ようこそ葛城康平に補佐がいる教室へ (地支 辰巳)
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第1巻
入学 疑いだらけの学校


ヒロインは今の所未定です。


 

 世界は平等に出来ているのだろうか、いやそんな事はない。

 そんな事をふと考えている下関涼禅(しものせきりょうぜん)はバスの中にいた。

 

 

 俺は今、高度育成高等学校という学校へ向かうためのバスに乗っている。結構中は混んでいて、同じ制服の学生もギリギリ俺と隣にいる同中である葛城康平が座るのでやっとのところだ。

 

「結構、中は混んでいるな。涼禅、お前席は狭くないか? なんだったら俺は立つから席を使ってもいいぞ」

 

 康平はこんなことをさらりと言うが、普通はこんな混んでいるバスの中で人の席が狭いかどうか気にするなんてない。康平ぐらいだろう。こんな誠実でちょっとズレている所は高校生になっても変わらないなぁとしみじみ思う。

 

「いや、大丈夫よ。もうちょっとで着くみたいだからいまさらでしょ。それに康平は俺なんかの気を使うよりも、他の新入生の気を使う方がこれからの縁を作る上のきっかけとして良いと思うけどな」

 

「うむ。確かにそんな意見もあるな。しかし見たところ立っていて困っているご老人や怪我人はいらっしゃらないようだったし、ここで誰かを選ぶにしても見知らぬ他人ばかりだと、譲る相手の判断材料がないので誰か一人を選ぶのもちょっとな」

 

 まぁ確かにそんな意見もあるよな。俺は康平の意見に頷きながら、康平の頭をチラチラ見てくる相手を少し睨んだりしていた。

 

 そんな事をしていると学校に着いたようで、続々と生徒達が降りて行ったので、俺と康平もそれに伴ってバスを降りた。バスを降りると校門があり、そこに多くの生徒が入っていく。それから少し進むと校舎の玄関が見えてきて、そこに中学で見たような感じで、紙が四枚貼られていてそこにクラスと名前が書いてあった。俗に言う新学年のクラス分けってやつだ。

 

「おい、涼禅名前あったぞ。俺とお前の名前Aクラスにしっかりと書いてあったぞ」

 

 あーはいはい。確かにAクラスに葛城康平と下関涼禅って書いてあるな。うん、また康平と一緒か〜良い奴なんだけどな。真面目が過ぎるんだよな。まぁ康平は普通に頼りになるしAクラスでもクラスの中心となって引っ張って行ってくれると思うから安心感は抜群だな。俺と康平はクラスの紙を見ると、自分達の教室Aクラスへと向かった。

 

「康平と一緒なのは嬉しかったけど、にしてもA.B.C.Dっていう分け方か。あんまり好きじゃないんだよなー」

 

「うん? そんなに気になるかこの分け方が。確かに俺達の中学では一組.二組などの分け方だったが…」

 

「そこの所で言ってるんじゃなくて、何かこの分け方にすると4つのクラスで優劣をつけてるみたいに思えて好きじゃないんだよね。まぁそれだったら俺と康平はAクラスになったという事だから優秀と評されたということで嬉しいんだけどね」

 

「そんな事は無いとは思うが…。だがもし仮にそうだったとしても何で優劣がつけられているか分からぬ以上誇れる物ではないな」

 

「確かにね。ほらほらあったよ教室さっそく入ろうか」

 

 俺達が教室に入るとそこにはそれなりの人数が揃っていて、それぞれがそれなりの存在感を放っているなと感じていた。杖を持っている少女や金髪の胡散臭い奴、如何にもないかつい顔の奴もいた。俺の席はあー同中の康平から離れたかー。まぁ俺も康平が近くに居なくてもしっかり友達ぐらい出来るし。近くの目つきの鋭い女子から冷たい目線を向けられているが、大丈夫だ問題ない。

 もう気にすることなく、ゆっくりとパンフレットでも読もうかなと思ったが、全員の生徒が教室に来て担任と思わしき男が入ってきたので、俺はカバンから手を出し話を聞く姿勢をとった。

 

「全員揃っているようだな。俺はAクラスの担任をすることになった真嶋智也だ。俺は普段英語を担当している。この学校には学年ごとのクラス替えがない

三年間俺が担任だ。よろしく頼む。それから一時間後に体育館で入学式があるが、それまでにこの学校特有のシステムについて説明しようと思う」

 

 事前に聞いていたこの学校のシステムと真嶋先生の話から、この学校のことについて考えをまとめていた。

 

 まずこの学校の生徒は例外なく寮生活をおくることを義務付けていて、外部との連絡をすることも禁止されている。しかも学校の敷地内から出ることも禁止されていて俺達は否が応でも三年間はこの学校の敷地内で暮らすことになる。だけど、学生たるもの娯楽が必要なことは学校も分かっているのか、カラオケや映画館、カフェや服屋などが存在する巨大なショッピングモールがあるらしい。

 

 そして、そんな学校内で完結する生活の中で考案されたシステムがSシステムだ。Sシステムとは現金の代わりとなる物で、学生証カードにそれに入っているポイントを使い学校のあるゆる施設が利用出来たり、学校にある物を何でも買うことが出来るらしい。これが事前に配られたパンフレットと今聞いていた真嶋先生の話をまとめたもだ。だけど、次に真嶋先生が述べられた内容で、今まで静かに聞いていた俺を含めた教室の生徒のほとんどが驚愕することとなる。

 

「ポイントは毎月1日に自動的に振り込まれることになっている。そして今、君たちに配った学生証には既に10万ポイントが振り込まれている。ポイントは1ポイントで一円の価値となっているので、君たちは10万円を持っているのと同義ということだ」

 

 これには俺も素直に驚いた。事前に公表されていた内容ではポイントが何円の価値かも発表されてなく。しかも入学そうそういきなり10万ポイントも貰えるなんて思ってもみなかった。いくら国が運営してると言っても10万円相当もタダで貰えるなんて怪しさ満点じゃないか? あとで、先生に聞いてみるかな?

 

「振り込まれた額に驚きを隠せないようだな。だが安心してほしい、この学校は実力で生徒を測る。この額は入学した君たちへのご褒美だと思って素直に受け取ってほしい。念の為言っておくが、このポイントは卒業と同時に回収するから現金化は出来ない注意してくれ」

 

なんか安心させるように言っているがよりこのポイントが胡散臭くなってきたな。このポイントがご褒美だと言うのなら、この一回、あってももう一回ぐらいしか10万ポイントは貰えないだろう。ましてや卒業までなんてありえない。

 

「話はこれにて以上だ。質問がある者は遠慮なく言ってくれ」

 

康平はこの学校でも生徒会に入ると言っていた。

ならば、中学も同じ生徒会に入っていた俺としても入るべきだろう。

そこでだ、聞きたいこともあるし、俺が生徒会に入って違和感のない頭の回るやつだと周りの奴に思わせる良い機会なので、俺は質問することにした。

 

「手を挙げて質問か下関?」

 

「はい。質問ですが、この10万ポイントはこのクラス以外の他のクラス。

そしてこれまで入学して来られた先輩方も最初に貰っているのですか?」

 

これは質問をしているという意味が重要なので、俺は気になっていたもう一つの質問をすることにした。あとの一つはあまりにも直接的過ぎて、はぶらかされると思ったからだ。まぁ気になるから後でみんなが見ていない時に個人的に聞くがな。

 

「ああ、このクラス以外の三クラスも貰っている。そして先輩方も貰っている。これは断言出来ることだ」

 

「ありがとうございます。また気になることが出来たら質問させてもらいます」

 

「他に質問は……無いようだな」

 

先生はその言葉を言い終えると黒板前から少し移動した。入学式まで待っているのかな?

 

そんな先生の様子を見て康平が椅子から立ち上がり、みんなの様子をぐるりと見回すと教室中に聞こえる大きめの声で提案をした。

 

「みんな聞いてくれ。このクラスの仲間とは、三年間一緒になることになる。

なので、ここらで自己紹介をして置くというはどうだろうか?」

 

「はい。私もこのクラスのリーダーとなる人物として賛成します。私も皆さんも早くお友達を作りたいと思いますから」

 

その康平の提案を聞いて立ち上がった杖を持った女子は自身をリーダーと評した上で、その人を惹きつけるような声で高らかに賛成した。

 

ここで行動出来る人物は人の中心となる人物だ。それが分かっていたので康平も自己紹介を提案したのだろう。

そこにリーダーになると言っている女子が、

出てくると言うことは康平と張り合うというのを案に言っているようなものだろう。しかもこの女子にはそれを言えるだけの存在感と適度な威圧感がある。

その証拠に誰もリーダーと聞いて笑うことなく、杖を持った少女のように自己紹介に賛成していった。

 

「俺の名前は葛城康平。中学では生徒会会長を務めていた。この学校でも生徒会に入るつもりだ。これからよろしく頼む」

 

それからどんどん席順で自己紹介が進んでいき、リーダーと宣言した女子の番が回ってきた。

 

「私の名前は坂柳有栖です。さっき言った通りこのクラスのリーダーになるつもりです。見ての通り運動は全く出来ませんが、チェスは得意なので自信がある方はどんどん勝負に来てくださいね」

 

その内容も中々のものだったが、やはりリーダーとなると言っているだけの自信が溢れる声。しかも弱みを見せた上で文句があるならチェスで勝負をつけようとする攻撃的な感じ、これはやべー逸材だよ。康平はリーダー争い勝てるかな?何か不安になってきたな。

 

そんな事を考えいる内に俺の番が回ってきたようだ。俺は質問をしたからあの二人の次ぐらいには注目されているだろうが、まぁ自己紹介はこれからの学校生活を決めるって言うし頑張りますかな。

 

「俺は下関涼禅です。俺も生徒会に入ろうかなと思っているので、頑張っていきたいです。部活は弓道もやってました。趣味は料理にトランプ、ボードゲームかな?これからよろしく」

 

う〜ん、普通だな。無難から出ない程度の自己紹介になってしまった。

それに今更だが、生徒会って部活と兼任出来るのかな?弓道部があれば入りたいとも思ってるしなぁー。まぁ兼任出来なければポイントで兼任出来る権利を買えばいいや。真嶋先生も学校内で買えないものはないっていってたし。まぁこれから取り戻せばいいや。うん。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

クラスの自己紹介が全員終わって入学式に行くことになった。

入学式は特に面白い物もなく理事長の話が長い何というか普通でありきたりな物だった。

 

そして昼前になると一通りの施設案内をされると、解散となった。

教室内の生徒の半分くらいは寮に行くようで、教室から出て行く。

それ以外の生徒はある程度塊になってグループになっているようで、俺はその中で康平とその周りにいる人がいる塊に向かった。

 

「よぉ、康平。いきなり人気者だな」

 

俺が来たことに対して康平は少し笑みを浮かべるが、他の周りの連中は少し俺のことを警戒するような視線を向けてきていた。大方俺のような質問をした上に生徒会に入ると康平と張り合うような真似した事によって、俺が康平をライバル視しているリーダー志望の奴だと思われたのだろう。

 

「おいおいなんだ下関じゃないか?葛城さんに何か用でもあるのかよ?」

 

こいつは確か…戸塚弥彦だったかな?そんな知り合い康平にいたことはないし、多分だがさっきの態度などからさっきから康平を尊敬し始めたのだろう。

康平はリーダー候補になるために自身の支持者を増やす必要がある。もう一人のリーダー候補となる坂柳がいればなおさらだろう。その初日としては良い滑り出しだな。

 

「おい弥彦、この涼禅はな俺と同じ中学でな、この学校でも俺と一緒に頑張っていくことを約束した仲だ。あんまりみんな警戒しないでくれ」

 

おお、康平が庇ってくれたわ。康平っていつも寡黙な事が多いからあんまりこう正面切って庇われることがないから素直に嬉しいな。康平の言葉に納得したのか周りの連中からの俺に対する視線は優しくなった。

 

「うんうんそうなんだよ。康平と同じ中学でさ、まぁ俺は康平の横にいるだけだから普通に接してくれていいから」

 

俺はそんな事を言いながらこのグループ以外のグループのことを見回していた。もちろん坂柳の周りにもこちらと同じくらい人が多くいた。大体どのグループが誰と誰がいるかを見た俺は康平に向き直り、話している内容に耳を傾けた。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

康平からの提案により、葛城グループは現在総勢八人ぐらいの人数で、食堂に昼食を食べに行っていた。

食堂には新入生もちらほらいてその上、上級生とも思える人も多くいたが、幸いにも混んでいなくて席も空いてる所が多かったので、そのまま食券機に向かった。

食券機には想像よりも多くメニューが多くて感動してしまった。メニューと値段をじっくり見ながら決めおうとしていると、一番下の方に『山菜定食』という無料のメニューがあった。これはあれかなポイントが無くなった生徒への配慮かな?餓死されては困るしね。康平もそれを訝しんだのか「ん、」と少し唸っていた。

今の所食べる機会は無いだろうと思い、俺はみんなが決めて行く中最後まで悩んで結局中華定食にした。

その後席に座りみんなが食べ進める中、康平がゆっくりと口を開いた。

 

「みんな気づいていたと思うが、この食堂には山菜定食なる無料のメニューがあった。それに真島先生の言っていた言葉の中には来月振り込まれるポイントは何ポイントとは言っていなかった。この事からみんなには来月含まれるポイントが不明な以上出来るだけポイントを残して貰いたいと思う。涼禅はどう思った?」

 

おっと流石は康平だな。確かな証拠と根拠を出しながらも、いまだ不明瞭なことなので注意程度に済ませておいたんだな。俺の役割としてはこの推理に根拠を足していくことかな。

 

「うん。それに多分どの先生に聞いてもはぐらかされる可能性が高いから、用心しておくに越したことは無いとは思っているよ」

 

俺の言葉にも納得のいったようで戸塚を含めた他の六人は頷いた。

その後も世間話や好きな食べ物など自己紹介の続きをしたりして、昼食の時間は終わった。

 

 

その後はそのメンバーのまま、寮の方へ向かった。寮に着いてからはフロントで色々と渡されてエレベーターに乗った、そしてそれぞれの部屋がある階で降りて別れた。

 

俺の部屋は467のようだったので、フロントでもらった鍵を使い玄関を開けた。部屋に入ってみると、リビングとキッチンそれにトイレと風呂というまぁありがちな普通の部屋で設備もそれなりに揃っているようだった。

少し物寂しい感は否めない殺風景な部屋なのでこれから自分色に染められると思うと心がワクワクしていた。

それから寝るまで俺はずっと少しテンションが上がっていた。

 

 




弓道をやっていた設定は個人的に好きなあの生徒との接点を作るためです。




「下関涼禅」      7月1日時点

クラス 1年A組

学籍番号 S01T004705

部活動 弓道部

誕生日 9月25日

【学力】   C+
【知力】   B
【判断能力】 A
【身体能力】 B
【協調性】  C

面接官からのコメント

中学では生徒会総務を担当して手際がいいことで評価されており、面接時でも高い点数を記録している。
勉強に関しては平均以上の成績を出しておりの入試結果でもそれなりの点数を満遍なく取っている。
身体能力に関しても運動神経が良く、弓道でも全国に進む程の実力があり優れていることが分かる。
教養があり非常に頭が回って良い意見を出すことが多かったようだ。
小学校での友人は不明瞭だが、中学時点では多くの友人がいてコミュケーション能力の向上が見られる。
以上のことからAクラスへの配属とする

担当メモ

事前評価通りの優秀な人物で授業中の居眠りは多いようだが、すでにAクラスの中心人物の一人となっており今後ともこの調子で励んで欲しいと思う。









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部活説明会 他クラスの友達

お気に入り登録ありがとうございます。
早くあの契約の所まで書きたいなぁと思っています。


この学校に来てから二日。授業のほとんどは二日目とあって勉強方針等の説明ばかりだった。俺はまだ本格的に授業が始まってないことでまだ寝ていないが、ここの教師は寝ていても注意しないような気がする。だってたまに私語が出ている時でも注意しないんだもん。

 

そしてそんな授業が終わり、やっと昼休みになった。

俺は昼休みになるとすぐに康平の席へと向かった。康平の席の周りにはこれまた昨日と同じように生徒が何人もいて、俺が来てからも昨日いなかった奴も周りに来て、最終的な人数は昨日よりも少し増えていた。

 

「それで康平今日はどうする予定なんだ?」

 

「ああ、昼食だが昨日と同じように学食にしようと思う。みんなもそれでいいだろうか?」

 

ここにいて康平に反対する奴なんていないだろう。康平もそんな事は分かっているだろうからこれは念のための確認というやつだろうな。

 

俺達はそれから昨日と同じように学食に向かい、席がまぁ大体空いているのを

確認すると食券機の前に並んだ。列が消化されていく中、俺は昨日見たメニューを思い出しながら何にしようか悩んでいた。

だがそんな事を悩んでいる内に俺の番になっていて、俺がまだ迷っていると後ろから急かすような目線が届くので、俺はお金を入れる時間も勿体ないと思い無料の山菜定食のボタンをつい押してしまった。

 

「うむ、みんな揃ったな。ん?どうしたんだ涼禅。山菜定食なんか頼んで興味が湧いたのか?」

 

全員が席に座ったのを確認すると、康平が俺に対してそう聞いてきた。まぁうん、興味があったというは本当だが食べたいとは思わなかった。これはあれだ手が滑ったというやつかな。

手が滑ったというやつかな。

 

「うん…ちょっと焦っちゃって手が滑ったんだよね。ちゃんと食べ切るからみんな気にしないでくれ」

 

俺が山菜定食を食べた感想としては上手くはない。だが食べられない味では無いと言うやつだ。そしてみんなが食べている中徐に康平が話を始めた。

 

「みんな聞いてほしい。昨日も話したことだが俺はみんなにポイントを残して欲しいと思っている。そのために明日からとりあえず5月までは弁当か購買にしてポイントを抑えて教室で食べるようにして欲しいと思うんだがどうだろうか?」

 

その言葉は確かにポイントを抑えるという意味では妥当であり良いアイデアだとは思った。俺としては料理するのが好きだから全然問題ないが、

学食で上級生達からこの学校についての情報を得ることが出来ないのは残念だ。

他の所で情報を得れる方法を考えないとな…。

俺の考えはともかく他のメンバーは特に反対意見は無いようで、全員が頷いていた。

こうして俺達の一ヶ月間の弁当及び購買生活が決まった。

 

「本日、午後5時より、第一体育館の方にて、部活動の説明会を開催いたします。部活動に興味のある生徒は、第一体育館の方に集合してください」

 

おっ俺らの昼飯が大体決まった所で、いよいよ来たな。俺がいつやるのかなと思っていた部活動説明会があるらしい。さてさてやっぱり注目するのは入るつもりの弓道部と生徒会かな?

 

「今放送にあった部活動説明会なんだが、俺は行くつもりだが他に誰か行く者はいるだろうか?」

 

周りを見てみると手を挙げているのは俺を含めても五人。康平を合わせても六人と少ない人数だった。その中には戸塚がいるのだが、こいつは部活に入るつもりがあって行くのかどうかは分からないな。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

放課後になって俺達康平率いる六人は部活動説明会がある第一体育館に来ていた。

 

「おお、やっぱり同じ一年でも見たことないやつばっかりだな」

 

「そりゃそうだ。まだ入学して二日しか経ってないだからな」

 

俺の言葉に対して戸塚が言葉を返してくれた。俺と戸塚は会って間もなくてまだ全然親しくないが、これから康平をサポートしていく味方としてこれから仲良くしようと思っているので話しかけてくれるのは良い傾向だと思う。

 

「確かにまだ二日だなもんな〜。今年入学したのは160人らしいし、このペースだと全員の顔と名前が覚えられるか心配だな」

 

俺の言葉に戸塚はマジかよこいつみたいな表情をしているが一応マジで言っている。しかしこれは理想というやつだ。今年中に全員の顔と名前が覚えられるとは思ってないし、そんな奴がいれば全員と友達になりたいと言っている奴か、よほどの天才ぐらいだろう。

 

そんな風に思っていると、ステージの方に背が低いに分類されるであろう先輩がマイクを持って前に出て来た。

 

「一年生の皆さんお待たせしました。これより部活代表による入部説明会を始めます。私はこの説明会の司会を務めます、生徒会書記の橘と言います。よろしくお願いします」

 

可愛いと断言出来るな見た目をしている橘先輩から紹介を受けて、ステージの上に様々な格好をした先輩方が並んでいる。

それから橘先輩の紹介をして各部活が部活動のアピールをして行く中、俺は失礼だとは思っているが目的の部活以外には興味が無いので今年の一年の顔ぶれを見ていた。その中に俺が昔見た様に一人でいる男がいた。

 

俺はその男を見て知り合いが同じ高校に来たんだという嬉しさとクラスが違うからしゃべる機会が無いなと言う悲しみが同時に来ていた。

今は部活説明会だからしゃべれないが終わったら話しかけてに行こうかな?まぁ話かけなくても部活で会うことにはなりそうだが。

 

「私は弓道部の主将を務める、橋垣と言います。弓道には古風、地味な印象を受ける生徒も多いと思いますが、とても楽しくやりがいのあるスポーツです。

初心者の生徒も大歓迎しますので、是非うちにいらしてください」

 

次にステージに出てきたのは弓道部主将の女子の先輩だった。中々良いスピーチだったと思う。だけど道着とか色々でポイント結構使うことになるとは思うんけど初心者はそのへん分かって入るのかな?

でもそれじゃあ俺も康平の提案のようにポイントを抑えることは出来なさそうだな。すまない康平。

 

それからもどんどん部活動説明が進行していった。生徒会は最後だと思っている俺はさっき同じように周りの一年を見渡していた。その中にはいかにもガラの悪そうな髪の赤い奴やイケメンだなと思える奴も何人もいた。

 

そしてついに最後の人となった。ここまで生徒会が無かったから多分この人が生徒会であり生徒会長だろう。それを感じされるだけの風格がありその人の身長は普通程度だがメガネをかけていて細身だががっしりとした体格をしていた。

 

その生徒会長と思われる男は自分の番だと言うのに一年生を見下ろして言葉は発していなかった。あーこれは知っているぞ、先生が生徒達が静かにするのを待っているってやつだな。その思ったことが現実となるように最初はガヤガヤとうるさくなっていた一年生達もだんだんと静かになっていき、少し経つ頃には体育館には誰も居ないのではないかのような静かさになっていた。 

 

「私は生徒会会長を務めている、堀北学と言います」

 

やっぱり生徒会の会長だったようだ。堀北会長か…うん、呼びやすいな。

 

「生徒会もまた、上級生の卒業に伴い、1年生から立候補者を募ることとなっています。特別立候補に資格は必要ありませんが、もしも生徒会への立候補を考えている者が居るのなら、部活への所属は避けて頂くようお願いします。生徒会と部活の掛け持ちは、原則受け付けていません」

 

生徒会が一年生からも立候補者を募るというのはありがたかったが、やっぱり部活との掛け持ちは受け付けてないか〜。まぁそれだったら最初に考えてた通り掛け持ち出来る権利を買うしかなさそうだな。

いくらか分からないけど半年以内には買えるだろう…。多分。

 

「それから私たち生徒会は、甘い考えによる立候補を望まない。そのような人間は当選することはおろか、学校に汚点を残すことになるだろう。我が校の生徒会には、規律を変えるだけの権利と使命が、学校側に認められ、期待されている。そのことを理解できる者のみ、歓迎しよう」

 

さすが生徒会長だな。結構威圧的な言葉で一年生全員へ生徒会というものの重さと誇りあるものだと言うことを伝えて来た。これで生徒会へ立候補する奴は真面目に生徒会をやろうとする勇気あるものしか残らないだろう。

 

「皆さまお疲れ様でした。説明会は以上となります。これより入部の受付を開始いたします。また、入部の受付は4月いっぱいまで行っていますので、後日を希望される生徒は、申込用紙を直接希望する部にまで持参してください」

 

橘先輩の言葉が終わると、さっきまでの静かだった体育館がだんだんと騒がしくなっていった。三年生が受け付けの準備を初めて一年生の7割ほどが入部の受け付けをしに動いていた。

 

「俺は弓道部の入部受付をしに行くけど、康平は生徒会のやつにもう行くのか?」

 

「いや、俺はまだ行かないつもりだ。だが近々には行くつもりだ」

 

俺は頷いてまた明日的な言葉を言って、康平達と別れた。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

俺は弓道部の入部受付のカウンターに来ていた。俺は比較的早くに来れていたようで前にはニ人ほどしか居なかった。前の二人は俺の知っている奴ではないのであいつは後ろに並ぶんだろう。

それから何回かの問答を終えて前の二人の番が終わって俺の番が来た。

 

「入部受付だよね?じゃあこの紙に色々書いてくれるかな。その間何問か質問させてもらうから」

 

ほとんど世間話と遜色ない会話をしながら俺は弓道をやったことがあるかーとか色々質問されている紙に答えていて主将に提出した。

 

「涼禅君って言うんだ、Aクラスなんだね。経験者でやる気もありそうだね。これからよろしく」

 

俺は握手を求められてので、握手を返しながらこの学校について知ろうと主将に質問をしてみることにした。

 

「ええ、よろしくお願いします。じゃあ主将は3年何クラスなんですか?」

 

「私?私もAクラスだよ。まだ4月だよね?そんな事聞いてどうしたの?」

 

「いえ、特に。用が出来た時に教室を尋ねやすくするためですよ」

 

先輩の質問の答え方が変だな…。4月の時にクラスを聞くのは違和感があって、

4月じゃなければ違和感が無いみたいなそんな感じだ。まだ情報が足りないなやっぱり5月になるまで大人しく待つべきだろうか…。

俺は最後に主将から明日から始まるから放課後に弓道場に来てと言われたので後ろに順番を譲るため横にズレて列から離れた。そして弓道部の列の全員を見て、目当ての知っている奴がいたのでそいつが終わるのを待った。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

そいつの入部受付が終わったので、俺は声をかけに行った。

 

「よお、確か三宅明人だよな。去年弓道の大会で会ったよな?俺のこと覚えてる?」

 

まぁ会ったと言っても俺の中学と三宅の中学が試合することになって、目があって会話をしたぐらいだ。覚えてるかな…?

 

「ああ覚えてる。下関涼禅だったなよな…」

 

俺が一年、二年ぐらい前に話した時から変わってなくて安心した。前に話した時も口数は少ないがしっかりと受け答えしてくれて、一緒に喋っていて不快にならない人間だ。それなのに中学の時もさっき見た時も一人でいるのが多かった。

 

「覚えてくれてたんだな、素直に嬉しいと思うよ。それで三宅は何クラスなんだ?」

 

「俺はDクラスだ。俺はあまり人としゃべらないからな喋りかけて来た下関のことは珍しくて、しかも弓道も上手いから覚えてたんだ」

 

やっぱり人に覚えいてもらうのは嬉しいもんだな。それにしてもDクラスか、

一番クラスが遠いからなぁ話に行くのも一苦労だな。

 

「それで三宅も弓道部に入るんだろ?」

 

「ああ、もちろん入る。その感じだと下関も入るだろ?」

 

「当たり前じゃないか。じゃあこの学校で三年間よろしくってことで連絡先交換しようか」

 

「ああそうだな。よろしく」

 

俺と三宅は連絡先を交換して俺にもついに他のクラスの友達が出来たことになる。

いや〜無事部活には入れたし友達も作れたし良い二日目だったな。

 




ヒロインを決めるためにアンケートでもしようかなと考えています。


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質問 疑いを無くす推理

あけましたね。これからも一年頑張っていこうと思います。



俺の高校生活は四日目になっていた。昨日は本格的に授業が始まったのだが、さすがは進学校といったとこだろうかどの授業もレベルが高くて、眠気を我慢しながら授業に挑むことになっていた。放課後には顔を出せと主将に言われてた通り部活に顔を出しに行って弓道についての説明や、これから共に切磋琢磨することになる同級生や先輩方の紹介。もちろん友達の三宅もいた。

 

それから弓道の道具を買うと言うことで約15000ポイントぐらい払った。すまない康平ポイントを結構使っちゃったわ。

その他はあまり変わらない事ばかりで日常というのもが固定されつつあった。

 

そして今日だ。今日も朝から眠っている脳を頑張って起こしながら授業に励んで、やっとこさ昼休みになった。こんな生活が毎日続くとなるとクラスメイトに申し訳なくなるし、監視カメラを教室に発見したせいで中学よりも授業で眠くなっている罪悪感が増している。

 

一昨日決めた通りに教室の康平の席の周りに集まって購買やコンビニ、弁当などを持ち寄って葛城グループは節約?昼食をしていた。もちろん俺は料理が好きなので昨日に引き続き弁当を作ってきていた。昨日みんなにも少し食べてもらった所好評だったので自信を持って弁当を持って来ている。

 

そんな食事をしながら雑談をしていると、勢いよくドアが開いたかと思うとそこから自信たっぷりな様子の美少女といっても差し支えない女子が教室に入って来た。

 

「私1年Dクラスの櫛田桔梗と言います。1年皆んなと友達になりたくてやって来ました。是非私と連絡先を交換してくれませんか?」

 

多分ここにいるAクラス全員が確信しただろう。この櫛田と呼ばれる女子は本気で全員と友達になろうとしているのだと。その証拠に自己紹介をして直ぐにここにいるAクラスのグループを順番に回っていって交換していっているし、しかも個々のグループ一人一人としっかりと会話をしていっているのだ。

それはさながら優しさを振りまく女神に男子からは見えていたのだろう。

 

しかしそんな表も裏も良い人間がいる訳がないと思っている俺にはさながら選挙前の政治家にしか見えなかった。俺の心はこんなにも初対面の人間を疑って、腐っているんだろうなと思わざるを得なかった。

 

櫛田は順調に連絡先を交換して行くと、坂柳のグループのみんなとの交換を終えてこちらにやって来た。ここでもまぁ同じように一人一人と少し会話して連絡先を交換ということを繰り返してついに俺の出番がやってきた。

 

「櫛田だよよろしく。一昨日三宅君と喋ってたよね?名前は何で言うの?」

 

「下関涼禅だ。三宅とは中学での知り合いでここでは部活が一緒なんだ。よろしく」

 

櫛田の『そうだったんだね!』と言う言葉を聞きつつ携帯を差し出し、葛城グループ十人程度と三宅以外に連絡先がなかった所に他クラスの女子の名前が追加された。最初に櫛田を疑った身としては素直に喜んではいけない気がして、なんとも言えない気持ちになってしまった。

 

それから櫛田は全員から交換し終えると、『ここに居なかったAクラスの人にも私の連絡先を渡しておいてほしいな』と言い残してAクラスから去って行った。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

大体4月の中旬が終わりになってきた頃だろうか今日の弓道部が休みになって放課後が暇になったので、俺は若干忘れていたポイントの色々を真嶋先生に聞くことにした。

部活が無い日はたまに放課後に一緒に勉強するようになっていた三宅には『今日は用事がある』と連絡した。三宅からは『別にいつも約束してる訳じゃないから一々連絡はいらない』と返信してきた。俺としては念のために連絡したんだけど…迷惑だったかな?次からは一々連絡しなくても大丈夫かな。いや、これは遠慮なのか?結局俺はよく考えたけどよく分からないと結論を出して、次からも念のために連絡はしようと思った。

 

そんな風に考えている内に職員室に到着していた。俺はまだ訪問したことがなかったので少し緊張していたが、気合を入れ直してノックをしてドアを開けた。

 

「失礼します。1年Aクラスの下関涼禅ですけど、真嶋先生はいらっしゃいますでしょうか?」

 

俺の言葉に反応して確かDクラス担任の茶柱先生がこっちを向いた。茶柱先生とは別に真嶋先生も居たようなのでこっちに気づいた真嶋先生がこちらにやって来た。

 

「いきなりどうしたんだ下関。何か聞きたいことがあって来たのか?」

 

俺が聞きたいことが分かっているのか少しこちらを試すような目をしながら俺の返答を待っている。

 

「はい、ポイントなどについて色々と聞きたいことが出来たので伺いました」

 

「そうか分かった。ポイントの話をしたいというのならそこの部屋を使おうか」

 

俺は真嶋先生に言われるままに指導室に案内された。え、指導室?俺何か聞いたらダメな事でも聞いたのかな?だとしても真嶋先生が入って、入らない訳にはいかないので大人しく指導室に入った。

 

「そこの席に座ってくれ、飲み物はほうじ茶でいいか?」

 

真嶋先生に指定された席に座って飲み物には『お構いなく』と言ったんだけど、『遠慮するな』と言ってくださったのでありがたくもらった。

俺はほうじ茶を一口飲んで真嶋先生もほうじ茶を飲んだので俺は質問をすることにした。

 

「えーと、まず一つ目として生徒会と部活の両立する権利ってポイントで買うことは可能ですか?」

 

真嶋先生は考えてこむようにしてから質問に答え始めた。

 

「可能だろうな。しかし、その質問は俺にするのではなく堀北生徒会長にした方が具体的な金額を提示してくれるとは思うぞ」

 

このような答え方になるってことは前にも同じような前例があったんだろうな。しかもその前例でも生徒会長が金額を決めていたので真嶋先生がこうおしゃっているのだろう。確かに生徒会長に質問するべきだったな。

 

「確かにその通りですよね、実際に生徒会に入れるかどうかは生徒会長が決めるんですから。なら二つ目の質問にいかしてもらいます。5月1日にはいくらのポイントが支給されるんですか?」

 

この質問を聞いた真嶋先生は少し笑ったように見えたが、それも見間違えかと思うような真面目な顔で答えてくれた。

 

「それは分からない。分かったとしても答えることは出来ないな」

 

「それは確定はされていないと言うことでいいんですね?」

 

俺の質問に真嶋先生はしっかりとした口調で『答えることは出来ない』と言った。これで俺は確信を得たことになる。毎月のポイントの支給額は分からない。そしてこの学校は実力で学生を測る。このことからポイントの支給額は実力によって決まることになる。そしてその実力とは個人の実力かそれとも…。

俺は自分の考えを確信させるためにまた真嶋先生に質問することにした。

 

「真嶋先生この学校ってクラス替えが三年間無いんですよね?」

 

「ああ、そうだ例外なく一切ない」

 

「ならクラス替えがない理由を説明してもらってもいいですか?」

 

「ふ、そんな質問をされたのは初めてだよ、だから答えられない。嘘を吹き込むわけにもいかないからな。そしていずれ分かるから答えられない」

 

真嶋先生の言った答えの意図はクラス替えをしない事に生徒は誰も疑問を持たなかったという事と、いずれみんな分かるから答える必要が無いと言うことなのか…。

この二つから真嶋先生の言うことをまとめるとこの高校には誰も疑問に持たない理由でクラス替えが存在しないということだ。そこから考えると実力はクラス単位で測るということになって、クラス別で毎月支給されるポイントは違うということが分かった。これはあとで康平に報告しておくか。

 

「真嶋先生はどうしてそんなにもヒントを下さるんですか?」

 

「自分の受け持つ生徒の優秀さへのささやかな褒美だ。それと下関こちらからも質問いいか?」

 

俺は生徒思いな良い先生だなと思って、それと同時に先生の質問にもしっかりと答えなきゃなと思い先生へ頷いた。

 

「下関はリーダーへ立候補しないのか?勉強も平均的に出来る、運動も弓道で全国に行くほどの実力がある。しかもポイントや学校のことについても頭が回る。お前ならリーダーに行く程の実力があると思うんだが?」

 

いやー先生から直々に褒めてもらえるとは嬉しいものなんだな。あんまり褒められたりした経験が無いから照れちゃうな。んで、何でリーダーに立候補しなかったか……

 

「先生のお褒めの言葉は嬉しいですけど、俺は今の所リーダーへ立候補するつもりはありません。俺はリーダーをやってるよりも補佐でもやっていた方が好きなんです。気楽ですしね」

 

俺の言葉に満足したのか、真嶋先生はそれから何も言ってこなくなった。

俺は真嶋先生へお礼と別れを告げると、康平へ今日あったことを連絡した。

それから俺の推理は康平を通じて葛城グループに伝わっていた。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

そして4月も下旬に入った頃。Aクラスはいつもの通りの日を送っていた。

それはこの真嶋先生が担当する3時間目の英語でも同じだと思っていた。

 

「今日はいきなりだが小テストをするぞ。一応だが心配はするなこの点数は一切成績には関与しないから」

 

成績にはか…。このクラスでは勉強が得意な奴が多いのかみんながみんな油断せずにいこうとする気合を感じた。さぁて俺も頑張りますかな。

 

う〜ん、テストが終わった感想を言えばそれなりだった。ラスト3問以外は変なミスさえなければほとんど解けていると思うが、ラスト3問はまじで分からなかった。康平に聞いてもあれは難しい問題だから間違っていても気に負うことはないと言ってくれたが多分康平は解けてるんだろうな〜。

 

そういえばいよいよポイント振り込みまでもうすぐだな。

どれだけ振り込まれているか楽しみだな〜。

 

 




真嶋先生はなんだかんだいって甘い先生だと思う。
次回はやっと5月に入ります。



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真実 実力至上主義の教室

アンケートの結果
この小説では神室真澄がヒロイン。坂柳有栖がサブヒロインということになりました。
アンケートにご協力ありがとうございました。





5月1日ついに始業の開始を告げるチャイムが流れた。学校側が言うことが正しければポイント支給日だ。昨日まで俺が持っていたポイントは約6万で、今日朝確認したらポイント残高は15万3000になっていた。この事から今日振り込まれたポイントは9万3000ということだ。やっぱり10万は振り込まれていないようだけど、それにしても思ったより振り込まれていた。

 

チャイムが鳴ってから真嶋先生が手にポスターの筒を持って教室に入って来た。いつもと変わらぬ様子でポイント支給が減っているなど些細なことだろうとも思っているような表情だった。

 

「朝のホールルームを始めるが、その前に何か気になることなどは無いか?今のうちに聞く事を勧めるが?」

 

真嶋先生のその言葉はどうぞポイントが減ったことを聞いてくださいと言っているようなものだった。そしてその言葉に対して坂柳が挙手をした。

 

「気になる点ならありますよ真嶋先生。まず今日振り込まれたポイントが9万3000でした。これに関しては10万毎月振り込むなんて言っていないから大丈夫ですが、なにで7000減ったのかを詳しく聞きたいですね。次に真嶋先生の持っているポスターの筒が気になります。筒があるところを見ると複数あって一つはこの間やった小テストの結果だと思いますが…」

 

「そうだな、確かにポイントは今日9万3000振り込まれている。何で減ったのかだが、授業中の私語や睡眠、遅刻など当たり前が出ていない時があったからだ」

 

その坂柳と真嶋先生の言葉を聞いてAクラス内にも少しの驚きとざわざわが起こっていた。

てかやっぱり睡眠もカウントされていたか〜。こればっかりは直せそうに無いからみんなに申し訳ないな。

 

「そしてポスターの中身の一つはそれであっているが、もう一つは」

 

そう言った真嶋先生は手に持っていた筒から白い厚手の紙を一枚を取り出して、広げた紙を磁石で黒板に貼り出した。

その紙にはAからDクラスの名前と隣に数字が書いてあった。

これは各クラスの点数?成績?なのかな?

Aクラスが930。Bクラスが650。Cクラスが490。Dクラスが0。

 

この綺麗すぎる数字の並び方とさっきの真嶋先生の言葉からするとAクラスは当たり前が出来る生徒が多く集められていて、逆にDには当たり前が出来ない生徒が多く集められているということになる。

という事は初日で俺が思った通りクラス分けがランク順になっているのか。

それにしてもDクラスは0か。やばくね?三宅は大丈夫かな〜後で連絡しよう。

 

「勘のいい人は気づいたと思うが、この学校では、優秀な生徒の達の順にクラス分けがされるようになっている。最も優秀な生徒はAクラスへ。ダメな生徒はDクラスへ、と。つまりAクラスの君たちは一番優秀な生徒だと言うことだ」

 

その真嶋先生の言葉を聞いた時、このクラスのみんなの嬉しそうな声が聞こえて、微笑ましい笑顔が見てとれたが、安心するのはまだ早いとは思う。何故ならこのルールだとDクラスの人は三年間ずっと貧乏生活なのは決定なので、さすがに何かしらのシステムで逆転が可能なようにされているだろうから。

 

「だが安心はしてほしくはない。このクラスのポイントはそのままクラスのランクと連動しているということだ。例えばだが、BクラスがAクラスの930を越す様なポイントになればこのクラスはBクラスに落ちる。落ちないように気をつけてくれ」

 

やっぱりそんなシステムがあったのか、ならクラスのポイントを増やす機会もあるんだろうな。

 

「次の話に移るんだが、この紙はさっき通り小テストの結果だ。今から開示する」

 

真嶋先生によって貼られたその紙は言っていた通りこの間のテストの結果で、

名前が点数順に並んでいた。

大体の人間が80点ぐらいの点数で、一番低くても65点といったところだ。俺は75点ぐらいでいつもの通りの真ん中だ。トップは坂柳で、次に康平が続いている。さすがは未来のAクラスを引っ張っていくかもしれないリーダーの二人だ。

 

「このテストでは大丈夫だったが、この学校では赤点を取った生徒は退学することになっている。肝に命じておいてくれ」

 

はぇー赤点取ったら退学か。本当に危なそうだったら康平を頼らせてもらうか。

 

「今の君たちには心配が無いとは思うが、この学校の謳い文句である進学率、就職率100%は卒業時にAクラスで無いと学校側は保証することが出来ない」

 

この言葉にはAクラスの生徒の驚きの声と安堵の声が同時に聞こえてきた。

さすがにそうか〜。俺はそれ目的で入ったわけでは無いからあんまり気にしないんだけど。

 

「これで今日君たちに説明しなければならない事は全て説明した。中間テストまでは後3週間だ。君たちなら心配は無いと思うが、退学になる生徒は居ないと確信している。これからもAクラスに恥じない振る舞いをしてくれ。以上だ」

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

先生の説明を受けた後からのAクラスははっきりと言えば浮かれていた。

自分達は優秀だと言われた。他のクラス奴らよりも恵まれている。そんな感じのことを思っていたといても不思議ではないし、それは仕方が無いとは思う。

俺はそんな空気でも落ち着いている康平にこれからの方針を聞きに行くために康平の席に向かうことにした。

 

「よお、康平。真嶋先生からの説明を受けてどうだ?これからの方針というものも聞きたいんだけど?」

 

康平の周りには所謂葛城グループのやつらが集まっていて、康平からの返事を待っている。

 

「先生からの説明は非常に納得のいく様なものだったし、学校のシステムというものも理解が出来た。そしてこれからの生活にはクラスポイントが稼げるような行事が行われることだろうとは思う。そして行事は他クラスとの対決が予想される。だから俺は指揮系統を統一して勝てる可能性を多くするために、まずAクラスのリーダーを早くに決めてしまおうと思う」

 

康平は少しぼかして言っているが、これは坂柳をリーダーから降ろすと言っているようなものだろう。そしてこの判断は正しいのだろう。やっぱりリーダーが二人いて、Aクラス内で潰し合いに発展していたら他のクラスに勝利を取られてしまうだろうから。俺は多いに賛成だし、康平にもAクラスの中には敵がいると思いつつ行動してもらいたい。

それはそうと、俺が今思いついたアイデアはこの康平の方針と問題は無いだろうか?とりあえずはさらっと言って許可を取って俺個人として行動しようかな。

 

「康平の方針には賛成だし。すごい良いアイデアだと思う。それで俺も少しコミュニケーション的な所からアプローチしたいと思うんだけど良いかな?」

 

「ああ、問題行動じゃなければ好きにしてくれて構わない。涼禅ならそんな事はしないとは思わないが」

 

「ありがとう康平。じゃあとりあえず数日俺は好きに行動さしてもらうから康平も中間テストに向けた勉強会が決まったら連絡してくれ」

 

「ああ、そのつもりだったからな。日程が決まったらもちろん連絡させてもらう」

 

俺達葛城グループは授業の開始を告げるチャイムが鳴ったので急いで自分達の席に座った。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

いつもと特に変わらぬ授業が終わり昼休みになった。俺はこれまたいつもの通り康平の席に向かい、結構人数が増してクラスの半分ほどになっていた葛城グループで弁当を食べていた。もう弁当じゃなくてもいいんじゃないと誰かが康平に聞いたところ康平は備蓄があって損は無いと言った。だから俺達はこれからも弁当だ。

俺はこれから昼休みに行動するために会話もほどほどに早めに弁当を食べ切って、康平に席を外す断りを入れてから席を外した。

席を外してから俺はAクラスで前側に固まっている葛城グループとは反対方向の後側でまとまって昼食を取っている坂柳グループへコンタクトを取りに行った。

 

「やあ、ちょっと坂柳さんと話をしたいんだけどいいかな?」

 

葛城グループと坂柳グループはなにもそこまで正面切ってぶつかり合いをしているわけではない。ただ、相手側に睨みを効かせあっているだけだ。だから俺も普通に日常にあるような感じで坂柳を誘った。

 

「葛城の方から来たかと思えば、いきなりうちの姫さまを攫おうとするなんてどうしたんだいったい?」

 

俺の発言に対して疑問を言って来たのは坂柳グループの中でもそれなりの地位を持っていて、金髪でチャラチャラしてるが頭が良い男橋本正義だ。

橋本は頭の回転も早くて坂柳とよく行動を共にしているが、多分俺がこの話をして最終的に辿り着く人間では無いだろう。

 

「良いですよ橋本君。私は嬉しいんです。優秀だと評価していた下関君から話があると言われるなんて。それで下関君私と一対一の方がいいでしょうか?」

 

坂柳は橋本の言葉を否定してこちらに笑顔を向けながら話してきた。しかもそうか優秀だと評価してくれていたのか、普通に嬉しいな。えーと違う話を戻そう。う〜んそこまで重要じゃないけど、あんまり人に聞かれるのもなぁ。

 

「申し訳ないんだけど、少し廊下に出てもらっても良いかな?食事を食べてもらってからで構わないからさ」

 

「ええ、大丈夫ですよ。じゃあ廊下に出ましょうか。みなさんは少し待っていて下さい」

 

俺は坂柳が転ばないように細心の注意を払いながら廊下へとエスコートした。

 

「それでさっそく話なんだけど。俺はさ坂柳さんに自分の補佐が誰かを言って、紹介して欲しいんだよね」

 

坂柳は俺に対して少し首を傾げると考え込み始めた。

 

「そうですか。分かりました。紹介しても良いですけど、その前にその目的を言ってもらっても構いませんか?」

 

ここで嘘を言ってそれがバレたりしたらここで教えてはもらえないだろうし、どうせ補佐するやつからバレるだろうしな。

 

「もちろんだ。俺は全クラスの右腕、補佐、などなどクラスのリーダーを支える人達との友好を深めていきたいんだ。そこにしかない苦労やそこからしか見えない光景や気づけることがあると思うんだ。それを全クラスの補佐が共有して情報を得て、自らのリーダーによりよいアドバイスを与えて各々のリーダーがより成長出来るようになったら良いなと思ったからだ」

 

「そうですか。面白そうだとは思いますが、それは敵に塩を送っているような行為になりませんか?」

 

「ああそう疑われてしまうのも仕方ない。だけど他クラスと取引する上で信用出来る相手がいた方が良いだろう?どうせリーダーがしっかり見張っているんだ、ただの軽い集まりだと思ってくれて良いよ」

 

「分かりました。下関君の考えは少し読めませんが、他クラスが強くなれば楽しめる勝負も増えると思いますし、あの下関涼禅(・・・・・・)のお手並み拝見とさせてもらいます」

 

坂柳はこちらを見て不意に微笑んだが、何にせよ補佐を紹介してくれそうだ。補佐というのは大事な役目だ。リーダーと対等に話し合えてしかも別角度からの意見も言える無くてはならない存在だ。それに…リーダーが失脚すれば次にリーダーになるのは補佐だった奴だからな。どのクラスでもそうなるだろう。

 

坂柳が連絡して廊下に呼び出されたのは神室真澄だった。

いつも坂柳の隣に嫌そうな顔をしているので、信用はされてるんだろうとは思っていたし、多分呼ばれるのは神室だろうとは予想もしていた。

 

俺から神室に対する評価は良い。勉強はまぁ普通程度だが以前少し見た所運動能力は高い方だと思う。なによりも良いのはその目だ。世の中すべてのことがつまらなくて常に面白いことを探している目だ。そこに多少の共感があるからこそ俺が神室に対する評価は普通の人よりは良い。

 

「こちら神室真澄さんです。といっても同じクラスですから紹介なんていりませんよね。神室さんは私が信用する補佐といっても過言ではない人です。どうでしょうか?」

 

「補佐って…こきつかっているだけでしょうが」

 

「酷いですね神室さん。しっかり適材適所で使っていますよ」

 

「それでどうかな神室さん俺のアイデアに乗ってくれないかな?」

 

「話は坂柳から大体聞いた。坂柳が面白そうだから乗れって言ってきたからやるよ」

 

「ありがとうそれでも嬉しいよ。これから他のクラスに行って他の候補の奴も誘うから良いスタートになったよ」

 

そして俺は神室と連絡先を交換してそのついでに坂柳とも成り行き上交換した。

 

俺がこんなアイデアを出したのは別に康平を裏切るとかそういうのじゃない。康平は俺の数少ない友人だからな裏切るなんて真似は出来ない。このアイデアは補佐を通じて色んな情報を得るためと交友関係を広げるためだ。俺は今の所他のクラスに三宅しか友人がいない、そんな事だとこの先の行事にも少なからず支障が出るかと思ったから。

後はずいぶん先になるだろうが、リーダーが他のリーダーに敗れた時に後を継ぐ人間の事を知っておくと有利だと思ったからだ。これは俺も例外では無い。康平が失脚した時に俺がしっかり後をまとめないと責任感の強い康平は気にするだろうからな。まぁそんな状況にならない事を願うばかりだが。

 

そして俺はどんな方法をとってでも負け犬なんて呼ばれたくはない。

 




ヒロインが決定したので、それに合わせて主人公の設定を色々と追加いたしました。





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突撃! 隣のクラスリーダー

投稿遅れて本当に申し訳ない。色々していて気がついたら時間が結構経っていました。


今は1日の放課後だ。

学校から実力至上主義の学園と明かされた日だからと言って部活が無くなるわけがないので、俺は今弓道場に来ている。

みんな黙々と練習しているが、その顔は始まってから良い顔とは言えなくて、落ち込んでいるようだった。

 

そして二時間少しあった練習は終わり、各自片付けをして帰る準備をしていたので、俺は三宅とCクラスの吉本功節と帰り用意がてら話し合いをしようと思って声をかけた。

 

「三宅、吉本ちょっと雑談でもしないか?」

 

二人は怪訝そうな顔をすることなく、鞄を持ってこちらの方まで来てくれた。

 

「んで、雑談って言っても普通の雑談じゃないだろ?今日は色々あったんだし……」

 

「ああ、……俺も同感だな」

 

「その通りだ。今日あったことについて少し話そうかなと思ってな。今日のクラスの様子はどうだったんだ二人とも?」

 

利用しているみたいで申し訳ないが、少しでも他クラスの情報が得られるかと思い声をかけていた。ただ二人にもクラス内の立場ってものがあるだろうから無理して話せとは言うつもりはない。

 

「Dクラスはずっと騒がしかったかな……。ポイントは0だし、赤点の奴も多かったからみんな混乱してたな」

 

「Cクラスも騒がしかったんだけど、途中からりゅ……リーダーがしっかりとまとめてくれたから落ち着いたかな」

 

やっぱりDクラスはなかなか癖の強いの奴や計画的にポイントを使わなかった奴が多かったんだろうな。それに比べるとCクラスにはしっかりリーダーがしっかり居てまとめていたんだな。口止めもしている所を見ると頭も切れる奴なんだろう。

 

「Aクラスは比較的落ち着いていたな。みんなAクラスというのにホッとしていたみたいだったよ、いつ追い抜かされるか分かんないのにな」

 

 

「それはそれとして二人は今どれくらいのポイントを持っているんだ?」

 

「俺は3万ぐらいかな……Dクラスでポイントが入って来なかったからな」

 

「俺は8万ぐらいかな?ポイントは一応入ってきたからな。でも下関は良いよなポイント10万近く入ってきたんだろ?」

 

「ああ、今は15万ちょっと持っているよ。だから二人ともポイント無くなってきたら遠慮なく言ってくれよな。少しぐらいならあげれるから」

 

二人とも苦笑いを浮かべて頷いてくれていた。言った後に気づいたが、少し偉そうな感じで聞こえてしまっただろうか……だったら申し訳ないな。

さてと、そろそろ本題の質問でもしようかな?多分この質問をしても吉本には断れてしまうだろうけど。

 

「それで、CクラスとDクラスにはリーダーって言える奴が出来た?Aクラスはさ坂柳と葛城二人が出てきて大変なんだよ」

 

「ああDクラスは平田かな……多分。放課後にクラスのみんなに呼びかけて明日以降のことで話し合いをしていたはずだ」

 

平田って奴がリーダーなのか、でも話を聞く限りクラスをまとめることに重きを置いている人みたいだな。

 

「Cクラスはすまねぇが、話せねぇわ。口止めされててさ。でも、他のリーダーには見劣りしないのは確かだぜ」

 

やっぱりCクラスは目下に警戒するクラスだな。勘だがCクラスのリーダーは慎重にする康平タイプよりかは攻撃的な坂柳みたいなタイプなんだろうな。

坂柳とCクラスが手を組んだらいやだなぁー。なにかしら手は打っておくべきだろうか。

 

「ごめんなわざわざこんな事聞いちまってさ。ちょっと気になっちゃってさ」

 

それから三人で、本当に関係のない雑談をしながら弓道場は後にして寮まで一緒に帰った。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

弓道部の三宅と吉本から情報を得て一日が経った昼休み。今日も朝からいつも通りに少し眠りながら授業をこなした俺は弁当を早めのスピードで食べ切ってとりあえずはBクラスへと向かった。昨日聞いたC.DではなくBに行ったのは隣の教室だからだ。どうせ三クラスとも行く事になるだろうし……。

 

Bクラスの教室の前へ来た俺は少し深呼吸をしてからドアを開けた。

 

「お食事中所すみません。Bクラスのリーダーさんはいらっしゃいますでしょうか?」

 

出来るだけ丁寧にしかも敵意を感じさせずに言ってみたら、教室内の視線は俺を見るとその後に教室の中央ぐらいにいた女子に視線が向いた。その女子もこちらに近づいて来るようだった。

全員の視線が向くってことはこの人がBクラスのリーダーってことかな?

 

「一応私がBクラスのリーダーをさせてもらってる一之瀬帆波だよ。初めましてだよね?よろしくね」

 

「ああ、俺はAクラスの下関涼禅だ。こちらこそよろしく」

 

俺たちは出会って間もないにも関わらず自己紹介をし握手を交わしていた。

そして俺は痛感した。一之瀬のコミュ力は半端じゃないと。

 

「それで、下関君。私になんの用があって来たの?」

 

「ああそれなんだけど、一之瀬にとっても右腕的な参謀的な人を紹介してほしいんだよね。お願いします」

 

一之瀬は少し悩んだようだったけど、意を決したように教室内を見回すと『神崎君ちょっと来てくれない?』と言って教室内にいる長身のイケメンを呼んだ。

 

「どうしたんだ一之瀬。そこにいる奴に呼ばれたんじゃないのか?」

 

「いや〜下関君がさ、私の右腕的な人を紹介して言ったからさ神崎君を呼んだんだよ」

 

「そうか……なんで右腕の奴を探していたんだ?下関は」

 

「俺は全クラスの補佐的な人と全員と仲良くなっておきたいなと思っていてさ、もしも何か対決する場合でも信用出来る相手がいた方が良いと思って」

 

「確かにそうだな……よし、下関の言い分はよく分かった。俺は神崎隆二だ。これからよろしく頼む」

 

「俺はAクラスの下関涼禅だ。改めてこれからよろしく」

 

俺は神崎とも握手を交わして連絡先を交換してから流れで一之瀬とも交換出来た。平和に終わってくれてよかった〜俺としても平和に終わるにこしたことは無いし、これから関係を始めていく中でも友好的な方が絶対に良い。

 

それよりも次は順序的に行けばCクラスか〜口止めさせるほどのリーダーだしな絶対さっきみたいにいかない気がする。今から気が遠くなる。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

Cクラスへの廊下を俺は歩いていた。警戒心をしっかり持ちながらを歩みを進めていると丁度Cクラスの教室から一人で女子生徒が出て来た。

こんな昼時に一人でいる女子生徒か……孤立しているのかな?Cクラスに打っておく手としてはいい感じだと思うが、とりあえず声をかけてから判断することにした。

 

「いきなり声をかけてごめんね。君Cクラスの生徒かな?」

 

声をかけられた女子生徒は明らかにこちらを警戒するような目を向けてきたが、すごく面倒くさそうにこちらの質問に答えた。

 

「確かに……Cクラスの生徒だけど。そういうあんたは誰なの?」

 

「俺はAクラスの下関涼禅だ。君名前はなんて言うのかな?ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」

 

「西野武子私の名前だから。それで聞きたいことって何?もしかしてナンパ?」

 

「残念だけど違うんだな。Cクラスのリーダーが誰か教えて欲しくてさ。いいかな?」

 

西野は少し首を傾げて迷っている様子だったけど、小言で『まぁ、別にいいか』と言って俺の質問に答えた。

 

「Cクラスのリーダーは龍園くん。本名は龍園翔。結構暴力的や人でさ、力づくでクラスを押さえつけて王って言った人だよ」

 

うわ〜やっぱりかよ。攻撃的かなとは少し思っていたけど、まさかここまでとは思わなかったな〜。まぁ仕方ないとりあえず次の事を考えることにしよう。

 

まずCクラスに打つ手のスパイとしては目の前の西野で決定だ。

力で抑えつけた龍園に口止めされていた内容を話す肝の座った所やフランクでいつつたまに見える丁寧なとこ。しかも他人に遠慮しない所もスパイとしては優秀だと俺は思う。磨けば光るだろうな西野武子は。

 

「またあとで話したいことがあるからさ連絡先を交換しないか?一応言っておくがナンパじゃないから」

 

「う〜んいいよ。なんか下関くんってなんか面白そうな事考えてそうだし。じゃ時間が出来たら連絡して」

 

俺は西野と連絡先を交換した。Cクラスに入る前に思わぬ収穫したのは非常に嬉しい。今日放課後に連絡しようかな?連絡は早いうちが良いと古来から決まっているからな。

部活サボってしまう事になるかもしれないけど、仕方ないか。うん。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

俺は気を引き締めてやっと本題のCクラスのドアを開けた。Cクラスの中には読書してる子や巨漢の黒人、ガラの悪そうなチンピラそうな奴もいた。どれが龍園か分かんないな。

 

「すみません。ここのクラスに龍園翔って人がいるって聞いたんだけどいますか?」

 

俺の言葉に反応してきた近づいて来たのはガラの悪そうなチンピラだった。まさかこいつが龍園か?確かに体格は良いけど……口止めする奴とは思えないな。

 

「おいおいてめぇ龍園さんになんか用でもあるのかよ?」

 

「おい辞めとけ石崎。こいつはわざわざCクラスの王である俺を指名してきた。一応口止めはしておいたんだがどのバカがもらしやがったんだか。それで葛城の自称補佐のカスがここに何しに来やがった?」

 

石崎と呼ばれた奴が俺に絡んで来ると後ろから会話の内容から恐らく龍園であろうストレートロン毛の奴が来た。俺の事をもう調べてんのは油断ならないが、いきなり俺の事をカス呼ばわりなんて失礼だろ。しかも自称じゃないし認められてるから。

 

「一応自己紹介をしておこうか。俺はAクラスの下関涼禅だ。よろしくなCクラスの王龍園翔」

 

「けっ、自己紹介なんて必要ねぇよ。何しに来たかって俺は聞いてるんだが?」

 

「ああ、王である龍園に参謀でも紹介してもらおうと思ってな。これから増えるであろう対決などで交渉がしやすいようにな」

 

「ククク、ああいいぜじゃあ……3万ポイントだな」

 

こいつポイントとるのかよ。まぁ3万で紹介してくれるって言うのだからまだ安い方かな?これで他の条件とか付けられたらたまってもんじゃないからな。

 

「分かったその条件で飲もう。だが先に参謀の名前を言ってくれ。それから3万を払う」

 

「それでいいぜ。俺のクラスの参謀は金田だ。じゃあ払ってもらおうか」

 

俺は約束通りに3万を払った。龍園は約束は守る男のようで、俺が払ったことが分かると、教室中に聞こえる大きさの声で『金田!』と呼んだ。

 

「どうかしましたか龍園氏?」

 

「こいつが参謀を紹介してくれと頼んできたから呼んだんだ。葛城一人だとザコだと思っていたが、いきなり参謀紹介しろと言うこいつがいるなら少しは手こずるかもしれないからな。今後のために交換しろ」

 

金田と連絡先は交換したが、龍園は聞き捨てならない事を言っていたな。こいつ全クラスのリーダーの強さを判別してるのか……全クラスを敵にでも回すつもりなのか?

 

まぁいつまでもここにいるのも居心地は良くはないので、俺は昼休みがもう終わりそうなのを確認すると放課後にDクラス訪問を残してAクラスに帰ることにした。

 

 




葛城の出番はあまり多くないなと感じております。
下関の喧嘩の強さは龍園と同じくらいだと今の所考えています。


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放課後 スパイ契約

一ヶ月遅くなって本当に申し訳ないです。
まだまだエタる気はないので気長に待ってくれると嬉しいです。




俺は昼休みにB•Cクラスのリーダーと補佐に接触することに成功していたので、放課後になった今にDクラスへと足を進めていた。

 今の所の俺の考えとしてはDクラスは警戒する必要はあるが、まだまだ他の二つのクラスよりは警戒度は下がっているということだ。だけど、朝に三宅から聞いていた通りなら平田と呼ばれるクラスをまとめられる程度の人間は存在しているようなので、それを支えられる補佐がいればいいんだけど……まぁもしいなくても誰か手頃そうなDクラスの人間に情報を集めてもらうついでに、補佐の役割もしてもらうか。

 

そうDクラスについていろいろと考えを巡らしていると、件のDクラスの教室の前に着いていた。さすがにもう三回目なので緊張もほどほどに俺は扉を開けて声を出していた。

 

「いきなり押しかけて申し訳ないんですが、このクラスに平田って呼ばれる人はいませんか?」

 

それなりにいたクラスの人達は俺の言葉を聞いてこちらを向いたのだが、やがてその中から明らかにイケメンと呼ばれる顔とオーラを持っている人物が近づいてきた。

 

「えっと、僕が君の言っていた平田洋介だよ。初めましてだよね?よろしく」

 

これはあれだな。すげぇコミュ力が高い人間だな。確か前にもDクラスの櫛田って奴がAクラスに来ていたが、Dクラスはコミュ力が高い奴が多いのか?

 

「そうだな初めてだな。俺はAクラスの下関涼禅。ちょっと平田と話がしたくて来たんだ」

 

いや、ちょっと待て何か俺睨まれていないか?平田が歩いて来た所にいる、金髪ロングのギャルぽい感じの子に。あれかな平田の彼女ってやつかな?さすがだなまだ一ヶ月しか経っていないのに彼女を作るなんて。

 

「うん。もちろん構わないよ。どこかカフェに行った方がいいかな?」

 

「いや、この教室で問題ない。それで聞きたいことなんだが……まずDクラスって平田がリーダーで合っているか?」

 

「そうだね。今のところ僕がリーダーみたいな事をやらせてもらってるよ」

 

謙虚な人間だな。顔も良い性格も良いしかもリーダーシップまである。これってDクラスにいていい存在だとは思えないんだけどな。まぁそれでも勉強と運動が壊滅的だったらありえるかもしれないが……。

 

「ああ、それで頼みがあるんだけど。このクラスの副リーダーとか補佐とかそういう感じの人紹介してくれたら嬉しいんだけど……」

 

はっきり言ってこのクラスに補佐的な人物がいるかどうかは微妙だ。俺はAクラスの一部の奴らと違ってDクラスを見下してなんかはいないが、はたして不良品の集まりと呼ばれるDクラスの中に平田と実力の変わらない人物はいるのだろうか。

 

「う〜ん、副リーダーか……僕の一存ではなんとも言えないけど。みんなは多分櫛田さんだって思ってるんじゃないかな」

 

あー櫛田か、連絡先は一応持ってるんだけどどうしようかな?いや連絡先を持っているならば大丈夫か。とりあえずこのまま平田とも連絡先を交換しておくか、いつリーダーが変わるか分からないからな。

 

「分かった櫛田だな。ありがとう。それで平田とも連絡先を交換したいんだけど大丈夫かな?」

 

「ああ、もちろんだよ僕も他クラスにも友人は欲しいからね」

 

俺は平田との連絡先交換に成功し、教室内を一通り見渡して三宅や目ぼしい人物がいないのを確認すると教室から出た。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

俺は昇降口へと行き、そのまま靴を履き替えている間に西野武子へと電話をかけていた。

 

『もしもし西野か?下関だけど』

 

『連絡するって言ったけど、言って今日って早い気がするんだけど?』

 

『連絡は早い方が良いからな。それと要件だけど今から時間って空いてるかな?』

 

『今からは特に予定は入ってないけど……もしかしてデート?』

 

『いや、申し訳ないけどその言葉は相応しくないかな?あとで話したいことがあるしケアキモールのカラオケルームの部屋番号送るからそこに来て。もちろん一人で、誰にも言わずに』

 

『今話すことが出来ないような内容なの?』

 

『ああ、あっちでしか話せないことだ。どうかな来てくれる?』

 

『どうせ暇だしねー。分かった』

 

俺はとりあえず西野と話をする約束が取り付けられて安堵していた。あっちにも得のある話だしこちらにも得のある話なので多分大丈夫だろう。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

俺はケアキモールに急いで行き、カラオケ店に入ると部屋を取ってその部屋番号を西野に送っておいた。

番号を送ってから大体15分が経ったころだろうか、俺が頼んだジュースを飲んでいてると扉が開いて、西野がやって来た。

 

「下関くん待った?だらだら来たら遅れちゃった」

 

うんうん。それなりには待ったが、俺はこの程度で文句を言うほど器が小さいわけではないのでとっとと要件に入ろう。

 

「いや、全然大丈夫だ。それより何か飲み物でも頼むか?」

 

「連絡が来てから大体15分経ってから来たけど、下関くんは結構待てるほうなんだ。覚えておくよ。あ、パインジュースでお願い」

 

こいつ自分がどれくらい遅れたか分かっていながら聞きやがったな。抜け目が無い奴だな。まぁそのくらいの方が俺としても都合は良いのだが。

 

「さっそくだけど要件に入ってもいいか?」

 

「うん。早くはなしちゃってよ。結構気になるし」

 

西野はここにきてから終始嬉しそうな顔をしていて、言葉通りで俺の言うことを今か今かと待っている様子だった。

 

「単刀直入に聞くけど俺と契約してCクラスのスパイになってくれないか」

 

「う〜ん……分かった」

 

「マジで?」

 

「内容教えてよ、契約内容によるから」

 

「うん。西野には無理にCクラスの中枢に行かずになんでもいいから集まれるCクラスの情報を集められるだけ集めて毎日俺に報告して欲しい。

俺はこの関係が続く限り西野に月々2万ポイントを支払う。

この関係が君が裏切る形では無くバレた場合の西野の立場は保証する。これでどうだ?」

 

「う〜ん、月々2万もらえるしいいんじゃない?私から裏切ることは無さそうだからこれでいいと思うな」

 

「受け入れてくれてありがとうなんだけど、なんで受け入れてたの?」

 

「特に深い理由は無いかなー。 面白そうだし非日常的な事やりかったからかな?」

 

西野の性格も大分分かってきたな。面白そうという理由だけで快くスパイを引き受けてくれるということには感謝しているので、お互いに満足いく関係になれれば良いとは思っている。

 

「連絡は基本的に電話やメールにしよう。そして直接会うのは出来るだけ控えようか」

 

「そうだね。下関くんとの関係がバレると絶対龍園君から制裁が加えられそうだし」

 

「じゃあこれから末永くよろしく」

 

「はい、こちらこそ末永くよろしく」

 

その後俺と西野は友達がするような雑談をすると、少し時間を置いてから別々にカラオケの部屋から出た。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

俺が西野との契約を終えたその日の夜に康平から電話がかかってきた。

 

『もしもし。涼禅か?今出られる状況か?』

 

『全然大丈夫だよ康平。それで要件は何かな?』

 

『ああ、すこしお前に頼みたいことがあってな。今日真嶋先生にテスト勉強で使うからと過去問を貸して下さいと頼んだが、それがやけに不自然な断り方で少し気になってしまってな。それで部活で先輩との繋がりがある涼禅から先輩に過去問を借りて来て欲しいんだ。頼めるか?』

 

『もちろんだよ康平。それでいつまでに欲しいとか期限はある?』

 

『出来れば今週末までに頼む。すまないな』

 

『全然大丈夫だよ。じゃこっちの事を任せてね』

 

その言葉で俺は電話を切った。康平との電話は大体要件が終わった時点で、すぐに切って特に雑談などはしない。それが俺と康平との電話の暗黙の了解だった。

 

それにしても過去問がもらえなかったか……まぁ貰えない学校もあるよなとすませるのは簡単だが少々違和感が残る。この間の小テストは最後の3問ほど難しいかったのだが、今回もそんな感じで出されるのであれば、範囲外の問題なのでテストなのに百点を取れる確率は限りなく0%だ。

このことからもしかしたら過去問という存在は非常に重要で、最後の難しい問題だけは毎年出される問題が同じで、過去問を入手していた人物にしか解けないようになっているのではないか。

ならばこれが最初の試験ってことかな?確かに少し考えなければ導き出せないので、テストの点数を取るだけを意識していると無理だろう。百点を取れた人物がいたらクラスポイントでももらえるってところかな?

 

だがこれはまだ康平には話すべきではないかな。早急に二年と三年の先輩の過去問を入手して確信にかえてからだな。だけど多分これぐらいの試験なら龍園なら気付くだろう。せっかくしたスパイ契約だ、使っていかなければ損だからな西野には頑張ってもらうとするか。

 

 




綾小路との出会いは迷ってるけどまだ先になる予定です。
無人島まではヒロインなのに神室の出番が少なくなる気がします。


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過去問 初めてのテスト

早めに更新出来ました。


俺は康平から過去問の入手の指示を受けた次の日の放課後にさっそく部活中に部活の先輩に過去問がもらえるか聞いてみることにした。

まずは二年のAクラスの男の先輩に聞いてみることにした。

 

「すみません先輩。少しお願いをしたいんですけどいいですか?」

 

「ん、下関がお願いなんて珍しいな。どうしたんだ?」

 

「近々にある中間テストの過去問を持っていませんか?」

 

俺の言葉を聞いた先輩は少し驚いた顔をすると、少し考えるようか動作を取った。

 

「ああ、もちろん構わないぞ。同じ部活の仲間だしもちろん無料でいいぞ」

 

「あ、ありがとうございます!じゃあ後で写真を送って下さい」

 

「おう、任せとけよ。これでテストも楽々だろうけど、頑張れよ」

 

俺は先輩の言葉に元気いっぱい返事をして、部活が終わるのを待った。なぜわざわざ部活が終わるのを待ったかというと、三年の主将に話しかけるタイミングが全然が無くて、仕方なく終わるのを待っていたからだ。

 

「すみません主将。ちょっとお願いがあるんですけどいいですか?」

 

「どうしたんだい下関?ポイントなら貸せないよ」

 

「まだポイントを借りる気なんてありませんよ。それでお願いというのはですね、中間テストの過去問を見せてもらいと思いまして」

 

「へぇー、そうか懐かしいな……過去問か。うんうん良いよ。私のよければ見せてあげるよ。あとで写真で送るよ」

 

「ありがとうございます!こんなにもすぐにもらえるなんて思ってませんでした」

 

「これくらい良いよ。じゃあついでに同じAクラスとしてアドバイスをしてあげるよ。Aクラスとして居続けるためには油断しないことと躊躇しないことだよ。覚えておいてね」

 

「分かりました。優秀なAクラスの先輩からのありがたいアドバイスとしてしっかり受け止めておきます」

 

その言葉で、俺と主将は別れた。それからその日の内に二年の先輩と主将からの写真が送られてきた。

 

そして俺はその二枚の写真に驚くことになった。そして自分の推理が外れていたことにもなんとも恥ずかしい気持ちになってしまった。

なんとその二枚の写真に写されていた問題と答えはほとんどが同じなのだ。俺の推理では最後の難しい問題ぐらいは毎年同じだろうと予想していたのだが、まさかほぼ全ての問題が同じだとは思わなかった。

 

これはこの過去問の存在に気づいたクラスはほとんどがAクラス以上の点数をとるのではないのか?点数がクラスポイントの変動にどのように作用するのかは分からないが、俺が思うに点数はあまり関係ないとは思う。てか思いたい。

 それに問題は他にもある。まずこの過去問を誰にコピーして渡すかだ。康平はもちろんだとして、そこから葛城派までいって止まるのかそれともAクラス全体に配るか迷いどころだな。

 

そして次にいつ配るかだ。CやDだと学力の問題上危ない生徒がいるかもしれないので、過去問を入手していたとしてもテスト当日の三日前から前日までの間に配る可能性が高い。だがAクラスは元々学力の高い奴が多く集まっているので、テスト直前に配るメリットはそこまでない。

だったらいつ配るかだ。坂柳が過去問のことについて気付く可能性は高いが、その上で過去問を入手する前にAクラスに配るのが一番良いとは思う。その場合坂柳が過去問に気づいてようが気づいてまいが公開していなければ意味がないので、過去問を公開した葛城派に少しでも人が来る可能性がある。

 

というわけで過去問は康平とも要相談だがAクラス全員にテスト一週間ぐらい前で公開をする方針でいくか。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

康平にもあの作戦を伝えてもちろんのこと許可をいただいてから日にちが経ってテスト二週間前。やっとのことテスト範囲が発表され、範囲と過去問の問題の範囲が一緒なのを確認して確信を深めている今は放課後のAクラスの勉強会の真っ最中だ。部活は無いのかと言われればあるのだが、もちろんのことあるのだが主将にもしっかりと連絡している。

 

「ふー結構もうしたんじゃないか?そう思わないか下関?」

 

勉強会も中盤に差し掛かって、隣で勉強をしていた戸塚のついに集中力が切れたようだ。

 

「まぁ確かに休憩無しでここまでやってきたからな。ちょっと雑談しながら休憩するか。康平もそうしないか?」

 

「ああそうだな。みんな少し休憩を挟むから15分後ぐらいから再開しよう」

 

康平の号令によってこの勉強会に参加していた葛城派のみんなが休憩に入り始めた。

 

「ふぅーそういえば、下関に聞きたかったことがあった気がするんだな」

 

「そうなのか?戸塚が俺に聞きたいことがあることなんてあるとは思えないけどな」

 

「あ!思い出した。前に葛城さんと同じ中学って言ってたけど、小学生とかそれ以前は違うのか?」

 

「……あ、ああ。俺は中学からは家族の都合で別の県に行ったからな、それでそこの中学にいたのが康平だったから。小学校は全然違うんだ」

 

「確か転校生で一年の途中から入ったきたな。それに中学に入ってからしばらくの間は今よりも暗かったがな」

 

「は、はは。慣れない土地だったからなちょっと緊張をしてたんだよ。でも、今となっちゃそんな暗くなることもないだろう」

 

そんな風に雑談をしていたらいつの間にか15分経ったようでまた康平の号令によってみんな勉強の方に戻っていった。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

そんなこんなで勉強会をしたり、部屋で三宅と勉強をしたりカラオケルームで西野と勉強をしたりなどなど色々していたらいつの間にかテスト一週間前になっていた。

今日だ今日この日に俺たち葛城派はついに動くことになる。事前に真嶋先生に頼んで帰りのHRの時間はもらっているので、その時に入手したAクラス全員に配る予定だ。坂柳派の動向は分かっていないのが少々不気味だが、どちらにしてもAクラスの中立に位置する奴らに配っていないのは分かっているので今回の目的である過去問で支持者を増やそう作戦は問題なく決行出来そうだと思われる。

 

「Aクラスのみんな聞いてくれるか。俺がHRの時間を真嶋先生に頼んで譲ってもらったのはこの中間テストの攻略法が発見出来たからだ。それはここにあるこの過去問だ」

 

教室内が若干だがざわざわとなった。葛城派の中ではこのことは俺と康平以外知らないので他の葛城派はもちろん中立を中心にざわざわとしていた。坂柳派の奴らがほとんどざわざわしていないことから多分もう配り終わっているのだろう。坂柳が坂柳派に配っていなかったら坂柳派にも効果があったと思われるが、さすがにそこまで甘くは無いようだ。

 

「この過去問にある去年と一昨年の初めの中間テストはほとんどの問題が同じだ。このことから今年も同じ問題が出る可能性が高い。なのでこの過去問のコピーをみんなに配ろうと思う。もう持っている人もいるかもしれないが遠慮せずに受け取ってくれ」

 

康平がコピーを列ごとに分けて前の席の奴に置いていき、それが後ろまでまわされていく。みんな遠慮せずにもらっていく。それが本当に必要としている奴もいらないと思っている奴も平等に。

とりあえず中間テストにすべきことはこれで終わったかな?あとは西野から報告されるであろうCクラスが過去問をいつ配るかを聞くだけか。

 

 

♠︎  ♠︎  ♠︎

 

 

直接会うことは控えようと思っていたものの、勉強を教えてと泣きつかれたので結局このテスト期間中にそれなりの回数会っていた西野と今日も会う予定なので俺はいつも通りカラオケルームで待っている最中だ。

 

「はいー来ましたよ。今日は勉強を教えてもらうことの他に報告することがあるよ」

 

「そうか、やっとか。契約をしてから全然龍園とCクラスの報告がこないからサボってるかと思ったが、ちゃんとしてくれているようで安心したよ」

 

「当たり前ですよ!言われたことはちゃんとしますよ。それより報告で、今日龍園くんから過去問ってのが配られたよ。なんか問題が今年も同じらしいから暗記しとけって言ってけど、下関くんもいる?」

 

龍園もやっと過去問を配ったか……多分もっと前から入手していたがCクラスの基礎学力を上げるために今日テスト三日前まで配らなかったんだろうな。まぁCクラスの王ならこれくらいはしてもらわないとな。

 

「俺はもう持っているからいらないけど、ちゃんとそれは暗記しておけよ。それを暗記さえすれば満点だってとれるんだから」

 

「え、過去問あること知ってたの?なんで、言ってくれなかったの?」

 

「お前に言えば勉強サボる可能性もあったからな。それに過去問配られた時に素で驚いた感じにしてもらわないと龍園に嗅ぎ付けられるかもしれないからな」

 

「ふーん確かにそうかも。流石下関くん色々考えてるね」

 

「まぁな」

 

それから今日は過去問を交えつつ西野と勉強をしまくった。いよいよ中間テストが迫ってきた。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

今日はついに中間テスト本番だ。Aクラスの奴はみんな気合が入っているようで、ほとんどの奴がいつもよりも早い時間に教室に来ていた。なにを隠そう俺もその一人で、なんだかんだ言っても授業中ほとんど眠気と戦っている分類の人間としては過去問があろうと心配なのだ。

そしてあっという間に時間は過ぎていたようでいつの間にか教室には真嶋先生が来ていた。

 

「欠席が無いようで何よりだ。Aクラスで赤点を取る生徒がいるとは思えないが、今回のテストと期末テストで退学者がいなかった場合君たちには夏休みにバカンスが用意されている。油断せずに励んでくれ」

 

真嶋先生の言葉にAクラスともいえども喜びが隠せなかったのか俺を含め男女関わらずみんなが感嘆の声を漏らしていた。バカンスか〜いいね。昔家族でグアムに行った以来じゃないかな?バカンスって。でもまぁ普通のバカンスじゃないんだろうな。とにかくバカンスはあとで考えてるとしてテストを頑張るか。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

テストは無事に終わった。俺は過去問をしっかりやっていたので問題なかった。部活の時に聞いたが、三宅も櫛田から前日に過去問が配られたらしく全然問題ないという。西野の方も問題なかったようでとりあえずは安心だ。

 

そして今日はテスト結果の発表日だ。万が一にもこのテストで過去問もあった上で赤点になる生徒はいないだろう。

 

「心配はしていないと思うが、今回の中間テストの結果を貼るぞ」

 

教室に来た真嶋先生によって黒板に紙が貼られた紙には今回のテストの結果が載っておりすべての教科に百点がおり、しかもクラスの半分が百点を取っていた。さすがAクラスといったところで、もちろん俺も高得点ばかりでこれには一安心といったところだな。

 

「流石Aクラスといったところだな。この結果に驕ることなく期末テストやこれからも過ごしてくれ。以上だ」

 

真嶋先生が教室から出て行くと共にAクラスの空気も緩やかな感じになって、みんな安心感に包まれていた。

 

最初のテストはこんなもんだったがこれから来るであろうポイントの取り合いとなるようなイベントはもっと熾烈なものになるだろう。それにDクラスの過去問を入手したのが誰なのか。正攻法で挑みそうな平田ではないだろう、聞く通りの櫛田もわざわざ過去問を入手するとは思えない。もっと優秀な人物がDクラスに隠れているような気がする。

 

 




駆け足で進みました。さっさと無人島にいきたいし、Aクラスが中間テストでそこまで苦労があるとは思えませんから。


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生徒会 越えるべき壁

よう実の二次創作のオリ主で生徒会に入ってるのはあんまり見ませんね。


俺たちAクラスが楽々終わった中間テストの五月末から時間が経って現在は六月の中旬といったところだ。今日俺は登校してからある噂を耳にした。

それはBクラスリーダーである一之瀬が生徒会入りを果たしたというものだ。入学早々に生徒会入りを断られたはずの一之瀬が今の時期になって認められたようなのだ。これには俺も噂の裏を取るために耳にしてから直ぐに一之瀬本人に確認したところ事実のようだった。

 

「裏はしっかり取ったけど、康平はこのことについてどう思う?」

 

それから俺はまとまった時間が出来る昼休みになってこのことについて康平に意見を聞いてみることにした。入学早々はまだ教師達に実績を見せられていないと言って生徒会の扉を叩いていなかった康平としては初の一年生生徒会役員となった一之瀬に対抗心を抱いてそろそろ生徒会室を訪問すると思ってだ。

 

「素直に称賛はする。だが、少し疑問も残ることになるな」

 

「へぇーどんな所が康平としては疑問なの?」

 

「一度は断られた一之瀬がこの時期に入ったことだ」

 

「じゃあそこの康平としての予想を聞こうかな」

 

「大方生徒会長か副会長どちらかに認められなくて、それを不憫に思ったどちらかが許可したとかだろうな」

 

「ほぼ当たりだよ。本人に確認したところ堀北会長からはまだ時期じゃないと断れたらしいけど南雲副会長からの希望により生徒会入りを果たしたらしいよ」

 

「……そうか。涼禅は放課後に時間があるか?」

 

「もちろんだよ。放課後に生徒会入りを希望しに行くんだろ?そう思ってちゃんと時間は空けてるよ」

 

こうして俺と康平は放課後に生徒会室に行くこととなった。なぜ堀北会長が一之瀬の生徒会入りを断って南雲副会長が許可したのかは分からないけど、二人の考えた方などが違うことは確信出来ることだ。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

放課後、俺と康平は生徒会室前に来ていた。アポを取っていないのだが大丈夫だろうかとかいう思いはあるが、多分大丈夫だろう。

 

「それじゃあ入るが、涼禅は心の準備などは大丈夫か?」

 

「もちろんだよ康平。俺がこのぐらいで緊張すると思ってるのか?」

 

「それもそうだな」

 

その言うと康平が生徒会室をノックすると、中から堀北会長の声と思しき『入れ』という言葉が聞こえてきた。それを確認すると俺と康平はほぼ同時に失礼しますと言って生徒会室に入った。

生徒会室は簡素というか無駄な物が無い空間で厳格な雰囲気が漂っていた。

中には奥の椅子に座っている堀北会長とその隣の椅子座っている橘書記とその隣に座っている確か……桐山副会長。そして堀北会長の隣に座る南雲副会長がいた。

 

「名を名乗って要件言え」

 

堀北会長からの重みのある発言を聞いても俺らは怯まず言葉を発する。

 

「一年Aクラスの葛城康平です。生徒会入りを希望しにきました」

 

「同じく一年Aクラスの下関涼禅です。生徒会入りを希望しにきました」

 

堀北会長と他の役員達は値踏みするような視線こちらに向けたり、橘書記のパソコンの画面を交互に見たりしていた。

 

「生徒会入りを希望か。まず簡単な質問をすることにする。そのため考える時間が無いように一人ずつ受けてもらう」

 

その言葉を受けて俺は直ぐにドアに向かって歩き始めて一度礼をしてからドアから廊下に出た。こういう時は素早く行動することが大事だ、ここで戸惑って時間を食うことが一番評価が下がるだろうからな。まぁまずはAクラスリーダーである康平からなのは誰から見ても分かるからだ。

 

それから5分が過ぎた所だろうか、康平が生徒会室から出て来た。

 

「俺は認めてもらえなかったが、涼禅なら出来ると思っているぞ」

 

その言葉に俺は追求することはせず、失礼しますと言いながら生徒会室に入った。生徒会室の中は先程と変わっておらず、俺もさっきと同じように役員達の視線を一身に受ける位置で立ち止まった。

 

「では、まずは私から質問ですが、下関君は弓道部に所属しているようですが、部活説明会での堀北会長からの言葉を聞いた上で生徒会に希望しに来ていますか?」

 

「もちろんです。俺はその許可も取りに来た、もしくは買いに来ました」

 

「面白いことを言うな下関。いくら買いに来たと言っても簡単に買える額には俺はしないつもりだが」

 

「もちろん分かっています。誰かに借りたりローンを組ませてもらってでも買うつもりです」

 

俺の答えを聞いた南雲副会長は広角をあげていた笑みを浮かべていた。

 

「覚悟はあるようだな。だがその前に俺が生徒会入りを許可しなければならないぞ」

 

「分かっています。しっかりと受け答えをさせてもらいます」

 

「お前の所属するAクラスはクラスが二分されているようだが、その状態が続いたお前のクラスはどうなると思う?」

 

「まず間違えなくCクラスぐらいに落ちるでしょう。これからあるであろう試験に対してお互いで足を引っ張りあいその結果満足な成果を得られずどんどん落ちていくと思います」

 

「そうだろうな。お前ならばその状況にならないようにどうする?」

 

「簡単な方法としては片方のリーダーが素晴らしい結果を出して、もう片方のリーダーが散々な結果を出してしまって、片方のリーダーを失脚させてもう一人のリーダーがクラスを引っ張っていくことでしょう。ですが、この方法では失脚したリーダーとその中枢にいた人間が退学もしくはクラスで疎まれる存在になってしまうので、出来れば取りたくはありません」

 

「ほう。そういうならば他の良い方法があるのだろうな?」

 

「はい。二人いるリーダーにはそれぞれ大敗をしていもらいます。その結果BクラスやCクラスに落ちることもやむおえません。しかしその上で二人のリーダーに次いで優秀一人もしくは二人を選出してその人物達を新たなリーダーとしてクラスをまとめます」

 

「確かに理想的な策だな。だが、下関お前はその状況になった時これを実行するのか?」

 

「よほどのことにならなければしません。理想はどちらも尊重し合い一つにまとまることですから」

 

「それはそうだな。最後の質問だ下関。お前は聞くところによるとリーダーになっていないようだな。俺はお前がリーダーにもなれる能力があると思っているが、何故なっていない?」

 

「俺は自分がリーダーに相応しいとは思っていません。それに自分がすることが絶対に正しいと言ってみんなを導くことが出来るほど俺は自分の行動に対して自信を持てていません」

 

俺の言葉を聞いた堀北会長は最終決定を下すためか、思案顔をしていた。俺は聞かれた質問に対してすべて本心で答えたので、これでダメだったとしても堀北会長とは考え方が合わなかったということだろう。それにここにいる間の堀北会長の瞳は俺の本質を見透かされている気がして思ったよりも遥かに緊張してしまった。はたして俺の本質とは昔から変わっていないのだろうか、……それともあの時から変わってしまったのだろうか。

 

「下関涼禅お前を生徒会に入ることを許可しよう。部活との両立についても許可しよう」

 

一瞬言葉の意味が分からなかったが、理解すればするほど自分の中に驚きと喜びが溢れ出してきた。

 

「本当ですか?」

 

「当たり前だろう俺の言葉を疑うのか?今からお前は生徒会役員だ、その肩書にそった行動を取ってくれることを期待しているぞ」

 

「分かりました。精一杯頑張らしてもらいます」

 

「さっそくだが、ここにいる全員と連絡先を交換してもらう」

 

俺は会長に急かされる形で携帯を取り出して先輩方と連絡先を交換していった。その後はざっくりとした生徒会の仕事の説明をされてから次回に来てほしい曜日を言われてから生徒会室を出た。

 

「康平俺入ることを許可してもらった」

 

「そうか!良かったな、やはり涼禅は優秀だな。俺もまだまだ負けていられないように早く堀北会長に認められるようにしなければならないな」

 

康平からの素直な称賛を受けて俺もついつい顔がにやけてしまった。この状況で素直に相手を称賛出来る康平はやっぱり凄いやつだなと思う。こんな康平を裏切るようなあの策を使わないように願うばかりだ。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

下関涼禅が退出してからの生徒会室では堀北会長と橘書記、桐山副会長そして南雲副会長がさきほど立候補してきた下関涼禅と葛城康平のことが話題に出ていた。

 

「堀北先輩はなんで葛城の方は断って下関の方は許可したんですか?」

 

「個としてしっかり優秀で自身がリーダーに立つよりも支えることに意味を見出していたからな」

 

「どうですかね。こし淡々と内部から裏切ることを狙っているかもしれませんよ?それに優秀だと言うのなら葛城や前に来た一之瀬だってそうだったでしょう?」

 

「まだ時期ではないと感じていたからな」

 

けっして堀北学は口には出さないが、一之瀬と葛城の生徒会入りを認めなかったのは二人が南雲雅の影響下に入って一年も支配下に置かれることを危惧してのことだった。

 

だが、その点下関涼禅はリーダー格というよりは補佐役でありもし南雲の影響下に入ってもAクラスが支配下に置かれることがない。それに加えて堀北学も認める優秀さがあり、クラスの人間を犠牲にしない事を根底に考えていることなどを加味して生徒会入りを許可された。

 

「私も下関君は気に入りましたよ。色々考えているところとか、失脚したリーダーとその周りの人達のことも気遣っているところとか」

 

「まぁ確かに優秀ですからね。それに一年の生徒会役員が一之瀬一人だと言うのも寂しいものですからね」

 

南雲雅とて下関涼禅が気に入らないということはなかった。どちらかというと気にいる部類の人間である。なぜならば補佐役として人を支えているように見える下関はリーダーを支えているようで自身に被害を受けないようにして負けないように立ち振る舞っていると南雲は感じ取ったからだ。

 

「これからどのように一年生が過ごすにせよ、今は隠れているだけで優秀な人物はまだ出てくるだろうな」

 

堀北そして南雲が感じ取った下関の本質はどちらが正解なのだろうかそれともどちらも不正解なのかはたまたどちらも正解なのか。今は誰にもそして本人にも分からない。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

俺が生徒会会に入ったことは次の日には広まっていたようで、一之瀬からも『生徒会役員として一緒に頑張っていこうね!』という感じのメールを受け取っていた。もちろん返信はしっかりとした。

その後まぁ色んな人物にその事について聞かれたりしながらも俺は一日を過ごした。放課後にはほぼ週一で会っている気がする西野と共にいつものカラオケルームにいた。

 

「生徒会入ったんだってね。おめでとう」

 

「うん、まぁありがとうね。でも、今日はそれだけじゃないだろう?電話ごしじゃ話せないことがあるって言ったの西野の方なんだから」

 

「それなんだけど。実は最近教室内で龍園くんの周りにいつもいる石崎に加えて小宮くんと近藤くん二人の合計四人で何か話しているところを見たんだよね」

 

「それだけじゃないよな。さすがにいつもいないクラスメイトが話しているだけで、怪しいと思ったわけではないだろう?」

 

「うん。実は小宮くんと近藤くんは二人ともバスケ部で、しかも四人の会話の中にDクラスって出てきたんだよね。それでバスケ部でDクラスの生徒になにかするつもりかなと思って」

 

「確かに怪しいな。ここらで龍園が何かしら多分暴力沙汰だろうが、仕掛けてもおかしくはない。……よしじゃあ、西野はその三人が固まって放課後に出る時があったらこっそりつけてくれ」

 

「了解。でも、それだけでいいの?」

 

「いや、もし三人が誰も行かそうな所に向かい始めたら音声を録音出来るようにして何か起こった時に録音だけでもしておいてくれ」

 

「分かった。しっかり三人の行動を見ておくよ」

 

「任せたからな」

 

起こるかどうかは分からないが、これが後々何かの火種になることになるかもしれない。そう俺は予感していた。

 

 




第一話のあとがきのデータベースを変更しておきました。
第一巻はあと幕間を投稿して終わりですかね。
二巻はそんなに話数は無いと思われる。


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幕間 葛城康平の証言

初めてこういう形式に挑戦してみました。
読みにくかったらすみません。


なに?涼禅との出会いについて聞きたいのか?そうだな、あいつと出会ったのは俺が中学一年になってから六月に入ったぐらいに中学に転校してきたんだ。

 

そうだな第一印象か……はっきり言って今とは全く違ったな。転校したての頃は近づくなという空気があいつの周りから発されていて、誰も話しかけようとはしなかったな。

 

なんで今みたいになったと俺に聞かれても分からないとしか言えないな。転校してきてから二週間ほど経った頃だろうかな。あいつの様子が一気に変わったんだ。転校初期に感じた空気はまったくと言っていいほど感じなくなってな、周りの奴が言うには転校生によくある学校に慣れたってというやつだと言っていたんだが、俺にはそうとは思えなかったんだけどな。

 

それからの様子は気さくな所と優しさと明るい性格をどんどん出していって、一気にクラスの人気者になったな。授業は今と変わらずほとんど居眠りしていてずっと眠たそうな様子だったようだったがな。運動神経は俺よりも良くてな弓道部に入ってからの活躍ぶりは凄まじくよくモテてていたらしいな。

 

ああ、俺とあいつがいつ初めて会話したことか。確かあれはあいつが転校してから間もなくの性格が暗い時で、その時も居眠りをしていて移動教室があるというのにずっと眠っていた時に俺が叩き起こして次の教室に連れて行った時からだな。

 

強引すぎるか……確かに今思うとそうだな。だがあいつの授業への居眠りの度合いが多い過ぎたことへ鬱憤が溜まっていたのかもしれないな。

 

それからか?友として非常に良好な関係を築けたと思っているな。中学から始まった縁ではあるが、気もあってよく一緒にいることが多かったな。俺の家にもよく来て妹ともよく遊んでくれていたからな。だからか、俺が生徒会長になった時も総務としてよく支えてくれていたよ。あいつはクラスではいつも中心にいて本人はよく否定していたが、俺はあいつこそクラスを本当の意味で引っ張っていると思っていた。体育祭や文化祭などでも中心で盛り上げていて、クラスが同じだと頼もしいが、敵に回すとよりあいつの凄さが分かったな。

 

あいつだけが生徒会に選ばれたことか?全く気にしていないと言えば嘘になるが、俺はあいつのことを認めているからな。それだけの能力がある男で今の生徒会には涼禅のような人物が必要だったということだろう。三年内に俺も生徒会に入ってみせるさ。

 

 

 

俺からしたらあいつは気心が知れた唯一の人といっても良いから信用も信頼もしている。

 

 




主人公の外見イメージはCharlotteのやさぐれ状態の乙坂有宇君ですね。あくまでイメージですが……。


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第2巻
暴力事件 存在する目撃者


第二巻始まります!
いまさらですが、他のよう実の二次創作を書いている方々がしてない展開にしたいなぁと思いながら書いています。


俺はここ数週間部活を早めに切り上げることが多くなっていた。それは生徒会も同様で、他の部活が終わる頃には自由になっておく必要があったからだ。

何故ならこの前に西野がもたらしてくれた情報があったためだ。あんな断片的な情報で信頼性はあるのかという言葉も出るだろうが、実行もしないような作戦をわざわざCクラスの中枢では無い人間二人と龍園が混ざって作戦会議をするだろうか?俺ならそんなことはしないな。

 

そういうわけだから期末テストもイベント事もないこの時期を狙って来るだろうと思い、バスケ部で関わるであろう部活の始まりと終わりにCクラスの三人を見張っている西野から連絡が来るのを待っているのだ。

それでもあの報告を西野から受け取って一週間近く経って、俺は自分の推理が間違っているのではと思い初めて、放課後の時間を潰してしまっている西野にも何か申し訳なってきていた。後日いつもよりも多めにポイントを振り込んでおくか。

 

それで今日も監視カメラの無い場所筆頭の校舎裏で西野からの連絡を待っていると、ついにやっと電話が来た。

 

『もしもし、下関くん今大丈夫?』

 

『ああ、問題ない。それで例の件について進展があったのか?』

 

『うん。小宮くんと近藤くんがDクラスの須藤って人に接触してたんだよね。それでさも偶然のように電話している小宮くん達に近づいてあいさつしたら、聞こえちゃったんだよね須藤くんを特別棟に呼び出したって石崎に電話してるのが、それからちょっと電話ごしに石崎を揶揄って今離れた所』

 

『間に合うか……。西野はそのまま小宮と近藤を追ってくれ、もちろん携帯は録音モードにしてな。俺は先回り出来たらするから、連絡はこれが終わってからな』

 

『了解〜。さてスパイとして頑張ろうかな』

 

俺は西野との電話が切れた事を確認すると、今いる校舎裏からダッシュ特別棟に向かって走った。特別棟に呼び出すことを指示したのも龍園だろう。何をするかは知らないが監視カメラが無い場所は狙うと思って校舎裏を貼っていたんだが、まさか特別棟とはな。おかげでダッシュする羽目になっちまった。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

俺が特別棟に着いた時はまだ誰も居なかったので、とりあえずは一安心だな。

俺は特別棟の2階の監視カメラが無い廊下を見つけるとそこら辺にある教室のドアを開けようとしたが、すべて鍵が掛かっているようで開かなかった。

どうしようかと考えて、ちょうど俗に言う掃除用具入れのロッカーを見つけたので、そこを開けて中身の箒やちりとりを持って三階廊下のロッカーに入れて来て、俺が十分に入れるスペースを確保するとその中に入った。

仕方ない、仕方ない事だ。俺は好きでこの中に入った訳じゃない。心の中で言い訳をしつつ俺は石崎達が来るのを待った。

 

それからどれくらいの時間が過ぎただろうか。気がつくと石崎他二名は見えないが近くにいるようで、俺は携帯を録音モードにして須藤が来るまでの間に作戦の最終確認をしている三人の声を聞きながら録音した。

聞こえてきた作戦の内容はこっちから須藤を挑発しまくって、激情してきた須藤の攻撃を全く反撃せずに受け切って、後日に須藤から一方的に暴力が振るわれたと申告するつもりのようだ。

確かに監視カメラが無いこの場所では、須藤が挑発された証拠も無く殴られたCクラスの怪我だけが出来るので第三者から見るとまるで須藤が悪いみたいに見えるのだ。

これが龍園のやり方ってことか。卑怯で陰湿だが理にかなっているしCクラスには一切のマイナスは無い、あったとしてもDクラスの方が重くなるのは確実。俺もこの作戦には龍園を素直に称賛しよう。

 

俺が考えて事に耽っている間にすでに須藤は来ていたようで、バスケ部の二人は須藤に対してバスケのレギュラーのこととかその他まぁ幼稚な挑発を続けて、それを聞いてキレた須藤が殴りかかったようだ。

 

っ!うわっっ!びっくりした。須藤めこっちに石崎殴り飛ばして来るんじゃねぇよロッカー揺れてびっくりしたじゃないか。思わず声出そうになったよ。

 

その後は作戦通り手を出さなかったボロボロのCクラスの面々と満足そうな須藤がそこに出来上がったようだった。それから須藤が帰る途中わざとらしく石崎が意味深な言葉を残して、それにまた須藤が噛み付いてからやっと須藤は帰って行った。

須藤が帰った後に残った石崎他二名は他から見ればやばい笑いをしながら帰って行ってしまった。俺はこの場所に誰も残っていない事を確認すると掃除用具ロッカーの中から出た。そして携帯の録音を止めてそのまま携帯を操作して西野に対して電話をした。

 

『もしもし、西野そっちの仕事は完了したか?』

 

『もちろん。ばっちりと録音出来ましたよ。それで今からどうしますか?集まりますか?』

 

『ああ、そうしようか。いつものカラオケで集合だ』

 

『了解です。じゃまた後で』

 

通話を終了すると俺はケヤキモールにあるカラオケ店に向かってゆっくりとした足取りで向かった。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

俺が着いた頃にはもう西野はすでに部屋に入って飲んだり食べたりしていた。

 

「遅かったね。何かあった?」

 

「いや、ただゆっくり来ただけだ。それじゃあさっそくだけど録音したやつ聞かせてくれないか?」

 

「分かった。多分ちゃんと出来てるはず」

 

録音したやつを聞いてみると俺が録音したものと変わりない声が入っており、念のために二人で録音する必要も無かったかもしれないな。俺達が録音を聞き終えると西野が何か言いたそうにしてるように感じれたので、聞いてみることにした。

 

「どうしたんだ?何か言うことがあるなら言ってくれよ?」

 

「うん……スパイをやっといて何だけど、あんまりCクラスにマイナスがありすぎる使い方してほしくないなーなんて思っちゃって」

 

まぁスパイをしているとは言え自分のクラスのクラスポイントが大幅に減ったら嫌だろうな。俺からのポイントがあるとはいえ西野も自由に使えるポイントが多い方が良いだろうからな。

 

「ああそれは問題ない。今回俺がこれをした目的はDクラスを無実の罪から救うことでなくて、ただ多くのポイントを得る為にしたことだからな」

 

「へぇーそうだったんだ。先に言ってくれても良かったのに。でも、どうやってこの録音を使ってポイントを得るの?」

 

「多分この事は大事になるだろうから、その時にDクラスは必死になって目撃者探しをするだろうな。そこで情報に対してポイントを与えるみたいな事をするだろう。そこにこの決定的な証拠を渡すとどうなるか分かるか?」

 

「結構な額のポイントが下関くんに向かって払われるってことか。でもその状況に行くまで情報を隠していたってことで下関くんの評価って下がらない?」

 

「匿名の掲示板を使って目撃者を募る場合はそこに送れば問題ないし、そうじゃない場合は新しいアカウントを作ってやりとりするさ」

 

「下関くんって結構悪いよね。それに加担してる私も人のこと言えないけどさ」

 

自分でもやっていることが王道では無く、正義か悪で言ったら絶対に正義に属さないことぐらいは分かっている。分かっているんだけど仕方ないんだ。

 

「……てか、それじゃあCクラスが全面的に悪いっことになってしまうんじゃない?」

 

俺は沈んでいた心を元に戻して、西野の質問に比較的いつもと変わらぬ声音で答えた。

 

「いや、そうはならないと思う。俺が龍園にも同じ録音を送って取引をしてあいつが応じたらだけど」

 

「はぁー下関くん龍園くんからも搾り取るつもりなの?龍園くんはポイントをCクラスのみんなから徴収してあるからめっちゃ多い額になると思うけど、そんなにポイントが必要なの?」

 

「あって損は無いだろうからな。まぁ龍園がこの取引に応じるかは五分五分と言ったところだけどな」

 

「そうそう欲張ったら何も手に入らないってよく聞くもんね」

 

俺と西野はもういい時間になってきたので解散することにした。

さていつぐらいにこれが問題になるかな。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

石崎達が須藤を嵌めた日からそれなりの日にちが経ってあっという間に7月の1日のポイント支給日だ。

だがそうだと言うのにポイントは昨日から増えておらず、まさかいきなり0ポイント支給されましたなんて事はないよな?ま、まぁ、とりあえず教室に向かって康平に聞いてみるか。

 

 

 

「康平ポイントって支給されたか?」

 

「いや、されていないな。どうやら他のクラスも同じようで一年全体だけポイントが支給されていないようだ」

 

へぇー一年全体か……それならトラブルとかかな。しかも、一年だけに関わりのあるもの、じゃあついにあの暴力事件が表沙汰になったということかな?

 

俺は暴力事件のことは一切話さずに葛城派の連中となぜ今月のポイントが支給されていないかを考察したりして真嶋先生が来るのを待った。

 

 

「全員座ってくれ。今回のポイントについて聞きたいことはあると思うがそれについて俺から報告することがある」

 

真嶋先生は来てから早々にそう言って俺たちAクラスのざわざわを鎮めた。流石に何故生徒がざわざわしているかぐらいは分かってしまうよな。

 

「まずはこれを見てくれ」

 

真嶋先生によって黒板に紙が貼られて、そこにはクラスポイントが書かれており俺たちが最後に見た時も増えており、俺たちAクラスは1000ポイント丁度になっていて、あの0ポイントだったDクラスは87ポイントと増えていた。

 

「これは今現在の各クラスのクラスポイントだ。今回中間テストを頑張ったご褒美として全クラスには100ポイントが加算されている。そこから態度などでマイナスした数字が今のクラスポイントということだ。

そして君たちが気になっているであろう振り込まれていない今月のポイントについてだが、今回トラブルが起こっていて一年全体のポイント支給が遅れている。トラブルが解決しだい支給される予定なので安心してくれ」

 

やっぱりトラブルか。十中八九あの暴力事件だろうけど、それが解決するまでは振り込まれないってことか。普通に暮らしていればA.Bクラスは時間が来ればポイントが支給されるが、C.Dどちらかは悪かった方がポイントの減少があるってことか。

俺は今日普通に過ごして終えた。西野から連絡があったがわざわざ今話すのもあれなので近々話すとだけ連絡していおいた。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

ポイントが支給されなかった日の翌日だ。俺の予想では今日か明日ぐらいには担任から事件のことや目撃者を募るなどをするだろうと思っている。まさかそこまでも生徒に一存するなどということはないだろう。

 

「今日はみんなにポイントのことについて報告がある。先日学校でDクラスの須藤とCクラスの石崎他二名との間で所謂喧嘩があった。ポイントの支給が遅くなっているのはこれが原因だ」

 

Aクラスの面々は関係ない所で勝手に起きた喧嘩のせいでポイント支給が遅れたということで須藤や石崎はてはD.Cクラスへのこそこそとした陰口が囁かれた。

 

「ポイントが遅れてまだ解決もしていないということは須藤くんと石崎くんの間で意見が食い違っているということですか?」

 

この空気が気に入らなかったのか坂柳が真嶋先生に向かってほとんどの確率で合っていると思しき意見を口にした。

 

「ああ、そう言う事だ。だから君たちの中でこの事件を目撃したという生徒は居ないだろうか?……もし居た場合は来週の火曜日までに言ってくれ」

 

真嶋先生はAクラスに目撃者がいない事を確認すると期限を残して教室から出て行ってしまった。まぁもし居たとしてもわざわざこんな場所で名乗り出る奴はいないだろう。そこまで正義感に溢れている奴がAクラスにいるとは思えないからな。

 

実際に目撃している俺としてはとりあえずは日曜日か月曜日までは待機予定かな。流石に早々録音を渡すともらえるポイントが減りそうだし、もしかしたら他クラスに目撃者がいる可能性もあるだろうからな。

 

 




オリ主に倫理観はしっかりとあります。


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目撃者捜索 高みの見物

UAが10000突破しました!ありがとうございます!
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一年全体に担任からの目撃者を募る話があった日の放課後に俺は生徒会室で仕事をしていた。今ここにいるのは堀北会長と橘書記だけで、俺を合わせて三人が生徒会室にいる。

だけど生徒会のメンバーだからと言っても仕事中に話をすることはほとんどなく、中でも堀北会長や桐山副会長から話されることはいままで無い、たまに南雲副会長や橘書記が話しかけてくれることがあるぐらいだ。俺からも話しかけることが無いので生徒会室は静かになることが多い。

だから今日も同じように特に会話も無く終わるんだろうなと思っていたのだが、今日は本当に珍しく堀北会長が俺に対して話を振ってくれた。

 

「下関。今日担任から聞いて、お前の事だからもう全容を把握しているであろう今回のC.Dの事件についてどう考える?」

 

珍しく堀北会長が話を振ってくれたと思ったら今回の事件に聞かれた。確かこういう事件とかって生徒会が判断することになるんだったかな。だから俺がここで録音取ってますよなんて言ったら、生徒会独自の情報網とか言って確実にDクラスが勝利する結末になるだろうな。

だけどそれでは俺が望む展開では無い、俺が望むのは両成敗という結末だ。しかも俺がポイントを稼げてからが一番望ましい。だからここでは堀北会長には黙って俺の主観での考察を述べるべきだろう。

 

「堀北会長は俺を高く買いすぎですよ」

 

「そんなことは無い。俺は人を見る目にはそれなりの自信を持っているからな。だが把握はもうしているんだろう?」

 

「そうですね全容はもう把握をしています。だから俺の主観を交えて考えると、今回の事件はDクラスの生徒が一方的に殴ったと聞いていますが、Cクラスの生徒は三人いたとも聞いています。流石に三体一ではお互いは無傷ではいかないと思います。でも、ボロボロになったのはCクラスの生徒だけ。これは意図的にCクラスの生徒が手を出さなかったということです。Cクラスの生徒は喧嘩が強い奴が多いと俺は聞いていたにも関わらずです。このことからこの事件はCクラス側が仕掛けた事件ということだと思います。Cクラスのリーダーは狡賢いとも聞きますから」

 

俺が考察を話している間の堀北会長は黙って聞いていて、俺が話し終わった後でも少し考えているように黙ったままだった。

 

「堀北会長大丈夫ですか?」

 

「ああ問題ない。よく出来た推理だな。大方下関の言う通りの推理がこの事件の真相だろうな」

 

「じゃあ今回生徒会として審議をする時はCクラスに対してペナルティを与えるということですか?」

 

「いや、これはあくまでも推理だからな。生徒会として審判する場合は公平を期すために審議の場で出た両方の集めた情報だけを元に判断していく」

 

それが公平かはともかくあくまでも生徒会長は今回の事件は中立で判断してくれるようだ。これでCクラスだけにペナルティを与えられたら西野に何て言われるか分からないからな。

 

「そういえば生徒会の審議には誰が出る予定なんですか?俺とか一之瀬は出ることは出来るんですか?」

 

俺が堀北会長に少し気になったので質問をしてみたら、ちょっと遠くで仕事をしていた橘書記が質問に答えてくれた。

 

「いえ、原則として同じ学年の問題の審議には出ることは出来ません。それに関連して生徒会長に聞きたいのですが、今回の審議はいつものように私が出ましょうか?今回の一年Dクラスといえば生徒会長の妹さんもいらっしゃいますし……」

 

そうかやっぱり出ることは出来ないか……まぁ一之瀬が参加してDクラスに味方する可能性があったから結果的には良かったかな。俺も今回の事件は生徒会で参加するのはやりたいことがあるから遠慮したいし。

 

それよりも堀北会長には妹がいたのか……しかもDクラスとはな。全く話に聞かなかったから知らなかったな。後日にどんな人間なのか知るために接触だけでもしようかな?優秀な人間だった場合はしっかりマークしておかないとな、なにせ堀北会長の妹だからな。

 

「いや今回は俺も参加しよう。これも生徒会長の務めだから、偶には参加しないといけないからな」

 

「了解しました。そのように手配しておきます」

 

それからの生徒会では特に事件の話にはならずに通常通りの業務してから終わった。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

昨日に堀北会長との話があってから一日経って今日。どうやらDクラスは昨日から目撃者捜索に奔走しているらしくて、Bクラスにも顔を出したようだ。と言うことは今日ぐらいにはAクラスの生徒にも目撃者を探しに来る頃なのかな?Bクラスに行ったということはいずれ一之瀬にも伝わって協力するだろうし、まさかCクラスには聞きにいかないだろうからな。

そんなことを思っていると昼休みに俺宛にメッセージが届いた。連絡をしてきたのはDクラスの実質的なリーダーの平田からで、どうやら放課後にカフェで会えないかというお誘いだった。

これは俺に対して事件のことで聞きたいことがあるということだろう。今日は部活も無くて生徒会も特に無いので行くことにするか。Dクラスの動きなども気になるところだからな。

 

その前に俺は今回の事件が完全な部外者から見たらどういう風に見えているか気になったので、聞いてみることにした。

 

「康平はさ今回のこの事件についてどう思うの?」

 

「あのD.Cのことか?……馬鹿な事をしているなとしか言えないな。だがこれの対応次第ではどちらの方が知略に富んでいるかが分かるとは思ってはいるな」

 

へぇーさすが康平だな。一概にDクラスの方が劣っているとは言い切らないところは流石だな。まぁそれくらいじゃないと葛城派のリーダーは務まらないか。

 

「やっぱりD.Cも馬鹿ばっかですね。こんな事件を起こす時点でどちらもお里が知れるってやつですね」

 

戸塚に関してはDとCという下二つのクラスが起こしたことだから、特にAクラスに関係なんかないのでなんとも思っていなく、二クラスを馬鹿にしているようだった。そんな事を言っていたら人間足元を掬われるって言うのにな、康平を信奉するのは戸塚の美点だと思っているが、こういう自分は絶対にそっち側に堕ちないと思っているような所はあまり好みはしないな。

 

「そういう涼禅はどう考えているんだ?どちらのクラスにも知り合いぐらいは居るんだろ?」 

 

「まぁどちらにも何のマイナスも無いのがいいじゃないかな?そっちの方が平和的でなんの争いも起こらないと思うけどな」

 

俺はAクラスとして無難な答えを返しながらこの話題について断ち切って別の話題について雑談を始めた。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

俺は放課後にケヤキモールに来ていた。理由はもちろん平田と会うためにカフェに向かうためだ。

俺は今現在平田洋介という人間をほとんど知らない。他のAクラスの奴らよりも知っている自信はあるのだが三宅に聞いてもほとんど分からず、多分だがDクラスの奴らと同じぐらいしか知らないだろう。サッカー部で俗に言う典型的なみんなに優しくて明るい陽キャで人一倍にお人好し、しかも同じクラスの軽井沢恵と付き合っている。ざっとこのくらいしか知らないのだ。なので今日この時間に少しでも平田洋介という人間を知れたらなと考えている。

 

俺がカフェに着くとすでにカフェ内には俺を呼んだ平田と何故かギャルぽい女子たち四人がいた。えーマジですか、これはあれですか?聞き込みに見せかけた惚れ自慢ってやつですか?……大丈夫だ、問題ない。俺はこれでも中学の頃には告白されたことだってあったのだ。俺には効かないだろう。多分。

 

俺が内心で何かと戦っていると、こちらに純粋な笑顔で手招きをする平田に気づいた俺は平田はそんな奴じゃ無いだろうと結論づけると平田達が座っている席へと向かった。

 

「ごめんねわざわざカフェまで呼び出してしまって。それで本題の前にここにいるみんなの紹介はいるかな?」

 

平田の言う通り俺は平田以外のこの場にいる人間は全く持って知らない。多分一人は軽井沢って呼ばれる彼女なんだろうなということしか分からない。彼女を置いて女子四人と放課後にいる男なんていないだろうからな。

 

「ああ平田以外は申し訳ないが、全く知らなくてな。手間がかかるけどお願いするよ」

 

俺の言葉を聞くと平田が女子達に僕が簡単に紹介しようと言っていて、どうやら平田から簡単に紹介してくれるようだ。俺はこの15年間彼女なんて出来たことが無いから、高校ぐらいは彼女を作りたいと平田を見ていたら思えたので女子の名前ぐらいは今からでも他クラスでも覚えておくか。

 

「僕の隣にいるのが彼女の軽井沢恵さん。その隣にいるのが佐藤麻耶さん。で、その隣が松下千秋さん。反対側の僕の隣が篠原さつきさん。どうかな覚えてくれたかな?」

 

平田からの紹介で名前が分かった所で、彼女である軽井沢を見てみると典型的なギャルぽさがあって、この四人女子グループのリーダーなんだなと一目で感じることが出来るほどだった。他の三人もこれまたギャルなんだな〜と感じれる風貌をしていて、全員に地味さなんて感じさせないようだった。

 

「ねぇねぇあのAクラスの下関君だよね?」

 

あの?なんだ何か噂されているのか?俺はこれでも人に不信と思われる行動などとったことなんて無いつもりないんだけどな。まさか西野との関係がバレたのか?確かに週一では会ってるからな。一応周りには気をつけて会っていてもバレているかもしれないな。どうするか……。

 

「え、あのって?佐藤さん俺って何か噂でもされてるの?」

 

「何ってねぇー。篠原さん下関くんって結構有名だよね?」

 

「うんうん。だって私が聞いた話だと弓道部のエースで明るくて目の下の隈を含めても学年イケメンランキング上位に入る人だって女子達には結構人気だよ?」

 

「そうなんだ。初めて聞いたよ。隈は仕方ないとはいえそこまで言われると照れちゃうな。個人的には普通だって思ってるんだけどね」

 

「謙遜しすぎだよー。松下さんは付き合うなら上級生が良いって言ってたけど、背が高い下関くんはどうなの?」

 

「いやー背の高さと上級生は関係ないでしょ。確かにAクラスで、頭も回りそうだから悪くないは無いと思うけどね」

 

俺と平田が置いてきぼりの中で女子達の恋愛トークがヒートアップしていっていた。確かに時々褒められるのは素直に嬉しいが、これは本題にしっかりと入れるのか?

そう危惧をしているとついに平田が話を何とか修正しようと会話に口を出した。

 

「みんな今日の目的は忘れてないよね?ごめんね下関くん今から本題について話すよ」

 

平田が口を出すと女子達は会話をしっかりと中断をした。さすがに本題を遮ってまで会話を続けるなんてことはしなかった。

 

「ああ、構わないぞ。まだ時間はそこまで経っていないからな」

 

「ありがとう。それで本題って言うのは、担任から聞いていると思うけどDクラスとCクラスの暴力事件の目撃者についてなんだ」

 

まぁ予想通りの本題がきた。この時期でDクラスの話し合うことと言ったらこの話題ぐらいだよな。さて、何て答えるべきかな。

 

「やっぱりその事だよな。それで何で俺個人をわざわざ呼び出して聞くことにしたんだ?Aクラス全員にメッセージで聞いた方が早いと思うんだけど?」

 

「うん。その方が早いんだけどね……他の人を疑うみたいで申し訳ないんだけど、Dクラスの人がAクラスの人に聞いても答えてくれないことが多くてね。それで生徒会でAクラスの下関くんからみんなに聞いてくれないかとお願いするために今日は呼んだんだ」

 

そう言うことね。Aクラスの奴にはDクラスを見下す奴が多い。それでまともな受け答えが出来なくて本当にそいつが見ていないかが分からない。だから同じAクラスでDクラスを下に見ず、しかも生徒会の権力で無理矢理聞くことも出来る俺に頼みに来たということか。

これは受けるべきだな。ポイント取引する為にもDクラスの動きは知る必要があるかもしれないしな。だけど、流石にここで協力をするために表立ってDクラスにポイントを要求するのも気が引けるからな、素直に受けることにするか。

 

「ああもちろん構わないよ。一応言っておくけどAクラスは今派閥が割れていてね、それで俺の所属している派閥にしか聞けない可能性があるんだけどそこは大丈夫かな?」

 

これは本当のことだ。いくらAクラスだと言っても葛城派の俺から聞いても坂柳派の奴らは答えてくれない可能性が高い。もしかしたら別のクラスに聞かれた方が答える可能性が高いぐらいだ。

 

「それで十分だよ。それで追加でお願いしたいんだけど、誰に聞いたかはメモしておいて欲しいだけどいいかな?」

 

「それでも大丈夫だよ。とりあえずやれるだけやってみるよ」

 

「ありがとう。結果が分かったら僕の携帯にメッセージを送ってね」

 

それからは本題が終わったからと女子達と会話をしていた。その日はそこにいた女子と流れで連絡先を交換をしてから自室に戻った。

 




次回で暴力事件の事は終われるといいな。


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情報提供 ポイントの稼ぎ方

まだ無人島にも行ってない癖に2年生編の展開とか閃く今日この頃


土曜日になって、火曜日に議会があるDクラスは焦っているだろうと思う中、俺はいつもの通りにカラオケルームに入っていた。もちろん俺とカラオケルームに来ている奴なんて西野しかいなくて、もう店員からしたら常連であり同じ奴と飽きずにカラオケに来る俺のことを変な奴とか思っているだろうな。

 

「それで今日は何の用なんですか?」

 

あいも変わらず西野は歌うことも無く飲み物を飲みながら今日のことについて聞いてきた。今日はやることなんて言ったら決まっているポイントを取引をする方法を共有することだ。でもだからといって西野にはポイントの取引はさせない。なら何故今日集まる必要があったのかというと、まぁあれだな。最後まで仕事には付き合ってもらおうというだけだ。

 

「何って暴力事件での俺の望んだ結末にするための会議ってところだな」

 

「いちいち会議なんてする必要はあるんですか?私龍園くんに洩らしちゃうかもしれないよ?」

 

「今更そんな事を言うの?そうだな……そんな事態になったら、情報をもらしていたってことで西野は粛清される。それになによりも俺を裏切ってことで絶対に退学させるかな」

 

俺の言葉に西野は身震いを少ししてしまったようだ。まぁ半分は冗談だしここまで来たら西野には卒業までこの関係で付き合ってもらおうかな。今のところは。

 

「あー下関くんってやっぱり怖いよ。じゃ、じゃあとりあえず気を取り直して会議を進めましょうよ。そんな携帯ばっかりいじってないで」

 

「一応言っておくがこの作業も大事な事だからな。しっかりと信用は稼いでおかないとな。支持してくれる人がいなくなったらリーダーとかその辺は致命的だからな」

 

西野はそのまま流れるように俺の隣に座ると操作している俺の携帯を何の躊躇いも無く覗いてきた。

 

「普通人の携帯なんてそんなまじまじと見るか?ちょっとは遠慮はしろよな」

 

「いやー遠慮が無いのが私の美点だと思っているので、てか、それよりもずっと携帯で何をしているんですか?見たところ色んな人に同じようなメッセージを送って似たような返事を貰ったりしてますけど」

 

「これはDクラスの平田にAクラスの目撃者を探してくれと頼まれたから、俺が聞ける範囲である葛城派の連中に聞いてるんだよ」

 

もちろん目撃者捜索の結果は芳しくないけどな。平田には申し訳ないが、Dクラスに手を貸し過ぎる訳にはいかないんだよ。

 

「なんでわざわざ聞いてるんですか?目撃者なんていないことは分かってるんだから全員に聞いたって嘘つけばいいのに」

 

何か分かんないけど後味が悪いから結局律儀に一人一人に聞いてしまってるんだよな。

 

「なんでだろうな。俺にもよく分かんないけどしなきゃなんか気持ち悪いだろ」

 

「そういうもんなんですかね」

 

俺は最後の町田からの目撃者を見てないというメッセージに対して返信をすると、携帯を触るのを止めていよいよ本題に入るのだった。

 

「じゃあ本題に入るとするか。まず質問するから答えてくれよ。西野はこの事件の情報を募集するような物をどこかで見たか?」

 

西野はいかにもな手を顎に当てるようなポーズで思い出しているようだったが、思い出したのか上擦った声で発してきた。

 

「ああ思い出しましたよ!学校の掲示板に金曜日の朝は貼られて無かったのに放課後になったら情報を持っている生徒を募集する紙が貼られてましたよ。しかもポイントまであげるって書いてた気がするので、これに情報を持っていって今回の目的のポイントをもらってくるってことですね」

 

西野の言う通り金曜日の放課後には掲示板にそのような貼り紙がしてあったのを俺も見ている。しかもBクラスの神崎と名前が書いてあったのを確認している。まさかBクラスがこんなことまでするとは思わなかった。他のクラスよりもお人好しが多いとは思ってはいたがポイントまで払うほどとはな。

 

「ああ。貼ってあるのをしっかり見ていたのは褒められるが、今回はそれを利用してポイントを増やすようなことはしない」

 

「え、何でですか?わざわざポイントを渡すとも書いてあるから、後から嘘をつかれることもありませんよ?」

 

「神崎のことだ。そんな事はしないと思うが、これに情報を持っていかないのは神崎が直接会わないかとメッセージを送ってくると思うからこちらのことがバレる恐れがあるからだ」

 

もしかしたら直接会わないかもしれないかもしれないが、それでもBクラスにしかも警戒心が高そうな神崎に俺のこの行動をバレることは避けたいからな。

 

「でもそれ以外にポイントを稼ぐ方法ってなく無いですか?わざわざ面と向かって情報を持ってますってDクラスの人に言う訳にもいかないですよね?」

 

「だから丁度良いものがここにあるんだ。しかもこっちのことがバレない可能性が高いものが」

 

携帯を操作をすると、俺は西野の前に学校のHPにある掲示板が表示されている画面を見せた。

 

「こんなの初めて見ましたよ、しかも何か書いてあるじゃないですか」

 

西野が見つけた通りこの掲示板にはBクラスのリーダーである一之瀬が情報提供を呼びかけていた。しかも有益な情報提供者にはポイントを支払うとも書いてあった。

 

「俺はこれを使うつもりでいる。もちろん新しいアカウントを作った上でだけどな」

 

「はぇー確かにこれだったらバレずにポイントが得られますね。でも、あの録音全部ここに載せるんですか?流石にそれだったらDクラスの方が勝つと思うんだけど」

 

もちろんそんなことは俺もしない。録音にある始めの石崎達の作戦会議そして挑発や最初に殴りかかったところもカットして、俺が隠れていたロッカーに石崎がぶつかってきたぐらいから最後までを載せるつもりだ。

 

「問題はない。録音は最後の方しか載せないからな。じゃあ一旦この話は終わり。次に西野に頼みたいことがあるんだけどいいか?」

 

まだ今日載せる訳では無いので、この話を辞めにして西野を呼んだわざわざ作戦の概要を伝えた目的を伝えることにした。

 

「もちろん構いませんけど……」

 

「じゃあ頼むけど、龍園の連絡先を俺に教えてくれないかな?」

 

そう俺が西野を呼んだのはポイントの稼ぐために必要であった龍園の連絡先をもらう必要があったからだ。龍園の奴はクラスの奴全員とは連絡先を交換しているくせに他のクラス、学年の奴とは交換をまったくしていない。龍園と直接会う訳にいかない俺は連絡先を入手する必要があったからだ。

 

「ああ確かに直接会う訳に行かないもんね。じゃあ……はいこれ龍園くんの連絡先ね。ちゃんと間違えずに覚えてね」

 

西野から見せられた龍園の連絡先をメモした俺は新しくアカウントを作成した。

 

「じゃあこれで西野を呼んだ目的は終わったから、今日は解散しようか」

 

「は? 私今日一日予定空いてるんですけど?今日は一日中下関くんに付き合うつもりで来たのに、それは酷く無いですか?」

 

怒ったように見られた西野からの要望により俺は西野とカラオケに入りまくって初めて歌を歌ったりして土曜日を消化したのだった。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

日曜日の昼間。俺は平田に頼まれていたAクラス葛城派の連中全員に聞いたことを報告していた。まったくもって役に立つような情報は無かったが、それでも平田からは真っ直ぐに感謝を伝えてくるメッセージを受け取って心が傷んだのはここだけの話だ。

 

午後からは久しぶりに葛城派の康平とよく康平の周りにいる連中とケヤキモールに遊びに行っていた。ゲーセンでレーシングゲームをしたり、ボウリングをやったりしてそれなりに楽しめた休日になったと思っている。

 

そして気付かぬ間に夜になっていた俺は部屋の中で録音した音声を編集をしていた。編集と言ってもがっつりしたものでは無く目的とした箇所をちょっと切ったりして短くしているだけだ。

そして完成したのはそこまで議会に影響がないであろう音声だ。俺はさっそく作った新しいアカウントを使って一之瀬の募集した情報所有者求むという掲示板にこの音声を載せた。俺の予想では明日ぐらいにはポイントが入るだろうと思っている。さて、一之瀬はいくら入れてくれるのかな?

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

俺綾小路清隆が月曜日の朝、須藤とCクラスに関係する情報をもつ生徒を募集する貼り紙を一通り見て感心をしていると、一之瀬からそれを発案して実行したであろう神崎の紹介を受けて握手した。

 

「どう神崎くん。有力な情報はあったかな?」

 

「残念ながら使い物になりそうな情報は無かったな」

 

「そっかじゃあこっちも例の掲示板見てみるね」

 

「掲示板?他にも貼り紙をしているのか?」

 

一之瀬に携帯画面を見せてもらうとそこには学校のHPに目撃者を募っている書き込みがあって、閲覧者数まで見られるようだった。よくよく目を通すと音声まで送ってきている者までいた。こちらにも、有力な情報にはポイントを支払うとも書いてあった。

 

「あ、ポイントなら気にしないで。私たちが勝手にやっていることだから。それに今のところちょっと新しい情報は難しいかも。……あ」

 

「どうしたんだ?」

 

「書き込み、3件ほどメールが来てるみたい。少し情報があるって」

 

一之瀬は携帯の画面を確認する。

暫くの間メールを確認していた一之瀬だったが、途中携帯に耳を傾けたりすると、驚愕した表情をした。読み終わった一之瀬は大きな笑みをこぼしていた。

 

「結構やばい情報あるかも。まずはこれを見て二人とも」

 

一之瀬によって文書が見えるのようにこちらに傾けられる。

 

「例の三人の一人、石崎くんは中学時代に相当な悪だったみたい。喧嘩の腕も結構すごいらしくて地元じゃ恐れられてたんだって。同郷の子からのリークかな」

 

「興味深いな」

 

神崎が呟いた言葉に俺も同じく非常に興味深く面白い内容だと思った。

俺が須藤にやられた三人組に対して見解をしていると、まだ言いたいことがあるのか一之瀬は

 

「で、こっちの情報はもっとやばくて。ちょっと二人とも聞いてみて」

 

と前置きをすると、携帯はまた操作すると音量を大きくして、新しく届いていたメールを開いてそこに保存されていた音声を再生した。

聞こえてきた音声はここ何日も目撃者探しや目撃者の佐倉と交渉をしていた俺にとっても衝撃の内容で、その音声は須藤とCクラス三名との喧嘩の音声を録音したもので、大きな衝撃音から始まるそれは須藤とCクラスの喧嘩の時の音声をばっちりと録音していて最後に石崎が意味深なセリフを吐いてそれに須藤が反応して、須藤が帰ってから石崎達が不気味な笑い声をあげるところで終わっていた。

 

俺は音声を聞き終わると一体誰がこの音声を録音して情報提供をしたのかを考えて始めた。

まず考えられるのは佐倉だが、これは無いと断言出来る。確かに目撃者の佐倉だがわざわざ掲示板に投稿してポイントをもらおうとするような人物では無いと俺はここ数日交流をしていて感じたからだ。そしてこの最初にある衝撃音。これを至近距離で聞いたとなると確実に佐倉は声を出す性格だ。だが音声にはそのような声は入っていなかった。

 

次に考えられるのはBクラスだ。俺たちに恩を売るために自分たちの力で目撃者を見つけ出したと見せかけて借りを作る可能性もあるのだが、これも無いと断言出来るな。そんな事をするならわざわざ音声を俺を聞かせるようなことをする必要までは無い。俺達に勘付かれる可能性があるからな。

 

別の意見で善意でこれを掲示板に送ったというのも考えられるが、それも無いだろう。一日前になってからわざわざここに送るぐらいならば、全学年に交友ある男子ならば平田。女子ならば櫛田や一之瀬に対して音声を渡せばいいもしくは目撃者として名乗りを上げればいい。

 

だとすれば考えられるのはポイントを稼ごうとしている俺たちに正体を知られたくはない第三者もしくはCクラスの者。あの録音を送ってきた人間はアカウントを別に作って匿名で送ってきていることが分かった。俺たちに対してよほど正体を知られたく無いのだろう。

 

可能性が高いのはCクラスの人間の中のポイントを欲している裏切り者か須藤を嵌めた作戦を考えた者だが、第三者としてはたまたま目撃したポイントを欲している2年、3年のDクラスの人間。可能性は低いが、これが事前に起こることを知っていた上でポイントだけをもらう目的で今まで名乗りをあげずにポイントを貰おうとしている者。

 

いずれの人間にしても佐倉の他にも目撃者が存在していたということだ。

 

「この音声どうしようかな。それにこの音声を送ったのはDクラスの目撃者なのかな綾小路くん?」

 

「いや、俺たちが見つけてきたDクラスの目撃者はこんなことをするような人間では無い」

 

「そっかそうなんだね。じゃあ全く新しい目撃者ってことか……。と、とりあえず綾小路くんにはこの音声送っておくね」

 

一之瀬からメッセージによって俺に対して音声が送られてきた。さて、これを誰に対して共有すべきか……。

 

「……俺たちのポイント目的か」

 

「それでも神崎くん情報提供をしてきたくれたんだからポイントはしっかりと払わないと詐欺になっちゃうから」

 

俺は一之瀬から匿名への送り方を聞かれたのでやり方を教えて、それによって一之瀬の保持ポイントを見たが、今のところはそれを考えることは後にすることにした。

 

だがこの新しい目撃者が現れた所で方針を変える訳にはいかないな。今から探した所で見つかるはずも無い、見つかったところでしらをきるだろうことは目に見えているからな。

今まで通り佐倉に議会に立ってもらうことにするしかないな。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

俺はいつも通りに起きるといつもと同じように支度をして寮を出た。暑さに耐えながら並木道を歩いていると携帯に対して通知があった。

そこには俺の新しく作ったアカウントに対してポイントが支払われたというものだった。その額なんと8万ポイント。それなりだな。10万は超えて欲しいところだったが、さすがに怪しさが過ぎるだろうから警戒したのかな?まぁ貰えるだけマシだと思っておくことにするか。俺は新しいアカウントから元々のアカウントへとポイントを移して、増えた自分のポイントを見て少し笑みを浮かべながら学校へと向かうのだった。

 




終わりませんでした!
二巻は暴力事件を次の一話で終わらせて、三巻の事前仕込みで一話、そして幕間を一話投稿して終わりの予定をしています。


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議会 事件の背後で動く男

少し遅くなりましたが、今回で暴力事件編は終了です。



一之瀬からポイントを貰った日の俺は非常に機嫌が良かった。確かにそこまで多いとは言えない額のポイントだが、俺はそこよりも自分の思い描いた作戦が成功したことに対して喜びを感じていたのは事実だ。

だからか、今日はあまり質問されたく無い質問に対しても普通に答えることが出来ていた。

 

「いやー暑いっすね。早いとこ期末テストを終わらせてバカンスに行きたいもんだぜ」

 

「そんなにバカンスぐらいでウキウキするもんじゃないぞ戸塚。何があるか分かんないんだから」

 

俺はバカンスが来ることに嬉しそうにしている戸塚に対して釘を刺しておいた。戸塚はAクラスにいる人材ではあるが、なんというか短気というか感情的になりやすいというかそんなところがある。もし俺がいなかったら、戸塚が康平の補佐になっていた可能性を考えると、そこの世界の康平に対して酷い憐れみの感情を向けていただろう。

 

「なに悲観的に捉えてるんだよ下関。お前、あれだろ?プールの授業でも休んでいたから泳げなくて、バカンスが不安なんだろ?大丈夫だって俺と葛城さんが教えてやるからな」

 

「まぁ気持ちだけもらっておくよ。それに俺は別に泳げないんじゃなくて、人に肌をジロジロ見られるのが好きじゃないだけだから」

 

「へぇー下関女子みたいな事を言うんだな。でも、そんな奴も男にもいるもんか。じゃあバカンスに行ったらパーカーでも羽織って泳ごうぜ」

 

「ああ。暇があればしようか」

 

ちょうどチャイムが鳴ったので俺は戸塚との会話を終えていつもと変わらぬ顔で席に戻った。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

月曜日の夜になっていよいよ明日には議会がある中、俺は深呼吸をしてから龍園に対してバレないアカウントを使ってあの動画の全部と『ポイントをこちらに対して支払わない場合この動画を議会までにDクラスに対して渡します』というメッセージを送った。

 

こんな脅しのメッセージを送って、返事来なかったら恥ずかしいし嫌だな。万が一にもバレることは無いとは思うが、次龍園に会った時に目なんて合わせられないよ。

そんなネガティブな行く末ばかり思ってしまっていると、俺の携帯に通知が来た。その内容は『てめぇは誰だ?』というシンプルな言葉のみだった。

 

流石龍園と言ったところだな。相手がまず内部犯か外部犯かを特定しようとしているというところかな?さてなんて答えるべきかな。

 

『そんな事はどうでもいいじゃないか。私はこの事件の真実を知っているそれだけでいいじゃないですか。取引をしましょうよ』

 

俺は出来るだけ自分の情報を洩らさないように中性的な喋り方をしているが、上手くいっているだろうか?裏目に出なければいいが……。

 

『取引だ?してやってもいいが、直接会わなければ取引はしねぇ』

 

なんだ?なんなんだ?俺が龍園のことを脅しているはずなのに、まるで俺が龍園にお願いしているみたいになっているじゃないか。しかもあいつこっちが直接会うのを嫌がっているを分かってやってやがる。

 

『いいんですか?これが表に出ればCクラスに不利なことになりますよ?』

 

交渉の基本は相手に弱みを見せない事だ。どんな状況になっても余裕を崩さない態度でいることが大切だ。

 

『はっ、俺が払ったとしても、お前がDクラスに対して録音を売りつけないとは限らないからな。信用出来ねぇな』

 

まぁ確かにそこは疑うよな。だがこちらとしてもここまで話を持って来ておいて引く事は出来ない。

 

『いや、貴方ならこの画面を写真に残しているでしょう。それが証拠になります。そして教師陣に持っていけば私が誰かも分かって罰則を受けるのは私になります。取引を守りさえすれば貴方に損は無いことです』

 

これは本当に危ない橋だ。これで俺のこれが表に出ればBクラスやDクラスからの信用は大分落ちるからな。慎重にやっていかなければ。

 

『いいだろう。今からここにお前からの取引内容を掲示しろ。それを俺が判断した上で取引成立にする』

 

これは中々良いんじゃないか?これで両方のデメリットを少なくすれば、龍園は乗ってくるはずだ。俺が反さないと思われる内容にしなければな。

 

『•龍園翔はこの録音を買うためには2万ポイントをこちらに対して支払わなければならない。

 

•私は龍園翔が2万ポイントを支払った瞬間から暴力事件に対するあらゆる介入をしてはならない。

 

•上記の行為を犯した場合には私は龍園翔に本名を明かした上で5万ポイントを支払わなければならない』

 

これでどうだろうかな?最低買取価格にして、くわえて俺のデメリットを極限に減らした上で龍園に対するデメリットを減らしたつもりだけど大丈夫かな?

 

『二つの項目にお前の所有物全てから録音を削除するも増やしておけ。そして三番目の項目は月々5万ポイントに変更だ。これが飲めなければ取引は無しだ』

 

流石龍園だな。こっちが嫌だなと思っていることをやって来やがった。ポイントを月々も嫌だし、録音を消すのもまぁ嫌だけど、これを売らなければ録音した意味も無いからな。仕方ないな。

 

『•龍園翔は録音を買うためにこちらに対して2万ポイントを支払わなければならない。

 

•私は龍園翔が2万ポイントを支払った瞬間から全所有物から録音を消した上で、暴力事件に対するあらゆる介入をすることが出来ない。

 

•上記の取引を違反した場合は私は龍園翔に対して月々5万ポイントを支払わなければならない』

 

『まぁまぁなもんになったな。今回はこちらの兵隊がヘマをしたからこれで取引成立だが、次に取引する場合は俺が主導をとらせてもらう』

 

この返事以降龍園からのメッセージからは無く、その代わりに俺に対して龍園から2万ポイントの振り込みがあった。これで今回しなければいけないことはすべて出来たな。どうせ暴力事件に介入することは出来ないんだから、後はゆっくりとするかな。結末がどうなるかは楽しみだけどな。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

Dクラスにとっては運命の日である火曜日になった。俺は昨日内に龍園との交渉が成功して暴力事件には介入出来ないことを西野には伝えておいたので、放課後の議会が終わった後で議会がどんな風になったのか気になるので生徒会室に行く予定だ。

 

 

そして放課後のチャイムが鳴ったから大体30分の時間を潰した俺は自動販売機で買ったお茶を持って生徒会に向かって歩き出した。

生徒会室の近くに行くと、すでに橘先輩が生徒会の戸締りをしていた。そこにはどうやら堀北会長と橘先輩そして、暴力事件の関係者であろう生徒二人がいるようだ。

 

会話の内容を聞いてみると、Dクラスから暴力事件に関する目撃者が出てきたようだが、その子がギリギリで目撃者として出てきたこととDクラスからの目撃者ということなので信用が疑われるということだった。

確かにギリギリになんて出てくるなんてDクラスが最終手段である偽の目撃者を作らせたのだと思われても仕方のないことだな。俺にはそれが本当の目撃者かどうか分からないが、その女子生徒の様子を見るに本物の目撃者では無いかと思っている。あの受け答えや態度を演技でしているのだとしたら、俺は今すぐにあの子に女優をオススメするね。

 

だけど、一つ心配な事があるとすればあの子が本当の目撃者なのだとしたら、俺と西野の姿が見られていないかが心配だ。俺は掃除用具ロッカーに隠れていたのでバレていないとは思うけど、西野は大丈夫か?まぁ西野からなんの連絡も来ていないから多分大丈夫なのだろう。

 

俺が目撃者について考えていると堀北会長と橘先輩が行ってしまったので、俺は生徒会室で佇んでいるDクラスの生徒達の横を通り過ぎて行くとそのまま先輩達を追いかけて声をかけた。

 

「お疲れ様です堀北会長と橘先輩。これまだ冷えてると思うのでどうぞ」

 

俺は深くお辞儀してから、手に持っていたペットボトルのお茶を二人に向かって差し出した。

 

 

「わぁありがとうございます下関くん。さすが気の利く良く出来た後輩ですね。これ何ポイントでした?」

 

「悪いな下関。もう議会が終わったことはお前も知っているだろう?何の用で来たんだ?」

 

俺の差し出したペットボトルを二人とも受け取ると、お礼を言ってさっそく飲んでくれた。

 

「橘先輩ポイントは大丈夫ですよ。でも、その代わりに今回の議会の議事録を見せていただいても構いませんか?」

 

俺の言葉を聞いた橘先輩は一度堀北会長の方を向いたが、堀北会長が頷いたのを見て手に持っていた議事録を渡してくれた。

 

「分かっていると思いますけど他の人に見せてはいけませんよ。明日にもこれを持ち越すことになるんですから」

 

もちろんこれを他の人間に見せるなんて事は俺でもそんな事はしない。それよりも明日?

疑問に思った俺が最初に議事録の最後の方を見てみると、どうやらDクラスとCクラスがどちらも意見を譲らなかったようで、証拠を集める時間として明日もう一度放課後に議会をするようだった。

 

明日もう一度行う理由を確認したので、議事録を最初から読むことにした。

まず、参加したのは堀北会長と橘先輩はもちろんの事、Cの小宮と近藤と石崎の自称被害者の三人とCクラス担任の坂上先生。そして加害者側であるDクラスの須藤と堀北会長の妹である堀北鈴音……

 

「どうして下関くんは議事録を見ようと思ったんですか?」

 

俺が読んでいると橘先輩から疑問が飛んできた。これは素直にそのままの理由を言おうかな。特に変でも無いだろうし。

 

「同じ一年生としてこの暴力事件の結末が気になったので、流れを早く知りたいと思ったので見せてもらいに来たんですけど、明日に延長になったんですね」

 

「そうなんですよね。議会では須藤くんは色々荒々しいし、Cクラスの担任はすごい介入するから、大変でしたよ」

 

どうやら議会は中々ヒートアップしていたようだった。これで明日には決着はつくのだろうか?

 

「堀北会長は今回の議会は明日には終わると思いますか?」

 

堀北会長は悩む様子も無く即断言をした。

 

「ああ終わるだろうな。しかも、俺の期待込みだがDクラスが勝利するだろうな」

 

堀北会長の言葉に俺と橘先輩は驚いた表情を隠すことは出来なかった。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

水曜日の放課後になっても、俺は堀北会長が昨日言った言葉が頭の中にずっと残り続けていた。何故堀北会長は断言出来たのか?分からないな。今の段階の俺の予想では妹である堀北鈴音に対しての期待だと思っているのだが、堀北会長はそんな身内贔屓の様な真似はしないと思うのだが、もしかしたら俺が知らないだけで、シスコンなのかもしれないな。うん。

 

昨日と同じように30分ほど時間を潰そうかなと思っていると、橘先輩からなんと直接電話が来た。まだ10分も経って無くて議会中のはずなんだけど、何かあったのかな?

 

『はい。下関ですけど、橘先輩どうかしたんですか?』

 

俺が電話に出ると電話口の橘先輩は少し慌ている様子だと感じた。

 

『今日もまた下関くん来るかもしれないから電話したけど、なんともう議会終わっちゃったんですよ』

 

議会が終わった?どちらかが決定的な証拠を持ってきたということか?いや、そんな事は俺と西野に接触でも、しない限りは無理なはずなんだが。

 

『一体何があったんですか?もしかして決定的か証拠でも見つかったんですか?』

 

『それが、議会が始まるなりCクラスの三人が訴えを取り下げるって言ってきて、それで意思も堅い様みたいだから、そのまま受理して終わったの』

 

訴えを取り下げた?一体何のためにだ?龍園の指示なのか?いや、それは無いな。わざわざする理由が無い。ならDクラスの誰かか直接あの三人に接触して何かしらをしたということか。

 

だがどんな理由にしてもこれはDクラスの勝利ということか。堀北会長の予想通りだったな。結果的に俺が望んだ結末に近い結末になったが、Dクラスへの警戒は上げておくべきだな。そしてその中でもこれからDクラスでマークしなければならないのは平田でも櫛田でも無く今回動いた可能性が高い堀北鈴音だな。

 




これで2巻はバカンス前の学校での仕込みで1話と幕間の1話で終わります。

まだ先の話で色々あった末に綾小路くんとは敵対する予定なんですが、そこにアンチヘイトタグの追加っているんでしょうか?アンチヘイトの基準がよく分からないので教えていただけると幸いです。


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派閥会議 これが葛城派の分岐点

ここから下関の過去について本格的に書いていきます。

思いついている下関の過去は個人的に結構重いなと思っています。


暴力事件が解決して期末試験も無事に終わって現在は本当にあった夏休みのバカンスについて担任である真嶋先生から説明を受けているところだ。

 

話は変わるが、俺は今日この日までに暴力事件を乗り切ったDクラスの立役者だろうと思われ、噂されている堀北会長の妹さんであるDクラスの堀北鈴音について軽めの情報収集をしていた。

主に三宅から得た情報では、どうやら三宅と同じで、クラスの中でそこまで人と関わるような事はしていないようだったのだが、最近は隣人や暴力事件の容疑者であった須藤とも少しは会話をするらしい。それに加えて勉強も大変よく出来ていて、しかも運動能力も水泳で上位を取るほど高いらしいのだ。

 

この事から俺は堀北鈴音を二つの線で予想することにした。

 

まず一つ目の線としては、あんなにも完璧な堀北鈴音がDクラスにいるのは協調能力がほとんど無いせいであり、人とあまり会話していないのもそれが起因していて、そのせいで平田からもリーダー関連として名前を挙げられなくて、Dクラスとしても扱いに困っているという線だ。

 

次に二つ目の線としては、堀北鈴音がDクラスにいるのは過去に重大な何かをやらかしたのが原因で、それがバレることを恐れて表だっては人とは話さずに裏からDクラスを支配しているという線だ。

 

多分普通に見れば一つ目の線が有力なのだと思うのだけど、俺個人として二つ目の線を推したいと思っている。何故ならば、一つ目の線では今回の暴力事件の議会にわざわざ来る事などないだろうと思うだろう。そして何よりまさか堀北会長の妹が協調性が無いなんて……いや、やっぱりあるかもな。兄弟で協調性に差が出るのはよくあることだ。これは経験からも考えられることだ。

 

だが、二つ目の線も外せない。まず、Dクラスに配属される理由はあまりにも曖昧だ。平田や櫛田はどうやら今の所聞くところだと、能力だけみればBクラス以上は確実にあるだろう逸材なのだ。それなのにDクラスだと言う事は、過去に何かをやらかしてそれを学校側が認識していて配属したという事にもなる。ならば堀北鈴音もその可能性は否定出来なくて、協調性が無いのも演技の可能性もあるのだ。

要するに堀北鈴音は警戒しようということだ。

 

 

 

話を戻すけど、真嶋先生の話は今現在も進んでいて、聞いていると、バカンスは無人島のペンションで一週間を過ごして、その後の一週間は豪華客船で過ごすことになるらしい。いやー楽しみだね。こんな豪華な旅行を国も用意してくれるなんて太っ腹だと思うね。

まぁ今の所の俺の予想だと、無人島で何か試験があり、その後の豪華客船でも試験がある。そしてこれで大きくクラスポイントが動くことになるだろうと思う。

 

「そしてここでみんなに非常に残念なお知らせが一つある」

 

と、ここでバカンスの説明が一区切りついたところで、真嶋先生が声のトーンを変えてみんなが注目を惹くようなことを言ってきた。まさか、ここでポイントが変動する可能性がありますなんて言うのかな?あんなにも4月の間に色々隠していた学校側がそんな事事前に言うものなのか?

 

「このクラスの坂柳有栖が体の都合でこのバカンスに行けないことになってしまった。これで不都合が起きる場合もあると思われるが、これは決定してしまったことだ」

 

こういうことになったか。俺はこのことを坂柳が予想していなかったとは思いずらい。多分坂柳はバカンスの話を聞いた時から自分が行けないことは分かっていて、しかもバカンスで試験があることも予想しているはずだ。

 

ならば、今回坂柳がすることは、試験は康平に一任させておいて裏で坂柳派の人間が情報を漏らすかサボるなどをさせてAクラスのポイントを大きく減少させることで、葛城派の信用を大きく落としてAクラスを掌握するという魂胆ということだろうな。

 

「みなさん。私が行けないのは非常に残念ですが、帰って来たら実りのある話が聞けることを楽しみに待っておきますので、楽しんで来てくださいね」

 

坂柳は笑顔をしながら言葉を紡いできた。その笑顔は演技でも何でも無くて、自分が行かなくても全く問題の無いようなものを感じさせてきたのだ。

 

どうやら真嶋先生の話はおおよそこれで終わりのようで、後は夏休み中の健康的な生活についてとか、豪華客船の構造とか仕組みに話してくれた。

そして船の中のお店などはポイントを支払わなくても良いようで、どれだけ高級なお店でも無料で食べられるようなのだ。これも怪しさを十分に感じさせているように思えてならないのはこの学校に通っている学生ならば、当然だと俺は思うね。まぁ船に乗ってから念のために先生に聞いてみるかな。これではぶらかすような答えでは無かったら問題無いだろう。

 

 

真嶋先生の説明が終わったから放課後になった俺は康平の席に向かっていた。その内容はもちろんバカンスであると思われる試験についてだ。俺はさっきの話を聞いてから葛城派が生き残る為の策を考えていたので、それを話すつもりだ。

 

「よぉ、康平。今日の夕食って空いているか?少し話したいことがあるんだけど」

 

いつものように無言で席に座っていた康平に向かって、俺は部活もあるので夜に会う為に約束を取り付けようとしていた。

 

「ああ、真嶋先生が話をしてから、涼禅が会いに来るだろうと思っていたからな。問題ないな。店と時間はどうする?涼禅に任せてもいいのか?」

 

「もちろん俺に任せておいてよ。後で店の場所は送るね。時間は俺の部活が終わってからだから8時頃かな?」

 

康平の了承を得た俺はさっそく部活に向かった。夏休み中に大会があるようなので、それに向けての練習で部活内がいつも以上にピリピリしているから、遅れないように行かなければならないのだ。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

ハードさの増している部活が終わったので、さっそく康平に対してメッセージをしていた。今回俺と康平が行く予定のお店は普段から利用している奴なんてほとんど居ないだろうと思われるこの学校内で一番高い料理が出るお店だ。

 

なんで、このお店を選んだのかというとまず個室というところが大きい。それならばカラオケでもいいじゃないかと思われるかもしれないが、夜ご飯にも関わらず俺と康平で歌いもせずにカラオケに行くのはさすがに気が引けたので、今回のような人に話を聞かれずに美味しい夜ご飯を食べれる所にしたのだ。

そのためならば少しの……ポイントくらい仕方ないのだ。

 

 

無事に康平との合流を果たせた俺達はさっそく中に入っていった。中は学生が主に食べることが多いとは言え、世間一般にある高級店には見劣りしないような内装をしていた。店員の案内に従った俺と康平は個室に案内されてコースメニューを頼んだ。もちろん、事前に大体の値段は調べておいたので問題は無い。

 

「ううむ、少し落ち着かないな」

 

「そうか?まぁさすがに学生だけでこんな場所に来るとなると緊張するよな」

 

こう言う場所は男友達と二人で来るべきでは無かったかな?でも、戸塚とかその辺とかいっぱい連れて来たら迷惑だろうしな。あれか、彼女とかと来るべきだったな。まぁもちろんまだ居ないんだけど、中学の時に周りの奴に理想の女性について聞かれて答えた時は、みんなには理想が高いな〜とかそんな人間簡単には居なくね?なんて言われたので、残念ながら出来る可能性はこの高度育成高等学校でも低いと言わざる負えないだろう。

 

「それで、話とは何なんだ?真嶋先生が話していたバカンスで、あるであろうポイントを競う何かについてだということは分かるが」

 

流石は康平だと言う所だな。確かに俺は今回はバカンス関係について話すつもりだ。だけど今回話すことは康平の了承が得られるかが微妙だ、けれども、俺はこれしか葛城派を生かす方法が無いと思っているから。

 

「今回の話そうとしていることは二つあるんだ康平。一つ目はこれからのAクラスで大切なことだ。二つ目はバカンスでのAクラスが生き残る為の策を話そうと思う」

 

「分かった。問題は無い話してくれ」

 

康平からの了承をもらった俺は、これからAクラスでどちらの派閥が生き残るまで実行する行動について話す事にした。

 

「一つ目の事だけど、俺はこれからとりあえずAクラスが統一されるまでの間、坂柳派の二番手である神室真澄に対して接触を多くしようと思うんだ」

 

「何故今そのことを話すんだ?そんな作戦があるならば、4月の時点などで実行しておくべきではなかったか?」

 

「ああ康平の言う通りだよ。確かにこれは4月の時点から実行すべきだった。でも、今回のバカンスの事を聞いて坂柳派が本格的に動くことに対しても危機感を抱いてしまった俺がいてね。

ゆくゆくは葛城派がAクラスを取った時に、坂柳とか坂柳派を協力させるもしくは取り込むために必要なことかなと思って思いついたんだ。坂柳と直接話すのはちょっと怖いからね」

 

そう俺は夏休みが始まるからバカンスぐらいからになると思われるが、神室との接触を増やして親交を深めて、後々坂柳派を取り込むのを簡単にするつもりだ。別の奴でもいいのだが、神室の方が坂柳の次にはまとめられるだろうと思うからな。それに今からの方が4月の時にやった時よりも葛城派からの疑惑などが、少なくなると思うから結果的には良かったかな。

 

「そうか、涼禅がそうしたいと思うならそうしたら良いとは思う。お前なりにAクラスの未来のことを考えてくれて行動しようとしてくれてるんだな」

 

「ありがとうな康平。俺としても失敗しないように頑張ってみるよ」

 

 

「それで二つ目はバカンスでの攻略法のことなんだ」

 

「攻略法?まだ何をするかも分かっていないんだぞ」

 

「もちろん学校側が用意する試験のことでは無いんだ。坂柳派との対策についてだ」

 

俺の言葉を聞いた康平は怪訝そうな顔をしていた。

 

「俺だって坂柳が来ないからと言って、手を出してこないとは思ってはいない。だが、先を越させることは無いと言う自負もある」

 

康平だってさすがに坂柳が居ないとはいえ坂柳派が手を出してこないとは思っていないようだけど、この感じは康平の悪い癖が出ているな。康平はたまにだけど、少し自信家なところがある。別に他の相手なら良いのだけれど、坂柳に対してはやめてほしいものだな。

 

「それで、俺はこのバカンスでの試験について康平に対してお願いがあるんだ」

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

下関と葛城がこれからの作戦について話す時間の少し前の時間。ケヤキモールにあるカラオケ店では坂柳と神室が二人で話をしていた。

 

「それで私に話って何?いつもはいる橋本や鬼頭はいないみたいだけれど」

 

神室の言葉を聞いた坂柳はいつもしている悪い笑みをしながらも言葉を返した。

 

「ふふ、神室さんだけに話したいことがありましてね。橋本君と鬼頭君にはさきほど簡単にバカンスでしてほしいことを言ってありますので、神室さんにもして欲しいことを言う為に呼んだんですよ」

 

それを聞いた神室は不機嫌そうな顔をより不機嫌そうにしながらも坂柳に対して返事をした。

 

「それだったら私にもその時に言って欲しかった。わざわざあんたと二人っきりより他のやつがいた方が相手しやすいからね」

 

「神室さんは酷いですね。でも、まぁ理由なんて簡単なものですよ。他の人には聞かれたく無いからですよ」

 

神室はこの言葉を聞いて疑問に思った。何故今更にもなって私だけに話したいことがあるのかと。万引きのことかと予想した神室だったが、全く予想もしていなかった答えが坂柳から出てくる。

 

「実は神室さんには、後々坂柳派が主導権を握った時のために、下関君と仲良く、そして親密になって、あわよくばこちらに引き込んで欲しいと思いましてね」

 

「何を言っているのか分かんないだけど、なんでいきなり下関の名前が出てくるの?」

 

「理由は色々あるんですが、葛城君や他の葛城派の人は警戒心が強くてダメですが、能力もあって打算ありでもこちらと仲良くしてくれそうな下関君なら神室さんでもいけるんじゃないかと」

 

「無理だと思うけどね。しかも私じゃ無くて橋本でもいいと思うんだけど」

 

「連絡先を持っているでしょ?」

 

「確かにあるけどやり取りしてないし、それに本当に優秀なの下関って?授業中はいつもうとうとしているし、運動能力もそこそこ、多少は顔が広いぐらいだと思うんだけど?」

 

その言葉って待ってましたとばかりに坂柳はその笑みをより濃くしながら会話を続けた。

 

「実は私下関君の事知っているんですよ。多分校内一ですね」

 

「何?知り合いってことなの?」

 

「違いますよ。私は勝負をしたいある同い年の男の子がいましてね。その子の関係者の間では色んな(・・・)意味で有名でしてね。私も男の子について調べている時にたまたま下関君のことを知れたんですよ」

 

「じゃあ一方的に知っていることね。下関も坂柳に知られるなんて本当に可哀想」

 

「じゃあそう言う事なので、下関君との交流とバカンスでは葛城君がリーダーをすると思いますから葛城君の妨害をして下さいね。私からは無人島では多分連絡出来ないと思いますから」

 

「増えてるけど……分かった。やれるだけやらしてもらうから」

 

「任せましたよ神室さん。これでバカンスを終えてからの葛城君は失脚ですかね。そしてやっと気兼ねなく綾小路君と勝負が出来ますね。ふふ。」

 

最後の方は神室には聞こえていなかったものの、神室は坂柳が勝つだろうな予感のような確信をしていた。

そして神室は好きでも無い男に好かれる方法を必死に考えるのだった。

 




この下関のバカンスでの策は無人島に着いてから明かしたいと思います。


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幕間 西野武子の証言

幕間はネタが切れるまではこんな感じでいこうと思います。


分かった。私と下関くんの関係が聞きたいんでしょ?まぁ関係って言っても何か一言で表すことが出来ない関係なんだよね。友達は絶対に違うと思うし、恋人なんてあるはずもなくて、でも、しいて言えば協力者とか共犯者とかそんな感じの方が多分あっていると思うんだよね。

 

なんでスパイになったんだって?これも難しい質問だね。うーん、なんか私って昔から思った事をすぐ言っちゃうような人なんですよね。それで友達なんて数えるほどしか居なくて、クラスのカーストで言っても下から数えた方が早くて。でも、結局この高度育成高等学校に入学してもそれは変えることが出来なくて、孤立気味になってしまっちゃって。そんな中で龍園くんがCクラスの王になってから、私は捨て駒みたいに扱われて退学するんだろうなと思っていた時に下関くんからスパイにならないかと誘われたんですよ。

 

楽しそうとか、自分のいままでを変えたいと思って、変化を求めて了承したのもあるけど、何か下関くんの顔を見ていたら寂しそうに見えちゃったんだよね。おかしいよね。ほとんど初対面の男性にそんな事を思ってしまうなんて。それで同類って言うのかな?そんな親近感を覚えたから了承したっていうのもあると思う。

 

暗い感じになっちゃったね。私からの下関くんの印象とか聞きたいんでしょ?それくらいなら私でも簡単に答えられるよ。まず以外にも律儀なんだよね。私と下関くんで結構な大仕事をした時があったんだけど、それが終わってからはいつものポイントよりも多めにくれちゃったり。約束をしたりしたら破ったりすることはまだないし。何か妹がいるとか言ってたから多分そういうのに慣れてるんだろうね。

 

え?下関くんとの関係を切る気は無いのかだって?今のところまったくそんなつもりはないね。何故って聞かれても困るな。私はスパイをしている時の方が楽しいし、どうせCクラスの親しい奴なんてそんなにいないから。それにまだ下関くんは多分私のこと必要でしょ?だから私からは手を切ることは無い。

 

あっちから捨てられる可能性は確かにあるかもしれないけど、今のところCクラスに他に下関くんと関わっている人はいなそうだし。まだ私は情報源としても内通者としてもまだ使えると思えるから。だから、私の事を見捨てる時が来たらそれは仕方が無い場合か私よりも優秀な人物が見つかったということ。でも、多分そんな時になっても下関くんは私が普通にこの学校で暮らせるように配慮してくれると思う。

 

 

だって下関くん悪ぶってるけど優しい人だし、私はそんな下関くんを信用しているから。

 

 

 

 

 




次回からいよいよ3巻に入ります。


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第3巻
豪華客船 トラブル多数


最近タイトルを少し変えようかなと悩んでいます。
もし変わるとしてもそこまで変わらないとは思います。


奥が見えないほどの長い廊下。数えるのも億劫になるほどのドアの数。一つ一つ豪華な照明。高級そうな絨毯。そう、俺は今まさに豪華客船に乗っている。

 

真嶋先生から改めて豪華客船が無料のお墨付きを貰ったのに、なぜこんな場所にいるのかと言うと、それは俺が今西野に無人島で起こる何かについて指令を出そうとしているからだ。

 

「すまんな西野。こんな所まで来てもらって」

 

「本当ですよ。折角の豪華客船なのに何でこんな誰も通らないような従業員専用の階層に集合なんですか」

 

「人にあまり見つかりたくないからな。人がいそうなデッキと宿泊階層と娯楽階層は論外として、教師達にも見つかったら面倒だし教師の宿泊部屋がある上の階層は却下としたら、もう一番下の機械関係の階層とこの階層しか残ってなくてな。密会して下さいと言っている一番下よりもここの方が良いかなと思ったからこの階層にした」

 

西野は俺の説明を聞いて面倒くさそうにため息を聞きながらもしっかりと会話をしてくれるようだ。

 

「それで何の話ですか?私の予想だとこの間言っていた無人島で起こるであろう行事についてだと思うんですけど」

 

流石に約ニヶ月俺と付き合ってきたら、そのくらいは分かるか。西野も成長をしているようでなりよりだな。

期末テストも俺が少し教えたのもあると思うが、それなりに良い点数を取れたって言っていたしな。この調子で行けば三年間は西野との契約は続くだろうな。

 

「ああそう通りだ。俺は無人島に起こるであろう行事事について予想をつけたんだ」

 

「へぇーどんな予想何ですか?案外当たっているかもしれませしね」

 

俺は西野に向かってバカンスについての説明を受けた日から考えていた、当たる自信のある俺の予想を発表した。

 

「無人島で一週間であるであろうクラスポイントに影響があるかもしれない行事は宝探しゲームだと予想している」

 

西野は一瞬ぽかんとなった後に「本当にこの人についていって大丈夫なのかな?」なんて失礼な事を真面目なトーンで小声で呟いた。これでも真剣に考えたからなんか傷つくな。

 

「一応言っておくが、俺は大真面目だから。最後までサバイバルと迷ったんだけど、安全面とか衛生面を考慮をして宝探しゲームだと思った」

 

「いやーそれだったらまだサバイバルの方がありますよ。だって一週間も宝を探すのは面倒臭いし、それだったらサバイバルに重きを置いて宝探しをオマケしませんか?」

 

訂正しようか……俺の予想よりも西野は成長していたようだ。いや、俺が宝探しという男のロマンに惹かれたからだな多分。うん。

 

「まぁこの際宝探しでもサバイバルでもどっちでも良いんだけど。あんまり変わらないし、大まかな策を変える必要なんて無いからな」

 

「それでその策の中で私に頼みたいことがあるから呼んだんですよね?」

 

「うん。西野には夜に無人島の船が泊まってあるであろう場所で俺と会って欲しい。もちろん夜間の散歩の禁止や禁止事項に反すると思ったら実行しなくてもいい」

 

「そこで私はその行事で龍園くんが何をしようとしているかを報告すればいいんですよね?」

 

理解が早くて助かるな。こんな感じの優秀なスパイがDやBにも作れればいいんだけどな。だけどDもBも一通り見たが、ぱっと見ピンとくる奴がいなかったんだよな。ワンチャンDの櫛田桔梗に裏の顔があることを信じて誘うこともありだが、リスクが高すぎるからな。

 

「そうだ。無理だけはするなよ。怪しい動きが見られたら龍園は何をしてくるか分からないからな」

 

俺は西野の返事を聞いて密会を終了した。念には念を入れて西野を先に行かせて、俺は時間をずらして別の場所から上の階層に行った。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

俺はそのままデッキへ行って康平と合流する予定だったのだが、そこまで行く廊下の途中に向こうから海パンだけを穿いている男が歩いて来るではないか。

 

あんな奴俺らの学年にいたか?……あ、思い出した。Dクラスに金髪のやばい奴が居るって聞いたことがあったな。康平が要注意すべき人物でも挙げていた、名前は高円寺だったっけ?

 

何にせよ、関わってもろくな事にならないことは確実なので、俺は高円寺と出来るだけ目を合わさずに隣を通り過ぎおうとしたのだが

 

「ちょっと待ちたまえ君」

 

俺はこの空間に俺と高円寺以外いない事を悟ると、大きなため息をつきながらも振り向いた。

 

「俺の事を言っているのか?高円寺」

 

「勿論だよリベンジボーイ。君に忠告しようと思ってね」

 

やっぱり高円寺で合っていたようだ。ここまで来て別人だとなかなか堪えるものもあるし、変人と呼ばれるような男が何人も居ては敵わないからな。それよりも俺が……リベンジボーイ?何か不愉快だな。

 

「忠告云々よりも俺の事をリベンジボーイと言ったのか?何でそんな風に呼ぶのか聞きたいんだが」

 

「そのままの意味だよリベンジボーイ。君の瞳の奥からは醜くナンセンスな憎悪が感じられるてね。隠すならもっと上手く隠さないと私以外にもバレてしまうよ。では、私はこれから美しい我が肉体を磨かなくてはならないのでね失礼するよ。ハハハッ」

 

「……ッ!ご忠告感謝するよ高円寺」

 

高円寺。あいつは予想以上に洞察力や総合能力が高いみたいだな。だが、高円寺なら問題ないだろう。あいつは変人で気分屋だろうから、俺の復讐心を言いふらすことも、俺に関わって来ることも詮索することも二度と無いだろう。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

途中高円寺というトラブルに遭ってしまったが、俺は無事にデッキにたどり着いた。デッキに着いて周りを見渡すとさまざまなクラスの奴らがプールに入ったりするために水着を着ていた。俺の服装は制服姿なので少し浮いてしまっているかな?と思っていると、これまた制服姿の康平と同じく制服姿の戸塚がこっちに気づいて近寄って来てくれた。

 

「涼禅用事は終わったのか?デッキの上は予想以上に風が気持ち良くて居心地がいいぞ」

 

「葛城さんの言う通りだぜ下関。もっとバカンスを楽しまなくては損だぜ」

 

「まぁぼちぼち楽しんでおくよ。それに康平の言う通り潮風が涼しくて気持ち良いな。こんなの学校内じゃ味わえないよな」

 

俺たち三人はそのまま流れでデッキの上で何かをすることも無く、ただ少し時間潮風を体に浴びていた。

 

『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まり下さい。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義のある景色をご覧頂けるでしょう』

 

そのまま寝てしまおうかなと思っていると、違和感を感じてしまうようなアナウンスが船の中に流れてきた。俺はその事に気づいたか康平の顔を見ると、康平も何かを感じていたようで、俺の視線に気づき頷きを返してくれた。

 

このままここに居てもいいのだけど、どうせなら見えやすそうなベストポジションで見てこようかなと思った。

 

「もっと見やすい場所で見てこようと思うけど二人はどうする?」

 

「俺はここで見ておく。混んでいる可能性もあるからな」

 

「葛城さんの側で居ておくから、下関は心配なんてせずに行ってこいよ」

 

別に心配なんてなにもしてないんだけどな、なんて思いながら、ここに残る二人を置いて見えやすい位置に向かった。

 

ベストポジションは康平の予見通りに混んでいて、何とか島を見ようと出来るだけ人の邪魔をしないように奥に奥に進んで行った。

 

「おい邪魔だ、どけよ不良品ども」

 

進んでいると明らかに相手を怒らせそうな言葉がすぐそこから聞こえてきた。しかもこの声は聞き覚えがある声で、それがAクラスの葛城派の人間だと思い出した俺は、争いが起こる前に止めるために止めに入ることにした。

本当、他のクラスからヘイトを向けられるようなことはしないでほしいな。

 

「テメェ何しやがる!」

 

「お前らもこの学校の仕組みは理解してるだろ。ここは実力主義の学校だ。Dクラスに人「はいはい、もういいだろう。一々人様に煽るような事をするんじゃないよ」

 

俺が間に入って、何とか喧嘩になることは防げたかな?もしかしたら入らなくても喧嘩にはならなかったかもしれないけど、他クラスからAクラスへの鬱憤が溜まってしまうから、とりあえずは止めれてよかった。

 

「!下関……さん。どうしてここに?一体どうしたんですか?」

 

止めに入ったのでAクラスの生徒やDクラスの生徒だけでは無く、他のクラスからの注目も浴びるはめになってしまった。どうせ無人島の争いで目立つことにはなるだろうから構わないか。

 

「俺を慕ってくれるのはありがたいけどな、わざわざ人様の怒りを買うようなことをするなと言っているんだ」

 

「い、いや、でも、実際相手はDクラス。学校公認の不良品ですよ。俺は学校の仕組みに従って言っているんです」

 

「お前の言いたいことも分かるが、だけどな人間いつ落ちるか分からないんだぞ?なのに今威張っていても意味が無いんだ。最後に勝っていた奴だけが威張れるんだ。分かったか?」

 

「は、はい。分かり……ました」

 

説教?が効いたみたいで良かった。でも、そのおかげで周りの他クラスからのなんだコイツみたいな目線が痛いな。まぁ謝罪だけはしっかりとしておくか。

 

「みなさんすみません、お騒がせをしてしまいまして。Dクラスのみなさんもすみません。これからはしっかり注意しておくよ」

 

「あ、ああ。Aクラスにもお前みたいな奴がいるんだな」

 

俺はDクラスの人達に向き直って改めて謝罪の言葉をかけた。それに対してDクラスの中で一際大柄な、暴力事件の時に見た須藤が呆気にとられた表情ながらも返事を返してくれた。

これでとりあえずは解決かな。これからのことも考えての打算がありの行動だったど、丸く収まってくれて良かったな。偶には正義の味方みたいなことをするのも……悪くないな

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

それからベストポジションをDクラスの人達と分け合いながら待っていると、船が島につけられる距離まで近づいたのだが、そのまま島を見せるためなのか島の周りをゆっくりと回り始めた。船から見えた島には塔?ような物が建っていたり、崖の下に小さな小屋があったり、極め付けは洞窟とそれに続く道が見えた。

 

これは宝探しもあるのではないか?この船が島の周りを回ったのは宝の場所のヒントを与えるためで、それに違和感があるアナウンスで気づいたクラスがいち早く宝を見つけられるというわけか。

だけど、ペンションが見えない所からすると、西野の言った通りサバイバルも同時にする可能性が高く思えてきたな。

 

『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします。生徒たちは30分後、全員ジャージに着替え、所定の鞄と荷物をしっかりと確認した後、携帯を忘れず持ちデッキに集合してください。それ以外の私物は全て部屋に置いてくるようお願いします。また暫くお手洗いに行けない可能性がありますので、きちんと済ませておいてください』

 

もう明らかにここに戻って来ませんよと言っているアナウンスが聞こえてきた。さてと、もちろんアナウンスの指示通りにするのだけど、ジャージに着替えなければならないのか。長袖の方が個人的に都合が良いんだけど、熱いだろうな〜。仕方ないな半袖に長ズボンといった感じのスタイルで行くか。それならば多少はアレ(・・)の誤魔化しも効くだろうしな。

 

俺はそれから康平と合流をして、改めて目線で今回の作戦の了承を聞くと、今回ばかりは仕方ないなと言ったような感じで頷いてくれた。

細かい作戦はどんなルールになるか詳しいことを聞いてから決めることにするか。

 

そして俺達Aクラスは戦いの舞台になるであろう無人島に降り立った。

 

 




ルール説明にすら入れなかった。


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奇策 逆に考えよう

いよいよ下関くんの思い切った策です。
いつもより長いです。



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いよいよ無人島に降り立ったAクラスは名前の順で整列をさせられて、点呼をすることになり、問題無く終わったのだが、Aクラスは携帯が没収された上、暑い浜辺の中、他クラスが揃うの待つことになった。

 

俺は汗をあまりかかない体質だからいいけど、汗っかきの奴はもう汗が出てるほどの暑さだぞ?少しは水撒きとかの対策ぐらいはしてほしいものだな。

 

それから最後に下船したDクラスが整列して点呼が終わったぐらいのタイミングで、我らが担任の真嶋先生がいつの間にか用意されていた壇上に上がった。

 

「今日、この場所に無事につけたことを、まずは嬉しく思う。しかしその一方で1名ではあるが、病欠で参加できなかった者がいることは残念でならない」

 

真嶋先生が一瞬Aクラスに目線を寄越して坂柳の事について触れた。他クラスからはボソボソと言った会話が聞こえてきた。大方「そんな人いたんだ気づかなかった」とか「旅行で休むなんて可哀想」だろう。

といっても、一之瀬や龍園、堀北などは坂柳が休んでいて、理由が体の事ぐらいは分かっているだろう。

 

「ではこれよりーーー本年度最初の特別試験を行いたいと思う」

 

生徒がそれなりに静かになった所で真嶋先生から、生徒を天国から地獄に叩き落とすような発言がなされた。

もちろんその発言が来るのは分かっていました。なんて思っている各クラスの中心人物を除く、他の生徒の間では疑問の声や話し声が止まらなかった。

 

そして真嶋先生からこの無人島での特別試験についての説明がなされた。

まず今日から一週間俺たち一年は無人島で集団でのサバイバルをさせられるようだ。

これは企業研修を参考にしているとか先生が言っている時に思い出したけど、そういえばお父さんが昔そんな事を言っていた気がした。それをもっと早く思い出していれば、今俺に向かって西野が控えめにピースサインをすることも無かったのにな……。

 

それから生徒から出た文句を真面目な顔をして諭したりしていた真嶋先生が言うにはこの特別試験のテーマは自由(・・)らしいのだ。

こういうテーマなどは重要になりそうだな。

こんな風に毎回テーマが出されるとしたら、それをしっかり考えれることで運営が考える正解に辿り着けるのはお決まりというやつだ。

 

そこから真嶋先生は小出しにしつつもこの試験の概要やルールを説明してくれので、俺は頭の中でまとめてみることにした。

 

・まず各クラスに試験専用の300ポイントを支給するから、上手く使って生き残れ。

 

・支給物はクラスごとにテントを二つ。懐中電灯を二つ。マッチ箱を一箱。歯ブラシは一人一つ。日焼け止めや女子特有の物は制限が無い。

 

・マニュアルを用意してあり、そこには300ポイントを使うことで飲料水からバーベキュー機材まで買うことが出来る。

 

・堅実なプランを組めば無理なく一週間が過ごせることと、二学期以降への悪影響は無い。

 

・そして特別試験終了時に残っている各クラスのポイントがクラスポイントに加算され夏休み終了後に反映される。

 

・マニュアルは一クラスに一つで、紛失したらポイントを消費して再発行が可能。

 

・体調不良などでリタイアすると300ポイントから30ポイントが引かれる。なので坂柳が居ないAクラスは270ポイントからスタートする。

 

今のところこんな感じのことが説明された。ただのサバイバルだと本当に危ないから、戦略性も交えつつもポイントで運営が助けて、一週間を安全に過ごすことが出来るとかは、本当によく出来ているところだな。

 

それより重要な事は、この残りポイントがそのままクラスポイントに反映されることだ。

もし仮にBクラスが300ポイントを手にしてもAクラスから落ちることが無いのは安心だけど、反映されるということで、クラスの本気度が変わってくることころだ。

 

例えばだが、少しでもポイントを残したい派と一週間を快適に暮らしたい派で意見が割れてクラスの雰囲気が最悪になる可能性も考えられるだろう。

 これは最悪どちらかが折れれば良い話だけど、問題は反映されることでAクラスにとっては不利という点だ。理由としては、他のクラス全てがAクラスに対してヘイトを持っていて、引きずり落とす対象にしているのに、わざわざそんな奴らと無人島で、協力する気があるのかと言う話だ。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

そんな風に俺が考えを深めている間に、全クラスがそれぞれ担任の所に行くことになったので、俺も周りのAクラスの生徒と共に真嶋先生の元へ行くことにする。それからも追加の説明があったのでまとめておく事にする。

 

・完全防水の多機能高性能腕時計が配布されて、一週間の間に外すとペナルティが課せられる。

 

・学校側はポイント関連以外一切関与はしないので、自分達で食料や水は管理しろ。

 

ここまでは真嶋先生が口頭で説明したのだけど、ここで、マニュアルを一番初めに渡された康平がペナルティ項目を読むように促されたので、康平が読んだマニュアルの内容をまとめることにする。

 

・体調が崩れたり、大怪我をしたらマイナス30ポイントとその者はリタイア。

 

・環境を汚染する行為はマイナス20ポイント。

 

・毎日午前8時、午後8時の点呼に不在ならマイナス5ポイント。

 

・暴力行為や略奪行為、器物破損を行うと、所属するクラスを即失格として、対象者のプライベートポイントは全没収。

 

内容としてはまぁ当たり前の事がほとんどだな。こういうのはちゃんと覚えておいて損なんて無いからちゃんと覚えるつもりだ。

 

そこからは色んな意味で中々の反応が出る説明がなされた。

まず支給テントは8人用のものが2つ。これはまだそこまでの反応は無かった。最悪ポイントで買えば良い話だからだろうな。

 

さて問題は次だ。

もちろん無人島になんかトイレはあるわけが無いので、支給されることになるのだが、これが中々のものだった。真嶋先生がやり方を説明しながら出したものが簡易トイレというもの。

これの説明がされればされるほどにコソコソと喋り声が増えていって、遂には何人か女子が普通のトイレを買ってと康平に対して、それなりに大きい声で要望してきた。流石の康平も一理あると思ったのか頷いていた。

 

まぁトイレ問題はこれにて解決したわけだが、個人的に重要だと思う追加ルールが二つほど説明された。

 

・一つ目に島の各所にはスポットが存在している。占有権があり、占有したクラスのみが自由に使える権利を得る。

 

・占有権は八時間しか意味を持たないので、その度に占有し直す必要がある。

 

・スポットを占有するごとに1ポイントのボーナスを得れて、試験終了時に加算される。

 

・スポットを占有するには専用のキーカードが必要。

 

・他クラスが占有しているスポットを勝手に使用すると50ポイントのペナルティ。

 

・キーカードを使用出来るのはリーダーとなった人物だけ。

 

・正当な理由なくリーダーは変更出来ない。

 

・二つ目に最終日の昼に点呼のタイミングで他クラスのリーダーを言い当てることが出来る。

 

・的中すると50ポイント、されると50ポイントのマイナスとボーナスポイントを全て失う。

 

・間違った人物を言うと、マイナス50ポイント。

 

・リーダーは例外無く決めることになる。

 

という感じだ。この時点でさっきよりも戦略性が広がって、ワクワクするような事になって、やっとテーマである自由というものについて理解出来た気がするな。

何をするも自由なので、リーダー当てに集中する大博打も可能というわけだ。

そんな事をする奴なんて居ても龍園ぐらいだとは思うけど……。

まぁ今の説明を聞いた段階で、7割方は無人島の特別試験での戦略を立てることは出来た。これを康平に事前に伝えていた策と合わせればAクラスが敗北をすることは無いだろう。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

「ここに居ても他クラスが居て、この試験に関わる話が出来ない。少し落ちついる場所に行こうと思う。ついてきてくれ」

 

真嶋先生が完全に下がって喋らない雰囲気になったので、ここだとばかりに康平が前に出てきて、Aクラス全体に号令をかけた。坂柳派の人間も渋々ながらも率先して歩いて行く康平に置いていかれると思いついて行った。もちろん俺もついて行き、康平に確認したいことがあるので、康平の周りに誰も居ないのを確認して隣まで行った。

 

「康平。追加ルールとかは理解出来たよね?これが最後の確認だけど、俺の事前に考えた策を採用するよ?」

 

「ああ、このルールを聞いてますます涼禅の提唱した策が有効だと分かったからな。涼禅の策に乗ることにしよう。打ち合わせ通りでいいんだろ?」

 

「もちろん。アドリブもよろしくね」

 

康平からの最後の了承が出たので、俺は坂柳派に先を越されないことに対して優越感は若干感じながら、康平の歩くそこそこ後ろに下がって、葛城派の重鎮で親交がそこそこある町田の隣に来た。特に町田を選んだこだわりなどは無く、それなりに頭の回る町田の意見を聞いておきたいと思ったからだ。

 

「よぉ町田。無人島のルールを粗方聞いたけど、どう思った?」

 

「下関か。それなりに複雑だとは思ったが、俺たちはAクラスだから、特に何事も無く終われるだろうな。坂柳派の奴らが気がかりだが、葛城さんなら問題無く対処してくれるだろうな」

 

まぁ町田の意見が大体の葛城派の人の意見だろうな。だけどやっぱり、AクラスやCクラスにも言えるけど、リーダーに頼り過ぎだと言わざる得ないかな。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

そんなこんなでやって来たのは島をぐるっと見た時に発見した洞窟だった。そこで、康平に言われて全員が洞窟に入ることになった。洞窟の内部は人工的に作られたんだろうなと思わせるような内部だった。広さもまぁまぁで、アリの巣のような構造となっていた。

 

そこで康平の話を聞こうと全員が座り、真嶋先生も立ちながらも話を聞くようだった。坂柳派の人も特に反抗せずに座ってくれてありがたかった。もし反抗されれば聞くように説得するのも大変だったからな。今でも若干嫌そうなやつが何名かいるが、まぁ気にせずにいこう。

 

「ここに集まってもらったのは、これからの無人島の生活の戦略についてと、リーダーについてだ」

 

「まずこの特別試験がサバイバルというのを理解して欲しい。

その上で、この特別試験で重要なのは、いかに団結して効率良く生活をして、リーダーを他クラスから守るかだ。この二つが出来ない時点でそのクラスの負けは決まったことになる。そして、団結に欠けるということはこの試験においては命にも関わる問題なのを覚えておいてほしい」

 

「これに注目すると、このクラスも完璧とは言えない。坂柳を慕っている者達は俺の意見、命令を聞くのに不快感を覚えモチベーションが下がり、団結が削がれる可能性がある。そして俺を慕ってくれている者達は、坂柳の30ポイントで坂柳を慕う者達との団結が削がれるだろうと考えられる」

 

「この事から俺は涼禅と協議して一つの結論を導き出した。それは今回の無人島試験で……俺がリタイアすることだ。そして俺の右腕である下関涼禅と坂柳の右腕である神室真澄にすべてを一任する。これが導き出した最善の結論だ」

 

この最後の発言にクラスの坂柳派、葛城派関係なく、真嶋先生でさえ驚いた表情をしていた。この策を知っていたのは俺と康平のただ二人だけだ。このクラスから情報が漏れる可能性があるのは二つの派閥があるからだ。だったら一度坂柳との連絡が取れない、この試験間だけでも派閥を無くせば良いと思ったから康平に対して提案をした。説得にはそれなりに苦労したけど、了承してくれて本当に良かったよ。

打ち合わせの内容に加えて、アドリブでこの試験に関することも言ってくれたし、説得力は抜群だな。流石康平だ。

 

「か、葛城さん?本当にリタイアするんですか?坂柳のいない今こそ葛城さんこそがリーダーに相応しいと見せつける絶好の機会ですよ?」

 

「その考えこそが駄目なんだ弥彦。自らを魅せることばかり考えていては足元を救われる。それを回避するための策がこの策だ」

 

こう言っても、この策が坂柳派による情報漏洩を防ぐためということを、気づいている人間はすでに何人かいるだろう。現に今、橋本を俺の方を向いてニヤニヤしてきてるからな。

 

まぁ気づこうが、気づかまいがどちらでも構わない。もう、すでに宣言がなされた以上はな。

康平が後ろに下がったのを確認すると、俺は不意に立ち上がり、声を上げて他の人の視線に集めながら、康平の話していた場所に向かって歩いた。

 

「みんな聞いてほしい。この策は何も団結するためだけじゃ無い。俺たちAクラスが康平や坂柳さんと言ったリーダーに頼らずとも優秀だと他クラスにアピールするためでもある。他クラスの連中はAクラスは二人が居なければ何も出来ない不良品だと影で思っているに違いない。それを見返してやるんだ!」

 

もちろんこんな意見は想像半分だ。龍園とかは絶対に思っているに違いないが、大事なのは共通の敵を用意することだ。二人の事を別格と考えているAクラスもこの意見には自覚も少しあって、結構効くだろうしな。

 

「いいんじゃないか?神室の指示だったら俺たちは問題なく聞けるからな」

 

「ちょっと橋本あんた何言って」

 

「ここで断ったりしたら、坂柳や神室の心証が悪くなるだけだぜ?なら、とっとと乗っといた方がいい」

 

「……はぁ、分かった。私、葛城からの一任を受けるから」

 

俺のAクラス全体へ発破をかけた事により、意外な人物が一番にこの策に乗ってきた。橋本だ。橋本は神室から小声で話し合っていたようで、神室から了承の発言がなされた。何はともあれ、橋本と神室という坂柳派の中核が乗ってくれたことにより坂柳派はこの策に全面賛成だろうな。

 

「……葛城さんが考えてくれた策なら俺はもちろん構いません。下関も葛城さんが信頼を置いている人物ですし、不満はありません」

 

未だに少し納得していない戸塚に代わって、町田が意見を申してくれた。その意見には葛城派の人間が多く頷いてくれていた。流石、葛城派に初期からいる人間の言うことは違うな。

 

「神室さん了承してくれてありがとう。とりあえずこっちに来てくれない?」

 

俺の言葉に渋々ながらも神室は来てくれた。後は改めてクラス全員からの合意を取って、後からとやかく言われることを防げば終わりかな。

 

「じゃあ改めて合意を取るから。全員顔を下げて、俺、下関涼禅と神室真澄が無人島の間仕切ることに反対の人は手を挙げてくれ」

 

さすがに互いの派閥のナンバー2が見ている状況で手を挙げる人間なんて居なくて、満場一致で可決となった。

 

「みんなありがとう。反対意見は無かったよ。じゃあ今から俺と神室さんはこの後の作戦について打ち合わせをするから、少し待っておいて」

 

「真嶋先生。では、俺はリタイアするので手続きをお願いします」

 

「葛城さん。俺……」

 

「弥彦。お前には涼禅を支えてやってほしい。任せたからな」

 

「……はい!任せてください!」

 

「葛城。リタイアは船の所に行けば問題は無い」

 

康平がマニュアルを俺に渡してから、洞窟から出るのを見届けた俺と神室は二人で洞窟の奥の方に向かった。ここなら大声で話さなければ聞こえることは無く、見られることは無いだろう。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

「それでこっちの動きを封じるだけに葛城をクビにしたみたいだけど、これからの作戦はあんたは考えてるの?」

 

奥の部屋に来た途端に、神室からこれからのことについて聞かれた。意外にもこの試験に対してやる気があるようだ。てっきり俺にすべて任せてくると思ってたな。

 

「ああもちろん考えてあるよ。とりあえずはAクラスを三つに分けて、それをこの洞窟と、塔と崖下の小屋の三つのスポットの場所に分かれて過ごさせる」

 

「団結って言ってた割に、分けるんだ」

 

「こっちの方が効率が良いからな。どうせ240ポイントしか残ってないんだから、節約なんてせずにスポット更新を確実にしていって稼ぐしか無いよ」

 

俺は康平から貰ったマニュアルをペラペラとめくりながら神室との会話に勤しんでいた。

 

「あんた。あれだけ言って勝つ見込みはあるの?」

 

「もちろん。でも、狙うのは2位で、リーダー当てでしっかりするつもりだから、ポイントを使いまくって丁度2位にいけるかな?それとリーダーは神室に任せるから。他の人には言っちゃ駄目だからね」

 

神室は少し驚いた顔をしたが、諦めたのか、ため息をつきながらも了承をしてくれた。俺の予想だと体調不良でリタイアすれば、リーダー変更は出来ると思うので、それを使ってボーナスポイントだけは死守しないとな。

 

それから真嶋先生を呼んで、神室のリーダーカードを作って貰った。

Aクラスの連中がいる場所に戻った俺と神室は、さっそく坂柳派の12人を塔に向かわせて、とりあえず他クラスが来たら牽制するように指示した。

 

葛城派の12人も小屋に向かわせて、同様のことをお願いした。戸塚がいつもよりもハキハキしていたこと以外は、特に何も無かった。

 

漏れたお互いの派閥の奴と中立の奴12人にはここに待機を命じて、拠点整備と、康平を呼ぶお客さんが来たら、飛脚的なもので俺と神室まで伝えるように言った。

 

もちろん、人払いを済ませてから、洞窟の占有権を確保した。これで今出来ることは必要な物を買うだけだな。さて、康平の分までこの無人島で頑張るとしますか。

 




次回は多分龍園が来るところまでは書くつもりです。


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探索 龍園翔と下関涼禅を侮るな

無人島編に入ってから前よりも長くなっています。何でだろうね。



今は洞窟のスポットを占有し、その上そこをベースキャンプとして指定をしたところだ。

それから、どうせ買うことになるだろうから、真嶋先生にトイレとシャワー、それに調理器具セットを頼んで置いた。

 

そして洞窟に残した人達に留守を任せて、俺は神室と共に散策をしながら、葛城派の奴らを向かわせた小家に対して向かい始めることにした。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

「それで、何で私をリーダーに指名したの?それを理由に見張る気?」

 

「まぁ大体当たりかな。康平を切ってまで情報漏洩を防ごうとしたのに、神室から色んな情報が漏れると困るからね。だからこの無人島では出来るだけ一緒にいて欲しいとは思ってるよ。嫌だった?」

 

俺が言ったことももちろん神室をリーダーに指名した理由に含まれている。加えて神室をリタイアさせる目的もあるが、それは言う必要は無いだろう。いくら出来るだけ一緒にいたとしても、俺にも隙は出来るだろう。それで俺の作戦の根幹を言われたら元も子もないだろうしな。

 

「……まぁ仕方ないと思って割り切ることにする。それより、私はともかくとして、下関人を信用しなさすぎだと思ったんだけど」

 

「当たり前じゃないか?人なんて直ぐ権力や金と言ったもので、それまでの関係を全て裏切る。そんな生物だ。それを信用しろという方が無理な話だ。だから、俺は誰一人として心から信用・信頼するつもりは無いよ」

 

「それは葛城も?」

 

「さぁ……どうなんだろうな」

 

それから、俺は少し暗くなってしまった空気を変えるために、神室に対して質問などをして話を幅を広げて、ほどほどに会話が弾む事に成功した。

そんな会話を続けていながら森の中を歩いていると、近くに結構大きめの池のようなものを発見することに成功した。ご丁寧に池の近くの切り株にスポット占有の装置まで取り付けてあった。

 

「おっ、ラッキーだね。この辺にもう少しスポットないかなと思って、わざわざ歩き回った甲斐があったね」

 

「それで、これ占有するの?周りは……流石に見てないか」

 

俺も念のために周りを見るも、人の気配は全くせずに、その代わりに近くに池が利用出来るのはスポット占有したクラスのみと書いてある看板が立っていた。これなら海の水を濾過する予定だった水事情もこの池を利用することで解決かな?

 

神室も看板に気づいたようで、これ飲めるの?みたいな視線を向けて来ていた。

 

「これ飲むの?私は最悪飲んでもいいけど……」

 

「う〜ん飲めるとは思う。水はそれなりに透き通っているし、濾過装置を使うつもりだから飲めるようになるとは思う。海の水よりは学校側が管理しているこっちの池の水の方が飲めるかもしれないから」

 

俺も神室もここの位置を大体覚え、スポットを占有すると、また小屋に向かって歩き出した。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

池の方向から歩いて来て、ほどほどの距離で船から見えた地点まで来ることが出来た。崖の上には見張りが一人立っていて、そいつの案内に従い、歩いて行くと、見えにくい場所にハシゴが作られていて、降りるとそこには小さな小屋があった。

間違えない俺が船から見たものと大体の形は同じだ。小屋の外には6人。小屋の中には5人の人間が入っていた。小屋の入り口にはスポットの占有の装置が取り付けてあり、中には釣竿や釣りに必要な基本的な物が置いてあったり、箒や雑巾、ちりとりまでもがあった。

俺はこれからの指示を与えるためにここにいる奴らを一箇所に集めた。

 

「みんなここを守ってくれてありがとう。ここが占有されてないのはみんなのおかげだよ。それで今からスポットを占有するから少しあっちの方を向いていてもらえないかな?」

 

俺の言葉に全員疑問を持つこと無く、別の方角を向いてくれた。別にどっちがリーダーか知られてもそこまで問題では無いけど、念のためにこれくらいはしておかないとな。他のAクラスがあっちを向いている間に神室はスポットを占有しておいてくれた。

 

「みんなありがとうね。これから指示を出そうと思うけど、どうかな?」

 

「おう任せとけよ下関!葛城さんの分までやってやるつもりだからよ」

 

戸塚の気合いの入り用は変わっていないが、この元気がカラ元気では無いことを願うばかりだな。

 

「まずは男子はこの小屋の中にある釣竿で魚を釣ってもらう。次に女子はこの小屋のそうじをしてもらおうかな。幸い中に箒とかの掃除道具はあるみたいだから。それから3時になったら洞窟に全員戻ってきてね。みんなにはここで暮らしてもらうから、一応の為のテントを一つ渡したり、昼ごはんにするつもりだから」

 

「下関。これからやる事は理解出来たが、トイレとか風呂とかどうするんだ?洞窟に戻るべきなのか?」

 

まぁ当たり前の質問だよな。トイレが漏れそうなのにわざわざ洞窟に戻って来いなんて鬼畜の事を言うつもりは無い。先生はベースキャンプ以外にポイントで買ったものを設置出来ないとは言っていないからな。

 

「洞窟にはすでに設置してあるから、俺たちが戻ったらポイントで買って、ここに、トイレもシャワーも置いてもらうことにするよ」

 

町田の了解と言った言葉と共に、男女どちらともの安堵のような表情が見て取れた。室内で寝起きは出来るし、それなりには快適に過ごせるとは思うな。

 

「じゃあここは任せたよ。俺と神室は塔の方に行くから、3時に洞窟に来るのを忘れないように頼むよ。あと、誰かここに来たらクラスと名前は聞いておいて」

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

また来た道を引き返して、洞窟に一度寄ってトイレとシャワーを崖の下のスポットに設置して欲しいと真嶋先生に頼んだところ、「占有権が切れてしまったら他のクラスも使うことが出来るからな」と注意を受けつつも了承してくれた。

他には洞窟で待機している人達に、この辺の掃除をしておいてほしいと頼んでおいた。洞窟は部屋が別れたりしていたり、案外洞窟内の地面は綺麗なのでそこまでかかる事は無いだろう。

 

 

そして用が済んだので、次に神室共に、高台にある塔に向かって歩いて行く。

 

「そういえば、神室はどうして坂柳さんの補佐をしてるの?」

 

これは俺が入学してから疑問に思っていたことだ。特に親しくもなっていない入学直後の日から、いきなり側にいるようになって、しかも神室はいつも嫌そうな顔をしながらいるからだ。

 

「成り行きってやつ。本当は……嫌なんだけどね」

 

神室はそこそこ考えてから、答えてくれた。このような答え方をするってことはただの照れ隠しとかなのか、それとも何か坂柳から脅されているのだろうか。

 

「じゃあ、下関は何で葛城の補佐なんかしてるの?」

 

「俺?俺はまぁ……感謝と義理と将来のためかな?」

 

俺自身こんな質問なんてされたこと無かったので、はっきりとした答えを出す事を出来なかった。でも、端的に言ったらこんな感じでは無いかと自分では思っている。

 

「やっぱ、あんたってよく分かんない。人を信用・信頼してないとか言ったと思ったら、そんなよく分からない理由で葛城の側にいるとか」

 

「お互い様だと思うけどなー」

 

そんな風に話してから、坂柳派が固まっている拠点での神室の行動について話し合っていると、いつの間にか高台付近についていて、塔の入り口に埋め込まれているスポットの周りに、Aクラスの奴が集まっていた。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

「それで、橋本。ここにスポットに何かあった?」

 

俺と神室が事前に決めた通り、坂柳派の拠点では出来るだけ神室が話して、葛城派の拠点では出来るだけ俺が話すことにしていることを守ってくれているみたいだった。

 

「いや、何にもないぜ。特に人も来ていないが、ここは人から見えやすいスポットだと思ったな」

 

橋本の言う通り、このスポットは高台にあることで無人島が上から眺めやすい弊害として、辺から見えやすい位置に存在している。康平ならこのスポットは占有しないだろうが、俺は違う。少しでもポイントが欲しいし、バレたって最悪なんとかなるからな。

 

バレたって構わないと言っても何も対策しないのは怪しすぎなので、先程と同じようにAクラス全員を別の方向へ向かせて、その上で、リーダーカードを二人でそろって持ってスポットの機械へとかざした。

 

「占有は成功したみたいだけど、俺らはこれからどうすればいいか指示をもらえるもんだろ?」

 

「2人はここで留守番をして、誰がここに来たか覚えて。他の5人はマニュアルの無人島の地図を渡しておくから、スポットの位置と占有クラス、他クラスの拠点とかメモしておいて。残りの5人は無人島にある果実とか食べられそうな物を採って来て。学校が管理している場所だからあるはず」

 

俺は素直に神室に対して感心をしていた。神室は指示を下す時、表情を変えることなく、すらすらと言ってみせたのだ。まるで自分が考えかのように言うことで、俺の存在を悟らせていない。これは一種の才能だな。

 

「あと、ここにいる12人にはトイレとシャワーを追加して、テント一つを渡してこの塔で暮らしてもらうから、それと3時には全員一度戻って来て」

 

「分かったぜ神室。今回勝てるかどうか2人に期待しているからなぁ〜」

 

神室によってここにいる全員に対して指示が出されたぐらいで、俺たちが来た方向からAクラスの生徒が走って来た。息を少し切らしている様子を見ると、急いで来てくれたようだった。

 

「はぁ、はぁ、2人ともCクラスの龍園が葛城を呼べってまるで自分の家のようにベースキャンプに入って来やがりました」

 

この報告には、ここにいるAクラスの人間全員が驚きを隠さずにいていた。普通の生徒ならいざ知らず、相手が龍園とあったのならば、その時の感情は未知と恐怖で埋め尽くされるだろう。それだけの相手だと少なくとも俺は認識している。

 

「分かった。報告ありがとうな。神室、洞窟に急いで戻るぞ」

 

「はいはい。了解」

 

 

俺と神室は伝えて来てくれた彼と共に洞窟まで戻る道を体力を出来るだけ残せるように早足のペースで進んでいた。

洞窟に着く前に考えることがある。何故龍園がこのタイミングでAクラスに接触してきたかだ。普通に考えれば偵察というのが考えられるが、その場合龍園なら自らの部下を使ってやらせるだろう。

 

ならば何故龍園本人が来たのか?その考えを俺は一つ思いついている。それはCクラスがAクラスに対して協力関係もしくは取引を持ちかけることだろうと思っている。Aクラスからすればその地位のせいで他クラス全てから狙われる所謂四面楚歌の状態だ。

それはCクラスも同様で、この間揉めたDクラスとは組む事は難しく、追う対象であるBクラスとも組むことは出来ない。ならばAクラスと組むしか考えられない。しかも康平は少なからずAクラスを早く統一したいと考えている。そこをつけば康平とも取引をすることは可能と言う事だ。

 

洞窟に着いたので、一旦この思考を後に回して龍園に会う事にすることにする。知らせてくれた彼を先に洞窟に入ってもらって俺たち2人も後から洞窟内に入っていった。

 

「あ?俺は葛城を連れて来いって命令したはずなんだがな。誰がこいつら2人を連れて来いって言ったんだ?」

 

「龍園。用があるなら俺が承ろう。大方取引でもしに来たんだろう?」

 

ここはあくまでも康平が忙しくて俺たち2人が対応している風に見せかけてることにする。こんなの子供騙しで、頭回る人間になんて直ぐに康平が居ないことを見破れるだろうがな。

 

「ククク、ああそういうことか。下関てめぇ葛城の野郎を裏切ってついに坂柳派に入ったことか」

 

「龍園。お前は俺がそんな事をするように見えるのか?」

 

「冗談だよ、冗談。坂柳の野郎に一杯食わされることにビビって葛城の野郎を逃したってところか。聞いておいてやるが、俺と取引する気はお前にあるか?奥の坂柳の奴隷にも一応聞いておいてやるよ」

 

流石龍園だな。言い方は語弊があるが、俺の康平犠牲作戦の本来の目的をしっかりと当てて来やがった。それよりも取引か……龍園とする取引なんて他のクラス中で一番胡散臭いが、まぁ何よりもまずは内容を確かめる所からか。

 

「下関。こんな奴と取引する?はっきり言ってこちらが罠に嵌められるのが、目に見えてるけど」

 

「ああ。もちろん分かっているけど、取引内容によれば取引をする可能性もある」

 

神室は不快感をマックスにしながら龍園との取引に対して反対をしてきた。多分これさっきの奴隷とかで怒ってるよ。そんな神室や俺をあるで嘲笑うように龍園は不敵な笑みを浮かべていた。

 

「見たところ、入り口にあったトイレとシャワー室を合わせると40ポイント。そしてその他の物も合わせれば、最終日にてめぇらのポイントはいくら残るんだろうなぁ?」

 

「何が言いたんだ龍園。俺らのポイント事情なんてお前に関係なんて無いだろう」

 

「いや、何。リーダー当てでポイントを狙うつもりなのに、どうやってリーダーを探るのか思ってな。俺がそれを手伝ってやろうじゃねぇか」

 

これまで俺が龍園を警戒していたのは、その凶暴性と頭の回転の速さと、後は妹の性格と若干ダブってしまっていたからなのだが、今回のことで本能的に確信した。龍園翔を侮ってはいけないと。

 

「分かった。みんな俺と神室と龍園は奥の方で話すから、誰も聞かないように見張っといてくれ」

 

満足げな顔をしている龍園としかめっ面で不機嫌そうな神室を連れて、奥の部屋へと移動した。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

俺たちは地面に円を組むように座り込んだ。龍園はこの間の暴力事件の取引からポイントを欲していることは明白だ。だから今回のこの取引でもポイントを請求してくるのだろう。果たして龍園は何の目的でそこまでポイントを欲しているのだろうか……。何か目的があるように思えてならない。

 

「じゃあさっそくだが、その取引内容を記した紙を見せてくれるか龍園。持ってきているんだろう?」

 

「ククク、ああもちろんだぜ。これだ。確認しろ」

 

『・龍園翔はAクラスに対してDクラスとBクラスのリーダーの情報を渡す。

 

 ・Cクラスがポイントで購入したすべての物資は3日目にAクラスへと譲渡する。

 

 ・上記の項目を達成された場合はAクラスの生徒全員は月々2万ポイントをCクラスに払わなければならない。

 

 ・Aクラスが支払いを1人でも拒否した場合は月々2万ポイントが拒否するごとに倍となっていく』

 

龍園に渡されていた紙に書いてあった内容は全て達成されれば、この無人島の特別試験ではAクラスに得しかないものだった。

だが、相手は龍園だ。さきほど改めて侮ってはならないと思った奴なら、何か罠を張っているに違いない。

 

「あんたが持ってくるリーダー情報が信用出来るとでも?」

 

さっそく神室が気になった箇所を指摘してくれた。このまま龍園と取引して偽のリーダー情報を持ってこられたとたんに俺の作戦は台無しだ。そんな事になったら康平には顔向け出来ないし、俺と神室のクラスでの地位なんかも地に堕ちてしまう。

 

「俺もその点には同意だ。お前が俺たちを騙したら、俺らただ毎月ポイントを払うだけになってしまうからな」

 

「そんな事は言われなくても分かってんだよ。交渉相手が葛城でも同じ質問をしてくれると思っていて、対策としてカメラを用意してある」

 

確かにマニュアルにはカメラが買えるようになっていた。しかも、その場で現像出来るようなタイプだった。これでリーダーカードなどを撮って名前を見れば一発で分かるという訳だ。こんな無人島では写真の加工も出来ないからな。

 

「龍園が持ってくる情報の正当性は分かった。だが、龍園が一週間の間にリーダーの情報を得られる保証は無いだろう?」

 

「企業秘密だが、絶対にリーダーの情報を取ってきてやろう。これは確定事項だ」

 

さて、リーダー探しは龍園だけにしか出来ない手を使うのだろう。例えばだが、買収や脅しもしくは直接的に暴力に訴える可能性もあるな。

 

 

まぁ何にせよ、もういいだろう。龍園の無人島での戦略についてはもう十分理解出来た。

今回俺は取引を持ちかけられた時からこの取引を受ける気なんかさらさら無かった。例えどれほどの好条件であろうとだ。俺は作戦を成功させる為なら多少の犠牲は必要だと思っているが、それは確実に成功する見込みがあっての犠牲だ。胡散臭く信用も出来ない龍園を頼りにしてしまっての成功なんてひどく不安定なものだ。

 

もとより今回の試験は俺たちAクラスの力だけで乗り切ると決め、宣言もしてしまっている。それなのに、龍園と協力した上にポイントまで支払うとなると、流石に誤魔化し切れないからな。

 

神室も反対しているし、ここは違和感の無い理由を言って大人しく帰ってもらう事にするか。

 

「俺たち2人だけではこれは決めることは出来ない。あくまで俺たちはリーダー代行だから、龍園との取引がどれだけ魅力的でも答えることは出来ない。それにあんたは信用出来ないからな」

 

俺のこの意見には神室、龍園どちらもが呆気にとられたようにしていた。それはそうだろう。俺は会話が始まってからずっと龍園の情報を引き出すために肯定的な人を演じていたのだから。

 

「じゃあてめぇは俺との取引を拒否するってことだな。だが、このままで、お前らAクラスが勝てると思っているのか?」

 

「ああ、勝って見せよう。俺たちAクラスが康平や坂柳が居なくても問題を無いと証明してやろう」

 

「ククク……面白ぇじゃねぇか。いいぜ、この取引は止めだ。今回の特別試験でお前が俺を満足させられる強者か粋がる事しか出来ねぇ雑魚か判断してやる」

 

話は終わったとばかりに龍園は満足そうな笑みを浮かべながら、洞窟から出て行ってしまった。さて、龍園に雑魚と判定されるのは癪だが、俺が狙うのは2位で1位では無い。

Cクラスは今回の取引で負ける訳にはいけない。そして、Dクラスは堀北などはいるとしても、まだまだ団結に欠けると、これまでの三宅との会話で察することが出来る。ならば、団結も出来て、優秀なBクラスに1位を取ってもらうのが無難だろう。

 

さて、3時まで何をするかな。みんなはしっかりと仕事を出来ているかな。

 




ここの取引をどうするかは結構迷いました。
次回はBクラスが偵察しに来るところを書くと思います。

初めて活動報告を書いてみました。これからの執筆予定とか書いているので、良かったらどうぞ。


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情報収集 長い1日の終わり

まず更新が一ヶ月少し遅れたこと申し訳ないです。
リアルが急に忙しくなったり、よう実の4.5巻を読んでいたり、話題の呪術廻戦と東京リベンジャーズを最新巻まで読んだりしていたら遅くなってしまいました。

よう実の新刊で新キャラがどんどん出てくるのは嬉しい。
この小説にもどんどん出していきたいね。





集合時間になっていた3時になったので、Aクラスのベースキャンプである洞窟の中には、Aクラスの生徒全員の38名がそろっていた。

その中で二人の人物、下関涼禅と神室真澄のみが立っていた。

 

「さて、全員が揃ったところで、今からAクラスの無人島での過ごし方を共有しようと思う」

 

龍園が帰ってから、今現在までは何のトラブルも無く過ごせていた。それで、この会議みたいやつは毎日しようと思っている成果報告というやつだ。明日からは朝飯の時と夕食の時にやろうと思っているんだが、今日のところは時間の都合上、おやつの時間と夕食の時にすることにしている。

 

「じゃあ、まずは役割分担を改めて発表するね。

小屋チームの半分は魚釣りでの食料の確保。もう半分は島内での食料の探索。

塔チームの半分は他クラスの調査と見張り。もう半分は島内での食料の探索。

洞窟チームの半分は連絡係と手伝い。もう半分は水くみと枝拾い」

 

「こんな感じの役割分担で行こうと思う。もちろん役割のメンバーは日ごとに変えても変えなくても構わない。その辺は各場所のリーダーに任せるよ。次に、この時間までにお試しで仕事をしてもらったところがあるから、そこに成果を報告してもらおうかな」

 

一応小屋組のリーダーである戸塚に目線と指で指して報告を促した。

 

「えーと、葛城派の小屋チームはこの数時間で魚を多数を取ることに成功したぜ!」

 

戸塚は元気いっぱいに報告をすると、他の小屋チームが持っていた二つのバケツを見せてきた。二つのバケツの中にはいっぱいの魚が入っているのが見てとれた。

 

「小屋チームのみんなご苦労様。これが俺らの食料事情が支えることになるんだ。重要な役割だと言うことをみんな理解してくれ。次に塔チームの報告を頼む」

 

「俺らは偵察が仕事だったからな、しっかりしてやってきたぜ。Bクラスの拠点は森の真ん中らへんにある井戸の周辺。Cクラスはビーチ。Dクラスは川の近くの開けた場所。今のところはさぐれてこれくらいってところだな。あと、スポットもちょくちょく見つけることが出来たぜ。これでどうだ?下関」

 

「うん全く問題無い。これでAクラスの勝利へと一歩近づいたな。これで一旦は解散にするけど、各チームの食料担当は無制限支給のビニールがあるから、採取したものを入れるために持って行ってくれ。洞窟チームの手伝いは魚の料理を頼んだ。塔チームの偵察メンバーは会議が終わったら、集合してくれ。じゃあ7時にここにまた集合する。解散」

 

とりあえずは問題無く終われたな。久しぶりに指示系統のトップに立ったけど、上手く出来たかは不安なものだな。まぁ今はそんな事を気にしている場合じゃないか。とっとと神室に言って、橋本たちに次の指令出さないとな。

 

「これからの指令はどのクラスがどのスポットを占有しているかを把握するところだから。出来るなら時間も覚えて来て」

 

神室から指令を受けた橋本は偵察活動の5名の中で誰が優秀だったのかをわざわざ俺に言ってから、洞窟を出て行った。

 

個人的に偵察活動に関しては5名の中では橋本が優秀なのは何となく分かっていたが、その橋本が鬼頭や山村を優秀だと言っていたのは意外だった。その二人が得意だとは知らなかったし、それをまさか橋本が俺に紹介するということもだ。嘘の可能性も考えておくべきだが、ここは橋本から俺への恩売りなどと解釈する方が自然だろうし、そうであってほしい。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

あの3時の会議が終わってから、俺と神室は洞窟チームの仕事を次の会議の時間である7時になるまで手伝っていた。水に関しては、昼のうちに見つけた池の水をビニールに入れて洞窟に持ち帰って、浄水装置に片っ端から入れて行くなどなどの工夫などをしていた。

 

腕時計が7時を指す頃には、すでに洞窟の周りにAクラスのメンバーが集まっていた。さっきと同じように集合をかけて、全員を座らせて、俺と神室が立った。

 

「暗くなるまでみんなご苦労様。今日することはもう無いので、ここで夜ご飯を食べたら各自休んでくれ。じゃあさっきと同じように報告を頼もうかな」

 

「小屋チームはさっきと同じくらいの魚が釣れたぜ!食べられそうな果物とか野菜とかもいっぱい採ってきたから夕食は豪華になると思うぜ」

 

見てみると、小屋チームの座っている近くにあるビニールの中には、食べられそうな実やキュウリなどの野菜が多くの量が見てとれた。バケツの中にも言ってた通り多くの魚が入っていた。

 

「お疲れ様小屋チームのみんな。今日は豪華な食事にしようとしていたから嬉しいよ。でも、明日からは自然とのバランスを考えて魚と野菜や果物は今の半分の量にしてもらいたい」

 

「じゃあ次に塔チームの報告を頼めるかな」

 

「俺らも食料は結構集まることが出来たぜ。偵察の報告は後で個人的に頼めるか?」

 

「ああ長くなるだろうし問題無いよ。今回の夕食は魚を焼いてあるから、それと栄養食と水になっている。すべて一人一つだけど、食べてもらったら8時に点呼があるからそれまではこの辺にいといてくれ」

 

食事の置いてある場所から今日の夕食をとると、神室と橋本に目配せをして洞窟の奥の方に入っていった。

 

 

「調査の結果はどうだったんだ?橋本。出来れば詳細な結果を聞きたいところだが、どうだ?」

 

三人とも夕食をまだ食べている途中だが、俺は橋本に対して報告を促した。

 

「スポットは地図にメモってあるから見て置いてくれ、それと他の情報としてはCクラスがスポットを確保した様子は無いこと、BクラスとDクラス共にスポットの周りを人で囲んでリーダーがバレないようにしていたみたいだ」

 

「あと、重要情報だが、DクラスとBクラスのキャンプにそれぞれCクラスの伊吹と金田がいたらしい。一体龍園は何を考えてるんだろうな?」

 

……そういうことか。龍園は心優しい2クラスにスパイを送り込んで、内部からリーダーを探るってことね。変わらずリーダー当てだけを狙うつもりってことか。

とりあえず今は龍園は置いておくか。BとDに関してはもう少しリーダー候補を絞る事が重要か……。

 

「龍園の考えていることは分からないが、詳細な情報をありがとうな橋本。

大手柄だな、お前に任せて良かったよ。じゃあ、次することはCクラスへの見張りはそのままに、BとDのリーダーだと思う奴を絞ることを重点に置いて見張ってくれ。スポットの更新のメンバーも覚えられたら覚えることも忘れずに」

 

「了解だ。それじゃあ一つ質問なんだが、龍園がここに来た時いったい何を話したんだ?話してくれてもいいだろ?」

 

うーんどう話すのが得策か……。俺的にはすべて言ってしまっても構わないのだが、橋本が口を滑らせて、Aクラス全員に説明するような事態になるのも面倒だな。ここは橋本からの信用という点からも神室に任せるか。

 

「俺から答えるより、神室から聞いた方がお前も信用出来るだろう。神室頼んだ」

 

思った通り神室が嫌そうな顔をしたけど、なんだかんだそんな顔をしながらも橋本に説明してくれた。

 

「はぁ、龍園がAクラスと手を組みたいって言ってきたから、断ったっていうだけだけど」

 

「ふーんそうか。しっかり任務は遂行する安心しておいてくれ」

 

神室の簡略化された文章で、理解したらしい橋本は用は済んだとばかりに洞窟の外へと出て行ってしまった。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

8時にあった点呼が終わって全員が就寝すべき場所へ戻り、寝る前のシャワーや色々を済ませて、時間は経って11時少しぐらいになっていた。

 

「それで会議が終わってからスポットの更新したけど、次の更新の時は朝方だけど、早く起きて行くの?」

 

「ああそうなるだろうな。腕時計にも目覚まし機能はあるみたいだし、二人もいるからどちかは起きているだろうから大丈夫だろう。今日はとっとと寝ることにしよう」

 

洞窟内で分かれて、神室は洞窟チームの女子が寝ている場所に向かい、俺は男子たちが寝ているのを確認すると、そこで寝ずに洞窟から出た。

 

目的は言わずもがな西野との約束を果たす為だ。わざわざ俺から言ったのだから行かないのは人としてどうかと思うからな。それでもこんな夜中の真っ暗な時間を指定した過去の自分は恨むけどな。

 

洞窟からの道のりを進んでいくと、最初に真嶋先生の話を聞いた海岸までやって来た。船を集合場所にしていたからここにいると思っていたら、一人ビーチで座っている西野を発見した。待たせてしまったのだったら流石に申し訳ないな。

 

「西野だよな?待たせてしまって悪かった」

 

声をかけると、西野はこちらに気がついたようで、ため息をついてから自分の近くの砂を叩いて、そこに座るように求めてきたので、素直に座ることにした。

 

「結構待ったんですけど、バレずに出てくるのは結構大変だったんですけど、どう責任とってくれるの?」

 

「本当に悪かったよ。時間を指定しなかった俺が全面的に悪い。この埋め合わせは帰った後の夏休み中にするよ」

 

「それならいいけど。それよりとっとと話すこと話して帰ろうよ。私眠いからさ」

 

「それはそうだよな。じゃあさっそくだけど、知っている範囲で今回の龍園の計画について教えてくれないか?」

 

「何かよく分かんないんだけど、Cクラス全員はバカンスして、2日目が終わったらリタイアしろだってさ。言っていた感じ龍園くんは残るのかな?」

 

なるほどな。これで龍園の計画はほとんど理解出来たも同然だな。バカンスを満喫している風に見せかけることで油断させて、スパイへの警戒を下げていって、自分は虎視眈々と無人島で見つからないように息を潜めて、スパイからの情報は待つってことか。

 

「あと、そういえばあれは下関くんが命令したの?」

 

「ん?……あれってなんだ?」

 

あれ?俺ってCクラス関係で、西野みたいな一般生徒にも分かるような命令ってしたかな?

 

「確かAクラスの金髪のチャラそうな奴が龍園くんと話していたんだけど、下関くんが命令したのかなーって思って」

 

橋本か?何であいつが龍園と接触しているんだ?俺は偵察しか言っていないはずだし、それで相手に接触するなんて馬鹿な真似を橋本がするようにも思えない。……これは情報が洩らされたか。

あくまでも俺主導のこの計画を少しでも邪魔しようって魂胆ということか。だが、よくよく考えればそこまで痛手では無いはずだ。洩れたとしてもうちのクラスのリーダー情報とスポット場所と戦略ぐらいだ。すでに龍園個人に洩れたところで止まらないところまで来ている。

ならばこのまま気づかないふりをしている方が自然か。

 

「ありがとう情報助かったよ西野。このまま龍園の命令に従ってリタイアしてくれて構わないから。あとこれからもだけど、龍園への反抗は全然しても構わないけど、最後には龍園の命令は聞くのを心掛けてくれ」

 

「はいはい分かってますよ。自分のCクラスでのキャラぐらい理解していますよ。じゃあおやすみ下関くん。また船の上で」

 

「ああ、おやすみ西野。船での生活を満喫しとけよ」

 

俺と西野はそこで別れた。今回西野からは色々重要な情報を得られた。あいつが裏切るような素振りを見せないことを願うことばかりだ。

 

その後俺は洞窟の中に戻り、男子共が固まって寝ている部屋に行って目覚ましをかけて朝早く起きようと思いますながら寝るのだった。

 




更新予定と変わっちゃうけど、新しくこの小説と並行して別のよう実の二次創作も投稿したくなってきた。まだ書いてないから分かんないけど。


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協力者 恐怖は突然に

この話から下関の過去について触れていきます。


2日目になった。洞窟で寝た割にはそれなりに快適だったようで、体には特に疲れなどは無いように思えた。女子が寝ている場所を覗いてみると、神室も起きていたようで、入り口の方に目配せをして、歩き始めたのでついて行った。

 

スポットを回っている時も神室は終始無言で、多分起きたばかりでしゃべる気があまりしないのだろう。俺としても、朝の運動としてはちょうど良いくらいだったなという感想しか出てこなかった。

 

帰って来てから、神室は寝るという一言だけを言って、寝ていた場所に戻って行った。俺も昨日はあまり早く寝れなかったことを思い出したので、今日も忙しくなることに備えて、点呼の時間である8時まで寝ることにした。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

無事寝過ごすことも無く、点呼に間に合ったので、Aクラス全体に昨日と同じ指示を出しておいた。これで、特に問題は起こらないだろう。今日の俺と神室の行動は仕事なんかをしながら待つことだ。

他クラスのベースキャンプを知っているので、挨拶に行った方が良いとは思うが、それは今日ぐらいに、ここに偵察に来るだろう他クラスのリーダー格とあいさつをしてからにしようと思っている。

 

わざわざ俺たちから出向いて、リーダーがAクラスの拠点に向かったなんてことになったら二度手間になってしまうからな。

まぁ偵察が来るにせよ来ないにせよ、俺と神室が他クラスの拠点に行くのは3日目ということだ。

なので、俺と神室も洞窟の拠点で他のみんなと同じように仕事に取り組んでいた。ここで洞窟グループが頑張って食料の保存をすれば、水と保存食に加えて朝食と夕食に食べれるものも増えて、体力の回復も出来るだろう。

 

そんなこんなで仕事をしたり、時間が少し過ぎて行った頃に、やっとこさ他クラスの偵察が来てくれた。偵察に来たのは一之瀬と神崎、他の生徒2名のBクラスだ。

一之瀬達は迷う様子も無く、一直線に洞窟の入り口まで来ると、偵察が近くに来たと報告を受けた頃から、入り口近くに待機していた俺に対して声をかけたきた。

 

「下関くん。葛城くんはどこにいるか知らない?中に入っていいか聞きたいんだけど?……ダメかな?」

 

一之瀬は意識はしていないだろうが、男子が見たら、全員が正直に答えてしまいそうな表情で康平の居場所を聞いてきた。はっきり言って、いくら俺といえどその表情を見た瞬間に顔を反射的に背けてしまったほどだ。

 

「康平はリタイアしたから居ないよ。今は俺と神室が擬似的なリーダーを任されているんだ」

 

俺の言葉に一之瀬は顎に手を置いたりして考えていたようだが、考えてついたのか、顔をパッとこちらに向けた。

 

「あちゃーやられちゃった。今がAクラスに勝つチャンスかなとか思ったんだけど、先手を打たれちゃった」

 

この感じは一之瀬もAクラスが分裂しないために康平がリタイアしたと気づいたみたいだな。龍園の時みたいに今は居ないと言っても、帰って来るまで待ちそうな一之瀬に正直に言ったのは正解だったかな。

 

「でも、俺と神室は二人ともリーダーでは無いんだ。団結が重要なこの特別試験で有利なBクラスが勝つ可能性の方が多いにあると思うけどな」

 

「あははー謙遜しないでよ下関くん。私、下関くんはすごい人なんだろうなーって思ってるからさ」

 

そんな真正面から一之瀬みたいな人間に褒められると、なんか難しいというか何とも言えない気持ちになってしまう。今の俺なんてただの負け犬なんだから。

 

「えっとーじゃあ洞窟の中なんて見せてもらうことって可能かな?」

 

「ああ、全然構わない。そんな大したものなんて無いけどな」

 

俺は一之瀬達に洞窟の中を案内した。そこまで心配なんてしていなかったが、一之瀬達は何かに触るなど、怪しい行動などはしていなかった。

冗談とか期待はしてないみたいな口調で、これまで使ったポイントの消費なんて聞かれたが、計算されているだろうなと思って、洞窟にあるものと食事についての消費のポイントの合計で答えた。

 

「色々教えてくれてありがとう下関くん。まさか教えてもらえるなんて思ってなかったよ。Bクラスの拠点に来ることがあったら歓迎するよ」

 

「ああ、助かるよ。じゃあお互い負けないように頑張ろうな」

 

「負けないよ!じゃあね下関くん」

 

自身満々に負けない宣言をした一之瀬は他のBクラスの奴を連れて帰って行った。一之瀬達が帰ったのを見届けると、さっきまで全く近寄って来なかった神室が近づいて来た。

 

「あんなにも無警戒で案内してたのは、Bクラスに歓迎されるのが狙いなんだ」

 

「なんだ聞いていたのか。近寄って来なかったから、一之瀬の声が聞きたく無いほど嫌いなのかと思っていたよ」

 

「苦手なタイプだけど、そこまでじゃないから」

 

「そうか覚えておくよ。それと、狙いは一応合ってるよ。好感度は上げておかないと、他クラスで結託される可能性を減らすためにはね」

 

会話が終わると、さっさと神室は洞窟の中に入って行ってしまった。受け答えを間違えたか?神室には正直に答えた方が好感が持たれるかと思って、質問には正直に受け答えをしているんだが、いまいち距離が縮まった気がしないな、まぁまだ日はあるんだ気長に話していくか。

 

さてさて、スポット更新の時間までにC.Dクラスの偵察は来るかな?Cクラスが来るとしたら龍園の使いパシリが、俺らは楽しんでます自慢をしに来るだろうが、Dクラスは誰が来るんだろうな。まとめ役である平田か、他クラスの生徒との交流が多い櫛田か、はたまた裏のリーダーであろう堀北か、まぁ誰がこようとBクラスとの交流みたいに好感は得られるようするだけだな。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

Bクラスが帰ってから時間が経って、お昼時になったぐらいに、また新しい偵察のような奴が来た。偵察に来た人は二人いるようで、一人は堂々とした振る舞いで、この洞窟の方に真っ直ぐに向かって来た。よくよくその姿を確認をすると、それはDクラスの堀北鈴音だった。まさか堀北が来るとは思わなかったな。他クラスへの偵察とはいえ、多少の交流が必要なのはもちろんなので、Aクラスにも知り合いがそれなりにいる櫛田などを連れて来ると予想していたんだがな。さっきは上手くやるとか思っていたが、まったく交流の無い、しかも堀北からは俺は認知されていないだろうし、さっき挙げた三人の中では一番やりにくい相手が来たな。

 

「神室。今回はサポートをよろしく頼む。俺はあの女子の方の堀北鈴音って人のことは聞く話しか知らない。だから、もしも俺と堀北の相性が最悪だった場合は任せたからな」

 

「分かった。でも、もしもの場合だけだから」

 

そうしている合間に、堀北ともう一人は洞窟の目の前に来て、俺たち二人の前に立っていた。

 

「えーとクラス名と名前を教えてもらえるかな?」

 

「私はDクラスの堀北よ。偵察に来たのだけど、中を見せてもらえる?」

 

堀北の言葉は節々に高圧的というか、棘を感じるみたいだった。こういうタイプは冗談なんかも通じないだろうな。しかも下手な嘘も見抜かれる可能性もあり、その場で追及なんかもしてくるだろう。まぁ何にしても普通にしていれば、特に揉め事なんかも起こらないだろう。

 

「問題ないよ。俺は下関涼禅よろしく。で、こっちが」

 

「……神室真澄」

 

俺が自己紹介を促しただけで、神室は心底面倒臭そうな顔でこっちを見てきたが、仕方ないと言った様子で名前だけでも名乗ってくれた。

 

「そう。ご丁寧にありがとう。でも、よろしくするつもりは無いわ。ああ、あなたも自己紹介をしたら?」

 

俺らとよろしくするつもりは無いらしい堀北は、隣に立っている地味だがイケメンと言われる男子に促した。

 

「俺は綾小路清隆だ。よろしく頼む」

 

は?……綾小路。綾小路キヨタカ?別人だよな?

違う違う、この人を人とも思っていない表情明らかにあの時に見たあの目と同じだ。

どうしてこんな場所にいるんだよ。

お前は……ホワイトルームの中にいるんじゃ無いのかよ

ずっと学校に通っていたのか。どうしてなんでずっと気づかなかったんだ。

いや、違う。気づいていた。俺はずっと分かっていたはずなんだ。クラス分けの表であいつの名前を見たはずなのに、部活説明会でも姿を見たはずだ。ボーリングの日にもすれ違っていた。生徒会の議事録でも名前を確認したはずなんだ。佐倉って女子にも綾小路と呼ばれていた。……分かっていたはずなのに。なんで無意識に避けていたんだ。どうしてどうしてどうして逃げていたんだよ。なんでなんでなんでなんでなんで、復讐するって誓ったはずのなのに。まだ俺は怖がっているのか?毎日毎日毎日夢に見るのに……あの日からずっと満足に寝れたことなんてなかったくせに。どうして気づけなかったんだよ。俺の人生をめちゃくちゃにした綾小路だけは。絶対に許すことなんて出来ないのに。例えこいつが恨み違いであろうと。

 

「ねぇ、あなた大丈夫なの?……その顔休んだ方がいいわ」

 

堀北が何か言ってるな。ああ、俺の体汗びっしょりだ。ははは、体の震えや寒気も吐き気も止まらないや。多分ひどい顔なんだろうな。まぁ俺の体のことなんてどうでもいい。

 

「問題……ないよ。神室二人を案内しておいて、あれよくわかんないけど、さっきみたいに。俺は休んでくるから」

 

逃げた逃げたまた逃げた綾小路から逃げた。勝手に託して逃げた。どこに向かってるんだ?いや、砂浜があるはずだ。そうだ頭を冷やそう。こんな醜い俺の姿なんて人に見せることは出来ないんだ。下関涼禅は完璧じゃないといけないんだ。

 

砂浜だ。砂浜だ。ああ頭を冷やそう。そしてまた戻ろう俺であって俺じゃない自分へ。

 

「……ホワイトルームなんてものがあったから。予定変更はする。あいつを綾小路清隆を退学させよう。そうだ。そうしよう。そうすればホワイトルームに傷をつけることが出来る。ホワイトルームをぶっ壊せる足かがりに出来るんだ。ははは、はは」

 

ああ、なんか疲れたなぁ。でも、頭は冷やせた。もう問題は無い。何も変わらないじゃないか。綾小路に復讐する機会が少し早く訪れただけじゃないか。そうだ。俺が狙っているとバレる前に退学をさせよう。あいつに敵と認知されたら俺なんて一溜まりも無いんだから。

 

俺がやっとのことで落ち着いたところで、砂浜の後ろにある森から葉が揺れる音がした。この無人島には動物は居ない。それは確認済みのことだ。じゃあ、この音は人がいたから出たんだろう。さて、誰かな?ここで綾小路だったら、俺は退学で済んだらいいがな。人を人とも思ってないだろうからな。

 

「なぁ出てこいよ。俺は別に暴力をしようとするわけじゃない。ただ交渉をしようと思ってさ」

 

俺の声を聞いて、物音が大きくなり、そして木の後ろから出て来たのは、神室だった。堀北と綾小路を頼んだはずなのに、いることは驚いたが、他の知らない奴よりも神室だったのは好都合と言える。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

私からの下関への評価は優秀でよく分かんないやつという評価だった。最初に会ったのは坂柳に命令されて連絡先を交換した時。その時も味方になったら坂柳がクラスを掌握するのは早くなるんだろうな。という葛城と一番親しい人間という印象しかなかった。

 

それから月日が流れて、この無人島に来るまでは本当に会話することは少なく、授業での一環ぐらいでしか話さなかった。なのに、無人島に来る前に坂柳に頼まれたおかげで、下関との仲を縮めなければならなくなった。情報を仕入れたら十分だと思って、質問を多くすることで、下関の情報を多く仕入れようと思った。

 

最初は坂柳が居ないことを理由にして接近しようと思ったが、橋本のせいでAクラスの擬似リーダーをやらされる羽目になったが、だがそれのおかげで接近することが簡単になった。

 

下関は私が思っていた以上に優秀だった。この無人島における試験の坂柳派の出方や他クラスの出方もしっかり予想した上で、戦略を立てていた。もしかしたら、坂柳にも匹敵するんじゃないかという頭の良さだった。

 

そんな想像以上の人間だった下関が、今私の目の前で全身を震わせて、汗を多くかいていた。顔は白くなっていて、明らかに怯えていた。原因は何かは分かんないけど、堀北ってやつの隣にいる綾小路の名前を聞いたとたんにこうなった。その綾小路も顎に手を当てて、呑気に考えてごとをしているみたいだし、下関も堀北が何回か声をかけてやっと反応をしめしていた。

 

でもすぐに、下関は堀北と綾小路を私に押し付けたどっかに行った。面倒なことを押しつけてくれたとは思うが、ここであいつを追いかければ、なぜこうなったか、もしかしたら弱点すら分かるかもしれない。そう思った私は自身が思う以上に早く行動に出ていた。

 

「あいつ偶にああなるから、私あいつを追いかけて来るから、適当に見ていていいから」

 

「え、ええ」

 

Dクラスの二人を置いて、下関が向かった方向に向かった。それなりの距離を走ると、そこは砂浜で、下関が海の中に顔をつけていたりしているだけだった。体は全身濡れているから、半袖だけ着ているあいつの背中がみえたけど、所々が変色しているように見えていた。

 

そこから何分経ったかは分からないが、顔をつけたり、全身を濡らしていた下関はやっと声を出した。

 

「……ホワイトルームなんてものがあったから。予定変更はする。あいつを綾小路清隆を退学させよう。そうだ。そうしよう。そうすればホワイトルームに傷をつけることが出来る。ホワイトルームをぶっ壊せる足かがりに出来るんだ。ははは、はは」

 

言っている内容で分かることは綾小路を退学させたいということだけだった他のことはよく分からなかった。

しかも、声は明らかにいつもと違って、暗く濁っている感じで私がこれまでの人生で聞いたことの無いような未知のものだった。あまりの異質さに私は動いて音を出してしまった。

 

下関もその音は聞こえたようで、喋らなくなってしまい。多分こっちの方をずっと見ているんだろう。

 

「なぁ出てこいよ。俺は別に暴力をしようとするわけじゃない。ただ交渉をしようと思ってさ」

 

やっぱりバレていた。こればっかりは仕方が無い。あいつと交渉をして何とか私が誰にも秘密を話さないと説得するしかないだろう。

諦めた私は下関の前に姿を現した。

 

「ああ神室だったのか。安心したよ知り合いで。でさ、交渉する前に聞きたんだけど、どこまで聞いたか聞いてもいいかな?」

 

こんなものはただの確認なのだろう。あいつの目は嘘を許さないと言っている。多分ここで嘘をついたら私は交渉の席にする立つことは無いのだと、予感めいたものを感じた。

 

「あんたがここで言ってたことは全部聞いた。でも、ところどころは分からないことばっかだった」

 

下関は近づいて来ながらも、なおも私に対して問いを掛けてくる。これは下関からが私を信用出来るかという確認だ。間違えた選択肢を選ぶわけにはいかない。

 

「じゃあさ。俺の言葉や様子を聞いてどう感じた?別に考察でも予想でも構わない」

 

近づいて来ていた下関はついに私の目の前に立った。改めて見てもひどい顔をしている。いつも教室で見ることがある顔と別人にしか思えない。

 

「予想だけど、あんたは昔綾小路に何かされた。それも、壊れるぐらいなことを。だから復讐として綾小路を退学させようとしたんでしょ」

 

「うん。まぁ大雑把に言うとそんな感じ。それで、それを他の人に知られるとまずいわけで、神室が信用と信頼出来る人間か見極めようと思ってさ」

 

「でも、あんたは人のことを信用も信頼もしないと言ってた。じゃあ到底無理な話だと思うんだけど」

 

「ああそうだね。でも、このことでは別。俺が復讐を狙っているって知っているのは一応神室だけ。康平も知らない。それに俺はこの人生かけたこの復讐では協力者が必要だと思っている。信用も信頼も出来る協力者が。ここまで言えば分かるだろう?」

 

「……私をその協力者にしようとしてる。じゃあ、あんたは私を信頼出来るっこと?無理でしょ。坂柳の隣にずっといる私を」

 

「それでも神室が適任だと今思った。非道な行いを咎ないだろうし。俺が復讐をしても無関心さを貫けそう。あと神室は今の人生に退屈しているだろうし、俺に協力すれば絶対に退屈は出来ない。あとは神室が坂柳を裏切れるかどうかだけど。どうかな?」

 

やっぱりこいつは意味が分からない。でも、ここまで私を買う奴なんていままで居なかった。坂柳とは自分の退屈を紛らわせるためにずっと付き合って来た。なら、長い人生の退屈を無くすために下関に協力するもの悪くない気がする。どうせ坂柳とは脅しで始まった関係だ。だったら偶には、自分の選択してみるのも悪くない。下関の復讐の結末にも興味が湧いてきたし。

 

「分かった。下関の協力者になる。あんたの復讐に最後まで付き合うから」

 

私の言葉を聞いた下関は、私の顔をずっと見てきた。嘘をついていないかどうかを見分けているのだろう。それを見ただけで柄にも無く緊張をしてしまった。

 

「分かった。俺は神室のことを信じるよ。これから神室だけは俺を裏切らないでくれよ」

 

そんな言葉を言った下関の顔はどこか悲しそうで、いつもは虚勢を張っているだけなんだろう。

 




今回の話では下関の過去について抽象的にしか書きせんでしたが、ゆくゆくは本格的に書こうかなと思っています。
そしてやっと、神室をヒロインポジションに持っていけたかな?


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相棒 大きい目標と小さい目標

投稿ペース安定しなくて、すみません。

前回の話を投稿した後に、日間ランキング30位に入りました!
すごい感謝です。ありがとうございます


俺と神室が話をして、協力者にしてから、俺自身の気持ちが落ち着いて、やっと改めて話が出来るような状態になった。

 

「ふぅ。なんか色々ごめんな神室。それで、改めて俺に聞きたいことがあるのなら、人に聞かれたくないし、今のうちに聞いてくれ」

 

「じゃあ聞くけど、復讐ってなんか具体的な作戦がある?それと私の役割って何?」

 

神室に痛いところをつかれたな。俺としても人生をかけてでも達成するはずだった復讐が、いきなり目の前に小さくなって現れたみたいな感覚だから、あまり考えられて無いんだけど……。

 

「この学校での復讐の最終目標は綾小路清隆を退学させることだ、それで方法は、いつかあるであろう退学する可能性のある特別試験で退学させるって感じかな。今のところはだけどね。神室には今まで通りに坂柳の隣に居てもらいたいかな。それで得た、俺ら葛城派の情報は流してくれても構わないけど、俺個人の情報を無断で流すのはダメだね。あとは坂柳派の動きを逐一報告してくれると助かる」

 

とりあえず、今のところはこんなところかな?もしかしたら情報を流すのを禁止するのもあるかもだけど、それは追々って感じで構わないかな。

 

「もう一個聞きたいんだけど、ホワイトルームってなんなの?それに綾小路ってあんたがそんなに警戒するほどの相手なの?」

 

綾小路……その名前を言うだけならましだけど、人の口からそれを聞いてしまうと、まだ体が少しだけビクついて反応してしまう。こんなことじゃダメだ。綾小路って名前への恐怖を一刻も早く抑えないと、いつか恐怖で動けなくなってしまいそうだ。

 

「ホワイトルームは人に非人道的なことをして、人工的に天才を生み出そうとしている施設らしい。だからそこで育った奴は感情が無くなるか、壊れる。その中でも最高責任者の息子が綾小路清隆。あいつはホワイトルームの唯一の成功例って聞いた。だから誰かが出来ることは、大抵天才の領域ですることが出来る。そんな人間離れしているから、俺は正面切って宣戦布告なんて出来ない。絶対に……消されるに決まってる」

 

ああ、くそ。また頭に浮かんできてる。俺が忘れたくても忘れられない光景が。

 

「あの綾小路ってそんな実力があるように見えなかったけど」

 

「そうだ。奴は何故か実力を隠してる。誰が挑んでも、例え龍園だろうが、坂柳だろうが、返り討ちにさせる実力を持ってるんだ。そうだ、俺は勘違いしていた、Dクラスのリーダーは平田でも櫛田でも、堀北でも無い。奴だ。綾小路が、裏から支配しているんだ。神室も不用意に近づかない方が良い」

 

「分かった、肝に銘じとく」

 

まぁまだ問題は無いとは思う。俺のことを綾小路が知っている訳は無い。だから敵対していると知られはしない。ましてや、俺がホワイトルームについて知っていると知る方法もないんだから。

 

「神室。俺に言っておくことあるか?」

 

俺は神室が未だに隠していると思われる、坂柳に脅されるている内容を聞き出そうとしていた。神室と坂柳が同じ中学校とか出身では無いとは言っていて、嘘の可能性もあるが……嘘で無いと仮定して、ありそうな内容は犯罪とかだろう。ここまで接して分かったが、神室は根っからのドライな性格だ。だから恋愛関係は考えられない。ありそうなのは、窃盗、万引き、暴力などの犯罪を坂柳に見られてしまったなどか。まぁ予想なので外れている可能性も充分あるが……。

 

「……そういえば、坂柳はあんたのこと、校内一知っているって言ってたけど」

 

……坂柳が俺のことを?知っている?言っている意味が分からないな。俺の交友関係は中学校の頃からしかほとんど存在していないはずだ。それ以前の奴らとは俺もあっちも関わりたく無いと思っているはずだからな。だから、坂柳と俺が直接会ったのは、この高校が初めてのはずだ。

 

「それで、坂柳はそのことについて他に何か言っていたか?」

 

「偶々知ったとか、勝負したい男の子の関係者の間では有名とか。そんなこと言ってた気がするけど」

 

俺が有名な関係者の場所なんて、多分ホワイトルームかそれとも……。だったら坂柳とその父親の理事長はそこら辺関係と見るべきか。だけど、まだ俺に何も言わない辺りから、どの立場にいるのかは分からないな。まぁいずれにしても、俺が綾小路に対して復讐心があるなんて知ってはいないから、今のところは特に問題は無いか。

 

「ありがとう神室。良い情報だったよ。でも、これ以上は無理して探ろうとしないでも大丈夫だから。……よし、そろそろ帰るか。流石にもうDクラスは帰っただろう。綾小路にはあんまり会いたくないし」

 

神室は何か呆れた顔はしていたけど、特に反対することは無かった。帰り道では何か話す訳でも無く二人とも黙っていた。俺は俺から持ちかけたとは言え、いきなり関係性が変わって、今まで通りのような話し方で大丈夫かな?と思って黙ってしまっていた。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

俺らが帰ってみるとベースキャンプの洞窟に帰ると、思った通りDクラスの堀北と綾小路は帰っていたようだった。

その代わりに洞窟の前で俺らを待っていたのは、洞窟内で仕事をしていたAクラスの奴の一人だった。

 

「下関。ここに来たDクラスの奴が伝言を頼んでいたから伝えるぞ。「色々見せてくれてありがとう。でも、体調が悪いのなら、リタイアすることをオススメするわ」だそうだ。しっかり伝えたからな」

 

「ああ、ありがとう」

 

さてと、Dクラスが帰ったことで、とりあえず当初決めていた今日することは達成出来たが、Dクラスに綾小路がいると分かったことで、計画に変更を加えるべきだろうな。当初の予定では、俺が他クラスの実力を大雑把とはいえ、掴んでいたからこそ、2位を狙うという目標を掲げていたのだが、綾小路という実力がヤバいということだけ分かって、具体的な考え方や動き方などが分からない奴がいるだけで、この目標は大きく遠ざかる可能性がある。

 

綾小路に接触してみるか?いや、危険過ぎる。俺が警戒していることを察せられる可能性がある。だけど、このまま何もしないまま一之瀬に一位を譲り、2位を狙ったとして、もしDクラスがBクラスを超えて1位になった場合、Aクラスは3位になって、確実に俺と神室ひいては、康平の評価まで下がることになる。

 

なら、1位を取れるように目標を変更するべきか。Aクラスが1位を取るぐらいのポイントを稼いでいたら、もし綾小路が裏から暗躍していて、ポイントで負けたとしてもなるのは2位ということになる。ここまで考えたのなら、やっぱり俺が取る手段は全員のリーダーを当てて、その上誰のリーダーにも当てられ無いことか。

 

リーダーは康平の方がリーダーに優秀かと暗に匂わせるために2位を取る利益があったのだけど、仕方ないな。最悪、今回のこの特別試験でAクラスが1位になっても、次の特別試験や他の特別試験でも、康平に1位を取ってもらうことをするか。それに、もしも綾小路を本格的に潰すために兵が必要となった場合、今のうちに実力を示した方が、その時にAクラスの人間を自由に使えるリーダーになれる可能性を残しておけるか……。よし、やり方はほとんど変えないが、今回の特別試験は1位を取る気で挑むことにするか。

 

トントンと肩を神室に何回も叩かれていたようで、俺が気づいたと分かると、何か言いたげにこちらを見ていた。

 

「あんた、何か上の空だったみたいだけど大丈夫?」

 

「ああ、ごめん。ちょっとこれからの計画を練っていてね。少し目標は変わるけど、やることは今まで通りで大丈夫だよ」

 

「なら、いいけど。また怯えているのかと思った」

 

「へぇー……ありがとう」

 

ああ、なんか嬉しいな。神室が俺のことを心配してくれるなんて。これまでだって他のやつに心配されたことがあったかもしれないけど、そんな大丈夫だなんて分かった上で言っている大丈夫じゃない。本気で心配されて、言われてるんだって感じる。協力者になったからって、心を許し過ぎか?

 

いや、協力者。協力者かー。勢いで言っちゃったけど、何か違和感があるな。西野だって言うと協力者だし、協力者だってこれから増えるかもしれない。なら、俺と神室の関係の言い方も変えても良い気がしてきた。もうちょっと深い感じが良いかな。その方が浪漫がある気があるな。

 

「神室。これは提案なんだが、俺とお前の関係の名前を変えないか?」

 

「それ何の意味があるの?」

 

「何か協力者ってあんまり濃い関係じゃない気がしてさ、俺の秘密を知っているのは神室だけだから、もう少し深い関係で呼びたいんだけど、どう?」

 

「どうって、私は別に何でも良い」

 

「じゃあ相棒ってのはどうだ?人に聞かれたとしても、そこまで怪しまれないし、一緒にやってやるぜ感があって良いと思うけど、どう?」

 

「じゃあ、あんたと私は相棒これでいいでしょ」

 

「ありがと。やっぱり物事は形から入らないとな」

 

神室と会話ばっかして、仕事をしないのは流石にダメだと思ったので、俺らも仕事に戻り、昨日と同じように8時になるまでに仕事を終わらせたり、スポット確保をしたり、シャワーを浴び終わったりした。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

あっという間に8時になって、昨日と同じようにベースキャンプへとAクラス全員が集まり、今日の成果などを報告し合って、夕食を食べた。

そこでの情報で、Bクラスのスポット確保には女子が多く、女子がリーダーの可能性が高いということ。Dクラスのスポット確保には毎回いるのは平田と櫛田と堀北だということが分かった。Cクラスには特に動きが無いらしい。

それから、明日も同様の仕事をお願いしてから、解散をした。解散してから、他キャンプの奴が残って居ないかを確認してから神室を呼んで、池のスポットに赴いた。

 

「それで、わざわざ寝る前にこんなところに何の為に呼び出したの?」

 

「まぁちょっと橋本のことで、少し話したいことがあってな」

 

「橋本?」

 

俺が橋本の名前を出した途端に、神室は露骨に嫌そうな顔をしていた。そういえば、教室で橋本が神室に話しかけて、半無視されているような状況を何回か見たことがあった気がするな。神室は橋本のことが嫌いってことか。

 

「それがな。あいつ龍園に対して俺らの情報を洩らしているらしいんだよ」

 

「情報を?ああ、多分それ坂柳の任務をやってるだけだと思う」

 

坂柳が事前に橋本に情報を洩らすように言っていたってことか。危ないな。何も対策をせずに動いていたら、情報を守りきれなかったかもしれない。

 

「そうか。それじゃあ、他の坂柳派の奴にも任務が与えられてるってことか?」

 

「うん。橋本と鬼頭は葛城派の邪魔をすること。私も一応その任務あるけど、私個人に言われてた下関と仲良くする方を優先してた」

 

「俺に近づくか……。奇遇だな。俺も神室と近づく任務をしようとしていたんだ」

 

坂柳派も万が一に備えて、中核の人間にしか任務を知らせていないらしい。この方法は確かに情報がバレるリスクは少ないが、その分坂柳から遠い坂柳派の人間は、何が坂柳の責任になっているのか知る術が少ないので、今ところはそこが坂柳派を突くチャンスか……。

 

「一応聞いておくけど、どうやって橋本が洩らしているって分かったの?」

 

「まぁ情報提供者がいるってことだね。日が経てば話すよ」

 

「分かった」

 

その後、俺たちはまた夜中ぐらいにスポットの更新をするため、ベースキャンプへと戻り仮眠をとった。そしてスポット更新をして、眠りについて、2日目が終わるのだった。

 




俗に言う説明回だったけど、2日目は終わった。なんかここまでで結構話数使った気がするけど、無人島終わるまで何話かかるかな……


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訪問 他クラスキャンプへ

流石に平均一ヶ月一話更新からは改善していきたいとは思ってはいます。





やっと試験も3日目になって、クラスの奴らの動きも段々と良くなり効率が良くなってきた頃。

俺と神室は昼前になると、「長い間開けておくけどここをよろしく」と言う言葉を残して、他クラスへの拠点へ訪問することにした。とりあえず最初は近くにあるであろうBクラスの拠点へ行くことに。

 

「なぁこれは世間話なんだけなんだけど、Bクラスって強いって思うか?」

 

「いきなり、何?」

 

昨日にあれがあってから一日経ったので、流石の俺と神室もお互いとの距離感が分かってきたのか、スムーズで普通に会話が出来るようになっていた。

 

「いや、ちょっとした疑問でさ、前から結構考えていたんだよね。それで、神室との認識の共有的なやつをやろうかなと思ってさ」

 

「強いんじゃないの?一之瀬も優秀だし、クラス全員がお人好しで団結力もあるらしいから」

 

「まぁそうなんだけどね、逆にそこが強いからこそ、そこしか無いかなぁて思うんだよね」

 

懐かしいなぁ。よく康平とも中学生の頃から、議論を交わしていたのをすごい思い出すな。例え作戦だとしてもリタイアすることにしてしまった康平は今頃何してるかな。

 

「どういうこと?」

 

「うーん説明しにくいのだけど、この無人島試験みたいな、クラスとしての団結を求める試験なら、多分問題はない。でも、抜け道とかが平気で用意されているような特別試験なら、、誠実な一之瀬は簡単に高ポイントがもらえる抜け道よりも、ルールに基づいたあんまり美味しくは無い正攻法で挑む気がするんだよな。それでBクラスは一之瀬に全面の信頼を置いているから、反対することは無い。だから結果的に、時にはルールを破ることを躊躇うことが無いと思われる坂柳や龍園、綾小路なんかには一方的にやられる可能性があるってこと」

 

「結局長々話したけど、何が言いたいの?」

 

「まぁBクラスには例えcpで抜かされても、抜き返す機会はいくらでもあるよねってこと」

 

俺がここまで話していたのは全部仮定の話だけど、限りなく現実から考察したことだから、大体は当たっていると思う。もしリーダー争いが過激化して、内部分裂が起きて、特別試験がボロボロの結末になることなっても、逆転は用意だなと思ったから、神室に世間話程度で話しただけだ。まぁ綾小路がAクラスになったら追い返せる気なんてしないが。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

そんな風に話していたら、Bクラスの拠点の前まで来ていて、Bクラスからは俺たちの姿が見えて、俺たちからはBクラスの生活ぶりが見える状況になっていた。

 

状況的に敵であるAクラスの人間が、いきなり相手の領域に入ることは憚られるので、俺たちは今の位置で一之瀬辺りが来てくれるのを待とうと思ったのだが、目線の先に一之瀬がこちらに向かって来るのが見えた。

 

「えっと、下関君と神室さんはこの拠点の偵察に来たんだよね?」

 

「ああ、そうなるかな。迷惑だったら帰るけど、大丈夫かな?」

 

自分の事ながら胡散臭く、一之瀬の性格を知った上で、断りにくい言葉を使っている辺りが自分で自分の事が嫌いになってくる。

 

「二人にはAクラスの拠点を見せてもらったから……私と一緒なら見ても大丈夫だよ」

 

「ありがとう」

 

ここでポイントをどれだけ使ったのかを聞けば、Aクラスのポイント詳細を知ったという借りのような思いを持った一之瀬は多分答えてくれるだろうが、流石にそこまでするのは気が引ける。

 

それから、親切な一之瀬にBクラスを案内してもらった。他のBクラスメイトからのちょっとした目線などは多かったけど、一之瀬は普通にしてくれて、ハンモックを使っていたり、俺も手をつけなかったウォーターシャワーなるものも設置していることなんかも、教えてくれた。

そしてBクラスのキャンプには報告通りCクラスの金田がいて、違和感無く、自分から手伝いなんかも申し出ていた。普通に笑顔が多く、意外にも演技派だった。

 

流石団結力のBクラスだと言われるだけあって、総じてBクラスの拠点は整っていて、このまま行けば無難な成績は残せるだろうことは考えられることだった。

 

「ごめんね。こんな感じでいいかな?」

 

「うん。ありがとう参考になったよ。これから俺たちは他クラスの拠点にも行くつもりなんだけど何か知っていることとかはないかな?」

 

「う〜ん……下関君はなんでも知ってそうなんだけど、Cクラスの拠点にはもう誰も残っては居ないみたいだよ」

 

これも情報通りか。西野や他の奴の情報を信用していないわけでは無いが、龍園はいくらでも戦略を変えて来る可能性があるからな。最新の情報を仕入れておいて損は無いという訳だ。

 

「ありがとう一之瀬さん。また機会があったらAクラスの拠点へ来てくれ。情報交換ぐらいは出来ると思うから」

 

「うん!色々ありがとうね下関君と神室さん」

 

Bクラスの拠点から離れた俺たちは、Cクラスの拠点であった浜辺へ行くことになった。もう誰もいないらしいが、まぁどうせ全クラス回るつもりだったし、何かしら残っていることかもしれないので、行かない選択にはならない。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

特に会話することも無いので、無言のまま進むんで行き、森の中を超えるとそこには何も無い浜辺が広がっていた。そこには少し前までCクラスの生徒ほぼ全員が遊んでいたとは思えないほど、何も無く人がいた形跡がまったく無かった。それでも、ここがCクラス拠点だと分かったのは、まだCクラスの担任である坂上先生が運営用のテントで椅子に座っていたからだ。見るからに暇そうだが、Cクラスの生徒がスパイが他クラスに残っていたり、龍園がいるから、帰ろうにも帰れないのだろう。

 

龍園?……そういえば、龍園は今いったいどこに隠れているんだ?俺は龍園の戦略と最終的な目的などは分かっていたが、あいつがこのタイミングで見つからずにどうやって生き残るかは考えてはいなかった。特段気にすることでも無いとは思うが、何故か無性に気になってしまっている。この無人島内で龍園以外の全員が、気づかない場所か。考え込んでしまうな。

 

「熱いんだけどここ。早く次のところに行かないの?」

 

「ああ、そうなんだけど。少し気になることがあってさ。龍園ってどこにいると思う?」

 

「さぁ。その辺でのたれ死んでいるじゃないの?」

 

「まぁ確かに。それだったらリタイアしてくれているし、安心なんだけど……」

 

とりあえず……龍園は置いておくか、金田や伊吹がいる限りは作戦を変更していないってことで、知れている計画ほど警戒するものでは無いからな。だけど、念のために偵察をさせていた奴らに探させてはみるか。見つかったらラッキーという感じで。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

そこからまた歩いて、Dクラスは川の近くに拠点があるというので、川沿いに林の中を進んで行くと、開けた場所に到着した。そこは川の近くの平地で他クラスの拠点よりは涼しく、段差も無いので過ごしやすい良いところだなと思った。

 

Dクラスの生徒は大体半分ほどが残っていて、その中にはDクラスの中では優秀な平田や堀北なんかが居た。そして高スペック無表情の綾小路も普通に作業なんかしていて、報告にあった伊吹も居心地悪そうな感じで座っていたりしていた。

ここもどさどさ入って警戒される訳にはいかないので、平田か堀北なんかが来るまではじっとしてしていると、こちらに気づいてくれたようで平田が寄ってきてくれた。

 

「久しぶり下関くん。ここには……偵察とかに来た感じかな?」

 

「ああ、そうなんだ。どうだろう入れてくれるかな?」

 

「うん。もちろん構わないけど、みんな警戒しているのだけは分かってくれて欲しいんだけど……」

 

「問題ないよ。そのくらいの気遣いぐらいは出来るつもりだから」

 

そこから平田に案内される形で、Dクラスの拠点を見学していった。トイレやシャワー、テントなど特に言うことは無い、無難なお手本と言ったような感じだった。Dクラスの奴らも3日目ともなると、ここの生活にも慣れてきたようで笑顔なやつらが多いような印象だった。

 

一通り見て回ったなと思って、少々平田と雑談をしていると、こちらに堀北がやって来るのが見えた。綾小路という存在が居るのが分かってからは堀北は綾小路の操り人形なのかとも考えたが、さきほど俺が来てから二人が近寄った様子が無いところから、完全な人形というわけでは無いようだ。

 

「平田くん。少し彼らと話をしたいのだけどいいかしら?」

 

こんな堀北の直球の威圧的な雰囲気のある言葉で聞かれても、平田は笑顔を崩さずに対応していた。流石平田だな。俺的にD組の中では色んな意味を含めてもクラスのことを気軽にしっかり話せる人間なだけはある。

 

「もちろん大丈夫だよ堀北さん。じゃあまたね下関くん、神室さん」

 

「ありがとうな平田。……それで何の用なのかな堀北さん?」

 

「ええ、貴方達に色々と聞きたいことがあるのよ。昨日行った時はあなたが体調が急に悪くなったようで聞けなかったから」

 

わざわざご丁寧に「急に」という部分を強調されはしたが、まぁこれは仕方がないな、俺が綾小路を見ただけで体調を崩したのが悪いんだから。さてさて何を聞かれるかな?

 

「まず直球に聞かせてもらうけど、貴方達二人はずっと行動しているの?もしそうだったらお互いずっと隣に誰かが居てストレスが溜まることになるわ。そこまでして一緒にいる理由を聞かせてもらえるかしら?」

 

これは神室がリーダーなのか探られているのかな?でも、今の俺は神室がずっと隣にいることにストレスなんかは感じていないが、神室が感じているかどうかは確かに気になるところだな。

 

「まぁ俺はストレスには感じていないけど、神室はどうなんだ?」

 

「なんだかんだ言って、下関といるのも退屈しないし、一緒に居るだけだけど?」

 

「そう、なら貴方達は親しい間柄だから、ずっと一緒にいるのだと。理解に苦しむのだけど、そう言いたいのね?」

 

「そうは言っていない、俺たちは一緒に居ないと今回の試験に差し支える事柄があるから一緒にいるんだ」

 

「それはどちらかがリーダーだからということなのかしら?」

 

やっぱり食いついてきたか。今回の試験Dクラスの戦術は知らないが、今日見ていた感じはポイントを頑張って残そうとしている感じが見てとれていたが、クラスを引っ張る側である堀北の様子を見ると、リーダー当ても可能ならば狙いたいと言うところか。

 

「いや、違うよ。俺たちAクラスは派閥争いがあってね。その二人のリーダーは今回は休んでいるから、それらのリーダーの補佐である俺らが仲良くすることで団結しようって作戦だからだよ」

 

「……そういうことね。じゃあもう一つ聞きたいのだけど、AクラスにCクラスからのスパイが居ないのは何故なのかしら?」

 

疑問には思うよな。俺としてはBクラスから質問が来なかったことの方が驚きなくらいだ。それが一之瀬の優しいかどうかは知らないが、さて何と答えるべきかな。

 

「それは俺が聞きたいぐらいだ。龍園にとってAクラスがスパイを寄越す必要の無いほど弱いと思っているのか、それともAクラスが非情だろうと思われたのかどちらかだろうな」

 

「じゃあそういうことにしておくわ。これで私が聞きたいことはなくなったから」

 

俺の答えに不満なのかは知らないが、俺からの答えを聞くと、帰ろうとしたので、こちらからも聞きたいことがあるので引き止めることにした。

 

「ちょっと待って堀北さん。俺からも聞きたいことがあるんだ」

 

「何かしら?敵である貴方に対して答えられることは少ないのだけど」

 

「そんな事は分かっている。俺が聞きたいのは何でこちらの拠点に来る時に綾小路を連れて来たのかを聞きたいんだけど?」

 

綾小路の話題を出すと、露骨に堀北は顔を顰めた。そんな表情をされると、より堀北と綾小路の関係が分からなくなるんだけど。

 

「そのくらいなら答えるけど、彼がこのクラスの戦力なるかを確かめていたのよ」

 

「そうなんだ。それで綾小路は堀北さんのお眼鏡にかなったのかな?」

 

「いえ、期待外れもいいところね。期待していた私が馬鹿だったわ」

 

いや、分からないな。演技って感じもしないし、本気で落胆しているように見える。本当にそれだけのために連れて来たのか?でも、まぁ良いか。ここからゆっくりと見極めていくことにしよう。

 

「ああ、ありがとう。それじゃあ俺たちは帰るよ」

 

特にそれから堀北と会話することも無く、Dクラスの拠点を去ることにした。

 

Aクラスの拠点へ帰る途中に、俺は徐に口を開くと、神室に対して話しかけた。

 

「それで、朝、言ったことは出来た?」

 

「問題無いけど。あんたに言われた通り、ずっと人間観察に勤めていたけど、リーダーは多分BクラスはCクラスのスパイにほどよい距離でいた女子、Dクラスは堀北なんじゃないの?こっちを警戒しているかどうかでしか判断してないけど」

 

「ああ、Bクラスはあの子か。よしそれじゃあリーダー指名はそれにしようか」

 

「私の意見全部採用するつもりなの?」

 

「うん。どちらも報告にあった通り、スポット更新組に毎回いたから、合っている確率は結構高い。まぁ堀北が警戒しているのは気質なのかもしれないけど、どうせDクラスに対してはリーダー当てするつもりは無いからね。ありがとう神室。これでこっちの目標通りにいきそうだよ」

 

「はいはい。どういたしまして」

 

さてと、これで無人島試験でやることはほとんど終わったな。あとは他クラスの状況を確かめてながら、暇があったら龍園を探して7日目まで過ごすことになるな。

 




流石に無人島前半に詰め込め過ぎたかなとは思っていますが、ここからあと数話で無人島編は終わると思います。


よう実の新刊が楽しみです。一年の出番はあんまり無さそうだけど、石上のデザインとか活躍を見たいなと密かに期待したりしてますね。





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順調 元の関係には戻れない

今回で無人島試験はほとんど終わります。前半に詰め込み過ぎた感は否めないけど。

UA30000突破ありがとうございます!
お気に入り登録300件突破もありがとうございます!

一菫さん、caocaoさん誤字報告ありがとうございます!


無人島試験も折り返しを過ぎて四日目に入った。8時になり、Aクラス全員はもう揃っていたのて、朝の会議を始めようと思ったところで、俺のところに橋本が近づいて来た。

 

「下関、ちょっと良いか?」

 

見たところ橋本は何も持っていなくて、特にいつもと変わったところも無く話しかけてきた。何の話かとは思ったが、橋本は坂柳の手足として無人島でも行動している。神室との関係や色々と悟られないように会話をしよう。

 

「どうしたんだ橋本?何か面白い情報でも見つかった?」

 

「いや、そんなんじゃなくてな、提案があるんだが、構わないか?」

 

「ああ、いいけど」

 

「この試験ももうちょっと終わりだろ?それで、塔チームと小屋チームの役割を逆にしてもいいんじゃないかと思ってな。どうだ?」

 

逆か。確かに、同じことをすることは効率が上がるけど、飽きがくる可能性も高くて、やる気を損なう可能性もあるな。それに、いつもとは別の奴に見張りをさせたら、新しい発見なんかもあるかもしれない。橋本の提案ということで、多少の警戒はしておく必要はありそうだけど、概ね問題は無さそうかな。

 

「中々良いアイデアだと思う。じゃあ今日から変えてみようか」

 

「ありがとな下関。これで試験もより順調になると思うぜ」

 

そこからの会議で、橋本の案を採用をして、役割を逆にすることをみんなに伝えた。もちろん、変な反感を生まないように橋本の案だと言うことは伝えていない。特に反対などの意見は無かったので、今日から試験の終わりまで、逆の役割にすることが決まった。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

四日目ともなるとやることが無くなり、スポット更新ぐらいしかすることがなくなったので、洞窟の中に籠って会話に勤しんでいたり、他のみんなと同じように仕事をしていた。

 

そして、3時頃に洞窟の前で神室と丁度会話を始めた時、塔チーム奴と小屋チームの奴がほぼ同時にこちらに来た。

 

「報告なんだけど。なんか小屋に人が来た。Dクラスの綾小路清隆って名乗って、探索に来ただけって言ってた」

 

「俺も同じだ。塔の近くでウロウロしていた奴がいたそいつも、Dクラスの綾小路って名乗って、探索しに来ていたらしいから、報告に来た」

 

ここに来て、綾小路がこちら側を探索しに来たのか。そんなことをされると、まるで俺のことを見張っていると警告しているみたいに感じてしまうじゃないか。分かっているんだ、そんなことはあるわけないって。綾小路という人物は気づいたとしても、そんな風なことをしないってことは。だから、綾小路の報告を受けただけで、ビビってしまうのは、いつまでも恐怖を克服出来ない俺の弱さだ。

 

「はぁ、綾小路のことは後で私たちで色々と考えておくから、もう帰ってもいいよ」

 

俺が綾小路のことで止まっているのに神室が気づいてフォローしてくれた。やっぱりこういう所が神室を相棒にして良かったな。これまでの人生で人にフォローされた経験もあんまり無かったから。

 

「ほら、あいつら行ったから、浜辺に行くよ」

 

俺が返事をする前にとっとと神室によって引っ張られて、前に俺が神室に自分の秘密が知られた浜辺へと向かわされた。

 

 

「私とあんたの関係に、メンタルケアも含まれてるの?」

 

「本当ごめん。綾小路が俺の近くまで迫ってると思うと、なんか怖くなるんだよ。俺だってずっと精神が安定しないなんて……嫌なんだ。毎日毎日夢に見ているせいで、起きてしまって寝れないのも嫌なんだ」

 

なんで、こんなずっとずっと溜め込んで来たことを神室に告白してしまっているんだろう。いや、良いのかな。俺はずっと我慢してきたんだ、今ぐらい、神室にぐらい話してしまってもいいのかもしれない。

 

「そういうのって、何かトラウマとか傷跡とかで忘れることが出来ないとかあるんでしょ?あんたの……背中のやつとか」

 

神室は気づいてたんだな。まぁ今からこれについて話して楽になろうとしていたんだ。いまさらバレていたところで変わらない。

 

「ああ、そうだな。多分これがあるから、いつまでも俺の中で綾小路は恐怖の対象として映ってしまうんだろうな。見せるよ神室。それで俺は綾小路への恐怖を克服するよ」

 

俺はゆっくりと長袖のジャージを脱いで、そのまま半袖の体操服も脱いだ。そして、上半身の至る所にある、火傷の跡を神室に対して見せた。

 

「これが、俺が綾小路に対して恐怖を感じている証だ」

 

見せた瞬間の神室は目を見開いて驚いたけど、、特に気持ち悪がることも無く、グルリと俺の体を一周回って見た。

 

「よくこれを隠してこれたね」

 

「プールの授業なんかでは、絶対に休んで、体育とかも体操服を中に来てから学校に行ったりして、見られないようにしてきた。だから、俺に火傷の跡があるのを知っているのは医者と俺しか知らない。実の妹でさえ知らないことだ」

 

「それを私に見せて、下関は楽になれた?」

 

多分、俺は楽になれたんだと思う。そんな実感が根拠も無いけどしている。自分にかかっていた重みが取れたみたいに感じれるから。前までは自分に信じられる相棒が欲しいとは思っていたけど、ここまで明かすつもりなんて無かった。でも、神室の前だと昔みたいに気を張らずにいることが出来るんだ。もしかしたら、俺は神室に対して依存してしまっているのかもしれない。

 

「なんかすっきり出来た気がするよ神室。俺を……裏切らないでくれ、お前だけは俺から離れないで」

 

「一々言わなくても分かってる。私はあんたにこの身を預けてるつもりだから」

 

俺自身心の整理がそれなりについて、これで少しは綾小路と対等に対決出来るのかもしれない、そう思いながら俺は神室とともに浜辺を後にした。

 

 

帰って来た俺たちは、帰る前と同じように仕事をして、夜の会議までの時間を過ごした。

夜の会議では、役割を逆にした感想なんかを聞くために、いつもよりも長く時間を取ったり、初めての見張りの私見なんかを聞いたりしていた。それをやってから四日目は終わった。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

五日目になった。まぁ今日もやることは変わらなかった。朝から会議をして、いつも通り仕事をした。そして夜になって特にいつもと同じようなことを言うだけの会議をして終わるはずだったのだけど、終わる直前になって町田が手を挙げていた。

 

「どうしたんだ?町田」

 

「いや、今日、雲を見ていたら明日ぐらいに大雨が降りそうだなと思ったから一応の報告をしようと思ってな」

 

「そんなこと、報告する必要なんかあるのかよ」

 

町田の報告に対して、坂柳派の誰かがヤジを飛ばしていたけど、俺は町田の意見を全面的に良い意見だと思っている。贔屓では無い。嘘だろうが、勘違いだろうが、その可能性があるのなら、用心することに越したことは無いと思っただけだ。

 

「町田の意見は採用すべきだ。もしも大雨とかになってしまったら、離れる場所で過ごすという作戦をとっているAクラスでは、点呼がカウントされない可能性がある。だったら用心のために対策をしておくに越したことは無い」

 

「対策って言ったって、どうするんですかリーダー?」

 

橋本が少しの煽りも混ぜながら聞いて来た。なんか橋本がいきなり質問とかすることが多くなっている気もしないでも無いな。まぁ橋本のようなタイプは昔会ったことがあるが、はっきり言ってああゆう権力や金に弱そうな奴は嫌いなんだよな。だからこそ、状況によってはこちらの味方をする可能性もあるから、度外視することも出来ないんだよな。

 

「そんなことは簡単だ。ここがベースキャンプとして登録してあるから、ここで雨が止むまで過ごせば良い。幸いにも食料の備蓄なんかもここだし、Aクラス全員も問題無く入ることが出来る」

 

「了解だぜ。リーダー」

 

「じゃあ、そういうことで、塔や小屋に荷物などを置いている奴は一度帰ってから、こっちに戻って来てこっちで寝てくれ。試験終了まであとちょっとだ。気合いを入れて頑張っていこう」

 

Aクラス全員はこれまでの無人島生活が思った以上に心身にきていたのか、実感の伴った頷きを持って返されて、夜の会議は終了となった。

 

 

そして六日目。朝起きてから、洞窟の外に出てみると、周りの木々には水滴が多く付いていたり、足元のぬかりが凄かったりしていた。なによりも湿気がすごく高くなっていて今、立っているだけでも蒸し暑く感じていた。どうやら、町田の予見していた通りに、深夜に大雨が降って来ていたようだった。

 

といっても、今日することはそこまで変わることは無い。前日通りに偵察を実行することで、今日は流石に偵察は無いだろうと思って油断するかもしれないからだ。食料集めもまぁいつもよりは量は減らすけど、するだけしては置こう。

 

そんなこんなで、色々と朝の会議で決定をしたものの、昼ごろからは雨が強く降ってきたので、早めに作業を切り上げて、全員を集合させた。普通に作業していた俺含め、泥だらけの奴が結構な人数いたので、シャワーを使う列なんかはすごく長くなってしまっていた。ほとんどの人数の人間がシャワーを浴びてからは、Aクラスの奴は全員が洞窟の中に待機していたので、俺は雨が当たらない出入り口ギリギリに座ると出ようとする奴が居ないか見張っていた。余りにも暇な時間だったけど、偶に来る男連中としゃべったり、誰も来ていない時間には神室も来てくれて二人で色々雑談したりした。

 

夜の会議は、全員を安心させるような言葉をかけるだけで終わって、とっとと解散してしまって、10時頃には全員が洞窟内で寝るように雰囲気になっていた。

 

 

そして、雨もほとんど降らなくなった夜中になった大体深夜の1時30分頃、スポット更新を終えた俺と神室は船が停まっている近くの浜辺に来ていた。

 

「こんな場所になにか用でもあるの?」

 

「うん。ここで神室にはリタイアして貰いたい」

 

「……そういうこと。分かった、あんたの指示通りリタイアする」

 

どうやら神室は理解してくれたみたいだ。これだったらわざわざ説明する手間も省けるな。

 

「後は任せてくれ神室。これからのために大きな敗北はしないつもりだから」

 

「下関の実力は分かっているから、別にそこは疑っていない」

 

「ありがとう」

 

そこから、船のデッキへと向かい、神室のリタイアへの手続きをして、それが終わってから俺へのリーダーの引き継ぎが行われた。

 

いよいよ、この長かったこの試験も終わりか。綾小路がいることを知ったり、神室という相棒を得れたりした色んな意味で良い試験だったよ。俺はこの試験ことをずっと覚えることになるんだろうな。

 




次の話で、結果発表とかやって、その次に幕間を挟んで無人島編は多分終わりです。


2年生編5巻読みました!
これまでで、一番ラストが予想つかなかったし、神崎君への同情もすごくしたけど、個人的にすごく好きな巻でした!よう実は次巻への楽しみが読んだ後にすごくするから好き。


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結果 一幕の終わり

無人島編が終わるまで、気づいたら半年ぐらいかかっていました。やべーな。


やっと無人島試験も終わって、全クラスが船が停泊している浜辺に集合することになった。

なんだかんだ言って、7日間も無人島に居た疲れがあるのか、俺含めたAクラスの面々や他クラスの人間はやっと終わったというほっとした表情や疲れ切った表情をしている。

そんなクラス別で大体集合している中、浜辺にはCクラスの人間は龍園しかいなく、あいつの格好やDクラスに噛み付いているような態度を見ていると、あいつは元気で良いななんて龍園を羨ましがってしまっていた。

 

そんな他のクラスの様子を見ているうちに、どうやらリタイア者以外は揃ったようで真島先生からの労いの言葉と試験の終了が告げられた。

 

「ではこれより、端的にではあるが特別試験の結果を発表したいと思う」

 

「なお結果に関する質問は一切受け付けていない。自分たちで結果を受け止め、分析し次の試験へと活かしてもらいたい」

 

さぁ、いよいよだ。俺が狙っているのは康平の補佐の俺は2位程度の実力だと言う事で、批判の少なそうな2位を狙う予定だ。もちろん1位でも全然構わないけど。

 

結果予想だと綾小路がどれだけ動いているかによるが、DクラスかBクラスが一位になるだろうな。まぁポイントが発表されてから康平と合流してその辺は詰めていけばいいか。

 

「ではこれより、特別試験の順位を発表する。最下位は──Cクラスの0ポイント」

 

この結果を聞いたDクラス側からは大きな笑い声が聞こえてきたが、当の龍園はというと、まるでCクラスが0ポイントになることを分かっていたかのように動揺もせず、俺の方をじっと見て笑っていやがった。

 

「続いて3位はBクラスの90ポイント。2位はAクラスの95ポイントだ」

 

うーん、思ったよりもポイントが取れていなかったな。それに……この点数って俺がリーダーが誰かに当てられた?もしかして……綾小路なのか?

 

「そしてDクラスは175ポイントで1位となった。以上で結果発表を終わる」

 

この結果に、Dクラスの面々は戸惑いの表情を浮かべながらも喜びの気持ちが隠せぬほど顔に出ていた。Cクラスの龍園はさっきまでの笑みを少し抑え、疑問にあることがあるのか考えて事をしているようだった。Bクラスはそこまで他クラスと差は無いので問題無しの考えのようでほどほどに喜んでいた。

 

そして、我らがAクラス。一応は本人たちの及第点には届いたようで、力が抜けて疲れが一気に来たようだった。数人は1位じゃ無いことに納得していないようだったけど、ほっといて問題無いレベルだ。さて、頑張って演説しますか。

 

「みんな!申し訳ない!康平から任されたのに、2位という中途半端な順位を取ってしまって。これは俺一人の責任だ。本当に申し訳ない!」

 

こうやって重く重く謝っていくことで、俺に対する同情を煽っていく、祖父がよく使っていたやつだ。もちろん、4位とか3位じゃこれで許して貰えないかもしれないけど、2位だったらまぁ2位だしなという気持ちが強く、よほどじゃ無い限りは許してもらえる可能性が高い。

 

「大丈夫だぜ下関!俺らの団結が足りなかっただけだからな。次の試験なんかがあったら葛城さんが取り戻してくれるからよ」

 

まぁ、だからと言って、こんな風に素直に謝られてしまうと、良心が痛んでしまうんだけどな。そんなこんなで、特に批判の声や失望の声なんかは出なかったAクラスの面々は船に戻るために歩みを進めた。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

あれから、船で康平からのAクラス全員への労いの言葉や感謝の言葉を伝えられた後に、解散の運びとなった。先生からも自由に船で過ごすようにと言われていたので、葛城派で食事をした後は康平と二人だけで二次会?みたいに次の店へと行った。

 

「改めて、今回の試験はいくら戦術だといえ、涼禅に大きな負担をかけてすまなかったな」

 

「いや、いいんだ。あんな風に人を率いる経験も偶にする分には必要だからさ。それより、康平は今回の試験結果をどう見る?」

 

康平は深く考えてこんでいるようだった。綾小路のことは内緒にするにしても、試験結果だけを見た康平からは貴重な意見が聞けるはずだ。

 

「今回の結果により、Aクラスは1095ポイント。Bクラスは753ポイント。Cクラスは変わらず492ポイント。そして、Dクラスが262ポイント。今のところ結果だけを知っている俺からしたら、今回の結果は満足いく物だ。しかし、Dクラスが警戒すべき対象だということも事実としてある」

 

「そうだよな。今のところAクラスがリードしているとはいえ、これからどんな試験が来るかは分からない。警戒することに越したことは無い。じゃあ、そろそろ試験の詳細について教えるよ」

 

無人島での出来事。俺と神室の関係に関することや綾小路関係に関すること以外全てを俺は話した。

 

「ふむ……無人島の話を聞く限り、Dクラスで警戒すべきは堀北。そして、龍園は今回の試験で失敗したようだったが、プライベートポイントを稼ぐつもりだったようだったようだな。ここでその戦略を打ってくる辺り、やはりあいつは危険な男だな」

 

「康平も気をつけてくれよ?龍園がどこで、狙って来るか分からないんだから」

 

「もちろんだ。話は変わるが、俺はこのバカンスでもう一つほど試験があると思っている。そこで、Aクラスの指揮を執ろうと思っている。涼禅はどう見る?」

 

「うん。大丈夫だと思う。康平が出た方が士気も上がるだろうしね」

 

康平なら堅実な作戦を取ってくれるはずだ。そこで偶に補佐している合間に、綾小路の身辺調査なんかを出来たら良いかな。さて、この二次会が終わって少ししたら、坂柳への報告を終えた神室と会うことになっている。これからのことはそこで考えるとしようか。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

『神室さん。無人島はどうでしたか?楽しかったですか?』

 

「別に、ただ疲れただけだった」

 

神室は本気で疲れているようで、電話越しに話している坂柳にも伝わっているはずだが、特にそれを気にしている様子は無い。

 

「結果の報告とか、橋本がしているはずだけど、私がする必要あった?」

 

『それは私が決めることですから。まぁ、今回の試験は下関くんが、こちら側を警戒し過ぎていたことに関しては少し意外でしたが、50ポイント以上の嫌がらせは出来たので満足ですよ。龍園くんが貸しだと取られなければいいのですが……』

 

「Aクラスのボーナスポイントが無かったのは、そういうこと」

 

『ええ。あまりに神室さんと下関くんが近くにいるので、話せなかったみたいですね。それで、下関くんと、この何日間も接してみてどうですか?』

 

神室はこれの答えについて思案する。どこまで言ったら良いものかと。坂柳に対して下関についてどこまで知っているか探りを入れるのもいいだろう。しかし、相手はあの坂柳だ。そう結論付けた神室は下関の軽めの情報を多く出すことにした。

 

「思わぬ攻撃には弱いみたいだけど、非情な手も簡単に使う。こちらのことも結構探られた気もする。でも、あんたや葛城よりは指揮能力は下回ると思う」

 

『実用的な情報を多く引き出してくれて私は嬉しいですよ。そうですね……これからも下関くんとの任務は継続して下さい。彼を上手く使えるのは葛城くんよりも私ですし、彼が彼をどう思ってるのかも気になりますから』

 

「あんたの側にいられる時間が減るかもしれないけど?」

 

『構いませんよ。それでこの学校を楽しむ要素が一つでも増えるのなら』

 

そこから、また十分少々話して神室は電話を切った。そしてその足で下関との待ち合わせ場所であるデッキへと向かうのだった。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

「坂柳に聞いたけど、龍園は橋本との取引で塔に隠れていたらしい。だから、下関が心配していたリーダーを当てた奴は綾小路じゃなくて、龍園ってこと。安心した?」

 

神室との作戦会議の開口一番に、すごく有益な情報がもたらされた。まさか、龍園が塔に潜んでやがったなんてな。入り口の装置の所しか行かないから分からなかったな。まさしく灯台もと暗しってところか。

でも、それはそれでありがたかったな。他クラスが思ったよりもポイントを得ていなかったから、当てられなかったら1位になっていたし、綾小路に会話を聞かれていなかったという確信も得られた。だから、問題は無い。橋本は許さないけど……。

 

「ああ、安心したよ。これでそこまで意識することは無く、綾小路の身辺調査を出来るよ」

 

「そ、なら良かったけど。あと、坂柳から下関の見張りは続行しろだってさ。これで会う時の不自然さはなくなるかもね」

 

坂柳が続行をしたのは何か意図があってのことだろう。でも、それが何なのかは俺には分からない。もしかしたら、神室の所作から俺との関係に勘づいて泳がせている可能性も視野には入れて置くか。

 

「坂柳に対して警戒することは忘れないでくれよ。あとは、そうだな……分かっていると思うけど、坂柳派の動向は全て神室が情報源だ。だから、頼んだぞ」

 

「分かっているから。それで、いつぐらいまで坂柳の下に付いておけとかあるの?」

 

「それは現段階では未定だ。でも、今年度中には坂柳は性格的にどこかしらに大きな攻撃を仕掛ける可能性が高い。そこを攻撃相手と坂柳ともども攻撃して戦力を削ぐことは考えているな。そうなったら少しは俺個人で動かせる人員も増やせるだろうからな」

 

どうせ綾小路清隆を退学させることは3年の間にするつもりなんだ。何をするにも気長にやって行かなきゃな。

 

「期待してるから。じゃあ、おやすみ」

 

「ああ、おやすみ」

 

神室はいつもよりも少し穏やかな顔をして帰って行った。それが、寒さでそうなったのか、俺に対する信頼の気持ちでそうなってくれたのかは分からない。けれど、少なくとも俺はその顔に対して、ここ数年で一番穏やかな笑みで返せていたのだと信じたい。

 




また幕間を挟んでその次に干支試験編へといきます。

無人島のポイント詳細は、Aクラス以外はリーダー当てでの増減以外は原作から変わりません。
Aクラスは300ポイントから坂柳と葛城のリタイアを引き、トイレ3つとシャワー3つ。ここまでで残り120ポイント。
そこから料理器具と一番安い栄養食一日10ポイントを5日分。そして湖の水を濾過する濾過器。ここまでで45ポイント。
そしてBとCのリーダーを当てて、プラス100ポイント。龍園にリーダーを当てられてマイナス50ポイントで、最終が95ポイントとなっています。


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幕間 神室真澄の証言

あいつに対しての印象は初めて会った時と比べて変わったかって?それ、話さなきゃ駄目なの?

 

ああ、はい。分かったから、話す。その代わりあいつにだけは言わないでよ。

まぁ、最初は葛城みたいにクソ真面目な奴かと思った、でも、無人島が終わった頃には、下関はただ可哀想でいつもは虚勢を張っているだけだって分かった。

 

そんな事言わなくても分かるでしょ?あいつ壊れてるの。過去に何があったかは具体的には言ってくれないけど、自分の人生全てを復讐することだけに使おうとしてる。馬鹿みたいだけど、本気でやろうとしてる。そういうところは真似したく無いけど、尊敬はしている。

 

性格?普段は良い子ちゃんぶって強気でいるみたいだけど、本当は精神がすごく弱くて、誰かに縋りたがっている。だから、あいつの側にいるのって大変なの。まぁ、他の奴らの前ではリーダーシップを発揮して、活躍してるから分からないだろうけど。

 

あいつの良い所?なんでそんな事……分かっている言うから。誰にでも優しい所とか、距離の詰め方が上手いとか色々あると思うけど?

 

は?もっと私しか知らないようなこと?そんな事言われたって……。多分大嫌いな相手にも笑顔で握手が出来る。あとは、金と権力で言うこと聞く人間が嫌いみたい。それと……多分私に対して依存してると思う。事あるごとに裏切らないでって言って来るから。まぁそれぐらいの方が好感は持てるんだけどね。

 

私も依存?多分してるかもね。でも、それでいいんじゃない?あいつは誰かに縋りたがっている寂しがり屋。私はつまらない日常に飽きて万引きをするような異常者。狂っているけど、私はこの関係に満足しているつもり。

 

私からこの依存を断ち切るつもりは無い。下関には復讐が達成出来るまで隣にいるって言ったちゃったし、もし、あいつに会わずにこの先生きていた場合は、刺激無く一人で生きることになるかもしれなかった。だから、刺激があって喋り相手がいる今の方がまだ良い。

 

復讐が成功したら?そんな事考えて無い。多分、あいつ自身も成功する確率は低いだろうと思っているだろうし、私にとっては成功とか失敗とかあんまり気にしない。でも、成功した方が下関はスッキリするとは思う。

 

結局どういう関係なのかって?そんな事私にも分からないから。友達なんて生優しいものな訳ないし、協力者とかそんな綺麗なものでも無い。結局、下関が言っていた共犯者とか相棒がしっくり来るんじゃ無い?呼び方なんて何でも良いけど。

 

恋人?……ありえないから。

 

 




特に何も変わることはありませんけど、個人的にここまでで一区切りですね。まだ続きはしますので、これからもお付き合いいただければ幸いです。


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第4巻
各種各様 つながりは固く結ばれる


第4巻始まります。


 あの無人島試験から、何日か経った今日。未だに、試験が開催されるような気配や陸に着くような感じもしない。そんな空気感だからなのか、生徒たちも最初は警戒していたようだけど、今となっては素直に楽しんでばかりだった。

 

 それは、俺も例外では無くて、今日は人と会う予定が3つも入っていた。

まず、昼前ぐらいから、弓道部の三宅と吉本と一緒に昼飯を食べたり、遊んだりする約束をしている。弓道部の面子で遊んだことないよなってことで、俺が誘って実現した。思ったよりも楽しみだ。

次は9時ごろから飯を食いながら橋本と喋る予定をしている。あっちから誘って来たからどんな話をするか知らないが、無人島試験のことや俺に対するアプローチが聞けるかなとは思っている。

最後に日を跨ぐ前に、西野と会うことになっている。これは俺が誘って、無人島試験のお礼とこれからのことについて話すためだ。

 

3つとも色んな意味で有意義な時間になるとは思っているので、今日という日をめいいっぱい楽しもうとは思う。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

「よぉ、二人とも。ちゃんと来てくれてみたいで、嬉しいよ」

 

 二人とも遅刻することは無く、時間通りに来てくれた。服はどうやら私服のようで、三宅は地味な色合いながらも、似合っていてイケメン感が倍増していて、吉本は若干色合いが派手だが、おしゃれに見える。二人とも柴田とか平田とかその辺が強すぎて薄くなりがちだけど、イケメンなんだと実感出来るよ。

 

「それで……最初はどこに行くんだ?」

 

「んー昼飯じゃね?下関何か目星とかつけてる?」

 

「ピザとかパスタとかどうかなって思うけど、どう?」

 

 ただの俺の食べたいものを言っただけだけど、二人とも賛成してくれたみたいで良かった。

 船内にあるイタリアン店に入ったけど、中は一組、二組程度で、客はあんまりいないようだった。三宅はピリ辛のパスタ。吉本はカルボナーラ。俺は和風パスタを頼んで雑談をしながら食べていた。

 

「そういえば俺たちってさ、いつまでも苗字で呼んでるの何か変じゃないか?」

 

「そうか?……別にそんなこともないと思う」

 

「まぁいいんじゃない?明人、功節」

 

 不意打ち気味に名前で呼んでみたら、功節は笑っていて、明人は照れ臭そうにこっちと目を合わせようとしなかった。こんな感じで人のことを名前で呼ぶなんて康平以来かな?前までは、アレがあったり、心に余裕が無かったから呼べなかったけど、今ならこの二人にぐらいには呼べるかもしれない。

 

「なーに、わざわざイケボで言ってんだよ涼禅」

 

「本当……男子はわざわざ名前で呼ぶって事前に言うものじゃないだろ」

 

 その後も楽しい雑談の時の過ごした。この二人といると、康平と一緒にいる時や神室と一緒に居る時とは違う感じで、楽だし心地いいんだよな。こんな恥ずかしいセリフわざわざ言わないけどな。

 その後は、プールに遊びに行ったり、マッサージ店に行ったりした。そんなこんで、この二人と遊ぶ時間は終わりに近づいて来ていた。

 

「今日はどうだった二人とも?」

 

「すげぇ楽しかったよ!他クラスの奴とは遊ばないから、新鮮だったしな」

 

「俺も……久々に遊べて楽しかったよ」

 

「ありがとな。また、誘うよ」

 

 楽しかった。ただそれだけでいいじゃないか……。あの二人とは本来違うクラスで競争相手、普通ならば遊んでいないはずだ。それが、遊べたんだ。裏切られるとかそういう関係性では無い。だから、これからも付き合っていっても大丈夫なはずだ。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

 夜21時、生徒たちは昼間からまだ遊んでいるやつや、疲れ切って寝てるやつが多い中、俺は船の中にある焼肉屋に来ていた。事前に聞いていた通り、個室のタイプの焼肉屋で橋本一人しか居なかった。

 

「よぉ。まぁ、座れよ。どうだった今日は?下関はモテるから、女遊びでもしてたんだろ?」

 

「そんな訳ないじゃないか。遊んでたのは男だよ」

 

 相変わらず剽軽とした態度で腹が立つけど、元々橋本のスタンスは好きでは無いので、今更だ。

 

「男か。下関はそっちの方もいけたのか初情報だな。覚えておくぜ」

 

「橋本。冗談もほどほどにして、本題に入らないか?」

 

俺が本気で嫌そうにして圧をかけて問いかけると、橋本も切り替えは早いのか、一瞬にして真面目そうな雰囲気を漂わせ始めた。

 

「まぁ、今回誘ったのは、無人島試験のことが主だな。俺は坂柳の命令で仕方なく、龍園の野郎に取り合ったのよ。それで、あいつには色々情報を渡してしまったから、それの謝罪だな」

 

 予想通りの内容か。だが、俺も事前に予想していたとは言え、何故こんな話を橋本がわざわざ俺にするかが分からない。橋本が俺のことをどう評価しているかは分からないが、その事が俺にバレているのかも分かっていないのに、話すのはリスクしか無い。いや、あえてリスクしか無い情報の提示で俺の反応を窺っているのか?それならば、今言う説明が出来ないこともないか。

 

「謝罪か……後から考えたんだが、龍園が俺がリーダーだとしっかりと当てるには元々リーダーであった神室から聞くしか無い。だが、神室は俺とほぼずっと居た。Cクラスの拠点に行って帰ってくるような時間は無い。だったら、残るはやっぱり橋本お前しか居ないよな」

 

「本当それについては申し訳ないとは思ってるんだぜ?でも、うちんとこの姫さまは結果をお望みだからさ、仕方ないだろ?」

 

 橋本の言う通り坂柳は結果を重視する人間だ。それに、失敗をすればどんな罰を与えるか分からないという不気味さも兼ね備えている。このような点が坂柳を坂柳派のリーダーとたらしめているんだろうな。

 

「怒ってはないよ橋本。俺たちAクラスは結果的に2位になったんだ。その過程で橋本が何をしようとも今更関係ない」

 

「そう言って貰えると、ありがたい」

 

「だが、それとは別に二つ気になることがある。まず、お前が謝罪をしようとした目的はなんだ?それと、これは橋本の意志なのか?それとも坂柳か?」

 

 橋本がもし坂柳の命令で謝罪に来たのだったら、俺の反応次第で神室との関係を探って来ている可能性が高い。その場合、俺は神室を守るために、坂柳と表立って対立しなければならないかもしれないし、葛城派を一旦とは言え辞めなければならないことにもなるかもしれない。それは現時点ではメリットが無さすぎて、避けなければならないことだ。

 

「目的は後で語るとして、ここには俺の意志で来てるぜ。先に言っておくが、俺は最終的にAクラスで卒業出来れば良い。この意味が分かるよな?下関」

 

 雰囲気から何となく察していたが、やっぱり橋本はそういう人間だったか。自身が最終的に勝ち残るためならば、どんな奴とでも手を組むスタイル。だったらやっぱりこの会合の目的は……

 

「勝ち残るためにどんな奴とでも手を組んで行くということか」

 

「そういうこと。だから見込みのある人間にはすでにつながりを作っている。今のところ坂柳が一番勝つ見込みが高いからそっちについているが、龍園にも見込みがあるから、今回は恩を売ってつながりを作らせてもらったということよ」

 

「俺が今回来た目的は、下関お前にも見込みがあると思ったから、取引をしに来たんだ」

 

 はっきり言えば、他人の信頼を裏切るような野郎は嫌いだ。だが、橋本はわざとそれを相手に悟らせようとしている。自分を裏切らせないように頑張ってくれよという風にな。こいうのを勝ち馬に乗る才能があるというのか、そう言われるように努力しているかは分からないが、直ぐに裏切るような奴とは違うみたいだな。

 

「俺にも恩を売っておくってことか」

 

「そうとも言うが、下関にも得がある取引だと思うぜ?さりげなくだが、情報も提供するし、少しぐらいは下関に有利な意見も出す。どうだ?」

 

 神室で坂柳派の情報は足りていると言える状況だが、実際、悪くは無い取引だ。俺は特に差し出すものは無くていいわけで、橋本が持って来る情報に少し警戒しておくだけでいいということだからな。団結力という点では他クラスに圧倒的に劣っているAクラスではもしかしたら、有効に使える場面があるかもしれないからな。

 

「良い取引だな。一応了承だけはしておくよ。俺はもうちょっとだけ裏方でいたいからな」

 

「了解。じゃあ今後ともよろしく頼むぜ」

 

 その後の話は無難なことしか話さなかった。この話し合いでは、収穫が多くとあったと思っていい。一番はやっぱり信用出来ない情報源が出来たことだな。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

 従業員しか来なくて、携帯の電波も通じない船の一番下層部。こんな時間に来るだけで何かが出ると思わせるほどの暗さと人気の無さ、それが逆に良いと言う人間もいるだろう。例えばスパイと雇い主みたいな関係の密会などで来ている俺みたいな人間が。

 

「また、ここですかー?寒いんですけど」

 

「仕方ないだろ。お前との関係を他に知られないようにするためには、他に良い場所が無いんだよ」

 

 西野の服装はパジャマに上着を羽織っているだけの格好で、もう他の生徒は寝静まっている時間なので、パッと来てパッと帰るつもりで来たのだろう。

 

「それでこれは何のための会合ですか?出来れば早くしてくれませんか?眠たいんで」

 

「まず、今回の無人島では情報をくれて感謝してる。この報酬はいつもの所に振り込んでおくよ」

 

 西野にはCクラスの動向を続けてもらう必要があるからな。今回の報酬はこれからのことも含めて多く振り込んでおくか。

 

「まぁ、それはいいですけど。無人島が何であの結果になったとかも聞きたいんですけど?」

 

「ああ、その辺はしっかり説明するよ」

 

 Cクラスの過半数はすぐにリタイアしてしまったからな、何故Dクラスが一位になって、Cクラスが最下位になったのか知りたいんだろう。

 俺は出来るだけ客観的に無人島で何があったのかを説明しつつ、最後にはDクラスの中には怪しい策士がいるとだけ言っておいた。今ここで綾小路の名前を出す必要は無い。何人も俺の復讐に巻き込むつもりなんて無いからな。

 

「へぇーそんなことがあったんですね。……それじゃあ私もう帰ってもいいですか?」

 

「いや、後一つ言いたいことがある。これから、俺は時折、裏から表に出つつ、Aクラスの統一を少しずつだが、進めていこうと思っている。そこで、西野を使うことも増えて来ると思う。……それだけは言っておこうと思ってな」

 

「はいはい。分かりましたよ。私はもう寝ますから」

 

 あんまり嫌そうな顔はしなく、微笑を浮かべて西野は去って行った。今日会った全員とは話したことで、少しは見えてきたものがあると思う。……復讐には関係ないけど、この学校を上手く楽しく生きて行く為の関係も大事なのかもしれないな。

 

 

 

 




よう実の新刊が出るたびに新しくイラストがついたキャラのイラストを見るのが楽しみ。


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作戦会議 補佐としての仕事

4巻は3巻よりは短く終わりたい。


ベンKさん誤字報告ありがとうございます!


 無人島試験終了からはや数日。今日この日、充分な休息をした生徒たち全員に学校側からメールが届いた。うるさく甲高い音を伴って届いて、寝ていた俺も起こされたぐらいなので、全生徒が気づいていることだろう。

 

『生徒の皆さんにご連絡いたします。先ほど全ての生徒宛に学校から連絡事項を記載したメールを送信いたしました。各自携帯を確認し、その指示に従ってください。また、メールが届いていない場合には、お手数ですがお近くの教員まで申し出てください。非常に重要な内容となっておりますので、確認漏れのないようお願いいたします』

 

 念入りに放送で確認を促してくるくせに、メールの内容については全く触れてこない。わざわざこんな二度手間なことをするということは、緊急を有する非常事態では無くて見なければならないもの……特別試験関連か。まぁなんにしてもメールをみたほうが早いか。

 

『間もなく特別試験を開始いたします。各自指定された部屋に、指定された時間に集合してください。10分以上の遅刻をした者にはペナルティを科す場合があります。本日18時までに2階201号室に集合してください。所要時間は20分ほどですので、お手洗いなど済ませた上、携帯をマナーモードか電源をオフにしてお越しください』

 

 やっぱり特別試験ということで、相談するために康平と連絡を取ろうとしたんだけど、すでに神室からメッセージが一件来ていた。内容は簡潔に『20時 201号室』だけだった。後で聞こうと思っていたことを先読み出来る。流石、仕事が出来る人は違うね。

 

『康平。何時からだった?』

 

『20時40分からだ。涼禅は何時だ?』

 

『俺は18時からだった。多分ルール説明ぐらいしかしないだろうし、俺のが終わったら部屋で作戦会議でどうかな?』

 

『問題無い。俺はその間に涼禅より早く終わりそうなやつに、話を聞いておこう』

 

『了解』

 

 無事、康平との作戦会議の予定を取り付けられたけど、今から何をしようか。呼び出される時間が違って試験が行われないのはほぼ確実だから、ルール説明だと思うことしかまだ考察出来る部分は無い。だから、今からやることはほぼ無いと言って良いに等しい。

 だったら、ようやく悪夢を見ずに深く眠れるようになって、今までの睡眠を取り戻す意味という意味で、時間が来るまでにまた寝ることにするか。

 

 

 ♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

 俺は少々遅刻しかけている。起きたのがちょうど17時50分。そこから、もうダッシュで部屋から出て階段を駆け登っているのが今だ。目覚ましもかけずに寝たのが不味かったな。眠りの悩みから解放されたから、ついつい油断してしまったな。さて、間に合えばいいけど。

 

 201号室のドアを乱雑気味に開けて広がっていた景色は、Cクラスの担任よ坂上先生と同じAクラスの葛城派である町田とAクラスの坂柳派の森重が二人椅子に座っているものだった。何というか、微妙な関係の人しかいないな。

 

「揃いましたね。では、少し早いですが進めてしまいましょうか」

 

 まず初めに、坂上先生によると今回の特別試験は干支になぞられた12のグループを、各クラスから三人から五人を集めて一つのチームとするらしく、今この部屋に集まっているのがAクラスのメンバーだそうだ。しかも、『シンキング』の能力が問われる試験らしい。

 

「そして、これが君たちが所属する『卯』グループのメンバーです。退出時には回収しますのでそのつもりで」

 

 何故、干支なのかという疑問は絶えないが、そんな疑問はグループのメンバーを見たときに消え去ってしまった。

 

 Aクラス・下関涼禅 町田浩二 森重卓郎

 Bクラス・一之瀬帆波 浜口哲也 別府良太

 Cクラス・伊吹澪 真鍋志保 藪菜々美 山下沙希

 Dクラス・綾小路清隆 軽井沢恵 外村秀雄 幸村輝彦

 

 ……綾小路がいる。もう名前を見ただけだったら問題はないけど、こんな偶然が起こることに喜びなのか不安なのかは分からないけど、感情が大きく震えてしまう気がした。ああ、ダメだ。どうしても綾小路に引っ張っられてしまう。早くメンバーをメモらないといけないのに。

 

 俺が手間取りながらもメモをし終わったのを見届けてから、坂上先生は説明を再開してくれた。意外にも他クラスに優しい先生だな。

 

 今回の特別試験は明日から3日間行われるようで、やることは主にメールで自分が優待者かどうか確認することと、一日に二度一時間ほどグループのメンバーが集まり話し合いをすることらしい。この試験の目的は自身のグループの優待者を当てることで、その答えは試験終了後に一人一回学校側に送ること。

 

 ここから答え方とか状況次第で、結果が四つに分かれる。

 

結果1は優待者と優待者と同じクラスの生徒を除く他の生徒の解答が正解していた場合、全員が50万ptを得る。

 

結果2は優待者と優待者と同じクラスの生徒を除く生徒の内、一人でも未解答・不解答の場合、優待者が50万ptを得る。

 

結果3は試験終了を待たずに答えを学校に告げて正解していた場合、答えた生徒のクラスは50cpを得て、答えた生徒は50万ptを得る。見抜かれたクラスは50cpを失う。この瞬間試験は終了となる。

 

結果4は試験終了を待たずに答えを学校に告げて不正解の場合、間違えた生徒のクラスは50cpを失い、優待者は50万ptを得て、優待者のクラスは50cpを得る。この瞬間試験は終了となる。

 

 簡単には理解することは出来たが、複雑そうな試験であることには違いないか。簡単な人狼ゲームかと思えば気は楽だが、人狼で肝となる役職なんかは無く、自分の洞察力だけで優待者を当てなければならないのはなかなかにつらい。だけど、そんな試験では殆どが結果2になってしまい試験としての形を成さない。だから、試験の目的となるであろうことは、優待者となる条件を考えるという意味で『シンキング』の能力を測るこということかな。

 

 他にも坂上先が細かい説明をなさっていたが、その辺は後でまとめて康平と打ち合わせをすればいいだろう。幸運にもグループが綾小路と一緒になったことで、綾小路の探りは出来そうだから、今回の特別試験で当初の予定よりは康平に対して協力することが出来るかな。

 

「下関。これから葛城さんと会うのか?」

 

「ああ、そのつもりだけどどうしたんだ?」

 

「見たところ下関はメンバー以外はメモっていなかったから、この特別試験の説明のメモを葛城さんに渡しておいてくれ」

 

 町田は特別試験のメモ用紙を渡すと、去って行ってしまった。今回は後で康平も聞くだろうからと、メモっていなかったからありがたいな。康平にも町田からのメモだとしっかり伝えておくか。

 

 

 ♠ ♠ ♠

 

 部屋に帰るともう康平がいたので、今回の特別試験に関することを町田のメモを見ながら俺の見解込みでの説明をした。

 

「ふむ。この町田のメモに書いてある優待者の公平で厳正な調整という部分から察するに、各クラス3人ずつ優待者がいるとみて良さそうだな。自身のクラスおの優待者を把握することが先決か」

 

「だけど、康平も分かっているとは思うけど、その部分では俺たちAクラスは後手に回ると思う」

 

「ああ。坂柳派の人間は俺に対して、自身が優待者だと明かさないだろうな」

 

「それを鑑みると、優待者になる条件を考える試験なのに、大分不利になるだろうね」

 

 今回はCクラスが有利かな。独裁体制で確実に自クラスの優待者を知れる点に加えて、龍園の声一つで他クラスの人間を買収するほどのポイントを用意出来る。また坂柳派の奴と組まれる優待者の情報が漏れそうで、厄介だな。

 

「康平はここまでで今回、どんな戦略でいくかは練れた?」

 

「優待者が誰かは集められるだけ集めるとするが、目標は2学期に響かない結果1、2を目指す方向にするか。それを達成する意味でも、この試験が話し合いに重きが置かれているとブラフをかける意味でもAクラスは話し合いに参加しない姿勢で統一だな」

 

 確かに良い戦略だと思う。もちろん誰かが優待者の法則性に気づいた時点で終了だが、少なくとも二日は持つだろうな。

 

「もちろん、涼禅の考えている懸念も分かる。Cクラスに無人島では一位だったDクラス。この試験の狙いに気づき、優待者の法則を当てるクラスも現われる可能性もある。その場合に備えて、一度どこかのクラスと取引をする予定だ。協定も結べればベストだな」

 

「こっちから優待者の情報を出して、相手からも出してもらうのか。手っ取り早く情報を得るには最善か。それを元に相手も気づいたとしても協定を結んでおけば、Aクラスの優待者が全員当てられることが防げる。メールに細工は出来ないから、欺しにくいのもある。なかなかいいんじゃないか?」

 

「ああ。それですまないが、涼禅に今回やってもらいたいのは、Aクラスの優待者を全員調べてもらうことだ」

 

「問題ないよ。なんとかそれくらいはしてみるよ」

 

 そのくらいなら、綾小路を調べる片手間でも出来るか。もし坂柳派に優待者が行ったとしても、神室から聞けばいいし、最悪橋本から取引でもなんでもして聞き出せばいいからな。

 康平が時間になって部屋に向かうのを見届けた俺は、先に送っておくという意味で、西野に自身のグループのメンバーとCクラスの優待者が分かれば送るように連絡した。はっきり言えば、側近では無い西野がCクラスの優待者を把握することは厳しいかなとは思うが、西野自身が優待者の可能性もあるので聞いておくだけ価値はあるだろう。

 

 帰って来た康平のグループである辰グループを見たときは非常に驚いた。

 

 Aクラス・葛城康平 西川亮子 的場信二 矢野小春

 Bクラス・安藤紗代 神崎隆二 津辺仁美

 Cクラス・小田拓海 鈴木英俊 園田正志 龍園翔

 Dクラス・櫛田桔梗 平田洋介 堀北鈴音

 

「うわーこれはなかなかだね」

 

「ああ、明らかに各クラスのリーダー格が集められている」

 

「今更言う必要は無いと思うけど、龍園には気をつけて」

 

「……そうだな。すでに龍園とは対峙したが、奴は狂犬だな。涼禅も気をつけたほうが良い」

 

 対峙したか。龍園は裏をとりがちで煽りぎみだから、康平と相性が悪いんだよな。出来ればグループ内でもめないといいけど……。

 

 

「それに、Dクラスも無人島では良い結果を残している。こちらも油断することは出来ないだろうな」

 

まぁ個人的な意見なら綾小路がいる俺の卯のグループの方が警戒すべきだけど、綾小路がどこまでDクラスを物にしているか分からないので、警戒するにこしたことはないか。

 

「了解。とりあえずは明日の優待者発表まで待機かな」

 

「そうだな」

 

 さて、優待者になれたら色々と楽だから、なりたいな。

 

 




ルール説明分かりにくかったらすみません。


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卯 探り合い会議

新生活で忙しくすごく遅くなりました。申し訳ないです。


すいむさん誤字報告ありがとうございます!


 

 説明会から翌日。俺は康平と共に優待者発表の瞬間を部屋で待っていた。そして、午前8時きっかりに俺と康平の携帯が同時に鳴った。

 

 『厳正なる調整の結果、あなたは優待者に選ばれませんでした。グループの一人として自覚を持って行動し試験に挑んで下さい。本日午後1時より試験を開始いたします。本試験は本日より3日間行われます。卯グループ方は2階卯部屋に集合して下さい』

 

 まぁ、そんな簡単に選ばれるわけ無いよな。優待者になれれば色々と手間が省けて楽だったんだが、なれなかったらなれなかったなりに取れる戦略は色々あるからな。

 康平の携帯も見たが、康平も優待者では無かった。少し考えてみたけど、俺と康平が優待者では無いという情報だけでは優待者の法則にたどりつけないか。やっぱり情報を集めないと。

 

「康平。あの作戦で行くことに決定でいいんだよな?」

 

「ああ。だが、どちらのグループにもリーダー格が存在しているから、俺達は会話することが増えるだろうな」

 

「了解。一之瀬にも気をつけつつも友好的に接しておくよ、取引相手の第一候補だからね」

 

 

 

 ♠ ♠ ♠

 

 

 康平との会合が終わり、いよいよ試験開始の時間となった。今の時間までに葛城派の連中に声をかけて、優待者を二人ほど把握することに成功して、神室からも坂柳派の優待者の情報をもらえた。これで、Aクラスの優待者はすべて把握出来たので、勝利に一歩近づいたと言っていいだろうな。まだ、法則性については考えられていないけど。

 

 途中で出会ったAクラスの同じグループである町田と森重と共に試験部屋の中に入ると、すでにBクラスが部屋の中央に円のように並んでいる椅子に座っていた。その中で一際存在感を放っている一之瀬は入って来た俺たちに微笑んできたが、特に言葉を発することはしなかった。全員が揃うまで待っているのか、それとも、俺たちを警戒しているのかな……?

 

 それから少しだけ経ってCクラスのメンツが来て、Dクラスの軽井沢も一人で入って来た。最後に綾小路含めたDクラス三名が来て、卯グループ14名全員が揃った。椅子は大体クラス別に座っているが、それがこの学校での特色をよく表していると実感出来るな。

 

『ではこれより一回目のグループディスカッションを開始します』

 

 こんな感じで始めるとなると誰かが会話を回すことになりそうだな。まぁ、その役目は一之瀬がやるだろうし、俺が極力喋ることはないか。

 

「はいちゅうもーく。大体の名前は分かっているけど、一応学校からの指示もあったことだし、自己紹介したほうが良いと思うな。初めて顔を合わせる人もいるかもしれないし」

 

 予想通り一之瀬が出てきたが、周りの反応はさまざまだった。特に隣の町田は今回の作戦を忠実に守っているのか、外界との繋がりを避けるため一之瀬に対して突っかかった。うーん、俺の方をちらっと見てから突っかかるのは辞めてほしいし、一之瀬は取引相手の可能性があるから、あんまり突っかかて欲しく無いな。

 

 まぁ提案通りに、自己紹介は全員したけど特に何も起こることは無かった。

 

「さてと、これで学校からの言いつけは果たせたかな?それでこれからのことだけど、どうやって進めていこうか。私が進行役をするのが嫌なら言ってもらえる?」

 

「あ、じゃあ一言だけ良いかな?」

 

 俺が発言しようとしただけで空気が重くなった感じがした。Bクラスのメンツが睨らんできたり、町田や森重から息を呑んだからだ。

 

「いいよ、下関君」

 

「一之瀬が進行するのは構わないけど、場合によっては変わってもらってもいいかな?」

 

「うんうん、もちろん大丈夫だよ」

 

 この会話にそこまで大きな意味も無いかもしれないけど、これからAクラス全体が黙秘を続けるとなった時に、俺だけは話せるかもしれないと他クラスに知らせるという意味では良かったと思う。

 

「まず今回の試験を始めるにあたって、分からない点や疑問点、気になる部分があったら皆で話し合うべきだと思うの。そうじゃないといつまでもシーンとした状況が続いちゃいそうだし。誰か質問はある?」

 

 一之瀬が明らかに俺や綾小路へと周りを見渡す中、他の人間よりも少し長く見つめてきた。そんなに見なくても意見なんてそうそう無いのに。ていうか、一之瀬は綾小路の本来の実力に気づいているのか?いや、直感とかの可能性もあるかな?

 

「皆に聞きたいことがあるから質問させてもらうね。私としてはみんなが優待者ではない、というのを前提に聞かせてもらいたいことなんだけど、この試験を全員でクリアする、つまり結果1を追い求めるのが最善の策だと思っているかどうか聞かせて欲しいの」

 

 こんな質問は大した意味をなさないだろうな。他の人間からすればただの確認。だけど、一之瀬からすれば、それぞれのクラスの姿勢を確認する意味や、運が良ければ優待者を反応から絞りたいと思っているという所か。

 それを知ってか知らずか、どんどんとB.C.Dのクラスの人間が賛成という姿勢を示し始めた。綾小路も続いたのは少し意外だったけれど、周りに合わせたのか?実力を出したいのか出したくないのかよくは分からないな。

 そんなことを考えている間に、町田とBクラスの浜口が激しい舌戦を繰り返していた。……康平からの命令を忠実に守ってくれているみたいで何よりだな。でも、伝えていないとは言えやり過ぎは良く無いかな。

 

「なら俺たちAクラスは全員沈黙させてもらうことにする」

 

「ちょいと責めすぎた質問だったかな?……ちなみに、下関君の意見も聞いてもいいかな?」

 

「ああ。町田の言う通り俺たちAクラスは基本沈黙させてもらうが、適度に俺だけが発言させてもらう。そして、交渉などは受け付けている」

 

「詳しく聞いてもいいかな?」

 

 康平には申し訳無いがここまで他クラスが動いてくるとなると、俺達もそうそうに手を打たなきゃならないと思うから、先に交渉だけは出しておくことにする。もちろん、後で謝るけど。

 

「今回の試験は話し合いを経ての優待者の発見や駆け引きが試験の肝だと思っている。その上で、俺たちはウチのクラスにいる優待者を守るためにこのような沈黙策を取ったが、勝ちには貪欲にいきたい。だから、優待者に関する取引だけは俺だけで受け付けようと思っているという訳だ。まぁ、取引や交渉がAクラスに最後まで一切無かったのなら、一之瀬の言う結果1でも問題は無いと考えている」

 

 Aクラスの他男子含めた全員が俺の発言に対して考え込んでいるようだった。これで、綾小路や一之瀬がどんな発言をするかが気になるものだな。

 

「うーん、その交渉って意味があるのかな?この試験の形だと嘘をいくらでもつけちゃうよ思うけど」

 

「それはしっかりと対策していくつもりだ。まぁ俺が言いたいのは何処か一つのクラスに勝ち抜けされるぐらいなら、取引をしてマイナスをなくさないか?ってことだ。それ以外にAクラスが動くことは無い」

 

 言おうとしていたことは言い切ったので、顔を俯き、これ以上の質問は受け付けないという姿勢をとった。その後、二、三人が軽く疑問や文句を言っていたようだけどよく知らない。でも、これで少しでも興味が出た人間はバレないように話し合い以外の時間に接触してくるだろう。

 その後は沈黙になった俺の代わりをするように、Aクラス沈黙作戦についての詳しい説明を一之瀬と議論し合い、他のクラスを巻き込みながら始めた。結果的には、他クラスが好意的に思うことは無く、Aクラスが鎖国することだけ伝わり、町田と森重は部屋の隅に移動した。

 

「下関くんは移動しなくてもいいんですか?」

 

「警戒するな浜口。俺はAクラスの交渉役だから。いつでも交渉歓迎という意味でここに座っている」

 

 今回はこのままだらだらと様子見しながら終わるものだと思っていたんだけど、Cクラスの真鍋という女子がDクラスの軽井沢に向けて、因縁を付け始めた。これは龍園の作戦かとは一瞬考えたが、軽井沢ならありそうな原因と軽井沢の反応から事実なんだろうな。だが、それを試験中に軽井沢に無断で写真を撮ろうとまでするなんて、あまり良いことだとは言えないな。

 

「ねぇ……この子になにか言ってあげてよ」

 

 何を思ったのか。軽井沢は俺の隣の席に座り俺に対して助けを求めてきた。何ヶ月か前に1度会っただけの男に頼ってくるものなのか?綾小路とかに頼ればいいのに。

 

「無断で写真を撮るなんて許せないんだけど。下関くんはどう思う?」

 

「一応ここは試験の場だから、あまり先生におおっぴらに言えないことはしない方が良いだろうとは思う」

 

 出来るだけどちらの味方もしないようにしたんだけど、それでも真鍋には効いたようで押し黙ってしまった。龍園の名前を出してもよかったんだが、クラス間の争いに関わらせるのは面倒そうなので、止めておいた。

 

「変な言いがかりはやめてよね、まったく。ありがとう下関くん」

 

「ただの正論だから、気にするな」

 

 この騒動が終わった後も、特に話し合いに大きな変化が訪れることは無く、自由にしていいというアナウンスが流れたので、康平と打ち合わせをするためにとっとと部屋を出た。……綾小路と同じ部屋にそんな多く居たく無かったというのもあるけど。

 

 

 

♠ ♠ ♠

 

 

 その後の康平との話し合いでは勝手に交渉役を名乗ったことを謝ったけど、何処かしらで康平自身が出るはずだったので問題無いと言ってくれた。本当に康平はリーダーに向いていると思う。

 他のグループに行ったAクラスは全員沈黙作戦を実行して問題無かったが、康平の所は沈黙作戦の実行に対しての龍園や堀北、神崎と弁戦するはめになったらしく、結構疲れたみたいだった。その影響が大きく、解散となった。

 

 そこから、俺はお酒が飲めるバーに神室を呼ぶと、リンゴジュースを飲み、ダーツをしながら作戦会議をしていた。

 

「こんな場所で私と二人っきりで会ってもいいの?あんたの作戦はもう広まってるけど」

 

「まぁ、問題無いよ。今、神室と会っていても試験の話をしてるだけだと思うだろうし、こんな場所まで付けてくるやつはAクラスに居ないだろうから問題はないでしょ」

 

 お、良いとこ当たった。でも、何故か総合的に神室に負けてるんだけど……おかしいな。ていうか、クールな性格で流れるようにダーツを投げる。改めて思ったけど、神室ってかっこいい女性だな。

 

「で、話ってなんなの?」

 

「綾小路に対しての尾行を頼みたいんだ。直ぐにバレるかもしれないから軽くでいいから。今回の試験思ったよりも忙しくなりそうだからさ」

 

「まぁいいけど。……はい、私の勝ち。明日の夜のご飯奢りよろしく」

 

 帰っちゃったよ。言うことは言ったし、別にいいか。……そういえば、奢りって言ってたけど、この船のご飯は全部無料なんだよなー。神室も知っていると思うんだけどな。まぁ明日は何かしら起こりそうだし、それも含めて夜ご飯の時に話すか。

 




進みも更新も遅いですが、エタらないように頑張ります!


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結託 決着はすぐそこに



雨狐さん誤字報告ありがとうございます!


 二回目の話し合い。最初にまた前回もやった交渉の宣伝をする以外は特に何もしなかった。その何もしない時間を使ったりして、他の人間の観察をしていたが、綾小路含め特に動きは見られず、全員少し動くのを躊躇しているような印象を受ける。

 

「とりあえず……こうして集まるのも2回目だし、そろそろ打ち解けあっていく必要があるんじゃないかな?集まれる回数は限られているわけだしね」

 

 そんな中で動いたのはやっぱり一之瀬だった。一之瀬というコミュニケーション能力が高い人間でも、周りを警戒して動くのを躊躇していたのに、他のグループなどはしっかりと機能しているのか?まぁ、一之瀬にも狙いがあって動いているんだとは思うが……。

 Aクラス以外の人間はその一之瀬の意見に賛成的な意見を出していた。いや、Cクラスの人間は敵対というよりも無関心といった態度か。

 

「下関くんも話し合いをした方が、交渉する人が来る可能性も高まると思うよ?」

 

「一理ある意見だけど、一之瀬自身が来れば済む話じゃないか?いつ龍園が仕掛けてくるかも分からないし、Dクラスもここにいる人間が知らされていないだけで、もう作戦を練っている可能性もあるんだぞ?そんな中で、仕掛けられる前にプラマイゼロで終わらせられる交渉は強いと思うがな」

 

 この内容を竜グループでやれば大きな効果があったんだが、いかんせんこの卯グループでやってもBクラスに対してしか交渉を促すことは出来ないか。流石に綾小路にも効果は無さそうか。

 

「確かにそうだね。でも、ニノ手として交渉以外為にも交流はしておくべきじゃないかな?」 

 

 うーん、意外に一之瀬は強情なんだな。あそこまで言えば引き下がるかと思ったんだけど。そこまでしてAクラスを引き入れることに意味があるのか?Bクラスの何かしらの作戦への布石ということかな……。

 

「だったら良いよ、俺も交流に参加しよう。その代わり一之瀬。君も俺との交渉の席に参加して欲しい」

 

 こうするしか一之瀬は引かないように感じる。それにもし、俺への問いかけをやめて、町田や森重などに変更すれば何かしら情報を取られるかもしれない。

 いや、俺がこの思考に結論付けることを一之瀬は読んでいたのか?俺が一之瀬を交渉の場に引き出したように見えて、俺が交流の場に出されたのか?ああ、駄目だな。これは考えても答えは出ないか。

 

「おい、下関。そんな勝手なこと」

 

「責任は俺が取るし、康平には俺から言っておく。一之瀬答えはどうなんだ?」

 

「それで大丈夫だよ。後で連絡するね」

 

 それから試験は特に進展が無く一時間が経過した。一之瀬と軽くアイコンタクトを取ると、俺は町田と森重と共に部屋を出た。

 

「本気で一之瀬と交渉するつもりか?相手はBクラスなんだぞ?」

 

「分かってるよ。でも、どうせ選り好みしてる暇は無いんだ」

 

 不満げな町田を置いて、坂柳派の森重とも分かれて自分の部屋に戻る。部屋の中には康平が既に帰って来ていたので、一之瀬との交渉のことを話した。

 

「そうか……妥当な人選と言えるな。CクラスもDクラスも不気味なものがあるからな」

 

 部屋の中で現在の葛城派と坂柳派の人間が誰かを整理していると、一之瀬からメッセージが届いた。そこからのやり取りで、今日が終わるか終わらないかの時間に集まることとなった。こんな意味の分からない時間になったのはお互いの時間が合わないことと、万が一他の人間に聞かれることを防ぐ為だ。

 

「深夜ギリギリ、場所はカラオケ。メンバーは俺と涼禅、一之瀬と神崎。相手も交渉を受ける気が少しでもあるということだな」

 

「お互いに擦り合わせた結果とは言え、ここまで秘匿性の高い交渉の場になったからね。まぁ、話し合いの場で言ったから他クラスにも交渉することは伝わってしまってるけど」

 

「それはそれで構わない。焦って結果を急いでもらえれば俺たちに得だからな」

 

 

★ ★ ★

 

 

 集合時間が近くなりカラオケに向かうと既に一之瀬達は着いており、一之瀬達がいるカラオケ部屋へと合流した。

 

「じゃあ、さっそく始める前に、携帯を机の上に置いてもらえるかな?」

 

 いきなり仕掛けてきたか。だが妥当か……お互いに裏切ればリスクは高いんだ。これくらいのことはするのは常識か。そして、特に戸惑う事無く、俺と康平が携帯を出そうとすると、四人の携帯に一斉にメールが届いた。

 

『申グループの試験が終了いたしました。申グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動して下さい』

 

 マジか。どういうことだ?一之瀬達か?いや、こちらの顔色を伺っている様な表情、違うのか。だとしたら何処だ?しかも何故こんな時間に。いや、とりあえずは交渉のことを考えるべきだ。これは想定外だけど、プラスになる可能性が高い。

 

「Aクラスじゃないよね?」

 

「あ、ああ。俺たちじゃない。お前達でも……無いようだな」

 

 やっとこさ、4人とも冷静さを取り戻すと、改め全員携帯を机の上に置いた。念のためということでポケットの中身も見せ、全員潔白を証明した。

 

「それじゃあ改めて始めるけど、Aクラスの交渉内容を聞かせてもらってもいいかな?」

 

「AクラスとBクラス。お互いの優待者を全員公開する。そして、お互いを指名し合い、プラマイをゼロにする。それに加えて、六人分の優待者情報から優待者の法則を導き出して、他クラスを指名する。この試験の本質はもう分かってるだろ?」

 

 この交渉の大きな問題点はお互いを信じれるか否かということだ。信じなければこの交渉は意味が無いし、結ばれることは無い。だからこそ、出来れば龍園では無く、ここで信じやすい一之瀬の方と結びたい。

 

「それはお互いを信用し合わないと意味が無い。そちらが嘘の情報を渡せばこちらだけが損失を被ることになる。リスクが非常に高い」

 

「神崎の言うことはもっともだ。だからこそ、情報はこちらから出そう。龍園やDクラスの独壇場にしたくないだろ?そして、一つ確認するが、申グループはBクラスの優待者だったのか?少なくともAクラスでは無い」

 

「うん。Bクラスでも無いよ。それにBクラスの子が送ったということでも無いよ。Aクラスの人は送っていないの?」

 

 一之瀬は暗に坂柳派の人間が勝手に送った可能性は無いのかということを示してきている。はっきり言って、それが無いとは断言出来ない。でも、坂柳派に何か動きがあれば神室から何かしらは送られてくるはずだ。もちろん、寝ている可能性も無くはないが……。

 

「その可能性は低いだろう。Aクラスに何の確証も考えも無しに、優待者を指名するような人物がいるとは思えない」

 

 お互いが少しでも有利な状態を保とうとしている。このままだと、有耶無耶になってしまう可能性もあるな。ここらで、しっかりとした答えを聞かなければならないか。

 

「そろそろしっかりとした答えを聞こうか。BクラスにはBクラスなりに考えている戦略もあると思うけど、俺たちと取引するかどうかを」

 

 一之瀬も神崎も特に顔色を変える訳では無く、お互いに軽いアイコンタクトを取っただけだった。

 

「Aクラスと取引するよ。私たちの目標はAクラスだから、今回ばかりの取引だけどね」

 

「それで構わない。マイナスにならないことがこの試験で大事なことだからな」

 

 お互いに携帯の画面に自身のクラスの優待者をメモったものを見せ合う。そこに何の会話も発生しない。メモを取ることも禁じているので、他クラスに言っても信じられる可能性は低い。そして、ここから俺たちは法則性を導き出す為に徹夜することになる。それが一番裏切られる可能性が低いからな。もちろん、全員での協議の上の決定だ。

 

「干支試験というぐらいだ。干支と関係あるのは間違いないだろう」

 

「うん。後は優待者に関連性を見つけることだね」

 

「さっそく始めるとしよう」

 

 カラオケの店員さんにA4の紙を4枚とボールペンを持って来てもらう。ここからはひたすら考えてる作業だ。

 

 考えてる時間に入ってから約一時間。優待者の共通点を見つけ出そうとしたものの全くと言っていいほど共通点は見当たらなかった。雑談もぽつぽつ増えながらも、何かしらの突破口を見つけ出そうと会話を増やす。そして、いよいよ───

 

「そうか!」

 

「!もしかして。分かったの神崎くん?」

 

 どうやら、神崎がやっと法則性を掴んでくれたようで、心の底から嬉しそうな表情をしていた。俺もやっと帰れると思うと、素直に神崎に感謝したい。

 

「ああ。これは干支の順番と苗字が関連しているんだ。子グループなら一番苗字が早い順といった具合にな」

 

 神崎の言う通り、その法則に当てはめていくと、ぴったりと今把握している六人の優待者に当てはまった。そして、もちろん全クラスに三人ずついることにもなった。これは……正解で間違えないかもしれない。神崎凄いな。

 

「やっとだな……一度睡眠を取ろう。長丁場だったからな」

 

 お互いを警戒していたものの、寝れると体が理解してからは全員あっという間に寝てしまった。ここまで来て、俺は何かを仕掛ける気も無いし、一之瀬達も無いだろう。

 

 

★ ★ ★

 

 

 朝。きっちりとした睡眠時間を取った俺たち4人はカラオケボックスを出る。眠っていた時間も合わせると随分長い時間ここにいたな。カラオケで夜を明かすなんて初めての経験だったから、新鮮な気分だ。

 

「では、デッキにお互いに対応したグループのメンバーをここに呼ぶことにしよう」

 

 時刻は三回目の話し合いが始まる一時間前。携帯で連絡する時も問題無く起きており、Bクラスも問題無さそうだった。もちろん、俺から連絡する人間は全員が葛城派の人間だ。

 

「じゃあ、みんな頼んだよ」

 

 一之瀬の号令により、この場に呼び出されたAクラス、Bクラス合計六人が学校に向かって優待者が誰かを指名するメールを送った。その後に六回鳴り響く全員の携帯。いや、船中の生徒全ての携帯が鳴っていることだろうな。

 

「これでこの試験でAクラス、Bクラスがマイナスになることは無い。そして残る5つのグループはお互い自由なタイミングで、構わないか?」

 

「うん。一つぐらいは結果1を目指したい」

 

「幸いにも康平と神崎。俺と一之瀬は同じグループだ。少しはその努力も出来るとは思う」

 

 そんな風に終わろうとした瞬間、また全員の携帯の通知が鳴った。嫌な予感がする。そして、メールはそんな予感が的中したもので、卯グループ、午グループの二つの終了を告げるメールだった。

 

「さっそくお前らがやったのか?」

 

「まだ分からないけど、この二つのグループの優待者はDクラス。少なくともDクラスでは無いことは確かだよ」

 

 だけど、目の前にいる一之瀬達の態度は申の時と変わりないから、Bクラスの可能性は低い。それに、タイミングは告発のタイミングは自由と決定している。このメールに何の問題も発生はしない。

 

「それはこちらの台詞だ。ポイントに貪欲すぎるんじゃないのか?」

 

「やめよ神崎くん。自由って決めていたし、結果が発表されればAクラスかどうかは分かることだから」

 

「一之瀬の言う通りだ。Aクラスでは無いとだけは言っておくけど、お互いに他クラスを指名するもしないも自由だ」

 

 後味の悪い終わり方をしたけど、ここで一之瀬達とは別れた。告発されたグループはどちらもDクラス。暴力事件の際に軽い協力をしていたBクラスがCクラスを告発せずに、Dクラスだけをするというのはあまり考えられない。だったら、信じたくは無いけど可能性が高いのはCクラスか。

 

「Bクラスは指名してくると思う?」

 

「してくるだろうな。だが、一之瀬のことだ、残った3つのグループすべてを指名してくることは無いと思われる」

 

 俺らAクラスからしてみれば今回の試験、マイナスが無いだけで目標を達成しているようなもの。他クラスが獲れても最大100ポイントか150ポイントのこの状況はそこまで問題が無かった。

 

「だが、一つぐらいは指名しておこう。それで構わないか涼禅?」

 

「うん。Bクラスにそこまでする義理は無いからね」

 

 そして、話し合いが始まる直前、AクラスとBクラスによって一つずつグループが指名されて、残るはリーダーが集められている竜グループの一つとなった。

 

「では、話し合いに行ってくる。荒れるだろうがな」

 

 これで試験に関しては終わった同然。後は神室から綾小路の動向を聞くぐらいで、次の特別試験は坂柳に譲って、リスクを減らすことになるかな。

 




次がいつになるか分かりませんが、もうすぐ干支試験編も終わりです!
他クラスの考えとかの補完とかはどうするか考え中


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利害一致 壊れた者ども

今回と幕間で干支試験編は終わりです。



minotaurosさん誤字報告ありがとうございます!


 現在時刻ではグループの話し合いが行われているはずだけど、AクラスとBクラスの取引、そしてCクラスの暗躍によりグループのほとんどは終了し、残るは辰グループのみとなっていた。そんな状況で、俺もすることが無いので聞きたいことがある橋本を呼んでいた。

 

「用って何だよ下関。そういえば、お前と葛城は上手くやったよな。結果がマイナスにならなきゃ、坂柳派がデカい顔がしにくいからな」

 

「そういうことだ。今は橋本の手は借りる必要は無い。だけど、聞きたいことがある。龍園に対してAクラスの優待者情報を渡したか?」

 

 橋本の目に動揺の色は無かった。今回の試験で一番疑問なのは龍園がどうやって優待者の法則を当ててみせたかだ。もちろん、結果だけしか無いので、龍園が適当な名前を送って試験を終わらせた可能性もあるが、あの龍園に限ってそんな真似をするとは思えない。

 

「いや、渡してないな。それを言うってことは龍園が何処かのグループを終わらせたってことか」

 

 橋本の言うことは正しい。というか、AクラスとBクラスの取引を知っている者ならば、今の橋本の考えぐらいは思いつくか。あんまり、取引の詳細が洩れるのもメリットは無いから、橋本に無駄に情報を渡すべきでは無いか。

 

「まあな。聞きたいことはそれだけだ。わざわざ呼んで申し訳ないな」

 

「いやいや、これくらい構わないが……俺の質問にも答えてくれるか?」

 

「質問によるな」

 

 橋本はニヤッと笑う。はっきり言えば、橋本のことは好きでは無いので、あまり答えたくは無い。だけど、坂柳に変なことを勘繰られると面倒なので、ああは言ったが、どんな質問にでも答えるつもりだ。

 

「2学期に入ったら、坂柳を堕とすのか?」

 

 中々に具体的な質問だな。あまり声を大にして言うのは避けてきたことだけど、坂柳は2学期に堕とすつもりだ。もちろん、いきなり堕とす気は無い。特別試験で坂柳派に主導権を渡し、少しずつ妨害を入れつつ、坂柳が大きく動くとなったらそれに合わせて堕とすつもりだ。

 

「ああ、そうするつもりだ。二年までには堕とす予定だ」

 

 橋本は少し俺の言葉に驚いているようだった。まさか、坂柳派である橋本に向かってこんなことを言うとは思わなかったんだろう。まぁ、橋本が坂柳本人に言おうが、こっちには神室がいる。坂柳が対策をしようとその対策をすれば良いだけだ。

 

「ふーん、良いこと聞いたぜ。じゃあな」

 

 この質問を橋本がした意図は分からない。坂柳の命令なのか、橋本個人の興味なのか。坂柳がこんなことをわざわざ聞くように思えないので、橋本の個人的な興味だろうとは思うな。

 

 

★ ★ ★

 

 

 康平が辰グループの話し合いから帰って来た。AクラスとBクラスが先に法則性を見つけたにも関わらず、この辰グループが残っていることを話し合わされたみたいだけど、最終的には結果1になるように契約書を書いたようだった。

 提案したのは龍園らしく最初は疑いの目が強かったものの、この試験での余裕がありすぎるAクラスとBクラス、逆に余裕が無さすぎるDクラスだったこともあって契約は思った以上に問題無く交わされたようだった。

 

「これで今回の試験は問題無しだな。だが、問題は2学期以降に本格的に乗り出して来る坂柳だな」

 

「うん。でも、少しだけ妨害ぐらいにして、康平の方がリーダーに相応しいと思わせるしかないんじゃないかな?」

 

 坂柳下ろしに康平を本格的に巻き込むつもりは無い。これは康平の掲げる守りの信条に反する可能性が高く、康平には向いていないからだ。それに、坂柳のやり方によっては退学者の犠牲を払わなくてはならない事態にならないとも限らない。だから、康平を巻き込む訳にはいかない。

 

「ああ。ポイントにそこまで影響しないぐらいなら大丈夫だ。迷惑は極力かけるなよ」

 

「分かってるよ。康平はみんな導いてくれれば良いから」

 

 本当、康平は優しいと思う。みんなの前では威厳があって、優しいところをあまり見せていないけれど、本当は敵対している人にも真摯に接して人は信用することが出来る出来た人間なんだ。だからこそ、俺は康平に自分を曝け出すことなんて出来ない。

 

 

★ ★ ★

 

 

 あれから一日。干支試験は最終日になったものの学生達の空気感としては消化試合感が強くなっていた。残るは辰グループだけであり、ほとんどの生徒には関係の無い話だからだ。

 そして、俺は昨日橋本が情報を渡していないという証言からずっと、龍園が何故優待者を当てれたのかを考えている。龍園が自力で自らのクラスの優待者からだけで導き出した可能性も低くは無いが、その可能性を追っていたらきりが無いので省いて考えている。

 その上で、俺が考えたのはDクラスが龍園に情報を売った可能性だ。Aクラス、Bクラス共に龍園に売るメリットは無く、坂柳派に動きが無いことは橋本の表情的に確実だ。そうすれば、残るはDクラスのみになってくる。

 

 Dクラスの中から絞るのは非常に難しかったが、何とか絞ってみた。まず、明人に軽く聞いてみたけど、明人は自分のクラスの優待者について知らなかった。このことから、Dクラスでも優待者を把握しているのは本人かクラスの主要人物だと仮定した。Dクラスの優待者は軽井沢、櫛田、南で、クラスの主要人物は辰グループを参考にして平田、櫛田、堀北だ。そして、警戒すべき綾小路も合わせると知っていそうなのは6人になった。

 ここから軽く知っている人となりから売らなそうな人物を切っていくと、軽井沢、南はそんな度胸があるとは思えず、綾小路は龍園が応じる可能性が薄いので無い。堀北に関しても康平から聞く限り、グループでの龍園との対立が激しかったそうだ。そうすると、残りは平田と櫛田に絞られる。ここからは賭けだ。

 

「こんな時間に人気者の平田を呼び出して悪いな」

 

「いや、大丈夫だよ。それで話って何かな?」

 

「単刀直入に聞く、龍園に優待者の情報を売ったのか?」

 

 平田は動揺、いや、俺が言ったことが信じられないと言った表情をしている。これは……ハズレだったか。櫛田よりも平田の方が良い人感が強かったので、逆にこっちにしてみたがダメだったか。

 

「僕はそんな事はしない。誓っても良い。……下関くんにはこの試験の全貌が分かっているんだね」

 

「ああ。葛城派にとって、この試験が正念場だからな。手間をかけさせたな」

 

 平田と別れて、事前に平田と同じく連絡していた櫛田との集合場所へと向かう。俺は何処か櫛田があの人に似ている気がしたから苦手なんだが、今からどうもこうも言っていられないか。

 

「待たせたか?」

 

「ううん、全然待ってないよ!それで私に用って何かな?」

 

「……お前。龍園と取引したな?」

 

 こういうのは相手に悟らさずにいきなり言う方が効果的だ。その方が相手に驚きを与えることが出来て顔にそれが出やすくなる。逆に言えば、そうしなければ作られた表情を読み取ることが難しくなる。まさか、あの人に昔教えてもらったこの技術をこの学校に入ってから使うことになるとは思わなかったな。

 櫛田は表情を上手くコントロールしているみたいだけど、目の動きが収められていない。平田が違うと分かった後ではあるが、表情を抑えようとしている所も櫛田の黒目を大きく上げている。

 

「何を言っているか分からないんだけど下関くん」

 

「何故龍園がDクラスの優待者がいるグループを当てれたか不思議だったんだ。その上で、Dクラスから情報を流した奴を絞っていくと、櫛田。お前になったんだ」

 

 櫛田は尚も表情を変えない。決定的な証拠が出ないことから、まだ有耶無耶にして乗り切れると思っているということだろうか。

 

「Cクラスに情報を売ったということだよね?敵である龍園にそんな事をするメリットが私には無いと思うんだけど……」

 

 そう。これが一番の疑問だ。平田にせよ、櫛田にせよ、動機が無いのだ。何の為にこんなことをするのかが全く理解出来ない。だが、無理やり動機を作るとすると龍園に恩を売りたかったか、Dクラスに対する嫌がらせか?

 

「そうだな。櫛田にそんな事をするメリットが今の俺には全く思いつかない。だが、櫛田である確率が一番高い」

 

「ふーん、もし私だったとしたらどうするの?Dクラスの人に言うのかな?」

 

 Dクラスの人間に言うことはしない。綾小路と接点を作るのはまだ早いと個人的には思っているからだ。もちろん、綾小路が俺に気づいて可能性も否定は出来ないが、それを気にしては仕方が無い。

 

「いや、言わない。そして、櫛田の動機を探るような真似はしない。その上で、櫛田に提案だけする。特別試験があるごとに俺に情報を売ってくれ、それに引き換えで、櫛田が望む結果をもたらす努力をしよう。いつでも良いし、信用も信頼もしなくて良い」

 

 櫛田は言葉を発しなかった。俺の言葉を警戒しているのだろうな。もしも、ここで俺が録音なんてしていたら、櫛田はDクラスの裏切り者扱いになってしまうからな。この警戒ぶりは仕方ない。

 

「何だったら、ここで出来る限り服を脱いでやっても良い。録音をしていない証拠としてな」

 

 俺はそう言って、今の櫛田から見えているポケットを全て見せる。こうでもしないと、櫛田からのリスク懸念は払拭されないだろう。

 

「……このことは誰にも言わないでおいておくね。じゃあ下関君、またね(・・・)

 

 櫛田のこれは了承と受け取っても構わないかな。これでもしもの時に綾小路に攻撃する場合、俺の方が有利に立てるからな。この試験も綾小路関連も進展出来たから、頬が緩むのも抑えることが出来ないな。

 

 

★ ★ ★

 

 いよいよ午後11時になり、結果発表の時間となった。無事に辰グループでは結果1で統一出来た見込みらしく、予定通りならどのクラスもギリギリ面子を保つことが出来たといった具合だろう。

 

「いよいよだな」

 

「うん。でも、そんな心配することもないでしょ?」

 

「まぁな。だが、警戒するに越した事は無い」

 

 そして、結果発表がされた。

 

 子──裏切り者の正解により結果3とする

 丑──裏切り者の正解により結果3とする

 寅──裏切り者の正解により結果3とする

 卯──裏切り者の正解により結果3とする

 辰──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする

 巳──裏切り者の正解により結果3とする

 午──裏切り者の正解により結果3とする

 未──裏切り者の正解により結果3とする

 申──裏切り者の正解により結果3とする

 酉──裏切り者の正解により結果3とする

 戌──裏切り者の正解により結果3とする

 亥──裏切り者の正解により結果3とする

 

 以上の結果から本試験におけるクラス及びプライベートポイントの増減は以下とする。

 

 Aクラス……プラス50ポイントcl プラス250万pr

 Bクラス……プラス50ポイントcl プラス250万pr

 Cクラス……マイナス50ポイントcl プラス150万pr

 Dクラス……マイナス50ポイントcl プラス100万pr

 

 まぁ予想通りの結果だな。ここから、前回の無人島試験の結果に合わせると、Aクラスは1145ポイント、Bクラスは803ポイント、Cクラスは442ポイント、Dクラスは212ポイント。まぁぼちぼちと言ったところだな。しっかりと携帯にメモをして、康平にも見せる。

 

「ふむ。充分だな。順番的に次の試験などでは坂柳にリーダーに渡すことになりそうだが、クラスが変わるほどの心配は無いだろう」

 

「まぁ、坂柳の手腕を楽しみにしようよ」

 

 その後は気分がいい風になった康平は直ぐに寝てしまった。俺は神室に対して綾小路への尾行の結果を聞かなければならないから、この後、船の下の階層で合流する予定だ。

 

 

「それで綾小路を尾行した結果、どうだったんだ?」

 

「本当に疲れたし、ストレスだった」

 

 神室の言うことももっともだろう。綾小路はあのホワイトルームの人間だ。気配に敏感だとしても、不思議は無い。それに気づかれないようにしようと気配を消すのは相当に大変なことだっただろうから、ストレスがかかるのも無理は無い。

 

「それは申し訳ないな。色んな負担を増やしてしまって」

 

「別に良い。暇することも無かったから」

 

 神室が少し顔を逸らす。その仕草はただ顔を逸らしただけなのに俺の記憶に残るようなものだった。そして、そんな神室の新しい仕草や表情を見るたび、自分は神室から離れたくないと強く実感してしまう。そんな今の自分は昔よりも心に余裕が出来たが、神室への依存度が増してしまっているように思えてしまう。それは良いことと悪いことかは分からないけれど、もうこの関係は途切れないし、途切れることを許すことが出来ない。

 

「……綾小路を尾行して何か分かった?」

 

「あいつは軽井沢って奴を手駒にしたみたい。これまでそんな素振りが一切無かったから間違い無い」

 

 神室から今回の船の中での綾小路の行動を事細かに聞いた。どうやら、船の機関部辺りでCクラスの女子を交えて何かが起こったらしく、そこから綾小路と軽井沢の距離感が変わったらしい。

 

「中まで入って無いから分かんないけど、多分いじめか何かから綾小路が軽井沢を助けたんじゃない?女子のいじめってあういう陰湿な場所で起こりやすいから」

 

 神室の説は正しいんだろう。他にDクラスの軽井沢とCクラスの女子がそんな場所で会う理由が思い当たら無いから。この結果から、着々と綾小路が動いていることが分かる。そろそろ仕掛けてくるか?

 

「ありがとう、色々助かったよ。これからも神室には側にいて欲しい」

 

「何それ、恋人みたい」

 

「ご、ごめん。でも、本心だから」

 

 神室と俺の関係はいつか綾小路にもバレるかもしれない。そして、神室を人質に取られるかもしれない。俺だったら軽井沢に対してそうする可能性もあるから。そんな時、俺だったらどうするんだろう。綾小路ならどうするんだろう。綾小路とは違う答えを出したいな。

 




 ポイント計算とか結果に間違いがあったらすみません。
 原作と結果がかけ離れましたが、これからも度々起こると思いますのでご了承下さい。

4.5巻も数話書く予定です。


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幕間 一之瀬帆波の証言

接点は少ないですが、書きました。


 

 えっと、下関くんについての印象?うーん、難しいなぁー。クラスも違ってるからねー。あ、生徒会とか特別試験の印象だったら言えるよ?

 

 分かった。まず下関は落ち着いているよね。葛城君の右腕で活躍してる所も多くみて、やられたという場面も多いから、敵に回すことは出来ればしたくないよ。でも、下関君はAクラスだから絶対に敵対しなきゃいけないんだよねーにゃはは、難しいなぁー。

 

 下関君の交友関係?よく知らないなぁ。葛城君と近くにいる人達といつも居るイメージがあるけど、神室さんと一緒にいるところも見たことあるよ。実は仲良いんだろうねあの二人。

 

 下関君と干支試験の時に取引したのは下関君が信用出来るなーと思ったのもあるけど、龍園君が危険な気がするって神崎君に警告されて、何かされる前に手を打ったって感じかな?Aクラスと手を組むのは躊躇したけど、こうした方が後々の為になるかなーとも思ったよ?

 

 そういえば、こう言ったら傲慢かもしれなけど、下関君って昔の私に似ている気がするんだ。具体的には何処が似ているって言えないけれど、雰囲気とか心の傷とかの物が……。違ったら下関君に迷惑だから、絶対誰かに言う事は無いけれど、会うたびにそう思っちゃうんだ。

 

 生徒会でも二人だけしか一年は居ないから仲良くしたいんだよねー。でも、下関君は絶妙にみんなと距離を取っているだよね。Dクラス、Cクラス、Bクラス、Aクラス、全員とも良い距離感っていうのかな?付かず離れずな感じがしてる気がするんだ。

 

 これからの下関君とも付き合い方?変える必要は無いなーとは思っているよ?もちろん、敵であることは分かっているけれど、なんて言うのかな……下関君は坂柳さんや龍園君と比べても真摯に向き合ってくれそうな気がするんだ。二人が悪い訳じゃないよ、坂柳さんや龍園君はプライベートでも容赦なく試験での関係に組み込んできそう感じがして油断ならないから。

 

 綾小路君と下関君?どっちが凄い?難しいー質問だね。綾小路君は何処か得体の知れない強さや隠している実力がある隠れた天才って感じがするんだけど、下関君は一目見て天才!って感じがするよね。ううん、どっちかというと、秀才っていう表現の方が合っているのかな?

 そういえば、下関って名前、どっかで聞いたことあるんだよね。何処だったか忘れちゃったけれど、多分ニュースか新聞とかで見た気がするんだよね。下関って苗字はあまり聞いたことが無いけど関係があるのかな?

 

 

 

 




若干の干支試験の補完と下関の過去の匂わせです


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第4.5巻
運勢 本音はいつだって出なくて


遅くなって申し訳ないです。

この4.5巻で物語が大きく進みます


 

 波乱ばかりで、俺の記憶にも大きく残ったバカンス旅行が終わり、俺は部屋の中でダラダラしていた。それに加えて、帰って来てから、葛城派のみんなで打ち上げをしたのと弓道部の大会の打ち上げを一年メンバーだけでしたの以外は外に出ていなかった。

 まぁ、特に外に出なかった理由は無いんだが、あの何日間で頭を使い過ぎたのと、弓道部の大会が原因だとは思う。あと何日かは休むつもりでいる。

 

 そんな中、部屋のチャイムが鳴らされる。続けて何回も。……今日の誘いを断ったから、戸塚か?うーん、出たく無いが仕方ないな。

 

「ごめん、康平から聞いてなかったか?」

 

 戸塚だと思って、パジャマから軽い部屋着へ着替えた格好で玄関を開けたんだけど、そこにいつもよりも不機嫌さが鳴りを潜めて、私服で立っていたのは神室だった。え、どうして?この格好はダメだ。

 

「あんた。部屋着、流石にダサ過ぎない?」

 

「ちょっと待っておいてくれ」

 

 一度会ってしまったが、この格好のまま話したりするのは集中出来ない。とっとと、他の人とのお出かけようで、オシャレな部類のやつを着る。後は適当に髪の毛を整えたり、色々してから神室の元へ。

 

「待ったか?何か用があるんだろ?とりあえず、入ってくれ」

 

「……え?何……この部屋」

 

「何驚いてるんだ?その辺に座ってくれよ。人を招くことは想定してない部屋だけどさ」

 

「ボードゲームとかのおもちゃ多すぎでしょ。後、キッチン用品も多すぎ。それに何これ?」

 

 ああ、そういえば、部屋に人を入れたことが無いから忘れていたけど、確かにこの量は少し多いかもしれない。でも、部屋の一角だけだし、生活には困らないから大丈夫だと思うんだけどな。

 

「それはあれだよ。言いにくいけど……復讐計画書。厨二臭いけど、出来は良いんだ」

 

 あの時、あまりの復讐心に駆られた俺が書いたやつだけど、今見ても現実的な案で綾小路に近づく方法が書いてある。これ通り行動する人生だったけれど、ここに綾小路が居てよかった。もう少しだけ、近道が出来るかもしれない。

 

「ふーん、確かに。細々してるけど、具体性は抜群みたい」

 

「神室を加えた計画表は夏休み中に書くからさ、その時もまた見て」

 

 そんな風に軽く未来のことを話していたんだけど……計画書をじっと見ていたり、部屋を物色している神室は俺に用があったんじゃないのか?

 

「それよりも、何の用で来たんだ?」

 

「うん……結構当たる占い師が来てるらしいんだけど、一緒に行かない?」

 

「俺と神室がか?こんな風に誘うなんて珍しくないか?」

 

 神室の表情はいつもと変わらないように見えたけれど、俺に申し訳ないというか、素直に頼みずらいのか、声がたどたどしい感じで声もより小さかった。

 

「復讐の行方とか気にならない?やる気を上げる意味でもやってみても良いと思うんだけど。あと、これは私の意思だから」

 

 神室の意思は堅いようで、俺が一緒に行くと言わないと嫌だと言うのは見え隠れする不機嫌さと機嫌からそう思われるんだけど、どうしようか。確かに、今までは余裕がなさすぎて、占いなんてする気は無かったんだが、縁を担ぐという意味でも、単純に気になるって意味でもやってみるのも悪くないかもしれない。

 

「そうだな。一緒に行くか。いつ行くんだ?」

 

「今から。先に部屋の前にいるから」

 

 早いな。あんまり俺と神室が一緒にいるところを一緒に見られたくないんだが、今更か。だけど、何かしらの口実は考えなければならないな。

 

 初めて部屋の中まで招いたのが、神室だと気づいた俺は気恥ずかしさを抱えつつ、それを悟らせないように神室の前に姿を見せるのだった。

 

 

★ ★ ★

 

 

「へぇ、葛城のためにわざわざそんな危ないことしたんだ」

 

「まぁ、康平の妹さんとは一応俺も面識があるから、これくらいのことはするよ」

 

「でも、バレたら一発退学なのにほんと、よくやる」

 

 神室とやりとりしてる会話はこの間、康平から秘密裏に受けた依頼の話だ。あんまり洩らしちゃいけないことなんだけど、神室は信用も信頼も出来る。これくらいのことぐらい大丈夫だろう。

 

「ああ。そういうことか」

 

 今日、ケヤキモールにカップルが多くいたのと、何で神室が俺を誘ったのかが疑問に思ったけど、占いに行くためには二人一組である必要があるらしい。坂柳は占いに向いてなさそうだし、神室が俺を誘うのも納得だな。

 

「そういうこと。色々コースがあるけど、どうする?」

 

 色恋、仕事、学業、天誅殺とかいうよく分からないものまで色々取り揃えているようだった。はっきり言えば、なんでも良いんだが、色恋は二人一組ということで、神室との恋愛の相性を占うんだろうな。それは……むず痒い思いだな。

 

「なんでも良いが、俺のあれは何に含まれるんだ?」

 

「仕事?とかなんじゃない?……仕事と結婚するかどうかでも変わると思うから、色恋も占う?」

 

 え?俺との相性にならないかそれ?いや、でも違うのか?俺は占いなんてやったことないから分からないが、神室の言っているやり方でも出来るのか?

 

「それで良いんじゃないか?ポイントなら、たくさんあるから大丈夫だろ」

 

 少し多かった列が段々と減っていき、いよいよ俺たちの番になった。柄にも無く、緊張する。もし、俺のことが分かったら。もし、俺の闇を見られたら……どうしよう。そんな俺の手を少しだけ、ゆっくりと神室が触ってくれた。

 

「緊張すること無いから。一応、これ占いだから」 

 

 入ると、如何にも雰囲気の場所で俺は緊張感はさっきよりも少し上がってきた。でも、大丈夫だ。俺は結果を楽しみにするだけで良い。

 

「ようこそ。どのプランにする?色々あるけれど」

 

 基本プランがあったけれど、俺たちは基本プランにプラスして、仕事と恋愛を重点的に占うことにした。占い方法は様々で、手相やらなんやらから始まり、タロットや名前、誕生日も含んで占ってくれた。

 

「分かりました。まず神室真澄さん。貴方からいきましょうか」

 

「まず、仕事ですが、大変な苦労をすることはありませんが、過酷な現場になるでしょう。挫けずに続ければ、大きな利益を得ることになると思いますよ。恋愛、結婚ですが、残念ですが、貴方のチャンスは一度きりです。そして、その相手はお互いの時期的に隣の彼氏さんの可能性が高いですね。逃さぬよう」

 

 気まずい。俺と神室は所謂、相棒という立ち位置でお互いの認識の中にある。それをいきなり、運命の人だと言われると何か戸惑うし、俺としても気恥ずかしい。神室も手をグーパーしたりして、戸惑っているようだったけど、変わらず顔は真顔に近かった。

 

「最後まで付き合うとは言ったから、そうなるかも」

 

 俺なんかで良いのか神室?精神的に安定してなくて、復讐に自分の人生全てを使おうとしている阿呆だぞ?そんな俺と……いや、俺だってもう神室が居ないと復讐なんて完遂出来る気がしないんだ。占いでも言われたんだ、神室には最後まで付き合ってもらうさ。

 

「では、下関涼禅さん。貴方の運勢ですが」

 

「貴方の仕事は重大な選択ばかりの仕事のようですね。一度でも選択を間違えると、その道で大成することは無く、終わってしまうでしょう。充分気をつけて下さい。恋愛ですが、お二人の相性はすこぶる良いです。ですが、困難が多いようなので、対策などはして損は無いでしょう」

 

 ざっくりとした結果だが、多分当たっているだろうな。復讐も含めて、俺の将来は危険と隣合わせなことには変わらないだろうから。それよりも、神室と目も合わせられないことの方が問題だ。ここから出たらどう会話しようものか……。

 

「占いはこれで終了です。お二人ともでは」

 

 占いが終わり、退出を促された。そのまま、流れるままに外に出てしまったけれど、神室とは無言のままだ。俺から何かを言えばいいのか?恋愛なんてもう何年も経験してなくて、神室がどう思っているかなんて分からないから、どうしようも無い。

 

「下関」

 

「……何だ?」

 

 神室は決してこっちを見なかったけれど、声をかけてくれた。その声はいつもよりも、震えているようで、また、上擦っているようにも聞こえた。

 

「私たち、相性ばっちりなんだってね」

 

「そう、みたいだな」

 

 いつもは特に気にしないのに神室の言葉に対しての返答にどう思われるか気になって、ただ今は頷くことしか出来ない。

 

「付き合わない?私とあんたで。葛城や坂柳には情報を得るためって言って」

 

 神室の表情はいつにも増して、真面目で、可憐で、綺麗だった。軽く言ったその言葉に、俺は周りの環境も自身の人間関係も関係なく、一言だけその言葉を口にする。

 

「そう……するか」

 

 我ながら最低な返答だと思う。でも、そんな返事でも満足したのか、あまり笑わうことが無い神室の表情は少し笑顔になる。

 

「好きなんて簡単に言わないのが下関らしい。じゃあ、そういう設定で葛城には報告しといて、私は坂柳に言ってくるから……また明日」

 

 言うことだけ言って、神室はどっかに行ってしまった。俺たちは今、付き合っているだろう。多分。でも、それが設定の為のお付き合いなのか、恋愛としてのお付き合いなのかははっきりしない。だが……少なくとも俺はこの占いの時間で神室への恋心というものを自覚した。いつかははっきりさせないとな。

 

 

 ★ ★ ★

 

 

「そうですか。下関くんとお付き合いですか……神室さんも隅に置けませんね」

 

「あんたがもっと下関のこと知りたいって言ったから、してきたんだけど?」

 

 無駄な物が無く、どちらかと言えば、物が少ない部類に入る坂柳の部屋。そこで、神室は下関と付き合ったことを報告していた。淡々と告げつつも、洞察力がずば抜けている坂柳に余計な情報を渡さぬように顔を少しずらして話していた。

 

「フフフ、では、そろそろ頃合いですね」

 

「……何が?」

 

「神室さんに下関くんの過去を教える頃合いですよ。聞きたいですよね?」

 

 神室は迷う。この一歩を踏み出して良いものか。下関本人から聞いた方が良いのでは無いか。下関の精神をより自分が上手くサポート出来る様に聞いておいた方が良いのでは無いか。そんな多くの感情に支配されつつも神室は答えを出す。

 

「まだ短いけど、下関とは関わったから、聞きたく無いっていうことは無い」

 

「フフフ、ではお話しましょう。下関涼禅の過去を。もちろん、私が知っている限りですけど」

 

 直接、下関に聞かなかったことを心の中で下関に謝りつつも神室は坂柳の話へと耳を傾けた。

 




そんなに4.5巻編は長くならないです。、


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物語 下関が紡ぎ、坂柳が語り、神室が決断す

下関の過去を語ります


 

「さて、神室さん。ここから話すことは曖昧でほんの冗談も混ざっていますけど、気にしないで下さいね」

 

 本当にこれから言うことが冗談なのかどうかなんて、分からない。でも、あいつの過去を知っているだろう坂柳の言うことだから、聞いてみる価値はあると思う。

 

「別に良い。だから、早く話して」

 

「では、話しましょうか。下関涼禅という男の話を」

 

 そんな始まりから始まった坂柳の話はまるで御伽噺を読み聞かせるような口調だった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 下関涼禅は父親、祖父ともに政治家の政治家一家の3代目です。おじいさんは大きな権力を持ち、表立って逆らう人なんて、そうそういません。お父さんは政治家には向いていないほど、民衆受けが良くて、正義一直線だったらしいです。そんな生まれですが、下関くんは父親、母親、養子の妹という家族構成で幸せに暮らしていました。

 

 子供の頃から、ジャンル関わらずに様々なことに挑戦し、1番にはなれずとも、優秀な成績ばかり取っていました。まぁ所謂、秀才ですね。政治家の子どもや、有名人の子どもが通う学校の出身だったようで、その中でも血筋や、秀才ぶりなんかで人気者だったようですよ。

 

「なんか、具体的過ぎない」

 

「私もそちらにはお友達が多かったので、お噂はかねがね」

 

 では、話を戻しますね。そんな秀才の下関君ですが、12歳の時に父親がある県の知事に就任します。しかし、その県には非人道的な方法で人を育てる施設がありました。信じられませんよね?ええ、冗談です。

 そんな施設があったとしたら、真っ直ぐで正義一直線のお父さんはすぐにアクションをおこしますよね?その予想通り、お父さんはおじいさんの反対を押し切り、施設について調べ上げました。そして、まずは責任者に対して抗議を極秘裏に行い、それと平行して公表の準備もしました。

 

 だけど、相手が不味かったですね。相手は表でも裏でも大物の人間でした。そのせいで、抗議をするごとに、少しずつ少しずつ報復が訪れました。だけど、お父さんはあきらめません。何度だって、何度だって訴えました。しかし、握りつぶされ返しが多くなってきました。ですが、その頃にはお父さんの公表の準備が整いました。

 

「なんだか、きな臭い話」

 

「フフフ、ええ。何処まで本当かは分かりませんが」

 

 物語は佳境に入ります。何処から漏れたか、お父さんの公表が整ったことを知った施設側の責任者は強硬手段に出ます。その夜、お父さんの家は燃えました。黒く黒い煙を出し、辺りを真っ赤に照らしながらその家は燃えました。

 中で何があったかは、ろくに捜査もされなかったので、本人にしか分かりません。ですが、生き残ったのは下関涼禅とその妹の下関涼葉だけでした。その生き残った二人も兄は大怪我を負い、妹は意識不明で2年近く眠っていたようです。これで、施設の行末は守られました。二人の人間の死亡によって。

 

「……」

 

「話していて、やはり気分の良いものではありませんね。ですが、まだ話は続きます」

 

 命からがら生き残った彼は一ヶ月のほどの入院を経て、学校に復帰したのですが、そこで待っていたのはいじめにも似たようなことでした。施設の責任者が芽を摘んでおくことに生徒達の親に根回ししたのでしょう。幸いにも、両親が政界などに関わっている人間が多い学校だったので、簡単に成功しました。

 

 その時の彼はどう思い、どう感じていたのかは分かりません。ですが、彼はその一年をなんとか乗り切り、お爺さんの力で住む場所を変え、遠い中学校に通うことになりました。そこで葛城くんと出会ったようですね。そこからは私の預かり知るところではありません。あんな経験をした彼が葛城くんに影響を受けるとは思えませんが……。

 

「これでお話しは終わりです。最後に私情が入りましたね。それで……どうでした?」

 

「常人の人生じゃないでしょ」

 

「ええ。だからこそ、下関くんが彼にどんな影響を与えるのか、私は楽しみなんですよ。それ以外に下関くんに何も求めませんよ」

 

 坂柳の言葉と意味。それは下関涼禅にとって、残酷なものだった。まるで、自分の存在が綾小路を引き立てる人間でしかないと言われているようで。もちろん、この会話は坂柳と神室しか聞いていない。しかし、下関が感じるだろうこととほとんど変わらぬ思いを神室は今、感じた。

 

「……あんたにとっては下関は敵じゃないってことね」

 

「彼はたかだか秀才。他の人よりは優れていても、私は自分で言うのも何ですが天才です。負ける道理はありません」

 

「分かった。私はもう行くから」

 

 神室は坂柳の部屋を後にする。後ろを振り向くことなく、坂柳と目を合わせることも無く。そんなことをすれば、坂柳に飲み込まれてしまいそうな気がしてしまって。

 

「盤上の駒に戻りますか。残念ですよ神室さん」

 

 

★ ★ ★

 

 

 神室と占いに行った日の夜。何となく落ち着かない気分だったので、白湯を飲みながら、何をするでも無くゆっくりしていた。そんな折り、朝のようにまたチャイムが鳴る。朝も戸塚か?思って当たらなかったので、もう予想はすること無く、ドアを開ける。

 

「ちょっとだけ、話したいことがあるんだけど」

 

 ドアを開けて居たのは神室だった。つい数時間前に会ったのに何か用があるんだろうか。さっき会った時よりも服が乱れ、様子も変。まぁ、何にせよいつまでも外に神室を置いておくわけにもいかないな。

 

「何か飲むか?」

 

「いや、いい」

 

 何処か落ち着かない様子の神室。本当に何があったんだ?坂柳に会うとか言っていたから、俺と付き合うという報告に何か言われたのか?

 

「……坂柳からあんたの過去を聞いた」

 

「え……そう、か。どう、思ったんだ?」

 

「なんで今のあんたなのか、良く分かった。でも、まだよく分からないことも多いから、これからは下関のこともちゃんと聞かせて。私もなんでも話す」

 

「神室の罪や知られたく無いことでもか?」

 

「そんなもの、いくつでもあげる」

 

 ああ。神室の覚悟は目から分かった。そう、いつだって、つまんなそうな顔をしてた神室の目がだ。だからこそ、お互いに覚悟を持って向き合う勇気を持とう。これまで、持ったことの無かった勇気を。

 

 

★ ★ ★

 

 

 それから、神室の過去を聞いた。神室は中学校ぐらいから万引きを繰り返していたらしい。家が貧しいとかいう訳で無く、むしろお金持ちの部類だったみたいだ。本人曰く、刺激が欲しかったからとか、非日常を味わいたいみたいに曖昧な理由だったらしい。そんな感じでこの学校でも1度した所を坂柳に見つかって、坂柳に従うことになったという経緯らしい。

 

「どう、あんたに比べれば何も無い人生でしょ?でも、こんなのしか私からはあげれない」

 

「中身なんてさほど関係ない。俺にそれを話してくれたという事実が重要なんだ。俺は結局神室に話すことは出来なかったけれど、もう神室になら俺は言える。変な話だけど、信じて欲しい」

 

 復讐という目的を抜きにしても神室ほどに信じられる人間には出逢えないだろう。根回しや親の意向だからって、友達を辞めるような連中とは全然違う。神室のどの行動が俺の思考に響いたかは具体的に言うことは出来ない。でも、確かに信じたいと思ったんだ。

 

「大丈夫。私と下関は相棒で恋人で依存関係。信じないわけ無い」

 

「思えば、そんないっぱい神室と関係を結んでたんだな。全部誰にも言えないけどな」

 

「……恋人は坂柳に言っちゃったし、他の人にも言っていいんじゃない?」

 

「まぁ、そうだな。恋人だもんな」

 

 これから先、俺たちが恋人らしいことをするなんて分からないし、本当に世間一般で見るような恋人と同じなのかは分からない。でも、俺たちが前よりもしっかりと繋がったのは事実だし、全てにおいて、信じられる人間が出来たことはお互いの人生において大きな出来事だと胸は張って言いたい。

 




これで大まかな下関の過去の流れは語りました。神室との関係も一旦はやっと落ち着いたので、5巻からは特別試験メインのストーリーになると思います。


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第5巻
譲渡 時として静観


 第五巻開幕です


 

 長いようで短かった夏休みが終わってから二学期になった。個人的には人生で一二を争うほど濃かったけれど、良い意味で濃かったのは今年ぐらいだと思う。神室との恋人の件は康平にしか言っているけれど、康平だろうから、そんなに大っぴらに言わないだろうな。言ってもいいのに。

 そんな思いがあった夏休みだったけれど、新学期は始まってから早々、真嶋先生から色々発表があった。まず、一ヶ月後に体育祭があるらしく、それまでの一ヶ月間は体育の授業が増えるらしい。はっきり言えば、Aクラスは体育などの運動に関すれば、他クラスとはそこまで差がない。しっかりと適切な人材を配置しなければならないとはと思う。しかも、ポイントも特別試験ぐらいに無いにしろ、もらえるらしい。

 

「今回の体育祭は全学年を2つの組に分けることになっている。Aクラスは赤組に配属される。Dクラスも同様に赤組に配属される。今回の体育祭ではDクラスは味方だということになる」

 

 Dクラスが味方か、何か感慨深いな。だけど、今回の試験では坂柳に主導権を渡そうと、康平とは事前に打ち合わせしている。だから、綾小路と関わることは無いかな。

 

 真嶋先生の説明と渡されたプリントを要約すれば、体育祭には全員参加競技と推薦参加競技があり、全員参加競技は一位に15点、二位に12点、三位に10点、四位に8点が与えられて、五位以下は一点ずつ下がっていく。団体戦は勝利すれば500点がもらえる。

 

 推薦参加競技は一位に50点、二位に30点、三位に15点、四位に10点が与えられて、五位以下は2点ずつ下がっていく。最終戦のリレーは3倍の点数がもらえる。

 まぁ、要約して色々と点数を考えてみたが、そこまで事細かに考えて配置する人はいないとは思う。最終的には本人の馬力だろうし。

 

 それに加えて、総合点で負けた組のクラスはクラスポイントが100も引かれ、総合点で一位になったクラスはクラスポイント50もらえて、二位になったクラスは変動無し。三位はクラスポイントが50引かれ、四位は100引かれる。中々に変動の多い仕組みになっているみたいだ。ここで差を縮められる可能性も無くはない。どうせ、坂柳が主導になる予定なんだ。どれだけ縮められても極論問題無い。

 個人競技での順位でプライベートポイントの増減や次のテストの点数がもらえるなどあるみたいだが、それもそこまで気にすることは無いだろう。最優秀賞なんかもあるが、これもAクラスには関係なさそうだ。

 

「ペナルティも存在している。学年の下位10名に課されることになっているが、現段階ではまだペナルティは発表出来ない。くれぐれも気をつけるように」

 

 そう言い残して真嶋先生は口を閉じた。この間に説明した次の時間の全学年での顔合わせの打ち合わせをしろってことなんだろうな。ペナルティについてはまぁ考えなくて良いだろう。クラスで出たとしても一人や二人、なんとかなる。さて、この時間に合わせて、康平にアイコンタクトを送る。それを受け取った康平は坂柳へと近づいていく。

 

「坂柳。今回の体育祭について改めて言いたいことがある」

 

「ええ。どうぞ」

 

「今回は坂柳に指揮をとってもらいたい。俺は無人島と船内で指揮をとっていたからな」

 

「分かりました。謹んでお受けします」

 

 全くもって謹んでいないような表情だけど、素直に了承していた。多分だけど、今回のような周りの状況だったら、坂柳は成功に導かざるを得ないだろうから、そこまで警戒する必要は無いと思う。Dクラスと協力するかどうかは分からないけれど。

 

 

★ ★ ★

 

 

 一時間目の時間は直ぐに終わり体育館に集まる二時間目になった。あんなに普段はガミガミしているこの組だけど、仲良く整列をしたら、そんなこともなくなり普通のクラスと変わらない静かな列となっていたのは少し面白い。

 

「やっぱり多いな。流石に生徒会の人は分かるけれど、二年や三年は知らない人が多いし」

 

「そうだな。率いる人間はよく見ていておいた方が良いかもしれないな」

 

 体育館には総勢400名を超える人たちが揃っていて、こんなにも多くの生徒が揃うなんて入学式以来だと思う。そんな人ばかりがいるこの場所でも堀北会長や南雲副会長、橘書記なんかは直ぐに見つける出来た。やっぱり大物の人たちはオーラというか存在感が違うよね。そんな中見たことない生徒、多分上級生が前へ出て声を上げた。

 

「俺は3年Aクラスの藤巻だ。今回赤組の総指揮を執ることになった。一年生には先にひとつだけアドバイスをしておく。一部の連中は余計なことだというかも知れないが、体育祭は非常に重要なものだということを肝に銘じておけ。体育祭での経験は必ず別の機会でも活かされる。これからの試験の中には一見遊びのようなものも多数あるだろう。だがそのどれもが学校での生き残りを懸けた重要な戦いになる」

 

 三年の先輩から経験を踏まえたアドバイスを貰った。先輩がどんな環境で過ごしてきたか分からないので、真正面からは受け取らないけれど、心の何処かに止めておこうと思う。そして、リレー以外は全学年が一緒になることはないらしいので、各学年の作戦会議に残りの時間が渡された。といっても、俺と康平を含む葛城派は坂柳派の言うことを淡々と聞くだけだけど。

 椅子に座っている坂柳の周りに集まっていた俺たちAクラスの所へ平田を始めとしたDクラスの面々が勢揃いで揃ってきた。

 

「今回、Aクラスを率いるのは私、坂柳有栖です。よろしくお願いしますねDクラスのみなさん」

 

 坂柳と会うのが初めてなのが多いDクラスの人たちの為に坂柳は丁寧にしかも、しっかりとした笑顔で自己紹介をした。こんな自己紹介をする美少女に分類される彼女があんなネチネチとした妨害工作を指示してるなんて思わないだろうな。

 

「うん、よろしくね坂柳さん。協力して頑張っていこうね」

 

「ええ、そのつもりです」

 

 そうしてやっと話が具体的なことに入ろうとした時、近くで集まっていたBクラスとCクラスの面々から体育館に響く声が聞こえた。そっちの方を見ると、声を上げたのは一之瀬だったみたいで、その相手は龍園だった。

 

「こっちは善意で去ろうとしているだぜ?俺が協力を申し出たところでお前らが信じるとは思えない。結局端から腹のさぐりあいになるだけだろ?だったら時間の無駄だ」

 

「なるほどー。私たちのことを考えて手間を省こうとしてくれてるんだねー。なるほどー」

 

「そういうことだ。感謝するんだな」

 

 龍園はとっとと去って行き、それに着いて行くようにCクラスの奴らも去って行った。最初からCクラスは協力する気はないってことか。覚えておくことだとは思うが、どうせ、龍園のことだ、真面目に体育祭はしないだろう。誰かしらに接触して、何かしらの手を打ってくるはず。

 ここにいる全員が一度はそちらを見たが、ことの顛末を見届けると、興味を失ったように自分が先程まで見ていた視点に戻した。

 

「みなさん。見ての通り私は足が不自由ですので、競技に参加することは出来ません。Aクラス、Dクラスともにご迷惑をおかけします。そのことについて、まずは謝らせて下さい」

 

「ううん、いいんだよ。誰だってその点について追求するつもりは無いから」

 

「ですが、Aクラスの参加する人たちは私が決定いたします。何か競技についての相談があるのならば、私に申して下さい」

 

 坂柳がどう考えているかは分からないが、この体育祭では仕方なくリーダーを引き受けたと考えていいだろうな。体育祭では坂柳の得意な裏から色々とするよりは結局所、運動神経が全てだ。適当な結果を出しつつ、次回の特別試験での結果を待つんだろうな。まぁ、坂柳だけへ情報を流されるのも俺には神室が着いている。一応の為の情報をくれるだろう。

 

「それで、話しておきたいことがあるんですけど、いいですか?」

 

「何かな、坂柳さん?」

 

「クラスメイトをどの競技に参加するのか決めると思います。その過程で私と平田くんの二人で擦り合わせをしたいのですが。どうです?その時に団体競技に関することも決めましょうか。信用出来ない人物がいる中では話せないので」

 

 坂柳は俺と康平のことをチラリと見ながらその発言をした。うーん、神室まで入れないで一対一で話すなんて坂柳のことも意外なことをするもんだな。これが、平田以外のDクラスの人間に聞かれたくないからなのか……神室のことを信用してないかどちかだろうな。後者の場合だったら、俺との関係がバレていることにも繋がるか……、

 

「うん、分かったよ、みんなもそれで構わないかな?」

 

 平田が確認すると、Dクラスの面々は特に迷いなく頷いていた。まぁ、坂柳と一対一なら、平田から力づくで聞くことは出来ないだろうしな。そこまでDクラスの人たちが考えているかは知らないが。

 

「ありがとうございます。それではその日程はまた後日にお知らせします」

 

 

★ ★ ★

 

 

「それで何か坂柳は言ってた?」

 

「さぁ、特に。でも、今回は様子見とは言ってた」

 

 夜、最近部屋に招いて交流している神室に対して、坂柳の情報を聞く。その為に招いた訳では無いにせよ、坂柳の側にいるから、情報はしっかりと聞いておかないとな。

 

「それで今日はカツ丼で良かった?そんな凝ってないけど」

 

「問題無いよ。体育祭の出来事が発表されたってことだし、縁起ものってことでね。それに……おいしいよ」

 

「ありがとう。だけど、下関は高いものばかり食べてきたんでしょ?」

 

「あーまぁ、一応そうなんだけどな。なんか、それよりも美味しいんだよ」

 

 あの日から俺と神室は周りの人間に変に疑われないように、恋人らしい行動を取っている。今回のやつもそれの一環ということを互いにチラッとは言った。何となく、正式な恋人とは互いに言えない空気感だから未だに言えていないからだけど。

 

「……今回の試験、あんた的にはどうなって欲しいの?」

 

「うん?今回、何もしないよ、多分。坂柳が勝とうが、そんな大きい勝利にはならないだろうし、DクラスとAクラスが会った時に一目、綾小路を見たけれど、興味なさそうだったからな」

 

「へぇ、何か意外」

 

 坂柳のことを高く買っているけれど、今までしっかりとした実力は見てこなかった。今回、それを見れるといいけど。

 




 五巻はそこまで話数は無し予定


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不穏 予測出来ない奴ら

 

 B、Cクラスに比べてA、Dクラスは平和的に終わった交流会から数日経った日。真嶋先生から事前に自由に使っていいホームルームの時間になった時、坂柳が神室とAクラスの地味な子である山村を隣につけながら壇上に上がった。

 

「ここで、みなさんにAクラスのこれからの予定をお話ししようと思います」

 

「まず、みなさんには後日の体育の時間に行う体力測定をしてもらいます。全て記録した上で私がDクラスの平田くんと擦り合わせて参加する競技を決めさせてもらいます。以上ですので」

 

 全く意見を求めるなどのことをせずに坂柳は壇上から下がっていった。側から見れば他に類を見ない傍若無人振りだが、坂柳ならば、何とかなるだろうという考えが全員無意識に存在しているのか、誰も意見することは無かった。康平も指揮権を渡した上で言うのは無粋と考えたのか無言だった。俺も何かいちゃもんをつけることをしなかった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 体力測定だけど、俺の結果は男子の中では上の下、中の上とかその辺だった。もちろん、手を抜くことは無く本気でやった結果だ。神室の方は女子の中では上位だったらしく、流石と言わざるえない。俺たちAクラスの記録は坂柳の中心の寄りの奴らが交代ごうたいで記録していた。その最中、俺は坂柳派の男子から珍しくいきなり話しかけられる。

 

「おい、下関。お前、神室と付き合ってると聞いたんだが、本当か?」

 

 神室は坂柳には報告したと言ったから、坂柳が普通の色恋として自分の派閥の一部に言ったんだろうな。さてと、こういう時の文言も既に神室とは打ち合わせてある。まだ広まっていないみたいだから、ここらでついでに言っておくか。

 

「ああ、そうだ。神室とは付き合っている。無人島の時に行動してる時に意気投合してな。俺から告白した。それで付き合ってもらえることになったんだ。なんだかんだ上手くはいってるよ」

 

 ガチ感は出しつつ言うが、Aクラスの奴らはこれが本当なのか、どちらが本気なのか、スパイとしてやっているのかなど疑っているように思える。それはそうだろうな。俺と神室だって、本気なのか偽装なのか分かっていないんだから仕方ない。

 

「お前らマジか。そ、そうか。苦労するだろうが、頑張れ」

 

 聞いてきた奴は根が良いやつだったみたいで、純粋な恋だと信じて、俺たちの未来を心配してくれた。

 

「あ、ああ。ありがとう」

 

 そんな事もあり、Aクラス全体に俺たちが付き合っていると広まった。後で、戸塚からは尋問気味なことをされたが、まぁ問題視はされなかったから良しとしよう。

 次の日からは外で他のクラスに見られているなんかも気にせずに、Aクラス全員で全体競技の練習を始めたんだが、周りが明らかに配慮してくれて俺と神室の二人きりになることが多かった。

 

「恋人になるってこんな感じなんだ」

 

「そうだな。俺も初めてだから、こんな感じとは知らなかった。少しむず痒いな」

 

 互いになんとも言えない空気感の中で練習を続けた。はっきり言って、この空気感でやる練習には全く身が入らなかった。うーん、むず痒い。

 

 

★ ★ ★

 

 

 体育祭の練習などをしつつやっと迎えた2週間前、坂柳は今日から何日もかけて平田と打ち合わせをするらしい。私はその見張りを任された。今回の体育祭は下関に情報を流す必要もほとんど無く、坂柳もこき使うことが少ないので、負担は少ない。だけど、この会合だけが少し気がかりだった。

 

「それでは今回からよろしくお願いしますね平田さん」

 

「うん。こちらこそ、よろしく。僕のクラスはあまり決まっていないんだけど、大丈夫かな?」

 

「はい。こちらも全てが決まった訳では無いので大丈夫です。私たちで擦り合わせをしながら決めていきましょう。ああ、こちらの神室さんの見張りですので、ご心配には及びません」

 

 二人は軽く挨拶を交わしながらカラオケの一室へと入っていった。私の今日の仕事はここで立っていることだけ。簡単だけど、これから何日もあると思うと、憂鬱。仕方ないので、西野武子って子に情報を聞きに行った下関にメッセージを送ったりして、暇を潰す。

 

「今日はありがとうございます。非常に有意義なものになりましたね」

 

「こちらこそ、色々ありがとう。坂柳さんと話していると、凄く話しやすいよ」

 

 一時間半ぐらいしたら、二人とも出てきた。まさか、擦り合わせだけで、ここまでかかるとは思ってなかったけれど、無事には終わったみたい。平田の方も会った時よりも緊張がほぐれているように思える。

 

「彼もやはり面白いですね」

 

「また、情報を調べろとか言うの?」

 

「いえ、今回はその必要すらありませんよ」

 

 坂柳の不気味な笑み。坂柳と半年ほどいて分かったけど、こんな笑みをする時の坂柳は碌な事を考えていない。

 

 

 平田と会合を始めてから一週間が経とうとしていた。明日中には出場表を出さなくてはならず、今日で最後になるとは思う。何度もしてきてたから、流石にこれで終わるとは思うけど。

 入ってから三時間ほど経ってやっと、坂柳と平田はカラオケルームから出てきた。長すぎ。こんなことになるなら、仮眠でもしとけば良かった。

 

「平田さん。本番はこのまま出場表を出して下さいね。今日まで何度もお付き合いありがとうございます」

 

「こちらこそ、ありがとう坂柳さん。体育祭に関係無い話もして、ごめん」

 

「いえいえ、それもコミュケーションですから。気にしないで下さいね」

 

 出てきた平田の表情は今までと全然違うように思えた。気のせいかもしれないけど。でも、無事に終わったらしく、平田は足早に去って行って、坂柳からは完成した出場表を一瞬見せられた。

 

「平田に変なことでもした?」

 

「いえ。そんなことする訳ありませんよ。ただ悩みを聞いてあげただけです」

 

 やっぱり坂柳は不気味で、底知れない怖さを覚える。こんな坂柳に下関は勝てるか分からないけれど、勝って欲しい。

 

「これで体育祭の目的は達成です」

 

「何か言った?」

 

「いえ、何も」

 

 

★ ★ ★

 

 

「それで、坂柳は何か不審な行動をしているようだったか?」

 

「そんなこと無かった。ただ、話は長かった」

 

 明日、出場表が提出にも関わらず、Aクラスの人間は自分がどの種目に出るのか全く把握していなかった。Aクラス全体のグループでのメッセージでは比較的希望は叶えたとは送られてきていたが、それも本当か分からない。俺たちが知るのは出場表の提出が締め切られた後らしい。

 

「Aクラスは坂柳だから、反発は無いが、Dクラスは大丈夫か?」

 

「さぁ。でも、Dクラスが公開するタイミングについては私の知る限り、触れてなかったから、もう既に自クラスには言ったりしてるんじゃない?」

 

「まぁ、反発を少なくするには早めに言う方が良いだろうからな。坂柳との話し合いでも平田なら自クラスの要望を出来るだけ通そうともするだろう」

 

 そんな感じで神室から坂柳の最近の現状なんかを聞いていく内に出場する種目についての話になった。神室も情報提供するばっかりだと、つまんないだろうからな。

 

「推薦種目は借り物競走と四方綱引きと男女混合二人三脚、合同リレーだっけ?」

 

「ああ。自負することでも無いけど、俺は一つぐらいは出るんじゃないか?神室も体力測定を見る限り、出るだろう?」

 

「まぁ、多分?でも、一回もちゃんとしたメンバーでやってないから、勝てるか不安だけどね」

 

「それはそうだな。でも、他クラスもそんな感じだろ」

 

「確かにそう……そう言えば、Cクラスの子に会いに行ってたんでしょ?」

 

 神室は少し感情の温度を下げるように言葉を発した。何で少し冷たさを含ませて言っているかは分からないけれど、そこまで気にすることは無いか。気のせいの可能性もあるしな。

 

「西野だろ?Cクラスの情報提供者だったんだが、今回も龍園は秘策があるとしか言っていなかったらしい。練習もしてないから、何を企んでいるんだか」

 

「まぁ、なんでもいいけど」

 

 間もなくして、明日も学校があるからと神室は帰宅した。体育祭というのは中学校でもやったのだが、高校の体育祭というのは初めてで、何も気負う事なく出来るので、素直に楽しみであったりはする。

 




少し短いですが、切りがいいのでここで一旦切ります


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開幕 ただ純粋に楽しむこと

普通に体育祭しています。高校生らしい会話をしています。


 

  いよいよ、体育祭が始まった。これまでの学校の行事では策略や計算何かを色々と考慮しなくてはならなかったが、今回の体育祭ではその要素は薄まっているので、純粋な思いで楽しもうと思っている。これから、そんな機会はあまり訪れ無いとも思うしな。坂柳からは出場表が締め切られた後に送られてきたんだが、俺が推薦競技で出ることになるのは借り物競走と二人三脚になっている。

 Aクラスの方針上、ほとんど練習が出来なかった競技もあるので、本当に勝てるかどうかは心配だ。もちろん、出場表が締め切られた後には本気の練習を全員したのだが、他のクラスが出場表前から練習していたので、足りない感は否めない。

 

「康平。体育祭は勝てると思うか?」

 

「どうだろうな。今回はAクラスとDクラスがチームであり、坂柳が指揮を執っている。俺には出場表から推測するしか出来ないが、Aクラスが勝てない組み合わせではない。スポーツは多少の予想外が発生するので、確定は出来ないが」

 

「そうだね。俺も概ねそう思うよ」

 

 康平と会話している間もAクラスの状況はいつもと変わること無く、康平と俺が喋っている側と坂柳が座ってる場所と真っ二つ割れていた。そのせいで、神室とは体育祭が始まってから、全く喋れていなかった。色々と話したいことはあるんだけど、残念だ。

 

「何チラチラ坂柳の方ばかり見ているんだよ。……神室か?」

 

 Aクラスの中でも鈍いと言われ気味の戸塚に言われるほど、俺は神室の方ばかり見ていたらしい。あんまり見ていると神室から気持ち悪がられるか? いや、恋人感を他のやつにアピールするにはこれくらいの方が良いか?

 

「……察していくれ」

 

「はぁー、坂柳派のやつだけど、恋人がいるやつは良いよな。それで、やったのか?」

 

「は? 何を?」

 

「何って、何に決まってんだろ? まさかキスもしてないのか?」

 

 中学校ですら聞かれている奴がいるのは見たことあったが、まさか、自分が聞かれることになるなんてな。聞かれてみる側になってみると、やってもいないことをさもやっている前提で言われるのは嫌なもんだな。というか、意識すらしていなかったぞ、今の今まで。

 

「してない、してない。キスもそれ以上もしてない。別に良いだろ?」

 

「良くねぇって。Dクラスには平田と軽井沢のカップルがいるんだぞ? それに負けたままでいいのかよ!」

 

「いや、良いよ。平田のカップルとは付き合っている期間も違うんだ。それぞれにペースがあるだろ?」

 

「……まっ、頑張れよ」

 

 何かよく分からないがイラッとした。まぁ、今までこういうことは考えていなかったが、これからは少しは考えるか。軽く神室と相談してからにするが。

 

 

★ ★ ★

 

 

 最初の種目である100m走の時間になった。推薦競技でも無かったから、そこそこ練習は出来たから、下の方にはならないだろう。俺の運動神経は中の上といったところ。一緒に走る面子には速いと聞いているような人間はいない。……いけなくは無いか。

 全速力で走ったが8人中3位という結果だった。練習量が多かった分、ショックもそこそこ大きい。神室と康平の走りだけ見た後は少し疲れたので、座り込む。こんな体力で大丈夫か? 綾小路は5位だったようだが、あまり信用はしていない。綾小路の完全無欠の実力的には一位を取らなければおかしいからな。

 

 二種目目はハードルだ。自信があるというほどでは無いが、ぼちぼちの順位は取れるとは思っている。俺は最後の組だったが、その最後の組ではDクラスで今回、一番張り切っているらしい須藤と一緒だった。集中しているのか、スタート地点に着いた時から、威圧感というか気合いがヤバかったし、そんな奴の隣だったが、走っている時も荒々しさが凄かった。順位は4位だったが、まぁ、事前に予想した通り、ぼちぼちだった。

 

 三種目目は棒倒し。やっと楽しそうな競技となったんだが、Dクラスと合同なチームということで須藤に仕切られており、一本目はAクラスは棒を守る役目でDクラスは棒を倒す攻めの役割を担っていた。

 

「そう、落ち込むな涼禅。二本目もあるだろ?」

 

「まぁ、そうなんだけど。棒倒しは戦略と戦術の部分が大きいだろうと思ってる。だから、全体を指揮して自分の能力を試す意味でもやりたかっただけどね」

 

 しかも、口には出さないが、康平が防御の陣形を指示してる影響で坂柳派の人間は露骨にやる気を出していない。こんな状態じゃ勝ちの目はどんどんと無くなっている気がしてならない。相手は仮にも方向性が違うにせよ、団結力はこっちの2チームよりも高いのにな。

 ついにホイッスルが鳴った。鳴った瞬間から飛び込んで行く須藤率いるDクラスを眺めながら、俺たちAクラスは攻め込んでくるハーフという体格を活かすだろう山田率いるCクラスを相手取る。康平直々に陣形を作ったこともあり、安心していた部分があったんだが、思った以上にCクラスがヤバかった。体格差が大きい奴ばかりで、陣形なんてなす術なく破壊され、容易く棒が倒された。これは二本目のDクラスもヤバいんじゃないか?

 危惧していた通り、Aクラスが棒でBクラスを中心とした防御チームを倒せそうな所で、攻めていたCクラスによってDクラスの防御が崩され、棒が倒され、ホイッスルが鳴った。うん、これは相手が悪かったな。聞こえた限り、龍園はバレずに殴っていたようだし、仕方ないな。今回も龍園は卑怯も気にせずに行くのか。

 

 男子の四種目目に始まる前に女子の玉入れを眺める。自然と目線が神室の方に向いてしまうのはやましい気持ちがあってのことなのか、何を思ってのことなのか、自分にはよく分からない。だけど、向けてしまうんだ。

 

「神室さんのことが気になりますか? お二人は恋人ですもんね」

 

 クスッとした笑みを見せながら、坂柳が杖をつきながら一人で座っている俺の方に来ていた。他の女子は玉入れ中で、男子は作戦会議中で俺たち二人の周りには誰も存在していなかった。

 

「神室が頑張っているからな。彼氏なら、当然だろ?」

 

 康平や坂柳の前では密かに会っていることを隠す為に恋人ということを強調して話す。だが、坂柳の瞳からはその誤魔化しさえも意味も無いように思えて、背筋に何か嫌なものがあるように感じてしまう。

 

「フフフ、そうですね。下関くんは作戦会議に行かなくていいんですか? 彼女も大事ですけど、そちらも大事だと思いますよ」

 

「綱引きの作戦会議だろ? 綱引きなんて、多少の工夫は出来ても結局は力がほとんど。直接、康平から作戦を聞かなくても大丈夫だ」

 

「傲慢ですね。まるで、自分がほとんどの人よりも優れていると思っているようですよ?」

 

 それはお前もだろという言葉が出かかったが、坂柳は後が怖そうなのですんでの所で引っ込めた。実際、Aクラスとして作戦会議には出たかったんだが、Dクラスも一緒に作戦会議をしている。体育祭では普通に過ごす為、出来るだけ綾小路の近くに居たく無いのが、本音だった。

 

「そんなことは無い。俺は自分よりも上の人間がいるとは分かっているつもりだ。それでも、そんな気が俺からするって言うなら、無意識に思ってしまっているんだろうな」

 

「ええ、貴方は決して天才には敵いませんよ。なので、せいぜい足掻いて下さい。私がしっかりとお膳立てはしておきますから」

 

 会った時よりも邪悪な笑みを浮かべながら、坂柳は去って行く。坂柳は俺の過去を知っていると、神室は言っていた。坂柳の最後の意味深な言葉といい、何か俺と綾小路に対して何かするつもりなのかもしれない。天才、綾小路に敵わないなんて分かってる。でも、俺はやらなきゃ、俺じゃなくなる。

 

 

★ ★ ★

 

 

 何のトラブルも無く、作戦会議を終了したみんなと共に綱引きに挑む。体格はあまりずっしりしていない俺が役に立っている感覚はあまり無かったが、一戦目は勝つことは出来た。しかし、二戦目は打って変わって、重さが一気に変わって、ギリギリで押し負けてしまった。龍園がニヤニヤしてることからも分かるが、BCクラス男子の精神的頂点は龍園みたいだな。この体育祭はCクラスの手のひらか?

 三戦目はこれまで以上に拮抗していたが、突然、Cクラス全員が手を離したことで、ADクラス全員が倒れると同時に勝利することになった。後味が悪い勝利だが、勝利は勝利だ。これも勝ちの一つには入れて大丈夫だろ。

 

 次の障害物競走は同じ組に早い奴が居なかったこともあって、一位を取ることが出来た。今のところ、白組とは同点といったところだから、ここで一位を取ったのは中々良いんじゃないか。神室も周りを伺いながらも手を振ってくれて、康平も満足そうだし、何か嬉しいな。これが純粋に体育祭を楽しめてるってことなのかな。

 そんな満足している俺は女子の障害物競走を見る。そこではDクラスの堀北鈴音がCクラスの女子ともつれこんで転んでしまっていた。Cクラスの女子は競技続行不可能らしいが、堀北は何とかゴールはしていた。何の根拠も確証も無いが、相手がCクラスということで、変な勘繰りはしてしまうのは俺だけじゃないだろ。

 

 全員参加の二人三脚では橋本になっている俺は橋本と適度に会話をしながら、準備として足をハチマキのようなもので固定する。

 

「良いとこ見せて、一緒にモテようぜ下関。おっと、既にお相手がいたか」

 

「うるさいぞ橋本。いちいちおちょくるなよ。ここで勝ってお互いのリーダーにアピールすることだけ考えよう。その方がお前の為だろ? テニス部に好かれてる女子もいるんだから」

 

「何で知ってるんだか。でも、あいつには興味ないぜ? 公私ともに魅力的な女性が一番だからな」

 

 やっぱり橋本とは反りが合わないな。言うのも恥ずかしいが、俺はそんな肩書きなんかで人と付き合いたくは無いからな。だが、橋本のような生き方の方が成功しやすいことも分かってるんだけどな。

 

「そんな顔すんなって、神室も公私ともに魅力的だと思うぜ? 頑張っていこうぜ」

 

「そうだな。今はそんなことよりもこれを頑張ることが大事だ」

 

 テニス部の子を哀れに思いながら、俺と橋本は息を合わせて走り出す。Aクラスでそこそこ早い二人が組んでいるからか、他の組に差をつけるが、ハードルの時と同じくドタドタという音を立てながら須藤がペアの男子をほとんど抱え込み、走り去って行った。反則だろあれ。

 

「こればっかは仕方ないだろ。まっ、二位で満足しとこうぜ」

 

「そうだな。こればっかりは仕方ない。須藤はチームだしな」

 

 二人三脚も終わり、やっとこさ休憩になった。ここから、まだ騎馬戦とかもあるのか。気合い入れ直さないとな。楽しむことも忘れずに。

 




あと2.3話で第5巻終わります。


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終了 知らぬ間に訪れる危機

 物語が一気に動いたり、青春します


 

「結構頑張ってたじゃん」

 

「これでも神室の彼氏だからな。他の人間に馬鹿にされる訳にはいかない」

 

 設けられた10分の休憩時間。その休憩時間でさえも、康平と坂柳の二人の周りにAクラスの生徒全員が集まっている中、俺と神室はそこから離れ、二人で体育祭が始まっての雑談に興じていた。

 

「……自覚あるんだ。でも、まぁ私も同じ感覚でやってた」

 

 俺たちの会話は何処かたどたどしい。何でかは分かってる。お互いに意識してしまってるからだ。告白ぽいのをされた時だって、初めて俺たちのことがクラス中にバレた時だって、こんなに意識しなかったのに何でこんな意識するんだ。

 

「う、あぁ。そうなのか。そういえば、次の競技、騎馬戦だろ? 頑張ってくれよ」

 

「分かってる。Cクラスがなんかきな臭いけどやる」

 

 今回の体育祭、さっきの事故からCクラスがきな臭いが出てきた。元々龍園が真面目にやるとは思えなかったが、事故だと言い張って慰謝料でも取る気か? まるで極道だな、あいつ。

 休憩も終わり、女子の騎馬戦が始まった。女子の騎馬は全クラスともが、理由はそれぞれだと思うけど、気合いばっちりだった。……何処が勝つかは分からないか。

 

「おい、見ろよ下関」

 

「ああ、これは中々に酷いな」

 

 始まった途端、Cクラスの4つの騎馬がDクラスの堀北が騎手を務める騎馬を取り囲む。神室や他のDクラスの騎馬が救援に向かうも、Bクラスの騎馬達に防がれる。それでも、何とか乱戦に持ち込んだことで、堀北の窮地は脱した。しかし、もつれ込んだ末、一之瀬以外の騎馬は落ち、最終的に一之瀬のみが残った。乱戦でよく分からなかったが、他の騎馬の乱戦に紛れ、一之瀬だけは何とか避けていたようだった。一之瀬の賢さが出た場面だったな。

 

「準備はいいか? 涼禅」

 

「もちろんだよ。しっかり休憩も出来たから」

 

 既にDクラスの平田からは作戦が伝達されていた。作戦というのは須藤を中心とした八つの騎馬の塊で突撃していくというシンプルなものだったけれど、須藤の突破力なら問題は無いだろう。Aクラスの騎馬は1つは康平。もう一つは俺の騎馬。他二つは坂柳派の騎馬になっているから、少し心配ではあるな。

 

「どうだオラ!」

 

 須藤がどんどんと蹴散らしていく。しかし、神崎と柴田の騎馬と龍園の騎馬という強敵が残っているままで、須藤はさっきよりも速度が落としぎみとなってしまっていた。

 

「仕方ない。俺が止めに行くよ」

 

 康平、平田、須藤を先に行かせ、神崎と柴田の騎馬を足止めする。この中だと俺が一番の細身だ。俺がここで足止めする他ないだろう。

 

「今回の勝負はもらうぞ。下関」

 

「いや、そういう訳にはいかない。女子もそっちが勝っているからな」

 

 半年ほど一緒にやってきてる葛城派の奴らとのコンビネーションで何とかハチマキを奪い取ろうとするも、神崎達が内に寄ってきて、自爆覚悟でハチマキを取ろうとしてくる。それを防ごうとする為に動くと神崎達をもつれ込んで倒れこんでしまう。

 

「そんなことまでするのか」

 

「ああ。お前は警戒すべき相手だからな。やれることをやっただけだ」

 

 神崎なりの賞賛を受けた時、ちょうど大将戦の決着が着いたようで龍園の方が勝ってしまっていた。うーん、結構な接戦だと思ってたんだけど、上手くしてやられたみたいだ。須藤は龍園のズルを訴えているようだけど、証拠は無いだろうな。相変わらずしたたかだよ龍園は。

 それよりも、Dクラスの話を小耳に挟んだが、堀北が重点的に狙われているらしい。それは外部から見ても分かったことだが、出場表まで漏れている可能性があるらしいのは流石にヤバそうだな。内部にスパイでもいるのか? Dクラスはそんな人間ばかりだな。

 全員参加種目の200メートル走も2位という微妙な成績で終わり、50分間の昼休憩になった。

 

「ということなんだけど、どう思う? 康平」

 

「それは問題だな。だが、今回の司令塔は坂柳だ。俺が不用意に何かやるべきでは無いだろう」

 

 さっき小耳に挟んだDクラスの情報を康平へと伝える。俺だってこれを言っても意味が無いことは分かっているけど、言わないよりは言ったほうが良いだろ。

 

「それもそうだな。こっちも念のため警戒だけしとこうか」

 

「もちろんだ。龍園は警戒すべき相手だからな」

 

 昼食を食べながらの康平との会議を終え、俺は疲れ切った午前中の疲れを取るため、目をつむり仮眠を取ることにする。Dクラスの裏切り者は誰か。出場表が筒抜けだと言うことはその可能性が一番高いということだ。もちろん、誰かがただミスをしただけの可能性もあるが、一番可能性があるのはやはり干支試験で龍園に情報を売っていた櫛田か。

 だが、前回の試験ならばポイントも絡んで、動機としては理解出来る面もあった。でも、今回は違う。明らかに私情のみで行動しているようにも思える。堀北を困らせるのが主目的か?

 

「……思ったよりも利用出来そうか」

 

 幸い、堀北は綾小路と親しい。船上で櫛田に契約を持ちかけた時よりも櫛田への可能性を感じはするな。考えをまとめ終えた俺は意識を手放した。

 

★ ★ ★

 

 

 戸塚に雑に起こされた俺はパキパキと鳴る体とともに借り物競走の待機場所へと向かう。そして、幸か不幸か同じくDクラスからの参加者には綾小路がいた。本当にあいつとは縁があるよな。全く嬉しくないけどな。それによく見ると龍園もこの競技に参加するようで、不敵な笑みを浮かべながら、意味ありげに立っていた。

 

「おいおい、今回は何もしねぇのかお前は?」

 

「ああ、俺は何もしない。代わりに煽るなら、坂柳にしてくれ」

 

「腰抜け野郎が」

 

 俺の対応が気に入らなかったのか龍園は次に綾小路へと絡みに行った。あいつは人を煽らないと生きれない性分なのか? それはともかく、位置に着いた俺たちにレースの開始が合図がされた。借り物競走に走りの速さは関係無い。ただ、良い物に当たることを願うことだけだ。

 不気味なほど同時に全員が借りてくる物が書いてある場所に着く。さぁ、何が来るか。

 

『一番信頼出来る人』

 

 ……何だこれ。思っていた以上のものだったんだが。もっと、リレーのバトンとか帽子とかそんなものじゃないのか。どうしよう、信頼出来る人? 分からない。パスするか? いや、ここでパスするのは大幅な時間ロスだ。ただでさえ、負けている可能性が高いのにそんなことは出来ない。信頼とは、俺にとって信頼するってことは。

 

「神室来てくれ」

 

「……分かった」

 

 何故か彼女だけしか居ないと思った。俺の全てを知ってくれている人、そして、馬鹿みたいなことをしようとしてる俺に付き合ってくれる人。これが信頼なのかは分からないが、俺は彼女を選びたかった。だから、俺は彼女の手を引いて、ゴールの線を踏む。

 

「……2位か。結局、龍園には勝てなかったな」

 

「それ、何て書いてあるの?」

 

「……一番信頼出来る人」

 

 持っていた紙を神室へと見せる。何度か瞬きをした後、神室は目を逸らし、何度も頷く。そんな神室の動作を見た俺も照れ臭くなって、そのまま何とも言えない空気感のままわかれた。

 

 四方綱引きも終わり、俺がすることになる競技も残り一つとなった。それよりも推薦競技になってから、須藤の姿が見当たらない。競技にも参加していない。あの性格なら推薦競技に参加しないはずは無いと思ったんだがな。もしかして、Cクラスの態度に対するボイコットか? 今回の体育祭、Dクラスは中々に苦戦してるな。

 

 

★ ★ ★

 

 

 坂柳のいたずらか、二人三脚が神室と走ることになった下関と同じ組には一之瀬と柴田ペア、綾小路と櫛田ペアという即席ペアが揃っていた。その中で綾小路は同時の情報や櫛田という人物を知った上での問い詰め方で、櫛田に龍園へと出場表を渡した裏切り者だと認めさせていた。

 

「あ、でも一つだけ考えが変わったことがあるんだ。それもたった今。それは綾小路くんも私が退学させたい人リストに入ったってこと。つまり二人を排除してからAクラスを目指すことにするよ」

 

 開き直った櫛田に堀北に加えて退学させると宣言されたにも関わらず綾小路の表情は変わらなかった。そんな櫛田の表情は無表情な綾小路とは真逆で輝くような笑顔だった。

 

「私もバカじゃないから簡単に証拠を残すような真似はしてないよ。龍園くんは平気で人を陥れるし嘘もつくから。それに龍園くんの他にも契約するつもりだよ? 新しい人から似たような誘いもあったから」

 

 前半の櫛田の言葉は綾小路にも予想範疇の言葉だったが、後半の言葉は綾小路にとっても予想外だった。一体誰が櫛田と手を組んでいるのか。様々な人物が綾小路の頭の中に現われては消えていく。

 

「誰なんだそれは」

 

「言えるわけないよー。でも、私が堀北さんを退学させたいのと同じくらいその人も綾小路を退学させたがっていると思うよ。勘だけどね」

 

 輝くような笑顔の中に影の存在する笑顔を見た綾小路はこれ以上は情報を得れないと悟って、二人三脚に集中する。肝心の二人三脚は一之瀬、柴田ペアが一番。綾小路、櫛田ペアが二位。下関、神室ペアが三位といった結果となった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 神室との息のあった二人三脚を終え、一年の体育祭での競技をやり抜いた俺はゆったりとした気持ちで最終種目の全学年リレーを見ていた。一応は生徒会ということで、堀北先輩や南雲先輩に注目して見ていたんだが、その近くには何故か綾小路がいた。何であいつがそこにいるんだ? ……俺のことでも探ろうとしているのか? 後で、いや、辞めよう。俺と綾小路に接点は無い。わざわざ堀北先輩などに聞くことは危険だ。

 

「やっと出してきましたか」

 

 坂柳が誰にも聞き取れないほどの声を発すると共に綾小路が堀北先輩と共に走り出す。早かった。二人とも早かった。綾小路も実力を隠しているとは思っていたが、それに並ぶ堀北先輩も一体何者だよ。だが、綾小路がこんな行動を起こしたのかが疑問だ。何故か背筋が寒くなる。

 

 

★ ★ ★

 

 

 体育祭がBクラスが1位、Cクラスが2位、Aクラスが3位、Dクラスが4位となった一年生。そんな予想通りの結末に終わった体育祭が終わり、綾小路は神室に誘われ、特別棟へと来ていた。

 

「ご苦労様でした神室さん。またよろしくお願いします」

 

 神室によって案内されたその場所には坂柳が立っており、綾小路と相対していた。そこで行われた会話では坂柳がどんどんと綾小路に謎を思わせる手札を切っていく。

 

「お久しぶりです綾小路くん。8年と243日ぶりですね」

 

「冗談だろ。オレはお前なんて知らない」

 

「ホワイトルーム」

 

 ホワイトルーム、その単語を皮切りにして坂柳は奥深く、美しく謎めいた台詞を次々と吐いていく。綾小路を混乱させるように自分に注目させたいように。そんな問答の末、綾小路は一つの結論へと達し、坂柳へと問いをかける。

 

「おまえにオレが葬れるのか?」

 

「ふふ」

 

「あ、そうそう。貴方のことを知っている人間がもう一人います。彼、下関涼禅を退けたら、私も直々にお相手しましょう。彼の執念は凄まじいですよ?」

 

 その男の名を告げ、坂柳は笑いを堪え切ることが出来ずに去って行く。大して警戒もしていなかった男の名を告げられた綾小路。聞いてしまった、いや、意図して聞かされた神室。それぞれがそれぞれの考えの元、下関涼禅という人間の運命は荒れるものとなっていく。

 




 いつもの幕間を挟んで5巻は終了です


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幕間 櫛田桔梗の証言

 まだ櫛田と下関の本格的な関わりはまだですが、坂柳と綾小路は後の方に取っておきたいので。


 

 え? 下関くんと初めて会った時の印象? うーん、悩むなぁー。でも、優秀なAクラスの人だなーとは思ったよ。それに、イケメンだから、色んな人にモテてきたんだろうなとも思ったかな。

 

 うん。私って結構そういう観察眼あるんだよねー。色んな人と色んなことを話してきたからさ、そういうの経験で分かっちゃうんだ。

 

 その後の交流? 特に無かったかな。学校の真実が分かったからは、すぐに他のクラスの子とは疎遠気味になっちゃったから、下関くんもその流れでほとんど連絡取らなくなっちゃったね。Aクラスだから、仕方ないよね。

 

 ……下関くんの裏の顔のこと? なんでそんなこと知っているのかな? あ、私のことも知ってるんだ。うんうん、別に良いよ。怒らないから。それで、何でそんなこと聞きたいの? 後学の為? ふーん、まぁ良いか。

 

 下関くんが何か闇を持ってることは始めた会った時から大体分かってたよ。目の下の隈もひどかったし、何か頑張ってる感も凄かったから。聞いても良かったんだけど、私忙しいから、下関くんだけに構う訳にはいかなかったんだ。

 

 じゃあ、どうして下関くんに興味を持ったかって? 簡単な話だよ。そうしなきゃいけない状況になったからだよ。色々あって退学させなきゃいけない人たちが出来ちゃって、それで助けてもらおうかなって。

 

 下関くんがその人を見るときの目線が他の人に見せてる目線と全然違ったから、直ぐにその人のことで何か知ってるんだって分かったよ。だから、近づくことにしたんだよ。

 

 龍園くん? 龍園くんにも興味あるんだね。でも、辞めた方が良いよ。あれは悪魔そのものだし、手を組むなんてことをしたら簡単には抜け出せないよ。

 

 もし、下関くんが裏切ったりしたら? 私も裏切るよ。裏切られた相手を信用するほど馬鹿じゃないから。でも、下関くんって龍園くんと比べても甘いんだよね。一度手を組んだ相手にはちゃんとした切り方しそうだから。そんな所は安心だね。

 

 私から裏切ること? あるよ。私は絶対に退学する訳にはいかないし、私のこと知っている人にも生きていて欲しくないんだ。だから、その為なら下関くんのことは裏切るし、切るよ。

 

 でも、下関くんはまだ安心な方なんだよね。変に私のことを詮索しなかったし、するつもりも無さそうだから。流石、モテそうな人は違うなー。でも、神室さんと付き合ってるもんね。付き合って楽しくするのは勝手だけど、下関くんの人のことを狙ってますっていう子の愚痴を聞く身にもなってほしいよ、ほんと。




 次回からペーパーシャッフル編です


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第6巻〜第7巻
新章 侮ること無く努めて冷静に


 遅れてすみません。
 6巻です! さくさく進んでいきたいですね。



 

 生徒会室に集まるのは生徒会のメンバー。といっても、一年は俺と一之瀬のみで少し気まずい空間だったけど。珍しく集まった今回の目的は生徒会の引継ぐをすることらしい。だけど、堀北先輩と南雲先輩の仲があまり良く無いから空気は最悪。……そういえば、体育祭の綾小路のことで堀北先輩に聞かなきゃな。綾小路とどういう関係なのかを。

 

「例年通り、先に内々で済ませておき、1週間後に改めて全校生徒の前で行うこととする。南雲は事前に文章などを考えておいてくれ」

 

 堀北先輩は淡々と作業を進めていく。その様子はもうこの教室に来ることは無いだろうに悲しさはあまり感じなかった。

 

「分かってますよ。しっかり全校生徒の記憶に残る文章にする予定です」

 

 南雲先輩は嫌な笑顔をする。絶対なんかする気だよ。でも、綾小路が堀北先輩と繋がっているんだとしたら、俺は対抗して南雲先輩と手を結ばなきゃいけないんだよな。今のうちに南雲先輩のことを知っておかないとな。

 

「先輩。お渡ししたいものがあります」

 

 俺と一之瀬は前へ出て、花束と色紙を渡す。絶対に堀北先輩他の三年生は全員、さっきから気づいていたとは思うけれど、橘先輩だけは気づいて無かったようで驚き、嬉し涙を流していた。こんなことを言っては失礼だと思うけど、こんな純粋な人がAクラスとして生き残ってきたのが信じられない。

 

「みんな……良い人ばかりです!! これからの学校も安泰ですね会長」

 

「ああ……そうだな」

 

 情動的な橘先輩と厳格な堀北先輩。今更だけど、相性良くバランス良いコンビなのかもしれない。だからこそ、生徒会の運営は上手くいっていたのかな。そういう点では南雲先輩が描くこれからの生徒会は少し心配だな。

 

「堀北先輩。少し話したいことがあるんですが、いいんですか?」

 

「何を聞きたいんだ?」

 

 一同解散となった後、俺は堀北先輩に話しかける。堀北先輩は妹とは違ってポーカーフェイス気味だから、俺からの質問に対して何を思っているか分からない。だからこそ、言葉でしっかりと答えを引き出すしかない。

 

「綾小路清隆と知り合いなんですか?」

 

 堀北先輩は真面目な顔を崩すことは無く、動揺も無かった。どちらかというならば、俺のことを探っているような、そんな目をしていた。

 

「何故、そんなことを聞くんだ?」

 

「Dクラスの生徒が生徒会長とリレー勝負をする。Aクラスの生徒が気になるのは変ですか?」

 

 堀北先輩にしては考えこんでいるような時間だが、普通の人にとっては短い時間で考えて、答えていく。

 

「綾小路清隆にはそのくらいの価値があると思っただけだ」

 

「え、あ、ありがとうございます」

 

 堀北先輩なら答えてくれない可能性も全然あったのに答えてくれた。これは堀北先輩なりの優しさってやつなのかな。でも、これは大きな収穫かもしれない。綾小路と堀北先輩が繋がっているかもしれないっていうことの。

 

★ ★ ★

 

 

 案の定、全校生徒の前でこれまでの体制を倒すと言った南雲先輩。いや、もう南雲会長か。南雲会長が実質的に支配しているらしい二年の人たちは湧き立っているけど、俺たち一年ともう卒業が近い三年からは歓声の声はあまり上がること無く、真顔の人が多い印象だった。

 

「お疲れ様です、南雲会長。お昼まだですよね? 一緒にどうですか?」

 

 俺を値踏みするような目。相変わらず堀北先輩と別の意味で考えてることが分かりづらい人だな。だけど、俺は自分を偽るのは得意だ。南雲先輩とも上手く付き合っていけるかな。

 

「……いいぜ。新しい生徒会として親睦を深めるか」

 

 無事に南雲先輩から了承をもらえ、向かうのはよく行っているらしい回転寿司屋。中は思ったよりも人が居なくて、わりと話はしやすそうだった。

 

「俺の奢りだ。好きなだけ食えよ」

 

「分かりました。遠慮せず頂きます」

 

 遠慮せずとは言ったものの、ぼちぼち遠慮しながらお寿司を口に運んでいく。船で食べた以来だけど、やっぱりお寿司は月一ぐらいでは食べたいよなー。

 

「大体話の内容は分かるが、話してみろ」

 

「堀北先輩には橘先輩という信頼出来る右腕がいました。でも、南雲先輩にはそんな人間は居ません。俺は康平の元で右腕をやっている実績があります。どうですか? 俺を右腕にしません?」

 

 強気に強気にいく。曖昧な意見なんてもらわない。この間、神室から報告を受けたけれど、坂柳が俺のことを綾小路に言ってたんだ、グズグズしてる暇なんて無い。

 

「確かにな、お前の言うことも一理ある。だが、下関、お前を採用するかは俺の自由だ。今のところは右腕候補にしてやるが、採用されたきゃ、俺に実力を示せ」

 

「……分かりました」

 

 やっぱり一筋縄じゃいかないみたいだ。でも、絶対に綾小路と坂柳は俺を退学に出来る試験があるなら、攻撃してくる可能性が高い。その時の為にも南雲先輩からの助けをもらえる立場になっておかないと。

 

 

★ ★ ★

 

 

 中間テストも終わり、先生からの講評や順位の発表などが行われる。今回のテストも流石Aクラスといったところで全員が退学の危機なく終えていた。そういった点ではこの時間は他クラスと比べても何も無い時間のAクラスなんだけど、今回は真嶋先生から別のお知らせがあった。

 

「次の期末テストの前に小テストをすることになる。この小テスト自体は成績に反映されることのない中学三年程度の範囲のもので、全100問の100点満点だ。この小テストは期末テストに活かされることになっている」

 

 その後の真嶋先生の説明によると次の期末テストはこの小テストの結果によってペアを決定して、一蓮托生で一科目でも60点未満を取ったら、二人とも退学というものだ。赤点も取ったらダメというものもあるが、はっきり言えば、Aクラスの今の成績だったら、全く問題無いと思う。順番的に坂柳が指揮を取るだろうけど、この試験で罠に嵌めるようなことはしないだろう。多分。

 

「それから、この試験にはもう一つ重要なことがある」

 

 真嶋先生の言うことはこの試験の重要性を一気に跳ね上げた。この試験では自分たちで問題を作り、それを他のクラスの期末テストとするらしく、その末、総合点で勝った方が相手のクラスから50ポイントを奪えるということだった。普通のテストでもポイントの奪い合いが発生するなんて、あんまり考えて無かったな。

 

「希望クラスはこちらに伝えてもらったら構わない。では、君たちの力を信じてる」

 

 真嶋先生が去った後のこのクラスの空気感は死んでいるように静かだった。俺が知っている限りの葛城派は坂柳派の人間を睨みつけ、坂柳派の人間も葛城派の人間を睨む。いつになったらこのクラスのこの空気感が良くなるかは分からないが、数泊の呼吸の後、坂柳が声を発する。

 

「では、約束通り、今回の試験は私が指揮を取らせて頂きますが、構いませんか?」

 

「ああ、構わない。今回も体育祭に引き続き頼んだ」

 

 坂柳の宣言に康平は考える余地もせずに了承の旨を述べる。次の試験がどんな試験か分からないから、何とも言えないが、そこそこの結果を残して坂柳は康平にバトンを渡してくれればいいけど。それに……綾小路と坂柳の関係がよく分からないから、一年の内には坂柳降ろしをしなきゃな。綾小路の味方をされたら、困るからな。

 

「では、こちらで問題、攻めるクラスは決めさせて頂きます。追って連絡もしますね」

 

 伝えることは伝えたとばかりに坂柳は教室から出ていく。その傍に神室と橋本を置いて。その神室は合図のように俺の方を見る。多分、今日、俺の部屋に来るってことだろうな。あまり聞かなかった坂柳という人間についても聞いてみるか。

 

 

★ ★ ★

 

 

「どうだった会議は?」

 

「無難だった。あの感じ、Bクラスに攻撃するんじゃない? 他クラスには興味がなさそうだったし」

 

 さっきまでやっていたらしい坂柳派の会議を神室からどんどん聞いていく。温かいカフェオレが冷めるぐらい、それについて話したところで、俺は坂柳について聞く。

 

「それで、今更なんだが、坂柳と綾小路の関係を知らないか? この間、知らせて来てくれた時は混乱であまり聞かなかったから」

 

「直接聞いた訳じゃないことは先に言っとく。下関が偶に言ってるホワイトルームを外から見てたのが坂柳だと思う。綾小路は坂柳のこと知らないみたいだったし、坂柳も綾小路と直接会ってなかったみたいだから」

 

 坂柳の父親は国が作ったこの学校の理事長だ。政府側の人間である綾小路の父親が作ったホワイトルームと関わりがあってもおかしくは無いか。だからといって、俺は坂柳に対して憎しみを抱くことは無い。そんなことを言っていたら、ホワイトルームに関係している人間全員に復讐しなきゃいけないからな。俺は綾小路だけで良い。俺の家族を殺した綾小路の一族全員だけで。

 

「そうか。だったら坂柳が俺のことを知っていることも納得だ。今まで気にしないようにしてきたけれど、これで色々納得出来る。ありがとう。神室が居ないと坂柳にまで怖がることになってたよ」

 

 ソファーに靠れる俺は隣に同じように靠れている神室の方を見ながら感謝を述べる。本当に神室がいて良かった。俺なんかには勿体ないぐらいの子だ。……その神室の手に俺は探り探り重ねる。何でこんなことしたんだろうか、分からない。でも、俺の部屋に置かれた彼女の手を見たら手を置きたくなったんだ。何か、俺……気持ち悪いな。

 

「……。私も坂柳のことが全部分かってる訳じゃない。でも、坂柳は危険だから、敵対するなら……覚悟を決めた方が良いと思う」

 

 さっきまで俺の方を見て喋っていた神室は下を向いて話していた。それがなんだか、照れさせたみたいで、少しだけ嬉しい。神室の忠告もしっかりと聞いておかないとな。それも綾小路と坂柳がどの程度手を組むのかが大事だな。

 

「分かった。仕留めるなら、一気にいくよ」

 

「そういえば、今回の試験は前回通りで、何もする予定は無いとは言っておく。……後、この期間中に一度ぐらいは綾小路に会おうと思ってる。本来だったら、気づかれる前に退学させて、終わり側に言うつもりだったんだけど……ここまでバレてるんだったら、言ったほうが楽だと思うから」

 

 綾小路清隆。ホワイトルームという場所で育った彼に勝てるほど俺は驕っていない。でも、綾小路清隆に勝てれば、俺の人生は大きく進むんだ。全力は尽くす。

 

「分かった。私も出来る限りのサポートはするつもりだから」

 

「ありがとう」

 

 その日の夜。俺の携帯に西野からの連絡が入った。




 綾小路やホワイトルーム関係の情報は下関と坂柳は同じぐらいになったかな。


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別離 変わっていく関係

 遅くなってすみません。今回で進むことは進みます。

 モーニング台さん誤字報告ありがとうございます!


 

『てめぇと西野の関係は掴んだ。明日の放課後Cクラスまで来い』

 

 昨日の夜に西野から送られてきたメッセージがこれだった。文面的にこの文章を打ったのは龍園で確実だろうけど、何故バレたんだろう。西野はCクラスの中ではどちらかと言えば、目立たない存在。こんな中途半端な時期に龍園にバレるとは思えないんだけど……まぁ、でも、バレたものは仕方ないか。実際に西野にはCクラスの情報を流してもらっていたんだ。それも、俺の命令で。しっかりとケジメはつけないといけない。行くしかないだろう。

 

「康平。迷惑をかけたらごめんな」

 

「……何のことは知らないが、お前がそこまで言うということはその可能性があるんだな。問題無い。涼禅には世話になってばかりだかりだ。迷惑ぐらい気にするな」

 

 温かい康平の言葉をもらい、俺はCクラスへと向かう。こんなにも緊張するなんて久しぶりかもしれない。だが、相手は龍園だ。これくらいの緊張感を持っていた方が覚悟が決まるってもんだ。

 

「龍園。言われた通り、来たぞ」

 

「ハッ、こんなにも、のこのこ来やがるとは。てめぇは坂柳なんかよりも随分甘ちゃんだな。あいつなら見捨てたぞ」

 

 龍園の言う通り、坂柳。それに綾小路だったら、来なかっただろうとは思う。でも、俺は一度縁を結んだ人は見捨てられない。あいつらみたいに人のことを簡単には裏切りたくは無いから。

 

「甘ちゃんだからこそ、坂柳に勝る点だってある。それに、俺は西野を見捨てることなんて出来ない」

 

 Cクラスの中には既に人払いが済んでいるのか、龍園と西野の他、伊吹や石崎、山田の他は居なかった。しかし、明らかに残っている面子が武闘派ばかりだ。ここで喧嘩でも始めようってことか? 龍園一人ぐらいなら何とかなるかもしれないが、ここまで人数の差があると俺でも無理だな。

 

「なら、西野が退学しないように条件を呑めるな?」

 

「それは条件によるな。しっかりとした手続きを踏んだ上でな」

 

 やっぱりそう来るよな。西野を使ってCクラスの情報を探っていたツケが来たか。だが、どういう条件がくるのか。康平か坂柳の退学か? ありえるが、俺にその条件を突きつけてくるとは思えない。俺か神室の退学か? いや、龍園が俺や神室にそこまでの危機感を抱いているとは思えない。……無難にポイントか?

 

「こっちの被害も計り知れねぇからなー。400万ポイントだ。後は、Aクラスの情報を俺に渡せ」

 

「私の為にそこまでしなくていいから。こっちのミスでバレたんだから」

 

 中々に吹っかけてきたな。でも……400万か。一括じゃなければいけなくてはないか? だが、情報の方が面倒だな。康平が指示を出している時に俺が龍園に情報を流して、坂柳派に龍園から情報が流れたら、全く笑えないことになる。素直に呑みたくは無いな。

 

「西野。大丈夫だ。お前の身は何とか保証してみせるよ」

 

「なら、この条件を受けるってことでいいんだな?」

 

「いや、それは受けられないな。そうだな……試験ごとに10万ポイントで情報を売るならいいぞ」

 

 あえてふっかけるレベルの条件を出す。はっきり言えば10万ポイントでもあまり売りたくはないが、何とか条件を変えてもらえるように誘導する努力はする。

 

「てめぇの考えてることなんて分かってんだよ。葛城に不利になる情報を渡したくねぇんだろ?」

 

 やはり、龍園を侮る訳にはいかないな。俺の浅はかな考えなんて簡単に見通されるみたいだ。いや、それでも、出来る限りの努力をしよう。西野にあんなことをさせた俺の責任でもあるんだから。

 

「ああ、そうだ。俺は康平に不利になるような条件を呑む気は無い」

 

「だが、西野の退学は止めたいと。なら、情報以上の何かを貰わないとな」

 

 勘だが……龍園は本気で西野を退学させようとはしていないとは思う。根拠は無いが、ただ龍園はそんな人物では無いと思う。妹とも多少似ていることだし、多分、それが根拠になっているんだと思う。でも、それでも、俺は西野への義理から何かしらを払わなきゃいけない。

 

「……分かったよ。なら、1000万ポイントでどうだ? もちろん、直ぐには払うことは出来ないが、そうだな……卒業までの借金でどうだ?」

 

「信用出来ねぇなぁ。てめぇが飛ぶのだってあるじゃねぇのか?」

 

「心配するな。契約書も作るし、月々それくらいの金額は払うつもりだ。もちろん、利子は無しだ」

 

 俺と龍園は目を離すこと無く見つめ合う。それはロマンチックとかそういうのでは無く、ただただ腹を探っている。それ以上でもそれ以下でも無かった。だが、これで分かることだってある。龍園は折れる。

 

「ククク、乗ってやろうじゃねぇか。てめぇはこれ以上折れるつもりがねぇらしいからな」

 

「そうしてくれると助かる」

 

 お互いが了承したことにより、話は終わり、トントン拍子で互いの担任が見守る中で契約書にサインすることになってしまった。本来ならもう少し軽い条件にしたかったんだが、龍園相手にはそこまですることは高望みだからな。これで納得するしかないだろ。

 

「……下関」

 

「西野か。龍園は教室に置いてきたのか?」

 

「うん。それで言いたいことが」

 

「もう何も言うな。俺と西野は何の関係も無かった。西野のことを勝手に使った俺のことなんて忘れてくれ。それがお互いの為だ。……一言だけ言うなら、俺なんかの為に働いてくれてありがとう」

 

 

 後ろを振り向かずに廊下を進んで行く。ただただ散々利用したあげく、こんな風な別れになるなんて、本当に申し訳無い。ただ、これからは普通に学生生活を送って欲しいな。

 

 

★ ★ ★

 

 

 数日後、この間神室から聞いた通り、AクラスはBクラスへの攻撃をすることが坂柳からクラス全員へと共有された。そして、その後の連絡で毎回のテストの半分以下の人間は次の小テストで意図的に点数を下げるように指示が出された。なんでもそれが期末テストのペアの法則らしい。いつの間に法則を割り出しかは知らないが、敵とは言え、流石坂柳だな。

 

「このペアを決める法則は康平は分かってたのか?」

 

「大体わな。しかし、いまいち詰めが出来ず、確信は持てなかったがな」

 

 その後も康平と様々なことを詰めていく。主に今回の期末テストに対することだけど、葛城派の学力なども改めて確認した。それを見てみると、葛城派に属している生徒の学力は中位帯が多かった印象だ。

 

「少し問題だよな。今回は中位帯の生徒が一番危険だから」

 

「ああ。だが、小テストだけならば特に何もする必要は無い。期末テストが始まる前から学力を上げるようにすれば良い。今回のテスト、そこまで警戒する必要は無いな」

 

 康平の提案は実に理にかなっていて、実行するのも出来そうだった。康平は今回あまり坂柳を警戒していないようだけど、念のため今回の試験では自分のクラスの人間を退学させようとすれば出来るとは思っておいた方が良いとは思う。

 

「そういえば康平……報告しなきゃいけないことがあるんだ」

 

「どうした?」

 

 俺はこれまであった西野と龍園とのことを隅々まで何から何まで語った。その中には龍園との契約のこともあって、はっきり言えば、絶交されるか、怒られるぐらいのことをされる覚悟はあった。

 

「……そうか。それは上手く乗せられたな。だが、まだ現実的に条件になってくれて良かった。情報を売ることにならなかったことが幸いだな」

 

「それに……Aクラスが勝つ為に色々やってくれたんだ。お前のことを責める訳にはいかない。俺も少しそういったものも出来るようにならなくてはな」

 

 本当に康平は優しい。許してくれるばかりか……反省もするなんて。その優しさが嬉しいと同時にそんなことをさせてしまっているのが申し訳ない。ああ、俺は狡い人間だな。

 

「その1000万はみんなで何とかしよう。少しづつ払っていけば何とかなるはずだ」

 

「本当にありがとう。迷惑ばかりかけて、ごめん」

 

 後輩に対して頭が上げないまま、その日の会合は終わった。これからも色々試験があるっていうのに、面倒ごとを抱えてしまったな。何とか康平が主導権の時は勝てるようにしないと。

 

 

★ ★ ★

 

 

 件の小テストの時間にBクラスにアタックすることが真嶋先生から発表された。これで、正式にクラスが決まったことになったな。そして、次の日、小テストの返却日となった。しかし、誰と組むことになるかが問題だな。Aクラスの学力ならば、誰に当たっても問題は無いが、もしもの可能性はある。出来れば知っている人間に当たるのが嬉しいが……。

 

「では、期末テストのペアについて発表する。このペアについては変更することが出来ない。そのことを分かっておいてくれ」

 

 そして、黒板に画用紙のようなものが貼られた。そこにはAクラスの人間の名前がずらーと書かれており、誰が誰とペアだと言うことが分かりやすかったもので、その中の俺の名前は坂柳とペアだと言うことを示しているものだった。

 

「は?」

 

「下関くん。よろしくお願いしますね?」

 

 これが坂柳の陰謀なのか、神様のイタズラなのかは分からないが、どちらにせよ、俺の苦労と疲労が高くなるのは間違いなさそうだった。

 

「テスト勉強をするのももちろんだが、共にテスト問題の提出も忘れないように。では、健闘を祈る」

 

 後は生徒達に任せるというように真嶋先生は後ろに下がっていった。それに伴うように坂柳が神室と山村に連れられ、前に出てくる。その表情はここまで全てが上手くいっていると確信しているような顔で、気味が悪かった。

 

「では、これからの方針を軽く伝えます。ペアになった同士でお互い、テスト勉強をして下さい。こちらとしてはお二人の方針に一切干渉しませんし、指示を出すこともしません。しかし、もし赤点となっても自己責任ですので。テスト問題については私が責任を持って考えさせてもらいます。以上です」

 

 坂柳の方針は放任主義と言えるようなものだったが、Aクラスということに胡座を欠き気味だった今の自分たちには学力を上げる良い方針だと思う。これは……坂柳からの落とせるものなら、自分を犠牲に落としてみせろという挑発なのか? そんな感じがしないことも無い。

 

「下関くん。今回のテスト勉強は貴方が勉強しろと言ったところしかしません。私はテスト問題を作るので忙しいので」

 

「え……ああ、分かった」

 

 各々がペア同士で固まったところで坂柳から言われた一言。つい、反射的に返事をしてしまったが、ヤバかったんじゃないのか? 坂柳が退学すれば俺もまとめて退学。それにプラスしてわざとやったと疑われ、康平も終わるかもしれない。はぁー綾小路にも会わなきゃいけないのに、今回の試験は疲れそうだ。

 





 西野との関係を変えるのはこのタイミングしか無いと思ってました。


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苦悩 経験したことのないこと

 今回でペーパーシャッフル編はほとんど終了です。


 

 期末テストの発表された日からAクラスのほぼ全員が今まで一緒にいたような人間関係からペアの人と一緒にいることが多くなっていた。かくいう俺も残念ながら、康平と一緒にいる時間よりも坂柳と一緒にいる時間が多くなっている。そのせいで今もカフェで坂柳と勉強していた。しかし、坂柳は微笑むばかりであまり勉強をしていないようで、俺のことをずっと見ていた。なんというか、坂柳に見られていると、ストレスを感じてしまって全く集中出来ない。

 

「坂柳。勉強しなくてもいいのか?」

 

「ええ。家で必要な量はしているので」

 

「だったら、何で勉強会なんて企画したんだ」

 

 俺の疑問にも坂柳は笑みを浮かべるばかりで、答える気は無いらしい。俺の行動を制限するのが狙いか、気まぐれかは分からないが、これでは俺のテストも危うくなるかもしれない。本当に何で坂柳とペアを組むことになったんだか。

 

「そういえば、このカフェには多くの人が来ていますね。下関くんのお知り合いも何人かいるのでは?」

 

 坂柳の疑問は要領を得ないものだったが、世間話という点で言えば妥当という話題だった。しかし、坂柳は綾小路に味方する可能性が大いにある。俺の交友関係は出来る限り黙っておいた方が良いだろうな。実際に今日は部活がある日だったので部活関係者はいないが、知り合いレベルなら見た顔はいる。

 

「居ても居なくても坂柳には関係無い。それに俺は坂柳を警戒している。簡単にプライベートのことを話せない」

 

「……それは私が綾小路くんと知り合いだからですか? ふふ、ならば、心配はありませんよ。もう種はまきましたから。私が必要以上に干渉するつもりはありません」

 

 ……坂柳の言っている種は綾小路に俺のことを教えたことを言っているのか? 何故教えたのかも坂柳が何を考えているのか分からない中、坂柳の言うことはいまいち信用が出来ない。ただ学校に入学した今の綾小路の実力を俺を使って知りたいだけかもしれないが。

 

「俺から綾小路のことについて坂柳に話す事は無い。これは俺の問題だからな」

 

「そうですか。その割には神室さんを巻き込んでいるように見えますが?」

 

 坂柳は相変わらず勘が良いというか、痛いところをついてくるな。これについては……俺は何も言えないな。神室の立場もあるし、俺から巻き込んでしまったんだ。下手なことを言わない方が良いな。

 

「神室とはただの恋人だ。それ以上でもそれ以下でも無い」

 

「そうですか……まぁ、お二人は恋人なので、プライベートなことにはあまり触れないことにしますよ」

 

 そう言った坂柳の顔は嫌な笑顔だった。本当に何処まで知っているか分からなく、何を考えているか分からない坂柳は本当に接しにくいし、ストレスが溜まる。ほとんどずっと一緒にいる神室に改めて敬意を払いたいよ。

 

 

★ ★ ★

 

 

「だから、本当に神室のことを尊敬するよ」

 

「今更? でも苦労を分かってくれたみたいで良かった。あれもあれで楽しい時もあるんだけどね」

 

 勉強でのストレスや綾小路に対するストレスを癒やすように神室の手料理を食べながら、神室の部屋でゆっくりと会話して過ごす。こんな風なストレスの解消法はなんか……青春している感じで良いな。このままゆっくりしたいけど、やることばかりだ。俺の安泰の青春は程遠いな。

 

「それで……今回は何の話がメインなの?」

 

「坂柳のことだ。坂柳に対しては何もかもがバレている気がしてならない。いや、バレてなかったとしても俺の反応でバレた可能性だってある。……神室の立場が悪くなるかもしれない。……ごめん」

 

 俺のせいだ。今更だけど、俺が神室を巻き込んだから、こんなことになったんだ。今さら頭を下げたってダメだって分かってるけど、やらなきゃ気が済まない。

 

「そう思うのは坂柳だから、仕方ない。私だって薄々感じてるところがあった。実際に坂柳は全部知ってるかもしれない。でも、下関のやってる事に坂柳は多分関係無い。下関は坂柳を無視して下関のやりたいことをやり終えればいい」

 

 ただただ優しい神室の言葉が俺の中に沁みる。こんなに優しい子の魅力がみんな分かっていないのかな。いや、俺だけが分かっている方が良いのか。

 

「……坂柳の片腕っていう立場も下関に手を貸すって決めたときから、何時でも捨てられる覚悟は出来てた。だから、坂柳自身から切られるまではやり切るから、気にしなくていい」

 

「ありがとう。これからも、色々とお願いすることになるけど、頼む」

 

「分かってる」

 

「それで、申し訳ないけど……また頼みたいことがあるんだ」

 

 こんな形にはなってしまったけれど、前から話すことを決めていた頼み事のことを話す。謝った後にこんな事を言うなんてむしがいいことは分かってる。でも、これは神室にしか頼めないことだ。いつかは恩返しをしないとな。

 

 

★ ★ ★

 

 

 期末テスト一週間前の今日も坂柳と学校での勉強会を終え、寮に戻ったんだが、そこには多くの人だかりが出来ていた。何の人だかりか、全く見当も付かないなぁ。俺に関わることじゃなければいいけど。

 

「何かあったのか?」

 

「ああ。全員のポストの中にこんな紙切れが入っていたんだ」

 

『1年Bクラス一之瀬帆波が不正にポイントを集めている可能性がある。龍園翔』

 

 この内容は非常に驚くものだった。まずは一之瀬にそんな疑いがあったということだ。これを見るまでそんな噂も可能性も全く持って把握してなかった。後はこれに龍園の名前が書いてある事だ。龍園はこんなことをする奴ではあるし、やりかねない。でも、そんなことをわざわざ自分の名前を書いてやるか? 他の人の名前が書いてあって、それを龍園がやった方がまだ信じられる。一之瀬だって、そうだ。一之瀬はポイントを多く持っている可能性はあるが、それを学校側が今の今まで不正だと言っていないのだから、不正の疑いは低い。それくらの信用は学校側にしているつもりだ。まぁ、言いたいことはこの紙は信用出来ないってことだ。

 

「おい、龍園が帰って来るぞっ!」

 

 そんな風に全員が龍園と一之瀬に別々の疑惑をかけている中、龍園が帰って来たようだった。龍園はBクラスの人からの詰め寄りにも飄々とかわしており、やっているのかやっていないのか分からなかった。本当に食えないやつだ。

 

「どうなんだ一之瀬?」

 

 また渦中の人物が寮に戻って来た。一之瀬は堂々とした態度を崩そうともせずに不正は無いと主張する。どうやら、学校側に詳細を話して学校側を通して無罪を証明するらしい。だが、結局のところ、今回の騒動はすぐに収まるだろうな。学校側から一之瀬は無罪だと証明されたら、終わり。今回のことを仕向けた人間は何が目的なんだ?

 

「さて……何がしたいんだか」

 

 俺の知らないところで起きているよく分からないこと。これまでも色んなことが起きてきたが、大体は把握してきた。だが、最近は把握し切れないこともよく起こってきた。そういった見えないとこにもこれからは目をつけていくべきだろうな。

 

 次の日には一之瀬の無罪が学校側から出された。その影響による一之瀬の支持率もこの疑惑が知られた前とあまり変わりないようだった。本当に何の為に今回のことが起こったんだか。

 

 

★ ★ ★

 

 

 あの一之瀬の問題から数日、ついに期末テストまでもうすぐというところまできた。他クラス、自クラスともにテスト用紙は提出したらしい。坂柳もそれを察したのか、最後のテスト対策というように全員に向かって自身のクラスが作ったテストを課した。誰もそれをやることを聞いていなかったらしく、全員が驚きに駆られながらもテストを受けた。俺もそれをやったが、中々に難しく、何というか……引っかけが多かった。

 

「皆様お疲れ様でした。このクラスのテストは他クラスのテストよりも勝っていると言えるでしょう。このテストをよく出来なかった人たちはこの数日間、しっかりと勉強して下さいね。ああ、それとテスト情報が漏れた場合の対処は厳格にさせていただきますので」

 

 問題用紙、解答用紙が全て揃っていることを確認すると、丸つけをする事なく坂柳は全員に釘を刺す。相変わらずしたたかな人間だな。本当に情報を流そうとしようとしたら、冗談で済まずに坂柳によって退学させられるだろうな。

 

「康平。この坂柳が課したテスト、どうだった?」

 

「内容の出来に対しては坂柳らしいと言えるな。そして、この坂柳のテストを自身のクラスにさせるという戦略は敵ながらも素晴らしいものだ。出来たという自負のある者は自信がつき、出来なかったという自覚があるものは危機感にかられ、勉学に励む。やはり、坂柳は侮れんな」

 

「そんな事言って、康平が指揮をとった場合でも同じようにしてたでしょ? でも、そこまで心配しなくてもAクラスの学力は低くない」

 

「念には念を入れるも大事なことだ」

 

 坂柳によるテストが終わった後も最近あまり直接話せていなかった康平と久々に話した。今回の試験が終わって、次の試験になったら康平の指揮になる。その時になればもう少しは喋る機会も増えて、康平の右腕らしいことも出来るだろうな。それに……今回であの事も少しは進展するはずだから。

 

 

★ ★ ★

 

 

 そして、遂に期末テストの日となった。期末テストの内容は如何にもBクラスと言ったもので堅実で難しいものとなっていた。坂柳のテストで疑心暗鬼が増していたが、こんな感じの問題傾向だったら、そこまで心配することも無いだろうな。

 

「そこまで」

 

「これで全教科のテストが終わった。結果はまた後日に伝える。それまで、テストで疲れた身体を癒してくれ」

 

 真嶋先生の号令によって、テストの終了が宣言される。この宣言によって、Aクラスの人達全員の緊張が解けた。俺もそのうちの一人だが、なんだかんだ言って疲れたこの試験が終わると思うと、本当に、本当に嬉しい。坂柳と過ごす事がこんなにもストレスだったと知れたことは大きかったが。さて、テストも終わったことだし、他の用事も終わらせないとな。

 

 

★ ★ ★

 

 

 翌る日。俺は別棟にいた。ここは防犯カメラも無く、ろくな空調システムもないから、近寄る人間は何かやましいことがある人ぐらいしか居ない。そんなところにいる俺もやましい人間な訳だが。

 

「おはよう。来てくれて嬉しいよ綾小路くん」

 

 そこに来たのは神室に連れられてきた綾小路清隆。俺の復讐相手、その人だった。




 いよいよ次回、綾小路清隆と相対することになります。


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対峙 お前さえいなければ


 今回は6巻からの続きで7巻にも食い込みます。


 

「何でここに連れてこられたか分かるかな綾小路くん」

 

「さぁ、分からないな」

 

 俺の疑問にも間髪入れずに返す綾小路。相変わらず表情の読めない人間ではあるな。何処までこっちのことを分かっているかは分からないが、やるしかないだろうな。

 

「綾小路くん、いや、綾小路。俺はお前を許さない」

 

「俺はあんたに何かをした覚えは無い。もし、仮にしていたとしたら今謝る」

 

 とっとと話を終わらせようとしている? いや、俺のことを知ろうとしているのか? 綾小路は多分、坂柳から名前を聞いたぐらいしか俺の情報を知らないはず。……ここで俺の情報を拾おうとしているのか。

 

「その必要は無い。俺はいくら言われようと許すつもりは無いし、これは逆恨みだ」

 

「だったら、俺には関係無い。そいつに恨みを晴らしてくれ」

 

「そいつの名前は綾小路篤臣。お前の父親だ。なぁ、ホワイトルームの最高傑作」

 

 綾小路の目つきが少し変わったような気がした。いや、俺への警戒度を少し上げたっていう方が正しいか。さて、ここからどう出てくるか。ここで殴り合っても勝てはしないからやめて欲しいけど。

 

「坂柳から聞いたのか? それとも……」

 

「いや、正真正銘知っている。坂柳と俺は別陣営だし、協力関係では無い」

 

 綾小路はチラッと綾小路の後ろに待機している神室を見る。俺と坂柳が無関係なら、神室は何だという理論は分かる。それについてまで綾小路に語る必要は無い。こいつは敵だからな。

 

「ホワイトルームの脱落者なら、俺を恨むのは筋違いだ」

 

「何がホワイトルームだ。そんなものの為に命を投げ出す必要なんて無かった。とっとと閉鎖すれば良い。綾小路、お前がここを退学する程度の実力しか無かったら、あの施設も閉鎖だ。それに何だその表情は。自分は関係ありませんみたいな表情をして、俺がどんな思いでこの人生を生きてきたのか分かってるのか?」

 

「……下関。趣旨ズレてる」

 

 ついつい綾小路にこれまでの不満をぶち撒けてしまった。こんなことをするつもりは無かったんだけどな。いざ綾小路のことを見てしまうと、抑えが止まらなかった。神室が止めてくれて良かった。止めてくれなかったら、胸ぐらを掴むところだった。

 

「ごめん神室。それでだ綾小路、俺が言いたいのは俺と直接勝負をして欲しい」

 

「言っている意味が分からないな。俺に勝負を受ける理由が無い」

 

 だろうな。綾小路はそんなリスクがあるようなことをする人間じゃない。いつだって、自分じゃないと思わせるように裏で行動する。だが、一度断れたぐらいで諦めるわけにはいかない。

 

「じゃあ、言葉を変えよう。俺と勝負をしろ。断るなら、こっちにも考えがある」

 

 綾小路にとって俺は未知だ。まだまだ俺に対する情報は足りず、はっきりした実力も分からない。その上、俺は綾小路の過去を知っている。受けざるおえない。

 

「……分かったら受ける。いつ、何で勝負するつもりだ?」

 

「勝負形式は特別試験だ。どの特別試験になるかはこちらからその試験になったら連絡する」

 

 綾小路は頷いたと思うと、とっとと去って行く。本当に分かっているのかは疑問だけど、これで約束は取り付けた。もし、綾小路破った時用に色々としておかないとな。

 

「下関。これで良かったの?」

 

「うん。これで綾小路は迂闊に俺を退学に出来ない。そんなことをすれば、何が起こるか分からないからな。俺が綾小路に勝てるかは微妙だけど」

 

 やるべきことが終わり、満足したので神室とともに家に帰る。これからは綾小路に勝てそうで邪魔が入らなそうな試験がくるのを待つだけだ。さて、楽しみだな。

 

 

★ ★ ★

 

 

 あれから数週間が経って、12月もいいぐらいに過ぎてた頃。結局、まだ何の発表も無く、俺は怠惰な日々を過ごしていた。康平としゃべり、真剣に弓道に取り組み、神室とほとんど毎日を過ごす。こんなにも良い日常を過ごしていいんだろうか。いや、良いんだ、俺の人生はこれからどうなるか分からないだから。

 

「明日、買い物行かない?」

 

「買い物? 良いな。冬服も足りないし、偶には外で神室と遊びたいもんな」

 

「うん、そう……だね」

 

 照れているのか神室は露骨に目を逸らす。神室から言ってきたんだけどな。まぁでも、最近になってこういう表情をよく見れるようになったのはちょっとした嬉しいところだ。

 

「待ち合わせは何処にするの?」

 

「教室からそのままで良いんじゃない?」

 

「そうしよっか」

 

 神室と約束し、いつものように部屋に戻る。ここ最近はいつもいつも神室の部屋にお邪魔してばかりだから、偶には俺の部屋に招きたいな。

 

 

★ ★ ★

 

 

 神室との実質的なデート。それが楽しみで夜はあまり寝れなかった。付き合っているのにあまりデートをしてこずに、放課後は一緒に帰ることばかりしかしてこなかったけれど、今回はそれに加えて本格的なデートだ。そのおかげで授業中も悶々しっぱなしだった。

 

「対策会議で行くの遅れたね」

 

「仕方ない。でも、まだ時間はあるから」

 

 放課後にあった葛城派と坂柳派によるこれからに対する対策会議。Aクラスが唯一一つになるといっても過言ではない機会だけど、今回は早く終われとしか思ってなくてほとんど話は聞いてなかった。見てたところ、神室も同じことを思ってたみたいだけど。康平には申し訳ないけど。

 

「早歩き早くない?」

 

「ごめん。ちょっと焦っちゃった」

 

 焦って早く歩いてしまった。彼女にそんな事を言わせてしまうなんて彼氏失格だ。神室と歩幅を合わせるようにして、正門近くを通り過ぎようとする。その直前……黒服の。

 

「下関! 下関! 大丈夫!?」

 

 

★ ★ ★

 

 

 目が覚める。辺りが白く、刺激的な色が無い。ここは保健室なのかな。頭が痛い。

 

「下関。大丈夫? いきなり倒れて」

 

「一応大丈夫。まだ頭は痛いけど」

 

 一体何が……いや、ああ、分かった。そうか、そうなんだな。あいつが居たんだ。頭が痛いながらも俺の記憶にはしっかりと残ってる。あいつがここに。

 

「神室。俺が倒れた時。変な黒服の奴がいただろ?」

 

「うん。下関が倒れたのに見向きもせずに正門から出て行ったけど」

 

「そいつが綾小路篤臣。綾小路清隆の父親だ。昔、見た事あるから、よく覚えてる」

 

 何であいつがここに居たかなんて分からない。だけど、遂に俺はこの目で自身の仇を目にしたんだ。手に包丁があったら、気絶さえしなければ俺は、俺は。

 

「あいつが? 下関の仇?」

 

「ああ。今すぐにでも殺してやりたかった。父さん達の無念を晴らしたかった。でも……俺は……俺は結局、綾小路と初めて会った時と同じで恐怖で倒れた。俺はまだ怖い」

 

 綾小路に慣れてしまったから、もういけると思っていた。もう、過去のトラウマには恐れることはないと。でも、それ自体が間違いだった。過去はどこまでも俺のことを追ってくる。例え、一つ克服してもまた別の形で襲ってくる。それに多分、あの綾小路篤臣に対するトラウマは綾小路清隆に対するものよりも大きいと思う。

 

「殺したら駄目なんじゃない? そんな勝ち方はモヤっとするし。あの人を勝ってこそでしょ」

 

 そうだ。俺は神室のこんなところに惹かれたんだ。他人のことをどうでも良いって思ってるのに真理をつくような道を示してくれる彼女が。神室の俺のことを知られた時もそうだった。説得する訳でも止める訳でも無い。ただ俺のことを肯定してくれた。そんな神室が隣に居てくれて良かった。

 

「そうだよな。殺したら意味がない。あいつの計画を、あいつの立場を追い出してこそだ。俺は改めて誓いたい」

 

 神室の顔を見てしっかりと頷く。神室も俺の顔を見て頷く。また新しい気持ちになれたかもな。でも、それにはここを無事に卒業する必要があるし、綾小路を倒す必要もある。本当にいけるか不安だけど、やるしかないよな。

 

 

★ ★ ★

 

 

 綾小路との対面から数日後、俺はある人間に呼び出されていた。しかも一人でだ。はっきり言って、あまり親しくない人から一人で呼び出されるのは警戒しない方がおかしい。だからこそ、俺は一人で来たが、事前に神室には一日帰って来なければ先生に報告してと話していた。学校内だから、そこまでする必要は無いと思うが、念のためだ。

 

「それで何の用かな櫛田さん」

 

「うーん、綾小路くんとの関係が聞きたいんだよね」

 

 櫛田桔梗。干支試験時、何故かCクラスに情報を渡した人間。この時点で匂う要素ばかりなんだが、呼び出し方がメールでこの間の綾小路との密会に関してということで行かざる負えなかった。さて、どこまで櫛田が知っているんだか。

 

「綾小路くんか。僕はあんまり交流無いんだよね」

 

「ねぇそんな化かし合い辞めようよ。ちゃんと証拠もあるんだよ?」

 

 櫛田がスマホから出したのは神室が綾小路を連れて特別棟に入るところだった。そんな証拠は俺が綾小路と関係があるという確かな証拠では無かったが……櫛田は俺の次に神室を当たるだろうな。だったら、ここで交渉した方が早いか。

 

「分かった、分かった。交渉といこうか櫛田。そのために来たんだろ?」

 

「ありがとう。じゃあ、私のお願い聞いてくれる? 綾小路清隆の退学」

 

 意外だな。まさかここまで櫛田が望んでいるとはな。しかし、これは渡りに船というやつだ。綾小路からの罠の可能性もあるが、ここでDクラスの情報を得られる糸口が掴めたのは大きいな。情報は掴めるだけ掴んでおくか。

 

「その前に色々と聞かせてくれ。何故龍園では無いんだ? これまでは龍園と組んでいただろ?」

 

「龍園くんとは干支試験ころから今と同じような取引を持ち掛けたよ? でも、結局は今の今まで失敗ばっかり。だから、切っただけ」

 

 櫛田の本当の性格というのはいまいちはっきりしないが、本性が悪どいということだけは分かる。何故こんなにも性格がこんなになったのか気になるところだが。

 

「俺が綾小路の友達という線は考えなかったのか? 綾小路がAクラスのスパイという可能性もある」

 

「友達だったらこんな場所でこそこそ会わないでしょ? 綾小路くんがスパイなのは無い。断言してもいいよ。それに、下関くん、綾小路のこと嫌いでしょ? 私が堀北のことを嫌いな以上に」

 

 中々に頭が回るな。流石にここまで回るなんて思っていなかったが、俺の内面まで見抜いているなんてな。さて、櫛田の本心というのも大体聞けたし、これくらいにしておくか。どうせ、長い取引になりそうだしな。

 

「取引成立といこうか。綾小路を退学させる為に一緒に頑張ろうか。ただ、協力期間はとりあえずは一年が終わるまでだ」

 

「それで良いよ。私も早くしたいから」

 

 風は俺の方へ向いている。綾小路を攻略する為の鍵はいくらあっても良い。例え、どんな手段を使っても綾小路に勝てさえすれば良いのだから。





 いよいよ一年生が終わるまでもう少しというところまでやってきました。


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哀愁 ただその時だけを備えて

 なんだかんだ言って7巻もこれで終わりです。


 

 雪が降り始め、冬休みが近づいてくる季節。数多の生徒達が一喜一憂してくる季節だが、俺は何かきな臭い空気感を一年生全体に感じていた。変な空気感というか、嫌な陰謀が渦巻いているようなそんな気がする。前にも同じことがあったが、その時よりももっと分かりやすい感じではありそうだけど。

 

「──という訳なんだ。何か知らないか?」

 

「うーん、彼女さんが過ごしてる部屋に招待しといてその話なんだ」

 

 神室に聞いたり、康平に聞いたりしたりしても答えが無かったので、俺はさっそく知り合ったばかりの櫛田を自分の部屋に招いていた。櫛田が何度も言っているが、やっぱり彼女がいるのに部屋に女子を招くのは不味いのか。まぁ、ただの取引相手だし良いだろ。

 

「で、どうなんだ? この嫌な空気感の正体は知ってるのか?」

 

「多分知ってるかなー」

 

 櫛田の笑顔は嘘をついてるような笑顔では無かったが、こっちにおねだりをするような顔ではあった。何かしらの見返りをくれってことか。したたかで小悪魔的な女性だよほんと。

 

「分かった。何が欲しいんだ?」

 

「綾小路くんに関する情報があったら欲しいかな。もちろん、信用に足る情報ね」

 

「あーうーん、知っているには知ってるよ。でも、聞いたら絶対に後悔するよ。綾小路に挑むのも恐ろくなるほどに」

 

「あはは、大袈裟じゃない? 綾小路くんは得体の知れない人だけど、そんな事を私が綾小路くんに思うことなんて無いよ」

 

 櫛田は綾小路のことを未だに侮っているようだけど、多分、俺の話すことを信じるならば、そんな事を思えなくなるはずだ。櫛田は学校に入ってからの綾小路しか知らないからな。

 

「櫛田。綾小路がこの学校に入るまでのこと知ってるか?」

 

「知らないよ。綾小路がこの学校に入るまでことは。自分のことはあまり語りたがらないし、語っても冗談みたいに言うばっかり。下関くんは知ってるの?」

 

「ああ、知ってる。綾小路の生まれも育ちもな。俺も冗談みたいなことを言うが、これを信じるも信じないかは櫛田次第だ。俺は真実しか言わない」

 

「面白いこと言うね下関くん。良いよ、話してよ」

 

 これから綾小路と戦っている中でも櫛田が綾小路の過去を知ってると武器にはなるだろう。まぁ、それが原因で綾小路から狙われても俺は文句は受け付けないがな。

 そして、俺は語る。綾小路の生まれた場所。ホワイトルームのこと、綾小路のその能力の起源についてまで話す。聞いている時の櫛田の顔は信じられないというか、冗談みたいでしょみたいな顔だったが、コミュニケーション能力の優れている櫛田はそれでも俺に話を続けさせるほどには聞き上手だった。

 

「──これで俺の知ってる綾小路は全部だ。何か言いたいことはあるか?」

 

「はっきり言えば信じられないかな。でも、本当……何だよね?」

 

「全部本当だ。それにこの事をあまり触れ回ったり、匂わせたりしない方が良い。櫛田の身が危険だ」

 

 櫛田も事態の重さというものを理解し直したのか、少しこちらを睨むような仕草をしたが、直ぐに嬉しそうな顔へと変わった。綾小路の秘密のようなものを聞いて何を嬉しくなったのか知らないが、櫛田も櫛田も変わった人間ってことだろうな。

 

「あ、そうだ。そう言えば取引だったよね。下関くんが感じてる変な雰囲気は多分龍園くんがDクラスの首謀者Xを探してることだと思うよ? 目星もつけてるみたいだし、私にも軽く聞いてきたから」

 

「そういうことだったのか」

 

 これまでのDクラスはDクラスとは思えないほどの飛躍的な躍進を遂げている。龍園のように何か裏があると疑わない方が無理がある。十中八九それは綾小路だとは思うが、それを察してる人はDクラスの中でも少ないってことだろうから。

 

「どういう結末になると思う?」

 

「どんな結末になっても良いかな。綾小路くんも龍園くんが勝っても私に損なんてないからね」

 

 今の櫛田の笑みはいつも見るものよりも何倍悪女のように見えた。でも、これで良い。周りの奴らに媚びへつらって生き残ろうとする奴よりも自分の目的だけを達成する為にどんな目的でも使おうとする。そんな人間の方が何倍も信用する気が起こる。

 

 

★ ★ ★

 

 

 数日ほどが経って、その日急に龍園がリーダーの座を降りたという情報が入ってきた。はっきり言って信じられないことだったが、Cクラスを覗いたり、Cクラスの人間に聞いてみると事実の可能性も高そうだった。流れは龍園が石崎達などに下剋上されたということらしく、現在は本を読みながら教室の端っこにいるらしい。

 

「それで、どうして俺が呼ばれたんですか?」

 

「一年の情報は出来るだけ仕入れたくてな。龍園は見どころがあるやつだと思ってた。何があった?」

 

 その日の内に何故か俺は南雲先輩に呼び出されていた。あれだけ派手に動いていたんだ。南雲先輩も関心はあるんだろう。俺も事前に何も知らなかったのなら、龍園の罠という可能性も疑う。だが、龍園はDクラスの策士X、綾小路を探していた。何かあったというのが妥当だろう。

 

「南雲先輩は何か掴んでいる情報はあるんですか?」

 

「ああ。実は先日、屋上のカメラが急に見えなくなったらしい。イタズラの可能性もあるが、龍園のこれだ。あいつの仕業だろ」

 

 南雲先輩から何枚もの写真が渡される。その写真はカメラが見えなくなる前後の物で確かに見えなくなる直前に誰かの髪が見えた。この色からして、伊吹か? というか、南雲先輩はこんな写真までも入手出来るのか。どうやったかは知らないけれど、この人は末恐ろしいな。

 

「確かにこの写真を見る限り、龍園の可能性は高そうですね」

 

「で、どうなんだ。何か知っているのか?」

 

 南雲先輩にどこまで言うか迷っていたけれど、圧をかけるように睨みつけてくる。ここまで龍園に対して執着してたのかな。いや、何かしらの見当がついてるってことか。南雲先輩に近づく為に情報は出来るだけ出すことにするか。

 

「どうなんだ?」

 

「龍園は密かにDクラスの躍進の原因と言える策士Xを探していました。それは龍園がトップを降りてから、ピタリと止みました。それが原因かなって」

 

 南雲先輩は初めにクスッと笑ったかと思うと、そのまま笑みを堪えることが出来ないのか、上品ながらも最上級に笑っていると誰もが感じることが出来る笑いをした。

 

「そうか、やっぱりか!! それで……策士Xの正体は大体分かってるんだろ?」

 

 さぁここからが問題だ。綾小路のことを南雲先輩に言うかどうかだ。南雲先輩に言えば得られる信用という名の協力というのもあるとは思うが、それによって生じるデメリットも多少はある。例えば、俺の過去を知られるきっかけを与えてしまうかもしれない。

 

「綾小路か高円寺かなと思ってます。龍園もそう睨んでみたいで、二人に接触を図ってました。それ以降の動向は分かって無いです」

 

 綾小路。その名前を聞いた途端、南雲先輩の目が変わった。まるで、綾小路の名前が出ることを分かっていた。いや、期待してならなかったようだった。何でこんなにも南雲先輩が綾小路のことを気にするんだろうか。綾小路は表向きにはただの一般生徒なはずなのにな。

 

「南雲先輩。何を調べていらっしゃるんですか? 俺に龍園のことなんかを聞いてきて。一体、何が狙いなんですか?」

 

 今の俺は多分、自分でも驚くほど低い声を出していると思う。自分の目的が邪魔されそうになってるって本能で感じてしまっているから。だけど、まぁ南雲先輩の考えを全く読めないって訳では無い。

 

「お前、綾小路に触れられるのを嫌がってるだろ。猛烈なコンプレックスを綾小路に感じてるってとこか?」

 

「当たらずも遠からずってとこです。でも、それは南雲先輩も同じですよね。堀北先輩と体育祭で対決し、興味を持たれてる綾小路に変な興味が湧いてるってこと」

 

 俺の言葉にも動揺というものを見せること無く、笑って飛ばす南雲先輩。さて、いつまで腹の探り合いを続けようかな。あんまり続けると、色々と面倒だしな。

 

「まぁいい。綾小路のことについて分かったら連絡しろ。上手くいけば前の右腕の話、考えてやるよ」

 

 俺は指令を受けると、そのまま生徒会室を後にした。南雲先輩はやっぱり難しい人だな。でも、俺との関係値は少しずつ上がっている気もする。この間言った右腕のことも覚えておいてくれたからな。

 

 

★ ★ ★

 

 

 次の日の放課後、下校していく龍園の前に立ち塞がる。情報がもらえるかなんて、そんな都合の良いことは考えてない。ただ綾小路に負けた龍園がどんな思いを持っているのか気になっただけだ。

 

「無視するなよ。気分はどうだ?」

 

 俺のことに気づいた龍園だったけど、俺に興味が無いように何か声をかけることもなく横を過ぎ去っていく。前まではこんな風に立っていても煽り文句を一つを言ってきたんだけどな、ここまで変わってるなんて。

 

「俺に敵うな。お前にはやることがあるだろ」

 

「そんな事は無い。綾小路に負けたお前を見るのも重要な行いだ」

 

 俺から出た綾小路という名前に龍園の足は止まる。やっぱり綾小路だったか。だが、一体何をされたんだ。まさか、綾小路に直接殴られたのか。確かにそれなら、顔についた包帯なんかも説明がつく。学校内で荒々しいにもほどがあるだろ。

 

「俺は下剋上された負け犬だ。俺と戦わなくて良かったな下関。せいぜい、負けないようにな」

 

 龍園の言葉はその全てが前よりも圧倒的に弱々しかった。これは本格的に龍園という人間が終わったな。でも……あれが綾小路に負けたものの末路か。他人事なんて思えないな。俺もああなるかもしれない。いや、あれ以上にひどくなるだろうな。俺は自分で言うのもなんだが、綾小路に対する恨みや執着は龍園より圧倒的に高い。廃人にもなっちゃうかもな。

 

「龍園、俺はお前のようにはならないぞ。俺は綾小路に勝ってみせる」

 

「俺には関係無いな」

 

 龍園は真っ直ぐに寮へと帰っていく。その姿はひどくみすぼらしかったように見えた。俺は神室を迎えに行って、その後にゆっくりと歩きながら寮へと戻る。俺は龍園とは違う、綾小路に勝ってみせる。




 着々と綾小路と下関、共に準備が整っていってます


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幕間 南雲雅の証言

この幕間系は後4人ほどやる予定です


 

 何だって? 自慢の後輩について教えて欲しい? 自慢の後輩……ああ、あいつか。俺としては一之瀬のことを語りたいが、今回はお前が熱望してそうな下関を語ってやるよ。

 

 まず、あいつは馬鹿だな。才能も能力もある癖に、使い方を間違えてやがる。リーダー適正もあるだろうな。葛城や坂柳の下に着くような人間じゃない。とっとと一年全体を俺がやってるみたいに統一して欲しいもんだ。

 

 ああ、そうだ。俺はあいつのことを高く買っている。まず野心に惹かれたな。初めて見た時からあいつの野心には惹かれた。目的を達成する為だったら、何だってしてやる。そんな気概があったからな。堀北先輩が歓迎しなくても俺がしていたさ。

 

 あいつとの協力関係か? あいつが余程の立場にならない限りは支援してやる予定だ。龍園や坂柳、一之瀬をも薙ぎ倒すポテンシャルがあいつにはある。もちろん、ポテンシャルの話だからな。あいつの総合的な実力はそこそこっていったところだな。

 

 だが、あいつは少し甘くなったな。夏休みに入るまでのあいつは勝ちに対して、学校生活全体に対して貪欲だった。だが、今は前ほど貪欲さが感じられない。他に熱中することが出来たのか、学校のことにも積極的に関わろうとしなくなった。神室が恋人になったこともありそうだが、それだけじゃないだろうな。あいつと神室はそこまでの仲には見えない。恋人らしいこともしてないらしいからな。

 

 何故そんな質問をする? お前はそんな質問の答えを俺に求めてるのか? まぁいいだろう。綾小路の実力は未知数で、堀北先輩が目をかけていたことしか情報が無い。そんな中で判断するのは難しいが、下関が勝つことに期待を込めておこう。

 

 軽く調べたが綾小路は大した人脈も無いんだろ? それに比べて下関は派閥の右腕。使える兵隊の量に大きな違いがある。その時点で勝負があったようなものだろう。綾小路が坂柳を抱き込んだら、難しいかもしれないけどな。

 

 綾小路を侮りすぎ? ああ、そうかもな。俺にとっては対岸の火事。一年の生存競争だ。俺には綾小路という人間を細部まで知ってまで考える理由なんてないし、お前に聞かれたから答えたまでだ。もちろん、下関を応援していることは事実だけどな。

 

 俺の後継者か? 下関に一之瀬、お前の言う通り、その2人の可能性が高いな。だが、俺はどちらかなんてまだ決めていない。これからの動向次第だな。一之瀬はリーダーをやってるが、どちらかといえば補佐タイプ、下関は逆にリーダータイプだが、何故か補佐をやっている。どちらとも逆にすれば俺の良い後継者になるだろうな。




次回から7.5巻です。


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第7.5巻
青春 一度しか無いただ一瞬の輝き


今回は青春しかしてません


 

 12月24日。世間では皆がみな浮き足だし、理性というタガが外れると言われている日。この閉鎖的で特殊な空間とも言えるこの高校でもそれは変わらず、学年問わずあらゆる生徒がデートと称して男女で出かけていたり、男子同士、女子同士で遊んでいたりした。そんな中、俺も例外に漏れず、Aクラスの男子ほとんどと遊びに来ていた。

 

「おい、下関。お前神室とは良いのかよー!」

 

「うん。神室とは25日に遊ぶ約束をしたから、今日は男子同士で遊ぼうかなって」

 

「彼女さんが可哀想だよほんと」

 

 本当に他の奴に言われている通りで神室に申し訳なくなる。クリスマスという行事にこの人生で縁が何も無く、クリスマスプレゼントという存在すら忘れていた俺は彼氏失格だ。しかも、25日に誘ったのは昨日。うーん、このダメ具合は治さなきゃな。

 

「涼禅も気を遣ったということだろう。すまないな」

 

「いや、そんなことないよ。俺はただその場その場で行動してるだけだから」

 

 康平の慰めの言葉が逆に心にくる。俺はそこまで大層なことは考えられない。他のことに頭がいっぱいなだけだ。もう少しその辺もちゃんとしないと、康平や神室の優しさだけに甘える訳にはいかないな。

 

「よし、今日は楽しむか」

 

「そうだね。めいいっぱい楽しもうか」

 

 Aクラス。派閥争いばかりで仲良くするのに変な壁があるクラス。そんなクラスの中にも派閥に関わらず友達は出来るし、ある程度は仲良く出来る。今日ぐらいはいつもと違って、その関係性で派閥も関係なく楽しもうと康平と橋本でクリスマスの遊びを計画してくれた。その結果、集まったのはAクラスの男子ほぼ全員。来れなかったのは彼女がいるような人だけ。そして、彼女がいて来ているのも俺だけだ。

 

「じゃあ、ボウリングでも行くか」

 

 大人数でボウリング。俺にはそんな経験が無いせいで珍しいことだと思っていたけれど、都会などではそんなことも無いらしくて、ボーリング場では男子同士、女子同士の集団ばかりで、窮屈ささえ感じるほどの空間だった。

 

「さっすが康平!! またストライクだ!」

 

「偶々だ。だが、ボウリングは腕が疲れるな。もう、動かせないぐらいだぞ」

 

 康平が活躍していたボウリングは3ゲームで終え、その後はカラオケに行くことになった。カラオケでは一つの部屋に全員入るのは非効率ということで2部屋に分かれたけど、俺が葛城派以外の人と親交がそこまで多く無かった為か、こっちの部屋にはそこまで知り合いは居なかった。

 

「おいおい、どうしたんだ。そんな顔をして」

 

「なんでもないさ。ただ、あまりカラオケというものに馴染みが無くて」

 

 そこまで親しくない人の前で歌声を披露する。カラオケを人生で一度か二度しかやったことが無い俺にはあまりにもハードルが高かった。こんなことだったら幼い頃にカラオケを経験しておくんだった。実用的な習い事しか幼い頃はしてこなかったからな。

 

「緊張せず歌えよ。多少下手でも、下関は顔が良いんだ。誰も文句は言わないさ」

 

 橋本の慰めとも激励とも違うような言葉をもらいつつ、俺はマイクを握る。よし、せめて平均点を出さないとな。

 

「今日は楽しかったよ。偶にはこんな風なのも悪く無いね」

 

「そうだな。派閥の垣根を超えて遊び合う。今しか出来ないかもしれないからな」

 

「まっ、俺は下関の歌声が聞けただけで満足だったけどな」

 

 結局、俺の歌声は良い声だけど、リズム感が無いという評価をもらった。そのことをお開きする時まで言うのは本当に橋本は性格が悪い。でも、康平の言う通り、派閥の人数がお互い丁度いいくらいの今の時期にしか出来ないことだ。企画をしてくれてことだけは感謝したい。その部分だけは。

 

 

★ ★ ★

 

 

 25日。今日はいよいよ神室とのデートだ。そのせいか分からないけれど、朝から緊張でいつも以上に朝の準備に時間がかかってしまった。服を選ぶのもいつもの何倍も時間がかかるし、俺は何を意識してるんだ。いつも通りいけば良いんだ。いつも通りいけば。いつもデートはしてるじゃないか。

 

「よし、行くか」

 

 神妙な顔になっている自分を鏡で眺め、俺は家を出る。待ち合わせの時間まではあと30分あって、ここからそこまでも10分もかからない。間に合う。

 無事につく事が出来た待ち合わせ場所には他にも様々なカップルが待ち合わせをしているのか、多種多様な服装をした男女がまだらに居た。でも、俺は彼女以外の人間にはほとんど意識がいかなかった。いつものクール感溢れる服装では無く、ふわっとした服装に身を包み、抱擁感を全身から溢れさせている彼女、神室にしか。

 

「おはよう、ま、待った?」

 

「待ってない。早く行こう」

 

 真正面で目と目を合わせながら、神室とあいさつしたんだけど、お互い周りの環境とか柄にも無く緊張しているのか、会話が全然出てこなかった。そのまま目的地に向かって歩き出したんだけど、その道中でも何を話せばいいか分からなかった。何かネットで見てくるべきだったな。

 

「ねぇ……今日の格好、どう? 割と迷ったんだけど」

 

「うん、凄く似合っている。心が穏やかになる感じがして」

 

「……ありがとう」

 

 こういうのって男が先に言うものなのに、何で思いつかなかったんだ。こんなにも言うチャンスがあったのに。それに、コメントも感覚で言ってしまって、伝わるかよく分からない言葉になってしまったし。序盤から失敗ばかりだな。

 

 

★ ★ ★

 

 

 そんな感じで2人ともがど緊張している中でも時間は進んで行き、モールへと着く。今回の目的はあんまり考えていなかったけれど、夜ご飯の場所と初めにやりたいことだけは考えてある。まだ神室には行ってないけど。

 

「……ここって」

 

「前に来たことあっただろ?」

 

 俺と神室が知り合って少ししか経っていない時に来たダーツをする場所。何故こんな場所かなんて、はっきり言えば、他の場所がいっぱい過ぎて場所が無かっただけだ。

 

「……ごめん、映画館とかいっぱいで。他の場所も多くて、ここしか無いなって」

 

「……別に良い。違う意味でロマンチックだし」

 

 神室は残念そうな顔をしなかった。ただ、ただ少し笑っただけだった。こんな日にダーツをする人なんてほとんど居ないのか、店員さんと俺たちだけだった。

 

「やっぱり下関は弱い。いつもの凄さはどこ行ったの?」

 

「神室がダーツに似合い過ぎてるだけだよ。その顔も立ち姿も、実力も。ダーツプレイヤーを目指すのはどう?」

 

「そこまでの実力じゃない。クリケットとかはほとんどやらないし」

 

 結局、ダーツは俺が負け越して終わった。クリスマスとは思えないほど、静かで2人だけで落ち着けて、なんだかんだ言って、他の場所じゃ味わえない嗜好の時間だった。

 

「次はどこ行くの?」

 

「少し早いけれど、夜ご飯を予約してる。クリスマスだし、当日じゃ無理かと思って」

 

「ありがとう。負担ばっかりかけて」

 

 場所をモールへと移して、目的の場所までゆっくりと行く。今度はさっきと違って緊張も無くなって、会話も充分に弾んでいた。周りのカップル達と比べればまだまだ少ないけれど。

 

「下関じゃないか。やっぱり今日は彼女と過ごすのか」

 

「……南雲先輩。すみません、これだけは譲れなかったので」

 

「いや、良いさ。女を優先するのは漢として当然だからな」

 

 モールで出会ったのは南雲先輩率いる生徒会の人たち。主に二年の人ばかりだけど、中には一之瀬も居た。実は前日、俺も誘われていたのだが、神室との用事を優先して断っていた。ちょっと気まずいな。こんなことなら、何処に行くのか聞いとくべきだった。

 

「下関くん。楽しんでね! 私たちはあっちだから」

 

「ああ、ありがとう。一之瀬も楽しんでこいよ」

 

 一之瀬が上手く南雲先輩達を目的地へと意識を誘導して、俺たちから遠ざけてくれた。そのまま自然と別れられたので、本当に一之瀬には感謝しかないな。気が回る良い子だ。

 

「一之瀬のこと、気になる?」

 

「気になるけど、神室ほどじゃない」

 

「あっ……そう」

 

 偶にくる神室からのからかいも気取ったセリフで返す。そして、神室が少し照れる。そのいつもの流れをしつつも予約をしていた店へと着く。店はイタリアン。今日ぐらいはオシャレにいかないとな。

 

「おいしい。下関はセンスがある」

 

「本当においしいな。こんな店までこの学校の中で食べれるなんてな」

 

「うん、疲れる社会なんかに出なくても良い。案外、ここで過ごしても良いかも」

 

 どちらと言えば、明るげに言葉を放っているのに神室の表情はちょっとだけ寂しげで儚かった。俺には今の神室がどんな心でその面持ちをしているかは全部は分からない。でも、一生かけて分かっていけたい。

 

「俺は自身の目的を達成出来るなら……神室がいるなら何処でも良い」

 

「あり……がとう。絶対に達成しよう」

 

「ああ」

 

 

★ ★ ★

 

 

 夕暮れ時になり、辺りの人やカップルも帰り始めている中、俺と神室も寮への帰り道を歩いていた。偶に吹いてくる風が冷たいけれど、下がり始めている夕日が当たって暖かくもあった。

 

「少しだけ座らない?」

 

「うん、あそこのベンチにしよっか」

 

 黄昏という表現が一番という夕日の光を浴びながら、俺と神室は何をするでもなく、ベンチで隣り合う。神室が何を考えているかなんて分からないけれど、それで構わない。そんなことを今気にするのは野暮だから。

 

「……して欲しいこと……あるんだけど」

 

「なにをすれば良い?」

 

 その答えを聞くために神室の方を向き直る。夕日に照らされ、いつも以上に美しく俺の瞳に映った彼女は目をつぶっていた。ただ何かを待つように。その答えを求めるような無粋なことは俺には出来ない。ただ自分も目を閉じて、神室の唇に触れる。

 

「ん……ぁ……っ」

 

 触れるだけ。ただ触れるだけだったのにこれまで感じたことの無い幸福感と温かみが胸の辺りから広がっていく。久しぶりに感じた人の温かみ。目を開けた神室も温かみに満ちた顔をしていた。

 

「もう一度」

 

「うん。もう一度」

 

 もう一度、神室と唇を合わせる。それは人生で二度目とは思えないほど懐かしく、甘味な味わいだった。さっきよりも長く合わせようとしたけれど、寮への帰り道に綾小路と軽井沢が歩いている光景が目に映る。だけど、そんなものは今は関係無い。今の俺にとっての世界は神室だけだから。

 

「キスって好きかもしれない」

 

「俺も好きかもしれない。ずっとしていたい」

 

 その後、寮へ戻る時にはもうとっくに日は暮れて真っ暗だった。神室と何処で分かれたかも分からないほどに心はホワホワしていた。これが人を愛するってことなのかな。これほどまで人を離したくないって思ったことはない……俺は神室を離したくない。




自分はこういう描写を初めて書いたので、下手だったらすみません


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第8巻
実力 領域外からの一手


 今回から8巻です。ルール説明は省き気味でいきます。

 Cranさん誤字報告ありがとうございます。


 

 ほとんど一年ぶりに訪れた学校公認で学校から出る機会。部活の大会で何度か出ることはあったけれど、康平やAクラスのみんな、他のクラス全員で出ることなんていうのは初めてだった。何のために学校から出るかは聞かされてないけど、十中八九特別試験だろうね。

 

「今回は康平が指揮を取るんだよね?」

 

「ああ。今Aクラスは1195、Bクラスは653、Cクラスは242、Dクラスは212ポイント。盤石と言っても過言では無いポイント差だ。俺も少しは楽な気持ちで試験に臨める」

 

 俺がやったことのせいだけど、Aクラスにこのポイント差があっても龍園との取引のせいでプライベートポイントとしてCクラスに取られてしまう。龍園が居なくなったことで無くなるはずも無く、払い終えるまでは続いていた。

 

「だとしても、坂柳を警戒することに他ないが」

 

「坂柳が退学するまではそうなるだろうね」

 

「ん……まぁそうだな」

 

 そして、バスの中で真嶋先生から今回の試験について説明を受けていた。今回の試験は混合合宿。体育祭以来の一年から三年が同じ試験に挑む試験だ。試験では一学年を6個のグループに分けて、その後他の学年のグループと合流。この大グループで最終日の総合試験に挑む。そして、そこの結果で優秀だったならばクラスポイントとプライベートがもらえる仕組みだ。余程足を引っ張ったら、退学とかあるらしいが、俺や康平、神室にはあまり関係ないだろう。それに、男女別だから、神室とは会えない日々になる。ここまで会わない日々は初めてかも。

 

「目的の場所までに着けば、直ぐにグループを作ることになるだろう。男女揃って作戦を立てられるのは今の時間だけと思ってくれ」

 

 ありがたい真嶋先生からの言葉をもらい、生徒たちに時間が渡される。順番的には今回は康平の指示の元で動く約束になっているけど、今回の試験形式、康平はどういう作戦で行くのかな。

 

「真嶋先生ありがとうございます。さっそくだが、今回の試験は俺が率いるということになっていたが、男女間での指示が取りにくいところから、女子への指示は坂柳に任せたいが、どうだろうか?」

 

 堅実な一手だな。無理に男女とも康平が指揮を執ろうとしても柔軟性や個々の自我の問題でガタガタになる可能性は高いからな。他のAクラスのみんなも納得しているようで、文句は出なかった。後は坂柳が了承するかどうかか。

 

「喜んでお受けさせていただきますが、お互いに最低限のルールは決めませんか?」

 

「もちろんだ。そうだな……退学者を出さないこと。差別的なことをしないこと。Aクラスの勝利を求めることでどうだ?」

 

「私のことを何だと思っているかは知りませんが、それで構いませんよ」

 

 あえて曖昧なルールにすることで、坂柳がもし危ういことをしたときにみんなに疑問を抱きやすくしている。流石だな。それにこうしておけば、葛城派というだけで変な扱いをされる事は無い。そんな事をすれば、強い反感を招くことになるしな。本当に坂柳が守っていたかどうかは雰囲気と神室から聞いて把握するか。

 

 

★ ★ ★

 

 

 三学期になり、日本の四季は冬に当たる。そんな中でバスが止まったのはほとんど山奥とも言える場所。見た目はあまり綺麗とは言えないが、管理はされているような小綺麗さの目立つ建物が二棟。学校ものとそう変わらない大きさのグラウンドと体育館。流石、国が管理している学校、このくらいの施設を用意するのは朝飯前か。全ての建物に暖房がついていることを望むばかりだな。

 

 残念ながら、ストーブが一つしかない、寒さが身体にくる体育館に学校全員の男子が集められる。2年と3年がいることで、1年全体はいつものうるささを潜めて何か指示が出されるのををじっと待つ。そして、いつもは真嶋先生が立つような位置に見たことも無い先生がマイクを持って立つ。

 

「バスの中の事前説明で各自、試験の内容を理解できていると判断させてもらう。よって、この場で改めての説明は行わない。ではこれより小グループを作るための場、時間を設けさせてもらう。各学年、話し合いのもと6つの小グループを作るように。また、大グループを作成する場は、本日の午後8時から設けてある、以上だ。補足だが、大小問わずグループ決めに関して学校側は一切関与しない。仲裁役として入ることも一切しない」

 

 偉い立場であろう先生の長い話の後、学年別に分けられるように距離を取っていき、いよいよグループ決めが始まった。今回の作戦は康平曰く、どのグループにも一定程度のAクラスを入れて、堅実な勝利を目指すというものだった。今のAクラスのクラスポイントならこの作戦でも何の問題も無いだろうな。さて、南雲先輩の方も気になるけれど、こっちを考えるのが先か。

 

「さっそくだが、聞いて欲しい。今回の試験、平等にグループを分けないだろうか?」

 

 康平は予定通りの提案をする。そのさっそくの提案に反応するように神崎に平田、Cクラスの現場のリーダーである金田が近づいてくる。

 

「良い提案だと思うよ。平等な能力になって退学は限りなく少ないと思うから」

 

「だが、それではほとんど全クラスで差が縮まらない。今のようなAクラスが独走状態では素直に頷けないな」

 

「僕も神崎くんに同意ですね。このまま打倒Aクラスで3クラスで組むのもありかと」

 

 やっぱり今の状況では康平の提案は受け入れてもらえないか。でも、これ以上の提案はAクラスから出せないんだよな。これの他は何処かのクラスが過半数を占めるグループぐらいか。結局はどちらかになるとは思うけど。

 

「ちょっと良いかな。リーダーでは無い俺が言うのもあれなんだけど、このどんな試験が出るか分からないこの試験で、Aクラスが居ないのは効率が悪いとは思うよ」

 

 まるで自分たちAクラスが能力的に優れているという奢りのクソみたいな発言。こんな発言を康平にさせる訳にはいかない。でも、こうでもしないとAクラスを食い込ませることは出来ない。

 

「おっしゃる通りだとは思いますが、それとAクラスの提案を受け入れるのは別の話ですよ。どちらかと言えば、もう少し割合を増やしてはいかがですか?」

 

「確かにな。それならば、しっかりとした協議の上で納得出来る」

 

 うーん、Aクラスの提案を聞くっていうのも多分難しいだろうな。平田はこちらに対して頷く可能性はあったけれど、顔を見る限り、しっかりとした協議の方に興味を示したみたいだし、これは難しいかな。

 

「しかし、全クラスの全員が納得するグループ分けは難しいだろうな」

 

「だけど、そうするしか無いだろ。他に選択は無い」

 

「だったら、とりあえず6人立候補するのはどうかな? そのグループに集まりたい人が集まる感じで」

 

 その流れで当然という状況でAクラス代表の康平、Bクラス代表の神崎、Cクラス代表の金田、Dクラス代表の平田は問題なく決まる。でもやっぱり、自分たちのリーダーに群がる自クラスのクラスメイト。茶番じゃないか。

 

「こうなるな。だったら立候補したリーダーで他クラスを指名していくのはどうだ? 余ってしまったグループには涼禅に行ってもらうとして」

 

「俺はそれで構わない。これでAクラスは多少のリスクを負った訳だ。他クラスにも理解をしてもらいたい」

 

 急な康平からの指名にアドリブで何とか答えて、流れをこちらへと持っていく。この方法だったら、他クラスの意向も反映出来、ほとんどのクラスが平等になる。結果的には全クラスの提案の折衷案といった感じかな。何の為の時間だったんだってところはあるけれど。

 

「すまなかった涼禅。お前に危険な役目を押し付けてしまって」

 

「いや、いいんだよ。これくらいはこれからの試練に比べれば安いもんだから」

 

「? ああ、そうだな」

 

 その後はDクラスやCクラスが安心する意味も込めて、優秀であり、信用が一定程度ある浜口が俺と同じようにもう一つの余りグループに配属され、どんどんと4つのグループが指名していくのを眺める。余ったのは全クラスで同じぐらいの数だが、総合的には下位の実力が多いのは口に出さずとも周知の事実だろう。

 

「じゃあ、こっから決めていくか。浜口は希望とかあるか?」

 

「無いですね。ですが、Bクラスが多めの方が嬉しいですね」

 

 余った中には綾小路や龍園、明人などがおり、何とも言えない曰く付きの面子が揃っていた。はっきり言えば、綾小路とこのまま共同生活なんてすれば、俺は自分を抑えることが出来ず、寝込みを襲ってしまうかもしれない。だからこそ、周りに知らないように誘導しつつ、神に祈るしか無い。

 

「なら、俺はAクラスとCクラスを多めに取るよ。その方がそっちも安心だろ?」

 

「そうだね。そっちの方が嬉しいよ」

 

 ドラフト形式を取りながらも相談して自分のグループを決めていく。何とか、運良く綾小路を浜口のグループに押し付けられて、同じ弓道部としての友達である明人を自分のグループにすることが出来た。同じような生活を何日もすることになるんだ。仲が良いやつを取っていくのは当然だ。そして、最後に龍園の処遇を相談する。

 

「こちらとしては出来るだけ引き取りたく無いです。理由は分かりますよね?」

 

「ああ、よく分かっているつもりだ。だが、こっちとしても嬉々として取りたくは無い」

 

 そんな浜口との並行線になりそうな議論を続けていく中、明人が俺の隣にやって来て、申し訳なさそうに、それでも訴えかけるように俺の顔を見る。

 

「涼禅。龍園の面倒は俺が見る。だから、引き取らないか?」

 

「本気……みたいだな。分かった。俺も出来るだけ協力はするよ」

 

 明人が言ってくるよりも前から俺は龍園を自身のグループに入れるつもりでいた。急いで入れなくても浜口が嫌がるであろうことは分かっていたからな。龍園がどのようにして綾小路に負けたのか、後学の為にそれを知ることが綾小路に勝つために重要になる気がする。

 

「よろしくな龍園」

 

「……後悔するなよ」

 

 こっちのグループが龍園を受け入れたことで、一年のグループ作りは終了を告げた。そのまま待っていましたというように南雲先輩が来て、早々に大グループを作ることを提案され、俺たち一年がそれぞれ2年、3年の小グループを指名していく形で、大グループになった。各々のクラスのリーダー達が指揮しているグループは堅実にAクラスの多いグループを指名していった。

 

「俺は南雲先輩のグループを指名します」

 

 そんな中でも南雲先輩のグループはCクラスやDクラスの生徒が多くて、お世辞にも強いチームと言えなかったけれど、南雲先輩に近づきためにも、呼ばれているようにも感じて、指名していた。

 

「堀北先輩。偶然にも別々の大グループになったことですし、一つ勝負をしませんか?」

 

 またいつもの生徒会室のような光景が目の前で始まる。南雲先輩は未だに体育祭のことを根に持っているようで、一年を巻き込むことを躊躇することなく、粘って堀北先輩へと交渉していく。そして、他の人間を巻き込まないことを条件に平均点で堀北先輩と南雲先輩が勝負することが決まった。堀北先輩がもうすぐ卒業するのに南雲先輩がこんな半端な条件の勝負で満足するとは思えないけれどな。

 

「おい、ちょっと待て。お前のことだ高円寺」

 

 堀北先輩との問答が終わり、面白いものを見つけたとばかりに南雲先輩が高円寺の方へと近づいていく。高円寺はあまりに余った綾小路と同じグループで、そうなると必然的に俺たちがいるグループの近くにも南雲先輩が近づいて来ることになっていた。

 

「ああ、君のことは知っているよ。新しく就任した生徒会長だろ? 私に何か用かな」

 

「お前には前から聞きたいことがあってな。丁度いい機会だから、ここで聞いてやるよ」

 

 南雲先輩が目の前に来ても尊大な態度を崩さない高円寺は興味半分に会話を促していく。対する南雲先輩も高円寺を下に見ながら会話を進めていく。その会話内容を聞いていくと、卒業時に現金化されるプライベートポイントをそれよりも高い金額で買い取る約束を3年や2年としていたらしい。ホームページにも次期社長として顔を載せるなどをして、信用を勝ち取るなんて、予想外のことをするやつだよ全く。

 

「私の生まれ持った力をあれこれ言う輩がいるようだが、リベンジボーイはいいのかい?」

 

「リ、リベンジ? ボーイ?? 誰だそれ」

 

「……高円寺、俺のことを巻き込むのを辞めろ。後、俺はリベンジボーイじゃない」

 

「私が咎められるなら、君も咎められて然るべきだろ? ここにいる面々は知っているのかい?」

 

 こいつ、俺の生まれのことを言っているのか? 高円寺コンシェルンの跡取りなら、知っている可能性は大きいが……不味いな。周りの奴も俺に興味を示してきたし、綾小路も俺を見ている。隠すことじゃないが、避けられないか。

 

「どうやら、誰もピンと来てないようだね。彼の祖父は下関涼之助。法務大臣を務め、今は代議士だ。父は下関涼一、知事だったかな。生まれで言えば、私とそう変わらない。彼自身の能力だけでAクラス配属となったかは疑問じゃないかね?」

 

 明らかに俺が不正をしてAクラスになったかのような言い方で、全員からの疑念の目を俺に向けさせている。実際のところ、そんな権力が働いかどうかは俺も知らないが、わざわざあんな悪い意味で政治家の鑑のようなあの爺さんが俺の為に管轄外に権力を働かせてたなんて、考えられない。

 

「そこまでしておけ高円寺。お前はその生まれを実力として使ったことに俺は注意してるんだ。人の生まれをどうこう言うもんじゃない。それに、この学校は公平を謳っているんだ。下関は自身の実力でAクラスになったんだ」

 

「私としたことが、無粋なことをしてしまったようだね。みなも忘れてくれ」

 

 あいつにとっては俺の話題なんて、自分から注目を避ける為の話題なのかよ。高円寺らしいとは言え、こうも平気な顔をして使われると腹が立ってくるな。その後は南雲先輩から解散が言い渡されて、とっとと解散する。他の人に知らても良いが、綾小路に知られたのは痛手だ。本当に。




 各グループの責任者は各クラスのリーダーと下関と浜口です。

 特に政治家のモデルとかは居ませんが、祖父、父、涼禅の三世代総合して、僕自身が思い描く政治家です。


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修行 未知を知る経験

 嵐の前の静けさのようにゆったり進んでいきます。


 

 責任者となった俺は小グループのみんなと共に部屋へと向かう。部屋の中は小綺麗な旅館という印象だったけれど、必要以外のものは無く、スマホも盗られている今の状況ではこの部屋で暇を潰すのは苦労しそうだな。

 

「それじゃあ、ベッドの位置でも決めていこうか」

 

「俺は別に何処でも良い。他の人から決めていってくれ」

 

 相変わらず人間関係に冷めている節のある明人とそもそも興味が無さそうな龍園を除いた面子でジャンケンをする。言い出しっぺの俺が一番に勝ったので、少し申し訳なさが目立つけど、遠慮なく二段ベッドの上を取らせてもらう。その後はまぁぼちぼちの早さで決まっていき、俺の下の段は龍園になった。こいつは本当にこの間までと全然違うな。

 

 ほとんど一年振りとも言える学校の敷地外での食事。女子も交え、500人ぐらいはいるらしい食堂。女子と会える可能性があるのはここしかなく、他に交流する場所はあまりないらしい。だからといって、神室を探しに行くほどの度胸のない俺はご飯を食べながら、神室の姿を目で探したりしていた。

 

「そんなに都合よくいるわけないか」

 

「そんなこと無いと思うけど?」

 

 後ろから聞こえる声に俺は反射的に振り向く。そこにはバスの中で分かれたばかりだが、懐かしいというか、顔が見たかった神室がそこには居た。でも、こんな感じに会えるとは思っていなかったから、気の良い言葉は出なかった。

 

「あ、会えて嬉しいよ神室。新しく組んだグループはどうだった?」

 

「女子は面倒だから、時間はかかった。内容はぼちぼちってとこ」

 

「大変そうだな。俺は龍園を受け入れた以外はそこまで問題は無かったよ」

 

「そっちも人のことを言えないじゃん」

 

 この時間はご飯を食べる時間。だからこそ、俺と神室がいられる時間はほとんど無い。そんなことを分かっているから、俺と神室は残り時間を把握しながら、残りの時間をただただ楽しく過ごしていた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 6時に起床時間だとは知っていた。だけど、こんなにも明るい音楽が鳴らされながら起こされるのはちょっと不愉快だ。自分自身、6時に起きることは辛くは無いんだけど、この音楽は変えてほしいもんだな。

 朝の支度を終え、呼び出された部屋まで向かう。その部屋には2年、3年の先輩方も居て、全員で40人ぐらいが一つの部屋に押し込められていた。そこに新たに来た見知らぬ先生から説明を受け、俺たちはまたも部屋を移動していく。

 

「窮屈な生活になるんだろうな」

 

 まるでお寺にあるような風情あふれた坐禅堂と呼ばらる部屋。その部屋で生徒たちはありがたい説明を受けながら座禅をしていた。中には座禅を組めず、苦労をしている人たちもいたけれど、俺は問題無い。俺の人生が変わったあの時からこんな風に集中することは多いからな。

  その後はそうじの時間という社会人になったらやらないであろうものをやらされて、朝食の時間となった。

 

「まさか、こんな面倒くさいになるなんてな」

 

「そうだな。無人島とほとんど変わらないな」

 

 またも説明されたのは次回から朝食を自分たちで作らなきゃいけないということだった。やり方は説明されて、自分たちで頑張れってことだけど、一人でもサボったりすれば、朝食が無い可能性もありうる。この試験で求められているのはどんな人物とでも交流出来るそういう能力なのか? 

 

「おい、下関。一年から順番に明日から回していくってことでいいか?」

 

「分かりました。それで頑張らさせてもらいます」

 

 南雲先輩からの提案に素早く俺が了承の旨を返事する。今の学校内で一番の権力を持っている人からの提案なんて断れる訳が無い。それにこういうものは後輩からやるもんだと、部活活動から学んでいるからな、そこまで苦痛でも無い。

 

「これじゃあ、起きるのは朝練の時と変わりないかもな」

 

「下関も一緒だし、よりそう感じるな」

 

 今日は学校に用意された質素でありながら、一定の美味しさのある朝食を食べつつ、龍園の方を見る。大丈夫だよな? 特に言っていないが、理解しているよな龍園のことだし。龍園という地雷のようで地雷ではない人間。引き取ったけれど、どう関わっていくかは本当に難しいな。

 

 

★ ★ ★

 

 

 大グループでの授業やグラウンドでの走り込みを終えて、1日の終わりは座禅で締めくくりがされた。流石に、朝やっていた座禅よりも疲れていた為か、全然集中出来なかった。無人島の時にも思っていたけれど、本当にこの学校は容赦が無いよな。来年も再来年もこんな特別試験があるとは思うと、楽しみがある反面、生き抜けるかという懸念も無くはない。

 

 夕食を食べた後、部屋に帰ろうとする通路で人だかりが出来ていた。興味本位と少しでも何かしらの情報を得ようと近づくと、Dクラスの山内? だっけそいつが坂柳を倒してしまって、引っ張り起こしているところだった。こいつが生き残るのは無理だな。坂柳は根深い人間だからな、こんなことをしようものなら、退学させられるぞ。

 

「楽しみではあるな」

 

 そんな不謹慎なことを言いつつも様子を見守ると、何も大きなことが起こらなかったことから、周りの人間は去って行く。そんな中ですっと人混みから出た綾小路が坂柳に近づいて行く。はっきり言えば、綾小路とは関わりたく無かったので、二人に目をつけられる前に俺も人混みと共に遠ざかって行く。

 

「あの二人に目をつけられて生き残れる気がしないな」

 

 山内が去っていくのを獰猛な鳥のような目で見ていた坂柳。そんな山内の行く末に同情をしつつも、自分がその対象になった時にどうするかを考える。やっぱり、坂柳と綾小路は一気に屠るべきか? いや、それは至難の業だな。あの二人を一気に倒すのは無理だ。だったら、どちらか一方からだよな。そして、倒すには綾小路よりも坂柳の方が先の方が良い。俺の心的には。

 

 

★ ★ ★

 

 

 その日の夜、俺は呼び出されて2年の先輩たちが寝泊まりをしている部屋に来ていた。もちろん、好き好んでここに来る訳も無く、南雲先輩に呼び出されたからだった。南雲先輩の右腕になるとは言ったとは言え、南雲先輩は堀北先輩の件もあり、今回の試験では関わりを多く持ちたく無いんだけどな。そんなことを言いながら、南雲先輩と大グループを選んだのは俺だけど。

 

「すみません、南雲先輩いますか?」

 

「いるぞ。入って来い」

 

 この感じは生徒会室を思い出すな。部屋の構造は俺たちの部屋と変わりないのにその感じをこの部屋から感じさせる。南雲先輩のそういうことを思い起こさせる迫力というか、そういった部分は真似してみたいな。

 

「それで何の様ですか南雲先輩」

 

「今回のお前の戦略を聞きたいと思ってな」

 

 この場には南雲先輩以外は居ない。さて、どういう意図で聞いてるんだ? 綾小路に対する戦略なのか、全体的なことに対する戦略なのか。そうだな、とりあえずは全体のことを言うか。南雲先輩が何処まで綾小路に興味を持っているかも未知数だからな。もし、綾小路を退学させるまでも思っているのなら、俺は馬鹿正直に戦略を話せない。一年生の内に決着を着ける為にそろそろ色々考えていきたい。

 

「今回の試験は情報収集とかに徹しようと思ってます。2年、3年の情報やこれからの試験に役立てるために」

 

「無難な戦略だな。だが、2年、3年の情報は探るな。俺が提供してやる」

 

「それはありがたいですけど、何故ですか? 南雲先輩の手間がかかるだけだと思うんですけど」

 

 南雲先輩の眼光は相変わらず強かった。何なんだよ一体。南雲先輩は何がやりたいんだ? 南雲先輩は無言のまま立ち上がり、俺の目の前まで来る。その距離は畏怖を感じるには充分だった。

 

「下関。お前が綾小路に何かしらの思いがあることを大体予想がつく。だかな、俺も綾小路には可能性を感じているんだ。堀北先輩が入れ込むほどの何かをな」

 

 南雲先輩から並々ならぬ感情を感じる。俺とは違う。だけど、大きな感情を。何でこんな感情を南雲先輩が綾小路に抱いているんだ。まさか、挑むつもりなのか?

 

「南雲先輩。俺からいずれ綾小路に関する全ての情報をお渡しします。でも、それは俺が勝って綾小路が退学した時か綾小路に負けて俺が退学した時です。その時になるまでは綾小路に手を出させないで下さい」

 

「……お前がその勝負を挑む保証はあるのか? いつまでもお前が勝負をしなければ、この取引は始まりすらしない」

 

「おっしゃる通りです。でも、それは俺の目を見て判断して下さい。俺が綾小路に勝負を挑まないと思いますか?」

 

 多分、ここで南雲先輩を説得出来なければ、お互いにお互いを気にしながら、綾小路に挑むことになる。それだけは駄目だ。そんな状態で綾小路には絶対に勝てない。でも、俺が南雲先輩を説得出来る材料はこれ以上思いつかない。

 

「いいぜ。お前が綾小路に勝ったら右腕にしてやる。お前が綾小路に負ければ情報が手に入ることだしな」

 

「それで構いません。用はそれだけで良いですか?」

 

「ああ、それだけだ。それと、2年、3年の情報は心配するな。また渡してやる。お前は1年の情報を得ることに専念しろ」

 

「そうさせてもらいます」

 

 南雲先輩のことはこれで片付いたと思ってもいいのかな。これから、坂柳を蹴落とすとしても協力者が多い方が良いから、南雲先輩から協力を得られるようになれたのは大きいかも。まだまだ南雲先輩のことは分からないけれど。

 

 

★ ★ ★

 

 

 林間学校が始まってから早数日。今日も早朝から起きた俺たちは朝ごはんの準備をする。初日から懸念していた龍園も文句も言わず、他のみんなと同じように行動している。龍園ならもっと、なんかこう、違うイメージがあったんだけどな。

 

「龍園。気分はどうだ?」

 

 龍園は特に何か言うことは無く、問題無いように手を振るだけだった。本当にやりにくいな。こんな雰囲気の龍園から綾小路を倒すヒントが本当に得られるか心配だな。それだったら、危険なことを承知で綾小路と同グループにした方が良かったか?

 

「涼禅。無理して喋ることはないぞ。普通にしてれば良いんだ」

 

「そうだな。龍園だけ特別扱いする訳にはいかないな」

 

 そうだ。龍園だけがグループのメンバーじゃない。BクラスやCクラス、Dクラスのメンバーだって同じ寝泊まりするメンバーとしているんだ。もっとその辺を意識しないとな。俺が責任者だから。




 原作でも色々動きはありますが、この二次創作は二次創作の道を進みます。

 活動報告を更新しました。暇だったら見てください。


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贔屓 ただの学生生活と思うなかれ

 今回は風呂回です


 

 この真新しい生活も3日目に突入していた。南雲先輩がいるおかげでかこのグループは何の問題を起こすことなく、順調な調子でこの生活を乗り切っていたけれど、朝の料理は俺が普段から料理をするということが知れ渡ってしまい、俺の工程が増えてしまっていた。リーダーだから仕方ない部分はあるかもしれないけど。そんな朝食とは違って夕食は楽でいいんだけど、1日目には合流出来ていた神室とは今日も合流出来そうになかった。

 

「そんな落ち込むなよ。彼女もご飯を食べる相手がいるんだよ」

 

「それはもちろん分かってる。ちょっと寂しいだけだ」

 

「いいな。俺はその気持ちがまだよく分からない」

 

 今日は同じグループである明人と別のグループではあるけれど功節と食べていた。この三人でいることは大して珍しいことなく、弓道部ではほぼ毎日会っているし、プライベートでもたまに遊ぶ。多少は気心知れた仲というやつだ。この三人でここに揃ったことも奇跡のようなものだけど。

 

「そう言えば、この前、先輩が行っていたけれど、ここにも修学旅行とかあるんだよな」

 

「そうみたいだな。普通の修学旅行になる気はしないけど」

 

「だよな。この学校がそんなただの修学旅行にするはずない」

 

 修学旅行か、懐かしいな。小学生のやつは色々あって行けなかったけど、中学のは楽しかったな。思えば、あれば中学の中で一番の思い出かもしれない。でも、大体そんなものか。

 

「やっぱ北海道とかが良いよなー。飯も美味しいだろうし」

 

「いや、沖縄も離せない」

 

「俺は京都・大阪だな。関西ってあんまり行ったことないんだよな」

 

 三人でお互いが推す地域のプレゼンをしあったことで、昼食の時間ははあっという間に終わってしまった。そんなに真反対な地域を推すことも無いだろうに。こんなに議論しておいてなんだが、場所よりも一緒に回るやつの方が大事だと思うけどな。

 

 

★ ★ ★

 

 

 1日目、2日目はわざと時間をずらして、他の連中と風呂をかぶらないようにしたんだけど、3日目ついに一緒に行こうと誘われた。ここで断ればよかったんだけど、相手が別グループである橋本なことと、2日連続風呂に入っている姿をあまり見られていないことで、あらぬ噂を立てられるのはごめんだったので断れなかった。俺は未だに自分の体についている火傷を見られるのが嫌だ。自分の弱さの象徴だし、まるで弱みを見せているみたいだからだ。でも……もう、そんなことはいっていられない。俺は綾小路を超えなきゃいけないんだ。そのためにこれは乗り超えなきゃならない。

 

「たまにはこういう奴とも裸の付き合いをしなくちゃな」

 

「橋本がそういう柄だと思わなかったけど、俺もそういうのに憧れはするな」

 

 人に自分の弱みをみせながら会話をする。それがどのような気持ちなのかを知りたくて俺は脱衣所で上半身を脱ぎ、下半身を脱ぎながら橋本との会話を進めていく。そして、互いに脱ぎ終わったころ、俺と橋本はお互いを見る。俺の全身を一瞥した橋本は特に触れることなく、風呂場へとリードする。

 

「おー、いっぱいいるね。あそこに何か溜まってやがるな。行くか?」

 

「何か面白い話でもしてるかもしれないからな。行くさ」

 

 本当はそんな理由で行くわけじゃない。俺の身体は火傷だらけで目立つ。こそこそしながら目立つなら、風呂場の中心で堂々と動いた方が楽だ。

 

「あれ、康平もこんな中心にいるなんて珍しいことじゃない?」

 

「俺も本意でここにいるわけじゃないさ」

 

「そうさ!! 葛城さんの大きさをみてもらう為にいるのさ。下……関。お前、修羅場をくぐってきたんだな」

 

 初めて俺の火傷に触れられたのは置いておき、男なら負けられないアレの大きさを競っているらしかった。今は康平とDクラスの須藤が競っていて、勝負は引き分けとなっていた。引き分けってなんだっていうと思うが、あるらしい。

 

「ついでお前らも競ってみろよ。そんなタオルで隠してないでさ」

 

「おお、確かに! 下関、他クラスのやつらに見せつけてやれ。お前の自慢のアレをな」

 

 自慢なんて言ったこともないし、この学校のやつには誰一人として見せたことは無い。そして、そんなに自分のものに自信を持ってない。というか、橋本のやついつの間にか端っこの方に逃げやがったな。クソ、ここで出さなきゃ俺の評価は下がるな……。

 

「……分かった」

 

 俺は黙って前を向く。そして、戸塚にタオルを取らせる。ふっと自分の腰についていたタオルが取れた感覚がする。前に向いていたおかげで他の人たちの顔がよく分かる。……馬鹿にはされてない。

 

「おお! 中々じゃね? 須藤や葛城には及ばないけどデカいな」

 

「金田より少し大きいぐらいか」

 

「どーよ! 葛城派にはデカいやつばっかなんだよ。恐れろよ?!」

 

 意味が分からないことを戸塚が言っていたが、無事には済んだみたいだ。それに平均よりも大きいなら、それはそれで嬉しい。そして、ここでCクラスが秘密兵器のアルベルトを出してくる。俺は康平に着いて行き、その場を離れるけれど、結果は見る必要すらも無かった。外国人のアルベルトに勝てる奴なんているのか? というか、ずっと綾小路があの勝負を近くで見ているのはなんだ? あいつには勝ちたいけれど、まだ腰にタオルを巻いている。これじゃあ分からなさそうだな。

 

「私は常に完璧な存在だ。男としても、究極体なのだよ」

 

 唐突に出てきた高円寺。あいつは自信たっぷりに風呂場の中央へと向かって行く。こいつはヤバいぞ。何もかも完璧なあいつが出てくる時は負ける時じゃない。勝てる自信がある時だけだ。

 

「違う、葛城さんだぁ!!」

 

「おい、やめろ戸塚。高円寺はヤバい。なんか、そんな気がする」

 

「おうよ! 俺がいってやるよ」

 

 何とか康平に恥をかかせることを塞いだところで須藤が名乗り出て、アルベルトと高円寺の三つ巴となる。なんだ、俺はこれから何を見ることになるんだ。自分の身体を洗いながらも、横目でその光景を見る。高円寺のタオルが取られる。その光景はまるで神々しいもので、遠くから見てる俺でも目を細めるほどだった。あれは康平を行かせなくて正解だったな。アレに勝てるやつなんているはずない。あれは別次元だ。

 

「クク。待てよ高円寺」

 

 その瞬間、空気が一気に龍園の声にかき消される。あの3日間ほとんど話さなかった龍園が何故かこのタイミングで声を出す。高円寺もまさか君がという感じで声を出すも、龍園はそれを鼻で笑う。

 

「いいや、さすがの俺もおまえのソレには勝てないようだ。だが、良い勝負をするヤツが一人だけいるかもしれないぜ?」

 

 この中でタオルを巻いている人間。あの神崎や真面目なイメージを持っていた人ですらタオルを取っている。この中でタオルで取っていないのは……綾小路しか居ない。全員それに気づいたのか、全員の視線が綾小路に集まる。

 

「外せ! 外せ! 外せ!」

 

 ここでこれまで一切出なかった外せコールが出る。頼む。綾小路は俺より下であってくれ。ここでぐらいは勝ちたいというクソみたいな欲望を抱きながら、タオルを外す綾小路を見守る。

 

「意味分からないだろ」

 

 綾小路のアレは高円寺のアレと遜色ない大きさだった。その他の評価基準は俺には分からないものの、ほとんど互角に見えた。何でだよ。ここまでもあいつに負けるのかよ。てか、デカすぎるだろ。どういう遺伝子ならあんな風になるんだ? ホワイトルーム関係ないだろ。

 

「どうした涼禅。そんなげっそりして」

 

「いや、何でもないよ。ちょっと高みが高すぎると思ったから」

 

 真っ直ぐ復讐するか。それしかないな、うん。それしかない。身体能力や持って生まれた部位に勝てる訳がないんだから。

 

 

★ ★ ★

 

 

 5日目の夜、深夜の時間。明日、いやもう今日も早起きしなければならないので、こんな時間まで起きているのは褒められた行為ではないんだが、呼び出されたのだから、仕方ない。

 

「一昨日言ったのに、集まるのは何故今日なんだ?」

 

「仕方ないだろ? 坂柳本人が居ないとはいえ、どこにその刺客がいるか分からない。なら、出来るだけ他のやつが疲れそうな日がいいと思ってな」

 

「だからって言って、3日目の脱衣所で誘いをかけて、今日、風呂場で2時にトイレ近くと言ってくるのは少し変だぞ」

 

「他に会えそうな場所が無いからな。仕方ないだろ? それとも変な想像でもしたか?」

 

「俺に神室が居るのは知ってるだろ? だから俺にそっちの気は無い」

 

 誰かに見つかる心配もあるのに呑気にトイレから離れつつ会話を続ける橋本。やっぱりこいつとは相性が悪い。俺がこういう人間を毛嫌いしてるのが大きいからだと思うが。

 

「それだ、それ。その神室が危ないって話だ」

 

「どういう意味の危険って意味だ?」

 

「坂柳から神室に対する感じがあまり良い感じがしないんだよ」

 

「もうちょっと簡潔にしっかりと話して欲しい」

 

 そこで橋本はギラッと笑った。しまった、足元見られた。今のは俺に必死が出てしまっていた。俺の神室に対する必死さが。

 

「そこから先は分かるだろ? 俺がただでこの情報を渡す訳にいかないんだ」

 

「はぁ何が望みなんだ? 俺は橋本が思っているほど優秀な人間じゃないぞ」

 

「今更、謙遜するなよ。それにお前には坂柳ぐらい期待してるんだから。そうだな……Aクラスをいい感じに壊してくれ」

 

「……俺は人の思考や考えは大体なら分かる自信がある。でも、橋本、お前の考えは今になっても全く分からない」

 

 橋本はただただ強い陣営につければいいと思っている人間なのだと思っていた。その為なら誰にだって情報を売るし、誰にだって媚をへつらう。そういう卑怯な人間だから、俺は橋本のことを一方的に嫌っていた。だが、今の橋本の顔は俺が好きな覚悟を持っているように見えた。

 

「このまま坂柳か葛城のどちらがAクラスを支配しても安心し切れないのさ。この3学期に入った段階でも未だにAクラスはまとまっていないのに他クラスはどんどんと成長してる。この意味が分かるか?」

 

「いずれAクラスは負け落ちるってことか」

 

「そういうこと。だから、Aクラスが勝ち残るには一度落ち切って這い上がるしかないってことさ。今ならまだ間に合うからな。それに……俺もその方が都合が良い」

 

 橋本の意見は至極正しい。このクラスの内乱はあまりにも長すぎた。いや、お互いにお互いを落とし合うチャンスが無かったという方が正しいとは思うけれど。Dクラスは綾小路がいるし、Cクラスは龍園が居た。片手間で相手するには難しい。だが、橋本の言う都合は……。

 

「橋本が狙っているぐらいだから、素直にAクラスを成長させたいって訳じゃないんだろうな」

 

「姫さんにもバレてるだろうし、言っておくが、俺はAクラスとして卒業出来るならどのクラスでも構わないのさ。その為に今からでも良いぐらいで全クラスを調節しておく必要がある」

 

「……そういうことか。あまりにもAクラスが勝ちすぎても何かあった時に他クラスに移動出来ない。でも、今のような中途半端な状態でこのままいくと、万が一が起こるのが3年の後半になりかねない。適度に弱らせて他クラスと取引をしやすいようにするってことか?」

 

「まぁ大枠はそんなものだ。Aクラス独走なら俺もこんなことしなくても良いんだけど、流石に微妙過ぎる」

 

 さて、俺がこの話を受けるメリットは橋本を動きやすくなることぐらいか。綾小路に出会う前の俺なら葛城派としてこのクラスを盛り上げる為に断っていた可能性が高いだろうが、今の俺は復讐の方が優先したい。その為には坂柳に何かしら打撃を与えることも必要だ。

 

「分かった、お前の言う状態にする努力はする。その代わり、神室の危険と坂柳の情報を流してくれ」

 

「そうだったな、神室の危険は単純だ。坂柳が神室のことを切ろうとしてるってことだ。お前に染まり過ぎたって判断したみたいだぜ?」

 

「……ついにか。それは対策しないといけないな。坂柳は裏切り者を許すようなやつには見えない」

 

「情報も言ってくれたら流してやるからよ」

 

「ここまできたら過度に疑うことはやめるか。少し対策を練ってくる。じゃあな橋本」

 

 橋本から遠ざかりながら、考え込む。まだ確かでは無い段階で坂柳に手を出すことは出来ない。この特別試験でも手を出せないし、相手がやってきてからのカウンターか次の特別試験が良いか?

 

「頼んだぜ真澄ちゃんの彼氏さんよ。俺もあの子を気に入っているんだ」

 

 あまり寝付けないまま、朝食を作らなきゃいけない朝を迎えた。今日は龍園が起きるのが早かったようだけど、俺がメインで料理をすることに変わりはない。




 直に8巻は終わって、9巻に突入します。そろそろ話をガッと動かしていきたいです。


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進展 試験は終わり、流れは次へと

 後半は致死量の青春になってます


 

 いよいよ一週間と長かった林間合宿も最終日となったことで終わりを告げようとしていた。最終日に課される試験は禅、筆記試験、スピーチ、駅伝の四つだ。全てこの一週間の間に行ったことで、そこまで緊張することなく出来るだろうとは思う。このグループは人数が少ない点が懸念点だが、個々の実力で見ると優秀な部類の人が多い。そこまで問題は無いだろうな。

 

「緊張してるのか明人?」

 

「ぼちぼちな。あまり下手な結果を残せないからな」

 

 禅は試験と言ってもいつもとやることは変わらない。これまでの一週間でやってきた禅をここでもやるだけだ。と言っても、俺は昔から禅ぽいことはやってきた。そこまで低評価になることはないはずだ。問題点は龍園ぐらいだけど、龍園だって退学にはなりたくないだろうから、それなりの結果を全ての試験で出してくれると思う。

 

「浜口君。そっちのグループはどうだったんだ?」

 

「何とかやっていけてるってところかな。でも、みんな良い人ばっかりだから、それは良かったかな」

 

「じゃあ、グループ分けは上手くいったってことだな。こっちも何とかやっていけてはするからな」

 

 浜口たちのグループと一緒にいる時間はそこまで多くなく、直ぐに次の試験の場所へと移っていく。横目で綾小路を観察したけれど、相変わらずの表情だけど、やることはしっかりとやっていて、禅がすごく様になっていた。

 次にすることになったのは筆記試験。これだけが事前に何をやることになるのかよく分からないものだったけれど、始まってみたら、そこまで警戒するものでも無かった。内容はこの林間合宿で習ったようなことばかりで、普通にしているだけで、ある程度は取れるだろう難易度だった。それ故に差がつきにくいものではあるんだけど、このグループが最下位になることは無いだろうから、気にする必要もないか。

 

 

★ ★ ★

 

 

 駅伝の為に移動して出てきたのは外。2月の空気感は寒く、走るのも億劫になるほどだったけれど、やらない訳にはいかない。駅伝は一人が最低1.2キロを走ることが決まっていて、それを合計した18キロを走らなければならないことになっている。俺たちのグループは他のグループよりも人数が少なく、誰かが多く走らなきゃいけないんだけど、さて、どうしようか。

 

「誰かが多く走らなきゃいけないんだ。誰も辞退や志願をしないなら、じゃんけんをしようと思ってる。どうかな?」

 

 俺の意見を聞いた上で志願する選択も辞退する選択もしたものはおらず、全員が完全に運任せのじゃんけんに挑むことになった。そして、じゃんけんの結果で俺ともう一人に決まることになった。ここで龍園がしれっと勝ってくる辺りが、神に愛されてるやつだとは思わずいられない。

 アンカーには運動神経の高いやつを置いたこともあってか、3位という絶妙な順位を取ることは出来た。ここから直ぐにスピーチをすることになったが、ここだけは俺の得意分野だったので満点レベルの自信で終えることが出来た。この出来だったら、ボーダーラインは超えることは出来ただろう。

 

 

★ ★ ★

 

 

「先に結果に触れることになりますが、男子生徒の全グループが学校側の用意したボーダーラインを全て超えており、退学者は0というこれ以上ない締めくくりとなりました」

 

 試験を終え、体育館に集められた生徒たち。その生徒たちを労わるように見たこともない先生によって労りの言葉がかけられる。その後の退学者は無しという言葉に男子中が喜びの声を上げる。流石にこの試験で退学するような生徒は出なかったか。それは堀北先輩や南雲先輩がチーム分けを担当した時から大体は分かっていたけれど、良かった。南雲先輩が堀北先輩に何か仕掛ける可能性も大いにあったけれど、何も無かったか。綾小路に興味の方角が向いたのかな?

 

「一位獲得、おめでとうございます堀北先輩、さすがですね」

 

「お前の負けだな南雲」

 

「そうですかね。まだ結果発表は始まったばかりじゃないですか」

 

 元々狙うつもりの無かった男子の一位の発表などの後、南雲先輩から何処か奇妙で勝ち誇った言葉が堀北先輩へと送られる。淡々と進んで行く女子の発表の中で3年Bクラスのグループが脱落となり、責任者から生徒会の書記である橘先輩が道連れに指名された。

 こんなことになるなんて思ってなかったな。俺は南雲先輩を色んな意味で舐めていたのかもしれない。堀北先輩に勝つ為とはいえ、橘先輩を狙うようなことをするなんてやるとは思わなかった。いや、俺は南雲先輩を見習わなくてはならないのかもしれない。堀北先輩に失望されようとこの作戦を実行した南雲先輩を。俺だってここまでの気概を持たなければならないんだ。どれだけ人に卑怯や非道と言われようが、綾小路を退学させる覚悟を。

 そして、堀北先輩によってクラスポイントとプライベートポイントが支払われ、橘先輩の退学は取り消され、そのグループの責任者だったBクラスの人もクラスポイントとプライベートポイントで退学が取り消された。ここまでのことが起こった林間合宿だったのに最終的な退学者は0だった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 合宿が終わって訪れた一時の休まる時期。俺はほとんど一週間ぶりに神室と会っていた。合宿が終わる前はあまり感じなかったことだけど、一週間も会えない日々が続くと会いたいって気持ちが強くなっていた。

 

「今日はどこに行くの?」

 

「俺から誘ったけど、神室が行きたいところなら、何処でもいいな。」

 

「じゃあ……映画とかで良い?」

 

「うん、行こっか」

 

 2人っきりのデートなんて初めてキスをしたこの間以来だな。今回もそんな出来事があるのかと期待していないことは無いが、無理にしに行こうとは考えてない。嫌がられるたらショックだしな。

 

「何の映画を見るの?」

 

「特に考えてない。カラオケよりマシだと思っただけ」

 

 神室とは一度だけカラオケに行ったことがある。それも2人っきりで。でも、まぁ、事前の嫌そうな雰囲気から察すれば良かったんだけど、神室は音痴だった。俺は気にも止めなかっただけど、神室が凄い不機嫌そうな顔をしてたから、30分も経たずに別の場所に行った。それから、俺と神室の間でデートスポットからカラオケは外れていた。

 

「流石にカラオケは提案しないよ。買い物とかご飯しか考えてなかったから」

 

「好きなの選んで」

 

 公開している映画は多くがアニメやドラマの映画化が多く、あまり映画などを見ない神室と見るには不適切なものばかりだった。だからと言って、恋愛映画も一緒に見るのはちょっと恥ずかしいし……うん、海外の俺の知らないやつにするか。

 

「これなんかどう?」

 

「どういう作品これ? 全然知らないんだけど」

 

「……弁護士資格の無い人が弁護士をする話だって。俺も全然知らないんだけど、どうかな?」

 

「いいんじゃない? 別に洋画も嫌いじゃないし」

 

 神室の了承を得られたところで、2人で一番近い時間のチケットを買う。一番近くて2時間後だったので、その間に夜ご飯を済ませる為に適当に飲食店を探す。

 

「今日は何の気分?」

 

「オムライスとか? 何でもいいけど」

 

「分かった。じゃあオムライスで」

 

 相変わらず素直に言ってくれない神室のリクエストから洋食屋を探す。案外、洋食屋というのは直ぐに見つかるもので、あまり混んでいない段階で入ることが出来た。神室はリクエスト通りのオムライスを頼んだけれど、俺は何を頼もうか。無難にハンバーグで良いか。

 

「神室は合宿どうだった?」

 

「……面倒くさいことしか起こらなかった」

 

「どんな感じのこと?」

 

「仲良くない女子同士で集団生活送ると面倒なことにしかならないってこと」

 

 神室は思い出すのも嫌なようで、隠そうともせずに顔を歪める。女子ってそういうものだということを実際に知ったのは初めてだった。身近な女子は昔からあまり近くに居なく、唯一と言える妹も一匹狼気質だったので参考にならなかったからな。

 

「苦労ばっかりだったんだな。……お疲れ様」

 

「別にあんたまで気を使う必要ないから。もう終わったし」

 

「まぁそれはそうなんだけど。気持ち的に」

 

「気持ちだけでいいから」

 

 ご飯を食べている間はそれから合宿の話はしなくなり、別の話をずっとしていた。食べ終わるとゆっくりと次に行きたい店などを見ながら映画館に向かい、ちょうど良い時間で受付をする。もうすぐ夜になりそうな時間にこんな映画を見る人はあまり多くないのか、俺たち以外に居たのは数人と言ったところだった。

 

「ポップコーン買わない派なんだ」

 

「いや、夜ご飯食べたからいらないと思って」

 

「まぁどっちでも良いけど」

 

 会話はほどほどにしつつ、映画が始まる。映画の内容は無難と言ったものなんだが、主人公が凄く青臭い感じはした。こうむず痒いようなそんな感じだ。映画の中で所謂彼女とのベッドシーンがあったのだが、海外映画だとこういうのがあるのは想定しておくべきだったな。つい、神室の方を向いてしまって、目が合ってしまった。気まずいな。

 

「ぼちぼちだったんじゃない?」

 

「ああ。だけど、次回作があれば見たいって思えるぐらいではあったな」

 

「じゃあ、次に映画館来るのは次回作の時でいいよね?」

 

 俺と神室は特にこの後のことを考えることは無く、寮へと歩いて行く。その間にはもちろん会話はあったが、俺はずっと別のことを考えてしまっていた。林間合宿で一週間近く神室と会えなかったことと先ほど見たカップルのベッドシーン。

 それらで俺は無性に神室と次の段階に進みたくなってしまっていた。だが、怖いのも事実でその段階に踏み出すには大きな勇気が必要になってくる。嫌われたらどうしようとか、関係性が変わったらどうしようとか、色々と思うところはある。でも、いつ退学してしまうか分からない学校なんだ。今ぐらい勇気を出そう。

 

「……ッ……」

 

「今日さ……俺の部屋泊まってよ」

 

 いきなり手を繋ぎ神室を自分の部屋へと誘う。自分らしくないことは重々承知している。でも、こんな時にどんな誘い方をすればいいのか分からなかったんだ。でも、神室はそんな臭い台詞を言った俺の手をしっかりと握ってくれた。

 

「……はやく」

 

 こっちに顔を見せない神室の歩調が少しだけ早くなる。はっきりとした気持ちはよく分からないけれど、了承はしてくれたんだ。そこまで気負う必要はないとは思う。そのまま2人きりでエレベーターに乗り、俺の部屋まで来る。焦ってしまいいつもよりも鍵を開けるのが手こずったけれども、俺と神室は2人で部屋の中に入った。

 

 

★ ★ ★

 

 

 いつもよりも温もりのある布団の中、俺の隣にはぐっすりと眠っている真澄が居た。彼女の寝顔を見たのは初めてだけど、こんなにも愛おしいものだったなんて、もっと早く気づければ良かったな。幸いにして明日は休日、今日はゆっくりと寝よう。真澄の隣でゆっくりと。




 そういったシーンは書いたことが無いので、試行錯誤しながら書いてみます。納得のいくものが出来たらR18で投稿します。

 最近は動きが少なかったですが、次章から大きく動き出します。


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幕間 神室真澄の傾慕

 2人の関係性に進展があったので神室の2回目です。


 

 私にとって自分も他人も基本どうでも良かった

 

 そんな風に人生を過ごしてきた。そんな私が人を好きになることなんてあるわけが無いと思ってたし、かけがえの無い親友なんかも出来る訳が無いと思っていた

 

 でも、案外人生っていうのはそんなもんじゃないってことが、実感出来た。下関涼禅。馬鹿みたいに実直で復讐しか頭に無いように見えて、他のことは普通の生徒と変わりない、人生を人に振り回された奴

 

 そんな涼禅のことが私は好きなんだと思う。確信なんてないし、これが好きっていう感覚なのかもよく分からない。でも、好きじゃないと出来ないことをしてきたし、それで嫌になったこともない

 

 涼禅にとって私がどういう存在なのかなんて聞いたこともないし、知りたくもない。でも、大切に思われるってことだけは分かる。他の奴からは感じられなかった大切にされるっていうのを涼禅からは感じられる

 

 涼禅がどこか離れたところにいるだけで目で後を追ってしまう。授業を受けてる時だって黒板よりも涼禅の背中を見ている時間の方が長い。デートみたいなことをしている時だって涼禅の顔をよく見てる。少女漫画みたいって言われるだろうけど、実際やってしまってる。ここに入るまでだったら絶対やらなかったと思うことを

 

 でも、涼禅のことが心配になることもある。あいつは自分で言うのも何だけど私の為に命すら投げ出しそう。そういう涼禅のところが好きでもあったし、嫌いでもあった。自分以外に対してそういうことをしてしまうあいつが。

 私はそんなこと出来ない。自分以外の他人に対して自分の人生を投げ出すぐらいの覚悟を待つなんて。そんな馬鹿なこと出来ない

 

 そんな危なかっしくて、馬鹿なあいつが将来どうなるかなんて本当に分からない。誰よりもすごい出世をしてるかもしれないし、なにも成し遂げられず腐ってるかもしれない。どっちの未来も全然あると思う。でも、その隣には私が居たい。どんなに出世をしても、どんなにどん底にいてもその隣には私が居たい。そう誓ったし、今更離れるなんて真似出来ない。いや、もう出来るわけがない。心配で心配で涼禅の側を離れることなんて私にはもう出来ない

 

 依存してしまってるって、そう言い切れる。万引きをやっていた時じゃ得られないほどの甘さも非日常も味わっている。そんな涼禅の隣が心地よい。こんな関係性が世間から許される関係性なんていうのは分からない。でも、そんなことは関係ない。許させる必要なんてない。私たちは私たちがいきたい道を進んでいくだけ。ただそれだけ




 原作の話ですが、これ以上神室のキャラが掘られない可能性があると思うと悲しい


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第9巻
足音 迫り近づいて来る悪意


 


 

 所謂坂柳派と呼ばれる人たちがカラオケルームに揃っていた。といっても、坂柳と身近な人材である鬼頭と橋本のみで非常に秘匿性の高いものであったが、いつもはいる神室は居なかった。

 

「なんでこの2人だけなんだ? 他の奴は呼ばなかったのか? 神室とかよ」

 

「今回は彼女のことでの話ですので、呼ぶ必要は無いと判断しました。それに……彼女はもう駄目ですから」

 

 坂柳の声にいつもと変わらずあまり感情というものを感じなかった橋本だったが、その時の坂柳の目だけは少し寂しそうに見えていた。それに気づいたとしても野暮なことは言わない精神で橋本はただただ無難に頷く。

 

「駄目っていうのは完全に下関の下に落ちたってことだよな。最近は下の名前で呼び始めたし」

 

「ええ、残念なことにそうなのです。これまではまだこちら側に収まってくれるかもしれなかったので見逃していましたが……もう無理そうだと判断しました」

 

「裏切り者には罰を与えなければいけませんから」

 

 本気で制裁を与えようとしているのだろう。坂柳の笑いはそのようなものであり、容赦や手加減をするようなものではけっして無かった。これを恐ろしいと捉えるとともに橋本はもう少しその怖さをクラス間競争に向けて欲しいと切実に思った。

 

 

★ ★ ★

 

 

 自分で言うのも何だが、最近の俺はイライラしている。あまりイライラしない人間だと自分のことを思っていただけに、こんなにもイライラしている自分に驚いてもいる。まぁその原因は分かり切ってはいるんだけど。

 

「最近のおまえは近づきにくいよ下関。ほっとけよあんなの」

 

「気にしてるのは俺だけじゃない。戸塚、おまえも気をつけた方がいいぞ」

 

「俺のことを書くやつなんて居ないだろ」

 

 戸塚と俺が見ているのは学校の掲示板のサイト。普段ここに書き込む奴なんて居ないし、日常的にチェックしてる奴も居ない。そんな場所だったんだけど、先日、急に書き込みがされた。一之瀬と真澄のことについて。

 

「『暴力沙汰を起こした過去がある』『援助を受けて交際をしていた』『窃盗、強盗を行った』『薬物の使用歴がある』これ2人ともやってると思うか?」

 

「それを俺に聞くお前に驚きだよ。少なくとも真澄はそんなことをしてないし、仮にしてたとしてもここでは関係ない」

 

 犯罪のオンパレードと言える一之瀬と真澄を名指しにした書き込み。犯人は書けるだけ犯罪を書いただけで意図なんて無いかもしれないが、真澄は実際に万引きをしていた。それが異様にこれに対するストレスを多くしていた。犯人を警戒させる負えないほどの。

 

「もういいだろ。この話は終わろう」

 

「そうだな。代わりに惚気話でも聞かせろよ」

 

 こんな沈んだ話題よりは良いだろと思い、惚気話を戸塚に対してしていく。だが、一体誰がこんなことをしたんだ? 一番は綾小路か? いや、潜んでいるだけで龍園もあり得るし、何より真澄のこの話を知っている坂柳がもっとも怪しいし、橋本の話とも一致する。少し探ってみるか。

 

 

★ ★ ★

 

 

 数日後、俺はある人物から連絡を受け、部活終わりに直接会っていた。部活終わりになってしまったのは申し訳ないが、それでも良いと言ってもらったのでありがたくこの時間にさせてもらった。

 

「大体の要件は分かるけど、どうしたんだ神崎くん」

 

「すまないな。この噂でお前に色々と聞きたいことがある」

 

 神崎が言うのはあの一之瀬と真澄に対する悪質な噂。事前に要件は聞かなかったが、大体この要件であることは分かっていた。俺も独自に調べていたからこそ、味方になりうる神崎のこの接触はありがたかった。

 

「俺たちBクラスは調べた結果、この噂がAクラスの一部の生徒によって広められた噂だと言うことが分かった。下関お前の意見が聞きたい」

 

「それは正しい。だけど、Aクラスだとしても俺の周りでは無いことは言える」

 

「だろうな。下関は神室と恋人関係だ。そんなお前がこの噂に加担しているとは思えない。だからこそ、やはり坂柳の指示によるものだと確信している」

 

 神崎たちはこの短い期間でここまでの情報を得ていた。俺なんかには出来なかったそれに羨ましく思う。俺は同じように真澄が晒されているのに、綾小路の可能性や坂柳に警戒して思うように動けていなかった。うーん情けない。

 

「だからといって、証拠も無いだろ? ここで無謀に坂柳に詰め寄っても徒労に終わるだけだ」

 

「そんなことは分かってる。だが、一之瀬にこれ以上の負担をかけるようなことはさせられない。それはお前も同じだろ下関」

 

「ああ。俺も真澄にこれ以上のストレスはかけられない。何かあったら言ってくれ神崎。全体的に協力するつもりだ」

 

 その場は神崎と握手をして終わった。流石はBクラスの参謀だ。話が進んでいくが、これは大きいな。この件で味方と言える人が欲しかったところだ。真澄は当事者でもあるし、これ以上渦中に晒したくは無い。康平もこっちにばかりに構っているよりはAクラスの内政に集中して欲しい。必然的に俺は孤軍奮闘することになっていたが、その点で神崎は適任と言える人材だった。

 

 

★ ★ ★

 

 

「真澄、調子は大丈夫か?」

 

「別に大丈夫。心配し過ぎじゃない?」

 

 神崎との密会の後、俺は真澄の部屋を訪ねていた。真澄の顔色はいつもと変わりないようだったけれど、声はいつもより低いようには思えた。どれくらい真澄がこの件で傷ついているかは分からない。でも、ここで支えなきゃ俺がいる意味は無い。

 

「いや、そんなことはない。真澄に悪意が迫ってるなら、俺が心配しなくちゃ誰が心配するんだ」

 

「……何か前より積極的になってない?」

 

「……ちゃんと……真澄への思いを自覚したからかな?」

 

 こんなことを言っているけれど、本当は自分でも自分のちゃんとした気持ちは分かっていない。でも、確かに真澄への気持ちはあるんだ。それだけははっきり言える。何か矛盾してるか?

 

「犯人当てれるけど、聞く?」

 

「俺も犯人の目星はついてるけど聞いとくよ」

 

「坂柳でしょ? あいつがやりそうなことだから」

 

 ピタリと犯人であろう人物が当てられ、俺は言葉を発せられなかった。でも、考えてみればそうか。真澄は坂柳の一番近くに居たと言っても過言でもない。それなら、坂柳のやり口は分かってることは自明の理か。

 

「……俺が調査した結果も坂柳だ。なんか、坂柳から連絡とか来たのか?」

 

「それに関することはなにも。でも、少しの間距離をとろうって連絡はきた」

 

 坂柳が真澄を遠ざけようとしているのか? 本当に橋本が言っていたことが濃厚になってきたな。いや、これは俺が引き起こした事態だ。俺が居なければ真澄は今も坂柳に側にいて、その信頼を確固たるものにしてたはずだ。俺が居たからこそ、今の真澄は微妙な立ち位置になってしまっている。俺が、俺が何とかしなければならないことだ。

 

「何か怖い顔になってるけど、何か無茶すること考えてる?」

 

「俺は俺なりの全力を尽くすだけだ。それが今の俺が果たせる責任だ」

 

「分かった。変に止めても無駄なことは分かってるけど、ここで無茶して綾小路に挑む前に退学するのは笑えないから」

 

「分かってるよ。でも、坂柳を倒さなきゃ綾小路に何か逆立ちをしても勝てやしない」

 

 坂柳はこんな小細工を一度しただけで終わるような人間じゃない。絶対に二の矢、三の矢を射ってくるはずだ。それがどれほどの矢かは射られてからじゃないと分からないけれど、どんな手を使ってもその矢を跳ね返してやる。

 

「……今日するでしょ?」

 

「ああ。今日はそういう気分だ」

 

 そして、あっという間に夜は過ぎ去り、朝になる。俺と真澄は忘れていた現実を思い出すように目を覚まし、学校に2人で登校していった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 その日の放課後はまたも神崎から時間を空けておいてくれと言われていた。神崎なりに何か行動を起こすらしく、その場に居て欲しいらしいのだ。俺からすれば、その場にいるだろうのはAクラスの人間の可能性が高いので、あまり会いたくは無いのだが、俺もやれることはやっておきたい。

 

「明人。今日は部活行けないんだ。ごめんな」

 

「別に良いよ。彼女のことも心配だろうから、気にするな」

 

 弓道部の練習を休み、真澄とだらだら中庭辺りにあるベンチで喋りながら、連絡を待つ。数時間待ってその件の連絡は来たが、電話では無く、メッセージで指定の場所に来てくれというものだった。

 

「何で2人がいるんだ?」

 

「俺のセリフだ涼禅。こんなところで何してるんだ?」

 

「はぁーめんどくさいのを呼んでくれたな神崎」

 

「さぁ、下関も揃ったところでしっかりと話を聞かせてもらおうか橋本」

 

 指定された場所には呼び出した神崎の他に橋本と何故か明人がおり、明人が2人の間を取り持っているような光景にも見える。どういう流れがあったらこうなるのか分からないし、どこまで神崎の計算なんだ?

 

「下関が居ても俺の答えは変わらない。ただ聞いた噂を他の奴に流してただけさ」

 

 橋本がのらりくらりと弁解をしている中、何故か綾小路とDクラスの数名の生徒が集まってくる。会話の内容から明人の友達だと言うことが分かるが、さて、綾小路も分かってきたのか? まぁ、それよりも橋本の話だ。橋本は何処からか聞いた噂を他の人に話しているだけらしいが、そんなことを全て信じるはずもない神崎は苛立ちを隠せていない。

 

「それで、何だ? 一之瀬は何て言っているんだ?」

 

「噂などに惑わされず気にしないでいて欲しい。そう答えた」

 

「肯定も否定もしなかったわけだろ? なぁ神室は何て答えたんだよ下関」

 

「……勝手に言わせておけとは言っていたな」

 

「ほらな? 結局のところ2人とも肯定も否定もしない。これが答えなんだよ」

 

 一之瀬と真澄の性格的にこう答えることは分かっているだろうに、それを盾にしてどんどん橋本は自分の正当性を高めていき、最終的には社会性や客観的という言葉によって野次馬として来ていたDクラス生徒を納得させるほどの弁論を披露する。

 

「橋本、お前の意見はよく分かった。だけど、度を超えたら容赦はしないことは忠告しとくぞ」

 

「以後、気をつけるよ。じゃあ、俺はもう行かせてもらうからな」

 

「おい! まだ話は終わってないぞ!」

 

 立ち去って行く橋本を圧をだしながら引き留めようとする神崎だったが、神崎の身体は明人によって押さえつけられ、それ以上の接近が出来なくなる。

 

「……下関。この結果にお前は満足か?」

 

「結局、あっちがライン超えをしない限りは大丈夫だよ。これ以上は悔しいけれど見ているしかない」

 

「……そうか、そうだな。確かにお前の言う通りだ」

 

 ここに残っているのはAクラス1人とBクラス1人、Dクラスが5人。少し気まずいので、神崎にいつでも協力すると伝え、ここから立ち去る。もちろん、綾小路を意味深に見つめることも忘れずに。




 ここから色々と変わっていきます


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覚悟 見えるが見えないものを追いかけて

 南雲先輩が原作で掘り下げられて嬉しいですね


 

 橋本を問い詰めてから数日が経った。その数日の間にも噂というのは広がっていき、この学校で知らないやつはいないんじゃないのかというぐらいになっていて、その感じが何処か不気味だった。坂柳ならば、ここら辺で第二の矢を撃ってきて敵を追い詰める。そう言う考え方をする人間だ。だけど、今、何も起こってはいない。これが坂柳への人物評価が間違っていたのか、綾小路が黒幕にいるということになっているのかは見当がつかない。クソ、早くしないと取り返しのつかないことになりそうなのに。

 

「……帰らないの?」

 

「ああ、ごめん。色々考え込んでた」

 

「……なら良いけど」

 

 他の人たちに疲れは見せてないけれど、疲れてるだろう真澄にテンションを下げるような姿を見せる必要は無い。俺は真澄の日常としての役割を見せておくことを心がけておけば良い。俺は真澄の彼氏なんだから。

 

「……何あれ?」

 

「なんだろ……確認してくる」

 

 俺たちが寮へと戻ると寮の玄関に人だかりが出来ていたけど、そこにいる人たちの様子からあまり良いことで集まっているようでは無かった。嫌な予感がした。坂柳の顔がちらつく。

 

「戸塚。何があったんだ?」

 

「あ、ああ、下関か。いや……こんなもんが全員の寮の中にな」

 

『一之瀬帆波と神室真澄は同じ罪を犯した犯罪者である』

 

 戸塚から渡されたその紙を読んだ瞬間、俺は反射的にその紙を破っていた。真澄のことを何も知らないやつが、真澄がどんな風に生きて、どんなことを思って生きているのか大した知らないやつがこんなことを他多数にばら撒くな。

 

「下関……大丈夫か?」

 

 落ち着け落ち着け。俺が真澄を知ったのは最近だ。そんな俺が真澄のことを代弁したかのような気持ちになるのは傲慢だ。違う、俺がしたいのはそんなことじゃない。真澄を貶されたくない、ただそれだけだ。

 

「真澄帰ろう。こんなところにいるべきじゃない」

 

 俺は真澄の手を取り、寮のエレベーターへと登り込んでいく。真澄のことを知っているような人たちからは真澄は好奇な目で見られていたけれど、そんなことは関係ない。さて、ここからどう出るのが正解なんだろう。学校側に訴えかけるか? いや、真澄へと負担が大きすぎる。Aクラス全員に呼びかけるか?

いや、明らかに不自然で、坂柳にはとぼけられる。……そうか、こう言うときの為に俺は生徒会に入ってるんだ。南雲先輩に事の経緯を話してそっち方面から何かしらの警告を学校全体に出して貰えばいい。南雲先輩に俺の有能さを示さない案かもしれないけれど、もうそれは仕方ない。

 

「あれくらい気にしなくていいから。ただの嫌がらせだし」

 

「そんな訳にはいかない。俺の大事な彼女の真澄がこんな目にあって何もしないのは彼氏として失格だ」

 

「……そんなことをして、涼禅の目的に影響が出るぐらいなら何もしなくていいから」

 

「いや、この機を逆に使って俺の目的に近づけるようにする」

 

 もう既に充分に返しが出来るだけの証拠は出された。ここからどう行動するかで反撃することも可能だ。探り探りやっていこう。

 

 

★ ★ ★

 

 

 数日後の生徒会室。俺は一対一で南雲先輩と向かい合っていた。こんな感じの構図は何度目だろうか。南雲先輩に右腕を提案した時と合宿の時を合わせるとこれで三度目か。別に嫌では無いんだけど、これで最後にしたいとは思えるほどに嫌な緊張感を南雲先輩は出してくる。

 

「今回は何のようだ下関? あまり俺も暇じゃないから手短にしてくれよ」

 

「南雲先輩もご存知でしょう? 一之瀬帆波と神室真澄への過度な嫌がらせがあることを。俺はそれを看過できない事態だと考えています。このままエスカレートする前に何かしらの声明を南雲先輩からしてもらいたいです」

 

「その件は聞いている。大層な苦労のかかった嫌がらせらしいな。それで、お前の本音は何だ? 建前の意見なんて聞き飽きている」

 

 やっぱり建前用の意見なんかじゃ南雲先輩には響かないか。だったら南雲先輩からの指定通り本音で頼み込まなきゃ支持は得られないだろうな。

 

「俺の恋人の真澄が嫌がらせによって傷ついている。そんな理由じゃ駄目ですか? 俺は事実無根とも言える真澄を守りたいだけなんです」

 

 ほとんどが本音と言える俺の意見。青臭いとは分かっているこの意見だけど、その意見を聞いても南雲先輩はさしてリアクションをすることなく、口を開いた。

 

「臭いが嫌いじゃない意見だ。お前が1人の女の為にそこまでする人間だとはあまり想像してなかったが、綾小路への気持ち悪い執着を思うと納得出来るな。だが、生徒会が声明を出した程度でそいつは止まるのか? 犯人にもう目星はついてるんだろ?」

 

「ええ、ついてます。というより、南雲先輩も薄々勘付いてはいますよね? 犯人が大した人間で無いのなら、南雲先輩はこの話に対してここまで時間はとらないし、この問題に興味は持ちませんから」

 

 この会で俺がしなくちゃならないのは南雲先輩から協力をとりつけることだ。その為なら多少の嘘は言うし、本音と建前は使い分けなきゃならない。だけど、南雲先輩からは嫌われてはならない。本当に難題ばかりの交渉だな。

 

「流石、生徒会所属なだけはあるな下関。だが、少し惜しいな。俺はこの騒動における犯人は知っているし、一時的に関与すらもしている。俺がこれを言ったことの意味が分かるか? 下関」

 

 南雲先輩が犯人と関与しているのにも関わらず俺に対して色々聞いてきた意味……はっきり言えば大した根拠も無いし分からない。でも、南雲先輩の性格ならという予想なら出来る。

 

「たかが一年生の争いだと思って高みの見物をしてますよね? 南雲先輩の言っていることが真実なら、南雲先輩の行動は犯人や俺にも味方していない行動です。この状況を楽しんでますよね?」

 

 ついつい語彙を強めてしまい、嫌みな言い方をしてしまった。協力を取り付けたいのにこれは駄目だな。だけど、真澄に嫌なことをしていると思われる坂柳に南雲先輩が関わっていると分かった上で冷静な発言を出来るほど大人じゃない。

 

「やっと本音で話す気になったか? だが、まぁお前の言う通りだ。俺はこの状況を楽しんでる。2年の掌握は終わり、堀北先輩との勝負も終わった。今の俺にはこの学校に対する大した魅力を感じていない。だから、退屈を無くす意味も込めて坂柳に協力してやったまでだ」

 

「……何言ってんだよ……何言ってんだよ。あんたの退屈を紛らわす為に真澄は学校から変な目で見られたっていうのか? 本気で言ってるのか? 俺が真澄のことで怒らないとでも? あんたのことを軽蔑したくなった」

 

 南雲先輩の理由を聞いて、つい睨みを聞かせながら喧嘩腰で全てを吐き出してしまった。落ち着け、落ち着くんだ。だけど……これはもう遅いか。南雲先輩からは協力を得られそうにない。いや、南雲先輩が坂柳と繋がっていると知れただけでも御の字だな。

 

「ありがとうございました南雲先輩。失礼な態度を取ってしまいすみませんでした。でも、俺はやれることをやることにします。また何か聞きたくなったら連絡します」

 

 頭を冷やす意味でも考えを纏めたい意味でも生徒会室から礼をしつつ出て行く。こんな風にカッとなってしまったのは初めてだった。いや、後悔はしちゃいけない。また新しい手を考えていかないといけないな。

 

「俺とお前は少し似ていると思わずにいられないな下関」

 

 

★ ★ ★

 

 

 下関が南雲と会った次の日の放課後。特別棟に二つの影があった。その影の一つは杖を持った小柄な女子、もう1人は態勢を崩さない大人びた女子。2人は相対しはしたものの、数分は口を開かなかった。

 

「こんなところで油を売っていてよろしいんですか? 明日はバレンタインですよ?」

 

「気にしなくて良い。ちゃんと夜に準備ぐらいするから」

 

「そうですか。なら、気にしません。それで……何の為に呼んだのですか?」

 

 小柄な少女坂柳は少し笑みを崩すように神室に問いかける。そんな返しに対して大人びた女子神室は坂柳は全てを分かった上で楽しんでいるのだと当然のように理解した。

 

「分かってるでしょ。私と一之瀬に対する誹謗中傷をやめてほしいんだけど」

 

「あなたがそんなことを言うなんて意外でしたよ神室さん。こんなことに感心を持つなんて」

 

「別に……」

 

 神室とて自分1人が誹謗中傷されるならとっとと認めるか、無視を決め込んでいただろう。しかし、今回のパターンでは神室が認めれば一之瀬まで同じように事実だと認識されてしまう。それは非常にばつが悪かった。もっと言うならば、下関にもあらぬ疑いがかかるのを避けたかったのもあった。

 

「あんたがやったんでしょ? もう充分だから、やめてくれない?」

 

「本当に変わりましたね神室さん。ですが……そう言われてもやめる訳にはいきません。これは私の予想なんですが、犯人の方が一之瀬さんを狙う動機としてはBクラスのリーダー潰しで、神室さんを狙う動機としては裏切ったことに対する報いですかね」

 

 神室に録音されている可能性も考えてあえて仮定の話をして明言を避ける坂柳。そういう言い方もそうした動機も予想していた通りだったのか、神室は軽くため息を吐くと、少しずつ坂柳に近づいていく。

 

「別に一之瀬と私に何をしようがあんたの自由。そういう報いだと思ってるし。でも、涼禅に手を出すのだけは辞めて。涼禅は綾小路と勝負すべきだと思ってるから」

 

「ええ、その点は私も賛成です。私から下関くんを狙う事はありません。これから先も」

 

 交渉ごとというよりも言いたいことを坂柳に言えたことで、もうここにいる意味が無くなった神室は足が不自由な坂柳を前のようにエスコートしながら歩いて行く。寮までのその道のりに会話は少なかった。

 

「こうして神室さんに助けてもらうのは久しぶりですね。ですが、もうしてくれないのですよね?」

 

「これで最後。あんたと私は今日限りだから。もう次は見つけているんでしょ?」

 

「査定中ですね。適当な人材が見つかるといいのですが」

 

 そして、2人はついに坂柳の部屋の前まで来てしまった。今回の特別棟から寮までの距離は今まで2人で歩いた距離に比べれば大したものでは無かったが、2人ともが長く感じるものには違い無かった。

 

「では、今までありがとうございました神室さん。私は裏切り者には容赦するつもりはないので」

 

「あんたとの生活も退屈しなかった。でも、涼禅に手を出すなら私も容赦する気はないから」

 

 2人は背を向け合い別れていく。2人の関係性は歪でお互いに複雑な思いを抱き合っているのかもしれない。しかし、ここにその関係性は切れた。2人の間に残ったのは泥々とした何か、それが円満に取れることはもう無い。




 これで神室は坂柳から離反し、坂柳派でも無くなりました


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対抗策 思い出は短く、現実は長く

 


 

 バレンタインの1日前、俺にある人物からメッセージが届いた。会って一度話したいと。その人物が言うには俺が1人でしか会うことは出来ず、真澄を呼ぶことも名指しで駄目と言われた。まぁ、そこまで言うんだったら仕方ないので、真澄が部屋にいない時間にその人物を俺を部屋へと呼んだ。

 

「恋人でも無いのに上がり込んじゃってごめんね下関くん」

 

「いや、それだけの用があるなら、仕方ないよ櫛田さん」

 

 俺の部屋に来た人物、それはDクラスの中で綾小路の秘密を共有した櫛田桔梗。彼女は平日で暗くなってきたにも関わらず、制服で俺の部屋に来ており、今の今まで誰かと遊んでいたであろうことは想像に固くなかった。

 

「飲み物は何が良いかな?」

 

「うーん、お茶にしよっかな。甘いものばっかり食べ過ぎちゃって」

 

「了解だ」

 

 櫛田の前にお茶パックにお湯を注いだ普通のお茶を出す。そのお茶を飲んだり、息を吹きかける動作だけでも流石、モテるなという可愛さが出ていたが、俺には真澄がいる。そんな煩悩ほとんど出ることはない。

 

「それで……何のようで来たんだ? もしかして……綾小路関係か?」

 

「うん……その通りだよ。綾小路くんがこの事件に動き出したから、報告も兼ねてかな。聞きたいだろうって思って」

 

 そうか綾小路が動き出したのか。うん? だとしたら、今回の事件の初めには綾小路が関わっていなかったのか。一応櫛田を使って俺に対してブラフを張りにきた可能性もあるが、その可能性を追っていたらキリが無いな。とりあえずは櫛田の話を聞いてみてからにするか。

 

「それで綾小路はこの事件にどう動いているんだ?」

 

「私が把握してる誰かの秘密を流すらしいよ? それを流して学校側の危機感を煽るんだって」

 

 ……確かにその手があった。この問題は坂柳がやったと思っている人物がほとんどで、その後に同じようなことがあれば、坂柳を疑うのが道理。これは名案だな。それには真実も混ぜなければ効果は薄いが、それも櫛田という誰も彼もの秘密を知っている人材がいれば問題ない。俺でも思いつきさえすれば、実行出来た案だった……綾小路に負けてばかりだな俺は。

 

「……それはいつ頃広まる予定なんだ?」

 

「うーん、数日の内にじゃないかな?」

 

「……綾小路は何のためにこれをやるんだ? 綾小路がこんなことをするメリットなんてないだろ」

 

「私にも分からないだよね。そこが不気味だけど、深くは聞けないよ」

 

 俺や神崎がやるならともかく、綾小路にこれをやるメリットは無い。真澄と綾小路の接点なんて俺を介してのみだ。だったら、一之瀬か? 一之瀬とはDクラスとBクラスの仲の良さからくる友情があるが、綾小路にそこまで人を思う心があるは思えないな。一番ありそうなのは一之瀬か坂柳を利用することか。

 

「綾小路のことを考えても分からないことばかりだ。辞めよう」

 

「それより俺にも策が思いついた。協力してくれ櫛田。お前の将来の為になるはずだ」

 

 綾小路のした策を聞いて思いついた自身の策を櫛田に教えて、協力を取り付ける。もちろん、櫛田が誰かに情報を流す可能性もゼロじゃないが、それでもやるべき策だ。

 

「今日はありがとう下関くん! すごく為になったよ」

 

「ああ、俺もだ」

 

「あ、そうだ。これ、明後日のやつね。友チョコだから、勘違いしちゃ駄目だよー」

 

 櫛田からチョコが投げ渡される。2日前ともあって今年初めてのチョコだが、シンプルに嬉しいな。今年は何個もらえるんだろう。いや、俺は真澄からもらえればいいや。それだけで嬉しい。

 

 

★ ★ ★

 

 

 そして、バレンタイン当日。今日は珍しく真澄から先に登校しておいてとメッセージが来たので、1人で登校していた。だが、バレンタインのチョコをいっぱい持っている平田などを見ると、真澄から期待しない訳にはいかないな。そんなこともあって、今日は学生全員が浮き足だっているように感じたけれど、俺がチョコレートをもらうことは無かった。上級生と付き合っているのにも関わらず司城はもらってるのに不公平だな。やっぱイケメンは違うな。

 

「涼禅。帰ろう」

 

「ああ、帰ろっか」

 

 放課後。葛城派の男子たちの中でチョコの話をしながら談笑してると、真澄から下校デートのお誘いを受けた。それに対してのやっかみを受けながらもチョコ談笑から離れて真澄と共に学校から寮への道を歩いて行く。

 

「かぁー! 下関のやつ羨ましいぜ全くよ!」

 

「だが、神室のやつも強いな。こんなにも噂が広まっているのに平然としているなんて」

 

「そうすっね! 一之瀬のやつとは違いますね!!」

 

「まぁ……そうだな」

 

 

★ ★ ★

 

 

 真澄との帰り道、俺はそわそわを隠すことが出来ない上にチラチラと真澄の方を見てしまっていた。俺らしく無いのは分かっているけれど、これが正常な男子高校生本来の姿と言えるので許して欲しい。

 

「わかりやす過ぎ。それくらい隠せば?」

 

「無理言うなよ。バレンタインだから、期待してた」

 

「はぁ、はい。手作りなんて初めてだから、期待しないで」

 

 カバンから取り出した小さな箱をもらう。これまでの人生でも何個かバレンタインにお菓子をもらったことはあったけれど、こんなにも自然に嬉しいなって思ったことは無かった。可愛い箱に包まれたそれを開けるのさえ、俺は緊張してしまったけれど、真澄に少し急かされながら、箱を開けた。

 

「おお! 凄く美味しそうだな」

 

「なら、良かったけど」

 

「でも、思い出としてずっと残しておきたいな」

 

「馬鹿なこと言ってないで、早く食べて」

 

 真澄に見られながら、その黒一色で染められた美しいまでとも言えるチョコを名残りおしさを感じつつも一口で喉の中に溶けていく。見た目はどちらと言えば大人っぽい味なんだろうと予想していたけれど、思ったよりも甘さが効いていて食べやすいもので、高校生の俺でも美味しかったなと余韻が残るような良いチョコだった。

 

「ありがとう。すっごく美味しかった」

 

「これで今日の用終わったから。何かある?」

 

 チョコの話をこれ以上続けたくないのか、話を変えてくる真澄。そういうば……昨日真澄から坂柳とは縁を切ったって連絡があったな。それについて聞くか。話が大きく変わってしまうけど。

 

「そういえば……昨日の連絡はそのままの意味?」

 

「そのまま。坂柳と絶縁しただけだから」

 

 真澄はこれ以上話したくは無いのか、他の会話をするように表情で俺に促してくる。なんで、いきなり坂柳と絶縁したのか。多分、あれ関連のことだろうとは思うけども、いや、真澄の判断だ。俺がずかずかと聞いていい内容じゃない。

 

「今日は泊まっていきなよ。チャコのお返しに夜ご飯作るからさ」

 

「元々そのつもりだから」

 

 冗談ぽく言って少しだけ笑って見せる真澄の姿は誰にも見せたくないほどに美しかった。真澄が坂柳と縁を切ったことで、真澄が自主的に話すのは俺ぐらいになった。その事実に俺自身の気持ちの悪い独占欲が満たされたのは自覚したくなかった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 バレンタインの翌日。学校に真澄と登校していた俺の元に神崎からメッセージが届いた。内容は簡素なもので、放課後に時間を取ってほしいというものだった。神崎が何かしらのコンタクトを取ってくるということは何か動きがあったのだと考えたが、その答えは教室で康平から聞くことになった。

 

「涼禅。噂になっていることを聞いたか?」

 

「いや、何があったんだ?」

 

「一之瀬が立て続けに学校を休んでいることと、学校の掲示板に根も歯もない噂が流布されているらしい」

 

 掲示板にはきれいにAクラスだけを避けて、Bクラス、Cクラス、Dクラスの生徒の噂が書き込まれていた。どれも信憑性があるようで無いようなばかりだが、信じる人も少しはいるだろうと言えるぐらいの物ではあった。これが例の綾小路の策か。わざとAクラスを抜きにするなんて、綾小路が考えそうなことだ。

 

「これは……Bクラスからの批判が来そうだな」

 

「ああ、これが坂柳の仕業なら、そろそろ遊びでは済まないぞ」

 

 康平なりに坂柳の仕業だろうと検討がついていたのか、眉間に皺をよせ、これから起こりうるトラブルに対する対処を考えていた。神崎は一之瀬の欠席とこの噂に関して俺に時間を作ってくれと言っただろうけど、何て答えるのが正解だろうか……。

 

「神崎。遅れてごめんな」

 

「いや、構わない。単刀直入に聞くがあの噂について何か知っているか?」

 

「一通りは。神崎が聞きたいのはこれが坂柳がやったかどうか聞きたいんだろ?」

 

「その通りだ。一之瀬のみならず、多くの生徒にこのような根も歯もない噂を広めるのはいくら坂柳だからといってやり過ぎだ」

 

「俺もこんなことをする人間が信じられない。だけど、坂柳はこの噂に関して何も言わなかった。いつもと変わらずに余裕の笑みを浮かべていただけだった」

 

 俺は綾小路のことは黙っておくことにした。櫛田はある程度は綾小路の裏の怖さを知っていると思い、様々なことを話したが、神崎は違う。表面上は無害な綾小路に疑いを向けたところで俺への疑念が浮かぶ方がありえるだろう。それに、綾小路に何かしらの形で俺が動いていると伝わる方が厄介だ。このまま綾小路の思惑通りに動いていると思わせた方が危険がきていると警戒しなくてすむ。

 

「……下関。不躾なお願いであることは分かっているが……神室に頼んで、学校側に被害を訴えてくれないか?」

 

「無理だ。神崎、そんな話をするなら、俺はもうこれ以上話すつもりは無い。真澄だって今回の件に何も感じてない訳じゃない。それに、真澄が被害を出すのなら、一之瀬もするのが筋だろ?」

 

「それも……そうだな。すまない。ついつい安易な解決策に走ってしまった。忘れてくれ」

 

 神崎の気持ちが分からないことは無い。俺だって一之瀬に被害を訴え欲しいとは思っているが、一之瀬はこれに対してかは断言出来ないが学校を休んでいる。そんなことを言うことは出来ない。しかし、表立って何もしない訳にもいかないな。

 

「神崎。俺は坂柳の罪を認めさせる為なら、いくらでも手を貸す。いや、俺だけじゃない。康平だって力を貸してくれるはずだ」

 

「……そうだな。ここまで坂柳が全クラスに喧嘩を売るのなら、全クラスで坂柳を倒してやろう。坂柳とは言え、全クラスからの反抗には勝てないだろうからな」

 

 神崎はある程度構想がまとまったのか、俺にお礼を言うと、足早に立ち去っていく。このまま神崎が動き、綾小路が動き、俺が動く。いくら坂柳とは言え、これは耐えられないだろう。多少はAクラスそのものに対してのマイナスはあるだろうが、ここで坂柳を倒しておくことで、あるであろう一年最後の試験で綾小路を倒す舞台が整うな。




 この章ももうすぐ終わりです


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懺悔 帯びたる現実

 今回でこの章は終わりです


 

 一之瀬が学校を休み初めてから数日が経過していた。その間に一之瀬を慕う誰もがその部屋の前に行き、追い返されていた。俺もその内の1人で、一之瀬の部屋の前まで行ったが、優しい言葉をかけられて帰って欲しいと言われていた。

 

「どうだ? いい情報だろ?」

 

「ああ。これは本当に使える情報だな。だけど、こんな情報を持ってきて橋本は大丈夫なのか?」

 

「良いわけないさ。今回のことに関しては姫さんは勝てると踏んでいる。だけど、俺はそう考えていない。お前が何かしら動くと思ってるからな。そうだろ?」

 

 最近は割と人を招いている俺の部屋。その部屋に来ていた橋本は坂柳が一之瀬が登校次第、潰すと宣言としているという情報を俺にくれた。学年末の試験が迫っている中、何処かしらで決着をつけると思っていたが、もうすぐとは思わなかったな。一之瀬もテストを受けない訳にはいかなから、ここらで決着が妥当ではあるが。

 

「情報はありがたい。だけど、橋本の質問には答えるわけにはいかない。橋本から坂柳に情報が流れる可能性もあるからな」

 

「そらそうだ。俺だってそこまで期待はしてないさ。下関に有利な環境を整えてやってるだけだ」

 

 それだけを言い残すと、橋本は足早に部屋を後にした。長居していると、坂柳が嗅ぎつけてくると思っているからだろうな。だが、俺にしてみれば、それはもう遅いとは思う。坂柳のことだ。あえて、橋本を泳がしているんだろう。どこまでの情報を俺に流すのかを把握するため、もしくはバレても問題ない情報しか流していないかだな。

 

「もう出てもいいでしょ?」

 

「うん。橋本はもう帰ったから」

 

「急に押しかけてきたら、隠れる時間も無いって」

 

 橋本がアポ無しで押しかけてきたお陰で一緒にいた真澄は隠れなきゃならならなくて、ずっとお風呂に隠れてもらっていた。ほんと、真澄には色んな苦労をかけるな。橋本もこの部屋の中をチラチラと見ていたから、気づいてそうな節はあったけれど。

 

「それで、坂柳に何かするの?」

 

「やっぱり聞こえてたよな。まぁ、あんまり坂柳だけに好き勝手させるわけにはいかないから」

 

「別に止めないけど、無理だけはしないで」

 

「分かってる。坂柳に油断なんてしない」

 

 坂柳と綾小路は次元が違う人間だ。俺なんかが逆立ちしても勝てないとは思う。でも、やるしかない。そうするしか俺の明日は晴れなくて、この先もこの学校でやっていくには必要なことなんだ。

 

 

★ ★ ★

 

 

 学年末試験の前日。神崎からの情報によれば、今日は一之瀬が登校してきたらしく、今日に坂柳が仕掛けるであろうことは簡単に察しがついた。そのせいかは分からないが、坂柳は朝から憎たらしい笑みを隠せていなかった。でも、時間が無いからか、朝のHRでは仕掛けるようなことはせずに坂柳は待機していた。その後の4限までの授業は仕掛けるはずもないのに、坂柳を警戒してしてまって授業に集中出来てなかった。明日はテストなのにな。

 

「では……そろそろ参りましょうか」

 

 昼休み。鬼頭や他の生徒を連れることなく、橋本だけを連れて教室から出て行く坂柳。こうして見ると、坂柳の周りには信頼できる人が誰もいないな。脅す関係の真澄もその1人だったが、縁が切れて、橋本は立ち回りが信頼出来ない。敵ながら、少し寂しそうだな。

 

「康平。俺も見てくるよ」

 

「ああ、俺も行こう。坂柳が何かしでかすとしたら、止めなくてはな」

 

 既にBクラスには坂柳に詰め寄っている柴田と敵意の目を向けているBクラスの生徒たちがいた。一之瀬は坂柳から遠ざけられるように周りの生徒たちによって囲まれていて、本当にカチコミに来たんだなって実感出来た。

 

「まずは体調が快復されたとのことで、良かったです。本当はもっと早く声をかけたかったのですが、試験勉強に忙しかったもので。それにしても良かったです、明日の学年末試験には間に合いましたね」

 

「うん。ありがとう」

 

 一之瀬と神崎を挟みながらも坂柳の語りが入っていく。坂柳の語りは少し前に不正にポイントを貯めていたことを走りとして、一之瀬が相応しくないという着地をする。それで詰めていく坂柳だが、一之瀬は囲われていく中から一歩前へ出ていく。

 

「私は今までの1年間……ずっとずっと隠し続けてきたことがあるんだ」

 

「一之瀬……必要でないことを話さなくていい」

 

 神妙な雰囲気になって、黙っていくBクラスの面々。俺も何かしらの工作はしたが、ここで一之瀬がどういう行動を取るかは全く分からない。告白するんだろうか。

 

「みんなに黙ってたことを……今から告白します」

 

「私の隠してきた犯罪、それは……万引きをしたこと」

 

 一之瀬はそこから続けるように経緯を説明していく。真澄と同じ犯罪だということは分かっていたが、はっきり言って同情の余地があって、そこまで責められるようなものではないとは思えた。妹の為に万引きをするなんて、一之瀬は本当にこの学校に入学する前から変わらない善性の持ち主だったのか。

 

「ごめんねみんな。こんな情けないリーダーで……」

 

 一之瀬が全てを語り終える。その罪を聞いたBクラスの面々は一之瀬の罪を肯定し、一之瀬の善性を肯定した。それはまさしく、一之瀬がBクラスで培ってきた信頼の形そのものだろう。

 しかし、その空気をぶち壊すように杖が地面をならす音が響く。

 

「やめて下さい。笑わせないでもらえますかBクラスのみなさん。実に下らない茶番劇ですね。不必要な過去の詳細まで語って、同情を引いているつもりですか? どんな境遇であれ万引きは万引き。同情余地などありません。あなたは私利私欲のために盗みを働いたんです」

 

 畳み掛けるように坂柳からの攻撃が繰り出される。それを負けていない弁舌で乗り越えようとする一之瀬だったが、一之瀬には罪という不利な条件がある。リーダーを降りるように迫られ、ここまでかと思ったが、一之瀬は何も無かったかのように笑顔になる。

 

「これで私の懺悔は終わり! 私は確かに万引きをした。坂柳さんの言う通り、同情の余地は無いと思う。罪は罪だからね。だけど、実際に私は刑罰に問われたわけじゃない。つまり、償うべき罪っていうのは本来存在しないものなの」

 

 晴れやかな一之瀬の懺悔。それに対して一瞬、坂柳も表をつかれたようだったが、直ぐに持ち直し、またも一之瀬を追い詰めるような言葉をかけていく。

 

「そうですか。では徹底的にやら──」

 

「はーい、みんなそこまで」

 

 坂柳がまだ交戦していく発言をしようとした瞬間、待ちに待った生徒会長南雲先輩とBクラス担任の星乃宮先生とDクラス担任の茶柱先生が教室に入ってくる。思ったよりも遅い登場だったな。出来れば一之瀬が懺悔する前に来て欲しかったもんだけど。いや……一之瀬の精神が思ったよりも強かったから、案外これで良かったのかもしれないな。

 

「随分と大物が集まりましたね。これは一年生同士の問題ですが?」

 

「確かに1年の小競り合いだ。しかし、本日をもって安易な噂の吹聴行為は禁止とする」

 

「……どういうことでしょう? 一之瀬さんの噂に関する箝口令とは、納得がいきませんね。どこが発端にせよ、一之瀬さん自身が迷惑していると報告がありましたか? 要望書程度でこのようなことをしたわけじゃありませんよね?」

 

 坂柳の言葉に神崎がバツの悪そうな顔をする。神崎は坂柳周辺を除いた全員に当たり、生徒会に対する要望書として署名をもらっていた。それは坂柳も掴んでいたようだが、大した脅威じゃないとして、放置していたみたいだな。

 

「詳細は伏せるが、お前たち1年の間で誹謗中傷の応酬合戦が行われていると明確に確認された。それだけじゃなく、つい先ほど、2年に対しても誹謗中傷の噂が流されたことが確認出来た。これ以上の事態は学校の風紀を乱す。よって、無意味に吹聴して回る者は今後、処罰の対象となる可能性があることを通告しておく」

 

「坂柳。Bクラスのみならず、1年全体や2年にまでそうやって攻撃を広げるのは俺がやり過ぎだと判断した。坂柳、お前はやり過ぎたんだ。そして、匿名性ということを利用してここから先、模倣犯が出てくる可能性も否定出来ない。そんなことになれば、学校の風紀が乱れる。だったら、ここで少しは厳しいところみせないとな」

 

「……意図は理解出来ました。ですが、証拠もない私を処罰するのは如何なものでしょうか?」

 

「それは俺も分かっている。だからこそ、学年末試験が終わり次第、3月まで休んでもらえると助かる」

 

「それは強制ですか?」

 

「いいや。強制じゃない。だが、一度熱りを冷ます意味でもおすすめするぜ?」

 

「そうですか……わかりました。では、ここらで引き上げましょう」

 

 坂柳は引き上げていくが、坂柳への処分は納得いっていない。たった数日だぞ? 何か3月から新たに特別試験でもあるのか? いや、それは今は考えなくて良いだろう。とりあえず、南雲先輩のことで俺の策略が成功したことを喜ばなくちゃな。ポケットに入れていた携帯が振動し、メールがきたことを知らせる。坂柳から放課後の誘いだ。受けない理由は無いな。

 

 

★ ★ ★

 

 

「お見事です。綾小路くん。それに、下関くん」

 

「聞いてないぞ、坂柳。綾小路がいるなんて」

 

「今回の立役者であるお二人はお呼びするべきだと判断したまでですよ」

 

 坂柳に呼び出された寮への帰り道近くの公園に居たのは坂柳だけじゃなく、綾小路もいた。綾小路も俺が来ることを知らなかったのか、その感情の見えない表情筋を少し動かす。

 

「下関がいるなら、俺は必要ないだろ? 俺は帰ってもいいか?」

 

「そういうわけにはいきません。今回の事で、綾小路くんは掲示板という大胆な手段を使って無実な人間を巻き込みつつ学校側に警告をした。下関くんは2年の一部の先輩に誹謗中傷の噂があると警告し、南雲会長へ危機感を煽らせた。ええ、2人の性格を随分と表していますね」

 

「それは坂柳の憶測に過ぎないだろ? 俺は何もしていない」

 

 坂柳の言うことはほとんどが当たっている。俺は南雲先輩に近しい人間の悪い噂を櫛田から入手すると、それを本人に共有して南雲先輩に相談することを待った。幸い、南雲先輩と近しい人とは親しいおかげで何の疑いも持たれず、その数人も南雲先輩に相談してくれて、作戦は上手くいった。

 

「まぁ、答え合わせは追々していきましょうか。それよりも単刀直入に言います。下関くん、学年末試験で退学をかけて綾小路くんと勝負していただきませんか?」

 

「坂柳……お前の言っている意味が分からない。それは俺にメリットが無い」

 

「いいえ、ありますよ。綾小路くんは自分の過去の一端を知っている下関くんを合法的に退学させられる。下関くんも憎悪の為に綾小路を合法的に退学させられる。どうですか? 合理的だと思いませんか」

 

 坂柳の言っていることは理にかなっているし、俺が綾小路へ叩きつけた挑戦状との良い具合に兼ね合いも出来る。退学という点も俺が勝てば問題は無い。どんな学年末特別試験になるか分からないが、命がけでやらなければならないことには変わりない。受けない理由は無いな。

 

「俺は賛成だ。綾小路を潰せる良い機会だからな。その代わり、坂柳は何も手を出さないでくれ」

 

「ええ、分かっていますよ。お二人の真剣勝負に水は差しませんから。綾小路くんもよろしいですか?」

 

「ああ、分かった。その勝負受ける。だけど、公平性を重視して上で勝負して欲しい」

 

「分かりました」

 

 また学年末特別試験の説明の後に契約書を書くことに合意し、全員が別々の道を使って寮へ帰って行く。やっとだな綾小路。ついに俺の目的に現実さが増してきた。

 

「さぁ、下関くんはどんな風に綾小路くんに敗れますかね。その次はいよいよ私と勝負ですよ綾小路くん」

 

 




 9巻も終わり、一年生も終わりが見えてきました


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幕間 坂柳有栖の嗟嘆

 これが終わり、残りの幕間は2つとなりました


 

 お見事としか言いようがありませんね。まさかここまで皆さんが反抗してくるなんて思ってもいませんでした。今回は神室さんへの警告と一之瀬さんへの攻撃だけの予定だったのですが、下関くんも綾小路くんもここまで動いてくれるとは思いませんでした。私としては満足出来たので良かったです。

 

 ええ。2人に勝負を持ち出した理由ですか? このままいけば、どの組み合わせで勝負をしようと邪魔や何処かやり切れないように感じますから、それを防ぐためですね。もし、それまでに下関くんと対決する機会があれば、もちろん勝負しますが。

 

 下関くんと綾小路くんの勝敗ですか? そんなもの聞くまでも無いことですよ。綾小路くんは私に届きうるかもしれない作られた天才です。政治家という家に生まれただけの秀才が勝てるはずがありません。

 

 私は下関くんがどんな風に抗うのかということと、綾小路くんがどんな風に下関くんを蹂躙するかしか興味ありません。二つは矛盾しているようですが、存外矛盾していないですから、楽しめるなら2つとも楽しみたいですね。

 

 その上で下関くんの良さですか? 難しい質問をされますね。下関くんはその憎悪と執着心が良さではありませんか? 彼がそれを無くさない限りは綾小路くんに挑むでしょうし、綾小路くんのお父上にも挑むはずです。それは並大抵の精神で出来る代物では無いので、私は長所と表現したいですね。まぁ、彼は準備が整うまではそこから逃げる傾向にあるようですが。

 

 神室さんの話ですか……ええ、話せますよ。彼女は私にとって良いお友だちだと思っていました。色々と私のことを手助けしてくださったりもしたので。残念ながら、今はその関係が切れてしまい、彼女は私の側にありながら私を裏切り、下関くんの側に行ってしまいました。嘆かわしいことです。もちろん、私に原因もあるとは思うのでしょうが、裏切った方にはそれ相応の報いを与えようとも考えています。

 

 ですが、神室さんにも良いところはあります。彼女は尽くすことに関しては他の人よりもよく出来ます。手を貸してもらった私が言うのですから、間違いありません。下関くんも同じように感じていると思いますよ? 本人は認めないでしょうが。彼女はその内面と行動の歪さが魅力ですね。

 

 さて、色々と語り終えましたが、私の言いたいことは綾小路くんと下関くんの対決が楽しみというわけです。私が対決したのはやまやまですが、やはり楽しみは後にとっておきたいですし、まだまだ時間はあります。じっくりと高みの見物をさせていただきますよ。

 

 




 次話からは10巻の内容ですが、更新を数ヶ月ストップします。
 本当に申し訳ないですが、ここからの内容はテンポよく読んでいった方が没入感や展開への理解が深まるだろうと思っての判断です。
 自分が11巻の幕間までを書き終えた段階で投稿を再開する予定です。
 夏までには投稿を再開出来ると思いますので、急ですがよろしくお願いします。


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