ヘスティア・ファミリアが大所帯になるのは間違っているだろうか (妹めいたなにか)
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それは兎と言う割には亀のように頑丈で

あの日抱いた願望は少年の中でいつまでも燃え盛っている。


誤字報告ありがとうございました


ボクの名前はヘスティア、炉の女神だ。

 

最近になってボクの元に新しく、そして初めての眷属が増えた。

 

ボクにとって勿体ないと思うくらいとってもいい子でその「二人」は血は繋がっていない兄妹らしい。

 

兄の方は【ベル・クラネル】ボクの初めての眷属で、何でも多くのファミリアを門前払いにされたとか。

 

こんなに可愛くていい子達を門前払いにするとは何事かと憤ったものだけどその御蔭でボクのもとにベル君が来てくれたと考えると良いことのように思えるから我ながら身勝手な話だ。

 

正直妹の言うお兄ちゃん?と言うには憚られるくらいに可愛くて最初は姉妹と見間違えた、というかファルナを刻むまで信じられなかったくらいにベル君は魅力的に過ぎた。

 

紅くクリっとした目は兎を思い起こすような愛らしさを醸し出しているし、笑顔なんかとても眩しい

 

長く邪魔にならない程度に整った透き通るくらいの白髪は物凄いキューティクルで女として少し負けた気がしたほど綺麗な髪でファルナを刻むときに少し触った、負けた気がしたのが強まった。

 

というか上半身裸なのに色気がすごいんだけど、危うく処女神の名誉を投げ捨てるところだった。

 

妹の方は【クミ・クラネル】最初見たときに本当に血は繋がっていないのかと問い詰めたくらいに彼女の見た目はベル君に似通っていた。

 

白い髪に紅い目、兄に似た童顔とあまりに似過ぎていて彼女の耳がエルフ特有の尖っていたのを見過ごしたほどだ。

 

そんな二人を眷属に迎え入れたボクの日常は驚く程に変わった。

 

まずベル君は連日ダンジョンに潜っては1~4階層を行ったり来たりでお金を稼いでボクを養ってくれるし、最近サポーターを雇ったとかで収入がさらに増えてる、まあベル君には例のスキルがあるから多少の無理はできるんだろうけど心配なものは心配だ。

 

クミ君はすごく多才でメインストリートでギルドの許可を取り演奏をしては多額のおひねりを貰って帰ってくる。

 

更にはその多芸さを余すところなく発揮しては更に大金を稼いできてあらゆる派閥が彼女を引き抜こうとしているらしい、ボクの大切な可愛い子を渡すわけないが。

 

バイトこそ続けているが生活環境がガラリと一変した。(というか働いてないとボクがヘファイストスのところにいた時みたいに何もしてないニート神みたいに二人にダメにされる気がする、あの生活を思い返すと自分がどれだけぐうたらだったのかとベッドに転がって悶えたい衝動に駆られるから正直思い出したくない)

 

ただ、ベルくんは時折物憂げな感情をチラリと覗かせるときもあって、それがまた魅力的なんだからずるい。

 

そんな折、クミ君がボクに話があると話題を持ちかけてきた。

 

ベル君がダンジョンに稼ぎに行っている間彼女は自分の生い立ちを隠すこともなく語ってくれた。

 

何でも彼女は戦乱を生き抜いたエルフの末裔(彼女の故郷ではエレアというらしい)と血の繋がっていない妹(!?)との間に残された遺伝子からできた子どもらしい。

 

・・・ツッコミどころが多いと思うのは間違っているだろうか?

 

しかし彼女の言葉に嘘はなく、その言葉が全て真実だということを思い知らされた。

 

「よりにもよって【ノースティリス】かよ・・・!」

 

彼女の出身地は魔境だった、どんな退屈な神々でさえ「近づきたくねえ」といいたくなるほどの無法地帯を通り越した人外魔境。

 

神の力を十全に活かした神すら屠る可能性を超えた者たちの集う恐るべき大地。

 

そこには恩恵や眷属と言ったこちらの常識はまるで通用しない別世界、彼らが本気を出せば【三大冒険者依頼】など児戯にも等しい。

 

何故かって?ここの住人たちが1桁のレベルで一喜一憂している中で彼ら彼女らはそんな限界を息を吸うように、目の前のパンを食べるように何事もなかったと言わんばかりに超えていくのだ。

 

人間の命など木の葉一枚ほどに軽いし、何なら死んだところで本人が望めば何の感慨もなく【這い上がる】だけで復活できる、文字通り人間の構造が違う。

 

ならば疑問に思うだろう、そんな存在がいて何故【三大冒険者依頼】なるものが存在したのかと。

 

簡単だ、ノースティリスは文字通り別世界なのだ、超えてはならない次元の壁、ある意味神々が地上に降り立ったときのような異常事態、今その異常事態の権化がボクの目の前にいる。

 

【それ】をボクが知っているのはなんのことはない、そこには【神友】がいたからだ。

 

その名前はクミロミ、収穫を司る神で、中性的なその見た目は男神とは思えないくらいの可愛らしさを持つ。

 

彼らは天界でも有名で娯楽を求めて別世界に渡ったという下天してきた神と同じくらいのぶっ飛び加減で周囲の度肝を抜いた。

 

とはいえ全知無能のボクらと違ってあっちは別世界で全知全能のままだから制約などに縛られず連絡を取ろうと思えば普通に取れる、そういうものなのだ、神という存在は。

 

「・・・その名前は、クミロミから貰ったのかい?」

 

「いえ、名前は親からもらいました、親もクミロミ様の信者なので、クミロミ様に見守ってもらえるような健やかな子に育ってほしいと、でもできれば家名も引き継がせてもらいたかったです。」

 

(それはわかったけどこの子はどれだけクミロミに愛されているんだ!?)

 

ノースティリスではこの世界のように神々が外界に降りていない、寧ろ、天界から人間たちに干渉しその生き方を見守るというやり方はこちらとはまるで正反対だ。

 

才能やアーティファクトがあれば神の声を普通に聞き取れるし、信心深いものが神に祈れば何らかの奇跡を与えるのだ。

 

ゆえにこそ彼女の持つ【農具】は如何に彼女がクミロミから寵愛を授かっているかがよく分かる。

 

というかこの子寝ているときにクミロミと交信できるらしい、愛され過ぎにも限度がある

 

「それがあると知られれば間違いなくデメテルファミリアからその手を引かれただろうに、何かあったのかい?」

 

「いえ、一応誘われましたが無理にとは言わないとは言われました、間違いなく眷属のやる気が削がれると、「別神の加護で収穫した農作物は受け入れがたいの」とも言われましたね。」

 

「あー・・・まあ、本分が似てるようで違うもんね、デメテルとクミロミは。」

 

クミロミの加護を持った農具とその信心深い信者が組み合わされば豊穣は約束されたようなものだ、確かに農作業をするものからしてみれば今までの苦労は何だったのだと興が削がれるのは間違いない。

 

それにクミロミの神としての役割は収穫だ、刈り取る収穫者の役割は農業に限った話ではない、其処にある生命を刈り取りその生命を別な生命に転じることもまた収穫者の役割だ。

 

死神の武器が農具に近い鎌なのは死神の別名が魂を刈り取る収穫者とも言われているからなのは有名な話だし、かの男神が与える潰えた(腐った)生命を新たな生命()へと転じる加護や、死体を食した妖精(下僕)が新たな生命()を生み出すのはそれに近い。

 

そのためかクミロミの信仰者は生命を無碍に扱うことを快く思わない、寧ろ価値観はこちらに近く、限りある命を尊び、自然の恵みに感謝する素晴らしい心を持っている。

 

其処にあそこの大陸からして比較的という前文がつくのはお約束だが、まあ、クミ君は間違いなくいい子だろう。

 

それでいて彼女は頑なにダンジョンに潜ることは固辞した、自らの存在は間違いなく義兄、ベル・クラネルの輝きを曇らせる。

 

英雄を目指す上で自らの存在は邪魔にしかならないと、彼女はそのことを理解していた。

 

「でも私も誤算だったんですよね、まさかこっちで育てた【私の農作物】でもノースティリスと同じ現象が起きるなんて、幸い効果はそんなに高くなかったんですが、それでもこの世界では半ば超越に近いです。」

 

「まあ、そりゃそうか、そうでもなければ・・・。」

 

ボクが視線を移すのはベルのステイタスを書き出した図面、そこにあるステイタスのスキルに目を向ける。

 

「【こんなもの】がステイタスに出るわけないかぁ・・・。」

 

 

 

 

 

no side

 

オラリオから地下深くに続くダンジョン、5階層に少年少女が探索を深めつつ歩いていた。

 

「4階層が手応えが少なくて勢いに乗って5階層まで来ちゃったなぁ・・・。」

 

「ベル様、そろそろ帰還を視野に入れたほうがいいかと、バックパックが魔石とドロップアイテムで一杯になってきました。」

 

少年の名はベル・クラネル、クミの義兄で、零細ながらヘスティア・ファミリアの団長である。

 

尚その容姿のせいで一部の神々からは兎属性の男の娘だとか兎人より兎人とか、挙句の果てにはアルミラージの擬人化だの散々な言われようであるが本人は気がついていない。

 

「ああ、ごめんリリ、もう少し潜ったらいい時間だし帰還しようか。」

 

「はいです。」

 

ベルの側に控えるのはリリルカ・アーデ(リリ)、小人族(パルゥム)の少女で「ソーマ・ファミリア」所属のサポーターだ。

 

 

 

 

少年と少女が出会った日はまだ浅く、パーティを組み始めたのも数日前である。

 

ベルはヘスティア・ファミリアに入ってから数日、1~4階層での鍛錬を繰り返し、魔石やドロップアイテムを換金して稼いではいたが、最初のうちはその稼ぎはあまり良いものではなかった、魔石やドロップアイテムは落ちていてもベルはソロでダンジョンに潜っており、どうしても持って帰れる量に制限が付きがちだった、そこでアドバイザーのハーフエルフ、エイナの勧めに耳を傾け、サポーターを雇うことに決めた。

 

のだが、今までソロでダンジョンに潜っていたことが災いしどういった人物を雇うか全く想像がつかない、そうやってサポーターをどうやって雇うべきか悩んでいたところ声をかけたのがリリであった。

 

「そこ行くお兄さん、サポーターは必要ですか?」

 

そうしてベルはリリを自らのサポーターとして契約することに決定した。

 

(にしても、はぁ・・・ベル様、ここまでの人だったとは、少々誤算でした。)

 

・・・最初こそリリは自分の目的のためにベルを利用してやろうと、いくらか信用を得てからバックパックの魔石をちょろまかしてやろうかと考えていたのだが、そんな企みは組んだ初日に脆くもいい意味で崩れた。

 

このベルという少年、見た目こそなよなよしいというか、女のリリをしてふざけるなと言いたい美貌の持ち主なのだが、戦闘になるとその顔は瞬く間に戦士のそれへと変わり、ナイフ片手にモンスターの屍の山を築き上げる。

 

当然その屍の山から魔石だったりドロップアイテムを回収するのがリリの役目なのだが、その光景に目を見開くことになる。

 

(魔石は当然ですが・・・・ド、ドロップアイテムが多すぎます・・・!?)

 

リリは思わず小声で零した、どういう幸運の持ち主だと、今まで奴隷のそれであった扱いのときの収穫の数倍、低層での稼ぎにも関わらず下手をすれば、一日であの地獄のような環境での稼ぎ数週間分に値するような、そんな【宝の山】がリリの目の前に広がっていた。

 

しかも・・・。

 

「じ、10万ヴァリス・・・!?」

 

換金された金額はリリの予想の遥か上、上層から中層へと進めぬ弱者がソロで命をかけて必死に潜ったダンジョンでの一日の稼ぎでは決して届かない金額だ、下手をすれば中層での稼ぎにすら届きかねない。

 

「はいこれ、リリの取り分。」

 

「は、はいぃ!?」

 

挙げ句手渡されたリリの取り分は換金された半額5万ヴァリス(尚少しばかりリリがちょろまかしているが)、ここで平然と半額渡すあたりベルのお人好しさが伺い知れる

 

「いやちょっとまってください!?サポーターがこんなに受け取っては立つ瀬が・・・!」

 

「いや、そもそもリリが居なかったら今日の僕の稼ぎ2万ヴァリスくらいだったんだけど、リリが居なかったら僕ドロップアイテムこんなに持って帰れなかったよ?」

 

「えぐぅ!?」

 

確かに数字でみれば2万よりも3万多いならば普通に考えれば大儲けだろう、そこに自分で倒したモンスターの稼ぎ5万ヴァリスを放り投げていなければの話であるが。

 

「そうだね、じゃあこうしよう、リリが納得できないんならこれは契約金ってことにしよっか。」

 

「け、契約金ですかぁ。」

 

「本音を言うとね、うちのファミリアって人手が少なくって僕しかダンジョンにもぐれないんだ。」

 

恥ずかしがるように頬を掻くベルの顔はわずかに赤みがかっていてその顔にとても惹き込まれる。

 

「でも、リリみたいに頼りになるサポーターがいればダンジョンにもっと深く探索できるって今日わかった。」

 

生活費においては正直妹がいれば問題ないがそれとこれとは話は別だ、ダンジョンに潜るには自分の力だけでなく、優れた装備や回復薬となるポーションが必要だ、そしてそういった物を整えるには当然お金がかかる、そしてベルの目の前には、今日とても探索をするのに役に立ってくれたサポーターがいる。

 

「だから、君が良ければ、僕とサポーターの契約を結んでくれないかな?」

 

「は、はひ、こんなリリで良ければ、喜んで・・・。」

 

(そ、その笑顔は反則過ぎますベル様ぁー!?)

 

あの環境に比べれば雲泥の差、事を起こさなくともそれ以上の見返りがあり、何よりも、彼の側は心地よかった。

 

あれほど毛嫌いしていた冒険者から差し出されたその手を、リリは握ることしかできなかった。

 

 

 

 

そんな経緯でリリがサポーターに加わって4日目

 

モンスターの討伐も効率化し始め、稼ぎは更に増えた、今となっては一日の稼ぎは15万ヴァリスにすら届きかねない。(しかも例によって半額を報酬で渡されている)

 

もはやリリはベルと組むのはある意味欠かせないものとなっている、一日で高額の報酬が約束されている上に、ベルはリリをよく気遣ってくれた、サポーターである自分を蔑ろにせず、一人の仲間として接してくれる。

 

はっきり言って、この環境はソーマ・ファミリアでの地獄の切欠である神酒にすら並ぶほどに酔ってしまう、心地よく、そして一度知ってしまえば否が応でも離れることはかなわない。

 

ベルの本心からただサポーターだからと言うだけでなく、リリを言う自分を必要としてくれているのがひしひしと伝わるのがこそばゆくそれ以上に心地いい、組んで数日だと言うのにすっかり絆された自分はチョロいのだろうかと利用している宿で悶たこともあった。

 

今までならリリはベルのことを他の冒険者と同じで利用して必要となったら切り捨てるかもしれないという先入観を持っていたし、今もそういう不安を抱えているのは変わらない。

 

それ以前の話だが、あの環境での自らの境遇や所業から見て自分はベルの仲間としては不足なのではないだろうかと思い悩むこともあった。

 

それでもリリは、ベルとともに歩みたいと密かに思い始めてしまった、ベルの役に立ちたいと、初めての【仲間】の役に立ちたいと願う。

 

「それじゃリリ、5階層の探索行ってみようか!」

 

「はいベル様!お供します!」

 

しかしそんな少年少女たちの和やかな空気は突如離散する。

 

ズシン……

 

「ん?」

 

ダンジョンには突如として異常事態が起きる。

 

ズシン・・・

 

「ベル様?・・・ッ!」

 

それはダンジョンのモンスターが突如凶暴になったり。

 

ズシン・・・

 

「リリ、気をつけて、何か来る!」

 

予想だにしない凶悪なモンスターが突如として現れたり。

 

ズシン・・・!

 

「なぁ・・・!?なんで「こいつ」が5階層にいるんですかぁ!?」

 

下層のモンスターが、どういうわけか上層に現れることもある、それがダンジョンである。

 

ヴオオオオオオオォオオオオオオォォォオオオオオオオ!!!!!

 

「リリ、今すぐ逃げて!」

 

突如現れた脅威を前に、少年は逃げるよりも、立ち塞がった。

 

「ベル様!?無茶です!ベル様がどんなに強くてもまだミノタウロスは・・・!」

 

人間の話を悠長に待つモンスターなど居ない、猛然と襲いかかる拳がベルにそのまま直撃した。

 

 

 

 

ベル・クラネル

 

スキル

 

収穫祭事(ハーベスト)

 

モンスターを討伐した際ドロップ率超補正

 

食事を摂ると確率でアビリティ(主能力)極微増加し最終アビリティに加算する

 

祝福された食品の場合効果は増幅する

 

加算値

 

耐久+2500

 

器用+1500

 

魅力+計測不能

 

魔力+500

 

 

「何だよこのクミロミの信仰者がもつ奇跡のいいとこ取りが具現化したようなスキルは!?・・・っていうかこれのどこが【そんなに】!?」

 

(何だこの食べた分が加算されるってのは!?耐久だけで半端な冒険者を超えてるじゃないか!?)

 

2500、アビリティで言えばSクラスの999二回半分そこまでになった耐久がどうなるか、それがわからぬヘスティアではない。

 

「い、一応神の加護の食材(主に穀物と果物)はもう食べてないのでここから一気に上がることないんですが、それでもお兄ちゃんたくさん食べるから気がついたときにはお兄ちゃんゴブリンの攻撃くらいではかすり傷つかない体になっちゃって。」

 

「そうだろうね!2500あったらゴブリンの攻撃なんて虫に刺される以下の感覚もないだろうね!?」

 

「言い訳をさせてください!私の世界ではこんなに上がることなかったんですよ!?度重なる訓練と潜在能力を鍛えて漸く1上がるか上がらないかなのに、お兄ちゃんなんでこんなに上がってるんですか!って思いましたがお兄ちゃん村の頃からかなり特訓してました、ごめんなさい!」

 

「それだそれだそれだ間違いなくそれだぁあああああああああああああああああ!!!!」

 

「うえええええ!?」

 

(神の加護モロ乗った作物の栄養とかファルナに過剰反応するに決まってるし、元々そんなに高くなかったんだろうけどそれがステイタスに見事に乗っちゃったんだなぁ・・・。)

 

「ある意味神酒よりもだめなやつだこれ、神会でどう説明すりゃいいんだよぉ・・・。」

 

「だ、大丈夫です!最悪のときには私が祈ってクミロミ様を神会にお呼びすれば皆様納得してくれると思います!」

 

「それが一番ダメなやつだからね!?君が祈って召喚したら間違いなくクミロミ喜んできちゃって余計に収集つかないよ!?」

 

(ああ、ベルくん早く帰ってきて・・・。)

 

ヘスティアは思わず天を仰いだ。

 

(っていうかそれよりも、何よりもー・・・・・・ッ!!!!)

 

話を終えたクミが【四次元ポケット】という危ない名前のポケットから大量の資材を運び出すと、団員ではない【相談役】の彼女に話しかける。

 

「【アルフィアお義母さん】、頼まれた資材買ってきたけど補修こんな感じにすればいい?」

 

「ああ、記憶頼りの補修になるが、今よりはマシな具合にしなければな。」

 

「アルフィアお義母さんの部屋は他よりも壁を厚めにしたほうがいい?多分これからここ凄く賑やかになるけど、そういうのお義母さん苦手でしょ。」

 

「・・・ふむ、どうするか。」

 

一つ補足だが、ヘスティアは相談役である彼女がどういう存在かは本人から聞いた、知らぬものはおらぬ【ヘラ・ファミリア】のその中でも実力者。

 

その名は【アルフィア】。アホみたいな攻撃性能を持った超高火力短文呪文と、それの威力を彼女なりに割と抑えておきながら絶対的な防御も可能な反則エンチャント、そして何より彼女自身が接近戦すら敵なしという敵からすれば階層主のほうが可愛く見える理不尽の権化。

 

本来なら彼女はその強さを代償としたような大病を患っていた、が、そこはアルフィアすら霞む世界から来た、訳わからねえ【最強の理不尽】曰く・・・。

 

「アルフィアお義母さんの病気?【祝福された肉体復活のポーション】で才能そのまんまにさっぱりと消えましたよ?ぶっちゃけエーテル病より軽い病でしたし。」

 

「スキルに刻まれるくらいどうしようもない不治の病が軽い病って言うエーテル病って何?」

 

「諦めろヘスティア、こいつの前では我々が刃が立たなかった黒竜すら、「体だけがでかい蜥蜴」扱いだったよ・・・。」

 

「とかげかぁ・・・。」

 

アルフィアはとある分岐点で【絶対悪】になる切欠となった「黒竜?ヴェスタのほうが強いけど?」とお散歩感覚でそんな隻眼の黒竜の首を刈り取り塵とした【義娘】を何処か悟った眼差しで見つめていた、因みにヴェスタとは【Lv25】相当の赤龍である、ここまで雑に死んだ黒竜さんは怒っていいと思う。

 

「ザルドもベヒーモスの猛毒で死に至る筈だったがクミの言うタダの解毒ポーションであっさりと猛毒が消えてしまった、今は自分など必要ないとあの狒々爺とともに楽隠居だ、お前たち神をして近づかぬ混沌の地には一体何があるんだ?」

 

「一言で言うなら、廃人の集まりかなぁ・・・。」

 

「酷いこと言わないでください!?普通な人も居ますよ!少しは!」

 

「それは反論にはなっとらんぞクミ、後少し声を抑えろ。」

 

呆れるヘスティアの足元にベルのステイタスを記載した紙が落ちる、そこには収穫祭以外にも、あるスキルが発現していた。

 

 

静寂継承(ゴスペル・サイレンス)

 

魔法に超短文魔法【福音】発現

 

逆境においてアビリティ高補正

 

英雄至誓(アルゴノゥト)

 

能動的行動に対するチャージ実行権

 

早熟する

 

誓いが続く限り効果持続

 

誓いの丈により効果上昇

 

 

魔法

 

福音(ゴスペル)

 

超短文詠唱魔法

 

 

【絶対悪】と【正義】の衝突が起こらず、オラリオには【邪神】と【英雄】は現れなかった。

 

起きたのは闇派閥とそれを防ぐ冒険者の衝突のみ。

 

それでも英雄は現れるだろう、かつて【道化】が紡いだように、この物語にはそんな道化がドン引きする喜劇しかないのだから。

 

 

 

 

「ヴモォ・・・?」

 

怪物が感じた手応えは予想とは違った、雑魚だと思っていた、先程であった【驚異】からしてみれば目の前の存在などとてもちっぽけに見えた。

 

だが、そんな存在を殴った時、感じた手応えは、殴り飛ばした手応えではなく、強いて言うならば、壁を殴ったかのような・・・。

 

「えぇ・・・?」

 

思わずリリは目を瞬いた、怪物の拳を受けたベルは、受けた姿勢そのままであった、殴り飛ばされたのではない、防いだのではない、【受けた】のだ、他ならぬミノタウロスの拳を。

 

「そのくらいじゃ・・・クミの蹴りより、アルフィアお義母さんの拳骨<ゴスペルパンチ>よりも軽いよ。」

 

ベルにはたしかに少なからずダメージがあった、それでもリリにはベルが怪我以上にどこか辛そうな顔をしているのが映る。

 

「遠い、まだまだ遠いんだ・・・!」

 

歯を食いしばってベルは一歩下がってナイフを構える、ミノタウロスの攻撃を受けて勝てると思ったからではない、寧ろ目の前のミノタウロスは自分よりも相当な格上だ、自分は打たれ強いが、まだまだ打たれ強いだけなのだ。

 

「クミならもっと巧くやってる、攻撃を受ける必要さえないんだ、義母さんならそもそもこうなる前に出会い頭に一撃で終わってる!」

 

一人言葉を零すベル、だが、その言葉一つ一つに、ミノタウロスはどこか自分が気圧されている感覚に陥る、目の前の存在がどんどんと別の存在に映っていく。

 

「お前がどれだけ強くても、お前がどれだけ高みに居ても関係ない・・・!」

 

少年は突撃を開始した、それはただ我武者羅になったのではない、純然たる誓いと決意。

 

「いつか誓ったあの日の約束のためにも・・・ボクは、お前と戦う!」

 

ナイフを逆手に構えミノタウロスに刃を突き立てる、当然というべきか、あくまで刺さった程度でダメージはまるで軽微だ、ミノタウロスの命を奪うにはこれでは足りない。

 

「・・・ッヴオオオォオォォォォォオオオオオ!!」

 

だがそれは布石でしかない、モンスターには必ず急所が存在する、それを察したミノタウロスは「それ」だけはさせぬとベルに猛攻撃を開始する。

 

「が、ぐぅう!?まだ、まだぁああああああ!!!」

 

予備のナイフを取り出し、ベルは果敢にミノタウロスの攻撃を凌ぐ、自分の何倍もある拳や足を見切り、受け流し、時には態とその頑丈さを利用して受けきってその間に一撃を入れたりなど。

 

いくら頑丈なベルでもミノタウロスの猛撃を何度も受ければ流石に負担が大きい、だがそれがどうした。

 

【家族】から扱かれた薫陶はこんな猛攻ではなかった、何度も超えた限界、およそ常識では修行と呼べぬ地獄絵図、だがそれを超えて今、ベル・クラネルはここに立っている。

 

「ヴォ、ヴオオオオ!!!?」

 

ミノタウロスは混乱した、何故だ、先程まで弱者だった存在が瞬く間に己を追い詰めていく、だが。

 

「ォオオオ・・・ブモォオオオオオ!!!」

 

ミノタウロスは吠えながらも悔いた、最初から獲物としてみずに戦うべき【敵】としてみるべきだった、自らの心臓部とも言える魔石から熱のようなものがこみ上げる。

 

眼前に構えるのは驚異でも獲物でもない・・・敵だ、自らの命を脅かし、全力で排除せねばならぬ敵。

 

「ミ、ミノタウロスが笑った?」

 

その時リリは見た、ミノタウロスの口角が上がり、4つ足の構えで突進の態勢を作る、自らが持ち得る角を用いての最強の攻撃、そうでなくては目の前の敵には届かない。

 

「・・・受けて立つ!」

 

対するベルも構えを取り、チャージを開始する、突進に負けぬ力を得るために、目の前の敵を倒すために。

 

二人の雄の視線が交差する、自らの最高を持ってこの敵に勝利する、勝つのは自分だと雄々しく吠える。

 

うおおおおおおおおおおおおおお!!!

 

ブモアアアアアアアアアアアアア!!!

 

そして二人の影が重なった。

 

「・・・ッベル様ぁ!!」

 

そして一度も目をそらさず戦いを見届けたリリは見た、その輝くナイフを持ってミノタウロスの角を折り、先程刺さったナイフを掴んだベルが、叫んだ。

 

福音(ゴスペル)ッ!!!」

 

その刹那、ダンジョンに響く鐘の音、その音は何処までも綺麗な音色で、掴んだナイフを伝わりその振動を持ってミノタウロスの魔石を砕いた。

 

「ガ、ガアァアアアアァア・・・・!」

 

自らの命を砕かれたミノタウロスは灰へと変わっていく、それでも視線は敵へと注がれた。

 

嗚呼、「次」があるのならば、今度は最初から全力でこの敵と戦いたい・・・。

 

その強い願いを抱いて、ミノタウロスは消失した、戦いの証である自らの角を残して。

 

「ベル様、ご無事ですか!?」

 

「リリ、心配賭けてごめん、それにしても、ナイフ2つとも砕けちゃったな・・・。」

 

その視線が向けるのは今日の探索の前日、エイナとともに「ヘファイストスファミリア」で購入した安物のナイフの残骸2つ。

 

片方は無銘だったがもう片方の名前は確か「試作兎牙(プロトぴょんが)」とか言う名前だったはず。

 

握りがとてもしっくり来ていて今回の探索でもお気に入りの一振りだったのだが、ナイフを伝って音を伝えさせるという初の試みに武器がついてこれなかったのだろう。

 

(クロッゾさんすみません、買ってすぐに壊しちゃいました。)

 

会計の人に製作者に御礼の言葉をお願いしますと言っておきながらこの体たらく、次に買いに行くときが気まずいと思いながらも。

 

ベルは自分の視界が揺れるのを感じた。

 

「べ、ベル様!?」

 

「あ、あれ、ごめん少し疲れて・・・。」

 

何度もあった逆境とはいえ、今回のは尚の事激しい戦いだった、福音とチャージを使った精神力の限界が来たらしい、チャージはともかく福音は使ったのは二度目だが負担が段違いだと流石義母の魔法だと何処か感心したベル。

 

(だめだ、ここで意識を失ったら、ここはまだダンジョンでそばにいるリリを危険に晒すわけには・・・!)

 

「いいから寝とけガキ。」

 

倒れかける寸前に誰かに荒々しく支えられた、視線を向けると、そこには狼人の男性と金髪の少女が居た。

 

誰かと確かめる前にベルの意識は途絶えた。

 

「あ、あなた方は・・・!?」

 

「そこの小人族、てめえらは何処のファミリアだ、かってにケツ拭かれた落とし前をつけなきゃならねんだよ。」

 

「・・・。」

 

金髪の少女が視線を注ぐのはベル、先程の顛末を途中から見ていた。

 

戦いの内容はオラリオの最大派閥、【ロキ・ファミリア】の自分たちからしてみれば些細な戦いだ、ミノタウロスなどもう経験値にもならない。

 

だが、あの戦いは、何よりも雄弁で、あの【ベート】が手を出すなとまで言っていた。

 

(「俺達の不手際だとはいえ男同士の戦いとあのガキの冒険に手を出すんじゃねえ」ってベートさんは言ってたけど・・・。)

 

目の前の少年は冒険者になってまだ浅いだろうが相当に修羅場をくぐった所作が戦いに見えた。

 

歯を食いしばって何処までもミノタウロスに勝とうと懸命だった。

 

(君が持つ意思の強さは何処から来るの・・・?)

 

ロキ・ファミリア所属の【剣姫】、アイズ・ヴァレンシュタインはベルの戦いに何処か惹かれるものを感じていた。

 

 

 

 

その日、ロキ・ファミリアがダンジョンにてミノタウロスを上層に逃してしまう不手際をしたことがギルドに報告された。

 

ロキ・ファミリアには罰則が言い渡され、ギルドへの罰金と被害を受けたファミリアに賠償が課された。

 

その影で、その不手際の後始末を図らずもしたベルのミノタウロス討伐も明るみに出てヘスティアは卒倒した。

 

尚、これは完全に蛇足だが・・・。

 

「ほほう、ミノタウロスを倒したが、サポーターをそっちのけでマインドダウンを起こしたと?私の義息子はいつからそんな無責任な男になったのだ?ん?」

 

「ひぃ!?言い訳のしようもないです!?」

 

「べ、ベル様が獅子を前にした兎のように縮こまってしまいました・・・。」

 

「あれがタケの言っていた極東に伝わる奥義の土下座かぁ。」

 

「でもアルフィアお義母さんの前では無駄だと思うよお兄ちゃん。」

 

ヘスティア・ファミリアのホームで一人の兎が折檻を受けていた。




喜劇と言う割には一話目から激闘するスタイル


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それは誓った願望を叶えたいほどの憧憬で


英雄に憧れる幼き少年(ベル・クラネル)は英雄譚を超えた超人を前に現実を知る


そこ間違えたらあかんやろってところを間違えてた・・・誤字報告ありがとうございます


ミノタウロスと戦った直後、ベルは失った意識の中で夢を見た。

 

それは自分の原点だ、自分が英雄になりたいと、あの約束をした強く願った誓いの記憶。

 

祖父が自分とそっくりな女の子、クミを連れてきて、「ベルの妹として育てるぞい!」

 

と言って突然増えた妹に困惑しながらも、当時幼い自分には理解できなかったが、村に農地を作り祭壇を設けてお祈りをしていたクミと一緒に土いじりをしていたのはとても楽しかったとベルは思う。

 

祖父が聞かせてくれた英雄譚を一緒に読んでいる時、一緒に食事をしている時、どれもこれもがとても楽しい記憶でいっぱいだった、後クミが来てから野菜と果物とかの作物が凄く美味しい。

 

それにクミは自分によく懐いてお兄ちゃん!とついて回って来ていたが村のみんなにとても微笑ましく見られていたと思う、だがその傍らクミが自らの作物をお裾分けしていた時、みんな首を傾げていたのは、多分作物の出来が凄く早かったからだとベルは今更ながらに気がついた。

 

小さかった頃のベルとてクミには不思議な力があるということはなんとなく知っていた、だってクミが祭壇に祈りを捧げれば、祭壇に暖かな光が降り注いでいるようにすら見えたから

 

「あやつは世界跨いでも太陽神とは違って眷属一途じゃなぁ・・・幸運神がああなったとはいえ、男のヤンデレとか誰得じゃっての。」

 

その光景を見たそんなことを祖父が呆れて零していた、そうした日常の中、ある二人が家に訪ねてきた。

 

アルフィアとザルド、二人ともが祖父の関わりがあるらしく暫く共に住むことになった、その過程でアルフィアが自分の母の姉、叔母に当たると知ったが呼んだその時ゴスペルパンチをお見舞いされ【アルフィアお義母さん】と調整されるに至る。

 

それからの日々は本当に暖かな日々だったと思う、まれに祖父が義母にちょっかいをしでかしては【福音】で祖父を家ごとふっとばし、その度にクミが修理したり、ザルドの作るご飯は美味しいがまれにそんな事が起きて食事がお通夜ムードになったりとしたが。

 

それでも一番忘れてはいけない記憶がそこにある、何度も読んだ英雄譚を読んだ時、ベルはふと思ったことがある、義母やザルドはとても強いのを幼いベルでも知っていた、そうでなければ一言発せば家が吹き飛ぶような魔法を放てるわけがないのだ。

 

それでもふと誓ったことがある。

 

「僕が強くなったら、物語に出てくる英雄みたいに、妹やアルフィアお義母さんを守りたい。」

 

この言葉だけはずっと、ベルの胸の奥、芯で強く鳴り響いている、この何気ない日常で出てくるような子どもの願望。

 

それを聞いたクミはとても嬉しそうに抱きついてきたし、祖父は満足そうに頷き、ザルドはわずかに口角を上げ、義母はなれるものならなってみろ、とだけ言っていた。

 

 

 

 

こう願ったのは、今の日常がベルにとってとても大切で、ずっと続いてほしい暖かな日常だったから、それを守りたいと、子どもながらにベルは願ったのだ。

 

 

 

 

 

 

だから、それが終わりを迎えそうになった時、自分は泣いた、男神や義母達の言う世界のためにとかそういうのを聞いてもそんなものは関係ない、ベルは、家族と一緒に居たかった。

 

そんな時だった。

 

「じゃあ黒竜ってのが居なくなればお兄ちゃんが泣かなくて済むの?アルフィアお義母さん達がここから出ていく必要がなくなるの?」

 

その時のクミの目は、今までに見たこともないほどに、冷たかった、ベルが泣くのが許せないからと、その黒竜とやらが原因でアルフィア達が去らねばならぬならその元凶を倒せばいいとあっさり言ってのけた。

 

「まてクミ、何故お前が黒竜のことを知っている。」

 

「あ、やべ、あの時の話聞かれてたのか。」

 

祖父が頭をかいてそれをアルフィアが蹴飛ばしていた。

 

「黒竜は子どもに倒せるような存在じゃない、ここにいる二人の仲間が、家族が戦って壊滅したほどだ、君みたいな嬢ちゃんが勝てる存在じゃ・・・いやまて、何この子、さっきよりも威圧感すごいんだけど?」

 

男神が正気を疑うようなことを言っていたと思うが、その一言がクミを少し「おこ」にさせた、その時の祖父の顔はあっちゃーとかそんな感じの顔だったと思う。

 

「エレボスよ、この子をその気にさせちまったな?クミよ、遠慮はいらん、クミのやりたいようにやってくるが良い。」

 

「うんわかったおじいちゃん、ザルドさん、3日くらい留守にするから畑の面倒お願いしていいですか?」

 

「あ、いや、構わんが、水やって雑草を抜くだけでいいのだな?」

 

「はい、まだ植えて間もないですから、クミロミ様にもお祈りしてこないと。」

 

「いや、クミロミって、なんで嬢ちゃんアイツのこと知ってんの?てか待って、その農具どっかで見たことあるんだけど?」

 

男神の指摘した農具をしまい、身の丈以上の鎌を取り出し、外に出て素振りをするクミ、その後祭壇に祈りを捧げると、笑顔で振り返ってベルに笑顔を向ける。

 

「お兄ちゃーん!今からお兄ちゃんを泣かせた元凶殺してくるからちょっとまっててねー!」

 

手を振ったその瞬間、クミは風のように村から飛び出した、というか実際暴風のように速かった。

 

「な、なぁゼウス、あの嬢ちゃん何者だ、あの農具ってどう見てもアレだろう?」

 

「クミロミの寵児がムーンゲートのバグでこっちに来ちまった、それだけの話じゃ。」

 

「何やってんのムーンゲート・・・俺の決意って・・・。」

 

エレボスと呼ばれた男神が頭を抱えていた。

 

「先ほどから話についていけないのだが、クミが実力者なのは知っていた、だがあの娘でも黒竜は無理だろう、何故止めなかった。」

 

「アルフィア、そういう話ではない、黒竜は触れちまったんじゃ、理不尽の逆鱗にな・・・。」

 

「ゼウス、なんであの娘この田舎でのんびりしてんの?」

 

「クミ曰く、尽くせるお兄ちゃんに出会った、それ以外に理由はないとのことじゃ。」

 

「えぇ・・・あの見た目で【妹】なのかよ、きっついなそれ。」

 

「【妹】なんじゃよ、なんでも一回エルフとの交配を経てだいぶマイルドになってアレみたいじゃが。」

 

「そのエルフ肝太すぎないか?俺でも【妹】はゴメンだよ。」

 

「先程から妹、妹と、クミはベルの義妹だろう、まるで妹がわけのわからん存在のように言うのはどうなのだ?」

 

「ザルド、知らないのは幸福なんだ、彼処の神は何を思ってあんなのを産んだんだ。」

 

「さあのぉ、生き別れた血の繋がっていない妹という存在に何かを求めてるんじゃろ、同意はするが。」

 

その一言で祖父はアルフィアに殴り飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

それからクミが飛び出して数日が経った頃、クミは平然と帰ってきた、しかも気がついたらそこに居たかのようにいきなり現れたのだ。

 

「お兄ちゃんただいま!お兄ちゃんを泣かせた黒竜は首を刎ねて挽き肉にしてきたよ!」

 

「挽き肉だと。」

 

畑の水やりをしていたザルドが思わず零す、その顔は盛大に引き攣っていた。

 

「あ、ザルドさんただいま帰りました!畑の面倒を見てくれて本当にありがとうございます!」

 

「いやまあ、これくらいは容易いが、お前今黒竜の首を刎ねて挽き肉にしたと言ったか?」

 

「しましたよ、死体は四次元ポケットにしまってますから見ます?」

 

「何だその神々が好きそうな名前のポケットは・・・というかしまえるのかあいつを。」

 

「えーっと確かドロップしたのは【黒竜の死体】と【黒竜の剥製】【黒竜のカード】、あと腹に飲み込んで消化されてなかった冒険者さんの不壊装備にー。」

 

「いやわかったもう良い、事実なのはわかった・・・。」

 

目元を手で覆いうつむくザルドはベルから見たらとても黄昏れていた。

 

「俺たちの苦労は・・・。」とか「というか死体があって剥製とはなんだ・・・。」などブツブツ零すザルドの肩に祖父が優しく手を置いた。

 

 

 

 

 

 

 

そんな話を聞いている中で、ベルの心に飛来した感情、思い上がりも甚だしい、少年だったベルは現実を知った。

 

自分が守りたいと思ったクミは見上げるのも億劫になるほどの遥か高みの領域に居て、義母もザルドも、世界でも有数と言えるほどの実力者。

 

そんな者たちを守りたい?世界有数の英雄たちを?そんな英雄から次元の超えた領域にいる妹を?

 

何処にでもいる、英雄譚が大好きなだけの自分が?

 

 

 

 

 

それでも、ベル・クラネル(英雄に憧憬を抱く少年)は膝を折らなかった。

 

 

 

 

 

 

その日の夜、ベルはザルドに懇願した。

 

「お願いします!僕を、僕を鍛えてください!!」

 

「お前も知っただろう、クミの世界は、別次元だぞ?」

 

「それでも、あの時誓ったこの願いは嘘にしたくないんです!僕は、家族を守れる、そして誰かの笑顔を守れる英雄になりたい!!!お爺ちゃんが読ませてくれた英雄譚の英雄たちように!!!」

 

ベルは思いの丈をザルドに吠えた、身の程知らずにも限度がある、それでも吠えてみせたのだ、舞台に上がるための雄叫びを。

 

「僕がどれだけ身の程知らずなことを言っているのか僕自身がよくわかっているんです!!それでも何もしないまま諦めたくないんです!!」

 

使命感だとか義務感でもなんでもない、我儘だ、子どもが吠える駄々に等しいそれは、何よりも少年の魂を熱く燃焼させる。

 

「・・・吠えやがったな、何も知らん小僧が、俺に向かって決意を孕んだ声を。」

 

その時のザルドの顔は、今までの穏やかだった家族を見る顔ではない、一人の男を見定める、戦士の目、ベルは一瞬竦むも、目だけは逸らさなかった、それと同時に部屋に入ってきた一人の女性。

 

「全くうるさい騒音だ、もう少し静かに騒げんのか?」

 

今が夜中で義母もそろそろ寝る時間だというのをすっかり忘れていた。

 

また拳骨でも飛んでくるのではと身構えるベル、しかし、義母もベルの誓いを聞き、その覚悟を問うた。

 

「ベル、黒竜が死のうが死ぬまいが、世界は英雄を欲するものだ、奴が死のうがこの世に蔓延る悪意は山のようにある、だがそれをお前がやる必要などない、はっきり言ってお前に戦いの才能はない。」

 

「何よりお前は、あいつに良く似て優しい子だ、英雄となる道は困難の連続で、努力が報われるとも限らず、英雄譚のように救った相手に感謝されるどころか石を投げられるときもある。」

 

「それでも僕は・・・英雄になりたい!助けられる誰かじゃなくて、助けることのできる誰かになりたい!アルフィアお義母さんやザルドさんに誇れるような、妹を守れる強さを持った英雄になりたいんです!!!」

 

吐き出すことをすべて吐き出した、息が切れている、それでも尚意思は固いまま。

 

「ふぅ、止めるほうが無粋というやつか。」

 

「よもや、あの馬鹿の親からこんな頑固者が産まれるとはな、お前の妹似か?」

 

「ぬかせ。」

 

 

 

 

それからベルは地獄を見た、およそ修行とは呼べぬ程の苛烈な扱き、限界を超えねばギリギリ命が危ないとされるほどの見事に調整された修行内容だった。

 

(それでもやっと踏み出せた。)

 

だがその修羅場を超えられたこそ、ベルはミノタウロスに勝利できた。

 

何もできなかったあの頃の自分ではない、英雄譚に憧れるだけだった自分ではない。

 

オラリオにはあくまで先人のアドバイスという形で義母が旅に同行した、曰く、あそこまで扱いたお前が何を成すか見届けさせてもらう、正直緊張で縮こまった。

 

オラリオに着いて、冒険者登録をした後、クミと義母には宿で待機してもらっている間、多くのファミリアから門前払いをくらい、数少ないまともなファミリアからは団員を増やす余裕がないと申し訳無さそうに断られた、それでもそんな自分を眷属にほしいと言ってくれた神様が居た。

 

本当に嬉しかった、ファミリアに迎えてくれた神ヘスティアにはどれだけ感謝してもしきれないし、自分が頑張ってこの神様に尽くしていこうとも思った、そして義母にこう言われた。

 

「尽くすだけでは足りんな、ここを私達の居たファミリアのように栄えさせお前を門前払いにした節穴共を軒並み後悔させてやれ、他ならぬお前が目指す道を走ってな。」

 

「はい!!!」

 

まだまだ遠い道だと理解している、三大冒険者依頼をも超えた偉業を成さねば、並ぶことすら許されぬ茨の道。

 

 

だからベル・クラネル(英雄に至る誓いを志す少年)には止まる暇などありはしない

 

 

 

「ん・・・。」

 

意識が浮上する、見慣れぬ天井だ、ベルは少し前の記憶を手繰り寄せ・・・。

 

「そうだリリ・・・あぎっ!?」

 

現状を確認しようと思ったら全身に走る攣ったような痛み、ああそういえば、無理した時基本この痛みが走ったなぁと軽く乾いた笑いが漏れるベル。

 

「ベル、目が覚めた?」

 

「ああ、ナァーザさん・・・ってここは青の薬舗?」

 

「そう、ロキ・ファミリアの人たちがベルを連れてきたのを見て治療ならうちがやるって預かったの、ベルには色々世話になっているから。」

 

起き上がったベルに話しかけたのは犬人のナァーザ、ミアハ・ファミリア所属の薬師。

 

医神ミアハを主神に持つ医療系商業ファミリアだが事情があり今はナァーザのみ所属の貧乏ファミリア状態だ。

 

「費用はロキ・ファミリアが全額負担してくれたからベルはそのまま寝てたほうが良い、精神疲弊を起こして間もないしかなり筋疲労が見られるから。」

 

「あ、あはは、やっぱり相当無理したんですね僕・・・。」

 

「前も【福音】で精神疲弊起こしてうちに精神回復ポーション買いにクミが駆けつけてきたわよね、ベルは無理をしないと死んでしまう病にでもかかっているの?」

 

「そ、そんなことはないと思います。」

 

その後主神であるミアハより少なくとも今日明日はダンジョンに潜るのは禁止を言い渡された、どうやら倒れてそこそこの時間が経っていたらしい。

 

ミノタウロスとの戦いの後、気絶した自分とリリを護衛しながらロキ・ファミリアが救助してくれたらしい、最も話を聞くにミノタウロスの上層進出はロキ・ファミリアからの逃走でありベルはその後始末をした形のようだ。

 

「そういえば、さっきアルフィアさんが来ていて、伝言を預かっているわ、お前には山程説教があるって。」

 

「アッ」

 

今更現状に気がついた、確かにミノタウロスには勝利したが、契約しているサポーターのリリを勝手に放置してミノタウロスと全力で戦い、勝手に気絶、ロキ・ファミリアに救助されてなければ戦えないリリを放って危険な5階層で孤立無援、叱られないほうがおかしい失敗だ。

 

「ベルよ、そなたはまだまだこれからなのだから。あまり無理をしてくれるな、うちを贔屓にしてくれるのは嬉しいがそれにしたって他のファミリアよりも利用回数が多すぎるぞ。」

 

「それでうちの貧乏状態が改善されているからなんとも言えないのが悲しいわね。」

 

「怒られる怒られる怒られる怒られる怒られる・・・。」

 

「ふむ、聞いていないようだな。」

 

「義母って聞いているけど、本当に頭が上がらないのね。」

 

 

 

 

それから帰宅許可が出てホームに戻るベル、そして拳骨とともに始まるアルフィアの説教も終わり、その際様子を見に来たリリも自分の宿に帰っていった、その夜ヘスティアによるステイタスの更新が始まったわけだが・・・。

 

「ベルくーん?ミノタウロスを倒した偉業のせいで君のステイタスが偉いことになってるよぉ?」

 

ため息交じりで用紙を差し出すヘスティア、どうやらレベル1でミノタウロス単騎討伐は相当に上質な経験になったらしい。

 

「ふむ、俊敏含めて収穫祭事の補正抜きでオールSか、まあまあ上がったな。」

 

「アルフィアお義母さん、私がこれ言うのおかしいけどお兄ちゃん相当凄くない?」

 

「すごいどころじゃないよ!?ミノタウロスを倒しただけで、いや、レベル1でミノタウロス討伐をだけで分類して良いのかは微妙だけどさ!なんでこれでランクアップできないのか不思議なくらい上がっちゃってるじゃん!」

 

頭を抱えて唸るヘスティア、そこにアルフィアがさも当然のように理由を話す。

 

「当然だ、こいつはまだミノタウロスを苦戦の上で倒しただけだ、他の有象無象の雑魚を倒しただけで私達が課した鍛錬以上の成果が出るはずがないだろう、ミノタウロスの経験がステイタスに反映はされたが、そんな奴が楽にランクアップできると思うか?」

 

「あ・・・。」

 

そうだったとヘスティアは思い出す、そもそもベルは前提からして神の恩恵なしであらゆる修羅場を乗り越えてきたのだ、それと収穫祭事に補正ステイタスとして現れているわけだが、これが裏目に出ているわけだ。

 

つまりベル・クラネルはステイタスは修行の結果その土台分グングン上がるが、ランクアップはベル自身の土台が既にとても高いため簡単な偉業ではランクアップできないということだ。

 

「つまりベル君はステイタスが早熟するのにランクアップは晩成型ってこと?何この一言で矛盾する状態!」

 

「気にするな。どんな状態でもレベル1なら上層モンスターでも強化個体を数体一人で狩ればランクアップは楽にできるさ。」

 

「アルフィア君、それは楽に分類できないと思うぜ?」

 

「そうかなー装備整えて子犬の洞窟(レベル4相当のダンジョン)で数時間潜ってればレベル2どころかレベル5まで簡単に行けると思うけど。」

 

「君の世界のレベルがおかしいだけだから!こっちでもレベル二桁の冒険者なんてまだ居ないのにさぁ!」

 

数時間でレベル5の領域に行けるなどと言われたら今この都市にいる上級冒険者は軒並み憤死待った無しだろう、ノースティリスの廃人たちはこっちが必死こいて到達する世界を鼻歌交じりに超えていくのだから言葉も出ない。

 

「あ、神様、明日はダンジョンに行かない代わりにギルドに寄ってからヘファイストス・ファミリアで武器を買ってきます。」

 

「ああ、二本とも折れちゃったんだっけ?」

 

「はい、明日はミアハ様に探索を止められたのでどうせなら探索用にいくらか身の回りを整えておこうかと。」

 

「お兄ちゃんまだ軽装も軽装だからねー軽鎧くらいは準備したいよね。」

 

「お前は頑丈なのが取り柄だが、もっと身の回りは整えておけ、今回みたいなことがあったら身を守る鎧は欠かせん」

 

「はい、わかりました。」

 

その日はクミの料理とヘスティアがバイト先での余り物であるじゃが丸くんをみんなで仲良く食べながら一夜を過ごす。

 

「因みにこれは興味本位なんだけど、クミロミの加護のある芋でじゃが丸くん作ったらどうなると思う?」

 

「うーんジャンクフード扱いなので腹は膨れますがステイタスに影響あるかは自信がないです。」

 

「この芋の揚げ物を貪ってステイタスが上がったら噴飯ものだろうよ。」

 

「でもこれ美味しいですね!神様!」

 

「それは最新作のじゃが丸くんたこ焼き風味だね。」

 

「芋の中にタコが入っているのはとても不思議な食感です。」

 

「でもこのたこ焼き風味掲示されてから金髪長髪の女の子がかなり買ってたなぁ。」

 

「メレン港の輸入物のタコでやや高い値段だと言うのに物好きもいるものだ。」

 

クミの手により修繕された教会の中で、ヘスティア・ファミリアの穏やかな食事の時間が流れていたのだった。




Elona世界でじゃが丸くんがあったらフライドポテトと同じくジャンクフード扱いかで割と悩む


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その笑顔は天使のような輝きで

ー 少年の笑顔は幸せの証、守る者の笑顔のためにこそ英雄も笑うのだ ー

誤字報告重ねてありがとうございます。


ロキ・ファミリアのホーム【黄昏の館】オラリオ2大ファミリア片割れの主神ロキが率いるファミリアで幹部から新人までとても層が厚い。

 

主に美少女美女が多くその多くが実力者揃い。

 

これはロキが女好きなのもあるがそれにも劣らないどころかオラリオ有数な強さの男性の団員もいるし、団長である【勇者】フィン・ディムナはパルゥムの男性である。

 

そこに幹部としてエルフ王族で副団長の【九魔姫】リヴェリア・リヨス・アールヴ、ドワーフでありロキ・ファミリアの最古参、【重傑】ガレス・ランドロック。

 

この第一級冒険者である3人が主軸として下の育成にも腰を入れており、強制任務である遠征にも大きな成果を残している。

 

数年前に起きた闇派閥との戦いでも多大な貢献をしてフレイヤ・ファミリアとともに2大ファミリアの名に恥じぬ活躍をした。

 

今は戦いはとある事情で壊滅的な打撃を受けた闇派閥が沈静化する形で収まったが、未だにその芽は潰えていないだろう、闇派閥を指揮していたファミリアの主神は数人送還したが全員を討ち倒したかといえば疑問が残るし、新たに加わる可能性だってある。

 

更に送還しても眷属が無事だった場合、普通のファミリアと違って、世界を転覆させるという理念を持った連中は他の闇派閥の主神ファミリアに合流するという手を取れるし、人間の悪心があの組織を未だに求めているのが厄介極まりない。

 

何せ絶望した人間、他者の失墜や狂乱を求める人間にとって闇派閥はお誂え向け、自然とその闇の誘惑に手を伸ばしてしまうのだ。

 

だからこそオラリオの巨大派閥はその邪悪の胎動に目を光らせなければならない。

 

自らの愛すべき家族を守るためにも。

 

「みんなおかえりーなんや偉いことがぎょうさんあったみたいやなー。」

 

主神ロキは遠征帰りの団員全員をいつもの調子で出迎える。

 

「ロキ、済まない、今回は色々と予測できないことが多くあった。」

 

謝罪を述べるのは団長であるフィン、そのフィンの肩に手を置きいつもの笑顔でロキは笑う。

 

「ええって、ミノタウロスの集団が一目散に逃げるってのは初めて聞いたことや、それ完全に予測できたらそれはそれでおかしいってもんやで。」

 

ロキは全員を労うとまずは休むようにと神命を下し、団長のフィンを自室に招いた。

 

「それで、詳細はどんなもんなんや?ウチの方でもいくらか情報はもらっとる、ミノタウロスの群れが戦いの途中で上層へと逃走して、それを追討する形で掃討したが、最後の一匹は別のファミリアに後始末されて、結果としていくらかのファミリアに被害が出たのは確かなんやな?」

 

「ああ、全体的な情報はそれであってる、被害の出たファミリアは2つだが、問題はその中に【ソーマ・ファミリア】のサポーターが居たというところか、しかもそのサポーターがパルゥムだったのだから心苦しいばかりだ。」

 

「うへぇ、そらきついなぁ、ソーマ自体は金銭欲はそんなでもあらへんが団長のザニスは噂じゃ相当な守銭奴らしいし。」

 

「怪我はなかった、が迷惑料としてそこそこの金額は取られると思ったほうがいい、これで怪我でもあったら有る事無い事でさらに金銭を要求されそうなものだった。」

 

「ならその後始末したファミリアもソーマ・ファミリアなんか?」

 

「いや、最近結成されたヘスティア・ファミリアだ、そのレベル1の団長がミノタウロスを討伐した。」

 

「ヘスティアやとぉ!?」

 

その名を聞きロキが立ち上がる、よりにもよって目の敵にしていた相手に自らのファミリアの後始末をされてしまった、いくらか歯ぎしりをしそうな気分だったがぐっとこらえそのまま座る。

 

「・・・あのドチビがファミリアの結成か、しかもレベル1でミノタウロス討伐、間違いないんか?」

 

「ないな、その場はベートとアイズが目撃しているし、独力を持って倒したようだ。」

 

「そか、そんならしゃーないか、ドチビに頭下げんのは心底気に食わんが聞きたいこともある、それに不始末は不始末や。」

 

「気に入らない相手に謝罪をさせることになって済まないねロキ。」

 

「勘違いすなや、ウチの家族の不始末はウチの不始末と同じや、ならケツ持つんはウチやろ、それがウチ(主神)の役目や。」

 

「ああ、ありがとう。」

 

オラリオ有数の冒険者が所属するロキ・ファミリアが何故大派閥で居られるのかはここにある。

 

主神であるロキにはいくらか問題はある、言動も控えめに言って良いとは言えないかもしれない、酒は好きだし、女も好きだ、だがそれ以上の家族愛、ロキは自分の子どもたちが大好きだ。

 

自らの子どものためならばロキはいくらでも知恵は絞るし、出し惜しみはしない、だからこそ団員に慕われているし、文句はあれども改宗もしない。

 

そうでなければ貞操観念が強いエルフ、そのうえその王族であるリヴェリアがロキ・ファミリアに所属しているわけがない。

 

「よっしゃなら善は急げや、早速伝令出してギルドに要請出しといてや、今んとこドチビのファミリアが何処にあるんかわからん、ギルドを介して正式な謝罪するための場を整えんとあかんからな。」

 

「わかった、すぐに手配しよう。」

 

「あーそれにしてもホンマ惜しいわーそないに将来有望なやつがドチビんとこ流れたんは痛いってもんやないで。」

 

「そうだね、有望な新人はいくら居ても足りないよ。」

 

ロキたちは知らない、その将来有望な新人はロキ・ファミリアの門を叩こうとしたが門前払いされたことを・・・。

 

「ああ、それとこれは不確かなんだが、いや、できれば間違いであってほしい情報がある、だがこの疼きから見て間違いはないのだろう。」

 

「何や不気味な切り出し方しおって、これ以上悪い方向になるんか?」

 

「その件の団長なんだが、ベートとアイズが聞いた言葉の中に気になる言葉があった。」

 

 

 

 

 

 

「あの二人は当時まだ所属していなかったが、【福音(ゴスペル)】、それをヘスティア・ファミリアの団長が使っていたと言っていた、かつて僕らが散々煮え湯を飲まされた相手の魔法、ヘラ・ファミリア所属の【静寂】アルフィアのね。」

 

 

 

 

 

 

 

一方日が明けてバイトへと行ったヘスティアを見送ったベルは身支度を整えるとクミと一緒にギルドへと向かう。

 

クミは今回はギルド前の路上での演奏をするようで途中まで一緒に行くことにした。

 

「うーん神様をバイトさせないでファミリアを運営するにはまだまだ稼ぎが足りないかぁ。」

 

「お兄ちゃんそれなんだけどヘスティア様ファミリア普通に運営しててもバイトは続けるみたいだよ。」

 

「えっなんで!?神様がバイトは普通にマズイんじゃないの!?いや、僕はそういうの平気だけどこれから入ってくる人とかに悪いイメージがぁ!?」

 

「えっとね、ヘスティア様は以前ヘファイストス様のお世話になってたことがあるらしくて、その時にお世話になった分をアルバイトで働いて自力で返そうとしてるみたい、ヘファイストス様は別にいいって言ってたみたいだけど。」

 

「そ、そうなんだ。」

 

因みにどうしてそうなったかといえば、自分に働き尽くしてくれる眷属二人を前にその前のあまりの自堕落さを振り返り悶絶したヘスティアがヘファイストス・ファミリアに突撃し友神であり主神のヘファイストスに「今までお世話になった分の料金算出してくれぇ!バイトで頑張って個人借金ってことで返すからぁ!」と泣きついた、元々バイトしていたのもあり額はすぐに返せる値段らしい。

 

勿論周囲からは驚愕の目で見られたことを追記しておく。

 

「まあ大丈夫大丈夫、ファミリア入団希望者は私が探すからお兄ちゃんはお兄ちゃんがやりたいように冒険するのが良いよ!」

 

「いやそれってどうなのかな、まだ僕たち家族しか団員が居ないけど一応僕団長になるとして、冒険しているだけの団長ってどうなんだろ。」

 

「じゃあお兄ちゃん、ギルドに提出する義務のある予算作成に含まれるファミリア運営資金資料作成とか、探索ファミリアの関係上いつか必ず課される遠征任務やギルド依頼の処理、ファミリア団員の実力を見定めて遠征での人員選別、ダンジョン探索で使用したアイテムの内約、ギルドに課される上納税、多分これからこれ以上のものが必要だけど全部処理できる?」

 

「あうう・・・。」

 

「まあ私も両親がメイドさんに委任しているのしか見てなかったからそういうの詳しくないけど、ファミリアを大きくしたいなら間違いなく会計や書類仕事ができる人は必要だよ?」

 

「た、たしかに。」

 

「まずは団長が大量の書類に承認判子が押せるくらいな大きなファミリアになってからの話だけど、ミノタウロス打倒の報告とかエイナさんに言うのが気まずいだろうお兄ちゃんにはまずはそこからだね!」

 

「それ言わないで!多分エイナさんにはすっごい怒られる気しかしないんだかっ!?」

 

「お兄ちゃん?」

 

「いや、なんだろう、誰かに見られているような気がして・・・?」

 

ベルが感じ取った無遠慮な視線、まるで自分の深部まで覗き込まれるようなそんな感覚が伝わってきた。

 

「んーよしお兄ちゃん笑っちゃおう!」

 

「え、なんでいきなり!?笑うってなんで!?」

 

「お前なんかに見られても気にしないぜ!みたいな感じでこう、前ファミリア結成祝だって言ってお祝いした時のお兄ちゃんの笑顔でヘスティア様がまぶしっ!?って言ったくらいにペカーってした感じの!」

 

「いやペカーって!?」

 

相変わらずこう言うときのクミはテンションがおかしいというかなんというか、しかしたしかにこの無遠慮な視線に対して思うところもあるしと思いベルは・・・。

 

「こ、こうかな?」

 

その時ベルからあふれる主能力(ステイタスとは別の力)の魅力が無駄に測定オーバーした眩しい輝きの笑顔、わかりやすく言えば某筋肉一族がマスクを一瞬外したときのような溢れ出る光(フェイスフラッシュ)ッ!

 

「うわぁ・・・。」

 

自分で振ってなんだが本気で眩しいとクミは思った、村の女性達は当然として一部の男性が危険な扉を開きかけたのは何度目かと思い返すクミだが。

 

(うん、例の視線はなくなったね。)

 

どうやら予想外の反撃を食らって精神的ダメージを与えることに成功したらしい、流石デメテルにちょっと危ない息遣いで抱きしめて少し頭なでさせてほしいと言われただけはあると思う。

 

「あれ、そこの人大丈夫ですか!?」

 

クミがうんうんと頷いていたらベルが一人の少女に駆け寄っていた、銀髪の少女で若草色と白で構成されたメイド服のような格好で壁に手を置いてもう片方の手で顔を覆っていた。

 

「だ、大丈夫です!すみません少しのぼせてしまって!?」

 

「お兄ちゃんそっとしといたほうがいいよ、無理に動かすと悪化の危険もあるし。」

 

「そうなのかな?でも本当にのぼせたみたいで顔も赤いですよ?」

 

「お気遣いだけでとても嬉しいので大丈夫です!そそ、それでですね、これ落としたみたいですよ?」

 

やや挙動不審になった少女から渡されたのは・・・。

 

「あ、あれ!?ミノタウロスの角!」

 

渡されたものは間違いなく自分が倒して切り落としたミノタウロスの角だった、ベルが慌てて腰袋を見れば、今しがた空いたような穴が破れてポッカリとできていた、幸い落ちたのは角のみで、他のものは穴につっかえる形で辛うじて落ちていなかったが。

 

「ありゃりゃ、角が尖ってて袋に穴あいちゃったんだね、ちょっとまってて。」

 

クミは四次元ポケットから裁縫道具を引っ張り出し、ベルに腰袋の荷物を預けると手慣れたように糸を通し瞬く間に穴が塞がる。

 

「あら、すごい手が器用なんですね!」

 

具合の悪さから立ち直ったらしい少女がパッとした明るい笑顔で話しかけてくる。

 

「ダンジョンで装備が悪い状態になった時応急処置が必要な場面だってありますからね、装備関連から日用品まで一通りの補修はできる自信があります。」

 

(いや、一通りのってクミは家もこんなスピードで修復できるんだけども・・・。)

 

義母と祖父による騒動で家を直すのは毎度クミの仕事でホームの教会も圧倒的なスピードで建て直しているんだからすごいものだとベルは思い返した。

 

「ああ!お礼が遅れてすみません!僕はベル・クラネルといいます、大事なものだったので助かりました!」

 

喜色満面の顔で感謝全力された少女が内心再びはうっとなるも、ギリギリ顔に出さず笑顔を作る。

 

「いえ、喜んでいただけてよかったです、私はシル・フローヴァっていいます、ここの近くの酒場で豊饒の女主人という場所で働いているんですよ。」

 

とても綺麗に笑う少女にベルは少し見惚れるが反対にクミは。

 

(んー?この人からクミロミ様やエヘカトル様に近いもの感じるけど、この人は人間だし、いやそれにしては違和感が。)

 

怪しいと言うには首をかしげる程度の違和感で、少なくとも悪人ではないが、なにか不思議な気配を感じるという、ノースティリスながらの感覚でシルという少女を探るも正体を掴むには情報が足りない。

 

だがクミの安全基準は兄に害があるか否かの2点のみ、シルからは敵意や害意は感じ取れなかったので深く考えるのをやめた。

 

「なるほど、つまりシルさんはミノタウロスを倒せるくらいの稼ぎのいいお兄ちゃんに客としてきてほしいと。」

 

「え、その、あははは・・・恩を着せるつもりはないですが、客引きなのは否定できません。」

 

ズバリ言い当てられたのかシルは笑うもそこにあざとさはあれど騙し取ろうとする悪意はない。

 

「あの、僕大食いなので多分お店の人に迷惑だと思います、たくさん食べるお客としては多分僕は適任なんですけど、その、量が・・・。」

 

「まあ、それなら大歓迎ですよ!でもそんなに細いのに大食いなんて意外です。」

 

「お兄ちゃんは食べたものは文字通り力に変えちゃうからね、食べた分以上に働くからたくさん食べるくらいで丁度いいの。」

 

「そうなんだけど筋肉がつかないんだよね、筋トレとか結構してるのに。」

 

「いいじゃんお義母さんがマッチョになるのは許さんって言ってるし。」

 

「それにしたってこう、リリにも筋肉が少ないのになんでそんな動けるんですかって驚かれたし。」

 

ため息を吐くベル、あれ程の鍛錬をして筋肉がつかないのはいっそ才能なのかと悩むベルだが、真実は違う。

 

ベルの主能力である魅力、これは周囲からの視線が心地よくなる効果があり、それに応じて容姿にも強く影響が出る、さらに他主能力の耐久や器用にも肉体に高い補正が出ており半端なことでは傷つかず、速く動くための強くしなやかな美体を維持できているのだが、これが筋肉として見た目に現れないというベルからしてみれば頭を抱えたくなる現象である。

 

「では、私はこれで、ご来店お待ちしてます。」

 

笑顔で手を振り去っていくシル。

 

「何気に行くのが確定しちゃった・・・。」

 

「でも行くんでしょ?」

 

「いや、角拾ってもらったしね。」

 

なにせ誰もが認めるレベルの偉業であるレベル1によるミノタウロス討伐、ベルにとってもこの角は特別なものがある。

 

苦戦の上で倒した強敵なのもあるが、あの時ミノタウロスとたしかに交わした意思、勝つのは自分だというミノタウロスの声無き咆哮が強くベルに伝わった。

 

あの時感じた熱さが今もこの角から伝わってくるようで、お守りとして持っておきたい気持ちも強い。

 

「さて、少し遅れたけど、ギルドの報告行こっかお兄ちゃん!」

 

「はい・・・。」

 

思い出して気が重いベル、【冒険者は冒険してはいけない】を信条として担当冒険者に徹底しているアドバイザーの彼女からしては今回の件は間違いなく有罪判定(ギルティ)だ。

 

「ベールー君ー?」

 

「す、すみませんでしたぁ!エイナさあああああああん!!!」

 

そして案の定である、義母に説教され担当アドバイザーであるエイナからも面談室にて雷が落ちた。

 

今回の異常事態はロキ・ファミリアの不祥事とはいえ低層でのミノタウロス遭遇は明らかに命の危機だ、ミノタウロスは俊敏も強さ相当に高いためまず逃げ切ること自体難しい。

 

にもかかわらずこのベルという少年は生き残っただけでも儲けものだというのに逆に倒してしまったのだ。

 

間違いなく神々の話題になるのは明らかで、それで尚この容姿である、目をつけられるのはもはや秒読みであるし、先程も受付時に伺うような視線があちらこちらから感じ取れた。

 

零細ファミリアである冒険者になって間もない新人がミノタウロス討伐、これで話題にならないほうがおかしい。

 

別にエイナとしてはそこを咎めるつもりはない、問題は、1~4階層で稼ぎを繰り返しているはずのベルが何故5階層にいるのかという一点だ。

 

「4階層時点で物足りないと言った新人が何度5階層の新人殺し(ウォーシャドウ)に被害にあったと思っているの!ミノタウロスを倒してしまったベル君からしてみればウォーシャドウは相手にならないと思うけれど問題はその後だよ!」

 

「返す言葉もありません・・・。」

 

結果論だがミノタウロスを倒せるベルがウォーシャドウにやられるというケースはほぼありえないのだろう、だが、その後がいただけない。

 

今回はそのロキ・ファミリアに救助されたがサポーターを危険な目に合わせたという事実は確かなのだ。

 

「今回は本当に例外中の例外で、滅多にないケースだとしても、そのままの心構えで居たらベルくんだけじゃなくて同行しているサポーターにも危険が及ぶのを忘れないように!いいわね!」

 

「はい!すみませんでした・・・。」

 

別にエイナとてベルのことを気に食わないわけではない、寧ろエイナからしてみればベルは好感の持てる担当冒険者だ、素直で心優しく、荒くれ者が目立つ冒険者の中でも自分の非を認め改められるとても行儀の良い希少な存在だ、だからこそそんなベルが冒険で過失を起こしたり、悲劇に見舞われることは担当アドバイザーとしても避けねばならぬことである。

 

「よし、反省したなら私からはこれでおしまい、今回は気をつけようがないにしても、ダンジョンには危険がいっぱいなんだから、常に最悪を予想しようね。」

 

「ありがとうございますエイナさん。」

 

「ああそれと、ベル君空いている日程はない?」

 

「はい?いえ、うちのファミリアはクエストも受けていないので日程ならいつでも開けられますが?」

 

「ロキ・ファミリアが謝罪の申し入れをしたいから希望の日程を教えてくれないかな?それに合わせてロキ・ファミリアが場を設けるって。」

 

「・・・うえええええええ!?ちょっと待って下さい!ロキ・ファミリアって!そんな大きいファミリアが謝罪って!?」

 

「たしかにこれは異例だけども、ベル君はロキ・ファミリアの後始末をしたってことでこれを蔑ろにするとロキ・ファミリアとしてもマズイのよ。」

 

「あー。」

 

異例のミノタウロス逃走だが、結果としてその後始末の一部を零細ファミリアに尻拭いさせといて何の謝罪もなし、たしかにそれはマズイとファミリア運営において素人のベルにも理解できた。

 

ダンジョンにおける出来事は自己責任、冒険者の中でもこれは最早暗黙の了解だ、過度な干渉は控え、いらぬ諍いは避けるべき。

 

ギルドでもそうなのだが冒険者同士で半ば共有されたこの鉄則はあれど、今回のケースは謂わばロキ・ファミリアがミノタウロスの群れを上層に追い立てるというその気はなくとも変則型怪物進呈(パス・パレード)にも近い行いで、これを放置すればロキ・ファミリアはファミリアの信用を失墜しかねない状態でもある。

 

これはロキ・ファミリアをやっかむ連中からしてみれば格好の攻撃材料だろう、巨大派閥を追いやり自分が頂点になど考える神も居なくはないのだ、だからこそできる手を打っておくという方針だとエイナは伝える。

 

「ベル君が組んでいるリリルカ・アーデ所属のソーマ・ファミリアは賠償金の請求をギルドを介してするみたいだけどね。」

 

「わかりました、では神様とも相談して改めて来ます。」

 

「よろしくねベル君。」

 

エイナとも話が済み、面談室から出るとギルドの外での広場から心地よい音楽が聞こえる、これはクミだ、あの四次元ポケットから立派なピアノを取り出して路上演奏をしているのだ、勿論これはギルドの許可ありで、業務に支障が出ないように外での演奏となっているが、音楽の素人でもあるベルにもわかる高度な演奏技術、観客は聞き惚れてるし、クミが演奏をしている間冒険者たちからは喧騒が止むため大助かりだとエイナが零していたのを聞いた気がする。

 

(でもこれはこれで迷惑な気もするんだけど大丈夫なのかな?)

 

ギルドの外、といえばなるほど確かにわきまえているだろう、だが聴衆はどうだろうかと思えば誰も彼もが聞き入ってるのだからすごいものだ、後ろからしか見えないが屈強な冒険者も演奏に釘付けのようだし。

 

(こう言うところでも敵わないなぁ・・・。)

 

幼少の頃からわかっていたことだ、クミという少女の次元を超えた技術の幅広さ、基本的に彼女にできないことなどないのだろう、ダンジョンだって多分クミならばそう時間もかからず最下層まで行けるだろうし、黒龍すらあの有様なのだからダンジョンの最下層に何が居たところでクミの敵ではない。

 

(でもクミはそれをやらない。)

 

これを力あるものの責任を果たせだとか驚異に対し無関心だと言われてもそれは違う、クミは誰よりも自分を信じてくれているのだとベルは知っている、かつて抱いた願望を実現してほしいと期待してくれているのだ。

 

(頑張らないと。)

 

今回は得るものはあったがそれと同じくらいの失敗をした、まずはリリに謝り食事でも奢るかとベルは思ったが、ふと考える、それは世間一般で言うところでのデートというものでは?

 

(だ、大丈夫なはず、パーティの親交を深めるためとか、結成祝とかで誘えば・・・あれ!?なんかそういうのを建前にリリをデートに誘うってことにならない!?)

 

頭に浮かぶ邪な考えを振り払い頬を叩く、今はそれはおいておこう、演奏を終え一礼したクミがおひねりをもらった後聴衆からのアンコールに応え今度は別の曲を弾き始める、その様子を見てベルはため息一つ。

 

(本当に、頑張ろう。)

 

まだまだ遠い目標を前に、ベルは苦笑いをしながらヘファイストス・ファミリアへと向かう、少しでも妹に追いつくためにダンジョンに挑む際の武器を求めようと、ベルは走り出した。

 

 

 

神々が住むバベルに店を構えるファミリアはあれどまず話題に上がるのがヘファイストス・ファミリアだ、オラリオにおいて同じ鍛冶関連ファミリアであるゴブニュ・ファミリアもよく話題に上がるが、ヘファイストス・ファミリアの武器は上級冒険者からそこそこ稼ぎのある冒険者まで利用できる幅広さを持つことで有名だ。

 

勿論一流冒険者が使用する装備となればその金額は駆け出し冒険者が途方もなく努力をしても尚届かない逸品が並ぶが、そこから駆け出しとなると一気に安価なものになる。

 

これはヘファイストス・ファミリアの運営方針で、団員が専用の鍛冶場を用意され、駆け出しであっても最低限のラインさえ超えれば売りに出せるというシステムがあるからだ。

 

当然ベルもこの階層に用があった、ここに来るのは早くも二度目だがまず目を向けるのは以前【試作兎牙】あった場所。

 

「あ、これ・・・。」

 

斯くしてベルの期待を裏切らず【ヴェルフ・クロッゾ】の札がついた武具があった、しかも前回は試作兎牙のみだったが今回は自分が求めていた軽鎧、名前は【兎鎧(ピョンキチ)】と名付けられた鎧はベルから見てひと目で気に入るデザインで、名前を考慮しても試着してみれば想像以上に体に馴染んだ。

 

さらに改良が済んだのか【兎牙(ピョンガ)】まであった、一度試作の方を砕いてしまったが新作を握ってみればやはり握りがしっくり来る。

 

(よし、これも買おう!)

 

諸々含めてそこそこの値段だがリリとのダンジョン探索を繰り返したベルには軽々と買える値段だ、早速会計に向かうと一人の赤髪の男が会計の人に騒いでいた。

 

「なんでその時名前聞いてくれなかったんだよ!いや、名前聞いたとこでどうしようもないのはわかるが!滅多に来ない俺の客なんだぞ!」

 

「そうはいってもなぁ・・・。」

 

「まだ試作で出すかも迷ったが売りに出してみれば速攻で売れた!しかも気に入ったので買わせてもらいました、大事に使わせてもらいますね、ありがとうございますの伝言付き!?こっちこそありがとうだよ!」

 

「お、おう、よかったな?」

 

なにやら騒いでいるが、近づいて会計すべきなのだろうか?そう迷いつつ近づくベルに鎧などが出す金属音に気がついた二人がこちらに視線を向ける。

 

「はいいらっしゃ、っておいあんた。」

 

「ああ、悪かったな、今どく、っておいお前それ・・・。」

 

「はい?」

 

会計の人が向けるのはベルの顔、赤髪の男性が目を向けるのはベルが持ってきた鎧一式と兎牙。

 

「良かったなヴェルフ、その冒険者がお前の客だ。」

 

「・・・本当か?」

 

「あ、はい、もしかしてヴェルフ・クロッゾさんですか?この前はいい武器を買わせてもらいました、もう一度来たら鎧とナイフも売っていたので買いに来たんです。」

 

商品を持ったまま一礼するベル、ここらへんに彼の人柄と義親の教育の成果が出ているが、当の本人は一瞬動きを止めるとすぐに大笑いした。

 

「はぁーはっはっは!!いや、笑って悪かった!何せ求めていた客がそっちから来てくれたもんだから嬉しくてな!」

 

「は、はぁ・・・。」

 

その後会計を済ませると、ヴェルフに話を持ちかけられたベル、この後は夜まで予定がないので時間があるため了承した。

 

話を聞けば、ヴェルフは専属鍛冶師になってくれて、自分がランクアップするために協力しパーティを組んでくれる冒険者を探していた、だが自分の腕はまだまだで、売上に出す武具もあまり売れ行きが良いとは言えない状態だった、ちなみにベルは単に武具についた名前のせいではと思い至ったが彼のために言及は自重した。

 

それとヴェルフは自らの家名が嫌だと言ったため、ベルも呼び方をヴェルフと改めた。

 

「ヴェルフさんすみません、ミノタウロスと戦った時に試作兎牙を壊してしまって。」

 

「いや寧ろ魔法を通せるようにはできてなかったから、そこは謝らなくても大丈夫だ、それで、お前からの答えを聞きたいんだが、どうだ?」

 

「僕としてもパーティメンバーが増えるのは嬉しいので願ったりです、寧ろ僕からお願いしたいくらいですよ。」

 

「本当か!?」

 

今リリと続けていた探索方針ではどうしてもリリに危険が及ぶ、それを守る前衛が一人増えるだけでもありがたいとベルは喜んだ。

 

「ただ僕はまだ駆け出しなので上層の探索しかできないのでランクアップについては・・・。」

 

「なぁに、それくらい気にすんな!駆け出しなのは俺も一緒だ、それにベル・クラネルって言ったら今鍛冶師の間では有名だぜ?」

 

「そうなんですか?」

 

「おうよ、なんせレベル1でミノタウロスを討伐した期待株だからな、未契約とあればオラリオの新人鍛冶師なら是が非でも契約を結びたいと思うぜ?」

 

人の口に戸は立てられないとはよく聞くが、それほどまでに話が広がったのかと驚愕するベル。

 

「まあロキ・ファミリアがポカした話は有名だからな、それにつられて公表された話の関係上広がるのは時間の問題だったと思うぞ。」

 

何にせよ契約は完了だ、ベルとヴェルフは握手をすると明日からでもダンジョンに潜れるからいつでも呼んでくれとヴェルフと別れた。

 

「今日は嬉しいことがいっぱいだなぁ、新しい鎧も買えたし、新しいパーティーメンバーも増えた、思った以上の収穫だ。」

 

喜びのあまり笑顔を浮かべたまま街を歩くベル、その姿を見た某連中がやや不気味なものを見たり、若しくは美人の浮かべる笑顔に見とれてたりした。

 

「あ、お兄ちゃーん!」

 

「クミ!」

 

そこに手を振って走ってきたクミ、彼女も笑顔でなにか嬉しいことでもあったのだろうかと推測する。

 

「クミ聞いて!僕新しいパーティーメンバーが増えてその人が専属鍛冶師になってくれたんだ!しかもその人の作った鎧すごいんだよ!」

 

「お兄ちゃん喜んで!ヘスティア・ファミリアに新団員増えたよ!」

 

「「・・・え?」」

 

今日一日の外出で凄い収穫ではなかろうか?奇しくも兄妹の心境は一致した。




フライングヴェルフさん、兎鎧は前から売りに出されたのではと思い兎鎧もこのタイミングで追加。

話の展開上、次の話からオリキャラも挟んでいくため次話投稿されたら後出しで申し訳ないのですがタグに「オリキャラ多数」を追加します。


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それは歩み始める冒険者の集いで

竈の神のもとに有志が集う、それは少女が呼び込んだ新たな流れである


前話のあとがきの通りこの話からオリキャラを挟んでいきます。


新団員が増えた、ベルにとってはあまりに唐突な話で最初に妹の言葉を理解するのに時間を要した。

 

クミもクミでナイフと鎧を買いに行ったら専属契約をその鍛冶師と結んできたというのだから驚きだ。

 

「そ、それで新団員って!?」

 

「今日は演奏が終わった後にオラリオ中を駆け回って入団希望者を探してたんだけど、お兄ちゃんみたいに下地はそこそこあるのにファミリアに入れないって冒険者さんもいるみたいでね、そこらへんが狙い目かなって探したら3人ほど入団希望者が居たの。」

 

「3人も!?」

 

「うん、元々別派閥に所属してた人も居て、鍛えている人もいるから明日にでもダンジョンに潜れるって、ヘスティア様にはまだ言ってないけど、お義母さんとも相談してほぼ採用は確定してるよ。」

 

「うわぁ、だれなんだろう、楽しみだなぁ。」

 

心底ワクワクしているというベルの目は輝いていて入団希望者に思いを馳せる。

 

「まずはヘスティア様迎えに行こうか、エイナさんにお願いしてギルドで待ってもらってるから、急いでホームに連れて行かないと。」

 

「あ、でもうちの神様がバイトしてるってその人達は・・・。」

 

「みんな笑って面白い神様だって言ってくれたけど?」

 

「そ、そうなんだ。」

 

新団員は素直に嬉しいベルだが、どういう人員が来るのか楽しみと不安がごちゃまぜになった。

 

「お兄ちゃんは先に神様を迎えに行ってホームで待ってて、私はホームの掃除をしておくから。」

 

「わかった、よろしくねクミ。」

 

 

 

「新団員だってぇぇぇェェェェェェ!?」

 

バイトが終わりさあ帰ろうとしたヘスティアに突如湧いた吉報、バイトの疲れなど吹き飛んだ、店長に挨拶を済ますと大急ぎで準備にかかる。

 

「すぐに帰ってお迎えする準備しなきゃね!すぐ着替えて準備するから待っててくれ!」

 

そこからのヘスティアの行動は速かった、零細ファミリアにも関わらず自らのファミリアに入団したいと言ってくれる子ども達に思いを馳せながら今か今かと待ちわびる。

 

「いや、こう考えるとベル君一家様々だよ、君たちが来てくれたからホームもこんなに綺麗になっているし。」

 

思い返して教会の内装をぐるりと見渡すヘスティア、地下に住んでいたあの時の廃墟同然だった教会が、今ではなにかの神を信仰していてもおかしくないほどに立派な教会となっている。

 

しかもクミはリフォームにも明るいのかステンドグラスにヘスティア・ファミリアのエンブレムまでつけてくれている。

 

夕日の差し込むステンドグラスは赤い陽の光に照らされ、それこそ自分が司る優しく燃える竈のような色合いになった。

 

「随分と様になった、あいつも、昇った天で喜んでいるだろうか。」

 

「僕は幸せものだよ・・・君たち家族を迎え入れてからこんなにも幸せな日々を送れている、こんなに幸せでいいのかって思えるくらいに満たされているんだ。」

 

「神様そんな大げさな。」

 

「大げさなものか!僕は主神として君たちにできていることはステイタスの更新くらいで主神らしいことを何もできていない、ファミリアを運営していくことは大変なんだって、今更ながらロキやその家族がどれだけ苦労してあそこまで上り詰めたのか、想像すら難しい。」

 

自らを目の敵にしている神だが、家族に対する愛情は本物だ、家族を迎え入れてすぐにその鼻を明かしてやると言った自分は本当に無知だった。

 

「違いますよ神様、何もできていないことなんてありません、神様はこうして僕たちを家族に迎え入れてくれたじゃないですか、色んなファミリアをたらい回しにされた僕をそれでも家族になってほしいと言ってくれた神様に、僕は頑張って報いたいんです。」

 

「ベル君・・・。」

 

ああ本当に自分は果報者だ、ヘスティアは自らの涙腺が緩むもこらえる、これから新しい家族が来るのにしみったれた顔なんてできない、だから笑おう、新しい家族を暖かく迎え入れるんだ、そう自分に活を入れて。

 

「感じ入っているところ悪いが、来たようだぞ。」

 

 

 

「たっだいまー!入団希望者のみんなを連れてきたよー!」

 

「お帰りクミ君!さぁさぁ、君たちが入団希望者かい?」

 

帰ってきたクミが連れてきたのは三人、一人は青髪碧眼なパルゥムの少女、二人目は黒髪黒目エルフの少年、最後が灰髪銀眼なアマゾネスのような猫人・・・って思ったところでヘスティアは内心首を傾げる、入団希望者を前に不審な態度は取れないと表情を作る。

 

(え、あの娘アマゾネス?猫人?どっち?)

 

一目で判別ができないヘスティアは混乱するも笑顔で挨拶をする。

 

「みなさんはじめまして、僕はベル・クラネルです、このヘスティア・ファミリアの団長を務めています、こちらが僕の義母で相談役のアルフィア義母さん、そしてこちらが僕たちの主神、ヘスティア様です。」

 

「このベルの義母で相談役のアルフィアだ、なにか困れば相談には乗ってやる、騒がしくしなければだがな。」

 

「ようこそ、僕はヘスティア、このヘスティア・ファミリアの主神にして竈の神だ、君たちの名前を聞かせてくれるかい?」

 

「では私から、はじめまして神ヘスティア、元ニョルズ・ファミリア所属のパルゥム、【アルス・レティ】です、武器は槍と投槍です、オラリオに来る前に脱退しましたが故郷では漁師や事務をしていました、よろしくおねがいします。」

 

「ならば次は自分が、お初にお目にかかる、エルフの【クロード・フェル】だ、魔法が主な攻撃手段だ、前の所属していた主神から脱退し次の所属先を探していたところクミ殿に勧誘を受けた、よろしく頼む。」

 

「じゃあ最後は私だねーダイダロス通りから来た【ブーケ・ロミリア】、武器はこの鉤爪、アマゾネスと猫人のハーフだけど猫人の特徴も受け継いだの、よろしくー。」

 

「皆ありがとう、さて、君たちはこれからここを家とし、これから共に生きていく家族になる、沢山ファミリアがあったのに僕のファミリアに来てくれたのは本当に嬉しいよ。」

 

「ほう、ハーフアマゾネスか、そのような人種は初めて見たな。」

 

「ママも驚いてたね、私は突然変異みたいな生まれなんだって。」

 

(び、びっくりした、アマゾネスの子どもは全員アマゾネスになるって聞いたけどこういう子もいるのか・・・。)

 

「じゃあ早速君たちに【神の恩恵(ファルナ)】を刻むから僕についてきてくれ、それが終わったら皆で楽しくご飯でも食べようぜ!」

 

「それならお店のあてがあります、今日知ったお店ですが、予算に糸目をつけるつもりはありません、豪華に外食歓迎会にしましょう。」

 

「それいいねベル君!皆でテーブルを囲んで楽しもうじゃないか!」

 

自己紹介を済ませ、全員に恩恵を刻むヘスティア、しかしその全員が特徴的すぎた。

 

 

【アルス・レティの場合】

 

 

(ほげえええええええ!?)

 

「どうしましたヘスティア様?」

 

「いやなんでもないんだ、アルス君、『これ』はニョルズのところから発現してたのかい?」

 

「はい、そうですよ、と言っても漁では使えなくて持て余し気味だったんですが・・・。」

 

 

【アルス・レティ】レベル1

 

 

魔法

 

 

輝け紫電(ライトニング・スピア)

 

速攻魔法:魔法の槍を生み出す

 

追加詠唱

 

轟け雷鳴(サンダー・ジャベリン)

 

エンチャント魔法:武器に雷属性の付加魔法

 

 

(先天性の雷魔法で派生してエンチャントもできる!?この子かわいい顔してとんでもないの持ってたな!?)

 

「雷属性だったんで漁では使い所がなかったんですよね、それで【勇者(ブレイバー)】フィン様に憧れてオラリオに来たんですが、ロキ・ファミリアの門番に追い返されてしまって・・・。」

 

「君もかい?ベルくんも追い返されたって聞くし、ふるい落としが強いのかな?」

 

やはり巨大派閥ともなると新人採用は厳しいのかとヘスティアは訝しむがそれはおいておこうと思った。

 

「やっぱり私がパルゥムだからなんですかね?だからといって夢を諦めるつもりはないんですが・・・。」

 

「ふむ?君は何かを志してオラリオに来たのかい?」

 

「隠すほどのことではないんですが、憧れがあるんです、」

 

「さっき言っていた【勇者】の事かい?」

 

「はい!私達パルゥムは何かと見下されがちです、ですがフィン様は立ち上がったんです、パルゥムの復興を志して戦う姿に憧れる同胞は多いですが、実際に同じように後を追いかけようとするパルゥムはそれほど多くないんですよ。」

 

「それはどうしてだい?」

 

「【勇者】の名を聞いてパルゥムが抱く感情は憧れと諦めと両方なんですよね、自分もああなりたいと願う傍ら、それでも自分は【勇者】のようになれないと憧れとそれ以上の現実をこれでもかと見せつけられるんです。」

 

フィン様はパルゥムのためにと戦っているのに勝手な話ですよね、そう小さく零すアルスには影がさしていた。

 

「ですがそれで諦められるほど、私の頭は良くなかったみたいです、こんな魔法まで発現したなら、挑戦したいと思うじゃないですか、自分は何処まで行けるのか、憧れに何処まで近づけるのか、私はそれが知りたいんです。」

 

「そっか、なら僕の役目は君の道が真っ直ぐ進めるように応援することだね、安心していいよ、ここには強くなれる切欠がたくさんあるから。」

 

(主にクミ君やアルフィア君関連で・・・あの子達鍛えるのも得意なんだよなぁ。)

 

ヘスティアはこの先をなんとなく察している、きっとこの子の夢は本人も思いもよらぬ形で躍進するだろう、クミやアルフィアは基本的にダンジョンには潜らないが、ファミリアのサポートだけでもその技術は群を抜いている。

 

ましてやアルフィアはかつてのトップファミリアの一員で新人教育にも明るい、そこにとてつもない厳しさはつきものなのはお約束であるが。

 

「ありがとうございますヘスティア様、ならば私は何処までもあなたのファミリアとともに歩み、夢を追い求めます。」

 

「うん、アルス君の夢が叶うのを僕はずっと応援するよ。」

 

 

【クロード・フェルの場合】

 

 

 

 

 

 

「主神殿、恩恵を刻んで貰う前にこれだけは話しておきたい、これによっては採用を見送ったほうがいいかもしれぬ。」

 

「どうしたんだい?わけがあるなら聞くぜ?」

 

「実は他ファミリアにも条件もよく属したいファミリアがあったし、エルフが多いファミリアでのコミュニティに属するのも悪くない選択肢であった、しかし私は正直に言うと、力を求めて成り上がりたい欲のほうが強い。」

 

「それでうちみたいな零細ファミリアに?」

 

「うむ、神に嘘が通じんのを知った上で断っておくが悪く言うつもりは毛頭ない、しかし成り上がると言うのは中堅や大手に属するよりも新興ファミリアのほうが都合がいいのだ、今は雌伏のつもりで目立たず備えるが。」

 

「そこまでして成り上がりたいのはどんな理由なのかな?僕は君の事を応援するつもりだけど。」

 

「大した理由はない、成り上がっていけば確実にあやつらが接触してくる、それだけの話だ。」

 

「前の主神から改宗しに来たって言ってたね、それ関係のことなのかい?」

 

「うむ、つかぬことを聞くが主神殿は神アポロンを知っているか?」

 

「うっげぇ!」

 

「ふむ、因縁深き相手なのは察した。」

 

「昔あいつに婚姻を申し込まれたことがあってね、それ関係でかなり苦労した。」

 

「心中察する、まあつまりそういうことだ、数年前に前派閥の団員をアポロンが欲していた、それに伴いアポロン団員からの嫌がらせが増えたのだ。」

 

ヘスティアは眉をひそめる、あの相変わらずの変態神っぷりに怒りと呆れが両方来たのだ。

 

「恐らく何かにかこつけて戦争遊戯で団員を奪おうとしたのだろう、だが前の主神殿はアポロンに奪われるのを嫌って全団員を伴いオラリオ外に脱した、しかし、やられっぱなしで居られるほど私は堪え性ではない、それにアポロンは一度狙った団員はオラリオ外だろうと追いかけてくると聞いた、ならば手を出される前に成り上がり、奴の鼻を明かしてやりたい。」

 

「それとこれは前もって言っておく、アポロンファミリアがどうなろうと前のファミリアがどうなろうと所属先をこれから変えるつもりはない、前ファミリアの情報を知る私がオラリオにいると知れれば奴は必ず動く、なので今はあまり目立ちたくはないのが雌伏の理由と、私を所属させるのを考えてほしい訳だ。」

 

「なるほどね、言いたいことはわかった、たしかにアポロンには僕も思うところがある、それに手荒な手段に出ず備えるという冷静な心を持っているのも君のいいところだ。」

 

「そんなことはない、私はこのファミリアにアポロン・ファミリアがちょっかいを出してくるのが確定した迷惑を掛ける疫病神のような存在だぞ?寧ろこの話を聞いて何故そんなに受け入れているのだ。」

 

「正直今アポロンがこっちにちょっかいを掛けてきてもある事情で楽に返り討ちにできるんだよ、だから君は気にせずアポロン・ファミリアと戦えるように力をつけるといい、でも僕はなるべくこの反則同然の方法は取りたくないからね、できることなら君たちだけで解決してほしい。」

 

「反則同然の方法とやらが気になるが、私を受け入れてくれて感謝する主神殿。」

 

 

 

 

【クロード・フェル】

 

 

 

スキル

 

変幻魔幻(テクニカルマジック)

 

消費魔力に応じて魔法の弾数、威力増加

 

デメリット

 

通常での魔法を連続使用に比べ弾数や威力増加による消費魔力増加

 

 

魔法

 

炎弾(ファイアボール)

 

球状の炎弾を作り撃ち出す

 

詠唱文

 

【爆ぜよ炎弾敵を焼け】

 

 

(お、おぉおおぉ・・・。)

 

「主神殿、私のスキルに驚いたのか?」

 

「うん、クロード君は凄いのを持ってるねぇ。」

 

「前の派閥で恩恵を刻んだら発現したのだ、だがこの身はまだレベル1、魔法はともかくこのスキルは未だに使いこなすには未熟でな。」

 

腕を組み唸るエルフの少年、彼は体を触れられることに忌避感はないらしい、育ったファミリアでは中々に楽しく過ごしていたと彼は語る。

 

「見てのとおりこの魔法は詠唱が短く使い勝手がいいのだが、単発威力は高いわけではない、そこを補うスキルが発現したのはありがたいのだがレベル1には消費が重くてな・・・。」

 

「逆に考えれば君が成長すればするほどこのスキルがとんでもなくなるわけか。」

 

使い勝手の良い魔法とスキルに恵まれているし彼もエルフというのもあって魔力の伸びしろには期待できるだろう、威力の増加も魔力が伸びれば自然と上がり、そこにスキルが乗ればどれほどか。

 

「よし、君の事情もわかった、僕も皆も君を家族として迎え入れるのに何の抵抗もないのはさっきも言った通りだ、ようこそヘスティア・ファミリアへ、今日は盛大に歓迎するぜ!」

 

「よろしく頼む主神殿、このクロード、ヘスティア・ファミリアのために粉骨砕身の思いで尽くそう。」

 

 

【ブーケ・ロミリアの場合】

 

 

(レアってわけじゃないにしろ、特殊なスキルや魔法を持つ子が多くて気にならなくなってきたなぁ、そもそも一番おかしいのがベル君だし。)

 

尚そこに例の理不尽妹とそんな義母は含まないものとする。

 

 

【ブーケ・ロミリア】

 

 

スキル

 

 

野良猫(ストレイキャット)

 

俊敏・器用に高補正、視力・聴覚が常時高い

 

 

「おースキルだ、ヘスティア様ーこれどういうスキル?」

 

「それは君の俊敏と器用をブーストして、その上視力と聴覚が冴えるらしいよ。」

 

「そっかー私ダイダロス通りで一人で生きてたからこういうのが出たのかも。」

 

「え、一人って君さっき母親から自分のことを聞いたって・・・。」

 

「んー私が小さい頃にママはパパと一緒に病気で死んじゃったの。」

 

「うわぁああああああ!?ごめん!僕が軽率だった!?」

 

竈の神が孤児の地雷を踏み抜くなど言語道断とばかりに謝り倒すヘスティアにブーケは慌てる。

 

「あ、謝らなくて大丈夫だよー?寂しくなかったわけじゃないけど、こうして私は生きてるし、こうやって生きていられるのはママとパパが私を小さい頃から鍛えてくれてたからだしね。」

 

両親は厳しくそれ以上に自分を愛してくれた最高の両親だったとブーケは語る。

 

「だからパパとママにいつかお空で自慢したいんだー、二人が鍛えてくれたから私はこんなに立派な冒険者になったよって。」

 

「そういうことなら僕は全力で応援するぜ!!立派な冒険者になって君の両親をびっくりさせてやろうぜ!」

 

「うんありがとうヘスティア様ー。」

 

褐色肌に猫耳と偉い属性のもり方だがその中身は家族思いのいい子でヘスティアの頬は緩む。

 

(この子達を僕は主神として導かなくちゃいけないんだ。)

 

ああ何という重荷だろう、ダンジョンという危険地帯に送り込み、子の成長を期待し、無事を願う、それだけのことにこんなにも心に不安が蝕む。

 

団員が増えるごとにこの重荷は増えていく、それにダンジョンで死ぬのも、寿命で死ぬのも、不変の神はいつか子どもたちを見送らなくてはならないのだ。

 

前代未聞の才能を持つベルや、最強の理不尽であるクミもその例外ではない。

 

常命の人間はいずれ死ぬ、ファミリアを結成した以上、主神は遅からず来る必然の別れに覚悟しなくてはならない。

 

ヘスティアはできることなら危険な目に合わず、家族と暖かく日常を過ごせればそれでいいとも思っている、しかしそうは行かないのだ、当のベルが自らを賭して英雄になろうとしている、そしてそれを成すには多くの助けが必要だ。

 

夢を叶えるために、立身出世を志して、誰にも開かせぬ胸中の願いを抱いて冒険者はオラリオで冒険をする。

 

それを支えるのが主神の役目で、子どもたちが偉業を成し遂げるその瞬間を見たいからこそ神々は下界の大地に降り立ったのだ。

 

(だから僕はこの子達を支えなくちゃいけない。)

 

新団員が3人も増えた、零細ファミリアにとっては僥倖なのだろう、だからこそ主神の自分にできることをヘスティアは考える。

 

(ミアハとかに薬の定期購入の交渉とか、ヘファイストスの新人鍛冶師と契約を結んだっていうベル君の人脈とかも十全に活かしていかないとな・・・。)

 

怠惰なヘスティアは既にその心を改め、団員のために何ができるかと考えを深める、自らのもとに集ってくれた新たな家族のために。

 

不変と言われた神が子どもと関わり考えを改めるという光景は珍しくはない、愛する子どもと歩むために自らができることを模索するようになるからだ。

 

 

 

 

 

 

その夜ヘスティア・ファミリアはベルが今日知った【豊穣の女主人】と言うお店で歓迎会という形でお祝いしようと店に向かった。

 

だがアルフィアはそういう騒がしい場所は好まないため留守番を願い出た。

 

 

「ベル君、紹介してもらったお店ってここ?」

 

「はい、ここのはずですが。」

 

看板を見上げればたしかにその店の名前だ、店の中からは美味しそうな匂いと賑わいの声が伝わってくる。

 

「あってるみたいだよお兄ちゃん。」

 

「この匂い、お腹を擽りますね。」

 

「うむ、匂いだけで腹が減ってくる。」

 

「お腹すいたねー。」

 

「あはは、じゃあ早速、こんばんわー。」

 

店の戸をくぐればベルが見知った顔が出迎える。

 

「いらっしゃいませ!あ、ベルさん!来てくれたんですね!」

 

「はい、シルさんの望んだ大食いが来てしまいました。」

 

「おや、あんたがシルがいってた大食いの客かい!」

 

「はい、シルさんから紹介されてきました、ヘスティア・ファミリア団長のベル・クラネルです、今日は新団員をお迎えしたので歓迎会で皆で沢山食べに来ました、売上に凄く貢献できると思いますよ。」

 

「はっはっは!気に入った!あたしはここを仕切る、ミアっていうのさ!今日はたくさんお金を落としていきな!シル、お客さんをテーブルに案内してやんな!」

 

「はい、ささ、皆さんこちらのテーブルにどうぞ。」

 

「ありがとうございますシルさん・・・次からしっかり予約してきますね。」

 

「はい、そうしてくれると助かります。」

 

テーブルに座って全員思い思いの注文をして、全員に飲み物が行き渡る。

 

「それじゃあ、僭越ながら団長の僕が乾杯の音頭を取るわけですが、小難しいことは抜きで、改めてヘスティア・ファミリアにようこそ!今日はたくさん食べて楽しんで、明日からの活力に変えていきましょう!乾杯!」

 

「「「「「「乾杯!」」」」」」

 

少年少女が食事を楽しみ話題に花を咲かせる、今日出会った赤の他人が主神の下に家族となり、今日から共に歩む同士となる。

 

酔った勢いでヘスティアがベルに抱きついたり、クミは甲斐甲斐しく小皿によそっては全員に渡し、アルスは食事の減りを見て次何を注文するかとメニューとにらめっこしてたり、クロードがお腹いっぱいで眠たそうなブーケをとんとんと叩いてたりなど色々とあった。

 

注文の呼び出しを受けてベルのもとに一人のウエイトレスが訪れる。

 

「すみません、追加のご注文があると承ったのですが。」

 

「ありがとうございます、飲み物のこれとこれが・・・。」

 

「かしこまりました。」

 

エルフの女性は淡々と注文を受け伝えに戻っていく。

 

「酒場に同族の女がいるのは意外だったな、我々エルフは気を許さぬ他者との接触を嫌うきらいがあるだろうに。」

 

「そうなんですかクロードさん?」

 

「団長殿よ、さん付けや敬語はいらんぞ本来は自分が敬う側なのだ、団長なのだから気軽にクロードでいいのだぞ。」

 

「では私も、アルスでお願いしますベル団長、我々は家族なのですから遠慮は不要です。」

 

「じゃあ私もブーケでいいよー団長さん。」

 

「・・・うんわかった、クロード、アルス、ブーケ、明日から一緒に頑張ろう!」

 

「「「了解(です)(だ)。」」」

 

「むにゃ・・・僕が頑張らないと・・・。」

 

「ヘスティア様、寝るなら帰ってから寝ましょうよ。」

 

「神様も限界みたいだし、そろそろ勘定にしようか、シルさーんお会計お願いします!」

 

「はーいすぐ伺いますねー!」

 

支払いを済ませ帰り際ミアに挨拶をすると「いつでも来な!飯を食いに来るなら大歓迎さ!」と豪快に笑って送り出された。

 

「うみゅーべるくぅーん・・・みんなぁ・・・・僕は心から・・・・幸せだぁー!!!!」

 

「もう、何言ってるんですか神様、この時間に叫んだら近所迷惑ですよ。」

 

「こうしてみると我々と同じような少女にしか見えませんね、ですが間違いなく彼女は女神だ、我々が主神と仰ぐに何の躊躇もない優しさを持った善い女神だと思います。」

 

「ああ本当に、面白い主神殿だ、眷属の我々のことを真摯に思ってくれているのがあの時の話でひしひしと伝わったよ。」

 

「ヘスティア様って温かいよねー体温とかじゃなくって、私達を思って包み込んでくれる優しさ、ママを思い出しちゃった。」

 

「クミロミ様が「もし下界に降りてきていたのならヘスティアを頼れ」って言っていたのがよくわかったよ、ヘスティア様は暖かい竈の神様なんだね。」

 

ヘスティア・ファミリアの団員たちは帰路につく、明日は団員でパーティを組み、ダンジョンへと潜る、ベルにとっては始めての同団員との探索だ、リリやヴェルフも皆に紹介しなくてはならない。

 

(お祖父ちゃん、ザルドさん、ファミリアに新しい家族が増えたよ、今日は色々あったけど、明日もきっと色々あると思う。)

 

空を見上げるベル、月明かりが街を照らす、この月を今も故郷の村で祖父も見ているのだろうかと、ベルは早くも祖父やザルドのことを懐かしく感じていた。




徐々にヘスティア様怠惰から脱している、そしてチラッと登場メイドエルフさん、この物語では彼女の過去周りも変化してます


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その小人族は少年にとって欠かせない仲間で

小人族の少女は少年とその家族に暖かい光を見る


再びのフライングイベント、過去にクミロミが天界に居たらという捏造設定がチラホラとあります。

誤字報告ありがとうございます。


豊穣の女主人での宴会から翌日、その日は新しく加入した三人はダンジョンに潜る準備とした。

 

アルスとクロードは元々ギルド登録をしていたが所属ファミリアを変えた申告を済ませ正式にヘスティア・ファミリアに所属を認められ、新たに冒険者登録を終えたブーケも同じくヘスティア・ファミリアに登録された。

 

その間ベルはリリとダンジョンに潜りつつ日課の稼ぎを行っていたがエイナからの許可もおりたので更に下の階層まで足を伸ばした。

 

人数が増えれば探索は楽になるだろう、だがそれに含めて予算も増えるのは誰だってわかる。

 

怪我人が出た際のポーション、休息(レスト)時の食料、武器の手入れに必要な砥石、非常用の備え等、数えだしたらきりがない。

 

そしてそんなものを揃えるには当然お金は必要だ、そして冒険者がお金を稼ぐには当然ダンジョンでの収入を当てにしなくてはならない。

 

だからこそ、次の探索のための資金を前もって数をこなした探索の【貯金】で稼がなくてはならないのだ。

 

これが大規模な遠征任務となれば今行っている探索のための資金稼ぎすら霞むほどの大金が消えていく。

 

まさに自転車操業だ、人が増えれば増えた分一回での探索での出費は増えるのでそれ以上の成果を出さねばならない、だからこそ冒険者はダンジョンでのモンスターが落とす魔石やドロップアイテムはなるべく持ち帰りたい、稼ぎは1ヴァリスでも多いに越したことはないのだ。

 

(だと言うのに本当にこの人は・・・。)

 

自分の感覚がおかしくなる、リリは思わずそう零した。

 

「どうしたのリリ?」

 

「いえ、ベル様の桁外れの運に少し、嬉しさと同じくらい途方に暮れただけですので。」

 

「え、なんで!?」

 

「いくらなんでも可笑しいって話なんですよ!なんで倒したゴブリンやコボルトから魔石はともかくほぼ確実にドロップアイテムが落ちるんですか!?しかも質がいいのばっかりですし!」

 

おまけに見てくださいこれ!とベルに突き出したそれはウォーシャドウからドロップした爪なのだが、これは爪であってそうではない。

 

「上層でのドロップアイテムでもそこそこ高額な【ウォーシャドウの指刃】がこんなにポロポロ落ちてたら流石に怪しみますよ!何なんですかベル様の運は!」

 

しかもそのウォーシャドウも難なく倒していた、ミノタウロスも倒せる上に今となってはアビリティもオールSになっているため完全な見た目詐欺な実力をしているのだから笑えない。

 

感覚からして今の時間はいつもの時間の半分程度、にも関わらず既にリリの大きいパックパックはパンパンで、今は一度帰還して余った時間でもう一回行こうぜな勢いである、しかも当のベルは未だに疲れなど欠片もなく先程の蹂躙劇がまるで準備運動だったかのような健在ぶり。

 

「あはは、神様にステイタスの更新してもらってから体の感覚がちょっとずれててそれを直すために色々してたらこんなことに・・・。」

 

「理由になってないですし今までの蹂躙が準備運動!?ベル様は本当に何なんですか!」

 

「えっと、ミノタウロスを倒した普通の冒険者?」

 

「普通の定義がおかしくなりますからやめてください!」

 

うがぁ!とばかりに怒り散らすリリを尻目に苦笑いを零すベル、たしかに今は【目標】に比べれば僅かばかりの強くなった実感が身に染みる、先のミノタウロスとの戦いも今やれば苦戦ではなく、そこそこ楽に戦えるのだろう、だが、だがなのだ。

 

「こんなこと言ったらもっと可笑しいけど、僕を育ててくれた家族は僕よりもっと強くて、これだけ強くなってもまだ遠く感じるんだ。」

 

「はぁあ、そうでしょうね、一度ベル様のホームにお邪魔した時に見ましたよ、あれがヘラ・ファミリア幹部の【静寂】アルフィア様ですか。」

 

リリは自分がどれほど軽率なことをしたのか後悔してもしきれない、契約しているサポーターだからと、今まででは考えられない契約者への見舞い、そこに居たのは、暖かい印象を持つ女神と契約者によく似た少女、そして自らの契約者を正座という縛りで平伏させた【絶対者】。

 

そして彼女の閉じた目がこちらを向いた瞬間にわかった、「あ、この人に関わった瞬間自分終わった」と。

 

『ほう、お前がベルが自慢していたパルゥムのサポーターか、義息子が相当に世話になっているようだ、礼を言おう。』

 

『は、はひぃ!?いえいえいえいえいえいえいえ!?リリの方こそとてもベル様にお世話になっているので!?』

 

『そうか、義息子の見る目には信を置いているが、くれぐれも【よろしく】頼むぞ。』

 

神でもないのにこちらの心底を見透かされた気分だった、関係ないが客人という扱いだったためベルの妹らしき少女から出されたお茶が染み渡るくらい美味しかった。

 

(はぁ、逃げるにはもう遅いってことですかね・・・。)

 

直に【奴ら】が絡んでくる頃合いだろう、神酒に溺れた連中は金を稼ぐためならばどんな手段でも使ってくる、弱者たる自分から搾取するなど日常茶飯事だ。

 

(それに巻き込みたくないなんて、はは、お人好しさが感染っちゃいましたかねぇ。)

 

自嘲するように内心笑うリリ、以前の自分では考えられない考えだ、冒険者など誰も彼も乱暴でサポーターの自分など精々荷物持ちの囮程度にしか思っていないとリリの考えはずっとこれだった。

 

だと言うのに、そんな考えを目の前の少年は知ったことかと自分の心に堂々と入ってきた。

 

今日の探索を始めるときだってそうだ、快復して翌日に待ち合わせ場所で心配をかけたと平謝り、昨日休んだ分頑張るからとベルが奮起してこの始末(荒稼ぎ)

 

(地上に帰ったとしてもまだ日も昇りきってないはずです。)

 

今日の探索は6階層、にも関わらず、1~4階層の探索よりも明らかに早く一時切り上げることになった。

 

これはダンジョン探索において駆け出しを卒業した者たちなら周知の事実だ、1~4階層はまさに初心者向きの階層なのだ、湧き率も言うほどではなく、駆け出しが鍛錬をするにはうってつけの環境だ、だが、それは裏を返せばダンジョンの甘い罠、先にエイナも語ったように5階層以降に到達した駆け出しの冒険者を悪意の歓迎でダンジョンが迎えるのだ。

 

【新人殺し】の異名を持つウォーシャドウや7階層の【新米殺し】キラーアントもそうだが、モンスターの湧き率も一気に上る、4階層まで到達してもの足りぬという慢心をダンジョンは容赦なく刈り取りに来る。

 

故にこそギルドの担当アドバイザーは5階層の危険を周知させるように徹底している、まあそんなギルド職員の良心を踏みにじって医療ファミリアのお世話になる未熟者もいるのがオラリオの日常だ、寧ろそんな慢心をして生きて帰れたら運が良い方だろう。

 

にも関わらず、二度目の5階層でその湧きまくったモンスターを瞬殺&蹂躙でドロップアイテムの山を築き上げた眼の前の少年。

 

ギルドで換金を済ませれば案の定、そこには予想通りの高額換金、その額なんと30万ヴァリス。

 

その半額をお決まりのようにベルから手渡される、正直もうちょろまかす必要なんてないなこれと実は最初の1回以外やっていないリリは遠い目をしつつ待ち合わせ場所に向かっていた。

 

15万ヴァリスなどという高額な金を持っていれば間違いなくあの連中が絡んでくると予想したリリは隠し金庫に大半の金をしまい込むが、やはり予想通りに絡まれた。

 

「ですからこれが全てだと言っているではないですか!」

 

「嘘つきやがれ!知ってるんだぞてめえが最近稼ぎのいい冒険者とつるんでるってことくらいよぉ!」

 

ソーマ・ファミリアは腐敗していて神酒に溺れた連中が屯する無法地帯、団員が信仰しているのは神ソーマではなく彼が作り出す神酒。

 

それを手に取るには大幅な金額が必要で、ステイタスの更新にも大金がいるため、更新を申し出れば金を持っていると睨まれ同じ団員に狙われる。

 

「そんな冒険者とつるんでおいて稼ぎがこれだけなんてあるわけねえ!よこさねえなら・・・!」

 

慣れた暴力をただ受ける、力のない自分はこうやって自分より上の者からただ搾取されるだけ。

 

何故こんなふうに産まれたしまったのだろう、なんでこんな自分になってしまったのだろうとただ暴力に耐えるリリだったが、そんな彼女にも救いがある。

 

「やめろ!何をしているんだ!」

 

痛む体を起こして慣れ親しんだ声が聞こえたほうを見れば、やはり彼が居た、その後ろに知らぬ数人を連れて。

 

「ちぃ!」

 

姿を見られたらマズイと判断したのかとっさに逃げる男だが、その前に数人が素早い動きで回り込んだ。

 

「随分と陳腐な輩だ、自分は搾取する側だと疑わぬ阿呆の目をしている。」

 

「なに・・・っ!」

 

「どう見ても加害者はあなただ、ベル団長の仲間に手を上げたのなら我々の敵も同じ。」

 

「うるせえパルゥムごときが偉そうにしてんじゃねえ!」

 

リリの同族であろうパルゥムの少女が男の拳を避けて殴りかかる、リリとは違う、自分よりも早く、力強い一撃で男を殴り飛ばし、アマゾネスのような猫人が拘束した。

 

「てめ、離しやがれ!」

 

「やーだよ、あんたみたいに乱暴なやつ、ダイダロス通りにも溢れてたからねー。」

 

「メレンだろうがオラリオだろうがこういった輩はいるものですね。」

 

「憎まれっ子世に憚るとはよく言ったものだ、こういう輩はどこに行っても無くならんよ。」

 

瞬く間に無力化するとベルは真っ先にリリに駆け寄った。

 

「リリ!大丈夫!?」

 

「だいぶひどい傷を受けたな、少し染みるが我慢しろ、応急処置にはなる。」

 

エルフの男性がリリへとポーションを惜しみなく振りかける、瞬く間に傷がふさがり痛みも和らいでいく。

 

「ベル団長、こいつどうしますか?」

 

「ガネーシャ・ファミリアに突き出すのが一番手っ取り早いけど、その前にリリだよ。」

 

「ベル様・・・この方々は?」

 

「僕のファミリアに新しく入った団員だよ、皆冒険者登録が終わったからリリにも紹介しようと思って。」

 

「団長殿からリリ殿の話は聞いたが随分と過酷な環境に居たようだな、まあ所属がソーマ・ファミリアならば納得とも言える、あそこは色々と黒い話が絶えんからな。」

 

「クロード、ソーマ・ファミリアを知っているの?」

 

「これでもそこそこのファミリアに居たのでな、オラリオのファミリア情報関連はそこそこ頭にある。」

 

「だがその前にリリ殿の手当が先だ、余り目立つとソーマ・ファミリアの連中に見られれば面倒なことになる、フードを深く被っておけ。」

 

「あ、あの、リリは大丈夫で・・・。」

 

「気にしないでくださいリリさん、我々がそうしたいんですよ、ベル団長お願いできますか、我々が人目避けになるので。」

 

「わかった。」

 

「じゃあ私はこいつをガネーシャの人に渡してくるねー後で合流するからー。」

 

そうしてベル一行はリリを連れヘスティア・ファミリアに帰還する、ベルにおぶられてその中リリは思う。

 

(何故この人達はリリなんかにこんなにも優しいのでしょうか・・・。)

 

いっそ泣きたくなるほどの暖かさ、リリは今、ベルから伝わる背中の温もりを感じていた。

 

 

 

 

 

「なるほどね、ベル君の雇ったサポーターがそんな目にあっていたのかい。」

 

「同じ派閥同士での金の奪い合いか、随分と腑抜けた連中だな。」

 

「お金なんて頑張れば稼げるものなのにねー、リリお姉ちゃんこのポーション飲んで、骨にヒビが入っていても治るから。」

 

「あ、あの先ほどポーションをもらっているのでこれ以上は・・・。」

 

「遠慮するなリリ殿、先にアルスも言ったが団長殿の仲間であれば我々の仲間も同じだ。」

 

「はい、ベル団長の仲間であれば信も持てますし。」

 

「ただいまーガネーシャさんのところに突き出してきたよー。」

 

ヘスティア・ファミリアのホームで手厚い看護を受けたリリは、色々と堪えていたものが決壊した。

 

ソーマ・ファミリアでの苦境、脱退のために金が必要なこと、その金を稼ぐために駄目なのは理解していた上で少ないが悪事に手を出したこと。

 

本当は助けてほしい、泣いて助けを請いたい、だがそれではまた過去のように誰かに迷惑をかけてしまうとリリは思いの丈をぶちまけた。

 

ヘスティアがいるため嘘ではないことも事実だし、クロードの知る情報からも今のソーマ・ファミリアの腐敗ぶりは明らかだった。

 

ヘスティア・ファミリアは誰もがリリのことを否定しなかった、確かに悪事に手を染めたのは許せるものではないが、だからといってリリの境遇を見過ごすほどヘスティア・ファミリアは腐っていない。

 

「神様、お願いです、リリを助けられた時、リリをヘスティア・ファミリアに迎え入れていいですか?」

 

「仕方ないねベル君は、家族のお願いを聞けないほど、僕は器の小さい神じゃないぜ?」

 

「なんで、なんでリリなんかのためにここまでしてくれるんですか・・・リリにこんな価値なんてないのに・・・。」

 

「困っている女の子が居たら見過ごせない・・・ってのは建前なんだけど、リリだからかな、一緒にダンジョンで冒険して、リリが色々と辛い目にあっているのを知った、なら放っておけないよ。」

 

ベルは知っている、目の前のサポーターが自らの冒険にどれだけ貢献してくれているのかを、探索の際教えてもらった【縁下力持】のスキルやサポーターとしての能力、ダンジョンでの気配り、そんな優秀なサポーターとして自らの助けてくれた自分の仲間を見捨てるような真似は、ベル・クラネルには絶対にできない。

 

しかし未だ弱小ファミリアの枠を出ない自らに何ができると考える中、クミが口を開く。

 

「ソーマ様、ソーマ様って・・・。」

 

「どうしたんだいクミ君?」

 

「いえ、クミロミ様から下界に降りてきたソーマ様に会ったら言付けと届け物を頼まれてたんです。」

 

「クミロミから?」

 

「本人の前以外では言わないようにと言われていたんですが、届け物の準備は終わってますし、そろそろ会いに行こうかと思いまして、それに交渉次第で無償でリリお姉ちゃんがファミリアから脱退できるかもしれません、備え金は用意しておきますが。」

 

「クミさんの言うクミロミ様とはヘスティア様と同じ超越存在(デウスデア)ですよね?どういった関係になるのでしょうか?」

 

「クミ君は特別でね、一柱だけだけど天界の神と交信できるのさ、それでクミ君はそのクミロミ信者ではあるけど、ヘスティア・ファミリアで問題はないし。」

 

「クミロミ様はこの命ある限り信仰する神様だけど、ヘスティア様は家族なんです、クミロミ様からも許可はもらってますよ。」

 

「いや、天界から神の声が聞こえるだけで相当なものだと思うのだが・・・。」

 

「細かいことは気にしなくていいよー、今はリリちゃんをなんとかしないとねー。」

 

色々と突っ込みどころがあるが話はまとまった、早速とばかりにクミは用意を済ませるとヘスティアに要請して人員を決める。

 

「行くのは私とお兄ちゃん、ヘスティア様とリリお姉ちゃんだね、数が多すぎるとあっちも警戒するし、もしソーマ様の団員が仕掛けてきても私が相手するから安心して。」

 

「ありがとうクミ君よろしく頼むよ。」

 

「後これは一応の備えとしてブーケお姉ちゃんにやってもらいたいことがあって・・・。」

 

「なにー?副団長さんのお願いなら聞くよー?」

 

 

 

 

夕方にソーマ・ファミリアを訪れればそこには人が屯していた、誰も彼もがソーマの作る神酒に溺れていた、あの味が忘れられない、あの感覚をもう一度味わいたい。

 

中毒ではないのだ、神酒の酒気は時間が経てば消える、ただ単純にその心地よき酔いに身を委ね、もう一度味わいたいと大金を持ちソーマ・ファミリアを訪れる。

 

恐れるべきは、この神酒はこれで失敗作だ、ならば完成した神酒はどれほどかとソーマ団員や顧客は血眼になって素材の金や神酒の購入費を稼ぐ、そこにどんな手段を厭わぬという行動をもってだ。

 

リリは所属ファミリアのため中に入ることはできたがソーマと接触できるかはリリも不明だった、しかしクミのこの一言で容易に面会が叶った。

 

「ソーマ様に言付けを頼みたいのですが、【至高の葡萄酒や果実酒、米酒、これらの酒作りで難航した時デメテルのと同じくらいうちの作物アホみたいに使ったの、誰だっけ?】と。」

 

頭に疑問符を浮かべた門番の団員だが【握らされた】物もあるのでまあ言付けくらいはいいかと神ソーマのもとに向かった。

 

「クミ君それは。」

 

「乗り込んで暴れるよりは随分とマシな方法だと思いますよ。」

 

しかし賄賂はなぁ、と思わなくもないが、走ってきた先程の団員に直ぐに会いたいとのことだから来てほしい、と言われた。

 

(ソーマはクミロミに何やらかしたんだ・・・。)

 

若干不安を覚えたヘスティアだが騒動もなしに会えるのならば否はなし、そう言わんばかりに面会が叶った。

 

 

 

通された場所で待っていたのは緑髪の男に黒髪の男、近くに酒造りの道具があるのを見るに黒髪の男のほうがソーマなのだろうとベルは思った。

 

「ようこそヘスティア・ファミリアの方々、何でも交渉事があるとかで?」

 

言葉は丁寧だが、明らかな不機嫌も貼り付けているのはソーマファミリアの団長ザニスだ、無理もないだろうあの趣味の酒造り以外関心のないソーマがやや冷や汗を流したように交渉相手を招けというものだから、何があるのかと警戒している。

 

それに歩み出るのはベル・クラネル、打ち合わせ通りに動かねばと緊張しているが決して顔には出さないようにと団長としての気概を見せる。

 

「交渉があってきました、ソーマ・ファミリアの所属リリルカ・アーデをヘスティア・ファミリアに改宗(コンバージョン)させてほしいのです。」

 

「アーデを?」

 

ザニスはリリを一瞥し一つ鼻を鳴らすとその顔を醜悪に歪ませる。

 

「それは構いませんが我々ソーマ・ファミリアは脱退するのにも資金が必要でして、その額は1000万ヴァリスです?払えますか?」

 

(ッこの人は!!!)

 

リリは改めて辟易とする、大規模ファミリアとてこのような所業はしないだろう、自らの団長は金に汚く悪事に手を染めるのにもなんの躊躇もない。

 

この無法状態のファミリアを最も歓迎しているのは誰よりもやりたい放題ができるこの男だからだ、だがそれに歩み出るのはクミだ。

 

「即金は用意できませんが、【1000万ヴァリス以上の価値の出る素材】なら如何ですか?」

 

「・・・何?」

 

クミが荷物より取り出したのは【作物や果実】だがそれに最も反応したのはソーマだった。

 

「これを素材にしてお酒を作れば、物好きな神ならば1000万なんて簡単に稼げますよ。」

 

「それは・・・そうか、お前がクミロミの縁者か。」

 

「はじめまして、神ソーマ様、お話はクミロミ様より良く聞いております。」

 

「そうか・・・ならお前の俺への印象はあまり良くなさそうだ。」

 

(なっ!?)

 

それに驚いたのはザニスだ、酒造りにしか関心を示さぬ己が主神が動いた、目の前の少女に警戒度が一気に上るもなんとか顔に出さずに済む。

 

「ソーマ様、地上での酒造りに難航しているそうですね、やはり材料もあるでしょうが何よりも、モチベーションが足りない、そうでしょう?」

 

「そうだな、地上の子どもはこの失敗作の酒に簡単に酔う、そんな子どもたちに何を見出し、どう耳を傾ければいい。」

 

「ふざけるな!」

 

ソーマの言葉に誰よりも激怒したのはヘスティアだ、彼女はリリからの話を聞いてずっと溜め込んでいた不満が爆発した。

 

「たしかに君の神酒はそういう魔性の魅力がある!だがそれは君が勝手に失望しているだけだ!」

 

ヘスティアはベルとクミを交互に見る、そこにあるのは信頼と慈愛、自らの家族になった二人に主神は揺るぎない信頼を見せる。

 

「金が必要だというのなら払おう、この二人に神酒を飲ませてみせるといいさ!」

 

「ヘスティア様いけません!?」

 

「ほう?」

 

それに口に弧を描くのはザニスだ、それならば構わない、ただ顧客が増えるだけだと内心嘲った。

 

「いいだろう、これを飲んで尚意見が変わらぬならば、お前たちの願いを聞こう。」

 

「・・・!」

 

「はい、いただきますソーマ様。」

 

ベル兄妹の前に差し出された失敗作の神酒、クミは平然と神酒を煽り、ベルもまた意を決して神酒を煽る。

 

その時ベルに襲い来るのはいっそ暴力的なまでの甘美な衝撃、自らの語彙では到底表しきれぬほどの味わいだった。

 

(こ、これが神酒!?)

 

なるほどとベルは陶酔しそうになる、これなら何度でも飲みたくなるだろう、必要なら金だって払いたくなるだろう。

 

(だけど、だけど・・・!)

 

それでも尚、ベルは揺るがない、ずっと抱いている誓いがある、それを蔑ろにしてまでこれは飲みたいものなのか?

 

(・・・違う!)

 

こんな物に酔っている場合ではない!

 

あの日の誓いを叶えたいならば!

 

助けてほしいと願った彼女を助けたいならば!

 

ここで踏ん張らずいつ踏ん張る!

 

「お願いしますッ・・・ソーマ様っ・・・リリの改宗を認めてください!」

 

「・・・ぷぅ、美味しいですけど、やっぱり酔いが強めですねこれ、これで結構味を損なってますよソーマ様。」

 

必死に食いしばって懇願したベルと違いクミは平然と飲み干した。

 

「な、なんだと!?」

 

当然ザニスは驚いた、自らの思惑と違い確固たる意志で神酒に抗った、剰えもう片方は平然としているのだ、これに驚かずになんとする。

 

「・・・そうか、俺が勝手に失望していただけか、そうかもしれんな。」

 

それを見たソーマも認める、目の前の二人は神酒に酔わず自分を貫いた、ならば間違っていたのは自分だろう。

 

それを見たリリもザニスと同じく驚愕する、自分のためにベルは神酒に抗った、このまま行けばソーマの言う通り願いは叶うのだろう。

 

 

 

だがそれでいいのか?

 

 

 

このままで、本当にいいのか?

 

 

 

恩人たちにおんぶにだっこ、そんな様で踏み出したと言えるのか?

 

 

 

「リリ君、君のやりたいようにやるといい、家族になるかもしれない君に僕は協力は惜しまないよ。」

 

「ヘスティア様・・・ソーマ様、お願いします!リリからもお願いをさせてください!ヘスティア・ファミリアに改宗をさせてください!」

 

「ソーマ、君の流儀に倣うなら、彼女の分も僕が払うかい?」

 

「いや、構わない、俺の勝手な失望で辛い目に合わせてしまったアーデに惜しむほど、まだ俺はそこまで腐っては居ない。」

 

そしてリリにも差し出される神酒、今見ても過去を思い出し震える、しかし踏み出すと決めたのだ、自分を家族に迎え入れたいと言ってくれた暖かい人達に自分だって報いたい。

 

その一心で神酒を煽った。

 

一気に全身に駆け巡る酔い、色々と投げ出してこの酔いに身を委ねたい、そんな甘えをここで断ち切る時だ。

 

「ソーマ様、お願いします、どうかリリのファミリア脱退を認めてください・・・!」

 

「そうか・・・わかった、アーデの脱退と改宗を認めよう、それからすまなかったな、アーデ。」

 

リリに手を差し出し謝罪するソーマ、自分が勝手に失望して、様々な人に迷惑をかけた、自分の犯した罪に向かい合い償わなくてはならない、だがソーマは不思議と霞が晴れた気分だった。

 

「ベル様・・・こんなリリですが、改めてお願いします・・・。」

 

「喜んで、歓迎するよリリ・・・。」

 

「ではソーマ様、それで契約は完了ですね、クミロミ様からも定期的に作物は卸していいとのことでしたので、材料が切れたら申し付けてください、クミロミ様の商売相手には協力は惜しみませんよ。」

 

「ああ、助かる、だが暫く神酒は作れそうにないな。」

 

(馬鹿な!馬鹿な馬鹿な馬鹿な!?)

 

話が纏まる中、煮えたぎるような感情を包み隠すザニスを、一人、冷たい目で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

その日の夜、ヘスティア・ファミリアが去った後、ソーマ・ファミリアから数人の人間が出立した、その目的は・・・。

 

「いいかカヌゥ、どんな手を使っても構わん、魔剣も用意する、アーデの奪還とヘスティア・ファミリアに痛撃を与えろ、二度とこちらに手を出さんように徹底的に痛めつけろ。」

 

「へへ、任せてくださいよザニスの旦那、その代わり報酬は期待してますぜ?」

 

闇夜に紛れて行動を起こすのはザニスとその取り巻きであるカヌゥ達数人。

 

「奴らに与えるものなど何一つない、アーデに関してもこの際手土産代わりに貰い受ける。」

 

リリが別の派閥に行き、万一悪事を告発でもされたら一番困るのはザニスだ。

 

自らが染めた悪事の数をザニスとて知っている、ギルドは金に汚い上の連中に握らせるものを握らせれば黙らせられるが、群衆の主(ガネーシャ)は無理だろう。

 

最早ソーマ・ファミリアに留まるのは自分の身が危険だ。

 

故に例の伝を頼りにザニスはソーマ・ファミリアを捨て、闇の中に消えようとしていた。

 

 

 

 

だが・・・。

 

 

 

 

「ちぃっ・・・それにしても雨が降ってきたな、いや、事を起こすには雨は好機か、半端な音は消してくれる。」

 

違和感を探ればいくらでもあった、雨が降ってきたの以外にも、寝静まった時間にしては、静かすぎる事、街灯や明かりが一つとして点いていないこと。

 

「ザニスの旦那、なんか聞こえやせんか?」

 

「なに?」

 

「こう、馬の歩く蹄のような音が・・・この時間にタクシーってやってましたっけ?」

 

確かに雨音に紛れて聞こえなかったが、夜の街に響く重く、重量感のある蹄の音。

 

「なんだ、この音はタクシーではない。」

 

やがてザニス達の視界に現れたのは雨中の夜の街にしてははっきりと見えるシルエット。

 

「・・・ヒィ!?」

 

思わず悲鳴が漏れる、あれは馬などではない、たしかに四足だ、蹄もある、だが・・・。

 

「馬の首の上が人体になっている・・・モンスター!?」

 

伝承で言うなら正しく【ケンタウロス】のそれは巨大な大斧を持ちザニス達に真っ直ぐと接近してくる。

 

当然、迎え撃つなり逃げ出すなりできたはずだが、唐突にザニス達に襲う不可思議。

 

「【鈍足】」

 

「あ、足が動かん・・・なんだこれは!?」

 

あの目に睨まれた時、その場に足が縫い付けられたかのような異常が襲う。

 

「か、カヌゥ!何をしている!魔剣だ!やつに向かって魔剣を・・・!」

 

だがその声がカヌゥには届かなかった、黒い影が刹那過ぎた後には、カヌゥの首は胴から離れていた。

 

「な、なぁ・・・!?」

 

(ガネーシャ・ファミリアは何をしている!?アストレア・ファミリアだってそうだ!これほどのモンスターが街中を堂々と闊歩しているにも関わらず何故誰も動かない!?)

 

普段の悪事を棚に上げ、秩序の面々が動いていないことに憤るザニスだが。

 

「罪を贖え・・・。」

 

「・・・ッ!」

 

ケンタウロスらしきモンスターはザニスに語りかける、呪いのような響きを持った男の声色はザニスの魂にすら響くような重さでのしかかる。

 

「搾取した罪を・・・欲に狂った罪を・・・罪無き人を傷つけた罪を・・・贖え!」

 

「まて・・・!?」

 

大斧が振りかざされた時ザニスの視界は暗転する。

 

冷たい雨が降りしきる中、物言わぬ骸がオラリオの夜中に転がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、これくらいが丁度いいかな?」

 

それを屋根の上から見下ろしているのはクミ、見下ろしているのは【気絶】したザニスたち。

 

「やっぱり軽い【幻惑】でもこれくらいのことはできちゃうか、幻惑に惑わせて殺すっていうのはやりすぎだから気をつけないとね。」

 

クミのしたことはノースティリスではありふれたこと、ただ幻惑付加の魔法でザニスたちを惑わした。

 

「やっぱり悪人には【正義の断罪者】の幻惑が一番効くよね。」

 

クミの見せた幻惑のケンタウロスはノースティリスで暇つぶしにRP(ロールプレイ)をしていた【冒険者】の一人。

 

ノースティリスで交易品を運んでいる時に襲ってくる泣く子も黙る盗賊団。

 

そんな連中を相手取り、逆に連中を刈り取る正義の断罪者としてノースティリスで勇名を馳せるカオスシェイプの男冒険者。

 

カオスシェイプは成長するにつれて自らの体の部位を増やすことができる。

 

ちなみに蹄は部位として増えないが、彼の場合はエーテル病で無理やり生やしたらしい、こだわりが強すぎる。

 

中には盾を10枚以上持ち無敵を誇るものも居たが、その男は自らの部位を意図的にケンタウロスのように増やし、大斧を得物にノースティリスで暴れまわった。

 

そんな彼も家に帰れば妻の居る2児の父なのだからノースティリスの混沌ぶりが伺える。

 

「後は予め通報したガネーシャ・ファミリアに任せよっと、あれだけ脅せば、暫く悪さなんてできないでしょ。」

 

泡を吹いて倒れるザニスたちを尻目にホームに帰還するクミ。

 

(神に嘘は通じないって言っても、ケンタウロスを見たなんて証言、悪事で捕まって気が狂っておかしなことを言っているってしか見做されないだろうなぁ。)

 

今オラリオには【雨は降っていない】し【街灯も消えていない】、そこで見た【大斧を持ったケンタウロス】、目を覚まそうとも、彼らは自分の証言を真実として認めてもらえるだろうか?

 

(あ、でも闇派閥なんて存在もいるし、それ関連かもしれないって無駄に警戒されるかもしれないけど、大丈夫かな・・・?)

 

もしかしなくても黒龍以来で軽率にやらかしたかもしれない、家に帰るクミは珍しく冷や汗をかいた。




Elonaらしさを出したいと思ったらオリキャラカオスシェイプ挟むしかなかった。

そして例の連中がいるのを知らないクミ、盛大にやらかしてます


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その探索は誰にとっても満ち足りたもので

少女のやらかしは思ったよりも大きいものだったと後に知る


間隔が空いたのは4周年がさすがの公式最大手過ぎて軽く心が折れ気味であるからでして・・・。

誤字報告いつもありがとうございます


リリの改宗が決まった夜、その日のうちにヘスティアはリリに恩恵を与え、リリもヘスティア・ファミリアの一員となった。

 

リリの犯した悪事に関しては、ギルドと被害者に罰金を支払う方向で纏まった。

 

因みに額はそこそこ大きかったが個人資産がとんでもなく多いクミが立て替えた、これに関してはリリが自分で稼いで必ずクミに返済することとヘスティアが厳命した。

 

それはそれとしてヘスティアは被害者はともかくなんでギルドにまで罰金払わないといけないんだとやや憤っていたが、そこにはしっかりと理由がある。

 

「ギルドは冒険者にとって必要なものだ、だが不始末を犯した冒険者を放置すればそういう手合が溢れかえる、そういう意味では罰金は有用な手段だろうさ。」

 

「払うもの払っておけばいいんですよ、ああいう手合はあれで黙るんなら寧ろ都合が良いですよ。」

 

とはクロードとクミの言葉だ、それでもなぁとやや不満なヘスティアだったが、この言葉で逆に不安を覚える。

 

「まあそれでも、もし私が計画している内容を満たせるくらいお兄ちゃんが頑張ったらそれほど遠くない内にギルドは不要になるかもしれませんね。」

 

「え、何しでかす気だい・・・?」

 

「ご心配なさらず、今度はやらかすつもりはありませんし、ヘスティア様の意向に添えると思いますよ。」

 

「今、「今度は」って言ったよね!?」

 

クミの計画とやらが本当に気になるが、自分の意向にも添えるとは一体と思ったが、ベルもリリも神酒を耐えきったと言えど酔いが回っていたためその日はリリの改宗を終えて幕を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

翌朝リリは、ふわふわとした夢心地な気分で目が覚めた。

 

「んぅ・・・。」

 

目が覚めて、ふかふかのベッドに包まれて、再び眠気がこみ上げる、目覚めた布団というのはどうしてこうも二度寝の誘惑を駆り立てるのか。

 

「なんてそんな贅沢思っている場合ではないですね。」

 

苦笑いし、身支度を整えるリリ、昨日の今日だが決して少なくない金額を新しい家族に負担してもらったのだ、ならばその額以上に身を粉にして働かなくてはならない。

 

新しい主神は罪を犯したことは許しがたいけれども、最もそれを許せないのは他ならぬリリ自身なのだろうと言われた、償う気があるのならばこれからの人生を誠実に生きて償って行けとも。

 

不思議な話である、あれほど毛嫌いしていた冒険者達とのこれからの暮らしを考えるだけで、今この身に湧き上がる意欲と情熱は目覚めたばかりなリリの心に熱く燃えたぎっている。

 

「ふふ、生きているのに、まるで生まれ変わった気分ですよ。」

 

背に刻まれた新しい家族の証に誓うように、リリはこれからの人生を一生懸命に生きていく。

 

救ってくれた恩人である新しい家族のためにも。

 

 

 

全員で食事を済ませ、食器を片付けた後、ヘスティア・ファミリアは今日の予定を確認する。

 

まずブーケは元々の自力こそ高いがギルドで冒険者登録をしなくてはならず、暫くはギルドでの研修とクミとアルフィアの指導の元、ホームでの鍛錬を繰り返すことになる。

 

だが、アルスとクロードは登録も済ませ、そこそこの経験もあるので問題なくダンジョンには潜れる。

 

リリは当然ながらサポーターである、現状アルフィアを除けば最もダンジョン経験が豊富なのはリリであるため働きに関しては大いに期待できる。

 

ヘスティアは、今日も今日とて借金返済のためのバイトである。

 

そして団長のベルはアルス、クロード、リリを伴い広場へと向かい、担当契約を結んだヴェルフと合流し、互いに自己紹介を済ませる。

 

そろそろ『怪物祭』が近いのもあってか慌ただしく動くガネーシャファミリアを尻目にベルたちは今日もダンジョンへと潜っていった。

 

 

 

「しかし驚きでした、ベル様の契約鍛冶師があのクロッゾの家系だったとは。」

 

「うむ、魔剣にかけては右に出る者はいないと有名であるが、最近はとんと話を聞かなくなった。」

 

「あー悪いが実家の話はやめてくれないか、あまり好きじゃないんだ、というか、クロードだっけか、俺が言うのも何だがお前さんエルフだってのにクロッゾに対して思うところないのか?」

 

魔剣の中でも恐ろしいほどの威力を秘めたクロッゾの魔剣とエルフの因縁は深く、魔剣を嫌うエルフはその殆どと言ってもいいくらいにいるほどだ。

 

だがクロードは少し考える仕草をしつつもまるで気にしていないかのごとく姿勢を正した。

 

「む、たしかにクロッゾといえばかつて我々同胞に多大な被害を与えたが、それは私の世代ではないし、私は未だ若輩でな、魔剣なぞ便利な道具程度の認識しかない、それに私の家族は極東の民族で育ったエルフ故、ラキアとの戦いに関わりが薄いのもある。」

 

「そんなもんなのか?」

 

「そんなものだ、それに未だ出会った当日の短い付き合いだが、共にダンジョンに潜りヴェルフ殿の人となりはわかる、魔剣を以て悪意のあることを起こすような人物では無いことくらい若輩の私にもわかるさ。」

 

「お、おう、そうか・・・。」

 

「お二方、喋るのも結構ですが腕と口を動かしてくださいな。」

 

ヴェルフが視線を向ければ、槍に雷を纏わせてキラーアントに直撃させるアルス、しかも場所がキラーアントの甲殻の隙間という絶妙な精度を持って直撃させる技術はなかなかのものである。

 

「アルスはすごいんだね、キラーアントも結構強いのに。」

 

「港町育ちは伊達ではないですよ、逃げる魚を仕留めるのと同じようなものです。」

 

褒めるベルに謙遜するアルスだが、そのアルス当人もベルのレベル1詐欺とも言える動きに目を見張った。

 

透き通るような白髮を靡かせてダンジョンを駆け回り、閃光のように駆けた後にはモンスターの灰とドロップアイテムが残されていく、それをベルの邪魔にならないようにリリがどかし、魔石とドロップアイテムの回収をしているのだが、その戦利品の多さに経験豊富のリリもてんてこ舞いである。

 

(これでまだレベル1、ベル団長のステイタスは一体どれほどの貯金を持って次の段階(レベル)へと行くのだろうか・・・。)

 

アルスとて積み上げた経験はレベル1の中でもそこそこある方だと自負はしているが、その経験が告げている、あの場所へ至るには相当の死線をくぐり抜けて漸く到れる場所だと。

 

そしてクロードもまた同じような思考を巡らせている。

 

(かつての大派閥ヘラ・ファミリア、そのアルフィアの親族と言われればその強さにも納得だが、だとすれば団長殿はどれほどの薫陶を受けたのやら。)

 

長寿のエルフとはいえ肉体年齢は未だ人間の少年程度と変わらないクロードだ、極東育ち故の他のエルフにない独自の価値観を持ってしてもその底しれなさに呆れ半分敬意半分である。

 

そしてベルは大半のモンスターを討伐するが、敢えて討ち漏らしを出している、単騎で戦っていた前とは違い、今は多人数と組んでいるのである。

 

今のベルならばキラーアントがどれだけ束になってかかってきても息切れせずに蹴散らせるが、それではだめなのだ。

 

(思い返せ、お義母さんは僕一人が強くなるだけでは意味がないって言っていた。)

 

パーティを結成した以上モンスターと戦うエクセリアを独占するのはこの上ない戦犯と言ってもいい、だからこそ、討ち漏らす相手を慎重に決めている。

 

(標的だけを見るな、全体を見ろ、体を動かせ、意識を研ぎ澄ませ・・・。)

 

義母達家族から受けた薫陶が今のベルの中に燃える以上そこに油断は一切ない。

 

その薫陶の中にはゴブリンを巣から追い出し、そのまま波状攻撃で怪物進呈(パスパレード)させ、ベルが死なないギリギリの範囲で何度もゴブリンをベルに押し付けた、その時はまだクミによる無自覚魔改造が控えめだったため当然ゴブリンの棍棒で痣はできたし何なら打ち所が悪くて骨折もした、その日のうちにクミの軽症治療のポーションであっさりと怪我が治り、これで明日も修行しても構わんなと言う家族二人にベルは軽く失神したのを思い出して軽く頬が引きつったがすぐに引き締める。

 

討ち漏らしたキラーアントにも視線を向ければ、新しい家族たちがしっかりと奮闘している。

 

遠距離の敵はクロードが牽制し、中近距離の敵はアルスが引受け、全体をリリが見て指示を出し、そのフォローをヴェルフが行う。

 

(ギリギリの調整は難しい、けれど僕だけじゃない、みんなで強くなるんだ。)

 

事前に伝えていたが、キラーアントを敢えて数匹討ち漏らしてそっちに向かわせると伝えた際にもリリはともかく三人とも普通に理解を示した。

 

ギルドの座学を突破し冒険者として歩み始めた以上、そこに甘えは絶対の敵だ、自分たちには頼れる団長がいるからと寄りかかるのではない、団長に追いつき支えるという気概が見ているだけでベルからも伺える。

 

(やっぱりいいなぁ。)

 

少しばかり変則的だが、ベルが調整して、他のメンバーが若干の無理をできる範囲でモンスターを倒す、ただモンスターを倒しただけでは上質な経験は得られない。

 

だが、同時にエイナの教訓もある、【冒険者は冒険をしてはいけない】半端な実力で身の丈に合わない戦いの末路は大抵死だ、だからこそエイナは担当アドバイサーとして心を鬼にするのだ。

 

(無茶をさせず、されど甘やかさず、お義母さん、これ本当に難しいです。)

 

クミにも言ったが自分に団長など務まるのか他ならぬベル自身が疑問に思っているが、当の皆が自分を団長と慕ってくれている、ならばこそ、その期待に応えよう。

 

「ベル様ー!そろそろ潮時です!帰還しましょう!」

 

「わかったリリ、【福音】!」

 

鐘の音が響く、その音の先には吹き飛ぶモンスターの死骸達、流石に連発こそできないが、ミノタウロスとの戦いは自分に相当な魔力を与えてくれていたようだ、ともかくこれだけ減らしておけばすぐに湧くことはないだろう、強化種が生まれないように追撃で持ち帰れない魔石を砕いておき、ベルは帰還の号令を飛ばす。

 

「今のうちに帰還しよう、皆行こう!」

 

「「はい!」」「おう。」「了解した。」

 

 

 

 

「それにしてもよかったのか?俺がこんなに取り分もらっちまって。」

 

ダンジョンから帰還後、配分が終わり、ヴェルフのもとには有用な鍛冶の素材となるドロップアイテムが山積みになっていた。

 

「ヴェルフは僕の契約鍛冶師だからね、いい装備を作ってもらえれば僕たちの生存確率も上がるし、何より仲間なら分かち合いだよ。」

 

「うむ、それにヴェルフ殿には危ない場面を救ってもらってもいる、報酬としては十分だろう。」

 

「我々もリリさんが大量のドロップアイテムを確保していますし、稼ぎとしては問題ないですし。」

 

「そのドロップアイテムの量を産み出すベル様の運がおかしすぎてリリはそろそろバックパックを買い換えようかと思ってますよ・・・?」

 

「あはは・・・。」

 

「お、おお、確かにベルの倒したモンスターからはヤバイくらいにドロップアイテムがボロボロ落ちてたよな。」

 

「そういうスキルだと思ってもらえればいいかな、じゃあヴェルフ、また次に。」

 

「わかった、流石に深入りはマナー違反だな、俺も気合い入れていい装備を作らねえとな!またな、ベル!」

 

ベルたちと別れた後、一人では相当負担のかかる量の素材の山を見てヴェルフはひとりごちる。

 

「さてと、これで作る装備は何がいいか・・・。」

 

キラーアントの甲殻は軽い割に丈夫なので軽鎧でもいいかもしれないが、籠手や膝当てもいいかもしれないと思考を巡らせつつ鍛冶場へとヴェルフは歩いていった。

 

 

 

 

先にクロードとアルスの二人をホームの協会へと帰らせたあと、ベルとリリはギルドへと向かい、ドロップアイテムや魔石の換金をするために受付に向かった。

 

「ベル君、相変わらず凄い量のドロップアイテム持ってきたわね・・・。」

 

「はい、なんでか強くなるたびにどんどんと落とす量が増えてる気がするんです。」

 

「何でしょうかね、ベル様の稼ぎを見てると上層の稼ぎがわからなくなりますよ。」

 

相変わらずの上層とは思えないほどの高額の稼ぎを得てため息を漏らすリリと首をかしげるベル。

 

これに関してはクミが若干顔を青くして。

 

『いやまさか、お兄ちゃんの運がいいのって夢でクミロミ様が「そういえば僕のエヘカトルが君の世界の少年君面白いね!ね!って言ってたよ。」とか言っていたけどいやいやそんなまさか・・・いくら神様がやりたい放題だからって信仰もしていないお兄ちゃんにそんな真似するはずが・・・だめだエヘカトル様だから信用できない。』

 

などと言っていたがこれは誰にも聞き取られていない。

 

「そういえばベルくん、例の時間決まった?」

 

「あ、はい、神様とも段取りを決めてここあたりの時間が・・・。」

 

「・・・うんわかったわ、ロキ・ファミリアにはこっちから伝えておくわね、それとこれは別件なんだけど。」

 

言うが否やエイナは周囲を見渡し、ベルたちに小声で伝える、「少し用があるので応接室に来てほしい。」

 

 

 

応接室に案内されたベルとリリ、エイナから切り出された話は、予想はしていたが意外なものだった。

 

ソーマ・ファミリア団長のザニスがガネーシャ・ファミリアによって捕まった。

 

コレ自体に関しては驚くものではない、改宗後にリリがソーマ・ファミリアで行っていたザニスの悪事や裏事情の告発をまとめ、ギルドに提出していたため捕まるのは時間の問題ではあったが、リリはあの男が簡単に捕まるとは思えず、何かしらしでかすとは予想していたのだ。

 

だが蓋を開けてみれば、ザニスは取り巻きの冒険者とともに捕まり牢に入れられた。

 

エイナの本題はむしろここからであった、なんでもザニス達は昨日深夜オラリオの街中で泡を吹いて卒倒し倒れていたらしい。

 

しかも発言自体も妙で、早く牢に入れてくれだの、あいつに殺されるだの、何やら精神がとても消耗していたらしい、その原因もまたおかしい。

 

「捕まる際の言い訳なのかもしれないけど、何でも街中で上半身が人間で下から馬の体を生やした人馬型のモンスター?みたいなものに襲われたって喚いているのよ、でもその証言が支離滅裂でね、あの日の夜、雨なんて降ってないのに雨が降っていたって言っているし、街灯も点いていなかったって言っていたけど、ガネーシャ・ファミリアが着いたときにはまだ街灯はまばらに点いていたのよね。」

 

「むー?あのザニスにしては発言が意味不明ですね?」

 

「人馬型のモンスターですか?そんなモンスター座学でも見たことなんて・・・。」

 

「そうなのよ、でもこれを聞いたガネーシャ・ファミリアが万が一もあるかもしれないって見回りを強化し始めたのよね、もし見つからなければザニス氏が嘘を言っているわけになるんだけど、早く牢に入れてほしいって自首する人間がそんな嘘を言う必要なんてあるのかな?」

 

エイナも首を傾げてウンウンと唸るものの、関係者であるベルたちならなにか知っているかと思って聞いてみたが、結果はベルたちも知らないとのことである。

 

「まあそんなわけだけど、今のところそんなモンスター見かけてないし、君たちも知らないなら多分嘘の案件で処理されると思う、でも一応数日は夜に警戒はしておいてね。」

 

「わかりました。」

 

 

 

 

で、いやまさかと思いつつ、その夜の夜食中にベルがふと。

 

「人馬型のモンスター・・・。」

 

「ゴフッ!?」

 

などと呟いた結果露骨なまでにクミが吹き出したために、さあ始まりましたヘスティア様主導の尋問大会。

 

「で、うちに襲撃かけようとしたザニスをその、幻惑魔法だっけ?でザニス達に人馬型のモンスターを襲わせる幻覚を見せたと。」

 

「はい。」

 

腕を組むヘスティアの前で正座するクミ、まあ話だけ聞けば悪いのは確実にザニスの方であって、怒られるのはクミではない、しかし見せた幻覚があまり良くなかったのである。

 

「まさか支離滅裂な幻覚で惑わしたらそれが原因でガネーシャ・ファミリアが真に受けるとは思わなかったんですよぉ・・・。」

 

「それにしたって街中でモンスターの幻覚を見せる必要はなかっただろうに、なんていうか君、実力は凄いんだけどどこか抜けてるよね。」

 

頭を抱えるヘスティアだが、更に悩みのタネが増えたとも言える。

 

(あーギルドに幻覚を見せる魔法を持ったうちの眷属がやりましたっていうのは簡単だけど、それにはクミくんの実力を根掘り葉掘りギルドに明かさなきゃならないわけで・・・。)

 

どう考えてもリスクが大きい、ノースティリスの冒険者の常識はずれの実力は他の神々にも有名だ。

 

結果ヘスティアの決めた結論は、事態が沈静化するまでスルー、つまり有耶無耶にしてしまえであった。

 

そもそも世間の認識はヘスティア・ファミリアがリリを正当に改宗させたのみで追い詰められたザニスが謎の事態で自首した認識なためこれ以上事態をややこしくする必要もないだろうとはアルフィアの意見である。

 

だが当事者のクミやヘスティア・ファミリアをして、本当に予想外なことが一つ起きているとすれば・・・。

 

ヘスティアが預かり知らぬどこかのファミリアと神たちが謎のモンスターが例の案件と同じ存在なのかと混乱する事態を招いた程度なのである。

 

なのでこの話はここでおしまいとヘスティアは話を打ち切り、ヘスティア・ファミリアは食事を済ませ就寝した。

 

 

 

しかし一つ、クミにとってさらに悩みのタネが増えたのが・・・。

 

『あ、そういえばクミ、前にも言ったけど僕のエヘカトルが君が兄と慕ってる子に注目してるから注意はしたほうがいいと思う、因みに僕は止める気はないよ。』

 

『クミロミ様ぁぁぁぁぁ!?』

 

などと夢でうなされるクミが居たのは完全な余談である。




4周年ガチャ?100連回して雑に3000前の英雄が完凸したけどどこぞの聖火神が出なかったので若干の金が消えますた


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