外道戦士は気づかない。 (胡椒こしょこしょ)
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戦力外通告するならタイミングを選んだ方が良い。

森の中、数体のコボルト。

彼等は手にナイフを数本持っている。

 

そしてそんな連中の前に立ち向かう集団。

 

「勇者!強化魔法!」

 

「助かる!」

 

「回復させます!」

 

一人の勇猛な青年と、二人のうら若い少女達。

彼等は勇者とその一行。

魔王の出現によって活発になった魔物を調伏し、魔王を打倒することが目的だ。

...いや、彼等だけでない。

 

いや一人だけでない、その傍らに鎧を身に纏う男が一人。

その男はコボルトを蹴ると首に剣を突き立てた。

 

「ギャッ!!」

 

詰まったような不快な声。

そしてそれを尻目に勇者がコボルトに同行していたオークを切り払う。

 

「...終わったか。」

 

「ま、アンタならこのくらい何てことないわね。」

 

「か、かっこよかった...です。」

 

勇者が剣から血を拭くと、活発な魔法使いの少女とオドオドとした様子の僧侶が彼に歩み寄る。

和気藹々とした雰囲気。

しかし彼らの会話は急に止まる。

それは血が視界の隅で噴き出したからだろう。

 

見ると男が何度も刃を振り下ろしている。

それはどうやら首を斬り落とそうとしているように見える。

 

「ッ、おい!その辺で!!」

 

「は?村人の依頼はここに魔物来ないようにすることだろ?俺に任せとけって。...おい、コイツギャッ!ギャッ!って....楽器みたいだな。」

 

勇者に目を向けることもなく、彼は剣を振り下ろし続ける。

笑みを浮かべる男。

そして首が切れると、短剣を取り出して洞窟の岩壁に突き刺した。

 

「...ほんと、胸糞悪いわね。」

 

「ひう.....」

 

魔法使いの少女は顔を顰め、僧侶の少女は勇者の陰に隠れる。

そして勇者が前に出る。

 

「おい、死んだ遺体は魔物とはいえ、辱める真似は許さないぞ。」

 

そんな彼を見て、顔を血しぶきで汚しながら男は一言いう。

 

「オイオイ、知ってるだろ?これはトーチカだよ。見せしめにすることでその場所を魔物避けする。他の冒険者もやってることだろぉ?」

 

「...それ以外の他意はないんだな。」

 

訝し気な目を向ける勇者。

そしてそれに対して笑顔で答える男。

 

「あぁないない。そうじゃないとこんな手間のかかる面倒なことするわけないだろ?てか逆にこれ以外どうするつもりだったの?後の事考えて対策取るくらい普通じゃないか?」

 

「どーだか。アンタの所業見てるとやりたくてやっているって思うわ誰でも。」

 

魔法使いがぼそりと呟く。

 

「おっ、何か言ったか?」

 

それが聞き取れずに聞き返すと彼女はそっぽ向いた。

どうやら男と話すつもりはないようだ。

そして僧侶もただ獣を見るような目で男を見つめて、怯えている。

 

彼は戦士。

しかしその戦い方は卑怯な手や残虐な手を躊躇いなく行い、苦しませるような殺し方をする。

彼はパーティー内でこう揶揄されていた。

 

〝外道戦士”と。

 

 

 

酒場。

もはや夜が深まっているにも関わらず、人々は酒をかっ喰らう。

その中で勇者と少女二人は密着して飲んでいる。

そして一方外道戦士は。

 

 

「がはっはっは!!戦士のあんちゃんまだまだ終わらねぇぞぉ!!」

 

「うるっせぇ!もっと持ってこいやぁ!このおっさんのおごりでなぁ!!!」

 

「おいゴルルァ!!!」

 

勇者たちの後ろ、親父たちの中に紛れてどんちゃん騒ぎを起こしている男。

酒をただかっ喰らい、顔は真っ赤。

品性の欠片もない有様を晒している。

 

そして、しばらくすると外道戦士はフラフラとその集団を抜ける。

 

「うわっ....こっち来た。」

 

魔法使いの少女が嫌そうな顔をする。

すると、彼はヘラヘラと勇者たちに話しかける。

 

「おいおいおい!なにしんみりとしちゃってるわけぇ!?両手に花なんだからもっと嬉しそうにしろよ!!!ほらもっともっと飲んで!!そこの僧侶も胸付けて喜んでんじゃねぇよ。」

 

「ヒャッ!そ、そんなこと....ないです.......。」

 

僧侶は顔を赤くして伏せる。

外道戦士が静かに飲んでいた勇者に絡みだす。

すると勇者がゆっくりと席を立つ。

周りは雰囲気が変わったのを察したのかざわざわとしだす。

喧嘩か....?

勇者は口を開いた。

 

「なぁ....ちょっと話がある。来てくれ。」

 

「おっ、二人きりで話しか?いやー懐かしいなぁ。ガキの頃はよく二人で星を見ながら話したよなぁ?」

 

神妙な様子の勇者に反して、ジョッキを煽る外道戦士。

ヘラヘラと笑っており、心底酔っていることが分かる。

 

「ゆ、勇者...アンタ大丈夫なの?」

 

「勇者.....様。」

 

二人は心配そうな表情を浮かべている。

それに対して勇者は返答した。

 

「...大丈夫だ。話をするだけだから。行くぞ。」

 

「へいへい。」

 

そう言って彼等は外に出た。

外は暗くなっており、冷たい風が吹いている。

街の人も夜遅くてまばらだ。

 

「おいおい、なんだよ態々。もしかして男二人で飲みなおすとかか?くぅ~粋なことしてくれんじゃん!」

 

そう言う外道戦士に対して勇者は口を開く。

 

「....ずっと考えてた。幼馴染のお前のことについて。」

 

勇者は口を開き出す。

その口振りは重々しい。

 

「お前は確かに強いし、足手まといじゃない。...でも、お前が居ると足並みが乱れるんだ。さっきみたいなセクハラもあるしな。」

 

「??????」

 

コイツ何言ってんだと言った顔でジョッキを煽る男。

幼馴染二人で飲みなおすつもりだと思っていたからこそ、今その場で鎮座している勇者が分からない。

 

そして勇者は意を決したように口を開いた。

 

「...お前にはパーティーから抜けてもらう。戦士の役割なら代えは効くし、他の二人の戦意を減衰させるわけにはいかない。本当に悪いが、受け入れてくれ。」

 

そう言う勇者。

しかし、外道戦士は目を丸くした後に噴き出す。

 

「んんぇ~~~~?なんだそれ?面白い冗談だな。それとも脅しか?でも興醒めだぜ。ただの説教とか....別に羽伸ばすくらいしても良いだろォ?おれもどる。」

 

「ちょっ、おい......」

 

勇者の静止すらも聞かずに酒場に戻る。

 

「おっ、兄ちゃん大丈夫か?」

 

騒いでいたおっちゃんの一人が聞いてくる。

そこでおっちゃんの隣の席に座って酒を注ぐ。

 

「あぁ大丈夫大丈夫。なんか小言言われただけだから。んじゃもっと酒飲もうぜ!!」

 

そうしてそれぞれの夜が更けていく。

 

 

 

 

 

 

「ヴァ~~、頭いてぇ。」

 

頭を押さえる外道戦士。

なんかこの世の終わりかのように痛む。

酒を飲み過ぎたのだろうか、記憶がない。

 

しかし取り敢えず身支度を整えて水を飲むとしばらくゲボを吐く。

しばらくゲボ吐くと、あることに気づく。

そう言えば勇者が起こしに来ないな。

もしかしてアイツも悪酔いしたか?

 

そう思って落ち着いた頃合いで部屋を出て、隣の部屋をノックする。

 

「おい、朝だぞユーサ!おいユーサ!?」

 

勇者の名前を呼ぶ。

しかし返事がない。

ならばと隣の彼女たちの部屋に行くも、誰も返事しない。

それどころか.....

 

「...いねぇ。どうなってんだ。」

 

茫然として呟く。

 

下に降りると宿屋の主人が男を迎える。

 

「おっ、戦士の兄ちゃん!?なんでまだこんなところに居るんだ!?」

 

「えっ....?」

 

宿屋の主の言葉に固まる。

そして宿屋の主人は続けて口を開いた。

 

「もう馬車に乗って行っちまったぞ!!」

 

「はぁ!?マジで!!?」

 

思えば、なんか夜言われたような気がする....。

もしかすればそこに何か重要な事があったのかも。

 

「いや、後から来るって言われたから俺が厨房に引っ込んだ時に行った物かと。」

 

どうやら勇者はそう言ったらしい。

...昨日俺は酔って何を言ったのだろうか。

もしかしてこの街でやりたいことがある的なことか?

だとしたら急いで合流しないと、向こうで待っているかもしれない!

 

「おっちゃん!宿代は今払うし、飯は良い!!とにかく馬車を手配できないか!?」

 

外道戦士が詰め寄ると、宿屋の主人は頷く。

 

「わ、分かった!手配する。それと宿代はもう貰ってるから馬車代だけ用意しろ!!」

 

そう言われて宿屋の主人は外に出た。

急な申し出だが、大丈夫だろうか?

 

 

 

どうやら奇跡的にも荷物を運ぶ用の馬車が空いていたようだ。

藁や籠に入った鶏。

その荷台の中で揺られている。

正直、乗り心地はお世辞にも良いとは言えないが、まぁ仕方ない。

 

揺られること3日。

宿屋のおっちゃんからウィンチェスターという街に向かったと聞いたが、もう着いたのかな?

外に顔を出すと、馬車が動きを止める。

外に出て、馬車の前に行くと馬が泡を吹いていた。

 

「...おっさん、どうしたんすか?」

 

聞くと、御者のおっさんは困ったように頭を掻く。

 

「いや、悪いが馬がイッちまったようでな。ここまでしか無理だ。」

 

マジかよ.....。

態々金まで払ったのに馬が途中で死んじまうなんてなんて日なんだ。

今日は厄日かもしれない。

ていうか.....。

 

「じゃあ俺はこのまま野宿ってことすか?」

 

そう言うと御者のおっちゃんは少し考え込むとお金を渡す。

 

「こりゃ俺の所の落ち度だ。金は返す。ウィンチェスターの途中に村があるからそこで一旦止まると良い。本当にすまんな。」

 

「....まぁ、そこまでしてくれるなら良いっすけどね.....。」

 

複雑だが、金を返してもらってその上村の場所も教えてもらえた。

なら別にもう文句はない。

 

夜になれば魔物が活発になるだろう。

速く森を抜けないと。

 

「そういえばおっちゃんはどうするんすか?」

 

外道戦士が聞くと御者は答える。

 

「伝達結晶とか売り物以外ないからな。伝書鳩は送ったから夕方くらいには馬車が来るさ。そうすれば荷物が詰め込める。

それに、聖水も自衛用に積んでるんだぜ。」

 

人が来るのか.....。

ならやられた後に、物資とかスカベンジする為に張り込んでおくのはやめておいた方が良いな。

 

「...そうっすか。なら俺、行きますわ。」

 

そう言って早歩きで北東に歩き続けた。

周りはそこまで魔物の気配はない。

だがこれは今が昼で、また日光のよく当たる道だからだろう。

 

北東に歩みを進めていると、村が見えてくる。

こじんまりとした村。

結構歩いたからこそ見つけた時はとても嬉しかったな。

 

そう思い、村に入る。

看板を見るとアバダン村という名前らしい。

 

...やっぱどっか寂れてるな。

正直、早くアイツらに追いつかないといけないわけだし、こんなところに滞在する暇はないのだが。

だがしょうがない。

 

村に入るも、村人はみんな静かだ。

どこかみんな元気がないように見える。

どうしたのだろうか?

 

見ると建物の一つが壊れていた。

荒らされたかのような様相だ。

 

「...旅の人か。」

 

村の中をうろついていると、おじさんが話しかけてくる。

 

「あっ、はい。あの、ここって宿屋ありますか?」

 

外道戦士が聞くと、おじさんが首を振る。

 

「そんなもの、この村にはないよ。魔物の襲撃で壊滅しちまったのさ、この村は。」

 

なるほど...だからこんな状態なのか。

...まぁ正直関係ないけど。

旅人をもてなす余力もない村には何の用もない!

 

「...旅の人、少し頼まれてくれんか?」

 

「え?」

 

おじさんは急にそんなこと切り出し始める。

そして俺の返事を待つことなく話はじめた。

 

「魔物共に攻め込まれて若い男はみんな殺されてしまって、そんで奴らは交換条件を出してきたのだ。....村のうら若い聖女様を差し出すように言ってきたのだ。ワシらは村を残すには差し出すしかなかった。だが、それはワシらの背信を意味している。....村は活気がなくなった。ワシらのせいで今も聖女様が苦しめられているとな。」

 

自分語り長いよー。

もう正直コイツが何を言い出すか分かっている。

だが、そんなことする時間はない。

俺はアイツらに追いつかないといけない。

 

考えてもみろ。

俺が居ないとなるとアイツらはどうするか。

待つか?

勇者はまぁ幼馴染だし?

待ってくれるだろうが、女連中がなぁ。

アイツら俺のこと嫌いだろうし、これ幸いに新しい戦士を探してきそう。

そうなると、せっかく勇者と幼馴染で同じパーティになることで、勇者パーティとして恩恵を受けていたのが、全部パー。

後世に名前も残らず、魔王を倒した場合の報酬も貰えない。

勝ち馬を横からかっさらわれちゃ堪らないのだ。

 

しかし目の前の男が考えていることなんておじさんには分かるはずもなく、おじさんは頭を下げる。

 

「頼む!聖女様を助け出しに行ってくれんか!?やってくれればワシらは出来る報酬はなんでもする!!」

 

そう頼まれてもなぁ....こっちの都合も考えてよぉ。

そんな暇ないってそれ一番言われてるし、断ろう。

そう思った瞬間、ある事を思い付く。

ここで引き受けた振りしてすっぽかしちゃおう。

宿屋はなくてもここにコイツラが住んでいるなら、その家に泊めてもらう事が出来る。

それにせっかくある金をここに落とすのはもったいない。

ならば、助けてほしくば今日の飯と宿を寄越せと言おう。

うん、中々良い感じの考えじゃないか。

 

 

「分かった。引き受けた。」

 

「ほ、本当か!?」

 

「ただ....俺は本来はウィンチェスターに向かう身。ここではなんの寄る辺もない。その住食を提供してくれると助かる。」

 

外道戦士がそう言うと、おじさんは頷く。

 

「それくらいいくらでも!お願いしますぞ旅人殿!」

 

俺の手を取って振るうおじさん。

バーカ。

イヤー騙しやすくて助かった。

正直朝ごはん食べてないから腹減ってたんだよね。

 

まっ、受けれる待遇受けたらとんずらこきますか。

 

 

 

翌日、前日にパンやスープなどを食べてふかふかのベッドで寝たからか、身体は活力にあふれている。

まぁ食べられるなら肉が食べたかったが、襲撃受けた村だ。

仕方ない。

 

そして村の連中も聖女様とやらを助けに行く俺に対して出来るおもてなしをしてくれた。

まっ、今からとんずらこくつもりなんですけどね。

てかそもそも聖女様差し出しといてやっぱ村の雰囲気悪いし、苦しんでいると思うと胸糞悪いから助けにいけとか勝手すぎだろ。

 

そんなお願い、誰が聞くかってんだよ。

...いや、お人好しのユーサなら聞くか。

ま、でも俺はユーサじゃないし、好きにやらせてもらうけど。

 

魔物の居る洞窟への道順をもらったが全て無視。

ウィンチェスターに向かう道を進む。

すると目の前に岩壁と洞窟が見える。

どうやらここを抜ければいけるようだ。

宿屋のおっちゃんや御者のおっさんに聞いていてよかったわ。

 

洞窟に入る。

中は湿っていて、薄暗い。

一応魔物が出てきた時の為に、唐辛子を練り込んだ火薬玉などそこら辺のアイテムは前日に何個か作っていた。

 

まぁ正直魔物が出て来たなら首落としたいのだが。

あんなこと出来るのは相手が魔物であるという大義名分があるから。

あくまで俺は人類の味方だからね。

 

そう思い歩いていると前方から歩く音が聞こえる。

 

「ッ!?」

 

近くの大きな岩陰に隠れる。

そして顔だけ出す。

そこには取るに足らないゴブリンが2体。

そして後ろにはレッドキャップ。

 

微かに奴らの声が聞こえてくる。

 

「オンナ...ヤッタ.....」

 

「ナグッタ....オモシロイ......」

 

愉快そうにきゃっきゃっと飛び跳ねながら魔物はそう言っている。

....女性を巣に連れ込んでいるのか。

やれやれ。

別の洞窟には聖女様。

そんでもってここでも女か。

魔物の繁殖力は無尽蔵か?

 

...今度、首を斬るのではなく性器を切って見てもいいかもしれない。

 

そう考えていると連中はどこか横穴に入っていった。

 

こういう巣穴は警戒する必要がある。

アイツらは賢くはないが姑息だ。

罠や落とし穴を仕掛けている可能性がある。

気を付けて進もう。

 

忍び足で慎重に進んでいくと光が見える。

おっ、もう出口か。

いやたわいないな。

さっさと合流しないと。

そう思い、足を踏み入れるとそこは....。

 

何匹もの魔物と、縛られた少女。

そして....いやこれは口に出すのはやめておこう。

つまりはそういうことだ。

魔物捕まった奴の末路、ありがちな最後だ。

 

ただヤバいのが。

ここは広場上になっている。

隠れる場所はない。

 

魔物はこちらを見ると、獲物が来たとばかりにガシャガシャと武器を鳴らす。

うっわぁマジで今日厄日だろ。

後ろに後退するか?

いやあそこは横穴があった。

逃げれば奇襲されかねない。

ここは広く、見通しが良い。

それは隠れたり奇襲したり出来ないことを意味するが、それは相手も同じだ。

 

でも数が多いな。

そしてレッドキャップなども舌なめずりしている。

傍らには女と共に、冒険者であった者たちの骨。

多分非常食にされたんだろう。

 

そしてそいつらは使っていた少女を体に縛り付けている。

こちらに余裕の笑みを浮かべてきた。

それはさながらこれならこちらを狙えないだろと言わんばかりに。

 

....なんだカモか。

こういう人を盾にすれば大丈夫と思い込んでいる連中ってのは楽なんだよなぁ。

盾にするということは自分の耐久に自信がないということ。

 

じゃあやり様はある。

 

相手がこちらに肉迫する前に唐辛子爆弾を投げる。

相手は獣の癖に生意気に火とか盛ってるしな。

 

そしてゴーグルとマフラーで敏感な所を覆った。

次の瞬間、洞穴内を赤い霧が包み込む。

 

「ゴッギュァァァアアアアア!!!」

 

「イダイ!イダイィィ!!!」

 

小鬼共は転がる。

はえ~すっごい面白い。

その隙に相手に向かって走り込む。

 

「ッッ!!!」

 

そのまま走り際に、剣で首を斬る。

そして隣の小鬼はこちらのたいまつを狙ってくる。

 

「へぇ~たいまつが欲しいのかよ。ほしけりゃくれてやるよwww」

 

そう言って目に押し付けた。

絹を裂いたような声を発するゴブリン。

うっはwww何だその声。

メスかな?

 

そして苦しんでいる奴からナイフを取ると、脇差しで喉笛を掻き斬る。

矢を持つ者や、杖を持つシャーマンもいるけど、辛みと痛みのせいでまともに集中することも出来ない。

 

「寄越せよぉゴミ共!!テメェらに文明の利器は百年はぇぇよ。」

 

そんな遠距離勢に毒ナイフを投げつける。

片っ端から小鬼からナイフを取ると、それを投げつけた。

ゴブリンのナイフは毒が塗られている為、刺されるわけにはいかない。

だが、それは相手から見てもそのはず。

 

投げるナイフは彼らが盾にしている人間にも当たる。

しかしそんなこと知ったこっちゃない。

なんならゴブリンのガキ生む奴も一緒に殺せるんだから感謝してほしいわwww

 

魔物は同族すらも厭わずに攻撃してくる相手に動揺する。

相手は今までの冒険者が人質によって思い通りに動けないところを襲ってきた。

だからこそ、敵がその前提を壊してきたので対応できないのだ。

 

「おら!追加の爆弾だwwここイカ臭かったんだから匂い消せて嬉しいだろwww」

 

唐辛子爆弾を投げつける。

再度魔物達は動けなくなる。

彼等の感覚器は暗い洞窟の中で発達して敏感だ。

だからこそ唐辛子爆弾は彼らにとっては天敵に等しい。

 

相手のやりたいことを完封して勝つ。

それがゴブリンたちの必勝法だった。

だが、それが通じない。

完封される恐怖。

それが彼等を苛む。

 

そして外道戦士は歩きながら、地面に蹲るレッドキャップに対してなにも言わずに剣で何回も体を刺す。

噴き出す血。

執拗に刺すその姿は笑みを浮かべていた。

 

ゴブリンたちは後ずさる。

この群れにおいて一番強い種族であるレッドキャップ。

それがすぐにここまで殺されたのだから。

 

すると、ゴブリンの一体がナイフを構えて飛び付こうとする。

目を刺すことで視界を奪おうとしたのだろう。

だが、彼はそれを腰のこん棒でボールを撃ち返すように殴ると、ゴブリンを踏みつけて頭を連続で殴る。

直ぐに殺したければ剣で斬ればいいだけだ。

それなのにこの男は打撃武器を使っている。

 

痛めつけるのを楽しんでいるのだ。

そしてゴブリンが動けなくなるのを見ると、鼻を踏み潰してゴブリンたちを見る。

 

「あれ、5体だね。」

 

「ギャッ....ギャッギャッ......」

 

後ずさるゴブリン。

しかしそんな彼らに無常にも近づく外道戦士。

そして彼は笑いながらナイフを投げる。

ナイフは足や胴体、腕など見境なくゴブリンの体に刺さった。

 

そして足をやられて逃げずに匍匐前進するゴブリン3体を後ろからもぐらたたきをするように剣を振り下ろした。

 

「アッハハハハ!!!ユーサが居ないから言えるけど弱い物虐め楽しいぃ~。どうだ!人間様は偉いだろ!えぇ!?首切ってトーテムポールにしてやるからな?いろんな人間殺してきた、村も潰した。これが報いだ。....まっ、俺魔物になんの恨みもないんだけどさ!勇者が出るような村だから?」

 

血を浴びて笑う様はまさしく悪魔。

しかし間違いなく、捕まっている女性たちにとっては救世主とも言える存在だろう。

 

残り2体は棍棒でぶん殴って処理すると、奴らのナイフを使って岩壁に死体を刺し留める。

まるで蝶の標本のようだった。

 

そして外道戦士は捕まっている女性たちに近づいていく。

ほとんどは涎を垂らしている。

唐辛子爆弾のせいでもあるが、もう壊れているのだろう。

腹も膨れている。

人類に害なす魔物の子。

 

「....腹膨れてるならしょうがないな。これ、ギルドでも言われてる処理の仕方だし。俺悪くねぇよ?」

 

そう言って彼は首を抑え込むと目を閉じさせて、刈り取った。

一度魔物によって壊された人は戻ることはない。

なら楽にしてやるしかないというのが冒険者ギルドの見解だ。

まぁユーサはそれを良しとしないが。

でも情にほだされてガキが生まれれば必然的に敵が増えてしまう。

殺すのも、...冒険者の義務だろう。

 

 

それを何人かに行う。

どうやらほとんどの人が壊されてしまっているようだ。

まぁ、こんなもんだろうな。

 

そんで....コイツだ。

 

金髪のガキ。

ガキと言っても14くらいか?

奴は意識を持っているようで、唐辛子の辛みに咳をし、涙を流して苦し気にしている。

 

全裸に剥かれた身体は打撃痕や火傷痕がある。

顔に傷つけなかったという事は、ゴブリンの中でも顔というのは大きな要素なのだろうか。

まっ、そんなことはどうでもいいか。

腹は膨れてないが....でも、コイツ多分やられてるよな。

 

隣で淡々と同じ境遇の女性をやったのだ。

目の前の戦士に対して怯えている。

 

そんな彼女に声を掛ける。

 

「そんな怯えるな....、お前は腹が膨れてない。ギルドの規則に則っていない以上、殺すわけにはいかない。」

 

「ほ、本当ですか!?あ、有難うございます!も、もしかして貴方、アバダン村からの救援ですか!!?」

 

アバダン村?

はて、どっかで......。

あっ!俺が依頼受けた振りしたところじゃん。

えっ、もしかして.....。

 

「お前が聖女か?」

 

「は、はい!わ、私アンリエッタって言います!た、助けに来てくれて有難うございます!」

 

アンリエッタという少女は今にも泣き出してしまいそうな様子を見せる。

 

聖女ってガキでもなれるのか。

てか貫通してるなら元聖女じゃね?

いやそんなことどうでもいいわ。

奴らが言った洞窟。

あそこから移動してきたのだろう。

 

もし大真面目に受けていれば何もない洞窟を彷徨うことになっていたのだ。

クズ村人め。

 

確かにこいつを連れ帰れば、報酬がもらえる。

でもなぁ....場所がなぁ。

元々の洞窟から見つけてない以上、なぜそこに行かなかったのか追求されそうだ。

それに早く勇者の元に行きたいのだ。

 

...いや待てよ。

良い事思いついたぞ。

コイツを助けて報酬をもらう。

そしてこの洞窟を抜ける際に誰か肉盾を護衛として用意してもらうのはどうだろう。

正直、ここまで派手に喧嘩を売った以上、残った敵が俺に復讐しようとしてもおかしくはない。

ならば誰か身代わり要因を用意しておくのはどうだろうか。

一緒に街に行きたい人ー!みたいに言ってさ。

 

それに....勇者と一緒に居るあの魔法使いのガキ。

ことあるごとに突っかかるし、魔法が使えるからって俺を下に見ているガキ。

ちょうどそのガキと同じ年齢くらいか。

この子には悪いけど、八つ当たりさせてもらおう。

 

「誰が助けるって言った?」

 

「え....?」

 

目の前の少女は目の前が真っ白になったかのような面を見せる。

 

「こちとらボランティアでやってじゃねぇんだよ。助けてほしければそれ相応の振る舞いって物があるだろ?」

 

「そ、それ相応の振る舞い....そ、それって.......」

 

凍り付いたかのような表情で震える聖女。

その間も後ろには注意を向けておく。

この間にやられちゃ世話ないからな。

 

そして少女は息を呑むと、足を広げ...て待て待て待て!

 

「ど、どうぞ...わ、わたしを...」

 

「待て待て待て!!ちっげーよ!!何勘違いしてんだ!!」

 

目を逸らし怒鳴る外道戦士。

そんな彼の声にびくりと震える聖女。

 

外道戦士は手を広げる。

 

「誰が魔物の中古なんか欲しいっつたよ!!...いや、これは俺が悪いな。言わないと分からないのは当然だ。てか八つ当たりするなら俺が言った方が早いじゃないか。」

 

そう言って外道戦士は彼女の腕を縛っている縄を切る。

 

「逃げようとしてもいいぞ。...まぁまだ魔物が残っているかもしれないのに、一人で逃げるのはお勧めしないけどな。」

 

「い、嫌です!逃げません!逃げませんから!!」

 

そう言うと、彼女は叫ぶ。

このまま捨て置かれれば死ぬ。

それがはっきりと分かるからだろう。

 

「土下座して靴を舐めて復唱しろ。申し訳ございません、私は無力です。魔法が使えるだけのガキなのに見下しちゃったりしてごめんなさい、助けてくださいお願いしますってさ。」

 

彼女は言われた通り土下座をして靴を舐めながら言う。

 

「も、申し訳、ございません...私は無力で身の程知らずの馬鹿女です。...ま、魔法が使えるだけのガキなのに見下してごめんなさい。た、助けてくださいっ!お願いします!!」

 

その様を見ると外道戦士は笑う。

 

「そこまで言えとは言ってないが、くっ...くく.....ハッハッハ!!ざまぁ見ろ魔法使い!いい気味だ!!!よしっ!気分が晴れたから助けてやるよ!これでも着てろ!」

 

そう言って彼は鎧の上から身に着けていたマントを彼女に着せる。

 

「お前は前を歩け。後ろに居ると、やられてるのに俺が気づかないとか起きかねないからな!」

 

「は、はい....あ、ありがとうございます。」

 

マントで体を隠しながら、外道戦士が元来た道を行く聖少女。

男はその後を付いて行った。

 

 

 

村に戻った夜。

彼が聖少女を助けたと知れ渡ると、村中は歓迎ムード。

宴会が開かれて、酒や食べ物を振る舞われる。

そしてなによりも金が入ってきたのだ。

 

帰り道

酒を煽りながら、夜の道を歩く。

今日は農家のおじさんの家に泊まることになっているのだ

それにしても最初に話しかけられたおじさんが村長とはな。

しかし、顔を見なかったな。

 

そうして歩いていると、誰かが走って来る。

誰だ?こんな夜中に。

そう目を凝らすと、服をほぼ破かれた金髪の女。

自分が助けたアンリエッタその人だった。

 

彼女は俺に気づくと抱き着いて来る。

 

「ひっ...うぅぅ....村長さん、なんでぇ.......ひぐっひっ.....」

 

嗚咽交じりに鳴き声を上げる。

しかし村長の名前、そして村長の家。

破かれた服を見ると何が起きたか分かった。

彼女は襲われたのだ。

人間に。

ゴブリンにやられたように。

 

そんなことはよくある。

いちど魔物にやられた女性が街に戻っても人間による二次被害がある。

魔物がやったからこそ、自分もやっても良いとかそんな下衆な理由で。

正直、魔物の後とか絶対嫌だろと俺は思うのだが、世の中には物好きが居たものだ。

...いや、もしくは自分よりも弱いと確信できる相手にやることで優越感を満たしたいのか。

なんにせよそれ以外で優越感を満たす方法何て幾らでもあるだろうに理解できないな。

 

 

彼女は嗚咽交じりに話しを切り出す。

 

「えぐっ、おねがいじます!この村からつれ、だしでぐだざい!もう、ここにはいられな.....」

 

「いや、俺もパーティと合流する必要があるからな。重荷を抱えるわけにはいかないんだ。」

 

「そんなっ!お願いします!おねがいします!!!」

 

彼女は歩き去ろうとする俺に縋りつく。

やっぱ助けたのは失敗だったな。

面倒なことになった。

 

彼女にとってみれば村の代表である村長から襲われたのだ。

権力のある大人に襲われた後、どうなるかなんて想像に難くない。

ずるずると他の連中も追随してくるに決まっている。

 

さっさと振り払ってしまおう。

そう思った矢先に、彼女は叫ぶ。

 

「わ、私!ヒールが使えるんです!それに、毒の浄化だって出来るんです!なんでもしますし、役に立つのでお願いします!お願いしますぅぅ!!!」

 

ヒール、だと。

それに毒の浄化も出来るのか。

...ちょうどパーティ―から外れている都合上、そういう回復手段は持っておいた方が安心だ。

......勇者と合流するまでの間に利用してやるか。

どうせコイツはこの村には居られない。

なら同じ一人でも街の方がいいだろ。

彼女が魔物に襲われたということを知っている人も居ないし、それにそういう取り柄があるならすぐにどっかパーティーに入れてもらえるだろうし。

 

「....良いぜ。でもこれは俺の慈悲によるものだ。言ったことはなんでもやってやる。それでもか?」

 

彼女は息を呑むも、頷く。

 

「そ、それでも良いです!有難うございます!有難うございます!」

 

「よし、それなら早速やるか。」

 

外道戦士がそう言うと彼女は首を傾げる。

 

「やるって何をですか?」

 

すると彼は笑う。

とても悪い顔で。

 

「決まってんだろ。負けっぱなしで狸寝入りじゃ悔しいだろ?」

 

 

 

 

 

「わははは!大漁!大漁!」

 

彼は金貨袋を腕一杯に笑う。

彼がやったこと、それは村長さんの家に火を放ち、彼の庭先に毒を撒いたのだ。

そして村長が外に出た後、すぐに家に忍び込み片っ端から盗んだと言う。

曰く、これで村長は社会的財産を失ったらしい。

今は村を誰かに見られずに出る為に、彼の部屋に居る。

 

正直、彼が金が欲しかったからと思えてならないが、自分の為に行動してくれたのだ。

感謝はしよう。

 

それにしても、私が捕まって乱暴されている時、必死に祈っていると聞こえて来た神の声。

それはもうすぐ自分を救ってくれる私の運命が現れるというお告げ。

あぁ...神よ。

 

「こう、ピシッと儲けられるのは良いなぁ。また誰か悪い事しねぇかなぁ。大義名分がねぇとこういう過激なことは出来ないからなぁ。」

 

こんな男が、私の運命の相手なのですか?

少女は目の前の男を見て、神の声に問う。

だが、当然返答はない。

 

組み伏せた村長が言っていた言葉。

 

『貴様は姦淫を犯した!もう聖女ではない!!ただの餓鬼の淫売だ!!!』

 

教義からすればそうだろう。

最年少の聖女から穢れた元聖女。

村には居場所がない。

それに、目の前の男の人は下衆ではあるが、私を襲ったりはしない。

なら、まだ信用出来た。

 

 

そうして男は村の人に惜しまれながら、歩いていく。

その肩にはたくさんのプレゼントを収めた大きなバックパック。

しかしその後、人目がなくなれば道なき道を歩く影は一人から二人になっているだろう。




多分続かないです。


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街じゃ村のようにはいかない。

「やったぜ...ようやくウィンチェスターに着いた....。」

 

目の前に鎮座するウィンチェスターの城門。

それを目に収めると笑みが出てしまう。

傍らにそれを眺める中古聖少女。

 

村を出た頃には全裸にローブとかいうどこの脱走奴隷だよと言わんばかりの恰好だったが、今や小綺麗な黒い法衣に身を包んでいる。

まっ、俺が通りがかった行商人から買ったからなんですけどね。

 

別にこのままじゃ可哀想とかそんな理由じゃない。

ウィンチェスターは大きな都市国家だ。

だからこそ、そんなところに14歳の少女をほぼ裸の状態で連れ歩いてはどんなふうに思われるか。

十中八九奴隷と思われるだろう。

すると奴隷反対派に絡まれたりなど面倒な事が起きる可能性が高い。

それならちゃんとした格好をさせてパーティーと思わせた方が良いだろう。

 

ただ、こんな勇者に会うまでの薬草代わりに高額な費用をかけるわけがない。

麻製を適当に黒く染めたような安物だ。

まぁでもちゃんと聖職者然とした恰好にしたんだから感謝しろよなwww

 

「わぁ....とっても大きいですね。」

 

「そりゃお前の居た村と比べたらどこもデカいだろ、何言ってんだ。」

 

小さいし、旅人には不正確な地図渡すし、村長は元とはいえ聖女の少女を襲う卑劣漢。

そう考えると誇れる所なにもねぇじゃねぇか。

いや~俺の故郷、お前の所のゴミ村じゃなくてよかったぁ。

 

「そうですね。....連れて来てくれてありがとうございます。」

 

そう言って彼女は微笑む。

なんだか旅をしている途中からコイツ妙に素直なんだよなぁ....。

まぁ魔法使いの餓鬼みたいに突っかかられても面倒なだけだ。

良い傾向だと言えよう。

 

「分かってるじゃねぇか。俺が連れてきたということを努々忘れるなよ。夜寝る前に神に祈る前に俺に対して感謝の礼拝をしろ。」

 

そう言って門をくぐる。

門番に簡単な身体検査を受けて、門を抜ける。

 

そこは沢山の店や建物が並び、人が多く行き交う。

馬車や飛脚も多く、物資や文書の出入りも激しそうだ。

都市国家らしく活気に溢れていて、見ているだけで楽しくなりそうな光景だった。

 

横の田舎中古娘は目をキラキラと輝かせている。

あんなしみったれた村で育ったのだから当然だ。

 

....さて、どこにユーサたちは居るのかなっと。

周りを闇雲に見渡しても良いが、それでは見つからないだろう。

それなら酒場や冒険者ギルドで聞いて着た方が良いに決まっている。

勇者パーティはそれだけで恩恵を受けられる。

つまりはその恩恵を受けたという痕跡が残るのだ。

 

歩き出そうとした瞬間、横の薬草が足を止めた。

なんだよ....。

彼女が見ている所を見ると、そこにはある光景が広がっていた。

 

「おらっ!テメェにいくらかけたと思ってんだ!」

 

「ひうっ!ごめんなさい!ごめんなさい!!」

 

一人の粗末な恰好の少女が青年に殴られる。

すると少女蹲りながらも頬を押さえて謝り続けていた。

 

「ひどい....。」

 

それを見て、隣の薬草は呟いた。

まぁ確かに傍から見たらそう見えるな。

でも、誰も気にしていない。

俺もその一人だった。

横の薬草が足を止めるまでスルーするつもりだった。

 

ったく、下らないことで止まるんじゃねぇよ。

 

「ありゃ奴隷だな。ガキに労働でもさせてたんじゃないか?」

 

「奴隷...、だとしてもあんな、子供に暴行までするなんて。」

 

咎めるような目で彼を見る薬草。

....薬草をスルーしてギルドに入ろうとしたが、ここは彼女に話しをしておいた方が良さそうだ。

この街に居るならコイツがこんな風な目で奴隷のオーナーを見るようなことがあれば面倒ごとを起こしかねない。

 

「そりゃ、あんな風に物の扱いが酷い奴だっているさ。奴隷に限らず物に当たりがちな奴とかよくいるだろ?」

 

「でも彼女達は人間で!!」

 

「道具だよ。売り手と買い手の間で取引されたれっきとした道具だ。」

 

俺がそう言うと彼女は絶句する。

その目はまるで俺がそう言う風に言うのを予想出来なかったと言わんばかりだった。

 

「この都市国家では奴隷は合法だ。てか奴隷を禁止にしている都市なんか少数派だしな。もし助けたいなどと思っているならやめておけ。奴隷は奴隷主の所有物だ。手を出したり連れ出したりしちゃ人の所有物に手を出したということで逮捕される。覚えておけ。奴隷を暴行している現場を見ても、さっきみたいな咎めるような目つきで見るな。そういう連中は大抵脳足りんで感情を自分で処理できない奴だからトラブルになりかねない。」

 

俺が説明すると彼女は目を伏せる。

...なんだよ。人がせっかく面倒なのを我慢して説明してやっているのに。

何が文句あるんだよ。

 

「そんな....見て見ぬふりだなんて。」

 

あ^~めんどくせ~

下手に元聖女だし、ガキだから面倒くせぇ~。

黙って言う事聞いてくれよ。

ていうかよく考えたら魔物の巣穴でそういうことなってたお前の方が目の前の暴行受けてるガキよりも境遇悲惨だっただろうが。

助けられてよかったぁとか思ってろや。

 

面倒だし、ここは強硬手段に出るか。

俺は腰を屈めると、彼女に目を合わせた。

 

「良いか。二度は言わないぞ。奴隷に関わるな。....もしそれでも聞かないなら、14歳くらいの女の子とか高値で売れるだろうなぁ?」

 

「わ、私を売る気ですか!?」

 

彼女はまさか奴隷が可哀想という話で自分を売るなどということに繋がると思わなかったのか目を丸くする。

 

「良いじゃん、どうせお前俺が助けなかったらもっと悲惨な境遇だったろ?奴隷でもマシだって。それが嫌なら俺の言う事を聞け。村から出るのに言う事聞くってお前言ったろ?」

 

「..そ、そうですね。わかりました。」

 

彼女は歯噛みしながらも頷いた。

コイツ本当に分かってんのか?

,,,,もし分かってないならコイツ切り捨てよう。

ユーサたちと合流すればどうせ切り捨てる。

なら遅いか早いかの違いだしな。

 

駄目な場合での彼女の処遇を決めると、俺はギルドの中に入る。

ギルドはどこも屈強な男や杖持った女などが酒飲んだり、パーティーメンバーと話していたりする。

前なら勇者と一緒にいることで恩恵を得ていたし、うわぁww勇者が幼馴染じゃなくて可哀想~wwwみたいなことを思っていたが、今は俺もこの凡百の中の一人。

 

とにかくギルドのカウンターへと向かおう。

 

 

 

「なんか....探している人?見つかりませんでしたね....。」

 

「....分かり切っている事態々言わないでくんない?」

 

ベンチに座って項垂れる。

受付に聞いても誰一人として分からなかったのだ。

オイオイ、勇者だぞ。

もしかしてアイツ、この街のギルドに寄っていないのか?

いやそんなはずは....。

 

「もう出てるなんてことは....」

 

「....なんで考えたくないことを言うのかなぁ?売り飛ばすぞてめぇ。」

 

考えたくなくて敢えて頭の中から除外していた選択肢を目の前の文句たれに言われる。

正直現実逃避していたところに突きつけられたからこそ、普段は心中でしか言わない悪態が口から漏れてしまった。

だけどそうなると馬車の営業所で聞いた方が良くなるなぁ。

すると、突然。

 

「お困りのようだね、お兄さん。」

 

鈴を転がしたような声。

顔を上げると、身なりの良い少年。

なんだコイツ。

 

他所を見ると、田舎娘はその少年に見とれている。

まぁ顔が良いもんな。

そこはどうでもいいわ。

 

「....なんすか。」

 

俺が困っている事くらい見たら分かるだろうがクソが。

....まぁ今の悪態はただの八つ当たりだ。

口には出さない。

てか基本的に初めてあった人はそう言うところを見せるべきではないのだ。

利用できるかもしれないからな。

だからこそ、彼に対してのこの対応は失敗だったな。

 

「なに、私はこの街に長くいるからね。見ない顔だし力になれるならと思ってね。」

 

「な、なんか凄い良い人ですよ!この人に聞けば探している人について知っていそうな所教えてくれるんじゃないですか?」

 

隣で浮足立った様子で薬草が言ってくる。

大方イケメンと話せてテンション上がっているんだろうな。

だが、彼女の言う通りかもしれない。

少なくともこの街に住んでいるということは利用価値があるということだ。

 

「おや、人探しかい?それなら門番とかのガードに特徴を告げたら良いんじゃないか?彼らの休憩場に案内しようか?」

 

彼がにこやかに聞いてくる。

まさかそちらから言い出してくるとは。

...なんか話がうまく行き過ぎてはいる。

少し警戒はしておくか。

警戒しつつも、最大限利用する。

 

「それなら頼みます。いや~あなたみたいな親切な人に出会えてよかったですよ。」

 

そうやって握手する。

すると彼は目を閉じる。

 

「....大きいね、手が。」

 

「?そりゃ戦士職やってるしな。それと何か関係が?」

 

目の前の男の反応に対して首を傾げる。

俺の手が大きいことに何か文句があるのか?

その細腕へし折るぞこの野郎。

 

「いや、なにも。それじゃあ行こうか。」

 

「はい!」

 

男はそう言うと、俺の手を引いた。

そして薬草は男の言葉に元気よく頷いてついて行き始めた。

 

 

 

「結局何も分からずじまいか....。」

 

「すまない。」

 

「そんな!あなたは悪くないですよ!!」

 

結局騎士たちに聞いたところでユーサたちの場所は分からない。

申し訳なさげにする男とそれを励ます薬草。

まぁ確かに悪くはない。

でも使えねぇわ。

 

「いや、こうなったのは私の不徳の致す所。さぁ私を思い浮かぶ言葉全てを使って罵倒してくれ!甘んじて受けよう!」

 

「なんだお前、急に。」

 

なんか急に叱ってくれ的なこと言ってるんだけど。

マジでコイツなんなんだ?

俺の手を両手で握ってやがる。

男に手を握られて嬉しい訳ないだろ。

 

「遠慮せずに、頼む!これは私のけじめだ!」

 

「いや遠慮とかそれ以前に気持ち悪いわ。」

 

そう言うと、彼はびくりとして押し黙る。

なんだ?気に障ったのだろうか。

でももうコイツには会うつもりはないし、どうでもいいわ。

利用価値ないし。

 

「なんてこと言うんですか!」

 

俺の言動を聞いて薬草は詰め寄ってくる。

コイツ、調子づいてない?

もうマジで売り飛ばそうかな。

金は確実に多く入って来るしな。

 

「いや、ありがとう。今日はこの辺にしておくよ。探し人、見つかるといいね。それと...最近はこの辺りは治安が悪い。夜は宿屋の外に出ない方が良い。」

 

「忠告どうも。」

 

彼の忠告を聞いて形式だけの礼を言う。

すると、彼はそのまま歩き去っていく。

 

そんな後ろ姿を見て、薬草は抗議を訴えるように頬を膨らませる。

なんだその顔、クッソムカつくんだけど。

 

「....なんか文句あんのか。」

 

「べつにないですけど。」

 

売られるのが怖いのか明確に抗議を口にはしない。

口にしない抗議はないも同然。

なら無視して良いだろう。

こんな薬草代わりのことよりも今日の宿を見つけないと。

 

そう思い、宿屋を探して周りに目を向けだした。

 

 

 

 

「...へぇ、来たのかい?」

 

夜の路地。

あんなにも人通りの多かった路地は閑散としていて、人もあまり見られない。

そんな中を歩く顔の良い男とそれを取り囲むようにしている野盗のような恰好の集団。

 

集団はナイフを持っていて、腰を屈めて臨戦態勢だ。

 

「....まさか、レングンス家の末女が男装をしているとはな。おかげで探すのに苦労した。さぁ来てもらおうか。」

 

男の一人が手を差し出す。

それを見て彼?は挑発的な笑みを浮かべる。

 

「....嫌だと言ったら?」

 

「貴様には選択権はない。」

 

そう言って彼女に対して粉を振り掛けた。

口元を咄嗟に抑えようとするが、もう遅く。

身体が痺れてくる。

 

「毒蛾の粉だ。...やはり箱入りお嬢様だな。捕まえること自体は簡単だ。」

 

そう言うと二人が彼を抱えていく。

 

「そいつは奴隷解放の礎だ。奴隷を扱って成り上がったレニングス家の令嬢として、報いは受けてもらおうか。」

 

そう言って男たちは夜の闇に消えていく。

 

(せ...っかく、探していた人を見つけたのに.......)

 

思い描くのはさっきまで一緒に居た少女を引き連れた青年。

探し物が見つかっても、これではどうしようもない。

世の中、ままならない物だと心の中で自嘲しながら、彼?は意識を放り出した。




続かない....この小説は続かないんだ........


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無法地帯では何をしても分からない。

夜。

何故か外が騒がしい。

なんっだようるせぇな。

 

何度も寝返りを打つ。

さっきまで気持ちよく寝ていたというのに、どういうことなのか。

すると、誰かに身体を揺らされる。

 

...この野郎、どいつもこいつも俺の睡眠の邪魔をしやがって。

毛布を被る様にして顔だけ出す。

見ると、起こそうとしているのは二段ベッドの上で眠っているはずの薬草代わりだ。

 

「んだ、テメェこの野郎....殺されてぇか?」

 

「な、なんで睨むんですか!そ、外!外見て下さいよ!!」

 

睨まれてたじろぎつつも、窓を指さす薬草。

余りにも必死な様子を見て、ベッドから這い出る。

 

「テメェどうでもいい事だったらマジで売り飛ばすからな.....は?なんだこれ?」

 

見ると、町が燃えていた。

木造の建物には火が放たれて、燃えており下には粗末な服を来た人たちが暴徒と化している。

昼に見た人々で賑わっていた町はどこへやら。

そこには一つの地獄が広がっていたのだ。

 

「ま、まずいですよ!!早く逃げましょうよ!!」

 

慌てた様子で俺に言ってくる薬草。

...ここの宿は木造だ。

次に火を放たれるのはここかもしれない。

 

「そ、そうだな。....悪かったな睨んで。起こしたこと、一応感謝しといてやる。」

 

「は、はい....。ってそんなことより早く!」

 

急かす薬草。

クソ、ちょっと寝起きで頭が回らねぇな....。

必要な物をなんとか鞄に詰めると服を着替えて扉を少し開ける。

外に、既に暴徒が侵入しているかもしれない。

 

....いないな。

 

「行くぞ。後に続け。」

 

「わ、分かりました!」

 

元気よく頷く薬草を見て、外へと足を踏み出す。

下の階に降りると既に宿屋の主人は逃げているのか人の気配はない。

....客を置いて逃げるのはどうかと思うが、おかげで金を払わずに済んだ。

 

「え、えーとお金は.....」

 

「非常時なんだ。主人も逃げてるし誰も文句言ったりしねぇよ。払わずに行くぞ。」

 

そう言うと、彼女は自分に言い聞かせるように「そ、そうですよね...非常時ですもんね」と言って俺の後を付いてくる。

 

外に出ると、逃げ惑う人々。

そしてそれを追いかけて暴行を振るう奴隷や、逆に返り討ちに遭っている奴隷。

建物などに悪さをしていたり、略奪を行っている連中も居た。

 

「凄いですね.....。」

 

「抑圧されていた人間が弾ければ、際限がないからな。さっさとこの街を出るぞ...。」

 

「うぁあああああ!!!!」

 

薬草に答えていると、叫び声が聞こえる。

見ると、奴隷の子供がナイフを持ってこちらに飛びかからんとしていた。

 

「ッ!!」

 

「ぐぎゃぁ.....!」

 

咄嗟に棍棒を取り出して、振りかぶって奴の頭を打つ。

すると、奴は地面を転がり倒れる。

体はビクビク動いているので生きてはいるのだろう。

 

「なっ!?」

 

「正当防衛だ。良いから行くぞ。」

 

そう言って俺は彼女の手を引く。

彼女ももしあのままでは危険な目に遭っていたと分かるからだろうか。

それ以上、追及はして来ない。

 

そして城門を目指して隠れつつも、進んでいく。

そこで半ばに達した時、広場が見えた。

 

広場では一人の男が立っていて、演説のような物をしている。

周りには粗末な服を来た奴隷共が守衛のように彼を取り囲み守っている。

物陰に隠れてその様子を見ることにした。

 

『我々は今まで、豊かな者たちが更に豊かになるように踏み躙られてきた。今や、我らが立ち上がる時が来たのだ!従来の経済制度を破壊し、我らの新楽園を作ろうではないか!!同志諸君よ!我らには腐った現体制を叩き潰す権利がある....。』

 

「はいはい....典型的なスピーチですね。...奴隷反対派も大きく出たもんだ。」

 

俺はぼそりと呟く。

そして俺と同じく、その様子を見ると彼女は声を上げる。

 

「あ、...あれって!」

 

「は?...あー。昼話してた奴だな。」

 

よーく見ると広場の中央。

演説をしている男の隣に椅子があり、そこに縛り付けられている身なりの良い金髪の少年。

それは昼に俺たちを守衛の下に案内してくれたりした少年であった。

 

あー、アイツも捕まったか....

まぁ身なりが良い分、見るだけで富裕層って分かるもんな。

そりゃ狙われるわ。

運がないな。

 

『今隣にいるのは我らを苦しめた奴隷市場のレニングス家の者!我々は都に要求する!5時間以内に都の奴隷の権利を回復しろ!さもなくばこの貴族を血祭に挙げて、反乱の狼煙とする!』

 

「狼煙なら家燃やしまくってるから既に上がっているだろ.....。馬鹿らしい.....行くぞ。」

 

俺は周りを見渡し、迂回路を探す。

すると隣の薬草が袖を掴む。

 

「だ、駄目ですよ!あれだけ良くしてもらったでしょ!?助けましょうよ!!」

 

何を馬鹿な事を。

この状況を考えてみれば一番に優先すべきは何か分からないのか?

俺は呆れ顔で彼女に言葉をかけた。

 

「どっちにしろ案内されたところで有用な情報は手に入らなかった。それなら別に思い入れもない。そんなに助けたいならお前だけで助けたら?」

 

そう言えば、ユーサはどうしてるだろうか?

いや、アイツの事だし他の女連中が頑張って安全に避難しているところか?

なんにせよこんなところでむざむざ死ぬとは考えにくい。

 

「そ...そんな...、鬼!悪魔!人の心って物はないんですか!?」

 

「なんとでも言え....。俺は逃げる。」

 

そう言って足を迂回路の方向に踏み出した、その瞬間聞き捨てならないことが耳に入る。

 

『我々の思想にはこの街を去った勇者も理解を示した。神に選ばれし男が我らの活動を後押ししてくれたのだ。この時点で、我らの方に正義があるのは確定的に明らかだ!!!』

 

「....はぁ?」

 

おい、今アイツなんて言った?

勇者がどうたらとか言ったよな....?

言うわけないだろ....アイツが。

アイツは確かに奴隷と聞けば良い顔はしないが、こんな強硬手段を取るような人間ではない。

良くも悪く甘ちゃんなのだ、アイツは。

こんな街に火を放って暴動を招くなど良しとするはずがない。

風評被害も甚だしい。

 

「気が変わった....。アイツ、一発殴らなきゃ気が済まない....。」

 

「えっ!!?...あ、あれだけ逃げるって言ってたのに...どうしてです?」

 

彼女は俺が急に意見を翻したことで目を白黒させながら尋ねてくる。

だからこそ、俺は簡単に答える。

 

「アイツ、勇者の名前を使いやがった...。そんなの、パーティーメンバーとして見逃せるはずがない。」

 

俺がそう言うと、彼女は俺をまじまじと見つめる。

 

「えっ...パーティメンバーって....誰の?」

 

「誰ってこの話の流れで分かるだろ。勇者だよ。」

 

なんだコイツ。

俺が答えると、彼女は信じられないといった顔をする。

 

「えっ...それって冗談じゃなく?本当に?」

 

「...お前、舐めてんのか?こんな状況で冗談なんか言うわけねぇだろ殺すぞ。」

 

何がそんなに信じられないと言うのか。

今、どうするか考えようとしているから話しかけるな。

まずは奴隷が囲んでいるあそこ。

そこをどうにかしなければあの男に近づくことは出来ない。

流石に数で来られると厳しいからな。

...いや、アイツは人質を使って奴隷の権利を要求している。

ならばあの貴族を解放すれば奴の計画は滅茶苦茶になるんじゃないか?

 

「そんな...信じられない。こ、こんな人が勇者のパーティーメンバーだなんて...」

 

「うっぜぇ...いつまで言ってんだお前。お前の言う通りアイツを助けてやるって言ってんだ。黙って従え。良い事を思い付いた。」

 

街に入ったら道具を買い込む癖があって助かった。

手元には唐辛子爆弾。

少なくとも生き物相手なら投げりゃ成果を出す爆弾だ。

そんでもって近づくには....。

 

その辺を見回す。

すると装備屋が襲われているのが見える。

それを見て、男は笑みを浮かべた。

 

「行くぞ.....。」

 

「は、はい....。」

 

中を覗き見ると、奴隷の餓鬼どもが金になるかならないか分からない癖に武器や防具、金貨などを取っている。

 

「俺が一気に中に躍りでる。全員やったらここでお前用の目と口鼻を防護出来る装備を探すぞ」

 

「そ、それって....もしかしてまたアレを使うんですか?」

 

青い顔をしてこちらに問う彼女。

そういえば初めて会った時は俺が投げた唐辛子爆弾の中で喘ぎ苦しんでいた時か。

魔物に捕まっていた時だし、トラウマにでもなったのだろうか?

 

「そりゃあれ使ってりゃ大抵の生き物には先手取れるからな。なんだお前、文句あんのか?なら代案出してみろって。」

 

俺がそう言うと彼女は首を横に振る。

 

「な、ないです!こ、子供相手ですし....その気絶するくらいで。」

 

まだこんなこと言ってやがる。

そりゃ聖女様ならぶっ殺せとか言えないもんな。

甘いんだよなぁどいつもこいつも。

こんな状況下なんだから少しは人としての汚い所も出してけよ。

良い子ちゃんで居ようとされると面倒なんだよなぁ。

 

「生きるか死ぬかは殴ってみなきゃ分からん。」

 

そう言い残して中に入る。

するとガキの奴隷がこちらを一斉に見る。

店の奥に居るガキが弓矢を引こうとする...が、弦が硬くて苦労しているようだ。

もしまかり違って弓なんか撃たれたらたまらない。

足元に入れていたナイフを投げる。

子どもの頭にぶっ刺さった。

 

「おぉ、大当たり。」

 

「マーカス!テメェ....!!」

 

ガキの一人が剣を持って此方に走り出す。

...ま、ゴブの方が習熟してる分脅威なんだが。

 

「奴隷の餓鬼に剣が振れるなら...戦闘職なんか必要ねぇんだよぉ!!」

 

腰元のこん棒で殴る。

倒れた奴を踏みつけた。

 

「は....は.......」

 

残った一人が尻もちを着いている。

見るとひとりだけ店から抜け出そうとしていたようだ。

 

「おい、...ぶたれたくないなら非武装を証明して、伏せてろ。」

 

そう言うとその奴隷は過呼吸になりながらも首を傾げる。

ガキが.....話が分からないから怠いんだよなぁ。

 

「分かんねぇかなぁ...裸になって後ろ手に跪いてろって言ってんだ。」

 

そう言うと、その奴隷は恐る恐る服を脱いで手を頭の後ろに回して跪く。

どうやら女だったようだ。

小汚くて分からなかった。

まぁこれで制圧したと思った奴隷に一矢報いられるなんてことはなくなったな。

 

なら物品を物色するとしよう。

 

「これじゃない....これでもない。....これだ。」

 

ゴーグルを見つけた。

これで目は保護出来るな。

口元は防塵加工のスカーフじゃなくても濡らした布で覆えば行けるだろ。

てか何薬草代わりの装備をマジで探しているのか。

濡れた布で良い、良い!

 

さて...この奴隷はどうするかな。

俺が店頭から出て、その奴隷の前に立つと跪きながらびくっと肩を揺らす。

....待てよ、コイツはさっき他の連中がやられてるのを見ても反抗しようとせずに逃げようとしたよな。

もしかして....。

 

「おいガキ.....。」

 

「ひゃっ....ひゃい!!」

 

ガキは声を掛けると裏返った声で返事する。

どうやら怯えてるようだ。

だからこそ、やさしい声で声を掛ける。

 

「俺は何もお前を傷つける為に居るわけじゃない。...他の連中は俺がみんな倒しちゃったけど、君は俺が憎いかい?友達なんだろう?アイツら。」

 

俺がそう言うと彼女は首を横に振る。

 

「ぜ、全然!わ、私あの子たち知らない!こ、ここで偶然居合わせた知らない子達だもん!」

 

彼女は必死に否定する。

...まぁ本当は知っていようがどうでもいい。

重要なのはそこじゃない。

 

「ならさぁ...君だけ、助けてあげようか?辛いんだろ、奴隷なのはさぁ。」

 

そう言うと彼女はピクリと動きを止める。

 

「え...それって本当?」

 

食いついた。

 

「あぁ本当だとも。お兄さんの役に立ってくれるなら約束しよう。」

 

俺がそう言うと彼女は首を縦に振る。

 

「た、立つ!立つから!!お、お願いします!助けてください!!」

 

俺にそう懇願してくる奴隷。

これなら言う通り動いてくれそうだ。

 

「なら、あそこの広場にこれを二個投げ込んでくれないか?そうすれば君を助けよう。出来るかなぁ?」

 

俺が唐辛子爆弾を見せる。

すると彼女は首をブンブンと振った。

俺はあくまで柔和に見えるように笑みを見せる。

 

「...良い子だ。くれぐれも俺に投げようだなんて考えるなよ。俺は対策が出来ている。....そんな真似見せるならそこらに転がっているガキと同じ目に遭わすぞ。お前の軽い頭でも言っている意味が分かるよな?」

 

「は、はひゅ!!わ、わかりました!!」

 

頭を撫でつつ、耳元で脅すと首ががくがくなるほど頷く。

俺は唐辛子爆弾を持って走っていく奴隷を見て、店の外に出る。

すると薬草は俺をジト目で見ていた。

 

「下衆ですね....。」

 

「うるさい。良いからこれ使え。後、布は今着てる奴でもちぎって濡らして口に当てろ。」

 

それだけ声を掛けるとゴーグルとかけて、口元を防塵スカーフで覆う。

すると、赤い煙が上がった。

そこに走って突っ込んでいく。

 

連中は奴隷であるからか、粗末な服を着ており、防護している奴でも軽装だ。

ならば、その間に剣を滑り込ませれば楽に処理できる。

 

「がはっごほっ....目が目がァァあああ!!!ごぷっ!!?」

 

「見えない...目が開けられない.....」

 

一人二人にのあばらの間に剣を滑り込ませてかき回して引き抜くと血が面白いくらいに噴き出す。

今は俺は街を混乱に陥れているテロリストを鎮圧しているのだ。

俺が正しい。

だから何しても良いんだなぁ!!

 

「....人の所業と思えません。」

 

隣で薬草が愚痴るように言っている。

見ると、更に自分の衣服を破いて俺がやった奴の止血をしていた。

これ、あのままじゃ下着だけになりそうだな。

....まぁ、この作戦においてコイツのやることは実はそんなにないし、なんでもいいか。

あの貴族が傷ついていた場合の治療、もしくは俺が縄を斬っている間の肉盾だ。

まぁ回復魔法を使わないなら何していても別に良い。

それ使われるとすぐ相手が立ち上がって来るからな。

 

まずは演説していた奴の後ろに回って....。

 

「なんだこれは...クソっ!ブルジョワが!!!」

 

まぁだ言ってるよ....。

何か言っているのを無視して男の後頭部を棍棒で力いっぱい殴る。

 

「がっ!!ぐっ...そこにいるんだなぁブルジョワァァァ!!!」

 

倒れ込みながらも剣を抜こうとする手を足で蹴って、何度も頭に棍棒を振り下ろす。

棍棒に血が付き、服にも飛び散る。

そして振り下ろせば振り落とすほど体の動きは緩やかに、穏やかになっており遂にはビクビクと震えるだけになる。

 

とりあえず、コイツは無力化出来た。

それを確認すると、縛られているアイツの所へと行く。

 

「むー!むー!!」

 

布を噛まされて何ってるのか分からない。

取り敢えず頭の後ろの結び目を解すか。

そうだ!その前に。

 

「おい、薬草!」

 

「はい!ってわひゃ!!なんですかこれ、真っ赤じゃないですか!!」

 

俺は彼女に棍棒を投げ渡す。

彼女はそれを手にすると弾かれるようにして手から離す。

 

「放すなよ。もし起き上がりそうな奴が居たらそれでぽこっと頭を叩け。もし俺を叩こうとするなら....」

 

「し、しませんよそんなこと!すくなくとも一緒にここまで来たんですから少しは信頼してくださいよ!!」

 

彼女はそう訴えつつ、嫌々と言った様子で棍棒を持つ。

どうだか....。

信じられないが....まぁ、この状況で俺の頭を叩いても奴に利益はないか。

ならばとにかく目の前の結び目を解くか。

 

結び目を解く。

すると、彼は深呼吸した後に俺を見る。

 

「ぷはっ....まさか君が来てくれるだなんて、とても嬉しいよ。ごほっ...とても刺激的だね、好みだよ。」

 

「うるさい....俺はまだ助けると言った覚えはないぞ。」

 

なんか唐辛子で鼻と目をやられているはずなのに頬を赤らめているんだが....。

能天気な顔で礼を言っているし、何故だかイラっとする。

だからこそ、彼を不安にさせるようなことを言った。

しかし、彼は貴族であるなら逆に言えばこのまま俺が人質として金銭とか要求出来るんだよなぁ....。

まぁ、それをすると体制を敵に回してしまい、後がないのでしないけど。

 

しかし、俺の言葉を聞くと彼は逆に恍惚とした表情をする。

 

「あぁ...やはり君は僕が見た通りの人間だ。自分より弱い人間と分かると上から行くような感じ。それに私の貴族という立ち位置を利用しようとしているね?私にとっては理想的な人物さ。」

 

「おら、拘束解いてやるよ。かぁ~やさしいぃ~。俺優しいわぁ~!何分かってたみたいな口調聞いてんだ俺は人間の鑑だろうが、訂正しろ!」

 

何故か分かってたみたいな口調をそんな顔でされるとすごくイラッと来た。

コイツの想定内に振る舞うのが癪だったのだ。

すると、彼は笑う。

 

「そうか...ごめんね。私の目が節穴だったよ。許してほしい。」

 

...素直に謝られるとやりづらい。

そうだ、コイツに出会った時から感じていた感じ。

それはやりづらさなのだ。

まるで見透かしたかのようにこちらを見る目。

そして自分から責めるように言ってくる感じがどうにもやりづらい。

 

まぁとにかく俺はコイツを解放した後、どっか適当な所で床に転がっている首謀者に勇者の名前を出したことを後悔させられればなんでもいい。

後ろではえいっという声と共に打撃音が聞こえる。

おぉ、やってるやってる。

やればできるじゃないか。

虫も殺せないかと思ってたが、どうやら人の頭を殴る程度は出来るようだ。

 

しかし、それにしても....結び目が硬い。

どうすれば良い物か...。

俺が考えていると、彼は口を開く。

 

「今着ている服が切れても良いから剣で斬るってのはどうかな?」

 

....まぁそれしか方法はないだろう。

言われるがままというのはどうにも気が進まないが、それしかないならしょうがない。

 

「下手に動くなよ....体の方斬りかねないからな。」

 

「それならそれで構わないさ。」

 

彼の軽口を軽く流すと、彼の体を掴んで剣を縄と服の間に差し込む。

これ、結構服の方を切ることになるな。

それにしても....体が柔らかい。

まるで男とは思えない柔肌だ。

貴族だからだろうか?

 

切っていると縄も斬れたが、服も斬れた。

そして、服の断面から胸の方に何か包帯のような物が見える。

 

「....ありがとう。さながら君は私の王子様だな。」

 

「....男がする例えじゃないな。」

 

俺が言うと、彼は一瞬キョトンとした後に笑う。

 

「何がおかしい。」

 

「いやなに....君にも、中々可愛い所があると思っただけさ。」

 

気持ちわりぃ....

コイツもしかしてホモか?

身体もなよなよしてるしな!(偏見)

 

「そ、それでどうするんですか!!?」

 

薬草がこちらに声を掛ける。

そりゃ...どっかに隠れて腰を据えつつ、この男をごうも...後悔させるんだろ。

もし本当に勇者に遭ってるなら勇者について聞けるしな。

だが、その場所を探さないと....。

 

いや、待てよ。

そう言えば目の前にこの街について良く知っている奴が居るじゃないか。

 

「おい....。」

 

「なんだい?」

 

彼はこちらを見て、微笑む。

 

「お前、この街良く知っているんだろう?ならこんな状況でも邪魔が入らないような安置、どっかにないか?」

 

俺が言うと、彼は暫し考える。

...まぁないか。

こんな暴動が起きている中だ。

色んな場所が襲われているだろう。

身を暫く置ける場所なんかないのかもしれない。

 

「あるよ。知っている。」

 

「あるのか....、本当に大丈夫なんだな?その場所は?」

 

俺が問うと、彼は頷いた。

 

「あぁ。命を懸けても良いよ。」

 

「言ったな?....ならもし違ったらテメェをどっか別の都で売り飛ばしてやる。ほら、行くぞ。」

 

没落した貴族は高い値段で売れるからな。

俺は方針が決まった為、振り返って薬草に言う。

 

「わ、わかりました!そ、その...この子......。」

 

彼女がおずおずと声を出す。

なんだ....。

見るとそこには小汚いガキ。

そいつなんだっけ......

 

暫く考えていると、思い出した。

俺が爆弾を投げさせた奴か。

まだ生きていたんだな。

てっきり爆弾を投げた時とかに弓矢で射貫かれたものと思っていた。

 

しかし...コイツを連れていく意味はないしな.....。

そう思っていると、薬草はこちらを咎めるような目で見てくる。

 

....今は急いでここから離れないといけないし、薬草と口論している暇もないか。

 

「好きにしろ....。」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

何故だか嬉しそうに頭を下げる。

何喜んでんだ?自分の事でもないのに。

まぁ後ろの薬草は良く分からんし、とにかく先を急ぐか。

倒れている首謀者を腕に担ぐ。

 

すると、貴族の彼は目を辛み成分でしばしばさせ、涙を流しながら先を行く。

 

「それじゃあ案内を始めるから、ついて来て.....。」

 

「はやくしろ」

 

俺が後ろからそう声を掛けると、身体をビクビクとさせる。

前から思ってたが、なんなんだそれ?

首を捻りながらも、俺たちは周囲を警戒しつつ、彼について行くのだった。



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