした時などにある感覚の違いなどが一切ない、スーツの外側にまで感覚が伸びている、素直に発目の技術力に驚きながらも同時にこれらが出久の力を高めているのかと納得する。

 

「極限環境対応型アタッチメント:ABSOLUTE.絶対零度と絶対熱の双方に対応しつつそれらを操る事を目的とされてるらしいわ、発目さんのスーツは基本的に個性に同調するようになってるから試しに個性を発動させてみてくれるかしら、こっちで必要な個所の調整は行うわ」

「分かりました」

 

タブレットを見つめているメリッサの指示を受けながら焦凍は個性を発動させる、普段通りに個性を発動させようとする。氷と炎、仮免試験へと向けた特訓で双方を同時に扱えるようにする訓練をして来た為か今やってみようと思い付きながら冷気と熱気が身体を包み込んでいく、右が凍て付き左が燃え上がる―――がこの時、焦凍は今まで体験した事がないような物で漲る自分に驚いた。

 

「―――なんだこれ」

 

氷と炎を同時に扱うと動きが鈍くなってしまうというのが焦凍の弱点の一つだった、それは長年炎を使ってこなかった故の物で林間合宿や仮免試験に向けての必殺技づくりの訓練で緩和されてきたが、それでもまだまだ甘い所があった筈。しかし今そんな感覚は一切無い、寧ろ身体に更なる力で満ちるという実感に戸惑いを感じていた。

 

「凄いわこの数値……元々はエネルギーを氷と炎に変換する筈だけど最初から此処まで……氷と炎を操る個性とのシナジーが完璧になされてる…おっといけない、それじゃあ試してみて、此処は試験エリアだから思う存分にね」

「―――ハッ!!」

 

アンダースローのような動作から氷結を発動させる、その直後―――一瞬で目の前の全てが凍て付いてしまった。

 

「マジか……!?」

 

行った本人ですら驚きを隠せない程の超大規模の凍結、此処が試験を行うエリアであったから良かったがそれでも目の前にあるすべてが完全に氷付けになってしまっていた。そして次にそれらを溶かす為の炎を放つが―――一瞬で目の前が火の海と成り氷を完全に溶かし切ってしまった。元々圧倒的な出力を誇っていたがこれ程の事は出来ない筈だが、可能にしてしまうコスチュームに目を白黒させてしまう。

 

「すげぇっ……」

「まだまだよ、これから貴方に合うように調整していけば更に出力は上げられるし繊細なコントロールも可能になるわ。後そのスーツは飛行に近い跳躍も可能よ、それも試してみましょうか」

「はいお願いします」

 

焦凍は目を輝かせながらも調整に付き合っていく、そして同時に理解する。これ程の力でなければ怪獣災害には立ち向かえないという事実を、それを改めて噛み締めながら緩んでいた気を引き締めながら真面目に調整に向かう。

 

 

「よし調整終了しました、それではどうぞ」

「遅ぇんだクソが」

「まあまあカッちゃん……兎に角つけてみてよ」

 

出久は発目の手伝いをしながら爆豪のコスチュームのメインになると思われる籠手を完成させた、今までの手榴弾のような籠手の数倍は大きい上に重いそれだが爆豪は平気そうな顔をしながら腕を通していく。同時に背中を伝うように接続されているパワーアシストアタッチメントが起動すると重さを全く感じなくなる、それに満足気な声を出しながら軽く腕を振るったりして感触を確かめる。

 

「悪くねぇ……」

 

感触を感じつつも腕を差し向ける。それに合わせて発目が標的を出す、大きな音を立てながらストライク・シリンダーが稼働して空気を圧縮すると同時にその内部へと爆破に使う汗が同時に溜められて行く。初めて使う為か、爆豪は深く腰を落としながら構えを取り、慎重に狙いをつける。そして此処だという時に意思と連動したシリンダーが稼働する。

 

「死ねぇッ!!!!」

 

その言葉と共に圧縮された空気が放出され爆豪によって爆破される。そして起きるのが標的へと真っ直ぐへと向かって行く爆発の火柱、空間を震わせるような爆発は一直線にターゲットへと向かって行くと容易にその中央を貫きながらも爆発の衝撃が一瞬で全体へと浸透していき崩壊させていく光景に出久も言葉を失った。自分の光線とは別の方向性だがとんでもない破壊力だと驚いた。

 

「す、凄い……!!」

「元々は圧縮空気を叩きこんだ際の圧力で相手を粉砕する物だったのですが、そこに爆豪さんの爆破がプラスされてとんでもない破壊力になってますね。爆発の衝撃と爆炎、そして圧縮空気のコラボ、これはライドメカに組み込んでみてもいいかもしれませんね……フフフフフフッこれは私が秘密裏に進めているプロジェクトに組み込んでみても……フフフフフフフフフフフフッ」

「発目さん何考えてるの!?」

 

真剣な顔をしつつ何やら不気味な笑いを浮かび上がらせる発目にあっいつもの発目さんだ、と思いながらも同時に何を考えているのか?!と不安になってしまう出久。それとは別に籠手の威力に口角を持ち上げる爆豪、今のは火力はもっと上げる事は出来る。もっと汗をかいている状態でこれを使ったらどうなるのだろうか、それこそ怪獣にも通用する威力を出せるのではないだろうかと思う。

 

「おいくそ女、こいつを俺の普通のコスチュームにも搭載しやがれ!」

「ええいいですよ」

「いやいやいやカッちゃんヴィラン相手にそれ使うつもり!!?確実に相手死ぬよそれ!?」

「っるせぇテメェには関係ねぇだろうがクソデク!!」

 

 

―――此処が別次元の地球……そしてあそこに……あの人が。

 

 




さあ、新しい展開が始まる……!!


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到来する嵐の始まり

「この後の予定なんですが宜しければ実験の見学を行って貰えませんかね、是非ご意見をお聞きしたいんですよ」

「意見って何を?」

「今現在、この組織の主戦力とされているヒーローの新コスチュームの実験です」

 

コスチュームの調整なども順調も進んで気付けばお昼ごろになっていた。焦凍も爆豪も自分専用へと調整されたコスチュームには興味津々且つそれに見合うようになることを決意しながらそれに協力していた為か空腹に気付けなかったのか案内された食堂で大盛の食事をしていた。そこに発目がある話を持ってきた。

 

「新コスチューム……誰だそのヒーローっつうのは」

「それは見てからのお楽しみっという奴ですよ、ですがこの実験が上手くいけば皆さんにも応用が利きますので意義としては大きな物になります」

「フムッ……では昼食後はそちらに行くとしよう。シールド博士らも其方にいるだろうからな」

 

食事もそこそこに再び訪れたテストエリア。一つの街並みが再現されたようなそこはまるで雄英の運動場βのようだがそれよりも遥かに規模が大きい。流石に規模が違う事を改めて再認識させられながらも発目が指差された先に現在の主戦力とされているヒーローの姿があった。

 

「あれって……Mt.レディ!!?」

『あの時のお嬢さんか』

 

そう、そこに居たのは新進気鋭のニューヒーローとして注目を集めていたMt.レディであった。組織が作られると聞くと真っ先に賛同の声と参加を表明し積極的に実験や調整などに参加し続けていた彼女は個性の関係もあって戦闘実働部隊の中心のような立場にあった。

 

「ライドメカの完成はまだ先ですからねぇ……今はあの人が主戦力ですね」

「確かにMt.レディは2062㎝まで巨大化出来る個性持ちだけどそれでもサイズ的な問題は拭えないと思うけど……」

「ウルトラマンも怪獣連中も大体50m級だ、役に立つのか」

「手厳しいご意見で。その辺りも考えてますよ」

 

保須に出現したツルク星人、それですら怪獣としての姿は54mもあった。Mt.レディの倍以上の体格となる、それに対して戦力に成り得るのかと怪訝そうな表情を浮かべる爆豪に焦凍も保須でその現場を見ているので同意を浮かべてしまう。それでも見ていて欲しいと言うので見続けているといよいよテストが始まる。

 

「行きます……デュオッ!!!」

 

静かに意識を集中させていくMt.レディ、静寂の中にありながらも力強く放たれた声はマグナのリスペクトなのかそっくりだったので思わず出久とマグナは苦笑いを浮かべてしまったのだが直後それが掻き消えてしまった。稲妻のような奔る光の中で巨大化している彼女、そのサイズはビルと並び立つ程だった筈なのにビルを追い越して40m級の大きさにまで至っていた。

 

「せ、成功よっ……やっと成功した!!」

 

ガッツポーズをしつつ研究開発部がいる方向を見るとそこでも大歓喜の嵐だった。漸くここまで来る事が出来たと皆が喜び合う中で発目も同じようにガッツポーズをしながら喜びを露わにしていた。Mt.レディのコスチュームにも彼女が関わっているからだろう、本当の意味で怪獣に対抗出来るヒーローが生まれた事は大きな一歩になると歓喜する中でナイトアイが説明を求める。

 

「ズバリ、あのスーツは着用者の個性を増幅するんです!!これは元々シールド博士が研究していた物らしいんですけど地球のためにとそれを流用しつつも私の技術をアレンジしつつ加えて完成したのがあちらなのです!!」

「I・アイランドでのあれか……」

 

I・アイランドでの一大事件。それの中心に関わっていた技術が今度は人々を守る為の力となる、正しく技術という物は使う人間によって善にも悪にもなるという事が良く分かる。そして次の実験がそのまま行われる事になった。

 

「それではゴホン……サイバーカード、インストール!!」

【CYBER-ELEKING ロードします】

 

デヴィットは手にしているデバイスにカードをセットされるとMt.レディが纏っているコスチュームへとデータが送信されていく。それと同時にその周囲にデジタル的な青い光が奔ると一瞬で鎧の形へと変貌していきながらその身体へと装着されていく。黄金色に輝く右腕のアームに左肩にはエレキングを模した頭の装甲、それこそが嘗て発目が体育祭で披露したモンスアーマーの試験採用型のモンスアーマー。

 

【CYBER-ELEKING-ARMOR.ACTIVE!!】

 

「実体化、してる……!!身体にもなにも違和感もない……デヴィットさん成功ですよこれ~!!!!」

 

右腕のアームを振りながらも興奮したように声を張り上げるMt.レディに呼応するように開発部からも更なる声が上がった。何れライドメカにも対応できるようにする予定のモンスアーマー、その第一歩が、大きな一歩が無事に踏み出す事が出来たという事実が大きな想いとこれからの力になるのだと思うと感情があらぶってしまう。

 

「これは凄い……今は彼女だけだが将来的には怪獣に対する明確な対抗手段と成り得るだろう、しかしあのアーマーはユーモアも兼ね備えるとは素晴らしいな」

 

ナイトアイ的にもモンスアーマーの肩のエレキングは中々に高評価らしい。

 

「もしかして発目さん、僕たちもあのモンスアーマーって使えたりするの……!?」

「当然!!近中遠の全てを取り揃える予定ですよ、フッフッフッフッ……私来てますからね、もっともっとパワーアップしますよぉ……!!」

 

久しく出るマッドな発目の笑い声、それを聞いて何故か安心感とまた自分が頑張らないとなぁという思いが沸き上がり気合を入れる出久。そんな出久の肩を叩く焦凍と爆豪。続けてモンスアーマーの稼働実験へと移行してエレキングアーマーの特徴である電撃放出を行おうとした―――その時だった……それは突然現れた。

 

 

「な、何っ!!?」

 

空から現れたそれは雲を引き裂くように地上へと激突しながらも明確的な敵意を纏いながらゆっくり身体を起こした。漆黒のボディは宇宙空間の暗黒空間を想起させる、その中で妖しく鋭く輝く紅い閃光のような瞳が周囲を見つめながら標的を探すかの如くだった。

 

「うっひゃあああああああああああ50m級の人型ロボットのご登場ですかぁぁぁぁぁ!!!!???やっべえええ超研究したいぃぃぃぃ!!!!」

「言ってる場合かクソ女ぁ!!?」

「おいおいマジか!?」

「まさか、このような事が起ころうとは……!!」

 

皆が驚く中、出久の中にいるマグナは真っ直ぐとそのロボットを見据えた。彼はそれを知っている、一体何者が作り、何の為に作られたのかを……嘗て全宇宙制覇を目的として覇道を突き進んだ銀河帝国の尖兵として生み出されたロボット怪獣―――帝国機兵 レギオノイド。全身が黒で統一されてこそいるが間違いなかった。

 

それと戦う為に出久は隙を見て指輪を掲げようとする―――レギオノイドは何かを見つけるとゆっくり歩み始めるが同時にレギオノイドを追いかけてきた光が現れた。それは―――

 

『あれは、まさか……!?』

 

『―――もう逃がさねぇぜ……もう容赦しねぇぜ、さあブラックホールが吹き荒れるぜ!!!』

 

頭部に輝く二本のスラッガー、銀に輝くプロテクター、そしてその身に纏う鎧をブレスレットにしながら拳を鳴らしたウルトラマン―――ウルトラマンゼロが降り立った。




みんな大好きゼロ様、ゼロ師匠ことウルトラマンゼロのエントリーだ!!

えっ前回のラストでゼロはこんな事言わない?大丈夫あれゼロじゃないから、じゃあだれかって?それは―――おっと、これから先は皆さんには未来の話でしたね。ですので次回を御楽しみにお待ちください。


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思わぬ来訪。

出現した巨大ロボット、レギオノイド。それを追うような形で登場した新たなウルトラマンに組織の皆が目を奪われていた。そもそもこの組織は人類は人類の手で守らなければならないのとウルトラマンと共に戦う為という目的があった。まだ形にもなり切っていないが突然その機会が生まれてしまった事に驚愕している。それが最も強いのはMt.レディだろう。

 

「また、新しいウルトラマン……もしかしてマグナ様のお知り合い……!?」

 

思わずそんな言葉が口から出た、そんな言葉に応えるかのように眩いばかりの光が突然現れた。それは地響きと共に大きな土ぼこりを巻き上げながら着地するとゆっくりと身体を起こすと目の前の存在へとファイティングポーズを取る。そしてその姿を見てMt.レディは溢れんばかりの笑顔を輝きとハートを浮かべながら蕩け切ったガラスのようなラブコールを発信した。

 

「マグナ様ぁぁ♡♡♡」

 

『おっマグナじゃねえか。っつう事はマジで此処はオーブの言ってた宇宙か……わりぃ野暮用持ち込んだ』

『久しぶりゼロ君、何気にしなくていいさ。それに君と私達なら不可能なんてない、だろ?』

『へっ流石はマグナ先生だな、話が早くていいぜ』

『おいおいゼット君みたいな事言わないでくれないかな』

 

隣に立ちながらも気軽な会話をし続ける二人に圧倒的な余裕を感じる出久。それにゼロという名前には聞き覚えがあった。確かウルトラセブンの息子にしてレオの弟子、そして光の国における若手№1戦士で数々の伝説を打ち立ててきたウルトラマンだと。

 

『私の相棒の話もしたいけど、それはあれを何とかしてからにしようか』

『おうよ、確か出久って名前だったか。後でじっくり聞かさせて貰うぜ!』

「はっはい!!兎も角今はこいつを……!!」

 

 

「ディァッ!!!」

「シェァッ!!!」

 

雄たけびを上げながら共に作られた街を掛けながら漆黒の帝国機兵へと向かって行く。不気味な機械音と共に振り返ると肩から腕、膝からミサイルを一気に展開すると一斉に発射する。だがそれらは自分達を狙っての物などではない、周囲の人間たちへの物だと素早く二人は見抜いた。

 

「デュッセヤァッ!!!」

「ォォォデュォッ!!!」

 

自らの頭部に携える二本の刃、ゼロスラッガーを素早く浮かび上がらせるとウルトラ念力で操作しながらミサイルを切断し空中で爆発させていく。八つ裂き光輪(マグナスラッシュ)を連続で放ちそれらをゼロと同じようにコントロールしながらミサイルを撃墜していく。そして全てを打ち落とすと同時にレギオノイドへと向かわせるがロボとは思えないしなやかな動きで連続した回し蹴りでスラッガーを弾き、同時に放つ裏拳で光輪を砕いてしまう。

 

『どうやら唯のレギオノイドではないらしいね』

『ああ、バット星人が改造した改修型だ。そいつ自体は倒したんだがこいつを逃がしちまって……』

『やれやれ、君もバット星人とは縁があるね』

 

確かにバット星人が手を加えたのならばこの強さも納得が行く。本来レギオノイドは量産タイプ、ゼロならば簡単に倒せる程度の相手の筈なのに取り逃した時点で何かあるとは思っていたが……流石にこれは予想外だ。気を抜く訳には行かないしこれ以上此処で好きにさせる訳には行かない。

 

『出久君、油断せずに全力で倒しに行くぞ!!』

「はいっ!!!」

 

力を開放する、カラータイマーから溢れた八つの閃光。それはマグナを包み込んでいくと天にも届く光の柱となって雲を割って宇宙(そら)を目指して一直線へと伸びていく。その光の中でマグナと出久は並び立ちながら先人たちと共にありながら叫ぶ。

 

「願うは平和!!!」

「悠久の想い!!!」

 

 

『「マグナァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!」』

 

 

光の柱の奥から姿を現したウルトラ・フォー・オール・フォームのマグナ、それを警戒するように先程よりも数を増したミサイルを全身から放出するレギオノイド。ゼロは再びスラッガーを飛ばそうとするがそれよりも早く、胸の宝玉の一つが輝きを増して行く。

 

「デュォッ……ォォォォッッッ……!!」

LEGIONIS・LUMEN(レギオニス・ルーメン)!!!』

 

腕を広げながら腕から無数の閃光の鞭を展開させる、撓る鞭のように激しく動き回る光は的確に全てのミサイルへと向かって行く叩き落としていく。そしてその奥に鎮座するレギオノイドへと炸裂していく。超高速で畳みかけられる光の連打にゼロスラッガーと八つ裂き光輪に耐えうる装甲が一気に傷ついて行く。ミサイル発射管が全て潰された事に危険を感じたのか一気に接近しながら両腕を回転させながら殴り掛かろうとするが、それをゼロが受け止める。

 

『おい俺を忘れんじゃねぇよ、寂しいじゃねぇかよ……!!そんだけ忘れてぇなら永遠に忘れさせてやるぜ!!!』

 

ガッチリと挟み込むかのようにしながらそのままレギオノイドを力任せに持ち上げると回転して投げ飛ばすゼロ、天高く放り上げられたレギオノイドはそのまま逃げようとしたのか各部から炎を噴き出そうとするがマグナの一撃によって各部に異常が起きたのか動けなくなっていた。それを二人は見逃さない、マグナはゼロの隣に立ちながら構えた。

 

『これで終わりだ、ワイドゼロショットォ!!!』

『VINCULUM・RADIUS!!』

 

二人の光の巨人から放たれていく光線の嵐。放たれた二つの光線は螺旋を描きながら融合していきレギオノイドへと到達し、青空に巨大な火柱を生み出した。それを見届けるとゼロはレギオノイドの先に遭った何かを見つけるとそれへと光を当てた後にマグナと共に空へと飛び立って行った。

 

「ハァァやっぱりカッコいい……マグナ様ぁ……やっぱりオファー受けて正解だったぁっ♡♡」

 

それを見送り続けていたMt.レディは目にハートを浮かべたまま空に去っていったウルトラマンの軌跡を見つめて続けるのであった……そしてそのウルトラマン二人は……誰もいない山中へと場所を移していた。

 

そこでは出久とマグナの人間態の前に一人の男性が立っていた。スーツを纏っている為か何処かの会社に勤めているサラリーマンと言った風貌だが、自信に溢れながらの鋭い瞳からそれはあり得ないといった雰囲気がある。

 

「紹介するよゼロ君、此方が私の相棒の緑谷 出久君」

「よぉっオーブから話は聞いてるぜ、随分と根性があって教え甲斐があるって言ってたぜ。ウルトラマンゼロだ、宜しくっ!!」

「み、緑谷 出久です!!」

 

元気よく挨拶した出久に対して気軽に手を差し伸べながら返しをするゼロにガイとは別の意味で接しやすさを感じる出久。ゼロの伝説を聞いていただけに凄く威厳に溢れている人なのではないかと思っていたのだが……学校の先輩のような感じの人で少しホッとする。因みに今の姿は以前地球に行った際に身体を借りた伊賀栗 レイトという男性の姿を借りているらしい。

 

「色々面倒掛けちまって済まねぇな、だけど助かったぜ」

「どう致しまして、この位なんでもないよゼロ君。しかしあのレギオノイドは何を狙っていたんだい?」

「あっそう言えばさっきもゼロさん、何かを隠すみたいな事をしてましたけど……」

「ああ。地球には余りバレない方が都合がいいからな、ちょっと小細工させて貰ったぜ」

 

ゼロが指を鳴らすとその背後でその小細工がなされた物の正体が明らかになっていく、それを見た時にマグナが目を見開くように驚きの声を上げてしまった。

 

「こ、これって光の国の脱出カプセルじゃないか……しかもこれって王室専用機!!?」

「えっえええええっ!!!?そ、それじゃあこれってマグナさんの故郷の王族の人が使う物なんですか!!?」

「そう言う事だな、丁度御勤め中の王族をバット星人が拉致しようとしやがってよ……しかも多分もっと驚くと思うぜ」

 

緊急脱出用のカプセル、それでも地球人基準で考えれば相当に大きいそれだがウルトラマン基準では小さすぎる。故にエネルギー消費などを抑える為に他の姿に変わったりするのはよくある事だが……開け放たれた扉の先にいたのは地球人と同じ姿をした煌びやかなドレスを纏った美しい女性だった。思わず出久は言葉も忘れて見惚れる中でマグナだけが顔を僅かに歪めていた。

 

「漸く、お会い出来ましたね……マグナ様」

「……まさかこのような形でお会いするとは思いもしませんでした―――カトレア王女」

「え"っゼロさんもしかして……」

「オーブから軽く話は聞いてるだろ?この人は光の国の王女の一人、カトレア王女だ」

 

出久もその名前は良く知っていた、何故ならばその名前は……ガイから聞いたマグナのお見合い相手の名前なのだから……。




という訳で今回エントリーしたのはゼロ師匠だけではありません。そうマグナさんのお見合い相手のウルトラウーマンカトレアさんもエントリーです。

此処からマグナの光の国での話やらも加えていきます。


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光の国の王女と光の国の勇士。

「はい、はいそうです……マグナさんのお知り合いでして今詳しいお話を聞いてるところで……すいません上手い事、はいお願いします……」

 

ナイトアイに話を通して何とか誤魔化してくれるようにお願いする。幸いなのがレギオノイドの一件で基地は大騒ぎそして今は爆散したレギオノイドを回収している最中。出久の事は早速発目に捕まったという事にして焦凍を誤魔化してくれているらしい、こうなると爆豪にも話を通していた事は正しかったと思いながら電話を終えるとゼロがお疲れさんと肩を叩く。

 

「やっぱり正体を知っててフォローしてくれる仲間が居るってのはいいもんだな、メビウスも言ってたぜ」

「多分これからはこういう事が増えて行くでしょうからその辺りも万全にしてくれるそうです、それでその……向こうの方は……」

「ああ、カトレア王女様がご満悦でマグナと話してるぜ」

 

指を指す先では森の中に差す太陽の輝きの下で嬉しそうにしている煌びやかなドレスを身に纏った見目麗しい絶世の美女であるカトレア王女と困ったような顔を浮かべているマグナが話をしている。

 

「まあしょうがねぇだろうな、カトレア王女はずっとマグナとのお見合いを楽しみしてたんだからな。任務の都合で時間が取れなかったとはいえ会いたがってた、それが幸か不幸か叶ったんだからな」

「やっぱり、マグナさんって光の国でも凄いんですか」

「そりゃそうだ、お前も聞いてるだろUキラーザウルスの事」

 

当時、光の国では相当に話題になった。あのウルトラ兄弟を苦しめた究極超獣が復活しただけではなく光の国の命ともいえるプラズマスパークと同等と言っても過言ではない研究中の人工太陽を取り込んだUキラーザウルスを倒した勇士たちの活躍。その栄光を称えて最高クラスの名誉勲章であるスターマーク勲章を授与される事が真剣に検討される程の大偉業。尚、もれなく全員が身に余るとして遠慮している……。

 

「そんなすげぇ事した男が人気でねぇ訳ないだろ?」

「た、確かに……」

「それでもネオスにセブン21、マックスにゼノンはある程度浮ついた話はあったんだけどマグナは全然なかった。まあ普通に忙しかったのもあったんだろうけど……それに当時はアサリナの事もあったしな」

「アサリナさんの事、ですか……」

 

アウローラからの攻撃を庇ったアサリナの死。それも影響してかマグナは唯只管に任務に打ち込み続けていた、そのショックを忘れる為に任務に没頭しているようにしか見えなかったのだ。そこで少しでも別の事に目を向けて貰う為に行ったのがマグナに対するお見合い話であった。

 

「それでお見合い……でも王族の方である必要はあったんですか?」

「そりゃ簡単に断らせない為だな。上司の面子を保つ為にも断りを入れる訳にはいかないだろ」

「成程……」

 

 

「こうしてお会いするのは初めて、になりますね」

「誠に申し訳ありません」

「いえマグナ様が任務でお忙しい事は重々承知しております。それに私などよりも多くの方を救う為の任務を優先なさるのは当然の事です、胸をお張り下さい」

「恐縮です……」

 

ゼロと共に向ける視線の先では微笑みを浮かべるカトレアの言葉に頭を下げながら困るマグナという見た事も無い光景に出久は唖然とするが、相手が相手だからしょうがないのかと同時に納得も浮かび上がってくる。

 

「しかしカトレア王女様、私に様付けをするのは……私は宇宙警備隊の一隊員です、どうぞマグナと呼び捨てなさってください」

「あらっ光の国に名を轟かせる勇士様には当然の事です、御謙遜なさらないでください」

「しかし……」

 

「マグナさんが手玉に取られてる……」

「おおっレアな光景だぜ」

 

この時ばかりは暢気な事を言っている二人に対して僅かに苛立ちが沸き上がってきたマグナ。フォローとかしてくれても良いじゃないかと思うが、これも今までお見合いをすっぽかしてきたツケかと諦める事にした。それにしてまさかこの別次元の地球で本来すべきだったお見合いをする事になるとは思いもしなかった……。

 

「私にとってこの状況は予期せぬ事でした、本来の公務へと速やかに戻るべきなのですが……生憎宇宙船はバット星人に破壊され、緊急脱出カプセルはこの通り。ゼロのお力をお借りして元の宇宙へと戻るにしてもある程度時間を待って行動に移した方が良いでしょうね、襲撃の事も考えると最悪の事態になりかねません」

「だろうな、そもそもこの宇宙に来ちまったのも事故みたいなもんだが……バット星人の策略って事も考えれる。慎重に行動して救助隊を待つのがベターだな、幸いな事にオーブのお陰で次元刀のデータは十分に集まってるだろうし直ぐに助けは来るだろう」

 

ゼロの力は確かに強大であることは事実。だが今回カトレアを襲ったバット星人の軍勢は尋常な数ではなかった、それと同じ数が襲いかかってきたとして撃退はゼロ一人で可能だろうが王女を守りながらそれが出来るとは言い切れない。王女を奪われたらそれを盾にして光の国に対してどんな要求が成されるか分からない、それを考慮して王女は素直に助けが来るまで大人しく待つ事にした。

 

「この地球にはマグナ様もいる事ですし、安心出来ますわ。ゼロとマグナ様ならどんな相手にも負ける事などあり得ませんでしょうし♪」

「へへっまあな!!なんたってマグナはマックスが認める勇士だからな!!」

「お、おいゼロ君……というかなんでゼロ君は呼び捨てなんです!?ゼロ君だって十分過ぎる位に勇士というか私よりも功績は上でしょう!!?」

「ゼロから堅苦しいからやめて欲しいと念押しされましたので……」

「ぐぬぅっ……」

 

困惑の表情を浮かべてしまったカトレアに遂に物が言えなくなってきてしまったマグナ。だが王女に様付けされるのもハッキリ言って居心地が悪いというレベルの話ではない。

 

「ではせめてさん付けに変えて頂けませんでしょうか……王女にそのように言われますと……落ち着きません」

「分かりました、そうおっしゃるならそう致します。その代わりにマグナ様も王女と呼ぶのはお辞め下さい、カトレアとお呼びください」

「そ、それは……で、では私もカトレアさんと……」

「はいっマグナさん♪折角ですのでこの地球を案内していただけませんでしょうか?」

「つ、謹んでご案内いたします」

 

 

「な、なんでしょうゼロさん……何か凄いあれな感じがします!!」

「激しく同意だぜ。カトレアって思った以上に強かだな……流石はユリアンの姉貴だぜ……」

 

 

『ムキィィィィィィッッッッ!!!!なんだよ何だよ何だってんだよぉ!!!王女だからって好き放題にやってくれちゃってムガァァァァ!!!!君がマグナの何を知ってるって言うのさ好きな物を知ってるって言うのかい好きな星の名前を知ってるって言うのか僕の方が何百倍もマグナの事を知ってんだよぁっ!!!』

『やれやれ醜い嫉妬だねぇ……親友のお見合いなんだから応援位してやったらどうなんだい?』

『無理ぃっ!菜奈さんだって知ってるでしょ僕がどんだけマグナの事を想ってるのかを!!というかマグナもマグナだと何で僕の気持ちを理解しないんだよぉ!!!』

『それは大体お前さんが男っぽすぎるのとまともなアタックしなかったからだろう、自業自得さね』

『ガッデムっ!!!』



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星 蘭香、星 光士。

レギオノイドという思わぬ存在が襲来した地球、それを追いかけて共にやって来たウルトラマンゼロそして光の国の王女たるカトレア。突然すぎる出会いに流石のマグナも顔を引き攣らせてしまっていた。そしてこの地球を案内する役目を担う事になってしまったマグナは内心で溜息をつきながらも取り敢えず、この地球における安全を確立しなければならないので素直に雄英に協力を仰ぐ事にしたのであった。

 

「M78星雲・光の国から参りましたカトレアと申します。突然のお話ですのに受け入れて頂き、感謝のお言葉も御座いません」

「雄英高校の校長の根津と申します。此方こそ王女であらせられるカトレア王女様には不相応かも致しません、精一杯の努力と歓迎をさせて頂きます」

「いえ、私はこの星においてはよそ者も同然。そんな身である私を受け入れてくださるでも有難い対応です……」

 

校長室にて面談する事になったカトレアに根津はマグナの影響で慣れたのか普段と何も変わらない顔色と声色でそれに応じる。少なくとも雄英にいる限りは安全の保障は確実、不便な事もあるだろうがその辺りについてはカトレアも重々承知しているという事なので胸を撫で下ろす。突然の光の国の王女様の登場に流石のオールマイトも顎が外れそうになっているが……それはしょうがないだろう。

 

「し、しかしまさかこんな事があるなんてね……マグナさんその大丈夫ですか、心なしかお疲れに見えますが……」

「いえ大丈夫です……ただ、まさか任務の都合で作っていたツケが此処で来るのか……と我が身を呪っているだけです……」

 

人間態のマグナは酷く疲れているようだった。彼自身は女性との関りはかなり少ない方だった、あったにしてもそれは任務関係だったりアサリナだったりばかり。無理にでも時間を作って謝罪の為に会っていたら少しでも今の苦労が軽減されていたのだろうかと考えずにはいられない。

 

「地球を見て回りたいとの事ですが、どのように回りたいかなどはお考えですか?」

「いえ、出来る事ならばマグナさんと共に様々な物を見てみたいのです。例え別次元ではありますが地球という星は光の国にとって掛け替えの無い星です、そんな星を見てみたいのです。この星の文化などにも興味はあります」

「宜しければヒーロー科の授業を見学なさいますか」

「まぁっそれは素晴らしいですわ、是非お願いしたいです」

 

と煌びやかな笑みを浮かべながらお淑やかだが何処か幼げな仕草が愛らしさすら纏う絶世の美女、これが光の国の王女か……と根津は内心で思いながらも僅かに赤らむ頬を隠すようにしながらも準備をすることを決めながらも同時に別の事を聞いて置く。

 

「それでしたらカトレア王女の地球人としての名前も考えておいた方が良いでしょう。何かお考えですか?」

「はい、以前妹のユリアンが地球で星 涼子と名乗って居たそうなのです。なので私は星 蘭香と名乗ろうと実は以前から考えていたのです」

 

妹に当たるユリアンが地球に居た頃の話などを聞いて彼女も羨ましく思ったりして色々と考えていたのだろうか少しばかり恥ずかしそうにしながらも答える。それを聞いて少し安心しつつも同時にゼロも俺はタイガ・レイトって名乗るから気にしないでくれと伝えると同時にマグナにも問いを掛けた。

 

「ではマグナさんは星何某になるのかな」

「なっ!?な、何を言うんですか根津校長!?」

「いやだってカトレア王女、いや蘭香さんとはお見合いをする関係なんでしょう。それだったら最初っからそう言う関係にしておく方が色々と楽だと思ったまでなのさ!!」

「まぁっ……そんな、恥ずかしいですわ……」

 

顔を隠しながら言っているが満更でもなさそうなカトレア、これまでの経緯と共に自分とカトレアの関係などについても話したからか根津は明確に彼女側に回ってしまっている。

 

「つってもよ、見合いの段階なんだから別にそこは別でもいいんじゃねぇのか。それに一応出久の叔父って事にしてるらしいし」

「チッチッチッレイト君違うんだよ、これ程の美女を地球の男が見逃がす訳がない。絶対にちょっかいを掛ける筈さ、それに対する保険として既に相手がいるという事を明確にすることも王女を守る事にも繋がるのさ」

「あ~成程……じゃあいいんじゃねそれで」

 

そこはもうちょっと頑張ってくれよ!?と内心で叫ぶマグナだが同時に彼女の身を守る事を考えると理に適っている事だと納得してしまう自分がいる。そのままの流れでマグナの地球での仮の名前は星 光士(こうし)になる事になったのであった。

 

「此処が地球……矢張りこうしてみると光の国とは違う星ですね」

 

話をある程度の所で切り上げ、カトレアを雄英の敷地を案内する事になったのでその案内役をする事になったマグナ。本来そこに護衛としてゼロも加わるべきなのだろうが、根津と話があると断りを入れられてしまった。出久は出久で一度ナイトアイらと合流するなので離れ離れになった。太陽の光を浴びながらまるで躍るように歩きながらも周囲の景色に胸を躍らせるカトレアとマグナ。

 

「ユリアンから話を聞いていましたが矢張りこうして足を踏み居られる事は酷く光栄です、それもマグナさんと共になんて」

「光栄ですカトレア王女……いえカ、カトレアさん」

 

王女と呼ぼうとしたら露骨に渋い顔になろうとするので急いで呼び方を変える、すると笑顔になりながら頷く彼女にこれが乙女心と言う奴だろうか……と思う。ならばとアサリナとのやり取りが参考になるかもしれないと記憶を呼び起こすのだが……

 

「(……駄目だ、全然参考にならない……よく考えたら彼女は何方かと言ったら行動パターンが男性のそれに近かったな……おしゃれとかその辺りにも無頓着だったし……基本コロセウムとかだったし今思うと本当に女っけが無かったんだなアサリナって)」

 

そう思う中でウルトラ・フォー・オールの中での彼女が暴れているが、それに気付く事はない。

 

「出来る事ならば街にも行ってみたいのですが……」

「ご興味がおありですか」

「はい。折角地球に来れたのですから出来る限り文化などに触れたいと思っております、それに折角地球人の姿をしていますからユリアンから聞きました様々なファッションを体験してみたいのです」

「きっとカトレアさんならどのようなお姿でもお似合いになりますよ(やっぱりアサリナが希少な部類だったんだろうな……)」

 

心なしかウキウキとしているカトレアの姿に思わず頬が緩む。彼女としてもきっと王族としての立場などもあるだろうしそれらを完全に忘れられる時間を求めていたのだろう、そして何時までもこのドレスでいるのは目立つだろうからという事も聞くのであった。

 

「どのような服を着てみたいのでしょうか」

「そうですね……途中で見ました女の子の服のような物を着てみたいです、後先程お会いしましたミッドナイトさんなのですが地球では女性があのような格好をするのは普通なのでしょうか?」

「いえあれは彼女が特殊な事例なだけなのです」




『ムッキィィィィッッッ!!!マグナってば僕の事をそんな風に思ってやがりましたのねぇぇぇッッ!!?ンもう冗談じゃないわよォぉおおん!!!』
『どうどう落ち着きなアサリナ、女っぽさ出そうとしてなんか口調が変になってるよ』
『うわぁぁぁぁんマグナの馬鹿ぁぁぁぁ!!!僕がどれだけ好きだったのかも知らなかった大馬鹿鈍感男ぉぉぉぉ!!!』
『いや全部アピールもしなかった自分のせいだよ、アタシでもちゃんと旦那にはアピールしてたよ』
『そうだ菜奈さん結婚してるんじゃん裏切りものぉ!!』
『何でさ』


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マグナの試練。

「(マグナさん大丈夫かな……何だかカトレアさんの相手は苦手っぽい雰囲気だったけど……)」

 

マグナと別れ、久々の一人っきりを味わった出久。翌日になると直ぐに授業になるのだがマグナは常にカトレアの傍にいる為に離れ離れになっている事に違和感を覚えるようになっている。それも数年ずっと一緒だったからだろう、その気になれば念話のような物で会話は可能なのだが……流石にそれをやる程ではない。今もゼロと共に護衛に当たっている頃だろう。

 

「おい緑谷、お前あの後大丈夫だったのか」

「大丈夫だよ轟君。まあうん……解析してリバースエンジニアリングした物を搭載したスーツ実験は頼まれたけどね……」

「大丈夫って言わねぇよそれ」

 

突如出現したレギオノイド、そして新たなウルトラマンの出現は即座に報道され現在はウルトラマンによって倒されたレギオノイドの残骸を回収する事で異星のテクノロジーの解析を行われているという報道がされている……が、実際はその何歩も先を行っておりこのテクノロジーを何処まで扱うかという事が議題となっているらしい。そんな事を話していると相澤がやってきて今日の授業について話されるのだが……それはヒーローインターンについての詳しい説明、その為に大柄で筋肉質な金髪の男にロングヘアに笑顔が絶えない表情が非常に映えている美人、猫背だが何処か瞳に鋭さと凄みを感じさせる男の三人を伴ってやって来た。

 

「多忙の中を態々時間を合わせてくれたんだ、感謝しておけ。現雄英生の中でもトップに君臨する3年の3人、通称ビッグ3だ」

 

ビッグ3。雄英生徒の中で断トツの実力を誇る三強の生徒達、そんな人たちが時間を作って自分達に会いに来てくれたという事に少しだけ緊張が皆に走った。一体どんな個性を持っていてどんなふうに戦うのだろうと皆が思う中で自己紹介がされていく。天喰 環、波動 ねじれ、通形 ミリオ。その三人の紹介が終わると早速インターンについての話がされていく。その説明の為に、インターンで得られる物を体感させる為にBIG3のミリオから戦ってみようか、という提案がなされた。

 

「都合がいい提案だ。通形、そこにとある方の見学をさせてくれ。校長直々の客人だ」

「俺は別に構いませんよ!!」

「宜しい、では全員TDLへ集合」

 

皆がミリオからの提案、インターンによって何が得られて何故インターンに臨むべきなのかを体感する為の物に意気揚々とTDLへと向かって行くのだが……そこで目にしたのは見目麗しい絶世の美女と何処か出久に似ている男、何処かギラついた雰囲気を纏った男が相澤と話している様子だった。

 

「なんじゃああの絶世の美女はぁ!!?あんな人地球上にいるのかよ!!?」

「……完璧すぎるだろ……」

「―――フゥッ……」

「わぁぁぁぁぁ峰田君確りィィ!!!?」

 

「すっごい何あれ何処かのお姫様!!?」

「神話のお姫様みたい……」

「キ、キラキラしとる……」

「ケロォッ……圧倒、されるわ……」

 

と男女に限らず思わず声が漏れる程の凄さを纏う美女に思わず騒がしくなるA組。中には思わず鼻血を噴き出しながら白くなってぶっ倒れる生徒まで現れる程。それ程までカトレアの人間態が完璧すぎるとも言える。完璧なプロポーションに腰まで届くような艶やかな髪、そして纏う空気までが完璧の一言。正しく傾国の絶世の美女。

 

「突然の申し出に対応してくださいまして感謝のお言葉もありません。お邪魔にならぬように努めますのでどうか宜しくお願い致します」

「此方としては授業に邪魔にされならなければ別にいいのでお好きに見学なさってください、それとうちの生徒は騒がしくてすみません」

「いえいえ。とても元気があって宜しいじゃありませんか、未来を担う子どもに必要なのは自分の夢を実現させる為の元気ですもの。寧ろ好ましいです」

「そう言って貰えて有難いです」

 

流石の相澤も背筋を正すようにしながらも何処か緊張した面持ちで相手をしている。溢れる気品に圧されているようにも見える、それを見かねてマグナこと光士が助け舟を出す。

 

「一先ず授業の方に集中してなさってもらって大丈夫です相澤先生」

「いえ、此方こそ……」

「わりぃな、取り敢えずこっちは俺達に任せてくれ」

「……頼みます」

 

と素直に頭を下げてから生徒の方へと早歩きで向かって行く辺り苦手なタイプらしい。ゼロことレイトもしょうがないだろうなと思いながらも初めて着る地球の服に満足気な笑みを溢す。

 

「にしてもこりゃいいな、気に入ったぜ!!ありがとなマグッおっと光士に蘭香」

「お礼なら光士さんに言ってあげてくださいね、貴方の服を全て見立てたのですから」

「と言っても大したことはしてないけどね……大分適当な感じだし」

「いやいや中々良いぜこれ」

 

レイトが纏うのはジーンズに白いシャツの上に暗めな革ジャン、実はマグナが前世で愛用していた組み合わせをまんま流用しただけなのだが……気に入って貰えたようで安心している。寧ろ苦労したのはカトレアこと蘭香の方である。

 

『此方など良いのではないでしょうか?』

『とてもお似合いですよ』

『まあっ彼方のお洋服もとても魅力的ですね!!あらっ此方のも……どれも素晴らしいですね光士さん!!』

『そ、そうですね……』

 

先日の後、何時までもドレスでいたら目立つという事で近場の街という条件付きで許可を得て外に出たのだが……その際に地球の文化に触れたがっていたカトレアはあらゆる物に目を輝かせていた。その相手をするのも大変だったが洋服を選ぶという行為に凄まじい時間と労力が掛かってマグナは疲れていた。

 

『まぁっこれですね以前ユリアンが言っていたゴスロリという物なのですね!此方はとても女の子らしいのに活発そうでいいですね、此方のデザインも素晴らしいですね!!嗚呼っ……どれもこれも素晴らしい物ばかりですね!!』

『そ、そうですね』

『是非光士さんに私にはどれが似合うか見て頂きたいです♪』

『え"っ』

 

どんな服が似合うかなんてハッキリ言って分からない、どれがどれなのかも全然分からない自分にとんでもない無茶振りが飛んできたのである。女性ファッションなんて未知の領域が理解出来るわけもない。だが王女直々のお願いを断る訳にも行かないし此処でヘマする事も出来ないと能力をフル活用しながら此処までの道のりで彼女が憧れていると思われるファッションや王族に似合うような気品さを加味した物を店内で探しつつ、さり気なくどんなものが良いのかを確認しつつ探していった。

 

『素晴らしいです、流石は光士さんですね!!私これがとても気に入りました、これに致しますわ!!』

『それは光栄です……ではそれは私からのプレゼントとさせて頂きます。これまで時間を取れずにいた時のお詫びとこれからも宜しくと言う気持ちを込めまして……』

『まぁっ♪』

 

結果として誕生したのが求めていた動き易そうなパンツコーデを中心にした気品を損なう事も無い完璧な物だった。その為にフル活用された文明監視員、そして勇士司令部としての経験から来る直感に心から感謝するのであった。

 

 

『―――……ゼロ君、そして出久君。君達も将来お相手が出来るだろうから若い今のうちに絶対に覚えておくんだ。前以て女性との接し方を覚えておくんだよ……でないと私みたいに苦労するから……』

『お、おう……帰ったら80先生辺りに聞いてみるとするわ……』

『マグナさん本当に大丈夫ですか……?』

『……Uキラーザウルスと戦った時以上に疲れたかもしれない……』

 

 

「(ウフフッ……マグナ様が選んでくださった洋服……ウフフフッ♪)」

 

そしてマグナは知らなかった。今回の事でカトレアの中での自分の株が更に高まっている事を……そして、マグナ自身がお見合いに対して前向きに考えていると捉えているカトレアが居る事に……。




『やるねぇマグナさん。全く知らない事に対してあそこまで対応出来るなんて……しかも相手の趣向やら何を求めてるまで確りと考えてる……いやぁあれはモテる男だね。アサリナが惚れるのも分かるよ』
『そうですよマグナは何時だって求められれば最高の結果を出すんですよ……でも今回は別に全力出さなくても良いじゃないかぁぁぁっっっ!!!うわぁぁぁぁぁん僕だって、僕だってぇぇぇぇッッ!!』


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授業見学、生まれる誤解?

「皆様本日は突然の見学をさせて頂く事になりました星 蘭香と申します。是非ヒーロー科の授業を一度ご見学いたしたく参りました、僅かな間ですがどうぞ宜しくお願い致します」

 

相澤から見学者の挨拶という事で芯の通っている美しい声に気品溢れる礼をする蘭香、流石は王女というだけあって立ち振る舞いや動作一つ一つに優雅さと気品がある。思わず皆から声が溢れてしまう程、それに続くようにレイトや光士も挨拶をする。

 

「よぉっ俺はタイガ・レイトだ、好きなように呼んでくれていいぜ。まあ端的に言えば蘭香の護衛みてぇなもんだ、そんな畏まらずに気軽でいいぜ」

「星 光士です。ヒーロー科の皆さんのお姿を今日は見学させて頂きます、本日は蘭香さんがご迷惑をお掛けします」

「光士さんは蘭香さんのお相手だそうだ、だからお前ら要らんちょっかい掛けるんじゃないぞ」

 

同じ苗字と言うだけあって予想していた子もいるが、それが明言されると更に騒がしくなってきた。特に男性陣から悔しさの声所か如何やってあんな女性を射止めたのかを聞きたそうにしているのかが大多数。

 

「凄い凄い凄い綺麗~!!!ねえねえ何処かのお姫様だったりするんですか~?後々どんなふうに出会ったとか聞きたい聞きたい聞きたい~」

「ウフフッ有難う御座います、でもヒ・ミ・ツです♪」

「キャ~気になる~!!」

 

「久しぶりだね出久君、いやぁ元気そうで叔父さんは嬉しいよ」

「光士さんも相変わらずですね……おじさんって自称するのやめた方が良いですよ」

「いやいや叔父さんがおじさんを自称しても可笑しくはないでしょう」

 

そんな軽い会話を挟みながらも相澤主導でいよいよ本題へと移る事になった。それはミリオによるインターンによって何が有意義で何が得られるかを実感する為の模擬戦である。早速どんなものが見られるのかワクワクする蘭香、オーブの指導を受けた出久の実力に興味を示すレイト、そして自分なしで何処まで戦えるのかを見る光士。そんな視線の元でいよいよ幕が落とされようとする。

 

「それじゃあ先輩、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いしまァァァすっ!!!」

「さあ一番最初は誰だい?」

「僕だっ―――!!!」

 

真っ先に飛び出したのは出久だった。全身に光を纏ったフルカウルで加速しながら迫っていく、僅かな時間で到達するそれにレイトもほぅと声を上げながら感心するが直後にレイトと光士は顎が外れんばかりの勢いで口を開けながら呆然とし、蘭香も驚きからか目を丸くしてしまった。何故ならば―――ミリオの服が落ちていき思いっきり彼の裸体が露わになったからである。思わず女性陣から声が上がる中でギリギリ下半身を隠しながら大慌てでズボンを履き直す。

 

「ああごめん調整が難しくてね……!!」

「SWALLOW SMASH!!!」

 

大慌てでジャージのズボンを履き直しているミリオ、そこを突くように緑谷の蹴りがミリオの顔面へ炸裂―――しなかった。足がミリオの顔をすり抜けるかのようにしながらヒットする事無く地面を叩き割ってしまった。

 

「すり抜けた!?」

「そういう個性って事か……!!」

「いきなり顔面とは躊躇なしだね!」

「ディァッ!!」

 

透かさず放つ光弾、当然それは向かって行くのだが同じように通り過ぎて行ってしまう。その直後

 

「ならこれなら如何だぁっ!!!」

 

飛び込みながら光弾へ爆破をぶつけて新たな爆破を起こす事で推進力にして一気に加速しながらミリオの懐へと飛び込みながら大爆発をお見舞いする爆豪。そしてそこへ畳みかけるように焦凍が土石流のような勢いで氷と炎を浴びせ掛けて行く、一切の容赦なしの攻撃だが……爆煙が晴れた先には全くの無傷のミリオが笑みを浮かべながら立っていた。

 

「利いてねぇ……!?」

「どんな個性だクソがぁ!!」

「思いっきりも良し、個性の使い方も申し分ない。うんっ流石だよね!!」

 

笑顔を向けながらも一気に駆け出して行くミリオは通り過ぎ様に深々と突き刺さるように拳を叩きこんでいく、重々しい一撃は一瞬で相手を戦闘不能にするほどの威力を秘めているのか受けた者は倒れこんでその痛みに耐える事が精一杯になってしまった。ほんの僅かな一瞬に出久、爆豪、焦凍を残してA組の面々は一瞬で全滅させられてしまった。

 

「おい緑谷、見当付くかあの個性!?」

「姿が消えたと思ったら背後、加えて攻撃をすり抜ける―――全然分からない……!!」

「スルーの応用がワープか、ワープの応用がスルーなのか……どっちでもいいが厄介だな……自在に無敵時間を操る個性かよクソが」

「よせやい!!」

 

「レイト君、如何見る?」

「ありゃ多分あいつ自身の技術だな、まあ俺の勘だけどな」

「私も同意見。不可解な点が幾つかある、それを可能とする力というよりも可能とする技術を伴っている感じだね」

 

戦士としての視線でミリオの戦い方を分析する二人。圧倒的な戦闘経験の蓄積がある為か僅かな挙動から癖などを読み取りそこから逆算してミリオの力を考えるなどから感じられるのはスルーやワープを伴う戦いは彼の技術によるものだと確信する。

 

「あれなら仮に人質取られても普通に行動出来たりするな」

「確かにね、一緒に移動できるのかは謎だけど神出鬼没で奇襲する事も出来るだろうね」

「それもありだな。蘭香はどうよ、ご感想は」

「素直にビックリです、お話を伺っておりましたがこのように戦うのですね……」

 

驚きながらも感心するように見つめ続けている蘭香。彼女にとってもこの光景は酷く新鮮に映っている、地球人に特殊な能力がある事自体も興味深いがそれらを使って戦うというのも中々な物がある。

 

「しかし余り洋服には拘りがないのでしょうか、ミリオさんでいいのですよね。ミッドナイトさんのようにあの子も服が」

「いえ違います。ある意味特殊な部類に連続で当たっているだけです証拠に彼だってすぐに纏い直しているでしょう」

「あ~……俺も光士の意見には賛成」

「そうなのですか」

「(……拙い、他の時間に見学して貰うべきだったかもしれん……)」

 

そんな風に相澤が思っている最中にも出久、爆豪、焦凍は協力してミリオに立ち向かって行く。地面を氷や炎で覆ったり、爆破の嵐を巻き起こしたり、光弾を連発しつつもその場に留まる機雷型の光弾を使ったりと考えられる範囲の全てを使ったのだが―――

 

「シェェアアアアッッ!!!」

「おおっこれが噂の光線か!!だけど―――無駄無駄ぁっ!!」

「ガァッ……!!?」

「緑谷の光線すらすり抜けっ―――!!?」

「おい何ぼさっと―――っ!!?」

 

結果的に三人はミリオを倒す事が出来ず、逆に全力の腹パンを受けて同じように倒れこむのであった。

 

「POWERRRR!!!!」




「地球というのは不思議な所なのですね……矢張りもっと知らなければいけませんね」
「そうしてください……ですが彼とミッドナイト氏はあまり参考になさらないように……特殊な部類に入りますので……」
「いやぁ……流石別次元の地球だぜ、すげぇ強烈だ……」


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経験が物を言う、迫る影。

「ギリギリ見えないように努めたから大丈夫だとは思うけど、女性陣には本当に申し訳ない事をしちゃったよね!とまあこんな感じだったけど分かってくれたかな」

「全員腹パンされただけな気がするんですけど……」

 

ミリオの視線の先では腹部を抑え未だに痛みに耐えているA組のメンバー。それらに続くのはミリオについての個性についての声ばかりだった、その個性の強さというよりもミリオ自身の異常な強さに驚きを隠せないと言いたげな面々にミリオは笑顔を作ったままにレイトと光士の方を向いて尋ねた。

 

「レイトさんと光士さんのお二人はどうですかね、俺を見る目は正しく戦士のそれでしたよね!!」

「―――なんだ気付いてたのか、お前も喰えねぇ奴だな」

「ハハハッこれは失敬!!ですけど護衛を名乗るから手練れではないかなとずっと思ってましたよ」

「これは参ったね、あの最中に此方の品定めは終わらせていたという事か。ああ素晴らしい戦いだったよ、個性ではなくその使い方と戦法がね」

 

その言葉に思わず出久達から驚くの声が漏れる中で同じくBIG3の天喰も同じような顔をし、波動は興味津々と言った表情で二人を見つめている。

 

「君の個性はズバリ―――すり抜ける、言うなれば透過じゃないかな」

「理由をお聞きしても?」

「ミリオがワープだと仮定したら可笑しいと思うのは何故空中にワープしないのか、地上ではすり抜けるのか。幾つか推論は立ててたぜ、まあそれ以上に簡単な答えがある」

「出現する瞬間の姿が見えていた、そしてその全てが例外なく地面から現れていた」

「凄いズバリ大正解だよね!!」

 

その言葉に大声で肯定する。そう、ミリオの個性はすり抜ける、即ち透過。攻撃はすり抜け、ワープと思えるような移動は全身を透過させる事で地面の中へと落ちるように入っていく。そしてそこで個性を解除すると物質が重なり合う事が出来ないのか弾かれる、それを利用して高速移動を可能としているとの事。ミリオの個性の正体にも驚かされるがそれを見抜いた二人にも同じような目が向けられる。

 

「だけどよくもそこまで鍛え上げたな、素直に尊敬するぜ。地面の中じゃ何も見えねぇ、つまり全て計算と予測だろ」

「そこまで解っちゃうんですか、いやぁ参ったな一年生たちにちょっと自慢げに語ろうと思ったんだけどハハハッこりゃ大失敗!!」

「えっ……あの光士さんどういう事なんですか……?」

「簡単な事ですよ蘭香さん、透過と言う個性は強い個性ではない。寧ろ―――ミリオ君自身が強い個性へと変貌させたんですよ、さあ大いに語ってくれたまえ」

「これはいいパスを貰っちゃったよね!!それじゃあ言わせて頂いちゃ言おうかな!?」

 

あらゆる物を透過してしまう個性 透過。個性を発動中は鼓膜は振動を透過する為何も聞こえない、肺は酸素を透過し網膜は光を透過、呼吸も出来なければ何も見えない。何も見えず聞こえず息も出来ないような状態であってもミリオは先程たった一人で出久達を圧倒し戦った、経験を積み重ねて弱いとされる個性であったそれを強靭な個性へと生まれ変わらせた。

 

「俺はまごう事ない程にビリだった。今の俺があるのは経験からなる予測があるからこそなんだよね。そしてインターンではその経験を培える!!インターンでは一人のプロヒーローとして扱われ、危険な場にも立ち会うし人の死にも接する事もある。でも得られるそれらは学校にいるだけでは絶対に手に入らない一線級の物だって事は保証するよ!!だから危険でもやる価値はあるよ、1年生!!」

 

そんな言葉を掛けながらも後輩たちを励ましていくミリオに思わずマグナは昔を思い出してしまった。訓練生時代にも同じような事があった、惑星体験入星では比較的安全な星が選ばれるが絶対的な安全が保障されるわけではないし他の惑星に順応する為でもあるので病気へのリスクもある。だがそれを超える価値があると熱弁された事を思い出す。

 

「確かにな、危険だからこそ手を伸ばす価値があるってもんだよなぁ!!」

「レイトもそのような経験が?」

「いやレイトの場合は常に危険と隣り合わせじゃないかな、だって教官が教官だし……それに」

「止めろそれ以上言うなよ絶対だぞ」

 

首を傾げる蘭香。勿論光士は口にするつもりはない、これはゼロの名誉の為でもある。そのまま講義を終わるように締めるミリオ達に便乗するような形でその場を後にしつつ一旦出久の部屋へと向かう事にする。一応で念話で許可は得たしそもそもが自分の部屋でもあるんだからと光士はレイトと蘭香を伴って寮へと向かうのであった。

 

「如何でしたヒーロー科の授業のほどは」

「はいっとても興味深かったです。力の方向性としては私達よりも広い印象ですね」

「それは確かに分かるな」

 

同意見を浮かべつつそれぞれが個性についての意見を述べて行く。ウルトラマンとの力の違い、単純な力だけではない事を話していくとゼロもカトレアも酷く興味深そうな表情を浮かべていく。

 

「そういやよ、マグナにもその個性って奴が宿ってんだろ。アウローラって奴との戦いで」

「ああ、本来は出久君が継承したものなんだけど私も一緒に継承した事になった力……ウルトラ・フォー・オールだよ」

「ウルトラ・フォー・オール、素晴らしい名前ですね」

「もしかしてだけどよ、レギオノイドの時のあの必殺技もそれ関連か?」

 

ゼロが連想するのはレギオノイドのミサイル一斉発射を迎撃したあの光の鞭の乱舞。元々マグナがあのような技を持っていたなんて話は聞いた事がない、ならばあれもウルトラ・フォー・オールによって得た力の一つなのかと尋ねるとその通りだと応えられる。前身とも言えるワン・フォー・オール、その継承者たちが宿していた個性をウルトラマンの力にプラスして扱えるという物。

 

「それに……アサリナも一緒だからね」

「おいマグナそれって……」

「フフッずっと一緒にいてくれたんだよアサリナは、私の中で生き続けていてくれた……そして彼女がいるからこそ今私がいる、ウルトラ・フォー・オールがあるんだ」

「マグナさん……」

 

常に在り続けている、それだけではない程にマグナにとってのアサリナという存在は大きい。それに僅かながらにカトレアはむくれそうになるが直ぐにそれを隠しながら話を別の方向へとズラした。

 

「それでマグナさんはこの地球における防衛チームにもご助力しているとか」

「ええ、色々尽くさせて頂いております」

「おっそりゃ俺も聞きてぇな、オーブからも聞いてねぇし」

「それじゃあどこから話しましょうか……」

 

 

 

―――逃がすものか、貴様は切り札だ。貴様さえいれば光の国をこの手にする事さえ夢ではない……ゆけぇい我が僕よ!!王女を奪うのだ!!!

 

 

―――ピポポポポッ……。

 

―――ゴァァァッッ……。



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地球の為に、迫る脅威。

雄英BIG3のミリオにインターンとしての道を指し示させられた1-A、本来は強くない筈の個性を強靭な物へと変貌させるだけの経験がそこにある。相応にある危険、だがそれを乗り越えた時自分達は何倍にも強くなる事は確実なのだろうと思う中でA組内でのBIG3である出久、爆豪、焦凍は既に道を決めているらしく揺らぐ事も無く進路を既に決めていた。

 

「んじゃやっぱり三人はヒーローインターンには参加しないのか?」

「うん、僕たちはあっちの方に行くって決めてるから」

 

真剣に話や実践して貰った先輩には申し訳ないとも思っているのだがそれでも自分達は地球を守る為の道を進むつもりでいる。

 

「俺は親父に色々言われたが、ヒーローインターンには行かねぇ。あっちに行くつもりだ」

「エンデヴァーに何か言われたってそれ大丈夫なの……?」

「ああ、問題ねぇ」

 

焦凍は父であるエンデヴァーとの確執が続いている、が今回ばかりはエンデヴァーは頭ごなしに否定したわけでもなかった。エンデヴァー自身も保須にて怪獣との力の差を味わっているからこそ息子がそちらの道に進むというのも否定しなかった。だがお前は本当にあれらと戦う気概があるのかと問われなどはした。自分が断固として引かぬ所を見せると思ってもみなかった程にあっさりと引いたとの事。

 

「いやにしてもあの蘭香さんって美人過ぎるよなぁ!!」

「現実なのかって疑うレベルだったもんな……それなのになんていうのかな、作ってるって感じが一切しねぇのも凄いよな……」

「気品溢れる立ち振る舞いがそれを支えているのだろうな!!」

 

インターンへの興味もあるが同じだけ盛り上がっているのは矢張り蘭香に対する物だった。見た事も無い完璧な美女を目にしたのだから無理もないだろう、そしてそれと共に居る光士が叔父なので当然矛先は出久にも向いてくる。

 

「緑谷お前あんな綺麗なお姉様がいるなんて聞いてねぇぞぉ!!!」

「いやぁ僕にも言われてもなぁ……僕も最近知った事だし……」

「ケロッもしかして前に言ってたおじさんってあの光士さんなの?」

「うんそうだよ。いい人なんだけどちょいちょい悪戯してくるんだよね」

 

まさかこんな事に発展するなんて流石に思いもしなかったのだ……本当に。カトレアの来訪は本当に予定外。

 

 

「やあやあやあやあ緑谷さんに轟さんに爆豪さんよくぞいらっしゃいましたですけどすいません今ちょっと手が離せないのでもう少しお時間を頂きますねぇ!!!」

 

次の日、出久達の姿は以前やってきた基地の整備区画へとあった。是非来て欲しいと言われたのでインターンの代わりとしてやって来たのだが……そこにあったのはロボットアニメに出て来そうな巨大ロボットを整備するような格納庫だった。そして発目の超ハイテンションな言葉と共にあったのは―――二人のウルトラマンにとって倒されたロボット怪獣であった。

 

「あれってウルトラマン達に倒されたロボか」

「ええそうよ、爆散したボディを回収して修復中なの。地球とは全く異なるテクノロジーで生み出されたスーパーロボットなんて心が躍っちゃってもう皆休むことを忘れて解析作業をするから大変よ」

「そう言いながらテメェも目に隈が出来てんじゃねえか」

 

バレたかと笑っているメリッサも目の下にはうっすらと隈が出来ており徹夜をしているのが分かる。それだけの存在であるという事は出久達でも理解出来る、それだけこのレギオノイドはこの地球にとってあり得ない程のオーバーテクノロジーの塊。

 

「修復ってこれを如何するんですか?」

「取り敢えず元の形に戻しながらこれを基礎にしながら対怪獣災害想定機動メカを作るつもりよ」

「こいつを基に……?」

 

マグナが聞いたらどんな顔をするだろうか、出久もこのレギオノイドがどんな存在なのかは聞いた。宇宙その物を掌握せんとした銀河帝国によって生み出されたロボット兵、それが地球を守る為の組織によって地球を守る為の力の根幹を成そうとしている。何て皮肉な事だろうか、レギオノイド自身もそんな事になるなんて思ってもみなかっただろうに……。

 

「使いもんになんのか」

「ええ大丈夫な筈よ、それにこれは仮にもウルトラマン二人に対して渡り合う事が出来ていた。それだけの物を捨ておくなんて勿体ないもの!!」

 

目を輝かせているメリッサはそのまま作業へと参加していくのだが、本音は絶対技術者として未知のロボットを解析したいに溢れているんだろうなと察する事が出来た。そんな所に光士が手を上げながらやってくる。

 

「やぁっ三人とも」

「あっ光士さん」

「レギオノイドの見学かな」

「レギオノイド……それが此奴の名前か」

「そんな風にデータがあったらしいよ、もしかしたらこいつは量産型だったかもしれないって騒ぎになってたらしいよ」

 

雄英に滞在していたのだが、より盤石なセキュリティが敷かれている此方へと引っ越してきたとの事。加えて此処にはナイトアイなどもいるので今後の事も相談しやすく都合がいいとの事。実際今はゼロがナイトアイと話を行っている。

 

「光士さんとしては如何思います、レギオノイドの事」

「別に良いとは思うよ、それだけ危機管理意識が上がっているという事でもあるしウルトラマンの力に依存しようとしていないって事でもあるからね」

 

そう言いながらウィンクする光士に出久は胸を撫で下ろした、暗に気に入らないかと尋ねたつもりだったがそんな事がなかった事に安心した。別の意味で不安は抱いたりしていたりするが……其方は気にしてもしょうがないし考えないでおこう―――そんな時だった。けたたましい何かを掻き立てるようなサイレンが鳴り響いた。

 

「ンだこりゃ!!?」

「緊急警報のサイレン!?」

 

地球人にはいまだ届き得ない領域から舞い降りてきた、彗星のような青い輝きを纏いながら大地へと激突した。ゆっくりと身体を持ち上げるようにしながらそれは立ち上がり不気味で無機質な電子音のような声を上げながらその姿を露わにした。その隣からは自らの力を誇示するような巨大な雄叫びが周囲に木霊する。

 

 

本当に一つの生命体なのかと思いたくなりつつもそれは一つの生命体だと思うような矛盾を抱く。統一性が無いにも拘らずあたかも最初からこの姿だったのだと叫ぶようだった。全てが己の物だと叫ぶその姿は正に―――暴君。

 

 

相手を威圧する漆黒の身体、銀色に波打つような四肢、悪魔か獣か区別がつかぬような二本角、金色に輝く頭部と胸、不気味且つ無機質なその音は相対する者の終わりを告げるような……我は終わりを告げる者だと。

 

嘗て、ウルトラ戦士の中でも伝説として扱われるウルトラ兄弟。その者達を倒した怪獣、それが地球へと降り立ったのだ。

 

―――行け、全てを破壊し王女を炙り出し今度こそ確保するのだぁ!!

 

 

―――ピポポポポッ……ゼットン……。

 

―――ギィィィッゴァァァァァ!!!

 

 

 

宇宙恐竜 ゼットン、暴君怪獣 タイラント―――襲来。




バレバレだったと思うけどゼットン、そしてタイラントのエントリーだ!!ゼットンは兎も角なんてタイラントなのかって?いやぁ最初はコッヴとかにしようかと思ったんですが……怪獣としての格を考えたらこっちかなぁ……って。


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ゼロ&マグナ、底力。

「ゼットン……」

 

試験エリアに姿を現した黒き絶望、ゆっくりと街を進撃しながらも気まぐれに目についたビルへと放たれていく火球。それは一瞬でビルを爆破し跡形も無く消し去っていく。自らの進む道に邪魔な物など必要ないと言わんばかりの行い。

 

「ギィィッッッ!!!」

 

その隣にて同じように街を我が物顔で進撃し続ける巨大な怪獣、その様は正しく暴君。自らが気に食わぬ物、嫌いな物は吐き出す炎で焼き尽くしていく。そんな二体の怪獣の出現に緊急で完成したばかりのライドメカの出撃準備や訓練用ではある物の迎撃システムを起動させ僅かな間でも足止めを試みるが、ゼットンもタイラントもそれを物ともしない。

 

「わりぃ遅くなった!!だがフザけんなよゼットンにタイラントだぁ!?豪華二本立ても限度ってもんがあんだろうがぁ!!」

 

思わず悪態をつくゼロことレイトに思わず友人達から抜け出した出久と共に居るマグナも同意見であった。仮に一方だけだとしても厄介すぎる相手だというのに双方が揃っているなんて厄介というレベルを超越してしまっている。宇宙恐竜 ゼットン、暴君怪獣 タイラント。嘗てウルトラマンを倒した事がある怪獣として名高い怪獣ら、そのタッグなんて悪夢に等しい。

 

『出久君、アウローラ以来の死闘になるぞ』

「覚悟なんて出来ますよ、僕はマグナさんの相棒ですから」

「へっ良い根性してるじゃねぇか出久、それじゃあ―――行くぜ、シェアァッ!!!」

マグナァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!

 

 

「シェァッ!!」

「ダァァァァッッッ!!!」

 

進撃する二体の大怪獣、その前に立ち塞がるのは二人のウルトラマン。タイラントの前にゼロが、ゼットンの前にはマグナが立ち塞がった。

 

「ギィィィッゴァァァァァ!!!」

「シェェェアアアア!!!」

 

勢いよく走り込んでくるタイラントに真正面から向かって行くゼロ、全身凶器と言っても過言ではないタイラント。その中でも一際目を引くのは腕の鎌と鉄球、それらを振り下ろすがそれを寸前で回避しながらも頭部へと蹴り込んでタイラントの体勢を崩し、それを開幕の号砲とした。

 

『テメェとは妙な因縁がありやがるなタイラント……俺のビッグバンは止められねぇぜ!!』

 

崩れた体勢のまま巨大な耳から矢の光線の雨を放つが咄嗟に飛び上がりながらゼロスラッガーを放ちその耳を攻撃しつつ、スラッガーを手に取ると双剣のようにしながら切りかかる。

 

 

「ゼットン……!!」

「デュォ!!ォォォオオオ!!!」

 

その最中、マグナとゼットンは既に取っ組み合いになりながら激しい戦いを繰り広げていた。放たれる火球を一切恐れる事も無く懐へと飛び込んだマグナ、自信のある格闘戦へと持ち込む事が出来たマグナは剛腕を唸らせながらゼットンの身体へと重々しい打撃を加え続けて行く。それに対してゼットンも素早い動きで対応していくが上を行くマグナに抑え続けている。

 

「ダァッ!!!」

 

飛び込みながらの全体重を乗せた手刀がゼットンの頭部を捉える。大きく後退しながらも怒りを感じたかのように火球を連発する、それに対して光弾を連射しそれらを全てを相殺していく。それにゼットンは驚いたように一瞬動きを止めるが、直後に一気に駆け出してきた。そしてなんと跳躍すると首元へと組み付くとそのままマグナを大地へと放り投げた。

 

「ドゥワァァッッ!!?」

「ゼットォォン……!!」

 

大地へと投げ伏せられたマグナへと馬乗りするかのように何度も何度も手刀を振り下ろしてくるゼットン、そして自分を無理矢理立たせるとそのままドロップキックを繰り出して吹き飛ばしてくる。その最中に咄嗟に超高速の光弾を放つが即座にバリアを展開してそれを防ぐと再び殴り掛かってくる。

 

『何て機敏なゼットンだ……!!』

 

今までにゼットンとの戦闘の経験はあるが此処まで素早く且つまるで武術を思わせるような技量を発揮するゼットンは初めてだ、そして同時に解せた。火球を相殺出来たのもそれが関係している、つまりこのゼットンは―――

 

『「SMASH!!!」』

「タァァッッ!!!!」

 

勢いよく迫ってくるゼットン、跳躍から飛び蹴りを放ってくるのに対抗するようにその蹴りに真っ向から迎撃する。腰の入った一撃はゼットンの攻撃を上回りゼットンを大きく吹き飛ばしゼロと激しい戦いを繰り広げていたタイラントへと激突する。突然の飛んできたゼットンに対応出来ずに共に倒れこんでしまうタイラント。

 

『隙ありだぜ!!ストロングコロナァッ―――ゼロォ!!!』

 

その時、ゼロは紅蓮の炎を纏いながら一気に姿を変えた。太陽の如く燃え上がる剛力の姿、ストロングコロナゼロへと変じながらゼットン諸共タイラントへと重々しい打撃を加えていきながらそこへ超高温のエネルギーを浴びせ掛けて行く。それは徐々に出力を上げていき―――遂にゼロの必殺技へと変じて行く。

 

『ガァァルネイトォォバスタァァァ!!!!』

 

「ギィィィッゴァァァァァァァァァ!!!!??」

「ゼットォォォォォンッッ!!!?」

 

超高熱のエネルギーが堪らないのかゼットンはバリアを展開した。それを見て矢張りだとマグナは思った、あのゼットンは最大の特徴とも言っていい光線吸収能力、そして火球のリソースをゼットンの基礎スペックへと回している。ウルトラ戦士ならば必ずしないと言えるゼットンへの光線攻撃、それを逆手に取った物と言えるだろうが、自分にとっては逆に相手がし易いとしか言いようがない。

 

『ゼロ君、Uキラーザウルスに勝ったあのコンボをやろうじゃないか。君ならマックスと同じ事が出来るだろう』

『よしやってやろうじゃねぇか!!』

 

ガルネイトバスターを中断しながらゼロは姿を変じさせようとする、その瞬間にゼットンはバリアを解こうとしそこへタイラントは両腕の武器を発射しようとするのだがそこへ四方八方から無数の砲弾やミサイルの雨が飛来してきた。空を見ればそこには無数の戦闘機が飛び交い、地上には戦車が列をなしながら一瞬のすきも与えんと言わんばかりの一斉砲撃を行い続けている。

 

「マグナ様、保須で助けていただいた御恩忘れた事はありません。そして今度は私が貴方の助けとなる番です!!行くわよぉサイバーエレキングゥッ……電撃波ぁぁぁ!!!」

 

更にそこへサイバーエレキングアーマーを纏ったMt.レディのモンスアーマーから放たれる莫大な電気エネルギーの奔流がゼットンのバリアへと襲い掛かっていく。その一撃でもとから負荷が掛かっていたバリアには罅が入り始めていく。

 

「総員全力射撃、ぶちぬけぇ!!!!」

 

誰かの声が木霊する、それに合わせるかのように全火力がそこへと叩きこまれていく。レーザー砲が、バルカンが、ミサイルが、電撃波が、持てる限りの全力が叩きこまれていく。それによって罅は一層に刻まれていき―――遂にバリアは瓦解しゼットンとタイラントへと攻撃が一気に殺到していく。

 

『へっこの地球もやるじゃねぇか!!んじゃ締めは決めさせて貰うぜ―――ルナミラクルゼロッ……!!』

 

地球の健闘を称えつつゼロは紅蓮滾る姿が一変、月の優しき光の如き神秘の軌跡を体現する姿、ルナミラクルゼロへと変化する。それに合わせるようにマグナは両腕を合わせる、それは彼自身の最強の光線の発射体勢。それが頂点に達した時、ゼロからスラッガーが放たれそこへマグナの光線が放たれる。

 

『マグナリウム光線!!!』

 

放たれた紅蓮の光線はゼットンとタイラントへと向かって行くが、それを遮るかのようにその間にスラッガーが入り込んだ。が、直後光線のエネルギーを受けたスラッガーは太陽のように赤熱化しながらも無数の数へと分裂しながら一気にゼットンとタイラントへと向かって行きながらその身体を切り裂いていく。全身を切り裂きながらもその周囲を完璧に包囲すると分裂したスラッガーからその中心部へと向けて一斉にマグナリウム光線が放たれていく。

 

『ミラクルマグナリウムスラッガー!!』

 

一点へと放射されていくマグナリウム光線、その中心部にいるゼットンとタイラント。マグナの力を得てパワーアップしたスラッガーの傷、そして放射される光線、それに耐えきることなど不可能。遂に臨界に達した怪獣らは大爆発を起こしながら無へと還っていった。

 

「やったっ!!!」

『いや、まだこいつらを送り込んできた張本人が居るさ』

『駄目だな、もう大気圏を突破して地球圏から逃げてやがる』

 

まだ終わっていないと、言いたい所だったが……肝心要の二体の怪獣を送り込んできた犯人は既に逃げていた。だがゼロは心配いらないと笑った。

 

「ど、どうしてですかゼロさん」

『なぁにこっちの宇宙に来たのさ―――お迎えがよ』

 

 

 

―――バット星人、逃げる事など出来んぞ。覚悟して貰おう。

 

『黙れ黙れこんな所で終わる訳には―――こうなれば貴様だけでも!!』

 

 

火星近くにて一つの爆発が起きた。それを巻き起こしたのは幾つかの船を伴った一人の戦士、そしてその戦士の胸には星の勲章が輝いていた。




バット星人の敗因、ゼットンの育成ミス。


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光の国よりの使者。

その場に居るのは出久、星 光士(マグナ)タイガ・レイト(ゼロ)星 蘭香(カトレア)。ゼットン、そしてタイラントという二大怪獣を撃破してから数時間……彼らの姿は人気のない山の頂上へとあった。

 

「あ、あのマグナさん……これって……」

「ああそうだよ、君にも見えているだろう。私の力の一部を持っている君ならばね」

 

地球人の目には映らない筈のそれが出久の視界には映っている。空を覆い尽くすかのようなそれはまるで昼間に見える月のように青空にうっすらと見えるそれは余りにも巨大な艦のように見える。そしてそこから降りてくる街一つはあるであろう輝きに溢れた艦、そこから一筋の光が差す。艦から注がれる光の柱―――そこからは二人の戦士が顔を見せた。

 

「久しいなマグナ、こうして会えた事は嬉しく思う」

「僕もこうして会えて嬉しいよマグナ」

 

そこに居たのは嘗て、共に戦った地球人の姿を借りているウルトラ戦士にしてマグナの大切な友人達。最強最速のウルトラマン、ウルトラマンマックス。同じ勇士司令部の戦士にしてマグナの親友、ウルトラマンネオス。

 

「マックス、それにネオス。嗚呼私も会えて嬉しいよ。紹介するよ、地球でお世話になっている出久君だ」

「そうか君が……友が世話になっているらしいな、ウルトラマンマックスだ」

「ウルトラマンネオス、話位は聞いてるかな」

「みみみみっ緑谷 出久ですぅ!!!こここここちらこそマグナさんからごごごごご御高名はかねがねお伺い、しております……!!」

「おいおい出久お前、テンパりすぎだろ」

 

呆れるような顔をするゼロだが出久からしたらマグナから聞かされていた凄まじい戦士たちが目の前に居るのだから無理もない、唯でさえ自分の目には人類が何百年かけても到達出来ないような領域の世界が広がっているのだ。緊張するなという方が難しいだろう。

 

「しかしまさか君達がカトレアさんの迎えとは……流石の戦力だね」

「我が星の王女様をお迎えするんだ、相応の者が選ばれる。それに偶然抜擢されただけの事さ」

「でも何時の間に名前で呼び合う関係になったんだい?僕達が来る間に意外に進展してたんだね、ちょっと安心したよ」

「んんっ!!その辺りはまあ今度という事で……」

 

無理矢理話をぶった切るマグナにマックスはやれやれと言わんばかりに肩を竦め、ネオスは親友を見るカトレアの視線からしてこれは中々に進展している事を察して心からの祝福を浮かべるのであった。親友のそれに全く混じりっけ無しの善意100%なので何か言いたくても何も言えずにいるマグナをさておくようにまた一筋の光が降り立ってくる、それを感じ取るとマックスとネオスは光の出口を挟むように立つとそこから来る人物を出迎えた。その人物は―――

 

「久しぶりだなウルトラマンマグナ」

「お久しぶりですゾフィー隊長」

 

温和そうな笑みを浮かべながらマグナとの握手に興じる男性、彼こそがマグナをこの地球へと送り出した張本人。ウルトラ六兄弟の長男にして宇宙警備隊の隊長を務めるゾフィー、その人。その名を聞いて出久も思わず喉を鳴らした。今目の前に居る人こそが宇宙警備隊隊長ゾフィー、自分とマグナを引き合わせる切っ掛けを作ってくれた自分の大恩人とも言える人、そんなゾフィーは一切気取る事も無く優しい笑みを浮かべたまま出久へと歩み寄ると同じように手を差し伸べた。

 

「君の話はマグナからの報告で拝見させて貰っているよ緑谷 出久君。君には随分とマグナはお世話になってしまっているらしい、そして君もよくぞカトレア王女を守る為に力を尽くしてくれた。是非お礼を言わせてほしい」

「い、いえ僕なんて全くお役に立ててませんよ!?それに寧ろ僕なんてマグナさんには助けられっぱなしで、それに……寧ろ僕はゾ、ゾフィーさんにお礼を言いたいぐらいです。貴方が居なかったら僕はマグナさんと出会えませんでしたから……」

 

伝えたい気持ちを言葉に込める、感謝を込めながら言葉を送るとゾフィーはその心に敬意を示しながらそれを笑みと共に受け取ってくれた。

 

「ゼロ、マグナ。ゼットンとタイラントという怪獣を相手によく戦ってくれた、あのままでは王女はバット星人に拉致されていた事だろう。感謝する」

「へへっ大したこたぁねぇよ、俺とマグナにかかりゃ例えあの2体だとしても敵じゃなかったぜ」

「流石にゼットンを見た時は驚きましたが、幸運な事に戦い易かった相手で助かりましたよ」

「そうか……兎も角王女の身が安全で良かった」

「はい、ゼロとマグナさんのお陰で私には傷一つありません。それに事故とはいえマグナさんとお会い出来ましたし地球にて楽しい思い出も出来ました」

 

その言葉にゾフィーもほぅっ?と何処か興味深そうな表情を浮かべつつもそれを悟れぬようにそれは何よりです、と繕いながらも笑顔と共に別の笑みを浮かべるという器用な事をする。尚マグナにはバレている。

 

「(くそぉ……サコミズ隊長の顔だから他意があるように余計に思えない……!!)」

「さてマグナ、私達はこれから王女と共に光の国へと帰還する」

「私はまだこの地球にてやる事が残っております、それに出久君との約束もまだ果たせておりません」

 

君も一度帰還するか、という言葉よりも先に否定の言葉を告げる。まだこの地球にはまだ魔の手が潜み続けているかもしれない、それを放置して去る事が出来る程に自分は薄情ではないし出久が立派なヒーローになるまで共に居るという約束もある。ならば自分が地球に残る理由はあるが離れる理由はない。それを聞いたゾフィーは君ならきっとそう言うと思っていたよと言いながら手に光を集わせながらマグナへと向けてそれを飛ばす。そこにあったのは3枚のウルトラメダルだった。

 

「君の手にはアウローラから奪取したゼットライザーがある。ならばそれはこれからの君達を、いや地球を守る一助と成り得る筈だ」

 

譲渡されたメダル―――マックス、ネオス、ゼノンの力が込められている。同時にこれを預けてくれる信頼に応えなければならないと出久と共に頷きながら戦う事を誓う。それを確認すると満足気に頷きながらカトレアをエスコートするようにしながら光の柱へと向かって行く。だがゾフィーに許可を取って最後にマグナの前へと立った。

 

「出久君、貴方にもお世話になってしまいました。短い間でしたが心よりの感謝を」

「い、いえ!!どうかお気を付けて!!!」

「マグナさん、短い間でしたがこうしてお会い出来て心より嬉しかったです。次は光の国にてお会いできる事をお祈りしています、今度は出来るだけ延期はご遠慮してくださると嬉しいです」

「ど、努力させて頂きます」

「それでは―――また会える日をお待ちしております、マグナさん」

 

チュッ♡

 

『んなぁっ!!!!???」

『おやおやっ』

 

「フフフッこれはいい報告が出来そうだね」

「なんだ隅に置けないじゃないかマグナ」

「「おおっ!!」」

 

 

最後の瞬間、マグナとカトレアの距離は無くなり静かに水音が響いた。それを見た出久は顔を真っ赤になり、ゾフィーは微笑ましそうな顔をし、マックスは何処か愉快そうな顔をし、ネオスとゼロはガッツポーズをしながら声を上げた。肝心のマグナは目を白黒させて何が起きたのか理解出来なさそうにしながら目の前で太陽のように輝く笑みを浮かべるカトレアに見惚れた。

 

「また、お会いしましょうマグナさん。今度はもっと色んな事をお話ししましょう」

「えっあっ……はい、喜んで……」

 

光の中へと入っていくカトレアとゾフィー、それに続くようにマックス、ネオスが入り最後にゼロがじゃあなと告げながら入っていく。光は直ぐに消えると空を覆っていた艦はあっという間に地球の外へと飛び立ち、月軌道上で待機していた本艦と合流するとあっという間に見えなくなっていった……。

 

「あ、あのマグナさん大丈夫ですか?マグナさん?」

「……フゥッ―――」バタッ!!!

「わぁぁぁぁぁマグナさんが倒れたぁぁぁあ!!?大丈夫ですか確りしてくださいマグナさん!!マグナさん!?マグナさああぁぁぁぁぁん!!!」

 

顔を真っ赤にして倒れこむマグナを他所に光の国の艦は次元の壁を超えて元の宇宙へと戻って行く。その船の中でカトレアは愛おし気に唇に触れると笑みを浮かべながら隣のゾフィーへと地球での出来事を語る。

 

「それでマグナさんは私の為に服を選んでくださったのです、それも私とのこれからをという思いを込めてと」

「それはそれは……これは80に続く王族とのカップル成立ですかな?」

「ま、まだ早いですわ♡」




『―――っ……』
『ア、アサリナちょっと大丈夫かい、白目剥いてないかい?いや剥いてるかぜんっぜん分からないけど多分剥いてるよねアンタ……ちょっと?』
『……フゥッ―――』バタッ!!
『ちょ、ちょっとアンタも倒れるのかい!!?し、確りしなアサリナ!!アサリナ!?アサリナァァァァァ!!!』


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マグナの憂鬱&光の危機。

『ハァァァァァッッッッ……』

 

カトレアが光の国へと戻って行った事で人間態で居続ける理由も無くなったので出久と共に居るようになったマグナだが、そんな彼は深い深い溜息を吐いてしまっていた。もう数年の付き合いになるが彼がこんな姿を見せるのは出久も初めての経験だった、溜息どころか落ち込むという姿すら見た事も無い。

 

「だ、大丈夫ですかマグナさん」

『あんまり、大丈夫ではないねぇ……やっべぇよぜってぇ誤解されてるよしかもマックスにネオスにゼロ、ゾフィー隊長にさえ見られたって事は……うっわ光の国に帰りたくないって思ったの初めてかもしれねぇ……』

「マグナさん!!?」

 

あのマグナが此処まで口調を崩した事に出久は嘗てない程の戦慄を覚えながら愕然としながら声を上げてしまった。

 

『だってさぁ……私思ってた以上にカトレア王女に好かれたって事になるんだぜ、別れ際のあれとか絶対に友人的なあれじゃなくて恋人的な意味での好意だ……』

「い、いやそのそれはそれで逆玉みたいな感じで良かったんじゃないんです、かね?」

『……お見合い云々言われるまで結婚なんて一度も考えた事ないんだぜ、そんな俺がいきなり何段飛び越えて王女とゴールインとかもう何も信じられねぇ』

 

最低でも職場の同僚には全員話が行き渡る事は覚悟しなければいけないだろう……いや、ユリアンやウルトラ兄弟の皆さんの事を踏まえるともう色んな意味で手遅れなのかもしれない。これで任務を終えて光の国に帰ったら横断幕が広げられて婚約おめでとう騒ぎになってても可笑しくない、いや光の国の国民性から考えて100%どころか1000%あり得そうだから嫌だ。

 

『出久君、私もうずっとこの地球に居ちゃ駄目かな。もうこうなったら今まで我慢してた地球の食べ物とか食いまくってこの星に本格的に順応してやろうかな』

「マグナさんご自分が何を言ってるのか御理解なさってます!!?口調が戻ってきてますから正気に戻ってるかと思ったけど全然戻ってないですよねしっかりしてくださいよ!!?」

『冗談だよ分かってるよその位……ハァッ……これも今まで任務を理由にお見合いを反故にし続けてきたツケか……覚悟決めないとダメかなぁ……』

 

溜息を吐きまくっているマグナ、これまで感じた事も無いような事だが改めて思うのはウルトラマンという存在は神と言った絶対的な存在などではなく自分達地球と全く同じ人間であるという事を理解する。そう思うとそんな悪態を吐く姿も不思議と受け入れられている自分が居るのである。

 

「カトレアさんは僕から見ても凄い美人でしたし何か不満なんですか?」

『不満なんてないさ。彼女は完璧すぎる位の美女だよ、まあ王族だからちょっと奥手になりやすいというかさ、高嶺の花という印象がある位だけど彼女自身は気さくだし気品もあるし気取った所もなくていい人だと思うよ』

「凄い高評価じゃないですか」

『考えてごらん。じっくりと交際やらを重ねていきたいと思ってたのに気づいたらもう外堀が完全に埋められて絶対確実に結婚しなければいけないという状況になる事を』

「……あ~……成程、相手じゃなくて環境が嫌なんですか……」

『うむ。するならするでもっと自由にしたかった』

 

 

と言ってもそれも既に半ば諦めが入っている。きっとウルトラ兄弟の方々だけではなく王族の皆様方にもお話が言っている事だろう、そして自分の婿入りがより盤石になっていくのだろう……だが此処でマグナに電流奔る。

 

『あっ凄いよ出久君、私ってば天才かもしれないよ良い事思い付いた』

「えっ如何するつもりなんですか?」

『いや光の国だと別に王族との交際やらは別に禁止されてないし自由恋愛可能なんだよ、王族の女性方は80とユリアンの事もあって積極性はあるんだけど男側からすればちょっと気持ち的に難しい所があってね』

「お相手が王族なら、まあ確かにそうですね」

『でしょ。故に言い方悪いけど交際を望みながら出来ていない王族もいるんだよ』

 

そうマグナが思いついた名案とは……

 

『こうなったら勇士司令部とか文明監視員の同僚に片っ端から王族を紹介して同じ立場にしてやる』

「いや何言ってるんですかマグナさん!!?」

『いいじゃないか別に犯罪とかじゃないんだし寧ろ私は健全な行いの下で王族の方々の恋のキューピットを務めようとしているだけだよ本当だよ嘘じゃないよ1000%の善意だよウソジャナイヨーホントダヨートモダチノシアワセヲイノッテルダケダヨー』

「棒読み!!最後すっごい棒読みになってます!!」

 

 

「「「ッ!!??」」」

「如何したんだよマックス、ネオスにゼノン。急に身震いなんてしちまって、風邪か?」

「い、いやなんでもないよゼロ。突然身の危険を感じたというのか、なんというか……何かに狙われたような……」

「マックスも?僕もだよ、なんだった今の……」

「私もだ……何だこの寒気は……?」

「一応ウルトラクリニック行ったら如何だ?ウルトラの母に見て貰ったら多分一発だぜ」

「「「そうするかな……」」」

 

 

『うむっ我ながら素敵な考えが浮かび上がった所で君のこれからの事に目を向けるとしようじゃないか』

「ええっ……僕、なんかマックスさんとネオスさんの身が心配になってきたんですけど……」

『大丈夫大丈夫最速最強と誰にも負けない銀色のHEROだから』

「なんか投げやりだぁ……」

 

先程までキャラが崩壊していたのが嘘なように普段通りに戻ったマグナに安心出来るような出来ないようなものを感じていると出久の掌に3つのメダルが収まった。ゼットライザーに使用されるウルトラマンの力が秘められたウルトラメダル、マックス、ネオス、ゼノンのメダル達。ゾフィーが授けてくれた地球を守る為の新たな力に思わず喉が鳴る。

 

『しかし隊長も随分とすごい物を渡してくれたよ、この組み合わせ……単純に必殺技として使えると思っていたがこれは―――新たな姿に変身出来るね』

「新しい姿……ウルトラ・フォー・オールとはまた違うって事ですよね」

『うむ。この三人の力で私達を強化する事になる、どんな事になるかはまたお楽しみに、という奴だね』

 

出久とマグナが新しい力を得た、それは明確に地球を守る光の一つが強くなった事を意味するだろう―――だが、それは同時に

 

 

―――そうかそうか、辛かったね……それじゃあ君の味方であり続けようじゃないか。君の友達として。

 

―――本当……?

 

―――ええ、本当ですよ。永久にそしてあなたを守りましょう。

 

 

地球を脅かす影が濃くなる事を意味するのだと。




『……』
『アサリナ大丈夫かい……?おいちょっと、聞いてるのかい?』
『……よしマグナこのまま地球に残ろうそうすれば僕は君と永遠に居られるし地球の平和も護れるんだもん!!一石二鳥そして僕得だから最高って奴だよね!!』
『好い加減にせい!!』
『オボフッ!!?』


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巡らす思案、迫る滅び。

―――君が望むのであれば私は望む物を与え、いや渡すよ。

―――でも……迷惑、かけちゃう……。

―――フフッ心配はいらないさ、心配を掛け合い助け合うのが本当の友達さ。

―――本当に、本当に望んでいいのなら……―――。

―――その願い、承った。





「という訳ですのでマグナさんの世界のロボット怪獣の資料 or 知識提供を要求します!!」

「取り敢えず明ちゃん、筋道を立てた上で脈絡を作って話そうか」

 

対怪獣特設特殊作戦実行組織の基地内にある発目専用の研究整備室。既にある意味でのVIP待遇を得る事が出来ている発目はそれをフル活用して日夜研究に取り組んでいる為か雄英では姿を見なくなってきた、パワーローダー曰くリモートで授業を受けているし課題提出もしているので成績面などの心配は不要との事。そして其方に場所を移しているグルテン博士を交えながら話をしようとしている時に唐突に発目が叫んだ。

 

「ごめんねメリッサちゃんにデヴィットさん、明ちゃんはこれでも大分改善されている方で」

「ええっ分かってます、大丈夫ですよ博士」

「私達も重々承知しておりますよ」

「本当にすいませんね、光子砲の設計急ぎますから。出久君と爆豪君もゴメンね」

 

マグナという存在の秘密を共有している為か自分の姿を見せても問題ないと判断したのか、シールド親子にも姿を明かしているグルテン。そして技術畑という事もあって直ぐに仲良くなれているらしい。

 

『まあ察するにあれかな、レギオノイドを戦力として運用する為の改修をするからその為のプランを練る為の材料を望んでいると思っていいのかなそれは』

「良く分かるな……」

『私は出久君と一緒にずっと彼女と付き合ってきたからねぇ……もう行動と思考パターンは把握しているよ』

「……俺、やっぱりアンタと融合しなくてよかったかもしれねぇ」

『うんその点は否定しきれないね』

 

以前の発言を思わず撤回する爆豪。今までの出久の事を自分に反映させたら冷や汗どころか心臓を鷲掴みにされるかのような感覚を覚えてしまったらしい。

 

「まあそれについては私達についても非常に興味深いです」

「ええっマグナさんの世界のロボットってどんなのはいるのかしら!?防衛チームが使ってたロボットとかいないんですか!?」

「正しくそれを聞きたかったんですよ!!」

 

レギオノイドという存在は様々な意味で地球に恩恵を齎す結果となった。その装甲の構成、回路系、動力系などなど今の地球にとってはあり得ない程のオーバーテクノロジーの塊。ゼロとマグナの必殺光線によって爆散こそしたがそれらの部品を回収し現在修復作業を行いながら地球の戦力として使う為のプランが練られている段階。

 

『う~ん……戦闘機が合体したり、車がメカのコアブロックを担って様々な状況に対応出来るというのは知ってるけど……私の知ってる限りだと防衛チームがロボットを保有しているという前例は無いね……そこに所属していたウルトラ戦士がカプセル怪獣で呼び出した云々はあるけど』

「え~そんな~!!」

『まあ無くは無いんだけど……メテオールは厳密には違うからなぁ……』

 

幾つか脳裏を過る物はあるもののそれらを該当させるのは違う気がする、加えてそれらをこの地球で扱おうとするには無理があり過ぎる。

 

「というかあのレギオノイドを僕たちが扱えるようにするなんて事が可能なんですか?」

「理論上は問題はないよ、頭脳となる部分を抜き取ってコクピット形式にすればね。仮にしたとしてどんな風にすべきなのかという事を考えていく必要があるけどね」

「最初は人工知能が搭載されてるみたいだからそれを改良しつつ、自動制御型にする予定だったけど未知数過ぎるから有人型に変更になっちゃったの」

「いや妥当だろ、戦闘中に暴走したらどうするんだよ」

 

正しく爆豪の指摘通りの事は不安視されて有人化される事になったらしい。

 

「それじゃあ敵宇宙人に操作されてた怪獣でもいいので~」

「それだと逆に無数に存在してそうですけど……」

『実際無数に存在するから笑えないんだよね……取り敢えずじゃじゃ馬になり過ぎないように気を付けた方が良いでしょうね、操縦系も複雑になるなら複座式も視野に入れておくべきでしょう』

「フムフム普通に参考になるご意見ですね、あとお一つマグナさんにお聞きしたいんですけどそちらの世界でもウルトラマンを模したロボって存在したんですか?」

 

それは発目だけではなくデヴィットやメリッサからも同じような意見が飛び出た言葉だった、何故ならばこれは多く見られる見解でウルトラマンの戦闘スタイルやその力は完成形として見られておりそれをベースにして防衛メカを制作する事は悪くはないのだろうという意見は多い。だが実際それを行うのは如何なのかという意見も多いのも事実であり、現在はレギオノイドを使う事で意見は一致している。

 

『ア~……まあうんあったよ』

「おおっやっぱりあるんですね!!」

「それって敵側って意味じゃねえよな」

『正解だよ勝己君、所謂ニセウルトラマンと言うべき存在が多くいたよ』

 

それを聞いて思わず皆はあっ~……と言わんばかりの顔をした。ウルトラマンと人間の絆を断とうとする手段として偽物のウルトラマンを使った侵略者は数多い。何方かと言えば変身能力を持った宇宙人が多いが、それでもロボットも相応の数が存在する―――その中には人類がウルトラマンを作り出そうとした例も存在する。それを聞いてバツが悪そうにしながらデヴィットは別の方向に話を逸らす。

 

「そ、それならばロボットに向いている怪獣などはいないのでしょうかね!?ほらっ言うなればこんな怪獣のロボを目指すというのは!?」

『ふむっ……それこそグルテン博士の十八番なのでは、サイバーエレキングアーマーを作っているという事は既に別のモンスアーマーも進んでいるのでしょう。その中にピッタリな重量パワー系が居るでしょう』

「あっそうでしたね!?そうかゴモラですね!!」

「ゴモラって前にマグナさんから話を聞いたような……そうだ、ウルトラマンを退けた事がある怪獣ですよね!?」

 

出久のその言葉が火付け役になるかのように其方へと意識が向いていき、グルテンと発目は胸を張るように新たに開発が完了しテストをするだけとなったモンスアーマーの新作、サイバーゴモラアーマーの話をしていく。その中でマグナは別の方を向きながらある事を考えていた。

 

『人造ウルトラマン、か……自分がそうなっていると何とも複雑な響きとなってしまうな』

 

自分が知っている人造ウルトラマン達、一名を除いてその全てと言っていい程に悲劇的な最期を迎えている。だが地球を守るという目的の為ならばそれはアリなのではと思う一方でそれを否定する自分もいるのだ、肯定する今の自分(マグナ)と否定する過去の自分(前世)がいる。

 

『いや、そうならないように私が導くべきなんだろうな』

 

いざ作るとなったとしても自分が導けばいいと思い一旦そこで思考を止めておく、問題を先延ばしにしていると言われるかもしれないがそれでもいい。その時に考える事にしよう―――と思ったその時だった。けたたましく鳴り響く緊急事態宣言のサイレンと共に館内放送が鳴り響いた。

 

『怪獣出現、怪獣出現!!市街地へ向けて現在進行中!!』

 

 

長き眠りから目覚めるように地割れを引き起こし生まれた亀裂からそれは飛び出し、山の山頂を丸ごと踏み潰しながらも自らの力を、怒りを、全て形にするような猛々しい咆哮を手へと向けて捧げるように上げた。大地は脅え、空は戸惑う、荒ぶる神の如く叫びをあげたそれは真っ直ぐと街を見据えながらまるでそこに怨敵が居るかのような憎悪に満ちた叫びを上げると歩みを進めていくのであった。

 

獅子にも狼にも似た遠吠えを轟かせながら白き鬣を靡かせながら進み続ける紺色の巨大な爪を持つ青き獣、目指すべき都市にこそ自らが滅ぼすべきモノがあるのだと叫びながら進んでいく怪獣の名を―――

 

 

―――ウォォオオオオオオオキィィュァァァァ!!!!

 

豪烈怪獣 ホロボロス。




その強さ、カッコよさ、もしかしたら地球出身怪獣の新たな最強の一角かもしれないホロボロスのエントリーだ!!最近の怪獣でトップクラスに好きかもしれないこの怪獣。


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戦いへ向かえ。

『わぁぁぁぁぁぁっっっっっ……』

 

「な、何か聞こえてこないか?」

「言われてみたら……」

『わぁぁぁあああああああああああっっっ!!!???』

「「わぁぁぁぁっっっ!!!???」」

 

雪崩込むかのように入ってきたのはまっさらのように白くなっている出久や爆豪、多少慣れているがそれでもきついなぁと言いたげな顔をするシールド親子。そして―――

 

「お呼びと聞いて即決即効即急即参上!!発目 明以下4名到着しました!!」

「ご苦労―――と言いたい所だが大丈夫なのか……其方の二人は」

「ほらほら確りしてくださいよ緑谷さん貴方がこの位でへばらない事ぐらい知ってるんですから、それともやっぱり揉みます?」

「だ、だから僕のキャラをなんだと思ってるの……」

「やっぱっ狂って、やがる……」

 

若干痙攣を起こしている二人、発目の部屋から此処までこの中央司令室まで走ると数分掛かるのでそれを短縮する為に発目お手製の特殊移動メカを使用したのだが……速度に拘る余り凄い負担になってしまったようだ。何とかメリッサとデヴィットの手を借りて立ち上がった二人の視線の先にあったのはSFアニメなどで出て来そうな巨大なモニターが幾つも立ち並んだ司令室。その中央の席にはナイトアイが座っており此方を一瞥すると待機しているオペレーターに指示を飛ばす。

 

「目標は」

「遂に実戦……げっ現在獅子ヶ谷を南下中、獅死ヶ原を超えて東京方面に進撃中です!!」

「巨体故か凄い速度です……このままではあと1時間足らずで市街地に到達します!!」

「目標を中央モニターへ」

 

オペレーターの悲鳴染みた状況報告にも冷静に対処しつつも指示を飛ばすナイトアイ、それに影響されているのか少しずつではあるが冷静になりつつある。頬を叩きながら気合を入れてコンソールを操作する、彼らも元はプロヒーローであったが怪獣と戦う為に此方にやって来た。その為に努力する姿にナイトアイは頷きながらもモニターに映し出された巨大な怪獣を見つめた。

 

 

『―――ウォォオオオオオオオキィィュァァァァ!!!!』

 

「何という迫力だ、衛星からの映像だというのに……角度を切り替えつつあらゆる手を尽くして情報を収集、進行方向上の市街地に避難勧告」

「はいっ!!」

「流石ナイトアイさんだ!!このまま隊長になっても良いじゃないですか!?」

「隊長ではないない、私は参謀だ」

 

指示を飛ばしながらもオペレーターの無駄口にも確りと対応しつつやる事を指示する。そう、ナイトアイはこの組織の参謀に就任している。加えて今現在はこの組織のトップを任せる事が出来る人間が決まっていないので隊長代理を務めている。そんなナイトアイはこっそりと出久へと視線を飛ばすと即座にマグナが念話を繋げる。

 

『あの怪獣の事を、ですね』

「(ええ、何か御存じでしょうか)」

『豪烈怪獣 ホロボロス。純粋な戦闘力は非常に高い上に両腕の爪から破壊エネルギーを込めた斬撃を飛ばす事も出来る、動きも素早く危険な怪獣です』

「(十分です。)以後、獅子ヶ谷より出現した怪獣をホロボロスと認定呼称。これより我ら―――PLUSは作戦行動を行う!!」

「「了解!!」」

 

その言葉を皮切りにナイトアイは普段から着用しているスーツの肩を掴むと……それを一気に引き剥がすかのように腕を振るう。スーツは宙に舞いながら床に落ちるがその下には銀を基調としつつ黒、赤、青、金色の制服が露わになった。そして肩に輝くエンブレムには掲げられた腕と星が交差しており、金色の文字でPLUSと刻まれていた。

 

「PLUS。それがこの組織の名前か」

「ええっですよ漸く決まったんですよ、正式名称はProwess Luster Unique Spirit Fencer。そこから略してPLUS Fencer、通称プルスです。私達、プルスウルトラの精神を持つヒーローが母体になっててピッタリじゃないです?」

「うん凄い良い名前!!」

「悪くはねぇな」

 

自分達がこれから所属する事になる組織の名前が明らかになった事に何処か安心感と嬉しさを滲ませながらも直ぐに気持ちを切り替える。眼前ではホロボロスが街へと進撃をし続けているのだ、喜んでいる場合などではないのだ。

 

「発目君、PLUSファイターの出撃は可能か」

「一応発進可能状況になっているのは5機、ですけどどれも三日後に作動テスト予定でしたから危険ですよ。貴重なデータは取れると思いますが」

「ならば却下だな……発進可能な機体は」

「私専用の情報収集特化型のファイターGXなら出られますよ、人数制限は4名です」

「爆豪、緑谷、君達の対怪獣災害想定コスチュームは既に完成しているな」

 

それを聞いて直ぐに二人は意味を察した。頷きを以て返す、そしてナイトアイは素早く指示を飛ばす。

 

「ならばPLUSファイターGXは速やかに発進、現場にMt.レディを急行させろ。緑谷、爆豪の両名は彼女のサポート。君は現場にてリアルタイムでホロボロスの解析、此方も出来る限り動くぞ」

『了解!!』

「では御二人は此方へ、では御連れします」

『ってまたこれかぁぁぁぁぁぁっっっ!!!???』

 

新作のパワーセル採用型の移動メカに誘拐されるように連れて行かれる二人に思わず司令室の皆は敬礼をして二人の無事を祈るのであった。そして格納庫では発目専用機である大型情報収集解析機、PLUSファイターGXが既にスタンバイされていた。巨大なレドームが特徴的なその機体に乗り込んできたのは彼女らだけではなく、もう一人……Mt.レディであった。

 

「おっとそうか私ひとりじゃなかったのよね……ごめんなさいねってあのなんか既に死屍累々って感じしてるけど大丈夫……?」

「だ、大丈夫です慣れてますから……」

「俺は慣れてねぇよクソナードが……」

「あはっ♪」

 

本当に大丈夫なのかな……という不安こそあるがMt.レディは席に着いた。それと同時に発目は発進準備の為の機体チェックを開始する。コンソールが灯り、各部が光で溢れて行く。

 

「All check,green.Power system actuator,on.PLUS fighter GX,standing by.」

「おおっ発目さんがカッコイイ……」

「ふふんっ有難う御座います、おっと……通信ライングリーンっと。チェック完了、何時でも行けますよ。皆さん準備は如何ですか?」

 

ワザとらしく後ろを覗き込んだ発目の挑発的な瞳に全員が強い意志を以て応えた。それに満足気に頷きながら発目はスロットルを握る手に力を込める。

 

「それでは―――リアクター全開、出撃します!!」

 

全力で押し込むレバーに呼応するように滑らかに上がっていく出力、そして噴射されるジェット。カタパルト上にあったファイターはその上を滑るようにどんどん加速していく。その姿に整備員たちは一斉に敬礼しながら駆け抜けていくファイターの無事を祈った。十二分に加速するとカタパルトから放たれるように打ち上げられ空を走っていくファイターの操縦桿を握る発目は進路をホロボロスの方向へ取りながら不思議と高まる気持ちを抑えながら―――バイザーを降ろして僅かに不安に過る瞳を隠した。

 

「見えた、あれが―――」

「ホロボロス……!!」

 

 

―――ウォォオオオオオオオキィィュァァァァ!!!!




組織の名前はカワックス様の

輝く勇気と無二の精神(Prowess Luster Unique Spirit)、PLUSを使わせて頂く事にしました

。本当に素敵な名前を有難う御座います!!この後にフェンサーが続きますが、個性を武器に見立てて個性を扱う者達でフェンサーってくっそかっけえなぁ!と興奮しております。PLUS Fencer。凄いアリだと思います!!

他の皆様も様々なお名前をくださってありがとうございます、その辺りは他の組織などで活用させて頂きたいと思います。


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謎を呼ぶ滅び。

「あれがホロボロス……」

「なんて大きいの……」

 

獅死ヶ原、獅子のような風貌をした巨大な獣が超えるそれはまるで自らの運命を打ち破ると言わんばかりの光景。それを見下ろすように飛行するPLUSファイターGX、白銀の長い鬣に橙色の強靭そうな爪。手が届かないであろう上空から見つめているのにも拘らずその異常なプレッシャーに全員が喉を鳴らしてしまう程だった。

 

「身長推定……56メートル!!うっひゃぁっ~これまでに出現した奴の中でもとびっきりの大きさじゃないですか~!!神野区に出てきたあれでも54メートルだったのにすっげぇぇっ~!!」

「言ってる場合じゃないでしょ!?兎に角食い止めないととんでもない被害が出るわよ!?」

「それじゃあ足止めぐらいはしますね、このファイターにも最低限の戦闘装備はあるんですから!!」

 

そう言うとレバーにあるスイッチへと手を伸ばしながらバイザーと連動したシステムを起動させ、狙いをつける。此方など気にも留めていないホロボロス、その足を狙う。

 

「行きますよ、発目式光子砲―――改めPLUSレーザー、発射!!」

 

主翼の付け根に装備された二門の光子砲が輝きを放ちながら発射されていく赤と黄色が混ざり合ったレーザー砲、独特な高い音を立てながら連射されていくそれらはホロボロスへと降り注いでいく。動いている為か、それともまだプロトタイプに当たる機体に搭載されている試験評価用のレーザー故かレーザーは乱れており足だけではなく全体へと降り注ぐようになってしまっている。

 

―――ウォォォオオオキュアアアア!!!!

 

全身に降り注いでくるレーザー、それに誘導されるように顔を上げたホロボロスが見たのは天を駆ける戦闘機。それは一撃離脱を心掛けるかのように発射の後に大きく旋回して距離を取る。そしてまた攻撃を行うを繰り返してくる。ダメージはそこまでではないが怒りを覚えたのか咆哮を上げながら鬣から無数の雷、ギガンテサンダーを発生させてファイターに向けて放った。

 

「うおぉぉとっ!!?そんな事まで出来るとは……試験評価タイプのレーザーですから威力はそこまでではないですけど全然びくともしてないですね!?」

「発目さんっレーザーを発射した後地表ギリギリに飛行出来る!?そこで僕達を降ろして!!

「簡単に言いますね緑谷さん!?」

「だが悪くねぇだろくそ女」

「それで行きましょう、頼むわよ発目ちゃん!!」

「いよっしゃあこうなったら破れかぶれです!!私はその後情報収集に徹しますからあとはお願いしますよ!!」

 

出久からの作戦を受諾しつつ後部ハッチへ移動するように促す発目、GXは大型である為に数基のライドメカの運搬も可能としている。本来はそこから投下するのだが、今回はそこから3名を下ろす事にする。移動した事を確認しながら再度PLUSレーザーを連射していく。

 

―――ウォォォオオオオオオオン!!!!

 

再度の咆哮と雷鳴、機体を抉ろうとするが機体から発せられる緑色の光が受け止め被害を食い止める。そしてそれを見て発目は笑みを溢しながらギリギリまで接近しつつホロボロスの頭部へとレーザーを当てて僅かだが怯ませる事に成功する。

 

「よっしゃぁっ!!さあ皆さん後は頼みますよぉ!!」

 

空中をドリフトするかのような無茶苦茶な軌道をしながらもギリギリまで地表まで下りたファイターから出久、爆豪、Mt.レディが降下する。流石に猛スピードから飛び降りたので数回回転して勢いを殺しながら着地する、それを確認すると発目は一気にリアクターの出力を上げながらギガンテサンダーの射程外へと逃げながら解析作業へと入る。

 

「ッシャア行くぜゴラァ!!!」

 

爆破を推進力にしながら颯爽と飛び出していく爆豪にMt.レディは焦りを覚えたが、よく見るとホロボロスに見つからないように木々から飛び出さない程度の高さを進んでいる事から確りと理解しているのだと分かって一安心する。自分はホロボロスの真正面に回るので時間稼ぎを頼むと出久に頼み進んでいく。出久はそれに従いながら新たなアタッチメントNEXUSを纏いながら森の中を進み続ける。

 

「カッちゃん聞こえる!?狙いはホロボロスの頭部、そこに同時攻撃!!」

『わぁってるわクソが!!テメェこそ遅れんじゃねえぞ!!』

 

言わずとも通じていると言わんばかりの態度に流石と舌を巻く。そして超高速で移動したホロボロスの側面、配置に着いた。そして右腕を振るうと装甲が展開していき弓のような形状へと変化していく。その先から光の弦が現れるとそこへ出久は左腕を差し出すと腕からエネルギーが溢れていき腕を基にしたような光の矢が生成されていく。

 

「70.80.90.100……!!」

 

出久と同時に両腕を構える爆豪、不敵な笑みを浮かべながらも足を大きく開きながらも腰部から身体を固定する為のようなアンカーが射出されて地面へと突き刺さっていく。それと同時に両腕のストライク・シリンダーが稼働して空気と爆豪の汗を取り込むながら一気に圧縮していく。

 

「喰らいやがれバケモン!!」

 

 

「アロー・イズティウム……光線!!」

「ストライク・エクスバーストォ!!!」

 

 

放たれる光の矢、発射される爆破の柱。光の矢は溢れ出す光を腕に全て集める事で貫通力を極限にまで高めた一撃、爆破の柱は尋常ではない爆風と炎を秘めながらも噴火する火山のような勢いのままにホロボロスの頭部へと向かって行く。そして全く同時にそれが頭部へと炸裂する。PLUSレーザーとは格段の威力の違いを見せ付け大爆発をする。

 

―――グギュロォォォオオオオ!!!!???

 

かなりのダメージとなったのか、ホロボロスも足を止めながらも頭部を抑えるようにしながらしゃがみ込んだ。その威力にはマグナも驚きを隠せなかったが、直ぐにホロボロスは体勢を立て直しながらも更なる怒りを示したかのように市街地へと進撃を開始する。

 

「あれでもまだ動けるのか!?」

『チッこれが怪獣って奴か……!!』

『いいえっ十分稼いでくれたわ、行くわよっ―――デュォ!!』

 

動きを止めた時間、その時間を使って巨大化したMt.レディ。その身に纏うのはサイバーエレキングアーマー、その表情は猛々しく恐怖などは微塵も無く真っ直ぐとホロボロスへと立ち向かっていく。

 

「私はっMt.レディ!!ヒーローでありそしてウルトラマンマグナ様に最も憧れる女よ!!たぁぁぁっっ!!」

 

―――ウォォオオオオ!!!!

 

歯を食い縛りながらも全身を使い、噛みつこうとしてくるのを腕のアーマーで防ぎながらも一気に押し込んでいく。少しでも市街地への到達を遅らせる、それかこれの興味を自分へと向けさせるために。その思いが届いたのかホロボロスを押し込む事に成功しつつ顔面を思いっきり殴り付けた地に伏せさせることに成功する。

 

―――ウォォォオオオキュアアアアァァァアガァァァアアアア!!!

 

「来るなら来なさい!!今日の為に私がどんな努力をしたのか見せてやるわ!!」

 

構えを取ったMt.レディ、だがホロボロスは忌々し気に一吠えするとまた市街地へ向けての進撃を開始した。自分の足を止めさせ、地に伏せさせた相手への怒りを抱きながらも無視しようとしている。

 

「ま、待ちなさいよアンタ!!?ええいっエレキング・テールウィップ!!!」

 

右腕の砲塔のようなアーマーから電撃の鞭を発生させながらその身体へと巻き付けて引っ張って動きを止めようとする、だがそれでもホロボロスは止まらない。咆哮を上げながら市街地へと向かおうとする。

 

「こいつぅっ……!!一体何が目的なの、なんで街に向かおうとするのよぉ!!?」

 

『おいデク、この怪獣なんか妙だぞ。何かが起きてやがる』

「僕も同感だよ。マグナさんこれって……」

『……何がホロボロスを此処まで掻き立てる、何をする気だ?』

 

 

 

―――そうだ来いホロボロス、お前の敵は此処だ……此処にいるぞ、敵は此処だ。さあここを目指せ、此処を破壊しろ……そして自由への咆哮を上げろ!!



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平和を守る、勇士の闘志。

前話に入れるべきだったかなこれ……ちょっと後悔してます。


―――ウォォォオオオキュアアアアァァァ!!!

 

「こ、こいつっ……!!」

 

サイバーエレキングアーマーの決して切れる事がない電撃鞭で何とかホロボロスの進路を変えさせようとするが、それすら興味がないと言わんばかりに唯々街へと進み続けようとする姿に流石のMt.レディも違和感を覚えた。この怪獣は本当に何をしたいのだろうか、だが攻撃を受けてもそれに対しては反応こそするが、決して相手をする訳ではない。違和感の塊だ。

 

「マグナさんっ!!」

『ああ、これは私たち向けの事案だ。そして出久君、あれを使う時だ』

「あれって……これですか!?」

 

その言葉を待っていたと言わんばかりに出現したのはゼットライザー、これを使う時が来たのかと喉が鳴った。ホロボロスはそれだけ強敵だという事も同時に理解する、未熟なウルトラ戦士が相手だったとはいえ特殊な能力を持つわけでもないのに単純な身体能力でそれを圧倒するような怪獣。それが今謎の行動を取っている、念には念を入れて警戒をしても良いだろう。

 

『よしっそれじゃあまずはトリガーのスイッチを押し、開いたゲートの中へ』

「はいっ!!カッちゃん、ごめん後お願い!!」

『チッわぁったよ!!』

 

一応一言残して準備に取り掛かる、手にしたゼットライザーのトリガースイッチを押すと目の前に光のゲート、ヒーローズゲートが出現する。もう付き合いが長いからか特に驚く事も無くその中へと飛び込んでいく。その中は不思議な光が飛び交う空間だった、直後に腰にホルダーと手の中にカードのような物が出現する。それが前々からある程度の話を聞いていたからか予測が付いたのか、ウルトラアクセスカードをゼットライザーへとセットした。

 

 

IZUKU ACCESS GRANTED

 

 

そして腰に出現したホルダーを見てみると以前ゾフィーから渡されたメダルが入っていた。それを手に取りながら実は前々から言ってみたかった変身前の台詞を口にしながらメダルをセットしていく。

 

「平和を守る、勇士の闘志!!」

『おおっいいじゃないか』

「マックスさん!ネオスさん!ゼノンさん!」

 

〔MAX〕〔NEOS〕〔XENON〕

 

スキャンが終了したメダルからは溢れんばかりの光と力が全身へと溢れてくる、これがウルトラメダルに秘められたマグナの戦友にして勇士たちの力なのかと全身が武者震いしていく。

 

『さあ行くぞ、出久君。そして呼べ、私の名を!!ウルトラマンマグナァ!!』

「ウルトラマンッッッ……マグナァァァッッッ!!!!!」

 

高らかに上げられたゼットライザー、この溢れんばかりの高揚感に身を任せながら何処まで自分は行けるのだろうかという思いと共に今か今かとその時を待つ……のだが一向に変身は完了しない。視線が泳ぐ程に困惑する出久にマグナが優しく、子供に間違いを教えるように言った。

 

『出久君、出久君。トリガー、最後にトリガー押すの忘れてる』

「……あっそっか!?マ、マグナァァァァ!!!」

 

―――デュァッ!! ヘアァッ!! ジャッ!!

 

ULTRAMAN MAGNA LAMBDA SPIRIT(ウルトラマンマグナ ラムダスピリッツ)

 

 

「グゥゥゥゥッッ!!!」

 

―――ウォォォオオオオオオオン!!!

 

足止めをし続けていたMt.レディだが、ホロボロスは遂に苛立ちを覚えたのか振り返りながらギガンテサンダーを放ち攻撃を開始する。それに対する防御が完全に遅れてしまった彼女を守るかの如く赤い光が立ち塞がった。

 

「な、何っ!!?」

 

光は電撃鞭を両断しながらも着地するとゆっくりとその姿を露わにした。輝く銀の身体に燃え上がる紅蓮の炎の模様、それを見た瞬間にマグナを思ったが違っていた。頭部にはマックスを思わせるようなスラッガーを携えながらも額には青緑色に輝く宝石、ゼノンを思わせるような頭部の突起、スラッガーを併せると五本の角を持っているかのように見える。そして胸部の鎧の形状もV字に変化しているその姿に一瞬戸惑ったMt.レディだったが直ぐに目を♡にしながらマグナである事を直感した。

 

「マッマグナ様ぁぁぁぁ♡♡♡」

 

その言葉に僅かに振り向きながら静かに頷く姿にMt.レディはどうしようもない胸のときめきを覚えて致し方なかった。優しく差し出された手、触れていいのかとドキマギしながらその手を取りながら優しくエスコートするかのように立ち上がらせてくれた憧れの人にドキドキを抑えられない、平和を守りたいという思いに偽りこそ無いが矢張り自分はこの方に会いたくてPLUSに入ったのだと確信してしまう。そして自分を守るように前に立ちながら―――

 

「デュィ……ゼァッ!!!」

 

雄々しくも力強い猛々しい声を上げながらホロボロスへと走り込んでいく。その姿にどうしようもない程のトキメキと歓喜が押し寄せてもう脳内はパニック一歩手前、憧れの人に触れられただけではなく優しい気遣いまでかけて貰えた彼女の精神状態は推し量れない程に乱れている。

 

 

「ゼェェッダァァァッッ!!!」

「ウォォォオオオオオオオン!!!」

 

迫りくるマグナ、突如出現したそれにホロボロスは僅かに驚きながらも直ぐに咆哮を上げて威嚇を開始する。これ以上近づくなと言わんばかりの威嚇だがマグナは迷う事も無く迫っていく。それに対して自らの爪を突き立てんと自らも走り出していく、遂にホロボロスが戦闘態勢へと入った。それに対してマグナは頭部へと手をやるとそこからエネルギーが飛び出してスラッガーを形どった。スラッガー、ラムダ・ソウルブレードを握り込んでホロボロスの爪を受け止める。

 

『さあ行くぞ出久君、ホロボロスを止めるぞ!!』

「はい!!」




という訳でマグナさんのウルトラフュージョン形態、ラムダスピリッツのエントリーです!!結構悩みました。最初はイオタブレイバーとか、イプシロンフォースとか色々考えてましたがラムダにしました。

何かラムダって言葉にロマンと心の疼きを感じずにはいられなかった。それとつい、ゼット君とのやり取りみたいな事を入れちゃいました、すいませんでもやりたかったやこれ!!いややるべきでしょゼットライザーあるんだったら!!!??そう思いません!!?


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PLUS、謎の杭。

「ダァァッ!!ズォォ、ゼェェッダァァァッッ!!」

「ウォォオキィラァァア!!」

 

激しく交錯する無数の閃光と刃、一方は白い鬣を棚引かせる蒼き獣ホロボロス。一方は神秘の巨人、ウルトラマンマグナ・ラムダスピリッツ。新たに得た力、友たちの力をその身に宿しながらも戦友の力で出現した刃、ラムダ・ソウルブレードでその身一つで立ち向かってくるホロボロスを抑え込んでいる。

 

「デュォッォォォォッッッ……ハァァッ!!」

 

刃へと光を溜める、そしてそれを振るうと刃から無数の光輪が飛び出していく。それは周囲を取り囲むようにしながら中央に居る標的を貫かんと迫るが、ホロボロスはそれを跳躍する事で回避する。刃は互いに激突しながら四散する中で真上から迫りながら紫色の閃光を纏いながらそれを振り下ろさんとする獣。それに対するように先程のように光を溜めるが今度は刃が伸びて行く。

 

『ラムダ・ドライブ!!』

 

小刀程度の長さしかなかった刃は一気に伸び、巨大な剣と成って巨大な爪の一撃と激突する。周囲に爆風のようなエネルギーを溢れさせながらもその力は全くの互角、ホロボロスは一歩も引かずに絶えず巨人の身体を切り裂こうとするがマグナは咄嗟に刀身の向きを変えるようにしながら相手を大地へと叩きつけながら刃を頭部へと戻しながら掴み掛る。

 

「キュォォオオオオ!!!」

「ォォオオオオッッ!!!」

 

無理矢理立たせながら投げ飛ばして大地へと叩きつけた時、ホロボロスはより一層の咆哮を上げながら一気にマグナへと突撃し始めた、何の攻撃でもなく唯の突進。この状況であろうともホロボロスは何かを目指すかのようにマグナの背後にある市街地へと進撃しようとし続けている。此処までの力を見せ付けながら尚、明らかに何か奇妙。

 

『何だ、何かがホロボロスを誘導しているのか!?』

『みたいっぽいですけど……マグナさんあれっ!!』

 

必死にホロボロスを食い止める中、出久が何かを見つけた。指を差す先にはホロボロスの首筋、そこには何かが食い込んでいた。そこから禍々しい光が灯りながらも刺激を与えているように見える上にそれが輝くたびにホロボロスは凶暴性をむき出しにさせているように見える。

 

『あれが原因か……!!眠っていたホロボロスを何者かが覚醒させて誘導しているのか!!』

『ならあれを何とかすれば……!!』

『ああ、きっとっ!!』

 

 

「ォォォォッッッ!!!」

 

「マグナ様っ……?」

 

マグナの戦いの邪魔になる訳にはいかないと一歩引いていたMt.レディは唯々その戦いに見入っていた、が途中からマグナがホロボロスの進撃をただ止めている姿が奇妙に感じた。あの人ならばあの怪獣を倒す事なんて出来る筈なのにそれをせずに怪獣の突進を封じながら押し込めているだけに留まっている、何かあるのかと彼女のマグナに対する愛が察した。

 

「もしかして……あの怪獣って無理矢理操られてる……?」

 

唯々進撃を行おうとする理解出来ない行動、だがそれが自分を縛る鎖を解く為の行動だとすれば?鎖を握る犯人があの怪獣の向かう先に居り、あれはそこに向かおうとしているのだとすれば自然と合点がいき疑問がほどけて行く。

 

『おい聞こえるか、くそ女さっさと伝えろ!!』

『はいはいっとMt.レディさん聞こえます?此方で今解析が終わりました、ホロボロスの首筋の鬣の中に何か人間サイズの杭のような物が突き刺さっているのを確認しました。そしてその杭からはエネルギーが放射されていることが分かりました!!』

「エネルギーが放射?」

 

通信機から聞こえてきた発目の声、彼女によればホロボロスには何かが突き刺さっておりそれからは進路上にある街からエネルギーを受け取ってそれを放射する形で注入しているらしい。

 

「もしかして……それを壊せばあの怪獣は大人しくなる?」

『かもしれませんし違うかもしれません、だから何とも言えません!!』

「いえきっとそうよ、きっとマグナ様もあれを抜く為のチャンスを待つ為にああやってるのよ!!爆豪君、私が隙を作るから貴方それを破壊できる!?』

『あ"あ"っ!?』

 

唐突に何を言いだすんだと言わんばかりの声を出す爆豪。自分にあんな怪獣へと向かってそれを引き抜けというのか、というのが込められているのは分かったがこの場での適任者は彼しかいない。人間サイズならば自分では大きすぎて抜く事も出来ない、ならば飛行も出来る彼に任せるしかない。

 

「貴方もPLUSの隊員なのよ、ならその実力見せて貰うわよ。それとも出来ないのかしらぁん?」

『ンだとクソアマ!!?出来るわクソが見てろ!!!』

「良い答えよ、それと誰がクソアマよ!!後で覚えときなさいクソガキ!!」

 

勢いよく通信を切りながらもモンスアーマーの出力を限界まで上げる、狙うのは当然一つ―――!!

 

「行くわよっ―――サイバーエレキングッ……ライトニングウィップ!!!」

 

頭上で円を描くようにしながらも一気に伸ばされていく腕、そしてそこから放たれてる先程とは比べ物にならない程に太く強靭な電撃の鞭。それは腕を抑え込まれているホロボロスの身体へと巻き付くと全力でそれを引いてホロボロスの動きを封じる。

 

「キュルォォオオオ!!?」

「いよっしゃぁ!!マグナ様ぁぁぁっ及ばずながら、お手伝いをさせでいだだぎまずぅっっっ!!!微力でもお力になれるのならば、本望でずぅぅう!!!」

「ォォォォォオオッッッ!!!!」

 

全身全霊の力を込めている為か彼女の顔も凄い事になっている、仮にもこれまでヒーローとして活動して来た彼女は体面もかなり気にして生きてきた。それなのにそれが振り切れようとも構わずに全力を尽くす、それをマグナも察したのか全力でホロボロスを抑え込む。そして完全に動きを殺す事に成功する。

 

「オォォォオラァァァアアアアア!!!」

 

時を待っていた爆豪はそれを見逃がさず、ストライク・シリンダーの圧縮空気を推進力にして一気にホロボロスの首元へと到達した。そしてエネルギーを放射し続けている杭を発見した。酷く禍々しいそれはまるで邪神を祭る邪教団が聖遺物として祭っているかのような雰囲気を纏っている、だがそれへと迷う事も無く腕を向けた。

 

「ウルトラァエクスプロージョン!!!!」

 

両手を構えながら手の内側で爆発を収束させながら一点方向に爆風が起こるように仕向け威力を激増させながらも彼自身はその爆風で一気に離脱するという事をやってのける爆豪の新必殺技。ウルトラダイナマイトを自己流にアレンジし完成した技の一つが文字通りに火を噴いた、収束された爆発は杭を飲み込むとそのエネルギーに引火するように杭は誘爆を起こし大爆発を起こす。

 

「うぉぉお!!!?」

「おっとォぉお!!?セーフ!!!」

 

その爆風に巻き込まれあらぬ方向へと吹き飛ばされそうになる爆豪を咄嗟にキャッチするMt.レディ。安心しつつも爆炎の中からマグナとホロボロスが姿を現すと一際巨大な咆哮を上げた。

 

「ウォォォオオオキュアアアアァァァアガァァァアアアア!!!!!」

「まだ、暴れるの!?」

 

咄嗟に構えを取るMt.レディだが、ホロボロスは咆哮を上げ終わると唸り声こそ上げるが全く動こうとはしなかった。抑え込んでいたマグナも腕を離すと腕へとエネルギーを集め始め、それを虹色の光へと変換するとホロボロスへと照射した。するとホロボロスの身体にあった爆発による傷や杭が撃ち込まれていた痕が癒えていく。

 

「グルルルルルッッッッ……」

 

身体が癒えると唸り声が僅かに小さくしながらも身を翻して市街地とは反対、元来た道を戻るかのように歩み始めていった。先程までの凶暴さが嘘のように唯々静かに歩んでいった。そしてホロボロスは地底へと戻るようにしながら再び眠りへとついた。

 

 

『やっぱり無理矢理目覚めさせられてたみたいですね』

『みたいだね、だが問題は……誰が目覚めさせて、何に利用しようとしていたのかという事だ』




―――正義ではなく、独善的且つ盲目的な物だな。お前の行いは悪だウルトラマン。

―――……如何して、どうして……助けてくれないの……?


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これからの道。

「う~ん……これ自体に大した役目は無いみたいですね、唯のエネルギーの受信装置としか言いようがありません」

 

基地へと戻った出久達、出現した怪獣を鎮める事に成功した事に皆が胸を撫で下ろす中でマグナの言葉と共に発目にホロボロスへと突き刺さっていた杭の解析を依頼する。爆豪の技によって爆散してしまっているが破片を回収する事でその分析を行う事は出来ていた―――がそれ自体は大した意味はない事しか分からなかった。

 

「言うなればこいつはTVのアンテナみたいなものですね、放射されたエネルギーを受け取ってそれを怪獣に放射するだけの機能しかありません。作ろうと思えば今の技術力でも十二分に再現可能です」

「それ以外の機能は?」

「皆無としか言いようがないですね」

 

同じくグルテンも同意見。強いて言うなればこれ自体の構造は画期的で地球で使えるように設計し直せば電線を無用の長物にする事が可能との事。

 

「だけどあくまでそれまで、純粋にエネルギーの受信を行えるだけですね」

「そのエネルギーでホロボロスを操って街を壊そうとしてた、とかですかね」

『いや、違うね』

 

それを強く否定したのはマグナだった、研究室の中で出久に視線が集中する中で人間態になりながらその手でウルトラメダルを弄りながらも言葉を紡ぐ。

 

「エネルギーによる影響を受けて酷く苛立っていた、エネルギーを送り続けてきた奴をホロボロス自身は倒そうとしたんだろう」

「テメェにふざけた事をしやがったクソに落とし前を付けようとしてたって事か」

「そう言う事だね」

 

良く怪獣の心理を理解していると言わざるを得ない、ホロボロス程の存在となれば操作する事は非常に困難。成功したとしても逆に力を弱めてしまいかねない程に強い操作をせざるを得なくなるかもしれない、ならば怪獣がフルスペックを発揮出来るように仕向けた。だから敢えてホロボロスを鎖で縛るような事をした、自分の下に手招きする為に。

 

「そのエネルギーの送信元は分かるかな」

「フッフッフッ……マグナさんってば私を誰だと思ってるんですか、バッチリやってますよぉ!!!ファイターで解析作業中にエネルギーの放射を感知したので逆探知を仕掛けておいたんですよ!!と言っても正確な場所の絞り込むは無理でした、対策してたみたいで広範囲からの照射を行ってました」

「発目君何時の間に……」

「あららっなんだか明ちゃんってばお父さんにライバル意識燃やしまくってるわね」

 

そう言いながらも巨大なモニターへとそのデータを出力する、示されたのは東京の一帯。同じような杭が幾つか仕掛けられておりそこからエネルギーが送られていたという事になる。そうしなければ送れなかったのか、それとも自ら身を隠す為に行った工作なのかは謎だが、絞り込むことは出来た。

 

「ヒーローに協力要請を出すべきか……いや、下手に刺激すれば保須の一件のようになりかねんし危険も高いか……」

「慎重にならざるを得ないな……隊員向けの装備などの開発も急いではいますが」

「何せ元々がヒーローですからそれぞれの個性に合わせたものばかりでしたから、それから統一された装備にするのも難しくて」

 

PLUSの基地機能もライドメカも完全とは言えないこの状況、まだまだ急ごしらえという印象を拭う事は出来ずにいる。人員こそ揃い始めているがそんな彼らが装備する為の対怪獣災害想定コスチュームの開発は遅れているのも事実。ある程度の統一的な装備とそれぞれの個性を出せる物が好ましいとされているが、それこそが難しいと発目やシールド親子も頭を悩ませている。

 

「マグナさん、ホロボロスについてですが……倒さなくても良かったのですか」

 

話し合いが続く中で思わずメリッサが切り出したのはホロボロスについてだった。眠りを妨げられて怒り狂い、その元凶を断つ為に行動をしていたとはいえ人類とはかけ離れた存在である怪獣に少なからず恐怖を抱いている。それを倒さずに傷まで治して元の住処へと戻るのを見逃がす。本当にそれでいいのかと聞きたくてしょうがなかった。それに対して指の間にウルトラメダルを挟みながら正面を見つめているマグナは応える。

 

「確かにホロボロスは危険な怪獣かもしれない、だが彼はまだ人的な被害は出していないし利用されていただけで住処へ戻って行った。私としては倒す理由は無くなっていたからね」

「まあまた起きたら戦う事になるかもしれませんけど、穏便に済ませられるならそれが一番ですもんね~。何事も平和が一番ですよ」

「テメェが言うかイカれ女」

 

文明監視員として活躍した経験があるマグナとしてはただ怪獣であるから、という理由だけで怪獣を倒す事はしたくはない。当然いざという時には相手の全てを受け止めながら全力で立ち向かう、だが倒さない道があるのならばそれを選択したい。

 

「傲慢と思えるかもしれないけど私はそうしたいんだよね、侵略者の尖兵とかだったら当然戦うけどね」

「……いえ素晴らしい考えです、全ての怪獣を倒すなどと言った考えを持ったらPLUSは無尽蔵に力を付けようとする危険な存在に成り得てしまう……」

 

その言葉にメリッサもハッと我に返った、そして自分を恥じた。今の言葉がどれほどまでに自分勝手で浅ましく悍ましい意味を孕んでいたかも理解してしなかったのだ、自らの安全のために他の生命を全てを根絶やしにした方が良いのでは……それに繋がりかねない言葉。父に肩を叩かれながらも反省する。

 

「時には拳を、時には花を―――そして優しさを持ち続けて欲しい。それが私の願いだよ」




―――そう、ウルトラマンは我々を守ってなどくれない。人類を脅かす怪獣を見逃がしているではないか、何故だ。何故ウルトラマンは怪獣までも救うのか、全てを救うとでもいう気か、自らを神だとでもいうつもりか!!ぁぁっなんて恐ろしい……!!

―――ウルトラ、マンは私を助けて、くれない……人間を救わない……。

―――お前はこの星に要らないんだよウルトラマン、いやマグナだったかな……サッサと消えろ。



「さて、この程度で構わないか」

「ああ、感謝するそして永遠に会わない事を望むよ」

「さてそれは如何かな」

「さっさと消えてくれ」


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悪夢の胎動

出久の日々は新学期になってからさらに忙しくなったと言っていいだろう、新学期は新たな勉強が入るのもあるがそれ以上にヒーローインターンの代用として行っているPLUSへの参加がほぼ毎日起きている。勉学面は元々優秀な部類に入るのであまり問題こそ無いが……彼にとっての問題と言うのは何方かと言えば自分でなければならない唯一無二の問題なのである。

 

「緑谷さん緑谷さん緑谷さん、新しいアタッチメントを開発したんですよ今回はなんとモンスアーマーとの互換性を持たせて実際にアーマーを纏えるようにまでした自信作ですよ!!その名もXですよX!!グルテン博士からお話を聞いたXIOという組織と深い関係になっていたというウルトラマンのお名前を拝借したんですよ是非テストをお願いしますよさあさあさあさあ!!!」

「なんか久しぶりな感じするけど本当に相変わらず僕の話聞かないよね発目さん分かった分かりました試させて頂きますから僕を壁に追い詰めるのは止めてくれないから本当に!!?」

 

「最近忘れかけたけどなんかやっぱりあれが明ちゃんって感じがするあたり、僕も染まってたんだなぁ……」

「私は落ち着き始めた所を良く知ってますけど……やっぱり緑谷君と一緒だと凄い生き生きとしてますね」

「うぅむ、矢張り波長と言うか色々とウマが合うんだろうね。能力だけではなくて性格面の相性もいいんだろう」

 

引き摺られるようにしながらテストエリアへと連れて行かれる出久の姿はあっという間にPLUSの中でも名物というか当たり前の物となっていった。最初こそ若い整備士たちはあんな美少女に振り回されるなんて羨まけしからん!!と憤っていたのだが、一時的に出向してきた雄英の教師のヒーロー達が話をすると一瞬でそれは同情へとフォームチェンジする。

 

「それで司令官の人事はどうなりましたか」

「中々に引き受けてくださる方が居なく難航しております……ヴィラン相手ではなく怪獣という未知の存在が相手という事もあって尻込みしてしまう方が多いです。いっその事マグナさんがやっていただくというのは」

「ユーモラスな貴方らしいですが、PLUSの参謀としては微妙な言葉ですよ」

 

出久が別の意味で苦労を重ねている中でその相棒であるマグナは別の場所で仕事をしていた。この世界は言うなればマン兄さんこと初代ウルトラマンの世界に近しい所がある、個性によって発展している技術などこそは存在しているがそれらをどのように怪獣に活かすのかというのが一切ないのが問題。

 

「オールマイトを推す声があるのが一番頭が痛い所です」

「今までの実績が実績ですからね、所謂広告塔としての活用も狙っての推薦でしょうかね。ですが現場は溜まったものではないでしょう」

「全くです、ですので暫くは私が司令兼任を行うつもりです」

「それが良いでしょうね」

 

オールマイトを否定する訳でもないが、誰しも得意不得意という物がある。オールマイトは前線で活躍する隊員の一人と言うのが一番いいだろう、自ら戦いながらもある程度の指示を出す役職程度が一番とマグナもナイトアイも思っている。

 

「レギオノイドの方はどうなりましたかね」

「順調に改修は進んでおります、しかし矢張り地球の技術では解析しきれない部分が多数です。グルテン博士の手なども借りましたが……一度動かしてみないと分からない点が多く正直運用には不安な所があります」

 

前進し続けているがそれでも難しい部分は多い、当然と言えば当然だろう……同時にこれはこれで良いという考えがある。自分はウルトラマンでこの星の人間ではない、文明監視員でもあったマグナは文明に極力干渉すべきではないとは思っている。この星の問題はこの星の者が解決すべきだと思う一方で人間である自分が助けるべきだと叫ぶのも事実。

 

「レギオノイドの技術を応用した新たなメカの開発も進んでます」

「随分と速いですね」

「一番の問題でしたエネルギー関連がホロボロスに刺さっていた杭によって解消される事になったのです」

 

思わぬ処から齎された福音、ホロボロスへと突き刺さっていた杭。それをグルテンを始めとしたPLUSが誇る研究開発部が再設計した結果としてエネルギーを無線供給する事が可能となった。しかも伝送ロスはコンマ0.3%という驚異のレベル。これを活用する事で全く純地球産の対怪獣災害想定特殊空挺機甲、略して特空機の開発が着手される事になった。

 

「現在開発中のバッテリーでは3分程度の活動が精々ですが、このエネルギーシステムを使えば即座に補給を可能とします」

「それは良いですね、それと例の調査は」

「ええっ秘密裏にですが行っております」

 

それに関連するように話を変えた、それはあの杭へとエネルギーを照射していた犯人の捜索である。東京に潜んでいるかもしれないという情報を頼りに現在実力が確かなヒーローとも連携しつつ調査を行っている。あまり芳しくないが……ナイトアイには気になる事象があったのである。

 

「実は現在、東京を中心にした新興宗教が勢力を伸ばしているというのです」

「宗教、ですか……」

「個性社会においては様々な物がありますが、これはある意味異端です。これが資料です」

 

宗教についてはあまり詳しくないマグナは余り何も言えないのだが……と思ったがそれを見た瞬間にある事を即座に思い出した。そこにあった教義、そして祀っていると思われる神とその神と敵対する悪魔の姿を模った聖遺物。

 

「私個人の感想にもなってしまいますが気に入らないというのが素直な所です、破滅を受け入れながら新たな創造を招く。それを司るのがその宗教の神、それと敵対する悪魔……マグナさん、私にはそれがウルトラマンにしか見る事が出来ないのです」

「―――奇遇ですね、私もです」

 

破滅を良しとする教義、創造と破滅を一つとする神。そして悪魔……どうしようもない不安がマグナの内に沸き上がる中で影が光を飲み込まんとし胎動を行い始めた。




多分分かる人ならこれだけでも分かっちゃうでしょうね、というか絶対分かる。


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悪夢の台頭。

「それで俺達も捜査に参加って事か」

「うん、そう言う事」

 

PLUSが突き止めたホロボロスを突き動かしたエネルギーの元、それを突き止める為に派遣される隊員と連携するヒーロー達。その中には出久と焦凍の姿もあった。現地によるより詳細な調査と言う名目に送り込まれた二人は東京を巡りながら発目が突き止めたエネルギーと同じ波長を探している。波長が強ければ観測されたエネルギー源が近くにある事を示す。

 

「僕たちは特別隊員だけどそれでも権限的には一般的なプロヒーローに一歩劣る程度なんだって。でも怪獣災害時には完全に上位になるんだって」

「その為の専門組織だから当たり前と言えばそうだな」

 

懐から取り出した隊員証を見つめながら気持ちを引き締めると腕に装着しているデバイスを確認しながら波長を探す。

 

「この辺りはそこまで強くないな……場所移動するか」

「そうだね」

「緑谷、お前のそれまた新しいな」

「ああうん、また発目さんからテスト頼まれちゃってさ」

 

外に出るのならついでにデータも取って来て欲しいと頼まれて新アタッチメントであるXを装着している出久は苦笑いをしながらも何処か心配するような視線を送る友達のそれに感謝を送る。

 

「でも今回のこれは本当に意味があるんだよ、ホラッ今轟君が使ってるコスチュームにも使う事になる技術だからさ」

「俺のにも……もしかしてモンスアーマー?」

「うん、今回のアタッチメントにはそれが本格的に導入されているんだよ」

 

今回、ナイトアイからは万が一起きた緊急時の対処の為に対怪獣災害想定コスチュームの着用が許可されている。但し本来の用途で使う為には事前にセットしたPASSを認証させなければいけない、なので今現在のコスチュームのそれは雄英で使っていたそれに等しい。それでも自分の個性の補助はしてくれるので焦凍自身は十分だと思ってはいる。

 

そんなコスチュームにも使われる事が想定されているモンスアーマー、それが出久のアタッチメントには搭載されている。見た目は酷く華奢で目立った装備なども無いノーマルな状態に見える、強いて言うのであれば胸にあるXの形をしたウルトラマンのタイマーのようなゲージだった。それ以外は出久がマグナから貰ったウルトラマントを羽織っている。そんなコスチュームの腕に触れると投影型のディスプレイが出力され、腕を払うと今までに訪れた場所が一気に表示される。

 

「結構調査したけど今のところ全部外れだね」

「チマチマやってくしかねぇな、爆豪と一緒じゃなくて良かったな」

「アハハハッ……まあ確かにカッちゃんなら悪態吐きながらやるだろうからね」

 

軽口を叩いていると公園を横切ろうとした時だった、広場の方から妙に騒がしい音が聞こえてきた。子供達の遊ぶ声などの部類の物ではないので思わず二人顔を見合わせながらそちらへと向かう事にした。そこにあったのは……公園の広場を丸々一つ占領するように旗を立て、全く同じ服を纏った人々を従えるようにしながら高説を高らかに語り続ける男がいた。

 

「そう、この地球には個性という超常的な力が満ちている。そして今この地球は満ちているそれら、それらに伴う穢れを我らの神は祓う、それが間もなく現実となる―――聖なる炎が舞い降り、この地を浄化する」

 

「宗教……って奴か」

「多分……」

 

思わず首を傾げながら尋ねてくる焦凍に対して困惑を露わにしながら曖昧な答えを返してしまう。流石の出久もその辺りは個性に関して多くの新興宗教が存在している程度の知識しかないので何とも言えない。

 

「まあ妙な騒ぎじゃなければいいんじゃないかな……流石にこう言う所でやるなら許可は取ってるだろうし」

「取って無きゃただの馬鹿だしな」

「そこの少年」

 

そのまま調査を行おうとした時の事だった、突然高説をし続けていた教祖と思われる男が話しかけてきた。同時に周囲の人間が一斉に視線が向けられるので内心でギョッとする二人、その人間たちの目は何処か力がなく機械的な物に近いものを感じたからだろう。ゆっくりと迫ってくる男は如何にも自分は偉く正しいんだと言わんばかりの声色で語り掛けてくる。

 

「今のこの世界は酷く穢れている、個性による犯罪や脅威、誰かがこの世界を導くだと思わないかね」

「導くって……」

「それがアンタだって言いたいのか」

「ハッ私などではないさ、導くのは私達の神さ。我らが神は太古の昔より世界を、人類を見続けてきた。そして今こそ時が来たのだ、誤り続けた人々を導く救世主として世界を―――!!」

 

徐々に熱く早くなっていく言葉、そこに込められる思いも加速度的に増して行く。それらに感動するかのように目尻を拭う人々に二人は困惑を浮かべるしか出来なかった、そして同時に言いようのない恐怖を抱いてしまう。理解出来ないからこその恐怖が沸き上がってくる、何が此処まで彼らの心を揺らしているのか、何もかもが理解出来ない。だが次の物は真っ先に否定出来た。

 

「ウルトラマンなどという自らが守護神だと言わんばかりの行いをする悪魔など、我らが神の力には及ばない!!」

「貴方何を言ってるんですか」

「緑谷?」

 

その時の出久の変わりように焦凍は心から驚いた事だろう、目付から表情全てが変貌していった。そこに居るのは確かに出久なのは間違いないが別人なのではないかという錯覚すら覚える。

 

「何時、ウルトラマンが神だと言ったんですか、違うでしょウルトラマンは誰かを救う為に戦っているだけです」

「それこそが烏滸がましいというのだよ、理解出来ないとは嘆かわしいなぁ」

「それは貴方の感想でしょ、自分の信じる物と相容れないから否定したいだけでしょ」

「―――なんだと」

 

一気に鋭くなる瞳、見下ろしながら威圧するが出久は一歩も引かずに言葉を続ける。

 

「貴方が如何思おうが僕にとっては如何でも良いんですよ、あくまで貴方の感想でしかないんですからねそれに僕がどうこう言う資格は無いです。でもこれだけは言っておきますよ―――何も理解せずに自分の主観だけを当てはめて物事を語るのは唯の愚か者ですからやめた方が良いですよ、後無駄に相手を威圧しようとするのも恥ずかしい事ですから。しかも子供相手に、これから気を付けてくださいよ。後集会をやるのは勝手ですけど周囲の人の迷惑を考えてください」

 

自分の中に溢れてきた何かを全て吐き出さんとする勢いの出久、それは発目との超高速でのやり取りで培った物なのか相手に有無を言わせんものを纏いながら男を完全に組み伏せて自分の主張を全て述べた。そしてその場にいる全ての人間に自分の行いが見られている事を伝えながらさっさとその場から去っていく、焦凍はその背中を見ながらも言いたい事は全部言ってくれたと肩を竦めるとその後を追う、そして公園を出た所で追いつくと出久は一際大きな溜息を吐いた。

 

「はぁっ……ごめん轟君、我慢出来なくて」

「俺の感想だけど俺はお前の言葉が正しいと思う、それに俺もウルトラマンは好きだからあいつの物言いは気に入らねぇからスカッとした」

 

少々不器用そうに笑う焦凍に思わずつられるように笑ってしまった、本当は自分はマグナが自分達は神などではなく同じ人間だと聞いていた故にあの言葉が許せなかった。自分にとって大切な恩人で相棒を侮辱されたようで激情に駆られたと言っても良いだろう、そんな自分を恥じながら焦凍からの言葉で生まれた照れを隠すように時計を確認する。

 

「そ、それよりもさそろそろお昼どきだからご飯にしない!?この辺りにナイトアイに教えて貰った手打ちそばの美味しいお店があってさ、奢るよ!!」

「いいのか、別に良いんだぞ。黙っておくぞ俺は」

「いっいいからいいから奢らせてよお願いだから!!」

「んじゃまあ」

 

 

―――あの小僧、ふざけた事を抜かすじゃないか……ならば見せてやろうじゃないか。我らの正しさを。

 

 

『矢張りあの男、見覚えがある……まさかこの宇宙にもいたとは驚きだ……私と彼は厳密には違う存在なんだがねぇ……』



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悪夢の出現。

「ほれっサービスで海老天やらの盛り合わせサービスしちゃるけん、たんと食いな!」

「ええっ!?でも良いんですか!?」

「オイラが良いっていっちょるんが、ええのええの。んじゃまあ急いでゆっくり喰いな!!」

 

ナイトアイ紹介の手打ちそば店で昼食を取る事にした出久と焦凍、その店主にナイトアイの紹介出来た事を伝えると先程まで不機嫌そうだったのが突然上機嫌になりながら奥の部屋へと通され、頼んだ蕎麦以外にも様々なサービスを勝手につけられてしまった。

 

「すげぇ量だな……」

「う、うんそうだね。ナイトアイが此処の店主さんはユーモアに溢れてて楽しい人だからって言ってたけど……溢れすぎてる気がする、というかあの人元プロヒーローのソードルさんじゃん……!?」

「マジか」

 

漸く思い出した出久の言葉に焦凍は素直に驚いた、そしてそのヒーローはある意味で別の方向で伝説となった人物だと言う事が判明した。具体的に言えば行動と言動が理解不能、オールマイトすら御する事を諦めるという大記録を達成した狂人ヒーロー。現在は引退して蕎麦屋の店主として過ごしている、そんな人の蕎麦を口へと運んでみると凄く美味しく手が止まらない。その中で焦凍は出久へと尋ねてみた。

 

「緑谷、前から思ってた事がある」

「思ってた事?」

「ああ―――如何してウルトラマンは俺たち地球人を助けてくれるんだ?」

 

焦凍の口から出たのは余りにも素朴な疑問だった。

 

「雄英に通ってる奴が聞く事じゃねぇかもしれないけど、俺達はまだ理解出来る。俺たち地球人が、同じ星の奴を助けるのはまだ解る。共通点とか色々重なる所がある、だけどウルトラマンにはそれがない。それなのにウルトラマンは俺達を助けてくれる、それってなんでなんだろうな」

 

海老天を掴みながら自分の中に浮かび上がった疑問を口にした。ヒーローを目指している身が誰かを助ける事に対する事への疑問を持つ事は可笑しいかもしれないが自分達とは文字通りの別次元の意味で規模や範囲が広すぎる話なのに、自分の命の危険すら顧みる事も無く助けてくれる彼らの事が……どうしようもなく不思議だった。

 

「可笑しいって思うの?」

「むしろ尊敬してる、オールマイトみてぇに誰かの為に命張れるってすげぇ事だと思うしカッコいいと思う。でも俺達ですら同じ人間に立ち向かうのは怖いって感じる、だけどウルトラマンは怪獣と戦ってくれる。なんでだろうな」

 

海老天を食らう焦凍を見ながらお茶を口にする、スッキリする口内と違って何処か混雑とする心が出来上がるがその疑問は自分も心の何処かで思っていた。ヒーローが戦うのはあくまでヴィラン、詰まる同じ人間だ。だがマグナ達、ウルトラマンが戦うのは全く別の存在であり余りにも恐ろしい怪獣たち。彼らは怖くないのだろうかとそう焦凍は思い続けている、それを聞いて見たいと思っている。それを出久は―――

 

「同じだから、じゃないかな。僕たち地球人とウルトラマンが」

「同じ……?」

「うん。ほらっウルトラマンって人を示す名前が入ってるじゃない」

「いやそれは別なんじゃないのか……?」

「かもね、実は僕……雄英に入る前に一度だけウルトラマンを見たんだ」

 

その言葉に思わず目を見開いた、それはあくまでも虚像であり作り上げられたストーリーだが出久の必殺技やスタイルが何処かウルトラマンに似ているという事もそれならば説明がつくと焦凍はそれをすんなりと受け止めていた。

 

「僕聞いちゃったんだよ、如何して助けてくれたんですかってそうしたらこう……頭の中に響いてくるみたいな感じで応えてくれたんだ」

「テレパシーみたいもんか、そんな事まで出来るのか」

「理由なんてない、するべき事をしただけだってさ」

「―――でっけぇな」

 

そんな言葉に出久の中のマグナは何処かくすぐったくなった、自分としては当たり前の事なのだが改めて言われると照れくさくなってしまう。

 

「すべき事か……人をそうやって当たり前みたいに助けられるか。そう考えるとその域に言ってるオールマイトも改めてすげぇのかもな」

「確かにそうかもね」

「変な事聞いたな」

「ううん気にしてないよ」

「アイヤ~追加盛ってきたんよ!ほいっカレー大盛お待ち!!」

「えっお蕎麦屋さんでカレー!?」

「そう言えば蕎麦屋のカレー美味いって聞いた事あるな……」

 

 

「……カレーも超絶品だったね」

「ああ、すげぇ美味かったな」

 

腹も満たす事が出来た二人は再びパトロールを行っていた。思わず名店を発見する事が出来た事への喜びなどもあるが、気合を入れ直してそれを行う。絶えずエネルギーの監視を行い続けている―――その時だった、突然空の一部が変色していった、それは徐々に広がって行きまるで魔法陣のように街を覆い尽くそうとしていた。

 

「何だ、これ……!?」

「エネルギー反応が増大してる……何か、来る!?」

 

それは的中した、魔法陣の一部から炎が飛来してビルへと突き刺さろうとしたが咄嗟に焦凍は氷で弾丸を作り出してそれを迎撃する。炎は四散するがまた魔法陣の一部から炎が出ようとしている。

 

「轟君、ビルの屋上に行こう!!二手に分かれて炎を迎撃しよう!!」

「ああ分かった!!」

 

出久は焦凍をビルの屋上へと送り届けた後にカバー範囲が重ならないように別のビルへと移動した、そしてそれは突然現れた。まるで隕石が降り注ぐかのように溢れ出してくる炎の雨、水の代わりに大地を焼く焔が舞う。地獄のような光景、それを地上から防ぐのは真っ先にそれに対応出来た焦凍、そして出久だった。

 

「デュオ!!ダァッ!!」

「……ッッ!!!」

 

光弾を連発し炎を相殺する出久、氷を氷柱状にしつつそれを飛ばして無へと返す焦凍。二人が真っ先に行動している為に炎は全く街を焼かなかった。そして徐々にプロヒーローがそれに参加して万全の体制が出来ようとした時だった、一際巨大な火球が生まれた。街の一区画をあっさりと飲み込める程の巨大さに皆が血の気が引いていき中でたった一人だけ、大きく飛び上がりながら指輪を掲げた者がいた―――そして

 

「シェァッ!!」

 

一筋の光線が火球を貫いた、一瞬にして火球は四散すると即座に光線を光輪へと変化させると魔法陣全てを覆い尽くした。そして光が強まりそれを消し去ってしまう、驚きで言葉を失う中で一人、焦凍はそれを行った者の姿を見て口角を持ち上げながらその名前を呼んだ。

 

「ウルトラマン……!!」

 

 

『全く危なかった……あの大きさと感じたエネルギーからして恐らく半径5キロを消し飛ばすには十分過ぎる物だったよ』

『本当にセーフでした……マグナさんが教えてくれたおかげです』

 

と変身した出久は胸を撫で下ろしつつも何とか魔法陣を消し去る事が出来た事に安堵した。あのままだと一体どれ程の人が犠牲になったのか、考える事さえも恐ろしい。だがこれで多くの人を救えた―――と思った時だった、まるで自分を怨敵のように睨みつける男がいた。

 

『あの人って公園の……!!』

『矢張りあの男か……』

 

 

「ウルトラマン、君という存在は実に忌々しい!!何度私達の崇高な願いを阻めば気が済むのだ!!君はこの地球が真に臨む我らの救済を自らの身勝手で邪魔をし守護神と思いこんでいるだけに過ぎないという事を教えてやろう―――そう、我らキリエル人の力を思い知るがいい!!!」

 

全身を炎のような光で包みながら男は高らかに叫びながらその姿を変じさせた。そうそれは―――嘗て別次元の宇宙、ネオフロンティアスペースという世界の地球に現れ、ウルトラマンに戦いを挑んだ存在―――キリエル人の戦闘形態、炎魔戦士 キリエロイド。




という訳で皆さんも気付いていらっしゃってた通り、エントリーしたのはティガよりキリエロイドで御座います。

割かし強い方でティガのライバル的な立ち位置……と思っていたらあっさりいなくなったあいつらです。


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悪魔との対決。

出現した巨大な悪夢、人間を自らが導くと語りながらも導く人々を消し去ろうとする悪魔。歪んだ笑みを浮かべたような表情、何処かウルトラマンにも似ている左胸にある発行体。それは左右に揺れる瞳孔のように点滅をし続けている、禍々しい悪魔として顕現したそれは目の前に立つ光の巨人へと挑戦するように構えを取る。

 

「ジュイ"ィ"ッ!!」

「ディァッ!!」

 

悪魔、キリエロイドは走り出しながら連続でマグナへと拳を打ち付けて行く。素早く巧みに組み合わせられた連撃、それらに冷静に対応しながらも全て捌いて行く。

 

「ジュイ"ィ!!!」

「ダァッディッ!!」

 

迫る攻撃、捌く連撃。キリエロイドの攻撃全てを剛力によって支えられた柔らかな動きが受け止め続けて行く。弾いた僅かな呼吸のリズムの好き、そこへマグナの鉄拳がキリエロイドへと迫った。咄嗟にそれを防ぐ、だがマグナのそれは両腕で漸く止められるほどのパワーでありキリエロイドは驚きを隠せなかった。

 

『何だこのパワーは……!?貴様っティガのあの姿よりも強いというのか!!?』

『心外だね、私は彼より弱いさ―――お前が何も学んでいないだけだ!!』

 

 

「ダァッ!!!」

「ギュィィィッッ!!!?」

 

そのまま無理矢理に拳を押し通し胸部を捉える。空気、いや空間が震える程の超威力の拳は超古代の戦士の剛力の姿に匹敵する力。伊達に格闘戦では最強最速の戦士を上回ると言われない、それを示すかのような一撃から胸倉を掴みかかるとそのまま片腕でのみでキリエロイドを天へと掲げるとそのまま全力でぶん投げる。大地を割るような勢いで叩きつけられるキリエロイド、ゆっくりと立ち上がりながら咆哮を放った。

 

「ギジュィィィィ!!!!」

 

その手から炎を放ちマグナを牽制しながらも全身に光が走った、刹那その姿が変貌した。身体を覆う灰色の甲殻がより広範囲を覆い更に筋肉質になったような印象を与えてくる。

 

『姿を、変えた!?』

『矢張り来たか、ティガのパワータイプに対応した姿……それならば私と互角にやり合えるという事か』

 

キリエロイド。嘗てティガと相まみえた時にその姿を変貌させティガを追い込んだ。それを自らに切ってきた。その予想はしていたが何故自分は何処か興奮しているのか、ティガにも強く憧れたからか、そんな思いを抑えつけながらも炎を払いながらパワータイプ対応型へとなったキリエロイドへと殴り掛かる。

 

「ジュィ!!」

 

先程よりも更に力が増したキリエロイド、その一撃は明確に強く重くなっている。正しく力によって力を征すと言わんばかりのその姿、それにマグナは連続的な攻撃で応戦する。洗礼された連撃で剛腕の一撃を受け流しつつもカウンターを決めつつも、先程の自分のように無理矢理打ち破るかのように押し通ってくる一撃を浴びてしまい、連続的にその腕にある巨大な刃を受ける。

 

「ウァァァァッ!!!」

「ギュィィィッッ!!!!」

 

その声に歪んだ声を上げながらも連続的にマグナの胸、カラータイマーへと集中した攻撃を加え始めて行くキリエロイド。刃がタイマーを捉えようとするが唐突にそれは停止した。

 

「ギュイ"ィ"ッ……!!?」

 

唐突に動かなくなった腕、幾ら力を込めてもびくともしないそれに困惑するキリエロイド。直後に腕が突然振り抜けてしまい倒れこむ、そしてその時に気付いたのだ。腕の刃が砕け散っていた事に、その時に頭に振ってきたのは自分の腕の刃。半ばから握り潰されたかのような痕が残っており全体に罅が入っていた。何が起きたのかと困惑する中で顔を上げるとそこにあったのは―――平和を愛する勇士の姿。

 

 

ULTRAMAN MAGNA LAMBDA SPIRIT(ウルトラマンマグナ ラムダスピリッツ)

 

 

『生憎、姿を変えるのはお前の専売特許という訳ではないのでね』

『マグナさん来ます!!』

『ああっ何も理解しない奴に教え込んでやろう』

 

「ドワァァァッッ!!?」

 

その時だった、突如としてマグナが声を上げて膝をついてしまった。背後から攻撃を受けたのだ、だが何者が攻撃をして来たのか全く分からなかった。だが歪んだ笑いを起こしながら向かってくるキリエロイド、その一撃を受け止めながら後ろを見ると……そこには一体の怪獣が迫って来ていた。

 

『なっ!!?今度はこいつだと、何が如何なっている!!?まさかまだゼットライザーを持っている奴がいるというのか!!?』

『し、知ってるんですかマグナさん!!?』

『知ってるも何も……くっそ嫌な奴がタッグを組むとはこの事か!!』

 

攻撃を抑え込みながらも後方へと蹴りを放ち迫ってきた怪獣を吹き飛ばそうとするが余りにも巨大な力に支えられている為か押し留める事が精いっぱいとなっている。そこに居たのは……顔を覆う鎧の様な皮膚、肩から突き出すかのような翼、金色に輝きながらも何処か顔のような発光体のある下半身。それを見た時に出久は思わずタイラントを想起したのは当然だろう。

 

昭和を代表し合体怪獣の祖とも言うべきタイラント。それと対を成すように平成のタイラントとも言われる怪獣の姿がそこにあった、その怪獣の名は―――

 

超合体怪獣

ファイブキング

 

『この体勢地味にキッツいなぁ!!』

『ぐぬぬぬっ……!!』

『『せぇのっ……SMASH!!!』』

 

ファイブキングを押し留めている右足へと力を込め直し全力で押し込むようにスマッシュを放つ、僅かに後退った隙を狙ってワザと後ろに倒れこむようにしながらもキリエロイドを巴投げでファイブキングへとぶつけようとする―――が、空中で大きく翼を広げると超高速で飛び回りながらファイブキングの上へと着地した。

 

『此処からが本番だな……さあ気合を入れるぞ出久君!!』

『はいっ!!!』

 

「ディアッ!!」

「ギュィ"ィ"ィ"ッッ!!!!」

「ゴアァァァァッッ!!!!」



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キリエルの悪夢。

「ダァッ!!ォォォォォォッッッ!!!」

 

迫りくるキリエロイドを蹴り飛ばしつつも巨大な鋏を差し向けてくるファイブキングの右腕を掴み防ぐ、直後に不気味且つ奇妙な笑い声が木霊する。左腕の巨大な目玉を差し向けてくるのが見えた。それを見た瞬間に悪寒が走る、単純な気持ち悪さというのもあるがマグナがその怪獣の異常性を理解している故の危機察知だろう。一歩、深く踏み込みながら思いっ切り膝蹴りをかますと全力でファイブキングの足を蹴って足払いを掛け、倒れながらも放ってくる光弾をバク転で回避しながら距離を取った。

 

『矢張り厄介だファイブキング……』

『マグナさんあれって……少なくとも4体、いや5体の怪獣の合体ですよね』

『そうだよ、もれなくその力を全て発揮できる厄介な相手だ』

 

平成のタイラント、ファイブキング。ゴルザ、メルバ、超コッヴ、ガンQ、レイキュバスの5体を合体させた事で誕生する怪獣。タイラントに比べると数こそ少ないが十分過ぎる程に強力な怪獣たちの集合体で全ての怪獣の能力を遺憾なく発揮する事が出来る。先程の悪寒もそれに起因するものであり恐らく一番厄介である怪獣の力。

 

『マ、マグナさんあの左腕凄い気色悪いです……僕、苦手かも……』

『気持ちは分かる、あれが得意な人は少数派だろうね』

 

不条理の塊とも評される怪獣ガンQ、光線技の吸収という対ウルトラ戦士の為のような力を発揮する。が、此方の世界にも厄介な怪獣は幾らでもいる。その為の訓練も詰んでいる。それはズバリ―――

 

「ォォォォッッッ!!!デュォッ!!!」

 

飛び上がりながらも頭部へと蹴りを命中させながらも左肩へと拳を叩きつけながらも即座に頭部からラムダ・ソウルブレードを抜刀し重々しい殴打と剣による鋭い斬撃の二刀流(拳と剣)でファイブキングに隙も与えない程に連撃を叩きこみ続けて行く。

 

「ゴァァァァ!!!」

「デュォ!!!」

 

好きにさせるかと言わんばかりに左腕を差し向けてくる、がそれを待っていた。ブレードを逆手持ちにしながらも一閃、ガンQの瞳を切り裂きながらもそれへ刃を突き立て膝蹴りで一気に押し込む。ブレードは左腕内部で一気にエネルギーを放出しながら腕を破裂させるとマグナの頭部へと収まった。ズタズタになった左腕を庇うようにしながらも怒り狂うファイブキング、その背後から飛び掛かるように蹴り込んでくるキリエロイド。

 

『ATOMIC SMASH!!』

「ジュイ"イ"ッッ!!!?」

 

カウンターで深々と突き刺さった拳、火花と爆発を生みながらも吹き飛ばされる。実力差が更に明白となっていく中でキリエロイドはファイブキングへと目をやると歪んでいた笑みを更に深くした。何をするのかと構えを深くするマグナを他所にキリエロイドはなんとファイブキングと融合し始めていった。

 

「ゴァァァァギュリアアアアキィィィギィィィィィィハハハハハッッ!!!?」

 

ファイブキングの絶叫が木霊する、融合している怪獣全てが悲鳴を上げながらもその肉体が徐々に変化していく。ゴルザの頭部がまるで人間のような、いやキリエロイドの物へと変じて行く。腕も変化し腕に装着する武装のようにレイキュバスとガンQの鋏と瞳が再度出現していく、まるでファイブキングが乗っ取られていくかのような悍ましい光景に寒気を覚えてしまう。

 

『怪獣が……』

『……っ!!』

 

余りの光景に出久は言葉を失い、マグナは拳を強く握っていた。尋常ではない苦しみ方から死ぬよりも辛い思いをしている事が汲み取れる。奪われていく自らの全て、自分が自分ではなく他の物へと変わっていく事を認識させられながら最後の最後まで死ねない。そして怪獣たちは目の前のウルトラマンに、助けを求めるように腕を伸ばしたが直後にそこから氷塊と火炎弾を放った。

 

「ダァッ!!」

 

それらを砕くが、その先にあったのは完全にファイブキングの全てを我が物へとしたキリエロイドの醜悪で悍ましい姿。それは救世主と自称するキリエル人の姿ではなく、紛れもなく破壊を、終末と終焉を齎す悪魔の姿。真っ先に連想したのは……人々から希望を奪い去った悪魔の名を冠したあの姿。だが―――あれと比べたら酷く劣る……いやあれと比べる事すら烏滸がましい。

 

「ギュィィィッッ!!!」

 

巨体でありながらも軽快に迫ってきながらも巨大化したその両腕で殴り掛かってくる、受け止めようとするが先程とはパワーが桁違いに上がっているのが防ぎきる事が出来ずに一気に押し切られてしまう。畳みかけるかのように先向けられた腕がギリギリと首を締めあげて行く。

 

『ぐぅぅぅっっ!!!こいつなんてパワーなんだっ……!!』

『だが……レオさんとも一戦交えた事がある私をっ……舐めるなぁぁぁぁ!!!!』

 

「ダァァァァォォォオオオオオ!!!!!」

「ギュィィィッッ!!?ジュイ"イ"イ"ィ"ィ″!!!!」

 

首を締めあげられながらも身体を持ち上げると逆に腕へと組み付く、そして全力で腕と足で相手を締めあげて行く。負けじと左腕で腹部を捉えながら連続で光弾を放って来るがマグナは一切力を緩めない。

 

『悪い、な出久君!!』

『いいえこの位……カッちゃんの爆破に比べたら軽いってもんですよぉ!!!』

『流石、なら―――』

『『このままもぎ取ったらぁぁぁぁ!!!』』

 

シンクロしあう叫びを上げながら腕と足に込める力を更に強めながら万力のように腕を締めあげて行く、徐々にレイキュバスの甲殻に罅が入り始め余りの力に首を絞める力が弱まっていく。だがマグナにもダメージは確実に蓄積していく、もうどちらが先に音を上げるかという戦いになり始めようとした時だった、凄まじい速度のまま大気圏に突入しながらその摩擦熱で全身を燃え上がらせながら迫ってくる影があった。

 

『何かが迫って来るっ……!?』

『ま、また敵ですか!?』

 

それに気付くが余りにも早過ぎる為に対応が追い付けない、と思っていた時だった。その声は聞こえてきた。

 

 

―――アルファバーンキィィィイイイイクッ!!!!

 

 

地球へと堕ちてきた隕石のような勢いで迫ってきたそれはキリエロイドの頭部を正確に捉えながら吹き飛ばした、その衝撃でマグナを締めあげていた手を放してしまい好機と腕と足を離して距離を取る事に成功しながらも地面に落ちたマグナ。そんな彼が顔を上げた時、自分を守るように立っていたのは―――赤、青、銀色が眩しく光を放つ練達した拳法家を思わせるような後ろ姿だった。

 

『また、新しいウルトラマン……!?』

『いやこれはまさか、この気配は……』

 

―――大丈夫ですかマグナ先生!!

 

マグナの疑問に答えるかのようにそのウルトラマンはゆっくりと振り向きながら手を差し伸べてきた、鋭い瞳にセブンやゼロを思わせるようなスラッガーが如何にもな強者を醸し出すがマグナはそれが誰なのか分かってしまった。そしてその手を取りながら思わず笑ってしまった。

 

『何だ随分と変わったね、イメチェンかいゼット君』

『ちょっ違いますよウルトラフュージョンしてるんですよ!!というかマグナ先生だってしてるじゃないっすか!!』

『ゼットさん言ってる場合じゃないみたいですよ、あの怪獣立て直してます!!』

『積もる話もありそうですけどそれは後にしませんかマグナさん!?』

 

互いの相棒からの声に頷きながら二人は肩を並べながら構えを取った。まさか彼に助けられるなんて思いもしなかった、この地球へとやってくる前に自分の教え子となっていたゼロ曰く三分の一人前のウルトラマンゼット。彼がこの地球へと降り立った。

 

「ディァッ!!」

「ジュァッ!!」




ご唱和ください、我の名を!!ウルトラマンゼェェエエエエト!!!!そう、ゼットさんのエントリーだ!!第1話ぶりかな出てくるの。いやぁ近年のウルトラマンの中だとオーブに並ぶレベルで好きなウルトラマンだと思う。ゼットさんは結構ガッツリ絡ませようと思ってます。


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最後の勇者。

この日新たな戦士が舞い降りた。その戦士の名は―――ウルトラマンゼット。

 

「ジュェア!!ジェァ!!!」

「ディァッ!!」

 

ウルトラマンゼロの弟子にしてマグナの教え子、いやあれから彼はゼロに認めて貰えたのだろうか。それは謎だが今の姿を見るだけで分かる事がある、彼は多くの死線を越え頼もしく成長していた。何も変わらないように見えるがそれは自分が彼の事をずっと知っているから本質を捉える事が出来ている、その本質はゆるぎなく変化していないが彼は大きく成長している。

 

「ギュィィィッッ!!!!」

「シュェァッ……ィィィティァァァァ!!!」

 

ファイブキングの力と自らの力を掛け合わせた無数の光弾と火炎、氷結弾の雨が放たれる。バリアの展開を行おうとするマグナの前に自分の成長を見てくれと言わんばかりにゼットは自らの名を冠するカラータイマーの前で構えを取ると頭部のスラッガーから光の刃を出力し、それを繋ぎまるでヌンチャクのように扱いながら自分達を撃ち抜こうとするそれらを迎撃していく。

 

『うおおおおっっ!!!マグナ先生の前でカッコ悪い姿なんて見せられねぇゼェェェェッッット!!!』

『気合入りまくってますねゼットさん!!俺も気合入れますよぉお!!!』

 

光の国ではマグナはゼットの相手をそれなりにしていた、何方かと言えばゼロが任務が入った時に押し付けられたと言った方が正しいのだろう。一度快諾したら何度もされたのだが……故かそれなりに尊敬してくれているのかゼットはかなり張り切っている。それは動きにも現れておりキレも鋭く向かってきたそれらを全て迎撃するとスラッガーヌンチャク、いやアルファチェインブレードを伸ばしキリエロイドの頭部を切り裂いて怯ませる。

 

「ジュリ"ィ!!」

「ディァァァァアアアア!!!!」

「ギュィィィッッ!!!?」

 

動きを止めた一瞬の隙、それを見逃がさずにマグナがゼットの背後から一気に飛び上がってその頭部へと蹴りを炸裂させた。その一撃でキリエロイドは大きく倒れこんでしまう。

 

『シャァッ今だぜハルキ!!』

『オッス!!』

 

その瞬間だった。ゼットの姿が輝きに包まれる姿が変じた、何処か機械的な印象を受ける姿から一転した。先程の姿よりも何処かシャープな物へとなっているがそれ以上に気になったのが頭部に輝く結晶、まるでティガクリスタルのよう。加えてプロテクターや身体の色などもティガの要素が強く見受けられるが、細かい部分などには別のウルトラマンのものを感じる。ウルトラマニアのマグナはそれから一体誰の力を使っているのか直ぐに察した。

 

『姿が変わった!!あの人もゼットライザーを使えるって事なんですか!?』

『恐らくね、しかもあの力は……』

『先生、見ててください。成長した俺の力』

 

先程熱い思いを感じさせる口調から一転、クールな物になった。これも変身の影響によるものなのだろうかと思う最中で立ち上がり始めたキリエロイドにゼットは指を鳴らしながら技を発動させた。

 

『ガンマイリュージョン……!!』

 

その直後、ゼットから3つの光が飛来しキリエロイドを囲むように展開した。光の奥から露わになったのはゼットに力を貸している光の巨人たち、それを見て矢張りかと思いながらも興奮を隠せなかった。何故ならばそこに居るウルトラマン達は―――マグナを、ウルトラマンに憧れる切っ掛けを与えてくれた巨人達なのだから。

 

『チャァッ!!』

『ダァッ!!』

『ォォッ!!』

 

ウルトラマンティガ、ウルトラマンダイナ、ウルトラマンガイア。その三人が出現した、それがあくまで幻影にすぎないのかもしれないがその姿を見れて心からの喜びが溢れそうになる中でキリエロイドはティガの姿を見ると狂ったような声を上げながら敵意を露わにした。それに対して巨人たちが戦闘態勢を取った時、マグナは度肝を抜かれた。

 

『デュオッ!!ォォォッッッ!!!』

 

『うっそだろお前!!?』

『マグナさん!!?』

 

思わず素でそんな風に叫んでしまった、驚きと笑いが含まれたそれに出久も驚いた。その先にあったのは頭上に手を掲げ全身を光で包み姿を変えたガイアの姿。幻影である筈のガイアは最強形態であるスプリームヴァージョンへとヴァージョンアップしたのだ、これを驚かずして何に驚けというのだろうか。

 

『ディッ!!オオオォォォッッ……デュオッ!!!』

『ディアッ!!!』

『フッ!ァァァァッッ……ハァッ!!!』

 

ウルトラマン三人の必殺光線同時発射、幼い頃の思い出が蘇り思わずテンションが凄い勢いで上がって行くマグナ。フォトンストリーム、ソルジェント光線、ゼペリオン光線。それら三つが一斉にキリエロイドへと向かって放たれていく、バリアを展開して防御する―――が彼らの光線はバリアの許容上限を一気に食い破ってガラスのように粉砕しながら頭部、右腕、左腕へと炸裂して大爆発を引き起こしながらその部位をボロボロにしてしまった。

 

『(ッ―――!!憧れのヒーローの必殺技をこの目で……例えそれが幻影だとしても何と名誉な事か……!!!)私達も負けてられんぞ、行くぞ出久君!!』

『はっはい!!行きましょう!!』

 

「ゼォォォッッ……ォォォオオオオオ!!!」

 

『ハルキ、俺達も続くぞ!』

『オッス!!』

 

眩いばかりの光を纏うマグナ、その光を纏いながらも左腕を上げそれらの光を収束させていく。同時に右上からが紅蓮の炎のような輝きを放つ光が集う、収束した光を纏う腕を大きく広げそれを一気にぶつけるようにしながら放つ光線―――

 

 

胸の前で腕を構え、全身からエネルギーを放出させながら腕を大きく開きながらZの文字を描く。自らの象徴も言えるそれを纏いながら放つ必殺の光線―――

 

『『ネオ・ゼノシウムカノン!!!』』

『『ゼスティウム光線!!!』』

 

両者から放たれる必殺の光。放たれた瞬間、世界から影と言う言葉が無くなる程の圧倒的な光が世界を覆う。その光を一身に受けるキリエロイド、絶叫すら上げる事すらも儘ならぬままに全身に光が溢れ出してしまいそのまま―――強烈な爆発を生んだかと思いきや天へと伸びる光となるように消えていく。それを見送ると二人のウルトラマン(マグナとゼット)は頷き合うと空へと飛び上がって行った。空へと描くZの軌跡は守り抜かれた平和の象徴のように人々の胸に残った。

 

 

「うんっこっちは何とか……うん後で合流しよう、それじゃあね轟君も気を付けて」

 

連絡を終えると改めて目の前に居る青年へと目を向けた。この人が自分と同じくウルトラマンと共に戦う人なのかと僅かに緊張しているとそちらから元気よく挨拶をしてくれた。

 

「押忍!!俺、ナツカワ・ハルキっす!!ゼットさんと一緒に戦わせて貰ってます!!」

「こ、此方こそ!!えっと、緑谷 出久です!!マグナさんと一緒に戦ってます!!」

 

『フフフッ随分と元気なパートナーを見つけたねゼット君』

『へへへっただ元気なだけじゃねぇで御座いますぜマグナ先生!!』

『うんっまず何その変な日本語』

 

そんな自分達の隣にはマグナがいた、そしてその前には先程まで共に戦っていた姿とはまた違ったウルトラマンがいた。先程までの姿がゼットライザーを用いていた姿なだけでオリジナルの姿はこれという事になるのだろうか、Zの形をしたカラータイマーが酷く特徴的だと思ってしまう出久であった。

 

『改めてご紹介させて頂いちゃいますぜハルキ!!このお方は宇宙警備隊の中でもウルトラエリートしか入れない勇士司令部、その中でもウルトラすげぇエリートと名高いお人、ウルトラマンマグナ先生だぜ!!俺も滅茶苦茶お世話になって本当に凄いお人なんだ!!まあ流石に俺の師匠、ゼロ師匠程じゃないけどマジで尊敬してるんだ俺!!』

「押忍!!ゼットさんからお話はお伺いしてました、ナツカワ・ハルキです!!!」

『そう畏まらなくてもいいよ、私は大した者じゃないからね、後ゼット君相変わらず一言多いね君』

「……僕には誇れって言うのに自分はそれですよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐっ……がぁぁぁっ……許さん、ぞウルトラマン……!!!

 

 

 

 

 

 

 

 




マグナは全てのウルトラマンを尊敬しているが、ウルトラマンへの憧れのオリジンが超時空の大決戦だったからかティガ、ダイナ、ガイアへの想いが特別に強く別格。特にガイアへの想いが強い。


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ハルキとゼット、出久とマグナ。

「それじゃあ出久君先輩は元々そのオールマイトさんってヒーローに憧れてヒーローを目指してたって事ですね、いいなぁ個性って……俺も使ってみたいなぁ」

「あのハルキさん……その先輩って言い方やめて貰ってもいいですか、なんかすごい恥ずかしいです……」

 

ウルトラマンゼット、そしてそのパートナーであるナツカワ・ハルキと遭遇した出久とマグナ。一先ず彼と共にPLUS基地へと戻りそこでナイトアイに話を通してみると是非お話を聞きたいとあっさりと入る事が出来た。ハルキ自身も彼の世界の地球の防衛チームのロボット部隊・ストレイジに所属していたので有益な事を聞く事が出来るからというのが理由。そんなハルキに先輩呼びされて出久は戸惑っていた。

 

「ハルキさんの方が年上ですし僕からしたら防衛チーム隊員の先輩みたいなものですし……」

「いやいやいや俺なんてまだまだですよ、隊長には結構怒られてましたから。出久君先輩ってマグナ先生とはもう結構長いこと一緒に居るんですよね?」

「ええまあ、もう数年になるのかな……」

「だったら俺にとってはウルトラマンのパートナーとしての先輩って事っすからお気になさらず!!」

 

と爽やかな笑みを浮かべながらよろしくお願いします!!と頭を下げられてしまい、これ以上否定する事も難しいと先輩呼びを渋々と受け入れる出久なのであった。そんな肝心の出久のパートナーであるマグナはゼットと話をし続けていた。彼方も彼方で先生と教え子と言う立場なので色々と話す事があるらしい。

 

『そんな事が……そうか、君も大変だったなゼット君。これで君もゼロ君から少しは評価されるんじゃないかな。せめて半人前位にはなるんじゃないかい?』

『それなんですよ師匠ってば酷いんで御座いますよ!!"おめぇなんかまだまだ三分の一人前で十分だ。半人前を名乗ろうなんざ、2万年早いぜ″って鼻で笑いやがりますんですゼェット!!』

『何その語尾のゼェットって、まあ強烈過ぎないから気にしないでおくよ』

 

改めてみるとゼットはマグナと比べるとかなり線が細いというか小柄な印象を受ける。この場合はマグナの体格がいい上に筋肉もある為だろうが、ゼットは人間換算だと高校に入りたてな年齢になるという。詰まる所出久と同年代という事になる……実際は5000歳なので全くの同年代という訳でもない。

 

『っというかなんでマグナ先生はそんなに地球の言葉がペラペラ何でございますのん!?それも経験が成せる業なんすかぁ!!?』

『いや別に難しくいないと思うけど……(あっいやそれは私が元日本人だからか)』

『ううっ……ウルトラエリートに俺の気持ちなんて分からないし感覚も違うんですよぉ……マグナ先生ってばそんなんだから自分の事もまともに正当評価出来ないんで御座いますよ……』

『ゼット君、君って男は……口は禍の元って言葉の意味を考える事って宿題出された事完全に忘れてるよね』

『……ハッ!?これはまさか……俺ウルトラやらかしちゃいました……!?』

『取り敢えずゼロ君相手だと確実に鉄拳制裁コースだったね』

 

完全に呆れてしまっているマグナとアワアワしているゼット、完全にそこにあるのは先生と教え子。ゼロと面識があるが、ゼロが師匠と言う印象は余りなく何方かと言えばゼロがゼットの兄貴分でマグナが二人の師匠なのではないだろうかと思うが敢えて口には出さなかった出久。

 

「それにしても本当にマグナ先生ってゼットさんの先生だったんですね、ゼロ師匠の次位には名前出してましたよゼットさん」

『そりゃ俺にとってマグナ先生は第二の師匠みたいな感じだからな!!という訳でマグナ先生、これからはマグナ第二師匠って呼んでもいいですか!?』

『弟子を取る予定も取るつもりもないから辞退させて貰うよ』

『ええええっっっ!!!?マグナ先生なら絶対いいよって言ってくれると思ってたからウルトラショォォォックッ!!?』

 

ショックを受けるゼットの姿に出久の中にあるウルトラマンのイメージが何処か変化した瞬間だった。ウルトラマンは人間である、そう思い続けていても何処か別次元の存在のようなイメージが強かったが、ゼットを見ていると本当に自分達と同じような人もいるのだなと再認識する。

 

『それでハルキさん、ストレイジというチームに居たそうですがそこにはどんなロボットがあったのでしょうか』

「押忍!!まずはセブンガーとウインダム、あとキングジョーがありますね!!」

『えっ何、今私の聞き間違い?セブンガーとかウインダムはまだ解るけどキングジョー!!?』

 

思わず声を大きくしながら驚いたマグナに何故かゼットが胸を張りながら笑う、出久もその名前を聞いて驚いてしまった。キングジョーと言えばロボット怪獣の中でも強豪の一角とされる存在だと聞いていた、以前林間合宿に遭われたアークギャラクトロンにも使われていたと言っていた。そんなロボを地球人が運用していたというのだろうか。

 

『俺とハルキが倒したキングジョーをストレイジは回収して特空機として運用してたんですよ!!キングジョーと肩を並べて怪獣と戦ったりもしたし俺も助けられたりもしましたよ!!』

「押忍!!でも俺はやっぱりセブンガーが一番っす!!ほらっストレイジのエンブレムにも採用されるぐらい、俺の居た地球では親しまれてるですよセブンガ―!!」

『まさかあのセブンガーが感慨深いな……是非その活躍をこの目に焼き付けたい……そしてキングジョーを運用ってそっちは凄い事をやってるんだなってレギオノイドを改修している此方が言える台詞じゃなかったか……』

 

まさかあのキングジョーを……と言葉を詰まらせていると扉がノックされ、ナイトアイが入室してくる。突然の事にゼットは慌てて姿を隠そうとするがマグナに窘められて大人しくする。

 

「PLUS Fencerの司令官代理を務めております参謀のサー・ナイトアイと申します」

「ナツカワ・ハルキっす!!えっと地球防衛軍日本支部対怪獣特殊空挺機甲隊、通称ストレイジで対怪獣特殊空挺機甲パイロットを務めてました!!」

「ほうっではロボットについての知識や操縦技術などもお持ちで」

「知識の方はあんまり自信は無いっすけど……特空機での実戦経験なら豊富です!!」

 

それを聞いてナイトアイの瞳は輝きと喜びを強く帯びていった。間もなく実戦配備が可能となるレギオノイド、そして開発が間もなく一段落付きそうな純地球産ロボットについての操縦などの参考になるだろう。そして組織についての客観的な意見などなども得られる、ハルキの存在はPLUSにとって非常に大きな物となる。

 

「そしてウルトラマンゼットさん、貴方にも多大な感謝を。我々が出撃に戸惑っている間にマグナさんと怪獣と戦い市民を守って下さり有難う御座います……!!」

『えっいやあのちょっと頭が、頭低いっ……!?ウルトラマンとして当然のことをしたまで……』

『受け取っておきなさいゼット君、正当な評価と感謝の表れなのだからね』

『ああはいっ……で、でもなんかウルトラ気持ち、良いですねこういうのって……』




話を聞いて少年心が騒ぐマグナさん。


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ハルキと出久、マグナの頭痛。

PLUSテストエリアでは現在、地響きのような音を立てながらも機械仕掛けの巨人が大地を疾駆していた。それは嘗て光の国の王女を奪わんと迫り来た帝国機兵―――を地球人が改修し人類が保有する守り手へと変貌させた。黒く威圧的な風貌だったその姿は燻銀と青に変更されているからか、威圧感よりも先に洗練された印象を受ける。レギオノイド・フェンサーとでも呼ぶべき物へと変わったそれを機動テストを行っている。

 

データとしての予測でどの程度動けるのか、最高速度はどの程度なのかは分かっているが実際に動かしてみなければ分からない事も沢山ある。故にテストは必須だったが……大問題だったのがテストパイロットについてだった。これまで此処まで巨大なロボットを操った事がある物などいるわけがないしシミュレーターこそ存在するが、まだまだ十分に動かせる物はいなかった―――

 

そんな所に実戦経験が豊富なハルキの存在は渡りに船であった。

 

「いいですよ最高っですよハルキさん!!次はそのまま全力で走ってからの飛び蹴りって出来ますかね!!?」

「ちょっと発目ちゃんそんな無茶振りなんて……!?」

『押忍!!ウオオオオォォォッチェストォォォ!!』

「「「出来てるぅ!?」」」

 

初めて乗る筈の機体で完璧なバランスを確保、それ所かまるで動きがリンクしているかのような繊細で柔軟な動きで空手の型まで取るハルキの操縦技術に皆が舌を巻いていた。そして極めつけはレギオノイドの地上走行最高速度を出した状態で跳躍し飛び蹴りをした上で見事な着地までやってのけた。彼が全く別の世界で防衛チームに所属している事を聞かされているデヴィッド、メリッサ、グルテンも驚きを隠せなかった。

 

「ハルキさん貴方凄すぎますよ!?どうして初めてでそんなに!?」

『いやぁキングジョーに比べたら扱いやすさが雲泥の差だからだと思いますよ、セブンガー程じゃないですけど扱いやすいっすねこいつ!!』

「う~む……比較対象がない故に何とも言えないな……50メートル級の巨大ロボットをまるで手足のように操るなんて……」

「しかも個性じゃなくて自分の技術……でだもんね」

 

ハルキ曰く、レギオノイド・フェンサーの扱い易さはストレイジで良く使っていたセブンガーをある程度難しくした程度にしか感じられないとの事。これ以上のとんでもないじゃじゃ馬の操縦経験がある為か、苦に感じないとの事。

 

「基本的にレギオノイドはまだまだ解明しきれない部分が多い、故に扱いずらいと思っていたんだが……意外だ、逆に操縦性が高く扱い易いなんて……」

「これだと現状、純地球産のロボット……いえ特空機の方が扱いずらいって事になっちゃうわね」

「う~ん……この地球の技術力の限界って奴だねぇ……」

 

三人が議論する中で発目は何も変わらずに送られてくるデータの解析をし続ける、それを見て誰もが何も悩まないと思うだろう。だが違う、彼女は誰よりも悩んでいる。如何すればいいのか、如何すれば地球の為になるのか、如何すれば自分は役に立てるのかを誰よりも悩み続けている。思わずモニターから目を反らして空を見据えながらポツリと呟く。

 

「まだまだ問題は……山積みですねぇ……前途多難だぁ……」

 

 

「お疲れ様ですハルキさん、スポーツドリンクで良かったですか?」

「押忍出久君先輩、有難う御座います!!」

 

レギオノイド・フェンサーのテストを終えて降りてきたハルキへとドリンクを差し出した出久。ハルキの呼び方はやや不思議だが、出久が自分の方が年下な上に防衛チーム隊員としては後輩だからと粘った結果、親しみを込めたという意味で君付けを加えた先輩という折衷案が取られる事になった。ハルキ専用の部屋へと移動しつつそこでウルトラマンの相棒としての話をする事になった。

 

「それじゃあハルキさんはセブンガーってロボットで戦ってた時にゼットさんと融合したんですね」

「そう言う事になるっすね、あの時は突然現れたゼットさんにビックリしたなぁ……日本語通じる事にも驚いたし」

 

ゼットと初めて会った日の事を懐かしむようにしながら出久へと語って行くハルキ、ストレイジの一員として凶暴宇宙鮫・ゲネガーグとの戦闘状態になり命の危機に陥った際に避難所を守る為にゼットと融合したというのが始まり。

 

「僕は女の子を助けようとして、それで瓦礫の下敷きになっちゃったんですよ。ハルキさんに比べたらなんというかカッコ悪いですけど」

「いやいや何言ってるんすか出久君先輩。誰かを助けようとした事がカッコ悪いわけないじゃないっすか!!誰かの為に行動するってウルトラマンみたいで凄いカッコいいし俺、尊敬しますよ」

「それならハルキさんだってそうじゃないですか、僕も尊敬しますよ」

「そ、そうですかね。それじゃあお互いにリスペクトのキャッチボールっすね!!」

 

出久とハルキの会話は想像以上にはずんでいる。出久としては同じウルトラマンの相棒、同じ地球人としての会話だからだろうか。共感出来る部分も多い、そしてハルキ自身が優しく明るい性格だという事も大きく関係している事だろう。

 

『……私の聞き間違いかな、今ギルバリスって聞こえたんだけど』

『いいましたよ俺、確かにギルバリスってデビルスプリンターの影響で復活したってジード先輩が言ってました』

『―――なんて相手と戦ってるんだよこの子……』

 

その近くではゼットがハルキと共に戦ってきた怪獣を上げながら自分がどれだけ頑張ったかをマグナへと語っていた、あわよくば師匠認定を受けて貰おうとしているのだが……ゼットが戦ってきた相手が想像していた以上の相手だった事に頭痛を覚え始めていた。

 

『ハァッ……しかし結構な戦歴を積んでいるのにも拘らず未だに三分の一人前とは、ゼロ君も酷な事を言うね。彼の一人前基準ってリク君なのかもしれないね』

『おおっマグナ先生からもそう言われるなんてやっぱりウルトラすげぇぜ兄弟子のジード先輩は!!でも俺達はあのグリーザとも戦ったんですよ、それなのにゼロ師匠ってば全然―――』

『おい今何って言った。グリーザ……だと……!?』

 

その言葉に目の色を変えてマグナは声色を変えながら問いを投げた、グリーザ。その名前に聞き間違いがなければとんでもない事だ。

 

「本当っすよマグナ先生、俺達ブルトンって怪獣を倒しちゃったんですけどその影響でグリーザを生み出しちゃったみたいなんです」

「ブルトンって確かマグナさんが四次元怪獣って言ってたような……」

「それでそのグリーザを倒す為に力を貸してくれたのが―――このベリアロクさんっす!!」

 

その瞬間、ハルキの手元に空間を切り裂くように出現した剣にマグナは誇張表現や比喩表現抜きで言葉を失い愕然とした。何故ならば目の前にあったのは……

 

『面白そうな奴がいるじゃねぇか』

「嫌々ベリアロクさん違いますってマグナ先生は敵じゃないですよ」

『ンな事俺様が分からねぇ訳ねぇだろうが、だが一度手合わせしてみたくはあるな』

「け、剣が喋った!!?」

『あっマグナ先生、これがグリーザと戦った時に手にした宇宙の穴を縫う針のベリアロクで御座いますぜ』

 

黒く紫色の答申が妖しく輝くサーベル、だがサーベルの護拳に当たる部分には―――ウルトラマンベリアルの顔が付いていたのである。しかもご丁寧にしゃべる際には口が動いている。余りにも衝撃的な光景に言葉が出なかった、そして漸く絞り出した言葉は……

 

『殿下面ソード……って絶対に言われてるだろこれ……』

『へっ?』

 

某ライダーの武器を連想させるような物だった。




よく訓練された特撮マニアのマグナにとってそれを絞り出すには十分過ぎる衝撃だった。

そして記憶を取り戻す前にベリアルの乱で見事に凍結させられてる上にその後も色々とあったので複雑な心境なのですマグナさん。


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弟子認定、マグナ師匠。

『はぁぁぁぁぁぁっ……ゼロ君、君って男は……』

『マ、マグナ先生……?』

 

唐突に出現したベリアロク、それはゼットとハルキがブルトンを倒してしまった事で生まれてしまったグリーザと相対した時にグリーザの内部の無とジードの高純度のべリアル因子が結合した結果誕生した宇宙の穴を縫う針。言うなればグリーザに対しては特攻武器として機能する剣という事になるらしい。そのお陰もありグリーザの撃破にも成功したらしいが……それを踏まえてハルキから改めて戦績を聞くと眩暈がして来た、主にゼロに対して。

 

『うんっゼット君、師匠の件だけど私で良ければ引き受けてもいいよ』

『ほ、本当で御座いますかぁぁぁぁ!!!!??』

「良いんですかマグナ先生!?ああいやこれからマグナ師匠とお呼びした方が良いんですか!?」

『その辺りはご自由で構いませんよ、先生でも師匠でも』

 

改めて考えるとゼットの戦績は異常の一言。ゲネガーグの撃破に始まってジードと共にギルバリス、単騎でファイブキングにグリーザ、ウルトラマンエースと共にヤプールに怨念をその身に宿したバラバ、300m越えのマザーケルビム……これが宇宙警備隊に入ったばかりの新人の経験だろうか。これだけの実績があるのならばゼロも認めるべきだろうと思う。

 

「マグナさんが此処まで動揺するって……ゼットさんって相当に凄い相手に勝ってきたって事なんじゃ……」

『うん、そうだと思うよ。特にバラバ、あのエースさんが出張ってくるなんて……下手すればUキラーザウルス級という事になりかねない。全く素直じゃないなゼロ君は……』

 

内心では弟子である事は認めているし成長している事も重々承知である筈、それなのにまだまだゼットには素直になり切れない。父親と師匠に似てたという奴だろうか。

 

『ゼット君、私から見たら君は三分の一人前ではないね確実に。というか私としては勇士司令部に来て貰ってもいいような気がする……』

「おおっ!!!超高評価じゃないですかゼットさん!!」

『ウルトラ嬉しいで御座いますよォォォッ……何時もゼロ師匠には酸っぱい対応ばっかりだったからウルトラ染みるゼェェット……』

「塩対応、ですかね……?」

『多分……本当に如何言う間違いなんだろうねこれ』

 

自分の実力をアイテムで補うという事を別に責めるつもりはない、逆に言えば適切なアイテムを使って状況の変化に対応して格上に喰らい付いていき倒してきたともとれる。ゼットの潜在能力はまだまだ底がしれない、仮に十二分に力を付けた時にウルトラフュージョンしたときには一体どれだけの力を発揮するのだろう。

 

「でもなんでゼロさんはゼットさんに辛辣なんでしょうね」

『そりゃゼット君がゼロ君に対して要らん事を言いまくるからだろうね』

『ひっ酷くないですかマグナ師匠ぉ!!?』

『だって君さ、ゼロ君に弟子入りしたいって時にウルトラ兄弟の皆さんみたいな威厳がないとか近寄り難い程の地位もないみたいなことを言ったらしいじゃん。そりゃ怒るよ』

 

ゼットは本当に一言が多い故に良くも悪くも純粋、そして直球で言葉を投げつける。彼としては親しみ易いという理由だったのだろうか、もっと言い方があっただろう。威厳がないなんてことを言えば怒って弟子入りを認めないのは当然。

 

「そりゃ怒りますよ……」

「ゼットさん、ゼロ師匠にそんな事言ったんすか……寧ろよく弟子にして貰えたっすね……」

『いっ出久にハルキにもそんな風に言われるなんてウルトラショック……!!』

 

ガックリと項垂れてしまうゼットだが直ぐに立ち直った、何故ならば正式に師匠となってくれると認めてくれる人が出来た。しかも師匠は自分の活躍を認めてくれたうえに褒めてまでくれる、ゼロ師匠よりもずっと優しくて話が通じると感動している。

 

「いやゼットさん、そう言う所を直さないといけないと思うんですけど……」

「俺も出久君先輩と同意見です」

『―――も、もしかして今の発言ってウルトラやばかったりしちゃいますのでありんしょうか……?』

『ゼロ君が全然優しくなくて話が通じない頭でっかちって言ってるね、伝えとくねそれ』

『そ、それはご勘弁をマグナ師匠ぉぉぉぉぉっ!!?』

 

内心で認めた事への後悔の念が早速生まれ始めてきた中でハルキの目の前で浮遊するようにあり続け異様な存在感を放ち続ける幻界魔剣(ベリアロク)。グリーザへの特攻武器であるだけではなくゼットの最強形態での武器としても活躍しているらしい……マグナとしては本当に複雑な思いでいっぱいである。

 

『―――おい、テメェマグナとか言いやがったか』

『え、ええそうですが……』

『街に降りた時に感じたが、俺様のメダルがありやがるな』

『―――ッ!!ええ、恐らく』

 

ベリアロクの言葉は恐らくアウローラが所持していた物を指すのだろう、アウローラ自身は討たれたがベリアルメダルは未だ健在である可能性は高い。

 

「この地球にはベリアルメダルが……!?」

『そうだとしたらとんでもねぇ事だ……!!』

『だったら回収すりゃいいだろう、俺様が場所を教えてやろう』

「おおっ!!流石ベリアロクさん頼りになります!!」

 

当然だと言わんばかりに鼻を鳴らすようにし笑うベリアロクを褒めるハルキ、なんだかんだで頼りになるんだよなぁと笑うゼット。そんな三人を見たマグナと出久は不思議と笑っていた、確かにゼットは三分の一人前という評価は正当なのかもしれない。まだ経験も浅く若い、だがそんなゼットと共に歩むのはハルキとベリアロク。きっと彼ら三人が揃って一人前なのだろう。

 

「でもマグナさんこれならもしかして、特定出来るかもしれませんよね!?」

『確かにね、あの時のどさくさに紛れてベリアルメダルを入手した何者かというのは否定しきれないからね」

『決まりだな……フンッこの世界でも中々面白い奴が斬れそうだぜ』

『お前ってば本当にそればっかりだな……本当に切るものだぜ』

「それを言うなら切れものですよゼットさん」

 

ベリアロク、その存在が導く果てに待つモノ―――そこにあるのは……

 

 

―――まだ駄目、お前を満足させるものが出来ていない。だから待てよ……ベリアル。



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師弟間。

「シェエァッ!!」

 

低く唸るような声が響くPLUS特別訓練エリア、限られた人間のみが使用できるそのエリアは基本的にウルトラマンのある特定の情報を知っている者のみが出入りできるようになっている。故かPLUS隊員では許可が下りている人たちはどんな共通点があるのだろうかと首を傾げている。

 

そんなエリアで今何が行われているのか……それはウルトラマン同士の手合わせである。

 

「シェアッダァッチェイヤァッ!!!」

「ディッシェッ……ォォオ!!」

「ヘァッ!!?」

 

連続の三段回し蹴りをあっさりと受け止められながらも直後の隙へと突きつけられたカウンターが身体へと突き刺さる―――寸前で停止する、紙一重のタイミングで止められた一撃。それを振り払うようにしながら素早い連撃を組み立てようとするが普通ならば突く事が出来ないようなタイミングで攻撃が飛んでくる。そしてそれらはまた寸前で止められる。

 

「うんっ素晴らしい、だが矢張りまだ経験が足りないね。相手に自分が脅威の塊だと思いこませる気迫を持ちなさい、相手のペースを乱し自分の領域に引きずり込む、如何に自分の得意に相手を引き込むかも重要だ」

「流石マグナ師匠……だけどまだまだ、俺の成長した力はこんなもんじゃないですよ!!行くぞハルキィ!!」

『押忍!!』

「元気があって何より。では師匠としての威厳を保つくらいの事はするかな、行くよ出久君」

『はいっ!!』

 

本来ウルトラマンは50メートル級、人間サイズになろうと思えばなれるのだがそこには得意不得意が発生する。ゼットの場合は人間サイズになった場合はエネルギーの消耗が激しすぎるのか1分もその状態を維持する事が出来ない。故にハルキの身体を借りる事でマグナと手合わせを行っていた、師匠になったんだから相応の事をしなければという使命感に駆られたのかもしれない。

 

『ダァッハァァァッッ……結局一本も取れなかったで終いになって御座いでます……』

「いや本当に強いですね流石マグナ師匠です!!それに出久君先輩のコスモススタイルでしたっけ、あれも凄かったです!!」

「そう言われるとちょっと照れちゃいますけど、あれもまだまだ未完成な段階ですから」

「あれでですか!?流石マグナ師匠の相棒ですね!!改めて尊敬します!!」

『裏を返せば君達も出久君のようになれるという事さ、未熟というのはそれだけ伸びしろがあるという事』

 

一通りの手合わせを終わらせたが結局ゼットは一撃もマグナに当てる事が出来なかった、どれも的確に捌かれてしまい逆に自分は直撃寸前ばかりだった。ハルキとも戦ってきたので近接戦も成長している筈なのだが……まだまだ未熟だと思い知らされた。

 

「でもハルキさんの動きのキレは凄かったですね、マグナさんも基本的にそこは指摘してなかったですし」

「空手は得意なんですよ、ずっと練習してたりしてましたから!!」

『これなら確かにゼット君の腕前が急上昇した事にも納得が行くよ』

『ぜぇ……ぜぇっ……ゼェェット……』

 

時々荒い息遣いに混じってゼェェット……という謎の言葉が聞こえてくる中での休憩、雑談に興じているとそこへナイトアイが入室してくる。既に事情を知っている人なので何とも思わないがゼットは思わず反応して姿を消そうとしてしまう。前の地球では正体を知っているのは最終決戦までに一人しか知らなかった、環境の違いという奴だろう。

 

「ハルキさん、レギオノイド・フェンサーの試験については多大な感謝を。データについては研究開発部が狂喜乱舞しておりました、整備班もレギオノイドの姿を見て喜んでいました」

「お役に立てたみたいで何よりです」

「それと災害時における活動と言うのも参考になりました、既にレギオノイドの換装バリエーションとして採用が決定されました」

『おおっ!!それってセブンガーの経験が生きたって奴だな!!』

 

レギオノイド自体の長所として量産タイプである為に腕部など各部換装が可能となっていた。マグナとしても腕部がドリル状、砲門のようになっていたタイプがあった事を覚えている。そして特空機としてセブンガーは戦闘後に発生した瓦礫撤去等、災害対応でも活躍していた。

 

「それと……後日、ゼットさんとハルキさんと共に東京へと向かうとの話ですが私から是非一人―――同行させて頂きたい人物が居ります」

『貴方からの推薦とは、期待が持てますね』

「そして同時に謝罪しておきます―――その人物についてはマグナさんとゼットさんについてお話してあります」

『うぇっ!!?』「ええっ!!?」

 

突然の言葉にゼットとハルキは素っ頓狂な声を上げてしまった。ゼットからすれば当然の事、今まで数々のウルトラ戦士は地球へと赴いた際には正体を隠す事は当然とされてきた、明かせば地球に居られなくなるから。だが既に地球ではマグナを中心として自分達と協力し前に進むネットワークが出来ていた、それだけでも驚きだがそれを自分達の許可なしに伝えられたというのは流石に……と言いたかったのにマグナと出久は酷く冷静だった。

 

『貴方が認めた程の方なら信用に足る……だよね出久君』

「ですね。ゼットさんもハルキさんも大丈夫ですよきっと」

『え、ええっ……?マグナ師匠も出久も冷静過ぎるんでじゃりませぬか?』

「でもマグナ師匠と出久君先輩のいう事ですし大丈夫ですよきっと」

 

その言葉に申し訳なさそうにしていたナイトアイの顔色が良くなった、きっと分かってくれるという確信はあったが尊敬し敬うべき光の国の戦士に無許可で行った為か自罰的になっていた。思わずオールマイトもこの事を相談してしまったほどだ。

 

―――大丈夫さナイトアイ。マグナさんはそんなこと笑って許してくれるさ、いや多分怒る事すらしないよ。

 

「(ええっ本当にそうでしたよオールマイト……)では、入って来てくれ」

「失礼します~!!」

『おやっこの声は……』

「もしかして……」

 

部屋に入ってきた人物、それは以前会った事があった人で確かに実力も確かな人物だった。

 

「通形先輩!?」

「おおっ緑谷君!!お久しぶりっそして……おおおおっ!サー、サー!!本当に、本当にウルトラマンさんが居ますよ!!?」

「言っただろうミリオ。紹介するとな」

「―――サ、サインって貰っても良いんですか!?」

「ミリオ……私も貰いたい」

 

『な、なんかナイトアイさんのクールキャラウルトラ壊れてないか!?』

「ナイトアイはユーモアが大好きな人ですから」

「な、成程……なんか隊長思い出します」

『因みにどんな隊長さんだったんだい?』

「最高の隊長でした!!でもなんか実は宇宙人で、その時の姿が凄いトゲトゲしてたっす。後なんかでっかい木を切っちゃったとか言ってたような……」

『(えっそれってジャグラー何じゃ……いやまさか、ね……)』



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差し向けられる魔剣、迫る黒幕。

「いやぁまさかサインだけじゃなくて握手とか写真まで撮らせて貰えるなんてもう感激物だよね!!もう家宝にするよこれ、いやその選択肢以外ないよね実際!!」

「……っ私もこれは我が家の家宝として代々受け継ぐものとします……いえ絶対にそうします!!」

『ま、まさか此処まで興奮されるとは思わなかったでございますよ……メビウス兄さんに地球ではウルトラ兄弟の皆様方のお陰で好感度凄いとは聞いたけど……』

「でも良かったですねゼットさん喜んでもらえて!!」

『(子供の時にヒーローショーでガイアに抱っこされながら写真撮って貰った事あったなぁ……気絶するかと思ったなあの時は)』

 

ヒーローインターンの説明をしてくれたミリオの登場にも驚いたが、彼がナイトアイの弟子という事にも驚いた。そんな二人はマグナとゼットのサインと写真を胸に抱えながら少年の様な輝きをしてウキウキしている。矢張り師弟というのは似るという奴なのだろうか、となると何れゼットも自分に似てくるのだろうかと思案する―――が

 

『いやっないな』 

『何がないんで御座いますか師匠?』

『いや師弟は似るって言うけど、ゼット君が私に似るのはあり得ないなって思って』

『それはどういう事で御座いますか!!?俺は師匠みたいになれないって事なのでありんすかぁ!?』

 

普段の行いの所為であるのだが……逆に自分はこのゼットの教育を考えると今から頭痛がして来た。

 

「いやでもマグナさんも結構ズバズバ言ってますし……割かしゼットさんと似てるとこあるんじゃないですか……?」

『私の場合は確り考えたうえで言ってるから。それと一言余計なのと辛辣なのは全然違うよ』

『ウ、ウルトラショック!!?』

「まあまあゼットさん、これから頑張って行けばいいんですから……ゼロさんには色々、なんか俺の所為で弟子入り無しとか言われちゃってますけどマグナ師匠の元でもっとでっかくなればいいんですよ!!」

 

 

「という訳で宜しくお願いしますよね!!俺のヒーローネームはルミリオン、今回の調査ではお世話になります!!」

「押忍!!こちらこそよろしくお願いします!!」

 

ナイトアイの事務所でインターンに勤しんでいるミリオ、そんな彼が今回捜査協力してくれる事となった。出久とハルキ、マグナとゼットだけでも戦力的には十分かもしれないが調査の過程でヒーローとしての力が必要になるかもしれない。そこで信頼も置けるうえに実力も確かなミリオがナイトアイから推薦される事となった。

 

「どうっすかベリアロクさん」

『……姑息な真似を、隠そうとしてもそうはいかねぇぞ』

 

ハルキの腰にある剣、ベリアロク。以前のホロボロスへと送られていたエネルギーの大本、そこにベリアルのウルトラメダルがある事を感じ取った。エネルギーエリアとそれは不思議と重なり合っており大基にベリアルのメダルがある事が確定している。だがベリアロクはそれを感じ取れる、故に捜査は大幅に前に進んでいる。

 

「それにしてもなんか凄いよね!!ぱっと見ウルトラマンの顔が付いてるんだから!!あれもウルトラマンさんなのかい?」

「えっと……実は僕も詳しくは無くて……」

「何と言うべきだろうね……」

 

街中を行きながらミリオの質問に答えるべきか困ってしまう、実の所マグナは出久にもベリアルの事は話していないのである。話すべきなのか、そして何処まで話すべきなのかを考え中―――最恐最悪のウルトラマンと言うべきなのか、それとも彼は彼なりに宇宙の平和を願っていたと語るべきなのか……何れ確りと話す時まで考えておくとしよう。

 

「この場では尋常ではない力を秘めたウルトラマン、とだけ言っておこうかな」

「へぇっそれは凄いよね!!」

 

マグナこと星 光士として出久達と肩を並べながら歩き、道すがらある程度ウルトラマンについての質問に答えながら調査を行う。といってもベリアロクの力もあって殆どほぼ一直線に歩んでいると言っても過言ではないが……。

 

「しかしあの剣を持ち歩いても何も言われないとは……」

「まあ今時、個性で見た目が違うなんて珍しくもありませんからね」

「うんっだから別にあの位の奴なんてなんともありませんよ」

 

二人はそう語るが自分からしたら光の国最恐最悪の犯罪者、宇宙その物を消し去ろうとした悪のウルトラマンの顔が付いた剣が自分から色々喋っている、それについて何も言われないというのが違和感の塊でしかない。これは矢張りウルトラマンだからこその感覚なのだろうか。その導きに従ってどんどん進んでいく―――その果てに辿り着いたのは……

 

『此処だな、此処から俺様のメダルの力を感じる』

「此処って……」

 

辿り着いた先、そこにあったのは大きな日本家屋がそこにあった。だが其処に到達した時にミリオは鋭い顔になりながら小声で囁いた。

 

「皆、此処はサーが参謀を引き受ける前に探ってたヴィランの拠点だね」

「ヴィランの拠点!?」

「死穢八斎會っていう指定ヴィラン団体、所謂極道って奴」

「極道って……今時珍しいですね」

 

極道、所謂ヤクザ組織はヒーローの隆盛により次々と摘発・解体され、オールマイトの登場で完全に時代を終えたとされている。今でも続いているそれは最早天然記念物扱いされるレベルの物。

 

「だけど急速に活動が鎮静化していってね、サーも怪しみながらもPLUSの活動があるから手を回せずにいたんだよね」

「じゃあそれが今回、動き始めたって事ですかね」

「何とも言えないですね……でもベリアロクさんの話だと此処に目的の物があるんですよね」

『フンッ姑息にも隠蔽してやがるが俺様には無駄な事だ』

 

兎も角これでベリアルメダルの在りかが判明した、後は踏み込むだけになるが流石にこのまま踏み込む訳には行かないので一体戻ろうとするのだが―――突如として門の奥から無数の影が飛び出して自分達を包囲した。

 

「な、なんだ!?」

 

それは頭部に一つ目を持つ人型のロボット、それにハルキやゼットそしてマグナは見覚えがあった。ギルバリスによって生み出され、生命体を殲滅するために送り込まれる戦闘兵士 バリスレイダー。それが20や30では利かない数で自分達を包囲している。

 

「こいつら……気を付けてください、こいつら前に俺達の地球でも襲ってきた奴らです!!」

「バリスレイダー……成程、如何やら私達が気に入らないらしいね。致し方ないか、強引に突破してこの奥に踏み込む!!ミリオ君いやルミリオン、君の力を改めて見せて貰うよ。ハルキ君、ゼット君も良いね!!」

「ええっ失望はさせませんよ!!」

「押忍!!何時でもいいっすよ!!」

『俺だって、マグナ師匠の弟子として恥じない活躍をするでございますよ!!』

「いい返事だ―――こうして肩を並べて戦うのは初めてだから出久君、期待してるよ」

「はいっマグナさん!!」

「それじゃあ―――行くぞ!!」

『おおっ!!!』




―――いけないなぁもうバレちゃったのか、勿体ないが此処は棄てるか……じゃあキリエル、後は好きにしてくれ、そこのお嬢さんもね……。


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先へ進め、目指せ。

炸裂する一撃は易々と金属の皮膚を貫通してその胴体に風穴を開けて冷却効率を跳ね上げる、その代償に二度と放熱をする必要がなくなるというおまけがついてくるがその方が彼らにとっては都合がいい。

 

「POWERRRRRR!!!」

 

通形 ミリオことヒーロー・ルミリオン。ナイトアイの弟子である彼が独自にワン・フォー・オールの受け皿として最も適任であると思い続けていた人材、それは結果的に流れてしまったが彼は知ったとしてもそれを気にしない。何故ならば今彼を支えているものだけで十分過ぎるからだ、鍛え抜かれた一撃はバリスレイダーを粉砕すると背後から迫ってきたそれを個性を発動させ、透過させながら背後に回り後頭部を掴むと全力で地面と叩きつけた。

 

「だけどっハルキさんも凄いよね!!」

「チェストォ!!!」

 

肩に一撃で体勢を崩しながら続けて頭部、よろめきを加速させながらそこへ脇へと浴びせられる回し蹴りによって倒れこんだ所へとどめと言わんばかりの正拳突きがバリスレイダーの頭部を砕き穿つ。その背後から新たなレイダーが迫りくるが―――

 

「ベリアロクさんっ行きます!!」

『フンッまあいい、砥石代わりにしてやる』

 

抜刀される魔剣、ベリアロクの刃は受け止めたレイダーの腕の刃を逆に切断するという異次元の鋭さを見せ付ける。そして押し付けるように刃を振るうと一瞬で装甲を切る―――いや融かすかのようだった。その光景にミリオは口笛を吹きつつも裏拳で迫ってきたレイダーをぶっ飛ばす。

 

「コスモス・コロナスタイル―――FLARE SUN SMASH!!!!」

 

怒涛の攻め、燃え滾る太陽の烈火のごとく一撃でレイダーを粉砕するイズティウム。有無を言わせぬ連打の嵐、だが一撃一撃は意志を持ったかのように相手のガードを巧みに躱しながら本命へと攻撃を当てている。うねる炎の一撃、一瞬本当の炎を纏うようなそれが炸裂すると瞬時に装甲が破裂する。

 

「タァァァァッッ!!!」

 

そしてその相棒たるマグナ、彼に対して一番のレイダーが群がっていると言っても良いだろうがその事如くが一蹴されている。片手で攻撃を受け止められたかと思えば手首を捻るだけで宙を舞い地面へ叩きつけられる、背後から迫るレイダーをワザと倒れこみながら腹を蹴りながら投げ飛ばし複数を巻き込み戦闘不能、飛びついて組み付こうとするのを逆に受け止めるとバックフリップで大地にめり込ませる。

 

「おおっ!!?マグナさんって本当に凄いね!?」

「流石はゼットさんの師匠で出久君先輩のパートナーっすね!」

「それ程、でもありませぇぇぇん!!!」

「ナイスパス!!ディァァァァ!!!!」

 

一体のレイダーの腕を掴んだままジャイアントスィングを行って周囲のそれらを破壊していた出久、そして最後の一体となった手持ちのそれをマグナへとぶん投げるとそれに合わせるように飛んできたそれに合わせるように飛び付くと渾身のフェイスクラッシャーをぶち込んで顔どころか全身を粉砕した。

 

『おおっ!あれがあのマックスさんすら超えるっていうマグナ師匠の近接格闘術かぁ!!』

「いや本当に凄い……力も技も凄いけど、迫力が桁違いだ……」

 

相手は機械仕掛けの戦闘兵器、その筈なのにマグナが投げる度にバリスレイダーたちの動きは鈍く戸惑うように相手の動きを解析しようと躍起になっていた。それはマグナに過剰までの脅威を感じたから、仮にこれが同じ生物だったらどうなるのか。視界が二転三転する中で襲い来る激痛は蓄積し続け、畳みかね続けるマグナの攻撃が永遠と繰り返される。

 

「サーも言ってましたよ、投げるっていうのは殴る蹴りよりも技術も力もいるけどそれだけの価値があるって。最低でも自分の体重分が襲いかかる防御貫通攻撃だって」

「確かに……加えて体勢も崩せるから自分のペースに引き込める……」

『ウムムッこれはベータスマッシュに組み込む価値があるスタイルで御座いますな!!』

 

思わずゼットも鼻息を荒くしてしまう、嘗て超獣バラバが襲来した時にゼットの名付け親でもあるウルトラマンエースが言っていた。超獣は痛みから恐怖を覚えないと、それに苦戦もしたがこの戦い方はそうであっても通用するのではと思わせた。出久と出会ってからは合わせたりワン・フォー・オールとの兼ね合いもあったので余りメインにはしていなかったが事実として相手を投げるというのはマグナの基本的な戦闘スタイルになる。

 

「さてっ行こうか奥へ」

「押忍!!」

「はいっ!!」

「了解です!!」

 

僅か1分で50数機のバリスレイダーを全滅させると奥へと踏み込んでいく―――がそこにあったのは無残に踏みにじられたような屋敷跡。嘗てあった生活の香りすら台無しにするような荒らされ、侵され、破壊され尽くされた光景に思わずハルキも顔を顰める中で腰にあったベリアロクが独りでに飛び上がると壁を一閃した。

 

『隠そうとしても無駄だ』

 

一閃された壁の奥からは地下へと通ずる階段が露出した、その奥から波動を強く感じると呟くベリアロクの言葉を裏付けするかのように新たなバリスレイダーが此方へと迫ってきた。

 

「如何やら当たりらしい」

「みたいだね!!それじゃあ行くぞぉ!!」

「押忍!!」

 

 

―――高まってくる、鼓動が早くなっていく。

 

「ゼット君、感じるね」

『―――はい、こいつが……ベリアルメダルの波動……!』

 

一歩歩みを進めるごとに感じる不安はそれだけ不安定、だが同時にそのポテンシャルを感じさせる。ウルトラマンベリアルのメダル、アウローラの語りでは不安定故に強力な怪獣との組み合わせでしか使えない物。欠陥品というしかないだろうが―――逆に力の上限がないのでは……という不安を掻き立てられる。迫りくる戦闘兵を薙ぎ倒しながら奥へと進む―――

 

「おい大丈夫か!?しっかり!!」

「―――……」

「大丈夫、意識を失ってるだけで死んじゃいない」

「でもこの人たちって……」

 

そこにあったのはペストマスクを付けている者達、着けていない者もいるがその全てが血だまりの中に倒れていた。死んでこそいないがこのまま放置すれば確実に死ぬため、マグナが止血処置の為にヒーリングパルスを発射し安静にさせる。そして奥へと踏み込むとそこには―――

 

「っ―――」

「ああ漸く来たか……待ったぞっウルトラマン!!」

 

一人の男の胸を抉り飛ばし、四散した血の華の奥で焼け爛れた顔で獰猛な笑みを浮かべているキリエル人の姿があった。間に合わず死に絶えた男の奥……小さな少女が震え絶望に脅える、それを不快に感じたのかキリエル人は火炎を飛ばすがそれから守るようにミリオがその少女を救い上げ、出久がそれに合わせるように火炎を消し去る。

 

「っ……」

「もう大丈夫だよ、だって俺達が守るからね!!」

 

その時、ミリオの言葉を受けた少女はその鼓動と体温、暖かな言葉に目を見開きながら僅かに震えが収まる。そんな少女を守らんとマグナとハルキが前に出た。それを見るとキリエル人はその手に黒と赤、そして紫に色に染まっているゼットライザーを握りながら凶悪そうな笑みを溢しながらその姿をキリエロイドへと変じさせた。

 

「ギュリィィィ!!!」

 

「来るなら来るがいい、行くぞハルキ君にゼット君」

「押忍!!!」

『ウッシャァッ!!ウルトラ暴れてやりますよ!!』



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剥き出しになる本性。

そこにあったのは最早憎悪をまき散らすのみとなった狂い切った神の使徒を名乗る悪魔の姿、一人の男の命を今奪いながらその矛先を新しく向けようとした時―――貫かれた男が再び立ち上がろうとして、崩れ落ちた。

 

「生きてるっ!?」

『いや間違いなく胸ぶち抜かれていたで御座いますぞ!?』

 

確かにキリエロイドの一撃で絶命する筈の一撃を受けた男はペストマスクで覆っていた顔を露わにしながらミリオと出久に守られている少女を守るように立ち塞がっていた。その光景に一瞬少女の瞳が揺れる中、不気味にキリエロイドが笑い続ける中でマグナが呟く。

 

「―――自身の個性で自身の身体を再構成したのか……あの一瞬でなんて無茶を……」

「っ……」

「動いちゃ駄目っすよ!?幾ら身体が治ったからってこの出血量は……!!」

「再構成……そうか、死穢八斎會の治崎 廻!!」

 

ミリオはマグナの言葉で理解した、この男こそサー・ナイトアイが警戒しマークしていた死穢八斎會の若頭の治崎 廻だという事に。そして今の光景も彼の個性を考慮すれば理解出来る事だった。その個性はオーバーホール、触れた物を分解し修復するという個性。それで致命傷を受けた自分の身を修復して即死を逃れたが既に出血し互いに溢れ出切ってしまった血液にまでそれは及ばなかった。

 

「ギュリィィィッ!!!」

「タァァ!!!」

「セェェイ!!」

 

迫りくる火球を跳ね除けながら出久達を守るマグナとハルキ、その最中で僅かに漏れ出るように軌道を変えた火球が出久達へと向かう。思わず少女が声を上げるのを迎撃しようとする出久だがそれよりも早くに地面からせり出した壁がその火球を受け止めた。それは出血多量によって意識すらはっきりしていない治崎による物だった。

 

「壊理、には手を出すな……!!」

「っ―――!!」

 

その時の迫力は一体何だったのか、あれほどまでに死に体だった筈の男が出せるものではなかった。ボロボロに破れて使い物にならないペストマスクの下からは流れ出た血に塗れながらも作り上げられたそれを見た時にキリエロイドは思わず一歩後ろに引いた、それを見た時に咄嗟に光弾を放つがあっさりと回避されながらもキリエロイドは闇へと消えていく。

 

「俺が追います!!」

「頼む!!」

「押忍!!」

 

闇の奥へと追いかけて行くハルキを見送りながらも後ろで倒れこんだ治崎へと駆け寄る、最早気力だけで身体を支えているに等しい状態だ。それでいながらあのキリエロイドを引かせるだけの迫力を放った……生半可な男ではないことが分かる、そんな彼へと手を伸ばすと目で威圧してくる。まるで自分に触れるなと言わんばかりに……だがマグナは迷う事も無く触れた。その時に治崎の顔が歪むが、直ぐに呆気にとられたような物へと変わる。

 

「ッ……?」

「例え貴方にどのような打算があったにしろ、一人の少女を守った事実は変わらない。私の不手際を拭って頂き感謝します、そして同時にその子の安全を確約します」

「―――信じよう」

 

その言葉を口にしたとき、不思議と治崎の表情が和らいだ気がした。まるで厳しい男が見せる切れ目に挟まるような優しさの笑顔だが、それを見た時に少女の表情も明確に変わった。そして崩れ落ちるように気絶していく、脈を確認し無事である事を確認しながらヒーリングパルスを掛けて体力の回復を促す。少女の目の前だがそうしなければ命の危険もある。

 

「……」

 

その光景、マグナの腕から光が溢れて治崎へと降り注いでいく光景を目を丸くしながら見つめる少女。そしてそれが終わるとマグナはミリオの腕の中に少女、その身体にある包帯などには目もくれずに目線を合わせながら笑みを作りながら言った。

 

「もう大丈夫だよ、君達はもう大丈夫だよ」

「ぇっ……?」

「もう傷付けさせない、その為に来たんだよ私達は」

 

その言葉に呼応するようにミリオと出久が優しい笑みを浮かべた、特にミリオは自身のコスチュームのマントを外して彼女に掛けてやりながら笑顔を作った。まるで初めてのように驚きを隠せずにいる少女、そんな戸惑いを浮かべる中で途轍もない地響きと共に闇の奥よりハルキが戻って来た。

 

「マグナさんすいませんあいつ巨大化しやがりましたぁ!!」

「分かった、出久君行くぞ!!」

「はいっルミリオン!後お願い出来ますか!?」

「任せて欲しいよね!!」

 

力強いサムズアップと共に少女と共に治崎を担ぎ上げるとそのまま元来た道を爆走していくミリオ、恐らく途中倒れている者達も回収しながら戻るのだろう。普通ならば無理なのではと思うが、ミリオもナイトアイにワン・フォー・オールの次代継承者として期待される程の逸材。不可能な事ではないのだろう。その最中、マグナは出久と融合しながら二基のゼットライザーが構えられる。

 

「行きましょう出久君先輩!!」

「はいっハルキさん!!」

 

ヒーローズゲートへと飛び込んでいく二人、そして双方はその中で光と一つになって行く。

 

 

IZUKU ACCESS GRANTED

 

「平和を守る、勇士の闘志!!マックスさん!ネオスさん!ゼノンさん!」

 

〔MAX〕〔NEOS〕〔XENON〕

 

『さて行こうか、そして叫べ我が名を!!』

「ウルトラマンッッッ……マグナァァァッッッ!!!!!」

 

―――デュァッ!! ヘアァッ!! ジャッ!!

 

ULTRAMAN MAGNA LAMBDA SPIRIT(ウルトラマンマグナ ラムダスピリッツ)

 

 

HARUKI ACCESS GRANTED

 

「宇宙拳法、秘伝の神技!!ゼロ師匠!セブン師匠!レオ師匠!」

 

〔ZERO〕〔SEVEN〕〔LEO〕

 

『ご唱和ください我の名を!!ウルトラマンゼット!!』

「ウルトラマンゼェエエエエエエエット!!!!」

 

―――ヘァッ!! デュワッ!! イヤァッ!!

 

ULTRAMAN Z ALPHA EDGE(ウルトラマンゼット アルファエッジ)

 

 

大地へと降り立った二人の巨人、それが目の当たりにするのはあの時のように悍ましくも禍々しく歪な姿。もうそこにはキリエル人の語る神の威光は無く唯の怪物でしかなくなっている。その憎悪を真っ直ぐに巨人へと向けながら怒りが溢れる声で叫びを上げる。背中から突き出したアンバランスな翼、歪んだように肥大化しているかのような四肢にそこから突き出す異形の角や刃。ウルトラマンと同じようゼットライザーで複数の怪獣の力を取り込んだ姿。

 

「ギュラァァァァァァ!!!」

 

神の使徒を名乗る姿は無い、そこにあるのは憎しみに囚われた悪魔だけ。王の名を冠する怪獣の力をその身に宿し、その結果神ではなく悪魔へと堕ちた。

 

〔FIVE KING〕〔GRAND KING〕〔KING OF MONS〕

 

「ギュィイイガラァァァァァア!!!!」



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悪魔と成りし神、神にはならぬ人。

「ギュラララグヤアアアア!!!」

「ディォッ!!」

「シェァッ!!」

 

住宅地へと出現した複数の怪獣を取り込んだキリエロイド、それへ飛び込むと組み付いたマグナとゼット。巨大なクローで挟み潰そうとするのをマグナが剛腕でねじ伏せ、ゼットは抉ろうと迫る腕を上手く極めながらも一気に力を込めて押し込んでいく。ゼットが全力でキリエロイドの軸足にアルファバーンキックを叩きこみグラつかせると身体を輝かせながら剛腕が唸りを上げる。

 

「ォォォオオオオ!!!」

「ギュィィィィ!!!?」

 

ふら付いていたとしても自分よりも大きな怪物の身体へと全力で力を込める、その際に腕が大きくなり剛腕が加速した。マグナの戦友、マックスの巨大化能力を部分的に活かす事で腕力にブーストを掛ける、そしてそのままぐるぐると回していく。キリエロイドは何とか攻撃しようとするが己の身体を持ち上げる事への驚きと遠心力でまともに狙いが付けられないのか何も出来ずにいる。

 

「ォォォォォォッ……!!」『ULTRA HURRICANE SMASH!!!』

「タァァァァッッ!!!!」

「ジュリィィィ!!!?」

 

『今だ押し込め!!』

『はいっ!!アルファバーンキィィッィイイイイイクッッ!!!!』

 

天高く放り投げられ翼を広げるよりも速く上を取るアルファエッジ、マッハ10という飛行能力が十全に活かされる。そして十二分な加速距離を確保して赤い流星となって激突しながらキリエロイドを人が少ない作業前の工事現場区域へと墜落させる。大地に叩き落とされた悪魔が土煙を割きながら立ちあがろうとするとその奥から緑色の光線が頭部へと襲い掛かり爆発する。

 

「タァァァッッ!!」『SWALLOW SMASH!!』

「ギュィィィイイイバァァ!!!?」

 

甲高く輝くような音を響利かせながらクリティカルヒットするマグナの一撃、住宅地を上手く避けさせることに成功した事に安堵しつつ改めてキリエロイドへと向かって行く。

 

「ギュリィィィガァァァ!!」

 

狂い切った獣のような声を上げながらガパリと開けられた胸部にある悪魔の口、そこから赤黒い光が溢れるとそれが一直線に穿たんと迫る。それを寸でで回避するがそれは設営が進んでいた作業用クレーンに炸裂するとまるで切り取るかのように穿ってクレーンを真っ二つにして地面に叩き落とした。それを見た瞬間に豊富な戦闘経験と前世の知識が結び付き、最適解を導き出す。

 

『貫通特化レーザーか、絶対に当たるな!!此方に合わせるんだ!!』

『はい!!』『押忍!!』

『いけるか出久君』

『やります!!!』

 

その言葉と共に出現するゼットライザー、コスモススタイルの流麗な動きを取る中でキリエロイドは先程よりも威力を込めた高出力のそれを放つ。凄まじい圧力のレーザー、まともに受ければウルトラマンと言えどただでは済まない。だがそれはお前も同じだろうと言わんばかりに大きく回転するように―――一撃を放つ。

 

『……CRESCENT MOON SMASH』

 

『す、すげぇっ!!?』

 

思わずゼットも驚きの声を上げてしまう程の光景だった。本来直線する筈のレーザーが回転するかのような流麗且つ華麗な動きによって螺旋状に回転しながらマグナによって制御されている。そしてレーザーの照射の終了と同時に蓄積しきったそれを一気に解き放つ。

 

『HALF MOON SMASH……!!』

「ォォォッッ……ンンッ!!」

 

螺旋状へと留められ続けていたレーザー、それは一直線にキリエロイドへと差し向けられる。己の攻撃を反射される事に素早く対応するように翼を広げそこから金色の光で生み出したシールドで自らを防御する―――がそのシールドにも罅が入っていき遂に砕け散ってしまう。それを逃すかと言わんばかりにハルキはゼットライザーに新たなメダルをセットしそれをスキャンする。

 

〔COSMOS〕〔NEXUS〕〔MEBIUS〕

 

『『ライトニング……ジェネレード!!!』』

 

手にしたゼットライザーから放たれた光線はキリエロイドの上空に雷雲を生み出し、激しい稲光と雷撃音と共に雨のように雷が降り注いでいく。キリエロイドの全てを包み込んでしまうかのような範囲を焼き尽くすかのような雷撃が襲いかかる中で赤い破壊光線が発射され雷雲を無理矢理打ち破りながらも再度向けれるが、再びマグナがそれを受け止める。

 

「ギュリリリリイガァァァァアアア!!!!」

「ォォォッ……!!」

 

そこへ更にレーザーが加わり一気に受け止めるエネルギーの量が跳ね上がって行く、押し込むように強引に打ち破ろうとしているのだろう。だがそれに真っ向に挑み続ける、あの時の逆光に比べたら何でもない……もう二度と屈しない、絶対に負けない、ウルトラマンと人間が力を合わせたら越えられない壁なんてないのだから。

 

『FULL MOON REFLECT SMASH……!!』

「タァァァッ!!」

「ジュリィッ!?ギュラァァァアア!!!?」

 

限界まで収束圧縮したエネルギー、満月のように高まったそれを螺旋の矢のようにキリエロイドへと突き立てる。その一撃が胸部の悪魔の口を抉り穿ちながら周囲を焼け爛れたかのように破壊していく。思わず膝を付くがその奥に宿る憎悪と復讐の炎は更に大火と燃え滾っていく、そしてキリエロイドは恐ろしい声を上げながら取り込んだ怪獣の特性を更に如実に表す―――いやそれどころではない、取り込んだ怪獣を生み出している。

 

『おいおいなんだこりゃ!?』

『怪獣を、産んでる!?』

『翼のシールドで察していたが、キングオブモンスの能力……!!』

 

「グラララララァァァァァ!!!」

「ギュラァァァッッ……!!」

 

そこに立っていたのは子供が生み出した、赤い球の力によって出現した最強合体獣・キングオブモンス。宇宙に漂っていた怪獣達の怨念を結集させ、エネルギーを注いだことで誕生した合体怪獣・グランドキング。そしてもう一体の怪獣を生み出そうとしたところでキリエロイドから激しい爆発が起こった。恐らくダメージが蓄積した事でそれ以上生み出す事が出来ずそこで終わったがそれでもとんでもない怪獣を二体生み出した事には変わりない。

 

『これは、相当にきついゼェット……!!』

『でもやるしか無いですよ!?』

『ええ、こいつらを放っておいたらとんでもない事になります!!』

『やれやれ……ゼットンにキングジョー、後ブラックキングとギャラクトロンのコースメニューを思い出してしまったよ……』

 

ややげんなりしてしまったマグナだがそれでも闘志は尽きない、その最中にゼットに目配せをする。それに気付いたのかハルキは形態を変える。

 

 

「変幻自在、神秘の光……!!ティガ先輩!ダイナ先輩!ガイア先輩!」

 

〔TIGA〕〔DYNA〕〔GAIA〕

 

『ご唱和ください我の名を!!ウルトラマンゼット!!』

「ウルトラマンゼェエエエエエエエット!!!!」

 

―――チャァッ!! ディアッ!! デュオッ!!

 

ULTRAMAN Z GAMMA FUTURE(ウルトラマンゼット ガンマフューチャー)

 

 

キリエロイドに対してのガンマフューチャー、その姿から感じるティガの力に激怒するように狂った叫びを上げるキリエロイド。それに対してゼットは冷静沈着に技を発動する。

 

『ガンマイリュージョン……!!』

 

マグナとゼットと並び立つかのように出現する幻影のティガ、ダイナ、ガイア。その登場にマグナは溢れんばかりの興奮で満ちるがそれを抑えながら偉大なる平成御三家とも言える御三方に自らの力を注ぎ込んだ。それはマックスの能力の一つ、分身能力を大基にした力。それらを受けた巨人たちは薄い光を纏った幻影ではなく完全な実体として出現しマグナを見て小さく頷きながら構えを取った―――が

 

「マグナ様ぁっ助太刀いたしますぅぅぅう!!!」

 

と天から降ってきたのは新型のモンスアーマーを纏ったMt.レディであった、突然の登場にキョトンとするマグナだが空を見ればそこにはPLUSファイターGXが飛んでいた。発目が彼女を此処まで連れてきたという事だろう、素直にそれを受け取りながら構えを取った。

 

「シィエァッ!!!」

「デュォッ!!!」

「チャァッ!!」

「ディアッ!!」

「ォォォッ!!!」

「ハァッ!!」




なんか超時空の大決戦めいてきた。


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超決戦と悪夢の終わり。

うん、やり過ぎた。


その日、PLUSはウルトラマン達と並び立ったのだ。大地に立つ悪魔が生み出した巨大な怪獣、それに相対するウルトラマンと肩を並べたMt.レディ。それはどれ程までに大きな進歩だった事だろうか、そしてウルトラマン達は―――一気に駆け出しながらそれぞれが標的と定めた怪獣へと向かって行った。

 

「シュォ!!」

「チャァッ!!」

 

ゼットとティガ、キリエロイドへ。

 

「ダァッ!!」

「ヤァッ!!」

 

ダイナとMt.レディ、グランドキングへ。

 

「デュォッ!!!」

「タァァッ!!!」

 

そして、マグナとガイアがキングオブモンスへ。

 

 

 

 

「取り敢えず宜しくお願いしますねマグナ様のお仲間のウルトラマンさん!!お名前は存じ上げませんけど!!」

「フッ!!ディア!!!」

 

新型のモンスアーマー、酷くゴツく重厚なアーマーだがその分出せるパワーが大きいのかグランドキングへとぶつかったダイナと共に繰り出した一撃が火花を纏う。

 

「流石パワー特化型のアーマーね、その分重いけど……」

「ギュラァァァァァァ……!!!」

「やばっ!!」

 

巨大なクローに両腕でガードを固める、爆発でも起きたかのような衝撃と音が響き渡るがそれを受けたMt.レディは歯を食いしばり、地面に足が埋まる程に踏みしめてこそいるがグランドキングの攻撃を耐え抜いていた。

 

「ヌググググッ……!!舐めんじゃ無いわよ、伊達にマグナ様に憧れてるんじゃないのよ……!!!あの人の役に立ちたい一心で私はっ……!!」

「ォォォォディアアアア!!!」

 

Mt.レディへと差し向けている腕へと放たれたアッパー、それはグランドキングのクローを大きく弾き飛ばしながら続けて懐へと鋭い一撃が炸裂するがびくともせずに逆にダイナへとクローが炸裂し吹き飛ばされてしまう。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

後ろに引きながらも手を貸すと直ぐに立ち上がりながらもサムズアップで無事だとアピールしてくる。安心するが自分の中で勝手に描いていた神秘性に溢れるウルトラマン像が変化した音が聞こえてきた、好意的なものを覚えるがなんだか実に人間っぽい……ウルトラマンも矢張り性格的な物があるのかと思っているとダイナは両腕を胸の前で組んだ。

 

「ゥゥゥゥッッ……ディァァァアアアアアア!!!」

「か、身体の色が……!!」

 

頭部の宝石が輝いたと思ったら直後にダイナの姿が大きく変貌した、全身が赤く変化すると共にその肉体も筋骨隆々としたものへと変化した。ウルトラマンダイナ・ストロングタイプ。

 

「ギュラアアア!!」

「ハァッ!!!ウウウッディアアア!!!」

 

再度懐に飛び込むが今度は両腕が一気に振り下ろされる、あれを受けたら流石に不味いと思って助けに入ろうとするMt.レディ。だがその必要はなかったのだ、巨大なクローを両腕で受け止めながら逆に力でそれを弾き飛ばしてしまった。お返しだと言わんばかりに腹部へと光と炎を纏わせた拳を叩きつけた、僅かだが巨体が浮く程の威力に後退させる程のそれに思わず呆然とするが直ぐに笑みを浮かべた。

 

「流石マグナ様のお仲間……ウルトラダイナミックって奴ね!!私も続くわ!!サイバァァッウェイブクロォォォ!!」

 

ダイナの一撃によって僅かだが装甲に綻びが生じしている、そこへと狙いを付けながら右手のクローの機能を発動する。エネルギーを纏いながら超振動を開始したそれで装甲に爪を立てる。すると振動の効果と装甲の綻びの相乗効果で腹の装甲に罅が入り始めた。

 

「ッシャアオラァッ!!このままいきましょう!!」

「ディアッ!!」

 

 

「チャァッ!!」

「ジュリィルァァァァ!!!」

「シュア!!シュォッ!!」

 

キリエロイドとぶつかり合うのはティガとゼット、その身体がキングオブモンスとグランドキングという怪獣は分離しており残っているのはファイブキングという訳ではない。各部の特徴は残っている、弱体化している訳ではないが、ティガはキリエロイドの攻撃の殆どを完璧に防御しつつ捌いている。巧みな防御、そして其処を掻い潜るかのように変幻自在の光がキリエロイドへと炸裂していく。

 

「ディッ……シュワォ!!」

 

無数のカード上の光線、巨大な光輪から矢のように光を降り注がせる、光の槍を放つなどガンマフューチャーの長所を存分に生かすように戦い続けるゼット。それをアシストするようにタッグの長所が100%活かせるように戦っているティガ。

 

「フッ!!」

「ギュリッリリリイ!!!」

「ンンッッッ……ハッ!!!」

 

額のクリスタルの前で腕を交差させ振り抜くとティガの身体が青く染まった姿へと変貌する、その行いを見たキリエロイドはさせるかと言わんばかりの火炎弾を放つが寸での所で変貌を遂げたティガは一瞬で空へと飛びあがるとそこから光弾を放った。ウルトラマンティガ・スカイタイプ。憎しみに染まり切ったキリエロイド、ティガを追うように空へと火炎を連発する中でそれを潜り抜けるようにしながらも青白い光線が放たれそれが翼へと直撃する―――それを受けた翼は一気に凍結していく。

 

「シュワァッ……ォォォォォォッ!!」

『『ゼスティウムドライブ……!』』

 

屈みながらも頭部へと集めた赤と青のエネルギー、それを光鞭へと変化させ腕を振るいながらキリエロイドへとぶつけた。肉体を切り裂きながらも正確に完全に凍結した翼を切り裂き落とし、激痛に叫ぶキリエロイドへとティガが上空から蹴り付ける様にしながら着地する。

 

『流石はティガ先輩、相手が自分に恨みを持ってるって分かってて誘導してくれてるぜ!!』

『押忍!!凄いこれがティガ先輩!!』

 

 

「ディァ!!」

「ツォッ!!」

「グララララァァァァ!!!」

 

そして最後の一体、キングオブモンスとの戦闘を行うガイアとマグナ。互いに一度視線を合わせると頷き合い、共にキングオブモンスへと飛び掛かって行く。グランドキングにも負けぬ巨大な怪獣に全く怯まぬ二人、叫びながら無理矢理にそれを振り解こうとそれにも拮抗する巨人らに腹部の牙のような棘を伸ばし突き刺そうとするが、両者は全く同時にそれを掴んだ。

 

「「デュォ!ダァァ!!」」

 

手刀で棘を同時に破壊されるとキングオブモンスはその痛みからか僅かに退いた、そこへ更に同時の重々しいパンチが炸裂する。

 

『あのガイアと共闘っ……フフフッ年甲斐も無く興奮するな、不甲斐ない所は見せられんぞ出久君!!!』

『凄い楽しそうですねマグナさん!なら僕だって相棒として頑張らない訳には行かないですよね!!』

 

「グララララァァァァ!!!!」

 

咄嗟にマグナが前に出る。ほぼ同時にキングオブモンスの口部から赤い破壊光線(クレメントビーム)が迸る、それを受け流すとガイアは肩を借りるようにしながら跳躍すると頭部を蹴りつけた。爆発を起こしながら倒れこむキングオブモンス、だが再び光線を発射しようとするのを見ると透かさずエネルギーをチャージした。

 

「ォォッ!!デュオッ!!」

 

右腕から赤い光線、クァンタムストリームを発射して対抗。一歩も譲らぬ打ち合いが続くが即時発射では分が悪かったのだろうか徐々に抑えて行くガイア。そこへマグナがスペシウム光線を発射で加勢する。一気にクレメントビームを押し返し頭部を爆発させるが逆に怒りを買ったのか狂ったように叫びだし、突進してくる。巨体からのパワーもあり、思わず声が出るが完全に冷静さを欠かす事が出来たのは大きな理。

 

『デュオッ!!ォォォッッッ!!!』

 

ガイアが変わる、赤い姿が青く胸だけにあった黒いラインが肩にも表れ、銀色のラインも身体を走っている。何より一番目を引くのはその筋骨隆々たる姿、ダイナのストロングタイプをも凌駕するような姿に驚きを隠せない。それこそがガイアの最強形態、スプリームヴァージョン。それを見たマグナと出久は共に力を開放しウルトラ・フォー・オールへと変化し並び立った。

 

「「オオォォッ!!!」」

 

向かってくる所に共に一撃を浴びせる、そしてそのまま両サイドに回り込むと腰を落とし腕に力を籠め―――

 

「「タァァァァッッ!!!」」

「グラァァァアアアアッッ!!?」

 

グランドキングにも負けない程に巨大なキングオブモンスの身体が宙を一回転して大地へと叩きつけられた。だがそれだけでは終わらない、立ち上がろうとする所へダブルアッパーを決めて浮き上がらせるとそのまま持ち上げると背中から叩き落とす。

 

「デュッ!!」

「ディァァァァッッ……ダァッ!!」

 

苦しみもがく姿を見ながらも容赦など一切しない、足を掴むと一気に持ち上げながら大地へと叩きつける。既にヘロヘロになりつつあるがマグナとガイアの攻撃は終わらない、今度は完全にキングオブモンスを持ち上げてしまうとそのままぶん投げた。最早投げるというよりも地球そのもので殴りつけているかのような攻撃にキングオブモンスはもう立てなくなってしまう程の大ダメージを被った上に目も回っているのかフラフラとしている。

 

『これで決める!!』

『はいっ!!』

 

胸の宝石が輝きだした時、ガイアも同じ事を考えていたのだろう。彼の胸のライフゲージが一際大きな輝きを放った、光の奔流が溢れ出るのを収束させながらもまるで合掌するかのように手を合わせる、そこから手をずらす事で放たれるガイア最強にして最大の光線―――フォトンストリームが放たれる。

 

「ディァ!!ォォォォォォォッデュオッ!!!!」

「シェァッ!!ォォォォォッッ……ディアァァァア!!!!」

 

ガイアとマグナの最強光線、それらは一つになりながらも一気にキングオブモンスへと照射されていく。既にフラフラではあったがその危機を察知したのか翼からシールドを展開するが一瞬たりとも受け止める事も出来ぬまま、まるで素通りするかのように光線は炸裂した。そして―――キングオブモンスの肉体はその負荷に僅かでも耐えきる事が出来ぬまま全身が粉々になるように爆発していった。

 

 

「こっちも決めるわよっ!!パスお願いします!!」

「フッ!!ディアアアアアア!!!」

「グガァァァァッッ!!」

 

名が示す通りのダイナミックな戦いを繰り広げるダイナ、Mt.レディのサポートがあると言っても殆ど一人でグランドキングと相対している。そしてそのダイナは胸部へと重々しいナックルをブチ当てて後退りさせた、そこへ走り込みながらもモンスアーマーの出力を最大まで引き上げた。青白い光がアーマー全体から溢れてくると同時に身体に大きな衝撃が飛んでくる、まるで生身の身体を金属バットで殴られ続けるような衝撃が突き抜ける中でMt.レディは不敵に笑い続ける。

 

「喰らいなさいっ―――サイバー超振動波ぁぁぁぁぁ!!!」

 

全身にかかる負荷など知った事かと言わんばかりに炸裂させる必殺の一撃、エネルギーと共に放たれる振動波は強固な筈のグランドキングの装甲を揺るがしていく。そしてそれが亀裂へと到達すると一気に突き崩していく。

 

「今よっ!!」

「ゥゥゥッディァアア!!ディアアッ!!!!」

 

ストロングタイプから元の姿、フラッシュタイプへと変化するとまるでスペシウム光線のような構えを取った。だがそれはスペシウム光線ではない、ダイナの必殺光線であるソルジェント光線。真っ直ぐと超振動波によって生まれた瓦解した装甲、その奥へと光線が届いて行く。そのエネルギーが飽和したように広がりオレンジの光の輪が生まれた直後、それが収束していくと遂にグランドキングが大爆発を起こして消滅した。それを見届けるとMt.レディは思わず尻もちをついてしまう。

 

「やっぱり、ウルトラマン様と一緒に戦うには、まだまだって感じね私ったら……」

 

 

「ギュリィィィ!!?グヤァァァアアアアアビャアアアアア!!!」

 

突然すぎる事だった、ティガはパワータイプになりキリエロイドと真っ向から戦っていた時に突然苦しみ始めたのだ。そして身体の各部が大爆発を起こしながら破損しボロボロになっていた。グランドキングとキングオブモンスのパーツが無くなり最早その身に纏うのはファイブキングの物だけとなってしまった。それを好機と捉えたのかティガは素早くマルチタイプへとタイプチェンジ、そしてゼットと並び立つ。

 

『よし決めるぞハルキ!!』

『押忍!!!』

『『ゼスティウム光線!!!』』

 

「フッ!!ゥァァァァァ……ハァッ!!!」

 

腕を前へと出すティガ、それを水平と開きながらも周囲から光がティガへと集まって行く。カラータイマーへと集った光、それを腕へと集めるようにしながらそれを一気に放出し相手へと放つ光線、ティガの代名詞とも言える必殺光線、ゼペリオン光線とゼットのゼスティウム光線がともに放たれていく。

 

「ギュリラアアアアアッッ!!!!!?」

 

光線を受けたキリエロイド、絶叫を上げながらも未だに恨みと憎悪の力で前へと進みティガを倒そうとする。だがティガは屈する事も無く更に光線を強くした、それを受け続けると身体の各部がまるで光の粒子へと変換されていくかのように崩れて行く、徐々に腕が無くなり身体にもそれが及ぼうとした時にキリエロイドは大爆発を起こした。まるで光になどならないというかのように……。

 

『お疲れ様ゼット君、ハルキ君』

『押忍マグナ師匠!!』

『如何ですか師匠俺だってなかなかやるでしょう!?』

『そうやって調子に乗らないの』

 

調子のいい弟子を諫めながらもマグナは力を貸してくれた御三方に感謝を示した。彼らはウルトラメダル、ゼットに力を貸してくれていた物であり本当に彼らではない。そこに自分が力を注いだことで一時的に戦ってくれた存在、それでもマグナは心の底から嬉しかったのだ。自分にウルトラマンという憧れをくれた始まりの光の巨人達、その三人と戦えた事を。

 

感謝を告げると三人のウルトラマンは小さく頷いてくれた。ティガは落ち着き払った紳士のような対応を。ダイナは何処か元気溢れる少年のように。ガイアはそれを見て少し笑うかのようにしながらも力強く肩を叩いてくれた。そして三人は光となってゼットと一体となっていった、自分はきっと今日という日を忘れないだろう。偉大な御三家と戦えた事を―――そして

 

「シュォッ」

「マ、マグナ様ぁっ……!!お、お手を貸し下さるなど畏れ多く……!!ご一緒に戦えて光栄でした!!」

「デュォ!?」

 

一緒に戦ってくれたMt.レディに手を差し出す、彼女にもお世話になったからお礼を込めてのつもりだったが畏れ多いと自分で速やかに立たれてしまった。ならばと握手を求めようとしたのだが逆にお礼を言われてしまう―――のはいいのだが思いっきりお辞儀された勢いで頭突きになってしまった。

 

『うわっなんかヨウコ先輩を思い出します俺……』

『あの時地味に痛かったで御座るよ……』

 

 

「ああっ申し訳御座いません!?私なんて事を……ふぁっ……」

「シュォッ……」

 

顔を真っ青にして焦る彼女に大丈夫だからという意味を込めて優しく頭を撫でる。出来るだけ優しく甘く、突然の事に処理が出来ないのかマグナを見つめ続けるMt.レディ。そして最後に有難うと言いたげに頷くとゼットと並び立って―――

 

「シュワッチ!!!」「デュオッ!!」

 

空にZの軌跡を残しながら彼方へと消えていったのであった。それを彼女は見送り続けながらも最後に頭の感触をもう一度確かめ、先程の事を思い出す。

 

「ふぁっ……私、マグナ様にいい子いい子されちゃった……ふぇぇぇぇっっっ……」

 

嬉しさのキャパが越えてしまったのかMt.レディは元のサイズに戻りながら倒れこみ、気を失ってしまったので発目に回収されたとの事。




「流石に頭撫でるのは女性に対して失礼だったかな……」
「大丈夫だと思いますよ。だってMt.レディ、マグナさんにベタ惚れじゃないですか」
「……カトレア王女との一件もあるのに女性絡みの問題がまた増えるなんて……」


『あの子ズルいぃぃぃぃぃぃ!!!僕だってマグナになでなでされたいのにぃぃぃぃ!!!』
『はいはい、全くマグナさんの事になると直ぐにこれだよ……』
『こうなったら光の国に戻ったらヒカリ先生の技術でもう一つ命を貰うしか……!!』
『おいおい……というか貰っても身体って戻るのかい?アンタの身体は消滅しちゃってるし時間が経ちすぎてて無理なんじゃないかい?』
『……そこ考えてなかったよぉォぉ!!?駄目だったらどうしよう菜奈さん!?カトレア王女にマグナとられちゃう!?』
『いやアタシに言われてもなぁ……』 


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未来へ備えろ。

『ぶへぇっっっ……すげぇ疲れたゼェット……』

「ガ、ガンマフューチャーを解除した途端っすね……」

「大丈夫ですかハルキさん?」

「お、押忍大丈夫っす……でもちょっと休ませてほしいっす……」

 

キリエロイドの撃破に成功した出久とハルキだが、変身を解除した途端にハルキとゼットは全身に纏わり付くかのようなエゲツない疲労感に苛まれてしまった。それに僅かながらに心当たりがあるマグナは少しばかり申し訳なさそうな顔を作った。

 

『恐らくティガ、ダイナ、ガイアの三戦士を長時間実体化させ続けた故の反動だろうね……私にもしっぺ返しが来ている、マックスの分身能力の影響が君にも来てしまっているようだ』

『な、成程……納得しました……』

 

出久は何も感じていないが自分が被る筈の負担は全てマグナが肩代わりしてくれているのだと分かると直ぐに内心で感謝すると、気にしない気にしないと飛んでくる。そんな話をしながらも基地へと帰還すると……直ぐにミリオがやって来た。

 

「お疲れ様だよね!!いやぁ本当に凄かったよ、まあ俺は死穢八斎會の人たちを運び出す作業してたからあとでファイターが撮ってた映像を確認してただけなんだけどさ!!」

「い、いえそれ程でも……それであの女の子は……?」

「今は医務室で見て貰ってるよ、救い出した時よりも何だか安定してるみたいだよ」

 

死穢八斎會の地下施設で発見した少女、名前を尋ねたところ壊理だという。包帯で覆われている部分には多くの切創があり、メスなどによる物など診断されているとの事。同時に死穢八斎會の治崎への取り調べも行われている、非協力だと思われていた彼だが予想外にある程度協力的な姿勢を見せておりナイトアイを驚かせている。何故かと聞くと

 

『……壊理の礼、という事にしておいてくれ』

 

ぶっきらぼうにそう答えるだけだったという。何があったのか分からないが治崎の中にあった何かが変化しているとの事だった、それと同時に元々進めていた計画の価値が怪獣の出現によってこの先無くなるだろうという事も考えていたのかもしれない。

 

「彼女は取り敢えずこの基地で保護する事にしました、宇宙人の被害者とも取れますから。ちょくちょく会いに行ってあげて貰えると助かります」

「分かりました」

「押忍」

 

『しかし……問題は別だな』

 

ミリオと別れながら道を行く中で声を上げるマグナ、それに全員が頷いた。そもそもの理由としてあそこへと出向いた目的はベリアルメダルの捜索だった。それがキリエル人との再度の邂逅で潰れてしまい発見する事が出来なかった。もう一度調査に赴くべくかと思っているとベリアロクが語りだす。

 

『無駄だ、あそこにはもう俺様のメダルはねぇな。上手い事あいつを隠れ蓑にされた』

「あいつは囮だったって事っすか……」

『今度はよほどうまく隠してるらしいな、何も感じねぇ』

「う~ん……これは振出ですかね……」

『ムゥゥッ……俺達が持ってるメダルと共鳴させるとか出来ないで御座いますかね』

『不安定なメダルが暴走するだけだ』

 

解決したかった事柄は解決しなかった、その途中で解決しきらなかった事柄を解決しただけに等しくこれからどうするべきかと思案してしまう。

 

「……また、あのメダルを使って怪獣を呼び出すつもりなんですかね」

『それが妥当だろうね。その分強力な怪獣でないと使えないという制約はあるけどその分、強力な怪獣であれば使えるから必然的に厄介な奴しか生まれない事になる』

『ベリアル融合獣とか出てくる可能性があるって事っすよね……』

『否定はしないでおこう、後すでに出てるし』

「マジすか!?」

「しかも多分、元の奴よりずっと強い奴ですよね」

『ほうっ?斬ってみてぇな』

 

そんな賑やかやら物騒な会話をしつつも進んでいく内に部屋へと到着した、ハルキは疲れもあるので先に休ませて貰うと言って中へと入っていき出久とマグナも自分の部屋へ―――そして部屋で出久は尋ねた。

 

「あのマグナさん―――メダルを持っていたのってあのアウローラだと思いますか?」

「……半々だね、何とも言えないが……あり得てしまう」

 

星 光士としての姿を見せながら椅子に腰掛けながらベッドに座る出久へと視線を向ける。出久としてはメダルを持っていたのはアウローラなのではないかと疑っているらしい。その意見は間違ってはいないとは思う、だが確証がない。

 

「何とも言えないね。他の宇宙人が奴の持っていた物を奪った or 奴自身が生き残っていて私への復讐を望んでいるの二択ではあるとは思う」

「どっちも御免被りたいですね」

「レイブラッドの継承者……か、奴のしぶとさを考慮すると後者であることが妥当なのが嫌な所だ」

 

大怪獣バトルでのレイブラッド星人の暗躍を考慮すると相当にしぶといと思われる、何せ倒したと思ったら仕込んでいた保険に憑依して暴れ回るを繰り返すようなとんでもない宇宙人だ。その継承者を名乗るのだから同じ位にしつこいと考えるの妥当――――だとすれば自分にそんな奴が倒せるのだろうかという不安が過る。

 

「(私のような者が奴を本当に撃ち滅ぼせるのか……やるしかないにしても出来るのか……)」

「あの、マグナさん?」

「……んっああすまない、なんだい?」

 

思わず思考の海に沈んでしまった、自分で勝てるのかという不安が生まれてしまった。よく理解している故にレイブラッド星人の恐ろしさは理解している、何せあのベリアルを悪のウルトラマンとしての姿へと変貌させる力を持ち、精神体であるのにも拘らずマン兄さんこと、初代ウルトラマンを岩場に封印するだけの力を持った存在。それの継承者を語るアウローラ、それを本当に倒せるのかと不安を感じているのか伝わったのか出久は凛々しい顔で言った。

 

「僕にもっと、マグナさんの世界の事を教えてください。この地球を守る為いや、僕が守りたいと思う物を守る為に力を貸してください!!僕が思う最高のヒーローになる為に!!」

「出久君……」

「僕はまだまだ未熟でマグナさんの相棒には不足かもしれません、だからもっと教えてください!!貴方の相棒として相応しくなるために!!!」

 

そんな風に叫ぶ出久に笑みを作った、一人で悩むなと遠回しに言われたような気分だった。未来に不安があるのならばその不安が無くなるように努力すればいい、出会ったばかりの頃、雄英に入学する為に自分をそうやって鍛えてくれただろう、ならば今からそれを一緒にやろうと言っている。

 

「そう、だね。君はまだまだ未熟者だ、何れはこの地球を背負うかもしれない。ならばもっと成長しないとね―――私と一緒に」

「はい!!」

「それじゃあ早速私の世界の講座から入ろうかな、言っておくけど手加減しないからね」

「望むところです」

「よし言質取ったから疲れたと言ってもヒーリングパルスで回復ループさせるから覚悟しなさい」

「え″っ」

 

 

 

 

―――漸く、か……あと一つ、あと一つで完成する。ベリアル、お前に相応しい肉体が……ハハハッ楽しみだ……ねぇマグナ、君も喜んでくれるだろう……?ねぇっ……?



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辛くなっていくこれから。

「そう、この時に起きた事は未だに語り継がれる程だ。ウルトラマン、セブン、ジャック、ゾフィー隊長を磔にされてしまった。そこへ駆けつけたのがエースという訳さ。だがエースキラーも侮れない強さを誇る、あの4兄弟からエネルギーと共に必殺技をコピーしてしまっていた。そんな状況でもエースは―――」

「マグナさんもう頭がパンクしそうなんですが……」

「ではもう一回ヒーリングパルスいっとくかな、そうすればスッキリするよ」

「お願いですから普通に休ませてください……」

 

キリエロイドとの戦闘終了から約5時間が経過しようとしているがその間ぶっ続けでマグナによるウルトラマン戦いの歴史の講義が行われ続けていた。マン兄さんの活躍から始まり、怪獣の解説や対応策、宇宙人の謀略などなど……様々な講義が行われている訳だが……出久ですら音を上げる程の余りにも濃い内容が続いており、本気で休ませてほしいと懇願する程だった。今はマグナ曰くエースの章、第14節「銀河に散った5つの星」を語っている途中。

 

「先程のやる気は何処に行ったんだい?ウルトラ兄弟の活躍はこんなものではないんだけど」

「―――分割でお願いします……」

「全くしょうがないな……小休止という事で1時間休憩にしよう」

 

その言葉と共に出久は倒れこむようにしながら気絶、いや眠ってしまった。キリエロイドでの疲労は自分が全て肩代わりしていた筈だが……流石に詰め込み過ぎただろうか。今の自分ではなく以前の自分の血が騒いでしまっているのだろう……もう気分が乗りまくってしょうがない。

 

「最早布教と変わらないな……うぅむあれだな、ライダーシリーズ信者に熱く語った以来かもしれないな」

 

ライダーこそ至高!!と言ってきたのでそれに猛反発して此方も全力で良さを語った、結果として相手をウルトラシリーズ信者にもする事に成功していた。因みに自分は特撮全般イケる口だった。まさかマグナの身でこんな事をするとは思ってもみなかった、ある意味第三者的な立場である出久相手だからこそここまで語れるのだろう。故に熱くなってしまったのかもしれない、反省しなければ……。

 

「だがエースさんだからこそよく聞いて感じて欲しいな、あの言葉の重みを受け取って欲しい」

 

そう思いながら一度部屋を出る事にする、後で続きを詰め込む事になるのだから今ぐらいはゆっくり出久を休ませる事にしよう。それに―――自分がこの星を去った後は彼が中心となってこの地球を守るのだ、その為の力となる知識を授けるのだから妥協はしない。そうだついでに同じく犠牲者が居た方が出久も気が楽になるだろうし師として動かなければ。

 

「(ゼット君聞こえるかい)」

『うぇっ!?マグナ師匠何でございますでありんしょうか?!』

「(だから君のその日本語一体どうなってんのよ、まあいいけど……1時間後に出久の部屋に来なさい。君にもウルトラ兄弟の歴史についての講義を受けて貰うよ。後ハルキ君は良いから君だけでね、それぐらいは出来るだろう)」

『いやまあ出来ますけど講義!!?俺そっち系苦手なんですけど!!?いやまあマグナ師匠のそれはゼロ師匠のより断然分かりやすいですけど……』

「(……文句は言わない、今はエースさんについてやってるから途中でいいから参加しなさい。私の弟子であるからにはある程度それらしさを望むからね)」

『エ、エース兄さんについてですか!!?絶対行きます!!!』

 

とそこで切れてしまった。ゼットが座学を苦手としているのは知っていたが此処まで喰いつくのは意外だった、エースに関する事だからだろうか。彼とエースは何か関係があるのだろうか……尊敬しているとかだろうか。まあこれで犠牲者を確保、出久の気も楽になるだろう。ついでにそちらの確認にもなるだろうから一石二鳥になる。

 

「しかし私が師匠か……実感、無いなぁ」

 

そんな言葉を呟きながらも適当に時間を潰しておきながら部屋へと戻る、前に発目の下によって適当なタブレットなどが無いかと尋ねると趣味と気分転換で作った物がたくさんあるから持って行って貰って構わないと幾つか貰うのであった。

 

「素直に助かるよ、出久君の勉強に使おうと思ってね」

「ほうほうっそういう使用用途でしたか、全面タッチスクリーンになってますのでノート代わりにもなりますからご自由にどうぞ」

「有難う、それで……彼女は如何したんだい?」

 

発目の研究室でタブレットを受け取っているとその中でずっと何もない所を頬を赤らめながら蕩けた顔で見つめ続けているMt.レディの姿があった。此処に来てからずっとそのままだったので好い加減気になってきた。すると発目は少々悪い顔をしながら話してくれる。

 

「ゴモラアーマーの使用感を聞こうとしてたんですけどね、ウルトラマンに頭撫でられた事が相当に利いてるみたいで……ホラッ顔が笑ってるでしょ」

「……あのままでいいのかい?」

「後でも聞けますから今はデータ解析して待ってるんですよ。まあ随分と時間かかりそうですけど」

「アハハハッ……それじゃあ私は行くね」

 

含みのある顔をしている発目から逃げるようにマグナは撤退を決定した。出久へと部屋へと戻りながらも拙かったかなと反省する。

 

「女性経験ないのがまさかこんな所でも来るなんて……カトレア王女の事を考えると気が重い……よし、絶対光の国に戻ったら同僚全員に王族紹介したる。今に見ていろ私にお相手が出来たけど自分がいいやと思っている友人達、それに私に相手が出来たと知られているだろうから上司も皆に相手を推すはずだしな」

 

尚、実際に光の国ではマグナとカトレアが結ばれた為にある種のカップルブームが起き始めておりまだ結婚を考えていない者にもその手が迫ろうとしていた。そこにマグナのそれは更にそれを加速させる事となる。

 

「……マックス、もしかして君もかい」

「もしかしなくてもそうさ、それはネオスもだろう」

「うん……まだ僕は結婚なんて考えてもいないのに……マグナが身を固めたんだからって推されるんだ……」

「……彼の事を笑っている場合ではなかったな」

「全くその通り……」

 

と苦悩する者からはむごい追い打ちとなる事をマグナはまだ知らない。

 

 

「さて続きと行こう。ゼット君、君にはテスト代わりに受けて貰うから覚悟するように」

『の、望むところで御座いますよぉ!!?』

「ゼットさん声、声上がってます。後マグナ師匠、俺も見聞を深める為にも参加させて頂きます!!」

「ええその辺りはどうぞ、でも無理はなさらないように」

「それ僕にも言って欲しいなぁ……」



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ウルトラ戦記。

「あの、マグナさん緑谷少年に何があったんですか……?」

「いえ私の相棒として立派になりたいと言うので講義をしてただけですよ?」

「講義でこんな事は起こりませんよ!?」

 

出久の毎日は基本的に自分に割り与えられている部屋で過ごしつつも発目の制御役兼モンスアーマーのテストを絡めて訓練、最近ではハルキとの組手なども含まれている。そしてそこに新たなノルマとして追加されたのがマグナによるウルトラマンの戦歴史……なのだが

 

「現代において出現が危険視される怪獣の代表格はアントラーでありその理由としては移動が地中を掘り進むのでライフラインの切断が上げられる。がそれ以上に危険のがアントラーが発射する磁力光線でありそれはあらゆる金属を引き寄せてしまう。それはウルトラマンですら例外ではなく引き寄せられてしまうのでその対応策として最も有効なのが金属を使用しない対怪獣災害想定コスチュームだがその場合―――も、もうだめ……」

「し、確りするんだ緑谷少年!!!?」

 

頭から湯気を出して倒れこむように崩れ落ちてしまった出久に対して途中から参加したのにも拘らずケロッとしているナイトアイ、復習やテストという意味合いを含めて出久には様々な問題を出していたが……如何やら詰め込み過ぎたらしい。因みにハルキとゼットはレギオノイドの運用試験の為に席を外している。その席にナイトアイは滑り込んだ。

 

「もう駄目です……凄い興味深いですけど情報量がえぐすぎて記憶と整理が追い付きませっ……(ガクッ)」

「緑谷少年んんんんッ!!?!?」

 

「フムッ少々詰め込み過ぎましたかね」

「まあ少年という事も考えれば妥当でしょうな。それでマグナさん、私としてお聞きしたいのはこのババルウ星人についてなのですが……先程のお話ではかなり高度な変身能力があるとか」

「ええっウルトラマンレオの実弟であるアストラに化けて地球と光の国を衝突させようとした位にとんでもない奴です」

「それは、何とも……!!」

「ただし本人の戦闘力は低めなのが救いですね」

「ほほうっ……矢張りラグドールには協力要請を仰ぐべきでしょうか……」

 

「えっそんな直ぐに話題転換できる程度の事ではないでしょう特にマグナさん!?」

 

 

「あ、甘いものが頭に染みる……」

「やれやれっ情けない、そんな事でマグナさんのパートナーが務まるのか」

「いやいやいや今回ばかりはマグナさんのペース配分に問題があったんだよ!?流石に君と同列にしちゃいけないでしょ!?」

「面目ない」

 

差し入れとしてオールマイトが持って来てくれたお菓子を食べながら休憩を挟む。出久も出久でヒーローオタクとして様々なヒーローの知識や個性の活用などを心得ているつもりだったがそれを易々とオーバーするウルトラマンの戦いの歴史にややげんなりしながらもチョコを頬張る。

 

「しかしそれだけの歴史があるなんて……私も聞いた方が良いかもしれないな」

「是非聞くべきです、これ程までに心が躍るだけではなくこれからの地球に必要不可欠な情報を惜しみなく教えてくださる方などこれ以降現れないでしょう!!」

「わ、分かったから迫らないでくれナイトアイ!?」

 

完全に少年の瞳と顔になっている元サイドキックにやや引いているオールマイト、出久にとっては新鮮な光景である。

 

「といってもこれも地球などにおける戦いなどに限定していますからかなり端折ってますからね、それ以外もいれちゃうと正しく何万年分の物になっちゃいますからね。ウルトラ兄弟が活躍した時代だけでも相当ありますよ」

 

レオの章が先程漸く終わった所だった。内容としても悲しく、辛い物だった故に出久には大きなダメージがあった。ある意味尤も熾烈で厳しい戦いを重ねてきた時代とも言える。他にも所謂海外勢とも言えるウルトラマンやアニメ勢(ジョーニアス)もある上にそこから更に平成ウルトラマンや令和に続くのでまだまだ講義は終わらないのである。出久からすれば死刑宣告に近いだろうが流石にそれを一気に詰め込む訳ではない―――

 

「流石にウルトラ兄弟と違う次元のウルトラマンは分けるから安心していいよ出久君」

「ち、因みにどんな感じに……?」

「レオの次の80、そしてメビウスで一旦打ち止め、その後にジョーニアス、グレートとパワードで―――」

 

ああ、まだまだ続くんだという事を悟ったような顔になった出久とまだまだ続くんだな!!と顔を輝かせるナイトアイという酷く対照的なそれを呆れた顔を作るオールマイト、この先のスケジュールを考えるマグナ。

 

「それで壊理ちゃんでしたか、彼女の方は如何でしょうか」

「彼女の方ですが今の所順調に回復しています、長期間監禁されていた事による栄養失調はありませんでしたが食が細い上に行われていた事ゆえに余り物を食べていなかったようです」

「壊理ちゃん……」

 

だがそれでも壊理は回復傾向にあるらしい。治崎が進めていた狂気的な計画、個性を無くすことを目的としたそれは奇しくも怪獣の出現によって消極的な物へと転換され大幅な見直しと変更を余儀なくされていた段階との事。それでも彼女の個性が余りにも希少であり有用であった為に監禁していたとの事。

 

「それで治崎氏からキリエル人との繋がりは聞き出せたでしょうか」

 

壊理の事も気になるがそれ以上に気になったのはキリエル人との繋がり、何故あの場にキリエル人が居たのかという事である。それについても治崎は条件を付けながらも情報提供に応じてくれている。が、得られた物は多くは無い。

 

「壊理ちゃんとの個性、それと組み合わせる事で新たな勢力を展開する手伝いとしてとある人物から推薦されたと……それがあの宗教という話です」

「それでそれを推薦した者、というのは」

 

キリエル人についてはある程度分かる、ティガの劇中でも同じような事をしていた。恐らく望んでいたのはウルトラマンへの復讐、そして同胞の来訪……と言う所だろうか。だが問題なのは誰がキリエル人を死穢八斎會へと近づけたのか、誰がそれを仲介を行ったのかという事になる。

 

「常に身体と顔を隠したうえに声も常に変化し続けていたので何とも言えないとの事です」

「そうですか……」

「手掛かりなし、しかし逆に危険だな。ヴィランに宇宙人を斡旋する謎の存在か……」

「ヴィランによる被害の深刻化、それも懸念されますね。ヒーローとの連携をPLUSも強めるとしましょう」

 

何かもが謎の存在がキリエル人を招いた、それだけではアウローラと断定する事は出来ないし出来たとしても探す手段も無い。自分も何か考えておかなければならないだろう、この地球を守る為に。その為にまずはこの地球に自分が大好きで尊敬するウルトラマンの想いを残そうと思う、それは種となって何れ大きな華となると信じている。

 

「さてそれじゃあそろそろ続きを始めるかい出久君。次は80だね、彼は地球で中学校の先生をやっていたんだ」

「えっウルトラマンが先生をやってたんですか!?」

「あの、マグナさん私も聞いていいですか凄い興味深いので!」

「聞くべきですオールマイト、貴方の指導力の改善にも繋がるかもしれない」

「ガハッ!!」

「ヒーリングパルス一本目行きますね」




尚、エースの章中にゼットが

『流石エース兄さん!!俺ってばあんな人に名付け親になって貰えて凄い幸せだなぁ!!』

と言ったのでマグナが凄い顔をしながらそれについて激しく問いただしたのは別のお話。


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平和の象徴と絆の光。

ウルトラマンマグナはエリートである。宇宙警備隊でもエリート部署とも言われている勇士司令部に所属するだけの実力がある、というだけではなく怪獣に対する知識などもずば抜けていることも起因している。元々優れた身体能力と格闘技術があっただけではなくそこに前世で蓄え続けたウルトラシリーズの歴史が作用する事で対決が初見でも対応が出来た事も多かった。

 

「っという訳なのでナイトアイさん用の資料を纏めてみました、まだ途中ですので所謂ウルトラ兄弟が活躍した時代の物しかありませんが」

「いえこれはっ……いえなんですかこの資料は!?各怪獣の詳しい情報だけではなく当時の防衛チームの作戦内容までもが詳細に書かれている……それだけではない、マグナさんの主観だけではなく他の事までもが……!?」

 

故にその能力をフル活用してPLUSの参謀として仕事をしているナイトアイ、彼が毎回毎回出久へと行っている講義に合わせられるわけでもないので専用の資料を作って譲渡する事にした。

 

「これを使えば各怪獣への対処も迅速かつ正確な物になりますしこれからの怪獣災害の想定にも大いに……!!」

「お役に立ててください。ですが同時にそれはある意味禁忌のような知識である事もお忘れなく、貴方だからこそ託します」

「―――っ……心してお受け取りいたします、必ずやこの地球の為に」

 

怪獣の出現が乏しいこの地球にとってマグナの齎すそれは正しくこれからを明るく照らす福音となるだろう、だが同時に正しく扱わなければ自らの首を握り潰す禁忌の物でもある。それは乏しい故に起きる事、それもナイトアイも重々承知した上で慎重に取り組んでいかなければならない。早速生かさんと資料をもって仕事へと駆け出していった。

 

「あれほどまでに楽しそうなナイトアイを見るなんて少し前までは信じられませんでしたよ、マグナさんには幾らお礼を尽くしても足りませんね」

「私は何もしてませんよ、強いて言うなれば彼が勇気を出しただけです」

 

テストを行い続けている出久の隣で腰を降ろしているオールマイトの言葉に顔色一つ変えずにいる。事実として自分は何もしていないのだから何ともコメントしにくい、今世で大分改善されたつもりだが矢張り自分の陰キャ属性は筋金入りらしい。ウルトラマンのままだと表情に変化は無いが人間態ではそうではないのだから直していかなければと改めて思う。

 

「それでオールマイト、其方のヒーロー活動は如何ですか?」

「マグナさんのお陰で何とかっと言った所ですかね」

 

今現在もオールマイトは№1ヒーローとして活動をし続けている、といってもオール・フォー・ワンとの戦いは自分に浅からぬダメージを受けておりヒーリングパルス込みでも活動時間が4時間程度と依然と比べて短縮しているので無しだと1時間程度しかないだろうと考えているとの事。

 

「ですが逆に私はこの力の使い道を良く考えさせられています、私にあるのはワン・フォー・オールの残り火。それを今の為に如何使うべきなのかと」

「紡がれてきた力、全てはオール・フォー・ワン打倒の為に」

「ええ、それはワン・フォー・オール……ですがもう違う」

 

既にワン・フォー・オールは存在しない。ウルトラマンと一つになる事で進化しウルトラ・フォー・オールとなった、ならば残されたワン・フォー・オールは何の為に使えばいいのか、唯々悪の帝王たるオール・フォー・ワンを倒す為の力を。怪獣という脅威が顔を覗かせた今は全く新しい役割を持つべきなのかとずっとオールマイトは悩み続けていた。そんな彼を見たマグナは出久の答案の採点をしながらある事を話す。

 

「光は絆、誰かに受け継がれ再び輝く」

「光……?」

「ワン・フォー・オールはオール・フォー・ワンを倒す力、それは違うでしょう。(おお)きな絶望に立ち向かう(ちいさ)い希望、希望は想いと絆を糧により大きな光へ。そして絶望を払って人々の希望の拠り所へと辿り着いている―――それが貴方でしょう、平和の象徴(オールマイト)

 

そんな風に語りかける姿にオールマイトは思わず言葉を失ってしまったのだ、何故ならば―――そこには、マグナの隣や背後には此方を見て笑い、喜び様々な物を浮かべている人たちがいた。その中には自らの師、志村 菜奈が居りマグナの隣に腰掛けていた。そんな師の隣にはもう一人の女性がいた、それはウルトラウーマンだった。

 

「『もう既にどう使うかなんて分かってるのに、弱気な事を言うなんてらしくない』」

「御師匠……!!」

 

思わず伸ばしそうになった手を見つめると自然と身体に力が籠っていた、無意識な内になっていたマッスルフォーム。分かっていたのに不安になり聞きたくなってしまったのだろう、だからこそ理解したからこそ最適な行動を取ろうとしている。

 

「申し訳ありませんマグナさん、私は行きます!!今だからこそ私は平和の象徴としてしっかりしなければならないのですから!!」

 

そう言って部屋から飛び出していく姿を見送りながらも心の中で菜奈が自分の肩を叩きながら感謝を述べてきたのが分かった。

 

―――お互い、弟子には苦労するね。

 

「……全くですね……そう言えば出久君、雄英では文化祭があると聞いたけどそれってどうなるんだい?」

「確かPLUSとの合同でやるってナイトアイから聞きましたよ、なんでも理解を深める為と生徒の安全性確保の為にって事で」

「へぇっ……」

「何か悪い顔してません!?」

「してないしてない、出久君の身体借りて人間サイズ形態で乱入したら盛り上がるかなぁなんて考えてないから」

「盛り上がる所か大混乱ですよ!!?」




次回から文化祭編。

……ウルトラヒーローショー、悪くないな。


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文化祭迫る。

今作のラストが見えた!!ブレていたわけじゃないけど当初の予定通りに行く事にします。

やっぱりさ―――主人公は追い詰められてなんぼだよね、Dボゥイみたいにさ!!



「おはよう~」

「おおっ緑谷ぁ待ってたぜぇ!!!」

 

久しぶりの登校に何やら懐かしさすら覚えている自分、それ程までにPLUS特別隊員としての任務に従事しすぎているのだろうかという思いが巡る。爆豪にもフォローは頼んでいるが大したことはして貰えていない。というか彼にそれらを期待するのは筋違いという物なのだろう。そんな思いを秘めながら教室へと入る、するとクラスメイトが一気に大挙しながら迫ってきたのである。

 

「緑谷お前、あの現場にいたってマジかよ!!?って事は直ぐ近くでウルトラマン見たって事なんだよなぁ!!?」

「このニュースの映像みたいな事がガチで起こって本当なの!!?」

「出久君怪我とかせえへんかった!!?」

「ちょっストップストップ!!?何が何だか全然分からないって!!」

 

強引に教室の中へと連れ込まれていくと皆が夢中になるようにパソコンの画面に張り付くように見つめ続けている、一体何を見ているのかと思いきや……それはTVのヘリより撮影されていたキリエロイドとマグナとゼットの戦いの様子であった。

 

「いや本当に大迫力すぎるよなこの戦い!!」

「光線がビュンビュン飛び交うだけじゃなくて途中から怪獣が増えたのにウルトラマンもそれに対抗して増えるとか凄すぎるよなぁ!!」

「しかも全然見た目とかも違うんだよなぁ!!それに肩並べてたMt.レディもすげぇって素直に思ったぜ俺!」

 

第三者からの視点という者から改めてウルトラマンの戦いという物を見てみると自分がそこに居たんだなという実感を感じると同時にこんな風に見えていたのか、と素直な感想を抱いた。

 

「ほら此処っ!!ウルトラマンマグナがこのウルトラマンと一緒に姿を変えた途端に相手を更に圧倒する瞬間!!本当に堪らないよね!!」

「分かる、超分かるぜ!!怪獣をダイナミックに投げ飛ばす瞬間、超憧れるよなぁ!!」

「俺さこのスタイル何とか取り入れられないかなって思うんだけどさ、尻尾を打撃とかじゃなくて投げに使うってかなりいいアイデアだと思うんだよね!!」

「絶対良いよ尾白君!!今日の授業でそれ練習してみたら!?」

 

クラスの話題はウルトラマン一色だった。マグナとしては意外だったのが自分に憧れているような感想を述べている生徒がかなり多かった事だった。ティガに比べたらスマートではなく、ダイナほどダイナミックでもない、ガイア程力強くも無い自分に此処までスポットが当たるのは予想外だった。が、それは当たり前とも言える。

 

「僕もその現場見たかったよ、でも僕は先輩と一緒に人を抱えて避難してたから」

「えっ~そうなの!?」

「でも発目さんから空中旋回しながら撮影したって言う映像は貰ったよ、見る?」

『見るっ!!』

 

保須での激戦、林間合宿での戦い、神野区での決戦―――この地球で最も姿を見せているウルトラマンであり鮮烈に戦い続けているのがマグナ。加えてA組は直接助けられている事も多い上に友も助けられている。故にマグナに強い憧れを持つのは当然の事だと出久は思っているが、マグナはあまり理解出来ていなかった。

 

『私なんかよりも御三家の皆々様の方が余程カッコいいと思うんだが……』

「(もうマグナさんったらまた謙遜しちゃって、この地球にとってのウルトラマンはマグナさんって事ですよ)」

『そういう事、なのかなぁ……』

 

余りしっくりこないのも前世の記憶と本人の気質故かもしれない。そんな事もありながらもホームルームが行われるのだが―――

 

「文化祭があります」

『ガッポォォォォイイイイッッ!!!*1

 

相澤からの発表で皆のテンションゲージはフルスロットルであった。雄英の文化祭は体育祭とは違ってある種ヒーロー科以外の他科が主役となるイベント。本来は怪獣などの出現やヴィランの活動も活発傾向にあるので自粛すべきなのではという意見もあったのだが、校長を始めとした教員の強い要望もあり行われる事となった。だが単純な開催ではない。

 

「今年の雄英文化祭は生徒の安全性を高めつつも新しく新設された故にまだ理解が及ばない部分を解消する為にProwess Luster Unique Spirit Fencer.通称PLUSとの合同開催となった」

「プ、プルスって緑谷に爆豪、轟が特別隊員として行ってるところっすよね!!?」

「そうだ」

 

まだ理解が及ばずにいる現状は認めざるを得ないというのはナイトアイも嘆いていた。今までのヒーロー一辺倒な情勢だった故にPLUSへの疑問視も止まないのも事実、それを改善する為の一歩として雄英の文化祭開催に協力する形で更なる理解を目指そうとしている。

 

「その辺りは緑谷達に聞く方が早いだろう、俺も聞いている限りではPLUSで運用予定ライドメカの展示などもするらしい」

「ライドメカ!?それってあの戦いでMt.レディを降ろしてたあの戦闘機の事か!?」

「まあうんそれも種類の一つではあるよ、他にも戦車とか色々あったし」

『超気になるんだけど!!?』

「その辺りは休み時間に聞くように。それではマイク、待たせたな」

 

今直ぐにでも話を聞きたそうにしているクラスの気持ちなんて捨て置くようにしながら廊下で待機していたマイクへと声を掛ける、一時間目である英語が始まる。

 

「イレイザー俺も聞きてぇからそれからで良いか!?」

「お前もか……」

 

 

 

 

 

―――ぁぁっ、ぁぁぁっ……。

 

―――まだ、まだ駄目っ♪まだ駄目だよ、もっともっと熟成させないとダメだ……そう、宛ら愛情のようにね、そうしないと―――

 

「君は満足しないだろう、マグナ♪」

*1
学校っぽいの略



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雄英文化祭へ向けて。

「―――つまり文化祭には多くのPLUS隊員の方々が雄英へとやってくる、がその目的というのは理解を含めるだけではなくスカウトも兼ねていると?!」

「ナイトアイはそんな事を言ってたよ。まだまだPLUSの隊員は足りてないのが現状みたいだからね」

 

放課後、寮にて本格的に出久から文化祭にPLUSとの合同開催となった目的などを聞いていた。新設された組織という事もあってかまだまだ組織編成が間に合っていないのが現状。故に特別隊員の枠の拡張を考えてそれの適合者を現在探している所でもあると出久は語る。

 

「成程な。確かにあの基地はまだまだ人が足りてねぇ感じがするしな、有能な人材は確保してぇってのは自明の理だな」

「怪獣災害も起きて重要性も認知されてるしな」

 

焦凍と爆豪の意見を聞いてさらに納得が行く。ニュース番組などを見れば必ずと言っていい程にPLUSの特集をやっている、それ程の注目を集めているが同時にまだまだ情報開示をしていない部分が多く批判的な意見も多い。それはある意味、情報を大っぴらにしているヒーローに慣れ過ぎているとも言えるだろう。

 

「でも実際長官不在なんでしょ、参謀のナイトアイが代行してるって話だしそれだけ人材不足って大丈夫なん?」

「逆なんだよ麗日さん、PLUSに参加しようって言ってくれてる人は多いんだけどPLUSに入れるとなると話が変わってきちゃうんだ」

 

麗日の質問に出久は応える。先日のキリエロイドの一件などもあってPLUSに参加の意志を表明するヒーローは数多いがそれを簡単に受け入れる訳には行かない。ヒーロー飽和社会とも言われる現代、その飽和しきっているヒーローの半数以上がPLUSという組織に興味を抱き、是非とも参加したいと言っているのである。だがそれを簡単に引き入れてしまうと各地でヒーローが足りなくなってしまい、結果的にヴィランの活性化に繋がりかねない。

 

「とっても慎重なお話ね……人材が足りていないって言うのはそういう意味なのね。PLUSに相応しい人材の選定に時間が掛かってしまっている、それが現実なのね」

「梅雨ちゃん正解。だから好ましいのはPLUSが直接スカウトしちゃうことなんだ、だから特別隊員枠を増やそうって話が持ち上がる位なんだ」

「な、なあなあ緑谷それってオイラももしかしてPLUSに入れるかもしれないって事か!?」

「そういう事になるね、こんな感じにね」

 

そういうと出久は上着へと手を掛けると一気にそれを引き剥がした。突然の行動に女性陣が声を上げそうになるがそこにあったのはPLUSの制服があった。

 

「おおっそれが制服!!?超かっけぇっ!!」

「おいおいおい並のヒーローのコスチュームよりもカッコいいんじゃねぇの!?」

「……超ロックじゃんそれ!!」

「気に入ってんな緑谷」

「着心地いいからねこれ」

 

そんな風に言葉を零す焦凍自身も制服はかなり気に入っている。制服は何処かウルトラマンの姿をベースにしている為か銀色が主体、そしてそこに黒、赤、青、金色が連なっていく。マグナ曰くスプリームヴァージョンっぽいとの事。

 

「んじゃもしかして俺が特別隊員スカウトを受ける可能性もあるって事だよな!!?」

「うん。あり得るよ、上鳴君は個性の出力が高いし電気って個性は特に強力だし」

「おおおおおっ実は俺、PLUSを目指すのもいいんじゃねぇかなぁと思い始めてるんだよなぁ!!!」

 

と興奮気味なクラスメイトを見つつも出久は内心で嬉しくあった。平和の為に戦っている、日々ヴィランよりも遥かに強大な怪獣という脅威に立ち向かい続ける戦士たちこそがPLUS。それに興味を持ち、志してくれているというのはなんだか嬉しくなってしまう。

 

「緑谷、これの場合は絶対ヒーローよりもモテるからと思ってるから真に受けない方が良いよ」

「ンな事ねぇから!!?」

「でもそうなると新しく怪獣災害想定コスチュームも出来る訳だな」

『怪獣災害想定コスチューム!?』

 

と心が躍るワードが焦凍の口から飛び出したので話はそちらへと向いて行く。それを聞いてさらに心が躍ったりする皆は益々文化祭が楽しみになってきた、そして自分達はどんな物を出すのかと今から話し合うのであった。例えそれがどんな内容だったとしてもとても楽しい筈だから―――と思ったのだが決定の際に決まらなかったら強制的に公開座学だと相澤から言われてクラスが凍り付いたと特別隊員の3人は顔が引き攣るのであった。

 

「という訳なので緑谷さん、私の文化祭で出す出し物の為に協力願います」

「ああうん予想してたよ正直」

 

隊員としての活動もある出久、それはマグナもいる故に加速度的に増えている。雄英側も致し方なしと理解をしているし問題はない、が久しぶりの発目からの言葉に出久は久しぶりに死んだ目を作り出すのであった。

 

「でも今回はぶっちゃけ趣味丸出しという訳じゃないんですよ、今回の文化祭はPLUSと雄英の合同。そこには多くの一般のお客さんも来る訳でしてPLUSも其方向けの出し物を計画する訳です、んで雄英との合作と称して私が一部を担当する事になったんですよ」

「成程、それで何をするの?」

「フフンッそれはですね―――怪獣シミュレーションです!!」

「怪獣ッ!!」

『シミュレーション?』

 

発目の考えている物に思わず驚く出久と首を傾げるマグナ。その反応が彼女の何かを刺激したのか、嬉々として説明する。

 

「怪獣を模したロボットを相手に行うアトラクションみたいなもんですよ。スタッフとして隊員に参加して頂きまして専用銃やらで怪獣を撃ったり、ライドメカのシミュレーターみたいなので怪獣に一定ダメージを与えようみたいなゲームを考えてます」

「へぇっ思った以上に確りしてる!!」

「そして、最後にはウルトラマンを助けようだったりウルトラマンと共に怪獣を撃退せよ!みたいなミッションをこなして貰うみたいな!!」

『体験型のアトラクションという事か、成程……PLUSの活動を身をもって体験出来る訳だしゲーム感覚で楽しめていいと思うよ』

「でしょでしょ!?私も結構いけるじゃねぇかなと内心で鼻高々だったんですよ!!それで現在試作ロボを製作中なんですけど、緑谷さんとマグナさんにご意見番をお願いしたいんですよ!!」

 

と思っていた以上にかなり真摯な内容だったので出久は少し驚いたが勿論承諾する。そしてマグナも協力することを約束する。

 

『なんだったら私の世界の怪獣を見るかい?多種多様だよ』

「是非是非是非是非!!なんかこう、レベル分けもしたいので見た目からして威圧感パネェ怪獣とかコミカルそうな怪獣とかお願いします!!」

「コミカルそうな怪獣ってなんかイメージ沸かないな僕……」

『コミカル……モチロンとかかな』

「えっ勿論?」

『いやこれでもしっかりとした怪獣の名前だよ、うす怪獣モチロン。実際はモチロンじゃなくてウスロンだったけど』

「超気になるんですけどそれ!?」




うす怪獣モチロン。ウルトラマンタロウの第39話「ウルトラ父子餅つき大作戦!」に登場した怪獣。

月ではウサギがお餅をついているという日本人の思いなどが月に到達し実体化したというとんでもない怪獣。そんな理由で生まれた為に地球のお餅を食べたくなってので地球へとやってきた、というなんともゆるい理由。加えて何故か日本の餅は美味く、新潟の米は美味いという情報まで知っていた。

そして本人曰く、自分は本来黒い部分である月の海の化身であるとの事。死ぬと月に浮かぶウサギが消えてしまい月は真っ白な状態になってしまうらしい……が本人が命乞いの際に出た言葉なので信憑性は微妙。


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進められる準備。

発目の文化祭での出し物への協力を了承した出久やマグナ、早速と言わんばかりにその作業に追われる事になる。と言っても出久が行う作業は基本的に普段通りと似たような物、標的として出す怪獣の元となる動きのデータを取る為に発目が適当に作った怪獣を模したスーツを着て動いてみせるという作業。今までのスーツの実験体とやってる事は同じだなぁと思いながらも、実際に怪獣と戦った身としてはこんな感じの動きもしてたからなぁと言った物も織り交ぜておく。

 

「ほほうこの怪獣なんて最高難易度のボスにピッタリかもしれませんね、怪獣らしい怪獣って言い方も可笑しいかもしれませんけどなんかこう、伝わりますよね!?」

「伝わるから大丈夫大丈夫。オーソドックスな怪獣のスタイルと言いたいのだろう、ある意味特殊能力持ちより純粋に強い方が厄介なケースが多いからね」

 

そんな怪獣役(スーツアクター)を行っている出久を見つめつつもその相棒たるマグナは発目の隣の席に着きながら一体どんな怪獣を出すべきなのかという選定を行おうとしていた。単なるシミュレーターのターゲットと言ってしまうのは簡単な事なのだが、その相手の見た目は非常に重要な所なのである。凶悪過ぎてもいけない、唯弱そうに見えてもいけないといった様々な難題があるのである。

 

「このモグルドンは如何かな、私の世界の怪獣ではないのだが」

「個人的にはこのお腹の模様とか可愛いらしい顔付とかすげぇドストライクなんですけどちょっと……何でしたら別のエリアで行う怪獣誘導の方にこれは回しましょうか」

「誘導」

「ええ、ホロボロスの一件があったじゃないですか。それで怪獣を倒すだけではなく大人しくさせて元の住処に戻したり別の場所の場所で共存を模索すると言った方向を目指しているのもPLUS内にはあるんですよ」

 

PLUSにマグナが齎した情報は非常に幅広い。ウルトラ兄弟の活躍した時代だけではなく他の世界の事も記載して新しく渡している、一番重要ととして渡したのがガイアとコスモスの世界についての事。怪獣も同じ命である事を分かって欲しいと願って渡した資料は正しく種となって根付いているのだと分かって胸が熱くなる。

 

「いやぁにしてもこのモグルドンってドッ可愛いですねぇ……こんな感じの怪獣って他にはいないんですか?」

「それならこれなんて如何だろうか、リドリアスというのだが」

「おおっこれは愛くるしい顔がたまりませんね!!」

 

発目曰く、PLUS内にも生まれている怪獣も野生動物と同じ区分で保護なども検討するべきなのではないかという意見。それを良しとするか悪しとするかというは未だに決着は着いておらず基本的にナイトアイの判断を基にしてこれから考えていく方向性らしい。それ程までに怪獣という存在はこの地球にとって衝撃的。そう言った意味でもPLUSの活動は注目を集めている。

 

「ふぅっ……こんな感じで良いの発目さん」

「えっとちょっと待ってくださいね……おおっこれはいいデータが取れてますね、いやぁマグナさんからの映像提供だけでも十分と言えるんですけどやっぱり実際の動きをトレースしたデータとは実用性に差がありますからねぇ」

「その辺りは致し方ないと思うけどね」

 

データ収集が十二分な所まで出来たのでスーツを脱ぎながら水を飲む出久、出久の動きで得られたデータはかなり大きくこれを基にして怪獣にアレンジしていくとの事。

 

「難易度はeasy normal hard ultraっという感じで区分しましょうかね」

「四段階も作るんだ」

「ええ、ナイトアイからのオーダーなんですけどこのシミュレーションを使ってスカウトを行おうとも考えているらしいので」

「成程……合理的な判断だね」

 

正しく実際の隊員と同じような動きや活動を基にして作られるシミュレーション、その内容をプロに判断して貰って判断力や動きなどを審査してスカウトをするかを決める事にするという。その為にも様々なタイプの怪獣を用意して対応力なども確認したいとの事なのでマグナに協力して貰っている。

 

「PLUSの活動を知ってもらうを兼ねつつもスカウトを兼ねる。その為の物を開発するんだから並みのクォリティなんて私のプライドが許しませんよ全く……まあだからこそ私にその指示を飛ばしたんでしょうけどね!!」

「まあ確かにナイトアイならそうするだろうね」

「巻き添えは誘導式八つ裂き光輪の如く、逃げられずに喰らい続ける訳ですね解ります」

「アハッ♪」

 

反省する気0な発目に溜息しか出ない出久であった。

 

「さてと、それじゃあ次は私の番かな。私が動くだけでいいのかい?」

「はいっウルトラマンの動きを作る為に態々御本家にお力を貸していただく、いやぁこりゃ贅沢ですなぁ!!」

「ハハハッ確かにね、それじゃあ相手は私が映像を投影しよう。リクエストあるかな」

「ゼットンでオナシャス!!」

「サラッと凄いのを出すよね……いやまあいいけどさ」

 

配置に付きながらも自分の記憶の中にあるゼットンを立体映像として出力する、人間サイズであるが確りと殴ってくるし攻撃を防ぎもするという物。これなら良いデータが取れるだろう。残念なのはゼットンの方が映像としての役に立たない点だろうか。

 

「やれやれ……発目さんももう少しぐらい加減してくれてもいいのに……」

「いやそれだと折角協力して頂いてる緑谷さんに失礼かなぁと思いまして、折角此処までやって下さるのでしたら此方も全力で応じるのが礼儀かなと思いまして」

「僕の負担を優先して考えてください……」

「でもなんだかんだ言いつつも私の力になってくれる緑谷さんの事、私好きですよ」

「それはどうも有難う御座います」

 

肩を竦めながらも受け答える、普通の出久ならばそんな言葉を言われたら顔を真っ赤にしてしまうような筈だろうが相手が発目からだろうかそれが全く起こらない。そんな反応をする出久を見て発目も酷く楽しそうに笑みを作っている。色々と振り回されているのに彼女の事は信頼しているし、辛いことも多くあるが楽しいと思えることもある。故に手伝いなども続けているのだろう。

 

「怪獣らしいフォルムをした怪獣を基本としつつも中にはいろんな特徴を持つのを織り交ぜておきましょうか、以前見たバキシムとか」

「あれって超獣でしょ、混ぜちゃっていいの?」

「良いんですよ一般の人に怪獣と超獣の見分けなんて尽きませんって!」

「いやまあそうだろうけどさ……」

「いっその事大怪獣も混ぜちゃう?」

「流石にそれはやり過ぎですって!!」

 

苦労させられているのに、楽しい。辛いのに、楽しい。そんな日常が好きだと思える自分が居る事に漸く気付いたのか、出久は思わず笑った。

 

「如何したんですか緑谷さん突然、なんですか今更ながらに私の胸をもんでおけばよかったと思ったんですか?別に言ってくだされば緑谷さんならフリーパスですけど」

「いやだから僕をなんだと……単純になんか良いなぁって思えたんだ」

「彼女をかい?」

「ほほう?これは私に脈ありとみても宜しいですね!?」

「違いますそうじゃない!!」




―――後、少しで終わる、あと少しなのに……しょうがない、勿体ないけどこれを使うとするか……ねぇマグナ、君にも手伝って貰うからね。

……っしつこいな、あと少しなんだから我慢しろって。彼の間を邪魔するなんて本当に邪魔な奴だ……本当にそろそろ消すか。


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舞い降りるZ。

「それはマグナさんの視点故でしょう、この世界からすれば貴方は初めて現れたウルトラマンであり既に多くの思いを寄せられる光の巨人なのです。そんな貴方に憧れを持つ子供達が多く居ても可笑しくはないでしょう、故に他のウルトラマンよりもあなたに目が行くのです」

「……成程そういう事でしたか」

 

新しく纏め終わった資料を手にしながら訪れたナイトアイの執務室。それを渡しつつも雄英の教室であった自分への好感に対する戸惑いを素直に吐露するとナイトアイに笑いながらそう返されてしまった。つまる所、自分は前世を含めてウルトラ族の凄さを知っているがこの世界においては自分自身が初代ウルトラマン、マン兄さんの立ち位置になっているのである。そう考えると納得が行く……ような気がする。

 

「何時までこの地球に居るかは分かりませんが慣れておいた方が良いんですかね」

「その方が良いと思いますよ」

 

一応出久が立派になるまでは一緒に居るつもりだが、それまでにこの感覚になれる事はあるのだろうか……ウルトラマンに憧れ続けていた前世、そのオリジンがガイアだった。その中で我夢が身体を鍛えていたのを見て自分も引っ張られるように身体を鍛えたりしていた。そして自分は死を迎えたと思ったら突然ウルトラマンマグナとなっていた―――もうどれだけの時間が流れてしまっただろうか。

 

「どうかなさいましたか?」

「いえ、唯ウルトラ兄弟の方々に憧れていた身が逆に憧れる身になったのかと思うと少し」

「分かりますよ、私も似たような経験があります」

 

ウルトラマンマグナとして前世の記憶を取り戻したのは……千年程前だっただろうか……人間の感覚で言えば世代が100は交代するほどの時間を過ごしたはずなのにウルトラマンの感覚ではついこの間のような感じなのだから不思議なもの。元々人間だった自分が何時の間にかウルトラマンとして適応出来たのだから、きっとこの感覚にもなれる事が出来る―――と思う、多分……自信満々で言えない辺り自分の臆病な人間性が見え隠していると思えた。

 

「憧れられる身か……確かに私は少し謙虚が過ぎるのかも、それは偉大な先輩方への侮辱……」

 

何処か心の中の靄が晴れたような気がする、気分も良くなってきたからか表情にも明るみが出てきた。今まではウルトラマンとしてウルトラマンの中で生きてきた、だが再び人間の中で生きる環境に恵まれた事で色々と感じてしまったようだ。

 

「さて何か聞きたい事はありますかナイトアイ、何でもお答えしますよ」

「それでは早速ですがこの鏑矢諸島の怪獣保護区について……」

 

まるで子供のように表情を輝かせるナイトアイの質問に答える傍らで―――何れ訪れるであろう別れ、そして決して超える事の出来ないものから無意識に目を反らしてしまった。そんな時、身を震わせるような大音量で警報が鳴り響いた。

 

「っ!!私は司令室に!!」

「私は出久君の元へ向かいます!!」

 

それは余りにも誰もいない無人の山間部に唐突に現れたのであった。出現した暗黒の雲は光を一切押さぬと言わんばかりの闇を持ちながら徐々に広がり続けていた。それだけならばはPLUSが第一級戦闘態勢を知らせるサイレンが鳴る事などは無い、ならば何故なったのか。その暗雲が出現した地点は獅子ヶ谷、豪烈怪獣 ホロボロスが眠りについている地点なのである。

 

「重要監視地域、獅子ヶ谷に謎の暗雲が発生!!エネルギー反応増大中!!」

「スキャン……駄目です、あの雲はあらゆる電波を遮断しているのか内部に何があるのかすら分りません!!」

 

司令室で飛び交う報告、それらを処理しつつも完成しているPLUS Fighterの出撃準備をさせつつも同時にMt.レディの出撃準備も進めさせていく。

 

「現状は待機、あの雲が一体何なのか分からぬ以上下手な手は打てない……解析の為に発目君をファイターGXで先行出撃させ情報収集に当たらせる。ファイターチームを出撃状態を維持しつつ待機、何時でも出撃可能に!!」

 

指示が飛ばされていく中、暗雲からは更に雷が鳴り響いて行く。それをモニター越しに見つめるナイトアイは不吉なものを感じずにはいられなかった―――ヒーローとして活動してきた自分の何かが叫んでいる、これは何かがあると。

 

「あっちゃ~マジで駄目ですね、この距離からの高出力でも内部構造の解析が全然出来ねぇと来ましたよ!!ハッハァマグナさんなんか心当たりありますぅ?」

「いやなんでそこで楽しそうなの発目さん!?」

『生憎全く無いね、ゼット君の方は見覚えあるかい』

『俺にもさっぱり……というか師匠に分からなくて俺が分かるわけがないで御座いましょうよ!?』

 

先んじて襲撃した発目専用のファイターGX。それに同乗する出久やハルキ、本当は防衛隊であるPLUSに任せるべきなのかもしれない。何時までもウルトラマンに依存させるような流れを作るべきではない―――と思いつつも今回は先んじてマグナはハルキと共に発目と共に出撃したのだ。

 

「マグナ師匠、あれから凄いものを感じるんですよね?」

『ああっ何だこの感覚は……内臓を直接冷やされるような、気味の悪い感覚……同時にこの奇妙な胸騒ぎ、警戒を怠らないでくれ』

「畏まっ!!私としてもあんな現象は実に興味深いですからねぇウヒョルヒヒヒヒ!」

「発目ちゃんは個性的、いやいい勝負かも……」

 

一瞬、ストレイジの装備研究開発班に居たオオタ・ユカを連想して彼女よりも個性的かと思ったが宇宙人を見て解剖したいやら体組織を好んで保存する事を思い出してどっこいどっこいだなっとややげんなりしつつ納得するハルキの傍で出久は不安げな表情を浮かべていた。マグナが抱え続けている不安、それが出久にも伝わっているのかもしれない。

 

「マグナさん……あの、大丈夫ですか」

『……大丈夫、とは言えないな……何だ、この感覚は過去にも味わった、何時だ何時味わった物だ……思い出せ……!!』

 

必死に自分の中に残っている残滓を読み解こうとする相棒に出久も言いようのない不安を抱いてしまった。一体これから何が起きるのかと、その時だ。暗雲がより活発な黒い雷を放ちながら黒紫の閃光を放ち―――その奥から何かが姿を見せ始めていた。

 

 

■●▲◆ ACCESS GRANTED

 

―――ベリアル、暗黒魔鎧装、宇宙恐竜。

 

〔BELIAL〕〔ARMORED DARKNESS〕〔EX ZETTON〕

 

―――この位でごめんね、でもこれも君の為の物だ。さあ受け取って……この程度で死なないでくれよ、愛しいマグナ。

 

 

 

絶望が新たな絶望を鎧として纏い、大地を踏み鳴らした。瞳を朱く輝かせながら不気味な電子音を掻き鳴らす。鎧が擦れる音はまるで獣が唸るようだった……。

 

そこに出現したのはゼットンが己を超えた末に到達するEXゼットン。それが新たな力を継承した結果、全く別次元の力を手にいれ、皇帝の名を自らに刻み、ゼットンが行きつく一つの極地、ゼットンを超越した皇帝のゼットン―――

 

 

KAISER ZETTON(カイザーゼットン)




オリジナル怪獣の第二弾……カイザーダークネスにEXゼットンをぶち込んだ怪獣、カイザーゼットンのエントリーだ!!ビジュアル的にはカイザーダークネスの頭をゼットンの頭にしつつベリアル陛下の瞳を中心に要素を取り言えた感じ。

どうだ分かりやすくやべぇだろ!!うん、ごめんなさい私もこれ馬鹿だろって言いたくなる位にはやばいと思う。でも出したかったの、この後の展開的に。


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暗黒宇宙皇帝恐竜の脅威。

『ふざけた存在を送り出してくれたものだ!!アーマードダークネスにベリアルだけじゃない、この力の圧力は……EXゼットンだと!!?一体何を考えてこれを差し向けてきた!!?』

 

思わず声を出さずにはいられなかった。それ程の存在の出現にマグナは取り乱していた、発目には早急に引かせながら降り立つ出久とハルキは声を荒げるマグナにかつてない程の緊張感を感じずにはいられなかった。

 

『し、師匠、アーマードダークネスってあの暗黒の鎧ですか!?』

『ああそうだ、エンペラ星人のみがその身に纏う事を許される暗黒の鎧。唯でさえ厄介な存在になんてメダルを組み合わせるんだ!!』

 

暗黒魔鎧装 アーマードダークネス。嘗て光の国へと侵攻を行いウルトラ大戦争(ウルティメイトウォーズ)と呼ばれる事になる大戦争を引き起こした暗黒宇宙大皇帝 エンペラ星人がその身に纏う筈だった暗黒の鎧。強大なまでの暗黒の力を纏い恒星の輝きを失わせる皇帝の鎧に名前負けしない所か、それ自体は一個の生命体かのように意志を持っているとされる。そんな存在を本来の主以外に纏った者がいる、それがレイブラッド星人、そしてベリアル。

 

憑依という形ではあるが、アーマードダークネスを完全に支配下に置いている。ベリアルが憑依する形でその力を我が物としたのがカイザーダークネス、それが出現した怪獣のベースとなっている―――がそこに加わっているのが更にふざけている。怪獣はEXゼットン……怪獣の力が高まった末に到達する一種の到達点、EX化によって変化した怪獣の強化体。それがカイザーダークネスに融合している事は尋常ではないやばさがにじみ出している。

 

『出久君、言っておくがアウローラの奴との決戦以上にやばいぞ。今回ばかりは私だけで戦った方が良いかもしれない……』

「僕の身を案じてくれるのは嬉しいですけどあり得ないですよそれ」

『俺も行きますよ師匠!!あんなやばそうな奴を放っておけるわけがないですからね!!』

「全力でついていきます!!」

 

ハッキリ言って今回の敵はラスボス級の敵、そんな存在が相手ゆえに持っているであろう性質を無視して出久を残そうとするが案の定断れてしまった。分かっていた事だがこういう時は酷く頑固。弟子もその相棒も引いてくれるつもりはないらしい、今回ばかりは洒落にならないのだが……それ以上に頼もしく感じられている。

 

『分かったよ、私も腹を括ろう。行くぞ!!』

「はいっ!!」

「押忍!!」

 

敵は強大、だが此方とて負けない程に強かなのだ。ならばやる事は一つだとゼットライザーを手にして光へとなるのみ。

 

 

IZUKU HARUKI

ACCESS GRANTED

 

「平和を守る、勇士の闘志!!」

「宇宙拳法、秘伝の神技!!」

 

〔MAX〕〔NEOS〕〔XENON〕

 

〔ZERO〕〔SEVEN〕〔LEO〕

 

 

「マグナァァァッッッ!!!!!」

―――デュァッ!! ヘアァッ!! ジャッ!!

 

「ゼェエエエエエエエット!!!!」

―――ヘァッ!! デュワッ!! イヤァッ!!

 

ULTRAMAN MAGNA LAMBDA SPIRIT(ウルトラマンマグナ ラムダスピリッツ)

 

 

ULTRAMAN Z ALPHA EDGE(ウルトラマンゼット アルファエッジ)

 

 

「ピポポポポッ……ゼッォォォットォン……」

「ディォッ!!」

「シュァッ!!」

 

ゆっくりと振り向きながらも鎧が軋む音、電子音をもって振り向いたカイザーゼットンは出現したウルトラマンに対して戦闘態勢を取った。その手に持つ槍、ダークネストライデントを大地へと突き立てながらも来るならば来いと言わんばかりのそれを見つける。それへと迷う事も無く向かって行くマグナとゼット、それに反応したのか―――途端にその動きが機敏になっていく。

 

「ォォオッ!!ダァッ!!」

「シュォッ!!!ィィィタァァァ!!!」

「ゥォォォ……ットン!!」

 

突き立てていた槍を短く持ち直すと迫ってくる二人の戦士の拳を見事な防御を行って行く。その僅かなやりとりでその技量を察したのか素手では危険だと判断しラムダ・ソウルブレードを手にすると突きを防御しつつも回転しながらその懐へと飛び込みながらも攻撃を加えようとする―――が

 

「ッ!!シュォッ!!」

 

咄嗟に相手を蹴って交代する。そこには暗黒の炎を生み出し迎撃の準備を行っていたカイザーゼットンの姿があった、単純に強いだけではなくその力に相応しいだけの技量を持ち合わせているという考えは間違っていなかった。

 

「シュォォティァ!!」

「ゼットォォン……!!」

 

ゼットはその手に別次元の地球にて手に入れた武器、ゼットランスアローを握り込むとやや距離を取ったまま槍から弓矢のような刃先から光弾を発射する。それを受け付ける事も無く鎧の上で光弾があっさりと弾かれるが、それらを突き破るかのように槍を突き立てる。ゼットランスアローは光弾を影にするようにしながらもカイザーゼットンへと命中、するがその絶対的な強度を誇る鎧には傷一つついていない。逆にダークネストライデントの一撃で槍が天高く舞う。

 

「シェエアッ!!!」

 

が、武器が無くなってもゼットは迷う事も無く突進した。その一撃で僅かに身動ぎをしたところで全体重を乗せたチョップを加えつつも膝蹴りを加える、僅かな手ごたえを感じつつも身を翻すと飛び込んできたゼットが渾身の飛び蹴りをブチ当てた。漸くそれでダメージが通ったのかまともに怯んだ、それを見つつも落ちてきたゼットランスアローを手に取りつつ構えを取る。

 

「ゼッ……ゥォォオオオトォォン……!!」

 

直後だった。三つ又の槍の先に暗黒の炎が灯る、黒紫色をした不気味な炎を纏いながら煌くさまは酷く不穏な雰囲気を纏う。それを一気に振り抜くとそれは炎の斬撃と成りながらマグナとゼットへと襲い掛かってきた。

 

『ラムダ・ドライブ!!』

『ゼットランスファイヤー!!』

 

向かってきたそれに対して二人は必殺技を放つ、紅蓮の炎と光の刃が暗黒火炎の斬撃と激突し大爆発を引き起こす。が、それを行いながらも二人は感じていた。カイザーゼットンの異常なまでのパワーとその技量、暗黒火炎の超出力を。そして目の前でまるでベリアルのように高笑いをする姿に一種の恐ろしさを感じずにはいられなかった。

 

『こいつは、全力で行くしかねぇぞハルキ!!』

『押忍、あの姿で行きましょう!!』

 

『出久君、私達も出し惜しみは無しだ。全力で行くぞ!!』

『はいっ!!ウルトラ・フォー・オール、解放します!!』



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終幕と―――。

迫りくる皇帝のゼットン、その力は正しくその名に恥じぬ物。だがそれに対する戦士も負けぬ訳にはいかぬ理由があるのである。それが光に属するものであるが故だろうか、闇を具現化した怪獣に勇猛精進と立ち向かう。

 

「願うは平和!!!」

「悠久の想い!!!」

 

 

『「マグナァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!」』

 

人間の光とウルトラマンの光、それを一つへと昇華させた究極の力。胸の八つの宝玉を輝かせながらウルトラ・フォー・オールの力を全開にしながら顕現したマグナに対してゼットンは一歩引くような仕草をしながら腰を落とす。その隣に更に新たな戦士が光来した。

 

 

その手に取るのはゼロ、ウルトラ戦士としては異色にして異端の出自ながらもウルトラマンの王とも言うべき存在と宇宙警備隊大隊長に認められた若きウルトラマン、ジード、そして―――アウローラとは全く別にしてある種完璧とも言える方法で生み出されたもう生み出す事が出来ないであろうウルトラマンベリアルのメダル達。それらは互いの力の奏で合わせる、それぞれがぶつかり合ったライバル故の共鳴現象を引き起こし、メダルとしての個を超越させ、黄金に輝くライズウルトラメダルへと進化する。

 

「闇を飲み込めっ黄金の嵐!!ゼロ師匠!ジード先輩!!ベリアル!!!」

 

〔ZERO BEYOND〕〔GEED〕〔BELIAL ATROCIOUS〕

 

「ぉぉぉぉぉぉ押忍!!!」

 

リードする度に嘗てない程の力が巡る、ライズウルトラメダルに秘められる圧倒的な力を振り払わんばかりの気合でハルキも叫ぶ。

 

 

『ご唱和ください我の名を!!ウルトラマンゼット!!』

「ウルトラマンゼェエエエエエエエット!!!!」

 

―――シュァッ!! ヴアァッ!! ヌ"ア"ァ"ッ!!

 

ULTRAMAN Z DELTA RISE CLAW(ウルトラマンゼット デルタライズクロー)

 

 

無数に生み出された光の柱、その隣に巻き上がった黄金の粒子の嵐。それらの奥から現れたのは黄金をその身に宿しながらも運命をも飲み込む力強さ、全てを滅ぼす力へと変える。それらを身に纏う戦士こそゼットの究極の姿と呼ぶにふさわしい最強形態、デルタライズクロー。ゼロ、ジード、ベリアルの三戦士の力を身に宿しあの無の具現化とも言えるグリーザと戦う事が出来る力を秘める。そしてその手に握る剣こそ―――

 

『フンッ成程、あれが俺様の力を使った奴か。良い獲物だ、ぶった斬ってやるぜ』

 

グリーザの内部で誕生し、グリーザ自身を倒す事が出来る宇宙の穴を縫う針。幻界魔剣 べリアロク。その力を感じ取ったのかカイザーゼットンはまるで警戒するかのように半身を引きながらも更に腰を落として迎え撃つかのような体勢を取っている、奴自身も異常とも言えるメダルの掛け合わせによって生み出されているのにも拘らず警戒しているようだった。それだけデルタライズクローから溢れ出す力は異常だというのだろうか。

 

「ォオオオッ!!!」

「シェアァッ!!!」

 

同時に駆け出して行く戦士、それを迎え撃つと言わんばかりにその手にダークネストライデントだけではなく腰から暗黒の剣(ダークネスブロード)を引き放つと槍と剣の二刀流の構えを取りながら一気に駆け出した。暗黒の火炎を双方へと纏わせながら一気に迫ってくる皇帝、それに迷う事も恐れる事もなく突進するウルトラマン。

 

「ディァ!!」

「ダァッ!!」

 

剣を受け止めるベリアロク、暗黒の炎は刀身を伝って本体を燃やし尽くそうとするが―――護拳にあるベリアルの顔、その口が開くとそこへと暗黒火炎が一気に吸い込まれていく。

 

『フンッ!!この程度で俺様を燃やすだと笑わせるな、2万倍でも足りねぇな!!』

 

次元をも崩壊させるほど力を秘める力を飲み込んだあるベリアロクからすればエンペラ星人の鎧の影響を受けて進化したゼットンの炎でも足りないのか、もっと持ってこいと言わんばかりに飲み込み続けて行く。それに気付いたのかゼットンはベリアロクの顔へと槍を突き立てんとするが、それをマグナが槍先を直接握り込むようにして止めた。

 

「ゼッゥォォォォオトォォン!!」

「ダァッ!!」

 

ベリアロクの炎吸収範囲は槍まで広がっていた、それ故に直接掴む事が出来たのだろう。ベリアロクの前では自らの炎は意味がないと悟ったのか直接ゼットを押し飛ばすように蹴り付けながらマグナへと矛先を向けながら刃を振るおうとする。

 

GRAVIOL ARMA(グラヴィオール・アルマ)!!』

 

更に深く踏み込んだマグナ、迫ってくるゼットンの勢いを利用するかのようにその胸部へと手を当てながらも震脚を行い一気に押し込む。内部へと拡散する衝撃と波動はゼットンのパワーすら上乗せさせている、故か後方へと退いて行く。が、その最中ダークネストライデントの先から禍々しい暗黒の閃光が奔りマグナへと襲い掛かっていく。

 

「グッォアアアッツ!!?」

 

その素早いカウンターの一撃を受けてしまったマグナは思わず膝をついてしまった。僅かな隙に放った炎光弾はウルトラマンにとっては致命的な一撃になりかねない物だった、カイザーゼットンは素早く体勢を立て直すと槍を大きく構え直しながらもダークネスブロードを連続で振るって凶刃をマグナへと放つ。それが届こうとする時に

 

『デスシウムクローッ!』

 

その凶刃を赤黒く鋭利且つ強大な斬撃が切り刻んでいく。膝をつくマグナの前に立つゼット、それがベリアロクを用いて放つ必殺技で相殺した。

 

『大丈夫ですか師匠!!』

『あ、ああっ……!!このダメージ、成程ゼットンの火球にレゾリューム光線の合わせ技という訳か……絶対に喰らうな!!私でこれだ、君は唯では済まん!』

 

立ち上がるマグナの言葉を聞きながらも改めてカイザーゼットンの脅威を思い知る。アーマードダークネス、それは主である技を使う事が出来る。それはウルトラマンを分解する力を持つレゾリューム光線、それとゼットンの火球を掛け合わせたもの。威力も尋常ではないがウルトラマンにとっては特攻の性質を持つ。マグナの場合はウルトラ・フォー・オールというワン・フォー・オールを受け継いだ人々との一体化というのもあり効果は著しく低下しているがそれでも大きなダメージを避けられない。仮にゼットが受ければ洒落にならない事態になりかねない。しかもカイザーゼットンはそれを連発しようと構えを取る。

 

『それならっ!!』

『デスシウムファングッ!!』

 

ベリアロクを構えるとそこから黒い霧の中に赤い瞳を持つ巨大なベリアルの頭部が飛び出していく、一見すればラスボスが使うような邪悪極まりない技に流石のマグナもええっ……と軽く引いてしまったが、それはベリアロクの特性を持つのか火球をその巨大な口で噛み砕きながらもそのエネルギーを蓄えながら突進しカイザーゼットンへと激突し溜め込んだエネルギー諸共の大爆発を引き起こす。

 

「ウォォォオオ……ットォォン……!!」

 

その大爆発の中、その鎧に僅かながら罅が入っているのが見えた。アーマードダークネスの特性があるのならばその身体はあらゆるものを撥ねつけ、通用するのはアーマードダークネス自身の武器だけとされる。レゾリューム火球とデスシウムファングを受けてその身体に亀裂が生じ始めている。今こそが攻める時っ!!

 

『今なら仕留められる、一気に行くぞ!!』

 

『シャァ!!パネェのを決めちゃいますぞぉハルキィ!!』

『押忍!!行きますよベリアロクさん!!』

『悪くは無かったぜ』

 

そんな風に語るベリアロクに笑みを作りながらもハルキはベリアロクのトリガーを強く握り込む、それこそがベリアロクの必殺技発動のキーになる。赤黒く輝く瞳と共に力強い声が放たれる。

 

『デスシウムスラァァッシュ!!!』

『宇宙の理を乱す奴は……俺達が叩き斬る!!』

 

「シェァァアアアアアア!!!!」

 

紫に輝きだす刀身、同時に瞳から光を放ちながら一気に駆け出して行くゼット。それに対して火球を連発していくゼットンだがそれらを全て切り払いながら突き進んでいく。遂に目前とまで迫った時、ダークネスブロードで一撃を受け止めようとするがベリアロクはそれを両断しながらカイザーの肉体へとその刃を突き立てた。狙いは亀裂、そこへと突き刺された刃を一気に突き動かして亀裂を広げるようにしながら巨大なZを描くように切り裂く。

 

「ディッ!!ォォオオオオオッ!!!」

『『VINCULUM・RADIUS!!』』

 

ゼットが切り裂いたところへとマグナは最高の光線を放つ、だがカイザーゼットンも伊達に皇帝の名を冠してはいないと言わんばかりにデスシウムスラッシュを受け傷ついた身体のままダークネストライデントからレゾリューム光線を放って対抗した。空中で互いの最強光線がぶつかり合っていく、威力が威力だけにまるで時空が震え壊れて行くかのように空間がひび割れて行く。

 

『負けるかぁぁぁぁぁっ!!!』

『出久君、全開で行くぞ!!』

『『うおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!』』

 

カラータイマーの周囲を飾る宝玉が更なる輝きを放つ、一つ一つがワン・フォー・オールの担い手を示す宝玉が更なる光を放つ。一つ光が強まる為に光線は更に強く太くなっていく。そして八つ全てが更に輝いた時―――最後の宝玉とも言えるマグナのカラータイマー、即ち出久とマグナを示す宝玉が最高の輝きを抱いた。

 

「ォォォォォォォオオオオオオオオオオッッ!!!!ディィィダァァアアアアアアアア!!!!!」

 

マグナ自身をも超えかねない程の巨大な光線が一気にレゾリューム光線を押し返していく、カイザーゼットンは更に出力を上げようとするがデスシウムスラッシュによって受けた事で既に限界を超えてしまい、一気に押し返され自らの力をもその身に受ける事になった。皇帝の名を冠した最強のゼットン、ベリアルというウルトラマンの力を持つが故にその身体にもレゾリューム光線は有効であったのだろう。鎧を一気に食い破りながら時空そのものを揺るがすような大爆発を起こしながらこの世から消え去った。

 

『やっやった……!!』

 

爆炎の中に消滅したカイザーゼットンに思わず出久は安堵の息を漏らしてしまった。一瞬の油断も許されない戦い故だろうかかなりの疲労が蓄積しまっていた、それをマグナは労おうとしたのだが―――爆炎の中から何かが飛来した。咄嗟に防ごうとするのだがそれはあっさりと突破して出久の元へと到達した。

 

『うわっなんかメダルが……えっ!?マグナさんこれってベリアロクさんにそっくり何ですけど!?』

『ベリアルの、メダル!?』

 

出久の手に収まったそれはベリアルのメダルであった。キリエロイドの一件で探し出そうとしたが見つからなかったメダル、それが唐突に自分達の元へとやって来た。突然の事過ぎて混乱してしまった時だった―――それは爆炎の中から飛び出していった。

 

『師匠なんか出ました!?』

『何かって何!?』

 

唯でさえベリアルメダルの事で混乱しているのにこれ以上何を……と思いながら見た先には光の残滓を残しながら空の彼方へと消えていく謎の影だった。ゼットと共に消耗している為か追いかける事が出来ずただ見つめる事しか出来なかったが……何故かそれを見つめたマグナの胸の内は酷く荒れ狂っていた。

 

『(何故だ、何故……私は一瞬安堵したんだ!?何故今、懐かしさを、覚えたのだ!!?)』

 

何も分からぬまま、誰もそれに応えてくれない。手のひらに収まったベリアルメダルが奇妙な程の重さを感じさせたまま、それは終幕した。




―――もうそのメダルはいらないんだよね、だって不安定過ぎるし目的は果たした。私の中にあったレイブラッド星人の力を収束させるには、ね……。アハッ私の身体の贈り物、喜んでねマグナ、だって―――

「態々究極生命体に頼んでんだからさ♪」


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ウルトラ戦記・ベリアルの章。

今回からベリアルについてに入ります。やっぱり詳しくやりたいしこれからに関わるのでちょっと濃くします。


カイザーゼットンという脅威を倒す事に成功したマグナ、そしてゼット。周辺地域が消し飛ぶどころではなく地球という星その物が消えかねない敵の相手をしただけに激しく消耗してしまったのか基地に戻るとハルキはフラフラとした足取りで部屋に戻りながらベッドに倒れこんで貪欲に睡眠を貪り始めた。それはゼットも同様なのか言葉を作る事も無く沈黙のまま、ハルキと共に眠りについてしまった。

 

『出久君、君も君で早く体を休めた方が良いだろう。今回は少々無理をし過ぎた』

「はいっすいません……もう限界っ……」

 

部屋へと辿り着いた出久は入り切る前に倒れこむが、それをマグナが実体化して受け止めながら部屋へと入れてやりながらベッドへと寝かせてやる。

 

「今回のカイザーゼットンは流石に無理を、し過ぎたかな……レゾリューム火球恐るべしだな」

 

出久と一体化していたからこそこの程度で済んだというべきなのだろう、自分だけだったらどうなっていたのだろうかと考えるだけでも恐ろしい。兎も角相棒のお陰で勝つ事が出来たのだから感謝をしなければならない―――がそれ以上に気になり続けている事があった。

 

「ベリアルのメダル……」

 

そう、まるで自らの意志で向かってきたかのように飛んできたベリアルのメダル。そこに何かの意志が介在しているのかと言わんばかりに存在するメダルにマグナは言いようのない不安を感じていた。それはベリアルという存在ゆえだろうか、それともこれを使っていた者ゆえだろうか。

 

「ベリアル……まさか貴方の力を持つメダルを私が手にする事になろうとはね」

「マグナっさん……ベリアルさんって……」

「っ!!起きてたのかい、出久君」

 

掌のメダルを見つめて続けていると不意に出久の声が聞こえてきた、如何やら全身に疲労が溜まってこそいたがまだ意識が覚醒状態にあったらしい。そこで酷く真剣そうにしていたマグナが見えた。

 

「ベリアロクさんを見た時の反応から気になってたんです。ベリアルさんってウルトラマンって何なんですか、なんかマグナさん達とは全く別の物を感じます……」

「……ああ感じるだろうね、私達とベリアルは同じであって全く違うからね」

『教えてやれ、その小僧には権利がある』

 

不意に声が聞こえてきた、なんと空間を突き破るかのように登場したのはベリアロクだった。

 

「うわっ出た!!?」

『バケモンみてぇに言うじゃねえ、斬るぞ』

「いや化け物みたいなもんでしょうに……」

『フンッお前が如何思うが勝手だが、遅かれ早かれ教えてやるべきだろう―――俺様の大基の存在をな』

 

その言葉に出久はマグナを見つめ直しながら是非聞かせて欲しいと見つめた、それを向けられてマグナは一度目を閉じてから決意した。話すべきかどうかと悩んでいたがベリアルのメダルを手にした今、その時が来たという事なのだろう。これ以上引っ張る必要も意味も無いだろう、話すべきだ……悪に堕ちたウルトラマンについて。

 

「というかベリアロク、君も聞くのかい?」

『暇潰しがてらに聞いてやる、何聞いたところで俺様は俺様だ』

「はいはい……光の国が生んだ最凶最悪のウルトラマン、それがウルトラマンベリアル」

 

そして語りだされるのはウルトラマンベリアルについての事……始まりは遥か昔に遡っていく、約3万年も以前の事。エンペラ星人によって引き起こされたウルトラ大戦争、それによって表面化し歪み始めたのがベリアルだった。

 

「も、元々マグナさんと同じウルトラマンだったんですか!!?」

「それもウルトラの父、大隊長と共に活躍したね……だがベリアルは平和の為には敵を全て根絶やしにすべきだという思想を持っていたらしい、そしてはそれはウルトラの父との間に生まれた軋轢が加速させていったらしい」

 

ウルトラ大戦争でエンペラ星人を撃退したウルトラの父、当時のウルトラマンケンは名誉・地位・妻、最高の物を手にしていた。それらが彼のプライドを傷つけていった、そしてそれが頂点に達した時にベリアルは光の国の命の源であるプラズマスパークへと手を伸ばしてしまった。

 

「だがコアはベリアルを拒絶した、そしてベリアルは光の国を追放されてしまった。だが……それがいけなかったのかもしれないな」

「まさか、そこから」

「アウローラが自称する継承者、レイブラッド星人がベリアルに手を伸ばしたんだ」

 

嘗て数万年にわたって宇宙を支配したとされるレイブラッド星人、肉体を失って尚精神体で活動をし続けるそれは全盛期の力を取り戻す為に暗躍し続ける過程で邪魔になるであろう光の国の壊滅を目論んだ。その手段として追放されたベリアルに手を伸ばし、その力を分け与えられると共に100体の怪獣を操る事の出来る武器・ギガバトルナイザーを与えられ光の国へ反旗を翻した。

 

『ほうっそんな事をしてたのか、面白い事をするじゃねぇか』

「いやっ面白いじゃ済みませんよベリアロクさん!?」

「結果としてその反乱はウルトラマンキングによって鎮圧され、ベリアルはキングが作り出した宇宙牢獄に幽閉される事になった……だがそれから数万年後に復活し再び光の国へと牙を剥いた。今はこれをベリアルの乱と呼んでいるよ、私も戦ったけど見事に負けたよ」

「マ、マグナさんがですか!?」

 

出久としては信じられなかった。マグナの強さを知っているというのもあるが勇士司令部所属の超エリートだという事はゼロからも認められていたし一緒にいた時に功績やらも詳しく教えて貰ったが故に余計に信じられなかった。

 

「いやだってウルトラの父と同期なんだよベリアルって。攻撃受け止められて腹部に蹴り一発受けた後にギガバトルナイザーから光弾3発撃たれてあえなく撃沈だよ」

「し、信じられない……」

『そうでなきゃ俺様の基は名乗れねぇな』

 

当時は当時でまだまだ未熟だったのもあるが、映像でベリアルの戦いを見ていたのに全く対応する事が出来なかった。ベリアルの迫力も凄まじかった―――が、今思い返すとファンとしては受け止められた時に利かねぇな……!!と言われたり反撃されて嬉しいという自分が居て複雑な気持ちになっている。特撮マニアというのは存外に面倒な存在らしい。

 

「まあ結局ベリアルの乱もその後の事も大体ゼロ君が何とかしちゃうんだけどね、なんだかんだでゼロ君もゼロ君でやばいと私は思うよ」

「そんなに凄いんですねゼロさんって……そりゃゼットさんも弟子入りしたがる訳だ」

「いやそれは関係ないと思うよ、六兄弟の方々みたいな威厳とかないからって理由だった筈だから」

「ゼットさんェ……」



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ウルトラ戦記・ジードの譚。

「それでウルティメイトフォースゼロの皆さんと危機を乗り越えたんですねゼロさん」

「ああ、全く以て本当に尊敬するよ彼には」

「実に興味深いですな」

『俺様からしたらおめぇも十分そうだと思うが』

「いや、この中で一番の不思議の存在であるべリアロク、君が言うのかいそれ」

 

ベリアルの章と題された事を話しているマグナであったが途中活躍を労いに来たナイトアイがそれに参戦してしまった。ベリアルという偉大且つ絶大な悪の存在は思わずオール・フォー・ワンを想起させた、だが同時にナイトアイは何処か安心感を抱いたという。

 

「分かっているつもりなのですが、やはり私の中ではマグナさん達ウルトラマンというのは神に近い存在に思えてしまうのです。ですが我々と同じように悩み、時に道を違えて悪にその身を染めてしまう……それに何処か安心を感じてしまいました」

「無理もありませんよ、自然を神として崇めるように圧倒的な力を持つ者に対する思いは信仰などへと変わりやすい。雷を神の怒りとか」

 

ナイトアイのそんな思いの吐露もあったがゼロとベリアルの因縁の話はウルティメイトフォースゼロ、ダークネスファイブとの戦いそしてゼロダークネスなどをして打ち切られる事になる。その後の話も話そうと思えば話せるのだが、それはそれである種メタ的な視点で得た情報なのでやめておく事にしておく。列伝時空で色々と騒いでいた事も陛下の名誉のためにやめておこうと心の奥にしまっておく。

<エンチョウ、エンチョウダァァッ!!!

 

「別の世界でもベリアルの力という物は存在していたんだ」

「話に聞くメダルのように、ですな」

「ええ。以前出久君を鍛えてくれたガイ君もその力を持っている」

「あっサンダーブレスターですか!?」

 

頷きを以て返すと出久は納得する事が出来た。あの荒々しい狂戦士のような膨大な力を纏いながらの戦いを行うサンダーブレスター、だがそれは他の形態とは全く違うどす黒い何かのようなものを感じさせられた。それがベリアルの力ならば納得が行った。その力は黒き王の祝福と比喩され、ガイですら簡単に制御しきれずに暴走してしまうような物だった。

 

「……そしてここからがある意味でベリアルの章の終わりの物語だね」

「終わり、って事は遂に決着がつくんですか!?」

「そうだね。幾度も恨みと怒りと共に復活し続けたベリアル、それに終止符を打ち彼を眠らせた戦士……それが―――ウルトラマンジードという若きウルトラマンだ」

 

それを聞いて出久とナイトアイは酷く驚いた。これまでベリアルと激しい戦いを繰り広げてきたのは宿敵であり続けたウルトラマンゼロの名ではなかったからである。ウルトラマンジード、また新しいウルトラマンの名前に二人は揃ってメモを取りつつそれについて尋ねた。

 

「ジードさんってハルキさんも言ってましたね、なんかリク君先輩って……」

「フムッ……そのジードという方はどのような方なのでしょうか」

 

ウルトラマンジード、それこそがベリアルにとっての終わりの始まりだったのだろう。そしてジードという存在は極めて異質でアンバランス、如何語るか正直迷いそうになるが素直に全てを話す事を決める。十中八九いや、十中十で大騒ぎになるだろうが。

 

「ウルトラマンジード、彼の父親の名はベリアル。ベリアルの遺伝子を受け継ぎ光の国から奪い去ったアイテムを使う為に生み出された存在がジード」

「「ッ……」」

 

その言葉に思わず二人は言葉を失った。宇宙その物を崩壊させるような事件、クライシス・インパクトによって肉体を失ったベリアルが新たな肉体を作り出す為にウルトラカプセルを使う為だけに生み出されたという話に言葉が出なかった。ベリアルに忠誠を誓うストルム星人、伏井出 ケイが遺伝子操作をされて生み出された限りなくベリアルに近く限りなくベリアルから遠い人造ウルトラマン、それがジードなのである。

 

「ジードは酷く悩みながら戦う事となった。自らの存在意義、常にベリアルと比較される、偶然同じ地球に居たゼロと共に戦うもゼロの方が評価される、苦しい中で戦い続けた。その中でも彼は必死に戦っていたよ、ジーっとしててもドーにもならないという言葉を口にしながら迫るベリアル融合獣などと戦い続けた」

 

最悪のウルトラマン・ベリアルの息子という出自とその復活のためだけに作られた模造品という誕生・存在理由。苦しむ彼を救ったのは自分にリクという名前を付けてくれた朝倉 錘。自らの真実と同時に自身の名前の意味も知ったリクは、その名に込められた願いに違わず、自身の運命から逃げずに再び立ち上がった。彼はその運命に立ち向かうジード人として戦い続けて―――父親と対面する事になった。

 

 

息子よ…迎えに来た。父、ベリアルの下へ来い…!

 

 

「その時のリク君は酷く苦しんだと思う、曲がりなりにも父親が目の前に現れ自分を受け入れると言っていたんだからね」

「それは……」

「辛い、でしょうな……」

 

今の個性社会でも無個性であるだけで差別を行ったり、望んでいた個性と違っただけで他の家族とは全く違う扱いをするという話は聞く。思惑こそあれどベリアルのその言葉は父として息子に向けられた物だった。

 

「だがリク君には既に多くの仲間との絆があった、それに支えられた彼は運命に抗い続ける事を決意しベリアルとの決戦に臨んだ。ウルトラマンキングにすら認められるという凄い子だよ」

 

仲間との絆、そしてジードがこれまで戦い続けた事は無駄ではなかった。キングにも認められたジードはその力を使い、ベリアルを倒す事に成功する―――が、本当の戦いはそれから巻き起こった。倒されたかに見えたベリアルだったが実はまだ生きており最恐形態(アトロシアス)となって再び地球に襲来した。ウルトラの父すら時間稼ぎしか出来ないその圧倒的な力に世界から希望が消えた―――いや

 

「希望は残っていた、ジードさんが」

「そう。リク君はジードになり、必死に抗った。そしてジードはアトロシアスを打ち破り通常形態へとなったベリアルを異空間へと連れ込み最後の決戦を挑んだ」

 

そこで本当の意味でベリアルはジードと親子になれたのだろう、戦いの中でジードはベリアルの記憶や感情を見た。

 

 

疲れたよね?もう、終わりにしよう……!

 

 

そんな言葉を投げ掛けられ、最後の光線の打ち合いになった。ジードのレッキングバーストがベリアルのデスシウム光線を気迫と共に押し返して行く中、ベリアルに直撃した刹那に発した言葉は……これまで息子としてしか呼ばなかったジードの名。嘗ての戦友でもなく、長年の宿敵でもなく、息子の名を呼んでベリアルは眠りについた。

 

「これが私の知っているベリアル、かな」

『悪くねぇ語りだった』

 

それらを聞いた出久とナイトアイは言葉を繕う事が出来なかった。ベリアルという途轍もない存在の話ゆえに並大抵の事ではない事は覚悟していたが、それでも余りにも壮絶な話だった。光の国が生んだ最恐最悪の名に恥じない存在感と実力、カリスマ、あらゆる面が優れていたと言わざるを得ない。事実として自分もベリアルの乱辺りで記憶が戻っていたらベリアルについていったかもしれない位にはベリアルの事は好きである。

 

「それだけのウルトラマンの力が、僕たちの手にあるんです、ね……」

「そういう事だよ、正直言って私も恐ろしいという感情が先に出てくる。この力をどう扱えばいいのか、分からないからね……」

 

その言葉をもってベリアルについての語りは終わった。だが同時に希望も出久の胸にはあった。

 

「大丈夫ですよマグナさん。僕達ならどんなに凶悪な力だとしてもその矛先を自分達が平和の為に向けられますよ、大切なのは力の本質じゃなくて方向性、だと思います」

「……確かに、そうかもしれないね。一本取られたかもね」

 

それはきっとワン・フォー・オールを受け継いだ人間(出久)だからこそ出た言葉だったのだろう。それを聞いてナイトアイも少し安心したような顔を作りマグナも笑った。怖がらずにとにかく前に進んでみよう、リクに倣って―――

 

「ジーッとしてても」「ドーにもならない!!」

 

叫びながら腕をぶつけ合った。



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PLUSの戦力。

文化祭の開幕が迫り始めてくる中、出久の日々は基本的に変動する事はない。PLUSと雄英との合同開催に出す出し物の協力として経験した事も無いスーツアクターのまねごとをさせられているのだから困っているという意味では変わっているが発目に振り回されているという意味では何も変わっていないと納得してしまう辺り自分は相当になれてしまっているのだと真顔にならざるを得なくなった。

 

「マグナさんこれなんかどうですかね、ファイターに搭載する対怪獣戦闘想定特殊弾頭、名付けて多用途炸裂弾頭ミサイル(Multi-Purpose Burst Missile)、略してMPBMです!!」

「なんかどっかで聞いた事ある気がするんだよなぁそれ……何、搭載予定のファイターの開発コードはモルガンか何かかい」

 

その一方でマグナは出し物の開発をする発目の相手をしながらも先日のカイザーゼットンの一件の影響で装備の強化を決定され、ライドメカの必殺技的な武装アイデアを出そうと必死になっているのに手を貸したりもしている。時々どこかで聞いた事があるような物が紛れ込んでくるので如何するべきか反応に困ったりしている。

 

「まあ実際ライドメカに必殺技的な武装を積みたいというのも分からなくは無いんだよね、実際に積んでた防衛チームもある訳だし」

「あるのですね!?」

「うわあっ!?ナイトアイどっから来たんですか!!?」

 

ライドメカに必殺技を付けるべきなのではっと思うのはヒーローが定着している超常社会ならではという印象を受ける一方で怪獣という今までの常識外からの脅威への備えとしては当然の物なのかもしれないと何処かで理解は出来るしある意味当然の流れという物かもしれない。後ナイトアイが隙を見つけては会いに来るようになっている事については好い加減突っ込んだ方が良いのだろうか。いやまあ確かにウルトラ戦士が身近にいると前世の自分が知ったら絶対に同じことをする自信があるので何とも言えないのだが。

 

「いやまああるにはありますが……取り敢えずそっちを充実させるよりは特空機の実戦テストなどをするのが先なのではないのですか?」

「お、仰る通りです……ですがMt.レディのコンディションが整い次第に模擬戦を行う予定です」

「それで好い加減にレギオノイドの正式パイロットは決定したのですか、何時までもハルキ君にテストパイロットをさせる訳には行きませんよ」

 

ナイトアイは素より、PLUSとしては特空機の実戦配備を行いたいと思い続けている。航空、地上部隊の人員は充実はしつつあるが現状では決め手に欠けてしまうのでそれを埋めつつ切り札となる特空機の存在は不可欠となる……が、この世界において50メートル級の人型機動兵器の稼働はハルキの協力でしか成立していない。幸いなのがその協力によるデータは順調に収拾されており、姿勢制御AIの開発は既に完成している―――が如何せん操縦出来る人間がいないことが問題。

 

「もういっその事ダイレクト・アクション・リンク・システムでも私が作ります?」

「それはそれで操縦者によって一々身体の感覚が変わるから面倒な気もするよ、それに機体の動く感覚を自分に染みこませるまで普通よりも時間が掛かる」

「う~ん悪くないと思ったんですけど上手くは行きませんか……」

「というか純地球産の特空機ってどうなったんですか?」

 

思わず出久が気になっていた事を尋ねてしまった。レギオノイドの性能は高く不明な部分も多いから扱いずらいだろうと思われていたが実際には扱い易く、純地球産の特空機の方が操縦性に問題があるという事態にあった。そっちはどうなったのだろうか。

 

「其方については問題はない。ハルキさんのお陰で問題だった姿勢制御AIは完成したのでな」

「というか問題ってそこだったんですよねぇ……まあ二足歩行って技術的に難しい技術ですからね、普通にそれをやっちゃう私達からすれば感覚無いでしょうけど」

 

曰く、特空機での一番の問題となったのが姿勢制御。怪獣に対抗する為の大型機動兵器、その為にはある程度のサイズが必要になってくる上に災害現場での運用も想定に入るので理想となってくるのが人型に近い物になってくるらしい。そこで問題となってくるが姿勢制御、それらを踏まえて提出されていたのが純地球産特空機第一号なのである。

 

「―――あの、これどっかで見た事あるんですけど……」

「奇遇だね私も見た事がある」

「そりゃそうですよ、博士が見せてくれたサイバー怪獣が基なんですから」

「だよねやっぱり……」

 

発目が現在整備中の映像を出力してくれたが、そこに映り込んでいたのは巨大な機械の恐竜の姿だった。青と白、そして赤色の三色のカラーリングが目を引く巨大な恐竜型のメカ。太く立派な四肢に相応しい程に巨大な身体、頭部には三日月を思わせるような巨大な角と鼻の上の角、そして太く強靭な尾が伸びている。それを見たマグナと出久は細部こそ違うがその姿に真っ先にある怪獣を浮かべた、その名も―――ゴモラ。

 

「尻尾を第三の足代わりにしてバランサーにしてるんですよ、これなら倒れにくいですし制御も楽ですから」

「パワーを追求した特空機ですが、同時に装甲なども重視しており搭乗者にも万全の安全性を確保しています。怪獣にもそのパワーを発揮する事は可能だと信じています」

 

とゴモラに対する信頼はかなり厚いのは発目とナイトアイはかなり鼻を高くしている。実際問題としてPLUSが設立される前から出現した怪獣の面子を考えると装甲を重視するのは分かるような気がする。

 

「それにしてもゴモラとは……PLUSは何処までXIOに迫るつもりなんだろうか……ああいやレギオノイドの事を考えるとある意味抜いてはいるのか戦力的には……後はメテオールがあればもう役満だねこれは……」

「メテオールとは!?」

「ああいや流石にこの地球では再現できない……いやグルテン博士の手があれば行けそうな気がして来た……」

 

この地球の為に何処まで教えるべきか、本気で悩み始めたマグナであった。




なんだか、なんかおかしい気がする……何か文章に違和感がある……何か乗り切れていない感じがします……。気のせいだと良いんですが……。


エレキング。ツルク星人。バキシマム。ゼッパンドン。アークギャラクトロン。ライトニングマグナキラー。レギオノイド。ゼットン。タイラント。ホロボロス。キリエロイド。ファイブキング。グランドキング。キングオブモンス。カイザーゼットン。

以上、ヒロアカ地球に現れた怪獣一覧。改めてみると何この修羅面子。アウローラなども含めれたりフュージョンしてないのを細かく上げるとしてより増えて地獄度が増す模様。

そりゃ装甲と出力重視になるよね、そして二足歩行が難しいから尻尾をバランサー代わりにしようってなるよね、そりゃゴモラになるわ。


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地球を担う力。

文化祭が近づきつつある状況にある故かスカウト目的も含まれているシミュレーションの完成が急がれている、が特に発目は急ごうとはしておらずマイペースに開発をし続けている。彼女の場合は如何にプレッシャーを掛けたとしても精神変動を起こさずに作業スピードのみを上げられるという長所が上手く働いている。それらに協力する出久とマグナ。それらと同時に特空機の実戦配備へと向けた動きも流れている中、出久は自らの鍛錬に勤しむ時間を過ごしていた、のだが……

 

「あいたっ!?」

「集中力が途切れている、今は君のすべきことに集中する事。怪我でもしてこれからの成長を不意にする気かい」

「すっすいません……!!」

 

既にウルトラ・フォー・オールの出力上限は今まで通りに掴めてきている出久、ワン・フォー・オールと同じように扱えるようになってきているが同時に跳ね上がっている出力を上げてしまうと一気に感覚が狂いかねないのでゆっくりとレベルを上げながらのフルカウルをしながらの演舞を行っている。今の所、55%での訓練を行っているが如何にも出久は何かが気になるのか集中しきれていない。

 

「でも、これっ……凄い、きつくてっ……!!」

「それを軽減そして慣れる為の物だからきつくて当然だよ、ほらほらっ30分したら今度は私から光弾を飛ばすからそれを躱すのも追加するんだから今のうちに慣れなさい」

「そ、そんなぁっ!!?」

 

スパルタにも思えるがウルトラ・フォー・オールというウルトラマンの力の一部を完全に受け継いでしまっているのだからこの位しなければ鍛錬にならなくなっている。力の制御と判断力と集中力、様々な物を付ける為にはこのレベルが適切。流石にレオが受けたセブンまで行くつもりはないのでその辺りは弁えている。マグナは師としては優れている部類ではあるのである。

 

「ベリアルメダルの事か気がかりかい」

「っ……はい、あの話を聞くとやっぱり、気になっちゃって……!!!」

「私とて同じだよ、だが使う時が来れば使うだけ。マックス達のメダルと同じようにね」

 

如何にあのメダルがあのベリアルのメダルとは言え他のメダルと別格の扱いをする必要はない。メダルはメダルなのだから、不安定故に強力なメダルとしか適合しないという欠点があるだけの事。

 

「まあというか現状、適合するメダルがないから結局このメダル使えないんだけどね」

「駄目じゃないですか!!?」

 

実際のところは不安定なメダルを安定させられる強力なメダルがないというのが実情なのである。試しにマックス達のメダルと合わせてみようとしてが全く受け付けなかったのである。最強最速の戦友(マックス)すら弾く事に驚きを隠せなかった。ゼットもベリアルのメダルを使う際にはゼロとジードのメダルを使っているとの事、納得が行く面子にそれ程のメダルでなければこの不安定なそれを使いこなす事が出来ないのだろう。

 

「だから今は自分の事に集中する事、でないと光弾を八つ裂き光輪に変えちゃうぞ♪」

「笑顔で言う台詞じゃありませんよねそれ!!?絶対にやめてくださいよ!!?」

「だったら集中しなさい、でないと全周囲から合計12個の八つ裂き光輪が襲いかかる事になるよ♪」

「いやだぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

その後、出久は見事な集中力で55%でのフルカウル制御に成功したので光弾→八つ裂き光輪への変更はなかった。その代わりにその集中力ならこれクリア出来るねっという判断故か、光弾の入射角や同時に迫る数などが増してしまった。そして判断力強化の為にどれが回避不可能で防御するのが正しいのかという課題が付け加えられ、出久は別の意味で地獄を見る事になった。

 

「マグナさん、お疲れ様です」

「オールマイトこそ、ヒーロー業務は宜しいので?」

「ええっナイトアイからもある程度自重した方が現行ヒーローの為だと言われてしまいましたので」

 

出久を部屋のベッドに寝かせた後、テストエリアを見渡せる高台にて一休みをしていたマグナの下へと空から降ってきたオールマイト。マッスルフォームを解除しながらトゥルーフォームへとなりながらマグナの隣へと座り込んだ。

 

『さあどっからでも掛かって来いっす!!』

『それじゃあ行くわよぉっ!!』

 

視線の先のテストエリアではハルキが操縦するレギオノイド・フェンサーとの模擬戦を行うMt.レディの姿がある。いよいよ本格的な投入へと向けての調整が始まったのかとオールマイトは50メートル級同士の激突におおっ!!と時々声を上げたりしながらも何処か少年のような瞳を向けている。

 

『やるわねっだけど私だって伊達にPLUSの一員じゃないのよ、こっから上げて行くわよ!!』

『ドンと来いっす!!』

『オンドリャアアアア!!!』

 

「乙女が出していいのか分からない声だけど凄い迫力だ!!だがハルキさんも凄い、本当に操縦しているのかと疑いたくなる程の動き!!」

 

オールマイトが驚くのも無理はない。走り込んでからの飛び回し蹴りを絶妙なタイミングと出力調整を行いながら後退する事でその威力を完全に殺した完璧な防御によって機体を守り、相手の隙を突く一撃を放っている。ストレイジでは彼以上の操縦士が居たらしいが、其方がどれだけ凄いのだろうか。そんなハルキの技術に目を丸くしているとテストエリアの一部の地面がサイレンと共に開け放たれ、そこから射出用のレールが飛び出していく。そしてその直後――――轟音と共に巨大な竜がリフトアップされた。

 

「おおっ!!あれが、あれこそがナイトアイが胸を張っていた純地球産の特空機!!」

 

レギオノイド・フェンサーとカラーリングは似通っており燻銀と青がメインになっているが、白も入っている為か何処かヒロイックな印象も受ける。が、改めてみると細部はかなり異なるしサイバーゴモラと比べても変更点も大きい。安定性を確保するためなのか足はよりマッシブで逞しく、第三の足にもなる尾も太くなっている。そして各部の装甲も厚くなっている上に顔も本家よりも厳ついが精悍な物になっている。それこそが対怪獣特殊空挺機甲1号機 フェンサー・ゴモラ。ゴモラはリフトアップされ、拘束が解除されると身体を震わせながら天へと叫びをあげた。

 

『さぁっ私も混ぜて頂きますよぉ!!他にパイロットがいないとあっちゃ私が動かすしかないでしょう、そして私が操縦する事でその後の調整もしやすいという事これこそ合理的ィ!』

『アンタにはもう専用のファイターあるのにその上で特空機のパイロットまでやる気なの?どんだけ欲張りなのよ』

『貪欲なのは良い事ですよ、さあ行きますよハルキさん。今のフェンサー・ゴモラでどこまでレギオノイドに通用するか試させて貰います!!』

『どっからでも掛かってきていいっすよ!!』

 

「キシャアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」

 

その雄叫びと共にゴモラはゆっくりとだが確りと大地を踏みしめながら一歩を踏み出した。その光景に待機していた整備班は思わずおおっ!!という声を上げてしまった、たった一歩だが人類の技術レベルからすれば果てしなく大きな一歩。そしてその一歩を糧にするかのようにまた一歩、そして徐々に加速していきながら突進していくゴモラにレギオノイドは腰を落としながらもそれを受け止める。

 

『ちょっと私も混ぜなさいよぉ!!さっきのお返しぃ!!』

『二対一っすか!?上等、やってやります!!』

 

「は、発目少女ぇ……あのマグナさんあれは良いんでしょうか……」

「もう突っ込んだら負けかなって思い始めてます、あの子は一体どこを目指してるんでしょうね本当に」




出久の訓練。

全方位にマグナが念力でコントロールする光弾が全12個あり、それらがそれぞれバラバラの動きをしつつも様々な角度やスピードを付けて迫ってくるのでそれらを回避する事で判断力、集中力などを付ける訓練。

角度、スピードによっては複数の光弾が同時且つ回避不能のタイミングで迫るのでどれを回避して防御するかの判断も求められる。尚、当たると痛いらしい。

「や、八つ裂き光輪じゃなくて本当に良かった……」
「大丈夫。それでも死なないように調節はするから凄い痛いで済ませるよ」
「それはそれで嫌ですよ!!?」


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文化祭への準備。

「さあさあいよいよ設置ですよ頑張ってくださいね緑谷さん!!」

「まあいいけどさぁ……僕も僕でクラスの方に参加したかったなぁ……」

「愚痴らない愚痴らない」

 

文化祭への準備が本格的へとなってきた事も踏まえ、既に開発が終わりに近づきつつあるシミュレーションの設置のために久しぶりに雄英へとやってきた発目だが懐かしむつもりも無ければ何も感じていない平常運航のまま乗ってきたトレーラーから機材をお手製のパワードスケルトンを着込みながら運搬していく。そんな彼女を見つつ出久も出久で機材を担ぎながらも自分は自分でA組の出し物に参加したかったなぁと思わず愚痴をこぼしてしまい、それを星 光士としてのマグナに窘められてしまう。

 

「彼女の事を考えたら君がそちらに回る事なんて分かる事だろう?」

「そりゃまあ分かりますけど……はぁっせめてグルテン博士が来れたらなぁ……」

「ファントン星人は姿を変えられるタイプではないから騒ぎになるから駄目だね、というか博士も博士で彼女に甘い所があるから抑止力としては心許ない印象だね」

 

解析の為に預けていたエレキングメダルのデータを勝手に流用させてサイバーエレキングアーマーを作っていた事を今だに想い続けているのか、マグナの中でもグルテン博士の評価は微妙な所になっている。個人としては地球の為になっている訳だし評価すべきだという事は分かっているのだが元文明監視員としては見過ごせない事である事に変わりはない。下手したらグルテン博士に対する処罰すら視野に入れなければいけないような事なのだから。

 

「ほらほらっ御二人ともお早くぅ~」

「ほらっ我らがお嬢様がお呼びだ。きりきり働くとしよう」

「マッドサイエンティストなお嬢様ですか……いや狂ったマッドサイエンティストですね発目さんは」

 

そんな事を呟きつつも久しぶりの雄英へと入っていく出久、雄英でも文化祭に向けての準備が進められており出店の建築やら飾りつけなどが行われている。多くの人達が行き交う光景は雄英としては珍しくは無いが、それでも何故か準備をしている光景は見ているだけで心がざわつくと思いながら荷物を運搬しシミュレーションエリアとなるグラウンドへと到着する。

 

「よしそれじゃあ設置始めていきましょうか、空間投影型三次元プロジェクターをセットしてからテストをしつつそこから模擬ライフルを使ったテストに移行ですかね。センサー類などもやらないといけませんし、緑谷さんこのセンサーを今から言うポイントに打ち込んでもらえませんかね」

「分かった」

 

地響きが起こる程の重量の機材を下ろした出久はすぐさま受け取った棒状のセンサー類を担ぎ上げるとグラウンドを駆けまわってそれを打ち込んでいく。地面に刺さるとセンサーは独りでに起動して地面へとさらに深々と自らを打ち据えながらも展開して稼働状態へと移行する。

 

「よ~しよしセンサー稼働率は98%を維持っと……プロジェクターとリンクさせてっと……よしこれでOKっと。緑谷さんなんか怪獣のリクエストってあります?テストで何か投影させますので」

「リクエストって言われてもなぁ……僕が知ってる怪獣なんて高が知れてるし下手に未確認の怪獣だと如何やって知ったんだってならない?」

「大丈夫ですってレギオノイドを解析した際に出てきたってことにすれば言い訳立ちますから」

 

そういう物なのだろうかと僅かながらに不安になる出久、ならば違和感もないだろう以前戦った怪獣であるキングオブモンスをリクエストする事にした。あれもあれで分かりやすく怪獣というビジュアルをしているという理由。それの準備へと入っていると―――

 

「おっ緑谷じゃん!なんか久しぶりだな」

「ケロッお久しぶりね緑谷ちゃん」

「皆、うわっ本当になんか久しぶりな気がしてる」

「それだけ濃密な日々だったって事かね」

「光士さんちわっす」

 

そこへ準備作業が目を引いたのかA組の皆が近づいてきた、A組はダンスホール的なライブを行う事になっているらしくその練習や演出などの準備などで忙しくしているらしい。出来る事ならば出久にも参加して欲しかったそうだがその辺りの代理も上手く作る事が出来たらしいので一安心との事。

 

「おやおやぁっA組の皆随分と暢気だねぇ文化祭も近いって言うのに準備もせずにいるなんて本当に良い身分だよねぇ!!」

 

久しぶりの再会をしているとそこへB組の物間が自分達の出し物で使う道具を運搬しながら嫌味を言ってくる。B組はB組でオリジナルリティ溢れる大スペクタクルの劇をやるらしくちょうどそれに使う龍のハリボテを持っていた。君達にはこんなもの作れないし扱えないだろうねぇ!!と嫌味を絡めてくるのだが丁度その時―――

 

『グラアアアアアァァァァァッッッ!!!!!』

 

5メートルほどのサイズのキングオブモンスが姿を現した。突然すぎる怪獣の出現に流石の物間も思考が凍り付いたのか手にしていたハリボテを地面に落としながら僅かながらに顔を青くしてしまっている。サイズこそ人間より多少大きい程度だがそれでも怪獣の威圧感という物は全く損なわれていない、その投影の出来っぷりに発目は満足気に胸を張る。

 

「むふぅんこれは中々にハイクオリティになってますねぇ!!いやぁ撮影した甲斐がありますねぇ!!」

「お、おい緑谷これってあの時の大怪獣じゃねぇのか!?これ何に使うんだよ!?」

「PLUSの出し物に使うんだよ、怪獣シミュレーションって言ってね」

 

出久が説明している最中、マグナは発目から模擬ライフルを受け取ってそれを試射しセンサーの感度具合を確かめて行く。フルオールでも問題はないのか、場所によっては感度が弱くなる事があるのか、センサーに拾われない事がないように慎重にテストを重ねて行く。

 

「よしっそれじゃあ次あれと殴り合ってくれません?」

「いや、あれ殴れるのかい?あれって投影されているものなんだろう」

「投影されてますけど触れられますよ。実際は唯の映像(ホログラム)ですけどその映像に特殊なプラズマを流してます、触れた側はその衝撃を受けてまるで実体があるように感じられるって寸法です。模擬弾もそういう感じになってるんですよ。因みに純地球産テクノロジー by私です」

「……君、ブレイクスルーしてる自覚あるかい?」



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限界突破、発目さん。

「ォォォォォッッ!!タァッ!!!」

「グラアアアァァァァ!!!」

 

テストと称された模擬戦が展開される事になってしまったPLUSの怪獣シミュレーション会場、そこでは現在マグナが星 光士としてキングオブモンスと生身での近接戦を行っている。特殊なプラズマにとって触れる事も出来れば触れた際の衝撃までもがフィードバックされるというとんでもない発明の実験台となってしまっている彼に出久は周りから見たら自分はあんな風になっているんだな……と改めて知るのであった。

 

「デ、デク君とめんでええの!?」

「というか光士さんあの立ち回りは何だ!?体格差が約2倍という相手をしながらも悠然としながらも常に有利に立ち回り続けているなんて……!?」

 

止めに入りたいがそれ以上に依然聞いた時にヒーロー業務などには一切関わっていないと聞いていた人物がヒーロー顔負けの立ち回りをしている事に驚愕するA組の皆、身体を捻りつつ尻尾で攻撃してくるのを咄嗟に跳躍し逆に踏み台にする事で高さを稼ぎながら飛び掛かってフェイスクラッシャーのように叩きつけると立ち上がろうとするところへ蹴りを入れて強引に立ちあがらせたところへ顎へ回し蹴りを入れて後ろ向きに回転させるように倒すという戦い方をする姿に目を丸くしていた。

 

「おおっ打撃だけではなく重さも確りと表現できているようですね!!流石私、来てますよね!!」

「ああうん、あの発目さんが来てるのはもう十分わかったから好い加減に叔父さんに無茶させるのやめてあげてくれないかな……A組とB組だけじゃなくて他の方々の視線を引き始めているから」

「えっ~もう少しデータを……しょうがないですね緑谷さんに言われたら止めざるを得ないですし」

 

渋々叩きつけていたキーボートに向かい直すとプログラムを停止命令を送る、そしてそれは確りと受理される事になり投影は停止される―――光士がバックフリップを決めた瞬間で停止した為にキングオブモンスが地面に叩きつけられている状態で止まっているので酷くシュールな絵面になっているが。

 

「おやっもう良いのかい?」

「緑谷さんストップがかかったのでこの辺りにしときます、後の事は止めた人にやって貰いますので」

「うん知ってたよ、まあその位はやるけどさ……あのマグッごほん、おじさんもうちょっと周囲の状況とか見てよ、凄い注目集めてるんだから」

「おやっこれはこれは……」

 

跳ね起きながら周囲からの視線を集めてしまった居る事に気付いたのか、頬をかきながら僅かに微笑む。

 

「これはお目汚しをしてしまったかな」

「いやいやいやそのような事ありません!!寧ろ俺達としても参考となるようなお見事な戦い振りに思わず夢中になって見てしまったほどです!!」

「お世辞でも嬉しく受け取らせて貰うよ」

 

飯田の言葉にニコやかとしながら返答をする、が先程まであれほどまでに激しく動いて戦っていたのに息一つ切らさずに笑みを浮かべている様子から一体どれ程の実力者なのかという疑念を抱かれてしまっている事に気付いてない。

 

「あ、あの本当にヒーローとかじゃないんですよね?」

「一応PLUSでお世話になってるけど本業は事務作業でね、此方の方は趣味というかなんというか自衛の為に鍛えて来ただけだよ。ヒーロー志望の甥っ子の相手をしたりもしてきたけどね」

 

とウィンクをしながら出久の方を見て口裏合わせ宜しくっと飛ばし、出久はそれに対して苦笑いを浮かべながら一度も勝てた事ないですけどねっと答えておく。そんな事を話しているとそこへまた新しく元気な声が聞こえてくる。

 

「おやおやおやなんだか人集りが出来てると思ったら光士さんがいるよね!!」

「あっあの時の……」

 

騒ぎを聞きつけてやって来たのは壊理ちゃんを連れていたミリオであった。如何やら壊理ちゃんに文化祭を体験させてあげる事になったのでその下準備として雄英を知って貰おうと連れて来たらしい。壊理ちゃんとは彼女を救い出した以来なのだが如何やら覚えていてくれたらしい。

 

「やぁっこんにちわ、あの時以来、かな?」

「えっとこんにちわ……えっと、えっと……」

「星 光士だよ。気軽におじさんでいいよ、実際唯のおじさんだからね」

「えっと星おじさん……?」

「うんそれでいいよ」

 

頭を撫でてあげるマグナ、彼自身おじさんという言葉にはあまりマイナスのイメージは持っていない。寧ろ前世の経験ではカッコいいおじさんなどに憧れていたりしていたのでおじさんと呼ばれる事への抵抗はない。そんな壊理ちゃんは後ろに見えている巨大な怪獣にビックリするがそれが映像だと気づくとミリオの陰に隠れながらも何処か興味津々そうに見つめている。

 

「どうせだ可愛い奴を出して貰ってもいいかい」

「いいですよ~実は博士からとある物のデータを貰ってたのでそのテストも兼ねちゃいましょう」

「―――ちょっと待って発目さんなんか凄い嫌な予感が」

 

という出久の言葉はある意味的中していた。発目が何やら懐から銃のような物を取り出すとそこへメモリのような物を装填してからトリガーを引いた。そこから飛び出して行くのは4本の青白い閃光、それが一点へと注がれていく何やらサイバーチックなエネルギーラインが無数に広がって立体的に駆け巡っていく形を作り上げていく。そしてそこに出現したのは―――

 

「ウォォォオキュアアア!!」

「―――え"っ」「うぉい……」「……」

 

驚きによって声が濁る出久、口角をピクつかせながらドン引きする爆豪、そしてなんてことをしてくれてんだと言いたげに頭を抱えているマグナの姿がそこにはあった。何故ならば今発目が披露したそれは明確過ぎる程のオーバーテクノロジーの塊であり、元文明監視員としても看過する事が出来ない物であったからである。

 

「ふぁっ小っちゃな狼、さん……?」

「ウォォ?」

 

壊理の目の前に形成されたのは明確過ぎる程の豪烈怪獣 ホロボロス……のミニマムサイズ。リムホロボロスとも言うべき程の小さな存在だった、だがそれは明確な意志を持っているかのように此方を見つめてくる少女へと首を傾げつつも近寄る向けてきた手を軽く舐めた。

 

「ふぁぁっ可愛い……」

「確かに可愛いよねっなんだか仲良くなれそうだ、有難うね発目ちゃん!」

「いえいえどう致しまして~いやぁ成功して良かったですよこれも新開発の物なんですよ、これを発展させれば将来的には新たな戦力を生み出す事だって……光士さんなんでしょうか」

「―――ちょっと、あっちで話をしようか。大丈夫直ぐに済むから」

 

この時、マグナの顔は珍しく眉間に皺が寄っており青筋が浮き出ていた。簡単に言えばキレていた。

 

「えっちょまって、待ってくださいまだセッティングとか全然終わって無いんですけど」

「そんなもん後回しに決まってるでしょうが何君サイバー怪獣技術とマケット怪獣技術組み合わせてくれてんのちょっと頭冷やす事と自重を覚えようか」

「あはっそんなもの覚える位だったら新しい技術研究します♪」

「そうかそうか―――もうヤダこの子……アサリナ助けて……カトレア様慈悲を私に……」

 

地球に来て一番弱弱しく助けを求める声を出してしまった瞬間であった。




『ええっ……あの子マジでなんて物を作り出してるんだよ……』
『アタシでもあれがやばいって分かるよ……そりゃマグナさんもあんな声出ちまうよねぇ……』
『文明監視員だったマグナからすればこりゃキッツいなぁ……あの子一人でどれだけの時代を跳躍しちゃってるんだろう……』


発目さんの新技術。グルテンから提供されたサイバー怪獣とマケット怪獣の話を聞いてそれらを独自にアレンジとミックスを繰り返してデータとして存在する怪獣をリミテッド(小さい)サイズで疑似実体化させる。研究途中の技術なので元々のサイズでの実体化は不可能―――が研究を続ければ何れ可能かもと発目は述べている。

マグナ「独自にメテオール再現するとかもう何なのよ一体……ゾフィー隊長になんて報告したらいいんだぁ……」


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メテオール、危険性。

「はぁぁぁぁぁぁ……」

 

適当な場所に腰かけたマグナは深い深い溜息を吐いてしまった。視界の中ではPLUSの出し物である怪獣シミュレーションエリアにて発目の新発明が別の意味で大暴れしている。

 

「モフモフッ……気持ちいい……」

「おやおやこれは思った以上に好感触ですねぇ。怪獣に対してマイナスイメージがもたれすぎないようにイメージアップ目的に作ったんですけど、こりゃ本格的にマスコット検討をナイトアイに具申してみてもいいかもしれませんね」

「うんっ壊理ちゃんも大喜びみたいだしきっと受けると思うよね!!」

「ウォフ?」

 

自分の話ではあるがそこまで深く理解していないのかリムホロボロスは背中に乗せている少女の相手をし続けている。モフモフで触り心地の良い毛並みにうっとりとさせつつも揺らしすぎないように配慮するようにゆっくりと歩いている。ある程度の知能までもが確りと完備されている事を伺わせるそれは益々マグナの頭痛を強める材料となっていた。本気で頭を抱えている光の巨人を見て出久と爆豪も改めて事態の深刻さを認識する。

 

「もうどうしたらいいんだよ……あの子どんだけ私の予想を飛び越えてくれたら気が済むんだよ、何私を頭痛で苦しめて倒す気かい。だったらもう君の勝ちでいいからもう勘弁して……」

「やっぱりあれ、そんだけやべぇのか……」

「僕たちから見てもあれがとんでもない事がよく分かるもんね……」

 

一人の少女を乗せたまま駆け回るリムホロボロス、その更に奥ではA組の希望者らがキングオブモンスとの模擬戦に励んでいる。発目からすればどちらからも有力なデータが得られるからよしっ!!ということなのだろうがマグナからすればこれほどまでに頭が痛い事などはない。キングオブモンスの方は辛うじて容認が出来る、特殊なプラズマの作用によって衝撃や重さを感じられる、其方はまだ良いがリムホロボロスはもう完全にアウトである。あれはもう完全にメテオールの領域に踏み込んでしまっている。

 

「なんであそこまで行けるかなぁ……確かにさぁいろいろな要因が重なっているのはわかるよ、でもなんでそこまで行っちゃうのかなぁ……GUYSでも今までの積み重ねがあったっていうのにさ……」

「フランス語か」

「確か流星って意味だったかな……」

「ああうん、まあそうなんだけどこの場合はほかの世界の防衛隊が持っていた超絶科学技術の結晶のことを指すのさ……」

 

周囲には人がおらず、寧ろ発目のほうに視線が集中していることを確認しつつそっとマグナが力を使って極薄の防音バリアを展開したうえで話をする。この場合のメテオールとは地球外生物起源的超絶科学技術を意味するMuch Extrem Technology of Extraterrestrial ORiginの略称となり、防衛チームGUYSの切り札ともいえる超技術。

 

元々のマグナの宇宙(M78スペース)の地球においてはウルトラ兄弟たちが活躍した時代を総称して怪獣頻出期とされている。その時代においてウルトラマンを含む地球外のテクノロジーや文明を起源とする兵器や戦略を総称するのがメテオール。使用すれば驚異的な力を発現できるが技術的には不安要素も多く「メテオール規約」と言う条例でその使用は厳しく制限されている程。

 

「その中でもマケット怪獣と呼ばれるものがあってね……それは1分間ではあるが疑似的ではあるが怪獣を実体化させられるんだ、能力もそのままにね」

「そりゃすげぇが……使い処難しくねえか」

「確かに……強すぎると周囲を巻き込んで大惨事になるし」

 

そう、そこがマケット怪獣の欠点でもある。疑似的とはいえほぼ完璧に怪獣を再現してしまう為に強力すぎる怪獣を実体化(リアライズ)してしまうと周囲への被害がシャレにならない事になる上に敵に操られてしまうと手が付けられなくなってしまうことも考える。故にGUYSでは強すぎる怪獣は採用されず、セブンのカプセル怪獣としても知られていたミクラスとウインダムを採用する事で市民からの理解も得ていた―――それに何処かの誰かさんのせいで電脳空間とはいえマケットゼットンが大暴れした事もあったので慎重な運用が求められる。

 

「「……」」

「あの子マジで本当に考えてるのかなぁ……今は文明監視員じゃないけど私が現役だったらもう危険な存在として目を付ける事は確実だろうね……最悪の場合はもう、ね……」

 

マグナの口からそう語られて改めてやばさが身に染みて理解出来てしまったのか二人は顔を青くしながら思わず顔を見合わせた後に発目へと目を向けてしまった。嬉々として様々なデータが取れることに関して喜びの声を上げている姿はもう見慣れている筈なのに酷く異質に映ってしまった。そして同時に発目 明という存在は別の星の人間であるマグナから見ても異常である、それは敵性のある宇宙人が彼女を狙うかもしれないことを意味している。それに気づいた出久が喉を鳴らすのだが、マグナは顔をあげながら声を出す。

 

「と言いたいところだけどそんな心配はないだろうね。彼女は彼女なりに心から地球を守るために力を尽くしてくれている、やりすぎている事は否めないけど……逆に言えば確りと手綱を握ってさえ上げればどれだけこの地球の為になるかも聡明な君達なら解るだろう?」

「そりゃ……まあな」

「そうでしょうけど……」

 

発目の科学力の恩恵を受けている身としてはその技術力の異常性はわかる、だがその全てと言ってもいい殆どが地球の為に直結している。結局の所、彼女にも正義の価値観が存在しそれに沿って行動を起こしているということである。問題はどうやってその舵取りを行うかというだけ、それが一番難しいのかもしれないが行わないといけない事なのである。

 

「頭痛いけどそのあたりは私がじっくりと話してみるとしようか」

「いいのかよそんなんで、あのイカれ女が早々変わるとも思えねぇが」

「手厳しい意見だけど正しい意見だね、でも見てみなさい」

 

そういいながら指が示す先では壊理がリムホロボロスに乗ったまま膝に新たに小さな怪獣を乗せており酷く嬉しそうにしながらもそれを抱き締めている。その光景に発目は酷く満足げにしつつも少女の笑顔を作れてよかったという安堵と歓喜の笑みを作っていた。

 

因みに発目が新たに実体化させた怪獣は二次元怪獣 ガヴァドン。怪獣ではあるもののただ寝ているだけという全くもって無害な怪獣なうえに見た目は完全にゆるキャラのそれなのでマグナも何も言わない。

 

「なんだかんだで彼女もヒーローという訳さ」

「……納得出来たような、出来ねぇようなって感じだな」

「まあうん、つまり僕が何とか舵取りしろと?」

「うん。だって私がいなくなった後にそれができるのって君だけでしょ」

「ですよねぇ~……」

 

と出久は更なる苦労が重なることにため息をつきながらもそれを自然と受けいれてしまっていた。これもまた一人前のヒーローになる為の試練、とでも思っておくとしよう……そして出来る事ならば何時かそんな日が来ない事を祈りたいと思ってしまった。

 

「(マグナさんとの別れ日、僕は……ちゃんとお別れ出来るのかな。挨拶、出来ると良いんだけど……)」

「緑谷さんに爆豪さん、折角なので二人で一緒に怪獣と戦ってもらえませんかぁ~データ取りたいので~」

「……考える時間もなしか、如何するカッちゃん」

「あの女の指示には従いたくねぇが、怪獣とやりあうのは面白そうだからな。やってやる」



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スカウトされたユーモア。

発目の新技術、疑似物質化サイバー怪獣への許可を一部ながらマグナはナイトアイ経由で出す事にした。現状のレベルではリムテッドが限度ではあるがその程度ならば使用を許可するという物。それに伴ってリムホロボロスとリムガヴァドンは詳しいデータも欲しいからという理由で壊理ちゃんへと譲渡される事となった。実際は他にも様々な要因が絡んでおり、彼女の個性の暴走を未然に防ぐ為の監視役と護衛役をさせるという意味合いが強い。

 

「でもそうなるとガヴァドンってあんまり適さないんじゃ……」

「……あの子も気に入っちゃってるし今更無くしちゃうって言うのもねぇ……」

 

まあその点は戦闘力が抜群であるホロボロスが担ってくれると信じるしかないだろう。いざとなれば自己判断でリミッター解除を行い、3分間だけではあるが人間大のサイズとなって戦闘も出来るように発目が新プログラムを組み込んだ。それによって更にマグナが頭を抱える事になったのは言うまでもないだろう。

 

「ハァッ……もう発目ちゃんは何処まで私の頭痛を激しくさせてくれれば気が済むんでしょうね博士」

「いやそれに関しては本当にすいません……僕やっぱり明ちゃんには強く出れなくて……」

「命の恩人ですのでその辺りは致し方ないでしょう、ですが努力してくださると幸いです」

「仰る通りです……」

 

出久らが雄英にてセッティングを行っている最中、久しぶりに単独行動を取る事にしたマグナは折角なのでナイトアイの所に発目の発明のアイデアを持って行きついでに許可を取り付けながらも思わずグルテン博士とナイトアイに愚痴を零してしまっていた。

 

「私個人としてはこの地球を気に入っています、だから地球の安全が確保が出来てきていることは喜ばしい。まあ同時にこれ以上も無く本当に今文明監視員じゃなくて良かったと思ってますよ」

「監視員だったら確実に最悪の場合、敵対ですからねぇ……」

「余り、考えたくありませんね……」

 

本当にそう成るのは最悪の中でも最悪の場合のみだが、地球人がその技術を得て悪意を持ってたの星を我が物にしようとするのながら文明監視員のウルトラマンマグナとして対処せざるを得なくなるので心から勇士司令部で良かったと安心する。

 

「でもいいんですか、元とは言え文明監視員なのに」

「元々いたとはいえ今は全く別の部署ですよ、それに文明監視員は宇宙警備隊とは独立しているような物ですからね……下手にその仕事に干渉すると怒られますから出来る事なら私だってやりたくは無い」

「分かります、別部署間や別組織の場合だと様々な制約などが付き纏いますからね……」

 

その言葉に深く同意したのは今現在PLUSの隊長代理を務めているからこそ理解出来るナイトアイだった。様々業務を代行する形になっているナイトアイ、その中には様々な面倒事が存在しているが全てに全力に取り組んでいるが、矢張り疲れるものが多いので本当に共感出来る。

 

「この基地の建造も漸く70%を超えてきたと言う所です、システム面の構築も順調ですので後は人事に目途さえ付けば本当にいいのですが……」

「やっぱり、志願者だけは多いんですよね」

「ええっ博士……かと言って中には優秀且つほしい人材もいる事は確か、ですが引き抜いてしまうとそれまで活動していた区域でのヴィラン活性化を招く恐れも……」

 

マグナが思っていた以上に矢張りPLUSの人材募集には難点が付き纏っている。新興組織でもあるPLUS、それ求めるのは即戦力、となると必然的に経験や場数を踏んでいるプロヒーローなどはうってつけではあるのだが……引き抜いてしまうと今までの活動区域でのヴィラン活性を招きかねない。彼方立てれば此方が立たぬといった状況が続き続けているのでナイトアイとしては頭が痛い状況が続き続けている。

 

「このままハルキさんがいてくれたら本当に安泰なのですが……」

「それはそれで難しいでしょう、彼は彼で旅の途中ですし留まってくれているのも一重に厚意です。それに頼り続けるのもこの世界の為にはなりません」

「……ごもっとです、失言でした」

 

出来る事ならば地球は地球人の、この世界で生きる人達の手で守られるべきだ。何れ自分もゼットもこの地球を去る、それなのに何時までもウルトラマンに依存しきるのは世界の為などではない。出来るだけ自分の力で立ち、歩けた方が良いのである。

 

「それじゃあ僕も僕でフェンサー・ゴモラのシミュレーターの完成に尽力してきますよ、僕は僕で多分マグナさん達よりずっとこの地球に居るつもりですし。いっその事永住も良いって思ってますから」

「素直にありがたいお言葉を有難う御座います」

 

そう言ってお手製の転送システムを使って自室兼研究室へと戻っていくグルテンを見送りながらもナイトアイは怪獣に対する認識を更に深めさせる為のセミナーなども文化祭の場面では作った方が良いのだろうかという相談をマグナへと持ち掛けてみる。

 

「まあ怪獣という存在がまだまだ浸透しきってないですからねぇ……それを考えるとそれらに発目ちゃんの新技術はある意味タイミングが良かったんでしょうかね、もういっその事、ヒーローショー形式で怪獣紹介でもやります?」

「普通にその提案はアリですな」

「えっマジですか」

「マジです」

 

「失礼ナイトアイ参謀、紅茶を持ってきましたよ」

 

そんな会話をしていると扉をノックする音が聞こえてきた。許可を出すとそこにはPLUSの制服を何処か紳士服っぽくアレンジした立派な髭を蓄えた男がそこにいた。

 

「ああ済まない、PLUSには慣れたか」

「ええっお陰様で―――そして私の動画も鰻登りです、日に日にPLUSに対する距離感も近くなっております」

「それは結構だ」

 

そんな風に会話する男から紅茶を受け取ったナイトアイは満足気に紅茶の香りを楽しみ始めた。話には聞いていたが彼が例の男という事になるのだろうか、元ヴィランに当たるが所謂義賊でありその相棒共々有望であった為に直々にスカウトされたという……PLUSでの名は

 

「これからも生まれかわったジェントル・クリミナル、いえジェントル・フェンサーにお任せを!」

「貴方らしいユーモアな人選なようですねナイトアイ」

「ええっでしょう?」



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転身した紳士。

ジェントル・フェンサー。PLUS広報部及び実働部隊に所属しており紅茶と髭を愛する少々風変りな所が目につくが他人への気遣いや細かな所まで気が付く事もあり周囲からの評価は悪くない所か良好―――が、そうなる前の彼は現代の義賊を自称するジェントル・クリミナルというヴィランであった。

 

歴史に名を残す事を夢見、自ら撮影した犯罪動画をインターネットに投稿し続けていた。当然ながら動画は定期的に削除されつつも警察にはマークされていたがそれなりの月日を警察の捜査網から逃げ遂せている―――が投稿している動画はヴィランとしては酷くみみっちく、世間からの評判は良くも悪くも迷惑行為を働く小悪党ヴィラン程度にしか映らなかった。ではなぜ彼はPLUSへと入隊する事となったのか、そのきっかけを作ったのはナイトアイ本人であった。

 

「ナイトアイさんパイが焼けたからティーブレイクのお供に良いと思って持ってきました」

「フムッこれは有難うラブラバ君」

「あらっお客様がいたなんて……いけないわジェントル、ナイトアイさんの分しかパイ用意していなかったのだわ!」

「いえいえお気になさらず、突然押し掛けたような物ですから」

 

と部屋へと入ってきた一人の少女、その名はラブラバ。ジェントルの相棒として長年彼の支えとして、共に苦楽を共にしてきた元ヴィラン。そんな二人との出会いは全くの偶然だった、二人が動画撮影の為に乗り込んだコンビニに偶然ナイトアイが買い物を行っていたのである。ナイトアイは即刻戦闘態勢に移行し、その相手に気付いた二人は速やかに撤退したのだがその前にジェントルに触れる事が出来ていたナイトアイは個性を使って彼を追跡した。

 

「本来ならそのまま引き渡すのが正しいとも思ったのですがね、これでも私は所謂そう言った者達は好んでおりました。故に二人の事は知っていました、そして―――即座にスカウトに動きました」

「凄い出会い方ですね」

 

流石に予想外過ぎるスタートにマグナも呆気にとられてしまったがそれは当の本人たちも同じ事だった。突然のスカウトに戸惑ったが、ナイトアイは真摯な態度と言葉でそれを続けた、それを受けたジェントルはそれが真実だと察しその先が自分も同じように尊敬するウルトラマンと共に戦う為の組織だと知り驚きを隠せなかった。

 

飛田 弾柔郎はヒーローを目指していた、だがそれは叶わなかった。様々な積み重ねが彼に圧し掛かる中で訪れた現在で全く別の道が示された。迷いこそしたが彼はナイトアイの手を取り、ラブラバと共にPLUSへと入隊する事となったのである。

 

「元ヴィランと言えどその内容は悪烈極まれりという物でもありません、そして元々動画投稿をしていたので彼にはPLUSの活動内容の解説などをして貰っています。まあ今までが今までなので一番最初の動画には私も参加して彼がPLUSでの活動している確りと説明しました」

「それでもコメントなんか荒れたのでは?」

「荒れたりは……まあそれなりに……」

 

何処か照れながら言うラブラバ曰くPLUSは何故ヴィランのような奴をスカウトしたのかというコメントが大量に付いたが、ナイトアイが直々に説明動画を出したことで何とか鎮静化したとの事。加えてジェントルは真摯にPLUSの活動に取り組んでおりそれも正当に評価されている。

 

「そして今、私はPLUS広報部としても動画サイトで活躍中!!」

「素敵よジェントル!!」

 

胸を堂々と張りながらポーズを取るジェントルのカッコよさに卒倒したのか倒れこむラブラバの姿にマグナは良いコンビなんだなぁと思いつつも中々に濃い二人に僅かながらに引いていた。

 

「あらいけないっ私この後システムの構築があったの忘れてたのだわ!?ごめんなさいナイトアイさん私これで!!」

「嗚呼っ大丈夫だ、ジェントルも有難う」

「いえいえこの程度何でもない、さあ行こうラブラバ私が送って行こう」

「ああっそんな優しいジェントルも素敵!!」

 

と紳士的な手つきでラブラバを抱き上げて共に部屋から去っていく二人を見送った、何やら外からジェントルのハイテンションの声と共に何かが地面をするような音が聞こえたような気がするが気にしないでおこう。ついでにジェントルの名前を呼ぶ声が聞こえた気がするが気のせいだ、多分。

 

「ユーモア溢れる人選と言いますか……人選その物がユーモアのような気がするのですが」

「否定しませんが中々に愉快でしょう。だが愉快なだけではなくラブラバの力は非常に助かっています」

「先程のお嬢さん……それは何方の意味で」

「彼女自身の技術という意味です」

 

PLUS基地のシステムの構築にはグルテンや発目も行っているが、それ以上にラブラバの功績が大きい。警察がジェントルの逮捕を行えなかったのも動画の投稿経路を探り当てるが出来ずにいたのが大きく彼女の技術の賜物。ハッキングのプロを自称するがそれ以外の技術も含めて超一流、特にプログラミングの能力は発目と互角かそれ以上というのだから凄まじい。

 

「実際この基地のセキュリティなども彼女が手掛けています、その甲斐もあってグルテン博士らも開発に専念出来ているのです」

「成程……思った以上に素晴らしいスカウトだったという訳ですね」

「ええっ実に素晴らしい人材発掘でしたよ」

 

そんな素晴らしいスカウトが文化祭でも出来ないかと期待しているナイトアイ、難しいかもしれないが将来有望な芽を見つけられるだけでも大きく好転する。それがヒーローを志すままでも良し、それがPLUSに来てくれるのも良し。様々な意味で良い事尽くめになる。良い文化祭になる事を心から祈るとしよう。



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文化祭前のPLUS。

トリガーが最高にカッコよかったので来てます、私。


遂にやって来た文化祭当日、この日の為に様々な準備が成されてきた。既に多くのPLUS隊員が雄英高校へと入り出し物の職員としての準備を完了させている、当然その中には出久の姿もあり緊張した面持ちで怪獣シミュレーションにて最終確認を進めていた。多くの生徒達も自分達と同じように最終確認やら先導の準備やらであわただしく動き続けているが、それに負けない位に出久も動き続けている。

 

「よしっ緑谷さんラストに光線一発行きますよ~!!」

「よしっ来い……ってちょっと待って光線って何!?」

「許可も得ましたのでレッツゴー!!」

「ちょっと待てぇぇぇぇ!!!!???」

 

最終確認、即ち触る事も出来るし重さも感じるし衝撃も感じるというもう何世代先の技術になろうかという空間投影型三次元プロジェクターによって映し出される虚像であって虚像ではない怪獣。それと実際に殴り合って不具合がないかのテスト、そしてその中で唐突にブッコミをかます発目に思わず出久も大声でツッコミを繰り出すのだがそれよりも早く映し出された怪獣―――超古代怪獣 ゴルザが頭部から放つ光線が出久へと向けられて発射された。

 

『ゴアァァァァァッッ!!!』

「またやられたァァァッ!!!ATOMIC SMASH!!!」

 

迫ってくる光線、それに向かってパンチを放った。プラズマによって衝撃こそ感じるがそこにあるのは虚像でしかない。故に威力こそ無いので相殺することは簡単だが発目の技術によって生み出されたそれの迫力は本物の怪獣とほぼ同じ。故にスマッシュを放ってしまったのだが即座にゴルザは新たな物を放ってきたので咄嗟にバク転で回避するが光線はシミュレーションエリア外へと向かって―――行くがセンサーの範囲外へと出ようとすると途端に光の粒子となって消え果る。

 

「ちょっと発目さん今みたいな不意打ち承認申請やめてって何回も言ってるよね僕!?」

「はい、何度も聞きましたよ」

「じゃあやめてくんない!!?本当に寿命が縮みそうになる位ビックリするんだから!!」

「いや大丈夫だったじゃないですか緑谷さん、結果オーライ。結果オールマイトです」

「信用しているようで違うからねそれ!!?」

 

サムズアップしてくる発目へと詰め寄りながら青筋を作る出久を笑いながら軽くあしらってしまう発目。二人の関係は良好な方向へと向き続けているのだが、それはそれで発目がどんどん出久への遠慮が無くなってきた事でもある。なので先程のようなシレっと許可を求める事が多発している、しかもどれこれも出久が集中している最中なので即答するであろうタイミングなのが質が悪い。

 

「ああもう……僕だから良いけど他の人には絶対やっちゃだめだからね!?絶対に対応出来ない事になるから!!」

「緑谷さん以外じゃ絶対やりませんし対応出来ないって分かってますってば~そんなに私って信用ありません?」

「何回も注意してるのにやめない人に信用があるとお思いで!?」

「アハッ♪」

「駄目だこの子全然反省してない!!」

 

と軽く絶望している出久を見るのは穏やか瞳を作りながらもライドメカのシミュレーター設置と行列整理の為の設備確認を行っているマグナこと星 光士。確かに信用こそないだろう、だがそれ以上に出久と発目(あの二人)の間には誰にも崩せないほどの強固な信頼が構築されている。出久も出久で気付いているのだろうか、自分以外の人という言葉に。

 

「本当に勘弁してよ発目さん……僕の身体が持たなくなる……」

「それならご安心を!以前より更に改良を重ねて遂に完成しました治癒カプセルがあります!!」

「違うそうじゃない!!」

 

それはつまり、自分にだけ行うならば許容する事と同義であり発目自身が自分以外にしないことも分かっている筈なのにそれを口にする。それを聞く度に発目は笑みを零す。やれやれっと言いたくなるような関係だが此処は敢えて何も言わないでおこうかと口を閉ざしておく。

 

「光士さんっこっちの確認終わりました!!」

「嗚呼っ有難うハルキ君、しかし良かったのかい。君は君で一般参加者枠でも良かったんだよ」

「いえいえっPLUSにお世話になってる身ですからこの位当然っす!!」

 

ハルキもPLUS関係者として文化祭に参加し怪獣シミュレーションの進行役の一人を買って出てくれた。曰く、ストレイジでも地域の交流やイベントなどもあった為その辺りの事も経験しているとの事なので頼もしい。

 

「しっかし発目ちゃんのハッスルに振り回される出久君先輩も大変ですね、なんかユカさんを思い出しますよ本当に」

「でもなんだかんだで断り切れずに許容してしまう出久君がいる、そしてそれに甘えつつも嬉しそうに笑う彼女がいる。良い光景だと思わないかい」

「ええっ思います」

 

そう思っていると時間が迫ってくる事に気付き、二人は作業を急ぐ事にした。今回の文化祭は雄英始まって以来の超大規模、PLUSについて知りたい人や第一線で活躍するライドメカの模型なども展示されるのでそれ目当て来る人もいるので今まで以上の人数が予想されている。その為に十全な体勢を整えなければならない。

 

「光士さんお待たせしました、ジェントル・フェンサー」

「&ラブラバ・プルス」

「「プリンセスを伴ってただいま到着!!」」

 

とそんな所にやって来たのはまるでナイト気分を楽しむかのようにポーズを取るジェントルとラブラバの姿であった。そんな二人に守られるようにやって来たのは―――リムホロボロスの上に腰掛けながら寝ているリムガヴァドンを撫でている壊理ちゃんの姿であった。

 

「やぁっお待ちしてましたよ、壊理ちゃんもいらっしゃい」

「おはようございます星おじさん」

「うんっおはよう、ホロちゃんとドンちゃんもおはよう」

「ウォゥ」

 

と小さく鳴いて挨拶をするホロボロスと眠り続けているガヴァドン、壊理ちゃんにはこの文化祭を楽しんでもらう為にも来て貰ったのだが疑似物質化サイバー怪獣の紹介動画を公開収録する際の特別ゲストとして壊理ちゃんを招いている。

 

「では彼女の事は任せましたよ」

「この髭に掛けてっ」

「ジェントルへの愛に掛けて」

「「必ずや!!」」

「星おじさん、面白い人だよね」

「アハハッ……個性的な二人だよね本当に」




トリガー……良いですよね、私の周囲だと誉め言葉で大馬鹿野郎って呼んでます。

何で大馬鹿野郎が誉め言葉なのかって、分かる人、貴方はきっと三本線なんだろう。

分からない人はエースコンバット7をやろう。


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雄英文化祭、開催。

遂に幕が開かれた雄英文化祭。開始と同時に凄まじい人々が入場してくる、雄英の文化祭というのもあるが今回はある意味それ以上の起爆剤が内蔵されているのだから当然とも言える。人類初とも言える対怪獣災害想定組織、PLUSとの合同開催という点である。まだどのような組織でどんな活動を行っているのかまだ理解が行き届いていないその組織の説明や配備されているメカのレプリカなども展示されるという話は日本全国どころか世界中から興味をひかれている。

 

『グラァァァァァァァッッッ!!!!』

『ディァッ!!』

 

「うおおおおおっ何だあれ!!?ニュースでやってた大怪獣とウルトラマンが戦ってるじゃねえか!?」

「立体映像!?いやだとしてもくっそリアルだな!!」

 

PLUSのスペースは幾つかに別れているが、その中で一際に目立っているのは怪獣シミュレーションエリアの看板としても使用されている三次元プロジェクターによって映し出されているキングオブモンスと戦うマグナ、その頭上にてPLUS・怪獣シミュレーションのデカデカとした文字はあらゆる人々の好奇心を擽る。

 

「PLUSエリアの大目玉っ!!怪獣シミュレーションへようこそっ此処では実戦で得られたデータを元にしたリアルな怪獣災害シミュレーションを我々PLUSの一員として体験する事が可能です。ライドメカのシミュレーターもありますので其方の体験コースなどなど様々な物をご用意してしますが―――そのシミュレーションには様々なミッションもあります、さあ皆様御出でくださいまし~!!」

 

PLUSの活動を体験できる、それだけではなく隊員が実際に使用する装備などの体験コースだけではなく配備されているライドメカのシミュレーターなどなど様々な要素がてんこ盛りとなっているPLUSエリア。既に多くの人々でごった返しされており誘導などが始まってしまう程の勢い。

 

「うぉぉっ……マジモンの銃みてぇな重量感……!!」

「やべぇっすげぇ感動してる俺……」

「これで怪獣とか撃って誘導するんだよな……やるぞぉ!!」

 

PLUSメカニックたちが腕を振るって作られた模擬ライフルやバルカン、バズーカなどを手に持ち意気揚々とシミュレーションへと望んでいく姿や緊張した面持ちでシミュレーターへと乗り込んでいく様々な姿を見られるのを出久は見つめつつもそれだけ注目されているのだな思う。

 

「大盛況だね全く、これ程までに多くの人達がPLUSに興味を持ってくださっていたとは……全く以て嬉しい限りだね」

「ホントそうですね」

 

隣で多くの人達を見つめるマグナの言葉も同意を浮かべながらも同時に出久の中には使命感にも似た思いが駆け巡り続けていたのであった。何故ならばそこに居る人々は自分達が守るべき人々なのだから、PLUSは此処にいる人々全てを怪獣最災害から守る為に戦う使命を纏う。それを自覚すると途端に緊張した面持ちを作ってしまった。思わず重苦しい息を吐きだそうとした時、自分のズボンを何かに引っ張られる感覚がした。

 

「出久さん?出久さんっ如何したの?」

「ゥゥゥゥッッ……!!」

「ZZZ……」

 

顔を下に向けてみればそこではリムホロボロスがズボンを引っ張っていった、如何やら話しかけ続けてくれていた壊理ちゃんに気付けなかった自分を気付かせる為に咥えこんでいたらしい。それに漸く気付いた出久は慌てながら壊理に謝って何でもないよッと返しておく。

 

「壊理ちゃんはこれからどうするの?」

「ええっと、ジェントルさんとラブラバさんと一緒にこーかいしゅうろく?をしたらホロちゃんとドンちゃんと一緒にりんご飴を食べに行こうと思うの。出久さんも一緒に如何かなって思って……」

「ええっ!?良いんですかまっ……光士おじさん!?いや壊理ちゃん自身は良いでしょうけどホロちゃん達は……」

 

壊理ちゃん自身がこの文化祭を楽しむ事自体は良いと思う、だがそれ以上に不安なのはマグナの世界で言う所のメテオールに匹敵するオーバーテクノロジーであるリムホロボロス達を連れて巡るという事についてだった。加えてリミテッド怪獣故に本家に比べて何処かデフォルメされている感はあるがそれでも怪獣には違いは無い。これはこれで問題になりかねないのではないだろうかと思ったのだが光士の返事は問題なしだった。

 

「その説明を兼ねてジェントル&ラブラバの公開収録でその事を公表するんだよ。そして触れ合いスペースとしての確保もしているしね、このままPLUSのマスコットとしてリミテッド怪獣には活躍して貰うつもりだ」

「えっ~それって良いんですかぁ!!?」

「大丈夫だってGUYSでもやってた事だし」

「あっそう言えばウルトラ戦記のメビウスさんの章でそんな話が……」

 

事実として、メビウスが地球に居た頃の防衛チームであるGUYSではリムエレキングがマスコットキャラクターとして定着しておりGUYS主催のイベントの市民感謝デーでも人気を獲得していて同サイズのぬいぐるみが人気商品となっている程だった。それを聞いたセブンが素直に目を丸くし時代は変わるものだな……としみじみと思いに耽っていたのをマグナは知っている。

 

「という事はホロボロスとガヴァドンがPLUSのマスコットキャラクターって事になるんですかね」

「……そう、なるのかな」

 

出久としては適役なのだろうかと思わず素直に疑問に思ってしまった。元々ホロボロスはマグナですら危険視する程の強豪怪獣、人里へと降りる前に対処した事は既に公表しているので当然ホロボロスの存在は世間が認知している。それをマスコットにしていいのか、ガヴァドンの方は可愛げこそあるが寝てばかりでマスコットに向いているのか微妙と言わざるを得ない。と思っているとジェントルがコホンと一言。

 

「緑谷君考え方を変えてみたまえ。ホロボロスという怪獣、それのリミテッド怪獣を生み出すPLUSは怪獣を解析し再現する力を持つという証明になる」

「そしてそれは皆の心にこう思わせるのよ、そんなPLUSが怪獣災害から守ってくれるって!!」

「あっ成程!!」

 

そして同時にジェントルはガヴァドンはその安心の象徴となる事も出来ると語り、力の象徴たるホロボロスと安寧の象徴のガヴァドンの組み合わせは悪くはないと語りそれを公開収録でもアピールするつもりとの事。

 

「ご安心をっこの私、ジェントル・フェンサーと!!」

「このラブラバ・プルスが!!」

「「必ず成功させて見せます!!」」

 

と堂々とポーズを取りながら意気込みを述べる二人に壊理ちゃんはわ~と言いながら拍手をする、なんだかんだでこの二人に懐いているらしい。

 

「では其方はお任せしますよ、さて出久君。私達も私の役目をやろうか、特に君なんかシミュレーションのイベントに出るんだからしっかりね」

「そっそうでした!?がっ頑張ります!!」

「出久さん頑張って」



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PLUS 怪獣シミュレーション。

怪獣シミュレーションの根幹を担うのは発目開発の空間投影型三次元プロジェクター。映し出す為のスクリーンなどは一切必要なく二次元的な投影ではなく三次元での投影を可能とする超人社会においても未だに辿り着けていない領域を成し遂げている。それだけでも凄いのに―――

 

「チャージ完了っ!!PLUSレーザーカノンファイアッ!!」

「弾着……今っ!!」

「よしっ効果確認中―――!!」

『ゴアアアアッッ!!』

「「「ぎゃあああっっ撃って来たぁぁぁ!!?」」」

 

投影された対象、この場合は怪獣なのだがそれには特殊なプラズマが流れているらしくそれは人体に作用して感触や衝撃を感じるとの事。加えてそれらの発展として重さまで再現されるというブレイクスルー待ったなしの代物は怪獣シミュレーションにおいてフル活用されており、ほぼ本物に近い迫力を持つ怪獣との演習を様々な人々が体験していた。

 

「だぁぁぁっまた撃ち落とされたァァ……」

「まだまだもう一回並ぼうぜ、こうなったらクリアするまで此処で粘る!!」

「今度は俺がグランドスティンガーだからな!!良いか絶対だぞ!!?」

「「やだ俺もそっちが良い!」」

 

「いやぁ大迫力ねっ!!保須で見た怪獣とは違うけど凄い感動モノ!!」

「等身大の怪獣との戦いも燃えたねぇ~」

「でもビジュアルがあれだったよね」

 

ライドメカのシミュレーター、模擬武器などを用いた怪獣災害最前線の体験などが行われている。中には直接襲いかかってくる異星人などもいるのでそれらの対決と言った事もある。全てが好評であり一度体験してももう一回!!という人も大多数でもう一度列に並び直す人が多く居る。そんなシミュレーションエリアの一角ではとあるイベントが設けられていた。それは余りにも人が多く集まり過ぎてしまったが故に拵えられた急造エリア、余っている為に何か問題が起きた時の為に残していたエリアだが其処に緊急処置として設営された新エリア、その名もウルトライブ・シミュレーション。

 

「ギィィィィィィィッッッッ!!!!」

 

と銘打たれたそこでは投影されたミニチュアサイズの街のビルを壊していく暴君 タイラントの姿があった。左腕の鉄球でビルを打ち砕き、右腕の鎌で鉄塔を薙ぎ倒しながら破壊の限りをしつくしていくタイラント。そのタイラントも投影された存在で5メートル程度だがそれでもそれから発せられる威圧感は本物、それ故かエリア紹介のイベントと説明されていてもそれを見る人々は固唾を飲み込み、震えを感じずにはいられなかった―――がそこへ光と共にコスチュームに身を纏った出久が登場する。

 

「ギィィィィィィィッッッッ!!!」

「イズティウム・バスタァスマァァシュ!!!」

 

声を上げながらも耳から矢のような光線の雨を発射するタイラント、それに対して出久は腕に溜めたエネルギーをスマッシュで撃ち放つ。放たれた光弾はスマッシュの威力によって底上げされている威力によって光線を撃ち砕いて直撃しようとするが、瞬間に腹の口を開くとそこから光弾を吸収してしまった。

 

「ならっ接近戦!!」

 

一気に駆け寄っていく出久、それを迎え撃つかのように鎌を振り下ろしその身を砕かんとするタイラントに対して咄嗟にスライディングを行って回避を行いながらも背後を取る出久。そこから攻撃を行おうとするが、タイラントの長く鋭い尾が鞭のように飛来する。

 

「うおっ!!」

 

咄嗟に受け止めるが尾のパワーは尋常ではなく受け止め切れずに後退ってしまう、そして背中に生えている無数の鋭い棘が貫かんと一気に迫ってくる―――が力いっぱい尻尾を殴り付けて吹き飛ばして事で伸びた棘が尾を貫いた。

 

「ギイイイイイイイイイイイイッッッ!!!!?」

 

思ってもみなかった痛みに見舞われたタイラントは悲鳴を上げながらも思わず跳びあがりながらも棘を戻しながら振り向き、出久を怒りに満ちた瞳で睨みつけながら自慢の足で大地を蹴りながら一気にトップスピードへと到達しながら突進を繰り出す。それに対して出久は腰を深く落としながらそれを迎え撃つ体勢を見せ付ける。

 

「ATOMIC SMASH!!!」

 

迫ってきたタイラントが鉄球を撃ちだしながら迫ってくる中、出久は落ち着く払いながら放たれた鉄球を回避すると目の前まで迫ってきたタイラントへとカウンターの一撃を炸裂された。深々と突き刺さった一撃を受けて倒れこむタイラント、出久はそのまま尻尾を掴むとフルカウルを発動させながら一気に持ち上げるとジャイアントスイングで投げ飛ばす。

 

「イズティウムゥッ……光線ッッ!!!」

 

投げ飛ばされたタイラントへと向けて放たれた最強の一撃、先程のように吸収する事も出来ずにそれを諸に受けてしまうタイラントは大声を上げながら倒れこむと大爆発を起こして消えていく。それと同時に街も消えていくとマイクを持った発目が声を上げた。

 

「はいっという訳でこれがウルトライブ・シミュレーションです!!此処ではPLUSの活動の中で得られたデータを使って再現された怪獣と再現投影された街の中で戦うというウルトラマンの気分を味わえるというエリアなのです!!皆さんも一度は考えた事があるんじゃないですか、あんなヒーローみたいに戦いたいとか活躍中のヒーローに自分を投影させたり。そんな夢をこのエリアは叶えられます、貴方もウルトラマンになれます!!」

 

その発目の言葉は様々な人々の心を揺さぶった。この超人社会であるからこそ皆が思った事、あの光の巨人、ウルトラマンのように戦いたいという願いを叶える夢のエリアに興奮しないわけがないのである。

 

「ですがこのエリアには注意点があります。先程緑谷さんが見せてくれた見事な戦いで察した方もいると思いますが、このシミュレーションでは実際に怪獣からの攻撃でダメージや衝撃を受けます。安全機構はありますがその点を十分にご承知した上でご参加を、ヒーローと同じ舞台に立つという事の意味を理解した上で参加してください」

 

 

「お疲れ出久君」

「有難う御座いますっというかあのタイラント割かしマジで強かったんですけど、発目さん絶対なんかプログラム仕込んでますって……」

「ああうん……君への信頼があるからこそ、じゃないかな」

「そんな信頼欲しくなかった……」

 

お披露目として急遽依頼された一戦を終えた出久、思った以上の手応えに発目の作意を感じてしまいながら身体を休めているとそこへにこやかな発目がやってくる。

 

「緑谷さん如何したんですか、ほらっ私特性スポーツドリンクでも飲んで元気出してください」

「……有難いけどなんか怖いんだけど、変なの含まれてないよね……」

「アハハッこれはご挨拶♪」

 

全く発目さんは……そう言いながらも渡されたそれを飲む辺り、妙な物ではない事は確信しているのだろうと察するマグナは暖かな笑みを作って二人を見る。

 

「後タイラント如何でした?私なりに組んだ戦闘パターンブッ込んだんですけど」

「やっぱりか……」



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ヒーローとPLUSの意識の差。

「難易度は如何します、easy.normal.hard.hardest.Inferno.ultimateですね。当然一番上のウルティメイトは尋常じゃないですけど」

「ムゥッ……此処まで幅広いとは、だが此処は我の実力を測る為にも高みに挑戦すべき……」

「ではどうします」

「ハーデストに挑戦させて頂く!!」

 

また一人、ウルトライブ・シミュレーションへと挑戦する者が現れた。実際に戦う催し物というだけあって参加する人は少なめだがそれを観戦する人は酷く多い、実際に戦っている姿を見られるというだけでも十二分なエンターテインメント性にも長けている。急ごしらえだったがこれのお陰で列管理なども格段にやり易くなったので助かっている。

 

「よしっハーデストレベルを御所望ですのでどれにしましょうかねぇ……所謂正統派怪獣、いえ折角挑んでくれてるのがシンリンカムイなんですからエレキングでもぶつけておきましょうか」

「でもって……実際に戦った僕としては複雑な感じがするなぁ……」

「まあまあ、さてではっレベルハーデスト、ウルトライブ・シミュレーションをスタートします。セレクト、エレキング―――スタート!!」

 

ウルトライブでは投影された怪獣が発目の組んだプログラムなどに従って行動を行って街並みを壊したり挑んでくるチャレンジャーへと攻撃を仕掛けていくのだが、無数のパターンを組み替える事で相手に合わせた動きをする怪獣を再現する。が、限界もあるので発目がリアルタイムでプログラミングを行う為に付きっきりになっている、そしてそのストッパーとして出久も必然的にそこのスタッフをする事になり、マグナもそれに付き合っていた。

 

「そこまでだっエレキング!!貴様の蛮行は此のシンリンカムイが止める!!」

「キィィィィィィィッッ!!!」

「トゥァッ!!!」

 

「勢いは良いんですけどねぇ……如何せん普段通りに動こうとしちゃっててなんか上手くいってないって感じですねぇ」

 

発目はエレキングの状態を確認しながらも戦っているシンリンカムイのデータも確りとゲットしているのだが、如何にも不満げな表情を浮かべていた。何故ならばヒーローとしての動きしか出来ていないからである。

 

「樹木による高機動戦はこの条件だと活かしにくいから必然的に相手の動きを束縛したりになっちゃうけど、それが上手くいってないね……」

「エレキングはその名前の通りの電気を活かす怪獣というだけではないからね、普通にエレキングは実力派な怪獣だよ」

 

身体を縛り上げてくる樹木を力任せに引き千切るとそのまま放電光線を放つエレキングに対し、ウルトラマンの立場として戦っているシンリンカムイは普段行う建造物などに枝を伸ばして行う高機動が全く出来ないので樹木で盾を作りガードする事が精いっぱいであった。

 

「こりゃ駄目駄目ですねぇ……このシミュレーションとの相性が悪いのもありますけど、如何動くべきなのかが肝なのにそこを意識出来てませんね」

「突然私のように戦えと言われても流石に無理さ」

 

思考の転換、そしてウルトラマンとしての意識。それを掴む事が出来れば一気に形勢は傾きヒーロー活動にも応用が利くような刺激にもなるだろうが、それは簡単に掴めない。何故ならば相手はヴィランではなく怪獣。

 

「でもあそこまで動けないんですね……」

「そりゃそうですよ。相手は私達と同じ地球人ではない全く別の存在ですから、無意識的に抱いている安心なんかが一切機能しません。何もかもが未知の相手、それだけで精神的な疲労は凄いんですよ。それを考えると本当にMt.レディは凄いって私ってば尊敬してますよ」

 

エレキングの尾が巻き付いて放電を喰らってしまうシンリンカムイを見つめながらも出久はそれを聞いて確かにと頷いた。今まで培ってきたセオリーや技術、直観的な物も利き辛い完全な未知の怪獣の相手、それにシミュレーションを体験していたヒーロー達は大苦戦しており開始から1時間程度経過するがhardもクリアされていないのだから。

 

「ちなみに緑谷さんが戦ったタイラントのレベルはハーデストですね」

「まあ僕の場合は慣れてるっていうか……というかあれでハーデストなの?」

「あれっ手応えありませんでした?」

「無くは無かったんだけど……そこまで強敵って感じではなかったよ」

「うぅ~むこれは見直し必要ですかねぇ」

 

スカウトを兼ねるこのシミュレーションエリア、ウルトライブでもそれは行われるのだがそれを含めてスカウトしたいと思えるような人材はまだ現れていない。ライドメカの操縦という点ではスカウト候補にしておく程度が精々でそれが最高ラインであった。

 

「だぁ~れもかも、ヒーローとしてしか戦えてないんですよねぇ……PLUSとして戦うって事が何を意味するのか全然分かってないって感じ」

 

退屈そうにしている発目が思わず毒づいた。極論言えばそういう事になってしまう。PLUSは怪獣災害を想定したヒーロー組織というのが世間的な認識だが実際は大きく異なる、実際は人類を守る為に創設された組織。ヴィランと戦うヒーローとは全く違う、強いて言うならばPLUSが行うのは怪獣や異星人との生存競争のそれに近い。

 

「マグナさん、此処は一発お手本を見せ付けてあげてくれませんかね。そうすれば変わるかもしれませんし」

「あれっ僕じゃなくていいの?」

「緑谷さんはもうやってますしある意味同輩と思われる方とマグナさんだと違いが出ると思いまして」

 

その意見に納得しながらもマグナは肩を竦めながらそれを了承する事になった、引退したヒーローや現役ヒーロー達が苦戦する中で名乗りを上げたPLUSの事務職である星 光士の挑戦は周囲から目を引く事になったが同時にヒーローで無理なのに事務員では絶対に無理だと言われる中で出現した怪獣に戸惑う事も迷いもせずに立ち向かっていき、その力を見せ付けるのであった。

 

「緑谷さん、この後一緒に文化祭回りません?」

「……出来れば遠慮したいんだけど」

「アハハッどうせ私が行くんだったらストッパーとして緑谷さん必須だって周囲に強制されますよ」

「ハァッ……分かりましたご一緒させて頂きます……」




次回、出久と発目のデート……いや、出久からしたら発目のお目付け役……だな。

因みにマグナが模範として戦ったのは難易度最高のブラックキングだった。尚、投げ倒して周囲からお前のような事務員が居るかと言われる。

「アハハハハッごもっともだね」


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出久と発目の文化祭探訪。

「……では我はヒーローとしての動きしか出来ぬゆえに怪獣に負けた、と」

「そうですね、というかあなただけに限らずにハード以上のクリアできない点が相手が人間ではない怪獣である事を意識しきれていないからでしょう」

「成程なぁ……確かに俺もなんか覚えあるな……」

 

ウルトライブの受付スタッフとして動いているマグナこと星 光士、プロヒーロー達が苦戦する中で最高難易度であるウルティメイトへと挑戦し街の建物の損耗率や特定範囲内に怪獣を入れてはならない、3分の時間制限などなどのミッションが加わって状態での一切加減無しのブラックキングとの対決に望み、ブラックキングを約1分間投げ続ける(ミーモスの刑)という戦い方でクリアした彼の下へとクリア出来ずにいたヒーロー達は助言を請っていた。

 

「あくまで逮捕や確保を主とするヒーローとPLUSは全く別ですからね」

「それ程、までに」

「ええっ違うわよ」

「おやっ噂をすれば、ですね」

 

そこに現れたのはPLUS隊服姿のMt.レディ、ヒーローからPLUSへの転向を行い恐らく元ヒーローの中で最もPLUSで貢献していると言ってもいいであろう人物。そして最も怪獣と矛を交えている一人でもある。

 

「光士さんっ私もウルトライブやらせて貰えません?」

「ええいいですよ、でも個性の方は大丈夫ですか」

「問題なしです」

 

ドヤ顔と共に両の手首にしているブレスレットを見せ付けた、何処かウルトラブレスレットのような造形をしているそれは確か発目がシールド博士たちと開発していた筈のアイテムだったと記憶している。

 

「個性制御用のアイテムでウルトラテクターレットって言うんですよこれ、これさえあれば私の思い通りに個性を発動できるんですよ。これでもう事務所を壊しちゃうような日々とはおさらばですよフッフッフッフッ……!!」

「それはそれは……それで難易度は如何します」

「それじゃあウォーミングアップ代わりに……ハードで」

 

サラッとハードを選択する彼女にシンリンカムイとデステゴロは思わず本気かっ!?と言ってしまうが、それにドヤ顔で言葉を返す。

 

「見ておきなさい、これがPLUSの最前線でマグナ様と同じ戦場で戦った女よ」

 

そう言いながら上着を脱ぎ棄てながらやるわよぉ~!!と気合を入れるMt.レディ、その当人としては照れくさくもあるが取り敢えず発目から預かったコントローラーに音声入力を掛ける。

 

「レベルハード、ウルトライブ・シミュレーションをスタートします。セレクト、アパテー―――スタート!」

「シャァッ来なさい!!」

 

気合十分なMt.レディは出現したアパテーに怯む事も無く構えを取り、迫ってくる一撃を受け止めながらもカウンターで顎へと鋭いジャブを加えると直後に組み付くと一気に持ち上げて大地へと叩きつける。何処か自分っぽい戦い方をしている姿を見つつも今頃文化祭を巡っているであろう二人へと思いをはせた。

 

「しかし……出久君はゆっくりと巡れているのだろうか……?」

 

 

「あっ緑谷さんそっちの御団子ください」

「それじゃあそっちのお饅頭と交換で」

「交渉成立です」

 

と3年の出し物の一つである和喫茶にてのんびりと腰を落ち着けながら和菓子をつまんでいる二人の姿がそこにはあった。マグナの不安とは裏腹に発目と出久の文化祭巡りは酷く静かで穏やかな物であった。理由として最たるものそれは―――

 

「なんというかまあ……平凡って感じですね」

「発目さん、それ絶対にPLUSの基地での研究室とか整備エリアと比較してるからだよ」

「だって~私にとっての比較対象ってそれしかないんですからしょうがないじゃないですか~」

 

拗ねるようにお茶を啜る発目だが、彼女は既に本来あるべき技術力よりも遥か先の科学に触れ自ら新世代の技術の根幹を生み出し続けている身。そんな彼女としては文化祭のそれらは今までの物でしかないそれらにあまり興味は惹かれない、そういう物なのだから致し方ないとは思うがやや退屈な気分にならざるを得ない。

 

「いやまあ私だってその辺りを卑下したりするつもりは毛頭ありませんよ、正当な評価と批評しますよ。でも何て言うんですかね、ホラッ既に見知り過ぎている物を見ても何も思わないのと同じなんですよ」

「えっと……飼い犬がお座りとかしても何も驚かないみたいな感じ?」

「正にそれです」

 

ビシィィッ!!と擬音が付きそうな勢いで指を突き出す発目はテーブルに項垂れている。別段評価しない訳ではない、そこには制作者の想いや努力、掛けられた時間に比例するだけのそれらがありそれを否定するのは同じく科学者として製作者として愚の骨頂。だが……何時までもずっと子供の遊戯レベルの工作を見続けて評価できるという訳でもない。

 

「出来るならバンバン口出してこうしたらもっと伸びますよ!!とか是非是非言いたいです、でもそれやっちゃうと怒られますから我慢してるんですよぉ……」

「ああそりゃ確かにそう考えると発目さん的に凄い退屈なのか」

「退屈っというかなんというか……心が躍らないんですよね……これも博士と長いこと一緒にいた弊害ですかねぇ……」

 

発目とグルテンは出久とマグナ以上の付き合いがある、そしてその絆の深さは自分達に匹敵する程。その過程で触れてきたものは余りにも彼女の中にあった価値観を融かし昇華させてしまうには劇的な物過ぎた。それに慣れてしまっている身としては文化祭は余り楽しい場ではないのかもしれない。拗ねるようにしながら再びお茶を啜る彼女に出久は手を差し伸べた。

 

「だったら今ぐらいは全部忘れようよ、技術的な云々は放っておいて美味しい物を食べたり甘いものを食べたりしながら遊んでみようよ。きっとそんな風に過ごすのもいいと思うよ」

「いやまあそうでしょうけど……私は出来るなら研究とかしたいです」

「だからこそだよ、今の平穏を守るための研究をするなら今の平穏を知らなきゃ」

 

思わずキョトンとする、思ってもみなかった言葉いや余りにもありきたりな言葉だった。目的の為には過程を良く知らなければいけない、ある種の神童であった故によく言われてきた言葉だがそれをこんなにも純粋な笑顔と迷いのない言葉で言われたのは初めての事だった。

 

競争の為に自分の速度を落すための方便、自分の才能を妬んだ大人の言葉、様々な物とは違った初めてのそれに触れた時思わず発目は―――頬を赤くしながらその手を取った。

 

「言いますねぇ緑谷さん、それじゃあ今ぐらいはそのお言葉に従いますかぁ……んじゃまず何処行きます?」

「まずは色々巡ってみようよ、食べ歩きしながら色々探るのも醍醐味だと思うよ」

「ほうほうっありですね」

 

一緒に歩き出す二人。出久の隣を歩く発目を見たサポート科は自分の目を疑う事だろう、何故ならば―――常に別の物を見ているような彼女の目が明確に隣に居る出久を見据えて、その言葉と表情に反応し、笑っているのだから。




発目さんの暴走回だと思いました?いや私もそうしようと思ったんですけど、冷静に考えたら彼女が暴走するものが出久やPLUS以外であるのか?という疑問にぶち当たりまして、こうなりました。

結果、なんかすげぇヒロインっぽくなりました。あっれ~彼女ヒロインだったっけ……ストレイジのユカさんとかXIOのルイルイポジのつもりだっただけど……。


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二人の距離感。

文化祭にあまり良い目、楽しむという気を向ける事が出来ずにいた発目だが彼女は出久に連れられて今ばかりは技術者としての思考を捨て去ることに決定した。常日頃から新しい技術を、新しい作品(ベイビー)を思い浮かべながら過ごしてきた彼女からすればそんな事は最早未知の領域に等しかった。そう思えてしまうまでに自分はそちら側へと足を深く深く踏み入れて戻る事も忘れてしまっていたのだろう。

 

「偶にはこういう感じで食べ歩きもいいもんですねぇ~(モグモグモグモグ)」

「発目さん、頬張りすぎだよ」

「(ングングング……)いやぁ失敬失敬」

 

購入したヒーローの仮面を側頭に被せながら片手にはイカ焼き、片手には焼き鳥を手にしながら手首には焼きそばの入った袋をぶら下げている発目を諫めるように焼きそばの袋を受け取りながら次のものを見に行く彼女の後に続く出久。

 

「何も考えずにこうして食べ歩きするのもいいもんですねぇ……」

「これからも偶にはそうしてみてもいいんじゃない」

「何を言ってるんですか今日だけですよ、明日からは100倍の利子を返すつもりで行きます―――と言いたい所ですが緑谷さんがそういうなら偶には休肝日ならぬ休脳日を作るようにしますか」

 

その言葉に出久はそうしたら方がいいと言いながらも彼女が自分の言葉を素直に受け取ったことに驚きを感じてしまっていた。それはこの文化祭を楽しめているからだと解釈するのだがその時の発目は無意識的にこっそりと出久の方を見ながら言葉を漏らしていた事を二人とも知らなかった。

 

「それにしてもやっぱり色んな催し物があるね」

「まあ雄英ですからね、なんだかんだで偏差値とかに目が行きますけどここは全国各地から入学者が殺到する名門校。故に全国の名物を知っている人達が一堂に会するイベント会場みたいなものに変貌するのも一瞬ってわけですよ」

「大体回り終わったけど……あっなんかミスコンテストやってるみたいだよ」

「ドジっ子コンテストとな?」

「いやそっちのミスじゃないでしょ」

 

そんな寸劇をしながらもイベント会場へと向かっていくことにした二人、そして到着したとき目にしたのは―――巨大な人の顔をした戦車のようなメカに乗った色んな意味で絢爛豪華な姿をした女性だった。

 

「……あれ、これ本当にミスコンテストなの?」

「あっあの人3年サポート科の絢爛崎先輩ですね」

「サポート科の人なの!!?」

 

というかあれはありなのだろうか、ミスコンテストというのは女性が自分の美しさや可憐さなどといった魅力を武器にした上で誰が一番なのかを競う物だと出久は思っていた。それなのに目の前では巨大な絢爛崎先輩の顔をしたメカが色んな意味で大暴れをしている、もはや美しさとかけ離れているような気がしてならないというのが出久の素直な感想であった。

 

「私も親しくないですけど絢爛豪華こそが美の終着点とか言ってた記憶ありますね、まああれだけド派手なら説得力も十分ですね」

「発目さん的にはあれってどうなの、ありなの?」

「普通にありなのでは?」

 

オレンジジュースを飲みながら答える。

 

「ミスコンテストは女性の美を競うなんてお題目ありますけど究極的に言えば審査をする人にどれだけ自分の印象を刻み込めるかって事なんですよ、ほらっ誰に入れるか迷った時なんか一番印象に残った人にしようって緑谷さんも思いませんか?」

「あっ確かに思う」

「だからと言って印象に残れば何でもいいわけじゃないですけど、自分の思う美意識でそれをどうやってやるかが焦点な訳です。それで絢爛崎先輩は自分に絶対的な自信があってそれを全面的に押し出しまくった結論があれってわけです」

 

串で示す絢爛崎の自前メカ。わかりやすいほどに自分の顔面を強調したそれ、そこにあるのは自己顕示だけではなく自分への絶対的な自信と信頼なのである。あそこまで胸を張り堂々と自分をアピール出来る存在に人は引き寄せられていく、それもまた一つの美しさというやつなのだろう。

 

「まああそこまで自分の顔をしたのを堂々と出せるのは凄いと私も思いますよ、普通だったら引くでしょうけどなんか一周して惹かれますよあれ」

「うんっなんか分かる」

 

そんな思いを抱きながらもコンテストを見学し続ける中で不意に出久は呟いてみた。

 

「仮に発目さんがあれに出てたら何してた?」

「えっ私ですか、いやまあ出ることは忙しかったですからないと思いますけど……って今の平穏を知るために考えるのやめろ的なことを言っておいて結局私に考えさせる気ですか」

「アッごめん、純粋に気になって……ちょうどサポート科の先輩が出てたからつい……」

 

頭をかくようにしながら謝罪する出久に思わずため息を漏らすがそこには何もない、唯の溜息でしかなくなにも含まれていない。だが自分があそこに立つ光景というのは如何にもイメージ出来ない、デザイナーとしてあそこに相応しいベイビーのビジュアルは浮かぶのだがそこでは主役は自分だ、ならば自分はどうするべきなのかというのが浮かばなかった。意識的な面があるからだろうか、如何にもハッキリしない中でそれを誤魔化すように悪戯気な笑みを浮かべながらその場を立ち去ろうとする。

 

「あっちょっと発目さん、ちょっとってば!?」

「さっきのご質問ですがお答えするのはやめておきますね」

「ええっ?!」

 

振り返りながら口元に指をやりながらも笑みを浮かべてながら言う発目の姿はどこか悪戯好きな妖精のようだった、そしてその答えも。

 

「まあそのうち教えてあげますよ、気が向いて時にでも~」

「ズルいなぁ教えてくれてもいいのに」

「ふふん内緒です」

 

自分がミスコンテストに出る姿を想像した出久、そこに何の意図もないのだろう。だが何故か胸が高鳴っているのである、どうしても考えてしまう。彼がそんな風に考えているのではないのだろうかと……

 

 

―――発目さんもミスコンでいいところまで行けると思うけどなぁ。

 

 

ただの世辞かもしれない、流れかもしれない、そう思っただけかもしれない。なのに如何してもドキドキしてしまっている、でも何故か嬉しさも同居している。そんな思いを抱きながらも発目は出久を連れて次へと向かって歩いていくのであった。




「ディァァァァァァ!!!」
「アパテー撃破、ウルトライブ・ハードクリア」
「ふふんっこのぐらい軽い軽い!!」
「こ、これは負けていられぬ!!光士殿次はぜひ我に!!」
「いや俺で頼む!!」


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光と闇の……。

M78星雲・光の国。ウルトラマンヒカリの研究室。

 

「フムッ……実に興味深いな、いやゼロ、このデータを持ち帰ってくれた事は本当に助かった。次元刀の性能アップに大きく貢献する」

「そう言われても俺は何にもしてねぇから礼ならオーブかマグナが帰って来た時にでも言ってやってくれよ」

 

カトレア王女を無事に光の国へと送り届ける任務も無事に終える事が出来たゼロ、その後にデビルスプリンターの影響による怪獣退治をある程度こなした後に光の研究室へと顔を出していた。ゼロ自身が自分だけで別次元の宇宙へと移動可能な能力を持っているのでその研究協力によって次元刀の改良を試みている。

 

「しかしマグナは元気にしていたようで良かった、帰ってきたら私も詳しく話を聞きたいな」

「ウルトラ・フォー・オールの事か?」

「ああ。マグナの居る次元の地球人の個性という力も興味深いが、それ以上にウルトラマンの力と一つになったというそれは酷く興味がそそられるよ」

 

それはヒカリ自身が嘗て、メビウスと共に地球人たちと一つとなったからか。その絆が生み出した奇跡のウルトラマンとして共に戦ったから故の言葉なのだろうとゼロは感じていた。マグナの中で生き続けたアサリナ、そして地球にて脈々と受け継がれていたという平和を願い思う絆の結晶たるワン・フォー・オール。それらが一つになったというウルトラ・フォー・オール。

 

「君から見てそれは如何だった」

「正直言ってとんでもねぇと思ったな、元々マグナは強かったがそれが跳ね上がってやがった」

「それ程か」

「ああ、多分師匠に確実に拮抗出来る位だな」

 

それを聞いて益々興味が強まった。ゼロの師匠、ウルトラマンレオと言えばウルトラマンの中でも屈指のグラップラー。元々格闘戦が得意なマグナでもレオには勝てた試しがないが、それが迫れるとなると途轍もない事になる。是非とも戻って来た時には調べさせたほしい。

 

「ンな事よりもマグナの奴に新しくメダルを送るって話、マジなのか?」

「ああ、彼からの報告書を受け取ったゾフィーと大隊長が決定を下した―――何せ彼の手にもベリアルのメダルが入ったのだからな」

「―――マジか」

 

上げられた報告書、そこにあったのはマグナの宿敵でもあり彼の親友でもあるアサリナの命を奪ったアウローラが使用していたと思われるメダルの確保に成功したとあった。だがそのメダルはゼットの持っているメダルに比べて酷く不安定な物らしく、マックスらのメダルを拒絶する程。故にベリアルのメダルを使う為のメダルの開発が行われているとの事。

 

「あの野郎の為に動かなきゃならねぇと思うと気に入らねぇな……」

「そう言うなゼロ、ベリアルの力と言っても結局のところ使うのはマグナだ。彼ならば問題なく使いこなせる筈だ」

「……まあ分かってるけどよ」

 

ゼロとしてはやや複雑な所があった、これまでもベリアルの力を使うウルトラ戦士はいるが今度は自分達がベリアルの力を使う為に力を尽くそうとしている。長年戦い続けてきたゼロとしては奇妙な気持ちを抱えざるを得ないが、自分がゼットの弟子入りを断り続けた結果、代わりに師匠になってしまったマグナには色んな意味での恩がある。此処は素直に協力しなければ……。

 

「ンで誰のメダルを作るんだよ、あの野郎並のメダルってなりゃ必然的に絞られるだろ」

「既に候補は上がっているがゼットの話を聞いてライズウルトラメダルにして送るつもりだ」

 

 

 

 

「お帰り、如何だった楽しめたかい」

「いやぁ案外楽しめましたよぉ~偶には頭を空っぽにするのも悪くありませんねぇ~」

「今戻ったよ光士さん」

「だから光士さんじゃなくておじさんでいいってば」

 

戻ってきた二人を出迎える光士の姿に発目と出久は驚いてしまった、そこにあったのはウルトライブ・シミュレーションの盛況ぶりが凄まじさだった。周囲を囲むようにしている観戦客などでごった返しておりその周囲では経営科の店舗が何時の間にか並び立っており飲み物や食べ物などの販売を行っていた。

 

「移動式の店舗になってる……何て商魂逞しいんだ……」

「まあ経営科はその辺りのビジネス云々の知識やらを学ぶところですから、文化祭なんてそれらを発揮する場所ですから。許可は出したんですよね?」

「当然。真摯に頼みに来てね、是非ともお願いしますって頭を下げられてしまったよ。唯の事務員のおじさんに頭を下げても意味なんてないのに全く困ったもんだよハハハハッ」

 

笑う光士だが周囲の人々は内心で何処が唯の事務員のおじさんだよ……とツッコミを入れていた。そんな皆が見つめる先では再度挑戦を行っているシンリンカムイが戦い方を悪戦苦闘の末に漸くハードクリアを達成し、Mt.レディと光士を除けば初めてのハード以上の難易度クリアを達成していた。

 

「オオオオッッ!!!光士殿ォッ我やりました!!」

「お見事、ですが内容はあまり褒められるような物ではありませんね……」

「何ですと!?」

「周囲、ごらんなさい」

「あっ……」

 

シンリンカムイが向けた先には投影された街が滅茶苦茶に破壊されている惨状であった。無我夢中に戦うが故に相手を容赦なくビルに叩きつけたり、自身もビル数棟を貫通して吹き飛ばされてたりしていた。故に街へのダメージも相当な物となっていた、メビウスの初戦よりも酷い事になっている。

 

「まあハードでは街への被害率はクリア条件にはカウントされてませんから問題はありませんけど……」

「ううっ……しまった、考え付きもしなかったとは……!!!」

 

唯戦うだけでは意味がない、街への被害を考えなければいけないのはヒーローと同じだが怪獣相手の場合その規模も範囲も極端に大きくなっていく。怪獣にとってビル一つを消し飛ばすなんて簡単な事なのだ。それらを考慮して相手の攻撃の回避や防御を選択しなければならなくなってくる、ウルトラマンの戦いとは過酷なのである。

 

「アハハハハッあんだけ大口叩いておいてそれぇ!?マジ受け何ですけどぉ!!」

「うっうるさいMt.レディ!!我はまだ、そうウルトラマンのファイトスタイルにまだ慣れきっておらぬのだぞ!?」

「あ~やだやだ仮にも私よりも先輩なのに言い訳なんて情けな~い」

 

これは傑作だわっといい顔をして笑うMt.レディに事実なので何も言えなくなるシンリンカムイ、だが流石に言い過ぎなので諫めておく。

 

「こらこら淑女(レディ)の名に相応しくない言い方をするもんじゃありませんよ、それに貴方だって対怪獣戦で言えば先輩に当たるのですからそこは余裕と配慮を見せ付けるべき立場ですよ」

「ブッ~そんな言い方ってズルいと思いま~す」

 

そう言いながらも従うMt.レディの姿を見て発目は出久に耳打ちをする。

 

「あの、もしかして何となく気付いてるんじゃないですかね……」

「えっそんなのあるの!?」

「いや多分無意識的なあれだとは思いますけど……ほらっ雰囲気というか感覚的に似ている物を感じ取ってるだと思いますよ」

 

言われてみるとMt.レディは何処か光士と話している時は笑みが多くなっている気がする、マグナに心の底から惚れこんでいる彼女だからこそ分かる何かがあるのだろうか。

 

「これ、一応言っておいた方が良いかな……」

「まあ多分大丈夫だと思いますけど、後でマグナさんには言っておきましょうか」

「今貴方達マグナ様の話をしなかったかしらしていたら私も混ぜなさい!!!!」

「「(なんて地獄耳!!?)」」

 

 

―――楽しそうに笑うじゃないかマグナ、ぁぁっその顔も良いなぁ……。

 

 

光士をマグナと呼ぶその視線は悦に浸りきった言葉を零しながら蕩けていた。そこにある感情は何なのか、幾重にも絡まった無数の渦が成す闇。その奥の奥に更に深く暗い闇、それこそがそれであると言わんばかりの物を纏いながらもマグナを見つめている。

 

 

―――でもねぇ……君のそれを受けていいのは()だけなんだよねぇ……だからさっこっち、向いてよ……行けっマグナの視線を釘付けにしろぉ!!

 

 

〔BLITZ-BLOTZ〕

 

 

向けられたそれは雄英近くの街の空に渦巻くどす黒い雲を作り出した、そしてその中からより一体の怪獣が飛来する。それはまるで烏天狗を思わせるような外見をした極めて人間に近いシルエットをした白と黒の巨大な魔人。巨大な赤い瞳のような物で周囲を威圧するようにしながらも真の瞳で周囲を冷静に見極めている。

 

破滅魔人 ブリッツブロッツ

襲来




破滅魔人、ブリッツブロッツのエントリーだ!!前々から出そうと思ってたら公式のステージで出ちまったよ!!しかもアグルのSVと一緒に出ちまったよどうすんだよ興奮するなって方が無理だろこれ如何したらいいんだよこれ!!?

取り敢えず、アグルおめでとうございまぁああああああす!!!


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迫る脅威と立ち上がる希望。

「まさかこんなタイミングで怪獣が出現するなんて……!!」

「校長急いで避難の誘導をしなくては!!」

「幸いな事にPLUSの方々もいますし誘導は極短時間で終わるでしょう!!」

「いや誘導はしない、逆に皆には落ち着いて行動するように伝えて欲しい」

 

突如出現した怪獣の存在に阿鼻叫喚の騒ぎとなりそうになる教員たち、その中で唯一絶対的な冷静さを纏っていた校長の根津は逆に避難させる事が大パニックを誘発し怪我人を出す事を心配していた。

 

「何、大丈夫さ。此処にはなんせ―――」

「お邪っ魔しまぁぁあす!!」

「は、発目お前扉を蹴破るなぁ!!!」

 

突如扉がくの字に拉げながら天井に突き刺さるというハプニングが起こる、が続いて聞こえてきた発目の声に教員たちの驚きは一瞬で鎮静化させられた……が唯一人パワーローダーだけは「なんて事をしてるんだお前はぁ!!!」と顔を青くしながら激怒する。

 

「いやぁすいません驚いていたものでして、修理費用は私のお財布からお出ししますのでご安心ください」

「そういう事を言っとるんじゃない!!というかお前は何をしに来たんだ!?」

「ああっ根津校長にお願いされてた事の完了をお伝えに来ました―――雄英は安全です」

 

その言葉に根津は心からの安堵の表情と共に感謝を浮かべながら発目に頭を下げた。それを受けてもPLUSの隊員としてやるべき事をやっただけだと応える彼女、そして何が起きているのか分からなそうにしている教員たちだが窓の外で何かが起きていた。雄英の敷地全体を覆うかのように光の壁のような物が形成されていった。

 

「私を始めとしたPLUSのメカニック達が総力を挙げて開発した対怪獣災害想定陣地防衛用エネルギー障壁、ウルトラエナジーシールドです!!下手に避難するよりも此処にいる方が無難ですよ」

「耐久力はどの位だい?」

「そうですねぇ……PLUSで開発された特空機、ああいや巨大ロボの攻撃にも耐えられる位ですね」

「十分だ。マイク直ぐに放送をしてくれ、皆さんには落ち着いてほしいとね」

「ROGER!!」

 

直ぐに放送室に向かって行くマイク、それを見送ると直ぐに凄まじい地響きが轟いた。

 

「な、なんだ!?」

「怪獣が暴れてるのか!?」

「いいえ違いますよ、来たんですよ希望が―――私達を見つめてくれてる光の巨人がね」

 

 

 

地上へと降り立ったブリッツブロッツ、周囲を威圧するような巨大な頭部の眼状紋で周囲を惑わしながらも真の蒼い瞳で周囲を見渡している。だが見続ける中で違和感に気付く、街中に人間の姿が全くと言っていい程にないのである。気配すらも無い、一体どういうことなのかと思いながらも気配を探ると高い丘の場所に酷く密集した気配を感じ取った。そこかと思い直しながら翼を広げようとした時―――赤い流れ星が大地へと落ちた。土煙の奥、その奥から敵意を感じ取ったのか一歩引いた。

 

「ギィィイイイイッ……!!」

「ディァッ!!」

 

土煙の奥、晴れた先にいたのは光の巨人。その姿を見ると瞬時に戦闘態勢を取った、それの目的がマグナだからか、向ける全てを向けながら体勢を取る。

 

『ブリッツブロッツとはな……油断するなよ出久君』

『はいっ!!』

 

「ォオッ!!」

 

走り込んでいくマグナ、それと同時に駆け出すブリッツブロッツ。互いに一撃を放つがそれらは全く同時に回避する、それを切り返し後ろ回し蹴りを両者が同時に放ち空中でぶつかり合う。迫りくるブリッツブロッツの攻撃を的確に捌きながらその顔に一撃を喰らわせて怯ませると腕を掴み、一気に投げる。

 

「ギィィイイイイ!!!」

 

素早く立ち上がりながら地面を蹴りながら手を刀のように振り切る、それは回避されるが着地しながらもそこからエネルギーを放ちながらそれを固定化し光の刃を形成する。

 

『あれはビゾームの……矢張り単一ではなかったか』

『きます!!』

 

一気にリーチを伸ばしたブリッツブロッツ、その光の剣を振り被ってマグナを切り裂こうと迫りくるがそれを回避していく。だが回避し続けられるだけではない、見事に身体を回転させながらも剣を振るうと身体の一部へとその剣が命中した。掠る程度だがそれを浴びたマグナは矢張り本格的に喰らったら危ないと理解する。

 

『生憎そういう技は未修得なんだけどなぁ……!!』

『えっ出来ないんですか!?』

『いやだってあれ長時間エネルギーを放出しながらそれをほぼ物質に固定するから超難しいんだもん』

『言ってる場合じゃないです来ますよ!?』

 

飛び掛かるように斬りかかってくるそれを前転して回避する、剣を振るう度に太刀筋が鋭くなっていく上に威力も倍増していく。このままでは不味いと確信したマグナは一つの作戦を思いついた。勢い良く振りかぶってくるそれに対して細かい動きで回避しながら接近し、この一撃で決めると言わんばかりの大振りのそれを誘い、それが来た時に

 

『これだっ!!!出久君行くぞ!!』

『はい!!』

『『ウルトラ・フォー・オール・フルカウル!!!』』

 

瞬時にフルカウルを発動させてスピードを強化すると回避しながらもその腕をガッチリとホールドした。肩と手首を抑えられた事で光の剣を完全に振るえなくなってしまい呻きブリッツブロッツ、それに対してマグナは勢いよくその腕へと向けて膝蹴りを叩きこんだ。

 

「ダァァァッ!!」

「ギイイイイァァアアア!!!?」

「ディァァアアアア!!!」

 

渾身の膝蹴りが炸裂しブリッツブロッツは尋常ではない痛みと苦しみに満ち溢れた絶叫を上げる、だが上げきる前にその顔面へとスマッシュが炸裂し大地へと沈められた。光の剣は四散してしまい右腕は尋常ではないダメージを浴びてしまったブリッツブロッツ、ヨロヨロと立ち上がるがその時、胸の十字部分を展開しそこから赤い結晶体を露出させた。

 

「ギィイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!」

 

悲鳴、ではない。憤怒と憎悪に塗れ切った雄叫びが街に木霊する。その雄叫びと共にその肉体が変貌していく、白かった部分は黒く歪な甲殻で覆われていき手の甲からは鋭い爪のような物が飛び出した。取り込んでいたであろうビゾームの力が表層化した、というだけではない。他にも左手にはドリルが出現している。それらを見て直ぐにマグナは一体何の怪獣の力を取り込んでいるのかを理解する。

 

『ビゾームにXサバーガ……強い怪獣ばかりを取り込んだものだな!!』

 

―――それだけじゃ済まさないけどね♪

 

「ギィイイイイオオオァァァァッ!!!」

「ォォォォッ……」

 

「ォォッ!!?」

 

もう一つ、まるで唸り声のような駆動音に振り向いたマグナ。そこにはもう一体の怪獣が存在していた。頭部に三連式のガトリングのような砲塔を携えたずんぐりとしながらも酷くどっしりとした身体を巨大な鉄神。それはエンペラ星人が尖兵として送り込み、当時のメビウスが手も足も出なかった無双鉄神 インペライザーであった。

 

『インペライザー……!?』

『完全な二対一、不味いですよこれ!!』

 

出久もウルトラ戦記を学んでいた時にメビウスの章にてインペライザーの恐ろしさを知ったが故に動揺を隠しきれなかった。100m級の氷塊を粉々にするメビウスの必殺技を受けてもびくともしない装甲を持ち圧倒的な出力と腕部を変幻自在に武器へと変貌させるその強さを。ゼットとハルキがいてくれたら互角なのだが……と思っていたその時であった。

 

「デュォ?」

 

マグナとインペライザーの間に入るかのように二つの影が割り込むと空から巨大な人影がゆっくりと降下してきた。それは大地に降り立つと巨大な音を立てながらも雄々しい雄たけびを上げるとインペライザーへと戦闘態勢を取った。

 

「キシャアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」

 

『ハッハァッ!!PLUS特空機初号機 フェンサー・ゴモラただいま見参!!』

『押忍!!同じく特空機零号機 レギオノイド・フェンサーただいま到着!!』

 

そう、PLUSの特空機であるレギオノイドとゴモラが到着したのである。発目が文化祭で特空機の事を披露したいと準備をしていたのだが、まさかこのような事になるとはナイトアイも許可した時は思いもしなかったが備えあれば憂いなしという奴だろうか。そしてそれに搭乗しているのはゴモラの操縦経験のある発目とレギオノイドのテストなどをしていたハルキである。

 

『マグナさん此方はお任せください、特空機の力見せてやりますよぉ!!』

『任せてくださいっす!!もう、貴方だけに地球を守らせはしません!!』

 

『頼もしくなってるじゃないか、ではそれに期待しつつ……私達もやる事をやろう!!』

『はいっ!!負けてなんていられません!!』



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世界を守る力達。

「ギィイイイイオオオ!!!」

「ォォォォッ!!!ァァァァッ!!!!」

 

身軽な動きで迫りながらもドリルを突き刺そうとするそれを回避しながらも切り返されて迫るそれを肘を腕で抑える事で防御する。力勝負と一気に力が込められて行く―――がそれが頂点に達しようとする時に唐突にブリッツブロッツが右手を差し向けた。一瞬何をするのかと思ったが即座に空いた腕で差し向けられたそれを弾く。

 

『ッ!?マグナさん何かが手から飛び出してきてます!?』

『ええいっ十全にXサバーガの能力を扱い切っているなっ!!』

 

手から飛び出したのは生きる爆弾、小Xサバーガ。それはループを描きながら背後からマグナへと襲いかかろうとするのだが渾身の力でブリッツブロッツを回し逆にその身体に取りつかせていく。

 

「ギィイイイイイイイイイイイイイイイイ!!?」

 

『ハッハァッ!!自分のエネルギーを吸収されてそれを爆弾に利用される気分は如何だ!!』

 

振りまわされたブリッツブロッツへと付着した小Xサバーガ、それは元々組み込まれたプログラムに従うかのように組み付き吸収していく。そしてそれらは限界を超えるとそれらを起爆剤にして一気に爆発して相手にダメージを与える。何とも上手く出来た兵器だと言わざるを得ない。が爆炎から複数の影が飛び出した、それはマグナの周囲を囲む5体のブリッツブロッツ。

 

「「「「「ギィィッ!!!」」」」」

 

5体は全く同じ動きをしながらも翼を広げ、ドリルと光の剣をもって飛び掛かってくる。

 

「デュァッ……ォォァァァッ!!!」

 

マグナの周囲を残像を残すような超高速移動を繰り返しながらのヒットエンドアウェイ。徹底した高速戦闘、それはマグナの近接戦の強さを把握した故だろう。これならば攻撃を当てる事は容易ではない、これならばと。

 

『やるなっ……!!』

『だけど、唯速いだけ!!』

『そう、この程度で勝ったつもりならっ―――』

『『御笑い種だ!!』』

 

刹那、マグナの身体が輝きに包まれた直後に迫り来た1体の胸部へとスマッシュが炸裂する。それを受けると粒子へと変換されたが如く粉々になり消え去っていく。そこへ更に二体が背後から迫りドリルと刃を差し向けるが同時に裏拳が炸裂し分身が霧散する。

 

ULTRAMAN MAGNA LAMBDA SPIRIT(ウルトラマンマグナ ラムダスピリッツ)

 

「ディァッ!!ォォォォォォッッ……ダァッ!!!」

 

頭部のラムダ・ソウルブレードが飛ぶ。青白い光を纏いながら一気に閃光となって駆け抜けていく刃は激しく交錯し突如として下がるような動きを織り込ませるようなとんでもない軌道を描きながらブリッツブロッツへと迫っていく。

 

「「ギィィッ!!」」

 

それに対して攻撃を仕掛ける、刃とドリルによって弾かれようとする寸前に突如として動きを変える。風に靡く草がそれを捕まえようとする手をするりと抜けるように、二つの攻撃を掻い潜りながらその胸へと突き刺さった。

 

「ギィッィイイイイイ!!!?」

 

胸に突き刺さった刃、それは抉るように回転しながら更に切り裂いていく。それによって胸の奥に隠されていた赤い結晶体に大きな傷がつき幾度にも爆発を起こしてしまっている。そしてそれらのダメージによって残っていた最後の分身が消え去ってしまう。そして戻ってきたブレードを握りながらマグナは一気に飛び掛かる。

 

『『LAMBDA SOUL SLASH!!!』』

 

「ディェアアアアアッッッ!!!」

 

斬撃のスマッシュが放たれる、翳された剣とドリルを粉砕するかのように切り裂く一撃。それを受けたブリッツブロッツは強化されている筈の自らの力を疑った。

 

 

「さあさあ行きますよフェンサー・ゴモたん!!」

『キシャアアアアアアアッッ!!!!』

 

大地を踏みしめる巨大な機械獣、それは高らかに雄たけびを上げながら眼前の敵へと進んでいった。向かう相手は無双鉄人、生半可な相手ではない事は確実。だがそれを言うのであればこのフェンサー・ゴモラとて並大抵のものではない事を見せ付けてやると発目は酷くやる気であった。

 

 

―――ォォォォォォッッ……。

 

 

唸り声のような駆動音を響かせながらもインペライザーは一歩を踏み出しながら此方へと迫ってきた。それに対して素早く反応したのはレギオノイド、即ちハルキとゼットであった。

 

『ハルキ、インペライザーは冗談抜きでパネェ相手だ。いざとなったら直ぐに変身して戦っちゃわないといけないですぜ!!』

「押忍!!でもそう簡単にはやられたりはしないですよゼットさん、だってこいつは―――PLUSの皆が作り上げた特空機コンビっすから!!行くっすよ発目ちゃん!!」

「アイアイサー!!!」

 

先鋒を切ったレギオノイド、ロボとは思えぬほどに軽やかな動きで走り出していく姿はMt.レディのように巨大化した人間を連想させる。一気に懐へと飛び込んでいくが刹那の出来事、インペライザーの右腕が巨大な刃へと変じた。

 

「ぃぃぃっ!!?」

『あっそうだインペライザーって腕を変形させられるんでしたぁ!』

「ちょっとゼットさん!!?うぉぉぉぉ何のぉおお!!!」

 

そんな大切な事を何で忘れる!?という言葉をぐっと飲みこみながらハルキはマニュアル操作で各部の減圧や出力調整を咄嗟に行った。そして振るわれるインペライザーの腕部剣(インペリアルソード)をスライディングする事で回避する。一撃を見事に回避しながらも姿勢を小さくした事でインペライザーの隣をすり抜けながら背後を取る事に成功する。

 

「ンググググッ……チェェエエエストォ!!!」

 

スライディングからの急制動、それ故か身体に急激なGが掛かりその負荷に耐えながらも地面を蹴って背後からのタックルを浴びせ掛けた。回避からの背撃に対応しきれないのかまともに喰らいながらも前のめりになりそうにながら堪える―――が

 

「ようこそいらっしゃいましたぁっでは―――サイバー・ショックインパクトォ!!」

『キシャアアアアア!!!』

 

ゴモラ最大の強み、それこそが角から発する超振動波。ゴモラを模し、サイバーゴモラのデータを使用する事で完成されているフェンサー・ゴモラにも当然その力は備わっている。角からだけではなく両腕の巨大な盾としても使用する爪からも振動波を放ち攻撃できるようになっている。振動波を纏った一撃がインペライザーの頭部へと炸裂する、強固な装甲を誇る筈のインペライザーだがゴモラのパワーと振動波の重ね合わせはそれを貫通する。

 

「ハッハァやっぱり博士にサイバーゴモラのデータを貰ったのは正解でしたねぇ!!」

 

殴り付けた頭部から火花が散る、それに狼狽えるかのようにするが直後に剣を振るってくるが盾にもなる爪にエネルギーを送ってシールドを展開してそれを受け止める。だがそれでも相当な衝撃が襲ってくる、とんでもないパワーだと思ったがパワーなら此方だって負けてはいない。それにこちらは一人ではない。

 

「ナイスっす!!うおおぉぉチェストォォォ!!!」

 

受け止めた所へハルキが迫る。そして腕部のブースターを吹かし一気に加速させた拳を剣へと叩きつけた。それによって弾かれる剣、その剣へと飛び付くように腕へと組み付くとレギオノイドの肘と膝で挟み込むかのようにしながらの打撃を加えた。剣の腹へと浴びせ掛けられた一撃、そしてそれを行ったのはあのベリアル軍の尖兵だった存在の一撃、インペライザーの剣を打ち砕くには十分過ぎる一撃だった。

 

「シャァッオラ!!」

『うおおおっインペライザーの剣を折ったぁ!?マジで!!?』

 

流石のゼットでも驚愕の光景だった。それだけこの地球の技術力が高まっているという事なのか、いやこれはレギオノイドという存在ゆえだろう。そこにグルテンからのサイバー怪獣技術が導入されている、だからこそ出来た事。

 

「よぉおし一気に決めますよぉ!!ハルキさん、傷付けますので後は頼みますよ!」

「押忍!!」

「行きますよぉ出力最大リミッター解除―――コード・PLUS ULTRA!!」

 

唸りを上げながら高まっていく出力、それと共にフェンサー・ゴモラから光が溢れ出していく。両腕からは溢れんばかりの閃光が迸っている、発目はその中で自らの個性と同調するスコープを覗き込みインペライザーへと狙いをつける。そして最大限に出力が高まった時、大地を尾で打ち鳴らすと同時にブースターが一斉に火を噴きその巨体がインペライザーへと飛び掛かった。

 

「いっけぇぇぇっっ!!!!」

 

最高最大の出力の一撃が突き刺さる、圧倒的なパワーによって強固な装甲へと突き立てられた一撃は全出力によって放たれる振動波によって装甲を破壊していきながら更に奥へと突き刺さっていく。

 

「まだまだぁっ!!貴方の力はまだまだこんな物じゃない筈ですよゴモラぁ!!さあっ行きますよ―――Plus Ultra!!!」

『キシャアアアアアアアアアァァァッッッッ!!!!』

 

発目の言葉に応えるようにゴモラは更に出力を上げて行く、限界値を越えて力はインペライザーを抑えつけながらも持ち上げると天高く殴り飛ばしてしまった。

 

「今だっ!!ビッグバンッバースト!!」

 

空高くへと打ち上げられてインペライザー、それを見たハルキは地面へと機体固定用のアンカーを打ち込んだ。全身の装甲が解放されていくとそこから無数のミサイルが一斉に飛び出して無数の尾を引きながら全方位からインペライザーへと襲い掛かっていく。本来ならばその強固な装甲には無意味、かもしれないがゴモラの一撃で装甲は罅割れている上に大きな亀裂も入っている。それならば十二分に機能する、全方位からのミサイルの嵐を受けたインペライザーは大爆発を起こし、消えていった。

 

「おっしゃああああああっ!!!特空機初戦闘大勝利ぃぃぃ!!!」

「シャアア!!」

『うぉぉぉっこれは、本当に凄いで御座いますよぉ……あのウルトロイドとは全然違う方向性なのにめちゃんこつぇぇ……!!』

 

特空機の勝利が決定づけられた時、直ぐ近くで戦闘を行っていたマグナとブリッツブロッツの戦いも終幕となっていた。インペライザーへとミサイルが叩きこまれたのとほぼ同時に、必殺の光線が撃ち込まれブリッツブロッツは全身から火花を散らしながら倒れこみ爆発し消えていった。危機にこそ晒されたがPLUSは見事にそれを退ける事が出来た、そして―――PLUSは怪獣災害に対して明確な要になる事が世界に示された日となった。




―――ふぅうん強いなぁ本当に強いなぁ……マグナ。じゃあそろそろ()と一緒になる頃合かな……この身体もそれを望んでいるよ、君とまた触れ合う時を……ねっ♪


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初の特空機、実戦稼働。

「いやぁまさか文化祭の最中に出撃する事になるなんて完全に予想外でしたねぇ……」

「模擬戦ばかりでしたけど何とか動いてくれて良かったすね……」

「と言っても緊急出動でしたから各部にかなり負担が掛かっちゃってますねこりゃ……初の出撃で戦闘でしたから基地に戻ったらオーバーホールする勢いでフルメンテでしょうねぇ……」

 

インペライザーを退け、ブリッツブロッツも無事に倒された事によって周囲の安全が確保された。そのまま基地に戻るかと思った特空機だが実は試験運転中の緊急出動だったので各部に異様な負担が掛かってしまったらしく一旦雄英の敷地に置かせて貰って簡易検査を行なわれている。

 

「発目さんにハルキさん!!良かった大丈夫そうですね!」

「押忍っ全然大丈夫っす!!寧ろ俺はこっちが本業ですから!!」

「いやぁ尊敬しますよ、私なんか稼働時のGとか衝撃でちょっと節々が痛みますよ……こりゃ専用のスーツ作りつつ私も鍛えないとダメですね……」

 

ハルキ自身は元々本職の特空機パイロットだった為に戦闘は慣れているし身体も鍛えているので戦闘時に掛かる負担などにも耐えうる身体を作ってあるが元々研究職である発目はそれなりのダメージを受けてボロボロになっていた。

 

「だ、大丈夫発目さん?」

「大丈夫ではあるんですけど……あだだだっ……操縦者保護機構の改良は必要そうですねぇ……」

 

地球産特空機フェンサー・ゴモラ、良くも悪くもまだまだ改良の余地がある事を再認識させられた気分だが発目としては今の気分は決して悪くは無かった。彼女の中では既にこのゴモラと共に戦って行く決意のような物が固まっていた。そんな彼女を見つつもハルキは遠くから聞こえてくる声などがやはり気になってしまう。

 

「にしても凄い声っすね」

『この運動場近くにPLUSメンバーがいるだけじゃなくて、一般人も見に来てるみたいだからなぁ』

 

根津がPLUSへと解放した運動場、そこには既に多くのPLUSメンバーが駆けつけておりレギオノイドとゴモラの調査が行われている。それだけではなくウルトラマンと共に戦える地球の力を一目見ようと多くの人達が近くまで来ている。あれだけ派手に戦っている訳な上に隠す類のものでもないので別段情報の遮断をするつもりは無いが、特空機の受け入れをしている運動場周辺は完全に立ち入り禁止とされている。

 

「駆動系はリミッター解除後の反動によって稼働低下率が起きているがこの数値は問題だな……」

「パパ、関節部や油圧系にも凄い負担が掛かってるわ。基地に戻ったらパーツフル交換かも」

「いや他にも装甲も来てるな、一応全てのパーツ交換を検討しておいた方が利口だろうな」

 

詳しい調査を行っていたシールド親子が手元に来た情報を基に意見を交換し合いながら此方へとやって来た。

 

「発目君、ハルキさん地球初の特空機での戦闘お疲れ様でした」

「押忍」

「それで博士、如何ですか具合は」

「うむっ我々が思っていた以上に深刻だね」

 

投影モニターで見えるようにしながらレギオノイドとゴモラの現状を見せてくる。すると両機のほぼ全体が赤く染まっている、赤は問題が起きており直に対処を行うべきだとされている部位なのだが……その現状にハルキは驚き発目はやっぱりかぁ……と頭を掻いた。

 

「これって……もしかしてインペライザーとの戦闘のダメージが此処まで響いてるって事ですか?」

『ウゥム……流石はインペライザー、あのメビウス兄さんを苦しめた事だけはありますなぁ……』

「いや、違うよ。これらはほぼ全てが自傷と言っていい物だ」

「じ、自傷っすか!?」

 

思わず驚いてしまったハルキ、自傷即ち自らが付けてしまった傷という事になる。という事はそれだけ自分の操縦が荒くてレギオノイドにそれだけの負荷をかけてしまったという事なのかと顔を青くしているとメリッサだから落ち着いて欲しいと言われてしまう。

 

「その、恥ずかしいけれど想定していた以上に戦闘が激しい物だったからこっちで設定していた限界値をあっさり超えてしまったの」

「フリクションダンパーの耐久限界を超える機動をあんな咄嗟にやるハルキさんにも驚きましたが、殆どはフルパワーを発揮した際の数値を此方が見誤っていた事が問題でした。地球外テクノロジーの凄まじさ、それを舐めていた結果かもしれません」

 

特空機に及んでいるダメージ、その殆どは最高出力での戦闘モードによって各部に掛かる負担を甘く見ていた事だった。事実ゴモラを蝕んでいるダメージはインペライザーの物よりリミッター解除によるものが強い。レギオノイドはハルキの機動以外にもビッグバンバーストによる一部システムダウンや廃熱機構のオーバーフローなどなど改善点が溢れ出てきた。

 

「こう考えるとストレイジは結構な積み重ねがあったんだなぁ……おしっ俺がやっちゃったことですしとことん調整とか付き合いますよ!!」

「それは素直に有難い。現状特空機を操れるのは発目君とハルキさんだけですからね」

「あの僕も何か手伝いますか?」

「嗚呼っそれなら明日からのウルトライブ・シミュレーションのスタッフお願い出来ますか、私もゴモラの方にかかりっきりになっちゃうと思いますので」

『えっというか文化祭中止にならないナリか!?』

『君の語尾も中止にならんものかな』

 

曰く、ウルトラマンとPLUSによって危機は排除された。そして何よりも自分達をこうしても守ってくれた組織への理解を深めたいという意見と支援したいという声が続出した事で交流を深める為に文化祭の続行が決定し雄英としても文化祭を続けられる事は生徒達の希望や夢を守る事にも繋がるので賛成したとの事。

 

「という訳なので任せましたよ緑谷さん!!」

「ああうん、分かった。僕も手順とか分かってるから何とかなるかな」

「いえゴモラの方が変わったら新しいアーマーのテストしますからって意味です」

「何でそっちなんだぁぁぁぁぁ!!!!???」

 

『ああうんそうそう、出久君と発目ちゃんはこんな感じだよね。うん何時もの何時もの、実家のような安心感って奴だね』

「いやですよこんな安心感んんんん!!!!」

「アハッ元気いっぱいでやる気十分ですね緑谷さん、私もこれはやり切ってやりますよ!!」




とある方から、オリトラマンのイメージCVは?と言われました。

マグナさんは……子安さんか黒田さんかな。

アサリナは……誰だろ、柚姐辺り?

カトレア王女は……伊藤 静さんいや田村ゆかりさん……このどっちか。


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文化祭の成功。

「そ、それではレベルハーデスト、ウルトライブ・シミュレーションを開始します!!セレクト、グエバッサー―――スタート!!」

「よぉぉしっそれじゃあ行かせて貰うよねぇ!!勝負だグエバッサー!!」

 

怪獣出現の翌日、あれほどの騒ぎがあったというのに雄英の文化祭は問題なく開催が継続された。マグナとPLUSが被害を最小限に食い止めたお陰で人的被害は皆無、強いて言うならば道路や一部建造物の破損などに留まっている。被害が少なかったのもあるがそれ以上人類は自分達の力でも怪獣を倒す事が出来るという事が証明された事より安心感が大きかった事で開催の中止へと舵は切られなかった。

 

「しかし此処も人が絶えないね」

「そりゃ先日にウルトラマンと特空機の戦闘が傍に行われてるんですからね……こっちに集中するのも分かりますよ」

「やれやれ、しかしいいタイミングで彼女はいなくなったねぇ」

 

先日の夜中にPLUSファイター数機によって牽引されてレギオノイドとゴモラは基地へと運搬されていき本格的なメンテナンスが行われる事になった。一目特空機を見たかったという人もいたが、その辺りは致し方ないので特空機の紹介をジェントルとラブラバにして貰う事にしている。そして当然発目も一人の技術者としてゴモラの整備に回っているので此方は自分達で回さなければいけなくなってしまった。

 

「必殺ブラインドタッチ目潰しぃ!!」

「グェェェエッ!!?」

「かぁらぁぁのぉぉぉっ……!!」

 

グエバッサーの視界を奪う一手を行うミリオ、それはほぼ本物の生き物に近い挙動をするようにプログラミングされている相手にも機能する。頭部を殴られると思った直後、視界がゼロになった事に驚いたのか声を上げて戸惑う中で再び視界が開けるとそこにミリオはいない。探していた時―――真下から翼を羽ばたかせる事も無く自身が打ち上げられた。

 

「グェェェェキエエエエ!!?」

「パイルッドライバァァァァァァ!!!」

 

 

ミリオだった。透過の個性を使い地面に潜りながら個性を解除、一気に飛び出しながらその勢いを使ってグエバッサーの足を掴みながら自慢のパワーで空中で組み伏せるとそのままグエバッサーを頭から地面へと激突せんばかりの速度で叩きつけた。頭どころか上半身ごと大地に埋める一撃、それによって見事グエバッサーは完全に沈黙した。

 

「グエバッサー撃破!!ウルトライブ・シミュレーション、ハーデストクリア!!」

「POWERRRRRRRRRRRRR!!!!!」

 

と勝利の雄叫びと共にポーズを取るミリオ、それに対して歓声と拍手が―――

 

『キャアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』

 

ではなく悲鳴染みた女性陣の声が上がった。何故ならば……

 

「と、通形先輩服服!!?色々見えそうになってます!!!」

「あっしまった忘れてた!?すいません皆さん直ぐに着ますから!!」

 

ミリオの個性で服まで透過して地面に潜ってしまった影響で全裸になってしまっていたからである。何とか大事な所は隠れているもののそれでも女性陣からしたらとんでもない光景がいきなり飛び込んできたのは事実なのである。大慌てで服を着込んでなんとか大事にならずには済んだ……いや過去に体育祭で全国にその姿をさらしている彼からしたらこんなのは何ともないかもしれないが。

 

「あの通形先輩、コスチュームの着用はありですから」

「あれっそうなのかい!?」

「プロヒーローの方々も参加出来る関係でね、逆に普段のコスチュームで怪獣相手に戦うのかというデータは此方としては有難いんだよ」

「なるほど~」

 

ウルトライブ・シミュレーションにコスチュームの着用は制限されていない、寧ろプロヒーローからすれば普段の自分が何処まで怪獣に通じるかを知る為のチャンスでありPLUSからすれば怪獣に対応できる人材の確認やスカウト、そしてデータの収集などで利害は一致しているのである。

 

「しかしあのグエバッサーって怪獣中々に強敵だよね、俺じゃなかったらまともに戦えるヒーローって中々いないじゃないかな」

「その辺りも確りと見るのもこのシミュレーションの目的だよ。ミリオ君はグエバッサーとの相性は良い、だが其処に気付けるかどうかは別問題だからね。例えそれだけの能力を持っていたとしても応用が出来なければ戦いの場では役に立たないよ」

「流石は最高難易度突破者が言う事は違うよね!!」

「あまりおじさんを茶化さないでくれよ」

「いや光士さんがおじさんだったら色んな人がおじさん認定になっちゃいますよ」

 

そういう事ならコスチューム取って来るよね!!と駆け出していくミリオを見送った二人は次なる挑戦者へと備えた、次はどんな人がどんな怪獣に挑むのかというのはそれなりに楽しみだったりするのである。そこへやって来たのは―――

 

「あれっカッちゃん」

「バンドが終わったからな、存分にやらせて貰うぜ……!!」

「それはそれは、いらっしゃい爆豪君」

 

爆豪であった。A組の出し物であるバンドによる演奏は今日で終了となる、後はA組は文化祭を楽しむ側に回る。そして終わって速攻で爆豪は此処へ訪れたらしい。彼自身もこのウルトライブ・シミュレーションをやる事をずっと楽しみにしてたらしくバッチリコスチュームを纏っている。

 

「ってカッちゃんそれ、つい最近許可が下りたストライク・シリンダー搭載型の専用ウルトラスーツのIMPACT……やる気満々だね」

「たりめぇだろうが、こんな滾るモンにこねぇ奴はいねぇ……!!!」

「同感だ」

「あっ轟君も!?」

 

爆豪の後ろには焦凍の姿もあった。如何やら同時に駆け出して此処へと向かってきたらしいがスーツの着用に時間を取られてしまったらしく爆豪の方が先になってしまったらしい。本人も何処か不服そうにしている。

 

「それはそれは……それでは難易度は如何程に?難易度はeasy.normal.hard.hardest.Inferno.ultimateの6段階になるけど」

「そんなにあるのか……今までの最高は?」

「まあ最高は模範として光士さんがやったウルティメイトだけど、それ以外だとハーデストがまでだね」

「面白れぇじゃねえか、腕試しにハーデストからぶっ殺してやる」

「フフフッその威勢の良さは私は好きだよ、良いだろう」

 

様々な思惑と事件が交錯しながらも結果的に雄英文化祭はPLUSの協力もあり大成功を収めた、そしてその影響によるヒーローではなくPLUSを志す少年少女たちが生まれそれに向かって努力を重ねて行く。それを銀色の巨人はその瞳で慈しみながら祝福した。

 

「それじゃあ爆豪君、準備はいいかい」

「ったりめぇさっさとしろやぁ!!」

「それじゃあ行くよカッちゃん……レベルハーデスト、ウルトライブ・シミュレーションを開始します!!セレクト、ベロクロン―――スタート!!」

「行くぞクソがぁぁぁ!!」

 

 

 

―――そろそろ、始めようかな……漸く出来上がったこのメダルも試したいし……ねぇマグナ、君は……

 

 

()憎悪()に応えてくれるよね♪」




文化祭編はこれにて閉廷かな。次回からヒーロービルボードチャート編。

こっから色々とぶっこんでいきますよ私、なんかスランプっぽいけどそれをぶっ飛ばす勢いで行きますよ。

それと最近「誓いを君に」を聞きながら書いてるせいか如何してもなんか流れがメビウスやヒカリ寄りになりそうになる……注意しなければ……。


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変わっていくそれ達。

「あれっデク君は?」

「PLUSに行ってるってよ、つかこれで何回目だ?」

 

休日を思い思いの時間で過ごす中で麗日は出久の姿を探していたのだがその姿は何処にもなかった。そして帰ってきた言葉にはもはや当たり前になりつつあるPLUS基地への出向が告げられてしまいまたかぁっと思わずため息と共に肩を落とすのであった。

 

「でも爆豪君と轟君はおるよね」

「まあ、また発目関連じゃね」

『あぁっ……』

 

爆豪と焦凍(あの二人)がいかないのであれば出久に関するそれは間違いなく発目(それ)でしかなくあり得ない事だろう。肝心の二人は文化祭でのウルトライブ・シミュレーションでの映像を見なおしながら立ち回りの改善やそれに合わせた自分のウルトラスーツの改良案などのレポート作成を行っている。

 

「デク君、大丈夫かなぁ……」

 

その問いは一体どんな意味合いが込められているかは不明、だがそれに対してクラスメイト全員が同じ気持ちを向けたのは言うまでも無かった。

 

 

「ヘックショオイ!!」

「おおっ随分と大きいですね」

「誰かに噂されたみたい……」

 

そんな出久は噂されたとおりに発目と共に彼女の研究室に居た。現在は休息中なのか共に抹茶ケーキを突きながら紅茶を楽しんでいる。

 

「それにしても、まさか発目さんが休憩を取っている事に驚きを感じ得ない……」

「失礼な物言いですね~まあ今までの私だったら平然とやってたでしょうから特に反論も出来ませんけど」

「反論出来るような生活を送ろうよ」

「今は送ってるからいいじゃないですか~」

 

ブーたれているが、今の発目は確りと休息やら食事の時間を取るようになっている。文化祭での出久との散策、それが大きく影響をしているのか自分の体調管理なども考えている。何もしない時間を取って平和を享受するというのも悪くないと思っているらしい。それでも口惜しいと感じる事もあるがそれも平和の醍醐味だと思っている。

 

「私をこんな風にしたのだって緑谷さんなんですからね」

「ちょっとその言い方やめてよ!?僕がなんか変な事をしたみたいじゃん!?」

「何を仰いますか。私をここまで変えてるんですから変な事、つまり変えることをしてますよ」

「な、なんて屁理屈……」

 

若干顔を紅潮させていっているから余計に質が悪い。これが外で言われたら自分がなんて風に解釈されるのか考えるだけでも恐ろしい。そんな風に頭を抱えている出久を発目は酷く面白い物を見るように見つめる、これが見たかったと言わんばかりの笑顔に出久はげんなりする。

 

「しかしそうなると私もいい加減に緑谷さんから出久さんに呼び名を改めますか、もう知らない仲じゃない訳ですし」

「だからなんでそう、含みを持たせるの発目さんは!?」

「フフフッ……ご想像にお任せします♪」

「怖い!!マグナさん助けて!!」

「いやだなぁ今はハルキさんとゼットさんに稽古をつけてるからいませんってば」

 

色んな意味で慟哭を上げてしまう出久をケラケラと笑う発目、だが次第にもう諦めがついたのか好きにしてくれと白旗を上げる事にする。そんなわけで発目は出久と呼び名を改めるのだが……その時にほのかに頬を染めるのに出久は気付けずにいたのは幸運だったのだろうか。

 

「ハァッ……それで特空機の方は如何なの?」

「そっちは順調です。インペライザーとの戦闘は完全な不意打ちでしたけどそれによって得られたデータは何よりも尊いですから」

 

今こうしているのも特空機での整備作業の休息時間。発目が今取り組んでいるのはレギオノイドとゴモラの新たな出力調整ソフトの開発とシステム面の改善、そしてメリッサやデヴィッドは機体の最高出力に合わせた各部調整に追われている。

 

「でも深刻なのはレギオノイドの方ですね、動力源を一応解析して再構成した物でしたけど予想していた最高出力をあっさりと超えやがりましたから。今回で限界値は分かりましたが……それもとんでもないですから、当初設定した限界値の約4倍ですよ」

「さ、流石帝国機兵……」

「まあリミッターを施すのが妥当なラインでしょうね、元のままなら問題ないでしょうけど今の装甲やらは地球の技術で作った物ですからきっと追い付かないでしょうから」

 

ベリアルが率いた帝国、その帝国の兵士として戦ったレギオノイド。それらはウルトラマンとしては倒せる相手ではあるが地球基準で考えればあり得ない程のオーバーテクノロジーの塊。それに対応する物を作り上げるのも一苦労らしい。

 

「一時はこの動力で発電して電力供給って考えたんですけど……流石にこれはこれで暴走した時が末恐ろしすぎますからねぇ……ナイトアイ参謀に却下されました」

「いや妥当な判断だと思うよ僕は」

「まあ何れそれをリバースエンジニアリングして発目式大出力動力源を完成させるつもりですけどね!!」

「ああうん知ってた」

 

無論その程度は予測済みだったと言わんばかり、というよりもどうせその位はやるだろうという確信があった。常に自分の中にあった常識を壊すような彼女ならば何時の日必ずそんな物を作り上げてしまうだろう。

 

「というか僕は発目さんなら何時の日か、光の国行けるような宇宙船を作ったとしても驚かない自信があるよ」

「むむっ言いますね、良いでしょうそこまで言うなら絶対に作って差し上げますとも!!」

「いやいやいや僕たちの宇宙とマグナさんの宇宙は違うって話聞いてるよね!?」

「大丈夫です!!実は特空機での戦闘による周辺被害を減らす為に空間圧縮を応用したハイパー級な可愛いベイビーを開発中な訳ですよ!!それを応用すれば空間跳躍にも応用が利くかもしれないという訳でしてね!!」

「ぁぁぁぁっ……またマグナさんが頭を抱えて唸る姿が見える……」




ハイパー級なかわいいベイビー、うん、皆さん察してると思うけどあれだ。


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PLUS or HERO.

「そう言えば間もなくヒーロービルボードチャートの発表でしたな……今回は一体どうなる事やら……」

「矢張り気になりますか」

「そりゃ気になるでしょうよ、ナイトアイ参謀だってヒーローなんですからぁ~」

 

ナイトアイの部屋、そこに集まっているのはナイトアイにマグナだけではなく発目や出久も集結している。本来は此処にハルキやゼットもいる筈なのだが二人は現在レギオノイドの調整に付き合っている真っ最中。マグナとの組手後にほぼ拉致同然に連れて行かれて、ハルキは兎も角ゼットは

 

『これが時間外労働って奴で御座いますかぁぁぁぁっ!!?』

 

と言っていたが、行うのはハルキであってゼットではないのでそれは全く当てはまらない。加えてハルキの体力などはヒーリングパルスで回復させているので問題はないだろう。まあ精神的な疲労は取れないが―――そんなゼットは置いておいて話題は時期が近付いてきたヒーロービルボードチャートへと移ろいでいた。

 

ヒーロービルボードチャートJP。それはヒーローの事件解決数、社会貢献度、国民の支持率などから算出される毎年二度発表される現役ヒーローの番付。このチャートにて上位に名を刻むほど、平和の為に貢献し人々に笑顔を齎したヒーローとなる。

 

「でも確かに下半期は発表されてませんもんね……でも今期は凄い荒れそうですね」

「おやっそうなのかい?」

「ええ、ヒーローの事件解決数、社会貢献度、国民の支持率などを集計するのですが今期は特に荒れるでしょう。何故ならば現役活躍中の人気ヒーローもPLUSへの参加していますので例年以上に荒れるでしょうな」

 

神野区での大事件によって正式に組織されたPLUS。それへと参加しているヒーローは数多く、その中には現役活躍中の人気ヒーローもいる。彼らはヒーローとして貢献し続けてきた訳だが……それがPLUSの隊員となる事は完全にヒーローとしての活動を停止することを意味する。

 

「正確には全面的にPLUS隊員として動く事が優先されます、よってヒーローとしてはカウントされません。今PLUSにいるのはヒーローを完全にやめる覚悟をし、隊員として腰を据えて活動している元ヒーローが圧倒的です」

「成程。ヒーローではないと完全に認定されるので今までのヒーローとして築き上げたキャリアを捨てるに近いという訳ですか」

「そういう事です。ヒーローとしての名声など怪獣災害には意味がない、一人の隊員としてそれらに向き合う覚悟が求められる。それだけ怪獣災害に対して備える構えを取っているのです。ですが兼業を行っている者もいます……はぁっまあまだ人手不足ですゆえ何も言いませんが、それらが解消された場合は彼らは即座に登録抹消を迫り、隊員かヒーローの二択を問います」

「いやぁスパルタですね~」

 

PLUSとしての経験はヒーローとしても大いに活用は出来るだろうがその程度の意識ならばいない方が良いと既に割り切っている、現状では許容するが時期が来れば即座に……と、ナイトアイは思っている。

 

「という訳でして、トップ10だけではなく上位勢の多くが此方(PLUS)に来てる訳ですから今期は荒れるぞ~っという訳です」

「僕が見た事がある範囲でもフローティングにストロング、トランサーにサイコキノ……上位常連ヒーローが居ますもんね」

「うむ。彼らはPLUSに来るまでヒーローとして活躍し続けたヒーロー達、それらが居ないチャート……私も少し気になるな」

「でも中には平和の為に働きながら安定したお給料貰える事に驚いてた人もいましたよね」

 

発目のそんな言葉にナイトアイはそんな奴いたのか……と青筋を立てながら頭を抱えた。マグナから信頼され情報を預けられ、実質的にPLUSの最高責任者である彼からすればそんな邪な思いで隊員をやっているものがいるのか……と思わずにはいられなかった。

 

「因みにその一人はMt.レディでしたよ」

「何を言ってるんだ彼女はっ!!!」

「あ~……ヒーロー時代のMt.レディは個性の影響で周辺に被害出しちゃったりしてその賠償やらとか事務所を壊しちゃったりとかあったらしいからそれなのかな……」

「正しくそれです。安定したお給料の嬉しさに感動しつつ、マグナさんグッズを購入したりファンクラブの会長として色々やってるらしいです」

「「何をやっているんだ彼女は……」」

 

思わずマグナも溜息混じりそんな言葉を口にしてしまった。頭痛が感じる前にマグナは舵を切る事する。

 

「し、しかしそれではPLUS側に偏ってしまうのでは?」

「いえ現状ならばなんとかバランスは保てています、寧ろそれを危惧し参加せずにヒーローとして活動している方々もいます」

「エンデヴァーとかがその筆頭ですねぇ~」

 

ツルク星人(怪獣)の強さをその身で感じたエンデヴァー、本人もPLUSへの参加を本気で考えていたらしい。あれほどまでにオールマイトを超える事に固執していたあの男が本気で思案する程、だがヒーローの側からも支える者が必要だと至ったのかこれまでと同じ立場に立つ事を決意したとの事。

 

「今期のチャートは新世代の始まりとも言えるでしょう」

「でも№1はどうせオールマイトでしょうね、マグナさんのヒーリングパルスで絶好調キープ中ですし」

 

と発目の言葉に思わず同意する。彼女はマグナの秘密を知っている、その流れか出久の個性についても知っている。だとしても興味はウルトラマンとしての力云々に向いているのか其方にはあまり興味はない、というより長い目で観察した方が有益だと思っているらしい。

 

「そして今回のチャートには私はゲストとして出席する事になっています」

「ゲスト……?」

「ええ、PLUS参謀としてのコメントが欲しいとの事です。まあその場でヒーローとしての責務から逃げ出して代わりに得た地位の席の座り心地は如何だのヴィランを採用するなど理解出来ないとでも問うつもりなのでしょう、実に下らない」

 

世間的にPLUSに移籍したヒーローに対する風当たりはやや強い、特に実質トップのナイトアイへの物は相当な物。PLUSの活躍を知られているにしてもこれだ、自分への追及でもして晒上げにでもする気なのだろうか。まあヒーローが集う場でそれは無いだろうが遠巻きに文句を言う気ではあるだろうと察している。

 

「ヒーロー移籍によって地方でのヴィラン出現率が上がっている事へのコメントとかも求められるかもですね」

「そんなのナイトアイのせいでもPLUSのせいでもないのに……!!」

「だからこそ私は出ます、私が何と戦う為に日々責務を果たしているのかを。マグナさんから頂いたお気持ちに応える為にも」

「私など気にしないでください。貴方は貴方の為したい事を為せばいい」

 

強い意志を携えながら、ナイトアイは―――下半期ヒーロービルボードチャートへと向かった。その目はヒーローではなくPLUSの参謀として、ウルトラマンに託された使命と信頼に応える一人の戦士としての瞳だった。




次回、あのヒーローの登場&ナイトアイ、語る。


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ヒーロービルボードチャート、参謀ナイトアイ。

その日、多くの人々の意識がそのイベントに注いでいた。この日に行われる物は現代社会において大きな意味を持っている。それはヒーロービルボードチャートJP。PLUSの設立を決定づけた神野以来初めてのチャートの発表は大きな意味になる。今までこの発表の場にヒーローらが登壇する事などはなかった、だが今回は特別。そんな場に登壇した居るヒーローらに注目が集まっていた。

 

「№10、前回よりもワンランクアップ!!ドラグーンヒーロー・リューキュウ!!」

「正直ちょっと複雑な気分……見合ってない感が強いわね……」

 

「№9、キレイにツルツルのCMでお馴染み、洗濯ヒーロー・ウオッシュ!!」

「ワシャシャシャシャシャシャシャ!!」

 

「№8、衰えを知らず順位をキープ!!いまだに高みへと昇る大ベテラン!!具足ヒーロー・ヨロイムシャ!!」

「このような番付、全て時運により誤差。上位3名を除けばな」

 

トップ10の一番下から発表されていくヒーロー、新進気鋭の女性ヒーローのドラグーンに大ベテランのヨロイムシャにTVを付ければ一度は目にするCMでお馴染みなウオッシュ。皆に顔が知られているヒーローばかりが矢張り名前が挙がって行く。当然と言えば当然だろう、だがそんな中で発表されるヒーロー達は今までとは違い何処か複雑そうな表情を浮かべている。

 

「№7、大躍進そして成長し続ける期待の男!!シンリンカムイ!!」

 

―――欠席―――

 

 

「№6、THE・正統派な男は堅実に順位をキープ、シールドヒーロー・クラスト!」

「堅実、だがそれは俺の明確な証明……!!」

 

熱い男で有名なシールドヒーロー・クラスト……だが皆の注目は隣に立っている筈のシンリンカムイの不在に目が引かれていた。着実に実力を上げ続ける次世代の気鋭の新樹と言われる彼の不在はざわめきを呼ぶが続けての発表がされていく。

 

「№5、勝気なバニーは堅実にランクアップ!!ラビットヒーロー・ミルコ!!そして№4、ミステリアスな忍は解決率も支持率も鰻登り!!忍者ヒーロー・エッジショット!!」

「チーム組んだんたってな、はっ弱虫め!!」

「黙らっしゃい公の場だぞ」

 

ミルコ、エッジショットとトップ10の常連とも言えるヒーローの登場……だが其処に立つ筈のもう一人、同率№4であるファイバーヒーロー・ベストジーニストは神野区での傷がまだ癒えていないためにヒーロー活動を休止しているが、それだけ多くの人々が復帰を望んでいる。

 

「№3、マイペースに!しかし猛々しく!その勢いは常にトップスピード!!!ウィングヒーロー・ホークス!!」

「んな大ゲサな、言いすぎ、変わってないだけだし」

 

ウィングヒーロー・ホークス。前半期と同じ№3であるが称賛される理由、22歳である彼だが18で自らのヒーロー事務所を立ち上げその年の下半期には既にトップ10に入っていた。彼を人はこう形容する、速過ぎる男と。だが彼にとっては称賛の声は大袈裟にしか聞こえてこない、自分の力はこの位だと分かっているから。そして自分の上に並び立つ双璧、その凄さも理解している。

 

「№2、絶えず燃え滾り続ける豪炎!!フレイムヒーロー・エンデヴァー!!」

「フンッ……下らんイベントだ」

 

そんな風に吐き捨てるのは10年以上2位(そこ)に立ち続けるエンデヴァー。オールマイトに届かぬけれどその実力は屈指と誰もが認めるが、今回の発表の場にはその全員が勢揃いする。故に誰もが酷く不機嫌になっている事だろうと思ったのだが……予想に反してエンデヴァーはそこまで荒れていなかった。呼ばれた事に対してのみ苛立っているようだった。

 

「そして№1!!平和の象徴、最高のヒーロー!!我らが英雄―――オールマイトォォォォォッ!!!」

『おおおおおおおおおおっっっ!!!!』

「HAHAHA!!いやぁ凄い声っ」

 

変わらぬ№1、オールマイトの登場に大歓声が沸き上がった。変わらぬ目標にして日本が世界でも際立って平穏だと言われる明確な理由、その登場に沸かない訳がない。ヒーロー公安委員会の会長が今回の発表が節目になると判断してヒーローをこの場に招待しての発表に踏み切ったと述べた後にそれぞれのヒーロー達へとインタビューが行われていく。だがそれらをオールマイトは何処か俯瞰したような視点で会長の言葉を聞いていた。

 

「随分と違う目で見ているな貴様」

「―――分かるかい?」

「何年貴様の後塵を拝していると思っている」

 

バレたかっと言いたげに肩を竦めるオールマイト。ハッキリ言って節目になるのは認める、だがそれならば自分達ヒーローを此処に呼ぶよりもやる事があるだろうというのが素直な感想で自分も最初は出席するつもりは無かったのだが……公安委員会のしつこい要請に根負けする形で出席を決めた。

 

「続きまして№7となりましたシンリンカムイですが……メッセージをお預かりしております」

 

『選ばれた事については光栄の極み、ではありますがならばこそ我がすべき事がある故に欠席させて頂く事になりました。我はもっと―――視野を広げ、強く太くならなければいけない』

 

「いいぞ、良い事を言うな悪くないぞ」

 

とシンリンカムイのメッセージを褒めた筆頭はミルコ。元々大胆不敵で男勝りで有名なヒーロー、だからこそだろうか。日本全ての人々が注目しヒーローとしても重要なイベントであるこれを欠席した不敵さが彼女は気に入ったらしい。そんなシンリンカムイのメッセージが終わってから次々と次のヒーローのコメントへと移っていく中……№3、ホークスはしかめっ面を作り続けていた。そしてそれが頂点に達したのか、エッジショットのコメントを遮るように―――

 

「それ聞いて誰が安心して誰が喜ぶでしょうね」

 

ぼそりと、だがハッキリとした声で言った。当然それはインタビュアーのマイクが拾って会場中がシィィン……と静寂が訪れる。そんな変わらぬ彼にオールマイトは苦笑いし、エンデヴァーは溜息を吐いた。そして彼は我慢が苦手なだけと言いながらマイクを取ると自らの翼を広げながら高く舞った。

 

「ぶっちゃけますけど、節目だっつってんのに何俺より順位下の先輩方が例年通りのつまんないコメントだけ残してるんですか」

 

強く羽ばたく、雑音をかき消し全てを自分に向けさせるように。

 

「節目。それの意味、分かってます?怪獣ですよ怪獣、自然災害と同じ規模の被害叩き出すやべぇのが出て来てんのに唯今まで以上に頑張りますじゃ通りませんでしょうに。何をどう頑張るんすかね、頑張って怪獣がどうにかなるんですかね。結局ウルトラマンにおんぶにだっこな状況だったのが最近になってマシになってきたけど結局それは俺らじゃなくてPLUSの功績、なら俺達は何をすべきかを語りましょうや」

 

公安委員会も敢えて追及しなかった其処へズカズカと容赦する事も無く、無作法に踏み荒らすように語るホークス。だがその言葉は本質を突いている、怪獣という自然災害と同じかそれ以上の被害を齎す存在が出現したのに何も変わらないように取り繕うとしている。ある意味では間違っていないかもしれないがホークスはそれを嫌う―――そんな情けないのは拒否する。

 

「っつう訳で語って下さいよ。これから何をすべきなのかを―――輝く勇気と無二の精神(Prowess Luster Unique Spirit)の参謀」

 

―――フムッそこまで言われたのならば語らなければなりませんね。

 

 

そんな言葉と共にそこに一人の男が姿を現した。一斉に視線やライトを浴びながらも怯む事も無く歩み続けながら壇上に上がったのは―――PLUS Fencer 参謀、サー・ナイトアイであった。オールマイトのサイドキックでもあった男の登場に一気に会場が騒めく中で肝心の当人はマイペースなままオールマイトやエンデヴァーらへと挨拶を済ませる。

 

「やぁっナイトアイ、最近会えてなかったけど無理してないかい?」

「貴様にだけは言われたくないセリフだな」

「全くです。しかしホークス、もう少しバトンの渡し方というのがあると思うのだが?」

「いやぁすいませんね~俺自身この会場の空気が何か嫌でして、だからもう手順ぶっ飛ばしちゃっていいかなって」

 

笑いながらもナイトアイへとマイクをパスする、これからの流れは任せると言いたげなそれに肩を竦めつつも好きにすればいいと頷くエンデヴァーと変わらぬ笑みを浮かべるオールマイトに後押しされながら咳払いしながら立つ。

 

「本来この場に私が居る事に疑問を想う方もいるでしょう、故に改めて自己紹介を。怪獣災害想定組織、PLUS Fencer作戦参謀兼司令官代行のナイトアイです。公安委員会の要請を受けましてこの場に参上させて頂きました」

 

懇切丁寧な挨拶をしながらその瞳は酷く鋭く威圧感を発散させており、その迫力はエンデヴァーですら感心するほどだった。一体どんな覚悟でこの場へとやって来たのかがそれだけで読み取れる。

 

「私は人々の笑顔を守る為だけに尽力している訳ではない。人類の未来、願い、平和を次の世代に紡がせる為に尽力している、そしてそれを宣言する為に―――私は此処にいる」



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PLUS参謀の宣言。

その場に現れたナイトアイの姿を見た者は自分の中にあったナイトアイとの違いに驚くだろう。その身に纏うPLUSの制服ゆえだろうか、いや違う。明確に違うのである、クールだがユーモアを愛するヒーロー・ナイトアイではなく人類を守るという明確な使命を果たす為に日々戦い続けている戦士の姿は巨悪と戦うオールマイトのそれと瓜二つ。

 

「昨今、PLUSへの様々な意見が飛び交っている事は重々承知の上。様々なヒーローが参加の名乗りを上げているのは嬉しい悲鳴と感じております、それだけ怪獣災害への認識が徐々に強くなっている表れでもあると……ですが同時にそれがPLUSが有力なヒーローを奪っておりヴィラン活性化の要因と指摘する声もある事も、そして元ヒーローでありながらそんな状況から目を反らし参謀にして司令官代行の席に着く私への風当たりについても」

 

いきなりすぎる言葉に公安委員会の会長も驚きの顔を作っていた。彼を招待したのは自分だがそれでもPLUSの事を考えればその辺りの話題は上手く避けるだろうと思っていたのだがナイトアイはそれに真正面から挑みかかった。

 

「では問います。既存のヒーロー体制で怪獣災害に対応出来るのですか、出来ないからこそPLUSという新しい枠組みが生まれ今それは明確な成果を出しながら人類防衛の要としての機能を作り始めている。その為には優秀な人材が必要となってくるのは必定とも言えます、現状それらをヒーローに求めすぎてしまった結果というのは正しい指摘です。故にPLUSは現役ヒーローへの参加をより明確かつ厳格化し制限をします」

 

既に想定済みであった、だからこそ必要となってくる取り組み。そして場合によってはヴィランが怪獣災害匹敵級だと認定された場合には即座に応援を出す準備が政府との会談によって進んでいる事を発表する。

 

「そして場合によってはプロヒーローへのPLUSの実働部隊が着用しているウルトラスーツの技術提供も検討中です」

「おっそれってあれだろ、あのいい感じにイカれてる発明女のあれか」

「言い方はあれですがそうです」

 

そりゃいいなとミルコは素直に好印象だった。本人としても使ってみたいという思いがあったらしい、加えてウルトラスーツの技術提供はヒーローの力の底上げにも繋がっていく。ヴィランへ流れるかもしれないという危険性も無くは無いが……その辺りはPLUSが誇る技術者たちが重要部分をブラックボックス化する予定なので問題ない。

 

ヒーロービルボードチャートの会場は圧倒されていた、そこに集うのはヒーローだけではなく報道関係者も大勢いた筈なのに彼らは言葉を口に出来なかった。聞きたかった事をナイトアイが自ら答えているのもあるが、その迫力に圧されている。

 

「そして今、対怪獣特殊空挺機甲、通称特空機が実戦でも十二分活躍出来る事を示す事が出来た。これで漸く私達はウルトラマンと共に戦う事が出来ると我々一同(PLUS)は歓喜している。背中を見つめる事しか出来なかった我々が隣に立てる事に」

「ウルトラマンが私達を救うのではなく、共に戦うか……」

 

思わずそんな事を呟き口角を上げるホークス、そしてナイトアイは自らが元ヴィランであるジェントルをスカウトした事を絡めながらある事を言った。

 

「平和を守る為の組織がヴィランを入れるのか、矛盾だろうと耳にしました。矛盾、何が矛盾なのか。人の考えの数だけの矛盾がある、私はその方が好意的だ。PLUSで参謀を続けている中で一つの事を掲げています、それは相手を信じる事です。誰にでも出来る事ですが私はそれを中心に据えています、それが出来なければ人間(我々)は永遠に平和を手に入れる事なんて出来ない―――人を信じる心を失わない限り、平和をその手に掴む為に常に歩き続ける、私は彼を信頼している。彼に何かを言いたければ全て私を通して貰おう」

 

怪獣という人知を超え最早自然のそれと変わらぬ物に戦いを挑むPLUS、その参謀たる彼が最も大切にしているのは誰もが出来るが大切な事。それが出来なければ平和なんて永遠に夢物語、人間にとって一番難しい事かもしれないがだからこそそれに向かって歩き続ける事を宣言する。

 

「PLUSはこれからヒーローと共に世界の為に戦って行く、それは変わらない。人々の心に光を灯しそれに希望を抱けるような世界を作る為に―――さて私に言えるのはこんな所だろうか、君の御眼鏡には適ったかな」

 

そして振り向きながら問いを返すナイトアイにホークスは笑顔と共に拍手でそれに答えた。それに続くようにオールマイトが、エンデヴァーが拍手を行う。その輪は次第に大きくなっていき会場全体を包み込むほどにまで巨大な渦となった。その中で返されたマイクがエンデヴァーへとパスされる。

 

「ああそうだ、今俺達は転換の狭間に立っている。様々な意味で複雑となりつつある時代だからこそ、ナイトアイの言う通りに前に進まなければならない。ナイトアイ、必要ならば声を掛けろ。このエンデヴァーは何時でもPLUSの力になってやろう」

「おっと一人だけでカッコつけるのはズルいぞエンデヴァー!!それは私とて同じさっ!!」

 

力強いエンデヴァーの言葉、それに続くようにオールマイトも名乗りを挙げる中でナイトアイは思わず苦笑ながら言ってしまった。

 

「エンデヴァーは心強いですが、オールマイトにはPLUSの何をお願いしたらいいんでしょうかね……指揮官として考えても圧倒的にエンデヴァーの方が心強いのですが」

「うぐっ!?ま、まああれだよ……そのえっと……こ、広告塔?」

「貴様それでいいのか」

「まあある種優秀だからなおさらですね……」

 

マイクが拾っていたそんなやり取り、それを聞いたヒーローは思わず笑った。それは単純にそんな会話へなのか、ユーモアを愛するナイトアイが変わっていない事か、それとも―――ヒーローと共に戦う新しい姿への安心感なのか。分からないが先程までのそれとは違った雰囲気が生まれたのは確かだった。




―――次は何処にしようかなぁ……。

無造作に投げられたナイフ、それは広げられていた地図のある地点へと突き刺さった。それは―――

「うん決めたっ―――次は此処に決めたっ♪」

九州。


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潜伏する異星人。

「いやあ見事に持っていきましたね。なんだったら俺も直ぐにでもPLUSに合流しますよ」

「君には恐らく合わないだろう、自由にやるのは発目君だけで十分だ」

「あ~……噂の常識と狂気の境目を大陸間弾道弾どころかワープでぶっちぎった様な例の少女っすね、いや俺は流石にあそこまでスーパーフリーダムじゃないですよ」

 

ビルボードチャートの発表後の控室、そこにはオールマイトにエンデヴァーそしてホークス。№1~3のメンバーとナイトアイが一堂に会していた。ビルボードチャートではかなりのインパクトとPLUSのこれからの指針や何を根幹にして前に進むかを提示する事が出来たのでナイトアイがここに来た目的はすでに完遂されたといってもいいのだが話があると言われたのでここに来た所存。

 

「それでホークス、私たちに話というのは……?」

「ああはい、まあぶっちゃけナイトアイさんいやPLUSを含めたチームアップの要請をさせてほしいんですよね」

「私やエンデヴァーを含めたチームアップ……?」

「本来ならば御免被る所だが……PLUSまで含めるとは、それ程の事なのか」

 

それに頷くホークス、彼が続けて名前を出したのは脳無。ヴィラン連合が生み出し複数の個性をその身に宿す改造人間とも言うべき傀儡、それの目撃情報がポツリポツリと出始めているとの事。神野区で出現したような物ならばホークスでも対処出来るのだが、それ以上の個体だった場合は難しくなってくる。だが話はそれだけではないという。

 

「ある人からこんな写真を貰ったんですよ、凄い目立つ奴がこそこそしてたって。それだけでヴィランだって断定するのは差別っぽいですけどなんか引っかかっちゃって……ナイトアイさんに是非見て欲しかったんです」

「拝見しよう」

 

数枚の写真、それはビルの影が映し出されていた。最初の一枚は咄嗟に取った物ゆえかブレているし良く見えないが、次の物は補正やらを掛けた物で見たいものがはっきりと見えていた。

 

「こ、これは……確かに派手だね」

「異形系個性は腐るほどいるが、確かにこれは見ないタイプだな……」

 

思わずオールマイトは苦笑いしエンデヴァーは真面目に考察する中でナイトアイはその正体を知っていた。出久へと語られていたウルトラ戦記、後日聞けなかった部分を教えて貰った時に出て来たものだ。赤く細長い身体に頭頂部から背面・両肩には黄色い縁取り、そして手は花のように裂けている。それはウルトラ戦記 セブンの章、第8節にて語られていた侵略宇宙人。

 

「レギオノイドの中にあったデータでは確か……幻覚宇宙人 メトロン星人とあった筈」

「メトロン星人……って事は俺の勘は的中かぁ……マジでエイリアンか……」

 

と空を見上げながらたは~と笑っているホークス、自分の直感は正しかったという嬉しさはあるがそれ以上に如何するべきかと悩み事が増えてしまった。何せこの地球での宇宙人の前例は残忍なツルク星人にマグナと因縁のあるアウローラしかいなかった。今の社会から見ても何方も超危険な相手だった故にどの程度の備えをするべきなのかが設定できないのが困った所。

 

「幻覚宇宙人……という事は我々的に言えば個性は幻覚と言った所か」

「厄介だな。いざ対面しても煙に巻かれる可能性が高い……サイドキックを同行させるべきだと思ったが、逆に足手纏いになる可能性が高いか……」

「幻覚の方向性にも左右されますよねぇ……」

 

と真剣な会議をするオールマイト達。ナイトアイとしては様々な情報を提供するべきなのだろうが、マグナからの情報を上手く変換し隠し通せるのか、という不安もあるので止めておく。信用は出来るだろうがだからこそ伝える人間は限定すべきだとナイトアイは考えながらメトロン星人対策を話す。

 

「それでしたら此方で対怪獣災害想定コスチュームを提供しましょう、対幻覚特性装備があった筈ですので」

「おおっ緑谷少年とかが着てるあれだね!!実は一度着てみたかったんだよね私!!」

「実は俺も何ですよねぇ~」

 

とオールマイトとホークスが少年のような瞳でいる中で真面目にやれと一喝するエンデヴァーだが

 

「エンデヴァーも如何ですか、焦凍君が使用しているスーツもご用意出来ます」

「焦凍と同じ……良かろう使ってやろう(話題作りになるかもしれん……)」

 

最近徐々にだが焦凍、いや家族間の絆が修復され始めようとしているらしく通話アプリのアカウントが登録出来たらしい。尚、今までが今までだった為か言葉が思い浮かばない上に既読スルーされ続けている。その改善にも繋がるかもしれない異星人の対策にもなる、正に一石二鳥。

 

「それでは此方でも九州行きのメンバーを決めておきましょう」

「っとなると現地集合かな?」

「いえ、PLUSでは長距離移動用のライドメカ開発が進んでいます。あと数日でロールアウトされる予定ですのでそれで向かいましょう」

「そんな物まで作っていたのか……」

「何れ超大型母艦を基地代わりにする事で世界各国に対応する予定ですので、その前にPLUS基地でウルトラスーツの選定や調整なども行いましょう」

 

それを聞いてホークスだけではなくエンデヴァーも心なしか武者震いをしているようだった。それもその筈、ウルトラスーツは怪獣災害想定コスチュームであり怪獣にもある程度通用するように作られている。それを身に纏った時どれ程までに自分の力が高まるのか知りたいのは当然だろう。

 

「私は緑谷少年が使ってたGAIAって奴使ってみたいな~」

「おっなんかカッコよさそうですね、んじゃ俺は更に速くなる奴で」

「……おい遊びに行く訳ではないのだぞ(焦凍と同じ……か、どんな物だろうか)」



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ヒーローへのウルトラスーツ。

「いやぁまさか私の作ったスーツがトップヒーローの方々に使って頂けるとは……感無量ですね、まあぶっちゃけ私じゃなくて大体が出久さんの功績なんですけどね」

「本当だから性質がワリぃな……」

「全くだ」

「ハハハッ……うん、何時もの事だから」

 

と後日、ナイトアイはオールマイトやエンデヴァーそしてホークスと言ったビルボードチャートのトップ3を伴ってPLUSの研究開発室へとやって来ていた。目的は当然九州で使う予定のウルトラスーツの選定とその調整の為である、その日は丁度出久や爆豪たちの調整も行っていたので3人はそれを見学している。

 

「ほぇっ~すげぇもんですね、個性の影響で技術はどんどん進んでるのに此処のはもっと上ですね。無数のロボットアームが人間の腕みたいに動いてる、しかもそれを動かしてるのは一人の女の子ときたもんだ」

「全く以て凄いもんだよ発目少女は!!」

「その高い技術力の影には不可欠な実験体がある、という事か……」

 

正解ですと言わんばかりに死んだ目をする出久にエンデヴァーは酷く不憫だ……と思ってしまった。だが色んな意味で彼でないと発目のそれには耐えきれないのも事実な上に新たなスーツの開発には出久の全面協力が必要なのが困ったものである。そして同時に焦凍にその矛先が向いていない事に心からの安堵を浮かべる。

 

「それで皆様へのウルトラスーツなんですが……なんかリクエストありますか?長所を伸ばすも良しですし弱点をフォローするのもいいと思いますけど」

 

「私は期末試験で緑谷少年が使っていたGAIAが良いかな!!あの如何にもなマッシブな見た目が気に入っててね!!」

「んじゃ俺は火力もいいけどスピード型で、長所伸びれば欠点もカバー出来るってもんですし」

「俺は火力を上げる方向性を望む、冷却機構もあればいいが」

 

それぞれの希望を聞きながら取り敢えずオールマイトの希望が一番簡単なのでGAIAを出す―――のだが一番の問題はオールマイトのあのパワーにスーツがついて行くのかという不安もある。一応出久のウルトラ・フォー・オール・フルカウルでも対応出来るようにはなっているが、それでも不安が残るので材質などを変えておく事を決めておきながらホークスとエンデヴァーのスーツは如何するかと悩む。

 

「う~ん……ホークスさんの要望のスピードタイプのスーツはあるんですよ、でも同タイプではありますけど方向性が違いますから実際に使ってみて何方にするか決めます?」

「おっそりゃいいね、是非とも頼むよ」

「分かりましたっと……良し爆豪さん終わりましたよ~IMPACTの調整、この後試験場でのテストですからホークスさんと一緒に行ってください」

「テメェに言われるまでもねぇ、来やがれ」

「お~宜しく」

 

とホークスを伴って出て行く爆豪だが、仮にもヒーローの№3にあれだけの態度を取れる胆力は見習うべきなのだろうかと思うのであった。そんな中でエンデヴァーが咳払いしつつ尋ねた。

 

「参考までに聞くが……焦凍が纏っているそれは如何なんだ?」

「ABSOLUTEですか?絶対零度と絶対熱をコンセプトにしてますけどエンデヴァーでも使えなくはないですよ」

 

とその言葉に瞳を輝かせるエンデヴァーはこれならばお揃いで共に訓練などが出来るしそれに……と言おうとしたのだが続けて発目はお勧めできないと告げる。

 

「ウルトラスーツは基本的に個性やらに合わせたりするんですが、個性を利用あるいは増幅させるんですが貴方(エンデヴァー)クラスにでもなると複数の機能を併せ持つのはお勧めできませんね……」

「何故だ!?」

「先程も申しましたけどABSOLUTEは絶対零度と絶対熱という双方に対応しつつそれらを操る事を目的としてますが、ヘルフレイムを利用して絶対熱を放出する事になりますが―――ヘルフレイムとの親和性が高すぎて逆に凍結機構(フリーズシステム)の方が十分な力を発揮出来ない所か邪魔をして足枷になっちゃいます」

「何、だと……!?」

 

最初から複数の事が出来る個性でそれに合わせるなら良いのだが、一つの事が出来る個性を極限にまで高めているエンデヴァーは逆にそれが高まりすぎてしまう恐れがあるので複数機能搭載型あまりお勧め出来ない。それを聞いてエンデヴァーは悔しそうに唸る、そんな姿に息子はあんな顔するのか……と意外そうな顔をするのであった。

 

「ですので炎特化型のスーツで如何でしょうか、其方も其方で体温調節機能ありますから理論上は超高温を2時間出し続けても体温は上がりませんよ」

「何だと!?そんな物が存在するというのか!!」

 

流石のエンデヴァーも驚きだった。エンデヴァーの個性、ヘルフレイムは圧倒的な火力を誇るが個性を使う度に身体に熱が籠っていき徐々に身体機能が落ちて行くという弱点がある。その解決の為に様々な手段を取ってきたが今発目が述べたことまでは出来ずにいる。

 

「まあウルトラスーツの場合はスーツから放出するからって事になりますからね、スーツ自体が身体を保護してます。えっとそうですね炎とそれを伴った格闘戦やらを踏まえると……これなんてどうですか?」

 

オールマイトがGAIAの試着を行いながらサイドチェストをやっている隣から出てきたのは紅に燃え滾る炎を思わせるような色をしつつ各部へと伸びる赤や金色のシンブルが眩しく輝く頭部に立派な角を携えたスーツであった。

 

「これこそつい最近出来上がりました極限環境対応型スーツ:BURNMITEです!!炎特化型ですがその出力はABSOLUTEを凌駕します、そしてなんと初の飛行能力搭載型です!!と言っても飛べるかどうかは着る人の個性出力次第ですが」

「―――面白い、ならば飛んでやろうじゃないか。このエンデヴァーがそのバーンマイトとやらを使いこなしてやろう!!焦凍、テストに付き合え!!」

「……いいぜ、俺のスーツの慣らしついでにな」

 

 

「発目少女、もしかしてバーンマイトって……前にガイ君から聞いた奴かい?」

「ええそうです、ガイさんの奴です。漸く出来たんですよ、いやぁ出久さんの全面的な協力のお陰ですよはい」

「全面協力という名の強制だったじゃん……何度僕、黒焦げになった事か……」

「それでも無事な辺り、出久さんも人間辞め始めてますよね~」

「君のお陰でね……」

 

『割かしマジで彼女の影響でウルトラ・フォー・オールが活性化して出久君が適応しているんだよな……』




という訳でガイさんのバーンマイト登場です。

飛行能力自体は今までは出久の自前だったりだったので機能としては初です。


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ウルトラスーツ+トップヒーロー=???

「文化祭で得られたデータから特空機の改良計画から次はマイトおじさま達へのウルトラスーツの供与、ちょっと働き過ぎじゃない?」

「いやぁこんなの出久さんに会う前に比べたら全然ですね~あの時の私なんて他の事なんて露程も気に掛けないキチガイでしたから」

「それを自分で言うのも随分あれだと思うがね」

 

発目へとメリッサがコーヒーを差し入れるが彼女の手は一切止まらない。I・アイランドでもトップクラスとされるデヴィットでも彼女ほどの技術者はいなかったと思えるほどに彼女の情熱や頭脳は理解不能の領域に踏み込んでいる。彼女は今現在、テストエリア内に存在する設備に同調しているトップヒーローのウルトラスーツと睨めっこしながら本来行っていた作業を行っていた。

 

『HAHAHAHAHA!!!これは本当に素晴らしいなぁこれがウルトラマンの力を模すという意味か!!!!これ程までに身体が軽いなんて信じられないなぁぁ!!』

『おおっこれなんていいかもなぁ!!地上走行速度も超速いし武装も申し分ない、このまま着て帰りたいなぁこれ!!』

『素晴らしいっ……ナイトアイに交渉するか……』

 

「トップヒーローの皆様もご満悦な出来栄え、流石だね」

「エンデヴァーのコスチュームは私も関わったんだけど……流石に負けちゃうわよねぇ」

 

とジト目で見てくるメリッサに対してたははと笑った誤魔化しておく。そんな少女を見ながらもデヴィットは改めてI・アイランドでの出会いに感謝した、あの日オールマイトが出久を連れてきたあの日に運命が大きく変革し凍結された自分の研究は正式に再開されただけではなく人類を守るというヒーローの任務を遥かに超える責務の要として使われる事になった。

 

「ハハハットシも随分とはしゃいでるな、若い時を思い出すよ」

『HAHAHA!!GAIA CALIFORNIA SMASH!!!』

 

 

ドッッッゴオオオオオオオオオオンッッ!!!

 

 

 

『オールマイト貴様ァ!!ターゲットを粉砕するどころか周囲のビルを風圧で薙ぎ倒すとはどういう了見だァ!!』

『いやホント何でできるんですかね、風圧でビルを圧し折って薙ぎ倒すって……』

『い、いやあのごめんまさか此処までなんて……』

 

モニターでは土煙の中で全身から炎を立ち昇らせながら激怒するエンデヴァーに詰め寄られながら困惑するように謝罪するオールマイト、そしてそんなオールマイトに呆れつつも驚愕するホークスの姿だった。発目も驚きを隠せなかった、確かにオールマイト専用には装甲や出力を最高の物にした完全な発目の趣味で作ったスーツを使って貰っているのだが……

 

「トシ……」

「マイトおじさま凄い!!凄いけど、これは……」

「うっわぁ……」

 

技を試したいというのでドローンを使って標的を出していた。そこへオールマイトが一撃を叩きこんだのだが―――その破壊力は凄まじく、その衝撃波と風圧だけで周囲にあったビル数棟が折られながら倒れるという異常な光景が広がっていた。エンデヴァーとホークスは近くでテストを行っていたのでその巻き添えを見事に喰らってしまった事になる。あの発目も素で引いている。

 

「特空機でも出来ないような事をやらかすとは流石オールマイト……レギオノイドとゴモラでもビルを壊すのは簡単ですけど殴った衝撃と風圧だけでそれをやるとかどうなってるでしょうねマジで……」

「まあ確かに個性利用建築だし直ぐに戻せたりはするから暴れても大丈夫だとは言ったよ、だけど流石にこれはないぞ……」

「これ、調整できる?」

「頑張ります」

 

口調こそ平常だが溜息混じりに取られたデータを基に内部データの書き直しやプログラムの修正やらを始めて行く発目、個人的な趣味で作ったスーツ。その装甲はレギオノイドと同じ装甲材が使われている為にスーツ自体は何ともない―――が内部データがバグの嵐、想定外すぎるパワーにエラーが吐き出されまくっているのでそれを凄い勢いで修正していく。

 

「あ~すいません博士ですか、はい……ええさっきの衝撃がそれでして……ええ、ええはい……すいません新造艦の方はお任せしますねデータ送りますから……」

「流石にグルテン博士だけでは厳しいだろう、メリッサ私達も彼方へ」

「OKよパパ」

「すいません御二人とも」

 

 

「全く貴様は加減を知れ!!焦凍から聞いたが期末試験では緑谷と爆豪を殺しかけたという話ではないか」

「いやいやいやそこまでは行ってないから!!ハンデと通信機が外れてたのに気づかなかっただけ!!」

「いや十分アウトですよオールマイト」

 

だがまあ実際問題、二人(エンデヴァーとホークス)は衝撃波による被害を諸に受けている。スーツのお陰で問題はなかったがこれが生身だったら確実に負傷していた。逆に今この場でオールマイトがやらかしたお陰でウルトラスーツによって増強される自分達の力の危険性が再認識された気分だった。これが怪獣災害を前提にして開発された特殊コスチュームなのかと。

 

「問題は矢張りコントロールだな……今まで同じ感覚でコントロールできるがそれ故に危ういな……精神的なミスで大惨事になりかねん」

「まあ俺は大丈夫ですね、なんたって不屈の精神力の持ち主ですから」

「フンッ何が不屈だ、唯の楽天家なだけだろうが」

 

酷いなーと言いながらもホークスは笑いながら射出された高速飛行ドローンへと向けて翼を広げた。同時に淡い光がスーツから溢れ出していくと翼から無数の羽が飛び出していく、その羽の一つ一つには光が纏っており光の矢となってターゲットの中心を寸分違わずに貫いた。そのコントロールにオールマイトは感嘆の声を上げていると羽は戻ってきて翼へと戻った。それを見たホークスは満足気で嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

「いやぁ最高ですねこれ!俺こんなスーツ欲しかったんですよ」

 

ホークスが使用しているスーツは光エネルギー活用高速移動型:FUMA。速度を上げる為に基本的に武装は付いておらず全てはパワーセルからの供給によって発せられるエネルギー兵装がメインとなっている。その応用も幅広く何かに纏わせる、形を変えて飛ばすなどなど。発目曰くマグナが行ったりした光弾や光輪を実現させる為に作ったスーツ。

 

「俺もこのバーンマイトは気に入った、九州行きまでに万全に使いこなして見せよう。特に……オールマイト貴様は絶対にコントロールを覚えろ!!人口密集地で先程のような事をされては敵わん!!」

「それには同意ですね、俺の地元滅茶苦茶になりますからね平和の象徴の手で」

「が、頑張ります……」




「出久さんの気持ちが分かった気がします」
「おおっ……!!」
「まあ私は出久さんの事を信頼してますから大丈夫ですね、だからこのままで行きます」
「何でぇぇぇぇぇぇ!!!?」


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PLUSの新戦力、大型艦ライドメカ。

「んじゃエンデヴァーさん行きますよっ―――光刃鷹羽矢!!」

 

空へと放たれていく無数の光の矢、それはFUMAを纏ったホークスが放った技。軽量化の為に武装などは無いが代わりに搭載されているのは専用の小型大容量パワーセル、それらから供給されるエネルギーを装着者の思い通りに操り、風のように素早く魔のように変幻自在な戦いを行えるFUMA。それを早速取り入れた速過ぎる男は既に必殺技を編み出していたのであった。そしてそれは―――№2も同じ。

 

「小癪な飛ばし方をするな、だが無意味!ヘルバーンアロー!!」

 

空を燕の如く泳ぐように舞う光の矢、それへと向けられる腕はまるで大砲、そしてその指先は砲門。上下左右あらゆる方向へと動き回るそれへと放たれるのは炎の矢。風による空気の流れを敏感に察知して方向を変える矢、それが高温による気流の変化を感知する前に炎の矢が貫き落としていく。超高速で飛行する矢を全て外す事も無く貫き落とす、凄まじい偏差射撃の極地のような芸当に思わずホークスも口笛を鳴らしながら拍手する。

 

「凄いですね今の、マジで回避行動取らせてたのに」

「回避するなど当然。ならば避けるという行動を取る前に叩き落とすまでだ」

「言うは易く行うは難しなんだけど……それをあっさりとやるのは流石ですねぇ……」

 

そんな風に語る二人の上をGAIAを装着したオールマイトが疾駆する、建物の上での跳躍を繰り返し空を疾駆するのは手加減の感覚を掴む為でもある。ヒーロー活動でもやっている事だがウルトラスーツによって増強される力は尋常な物ではない。それらを自分の意志で身体と同じように管理出来るが、同じようにした場合、どうしても齟齬が生まれてしまい、それがビルを風圧と衝撃で薙ぎ倒す結果を生んだ。

 

『……発目君、大至急リミッターを設置してくれ』

『アイアイサー』

『オールマイト……少し、話をしましょう。二人っきりで……』

『ア、アハハハハッ……』

 

その一件でナイトアイの額に青筋が乱れ飛び、発目によってスーツにリミッターが付けられたのは言うまでもないだろう。

 

「常に意識と緊張、そして視界を広くあらゆる物を見逃さない!!HAHAHAお師匠と先生に教えられていた頃を思い出すなぁ!!」

 

GAIAにはオールマイト専用にウルトラ・フォー・オールの力の一部分がチャージされている。それはウルトラ・フォー・オールの力を扱えるという訳ではなくあくまでオールマイトの活動限界を延長するだけではあるがそれだけでもオールマイトにとっては大助かりであった。出来る事ならばこれをずっと使いたいなぁ……とチラリとナイトアイを見たのだが一蹴されてしまった。

 

『供与はする予定ですが、貴方に渡したら今まで以上に無茶をするのが目に見えています』

 

「HAHAHAHA……いやぁバレバレっだったか!!」

 

このGAIAとマグナと出久の協力があればPLUSの参加によって減少してしまったヒーロー達の代役として全国各地を飛び回ると思っていたのだが……流石にお見通しだった。矢張り彼は自分の事をよく見ていると思いながらも突然飛び出してくるターゲット、それに向けて拳を握る。

 

「DETROIT SMASH!!!」

 

怪獣シミュレーションでの応用、空中投影されたターゲットへと突き刺さった拳は感触を伴いながら殴り飛ばされ粒子となって消えていく。突然の出現だが既に感覚的に加減を覚える事が出来ている事が分かり思わずホッとする。間もなく九州に向かうというのに前のように風圧云々が起きてしまっては一般市民を危険に晒すだけ。

 

「リミッターのお陰で大分分かってきたぞ!!」

「分かったのは良いが、その状態でも普段の貴様以上だという事は承知しておけ」

「わ、分かってるよエンデヴァー」

「頼みますよ……俺の地元が平和の象徴で大惨事!!とか洒落になりませんから」

 

割かしマジの懇願にオールマイトは小さくなりながら頷いた。彼自身もナイトアイからの説教が相当に利いているのである。

 

「そう言えば今日ですよね、九州に行くの」

「ああそうだったな。バーンマイトの習熟訓練に熱中しすぎたな」

「それは私もだ」

「俺もです」

 

エンデヴァーは忌々し気にしているが、それは予定を忘れそうになったからなどではなく余りにもウルトラスーツの習熟訓練が自分にとって新鮮且つ楽しい時間だったからだろう。確執があった焦凍と共訓練を行う事が出来た上に今回九州にはPLUSの特別隊員枠で同行する事になっておりいい所を示すチャンスだと張り切っていた。

 

「なんか長距離移動用のライドメカで行く、とか言ってましたっけ」

「PLUSの技術力で作られる大型艦……う~ん想像出来ないなぁ」

「既に此処の存在自体が越えている、何が来ても受け止めるのみだ」

 

 

「さあご覧ください、これが私達PLUS研究開発チームが総力を挙げて完成させました機動母艦!!」

 

胸を張りながら見せ付ける発目、そんな彼女が見せつけるのがPLUSが開発したライドメカを多数搭載した上で遠方へと素早く移動出来る機動母艦。既にファイターを数機格納する事が出来る大型ファイターは完成しているが、大規模な怪獣災害を想定した場合にはそれでは足りなくなることを見越して建造されたのが機動母艦型ライドメカ―――アートデッセイ。

 

「これは凄いね、最早戦艦みたいだ!!」

「200メートル越えてますからね、一応特空機も載せようと思えば乗せられますけどその場合他のライドメカが載せられないって欠点があります」

「あ~デカいもんね特空機」

「まあその為に大型輸送ファイターのピースキャリーが出来たんですけどね~」

 

ブリッジにて鼻高々に凄さを語る発目、その話を熱心に聞くプロヒーローのトップ3だがそれを他所に出久は頭を抱えているマグナの事を心配していた。

 

『……確かに資料として渡したよ防衛チームのメカとかも渡したよ。でもまさか此処までやるぅ……?マキシマオーバードライブは無いけどそれでも飛行可能な大型機動母艦を作っちゃうなんて……ああもうゾフィー隊長になんて報告したらいいんだぁ~……しかも原典(ティガ)のアートデッセイ号よりでかいし特空機2機を格納可能とか何考えてんの、発目ちゃんとグルテン博士もやばいと思ってたけどこれ実現しちゃったのがデヴィットさんとメリッサちゃん達だって言うからもう……』

「(まあこれで地球の平和の一助になる訳ですから……僕からしたらいい事だと思います、マグナさんの気持ちも分かりますけど)」

 

 

そう、このPLUS製のアートデッセイ号が特空機を格納出来るようにしてしまったのはデヴィットとメリッサなのである。というのも建造の際にレギオノイドのテストパイロットであるハルキに意見を聞いたところ……

 

―――特空機(レギオノイド)を運べたら最高ですよね!!

 

とストレイジ時代の経験も踏まえていった結果、PLUS研究開発チームと整備チームに電流が走り、魂に火がついてしまったのかやってのけてしまったのである。特にそれに乗り気だったのがデヴィットとメリッサであり、搭載の際の負荷対策の軽減やエンジンの強化などに尽力し可能にしたという。

 

「(あ、あのマグナ先生、俺駄目な事言っちゃいましたか……?)」

『ああいえ、特空機のパイロットだったハルキ君からすれば当然の意見ですし理に適ってます……でもまさかこんな……』

『師匠、でも地球の為を考えたら出久の言う通りいいで御座いましょう?』

『良いんだよ、良いんだけどさぁ……!!』

 

「という訳でいざっ九州に向けてアートデッセイ・PLUS、出撃します!!」

 

 

『元文明監視員の私の前でどんだけエゲツないブレイクスルーすれば気が済むんだよ!!!』

 

マグナの平穏は遠い、別の意味で。




アートデッセイ・PLUS。

マグナが良かれと思ってナイトアイに提供した防衛チームの資料にあった大型艦、アートデッセイ号にナイトアイが目を付けて、建造を決意した代物。
本来はライドメカなどを大量に格納し怪獣災害に対応する為の大型母艦で150m級(元の大きさのまま)の予定だったのだが……ハルキの意見によって特空機を格納するために大型化され200mを超える大きさになった。流石に特空機を格納する際には他のライドメカを搭載出来なくなるが、その際はピースキャリーなどの大型輸送ライドメカと連携する事になっている。PLUSのメンバーの夢とロマンを詰め込んだ初の大型艦ライドメカとしてこの地球にて活躍する事になると思われる。


はいっという訳でアートデッセイ号登場です。いきなりエリアルベースみたいなものを出す訳には行きませんから、これを発展させた結果として各地の基地として行くという予定です。主に日本人スタッフが頑張った結果、とんでもない事になりました。代償はマグナさんの心労。

因みに特空機を格納状態だと仰向けの状態になってます。流石に立たせるのは難しいでしょうし。そして載せた場合は他のライドメカ搭載出来ない、まあその時はピースキャリーで運べばいいだけなんだけどな!!


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邂逅、宇宙人、九州にて。

アートデッセイ号はマグナの心労を他所に九州へと到着したのであった。但しアートデッセイ号の発表はまだの予定であるので上空にて待機させる事になった、そして地上へは何れ建造する事になるであろう空中母艦と地上を結ぶ役目を担うシャトル、ダヴ・ライナーを用いて地上へと降りる事になった。

 

「しっかし九州まで約2時間かぁ~あんな巨大な船が移動していると考えると十分過ぎるレベルかな」

「だろうな。だがあれでもまだまだ最大ではないのだろう」

「発目少女はそう言ってたね、動力炉はレギオノイドに搭載されていた物とパワーセルを発展させた物を使ってるらしいけどまだまだ調整を進めていく必要があるらしい」

 

と街中を行くトップヒーロー三人に紛れる出久と焦凍は周囲からの視線が凄い事になってる事にやや戸惑っていた。実際問題まさか2時間で九州まで来れるなんて思ってもみなかったのは事実、しかしこれでもまだまだ動力炉の最大出力は出せておらず、最終的にはレギオノイドの動力炉をサイズアップした物を3基と補助動力としてパワーセルを使う事で九州まで1時間を切るかもしれないらしい。これを聞いてマグナはより一層頭を抱えたのは言うまでもない。

 

「さてと……取り敢えずこの前メトロン星人(こいつ)が目撃された地点にでも行くとしますか。あっその前に飯にでもします?」

「おい貴様から持ち掛けてきた話だろう、もっと真面目に取り組め」

「まあまあまあエンデヴァー、それだけ余裕があるというのは一つの長所さ」

 

楽天的なホークスに溜息を漏らすエンデヴァー、フォローしつつも周囲の人たちからの声に応えるオールマイト、そしてその最中で自分の個性で出来る限りの活動を行っているホークスとトップヒーローと言えば此処まで変わってくるのかと出久と焦凍は思い知らされた。此処まで方向性などが違いが出ているのも面白いと感じられる。

 

「轟君、エンデヴァーと訓練してたって聞いたけどどんな感じだった?」

「悪くはないと思う。正直、助かった面も大きい」

 

焦凍は素直にウルトラスーツの訓練中に父からアドバイスや技を教えて貰った事は有難いと感じている。まだ親子としては多少の確執こそあるがあくまでPLUSの特別隊員としてプロヒーローのエンデヴァーと接する事は出来ていた。それはエンデヴァーがPLUSに行く事を認めているからだろう、そして其処でエンデヴァーが己の必殺技である嚇灼熱拳の一部を授けてくれた。

 

「まだABSOLUTEをコントロールしきれてねぇ所があった。そこにあいつが熱を溜めて放つって事を教わって今練習中だ。炎を圧縮して放つ、氷を圧縮して放つ……」

「そっか確かに轟君って今まで溜め無しの最大出力を放ってるってイメージが強かったかも」

「ああ、だから溜めるって言うのはいい刺激になった。絶対零度と絶対熱……俺のスーツを使うこなす為には最高の課題だ」

 

口角を持ち上げながら両手を握りしめるその姿にエンデヴァーも人知れずに笑みを作っていた。漸く父親らしい事が出来ている、息子を導けているという嬉しさに心が躍ってしまっている。それを隠しているつもりのエンデヴァー(№2)だがホークス(№3)オールマイト(№1)にはガッツリとバレているのであった。

 

「でも簡単に見つかるのかな……かなり目立つ格好だったけど……」

『少なくとも彼らが侵略目的であるならばある程度方法を絞る事は出来るよ、どれも酷く気長な物だけどね』

 

街中を注意深く観察しながらもマグナからメトロン星人について聞かされる、何度も地球に来訪しその度にある種人間同士の信頼関係への挑戦に近い侵略方法を取り続けてきた宇宙人の代表格。有効的な侵略であると同時に酷く気長な物が多かったという印象があると言われる中で、ホークスはこめかみを叩き通信機を起動させる。

 

「〈―――発見しました、廃ビルの中へと入っていきました。周囲に人影は無し、荷物を持ってひっそりとそこへ入っていきました。〉」

「〈―――エンデヴァー承知した。〉」

「〈オールマイト了解、よし我々もこっそりと行こう。緑谷少年と轟少年もこっそりと付いてきたまえ。〉」

「〈わっ分かりました。〉」

「〈はい。〉」

 

ホークスは自らの個性、剛翼の羽を飛ばし空気の振動を感知して音などを判別する事で広範囲の索敵を行った。そしてその地点に何かが居る事を突き止めた。それらを瞬時に伝達させるとすぐさまそこへと向かう事にした。解体が決定した廃ビル、そこに潜伏したと思われる存在への奇襲を行う為にひっそりとそこへと侵入する。相手は異星の侵略者、何かあるかもしれないと細心の注意を払いながら奥へ奥へと進んでいく―――そしてそれは顔を見せたのであった。

 

「ようこそヒーローの皆さん」

『ッ!?』

 

そこにあったのはなんと様々な家具に囲まれた内装の部屋だった。立派な地球人の部屋と言っても過言ではない部屋の中央に隠れるつもりなどないと言わんばかりに大きなちゃぶ台の前に堂々と立ちながら丁寧な言葉で自分達を歓迎してきたカラフルな宇宙人、そう目当てのメトロン星人であった。咄嗟に全員が攻撃態勢を取るのだがそれにメトロン星人は困惑したようにストップと言いたげな動きをする。

 

「あ、あのなんか戦うつもりはないみたいですけど……」

「もっ勿論私はそんなつもりは一切ありません!!私は侵略が目的ではないのですから……!!」

「―――話を聞かせろ」

 

出久の言葉に帰ってきた返答を聞いて取り敢えず話を聞く事になり、一先ず攻撃態勢が解かれた事に一息ついたメトロン星人は冷蔵庫から何やら自分と同じカラフルな缶を取り出してそれを差し出してきた。そこには眼兎龍(メトロン)茶と書かれていた。因みにマグナはそれを見てある種の感動に包まれていた。

 

「一先ず自己紹介をば……私はメトロン星人のジェイツと申します、この地球には偶然足を運んだのです」

「偶然だと?」

 

怪訝そうにするエンデヴァーにジェイツは身の潔白を証明する為か正直に身の上を語り始める。別の地球にて自分の同胞が住んでいるという話を聞いて自分も地球に行ってみたいという願望が生まれたらしい、そしてやって来たのがこの地球であり様々な姿を持つ此処ならば自分も姿を偽る事も無く地球人とコンタクトが取れると考えてそのままの姿で活動をしていたらしい。

 

「つまり……地球に遊びに来たと?」

「端的に言えば……同胞の友曰く、アイドルが素晴らしいと聞いたので」

「アイドル……宇宙人もそういうの好きなのか」

『それ絶対快傑ズバ……じゃなくてタンバリンおじさんの丹波さん、ジェイスじゃないか……』

「(えっ誰ですかそれ)」

 

話を聞けば聞く程、彼は悪人ではないという事が判明しホークスは胸を撫で下ろしながら地球に友好的な宇宙人が居る事が分かっただけでも大収穫かもしれないというとそれに関しては全員が同意するのであった。

 

「しかし私などよりも注意すべき存在があると思いますが……」

「何だと?」

「実は私、このような物を見たのですがご存じでしょうか」

 

そう言いながらジェイツは何処からか一枚の写真を取り出して見せた、そこにあったのは……複数の怪獣の特徴を併せ持ったような脳無の姿であった。

 

「これはっ……!!」

「脳無!!」

「……ジェイツさん、だっけこれ何処で」

「この近くの廃工場ですね」

 

「おい緑谷これ……前に基地に来た怪獣に似てねえか」

「うん、複数の怪獣の特徴を併せ持つって意味だと凄い似てる……」

 

『アウローラの仕業か……怪獣と脳無の合成……何が目的だ……?』




ジェイツの友、ジェイスについて解説。

夕焼けのエージェントことメトロン星人 ジェイス。ウルトラマンギンガS 第12話にて登場したメトロン星人、侵略目的で来訪しアイドルブームに目を付け、人間の理性を麻痺させ凶暴化させる宇宙ケミカルライトを開発し、地球人の信頼関係の崩壊を目論む―――

のだが、ライブ中にライトの効力を発動させてもアイドルファンはライブに夢中だった為不発。それ所かジェイス自身がアイドルにドはまりしてしまうという珍事が発生。そのまま侵略が如何でも良くなり、地球人の友人も出来たジェイスは自室でオタ芸を練習するなど充実した日々を過ごし、何時しかタンバリンおじさん丹波としてライブの名物キャラになっていた。

かなりギャグ印象が強い話だが、夢中になれるものがあれば姿も星も関係ないというメッセージが込められているとても良い話。オタ芸するメトロン星人(ジェイス)は必見。


メトロン星人は世代によってあの手この手で侵略方法を変えてくるから本当に面白い、後リアルタイムであのシーンはズバットじゃねぇか!!って親父が突っ込んでた。今ならその意味が分かってしまう。


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トランサー・ド・モンス。

ジェイツに指定されたポイント、それはもう既に廃墟と化している工場。完全に閉鎖されており何者かが隠れるには寧ろ好都合というべき場所。だがそれ以上に気になっている事があった、それは写真に写っていた脳無の余りにも異形すぎる姿だった。オールマイトにはそこまで分からないが出久とマグナには十二分に通じていた。タイラントを真似て脳無を作ったと言われたらそのまま納得できてしまうようなそれに奇妙な不気味さを覚えた。

 

「此処だな……よしっ行きましょう」

 

準備を整え、スーツの戦闘モードを起動させながら中へと突入していく。酷く薄暗く放棄されている機材や錆び付いたパイプなどが散乱している内部、此処に脳無が居るというのだろうか……。

 

「あのジェイツを信用していいのか、仮にも宇宙人だぞ」

「ンな事言ったら俺達だって宇宙人じゃないですか、地球人って言う」

「そういう事を言ってる訳ではない」

 

エンデヴァーとしてはジェイツを信用してしまってもいいのかという思いがあった、メトロン星人は侵略を目的としていた事がある宇宙人でありジェイツはその種族。真の目的を奥に隠していないとも言い切れない、それが態々こんな所に誘導したのは自分が地球から脱出する間の時間稼ぎなのではと疑っている。

 

「アートデッセイ号が警戒をしてますし、そう易々と逃げられはしませんよ。それに……僕はジェイツさんが嘘を言ってるとは思いませんし」

「俺も同意見だ、根拠はねぇが……何となくそう思う」

 

出久の言葉に賛同する焦凍。悪人とは思えないしとても嘘を言っているようには思えない、それは出久だけではなくマグナも同意見であった。一先ずはこの工場の是非を確認するのが先―――と思ったその時であった、何かが聞こえてきた。

 

「何か、聞こえてきません?」

「何だこの音は……」

 

ホークスの言葉に同調するオールマイトの言葉に皆が耳を澄ませると何かが聞こえた、それは何か脈動しているようにも聞こえるし何かを砕き喰らっているかのようにも聞こえる。酷く気味が悪い、用心しながら前に進む―――としたその時だった。足音と共に拍手の音色が此方へと向かって来ていた。全員が戦闘態勢を取る中で迫ってきたのは―――白衣を纏った女であった。

 

「よくここが分かったねぇヒーロー諸君、褒めておこう……と言えばいいのかな、ようこそ私の実験場へ」

「貴様何者だ!!」

「何者、ああっ何者と来るか、実に地球人らしい質問だねぇ」

 

ケラケラと相手を馬鹿にしたような態度を取りながらも眼鏡を掛けながらも身体を傾けてポーズを取りながらも喋り続ける。

 

「生憎私は私であって私でなく君達の定義する所のヴィランであってヴィランでもない。そう言うなれば―――宇宙の敵だ」

 

そう言いながら白衣を一気に脱ぎ捨てるようにしながらもその内にあった本性を明確にさせた。頭部にある二本角、金属的な輝きを鈍く放つ全身に纏った甲殻のような装甲……それを見た瞬間に思わず出久は思わず息を呑み拳を強く握ってしまった。何故ならばそこに居たのは紛れもなく―――マグナの宿敵、レイブラッド星人の継承者を自称するアウローラだった。

 

「アハハハハハッ!!いいねぇ良いねぇそのリアクション!!100点満点だよビックリしてくれたようで何よりぃ~そぉしぃてぇオールマイトォ私としては今すぐに死んでくれた方が愉快なんだけどねぇどう思う皆さん?」

「何処向いて何言ってんだこいつ……!?」

「いやはやだってさぁ聞いて火傷してる坊や、オールマイトが利害の一致で協力してたオール・フォー・ワン倒しちゃったからもう私のプラン丸潰れ、加えて私もマグナの奴に倒されちゃったからもう再生に時間掛かっちゃって掛かっちゃって」

 

その言葉に全員が震撼する。ヒーロー達からすればこいつこそが神野において出現したあのウルトラマンを一度倒した怪獣の正体、そしてオール・フォー・ワンと通じていた存在。マグナと出久からすればこれが明確にアウローラであるという証明でもあった。

 

「マグナさんと因縁があるようだな、ならば彼の恩義を果たす為にも此処で倒させて貰おうか!!」

「アハ~ハ~ン言ってくれるじゃないのぉ~ン。でも残念ながら私は予定が詰まってんのよねぇ~、だから貴方達には改造したこの子達と遊んでてもらおうかな!!Come on!!」

 

指を鳴らすと何処からともなく3体の脳無が出現した―――がそれは今までに戦った事のある脳無などではなかった。その節々がグロテスクで異常なまでに不気味な物、全身に黒い棘のような甲殻を纏った物、頭が肥大化し上半身まで侵食してしまったような物まである。

 

「こいつら……普通の脳無ではないな!!?」

「怪獣の要素を持ってるって感じですね!!」

「正解さ、報酬として貰った脳無ちゃん達に僕の持ってる怪獣の力を分け与えてみたんだよっ♡」

「全然可愛くないぞ!」

「筋肉モリモリマッチョマンのウィンクより愛嬌ある」

「言ってくれる……!!」

 

そんなやり取りをしている間にマグナは脳無を注視してどれが何の怪獣の要素を持っているのかまで読み当てるが、どれもこれも強力な怪獣ばかりだった。ガルベロスにギマイラ、レッサーボガール……何ともとんでもない面子が揃えてくれたものだと溜息を吐きたくなる程。だが同時にこれだけの怪獣の力を持つのもレイブラッド星人の継承者たる所以なのかもしれない。

 

だがそれ以上にマグナが気になっていたのはアウローラの様子が明らかにおかしい事。今までの奴とは口調やテンションが違う、今までも狂ってしまっていたかのようだったがそれはチューニングがズレているに近かったが今回は全く違う、完全に狂っている。

 

「それじゃあこの子らと遊んでてよ、んじゃバイビィ~」

「待て!!」

 

と走り出していくアウローラ、それを守るように立ち塞がる脳無たち。それに舌打ちをするがオールマイトがすぐさま指示を飛ばす。

 

「緑谷少年奴を追うんだ!脳無たちは私達が引き受ける!!」

「焦凍お前も行け!!直ぐに追いかける!!」

「くれぐれも無茶をしないように!!」

 

「はい!!」「ああっ!!」




トップヒーロー VS 怪獣脳無

そして―――出久と焦凍はアウローラと対峙する。


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モンス脳無、トップヒーローと、浮彫。

怪獣と脳無のミックス、人間大のサイズでありながらもその身体に出現している怪獣の要素。それらと対峙するヒーロー、オールマイトはギマイラ脳無、エンデヴァーはボガール脳無、ホークスはガルベロス脳無を抑え込むようにしながらも一対一の状況を作り出しながらも自分に集中させ出久と焦凍の後を追わせないようにする。

 

「SMASH!!!」

「ギィィィィッッ!!」

 

頭部に白く長い角を携え、全身には黒い甲殻がびっしりと覆い尽くしているギマイラ脳無。それへと拳を突き立てるオールマイト、GAIAの出力も相まってか一撃一撃放つたびに空気が、いや空間が震えている。だがギマイラ脳無は後退りこそするが怯む事も無く真っ直ぐ向かい続けてくる、大口を開けるとそこから触手のような舌を伸ばして巻き付けてくる。

 

「気持ち悪っアバババババッ!!?」

「ギィィィィッッ!!!」

 

舌を通じて超高圧電流を送り込んで装甲を貫通させて攻撃をする、思わず声を上げて痺れてしまうオールマイトに笑い声を上げるギマイラ。そしてそのままエネルギーの吸収を開始しようとした時だった。自らの舌が強く掴まれたのである。

 

「よしっ慣れた!整体前の電気治療位にしか感じなくなった!!」

「ギィィィィッッ!!?」

 

そんなバカな!?と言いたげな反応をするギマイラ脳無に構う事も無く腰を落としながらも脚部のスラスターが火を噴いた。

 

「GAIA OKLAHOMA SMASH!!!!」

 

文字通りの竜巻のように超回転を行う、それに巻き込まれるように伸ばしきっていなかった舌はどんどん引き出されて行ってしまう。苦しむ声と共に更なる電撃を浴びせ掛けるがオールマイトはそれを全く苦にもしなかった、そして遂に―――ギマイラ脳無の舌を完全に根本から引っこ抜き、激痛で悶えながらギマイラ脳無は反動で壁へと突っ込んだ。

 

「HAHAHA肩凝りを取ってくれた事に関してはお礼を言っておくよ!そしてその手向けに受け取ると良い―――このスーツの一撃を!!」

 

胸の前へと両腕を交差させるように構える、大きく開くと右腕へとエネルギーが収束されていき右腕が一気に肥大化していく。発目の発明は何処まで行くのかと内心で思いながらもそれに感謝しながらも跳躍しながらも立ち上がったギマイラ脳無へと飛び掛かる。

 

「GAIA SUPREME SMASH!!!!」

 

真紅の閃光を纏った一撃、それは頭部の一本角を楽々と圧し折りながら胸部へと叩きつけた。瞬時に全身へとエネルギーが浸透していきギマイラ脳無は絶叫を上げながらも爆発を巻き起こしてしまった。その中でオールマイトは拳を振り抜いたまま健在であったが、脳無はその身体からギマイラの力が抜けていったのかゆっくりと倒れこみながら沈黙した。

 

「私は例え怪獣相手でも逃げはしないさ」

 

 

 

「このでか頭だけが!!」

 

ボガール脳無へと炎を放つ、が上半身の殆どを侵食する程巨大な口でエンデヴァーの炎を喰らい始めた。いや喰らうどころか飲み込んでいっている。炎に耐性を持つヴィランは腐る程相手にして来たが此処まで意に変えないのは初めての経験なのか、舌打ちする。

 

「炎は大好物と来たか」

「ガァァァァガガガガガ!!!」

 

だが直後、胸部にもう一つの小さな口が作り出されるとそこから吸収しきった炎を巨大な火球へと変貌させて撃ちだしてきた。しかしエンデヴァーはその一撃を受けてもノーダメージ。BURNMITEの耐久性はその程度で揺らぐ物などではないという事である。そしてエンデヴァーは一気に駆け出す、それを見て更に火球を撃ちだしてくるが咄嗟に身を低くして回避する。

 

「バーンスライドォ!!」

 

低くした身を更に低くしスライディングを行う、その際に生じる摩擦熱を糧にしながら足全体を燃え上がらせながらそのまま突撃しボガール脳無の太腿を蹴り砕いた。体勢が崩れた上に足が燃え上がった事で倒れこんでしまった所へ追撃の爆炎の拳を連続で浴びせ掛けて行く。

 

「オオオォォォッッッッ!!!」

「ガガガアアアガガガガッッッ!!!?」

「炎が好物らしいな、ならばこれは如何だぁっ!!!」

 

苦しんでいるボガール脳無の大口を無理矢理こじ開けながらも炎を纏った足で口を固定すると、その奥の奥、喉へと腕を突っ込んでバーンマイトの最大出力で炎を放出する。飲み込むなんて次元ではない、閉じる事も出来ず吐き出す事も出来ないまま太陽のような熱量の炎が滝のように流し込まれ続ける。幾ら悪食且つ大食漢のボガールと言えど糧に出来る筈もない。

 

「ギガアアアアアアアアッッッ!!!??」

「嚇灼滅拳―――ヘルバーストォ!!」

 

瞬間、炎の色が白、青へと変わりながら縮退を繰り返しボガール脳無の喉奥で炸裂する。圧縮された炎が更に圧縮、それを開放したと思ったらまた圧縮するを繰り返し続ける。それが繰り返された脳無は動きを止め、怪獣の力が抜けて動かなくなると腕を引き抜いた。

 

「フンッ貴様などこのスーツを纏ったエンデヴァーの敵などではない、焦凍にこそ見せるべき技を切らせた事だけは褒めてやる」

 

 

「グラァァァアア!!!」

「おっとぉッ!!ハッ!!」

 

素早い動きと肩から突き出した火炎弾を回避しながらも自らも光の矢を放つホークス。それらと同時に剛翼から羽を射出して背後から攻撃する、が、ガルベロス脳無はそれらに無視しながら攻撃をし続けている。

 

「ありゃっ決して弱くはないと思うけど……こりゃ相当生命力が強いタイプだな」

「グギャアアアアアアアアア!!!」

 

直後、二つの頭が180度反転して背後から攻撃する羽を撃ち落とさんと火炎を放つ。それらを咄嗟に回避しつつ回収しつつ右腕をタッチする、そこから光の刃が出力される。それを構えながら一気に加速しつつバレルロール、光の渦となりながら一直線にガルベロス脳無へと吶喊する。

 

「光波剣・渦潮ォ!!」

 

擦違い様、ガルベロス脳無の腕、足、頭部、双頭を切り落とす。圧倒的な切れ味に本人も口笛を鳴らして感心する―――が、直後にガルベロス脳無は切られた筈の部位が独りでに傷口に戻り再生していく様を目撃し口笛を舌打ちに変えた。

 

「再生っこれが怪獣の力って奴か……だったら話は簡単だ、再生が追い付かないほどの一撃を加える!!」

 

光の刃、光波剣をまるで蛇腹剣のように伸ばすと回転させ目の前に円を作り出す。八つ裂き光輪のような輪を生み出すとそこへ剛翼の羽の大半を飛ばしながらそこへと突撃させていく。羽は光の輪を通りながらもそのエネルギーを纏いながら一つ一つが流れ星になりながら一気にガルベロス脳無へと降り注いでいく。

 

「極星刃鷹羽流星群!!!」

 

光の流星群となっていく閃光、一撃一撃がガルベロス脳無の身体を抉っていく。再生が行われているが次々と肉体が更に深く鋭く抉られていく、そして再生速度がどんどん遅くなっていくのを見てホークスは笑う。光波剣を掲げるとそこへと流星が集い、巨大な一太刀を形成する。それを構えながら一瞬で最高速度に到達したホークスはその一太刀を振るった。

 

「光波剣・天羽々斬ィ!!!!」

 

青白い閃光の残光を残しながら振るわれた一閃。直後光は四散し剛翼へと集っていく中でガルベロス脳無は倒れこみ再生を遂に諦めてしまい、力を失ってしまった。

 

「フゥッ……やばいなこのスーツ……俺と相性最高過ぎ」

 

FUMAが自分と相性がやばすぎる事を改めて実感したホークス、やっぱり交渉する事を決意していると同じくして脳無を撃破したオールマイトとエンデヴァーが迫ってきた。

 

「其方も終わったようだね」

「無論、怪獣の力を得ていたらしいがこのエンデヴァーからすればゴミ同然よ」

「さっすがいう事が違いますね、まあ取り敢えずあの二人を追いかけましょう」

 

 

「待て逃がさないぞ!!」

 

出久は焦凍と共にアウローラを追いかける、そして足を止めたアウローラに遂に追い付いた。それはグルンと此方を向くとケラケラと笑い始めた。

 

「おやおやおや可愛いチェイサーだこと、トップヒーローも酷な事を言うねぇこんな坊やたちに僕をオッテイイーヨ!!って言うなんてねぇ……まあいいや、君が来てくれた事は感激だよ―――イズティウムいや……君の中にいる光に用があるんだけどね僕は」

「光……?」

 

何を言っているのかと首を傾げる焦凍だが、出久は少しばかり汗をかいたが直ぐに決断して焦凍に告げる。

 

「轟君、僕実は―――ウルトラマンなんだ」

「……えっ?」

「いや正確に言えば僕はウルトラマン、マグナさんと一体化してるって言うべきなんだと思うけど」

「おいおいおいおいおいおいおいおい!!!自分で言うなんて卑怯じゃないか!!!」

 

突然すぎる告白に呆然とする焦凍だが、出久の真っ直ぐな表情と瞳に嘘はないと直感する。そして目の前のアウローラの取り乱しを総合して真実だと理解すると素直にマジか……と零した。

 

「何だなんだよ何ですかぁ!!?普通ヒーローってのは正体を隠すもんだろぉ!?秘密を守ってるヒーローは皆だろうがよぉ!!!それを自分から言うなんて大禁忌を犯しやがってよぉふざけてんじゃねぇぞこのダボがぁぁ!!!……まっ君が言わなかったら僕が言ってたけどね♪」

「……何を考えているんだアウローラ」

「別に何も、僕は唯―――マグナと触れ合いたいだけだよ、さぁ姿を見せてよ♡」

 

その言葉に応えるようにマグナは光士として姿を見せる、そして静かに問う。

 

「アウローラ。今度は何をする気だ」

「アハハハッアハハハハハハハハ!!!!!もう目的は半分達成されているのさ、さあお楽しみはこれから始まるんだよマグナ、僕と君の物語は遂にクライマックスに指を掛けてページを捲ろうとしているんだよぉ!!!」

 

to be continued……




ウルトラスーツの習熟度。

ホークス>エンデヴァー>オールマイト


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虚無を齎す破滅。

突如現れた光士、焦凍自身もそれなりに世話になっている人だった彼の正体がウルトラマンマグナであった事は話の流れから理解は出来たが驚きは拭えずに困惑が続く。それを強引に払いながら出久へと声をかける。

 

「緑谷、俺なんかに言って良かったのか……!?」

「僕は轟くんの事を信頼してるし大丈夫、それにこの状況だと遅かれ早かれでしかなかったと思う」

「確かにな……」

 

自分から告げるか、敵から告げられるかの違いしかない。ならば戦いの最中で集中力が削がれるような物よりも自発的な告白の方がマシだという物。

 

「答えろアウローラ、貴様の目的は何だ。此処で何をしている」

「アハハハハッんもうマグナってばせっかちさん何だからぁん♡そんなにあわてんぼうだとモテないぞ♡」

「うわキツ」

「お"い"ぃぃぃぃぃぃぃっ!!?」

 

素直な吐露にアウローラでさえ爆音じみた声でツッコんだ。マグナ(今の自分)というよりも前世の自分(昔の自分)の面が思わず出てしまったが故の発言だったが、本気でそう思ってるからしょうがない。

 

「万年単位で生きるおめぇが言える台詞じゃねぇだろうがぁよォォ!!!」

「素直にキッツいと思ったんだからしょうがない。それに私は私で弁えてる、というか私はまだ地球人換算で精々アラサーだし」

「(ウルトラマンって今アラサーなのか……)」

 

寸劇じみた事が目の前で行われている事に困惑しつつもウルトラマンの事が僅かながら知れて嬉しいと思っている焦凍の隣で出久はマグナさんってやっぱりどこか天然っぽいよなぁ……と思うのであった。そしてアウローラは肩で息をすると髪を整えるような仕草をしてから声も整えた。

 

「単純だよ。僕の目的は君にまた巡り合う為さ、何せ―――その為だけに今僕は生きているんだから♡」

「うわキツ」

「二回も言うなぁぁぁあ!!!はぁはぁはぁ……流石はマグナだよ、まさか此処まで僕との親和性を引き出すなんて……!!」

 

と咳払いをして改めて……と言わんばかりに話を始める。

 

「僕の目的、それはたった一つ……全ては君の為さ……今の僕にとっては君が世界の中心だからねっ……♡」

「唯一つだけ言っておこう、これ以上お前に喋らせるつもりはない。出久君と焦凍君の教育に悪い」

 

目的が自分であると告げられても何も変わる事などは無い、結局の所結論は変わらない。アウローラは自分の宿敵であり長年の決着を着けるべき相手であるという事に直結する。そしてそれは―――共に居るアサリナの心の安らぎの為でもある。戦う意志を見せ付ける中でニタァ……と粘着質な笑みを浮かべると顔の半分を隠すように手を上げる。

 

「そう、何処まで行って君の心にはアサリナが居る。そう彼女がいるんだよね、それはつまり―――」

 

 

AURORA ACCESS GRANTED

 

 

その手にはゼットライザーが握られていた。だがそれは本来の物とは異なり赤と黒が基調とされており、それを見たマグナはダークリングを連想した。名づけるならばダークライザーというべきものがそこにあった。

 

「あれは緑谷が持ってた……!!」

「焦凍君今直ぐ引くんだ、奴は巨大化するぞ!!出久君行こう!!」

「はいっ!!!」

 

マグナの素早い指示に焦凍は素直に従った、ダークライザーを出現させた瞬間に周囲の空間が一気に変貌していってしまった。アウローラ自身が重力場の中心となったような異様な空間となったような感覚だった。そこから逃れるために焦凍は撤退する。あれは確実に自分では手に負えないと確信したのだろう、出久に声援を送りつつ引き、マグナは出久と一体化し即座にヒーローズゲートを潜った。

 

IZUKU ACCESS GRANTED

 

「平和を守る、勇士の闘志!!マックスさん!ネオスさん!ゼノンさん!」

 

〔MAX〕〔NEOS〕〔XENON〕

 

『さあ行くぞ出久君、そして呼べ、私の名を!!ウルトラマンマグナァ!!』

「ウルトラマンッッッ……マグナァァァッッッ!!!!!」

 

―――デュァッ!! ヘアァッ!! ジャッ!!

 

ULTRAMAN MAGNA LAMBDA SPIRIT(ウルトラマンマグナ ラムダスピリッツ)

 

 

「さあ楽しもうよマグナ、僕と君の円舞曲だパーティだレッツスタートださあ青春の再会だぁ!!」

 

 

〔MAGA-OROCHI〕〔VICTLUGIEL〕〔THE-ONE〕

 

「ァァァッ楽しもう楽しもう―――!!」

 

RUIN VOID

 

 

「早くしろ、緑谷も脱出してる筈だ!!」

「待て焦凍先行するな!!」

 

焦凍に先導される形で工場から飛び出すトップヒーロー達、アウローラが巨大化の兆候を見せた為に大急ぎで撤退してきたという事にしてオールマイト達を引っ張って廃工場から脱出した―――直後にそれは現れた。まるで龍のような姿をしつつも何処か機械的な部分が目立つ、胸部には一門の砲門のような物が見えている。紫色の身体から伸びる巨大な翼は高空さえも我が物にせんとする言わんばかり。

 

「あれが怪獣……何てデカさ……!!」

「だがなんだこの異様なまでの威圧感は……!?」

「神野に現れたあれと同等かそれ以上……!!」

 

唯の怪獣などではない、それは一つの巨大な基地を怪獣が取り込んでしまったかのような巨大な存在にトップヒーローすら飲まれかけていた。だがそれと戦う為に光の巨人も降臨する。大地を揺るがすように着地しながら戦闘態勢を取るウルトラマンマグナ、それを見た時、先程までのヒーローの姿は無くなり直ぐに行動を映した。

 

『アーマードダークネスの段階でもう何が来ても驚かない自信があったが……あれはビクトルギエルか!?馬鹿かお前ばっかじゃねぇのまたはアホかぁ!?なんてメダルを持っているんだ!!?出久君、最初から加減は一切無しだ!!全力で潰しに行くぞ!!!』

「はいっ!!僕でも分かる位の異常な闇のパワー……!!最初からウルトラ・フォー・オール・フルカウルで行きます!!」

 

『ハハハハハハッ!!!不安定なメダル何ざにはもう頼らないさ、僕にはもう最高の力が手に入ったんだからねぇ!!!さあご照覧下さい我が力を、虚無を齎す破滅を、ルインヴォイドの力をさぁ―――っ!!!』




という訳でマガオロチ、ビクトルギエル、ザ・ワンのフュージョン形態、ルインヴォイドのエントリーだ!!
見た目的にはメインはマガオロチ、そこにビクトルギエルの要素を足して行って最後にザ・ワンの翼を足した感じ。バイザー頭部っていいよね!!

うん、言いたい事は分かる、馬鹿だって言いたいでしょ。私だってそう思う。だが待ってくれ、ちゃんとした経緯があるんだ。

マガオロチのメダル再利用したいな→それにマッチして強い奴って何が居る→あっそう言えばジードでルギエルのカプセルあったな→だったらビクトルギエルとかもいいかも!!→後和解不可能なスペースビーストも足そう→じゃあザ・ワンにしよう→結果このありさま。

だってアウローラと和解できるなんてしないだもん!!だったらスペビしかないじゃん!!
あと一番時間かかったのは名前、誰かネーミングセンスを私にくれマジで!!(命名まで1時間要してます。)


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深淵の真実。

「ちょっとちょっとなんですかこの馬鹿みたいな超高エネルギーの塊の怪獣は!!?ええいっレギオノイドの発進準備急いでください、それと周囲20キロ圏内に避難命令を出すようにお願いしてください!!」

「20キロって正気か発目ちゃん!?そんな人数直ぐに避難させるなんて無理だぞ!!?」

「無理だからってやるしかないんですよその位分かるでしょ!!?」

 

アートデッセイ号のブリッジにて周囲警戒などを行い続けていた発目とブリッジクルーは突如出現したとんでもない怪獣に驚愕していた、大きさだけで言えばグランドキングを上回る程の大怪獣の出現に実戦経験も少なく今回がテスト航行として経験の蓄積の為に搭乗していたクルーは慌てまくっていた。正式な艦長も居らずそれを担う筈だったトップヒーローは現場で直接避難誘導をしている―――故に指揮を執っていたのは発目だった。

 

「あれは以前神野に出現した奴に匹敵するレベルの奴だと考えてください!!それに避難は出来なくてもあれから遠ざけないと多大な被害が出ます!!」

「だからと言って半径20キロなんて規模が多すぎるしそんな広範囲に避難指示の必要は……それに私達はまだ実戦の経験だって……!!」

 

プロヒーローであったクルーの言葉に発目は如何しようもない苛立ちがこみあげてきた、現状が見えていないのか、あれを視認出来ないのか!?知識云々じゃない、あれを見て感じる事も出来ないなんて……と歯軋りをする。

 

「それが怪獣なんですよ貴方は態々このPLUSに何をしに来ているんですか!!!私達は怪獣と戦う責務があるから此処にいるんですよ、実戦経験がないなんて理由ならない!!戦う気がないなら今直ぐここから出て行って自分の部屋で籠ってなさい!!!」

「なっ!!?」

「この船は私だって設計開発に携わっているから操舵や火器管制の制御も可能です、だから戦う気がないなら邪魔ですから消えてください!!!」

 

此処まで言われたのならばプロヒーローだった者として引っ込む訳には行かないと職務に取り込む。他のクルーもそれに続くが、彼女からすれば自分のような小娘に此処まで言われないとやらないのか……と苛立ちばかりが沸き上がってくる。それを抑えつけながらマグナと対する怪獣のアナライズへと移行する、今自分に出来る事はこの位しかない。何かないかと縋るようにモニターを見つめながらキーを叩く……。

 

「(出久さん……お願いです、無茶だけは……いえ、必ず勝ってください)」

 

 

「ォォッ!!!」

「キュォォガアアアア!!!」

 

ルインヴォイド。破滅の虚無、その名を冠する巨大な怪獣へと向かって行く勇士の魂を携えるマグナ。その手にラムダ・ソウルブレードを握り締めながら恐れる事も無く飛び込んでいく。それに対してルインヴォイドもその巨体には似つかわしくない動きで走り始め受けて立つと言わんばかり、そこへフェイントの飛び蹴りが突き刺さると続けて光弾が放たれるが全く動じない。

 

「キュォォガアアアアァァァ!!!」

 

攻撃に怒りを抱いたかのように鋭利な爪を携える腕を振るって切り裂こうとするのをソウルブレードで受け止める、だがたった一撃でソウルブレードが弾かれてしまいそのまま胸へと命中する。弾かれたソウルブレードが地面に突き刺さるのを見ながらも追撃を防御するがどんどん迫ってくるルインヴォイドに押し込まれ始める。

 

『何てっパワー……フルカウルを発動させてるのに……!!』

『戦友の力を借りているのに、これとはっ……!!流石にビクトルギエルの力は偉大だなぁ!!不味いっチェエエエストォォオオオ!!!!』

 

マグナは胸の砲門に光が灯ったのを見ると咄嗟に身を屈ませながらも真下からのアッパーを砲塔へと命中させた、流石にその一撃は利くのか僅かに後退りする。それに合わせて自分も引くと隣にゼットが舞い降りてきた。

 

『師匠助太刀します!!』

『ああ是非頼む!!こいつは本気で戦うしか止められない!!』

「気を付けてくださいハルキさん、こいつマジでとんでもないです!!」

「それ程の相手って事っすか!!」

 

それを聞くとハルキは即座に姿を変える為にメダルを手に取った。

 

「真っ赤に燃える勇気の力!!マン兄さん!エース兄さん!タロウ兄さん!」

 

〔ULTRAMAN〕〔ACE〕〔TARO〕

 

『ご唱和ください我の名を!!ウルトラマンゼット!!』

「ウルトラマンゼェエエエエエエエット!!!!」

 

―――ヘェァッ!! トワァッ!! タァァッ!!

 

ULTRAMAN Z BETA SMASH(ウルトラマンゼット ベータスマッシュ)

 

 

開戦だと言わんばかりと光の名から現れたゼットの姿は今までにない程にパワフルだった。筋骨隆々とした身体をしたそれは覆面をしたレスラーのようだった、それもその筈、今借りている力の全ては伝説のウルトラ六兄弟の物。その名も―――

 

「ウルトラマァンゼェーット!!ベータスマァッシュッ!!!!!」

 

ドスの利いた声と共に重々しいドロップキックのスワローキックが炸裂する、ウルトラマンゼット・ベータスマッシュ。その一撃はルインヴォイドの胸部へと直撃しなんと胸部の砲門を発射口を拉げさせるほどのパワーを見せつける。

 

「ダァダァァアアア!!!」

「キュガアアアオアアアア!!」

「ディアアアア!!」

 

弟子に負けていられるか!!と言わんばかりに今度はマグナがスワロースマッシュを叩きこんだ。ウルトラ・フォー・オール・フルカウルだけではない、戦友であるマックスの巨大化能力を応用する事で四肢を大きくしてパワーを増強している。だがそれでもルインヴォイドはぴんぴんしている。

 

『ハッハァッ!!今度はプロレスでもしようってのかい、生憎マグナ以外とのプロレスはしない主義でねぇ!!』

 

と拉げていた筈の砲門に光が灯る、破損部位が即座に修復されていきそこから溢れた光がゼットに向けて放射される。不気味なほどに青白い光と禍々しい赤い光の混じったそれがゼットを貫かんと迫るが、ゼットはそれから逃げずにカラータイマーの前で腕を構え気合を入れると一気に両腕を広げた。

 

『「ベータクレセントスラッシュ!!!」』

 

エースのバーチカルギロチンのような三日月状のカッター光線が発射され、ヴォイド・カノンと激突していく。荒波を掛け分けて行くかのように迫る光線だが流石にパワーが違う過ぎてしまっているのか徐々に押され始めて行く。だが其処へ―――

 

「デェヤァァァァァ!!!!!」

 

超光速回転しながら突撃するマグナが迫った。それはベータクレセントスラッシュを押し込んでいき、ヴォイド・カノンを両断しながら一気に到達し砲塔を真っ二つに両断しながら大爆発を引き起こした。

 

『アハハハッアハッハハハハハハッッッ!!流石だよマグナァ流石は僕の愛しい人だよぉ……さあもっと、もっと僕を傷付けるがいい、それが僕の糧となる!!』

 

砲塔が完全に潰されたにもかかわらずアウローラには焦りの色などは一切無かった、寧ろマグナに攻撃されている事を心から歓喜している。余りにも異常すぎる、本当に何の目的があるのか分からなくなってくる。

 

『アウローラ、お前は……本当に何がしたい!!』

『まだ分からないのかいぃ?悲しいなぁ、悲しいねぇ……こんなにも君の事を僕は思い続けているんだよ、そうこの僕がそう思ってるよ。本当に凄いよね女って奴はさぁっ……だってさ、君への想いは留まる事は知らずにこの僕を侵食しちゃったんだからさァ!!でもこれはこれで素晴らしい……あの究極生命体に頭を下げた甲斐があったよぉん♪』

 

その言葉に思わずマグナとゼットは動きを止めてしまった。本当に何が言いたい、自分への想いが自らを蝕んだというのか。全く訳が分からないいや、ゼットだけはそれを理解していた、そして思わず声を上げてしまった。

 

『きゅっ究極生命体って……まさか、まさか……!?』

『ゼット君如何した!?』

『し、師匠俺知ってるです!!究極生命体、まさかあのっ……!!』

『おやっ知っているのか、フフッお察しの通りそれだよ♪』

 

突如としてアウローラの声色が変貌した。それは若い女の声……歓喜に染まり悦に浸っている女の声に思わずマグナは戦慄した。

 

『まさか、まさかこの声は……!!?!』

「えっええええっっ!!?ど、如何なってるんですかこれ!!?」

「出久君先輩にマグナさん如何したんですか!!?この声知ってるですか!!?」

『師匠如何したんで御座いますかぁ!?』

 

マグナと出久は理解した、いやしたくはなかったのだだこの声が分からない訳がなかった。だがなんでこの声がするのか、訳が分からない。

 

―――な、何でどうなってるの!!?えええっ!!?

『まさか、まさかそんなっいや……考えられる、としたらもうそれしか……!!』

 

内からも溢れる驚愕の声、それはアサリナの物だった。彼女としても想定外する物だった、そしてマグナは真実に到達してしまった。だがそれはガリガリとマグナの正気を削っていく程に悍ましい事だった。

 

『アハハハハッ漸く分かったんだね、これで僕と君は通じ合えたんだね♡ぁぁぁっこんなに嬉しい事はない、後は君を手に入れるだけだ……ねぇっマグナ♡』

『き、貴様っ……その身体を、その声を、どうやって手に入れた……!!!!』

『フフッアハッ……ア~ハハハハアハハハ!!!君の想っている通りだよ♡』

 

レイブラッド星人の継承者 アウローラ。その肉体は神野区での戦いによって完全に失われた、だが魂まで滅する事が出来なかった。そしてその魂は新たな身体を手にした、だがその肉体は―――マグナの親友、ウルトラウーマンアサリナの……並行同位体。

 

『貴様ァァッッ!!!!!』

『いいよっさあ僕にもっと君の想いをぶつけてよ、僕―――アサリナ・アウローラにさぁぁぁ!!!』




アサリナ・アウローラ。

肉体を失ったアウローラがある究極生命体と交わした取引によって手にした肉体を得た姿……だがその肉体はマグナの親友であり、アウローラ自身が命を奪ったアサリナの並行同位体、即ちパラレルワールドのアサリナのものである。
マグナにとってアサリナは掛け甲斐の無い親友であった上にその命を奪ったのはアウローラ、それが別の世界とはいえアサリナの肉体を乗っ取り敵として現れるという悪質極まる最悪な事態となっている―――が、何やらアウローラとしては計算違いな部分もある模様。


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アウローラ。

究極生命体、それを知っているゼットは思わず背筋が凍るような感覚を味わってしまった。それは自分がゲネガーグを追ってハルキの居る地球へと訪れる前に体験した戦いにてあのゼロを退ける程の力を秘めた存在―――

 

究極生命体

アブソリュートタルタロス

 

全てのゼットンの頂点に君臨する人工生命体、恐魔人ゼットにユリアン王女を襲撃し拉致しようとしたりベリアルやトレギアの並行同位体を伴う。それ所か最終的に光の国を明け渡せと言ってきた程の存在が関わっているなんて考えてもいなかった、しかもその力によって―――マグナの親友であるアサリナの並行同位体がアウローラの肉体として使われているなんて……。

 

『貴様っ……別の宇宙の彼女にまでも……手に掛けたというのか!!!』

 

一体化している出久ですら驚くほどの怒声、感じた事のないような怒りを纏いながら激怒するマグナ。だがそれも当然の筈、自分もアサリナとの関係は知っているし自分が救えなかった命と嘆き続けていた事も知っている、例えそれが自分と共に歩んでいるという事が分かったとしても。

 

『そうさそうだよそうなんだよ!!いやぁあの究極生命体に頼んだ甲斐があったよねぇ……それにねぇマグナ、この身体は喜んでいるんだよ、また君に会えた事ね♡』

『何を、何をほざくっ!!!』

『アハハハハッ健気だよねぇ僕に手を掛けられながらも最後まで君という人への愛を抱き続けていたんだからぁ……そりゃ喜ぶよねぇ歓喜するよねぇ僕の身体もだからこそ疼いてしまうんだよねぇ……』

 

確保されアウローラに精神と魂を蝕まれながらも最後まで想い人(マグナ)への想いを持ち続け、そして彼の事を心配し続けながら彼女の魂と精神は消え去り、後に残った肉体は支配されてしまった。だが残り続けた物はあった―――それがマグナへの愛。魂が消えようと愛は残った、そして身体を支配したアウローラへとそれが流れ込んだ。

 

『僕は唯への嫌がらせだけでアサリナという肉体を選んだだけ、だがこれは予想外だったさ。そして興味深かった、魂すら滅したのに残る愛とは何か、とね』

 

嫌がらせ、ただそれだけの理由。それだけの理由で別の世界のアサリナにすら手を掛けた……ただそれだけの理由で……魂すら、消滅させられた。その言葉が唯々マグナの脳裏を過り続けて行く。

 

〈なんて下衆なんだい……オール・フォー・ワン以上じゃないかい……〉

 

思わず、ウルトラ・フォー・オール内の菜奈が毒づいた。彼女は聞いた、ヴィラン連合の死柄木弔と呼ばれる少年は自分の孫である志村 転弧であると。それを聞いた時も激情に駆られそうになるとともに悔やみもした、そしてそのような事をしたオール・フォー・ワンに対して怒りもしたが……アウローラのそれはそれ以上。

 

アサリナはアウローラによってマグナの目の前で命を奪われた、そして今度こそ仇を取ったと思えば並行世界までその手を伸ばしその身体を奪って敵として現れる。信じられない所業だ。隣に居るアサリナ本人も拳を強く握りしめて怒りを滾らせている、そして―――

 

〈マグナ、構う事なんてない……あいつを今度こそ倒すんだ!!!僕の肉体ごと完璧に!!!〉

 

倒せと叫ぶ、今度こそアウローラを倒せと。幸運な事に奴はマグナが自分を殺した事で助けられずにいた事を悔やみ続けていると思っている。だったら好都合、情け容赦もなく倒せばいいだけの話だと。自分の身体など関係も無い、そう叫ぶ中で一人が問いかける。

 

〈仮にもあれは君自身だ、君はマグナさんに殺せと言っている。何故そんな事を言える〉

 

それはまるで円卓のように並べられた席、そこに腰掛けるのはワン・フォー・オールの歴代継承者たち。オール・フォー・ワンを倒す使命を受け継ぎ、平和を願い戦い続けてきた者達。その一番奥の席に腰掛ける者、痩せており両目が髪によって隠されている男がそれを問う。

 

〈もうあれは僕じゃないよ、僕という残滓を勝手に取り込んだ化物でしかない。犠牲になった僕だって自分にマグナが倒される事なんて絶対に望まない筈、僕だって後悔する―――それに〉

〈それに?〉

〈僕たちはウルトラマンだ。平和を願う者達の為に、戦いたくても戦えない者達の為に―――正義を守り、試練に立ち向かうのが僕達だ〉

『ああっそうだアサリナ……私は、君を殺す―――私の為だけではない、君の為でもあり平和を望む人々の為に!!!』

 

強く叫びながら戦闘態勢を取る彼に継承者達も思わず笑みを作ったり熱い声を漏らしたりしてしまう、此処にいる者は全員マグナに感謝し憧憬を抱いている。彼らにとってウルトラマンという存在は紛れもなく憧れを抱いたヒーローそのものだからだ。そしてその中で一人―――与一は静かに笑みを作りながら胸に手を当てた。

 

 

 

 

『フフフッアハハハハッ!!!殺す、殺すかそうかそうかならばやってみると良いさ―――こっちも全開だ、もう加減なんてしない。この地球を壊すつもりで行かせて貰うよぉ!!!』

「キュガアアアンヴァァァァァアアア!!!!」

 

その言葉の直後、ルインヴォイドから更にエネルギーが溢れ出した。翼の付け根からはガルベロスの頭部のような物が飛び出し、スペースビーストとしての面が更に強くなっていく中でバイザー状の奥に更に赤い瞳が灯った。

 

『師匠なんか益々やばくなってますよ!!それにあいつの身体はっ師匠の……!!』

『分かっている、それにアサリナは常に私と共に居る。彼女こそ私の敵になる事は望まんよ』

『師匠……分かりましたもう何も言いません!!』

 

ゼットも言葉を収め、改めて戦闘態勢を取る。敵は益々強大と化していくルインヴォイド、此処からは更に全力で戦わなければいけなくなってくる。ならば―――取って置きの姿で戦おうと決意する。

 

『ハルキ!!実は今持ってるメダルでもう一つ、別の姿に成れるぞ!!』

「そ、そうなんですか!?それならなんで言ってくれなかったんですか!?」

『ごめんなさい素直に忘却の彼方に置いておりました!!』

「ええっ~……」

『と、兎も角それで戦うぞ!!』

「押忍!!」

 

『出久君、済まない恥ずかしい所を見せた』

「いえ気にしないでください。それにマグナさんも人間らしいところあるじゃないですか」

『フッ言ってくれるな、ウルトラ・フォー・オールのアサリナも倒せと言っていた。故に全力で奴を倒すぞ!!』

「はいっ!!ウルトラ・フォー・オール、全開です!!」

 

 

「ゾフィー兄さん!メビウス兄さん!ティガ先輩!」

 

〔ZOFFY〕〔MEBIUS〕〔TIGA〕

 

『ご唱和ください我の名を!!ウルトラマンゼット!!』

「ウルトラマンゼェエエエエエエエット!!!!」

 

―――シェアッ!!デアァッ!!ハッ!!

 

ULTRAMAN Z SIGMA BRESTAR(ウルトラマンゼット シグマブレスター)

 

 

「願うは平和!!!」

「悠久の想い!!!」

 

『「マグナァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!」』




〈嗚呼っ……本当にその通りでした……そして今日まで有難う御座いました。これからは如何か―――あの人の力に―――〉


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紡がれた絆、抱かれた想い。

ULTRAMAN Z SIGMA BRESTAR(ウルトラマンゼット シグマブレスター)

 

「シュェァッ!!」

 

「あのウルトラマンの姿まるで―――」

 

ゼットの新たな姿、それは宇宙警備隊隊長たるゾフィーと光の国の筆頭教官たるタロウの愛弟子のメビウス、そして超古代の戦士たるティガの力を融合させた姿。その姿に思わず焦凍は避難誘導の手を止めてしまい魅入ってしまった。右腕が青く、左腕が赤いその姿は今自分が纏っているウルトラスーツそして自らを想起させるに十分だった。

 

「あれが―――ウルトラマンマグナ……」

 

それと同時に光の柱の中から出現するマグナ・ウルトラ・フォー・オールフォーム。二人のウルトラマンは頷き合うと構えを取りながら大怪獣へと向き直る、それを見た焦凍はある事を決意しながら今自分の出来る事を行い始める。

 

 

「キュガアアアオアアアアンヴアアアアアアア!!!!」

 

ルインヴォイド、怨念の籠った雄叫びと共に胸部から生々しく血肉が飛び散りながらそこから顔が飛び出した。それはマガオロチとザ・ワン、その二つを混ぜ合わせたようなグロテスクな物、そしてそこから無数の雷と炎が入り混じった光が溢れ出してくる。しかもその攻撃範囲は異常の一言、ウルトラマンどころかそこら一帯を吹き飛ばさんとするような量だが、マグナは前に出ながら両腕に力を集める。

 

「ヘァォ!!ダァァ!!」

 

光の鞭が乱舞のように舞う。マガ炎雷を一つも残す事無く的確に叩き潰していく、それに更に量を増やしていくルインヴォイド。僅かに押され始めるがマグナと出久は負けはしない。そんな二人を応援するように二人の背後に継承者の一人―――万縄 大悟郎が激励を送る。

 

〈こっからが正念場だぜ、さあお二人さんMAXパワーでぶっ飛ばそうぜ!!〉

「ウルトラ・フォー・オール……黒鞭ィ!!!」

LEGIONIS・LUMEN(レギオニス・ルーメン)!!!』

 

三人の声が一つになると光の鞭の量と速度が格段に上がっていく、そこからまるで踊るようなターンを組み込みながら全ての攻撃を打ち消したその一瞬を見逃さずに鞭を一つにしてルインヴォイドの肉体へと伸ばす、光の速度で巻き付いた鞭がアウローラを拘束する。

 

「シェエァ!!」

 

そこへ氷上を滑るかのような超スピードで駆け抜けながら豪炎を纏った拳が突き刺さる、胸部の顔を焼く直後に中段回し蹴りがそこへ炸裂する。が、それを受けたルインヴォイドは途轍もない絶叫を上げながら苦しみもが居た。

 

『しゃあ!!ウルトラ利いてるぞ!!』

「超極高温の突きに超極低温の蹴りだ!!利かない訳がない!!」

 

急激に高温になった所に今度は絶対零度の一撃が命中する、それによって掛かる負荷は途轍もない。シグマブレスターは上半身で超パワーと炎、下半身では超スピードと氷を纏うという二面性を持つ。ゾフィーの氷とメビウスの炎、そしてそれらを纏める鍵として姿を変えるティガの力が加わっている。更に攻撃を仕掛けるが―――

 

「キュウゥッゥウガアアアアアア!!!」

「ジュワッ!?ドゥァッ!!」

 

急速回転を始めながら尻尾をゼットへと叩きつけながら一気に光の鞭を巻き取る、マグナはそれを離すが直後に鞭が破壊されるとフリーになった身で攻め上がっていく。

 

「デェアァッ…!!」

「ウウウッヴヴアアアアアア!!!」

 

『小僧如きがぁ……僕とマグナの邪魔をするなぁああああ!!!』

 

「デュォ!!」

 

倒れこみ追撃を仕掛けようとするそこへマグナが飛び込み腕を抑え込む、その間も絶えず膝蹴りや手刀打ちなどで攻撃をし続け相手のペースを乱し続けて行く。そして何度も何度も打ち込んだ膝蹴り、それを利用した必殺の一撃を叩きこむ。そして再び、三人が叫ぶ。

 

GRAVIOL ARMA(グラヴィオール・アルマ)!!!』

 

蓄積されていた衝撃と運動エネルギーを共に膝蹴りに乗せて叩き込む、内部へと貫通浸透する一撃はルインヴォイドを後退りさせる程のパワーとなっていた。

 

『相手のペースを飲み込め!!そう教えただろうゼット、お前なら出来る。今までいた全てを今に込めろ、圧倒しろ!!』

『ハイッ!!』

 

師の言葉を受けて両腕をぶつけ合う、燃え上がっていく腕を構えながら突撃していくゼット。それに合わせるように背後へと回ってドロップキックを決めてパスをする師匠、それを受けた弟子は渾身の力を込めてルインヴォイドの首元へとラリアットを決める。

 

『ぁぁ、ぁぁぁぁっ!!!師匠然とするマグナ、あああああああッ!!!』

 

何が刺激になるのか分かったもんではない、全身から光を放出するようにしながら自分達をホーミングしてくるレーザーが放たれ此方へと向かってくる。それを最後、光鞭で叩き落としながら震脚を行いながら腰を落とす。

 

sanctus ros(サンクトゥス・ロス)……!!!』

 

胸の宝玉から光が放出される、それは再度アウローラがホーミングレーザーを放とうとした瞬間に爆ぜると煙幕と化した。邪魔だと言わんばかりにレーザーでそれを吹き飛ばそうとする。だがレーザーは霧を突き抜ける所か霧の中に含まれている星のような煌きに当たるとその軌跡を変えて幾重にも軌跡を描き走りながらルインヴォイドの身体へと突き刺さっていく。

 

『反射、僕の攻撃を……!?そうか僕の愛を返してくれるのか、ァァァなんて素晴らしい……!!でも受け取るのが筋だろう、シャイだねぇ!!!』

 

回転しながら尾を振るい煙幕を払う、が、広がった光景は両腕左右に氷と炎を纏わせながら大きく円を描くようにしながらエネルギーをチャージするゼットの姿。マグナの煙幕は唯の囮にしか過ぎなかった、まだ戦い慣れしていない姿の弟子をアシストする為だけに煙幕を張っていた。そして氷、炎のチャージが極限にまで高まるとそれを一気に放出する。

 

『『ゼスティウムレイッ!!バーストォォォオオオ!!!』』

 

絶対熱と絶対零度の同時攻撃、それが放たれルインヴォイドへと直撃する。その威力は凄まじいがそれ以上に恐ろしい事が肉体に起き始めていたのである、先程の攻撃による肉体の劣化と負担が途轍もないスピードで行われていく。単純な光線の威力にこれはとんでもない、流石はマグナが弟子入りを認めるだけはあると笑いながらも―――胸部から自爆覚悟のヴォイド・カノンを放ちワザと誘爆させる事でその光線を打ち消す。

 

『何て奴だ……ゾフィー兄さんの氷とメビウス兄さんの炎を同時に受けてもまだ動けちゃってる……!!』

『飲まれるなゼット!!この程度で狼狽えるな!!』

 

必殺技が通じない事に焦るゼットにマグナが叱咤する、まだまだ自分達は戦える。ならば戦うだけ、それだけでしかない。

 

『私達が何故戦うかを思い出せ!!その為ならば戦える筈だ、例えどれ程巨大な絶望があろうとも、強大な敵が居ても私達は屈してはいけない!!!』

『そうでした……だって俺達は―――!!』

『そう、私達は―――!!』

『『ウルトラマンだからだ!!!』』

 

それがウルトラマンなんだ、それは今まで自分はウルトラマンで良いのだろうかと疑問を持っていたマグナが見出した本当の答え。何処か自分はウルトラマンではないと否定的で許容しきれていなかった、アサリナの事もあり自分などがその重責が担えるのかと迷いがあったのだ。だが、今はもう迷わない。

 

『私はウルトラマン―――そう、ウルトラマンマグナだっ!!!今日こそアウローラ、貴様を葬り去る!!!』

 

絶対的な物を見つけた、もう決してブレない物を見つけた。その時だった―――胸の内から何かが溢れ出そうとしていた……感じた事も無い強い力、何処か深く暖かく優しい力が……。

 

「っ!?ゼ、ゼットさんメダルが!!」

『ウルトラメダルが!?』

 

同時にゼットでも異変が起きていた。ハルキが持つウルトラメダルを携帯する為のホルダー、そこから一つの光が飛び出していく。それは閃光と成りながらマグナのカラータイマーへと飛び込んでいくと出久の元へと到達した。

 

「こ、これって……」

『ゼットが持っていたメダル……?だが何故此処に、私達の元へ……』

 

―――それはずっと、ワン・フォー・オールの中に、いやその前からずっと一緒にいた力。

 

突然すぎる出来事に困惑していた時だ、ウルトラ・フォー・オールの中へと視界が飛ぶ。そこに居たのは継承者とアサリナ。一番奥の席に腰掛ける彼の傍に立つアサリナは静かに頷いた。

 

〈兄を止める為の希望として、個性の中に居続けた光。嵐のような絶望の中でも希望を見出し、諦めず立ち向かう者の中で生き続けてきた力です。だがもう違う、これは貴方の物だ……〉

 

そう言いながら胸に手を当てながら静かに、心臓からそれを取り出すかのようにゆっくりと差し出した。小さいがまるで太陽のような光を放つ光球、その存在感、圧倒的なまでの力の奔流に出久とマグナは驚愕した。それはゆっくりと浮遊しながら向かってきた。それはアサリナからも溢れ出し、もう一つの光を生み出しながら出久とマグナの手の中に納まりながら、出久の手にあったメダルと一体化していく。そして二人の手の中に新たなメダルが誕生した。

 

『そっか……消えて、無かったんだ……愛が残ってたように、決して消えてなかったんだ……』

〈ええ、愛は強しって奴です、そしてそれは奇跡をも起こす……これは絆、ワン・フォー・オールが紡ぎ続けた希望の絆。そしてウルトラマンの魂が一つとなったウルトラ・フォー・オールが結集した想いの形が起こした奇跡―――平和の為に、使ってください。〉

 

光が収まった時、そこにあったメダルを見て二人は顔を見合わせながらも前を見る。そこでは皆が笑顔で頷いた、今代の継承者たる自分達にそれを託す。真の平和へと駆けだし掴む為の―――力。それを継承した二人は強く頷き合いながらも叫んだ。

 

『平和を願う、悠久の想い。それを実現する力を今―――此処に!!』

「宇宙に平和を齎す、無限の光!!!」

 

ゼットライザーへとセットされていくメダル、そこには託されたメダルだけではない。本来不安定で使える物ではない筈のベリアルのメダルもそこにあった。だがそれらのメダルは互いに干渉しあうと黄金に輝くライズメダルへと変貌した。組み込まれている願い、想い、絆。そしてそれらを―――読み込む。

 

〔BELIAL ATROCIOUS〕〔ASARINA〕〔NOAH〕

 

 

『平和を望む者、それを乱す者。音にも聞け、刮目せよ!!』

「魂を穢し、命を愚弄する悪を滅する光の姿を!!!」

『「マグナァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!」』

 

―――ヌ"ア"ァ"ッ!! ティァッ!! シュワォ!!

 

ULTRAMAN MAGNA OMEGA SUPREME(ウルトラマンマグナ オメガスプリーム)

 

「シュォォォォッディァァァァァッ!!!!」




んもうね、やり切ったよ……もう真っ白だ……満足だ……いやまだ続くけどなんかもう、私の中にあったやりたかったシーンが、出来た……。


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ウルトラマンマグナ オメガスプリーム。

空を、いや世界を包み込むような輝きが溢れ出した。その輝きは地球全土で確認出来た、一瞬にして空を駆け巡っていく黄金の煌き。誰もがそれに目を奪われ、思わず祈りを捧げる程に神々しい光は満ち溢れた世界へと新たな姿となって生まれた。

 

『しっ師匠……!?』

「マグナっ先生…!?」

 

光の中から、いや光そのものが新しい命として顕現したと言った方が正しい。露わとなっていく光の巨人、その姿は輝きに満ち溢れていた。

 

太陽の光を反射しながらも自らも光を放っている真紅のラインが走る銀色の身体、明るい灰色のアーマーが身体を保護するように張り巡らされながらもその中心部、胸部には八つの宝玉が絶えず輝きを携え続けていた。その宝玉の更なる中央、真紅に輝くコア。だがそれ以上に目を引くのは人間で言う所の肩甲辺りから突き出し天へと伸びる二つの角にも見える突起。それを携えながら顕現した巨人―――その名も

 

ULTRAMAN MAGNA OMEGA SUPREME

 

『その力はっ―――馬鹿な、あり得ない……いや君ならばあり得てしまうのだろうか!!?』

 

姿を見せたマグナに思わず言葉を失い、否定を行いながらも必死に肯定をしようと努力を重ねようとするアウローラ。身体を構成するザ・ワン、それが酷く騒ぎ立てている、悲鳴と言ってもいい程のそれを無視しながらもアウローラは狂ったような言葉を続けてしまう。その中で自分の意見と自分が取り込んだ想いが交錯している。それに反応せずに並び立つゼットに静かに問いかける。

 

『ゼット、戦えるな』

『―――当然です、まだまだ俺とハルキは行けちゃいますよぉ!!』

「ええっまだまだこれからが全開です!!」

 

その言葉に静かに頷いた時だった、ルインヴォイドは今まで聞いた事も無いような絶叫を掻き立てた。

 

『アハハハはっそうか、そうだったんだね!ノア、ノアか!!あの伝説の超人がよもや地球人の個性と共にあり続けていたなんてね、そして君はそれに選ばれていたのか!!こいつは傑作だよ流石は僕が愛する人だ!!故に憎たらしい、ノアァァッ貴様などがマグナを選ぶだと世迷言を抜かすノォォオヴァァァアアアア!!!』

「ンノッォオヴァアアアアアアアアア!!!」

 

ノア、ネクサスと因縁があるザ・ワンの力がある故か、今まで以上に憎悪と憤怒を纏いながら一気に迫りくる。ゼットが構える中で一直線にマグナへと向かいながらその強靭な爪を突き立てようとする。それに慌てる事も無く冷静に防御を行う、続けざまに行われて続ける攻撃に一切怯む事も無い。そして胸部からマガ炎雷を放たれようとした時だった。

 

「―――シュアッ!!」

「ゴガヴァアアアア!!?」

 

唯、一歩踏み出しながら拳を振るった。唯のなんでもないパンチの一撃である筈なのにそれを受けたルインヴォイドの身体からは閃光と共に爆炎が舞う。だがそれでも僅かに怯むのみ、今度こそとマガ炎雷が迸りマグナの身体へと突き刺さっていく。辺り一面を飲み込むほどの大爆発が巻き起こり思わずゼットもその場に倒れ伏してしまう程のとんでもない威力。

 

『師匠!!』

「出久君先輩!!」

 

思わず声を上げてしまう二人、爆炎で見えなくなったマグナ。それに思わず不安を吐露してしまった、だがそれを打ち破る足音が木霊する。ゆっくりと大地を踏みしめながら進むマグナ、その姿にお前が師の心配をするには早過ぎると言われたような気分になった。歩み続けるマグナへと突撃していくルインヴォイド、押し留めるかのような蹴りが炸裂する。

 

「ンヴァアアアアア!!!」

「ンッ……ォォォォッ……!!」

 

尾が振るわれる、ビルよりも遥かに太いそれを腕一本で防ぎ切るとそのまま掴むとその巨体を持ち上げて投げ飛ばしてしまう。

 

『す、すげぇっ……』

「これがマグナ先生と出久君先輩の新しい力……俺達も、もっと行きましょうゼットさん!!」

『ああっ行くぞハルキィ!!』

 

圧倒的な力、ルインヴォイドの全てを飲み込み自らの戦いを展開する姿を見て奮起すると立ち上がろうとするところへ疾走、そしてそのままその顔面へと飛び膝蹴りを浴びせ掛ける。ダメージを受けつつもその衝撃を利用しながら立ちあがると反撃の一閃が振るわれるが、そこへ爆炎の拳と氷結の拳で防御する。

 

『小僧ォッ!!!僕とマグナの舞台から好い加減に降りろぉ!!僕と彼の愛に、お前という存在は不要だぁぁぁ!!!』

「何が先生への愛だ!!それはアサリナさんの愛であってお前の物なんかじゃない!!」

『その通りで御座いますよぉ!!お前は愛を喰らってそれを自分の物だって悦に浸ってるだけだ!!』

 

「シュェッダァァァァ!!!!」

 

アウローラの言葉を否定しながら零距離からゼスティウムレイバーストを発射する、だがそれだけではなく氷にM87光線を、炎にメビュームシュートを上乗せて放つ。その一撃はルインヴォイドへと突き刺さっていき、それに抑えれて後退ってしまう程の途轍もない威力を見せ付けた。膝を突くように体勢を崩す中、懐へとマグナが入り込んだ。

 

『マ、マグナァッ……』

 

苦しみもがきながらも目の前に愛しい人が来てくれたと喜びの声を上げる中で両腕をクロスさせる、そこで生み出した光の刃で胸部砲塔を切り落としながら右腕で左腕を擦る様にスライドさせると左腕が一気に発火しそれをそのまま砲塔の奥へと捩じり込む。それはゼットンが放つ最大火球と同じ1兆度のエネルギーが纏っていた。大爆発と共に大きく吹き飛びながら倒れこむアウローラを見つめながら、ゼットが隣に並び立った。

 

『ゼット、これで終わりだ。最高の一撃であれを葬る、出来るな』

『ハイッ!!エース兄さんに教わった最高の技で行きますのでエネルギーをお借りしても良いでしょうか!?』

『いいだろう』

 

その言葉と共にゼットはまるで気合を入れるような声を上げながら拳を握り込んだ、それと同時にゼットの頭部のゼットスラッガーにあった塞がれていた筈の穴、ウルトラホールが解放されていった。それを見てマグナはどんな事をしたいのか察しながら胸のエナジーコアからエネルギーを放出しながらウルトラホールへと照射する。

 

『これが師匠のエネルギー……ハルキッこれを全開にしてぶつけるぞ!!』

「押忍!!!」

 

『長き因縁、宿命、運命―――それに今日、終止符を放つ!!』

「アウローラ、これが僕達―――僕とマグナさんの光だ!!」

 

溢れ出していく虹色のエネルギー、それらを一つへと集約させていく。それこそゼットが自らの名付け親であるウルトラマンエースから受け取った特別な技、エースより託された想いを込めつつも受け取ったエネルギーをウルトラホールにて極限にまで集約し虹色の光球へと変貌させる。それこそがエースからの送り物、そしてゼットが放つ最強の技―――

 

SP ACE Z(スペェッエースッッゼット)!!!!』

 

 

「フッ……ハァッ!!」

 

エナジーコアの前で腕を重ねてからゆっくりと広げていく。エネルギーを纏ったその軌跡はまるでVサインを描いているかのようだった。同時にエネルギーを開放しながらも両腕に収束させていく。それらを一気に頭を上へと掲げながら銀河のような光の渦を作り出していく。解放されたエネルギーは一つの宇宙のように輝きながら両腕へと纏われ、それをぶつけようにして放たれる光線―――

 

『「ウルティメイト・オーバーレイ!!!」』

 

 

二人のウルトラマンの最高の技が同時に放たれていく。それは一直線にルインヴォイドへと向かって行く、それを喰らって溜まるかとヴォイド・カノンを最大出力でマガ炎雷とと共にそれを放つ。だが―――ほんの一瞬も対抗する事も出来ずに一気に押し切られる。

 

『そんなっ何で何で何で……!?駄目だ僕はまだこの愛に応えて貰ってないんだ何でこの愛は本当の物なのに、どうしてどうしてェェェェェ……やだよっマグナァァァァァァ!!!!』

 

何も分からず、何も理解せぬまま魂を穢し命を弄んだ命は閃光の中へと飲み込まれていった。それは奪い取った肉体すら瞬時に消滅させる程の絶対的な力に溢れていた。だが肉体の主はそれを望んでいた事だろう、それが成された事によって漸く安らかに眠る事が出来るのだろう、全知全能を自称したレイブラッド星人の継承者、アウローラは―――手にした愛の意味すら理解出来ないまま消滅していった。

 

『アサリナ―――終わったよ』

 

穏やかな言葉に頷いた親友の姿を見て、マグナは漸く―――胸に残り続けていた物が取れた事を実感した。




ウルトラマンマグナ オメガスプリーム・フォーム。

ベリアル、アサリナ、ノア、この三人のメダルを使う事で至ったマグナの新たな姿。
ウルトラ・フォー・オールにゼロのウルティメイトイージスが上半身、アトロシアスが下半身に、更にノアイージスが融合したような見た目となっている。

アサリナ(ウルトラ・フォー・オール)が土台となっている為か、男性的な力強さを感じさせる骨格と女性的な美しいボディラインはそのままだが、ノアの神々しさとアトロシアス(ベリアル)の鋭さが合わさり別次元の力を感じさせる。


語彙力がなくてすいません、でも私の中にあるオメガスプリームはそんなデザイン。ウルティメイトイージスの翼部分がノアイージスになっててアトロシアスの恐ろしくもスタイリッシュなカッコよさ、そしてウルトラ・フォー・オールの美しさを併せたみたいな……欲張りだな!!誰か書いてくれ(無茶振り&冗談)。


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戦後、激戦、九州にて。

九州にて発生した過去最大とも言える怪獣災害、それは市街地に直接怪獣が出現したというのもあるが怪獣の力の規模がそれほどまでに凄まじかったというのもある。不幸中の幸いとも言うべきなのが現場では別件でチームアップを行っていたオールマイト、エンデヴァー、ホークスが避難誘導を行っていたが故に現場周辺での死傷者は無く、怪我人で収まっていた事そして―――この危機に駆け付けたウルトラマンらの活躍のお陰だろう。本件は今後の怪獣災害における避難誘導マニュアル作成、行政の避難指示発令、避難シェルター建設地の選定などを飛躍的に発展させる事になると思われる。

 

また、テスト航行を行っていた機動母艦型ライドメカ、アートデッセイ・PLUSにて艦長代理として指示を行った発目 明研究員による独断ともとれる半径20キロにも及ぶ広範囲避難勧告は受理されず半径5キロにしか受諾されなかった。これは現社会が怪獣災害についての認識の甘さが招いた結果、出現した怪獣―――レジストコード:ルインヴォイドから観測されたエネルギーを考慮すると発目 明の判断は妥当であった。故に本件は国へ提出し、怪獣災害発生時における避難勧告優先権限の認可を速やかに要請する事とする。

 

現在アートデッセイ・PLUS及びレギオノイド・フェンサーは九州にて怪獣災害被害の復興作業に従事中、本基地への帰還は1週間後を予定とされる。

 

―――PLUS司令官代理作戦参謀 サー・ナイトアイによる報告書より抜粋。

 

 

「済まないねゼット君にハルキ君、突然君達のメダルを取ってしまう形になってしまった」

「いえお気になさらず!!寧ろお力になったなら何よりっす!!」

「はいこれお返ししますね」

 

倒壊したビルなどの瓦礫などをレギオノイド・フェンサーによる片付けも一段落して高台で街を一望しているハルキと出久そして光士(マグナ)、その中で話すのは当然先の戦いの事について。偶発的とはいえ自分達は二人からメダルを一つ奪ってしまった、それは謝らなければならない。そしてそのメダルであるネクサスメダルを返却するがゼットはそれを止めようとする。

 

『でも師匠、ネクサスメダルを俺達に返しても良いんでありましょうか。だってあの力はこのメダルを基に……』

「ああ、確かにそのメダルを元にしてノアのメダルは生まれた。だがその結晶は既に確立されているから問題はない」

 

そう言いながらマグナはその手の中にあるノアのメダルを見せた。そのメダルが持つ圧倒的な存在感とメダルの状態でも分かる尋常ではないエネルギーに思わずゼットは息を呑み、ハルキは声を出して驚いてしまう。ライズメダルと化したゼロ、ジード、ベリアルのメダルよりも圧倒的な力を感じる。

 

『ウルトラマンッノア……お話は聞いた事があるけどまさかその力が、師匠と出久が受け継いだ個性の中にあったなんて……』

「ノアさんは……ウルトラマンの神様ってゼットさんに聞いた事がありますけど……」

「まあ間違ってはいない、かな。神が如き力を持つ伝説の超人、ゼロ君のイージスもノアから授かった物だからね」

「でも、僕よりもずっと前にウルトラマンの方がワン・フォー・オールの中にいたなんて……」

 

出久の言葉は正確ではないだろう。ノアはオール・フォー・ワンの弟、ワン・フォー・オールの初代に絶望的でありながらも決して諦めずに希望を紡ごうとした。その生き様が彼を適能者(デュナミスト)として選んだ、そしてワン・フォー・オールの初代となった後も後継となった者達を次の適能者として選び続けた。そして今代―――マグナと出久の代で明確に自分達に力を貸してくれた。

 

「今度は我々がデュナミスト、何時の間にか凄い物を継いでしまっていたんだね我々は」

「いやもう僕はもうマグナさんと一緒になった時点でそう思ってましたよ、僕の人生本当に凄い事になっちゃってますよ」

「後悔してるかい?」

 

苦笑する出久に悪戯気に尋ねると冗談でしょっと肩を竦められてしまった。

 

「僕は後悔どころか嫌がった事すらなかったですよ。僕はあの日―――マグナさんに会った時に生まれたんです、自分の殻に閉じこもり続けて()に出る事をしなかった僕に前に進む足と力をくれた。だから今の僕がいる、僕にとってウルトラマン(貴方)っていうのはそういう物なんです。僕に命をくれた憧れなんです」

「フッ……臆病だった子が随分と逞しくカッコいい台詞を言うようになったじゃないか。後は女の子扱いさえ覚えれば完璧かな?」

「アウローラをいなすマグナさんみたいにですか?」

「いやあれは女カウントで良いのかい?あれはアサリナの身体があったからで……というかあいつに性別ってあったのかな」

 

そんな会話に思わずハルキとゼットはこの二人の関係は良いなと思ってしまった、自分達は完全な相棒同士だがこの二人は違う。導き手と導かれる者であると同時に相棒、友であり自分でもある。そんな中、ハルキに物資搬入の手伝いの要請が飛んでくる。レギオノイドを使えば通常の重機よりも遥かに速く多く運べる、復興にはもってこいの存在だ。

 

「それじゃあマグナ先生に出久君先輩、俺行ってきます!!俺も先輩として特空機の後輩を作ってみます!!」

「嗚呼っそうしてくれると有難いね」

「お疲れさんです、行ってらっしゃい」

『んじゃ師匠また後で~!!』

 

そう言って去っていくハルキを見送るのだが、その代わりにと言わんばかりにやや息を切らした焦凍がやってきた。そう言えば彼にも話をしなければいけなかったと二人は思い直した。

 

「緑谷探したぞ……それに光士さんも」

「ごめん轟君、こっちも本当に色々あってさ」

「いやそれは分かる、それより……マジなのかあの話」

 

と何処か急かすようにしながらも何処か瞳が輝いている彼の姿に光士は笑みを浮かべながら、周囲に人がいない事を良い事にワザとらしく光の渦を纏うようにしながらその姿をウルトラマンの物へと変貌させて見せる。

 

『改めて自己紹介を……M78星雲・光の国からやって来たウルトラマンマグナ、これからもどうか出久君と仲良くしてくれると嬉しいかな』

「ハ……ハハッそうか緑谷、お前ウルトラマンと一緒だったんだな……そりゃすげぇ訳、だよな……なぁっ色々聞きたい事があるんだが、ああいや先ず何から聞いたらいいんだ……!?ええいっ考えが纏まらねぇ!!」

「大丈夫だよ轟君、マグナさんは逃げたりしないから」

『取り敢えずそうだな……証明代わりに宇宙にでも三人で行ってみる?』

「宇宙!?行けるのか、今直ぐ!?」

「なんか久しぶりに出しましたねそれ!?そうだ京都へ行こうみたいなノリで大気圏突破しようとしないでくださいってば!!」

 

 

 

「まだ手段は幾らでもある、あいつからの置き土産……有効に活用させて貰おう。まずは―――ドクターとのあれを目指す」

 

「―――反応が消えたか……そうか奴め死におったか……トランサー・ド・モンスの研究スピードは落ちてしまうが致し方ない……さて、ならば此奴は此方で有効に活用させて貰おうじゃないか……死柄木弔がもしも、至れるのであればくれてやってもいいのぅ……のぅ―――アウローラの落とし子よ」



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友達の夢。

「っ―――すげぇっ……!!」

「いや轟君、そんなに熱い視線を向けられると少々照れるのだが……」

 

正体を明らかにしていた焦凍、彼への対応を改めてしている出久とマグナだが焦凍の視線は思っていた以上に激しく強い物で困惑してしまっていた。

 

「当たり前ですよ。マグナさん的に言えば青春時代にウルトラ兄弟の方々に会えて手ほどきをしてあげるって言われたみたいなもんなんですから」

「そのウルトラ兄弟ってのがどんなウルトラマンなのか分からねぇけど、ウルトラマンは俺にとって憧れでもある」

「ああうん納得したよ、そりゃ確かにあれだね」

 

出久の言葉で焦凍の視線の暑さの理由を100%理解する。確かに青春時代にそんな事になっていたら確実に熱狂していた事だろう、記憶がその時に既にあったら感動できるかぶっ倒れていただろうという謎の自信まである程だ。だが同時に自分はこの地球においてそんな存在になりつつあることに戸惑いを浮かべずにはいられない。言葉こそ平静だが焦凍の瞳は輝きに満ち溢れている。

 

「サインとかもらってもいいのか……!?」

「良いと思うよ。ナイトアイも貰ってたし」

「そうかぁっ……!!」

 

静かだが希望を込めた言葉に帰ってきたそれに喜ぶ姿に思わず頬をかきながら首を傾げる。彼はこんな感じの子だっただろうか……自分の中の彼はクールだが何処か天然な感じがする少年だったのだが……取り敢えずサインは書いて上げながらも訪ねて来て理由を問う事にした。

 

「当然ウルトラマン云々って事を確かめたかったのもあるけど……緑谷に俺の必殺技の特訓に付き合って貰いてぇ」

「必殺技……?」

「ああ。マグナさんと一緒に戦ってた胸にこう……Zがあったウルトラマンを見て思いついたんだ」

 

それを聞いて二人はある種納得した。彼の使っているスーツは元々絶対熱と絶対零度がコンセプトとなっている、習熟訓練をし続けている焦凍はそろそろ次のステップを踏む為に必殺技へと手を掛けようとしていた所だった。良いタイミングで父から必殺技である嚇灼熱拳のコツを教えて貰ったのでそれを活用しつつ自分だけ(オンリーワン)の究極の一を作り出そうと思っていた。

 

「あのウルトラマン、途中で姿を変えてただろ。まるで俺みたいに氷と炎を使ってた、炎と氷を別々に活かせるようにはなってるけど同時にはなってねぇんだ。だから詰まってた、でもあのウルトラマンが使ってた光線―――あれを見て閃いた」

 

焦凍が如何しても考えてしまっていたのは氷と炎を融合させて扱う事。しかし元々相反すると言っても過言ではないそれらを融合させて扱うなんてあり得ないと言っても良い。それはウルトラスーツの力をもってしても不可能だった。だがそんな時に見たゼットのシグマブレスターの姿を見て思った、無理に融合させる必要などは無いという答えに。

 

「欲張りすぎちまった、熱い氷とか冷たい炎を俺は作ろうとしてた。だけどそれは無理だろ、だからもっとシンプルに物事を考える事にして一つの方向性に特化させて融合じゃなくて併せる事にした」

「excellent.君はもう答えに手を掛けているじゃないか」

 

拍手を送りながら称賛する。出来るか分からない物を追い求め続けるのではなく、一度立ち止まって出来る範囲でそれを実現するという方向性に舵を切ったのは英断と言えるだろう。

 

「だけど併せて何をしたいのかがまだ見えない。炎と氷、それを同時にぶつけたら何が出来るのかが……」

「ならそれはじっくり考えていけばいいよ。焦りは禁物だよ、君はまだまだ若いし素質も力もある。焦って自分を壊す事だけはしてはいけない、ゆっくり自分を育てながらその中で見極めるんだ」

「はい……!」

 

マグナの事を真っ直ぐと受け止める焦凍の姿にあんな顔も出来るんだと素直に驚く出久、そんな自分を焦凍は見ながらマグナにも言うように宣言した。

 

「緑谷、俺は決めた。俺は―――ヒーローを目指さねぇ」

「えっ!?」

「俺は……卒業したらPLUSに正式に入隊するって決めたんだ」

 

焦凍の決意、それはヒーローになるのではなく完全にPLUSの一員となる事であった。

 

「でもそれ……エンデヴァーが許すのかな……」

 

彼の父、エンデヴァーがそれを許すのだろうか。特別隊員となる事の許しは取っているが、それはあくまでヒーローになるまでにいい経験になるだろうという目論見故だろう。雄英に通っておきながらヒーローを目指さずにPLUSへの道を進むという事は父とは全く異なる道を歩むことにもなる。それを許すのだろうか。

 

「何故そう思ったのか、聞いてもいいかな?」

「俺……親父への反抗心とかオールマイトみたいになりてぇって気持ちでヒーローを目指してた。それは本物だし嘘じゃない―――だけどヒーローじゃ救い切れない危機だってあるって特別隊員になって分かった」

 

キリエロイドによる街への攻撃、その時にも感じた。ヒーローにも限界がある、ヒーローでは対処しきれないものもある。そんな時にウルトラマンが駆けつけ、街をも飲み込むような火球を消し飛ばし、巨悪と戦い勝利した。その姿に焦凍は憧れを持ち、そして出久からの言葉が想いを作った。

 

 

―――理由なんてない、するべき事をしただけ。

 

 

敵を倒す為でもない。誰を救う事を目的にし、平和の為に戦い続けるその姿に焦凍は自分が心からなりたいヒーローの形を見出した。

 

「俺は誰かを救う為に戦えるヒーローになりたい、№1だとか親父を超えるヒーローとかじゃない……俺はウルトラマン(誰かを救うヒーロー)になりたい」

 

それを聞いた出久は感激し胸が熱くなった、自分だけではなかったという想いもありがそれ以上に焦凍の告白はそれ程までに心を滾らせる。そしてそれを聞いていたマグナは笑顔で言う。

 

「フフフッ……良い顔をするね本当に。ああっなってしまえばいいさ、君の人生は君の物語だ。自由にするといい、君が道を選び道を歩け。その手で道を切り開くんだ、苦難の道になるだろうから心して挑むといい」

「望む所だ……!!緑谷、悪いが基地に戻ったら早速相手して貰っていいか」

「勿論幾らでも相手になるよ」

 

また新しい友達が出来たねっと出久に心で声をかける。自分の力を認めさせて相棒に選ばなかった事を後悔させてやると意気込んだ友人(爆豪)、同じ憧れを持ちウルトラマンのような英雄の道に挑戦する友人(焦凍)。何方も同じ友だが違う友だ、出久はこの友人に一生感謝するだろう。

 

「なぁっ俺みたいなウルトラマンっているのか?」

「マグナさん、炎と氷の力を持つウルトラマンっていましたっけ」

「炎ならメビウスだけど氷は如何だったかな……ゾフィー隊長位しか思い当たらないけど……どっちかと言ったら氷付けになったウルトラマンの方が多いしなぁ……」

「「氷付け!!?」」

 

と焦凍は出久と共にマグナの話に強い興味を持ちながら共に目を輝かせるのであった。




出久「九州での一件を受けてPLUSへの注目と期待は更に強くなっていく中で発目さんも大ハッスルしまくりなんだけどの負担は僕に来まくりなのは勘弁してよぉ!!?

そんな忙しい中、発目さんを狙う影が迫る!?何が目的かは分からないけどそうはさせない、発目さんには指一本触れさせない、僕が絶対に守り抜く!!

緑谷出久()はウルトラマンと出会う。

発目式テクノロジー


更に向こうへっPLUS ULTRA!!!」


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発目式テクノロジー 前編

九州での復興作業が完了してPLUS基地へと戻ってきたアートデッセイ号、早速改善点が見つかった点をすぐさま修正作業が入りつつも直ぐにでもテスト航行が再度行われる事になっている。日本どころか世界初と言っていい程の空中移動型の超大型艦というのは世界中から注目を集めており、その見学希望や各国への設立が予定されているPLUS支部への配備願いも行われている。

 

九州での本格的な怪獣災害による被害やそれらの復興作業出動などはこれからのPLUSの未来を決定づけると言っても良い事だった。街は1週間で完全に戻り影響もほぼ0に抑えられた、それらによってPLUSの名声は高まり注目と期待が高まっていく。それらに応える為にPLUSはより一層の努力が求められ、それを行っている―――それはある意味技術の中心にいる発目も同じだった。

 

「ぁぁぁっ~お茶が美味しいですねぇ~……やっぱり研究を一段落させてから飲むお茶って奴は良いですねぇ~……」

 

お茶を啜るという雄英ならば必ず大騒動になりそうなことを行いながら研究に区切りをつけて休憩を楽しんでいた。九州では怪獣との戦いでは役に立てなかったが、その代わりとばかりに今は希望するヒーロー達に向けて貸し出すウルトラスーツの作成や調整作業などを行っている。トップ3にスーツを貸し出したのもその為のテストケースでありデータ取りの為だった。

 

「いやぁそれにしても大忙しですねぇ……このスーツの修復作業もしないといけないのに……やれやれ此方は自動作業に任せるしかないですかね」

 

そんな風に呟きながら視線を向ける先にあったのは無数のアームが差し向けられながら火花が飛び、装甲などが取り外されて内部の配線などの交換などが行われ続けているGAIAの姿があった。オールマイトに貸し出した物だが、リミッターを設置したのにも拘らずガタがきてしまっているという状態に流石の発目も帰ってきたスーツを見た時にはうそ~ん……と言ってしまったほど。

 

「まあそっちはそっちでやるしかないですね、私は私で仕事ありますし~いやぁにしても出久さんがくれたこの抹茶ケーキマジで美味いですねぇ」

「だったらせめてそこにいる出久君に感謝の言葉を掛けてあげなさいや」

 

と壁に寄り掛かりながら呆れているマグナこと光士、そんな言葉の先ではソファに倒れこんで荒い息を吐き続けている出久の姿があった。先程まで新型スーツの実験を行っていたのだが、その影響で此処まで疲弊しているのである。

 

「出久さん食べないんですか、とっても美味しいんですからご一緒しましょうよ~この後のテストもまだまだ控えてるんですから」

「か、勘弁して発目さん……今まだ食べれるような状態じゃない……」

「ありゃ~これじゃあ折角の紅茶冷めちゃいますよ、マグナさんマヒパ*1打って上げて下さいよ」

「原因の君がそれを言うのか……」

 

行われていたのは新型スーツテスト。それはFUMAを発展させたエネルギー活用万能戦闘型スーツ、その名もGINGA。頭部、胸、肩、腕、足にクリスタル状の新型パワーセルを搭載していてFUMAに比べるとスピードこそ雲泥の差になるが、パワーなどは高く最初から様々な技が設定されているので恐らく此方の方が使いやすい―――と思われていたのだが……。

 

「あのスーツ、出力高くない……基礎出力はそこまでじゃないけどエネルギーを使っての光線とか凄い身体に来るんだけど……」

「ウルトラマンギンガを模しているスーツらしいが……そこまでなのかい?」

 

ウルトラマンギンガ、俗にいうニュージェネレーションヒーローズの中でも随一の実力を誇る戦士。それを再現したスーツなのだがまだまだ問題も多い。

 

「ど~やらクリスタルセルがエネルギーを変換する際に如何しても逆流現象が起きて負担が掛かっちゃうみたいですね」

「もう凄いんですよ襲いかかってくるエネルギーが……僕だからよかったけど普通の人が来てたら確実に病院送りですよ」

「本当にテストしてくれるのが出久さんで良かったですねはいっ♪」

「そうじゃないでしょうがぁぁぁぁ……」

 

実際問題出久以外にこの役目をさせる訳には行かないだろう。出久にはウルトラ・フォー・オールもあるしマグナとの一体化の影響で肉体が頑強になっている上に回復力も尋常ではない。故にナイトアイも実質出久に押し付けてしまっている。

 

「サンダーボルトは痺れるしファイヤーボールは熱いし……それ以外の技だってもう本当にやばいんですから……」

「それで済む出久さんと私は正しくベストマッチ!!これからも是非ともお願いしますね♪」

「他の人に任せられる訳ないじゃない……」

「任せた瞬間から重傷者が溢れそうだもんねぇ……」

 

そうなったらもう後悔するなんてレベルじゃないので出久はこの役目を誰かに引き継いでもらうなんて出来る訳もない、どれだけ嫌だと思っても自分でやるしかないのである。そう、これから一部ヒーローに貸すスーツには人知れず彼らの命を守った出久の輝きが灯っているのである。

 

「さてと休憩は終わりにして―――さあ出久さん次のテスト行きますよぉ~」

「ええっ!?ちょっと待って僕まだケーキどころかお茶すら飲んでないんだけどぉ!!?」

「時間切れです~文句があるなら時間設定したナイトアイへどうぞ~」

「マグナさん助けてぇぇぇぇ!!!!」

 

ずるずると引き摺られていく出久を見つめ続ける事しか出来ず、自動で開閉する扉によって姿は見えなくなった。

 

「やれやれなんとまあ……しかし如何するべきかなぁ……もう文明監視員じゃないから考えなくてもいいと言えるけど……そういう訳にはいかないんだあよなぁ……そう言った視線での意見もいるからゾフィー隊長は私を派遣した訳だし……儘ならんな、渡す資料の中身をもう少し吟味するべきだったかなぁ」

 

そんな言葉を呟きながら取り敢えず二人の後を追うように歩き出していく―――がその時、咄嗟に振り向きながらナイトアイから渡された護身銃を向ける。

 

「……誰だ」

 

鋭く冷たい言葉が投げ掛けられるが、返ってくる訳もない。だが明確な気配を感じ取った、自分の勘を信じ居たと仮定するならば自分の言葉と共に撤退したというべきなのだろう。

 

「……気のせいなら良いが、彼女が狙われている、のかもな……」

 

だがその時だった。腕時計型の小型個人用情報端末、PLUS-NAVIが鳴り響いた、ナイトアイからの緊急コールだった。

 

『マグナさん緊急事態です!!発目と緑谷の両名が突然消えました!!』

「何ですって!!?まさか今の気配が……!!」

 

 

「フッフッフッ……お前達は此処から逃げられ……」

うっひゃああああああっ!!!!見てくださいよ出久さんあの超巨大ロボット!!あのデザインとか分かってるなぁぁぁ!!レギオノイドとかゴモラとは全く違うフォルムそしてビンビンに力を感じますよあれぇ!!出久さんあれぜってぇ持ち帰りましょうよお土産にしたら絶対PLUSの皆も喜びますって!!」

「いや何簡単に言ってくれちゃってんの!?というかそれ所じゃないでしょうが!!僕たちはテストエリアに向かってたのになんでこんな岩場だらけの荒野にいるんだとかそっちを注目するべきでしょうが発目さん!!!」

「ハッそうか!!?私とした事が……つまり転移方面にも目を向けるべきだったという訳ですね!?流石出久さん目の付け所が違いますね愛してます!」

「駄目だ絶対僕と解釈が一致してない!!!」

「っておい人の話聞いてるのか!?おいっ折角人がスタンバってたのを全スルーして別方向に注目してんじゃねぇぞ!!もしも~し!!?聞けやぁ!!!!」

*1
マグナヒーリングパルスの略




シリアスになると思った?

うん私も思ってたけど発目さんがぶっ壊してシリアルになりました。


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発目式テクノロジー 中編

「おおっ良く見たらそちらの貴方も素晴らしくグッドデザイン!!カラーリングにも拘りを感じさせる職人芸っぷりがそそりますねぇ!!」

「ゼェゼェゼェ……もう、宜しいか……?」

「あっはい、なんか発目さんがすいませんでした……」

「……なんかあんちゃん苦労してんのな」

「ええまあ……それなりに……」

 

突然PLUS基地から岩場だらけの荒野へと転移させられてしまった出久と発目。そこにいたのはメタリックな燻銀をメインに据えつつ金色にも見える黄色がアクセント、発目曰くグッドデザインなアーマーを纏っているそれは何処か疲れつつも明らかに振り回されているのにも拘らず出久に同情するようにバイザーの奥の瞳と思われる光を細めていた。

 

「ゴホンッでは気を取り直して……フッフッフッお前達は此処から逃げられねぇんだぜ」

「あっそっからやるんですね、意外と律儀な方で好感持てて私的にも評価が高いですね。後そのアーマーについて詳しくお話聞かせて貰ってもいいですか!?」

「最後まで言わせろよ!?」

「ああすいません続きどうぞ」

「ったく……あ~どっからだっけ……」

「あとあのロボット貴方のですかお願いですから解析させてください!!」

「頼むから言わせてくれ!!何だったら金払うわお前らに!!何なんだよその嬢ちゃんはさっきっからよぉ!?どんだけ俺の勢い削げば気が済むんだゴラァ!!」

 

頭頂部から口の辺りまで覆われているバイザーにご丁寧に赤い怒りマークのような発光が浮かんでいる、しかも目の辺りに青い光が雫のように浮かんでいるどこまで丁寧な表示がされるのだろうか……出久は取り敢えず言わせてあげようよなんかかわいそうだから……と諫める。怒りを収めながら本当に大丈夫だよな……と疑いの目を向けながらも出久の言葉に歪んだ笑みを作りながら正体を明らかにした。

 

「お前が僕達をここに連れてきたのか!?何が目的だ!!」

「なぁに殺し屋みてぇなもんさ……但し―――超一流の異名たるエースキラーを冠するヒットマン、ガピヤ星人のモルス様だけどなぁ!!」

「何か説得力に欠けますねぇ自分で超一流(エースキラー)とか言っちゃう辺り、残念感が拭えません」

「うるせぇほっとけ!!俺は異名(これ)気に入ってんだっつうか残念云々は嬢ちゃんテメェのせいだ!!」

 

拭いきれない残念感というよりも初対面である筈なのに発目に全力で振り回されている辺りに親近感感じずにはいられない出久だが、ガピヤ星人という名前には覚えがあった。確かガイが嘗て戦った敵、そしてタロウの息子であるタイガがその弟と戦ったとマグナから聞いている。

 

「そのモルスが一体僕達に何の用だ!!」

「当然お仕事で地球に来た訳さ、特にそちらのお嬢ちゃんに用事があってな」

「発目さんに……!?」

 

思わず発目を後ろに庇うようにしながら立ちはだかる、宇宙人が彼女に一体何の用があるのか分からないがこんな手段を取ってくる辺り穏便な話ではない筈だ。

 

「先程も言った通り俺様は超一流のヒットマンだ、数多くの仕事を成功させてきた訳だ。だがそんな俺様でも厳しい依頼が舞い込んできやがった、俺様は自分のレベルを入念に上げつつ準備を済ませて仕事に移るタイプだ。如何したもんかと思った時にこの地球である話を聞いた、あのベリアルの配下のレギオノイドを扱う組織にはとんでもねぇ技術者が居るって話じゃねぇか」

「っ……!!」

「ああそうだ、調べさせて貰ったぜ発目 明ちゃんよ。何っ俺の要求を聞いてされくれれば何の危害も加えねぇ」

「私に何をさせる気ですか」

 

興味本位でそう尋ねるとモルスは首で発目が興味を全開にして示していた巨大ロボットを示した、それこそがモルスが発目を此処へと連れてきた理由であった。

 

「あいつは俺様の愛機たる惑星死滅神・ハーデロス、あいつの強化改造を嬢ちゃんに依頼したい。あのレギオノイドを解析した上に独自にゴモラを模したロボット怪獣まで作り上げちまう嬢ちゃんならあいつを更にグレードアップさせる事は可能だろう、それが俺様の目的だ」

「発目さんにお前の仕事の片棒を担がせるつもりなのか……!?」

「気に入らねぇかあんちゃん、だが嬢ちゃんはさっきの様子を見る限りだと俺様の相棒に興味津々みてぇだぜ?嬢ちゃんがそそられねぇ訳ねぇだろう」

 

発目の視線はハーデロスから動かずに輝き続けている、彼女の普段を知っている身としては受けてしまいかねないだろうが仮にそうなったとしたら全力で止める。平和を守る為にその身を捧げ、研究を続けている発目に殺し屋の片棒を担がせるなんて絶対にさせる訳には行かない。

 

「さて返答を聞こうか、依頼を受けるか拒否か」

「当然―――嫌です」

「……何?」

 

思ってもみなかった言葉にモルスは驚いたような声を上げる。だがそれに対して発目は真っ直ぐとした目でモルスを見つめ返しながら告げる。

 

「モルスさんとやら、随分と私の事を調べたみたいですね。確かに極めて興味深いですし調べられる物ならば調べ上げたいですね、ですがそれはあくまで私が目指す平和に貢献する為であって貴方の仕事の手伝いをする為ではない訳です」

「殺し屋の片棒は担がねぇってか。お綺麗な事を言うな、俺から言わりゃあんちゃんや嬢ちゃんのPLUSだって俺と同質だろうよ」

「何を言うんだ!!」

「平和の名のもとに命を奪う、それの何処が殺し屋と違う」

 

本質的には同じ、同じように怪獣や宇宙人の命を平和を隠れ蓑にして奪っているだろうと問いかけるモルスに出久は言葉に詰まると即座に発目が切り返す。

 

「いえ違いますね、殺し屋である貴方は報酬目当てで命を奪うのでしょう?私達は平和を守る為、守りたい人達の為に戦うのです。それが戯言だと言うならば好きなように言えばいいでしょう、でもそこに命を掛けて全力で戦っているのが私達PLUSなんですよ。一緒にされるのは心外です、でしょう出久さん」

 

目配せをしながら自分の隣に立つ彼女に出久は少しだけ笑ってしまった、自分はなんて恥ずかしい事を考えていたのだろうか。後で確りと彼女に謝罪しよう、彼女の信念を誤解し侮辱してしまった。ならば今出来る事は共に立つ事。

 

「うんそうだね発目さん……僕たちは一日一日を平和に送りたい人々の為に戦っているんだ!!お前のような殺し屋と一緒にするな、僕達を馬鹿にするな!!」

「ハッ随分な綺麗事を……」

 

吐き捨てるように言いながらもクククッ……と低い笑いの後に喉を震わせながらの爆笑をしながらも此方を見つめてくる。

 

「いやぁそうかそうか一緒にするなか!!いやぁ悪かった悪かった、お前らの信念がそれか、良いねぇカッコいいじゃねぇか。だがな、俺様だって殺し屋としてのプライドって奴があるんだなこれが。一度仕事を受けたからにゃ、やめねぇ怯えねぇ諦めねぇ、準備は万端怠らねぇ、仕事は絶対しくじらねぇ、ねぇねぇだらけの殺し屋さんが、エースキラーのモルス様よ。一度決めたからにゃ意地でもやって貰うぜ、あんちゃんそれが気に入らなきゃてめぇ嬢ちゃんを護り抜いてみせなぁ!!」

「お前に言われるまでも無い!!僕が発目さんを護る、お前なんかには絶対にっ!!指一本触れさせはしない!!」

 

全身に力を込めながらも出久は戦闘態勢を取る、マグナが居ない状態で発目を守り抜きながら戦い。相手は超一流の殺し屋、加えて今はウルトラスーツも無い。紛れもなく自力だけで戦わなければいけない、不安が過るがやらなければならないと自分を鼓舞しながらウルトラ・フォー・オールの発動させる。

 

「さあ行くぜ、覚悟はいいかいあんちゃんよぉぉぉっ!!!」

「絶対に負けない!!」




宇宙ヒットマン。ガピヤ星人モルス

超一流の殺し屋を意味するエースキラーを異名に持つ宇宙ヒットマン。同じくガピヤ星人であるサデス、そしてアベルの弟に当たるので言うなれば三代目ガピヤ星人。
姿は各部が金色に近い黄色以外はサデス、アベルに酷似しているが頭部はバイザー状になっておりそこから瞳の光が灯っている。

惑星死滅神・ハーデロスを愛機としているが、恐らく自らの名前、モルスが死神を意味するのでそれに掛けているのだと思われる。


という訳でなんだか殺し屋っぽくないヒットマン、エースキラーのガピヤ星人・モルスのエントリーだ!!アベルが宇宙ヒットマンという別名を持っているので、その弟にしつつ『ULTRAMAN』に出てくるエースキラーに併せて超一流の殺し屋という事にしてます。でも性格とかは兄貴らに比べると大分常識人寄り。


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発目式テクノロジー 後編

「此処です、私も途中で合流しようとしていた時に突如として……」

 

ナイトアイからの緊急連絡を受けて彼の元へと急いだマグナ。ナイトアイは出久の活躍に感謝と労いを掛けつつ発目を諫めようとしていたのだが……それを行う前、合流する寸前で姿が掻き消えてしまったと話す。その場を調べながらもマグナは何かを敏感に感じる。

 

「これは……空間跳躍か」

「まさかワープ!?」

「それに近いです、如何やら二人を攫って別の空間に跳んだようです。だが誤差が生まれたな、だからこそ二人だったのか……それとも片方のみのつもりだったのか……だが僅かに残り香があるな」

 

ほんの僅かな残滓、地球人であれば確実に理解する事も感じ取る事も出来ない。だが自分ならばそれを感じ取れる、そしてこれを大基にして出久と発目の場所を探る事が出来る。だが自分だけでは範囲が狭すぎるし時間もかかる、早急に探すのであれば―――取れる手段はある。

 

「ハルキ君を呼び出して貰えますか、私と彼で探します」

「分かりました!!」

 

直ぐにPLUSーNAVIでハルキへと連絡するナイトアイを見ながらマグナは今どこに居るかもわからない相棒へと思いを紡ぐ、何者か分からないが直ぐに助けに行ってやらねば……。

 

「助けに行くまで彼女を必ず守り抜けるな、必ず守れ―――相棒」

 

 

駆け出しながら手刀を放つ、それは軽々と防御される。そのまま回転を行いながら腕を弾きながらボディへと攻撃を仕掛けてくるモルスのそれを捌くが今度は下からの蹴りが顔面に迫る。思わず防御を固めるが易々と弾かれる程の威力に身体の芯にまで衝撃が響いた。そしてがら空きになった身体へと幾度も掌底打ちが炸裂し、心臓が揺れる。

 

「ぐっ……オオッ!!」

 

掌底打ちで身体の奥底に衝撃が響く中で引くのではなく敢えて深く踏み込みながら膝蹴りを放つが、掌底打ちから咄嗟に平手での押し込みに切り替え体勢が崩されると顎目掛けたアッパーが迫る。それを咄嗟に両腕でガードしつつも敢えて吹き飛ばされて距離を取る。

 

「(つ、強い……!!)」

「やるねぇあんちゃん、ボディから顎にかけてフリーにしたつもりだったんだがねぇ……それに俺様は唯殺しの腕が良いだけで超一流(エースキラー)なんて呼ばれてねぇんだぜ?」

 

肩を回しながら出久の戦闘技術を称賛しながら迫ってくる、ほんの僅かなやり取りに過ぎないが出久には分かっていた。このモルスは尋常でないレベルで強い上に戦闘経験も膨大にありそれらをフルに活用して此方の手を読んでくる。

 

「地球じゃこう言うんだったか。百戦錬磨って奴なのさ、無数の戦いの果てに今の俺様があるんだ。加えて俺様は尻上がりでもある、時間を置けば置く程に本領発揮って訳だ」

「シュォラァ!!」

 

大地を殴り付けるかのように押し出すように加速するとそのままの勢いで蹴り込む、軽くいなされるが連続で攻撃をし続けて行く。

 

「いいねぇ子供は元気が一番だぜあんちゃん」

「オオォッ!!」

「だが―――青いンだよぉ!!!!

 

攻撃の連打、数多の攻撃のパターンが組み込まれているがそれら全てをモルスは受け流すが完璧に威力を殺し続ける。発展途上ながらもこの力、素晴らしい才能があると感心しつつも自分の相手になるにはまだまだ弱すぎると低く唸るような声を上げながら拳を振り抜いた。出久の胸を捉えると瞬時に出久を吹き飛ばしてしまう。

 

「出久さん!!しっかり!!」

 

地面を抉るように吹き飛ばされた出久へと思わず駆け寄る発目、その身体を揺さぶるが出久は言葉に応えない。一抹の不安が脳裏を過りながらも身体を揺さぶると呼吸を忘れていたかのように声を上げながら荒々しい息のまま身体を引き起こす。

 

「何てパワーなんだ……!!」

「おおっやっぱり生きてたか。手放しで褒めさせて貰うぜあんちゃん、俺様のキラーフィストを受けて生きてるたぁ地球人にしちゃ随分と鍛え込んでるらしいな。まさか仕事以外でこんな奴と戦えるなんざ滅多にねぇ……楽しめそうだ」

「ぐっ……ぁぁっぁぁぁぁァァァッ……!!」

「出久さん!?」

 

身体を起こすが苦悶の声を零しながら蹲ってしまう出久に発目は顔を青くしながら身体を支える。キラーフィスト、モルスが数多の敵を葬りあの世へと送り出してきた地獄の片道切符贈呈拳。渾身の力を衝撃波に変換しつつ相手の内部を直接攻撃し粉砕する絶命を齎す一撃。如何なる装甲の前だろうと意味を成さずに殺し切る、だが出久はそれに耐えきると確信していた。寧ろ耐えきられた事を嬉しそうにしている。

 

「内臓を抉られたみたいだ……発目さんの実験でも、こんな痛みは……っ経験した事がない……!!」

「お褒めに預かり光栄の極みだ、伊達にエースキラーなんて呼ばれてねぇぜ。さあ如何するあんちゃん、まだやれるのかい」

 

激痛に苦しむ出久を見て発目は如何すれば良いのかと思考を巡らせる、モルスの目的は自分の協力。ならばそうすれば……そうすれば出久を安静にさせつつ応急処置だって出来る筈……という考えを否定するように出久は立ち上がった。ふら付く身体を引き起こし構えた。

 

「さあ来な」

「ウルトラ・フォー・オール―――フルカウルゥゥゥゥッッ!!!DETROIT SMASH!!!」

 

気合を込めながら叫び、身体に力を籠めると一気に跳躍しそれを推進力にし威力を倍増させたスマッシュを眼前のモルスへと放つ、だがモルスはそれから逃げる事も臆する事も無く望む所じゃねぇかと呟きながら走り出しながら迎え撃った。

 

「グレイテストォ・モルスフィクショォンッッ!!!」

 

その拳には金色の光を纏わせながらウルトラ・フォー・オールの力を全身に纏った出久の拳と激突した。だがその時、その瞬間、出久と発目は目を見開いてしまった。ぶつかり合った一撃、その時世界は酷く凪いでいた。

 

「良いパンチじゃねぇかあんちゃん……良い戦士になれるぜ」

「デトロイトスマッシュが……!?」

 

自分の攻撃が受け止められる、相手の攻撃をぶつけられてそれで防御されるか回避されカウンターされるという事は幾度もあった。だが今回は全く違っている、その光景に思わず発目も言葉を零してしまう。

 

「出久さんの攻撃が完璧に殺された!?」

 

周囲に衝撃が拡散する訳でもなく圧倒されたわけでもない、完璧に出久の攻撃と全く同じ力で攻撃を放つ事で内包されていたエネルギーなどが完璧に消されていや殺されていた。彼女もスーツの出力計算などで技の激突などを見てきたがこんな事は初めて。実力の差が明確過ぎると発目は最悪の未来を予想する中で咄嗟に懐から対異星人用に開発していた特殊拳銃を抜いた。

 

ドォォォオオオンッッッ!!!!

 

「うひゃああっ!?」

「うわっ!?」

「あがぁっ!?」

 

慌てていた上に作ったはいいが射撃訓練はまともにした事がなかった発目は思わずトリガーを引いてしまっていた。ひっくり返りながらも放たれた弾丸は拳銃というには重々しく大砲でも放ったかの轟音を響かせながらそのまま出久へと向かって行ってしまった。その時、出久に危険信号が発令され、咄嗟に回避行動を取るのだが弾丸はなんとモルスの額へと直撃したのである。大きく仰け反ったのを見て出久は発目の元へと跳んだ。

 

「何その銃!?というか僕に当たる所だったんだけど!?」

「ごめんなさい咄嗟だったので、というか私まだ射撃訓練してないんですよぉ!!」

「してないのにその銃物騒過ぎない!?何それリボルバー式のコンテンダーとか馬鹿じゃないの!?というか肩とか大丈夫!?」

「その辺りの対策はしてますから大丈夫です!!それと誤射に関しては後でちゃんと謝りますから今は一体退きましょう!!」

「それには同意!!サンクトゥス・ロス!!」

 

身体から煙幕を発射して半径1キロを包む込んでしまう、その間に出久は発目を抱えて全力で走り出していく。少しでも距離を取らなければ、最悪でも彼女を隠せるような場所に行かなければならない……と激痛が走り続ける身体に鞭を打って走り続ける。

 

「ゲッホゲホ……マジかあの嬢ちゃん、あんちゃんのドタマをぶち抜きそうだったぞ……!?というかなんだこの煙、あらゆる電波が妨害される上に範囲がクソ広い……こんな事まで出来るのかよ……だが逃がさねぇぜ、このモルス様を本気にさせてくれたんだ。ぜってぇに見つけ出す、そしてもっと、もっと俺様と戦って貰うぜ……!!」




発目「エースキラーモルスに追い詰められる出久さん、なんとか煙幕で姿を隠して逃げる事が出来ましたが……出久さんのダメージは深くて危険な状態。

戦えない私が出久さんを危険にしている……私に出来る事はあるんでしょうか……駄目ですよ出久さんっその身体じゃ!!

次回、出久さんはウルトラマンと出会う。

私だってヒーロー


更に向こうへっPLUS ULTRA!!!」


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私だってヒーロー 前編

『出久と発目が攫われたぁ!?しかも空間跳躍を用いるって相当用意周到な相手で御座いますぞ!?』

「加えてその直前に恐らく当人が此方を観察していたと思われる、警戒心が強い相手だ。こういうタイプは大概自分の腕前に慢心するのが多いが……この慎重さから考えると実力を完璧に熟知しているタイプだな」

「そ、それじゃあ急がないと出久君先輩と発目ちゃんが危ないって事になるんじゃないんすか!?」

 

ゼットとハルキもその場に合流しつつ直ぐ傍の部屋に身を隠しながらこれからの事を話しあっている、一体どんな相手が何方を狙ったのか分からないが早急な救助が望まれる。だが何処に転移しているのかも分からない相手をどうやって探せば……とハルキが焦る中でマグナは落ち着いていた。

 

「何問題ないさ。ハルキ君、確か大隊長……失礼、ウルトラの父のメダルがあると聞きましたが」

「あっはいあります!!M78流竜巻閃光斬で使ってます!!」

「結構。それがあれば十分捜索は可能だ」

『えっあの師匠、如何言う事で御座いますか……?』

 

光の国の宰相をも兼任する宇宙警備隊大隊長ことウルトラの父、そんなウルトラの父の頭部にはウルトラホーンという立派な角が存在している。そのウルトラホーンは宇宙のあらゆる情報をキャッチする事が出来るという力が存在する、事実としてウルトラマンジード、朝倉 リクの名付け親である朝倉 錘はウルトラの父の力を秘めたリトルスターが発症した際、自宅から出れないにも拘らず様々な事を理解していた。

 

「ウルトラの父のメダルの力を使い、物事を限定して探せば見つける事は可能だろう」

『そうか!!確かにそれなら行ける!!』

「それであとはベリアロクさんの力で其処へ行くって事ですね!!」

 

早速ウルトラの父のメダルを取り出すハルキ、それに加えてノアのメダル……いやオメガスプリームになる為のメダルは自分が管理しているのでその力を応用すれば簡単にそこへ行ける筈。あと少しで助けに行ける事を確信しながらマグナは言う。

 

「あと少しだ、護り抜けよヒーロー」

 

 

 

「出久さん此処なら少しの間位は隠れる筈です、ああっ良いですから早く座って下さい!!」

「ごめん……ぐっ……」

 

何処かも分からない荒野、見通しも悪い岩場にある洞穴を発見した出久はそこへ発目と共に身を隠す事にした。発目のみの安全の確保もあるがそれに出久の負ったダメージは深く大きかった。発目を抱えながら此処までの5キロ余りの距離を全力疾走した出久は思わず崩れ落ちそうになりながら腰を降ろした。

 

「えっと如何したら……そうだ応急処置位は……!!」

 

痛みに顔を歪めている出久に慌てながらも発目は所持が義務付けられていたPLUS隊員キットから簡易処置セットを出す、講習こそ受けたがまさか自分が本当に誰かの処置をするなんて考えた事もなかったのかその手つきは震えておりぎこちない。だが怪我人(出久)本人に処置をさせる訳には行かない。

 

「えっとっ取り敢えず処置しますよ、失礼しますね……」

「ごめん、お願い……うっ……」

「っ……!!」

 

制服を脱がせていくと出久の鍛え込まれている肉体が露わになっていく、ほんの僅かにドキドキした発目だがそこにある物を見ると言葉を失ってしまった。身体中にある塞がってこそいるが無数の古傷、そしてそれ以上に目を引いたのは胸部にある一際大きい傷。拳の形になっているそれは赤や青に変色しながら内出血し、指で触れるだけで激痛が走る程のものだった。

 

「(こ、こんな傷……普通ならショック死するような……触るだけでこれなら私を抱えながら走った時なんてもっと……それなのに出久さんは私を抱き締めながら……)」

「ううっ……」

「あっごっごめんなさい!!直ぐに痛みは収まる、はずですから!緊急時なのでこの鎮静剤だって使用していいはず、ですからね!!」

 

手始めに出久の苦しみを和らげる為に鎮静剤を投与する、そして処置を始めて行く。講習しか受けていないが出久を救う為にと必死になると何も考えなくても教わった事がそのまま手が動いて行く。出久は痛みに耐える為かハンカチを噛んで耐え続けている、その姿に自分が思っている以上の激痛が走っているんだと手を止めそうになるが、早く和らげて上げる為に続けて行く。

 

「これで、良い筈です……一応鎮痛剤は此処にまでありますので痛かったら打ちますので行ってください」

「いや大丈夫……大分、楽になったから……」

 

痛みに歪み続けていた表情は幾分か楽になっているように見えるが、それでも顔は青く体調は芳しくない。つられるように発目は不安に染まり切った表情で問いかけてしまった。

 

「ごめんなさい……」

「発目さん如何して……」

「私が協力を受け入れていたら出久さんがこんな……大怪我なんてせずに済んだのに……」

 

出久の言葉を待つ暇も無く発目は後悔しきった言葉を口にしてしまった。偉そうに大層な理想を語っておきながら自分にはそれを守り抜く力も無く、唯守られている事を今自覚してしまった。誰かが言った、力なき理想は戯言だと。結局自分はそれを守る事も出来ず、唯々周囲に負担を強いているだけ。その結果の果てが今だ、彼に此処までの苦しみを与えてしまっている……こんな事なら協力していれば良かったんだと。

 

「私がモルスに手を貸すと言っていればこんな事には―――!!」

「発目さん、それ以上は駄目」

「だって私が!!」

「それ以上言ったら僕、怒るからね」

 

顔を上げた時、そこにあったのは軽く怒った顔をした出久だった。意味が分からずにいると出久は笑顔を作りながら制服を着直しながら言う。

 

「私達は平和を守る為、守りたい人達の為に戦うって発目さん言ったでしょ、僕はその通りだと思うし同じ気持ちだよ。綺麗事だって言われるかもしれないけど僕達はそんな綺麗事を実現する為に頑張ってるんだって」

 

そこはヒーローと同じだよねっと少し笑いながら不安な表情で見つめ続けてくる発目に強い言葉を掛ける。

 

「発目さんの選択は間違ってない。僕達、PLUSはそれで良いんだと思うよ。だから大丈夫、発目さんが責任を感じる事なんてない。それに戦ってるのは僕の意志だよ、それまで発目さんのせいにしちゃったら申し訳ないよ」

「(何で……笑えるんですか……)」

 

自分のせいで大怪我をしているのに、あんなに苦しんでいたのに、何で……。そう思っていると出久はゼットライザーをその手に持ちながら立ちあがった。

 

「ど、何処に行く気ですか!?見つかっちゃいますよ!!」

「いやモルスは確実に僕達を見つけるのは時間の問題だよ、エースキラーは伊達じゃないって言うのは本当みたいだ。凄いスピードでこっちに向かって来てる」

「そ、それじゃあ大急ぎで逃げて……!!」

 

それは出来ない、此処から別の隠れる事が出来る場所は離れている。移動中に見つかる、もう一度煙幕を使ったとしても恐らく今度は確実に見つけに掛かる。自分達は王手を掛けられる一歩手前、だけど此方にでも勝ち目はある。

 

「きっともう直ぐマグナさんがゼットさんやハルキさんと一緒に助けに来てくれる。それまで時間を稼げばいいんだよ」

「そ、それなら逃げても……」

「いやあのハーデロスを持ち出されたらおしまいだ、でも今モルスは単身でこっちに来てる。それなら時間の稼ぎようは幾らでもある、勝てなくて負けない戦いをすればいいんだからね」

 

生身同士の戦いなら何とかなる。だから時間を稼ぐ、そして発目を守る。それだけを胸に出久は外へと出る覚悟を固める、そんな自分の手を必死に力いっぱいに握り込んで止めようとする泣きそうな発目が見つめる。自分を一人にしないでくれという物ではなく自分の身を案じている物、勝てる訳もないしこれ以上の怪我だってするかもしれない、それを止めようとしている。だが出久は……発目の頭を撫でるようにしながら言う。

 

「大丈夫だよ発目さん、僕が絶対に君を守るから。だから僕を信じて、ねっ?」

 

そんな言葉を投げ掛けながら出久は発目の手を振り切って外へと飛び出す、当然痛みが走るがそれらを無視しながら離れて行く。出来るだけ離れた場所に、戦いの余波が発目に掛からないようにと留意しながら場所を選ぶと遠くから此方に向かって土煙が迫ってくる。モルスだ、如何やら間に合ったらしい。それに安心しながら残っていた鎮痛剤を身体に投与する、此処からは粘るだけだ。

 

「僕だってやられてばかりじゃない……意地を見せてやる……!!」

 

出久にも勝機、いや奥の手はあった。それは林間合宿中のガイが自分との特訓で行っていたイージーフュージョンアップ、人間態のままウルトラマンの力を身に宿すあれを自分でもやろうと決意していた。だがこれはマグナから禁じられていた禁手でもある。理由は明白、人間の身体がウルトラマンの力に耐えられるのかという話である。

 

「構うもんか―――発目さんを守りたい、発目さんの笑顔が見たい、その為なら僕は幾ら傷ついたって構わない!!」

 

決意と覚悟を身に纏い、握りしめたゼットライザーへとウルトラメダルを装填する。マグナの戦友にして親友たるウルトラマン達……この時だけは、自分に力を貸してくださいと心から願いながら叫んだ。

 

「マックスさん!ネオスさん!ゼノンさん!」

 

〔MAX〕〔NEOS〕〔XENON〕

 

「平和を守る、勇士の闘志―――お借りします!!」

 

―――デュァッ!! ヘアァッ!! ジャッ!!

 

 

トリガーを引く眩い光が身を包んでいく中、遂にそこへモルスが到達した。モルスは出久の姿を見た途端に笑みを零し抑えきれない衝動が声として漏れた。

 

「よぉっ会いたかったぜあんちゃん、続きやろうじゃねぇか」

「望む所だ。今度は―――倒す!!」



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私だってヒーロー 中編

「良いねぇビリビリ来るねぇ……!!」

 

静かに、互いの動きを注意深く観察するようにしながら互いに歩く。距離を詰める事も無く絶えず一定の距離を取る為に自然に完全な円を描くように歩いて行く。先程の姿、空気、精神、それが一変している出久の姿にモルスは何も聞かずに唯戦いたい相手が更なる強さを纏っている事への喜びを溢れ出させながら抑えきれない高揚感と幸福感に自然と肩を回す。

 

「この空気、この肌を突き刺すみてぇな互いの闘気、この風の感触、そうだこれこそが闘いよぉ……俺はこんなスリルを感じたくて生きてるんだよなぁ……!!」

 

今直ぐにでも飛び出したいそれを必死に抑える、今この衝動に任せたら駆け引きという戦いの醍醐味の一つ無駄にする。衝動だけで全てを台無しにしたくない、故に手や足を擦るようにして必死に我慢しながら相手の出方を伺い続ける。視線の先の出久、彼は今までにない程にクリアな感情と思考で目の前の敵を見ていた。

 

「―――……」

 

右腕をモルスへと掲げながら半身を反らすようにしながら構えを取る、何時でも攻められるようにしながらも回避する事を瞬時に行える事を意識した構えを。出久は自然とそれを取りながら相手を見ていた、相手が此方を観察するのであるならばそれは好都合でしかないのだが―――

 

「行くぜぇぇあんちゃん!!!」

 

遂に状況が動いてしまった。駆け出してモルスが一気に距離を詰めながら蹴り込む、それを身体を反らすのみで回避するが直後に地面にめり込むように炸裂した足で跳躍しタックルを仕掛けてくる。がコンマ以下での判断を即座に読み切った出久は同じように回転するとモルスの背中へと平手を当てながら押し込んだ。

 

「ラムダ・ルナ・スマッシュ……!!」

「甘いっ!!」

 

未だに地面を捉え続けている片足、それで地面を強く蹴って自ら押された方向に跳び負担を軽減しつつ飛び退きながらも右腕に装着されている二連装式消音貫通弾を放つ。音も無く光に等しい速度で迫るそれを出久はそれを上回るような速度で地面へと受け流した。

 

「ハハァッ良いじゃねぇかよあんちゃん!!そうだそう来なくっちゃ面白くねぇよな闘いって奴は!!そうだ相手の実力との拮抗、互いが互いを上回り続けて行く展開も堪らねぇ!!漢の(いくさ)ってのはこうじゃねぇとなぁっ……最高だぜあんちゃんっもっともっと楽しもうぜ!!」

 

胸を強く叩く、脇腹の辺りから二本の突起が飛び出しそれを掴んで引き抜くとそこには艶が消されている黒い太刀が飛び出した。一本を逆手持ちにしながら一気に迫りながら空気どころか空間を切断しながらの一閃が放たれる。

 

「ラムダ・ソウルブレードッ……ウォォオリャアアア!!!」

「いい声出すじゃねぇかよええっ!!」

 

その名を叫ぶとその手に握られるのはラムダ・ソウルブレードが出現しそれで黒刀を迎え撃つ。幾重にも閃光が絡み合う、その一本一本が両者が振るう刃の残光、正しく無数の太刀筋が空間に刻まれていき最後の閃光がぶつかり合った時、その場の空間が耐えきれなくなかったのように衝撃波を生みながらその場が爆発。そこから抜け出して出久を猛追するモルス。

 

「ハァッ!!」

「あぶねっ!?」

 

迫るモルスへと向けて腕を切り裂くように振るう。腕からは振るわれた拍子に光の刃が形成されて飛び出していく、飛び出した直後のモルスへと迫るがギリギリで回避されながらお返しと言わんばかりの弾丸が迫りそれを大きくループを描くように回避しながらその後ろを狙う。

 

「何だ何だ今度は空中戦がお望みか!?望む所じゃねぇか、エースキラーはこの空でも相手を逃した事はねぇのさ!!」

 

逃げる事を考えるかと思ったがそんな面白くない事をする相手ではないと分かり改めて興奮する、もっともっと血を滾らせながら加速していく。途端に音速の壁を突き抜ける音が木霊する、空中で交錯する弾丸と光刃。互いが背を取ろうとしながらも相手に軌道を狙わせないようにしつつも相手のそれらを計算しながらも的確に偏差射撃を行い、進路を邪魔する攻撃を回避する。

 

「いいねぇいいねぇこの空を切り裂く流星ってか!!地球にこんなあんちゃんがいるなんて……来た甲斐があったってもんだぜぇぇ!!!」

「ォォォォッ……ディァ!!」

「だが―――経験が足りねぇなぁ!!!

 

出久が背後を取り光刃を放った時だった、モルスは咄嗟に身体を引き起こして急激に速度を落した。失速寸前まで速度を落す事で偏差射撃を見誤らせながら出久に自分を追い抜かせ(オーバーシュート)、背後を取った。出久はそれを見て目を見張った、経験が浅い故かコブラ・マニューバを予測しきれなかった。完璧に背後に付かれた出久、最高速度で稲妻のような動きで振り切ろうとするが―――

 

「無駄無駄ぁ!!」

「振りっ切れない……!!」

 

速度の管理、コース取り、何もかもが完璧。あらゆる技術が自分の上を行く、まともな手段では絶対に勝てないと悟る中で出久は焦りを感じていた。だがそれを無理矢理に落ち着かせながら逆転の手段を探すが、思い付くのは全て危険な手段―――なのにそれを迷う事も無く実行した。

 

「何ぃぃぃぃっ!!?」

「ディィィィ……ォォォォオオオオオリャアアアアア!!SHOOTING STAR SMASH!!」

 

なんとその場で身体を広げてる事でエアブレーキを掛ける事で急速に減速、そのまま振り向きながら回避も減速もしきれずに迫ってくるモルス目掛けて蹴りを叩きこんだ。見事にそれは胸部と捉えたまま流星となって大地へと突っ込んで行った。大地を切り裂き砕く一撃が決まり、爆風が周辺に届いていく。

 

「がぁっがはごほっ……なんっつぅ無茶するあんちゃんだ……」

 

あんな速度からの急ブレーキ、自分のコブラなんて目じゃない減速いや停止に近いそれは身体に途轍もないGを浴びる筈。自分でもやろうなんて絶対に考えない、身体が潰れるなんて話じゃない。やってる最中に死ぬ可能性方が高い手段を取った出久に称賛混じりに呆れを吐き出してしまった。そこへ出久が飛び込む。

 

「うおっ!?」

「シェェアアア!!!」

 

スマッシュが放たれる、だがそれを咄嗟にそれでも身体に刻み込んだ技術が無意識に威力を殺しながら受け止める。

 

「舐めんなよぉ!!」

「シェェッダァァァッッ!!!」

「マジかいな!?」

 

膝蹴りを叩き込もうとするがそれを右腕で止められる、だが自分の腕はまだフリーだとキラーフィストを叩き込もうとするがそれを頭突きを横から当てる事で機動をズラしながら防御する。頭で受け止めようなんて正気の沙汰じゃない、自分の一撃を受けているなら猶更。だが出久の目にはモルスしか映らない、身体を支えている足で地面を蹴って渾身のタックルを放ちモルスを吹き飛ばす。不安定な体勢ながらもなんとか立て直すモルス、だがそこへ舞い上がった煙の奥から光の帯が迫ってきた。

 

「あっ―――モルサァァァァ!!?」

 

光の帯―――光線を浴びて大爆発の中に包まれるモルス。それを見つめる出久は十字に腕を組んでいた、荒い息を吐きながらそれを見据えるのだがその表情には一ミリの油断も存在していなかった。そう、まだモルスはやられてなんていないからである。爆炎の中から大地を踏みしめながら胸部に風穴が空いているのにも拘らず声を上げていた。

 

「ああもう吃驚するだろうが!?いやまあ奇襲も闘いの醍醐味だよなぁ良いぜ良いぜ分かってるなぁあんちゃん!!だが残念無念また来世ってなっ俺様ってばそう簡単にくたばれる程に軟な生き方してねぇぜ!!」

 

フンッ!!と気合を込めた声と共に風穴が塞がり再生する。驚異的な再生能力にやっぱりかと……出久は内心で溜息を吐いた。マグナからもガピヤ星人は非常にしぶといという話を聞いていたのでこの位の覚悟はしていたが……実際に目の当たりにすると来る物がある。

 

「ッ……!!」

「あんっ?」

 

思わず口元を抑える、込み上げてくる物を抑え込もうとするが―――口から赤い塊が指の間から溢れ出た。一瞬のうちに地面に赤い溜まり場が出来てしまう程の喀血。同時に再び激痛がぶり返してきてしまった。震える手を見つめながら出久はそれを力一杯握りしめながら力を入れ直す。

 

「まだまだァッ……!!」

「あんちゃんおめぇ……いやそうだよな―――漢の勝負で一々事情を聴くなんざぁ野暮ってもんだよなぁ!!」

 

身体は明確に悲鳴を上げ限界を振り切っている筈、それなのに彼は戦意を見せながら構えを解かずに此方を睨みつけている。此処で引き闘いを止めるなんて誰にでも出来る事だ、だがそんな事では無駄になる。此処までの闘いも彼の覚悟も全てを水泡に帰するのだ。そんな事をさせてたまるか、この少年の全てを見たくなってきた。何処まで行けるんだ、このエースキラー相手に何処まで喰い下げるのかもっともっと見たい!!

 

「良いぜぇ来いよぉ!!もっと楽しもうぜぇ!!!」

 

自ら更なる激痛に飛び込むなんて並大抵の覚悟じゃできない、自分でも中々できない。つまり―――このあんちゃんは自分を超えている、精神で自分を凌駕している。そんな漢がこんな所で終わるわけがない……!!

 

「―――っ……!!」

 

意識が薄れ朦朧とし始めてきている。そもそも時間稼ぎをする為の闘いだが、出久の選択は致命的に間違っている。確かにモルスに対抗する為の手段ではこれしかないのは事実だろう。だがウルトラ・フォー・オールの影響で頑強になってきているが、イージー・ウルトラフュージョンによって出久の身体に掛かる負担は尋常ではなく、自殺行為でしかない。

 

「(まだ、まだだ……マグナさんがきっと来てくれる……それまであいつを食い止めるんだ……!!発目さんに、近づけさせちゃいけないんだ……!!)」

 

それが何だ、自殺行為がなんだ、死にそう位が何だっ!!自分を鼓舞し続ける、此処で倒れる訳には絶対に行かない。どれだけ苦しくても倒れてはいけない、どれだけ辛くても屈してはいけない、絶対に……守り抜くっ―――!!

 

「まだまだまだっ……終わってッッッ……ないぞォォォォォッッッ!!!!」

 

―――ああもうっカッコいいんですからッッ出久さんってば!!!

 

ドォン!!ドォォン!!ドォォォン!!ドォオオンォォォオオオンッッッ!!!!

 

「うおっ!!!」

 

思わぬ銃撃にモルスは不意を打たれたか弾丸を辛うじて回避する。一体何事かと思うがそこに居たのは発目だった、銃の反動に痺れた腕を振るいながら出久の元へと駆けだしその身体を支える。

 

「発目っさんなんで……?」

「私だって、私だって貴方と同じです。PLUSの隊員です、もうウジウジするのはやめたんです!!もう離れません、一緒に戦いましょうっ出久さん!!!」

「っ―――」

 

激痛に耐え抜く自分の身体が支えられた時、驚くほどに痛みが楽になったのだ。そして同時に思わず笑ってしまった、ああもう全く―――この子は何処まで自分かって何だろう、だがそれが酷く嬉しく感じてしまう自分も自分だった。

 

「んもう僕は発目さんを守るとしてたのに此処まで来られちゃ意味ないじゃない、自分勝手だね本当に」

「ごめんなさいっでもこれが私ですから、だからせめて一緒に居させてください出久さん。これからずっと一緒に」

「何それっ告白のつもりなの、この状況で?」

「ご自由に捉えて貰っていいですよ♪」

「「プッ―――アハハハッ……うん一緒に行こう!!」」

 

共に前を向く、もう迷いも恐怖も無く唯そこにあったのは確かな絆があった。その時、ウルトラ・フォー・オールから光が溢れ、出久と発目を包み込んだ。それを見たモルスはポカンとした顔を引き締めて大きく笑った。

 

「良いね良いぜぇ最高だなぁお二人さん!!見せて貰ったぜ二人の絆、こりゃ俺も全身全霊で応えねぇと野暮ってもんだな、何が如何したなんざぁもうどうでもいい!!この瞬間に俺の全てを込めてやるぜぇぇぇぇっ!!!グレイテスト・マキシマムシュート―――スタンバイッ!!」

 

拳を激しく激突させながらも構えを取ると胸部から巨大な砲塔が飛び出した、そこへ両腕を添えるような構えを取ると周囲の空間からエネルギーを集めるように収束させていく。

 

「行くよ発目さん!!」

「行きましょう出久さん!!」

 

持てる限りの力をこの一撃に込める、これが正真正銘最後の一撃。支えられながらも腕を振り上げる、力を開放しながら発目との鼓動を重ね合わせ、息を整えながら共に腕を右へと振り被り、右足で踏ん張りながら力を更に高めた。両者の高まりが究極となった時―――同時に放たれた。

 

「行けぇぇぇぇっっっ!!!オラオラオラオラオラオラァ!!!!」

「「イズティウム―――光線!!!!」」

 

金色を纏う白い光線、青白い光を纏った碧色の光線がぶつかり合って行く。それぞれが一歩も引かないと思われた時、イズティウム光線が一気に押し返していく。宇宙に轟くヒットマンの最高の一撃を飲み込んでいく光景に思わずモルスは爆笑してしまった。

 

「マジかぁぁぁぁっっっ!!!??でもっマジでいい気分んんんんっっっっ!!!」

 

悔いも未練も無く、清々しい笑いと共にモルスは光の中へと飲み込まれていった。そしてたった二人が放った光線が星の空を貫いて宇宙にまで届く光を作りあげた、ウルトラマンの力と人間の絆がそこまでの力を引き出した。

 

「勝ちましたね……出久さん」

「……ああっ本当だね、なんか嘘みたいだ……」

 

何処か照れくさそうに言う出久は草臥れた顔をしながらも素直に嬉しそうな声で言う、それを聞く発目の顔は酷く紅潮していた。




くそ詰め込んだ……。

尚まだ続く。


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私だってヒーロー 後編

「シュワァァッチ!!!」

「ダァァァッッ!!!」

 

空へと開けられた時空の穴、そこから降り注ぐ二つの光は大地へと降り立った。光は即座に人の姿となって周囲を見渡し始めた。

 

「此処が出久君先輩がいる星……」

「無事だと良いんだが……」

 

それはウルトラの父のメダルの力を使って所在を明らかにし救出へとやってきたマグナとハルキであった。ノアのメダルを使う事で空間転移を行う為のワームホールを作り出し地球から離れたこの星へと到達した。直ぐに二人の捜索を始めるのだが―――ウルトラ・フォー・オールの共鳴が起こった為に早急に発見する事が出来た―――がその時に見たのはボロボロの出久を介抱する発目の姿があり二人は大いに焦った。

 

「出久君―――流石に私でも怒る事はあるって事を知ろうか……?」

「いやあのその……マグナさんが助けに来てくれるって言うのは分かってましたし信じてましたからあの、時間を稼ぐ為にそれしかなかった訳でして……」

「それは時間稼ぎじゃなくて捨て奸っていうんだよ!!守るって言いながら最終的に彼女を危険に晒すような事をして何が守るだ、馬鹿も大概にしろ!!」

 

話を聞くうちにマグナは怒りを露わにしながら出久に本気でキレた。時間稼ぎをするならば猶更、出久の取った手段は真逆の手段。既に深いダメージを受けていた状態でそんな事をすれば稼げる時間はたかが知れており、長く見積もっても3分しか稼ぐ事が出来ない。助けが来るまで時間を稼ぐと言っておきながら最悪、3分しか稼げずに死んでいたかもしれない事をやっていた出久に流石のマグナも許容できなかった。

 

「出久君先輩流石にそれはまずいですよ……確かにそいつが強いのは察しますけど、攻撃が通じないなら通じないで回避し続けるとか色々あったと思いますよ……それは時間稼ぎじゃなくて自殺の域ですよ……」

『いやぁ……ウルトラマンの俺が言える事じゃないで御座いますが、ちょっとやりすぎてありんすよぉ……』

「イージーフュージョンについても結構私事細かく説明したと思うんだけどなぁ……記憶違いだったかなぁ?あれはウルトラマンであるガイ君だからこそ出来る事であって一応普通の人類こと、ホモ・サピエンスである君が出来る物じゃないってさぁ……?」

「あ、あのマグナさん出久さんは私の為に此処まで無茶をしたんです。だからこの責任は私にもある訳ですからその辺りで……」

「黙らっしゃい!!君と出久君の責任が同価値な訳ないでしょうが!!」

 

何とかマグナの説教を抑えようと試みる発目であったが如何やらそれは完全に無意味。これだけの無茶を平然と行う出久の精神性にも問題がある、今回ばっかりは確りと説教しなければこれからも同じような事を繰り返し続けて何れ確実に破滅する。十分な経験を積んでいる戦士でも危険な行為を未熟な者が行うなど言語道断!!

 

「いいかい出久君、今回の事はナイトアイやオールマイトにグラントリノにも確りと言っておくからみっちり説教を受ける事を覚悟しておくように!!!今回という今回は私も庇わん!!」

「ううっ……はいっすいませんでした……」

 

穏やかで優しい師匠というイメージがあるマグナだが締める処は確りと締める、寧ろ今までは出久が優等生且つ基本的に言いつけを守ってきたので説教とは基本無縁だっただけなのである。一通り小言を終えると溜息と共に目線を合わせながら出久に言う。

 

「だけどまあ……私の想った通りに護り抜いた事は称賛に値する、相当な戦いだった事は此処を見れば一目瞭然。よく耐え抜いた」

 

僅かに笑いながら困った相棒だなと苦笑するマグナに出久は何処か嬉しくなってしまった。そんな時だった―――

 

「いやぁ~最高の気分だ、こんなにいい気分なのって何千年振りだろうなァ~負けちまったけどいい最高の闘いだった!!」

 

満足気な陽気な声と共に光が集って行く。そして光は次第と形となっていきそれは人となった、その形を見て出久と発目は思わず絶句してしまった。それは自分達が確かに倒した筈のモルスがストレッチをしながら完全に再生を終えていたのだから。

 

「出久君先輩もしかして此奴が!!」

「そ、そうですよ出久さんの光線で間違いなく吹っ飛んだはずなのに……!!」

「いやぁマジで死ぬなんて300年振りだったぜ、あんちゃんに嬢ちゃん―――最高の一撃だったぜ!!」

 

サムズアップ且つ満面の笑みで此方を褒めてくるのだが、ハルキは思わず二人の前に立って戦闘態勢を取る。だがそれを見てモルスは両手を上げる。

 

「おっとお仲間さんの御到着かい、だがもうご安心しないさ。おりゃもうあんちゃんと嬢ちゃんに手を出す気はねぇぜ、此処まで完膚なきまでブッ倒されちゃ素直に負けを認めて引くってのが筋ってもんだろう。こんなにいい気分なんだ、宇宙の絶景でも見ながら一杯やりてぇもんだ」

「戦う気はないって、本当なんだろうな!?」

「マジもマジよ、何だったら俺様武装解除だって喜んでしちゃうよ」

 

そう言いながら両手を頭の後ろで組む姿を見せて戦意がない事を示すモルスに対してマグナは質問をする。

 

「超一流の殺し屋、宇宙ヒットマンのモルス……まさかこんな超大物に出久君が勝ったとはなぁ……」

「いやぁ俺様ってばやっぱり有名人ねぇ♪いや俺様もまさかあんちゃんに負けるとは思わなかったぜ、これでも慢心とかせずに全力でやったんだぜ?あ~あ、こりゃ仕事の為に別の手段みつけねぇとなぁ……というか俺様も駄目だな、嬢ちゃんが目的だったのに嬢ちゃんの事考えずにブッパしてたし俺様もまだまだだな!!ダァハハハハハ!!!!」

 

マグナでさえ知っている超一流の殺し屋、とんでもない相手と戦っていた事が明らかになって益々頭が痛くなってきた。

 

「それで君の仕事の目的とは何だ」

「この地球に居る宇宙人を仕留めてくれって依頼さ、冷酷非道残虐無慈悲なアウローラって奴をな」

「―――何っアウローラ……?」

「ああ、惑星サピエンティアの奴からな。なんでも故郷の人工太陽を悪用しやがった大悪党に報復して欲しいって依頼をして来たんだよ。んで金掛けて色々調べたらこの次元に地球に居る事を何とか突き止めたんだぜ」

 

惑星サピエンティア……その名前を聞いたマグナは聞き覚えがありまくって思わず頭を抱えてしまった。その星はアウローラの手によって復活した、ヤプールが宿ったUキラーザウルスによって、壊滅一歩寸前まで突き進みそうになった星。マックス、ゼノン、ネオス、セブン21と共にUキラーザウルスを倒し平穏を取り戻した筈だが……

 

「んでよ、この地球を調べたらその嬢ちゃんがすげぇ技術力持ってるから相棒の改造依頼しようと思ってちょっちご同行願って訳さ。まああんちゃんを巻き込んじまったけどな」

「あ~あのモルス……確かにアウローラは地球にいた……だけどねあの……私と出久君がもう倒してしまったんだ」

「―――はっ?えっはっはい!?いやいやいやちょっち待てよ旦那、冗談は良子ちゃんだぜ!!」

「「「(古い……)」」」

 

思わず大きな声を上げながらマグナに詰め寄る。

 

「いやいやいやだってアウローラって野郎はレイブラッド星人の継承者を名乗る位のやべぇ奴だぞ!!星一つを丸ごと実験場にしてとんでもねぇ事したりヤプールっつう悪意の塊みてぇな奴を復活させて、人工太陽を取り込むようなバケモンを作り出した位なんだぞ!!」

「ああうん、そのバケモン……Uキラーザウルスを倒した一人でもあるからね私」

ハァッ!!?いや待てよあれを倒したってまさか旦那ウルトラマンな訳!!?」

「ああ、マグナという」

「……マジモンじゃねぇかぁぁぁ!!?惑星サピエンティアじゃアンタと後4人のウルトラマンは星を救った大英雄って祀り上げられてんだぞ!!?というか何、あんちゃんまさかウルトラマンの相棒とかそんなポジの人!?」

「あっはい、そんな感じの人です」

「ファアアアアアアアアアアアアッッッ!!!?俺様ってばなんてあんちゃんと闘ってんだよぉ!!?やっべぇマジで興奮して来たわ!!えっちょっと旦那握手してくんね!?」

「あれ君本当にあのエースキラーって呼ばれてるモルスだよね?」

「モチコース!!」




という訳で普通に生きてますモルス。まあサデスもオーブトリニティに斬られまくってたのに生きてるぐらいだし、生存しております。



惑星サピエンティア。

マグナが過去最高のやばいと断言した任務の舞台となった惑星。光の国に近い科学力を持っており、テラフォーミングの為に研究されていた人工太陽がUキラーザウルスに吸収されて惑星規模の危機を迎えた。マグナが光の国に不在の間に正式に光の国と国交を結び友好星となった。
そんなサピエンティア星人の誰かが故郷に危機を齎した元凶であるアウローラを許せずに宇宙有数のヒットマンであるモルスに依頼を出し、モルスがヒロアカ次元の地球へとやってきた。

因みに、マグナ、マックス、ゼノン、ネオス、セブン21は星を救ってくれた大英雄として祀り上げられており1年に一度、星を救ってくれた戦士達と光の国に感謝を捧げる祭りが催されている。その中心には5人の像が祀られているとモルスが語るとマグナは全力で頭を抱えた。


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私だってヒーロー エピローグ。

「おいおいおい嬢ちゃん流石にそりゃぼり過ぎだろ。俺様の相棒(ハーデロス)の解析と技術提供は惜しまねぇけど丸ごと掻っ攫おうなんざぁ流石にやり過ぎだぜ」

「何を言いますか、此方はマジで死ぬかと思いましたし出久さんなんて大怪我してるんですけど。その慰謝料&私達の拉致云々を踏まえたら安いと思います」

「それを言われちまうとちといてぇけどよぉ……というかあんちゃんのあれは6割は自傷だぜありゃ」

「その原因は其方ですよね」

「まあその通りなんだが……いやいやいやだからって容認は出来ねぇってもんだぜ!!」

 

PLUS基地のテストエリアには巨大な影が膝を下ろすようにしながら鎮座していた。その陰の足元で何やら言い合いをしているのは発目とモルス、そしてそれらを見守るようにしているマグナやハルキ。モルスの仕事は成立せず、その侘びを兼ねてハーデロスの力を使い地球へと戻ってきた一同。出久は医務室へ緊急搬送、そして発目はというと―――モルスとの交渉の真っ最中であった。

 

「え~……んじゃ妥協して貴方ごとPLUSに入って下さいよ。それで手を打ちます」

「ハァッ!?エースキラーの俺様に防衛チームに入れってか!?」

「不服なんですか?」

「冗談じゃねぇぜ……ウルトラマンの旦那が居るチームに入れるとか光栄過ぎて土下座したくなるレベルだぜ!!やるやる~対宇宙人戦闘の教官とかやるぜ俺様~後地球の飯とかたっぷり食わせてくれよな!!」

「交渉成立です」

 

そんなノリで熱い握手をしてしまったモルス、それを見つめていたナイトアイは本当に良いのだろうかと困惑している……がそんな気持ちを察したように肩を叩くマグナ。

 

「しかし……超一流の殺し屋を自称するエイリアンを迎え入れるというのは……」

「まあ心配する必要はないと思いますよ、根っからの悪人という訳ではないですから」

 

エースキラー・モルス。その名声は光の国も届く程の者だが宇宙警備隊はそこまでモルスを危険視する事をしていない。何故ならばモルスは無差別に民間人を虐殺するような事もする事も無く唯金の為だけに仕事を受ける訳でもない、彼なりのルールという物に従いながら仕事を完遂する執行者。確かに広義的に見れば彼はヒットマン、殺し屋だがそのターゲットとなる相手の殆どを占めるのが悪さをする宇宙人ばかり。だが悪癖として自分を楽しませた宇宙人の依頼は相手の素性を一切抜きにして受けてしまうという物もあるが……。

 

「確かに犯罪を犯す事もあったらしいですがそれ以上に極悪人を討ち取った数が膨大なんですよ彼。地球風に言えばヴィランに対して容赦しない過激なヒーロー……と言えばいいですかね」

「成程」

 

複数の星系を支配していたテンペラ―・ガッツ・ヒッポリト・ババルウ・バットといった宇宙人からなる連合を討ち取って平和を齎したという話もある。宇宙警備隊としての認識は敵にすれば厄介になる自由な宇宙人だろうか、それでも近々確保して聴取を行うべきという意見も多くあったのだが……まさかそんな相手がPLUSに協力する事をあっさりと了承するなんて……。

 

「おっあんたさんがPLUSだっけ、それの司令官さんかい?」

「あ、ああ。正確に司令官代理の任をしている参謀だが……」

「ほ~んやっぱりまだまだ対応しきれてねぇのな、んじゃこのモルス様がいっちょ手貸してやるよ。ハーデロスの解析も自由にしな」

「有難いが……良いのか?」

 

ナイトアイはマグナからの話を聞いても矢張り懐疑的にならざるを得なかった。彼からすれば目の前で仲間を拉致した殺し屋を自称する異星人、そう簡単に信頼する事は出来ない……だがモルスはあっさりと好きにすればいいと答えてしまう。

 

「俺様はあんちゃんと嬢ちゃんに負けた、なら敗者の俺様は勝者の嬢ちゃんに素直に従うのが筋ってもんだろ。それに別次元の地球とはいえウルトラマンの旦那方が守ってきた星を一度心行くまで堪能してみたかったんだいい機会だぜ。暫く厄介になるぜ、まあその分ちゃんと働くから安心なさいやって……これでも俺様結構凄いんだぜ?」

 

本当にこれが宇宙でも有数のヒットマンと呼ばれる程の男なのかと疑問符が浮かんでくるナイトアイだが、素直にこの協力は有難い。自分達が生身で戦えるタイプの宇宙人、それらに対する戦闘訓練の構築や対策などに大きく役立つ。そして何よりハーデロスの解析とその技術を得られる事は大きい。ヴィランを受け入れたと思ったら今度は宇宙の殺し屋まで許容するなんてPLUSは何処へ向かうのかと内心で肩を竦めながらモルスと握手をする。

 

「歓迎しよう。改めて参謀のサー・ナイトアイだ、君には対宇宙人戦闘訓練及び特空機特別筆頭教官としての任を用意しよう」

「そりゃいいな特別筆頭教官って響きがまた最高だな!!後この星の名物って何だ、俺様仕事で行った先の星の名物喰うのも好きなんだよなぁ……なあ嬢ちゃんおすすめとか……」

 

と振り向くのだが……そこにはハーデロスの解析許可が出たので喜び勇んで飛び付いている整備班と研究班の姿こそあるが、そこに発目の姿は一切無かった。

 

「あれま何処にもいねぇぞ?案の嬢ちゃんならハーデロスの解析なんて涎を滝みたいに垂らすと思ってたんだけど」

「同感だ、彼女は何処に……?」

「医務室へっ出久君の見舞いですよきっとね」

 

とマグナは肩を竦めながら相棒の事を想う。

 

「(やれやれっ女性経験云々と言えなくなってきちゃったねぇ……逆に私がアドバイスを願う立場かなこれは)」

 

 

「小僧、派手にやらかしたじゃねぇか。ええっ随分と偉くなったもんだな」

「グラントリノ……」

 

医療棟の個室、出久の部屋に今大師匠にあるグラントリノが懇々と説教をし続けていた。それで治療の後によって動けなくなっている出久だろうが容赦もなく襲いかかってくる言葉の刃、その一つ一つが心に突き刺さってくるのを真摯に受け止める出久に対して大きな大きな溜息を吐く。

 

「お前さんがやった事は唯の馬鹿だ、相手が超格上なのは分かった。その格上が切り札を持っていてそれを使われたら守るべき相手が即座に危ないのもな、だからこそ守る立場のお前は自分を犠牲にしちゃならねぇ。話を聞けば聞く程、お前は自分を完全に捨て駒にしてあの小娘の為に時間を作る事だけに集中していた。違うか」

「……その通りです」

 

イージー・ウルトラフュージョンは万全な状態の出久でも最長で3分程度しか持たない、それを超えれば人知を超えたウルトラマンの力が逆に身体を壊し始めて行く。だが出久はそれを当たり前のように手段として組み込んで闘っていた、それもマグナを怒らせた原因の一つ。

 

「お前さん、あんなに良い師匠が居るのに駄目な師匠を真似るんじゃねぇ。俊典と同じような事をしくさりおって……ほぼ死ぬと分かっていてどうしてそんな手段を取れた。あいつでもそんなことは容易には出来んぞ」

 

興味本位で尋ねるグラントリノ、オールマイトが内に宿す狂気。平和の象徴として悪に屈し、人々に恐怖を与える訳には行かないと限界でありながら今もヒーローとして励む姿にも似ている今回の出久の行動。理由があるならばちゃんと聞いて正してやらないとまた同じことを冒し今度は死ぬ。それは先人として止めてやらなければならない……天井を見つめる出久、その答えは―――

 

「僕にも分からないんです……あの時、モルスから絶対に彼女を……発目さんを守りたいって思ったら力と勇気が沸いたんです」

「―――ほう?」

「発目さんを守りたかった、それだけなんです……でも最後、発目さんが来てくれた時が一番嬉しくて力が沸きました」

 

たった一人の少女を守りたかったというシンプルな答えだった。誰かの為ならば強くなれるのではなく、明確な一人の少女の為に力を尽くしたという答えにグラントリノは酷く愉快そうな声を上げながら言った。

 

「いうじゃねぇか小僧、だがそれならいい。たった一人、守りてぇ奴を守れねぇようじゃ世界を守るなんざ夢のまた夢だ。説教はこの位にしといてやらぁ、さっさと寝てろ」

「えっえっ……?」

「いいから寝てろ小僧!!」

「はっはい!!」

 

布団を被り直すと出久は疲れもあったからか直ぐに寝息を立て始めてしまった、限界だったのに説教で無駄に疲れさせてしまったようだ。部屋を出ながら廊下を歩いて行く中でクックックッと笑い声を上げる。

 

「一丁前な事を言うようになりやがって……そうだそれもヒーローの在り方だ、正しいヒーローの在り方かもな」

 

このいい気分のまま鯛焼きと抹茶でも食うかと思いながら後ろでそっと部屋へと伸びて行く影を逃しながらグラントリノは足取り軽く去っていく。

 

 

寝息を立てる出久、そんな彼を見つめる影―――いや発目はそっと傷だらけになっている出久への胸に押し当てる手を握り締めながら一歩一歩迫っていく。近づくごとに息が荒く苦しくなっていく、罪悪感かそれとも別な物か……それでも必死に歩き傍まで行くとそっと……彼の手を握る。

 

「出久さん……私、あの時の言葉は冗談なんかじゃないですから。私はずっと貴方の傍にいたい……不謹慎かもしれませんがモルスから逃げる時に抱きしめてくれた時凄いドキドキして可笑しくなりそうでした、胸板に抱き寄せられて嬉しかった……貴方と触れ合えて心から嬉しかった……」

 

紅潮した顔で緊張している為か硬くなっている笑みを作りながら少しだけ、その手を強く握る。

 

「今度はちゃんとお伝えしますから今は―――私のわがまま、許してくださいね……?」

 

少しだけ勇気を出す、あの時の出久の姿を思い出しながらその勇気を分けて貰いながらそっと……彼の眠りを脅かさぬように―――

 

「ッ……そ、それじゃあお大事に……!!」

 

紅潮しきった顔になりながらも足早に部屋から立ち去っていく発目、途中唇を摩ると更に顔を赤くしながら何処かへと消えていく。

 

「しっしちゃった……しちゃった……!!はっ博士、次どんな顔して出久さんと会えばいいんですか私ぃ~……」

「いや僕に言われても分からないっというか君が何をしても出久君なら許してくれそうな……」

「そういう意味じゃないんですぅぅぅ~……」

「えっ~?余計に分からないよ~明ちゃん」

「うっ~……!!!!」

 

 

 

「我儘、なんてもう聞き慣れちゃってるよ……何であのタイミングで僕はっ……!!!ああっもう次どんな顔して発目さんに会えばいいんだぁ~……もうアサリナさんでも菜奈さんでもマグナさんでもいいから助けてぇ~……」




「恋愛経験ないから無理だね」
『僕だって無いんですけど』
『いやぁ青春だねぇ……これからが楽しみだねぇ……!!』


うんっやっちまったぜ☆


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変化訪れる。

「PLUS基地に見学に行きます」

『なんだかガッポォォォォいっっ!!!』

 

唐突に告げられた言葉に皆は興奮を露わにしながらそれを声に発散した。彼らは進路をヒーローと定めているような身であったが、ここ最近になって活躍をし続けているPLUSについても興味は惹かれている。ヴィランから人々を救うのではなく怪獣災害から人類を守るという使命を帯びるPLUSはヒーローとはまた別の憧憬を皆に滾らせる。

 

「先日のニュースを君達も見たかもしれんが……山中から出現した怪獣、レジストコード・マグラーを特空機のみで撃破した事で話題になってるな。知っての通りPLUSは人類存亡の要として対怪獣災害想定特殊作戦実行組織として組織されている、その性質故にヒーローとは全く別の方向性を向いている。彼らがやっているのは言うなれば怪獣との生存競争に近い」

 

それと同時に中には酷く温厚で人間と友好的な怪獣も確認され始めている、中には大昔に残された書物にその存在が確認される怪獣もいる。無人諸島をPLUSが怪獣保護区域へと整備する事で怪獣の生態調査及び研究が行われる予定になっている。

 

「へぇっ~……単に怪獣を排除する組織じゃないって事なんすね」

「それらについても近々行く見学で皆に考えて欲しい、PLUSに進みたいと言うなら雄英はサポートする用意はある」

「あ、あの相澤先生。雄英としてそれはアリなのですか!?いえ普通科ならばよいかと思いますが私共は……」

 

困惑を露わにする八百万に相澤は肯定しながらも続ける。

 

「何も職業ヒーローを育てるのがヒーロー科の方針じゃない、ヒーローをやりたいならPLUSでもやろうと思えばできる。現に轟は既にPLUSに進むと俺に言っている」

『ええっ!!?』

「ああっ。俺はPLUSに行く、ナイトアイにも話してあるし親父にも言った」

 

一斉に其方(焦凍)へと視線が向くと同時に焦凍は素直に話した。現№2ヒーローの息子たる彼が、ヒーロー科最難関であるこの雄英に入りながらもその道を選ぶ事も無くPLUSへと進むというのはそれだけの破壊力を秘めているのである。そしてエンデヴァーにもそれを素直に話しているというのも驚きだった。

 

『親父、俺はヒーローにはならねぇ。俺はPLUSに進む』

『―――そうか、だが簡単な道などではないぞ。お前が挑むのは正しく未知だ、超常黎明期に等しい世界に飛び込む。その覚悟はあるのか』

『俺はヴィランを倒すヒーローじゃない、俺は―――ウルトラマンみたいな誰かを救うヒーローになりてぇって俺が決めた』

『そうか……お前がそう決めたのならば俺は何も言わん、だが母さんにも確りと言っておけ―――焦凍、応援させて貰うぞ』

 

エンデヴァーは自分が進む道を応援してくれると言ってくれた時、何故か嬉しかった。あれほどまでに№1ヒーローに固執していた筈の父が自分の道を認めてくれたのが嬉しかった。だから自分は自分で決めた道を進むと決めたのだ。

 

「んじゃ爆豪は如何すんだよ!?」

「……知るか」

 

素っ気無く答える彼だが内心ではまだ迷っている所があるのも事実だった。ずっと目指してきた夢は捨てたくない、だがPLUSで過ごすのは悪くないし平和の為に戦っている実感もあってやりがいもある。だからまだ決めかねている、まだ時間はあるのだからじっくり迷わせて貰うと決めている。

 

「んじゃ緑谷は……って彼奴いねぇし!!」

「どうせまた発目に振り回されてんだろ、というか緑谷の場合は発目の事もあるからPLUS決定だろ」

『ああっ確かに……』

 

焦凍の言葉に思わず相澤までもが頷いてしまった。如何あがいても出久の場合は発目のストッパー兼実験体という代用の利かない役職に固定される事は必須なので当人が拒否したところで絶対に受け入れられないだろう。

 

「見学はニ日後だ、レポート提出もあるから覚悟しとけ」

『えええっ~あっという間ァ!?』

 

 

 

「しかし随分と急な受け入れを決めた物ですな、雄英生の見学を」

「ええっですが前々から考えていた事ですので別段急という訳でもありません」

 

テストエリアにて行われているウルトラスーツ:GINGAのテストを見つめながら光士は隣に居るナイトアイへと問いかける。

 

「私だって何時までも今の席に座れる訳ではありませんから、今のうちに出来る事を精いっぱいやらなければ……」

「それは私に対する嫌味かいナイトアイ」

「さて何のことやら……別に私に相談も無くワン・フォー・オールを無個性の少年に渡した事なんて気にしてませんよ」

「いやめっちゃ気にしてるよね!!?」

 

と隣に居る修復が終わったGAIAを纏っているオールマイトがツッコミを入れる。エンデヴァーとホークスにはウルトラスーツは予定通りにリミッター機構が組み込まれた上で貸し出された、がオールマイトには許可されなかった。テストであれだけ派手にやれば当然と言えば当然だろう。

 

「だが事実として何時までも私が司令官代理をする訳には行きませんからね……ぶっちゃけてしまいますと多忙なんですよ。少しは肩の荷を下ろしたいというのが本音です」

「まあ参謀もやってますからね……書類仕事ならば私も手伝えますが……」

「いえいえいえっこれも私の責務ですのでお手を煩わせてしまうなど畏れ多い」

「いや今の私はPLUSの事務員の光士ですけど」

「それはそれで上司である私が自分の仕事を部下に押し付けてしまう愚か者になるので遠慮します」

「これは失礼」

 

―――ギンガ……サンダァァボルトォォッッ!!!!

 

スーツのクリスタルセルを黄色へと輝かせながらエネルギーを雷撃へと変換しながらも頭上でそれらを渦状に集わせ、それを腕の動きと連動させるように前方のターゲットへと放たれる。ターゲットを一気に蝕んでいく雷撃―――いや近い性質をに変換されたエネルギー。ターゲットは内部から爆散するように吹き飛ぶとそれを見たテスター……出久は頭部装甲(マスク)を開放しながら一息吐く。

 

「発目さんっ今の如何」

『大分良くなってますけど……まだまだクリスタルセルの変換効率が低すぎます。う~んやっぱりセルその物の方向性を限定した方が……いやでもそれだとギンガのコンセプトを壊す事になっちゃうしでも効率を上げると今度は逆流現象が……』

「あの発目さん、僕は大丈夫だから上げてもいいよ」

『駄目ですってば!!私がそう決めたんですからしません!!別の方法を絶対に見つけますからっその為にハーデロスのエネルギー循環機構のリバースエンジニアリングを急がないと……』

 

「なんか発目少女……変わった?」

「ええっ何やら装着者、緑谷の事を気にするようになり安全機構との兼ね合いを考えるようになってきました」

 

オールマイトもナイトアイも感じるそれ、発目の勢いが弱まっている訳ではないが走り方が変わったというべきだろうか。唯々性能の向上やら性能のプルス・ウルトラを目指し続けていた彼女が性能と装着者への安全性を併せて考えるように変わっていた。ウルトラスーツは彼女だけが作っている訳ではない、グルテンもデヴィッドやメリッサも協力しており、安全性などはそちらがやっていたのに今は発目も懸命に取り組むようになった。

 

「やっぱりあれかい、モルス君と色々あったからかな」

「フムッ……考えられますね」

 

エースキラー・モルスとの決闘から1週間、ヒーリングパルスも併用しながら完治した出久。それと同時に発目は変わったと言ってもいい、何処か大人しくなったというか……分かりやすく言えば女らしくなったというべきだろうか。研究ばかりで御洒落や化粧などにも一切興味を示さず、休憩しか取らなかった彼女が―――

 

『あ、あのメリッサさん……その、今時の女の子が着る服ってどんな感じですかね……?』

『―――』

『あのメリッサさん聞いて―――』

『パッ……パパ大変よぉぉぉぉぉっっ発目ちゃんが壊れたぁぁぁぁ!!?』

『うっう~ん……それだけ言われるほど今までの私ってあれだったんですか……出久さん急に変わったって引いたりしないかな……

 

『こ、こうですか……?』

『ああっ違う違う、もっと優しくで良いのよ。身体は機械じゃないんだから』

『すいません、こういうのは不慣れで……』

『いいのよこれから覚えて行けば、そうそうっこんな感じで良いの』

『これがお化粧……』

 

メリッサから化粧の仕方を教わったりファッション雑誌を読んでいる姿が目撃されるようになっており何があったのかと今現在PLUSでは話題沸騰中なのである。

 

「いやぁっ喰った喰った……地球の飯の文化ってのはスゲェもんだなぁ」

「おやっモルス特別筆頭教官」

「おいおいおいやめてくれよ旦那、旦那にそう言われるとケツが痒くならぁ」

 

そこにやって来た新しくPLUSへと入ったモルス、既に対宇宙人戦闘の教本作りや特空機のフォーメーション考案などでその手腕を振るっている。

 

「あんちゃんの塩梅どんなもん?俺の傷響いてねぇ、響いてたら俺様代わりにテスターやるけど」

「問題ない、既に完治している」

「あれまっ思った以上にタフいのねあんちゃん」

 

続けてギンガセイバーの実験に移っている出久を見つめながらモルスは素直にそのタフさに驚いた。身体の傷は良くても普通は精神的に参ってしまって暫く動けなくなるなんて当たり前なのに、平然としている。長い事殺し屋をやって来たがあそこまで元気にされたのは初めての事。

 

「よしっそれではモルス君、私との模擬戦宜しく頼むよ」

「あいよ、任しときなオールマイトの旦那。俺がアンタを負かしたらぁ」

「HAHAHA!!そう簡単には負けないぞ~!!」

 

と意気揚々と一緒に笑いながら隣のテストエリアへと向かって行く二人、何やら波長が合うのか仲がいい。そしてオールマイトは対宇宙人戦闘術の確立の為に模擬戦の協力を願い出てくれたのでお願いする事にした。そんな二人を見送りながらマグナはチラリと出久の方を見るとテストが終わったのか、ストレッチをしている出久に発目がドリンクを持って駆け寄っていく。

 

「はっはい出久さんテスト後に望ましい栄養補給ドリンクです!!」

「あっ有難う御座います発目さっ!?」

 

受け取ろうとした出久は思わず硬直したのに紅潮してから慌ててドリンクを受け取って顔を背けてしまった。

 

「ギッギンガセイバーは凄い良かったよ!!凄い扱い易かった!!」

「そっそうですよね!!それに関しては一番上手く行ってるの自信作なんですよぉ!!」

 

と何処かぎこちない二人にナイトアイは何処か心配そうな瞳を向ける、鈍感……というよりも今までの発目を知っている人間からすればこの反応は打倒というか当然なのである。だがマグナは何故そんな風になっているのか分かっている、何故ならば―――

 

「あっ後その……出久さんえっとこの後一緒にご飯とか……いっいいえ何でもないですはい!!」

「あっえっと……そ、そう言えば僕テストでお腹すいちゃったからこの後食堂に行くよ!!」

「そっそうですよね!!それじゃあ私も御随伴しちゃいますかねぇ色々スーツの感想とか聞きたいですしぃ!!」

 

 

「初々しいとはこういう事を言うんだろうなぁ……口紅を付けているだけであんな分かりやすく反応しなくてもいいだろうに」

 

「(やばいやばいやばいっ何なの今の発目さんなんでこんなに魅惑的で素敵で綺麗に思えるのもう訳分からないしもう何を言ったらいいのか分からないよマグナさん助けて!!)」

「(メリッサさん本当にこの口紅って初心者向けなんですよね信じてますけどこれ出久さんに変に思われてないですよねぇ大丈夫ですよねああもうマグナさん私を助けてぇ!!)」

 

 

「(何か二人からのHELPコール聞こえるな……それじゃあ一言、自分で頑張りなさいっ頑張れ青少年。ファイトだよっ♪)」

「「そっそんなぁっ!!?えっ!?いいや何でもないから!!」」




『いいねっ良い青春っぷりじゃないか……これはこの先が楽しみになるねぇ♪』
『菜奈さん凄い楽しそうだね……でもまあ僕も凄い興味深いけどね♪』
『『人の恋路を傍から見る程、平和で楽しい物はないからねぇ♪』』

女性陣ノリノリである。尚、男性陣は我関せず。唯初代のみ静かにエールを送っていた。


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雄英、PLUS見学。

「お前達行儀良くしておけ、此処から先は世界的にも注目を集めている場所だ。雄英の恥になるような事は……ああいや問題はないか、それ以上のマッドがインパクトを打ち消す」

 

二日後、バスに揺られながら行くA組。その後に続くようにB組のバスも行く中で相澤が一応注意を飛ばしておく。まあ発目という存在のインパクトに隠れてしまって逆に何とも思わないというのも十分にあり得てしまうのが非常に頭が痛い所である。

 

「あれっなんか……街の雰囲気変わってない?」

「言われてみたら……」

「道行く人たちも顔つきが、いえ何もかも変わってきてますわ」

 

そんな言葉に思わず焦凍と爆豪は俺達と同じ事感じてやがると懐かしさに浸る、そして相澤が皆に告げる。

 

「既に此処はPLUSの敷地内、今通っている街自体がPLUSの基地建設の為だけに作られている。基地周辺を囲むように街が形成されて現場作業員や隊員、それらに人間向けの店舗が占めている」

「まっ街を作ったぁ!?」

 

思わず声を上げる上鳴、ヒーロー向けの街や商店街という物は存在する。だがそれでも一つの組織の為だけに設立された街なんて聞いた事がない、PLUS基地周辺の街は通称防衛町と言われている。そこにある全てがPLUSの為に存在していると言ってもいい、隊員向けのあらゆる事がこの街で完結させられる。ウルトラスーツの調整の為に一時的に滞在したエンデヴァーやホークスもこの街を体験したが―――

 

『調整の為に今後も利用させて貰う』

『週一で来て良いっすか?』

 

という程に気に入っている。そして遂にバスは基地の敷地内へと足を踏み入れる事になり、窓から覗ける景色に思わずヒーロー科の皆が零したのは溜息にも聞こえる呆然とした言葉にもならぬ音に近しいそれ。そんな姿に何度も来ている焦凍と爆豪はその反応を見て楽しんでいた。

 

「これがPLUSなのか……」

「雄英が小さく思えるってどんな所だよマジで……」

 

「おやおやおやっA組はこの程度で驚愕するなんてPLUSの力を侮っているのかねぇ!!特別隊員が居るというのにも嘆かわっ―――」

「こりゃ凄いわぁ……」

「お前の手刀の速度もすげぇよ、俺見えなかったぞ今」

 

とバスから次々と降りながら感想を述べていく皆、途中B組も到着し物間が最早定番となりつつある毒舌というか嫌味全開を語ろうとするが隣に居た拳藤が即座に首に手刀を打ち込んで黙らせる。入学直後からやっている為かその動作も熟練となっており、手刀の速度が見えないレベルにまで達している。そんな事をしていると―――

 

「あれ、ヤオモモなんか音聞こえてこない?」

「音ですか……本当ですね、言われなければ気付きませんでした」

 

耳郎は個性の関係ゆえか気付いた、何かが遠くから迫ってくるような音を感じ取った。それは徐々に大きくなってきているようにも感じられる、そしてそれは頭上からゆっくりと降下するように現れたのであった。各部に美しい結晶を携えている機械仕掛けのウルトラマンのようだった。

 

「うぉぉぉぉぉぉなんだ何だよ!?PLUSで研究開発中のロボットとかかなんかか!?」

 

とB組から熱血に溢れた声が響く中でそれを見て焦凍と爆豪は酷く哀れそうな目を向けていた、それを見た切島が如何したんだよと尋ねると同情に塗れ切った声色で二人は言うのであった。

 

「また増えたのか……緑谷、好い加減断る事を覚えた方が良いぞ」

「……デク、お前弱み握られてねぇだろうな」

「いや握られてないよ……というか一応これ僕が志願してるやってるから」

 

そんな言葉と共に頭部装甲が開閉してそこから苦笑いをしている出久の顔が露わになると思わず一同から驚きの声が溢れたのであった。

 

「致し方ないさ出久君、今までの事を考えれば致し方ないと君も思うだろう」

「まあ分からなくはないですけど……此処まで言われます?」

 

そこへ苦笑している光士が現れ出久と共に礼をする、完全にシンクロしている動きをしながら客人を歓迎する。

 

「Prowess Luster Unique Spirit Fencer、PLUS Fencer本部へようこそ。職員の一人として皆さんを歓迎させて頂きます」

「特別隊員の身ではありますが、同じく歓迎します」

 

頭を上げた出久にA組は久しぶりに会う学友の姿に何処かホッとしてしまったような気分になってしまった、だが同時にB組はある事を想う。緑谷 出久という人間は此処まで凛々しく猛々しく思えるような人物だっただろうかと自分の中にある物との相違に違和感を覚えてしまった。

 

「緑谷ぁっ!!お前PLUSばっか行きやがって偶には授業出ろよ!!」

「ごめん峰田君、僕もそうしたいけど僕じゃないとダメな事とか色々あって……だから最近はリモートで授業を受けさせて貰ったりしてるんだ」

「それでも出来れば顔が見たいわ緑谷ちゃん、そんなに大変なの?」

「そんな所かな梅雨ちゃん、これだって僕がテスターになって開発されてるからね」

 

指で軽く胸を叩きながら纏っているウルトラスーツを示す、皆が興味津々といった表情でそれを見つめている。

 

「場合によってはこれはヒーローにも貸与する事を想定しているから今は扱い易さとかを重視してるから、というか皆も着用体験をする事になるよ」

「マジで!!?そんなカッコイイの俺達も使っていいのか!?」

「純粋に他の人の意見も欲しいしね、後心配を解いておくと発目さんが関わってるけどリミッター部分とかは他の人が確り組んでるし僕も協力してるから大丈夫だよ」

 

それに胸を撫で下ろすB組、それに安心感を抱けばいいのかそこに至るまで苦労した出久に同情を向ければ良いのか分からなくなるA組。そんな所に登場したのはその元凶とも言うべき人物、プロヒーロー業界認定のマッドサイエンティスト、発目であった。

 

「やぁやぁやぁどうも皆様ようこそ御出でくださいました、私と出久さんと光士さんで御案内をする事になりましたぁ~」

「そういう事になっちゃいました。まあ僕からしたら見学する事なんて一つもないから妥当だとは思うけど……」

「ウルトラスーツについては出久君なんて研究開発の第一線に要るようなもんだからね」

「いやぁっ私には出久さんが必要ですから♪」

 

とウィンクする発目とそれを受けて笑いが出てしまう出久にA組は全力で同情した、そしてB組は体育祭などで発目がやった事などを思い出し漸く出久への同情を向ける。復活した物間ですらそれは同じであった―――が、此処で一部の女子は気付いた。

 

「(あれっ発目さんもしかして……お化粧しとる!?)」

「(あっ本当だ!!薄いけど口紅もしてる!!何で!?)」

「(ケロッ本当……驚きだわ)」

 

と彼女らからしても発目が化粧をしているというのは途轍もない衝撃だったのだろう。そして出久の隣に立っている彼女が自然としている髪の毛を弄る仕草が如何にも一部の女子は気になっていた。僅かにだが出久の方を見ようとするのだが外している姿にも驚く。

 

「それじゃあ出久さんどっから案内します、整備エリアとかですか?」

「いやなんでいきなりそこなの、まずはミーティングルームでしょ」

 

「(それにだって、前まで緑谷さんって呼んでたはずなのに出久さんに変わってるわ……!!)」

「(ウチらが知らん間になんか進展しとるん……!?)」

 

何やら女子陣の中で何かの炎が燃えている事に気付くが、何となくその理由を察した光士は敢えて何も言わなかった。

 

「ではまずはミーティングルームへとご案内しそこでPLUSの活動内容は方針などのご説明、その後にはウルトラスーツのテストも体験して貰う事になってますのでお楽しみに」

「それでは行きましょうか、レッツゴー!!」

「ってうわっ何で僕を引っ張るの発目さんんんっ!!?」

 

「「(なんか近いっ……!!)」」




「(ス、スーツ着ててよかった……着てなかったらもうやばかった……)」
「(スーツ着て貰っててよかった……出久さんの腕に胸押し当てちゃうところでした……いや一周回ってこれはチャンスを潰してしまったのでは……!?)」

「(やっぱり近い、近いよデク君と発目さんっ……!!)」
「(これはっもしかして、もしかしちゃうわ……!!)」

『『これはっ修羅場の予感!!』』
「(なんかウルトラ・フォー・オールが騒がしいな……)」


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新しい試み、ちょっとした荒れ。

「さてっ此処までPULSの行動指針や活動内容などのお話をさせて頂きました、これからまた新しい話に入りますがその前に何か御質問などありますか?」

 

ミーティングルームにてA組とB組纏めての説明を行っているマグナこと光士。本来はこういう場合はナイトアイなどの方が説得力やらがあるのだが……生憎彼は彼で多忙な身なので光士が担当する事にしている。事務員だがこの位の事は出来ると志願した結果、素直に助かりますと感謝される程には多忙な身なのである。

 

「さてっPLUSでは現在あるプロジェクトを実行する為にと無人列島を譲り受け整備を進めております。人類や地球の為になると確信しているものです」

「それって一体何なんすか!」

「決まっているだろうさっ怪獣を倒す為の新兵器の実験場などだろうね」

 

興味津々と言わんばかりの態度の鉄哲、そして特空機などについての説明も受けたのできっとそれらに関わる事だろうと断言する物間。怪獣災害に立ち向かう為の新たな力の追及、流石だと言うのだがそれをB組担任、ブラドキングが窘める。

 

「静かにしろ、まだ説明の途中だろう。すみません光士さん、続きをお願いします」

「ざっくりと言ってしまうと怪獣保護区域の制定です」

「怪獣、保護……!?」

 

予想の斜め上を言った答えに物間は思わず目を見開くようにしながら驚愕した、怪獣を倒す為の組織が怪獣の保護の為に動いていると聞けばそれは当然かもしれない。

 

「あ、あのっご質問しても宜しいでしょうか。何故怪獣保護区の制定をしているのかお聞かせ願います!!」

 

それを聞く為に委員長の飯田が手を伸ばしながら尋ねてきた。予想された行動と流れなのか出久は少しだけ笑っていた。

 

「簡単に言えば怪獣を知る為です。私達は今怪獣への知識が極めて少ない、どのような生態をしているのか何も知らない。それを知るため、ですよ」

「確かにっ俺達は怪獣について何も知らないし分からない事だらけなのは事実……」

「だけどそれをPLUSがするんですか、怪獣を倒す組織が!?」

 

そんな言葉が物間から飛ぶ、疑問に思うのは当然だし先日もマグラーを倒したばかりの組織が怪獣の保護を謳うというのも矛盾のように感じるのも当然。正しい疑問であり質問だと光士は笑みを浮かべたまま答える。

 

「倒してしまっている組織だからこそする意味があるんですよ」

「しかし怪獣は……明確に人類を脅かしてるのに……」

「それはヴィランも同じですよ、それも同じ地球人である筈の私達が」

 

紛れもない事実、人類にとって余りにも大きく天災に等しい力を持ちそれらを向けてくる怪獣という存在が居ると分かりながらもヴィランによる犯罪は減らないしヒーローも必要とされ続けている。発目の言葉に物間は何も言えなくなっていた。

 

「何も知らないから私達は知らないといけないんですよ。私達の行動が怪獣を呼び起こして怒りを買うかもしれない、でもそれが分かれば怪獣と上手くやっていけるかもしれない」

「出来ると思っているんですか……?」

 

怪しむような言葉、厳しく冷たい意見は正しい。だからこそ胸を張って言う。

 

「出来るかじゃない、やるんだよ私達は。この地球は人類の物だけではないからね」

 

茶目っ気タップリにいう光士に何処か毒気を抜けれてしまったように物間は口を閉ざす。それが方針として決まっているのならば自分がいくら言っても変わる事など無いと分かっているからかもしれない。故に此処でフォローも入れておく。

 

「実は世界各地には怪獣と思われる記述が残されている、昔から怪獣たちと人類は共存していたんだよ。昔は出来て今出来ないなんて事はないし昔と今は違うの一言でやらないのは馬鹿げているだろう、この保護区は怪獣の生態調査や研究という意味でも大きな意味を持つからね」

「……成程、そう言われると確かに必要だと分かる……」

 

勿論単純な保護区ではない。保護区域では怪獣の調査と研究が行われ続けて行く、如何すれば怪獣を大人しくさせられ被害を減らす事が出来るのか。その為にも保護区は必要となる、こう言われると反対派は勢いを削がれ理解しようとするっとナイトアイが言っていたが正しくその通りだと出久は実感させられた。

 

「さてっ次はA組とB組で順番にはなりますが整備エリア方面への見学となります―――ではA組がウルトラスーツの試着及びテスト、B組をライドメカの見学や操縦体験という事に致しましょうか。相澤先生とブラド先生、何か御意見は御座いますか?」

「いえそれでお願いします」

「此方も問題はありません、ご丁寧なご説明と進行有難う御座います」

 

B組は一旦此処でライドメカについて詳しい説明と見学についての注意説明を行うので待機、A組はこのままテストエリアの方へと移動する。先頭を切って歩いて行く発目に一抹の不安を覚えながらもそれを隣で制御する出久に安心しつつも同情し、ある種のバランサーと成り得る光士の存在に安堵するという奇妙な感情を覚えながらA組が移動していく。

 

「それで緑谷ちゃん、ウルトラスーツって厳密に言えば何なのかしら?ヒーローにとってのコスチュームって認識でいいのかしら」

「まあそれに近しいかな」

「それでは説明しましょう!!」

 

テストエリアへと到着したA組、此処でウルトラスーツの試着などを行う事になるだが改めてヒーローコスチュームとの違いを尋ねられるので答え―――ようとした出久よりも先に発目が目を輝かせながら言葉を口にする。

 

「正式名称は対怪獣災害想定コスチューム、そしてそれはウルトラマンの力と対応力を目標としているのでウルトラマンに肖る事にしましてウルトラスーツにしたという訳です。まあ名前の通りなんですけど怪獣災害に対応する事が前提になっているコスチュームですからぶっちゃけ皆さんが使う物よりも遥かに強力です」

「つまり―――激アツいコスチュームって事だな!!」

「まあ概ね合ってますね」

 

切島の言葉を否定する事も無く寧ろ的を射ているなぁと返事をする発目が指を鳴らすと床が開き、そこから焦凍と爆豪のスーツが露わになった。

 

「これは轟さんと爆豪さんが使われてるウルトラスーツです、出久さんが今着ているのと見比べて貰うと分かりますけど形状も違いますし当然機能もコンセプトも違います」

 

ウルトラスーツそれぞれに特色があり個性も異なっている、まるで現代のヒーロー宛らの多様性に目を丸くする。これらの基礎を築き発展させているのが目の前の発目なのだから余計に驚いてしまう。

 

「さてと試着はどれをお願いしましょうかねぇ~やっぱりそれぞれ皆さんの個性に合わせるべきですかね~……」

「いや僕みたいに慣れてないんだから……アタッチメント装着前の初期状態をお願いするべきじゃないかな……?」

「えっ~だってあれは出久さんに散々データ取って貰いましたから十分ですって。今更初期型のデータいりませんよ」

「僕以外の人の使用感とかは必要だと思うからさ、ねっそうして」

「ブッ~しょうがないですね……それじゃあそちらをご用意しますよ~……」

 

と何処か不機嫌そうにしながらも端末を操作する彼女に胸を撫で下ろす出久、最近大人しくなってきているとは思うがそれでもまだまだ変わらない部分もある。それでも自分が言えば変更などを聞いてくれる程度には軟化しているので断然御しやすい。

 

「みっ緑谷マジで有難うな!!お前が言ってくれなかったらオイラ達実験台にされたって事になるんだろ!!?」

「いやそれは流石にないよ、だってそれ僕だし」

『遂に認めちゃったよ!!?』

「じゃあ否定したらさ、皆それに納得してくれる?」

『……』

「でしょ」

 

完全に諦めの境地へと至ってしまった出久、本当に遠い所に来てしまったなぁ……と不意に空を見つめてしまう。この若さでこの達観っぷり、爆豪は昔のデクは本当にいねぇんだな……と思うと同時に飯ぐらいは奢ろうと思うのであった。

 

「んじゃ出久さんはこのままGINGAのテストを続行しましょうか、という事で光士さん其方はお任せしますね私達は邪魔にならないように向こう行ってますから~」

 

そう言いながら出久の腕を取って離れた場所へと移動していく二人を見送るのだが……振り向いた時に麗日、そして梅雨の二人が何処か鋭い目で見ていたのを見て何処か分かってしまったような声を出してしまった。

 

「発目さん、私だけでは厳しいので其方で何人か見てあげてください」

「えっ~?」

「開発者なんですから、それじゃあ……麗日さんと蛙吹さんは其方で。特別隊員としてウルトラスーツの使用経験のある焦凍君と爆豪君手伝って貰えませんか」

「分かりました」

「チッしゃあねぇな」

 

 

「ケロッ宜しくお願いするわね発目ちゃん」

「おっお願いします!!」

「うっ~……まあ光士さんの言葉にも一理ありますし引き受けましょう……私個人としては凄い不本意ですが……」

「ちょっと発目さん……僕もフォローするからさ……ねっ頑張ろうよ」




「(うむっ光の国でもこんな感じにネオスたちに王族の女性陣を嗾ける事にしよう)」

「ッ!!?な、なんだか凄い寒気が……マックスもしかして君もかい……?」
「君もかネオス……実は私もだ……」
「おおっ二人とも丁度いい所に……実は二人にお見合いの話が……」
「「にっ任務がありますので失礼します!!」」


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如何して発目は変われたのか。

「シャォラァッ!!」

 

目の前に居る仮想敵、それはウルトライブ・シミュレーションの技術を応用した体感式シミュレーションシステム。本来は怪獣などを相手にする事になっている筈なのだが今出久の相手をしているのは怪獣などではなく―――人形。前腕から飛び出している二刀のギンガセイバーを完璧に捌きながら徹底して自らの得物の距離を理解した上で戦い続けるそれは最早人形ではなく一つの生命、度重なる戦いを生き延び続けた練達し技術に老成した経験が成せる業の組み立て。

 

「やっぱりこのレベルは強いっ……!!」

『―――。』

 

一切言葉など発さぬ人形、紅い宝玉を思わせる鮮やかな色の中に流れる渋く輝く燻銀のライン、それが持つのは大剣にも槍にも見えるような得物。それを縦横無尽、身体の一部のように変幻自在に操りながら戦うそこに自分の目指すものがある。

 

「ディァッ!!」

 

咄嗟にギンガセイバーの刀身を光弾として発射する。エネルギーを刃の形にして固定しているからこそ出来る芸当、だがそれは虚すら付けない。振り回してからの突きで二つの刃を一瞬で砕く。がっ直後に真上から再度二刀で斬りかかる―――と見せかけながら地面を蹴り砕いた。足場が不安定になると体勢が崩れ、得物でバランスを取ろうとするのを見てセイバーを突き刺した、がそこに人形の姿はなかった。

 

「上っ!?」

『―――。』

 

バランスを取る為に地面に突き刺さった武器、それを支えにするように身体を腕の力だけで持ち上げて渾身の突きを回避した。そして喉を蹴り付けられ倒れる、その流れのまま倒れるようにしながら武器を引き抜くと心臓へと向けて刃先が突き立てられた。

 

「また、負けたぁ……」

『―――。ウルトライブ・シミュレーション、レベルインフェルノを終了します。』

 

そんな音声と共に人形が消え去っていく、身体から消えていく武器の重みを感じつつも悔しそうにしながらも身体を引き起こしてギンガセイバーを収める。

 

「またクリア出来なかった……まだまだ使いこなせてない証拠だなぁ」

 

エネルギー活用万能戦闘型スーツ:GINGA。その扱いにもかなり慣れ始めている出久だがそれでもまだまだだと思う部分が多々ある。だがそんな出久へ麗日と梅雨は溢れんばかりの称賛をもって出迎えた。

 

「出久君凄すぎひん!!?見てて凄いハラハラドキドキやったよ!!」

「あれが達人同士の果し合いっていうのねって見てて初めて思ったわ。私達にも参考になる凄い物だったわ」

「有難う、でもまだまだなんだよね。言い訳になっちゃうけどこのスーツを使いこなせてない」

「あれでそうなん!?」

 

思わず尋ねてしまう麗日に頷きで返す。あくまで慣れ始めているだけ、ゲームで言えば新しく始めたゲームの操作感やコンボの出し方を覚え始めたに過ぎない。それらを十全に扱い戦術に組み込むという事がまだまだ出来ていない。その証拠にギンガセイバーだけしか今回は使えていない。

 

「今思うと飛ばした時にまた二刀でやる必要はなかったなぁ……それだったら最後のあれにサンダーボルトで対応出来てたし……」

「緑谷ちゃんとしてはまだまだ改善点がいっぱいあるって事なのね、凄いわ……私ならあそこまで出来たって安心しちゃうと思う」

「ウチもそうだと思う」

「いやそれは普通に良い事だよ、僕の場合は普段のスーツなら勝てる相手なのに勝てないのが唯悔しくて認めたくないだけの負け惜しみだから」

 

恥ずかしいけどねっと笑っている出久だがそんな彼の下に発目が端末を持ったままやってくる。

 

「お疲れ様です、如何ですクリスタルセルの変換効率を少し上げてみましたけど」

「うんバランスもいいしセイバーの威力も上がってるからいいと思う」

「それじゃあこのまま推し進めちゃいますねぇ~……というか出久さんはちょっと変な方向に卑屈なんですよ、使ってるものも違うなら勝率も大きく変わってくるのは当然なんですしこのGINGAだって普段から使うとは限らないんですから」

 

御二人は気にしないでくださいね、とこの後スーツを着用して試運転を行った後に自分達の個性を組み込んだ動きがどんな風に変わるかを体験する二人に忠告しておく。スーツを使ったらどの程度動けるのかの例として模擬戦をお願いしたのだが……出久は結構マジになって戦っていた。

 

「それにお二人が戦うのはあのレベルじゃないんですから……というかなんでインフェルノ選んじゃったんですか、高すぎてお手本にならないですよ」

「いやそれは僕の意地と言いますか……」

「やれやれ全く……んじゃまあ御二人分の機材持って来て貰えます?」

「今直ぐ!」

 

地味にフルカウルを発動させながら高速移動しながら走っていく出久、その意地も理解出来なくもない。何せのあの人形はマグナのデータが組み込まれているのだから。当人には遠く及ばないが、それでも迫る強さはある。だから相棒である出久はそれを越えたくてしょうがない。だからと言っても見本でそれをやるのは頂けないが……。

 

「……えぇぇぇとすいません、仮免前にお会いしたと思うんですけど……ごめんなさいお名前なんでしたっけ、忘れちゃいました」

「麗日 お茶子ですっ!!」

「蛙吹 梅雨、梅雨ちゃんと呼んでね」

 

梅雨は普段通りのそれだが麗日は何やら力を込めている、矢張り名前を忘れてしまったのは不快だったかなぁと頭を掻きながらも今度は忘れませんと言いながら謝罪する。と麗日は慌てたように強く言い過ぎてごめんなさいと謝罪し返す。

 

「私思ったことを直ぐに言っちゃうの、だから気を悪くしたらごめんなさいね」

「いえいえいえどうぞどうぞ、それ言われたら前の私なんて完全なキチガイですから」

「ええっ本当に発目ちゃんって変わったって思うの、私達は緑谷ちゃんどころか轟ちゃんや爆豪ちゃん程も貴方と付き合った事もないから分からない。それでも貴方が変わったって本当に思うの、何がそこまで貴方を変えたの?」

 

出久の戦闘データを整理しながらも素直に参ったなぁと言いたげな表情を作ってしまう発目、やっぱり自分ってそう思われてるんだなぁっと自覚すると恥ずかしくなってくる。

 

「同じレベルというか格上の博士に当たるデヴィッドさんやメリッサさんと一緒に居る事が増えたからですかねぇ、同じでレベル帯の人がいると話も合いますし隠して敢えて口にしないことまでは全部吐き出せますし」

「発目ちゃんは結構ストレスを溜め込んでたのね?」

「そんな所ですかね~」

「でもそれだけなん?」

 

と麗日から問いかけられて思わず手が止まってしまった。何処かのんびり屋的な空気を感じていたが思っていた以上に鋭い面があるらしい。

 

「……まあ端的に言えば出久さんですかね、出久さんが私を変えました」

「やっぱりっ……」

「緑谷ちゃんとは凄い一緒にいるみたいだものね」

「まあ当時の私からしたら出久さん以上に適したテスターはいませんでしたからね!!」

 

だけど今は違う……違っている、出久に求めているのはそんなのではない。

 

「何て言ったらいいですかねぇ……私、置いて行かれたくないって思ってます」

「置いて行かれる?どういうことなの」

「う~ん改めて言葉にするのは難しいですね、出久さんを見てるとなんかそんな風に思っちゃうんですよね……」

 

―――足を止めたらあっという間に、手の届かない何処かに走り去って行ってしまう……そんな感じがする。

 

それは発目の胸の中にあった物だった。それは最近になって現れた一種の不安に近い何か、モルスとの闘いを通して彼女も何かを感じた。だがそれが明確には分からずに首を傾げつつも出久の傍に居続けられるように努力し続けているというのが現状。

 

「だから変われたの?」

「だからと言われたら何とも言えませんけど……だから変わったと言いますか、ううん良く分かりません!!取り敢えず今はお二人のサポートに徹しますね、何でしたら出久さんの胸だって貸しますから、大丈夫ですって私が言いくるめますから」

「いやいやいやデク君の胸借りるとか畏れ多すぎるってば!?」

「お茶子ちゃん落ち着いて、そういう想像とは違うわ」

 

質問から必死に考えて言葉を作っていると自分は何処かで気付いた、置いて行かれないようにしている……手が届かない……正しくそれだ。いや出久に行って欲しくないと思っているんだと確信する、自分はどうしようもなく不安なのだ……

 

―――出久がマグナと共に宇宙へと行かないかと、不安に感じている。



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ウルトラスーツは何処まで影響するのか。

「爆豪、そろそろ時間だぞ」

「チッ……おいテメェら15分休憩だ」

 

その言葉に一斉に倒れ伏していくA組の姿に鼻を鳴らし呆れ果てている爆豪、それでもそこに馬鹿にする意図などがないのは倒れた皆にも分かるのと焦凍の存在は絶対的な安らぎに近かった。

 

「むっ……むっずぇぇぇ……」

「い、今まで出来てた動きが全然出来ねぇってどういう事なんだよ……」

 

皆が纏うのは初代ウルトラマンこと、マン兄さんを模している初期型ウルトラスーツ。初期型と言ってもそれは初期に作られたという訳ではなく、ウルトラスーツは此処から様々なアタッチメントや装備を換装して様々な目的を果たす事を目的としているので初期型と呼ばれているだけ。それでもそこに宿るのは人間サイズのウルトラマンの力と言ってもいい。今まで出来ていた事はあっさりと出来なくなっていた。

 

「個性の出力だって馬鹿みたいに上がってるぜ……俺っ何回壁に……ぶつかってたよっ峰田……?」

「27回……因みにオイラの方は……?」

「マジか……お前は32回」

「マジかよ瀬呂……」

「それは俺の台詞だっつの……」

 

ウルトラスーツによって向上するのは身体能力だけにあらず、個性因子の活性などを検知してパワーセルが同調してそれを引き上げる。故に瀬呂は今まで出来ていた筈のセロハンによる空中制動移動が出来ずに壁や地面への激突を繰り返し、峰田はもぎもぎによる反発移動に失敗し何度も犬神家をしていた。

 

「ハァハァハァッ……」

「ウェェェェェェェイッッッッ……」

「響香さんお加減は……?」

「それは、隣の馬鹿に言ってやって……駄目ッ音じゃなくて色々な気配が筒抜けになって……」

 

耳郎は音を聞く能力が過剰なまでに引き出され何もせずとも周囲の環境の把握が出来るようになった、が処理が追い付かずにパニックを起こす。八百万は創造の際の消費カロリーがパワーセルによって代用可能となっているだけでそこまでの影響はない。そして上鳴は調子に乗り過ぎて放つ電撃の威力を上げ過ぎて脳内は完全にショート。

 

「うっわぁっ……他の皆凄い事になってるよぉ……いやこっちも凄い事になってるけど」

「―――っ……!?」

「轟大変だ青山がやばい事になる一歩手前だ!!」

「そっちだ」

 

爆豪のハードルが高めであったのもあるがそれでもウルトラスーツ初体験故に正しく死屍累々というような光景が広がっている、それは焦凍が見ていた班も同じくであり青山を担ぎ上げて大急ぎてトイレに駆け込んでいく切島と口田。中にはウルトラスーツの影響がそこまでない、直ぐに慣れている子もいるのでこの辺りは完全に才覚などに左右されてしまうという事だろう。

 

「あの光士さんっこのウルトラスーツは少々強すぎるのではないでしょうか!!?」

「う~ん……甥っ子の意見があるからこれでも大分マシにはなってるんだよ」

「えっこれで!?王水みたいな酸出せちゃったのに!?」

「あれは正しく驚愕した、それを浴びて平気なダークシャドウにも驚愕したが」

『俺モマジデビビッタ』

 

とウルトラスーツにもうまく適応出来ている生徒らから流石に不味いのではと言われるのだが、これでも大分実戦配備に向けて進んでいる方。今までは出久でなければ確実に耐えきれない物だったのに、多少反動が来る上に習熟訓練が必要になる程度に落ち着いている。だがそれは慣れている出久の意見を取り入れ過ぎたかもしれない……と思い始めた。

 

「それを言われると緑谷君はどれだけ凄まじい性能でテストをし続けたんだ……!?」

「アタシが振り回されてるのもそれで済んでるってレベルなんだろうね多分……」

「正しく日進月歩、苦悶の日々の末に今があるという事か……」

 

まあ実際はこれらはまだ成長途中であるヒーロー候補生である彼らの使用を前提にしていない為の調整不足もあるだろう。それなのにあっさりと使いこなしてしまった焦凍と爆豪は矢張り身体と個性のレベルがずば抜けていると言わざるを得ない。

 

「では私達も休憩にしましょう、後爆豪君飛ばし過ぎですよ。30分にしてあげて下さい」

「アァンッ!!?甘ぇんだよっこの位出来て当然だろうがよ!!」

「私の顔を立てると思って、お願いします」

「チッ……わぁったよ」

 

何処か拗ねたようにしながらもフルーツバーを齧りながら自販機へと向かって行く姿に肩を竦めると峰田たちからまるで神でも見るような目で見られる。

 

「マジであんがとうございます……オイラマジで爆豪に殺されるかと思った……」

「本当に有難い……有難う御座います光士さん……」

「いやマジであんがとございます緑谷のおじさん……」

「いえいえっおじさんは何もしてませんよ~」

 

と感謝されるのを何処か軽く受け流しながらも爆豪へのフォローもしておく。

 

「焦凍君も分かってると思いますけど、あの濃さは皆さんならば確実に出来ると思ってこそです」

「それは如何なんでしょうか……爆豪さんの言葉も自分ならという事だと思いますが……」

「仮にも指導役を任されている彼ならばそんなことはしませんよ、まあハードルが高めなのは事実でしょうが本気で取り組んでいるならばできると思っているのも事実」

「ペースは速ぇけど俺もそう思う、実際八百万は出来てるだろ」

 

全く以て素直じゃない信頼の仕方だと言わざるを得ない。決して口に出さず妥協もしないそんな姿にはレオを鍛え上げていたセブンの姿を想起させる。そして同時に知らせている、PLUSに進む進路を選んだ場合に待っている物を。厳しくありながらも優しい少年だ。

 

「取り敢えず上鳴君も確り休憩しなきゃダメですよ」

「ウェェェ~イ……」

「でもこのまま放置するしかないですかね……」

「こういう時は―――テイッ!!」

『チョップ叩き込んだ!!?』

「―――ウェイ!?あれ何やってんだっけ!?」

『昔のTVかよ!!?』

 

 

「凄い凄いっ!!ウチ自在に空飛んどる!!」

「凄いわねお茶子ちゃん、私も頑張らなくちゃ」

 

四苦八苦しているクラスメイトの中でも麗日と梅雨の二人はかなり上手く行っている方であった。開発者である発目とテスターとしてずっとウルトラスーツの実験に携わってきた出久が居るのでコツを掴むのも早かった。加えて麗日の場合は個性の相性も良く増強する方向性が許容量の増加に働いた為に基本的に普段通りに動けている。梅雨の場合は身体能力の強化だが、当人のセンスが素晴らしく直ぐにものにしている。

 

「凄いなぁ……もう完璧に扱い切ってるよ」

「個性によってウルトラスーツの干渉も違ってますねぇ……単純に能力を上げるのもあれば限界値だけを伸ばすのもある。こんなムラがあるのは驚きです……確かにこれは出久さんではわからなかった事ですね」

 

元々出久にはウルトラ・フォー・オールという個性があるがその場合は増強されるまでもなく膨大すぎる、されていたとしても微細過ぎて気付けない程度の物でしかない。加えてマグナと共に居たので制御関係についてかなり入念に鍛え込んでいるのも影響している。

 

「これって何時か配備する時は大変じゃない?」

「そうですねぇ……個性を伸ばすという汎用特性を持たせずに身体能力のみの強化に留めた方が良いかもしれないですね。任意で個性干渉出来るようにするようにした方が色々便利ですかね?」

「便利だと思うよ、ハイテクは使う人によって違うし」

「それじゃあそうしますね~出久さんの意見って本当に参考なりますね」

 

実際コンセプトと機能が方向性を持っている状態とまだ方向が決まっていない状態では大きく違っている事が分かった、これは本当に色んな意味で貴重なデータと成り得るだろう。

 

「これからは僕だけにテストを頼むのはあんまり良くないんじゃないかな」

「うっ……まあそうですけど……それはそれで出久さんと二人の時間が……えっえっとほらっ失敗した時とかは出久さんじゃないと耐えられませんし!!」

「ああうん確かに……」

 

そのようなやり取りをしている時の事だった、アラートが鳴り響いた。警戒状態を知らせる物であり第二戦闘配置への移行を示す物、咄嗟に出久はナイトアイへ連絡を取る。

 

「何事ですか!?」

『怪獣が出現した、A組の皆をミーティングルームへ誘導を頼む』

「分かりました、その後に司令室に」

『いやミーティングルームで説明する、誘導を頼む』

 

兎も角今は皆をミーティングルームへの誘導が先だと動き始めて行く。ナイトアイの言葉にやや疑問を覚えるが、素直に従う。その理由は直ぐに理解出来た、何故ならば―――怪獣によって人の命が危険になっているからである。




次回―――PLUS&ヒーロー共同戦線!?


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火山よりの巨獣。

「A組の諸君、突然だが力を貸していただきたい」

 

ミーティングルームにて集まったA組の皆に対してナイトアイは真剣な眼差しを持ったまま頭を下げた、突然すぎるそれは皆を驚かせる。実質的なこの組織のトップが見学に来ている学生に頭を下げるなんて普通ではあり得ない事だから。

 

「ナイトアイ参謀、理由をお聞かせください。如何してウチの生徒達にそれを?」

「理由は先程のアラート、あれは怪獣出現を示し出撃準備を示す物になる……だが今回はそれが問題となる」

 

正面のモニターが切り替えられ映像が投影されていく、そこに映し出されているのは海辺の街並みが広がる。漁港もある多くの人達で賑わっている―――なんて事はなく静まり返っている。いやそこにあるのはある筈の漁港の姿ですらない。

 

「此処って……」

「千葉県にある古山港、俺行った事あるぜ。此処の海産物くっそうめぇんだよな」

 

と瀬呂が言った直後に巨大な影が飛来する、それは何処からか持ってきた巨大な鉄くずを咥えながら漁港へと降り立った。それは一言で表せば巨大な鳥、赤い頬袋が特徴的な赤いが青くもあり巨鳥は雄叫びのような声を上げると再び空へと飛び上がっていった。

 

「火山怪鳥バードン。この怪獣は浅間山から飛び立つ姿が確認され、その後南房総地域の古山港に降り立った。まるで巣を作っているかのような行動を見せている、巣を漁港に作っているのも問題だがそれ以上に問題なのは―――これだ」

 

手元の端末を操作してサーモグラフィーに切り替える、巣を上空から移した物になるのだがその巣を構成しているものが大問題。そこにあるのは鉄塔や漁船、マンションなどの住宅も見受けられる。そしてその内部には多くの人が残っている状態になっているのである。

 

「マジかよこれ……!?」

「怪獣の巣作りってどんだけダイナミックなんだよぉ!?というかなんで火山から海沿いに出てんだよ此奴!!馬鹿なんじゃねぇのか!?」

「理由があるんだろ、鳥……鳥だな、鳥が巣を作る理由って何だ?」

「―――餌か、雛の」

 

焦凍の言葉に爆豪が納得と関心を寄せたような声を呟くとその場の全員が思わずゾッとした。そう、あのバードンは繁殖の為に火山から出てきたのだ、サーモグラフィーで確認してみてもバードンの腹部の温度は低い。これを見たナイトアイはバードンは卵を冷却する事で孵すのだと理解、その為に海沿いで気に入った場所に巣を作っているのだろう。そしてその巣に適した素材は人間社会から調達、最終的には孵った子供にはついでに捕らえた人間を与えようとしている。

 

「現地ヒーローが救出を試みたが、繁殖期のバードンは酷く警戒心が強くなり凶暴化しているらしく近づけない。故にPLUSはバードンへの対処と救出を同時に行う事になった―――が」

「そうか、最悪すぎるタイミングだ……」

 

思わず毒づく光士。現在在中している元ヒーローのPLUS隊員は少ない、というのも怪獣災害対処指導などの為に各地方へと散っているのである。新興の組織という柵もあり、地方などにも有用性のアピール、中にはくだらないイベントへの参加もを政府からの要請で求められていた。それが今最悪のタイミングで襲いかかってきている。

 

「現在怪獣への対処が出来るのは少数だ、だがそれではバードンへの対処で精いっぱいだ。故に……私は、司令官代理として要請したい。諸君、バードンの巣に囚われてしまっている人々の救助を手伝って頂きたい」

 

大きく頭を下げるナイトアイ、怪獣災害を想定している組織なのになんて情けないんだと自分でも思う。だが今はそんな事を言っている場合ではない、一刻も早く対処しなければ一大事になるのだ、だから力を貸してほしいと懇願する。現場の危険性を考えてもウルトラスーツを用いた作戦が強いられる、故にスーツを纏ったままで皆に現場に向かって欲しいと。

 

「酷く危険な作戦になる、だがそれでも力を貸してほしい!!皆の身も守る為に全力を尽くす、だから―――」

「それ以上言わなくていいっすよナイトアイ参謀!!俺達はヒーロー目指してんすよ、助けを求められれば答えるのが当然っすよ!!なあ皆!!」

 

真っ先に声を上げた切島、ヒーローを目指している自分達にPLUSが助けを求めている。そしてその先では助けるべき人々がいる、だったら決まっている。助けに行くしかないだろう。

 

「そうですわねっ危険ではありますがだからこそヒーローを目指す者として尽力しなければいけませんわ!!」

「アタシも同感!!此処で立たなきゃ乙女が廃るっしょ!!」

「無論、我も行く。修羅が座す地であろうが我らの手を求める手がある」

「お、おう当然だぜ……!!怖いけど、怖いけどオイラだって行くぜ!!USJの緑谷みてぇに助け出してやるぜ!!」

「良い事言うわね峰田ちゃん、それを言われたら私も行かない訳には行かないわよね」

「―――ウムッ参謀、A組一同助太刀致します!!いいですね相澤先生!!」

「……十分に注意をしろ、相手は正しく生きる災害だ。PLUSの指示は絶対、そして全員必ず生きて帰れ。それが条件だ」

『はい!!』

 

反対しようとした相澤、だが生徒達が此処まで自分達の意志で怪獣という新たな脅威に立ち向かおうとしている。これからの時代は如何あがいても怪獣の脅威という物は迫りくる、ならばPLUSからのバックアップが得られる段階でそれを体験する事は為になると判断して許可を出す。それを見てナイトアイは心からの感謝を述べながら作戦を説明する。

 

「これよりアートデッセイ号へと搭乗し現場へと急行、轟と爆豪は2チームに別れながら救出作戦を決行。それぞれには追加で現地でプロヒーローが合流する、緑谷は発目と共にファイターGXにて状況解析とバードンに関する情報収集、可能であればバードンを誘導するMt.レディらの援護を行え、以上だ、行動開始!!」

『了解!!』

 

すぐさまにA組は焦凍と爆豪の誘導を受けてアートデッセイ号へと向かって行く、出久と発目は光士と共にその場に残りながらナイトアイと話をする。

 

「貴方も凄い事を考えますね」

「責任は私が全て取ります、バードンの影響を考えると如何してもウルトラスーツが必要となってきます。だが……クソッ何故こんな時に……!!」

 

苛立たし気に舌打ちをしながらも足踏みをしてしまう。本来動かせる筈の実働部隊が政府の要請のイベントに出てしまっているせいで必要な時に動かせないなんて……これも予算問題やマスコミへの事も考えた末の事だが、こんな影響を生んでしまった自分の判断が腹立たしい。だがそれを直ぐに収めると真面目な顔で言う。

 

「オールマイトとホークスとの連絡が取れました、現地で合流し救出チームの応援を務めてくれます」

「オールマイトとホークスなら心強い……!!あっそれならGAIA持って行かないと!!」

「ですね、確りと積んでいきましょう」

 

そんな二人を他所にナイトアイは深々と、いやその場で正座しながら光士へと土下座をした。

 

「申し訳ありませんマグナさん……私は貴方から信頼されてこの組織の参謀という立場にあるのに……子供達を怪獣の居る場に送り出そうとしている……!!なんて情けない事か……私は私はっ……!!」

 

後悔と怒りに塗れた言葉、全て自分の想定の甘さや不手際のせいでこうなったと全ての責任を被ろうとしている彼にそっと手を差し伸べる。

 

「貴方も貴方でオールマイトそっくりですね、世の中完璧に物事をこなすなんて出来ない物です。だからこそ協力して問題に立ち向かうんです、組織としての柵も理解しているつもりです」

「有難う御座います……!!」

 

感謝の言葉を述べながらも立ち上がる、そして自分に出来る事をする為に彼は襟を正すと司令室へと走っていく。その姿を見送ってから光士は言う。

 

「相手はバードン、唯でさえとんでもない怪獣なのに今回は繁殖期を迎えている個体。油断は出来ないぞ」

「はいっ全力を尽くします!!」

「私も頑張りますよマグナさん!!」

「よしっ行こう!!」

「「はい!!」」

 

大きな揺らぎに包まれる房総半島、浅間山より飛び立った火山怪鳥バードン。地球怪獣の中でも最強格とも言われる巨鳥の羽ばたきは何を運ぶのか、新たな命をその身に宿した巨鳥は間もなく生まれる我が子を愛おしく思いながら囀る。この日、人類は知るのだ―――地球を故郷とする怪獣の強さを。

 

―――キィィィィィッ……。




地球産怪獣、その中でも屈指の強豪、バードン=サンのエントリーだ!!

ウルトラシリーズの鳥怪獣は強敵、という伝説もこのバードンスタートだったりする。そしてこいつがやらかした事はインパクト抜群。何せ登場した回のサブタイトルが

第18話「ゾフィが死んだ!タロウも死んだ!」

ゾフィが死んだ!タロウも死んだ!


ゾフィが死んだ!タロウも死んだ!


何この凄いサブタイのインパクト。そして実際に倒している上に隊長を語る上で欠かせないあの伝説を作った怪獣。因みに、隊長の例のあれは事故じゃなくて演出の一環で行われたらしい―――だからって燃やすか……?


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房総半島、巨鳥現る!!

浅間山から飛び出したバードン、浅間山……早乙女研究所……つまりゲッター……

そうか、そうだったのかっ……!!怪獣とは、命とは、ゲッターとは!!


房総半島 古山港

 

PLUS基地より飛び立ったアートデッセイ号、それによって素早く房総半島まで移動する事が出来る。既にダヴ・ライナーによってA組の生徒達は送り出している。問題は此処から如何やって現地のバードンの巣から人々を救い出すか、アートデッセイ号のクルーも初の実戦に緊張している中でブリッジでは何やらリラックスを誘発するような香りが鼻腔を擽った。

 

「うぅ~ん……やはり大きな仕事にはこのゴールドティップス・インペリアルが相応しい……鼻腔から伝わった物はダイレクトに脳に繋がり本能を刺激するというらしい……ウムッそんな話にも説得力がある……」

「いや艦長何めっちゃリラックスしてるんですかっ!!?これ実戦ですよ実戦!!?初の怪獣災害に対するアートデッセイ号の初陣なのに何でそんなに楽天的なんですか―――ジェントル艦長!!」

 

アートデッセイ号の艦長に任命されたのは―――ジェントル・フェンサー、元ヴィランの身でありながら信じられない出世を成し遂げている。そんな彼は暢気に紅茶を啜りながらリラックスしながらも何か感激したように身震いをさせた後にホクホクした顔で人差し指を伸ばす。

 

「うぅ~んいい響き、済まないがもう一回言ってくれ♪」

「素敵よジェントル艦長!!」

『やってる場合じゃねえだろ!!!』

 

と同じように副長に就任しているラブラバが太鼓持ちをしていると一斉にツッコミが飛んでくる。この作戦の意義を本当に理解しているのかと懐疑的になるのだが突然鋭い視線でモニターに映っているバードンをにらみつける。

 

「バードンの様子は」

「えっあっと……鉄塔を嘴で突っついて小さくしながら巣の材料にしてます」

「巣は大きくなる一方、避難命令は発令したので近くの街に材料を取りに行ったとしても可能性は低い……かと言って下手に攻撃を加えれば囚われの方々に危険が及ぶ……だが繁殖期の動物であるならば警戒心も半端ではない、嫌寧ろそこを利用すべきか……発目君を呼び出してくれ」

「はっはい!!」

 

突然変貌したジェントルにクルーは動揺した、正直言ってこのアートデッセイ号の艦長に成りたがる人材などいなかった。何せ人類初の超大型飛行戦艦、それに掛かる責任は異常の一言。そこでナイトアイの推薦と本人の希望によって成り立った配置だが……元ヴィラン故に彼を懐疑的に見る人物は多かった。

 

「発目君、バードンの警戒範囲外から攻撃を打ち込めるかね」

『お任せくださいっこんな事もあろうかと開発したてのMPBMを搭載してますよ』

「宜しい、ならばその攻撃と同時にファイターチームを突入させ注意を引く。タイミングを待ってくれ」

『アイアイサー!!』

「ジェントル、Mt.レディの準備も終わったみたいよ。ゴモラアーマーもスタンバイOK!!」

「宜しい。ファイターチームの発進を許可する!!」

 

だが今それが如何だろうか、鋭くありながらも的確な指示を飛ばしながらも作戦を考えその為の伝達を行い続けている。初の実戦であるのにも拘らず彼とラブラバだけが平静を保ち続けている。不安げな表情にジェントルは一喝する。

 

「確りせんか!!我々が行うのは何だ、怪獣災害より人々を救う事だ!!その為の我々が狼狽えるなどあってはならん!!」

『っ……はい!』

「カッコいいわジェントル!!」

「ファイターチーム発進!!さあっ我々の初陣を飾り知らしめるのだ、怪獣災害は我々が対処するとな!!」

 

この時誰もが思った、艦長は彼しかいないと。

 

 

「さぁて行きますよぉ!!!」

 

発目が操るファイターGX、それが超遠距離から特殊弾頭を発射した。それは対怪獣災害想定型の多用途炸裂弾頭ミサイル、今回の弾頭は派手な爆発と音をまき散らす弾頭。発目曰く超近所迷惑型(ジャイアンリサイタル)ミサイル。引かれるトリガーと共に発射されていく弾頭、それはバードンの警戒範囲外から打ち込まれる。それと同時に青いカラーリングのファイターを先頭に赤いファイターを二機伴ったチームが突入していく。そして弾頭は巣の近くに突き刺さった。

 

「発目さん弾頭着弾確認!!」

「んじゃまっ行ってみましょうっか!!ポチッとな!!」

 

ボタンを押す。そしてそこから溢れ出すのは―――

 

 

ピィッィイイイイイギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!

 

「ギュギァァァアアアアッッ!!?」

 

途轍もない爆音に等しい合成された怪獣の泣き声が再生される。それに思わずビックリしたバードンは軽くパニックを起こすのだが直後に目の前を飛び去って行くファイターが見える。間もなく産卵、ストレスも溜まる時になんて迷惑な事をしてくれるんだと怒りに駆られたバードンはそのまま飛び立つとファイターを追いかけて行きながら火炎を放ちながら攻撃していく。

 

「よし釣れた!このまま無人地区にまで引っ張っていく!」

「そこでMt.レディがバードンを釘付けにする!!」

 

陽動は成功、この後は―――

 

「よしっ準備は良いな少年少女!!これより巣に囚われた人々の救助作業を開始する!!」

「ハッキリ言ってバードンはどれだけ巣から離れるかは想像がつかない、故に時間との勝負だが焦るな!!焦らず急げ!!」

『はいっ!!』 

 

現場にて合流したオールマイトとホークスがA組を率いて巣へと乗り込んでいく。巣は様々な物で構成されている、電線が繋がったままの電線や巨大なマンションに一軒家、巨木などなど……怪獣にとって巣の材料になると思われる物を片っ端から調達してきたと思われる。だが其処に人間が巻き込まれているのだから溜まったものではない。

 

「よしっこっちはええよ!!これ持ち上げて!!」

「承知。ダークシャドウ!!」

『アイヨ!!』

 

「もう大丈夫だっほらっ手を伸ばして!!」

「峰田もぎもぎ頼む!!」

「分かったぜ!!」

 

雄英にてレスキュー訓練は多く積んでいる、それに加えてウルトラスーツにお陰で怪我などを心配する必要もないしどんどんと作業が進んでいく。発目がスーツにリミッターを施したので増強規模が抑えられているので個性も問題なく扱える。

 

「しかしなんて規模だ……!!これが怪獣災害……」

「全くだ、私でも体験した事がない……!!」

 

ホークスとオールマイトすら声を上げてしまう程の混沌とした環境。真横に鉄塔があると思えばマンションがあり、バスが横倒しになっている。正しく人類の考える物を超える災害の現場としか言いようがない。だが自分達もウルトラスーツがあるのだから対応できる―――と思っていた。

 

「オールマイト大変だぁ!!」

「如何した切島少年!!」

「デカいマンションの下に一軒家があってそこに人がいる!!」

「な、なんだと!!?」

 

救出作業も後僅かと言う所でとんでもないものが残っていた、それは巨大なマンションの下敷きになっている部分に元々あったと思われる住居に閉じ込められてしまっている人々がいるという事。加えてマンションはかなり危ういバランスで圧し掛かり、住居は奇跡と言える状態でギリギリ状態を保っている。下手に動けばマンションが一気に住居を押し潰してしまう。

 

「麗日少女マンションの瓦礫を浮かせるんだ!!私達がそれらを退かすしかない!!」

 

それしかない。時間はかかるが救うにはそれしかない!!と決意をするのだが―――その時、オールマイトに出久からの緊急通信が入ってきた。

 

『オールマイト直ぐにそこから離れてください!!バードンが凄い勢いで戻ってきてます!!』

「何ぃぃぃぃィィ!!?」

 

『ごめんなさいっ取り逃がしちゃいましたぁ!!だって突然首が回って私に火噴いてきたのをまともに喰らっちゃって!!』

『しかもファイターチームの光子砲も全然平気って……ンもう母は強しにも程がありますよぉ!!』

『言ってる場合じゃないでしょ!?って何だこのスピード!?直ぐに到達しちゃう!!』

『えええええっちょっと待ってくださいよ何ですかこの反応!?』

 

GXから響いてくる発目と出久の悲鳴染みた声、そしてMt.レディの声。陽動作戦は成功しバードンをMt.レディが無人地区で迎え撃ち時間稼ぎをしていたのだが……まるでフクロウのように180度回転し、真後ろを向いて炎を発射して彼女を吹き飛ばし、その隙を突いて巣へと戻ろうとしている。ファイターチームが翼に攻撃してそれを阻止しようとしても完全に無視を決め込んでいる。

 

「少年少女一旦退避だぁ!!急げっバードンが戻ってくる!!」

「急げっグズグズしない!!」

 

救助はもう一度バードンを引き剥がしてから出ないと無理だ、それ所か救出した人々さえも危険に晒す事になると撤退を決意する。その指示に従って皆が大急ぎで退避するのだが―――その時だった。

 

「うわぁっ!!?」

「口田ぁぁ!!」

「助けてぇええっ!!?」

 

口田が高台の不安定な足場を踏み外してしまう、切島が助けに向かおうとするのだが―――巣全体へと巨大な影が巣へと覆い被さったのである。もうバードンが戻ってきたのかと皆に絶望と焦りが生まれた時だった。だがその影はそっと足場から落ちようとしていた彼をその手に乗せながら降り立った。

 

「こ、これはっ……!?」

 

思わず声を上げるオールマイト、それはその場にいる皆の意見を代弁したような物だった。疑問と困惑に包まれたそれ、その言葉の先にあったのは―――巨大な影の正体。それは紛れもない巨鳥……ではあるのだがバードンとは異なっていた。

 

「い、生きてる……?っ~!!?」

 

高台から落ちたにも拘らず何時までも痛みがない事に気付いて顔を上げると思わず悶絶したような声を上げてしまった、だが個性の関係もある為か動物好きな口田は直ぐに気付いたのか。その瞳は何処か此方の反応を待っているものだと。

 

「た、助けてくれたの……?」

「キィィィィィッ?」

 

首を傾げるようにしながらも此方を注視してくる巨鳥、そして口田はある事を想い付いた。もしかして……と思いながらそれを口にする。

 

「僕の言う事を、聞いてくれる、の?」

「キィィィィッ」

 

それは頷いた。その姿を見た時、誰もが驚愕した。それはマグナさえも同様だった、まさかこの地球にもあの怪獣が存在しているとは驚きだったのだ。そう、口田の声に応えるように彼を救ったのはバードンと同じ巨鳥でありながら全く性質が異なる怪獣―――その名も友好巨鳥 リドリアス。




という訳で私が大好きリドリアスのエントリーだ!!ムサシの嫁怪獣とはこのリドリアスよ。

このリドリアス、相模灘に古来より生息している事になっており房総半島ともかなり近いんですよね。なので出しました、後怪獣保護つったらこの子でしょうよ!!!コスモス怪獣の代表格横の子!!!

あと責任押し付けに近いけど確り艦長しちゃうジェントル。


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優しさ(強さ)を込めた言葉。

「さっきの突然の反応ってあの怪獣だったんですか!?全く怪獣って奴は何であんな図体で凄い速度で飛行出来るんですかね!?マッハ2ですよ時速2469.6ですよ!?」

「水面スレスレで飛んでたのもあるだろうけど、気付くのが遅れるなんて……でもまさかあの怪獣が僕達の地球にもいたなんて……」

「あれっ出久さんご存じで!?」

 

GXの操縦桿を握り締めながら同時に思考制御で解析作業を行っていた発目は突然出現したもう一体の怪獣に驚きを隠せなかった、その軌跡を辿ってみると相模灘辺りから出現した事からもマグナからウルトラ戦記にて聞かされた事と一致していた。バードンの巣に降り立ち、口田を救った怪獣の名前は友好巨鳥 リドリアス。

 

「あれが……リドリアス……」

 

コスモスの居た地球では古来より相模灘に生息していた怪獣で渡り鳥のように季節の変わり目と共に南へと移動する習性を持つとされている。性格も酷く大人しく人懐っこくマグナからも人間と共存できる怪獣の代表格とも称されていた。

 

「そうか口田君の個性、生き物ボイスで意志の疎通が出来たのかも!!」

「ああっそうでしたね!!生き物を操る事が出来る個性でしたねって出久さんあれ!!あの個性って怪獣にも通じちゃうんですか!?」

 

思わず発目はモニターを切り替えてズームさせながら見るように促した、そこにはリドリアスがそっと口田を降ろすとそのままマンションへと手を伸ばし持ち上げたのである。そしてそこへクラスメイトやホークスたちが殺到してそこに取り残されていた人々を救い出している。単純に怪獣にも通用するのか、それともリドリアスのような温厚な怪獣には通用するのか、検証なども必要だろうがPLUS的には口田が極めてほしい人材となった事は言うまでもないだろう。取り敢えず出久は口田にその怪獣がリドリアスという名前であり友好的な怪獣である事を伝えるのであった。

 

「リドリ、アス……それが君の名前……?」

「キィィィィッ?」

「あっええと……マンションはもう置いていいよ!」

「キィィッ」

 

完全に意思の疎通が出来ている、その事にまだ戸惑いがあるがその言葉に従うようにリドリアスは適当な場所にマンションを置き直した。驚きの中にありながらも口田は言い表しようのない感激と興奮のような物に支配されていた。彼自身、個性の関係もあるが動物との触れ合いを好んでいた為か怪獣に対する興味も強かった。彼に取って怪獣とは災害級ではなく、唯の大きな動物の一つだと捉えていた。

 

「おい口田お前も早く逃げろぉ!もうそこまでバードン来てんだぞぉ!!?」

「っ!?う、うん分かった!!」

「キィィィィッッ」

「リドリアスっうわぁっ!?」

 

大急ぎでその場から離れようとする彼を引き止めるかのようにした後に彼を手へと乗せるとリドリアスは巨大な翼を羽ばたかせる、そのまま浮き上がる。

 

「まずいっ!!」

「待つんだホークス!!今緑谷少年から連絡が来たが、あの怪獣は如何やら人間に対して極めて友好的らしい!!それに口田少年の個性によって制御できる可能性が高い!!」

「っ今はそれに賭けるしかないか……よしっ俺達は直ぐに退避!!救助者をダヴ・ライナーに収容後離脱する!!」

 

あの怪獣(リドリアス)が本当にそうなのかの問答をしている時間もない、今は口田を助けてくれると信じるしかないと舌打ちしながらも人々を連れてダヴ・ライナーへと急ぐ。そして乗り込む飛び立とうとした時、バードンがリドリアスに襲いかかっている光景が空にあった。

 

「やばいっあのバードン、リドリアスに荒らされたと思って超怒ってますよ!!」

「一難去ってまた一難って正にこの事!?」

 

空ではリドリアスが手に乗っている口田を守るように手で覆うようにしながらも必死に羽ばたいてバードンからの追撃から逃げようとしているが、スピードが違い過ぎる為に引き離す事が全く出来ていない。それも当然、リドリアスとバードンでは戦闘能力の桁が文字通り違い過ぎる。

 

『バードンの最高飛行速度はマッハ20、森を壊滅させるほどの猛毒に4万度の超高熱火炎(ボルヤニックファイア)まである。リドリアスの武器は鉄板を30枚を貫通する光線が精々だ。最悪の場合リドリアスごと捕食されてしまう……!』

「鉄板30枚もやべぇと思うんですけどバードンどんだけやばいんですか!?」

「行きましょうマグナさん!!」

『ああっ何時でも―――』

 

 

―――火山に住まいし大いなり巨鳥よっその怒りも当然、ですがこの声に耳を傾けて頂きたい!!

 

 

その時だった、口田の声が周囲に響き渡っていた。それは通信機からも聞こえてくるが、まるで頭に響くような声として聞こえてきている。まるでテレパシーのようなそれに驚愕したが発目は即座にそれがウルトラスーツによる個性干渉現象だと見抜いた。そしてその声を聴いたバードンは驚いたようにリドリアスを突き刺そうとしていた嘴を止めた。

 

確かに貴方の巣へと踏み入ってしまった事は謝罪いたします。ですがそれはその巣に我々の同胞が囚われていたからこそ、貴方とて我が子が同じような事になれば救い出そうとする筈!!

「ギュィィィィッッ……」

 

羽ばたきながらもその場に静止するバードン、口田の声が明確に聞こえているのかまるで頷いているかのように首を動かしているように見える。

 

伏してお願いします、同胞が多く住む場所にて巣を作らないでいただきたい!!我々は今度は本気て貴方とその子供を倒さなければいけなくなります!!私はそんな事を望みません、この地にて共に生きたいと思っています!!

 

誠心誠意込めた言葉、それは方便などではなく本当の口田の想いが込められている。彼に取って怪獣も人類と同じ地球に住まう者。これだけ豊かな星なのだから怪獣とも暮らせない訳がない、だから怪獣保護の話を聞いた時には嬉しかったし感動した。だからバードンには此処で退いて元の住処である浅間山へ戻って欲しい。そう告げると何処か思案するように沈黙すると身を翻して作っていた巣とは別の方向へと飛び去って行った。

 

「つっ……通じた、のかな……?」

『口田君聞こえる!?』

「緑谷君……?」

 

思わずリドリアスの手の上で座り込んでしまうとスーツの通信機から友人の声が聞こえてくる。

 

『バードンは元の生息地の浅間山へと戻って行ってるよ!!』

「ホッホント!?」

『うんっ間違いない!!ってもう浅間山に到達してる!!しかも今度はなんか大きな岩で巣を作り直してるみたい』

 

それを聞くと力が抜けてしまった、あのバードンは本当に自分の話を受け止めてくれたのだと分かったからだろう。人間に目を付けられると余計なやっかみを受けてしまうと学習したのか人工物を避けてながら改めて巣作りを始めたという報告が衛星からの監視映像で明らかになったとの事。

 

『君のお陰で必要以上に暴力を使う事無く解決できたよ、有難うね口田君。僕達PLUSだけじゃ絶対に無理な事だよ』

「僕だけじゃないよ……リドリアスも、だよ……」

『そうだね、リドリアスもだね』

 

その声に頷きながら顔を上げてみると何をしているんだろう……と首を傾げつつも興味を示すように見つめてくるその様子が酷く愛くるしく感じられた。それはまるで自分の怪獣も大きな動物という考えを裏付けるような物だと感じられてしまう。

 

「……あのリドリアスってこれからどうなるのかな……?」

『えっ?え~っと……そうだね、取り敢えず退治とかはされないよ。でもそうだね……口田君、君さえよければなんだけど特別隊員になってくれないかな?』

「えっ!!?」

「キィィィッ?」

 

リドリアスの如何したんだろうと言いたげな声と共に房総半島にて発生した火山怪鳥バードンによる怪獣災害は解決するのであった。




Xのようにスパークドールズにする事も出来ないのでバードンは倒さない事にしました。あと猛毒もあるので下手に倒すと毒の四散する可能性もあるのも考慮してます。キャプチャーキューブないですし。


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怪獣保護。

「皆さん今回は非常にグレイト、有難う御座いました。アートデッセイ号艦長として改めてお礼を述べさせてもらうよ」

 

現地での作戦が無事に終了した事でA組の面々は基地へと戻る事が出来た。交代で基地からはハルキがレギオノイドに登場して現地の復興作業班として向かっていった、そして改めてミーティングルームへと集合が掛けられてそこではナイトアイの隣でジェントルが仰々しく頭を下げていた。

 

「現地では復興作業が既に開始されている、早ければ3日で漁港も活動を再開し元の生活が送れるようになる」

「3日!?早くないっすか!?」

「それも我らがレギオノイド・フェンサーのお陰さ、流石の個性でも難しい規模という物が存在する。だがそれをレギオノイドが補強する事素早い作業が行える!!加えて個性を使えば復興も上手く行くという、上手く使い分ければ人類はまだまだ強くなれるという訳さ!!」

「カッコいいわジェントル!!」

 

と胸を張りながらも決まった……!!とポーズを取るジェントルとそれにメロメロなラブラバという何とも面白い構図が広がっているが、A組からすれば初見のアートデッセイ号の艦長がコントを始めれば困惑するという物。

 

「ジェントル艦長、御高説も良いですが貴方は貴方でやる事があるでしょう?」

「おっとそうでした。それではナイトアイ参謀、我々はバードンの監視任務へと向かいます」

「ウムッ頼んだ」

「お任せください」

 

と礼をした二人は去っていく。その言葉にもあったように浅間山へと戻っていったバードン、その事が何処までも気がかりだった。それも併せて説明する為に此処に集めたのである。

 

「改めて礼を言わせてほしい。初の怪獣災害現場への派遣、極めて危険場での任務をよくぞやり遂げてくれた。心から感謝を述べさせてほしい」

「よしてくれって参謀、俺達はヒーローとしてやるべき事をやったまでっすよ!!」

「切島さんの言う通りですわ。それにこれからの時代を担う私達が怪獣災害現場を見れたのは財産ですわ」

「あのっそれで口田君は如何してるんですか?」

 

と次々とそんな意見が出てきた事への感謝を浮かべていると飛んできた来た一つの質問。それは当然今回の一件を解決に導いた英雄の事だった。現在口田はPLUSの敷地内でリドリアスと共に居る、一応出久を護衛に付けているので問題はないだろう。

 

「彼は今敷地内の一角で待機しながらリドリアスの相手をして貰っている、何せあの怪獣は人類が共存出来るかもしれない中でも随一の存在だからな」

「えっそうなんすか!?」

「そう言えば緑谷少年もそんな事言ってたな……」

 

と同席していたオールマイトもそんな言葉を漏らす。良いパスだと思いながらモニターを切り替える、そこにあったのは酷く古びた文献のような物だった。そこは多くの人々が暮らす上を飛ぶ巨大な鳥、リドリアスの姿が描かれていた。

 

「これは近年発見されたで太平風土記という古文書だ。此処には古来よりこの星に住まいし命について記されていた。私はこれを地球に住む怪獣なのではないかと解釈し調査を依頼していた、その中にこの李土里明日という記述を発見した」

 

この存在はマグナもナイトアイから知らされた時には酷く驚いてしまったのである、太平風土記。地球各地の様々なウルトラ戦士や怪獣関連の伝説や伝承が記載されている。そこには怪獣と人間は共存共栄しており、リドリアスはその中でも極めて縁深い存在であったと記されている。他の怪獣の記述については現在解読作業を行っている。

 

「相澤先生、私は口田 甲司君にPLUS特別隊員になっていただきたいと思っておりますが如何思いますか」

「……此方としては当人とご家族の同意があれば問題はないと思います」

 

 

「いやぁそれにしてもでっかいですねぇ……48メートルで体重は5万6千トンですか。バードンに比べちゃったら小さいですけどそれでも大迫力ですねぇ!!」

「キィィィィッッ?」

「大丈夫だよリドリアス、唯君の事を調べてるだけだからね!!」

 

テストエリアの一角、草原を模しているエリアに降り立ったリドリアス。初の人類に友好的な怪獣として様々なデータの収集が開始されている、自分に向けられている機材に興味を示しながら首を傾げ観察するような仕草をしている姿は今まで危険な存在として捉える事が出来なかった隊員たちには酷く新鮮な物だった。そして口田の言葉には確りと従っており大人しく座っている。

 

「それにしても……まさかこの地球にもこんな大きな鳥がいるなんて……」

「太平風土記によりますと如何やら一定の周期で休眠に入るらしいですよ」

「しっかしまさかこの地球にも太平風土記がねぇ……私はそっちの方が驚きだよ」

 

光士はそんな言葉を言いながらも自分の方を見ながら顔を近づけてくるリドリアスを軽く撫でてあげる。気持ちよさそうな声を上げながら喜ぶリドリアスに周囲からはおおっ!!という声が沸き上がった、本人からすれば特段大した事ではないかもしれないが口田以外の人間にも確りと懐いて接する事が出来るケースとしてこれは後世まで記される事となる事を彼は知らない。

 

「あの光士さん……リドリアスはこれからどうなるんですか……?」

「普通に考えれば元の生息域に戻してあげるというのが普通なんだけど、口田君そこで相談だ。リドリアスにお引越しの提案をしてくれないかい?」

「お、お引越しですか……?」

 

今回の一件にて人間とも共存できる怪獣の存在が明確した上に此方の対応次第では説得などを行う穏便に済ませる事が発覚した。その事が大きく関係して一気に怪獣保護区の制定が決定する事になった。

 

「つまり口田君の活躍が決め手になってちょっとお偉方が一気にその気になってくれたんだよ」

「僕が……でもいやそんな……」

「君の勇気が決め手だったんだよ、あそこで襲いかかってきたバードンへ説得のための言葉を掛けるなんて並大抵の事じゃない。オールマイトでも出来ない事で君にしか出来ないオンリーワン、正しく必殺技だね」

「僕の、必殺技……」

 

そう言われると照れながらも胸に手を当てながら嬉しそうにする口田、それを見たリドリアスは何故か嬉しくなったのか声を上げながら翼を動かしている。

 

「そこで口田さん、相談なんですけど保護区域となった鏑矢諸島って名前になったんですけど、そこにリドリアスを連れて行くまでPLUSに留まってくれませんかね。島の方には大急ぎで必要な設備なんかを整えますからそれまでこの子の相手というかなんというか……それをお願いしたいんですよね」

「僕なんかで良いなら……リドリアスとも一緒に居たいし」

「キィィィィッッ」

 

嬉しそうにする両者にこの世界の明るい未来を見たような気分になった。ただ怪獣を倒すだけではなく共に歩めるようになる、それこそが目指すべき道筋。この世界がコスモスの世界のように成れたら良いなと心から思いながら―――世界は大きな転換を迎えようとしている。



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冬が来る。

PLUSの職場体験という一大イベントは唯のイベントでは済まなくなった。唐突に出現した火山怪鳥バードンによって出動が余儀なくされ、出動隊員を補う為にウルトラスーツを試着していたA組が救出隊に参加しての作戦、B組はライドメカなどの見学や整備体験も行っていた為に其方で活躍していたとの事。雄英の生徒達は怪獣災害に一丸となって立ち向かってくれたのは紛れもない事実。

 

同時にPLUSへの特別隊員は一人増えた、新しく口田 甲司が特別隊員として登録された。彼の導きもありリドリアスは鏑矢諸島の怪獣保護区へと住まいを移した、普段は海沿いに作られた巣で寝ているか、空を飛び回ったりするなど、現地職員達とも上手くやられているとの事。これからも彼は定期的に鏑矢諸島へと足を運びリドリアスの様子を見る事になるという。

 

「本当にバードンはあのままで良いんですか?」

「グルテン博士がバードン用に調整した特殊な食料を開発しそれを提供する事で人間を襲わないという交渉は既に成り立っているらしいよ」

「えっ何時の間に」

 

ウルトラスーツのテストを終えて発目の研究室に居る出久、マグナそして発目。その中で不意に問いかけるのはバードンについて。浅間山に戻り巣を作り直し、無事に卵を産む準備が整った為に巣でじっとしているらしいが、バードンはウルトラ戦記 タロウの章にて聞いた通り肉食の大怪獣。家畜どころかマンモス団地を襲撃した事も聞いているだけに不安が絶えない出久だが、そんな彼に発目が言う。

 

「何でも博士の星にあるシーピン929という食料を極めて肉に近い状態に改良したんですって、それをえ~っと……そうそう口田さん同伴の元バードンの下に持って行ったら喜んで食べてくれたみたいんですよ」

「シーピン929って確かメビウスの章に出てきた……」

 

肥大糧食シーピン929。嘗てファントン星が重大な食糧危機に陥った際に開発された食料で主成分はタンパク質、しかもこのシーピン929は大気中の窒素や二酸化炭素を吸収する事で無限に成長するという性質を保持しており、好物とされていた芋虫のような怪獣であるケムジラを食べ尽くしてしまう程の大食漢であるバードンの腹を十二分に満たす事が出来るとの事。

 

「そのシーピン929を開発したファントン星人がメビウスが居た頃の地球に行ったのさ。そして今や彼は星の偉人となっている、今回はその知恵をお借りしたという訳だ」

「窒素や二酸化炭素を吸収してタンパク質が増殖って……ある意味究極のエコ食品ですね」

「でも放置しているとマジで無限に増殖するらしいので星一つを潰す可能性があるので厳重な管理が必要なのは変わりないですね」

 

現在改良型のシーピン929はグルテン博士が厳重に管理しながら適度な窒素や二酸化炭素を与えながら圧縮をする事で必要な量だけを生み出しているとの事。

 

「バードンも無事に子供が生まれたら鏑矢諸島の火山島にお引越ししてくださるそうですよ」

「口田君すごっ!!?」

「いやはや同感だよ、まさか怪獣と対話が成立するとは思わなかった」

 

コスモスの変身者である春野 ムサシも彼の力を知ったら酷く羨ましがるだろうし同じチームにスカウトしたくなる事だろう。実際対話が出来ればスムーズに保護が進んだと思えるような怪獣はコスモスの世界にも存在していた。この地球では出来るだけ上手く行って欲しいと思う中で不意にマグナは窓の外を見ると―――曇り空から雪がチラつき始めた。

 

「もう12月か……光の国では見る事のない物なのに大分見慣れるようになったなぁ……」

 

このような発言をしていると改めて自分がウルトラマンとしての今に馴染んでいる事が分かる。記憶を取り戻してからウルトラマンとして生きて早数千年、人間の感覚で言えばあり得ない時間なのに今の感覚ではあっという間と思えるのだから恐ろしい。

 

「12月、クリスマスも近いですねぇ」

「クリスマス?ああそうか、済まない一瞬降臨祭とごっちゃになった」

「降臨祭って何ですか、逆に私そっちが分からないんですけど」

「えっとね、マグナさんの宇宙の地球だとウルトラの父降臨祭ってのがクリスマスの代わりなんだって」

「えっ何ですかそれ凄い興味沸くんですけど」

 

ウルトラ戦記 メビウスの章に関連付けて話しているので出久も十二分に知識があるのでそれを解説していく。そんな光景を見つめながらもマグナは窓の外を見つめてみる、ウルトラマンとしては冷気などには弱い筈なのに日本人として生きた自分は冬を懐かしく嬉しく思いながらその象徴である雪にテンションが上がっている。我ながら奇妙な物だと思う。

 

「しかし私が言えた口ではないが……君たち好い加減雄英に行ったら如何だい?」

「そうしたいですけど……緊急出動の場合はこっちに居た方が便利ですし」

「私の場合、研究&開発そしてヒーローに渡す用のスーツ調整で忙しいですから。まあコーヒー啜りながらだと説得力薄いでしょうけどこれでも大忙しな身なのです」

 

実際この二人が担っている事がこれからの社会の重要な側面を担っているので致し方ないというのもある、だが二人はまだ子供なのだから出来る限りは学業に精を出すべきだろう。そうでなくてももっとこう……学生らしい事をした方が良いだろうに……。

 

「おっとそろそろ鏑矢諸島に行く時間ですね、島を囲うバリアのセッティングに行かないと」

「諸島を丸ごと覆うなんて凄いスケールだよね……僕も手伝うよ」

「当然手伝って頂きますとも~」

 

そう言いながら出久の手を引いて部屋から飛び出していく発目をマグナは見送りながらも自分もそれを追いかけるように歩き出していく。

 

 

 

「ドクター、こいつは何時になったら使るようになるんだ」

『早くてそうじゃな……数か月じゃろう。ワシにだってこんな宇宙のバケモンなんて専門外じゃ、これでも急いでる方だ。じゃが……面白い玩具は直ぐに使えるようには出来るぞ』

「……ほぅ?」

『アウローラの落とし子、それを楽しませる為にはまだ進化を促す必要がある。その為に―――ある怪獣を暴れさせ、それが巻き起こすエネルギーを利用する』

「怪獣……まだ残りがあるんのか」

『あるぞ、アウローラが居なくて調整が出来てはおらんがそれでも繭の状態だったが故に進化をし続けている最強の怪獣が―――』

 

赤黒い繭の中から聞こえてくる鼓動にも似たそれは、静かに、静かに規則正しく波打ち続けていた。だが僅かに見える内部から見えたのは……世界を滅ぼすだけの力を秘めた邪悪の化身、それが今目覚めを目指して唯々進化し続けている。

 

―――グモォォォ……ォォォン……




バードンにはシーピン929を与える事にしました。というかまあファントン星人いるんだし分かる人には分かるネタなんですけどねこれ。

後ラストの怪獣も分かる人にはピンッと来るはず。だってあいつだもん。


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広がるPLUSの縁。

「特空機開発計画って……もうレギオノイドとゴモラがあるじゃないですか」

「良く見たまえ」

「んっ~?」

 

何時ものように発目の研究室にいた出久とマグナ、そんな所へやって来たナイトアイが持ってきた資料を見て思わず発目が呟くが改めて題名を見返してみる―――そこにあったのは特空機配備開発計画と書かれていた。

 

「配備……?」

「最近少しずつではありますが世界各国でも怪獣の存在が確認され始めている、まだ姿が確認されただけで怪獣災害を巻き起こしたわけではないが、日本での実例を鑑みて世界各国でも日本級の怪獣災害が起こる事を警戒している」

「まあ日本の怪獣災害率今の所ぶっちぎりですからねっつうか日本ばっかり狙われてる感がパネェですよね」

「それを言っちゃぁおしまいだ」

 

だがまあ確かにウルトラマンという作品を楽しんでいた身としては気にしてはいけない領域であったが、ウルトラマンとなった今は逆に追及すべきテーマなのではないかと真剣に考え始める。

 

「現在既に特空機の開発を決定している国はロシア、中国、アメリカの三ヶ国。その特空機の参考として近々来日する予定だ」

「まあ目的はレギオノイドの技術でしょうねぇ……明確なオーバーテクノロジーの塊でしょうし、技術提供とかするんですか?」

「するつもりではいるが……その辺りは政治家の仕事だ、私の仕事ではない」

 

レギオノイドやハーデロスから得られる外宇宙のテクノロジーは地球人が数世紀先以上の技術の塊、それを欲する者は数多い。それを求めて潜り込もうとするスパイも居る位、が、生憎PLUSのセキュリティはグルテン博士と発目、デヴィットにメリッサ、ラブラバという5人が仕上げた物。結果的にヴィランを収容する牢獄のタルタロス以上のセキュリティとなっている。

 

「そして既に原案を作り上げて提出して来ている」

「ああっこれですね、アメリカさんのですね……うわぁっなんててんこ盛り」

「えっ何何見せて」

 

発目が見ている資料を覗く込むようにして資料を見る出久、その際に距離が近くなって内心が大変な事になる発目だが何とか平静を保つ。そしてアメリカの特空機として検討されているのは―――なんともアメリカの象徴とも言える物をこれでもかと詰め込んだ夢のスーパーロボット像がそこにあった。

 

「武装はリボルバーにショットガン、肩にはボクシンググローブ型のショルダーガード、遠距離のライフル……うわぁ確かにアメリカと言ったらこれだって言うのばっかりだ」

「サーフボードみたいなシールドに近接格闘時には頭部が変形してガードモードに変化ってアメフトかいこれは。てんこ盛りにも程があるな、ロマン重視というのは日本人の特権的な事を想っていたのだが……そんな事無いんだね」

「いやまあ否定はしませんけど……」

「何処の世界にはロマンを愛する変態って奴はいるんですよ、此処にもいますからね!!」

『ああうんっ分かるよ』

 

自分を指差しながらそんな事を語る発目に猛烈な説得力を感じずにはいられない。確かにこれ以上ない説得力だ。

 

「中国は四聖獣をモチーフにするという話は聞いたな、一体どんな内容になるのか知らないが……兎も角少しずつではあるが地球が怪獣災害に対して一丸になって立ち向かう形が出来つつあるという事だ。それについては喜ばなければならないだろう」

 

口角を持ち上げているナイトアイ。特に中国がかなり協力的な姿勢を持ってくれている事はかなり嬉しい事である。中国でも怪獣の出現は確認されておりそれを危険視し早急に対策すべきという若い力が古い考えの上層部を変えたらしくPLUSの中国支部の組織編成もかなり進んでいるという話がある。だが同時に特空機に至っては嫌な話を聞いている。

 

「如何したナイトアイ」

「いえ……中国の特空機がやや不安でして……」

「資料はないですねぇ~……」

「噂でしかないが、何とも奇妙な物を作っているという話がある。故に……不安だ」

 

何でも合体機構に執心しているらしいが……珍妙な物にならない事を願うばかりである。何かと険悪なイメージが付き纏う日中関係、その改善の一歩になればと心から願う。

 

「兎も角来週には三ヶ国の代表が来訪する事になっている」

「来週とはまた……いやまあ大丈夫でしょうけどハーデロスとか如何するんです?」

「あれは特空機としては数えん、故に地下の隔離エリアにて隠し通すつもりだ」

「良いんですか、モルスさんは別に特空機扱いで良いって言ってましたけど……」

 

モルス所有のハーデロス。惑星死滅神とも呼ばれるそれはそれに相応しい性能を誇っているフェンサー・ゴモラどころかレギオノイド・フェンサーですら完全に凌駕する力を秘めている。というのもモルスという宇宙人の中でも指折りの力を持つ操縦者が居るので負担などを考えずに調整されているので異常な性能を持っている。が問題なのはその技術、レギオノイドだけでも十分過ぎる物なのにハーデロスのそれはやばい。

 

「当然モルスの事も伏せます、彼が擬態可能なタイプである事に安心してます。まあ出なくてもウルトラスーツとして押し通すつもりでしたが」

「まあモルスはモルスで十分協力的ですからね」

 

「ハッハァ!!いいぜ来いよぉつ氷炎ボーイにダイナマイトガイ!!もっとこの俺様に全力をぶつけて来いよぉ!!もっと楽しもうぜ!!」

「言われなくても全力を見舞いしてやるぜモルス教官……!!」

「そのでけぇ口を直ぐに叩け無くしてやる!!」

「良いねぇその勢いっ若ぇってのはそうじゃねぇといけねぇよなぁ!!」

 

 

だとしても彼が宇宙人であると知っているのは極僅か、地球ではまだ宇宙人を受け入れられるだけの認識が広まっていない。下手にその事を公表すれば異形系個性への偏見を生む可能性があるとしてナイトアイの頭を悩ませる事象の一つとなってしまっている。そんな事など露知らず、九州ではメトロン星人ジェイツが九州名物、博多ラーメンに舌鼓している事は伏せておこう。

 

「政府からは鏑矢諸島にも特空機配備検討要請があり頭が痛い……」

「鏑矢諸島にですか」

 

怪獣保護区として既に世界中から注目が集められている鏑矢諸島、既にウルトラエナジーシールドで諸島全体を覆われており怪獣が外に出る事はない。バードンの後にも保護した怪獣は二体。モグルドンそしてシャザック。特にシャザックは子連れの怪獣だったが、此処でも口田の心を込めた説得が通じて家族揃ってのお引越しとなり、のんびり子育てをしているとの事。

 

「いやぁにしても口田さん大活躍ですよね……ぶっちゃけ言いますけどヒーローだとどう活用するんだろうと思う部分多かったんですけど、PLUSだと超活用先あってご本人もびっくりでしょうね」

「でも喜んでたよ、口田君に取って怪獣は大きな動物と同じって認識らしいから」

「しかしそこに特空機の配備、ですか……まあそういう事でしょうね」

「ええ、そういう事です」

 

隠し事をせずに言うなれば怪獣が暴れてシールド外に出てしまった時に駆除する為の戦力確保……という事だろう。酷く一方的で勝手な考え方かもしれないがそれだけ怪獣に対して不明な点が多すぎるせいだろう。此処から詰めて行くしかないだろう。

 

「そう言えばホロボロスはどうするんですか?獅子ヶ谷で寝てるままですけど」

「何処かのヴィランが刺激しないとも限らないもんね」

「出来れば移動させたいが……あの凶暴性と強さだ、鏑矢諸島での怪獣たちの兼ね合いも考えるとまだ難しいだろう……いっその事島一つを専用にするぐらいを考えなければいけないかもしれないな……ああそうだ鏑矢諸島向けのツアーの案が政府から来ていたんだったな……其方の対処もしなければ……」

「……ヒーリングパルス、行っときます?」

「……ご迷惑にならなければお願いします……」

 

望んでいる上にやり甲斐もあるし胸を張れる仕事なのは分かっている、だが政府が色んなアプローチを掛けてくるので司令官代行の自分の負担がかなり強くなってきている。早く司令官に就任してくれる人を探さなければならない、こうなったら指揮官としては無能でもいいが交渉などが優れているだけでもいい……と思えて来た。

 

「もういっその事、私がセブンさんみたいに隊長就任でもするかなぁ」

「いやそれはそれで困ると思いますよマグナさん」

「だよね、そうなると私が出久君にジープしないといけないし」

「そっち!!?」




無能だけどそれ以外で優秀……ペンウッド卿かな?人望もあるし、何だかんだで正義感強いし適任かも。

アメリカの特空機、元ネタは二種類のロボット。まあ隠す気ないけどねこれ。だって絶対分かる人にはもんこれ。
中国は……まだ未定、イメージ的にはスパロボかな。でも私の中だと中国のスーパーロボットって言ったら勇者ロボしか出てこないんだよなぁ……。


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繭の胎動、特空機への視線。

「こいつか……ドクター、状況は」

『分かる訳が無かろう、こいつは完全に地球外の未知の生命体でエレキングなんざとはエネルギーの総量が桁違いだ』

 

何処にあるかも分からない地下深く、僅かな明かりだけを頼りにヴィラン連合の首魁たる死柄木弔。手には松明という酷くアナログな手段にうんざりしていたがその先にあった存在に思わず圧倒されながらも喉を鳴らしながら口角を持ち上げながら、オール・フォー・ワンの側近でもあったドクターへと問いを返すがその答えは酷く暗雲に満ち溢れているものだが致し方ないだろう。

 

―――グモォォォ……ォォォン……

 

 

松明の光しか頼りにならなかった洞窟が薄気味悪い赤黒い光がヌラヌラと輝いているためか十分明るかった。その明かりの中心地にある赤黒い繭、そこから僅かに漏れてくる声とそれ以上に大きな鼓動音。繭に潜むそれは眠りにつきながら来るべき隔世の時を待ち続けているのが伺える。話だけを聞いてここに来たが確かにこれは手に負えないというのも分かる気がする。

 

「まああのエレキングも成長途中だったらしいが……それでも十分だったのにな。つくづく怪獣ってやつはとんでもねぇな」

『くっくっくっ……じゃがそれを取り込めたとしたら愉快じゃろう?個性以上の力でありながら完璧に制御出来る力……じゃから研究も楽しくてしょうがないわい』

 

アウローラの協力も完全に断たれて以前のようなスピードも無い上にノウハウも吸収し切れていなかったので慎重にやらなければいけない事だけがネックだというドクターに対して肩をすくめる。だがそれはどうでもいい、問題はこいつを如何やってたたき起こすか。

 

「そもそもよ、あのウルトラマン狂いが残した奴って何なんだよ。落とし子って言ってたよな」

『フムッ奴自身が手にしていた怪獣の力、その中でも飛びっきりの力を持つが制御が出来ない故に放置されていたが奴自身のレイオニクスじゃったか、その力とライザーを最大限に生かした結果に完成した最高の器ともいうべき存在。曰く、自分の子供というっておったわ』

「落とし子は違うんじゃねえか、妻以外のやつに産ませた奴だろそれ」

『語感がいいからそう呼んでるだけじゃ』

「……あっそ」

 

素直に如何でもよくなったの話を打ち切った。

 

「ンでこいつを起こせばそいつの腹が満ちるってのか」

『言っておったわ、こやつは生きとし生きる者たちのマイナスエネルギー……詰まる所絶望やらで力を高めていくとな』

「……ンでこいつを街で暴れさせるって事か」

『そう言う事じゃ、お前さんらとしても目が其方に集中するから他にもやり易くはないじゃろう。黒霧はおらんから別の手段をとる、あとちょい待っとれ』

「ドクターその前に一つ聞きたい」

 

通信が切れる前に一つだけ確かめたことがあった。

 

「こいつの名前は」

『確か……ゼットン、繭じゃからゼットン・コクーンというべきかの』

「ゼットンか……気に入った」

 

 

間もなくアメリカ、中国、ロシア三ヶ国の訪問が迫る中でPLUS基地はその受け入れ準備が急ピッチで行われていた。と言っても本部では大した事はしていない、強いて言うならば政府から日本の威信を見せるためという名目で特空機への追加予算が来たので整備班と研究開発班が嬉々としてハーデロスからリバースエンジニアリングした技術を用いた新型リアクターやら新装備の開発に注力している、ついでにモルスは相棒がバラバラにならないか冷や冷やしている。

 

「なあ旦那、俺様の相棒大丈夫だよな……?ネジ一本になるまでバラバラにされたりしねぇよな……?」

「いや大丈夫だと思いますよ流石に……そこまでマッドじゃないですって」

「俺様だってわかってるけどよ、同時に研究者ってやつが未知のものを目の前にした時にヤバくなるのも知ってんの俺様!!」

「ああうん……実例が近くにいましたから解りますよ……」

 

地下格納庫にて収容されているハーデロス。特空機の3号機が与えられる予定だったがナイトアイはそれを却下しあくまで技術提供の為だけとして基本的に出撃は許可しない事、最高機密として表には出さないことが決定されているために地下に隠されている。

 

「モルスさ~ん、このビーム砲ちょっと起動させてもいいですか?」

「いや撃ってもいいけど撃つなよ!?絶対に撃つなよ!!?そのデロスキャノン、クレーター作るの楽勝な威力してるからぜってぇ撃つなよ!!」

「分かってますってばっ昔の発目ちゃんと一緒にしないでくださいよ~」

「そこは振りですよねって乗れよ!!撃ちますっていう流れだろ!!アンタそんな事じゃこの業界でやっていく事ねんて厳しいわよ!!」

「ハイ、センセイ!!」

『いやあんたら何言ってんだ!?』

 

突然出るこのカマ口調、兄が兄なだけに少なからず影響を受けているらしい。と言っても自分も時々女性言葉のようなものが出ることがあるしそれが少し多い程度だろう、加えてモルスは陽気な性格なのも相まってムードメーカー的な役割もしているのでそれとの相性はかなりいい。というか普通にモルスは男性女性問わず人気が高い。

 

「モルスの兄ぃっこの後の飯は如何します?おりゃカツ丼にしやすが」

「決まってるだろ―――バラカツ丼の特盛、味噌汁と大根の漬物セット!!!カツ丼、それは戦う男の飯!!」

「おおっ流石に兄ぃ!!」

『俺たちもそれだ~!!』

 

「モルスさん、お昼の後にご一緒しませんか?防衛町に凄い美味しいスイーツ店が出来たんですよ!!あのシャルモンですよシャルモン!!」

「嘘でしょ!?この地球に来てから一度行きたかったあの!?マジなのメリッサちゃん!!」

「マジもマジ大マジです!!しかもPLUSの職員証があれば半額セールなんですって!!」

「やっだんもうお得ぅ~それじゃあ食後のアフタヌーンティーに行きたい子この指とーまれ~♪」

『は~い!!』

 

「完全に溶け込んでるなぁ……」

 

男性陣からは頼れてノリが良くて憧れる兄貴として、女性陣からは気軽に話しかけられて優しくてお茶目な一面が可愛らしいと評判なお茶仲間として完全にPLUSに溶け込んでいる。最初は不安だったが持ち前の明るさが功を奏している、あと基本的に自前のスーツは着たままなのだが絶対に素顔を明かさないキャラも確立させている。故か食事時に注目が集まるのだが何故か見えないらしい。

 

『カカシ先生か何かあいつ……』

 

と出久の中でそれを見たとき、思わずそんな事を呟いたマグナであった。

 

「これで良しっと……ああもう面倒ですねぇ」

「お疲れ様、お茶淹れるよ」

「自分でやりますよ、出久さんだって新型スーツの調整で疲れてるじゃないですか」

「それは発目さんもでしょ、それだったら鍛えてる僕の方がいいよ」

 

出久がいる発目の研究室へと足を運ぶと疲れてしまった彼女のためにお茶を淹れようとする相棒の姿があった。矢張り二人の距離は確実に近づいている、上手く誤魔化していたりはするが何処かお互いに相手への気遣いや何処から近づきたいというのが出ている。前世も含めて他人の恋路やらは興味なかったがこうして見ると中々に奥深い……まあ光の国に帰ったら今度は自分がその対象になるのかと思うと辟易するのだが……

 

―――そこは同僚にも味合わせる事で我慢しよう。主にネオスとマックスとゼノンに。

 

「何が面倒なんだい?」

「簡単に言えば特空機のマニュアル……みたいなもんですかね。ゴモラのほうは順調なんですけどレギオノイドの方は大変なんですよ……あと絶対に来るであろう質問に対する返答の準備とか……全くなんで私がこんなことを……というかですねなんでウルトラマンを模した特空機はないのかって日本政府からも来てるんですよ!?二足歩行がどんだけ難しいのかわからないからそんなこと言えるんですよ!!ゴモラだってどれだけ開発が難しかったことか……現状だって進行形で姿勢制御ソフトの改良し続けてるんですよぉ!!!」

 

と普段周囲を振り回していた筈の発目だが、何も分かっていない政府の要請などにかなりストレスが溜まっている模様。そんな彼女を宥める二人、そして遂に―――三ヶ国の訪問日が訪れる。




光の国で三人の勇士が震えた。現状ですら上司からお見合いを持ち掛けられ、それを何とか回避しているのに……。

改めて、怪獣って得意分野とか全然変わってくるからマジでいろんなタイプが必要になってくるから汎用性とか万能を求めてしまいそうになる。

つまり―――たった一機で様々な環境に適応できるゲッターこそ最高の逸材なのではないか!!?よしっゲッター線ないからプラズマ駆動のネオゲッター出そうぜ!!勿論並の人間じゃ乗れないけどな!!


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訪問と出現。

遂にやって来た三ヶ国訪問日。PLUS基地の滑走路に直接待機しているナイトアイや出久らは間もなくやって来る各国の重役の出迎えの為に待機していた。ナイトアイは酷く落ち着いていたが出久は出久で別の意味で不安げな顔をしていた。

 

「出久君先輩落ち着いてくださいっす」

「分かってるけどさ……でも海外の偉い人と会うと思うと怪獣とかと戦うのと別の緊張が……」

「まあ分からなくはないさ、でも普段通りで良いんだよ」

 

とハルキと光士に促されるのだが緊張は一切解れる事はない。故か何度も深呼吸をする事で緊張を必死に解そうとしている姿が見られている。そんな時に一機の飛行機は滑走路へと降り立った。

 

「まずはアメリカからだな……アメリカの特空機パイロットや司令官が来る」

「えっもう既に特空機のパイロットが?」

「ああ。元々は空軍のトップガンだったらしい、だが抜群過ぎる操縦スキルは此方からの提供で作った特空機シミュレーターでも遺憾なく発揮されて任命されたらしい。翻訳機は付けているな、さて来るぞ」

 

降り立った飛行機のハッチが開かれ、降りてくる人物。

 

「HELLO,Mr.ナイトアイ!!アメイジングな日が来るのをハートから待っていたゼェイ!!」

「ええっようこそPLUSへ。歓迎します」

 

と跳び下りるかのような勢いで一気に階段を飛ばして着地したのはカウボーイのような服装に身を包みながらテンガロンハットが良く似合うナイスガイ……なのだが妙な程に日本語と英語のミックスがされていてインチキ外国人のような事になっている。とそんな漢は此方を見るとOh!!と声を上げながら歯を見せて笑った。

 

「ア~ハァ、噂のスーパーロボッツのパイロット?」

「あっはいっナツカワ ハルキっす!!」

「Oh yes!!ユーの戦闘記録(バトルレコード)は見させて貰ってるぜ!!実にアメイジングでエクセレント!!是非ともトゥディはミーアイズで見たいもんだゼ」

「有難う御座います!」

 

と次は出久を見る、一瞬酷く鋭い瞳を作ったので身構えてしまうがその反応速度を見て酷く嬉しそうな顔をしながらその手を握りながらブンブンを上下させるように握手をする。

 

「ナイスレスポンス!!そうかユーがウルトラスーツのテスターのイズク・ミドリヤだな!?ユーもミーは凄いと思ってるぞ!!」

「あっ有難う御座います……」

「Shit!!自己紹介が遅れちまったなっマイネームイズ、キング・チェック!!ナイストゥーミチュー!!」

 

漸く自己紹介をしたアメリカのPLUSでの実働部隊の隊長を任される事になっている特空機パイロット、キング・チェック。元々アメリカ空軍の中でも最高峰の技術を誇るエースパイロット、彼の個性も相まって戦闘に顔を出せば終わりが訪れる事から『王手(チェックメイト)』と呼ばれている。

 

「えっとっ本日は遠い所を態々お越し頂き有難う御座います……」

「チッチッチッ!!そんな畏まった挨拶なんてノーセンキュー!!ミーたちはトゥギャザーに地球の平和を守るチーム、遠慮はしなくても問題ナッスィング!!」

「んじゃまあ遠慮しませんけど……なんでそんなインチキ外国人みたいな口調なんです?」

「ちょっと発目さん!!」

「おっとこれはこれは……トゥルーな事を言われちまったぜ」

 

発目の遠慮のない言葉にもキングは一切怒る事も無く笑顔のままだった。曰く、日本の友人を迎えた時に日本のアニメを真似てこの口調をしてみたら笑いながら喜んでくれた事が関係しているとの事、それから日本人と接する時にはワザと口調を崩して接しやすくしているらしい。実際大人から子供まで笑顔で接してくれているとの事。

 

「っという訳だ、気軽に接してくれて問題ナッスィングだぜイズゥク!!これからミーとユーはソウルメイト!!」

「ソ、ソウルメイト!?」

「まあ心の友って事だよ、良かったね出久君グローバルなフレンドが出来てハッピーうれぴーって所かな」

「オウッそのフレーズゲッツ!!ユーも中々イケてるねぇ~、ジャパンに来てこんなにもトークが通じるフレンドが出来てミーはハッピーうれぴーネ~!!」

「センキューキングッ頼もしい味方が出来たよ」

 

と早速馴染み始めるキング、その雰囲気にはモルスに通じるものがあると出久は感じた。柔らかくどんな形にも変われつつも自分という個を失わずに強く前に進んでいけるタイプ。ある意味特空機パイロット向きとも言える。

 

「キング、君一人だけとは……予定では司令官も来るという話だったが……」

「ソーリーねナイトアイ、グレイトな祖国のPLUSにも色々とプロブレムがあるんだぜ。最近じゃPLUS関係の設備をエイムするヴィランも後を絶たない。お陰でコマンダーもトゥギャザーするだったスターアンドストライプも来れなくなっちまった。だからミーが全権を預かる事になっちまった」

 

気軽な日本旅行のつもりだったのにと愚痴を零すキング、特空機関連が元々の管轄だったのにそれ以外の事もしなく行けなくなったので観光する暇が無くなったとダルそうにしている。

 

「まあまあキング、後で基地周辺の防衛町を案内しますから」

「Oh!ジャパンのワードプレイネーミングね!!そう言うの大好きねっ!!」

 

光士の肩に腕を回して大きく笑っているキングに緊張していた事が馬鹿らしくなってきた出久、確かにこれから一緒に地球の平和の為に戦って行くのに緊張するのもおかしな話だなと思いながらロシアと中国から人には緊張せずに接しようと思う。しかしその最中ナイトアイはしきりに時計を確認する。

 

「可笑しいな……もう来ても可笑しくないんだが……」

 

そんな時だった。けたたましいサイレンの音が鳴り響いた、聞き慣れるという事が好ましくない緊急事態を知らせるアラートだ。

 

「What happened!?」

『ナイトアイ司令急いで司令室までっ!!竜ヶ森湖から怪獣が出現しました!!それに関係してロシア機と中国機は進路を変更しました!』

「分かった直ぐに向かう!!」

 

まさかこんな時に出現するのかと思わず舌打ちをするが直ぐに切り替える、こんな時の為に自分達が居るのだと。直ぐに第一戦闘配置を出久達を率いて司令室に急ごうとするがそれにキングも続いた。

 

「キング、貴方は客人だ。避難を……」

「NO!!ミーだってこの地球を守る為にPLUSに参加した一人!何を言われようともミーはトゥギャザーにファイトするぜ!!」

「……正直心強い、では共に司令室へ」

「OK!!話がクイックでナイスね!!」

 

共に司令室へと駆けこんでいく。先程の陽気で穏やかな姿とは一変して軍人として姿に成ったキングにギャップで風邪をひきそうになるが此処まで頼りになりそうな人もいないだろう。そして司令室に飛び込んだ時、現れた怪獣の全貌を知る。

 

「目標は!!」

「竜ヶ森湖から上がりゆっくりとですが南下中!!」

「メインスクリーンに出します!!」

 

メインスクリーンに映し出された怪獣、それは今まで出現した怪獣の中でも最大級の巨大さだった。全長300メートル級のとんでもないデカさ、動きこそゆっくりだがその巨体が動く故に移動距離は尋常ではなく思ったほど鈍くはない。

 

「Oh my goodness!?It's so big!!」

 

思わずキングが素で反応してしまうそれ程のデカさ。あれに比べたら特空機など子供同然、だがそれを見た時にナイトアイは思わず思ってしまった。余りにも巨大な身体に目が行くがその頭部は出現例があった。それは―――宇宙恐竜ゼットンのそれと同じだった。つまりあれはゼットンの一種という事になるが兎に角デカすぎた。

 

―――グモォォォッ……ゼットォォォンッ!!!

 

鎌のように発達している巨大な前脚を振り上げながら周囲を威嚇しながらゆっくりと進んでいくその姿は正しく怪物。それは当然、あれは唯のゼットンなどではない。宇宙に死を齎す神となって君臨すべく暗躍するバット星人によってこの地球と同じくウルトラマンが存在しない地球、フューチャーアースによって育てられたゼットン。バット星人によって過去のゼットンの中でも最強レベルにまで高められた最高クラスのゼットン、その名も―――ハイパーゼットン。

 

 

「いいぞゼットン、そのまま思うが儘に暴れろ……そのままな。ハハハッ!!活躍もみてぇが俺は俺で行くか……古臭い思想をぶっ壊す、お前が暴れれば暴れる程に―――マキアが目立たなくなるからな……!!」

 

―――ゼットォォォン!!グモォォォオ!!!

 

「いい子だ……んじゃ頼んだぞ」




キング・チェック。当然元ネタはゲッターのジャック・キング。面白外国人っぽいけど元アメリカ空軍のトップガン。

早速仲良くなったと思いきやそこにハイパーゼットンのエントリーだ!!ギガントだけどこの状態でもかなり離れている地点を精密に火球で狙撃出来たりと相当にやばい能力持ち。後鎌の威力は普通にやばい。

最大級の怪獣の登場、さあ戦う為に飛びだせPLUS、飛び出せマグナ!!


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地球最大の決戦。

ゼッ……ト"ォ"ォ"ォオオオオンッッッ!!!

 

進路上にある物全てを踏み潰しながら進撃する姿、それが生き物が行う平然の行い。だがそのスケールが余りにも巨大すぎる故に災害となり人間の世界を犯していく。唯動くだけ、それであらゆる物を破壊し尽くす様は正しく怪獣、人間の手に負える規模を遥かに超越したそれは災害と呼ぶにふさわしい。

 

「急げ急げ!あの馬鹿でかいのに潰されてぇか!!」

「大丈夫だっ俺たちがみんなを避難させる!!」

 

ルート上にある町々の人々はヒーローの誘導を受けながら避難を行う、幸いだったのが九州での一件を受けて全国に怪獣災害対応マニュアルが全国に配布されていた事だろう。まだ日が浅く練りも浅いがそれでも人々の命を守る為の行動を取らせるには十分過ぎる程の効力を発揮する代物。そして地球を守ろうとするのはPLUSだけではないのも事実。ヒーローも自分が出来る範囲で守れるものを守るとしている。

 

「アートデッセイ出撃準備!!ファイターチームは全機出撃準備、緑谷は発目君と共に行けっ!!」

「ミーは!?」

「ジャックも発目君たちと共に。新型ファイターを貴方に預けます!」

「OK!!」

 

PLUS基地では今までにない程に大きな防衛行動が行われようとしていた。編成が終わっている3基編成のファイターチームが3チームが基地からの出撃し、それに合わせてアートデッセイ号にそして特空機も出されようとしていた。基地から出撃していくファイターと共に地上へと飛び出した新型の発目専用のファイター、ファイターとしては酷く巨大。大型輸送機であるピースキャリーを改造した新しい発目専用機・フェンサー・ファイター。

 

「All check,green.Power system actuator,on.Fighter Fencer,standing by.キングさんに出久さん準備は良いですよね!?」

「OK!!何時でゴーね!!」

「こっちもOK!!」

「よしっ発進!!」

 

押し込まれたレバーと共に推進器が火を噴いて空へと昇っていくのと同時に基地からアートデッセイ号が発進する。その横に着くようにしながら空を駆けるPLUSが誇る戦力、目的地までをオートにしつつ発目は専用機である本当の意味の準備を進めていたのだが―――自分達よりもずっと先に戦闘区域にて爆発が起きている事に気付いた。

 

「自衛隊のF-15J編隊ですね、一応怪獣災害想定多目的弾頭はある筈ですからある程度は……」

「Look!!」

 

その時、空に無数の爆発が起きた。それは花火のように煌びやかにそして華やかに空を彩る芸術品と化していた。美しいのは当然だろう……それは命が散らす最後の輝きなのだから。レーダーに目をやると先程まで反応があったF-15の反応が全て消え失せており、出久は顔を青くしてしまった。

 

「え、F-15J編隊全滅……」

「マジですか!!?」

 

ファイターは自衛隊と合同で訓練を行う事も多い、故に自衛隊パイロットの練度も身を持って知っている。通常のF-15でPLUSファイターと戦える人達が撃墜されたというのが信じられなかった。それだけ今回の怪獣が異常とも言える、マグナはこの結果にある種の納得を浮かべてしまい舌打ちをする。流石はハイパーゼットンというべきだろう。

 

「あっでも全機ベイルアウトを確認、ヒーローに救助されたって!!良かった……」

「そこは安心する所ですね……っとうわぁい!!?」

 

咄嗟に操縦桿を切る。巨大な機体が一気に斜めに傾く、だがそれによって迫ってきた火球の回避に成功する。同じようにファイター各機も同時に回避行動に入っていた。ゼットンの黄色い発光機関から放たれる暗黒火球、それまでは鎌による攻撃だったが戦闘機の動きが速い為に火球に切り替えたのだろう。故にF-15もそれに対応しきれなかったのだろう。

 

「くぅぅぅっっ!!!キングさんっ少し操縦変わって貰っていいですか!?」

「OK!!ミーに任せておきな!!このスイートファイターに傷一つ付けさせないぜ!!」

 

解析に専念する為に操縦権をキングへと一時委託する、すると途端に機動が変化していく。発目の拙いそれとは比べ物にならないキレ、一度避けただけに過ぎないのにその時点で暗黒火球のスペックの大体を測れたと言わんばかりに巨体を見事に操っていく。

 

「今の発射間隔に発射時点での距離とチャージまでの時間……っキングさん出来る限り近づいてから一気に離脱できます!!?」

「アハァ!デンジャラスな頼みね、そう言うの―――大好物ね!!!」

 

一気にスロットルをMAXまで押し込んで加速しながらもハイパーゼットンへと真正面から迫っていく。それにゼットンは暗黒火球を乱射し撃墜しようとする、だが発射のタイミングと間隔に合わせて機体を回転させながらも地面ギリギリを飛んだりと元空軍のトップガンとしての腕をフルに使って発目の要求に応えている。

 

「Hey イズゥクこいつの武装は!?」

「にっ二連装の高出力光子砲と翼部搭載型の大型弾頭ですぅゥゥッっ!!」

「OK……ゴッー!!!!」

 

それを聞いて十分だと言わんばかりに突貫する。その光景にファイターチームは本来、解析などによる後方支援機なのになんて無茶をするのかと思いながらもその卓越した操縦技術に舌を巻く、だが―――

 

グモォォォォゼットォォォォオン!!!!

 

調子に乗るなと言わんばかりに一際巨大な一対の鎌を振り下ろし、撃墜しようとする。

 

「FOOOOOOO!!!」

 

それに対してキングは咄嗟に出力、翼の向き、あらゆる物を操作しながら機体を一回転させる。バレルロールを行いながらも同時にゼットンの頭部に二連装光子砲と大型弾頭を全く同じタイミングで叩きこんだ。それに怯んだのか、それとも鎌による一撃を潜り抜けられた事に驚愕したのか僅かに体勢を崩した。そして攻撃を見事にすり抜けながら爆炎の中から飛び出しながら一気に上昇していくフェンサー・ファイターに歓声が上がる。

 

「FOOOOO!!!It's so coooool!!!」

「ッシャアッ取ったぁぁ!!ゼットンの火球の発射条件特定、全データ送信!!」

「ンググググッッッ!!?」

 

『な、なんて二人だ……』

 

常人よりも頑強である筈の出久がGに耐えているというのにこの二人はGなんて全く感じていないかのように大騒ぎをしている、特に発目なんてあの状況で解析をし続けていた。それによって得られたデータを各機に送信している。

 

「あのゼットン、一定距離に近づいてきた奴を火球で攻撃してくるみたいですね!!近接は鎌、遠距離は火球で使い分けてます!!アートデッセイ号は指定距離を取り続けてくださいそうすれば攻撃は受けません!!」

『よくやってくれた発目君!!君は後方に下がりながら引き続き解析と例の準備を!!それとMr.キング、素晴らしい操縦技術だ。是非とも指導をお願いしたい』

「ア~ハァッそれはこっちからアスクしたいね、ご機嫌なマシンで気に入ったネ!!」

「それじゃあっ……新型ファイターで準備してください、あっちはもっと素早い上にじゃじゃ馬ですよ!!」

「No problem!!男っていうのは癖がある程にバーンアップするんだぜ!!」

 

と操縦権を戻しながらも後部ハッチを開けて格納されている新型ファイターへと乗り込んでいくキング、同時に一気に後退しながら準備を進める発目。

 

「よしっ後はオートで回避運動のセットと距離を保つようにして……よしっ出久さん、同時に出て貰ってもいいですか!?」

「うんっ勿論!あのゼットンはやばいってマグナさんが言ってるからね」

『実際問題やばいなんてもんじゃないけどね……!!』

 

それを確認しながらも発目はボタンを押すと操縦席が変形していき発目の周囲に様々なボタンやレバーなどが出現していく。戦闘機の操縦系統とは全く違うそれはロボットの操縦席を想起させる。この発目専用の新型ファイターはゴモラの遠隔操作を行う為の物でもある。

 

「フェンサー・ゴモラ発進!!」

『レギオノイド・フェンサー、ナツカワ・ハルキ、行きます!!」

 

その言葉に共に開かれていくアートデッセイ号の出撃ハッチ。そこから二つの影が飛び出していく、それはPLUSが誇る特空機二機。仰向けになった状態で射出されながらも空中で体勢を変えながら着地する。着地と同時に大きく吠えるゴモラと空手の型を取るレギオノイド。そして―――

 

「マグナァァァッッッ!!!!!」

 

―――デュァッ!! ヘアァッ!! ジャッ!!

 

ULTRAMAN MAGNA LAMBDA SPIRIT(ウルトラマンマグナ ラムダスピリッツ)

 

「ディァッ!!」

「キシャアアアアッッッ!!」

「―――ッ」

 

マグナと共に並び立つ機械の巨竜と巨人、それが闘いが挑むは遥かに巨大な宇宙恐竜。如何に相手が強大であろうとも怯む事も負ける事も許さぬ、彼らは守る為にこの災厄の怪物と戦うのである。

 

 

ォォォォォォッ……ゼット"ォ"ォ"ォオオオオンッッッ!!!

 

 

降り注ぐゼットンの火球は、地球最大の決戦の開幕の轟音となった。




ゴモラの遠隔操作は機龍リスペクト。ゴモラにアブリュートゼロ……いいかも。


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終極のZ

ゼット"ォ"ォ"ォ"オオオオンッッッ!!!

 

辺り一面へと降り注ぐ暗黒火球の雨、灼熱が大地を焼く中を突っ切る様に突き進みながら手にした刃で直撃を切り払う光の戦士が二つの影を伴って突進する。

 

『あの体格差だ、まともにやりあう事は難しい。私が隙を作る、そこに遠距離攻撃を叩き込め!!』

「押忍!!」

『了解しましたぁ!!』

 

「シュァッ!!」

 

爆炎の中から飛び出したマグナ、それを追いかけるように雄たけびを上げながら巨大な鎌を振り上げるがそこへレギオノイドとゴモラからの援護射撃がそれを阻む。ゼットンにとってそれは大した事などではない、だが自分に対してちくちくと煩わしいものがぶつかってきているのだとイラつきを持って暗黒火球で狙い打とうとするが

 

「ディァァァァァッッ!!」

 

グモォォォォットォォン!!?

 

 

紅い流星となって降り注ぐようにゼットンの頭部目掛けて突撃したマグナ、その一撃が頭部に後になる程の一撃となって炸裂する。思わず真横に身体が振られて倒れこみそうになるのを鎌を地面に突き刺し耐える、矢張りあの巨人が先かッ……!!と思う中、全方向から赤いレーザーが連続して撃ち込まれていく。

 

「ウルトラマンばっかに良い格好させるなんて申し訳が立たねぇ!!俺達の地球は、俺達が守るんだ!!」

『応っ!!』

 

飛来するPLUSファイターチーム、出動可能な合計9機が全方向から光子砲を改良して連射速度を重視した二連装光子バルカン砲を一斉に発射する。小規模の爆発を起こしながらハイパーゼットンの全身へと浴びせ掛けられて行くが強固な外骨格にさほどの効果はないのか怒りを買ったかのように雄たけびを上げてしまう。

 

「全機散開っ!!落ちた奴は晩飯抜きだ!!」

 

全方向へと放たれていく暗黒火球の発射を見切り一気に距離を取りつつ散開していく、F-15編隊は不意打ち的な攻撃だったが知ってさえ言えば当たるものではないと言わんばかりの見事な軌道を描きながら回避していく。

 

「チャージ完了ッ!!レギオンッビィィィィイイイムッ!!!」

 

ファイターの援護に特空機も参戦する。距離を取りながらも腹部の砲門を展開したレギオノイド、ハーデロスを解析した事で開発が一気に進んだ事で完成した光子砲の発展型。無数の発射口が一つを形成しそこから雪崩のように溢れ出すエネルギーを一つに束ねるように発射される超破壊エネルギー砲が放たれる。

 

「フェンサー・ゴモラのフルスペック、見せ付けてやりますとも!!ゴモラ・ブレイクゥ!!!」

「キシャアアアアァァァァァ!!!」

 

発目の操作と共に尻尾から背中にかけて突起のような物が突き出して背鰭のような物を形成、それは一つ一つが振動していくと超高熱が生み出されていく。そして同時に雷撃のような激しい音と共にプラズマを生み出していく。そしてそれは天へと伸びて行くと空に黒雲を生み出すと更に激しい稲光を生み出す、それをゴモラは角で受けるとそれを収束させながら角から一気に放出した。

 

赤い閃光と青い雷撃が一直線にゼットンへと向かって行く、それを鎌で受けようとするがそれをマグナがサマーソルトで弾きつつも退避すると胸部へと炸裂していった。

 

ゼッッッッッットォォォォオオオオオン!!!?

 

明確な悲鳴、身動ぎをしながらも常に進撃し続けていた足が停止する。威力はハルキが所属していたストレイジの特空機三号機のキングジョーストレイジカスタムのペタニウム粒子砲の最大出力にこそ劣るが、ゴモラ・ブレイクと共に放つ事で十分過ぎる火力となっていた。

 

『『ネオ・ゼノシウムカノン!!!』』

 

そこにマグナも参加し必殺の光線を放つ、それが加わった事はゼットンの身体は後ろに吹き飛ばされそうになる程の火力を生み出しながら襲い掛かっていく。鎌を地面に突き刺してそれに何とか耐えているがそこにアートデッセイ号の艦砲射撃が加わっていく。

 

「全砲門開けっ!!グランドマスター各機、機体設置確認後各々のタイミングで良い撃ちまくれ!!怪獣に見せ付けるのだ、我々人類は恐れるだけの存在などではないと!!」

 

艦砲サイズにまで巨大化されている上に連装砲化されている光子砲に特装砲まで発射準備が成されていた。そして甲板には地上戦力として準備されていた高性能機動戦車(グランドマスター)が固定され砲台として機能していた。持てる限りの火力を注ぎ込んでゼットンへと攻撃していく。PLUSとウルトラマンの総力戦、その攻撃の嵐に遂にゼットンは後方へと吹き飛ばされるようにしながらも倒れこんだ。

 

グォォォォ……トォォォンッッッ……!!!

 

低く唸るような声は何処か苦痛に歪んでいるように思えた、無数の足よってを守られていた筈の胸部の発光体が総攻撃に防御が押し退けられてそこに攻撃が集中してしまった。先程までの光は見る影も無く、大きく欠損し二度と光を灯す事はない。だが直後に巨大な鎌が今までにない程の速度で特空機へと迫った。

 

「ディォ!!ォォォォォォッ!!!!」

 

それを受け止めるが無限に伸びると言いたげな鎌の触手はどんどん伸びながらマグナをどんどん押し込んでいく。そして鎌が突如無数に割れるとマグナを捕縛し一気に引っ張り始めながら暗黒火球を電撃のようなエネルギーへと変えて攻撃する。

 

「グォォォッ……ァァァァッッ!!!!」

『ハルキっ師匠がピンチだ!!」

「分かってますっ!!レギオンビーム、シュートォォ!!」

「出久さんを離しなさいこの巨大芋虫ゼットン!!」

 

先程と同じように攻撃を仕掛ける、だが今度は一撃で適応してしまったのか攻撃に対して小揺るぎもしない。ゼットンは怒りのままにマグナを引き寄せ続けながら胸部から赤黒いオーラを漂わせるとそこへと引き摺り込もうとする。

 

『こいつっなんてパワーなんだ……!!』

『マックスさん達のパワーでも、全然抵抗出来ないなんて……!!』

 

甘く見ていたのかもしれないとマグナは毒づいた、この地球の環境とハイパーゼットンの育成を鑑みてフューチャーアースの個体程ではないだろうと心の何処かで油断していた。PLUSの戦力である程度損傷を与えられる程にはあのハイパーゼットンほどではないがそれでも十分過ぎる脅威だと認識を改める。必死に抵抗する時、ゼットンの背中に光子バルカン砲とは違う攻撃が加えられて行く。

 

「Yeeeeeehawwwww!!」

 

銀色の流星となりながらゼットンへと攻撃を仕掛けて行くファイター、それは翼と背部に搭載された新型砲台から放つウルトラマンの光線のようなビームを放っている。その火力は他のファイターとは比べ物にならない。

 

ゼットォォォオオオオンッッッ!!!

 

「Oh!!イージーヒットする訳には行かないんでね!!」

 

背中の発光体から火球を溢れ出させて対空射撃を行うがそれを縫うようにして回避していく。その軌道も重力を無視しているかのような動き、UFOのジグザク軌道を思わせるような超機動。それを見て発目ですら驚きで身を丸くしてしまった。ハーデロスから得られたデータを基に設計された新型エンジンと反重力装置装置によって推進力を飛躍的に上げたはいいが乗りこなせる者がいないじゃじゃ馬に仕上がったあのファイターをあそこまで乗りこなしている光景に言葉を失う。

 

「キングさんどんだけ……あれ、操縦者の負担軽減に重力装置使ってますけどそれでも結構なG掛かるんですけど……」

『発目ちゃん、耐G用にウルトラスーツ採用したら如何すっかそれ流石にやばいし……』

「そうしときます」

『HeyHey!!トークは後ネッ!!背中に集中攻撃、デストロイしたのと同じのがターゲット!!』

「りょっ了解しました!!んじゃまっハルキさんもう一発行きますよぉ!!」

『押忍!!ペタニウム粒子砲と違って連射効くから良いっすね!!』

 

ペダルを一気に踏み込みながら移動していくレギオノイドとゴモラ、流石にゼットンもその狙いに気付いたのか火球を降り注がせようとするが発光体にはキングが先頭に立ってファイターチームを率いながら攻撃を継続的に仕掛け続けて行く。

 

『OK!!このままタイミングを待つッ!!そしてスーパーロボッツに合わせてフルファイアねっ!』

 

攻撃など効かなくていい、唯発射の邪魔をする事さえ出来れば儲け物。発射の間隔は既に発目が解明済み、後はチームを組んで交代交代でそのタイミングで攻撃を叩きこみ続けるだけで良いだけの作業。あと一歩の時、ゼットンの動きが突然硬直する。

 

ゼットォォォオオオオン!!!

 

「ォォォオオオオオッッ!!!」

 

 

あと少しで取り込まれそうというマグナが渾身の力で抵抗をする、あらん限りで踏ん張りながら逆にゼットンの動きを食い止める。それが決め手となり攻撃が止んだ時にゴモラとレギオノイドが配置につく事が出来た。既にエネルギーチャージも完了している。

 

「レギォォォオオオンンッッッッ!!!ビィィィィィイイイイイイムッッッ!!!」

「ゴモラァァァァッ……!!!ンンンッッブレイックゥゥゥゥゥ!!!!!」

 

最大出力の光線がゼットンへと照射されていく、発光体へと向かって行くそれに合わせてファイターチームとアートデッセイ号からの艦砲射撃が同時に降り注いでいく。最初こそ耐えていたが徐々に発光体の表面の色が失われていき、遂にそれを突き破りながら内部へとエネルギーが突き抜けて行く。思わず悲鳴を上げた時、鎌の力が緩んだ。その瞬間をマグナは見逃さなかった。

 

『『SMASHHHHHHH!!!!』』

 

渾身の力を込めて飛び込みながらボロボロとなっている発光体へと拳を叩きこむ、内部で連鎖的にレギオンビームとゴモラ・ブレイクのエネルギーと反応して大爆発を起こしていく。その爆発は遂に体表でも確認できるほどの大きな物へと変貌していき背中がエネルギーが放出される程の大爆発を引き起こしながらハイパーゼットン・ギガントは悲鳴を上げながら倒れ伏した。

 

ゼッ……トォォォォオン……

 

頭部からも光が消えて全く動かなくなっていくゼットン。史上最大の怪獣はウルトラマンと人間の力の前に遂に倒れ伏したのだと誰かが歓声を上げようとした時だった―――ピキッ……パキメキメキッ……と乾いた音が響き始めた。

 

『この、音は……?』

『まさか……』

 

そのまさかであった。マグナが視線を向けた先、ハイパーゼットンの亡骸からその音はし続けていた。先程破れた背中から何かが巨大な殻を抜け出ようとするかのように少しずつ、その姿を露わにし始める。形容するならば鋭角な鎧を身に着けた悪魔のような形相となったゼットン。紫色の刃のような鎧を身に付けながらもその腕はギガントの面影を残すかのように巨大な鎌のままとなっていた。先程の姿と比べてしまうと酷く小さくなってしまったようにも見えるが、溢れ出させる力はギガントの比などではない。

 

窮地に追い詰められたハイパーゼットンは急速な進化を試みた、唯巨大すぎるだけでは的になる。サイズは元のままにだがより強固な身体を、より鋭角な武器を、より強く強く……それを望んだ結果、未成熟でありながら進化を達成してしまった。今のゼットンは唯のゼットンではない、ハイパーゼットンでもない。低く唸るような音を響かせながら世界に生まれ出た新たなゼットン。

 

「ゼェェッ……トォォンッ……!!」

 

窮地に追い込まれ急速な進化の末に到達したゼットンのEX化の極地。ハイパーゼットン・ファルクス。




ハイパーゼットン・ファルクス。

ギガント状態のハイパーゼットンが窮地に追い込まれた事で急速な進化を試みた結果誕生したゼットンの亜種。本来の成熟体であるハイパーゼットン・イマーゴと異なり幼体の面影を残した状態となっている。


という訳でハイパーゼットン・ファルクスのエントリーだ!!デスサイズかと思った?残念半分正解でした!!個人的にハイパーゼットンってサーガもそうだけど超闘士激伝のあれのイメージも強いんですよね。
なので今回、未成熟の幼体の急激な進化という事で鎌を残しつつ強化されたゼットンという感じを出したかったのでこんな感じにしました。


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終焉のZ

「ゼェ……トォォン……!!」

 

幼体であったを完全に蛹として脱ぎ捨てて生まれた新たなゼットン。巨大だった姿は一変し元のゼットンと同程度の大きさへと落ち着いた、それこそ本来のハイパーゼットンのそれと似通っているがマグナは思わず眉を顰めながら観察していた。

 

『私の知らないゼットンだと……急激な進化をしたが故にギガントの特徴が色濃く継いでいるように見えるな』

 

外見はウルトラステージにて出てきたゼットンバルタン星人のそれに近い、バルタン星人の手の代わりにギガントの鎌と闘士ゼットンの鎧を掛け合わせたような見た目に少しばかりに言葉を濁らせた―――ゼットン特有の甲高い電子音のような音がまるでチャージ音のように周囲に木霊していく。それを見たキングは全身に鳥肌が立った。

 

「Shit!!退避っ!!」

「ゼェェッ―――トォォォンッッッ!!!」

 

退避命令を出した直後の事、胸部の発光体から天へと向けて巨大な火球が打ち上げられた。光線のような速度で打ち上げられたそれは空で炸裂し太陽のような輝きを放ちながら無数の流星となって周囲一帯を飲み込む勢いで降り注いだ。

 

「うおおおぉぉぉわぁぁぁあぁっっっ!?」

「何つぅ無茶をするんですかぁあのゼットンんんっっ!?オートガードONにしてああやばいっこっちも全速で退避ぃぃぃ!!!」

 

その範囲は戦闘範囲から出ていた筈の発目すら危険になる程の広範囲に降り注いでいた。咄嗟にゴモラのオードガード機能を起動させてから緊急回避機動を取らざるを得なかった。それはアートデッセイ号も同じく、シールドを起動させながら後退しながら回避行動をとっている中で複数のファイターが向かって来ていた。

 

「いかんっ!!整備班緊急着艦用ネット用意!!医療班待機っこのまま後退する!」

 

「Shit!!あのファイヤーボール、ホーミングアビリティまであるなんて……何て奴だ!!」

 

回避にこそ成功しているキングだがこれ以上はファイターでは邪魔になると判断してアートデッセイ号の直掩に徹する事にした。無数の火球が流星群のように降り注ぐ上に一つ一つがQAAM(高機動空対空ミサイル)以上のホーミングで迫ってくるという異常性。キングは地面激突スレスレで機首を上げる事で何とか対処したが、他のチームは少なからず被弾してしまっている。あれこそ特空機でないと対処しきれないという事を自覚させられる。

 

「特空機、今度はグレイトな祖国があれを作って、リベンジね……!!」

 

 

「ゼッ……トォン……!!」

 

進化したてでありながらもその実力の高さを見せ付けるゼットン、だがそれは攻撃を凌いだ特空機など目もくれずに唯々真っ直ぐとマグナを見据えていた。そして鎌の手を使って掛かって来いと言いたげなサインをしてきた。

 

『師匠っ気を付けてください!!こいつ、俺がタイガ先輩と一緒に戦った事があります!!確か宇宙恐魔人ゼットが操ってたゼットンです!!』

『成程……(またZ本編絡みかな……すげぇ気になってきた……だとすると更に豪い戦歴になるな……)』

『俺も一緒に!!』

『いや、君は不測の事態に備えていてくれ―――それに奴は私達を指名している』

 

ゼットの加勢を敢えて断る。倒した段階でまた新手が来るかもしれない、だとするとゼットを此処で戦わせるのは得策ではないしこのゼットンの力は未知数。だったら逆に危険に合わせるかもしれない、だとしたら自分が戦うのが望ましい。

 

『行くぞ出久君、相手はハイパーゼットンの変異体。全力で行くぞ!!!』

「はいっ!」

 

その言葉は出久にも分かっていた、そしてゼットライザーを握る手に自然に力が入る。手にしたメダルは互いに干渉し金色へと変貌しそれを装填する。

 

『平和を願う、悠久の想い。それを実現する力を今―――此処に!!』

「宇宙に平和を齎す、無限の光!!!ベリアルさんっ!!アサリナさんっ!!ノアさんっ!!」

 

 

〔BELIAL ATROCIOUS〕〔ASARINA〕〔NOAH〕

 

 

『平和を望む者、それを乱す者。音にも聞け、刮目せよ!!』

「命を滅し、絶望を喰らう化身を屠る光の姿を!!!」

『「マグナァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!」』

 

―――ヌ"ア"ァ"ッ!! ティァッ!! シュワォ!!

 

ULTRAMAN MAGNA OMEGA SUPREME(ウルトラマンマグナ オメガスプリーム)

 

 

顕現する光、紛れもないマグナの最強の形態であるその姿(オメガスプリーム)。煌く光を(イージス)に携えながらハイパーゼットンと対峙する。互いに構えを取る、先程と一転して静寂が周囲を支配する、そして―――それを切り裂くように巨大鎌を振りかざしながら攻撃を開始する。

 

「ゼッ―――トォォォオンッッッ!!!!」

「シュァッ!」

 

空間を切り裂かんとする一撃をギリギリまで引き寄せながら回避しながら拳を振るう。ゼットンも同じく回避するが甲殻を擦ったのが大きな火花を飛び散らせる、素早く鎌を切り返す。

 

「ハァッ!!」

 

素早い手刀が鎌の根元へと炸裂して動きを封じるが、そのまま切り落とそうと思っていたの筈だが想像以上の硬度に驚く。その一瞬の隙を突くかのように頭部から火球がマグナの胸部を捉える。僅かに後ろへと退かされるが大したダメージではない、だが直後にゼットンは超連続のテレポートを行いながらその連続さ故に残像で分身を生み出しながら連続的に鎌で攻撃してきた。

 

「ゼッ―――ッットン!!!!」

「ォォッ……!!!」

 

全方位から浴びせ掛けてくる無数の斬撃、ギガントの鎌だけに凄まじい衝撃が襲ってくる。この姿でなければ大ダメージは確実だろう、だがこの姿ならば耐える事は出来る―――テレポートの隙間、超連続で転移をする切れ目に呼吸をするかのように間が生まれている事を防御しながら確信する。そこに攻撃を叩きこむだけ。

 

『「……そこだっ!!」』

 

浴び続ける中で意識を集中させながらその瞬間に向けて光線を放つ、まだ全身が斬撃を襲い続けているが隙は今しかない。そしてその時、確かにゼットンは姿を現した。超連続テレポートのチャージ、その隙に確かに攻撃を叩き込めたがそれも予想していたと言わんばかりに即座にそれを吸収する。そしてそれを十数倍にして火球と混ぜ合わせて赤黒い火炎光線として放つ。

 

「ディァ!!」

 

ハイパーゼットンアブソーブなど想定済み。故に弱い光線を放ったのだから、と言わんばかりに拳で払い除ける。その最中でも残像は攻撃し続けるが聞いていないと言わんばかりに腕を振るうと残像が掻き消える。このままで互いに決め手がない事が示すそれに対してゼットンは両の鎌にエネルギーを蓄積させ、自らの火球で熱されたような超高温に仕上げながら構えを取った。

 

『お前に武器があるように』

「こっちにも武器はある」

 

左腕を上げる。直後に手首から光が溢れそこから武器が出現する。それはウルトラマン達が使用するウルトラランスに酷く似ているが似ている武器があった、嘗てベリアルが使用していたギガバトルナイザーとゼロのウルティメイトゼロソード。その二つの特徴を融合させたような武器、ウルティメイト・マグナランスを手に持ったマグナは構えを取りながらゼットンへと向かっていく。

 

「シュァッ!!」

「ゼットッ―――ン!!!」

「ディッデァッ!!」

 

暗黒火球の力を宿した鎌を振るいながら自身の身体を焼き斬ろうと迫ってくるそれを槍で防御しながらも狙いをつける、鎧を纏っているかのような風体に似合わない動きの素早さはハイパーゼットンの名に相応しさ。だが此方とてそれに不足するような力を持ち合わせている訳などではない。

 

『「見切ったっそこぉ!!」』

「シュォオッ!!」

 

地面を強く踏み込みながら放たれた渾身の一突き。それはゼットンが放った一撃とぶつかり合いながらもそれを押し返しながら胸部へと突き刺さった、思わずよろけるがそこを見逃す事はあり得ない。

 

『「サンダー・ビッグバン!!」』

―――ヌ"ア"ァ"ッ!!

 

雄叫びと共に槍から稲妻のようなエネルギーが沸き上がりゼットンの内部へとエネルギーを炸裂させていく。直接送り込まれてくるエネルギーを吸収する事も出来ず爆裂していく身体に声を上げながらも怯む事も無く鎌を振り上げる姿に槍を更に押し込む、ゼットンは突き飛ばされながらも体勢を立て直すが深く踏み込んだマグナの一閃が放たれる。

 

『「aurum gradius(アウルム・グラディウス)!!」』

―――テァッ!!

 

金色の輝きを纏った一閃が掲げられた防御の鎌を砕きながら胸部を切り裂いた、暗黒火球の力を宿していた自ら最大の武器が砕かれた事は流石にゼットンに動揺を与えた。だがテレポートで距離を取りながら傷ついた胸部へとエネルギーを集中させていく。電子音が徐々に速く高くなっていく、最強の攻撃を仕掛けようとした時にゼットンが見たのは―――左腕から光の弓を生み出し、槍を矢として番えているマグナの姿であった。

 

「ォォォォォォォォ……―――!!」

 

左手首から広がった巨大な光の弓、そしてウルティメイト・マグナランスは銀と金、純白の光を纏った光の矢となる。右手で槍を引くとそれに連動するように弓が撓りながらエネルギーがチャージされていく。弓から溢れ出しオーロラのような虹色の輝き、その煌きが太陽のような強さを持った時、その必殺の一撃は放たれた。

 

『「ウルティメイト・ギガ・オーバーシュート!!!」』

 

最高最強の槍の一撃、無限の光を蓄えたそれは螺旋に光を併せた渦となって真っ直ぐとハイパーゼットンへと向かって行く。ゼットンもギリギリでチャージが完了した最強の暗黒火球を放つ。自らの身を貫かんと迫る光の一撃、それを押し返し拮抗しようとした瞬間、暗黒の火球は無へと還りその肉体へと光が突き刺さり更に回転して深く強く突き刺さっていく。

 

「ゼゼゼットトトン……ゼェットォォォン……」

 

ゼットンを貫通する光、それは一度天へと昇ると即座にマグナの元へと帰還しその手に握られる。そして一度、大地を槍で鳴らすとそのまま倒れこむとその身体が光の粒子へと変換されてそのまま風に流されて地球と一体化するかのように消えていった。




ウルティメイト・マグナランス、まあ所謂DX武器枠。
敢えて名前はそこまでカッコよくせず、マグナの究極の槍みたいな感じに留めました。

探してみると分かりますが、結構ネタ入ってます。というかまあ特空機の必殺武器からしてね……。最後の(ネタ)が分かった人は私と握手。

次回は改めての三ヶ国集結やりてぇなぁ……。


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PLUS ロシア&中国

福島県竜ヶ森湖より出現した怪獣、レジストコード:ハイパーゼットン・ギガント、及びハイパーゼットン・ファルクスによる怪獣災害は当初予定されていたレベルよりも遥かに小さい段階で防ぐ事が出来た。進行ルートが市街地から離れていた事によって市街地から離れている地点にて戦闘が行えた為に極めて幸運であった。加えて九州による災害を鑑みてアートデッセイ・PLUSの稼働率を引き上げたのは正解だった。これによって特空機二機を搭載し迅速な出撃が可能となった。

 

そして本件は世界中に設置される事となるPLUS各支部に情報共有する事を推奨することを提言する。本作戦においてPLUSの実働部隊がライドメカを用いた初の戦闘となった為である。空戦部隊(ファイターチーム)陸戦部隊(グランドチーム)が特空機と連携する初のケースとなり、特空機搭載による状況においても

艦長であるジェントル・フェンサーの発案により高性能機動戦車(グランドマスター)を艦上に固定し砲台として使用し状況によって降下させる案は性能を考慮すれば極めて効果的と思われる。

 

今回の戦闘においてアメリカ支部の特空機パイロット、キング・チェック氏の作戦参加は明確な成果に繋がった事だろう。これを橋掛かりとして他支部とは強い結束を望む。

 

―――PLUS司令官代理作戦参謀 サー・ナイトアイによる報告書より一部抜粋。

 

 

「ハハハハッ!!いやぁあのファイターは実にアメイジングね!!操縦していて怖いと思ったのはルーキー以来ね!!」

「それで済ませられるって本当に可笑しいですからね、身体に何Gの負担が掛かると思ってるんですか?最大15Gですよ何でそれに耐えてるですか」

「トレーニングをエブリディしてるから!」

 

キラリンッ!!と歯を輝かせながら指を立てるキングに流石の発目でもため息が出る。以前の自分なら多分確実に嬉々として実験体になってくださいというのが想像できて頭痛がする、そんな風に思う辺り成長したと思っていいのだろうか。

 

「バット、まさか三ヶ国のPLUS視察が祝勝パーティになるなんて流石にサプライズ」

「全くですね。まあ後日そっちは取るらしいですからその前に円滑な関係を築きたいって目論みを通す為とか日本政府が見栄張りたいとかそんな下らない理由ですよきっと」

「言うねぇ発目ちゃん」

「ちょっと言い過ぎだよ発目さん」

 

本来の視察が中止になった筈なのだが、後処理のめどが付き始めた翌日に進路を変更していた中国とロシア機が来訪。PLUSとしては断りたかったのだが日本政府が強引に許可、これにナイトアイは頭痛を覚えずにはいられなかったが、二ヵ国がPLUSへの協力いや地球を守る為に力を一つにするという条約にサインしたらしくそれを知らしめるためにも必要だと言われ、渋々受け入れた。そしてまだ忙しいのにPLUSの祝勝と交友を深めるという名目のパーティが急遽催される事になった。

 

「ナイトアイも大変ね、二ヵ国だけじゃなくて他の国からのスポンサーから集られて」

「そもそも日本政府も政府ですよ全く……オールマイトとPLUSの二枚看板でも売る気ですかね」

「まあまあ……」

 

と侮蔑的な言葉で政府への疑念を深める発目を出久が諫める。実際問題としてオールマイトの弱体化という事は国の上層部の一部は理解している、故にその後釜としてPLUSを宛がおうとしているのだろう。別に自分達は日本に固執している訳ではない、国連からの許可され下りれば国際的な機関として認定されるのだから。というかこれだけの組織が国の直属で居続けるというのも危ないのが実情。

 

「でもナイトアイもちょっと嬉しいと思うよ、色んな国の人が一つの志の元で一つになろうとしている。それが実感出来るんだから」

「色んな思惑があるのは事実だろうね、でもそこはブレていないと思うよ」

 

光士もそれは否定しない。利権絡みや広告、様々な狙いはあるだろうがその程度ならば地球を守る為なら許容して見せるというのがナイトアイの顔に浮かんでいる。取り返しのつかない段階で漸く怪獣の脅威が伝わった、それでは遅すぎるのだから。そんな風に思っていると3人程が此方へと迫ってきた。

 

「ようキング、大怪獣と直接やり合ったって聞いたぞ。如何だ感想は」

「ベリーベリーデンジャラス、今までのセンスでは間違いなく即お陀仏」

「おいおいあんまり脅かさないでくれよ、こっちは馬鹿みたいに広い国土で何時怪獣に会うか冷や冷やしてんだからよ」

「ウォッカを煽りながら言っても説得力皆無ね……寒さ凌ごうとして酔ったら意味ないじゃない」

 

キングは旧知の間柄なのか気さくに挨拶をしながらもゼットンとの戦いでの素直な感想を述べつつも自分が乗った新型はとても良かったと褒めると三人は興味深そうにしつつもキングの傍にいた其方へと挨拶をする。

 

「おっと済まない自己紹介が遅れたな、PLUS支部の長官のベルート・ジンだ」

「同じくロシア支部で索敵部隊の隊長をやってるミハエル・フランカー、宜しくな」

「中国支部のチョウ・リーよ、あらっ良く見たらウルトラスーツの開発した発目 明さんにそのテスターの緑谷 出久さんじゃない」

「さっさんじゃなくて呼び捨てで良いですよ、僕たちまだ子供ですし」

 

慌ててさん付け撤回をお願いするが外国では想像以上に自分達の名前が売れている事に驚いてしまった。PLUSの評判が広まると同時にそこで正式配備されている対怪獣災害想定コスチュームのウルトラスーツを完成させた二人の事も当然知られている。ある意味プロヒーローよりも名前が良く売れているのが実情である。自己紹介を此方もして他支部との交流が始まった。

 

「ロシアの索敵って凄い大変なんじゃないですか」

「ですよね、世界最大規模の面積ですし」

「いやはや全くだよ、吹雪も良く起こるから視界悪いわ凍えるわ……お陰でウォッカ片手に捜索する馬鹿多くてさ、始末書書くの慣れちまったよ」

「済まんがオフレコで頼むよ……フラッカそう言う事を言うな」

「良いじゃねぇのベート長官、今日は無礼講で」

 

思わず溜息を吐くベルクート長官。人員編成は終わっているが如何にもアクが強いメンバーが多いのか彼に掛かる負担は相当な物らしい。

 

「此方の方でナイトアイにロシア支部に極限環境対応型のスーツのデータ送るようにしときます?」

「ああいや、先ずは此方でも出来る限りの事をしてからにするさ。ダメな時は素直に頼られせてもらうよ、それよりも問題なのは特空機の方でね……中国の方はそれなりに進んでいるだろう?」

「ええ。龍と虎がモデルになる予定よ、龍が雷で虎が風って感じ」

 

それを聞いてベクートは益々肩を落とした。ロシアのPLUSが課題としてあげているのが国土の広さをどうやってカバーするのか、そして猛烈な吹雪による視界不良や極低温化対応可能な特空機開発。様々な意見が飛び交っているがそれ故かまだ纏め上げられていない。

 

「いっそのこと大型化しない方が良いじゃないですかね」

「えっどういうこと?」

「私達のゴモラみたいな特空機作ったとしてもロシアの国土から考えてとんでもない予算必要になるじゃないですか、だからあまり大型化せずに小型の特空機もありじゃないですかね。それなら国土のカバーって言う点は解消できますし」

「成程……確かに、それはアリだな……」

 

特空機を製造するに当たって矢張り一番ネックになってくるのがコストである。出動地域が増えれば増える程に特空機は必要になるが、それを用意できるかは別問題。ならばいっその事小さい特空機で対応するのも一つの手になる。

 

「ベート、これ普通にありじゃねえか?鉄道と連携して運搬するって案も上がってるし小型すれば列車でも十分運搬可能だぜ」

「アリだな。実は纏まって無いがデータ自体は持ってきている、見て貰ってもいいか」

「あらっそれなら中国のもあるわよ、一緒に特空機会議に行きましょうか」

「良いですねぇパーティよりそっちの方が楽しそうです」

 

パーティよりそっちの方がよっぽど有意義だと発目は乗り気になってしまい、思わず出久と光士は互いに肩を竦めながらそれに付き合う事にする。

 

 

―――……お疲れさんゼットン、お前は十分役に立った。




次回、ロシアと中国の特空機発表。そして―――……胎動、覚醒。


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胎動する計画、厄災。

会場から離れて談話室へと移動。その事で各国要人達は、話したかった人物がいなくなってしまった事でナイトアイへと集まっていくのだが……当人としては、子供相手に集るよりも此方で引き受けるのが一番だろうという考えで、PLUSの為の行動をし続けるのであった。流石にキングはナイトアイのフォローへと回ったが。

 

「……っという訳でして、確かに50メートル級特空機の目を見張る長所は大出力ですけどその分デメリットもある訳です。なので、それをカバーする役割としてウルトラスーツと個性にカバーをお願いしているって訳です」

「ほうほうっ……これは目からうろこだな」

「確かに。あんなでっかいひな人形があったら役目なんざねぇよなんて言ってた連中に聞かせてやりてぇな」

「そして―――ぶっちゃけくそ高ぇです。こんなの運用出来るのは色々と修羅な舞台になってる日本だからこそです」

「色々込み過ぎてて何だかもう察するわね」

 

世界初の怪獣災害発生国、立て続けに起こる災害に出現する怪獣、その危機に呼応するかのように現れるウルトラマン……様々な意味で初めてが詰まっている国として、改めて名が知れ渡った日本。そんな日本への支援として各国は様々な物資や支援、技術提供が盛んにおこなわれている。某国はこれを日本は悪用している……と主張しているが……そんな事する暇あるなら、PLUSの充実へと充てると一蹴し世界からもでしょうね!!と言われている。

 

「それで特空機唯一の泣き所が航続距離です、アートデッセイ号が完成するまでは専用ブースターで飛ばすって案も準備してあったんですけど、結局間に合いませんでしたからね」

「ムゥッ……となると矢張り50m級は合わないか……」

「ですからこんなの如何です?」

 

発目が提案しパソコンに表示するのは特空機というには酷く小さい、人間とでも比較可能な程に小型化されている物で7~8m程度サイズに纏められている。

 

「これはっ……」

「ある意味でのウルトラスーツの原型、アーリー・ウルトラスーツとも言うべき存在です。まあプロト特空機でもこの場合はOKなんでしょうけど」

「プロト……今のスーツよりかなり大型ね」

「ええ、この頃のはパワーセルがまだ出来てなくて動力源の小型化がなかなか進みませんでしたから。後今ならこのサイズの歩行制御ソフトの開発は出来ますから、運用コスト的にもお手軽だと思いますよ?」

 

曰く、グルテンと出会ったばかりでまだまだ宇宙の技術にも馴染めずにいた頃に考えていた物で、徐々に慣れて行った結果として洗練、パワーセルの開発、そして今のウルトラスーツと、ブッ飛ぶ勢いの恐竜的な進化と、躍進を成し遂げたて来たとの事。

 

「ウルトラスーツにそんな歴史あったんだ……発目さんその辺り全然話してくれなかったのに」

「何だ相方に話してなかったのか」

「いやだって今で手一杯な人に過去の事話しても、何か嫌味っぽく受け取られません?」

「あ~分かる分かる、うちの国にも多いのよねそういう懐古厨なご老人方が……」

 

と深い溜息と共に遠い目をするチョウ。軽くながらも話を聞いているが、中国は中国で最近までかなり……PLUS関連の話はかなり、揉めていたらしいのでそれが顕著なのだろう。

 

「ウチの政府の上の人間もかなり頭が固い奴らばっかりなのよ……地球防衛とか人類の為って言うのを全然理解しないで、自分達の利益を追求とするくそ爺共ばっかりなのよ……何が偉大な我が国があのような生き物でもない怪物に負けないよ……根拠は何よ根拠は」

「少々口が悪いですよ、ですが此処ならだれも咎めません。思う存分吐き出してくださっても構いませんよ、皆さんも良いですよね?」

 

目配せを光士がすると全員が頷いた。パーティなんだから無礼講という事で関係ある話以外の事は忘れてやる、と言われてチョウは心から気が楽になった。

 

「有難う……多大な犠牲を払って偉大な祖国を作った我々の言葉を聞けば良いって勢いなのよ、どんだけ長生きのつもりよ。確かに年上を敬うのは当然よ。だけどね、今国を背負っているのは私達なのよ。過去に縋って生きる老人に、今を邪魔する権利なんてないっての……」

 

思いっ切り愚痴っているが聞くものが聞けば激怒するのも当然な内容だが、その内容にも納得が行く。PLUSの設立同意にも中国国内若者達が立ちあがった末に漕ぎ着けられた。だが、まだまだ国内のバランスはとれていない不安定な状態で、ごたごたも多い。そんな情勢で長官に就任した彼女の負担は、相当大きいだろう。

 

「苦労してんなぁ……」

「今度、ロシアと中国合同の話し合いでもしようぜそんときには、最強に美味いロシア料理とウォッカで胃袋癒してやるぜ」

「そう言って貰えるとちょっと楽しみ……っと、それなら中国の方も出さないと卑怯よね」

 

そう言いながら持って来ていたUSBを発目に渡す。そのファイルにアクセスすると二機の特空機のデータが映し出された。小型ではあるがそれでも20m級のロボット。白虎がモチーフになっている為か、腕部に鋭い爪と身体に比べて大きめの腕と足を持っている白緑の機体。龍が青龍がモチーフにして、荒々しい龍の頭部と尾そして翼が特徴的な青金の機体。

 

「おおっ随分進んでんだ!!やっぱ世界で人気な四聖獣持ちの国はちげぇな!!」

「って言いたい所だけど、これも頭の固い連中を説得するためにモチーフにしたような物だから何とも言いずらいのよねぇ……でもねこれを見て欲しいのよ。これが私達の意地よ!」

 

と胸を張りながら見せたのは二機が合体した形態であった。片方は龍が全面に出ている姿、一方は虎が全面に出ている姿。資料を確認するとそれぞれが変形しつつ合体しそれぞれの武装が腕などを形成して今の姿となるらしい。

 

「いやね、ぶっちゃけ言っちゃうとね」

「もしかしてあのレディ……若い方々がPLUSに参画したかったのってこういうロマンを形にしたかったからって事なんじゃ……」

「えへっ♪」

 

勿論です♪と言いたげな笑顔を向けてくるチョウに流石のマグナも唖然とした。確かに自分もこういうロマンは大好きだが、現実にそんな理由を持ち込んで大体なことまでするなんて考えもしないだろう。

 

「だってロボットよ!?それなら変形させたいじゃないっ合体させたいじゃない!!そんなチャンスを実現するチャンスを棒に振るなんてありえないじゃない!!だから全力で老害共を私は抑え込むつもりよ!!目指すのは日本のアニメーションの再現よ!!」

「ハッハハハハハ!!!こりゃ面白れぇや!!おいベートこりゃ中国支部とは仲良くやれそうじゃねぇか!?」

「まあ話が分かるという意味なら分からなくも無いが……ちゃんと仕事はするんだろうな」

「するに決まってるわよ! じゃないと、予算が降りないじゃない!!」

「そこ!!?そこなんですか!!?」

「いやぁ……何か以前の私の別ベクトルみてぇな人が、長官にやってますね」

 

「なんか……色んな意味で、この地球の未来が不安になってきたのって私だけなのかな……?」

 

 

 

 

「ドクター如何だ」

『ほっほっほっ!!良好じゃ、良好じゃよ!!ゼットンを放ったのは矢張り大成功じゃったわい!!』

 

何処でもない何処か、何もないそこに死柄木は足を踏み入れながらそれを見つめていた。新たな力を手に入れる前にこれの結末を見届けなければいけない、徐々に鼓動は強まり間もなくこの世に生まれ出でようとしているそれ。不定形状の塊だった何かはゼットンが生み出した物を糧にして人のような形を取り始めている。

 

「にしてもゼットン……俺気に入ってたんだが、勿体なくなかったか、随分強いんだろ」

『さあのう。案外宇宙怪獣の中じゃあまだまだの域なんじゃないかの、奴もそこまで喋っておらんかったしその程度なんじゃろ』

「それはそれでムカつくな……お前にゼットンを捧げた価値があるのか、さっさと見せてくれよ―――なぁアウローラの子」

 

その言葉を口にしたとき、一際鼓動が強まった。鼓動は強くなりそのペースを維持し続ける、間もなく目覚めるとドクターがほくそ笑む中死柄木は確かに見えた。それを、纏い続けているそれの奥で蠢いている影の瞳を。何処までも暗く、何処までも冷たく、何処までも……表現できる言葉などないと言わんばかりのそれを見た時震えてしまった。そして―――確かに聞いてしまった、その声を。

 

 

―――我が、母の名を呼ぶのは誰だ……?




連合、ゼットンの価値把握しきれてなかった。

まあアウローラが親切に教えてなかっただけなんですがね。


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穢された世界へ

間もなくクリスマス、それが迫りだすと世間はクリスマス一色へと染まりだしていく。クリスマスが過ぎればあっという間に年越しでお正月、何とも忙しい年末を過ごす事になる日本の文化にウルトラマンとなってから色んな意味で曖昧なんだなぁと思い始めているマグナ。良くも悪くも宗教が此処まで好い加減な国も珍しいだろう、神社でお参りしたと思ったら教会で結婚を祝う、かと思いきや―――まあこれが日本という国の特性なのだろう。

 

「おっ~緑谷!!なんか久しぶり~!!」

「うん久しぶり」

 

もうそんな風に思われてしまう程に顔を出していなかったかと思うのだが、自分の中では不思議な程に寂しいなどの気持ちなどはなかった。いや感じる暇もない程に激動過ぎる毎日が当たり前になっていて自分もそんな濃厚な毎日が基準になってしまっていたのだろう。

 

「あっ緑谷君、あのっリドリアスってどんな感じ?」

「元気らしいよ。鏑矢諸島の研究員さんとも上手くやってて普段は海沿いの巣で寝てるか空を飛んでるって」

 

荷物を一旦降ろしながらも同じく特別隊員になった口田の質問に答える。確かに彼は特別隊員だが活動する時は基本的には直帰で鏑矢諸島に行ったり保護した怪獣とのコミュニケーションが主。その他にも太平風土記を基にした調査にて遭遇した怪獣との交渉などが担当なのでPLUS基地には顔を出す事は少ない。

 

「緑谷さんPLUSの方は宜しいですの?」

「ナイトアイから休暇を貰えたんだ。偶には子供らしく大人を頼れ、学生らしく勉強してろってさ」

「ハハッなんか言いそうだな!!」

 

という言葉の中には複雑な意味もある実は相澤からそのように融通をして欲しいという連絡が来たからである、それは当然まだ子供であり学生であるからには学業に励むべきというのもあるが……それ以上に平和を感じて欲しいという切実な願いがあった。

 

『相澤先生から言われましてね、大人が子供に頼って情けないし心苦しいと』

『でしょうね……言うなれば教え子に軍属にさせているような物ですし』

 

そんな会話がナイトアイとの間にあった事をマグナは知っている。ナイトアイに自分から怪獣の知識やデータを渡してそれを活用して貰ってはいるがそれでもまだ足りない所がある。それを個人の才覚や実力という物で補っているに等しい、それだけこの世界の防衛能力は低いのである。発目の開発力や出久の尽力は正しくそれ。加えて彼らは迷うことなく前線に出る、それが教師としては辛い。

 

「つってももう終業してるから勉強はしなくていいんじゃねぇの?」

「いや僕はまだ公欠分の補習があと少し残ってるから」

「あ~……轟と爆豪以上に公欠してるもんなぁ」

 

既に雄英は終業しているが、それでもまだ公欠分の補習は完済しきっていない。リモートでの授業で何とか対応してきたが……まだ宿題のように残っている。

 

「でもお前も大変だよな、結局仮免から後ずっとPLUSで働き詰めだったもんな」

「うんっでも僕はこれでいいと思ってるよ」

 

掌を見た後に力強く握り込む。休暇というかそれにも此処までズレ込んでしまったがそれでも出久としては別段何も思っていない。

 

「それじゃあ今日はさっさと補習終わらせちゃうね」

「応っ明日は皆でやるクリスマスパーティの準備だから遅れるなよ~」

「発目に呼び出されるって言うのは無いようにな」

「流石に発目さんもお休み貰ってるよ」

 

そんなからかいを受け流しながら久しぶりに自分の部屋へと戻ってきた。一応掃除ロボットが清掃を掛けてくれていたのか綺麗なままでPLUSに掛かりっきり前の部屋なのに、なんだか……随分とこの部屋が狭く感じられてしまう。荷物を置きながら机の上のオールマイトグッズを手に取って眺める。

 

「僕の部屋なのに、なんだか不思議……もう子供の、ずっと帰って無かった実家の自分の部屋みたいに思えちゃうな……」

 

グッズを置きながら椅子に腰かけながら空を仰ぐように上を見上げながら腕を伸ばした。同時に指に嵌められたマグナリングが輝く。

 

「……マグナさん、僕って変わりましたかね」

『随分と藪からな質問だね、如何したんだい急に』

「いえなんか急にこの部屋が狭く思えちゃって、なんか子供の視点だと広かった公園が大人になってから来たら急に狭くなったみたいな」

『それだけ君が成長したって事さ。ウルトラ・フォー・オールの事だけ以外の事でも色々あったからね……もう君も随分と立派になったもんさ』

 

マグナからの視点で見ても出久は本当に強くなった、それは相棒としての贔屓目を一切抜きにしてだ。新たな始まり、ウルトラ・フォー・オールの担い手となり、彼個人でも宇宙有数のヒットマンであるモルスに認められるだけの力を身に着けている。これを立派と言わずして何を言うのか。

 

『私も君には感謝しているよ、君がいなければこの星の危機を救う事も出来なかったしアサリナの仇を討つ事も出来なかった』

「それは僕だって同じって奴ですよ。マグナさんが居なかったら僕、死んでたんですから」

 

溢れ出してしまう過去と今が紡ぎ出す絆の山々、語り出せば語り尽くす時には日は落ち、また昇り、また落ちて昇る事だろう。それ程の日々を共に過ごしてきた二人。そんな日々の中で出久も出久で気付いていたのかもしれない、だが敢えて口には出さずにからかうようにして口にだす。

 

「僕の事なんかよりカトレアさんとの事が大変なんじゃないですか、戻ったら即座に国を挙げての結婚式でもおかしくないですよ。何せ王族相手ですし」

『やめてくれよ……考えないようにしてたのに……ああもうそんな事言われたら帰りづらいじゃないか……もういっそのこと永住してやろうか……』

「多分、マックスさんとかが連れ戻しに来ると思いますよ」

『あ~……マックスは不味い、絶対来そうだから困る……』

 

そんな軽口を叩き合いながら出久は課題を広げるとそれに手を付け始めるのであった。残っているのは簡単な問題集程度、早く終わらせてしまおうとペンを走らせていく。

 

『もうあれだ、ぜってぇ王族紹介しまくる。私を祝った奴を集中的に紹介の的にしてやる』

「それって、同僚さんが主に被害に遭うって事じゃ……」

『マックスにネオス、ゼノン辺りは確実かな。フッフッフッ……覚悟しておくがいい……』

 

 

―――我が母、アウローラは死に絶えたか……成程、繋がりを感じぬとは魂も完全に消滅したという事か……。ぬぅぅぅぅんっっ!!!!

 

その時、世界は一瞬死に絶えた。そして即座に生き返る。深い深い眠りに付きながらこの世界に生まれ出る日を待ち続けていた者がこの時、産まれてしまった。それの誕生を目にしたとき、死柄木は余りの事に言葉が出なかった。それはドクターも同じく、だったがそれは驚愕からではなくそれが放つエネルギーが今まで観測されたあらゆる物を凌駕していたからだろう。それだけの力を秘めた存在が目の前にいる事への喜びで震えているのだ。

 

―――痴れ者が……去ね。

 

唯一度、腕を振るった。その時に溢れ出す力は空間を歪める、歪んだ空間の中に囚われながらも無間の苦しみを味わう事になるがそんな事など如何でもいいと言わんばかりに笑い続けるドクター。唯々笑い続けるドクターの声が木霊する中、死柄木は冷や汗が止まらない中で言葉を口にした。

 

「聞いていいか、お前は何だ」

 

―――レイブラッドの継承者たるアウローラ、そして偉大なる光の勇士マグナ。我はその二つを受け継ぎし者、そして我は世界を終焉へと誘いし者。

 

姿が掻き消える、同時に圧力から解放されるが死柄木は膝をつきながら思わず嘔吐する。あれは明確に人が見るべき次元の物ではない、発狂もせず耐えきった時点で異常とも言える存在。そして理解する、あれが纏っているのは―――自分が齎す破壊ではない、全てを飲み込み消し去る無だと。

 

「さて、如何なる事やら……見せて貰うぜウルトラマン、お前はこんな世界を守るのかどうかを……」

 

 

 

「我は此処に顕現せり……。さあ我が父よ、矛を交えようぞ……マグヌスもそれを望んでいよう……母無き今、この世界で繋がる絆は貴方しかありえぬのだから……フフフッハハハッハハハハハハハハ!!!!」

 

笑う度に空間が震撼し暗黒の稲光が煌いた。世界を終焉へと誘う魔神は渦を作りながら聖夜を迎えようとする人間たちの都市へと降り立とうとしている。そしてその場所は……雄英がある街、今、マグナと出久がいる場所でもある。




出久「突如現れた魔神、それは終焉を誘う魔神と名乗りながらマグナさんに姿を現せと言いながら街を破壊していく。ゼットさん達と共に立ち向かうけど、そこでまたマグナさんの胸を抉る真実が語られる。ふざけるな……これ以上マグナさんを苦しめるなぁぁぁ!!

緑谷出久()はウルトラマンと出会う。

終焉を呼ぶ魔神


僕だって、ウルトラマンだぁ!!」


最終局面、突入。終わり近づく物語を、見逃すな。


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終焉を呼ぶ魔神 前編

それは突然訪れた変革、あってはならない、見てはならず、来てはならないモノの前触れを知らせる警鐘。

 

極小の点であった空間の穴、偶然誰かが見た時違和感を覚える程度の物が拡大していく。そしてそれは次第に亀裂となり、空間が捻じ曲がって物事の根本を覆すような様を生み出しながらその奥からゆっくりと影を大地へと降ろした。音も無く、風圧も無く、まるでそこには本当は何も存在はせずに映像か何かのトリックなのではないかという疑念を抱かせる程に、それは静かで空虚な出現だった。だがその姿を一度見た者は言葉を失い、そして震えるのであった。

 

 

あれは別次元、いや相容れないものなのだと

 

 

光の巨人たるウルトラマンとは真逆、全身が漆黒の常闇に染められている。それでありながら何処まで厳かで煌めきを秘めている、全身を走る闇の炎は金色の輝きによって縁どられている。胸部にはプロテクターにも見える何かがありその中央部には球形の藍色の宝玉が収められていた。極めてウルトラマンに似ている何か、としてしか人間が認識出来ないそれは雄英のある街へと降り立ち、まるで値踏みをするかのように周囲を一瞥する―――その瞬間

 

ゴウッ……!!

 

ほんの一拍、心臓が一度鐘を打ち鳴らす程の時間が過ぎ去った時に一つの区画が炎上した。誰もが呆気にとられた、耳を劈く轟音が鼓膜を揺らす前に爆炎が一気に内部へと向かって衝撃波が集中していく。そして跡形も無く消えた。身を焦がす炎が降り注ぐ訳でもなく、身を震わせる衝撃が轟く訳でもない。一瞬にして虚無に飲み込まれて消えていった。故に―――恐怖が一気に伝播していく。

 

 

「な、んだよ今の……!?」

 

余りにも偶然過ぎる出来事だった。A組の生徒達は計画していたイベントを終えて寮へと戻ろうとした時にそれを目撃してしまったのである。

 

「街がっ……破壊、いやそんな生易しい言葉なんか、これを表現してはいけないっ……!!」

 

飯田の言葉が正しくその状況の異常性を象徴していた。聞こえてくるのは爆炎が一気に凝縮する際の空気の僅かな音のみでそれ以外の破壊音などが一切聞こえてこない、なんて静かな光景なのだろうか。街には暗黒の魔神が立ち、その魔神によって街が文字通りに消されていく光景をどうやって表現しろというのか。

 

「―――究極の破壊、存在の否定、無の……肯定」

 

喉ごと身体を震わせながら言葉にする常闇のそれに誰もが納得した表現を見つけたと言わんばかりの顔をした。正しくそれだ、あれは無だ、無が産まれているのだ。有を殺して虚無がこの世界に生まれ出る現象なのだと。それを聞いてそんな光景を見つめる出久に沸き上がるのは驚愕そして……怒りだ。一体なぜこんな事をするのか、許しておけるかと駆けだしそうになる自分を止めたのは誰でもない、魔神の声だった。

 

 

―――ウルトラマンマグナ、聞こえているか。姿を現せ、現さなければ我はこの地球が焦土と成り果てるまで力を使い、あらゆる命、存在を無へと誘う。

 

『見え見えの挑発をしてくれる……!!』

「(でも行かないと街ガッコの辺りにはかなりの人が住んでるですよ!!?)」

 

明白過ぎる挑発、だがいかないなんて選択肢は存在しない。それはウルトラマンである以上に好きにさせれば奴は地球を文字通り何もない星へと変えてしまうから。PLUS隊員として飛び出して皆からの視線から外れようとした時だった―――魔神が、魔神が此方を見据え、声を上げた。

 

―――そこに居たか……ならば此方から出向くのが礼儀。

 

 

刹那、出久達の目の前にそれは現れた。街に立ち尽くす魔神と全く同じ姿、自分達に合わせたかのような大きさになりながらそれは現れた。

 

「な、なんだっあいつの仲間か!!?」

「雄英のセキュリティとかお構いなしかよぉ!!?」

「怪獣に通じたら苦労しねぇだろ!?」

 

パニック一歩手前、それを見据えながらも腕を振るった。瞬間、雄英その物を崩壊させてしまいそうなエネルギー波が放たれた。誰も反応する事も出来ずにエネルギー波が全てを包み込んでしまいそうになったその時の事―――甲高い音と共にそれが崩れ落ちる音が響き渡った。

 

「みっ緑谷!!?」

 

出久は立っていた。誰も反応する事も出来ないそれに、たった一人で反応しながらもそれを砕いて見せた。その手にマグナリングを輝かせながら眼前の魔人と対峙していた。

 

「ほぅ……成程、貴様が依り代か」

「お前はっお前は何者だ!!」

「我は―――無限の悪意、無限の闇、無限の怨嗟を抱きし者、終焉に座し全てを原初の虚無へと誘う魔神」

 

低く唸り響く声で名乗るそれに誰もが震えていた。だが誰も逃げない、桁違いの存在であろうともヒーローを目指す彼らが逃げるなんて事はしない、どんな相手だろうとも立ち向かう意志を持ち続けている。それに敬意を払うかのように語る。

 

「何故、あんな事をした!!」

「我は創造された、そうあれかしと母によって生み出された命。既に我が母、アウローラは存在せぬ。だがそれが我の存在理由ならば果たそう、全てを終焉へと導き、原初へと返すが我の目的」

 

ただそうあれと望まれた、だからそうするという言葉が何処か焦凍の胸に突き刺さる様だった。だが自分とは違うと強く否定する。

 

「賽は投げられた。最早時の針は戻る事を知らぬ、我は生まれ出でた。ならば過去、現在、未来は全て虚無へと突き進むのみ」

「そんな事っ認めるもんか!!」

「気に入らぬというのであれば来るがいい、我を否定して見せろ、我を倒して見せろ―――さあ世界が終わる日か、それとも始まる日かそれを決めようじゃないかウルトラマン」

 

そう言い残し、魔人は姿を消した。そこに居たのは立体映像だったかのように何の残り香も残さず、何もなかったかのように消え失せた。だが残っている物はある、鋭く力強く猛々しい闘志を燃やす勇士の姿がそこにある。見つめるのは魔神唯一つ、それ以外は何も視界に入れずそれだけを見据えている。

 

「カッちゃん、轟君。後任せるね、僕は―――行くから」

 

此方を見ずにそう告げる男に友は鼻を鳴らしながら何処かそっぽを向くようにしながらも了承し、もう一人の友は力強く任せろと答えて見せた。

 

「とっとと行きやがれクソデク」

「緑谷、気を付けろよ」

「うんこれが―――最後だ」

 

一歩足を進めようとする自分を誰かが止めた。クラスの皆が自分を止めようとしていた、あんな化け物に戦いを挑もうというのか、正気なのか、様々な思いよりも先に出たのは……まさか、本当にそうなのかと問いただしそうな、今にも泣き出そうな顔だった。それに対して出久は笑みで答えた。

 

「皆僕行ってくるね。皆を守る為に、ウルトラマンは平和の為に戦わないと」

 

屈託のない笑みは身体を繋ぎ止めていた力を緩めさせた、そして一歩踏み出しながら出久は右腕に力を込めた。そして叫んだ。

 

マグナァァァァァァァァァッッッ!!!!!

 

眩いばかりの光が周囲を照らす、太陽のような光の中で出久はマグナと一つになる。そして即座にラムダスピリッツへと姿を変えながら魔神の元へと降り立つと同時にその隣にゼットが降り立った。彼もまた、この異常性に気が付き駆けつけてくれたのだろう。それを見ても魔神は何も答えず此方を見据え続けていた、そして―――叫んだ。

 

 

―――我は、アウローラによって生み出されし終焉を導く魔神……フィーニス・グノス。光の巨人、貴様らも終焉へと引き込んでくれる……!!



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終焉を呼ぶ魔神 後編

ラムダスピリッツ、アルファエッジ。二人のウルトラマンが対峙する終焉の魔神、それは唯々目の前に倒すに値する相手が出現に対して喜びにも似た感情を感じながらも此方を見据え続けていた。

 

『こいつは……相当にやばい力を感じますぞ……』

『デストルドス、いやそれ以上にやばい力を感じます……!!』

 

ゼットとハルキ、その二人が地球最後の闘いとして戦った怪獣、死と破壊の王、殲滅機甲獣 デストルドス。次元の崩壊をも引き起こしかねない人類最強とも言うべき兵器D4レイを主軸に置かれた特空機が敵によって奪われた上で様々な怪獣やベリアルなどのメダルを大量にを吸収した結果誕生した合体怪獣。ゼットとハルキ、そしてストレイジが総力戦の末に倒した怪物だが、それ以上の威圧感を感じずにはいられずにハルキは身体の震えを感じてしまっていた。それは出久も同じ、理性ではなく本能が感じてしまっている。

 

『―――来るがいい、光の戦士……!!』

 

「ォォォォッッ!!」

「デュァッ!!」

 

「ヴゥゥゥゥ……!」

 

突き進むマグナとゼット、それを真正面から受けて立つ終焉を導く魔神(フィーニス・グノス)。腕が差し向けられる、それと同時に何もない空間が爆縮する。街を攻撃したのと全く同じ物、それがマグナの胸を抉る。

 

「グッ!!ディァッ!!」

 

一歩後退るが腕を振るい光弾を放つ、それは同じく魔神の胸へと直撃する。だが小揺るぎもしない、そこへ二筋の光刃を煌かせながら切り込んでいくゼット。

 

「シュァァァッ!!チェァァァッ!!」

 

ヌンチャクのように光を振るいながら刃が魔神を切り裂き続けて行く、全身を使いながら勢いをつけながら更に深く早く放ち続ける中で回転しながら紅蓮に輝く蹴りを浴びせ掛ける。

 

『チェストォォォォ!!!』

 

そのままアルファチェインブレードをエネルギーへと変換しながら拳へと纏わせながらハルキの裂帛の叫びと共に正拳が放たれる。深く踏み込んだ一撃は確かにグノスの胸部へと直撃―――せずにその本の数ミリの所で拳が停止してしまっていた。更なる力を込めて拳を押し込もうとしてもピクリとも動かない、壁によって阻まれているというよりもこれ以上には何もないような感覚に陥る。

 

『何だ、これっ……!?』

『グリーザ以上に、何も感じない……!?』

 

『―――虚空、フフフッ……中らずと雖も遠からずだな』

「ヴォォ!!」

 

再度差し向けられる腕、それは瞬時にゼットを吹き飛ばしてしまい大地へと叩きつけた、直後ゼット周辺の空間に異常が生じゼットへと重くのしかかっていく。

 

『何だこれ……!!?体が、動かないっ……!!』

『やっぱり、これはグリーザと同じ波長の力……!!』

 

『SWALLOW SMASH!!』

「ダァァァァッッ!!」

 

真上からスマッシュを浴びせ掛けるマグナ、それを一歩後ろへと退くだけで回避するが直後にラムダ・ソウルブレードを抜刀しその胸へと突き立てる。それも先程と同じように完全に静止してしまう、だが―――マグナはそこへマックス、ネオス、ゼノンの力を最大まで開放し膨大なエネルギーで全身を覆う。それによって僅かに生じた隙間に光の竜巻を叩きこみ遂に魔神へと明確な一打を与える事に成功する。

 

『見事……よくぞ虚無の壁を越えられた物だ……』

 

後退りながらも余裕を崩さないグノス、だがその言葉には明確な称賛が浮かび上がっている。まさか自分の障壁を破る事が出来るとは思っていなかったのか、いやそれとも破れると信じていたのか……何も分からない不安が押し寄せる中でマグナは唯々刃を振るうがそれをグノスは押し留める。

 

「ォォォォッッ!!デュァァァァッッ!!!」

「ダァァァァッッ!!!ベェェタッスマッシュゥゥゥ!!!」

「ヌヴゥ……!!」

 

刃を咄嗟に放す、宙を落ちる刃を左手で握り直して斬撃を放つ。咄嗟に意識外を突いた攻撃、そしてそこへベータスマッシュへと姿を変えたゼットが重々しいドロップキックを繰り出してブチ当てた。パワー全振りと言ってもいいベータスマッシュの体重の乗った一撃は流石のグノスも大きく後退せずにはいられないがそこへ更なる追撃が飛ぶ。

 

『『ベータクレセントスラッシュ!!』』

『『ネオ・マクシウムスラッシュ!!』』

 

巨大な三日月のようなカッター光線と身の丈程の巨大な八つ裂き光輪が同時にグノスへと襲い掛かっていく。流石のグノスも防御姿勢を取り直撃に耐える、が直ぐに飛び込んできた二人が同時に殴り込んできたのには反応出来ずにまともに一撃を受けてしまい吹き飛ばされてしまった。

 

『存外に、やる……だが調子に乗るな……!!』

 

攻撃に称賛しつつも遂にグノスは攻勢に出る。一瞥すると同時にマグナ達の周囲が一瞬にして連続して大爆発が連続していく、だがその爆炎も即座に無へと還っていく。

 

『グゥゥゥゥッ……何て、パワーなんだ……!!』

『単純な爆発じゃなくて其処に無を組み込んでる……!!』

 

『無へと還るっエネルギーが消失するそれすら攻撃にするとは……完璧にコントロールしなければ出来ない芸当だ……!』

『魔神って言うのは伊達じゃないみたいですね……!!』

 

「ヌヴゥンッ!!ォォォォォ……!!!」

 

攻撃に苦しむ中でグノスは更なる攻撃を仕掛けようとして来ていた。防御か回避かそれとも妨害するかを思考するよりも先に身体が思わず止まってしまっていた、何故ならばそれは恐らく光線のような物を放とうとしている、全身から闇のオーラがエネルギーとなって溢れそれらが腕へと集中していく様はウルトラマンの光線技に酷く似ている、がそれ以上のその動きが彼らの動きを止めた。

 

『あっあれって……師匠の!?』

『マグナさんのマグナリウム光線!!?』

『チィィッ!!』

 

それを見たマグナは咄嗟に同じように光線技のチャージへと入った。あれがもしも自分の光線と同じ性質を帯びているのだとしたら不味い事になる、あれは照射面積と威力を重視している、それと同じならばとんでもない威力になるのは確実。闇の煌きが頂点へと達したと同時にマグナのチャージも終了し光と闇の光線がぶつかり合う。

 

「ンヌヌヌヌヴァァァ!!!」

「シュエァァァ!!!」

 

闇と光の激突、闇の閃光と光の奔流。何方も負けないと言わんばかりにどんどん出力が上がっていくだがグノスが一歩深く踏み込みながら力を籠めると状況は一転。闇の力が一気に増してマグナの力を一蹴するかのように押し切り襲いかかった。全身を汚染するかのように襲い来る闇の力、それを受けて吹き飛ばされ叩きつけられると一瞬で無に還ると同時にマグナは疲弊しきったように荒い息を吐いてしまった。

 

「ヌォォォ……グァァァァ……!!」

 

何とか体勢を立て直すが途轍もないダメージを受けてしまっている。それをカバーするようにゼットが間に入るがグノスは唯々笑っていた。

 

『如何だマグナ、お前の力を受けた気分は』

『私の、力だと……!?』

 

その一撃は明確にマグナリウム光線の収束圧縮したエネルギーの活用性質を持っている、だがそれを持って自分の力というのは可笑しい。その時に寒気がする程のいやな予感がした。アウローラ、奴は並行世界のアサリナの身体を奪っていた。何故か今その事が脳裏を過ってしまった。

 

『我が母の名はアウローラ。そして我が父、その名はマグナ』

 

時間を置く事も無く、悪びれる事も無く、真正面から突きつけられた言葉に思わずマグナは思考が停止した。

 

『師匠が父、親……!?』

『何を言ってるんだこいつ……!?』

『アウローラ、それが母親って事は……まさか……!?』

 

困惑するゼットとハルキ、だが出久は分かってしまった。その言葉の奥にある真実に指を掛けてしまった。アウローラが母親、それはつまりその肉体の依り代になった存在にも言える事になる。アウローラの肉体の依り代……それはアサリナの並行同位体、並行世界の彼女。そしてマグナを父と呼ぶ、それはつまりこのフィーニス・グノスの正体、いやその大基になった存在というのは―――

 

『我が母、アウローラが依り代にせしアサリナ。その女が孕みし命、マグヌスこそが我が根源。そしてマグヌスは貴様の子だ』

『私とアサリナの……子……?』

 

理解を越えた感情が身体を縛り付けた。並行世界の一つ、タルタロスが手を伸ばした世界においてマグナとアサリナは夫婦となっていた。そして二人の愛の結晶とも言うべき子供、それを身籠っていたアサリナをアウローラは依り代にした。そして妻の魂を壊しただけではなく自分の子供の命までもが毒牙に掛かり、様々な怪獣の力を取り込み一つになった事で生まれたのが―――フィーニス・グノスという魔神。

 

『我はレイブラッドの継承者、偉大なる光の勇士を継し者。我が父よ―――受け取るが良い』

 

指が鳴った、今までよりも特大の爆発と無がマグナを襲いかかった。ゼットの背後でそれが起きた時、ゼットはゼスティウム光線を放ちそれを妨害するが意味はなかった。無が終わった時、マグナはゆっくりと後ろに倒れこんだ。

 

『師匠!!』

『マグナさんっ!!出久君先輩確り!!』

 

『私と、アサリナの……子……私がアウローラを、追い詰めたが故に私は……私はっ……』

『マグナさんっマグナさん確りして!!』

 

「ォォォオォォォ……」

 

味わった事の無い苦痛が、絶望が、苦悩が、マグナへと襲い掛かっていた。その痛みの熾烈さを物語るかのように……彼のカラータイマーが赤く染まり、点滅を始めた。




フィーニス・グノス

アサリナの並行同位体を依り代にした際に彼女が身籠っていたマグナの子、マグヌスへと様々な怪獣の力を取り込ませていった結果、誕生した存在。
アウローラの持つレイブラッドの怪獣を操る力により、怪獣の力を完全に制御化に置いており暴走もせず無の力を発揮し、マグナの光の力すら行使可能。




没案だったアサリナとの夫婦設定、ラスボスにもってきて採用してみました。


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絶望が呼ぶ無

アートデッセイ号が到着した時、町は混迷を極めていたと言ってもいい状況であった。倒れこむマグナ、それを庇うように立つゼットと街を無へと還そうとする魔神が立つ戦場となり街の一角は既に消え去っている。中でも誰もが驚かされたのがこれまで地球の為に戦い続けていたウルトラマンが倒れこむ姿であった、そして胸のカラータイマーが危険信号のように赤く染まり点滅した時は思わず最悪の想像を誰もがするなかで檄が飛んだ。

 

「レギオノイド、ゴモラ発進!!各機ファイターはフォーメーションを維持しつつ攻撃!!グランドマスター各機も地上へ降ろせ、ダヴ・ライナーも出すんだ!!地上で逃げ遅れている人々を可能限り救助収容!!急げ!!」

『はっはい!!』

 

混迷する事態の中でジェントルは艦長としての役目を必死にこなしていた、それが自分に与えられた役目だからそしてこの地球を守る責務。そして―――ウルトラマンを助ける為に最善の決断を取る為に思考をし続ける。

 

『Mt.レディ君はウルトラマンマグナの援護を!!』

「言わずもがな!!」

 

アートデッセイ号から飛び降りるかのように飛び出していったMt.レディ、空中で個性を発動させながら地響きを起こしながら着地する。そして倒れこんでいるマグナへと駆け寄っていく。

 

「マグナ様、マグナ様確りしてください!!」

「ォォッ……ァァァッ……」

 

絶えず鳴り響き続けているカラータイマーの音、それが何なのか明確に分かる訳ではない。だがそれが危険を知らせている事だけは分かる、だから必死に呼びかけを続けるが呻き声を漏らしつつも動けないマグナにMt.レディは次第に焦り始めてしまう。自分の憧れの人が此処まで苦しんでいるのに自分は何も出来ないのかと思う中でその背後で黄金の嵐が巻き起こった。

 

ULTRAMAN Z DELTA RISE CLAW(ウルトラマンゼット デルタライズクロー)

 

「シュェァ!!」

 

その手に携える魔剣を魔神へと差し向けながら一気に飛び出しながらその刃を振るう、その斬撃は一気に身体を切り裂き明確な傷をつけた。

 

『っしゃあ!!やっぱりベリアロクの攻撃なら通りますぞぉ!』

『押忍!!!ベリアロクさん、今回もお願いします!!』

『フンっ面白そうな奴を用意したじゃねぇか。良いだろう、斬ってやる』

 

虚数の塊とも言える怪獣、グリーザを唯一葬る事が出来る宇宙の穴を縫う針とされる剣。それは同じく虚無の力を持つグノスにも有効に利くと分かったゼットとハルキはベリアロクを握り締めながら一気に攻め込もうとするが―――その肉体を切り裂いた一撃は今度は防御されてしまう。ゼットを押し退けた瞬間、グノスは自らの胸へと腕を突っ込んだ。いや胸の前の空間に腕を入れた、そしてそこからまるで血飛沫のような空間の残滓を伴いながら出現したのは黒で縁どられている透明な大剣。それを構えながらゼットへと猛進していく。

 

『面白い、かの虚数を切り裂く剣か……ならばそれを葬り去るのも一興……!!』

 

『俺様を葬るか、面白い。やれるもんならやってみやがれ、行くぞハルキ!!』

『押忍!!』

 

猛進してくるグノスの大剣、その一撃は空間ごと叩き壊す程のパワーを秘めている。振るわれた一撃を回避しそれが大地へと炸裂した時、大地にあったビルや道路などは消え失せ唯のクレーターが広がっていた。それを見たゼットは大剣の泣き所を突く為に素早い斬撃を織り交ぜながら接近戦に持ち込んでいく、がグノスも巧みな剣捌きでそれを防御していく。

 

『こいつっ!!まるで師匠みたいに武器の扱いが上手い!!』

 

マグナの血を継いでいるというのは伊達ではない、寧ろマグナの力全てを持っていると言ってもいいそれを実感するゼット。思わず舌打ちを突きたくなる程の熟練の達人を思わせる卓越した技術、此方の素早い攻撃に織り交ぜる鋭い一撃を的確に防御し問題ない攻撃は敢えて受けて此方の隙を作ろうとしている。マグナとの特訓などがなければ何度隙に付け込まれて攻撃を受けていたか分からない程に上手い。

 

 

―――レギオンビィィィィイイイムッッ!!!

 

―――ゴモラァブレェェェェエエエイッ!!!

 

 

咄嗟に剣を蹴りながら距離を取ったゼット、グノスへと二つの閃光が走っていくがその閃光は直撃の直前で捻じ曲がって消失してしまう。駆けつけたレギオノイドとフェンサー・ゴモラの援護攻撃も物ともしないがそれでも闘志は絶えない。

 

「こりゃとんでもねぇ奴が来たもんだなぁ……!こりゃあんちゃんの時みたいに楽しめるかもなぁ!!」

「何でテンション上がってるんですかモルスさんってそうだこの人戦闘狂でした……」

 

ハルキの代わりにレギオノイドに搭乗しているモルス。だがモルスをしてグノスの強さは推し量る事は出来ない、だがこれはこれで自分が求めていた戦いが出来るだろうと興奮が止まらない辺り流石戦闘狂と言わざるを得ない。だがゴモラを操縦する発目は気が気でない、あのマグナが倒れこんでいる。という事は彼と一体化している出久も危ないかもしれない、そんな気持ちが前に出ようとするのをモルスが抑える。

 

「落ち着きな嬢ちゃん、あのあんちゃんはこのモルス様に勝つぐらいのタフガイだぜ。そう簡単にくたばりゃしないし一緒に居るのは旦那だ、今俺達がすべきなのは―――旦那方が復帰するまでハルキのあんちゃんを援護する事だぜ!」

「っはい!!」

 

ゼットに並び立つレギオノイド・フェンサーとフェンサー・ゴモラ。ゼットは頼もしい仲間が来てくれた事に感謝するが同時に二人に対して注意を飛ばす。

 

『二人とも気を付けろ!!彼奴、まるでグリーザみたいだ!!』

『接近は危険です、火器による援護を中心にお願いします!!』

 

「あいよっ任しときな!!」

「畏まっ!!」

 

 

「私がっ私が……」

「マグナさんっ確りしてくださいよっ!!何時ものマグナさんらしくないですよ!!」

 

マグナの中とも言うべき空間でマグナは唯々苦しみ続けていた。出久が傍により必死に声を掛け続けるがその声もまるで届かないかのような様子に陥りながら唯々震えてしまっていた。

 

「マグナさんが悪いんじゃないですっ!!だって、如何しろって言うんですか貴方に!!?別の世界にどうやって干渉しろって言うんですか、別の世界まで全てを守れなんて無理に決まってるじゃないですか!!ウルトラマンは神じゃないって言ったのは貴方でしょ!?」

 

必死に問いかけ続ける出久、その言葉は正しく真実を突いてこそいるがマグナには届いていない。ウルトラマンは神などではない、そう言っていたのもマグナ本人じゃないかとだが……。

 

『気持ちは、分かるよ……』

『マグナ……』

「菜奈さん!?」

 

そこへウルトラ・フォー・オールの中にある菜奈の意識がアサリナを引き連れながら現れマグナの苦しみを肯定した。

 

『出久、君はまだ分からないかもしれない……自分が必死に守る為として戦ってきた行い、それはきっと正しい。だけど正しさだけじゃ許容しきれない物だってあるんだよ』

「でも……!!」

『マグナは戦い続けてきたんだよ、平和の為に……でもそれが自分だけじゃなくて別の世界にまで及んでしまった……自分が守りたくて守りたかったものを自分自身の手で奪い去って、自分の子供をあんな形にしてしまったって……そう思ってるんだよ』

 

大切なものを守る為に行動し続けた果ての今、それが酷く圧し掛かってきている。世界を滅ぼす魔神となってしまったのは我が子、そして我が子をそんな存在へと導いてしまった原因は自分がアウローラを追い詰めたが故の事。分かっている、マグナだってそれを自分が責任に感じる事はないと……だがそんな事で許容しきれるのか、そんな自分逃れを許してしまっていいのかと。

 

「私は……もうアサリナを……アサリナを……私は自分のっ……ぁぁっ……!!」

 

アサリナが傍にいる、彼女は一緒にいる。彼女も討て、それが正しい、犠牲になった自分もそれを望むという言葉があったからこそマグナは自分を奮い立たせる事が出来ていたのだろう。マグヌス、自分とアサリナの子供……未来を奪い今度は今を消し去るしかない、自分の子供を……それをしろというのか、自分に自分の子の命を奪えというのか……限りなく人間に近い精神を持つマグナの心は酷く脆くなっていた。

 

「如何して、こんなに……何で、如何してなんだ……如何して―――」

 

聞いた事も無い弱音、絶望しきった言葉に出久は拳を握りながら思わず叫んでしまった。

 

「ふざけるな……これ以上マグナさんを苦しめるなぁぁぁ!!!」



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光の勇士。

「グォォォォッッお戯れをっお止しになってぇてなぁ!!!」

 

大剣を回避するが、地面が崩れ倒れこんでしまった所へと大剣が差し向けられる。だが咄嗟に全ミサイルの砲門を開き一斉に発射する、だが命中させるのではなくグノスへと当てる直前に起爆させて大爆発を引き起こさせながらその爆風を推進力代わりにしつつ地面を蹴って後方へと跳ぶレギオノイド。そこへゼットが斬り込んでいく。

 

「チェェェエアアアッッ!!!」

「ヴオァァァ!!」

 

激突するベリアロクと大剣、互いの得物の強さは互角。だがそれを振るう者の差が出たのかゼットは吹き飛ばされながらも空中で制動するが直後に爆発と無が襲いかかり墜落する。

 

「ゼットさんハルキさん!!こんのォォォッッ!!」

「キシャアアアア!!!」

 

援護の為にエネルギーチャージを開始するフェンサー・ゴモラ、頭部の角へと落雷が落ちるとそこから雷撃と衝撃波がミックスされた波動が放射されていく。だがグノスには全く効果がなく波動そのものが無へとされていく。逆に攻撃を受けてゴモラは火花を散らしながら倒れこむ。

 

「嬢ちゃん動けるか!?」

「ダメージレベル36%、ええ……まだ行けます……」

「攻撃は命中させるなっどうせ無にされるなら誘爆を誘うように扱え!そっちの方が無にされるのにラグがある!!」

「まさかさっきのそれですか?」

「あったり」

 

『デスシウムファングッッ!!』

 

巨大なベリアルの頭部がグノスへと喰らい付いた、流石はベリアロクの攻撃だけ利いている。だが同時に発目も理解し始めてきた、グノスは確かに全てを無へと還すがそれは身体に降れていた方が効率がいい。だから間接的な物であればラグで時間も稼げるしダメージを稼げるかも……だが

 

「でもダメージ効率が悪すぎますよそれ!」

「だよな、くっそ旦那はまだか!?」

 

効率が余りにも悪すぎる事なんてモルスも承知しているがそうでもしなければ即座に攻撃が無効化されてダメージすら与えられない、出来るだけマシだが……これではダメージレースは絶望的、ファイターの攻撃も予想以上に利いていない。有効打はゼットのベリアロクのみ、マグナの復活を待つしかないような状況が続いている。

 

「出久さん、何があったんですか……!?」

 

 

『マグナ……』

 

アサリナの眼前には耐えきれない絶望の中に居続けるマグナの姿がある、ウルトラマンとして戦わなければいけない立場にある彼を縛り付け動けなくする絶望。その深さは人間であればある程に理解し共感出来てしまうもの。

 

『……』

 

菜奈も口を閉ざし何も言えない、同じように自らの行いによって自らの孫をヴィランへとしてしまったかのような……いやそれ以上だろう。だがその中で一人だけ、マグナの相棒である出久だけは悔しさを滲ませながらも拳を握りしめ続けていた。

 

「すいませんマグナさん……SMASH!!!!」

『『なっ!!?』』

 

血が出る程に強く握りしめられたそれを握り直すと全力でマグナの横顔へと叩きこんだ、紛れも無く全力のスマッシュが振るわれてマグナは吹き飛びながらバウントするかのように叩きつけられた。突然のそれにアサリナも菜奈も驚愕した、それを受けたマグナは何もなかったかのように身体を起こしながら膝の上に腕を置きながらそっと目線を持ち上げて出久を見た。それを受けて尚、出久は拳を握り続ける。

 

「マグナさん、僕は貴方の苦しみが分からない。貴方が苦しんでいる事は分かるけどどれだけ辛いかは分からない……僕に分かるのはフィーニス・グノスを止められるのは僕達だけ、ウルトラ・フォー・オールの持つ者の役目です」

「……」

「貴方っそれでも本当にウルトラマンマグナですかぁ!!!」

 

もう一発、スマッシュを振るう。

 

「今まで貴方は僕にどれだけウルトラマンがどんな存在かを説いてきた、貴方が憧れるウルトラ兄弟の方々の戦いを通して僕にウルトラマンが何の為に戦うのかを!!それを今放棄するんですか、それはウルトラマンである事に誇りを感じている貴方が一番許せない事でしょう!?」

「君に、何が分かる……」

 

初めて、マグナが応えた。

 

「平和を願う者達の為に、戦いたくても戦えない者達の為に。正義を守り、試練に立ち向かう、だがその結果がこれだ。私が信じてきた者の果てに私は何よりも守りたかった者を失い、その果てに並行世界のアサリナ、そして今度は私の子供が……」

「だったら今、発目さん達が戦ってくれているのを無視して何時までもこうしているつもりですか!!?」

 

胸倉をつかんで無理矢理立ちあがらせる出久、その表情は怒りに満ちている。それはマグナの相棒として、相棒が許せない事をしている事への怒り。

 

「自分の大切な者が犠牲になった、その辛さは理解出来ますけど僕の大切な人がどうなっても良いって言うんですか!!?そんなのアウローラと同じじゃないですか、僕にマグナさんと同じような苦しみを味合わせるつもりですか!!」

「何が分かる!!」

 

我慢出来なくなったマグナは出久の手を振り解きながらその顔を殴り付けてしまった。出久とは比較にならない力に叩きつけられる出久に菜奈が駆け寄るが出久は口元を拭いながら直ぐに立ち上がる。

 

「親友をこの手に掛け、今度は子供を殺せというのか!?平和を守る為という大義名分の元で、私にそれをやれというのか!?」

「じゃあマグナさんはこのままで良いんですか!?自分の子供をあんな姿にされて、刻まれた物に従って魔神に成り果てるのを望むって言うんですか!!」

「っ……」

 

言葉に詰まる。このままではグノスは地球を滅ぼした上で更に力を増していくだろう、そして何れは完全にアウローラが望んだとおりに終焉を誘う魔神へと成り果てて宇宙を滅ぼす存在となる。そんな事をさせて良いのか、成長させていいのか、ウルトラマンとしてではなくマグナ個人を揺らす言葉に何も言えなくなる。

 

「あいつはこの地球を滅ぼしたら今度は光の国にまで行くかもしれないんですよ、そうなってもマグナさんは良いんですか!!?」

「卑怯な物言いを……するようになったな……」

「僕を品行方正な優等生とでも思ってるんですか、必要なら僕は身体だろうがボロボロにするような人間です」

 

『う~む凄い説得力』

『モルスとの闘いがあるから余計に凄いなぁ……』

 

そこまで言われてマグナは浮かべていた怒りなどを収めるように腕を下げ項垂れるように頭を下げた。

 

「分かっているさ……私だって倒さなきゃいけないって……でも私は怖いんだ……アウローラがアサリナの身体を奪い、それを倒す時だって本当は、震える程に怖かったんだ……」

 

吐露される本音、悟られぬように心の奥だけに思い留めて明かさぬようにしていたそれ。アウローラを倒す時、それは同時にアサリナを今度は自分の手で消すという意味にもなっていた。だがアサリナが共に居てくれているという事が分かっているからこそ受け入れられた……。

 

「アサリナを殺した、そう思えてしょうがなかった……震えた、怖かった、でもウルトラマンなんだから戦わなきゃいけないって使命感で恐怖を殺した。そんな事で自分を騙す私はウルトラマンで良いのか……いや私はウルトラマンなんかじゃない」

 

自己の否定、いやそれは前世の記憶を持つからこそ抱いてしまった物。本当のウルトラマンならこんな事を考えないだろう、如何するべきかなんて理解して行動する筈だと言い聞かせながらそうあろうとした……だが矢張り自分はウルトラマンではないと分かってしまった。

 

「じゃあウルトラマンじゃないなら貴方は何なんですか、マグナさんでしょ」

「……ああそうだ、マグナだよ……唯の空っぽな……」

「そうです。マグナさんです、僕に色んな事を教えてくれて光をくれた人です」

 

血まみれの手を開きながら見る、何もなくて何も掴めなかった空虚な自分の手がたった一人が与えてくれた光のお陰で大きく強くなった。

 

「夢見るだけで何も出来ずに何もしなかった僕に何かをくれたじゃないですか、あの時から僕は前に進めたんです。光線の打ち方も、戦い方も色んな事をくれたじゃないですか。あるじゃないですか、マグナさんは空虚なんかじゃ、ないですよ」

「出久君……」

 

顔を上げた時、そこには泣きそうだが笑っていた出久がいた。その笑みに込められていた物は直ぐにでも分かった、これまで一緒にいて一緒に手にして来たもの全て。マグナにとってその時間は余りにも短く小さい筈なのに酷く大きく輝いているように感じられた。

 

「唯のマグナさんなら僕と一緒にウルトラマンになりましょうよ、マグナさんがウルトラマンになれるように―――一緒に戦います」

「―――フフフッ馬鹿な事を、いうもんじゃない……君は君だ、地球人の緑谷 出久君だ。それでいいんだよ」

 

咽るような笑いを作りながら立ちあがる、その顔にはもう絶望は浮かんでいない。

 

「ああそうだよな……私は失う所だったんだ、今度は全てを……何て愚かでふざけた事を想ったんだろうな……そうだな、私が戦わなくて誰があの子と向き合ってやるんだか……子供か……考えた事も無かったから受け止めきれなかったのかもな」

 

結婚すらまともに考えた事も無かったからそう思ったのかもっと少し冗談めいた言い回しをしながらもマグナは立ち上がりながら拳を握る。そしてアサリナ達の方を向いた。

 

「心配をかけてすまなかったアサリナ、それに菜奈さんも」

『いや正しい反応だと思うよ、私としては他人事に想えなかったしね』

『まぁ僕は凄い驚いたけどねぇ~でもそうか、マグナと結婚する可能性もあったのか……マグナ、僕と結婚しようか!今からでも!!』

「そんな世迷言を言うから一瞬アウローラかと思ったよ」

『ちょっひどっ!?』

 

そんなやり取りに出久はウルトラ・フォー・オールを継承した人の事を思い出した、あの時もこんな風だったなと思っているとライズウルトラメダルが飛び出して手に収まった。その中でもノアのメダルが強い光を放っていた、まるで―――マグナをウルトラマンと認めているかのように。それを見ながら出久とマグナは頷きながら覚悟と決意を固めながら前へと進む。

 

「平和を願う、悠久の想い、そして宇宙を満たす光の力を―――今此処に!!」

「宇宙に平和を齎す、無限の光!!!ベリアルさんっ!!アサリナさんっ!!ノアさんっ!!

 

 

〔BELIAL ATROCIOUS〕〔ASARINA〕〔NOAH〕

 

 

『平和を望む者、それを乱す者よ、そして全ての命よ!!音にも聞け、刮目せよ!!』

「全てを無へと導きし終焉を誘う魔神と戦う光の姿を!!!」

 

『「ウルトラマンッマグナァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!」』

 

―――ヌ"ア"ァ"ッ!! ティァッ!! シュワォ!!

 

ULTRAMAN MAGNA OMEGA SUPREME(ウルトラマンマグナ オメガスプリーム)

 

 

「ヴァァァ……ォォォオオオ!!」

「デュワァァァァッッ……ァァァア!!」

 

放たれる光線をベリアロクで防御しようとするがその照射面積が自分を遥かに超える規模だった故に防御しきれずに吹き飛ばされるゼット、大地に叩きつけられ遂にカラータイマーが赤く染まる。苦しさにもがく声を出す自分へと止めを刺すが如く再度光線を放つ―――がそれは突如現れた光の柱が無力化した。そして光の中から現れたのは―――

 

『師匠っ……!!』

 

「マグナ様!!」

 

その姿を見た時、誰もが希望を取り戻した。全ての人に希望という光を与え、必ずその希望を守り抜く。その身に闇、愛、光の力を宿す偉大な光の勇士―――ウルトラマンマグナが立っていた。

 

『行くぞ出久君……これが、本当に最後の戦いだ!!』

『はいっ!!!』

 

「シュォッ……!!」



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マグナ、アサリナ、マグヌス。

その身に宿した力に恥じぬよう、自らが本当になる為に、そして―――この地球を守る為、自らの子供を魔神にしないためにマグナは立ち上がった。

 

『しっ師匠……!!』

 

ゼットは唯々嬉しそうな声を上げてその背中を見つめていた、その背中は自分が敬愛するもう一人の師と酷くよく似ていた。堂々としながら力強く猛々しい光の姿。あれが自分の師匠だと叫びたいぐらいだと思う中で大剣の切っ先がマグナへと向けられる、それに合わせるようにそれの槍が握られる。

 

『あの程度で終わるとは思ってはいなかったぞ、我が父よ』

『お前が魔神を名乗るならば好きにしろ、だがそうしたくば父を越えてみろ。私という存在を踏み越えて勝鬨を上げて見せろ、だが簡単に乗り越えられると……思うな』

 

その手に握る槍を構えながら対峙しながらもマグナは目の前の存在を自らの子供として認めた、きっと真実なのだろう、紛れもないそれを否定せずに真正面から向き直る父にグノスは声色を少し高くしながら笑った。

 

『ならば―――越えて見せよう、それが我が母の望みでもある』

 

その言葉と共に一気にグノスは踏み込んだ、一歩深く踏み込むと同時にマグナとの距離が一気に零になると同時に振り上げていた剣が振り下ろされていた。

 

「シュァッ……ディァ!!」

「ヴェア!!」

 

一拍の無音の直後に幾重にもぶつかり合う重低音が世界に響き渡っていく。無を司る大剣と究極の槍が無数に残滓を空間に残しながら切り結ばれていく、だが確かにマグナはグノスの無と戦えていた。

 

『すげぇっマグナさん、攻撃が全然無効化されてない!!』

『ど、如何やってるんで御座いますか!?』

『単純な話だ、それだけあいつの存在が強い』

 

ベリアロクの見立てでは自分と同じように宇宙の穴を塞ぐ力による無への干渉する力はない、単純にマグナという力の存在が無を埋めてしまっている。ブラックホールのような無でも飲み込めない程にその存在が大きく強い。

 

「チェェヤッ!!」

「グヴァァァ!!」

 

踏み込みながら渾身の力を込めた突きを放つ、振り下ろされた大剣の刃を砕きながら突き進んでいく。それを受け止める為に無が広がるが同じように無効化されてグノスの胸部へと突き刺さる。それを見逃がす事も無くマグナは更に槍を押し込んでいく。

 

『「サンダー・ビッグバン!!」』

―――ヌ"ア"ァ"ッ!!

 

雷撃がグノスへと流れ込んでいく、それはベリアロクと同じようにその肉体を確実に傷付けて行く。そしてそのまま雷撃を纏ったまま引き抜きながらも袈裟斬りにする。その傷を撫でながらもグノスは笑いながら両手からどす黒い光線をマグナへと向けて放った。光線の余波で途轍もない衝撃波が周囲を駆け巡っていく様からその威力が窺い知れるが―――それに向かって駆けた。

 

『「aurum gradius(アウルム・グラディウス)!!」』

―――テァッ!!

 

「ォォォォオオオオッ!!タァァァアッッッ!!!」

 

金色の斬撃を纏った槍、それは光線を切り裂くと同時に槍の周囲にそれを留めるかのように纏った。帯電する電気のように纏わり付いたエネルギーをそのまま返すかのように再びグノスへと叩きつけた。無と無がぶつかり合う、マイナスとマイナスがぶつかり合った時に生まれるのが強烈なプラスとなり無が有へと変わった。

 

『これはっ……!』

『この技はお前の母の物だっアウローラなどという偽りではなく真実のな!!』

『うおっ……!!』

 

槍を放り投げながら懐へと飛び込みながら超連続の拳と発勁を連続して叩き込んでいく。

 

『「INFERNO SOL SMASH!!!」』

 

両手にはまるで太陽の如き輝きの熱が帯びていた、その温度はゼットンの火球と同じ程の膨大な熱量を帯びながらもそれを的確にグノスへと叩きこんでいく。攻撃と防御の起点とも言える無が消え、実態が明らかになったと言ってもいいグノスはその攻撃を受け続けて行く。その肉体強度は高い物だがそれでも苦し気な声が漏れてしまう。

 

―――名前、考えてくれた?

 

―――うんっでも僕が決めていいの?

 

―――私はセンスがないからね。

 

『これっはっ……』

 

―――そうだねぇ~……マグヌスなんて如何かな。マグナみたいになって欲しいしきっとなるから。

 

―――フフフッもう親馬鹿かい。

 

「テェイヤァッ!!」

「グヴォォォッ……!!」

 

揺れる視界と身体、その奥でもっと別の物が動き始めていた。身体を抉る一撃が炸裂する度に内側に流れ込んでくるエネルギー、身を焦がすような熱と共に入って来る眩い思いが……グノスを苦しめていた。

 

―――ねぇねぇっ僕達に憧れて宇宙警備隊を目指してくれるのかな。

 

―――私は別に何でもいいよ、この子が望むなら警備隊じゃなくても。でも平和の中で生きていてほしいって言うのは我儘かな?

 

―――そうだね、何でもいいよねなりたいになってくれれば。

 

 

「ッ―――ヴォオオシェァァ!!」

「ダァッ!!」

 

熱を振り払うかのように拳が飛ぶ、それを受け止めるマグナだがその時に変化が起きていた。黒く染まっていたグノスの肉体が僅かに光を帯び、胸の宝玉にも光が灯ろうとしていた。その様はまるで―――カラータイマーのように。

 

『我にっ何をした……!?』

『何もしていない。唯……本当の母と父の愛情って奴を叩きこんだだけだ』

 

ちゃんと愛情なのかは分からないけどなと呟くマグナに出久は少しだけ笑った。だけどそれは確りとした愛情である事は間違いなかった、それこそがグノスに変化を告げている。母と名乗るアウローラの呪縛と言っていいそれに囚われ続けているグノスを救い出す事は出来るかは分からない、だからやろうとした事は単純明快。本当の親の愛を注ぎ込んでやるだけだった。如何すれば良いかなんて分からない、だがそれでも自分達はこんな風に思っている事だけは知ってほしいという想いを注いだ。

 

『……これはっ……我が、生まれる前の、記憶っ……!?何だ、なんだこれは知らないぞ……!?』

 

濁流のように押し寄せてくる無数の景色と次々と浮かび上がって暖かな感触と思い、それはまだ生まれる前にアサリナとマグナが自分に向けて問いかけていた言葉なんだと分かった。知らない筈なのに知っている、分からない筈なのに分かる、体験していない筈なのに懐かしく思えるそれらに混乱し始めて行くグノス。それを見た時にマグナはその手に槍を握り直し、光の弓を展開しそこに番える。

 

「ォォォォッ……シェタァァ!!」

 

螺旋を描く光の矢となった槍はグノスの胸を貫く――――のではなくその内部へと入っていくかのように染み入っていった。光が闇と一つになっていくかのように同化していく、それと同時にその肉体が帯びる光が更に強くなっていく。

 

「グァァァァヴォォオオオオ!!!」

 

雄叫びのような悲鳴を上げる、宇宙の闇のような身体に輝きが齎されていく。そして―――その光が全身を包み込んだ時だった……胸のカラータイマーが青く染まりその瞳に確かな灯火が輝きを持ち確かな理性を携えながら此方を見た。

 

『―――有難う父さん』

『マグヌス……済まない』

 

謝罪の言葉を述べようとするのが止められる、そこにいるのはもう魔神などではない。アウローラによって歪められた命などではなくマグナとアサリナの子供、マグヌスがそこにいた。だがその肉体は既に消滅し始めているのか、風に攫われていくように光の粒となって消え始めている。アウローラによる物が消えてもうこの世界に繋ぎ止めていた物が無くなった物は自然と消える、当然の摂理。

 

『謝らないでよ、父さんは悪くないよ。例え別の世界の父さんだとしても父さんは父さんだから……俺の永遠の憧れで大好きな父さんだよ』

『だったら、また私の子供として生まれて来てくれ』

『そうだったら……幸せだな……』

 

そう言いながら空を見上げる、真っ青な空が広がる景色に心と身体を染めて穏やかな表情のまま―――マグヌスは光となって消えていった。その光はマグナへと吸い込まれていくかのように無へと還っていく。もう何も苦しめる事はない安らかな世界へと―――還っていった。

 

『またね……マグヌス』



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緑谷出久はウルトラマンと出会った。

戦いは終わりを告げた。街にはアートデッセイ号だけではなく特空機などがフル活用されながらの復興作業が行われ続けている。ファイターが複数にてワイヤーにて牽引されたビルをレギオノイドが受け取りながら地面に設置しながら地形干渉系の個性持ち達がそれらの接着や接合などを行っていく。無へと還ってしまった部分は通常では考えられない速度で修復されていき、人々が戻って来て準備を行うだけで元の機能を取り戻せる事だろう。

 

「心から感謝を述べなければならないだろうな、有難う出久君」

「お礼なんて可笑しいですね、僕は相棒としてすべき事をしただけですよ」

 

PLUS基地が見える高台、そこにてマグナと出久は言葉を交えていた。視線の先では基地の敷地内で運搬予定の仮ビルが組み立てられており、完成されたものからファイターによって牽引されて運ばれていく光景を見つめながら心からの感謝をこめた。

 

「だとしてもさ。今こそ私は本当にウルトラマンを名乗っていいとさえ思っているよ、君がそれを与えてくれた」

「そこまで言うなら受け取りますけど、それなら僕だってそうですよ。マグナさんは僕をヒーローにしてくれたんですから」

 

何方からも飛んでくる有難うの言葉に思わず二人は笑ってしまったのであった、どれだけ自分達がお互いに感謝しているのだろう。それは自分でないと分からないしその深さも相手が思っている以上。何て滑稽なんだろうと笑いがこみあげてしまう。

 

「ねぇっマグナさん―――もう、なんですよね」

「―――分かるかい?フッ……流石出久君だ、やっぱりバレていたんだね」

「当たり前です、僕を誰だと思ってるんですか。アサリナさんには悪いと思ってますけど僕はマグナさんの最高の相棒を自負してますから」

「ハハハハッ!!確かに私にとっては君以上の相棒なんていないな」

 

高らかな笑いを口にしながらマグナは空を見上げた、出久もそれにつられるように空を見つめるとそこには星の煌きがあったがそれは文字のような配列になっており繋げると何かのサインのように読み解く事が出来た。それが何を意味しているのか分からないが―――あれは紛れもないウルトラサイン。

 

「アウローラも倒し、奴が残した最大の脅威も消し去りマグヌスの魂を救う事が出来た。そして―――君は此処まで成長した、もう約束は果たせただろう」

「そうですよね……マグナさんからしたらもう残る意味がないんですよね」

 

この地球にマグナがやって来た理由、それはこの地球の調査。個性と地球人との関係などを調べる事、それについては随分と前に終わっていたがそれ以上に此処に残っていたのは出久が立派になるまで見守るという約束があったから、そして……マグナの因縁も清算する事が出来た。だから……この地球に居る意味がない。出久は何時からか分かっていた、こんな日が来ると……。

 

「他の人には何か言い残さなくていいんですか?」

「言ってしまうと揺らいでしまいそうだからね、私はこの星で自分の痕跡を残し過ぎてしまった。決意が揺らぐのは遠慮しておくよ、宜しく言っておいてくれるかい」

「その位自分でどうぞって言いやりたいですけど請け負います、散々お世話になりましたから」

「済まないね」

 

互いに顔を見ぬまま語り続ける、胸の内に沸き上がってくる熱に出久は身を任せたくなってきた。本当は行って欲しくはない、ずっと自分と居てほしい、まだまだ立派になりきれていない、教えて欲しい事がある、どんな言葉ならば彼を繋ぎ止められるのかと必死に探してしまっている自分に笑ってしまった。気付けばもう数年……ずっと一緒に居た相棒と別れる……止めたくなるのも当然だが出久はそれを飲み込む事にした。

 

「意外だね。君は私を引き止めると思っていたよ」

「本当はっそうしたいです、でもそれだけ僕はずっとマグナさんに頼ってしまうと思うんです。だから……これからは自分の足で歩いて行こうって思います」

「立派な事を言えるようになったね」

 

子供の成長を喜ぶ親の気持ちというのはこんな感じなのだろうかとマグヌスの一件がある為かそんな事を考えてしまう、随分と感傷的になったものだと思いつつも悪くないなとそれに笑う。

 

「マグナさんこそ帰ったら大変ですよきっと、なんせカトレア王女との結婚式と披露宴が待ってる事も考えられますし」

「やれやれ……本当にそうだったらあれだよなぁ……せめて時間を置いてからにして欲しいよ……」

「というかアサリナさん一緒なのに大丈夫なんですか」

「まあうん……取り敢えずヒカリさんに相談してみるよ」

 

命の固形化技術やらでアサリナの肉体が再生出来ればいいのだが……まあ出来たら出来たら今度は今度で別の修羅場が生まれそうな気がしなくもないのだが……それはそれで頑張ろうと思える、何故だろう……結婚にも前向きになれずにいたのに今なら前向きに捉える事が出来る、というよりかは早くあの子に会いたいという思いが出来て致し方ない。

 

「出久君も発目ちゃんと仲良くするんだよ、世界の平和は君の手の中にある」

「ブフッ!!ちょっちょっとマグナさんなんて事言うんですか!!?ぼ、僕と発目さんはそう言う関係じゃ……!?」

「あんだけ露骨に甘酸っぱい空気作りだしといてよく言うね君。それとも何、病室でキスされた時実は起きてましたって事彼女に伝えておこうか」

「わ~わ~!!!それだけは絶対にやめてください!!?」

 

周囲には誰もいない筈だが大声を出してかき消そうとする出久にクスクスと笑うマグナ、そんな姿に顔を赤くしながらもそっぽを向く出久はもう早く行けばいいんじゃないですか!?と口にしてしまう、それについて謝罪しながらもマグナが遠くを見るとハルキが此方に走り込んでくるのが見えた。

 

「すいませんっ遅れました!!」

「もういいのかい」

「引継ぎもモルスさんにお願いしましたし、もう大丈夫です!!」

 

ハルキの方も無事に終わったらしい事を聞くと本当にもお別れなのかという空気が強く感じられるようになってきてしまった。

 

「出久君先輩、色々お世話になりました!!俺の方でも出来るだけ特空機で力になれるようにしておいたので活用してください」

「ハルキさん……はいっ僕負けませんから。ストレイジに負けない様にPLUSを強くしますから」

「楽しみです!」

 

『出久、色々とお世話になりましたで御座います。これからこの地球は本当の意味で託される、その重圧に潰されないようにな!』

「はいっゼットさんもお元気で。マグナさんに失言しないように気を付けてくださいね」

『げっまだそれ言われるのでございますか!?』

「頑張ってくださいよ、弟弟子のゼットさん」

『あっそっか俺にとって出久って兄弟子なのか!?俺ずっと出久の事弟弟子だと思っちまってた!!ウルトラショック!!!』

 

という事実に気付いたらしい、というよりも出久は師匠の相棒だからという認識の方が強かったせいだろう。ゼットには最後まで笑わせて貰ってしまった、凄い人なのに何処か親しみを感じてしょうがない。

 

「出久君、腕を―――誓いと共に」

「はいっ……誓いと、共に……」

 

神妙な表情を作りながらも差し出された腕、同じように差し出しながらも腕をぶつけ合う。力強い光とエネルギーを感じながらも出久はそれを真正面から受け止めながら沸き上がりそうになる涙を抑えながら言う。

 

「今まで本当に、有難う御座いました……地球を守ってくれて、ありがとうございました……!!」

「ああっそしてこれからは君の番だ。君ならばこの地球を守れると信じている、大丈夫だよ君はウルトラ・フォー・オールに選ばれているんだから」

 

身体へと流れ込んでくる力、それは正真正銘ウルトラ・フォー・オールの力。出久が持つべき力がマグナから出久へと伝わっていく、これからの地球を守る為に新しいバトンが紡がれる。ウルトラマンとの絆を胸に秘めながら、平和の為に戦う事を出久はマグナとのウルトラの誓いを交わす。そして腕が離された時に感じた……自分とマグナが本当に分離したと。

 

「君もウルトラマンだ―――これから未来を、平和を……君たち自身の手で生み出し、掴んでくれ。必ずできると信じているよ」

「っ……はいっ!!!」

 

離れて行く、マグナの指には自分の手から離れたマグナリングが輝いている。そしてハルキと共に眩い光に包まれる、視界を覆う光が消えた時―――そこには自分を見下ろす巨人がそこに居た。それは最後に自分へと頷いた、そして振り返りながらゆっくりと空を見上げると―――

 

 

シュワッチ!!!

 

 

空へと腕を伸ばして舞い上がっていった。あっという間に手も届かぬ距離へと昇っていく光の巨人を出久は見上げつづけていた、光が遠ざかって行くにつれて瞳からは大粒の涙が溢れ出していく。決して泣かずに送り出そうとしていたがもう我慢する事も出来ずにそれを追いかけるように出久は空へと飛び立った。絶対に追いつけないと分かっていても……そして命一杯の声で叫んだ。

 

「ウルトラ五つの誓い!!

一つッ諦める事無く最後まで全力で立ち向かう事っ!!

一つッどんなに辛くても光を持ち続ける事!!

一つッ誰かを信じる心を忘れず、持ち続ける事!!

一つッ一人じゃなくて皆と一緒に戦う事!!

一つッ闇を恐れぬ勇敢な心を持つ事!!

僕はっこの誓いに恥じない男になってこの地球を守って見せます!!―――聞こえますかマグナさぁぁぁぁん!!!」

 

たった一人、大空でその叫びをあげた出久。大粒の涙を流しながらの言葉は酷く歪んでいて聞き取れるとは思えないような物だと彼自身でも思った、だが―――空に輝く一つの星が見えた。それはマグナが発した輝き、ウルトラの光。

 

―――聞こえたよ、出久君。

 

と語り掛けてくれたかのようなそれに出久は笑みを浮かべながら手を振ってそれを見送った。この地球を守ってくれた偉大な光の勇士に感謝を込めて……。

 

 

そして地球に新たな記念日が作れる事になった。それは地球を守ってくれた光の巨人への感謝の気持ちを忘れぬようにする為、その巨人に恥じぬように前に進む為、そして―――何時かこの地球へとやって来てくれる事への祈りを込めた記念日。それが―――ウルトラ降臨祭。

 

「マグナさんっ今日も僕、頑張りますから」

「出久さんっちょっとこっち来てくださいっ~!!」

「今行くよ明」

 

緑谷出久はウルトラマンと出会う。

THE END




最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

緑谷出久はウルトラマンと出会う。これにて完結です!!
今作を投稿したのは2020/12/20、あと少しで11か月にあるのかぁ……此処まで来れたのは間違いなく感想や読んでくださる皆様のお陰です。本当にありがとうございました!!

今作はビヨンド・ザ・リュウガの直ぐに書き始めた物なんですが(というか連載自体は最終話投稿した翌日……)実はビヨンド・ザ・リュウガ自体、名前の元ネタはウルトラマンゼロのゼロビヨンドが元なんですよね。

それからすぐにこれを書く始めた訳ですが……いやぁ色んな意味で凄い作品になっちゃったなぁ……。本編は完結ですが、後日談的な物を上げる事は既に決めています。最終話の後のヒロアカ次元を書こうと思ってます。

それでは皆様、今まで出久君とマグナさんの活躍を見てくださってありがとうございました!!また、別の場所でお会い致しましょう!!


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本編終了後~AFTER DAYS~
過ぎた月日。


個性、超常社会においてそれは最早当たり前のものと化し超常という言葉すら何処かに消えてしまいそうになっていた。だが其処に出現した個性などを凌駕する存在こそが怪獣。その怪獣に対抗するために人類が設立した組織が Prowess Luster Unique Spirit Fencer、通称PLUSなのである。今日も人々の平穏を守る為にPLUSは戦い続けている。

 

『進入コース適性、維持しつつ帰還されたし』

「了解」

 

PLUS本部、世界初の防衛組織の拠点として設立されたそれは今では空中要塞とも言える基地が作られても未だに稼働し続け人類防衛の要として象徴的な役目を背負い続けている。そんな基地へと帰還する巨大な機械の巨人、それこそPLUSが誇る対怪獣特殊空挺機甲、特空機一号レギオノイド・フェンサー。任務を終えて帰還したレギオノイドは各部から炎を噴き出しながら姿勢制御を行いながらも帰還する。

 

『着陸確認。これより格納作業に入ります、お疲れ様でした』

「いえっ慣れたもんです」

 

管制官のねぎらいの言葉に感謝を浮かべつつも各部のチェックに入りながらもモニターではレギオノイドの各部を拘束するように固定されていき、地下へと格納されていく。これからメンテが始まるので動力炉の火も落としておかなければ……と様々なチェックを終えた頃には固定は完全に終了したのでハッチを開けて外へと出る。

 

「お疲れい、今日も大活躍だったな」

「レギオノイドの性能のお陰ですよ」

 

格納庫の灯りに照らされたパイロットは対怪獣災害想定コスチュームであるウルトラスーツを纏っていた。特空機の操縦は身体にも相当な負担とGが掛かる為に直接操縦の際にはパイロット用に調整されたウルトラスーツの着用が義務付けられている。まるでウルトラマンのようなヘルメットを外しながら一息吐こうと柵に背中を預けた時、飲み物が差し出された。

 

「お疲れ様です出久さん」

「有難う明、今日も頑張ってきた」

 

ウルトラマンが去ってから7年の月日が経過した。出久は雄英卒業後、PLUSへと正式入隊。実働部隊へと入りつつもハルキが残してくれたデータやマグナと共に戦い続けた経験を活かし特空機のパイロットを志し今では立派に特空機のパイロットを務めている。

 

「今日の相手は結構大変だったんじゃないですか」

「ちょっとヒヤッとした場面もあったけどなんとかなったよ、流石アーストロンだ」

 

今回出現した怪獣は凶暴怪獣 アーストロン。そのパワーに圧倒されフェンサー・ゴモラとも互角にやり合う怪獣だったがレギオノイドの動きで翻弄しながら、フェンサー・ゴモラと連携を取る事で倒す事に成功した。被害も最小限に抑える事も出来たので一安心である。

 

「にしてもゴモラと互角なんてビックリしたよ」

「それには私も驚きましたよ、まともにゴモラとやり合うなんて……これは私がマグナさんがいた頃から考えていたけど実現出来なかったプランを遂に実行する時が来たかもしれませんねぇ……!!」

「おいおい何を考えてるの」

 

若干呆れつつもドリンクを啜っている出久、彼女との付き合いも本当に長い事になるがこうなってしまった彼女のテンションにはいまだについて行けない。いや自分が一番ついて行けている部類だと考えるとまだマシなのだろうか……このテンションの上がり位はまだまだ白熱するだろうが……。

 

「ゴモラはアートデッセイ号に搭載する以外ですと専用ファイターで牽引するしか長距離移動手段がないじゃないですか、だからそれを解決しつつ出力のパワーアッププランとして専用機を作るんです!!それとゴモラが合体する事で飛行能力の付与と各部出力の向上と武装の強化を図るのです!!」

「そりゃまた……随分と気合の入ったプランだね」

 

ヒートアップしている彼女を見つつも何だか懐かしさに浸ってしまう、マグナがいた頃に自分は発目の発案に振り回されて色んな苦労をしていた。今思えば良い思い出……思い出……かは置いておくにしても歳を重ねて自分も発目も随分と落ち着いてきたのでこんな風にヒートアップする姿を見るのも久しぶりな気がする。

 

「そう、昔に私が開発に漕ぎ着けなかったのはその専用機とゴモラの合体を大袈裟且つ仰々しくし過ぎてしまったからなのです。ですので今回は背中に背負うような形で接続するような形に簡略化する事で開発しゴモラ側の改造の少なさを強調する事で予算の確保も容易く―――」

「よぉあんちゃんお疲れ……なんだ嬢ちゃん久しぶりにトリップってんのか?」

「ええっ久しぶりに」

 

声をかけてきたのはモルス。7年たった今でも特別筆頭教官としてPLUSに所属し続けている、本人曰く地球が気に入ったからというかららしいが……本当の所は分からない。

 

「やれやれ大変だねぇ」

「教官殿ほどじゃありませんよ」

「あんちゃんも言うようになったねぇ」

 

確かに昔に比べて度胸も付いた、爆豪に言わせればふてぶてしくなった、焦凍からは爆豪みたいになったと言われてしまったがそれも何処か納得してしまっている自分がいるので何とも言えない。日夜怪獣と戦うような仕事についているのだからそんな風になっても可笑しくはないだろう。

 

「んであんちゃん今日はもう上がんだろ。如何だいこれから、一杯奢るぜ」

「いえこのまま帰りますよ、明をこのまま放置しておく訳にも行きませんから」

「あ~……そうだわな、んじゃ今度の休日にでも繰り出そうぜ。嬢ちゃんの相手は任せた」

「任されました」

 

そんな約束を取り付けて去っていくモルスを見送りながら未だに何やらブツブツ言い続けている発目を好い加減に現世へと呼び戻す事にする。

 

「明、明。そろそろ僕は上がるよ」

「っという訳で名付けてスーパー・ゴモってあっそうでしたねそれじゃあ行きましょうか、いやぁ久しぶりにスイッチは行っちゃいましたよ~」

 

アハハハハッと笑いつつも出久の隣を歩いて行く発目。出久はウルトラスーツを脱いでから軽く汗を流した後に待っていた明と合流するとそのまま共に歩いて行く。何時からかこんな関係になったのだろう、いや彼女と出会った時からこうなる事はある意味決定されていたのかもしれない、そんな風に思いつつも自然と手が重なって指が絡み合う。

 

「出久さん、明日は休日ですし久しぶりにデートにでも行きませんか?」

「それもいいね。でもそれデートと言う名の実験じゃないよね」

「デートの定義って知ってます?親しい間柄の人が日時や時間を決めて合う事、だからそれもデートですよ」

「やれやれっまあ僕じゃないとお相手は務まらないし、精一杯務めさせてもらうよ」

「えへへっ流石出久さん、分かってますねぇ」

 

こんな役回りになるのも慣れっこだし……個人的に譲るという気持ちも沸かない。何故ならば―――

 

「さあっ我が家に行きましょう出久さん」

「はいはいっ分かってるよ」

 

彼女、発目 明の隣は自分の特等席で専用席なのだから。そんな思いを秘めながらも出久は空を見上げる、見上げる度に想う事は唯一つ……

 

「(マグナさん、僕頑張ってます)」

 

嘗て共に居た相棒、尊敬すべき師へと放ち続ける言葉。



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思ってよりマシだけど、思ってた以上に手遅れ byマグナ

「(予想はしていた、出久君からそんなからかい受けたからね覚悟はしてたんだよ。でもさ……これはないだろ……)」

 

M78星雲・光の国。

 

マグナにとっては数年ぶりに帰ってきた故郷、ウルトラマンとしては数年という月日はあっという間に過ぎゆくもので長いと感じるまでも無い筈の時間なのに地球での体験ゆえか長く感じられて致し方なかった。久しく見る光の国は眩しく暖かった。地球という星に故郷の空気を感じていたが、矢張りこの星が自分の故郷なのだと思い知らされてしまっていた。

 

「ゼット君もこのままでいいのかな」

「はいっ一度戻ってゼロ師匠に見て貰おうかなって。後マグナ先生に師匠になって貰えた事を自慢します!!」

「あんまり自慢する事でもないと思うが……まあその時には私も同席するよ、その方が良いだろうし」

「分かりました!!」

 

ゼットを弟子に取った事をゼロに伝えたらどう思われるのだろうか、その辺りの事も考える事をすっかり忘れていた。呆れるだろうか、それともゼットが迷惑かけるなよ!!と怒られるのだろうか。こう思うと本当にウルトラマンZ本編が見れなかった事が悔やまれる、何とかして元の世界の時空に行く事は出来ないだろうか……次元刀いや自分にはノアのメダルがあるのだからそれを応用すれば……。

 

「まあ兎に角戻ろ―――」

 

光の国を眺めるのもいい加減にしてそろそろ向かおうとした時、光の国から何かが迫ってきた。地球で戦ったばかりなのかゼットと共に戦闘態勢を取ってしまったがやってきたのは宇宙警備隊のメンバー、しかもその人物はマグナにとっては友人のような存在だった。

 

「お戻りになられたのですね、任務ご苦労様です」

「有難う、しかし態々君がお出迎えとは……驚かされるね」

「マグナ殿ならば、迎えるのが当然の事」

 

自分達を出迎えてくれたウルトラマンは生真面目な武人のような事を述べつつも戻ってきたマグナを労った。そんな彼はレオとの合同任務で発見した獅子座L77星の生き残りであり王家の近衛も務めていたリオ、現在はウルトラマンリオと名乗っている。

 

「むっ其方は……自称ゼロ様の弟子の」

「ま、まあ確かに自称ですけど今やマグナ師匠の弟子ですから!!」

「お弟子を取られたので」

「ええまあ」

 

レオは任務の合間を見つけては生き残った同胞を探し続けている、その成果として光の国では約50万人のL77星の人間が暮らしている。レオにとっては故郷の人々が生き残ってくれた事は大きな救いとなっており、今も探し続けている。

 

「それよりも早く光の国へ御戻りを」

「ええっゾフィー隊長に報告をしなければいけませんからね」

「いえ違います―――カトレア王女様との御婚約御決定を祝う記念式典の準備は既に済んでおります」

「……ハッ?」

 

思わず間抜けな声が出てしまった。リオは何を言っているんだと言わんばかりの声を出してしまった、いや本当何を言っているんだこの友人は。

 

「えっ師匠カトレア王女と婚約まで行ってんですか!?」

「いや待ってくださいどういうことですかリオ!?婚約って何ですか、私まだ見合いも確り出来てないんですけど!?」

「おやっカトレア王女様とマグナ殿は既に酷く親しくなられたと聞きましたが」

「確かに親しくはなりましたよ、でもそれはあくまで交友を深めたにすぎないレベルですよ!?」

「兎も角お急ぎください」

 

と急かされるように光の国へと連れて行かれるのだが……そこで待っていたのは星を上げてカトレアとの婚約を祝うムードと化している故郷の姿であった。思わず唖然としてしまうのだがそんな自分を引っ張るように宇宙警備隊本部へと連れて行かれるのだが……そこにはゾフィーだけではなくウルトラの父やウルトラの母までが待機していた。

 

「待っていたぞマグナ、任務ご苦労だったな」

「いえゾフィー隊長……私は当然の事をしたまでです。そ、それであの……婚約記念式典というのは……」

「何を言うのかね、カトレア王女とあれほどまでに親密になっていた上に君はキスまでされたのだぞ。最早決定じゃないか、君以外にあり得ないとカトレア王女の御父上が張り切ってしまってね」

 

とにこやかな声で語り掛けてくるゾフィー、その言葉に内心では思いっ切り顔が引き攣ってしまった。いや本人的には悪気などは一切無いだろうし純粋な気持ちで祝ってくれているのだろう、それは嬉しいけど流石に此処までマジでされるなんて……出久に言われていた言葉よりはマシかもしれないがもうマジで逃げ場が無くなっていて笑い話にもならない。

 

「カトレア王女から聞きましたよ、共に街へと出向き服を選んだとか。その服を大層気に入っているようですよ、タロウにもそんな気遣いが出来れば良いんですが……貴方からアドバイスしてあげてくれませんか」

「い、いえっあれは私も唯必死なだけでして……その場のアドリブと言いますか、周囲の情報を収集して聞き耳を立てつつ立案しただけと言いますか……」

「ならば猶更素晴らしい、そこまで女性を立てられるとは……うむっこれはカトレア王女に相応しい男性だな」

 

善意の塊のような輝きをしながらも褒めてくるウルトラの父と母、何とかしなければと思うのだが……直後に此方へと迫ってくる力強い足音が聞こえてきた。それを聞くと父と母は頷き合いながら左右に退くとその奥から体格だけで言えばウルトラの父を上回り立派な髭を蓄えながら高貴なマントを羽織っているウルトラマンが此方へと迫ってきた。

 

「よくぞぉ来てくれたマグナ殿。此度は我が娘、カトレアとの婚約を決意して貰えて誠にっ歓喜の極みである!!」

「うぉでっけぇっ……」

 

と思わずゼットがたじろいてしまう程の圧力を纏いながらそれはマグナの手を取りながら感激の言葉を口にした。そう、この方こそカトレアの父親にしてウルトラの国の王族の一人、ウルトラマンサカキである。

 

「い、いえっサカキ様……私はその、まだ踏ん切りがついていませんというかまだ正式な見合いにも顔を出せない男です。そんな私がカトレア王女様との婚約というのは……」

「ハハハハッ謙遜をするではないわぁっ!!お主こそカトレアの婿殿に相応しいっ!!貴殿以外にあり得ぬよぉ!!これからは私の事は父と呼んでくれて構わぬ!いや是非そう呼んでくれ我が義息子殿!!」

「いっいやその矢張り婚約というのは……もっとじっくり時間をかけて互いの絆を作ってからやる物で……まだカトレア王女様とは十分な時間取れておりませんしお話も全く……」

「ほほぅ!!それほどまでに娘の事を想ってくれているのだなっ!!矢張り貴殿でなければならぬぅ!!」

「あっすいません俺ヒカリ先生の所に行ってもいいですかね」

「ああ構わないよ」

「(ゼットォォォォッ!!!!)」

 

しれっとこの場から逃げ出したゼットに対して思わず内心でとんでもない怨嗟に塗れた声を上げてしまう。それも致し方ない、このサカキ全然話を聞いてくれない。聞いてはいるんだろうが解釈が自分と全く一致しない、もうこれは逃げられない。

 

「さぁっ共にカトレアの元へと行こうではないかぁっ!!別次元での地球での話を是非聞かせてくれぇい!!」

「ああいやその、でしたらまず報告を先にすませなければ……」

「いやいや大丈夫だよマグナ、先ずは将来のご家族との時間を大切にしてくれて構わないよ」

「(大隊長……!!もしかして陛下が闇落ちした原因って貴方の無自覚なそう言う所じゃないですよね!?)」

 

気を遣ってくれたウルトラの父へと感謝の言葉を述べるサカキにほぼ連行されるような形で本部を後にする事になってしまったマグナ。地球で覚悟こそしていたのだがまさか此処まで逃げようのない事態になってしまっていたなんて……。

 

「マグナ様っ!!お戻りになられたのですねっまたこうして時を御一緒出来る日を待ち望んでおりました……!!」

「……私もこの時を待ちわびておりました」

 

もうどうにでもなれ……と内心で思いながらカトレアとサカキに地球での任務を語るのであった。




『ぐぬぬぬっ……まさか、本当に婚約が決定的に……いやまだだ、何とかヒカリさんに相談して身体が再構成さえ出来れば僕にだってチャンスはあるんだぁぁぁ!!』


ウルトラマンサカキ イメージCV 若本 規夫。拡大と太文字にしたのも納得でしょ?


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アサリナ、カトレア、マグナ。

「ハァッ……すいませんヒカリさん遅くなりました」

「何っゼットから興味深い話を聞かせて貰ってたから暇はしてなかったよ……って大丈夫か、随分疲れているように見えるが」

「サカキ様とカトレア王女と色々と……」

「ああっ……」

 

サカキとカトレアから漸く解放されたマグナ、もう婿入りが引き返せないような領域にまで来てしまっていてもう覚悟を決めるしかなくなってきたような状況にもう草すら生えない。光の国全体も婚約を祝うようなムードに包まれていて、訓練校時代お世話になった教官からは満面の笑みからの贈り物を賜ってしまいもう色んな意味で泣きたくなってきていた。

 

「しかし……リオ、好い加減ついてこなくていいですよ」

「マグナ殿は既に王族と婚約なさっております、故に私が近衛を務めるのは当然かと」

「だったらレオさんかアストラさんにでもやればいいじゃないか……取り敢えず二人にしてください」

「承知しました。では私は外に居りますので」

 

とくそ真面目に頭を下げて退出する友人の姿に飯田を被らせるマグナ、いや王族の近衛という意識があるので彼よりも性質が悪いかもしれないと溜息しか出なくなってきた。

 

「リオも喜んでいるんだ、レオは自分はもう王族でないから供は必要ないと一人の戦士として徹している。それを喜びつつも矢張り近衛としての自分をやりたいんだ、今度こそ守り抜きたいと思っている彼の意志を汲んでやりなさい」

「それは分かりますが……だからと言っても態々私の近衛に名乗りなんて上げなくていいですよ。気の許せる友人が近衛にジョブチェンジなんてもう笑えません」

「ハハハッ……さて、取り敢えずその話はこの辺りにして本題に移ろうか」

 

そうしてくれると有難いと言わんばかりにマグナはゼットライザーを取り出しながらも同時に3つのメダルをヒカリへと渡すのであった。そしてそれを見てヒカリは喉を鳴らしながらもそれを機材にセットする。投影式のキーボードのような物を叩きながらも何かを計測するが一瞬でメーターが振り切れたのを見て声を上げる。

 

「これは凄まじいっゼットのベリアルメダルにも驚かされたがこれはそれ以上だ……!!これがウルトラマンノアの力を内包したメダルか、凄い凄すぎる!!」

 

研究者の血が騒ぐのかノアのメダルから取れるデータに興奮しているヒカリ。ヒカリと言えば研究者というのもあるがそれ以上にメビウスの時に剣士としても活躍していたので其方の印象も強い。なのでこんな姿は何処か新鮮でありながらもこれが本当の素なのかもしれないと思う。

 

「このデータがあれば次元刀の精度が上昇する、必要だったエネルギーチャージの効率も一気に改善される……!!そして何よりこのメダル―――アサリナ君のメダルか」

「ええっ如何思いますか、ヒカリさん」

「地球人とウルトラマンの絆の結晶、そう言うに相応しい輝きだ」

 

ノアのメダルにも興奮しているがアサリナのメダルにも興奮している。そこにあるのは確かに彼女の力だがそれ以上にワン・フォー・オールと一つになった事で生まれたウルトラ・フォー・オールが宿っている。地球人との絆を良く知っているヒカリからすればこの光は称賛に値する物。

 

「ウルトラ・フォー・オールか……実に興味深いな、今度じっくりデータを取らせて貰ってもいいかな、次世代アイテムに君の名前を付けるのも良いな」

「それは勘弁してください、唯でさえ目立って恥ずかしいのに」

「おっとこれは失礼」

 

そんな会話をしていると更に奥深くに話を踏み入れる事にした、それは―――アサリナについてだった。ホログラムのような姿で姿を現したアサリナにヒカリは思わず大声を上げながら驚いてしまった。

 

「アサリナ君!!?いや君はアウローラに……!?」

「あの、ゼロ君が報告したと聞いていましたが……」

「確かに一緒にいるとは聞いたが……それは比喩的な意味だと本人も思っていたらしい」

『まあ、普通はそう思いますよねぇ……』

 

ガチでアサリナが一緒にいるとは流石にゼロも思わなかったらしい。そしてヒカリに聞きたい事、それはアサリナは肉体を取り戻せるのかという事。

 

「成程……それで私の元にか。魂の状態、意識体という事は少なからず命はあるいや精神と魂がそれを支えながらもマグナという命を依り代にして今もいるという事になるのか……そうなると確実に命は必要となるな、だがそうなると問題は如何身体を形成するかという話になるな……新しい命を得た身体を唯与えるだけでは意味がない、そうなると―――」

『う~んこういうヒカリさん見るの久しぶりぃ』

 

研究テーマ、いや対象を見つけると一気にスイッチが入り光の国随一の科学者としての面が表に出てくる。そして一気にのめり込みつつ問題解決へと駆け抜けていく、それがウルトラマンヒカリ。そして一定の考えが纏まると話を切り出す。

 

「まずアサリナ君の肉体を取り戻す事自体は可能だろう、このメダルのデータを基にして過去の身体を再現する事は可能だがそれでは今のアサリナ君との齟齬が生まれてしまうだろう。故にマグナにも協力して貰い君の中にあるアサリナの力を解析し同調させていく必要がある」

『つまり僕は……元に戻れる!?』

「ああっそれは確実だ。それは明言しておこう」

『うぉっしゃああああああああああああああああ!!!!』

 

何よりもその言葉を聞きたかったぁ!!!と叫びながらもガッツポーズをするアサリナ、女らしさも欠片も無いなと思うマグナの傍らでこの喜びをどう表現すべきかとファイティングポーズを取りまくっている姿が余計にそれを拍車をかけている。並行同位体の自分は何処に惹かれて結婚したんだろうかと疑問に思う程度には女らしくない姿を連発している。

 

『それでそれでどのぐらいの時間掛かりそう!!?』

「失敗させる訳も行かないからじっくり時間を掛けたいと思っているが、出来るだけ早くするように努めよう」

『それでお願いします!!ほらっマグナも全面的に協力させますから!!』

「まあ協力はするけどさ……」

 

親友が元に戻ってくれるのは嬉しい事だが、カトレアの事考えてしまうともう頭が痛くなってくる。アサリナが自分に対して好意を抱いている事は明白だしマグヌスの事もあってかそれは更に表面化してきている。だがカトレアとの婚約という事もあってもう面倒臭いとしか言いようがない事態になってきている。流石にこの事については後日、サカキに話してみたのだが……

 

「素晴らしいっ!!何と誠実な男なのだマグナ殿は!!ならばっいざという時はアサリナ君を側室に迎えてしまえばよいのだ!!王族という物はそう言う無茶も利くのだ!!好きにすればよい!!」

 

何とも有難くも事態を更に面倒臭くさせる事を容認する発言だったのでマグナは色んな意味で白目になった。そして―――

 

「ハッハァッ!!カトレア王女悪いけど君にマグナは渡さないよっ何せマグナと僕の間にはマグヌスという息子が出来るという事が並行世界で証明されているのだからねぇ!!」

「それは並行世界でのお話ですわ、此方側では関係御座いません!!マグナ様は私と婚約なさってくれているのです、故に絶対に渡しません!!」

「はっマグナの事を何も知らずに唯々浮かれてるお姫様が何を言うか!!苦楽を共にした僕こそが相応しいのさ!!」

 

基の肉体を取り戻したアサリナは堂々とカトレアに宣戦布告、これに対してカトレアは迎え撃つ構えを取ってしまうさあ大変。マグナを巡って光の国を巻き込んだ大騒動となったという。

 

「マグナ、その……アサリナが戻ってきてよかったな!!」

「そんな言葉を掛けて来ても見合いの斡旋を止めるつもりはないからなマックス」

「た、頼む勘弁してくれないか!?既に上司の方から見合いの申し込みが来てしまっているんだ!!私はまだ身を固めるつもりなんてないんだ、頼むっ!!」

「私の苦労を知ると良いさ……さぁて君やゼノン達にはこの方々なんていいんじゃないかなぁ~それじゃあ―――デュォ!!」

「まっ待つんだ、待ってくれマグナ!!―――シュォ!!」

 

そしてマグナはそんな中に居つつも心に決めていた計画、友人達に王族紹介計画を実行するのであった。



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大人になった弟子と師。

緑谷 出久は特空機パイロットである。

 

しかもただのパイロットではない。PLUSが誇るエースパイロットであり、対怪獣災害への切り札の一翼を担っている。必要に応じては海外派遣にも従事するので時には世界中を飛び回る立場にある―――いやあった。エースパイロットと呼ばれるようになったころには世界各国にPLUSの支部が完成し、それぞれの国が特空機を保有するようになっている。それ故か、適度に休みを取れる立場でもある。

 

「やぁっ緑谷少年、元気かい?」

「お久しぶりですオールマイトっていうか少年はやめてくださいよ、もうそんな年じゃありませんよ僕」

「ごめんごめん、私としてはこっちで呼び慣れちゃってるから」

 

防衛町の一角にある出久の自宅。そこに出久の姿と共に平和の象徴として貢献し続けたオールマイトの姿があった。師弟関係だった二人もすっかり一緒にお酒を嗜むような関係になっていた。と言ってもオールマイトはそこまで飲めないが、そこは雰囲気を楽しんでいる。

 

「そっちはどうですか」

「中々に今年の新入生は粒揃いだね、1年から仮免取得を目標にさせるつもりだよ」

「そんな事を言うなんて随分と期待が持てますね」

 

オールマイトは既に現役を引退して雄英高校の教師を続けている、一時期はオールマイトの引退はヴィランの活性を呼ぶのではないかと不安視する声も多かったが……その辺りは現役のヒーロー達の努力で最小限に抑えられている。その中心に立っているのが出久の同級生、ひいては爆豪なのである。

 

「爆豪少年いや、爆豪君に憧れて雄英に来ました!!って子も結構いたね」

「かっちゃんに憧れてかぁ……昔に比べて相当マイルドになったけどそれでも過激な部類に入るかっちゃんをかぁ……」

「まあ結果で全てを黙らせている所に惹かれているらしいね、昔のエンデヴァーみたいに硬派なヒーローが好きな人には彼は魅力的に映るさ」

 

爆豪は結局PLUSには進まずにプロヒーローになる選択をした。そしてプロヒーローとして大活躍をしている、相変わらず口が悪くマスコミや野次馬に対して爆破と共にそれで警告するので炎上もするが、それら全てを黙らせる程の大活躍をしている。怪獣災害にも率先して対応するのでそういう意味での評価も高い。№3ヒーローとして名を轟かせている。

 

「彼ならきっと№1にもなるのは直ぐさ」

「ハハハッでもかっちゃんならその勢いのまま行きそうですね」

「だね。と言ってもエンデヴァーもそう簡単に譲るとは思えないけどね」

 

そんな風に語り合いながらも酒を口へと運ぶ、結構強い筈の酒だがグイグイと飲んでいく出久にオールマイトは少しばかり驚いた顔を作る。

 

「というか随分とグイグイと行くじゃないか。そんなハイペースで大丈夫かい」

「クハァッ~……怪獣と戦うのに比べたらお酒なんて水ですよ水、結構ストレス溜まるんですからこう言う所で発散したいんです」

「だろうね」

 

特空機パイロットとしてのストレスはプロヒーローとは比べ物にならないほどに重い。何せ生きる災害との命のやり取りだ、ストレスを感じない方が如何かしているし特空機を動かした後の書類やら様々な仕事があるのだから苦労は計り知れない。

 

「ねぇっオールマイト……僕、強くなれましたかね……マグナさんにも、胸を張って強くなれましたって言っていいんですかね……」

 

唐突に彼の口調が昔の物に変化した。仄かに頬が赤くなっている、酔いが回り始めているのかもしれないがそれはきっと胸に抱いているものなのだろう。

 

「マグナさんは僕にとってヒーローでした……今も僕の目指す者はあの人なんです……また何時かマグナさんと会えるかもしれない日を夢見なかった日は無いんですよぉ……もしかしたら今日かも知れないし明日かもしれないぃ……でも僕は今の姿じゃ会えない……だって今の僕は成長出来てないから……」

「緑谷少年……ちょっと飲みすぎだよ、ホラッ水を飲みなさい」

 

見た目は素面に近いように見えるが大分酔いが回ってきているらしい、一先ず水を飲む事を進めながらももう一人の師として出久へと言葉を掛けた。

 

「私としては君は十分成長しているさ。君が今どれだけ今の世界に貢献していると思っているんだい?君も私が言われていたのとは違うが紛れもなく平和の象徴だよ。怪獣を食い止めるだけじゃない、鏑矢諸島への移送……どれも君の尽力が無ければ成し遂げられない物ばかりだよ」

 

真摯に話す俊典の言葉を出久は静かに聞いていた。自分の活動がどれだけの命を救ってきたのか、それを知らない訳ではない。だがそれでもマグナに胸を張っていいのかと不安に思ったりしてしまう、ウルトラマンの活動に比べたら自分のそれなんて本当に極小の点でしかない。だったらもっと努力するべきなのではない、もっともっと……と考えてしまっている。

 

「助けた命の数は関係ないさ。大切なのは君が命を救ったという事実を自分が行った事として受け止めて前に進む事さ!!」

 

内心で良い事を言えたぞ!!とガッツポーズをする、まだまだ教師としては未熟だが昔よりはマシになったと自負するだけはある!!と自画自賛するのだが……それに対して出久の反応は一切無い。もしかして全然いい事じゃない!?と不安に思ったのだが……直後に出久の寝息が聞こえて来て思わずずっこけそうになる。

 

「そこで寝ちゃうのかい!?流石にあんまりだよぉ緑谷少年……」

「すいません俊典さん、出久さん随分疲れちゃってるみたいで……」

 

と奥からやって来た発目、出久の頭を撫でつつも俊典へと飲み物を手渡す。

 

「もう直ぐアメリカ、ロシア、中国との合同特空機演習があってその関係で忙しいんです」

「ニュースでやってた奴か、そうか緑谷少年じゃなくて緑谷君はエースだもんね」

 

合同演習の主催国のパイロットとして出久の役目も大きい上にやる事も大量にあるので連日徹夜続き。幾ら出久と言えど疲労する、そんな状態で深酒すればあっという間に眠ってしまう。協力してソファに寝かせた際にマグナの名を呟く姿に思わず笑ってしまった。

 

「私も会いたいな……今は如何してるんだろうね」

「カトレア王女と結婚してハネムーンをしてるとかだったりして。私も行きたいですね~出久さんと旅行」

「ハハハッじゃあまずは式を上げないとね、私の方で確保しようか?」

「いやぁ嬉しいですけどまず時間が取れないんですからねぇ~」

 

 

尚、肝心の本人はというと……

 

「……マグナ、君は団体戦の希望があるから来てくれと言わなかったかい……?」

「確かに言ったよマックス。3対3の団体戦だって」

「いやあの……団体戦って言ったら普通模擬戦を想像すると思いますけどこれは……!?」

「何気にするなネオス。私は嘘は言っていない」

「気にするぞ!?何で相手が全員王族のお嬢様方なのだ!!?模擬戦ではないぞこれでは!!?」

「ご希望なら答えようじゃないかゼノン、確かに団体戦だと私は言った。だがそれがお見合いではないとは一言も言っていない」

『謀ったなぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

同僚を罠に嵌めていた。

 

「他の同僚(みんな)も直ぐに同じ目に合わせるから安心して逝きたまえ」

『逆に安心出来んわ!!』




マグナ、嬉々としながら同僚を罠に嵌める。


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平和を守る戦士の苦悩。

「ふぅっ……やっぱり連続出動は身体に来るなぁ……」

「お疲れさん」

「うん」

 

休憩所で腰を落ち着けながら項垂れていた出久へと奢りの一杯を差し出したのは同じくPLUSに所属する焦凍。現在はPLUS実働救援部隊の隊長を務めており、特空機と共に現地へと赴き個性によるサポートや現地での救助活動を主な任務としている。

 

「今回大活躍だったね焦凍」

「相性が良かっただけだ、ああいう怪獣もいるとは思わなかった」

「うん、僕もマグナさんから話だけ聞いてたけどこの地球にもいるとは思わなかった」

 

レジストコード:ボグラグ。海から出現し市街地へと進撃した。上陸までその姿を確認する事が出来ないという驚異のステルス性を発揮していた。だが、その秘密はその身体にあった。

 

「身体の殆どが海水なら俺なら倒せる」

「実際、焦凍が居なかったら大火力で蒸発させる位しかないだろうかねぇ……まあそれやったら水蒸気爆発で街が最低でも半壊してただろうけど」

「やべぇな」

「明が解析したけど、あいつの体重4万トン以上だよ。それを一気に蒸発させたらそうなるって」

 

体の成分が塩化カリウムを大量に含む海水と同じ成分なため体温が低く、海中では発目開発の水中レーダー及びセンサーで捉える事が全く出来なかった。が、身体が海水と同じ成分故に焦凍の凍らせる個性が弱点にもなり、身体を凍結させられて粉々に砕いた上で高高度で爆破処理させられた。

 

「その前はゴモラを鏑矢諸島に移送したし、その前はとんでもない巨大台風の中にいた怪獣……僕忙しすぎじゃない?」

「まあPLUS日本本部の管轄内だからな。エースパイロットのお前が出るのは当たり前だろ」

「それは分かってる、僕だってやらなきゃいけない事だし地球の為に頑張らなきゃって想いはあるんだよ。でもさ……忙しいんだよ……」

 

思わず深々と溜息をつく出久。自分の責務にやり甲斐もあるし誇りだってある、自分が世界を守っている自覚もある……だが偶には確りとした休みが欲しいというのが素直な本音であった。

モルスも時折出撃したりもするが、平時は対怪獣特殊空挺機甲運用部隊のエースパイロットとしての職務もだってある。補給要項を纏めたり、次世代のパイロットの育成やウルトラスーツの開発協力に復興作業に各国からの特空機運用に関する質問などなど……多忙の極み。

 

「もうさ、2週間いや1週間で良いから纏まった休みを頂戴。それくれれば文句言わないから」

「切実だな」

「焦凍は良いよねぇ最近百ちゃんと仲良いんだってぇ……?」

「あいつの家がPLUSのスポンサーでもあるし、あいつはあいつでヒーローで良く会うだけだぞ?」

「良く言うよったく……」

 

万物ヒーロー・クリエティとして活躍する八百万 百。時折彼女はPLUSに訪れては彼女の個性を利用して物質の創造や外宇宙の物質の創造は可能なのか、という彼女自身の個性鍛錬を行っている。それを手伝ったりするのが焦凍、焦凍の部隊は基本的に現地ヒーローと共同で作戦を行うのでその関係でクラスメイトとは一番顔を合わせる。その中でも最近は百と一番顔を合わせるらしい。

 

「お前だって発目と同棲してるじゃねえか」

「だからさっさと式を上げさせてくれって話だよ……ハネムーンなんて贅沢言わないから、式だけで良いから……!!」

「それは、怪獣に言わないとダメだな……」

「あ~あいいよねぇ焦凍は、メリッサさんとも仲いいし~」

「いやそれはそれでスーツの調整で会うだけ」

「ハァッ……」

 

この天然が……と溜息を吐く。怪獣と日常的に戦っているせいか、出久も出久で相当に度胸がついたというか所々爆豪っぽくなったと言われるようになった。爆豪っぽいと言われるのは不服だが、色んな意味でストレスが溜まる職場なのだから大変なのである。

 

「最近母さんと父さんから何時になったら結婚するの?って言われるんだよ……仕事が忙しくてそれ所じゃないんだよ……」

「こればっかりはな……籍だけは入れられるだろ」

「入れるだけなら簡単だけどさ……」

 

ムスッとした顔になりながらも赤くなりながらも出久は少し恥ずかしそうに言う。

 

「……結婚式上げてから、一緒に行きたいじゃん……そういうのって、簡単だから思い出は作りたいんだよ……」

「そっか。お前はそういう奴だったな、ナイトアイに掛け合って有給申請してやるよ」

「いやでもそうしても緊急性の高い出動案件が出たら行かないといけないし……それ考えると休みを取らない方が良いんじゃないかって思うし……」

 

そんな風に語る出久に肩を竦める、これでは休む時間を作る以前の問題だなと焦凍は思う。今までマグナと共に地球を守って来たという事もあって出久のPLUSでの活動に対する責任感は飛び抜けて強い。特にエースパイロットという立場もあるので下手に休むと出動に支障が出てしまうということまで考えてしまう。自分の事で周囲に及ぶ事にまで過敏になっている。

 

「少しは自分のエゴを通せよ。地球を守るお前が確り休めねぇと意味ねぇだろ」

「そうだけどさぁ……」

 

出来る事ならエゴを通したい。だが難しい問題なのも事実なのである。その時―――けたたましいサイレンの音が鳴り響いた、しかもこの音は緊急性の高い任務の時に鳴り響く物であったが為に出久は思わず唸ってしまう。

 

「ほっらぁこういう事になるから休暇の申請出来ないんだよぉ!!!」

「愚痴は後で聞いてやる、行くぞ」

「もう超獣でも大怪獣でも魔王獣でもやって来いってんだぁ!!」

「おいバカやめろ」

 

出現した怪獣は冷凍怪獣 ラゴラス、そして溶岩怪獣 グランゴンだったのだが、途中でラゴラスがグランゴンに襲いかかり、背中のマグマコアを食べた結果でラゴラスエヴォへと変化してしまった。ラゴラスエヴォはマグナの友でもあるマックスのギャラクシーキャノンを押し返す事の出来る光線を持つ強豪怪獣。

 

が、発目の新開発した兵器によって何とか撃破には成功した。が、今度はその兵器をレギオノイド・フェンサーへの搭載が決定しそのテストで出久の望みは更に遠ざかったとか。




漸く、漸く劇場版のプロット纏まりそうです!!

なので近々投稿します、劇場版、二人の英雄編!!!


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アサリナの復活と騒ぎ。

「ィィィィィィィィイイイイイイイイイイイヤッホォォォォォオオオオオオオ!!!!」

 

光の国に木霊する喜びの雄叫び、歓喜の祝福を全身で表現するかのように文字通り飛び回っている一人の女性。女性というには女性らしさが欠けているが……兎に角一人のウルトラウーマンが極めて喜んでいる様を一人のウルトラマンが何処か冷めたような瞳で見据えていた。

 

「如何だい如何だい如何だい!!遂にっ完全復活!!アサリナさんの驚異の再生だぁぁぁ!!!」

「驚異なのはヒカリさんの技術力であって君じゃないだろう」

「良いんだよ、マグナの中に居続けた僕の魂の力というか精神力というかその辺のあれやこれやのお陰なんだからさ!!」

「ハァッ……また騒がしくなるなぁ……」

 

本当の意味での復活を遂げたアサリナ、命の固形化技術とマグナの協力、そしてノアのメダルの力を解析した末に完成した新技術を組み合わせた事でアサリナは完全な復活を遂げた。少し前まではまだ復活しきれておらず、実体化が出来るようになった程度だったが、今度は本当のウルトラウーマンアサリナとの復活が叶った。

 

「如何したん如何したんだいマグナァその瞳はぁ~?そうかそうか久しぶりの僕の美貌に目が眩んでしまったんだね、んもうエッチなんだからぁ♪」

「調子に乗るのも大概にした方が良いと思うが、というか美貌という点ではカトレア王女の方が上だろ明らかに」

「良いんだよほそけぇ事はぁ!!」

「君、なんか地球の文化に触れ過ぎだな。私が言うのも何だが」

 

目の前であらぶっている親友に何処か辟易しているかのようなマグナ。アサリナの復活は光の国中に伝わっており、カトレアとの婚約の次はアサリナの復活だと結構な騒ぎになっている。光の国では英雄扱いを受けているマグナの親友であり、彼を庇って亡くなった筈の優秀な女戦士として伝わっていた。一部ではカトレアとの問題が起きるのでは……という事も心配されていたが

 

問題などは一切無いっ!!何故ならばマグナ殿は既に王族入りしているような物なのだぁ!!つまり側室としてアサリナ殿を迎え入れる事など容易いのだぁっ!!

 

ウルトラマンサカキの一喝によってそんな不安も払拭され、改めて明るく雰囲気のままアサリナの復活が祝われる事になったのだが……マグナにとっては溜息と心労の下になっただけであり、自分を間に挟んでアサリナとカトレアの痴話喧嘩に巻き込まれている。

 

「じゃあ―――マグナ、僕と結婚しようか!!」

「え~……」

「すっげぇテンション低いけど何でぇ!!?」

 

アサリナは異常なまでにテンションが低いマグナに驚きが隠せなかった。何故ならば地球では並行同位体である自分と彼が結ばれた結果として生まれた子供のマグヌスの事があるのだから当然此方でも!!と思っていたのだろう。だがマグナ的にはそんな気持ちにはなれない。

 

「正直な事言うけどさアサリナ―――私は君に女性としての魅力を感じてない」

「えっ―――いやいやいやなんかあるでしょ!!?」

「ないな」

「即答されたぁ!?」

 

親友として頼もしい、隣に居てくれると頼もしい、背中を預けられると言った戦友的な事ならば幾らでも上げられるのだが……正直、女性としてのそれはハッキリ言ってしまうと皆無なのである。

 

「だって、日常的に鍛えるから模擬戦に付き合ってくれとかエースさんの切断技を参考にした必殺技を見て!!とか言ってくるだよ君、それの何処に女性的な魅力を感じろと?」

「いやそれはその、いやでもなんかあるでしょ!?戦ってる時の僕のファイティングスタイルに見惚れるとか、美しさを感じるとか!!」

「君のファイトスタイルって良くも悪くも絶対に諦めない泥臭い物だからなぁ……」

 

分かりやすく言えば昭和のマン兄さん的な戦い方をするのがアサリナなのである。スタイリッシュやビューティフルとはかけ離れてしまっているものなのでそこに見惚れると言う事はあり得ない、戦士として見習うとか参考にしようとかならば思うのだが……。

 

「並行世界の私は何で君と結婚したんだろうって思う位だよ」

「そんなに僕って女としてあれなレベルなの!!?」

「生まれてくる性別を間違ってきたと思う程度には」

「絶対的な指摘をされたぁ!?」

 

思わずその場に倒れこむかのように凹んでしまうアサリナ。だがこれが自分としての本音なのだからしょうがない、実際勇士司令部の同僚にも同じ意見を持つ者はいた程だ。それはそれで女としてではなく、男として扱っても文句言わない所か対等に扱ってくれてるみたいで気が楽だとアサリナも言っていたせいなのもあるが。

 

「なんてことだ、じゃあ僕はマグナに女として見られていなかったという事なのか……いや、そもそも女として認識すらされていなかった……!?」

「私をなんだと思ってるんだお前は、少なくとも女性だとは思っていたよ。それにそれが君なんだろう、自信を持て。どんな誹謗中傷だろうと称賛だろうが、結局他人の感情でしかない、大事なのは君自身が何を想って何をしたいかだろう」

「―――うんだよね、じゃあマグナ僕と結婚して!!」

「…………えっ~…………」

「すっげぇ沈黙された!?」

 

もうカトレアとの婚約が解消出来ていない所に来てしまっている時点でお腹がいっぱいなのに、更にアサリナが自分の側室になってしまうという事でもう色んな意味でキャパオーバー。本音としては遠慮したい、欲を言えば婚約も解消したい。そして暫く一人で宇宙を旅したい、出来れば出久の所に遊びに行きたいとすら思っている。

 

「カトレア王女との婚約だって私としては結構納得出来てないのに……」

「成程、つまり僕が君を落とせばいいって事だね!!それなら問題ないさ、これまで通りにカトレア王女と一緒にアタックし続けるから」

「君の場合のアタックと言われると如何しても純粋な物理攻撃を想像してしまうんだけど」

「ちょっと好い加減酷いよ!?僕だって泣くよ!?」



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~二人の英雄編~
緑谷出久はウルトラマンと共に夏休みを過ごす。


お待たせしました!!!

劇場版僕のヒーローアカデミア、二人の英雄編へこれから入ります!!

ゆっくりの投稿になるかもしれませんが、如何か気長にお待ちください!!


工業地帯の一角、個性を利用した新しい枠組みの発電システムの試験中に謎の電力ロスが発覚。調査が行われたが、発電機関にもスタートキーを務めるヒーローの個性にも何の障害も無かった。再チェックも終わり改めて発電が行われようとした時―――それは現れた。

 

「ギィィイオオオオ!!!」

 

電気を喰らう怪獣、透明怪獣 ネロンガ。新しい発電システムは一度稼働すれば、火力発電以上の効率で長期的に発電し続ける。電力を喰らうネロンガにとっては格好の餌場。だがその電力はネロンガにとって想像以上の味だったらしく、日に日に電力の吸収量は増していき遂に発電所を襲撃しに来た。だが―――心配なんていらない、何故ならば―――ウルトラマンマグナが直ぐに駆けつけたからである。

 

「ディァッ!!ォォォォッダァダァダァ!!ディッデュォ!!」

 

腰を入れながらの連続パンチがネロンガの身体に命中していく、一撃一撃が怪獣の内部を抉る様な一撃故に爆発が連続的に起き続けていく。それらを受けながらもネロンガは飛び掛かって来るが、カウンターとして下顎に強烈な飛び膝蹴りが命中した。

 

「ギオオオオオ!!!」

 

その一撃で頭に来たのか、今まで食べ続けた電力をフルに消費しながら電撃の光線を放ってマグナを牽制しながらも自身は透明になって姿をくらまして行く。

 

「き、消えた!?」

『言ったろ、透明怪獣だって。姿を消すなんて朝飯前さ』

「い、いやでもどうするんですか!?」

 

透明になる、クラスメイトの葉隠の事を連想するが規模が桁違い。あんな巨体が透明になっているし相手は電気を武器にしてくる、これじゃあ何処から攻撃が来るのか分からない―――がマグナは全く慌てなかった。それ所か何処か自信ありげにしながら、地面を強く踏みしめながら腰を落とした正拳突きを放った。

 

「ディァ!!」

 

その一撃は何もない筈の景色……ではなく、透明であった筈のネロンガを完璧に捉えて吹き飛ばして大地へと叩き伏せてしまった。不意を突いて背後を取るだろうと踏むのを計算しての行動だろうが、生憎マグナにはネロンガの全てを捉えられていた。

 

『ソナーの要領で周囲にエネルギーを放ってその反射を捉えただけさ』

「だ、だけって言いますけどそれって結構高度なんじゃ……」

『大丈夫、マックスの奴だって出来てたから。さあ決めるよ!!』

 

「ヘァッ!!」

 

首元を殴られた事でもがき苦しんでいるネロンガ、直ぐに姿を消そうとしているのでそれに向かってマグナはスペシウム光線を発射。スペシウム光線はネロンガへと到達して全身へとエネルギーを拡散させていくと内部の電力を蓄えていた器官の誘爆を誘発してそのまま大爆発させた。

 

「マグナ様ぁ♡やっぱりしゅごい~♡」

 

最早ヒーローは手が出す事が出来ない現場、ネロンガに手を出すどころか遠目に見て何時でも避難できるようにするのが精一杯なヒーロー達の中で唯一、戦いを近くで見ようとしていたヒーローがいた。Mt.レディである、保須市によってマグナに救われてから完全にご執心になっているのか怪獣退治後の現場調査などにも積極的に参加している。

 

「シュワッチ!!」

 

そのまま空へと飛び去って行くマグナをMt.レディはハートを瞳に浮かべたまま見送った、そして望む事ならばもう一度……と様々な事を思案するのであった。

 

 

「ハァッ……すっごいニュースになってるよ」

『まあそりゃそうだろうね』

 

自宅に戻った出久を出迎えたのはリビングのTVで流れているニュースを熱心に見ている母の姿、そしてそのニュースは当然ウルトラマンと怪獣の戦いの事だった。ウルトラマンとして怪獣として戦うようになって浅い出久としてはなんとも慣れない感覚があった。

 

「取り敢えず夏休みに入っててよかったぁ……」

『それには同感だね』

 

怪獣の出現やヴィランによる雄英襲撃やらで夏休みに行う予定の林間合宿はまだ調整中との事で出久は学生らしい夏休みを過ごしていた。その間にもヒーローになる為のトレーニングは欠かしていないしウルトラマンとしても戦っている。マグナと共にある以上致し方ないし必要な事だとも思っているが、矢張り規模も違い過ぎる戦いにまだ慣れない。

 

「あれ、電話……はいもしもし」

『もしもし緑谷少年かい!?ニュース見たよ大丈夫なのかい君は!?』

 

突然の電話に出てみると、矢張りというべきかこの人だった。オールマイト、ニュースを見て慌てて掛けて来てくれたのだろう。

 

「大丈夫ですよ僕は。戦いはマグナさんに任せっきりな感じになっちゃってますけど」

『そうか、いやすまない。分かってはいたんだが聞かずにいられなかったんだ、怪獣との戦いが身体に響いてるなら中止にもする事を考えていたから』

「全然大丈夫です、寧ろこれで行けなくなったら僕死んでも死に切れませんよ」

『まあ死に掛けたら私が引き戻すから問題ないと思うよ』

「マグナさん……冗談に聞こえませんよ」

 

実際問題一度死ぬところを助けられている身としては何とも言えない気分になる。兎も角自分には全く問題はない、だから明日からの予定を変更なんてありえない。断る理由も中止する理由も存在しない、つまり堂々と行く事が出来る。

 

「でもオールマイト、本当に良いんですか。僕も行って」

『問題ないさ、寧ろ今回は君も来ないと話にならないさ。何せ―――デイヴには君とマグナさんの事を紹介するつもりでいるんだからね』

 

明日から、自分はオールマイトと共にある場所へと赴く事になっている。それはこれからの地球の運命を決める事にも繋がる大事な用件、対怪獣災害想定組織の設立にも関わる。

 

「それより発目さんも一緒に行くからですよね……?」

『いやまあ……うん、なんかごめんね?』



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I・アイランドにようこそ。

「いやはや改めて私まで招待して頂いちゃって全く以てすいませんねぇあっはっはっは!!という訳で緑谷さん、新しいコスチュームの試作品も持って来てますのでI・アイランドの設備を活用させて貰って試験運用と行きましょう!!」

「えっこんな所にまで来てまでやるのっていうかンなもん持って来てるの!?」

「嫌だぁ~私を誰だと思ってるですか、グルテン博士の圧縮バックを活用して持って来てますよ」

 

I・アイランドに到着すると同行してきた発目は大きな声で笑いながら持ってきたというコスチュームのテストをやりたいと言い出してきた。確かにI・アイランドならば施設もあるだろうからやろうと思えばできるだろうが……出久としては夏休みにそんな事は出来ればしたくない……という思いで支配されている。

 

「HAHAHA!!少年少女、さあ入島するぞ~!!」

「はっはい分かりました!!」

「っという訳で―――どうぞ緑谷さん!!」

 

そう言いながらも発目はバックを開け放つとそこから無数のパーツが飛び出すと出久の身体へと装着されている。それぞれが自分の役割を分かっているかのように自動で装着されていき、僅か数秒で完全に装着が完了し、そこには出久のコスチュームであるGAIAだった。

 

「えっ何で!?確かに発目さんが持って来てくれるって話だったけど!?」

「フッフッフ……改良したに決まってるじゃないですか!!自動装着機能を付けてみたんですよ、パーツを分割化しつつも強度を下げないのには苦労しましたけど問題なさそうですね!!実は全くテストしてなかったんですよね!!」

「こんな時にまで実験台にしないでよ!!?」

『今更過ぎるさ出久君、さてオールマイト今のうちにヒーリングパルス行っときますね』

「頼みますよマグナさん」

 

これからオールマイトは入島してしまえば多くの人々の目に晒される、そこでは日本の№1ヒーロー、オールマイトとして振る舞う必要がある。だが現在のオールマイトのマッスルフォームの維持時間を考えるとかなり厳しい物があるので今の内にヒーリングパルスを補給しておかないと不味い。

 

「大変ですよね~定期的にやらないとマッスルフォームの長時間維持が出来ないとか」

「まあこの位は我慢するさ、以前に比べて活動時間は段違いに伸びているからね!!」

 

簡単な照射を受けるだけで3時間が6時間に伸びる。そして現在はマグナの尽力もあって10時間は維持が出来るようになっている。

 

『……良し、今回は少々強めにやりましたのでこれで丸一日は問題ない筈です』

「有難う御座いますマグナさん!!この感触、この筋肉の躍動感!!若かりし頃が戻ったよう、です!!」

 

サイドチェストやらモストマスキュラ―のポーズを取っているオールマイト。マグナ曰く強めのヒーリングパルスを受けた影響か、自分と元気になっているというか筋肉が大きくなって身体が更に大きくなっているように見える。

 

「あっそうだ発目少女、私の事はくれぐれも!!」

「分かってますって。マグナさんと同じ位のトップシークレットでしょう、その位弁えてますって」

 

それを聞いてほっと胸を撫で下ろす。マグナを事を知っていたり宇宙人であるグルテン博士の事を考えて、連携が取れた方が良いという事で発目にも自分の事を告げているオールマイト。少々不安な所もあったが、態々マグナの名前を出してくれているので絶対だと思える。そんなこんなで到着したI・アイランド、発目としては最先端の技術を見る事が出来たり情報交換も出来たりするので来ないなんて選択肢はあり得ない。

 

「ウッヒャアアアア!此処の入国審査のシステムだけでも来た甲斐があったってもんだぜぇぇぇぇ!!!空中投影型のモニターとかマジ分かってますよねぇぇ!!」

「は、発目さん落ち着いて凄い視線集めるから!?」

『集めてるが正しいね』

「HAHAHA!!発目少女は本当に元気だね!!」

 

入島IDの確認や網膜、虹彩、声紋の認証といった様々なチェックが瞬時に光が当てられるだけで完了されて今度は荷物の検査が行われていく。確かに技術的には相当に凄い物なのかもしれない……だが此処で出久は思う。発目のバックはグルテン博士の、ファントン星の技術が使われている。それがチェックされるというのはまずいのでは……。

 

「大丈夫ですよ、博士もその位の対策はしてますから。向こう側にはコスチューム関連が入ったバック程度しか把握出来ませんよ」

『心配は知らない、という事か』

 

流石はグルテン博士、と思っていると入国審査も終わっていよいよ完全な入島が出来た。人工島とは思えない広大な敷地に広がる最先端技術が作り出した夢のような光景。此処では個性の使用が制限されていない、故に個性を使った施設なども充実しておりそれらを活用した技術なども大量に存在する。

 

「ウッヒャヤアアアアアアア遂に来ましたよI・アイランドォォォォッ!!!何時かぜってぇ来てやろうと思って特許が認められたらスポンサー企業の株を買い漁る予定だったのが数か月前倒しだぜぇぇぇぇ!!!」 

「ってもう特許申請してるの!?」

「そりゃしてますよ、大体6個ぐらい」

「いや早すぎるよ発目少女!?」

 

だがマグナは逆に6個なのかと僅かな安心を浮かべた、異星の技術を用いて技術の発展をやっている発目ならば今ある技術体系全てをブレイクスルーする勢いで特許申請しても可笑しくないと思っていたからだ。流石に杞憂だったらしい。

 

「I・エキスポへようこそってオールマイト!!?」

 

今回は一般公開前のプレオープン、故に案内係の女性が声を掛けようとしたのだがその相手がオールマイトだった為に大声を上げてしまった。それからはもうあっという間に多くの人が雪崩のように押し寄せて来て大騒ぎである。発目はその前に出久に少し離れた場所に運んでもらって事なきを得た。暫くしてようやく落ち着いたのだが……

 

「まさか此処まで足止めを喰らってしまうとは……!!」

「いやどうやったらそんな所にまでキスマーク作れるんですか」

 

発目が真っ当なツッコミをする位には顔中にキスマークを作りまくっているオールマイトの姿があった。こういう対応が出来るのはマグナのヒーリングパルスで活動時間を延長しているお陰だとマグナにお礼を言っていると遠くからホッピングのような機械に乗った女性がオールマイトを呼びながら此方へと迫って来た。そして近くまで来るとそのままオールマイトへと飛びつくように抱き着いた。

 

「おじさま~!!」

「OH!!メリッサ~!!すっかり大人のレディになったね!!」

「もう17歳ですもの、昔に比べて随分重くなっちゃったでしょう?」

「HAHAHA!!なんのなんの~!!」

 

メリッサという女性はオールマイトをおじさまと呼んでいる辺りかなり親しいのが伺える。そんな彼女はオールマイトに降ろして貰うと直ぐに近くにいた出久と発目に視線を送った。

 

「紹介させて貰うよ。彼女は私の親友の娘で」

「メリッサ・シールドです。はじめまして」

「雄英高校ヒーロー科1年の緑谷 出久です。宜しくお願いします。それでこっちが……ちょっと発目さん」

「んっ……あっ発目 明です」

「ええ、宜しく。―――所で貴方が纏っているコスチューム……」

 

自己紹介を終えるとメリッサは直ぐに技術者の表情になってGAIAに触れながらも興味深そうな熱い視線を注ぎ始めた。

 

「凄いわこのコスチューム、この装甲に使われてる素材見た事ないわ。駆動システムとか動力源はどうなってるのかしら」

「ほほう気になりますか、では開発者の私が説明しますよ!!」

「貴方が作ったの!?是非教えて欲しいわ!!」

 

何やらメリッサは発目とすぐに打ち解け合った、技術者同士なだけあって何か通じ合う何かがあるのかもしれない。そんな二人にオールマイトは大きな咳払いをした。

 

「メリッサ、申し訳ないけど」

「あっそうでしたね、ごめんなさいね後でじっくり教えて貰っても良いかしら」

「ええっ勿論!!その代りに……」

「分かってるわ、最新鋭技術でしょ?」

「話が早くて助かりますねぇ」

 

「発目さんが……普通に会話してる……!?」

『何だろうね、スゴイシツレイだって分かるけど凄い新鮮な気分だよ』

 

 

 

―――予定通りだ、奴を暴れさせろ。

 

 

―――ギィィィッ……ギィィィィッ……。




ラストの怪獣のヒント、水棲怪獣。平成シリーズ。強敵怪獣。


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運命の出会い、再び。

「私がぁぁぁっ再会の感動に震えながら来たぁっ!!」

「ト、トシ―――いやオールマイト!?」

 

メリッサに案内されるまま、やってきたのはセントラルタワーの上層階。そこにいる人こそ―――オールマイトの旧友、いや元相棒とも言うべき存在、大切な親友であるデヴィット・シールド。ノーベル個性賞を受賞した個性研究のトップランナー、多くのヒーローのサポートアイテムを開発しているし特に代表的なのはオールマイトの着用しているヒーローコスチュームだろう。

 

「HAHAHA!!本当に久しぶりだなぁデイヴ!!会いに来てやったぞ!メリッサが私に招待状を出してくれたのさ、お陰でこうして会いに来れたという訳さ!!」

「そうか、そうか……!!ハハッ全く本当に久しぶりだな、メリッサにこんなにも感謝したくなったのは久しぶりかもしれないな」

「フフフッどういたしまして、如何久しぶりのマイトおじさまは」

「全く―――互いに歳を取ったな」

「やめてくれよデイヴ、お互いにそういう事は考えたいなんて思わないだろう?」

「全くだ」

「「HAHAHAHA!!!」」

 

気兼ねなく接する事が出来る親友同士という空気が滲み出ているやり取りにそれをオールマイトの後ろから見ているマグナは思わず、アサリナの事を思ってしまった。彼女のやり取りもあんな感じ……

 

『(いや、彼女と比べるのはデヴィット氏に失礼だな)』

 

―――僕にも結構失礼な発言なんだけどなぁ!!?

 

『(何だ今の、毒電波か?)』

 

―――ひっでぇ!!!

 

 

と何処からか聞こえて来たアサリナの声を毒電波扱いするマグナ、シレっとそう言えばウルトラ怪獣ってクトゥルフ系多いよな~と考えたりもしている。極めてどうでもいい。

 

「さて紹介するよって緑谷少年なら、私が紹介するまでもない位に知ってるかな?」

「モチのロンです!!デヴィット・シールド博士、ノーベル個性賞を受賞する世界的に有名な科学者で数々のサポートアイテムを開発してきた天才科学者!!オールマイトがを平和の象徴と呼ぶならば、博士はその技術で数多な平和に貢献してきた別側面の平和の象徴です!!」

「補足しますと特に代表的なのはオールマイトのコスチュームでヤング、ブロンズ、シルバー、ゴールデンエイジと言われるコスチュームも出掛けられますね!!特に私が好きなのはヤングエイジでして、あの新メガメッシュは幼い頃に親のお金を勝手に使って輸入したりもしましたねぇ……」

「サラッと何やってんの発目さん!?」

 

サラッと暴露された所業にツッコミを入れる出久。だがそんな話を聞いてデヴィットやメリッサは大いに笑っていた。確かにこれは紹介は必要ないし何とも愉快なお客さんが来たものだと旧友が訪ねて来てくれたのと別の意味で嬉しくなってくる。

 

「デイヴ、久しぶりの再会な訳だし話がしたいんだけど時間取れるかい?出来れば緑谷少年と発目少女、そしてメリッサも同席させて」

「フム?オールマイトがそう言うなら時間を取らない訳にはいかない」

「私も?」

 

オールマイトの言葉にやや不信、というよりも不思議な思いを抱きつつもデヴィットとメリッサはオールマイト達との念密な話をする為と言って助手のサムに退席して貰いつつも談話室へと通した。

 

「それじゃあお茶淹れるわね」

「あっ大丈夫ですよお茶なら持ってきますよっと」

 

発目はバックから巨大なポットを取り出した、サイズ的に絶対収まる事がない給水機の登場に二人はギョッとしつつも目を白黒させながらもバックを見つめている。ちょっと高級そうなカップにお茶を淹れる発目に思わず質問してしまった。

 

「発目ちゃん、だったわよねそのバック如何なってるのかしら!!?明らかにサイズオーバーなのにどうして収まってるのかしら!?」

「いや、しかもこのタイプのポットはかなり重い筈……矢張り、大人が力を込めて持ち上げる類の物だ」

「おおっ流石目敏いですね。それはこのバックは圧縮技術があるからです!!重量関係は純粋に私が簡易的な強化外骨格を今着てるからです」

「着て来てるんだ……」

 

圧縮バックにも興味を惹かれるが、強化外骨格にもかなり興味をそそられている二人。出久の纏っているコスチュームのような物なのかと詳しく話を聞きたいという技術者の眼になっている。オールマイトと出久は話出来るかなぁ……と心配しているがマグナは寧ろ好都合だと思う。

 

『大丈夫ですよ、寧ろ良い流れですよ』

「(どういう事でしょうかマグナさん)」

『これから私の事や怪獣災害想定組織の事を話すのでしょう、それならばいきなり突拍子の無い話よりもこういった技術があるんだけどこれは実は地球外の技術なんだ、と繋げた方が受け入れやすいでしょう。特に技術者ならばファントン星の圧縮技術なんて地球の技術じゃないなんてすぐにわかるでしょうし』

「(確かに、保須市のツルク星人の事は世界中で報道されてますけど宇宙人じゃなくてそう言う個性持ちって認識が強いですもんね)」

「(成程……納得しました)」

 

発目がそういう事を狙ったのかは謎だが……まあ兎に角、これで話はしやすくなった。

 

「デイヴ、そのバックだがどう思う?」

「―――素晴らしい!!圧縮技術というのは確かにサポートアイテムでも様々な形で利用されているが、どれも圧縮(それ)専用の設計や制限がある物なんだ!!だがこれはそれらを考慮しない物を入れても圧縮されるのか!?」

「しかも重さが変わらないって事は圧縮しても変化が起きてないって事ね!?圧縮の過程で重さの連動は結構深刻で内部の破損や変形の判断基準でもあるの!!」

「(軽ければいいって思ってたけど、そう言う考えもあるんだなぁ……)」

 

やっぱり大興奮するよな、と発目は何処か暖かい目を作っていた。グルテン博士と会ったばかりの頃の自分のような反応だ……と思わず懐かしんでしまっていた。

 

「デイヴ、その技術―――地球のモノではないと言ったら、君は信じてくれるかい?」

「ト、トシ君は何を……いや確かにこんな技術は……地球のそれではないとは思うが……」

「マイトおじさま、もしかして前に日本に出現したあの巨人が関係してるんじゃ……」

「流石メリッサ鋭いね。これから私は君達にひた隠しにしていた秘密を明かしたい、そして出来る事ならばそれを守り、これからの地球の為に共に手を取り合って前に進んで欲しいんだ」

 

突然のオールマイトの言葉に困惑するメリッサ、デヴィットも流石に驚いていたが―――嘗ての相棒のそんな強い言葉を向けられて昔の日々がフラッシュバックする。共に人々を救うヒーローとして活動していた時の事、オールマイトは理由もなしに秘密を作らない。きっとそれは周りを思っての事だ。

 

「今更な言葉で少し心外だぞトシ。君と出会ってサイドキックをしていた時から危険なのは百も承知だったさ」

「パパ……そう、よね。マイトおじさまが私にもお願いする位大切な事なのよね、私なんかで良ければ精一杯力になります」

「デイヴ……メリッサ、有難う……!!そして単刀直入に答えを言わせて貰うよ―――マグナさん」

『ええ』

 

その言葉を受け取って出久から光が溢れてマグナがホログラムのような姿で現れる。それに二人は目を限界まで見開いてしまった。

 

『初めまして、私はM78星雲・光の国からやって来たウルトラマンマグナと申します。突然のお話故に信じられない事も多いかもしれませんが、如何かお話をさせて頂きたい』



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地球の為、友の為。

ウルトラマンマグナとしての姿を見せ、この地球は明確に異星人が現れているという証明をシールド親子へと行った。流石に動揺するのは分かっていたが、この世界を考えると致し方ない―――

 

『あの、そこまで写真を撮られるのは流石に困るのですが……』

「ああっ申し訳ありません、ですが技術者、いや一人の科学者としては他の星から来た方とこうしてまみえる事が出来る機会など滅多にありませんし私自身、実はあの映像を何度も見直したりもした物ですから!!」

「デク君はマグナさんと一緒に居るのね!!どうやって一体化してるの!?あれだけの巨体に成れるのにその場合の質量は!?身体への影響は!?そもそも二つの意識が一つの身体にあるっていうのも凄い興味深いわ!!」

 

マグナに対して全力にカメラを回しているデヴィットに出久のGAIAに触れながらも考えるられる限りの疑問を上げながらも自分で情報を整理しつつもスーツに対して見解を述べ続けているメリッサ、と中々にカオスな状況になっており流石のマグナも戸惑っていた。

 

「え、えっとあの……(す、凄い近いぃぃぃぃぃ!!!)」

 

メリッサという美女に超至近距離からGAIA越しとはいえ身体中を触られている事に変わりはないので沸騰寸前の出久。是非とも助けを認めたいのでオールマイトにSOSを視線で送るのだが、肩を竦められつつの申し訳なさそうな表情を向けられて軽く諦める。

 

「GAIAについては詳しく私がお話しますよ!何せ―――緑谷さんはマグナさんと一緒に居る影響で光線迄打てますからね」

「「光線―――ビーム!!?」」

「ええ、そして私はそれに合わせてスーツ越しでも発射できるようにしましたから!!」

「「詳しく聞かせて!!」」

ゴッホン!!!デイヴにメリッサ、流石に二人が困っているし話を進めさせて貰ってもいいかな!?その時に一つずつ質問をするという事で!!」

 

オールマイトの一言で発目の言葉でヒートアップしそうになった二人に冷や水を掛ける事に成功し、なんとか正気に戻す事が成功する。だがそれでも聞きたい事は山積みなんだという光が瞳に宿っていて妖しく輝いている。

 

「申し訳ありませんでした年甲斐もはしゃいでしまって……それでえっと……ああ、言葉が纏まらない……」

『では此方からのお話を先にさせて頂いても?』

「はっはい大丈夫です、お聞きしながら考えを纏めつつ落ち着こうと思います」

『では、オールマイト貴方の事を絡めて』

「そう、ですね……分かりました」

 

オールマイトが大きく深呼吸をしながら、胸の痞えを取ろうとするような仕草に思わず二人はギョッとする。そしてオールマイトはそのまま……マッスルフォームを解除しトゥルーフォームへとなった。デヴィットはその事を知っていたが、メリッサは突然オールマイトがガリガリの骸骨のような姿になってしまった事に驚愕し、口を塞いでしまった。

 

「おじさま……!?その身体は、一体……!?」

「……驚かせてゴメンよメリッサ、君にもショックな話にもなってしまうが確りと受け止めて欲しい」

 

体躯こそ大きく変わっていたが瞳は全く変わらない光を宿し続けている、それをメリッサは汲み取る事が出来たのか困惑しつつも必死に平静になろうと努めながらオールマイトの話を聞く。5年前の決戦、それによって瀕死の重症を負った。一命はとりとめたものの、その後遺症によって現在では見る影も無い窶れて姿になってしまった。

 

「パパは、知ってたの……!?」

「……ああ知ってた。だがトシの希望で隠していたんだ、人々は平和の象徴が必要だから、私が平穏に過ごす人々の支えになると聞かなくてね」

 

納得は出来る、だが……しかしこれだけの話は終わる訳がない。これから先はデヴィットすら知らなかった物語……。

 

「まず、私の個性について話そう。デイヴやメリッサにも語らなかった真実―――ワン・フォー・オール、それが私の個性なんだ」

「ワン・フォー・オール……」

「一人は皆の為に……」

「そうだ、そしてそれは極めて特異な個性なんだ……」

 

「(マグナさん、次は……)」

『(そのままバトンの事を。いきなり無個性なんだと言わないように)』

「(き、気を付けます)」

 

オールマイトはマグナの手を借りつつも必死に言葉を選び、文章を形作って思いを伝えていく。表面上は冷静に話し、裏で戸惑いと焦りを隠しながら。

 

「継承される個性、そんな個性があるなんて……」

「ああ、そして……私はそれを緑谷少年へと託したんだ」

「えっ!?デク君にって……それじゃあ今おじさまは元ある個性だけで!?」

「いや私は元々無個性なんだ」

「「えっ!?」」

 

『(だから何であっさり言うんですか……)』

「(あっ!?)」

 

何の為にアドバイザーとして自分が手伝っていたのか全く分からなくなってきてしまった。平和の象徴、オールマイトが元々無個性だったなんてショックを受けて当然の真実を如何してワンクッション作ったり、覚悟を作る時間を作らないのか……まあオールマイトらしいと言えばオールマイトらしいが。

 

『現状、オールマイトに個性はありませんが個性の残滓という物が残っています。彼はそれを使ってヒーロー活動をしているんです』

「それじゃあトシ、いやオールマイトは、もう平和の象徴では、いられないのか……!?」

「そんな―――」

「いや、私はまだ終わらない!!」

 

不安と絶望に飲み込まれそうな二人をマッスルフォームと力強い言葉で吹き飛ばすようにしながら力強く宣言する。そこにあったのは先程の痩せ細ったオールマイトではない、ヒーローとしてのオールマイト。その姿に幾分か不安が和らいだのか、それを更に加速させるように続けた。

 

「私は今、マグナさんの力を借りてマッスルフォームの維持時間を飛躍的に伸ばして貰っているんだ。マグナさんと会えなければ私は2~3時間しかこの姿で居られないけどお力を借りれば全盛期と変わらぬ力を丸一日維持し続ける事が出来るんだ」

「そ、そうなのかトシ……それを聞いて、少しホッとしたよ……」

「ええっ……それじゃあマグナさんはおじさまの恩人でもあるの……よね?」

 

チラリと視線をやるメリッサに出久はそうですね、と同意しつつ自分の恩人でもある事を告げる。

 

「僕も無個性でした、マグナさんと出会ってオールマイトからワン・フォー・オールを授かって色々ありました。僕は……まだ未熟です、けどマグナさんと一緒に何処まで行くつもりです。例え宇宙の彼方でも」

「デク君……」

「だからこそ、御二人にもマグナさんの事とオールマイトの事をお伝えしたかったんです。唯単純にヴィランと戦うヒーローとしてではなく、この星を守る力を貸していただきたいんです!!」

 

それを聞いて思った事は余りにもスケールが大きすぎるという事だった。国、都市の中で暴れるヴィランに対する力ではない。星という最大限と言ってもいい括りを脅かす力と戦う為にと言われて動揺しない方が可笑しい、可笑しい筈なのに……何故だろう、嬉しくて嬉しくて板しかないと二人は思った。

 

「―――有難うトシ、素直に話してくれて嬉しいよ。そうか、君は私達の事を思って個性の事を隠していてくれたんだね。いや当然且つ妥当な判断だ」

「すまないデイヴ……まるで君を信用していないような事を私は……」

「人の口にはシャッターを立てられないって奴ですよおじさま。でも話してくれて、嬉しかったです。そして今度は私達がおじさまを助ける番ってことよねマグナさん」

『ええ、力を貸していただきたい。発目ちゃんのように対怪獣災害想定組織の技術者としての協力の要請をしたくてお話ししました』

「勿論よねパパ!!」

「ああ当然だとも。寧ろ光栄の極みだよ。是非力にならせてください」

 

最高の返事が得られたと言ってもいい。これで大きく一歩前進―――したと思ったその時、I・アイランド全体が大きく揺れたのだ。海上に浮かぶこの人工島が。

 

「何でしょう地震ですかね?」

「いや此処島だけど海に浮かんでる人工島だよ発目さん!?」

「何かの事故か!?」

「いや、事故にしては振動が遠いぞ!!」

「パ、パパ外を見て!!」

『あれは―――!!』

 

メリッサに言われて窓の外を見た。I・アイランドの中央に位置するセントラルタワーからでも分かる程にそれは巨大だった。

 

 

―――ギィィィッ……ギィィィィッ……!!!

 

今にもI・アイランドを破壊してやると言わんばかりに赤い瞳を輝かせながら巨大な鋏を振り回している巨大な怪物。甲殻類にも悪魔にも見えるそれは雄たけびを上げながら迫って来ていた。

 

宇宙海獣 レイキュバス

襲来




折角デッカーが近いから、ダイナからのセレクト。レイキュバスのエントリーだ!!


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不穏な影。

『レイキュバス……如何してこんな所に!?』

 

まだ距離こそあるがそれでも十二分に巨大な程に見える怪獣はゆっくりと迫ってきている、赤い瞳を爛々と輝かせながら迫りくるそれを見たメリッサは原始的な恐怖に襲われて身体を震わせている。

 

「パ、パパァ……」

「だ、大丈夫だメリッサ私が付いてる……ト、トシ早く避難しよう!!緊急脱出用の飛行艇に向かおう!!」

「いや―――マグナさん、奴に空中攻撃能力は!?」

『そう言う意味での攻撃能力において、奴は超一級ですね』

 

レイキュバスには複数の能力があるが、その内の一つである火炎弾は恐ろしいまでの射程距離を誇る上に狂っていると言ってもいい正確性を誇っている。何せ、地表から成層圏の目標に向けて火炎弾を発射して目標を全滅させる程だ。逃げ出したとしてもレイキュバスの興味を引いて撃墜されるのがオチだ。

 

「そ、そんな……」

「ウッヒャアアアアなんですかその超々遠距離能力!!?マグナさん私あいつの細胞欲しいですめっちゃくちゃ調べたいです!!そして応用したいです!!」

『本当に暢気というかマイペースというか……って言ってる場合じゃないな、行くぞ出久君!!』

「はいっ!!」

 

言葉を掛けられて出久は直ぐに決意を固めた表情へとなった。マグナと一つになりながら右手を掲げようとする出久を、デヴィットはその顔を見た事がある。

 

 

―――デイヴ!!

 

 

「そうだ、あの顔は……行くと決めたトシの……」

マグナァァァァァァァッッッ!!!!!

 

 

「ギィィッィイ!!」

 

あと100mでI・アイランドに到達しそうという所までやって来たレイキュバス。雄たけびを上げながらも甲殻類のような口を開け放つとそこから灼熱の火炎弾が放出される。連続で発射される火炎弾はI・アイランドへと真っ直ぐと向かって行く―――その時、立ちはだかるかの如く空から舞い降りた光は海へと落ちた。そしてそれによって巻き上げられた大量の海水が壁のようになって火炎弾をぶつかった。大量の水蒸気がI・アイランドを隠すように広がる中―――そこに輝く三つの輝きがあった。

 

「ギィィィィィッッ!!!ギアアアアアアア!!!」

 

今一度!!と口を開けた瞬間、そこへ光弾が飛来してレイキュバスの頭部へと炸裂する。爆発によって思わず怯んだレイキュバスは後ろへと下がるが、徐々に水蒸気が晴れて行った先の光景が見えた。

 

「シュォッ!!」

 

絶対的な存在感、あの背中は自分達を守護するという思いが見ているだけで湧いてくる、もう自分達は大丈夫なんだ、そんな気持ちを生み出す不思議な巨人はファイティングポーズを取りながら悪魔の如く大怪獣に向かって声を張り上げた。

 

「あれが、デク君、なの……!?」

「そうですよ。あれが緑谷さんです、そしてこの星を守ってくれてる光の巨人です」

「あれが、あれが―――!!」

「そう……あれこそ、遠い星からやって来てくれた光の巨人、ウルトラマンマグナ!!」

 

「ギュゥィィイイ!!!キュイイイイイ!!!」

「ォォォッッ!!!ダァッ!!」

 

海を掻き分けるようにしながら巨大な爪を突きつけて引き裂かんと迫るレイキュバス、それを素早く躱しながらも組み付きながらも少しでもI・アイランドから引き剥がそうと押し出していく。

 

「こいつ眼の色が!?」

『させるかぁ!!』

 

突如として眼の色が変わる、真正面で力比べをしていたが咄嗟に身を翻すとレイキュバスは口から極低温の冷却ガスを発射する。それはマグナには当たらなかったが海へと命中すると辺り一面を一瞬で凍結させてしまって氷の大地を作り出してしまった。

 

「寒っ!?」

『でええい、こちとら寒いのは苦手なんだから自重しろ!!』

 

そう言いながらも折角作ってくれた大地に感謝、と言わんばかりにレイキュバスを持ち上げるとそのまま叩きつけた。ウルトラマンのパワーで叩きつけて砕けない氷、一体何m凍り付いているんだと出久は戦慄した。これを自分が受けたらどうなるのか……。

 

「ギュイイイイイ!!!」

「ディァッ!!フッ!!」

 

連続して冷却ガスを放射するレイキュバスに回避しか出来ないマグナ。ウルトラマンにも弱点はある、それは寒さ。冷凍攻撃を仕掛けられるレイキュバスはマグナにとっても天敵なのである。

 

「ギュイイイイイ!!!」

 

火炎弾を連続して放って回避をさせた直後に素早く冷却ガスを発射される、流石にマグナもこれで破壊出来ない―――だが

 

『出久君覚えておくといい!!ウルトラ一族には取って置きの戦術があるんだ!!』

「そ、それって一体!!?」

『これだ!!』

 

「ォォォォォッッ!!!ディアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

冷却ガスが直撃する寸前、マグナは途轍もない勢いで回転し始めた。回転に合わせて竜巻のように全身からエネルギーが放射されていき、それは巨大な竜巻のようになりながらも冷却ガスを完全に遮断してしまった。そしてその竜巻を纏ったままマグナはレイキュバスへと突撃した。

 

「ディァァァァ!!!」

「ギィィィィ!!?ィィィイイイ!!」

 

高エネルギーの竜巻を纏ったマグナはそのままの勢いのまま、連続で殴り付けた。回転しながらの連続の拳はレイキュバスの強固な甲殻に深々と罅を入れながら炸裂、思わず倒れこんで苦しむレイキュバスを一息に持ち上げると再び高速回転し始めた。そしてその勢いを利用した必殺のウルトラハリケーンで天高くへと投げ飛ばした。

 

「ォォォォォッ―――ダァ!!」

 

空へと投げ飛ばしたレイキュバスへと向けてマグナは必殺のマグナリウム光線を発射、反撃する暇も与えられなかったレイキュバスはその一撃を諸に受けるとそのまま全身にエネルギーが拡散して大爆発してしまった。

 

『ウルトラ一族秘伝の戦術。それこそ回転』

「成程……!!確かに冷却されるにしても回転の摩擦で起こる熱エネルギーで相殺出来るしその勢いのまま別の事に応用出来る……!!確かに秘伝の戦術だ!!」

『別名、回ればなんとかなる』

「何とかなる!?」

 

実際問題、回転する事で危機を乗り越えて来たウルトラ戦士は数多い。マグナの友でもあるマックスだって怪獣の拘束から逃れる時にも大いに活躍、そして―――記憶が無くなった時には高速回転して勢いで出した光線で危機を乗り切っている。そんな話をしながらもウルトラ念力とエネルギーの放射で凍て付いた海を融かしてからマグナは空へと飛び立ちI・アイランドへと戻っていった。

 

「―――トシ、マグナさんはなんて凄いんだ……あんな人が、私の力を必要としているのか……?」

 

そんな風に訪ねてくる親友にオールマイトは力強い笑みで答えた。

 

 

 

 

 

―――レイキュバスがやられるとは……だがウルトラマン、お前など我々の敵ではない事を教えてやる。貴様もその為に働け。

 

「……承知しました。全ては御身の為に」

 

―――個性、個性か……フフフッ人類程度には思いもつかぬ使い方を教えてやろう……。



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人として。

「お疲れ様緑谷少年、マグナさん」

「あ~……何だろう、まだ目が回ってるような気が……」

 

変身を解除した出久はそのままセントラルタワーへとバレないように帰還したのだが、如何やらウルトラ一族の伝統技で目が回っているような錯覚があるらしい。マグナと同化していたとはいえ、人間の三半規管にはウルトラマンの高速回転がかなり負担になるらしい。

 

『済まなかったね。でも光の国のウルトラマンは冷気が苦手でね、ああでもして対策しないといけないんだ。バリアも無い訳じゃないんだけど……あれはあれでエネルギーを大量消費するから緊急事態以外じゃ使いたくないなぁ……』

「な、成程……あれはエネルギーを抑える狙いもあった訳ですね……?」

『まあ役に立たなかった時もあったがね』

 

顔を反らしながらも何処か自虐的に鼻を鳴らすマグナにオールマイトと出久は何があったんだと……と聞きたくなった。ベリアルの乱の時が該当するのだが……まああの時はベリアルに手も足も出なかったせいとも言えるが……。

 

『シールド博士、御怪我はありませんでしたか?出来るだけI・アイランドに被害が出ないように心掛けましたが』

「は、はい。今連絡をしてみましたが、大パニックが起きる寸前にマグナさんが現れた事でパニックが抑制されたようです」

「私もマグナさんの背中を見てたら何だか、落ち着いちゃってたし……というかあんな戦いをしながらもそんな注意もしてたんですか!?」

『勿論。寧ろ冷凍能力があるレイキュバスだったからある種楽だったね、津波の心配をしなくて良かったから』

 

それを聞いて二人は益々驚きを深めていた。あんな巨大な化物と戦いながらもI・アイランドへの被害も留意していたのに、寧ろ楽だったというのだから。確かに途中でマグナの背後、つまりI・アイランド周辺近くの海が凍結した事で波の被害は皆無だった。そう言う意味ではラッキーだったのかもしれない。

 

「それでマグナさんレイキュバスの細胞のサンプルは!!?」

『取って来てる訳ないでしょうが』

「えええええええええ!!!??何ですか良いじゃないですかちょっと位サービスしてくれたって精々社会がちょっと揺れる位のブレイクスルーしか起こしませんって!!」

「いや発目少女、ブレイクスルーさせる事自体が不味い事だからね。君の発明品の大半だってそれに値するって理解しようね?」

「ハッ!!偉い人は言いました、常識やタブーとは人が作る物に過ぎないと!!」

「発目さんの場合はそれを一回り飛び越えるじゃすまないからマグナさんに止められてるんだってば!!それを理解してくれないかなぁ!?」

「理解はしてます、無視してるだけです」

「「『尚性質悪いわ!!』」」

 

平和の象徴、ウルトラマンの相棒、ウルトラマン本人に同時にツッコミを受けておきながら平然としているこの発目が一番地球人というカテゴリーから超越しているのかもしれない……そんなやり取りをしている三人にデヴィットは勇気を出すように声を出した。

 

「マグナさん。貴方の力はあの怪物、トシは怪獣と呼んでいましたがそれと戦う事は出来る。それなのに私の力は必要とされるのは何故なのでしょうか……?私達のような小さな人間に何が出来るのでしょうか……」

『逆ですよ博士、私は地球人である貴方達にこそ協力を願いたいのです』

「私達、だからこそって……?」

 

この世界の人間からしたら理解出来ないかもしれないが、人間だからこそなのだ。人間だからこそ強い力を絆によって作り出せる、その地球人の心を、力をウルトラマン達は信じている―――ずっと、ずっと昔から。その気持ちは脈々と受け継がれてきた歴史というバトンでもある。

 

『ウルトラマンと言えど、限界はあります。時には私達ですら倒せない怪獣もいる、だけどそんな我々のピンチを救って来てくれたのは貴方達人間なんです』

「私達が……ウルトラマンを……」

 

それこそ数えきれないほど、同時にそれは地球は自分達でも守れるという意志表明でもある。守り守れるではなく、何れ並び立てるような……。

 

「本当に、そんな風になれるでしょうか……」

「なれるよデイヴ。もうその答えはあるじゃないか」

「答えってマイトおじさまもしかして……」

「そう、緑谷少年とマグナさんさ!!」

 

力強く背中を叩かれていたそうにしつつも懸命に背筋を伸ばしている出久にデヴィットは目を丸くしてしまった。既に助け合うという点において相棒関係という最高の関係を築いている二人がいる、これこそ人類とウルトラマンが助け合う事が出来る証明でもあるんだとオールマイトは言う。そこへ発目も混ざった。

 

「おっと私を忘れて貰ったら困りますよぉ!!私だってグルテン博士っていう異星人と仲良くやってますからね!!」

「そうだったね、ごめんごめん。こんな風に既に私達は次のステップを踏む準備自体は出来ているんだよ、後は勇気を出して一歩を踏み出せるかどうかにかかってる」

「トシ……」

「さあデイヴ、君も勇気出そう!!Plus Ultra!!」

 

それを聞いて思わず目を見開いてしまったデヴィット。同時に分かった、自分がどれだけ臆病になっていたのかを……オールマイトの個性喪失や怪獣の存在を実感して気付かぬうちにネガティブになってしまっていたらしい。オールマイトのサイドキックらしくない考えだ。

 

「―――うん、そうだなトシ。私とした事が……忘れていたよ、Plus Ultraって奴を」

「パパ……うん、私もやってみる、Plus Ultra。だっておじさまもマグナさんもいるだったら恐れる物なんてないよね!?」

「そうですよ御二人も私の側に来て魅惑的な宇宙のテクノロジーに手を伸ばしましょう!!目指せ地球超越テクノロジー!!」

「だからそう言う勧誘やめてってば発目さん!?既にどんだけマグナさんに怒られてるのか分からない訳じゃないでしょ!?」

「ハッあの程度でめげてたらGAIAなんて作れないんですよ!!!」

 

先程まで本当に迷っていたのがバカらしくなるようなやり取りを見て二人は噴き出してしまった。そうだ、最初は好奇心で手を出すぐらいがちょうどいい、その後は自分達を自制しつつもワクワクしながら前に進んでいこう。勇気を出して―――

 

「そうだね、宇宙テクノロジーを逃す手なんてないもんな」

「そうよね凄い興味深いもん!!」

「ちょっとデイヴにメリッサ!?君達ももしかして発目少女気質だったのかい!?」

「何だ気付かなかったのかいトシ」

「技術者って奴はこういう感じですよおじさま」

「発目少女のストッパーお願いしたいと思ってたのに~!?」

「ああ、これからも僕がやるんですね解ります……」

『まあ何時もの事だね』

 

遠い目をする出久と呆れたような声を出すマグナを見たデヴィットとメリッサは思わず吹き出して大きな声を上げて笑ってしまった。

 

「そうだ、もしかしたら私の技術……役に立つかもしれないな、怪獣の事もあるからもしかしたら……」

「何か既に開発してたのかい?」

「まあ圧力を受けてしまって凍結を受けてしまったんだが……怪獣の事を踏まえると許可が下りるかもしれない―――それは個性を増幅させる事が出来るんだ」



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デイヴの懺悔

「個性を増幅……ってそんな事が可能なんですか!?」

 

余りの事実に思わず声を上げてしまう出久、その反応はある意味正しいとデイヴは軽く笑いながら答える。

 

「そもそも個性というのは個性因子からなっている、今ではその個性因子の活動を検知して発動する機構を持つコスチュームは珍しくはない」

『私達のウルトラスーツも確かそんな仕組みだったかな』

「はいそうですね!!でも緑谷さんの場合はなんといったら良いのか、全く別の因子も検出されていてそれがまた凄い大発見なんですけど、それは人間の活動に反応して大きな力を発揮しているんですよ!!私なりに研究ではこの因子こそがウルトラマンをウルトラマン足らしめているのではと思っているのです!!」

「ウルトラマンをウルトラマン足らしめる因子……!?」

「是、是非その話も詳しく聞きたいわ!!」

「あ~もうまた話がズレる!!デイヴ続きを頼むよ!!」

 

と割かし衝撃的なカミングアウトが発目から行われるのであった。だがそれを聞いてもマグナは特には何とも思っていないのか、何も言わないのに出久は尋ねてみる。

 

「(あの、マグナさん如何なんでしょうか発目さんの言ってる事は)」

『うん、強ち間違っている訳ではないね。私が君に宿った事で力の一部が因子として君に定着しているというのは十二分にあり得る話だよ』

「(えっそれって大丈夫なんですか色々と)」

『問題は無いと思うよ、まあ君は身体が丈夫になってラッキー程度に思ってくれていいよ』

 

マグナ的には、漫画版のULTRAMANに出て来たウルトラマン因子に当たる物なのかな?と内心で思ったりした。どんな事になるかは分からないが、過去に一体化した方々にもそのような因子が残っていたのだろうか、とも考える。だが此処である考えが過った。

 

『……太古にこの地球にウルトラマンが来ていたとしたら……?』

 

突拍子もない想像かもしれないが、バラージに訪れたウルトラマンがいたようにこの世界にも過去にウルトラマンが居て、その時代の人間と一体化した。そしてその人間に因子が定着し、受け継がれていった結果として今があるのではないかという推論がたった。確証も無ければ推論でしかない……まあ今はそんな事は置いておいてデヴィットの話を聞かなければ。

 

「―――という事で、個性をそのまま増幅するんだ。実は、これはトシの力が弱まってしまうんじゃないかって不安に思ったから研究を行ったんだ」

「デ、デイヴ君は私の事をそんなに……!!」

 

オールマイトは言葉を失いそうになる程に感動してしまった、まさか親友が此処まで自分の事を考えてくれていたなんて思いもしなかった。同時にこれならばもっと早く告げておけば良かったという後悔にも襲われてしまった。やはり隠し事は良い事にならないのか。

 

「だがね、超人社会のバランスが著しく狂うと各国政府は考えたようでね。スポンサーを通じて研究は凍結、試作品も取り上げられてしまったんだ」

「こういう事を言うのもなんですけどそれは正しい判断だと思いますよ私としては、使う対象がオールマイトだとしてもリスクの方が圧倒的に大きいですからねぇ……この超人社会だと何処から情報が漏れるかも分かりませんからね、仮にオールマイトから奪えなくても入手経路を探って此処に攻め込むって事もあり得ますもん」

「全くだね、私はそんな事も分かっていなかったという事だ。デヴィット・シールドが聞いて呆れるね」

 

何の気づかいをする事も無く、そんな意見を口にする発目。彼女を知っている身としては、だったら気軽にブレイクスルーを引き起こすのを自重しろと叫びたくなる。それを聞いて自嘲気味に続けた言葉を放った。

 

「ああ本当に愚かだ、研究をする為に馬鹿な計画まで考えてね」

「計画って……何の計画を?」

「―――トシ、君が勇気を出して私に真実を告げてくれた。だから私も勇気をもって、私の罪を話す」

 

罪、何とも仰々しい言葉にメリッサや発目すらも驚きを隠せなかった。そしてオールマイトはマッスルフォームのまま、力強い表情を作ったまま聞かせて欲しいと告げた。それに促されるようにデヴィットは怯えて震えている心を奮い立たせて言葉を綴った。

 

「私は……私は、このI・アイランドにヴィランを雇って招き入れた……」

「パ、パパ!?何を言って―――」

「その試作品を奪い返す為に……私は、サムの手を借りてヴィランを雇ったんだ。だが一切人を傷付けないという条件付きで、そしてその混乱を利用して試作品を奪取して他の場所で研究するという愚かな事を……私は、私はトシが、オールマイトが居なくなってしまう事が堪らなく怖かったんだ……人々の心に、私の心を支えてくれていた平和の象徴の喪失が耐えがたい程に……!!!」

 

懺悔の告白とも言うべきそれは、これからI・アイランドで起こすであろう計画の全貌の全てだった。それ程までに恐ろしかったのは恐らく彼だけではない、社会全体が余りにも恐ろしいと考えているであろう事柄。そして、デヴィットにはそれを実行するだけの資金力などもあった。だからこそ実行しようと思ったのだろう……。

 

「済まない、私は何て愚かな事をしてしまったんだ……!!」

「デイヴ……」

「パパ……」

 

責められなかった、出久もそうだが平和の象徴であるオールマイトが居なくなるという事は極めて恐ろしい事だ。何とかしたい物ならば何とかしようともがくのは当然の事だ。故にオールマイトは掛ける言葉を失った、メリッサは一度抱いた軽蔑の気持ちを今度は自分に向けた。父の気持ちは分かる、そして今こうして話す事がどれほど苦しい事なのか。発目も流石に口を噤んでいる。出久もどうしたら……と思った時、パンッ、そんな乾いた音が部屋に響いた。

 

「なっ……マグナさん!?」

「あっ……」

 

その音の元凶はマグナだった、彼がデヴィットの頬を軽く叩いた。赤くなった頬を抑えながらもデヴィットはこれで良いんだ……と僅かに救われたような気分になりながらも顔を上げて光の巨人の断罪を受けようと思った。だがそこにあったのは変わらぬ顔をしたマグナ……いや、むしろ笑っているように見えた。

 

『貴方の気持ちはよく分かります、私の居た世界でも如何にかして自分達の世界を守りたいと願った人達が居ました。もう二度と怪獣に大切な人を奪われたりする物か、やれる事を全てやって人々を守るんだ、そんな強い想いを抱いていた―――そしてそれ故に罪を犯した人もいた』

 

過激な思想や行動によって逆に怪獣の怒りを買った、あるべきある筈のバランスを乱してしまった、ウルトラマンの利用したが逆に敵になった、数えればきりがないだろう。

 

『ですが、罪を犯したならば償う事は幾らでも出来る筈ですよ。裁かれるのを待つのではなく、貴方自身の脚で立ち上がって、過ちを正そうと動き出すのが一番だと思いませんか?』

「待つのではなく、自分の脚で……」

『私達、ウルトラマンにも神のような存在が居ます。ですがその存在は最初から自らを頼るような者に手を貸す事は無い、強い心の中に希望を携えながら諦める事のない不屈の魂を宿した者に力を貸してくれるのです。貴方は―――何方ですかな?』

 

その問いかけに対する答えは―――一つに決まっている。

 

「私は……私に出来る事をします!!そうだ、私は、私は―――オールマイトのサイドキックだった男です!!」

「デイヴ!!ハハッその意気だ、そうだ若い頃のようにコンビ復活と行こう!!」

 

一気に覇気を取り戻した親友にオールマイトも嬉し気に応えた、固い握手を結びながらもデヴィットの瞳には光に溢れていた。そうだ、そういう光を持った者は何度だって立ち上がる事が出来る。

 

「急いでサムに連絡を……いや直接行った方が早いな。トシ、一緒に来てくれ!!」

「無論!!済まない緑谷少年たち、私達は行くよ!!」

 

そう言いながらも親友と共に部屋を飛び出して行くオールマイトを見て出久は思わず笑みを浮かべた。

 

「大丈夫そうですね、デヴィットさん」

『彼なら心配いらないさ、過ちなんて物は生きている限り繰り返し続ける物だ。過ちは正さないとならない、そこに気付き、方法を模索する事こそが大切な事なんだ』



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