コミュ障を治す為にも極振りで頑張ります! (ほたる(蛍))
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器用特化とゲームスタート

防振り内の最推しは朧です!
ということで、こんにちはのど飴の日です。

投稿していた作品が完結したのでこちらを始めさせていただこうかと思います。



折笠 藍(おりかさあい)は『NewWorld Online』と書かれた、ゲームパッケージを握りしめながら不安にかられていた。

昔から口下手かつ口数の少ない藍は幼馴染みである白峯理沙と本条楓 が居なければまともに会話どころかまともな生活をすることが出来ず、いつも二人の手を借りて生きてきた。

そんなコミュ障の藍に理沙はこのゲームを一緒にやろうと勧めてきたのだ。

 

(理沙があんなに誘ってくれたし、興味もあるけど……)

 

滅多に人と一緒にゲームをしない藍にわざわざ勧めてきたゲーム。VRゲームの楽しさを知る藍がほんの少しワクワクしているのも確かだ。

それに藍もコミュ障のままは駄目だとわかっているので、どうにか克服したいと思っている。

 

(いつまでも二人に頼りっきりは駄目だよね!)

 

何より理沙と楓とゲームを楽しむチャンスである。長く悩んだ末に藍はゲームハードを起動した。

 

 

 

電脳空間で藍は悩んでいた。

名前をランと打ち込んで、藍は武器を考える。これから三人でパーティを組んでいく事を考えると、パーティはバランスよく構成するのが定石だろう。理沙は恐らく前衛で対処範囲が広いものを選ぶだろうというのは予測出来たが、藍にとって一番予測出来ないのは楓であった。

何せ藍は楓とはこういったゲームを一緒にやったことがない。そもそも楓がゲームをするときは大概理沙がグイグイ引き込んだ結果である。しかし楓は決してゲームが苦手と言うわけではないし、きっと予想の上を行くに違いない。つまり楓の装備は気にするだけ無駄である。

 

(どれを使うか迷っちゃうなぁ……)

 

一つ一つ武器を見ていくと、ふと視線が弓で止まる。

基本的に前衛も後衛も務められるセンスがある藍だが、本人は基本的に後衛職が好きだ。それというのも、後衛ならばあまり他人と接近せずに済むからである。

しかしそれでは『人見知りを克服する』というサブクエストが達成出来ない。いや出来ない訳ではないが藍には難しいだろう。

 

(……やっぱり弓がいいかな)

 

そして藍は迷いに迷い、結果弓を選んだ。やはり後衛寄りになってしまったが、意識して話しかければいいと割り切り、藍はうんうんと頷いて満足そうだ。

そして次にするべきはステータスの構成だ。

こういったファンタジー物のゲームではステータス構成は非常に大切なものである。ステータス構成を満足に出来ずに泣いた者が一体どれ程いるか、数えるとキリがないだろう。

そしてMMORPGなどでは弓や銃といった飛び道具を使用する場合、ステータスは基本的に筋力ではなく敏捷や器用さに左右される。大抵レンジ内に潜り込まれると不利になる弓は敏捷や器用さは重要と言ってもいい。

 

(普通なら満遍なく振るところだけど……)

 

しかしここで藍のなけなしのゲーマーとしての好奇心がうずいてしまう。そしてその衝動はすぐにステータスに打ち込まれ、藍は迷いなく決定を押した。

後は軽い調整くらいだ。残念ながら身長は調整出来ないみたいだが、そこは一応VRゲーム体験者。薄々そうだろうなぁと気付いていた藍は髪の色や瞳の色を変えたりして一通り設定し終えると、藍の体が光に包まれていく。

 

 

 

「……ふぁぁ」

(おぉー……凄いリアルだなぁ)

 

ランが目を開けると、目の前に広がっていたのは活気が溢れる城下町の広場だった。

 

昨日ログインを済ませ、今日も先にログインしている楓からは噴水広場近くのお店で「イズ工房」にいると聞いている。

 

(……工房ってどこ?)

 

ログインして周りを見渡してもそれらしきお店は見当たらない。

誰かに聞くのが1番なのだが、いかせんこれからコミュ障を直そうとしているランに知らない人に話しかけるのはハードルが高い。

どうしようか悩んだ結果、なるべく優しそうな人に聞くことにした。

 

(うん、優しそうな女の人なら頑張れる!……たぶん)

 

そして、目の前を通り掛かった女性に声をかける。

 

「あ、あの!」

 

こちらに顔を向けた黒髪にピンクの浴衣を来た女性はとても親切で、ランのたどたどしい言葉を最後まで聞き取って、イズ工房まで案内してくれた。

 

「あ…お礼……」

 

「礼は必要ない。人として当然のことをしただけだ。だが、ここであったのも何かの縁。フレンド登録してくれると嬉しい。」

 

ランはやり方を教えてもらいながらフレンド登録をした。名前は…カスミ。

いつかもっと話せるようになるといいなとランが始めて思った相手となった。

 

「では、またな。」

 

そういうカスミを見送ってイズ工房に足を踏み入れる。

 




ランちゃん〝まだ〟普通ですね。
極振りが普通かは置いといて、しようと思ったら誰でもできることしかしてないので、今後はどうなるのやら。


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器用特化とモンスター狩り

こんばんはのど飴の日です。
これからは毎日23時に投稿していきます。
忘れたらごめんなさい。


(うぅ〜。楓〜!どこにいるの〜)

 

イズ工房に入ると、生産職のイズさんと大盾使いのクロムさんしかおらず、聞いたところでは楓ーーこの世界でのメイプルはダンジョンという言葉の響に耐えきれずに1人で森の中に向かったそう。

 

二人とはフレンド登録をしてランも森の中に入った。

だが、いかせん〝AGIが0“なので全然進まない。

 

そのまま、若干迷いつつ森を進んでいると、りんごにウサギを足して2で割ったようなモンスター3匹が戯れているのを見つけた。

 

申し訳ないとは思いながら、倒さないと先に進めないので弓を構えると後方からプレイヤーの話し声が聞こえてきた。

 

(わわっ…隠れなきゃ。)

 

条件反射で木の上に隠れてやり過ごす。

彼らはりんごうさぎに気づかずに素通りする。

 

ランはプレイヤーに気づかれないよう音を立てずに矢をたがえる。

 

りんごうさぎが移動していたこともあって目視だとアバウトな位置しかわからなかったが、DEX頼りで矢を放つ。

 

速射の要領で三本放った矢は全てりんごうさぎの額に吸い込まれていく。

 

その要領で他のりんごうさぎも倒した。

 

矢が切れることはなさそうで安心した。

 

『レベルが3に上がりました。』

『スキルを取得しました。』

『スキルを取得しました。』

『スキルを取得しました。』

 

(…〝STR0“なのに思いのほか早く倒せた?)

 

調べてみると額は全てのモンスター共通でクリーンヒットらしく、通常の2倍のダメージが入るそうだ。

 

ランは半ば納得したあと、新しく手に入ったスキルを確認した。

 

【大物喰らい】

【STR】【VIT】【AGI】【DEX】【INT】のうち、4つ以上のステータスが相手よりも低い値のとき、HPとMP以外のステータスが2倍になる。

取得条件:【STR】【VIT】【AGI】【DEX】【INT】のうち、4つ以上のステータスが相手モンスターの半分以下の値の状態で、かつ単独で対象のモンスターを討伐すること。

 

【隠密Ⅰ】

敵に見つかりづらくなる。

取得条件:Lv3までの経験値を敵に見つからずに稼ぐ

 

【遠視Ⅰ】

自分のDEXとAGIの和×10cmを目視で視認できる。

取得条件:自分のDEXとAGI以外のステータスの和×10cm以上の距離からモンスターを倒す。

 

隠密に関していえば隠れたのが功を奏しただけだ。

だが、遠視はいつでも取得できるとしかいいようがない。

だってランは…DEX極振りだから。

 

 

 

DEXが高いと狙ったところに打てるらしく、額を狙って打つとこの当たりのモンスターは一撃で倒せるので楽しくなって目に見えたモンスターをどんどん倒していたら、夕方になっていた。

 

(ステータスの確認して今日は終わりかな…)

 

ステータス

 

ラン

Lv7

 

HP 40/40

MP 12/12

 

STATES POINT +30

【STR 0<+5>】

【VIT 0】

【AGI 0<+5>】

【DEX 100<+23>】

【INT 0】

 

 

装備

頭【空欄】

体【空欄】

右手【空欄】

左手【初心者の弓】

足【空欄】

靴【空欄】

 

 

装飾品【木の矢筒】

   【空欄】

   【空欄】

 

スキル

【弓の心得IV】【大物喰らい】【隠密Ⅲ】【遠視Ⅲ】

 

 

 

 

ちなみに、その日の夜。

ランは噂になっていた掲示板を覗いた。

その名前は「名無しの弓使い2」で登録した。

 

241名前:名無しの大盾使い

大盾の少女に遭遇したというかフレンド登録したw

 

 

242名前:名無しの槍使い

は?

 

 

243名前:名無しの弓使い

どうやって?

 

 

244名前:名無しの大盾使い

ログインしてきた時にめっちゃキョロキョロしてて一瞬目が合ったと思ったら走ってきて話しかけられたw

 

 

245名前:名無しの大剣使い

大盾少女コミュ力たけーなおい

 

 

246名前:名無しの魔法使い

>244

んでその後は?

 

 

247名前:名無しの大盾使い

格好良い大盾って言われて

俺が生産職の人紹介するからついてこいっていったら後ろついてきた

AGI低すぎて俺についてくるのもしんどそうだったな途中何度か止まってあげたし

 

 

248名前:名無しの槍使い

>247

お前のAGIいくつよ

 

 

249名前:名無しの大盾使い

まあ待て今まとめる

いくぞ

 

名前はメイプル

パーティーは組んでいないけど、同じ歳ぐらいの女の子が探してたから、パーティになるかもしれない。

大盾を選んだ理由は攻撃を受けて痛いのは嫌だから防御力を上げたかったとのこと

超素直で活発系少女

 

総評

めっちゃ良い子

 

あー見守ってあげてー

後お前らとはメイプルちゃんに関する情報を交換していきたいと思ってるから俺の情報晒すわ

取り敢えず俺はクロムって名前でやってる

んでAGIは20な

お前らとはフレンド登録しときてーから明日これる奴は22時頃に広場の噴水前に来てくれると嬉しい。

 

 

250名前:名無しの槍使い

情報サンクスっていうかお前クロムかよ!

バリッバリのトッププレイヤーじゃねーか!

 

 

251名前:名無しの弓使い2

クロムさんでしたか。

メイプルとパーティ組みますので、

情報晒しすぎないでください。

 

 

252名前:名無しの魔法使い

有名人過ぎてビビったわw

>251

噂の女の子か!?

 

253名前:名無しの弓使い

よっしゃその時間行けるわw

つーかAGI20に置いていかれるとかメイプルちゃん本当にVIT極振りかもしれん

>251

あってるか?

 

 

254名前:名無しの大剣使い

じゃあこれからもメイプルちゃんを暖かく見守っていく方向でいいかなー?

>253

答えてくれるわけねーだろ。

 

 

255名前:名無しの槍使い

いいともー!

 

 

256名前:名無しの弓使い

いいともー!

>254

そりゃそうかw

 

 

257名前:名無しの魔法使い

いいともー!

 

 

258名前:名無しの大盾使い

いいともー!

 

 

259名前:名無しの弓使い2

最初からそのつもりです。

 




分かっっていた方が過半数だとは思いますが、DEX極振りのランちゃんです。
急所が正義ー急所が最強ーです!


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器用特化とスキル取得

藍の口調が定まらない。
違和感があるかもしれませんが、スルーしていただけると幸いです。


次の日、学校で楓に文句を言った。

 

「勝手に行った…待ってて。」

 

理沙に報告しがてらだったので、楓は理沙に弁解していたが、最終的には私に謝ってくれていつも通りの会話になった。

 

理沙に羨ましがられながら放課後を迎え、今日こそメイプルに会う為にログインした。

 

 

 

「ラン〜!やっと会えた!」

向こうから漆黒の装備に身を包んだメイプルが駆け寄ってくる。

 

(なんか…聞いていたのよりもかっこいい)

 

「…宿、行こ。情報交換。」

まず、宿に入ってお互いのステータスを見せ合う。

知っていたとはいえ、メイプルのVIT値は異常だ。

自分を棚に上げておいて、そんなことを考えていると、メイプルが疑問を持った。

 

「ポイント割り振らないの?」

「まだ。…後から変える、かも。」

 

まだ、自分だけの装備があるわけでもないので、今後どうしようか決めてない。

DEXに全部振る気がするのは気のせい…だと信じたい。

 

その後、2人で森に行って狩りをして2時間ほど経った頃、これまで見なかったモンスターを見つけた。

 

(電気トカゲ?…ヤモリみたいだけど、モンスターならトカゲだよね?リザードマン…はないか。)

 

木の上に隠れるように存在するモンスターに狙いをつけ、いつもの要領でそいつを倒す。

『電気錠を手に入れました。』

『レベルが15に上がりました。』

『スキルを取得しました。』

『スキルを取得しました。』

『【隠密X】が【凪】に進化しました。』

『【遠視X】が【千里眼】に進化しました。』

 

(…なんかいっぱい来た。)

 

とりあえず、ポイントを振ることは無いのでレベルアップ報告は無視する。

 

新しいスキルの確認からする。

 

 

【百発百中】

射程による威力低下をなくす。

取得条件:Lv15まで弓矢の攻撃を1度も外さないこと。

 

1度も外してないことを意識していなかったが、思いのほかこのスキルは嬉しかった。

 

【精密機械】

弱点攻撃時、このスキル所有者のSTRを(STR+DEX)×2とする。

弱点以外を攻撃時、(いちばん高いステータス−その他のステータスの和) ÷2をSTRとする。

取得条件:Lv15までの弓矢での攻撃を全て相手の弱点に当てる。

 

元々、弱点攻撃をしないと初級モンスターも倒せないから、このふたつのスキルを同時に手に入れた私にとってメリットはあれど、デメリットはない。

 

射程による威力低下をなくすのも、隠れて長距離狙撃をするには都合がいい。

何百メートル先からでも同じ威力で攻撃できるのだから。

 

次は【凪】と【千里眼】の確認。

 

【凪】

自分が発する音や気配を完全に遮断する。

(パーティー及びギルドメンバーには無効。)

また、1日1度30秒間姿を消すことが出来る。

取得条件:【隠密X】を持つ状態でモンスターを一定数倒す。

 

【千里眼】

自分のDEXとAGIの和×10mを目視で視認できる。

取得条件:【遠視X】を持つ状態でモンスターを一定数倒す。

 

スキルがどんどん長距離スナイパー寄りになっている気がするが、それは置いといて嬉しいスキルが手に入った。

 

最後に電気錠の確認。

 

【電気錠】

『エレクトリック リザードの根城』への挑戦権。

 

ダンジョンに挑戦しますか?

▷YES NO

 

※【電気錠】を持つ者がクリアしない限り上記のダンジョンは解放されません

 

(これは…行ったほうがいいよね。

明日には第一回イベントがあるから、レベル上げしなきゃいけないし。)

 

メイプルにはマップにないダンジョンを見つけて攻略してくる。とメッセージを送って、これまでのレベルアップで手に入れたポイントをDEXに全部振ってYESを選択する。

 

光に包まれて、目をつぶり、浮遊感が納まったところで目を開けるとそこは電気を帯びた青く光る石の鉱山だった。

 




スキルがスナイパー…


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器用特化と初ダンジョン

神秘的な光景に見とれていると、奥の方で何かが動いた。

 

千里眼を使ってみてみると、電気を帯びた蜘蛛が見えた。その上には300mと書かれていた。

 

(距離かな?300なら【百発百中】もあるから当てられる。)

 

一応、近くの岩に隠れて弓を構える。

そのまま矢で射ると、蜘蛛はドットになって消えた。

 

(…DEXのおかげもあってこの距離でも弱点ヒット。極振りって凄い。)

 

少し楽しくなって、前に進まずにその岩から見える範囲のモンスターを倒していくと、聞き慣れた音が響く。

 

『スキルを取得しました。』

 

【暗殺者】

相手が自分の存在を認識していないときに攻撃すると、10%の確率で攻撃に即死効果を与える。

取得条件:自分を認識していないモンスターを500匹倒す。

 

もう500匹も倒したことに若干驚きつつも、そろそろ先に進もうと考え、足を踏み出す。

 

一本道の鉱山は奥に進むにつれて、周りの石が少なくなってきて暗い為、見えづらい。

【千里眼】は遠くが見えるだけで視力補正がある訳では無いらしい。

 

600m先にボス部屋の扉が見えたところで、モンスターが蜘蛛からモグラやコウモリに変わった。

 

モグラは嗅覚、コウモリは超音波でこちらを認識しているので、暗殺者の補正がかからないが、弱点を射抜いていれば関係ないのでどんどん先に進む。

 

困るどころか、さっきより若干数がへっているので捌くのが楽になっている気がする。

 

まあ、コウモリは飛んでいる分面倒くさいので本当はあまり変わっていないのだが。

 

被ダメ0でボス部屋の扉を開く。

 

そこに居たのは電気を帯びたエリマキトカゲのようなモンスター。

聞いていたボスに比べて少しこぶりなのは多分スピードの問題だろう。

つまり、あいつは速い。

 

その予測通り、素早く近づいてくるトカゲの頭ににとりあえず一発打つ。

 

弱点に当たったにもかかわらず、HPはほとんど減ってない。

 

しかも、動きの早さゆえ速射では間に合わなそうで、1発ずつしか攻撃出来ない。

 

(…AGIとVIT振りのモンスター。エリマキトカゲが元になってるから多分範囲攻撃がある。)

 

いくらAGIとVITに振っているモンスターとはいえ、こっちはVITにもHPにも振っていない。

そのため、全ての攻撃が即死級。

 

範囲攻撃なんてされた暁にはAGIがないランは何も出来ないだろう。

 

つまり、どれだけ早く相手を倒せるかが大切だということ。

そのために必要な攻撃力がないから困っているのだが。

 

(トカゲは目で明暗を感知して、耳で音を拾って生活している…ってことは【凪】を使えば一度は完全な死角に入れるかもしれない。)

 

ランは興味のあることをとことん調べる癖があり、一度動物に興味を持った時にある程度の動物の特徴を調べて、覚えた。

それがここで役にたった。

 

攻撃を避けて何発も当てるよりも、望みがある作戦を実行した。

 

「【凪】」

 

そう言って、姿までもを消したランは小ぶりとはいえ、人からするとだいぶ大きいトカゲの下に入り込み、下顎から脳天に向けて矢を放つ。

 

ランを見失ったトカゲはその場で周りを警戒しているが、そんなことはお構い無しと放たれた矢は奇跡的に1割を引き当てた。

 

残っていたHPがどんどん減っていき、トカゲはドットになって消えた。

 

(…正攻法じゃないクリアしちゃった。楓のこと変って言えないな。)

 

VIT振りのモンスターを2発で倒す初期装備プレイヤー。確かに、異常だろう。メイプルと違って自覚している分まだマシだが。

 

『レベルが16に上がりました。』

『レベルが17に上がりました。』

『レベルが18に上がりました。』

『レベルが19に上がりました。』

『レベルが20に上がりました。』

『エレクトリック リザードの根城が解放されました。』

『スキルを取得しました。』

 

そんな声を聞いて、我に返ったランは当たりを見渡す。

すると、先ほどはなかった宝箱が出現していた。

 

(なに…これ?)

訝しみながらも宝箱を開けると、中からここの鉱石と同じ色の装備一式が入っていた。

武器は弓矢かと思ったが、どう見ても違うし、矢筒もない。服や靴なども入っていることからセットのシリーズだということはわかった。

 

ただ、どれも見たことも聞いたこともないものばかりで、説明欄を確かめた。

 

 

【ユニークシリーズ】

単独でかつボスを初回戦闘で撃破しダンジョンを攻略した者に贈られる、攻略者だけの為の唯一無二の装備。

一ダンジョンに一つきり。

取得した者はこの装備を譲渡出来ない。

 

『電竜子の帽子』

【DEX+20】

【MP+10】

【破壊不可】

 

『電竜子のコート』

【STR+20】

【VIT+40】

【破壊不可】

 

『電竜子のレールガン』

【STR+40】

【DEX+35】

【破壊不可】

 

『電竜子のブーツ』

【AGI+40】

【MP+10】

【電光石火】

【破壊不可】

 

 

(…チート。というか、弓じゃなくてレールガン?なんでこうなった。)

 

レールガンの説明を読むと、射程距離無制限で、弾は自動補充カートリッジのおかげで無制限。

弾丸の速度は約時速170km。連射速度も1秒1発ぐらい。軌道は完全直線らしく、打った場所がバレるデメリットがあるが、いちいち曲射軌道を計算しなくていいメリットの方が大きい。

 

【電光石火】

AGIを1000にする。使用可能回数は1日10回で、効果時間は5秒。

スキル使用中に攻撃が当たるとスキル使用前に戻る。

 

とりあえず、全てを装備して、ステータスポイントもDEXに振る。

 

次に、スキルの確認。

 

【雷帝】

以下のスキルを使用できる。

 

【電賢】

1日50回まで、攻撃に麻痺を

付与できる。

麻痺は一律で10秒間。

【麻痺耐性】では防げない。

【麻痺無効】で無効化される。

ただし、【電賢】が付与された攻撃に

攻撃能力は無い。

 

【磁追】

罠を設置できる。

罠を踏んだプレイヤーが30分間マップに

表示される。

 

【黒稲妻】

1日3回、超広範囲攻撃ができる。

 

【電縛】

5分間対象1人(1匹)を触れると麻痺する檻に

閉じこめる。

檻のVITは使用者のいちばん高いステータス

になる。

   ただし、外からの攻撃は透過する。

2人(2匹)目を閉じ込めると1人(1匹)目は

開放される。

 

このスキルはレールガンに付与した。

 

その後、噴水広場のスキルショップでいくつかのスキルを買った。

 

【跳躍】…一定の高さまで飛び上がることが出来る。

高さはスキルレベルによる。

 

【パワースナイプ】…1発だけSTRを2倍にする。

 

【消音】…矢の飛来音をなくす。

 

これで、明日のイベントに挑む。

さて、どんな成績になるのやら。

 




ご都合主義が過ぎる他いう文句は受け付けませんよ!
いいんです。
ランちゃんは可愛いので。


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器用特化と第一回イベント

学校が終わり、イベントが楽しみで家に走って帰った。

 

若干疲れながらログインして、すぐにメイプルと合流して、開始を待つ。

 

周りを見渡すと、クロムさんやカスミさんもいた。できれば戦いたくないと思いながら、ドラぞうの言葉を聞く。

 

そして、最後に自身の現在のステータスを確認する。

 

ステータス

 

ラン

Lv20

 

HP 40/40

MP 12/12<+20>

 

STATES POINT +0

          

【STR 0<+60>】

【VIT 0】

【AGI 0<+40>】

【DEX 195<+55>】

【INT 0】

 

 

装備

頭【電竜子の帽子】

体【電竜子のコート】

右手【電竜子のレールガン】

左手【空欄】

足【電竜子のブーツ】

靴【電竜子のブーツ】

 

 

装飾品【空欄】

   【空欄】

   【空欄】

 

スキル

【弓の心得Ⅶ】【大物喰らい】【凪】【千里眼】【百発百中】

【精密機械】【暗殺者】【電光石火】【雷帝】【跳躍Ⅰ】【パワースナイプ】【消音】

 

 

そして、イベントが始まった。

 

 

(ここは…。)

 

光が収まると、立っていたのは荒野と森の間ぐらいだった。

このまま森の中を潜みながらプレイヤーを狩るのもいいが、さすがに木の枝が邪魔だ。

しかも、この森の木は低い。

 

とりあえず、プレイヤーが集まりそうな荒野と廃墟を狙える位置を見つけようと思い、近くの木に登って木の上を進んでいく。

 

もちろん、なるべく揺れを少なくして気づかれにくくすることも、道中で見かけたプレイヤーをヘッドショットすることも忘れずに。

 

そして見つけたのが、もみの木の小さな郡林。

廃墟まで1200m、荒野まで700mと言ったところだ。

その中で、1番高いもみの木に【跳躍Ⅰ】も駆使して登っていく。

そして、ちょうどいい太さの枝に着いたところで、レールガンを構える。

 

1キロ離れていたら狙撃できないどころか、普通は見えもしないが、ランの【千里眼】は2km以上先まで見えるし、得物はレールガンだ。

簡単に狙撃ができる。

その上、DEX極振りだから弱点を撃ち抜いてくる。

完全に固定砲台。

 

ちなみに、【大物喰らい】は自分からも相手からも認識されていないと発動されないようで、DEXが2倍になることは今のところ少ない。

 

荒野でも廃墟でも断続的に戦闘が起きており、特に荒野は小規模な戦闘が多いので、漁夫の利作戦でどんどん撃ち抜いていく。

 

漁夫の利作戦のいいところは戦闘の終盤で3.4人ぐらいになった所を仕留めるので、位置バレしても近づいて来る人がいない事だ。

 

ちなみに、廃墟にはメイプルがいたので、面倒くさそうな魔法使いやメイプルの打ち漏らしはしっかり排除している。

 

メイプル1人倒すのに手間取っている上で異常な距離から時速170kmの弾丸で頭を撃ち抜かれ、しかも、その威力は600越え。廃墟は誰1人逃げられない地獄と化していた。

 

 

 

 

 

荒野での戦闘が少なくなってきて、ランが作戦を変更しようとした時、どこからともなくドラぞうが現れた。

 

ドラぞうの話によると、今から1位~3位はマップに場所が表示される。

そして、倒すと撃破数の3割が貰えるらしい。

しかも、その3位がメイプルだという。

ちなみにランは8位。

 

プレイヤーが減ってきて、他の人が伸び悩む中で広範囲をカバーしながら同じペースで撃破数を伸ばしていたからだろう。

 

マップを確認すると近く(800m)の荒野でペインさんが戦っていた。

 

ドレットさんは少し遠く(2km500m)にいるので、気にしなかったがペインさんを倒すなら、残り3分ぐらいじゃないと、自分に向かってくるプレイヤーに対処出来ないと思い、これまでの同じことを始めた。

 

 

 

 

 

気づくと残り時間は5分を切っており、上位3人の位置は変わっていなかった。

全員その場で足止めを喰らい続けたのだろう。

 

とりあえず、当初の予定通りペインさんを狙うことができるか確認した。

荒野の中でも少しひらけた場所にいるペインさんは簡単に狙えそうだった。

 

だが、何があるか分からないので、最大限にスキルを使って倒すことにする。

 

まずは音や気配、(あるかは分からないが)殺気を隠すため【凪】を使う。

そして、弾に【消音】を付与する。

 

そして準備は整ったとトリガーを引く。

 

普通はレールガン特有のパチッパチッという音がする弾も【消音】のおかげで無音。

そんな、気づかれない弾はランに背を向けていたペインの後頭部を打ち抜いた。

 

ペインがドットとなった瞬間、ランの1位が確定した。

 

 

 

その日の掲示板では…

 

【NWO】メイプルちゃんとそのパーティーメンバーの謎【考察】

 

1名前:名無しの槍使い

スレ立てたぞっと

 

 

2名前:名無しの大剣使い

おう

議題は我らがメイプルちゃんとランちゃんのことだ

 

 

3名前:名無しの弓使い2

じゃあ、私見てるだけにしときます。

 

 

4名前:名無しの魔法使い

正直メイプルちゃんもペインよりやばいと思った

何で三位なん?

>3

噂の女の子がランちゃんだったか…

 

 

5名前:名無しの槍使い

序盤廃墟でお絵描きしてたから

 

 

 

6名前:名無しの弓使い

可愛すぎかよw

その上パーティで1、3位とか…

 

 

7名前:名無しの大盾使い

あれ本当に大盾と弓なのか不安になるわ

あっ因みに俺は九位でした

 

 

8名前:名無しの槍使い

流石

大盾でそこまでいくとは

(メイプルから目を逸らしつつ)

 

 

9名前:名無しの大剣使い

それでは今回のメイプルちゃんまとめだ

第一回イベント

メイプル三位

死亡回数0

被ダメージ0

撃破数2028

 

装備は敵を飲み込む謎の大盾とアホみたいな状態異常魔法を発生させる短刀と黒い鎧。

黒い鎧は異常性能を発揮していないように思われる

異常なまでの防御力で魔法使い四十人からの集中砲火をノーダメで受けきる

 

 

10名前:名無しの魔法使い

もう本当何回見ても頭おかしいとしか…

 

 

11名前:名無しの大盾使い

大盾→まあそういう装備もあるかもな…うん

短刀→まああるかもしれんな

メイプルちゃん本体→は?

本体のステとスキル構成が一番の謎

メイプルちゃんのVITいくつよ…

 

 

12名前:名無しの大剣使い

マジで歩く要塞だったからな

マジで

 

 

13名前:名無しの魔法使い

これ、ランちゃんのもまとめとくか

 

 

14名前:名無しの弓使い

メイプルは単純にVIT値で受けてるっぽいんだよなぁ

っていうかメイプルちゃんの持ってるスキルに心当たりある奴いんの?

魔法攻撃受けてる時とかなんかキラキラ光ってたし何かしらスキル使ってるのは確定?

 

 

15名前:名無しの大盾使い

状態異常→分からん

防御力アップ→そんな硬くなるスキルがあれば取ってる

大盾→知らん

>13

よろしく。

 

 

16名前:名無しの魔法使い

これ

メイプルちゃんの持ちスキルが一個も分からん流石に基本的な奴は持ってるだろうけど

メイプルちゃん固有のやつが本当分からん

>3

出来ればメイプルちゃんのスキルを!

 

 

17名前:名無しの弓使い

タイマン最強じゃない?

 

 

18名前:名無しの魔法使い

マジであり得る

あの広範囲の状態異常攻撃を何とかしないとまあまず勝てん

致死毒とか言ってたし相当高位の魔法

それで疑問なんだがMPどうなってるん?

あんなポンポン魔法使って、しかも多分VIT極振りだろ?

MP足りないだろ普通

 

 

19名前:名無しの大剣使い

あれなー…多分大盾が魔力タンクになってる

喰ったものを魔力にして溜め込む感じ

 

 

20名前:名無しの槍使い

じゃああの赤い結晶がそうか

確かに魔法使う度に割れてたしな

 

 

21名前:名無しの大剣使い

つまりメイプルちゃんは

自分自身はあり得ない程の高防御であらゆるダメージをゼロにし

その装甲を抜こうとした攻撃やプレイヤーをMPに変換し

状態異常で叩きのめす

とこういう訳だな

 

 

22名前:名無しの槍使い

何そのラスボス

 

 

23名前:名無しの弓使い

ええ…鬼畜すぎんよ〜

 

 

24名前:名無しの大盾使い

しかもまだ隠し持ってるスキルがあるかもしれないという

今回はダメージ与えた奴がいないから分からんがHP回復するかもしれんぞ

 

 

25名前:名無しの魔法使い

ラスボスのHP回復は禁止って昔から言ってるだろォ!?

 

 

26名前:名無しの大剣使い

自分でも文字に起こすと変な笑いでたわ

しかもまだ始めたところ

大型新人過ぎる

 

 

27名前:名無しの魔法使い

次のイベントでは鎧も異常仕様に!

はいこれ

 

 

28名前:名無しの弓使い

実際既にトッププレイヤーなんだよなぁ…

あれヤベェわ

可愛くて強いとか最高かよ

 

 

29名前:名無しの槍使い

見守ってやろうぜ

ステが第一線級でも中身は初心者だ

 

 

30名前:名無しの大剣使い

そうだな

これからも各自調査を頼むぞ

 

 

31名前:名無しの弓使い

ラジャ!

 

 

32名前:名無しの魔法使い

ラジャ!

 

 

33名前:名無しの槍使い

ラジャ!

 

 

34名前:名無しの大盾使い

ラジャ!

 

 

35名前:名無しの魔法使い

じゃあ、ランちゃんのまとめな。

 

第一回イベント

ラン一位

死亡回数0

被ダメージ0

撃破数1703+ペインの3割

 

装備は直線上を異常なスピードで弾が進むレールガン。

メイプルのような異常性能は装備にはないように思われる。

異常な射程から即死の脳天狙撃を成功させるため、撃たれても補足出来ない。

 

 

36名前:名無しの大剣使い

メイプルちゃんの後だとまともに見えるな。

 

 

37名前:名無しの弓使い

ちょっと待て、ランちゃんは弓使いじゃなかったか?

俺も弓使いだが、レールガンなんて見た事ないぞ。

 

 

38名前:名無しの槍使い

>3

説明求む。

 

 

39名前:名無しの弓使い2

皆さん、イベントの前日に開放された

『エレクトリック リザードの根城』というダンジョンご存じですか?

 

 

40名前:名無しの大盾使い

知ってるぜ。

 

 

41名前:名無しの魔法使い

俺もだ。

 

 

42名前:名無しの弓使い2

あのダンジョンは北の森で1日1匹だけ現れる電気トカゲを倒すと挑戦権が手に入ります。

 

私が1人で挑戦してクリアしたので一般に解放されました。

 

その時の報酬がレールガンです。

 

 

43名前:名無しの槍使い

ということは、前日に手に入れたのか?

 

 

44名前:名無しの大盾使い

前日に会った時初期装備だったよな?

それでボスをソロ攻略したのか?

 

 

45名前:名無しの弓使い2

そうですよ。

方法については黙秘権を行使します。

 

 

46名前:名無しの魔法使い

本人がこれじゃ考察も何もねぇな。

じゃあ、ランちゃんもメイプルちゃん同様各自調査ということで。

 

 

47名前:名無しの弓使い

ラジャ!

 

 

48名前:名無しの大盾使い

ラジャ!

 

 

49名前:名無しの槍使い

ラジャ!

 

 

50名前:名無しの大剣使い

ラジャ!

 




ステータスの説明
〈   〉の中は装備補正です。


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器用特化と地底湖

あけましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いします。



「ええっ!1位と3位!?マジで!?」

「うん。」

「自分でもびっくり!」

「ちょっと待って、今2人はレベルいくつ?」

「20。」

「私もLv20だけど?」

「それで1位と3位?なんで?キャラの方針とかどうなってるの?」

「器用特化の、アーチャー。…弓じゃないけど。」

「私は防御特化の大盾使いだよ。それでね〜理沙なら話してもいいかな〜。」

 

そんな会話をしながら、学校へ向かう。

 

 

 

 

「え〜、何その化け物キャラ達。さすが2人はやることが普通じゃない…」

「そう?」

「まあ、藍は楓に比べたら変じゃないけど…これは2人に追いつくの大変そうだな〜。」

 

自分たちに変だという自覚がないので普通に話したら呆れられた。

 

その後、理沙のゲーム方針を決めて、各自ログインしたら噴水広場で集合になった。

 

「宿屋行く?それともサリーのレベリング?」

 

メイプルの提案通り宿に行き、まずは南の地底湖で素材集めをすることになった。

 

ただ、ここで問題がひとつ。

この場にはAGI以外の極振りが2人。

歩いていくことも考えたが、さすがに時間がかかりすぎる。

 

「じゃあ、私が先行く。」

「えっ?ランの足で先行くってどういう事?」

 

そこで私は【電光石火】の話をした。

AGIが1000あれば全速力で10秒と言ったところだろう。

 

「はぁ、もう驚かないよ。じゃあ、ラン行っててくれる?」

「うん。」

 

そうして、ランだけが先行して釣りをしていたのだか…

 

「何この山?」

「?素材。」

 

サリー達が地底湖につく頃には既に鱗の山ができていた。

 

DEXが装備込みで250あるランからすれば入れて3秒待って竿を上げれば魚がいるレベルなのだ。

 

その上で【釣りⅢ】まで獲得してしまっては、あとはサリーに借りたダガーを当てれば、簡単に山ぐらいできる。

 

「今は、青いの集めてる。」

 

魚の群れの中に100匹に1匹ぐらいの割合で白ではなく、青い鱗を持つ者がいる。

ランはそいつを釣るために簡単に竿は上げずに待っている。

 

「青か…それなら、素潜りの方が効率いいかな。

2人はAGI0だし、釣りで粘ってみて。私は泳ぎも得意だし行ってくる。」

 

「うん、行ってらっしゃい!」

 

それからしばらくして、ランは青の魚を4匹釣った。途中からはレールガンで撃っていた。

メイプルは白い魚を3匹。

サリーは素潜りで青の魚を5匹。

 

そして、最初に釣っていた分を含めて10匹目の青い魚にレールガンで撃ち抜いた時、ランには新しいスキルが手に入った。

 

【貫水】

水中でも影響を受けずに武器を使用できる。

 

この【貫水】と【千里眼】を使って2匹ほど頭を撃った。

 

サリーは上がってきてから、何か言いたそうだったのでランが聞いてみると面白そうな答えが返ってきた。

 

「あのさ、湖の底に横穴があるんだけど…」

 

その言葉を聞いて、ランが【千里眼】で確認してみると、たしかに奥にボス部屋の扉があった。

 

さすがに扉の中はわからないが今のでランのマップにはマッピングができた。

 

「マッピングした。サリー…あげる。」

「あ、ありがと。」

 

完全に呆れられたが、少しは役立てたようだ。

とはいえ、【潜水】をXまで上げないとボス戦は厳しいということで、これから毎日ここで青色の鱗集めをすることになった。

 

それから数日して、ランの【釣り】レベルはマックスまで上がり、サリーが40分の潜水が可能になり、ボスに挑戦した。

結果は成功で、サリーもユニークシリーズの装備を手に入れた。

 

 

 

 

 

その日の夜、NWOのアップデートが行われた。

私たちに関係するのは【悪食】の回数制限と防御貫通。

なんと、レールガンの攻撃は全て防御貫通攻撃になったようだ。

公式から強化してもらえるとは…

 

(私ならメイプルを倒せる…かも。)

 

そんなことを考えながら、その日は夢の中に旅立った。

 



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器用特化と1層めぐり

「今日はどうする?」

 

メイプルとサリーが今日予定を決めてるのを後ろで眺める。

いつも2人に先導を任せて後ろから見守るランはボーッと空を眺めてた。

 

「じゃあ、ラン今日は1層めぐりだよ。」

「分かった。」

 

最初に行ったのはスキルショップ。

メイプルは【カバームーブ】というスキルを買ったようだ。

ランはと言うと、あるスキルをじっとみていた。

 

(これ…いいかも。)

 

【強奪】

目に見える範囲の物を引き寄せる。

モンスター、プレイヤーは引き寄せられない。

 

物騒な名前だが、遠距離から攻撃するランにとって、使い所が幾つかあるスキル。

 

(…これで、闇夜の写しを引き寄せて、それにメイプルが捕まれば移動出来るかな?)

 

買ってもないのに、変な使い方を思いついた。

そのシーンを想像して、面白そうだからという理由で買っていた。

 

その後、カフェを見つけて中に入った。

私たちが入るとそこに居たのはプレイヤーがヒソヒソと話し始めた。

 

「さすが有名人。」

「「どういうこと?」」

「なんでもない!」

 

そしてケーキを頼んで、食べ終わった後に次のイベントについて話した。

 

「次のイベントっていつだろう?」

「みんなで出来る方がいいよね!」

 

すると、向かいの席に座っていた2人が声を上げた。

 

「イベントの告知ならさっき出たぜ。あんた達ランとメイプルだろ?前回1位と3位の。」

「そうですけど…えっと」

 

この顔は見た事ある。

片方はペインさんを打つ直前に狙撃した人だから、特に覚えている。

 

「私が打った人…と2位の人。」

「あの狙撃ってレールガンのだったか。」

「俺の名前はドレッド。こっちはドラグ。」

 

ドラグさんのレールガンというのが引っかかった。

自分の得物を知られているのは何故だろう。

聞いてみると、公開された第1回イベントの動画で狙撃しているところが映っていたからだそうだ。

 

公式は簡単にネタバレをしたようで、ランは少し不満に思ったが、過ぎた事はしょうがないので、諦めた。

 

「メイプルちゃんは、フレデリカと話してたよな?」

「フレデリカさん?」

「モンスターの狩場を聞いていただろ?」

 

フレデリカさんがビックリしていたというのを聞いて、そうだろうなと思った。

 

「来週末に開催だよ。」

 

イベントの日はみんな空いていたので、3人でパーティーを組んで参加することになった。

 

「どこかで出くわしたら、そんときはよろしくな。」

 

出くわすくらい近づかれたら勝ち目がないので、よろしくはこっちのセリフだと思った。

口には出さないが。

 

「ドレッドさんは2位でドラグさんは5位なんでしょ?そちらも凄いですよね。」

 

サリーの言葉が若干皮肉に聞こえなくもないが、しょうがない。

 

「でも、俺たち二人がかりでもそこの子が倒したペインにゃ適わないけど。」

「……ズル、みたいなもの。」

 

ほんとにあれは不意打ちなので、嘘は言ってないが、ただの謙遜にしか聞こえないだろう。

なぜなら、あの狙撃の謎を知っているのは、未だにメイプルとサリーだけなのだから。

 

その後、ドレッドさんのおすすめで、北の森に行くことになった。

そしてここで発生するのが、移動問題。

前回のようにらんが先に行けばいいのだが、ランは夜になると狙撃が出来ないので、攻撃手段がほぼないと言っても過言では無いので、先には行けない。

 

「メイプル…闇夜の写しに座って。」

 

メイプルは不思議そうな顔をしながら、盾を地面に置き、その上に正座をした。

 

「捕まってて…【強奪】」

 

ランの予想通り、盾はらんと手の届く範囲に来て、その上に捕まってるメイプルも一緒に着いてきた。

 

「これで、相対位置がずれなければ行けるわけか。」

 

サリーにまた呆れられながら、ランはサリーに背負われ、北の森に着いた。

北の森はサリーの苦手なお化けが徘徊するエリアで、実態のなさそうな…攻撃の効かなそうな敵が多くいた。

そこで、目の前にいた骸骨の脳天を撃ってみると、しっかりドットとなって消えた。

 

『レベルが25になりました。』

『スキルを取得しました。』

 

【ウィークネス】

1km以上離れている対象の弱点が見える。

取得条件:レベル25まで弓での攻撃を弱点から外さない

 

その後、サリーが順調に【超加速】を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

今日の締めにとサリーに連れられて、終わらない夕焼けのエリアに来た。

 

2人が水遊びしている中で、なんとなく海に釣り糸を垂らしてみると、すぐにキラキラと輝く魚がかかった。

 

釣り上げて倒すと、アイテムがドロップした。

 

『星魚の指輪』

星を操ることができる。

 

(なにこれ?)

 

その時はまだ、何も考えていなかった。

これが後のチートスキルに繋がるとも思わずに。



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器用特化とVS鹿

原作のアニメと漫画と小説でメイプルの初期ステータスが違うので、ランちゃんのステータス(特にHP)がブレブレですが、自己解釈で進めております。


「ここが2層に繋がる入口だよ!」

「良し!早速行こう!」

「うん、行こう。」

 

2層に続くダンジョンに入り、ランのレールガンだったり、メイプルの悪食だったり、サリーの蜃気楼だったりを使ってボス部屋に着く。

 

中に入ると、大きな鹿のモンスターがいた。

 

私は入ってすぐに高い木の上に登った。

 

「【毒竜】」

 

初手のメイプルの攻撃は魔法っぽいシールドで防がれた。

 

それを見て、サリーが観察を始める。

【挑発】でヘイトを集めるメイプルと、【電賢】

でのスタンを試みるラン。

 

「リンゴを落として!」

 

サリーがシールドの攻略法を見つけてくれた。

 

「私がやる…メイプル、サリー、攻撃。」

「了解」

「分かった!」

 

15個程のリンゴがなる木が三本。

1つずつ撃ち抜いている場合じゃない。

 

「【黒稲妻】」

 

レールガンの弾が広範囲の円形状に増え、全てのリンゴを落としていく。

 

「【毒竜】」

「【ウィンドカッター】」

 

2人の攻撃はしっかり鹿にあたり、ダメージ与えた。

 

すると、鹿がいきなり赤く光り出した。

一定以上のダメージを食らうと、こうなるのだろう。

 

メイプルとサリーのいる地面が下から盛り上がって行く。

「「きゃあ!」」

 

サリーは咄嗟に空中で受身をとり、無事に着地するが、メイプルは背中から落ち、ダメージこそないが目を回している。

 

「ラン!メイプルをお願い!」

「了解。」

 

私は【強奪】も使いながら、メイプルを部屋の端に寝かせ、鹿へのスタンを狙う。

 

「【電賢】」

「ナイス、ラン!【ダブルスラッシュ】【ファイヤーボール】」

 

サリーが的確に鹿の目を潰してくれた。

 

「ラスト…【パワースナイプ】」

 

ランのレールガンから放たれる高速の弾は鹿の額に吸い込まれ、鹿をドットに変えた。

 

その音でメイプルは目を覚まし、3人で2層に転移した。

 

「なんか釈然としない。」

 

途中から気絶してしまったメイプルは不満そうな顔をしていたが、2人でなだめた。

 

「メイプルちゃん!ランちゃん!」

 

向こうからやってきたイズさんにサリーを紹介しながらイズさんのお店に行き、メイプルの盾を貰う。

 

「名前はどうするの?」

「しらゆき…白雪にします!」

 

このメイプルにこの盾有りと言わんばかりにVIT値に極振りされた補正には納得した。

 

 

 

 

 

お祝いにとサリーが連れて行ってくれたのは星の海に浮かんでいる様な場所。

 

「座ると何か起こる…らしいよ。」

「でも、席が2つしかない。」

 

ランはそんな会話を聞きながら違和感を覚えていた。

 

(この空何か変。)

 

そう確信したランは席を2人に譲り、空を眺め続けた。

 

(ああ…おとめ座のスピカの位置がズレてるんだ。)

 

ランは一度星についても調べたことがあった。

だからこそ気づけたズレだろう。

 

ランは試しに『星魚の指輪』を装備し、星の位置が動くよう念じる。

すると、スピカが移動しだし正確な位置に戻った。

 

『スキルを取得しました。』

 

そのスキルは、また何ともチートじみたスキルだった。

 

【星の加護】

・いちばん高いステータスを2倍。それ以外を1.5倍にする。

 

・このスキル取得時にステータスポイントが0のステータスに今後、ポイントが振れなくなる。

 

・HPMPポイントを振っていない場合HPMPを150にする。

 

・プレイヤーキルをした際、そのプレイヤーの総MPの1割を奪う。

 

・MPの余剰分は自身の周りを飛び交う星の結晶となり蓄積される。

 



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器用特化とVSピエロ

1週間の間、レベル上げやスキルの取得などでイベントへの最終調整をした。

 

そして当日。第2回イベントの開始が告げられ、ランたちが飛ばされたのは草原。

 

見渡す限りの草原の中、ランとサリーで色々考察しながら歩いていた。

 

しかし気づいた時にはメイプルが消えていた。

だが、声は聞こえる。

 

サリーと共に混乱していたら、地面の下に落ちたらしい。

おっちょこちょいのメイプルらしい。

 

「ダメージは?」

 

一応聞いたこの問いもいつも通りのノーダメ。

 

そのまま、横に続いている穴を進んでいくと、ボス部屋があった。

 

中に入ってもボスは見当たらない。

サリーが部屋の中央に行った時、天井からピエロが降ってきた。

 

「【カバームーブ】」

 

メイプルのとっさの判断でダメージは誰も受けていない。

その隙にランはピエロに標準を合わせて引き金を引く。

 

「【電縛】」

 

ランの【電縛】を打ち破ろうとしているピエロだが、一撃では破れなかったのかスタンがかかった。

 

その隙に3人でいっせいに攻撃する。

 

「【毒竜】」

「【ダブルスラッシュ】」

「【パワースナイプ】」

 

ランの【パワースナイプ】が額を穿ったことで完全にHPが無くなった。

そして、ピエロはドットとなった。

 

すると、奥にあった椅子に宝箱が現れ、その奥に転移の魔法陣が出現した。

 

宝箱の中にはメダルが2枚。

 

「やった!」

「でも、目標の30枚まではまだまだだね。」

(総メダルの10分の1を集め切るの大変そう…)

 

一応、一喜びしてダンジョンを出た。

 

 

 

 

その後、メイプルの案で雪山の山頂に向かった。

その途中で襲ってこようとしていたプレイヤーはランが狙撃で倒した。

そのため、ランの周りには星が4つほど浮いている。

 

そこで気がついたのだが、『星魚の指輪』をつけていると、その星を好きに操れる。

〝星を操る 〟の範囲がアバウトすぎる。

しかもこの星が何気にいい攻撃力を出してくれる。

 

そんなこんなで、次の日に辿り着いた山頂で祠を見つけた。

そこにはダンジョンにつながっているであろう転移の魔法陣。

 

「メイプル〜、ラン〜!ちょっと来っ!」

 

サリーは近づいて来ているクロムさん達に気が付き、臨戦態勢になった。

 

「メイプルとランと…サリーだよな?」

「…はい。」

 

完全に警戒しているサリーと和やかに話す2人というパーティー内で不思議な構図ができたところで、クロムさん達に戦闘の意思がないことを確認した。

 

その言葉を聞いて、やっと警戒を解いたサリーは少し忠告しながら会話を続けた。

 

話し合いの末、祠にはクロムさんたちが入ることになり、メイプル達で今後どうしようか話あっていると、

 

1分もしないうちに再突入ができるようになった。

この場合に考えられるのは、回収系だったか、強敵か。

しかし、回収系の場合は再突入の説明がつかない。

 

不審がりながらも入ってみると、上から氷鳥が舞い降りた。

 



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器用特化とVS氷鳥

現れた途端、氷鳥は光線で攻撃してきた。全員が慌てて避けたので、被ダメはないが、かなりの強敵なのが分かった。

 

「負けられない!」

 

サリーのその言葉をきっかけに氷鳥が氷柱を飛ばしてきた。

 

メイプルは闇夜の写しをサリーに渡して、ランとサリーの前に立つ。

 

「【カバー】」

 

氷柱なので、貫通かと思ったが違うようで、メイプルにダメージは入っていない。

 

しかし、次に飛んできたのは大きな一柱。

これはまずいと判断したメイプルが悪食で守る。

 

その瞬間に多少の硬直があったので、サリーが走り出す。そして、ランは【跳躍】を使って、高いところに突き出している氷に足場を固めた。

 

氷鳥の咆哮が鳴り響くと、サリーの前に氷が迫ってくる。

 

「やばっ!」

「【カバームーブ】」

 

メイプルの機転によりダメージはなかったが、悪食がどんどん少なくなっていく。

 

「ナイスタイミング!」

 

サリーが再度突撃するが、空中で突撃されそうになり、【超加速】で避ける。

そこに【カバームーブ】で移動してきたメイプルが、氷鳥の足を【悪食】で削る。

それと同時にもう一方の足もランが射抜く。

 

「【毒竜】」

 

追撃に空中で体制を崩しながらメイプルが【毒竜】を放つ。

 

しかし、その攻撃は圧倒的な耐久と対応力の前に、ほとんど効いていない。

 

何事も無かったかのように氷鳥はサリーに向けて大規模な貫通攻撃を仕掛けた。

メイプルが何とか【カバームーブ】で間に合い、2回分の【悪食】を使いながら、何とか持ちこたえた。

 

 

 

メイプルとサリーが二手に別れる。

 

サリーは攻撃を躱して【スラッシュ】を当てる。

 

ランは正確に氷鳥の右目を貫いた。

だが、大きなダメージはないっておらず、氷鳥はそのままメイプルに向かっていく。

 

メイプルは氷柱に耐えながら、タイミングを見計らって【悪食】で足を削る。

 

その隙にサリーが氷鳥に【大海】を使い、発生した渦潮にメイプルが【毒竜】で毒を付与する。

 

そして、回数制限のない移動手段である【跳躍】で上を取ったランが【パワースナイプ】で脳天を貫き追撃する。

 

それでも、倒せない氷鳥は真上にいるランに向けて、光線を放つ。

空中で攻撃直後のランに躱すすべはない。

 

「【カバームーブ】」

 

メイプルのおかげで被弾はしなかったが、落下中でどんどん氷鳥に近づいてるので、威力が上がってきている。

 

「っ!【電光石火】」

 

瞬間的にAGIを上げたランがメイプルをつかんでサリーの元へ行く。

この時点で悪食はあと1回。

 

氷鳥は身体中に黒いモヤを纏い突撃してきた。

 

「威力…弱めるね。【跳躍】【電縛】」

 

氷鳥がメイプルに当たる直前にランが【跳躍】を使い、氷鳥の上から1発放つ。

 

見事当たった【電縛】だが、大した障害にならずほんの僅かのスピード減少させるにとどまった。

 

メイプルはその攻撃を【悪食】でまともに受け、盾と鎧を半壊にしながら吹っ飛んだ。

 

【破壊成長】のユニークシリーズなので装備に問題は無いが、メイプルに氷鳥からの追撃が来る。

 

「メイプル!こっち!」

「【カバームーブ】」

 

咄嗟にサリーのところに移動して、どうにか躱すことが出来たが、今度はサリーに追撃が来る。

 

「【カバー】!」

 

メイプルが再度吹っ飛ばされ、死にそうにながら作った隙。

 

それを逃す、サリーとランではなかった。

 

サリーは【蜃気楼】によって攻撃を無駄打ちさせる。

そして、本人は横に回り込んで攻撃を放つ。

 

「【ウィンドカッター】…もう1発!」

 

ランはと言うと、先程の攻防の間に氷鳥の後ろにある出っ張った氷の上で構えており、タイミングを見計らってトリガーを引く。

 

「【黒稲妻】」

 

高い威力を誇る貫通攻撃の、【黒稲妻】で背面を全て攻撃することで氷鳥に風穴を開けた。

 

そして、ドットになる氷鳥を見て、3人は安堵するのだった。

 

 

 

 

戦いの後、ランが構えていた氷の上に5枚のメダルと、3つの卵が現れた。

 

ランがそれを2人に伝え、登ってきてもらう。

 

「どれにする?」

「うーん、じゃあ私は緑が好きだからこれ。」

「私…黒がいい。」

 

そうして決まった卵を1度しまって、転移の魔法陣に乗った。

 



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器用特化と鬼ごっこ

氷鳥との戦いからイベント内時間で1日経った頃。

 

メイプルが崖から落ちてメダルを獲得するという不思議な出来事はあったものの順調に探索が進んで行った。

 

そして、3人の卵が孵化した。

メイプルは亀。サリーは狐。ランはコウモリ。

 

卵の殻は絆の架け橋という指輪になり、動物達との共闘を可能にしてくれる。

 

名前をつけることも出来、メイプルは2人合わせてメイプルシロップと言って喜んでいる。

 

「ランは名前、悩んでるの?」

「この子…スキルが【吸血】。だからナミチスイコウモリ…夜行性だと思うんだけど。」

 

最初の提案で、ミィを出したら、ミィは炎帝の名前だからと言って却下された。

 

最終的に決まった名前は極夜。

漆黒の体を持つ夜行性のコウモリを象徴しているなまえだろう。

 

 

 

 

その後は周辺で3匹のレベル上げをした。

 

「あっ!この子達新しいスキルを覚えてる!」

「【休眠】と【覚醒】だって。」

「どこでも連れて歩ける。」

 

 

 

 

次の日は砂漠を探索した。

途中でオアシスを見つけて、そこに立ち寄ると木の後ろに人影があった。

 

「誰!」

 

サリーが叫ぶのと同時に顔を見せた人にランは心当たりがあった。

 

「カスミさん…お久しぶりです。」

「敬語もさん付けも要らないと言っただろう、ラン。」

「あっ…すいません。」

 

そんな会話を笑顔でしているので、お互いに敵意はないだろう。

そう思ったのだが、カスミは違ったらしい。

 

「それで、そっちは前回3位のメイプルだろ?ということは持っているな…金のメダル。」

 

そう言って、刀に手をかけたカスミだが、チラリとランの方を見て、諦めた。

 

「分が悪いな。【超加速】」

 

そう言って逃げるカスミ。

 

「追うね!【超加速】」

 

そう言って追うサリー。

 

2人の行動の速さにあっけに取られたランとメイプルだったが、すぐに話し合って、ランがその場から援護。メイプルはどうにかして追いかけることになった。

 

そして、メイプルは何をしたのか二人の間に真上から落ち、砂地獄にハマって行った。

 

残されたランは急いで【千里眼】を使うが、その下の様子は見れなかった。

 

幸いサリーからこっちは大丈夫だから、後で合流しようというメッセージを貰っているので、心配することは無いだろう。

 

 

 

 

 

 

ランは次の目的地を考え始めた。マップで確認すると近くに神殿があったのでそこに行くことにする。

 

行ってみると、その神殿には人間の子供ぐらいの大きさの鬼の像が3つと転移の魔法陣。

 

死なない程度に頑張ろうと考えて、ランは足を踏み出した。

 

中に入ると、目の前には砂時計と一枚の紙。

その紙にはこう書かれていた。

 

〜鬼ごっこ〜

目の前に広がる迷路の中で鬼と鬼ごっこをしてください。

砂時計を返してから3分間は鬼は出ません。

制限時間は計10分。

鬼は3体です。

 

このルールで気になるのは、スキルの使用ができるのか。鬼の速さは。鬼は〝何で周りを感知している”のか。

 

スキルはイベントなのだから使えるだろう。

速さはそれなりにあるだろうから覚悟しておかなければならない。

最後のは普通に考えれば目。だが、耳や鼻という可能性も頭の隅に置いておく。

 

ランは覚悟を決めて、砂時計を返した。

 

3分後、鬼が放たれた。

その瞬間、鬼の足元が光った。

【磁追】の効果が発動する。

 

砂時計を返してランはまず、迷路の入口に3発の【磁追】を打ち込んだ。

 

鬼の居場所がマップで手に取るようにわかれば怖い事はない。

その上、ランには【千里眼】がある。

すぐに迷路のマッピングが終わり、マップには迷路の全体像が表示されている。

 

普通は初めての迷路の中で迷いながら、足の早い三体の鬼とどこの角で遭遇するか分からないまま、逃げ回るゲームなのだが、ランはチートじみた力で異常なまでに簡単にしてしまった。

 

それでもAGIがないので、追いつかれそうになると【電光石火】を使って逃げたり、【凪】で姿を消したりした。

 

そして、10分間をしっかり逃げ切ったランは2枚のメダルを獲得した。

 

 

 

 

 

その後は、極夜のレベル上げ。

レベルは3から6にあがり、新しいスキルを覚えた。

 

【視覚共有】

テイムしたモンスターとプレイヤー及びそのパーティーメンバーの視覚を共有する。

 

このスキルがランと極夜にはとてもあっていた。

というのも、ランはこれまで【千里眼】で補足できる距離に敵がいても、夜だったり洞窟だったりすると暗すぎてまともに視認できていなかった。

 

しかし、コウモリはその生態上超音波で周りを知覚している。

よって周りの明暗は関係ないのだ。

 

そして、ランが一番驚いたのは、お互いが視覚を〝共有”しているので、極夜には【千里眼】と同じ距離の補足ができること。

 

つまり、現在6km以上補足できる【千里眼】を昼夜問わず使えるようになった。

 

また、パーティーメンバーの中から共有する人を選べるのも助かった。

 

夜になると、サリーからマップ情報とメッセージが届いた。

その場所でふたりと合流してから、休息をとって日を跨いだ。

 



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器用特化と海と砂浜

5日目からは滝の裏の洞窟、酒蔵庫、湖、地底ダンジョン、墓地、海岸などを探索した。

 

海岸ではAGI0のメイプルとランは潜水出来ないのでサリーに任せ、ランは釣り、メイプルは砂遊びをしていた。

 

【釣りX】にDEX558ともなれば、不思議なものが釣れる。

その成果がこれだ。

 

『錆びた剣』

錆びている剣。

 

『砥石』

刃物を研ぐ道具。

 

【水君】

以下のスキルが使える。

また、水中で息ができるようになる。

 

【恵水】

【水君】以外のデバフの効果をなくす。

 

【水槍】

槍状の水を発射する。

 

【泡輪】

5分間HPを自動回復する。

【慈雨】

空中に展開した魔法陣から、AGIを下げる

雨を降らせる。

減少率は元のAGIに比例する。

 

『メダル』×1

 

また、ぶっ壊れスキルを…

 

この時点でランは炎帝のミィと同じレベルのスキルを2つ取得したことになる。

 

 

 

 

 

サリーが海から上がってきたので、ランもメイプルのところに行くと、男の子とオセロをしていた。

 

赤色の癖毛にスペードの形のイヤリング、色白の肌に髪と同じパッチリとした赤い瞳。身長はメイプルより少し高いくらいだった。

 

頭装備のイヤリング以外は、ぱっと見たところ初期装備だった。

特徴的なのは武器を装備しているように見えないことだ。

 

大盾でも無ければ剣でも弓でも杖でもない。

どうみても手ぶらである。

 

(…役職は?)

 

そんな、不思議な人物はメイプルとオセロをして遊んでいた。

 

「あー!駄目だって!」

 

「はい、パーフェクトー。」

盤面は白一色だ。

メイプルが選んだ色はその自慢の装備の色だった。

つまり黒。惨敗である。

悔しそうにしていたメイプルがサリーとランに気付いて立ち上がる。

 

「おかえりサリー、ラン!」

「ただいま。」

「え、ああ、うん、ただいま。それはいいんだけど……誰?」

「僕はカナデ。さっきまではメイプルと一緒に砂の城を作って遊んでたんだ。」

「楽しかったよねー。」

「ねー!」

 

サリーとランには何となくこの二人が似ているような気がした。

思考回路が似ているのだろう、二人は一瞬にして打ち解けたようだった。

 

「大丈夫なの?」

「大丈夫だと思うよ?ねーカナデ?」

「だって僕まだレベル五だよ?自慢じゃないけど弱いよ?」

 

そう言って、カナデはサリーにステータスを見せてくる。

確かにレベルは五だった。

 

「い、いいの?そんなに簡単に見せて?」

「いーよいーよ。メイプルのパーティーメンバーのサリーさんとランさんでしょ?なら別にいいよ!」

 

2人が目を話していた間に何があったのかは分からないが、メイプルはかなりの信頼を得ているようである。

ちなみに、その逆もまた然りだ。

 

サリーとランもメイプルに押し切られるようにしてカナデとフレンド登録をした。

メイプルとカナデは既に登録し合っているとのことだった。

 

「ラン…呼び捨てでいい。」

「んー……私もサリーでいいよ。メイプルが大丈夫って言うなら、まあいいや。それでさ…」

 

サリーが話したのはダンジョンのこと。

あの氷鳥の時と同じような感じの祠と転移の魔法陣があったそうだ。

 

「私はあんまり行きたくないかな。」

「…入る価値はある。」

 

メイプルの言葉もランの言葉もどっちも間違ってはいないので、サリーは悩んでしまった。

 

「じゃあ、僕が見てくるよ。スタート地点もここから百メートルくらいしか離れてないし」

 

死ぬ前提の提案はさすがのサリーでも受け入れられず断ったが、カナデが飛び出して行ってしまった。

 

暫くすると後ろの茂みからカナデが出てきた。

この時点で3人はあの氷鳥と同じレベルの化け物がいることがわかった。

 

「報告します、メイプル殿」

「ほほう、なんだね。」

 

謎のノリだが、サリーが時々するので、特にに気にとめなかったラン。

それよりも、ボスの方が気になる。

 

「転移先は水中。さらにその水に浸かっていると動きが鈍り、なす術なく巨大イカに叩き潰されました」

「なるほど……無理!」

 

水中となればメイプルもランも参加出来ない上にサリーの【大海】のような水で埋め尽くされているのならサリーの回避も役に立たないだろう。

 

「今回は諦めよう」

 

「僕もそれがいいと思うよ」

 

皆が諦める中で、1人諦めていない人がいた。

ランは先程の釣りで得たスキルと装備があれば、どうにか勝てると考えた。

 

「私…行ってきていい?」

「えっ!?」

 

当然の反応をするサリーに策を説明する。

 

「確かにそれなら勝てるかもしれないけど…」

「メダルは渡しとく。」

 

そう言って、制止も聞かずランは泳いで行った。

途中で溺れそうになったのはこの後の戦闘とは別の問題であった。

 



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器用特化とVS巨大イカ

ランちゃんが大物喰らいを入手できていない事に指摘がありました。
確かにそうですね、完全に忘れていた僕の落ち度です。
修正させていただきます。
また、それに伴い一部スキルの効果を調整します。(1/8)



祠に着いたランはまず、『錆びた剣』を『砥石』で研いで使えるようにしておいた『水面の短刀』を腰(スロットで言うと左手)に装備する。

そして、自身に【恵水】と【泡輪】を使い、転移の魔法陣に乗った。

 

 

 

 

転移先にはビックリするほど大きなイカとそれを守るように展開されている大量の魚が待ち構えていた。

 

(カナデの報告と違う…レベルの関係かな。)

 

初撃が飛んできて、流石に普通には避けられないので【電光石火】を使う。

 

そして、十分な距離をとったところで【電賢】を使う。

その弾は【貫水】によっていつも通りに進んだ。

 

そして、魚の合間を縫って当たった弾によって、10秒のスタンがかかる。

10秒と聞くと短いと思うかもしれないが、ランの得物はレールガンだ。

10秒あれば10発当てることが出来る。

 

「【パワースナイプ】【黒稲妻】」

 

1発の攻撃力を高める【パワースナイプ】を【黒稲妻】の仕様…つまり、広範囲の貫通攻撃として放つことで瞬間的な爆発力を生み出した。

 

とはいえ、魚によって三分の一は防がれているし、イカの弱点としてカウントされたのは目と脳天の部分的なところだけ。

それ以外は【精密機械】の影響で【パワースナイプ】を使っても400程しかダメージを与えないランの攻撃は、イカの体力を3割削るに留まった。

 

ランは予想内だったので、スタンが切れる前に10本の足を7本に減らし、攻撃に備えた。

スタンが切れた瞬間にイカがものすごい速さで足を振るう。

しかし、足が当たる前に【電光石火】を使い避け、再度【電賢】を当てた。

 

先程と同じことをし、イカの残り体力が4割になったところでランはイカのステータスを大方把握した。

 

(まずAGI…あと、いくら初期装備だったとは言え、カナデを一撃で倒したなら、STRは確実に振られている。…HPは低め。…VITはそこそこ。…MP、DEX、INTはほぼ0)

 

この認識はほぼ間違っていない。

ただ、ひとつ違うのはMPはそこそこあるということ。この読み違えが後に影響を及ぼすことをランは知らない。

 

 

 

 

 

もう一度同じことをし、【黒稲妻】の回数が切れた。

そして、イカの残り体力が1割を切ったところで、イカの攻撃手段が変わった。

【水刃】とも言うべき魔法の刃が飛んでくる。

 

スピードはそれほどでもなく、1発目を体を捻って交わしたが、その数が異常だった。

その数70ほど。

【電光石火】使いながら交わしていたが、その

【電光石火】の残りはあと1回。

 

【電賢】や【電縛】も試したが、刃は止まらなかった。

しかも、MPの結晶である星は全て消えており、残りMPでは3、4回スキルを使うのがやっと。

 

ランは焦ったが、一縷の望みを見つけた。

以前にもこんな危ない橋を渡ったことを思い出しながら、覚悟を決めた。

 

「【凪】【電光石火】【パワースナイプ】」

 

まず、完全に姿、音を消す。

そして、目に負えないスピードでイカの死角…それも、展開している魚のさらに内側に入り込む。

その間僅か2秒。

そして、作戦通りに行かなかった時の為に少しでも多くのダメージを入れられるようにし、引き金を引いた。

 

超至近距離からの攻撃はまたしても一割を引き当てた。

【暗殺者】によって体力の残り一割を完全に削り切られたイカはドットとなって海に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

イカが消えた後、水がどんどん引いていき、最後には沈んでいた神殿だけになった。

神殿にはメダルが5枚と白い卵。

卵とメダルを持って転移の魔法陣に乗ると、外は夜で、カナデと出会った砂浜に戻ってきた。

 

だが、3人はいないのでメッセージを確認してみると、サリーとメイプルも別のイカと戦ってメダルを2枚獲得したそうだ。

2人が休んでいるという洞窟に行き、ランは眠りについた。

 

この時ランはまだ気がついていなかった。

自分が回避盾並の回避力を持ち、これまで〝 ダメージを受けたことがない〟ことに。

 



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器用特化と第二回イベント:最終日

残り一日で目標まではあと5枚。

このまま30枚のメダルを集めるのが厳しくなったので、PKをすることにした。

 

メイプルは顔が割れていて警戒されるので、PKはサリーとランが行う。

ちなみに顔が割れているのはランも同様だが、狙撃手である以上顔が割れていることは特に問題ではない。

25枚のメダルをメイプルに預け、その上サリーは朧を、ランは卵を預けた。

 

「「行ってきます。」」

「行ってらっしゃい!」

 

サリーは近くの山に入っていき、ランは目に見えるいちばん高い木に向かっていった。

ランはたどり着いた木にすぐに登った。

その木は山桃の木だった。

少し山桃を収穫してインベントリにしまう。

メイプルにあげるためだ。

 

そして、『絆の架け橋』から極夜を出して、【視覚共有】をする。

それにより6km先までしっかり認識できるようになった。

 

その後は、360°あらゆる方向でプレイヤーを見つけ次第頭が心臓を撃っていく。

そして、メダルが3枚集まったところで、

サリーから2枚集まったと連絡があったのでメイプルの元に帰った。

 

 

 

 

その後、メイプルの待つ洞窟に向かう途中でプレイヤーに襲われるカスミを見つけた。

一応、援護してカスミに話しかける。

そのまま4人が合流し、洞窟で7日目が終わるのを待った。

 

結果は金のメダル×2

銀のメダル×30

 

というところだ。

 

イベントが終わるまでにランの白い卵が孵化した。

生まれたのは白い蛇、名前は白夜。

極夜と喧嘩することも無く、直ぐに仲良くなってくれたのでとても助かった。

あとは洞窟の奥に現れる弱い敵をシロップ、朧、極夜、白夜で順番に倒し、レベル上げをした。

 

そして、イベントの終わりが告げられた。

各々が欲しいスキルを手に入れ、その日は解散した。

 

 

イベントが終わって一日後。

掲示板にいつもの面々が集まり始める。

 

542名前:名無しの大盾使い

イベント終わったな

話すことも満載だぞ

 

 

543名前:名無しの大剣使い

終わったなー

長かった

 

 

544名前:名無しの槍使い

現実だと二時間だったんだよなー

不思議な感じだ

 

 

545名前:名無しの大盾使い

だよなー

 

 

546名前:名無しの大剣使い

誰かメダル十枚いった人いる?

俺は無理だった

 

 

547名前:名無しの魔法使い

無理

ダンジョンが結構キツイ

というか探索続きの七日間がしんどい

 

 

548名前:名無しの槍使い

それな

 

 

549名前:名無しの弓使い2

私達は30枚集めました。

 

 

550名前:名無しの大盾使い

は?

 

 

551名前:名無しの大剣使い

そんなこと可能なのか…

 

 

552名前:名無しの槍使い

一番高い山に登ったけど何もなかったところで疲れきったわ

 

 

553名前:名無しの大盾使い

その山頂上が円形の山か?

祠があったか?

 

 

554名前:名無しの槍使い

そうそれ

何か知ってるのか?

 

 

555名前:名無しの魔法使い

聞きたい

 

 

556名前:名無しの大盾使い

よし

ちょっと長くなるが説明するぞ

あの山は俺も登った

それでその頂上の祠の前には魔法陣があったんだよ

 

それに乗って転移した先ででかい鳥型モンスターにボコボコにされた

完膚なきまでに叩き潰されたんだ

 

視界を埋め尽くす氷の礫のうち一つに当たるだけでパーティーメンバーが溶けた

マジで火力が洒落にならん

 

だから頂上に着いて何も無かったってことは誰かがそいつを倒したってことだ

 

 

557名前:名無しの弓使い2

倒したのは私たちです。

 

あと補足すると、あの氷鳥はSTRよりも

HP、VIT、INTの方が脅威です。

 

メイプルの毒竜で1割削ることが出来ませんでした。

その上、メイプルに攻撃が効かなかったりサリーが攻撃を回避したのを見て、攻撃を広範囲の貫通攻撃主体に切り替えていました。

 

 

558名前:名無しの槍使い

それ、ラストアタック決めたの誰だよ。

良く削りきれたな。

 

 

559名前:名無しの弓使い2

私です。

でも、ほとんどをメイプルとサリーが削ってくれたおかげです。

 

そういえば、メイプルの残りHPが1になりました。

 

 

560名前:名無しの魔法使い

あの要塞が!?

 

 

561名前:名無しの大剣使い

そんなんを倒すとか、メイプルちゃんのパーティーまじバケモンだろ。

 

 

562名前:名無しの弓使い2

ちなみに、海に浮かぶ小島にも祠があってその中には同じぐらいの強さのイカがいました。

 

ソロ攻略するの大変でした。

 

 

563名前:名無しの大盾使い

あのレベルをソロ攻略!?

ランちゃんも化け物だったか…

 

 

564名前:名無しの弓使い

ちょっと遅れた

代わりに面白い情報を二つ持ってきたぞ

 

 

565名前:名無しの大盾使い

どんな情報だ?

 

 

566名前:名無しの魔法使い

さあこい

驚かんぞ

 

 

567名前:名無しの弓使い

一つ目

イベント六日目に惨劇が起こった場所があったらしい

なんでも青い衣に身を包んだ人型の徘徊モンスター?

もしくはプレイヤー?

 

ともかくそれがスキルを使っている様子もなく全ての攻撃を避けて近づいてきてキルされるらしい

突然消えるだの剣が避けていくだの言われてる

これは結構被害者が出てる

 

その上、その近くで暗闇の中から突如頭を撃ち抜かれる被害があった。

 

 

568名前:名無しの弓使い2

私とサリーですね。

 

私の6km狙撃とサリーの攻撃回避のことかと。

 

 

569名前:名無しの魔法使い

6kmは置いといて、

となるとサリーちゃんもヤバイぞ。

後ろから振り下ろされる剣を回避するとか人のやることじゃない。

 

 

570名前:名無しの弓使い

じゃあ、まあ二つ目いくぞ

 

イベント後のメイプルちゃんとサリーちゃん、ランちゃん、あと第1回イベント6位のカスミを人気のない砂漠で見た

 

 

久しぶりに見たメイプルちゃんは

 

 

空飛ぶでかい亀の背中に乗って飛び回って毒の雨降らせてた

 

 

571名前:名無しの魔法使い

待って脳が処理出来ない

 

 

572名前:名無しの弓使い2

亀(以後シロップ)のスキル【巨大化】を使って、メイプルが【念力】で浮かせたんです。

 

そこから【アシッドレイン】ですね。

 

 

573名前:名無しの大盾使い

待て待て普通に言ったが、亀はどこから来た!

 

 

574名前:名無しの弓使い2

ノーコメント。

 

 

575名前:名無しの大剣使い

とりあえず、何か制約はあるだろうから亀は置いといて…

今後も情報収集ってことで。

 

 

576名前:名無しの大盾使い

ラジャ!

 



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器用特化とギルド「楓の木」

イベントから3日。

ゲームから離れていメイプルが帰ってきた。

その間、ランとサリーは光虫を狩ったあと、資金を集めて過ごした。

その途中でサリーが【剣の舞】を覚えたという報告をしてくれたが、そのスキルはランが既に獲得してちたスキルだったので驚かれた。

 

 

 

 

 

町の端近くまで歩いた所でサリーとランが足を止める。

中心の広場やNPCの店などを利用するには不便だが、この辺りにしかホームが残っていない。

 

「この辺りかな」

「結構歩いたね」

 

街から離れると大きなホームは無くなる。

しかし、メイプルは【ギルドホーム】の大きさなど気にしていなかった。

メイプルの性格、思考からすればそう思うのは普通だった。

 

メイプルはしばらく歩いているうちに1つの【ギルドホーム】を見つけた。

 

「ここ…いいかも」

 

人通りの無い道の奥。

ひっそりと存在する【ギルドホーム】は隠れ家的雰囲気をかもし出していた。

 

「確かに、メイプルが好きそう」

「うん、好きだよ!じゃあ、ここでいい?」

「うん、いいんじゃないかな」

「賛成。」

 

それを聞くとサリーは【光虫の証】を取り出して扉に押し付けた。

白い輝きが路地を埋め尽くし、扉がゆっくりと開いた。

3人は中に入っていく。

 

 

 

 

「おー…結構広いね」

 

ぱっと内装を確認したところ落ち着いた色合いの木製の家具が中心だった。

部屋の奥には青いパネルが壁に嵌め込まれておりそこに情報を入力することでギルドメンバーを登録出来た。

サリーとランがメイプルにギルドマスターを譲ったためメイプルがギルドマスターである。

サリーは今回は止めておくと言ってギルドマスターを辞退し、ランは無理と言って辞退したのだ。

 

「これでも狭いほうだけどね。ギルドメンバーは50人まで登録出来るね」

「2階もあるけど…そんなに入る?」

「50人じゃなくても…いいよ。」

「そうだね。誰か誘ってみる?急がないと皆他のギルドに入っちゃうよ?」

「うーん、カスミとカナデに聞いてみようか!」

「そう言うと思った。いいと思うよ」

「後…イズさんとクロムさん。」

 

メイプルは4人にメッセージを送る。

 

数分後に4人から返事がきた。

幸い4人ともまだギルドに所属していなかったこともあり、メイプルの誘いに快く乗ってくれたのだ。

そして、話し合いの結果、ギルド名は「楓の木」

ギルドマスターはもちろんメイプルになった。

 

 

 

 

その後、みんなで素材集めをしている中で1人違うことをしている人がいた。

そのランは、第4回イベントを向けて、フィールドでPKをしている。

 

目的は【ウィークネス】の弱点からどれだけ離れるとどのぐらいのダメージになるかを正確に知ることである。

DEXに物言わせて弾1発分ずらすといった神業まで使って調べている。

 

ただ、【暗殺者】のせいでなかなか調査が進まない。

削りきったのかスキル補正なのかの判断が難しいからだ。

ちなみに、ランの周りは星の結晶が10個以上浮いている。

 

「……あっ!」

(どうしよ…)

 

ランは目に付いたプレイヤーをどんどん撃っていたので、フィールドでレベル上げをしていたであろうペインとフレデリカを間違えて撃ってしまった。

フレデリカはドットになって消えたが、弱点でなかったことで、HPが残ったペインは瞬時に周りを警戒しているが、ランはだいぶ遠いところにいたので見つけられなかったようだ。

 

(後でなにかお詫びの品を持っていこう。)

 

PK推準のゲームでこんなことを考える必要は無いのだが、ランにとってゲーム内で1番実力があると言われているペインを撃ってしまったことは申し訳ないと同時に少し怖かったのだ。

 

ランは急いでギルドホームに戻り、趣味で集めていたフィールド上の美味しいフルーツ類をカゴに詰めて、お店で売っている1番高いMPポーションを5本つけてかご盛りを作った。

そして、サリーに【念話】で何があったのか報告し、有名になりつつある集う聖剣のギルドホームに向かった。

 

 

 

 

コンコン

緊張しながら集う聖剣のギルドホームの扉を叩いた。

 

ガチャ

扉を開けて顔を出したのはドレッドさん。

 

「あれ、ラン?こんな所に何か用か?」

「あ…えっと…ペインさんとフレデリカさん…謝りたくて…その。」

 

今更ながらメイプルもサリーもいないことに不安を覚えながら何とか要件を伝える。

 

「?まあ、とりあえず二人を呼んで来るからちょっと待ってな。」

 

暫くすると中からペインとフレデリカがでてきた。

少しの間お互いが黙ってしまった。

 

「第1回イベント1位のランさんがなんの用?」

フレデリカが口火を切った。

「先程は…間違えて…その、狙撃してしまい…えっと、申し訳ありませんでした。お詫びの…フルーツ盛りです。…受け取っていただけますか?」

 

ここまで初対面の人と話すランを見たら、サリーは驚くだろう。

だが、ランにはペインに裏表がないように思えたので、口を開いた。

幸い、ペインもフレデリカも怒っていないようで、簡単に許してくれた。

その上、フレデリカに何故か気にいられてしまってフレンド登録をした。

フレデリカに押し切られる形でペインやドレッド、ドラグともフレンド登録した。

 

フレデリカに星の結晶について聞かれた時はつい、サリーに【念話】でどう答えるか聞いてしまったのはご愛嬌。

 

 

 

 

 

ギルドホームに帰ると、マイとユイと言う、極振りの女の子たちがギルドメンバーになっていた。



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器用特化と天使

最近は色んなスキルを得るためにあらゆることに挑戦したり、レベル上げの為に『エレクトリックリザードの根城』を周回したりしている。

 

今日も今日とでレベル上げ…と行きたいランだが、今日はスキルショップに顔を出していた。

その理由は色々だが、1番は新しく取得したスキルが関係している。

そのスキルは【魔弾の射手】。

魔法を弓として放つことが出来る。

取得条件は【弓の心得X】を持つ状態でレベル30になること。

 

お金は特に問題ないので【火魔法Ⅰ】【水魔法Ⅰ】【風魔法Ⅰ】【雷魔法Ⅰ】【魔法の心得Ⅰ】を買った。

そして、いつも通りに『エレクトリックリザードの根城』に行き、極夜と白夜には近場でレベル上げをしてもらい、ランは試し打ちをしていく。

 

(あ…貫通攻撃じゃなくなってる。)

 

貫通攻撃の魔法ではなく、普通の魔法を使っているからだろう。

それでも、頭を撃ち抜いている以上モンスターは一撃で倒れていくのだが。

そのままボスに挑戦しようかと思った時、サリーからギルドホームに集合というメッセージが届いたので、二匹には【休眠】してもらい、急いで帰った。

 

 

 

 

 

ギルドホームにはラン以外のメンバーが揃っていて、メイプルが真っ白の装備に身を包んでいた。

 

「あ!ラン帰ってきた!じゃあ、早速しゅっぱーつ」

 

なんのことか分からないランはそのままメイプルについて行き、ある程度のモンスターが出てくる草原に来た。

襲ってくるモンスターを見て、反射的にレールガンを構えたランをメイプルが止めてスキルを使った。

 

「【見捧ぐ慈愛】」

 

するとメイプルは天使の輪と翼を出現させて金髪青目になった。

しかも、この範囲内にいるうちはメイプルと同じVITになるようだ。

 

「メイプル、VITいくつ?」

「うーん、いつもの装備じゃないし…1000ぐらい?」

 

この時ばかりは全員が絶句した。

そういえば、メイプルにはVITを4倍にするスキルがある。

知っているのはサリーとランだけだが。

素で250ぐらいなら変じゃないなと思っているランはもうメイプル色に染っている。

 

 

 

 

 

126名前:名無しの大盾使い

やあ

 

 

127名前:名無しの槍使い

おう

メイプルちゃんのギルドに入るとは…

憎い!羨ましい!

 

 

128名前:名無しの大剣使い

いいよなぁ

メイプルちゃんに接近してもらうように頼んだがそれ以上とか

 

 

129名前:名無しの弓使い

情報をくれ

何かしらあるだろ

でも話しちゃ駄目なことまでは求めないぞ

 

 

130名前:名無しの槍使い

身内になったら情報出しにくいよなぁ

出せる範囲で頼む

 

 

131名前:名無しの魔法使い

頼んだ

 

 

132名前:名無しの大盾使い

分かった

まず話題になっていたサリーちゃんのことからな

 

サリーちゃんはPS人外勢だった

実際に見た感じスキルは使ってないと思ったぞ

モンスターと結構戦闘したがダメージを受けている所は見れなかった

後何かオーラが追加されてた

 

 

133名前:名無しの弓使い

やっぱイベントのあれはサリーちゃんなんだな

 

 

134名前:名無しの大剣使い

しかも進化してるぞ

オーラって

 

 

135名前:名無しの弓使い2

スキルです。

同じスキルを持っている人他にも見た事ありますから、探してみるとすぐに分かるかもしれません。

 

 

136名前:名無しの槍使い

ふむ

サリーちゃんはそれ以外にも正体不明のスキルを持ってそうではあるな

メイプルちゃんほどではないが

 

 

137名前:名無しの大盾使い

次はメイプルちゃんのことな

ここ数日メイプルちゃんは一人でどこかに行ってたんだ

 

帰ってきたメイプルちゃんは

 

 

138名前:名無しの大剣使い

焦らすね

 

 

139名前:名無しの槍使い

はよ

 

 

140名前:名無しの魔法使い

何だ何があった?

 

 

141名前:名無しの弓使い2

クロムさんが焦らしたくなる気持ちはわかりますよ。

 

 

142名前:名無しの大盾使い

天使だった

 

 

143名前:名無しの弓使い

メイプルちゃんが天使とか知ってる

 

 

144名前:名無しの魔法使い

今さらだな

 

 

145名前:名無しの大剣使い

メイプルちゃんはいつだって天使だろ?

 

 

146名前:名無しの槍使い

当たり前だろ

 

 

147名前:名無しの弓使い2

クロムさん言い方ですよ。

 

 

148名前:名無しの大盾使い

いや、まあ、そうだな

 

言い直すわ

 

メイプルちゃんは天使の輪と翼を出現させて金髪青目になるスキルを手に入れて帰ってきた

 

 

149名前:名無しの槍使い

えっ

 

 

150名前:名無しの魔法使い

目を離すとすぐそういうことになる

 

 

151名前:名無しの大剣使い

何で?どこにそんなスキルあった?

 

 

152名前:名無しの大盾使い

俺も知らん

 

スキル名は【身捧ぐ慈愛】

HPをコストとして支払って範囲内のパーティーメンバーを常に【カバー】するスキルらしい

 

メイプルちゃんがこれを使うとな

 

範囲内のパーティーメンバーはメイプルちゃんを倒さない限り不死身状態になる

 

 

153名前:名無しの大剣使い

ついに第二形態を手に入れたのか

ラスボスになればいいんじゃないかな?

 

 

154名前:名無しの槍使い

地獄絵図すら生温い

 

目を離すとな

そのうちあれだ

第三形態を手に入れて帰ってくるぞ

絶対

 

 

155名前:名無しの大盾使い

しかもメイプルちゃんは装備を全て外してもVITが1000を超えていることが判明した

 

 

156名前:名無しの弓使い

もう意味わからん

 

 

157名前:名無しの槍使い

装備無しで1000は異常

体が鋼鉄で出来てるのかな?

オリハルコンかな?

 

158名前:名無しの大剣使い

でもメイプルちゃんって始めてからそんなに経ってないよな

メイプルちゃんの噂が出たのは二層にも入ってない時だったし

 

これ一層に何かあるぞ

>147

何か知ってるか?

 

 

159名前:名無しの大盾使い

それは俺も思ったが

なら第二第三のメイプルちゃんが現れてもいいと思うんだよなぁ

 

 

160名前:名無しの弓使い2

詳しくは言えませんが、理由は2つです。

 

1、極振りだから

2、メイプルだから

 

 

161名前:名無しの魔法使い

なんだよそれwww

 

メイプルちゃんしか出来ない理由が何なのかが分からない

 

 

この後もラン以外の全員で考えていたものの、メイプルのスキル取得方法に思い至ることはなかった。

 



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器用特化と第三回イベントと暴虐

イズのおねがいでサリー、カスミ、ラン、クロム、メイプルが【毛刈り】を使って羊毛を集めている。

 

メイプルとランは【毛刈り】を覚えられず、足止め役をしていたのだが、いつの間にかメイプルが【羊喰らい】というスキルを手に入れていたので、みんなでフィールドに繰り出す必要が無くなった。

 

 

 

だんだんお気に入りになってきた『エレクトリックリザードの根城』で極夜と白夜のレベル上げをしていたラン。

つい先日二匹ともがLv12になり、メイプルやサリーの従魔と比べると2レベル差がついた。

その時までに覚えたスキルを確認するため、二匹のステータスを開いた。

 

ステータス

 

極夜

Lv12

 

HP 100/100

MP 160/160

 

【STR 65】

【VIT 50】

【AGI 100】

【DEX 80】

【INT 30】

 

スキル

【吸血】【休眠】【覚醒】【視覚共有】

【巨大化】【岩柱】【エアカッター】

 

 

 

 

白夜

Lv12

 

HP 150/150

MP 50/50

 

【STR 135】

【VIT 90】

【AGI 100】

【DEX 30】

【INT 30】

 

スキル

【締め付け】【休眠】【覚醒】【巨大化】

【白い霧】【地雷原】【鋼鉄尾】

 

 

次のギルド対抗戦で使える作戦もひとつ思いついたので、大満足だ。

 

 

 

 

第3回イベントが始まった。

このイベントでは牛を倒すとインベントリの中に牛肉か牛鈴がドロップする。

その、牛鈴をどれだけ多く集められるかというイベントだ。

 

ランの役目は他ギルドの牛を横取りで狩ってポイントを与えないこと。

広範囲攻撃を持つプレイヤーをキルすること。

 

[サリー…ミィさん見つけた。5キロ先。]

[牛はいる?]

[いる。ミィさんに向かって走ってる。]

[…ミィよりも牛優先。その後ミィ。]

[了解]

 

【念話】のおかげで楓の木のゲームメイカーである、サリーにいつでも確認が取れる。

メイカー殿の指示通り、牛を狩っていく。

 

[量が多い…炎帝のポイントが一気に増える。]

[【黒稲妻】使っていいよ。ただし、【パワースナイプ】も【エクスプロージョン】も使っちゃダメ。]

[わかった。]

 

牛の集団のど真ん中を狙う。

 

「【黒稲妻】」

 

放たれた矢は真ん中の牛にあたり、その周りの牛を狩り尽くした。

そのまま、ミィの頭を撃ち抜く。

ついでにその横にいた崩剣も撃ち抜く。

 

[ミィさんと…あと一人撃った。]

[じゃあ、退散。]

[そうする。]

 

そんなことを色んな大規模ギルドでしていたので、楓の木の狩数が常に上がり続け、たまに3桁近く上がるという謎が起こっていた。

 

 

 

イベントでは、惜しくも11位だったが、ギルド単位では最高の報酬を貰えた。

効果は楓の木のメンバーのSTRが3%上昇させるというものだった。

メイプルには関係ないとみんなが思った。

しかし、当の本人は喜んでいる。

全員の気持ちが一致した。

 

((((((((あ…また、なんかやったな。))))))))

 

結局、3層に行くためのボス戦で見せてもらうことにした。

 

「じゃあ、出発!」

 

メイプルの掛け声で全員が歩き始める。

洞窟内も、ランの射程距離に入った時点で倒されていくので問題ない。

撃ち漏らしもカスミとサリーが処理し、マイ、ユイ、カナデ、クロム、メイプルでイズを守っている。

殿がイズだとしたら、誰も勝てないだろう。

 

 

 

「えっとじゃあ、私が行くね。【挑発】!」

 

メイプルがボスの方へと向かっていく。

ボスは伸ばした根や枝で攻撃してくるがメイプルの圧倒的VITの前にはそれらは通らない。

そうしている内にメイプルがボスの真下まで近づいた。

 

「【捕食者】【毒竜】【滲み出る混沌】!」

 

メイプルの周りから化物が姿を現し、毒竜が幹をぐちゃぐちゃに汚染し、最後に打ち出された化物の口が幹を喰らった。

HPバーがガクンガクンと減少する。

しかも、二匹の化物の攻撃も止むことがない。

樹木のボスHPが減ったことで 、怒りを露わにし、二匹の化物に攻撃を仕掛ける。

 

「【身捧ぐ慈愛】!」

 

メイプルのHPが減少し天使の翼が顕現する。メイプルは二匹の受けるはずだったダメージを引き受け無力化した。

メイプルは素早くポーションを取り出すとHPを回復させる。

8人はこの姿を部屋の隅で見ていた。

 

「あれは何だ?どう取り繕ってももうモンスターよりだろ……俺はそう思う」

「そうかー……そんな感じかぁ……」

「見る度に付属品が増えているのは何でだろうか……」

「平常運転で安心したよ」

「やっぱり。」

「もう味方ならいいわ…味方なら」

「「メイプルさん凄いです!」」

 

そう言って今回のメイプルの進化を受け入れようとしていた8人だった。

しかし、メイプルにはまだ一つ残されたスキルがあった。

メイプルは今回それを初めて試してみるつもりだったのだから使わずには終われない。

 

「よし……【暴虐】」

 

小さく呟いたメイプルの体を黒い輝きが包み込む。

そして、真っ黒な太い光の柱が天井に向かって伸びるとメイプルの両サイドにいた化物に似た姿になる。

違う点は何本もの手足が生えている点だった。

メイプルの両サイドの化物は消えてしまった。

 

化物が樹木のボスに突進して掴みかかり、その口から炎を吐き出す。

木に炎はよく効いたようで、化物を倒すためにと根や枝さらには魔法まで使って攻撃する。

しかし、樹木のボスは化物を倒すに至らないどころか傷一つつけることが出来なかったのである。

化物はおぼつかない動きで、爪で幹を割き、蹴りつけて陥没させ、口しかない頭部で喰らいつく。

 

しばらくそうして戦っていた二体だったが、結局耐えきれずに樹木のボスが倒れてしまった。

化物はサリー達の方に向かってのしのしと歩いてくる。

警戒する8人に向かって化物が口を近づける。

 

「いやー……これ操作難しいよ!」

 

そう言った化物を見て流石に全員の思考が停止した。

 

「め、メイプル?」

 

「うん、そうだよ?」

 

ノイズ混じりの声で話す化物の正体はメイプルだった。

皆が困惑する中サリーが元の姿に戻れるかメイプルに聞く。

 

「んー…ちょっと待ってね」

 

そう言ってから数秒後腹部が裂けてメイプルが落ちてきた。

メイプルが化物から出てくると化物の姿は崩れて消えてしまった。

8人が近寄ってくる。

 

「出来る範囲で説明してくれると嬉しいんだけど……」

 

サリーも今回は流石に許容範囲を超えてしまったらしい。

 

「えっとね…あれは装備の効果が全部無くなる代わりに【STR】と【AGI】が50増えてHPが1000になって、HPが無くなっても元の状態に戻るだけっていう…」

 

デメリットは装備の能力値上昇や装備のスキルを使えなくなること、それに一日一回しか使うことが出来ないことくらいである。

このスキルによりメイプルは死にかけた際の緊急回避が可能になった。

 

「ああ……遂に本当に人間を辞めたのか」

 

「ああ、 辞めたな。これはもう間違いない」

 

比喩などではなくメイプルは化物になれるようになってしまったのだ。

 



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器用特化と研究所

第3層では、プレイヤーたちがお金を払ってそれを飛ぶ機会を手に入れている。

しかし、楓の木の面々はメイプルに頼んでシロップに乗せてもらうか、ランに極夜を借りれば飛ぶことが出来るので、誰も買っていない。

 

そんな不思議な階層に来てもなお、1層に向かっているラン。

何度クリアしたかも分からない『エレクトリックリザードの根城』。元々、ことダンジョンボスは25レベル相当で、先にクリアしたランが異常だった。

ただ、Lv38になって、面白いスキルを手に入れたこともあり、ボスでも数回抜けば倒せるようになってきた。

そんな時、これまでと違うことが起こった。

 

『レアアイテムを獲得しました。』

『エクストラアイテムを獲得しました。』

 

インベントリを確認すると、たしかに見たことないアイテムが二つあった。

 

『雷機関研究所の鍵』

雷機関研究所の鍵。

これを持つ者のみ、入ることが出来る。

獲得条件:『エレクトリックリザードの根城』を最初に500回クリアする。

 

レールガンを手に入れてからここまでの主なレベル上げをここでしてきたのが役に立ったのだろう。

 

『移動式ギルドホーム』

キャンピングカー、飛行機、客船の形になるギルドホーム。

中にはギルドメンバー分のベットとお風呂、キッチン、訓練場に繋がる転移の魔方陣、リビングが内蔵されている。

破壊不可。

獲得条件:『電気錠』を持つ状態で『雷機関研究所の鍵』を手に入れる。

 

これは嬉しい。

イベント中に1度もお風呂や食事が出来ないのは生活バランスや清潔感の観点から少し辛かったのだ。

雷機関研究所には鍵を持っていればどこからでも入れるそうだ。

とりあえず、行ってみる。

 

 

 

 

 

楓の木のギルドホームと同じぐらいの広さの研究所に着いた。

一階は壁に沿ってびっしりと本が並んでおり、中央の机にはスキルの巻物と10桁の番号が書かれた紙、真ん中に蒼い宝石の着いたアンクレット。

 

【雷獣を統べるもの】

『エレクトリックリザードの根城』に現れるモンスターを召喚できる。

ボスは同時に1体まで。

その他は各10体まで。

 

『エレクトリックリザードの根城』に出てくるモンスターはボスのエレクトリックリザード、通常モンスターのリザード、バット、モール、スパイダーである。

 

『従属のアンクレット』

従属している者を召喚、収容できる。

従属してさえいれば数に限りはない。

 

このアンクレットには極夜と白夜も入ることが出来た。

これによって絆の架け橋を二つ装備し続けなくて良くなった。

 

 

 

二階にはベットの上にある、お腹の部分が開かれ、中が空洞になっている人形と5個の鍵がかかった金庫。

そのうちの3個は『電気錠』『雷機関研究所の鍵』と一階にあった『10桁の番号』で開くことが出来た。

 

(あと2個…USBメモリアダプタと南京錠)

 

残りの2つを開けるのは諦め、人形に近づく。

 

『未完成のコッペリア』

指定ダンジョンでドロップする部品を全てはめ込むまで動かない。

完成した時、最後の部品を埋めた人に従属する。

 

このダンジョンというのは『エレクトリックリザードの根城』でということだろう。

これまでのドロップアイテムをはめてみたが、ピクリとも動かない。

あれだけクリアしていても、足りないということだろう。

これは根気よくやっていけばいいと考えた。

 

 

 

1階に戻り、本を確認する。

数は200。しかも、日本語でないものがほとんど。

読めるタイトルだけを読んでいくと、「従属」

「電気」「機械」「永遠」などの言葉が多いように感じた。

とりあえずは日本語で書かれていて、1番薄い本を手に取って読む。

 

「歯車ヲ持ツ者共ニ在リテ、機械神ヲ抑エル。サスレバ、磁力ノ結晶ニ進化ノ兆シアリ。」

 

その書き出しから始まり、読んでいくといくつかわかることがあった。

2層の木の根元に隠された歯車を持つプレイヤーとパーティーを組んで、3層の崖の下にいる機械神の暴走を抑える…つまり、機械神を倒すとレールガンに新たな機能が着くらしい。

 

(こういう時、メイプルが何かしてる。)

 

ほとんど確信めいているこの推理の元、ランは【念話】でメイプルに聞いてみる。

 

[持ってるよ?]

 

いとも簡単に答えられたので驚いた。

そのまま、本の内容を断片的に話し、一緒に崖の下に降りてみることにした。

 

 

 

 

 

突風に注意しながら崖の下までおり、青い光が蛍のように舞う残骸の山に囲まれた場所にたどり着いた。

 

そして奥に一人の男が残骸にもたれるようにして座っているのを見つけた。

その体は機械で出来ていた。

しかし機械にしては人に近すぎる。

また人にしては機械に近すぎる。

目に光はなく、片腕は半ばからなくなっており、胸には大きな穴が開いていた。

 

「うわっ!?」

 

メイプルのインベントリから勝手に飛び出したのは偶然見つけたという、例の歯車。

それはふわふわと男の元に飛んでいきその空洞の胸に吸い込まれた。

それからしばらくしても何も起こらなかったため、代表してメイプルが恐る恐る男に近づいていく。

 

 

「我ハ王……機械ノ王…偉大ナル知恵ト遥カナル夢ノ結晶……」

 

いきなり話し始めたことで、2人の警戒レベルが上がった。

 

「我ハ……王…カツテノ王……淘汰サレタ者……」

 

2人は男の言葉を静かに聞く。

 

「我ハ…………何ダ…我ハ……」

 

男の言葉はどんどんと小さく途切れたものになり、ついに話さなくなってしまった。

 

「こ、壊れちゃったのかな……?」

 

心配するメイプルの目の前で舞っていた青い光が男を包んでいく。

それは胸に空いた穴に吸い込まれていき穴を光で満たした。

 

「グ……」

「よ、よかったー……壊れてなかったんだね!」

「なんか変。」

 

喜ぶメイプルだったが、ランが男の様子がおかしいことに気づく。

 

「我ハ…ガラクタノ王……ゴミノ中デ眠ル王……夢モ奇跡モ……ガラクタニ」

 

そう言うと男の体が変形する。

周りの残骸を胸の穴に吸収し、兵器を生み出し体に纏う。

銃が、剣が、武装が次々と展開される。

 

「オマエモ……ガラクタニシテヤロウ」

「………ラン、正気に戻すよっ!手伝って!」

 

メイプルは大盾を構え、短刀を抜く。

ランもレールガンを構える。

メイプルにはおかしくなった原因に心当たりがあった。

あの青い光、【二代目】の機械の光。

 

「あの部分だけを攻撃するっ!」

 

メイプルが決意し、ランが理解したその次の瞬間。

ランの視界を青白い弾丸が覆い尽くした。

 



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器用特化とさらなる戦力

昨日は更新できなくてすみませんでした。


「【カバームーブ】」

 

ランに放たれた青白い弾丸はメイプルの機転で防ぐことが出来た。

しかし、メイプルとその後ろにいたランはノックバックの効果で機械神から離されてしまった。

 

「拘束する。メイプル、攻撃は任せる。」

「わかった。」

 

そう言って、【電賢】や【電縛】を撃ってみるも、機械神には効いていない。

 

「白夜【巨大化】【締め付け】。

『スパイダー』【粘糸】」

 

白夜の体が大きくなり、機械神を締め付けてその場に拘束する。

それでも手足は自由でいつ攻撃されるか分からないので、【電獣を統べるもの】でスパイダーを10体呼び出し、【粘糸】という粘着性のある糸で手足を地面と固定した。

 

その隙に近づいたメイプルが機械神の胸の部分に手を入れる。

 

「【滲み出る混沌】!」

 

メイプルの手から飛び出した化物が胸を貫いて抜けていく。

大ダメージを受けた機械神の様子が変わった。

青白かった光が赤くなった。

ランは危険と判断して、白夜達を戻す。

 

「グ……カハッ……我ハ消エル……ダガ……」

 

メイプルとランは話し始めた機械神の声を一音も聞き逃さないように耳をすませる。

 

「……僅カニ意識ノ戻ッタ今……託ス…勇敢ナ…者達……」

 

そう言う機械神の胸の穴には青い光が溜まり始めていた。

 

「……我ノ…チカラデ……我ダッタ…コイツ…ヲ……倒…セ…」

 

そう言う機械神はメイプルに向けて古びた歯車を投げつけた。

それはメイプルの体に吸い込まれて消えていった。

ランのレールガンにも赤い光が近づく。

それはレールガンに触れた瞬間に消え、レールガンは新しい仕様を手に入れた。

 

「……眠ラセテ…クレ」

 

それと共に機械神の様子が変わる。

全身が青白い光に包まれ、パーツの存在しない【二代目】の装備を身に纏い空へと舞い上がり青い弾丸で攻撃してきた。

メイプルとランは先程と同じように壁に向かって弾かれるしかなかった。

 

「私が、足を削る。」

「じゃあ、最後は私だね!」

 

ランはレールガンを縦に持ち、目の前に構える。

 

「レールガン:モード光剣」

「【機械神】…【全武装展開】」

 

レールガンの弾が間隔なく放たれることで、剣のようになった。

しかもこの弾は元々貫通攻撃なので、剣として切りつけても貫通攻撃になる。

 

「【電光石火】」

 

素早く後ろに回り込んだランが機械神の腰から下を切り離す。

そして、もう一度使った【電光石火】で離脱する。

 

「攻撃開始」

 

メイプルの言葉を引き金に爆音と共に全ての武装が火を吹く。

そして、機械神を蜂の巣にした。

 

「「終わった〜。」」

 

お互いに背中にもたれかかって2人は暫く休憩した。

 

 

 

 

ギルドホームに帰ってきたメイプルとランを見て、何となくやらかしたのを感じとったイズが他のメンバーを集めた。

 

「じゃあ、どうぞ。」

 

まず、ランが雷機関研究所のことを話した。

そこで得た『移動式ギルドホーム』の説明をしたら呆れられた。

お風呂は喜ばれた。

その後、みんなで移動式ギルドホーム内の訓練場に移動した。

 

「始め!」

 

メイプルとランの試合が始まった。

この方が話すよりも分かりやすいとメイプルが提案したからだ。

 

「【全武装展開】」

「【電獣を統べるもの】総召喚」

「「【攻撃開始】」」

 

ランはメイプルの攻撃を『エレクトリックリザード』、『リザード』、『バット』達のスキルで相殺していく。

相殺しきれない分は『モール』が身を張って守る。

その間にどんどん『スパイダー』の糸による拘束をして行く。

 

メイプルは『スパイダー』を先に始末したいようだが、届いている攻撃は精々15発程度。

 

「シロップ【精霊砲】」

「極夜【岩柱】、白夜【地雷原】」

 

三体ともが巨大化した後、技を放つ。

シロップの砲撃は極夜が地面から出した岩盤で威力を削減されたにもかかわらず、極夜のHPを全て持っていった。

ただ、今回シロップはメイプルによって浮いている訳では無いので、白夜の攻撃を直で受けて倒れてしまった。

 

「シロップ!…こうなったら、本気で行くよ【滲み出る混沌】」

 

メイプルの生み出した化け物たちによってランの出したモンスターたちが減らされ、拘束していた糸も切られ、いよいよメイプルの攻撃を防げなくなった。

ランはここまでレールガンによって攻撃をしていたが、機械神相手の時と同じように【電賢】も【電縛】も聞かないことに焦った。

 

「【慈雨】【水槍】」

 

機動力を下げてから機械に水は聞くだろうと考え、【水槍】を放つ。

しかし、それらはメイプルのAGIが0なことと、圧倒的な攻撃密度で威力を殺されてしまう。

 

だが、その間にレールガンのモードを一時的に光剣にして【滲み出る混沌】を全て切れたので結果的には良かった。

 

「白夜…アンクレットに戻って。【凪】【電光石火】【跳躍】【エクスプロージョン】【黒稲妻】」

 

白夜に被害が出ないようにしてから姿を消し、メイプルの背後それも上をとる。

そこから広範囲に【エクスプロージョン】を撃つことで、メイプルだけでなく、その装備にもダメージを与える算段。

しかし、その攻撃はあるスキルの前で通じなくなってしまった。

 

「っ!」

「【カウンター】」

 

しかも、メイプルに返された攻撃はランを貫き、勝者はメイプルとなった。

 

 

 

 

 

 

「メイプルはまた変なのを…ランはメイプルを追い詰めるし…」(サリー)

「そうか…メイプルも【カウンター】とったのか。」(クロム)

「41体のモンスターを一度に召喚するランもどうなんだ。」(カスミ)

「それよりも、あの剣じゃない?メイプルちゃんのモンスターを一太刀…」(イズ)

「HPお化けのシロップを一撃で倒すなんて、白夜のSTRはどうなってるんでしょうか。」(ユイ)

「この移動式ギルドホームを持ってきたのもランさんですし…」(マイ)

「2人とも最高。これからも進化していきそうだね。」(カナデ)

 

皆がみんな情報過多になりました。

 

 

 

 

その頃集う聖剣のギルドホームではペインとドレット、ドラグ、フレデリカが話し合いをしていた。

 

「ふむ……取り敢えずフレデリカは情報収集を頼む。楓の木もきっちりな」

「ペインは心配性だねー?メイプルちゃんとランちゃん以外はほとんど新人の集まりだよ。まあいいけどさっ!」

 

そう言うとフレデリカは杖を片手に部屋を出ていった。

それに続くようにしてドレッドとドラグも部屋から出ていく。

2人とも毒耐性があればどうにかなると考えているようだ。

一人になったペインが呟く。

 

「……未知は何より恐ろしい。楓の木の情報がなさ過ぎだ」

 

そう、彼らはクロムの装備の力を知らない。

カナデの魔法の幅広さを知らない。

サリーの回避を体験したことがない。

ユイとマイの破壊力を知らない。

ランの射程距離が7km近くあることを知らない。

そして何より。

ほぼ全てのメンバーがメイプルは毒と盾により敵を倒すものだと思っている。

彼らは天使も化物も機械神もシロップが光線を吐くことも知らない。

 

唯一、ペインだけはそうではないのではと直感していたがそれを裏付けるものはどこにもなかった。

 

 

 

 

 

 

そんな特異の限りを尽くす楓の木を見ていた公式は次のイベントのことを考えて、流石にランを弱体化することを考えた。

その結果は第4回イベントにどんな影響を与えるのだろうか。

 



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器用特化と第四回イベント

イベントの詳しい内容が発表された。

 

ギルドごとに配備された自軍オーブの防衛。また他軍オーブの奪取。

自軍オーブが自軍にある場合、六時間ごとに1ポイント。

ギルド規模小の場合、2ポイント。

他軍オーブを自軍に持ち帰り、三時間防衛することで自軍に2ポイント、また奪われたギルドがマイナス1ポイント。 

 

ギルド規模小に奪われた場合、オーブを奪われたギルドはマイナス3ポイント。

ギルド規模中に奪われた場合、オーブを奪われたギルドはマイナス2ポイント。

 

他軍オーブはポイント処理が終わり次第元の位置に戻される。

防衛時間三時間以内に奪還された場合、ポイントの増加や減少はなし。

 

同じギルドメンバーの位置と自軍のオーブの位置はステータスと同じく、パネルに表示されるマップで確認することが可能。

 

奪取したオーブはアイテム欄に入る。

ギルド規模が小さいほど防衛しやすい地形になる。

ギルドに所属していないプレイヤーは参加申請をすることで複数作成される臨時ギルドのどれかに参加可能。

 

死亡回数について。

一回。ステータス5%減。

二回。さらにステータス10%減。

三回。さらにステータス15%減。

四回。さらにステータス20%減。

五回。リタイア。

死亡回数四回時点、ステータス50%減。

 

プレイヤーが全滅したギルドからはオーブが発生しなくなる。

同じギルドから奪えるオーブは一日に一つきり。

 

ルールはこんなところだった。

 

「なるほど……5デスで終わりか。まあ3デスあたりからまずいかな?」

 

楓の木の人数を考えると捨て駒などどうやっても使えない。

大型ギルドのような死を恐れぬ数の暴力は使えない。

 

「この感じだと取り敢えず防衛には人数を割きたいけど……これはかなりキツいなぁ……んーでも、上手く攻めれば……」

「どこが大変そう?」

「まず第一に攻撃に出られる人数が足りない。防衛も同じ……後は、まあ、これが最大の問題点なんだけど、どうしても疲労が溜まるよね。ひっきりなしに誰かが攻めてくるだろうし、夜襲もある。少人数の問題点はそうそう休めないこと」

「オーブの場所によるけど…私が起点になれば2、3人ぐらいでいい。」

 

ここで1人でいいと言わないのは、先日イベント用アップデートの際にランが受けた弱体化が原因だった。

これまでのランだったら【千里眼】と極夜の【視覚共有】があれば7km近くを常に捕捉・迎撃できていた。しかし、現在は捕捉はできても迎撃ができない。

レールガンの性能に弾が3kmの距離を進むと自動消滅するという弱体化にあったのだ。

まあ、弱体化という程の弱体化ではない気がするが…

 

「そうだね…じゃあ、ランがいるときはメイプルとマイ、ユイ。ランが居ない時はカナデも入って。

イズさんは両方のサポート。ランがいる時は特に攻撃班をサポートしてください。」

 

それを聞いて各自がイベントに備える。

ランもスキルショップでいくつかのスキルを買った。

そんなこんなで第4回イベントが始まろうしている。

 

 

 

 

 

楓の木のオーブが設置されていたのは洞窟の中。

入口は1つ。

しかも、入口近くに高い木があったので、ランは満足した。

 

「これなら守れる。」

 

ランが防御に徹すればそうそうに洞窟内までプレイヤーが入ることは無いだろう。

その旨を皆に伝えた。

 

「その事なんだけど、基本ランは防御担当だけど一日目の夜だけ攻撃を担当して欲しい。でも、その時間は1番攻撃が集中するだろうから私とラン、カナデ以外は防御。」

 

サリーには何か策があるようだ。

どちらにしろ、初めはこれまでの予定と変更はない。

 

「じゃあ、私達は攻撃に」

「おう、予定通りいこう」

 

時間が惜しいとばかりに攻撃組の五人は自軍から飛び出していった。

 

残った面々はイズから渡されていたローブを着る。このローブには補正はない。ただ外見を隠すだけの布である。

ただし、遠目に見たときにメイプルだと気付かない憐れなプレイヤーにはめっぽう効くのである。

メイプルはヤバイの象徴だからだ。

ヤバイと思えなければ貴重な命を一つ持っていかれる。

まあ、その前に洞窟内に入ることが困難なのだが…

 

「誰か来たらユイちゃんとマイちゃんに倒してもらうね。」

「わかりました。」

 

三人は入り口を警戒しつつ、体力を消費しないように待機することにした。

 

 

 

 

その頃ランは自分を中心に半径7km程をマッピングし、メンバー全員に送った。

そして、狙撃を開始していく。

まだ、オーブを手に入れた訳では無いので、森に迷い込んできたプレイヤーたちばかり。

今のところこっちに来ている人を全て脳天狙撃で倒しているランは、面白いことを考えついた。

 

【念話】によってメイプルとサリーに聞いたところ、やってみてもいいと許可を得たので、試してみる。

その時に、【念話】だとちゃんと話せるようになってきたねという、緊張も何も無い言葉を貰った。

 

実は洞窟から南東に6km500m行ったところに中規模のギルドがある。

このギルドをランが襲う。

襲うと言っても直接行く訳では無い。

ましてや、攻撃する訳でもない。

 

 

使うのは【強奪】。

ギリギリ視野の範囲内にあるオーブを手元に引き寄せる。

結構なスピードで手元に来るので敵プレイヤーはなかなか気が付かない。

 

10秒後相手がオーブがないことに気が付き、こちらに向かってくる。

ほとんどの者を先に召喚しておいたリザードとバット達が倒してくれたのでランがしたのは撃ち漏らしの処理。

それだけで、一つのオーブが奪えた。

 

これをサリーに報告すると、悪いことを考えている笑い声が返ってきた。

 



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器用特化とオーブ防衛

カスミ達攻撃班が帰ってきた。

サリーはもう一度攻撃に出た。

 

オーブは3個。

それを3時間守れるかでギルドのレベルが伺える。

しかし、このギルドには1つの利があった。

6km以上先にいる時から奇襲に備えて準備ができる。

 

「3時の方向に10人、0時に3人、10時に13人。

3、10は魔法使いあり。0は剣盾のみ。」

 

「では、カナデとランが0の方向、イズさんとマイ、ユイが3、私とクロムさんが10だな。」

 

カスミの采配に皆が了承し、走り始める。

ランはその場から狙っていく。

 

カナデが走り始める前からレールガンが3発分の弾を吐き出している。

カナデは着く頃にはほとんど残っていないと考えながら急いだ。

 

3ペアともに打ち漏らしはなく、しっかり3時間の防衛ができた。

 

途中で偵察中のランがある人を見つけた。

 

[サリー、5km半先、ペインさん見つけた。周りは護衛が三人。]

[射程内に入ったら撃って。]

 

レールガンはランの思い通りに弾を吐き出し、ペインの頭を吹き飛ばした。

ランはペイン相手にだけは当たり前のように【消音】を使う。

 

もちろん護衛の人たちも一発で仕留めた。

 

[完了。]

[さすが、ラン。これから先、ペイン、ドレッド、ドラグ、フレデリカ、ミィ、シン、ミザリー、マルクスは見つけ次第撃っていいよ。]

[私、シンさん、ミザリーさん、マルクスさんって知らない。]

[…そうだね。]

 

炎帝の有名人たちをこぞって知らないランに呆れるサリーだったが、崩剣のシン以外はその特性上拠点防衛だろうという予想なので関係ないことに気がついた。

 

 

 

その後、防衛はつつがなく行われ、ランが定期的にサリーに【念話】で安否確認をしている状況だ。

 

[ダメージは負ってないけど…さっきの言葉訂正。ドレッドさんを撃つ時は私に聞いて。]

[?わかった。]

 

サリーはドレッドと戦って彼の勘が侮れないことを知った。

 

 

 

 

 

「はぁ…ただいま。」

サリーが帰ってきた。

持っているオーブは5個。

 

今、この場には9人全員が揃っているので、防衛タイムだ。

 

小規模ギルド5つから奪われたオーブを取り戻すため、それらギルドが手を組んだ。

ランが洞窟内に入ってきたのを見て、メイプルが【身捧ぐ慈愛】を発動させる。

 

「あと600m。数…50弱。」

 

ランはそのままレールガンを光剣にして構える。

メイプルのカバー範囲内で全員が構え、待つ。

ちなみにランが撃たないのは、相手にもう一度襲ってくる気力を無くすための作戦だ。

 

「8人で戦うのは初めてだね。」

 

「イズさんはメイプルと組むのが初めてじゃない?」

 

メイプルとサリーの和やかな空気が伝わり、楓の木の面々に緊張はない。

そのうち、バタバタと足音が聞こえてきた。

そして、50人弱のプレイヤーたちが洞窟内に入ってくる。

減ったメイプルのHPはカナデが即座に回復させている。隙はない。

 

メイプルの前進に合わせて8人が歩を進める。

正面衝突した両軍が斬り合う。

ユイとマイがあちこちからくる攻撃を次々と受けてしまうが、二人が倒れることはない。

ランも同様だ。

 

「「【ダブルスタンプ】!」」

「…ん。」

 

轟音と共に弾け飛ぶプレイヤーや鎧が豆腐のように切られているのを見て、3人から離れたプレイヤーに襲いかかるのは鉈と刀だ。

 

「おらぁっ!」

 

「ふっ!」

 

二人の攻撃を耐え、躱してオーブを先に狙おうとする者達は利口だった。

輝く地面の範囲から逃れ、オーブへと向かう者達に降り注いだのは爆弾の雨。

 

「あら、悪い子ね?オーブだけ狙うだなんて」

 

イズもメイプルがそばにいれば最早戦闘員と変わらない。

十分過ぎる程に脅威となる。

 

それを無理やり潜り抜けた者はめでたくカナデの図書館にご招待だ。

 

「【パラライズレーザー】」

 

カナデが放った低威力、高確率麻痺のレーザーが空間を水平に薙ぐ。

追加効果が強力なために、届く範囲が狭いことを除けば文句なしだ。

ただ、カナデが倒さなくとも後始末をしてくれるプレイヤーがいる。

 

「ぐっ…がっ!」

 

「く、くそっ!」

 

レーザーを受けたプレイヤーが呻きながら逃げようとするものの、動きは緩慢だ。

 

「はーいさよなら」

 

彼らからオーブを奪った張本人。

サリーによって、カナデが動きを止めたプレイヤーはギルドに送還されていく。

こうしている間にも前衛の攻撃により倒れる者が次々に出る。

気づけば同盟軍は崩壊、心の折れた者から順に敗走に入っていた。

ただ、そんな中で一矢報いようとする者も確かにいた。

 

「【跳躍】!」

 

クロムとカスミの間をすり抜けて飛び込んだプレイヤーはもう生き残る気などさらさらなかった。

そして天使の羽を持ち、前線を支えたプレイヤーに一撃加えてやろうと剣を振るった。

 

「はぁ!」

 

剣と気合を叩きつけるようにして振るった渾身の一撃はあまりにも無慈悲な防御力を前にその力を失い弾かれた。

迫り来る二つの大槌の気配を背中に感じつつ、最期にそのプレイヤーが見たのはフードを目深に被っていてはっきり見えていなかったプレイヤーの顔だった。

 

「メイプルかよ……ミスったな」

 

彼は諦めと共に小さく呟き、大槌にその身を打ち据えられた。

残っていたプレイヤー達は全て、オーブに触れることは出来なかった。

 

 



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器用特化と夜戦

日が沈んで三時間。

メイプル達は危なげなくオーブを守りきり、ポイントを加速させた。

 

早めに防衛から抜けたサリーとランはフィールドを駆け回っていた。

と言ってもサリーがランを背負ってある程度プレイヤーの近くまで行ったら下ろすのくり仕返し。

それでも、三時間の内に奪ったオーブは5つ。

倒したプレイヤーは数え切れない。

とりあえず、5個のギルドが壊滅したことは確か。

今も一人のプレイヤーを倒したところである。

 

「ふぅ、もう九時か……明日の朝までに後いくつオーブを奪えるか……」

「オーブは分からないけど…あと1時間以内に完成しそう。」

 

そうだねと返したサリーがマップを確認する。

そこには夥しい量のメモが書き込まれていた。

 

内容はイベント内専用武器修理アイテムの場所、地形、ギルドの規模や防衛の基本人数、偵察部隊がよく通る道に、待ち伏せの可能性の高い場所など多岐にわたる。

ランにはそれに加え、高い木や建物の場所と高さ、その内のどこからどこのギルドが狙えるのか、森や林の木の種類と平均高度といった狙撃手ならではの書き込みもある。

 

イベント開始から九時間。

走り回って続けた偵察によって手に入れた情報を元に、ギルドの全容や隙をまとめている。

サリーがランの視覚を頼ってまで一日目からマッピングに全力を尽くしている理由は、倒しやすいギルドが残っている内にオーブを奪いたいからだ。

後半になればなるほどオーブを巡る争いは激化する。

最終日までに小規模ギルドの全滅というのもあり得るのだ。

そうなってはオーブを奪えない。

 

「先行逃げ切りが唯一の勝ち筋……」

「だから…この夜のうちに、マップとオーブ…かき集める。」

 

もちろん、無理と危険を覚悟して。

 

「次は……よし、ここにしよう」

サリーは再び走り出す。

ランはそのギルドを狙える岩影に隠れる。

 

そして、ある程度のプレイヤーを倒したところでランが【強奪】でオーブを回収する。

 

それに気が付かずにサリーに気を取られているギルドは、オーブがないことに気がついて連携が崩れる。

そこを撃ち抜かれて壊滅させられる。

撃ち漏らしなどランがいる限り起こらない。

 

 

 

 

 

深夜一時。

サリーとランは一度も拠点に帰ることなくオーブ奪取に専念していた。

その分、得られたものは多い。

 

サリーのインベントリには18個のオーブが入っていた。

ランは居場所が割れるわけに行かないので持っていない。

それだけでも驚異的だが、サリーとランの目的はオーブを奪うことだけではなかったため、帰るわけにはいかなかったのだ。

とはいえその目的もようやく終わろうとしていた。

 

 

 

 

[サリー、敵100以上かも。でも、私の見える範囲外が多いから囲まれてるか分からない]

 

「……え?」

 

現在、かなりの距離が空いているランとサリー。

サリーがランの報告を聞いて、立ち止まり岩陰に身を隠す。

もう一度集中し直すとはっきりと分かるプレイヤーの気配。

 

それも十、二十ではない。

もっと多く。

そう、百よりも多い。

 

「ほんとだ、囲まれてる……!」

 

疲れのせいで気づかないうちに索敵能力がいつもより下がっていたのだ。

ランも、他の場所のマッピングのため、意識を向けていなかった。

 

バラバラと広い範囲で物陰に隠れているプレイヤー達に居場所がバレていることは明白だった。

 

「………このオーブのどれかが、大規模ギルドと繋がってた……!」

 

サリーはその答えに辿り着く。

しかし、どれかは確定させられないためオーブを捨てて逃げるわけにもいかなかった。

 

「……逃してはくれない、よね」

 

サリーはマップでこの当たりの地形を確認し、良さそうな場所を見つける。

その場所をいち早くランに送り、メイプルにも送っておく。

 

「……何としてでも帰ろう」

[場所に着いた。ポイントから2.5km、真東。先に白夜とエレクトリックリザード達を待機させとく。]

 

ランの目に付く範囲に召喚できる従魔達が先に居てくれることを知って少し安心する。

数がいるだけでもだいぶ楽になる。

覚悟を決めたサリーがその場所に向けて走り始める。

 

誰かの魔法が空に小さな太陽を浮かべており、これにより暗闇に紛れて逃げることも出来ない。

罠にかかったプレイヤーを見失わないようにしているのが明白だった。

周りにプレイヤーたちがいるのを感じながらランの従魔が隠れている場所に着く。

サリーにだけは見えている『モール』の作った罠などを確認しながらダガーを構える。

 

そして戦いの火蓋が切られた。

 

 

 

 

パンっ!

 

木の陰に隠れていたフレデリカの脳天をいち早くレールガンの弾が撃ち抜いた。

それによりドットに変わったフレデリカを見たプレイヤーたちの統率が一気に崩れていく。

 

[フレデリカがいた。集う聖剣で確定。]

[そっか…数で押し切られないように一斉攻撃にする。白夜達には後ろから襲わせて。じゃあ、行くよ!]

 

ランはサリーの指示通りに『モール』の作った地中動線に隠れていた白夜達を集団の後ろ側から放射状に攻撃させた。

サリーからだいぶ離れていて暗闇になっているので、ほとんどのプレイヤーがモンスターに気が付かず、襲撃されていく。

こうして、前衛が知らぬ間に後衛が減らされていく。

 

 

 

サリーがいる前衛はもっと残酷だった。

 

限界だった所に奇襲をかけられて限界突破したサリーは自分の感覚の変化に驚いていた。

今までの集中した自分の見ていた世界が高速に感じられる程に剣は遅く感じられた。

練習しても身につかなかった恐怖センサー…いわゆる勘も使えている。

それも、ドレッドよりも遙かに上手く。

 

ランも神経反射の域に達しているサリーの回避や攻撃を全て読んで、サリーにはかすりもさせずプレイヤーの頭を撃っていく。

ギリギリのところでもここに撃てば当たらない自信がある。

お互いが異常な集中力と理解度を持って共闘している。

だからこそ強い。

 

残り10人となったところで白夜達が倒された。

それでも、サリーとランにかかればその程度は簡単に倒せる。

そして、楓の木はたった2人で集う聖剣100人に勝ったのだった。

 



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器用特化と二日目

極夜の上に乗ってサリーとランは拠点に戻った。

極夜の上で力尽きたサリーは拠点に着いても起きなかったので、ランが今後の説明をした。

 

「メイプル解放策。護衛…マイ、ユイ。

防衛…カスミさん、クロムさん、イズさん、カナデ。私とサリーは休憩。

 

で…これ作った。カナデ覚えて皆に写して。私は…おや、す、み。」

 

ランも限界だったのか、説明とマップだけ残して寝てしまった。

 

ランもサリーもカスミによって洞窟奥の休憩スペースに運ばれた。

 

「うん、覚えた。じゃあ、皆マップ出して。」

 

サリーとランの思惑通り、この後メイプルとマイとユイは大活躍して12個のオーブを手に入れて返ってきた。

 

その途中で炎帝の国に機械神を見られた上でオーブを持って逃げられたが、そんなことが気にならないぐらいの成果がある。

 

 

 

 

「おはよ。」

ランが起きると全員が揃って話していた。

 

「炎帝ノ国はメイプルが罠の殆どを踏み壊したし立て直すのには少しは時間がかかると思うけど……やっぱりオーブを持って逃げられたのは痛いね」

 

「ごめんねサリー。結構探したんだけど見つからなくて」

 

「炎帝ノ国が周りを襲ってくれてるなら大丈夫なんだけど……どうだろう」

 

今回メイプルが炎帝ノ国を襲った理由は楓の木より上位に入るギルドを炎帝ノ国に減らしてもらうことであった。

 

楓の木が上位に食い込むためには大型ギルドに暴れてもらう必要が出始めていたのだ。

 

というのも、小規模ギルドは予想よりも早くその多くが駆逐されてしまった。

 

今は中規模ギルドと大規模ギルドの戦闘が多くなってきており、中規模ギルドを利用してのフィールド荒らしの効果が薄くなってきているからであった。

 

楓の木の目標は十位以内に入ることである。

 

十位以内ならば報酬は一位でも十位でも変わらないため現在はこれを目標としている。

 

そして楓の木は現在六位である。

他は全て大規模ギルドで埋まっているため一位よりも遥かに目立っていた。

 

「やっぱりあれだね。人数差があるから……」

 

「予想より高い順位だけどね。正直ここまでやれるとは思わなかった」

 

ただ、サリーとランが復帰したとしても現状一位まで駆け上がるのは難しいだろうことは明白である。

 

「まだ二日目だから追いつけるチャンスがない訳じゃない。けど……これ以上離されたくはないかな」

 

楓の木内で話し合った結果、イズとカナデを残して全員で夜の戦場へと出て行くことに決まった。

 

チーム三つで組み合わせはサリー、ユイ、マイの三人。

メイプル、カスミ、クロムの三人。

ラン1人である。

 

「じゃあ、行ってきます!」

 

「行ってらっしゃい。私とカナデはここで待っているわ」

 

サリーのマップは全員に写されているのでそれを見てそれぞれギルドを襲って帰ってくる予定である。

 

 

 

 

ランは極夜に乗って移動している。

シロップ同様その大きさゆえに目立つことは目立つのだが、二日目も日が落ちたこの時間なら極夜の黒色が空と合って目立ちにくい。

 

ランはその状態である場所を目指していた。

 

着いたのは集う聖剣のオーブから2.8kmの地点にあるランの中で一番狙撃しやすいスポット。

 

夜になり、集う聖剣も夜襲に出ているのか守りはドラグとペイン、そして、70人のプレイヤー。

 

ランはペインはここまでずっと攻撃だったので休憩だろうと予想した。

この予想は少なからず当たっている。

確かにペインは休憩中だ。

ただ、ドレッドとフレデリカに無理やり休まされている。

 

「ふっ」

 

短く位置を吐き、落ち着いたのを確認して引き金を引く。

 

狙うはもちろんペイン。

ドラグは足の遅さ故に先に撃たなくとも倒せると判断した。

 

ゲーム内4度目となる勝負もランに白旗が上がった。

 

ペインは完全な死角から攻撃されたことに気が付きはしても、咄嗟に上げた剣の数センチ上を弾は通過し、ペインをドットに変えた。

 

ドラグもドットになったペインを驚いた顔で見ている。

そして、次の瞬間自分もドットになった。

 

周りのプレイヤーたちはランの従魔によって蹂躙された。

 

ランは【強奪】でオーブを持って【電光石火】である程度の距離を稼ぎ、極夜でギルドに戻った。

 

 

 

 

集う聖剣のギルドは楓の木からだいぶ遠い場所にある。

それも1番遠いと言ってもいいほどに。

 

初日にペインが来ていたのはマッピングのため。

 

それ以外では近場のギルドからオーブを取っているため、楓の木の洞窟がある森に入ってすらいない。

 

そして、ランが集う聖剣のオーブを手に入れた時点で全員にそのことを伝え、45分前に解散した楓の木がまた集合した。

 

さすがに集う聖剣を相手取るのに誰か欠けている訳には行かない。

 

この45分間の間にもサリーたちが1個、メイプルたちが1個のオーブを獲得している。

 

このオーブを守りきれば大きなポイントになる。

 

ペインが2デスでステータスが15%下がっている。

ドラグとフレデリカも5%のステータスダウン。

 

そんなチャンスで逃げ出す楓の木では無い。

 

きっちり全員で準備をして集う聖剣を待つ。

 

 



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器用特化と聖剣

二日目もあと30分ほどになった頃。

楓の木の面々が待っていた人達が来訪した。

 

[数は10。主要4人以外は撃つね。]

[思った通り少数精鋭できたね…お願い。]

 

集う聖剣の主要メンバーを攻撃しないのは、ここで倒したとしてもランの攻撃しか見せられていないので、どこかでまた攻めてくる可能性が大きいからだ。

つまるところ、連合軍を相手取った時と同じである。

 

六連続で吐き出された弾はしっかり全員をドットに変えた。

 

ペイン以外は驚いて警戒していたが、ペインは知っていたかのように振舞っている。

内心でどう思っているのかはランには分からない。

 

洞窟の中にランが戻り、いよいよ全員の気がひきしまる。

 

「確認するよ。ペインさんの相手はメイプル。ドレッドさんはマイ、ユイ。ドラグさんはクロムさん。フレデリカは私。このマッチングで最初は確定させて、あとは戦況に応じて臨機応変に。」

 

サリーの采配を全員が確認したところで足音が近づいてくる。

 

「サリーちゃんにランちゃんやっほー!」

「ラン、オーブを持って行かなくても、こちらには出向いたというのに。」

「どうせ来るなら…オーブはとる。2人だってそうする。」

「そもそも、楓の木に手を出さないでくれたらオーブも取りませんよ。」

 

意外と親しそうに話す四人に周りは驚いているが、ペインが少しの殺気を放ってメイプルに話しかけたことで全員が戦闘態勢になった。

 

 

 

メイプルが天使の羽を天に伸ばし化物を召喚したのをきっかけに戦闘が始まった。

 

「 【多重加速】!」

 

フレデリカの魔法が【集う聖剣】の移動速度を上げる。

ドレッドとペイン、続いてドラグが前に出る。

 

「「【飛撃】!」」

 

「当たらねぇよ!」

 

マイとユイの攻撃はドレッドに当たらない。

 

そして最前線にいたユイとマイにドラグからの攻撃が入る。

 

「【土波】!」

 

斧を叩きつけた地面が波打ちバキバキと裂けて弾けユイとマイにぶつかる。

メイプルのお陰でダメージは無かったもののドラグの特性である【ノックバック付与】は別である。

 

メイプルが後退し最前線のユイとマイが【身捧ぐ慈愛】の範囲から抜ける。

 

それは偶然に起こったことではなかった。それを裏付けるようにドラグとドレッドがユイとマイに突撃する。

 

メイプル達はこの二日目で派手に暴れた。特に【炎帝ノ国】との戦いはメイプルとユイとマイの異常性が大いに発揮された戦いだったと言える。

 

【集う聖剣】の偵察部隊が静かにその様子を見ていたことにメイプルは気づかなかった。

故に【集う聖剣】は知っている。

【身捧ぐ慈愛】の弱点を。

メイプルの武装展開を。

メイプルの大盾に回数制限が追加されていることを。

 

その上で計画を立てて本気でメイプルの首を取りに来たのだ。

 

「【カバームーブ】!」

 

「やらせるか!」

 

「【魔力障壁】!」

 

カスミがドレッドをクロムがドラグを止め、カナデが魔法で守りを固める。

 

メイプルが崩れてもクロムやカスミもトップレベルのプレイヤーだ。

攻撃をいなすことには慣れている。

 

「メイプル!解除した方がいい!」

 

「う、うん!分かった!」

 

サリーの声を聞いてメイプルが【身捧ぐ慈愛】を解除する。

 

対策を立てられていることが分かった以上、貫通攻撃が次々に飛んできてもおかしくない。

そして実際、後方からのフレデリカの魔法には防御力貫通能力のある魔法がほとんどだ。

 

メイプルにも直接向かうその魔法は流石に大盾に受け止められるが動きにくくなるため厄介だ。

 

ドラグとドレッドに五人が引き付けられたその一瞬にペインがさらに先へと進む。真っ直ぐにメイプルを見据え、盾と剣を持って駆ける。

 

「行かせない」

 

サリーが二人の間に立ち塞がり、次のどんな行動も見逃すまいと集中する。

 

「ドレッド!」

 

ペインが叫ぶ。それによって反応したのはドレッドとドラグとフレデリカだ。

 

「【神速】!」

 

「【バーサーク】!」

 

それぞれのスキルによってドレッドの姿が消え、ドラグのスキル後の硬直がなくなった。

二人が強力な切り札を使ったところでフレデリカの声が響く。

 

「【多重全転移】!」

 

フレデリカの切り札の魔法がドレッドとドラグにかかっていた全ての効果をペインに移す。

ペインの姿は消え、その速度は跳ね上がった。

 

「【超加速】」

 

さらに加速したペインがサリーを振り切る。

サリーにはペインの位置を掴むことは出来ても追いつくことが出来なかった。

それはレベルの差。

 

サリーとペインには二倍以上のレベル差があり、元々のステータスがサリーよりも高い。

戦闘となれば反応し躱すことで互角以上に戦えるかもしれないが、相手にされなければ意味がない。

 

「ど、どこ!?」

 

ペインを探しつつ大盾を構えるメイプルは大盾のない側を警戒していた。

その背丈よりも大きい大盾はその身を守ってくれるだろうと。

それ故に大盾の向こうから声が聞こえたのは予想外だった。

 

「【断罪ノ聖剣】!」

 

姿を現したペインの光り輝く剣が数瞬の溜めの後に振り抜かれる。

四人分の切り札を一点に集め、その首を取らんとする。

 

しかし、ペインの動きを読むことが出来る者がいた。

 

[メイプル【暴虐】!]

 

ランはサリーの【超加速】中でも完全に合わせることが出来ていた。

それは動体視力と観察眼による予測から成り立っていた。

 

ランは第1回イベントから幾度も見てきたペインの動きから次の攻撃を予測した。

 

「【暴虐】!」

 

数瞬の溜めの間に発動したそのスキルにより、メイプルは5桁近い防御力と1000のHPを持つ化け物になった。

 

【断罪ノ聖剣】は確かにメイプルに当たった。

しかし、それでもメイプルを倒せなかった。

 

「【カウンター】」

 

ノイズの混ざる声を聞いたペインが見たのは一条の火柱。

それは化け物の口から放たれていた。

 

自身の最大威力攻撃が跳ね返ってくる。

 

「ぐっ……まだだ…!【破砕ノ

 

ペインもHPを1だけ残して耐えた。

そして、メイプルに再度肉薄しようとした。

確かに同じレベルの攻撃をもう一度食らったら1000のHPは削れるだろう。

 

「いや…もう終わり。」

 

後ろから聞こえた声にペインはゾッとした。

頭では今すぐこの場を離れなければいけないことを理解している。

しかし、スキルを発動しかけている体は思い通りに動いてくれない。

 

次にペインが見たのは自分の心臓部から生えた光の剣。

 

ランが【凪】によって姿を消し、後ろからレールガンで切った。

それだけの事とは言え、ペインの意識が完全にメイプルに向いた瞬間を狙って姿を現している。

 

これはランがゲームをしている内に癖になってしまったことに関係している。

 

2層が実装された頃にメイプルがゲーム内での動きをリアルでもしてしまったことがあったように、これはランのリアルにも影響していた。

 

しかし、これは悪影響ではなかった。

癖というのは人の意識がどこに向いているかを意識すること。

 

死角からの狙撃をし続ける上で人の意識がどこにあるか見るだけでわかるようになった。

 

その癖によって完全にメイプルに意識が向くまで隠れ続け、完璧なタイミングで現れることが出来たのだ。

 

 

 

 

闇夜に紛れてフィールドを徘徊する化け物とその肩に乗るプレイヤーたち。

 

集う聖剣を倒しきり、6つのオーブをポイントに変えた楓の木はオーブを持ち出して他のギルドを総攻撃で襲い始めた。

 



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器用特化と仕上げ

メイプルが持つ最後にして最大の異常性が知れ渡る前に、大規模ギルドが何の準備も対応も出来ない内に荒らし尽くす。

 

大規模ギルドからすれば半ば交通事故のようなものでどうにもならない。

意味も分からないままオーブとギルドメンバーを失い、標的は去ってしまう。

 

それがサリーがたてたプラン。

 

人間味を犠牲に機動力を手にしたメイプルとその方に乗った楓の木のプレイヤーにより一夜の内に大規模ギルドの多くが荒れ果てた。

 

化物形態のメイプルの強みは、メイプルには貫通スキルというもはや決まりきったその行動パターンを引き出すのに時間がかかることだろう。

 

そして、その行動に移るかどうかというところを見極めてサリーが撤退の指示を出すのだ。

こうして被害は拡大していったのである。

 

 

 

またメイプルの肩に乗って移動を始めた楓の木のプレイヤー達の中でランだけはレールガンを構え続けている。

 

周りで戦闘が起こっているところは松明や魔法で明るく照らされている。

 

そこを狙って【千里眼】を発動させ、狙撃している。

 

「あっ…ペインさんとドラグさん…みつけた。」

 

ほとんど作業のように呟かれた言葉の後に2発の弾がレールガンから飛び出していく。

 

その呟きを聞いてしまったイズは見えない敵に心の中で手を合わせるのだった。

 

 

 

平原に拠点を構えるギルドで灯りを消して目立たないように夜を過ごそうとしているギルドというのもあった。

大規模ギルドは拠点が野晒しになっていることが多く、中でも平原は最も防衛に適さない地形だった。

 

「月明かりも弱いし……真っ暗だな」

 

「第二回イベントの時も思ったが夜は行動しにくくて辛いよな」

 

メイプルの方の上でカスミとクロムが話していることはもっもとだ。

ここまでの戦闘では魔法が明かりになることも多かったが、これからもそうとは限らない。

 

するとその会話を聞いていたランが肩から降りて右足で1回地面に叩いた。

すると右足に着けたアンクレットから極夜が出てくる。

 

「そうやって呼び出してたのね。」

「確かに指輪してないとは思ってたけど…」

 

イズ達の言葉からわかるようにメイプル以外にはこの召喚方法を見せていなかった。

 

「極夜【視覚共有】」

 

極夜はランの肩の上に止まり、楓の木の全員と視覚を共有した。

これによって楓の木の全員が暗視スコープをつけているのと同じ効果が得られる。

 

「不思議な感じです。」

「見えてるのに見てないみたいな…」

 

早々に慣れたメンバーはそのままに、慣れなかったサリーとユイは共有しないようにした。

その状態で蹂躙が続いていく。

 

多少効率的になったことで、集まるオーブも増えた。

 

「じゃあ、ランとイズさんはオーブを持って拠点防衛に戻ってください。」

 

ここまでに集めたオーブは7個。

それらと自分たちのオーブを持って拠点に戻る。

もちろん極夜に乗って。

 

 

 

 

[イズさん、出てきて貰えますか?]

 

拠点に戻ってから1時間が経過した頃。

取り返しに来たプレイヤーは軒並みランに撃たれ、撃たれなかったものは従魔にやられている。

 

イズは暇をしていたのもあってすぐに洞窟の入口に向かった。

 

「ランちゃーん?」

 

暗闇の中でランを見つけることが出来なかったイズは声を上げる。

 

「こっち…です。」

 

すぐ横から聞こえた声にびっくりしながら、要件を聞く。

 

「移動式ギルドホーム…出せた、ので、お風呂…どうぞ。」

 

イズは大喜びしながらお風呂に入っていった。

その後、きっちり3時間守ったオーブが全て元の場所に戻されたのを見て、安心したランもお風呂に入った。

 

お風呂から上がってきたランが洞窟内に戻ると全員が帰ってきていた。

 

集う聖剣と炎帝の国が大規模ギルドを潰し回っているそうなので、楓の木が出る必要はなくなったらしい。

 

しかも、今残っているギルドは6つ。

その全てが10位以内を確定している。

 

この先、簡単に戦闘は起こらなくなるだろう。

サリーの予想通り、順位変動もなければ争いもない平和な三日目が始まった。

 

 

 

楓の木のプレイヤー達は移動式ギルドホームに乗り込んで空を徘徊していた。

 

機内では【料理X】を持つイズと【料理VI】を持ち、フィールド上の美味しい果物や野菜を集めていたランによるプチパーティーを開いている。

 

皆が楽しそうに飲み食いしている映像がデスプレイヤーの待機室や各階層の広場に移されたことで、イベント後に【料理】のレベル上げやフィールドの食材集めが流行ったことはご愛嬌。

 

そのランは調理が終わったあと、開けた窓から下をずっと眺めている。

 

「ペインさんとドレットさん、と誰か…サリー、あの人たち、撃っていい?」

 

サリーに確認を取ったのはドレットがいるから。

空中では反撃が来ることは無いので簡単に許可が出た。

 

ランはすぐさま狙撃した。

ペインとドレット、その近くにたまたまいたシン

の頭がはじけ、ドットとなって消えていった。

 

この瞬間、イベント外のプレイヤー達にざわめきが起こった。

ペインが5デスされ、失格となったのだ。

 

しかもその5回が全て同じプレイヤーからのものとなると驚きも大きくなる。

 

そんなこともつゆ知らずラン達は楽しくフライトを満喫している。

 

途中からそれでも暇になった楓の木の面々がリーグ戦のようにバトルしていった。

 

白熱したのはランVSメイプルとマイVSユイ。

 

とまあ、そのまま時間が流れ、イベントが終了した。

 

 

 

イベントが終わったあと、打ち上げはしていたので特に集まらなかったが、たまたま会った楓の木と集う聖剣と炎帝の国のトッププレイヤー達はフレンド登録をした。

 

 

 

イベントの次の日。

公式動画が配信されてから3時間後。

 

780名前:名無しの大盾使い

やあ

 

 

781名前:名無しの弓使い2

こんにちは

 

 

782名前:名無しの槍使い

おう動画見たぞ

 

 

783名前:名無しの弓使い

今まで歩く要塞だの人外防御だの言われてたのが飛ぶ要塞と人外になってて

もうどうしたらいいんですかね?

 

 

784名前:名無しの大剣使い

ちょっと前までは人だったんだがなぁ

中身はともかくな

 

 

785名前:名無しの大盾使い

ちょっと目を離した隙にすくすく育っててなあ

 

 

786名前:名無しの魔法使い

どう育てば武装展開やら身体変化やらするようになるのか

ご教授願いたい

 

 

787名前:名無しの弓使い2

メイプルは可愛い、面白いに対して躊躇がないので…何をしでかすかわからない思考なんです

 

 

788名前:名無しの大盾使い

本当電光石火なんだよ

ほんの一日だけ目を離したらその瞬間に一皮剥けてくるんだよ

 

 

789名前:名無しの槍使い

一皮?ひとかわ?ほよよ

 

 

790名前:名無しの大剣使い

一皮剥けて成長というか突然変異クラスだろうそうだろう

 

 

791名前:名無しの弓使い

と言うか楓の木は全員まともじゃないぞ

クロムの映像見て確信したぞ

 

 

792名前:名無しの弓使い2

カスミさんはまともですよ?

 

 

793名前:名無しの槍使い

>792

自分がまともじゃない自覚あんのかよ

 

 

794名前:名無しの大剣使い

でもまあ一対一なら何とかなりそうだろ

ならない奴がヤバい奴

 

 

795名前:名無しの大盾使い

まじめな話サリーちゃんに一対一で勝てる奴ランとメイプル以外にいる?

俺はギルドホームの訓練場でやってみたが無理だった

 

 

796名前:名無しの弓使い

躱すんだっけか?

動画で見た感じだともう少しでって感じなんだがな

 

 

797名前:名無しの魔法使い

そういや、動画の最後にあった楓の木のバトルはどこでやってたんだ?

 

イベント中にギルドメンバーでダメージ与えられるって…そんな場所あったか?

 

 

798名前:名無しの大盾使い

あー、企業秘密

 

 

799名前:名無しの弓使い2

右に同じです。

 

 

800名前:名無しの大剣使い

それは置いといて、楓の木の噂というか話?

溢れ返ってるな〜特に今回のイベントでの動画がインパクト強すぎ

 

 

801名前:名無しの槍使い

神魔大戦とか終末の日とかまあ凄まじい呼ばれ方してる三日目、朝方な

 

 

802名前:名無しの大盾使い

分裂したからな

まああれはメイプルちゃん一人では無理らしいが

 

 

803名前:名無しの弓使い

絶無の希望がひとつまみの希望になるだけで大した差はないです

 

 

804名前:名無しの大盾使い

でも、一体だけならペインが倒しかけたぞ

 

 

805名前:名無しの槍使い

ペインといえば5デスした瞬間こいつも失格するんだなって驚いたわ

 

 

806名前:名無しの魔法使い

一人で5デスさせるってやばいだろ

ペインだって対策たてるだろうに

 

 

807名前:名無しの弓使い

その上で対応できてねぇんだろ

 

 

808名前:名無しの弓使い2

今回は偶然の産物ですよ。

 

 

809名前:名無しの大盾使い

いや、ランはうちのギルド内でメイプルに1番多くのダメージを入れたからな

 

 

810名前:名無しの槍使い

ちなみにどんぐらい?

 

 

811名前:名無しの弓使い2

確か残りダメージ3です。

 

 

812名前:名無しの大剣使い

1番入れて倒してないのかよ!?

極振りってことはHPそんな高くねぇだろうけど、他のやつは?

 

 

813名前:名無しの大盾使い

VIT5桁にそう簡単にダメージが入るかよ!

 

 

814名前:名無しの槍使い

は?5桁!?

 



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器用特化と金翅の恩恵

イベントが終わって一週間。

楓の木では三週間後の第四層追加日までは各自が暇を持て余していた。

 

ただ、ランだけは違った。

ランはイベントの二日後から研究所に籠り、本の読解に力を注いでいる。

 

雷機関研究所の日本語で書かれていた大元の資料をまず読むと、「HP概念のない攻撃用オートマターを創り出し、人間に従属させて対モンスターへの永続的な兵器とする」ことが最終目標らしい。

 

そのために電気や磁力、機械と言ったものの研究と完全従属の研究がされていたそうだ。

 

(…永久機関の完成ってこと?)

 

外部からのエネルギー供給を行わずに外部への仕事を続ける機関を永久機関という。

 

ただしこれは18世紀の物理学者たちによって人間の力学的方法での実現が不可能と提唱され、19世紀の科学者たちによって熱量使用の方法でも不可能とされた。

 

それを完成させようと言うのだ。

ただ、こればゲームであり魔法が使える世界。

構造不明のモンスターもいるぐらいなので、ランは可能かもしれないと思った。

 

 

 

ランが手に取ったのは本棚の中で一冊だけ綺麗に保管され、表紙や紙の質からも重要なのが伝わってくる本。

 

本の半分以上が本棚から抜けない中で、綺麗で読める本というのはランの興味をそそる。

 

タイトルは『जगमगाता हुआ पक्षी और भगवान』。

…これは読めない。

 

ただ、中をめくっていくとभारतという単語を見つけた。

ランは昔読んだ世界の国の本に書いてあったな…と思い、必死に思い出す。

 

(あ、ヒンディー語でインド…)

 

思い出したことで、この本がヒンディー語で書かれていることを理解したランはカナデにヒンディー語を読めるか聞いてみた。

 

[カナデ、ヒンディー語読める?]

[いきなりだね。単語は読めるけど文章は無理。]

 

ランは少し考えたあとログアウトした。

その足で藍の家の近くにある図書館に行ってヒンディー語の辞書と文法講座と書かれた本を借りた。

 

その日はそれを読み耽っていた。

 

 

 

 

次の日。学校を終えて直ぐにNWOにログインし、研究所に入る。

 

昨日の勉強でタイトルのजगमगाता हुआ पक्षी और भगवानが炎鳥と神と訳すことがわかった。

 

中身を読んでいくと、一般的でない単語が多くてほとんど読めないのだが、एक ड्रैगन【訳:龍・蛇】तबाही【訳:退治する】पक्षी【訳:鳥】という文が何度もでてきた。

लौ【訳:炎】という言葉が1番多く出てくるのだが、その単語の直前に毎回ついているसोने का पंखが分からない。

他にはभगवान【訳:神】が多く出てくる。

 

ただ、今わかる範囲で何のことについて書かれているのかを考える。

 

(炎を使って龍や蛇を退治するインドの鳥…大鵬金翅鳥かな。あとは…鵬魔王とか?

となるとसोने का पंखは金翅。)

 

大鵬金翅鳥。またの名をヴィナマ・ガルダ。

インド神話で炎の様に光り輝き熱を発する神鳥で、ヴァーハナ(神の乗り物)として扱われていた鳥。

蛇や龍といった人々に害をもたらすものをや主以外の神を倒す聖鳥として、長い間崇拝されていたという。

 

鵬魔王はその主。

神の子供で同じく龍や神を倒す存在。

 

 

 

そこからの日々は忙しかった。

ログインして本を読んでは分からない単語が出てきてログアウトする。

そして、辞書を読んで単語がわかるとまた戻ったり、辞書を読み進めたりする。

その繰り返し。

 

たまに気分転換に『エレクトリックリザードの根城』に挑戦してはレベル上げをしていたが、それ以外はほとんどしていない。

 

この間のイベントでペインとのレベル差を感じることがなかったらダンジョン攻略すらしていなかっただろう。

 

それでも着実に読解は進み、あと二日で第四層が追加されるという日に完全に読み解くことが出来た。

 

「ヴィナマ・ガルダは最高位の神鳥である。

対神・対龍の恩恵を持ち、人々を苦しめんとする龍蛇を駆逐し、主以外の神と敵対していた。

 

しかしそれほどの力を持っているにも関わらず、混天大聖<天を混沌せし者>”…つまり七大妖王の第四席の側仕えに収まっている。

 

混天大聖、またの名を鵬魔王。彼女自身も対神・対龍の恩恵を持つ。

 

対神・対龍の恩恵を持つ神同士がぶつかる時、決め手になるのは己が霊格。

ヴィナマ・ガルダには人々からの信仰という大きな霊格があった。

 

それでも、彼女には勝てなかった。

 

彼女を象る霊格は大きくわけてふたつ。

ひとつは迦楼羅天の娘という神霊の霊格。

ひとつはインド神話群に置いて、帝釈天に比肩する姫でいて欲しいという人々の願いからなる存在意義そのもの。

 

ヴィナマ・ガルダはそんな霊格を持つ彼女に付き従うようになった。

 

しかしある時2人(2匹)に悲劇が訪れる。

 

雨が降らなくなった乾時期。

人々は少なくない太陽の加護を受けて金翅の炎を操る2人を良しとしなかった。

それどころか2人を完全な悪とみなすものさえ現れた。

 

彼女らは人々を傷つけることが出来なかった。

元々神霊と神が悪意を持って作り出した龍を倒す存在である。

そんな彼女らに、神が寵愛した人間を攻撃することなどできる道理がない。

 

そのために人々の数の暴力によって祠に封印されてしまった。

 

祠は2人を封印したまま月日がたち、今ではその出来事を悔やんだ後世の人々によって生前よりも多くの信仰を集めている。」

 

そんな内容の物語から始まり、その祠の特徴とヨーロッパ圏で半神霊を隷属させた話が書かれていた。

 

(ヴィナマ・ガルダと鵬魔王を隷属しようとしている?そんなことが出来るのかな?)

 

少し疑うランではあったが、早速特徴に会う祠がないか探し始める。

しかし、なかなか見つからない。

自分が知らないだけかと思い、情報ツウのサリーやクロムに聞いても知らないという。

 

ランは諦めかけたが、なにか思いついたのか研究所の本を読み直し始めた。

 

「赤く染まりし祠の広間。悪魔の像が象られたその中に…」

 

ランは気がついた。

〝赤い祠〟ではなく〝赤く染まりし祠〟と書かれている。

つまり、祠自体は赤くないが何かの拍子に赤くなる。

 

(赤だから炎…いや、夕日か。

夕日で広間が赤くなるなら西向きの祠で、地底祠や海底祠じゃない。そして悪魔の像。この条件に当てはまるのは一層の端、メイプルがクリアした毒竜のダンジョンの近くにある祠だけ。)

 

元々多くない祠からこれだけの条件が合致するところはそうなかった。

 

ランは時間を確認した。

現在の時刻は5時20分。

 

このゲーム内では夕日は毎日に数十分だけ現れる。

時間は毎日違うが今日は5時30分だった。

 

ランは急いで一層に行き、極夜で祠に向かう。

着いた時には5時30分まで残り1分だった。

 

ギリギリ間に合ったランは広間にある鎖で縛られた悪魔の像の横に立つ。

 

時刻が時間が5時30分になり、夕日が差し込んでくる。

夕日が正面から当たった悪魔の像は足下が輝いている。

 

ランは恐る恐る触ってみると、コンコンと台座の中で音が反響している。

 

ランは覚悟を決めてレールガンを構えた。

その銃口は輝く足元を向いている。

ランの指がトリガーを引き、台座がそれに呼応するように壊れる。

 

すると祠全体が光り出した。

ランは眩しさに目をつぶる。

 

しばらくして目を開けてみると、目の前に美しい女性と大きな一羽の鳥がいた。

 

「これが、鵬魔王とヴィナマ・ガルダの輝き。綺麗…」

 

ランはその神聖さと美しさについ言葉が漏れた。

2人は顔を見合わせると頭を垂れた。

 

「私たちを解放して下さりありがとうございます。私は混天大聖:鵬魔王。この子は大鵬金翅鳥:ヴィナマ・ガルダ。このご恩は一生忘れません。」

[自分たちは封印の影響で十全に力を発揮できませんが、願うことなら、自分たちを貴女様の末席に加えていただけませんか。]

 

ランは自分なんかの下でいいのかとも思ったが、彼女らが自らの意思で決めていることならと了承した。

 

「分かりました。私はラン。これから…よろしくお願いします。」

 

こうして、ランは対神対龍の恩恵を持つ神霊を仲間にした。

 

(…あれ?機械神と毒竜に勝てるようになった?)



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器用特化と四層

更新できなくてすみませんでした<(_ _*)>
アニメ勢なので…というのは言い訳ですが、何も無いとネタが!


27、器用特化と四層

 

あの日から二日。

この日は第四層が追加される日だった。

 

理沙に学校で見に行かないかと誘われたのもあったが、誘われていなくてもそのうちログインしていただろう。

 

視界が光に包まれ、それが消えた時には三層の町が広がっていた。

周りを見渡すとメイプルとサリーが手を振っているのが見えたため、ランは2人の方へと向かった。

 

「どうする?早速行く?」

「三層のボスはメイプル一人でなんとかなるだろうし……行ってみようか。ランも気になるでしょ?」

「なる。」

 

ログインするタイミングを合わせている訳ではないので、今【楓の木】でログインしているのは3人だけだった。

今先に上層へと上がってももう一度ギルドメンバー全員でボスを倒さなければならないだろう。

それでも3人は新層への興味には勝てなかった。

 

 

 

 

どんなボスかも確認しないまま【暴虐】状態のメイプルはその背にサリーとランを乗せてフィールドをダンジョンに向かって駆ける。

 

既にこれがメイプルであると知れ渡っているため機械で空を飛んでいるプレイヤー達から攻撃されることはない。

ただし注目されるのは変わらない。

 

モンスターを轢きながらダンジョン内を進みボス部屋に到達するとメイプルはその扉を開けて中に入った。

 

「サリー?ラン?着いたよー!」

「おっけー!さっさと終わらせよう」

「援護する。」

 

部屋の奥にいたのは3人の三倍近い背丈の鋼のゴーレム。

もしもゴーレムに意識があったなら、扉を開いて顔を覗かせた相手が化物だったことに頭が真っ白になっていただろう。

 

「【幻影世界】!」

 

サリーだけでもメイプルは四体になる。

四体のメイプルは鋼で出来たゴーレムに巻きつくようにして攻撃を開始する。

 

それに対抗してゴーレムも攻撃をするものの当然メイプルにダメージは入らない。

それを見たサリーは安心して、その場に座って朧の頭を撫で始めた。

ランも白夜を出して戯れている。

 

しかし、そんな2人をメイプルの焦った声が引き戻す。

 

「2人とも!?どうしよう!?」

「えっ!?何!?」

「どうしたの?」

「ダメージ入らないんだけど!?」

「えっ!?」

「ほんとだ…」

 

2人がゴーレムを見るとゴーレムのHPは全く減っていなかった。

 

運営は考えていた。

自然に【暴虐】状態のメイプルを封じられる方法を。

 

そして思いついたのは理不尽なほどの攻撃力を持ったボスを配置することではなく、高い防御力とHPを持ったボスを配置することであった。

 

メイプルの天敵は超高火力のボスではなく、同じ個性を持った相手だった。

 

メイプルには貫通攻撃スキルがない。

ゴーレムもダメージを与えられない以上この戦いに決着はない。

一対一の場合にメイプルを抑える方法である。

 

「これは私達が何とかするしかないか」

「そうだね。」

 

サリーは現状を把握しダガーを抜いてゴーレムへと走り出した。

 

ランもレールガンを構えて撃ち始める。

 

 

 

そうして戦うこと20分。

サリーが【剣の舞】の強化を最大にし、ランが【黒稲妻】を使ったこともあってこの勝負は終わりを迎えた。

 

「はぁ……ミスったな」

「疲れた…」

「だね……結構大変だった」

 

ここをさっと突破して第四層を見に行こうとしていた3人としては出鼻を挫かれた形になったものの、3人は気持ちを切り替えて第四層へと向かった。

 

「どんなところかな?」

「綺麗なところがいいな…」

「ほら、見えてきた」

 

サリーが走り出し、メイプルとランも追いかけた。

 

第四層は常闇の町。

星の煌めく夜空に赤と青の二つの満月。

 

今までで最も大きなこの町は全ての建物が木製であり和の様相を呈していた。

町中を水路が走り、灯りは静かに道を照らしている。

 

町の中心に見える一際高い建物には一体何があるのだろうと心は躍る。

 

「探索する?しちゃう?」

「ギルドホームへ行ってから…」

「うう、そっか」

 

3人ははやる心を抑えてギルドホームへと向かった。

 

 

 

 

ギルドホームの位置を確認し、内装を一通り見て回ったところで【楓の木】の残りのメンバーがログインしたことにサリーが気付いた。

 

「ごめん2人とも、手伝いに行ってくる」

「じゃあ、私も行くよ。【身捧ぐ慈愛】で守るだけだけど」

「私は研究所に行く。」

 

一旦別れた3人だが、マイユイの攻撃力によって、ボス戦はほとんど時間がかからなかったのですぐに集合した。

 

新たな町にやって来た一行はそれぞれがバラバラに広い町を探索に向かった。

後でどんなものがあったかギルド内で情報共有することで町の全容を把握するためである。

 

ランは一人、道を歩いてはキョロキョロと何があるかを見ていた。

 

そうして道を歩いていると漢字で壱と書かれた板が貼られた大きな赤い鳥居が見えてくる。

ランがその下を通ろうとすると許可証確認という音声が聞こえた。

 

試しにランはゆっくりと足だけを伸ばして何も起こらないことを確認すると一気に鳥居の下を越えた。

 

第4回イベントの10位以内の景品であった伍と書かれた通行許可証はここで使うものらしい。

 

ランはそれを確認して再び歩き出した。

 

内側へと向かうためには通行許可証が必要である。

そして当然、内側へ行けば行くほど良い装備や良いスキルに巡り会える可能性は高まるという訳だ。

 

ランは肆の鳥居をくぐった所で裏路地から悲鳴を聞いた。

 

咄嗟に向かうと、傷だらけの白い鬼が一人の少年を庇っている。

相手は狼…いや、フェンリル2体。

 

神性の高いフェンリルに対して鬼では分が悪いのだろう。

フェンリルには鬼の攻撃がほとんど通っていない。

 

「迦陵、アナ、助けてあげて。」

 

迦陵は鵬魔王、アナは大鵬金翅鳥につけた名前だ。

アンクレットから呼び出した2人にフェンリルを攻撃してもらう。

 

2人の戦闘は初めて見たけれど、1人でもオーバーキルだったのではという威力だった。

少しでも神の要素があれば2人の相手では無いのだろう。

 

私はその間に鬼に【ヒール】を使う。

 

(メイプルにもサリーにも使ったことないな…)

 

確かにそうなのだが、少し場違いなことを考えている間に鬼は完全に回復した。

 

「お姉ちゃんありがと。」

 

少年も鬼も言葉が通じるようなので、鬼に何があったのか聞いてみる。

 

「こいつはクリシュナ。本来は聖仙であり、救世主思想の原点に立つ英傑。だが、多くの姦計に関わったことを他の神軍…というかユースティティアに裁かれて、人の子供として下界に落ちてきちまったんだよ。

それを親方が助けたんだがな…ちと、周りの環境に馴染めなくて逃げ出したところを何者かの使い魔に襲われたんだよ。」

 

「なるほど。じゃあ、貴方は?」

 

鬼は名乗っていなかったかという顔をしたあと口を開いた。

 

「俺には名前が無い。親方…ラクシャーサ様に作られた白鬼夜行の一部だからな。」

 

ラクシャーサは仏教十二天の一人、羅刹王のヒンドゥー教での呼び方。

鬼を統べり、統括する神。

 

毘沙門天に仕え、毘沙門天に任された遊郭の取り締まりを行っているという言い伝えがある。

 

「百鬼夜行じゃない?」

ボソッと呟いた言葉は鬼に届かなかった。

 

「まあ、そこの大鵬金翅鳥なんかには負けるかもしれないが、俺もそこそこ強いんでこいつを探すのに抜擢されたんだ。フェンリルにはかなわなかったがな。」

 

その後、クリシュナを助けた件について親方に報告したいと言われ、親方の元へついて行くことになったのだが、その場所が捌の鳥居の奥にあるそうなのだ。

 

「私伍までしか入れない。」

 

「じゃあ親方に言って捌までは入れるようにしてもらうよ。ちょっと待ってな。」

 

ランはそんなことが出来るのか…というかしていいのかと思ったが口に出さない。

 

鬼は耳に手を当てて話し始めた。

見た感じ念力の類だろう。

 

「親方、クリシュナを捕まえたぜ。そんときに助けてくれたランって人間を連れていきたいんだが、伍までしか入れないんだ。どうにかしてくれ。…ああ、分かった…おう…じゃあ。」

 

伍の鳥居に番人を待たせておくので、その人に捌まで入れるようにしてもらうように。

 

その伝言通り鳥居のところで捌までの許可証を手に入れ、親方に会いにいく。

 

だんだん進んできて、もうすぐ会えるという所でランは気になったことを聞いた。

 

「ここ…遊郭?」

「おう、親方が毘沙門天に任されたんだ。」

 

あの伝承は本当だったか…と若干呆れたランだが、周りの環境を観察して子供のクリシュナが馴染めないのがよくわかった気がする。

 

ここの空気は不思議だ。一見煌びやかで澄んでいるのにドロドロとした空気が地を這うようにこびりついている。

 

クリシュナも怖いのかランの手を握っている。

 

しばらくすると他の店と比べても立派な装飾の施された暖簾がかかる店が現れた。

鬼とクリシュナがその暖簾をくぐって中に入っていったのでランも続く。

 

「親方、帰ったぜ。」

「お…お邪魔します。」

 

目の前には全身真っ黒で髪だけ赤い鬼。

左の腰に提げた刀と全身を包む鎧が威圧感を出している。

 

「おう、お前がクリシュナを助けてくれたって言う人間か。代わりに礼を言うぜ、ありがとな。礼と言っちゃなんだが、これをやるよ。」

 

そう言ってラクシャーサがくれたのはスキル。

 

【白鬼夜行Ⅰ】

一分間白鬼を呼び出す。

鬼のステータスはスキルレベルに依存。

 

「スキルレベルは使えば上がっていくから…まあ、こき使うことだな。」

 

その後一言二言話した後に部屋を出て行こうとすると、コートの袖が誰かに引っ張られた。

 

下を見てみるとクリシュナが袖を引っ張っていた。

 

「遊ぼ?」

 

否定されることが分かりきっているような目で、しかし希望を含んだ声で聞いてくる。

 

「こいつの口癖なんだ。だけど俺らも忙しくてな…いつもあんまり遊んでやれねぇんだ。お前さえ良ければ遊んでやってくれ。」

 

「…いいよ。遊ぼ。」

 

クリシュナは驚き、喜び、興奮しとコロコロと表情を変えている。

 

ランはラクシャーサに店の裏なら好きに使っていいと言われたが、車3台分程の広場では満足に遊べないと思った。

 

すぐにインベントリから『移動式ギルドホーム』を出す。

クリシュナを連れて訓練場へ入り、その広大な空間でかくれんぼを始める。

 

隠れる場所などのあるフィールドは、ランとその従魔達が揃えば3分もかからずに作り出せる。

 

鬼は五体のコロモリ。

素早すぎることも無く、数も調整できるため適度な鬼となった。

 

クリシュナは初めこそランの呼び出した従魔に怯えていたが、どんどん打ち解け始め今では極夜がランに言われるでもなく背中に乗せている。

 

(楽しそう…良かった。)

 

心から笑顔になっているクリシュナを安心してみていると、横に迦陵が来ていた。

彼女もクリシュナを気に入ったようで良かった。

 

暫くして、ランがログアウトしなければいけない時間になった。

それをクリシュナに伝えると、もっと一緒に遊ぶと言い出した。

 

「また来るから…」

「やだ、夜も明日も遊ぶの!」

 

どうしたものかと困っていると、『移動式ギルドホーム』の前に白鬼が立っていた。

とりあえず、外に出る。

 

「まだ遊ぶ。」

「はあ…親方に聞いてやる」

 

鬼は少し困った顔をした後に耳に手を当てる。

そして驚いた後にクリシュナに耳打ちした。

 

クリシュナは喜んでランの方を見た。

 

「お姉ちゃんと一緒に行っていいって!僕バトルも頑張るからいっぱい遊んでね。」

「えっ…クリシュナにバトルさせる気は無いよ?」

「僕バトルも頑張るからいっぱい遊んでね。」

 

この言葉がデフォルトのようで話が噛み合わないが、とりあえずクリシュナが仲間になった。

クリシュナは蒼也(そうや)と名付けた。

 

黒い肌に映える青い目が印象的なクリシュナにぴったりの名前だと思う。

 

ひとまず、クリシュナにアンクレットの中に入ってもらいログアウトした。

 



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器用特化と天の雫

次の日はギルドホームで各自が探索結果を報告することになった。

 

「メイプルは?」

 

サリーがまずメイプルに話を振る。

 

「私は即死効果を手に入れて着物買ったよ!」

「……うん、後でゆっくり話すとして。ランは?」

 

次に話を振られたのはラン。

 

少し考えてみると迦陵達も報告してなかったことを思い出した。

 

「仲間が3人増えて…捌の鳥居まで入れるようになって…スキル貰って…神様と仲良くなった。」

「……それもあとで聞く。」

 

 

サリーは情報をまとめて話し始めた。

 

サリーが話し始めたのは通行許可証のことだった。

通行許可証がなければこの町での探索は十分に行えない。

 

そして、その通行許可証のランクを上げるためには面倒なクエストをこなしていかなければならないという訳だ。

 

クロムやカスミなども既に知っていたが、その手の情報を積極的に集めることがないメイプルとランにとっては初耳となる話だった。

 

ランは知らずに凄いものを貰っていたことに今更気がついた。

 

多くのプレイヤーが必要とする工程を何段階も飛ばしているのだから有利なのは間違いない。

 

その後、それぞれがここにこういったクエストがあるなどを話し合ったが、メイプルの受けたというクエストに挑戦したそうなメンバーは出てこなかった。

 

「最後はラン。まず仲間って?」

 

ランはアンクレットから3人を呼び出した。

メイプルとサリーはあまり驚いていなかったが、他のメンバーは驚いていた。

 

「自己紹介して。」

「私は混天大聖:鵬魔王。名前を迦陵といいます。よろしくお願いします。」

[私は大鵬金翅鳥ヴィナマ・ガルダ。名前はアナです。よろしくお願い致します。]

「僕は蒼也。お願いします。」

 

蒼也は迦陵の後ろに隠れながらだが、しっかり自己紹介をした。

 

「自立思考プログラムのNPC?」

 

蒼也の仲間になる時の言動から自立ではないだろうが、明確な否定材料となり得ないので取り敢えずサリーの言葉に肯定しておく。

その後にスキルと通行許可証が捌になった経緯を説明した。

 

皆のランを見る目がメイプルを見る目に似てきている…

 

 

 

次の日。

サリーがリアルの用事があるのでログアウトして、メイプルとランが2人で街を歩いている。

 

すると目の端に見たことある人が止まった。

 

「あっ、ミィだ。あっちは……何があったっけ?」

「分からない。」

 

ミィがキョロキョロと周りを見渡した後で細い路地へと入っていったのを見て、何があったか思い出せないメイプル達は同じ道を行ってみることにした。

 

前回のイベントをきっかけに知り合って結構仲良くなったミィに声をかけるのもいいと思っていたのだ。

 

曲がり角の多い道を進んでいくとミィの声が聞こえてきた。

 

止まる必要はないのにメイプルは立ち止まり、隠れる必要は無いのにランは隠れ、角からチラッとミィのいるだろう方向を見る。

 

「よしっ……癒されたらモンスター倒しに行こうっ」

 

そう言うと、ミィは青いパネルを出して装備を変更し始めた。

それだけではなく、見た目を変更するアイテムも使い始める。

 

赤い髪は真っ白になりロングヘアーに、服は青と白に変更し、ぱっと見ただけではミィだとは分からないだろう。

 

いつもの赤い姿が印象的なためだ。

 

「よっし!」

 

ミィは扉を開けて中へと入っていった。

 

「…………見ちゃいけないのだったよね?ど、どどどうしよう!?」

「…謝る。」

 

メイプル達は結果的に後をつけて覗き見をするということになってしまった。

 

2人は誰にも話さないということに決めて、それでもミィには見てしまったことを伝えることになった。

 

「とりあえず……入った店は……」

 

小さな看板を確認するとそこには【ふわふわふれあいルーム】と書かれていた。

 

「……よし。ふぅー……」

「緊張…する。」

 

メイプルとランは扉を開けて中へと入ると受付の人に代金を支払って奥へと進む。

 

そうして入った部屋の中はふわふわと浮かぶもふもふの猫が何匹もいた。

そしてその奥で緩みきった表情をして座っているミィもいた。

 

ミィはメイプルとランに気づくと抱いていた猫ですっと顔を隠した。

いくら変装をしていても割と仲良くなった相手と向かい合えばバレてしまうだろうことは明白だからである。

顔のパーツまでは変わっていないのだ。

 

メイプルとランはそんなミィに近づくと全て話して図らずも見てしまったことを謝った。

 

「いいよいいよ、それに……誰かには知ってて欲しかったかも。演技し続けるのも大変で……あはは……」

「本当、ごめんね。お詫びっていうか……何か出来ることがあったら言って!」

「私も。」

「……じゃあ、この後ちょっとモンスターを倒すのを手伝ってくれたり…」

 

メイプルとランはそんなことならと快く了承するとミィと共にしばしもふもふを堪能した。

 

 

 

 

ラン達は赤の服と演技でいつもの雰囲気に戻ったミィと今日限りのパーティーを組んだ。

 

「私足遅いから、【暴虐】!……行きたいところまで乗せていくよ!」

「ありがとう。」

「……の、乗るぞ?」

 

ミィは恐ろしい見た目の足からよじ登り背中に跨る。

ランはさっさと乗ってしまった。

 

ミィとしてはまさか乗ることになるとは思っていなかっただろう。

ミィはそのままメイプルに向かってほしい場所を告げた。

 

「おっけー、しゅっぱーつ!」

 

ぐんと加速して駆け出した化物はフィールドにいるモンスターよりもモンスターらしかった。

 

 

 

そうして暫く走った所で3人は目的地に辿り着いた。

 

「よっ……と。【炎帝】!」

 

ミィはメイプルから降り、ぐっと体を伸ばすとスキルを発動させた。

それを合図とするように次々とモンスターが現れる。

 

「私が倒さない方がいい?」

「うーん…レベル上げだから出来れば私が倒したいな」

「分かった。」

 

ランはレールガンを装備から外し、ダメージを与えすぎないように『水面の短剣』と周りに浮かんでいる星を使ってHPを削っていく。

 

絶対にトドメは刺さないのも全てのモンスターのHPバーを常に確認している観察眼による代物だ。

 

「【身捧ぐ慈愛】」

 

メイプルが発動したスキルはミィとランを完全に守りきる。

敵にすれば恐ろしいそれは味方にすると回避や防御という行動の存在を忘れてしまいそうになるほど頼もしい。

実際、ミィ達は防御行動を取る必要が全くなかった。

 

メイプルが横にいるだけでモンスターのHPを削ることを考えるだけでいいのだ。

 

「……これは、勝てない訳だ」

 

そうして移動しつつ狩りは続き、あらかた狩り尽くした所でミィは脱力した。

最後に移動して到着した湖を背にしてミィが座り込む。

 

「ありがとうメイプル、ラン。ごめんね、かなり付き合わせちゃった……」

 

ミィは素の状態でメイプルとランにお礼を言う。

 

「ううん、いいよ!でも、今日はそろそろ終わろうかな……眠たくなってきちゃった」

「確かに…少し眠い。」

 

現実世界でも夜は深まっている。メイプル達は今日のところはログアウトしようかと考えた。

 

「本当ありがとう、私も終わろうかな。いつもより張り切って攻撃したから疲れたかも」

 

「そうだ!じゃあ、最後にもう一度癒されていく?」

 

メイプルはそう言うと化物のお腹からドシャッと落ちてきた。

人型に戻ったメイプルはスキルを発動させ、ふわふわの毛玉になった。

 

ミィは恐る恐るそれに触れる。するとふんわりと柔らかい感触がする。

 

「中へ入ってきてー?」

 

「う、うん」

ミィは毛をかき分けて中へと入る。

心地よい柔らかさに包まれて体の力が抜けていく。

 

「あー……いい……」

「私も入りたい。」

「よかった、2人とも気に入ってくれて。」

 

メイプルより上に重なるようにミィが潜り込んで、ランは下の方に潜り込んでからしばらく時間が経過した。

 

そして、癒されていたその時、3人はぐっと毛玉が引っ張られる感覚を覚えそれぞれに反応する。

 

「な、何?」

「んん?」

「浮いてる?」

 

三人が揃って毛玉の側面からポンッと顔を突き出した。

 

毛玉は重力も忘れた様に湖の真上までふわふわと飛んでいった。

 

「メイプル、ど、どうなってるの!?」

「分からない!ランは?」

「分からない。」

 

湖の真上についた毛玉はそのまま空へ向かって上昇していく。

 

「これは……イベント?」

「どうだろう?もし落ちても私が守れるから大丈夫だけど……」

「何もしない方がいいよ…」

 

3人が水面から五メートル程上昇した所で湖の水が柱のように伸びて毛玉を包み込む。

しかし、それも一瞬のことで3人は光に包まれると、次の瞬間別の場所にいた。

 

「と、取り敢えず出るね?」

 

ミィは毛玉からすぽっと抜け出ると毛玉の真横に降りる。

ランも既に抜け出ていた。

 

メイプルはこのままでは身動きが取れないためミィに毛を焼いてもらい地面に降り立つ。

 

いや、正確には地面ではない。

 

「ここ、どこ?」

「……えっと、雲の上?」

「柔らかい…」

 

メイプルが今踏みしめているのは土ではなかった。

ふんわりと柔らかい雲だったのだ。

 

「すごい星……」

 

足下を確認したメイプルは今度は空を見上げる。

星々が眩しいくらいに輝いているのは、思わず見惚れてしまうような光景だった。

 

「うん、綺麗。星が降る夜ってこういう夜かな?」

 

3人はしばし夜空を眺めていた。

 

「……取り敢えず進もう。」

 

ランの提案にミィも乗ったので、メイプルを【ヒール】で回復してから、3人は雲の壁を乗り越え乗り越え先へと進んでいく。

 

そうして進んでいくとまっすぐに伸びる雲の道に辿り着いた。

3人はギリギリ3人が横に並べるくらいの道幅の道に足を踏み出した。

 

「ん?2人とも!上!」

「メイプル、【身捧ぐ慈愛】。」

「【身捧ぐ慈愛】!」

 

メイプルは一度は解除した【身捧ぐ慈愛】を再度使用し、ミィ達を守る。

 

直後、空から道に光る物体が降り注ぐ。

メイプルはそれを浴びつつバックし、避難する。

すると、雨のように降り注いでいたそれは止んだ。

 

二人は降ってきたものに当たりをつけることができていた。

 

「ミィの言う通り、星降る夜だった……」

「物理的に降ってくるなんて思わないって……」

「どれくらいの威力なのかは分からないけど、私なら耐えられるから進めそうかな」

 

メイプルはミィと共に再び歩き出そうとした。

そこにランが待ったをかける。

 

「この先に何があるか分からない…だから、私が行く。2人は待ってて。」

「星はどうするの?」

 

メイプルがもっともな質問をする。

 

すると、ランはおもむろに手を上にあげる。

そして指輪を力を使って落ちてきていた星を全て空中で止めた。

 

そしてメイプルの範囲防御外に出て、続いている道を歩む。

 

長い道を進んだ先には雲の壁、そしてそこにできた横穴があった。

ここまで来て何も無いことはないので、【千里眼】で覗いてみる。

 

そこには煌めく光が注がれていた。

静かに、糸のように伸びる光。

それが天から雲で出来た器へと続いている。

 

ランは器に近づいて、溜まった光に触れてみる。

何かを触った感覚はなかったが、一つのアイテムを手に入れた。

 

手に入れたアイテムは『天の雫』という名前で、素材でもバフアイテムでもない。

 

とりあえず、メイプルとミィを【念話】で呼び出してアイテムを回収してからログアウトした。

 

 

 

 

 

 

『天の雫』の使い道がわかった。

 

玖の鳥居の先に行くために必要な3つのアイテムのうちの一つ。

しかも知っているのは楓の木と炎帝の国だけ。

 

両ギルドともプレイヤーたちがアイテム回収に向かうが、炎帝の国は星の威力に負けて何度か失敗したらしい。

そのため、最近はメイプルかランが炎帝の国のサポートという名のアルバイトをしていることが多い。

 

しかし、今日だけはギルドホームに全員が集まっていた。

 

楓の木のプレイヤーで必要アイテムの2つ目の『龍の逆鱗』を集めに行くために今日だけは集まる予定を組んでいた。

 

とりあえず、このギルドの全員で集まればそうそうに負けることは無いので、すぐに龍のところに向かう。

 

しっかり武装を展開したプレイヤー達の目の前には煌々と輝く魔法陣。

それに乗れば即戦闘フィールドだ。

 

「じゃあ、行っくよー!」

 

メイプルの掛け声でみんなが次々に魔法陣に乗る。

 

到着したのは以前メイプルが悪魔と戦ったと説明したような荒野だった。

 

遥か高い暗い空、そこを真っ白い鱗を持った龍が飛んでくるのがメイプル達には見えた。

 

低空飛行でない状態では魔法攻撃すら届かない。そんな高みから龍はバチバチと音を立てて白く輝く玉をメイプル達に向かって放った。

 

「アナ、【火障壁】」

 

ランがアナを呼び出してこの状況で敵に対して最強の対龍の防御をした。

 

「迦陵、【金翅炎弾】」

 

迦陵には対龍の炎を打ち出させる。

 

その弾は吸い込まれるように龍にあたり、龍を火だるまにする。

その炎は簡単に龍のHPを削りきり、迦陵には経験値が入る。

 

「2人ともありがとう。」

 

その言葉を聞いてアンクレットに戻っていく迦陵とアナを見た他の人たちは悟ったような顔でランを見ていた。

 

普通は従魔が倒すとドロップスキルはあっても、ドロップアイテムはないはずなのだが、今回のアイテムはドロップではなく報酬なのでギルド全員が手に入れることが出来た。

 

その後予定が大幅に短縮され空白の時間が出来たので、そのまま次のボスにあてるというクロムの提案が採用された。

 

そうして一行は鬼退治に向かった。

 

その鬼は凶悪な見た目を十秒ほど見せつけたところで、ラン以外の攻撃で光に変わっていくこととなった。

 

 

 

 

 

それからしばらくはメイプル、ラン、サリー、クロム、マイ、ユイが許可証のレベル上げをしていた。

カスミはもうレベルを上げきっているので、ボスに挑戦している。

 

そしてランが最後のレベルを上げきった日にメイプルからギルドホームに集合がかかった。

 

ランが向かうとまだ居ないメンバーがいたのでしばらく待ってからサリーが口を開く。

 

「第五回イベントがもうすぐだから、集まってもらったわけだけど…みんなどうする?」

 

結局AGIのないメイプル、マイ、ユイが不参加で許可証のレベル上げ。カスミがボスへの挑戦。

イズがギルドのサポート。

それ以外がイベント参加となった。

 

 

 

イベントまでの期間何をしようかと考えている仲間をよそにランはゲームをログアウトし、外出の準備をした。

 

「兄さん、ありがとう。」

「可愛い妹の頼みだからね。」

 

家を出て向かった先はテレビ局。

千斗が今日は衣装調整も兼ねて番組見学をしないかと誘ってくれた。

 

理由は今日の番組ライブの衣装が珍しく藍の作った衣装じゃないから。

今日は番組側が用意した衣装なので、藍は勉強しに来た。

 

今日の番組はRe:valeの冠番組なので一人ぐらい見学を入れることぐらいは簡単に融通が効くと千斗が言っていた。

 

Re:valeの楽屋で百の衣装の最終調整を終わらせて収録時間までのんびり待っていると、楽屋の外から声が聞こえてくる。

 

『調べたらRe:vale不仲説とか出てきて…』

『怖いのかな?』

『怖くないですよ〜全然怖くないです。ほーら、リラックスして〜。』

『催眠術にかけるみたいな言い方やめてくんないかな…。』

 

その会話を聞いていた百達は少し弄りたくなったようで、藍には2人の座るソファの後ろで無言で立っていてくれと笑いながら言った。

 

「ブラホワのIDOLiSH7の歌凄かったから絶対に褒めるんだ!」

 

百が言うブラホワは通称ブラックオアホワイト。毎年年末に開催される歌番組で、視聴率も毎年大台を取っている。

 

コンコン、ガチャ。

 

ドアが開く。

その瞬間に2人の雰囲気が変わる。

さすが演技派…

 

「失礼します。小鳥遊事務所のIDOLiSH7とマネージャーの小鳥遊紡です。本日はよろしくお願いします。」

 

その態度を見て、百が値踏みするような態度をとる。

千斗もそれを感じ取って同じようにする。

 

「……へえ……。」

「……IDOLiSH7…?」

 

二人が声を発した瞬間に何人かの体が固くなった。

ただ、IDOLiSH7のリーダーだけは演技でもなく緊張していない。

 

2人が演技をしていることに気づいているのだろう。

 

「IDOLiSH7…ああ、TRIGGERに勝ったグループでしょ。…そこの君ちょっと良い?」

 

百がIDOLiSH7の赤髪の男の子を指名した。

指名されてあからさまに緊張しているのが伝わってくる。

百も意地悪が好きな質ではないので、このあたりでやめるだろ。

 

「収録前に一言いいかな?」

「なんですか?」

「ブラックオアホワイトのステージ……」

 

千斗が演技を辞めた。藍ももうやめている。

でも相手で気づいているのは緑のリーダーだけ。

これは百が勝ったな…と心の中で思う藍だった。

 

「すっっっっごい良かった!!!」

「…えっ?」

 

まあ、そういう反応になるだろう。

後ろで緑のリーダーが肩を震わせている。

 

「歌もダンスもすっごい良かった!めちゃくちゃ感動した!TRIGGERも凄かったけど、IDOLiSH7、最高だったよ!あの日から、ずっと、会えるの楽しみにしてたんだ!

なのにさー。Re:valeは怖いなんて話してるから、悪戯心がむずむずしちゃって。出来るだけ怖そうにしてみた。どう?びっくりした?」

 

「こら、モモ。いっぺんに話しかけたらびっくりさせるだろ。」

 

千斗が止めない限り続いていたであろう百のマシンガントーク。

 

「改めて、Re:valeの千だ。今日はよろしく。いびったりしないから固くならずに、のんびりやってくれ。」

「そうそう、ユキの家にいるみたいに。」

「僕ん家かい!」

 

また始まった…Re:valeのサービス夫婦漫才。

周りの人達は何となくやっているように感じているそうだが、この漫才はずっと考えて2人が作った持ちネタ。

普段はこんなことしないから、サービス。

 

 

 

それからスタジオ入りして、本番が始まった。

Re:valeのステージはやっぱりすごい。

 

自分の兄という贔屓目なしに見ても圧巻。

お互いが相手のことを思いやりながら体の隅々、指先に至るまで魅せることを考えている。

 

でも、自分の作ってない衣装を着ているのを見るのはやっぱり複雑な気持ちになる。

 

「はい、カット!」

「お疲れ様です!」

 

百が率先してスタッフに声をかけていく。

千斗は藍のところに直行した。

 

「どうだった?」

「うーん、腰周りの生地の合わせ方とか参考になった。」

「それは良かった。」

「そういえば、兄さん1番のBメロの頭の振り小さくなってた。どうしたの?」

「よくわかったな…そこを小さくすると後が大きく見えるかと思ったんだよ。」

「百さんと一緒にやらないと目立つよ?」

「そうね。」

 

そんな会話をしていると、IDOLiSH7の歌収録の番になった。

 

しかし、IDOLiSH7のセンターである赤髪の男の子…陸さんが調子が悪いようで声が出ていない。

 

「……っ、すいません。」

「これで5テイク目だよ…しっかりして!」

 

監督から檄が飛ぶ。

しかし、千斗が庇う。

 

「そんなプレッシャーかけたら、余計歌えなくなるだろ。」

「そうそう、俺たちは大丈夫だから…1回休憩にしようか。」

 

監督と百が話し合っている間に藍は鞄の中から保温性の水筒と紙コップを取り出す。

 

水筒の中身はカモミールとキンカンはちみつで作った藍特性のお茶。

 

暖かいカモミールと蜂蜜、キンカン、隠し味に入っているすりおろし大根で喉にいい。

 

いつも持っている紙コップを9つ出して、同じ量を入れていく。

スタジオ内にあったお盆にコップを乗せて運んでいく。

 

「百さん、どうぞ。」

「おっ、藍ちゃんありがと。ユキとIDOLiSH7の皆もどうぞ!」

 

私がIDOLiSH7に話しかけに行くのは緊張するだろうということで百が声をかけてくれた。

 

IDOLiSH7の皆にも好評で、三月にはレシピを聞かれた。

 

それからの撮影は問題なく進んだ。

 

今日は賑やかで楽しかった。

 




10分遅れました。


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器用特化と第5回イベント

あれから数週間。第五回イベントが始まってからフィールドには雪が降り始めた。

デバフがあるわけでも歩きづらくなる訳でもないが、イベントモンスターも白い色の個体が多いので狙撃がしにくい。

 

三十分ほど木の上から狙撃をし続けていたが、ランは一体ずつだと効率が悪いと感じた。

そのため、リザード、バット、エレクトリックリザードを呼び出して攻撃を頼んだ。

 

たまたま遭遇したプレイヤーに倒されてしまうことには目をつぶった。

というか、倒されたら狙撃し返していた。

ランの従魔への愛情は、ランを暗殺者にした…

 

何種類かいるイベントモンスターの中でも雪だるま型の1番ポイントが高いモンスターは問答無用で火魔法の矢を放つ。

 

普通の矢ではほとんど削れない体力がゴリゴリ削れていく。

 

数時間はたっただろうかと言うところで日課になっている研究所の本の読解をするために研究所に入る。

 

昨日まで掛かりっきりだった本は神が人間として下界にいることがあるという本。

クリシュナがユースティティアにされたように神格を失う場合と、自分の主神に神格を預かってもらうことで人間の肉体で下界に降りる場合があることが分かった。

 

今日から読み始める本を選ぶ。

 

手に取った本には『Антарес』と書かれていた。

 

書き初めを読んでみる。

Альфа-зірка в Скорпіоні, сяє в 10000 разів яскравіше Сонця.

Кажуть, що він був захищений вогнем, бо в древні часи його помиляли з Марсом.

案の定一言も分からない。

 

今回は1文字も分からないので、タイトルだけ記憶して紙に写し書きしたものをカナデに見せた。

 

「アンタレス…ウクライナ語でさそり座のアンタレスを指している単語だよ。」

 

これによってウクライナ語であることがわかったので、これまでと同じようにリアルと研究所の往復が始まった。

 

と言っても今回の本はウクライナ語の同じような本がリアルの図書館にあり、しかも日本語訳が着いていたので1週間弱で読み解けた。

 

 

 

アンタレスはさそり座のα星で、太陽の1万倍明るく輝く星。

古代に火星と間違えられていたことから火の加護を受けているとされる。

 

その明るさをさそりの弱点である心臓と考えた人が、弓で射抜こうとしたことが射手座のケイローンの由来でもある。

 

その先はさそりを狙う場所というタイトルで場所の特徴が書かれていた。

 

(これ、【星の加護】を取得したところだ…)

 

早速サリーに行き方を聞いて向かう。

極夜に乗って移動したのでほとんど時間はかからずに着いた。

 

現在時刻は16時30分とまだ外は明るい時間なので、フィールドが夜の設定のこの場所は不思議に思えてくる。

 

2つある席には目もくれずにさそり座を探す。

この間来た時と星の配置が変わっているので、外の季節に合わせて年周運動をしていると簡単に想像できた。

 

さそり座の中に一際輝く星がひとつ。

ランは一応【千里眼】で補足してレールガンを構える。

 

「【パワースナイプ】」

 

威力も上げて打ち出す。

スキルによる白い尾が弾の軌跡をなぞる。

 

『スキルを取得しました。』

その声を聞いて、直ぐにスキルを開いて確認する。

 

【アルファ・スコルピィ】

火魔法が効かなくなる。

取得条件:ケイローンの代わりにアンタレスを射抜くこと。

 

またしてもランはメイプルに近づくスキルを手に入れた。

というか、炎帝に対して最強のカードを手に入れた。

 

 

 

次の日はイベント内ポイントの高い雪だるまのみを狙う作戦でフィールドに出た。

 

そう簡単に見つかるモンスターではないが、広い視野のあるランには飽きないレベルで見つけることができる。

 

一体目を火魔法の弾で倒したところでインベントリを開くと何も変わりはない。

 

実は、この雪だるまを倒すと低確率でクリスマスにのみ開くことができるプレゼントがドロップする。

ランはそれを狙っているのだ。

 

雪だるまは火魔法にめっぽう弱いので【魔弾の射手】が効果を発揮する。

他のプレイヤーの比にならないほどに雪だるまを倒し、プレゼントを2個ゲットしたところで今日は終わりにする。

 

 

 

ログアウトして、しばらくしたところで千斗が帰宅した。

千斗は自室に入る前に藍の部屋のドアを叩いた。

 

「兄さん?ご飯はまだだよ?」

 

そう言いながらドアを開けた藍の目に映ったのは仕事中の眼差しをしている千斗。

その目を見て、藍も仕事モードに切り替える。

 

「藍、いきなりだけどCDを出さない?」

「……………………………えっ?」

 

その提案は仕事モードの藍でも予想出来なかった。

そもそも、藍はアイドルでもなければ歌手でも、声優でも、役者でもない。

 

「どういうこと?」

 

完全に混乱した藍は少し焦り、強めに千斗に問う。

千斗は対照的にいたって落ち着いている。

 

「藍には歌の才能がある。その才能でモモを励まして欲しい。」

 

詳しく聞くと、Re:valeの5周年が近づいて来るにつれてモモさんの顔が暗くなっているそうだ。

歌っていても声が出なくなってきていると感じる千斗は歌の力に頼ることにしたらしい。

 

「作詞作曲までしなくても構わないから、頼む。モモが元気になるなら…!」

 

ここまで感情を露わにする兄を見るのは5年ぶり。

相方だった万さんが千斗を庇って怪我をし、活動を続けていけなくなって荒れていた時のよう。

 

(兄さんは万さんと百さんとの思い出が詰まったRe:valeを無くしたくないんだ。)

 

こんなお願いを聞いて黙っていられる藍では無い。

藍は兄のお願いを引き受けた。

 

「やる。でも、やるなら作詞も。」

 

思いを伝える歌を作るために藍は作詞もする決意をした。

作曲は千斗ではなく別の人に頼むことにした。

 

(兄さんにも歌が届いて欲しい。)

 

5年間、1番近くで今のRe:valeを見守ってきた藍だからこそかける歌を…

 

この日からイベントに1日1時間参加し、それ以外の時間…学校の休み時間でさえ作詞に打ち込む藍の生活が始まった。

 

 

 

 

 



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器用特化と遊郭

リアルでゴタゴタしていたランはイベントポイントをほとんど稼いでない。

しかし、ギルド単位では最高の報奨が貰えた。

 

そして時は流れてクリスマスを少し過ぎたある日。

 

前日にメイプルとサリーがプレゼントを開けてスキルを手に入れたと言っていたので、ランも早速開けることにした。

 

リボンを解いて蓋をぱかっと開けるとそこにはそれぞれ巻物が一つ入っていた。

やはりスキルを取得出来るアイテムである。

 

【ドライミーティア】

30秒間ドライアイスを打ち出す。

当たると5分間AGI5%減少。

5分後に再使用可能。

 

【減速領域】

1分間地面に半径5メートルの雪の結晶が現れる。

その範囲内のプレイヤー・モンスターが減速する。

10分後に再使用可能。

 

どちらもAGI特化のプレイヤーに刺さるスキルだった。

とりあえず移動式ギルドホームの訓練場で迦陵に頼んで試させてもらった。

 

「【ドライミーティア】に数発当たるならまだしも、【減速領域】の中はほとんど身動き出来ないですね…体感的にはAGIが80%減少と言ったところでしょうか?」

 

その言葉でスキルの試行を終わらせて、街に繰り出す。

今日は目当てがあったのでスキルショップへ直行する。

 

今回の目的は【カバームーブ】を買うこと。

盾役でもないのにどういうことかというと、先日メイプルに聞いた【カバームーブ】の仕様が気になったから。

 

【カバームーブ】は目に見える範囲のプレイヤーの元に移動するスキル。

その範囲が異常に広いランだったら面白い使い方ができるかもしれない。

 

ただそれだけ。

 

しかし、一応メイプル同様移動手段として考えているので使い所はある。

 

 

 

研究所に入るのも考えたが、引きこもりがちのランは実はこの階層を見て回っていない。

 

とりあえず、通行証はどこにでも行けるようになっているので、色々なところを見て回る。

 

そして辿り着いたのはラクシャーサの遊郭。

結局ランの興味を引くお店はなく、とりあえず知り合いに会いにくることにしたのだ。

 

遊郭の中に入ろうと中を覗くと、ラクシャーサとその百鬼が数体、受付の九尾の狐、その子供であろう狐の女の子、その手を掴む七体の人狼が固まっていた。

 

動かないキャラクター達。

外傷があるわけでも足下を固定されているわけでもないので、ランは不思議に思う。

 

しばらくして、イベント発生NPCだと気がついた。

とりあえず、誰が何をしたのか分からないのでラクシャーサの味方をすることだけ決めて中に入る。

 

ランが足を踏み入れると止まっていた時間が進む。

 

「お客さん、そいつは従業員でないんでね…手を離してもらおうか。」

 

ラクシャーサの低い声がフロアに響く。

客だという人狼たちはそれでも狐の女の子の手を離さない。

 

九尾の狐の女性はオロオロし、百鬼達は殺気を無理やり押さえ込んでいる。

お客さんだから強く当たれないことが目に見えてわかった。

 

「従業員じゃない?はっ…遊郭にいる女なんて男の相手をさせてなんぼだろ!」

「そうだ、そうだ!」

「兄貴はここの客だぜ。客を大事にしない奴に管理を任せる、阿呆の顔を見てみたいぜ!」

 

言っていることは横暴でもそれを言われるとラクシャーサには手出しができない。

ランはラクシャーサの主である毘沙門天を知らないが、素晴らしい人格者だろうと思っている。

 

とりあえず、ランは客の立場なのであの人たちを倒しても問題ないだろうと判断し、女の子の手を掴んでいる男以外の2人を撃つ。

 

ドットになった二人に気づかれる前に最後の一人の背後にスキルを使って近づく。

 

レールガンを光剣にして首に当てる。

そして、話して貰えるよう低く作った声で脅…お話する。

 

「その子を離せ…ラクシャーサ様の店で騒ぎを起こされちゃたまったもんじゃない。」

 

人狼は怖がって手を離した。

それを見て光剣を首から下ろす。

 

「お前、なんなんだよ。」

「ただの客だ…今すぐここから立ち去れ」

 

ランは逃げ腰で走り去った狼を見て、演技を辞める。

そして、女の子に【ヒール】を使いながら話しかける。

 

「大丈夫?…もう、痛くない?」

「ありがとう、お姉ちゃん。」

 

赤くなっていた腕も【ヒール】ですぐに治り、女の子も笑顔を見せてくれる。

 

「ランにはまた迷惑かけたな…助かった。」

「私からもお礼を。この子を助けて下さりありがとうございます。お礼になんでも致します。」

 

礼には及ばないとラクシャーサに伝えても、女性は何かするといって聞かない。

 

それにはラクシャーサも困り顔だ。

 

するといきなりアンクレットから蒼也が出てきた。

そして取り巻きをしていた白鬼達に近づいて言った。

 

「皆、久しぶり。」

 

「おう、クリシュナ…じゃなくて蒼也元気だったか?」

「ちゃんと、ランの役に立ってるか?」

「またいつでも遊びに来いよ!」

「強くなりたいなら稽古だってつけてやるからな」

「お前腕っ節は強くねえからなwww」

「そうだぜ、女相手だけでもバトルで役にたてよ!」

 

百鬼達に笑顔で歓迎される蒼也もいい笑顔だった。

それを見ていた狐の女性はハッとした顔でランを見た。

 

「私も仲間にしていただけませんか。戦闘も少しは出来ますから、お役に立てると思います。」

「私もお姉ちゃんにありがとうしたい!」

 

狐の女の子も笑顔でそう言うのでランは二人を仲間にすることにした。

もちろん、ラクシャーサの許可も頂いている。

 

二人を仲間にして、蒼也含め四人でギルドホームに向かおうとするとラクシャーサ様から声が掛かる。

 

「そういえばラン、ここの遊郭なくなっちまうんだ。

まだしばらく先だが、毘沙門天がこの上の階層に新しく店を作るからここを閉店することになった。

そこの管理は俺じゃなくて夜叉になりそうだから俺は暇になるんだ。

だからこれまでの恩返しも兼ねてお前に従属したいんだがいいか?」

 

いきなりの展開についていけなくなるランだが、暫くして状況を飲み込み驚くと同時に嬉しくなった。

 

また賑やかな仲間が増えることを幸せに思い、ランはにっこりと微笑んだ。

 

 

 

 

次の日、ギルドホームにはマイ、ユイ以外の全員が揃っていた。

なので新しく仲間になった三人の紹介をした。

 

「右から九尾の狐のマリー。…その隣がマリーの子供のリリ。…一番左がラクシャーサ様…名前は可畏(カイ)。」

 

相変わらずの成果に呆れられた。

特にカスミは何かを考えついたあとで恨めしそうにランを見てきた。

 

あいにく本人に全く自覚がないのだが、そのカスミの考えは的を得ている。

 

すなわち、四層の王は鬼である以上可畏には逆らえないということ。

それはランの必勝と同義だった。

 

まあ、ランは四層の一番上にモンスターがいることなんてそもそも気にしていないので、本人がこれに気がつくのはもう少し先の話である。

 



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器用特化と5層

さてメイプルとサリーとランの冬休みも終わり一月も半ばを過ぎたころ。

サリーが強く待ち望んでいた第五層が実装された。

 

実装当日、待ち合わせていち早くギルドホームへ来たサリーとランが待つこと少し、同じ考えを持つギルドメンバーが揃ってくる。

 

「おお、全員揃った!」

 

まさか全員が集まるとは思わなかったサリーは驚きと喜びの混じった声を上げた。

 

「ん?いや、メイプルがいないぞ?」

「ああ……メイプルは……」

 

クロムの問いにそう言えばそうだったとサリーが訳を口にする。

 

「インフルエンザ……今年も。いつものこと」

「そ、そうなのか。どうする?また別の日に全員で行くか?」

 

そのクロムの提案に対して出た意見をまとめた結果出た結論は、メイプルがいれば都合の合うメンバーが数人いるだけで倒せるだろうから、ここは今いるメンバーで先に進もうというものである。

 

これに反対する者はいなかった。

最悪、メイプルならば一人でもボスを倒してしまうことも出来るだろう。

こうしてメイプル抜きの【楓の木】は五層へ続くダンジョンへと向かっていった。

 

 

 

ダンジョンの入口までは移動式ギルドホームのキャンピングカーモードで来たので、マイ、ユイ、ランといった極振りが三人いるパーティのわりにとても早くついた。

 

キャンピングカーの中ではリリがクッキーを焼いてくれて、皆に各ステータス5%アップのバフがかかった。

 

これはリリのスキルである【支援食】の効果である。

 

ダンジョンの入口に着いたので、全員がキャンピングカーから降りて武器を装備する。

 

ダンジョンの中は物理無効モンスターや物理大幅軽減モンスターが溢れかえっていた。

 

全て倒していくことも考えたが、それには時間がかかるのでランが足止めをしている間に進んでいくことになった。

 

「【電獣を統べるもの】総召喚、【白鬼夜行】、可畏。協力して足止めして。」

 

数えきれないモンスターが楓の木のために足止めをする。

 

その中でも、可畏は指示を出しながらもランの隣を歩いてきている。

 

物理無効化のモンスターたちは【電獣を統べるもの】で呼び出されたモンスターたちのスキルに倒され、物理耐性程度のモンスターは鬼の数の暴力で倒された。

 

苦もなくダンジョンの入口に着いたラン達は立ち止まることなくボス部屋に入っていく。

 

部屋の奥にいたのは九本の尾を持つ大きな狐だった。艶のある毛並みの黄色い尻尾をゆらゆらと揺らしている。

 

「ラン、計画通りに!」

「了解。【電賢】【電縛】」

 

ランのレールガンから吐き出された弾は狐の頭にあたり、麻痺と逃れられない檻を作り出す。

 

麻痺耐性がある狐相手に長い間麻痺は効かないが、一回攻撃出来る時間があれば問題ない。

 

カナデとイズに強化されたマイ、ユイがリーチの長い大槌から攻撃を繰り出す。

 

「「【ダブルスタンプ】!」」

 

二人の二連撃は狐の行動変化を全て無視して葬り去った。

 

STR極振りの二人がいれば作られた全ては無視されるのが常であり、今日は欠席のギルドマスターがいれば全てを見たうえで一つ一つ丁寧に潰していくのが常である。

 

 

 

こうして八人が無事五層へと進出したその数日後、ランは四層の最強と対峙する事になったのである。

 

戦闘になることが予想される部屋の前で、ランは一度ステータスを確認した。

もちろん、従魔達のステータスも確認する。

 

 

ステータス

 

ラン

Lv56

 

HP 150/150

MP 170/150<+20>

 

STATES POINT +0

 

【STR 0<+60>】

【VIT 0】

【AGI 0<+40>】

【DEX 375<+55>】

【INT 0】

 

 

装備

頭【電竜子の帽子】

体【電竜子のコート】

右手【電竜子のレールガン】

左手【水面の短剣】

足【従属のアンクレット】

靴【電竜子のブーツ】

 

 

装備品【星魚の指輪】

【空欄】

   【空欄】

   

 

スキル

【弓の心得X】【凪】【千里眼】【百発百中】

【精密機械】【暗殺者】【電光石火】【雷帝】【跳躍Ⅸ】【パワースナイプ】【消音】

【釣りX】【貫水】【ウィークネス】【ヒール】

【強奪】【星の加護】【水君】【念話】

【エクスプロージョン】【料理VI】【裁縫X】【魔弾の射手】【火魔法Ⅴ】【水魔法Ⅲ】

【風魔法Ⅲ】【雷魔法Ⅲ】【魔法の心得V】

【電獣を統べるもの】【速射】【MPカット小】【MP回復速度強化Ⅰ】【MP強化小】

【気配察知Ⅲ】【白鬼夜行Ⅰ】

【アルファ・スコルピィ】【ドライミーティア】

【減速領域】【カバームーブ】

 

 

 

 

 

 

極夜(ナミチスイコウモリ)

Lv16

 

HP 100/100

MP 160/160

 

【STR 65】

【VIT 50】

【AGI 100】

【DEX 80】

【INT 30】

 

スキル

【吸血】【休眠】【覚醒】【視覚共有】

【巨大化】【岩柱】【エアカッター】

 

 

 

 

 

 

白夜(白蛇)

Lv16

 

HP 150/150

MP 80/80

 

【STR 135】

【VIT 90】

【AGI 100】

【DEX 30】

【INT 30】

 

スキル

【締め付け】【休眠】【覚醒】【巨大化】

【白い霧】【地雷原】【鋼鉄尾】

 

 

 

 

 

 

迦陵(混天大聖:鵬魔王)

 

Lv33

 

HP 85/85

MP 180/180

 

【STR 135】

【VIT 55】

【AGI 70】

【DEX 105】

【INT 110】

 

スキル

【金翅炎弾】【日輪金翅鳥】

 

 

 

 

 

 

アナ(大鵬金翅鳥:ヴィナマ・ガルダ)

 

Lv30

 

HP 100/100

MP 170/170

 

【STR 110】

【VIT 95】

【AGI 90】

【DEX 100】

【INT 105】

 

スキル

【火障壁】【金翅炎槍】

 

 

 

 

 

 

蒼也(クリシュナ)

 

Lv5

 

HP 60/60

MP 200/200

 

【STR 10】

【VIT 10】

【AGI 20】

【DEX 15】

【INT 80】

 

スキル

【魅了】

 

 

 

 

 

 

マリー(九尾の狐)

Lv12

 

HP 85/85

MP 60/60

 

【STR 10】

【VIT 40】

【AGI 45】

【DEX 65】

【INT 60】

 

スキル

【狐火】【幻惑】

 

 

 

 

 

 

リリ(九尾の狐)

Lv5

 

HP 40/40

MP 20/20

 

【STR 5】

【VIT 10】

【AGI 20】

【DEX 30】

【INT 15】

 

スキル

【鑑定:植物】【料理Ⅹ】【支援食】

 

 

 

 

 

 

 

可畏(ラクシャーサ)

Lv35

 

HP 80/80

MP 50/50

 

【STR 60】

【VIT 45】

【AGI 40】

【DEX 10】

【INT 10】

 

スキル

【統鬼】【統合:白鬼】

 

各スキルなども確認を終え、最強が待つ部屋に足を踏み出した。

 

「おぉ……?まさか人間が来るとはな」

 

部屋に入ったランを迎えたのは長身の真っ白い鬼だった。

 



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器用特化と最強

ランは鬼に続いて魔法陣へと乗って用意されたバトルフィールドへとやってきた。

 

「さあ、やろうか人間」

 

少し離れた場所にいる鬼が言い放ち、その右手に二メートルほどの薙刀が出現する。

 

ランはと言うと軽く足踏みして、アンクレットを起動させる。

 

「可畏、よろしく。」

 

鬼を統べるスキル、【統鬼】をもつ可畏を呼び出した。

最強の白鬼は可畏の姿を見た途端に薙刀をしまう。

 

「ラクシャーサ様の加護を受ける人間でしたか。それでしたら、俺に敵対の意思はありません。」

「そうか、まあ酒でも飲むか?」

「ぜひ、ご一緒させてください。」

 

ランを置いて進んでいく話を聞いて、可畏にお酒は飲めないことを言う。

すると、スキル譲渡の儀式のために水でいいから盃を交わしてくれと言われた。

 

隣にある譲渡の間と呼ばれる場所に入る。

 

鬼の両手が輝き、朱に染められた盃が二つ出現した。

鬼はそのうち一つをランに手渡すと、また新たに出現させた大きな瓢箪からランと自分の盃に液体を注いでいく。

 

「私戦ってない…」

「確かにな…じゃあスキルと武器の強化でどうだ?」

「ラクシャーサ様が仰るならそうしますね。」

 

鬼とランがそれを飲み干したその時、ランに通知が届いた。

 

『スキル【白鬼夜行Ⅰ】が【白鬼夜行Ⅹ】になりました。』

『レールガンの射程が無限になりました。』

 

スキルはレベルを最大まで上げてくれたようだ。

レベルが上がったことで一体一体のステータスが上がったらしい。

 

レールガン方は第4回イベントの時に受けた弱体化が戻ったというところだろう。

 

 

 

しばらくすると、鬼が立ち上がった。

何があったのか聞いてみると、新しい挑戦者が来たようだ。

 

元々、鬼を倒した人に与えられるスキルをランはもらっていないので、次の人間を待つらしい。

 

しばらくここにいて良いか聞くと、鬼は構わないと言ったので他の従魔達も出してみんなで遊んでいると戦闘の間から聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

その声はメイプルのものだった。

 

それを聞いて、ここにいてはメイプルと鉢合わせるのがわかったので皆をアンクレットに戻して立ち去る。

 

ランはすることが無くなったので四層の街に設置されたベンチでボーッとしていた。

 

しばらくそうしているとメイプルが現れてランにお願いをした。

 

「ラン、これからダンジョン攻略手伝って!」

「いいよ。」

「ありがとう!」

 

二人がダンジョンに向かっている最中にフレデリカとその一行に出会い、一緒にいくことになった。

 

道中の敵は、いるだけで絶対の守護領域が生まれるメイプルによって危険性を完全に排除される。

殲滅もランの従魔たちが担当している。

 

当然、一人も欠けることなくボス部屋へたどり着くことに成功した。

 

「固まって進んでー!」

 

ボス部屋に入った面々はメイプルの前に立って進んでいく。

ランだけは後ろで麻痺をかけていく。

 

メイプルの【身捧ぐ慈愛】は第四回イベントでの度重なる使用もありその能力を多くのプレイヤーが知っている。

散らずともおよそ全ての攻撃は無力化されるのだから真っ直ぐにボスへ向かえばいい。

 

そうしてHPを削り、削り、大狐を追い詰めていく。フレデリカ達もトップレベルなのだからメイプルとランの支援があればそうそう負けなどしない。

 

「速くなった!」

 

フレデリカの言うように狐の速度は急に速くなった。

捉えられなくなり、攻撃が空振りする。

 

狐のHPは残り2割ほどでほぼ残っていないが、攻撃がほとんど当たらない。

 

「サリーほどじゃないけどー……」

 

魔法を撃ち続けながらフレデリカが呟く。

少しは当たるが、なかなか時間がかかるだろうことが誰にでも分かった。

 

狐が飛び退き、フレデリカがため息をこぼす。

 

「面倒だなー、っ!?」

 

サリーと戦うことで身に付き始めたもの。

ドレッドが言っていた直感といわれるそれがフレデリカに伝えたもの、それは背後からの嫌な予感。

 

フレデリカが振り返ると同時。

 

「【百鬼夜行】」

「【白鬼夜行】」

 

メイプルの煌めく金の髪は黒に戻りその翼は光となって消えた。

 

入れ替わりに溢れ出るのは二つの炎。

 

メイプルを背後から照らしあげる紫炎。

ランを背後から照らしあげる白炎。

 

その向こう側に溢れる大量の妖。

お互いの主を先頭として続く百鬼夜行、悪夢の列。

 

「行って」

「可畏、統率して」

 

可畏の統率によって列をなして鬼達が狐にむかっていく。

 

向かってくる鬼に狐は回避する場所がない。

その巨体、それを迎え撃つ鬼は無限大。

 

攻撃力の低い鬼達では狐を一撃で倒すことは叶わない。

 

それでも連打、連打。フロアが小さく見えるほどの鬼が溢れかえる。

 

呆けるフレデリカ達の目の前で紅い花が咲く。

吹き出る血のように狐からダメージエフェクトが咲き乱れる。

 

回避能力が上がろうと、回避出来るスペースがなくては意味がない。

生き残る場所のないところで回避を試みることなどどこまでも無意味だった。

 

狐が倒れ伏していく姿をフレデリカ達が静かに見守る姿はどこか悟りを開いたかのようだった。

 

『レベルが57に上がりました。』

 

そんな機械音とともに、狐が完全に光となって消えた後で五層へと繋がる道が現れた。

 

「ありがとうフレデリカ。フレデリカに何かあったら手伝うから、またね」

「私も、いつでも…」

「……え、ああ、うん」

 

まだ悟りの境地から戻ってきていなかったフレデリカが力のない返事をし、それを聞いたメイプルは五層へと姿を消した。

 

「メイプル達、どこで?いや、あそこかー」

 

フレデリカが一人考えていると、今の今まで棒立ちになっていた隣の男性プレイヤーが話しかけた。

 

「どこだ?あのスキルに見当でも……」

 

次第に回り始めた彼の頭が一つの可能性を探り当て、話の途中ではっとする。

 

「うん、多分四層の白鬼かなー」

 

「弱体化させる方法が見つかったのか……?」

 

「どうだろうねー。メイプル達なら……」

 

弱体化などなしで倒しているのかもしれないとそう思ったフレデリカだった。

 

確固たる証拠がなくともそう信じられるくらいの信用。

メイプル達を強いと思っているが故の確信だった。

 

まあ、ランは裏ルートで手に入れているのだがフレデリカがそれを知ることは無い。

 



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器用特化とエリア探索

ランはクロムとカスミと五層を探索していた。

 

遠いうちからランが敵の数を減らす。

近づいてくるモンスターは、クロムが攻撃を受け止めカスミが斬り倒す。

 

クロムが時折ダメージを受けるものの持ち前の回復力ですぐに持ち直す。

 

そうして何度目かの戦闘を無事にやりきったところでクロムは武器をしまいつつ呟いた。

 

「何というか、落ち着くな」

「静か…」

「ん?ああ……」

 

この三人での戦闘というのは【楓の木】内ではもっとも静かなものだった。

 

イズがいれば爆音が鳴り止まない戦場が出来上がる。

カナデがいれば魔法による閃光と轟音が次々に巻き起こる。

そして残りの四人は平常心を削りかねない。

ランも一応四人の部類にいるのだが、戦闘狂でもなければ好奇心旺盛な方でも無く、どっちかと言うとレールガンや従魔達といった間接的な方がおかしいだけなので、特に問題は無いらしい。

ついでに言うと、そのレールガンや従魔達も2人の目の届かないところで起こっている。

 

それに、他に比べてこの3人での戦闘は音が少ない。

 

あるのはランの索敵報告、レールガン特有のシュンっと言う狙撃音、クロムが盾で攻撃を受け止める音、カスミの刀を振る音。

 

今はランが近くに従魔を召喚していない。

そのため、平穏が今ここにはあった。

 

 

 

「まあ流石に私達だけではダンジョンボスの討伐は厳しいだろうから、ダンジョンは中の様子をある程度確認するくらいか?」

「ダンジョンモンスターも私の子達が倒せる…かも。」

「まあそうだろうな、強そうならまた今度うちの誰かを呼べばいい」

 

イズは特殊だとして、残りは誰を呼んだとしても強力である。

 

「サリー、今日探索に出るらしい…逆側の情報も集まるかな?」

「サリーが探索して情報を持ってこないなんてないからな。」

 

そうして三人が話しながら歩いていると雷の音が聞こえ始め、前方の空が暗い雲に覆われているのが見て取れるようになってくる。

 

それぞれに警戒して武器を抜き、ゆっくりと辺りを見渡しつつ進む。

 

三人がさらに近づいていくとそのエリアの光景は細部まで難なく確認することができた。

 

その場所では青空は分厚い雲に遮られており、青白い電気の流れが断続的に地面と空を繋いでいた。

 

あちらこちらで落ちる雷。

 

それに規則性があるのかは分からないうえ、当たった際の危険性も今の二人は知らない。

 

「ほー……ここはメイプルだな」

「キャンピングカー…」

「さすがに無理があるな」

 

クロムはすっと結論を出した。

ランは渋っていたが、カスミに言われれば簡単に納得する。

 

「次いこうか。ここはこれ以上は無理だ」

 

くるっと方向転換して三人は文字通り雷雨の降るエリアを後にした。

 

雷地帯を避け、雲の坂を上って下って起伏をいくつも越えていったその先に見えてきたのは、先程の雷雲よりも少し色の薄い雲が広がる場所だった。

 

雲には手を伸ばせば届きそうなほどに垂れ下がっている場所もあり、地面の起伏と相まって見通しは酷く悪い。

 

その雲からはソフトボールほどの大きさの水滴がゆっくりと落ちてきていた。

 

無重力空間かのごとくふわりふわりと、しかし確実に地面に向かって落下してきているそれは、地面にぶつかるとゆっくりと弾けて八つの水滴に分かれて均等に飛び散り、地面までの短い旅を終えて吸い込まれて消えていった。

 

「避けた方がいいよな?」

「ダメージはなさそうだけど…」

「おそらくはバフだろう」

 

避けられないということもないが、落ちてくる量がなかなか多いため、当たった場合のデメリットを確認することとなった。

 

「俺が行く。ダメージ系なら生き残れる可能性も高いしな」

「待って、【恵水】」

 

一応バフ対策をしたクロムは盾を構えながら遅い雨が降るエリアに踏み入りその雨粒一つを受けた。

 

次の瞬間。クロムの真後ろで水の砲台がゴポゴポと音を立てながら組み上がり始めた。

 

「クロム後ろだ!」

「ん?動け……は?」

 

クロムの体は動いているもののその動きは降り注ぐ雨粒のように遅い。

【恵水】の効果は切れていない。

 

砲台が組み上がるのも遅いが真後ろでは間に合うかどうか怪しいくらいだった。

 

そうしているうちに隣の地面で跳ねた八つの水滴のうちの一つがクロムの足に当たる。

 

それと同時に、クロムの斜め後ろで新たな砲台が音を立てて組み上がり始めた。

 

何とか振り返りつつあったクロムは、もしも自由に動けるならば額に手を当てて空を仰いでいたかもしれない。

 

「おいおいマジか……」

 

砲台から水の塊が打ち出されクロムの肩に命中し、砲台が崩れて消えていく。

 

その威力はこの層のモンスターの標準より二回りは低いくらいであり、ダメージとしてはたいしたものではなかった。

 

「お?動けるぞ!」

 

クロムは体の自由が戻ってきていることに気づくと体を捻って転がって何とか雨のエリアを抜け出した。

クロムがエリアを抜け出したことで、組み上がりつつあった二つ目の砲台はバシャっと音を立てて消滅した。

 

「あの砲弾に当たれば元の速度に戻るのか、んで雫に当たる度に砲台が出来上がると」

「そんなに動けないのか?」

「ああ、あれは無理だな。ゴリ押せねえわ、すぐ次に当たる」

「バフじゃない…そういう仕様」

「とりあえずここも保留と。一度町に戻ってみようか?雷にしろこの雨にしろ打開できるような何かがあるかもしれないしな」

 

カスミの提案にクロムも乗って、二人は一旦探索を切り上げて帰路につくことにした。

 

 

 

モンスターを倒しながら順調に歩みを進める三人だったが、突然背後から日陰に覆われて薄暗くなったことで立ち止まり空を見上げた。

 

「ただの雲……じゃないな」

「たぶん…」

「私もそう思う」

 

空を覆う雲はフィールドを突っ切って通り過ぎていく。

 

それからは今回の探索で二つ見つけたエリアと同じ雰囲気を発していた。

 

特徴的な雲のオブジェクト。

それがこの階層での何かしらの目印になっていることに二人は思い至っていた。

 

「あれは、どうやって行くかだな」

「移動式ギルドホーム…」

「それか、極夜とシロップだろう」

「それは対策されてそうだけどな、アレらは裏ルートだしな」

 

とりあえず今は結論の出しようがないことだったため、二人は思考を切り上げてまた町へと歩き出した。

 

 

 

町に入るとクロムとカスミはギルドホームへ向かっていった。

ランは最近行けていなかったコッペリア完成のためのダンジョン周回に行くことにした。

 

ダンジョンの入り口についたランはいつもの要領で見える範囲のモンスターを倒していく。

 

その途中で試したいことを思いついたのでレールガンを下ろした。

 

「【白鬼夜行】」

 

スキルによって立ち上る白炎とその中から出てくる白い鬼たち。

その鬼たちはアンクレットから出てきた可畏に統率される。

 

統率された鬼達によってダンジョン内のモンスターが殲滅されていく。

そのモンスターたちから得たドロップアイテムと経験値はランに入ってくる。

 

極夜、白夜、迦陵、アナ、蒼也、マリー、リリ、可畏が倒したモンスターからはドロップアイテムが出ず、経験値もランには入らない。

 

しかし、【電獣を統べるもの】と【白鬼夜行】で呼び出したモンスターたちが倒す分には問題ない。

 

これらのスキルによってランのダンジョン周回は格段に効率的になった。

 

次の日これまで21個のドロップアイテムをはめ込んできたコッペリアに新しく2個のアイテムがはめ込まれた。

 

それでもコッペリアは動かない。

後何個のアイテムをはめるのかもわからない状態にランは少し呆れつつ、また今日も根気よくダンジョンに入っていくのだった。

 

 



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器用特化とスティムパーリデス

一月もあと数日になったある日。

 

ランは最近来ていなかったという理由で三層に来ていた。

 

特にあてもなくフィールドを歩き、目に付いたモンスターを倒している。

 

フィールドの端をしばらく歩いていると岩場の影に1人の人を見つけた。

プレイヤーかと思って後ろから近づいてみるが、全く反応がない。

 

前に回ってみるとその女の人はいきなり反応しだした。

この反応でこの人がプレイヤーではなくNPCだということがわかったランは、何かしらのクエストが発生するのかと思い、しばらく話を聞いてみる。

 

「ああ、やっとアーチャーの方に出会えました!

私は街の外れで農家を営んでいるものです。

そこであるモンスターの毒に悩まされていて、ぜひ退治していただいたく…こんな所まで」

 

ランは話とその神話の知識を照らし合わせ、これから退治するモンスターの予想が着いた。

 

スティムパーリデスと言われる群体毒鳥。

田畑に毒性の排出物を撒き散らし、人間に毒霧で攻撃する危険な鳥。

ギリシア神話でヘラクレスが試練としで弓で絶滅させたとされる鳥。

 

予想通り女性の以来はスティムパーリデスの退治だった。

 

女性が指さす先に現れた魔法陣に乗ると毒鳥の住処に転移するそうだ。

それは特に問題ではなく、倒しやすくなるという意味ではありがたい。

 

しかし、その数が問題だった。

300体という大軍が瞬間的に襲ってくるという情報を前に毒耐性のないランは困り果てた。

 

そもそも、アーチャーのようでアーチャーでは無いランなので攻撃が聞くのすらも分からないという根本的な問題があることもわかった。

 

そのため、とりあえず挑戦してみることにした。

つい先日買い貯めたポーションなども確認して、魔法陣に乗った。

 

 

 

光が収まり、目を開けると空を青銅の翼を持つ鳥が覆っていた。

それによって少し暗くなった地面には毒性の排出物が所々に散らばっていた。

 

まずは一番端にいた一体を撃ってみる。

 

弾はその鳥を仕留めたが、それに呼応して周りにいた数体が毒霧を吐き出してくる。

 

今はまだ上空にある霧も暫くすれば地面にも蔓延していくだろう事が予測できたランは第2プランに移る。

 

「えっと…。【慈雨】」

 

まず数少ない毒耐性のポーションを使った。

その後に【慈雨】で霧と鳥達を落としにかかる。

 

鳥は翼が濡れれば飛べなくなるし、霧も雨が降れば収まることが多い。

とはいえ、それは現実世界での話。

 

スティムパーリデスの翼は青銅でできていて水を吸収しないし、毒霧は影響を受けずに蔓延している。

 

元々あまり期待していなかったランはすぐに気持ちを切り替えて次のプランに移行する。

 

第3プランは弓以外の攻撃。

色々試してみるとランのスキルからの攻撃なら、弓は関係ないようだ。

ただし極夜達の攻撃は効かない。

 

とはいえ【白鬼夜行】の物量が使えるかというと、相手は空にいるのでほとんど戦力にならない。

 

ランは自らの獲物と【電獣を統べるもの】から召喚したコロモリ、エレザード、エレクトリックリザードで300体弱を相手にすることに決めた。

 

コロモリは空を飛んでスティムパーリデスの上にいるから良いとしても他は誰も毒耐性がない状態なので先手必勝で攻撃を仕掛ける。

 

エレザードの広範囲攻撃やエレクトリックリザードの高密度射撃によってどんどん数が減っていくが、毒霧でこちらも減り続けている。

 

数分で味方はポーションを使い続けたランとコロモリだけになってしまった。

しかし、猛攻のおかげでスティムパーリデス達も70体ほどになっている。

 

(ポーションが…なくなりそう。)

 

初めの頃は【泡輪】を使ってみたりもしたが、回復スピードがダメージスピードに追いつかないのでポーションを使うしかない。

 

それを数分続けていれば、元々スナイパーというあまり攻撃を受けないランの数少ないポーションは簡単に底をつく。

 

(でも、70体なら行ける…かも)

 

「【パワースナイプ】【黒稲妻】」

 

弱点に当たれば1700以上のダメージを与える弾が70体全てに飛んでいく。

 

とはいえ、相手も空を飛んでかわしているので当たらない弾も多い。

 

(あと…13体)

 

「コロモリ、攻撃」

 

コロモリたちが10体を引き付けている間にランは3体を撃ち抜いてポーションを使う。

 

ポーションの残りもあと一本。

 

コロモリたちは毒霧の範囲に入ってしまい倒れてしまった。

相手はあと7体。

 

ランは周りの星をスティムパーリデス達に向かわせダメージを与えていく。

その傍からどんどん撃っていく。

 

HPが2割になったのを見て最後のポーションを使う。

 

この猛毒の霧は耐性がつく事無く常にダメージを与えてくる。

それがランを苦しめる。

 

回復した傍から毒によるダメージが入っているのでランは焦りを感じる。

 

【速射】で弾の間隔は短くしていても毒の強さが勝る。

 

HPバーは二割を切り、相手は一体。

 

(これで…ラスト)

 

レールガンの弾はしっかり最後の一体の頭を貫いた。

スティムパーリデスを全てドットにした瞬間に蔓延していた毒霧は嘘のように晴れ、転移の魔法陣が現れた。

 

ランはこの後何があるか分からないので【泡輪】で回復をしていく。

 

HPが満タンになったのを確認して魔法陣に乗ると目の前には最初の女性が立っていた。

 

「アーチャー様、ありがとうございます。

スティムパーリデス達はもう被害を出すことは無くなりました。これは一重にあなた様のおかげです。ぜひお礼がしたく、この子を託します。」

 

『群体精霊ラプラスの悪魔を従属させました。』

 

精霊というこれまでと一風変わったモンスターが従属した。

群体精霊と言うだけあって数が多いので名前はつけずにまとめてラプラスと呼ぶことにした。

 

ラプラスの悪魔と言えば作用している全て力を把握・解析できる、未来視に最も近いとされる超越存在。

 

そのゲーム内では補足した敵のステータスを知ることが出来るだけで、未来視も戦闘も出来ないらしい。

しかし、それでも強力なことに変わりはない。

 

相手のステータスは本人以上に得手不得手を表す。

 

レベル差やステータスの振り方はもちろんスキルも見られるのだから、見られる側はたまったもんじゃない。

 

そんな解析の権化を仲間にしてランはその場を離れようとした。

 

ふと1歩踏み出したところで地面が暗いのがわかった。

ついさっきも同じようなことがあったようなと思い空を見上げるとスティムパーリデス達20体が飛んでいた。

 

反射的にレールガンを構えたランだが、スティムパーリデス達が攻撃してこないことを不思議に思いレールガンを下ろす。

 

するとスティムパーリデス達は影分身でもしていたように一体に集合した。

その一体は地上に降りてきて、ランに頭を垂れた。

 

「あなたも…仲間に?」

 

コクコクと首を縦に振る一体のスティムパーリデスには天河(てんが)という名前をつけた。

 

彼は分身することができるらしく、分身するとHPは等分されるが使えるスキルは全員同じになるそうだ。

 

「ラプラスと天河もアンクレットに入って…」

 

そうして、また1人軍隊の形成に拍車をかけたランはギルドホームに帰っていった。

 

 

 

 

そろそろ始まるイベントに向けて楓の木の面々は

各々の思うままにフィールドを駆けるのだった。

 



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