ポケットファンタジア (肥えたチヌ)
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序章 勇者の因果の始まり

この作品は
ポケモンでRPGをしたいと思い
書いたものです。

軽い気持ちでサクッと読んで、
お楽しみいただければ幸いです。


繰り返される運命の中で…

無理やり泳がせられる…。

様々な思惑が絡み合い、

そして消えていく…。

 

だが、それでも私は…諦めない。

 

…私は…

…私が…

 

…運命など、切り裂いてやる。

 

 

 

ここは、マサラ大国。

 

ポケットモンスター、縮めてポケモン。

この世界のあちこちにいる

不思議な生き物

 

彼らはそれぞれ

特徴のある姿かたちをしており

電気を発したり、炎を吐くことが出来たり

水を自由に使う事が出来たり…

他にも様々な能力を持っている。

 

そして…ポケモン達は修練を積み重ねると

その時を迎える。

 

身体が光り輝き、

その力が何倍にも増すのだ

 

これをポケモン達は 進化 と呼ぶ。

進化の回数はポケモンごとに決まっており

その回数を増やすことは出来ない。

 

「…でもねぇ、

 実はその進化の先に

 もう一つあるんだよ。」

 

絵本をパタン、と閉じ、

ゆっくりと語り始める

高齢のポケモン ガルーラ

彼女は広場の椅子に座り、

子どもたちに読み聞かせをしていた。

 

「えっ…?

 なになに、教えてください!!」

その言葉を聞いて

無邪気な笑顔で

目を輝かせる ミズゴロウ

 

「僕も聞きたいです」

ミズゴロウの言葉を

横目に控えめに催促する アチャモ

 

 

「へっ…まぁた、

 ろくでもないホラ話に決まってるよ」

 

広場の少し離れた水場に

ちゃぱちゃぱと手を入れながら

ガルーラの言葉を茶化す キモリ

 

「んじゃあキモリは聞かなくてもいいね。

 ねぇおばあちゃん、私たちに教えて?」

 

「教えてください、ガルーラさん」

そんなキモリを二人は軽く流し、

ガルーラに顔を向ける

 

「んなっ!?

 べっ…別に聞かないなんて

 言ってないだろ!?

 ごっ…ごめんって…

 お、俺も聞きたい!!

 いっ…いや、教えてください!!」

わちゃわちゃ…

 

 

「あなた…、我が国は

 今日も平和ですね…。」

 

広場を含め、

国中を一望できる場所に位置する城では

ルカリオの夫婦が

そっと身を寄せ合っていた。

 

「あぁ…、そのようだ…私は誇らしいよ。」

二人はこの国の王と王妃である。

 

二人は部屋に移動し、

椅子に座る。

しかし、王は

窓の外を見ながら顔をしかめていた

 

「ただ…最近おかしな夢を見るのだ…

 この国の平和が脅かされ、そして…

 この国の…いや…

 この世界が支配される夢を…。」

「あなた…。」

 

王妃は王の手を握る。

「大丈夫だ…誰にもそんなことはさせないさ…

 絶対にだ。」

 

コンコン…と何者かが扉を叩く。

「…入れ。」

王と王妃は離れ、その人物を招き入れる

 

「…お父様、お母様。」

まだあどけなさが残るものの、

凛々しい顔つきの若者

この国の王子 ルカリオだった。

今、彼は十六歳である

そして…彼はあと数日のうちに十七になる。

 

「来ましたね、ルカリオ…

 この国には年に一度…

 豊穣祭、というものをすることは

 もう知っていますね?」

「はい…知っています。」

 

豊穣祭…それはマサラ大国で

行われる大規模な祭り。

国中、そして国の外から

様々なポケモンが集い、

その全員で平和と繁栄を祝う行事だ。

 

 

「そして豊穣祭の式事…

 我らが全能の神、

 アルセウスに祈りを捧げる精霊たち…

 そのために

  精霊の儀 を

 受けねばならない者がいます…。」

コンコンッ…と扉が再び叩かれる。

 

「入りなさい…」

重々しく扉が開き、

中に入ってきたのは一匹のポケモン…

 

茶色い毛並み…

ルカリオよりも小柄で四足歩行…

ピンッ…と立った耳を

せわしなく動かしているその様子は

誰がどう見ても緊張しているように見える…

 

 

イーブイだった。

 

 

「国王陛下…

 ならびに王妃様…そして王子様…

 この度、精霊役に任命されました

 イーブイ と申します。」

姿勢を正し、ペコリと三人にお辞儀をする

 

「あぁ…話は聞いているぞ…

 今回の重役…

 緊張はすると思うが…

 あまり張り詰めすぎることのないよう

 務めてくれ。」

 

「かっ…かしこまりましたっ!!」

 

やれやれ…とイーブイの様子を見て

小さくため息をつく王と、

クスクスと小さく優しい笑みを浮かべる王妃

 

「…。」

ルカリオは真顔でイーブイを見ている。

 

「さて…挨拶はこれくらいにして

 本題に入ろう…。

 イーブイよ、そなたには

 精霊役を務める為

 精霊の儀 を受けてもらう必要がある。」

 

 

精霊の儀とは…

このマサラ大国で行われる儀式のことで

マサラ大国の北には深い森があるのだが

その森の一角にある妖精の泉…

そこにいる妖精の王 ゼルネアスから

祝福を受けることである。

 

 

この儀を受けることで

はれて精霊役と認められるのだ。

 

「ただ…森に娘一人を

 向かわせるというのは危険すぎる…。

 なのでな…

 例年、護衛をつけ

 森に向かってもらうのが決まりだ。

 今年もその予定で行く。」

…そこでだ。

 

「…ルカリオ、

 お前にその護衛をさせよう…

 と思ったわけだ。」

「…っ!?

 …わたしが…ですか…?」

突然の王の発言に戸惑うルカリオ

 

「あぁ…この国の大事な後継ぎとはいえ、

 お前ももう17になる。

 そろそろ世界を見て、

 力をつけても良い頃だ…

 そのための準備の一環として

 今回の護衛を務めてもらいたい。」

「…父様がそうおっしゃられるなら…

 かしこまりました。

 必ずや 精霊の儀 を

 成功させて見せます。」

「うむ…頼んだぞ。」

ルカリオの答えに頷く王を尻目に

ルカリオ達は一礼し、部屋を後にした。

 

…。

…とはいえ

…とはいえである。

 

「…果たして…私でいいものか…。」

ルカリオは迷っていた。

 

ただ北の森の妖精の泉に向かうだけの

簡単な道のり。

 

野生の、無所属のポケモンも

ほとんど存在していない。

けれども、何事も油断は禁物である。

 

「では王子様…

 精霊の儀では護衛を

 よろしくお願いいたします。」

「あぁ…勿論だ。

 必ず、守り通して見せよう。」

 

…口ではそういうものの。

 

「…本当にわたしでいいのだろうか…?」

本音がつい口をついて出てしまう。

 

イーブイと別れ、迷うルカリオの足は

城のとある場所に向かっていた。

 

「…百九十八!…百九十九!!

 …二百!! そこまで!!

 これよりしばし休憩とする!!」

訓練場の方から

威勢のいい声が聞こえてきた。

 

訓練場ではハッサム兵士長が

直々に兵士たちを

訓練しているところだった。

 

そして、今は休憩中のようである

 

「昼間から精が出るな、ハッサム兵士長」

「これはこれは、ルカリオ王子殿…

 貴殿のようなお方が

 このようなむさくるしい場所に

 何をしにおいでに?」

ハッサムはルカリオに一礼した。

 

彼が兵士長ハッサム。

昔、西の国境で国防を務めた経験があり、

その時から“赤き閃光”と

うたわれた実力者である。

 

「いや…精霊の儀については

 よく知っているだろう?

 今回、私が

 精霊役の護衛をすることになってな…

 本当に私でいいのか見極めるため

 訓練をしようかと、

 そう思っただけだよ。」

「そうですか…」

ルカリオは訓練場を見渡す。

 

ダグトリオにドゴーム、カメックス…

ビッパにエビワラー、

ストライク

新たか…おっと失礼…カポエラー…。

兵士たちは様々である。

 

…相手に誰を選ぶか、と

 言われると決めかねる。

「まぁ、ですが…

 王子の実力からして

 森のポケモンにおののくほど

 弱くはないとは思いますが…」

 

 

「…なるほど、な。」

「…?

 …どうかなさいましたか…

 ルカリオ王子?」

ハッサムはこちらを見ながら

首をかしげている。

 

「あっ…あぁ、いや

 何でもないよ…」

ルカリオは口をつぐんだ。

「…?

 そうですか…」

一瞬顔をしかめるものの、

すぐに表情を戻した。

 

 

「では…他の兵士達はみなつい先程

 過酷な訓練を終えたばかりで

 疲れ切っております…。

 なのでぶしつけながら、

 私と手合わせをいたしませんか?」

ハッサムは頭を下げながらそう言った

 

「あっ…あぁ…。」

一瞬、断ろうかと

思ったルカリオだったが、

ハッサムの誘いに乗ることにした。

 

相手にとって不足なし…

 

というよりは十分すぎる程の

相手だったからだ。

 

 

ハッサムとルカリオは向かい合う。

一応、万一の怪我の防止のため

ハッサムは手に手袋を。

ルカリオもまた同じように

安全対策をしている。

 

「では…行きますよ、王子。」

「…。」

こくり、と頷くルカリオ

 

 

「はじめっ!!」

 

 

ダッ…!!

開始の合図の直後、

ルカリオが飛び出す。

 

両手に波動を溜め、ハッサムに近づく。

<<はっけい>>

 

ハッサムは両腕をクロスさせ、

それを防ぎながら後ろに下がる。

 

「…なるほど。」

ハッサムは小さく頷く

 

「はぁっ…!!」

ルカリオは気合を溜め、

一気に撃ち放つ。

 

 

<<きあいだま>>

 

 

「…ふんっ!!」

 

ハッサムが高速で空を切ると

その高速の衝撃が波となり

相手を切り裂くため動き出した。

 

 

<<エアスラッシュ>>

 

 

きあいだまと

エアスラッシュがぶつかり

お互いを打ち消しあう。

 

「…次だ!!」

ルカリオは拳を引き、

力を溜めながら走り、近づく

 

<<インファイト>>

 

「…ふぅ…パワー勝負、ですか。」

ハッサムは小さく漏らすと

ルカリオと同様に構えた。

 

<<バレットパンチ>>

 

二つがぶつかり、

お互いを打ち消していく…

 

「…っ!!」

ある程度ぶつけたところで、

ルカリオはインファイトをやめ、

スピードを高める。

 

<<でんこうせっか>>

 

 

「…。」

だが、流石は“赤き閃光”

ハッサムというべきか。

ルカリオの<<でんこうせっか>>は

まだ目で追われていた。

 

 

ヒュンッ…

ルカリオはハッサムに

目の前から飛びかかる…と

見せかけて移動する。

 

「…」

音もたてず、ルカリオは

ハッサムの後ろに迫っていた。

 

きあいだまを右手に溜め、

今度こそハッサムに飛び掛かる

 

 

しかし…

「…。」

ハッサムはそれを軽々と避けた。

 

その上でルカリオより

更に速いスピードで

ルカリオの上を取り、攻撃を繰り出す。

 

 

<<ダブルアタック>>

 

 

一撃目でルカリオを地面に叩きつけ、

二撃目で横に大きくルカリオを吹き飛ばす。

 

「ぐっ…!!」

ルカリオは

地面を転がりながらすぐに立ち上がる。

 

そして次に見たものは…

 

<<かげぶんしん>>

 

 

 

六体に分かれたハッサムの姿だった。

 

「なっ…!?」

 

…いや…落ち着け…。

心を落ち着ければ見えるはずだ

 

分身を見つめ、

精神を研ぎ澄ましていくルカリオ

 

ハッサムの無数の影が一つに重なり…

本体の居場所を映し出す。

 

「…っ!!

 そこだ!!」

一人のハッサムに向かうルカリオ。

渾身の<<はっけい>>を決める。

 

ブンッ…

 

「なっ…!?」

はっ…外した…!?

 

「甘いですね、王子…」

すぐ後ろから声がする

 

「ぐっ…!?」

 

コツンッ…。

 

次なる攻撃を

放とうとするルカリオの手よりも先に。

 

勢いよく振り返ったルカリオの額に

ハッサムの手が優しく当たった。

 

 

「そこまでっ!!」

 

 

「…どうしても、

 勝てないな…わたしは。」

戦いが終わった後、ルカリオは

小さくため息をつくように言葉を漏らす。

 

その手は悔しそうに

フルフルと震えながら握られていた。

 

「いえいえ…実践ではなく訓練とはいえ

 私とここまで戦えるということは

 あなたの実力は確かなものですよ、王子

 どうか、自信を無くされませぬよう…」

 

落ち込んでいるルカリオに

まるで諭すように微笑みかけるハッサム

 

「そうか…ありがとう。

 感謝するよ、ハッサム兵士長」

「ただの兵士長であるわたくしには

 それはもったいないお言葉です、王子。」

 

その時、握られた手は温かく…

 

「ただですね…ルカリオ王子?

 兵たちを品定めするような真似は

 今度からお控えになりますよう、

 お願いいたします」

「はははっ…

 次から気を付けるよ…すまなかった。」

 

…(別の意味で)

 力強かったような…気がした。

 

 

…翌日。

「…それではルカリオ王子、

 よろしくお願いします。」

「あぁ、任せておけ。」

…それじゃあ、行こう。

 

この旅立ちが全ての運命の引き金となる。

その事をまだこの時の二人は知らなかった…

 

 

 

…同時刻

「さぁ、もう逃げ場はありませんよ…

 私に、大人しく協力を。」

影が三つの小さな光に迫っていた。

 

「私たちは決して

 捕まるわけにはいきません!!」

 

「…絶対に!!」

 

「お前になど、協力するものか!!」

 

 

「そうですか…では、交渉決裂ですな…

 者ども、こいつらを捕らえろ!!」

影の後ろから無数の闇が忍び寄る…

 

 

「そうはさせるか…!!」

 

「…っ!?」

…お前たちは…

 

 

「…」

城にて。

城の宰相であるガブリアスが一人、

城の廊下を歩いていた。

 

「ふぅ…ようやく訓練もひと段落か…。

 それにしても…

 昨日の兵士長と王子との戦いは

 素晴らしかったな…。」

惚れ惚れするほどだった…

 

兵士の一人、ストライクが

そこに通りかかる。

 

彼は兵士長ハッサムと同様、

西の国境の戦いで生き残った兵士の一人で

片目を切り裂かれ、傷が残り、隻眼だった。

 

「…?」

あれは…宰相殿…?

 

 

「…。」

コンコンッ…

 

ガブリアスは

一度キョロキョロと周りを見渡し、

一つの扉の前で立ち止まり、ノックをする。

 

…音を立てて、扉が開いた。

 

 

ストライクからは、

その部屋の中は見ることが出来ない。

 

ガブリアスは中に入っていく…

「…いったい、何を…?」

ストライクはそっと、

気づかれないように

扉に近づき聞き耳を立てる。

 

…そうだ…いや…あぁ…。

 

中から声が聞こえる…

 

「…?」

まだ、何をしているか分からない…

 

…王子は…今、森に…

 

…危険が迫っている…

 

…西の国が…それは確かか…?

 

 

「王子…西の国…危険…?

 一体どういう…?」

 

ガブリアス達の声が遠ざかっていく…

ストライクはより集中して声を聞く。

 

…私が…この国を…

 

…あぁ…

 

…手に入れる。

 

 

「…っ!?」

ゾクリ、と背筋に悪寒が走った。

 

「どうした、ストライク…

 こんな所で何をしているのだ?」

「ふぁっ…!?」

ストライクは驚き、

身体を震わせる

 

 

後ろを振り向くと、

兵士長ハッサムがいた

 

「へっ…兵士長殿、

 お…お疲れ様です!!」

 

急いで姿勢を正し、敬礼をする。

 

「…何事だ…騒がしいな…。」

ストライクの後ろの扉から

声を聞きつけ、ガブリアスが出てくる

 

「んっ…ガブリアスか…

 いや、ストライクがいたのでな…

 私は気になって

 声をかけてみただけだ…。」

「ほぅ…なるほど。」

 

ちらりと後ろを見た

ストライクからしか見えていなかったが、

ギラリ、とガブリアスの目が光っていた。

 

それに身体を震わせるストライク

ハッサムはガブリアスの顔を見て、

話をしている

 

…どうやら気が付いていないようだ…

 

「…私がストライクに言いたかったのは

 あまり聞き耳を立てるな、

 ということだ…

 ガブリアス、うちの部下が

 本当に申し訳のないことをしたな…」

 

「いやいや…別に、

 気にはしてませんよ。」

 

謝罪をするハッサムに、

怒ってはいない、と

笑顔で答えるガブリアス

 

「では、私は用事があるので行く…

 ストライク、お前からも

 彼にしっかりと謝っておけよ。」

そう言って、ハッサムは

二人の横を通って行ってしまった。

 

ポンッ…とストライクの肩に

ガブリアスの爪が置かれる。

 

「んで…どこから聞いていた…?」

「えっ…えっと…そっ…それは…。」

 

ガブリアスの威圧感に

気圧されるストライク

 

冷や汗が流れ落ちる。

 

「…いや…だめだ。」

ガブリアスは

何かを思い出したかのように

天井を見上げ、首を振る。

 

 

「…?」

ストライクは終始、

訳が分からず首を捻っていた。

 

「…こっちとしても疑いたくはない…

 今回は警告だけにしておく。

 次からは無駄なことに

 首は突っ込まないことだ…。」

…じゃないと…命の保証がなくなるぞ…。

 

一息ついて、ガブリアスは

そういい、殺気を解いた。

 

 

「…分かりました。

 以後、気を付けます。」

小さく頷くストライク

「よし…ならいい。

 今日は寒い…

 冷え込む前にもういけ。」

 

パチパチと燃える

廊下の明かりの火を見ながら

ガブリアスは言った。

 

「はい、申し訳ありませんでした…」

ストライクがその場を去る

 

「さてと…これで少しは…。」

ガブリアスは小さくそう呟くと

また部屋に入っていった…

 

バタンッ…

 

 

 

 ルカリオとイーブイの二人は

 北の森へと足を運んでいた。

 森の中を歩いて進んでいく

 

「きゃっ…」

「おっと…大丈夫ですか…?」

木の根に足を取られた

イーブイを助けるルカリオ

 

「すっ…すみません…」

イーブイを支え、

ゆっくりと地面に降ろす。

イーブイは

すぐさまルカリオから離れ、一礼する。

 

 

…城を出てからずっとこんな調子だ…

…確かに自分は王族であるが、

 ここまでするのは…

 あまり必要性を感じない…。

 

 

「ふぅ…。」

思わず、ため息が出てしまった

 

…自分の価値観が

 鈍っているのだろうか…?

…それとも自分には

 王子としての自覚が足りないのか…?

そんな風に思った。

 

 

「止めて…!!

 来ないでぇーーー!!」

森の中で突然響く謎の声

「…っ!?」

その声はどんどんこちらに近づいてくる

 

「うわぁあああああーー!!」

 

ガサッガサガサッ…!!!

 

近くの草むらが揺れた

 

「…離れて!!」

何か嫌な予感がしたルカリオは

イーブイをその場から少し離れさせた

 

ガサァッ…!!

 

…次の瞬間。

 飛び出してきたのは小さな影。

 小さな体に

 振り落ちないようにバックを巻き付け、

 毛でふわふわとした首に

 きらりと光る首輪をつけたポケモン…

 

ガーディだった。

そして

その背に乗せられているのは、シェイミ。

 

その後ろから出てくるヘルガー達の群れ

ヘルガー達は見たところ、

無所属…野生のようだ。

 

「うわぁあああーー!!

 助けてください!!

 あの人(?)達が

 僕たちを襲ってくるんです!!」

イーブイの後ろに急いで隠れ、

ルカリオに助けを求めるガーディ

 

「なんだぁ…てめえら…?

 痛い目にあいたくなかったら

 大人しく

 そいつをこっちに引き渡すんだな…」

へっへっへ…と

大人数のためか、

余裕のある笑みを

浮かべているヘルガー達

 

 

「一応聞くが…

 この子をどうするつもりだ…?」

どう見ても悪者だが、

最終確認のつもりで

ルカリオはヘルガー達に問う。

 

「どうって…そんなの決まってんだろ…?

 金目の物を奪い取って売りさばいた後、

 色々教えこんで

 “可愛がって”やるんだよ…」

「そうか…。」

…決まりだな…。

 

「…っ!」

ルカリオは<<でんこうせっか>>を使う。

先程から話をしていた

リーダーらしき

ヘルガーの首根っこを掴み、

持ち上げて宙に浮かせた。

 

「…では、お前たちがあの子たちに

 色々“なにか”を教えこむ前に…

 私が“常識”というものを

 教えてやろうか…!」

 

 

「…っ!!」

…そこからの王子様は

 まるで鬼神のような強さでした。

 日頃から鍛えていらっしゃったのでしょう。

 ヘルガーさん達をまとめて相手にしても

 全く動じることもなく倒していました。

 

 最初の一人を地面に勢いよく叩きつけ、

 気絶させたかと思えば、

 一瞬で奥にいた二人の間に立ち、

 両手から技を繰り出して吹き飛ばす。

 

 その後、一斉に襲い掛かった三人を

 目にも止まらぬ早業で気絶させ、

 バックから取り出した縄で

 全員まとめて

 近くの木に縛りあげていました。

 

 最後に城に伝わるように

 のろしを上げて、出来上がり。

 

 …と、鮮やかな手さばきでした。

 

 

「ふんっ…他愛ない…。」

全ての処理を終え、ルカリオは一息つく。

 

「…王子様っ!!」

「…っ!?」

イーブイの声

ルカリオはすぐに振り返り、三人に近づく

 

「どうしたっ…!

 一体何があった…?」

「王子様…この子が…。」

 

見ると、

先程ガーディの背に乗せられていた

シェイミが地面に寝かされていた。

 

…顔が赤く、息が荒い…

 

「…まさか…」

「えぇ…すごい熱で…

 流行り病かも…。」

心配そうにシェイミを看病するイーブイ

 

「西の国から出た後…すぐに倒れられて…

 僕には…

 どうしたらいいか分からなくて…。」

 

先程までの緊張の糸がほぐれたのか、

ガーディは言いながらすでに泣きそうだ…

 

「…ここに留まっていても、

 症状を悪化させるだけだ…

 すぐにここにも城の兵士が来るはず…

 城に行って、治療を受けるといい…」

…まずは、とりあえず…。

 

そう言って準備を始めるルカリオ。

テキパキと持ってきていた布で

簡易ベッドを作り、

シェイミをそこに寝かせるように言う。

 

「まさか…兵士長の言っていた知識が

 こんな形で

 役に立つとは思わなかったな…」

…人の話は聞いておくものだな…。

と、一人頷いているルカリオ。

 

 

「シェイミさまぁ…」

ポロポロと涙を流すガーディ。

「大丈夫だ…必ず治せる。」

 

ガーディのそばに寄り、

肩を優しく叩くルカリオ

 

「やはりのろしを焚かれたのは

 王子でしたか…何事ですか…!?」

城の兵士であるカメックス達が来た。

 

「病人とお尋ね者だ!!

 病人を早く城へ…

 そして、お尋ね者を連れていけ」

「はっ…!!」

 

こうして…ヘルガー達、

そしてガーディ達は

城に連れられて行った。

 

「本当にありがとうございました!!」

ペコリ、と頭を下げてガーディは

カメックス達についていった。

 

「さて…私たちも行きましょう…

 ここから泉までは…

 遠くはないはずです。」

「はい…最後までよろしくお願いします…。」

 

少々道草を食ってしまった感があるが…

ようやく泉に向け、再出発することが出来た。

 

 

薄暗い森を抜け…

長い獣道の先にあったのは、

木々の裂け目から

日光の差す小さな泉だった。

 

「これが…妖精の泉…。」

イーブイは目を輝かせている。

 

「私もうわさに聞くだけで…

 来るのは初めてだ…

 まさか…ここまで美しいとは…。」

目の前の絶景に、心を奪われている二人

 

泉には絶えず水が流れ込み、

どことなく甘い匂いが

周囲に漂っている…

水は底が透けて見える程の透明度で

降り注ぐ日光を反射し、

虹色の光をたたえていた。

 

 

次の瞬間…

湖から眩しい光が照り付け、辺りを照らす。

 

「ルカリオ王子…

 そして今年の精霊役の方…

 ここまで大変だったでしょう…

 よくぞおいでになられましたね…。」

ルカリオ達が目を開くと、

泉の前に流麗なその姿があった。

 

…精霊王 ゼルネアス

 

その身に神秘的なオーラを纏い、

深い愛情の籠った瞳で二人を見ている。

 

「初めまして…ゼルネアス様…

 私が今年の精霊役に選ばれた…

 イーブイ、と申します…」

 

「マサラ大国の王子であり…

 今回精霊役の護衛を務めている…

 ルカリオです…以後お見知りおきを。」

 

二人はそれぞれでゼルネアスに対し、

挨拶をする。

 

ニッコリと、その挨拶を受け、

ゼルネアスは微笑む。

 

「えぇ…既に城の者より

 連絡を受けています…

 本当によくぞおいでになられましたね…。

 では早速…精霊の祝福を授けましょう…

 イーブイさん…前へ…。」

「はい…」

 

イーブイは頷き、一歩前に出る。

ルカリオは後ろに下がり、

それを見守っている。

 

「…。」

ゼルネアスが目を閉じると、

爽やかな風が泉から吹いてきた

それと同時、

いくつもの小さな光が森と泉から現れる

 

 

「今年の精霊役に我らが神の祝福を…!

 我が精霊の愛を授けましょう。」

小さな光たちがイーブイの周囲を囲む。

 

 

光はイーブイの前に集まり、形を形成する…

 

イーブイはハートのうろこを手に入れた。

 

「さて…それを

 あなた方の国の全能の神の像に

 捧げるのです…

 そうすることによって、

 精霊の儀は終了します。」

「はいっ…!

 ありがとうございます!!」

またペコリと頭を下げるイーブイ

 

「それと…ルカリオ王子…?」

「はい…何でしょうか…」

 

「あなたにも贈り物があります…

 国王から、あなたがここに来た時

 これを渡すようにと…。」

 

ルカリオはかいがらのすずを手に入れた。

「これは…」

 

 

「あなたはもう一人前です…

 自分の道を選び…進み…

 この国のため全力を尽くすように…

 との事です。」

「…分かりました。

 全力を尽くす所存です。」

ルカリオはそういいながら、

バックにすずを付ける。

 

チリンッ…と鈴が小さく音を鳴らした。

 

 

 

刹那。

 

ゴゴゴゴゴゴゴ…!!

立っていられないほどの凄まじい地震

「ぐっ…!?」

 

「そっ…空が…。」

一瞬で黒い雲が世界の空を覆った

 

雲の間から漏れる光の中で

何かが弾けるように稲光が鳴り響く

その雷鳴は世界全体を駆け巡っていた。

 

そして…

 

雲が引き裂かれたように割れ、

三つの小さな光が

そこから飛び出してくる。

 

そしてそれを追うように

巨大な物体が現れた…

 

――――――!!

 

その日…世界に衝撃が走った。

人々の視線の先…

そこにあったのは巨大な一つの島…。

 

空に浮かび…上空に

堂々と鎮座しているその姿は

まさに絶望を体現している…

 

空のそれは邪悪な気配に満ちており、

希望などないのだ、と

世界中に示していた。

 

 

「なんだ…なんなんだあれは…!?」

地震が収まる…

 

[…聞こえるかね、世界のポケモン諸君。]

「…っ!?」

立ち上がるルカリオ達の頭の中に声が響く

 

[私の名前はダークライ…

世界のすべてを支配するものだ…]

頭の中に映る、その邪悪な姿…

 

[…とはいえ…“今の”君たちには

理解は出来ないだろう…

…だが…それは別に構わない…

すぐに“この時代”も

支配されるのだからな…。]

フッフッフ…。

 

…さて…。

 

 

[なぜ私がここに来たかと言えば…

私たちのいた時代から

時の精霊の力を借りて

三匹の愚かな反逆者が

この時代に逃げこんだのだ…

私はその三匹に用がある…

これがその反逆者たちだ…。]

「…っ!?」

軽い頭痛とともにルカリオ達の頭の中に

画像のように人物の影が流れ込んでくる。

 

 

青い精霊…アグノム…。

黄色い精霊…ユクシー…。

赤い精霊…エムリット…。

 

 

[この三匹が我が手に収まれば…

次はお前たちの番だ…世界のポケモン諸君…

おっと…反逆など

企むことはしない方がいいぞ…

私はすでに未来で

全てを手に入れているのだからな…!!]

声の奥の方からたくさんの笑い声が聞こえる。

 

[そう…時の神 ディアルガは

我が手に落ちたのだ!

私に歯向かおうという

愚かな者が現れぬよう…

手始めに…時の神の力を

見せておいてやろう!!]

何かが軋むような音…

 

 

[私に降伏せよ…こうべを垂れよ!!

反乱などという愚かな企みは捨て、

この世界に逃げ込んだ反逆者共々…

我が夢の中に落ちるがいい!!]

 

――――――!!!

 

何かの巨大な鳴き声が聞こえてきた

 

 

ゴッ…!!

 

 

「えっ…?」

空に浮かぶ島から世界に向け降り注ぐ光。

 

その一端が、運が悪いことに

ルカリオのいる森一帯へと向かってきた。

 

「王子様!!」

「ルカリオ王子!!」

 

視界の中で、

精霊王ゼルネアス…

そしてイーブイが消える…

手を伸ばすものの、

その手さえも形が崩れ

崩壊していく…。

 

「うわぁあああああああ!!」

 

 

光の中に吸い込まれる感覚…

 

まるで悪夢に

無理やり落とされたような…

そんな感覚だった。

 




~次回予告~
ルカリオが次に目を覚ました時…
目に映ったのは見知らぬ土地だった…

全てが変り果て…絶望に染まった世界…

そこでルカリオは己の運命と対峙する。

次回…ポケットファンタジア
   第一章 
   因縁の竜の牙 前編 お楽しみに!!


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第一章 因縁の竜の牙 編
第一章 因縁の竜の牙 前編


前回までのあらすじ…

マサラ大国の王子である
主人公のルカリオは

豊穣祭と呼ばれる祭りで
精霊役を務めることになった
イーブイと出会い、
彼女の護衛を務めることになる。

そして、精霊の泉にたどり着き、
精霊の祝福を受けた後…世界は崩壊。
ダークライの支配を受けた
時の神…ディアルガの攻撃を受け、
光の中に飲み込まれたのだった…。



~Time of aft 5~

 

「うっ…。」

ぼやけた視界がはっきりとしてくると、

そこは先程までいた森とは

全く違った景色が広がっていた…。

 

「ここは…」

ルカリオは起き上がり、

周囲の様子を見ながら少し歩く

 

丘のような…殺風景な場所

樹木が切り開かれ、

中途半端に開拓されたようなその場所に

ルカリオは見覚えがない。

 

「イーブイ!!

 ゼルネアス様!!

 誰かいないのかー!!」

…呼びかけるものの…返事はない…

 

冷たい風がルカリオの頬を撫でていく…。

 

「…一体ここは…。」

フワリ…

 

ルカリオの鼻をつく匂い

それは、ポケモンや物が焼ける匂い…

そう…黒煙の臭いだ。

 

 

「あれは…マサラの城か…!?」

…っ!!

 

ルカリオの視線の先で佇んでいる城…

しかし、城下町と思われる場所から、

火の手が上がっていた。

 

そして…ようやくルカリオは

今いる場所がどこなのか分かった。

「それではここは…北の森なのか…!?」

 

そう…ルカリオがいる場所…

それは土地開発に伴い、伐採され

開拓された北の森跡地だった。

 

「まさか…一体どういう事だ…?

 何故…いったい何が…?」

 

…城に行けば何かわかるかもしれない。

ルカリオは一人、

マサラの城に向け歩き始めた。

 

 

「反乱軍だ!!

 今日こそ奴らを殲滅せよ!!」

「殲滅されるのはお前たちだ!!

 奪われたマサラの栄光を

 王の名のもとに再び取り戻せ!!」

 

全軍 突撃!!

 

城下町は…戦場と化していた。

あちらこちらで火の手が上がり、

国民の悲鳴や剣戟の音が聞こえる…

 

「一体何なんだ…これは…

 どうしてこうなった…?」

 

城下町にたどり着き、

茫然とそれを見ているルカリオ

 

「きゃぁあああああ!!」

悲鳴

 

見るとマリルリとルリリの親子が

城の兵士と思われるポケモン…

ザングースに襲われていた。

 

「おかあさぁん!!」

「止めてください!!

 爪を…武器をこっちに向けないで!!」

泣いて懇願する親子

 

「黙れ!!

 今城下町にいる時点で

 反乱軍と見なせとの命令だ!!

 例外はない!!」

これは…正義だ!!

 

<<きりさく>>

 

キィン…!!

 

「勝手なことを言うな!!」

マリルリの親子と兵士の間に

ルカリオは割って入る。

 

「何が正義だ!!

 弱き身分の者を踏みにじって…

 語ることの出来る正義などあるものか!!!」

ここは私に任せて早くここから…!!

 

「あっ…ありがとうございます!!」

マリルリ親子が走ってこの場を離れる

 

「お前は…ルカリオ…!?

 …王だ!!

 ルカリオ王が居たぞ!!」

「王…だと…?

 私がか…?」

驚くのも束の間…

 

…っ!?

急いで避ける。

 

<<ミサイルばり>>が、

ルカリオが居た場所に突き刺さる…

ナットレイが

建物の屋根の上から攻撃してきていた。

 

「王…!!

 今すぐ俺たちに倒されてください…!!

 あなたが消えれば…

 この戦争は終わるんです!!」

ザングースが吠えるように言う

「おいっ…一体何の話をしているんだ…!!」

 

「問答無用ぉ!!」

ルカリオの問いに答えず、

兵士達が叫ぶと同時。

 

 

 

「騙されてはなりません…ルカリオ王!!」

<<バレットパンチ>>!!

 

一筋の閃光がルカリオの前に躍り出た

 

「城門の前での爆発以来

 はぐれてしまっていましたが…

 ご無事で何よりです…。」

「お前は…ハッサム兵士長…か…?」

その赤い身体には確かに見覚えがある…

ハッサムはハッサムなのだが…何かが違う…。

 

ハッサム兵士長には…

片目に傷などなかったはずなのだ。

それに…こんなに目で追えるほど、

スピードも遅くなかったはず…

 

「ルカリオ王…?

 …いえ、話は後です!!

 まずはこの戦場から脱出を!!」

…撤退しましょう!!

 

ルカリオの様子に首を傾げたものの、

すぐに戦闘態勢に入るハッサム。

「あぁ…分かった!!」

 

 

「逃がすものか!!

 ここで必ず捕らえてやる!!」

ザングースたちは懐から何やら

手のひらサイズの赤と白のボールを取り出した

 

「…っ!!

 “ボール”が来ます!!

 必ず全て避けてください!!」

「…分かった!!」

 

何かは分からないが…ルカリオにも

それを見た瞬間、嫌な予感がしていた。

 

 

ナットレイの<<ラスターカノン>>

城下町の地面を抉りながら大爆発を起こす。

 

「くっ…」

「ゴホッゴホッ…!!」

煙の中から出てくる二人

 

「はぁっ!!」

ザングースがルカリオに迫る

 

<<きりさく>>

 

「…っ!!

 させるか!!」

<<きあいだま>>

 

 

ルカリオの<<きあいだま>>が

ザングースに直撃した

「よしっ…!!」

「王!!危ないっ…!!」

 

パシンッ…!!

 

ルカリオの足元に、ツタが絡みつく。

ナットレイの<<パワーウィップ>>だ

「なっ…!?」

 

ぐるりと身体が回転し、宙に浮かせられる

「王っ、今お助けします!!」

 

<<エアスラッシュ>>

 

ハッサムはエアスラッシュを放ち、

ルカリオの足に絡みついたツタを切り裂いた

 

 

「うっ…!!」

ろくに受け身も取れず、

地面に叩きつけられるルカリオ

 

そこに、またザングースが迫る

その手に握られているのは“ボール”だった

 

「これで終わりだ!!」

ルカリオに向かってボールを投げつける

 

「ぐっ…くそっ…!!」

まだルカリオは立ち上がることが出来ない!!

 

 

 

…っ!!

万事休す。

 

 

 

 

 

…気が付けば。

ハッサムがルカリオを庇い、

ボールに自分が身代わりとして当たっていた。

 

「王…

 お逃げくだ…さ…!!」

ハッサムが赤い光に包まれ、

ボールに吸収された。

 

「ちっ…せっかくのボールだったのに…

 捕まえたのは付き人の方かよ…。」

ザングースがボールを拾い上げる。

 

「今のが最後のボールか…?」

ナットレイがザングースに聞く。

 

「あぁ…俺たちがもらった最後のボールだ…

 あ~あ、折角の昇進の

 チャンスだったんだけどなぁ~。」

「まぁ、いいだろう…

 ボールではなく、

 “こっち”は素で捕らえるぞ。」

「りょうかい♪」

 

 

「あっ…あぁ…。」

何も出来ないまま。

 

二人が近づいてくる…

 

もう、自分には味方はいない…

 

 

誰か…だれか…!!

 

恐怖に身体が強張る。

…震える、戦意が奪われていく…

 

「うわぁああああ…!!」

本当に何も出来ないまま。

 

どうしようもない恐怖に心を奪われ

ルカリオはその場から逃げ出していた。

 

走って走って…

決して二人に追いつかれないように

戦場を走り続ける。

 

 

…。

 

 

 

…そして、どれぐらい走っただろうか…

もう、二人は追ってきていなかった。

 

「…。」

トボトボと歩くルカリオ

 

雨が降り始める…

 

歩き続けるルカリオの胸の中は、

敗北感で一杯だった。

 

どうしようもない無力感が胸を襲う…

雨に紛れて…

ルカリオの目から水が零れていく…

 

このまま雨に打たれて…

消えてしまえないだろうか…?

そんな風に思ってしまう。

 

「ルカリオ…王…?」

そんな時、ルカリオはまた声をかけられた…

 

見ると数人のポケモンとともに

行動しているポケモン…

 

青色の身体…ひれ…四足歩行…

シャワーズだった。

 

 

「無事だったんですね…!!

 良かった…。」

「…無事な…ものか…。」

 

笑顔になるシャワーズとは対照的に、

…暗い表情のままのルカリオ。

 

「私のせいで…わたしのせいで…!!

 ハッサムが…ハッサムがっ…!!!」

強く握られる拳

 

 

…それ以上、ルカリオが何か言うよりも早く。

 

そっと…

ルカリオは柔らかな鱗のある体毛に包まれた。

ひんやりとしたその身体に手が触れる…

 

シャワーズがルカリオを抱きしめていた。

「ルカリオ王…

 お気持ちはお察しします…

 ですが…あなたは決して折れてはいけません…

 あなたが今折れてしまえば…

 あなたの下であなたを支える者達が

 路頭に迷ってしまうからです…」

…どうか…どうか、今は耐えてください…。

 

…?

シャワーズは小さく首を傾げる…

 

 

「ぐっ…うぅ…。」

ルカリオはその言葉を受け…

零れていた涙をなんとか止める…。

 

 

「…行きましょう、ルカリオ王…。

 まずは拠点に戻り…体制を立て直すべきです」

そのままルカリオはシャワーズに連れられ…

反乱軍の拠点へと向かった。

 

 

その間に。

ルカリオは今この時代に起こっている

現状を知ることが出来た…

 

今、この世界はダークライに完全に支配され、

そしてマサラ大国も

また支配されてしまったのだという。

 

マサラ大国の崩壊を手引きした者…ガブリアス。

 

今、実質城を治めているのは彼で

王座を奪われたルカリオ王が反乱軍として、

何とか失われた王位を奪い返そうと

躍起になっているのだとか…。

 

「…。」

話を聞きながら、ルカリオは

 自分は今、未来の世界に

 来てしまったのだと理解していた。

 そして同時に未来の自分が

 そんなことになるのか…と

 軽く絶望もしていた。

 

…とりあえず、

 今はこのまま彼らの“王”になりすまして

 詳しく情報を調べよう…。

 

「…ですが、油断は出来ません…。

 ガブリアスの裏には

 今は不在とはいえダークライが付いています…

 彼は用意周到な人物です…。

 私たちが城を奪い返しても、

 何かしらの事はしてくるはず…」

歩きながらの報告は続く…

 

「実際、密偵からの連絡によれば

 “あの後”も、

 定期的に城にダークライ四天王の一人

 ネンドールが出入りしているとの事です…。」

…恐らく、いや確実に…

 仮にガブリアスを潰しても、

 奴との戦闘になるのではないかと…。

 

兵士の一人、カメックスが、ルカリオに話す。

「そうか…。」

その報告を受け、ルカリオは俯きながら答えた。

 

…。

「そういえば…“ボール”については

 どこまで分かっている…?」

「えっ…あぁ…

 それが…まだよく分かっていない部分も多く…

 一度捕らえられると

 何らかの方法で

 “ナイトメア”化 するとしか…」

「ナイトメア化…?」

ルカリオは更に深く尋ねる。

 

「えぇ…ナイトメア化…つまり

 闇に囚われ…

 同じ身体、同じ技を使う敵に

 なってしまうということです」

…が…。

 

「この報告は

 つい先日したばかりのはずですが…

 何故今お聞きになるのでしょうか…?」

 

「うっ…いっ…いや…それは…。」

…まずい…早くも

 自分が“王”ではないことがバレてしまう…

ダメだ…何か上手い言い訳を…。

 

「口を慎みなさい…

 兵士が王を疑うとは何事ですか!」

シャワーズが慌てているルカリオを置いて

兵士を叱責する。

「はっ…!

 申し訳ございません、陛下…」

 

「いっ…いや…良いんだ。

 こちらこそ、申し訳なかった…。」

…助かった…。

…下手に情報を探りすぎて

 墓穴を掘らないように、注意しよう…。

 

脂汗を拭いながら、

ルカリオはそう心に決めたのだった。

 

「…。」

そんなルカリオを、

シャワーズは静かに見守っていた。

 

 

「陛下…ご無事でしたか!!」

反乱軍の拠点は…山の洞窟の中だった。

入り口は木の葉で隠され、

更に見張りが付いている。

 

入り口で検問を受け、中に入った。

 

冷たい空気が漂っているが…

中はそれなりに広いようで、

ポケモン達でごった返していた。

 

傷を受けたポケモン…

行き場をなくしたポケモン…

 

平和とはかけ離れた空間が、そこにはあった。

 

「…。」

目を見開き、その現状を見つめるルカリオ。

その手は、再び強く握られている。

 

「陛下…次なる作戦のため…

 ご報告したいことが…」

兵士の一人、サンドパンがルカリオに近づく。

 

「お待ちなさい…

 王は今帰ってきたばかりです…

 少し休息の時間を。」

「はっ…そうですね…

 では、報告は

 またのちほどということで…。」

シャワーズの言葉に、引き下がるサンドパン。

 

「では王…こちらに…

 部屋にご案内いたします…。」

「あっ…あぁ…分かった。」

 

シャワーズに連れられて、

ルカリオは洞窟の奥へと進んだ。

 

…なぁ…さっきの王…

 随分と若くなかったか…?

…どうだろうな…気のせいじゃないか…?

…ほんとにそうかな…?

 

「えっ…?」

その時、見張りが驚いていた…。

「おいっ…一体どうしたんだ…」

 

…。

…はぁ?

 なっ…なんで…?

 

 

 

「…。」

ルカリオは絶句していた。

 

シャワーズに案内され連れてこられた部屋…

 

そこにいたのは、ベッドに寝かされ

植物状態になった母、

ルカリオ王妃だったからだ…

 

「…っ!

 母様…!!」

ルカリオは部屋に入るや否や駆け寄る。

 

「へっ…陛下…!?」

世話役のラッキー達が困惑する。

 

「大丈夫です…

 ここは私に任せて。」

シャワーズが

ラッキー達を鎮め、部屋から出す。

 

「なぜ…なんで母様が…こんな…

 こんなことに!!」

「ガブリアスです…。

 彼は王の寝込みを野盗に襲わせ、

 王妃の食事に毒を…。」

「くそっ…くそっ…!!」

 

ベッドのシーツを握るルカリオ

その目から、涙が零れる…

いくら止めようとしても…止まらなかった。

 

「だいぶ、状況が呑み込めましたか…?

 “王子”様…?」

「…っ!!

 えっ…?」

 

「あなたは何らかの方法で

 過去から来た…違いますか?」

 

「…どうして…それを…。」

シャワーズの発言に困惑するルカリオ。

 

「最初こそ私も分かりませんでした…

 でも、あなたを抱きしめた時…

 身体から強烈に

  精霊の泉 の匂いがして…確信しました。

 この人は私たちの知っている王ではない…と。

 そして…なら、五年前の過去から

 何らかの方法で来たのではないか、と

 そう思ったのです。」

 

「でも…そんな…どうして五年前だと…」

…っ!?

…いや…まさか…そんな…!!

 

「まさか…あの時のイー…ブイ…?」

「はい…“王子様”。」

 

優しい微笑みを浮かべるシャワーズ。

 

「王子様が泉に行かれたのは

 後にも先にもあの一回だけ…

 そして泉は開拓によって消滅しているため、

 現在は匂いの付きようがない…

 最後に私は当時同行していた…。

 だからこそ、分かったのです。」

 

「わ…私は…。」

全てが分かった時、

ルカリオの中のダムが…決壊した。

 

いきなりこんな時代に連れてこられて。

いきなり戦場に身を置いて…

いきなり自分のせいで犠牲者を出してしまって…

 

まだ十六歳の戦争を知らぬ青年の心には、

あまりにも酷な状況だった。

 

「うわぁああああ…!!」

 

ルカリオはシャワーズに

抱きしめられながら声を上げて泣いた。

床にへたれ込み、

己の無力を心の底から呪った。

 

 

「王子…。」

 

シャワーズは…

そんなルカリオを黙って受け止めていた。

 

 

…しばらくして。

…ようやくルカリオは涙を止めた。

 

「母様…私は…

 決してあなたを今のようにはしません…

 必ず…救って見せます…。」

 

植物状態の母親の顔を見て…声に出して、

もう一度心の中で口に出して心に…魂に刻む。

 

「私は…私の時代に帰らなければ…!!」

「えぇ…全力で、

 サポートいたします、王子様。」

 

コンコンッ…

…ガチャリ。

 

「王…少し…来ていただけますかな…?」

その時、部屋に入ってきた兵士の顔は…

何故か暗かった。

 

「…?

 あっ…あぁ…。」

ルカリオはついていく。

シャワーズもまた後ろからついてきていた。

 

 

「…っ!!」

そして…めぐり会う。

 

「えっ…?

 おっ…王子…様っ!?」

「イッ…イーブイ…。」

「…。」

 

「…なるほど…

 さて…これは一体どういう事なのか…

 説明してもらおうか…

 “王”様…シャワーズ?」

おっ…王が…二人…!?

 

運命が…交錯していた。




~次回予告~
ルカリオ達はめぐり会った。
そして…物語は大きく動き始める…

ダークライの謎…
ガブリアスがなぜ裏切ったのか…

そして…涙を流すルカリオ…

運命の歯車が動き出す中、
はたして、ルカリオは
元の時代へと戻れるのか?

次回 因縁の竜の牙 中編 お楽しみに!


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第一章 因縁の竜の牙 中編

~前回までのあらすじ~

マサラ大国の王子 ルカリオは
国で行われる祭りのため、
精霊役であるイーブイの精霊の儀にて
護衛をすることになった…

そしてその途中、
ダークライが世界に現れ
世界に時の神の力を降り注がせる。

それに巻き込まれ、
五年後の未来に飛ばされたルカリオは

シャワーズ達と出会い、
そして未来の自分と
ついに対面するのだった…。


…。

……。

 

「…馬鹿な…!!

 ガブリアスが、彼が裏切り行為など…

 するはずがございません…!!

 王、今一度お考え直しください…!!」

「私にもそれは分かっている…

 だが…今回の件に関して…

 疑わしきが

 ガブリアスを除いて他にいないのだ…」

 

「ですが…王…

 いくら彼に可能性があったとしても…

 それは憶測にすぎません!!

 罰するのはあまりにも早すぎます!!」

「あぁ…分かっている。

 だが、一応…彼を牢に入れておく…。

 念のためだ…分かってくれ…。」

 

 

「…。」

薄暗く、冷たい城の地下牢にて…

 

「俺は何もやっていない…

 どうして誰も分かってくれないんだ…。

 俺はただ…」

 

うめき声に似た…

そんな声がずっと聞こえてきた…。

 

牢の番を任されて…

とても…居住まいが

悪かったことを覚えている…

 

ただただ憂鬱だった…。

 

その日は頻繁に兵士長殿が

仕事の合間を縫って、

牢の様子を見に来ていた…

 

 

様子を見に来ては、

 

大丈夫だ。や

必ず何とかなる…といった声をかけていた…

 

その後…とある日…事件が起こる…。

 

王妃の食事に毒が盛られたのだ…

 

そして…毒物が見つかったのは…

ガブリアスの閉じ込められていた牢の中…

 

更に、その日、

何故かガブリアスの牢のカギが…

かけられていなかった。

 

これに対し、先代の王は激怒し

ガブリアスは結局

罰せられることになってしまった…

 

「お待ちくださいっ!!王っ…!!

 俺は…私は…本当に何もしてない…!!」

「黙れ!!

 なら何故毒物が

 お前の牢の中から見つかった!?

 そして…なぜカギが開いていた…!!」

 

「それは…私にも分かりませんっ!!

 その毒物というのも…

 気が付いたら牢の中にあって…!!」

「なら、我が妻は

 “気が付いたら”毒を盛られ、

 “誰のせいでもなく”

 植物状態にされたというのか!?」

 

「なにとぞ、お許しを…!!

 俺は…私は本当にやってないんです…!!」

ハッサム…!!

頼む…お前からも何か…!!

 

「…。

 …すまない…。」

「…っ!?」

 

この時の悔しそうに

拳を握るハッサム兵士長と…

絶望している宰相のガブリアスの顔は…

今でも忘れられません…。

 

…私が…カギをかけ忘れたことを

言っていれば…

少しはガブリアス…彼の罪も…

軽くなったのでしょうか…。

 

 

…オマエガ…カレヲ…オイツメタ…

 

「がぁああああああーー!!」

 

「いっ…いやぁああああ…!!

 国王が…国王が…!!」

 

 

「何事だ!?」

 

「ルカリオ王…そして…王子…!!

 俺は…俺はお前らを絶対に許さない…!!

 この国は…絶対に俺が奪ってやる…!!」

 

…この国は…俺のものだ…!!

 

 

「危ないっ…!!」

「ハッサム兵士長っ!!」

私を庇い…ガブリアスの

<<かえんほうしゃ>>に

目の前で身を焼かれるハッサム兵士長…

 

 

[おっ…おまえの…オマエノ…セイデ…]

「…っ!?」

炎の中からドロドロに体が溶けかけの

ハッサム兵士長が出てくる…

 

オマエノセイデ…コンナコトニ…!!

 

――――――!!

 

そのまま…

ハッサムは黒い液体に身体を飲み込まれた…。

 

 

「ナイトメアの、完成だ…。」

“ボール”を核とした

 黒色の…ハッサムが誕生した。

 

 

反乱軍の拠点にて…

ルカリオ達は椅子に座り、

机を通して向かい合って話をしていた。

 

「…なるほど…。

 あまり、理解が追い付いてはいないが…

 お前は五年前から来た私、

 という事なんだな…?」

「…そういう事です…。」

ルカリオの問いに、ルカリオは頷く

 

 

「そしてそちらは五年前のシャワーズ…

 当時の進化前のイーブイ…と…。」

「…。」

イーブイも曇った顔で、その問いに頷いた。

 

「ふむ…なるほどな…。

 だが…それにしては

 あまりにも証拠が少なすぎる…

 確かな手掛かりが…

 シャワーズの感じ取った

 泉の匂い、だけでは少しな…。

 …まぁ、それはいい…。

 他にも探せば証拠は

 いくらでも探せるだろう…。」

…だが…。

机に手を置き、

まっすぐに二人を見るルカリオ。

 

 

無意識のうちに…

ルカリオは緊張から、つばを飲み込んでいた。

 

「…今、重要な点はそこではない…

 私は、君たちが

 絶対に私たちの敵ではない、という

 確たる証拠が欲しい…。

 いくら過去の自分たちとはいえ…

 敵ではないとは言い切れないからだ…。」

「…申し訳ありません…陛下…。」

 

ルカリオ王の言葉を聞き、

会話に口をはさむ人物…

「なんだ…?」

王は彼女たちを見る…

 

 

「会話の途中に

 口を挟んでしまい、申し訳ありません…

 彼らが敵ではないという証拠なら…

 私たちがそうでございます…。」

 

彼女たちは…

ルカリオが城下町で助けた、

マリルリの親子だった…

 

 

「一体どういう事だ…?」

「私たちは、

 彼に城下町で敵兵に襲われ、

 危ない所を助けていただきました…」

…本当にありがとうございました。

 

深々と、ルカリオに対して

頭を下げ、お礼を言ってくるマリルリ。

そして…マリルリ達は下がっていった

 

「…なるほど…

 これで君たちは敵ではないと

 証明されたわけだ…」

 

未来に…慣れない土地に

無理やり連れてこられたのに…

揺さぶるようなことを

言ってしまって…悪かった。

 

 

「それで…未来から過去に帰る方法だが…

 一つ手掛かりがある…。」

「…っ!?

 ほっ…本当ですか…!?」

ガタッ…!!

 

ルカリオは机を揺らしながら

前のめりになり、立ち上がった。

 

 

「まっ…まぁ…落ち着いてくれ…。」

「あっ…す、すみません…」

オロオロとするルカリオ王の様子を見て、

ルカリオは再び席に着く…

 

ウッ、ウンッ…!!

「それで…手掛かりというのは、

 時の精霊 セレヴィの事だ…。

 私たちの仲間の一人でな…

 彼女の力を使えば、

 時を超えることが出来る…」

だが…。

 

「それゆえに危険視されてしまってな…

 不覚にも、前の戦闘で守り切れず

 今、敵側に

 捕らえられてしまっているのだ…。」

 

「密偵の調べによれば、

 彼女が捕らえられている“ボール”は

 今も城にあるらしい…

 そして…近々城にある“ボール”その全て…

 ダークライへの引き渡しがあるそうだ…。」

「…っ!!」

ルカリオ達二人に、衝撃が走る…

 

 

「…その日は一週間後に迫っている!!

 その前に何としても

 彼女を…捕まった者全てを

 奪還しなければならない!!

 …これは私からの頼みだ…。

 頼む…力を貸してくれないだろうか?」

 

「そんな…それは私たちの台詞です…!

 こちらこそ、お願いします!!」

 

「そうか…それは良かった…。

 実は五日後、兵を集めて

 大規模な突入作戦をするつもりだ…

 ここまで長引いた戦争も…

 これで終わりにする。

 君たちにはその時に

 作戦に参加してもらいたい…」

…共に戦ってくれ。

 

立ち上がり、手を差し出すルカリオ

「…。

 よろしくお願いします。

 …足手まといにならないよう…

 頑張ります。」

その手を…ルカリオも

立ち上がり、強く握り返した。

 

 

 

その日の夜…

雲の隙間から満月の光が差し込み…

優しく周囲を包み込んでいる…。

 

…二人のルカリオが…

別々の場所で、それを見ていた…

 

 

「…。」

ルカリオ王は一人、

窓の外の月を見て、ため息をつく。

「陛下…よろしいですか…?」

 

シャワーズが

ノックをして部屋に入ってくる…

 

「あぁ…一体何があった…?」

…ひどく、疲れた様子のルカリオ王…

 

「いえ…

 なにやら思いつめたご様子だったので…。

 何かあったのかと思いまして…。」

「…。」

シャワーズの言葉に、背を向ける。

 

 

「なぁ…シャワーズ…。

 私は…どうして過去の自分を…

“私の戦い” に

 巻き込んでしまったのだろうな…。」

ゆっくりと…

問いかけるように重い口を開いた…

 

「今になって…自分でも情けなくなってな…

 こうして、戦いを…長引かせなければ…。

 いや…初めから戦いさえ起こさなければ…

 きっとあの子達も…簡単に…

 自分の時代に戻れたのではないか、と

 ふと思ってしまってな…。」

ふぅ…と大きなため息が出る…。

 

……

………。

 

「王様…。」

 

「あぁ…分かっている…

 私は私の出来ることをしなければな…。

 情けない姿を見せてしまって…

 すまなかった…。」

振り返り、

シャワーズに苦笑いを向けるルカリオ

 

「…。」

シャワーズは…この時…

誰にも気づかれることもなく…

床を握っていた。

 

 

 

「…王子様…。」

廊下で窓の外を見ながら

いすに腰掛けるルカリオ王子にも、

イーブイが近づいていた。

 

「…?

 何か…?」

顔だけを向け、

イーブイの様子を伺うルカリオ

 

この時、ルカリオは気が付いた…

イーブイの頬が、濡れていることに…

水の伝った跡が…いくつも見える…。

 

「申し訳ありません…。

 ほんの少しだけ…

 隣に居ても…いいでしょうか…?」

「…。

 あぁ…構わない…。」

 

そっと…。

イーブイがルカリオの横に来て、

身体を密着させる…

 

ルカリオは無言で、

それを受け入れることにした。

 

「…慣れない土地に一人で放り出されて…

 …不安で仕方がなかった…?」

「…。」 コクッ…

 

ルカリオの言葉に…小さく頷くイーブイ

「…。

 気の済むまでこうしているといい…。

 私も…不安で仕方がなかったからな…。」

うぅ…えぐっ…

 

「…もっ…申し訳ありません…

 王子様…。」

…絶えずイーブイの目から流れる涙…

 

「…。」

大丈夫だ、と思いながら…。

 

ルカリオの目は黒い雲の隙間から

顔を覗かせる月を見つめていた…。

 

 

 

…次の日。

「それで…あんたが話題の“偽王”様か…」

 

ぽかりっ…!!

後ろから青い腕の拳が飛んでくる…

「痛っ…!!!」

 

「“偽”王様じゃなくて

 “過去の”本物の王様だよ!!

 …無礼な口をきくんじゃない!!」

「…まったくだ…。

 本当に申し訳ありません、

 “過去の”陛下…」

「…ちっ…。」

 

ワカシャモ、ヌマクロー、ジュプトル。

 

彼らはハッサム兵士長亡き後、

国民の中から騎士として自ら名乗りを上げ、

その功績を認められ

ルカリオ王に仕えることになったらしい…

 

今は国を追われているため、

事実 “自称”騎士だが…。

 

ただ、その腕は確かなようで

しっかりと長い戦いの中で

戦果を挙げてきている、との事だ…。

 

「それで…とりあえず…

 どれだけあんたが戦えるか

 試してくれっていう話だけど…」

…っ!

 

シュッ…!!

スカッ…!

 

「だぁ~!!

 もう、すぐ殴ろうとするんじゃねぇよ!!

 俺もう何も喋らねぇぞ!!」

「その口の利き方をなおすなら

 殴らないんだけどねぇ…?」

 

…。

「はぁ…。」

ポリポリ…

 

一息ついて…

「無礼な口をきいてしまい、

 申し訳ございません“陛下”…。

 それで…あなたの力を試してほしいとの

 王よりのお頼みですので…

 お願いできますでしょうか…?」

 本当に嫌そうな…固すぎる顔で…

ジュプトルはため息をつきながら言った…

 

えっ…えぇ…。

ルカリオは

若干…というかかなり引いているようだ…

 

「…まぁ…及第点…かな…?」

「…ただ…次は表情だな…固すぎる…

 見ているこっちが恐いぐらいだ…」

「…だね…

 ジュプトル…スマイルスマイル♪」

「はぁ…

 お前ら…後で覚えてろよ…。」

(…これ以上やると話が進まないので。)

 

ご機嫌斜めな人物が一人いる状態で…

ルカリオは力試しを受けることになった…

 

 

「…。」

ジュプトルと相対するルカリオ…

無論安全対策は万全だ。

 

「…行くぞ!!」

「…っ!!」

 

バッ…!!

<<でんこうせっか>>

「…っ!?」

はっ…速いっ…!!

 

目にも止まらぬスピードで

ジュプトルはルカリオの裏を取った。

 

<<リーフブレード>>

「ぐっ…!!」

<<きあいだま>>

「うおっ…!」

 

ルカリオはきあいだまを繰り出し、

リーフブレードにぶつけた。

…反動で後ろに下がる二人

 

「…なるほどねぇ…。」

「…。」

ワカシャモ達は二人の戦いを見ている。

 

ガンッ…!!

リーフブレードが高速で床に叩きつけられる

「避けるだけで精一杯、か…?」

 

ジュプトルはもう一度

リーフブレードを放った。

「…っ!!

 くっ…!」

それを何とかかわし切るルカリオ…

<<インファイト>>!!

態勢を立て直し、攻撃に移る…

 

「…遅い。」

パンッ…!!

 

ルカリオのインファイトは…

簡単に受け止められる。

 

「…あんた…

 戦争のない時代から来たんだろ…?

 だからまともな戦い方を知らないんだ…。」

 

ルカリオの拳を握る

ジュプトルの手に力が籠る…

 

 

「あんたの拳には…力が入ってない。

 ヘロヘロでスカスカだ…。

 これからあんたが行くのは

 自分たちを殺そうって

 連中ばかりが居る所だ…。」

ルカリオを自らに引き寄せ、顔を覗き込む。

その時…ジュプトルの顔に影が宿った

 

「あんた…やる気だけはすごいが…

 わざわざ死にに行く気か…?」

…遊びじゃ…ないんだぞ…?

「…っ!」

 

ルカリオはジュプトルの拘束を解き、離れた。

 

 

「ほら…おーさま…見ろよ…。」

ジュプトルは腕を上げる…

 

<<リーフ…ブレード>>

部屋に、ジュプトルの殺気が充満した。

 

「いくらあんたが“王”だったとしても…

 いくらあんたに

 帰るべき場所があるとしても…

 俺は…あんたを切る…殺せるぜ…。」

…戦場っていうのは…そんな所だ…

 いい加減…覚悟を決めたらどうだ…?

 

「…私には…帰りたい場所がある…。」

全身を刺すような殺気の中で…

ルカリオは構えた。

 

<<きあいだま>>

いや…それでは彼には及ばない…

まだ…まだ、足りない…。

 

「私は…誰も犠牲になどしない…!!

 全てを…守りたい!!」

心の中に…ハッサムを

見殺しにしたという悔しさが滲む…

 

「そのためにも…

 ここで死ぬわけにはいかない!!

 私は…私は…!!」

まだだ…。

もっと…もっと強く…!!

 

甘さを捨てて…今までを…超えろ!!

 

「…こっ…これは…!」

追い詰められた

ルカリオの練り上げるきあいだまは…

その形を変え…破壊力がもう一段上がる…。

 

ジュプトルの殺気を打ち消し…

気が付けば、部屋は

ルカリオの気で満たされていた…

 

ビリビリと空気を震わせる波動…

 

「へぇ…」

ジュプトルの額から…汗が流れ落ちる…

 

 

「<<はどうだん>>…!!」

それは、ルカリオの

新たな決意の…表れだった。

 

 

…本当に…面白い人だ…

 過去も、今も…あんたは。

 

 

「はぁっ!!」

勢いよく撃ちだされるそれ。

…これで…本当に及第点…だな…。

 

<<リーフブレード>>

ジュプトルはリーフブレードで、

はどうだんの勢いだけを殺した

 

そのまま、全ての威力を受け止める…。

 

一瞬の閃光の後…

煙が上がる…

「…。」

 

 

「ふぅ…痛っ…。」

ジュプトルは煙から出てきた。

致命傷ではないものの…ルカリオの一撃は

確かに傷を負わせている…

 

「テスト…ギリギリ合格だ。

 あんたになら、

 背中…いや右腕くらいは任せてもいい。」

 

 

こうしてルカリオは…

ジュプトルに認められた…?

 

 

「…もう…

 素直じゃないんだからさ、ほんとに。」

「…まったくだ。」

部屋の端で、ヌマクロー達は笑っていた。

 

 

それから四日後…

洞窟の広間に兵が集結していた。

「さて…皆の者…

 これが我々が奴らに仕掛ける、

 最後の作戦である!!

 心してかかれ!!」

…長かったこの戦いも、

 これで終わりにしよう!!

 

「――――――!!」

 

…城にて…

「…さあてと、今日という日に…

 何もしないはずは…ないよな…

 ルカリオ“王”…?」

 

闇の中で、玉座に座りながら

ニヤリと笑みを浮かべるガブリアス…

その傍らには、“ボール”が置いてあった。

 

「その時にはお願いしますね…ネンドール殿」

「…。」

ガブリアスの横にはネンドールが…

そして前には

ナイトメア化した者達が控えていた…。

 

 

 

さぁ…決着をつけよう。

 

 




~次回予告~

ついに、大戦の時が来る…
国を奪われたルカリオ…
奪い取ったガブリアス…。

二つの強い思いがぶつかり合う。

果たして、どちらが国を取るのか…
そして、ルカリオ達は過去に戻れるのか…

次回 因縁の竜の牙 後編 お楽しみに!!


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第一章 因縁の竜の牙 後編 1

お待たせしました。
後編です…が、

後編が少し長かったので
二つに分けたいと思います。
それでは、お楽しみください

~前回までのあらすじ~

マサラ大国の王子ルカリオは
精霊の儀のための護衛の途中、
時空転移に巻き込まれ、
五年後の未来に飛ばされる…
そこで未来の自分と出会い、
その騎士であるジュプトル達と戦う。
そこで、戦士の心を学んだのだった…

そんな中、
遂に作戦が決行され
ガブリアスとの戦闘が近づく…。



マサラ大国の北部

「…。」

ぞろぞろと兵達が集まっている。

 

そして…兵士たちの前に立つ

ルカリオ王…

城を見つめ…祈りを捧げる…。

その傍らには、

ワカシャモとジュプトルが居た。

 

「ついにこの時が…

 我らの手で

 この戦争を終わらせる時が来た…!!

 皆の者…各々全力を尽くせ!!」

 

覇道は我にあり!!

 

「突撃!!」

戦いの火蓋が今、切って落とされた…!!

 

 

「…本当にここでいいんですか…?」

「しっ…今城にいる人に

 バレるわけにはいかないの…!

 大丈夫だから少しだけ静かにしてて…。」

マサラの城の裏手…

高い城壁に囲まれた城の裏手に、

ルカリオ達は身を潜めながら来ていた…

 

今ここに居るのは

ルカリオ、ヌマクロー、

イーブイ、シャワーズの四人。

 

「それにしても…

 本当に城の密偵の方は来られるんですか…?

 まったく、気配がありませんが…」

「うん…ちゃんと連絡はしてあるから

 必ず来るはずなんだけど…遅いね。」

イーブイの問いに、

ヌマクローは声を落として答える。

 

既に城の表側…焼き払われ、

廃墟の群れと化した城下町の方では

凄まじい大爆発と火の手が上がり始めている…

 

どうやら戦いが本格的に始まったようだ…。

…しかし…密偵は現れる気配がない…

 

「…本当に来るんで…」

「おいっ…お前たち!

 ここで何をしている…!!」

 

「…っ!?」

ビクゥッ…!!

 

四人が驚き、後ろを急いで振り返る。

そこにいたのは…

ナットレイと、ザングースの二人。

 

 

「くっ…しまった…っ!

 見つかったかっ…!!」

臨戦態勢を急いでとる四人だが…

 

「しぃ~」

ザングースがひとさし指を立て、

可笑しそうに笑っている…

 

「…?」

「な~んてね、びっくりしたか…?

 オイラとマァの変身は凄いんだぞ…!」

へらへらと可笑しそうに笑うザングースと

ナットレイの姿が変形し、

その姿が変わっていく…

 

「それじゃあ、改めて自己紹介…

 オイラがゾロア、

 そしてこっちがオイラのマァのゾロアーク。

 オイラ達二人で密偵をしてるんだぞ」

ニシシッ…と笑いながら自己紹介をする

黒いきつねポケモンのゾロア。

ペコリ、とお辞儀をするゾロアーク。

 

「そうそう…遅れてごめんなさい…。

 それじゃあ、早速捕まってるみんなを

 助けに行こう…

 オイラ達が案内するぞ!!」

イリュージョンで再び姿を変える二匹

 

「これでオイラ達は怪しまれずに潜入できる…

 そして…。」

ゾロア達はルカリオ達を縄で縛った。

「これで、大丈夫。

 歩きにくいだろうけど…少し我慢するんだぞ…。

 さぁ、行こう!!」

 

 

キンッ…!!

ガンッ…!!

 

城下町では、反乱軍 対 ガブリアス軍の

死闘が繰り広げられていた…

 

それを城内から見つめている、ガブリアス

「ほぅ…やっぱり、来たか…。

 …見たところ、全勢力…だな…。

 散々“ボール”を使って

 兵力を奪い取ってやったはずなのに…

 まだあれ程の力を残しているとは…。」

ただ…。

 

そっと新たなボールを取り出すガブリアス…

「それもこれで終わりだ…。」

背を向け、歩き出す…

 

「…俺が直接出てやるよ…

 欲しい首が目の前に出れば…

 俺を倒すため、躍起になって

 隙が生まれるだろう…。」

ニヤリ…

「そこをまとめて叩き潰す…。」

 

 

それでは、出陣する!!

 

 

「…止まれ!!

 一体何者だ…!!」

城の裏口から入る六人を兵士たちが止める。

 

「おいおい…この城の兵なのに

 止められるってのは、どうなんだい…?」

ザングース(ゾロア)が兵士に対し口を開く…

 

「せっかく手柄を立てようって

 敵をこんなに捕まえてきたってのに…

 そんなに俺たちの手柄を横取りしたいかい…?」

「…。」コクコクッ…

後ろでは、

ナットレイ(ゾロアーク)が頷いていた。

 

「ザングースとナットレイか…!

 いや、別にそんなつもりではないんだ…

 悪かった…、通っていいぞ…」

「ニシシッ…悪いね…。」

歩き出す六人…

 

「あぁっ…そうだ…!

 引き渡しの日が近いんだ…

 そいつらは地下牢じゃなくて

 “あの場所”にしっかり

 連れて行っておいてくれよ」

「分かった、ニシシッ…

 しっかり連れて行くよ。」

(…あの場所って…どこ…?

 マァ、何か知らない…?)

「…。」ブンブンッ…

 

「えぇ…。」

こうして、六人は城に潜入した。

…若干の…不安を残しながら…。

 

 

…戦場にて。

「くっ…!!」

「このまま一気に押し込め!!

 城まで攻め上がるぞ…!!」

ルカリオ達は、善戦していた。

 

襲い掛かる敵を次々となぎ倒し、攻め上がる。

 

だが…

 

 

ドッ…!!

 

 

「…っ!!」

ルカリオ達の行く手を業火の壁が阻む。

 

「…随分と…好き勝手暴れてるじゃないですか…

 “旧”ルカリオ王殿…?」

「…ガブリアス…!!」

炎の中から、歩いて出てくるポケモン…

ガブリアス。

 

その身体の黒い鱗が、炎に照らされ

ギラギラと眩しいほどに殺気を放っている。

 

「…ついにこの時が来たか…。」

「…。」

 

 

「…っ!」

ガブリアスの後ろから、

反乱軍の一人が攻撃を仕掛ける。

 

 

「よせっ…!!」

ルカリオが叫ぶと同時…

 

音もなくその兵士は

攻撃を防がれ、致命傷を与えられる。

その後、吹き飛ばされ…

ボールに閉じ込められた。

 

「一人…おしまいだ…

 次は誰だ…?

 お前か…お前か…?」

…それとも…

兵士たちを一瞥するガブリアス。

 

そして…その目はルカリオを捉えた

 

「かかってくるか…ルカリオ王殿…?」

「…。」

ビリビリと、緊張感が戦場を包む…

そんな中、一歩、ルカリオが踏み出した。

 

「…ここでケリをつける…

 そのためにここに居る。」

ルカリオの手に波動が集まり…形を成した。

 

<<ボーンラッシュ>>

 

「…来いよ…」

 

「ガブリアス!!」

 

ルカリオのその声を皮切りに…

戦場は、再び動き出した。

 

 

「セレヴィ達が捕まっている場所は…

 ここで…いいはずだぞ。」

城は戦場とは違い、静寂に包まれていた。

なので、ここまで潜入するのに

そこまで苦戦することはなかった。

 

“あの場所”とは、城の広間だった。

ここは玉座のすぐ裏手にあり、

城の玉座にあるステンドグラスが

ルカリオ達を照らしていた…。

 

表の戦いに駆り出され、

極端に少なくなった見張りを気絶させる。

…もう、見張りはいない

ルカリオ達の縄を外す

ザングース(ゾロア)

 

「ここで…いいはずだぞ!!

 …さぁ、みんなを開放しよう!!」

ニッコリと笑顔になり、五人に言う

 

…その時。

 

ブンッ…

 

「…っ!!」

ザングース(ゾロア)の後ろ…

“黒い影” が迫っていた。

 

「危ないっ…!!」

ルカリオが見せかけの縄を解き、

でんこうせっかで、

ザングース(ゾロア)を助ける。

 

「うわぁっ!!」

ゾロアが居た場所に、

床がめり込む程の衝撃が走る…

 

<<バレットパンチ>>

「…っ!!」

 

…そう。

迫っていた黒い影は

ナイトメアハッサムだった。

 

「…。」

ルカリオは無言になる。

頭の中に、あの時…

自分の身代わりになり、

ボールに吸収されていく

ハッサムの映像が流れた…

 

「…すいません…

 皆さんは、他に誰か来ないかを

 見張っていてください…。」

ルカリオの背中には、決意が宿っている。

 

「…お願いです…

 彼の相手は…私にさせてください。」

<<でんこうせっか>>

高速でハッサムに向かっていくルカリオ

 

「…ルカリオ王子!!」

小さく叫ぶイーブイ。

その肩が小さく叩かれる…

 

「…あんな目してたらしょうがないよ…

 今は…あの子に任せよう…?」

ヌマクローは苦笑いをしている

 

騎士であり、戦いを

経験しているはずの彼女でも

許し、認めるほどの目を

今のルカリオはしていた。

 

 

「なぁ…俺も城内の警備じゃなくて

 外の戦いに行って

 手柄を挙げたかったなぁ…」

「私は嫌よ、

 外に戦いに行くなんて、気が知れないわ…

 逆に城内の警備を

 任せられてラッキーだと思ってるわよ。」

 

「あれ…?

 ここって…部屋…なかったっけ…?」

「ん…あぁ…そうだな…

 でもまぁ、見たところ壁だけだし

 気にしなくていいんじゃね…?」

「…そうかなぁ。

 それならいいんだけど…」

近くを通り過ぎる兵士たちは、

中で戦っているルカリオ達に気が付かない。

 

部屋全体を、

ゾロアークの力で隠しているのだ。

 

 

<<バレットパンチ>>

<<インファイト>>

 

ルカリオはハッサムの攻撃を打ち消す。

「…。」

ルカリオは構え、力を溜める…

<<きあいだま>>…いや

<<はどうだん>>だ。

 

…だが、ルカリオは

まだこの力を扱い切れておらず、

溜めに時間がかかってしまう。

 

 

<<かげぶんしん>>

<<エアスラッシュ>>

 

その間に…

ハッサムは分身を作り出し、

風の刃をルカリオに向け、放った

 

…まだだ…

…まだ足りない…。

 

はどうだんを溜めながら、

ルカリオはエアスラッシュをかわしていく。

 

はどうだんと

でんこうせっかのコンビネーションだ。

 

広間を駆け回るように動くルカリオ

そして、それを追うように

エアスラッシュを放つハッサム

 

…あの時と同じだ…

 分身の中に必ず本体が一人いる…

 

心を落ち着けろ…

本体を見極めろ…!!

 

―ピキンッー

 

 

「見えたっ…!!」

初めてハッサムと戦ったあの時と同じように。

ルカリオは分身の一人に向かっていく…

 

<<はどうだん>>

…それは、分身に直撃した。

 

…“分身に”、だ。

 

「王子様っ…後ろですっ!!」

イーブイの叫び声

 

そう、ハッサムがルカリオの後ろから

腕を振り上げ、迫っていた。

 

 

…それこそ、あの時のように。

 

 

<<ダブルアタック>>

 

ルカリオの後頭部に迫るそれ

 

「…あぁ…分かってるさ…

 何度も…同じ事は繰り返さないっ!!」

 

ルカリオは、はどうだんを二つに割っていた。

先程撃ったのは、その片方だった

 

ドッ…!!

ナイトメアハッサムに、今度こそ直撃した。

 

「…?」

小さな空気の振動が生じ…

ネンドールが目を開いた。

 

「ガッ…!!」

ナイトメアハッサムは、

身体が黒い液体となり崩れ、

床に染みていく…。

 

ボールだけが残り、光とともに

音を立てて砕け散った。

 

「…ぶはぁっ…!!

 こっ…ここはっ…!?」

ハッサムが、元に戻った。

「本当に、申し訳なかった…ハッサム。」

ルカリオは頭を下げる。

「えっ…?

 あっ…ルカリオ王…頭を上げてください…」

「いや…私は王じゃない…王子だ…」

「…?

 一体何を…?」

困惑しているハッサム

 

「…それはいいんだけどさぁ…

 早くした方がいいぞ!

 敵が来たらひとたまりもないからな!!」

「あぁ…

 申し訳ないが、話は後にしよう…。

 今は…囚われている人達を

 助けるのが先だ…」

「えっ…?

 あっ…了解しましたっ!!」

 

こうして、ルカリオ達は

ボールの中に囚われていた

ポケモン達を助け出すことになった…のだが…

 

「この量は…多すぎるな…

 分担して、どうにか

 ボールのままで持ち運ぶしかないか…」

流石に国一個分のポケモン達が

捕らえられたボールとなると…

量が多すぎて、

この場で開放は出来なさそうだった。

 

それに…一般のポケモン達を

戦いに巻き込むわけにもいかない…

まだここは戦場のど真ん中なのだ…

油断は出来ない。

 

「それじゃあ、皆で持ち運ぼう!!

 それならギリギリ

 持ち出せるはずだぞ!!」

…敵兵に見つかる前に早くしよう!!

 

…その瞬間。

 

バチンッ…!!

「…っ!?」

 

まやかしが…打ち破られる。

 

 

<<サイコキネシス>>

 

「ぐっ…!!」

ナットレイ(ゾロアーク)を除く六人は

強力な力でその場に縫い留められる

 

…身体が…動かないっ…!!

 

広場に、ネンドールが現れた。

「一体…どういう事だ…?

 様子を見に来てみれば…

 どうやらネズミが

 紛れ込んでいたようだ…。」

ギンッ…!!

 

「うっ…!!」

ゾロアのイリュージョンが解ける

 

「ネズミではなくキツネだったか…

 …まぁ、そんなことはどうでもいい…。」

ゾロアに対しての

<<サイコキネシス>>がより強力になる…

 

宙に持ち上げられ、

更に締め上げられるゾロアの身体

 

「あぐっ…!

 うぅっ…!!」

「…。」

その様子を、ナットレイ(ゾロアーク)は

黙って見ていた…

 

…身体が静かに震えている…

 

…耐えろ…

 今は耐えるしかない…。

…いくら我が子とはいえ…

 この家業をすると決めた身…

 こういう風になることは

 すでに決意していた…

…はず…だ…。

 

「…さっさと始末してしまおう…。

 こいつが終われば次はお前たちだ…」

流石は四天王 ネンドール

ポケモンを殺すことを全く恐れていない目…

 

その目に、ルカリオ達は戦慄する。

 

「あっ…あぁ…

 マ…マァ…!!」

…っ!

 

「ぐっ…あぁあああああああ!!」

…やはり、我慢出来ない…!!!

 

ゾロアークは正体を現しながら飛び出し、

ネンドールに攻撃を決めた…

 

 

<<ナイトバースト>>

 

 

直後…全てを巻き込んで、

大爆発が起こった…!!

 

…仕方がない…

…ここで一気に人質達を…開放する!!

 

ピキッ…バキンッ…!!

 

 

…今から少し前。

ルカリオとガブリアスは戦いを続けていた

 

ルカリオの<<ボーンラッシュ>>を

受け止めるガブリアス

「…どうした…?

 そんなもんか…?」

はじき返し、爪に力を込める。

 

<<ドラゴンクロー>>

 

轟音とともに、空を切るガブリアスの爪

ルカリオの頬をかすり、血が滴る…

 

…そろそろか…。

 

「はぁっ…!!」

ルカリオの追撃をかわす

 

「なぁ…王様…

 引き渡しの日…何日か知ってるか…?」

「…突然なんだ…?」

ルカリオとガブリアスは

距離を取り、話し始める。

「明後日、だと思ってるだろ…?」

「…?

 …っ!まさか…違うのか!?」

ガブリアスの様子から、

何かを感じ取り、目を見開くルカリオ王

 

「サプラ~イズ…

 引き渡しの日は…!!」

ゴゴゴゴゴゴゴッ…!!

 

空の黒い雲が割れ、

空から島が現れる…!

 

「今日、 いま だ!!」

「…っ!!」

ガブリアスは戦線から下がる…

 

「待てっ…!!」

「追って来るなら来いよ、

 正々堂々玉座の間で

 決着をつけようぜ王様!!」

 

「くっ…くそっ…!!」

戦場を見て、ガブリアスを見るルカリオ

 

「ルカリオ王!!」

ワカシャモ達が戦いのさなか

ルカリオに近づき、声をかける

 

「…話は聞こえていました…!!

 もう時間がありません…!!

 奴を追ってください!!

 早くっ…間に合わなくなる前に!!」

…このままではすべてが…

 取り返しのつかない事に!!

 

「分かった…!!

 すまない、ここは任せるぞ…!!」

そのまま、ガブリアスを追うルカリオ

 

ルカリオの足が向かうは、玉座の間

まだ、ガブリアスが逃げてから

時間は経っていない…

十分追い付ける距離だ

 

ご丁寧に爪痕まで残していっている…

追ってこい、とそう言われているようだ。

 

バタンッ…!!

 

玉座の間への扉をあけ放ち、

中に入るルカリオ。

「どこだ…ガブリアス!!」

 

…。

一瞬の静寂

 

「…この時を待っていた…。」

ガブリアスは…玉座に座っていた。

座ったまま、

ルカリオを見つめ、話をしている

 

「俺が冤罪をかけられたあの時からずっと…

 俺の中で復讐の炎が…

 燃えたぎって仕方がなかった!!」

立ち上がる。

 

「ふざけるな!!

 確かに…あの時の父の判断は

 正しいとは言えなかったかもしれない…。

 しかし、だからと言って

 それは国を崩壊させ…

 この国に住む罪のない者たちまで

 巻き込んでいい理由にはならない!!」

 

見下げるガブリアスと、見上げるルカリオ

 

 

刃は交じり、戦いは始まる。

二人の戦いは、熾烈を極めた。

 

…だが…ルカリオが押されはじめ…

「はぁっ!!」

「ウグッ…!!」

 

大きく後ろに吹き飛ばされた…

 

ルカリオとガブリアスの間で、

床にボーンラッシュの骨が刺さり、

光の中に消えていく。

 

「終わりだな…王様…?」

「ふざけっ…!」

ドッ…!!

 

抵抗出来ないルカリオに対し、

攻撃を繰り出すガブリアス…

 

殺さないように…

出来る限り苦痛が続くように…

いたぶる様な攻撃が、続いた。

 

 

「うっ…うぅ…」

数十分後、

ボロ雑巾のようになったルカリオが

ガブリアスの目の前の床に転がっていた…。

 

「へっ…本当に終わりだな…。

 お う さ ま…♪」

あぁ…そうだ…。

 

ゴソゴソとガブリアスはボールを取り出す。

「あんたの狙いの精霊様なら…

 ここに居るぜ…」

ボールを、なおすガブリアス

 

「うっ…あぐっ…」

ボロボロになってもまだ

ルカリオの目は死んでいない。

 

血まみれになって、傷だらけで…

身体を起こすことも出来ないまま、

這いつくばり、ガブリアスを睨みつける。

 

「…わっ…私は…死なない…!

 私の腕が吹き飛ぼうが…

 足が無くなろうが…

 この命が消えようが…!!

 私の意志を継ぐ者が現れ、

 必ずお前を倒す!!

 …波動は…絶対に消えない!!」

血反吐を吐きながら、

それでも必死に叫ぶルカリオ。

 

 

「…くだらない負け惜しみだな…」

首を振り、ルカリオに近づく。

爪を振り上げた…

 

<<ナイトバースト>>

城を震わせるほどの大爆発が起こる

 

 

「…っ!?

 なっ…なんだ…!?」

ガブリアスの背後の玉座が

壁とともに崩壊した。

 

 

煙の中から、爆発で傷を負った

ネンドールが飛び出してくる。

 

「ネンドール殿!?

 こっ…これは一体…!」

 

「…想定外が起きた…。」

ネンドールとガブリアス…そして

ルカリオ王が見つめる先…

 

煙の中から出てきたのは…

 

「…。」

ルカリオを先頭にした…

捕まえられていたポケモン達だった。

 

「ふっ…」

それを見て、ルカリオは静かに笑う…

 

…あぁ…よかった…。

 流石は…過去の私だ…。

 なら…後は…今の私にできるのは…。




~次回予告~
刻一刻と最後の時が迫る…

ダークライが城に迫る中、
ガブリアス達に対峙するルカリオ。

はたして、物語はどう動くのか…
ルカリオ達の運命やいかに!

次回 因縁の竜の牙 後編 2
   お楽しみに!!


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第一章 因縁の竜の牙 後編 2

お待たせしました
後編その2です。
これで、第一章は終わりです。

~前回までのあらすじ~
マサラ大国の王子ルカリオは
イーブイをとともに
時空転移に巻き込まれる。

未来に飛ばされたルカリオは
そこで未来の自分たちと出会い、
宰相であるガブリアスが
城を乗っ取ったことを知る。

ルカリオ王率いる
反乱軍の作戦当日を迎え、
ゾロア達とともに
城に潜入したルカリオ達…
ナイトメアハッサムを退け、
ゾロアークのナイトバーストによって
人質を解放、
遂に、ガブリアスと対面する…

が、そこには傷だらけで
ボロボロのルカリオ王が居たのだった…。


ガリッ…!!

 

隠し持っていた回復の木の実…

オボンのみをかじるルカリオ王

 

「…っ!!」

傷が少し回復したルカリオは立ち上がり、

ガブリアスに向かう。

 

<<ボーンラッシュ>>

 

ルカリオの放ったボーンラッシュは

ガブリアスの持っていたボールを

的確に弾き、

破壊することに成功する。

 

ボールが割れ、セレヴィが飛び出した

「えっ…?こっ…ここはっ!?」

 

「…っ!!

 ちっ…小賢しい…!」

振り返り様、

ガブリアスはドラゴンテールを放つ。

 

 

「がふっ…!!」

ルカリオはその攻撃をもろに胴に受け、

回転しながら後ろに大きく吹き飛ばされた

 

「あたしたちの王に手を出すな!!」

「がぁああああああーー!!」

ヌマクローとゾロアークが一斉に動き出し、

それぞれガブリアス、ネンドールに向かう。

 

 

それを皮切りに、場が再び動き出す。

一般ポケモン達は混乱状態に陥り、

兵士たちも突然の状況についていけていない。

この場は今、パニック状態だった

 

 

「ルカリオ王っ!!」

シャワーズとルカリオが

倒れたルカリオに近づく

 

「…うっ…す…すまない…

 私に出来るのは…これが精一杯だ…。」

「王…まずはこれを…!!」

シャワーズがルカリオに持っていた

オボンのみを食べさせる

 

「…す…すまない…。」

王はそれを食べ、

立ち上がれるギリギリの状態まで回復する。

 

「そ…そうだ…

 今のうちに…。」

王は、ルカリオの顔を見る

 

「…時間がない…早く両手を…。」

「…?」

状況が読み込めないまま

ルカリオは手をかざす

「せめて…これだけは…!」

 

王が念じると、

ルカリオの手を通して、

ルカリオの身体に波動が流れ込んだ。

「…!?」

 

ボッ…!とルカリオの手に波動が宿る。

 

「今、君には…

 私の波動のほとんど全てを渡した…

 頼む…君の未来を…

 君の手で守ってくれ…。」

「王っ…それは…!」

シャワーズが叫ぶ

 

「あぁ…別にいいんだ…

 ダークライが迫っている…

 私はどうせ永くない…それに…」

そう言って、ルカリオを力強く見つめる。

 

「願いを…明るい未来を

 作ることが出来る

 君たちに託した方がいい。

 …そう思ったんだ…」

そして、ルカリオの手を力強く握る

 

「もう一度頼む…君たちの未来を…

 こんな絶望にしないでくれ…!!

 決して…

 私のようにはならないでくれ…!!」

情けないが…お願いだ…頼む…。

 

王の目から、一筋の涙が落ちた…

 

 

カッ…!!

 

 

閃光が辺り一帯に走る…。

刹那、パニック状態のポケモン達が

ごった返していた広場が…消し飛んだ。

 

「…!?」

ルカリオ達全員に衝撃が走る…

 

そして…天からゆっくりと、

焼け焦げた広場の上に降り立つポケモン。

 

…ダークライ

 

 

「…引き渡しは…ボールで、と

 言ったはずだが…?」

一歩一歩、踏みしめながら

こちらに近づいてくる

 

「…まぁいい…

 元々これはこの地に残っていた

 目障りな反乱者達を

 まとめて消すためのもの…

 …これで…ここの掃除も完璧か…?」

 

「…なんてことを…

 罪もない人たちを…一瞬で…。」

 

ルカリオ王の口から、小さく言葉が漏れた。

俯き、悔しそうに歯を食いしばる…

 

「王っ…!!

 こっ…これは…!?」

城の扉を開け、

ワカシャモとジュプトルが

玉座の間にたどり着いた。

 

「…数匹の蟻が増えたか…。」

…目障りな…。

 

 

「…!!」

ダークライの不意を突き、

ネンドールと戦っていたゾロアークが

標的を変え、ダークライに攻撃を仕掛ける。

 

「…なんだ…お前は…?」

一瞥

 

「蟻が…控えろ!!」

<<かなしばり>>

ダークライの攻撃を受け、

ゾロアークの動きが止まる

 

「失せろ」

<<シャドーボール>>

 

ドッ…!!

 

ゾロアークは吹き飛ばされ、

壁に叩きつけられた

 

「マァ…!!」

ゾロアが駆け寄る。

「…しっかりしてくれよぉ…!!

 マァ…マァ…!!!」

ゾロアが身体をゆするものの、

反応がない…

 

「<<はどうだん>>!!」

 

「…?」

ダークライの足元にはどうだんが当たり、

粉塵を巻き上げる。

 

 

「セレヴィ…早く皆とともに時を…!!

 私が出来るだけ、時間を稼ぐ…!!

 お前たちは過去を…

 頼む…こんな未来にしないでくれ!!」

ルカリオ王の叫び

 

一人、王は前に立ち塞がり

ギリギリの状態で、

はどうだんを繰り出し、時間を稼ぐ。

 

「あいつ…!」

ガブリアスが

横から前に出ようとする…が

それをネンドールが止める。

 

「…っ!?」

振り返るガブリアスは見た…

 

この城に近づく…ディアルガの姿を。

 

 

 

「死にぞこないが…邪魔だ。」

ダークライの一撃。

 

<<シャドーボール>>

 

「なにっ…!?」

ルカリオ王の放ったはどうだんを

軽々と消し飛ばし、

その一撃は王に迫る。

 

 

「王っ…!!」

 

「…シャワーズさん…!?」

その瞬間…シャワーズは走り出していた。

 

「えっ…?」

ルカリオが振り向いた時、

シャワーズはルカリオに抱きついた。

 

…あなたを一人で死なせはしません…

…私も一緒に…。

 

 

 

直後…爆発が起こる。

 

煙が晴れ…

シャワーズ、ルカリオの二人は倒れていた。

…もう、息はしていない。

 

 

「いっ…いやぁああああああ!!」

イーブイが叫ぶ。

 

「…おっ…おう…さ…ま…?

 まさか…そんな…」

あまりの突然の衝撃に、

放心状態になっているワカシャモ達。

 

「嘘だ…ろ…。」

ルカリオ、そして母を思い、

泣いていたはずのゾロアもまた

目を見開いている。

 

ダークライ

そしてガブリアス達が城を離れる。

 

 

「…時の神 ディアルガ…やれ…。」

…最早、私が手を下すまでもない…

 

 

ディアルガが力を溜め始める。

 

 

「…っ!!

 皆しっかりしてっ!!

 まだ…まだ敵はいるのよ!!」

「…っ!?」

セレヴィの一声に、

放心状態から回復するジュプトル

 

 

「早く私に…!!

 <<時渡り>>を発動させるわ!!」

「くっ…!!

 おいお前ら、急げ!!」

場に緊張感が走る

 

ゾロア達に近づくルカリオ

 

 

…ゾロアークを助けたい…が…

 二人とも助けようとすれば…

 確実に間に合わない…!!

 

宙に浮き、力を溜めているディアルガ

もうすぐチャージが

完了してしまいそうだ

 

「くっ…!!」

ギリギリの選択を迫られる…

 

「…。

 …すまないっ!!」

考えた末…

ルカリオはゾロアを抱え、

セレヴィのもとへ走る

 

 

「…っ!?

 おいっ…!!

 なにすんだ…離せ…離せよ…!!」

…このままじゃ…

…このままじゃ…!!

 

「マァ…!!」

ゾロアは泣きながら

必死にゾロアークを呼ぶ。

 

思い届かず、離れていくゾロアークの姿…

 

 

「…終わりだ…」

 

<<時の咆哮>>

 

「王子っ…!!」

「くそっ…!!」

「マァー!!」

 

 

「うっ…!!」

…駄目…まだ…発動が…間に合わない…!!

 

セレヴィの時渡りより前に、

ルカリオ達に時の咆哮が迫る。

 

「…!!」

その時、二つの影が動いた。

 

セレヴィ達と時の咆哮の間に割って入る。

 

それは…ワカシャモとヌマクローだった

「おいっ…!!

 なにやってんだ…!!!」

…戻って来い!!

 

「…このままじゃ…

 みんなここで一緒に死んじゃう…

 それだけは避けないとね…。」

「あぁ…。

 悪いが…私たちはここまでだ…」

振り返り、笑顔を見せる二人

 

…過去を…頼んだ!!

 

<<まもる>>

 

 

二人で力を合わせ、バリアを張る。

「待てよ…

 そんな事…させるわけないだろ…!!」

二人に手を伸ばすジュプトル

 

「来るなっ!!」

 

だが…それを二人の叫びが打ち消した。

 

 

…後の事は…任せた…ジュプトル…

 

二人の<<まもる>>は時の咆哮の到着を

一瞬だけ遅くする。

…セレヴィの時渡り…

 

光に吸い込まれていく全員。

全てを消し飛ばす咆哮

 

その光は、城を抉り取り

マサラの大地をその時代から永遠に葬った…

 

 

 

「――。」

「…そうか…

 何匹か過去に飛んだか…

 まあよい…

 数匹の蟻など放っておけばいい。」

 

 

「ひゅ~怖い怖い~

 流石は神の力…おっそろしい威力ですね…」

ガブリアスが消えた大地を見ながら、

まるで他人事のように言う。

 

「…お前…あの城に思い入れはないのか…?」

ダークライが静かに尋ねる

 

「…。」

尋ねられたガブリアスは一瞬迷った後

首を振り、ニヤリと笑った

 

「えぇ…全く。

 今では胸糞悪い思い出しかなかったので…。」

「…そうか…。」

ダークライはその答えを聞き、

静かに背を向けた

 

「お前を正式に我が部下とする…

 存分に私の下で働いてくれ…」

「…っ!!

 …光栄の至り…。」

ガブリアスは笑い、

ダークライに深々とお辞儀をした

 

「…それでは、早速仕事を与える…

 マサラの南西にある国を知っているな…?」

「えぇ…勿論…」

 

「過去のあの国に…

 どうやら精霊の一人…

 青色の精霊アグノムが

 逃げ込んだらしいのだ…

 事実を確認後、

 攻め落とし…捕らえよ。」

 

「かしこまりました…」

 

…全ては…あなたの御心のままに…。

 




~次回予告~
物語は遂に第二章へ…

過去…自分たちの時代に
ようやく戻れたルカリオ達

けれども、犠牲は大きく、
それぞれの思いがすれ違う…。

ルカリオが昔の知り合い、
そしてもう一度シェイミに再会した時、
新たな物語の幕が上がる…!!

次回、ポケットファンタジア
   第二章 帝国の脅威編

お楽しみに!!


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第二章 帝国の脅威 編
第二章 帝国の脅威 その1


…私は…この平和を…。

…必ず、守る。

新たな物語の始まりを告げるように
開かれた手は、強く握られる…


「それでは…豊穣祭を始めよう…」


「ミーは西の帝国の第二王女、
 シェイミ、デス!!」

「…久しぶりだな、ウーラオス。」
「…お久しぶりです、ルカリオ王子
 二年ぶり、でしょうか?」


…すれ違う思い…。


「なんで…なんでマァを
 あの時助けなかった!!」

「王子に私は相応しくない…」

「ミーは…ミーは
 守ってもらうために
 ここに来たんじゃないんデス!!
 このままじゃお母様が…
 お母様がまた間違いを…!!
 ミーはそれを止めてもらいに来たんデス!!」
「…姫様一人ではあまりにも危険です
 私も一緒に同行します!!」

「まさか…南西の国に…?」
「…シェイミ様は…母君…
 バンギラス女王を…止めに…?」
「今から出発すればまだ間に合うはず!!
 拙者たちも早く行きましょう!!」


新たな旅立ち…新たな出会い

「僕らはとある所では
 ちょっと有名な探検隊さ。
 よろしくね!!
 改めまして、僕はプクリンだよ!!」
探検隊…

「やだなぁ~…」
三つの島、小さな祠の守る者。


「ようこそおいでくださいました…
 私はラティオス
 こちらは妹のラティアスです…」
「あのっ…よろしくお願いします…。」
水の都…そして二人の守り手…

「全ての迷いはここに置いていこう…
 “迷いの剣では何も切ることは出来ない”…」
帝国に仕える純白の女騎士、キュウコン…


そして…


「久しぶりだな…」

黒き龍…
因縁との対峙…

「…折角ここまで追ってきたんだ…
 それは褒めてやらないといけないな…。」
「…っ!!」


ポケットファンタジア
第二章 帝国の脅威 編
スタートです!!


…なぜ…見捨てた…

視界の中で、倒れていたゾロアークが

ゆっくりと立ち上がる。

 

それだけではない。

後ろでもルカリオとシャワーズが

まるでゾンビのように立ち上がった。

 

…どうして…見捨てた…

…まだ…生きたかったのに…

 

ドロドロと身体が溶けていく三匹。

 

…オマエノセイデ!!

 

 

「はっ…!!」

ルカリオは目を覚ます…

自分は森で寝かされていたようだ…

起き上がると、様々なにおいが鼻をつく

 

見覚えのある景色…

土…木の匂い…

そして…どことなく甘い…泉の匂い…

 

「ここは…精霊の泉…。」

どうやら自分は本当に帰ってきたようだ。

辺りを見渡す。

 

セレビィとイーブイが何かを話している。

「くそっ…あいつら…」

ジュプトルが木の上で頭を抱えている

 

そして…

「おいっ…お前!!」

ゾロアの体当たり。

 

「うおっ…!!」

起き上がったのに、

再び地面に戻されるルカリオ

そのままのしかかるゾロア

 

「なんで…なんであの時

 マァを見捨てた!!

 どうして助けなかったんだ!!」

お前のせいで…

お前のせいで…!!

力なく、ルカリオを殴るゾロア

 

その目から涙が零れ落ちる。

「ぜったい…たすけられたはず…だろ…?」

「…。」

ルカリオにその問いの答えは返せない。

 

「…。

 すまない…」

ゾロアに謝る。

今は…ただ謝るしかなかった。

 

…。

ルカリオの身体の上で泣き続けるゾロアと

それを黙って見つめる全員。

 

静かな森に泣き声だけが響いていた…

 

少しして…

「…。

 ほらほら…いつまでそうしてるの?

 いくら責めても…埒があかないわよ…?」

セレビィがルカリオ達に近づき、

ゾロアを移動させる。

 

「…。」

渋々どけるゾロア

「…大丈夫だよ。」

イーブイがゾロアに近づき、声をかけた

 

ルカリオを見るゾロアの目は、冷たかった。

 

「…。

 あんたら…コホン…

“過去の”王様たちはこれからどうする…?」

木の上から移動してきたジュプトルが

ルカリオに話しかけた。

 

「…私は…一旦イーブイとともに国に帰ろうと思う。

 長く…留守にしていたから…。」

少し俯き…答えるルカリオ

 

「そう…ゴホン…そうですか…。

 俺たちはセレビィと二人で

 この世界を少し回ろうと思います…

 ダークライ、あいつから未来を守るなら…

 二手に分かれて

 手段を探した方が得策だと思うので…」

…でもその前に…

 

「…もう少しだけお供します。

 …平和なマサラを…見ておきたいので。」

「…分かった。

 なら、とりあえず城に戻ろう…」

ルカリオ達は歩き出した…

 

「ただ一つだけ…」

ジュプトルは呟くように呼び掛ける。

「ここはセレビィの言った通りなら

 あの時から五年前の、

 “過去の”王様たちの世界…

 という事は、ここで何か事を荒立てれば

 その影響は未来のあの世界に行く…。」

「…。」

セレビィはジュプトルの言葉を聞きながら

黙って目を閉じている。

 

「つまり…

 ここで不用意に歴史を変えれば、

 俺たち“未来”の存在も消えかねないという事。」

…面倒な話だけどな…。

 

「…。

 そして…それは敵方も分かっているはず…

 今のままでいけば、間違いなく

 ダークライによって歴史が改変され

 ここもあの未来の世界と

 同じ末路を辿らされる…。」

…ルカリオが続く言葉を繋げた。

 

「…。

 俺たちが止めるしかないって、事だ。」

吐き捨てるように、ジュプトルは呟いた。

 

 

 

…たとえ、何も変わらなかったとしても…。

 

 

 

…重たい空気を引きずったまま、

 ルカリオ達はまた歩き出した。

 

 

マサラの城下町…

 

「…。」

…ようやく帰って…来たんだな…。

ルカリオは町の入り口で中を眺める

 

あれだけ賑わっていた城下町は

ダークライの出現に伴い

国民の危険意識が強くなったのか、

どこか閑散としていた…

 

ただ…それでも

変わらない平和を保っているようだ…

 

「…。」

…私は…この平和を…。

 

ジュプトル達が歩き出す中、

ルカリオは一人立ち止まり、自らの手を見る。

 

「…。」

…必ず、守る。

開かれた手を、強く握った

 

「…王子…?」

イーブイが振り返り、声をかけてくる

「あっ…すまない…すぐに行く。」

 

「おぉ…ようやく帰ってきたか!!

 心配したぞ…!!無事で何よりだ!!」

「二人とも…よくぞ戻ってきました…

 長旅で疲れたでしょう…

 …ところで…王子…その方々は…?」

城にて、ルカリオ達は王と王妃に面会する。

 

「あぁ…母様…こちらの方々は

 私の客人です…少し訳ありで…」

 

「…セレビィと申します…」

「…ジュプトルです。」

「…ゾロア…です…」

三人はそれぞれ挨拶をする

 

「…ふむ…。」

「…そうですか…

 よくぞマサラの城においでくださいました…。

 …客人の方々…

 どうかゆっくりしていってくださいね」

不思議そうにジュプトル達を見つめる王と

優しい微笑みを浮かべる王妃

 

「さて…まぁよい。

 ルカリオよ、王妃の言う通り

 長旅で疲れたであろう…

 今日はゆっくり休むといい。

 詳しい話はまた明日にしよう…」

ルカリオ達を見て、頷く王

 

…こうして、ルカリオ達は城に戻った。

 

 

…次の日。

 

 

時刻は昼を過ぎ…

ジュプトルは一人城下町で、

噴水の近くを通りかかる。

 

「…ん?」

ふと、ベンチの近くでたむろする

四人を見かけた。

 

「…君…だあれ?」

「…えっと…僕は…ヨマワル…

 最近お父さんに連れられて

 この国に来たんだけど…

 あの…一緒に…遊んでほしくて…」

おどおどとした様子で

アチャモ、キモリ、ミズゴロウに言う子ども…

ヨマワル

 

かなり勇気を出したのか、

…その目には涙が少し溜まっている。

 

「…いいよ!!

 一緒に遊ぼう?

 私はミズゴロウっていうんだよ

 よろしくね!!」

そんなヨマワルに対し、

ミズゴロウは

暖かな笑みを浮かべながら答えた

「僕はアチャモ」

「俺はキモリ…よろしくな。」

 

「あっ…ありがとう!!」

 

「じゃあ何して遊ぶ?」

わちゃわちゃ…

 

 

「…。」

ジュプトルは、四人を見つめ固まっている

 

……

………。

 

ジュプトルの目から…

無意識のうちに一筋の涙が零れた

 

「…? なんで…。」

 

なぜ自分が泣いたのか、訳も分からず

それを指で掬い取るジュプトル

 

 

「あの子達が…どうかしましたか…?」

「…!」

ジュプトルの横から、

ガルーラが現れ、声をかける

 

「…いや…平和っていうのは…

 こういう事なのかなって思って…。」

多少、驚きはしたものの

すぐに冷静さを取り戻し、

落ち着いて答えるジュプトル

 

「…そうですねぇ…

 最近はダークライやら西の帝国やら…

 何かと物騒ですから…。

 子どもも成長してくれて…

 主人もいなくなって、

 老い先短い私にとっては、

 あの子達に読み聞かせをして…

 一緒にいる時が…

 一番幸せな時間なんですよ。」

フフッ…

 

それは本当に幸せそうな…笑みだった。

 

決して、戦場や過酷な状況に

身を置いていてはすることの出来ない…

平和な世界に対する 無防備さ だった。

 

「…。

 そうですか…それは良かった」

一息ついて…

ジュプトルはガルーラ達に背を向け、歩き出す

 

「…。

 そう言ってもらえると…俺も嬉しいです。」

去り際、小さくジュプトルはそう呟く

 

これ以上を言おうとも思ったが、

森でルカリオ達に言った言葉を思い出し、

ジュプトルは言葉を飲み込んだ。

 

「…?

 どうして…お礼を…?」

ガルーラは、

去っていくジュプトルの背中を見送りながら

疑問を浮かべていた…

 

「…ん…?」

キモリもまた、

去っていくジュプトルの背中を見ていた。

 

 

「ここが…。」

「…そう、私の家」

ゾロアはイーブイに連れられ

マサラの城下町の一角に来ていた。

 

ゾロアは一応ルカリオの客人という扱いのため

城に居ても良かったのだが…

ゾロアの心情的にその行為はとても嫌だった。

 

 

だからこそ、

イーブイについていくことにしたのだ

 

…埋まらぬ心の足しになれば良いと

 ちょっとした、興味本位で。

 

 

城の兵隊たちがしきりに噂していた

“精霊役” に選ばれる程の人物であるならば

どれほどの豪邸なのだろうか…と

期待していたゾロアだったが…

 

彼が見たのは

マサラの国の一角に佇む大きな施設だった。

それは城下町の人から

“預かりと育て屋” と呼ばれている施設で、

身寄りのない子どもたちを保護し、

育てている場所だ。

 

「さ、どうぞ…入って。」

「…!」コクコクッ

 

呆気にとられていたゾロアは

イーブイの声に何とか頷き、

施設の中に入っていった…

 

 

「今回のダークライの一件。

 北の泉の精霊、ゼルネアスが姿を消し

 そして奴の放った光によって

 国中のものが恐怖し、

 この国にあったはずの平和が脅かされている…

 我々はこの国の平和を守らなければならない。

 諸君もそれぞれ

 全力をもってこれを守ってほしい。」

 

「…御意」

「はい…父様。」

城の会議の場にて。

 

ルカリオ王の呼びかけの下

ガブリアス、ハッサム、ルカリオ王子

その他の重役な兵士たちが一堂に会していた。

 

 

「さて…それで…

 今年の豊穣祭の件なのだが…

 諸君の考えを募りたい。

 行うべきか…行わぬべきか…

 皆はどう考える?」

ざわざわと騒がしくなる部屋。

 

 

「…私は、

 今年も行うべきだと考えております。」

ガブリアスが王の言葉に対し答えを述べる。

 

「確かに、西の帝国が最近力を増し、

 更にダークライの出現など、

 外部勢力の脅威は格段に大きくなりました。

 ですが、それに伴い内部の…

 国民の不安感の高まりが

 肥大しすぎている気がします。

 ここは国民に寄り添い、

 息抜きの場を与えるのがよいかと…」

外側が危ない現状で、

今一度、国を一致団結する場を設けた方がよい。

 

それがガブリアスの考えだった。

 

 

「…私は反対です。

 今年はお控えになられた方がよろしいかと。」

それに対し、ハッサム兵士長は違った。

 

「祭り事は気を浮つかせ、緩めさせます。

 確かにガブリアスの言う通り

 息抜きも大事でしょうが

 祭り事は大きな隙にも成り得ます。

 ですので、今は

 国防に備えた方がよろしいかと…」

 

賛否両論。

 

豊穣祭を巡っては

まだまだ意見がまとまることはなさそうだった。

 

「…うむ…なるほどな…。」

ふぅ…と

頭を悩ませながらため息をつくルカリオ王

 

コンコンッ…

部屋の扉がノックされる

 

「…ん?

 誰だ?」

 

「…失礼します…

 会議中に申し訳ありません。

 ルカリオ王…

 城内にどうしてもルカリオ王に会わせろと

 言う者がおりまして…

 …って、あっ…こらっ!!」

扉を少し開け、発言する兵士。

 

その下を通り抜け、

会議室に入ってきたポケモン。

 

…シェイミだった。

 

「失礼します、入りますデス!!」

「シェイミさまぁ…

 いくら何でもわがまま過ぎますよ…

 もう少しおしとやかに…」

…言われなくても分かってるデスよ!

 

ごたごたと兵士たちを押しのけ

王の前に姿を現す。

 

「お久しぶりデス、おーさま!!」

 

「…会議中、だぞ…。」

小さく頭を抱えながらガブリアスが呟く

 

 

「もしや…貴女は…西の帝国の…?」

ルカリオ王がシェイミを見て尋ねる

「そうデス!!

 覚えていただいていたようで嬉しいデス!!」

ニッコリと王に笑顔を向けるシェイミ

 

「やはり…そうですか…。」

 

「あの…父様…?」

ルカリオは状況がいまいち飲み込めず、

王に尋ねた。

 

「あっ…!!

 あなたは…!!」

ガーディがルカリオに気が付き

尻尾を振り始めた

「ん…あぁ…あなたが

 ミーを森で助けてくれた人デスね!

 感謝してるデス!!

 どうもありがとう!!」

シェイミの言葉の後、

続けてガーディが頭を下げた

 

「えっ…あっ…あぁ…どうも…。」

シェイミのおてんばぶりに

ついていけないルカリオ

 

「…会議中、なんだがな…。」

ハッサムもまたやれやれとため息をつきながら

様子を見て呟いた。

 

 

「こちらの方は西の帝国の第二王女

 シェイミ姫様だ。

 以前、城に訪問したことがあったはずだが…

 そうか…

 お前は用事で城を留守にしていたな。」

 

「えっ…?

 この…人が…。」

ルカリオは驚きながらシェイミを見る。

 

マサラの西に存在する帝国…

ブラッシー帝国は

軍事で言えばマサラに並ぶ国だった。

 

 

「改めまして…」

一歩シェイミが前に出た

 

「ミーは西の帝国の第二王女、

 シェイミ、デス!!

 ルカリオ王、お頼みがあります!!

 ミーのお母様…女王バンギラスを

 止めてほしいんです!!」

 

…それは、突然の申し出だった。




~次回予告~
シェイミと対面したルカリオ
彼女の申し出は
マサラの国の
今後を揺るがすものだった。

果たしてルカリオは
未来を守ることが出来るのか?

そして、イーブイ達はどう動くのか

次回 帝国の脅威 その2
   お楽しみに!!


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第二章 帝国の脅威 その2

~前回までのあらすじ~
マサラ大国の王子ルカリオは
精霊の儀を受けるイーブイの護衛の途中
時空転移に巻き込まれ
未来の世界に飛ばされる。

何とか未来から自分たちの時代へと
帰ってくることが出来たルカリオ達。

崩壊の未来を回避するため
手段を探すことになるのだが…。

いまだ、それは見えてこない…。


…。

 

…あの時…。

…王子様と私…

いいや…“王様”と“私ではない私”が

 目の前で“動かなくなった”時…

私は過去の事を思い出していた…。

 

いつの頃かも分からない…小さな記憶…

切れ切れで飛び飛びの…そんな記憶。

 

水の中にいるような…そんな感覚。

そして…水面に出る…

 

温かな日の光…

それとともに、記憶が途切れる。

 

 

…生き延びて…

そして…探しに…。

 

 

そんな小さな声が、

暗闇の…冷たい水の波の音に紛れて

聞こえた…気がした。

 

…。

私には昔の記憶がほとんどない…

気が付けばこの施設に入っていて、

温かな暮らしをしていた…。

 

ふと、聞いたことがある…。

 

私は一体、どこから来たのか…

どこから来て、

いつからここに居るのか…と。

 

 

それに対する答えは…。

私はマサラの国の東…

大海の中に浮かぶ三つの島を望む

海岸に流れ着いていたらしい。

 

最初の私は

普通の生活が出来る範囲以外の事を

何もかも忘れていて、

自分がどこから来たのか、

どうやってここにいるのかさえも

覚えていなかったのだとか…

 

ただ…今私が持っている小さな青色の石…。

しんぴのしずくに似たこの石は

絶対に何が何でも手放さなかったそうだ。

 

未来世界の私…

シャワーズさんに聞いてみても

戦争中に無くしてしまったのだといい…

結局何も分からなかった。

 

 

「…それは、あなたのものだから、

 絶対私みたいに、なくしちゃだめだよ?」

それが、シャワーズさんの言葉だった。

 

 

…最初の私はこれを

“うみのたみのあかし”

 と言っていたらしい。

…どういう事なのかは…

全く思い出せないのだけれど…。

 

でも…今でもずっとこれは

手放さずに持っている。

…私の思い出につながる…

唯一の手掛かりだから…。

 

 

…私にも…

いつか帰るべき所が…ある気がして…。

 

 

そうこうしているうちに、

ゾロア君への施設の案内が終わった。

 

「色んな小さな子たちと

 遊べて面白かったぞ!!

 久しぶりに楽しかった!!」

 

ゾロア君は施設の子達と

すぐに打ち解けてしまい、

気が付けば、一緒に笑顔で遊んでいた。

 

…この時、私は

彼もまた一人のポケモンであると

 自覚させられた。

 

彼の歩んできた道を私は知らない…

けど、彼の今の表情は…。

母親を失って、

一人泣いていたあの時とは違う…

 

…明るい…眩しいぐらいの笑顔だった。

 

 

 

「ばいばい…また来てね!」

施設に預けられた子ども…サンドが

ゾロアに手を振る。

 

 

「おうっ!!

 絶対また来るぞ!!」

ニシシッ…といたずらっぽく笑うと

そのまま私に話しかけてくるゾロア君

 

「今日はありがとう!!

 オイラ、城には自分で帰るぞ!

 …でも、ちょっと寄り道して帰るから

 今日はここでお別れだぞ」

「分かったわ

 楽しんでくれたなら、よかった。」

「すっごく楽しかったぞ!!

 それじゃ!!」

そう言って、歩いていってしまった…

 

「…私も、頑張らなきゃ。」

城下町に一人消えていく

彼の後姿を見て…私はそう思った。

 

 

 

…数十分後…。

 

「どうしよう…

 かっ…かっ…完全に迷ったぞ!!!」

ゾロアは城下町であたふたとしていた。

 

イーブイと別れ、

カッコつけて出てきたはいいものの。

…時代が違えば、

町の様子もガラリと変わるもので。

 

「なんで五年しか違わないはずなのに

 こんなに街の様子が違うんだよ!!

 普通は大した違いなんてないはずだろ…!?」

WHY!?…マサラの人々!!?

 

けれども、残念無念かな…

ゾロアの必死の叫びは

誰にも届かず…。

 

「もし…そこの方、大丈夫でござるか…?」

…いいえ、届いたようです。

 

「えっ…?」

ゾロアは急に声をかけられ、振り返る。

 

そこには屈強なポケモンが立っていた。

「突然声をかけて申し訳ない…。

 拙者はウーラオスと申す者

 どうやら少しばかり

 お困りのようだったので…

 声をかけさせていただいた次第で…。」

「…ちょっと、怪しいぞ。」

 

「なっ…!?」

ゾロアの発言に固まるウーラオス

「あと、かな~り、おじさん臭いぞ!!

 さっきからずっとプンプンしてる」

ゾロアのいたずらスイッチが

どうやら入ってしまったようで。

 

 

「…そうでござるか…

 それはかたじけない…。」

それを受けたウーラオスは

少し肩を落とし、落ち込んでいた。

 

「ごめんごめんっ!!

 冗談だぞ!!

 落ち込ませてしまってごめんなさい。

 怪しい人に

 話しかけられてもついていくなって

 オイラ、マァから…教わって…

 …!!

 教わって…。

 …。」

ニシシッ…と

笑っていたゾロアの表情が固まり、

フッ…とその顔から笑顔が消える。

 

「いや…冗談ならば良い…

 いきなり話しかけた

 こちらも悪かったというもの…

 …?

 …どうかされたか?」

急に押し黙ってしまったゾロアの様子を見て

心配するウーラオス。

 

「…いや…何でもないんだぞ…。

 …ちょっと嫌な事思い出しただけ…。」

目からほんの少し溢れた涙を拭うゾロア

 

「…そうでござるか…。」

ウーラオスはそれを見ながら

続く言葉を無くし、少しオロオロしていた。

 

「…あ、丁度良かったぞ!

 おじさん、

 城への行き方知らないかな!?」

「…それは丁度良かった。

 拙者もこれから城の近くに

 行こうとしていた所…

 送っていくでござるよ。」

 

「そっか…ありがとう!!

 オイラはゾロアっていうんだ!!

 さっきは茶化したりしてごめんなさい。」

ペコリ、と向き直り

ウーラオスに頭を下げるゾロア

 

「大丈夫でござるよ。

 拙者はまったく気になどしていない…

 では改めて、

 拙者の名はウーラオスでござるよ。」

厳格な、それでいて温かな笑みを

ウーラオスは浮かべていた。

 

こうして、二人は歩き出した…

 

 

「…ミーは事実を言っただけなんデス…。」

シェイミは、別室でソファに座り、

不貞腐れていた。

ガーディが傍で待機している。

 

「…それは…いきなり貴女が

 あんな事を言い出すからでは…?」

そして何故か、この場にはルカリオもいた。

 

ルカリオ王の命令(というよりはお願い。)で

とりあえず一番、年の近い自分が

話を聞くだけ聞いてくれ、との事だった。

 

…なぜ、自分が…。

と心の中で頭を抱えているルカリオ。

 

 

「でも、事実なんデス…。」

ぶすぅ…と頬を膨らませるシェイミ

 

「でも、貴女の母君を止めるにしても

 慎重に動かなければ

 戦争につながりかねないので…」

「そんな事、ミーだって分かってるんデス!!」

 

ルカリオの言葉に反発し、

勢いよく立ち上がるシェイミ

 

「でもその前にあれが…

 あれが、起動したらおしまいなんデス!!」

「落ち着いてください、シェイミ様…

 まずは深呼吸を。」

ガーディがシェイミにそっと優しく語り掛ける。

 

ふぅ…とシェイミは乱れた心を整え、

もう一度話し始めた。

「ミーの国…ブラッシーでは、

 ポケモンを使って、秘密裏に

 新型大量殺戮兵器を開発していたんデス…。」

シェイミが語るは、恐ろしい歴史…

 

「鉱山で発掘された化石から

 ポケモンを呼び起こす実験…。

 失敗作として、ポケモンとして

 扱われていないような者達も居たのデス…」

 

 

…茶色の胴体…両腕に鋭い鎌を持つ者。

 同じく、固い甲羅を背負う赤き瞳…。

 

…翼が生え、灰色の胴体を持つ者…

そして…頭が魚のような姿で身体が赤緑の者…

 

 

シェイミは淡々とルカリオに語っていく…

「そしてその中でも…

 ミーが見た中で特に恐ろしかったのが…

 空を飛ぶ飛行能力を有し…

 高い破壊能力、

 そして大量に生み出せるもの…。」

脳裏に移るは、

実験室の様子…

 

何か液体で満たされた透明なカプセル。

その中をプカプカと浮いているポケモン達…

どこからか響いてくる悲鳴のような声…

重厚な機械音

 

「飛行型試作大量殺戮兵器…

 G、とそれは呼ばれていたんデス…。」

「G…。」

 

 

「ミーが見た時はまだ確かに、

 空も飛べない試作段階だったんデス

 でもあれが…あれが完成してしまったら…

 本当に取り返しのつかない事に

 なるんデス!!」

だから、ミーは急いでるんデスよ!!

 

 

…そんな事があって。

ルカリオは一人、城の中庭に出ていた。

 

「…私は…こんな事で

 本当に未来を守れるのだろうか…?」

…そんなルカリオの問いに答えはない。

 手がかりも無論ない。

 

あるのはただ、

それでも進まなければならないという

絶対的な事実のみ。

 

 

…城の中庭の泉の水が絶えず流れている…

…その中で。

 

 

パタッ…。

 

「…ん?」

 

パタッ…パタ…

 

小さく、誰かが

歩いてくるような足音が聞こえてきた…

 

…風が広場を通り抜ける…

マントで全身を覆った人物が、そこに居た。

「お前…何者だ?

 城の者では…ないようだが…。」

ルカリオは警戒しながら話しかけた。

 

 

「そういうあんたこそ…何者なんだい?」

…なんだろう…。

…どこかで…聞いたことのある様な声だ…

 

「…?」

ルカリオの頭の中に、疑問が浮かんでいる。

 

「…未来を託されて、何も出来ずに

 無力感にさいなまれてや…しないかい?」

「…!

 …なぜ、それを…!?」

 

フワリ…と

また風が通り抜け、

その人物が視界から居なくなる

 

「…っ!?」

背後から気配がした。

 

…急いで振り返る…

 

「…待ちな。

 …あたしは別に

 ここに戦いに来たんじゃないんだ…」

ペタリ、と背中に冷たい感覚が走った。

 

…どうやら手を当てられているようだ…

 

「…この国は本当にいい国だね…

 …平和が続いている…。

 さて…あんたがもし…

 この平和を守りたいっていうのなら…。」

耳元に、声が近づいた…。

 

「…まずはガブリアス、彼を守りな…

 この国の崩壊は…

 そこから始まったんだからね…。」

声が…離れていく…

 

「…っ!

 まっ…待てっ…!!」

ルカリオが振り返ったとしても…

 

…その人物は…もう、影も形もなかった…。

 

 

「…だ~か~らぁ~!

 オイラがおじさんについていくのは

 ダメなのかって聞いてるんだよ!!」

「…それは駄目でござる。」

「なんでなのさ!?

 別にオイラ足手まといにはならないよ!?」

…賑やかな話し声が聞こえてくる…。

 

城門が開かれ、

ゾロアとウーラオスがルカリオの前に現れた。

 

「…ゾロア…それに…。」

「あぁ~もう、城についちゃったじゃん~。

 …ん…?

 …!!」

ゾロアはルカリオを見て、

殺気を出しながらそっぽを向く。

 

「…。」

悲しげな表情をして、ルカリオは少し俯いた。

 

「…あなた様は…

 ルカリオ王子…でございます…よね…?」

「…っ!

 …あっ…あぁ…

 …久しぶりだな、ウーラオス。」

首を少し振り、調子を戻すルカリオ

 

「…お久しぶりです、ルカリオ王子

 二年ぶり、でしょうか?」

 

 

「…ここに居られましたかルカリオ王子、

 先程会議が終わりまして…

 王がお呼びでございます…。」

ハッサム兵士長がルカリオを呼びに来る

 

「…ん…

 そなたは…ハッサム兵士長殿…!」

「…!!

 ウーラオス殿!?

 …これはまた随分と…。」

ハッサムもまたウーラオスに驚く

 

 

「…最悪。」

ゾロアは彼らを見ながら、

一人、イライラとしていた。

 




~次回予告~

ウーラオスと会うことになったルカリオ
彼は一体何者なのか。

そして王は何故ルカリオ達を呼び出したのか…

豊穣祭の行方は…
ルカリオの進言したマントの人物は…?

次回 第二章 帝国の脅威 その3
   お楽しみに!!


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第二章 帝国の脅威 その3

お待たせしました
では、お楽しみください

(今回からあらすじはありません。)


…。

「…。

 …という事で頼む。」

「…かしこまりました…。」

ダークライと話をしている謎の影

 

「すでにガブリアスより

 精霊 アグノム が

 南西の国にいる事が報告された…

 ただ…少し厄介なことになっているらしい。」

窓から空を見上げ、ため息をつくダークライ

「…どうなさるおつもりで?」

尋ねる影

 

「…まぁ、南西に対しては西も動いている…

 放っておいてもいいだろう…。

 それで…お前には

 この時代のマサラを落としてもらう。

 あの国に対しては

 この時代は…“砕け”。」

「…了解いたしました。

 それでは手筈通りに…」

「…頼んだぞ。」

そう言って、何かの支度を始めるダークライ

 

「…?

 この後、何かご予定でも…?」

 

「あぁ…西の女王が私に会いたいそうだ。

 この世界線のあの女には少々期待をしている…

 だからこそ、技術を与えてやろうと思ってな…」

…あの女に力を与えれば…さぁ、どうなるかな…?

 

「…なるほど…。」

二人は、薄く笑っていた。

 

…着実に精霊たちを追い詰めている…

我々の計画は…第二段階に入った。

 

…では…そろそろ潰していこうか…。

…この世界を…。

 

 

「丁度いい。

 ウーラオス、お前も王にご挨拶を。」

「…そうでござるな。

 ここでお会いせぬというのは失礼というもの…

 ご挨拶をさせていただこう…。」

ウーラオスは南西の国の元将軍である。

だが、今では国を抜け…放浪の旅をしているのだ。

 

「それにしても…

 ウーラオス、お前はどうしてここへ?」

ルカリオの問い。

 

…ちなみに、この場にゾロアはいない。

三人で話をしていると

オイラもう部屋に戻るぞ!!と言って

怒りながら行ってしまったのだ。

 

「拙者の旅の中継地として

 寄っただけでござるよ。」

ルカリオの問いに答えるウーラオス

ただ…

「祭り事を行うというのであれば…

 丁度良い頃合いに巡り合えたというもの…

 マサラに寄って本当によかった。」

 

「…ところで、

 あちらの国の師匠様はまだ…?」

今度はハッサムだ。

「…全く。

 …影も形も掴めぬ…

 …まぁ、それもあの方らしいと言えばらしいが…。」

「そうか…。」

ハッサムとウーラオスが同時にため息をつく。

 

そんな話をしていると…

あっという間に廊下を歩ききり、

玉座の間の扉が開く…。

 

「失礼いたします…。

 父様…お呼びでしょうか?」

「うむ…。」

ハッサムが部屋の横に移動、

ウーラオスは頭を下げながら

ルカリオの後ろで控えている。

 

「…?

 また、新しい客人か…?」

「…お久しぶりでございます、陛下…」

「…!

 …おぉ…!ウーラオス将軍!!

 国を出て長旅に出たと聞いていたが…

 そうか、この国に来ていたか…

 …長旅は疲れるだろう…

 ゆるりと休憩をしていくがよい。」

「…ありがたきお言葉。」

ペコリ、と頷き、頭を下げるウーラオス。

 

ルカリオ王が、王子に視線を向ける。

「さて…ルカリオ

 豊穣祭の件だが…

 今回は協議の結果、

 規模を少し縮小して執り行うことにした。

 祭りにはお前も参加してもらうぞ」

「はい、分かりました。」

 

豊穣祭へ向け…着々と準備が進んでいく…。

 

 

その間に…

ジュプトルとセレビィが

国を出ていこうとしていた…。

 

二人を見送るルカリオ

礼をいう彼に対し、ため息をつくジュプトル。

 

国の上に…前に立ち、

誰かを、何かを守るには…

まず自分が傷つく覚悟をしないといけない。

 

その言葉だけを残し、

彼らは国を出て行った。

 

「…分かっているさ…そんな事…。」

ルカリオは顔を俯かせていた。

 

 

…。

ポチャン…。

まるで鏡のような水面に…一滴、水滴が落ちた…

 

 

マサラの城、訓練場にて…。

「豊穣祭がついにそこまで迫っている!!

 我々はこの国の警備の要だ

 より一層の鍛錬を積み、当日に備えてくれ!」

 

「おぉー!!」

 

「皆に良い知らせがある。

 今回、南西の国の将軍、ウーラオス殿が

 この国に参られた。

 少しの期間、訓練に付き合ってくれるそうだ。」

ハッサムの横にウーラオスが立つ

 

「…紹介に与った、ウーラオスでござる。

 …うむ、みな良い目をしている…

 これから少しの間…よろしく」

一礼。

…後、訓練が始まった。

 

「どうですか…我が軍は」

「…うむ。

 統率がよく取れている。

 彼らの上に立ち、

 指導する者が良いせいかもしれぬな」

「ふっ…御冗談を」

訓練の合間に

ハッサムとウーラオスが話をする。

 

「…それで…ハッサム殿

 拙者には少し気になることがあるのだが…」

「…?

 いったい何が…?」

 

「…ルカリオ王子の事でござる。

 …彼は何か…そう、昔とは違い

 重い何かを背負っているような…

 そんな気がするのでござる。

 …何か心当たりはないだろうか?」

…それは、ウーラオスの心配だった。

 

確かに、ルカリオも大人に近くなり

以前よりは これから を意識することが

多くなってきたことだろう。

だが…それだけでは説明が出来ない程…

今のルカリオは神経質になっている気がした。

 

…そう…たった一人で…

全てを背負おうとしているような…そんな気が。

 

「…。」

ハッサムはウーラオスの言葉に言葉をなくす。

 

そして…長時間の訓練が終了する。

 

城の廊下を歩くハッサム

「…。」

無言で廊下を歩いている

ルカリオ王子が目に入った。

 

「おぉ…王子、丁度良い所に…

 今、お時間を頂いてもよろしいですか?」

「あぁ…いいが…どうした?」

 

「こちらに…」

ハッサムはルカリオを連れ…

誰もいなくなった訓練場に足を運ぶ。

 

「…どうしたんだ…こんな所に。

 悪いが私は…訓練はしないぞ…

 今日はそんな気分ではないんだ…。」

「…“今日も”、ではありませんか?王子」

背中を向け…ハッサムは言った

 

「…ハッサム兵士長。

 …一体何を…?」

 

 

「…失礼します。」

 

次の瞬間

<<バレットパンチ>>

 

「…っ!?」

スッ…

 

ルカリオはハッサムのバレットパンチを

受け流していた。

 

以前のルカリオでは絶対に有り得ない速度で

行動し、手際よくハッサムをいなす。

 

その上で、<<はっけい>>を繰り出し、

ハッサムとの距離を離した

 

「おいっ…!!

 いったい何のつもりだ!?」

「…。」

無言でルカリオを見て、

そしてまた構えるハッサム

 

「…強くなられましたね、王子。

 短期間で…まるで別人のようだ。」

「…?」

ハッサムの言葉の意味が分からず、

困惑するルカリオ

 

「私には…一体何があったのかは

 分かりませんが

 突然訳の分からない者達を連れて戻られ…

 そして、あなたは急に

 そこまでお強くなられた…!!」

ヒュン…!!

 

<<でんこうせっか>>

 

「…っ!」

ハッサムの腹もとに…無意識のうちに

ルカリオは<<はどうだん>>を構えていた。

 

ハッサムの右腕を左手で掴み…

右手でその腹に

<<はどうだん>>を当てている。

 

「教えてください…王子

 いったい森で…何があったのですか…?」

拳を引きながら…ハッサムはルカリオに問う

 

「それは…」

ルカリオは躊躇いながら…ハッサムに全てを話した

 

「…っ!

 …まさか…そんな事が…

 …いや…にわかには信じがたいですが

 実際、証拠は…揃っていますね…。」

「あぁ…私は…あの未来を回避しなければならない…。

 そう思って、今まで過ごしてきたんだ…。」

「…。」

…もう一度、ハッサムはルカリオを見つめる

 

「…王子…

 お気持ちは分かりますが…

 どうか、一人で抱え込む事は…お止めください。」

ハッサムはルカリオの前で片膝をついた。

 

「あなたはこの国の王子です…が

 …それ以前に一人のポケモンなのです。

 全てを一人で背負う事は…良くありません。」

「…それは…私がまだ未熟だという事か…?」

「…いえ、そうではありません。」

ルカリオの問いに対し、きっぱりと答え

言葉を続けるハッサム

 

「何か行動をする者は、

 それに伴う重責と判断…意思を問われます。

 そしてそれは…

 指導者として重要な“心の余裕”をなくさせます。

 これを防ぐには、

 協力すること…これが最善です」

…ですので…

 

「…その責任を…少しばかり、

 私にも分けてはもらえませんか?」

この時、ルカリオは

未来の自分の背中を思い出した。

 

…たった一人の孤独な背中。

それでも、強く生き

多くのポケモン達をまとめ上げ、

反逆の旗を掲げていた彼の生き様を。

 

…未来の自分…

…でも、自分とは違う自分…

 

…。

…あの私は…立派だったと言える。

…でも…。

…私は…“私”にしかなれない…。

 

 

「…駄目だな…本当に私は…。」

王子としても…一人のポケモンとしても…

 

「…頼めるか…ハッサム兵士長?」

ルカリオの諦めにも似た言葉が…

二人だけの静かな部屋に響く…。

 

「…勿論です。」

歯車に…音を立てて

大きなひびが入ったような気がした。

 

 

数日後…それは始まる。

「それでは、豊穣祭を始めよう…!」

王の開幕の宣言

 

それによって城下町の中央通りが

ライトアップされ賑わい始める。

 

「うわぁあああ~!!

 キレイだね!!」

ミズゴロウが目を輝かせている

「今日は僕、お母さんに

 いっぱいお小遣いを貰って来たよ」

アチャモがニコニコとしている。

 

「えぇ~いいなぁ~

 私なんて今日も

 普通と変わらないぐらいだよ~?」

…無駄遣いしないようにしなきゃ。

 

そんな二人を横目に。

「なぁなぁ!!

 色々出店とかあるんじゃないか!?

 早く回ろうぜ!!」

キモリがはしゃいでいた。

 

「…。」

ホワンホワン…ホワワワ~ン

 

「んだよ…祭りではしゃぐなんて…

 子どもじゃあるまいし…。」

はぁ…めんどくさ…

 

バキンッ…

 

アチャモとミズゴロウの頭の中で、

キモリのイメージが、

バラバラに砕け散った。

 

 

 

ちょっと意外だったけど…

まぁ…いっか!!

 

 

「ちょっと待ってよ~キモリ~!

 はしゃぎすぎだってばぁ~!!」

そのまま人混みに入っていく三匹

 

 

建物の屋根の影…屋上にて。

「お父さん!!遅いよ~」

「本当に申し訳ありませんね…ヨマワルさん」

ヨノワールとヨマワルがいた。

 

クスクス…。

ヨマワルが可笑しそうに笑う

「さぁて、それじゃあ手筈通りに。」

「えぇ…始めましょうか。」

 

二人は祭りの先…

パレードの中心で

手を振る王と王妃を見つめていた。




~次回予告~
豊穣祭が始まった。

精霊役 イーブイの活躍…

裏で暗躍するヨノワール達。

そして…ガブリアスを守れという
謎の人物からの言葉…

様々な思惑が交錯する中
彼らは何を思い、どう動くのか。

次回 第二章 帝国の脅威 その4
   お楽しみに!!


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第二章 帝国の脅威 その4

お待たせしました
では、お楽しみください


“ブラッシー帝国 女王の間”

二人のポケモンが机を隔て、

向かい合いながら話をしている。

 

「…例えば、女王陛下…

 世界に“神なる者”が

 存在していたとして

 その存在は絶対だとお考えですかな?」

「全能の神…か。

 もし本当にそんなものがいるとするならば

 何故、お前は

 この時代に来ることが出来た…?」

「…。」

ダークライは無言になりながら

目の前の女王…バンギラスの様子を見ている。

 

「ただ…。」

「…?」

 

「…お前という存在…

 そしてお前の手の中にある二柱の神…

 それらが否定できない以上、

 全能の神とやらもまたどこかにいる と

 判断せざるを得ない…

 というのが私の見方だ…。

 まぁ…いずれにせよ、

 私にとっては

 どうでもいい要因でしかないがね…。」

「…なるほど…。」

部屋全体に、

何とも言えない緊張感が走っていた。

 

たった一言…

たった一言でも言葉を間違えれば

全てが崩れ去ってしまうような…

そんな予感が走る。

 

「…ふむ…それで…

 どうだね…?

 こうして実際に話をしてみて…

 君の力を貸すに、私は足る人物かね…?」

バンギラスはダークライの真意など

既に予想していた。

 

長年の外交の経験と勘

そしてこのタイミングで断り続けていたはずの

アポイントを受けてきたという事実。

 

それらに伴い総合的にバンギラスは判断する。

 

 

…今、私はこのポケモンに

 試されているのだ、と。

 

 

その上で…にやりと笑みを浮かべていた

 

…甘い。

…この私が、貴様などにはかれるものか…

 

「どうなのかね…?」

決断を急がせる。

…すでに部屋の外には兵を待機させてある。

 

…もしも協力を断った時の保険だ。

 

そう…この時点で、

ダークライには協力するより他に手はない。

そうなるようにバンギラスは

手を打っているのだ。

 

 

…さぁ、どうする…?

協力するか…死ぬ(断る)か…

 

 

「…そうですな…

 …やはり、お断りを…

 …入れてもいいのですが。」

ピクリ…

部屋全体が…小さく揺れる。

 

「ふむ…なるほど…

 部屋の外には既に兵が配置され…

 いつでも突入できる算段だと…。

 私が断れば…私を殺すつもり…ですな?」

 

…なるほど…これを見破るか…。

 

「そこまで分かっているのに…

 何故味方に連絡を取らない…?

 私を試すような真似をして…

 遊んでいるつもりか?」

「ふっふっふ…

 いえいえ…滅相もない…。」

 

トンッ…

椅子に座り、机を指で叩くダークライ

 

「女王陛下…

 最後に一つ…お尋ねしても?」

「…なんだ…申してみよ?」

 

「人は誰しも…その人の…

 絶対に知られたくない闇の部分…

 俗に言う“心の弱み”…

 トラウマが必ず存在します。

 その“部分”に触れる事は、

 誰であろうが許されない。」

「…?」

 

「あなたの…“それ”は…なんですかな?」

次の瞬間…

 

部屋全体が歪み、

変形していく…

「なんだ…!?

 …なんなのだこれは…!?」

「ふっふっふ…

 いつまでふんぞり返っているつもりだ…?

 もうここは…私の掌の上…悪夢の底だ。」

 

お前の底は…もう十分知れた…。

残念だが…期待外れ、というしかない

 

 

「きさまぁ…この女王に向かって

 なんという口を…!!」

…無礼者が!!

 

怒りの形相のバンギラス…

「…これは残念…。

 交渉は…決裂ですな!!」

ダークライの背後から黒い液体があふれ出し、

バンギラスの前に集合…形作る。

 

 

[…ナァ…イツマデ…]

 

 

「…!?」

それを見た瞬間、

バンギラスは目を見開いた。

…液体が形作ったもの…

 

黒い…ドサイドン。

 

[…イツマデモ…ダマシキレナイ…

…ワタシハ…]

「…や…やめろ…。」

 

…く…来るな…!!

 

バンギラスにどんどん近づいていく

黒いドサイドン。

 

[…ワタシハ…ホシイ…]

「…っ!!

 …やめろ…それ以上は…!!」

 

[…コドモガ…アトツギガ…!!]

 

…ワタシタチノ…

 

「――――!!」

形容できない悲鳴と共に。

バンギラスは黒い液体に飲み込まれ、

ボールに収まった…

 

「…なるほど…

 それがお前の…トラウマ…か。」

ナイトメアバンギラスの完成を

横目で見ながら…

ダークライはため息をついていた。

 

 

「女王陛下…!!」

部屋の様子が元に戻り…

ブラッシーの兵士達が

部屋に駆け込んでくる。

「…ダイジョウブダ…

 …モンダイナイ…。」

 

トラウマの存在には例外などない

たとえ…神であったとしても。

見ていろ…この時代の全能の神…

必ず私が…

お前にもこの恐怖を味わわせてやる。

 

「さて…それでは…

 協定の…続きと行きましょうか…。」

女王…陛下殿…?

 

 

 

視点は変わり…マサラ王国

「…。」

ルカリオは…ソワソワしていた。

 

「どうか…なされたんですか?

 王子様…?」

隣からイーブイの声がする。

「いや…どうにも私は…

 こういう暗闇が苦手でな…。」

今現在、ルカリオ達は

周囲を暗闇に包まれながら移動中である。

 

パレードの目玉…

 

精霊役がハートのうろこを

城下町の中心…泉に囲まれた

全能の神の像に捧げる行事…。

 

その前に…国民にお披露目、という段取りだ。

ルカリオ達に周囲の様子は

あまりよくは見えない

 

イーブイと二人だけの薄暗い空間。

 

壁越しに伝わってくる

段々と近づいてくる大衆の声…

 

「昔…小さい頃に父様といった森で

 ゲンガーとゴーストに襲われてな…

 あれ以来暗闇が苦手になってしまった…。」

「そうなんですね」

 

乗り物が揺れる…

…っ!?

 

「あぁ…情けない話だ…。」

ブルブルと

小さく震えているルカリオの身体

それを暗闇で感じるイーブイ

 

「王子様…?

 大丈夫ですか…?」

「…だっ…だいじょうぶだ…。」

明らかに大丈夫ではなさそうな声

 

その声を聴き、イーブイは少しだけ笑う

「ふふっ…王子様のそういうお姿を

 …初めて見ました。」

「…っ!

 …おっ…可笑しいか…?

 私だって、

 苦手なものぐらいはある…!」

 

なけなしのプライドを振りかざし、

強がりを言ってみせるルカリオ…

 

だが、身体が小さく震えている上で

そんな事を言っても

効果などあるわけがないわけで…

 

「いえいえ…

 ただ…私にとっては

 王子様は雲の上の存在で…

 初めて会った時の印象も

 完璧なお方だったので…

 なんとなく、安心しただけです。」

「…?

 そう…なのか…。」

 

「もう間もなく到着いたします…

 お二人とも、

 外装上部にお上がりください…」

運転席から運転手

ゴリランダーが声をかけてきた。

 

「分かった」

ルカリオが扉を開き、外に出る

 

風がなびき、用心しながら頭を出す

「足元に気を付けて…」

ルカリオは振り返り、

イーブイに手を伸ばす

 

「はい…」

 

イーブイはその手をとった

そして…イーブイもまた外に出る。

 

精霊役として、衣装を身に着けたイーブイは

とても可憐だった。

 

…まさにそれこそ、思わず

見とれてしまう

美しさというものだろうか?

 

「…今日は、よろしく。」

「はい…王子様。

 よろしくお願いします…」

二人は微笑みあった。

 

そして…乗り物はトンネルを抜け、

大衆の前に出る

 

「きゃ~!!

 王子様~!!」

「精霊役の人!!

 綺麗だぜ~!!」

包み込むような声が、二人を出迎えた

 

国民に笑顔で手を振る二人

パレードの中で、

彼らはひときわ輝いているように見えた。

 

 

「お似合いですよ~二人とも~!!」

パレードの野次の中でそんな声が聞こえる。

 

「…っ!?」

はっとしたように驚き、

イーブイの顔が何故か少し赤くなる

 

「…?」

ちらりと横目でルカリオを見るイーブイ

 

ルカリオはイーブイに気づかず、

国民に手を振り続けている。

 

「…。」

イーブイは小さく首を振った

 

…この人の隣にいられるのは今だけ…

…この人には…私じゃなくてきっと

 他の人でいい人がいる…。

 

…王子様に私は…

やっぱり釣り合わない…。

 

「…王子様に…私は相応しくない…。」

 

「…?」

観客の歓声に掻き消えるように…

ルカリオの耳にひどく小さな声が聞こえた。

 

 

「う~ん…

 駄目だね…ここからじゃ

 パレードがよく見えないよ~」

パレードを見る大衆の中で

出遅れてしまい、

人の壁に阻まれるミズゴロウ達

 

「ごめん…俺が…はしゃぎすぎた…。」

がっくりと後ろで肩を落とすキモリ

 

「君のせいじゃないよ

 一緒に僕たちも楽しんでいたわけだし…」

アチャモがそんなキモリをなだめる

 

「このままじゃ、

 おうじさま達を見ないまま

 ぎしきが終わっちゃう…

 どうにかして

 見える場所に移動しなきゃね。」

 

「でも、どうする…?

 屋根の上から見ようにも

 警備隊が空から監視してて

 見れないだろ…?」

「…確かに…」

三人が見上げる空

 

そこにはファイアローやケンホロー達

鳥ポケモンが飛び回り、

空を巡回していた。

空から見る…

もしくは屋根の上から見るのは…

出来なさそうだ…。

 

「どうにかできないかな…?」

そこに、ヨマワルが通りかかる。

 

「あっ…!!

 ヨマワル君…!?」

「…みんな!

 ようやく会えた!!

 探したんだよ!!

 このお祭りに

 きっと来てるって思ったから」

三人にヨマワルが合流した。

 

そして事情を話す…

「…それなら…

 城の中から見ればいいんじゃない…?

 だって城門の目の前に

 像があるんでしょ?」

 

「…それが出来たら苦労してないよ…。」

ミズゴロウ達は俯く

 

「僕に任せて」

そのまま走っていくヨマワル

「待ってよぉ~」

ミズゴロウ達が後を追う

 

「ん…?」

キモリが背後に何かの気配を感じた。

 

振り返っても…誰もいない…

 

「気のせい…かな…」

首を傾げ、キモリも三人の後を追った。

 

キモリの見ていた闇の先…

そこからヨノワールが出てくる。

「そっちは頼みましたよ…ヨマワルさん…

 こちらはこちらで…

 そろそろ騒ぎを起こしましょうかね…。」

ヨノワールの背後には…

小さな無数の爆弾があった…。

 

 

「ねえねえ…ヨマワル君…

 こんな所…来ていいの…?」

ミズゴロウ達は今、

屋根を伝いながら城門に近づいていた。

 

ヨマワル達が進んでいる場所は

丁度空中からは死角になっていて

まだ見つかってはいない。

 

「大丈夫、大丈夫!

 ここからまっすぐ行けば

 城門の上の警備施設にたどり着けるよ!」

 

「へぇ…

 こんなとこ、よく知ってたな…」

キモリが隠れながら呟いた

 

「僕のお父さん…ヨノワールは

 城の工事をしに来ててね…

 この道は偶然見つけたらしいんだ」

「…。」

 

「すごいね、それ!!

 ヨマワル君のお父さん、天才じゃん!!」

目を輝かせるミズゴロウと、

無言になるキモリ。

 

<<ポルターガイスト>>

「うわぁっ…!?

 なっ…なんだ…!?」

 

「今だよ…行こう!!」

結局彼らは誰にも見つかることなく、

城に突入した。

 

「こんなの滅多にない機会だからね…!

 少しだけ見て回ろうよ!!」

ヨマワル達は城の中を少しだけふらつく。

城の中は警備が少なくなっており、

閑散としていた。

 

廊下やら、玉座の間やら…

自由に動ける範囲で、城の中を見て回る。

 

食堂にて、

ヨマワルが盗み食いをしようとする。

 

「ヨマワル君…それは流石に駄目だよ!

 怒られちゃうよ…!!」

 

「…もう既に怒られるのは…

 確定なんだけどな…。」

キモリのつぶやき。

 

ヨマワルはやめはしたものの、

クッキーに仕掛けを一瞬で施した。

 

毒物を、振りかけたのだ。

 

「…。」

そのまま、ヨマワル達は出ていく。

…のだが…。

 

「…。」

アチャモが戻ってくる。

「ちょっとだけ…なら…いい、よね…?」

…。

…ごめんなさい…

 

 

パクリ とクッキーを一欠けらだけ食べ

みんなの元に戻った。

 

潜入は続く。

「これで…よし…。」

ヨマワルの…

全ての仕掛けの施しが終わった。

 

 

…終わって…しまった…。

 

 

「…!

 だれか来る…!!

 隠れて!!」

 

城の兵士が廊下に集まった

「いったい何があった…!?」

兵士長ハッサムが兵士達から事情を聴く。

 

「…連絡によると、

 城下町でボヤ騒ぎがあったようです…

 火の手が回るのが

 予想以上に早いらしく…

 応援の要請がありました」

「こんな時に…。

 分かった、出られる者は

 すぐに応援に行け!

 ただし、城の警備の人数は

 必要最小限残すように!」

「了解!!」

ハッサム達が動き出す。

 

 

「どうか…したのかな…?」

「さぁ…大変そうだってことは分かるけど…」

隠れるのをやめ、廊下に出る四人

 

「うん…?

 なんだ…君たちは…

 一体どこから入った…?」

「あっ…!」

四人はガブリアスと鉢合わせる。

 

「あっ…いや…えっと…

 その…!」

「ふむ…いけない子達だな…。」

ガブリアスは冷たい目で四人を見ていた。

 

「俺たち…ただ、パレードを

 見に来ただけなんです!!

 でも…迷っちゃって…!!」

「迷って城の中にまで来られるのか…

 逆にすごい才能だな…。」

驚きだ…

 

「…はい…

 ごめん…なさい…。」

涙目になりながらガブリアスに謝る四人

 

…。

その様子を見て、

ため息をつくガブリアス

 

 

「…ちゃんと反省したな…?」

ガブリアスの問いに頷く四人

 

「しょうがないな…。

 ほら…ついてきなさい…」

 

ガブリアスが案内した先…

それは城門の上だった。

 

「せっかくここまで来たんだ…

 君たちの勇気に免じて、

 特別サービスだ。」

ただし…

 

「もう二度としないこと!

 …いいな?」

「はいっ…!

 ありがとうございます…!!」

こうして、四人のいたずらっ子達は

パレードを見ることが出来た。

 

 

「…。」

ルカリオ王子にエスコートされ、

精霊役として、像にハートのうろこを

捧げるイーブイ。

 

「…ミーの言う事を信じてくれなくて…

 こんなお祭りをして…。

 この国も信じられないんデス…。」

城の窓から豊穣祭の様子を見て

本心を漏らすシェイミ。

 

「シェイミさま…?」

後ろからガーディが近づく。

「…ガーディ!?

 いっ…いや、何でもないんデス!!」

そう言いながらも。

 

「…。」

シェイミの顔は曇っていた。

 

パレードを見ている四人。

ヨマワルはパレードの中で

人混みに紛れていたヨノワールを見つけ、

笑顔で小さく合図を送る。

 

ヨノワールもまた、小さく合図を送った。




~次回予告~
光も闇も…笑顔になる。

シェイミ…ガーディ…
ルカリオ…イーブイ…ウーラオス
ゾロア…ガブリアス…ハッサム…
ミズゴロウ…キモリ…アチャモ…
そして…ヨマワルとヨノワール。

豊穣祭も終わりを迎え…
全てがいよいよ動き出す…!

次回 帝国の脅威 その5
   お楽しみに!!


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第二章 帝国の脅威 その5

お待たせしました
ではお楽しみください。


ブラッシー帝国地下…

中央大研究所。

 

「…でありまして…

 現在プロジェクトGは

 ダークライ様より

 お借りしました技術により…

 最終段階まで到達しました。」

「そうか…ならば良い。」

 

研究員の一人であるケーシィと

鉄の廊下を歩きながら

話をするバンギラス女王

 

入れ替わった時の

言葉のカタコト感もなくなり

完全にバンギラスに成り代わっている。

 

「つまり…“あれ”も使用できる、な…?」

扉の前に立つ二人…

「はい…最初こそいくつかのトラブル…

 予想外の事象の発生はしましたが、

 既に稼働・戦闘実験は基準を

 大幅に超える数値でオールクリア…

 コンピューターの計算…そして

 計測された戦闘データから判断しても

 戦場に出しても問題なく稼働するかと…」

音もなく目の前の扉が開く…

 

薄暗い室内。

ムワリ…と生臭い血の匂いが漂ってきた

「…ようやくか…。」

部屋の中に入る二人。

 

淡い緑色に光るカプセルの前に足を運び

バンギラスは視線を上に向ける。

「飛行型試作大量殺戮兵器…G…

 いや…飛行型大量殺戮兵器…

 ゲノセクト…これで…

 ワタシハクニヲトル…!!」

 

液体の中で

身体のあちこちにケーブルを付けられて

無気力に浮かんでいた

紫の体のポケモン…

ゲノセクトが

まるで生まれる前の胎児のように

…小さく動いた。

 

 

フハハハハハ…!!

 

 

…だが…まだだ…。

…まだ足りない…

…あの小娘が持ち去った…

“あれ”を取り返さなければならない…

 

「一体どこに行ったのだ…!

 シェイミ…!!」

 

 

「…ガーディ…ミーは…

 マサラは…この国は

 ミー達を助けてくれるのか…

 分からなくなってしまったのデス…。

 早くしないと…南西の国にお母様が…。」

城の外では豊穣祭の熱気が

いまだ冷めやらぬ中

シェイミはガーディに本心を打ち明けていた。

 

「…シェイミ様…前にもお伝えしましたが、

 国の兵を大量に動かす事は

 そう簡単には出来ませんよ…」

「…でも…。」

 

「ここは根気よく待つべきだと

 僕は思います。

 焦ってもなにもなりません

 それに…」

ガーディは躊躇うように顔を背ける。

 

これは言ってはいけない事だと

分かっているから。

でも、それでもガーディは言う事にした。

 

「バンギラス女王様が…

 そのような事を…

 なさるはずがありません…。」

 

「…っ!!」

その場の空気が…一瞬で凍り付いた。

…こうなることは分かっていた。

だが…それでも

ガーディがそれを言ったのは

ガーディの忠義によるものだ。

 

ガーディは

シェイミの世話役であるとともに、

一人の忠実な帝国兵だった。

だからこそ…

主を疑うわけにはいかない。

たとえ…相手が

その帝国の姫であろうと、である。

 

それが…ガーディの選んだ生き方だった

 

「…やっぱり…。

 …そう…デス…か。」

ガーディの反論を受けて…

シェイミは何も言わなくなってしまった。

 

ただ、押し黙り、俯いている…

 

 

 

…裏切られた。

…信じていたはずの相手に。

 

そんな気持ちで…

今、シェイミの心は一杯だった。

 

「…。」

…どうしよう。

…どうしたらいいんだろう…

 

今まで感じなかった隙間風さえ感じる…

 

…。

居住まいが悪すぎる。

「…失礼します…」

 

その場から逃げるように…

ガーディは部屋を出た。

 

 

…すみません…シェイミさま…。

 

 

声にならない懺悔が…

ガーディの胸の中に溢れていた。

 

「ミーは…ミーは…

 お母様を止めたいデス…。」

…たとえ…たった一人ででも…。

 

祭りの騒音が…とても遠くに感じた。

 

 

「…お疲れ様です。

 国民の前でのあの堂々たる佇まい…

 拙者はとても感動いたしました、

 ルカリオ王子。」

「ははっ…

 よしてくれ…照れるじゃないか」

パレードも終わりをつげ、

ルカリオ達が城に帰ってくる。

 

少々疲れた様子の二人に

ウーラオスが近づき声をかける。

 

「それと…

 とてもお美しかったですよ、

 イーブイ殿。」

「はい…ありがとうございます。」

一応、ウーラオスと

イーブイの間にも面識はある。

なので、多少ちぐはぐはしているものの、

途切れることなく会話を出来ていた。

 

「ルカリオ王子様…

 王がお呼びです…。」

「分かった、

 すぐに行きますと伝えてほしい。」

…城の兵士の一人が下がっていく。

 

イーブイと顔を見合わせるルカリオ

「…では、これにて…

 拙者は失礼します。

 話はまたのちほど…」

その様子を見て、気を使ったのか

ウーラオスが一礼し下がった。

「あぁ…すまないな、ウーラオス。」

「私もこれで…失礼いたします。」

 

イーブイとも別れ、

ルカリオは王の元へと向かった。

 

 

「…?」

城の中で、ウーラオスは自室に戻る途中

ガーディを見かけた。

 

暗い顔をして、とぼとぼと歩いていく。

そのまま城のバルコニーに出た。

 

「…どうか…したのだろうか…?」

流石は、困っている人を放っておけない

紳士のウーラオス。

 

ゆっくりと近づき、

驚かせないように小さく音を立てる。

 

ガーディが振り返る。

「…どうかしたでござるか?」

「あなたは…?」

 

「拙者はウーラオスという者でござる…

 世界中を旅しているが…

 訳あって今はこの城にいるでござるよ。」

「…そうですか」

…ガーディの暗い表情は変わらない…

 

「…なにか悩みでも…?」

そっと、ガーディの横に移動し

言葉を促すウーラオス

 

「…いいえ…悩み…というか…

 なんというか…。」

「…?」

言葉を選ぶガーディに対し

ウーラオスは黙って次の言葉を待っていた。

 

「…拙者でよければ…

 話を聞くでござるよ…?」

…できる限り、怪しくないように…

…嫌われないようにしながら、

ウーラオスは言った。

 

「…。」

何度も何度も躊躇う様子を見せるガーディ。

 

そして…

 

「あの…」

ガーディはウーラオスに胸の内を話した。

 

 

「…なるほど…

 それで…自らの忠義を取るべきか

 現状の忠誠心を取るべきか

 迷っている、と…」

「はい…。

 どうしたらいいのか…分からなくて…。」

ウーラオスの横で迷うガーディ。

 

「…。」

ウーラオスは空を見上げる。

 

…今宵は月なき空。

ただ空にあるは無数の星々の輝きのみ…

 

…だが、今だけはそれで良かった。

ウーラオスは月が嫌いだった。

 

…あの時の事を思い出してしまうから…。

 

 

二つの塔

そして空に浮かぶ満月…

 

塔の先端に立ち、月を背後に浮かぶ影…

手裏剣を使い、数を増やし…

クナイを操る…俗にいう“忍び”…。

 

その赤き眼光が光る…。

“月光(の)牙” の影を…。

 

 

話を戻そう。

「…それで…ガーディ殿は…

 どうしたいのだ…?」

そんな言葉が…口をついていた。

 

ウーラオスにとって

ブラッシー帝国は

祖国の敵国“だった”ものだ。

 

…。

……。

「僕は…」

 

「国に対する忠義も、姫に対する忠義も

 微塵も落ちてはいないだろう…?」

「…勿論です!!」

勢いよくガーディは答えた

 

「…のなら…

 その忠義は決して捨てない事だ。

 そして…

 何が正しいのか…

 何が間違っているのか…

 自分で判断することだ。

 忠義に酔う事と、忠義を全うする事は違う。」

「…。」

ウーラオスの話を真剣な面持ちで聞くガーディ

 

「…ありがとうございます…!

 …あのっ…一つ聞いてもいいですか…?」

「…いいでござるよ?」

ガーディとの話が終わった別れ際…

ウーラオスは

ガーディに尋ねられ首をかしげる。

 

「すごく具体的で分かりやすかったです…

 それで…ウーラオスさんは

 旅をしていらっしゃるんですよね…?

 旅をする前は…

 どこかの兵士を

 していらっしゃったん…ですか…?」

「…っ!!」

固まるウーラオス

 

…自分は…

…自分は……。

 

「いや…拙者はただの旅人でござるよ…。」

 

「…王!

 私は何もしていない…!!」

「…?

 これは何の騒ぎですか…父様!!」

玉座の間につき、扉を開けると

ガブリアスと二人の子ども達が

兵士たちに包囲され、

王の前に突き出されていた。

「ヴぁぁ~!!

 ごめんなさい、もうしませんから…!!」

「本当に…ごめんなさい…」

泣きじゃくるミズゴロウとキモリ。

 

「あぁ…ルカリオ…

 ガブリアスが…どうやら大量虐殺を

 図ったようなのだ…」

「…っ!?

 …どういう事ですか…!?」

 

それは少し前に遡る…

 

「さて…

 君たちが使った抜け道は塞いでおいた。

 これからはこんな事がないようにしよう…

 さ、早く帰るんだ…。」

「はい…ごめんなさい…。」

城門前で、ミズゴロウ達を見送るガブリアス。

 

「さ…もう、行こう…

 三人とも…って、アチャモ…?」

次の瞬間…

 

アチャモは倒れた。

 

「…!?

 一体どうしたんだ…!?」

 

「きゃあぁああああ…!!」

城から叫び声が聞こえる。

「…!?

 とりあえず、彼を城の医務室へ…!!」

ガブリアスは倒れているアチャモを

医務室へと運んだ。

 

そこで…

 

「ガブリアス殿…!!

 あなたには

 虐殺を企てた容疑がかかっています…!!

 ご同行願えますか…!」

「…虐殺…!?

 いったい何の話だ…!?」

 

…そして…今に至る。

 

「私とて疑いたくはない…

 今回は城に住み着いたラッタが

 犠牲になってしまったが、

 だが…城の兵士が手薄だった事…

 そしてお前の部屋から

 毒物が見つかった事…

 その二つから見て…

 お前の容疑が完全には晴れないのだ…。」

これが、

もし城の重要人物の口に入っていたら…。

 

「待ってください…!!

 俺は…私は本当にやっていない…!!」

ガブリアスが…ルカリオ王子を見る…

 

見下げるルカリオと…見上げるガブリアス。

 

 

「…。」

ルカリオは強く拳を握った。

 

「お前は、ガブリアスだ。

 この国の宰相。

 …そして、この国の、力だ。」

最初は呟くように言う声が…

大きくなる。

 

「…?」

「それ以外の、何者でもない。

 …無論、お尋ね者でも

 国を奪おうと企む危険人物でもない

 お前は… ガブリアス だ。」

…違うか?

 

「…おう、じ…さま…。」

涙目のガブリアス。

 

「父様…

 私は、彼の無罪を主張します。

 きっと犯人は別にいます。

 私に調べさせてください…。」

 

「あっ…あの…!!」

キモリが発言する。

 

「はっ…犯人は…

 俺たちと一緒にいたヨマワルです…。

 俺は…それを見て何もしませんでした…」

ゆっくりとキモリに近づくルカリオ

 

「…確か…なんだな…?」

…?

聞き覚えがある声…

 

…そうか…君は…。

 

「はい…

 その証拠に…!!

 アチャモがクッキーを食べて、

 さっき倒れたんです…!

 きっと同じ毒物にやられたんだと…!!」

「そのヨマワルに

 話を聞かなければなりません。

 父様、緊急手配を。」

「分かった、すぐにしよう。」

…ありがとう、話してくれて…。

ルカリオはキモリの頭を撫でた

 

「…。」

王は、ルカリオのそんな後ろ姿を

じっと見つめていた。

 

 

はぁっ…はぁっ…!!

ヨマワルは北の森を

息を切らしながら移動していた。

「ヨマワルさん、

 どうやら…失敗したようですね…?」

ヨノワールがヨマワルの前に出る。

 

「途中まではうまくいっていた…!!

 でも…

 何故か王妃の口には入らなかった!!」

「まぁ、そうでしょうね…

 そんなに毎回うまくいくはずがない…」

…まぁ、それはもういいでしょう。

 

「さて…これでは私はダークライ様に

 殺されてしまう…。

 どうにかして“埋め合わせ”を

 しなければならない…。」

ヨノワールの顔の…影が濃くなる

「…!!

 まっ…待って…!!

 僕は…まだ…!!」

「消えなさい。」

 

――――!!

 

 

断末魔をあげ、

ヨマワルが仮面を残し、消える

「今回は…私の負けでいいでしょう…。

 ただ…次はこうはいきませんよ…」

…覚悟しておけ。

 

…王子…

……ルカリオ…

 

血まみれのヨマワルの仮面が

北の森から見つかったのは…

それから約三時間後の話だ…。

 

…ガブリアスの無実は…証明された。

 

次の日…

 

「…ルカリオ王子…

 少しよろしいですか…?」

ガブリアスに呼び止められるルカリオ

「…なんだ…?」

 

バッ…!!

 

ガブリアスは片膝をつき首を垂れる

 

「ルカリオ王子…

 この度は本当に…

 ありがとうございました!!」

「…。」

…よかった…

これで…歴史が変わる…。

 

「あぁ…これからも…頑張ってくれ。」

 

 

「イーブイさん…少し…いいかしら…?」

「…?

 はい…なんでしょうか…?」

イーブイは王妃に呼び止められていた。

 

 

「…ん…んん…。」

皆が寝静まった後…

イーブイは目を覚まし、

そっと部屋を出た

少し夜風に当たろうと思ったからだ…

 

ギィ…と静かな城に

扉の軋む音が小さく響く。

 

「…急に…あんな事を言われても…私は…。」

夜風の吹く中、イーブイはため息をつく。

 

[…あのね、イーブイさん…

…まずは精霊役を

務めてくれてありがとう…。

…それでね、

息子の隣に並んだあなたを見て…

私や城の者…いや…

国民からあなたを時期王妃に

選ぼう、という声が多く出たの…。]

[…そっ…そうなん…ですか…!?]

[えぇ…本当よ…。

だから…もし良ければ、でいいの。

この城に…住んでみないかしら…?]

 

 

「…決められるわけ…ない…。」

イーブイの心が揺れ動く…。

 

迷いを抱えたまま、部屋に戻るイーブイ

そこで…シェイミと鉢合わせる。

 

「シェ…シェイミさっ!?」

「しぃ~!!

 静かにするんデス!!

 皆が起きたら大変なんデス!」

慌てて声を小さくさせるシェイミ

 

シェイミは、道具で一杯のカバンを持ち

よたよたとしている。

 

…見るからに長旅の準備だった。

 

「シェイミ姫様…なぜこんな事を…?」

イーブイが問いかける

 

「ミーは…ミーは

 守ってもらうために

 ここに来たんじゃないんデス!!

 このままじゃお母様が…

 お母様がまた間違いを…!!

 ミーはそれを止めてもらいに来たんデス!!」

…でも…ここはミーを守ろうとしているだけで

 ブラッシーと

 交渉してくれなさそうなんデス!!

 

「…姫様…」

「止めても無駄デス!!

 ミーは…ミーはこの国を出ていくデス!

 そして…早くお母様を止めに行くデス!!」

…。

どうやら…話を聞いてくれないようだ。

 

少しして、イーブイは決意を固め、頷く。

 

「…分かりました。

 では私も一緒に行きます。」

「えっ…?」

「…姫様一人ではあまりにも危険です

 私も一緒に同行します!!」

 

…王妃は…確かに

誰しもが目指す名誉なことだ…。

でも…それが務まるか…

という事になると話は別だ。

 

…王子様には…私は相応しくない…。

 

…それが、イーブイの今の答えだった。

 

「…姫様、待ってください!!

 いくら何でも危険すぎます!!」

城の裏手から国を出ようとする二人…

「…!?

 ガーディ…なんで…。

 …ミーを止めても無駄なんデス!!」

シェイミ達の前にガーディが現れる

 

…しかし…ニシシッ…と

ガーディ? は可笑しそうに笑った。

「…な~んてね。

 話は聞かせてもらったぞ!!」

イリュージョン

 

ガーディはゾロアだった

 

「一緒に…オイラも行くぞ!!

 いや…連れて行って欲しい!!

 オイラは…

 マァを見殺しにするような奴と

 …一緒に居たくない!!」

「ゾロア君…」

「…それなら早く行くデス!!

 見張りに見つかる前に!!」

三人は真夜中にマサラを発った…

 

…すみません、王子様…。

 

 

翌日。

 

 

朝、城は騒然としていた

「…シェイミ様が…

 シェイミ様がどこにも…!!」

ガーディがルカリオの元を訪れた。

「ゾロアとイーブイもいない…!!」

…他の部屋を見回るとその事実が判明する。

 

「一体これは何の騒ぎでござるか…?」

ウーラオスが騒ぎを聞きつけ、

部屋から出てくる

 

「シェイミ様は…早くしないと女王様は

 南西の国に行く、と言っていました…」

「まさか…三人で南西の国に…?」

「…シェイミ様は…母君…

 バンギラス女王を…止めに…?」

…。

 

…嫌な予感が二人の間に走る。

 

「…なぁ…ウーラオス…!

 今すぐ私たちを案内してくれないか…!!

 …南西の国に行ったはずの

 イーブイ達を追いたいんだ!!」

「それなら…

 今から出発すればまだ間に合うはず!!

 ルカリオ殿、ガーディ殿

 拙者たちも早く行きましょう!!」

「…お待ちなさい…」

 

「…っ!!」

城を抜け出そうとしていたルカリオ達を

王妃が止める。

 

 

「…母様…」

「ルカリオ、あなたは仮にも一国の王子…

 そしてこれから向かおうとしているのは

 戦場となるかもしれない場所でしょう…?

 王妃として、

 それをさせるわけにはいきません…」

「…。」

…ですが…

 

無言になったルカリオを見て、

そっと微笑む王妃

 

「…母としては…

 息子のやりたいことを

 応援してあげたいのです…

 前回の旅で急に大人になったあなたを…。」

…聞きましたよ…

…ガブリアスの無実を証明したと…。

よく頑張りましたね、ルカリオ…

 

そっと、ルカリオに近づき

肩に手を置く王妃

 

「ですが、約束してください…

 これが最後にすると…

 そして…絶対に無茶はしないと。

 王には私から話をしておきましょう…」

 

「ありがとうございます…母様!」

こうして、ルカリオ達もまた、国を出た…




~次回予告~
シェイミ達を追いかけ
国を出た王子、ルカリオ。

シェイミ達を追い、
早まる鼓動を抑えながら
ルカリオ達は南西の国を目指す!

次回 第二章 帝国の脅威編 その6
   お楽しみに!!


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第二章 帝国の脅威 その6

お待たせしました
では、お楽しみください


ブラッシー帝国は、

能力値を主に考える組織である。

 

いわゆる“厳選”と呼ばれるそれは

古くから

ブラッシー帝国の政策の根底を支え続けていた。

 

ポケモンは普通、卵から生まれる。

そしてその卵から生まれる

ポケモンの生まれ持つ才能は

卵を持っていた親の能力に依存する。

 

つまり、能力が高ければ高いほど

よい後継ぎが生まれるという事だ。

 

 

…より良い、より高い能力を持った子どもたちを

世に送り出すために

ポケモンたちの卵を量産するポケモン達。

 

そのなれの果てが近接…。

そして、“メタモン”という

ポケモンの存在であった。

だがしかし…卵を用いて

後継ぎを作り出す政策には

すぐに限界が来た…。

 

 

…総人口(ボックス)の肥大限界である。

 

 

すでに、ブラッシー帝国内でのポケモン人口は

限界量をオーバーしており、

帝国領内にはスラム街が大量に存在していた。

 

生まれ持った能力値が低く、

親から見捨てられた子どもたち…

そして、能力値政策によって切り捨てられた

低い能力とされるポケモンが跋扈する地獄の街。

 

けれども、ブラッシー帝国を

長年支え続けた

その“厳選”を今更やめるわけにはいかない…。

だが、このまま博打のような事をしていても

埒が明かない…。

 

そして…王がとった手段が…

路線変更…

ポケモンの再生…創造である。

 

ポケモンの遺伝子を解析し、

遺伝子情報をもとに

ポケモンを再生し、創造する技術…。

 

長年、不可能とされてきたそれを、

ブラッシー帝国の王、

ドサイドンはついに実現させた。

…そして…姿を消した。

 

消えたドサイドンの代わりを務め、

現女王に就任したのがバンギラス。

 

バンギラス女王は

プロジェクトGを発足し、

政策を推し進めていく中で

領土拡大のための武力を求めた。

 

すべては歴史の闇に葬られ、

ブラッシー帝国は先進国に躍り出た。

 

…そして…今に至る。

 

 

「報告いたします。

 どうやらヨノワール様のマサラ陥落は

 少々のトラブルにより

 遅れが生じている模様です。」

「…なるほど。」

ダークライは静かに報告を聞き

不服そうに顔を少し歪める。

 

「…ヨノワールには、

 マサラ陥落後に

 それ相応の覚悟をしておけ、とそう伝えろ。」

「…かっ…かしこまりました…。」

ダークライの殺気に恐れおののく報告者

 

「…それで…南西の国に向かった

ガブリアスはどうなっている?」

「…依然、国境周辺に兵を固め、

 膠着状態が続いているようです。

 …思っていたよりも、

 あの帝国の“プロトタイプ”に

 癖があったようで…

 今はガブリアスの手を離れ、

 洞窟に立てこもったとか…」

…更に、ダークライの殺気が膨れ上がった。

 

部屋に緊張感が漂う。

「…流石に、

 そう簡単に上手くはいかないか…」

ダークライがそう言った瞬間、

殺気が解け、緊張感の糸がぷっつりと切れる。

 

「…ふむ、しょうがない…。

 ヨノワールはそのままの作戦の続行を。

 ガブリアスには、

 “あれ”の使用を許可する、と

 そう伝えろ。」

「…かしこまりました。」

逃げるように部屋から出ていく報告兵

 

「…白き“潜水者”。

 …いや、今はもう黒き“潜水者”か…。」

…次は心して扱え、ガブリアス。

 

 

海沿いの洞窟。

国境となっている山脈に

海の潮が絶えずぶつかった影響で出来た

マサラと水の都を結ぶ

国境沿いに広がる自然の関所。

 

マサラから水の都に行くための陸路は

ここを通るしかなく

中は迷路のように入り組んでおり

絶えず崩落と

新たな道の創造を繰り返していた。

 

「ここを、抜けるんだな。」

「えぇ…それ以外に手は、残念ながら。」

「…シェイミ様が…ここを…。」

 

ルカリオ達が洞窟の前で見たのは惨劇だった。

壁には恐らくここを守っていたであろう

水の都の兵士の乾いた血が、

べっとりとこびり付き

中からは潮の匂いをかき消すように

強烈に何かが焼ける匂いが鼻をつく。

 

 

「あなたは…ウーラオス様ですか…?」

洞窟内に踏み入ろうとした

ルカリオ達にかけられる声

 

「…?」

振り返るルカリオ達の目に映ったのは

甲羅などがボロボロになった

ポケモン、カメールだった。

「…あぁ、ここで何があった

 どうしてこのような有様に…!」

 

「ここに…少し前に…

 …怪物が…!」

ぐっ…!

 

満身創痍であったためか、

カメールは顔をしかめ、

その場に倒れるようにうずくまる。

 

「まずは、傷の手当てを!

 話はそれからでいい…」

ルカリオがカメールにそう告げ、

洞窟を一旦離れる。

 

…傷の手当ては、その日の夜まで続いた。

「…。」

…満点の星が空に輝く夜…

ぱちぱちと音を鳴らしながら

四人の中心で火が燃えている。

 

 

「…それで…

 何があったのか、話してくれるか。」

「はい…。」

カメールは燃えている火を見ながら

少しずつ話していく…。

 

「いつもと変わらない

 警備の日々を送っている中で…

 それは、突然やってきました。

 洞窟内を警備していたはずのポケモンと

 連絡が取れなくなり…

 その様子を見に行ったポケモン達も

 消息を絶っていく…。

 不審に思った我々は

 装備を固め、突入しました。

 そして…中で見たのは…

 中にいた警備隊の無残に床に転がる姿と…

 その上を歩く見たこともないポケモン。」

「…見たこともない…ポケモン…?」

 

「えぇ…硬い甲羅は我々の攻撃を

 いとも簡単に跳ね返し…

 そして、鋭い鎌によって…

 俺の…仲間たちは…

 一人…また一人と…。」

うっ…うぅ…。

カメールは涙を流し始めた

「…地獄…まさに地獄でしたよ…あれは!

 我々の称える

 洞窟に流れる海の蒼き水が…

 仲間の血で赤に染まるなんて…

 どうして…どうしてこんなことに…!」

…俺は…俺は…!!

頭を抱え、自分を責めるカメール。

 

…見ているルカリオ達も、

胸がキリキリと痛んだ。

 

「…よく、話してくれた。

 …あまり自分を責めるな…。」

ウーラオスはカメールの横に座り

その肩を優しく叩く。

 

 

「…。」

…カメールは泣き疲れ、

そして元々の疲労もあったのだろう。

ルカリオ達に話をした後、

すぐに眠ってしまった。

 

「…まさか…こんな事になっていたとは。」

ウーラオスが小さく呟く。

「…。」

あまりの深刻な事態に、

言葉を失っているルカリオ

 

…あの洞窟を…

イーブイ達は…通って行った…?

…それに…カメールが言った敵の特徴…。

…見たこともない、敵…

ルカリオの両手に、力が入る。

 

 

「あのっ…」

「…?

 どうかしたか…?ガーディ殿」

「ウーラオスさんに…

 話しておきたいことが…。」

「拙者に、でござるか…?」

「はい…ここでは言いにくいので…

場所を変えてもいいですか?」

そう言って、ウーラオスと

場所を離れるガーディ。

 

…やはり、敵は…帝国の…。

ルカリオは一人その様子を見て確信する。

 

「うっ…。」

ウーラオスたちの足音で

カメールが目を覚ました。

「…傷は、まだ痛むか…?」

「えっ…?

 えぇ…まだ…。」

包帯の上から手で傷口を触り、頷くカメール

 

「カメール、といったな…。

 私はルカリオ。

 マサラ大国の…王子だ。」

自己紹介を兼ねて、挨拶をするルカリオ

「…っ!

 …やはり、そうでしたか…。」

一瞬驚きはしたものの、

分かっていた、と言わんばかりに

息を吐き、もう一度頷くカメール。

 

「王子様にお会いできるとは

 思いませんでした…が、

 やはり…使いの者が

 お気になられたのですか…?」

「…?

 使い…とは何の事だ?」

使い…。

マサラは内部のごたごたにより

南西の国にここ最近は

使いを送ってはいなかったため

まったく身に覚えがない。

 

「えっ…?

 マサラの宰相様と思われるお方が

 自ら南西の国に用がある、と

 数人の部下を引き連れて

 この洞窟を通って行かれましたが…

 てっきり、そのためだと…。」

「…?」

…マサラの宰相…。

 

「…!」

ザワリ…と胸がざわめいた。

脳裏に浮かぶは、黒い鱗…

ぎらついた瞳…鋭い爪。

 

―ガブリアス

 

そして…その後ろにいる…ダークライ。

 

 

「王子、さま…?」

「はっ…!

 すっ…すまない…」

意識を現実に引き戻し、

頭を小さく振るルカリオ

「…分かった。

 とにかく、マサラに向かうといい…

 父様なら、事情を話せば

 かくまってくれるはずだ。」

「はいっ…ありがとうございます。

 王子さまは…これから一体…?」

カメールがルカリオの顔色をうかがいながら

そっと尋ねた。

 

「…私は、やるべき事が増えた。」

空に浮かぶ遠くの星々を見つめながら…

ルカリオは静かに、力強くそう言った。

 

 

…次の日。

「…それでは、お気をつけて。」

「一人で大丈夫でござるか…?

 拙者も…良ければマサラに…」

ウーラオスの言葉に首を振るカメール

「…いえ、大丈夫です。

 ウーラオス様は洞窟内にいる

 怪物の退治をお願いします。

 …俺の仲間の…仇を…とってください。」

「…分かった…必ず。」

手を握る二人

 

 

…お願いします。

 

 

カメールがこちらに手を振り、去っていく。

 

「…行こう、二人とも…。

 南西の国は…帝国だけではない…

 ダークライにも狙われている!」

三人の前には、

洞窟の暗闇が広がっていた…。

 

…洞窟の中は所々に水たまりが出来ていた。

ポチャン…と

その水たまりに水滴が落ちていく。

 

…静寂。

…あまりにも静かすぎる洞窟内の雰囲気は

まさに、嵐の前の静けさだった。

 

「…。」

「気をつけろガーディ…

 水に濡れて足元が滑りやすい…。」

 

この三人の旅の中で

パーティの中心で

旅先で冷静に状況を分析し、

最終決定を決めるのがルカリオ、

先導し、皆を導き、

心や体のケアをしていくのがウーラオス。

そしてしんがりを務め

敵の接近などを

いち早く探知するのがガーディ、と

それぞれの得意な項目を生かした

自然な流れが出来ていた。

 

「…血の匂いが一層濃くなり始めた…。

 …。

 …ルカリオ殿、ガーディ殿、

 警戒を。」

…ウーラオスは三人の中で

戦闘経験が最も多く、旅慣れているため

こういう時に一番に頼れる存在だ。

 

「ガーディ。

 もし…私たちにも

 手に負えない敵だったなら…

 迷わず洞窟を抜けて、

 マサラに戻り援軍を呼んできてほしい。

 …これは、一番足の速い

 お前にしか頼めない。」

…ルカリオの命令は的確だ…。

…パーティ内で自分がどうするべきか、

どう動くべきかを明確にしてくれる。

 

「…はい。」

…そして…自分だ。

 

ガーディはこの旅で、

少しずつ自分の無力さに

打ちひしがれ始めていた。

 

…自分は…何が出来るだろうか…。

「…。」

前を歩く二人の背中を見ながら

ガーディは静かに思う。

 

敵を相手にするのはウーラオスの役目だ。

そして、判断するのはルカリオ。

 

…なら、自分は…?

…自分に出来ることは…一体…。

 

トンッ…

鼻先に柔らかい毛が当たった。

「うっ…」

小さく唸るルカリオ

「あっ…すみません…。」

ガーディは謝る。

 

…どうやら考え事に夢中で

前を見ていなかったようだ…

だから、立ち止まったルカリオに

気が付けなかった。

 

「ガーディ、敵だ。」

「えっ…?」

ルカリオの言葉に驚くガーディ。

 

ガーディは

ルカリオよりも身長が低いため

顔を見上げる形になるわけで…

 

「あっ…。」

ガーディの目は

天井に張り付くその姿をようやく捉えた。

 

茶色い甲羅に覆われた身体…

ウーラオスの持つ松明の光を反射する

殺気に満ちた鋭い両手の鎌…

 

“見たこともない敵”

この洞窟を血の滴る地獄へと変えた…張本人

 

…カブトプス、その姿を。




~次回予告~
ルカリオ達は
各々、逸る気持ちを抱えながら、
旅を始めてから出会った初めての脅威、
カブトプスと対峙する。

戦いは激化し、
変化していく状況の中
ガーディの行動が全てを大きく揺るがす!

次回 第二章 帝国の脅威編 その7
お楽しみに!!


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第二章 帝国の脅威 その7

お待たせしました
では、お楽しみください


「うそだ…」

…あり得ない…。

 

僕が見た時には、

まだイメージ映像でしか

なかったはずなのに…!

 

…実現には少なくとも

あと1年はかかると

言われていたはずなのに…

 

…どうして…どうして…

 

…こいつは、僕たちの目の前に!!

 

 

 

「ガーディ、早く行け!!

 手遅れになる前に…!!!」

「…っ!

 はっ…はいっ!!」

混乱し、乱れたガーディの意識を

取り戻させたのはルカリオの怒号だった。

 

ガーディは己に課せられた任務を果たすべく

洞窟の外へと全力で走る。

 

…っ!

 

「させぬっ!!」

 

カブトプスが獲物を逃がすまいと

ガーディに向かって

攻撃を仕掛けようとしたが

ウーラオス達が前に立ちはだかり

それを止める。

 

「ウーラオス、行くぞ!!」

「了解!」

 

 

…早く、早く行かなきゃ!!

…洞窟の、出口…外…マサラへ!!

出ないと…二人が…!!

 

一心不乱に己の体力の限界も忘れ、

走り続けるガーディ。

 

洞窟の出入り口が目前に迫った時

事は起こる。

 

洞窟の…崩壊である。

 

「はっ…!!」

 

前にも述べたが、

この洞窟は脆く、

崩壊と新たな道の形成を繰り返しており

ルカリオ達が潜入した後も

活動を続けていた。

 

そして、運悪くその崩落が…

ガーディ達の生命線である

出口を、塞いでしまったのである。

 

ガーディは何とか土砂崩れを

回避することが出来たが

目の前で大岩に阻まれた出入り口に、

絶望を覚えていた。

 

 

「嘘だ…うそだ…!!!」

 

 

思考を奪われ、追い詰められた

小さき獣が取った行動は

大岩の破壊であった。

 

その身体を幾度となく大岩にぶつけ、

破壊を試みるガーディ。

 

だが、大岩はびくともしない

 

「壊れてよ…

 お願いだから…こわれてよ!!」

 

ガンッ…ガンッ…!!

叫び虚しく、傷が増えていくのは

ガーディの身体の方だった。

 

「今行かなきゃ、

 二人が殺されるんだ!!

 僕のせいで…

 僕が助けを呼べないせいで

 死ぬなんて、嫌なんだよ!!

 僕は…僕は…!!」

…行かなきゃいけないんだ!!

 

だが…大岩は…壊れなかった。

 

 

「…ごめんなさい…

 本当に…ごめんなさい…。」

大岩がガーディの涙に濡れる

 

 

…僕は…無力だ…。

 

 

マサラ大国にて

「…なぁ、ガブリアス。

 妙な胸騒ぎがするんだ」

「…俺もだ。」

ハッサムとガブリアスが

城下町を一望できるベランダで話をしている。

 

空は青く澄み渡っているものの

今の二人の目には

どことなく儚げで脆く映った。

 

「まさか、王子の身に何か危険な事が…?」

「…。」

ハッサムの言葉に、

何も答えないガブリアス

 

その沈黙が妙にリアルで

現実味を帯びていたことは

言うまでもない。

 

少し前にこの国を訪れた

隣国の兵士 カメール

 

彼の話によれば王子達は

化け物を退治するため、臆さずに

国境を抜ける洞窟に侵入したらしい。

 

…だが、この胸騒ぎが…

もしも本当だとしたら…。

 

「いや…よそう。

 私たちには、

 私たちの出来ることをしなくてはな…」

「あぁ…」

 

二人は視線を空から城下町に移す。

 

…すでに援軍を王が派遣している。

なら、自分たちに出来ることは

王子なきこの国を守り通すことのみ。

 

「王子は無事だ。

 あの方は…大丈夫だ。」

「絶対に、な。」

ハッサムの言葉を補うように

ガブリアスもまた、呟いた。

 

王子…どうかご無事で…。

 

 

 

「ふんっ…!!」

ウーラオスの拳は

カブトプスの身体にヒットすることはなく

ただ、空を切る。

 

反撃として振りぬかれた鎌を

ウーラオスは後ろに飛び、かわした。

 

「はぁっ…!!」

カブトプスの背後からルカリオが迫る。

 

「つぅっ…!」

ルカリオの拳は硬い甲羅に阻まれた

衝撃が甲羅から拳に痛みを伴い、跳ね返る。

ぐるりと身体を回転させ、

鎌を横なぎに振るカブトプス。

 

「ぐっ…!」

ルカリオも反撃をかわし、距離をとった。

 

 

「ふぅ…」

構えを崩さず、カブトプスを見つめ

ため息をつくウーラオス。

 

「…厄介だな…。」

近づいてきたルカリオが話しかけてきた。

 

「あの身のこなし…

 やはり戦闘訓練を十分に受けている…。

 帝国の戦力はそこまで…

 ガーディ殿から話は聞いていたが…

 まさかこれほどまでとは…。」

ウーラオスの額からじんわりと

洞窟の湿気の水分とともに汗が落ちる。

 

 

ウーラオス達の話の途中で

カブトプスは近くにあった岩を砕き、

ルカリオ達に破片を飛ばす。

 

<<ストーンエッジ>>

 

「…っ!」

高速で飛んできた破片をかわしていく二人

 

「うっ…!!」

破片がウーラオスの右腕を掠る。

 

「大丈夫か、ウーラオス?」

「ただのかすり傷…大丈夫でござる…。」

かすり傷にしては、傷が深く

血がポタポタと滴り、毛を赤く染めていた。

 

「ルカリオ殿は…?」

 

「…切り傷だ。

 深かったが…止血した。

 問題はない。」

…今のところは、な。

 

ルカリオは左足に怪我を負っていた。

やはり、戦闘経験が浅いためであろう…

かなりの傷で、

動きが制限されてしまいそうだった。

 

「あまり時間をかけては、

 いられませぬな。」

「…まったくだ。」

 

…どうにかして、攻撃を与えなければ…。

 

「ウーラオス、私に考えがある…。」

「…。」

無言で頷き、

カブトプスを視野に入れながら

催促するウーラオス

 

「その前に…

 奴をどれぐらい足止めできる…?」

「…どれぐらいの時間が必要でござるか?」

ウーラオスの言葉に、

小さく笑うルカリオ。

 

…本当に、頼もしい存在だと改めて思った。

 

「二分、稼いでくれ。」

「余裕でござるっ…!!」

言って、勢いよく飛び出していく。

 

後ろでルカリオは大技の準備をする。

 

少しずつ波動をため…

巨大な気の塊を形成していく…。

 

 

目的は定まった…。

なら…!

迷いはない!!

 

 

正直、ウーラオスの実力から考えて

この破壊人形を止める事は容易だったはずだ。

だが、ウーラオスがそれを出来なかったのは

単に冷静な判断力が

決定的に欠如していたからである。

 

自国の兵士達の亡骸の上を歩く死神

 

その事実がウーラオスの無意識領域のうちに

焦りと恐怖心を植え付け、

更にカメールとの約束を交わしたことにより

彼の中では、

怒りの炎が燃え盛っている。

 

そんな精神状態で

冷静さを保つなど、まず不可能だった。

 

「ぐぅっ…!!」

だからこそ、ウーラオスは今

痛みを知らない鬼神へとなり果てた。

 

己の内なる魂の鼓動に導かれるままに

カブトプスに攻撃を与え、

逆に与えられていく…。

 

血が幾度となく飛び交い

鍛え上げたウーラオスの身体を

鎌が切り裂いていく。

 

 

そして、約束の二分に到達した

 

 

「十分貯まった!!

 ウーラオス!!」

…どいてくれ、退避だ!!

「…っ!」

 

ルカリオの言葉にウーラオスが振り返り、

カブトプスの攻撃の合間の一瞬をつき

横に退避する。

 

ルカリオとカブトプスの間がひらけた

 

…いける!

「うぉおおああああ…!!」

 

<<はどうだん>>

 

叫びとともに勢いよく両腕を前に突き出し、

たまり切った全力の攻撃を解き放つルカリオ

 

ドンッという重い音ともに

青色の閃光が空を切りカブトプスに迫る。

 

ルカリオの狙いは正確だった。

 

相手は逃げることをせず、

直撃は避けられない状況。

 

…勝利、かと思われた…。

 

が、しかし…。

 

ルカリオ達は戦闘に必死で忘れていた。

 

カメールの言葉…

硬い甲羅によって

全ての攻撃が跳ね返されてしまった、と。

 

…っ!

 

 

<<かたくなる>>

 

 

「なっ…なにっ…!?」

カブトプスの横で一部始終を見ていた

ウーラオスが声を上げる。

 

 

カブトプスはルカリオのはどうだんが迫る中

丸まるように姿勢を低くし、

攻撃が比較的柔らかい

内側の胴体に当たらぬよう

姿勢を変えていた。

 

それにより、はどうだんは

カブトプスの上層

硬い甲羅に当たることとなり

威力が弱くなる。

 

勿論、カブトプス自体には

かなりのダメージがあったが、

意識を失い、

直ちに戦闘不能になる事はなかった。

 

カブトプスの身体、

表面の甲羅の繋ぎ目から、

ギシギシと音を立てて血が滴る。

 

ボロッ…と、はどうだんの命中により

ひび割れた表面の甲羅が音を立てて砕けた。

 

洞窟内に軽い音が響き渡る…

 

「…っ!」

 

刹那

 

…信じられない速度で、

カブトプスがルカリオに迫った。

 

 

「ルカリオ殿っ…危ない!!」

この時、ウーラオスは

直ちには動けなかった。

先ほどの時間稼ぎの際

無茶な戦いをしたことによって

ウーラオスの身体は

傷つきすぎていたからだ。

 

今のウーラオスに出来るのは

早急な体力の回復と

ルカリオの身を案じ、見守る事のみ。

 

 

何人ものポケモンを仕留めてきた

死神の鎌がルカリオに迫る。

 

「…っ!!」

 

<<でんこうせっか>>

 

カブトプスの超高速の連撃の前に

ルカリオは速度を上げ応戦するものの、

為す術を持たない。

ましてや大技を繰り出した直後なので

体力もろくに回復してはいない。

 

だが荒い息を吐き出しながら

死神の攻撃に何とか喰らいつくルカリオ

 

一応急所を外してはいるものの、

鋭い斬撃のもとに毛皮が裂け、

痛みとともに鮮血が地を走る。

 

じりじりと回復も出来ずに減っていく体力と

蓄積していくダメージ。

 

 

…しかし…この絶体絶命の状況の中で

ルカリオは更なる進化を遂げようとしていた…。

 

「…ルカリオ…殿…!」

 

…動体視力、反応速度の向上…

そう、猛る魂の波動の覚醒である。

 

瀕死に近づくごとに、

ルカリオの身体能力は

劇的なまでの向上を遂げていた。

 

…みえる…。

…奴の攻撃が…死角からの連撃が…

…避けられる…

…追いつける!!

 

 

ガァッ…!!

 

「…させるかっ!!」

カブトプスもルカリオの進化を

無意識のうちに感じ取ったのか、

それとも単に体力の限界が近づいたのか、

両腕を振り上げ

勢いよく両側から振り下ろし、

殺意を込めた一撃で決めにかかる。

 

それをルカリオは鎌の根元…

腕の関節部分を掴むことによってくい止めた。

 

手負いのカブトプスの力は…

もはや限界を超え、怪力と化していた。

 

今ルカリオが、筋肉の一筋でも気を緩めれば

たちまち斬撃が命を刈り取るだろう。

 

「…しっ…死ぬわけには…いかないんだ!!」

…こんなところで!!

 

 

カブトプスの顔を睨みつけ

全身に力を込めて攻撃を止めているルカリオ

 

…けれども、

世界はそんなルカリオを更に追い詰める。

 

 

ドッ…!!

 

 

「はうぐっ…!!」

その瞬間、見えない一撃が

ルカリオの腹を直撃した。

 

カブトプスのメガトンキックである。

 

両腕に力を込めて

踏ん張っていたルカリオには

腹への攻撃を止める術はない。

 

拮抗した力の中で、

その抵抗力を奪う一撃が

容赦なくルカリオを襲う。

 

腹に受けた痛みによって

バランスを崩した

ルカリオの手は、力を失う。

 

 

直後

 

ルカリオの大量の鮮血が

両肩から飛び出した。

 

 

 

「はっ…!!」

激しい痛みによって、

意識を失いかけるルカリオ。

後ろに倒れかけたその身体を

再びメガトンキックが襲う。

 

次にルカリオが見たのは

洞窟の天井だった。

 

「ルっ…ルカリオ殿…!!」

 

ウーラオスの、叫び声と。

やけに生温かな…

自分自身の身体から

流れ落ちる血を感じて。

 

混濁した意識の中で…

ルカリオが見たのは…

 

「がっ…がー…でぃ…。」

 

 

絶望したように、ルカリオを見つめる

洞窟から出たはずの、ガーディの姿だった。

 

 

「ル…ルカリオさん…!!」

己の無力に打ちひしがれ、

情けなく思いながらも帰ってきたガーディ。

 

「ガッ…ガーディ、殿…」

「…っ!」

…ウーラオスさんまで…!!

 

その目が捉えたのは

今まで背中しか見えなかった二人の窮地

 

――――――!

 

目を通し、小さな体に稲妻のように

激震が走る。

 

ガーディの中で弱弱しく消えかけていた炎

その炎が、それを見て、今再び燃え上がる。

 

…自分は弱い

…まして相手は二人をここまで追い込んだ相手…

 

 

その事実を一瞬忘れさせる程

ガーディは極限まで集中していた。

 

毛の一本一本が逆立ち…

脚が…尻尾が…

緊張し、小刻みに震える…。

それらを断ち切るように。

 

キッ…!と睨みを利かせ

全身から今までの彼とは

思えぬ程の殺気を放つガーディ

 

「お前は…僕がやる!!」

 

「や…めろ…がーでぃ…」

「いかんっ…ガーディ殿!!」

 

 

二人の制止も聞かずに。

 

 

「――――――!!」

 

 

けたたましい爆音の咆哮を上げながら。

 

ガーディは今、赤き矢となって

カブトプスに特攻した。




~次回予告~
窮地に追い詰められる三人。

ルカリオは鎌に倒れ、
いまだウーラオスの回復も為せない。

残るはガーディ、ただ一人。


果たして、
その牙はカブトプスに届くのか?

次回 第二章 帝国の脅威編 その8
お楽しみに!!


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第二章 帝国の脅威 その8

お待たせしました
では、お楽しみください


ルカリオ、ウーラオスに比べ

ガーディの位置は圧倒的に低い。

それは二足歩行の二人とは違い、

四足歩行である

ガーディの最大の利点であった。

 

つい先程まで、高い姿勢の標的を

相手取っていたカブトプスは

急激に変わった

敵の体勢の変化にはついていけない。

 

結果として、カブトプスの鎌は

ガーディの頭上の空気を

切り裂くばかりである。

 

上からの突き刺し攻撃もあるだろうが

それは鎌が地面に刺さってしまったり、

振り上げる時間などを考えても

他の攻撃に比べて

カブトプスに大きな隙を生み、

相手の反撃を許す

きっかけとなってしまうだろう。

 

まさに相性抜群…

ガーディにとっては

またとない活躍の場であった。

 

けれども、やはり自らに自信を無くし

まだこういう戦いにルカリオ以上に

慣れていないガーディの攻撃には

無駄な隙が大きい…。

 

それによって、

瀕死の状態で

攻撃を繰り出し続けている

カブトプスよりも

 

それをかわし、

致命傷にならない反撃を

与えているガーディの方が

息切れを起こしているという

奇妙な現象が起こっていた。

 

今はレベルの差が

相性によって見えてはいないが

戦えば戦う程、

体力の消耗が激しいガーディが

劣勢になっていくであろう事は

すぐに皆が理解出来た。

 

…このままじゃ…まずい…。

 

それに、徐々にではあるが

カブトプスの鎌が

ガーディを捉え始めている。

 

スッ…!

 

「…っ!」

今の一撃もそうだ…

ガーディの毛を掠る一撃

その一撃に、ガーディは戦慄していた。

 

 

…もたもたしてはいられない…

…でも…。

 

重症のルカリオ…

そして徐々に不利になっていく戦闘…

 

ガーディの心の余裕をゴリゴリと

削ってくる要因達。

 

フゥー!

フゥー!!

 

「ゲフッ…ガフッ…!!」

息を整えないまま戦闘をしたせいか…

…咳が止まらない…。

早く呼吸を整えないと…!!

 

足元を見る目

床に映る影を捉えた。

 

すぐさま視線を移すと

カブトプスの攻撃が迫ってきていた

 

 

…しまった、攻撃が…!!

…避けないと!

 

咄嗟の判断で

横に避けようとしたガーディ

 

だが、次の瞬間

ガーディの足は床を掴み損ねた。

「えっ…」

バランスを崩し、床に倒れこむ

 

ガーディの居る位置の床には

今まで戦っていたウーラオス、

そしてルカリオの血が大量についていた。

 

まだ乾ききっていないその血に、

足を取られたのである。

 

なんとか転倒した衝撃で

鎌は避けられたものの

カブトプスの蹴りまでは防げなかった。

 

 

「…っ!!」

キャインッ…!!

 

身体に横から受けた重い衝撃によって

ゴロゴロと床を転がる。

 

すぐに体制を立て直したものの

ガーディの目に映ったのは

視界全体に広がる巨大な死神の姿だった。

 

 

…駄目だ…回避が間に合わない…!

…殺られる!!

 

ガーディは死を覚悟し、目を閉じた

 

 

「…っ!」

 

 

ガーディとカブトプスの間に割って入る物体

 

その物体はカブトプスの鎌を受け止め、

貫かれる。

 

吹き飛ぶ液体

 

それがガーディの顔に当たり、

ようやくそこでガーディは目を開けた。

「うっ…ウーラオスさんっ!!」

 

「だっ…大丈夫でござるか…

 ガーディ殿…!」

割って入った物体の正体は

ウーラオスの左手だった。

 

鎌に貫かれた部分から血が流れ

鎌を伝い地面に落ちている。

 

「ぐっ…ぐぅおおおああああ!!」

 

そこからウーラオスは

右から来たカブトプスの鎌での反撃を

ルカリオがしたように受け止め、

下に軌道を逸らし右足で鎌を踏みつけて

これ以上の連撃を阻止し、

全力を込めて右拳を放つ。

 

「はぁっ!!」

 

その拳での一撃は、

カブトプスの右の鎌を打ち砕いた。

 

左手を貫いていた右の鎌が砕け、

左手が自由になったと同時

 

痛む左手でカブトプスの右腕を拘束し

胴をひねって力を込め

カブトプスの胴体に裏拳を放つ。

 

その強烈な一撃は

しっかりと

カブトプスの腹の中心に食い込んでいた。

 

ウーラオスは攻撃の手を緩めず、

身体を回転させ、

カブトプスを大きく後ろに吹き飛ばす。

 

「拙者の左手はくれてやる…

 だが、お前の右の武器はもらったぞ…!」

ここで、ウーラオスは

左手に突き刺さったままの

鎌の先端部分を無理やり引き抜く。

 

…本来は血が余計に出たり、

抜くときに激痛が身体に走ったり、

傷口が治りにくくなるなどのため

してはいけない行為であったが

現状を考えてウーラオスは

これがベストであると信じていた。

 

カランッ…と床に

ウーラオスの血に染まった鎌が落ち、

また軽い音が響く。

 

「ふぅ…ガーディ殿…

 奴を倒す手伝いを!!」

…でも、決して無茶はしないように!

「はいっ…!!」

 

 

―!!

 

カブトプスが最後に取った手段

それは逃走だった。

 

己に迫る活動限界と

目の前の二人の不屈の闘志に恐れをなし

永らく主を失った怪物は今

 

―戦士たちに背を向けた。

 

 

「待て!!」

最初にそう、声を発したのは

ウーラオスだった。

 

「…っ!?」

走りだそうとしたウーラオスの視界が

グラリと揺れ、同時に一瞬足元がふらつく。

カブトプスの後を追おうとするが

血を流しすぎたせいか、

スピードにかけてしまう。

 

このままカブトプスが逃げるのが早いか…。

そう思われていたが…

「お前は、絶対に逃がさない!!」

 

ガーディがいつの間にか

カブトプスの前に躍り出ていた。

 

だが、カブトプスにとっては

目の前のガーディは脅威ではなく

ただの目障りな邪魔でしかない…。

 

ガァッ!!

 

走るスピードを一切殺さずに

カブトプスは

邪魔だと言わんばかりに

ガーディに向かって鎌を振りかぶる

 

 

「もうそれは、僕には通用しない!!」

ガーディは

カブトプスの攻撃を見切ることに成功した。

 

ガーディにとってもまた

今のカブトプスは

恐れるに足らない存在だった。

 

「今までのお返しだ!!」

 

そのまま突撃し、進行方向と反対の力で

カブトプスを押し返す。

 

そして、ウーラオスが

ガーディの元に到着し並び立つ。

 

もうカブトプスには逃げ場はない

 

 

「ガーディ、ウーラオス!!」

その時、洞窟内に声が響く。

「…っ!?」

 

二人が向いた先…

そこには血を流しながらも

最後の一撃…はどうだんをため切った

ルカリオが立っていた。

 

今までの二人の戦い

その全てが

この瞬間のための隙となっていたのだ

 

 

「ガーディ殿!!」

「はいっ…!!」

 

ウーラオスの呼びかけにガーディは頷き

行動を開始する。

 

二人はカブトプスの攻撃をかわし

ボロボロの硬い甲羅に覆われた

背中側をこちら側に向けさせる。

 

「はぁっ!!」

三人の声が被る。

 

ウーラオスはカブトプスが

鎌で攻撃を受け止めることが出来ないように

両腕を掴んで次なる攻撃の直前まで固定し、

 

ガーディが走りながら身体を回転させ

カブトプスの背中に全身を使って

強力な蹴りを繰り出し、

前に吹き飛ばす…。

 

ルカリオが反対側からはどうだんを放ち

その弾丸はまっすぐにカブトプスに向かう。

 

「これで…最後だ…!!」

 

カッ…!!

 

直後、目を覆いたくなるほどの眩い光が

爆発とともに発生した。

 

 

…。

三人の見つめる先…

 

煙が晴れたその先で

カブトプスはまだ立っていた。

 

多くの犠牲者を出した鎌に

大きくヒビが入り、

音を立てて砕ける…

 

カブトプスの目はもう光を失っており

そのまま抵抗することもなく

地面に倒れ伏した。

 

だが…まだ死んではいない。

 

「…。」

 

先程とは一転し、

静寂に包まれる洞窟内の戦場。

 

「…少し…無茶をしすぎたか…。」

ルカリオが左手で右腕を抑えながら

その場にへたり込む。

 

カブトプスから受けた傷の

傷口からの出血は止まったものの

激痛は治まる気配はなかった。

 

「ルカリオ殿!

 大丈夫でござるか…?」

ウーラオスとガーディが近づいてくる。

 

「あっ…あぁ…何とか…。

 でも、すまない…

 一人で…まだ歩けそうにない…。」

ルカリオがそう言った直後。

 

ピキッ…!

「…っ!?」

洞窟のその空間の壁に大きく亀裂が走る

 

ゴゴゴゴゴゴッ…!!

 

空間全体を震わせる程の地震が起き

天井から小さな岩が

床に向かって落ち始めた。

 

「いかんっ…!

 出口はもう、目の前でござる…!!

 早くこの空間から脱出を…!」

ウーラオスがルカリオに手を貸し

立ち上がる。

 

「ぼっ…僕もっ…!!」

ガーディもまた

ルカリオに手を貸そうとしたが

そこでルカリオがそれを止めた。

 

「待ってくれ、ガーディ!

 お前は…あいつを頼む!!」

「…っ!」

ルカリオが見つめる先には

倒れたカブトプスがいた。

 

「でっ…でもっ…!!」

 

「まだあいつは死んではいない…

 私はあいつを助けてやりたいんだ。

 たとえ敵だったとしても…

 死んでしまいそうな者を…

 目の前の助けられる命を

 放っておくわけにはいかない!」

 

「…。」

崩壊を続ける洞窟の中で…

ガーディはルカリオの頼みに…

小さく首を振る。

 

 

「ルカリオ殿…急ぎましょう!!」

ウーラオスが天井を一度見上げ、

ルカリオを出口へと催促する

 

「頼むっ…!!

 あいつを今助けられるのは…

 お前しかいないんだ!!

 全ての責任は私が取る!!

 だからお願いだ、ガーディ!!」

「…。」

必死に頼むルカリオの前に。

一瞬、躊躇いの表情を見せた後

ガーディは崩壊し、

岩なだれを起こし続ける洞窟を戻った。

 

 

そして、ルカリオ達は脱出する。

ガーディは洞窟の中から

カブトプスを連れて戻ってきた。

 

全てが終わった後

辺りには再び静寂が訪れ

洞窟を抜けたルカリオ達の

目の前に現れた水平線の先では

静かに夕日がその姿を消そうとしていた…。

 

 

 

その日の夜…

「くぅ…。」

ガーディは食事を済ませると

寝る前の用事を手早く済ませ、

すぐに眠りについてしまった。

 

…やはり、相当に疲れていたのだろう…

足を地面に敷かれた布の上に

投げ出したような無気力な体勢で

静かに寝息を立てている。

「…。」

それを見つめる二人。

 

そして、少し離れた所に

寝かされているのは

治療を受け終わったカブトプスだ。

 

今はピクリとも動いていないが

死んだわけではなく、

手遅れだったわけでもない。

 

そのうち回復し、

歩けるようになるだろう…

というのがウーラオスの意見だった。

 

「ルカリオ殿…

 どうして…

 奴を助けたのでござるか…?」

ガーディを起こさないように

声を落としながら

ウーラオスがルカリオに話しかける。

 

 

「…。」

静かに、一旦星を見上げるルカリオ

 

「私は…

 目の前で助けられたはずの命を…

 一度、見捨ててしまったことがある…。」

ルカリオは続けた

 

「その時から…私は

 助けられる命が目の前にあるのなら

 全て…敵味方関係なく助けよう、と

 そう考えている。

 …勿論、お人好しにも程があると

 蔑まれるばかりだろうが…

 でも、私は…

 私が殺してしまったも同然の

 その命に対して

 償いをしなければならないんだ…。

 王子である前に、人として生きたい…。

 私は、そう思ったから助けさせたんだよ。」

火を見つめていた視線をウーラオスに向ける。

 

弱弱しくも、逞しい正義の光が

この時のルカリオの目には

静かに宿っていた。

 

「…ウーラオス

 これは…ガーディにも言った事だが…

 私の勝手に付き合ってくれてありがとう。

 …いくらでも、罵ってくれて構わない。

 …私は、それに反抗はしない。

 ただ…あの怪我人が

 反抗や抵抗をしない限りは

 思うところもあるだろうが…

 命までは奪わないでやってほしい。」

…お願いだ。

「…ルカリオ殿…

 いえ…ルカリオ王子…。」

 

「拙者などが、

 言えた身ではありませぬが…

 ご立派な…考えであると…。

 感動いたしました…。」

今度は、ウーラオスが

ルカリオに対して頭を下げていた。

 

 

 

その後、ルカリオとウーラオスは

少しの間お互いの思い出話に華を咲かせる。

 

「さて…この先の平原を抜ければ

 ついに拙者の国、水の都でござる…。

 明日も早い…

 それと傷の回復のために…

 ルカリオ殿、見張りは拙者が

 早めの睡眠を…。」

「あぁ…分かった…

 だがウーラオス、

 お前も休んだ方がいい。

 見張りは

 やはり交代制の方がいいだろう…。

 またある程度してから起こしてくれ。

 私が次は、ガーディを起こす…

 それまで、休憩だ。」

「…了解。」

ウーラオスの方に視界を向け、頷く。

そして、敷かれた

布の上に横になるルカリオ

枕もないが…しょうがないだろう。

 

また、視界には星空が映る

視界全体に映るのは、満点の星々達…

 

それらを見ながら。

 

…一体…どこまで行ってしまったんだ…

…ゾロア…シェイミ姫…

……

…イーブイ…。

 

言葉に出さない思いを抱え

ルカリオは目を閉じ、

ゆっくりと眠りに落ちていった…。




~次回予告~
視点はシェイミ達に移る。

ルカリオ達が
壮絶な戦いを繰り広げていた中
シェイミ達もまた別の場所で
苦戦を強いられていたのだった

次回 第二章 帝国の脅威編 その9
お楽しみに!!


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第二章 帝国の脅威 その9

お待たせしました
では、お楽しみください。


その森は、周囲の地形の影響で

昼間、たとえ晴れていたとしても

あまり日がささない。

湿気に覆われている森では霧が多発し

森全体が近寄りがたい

怪しげな雰囲気を帯びていた。

 

…そして、薄暗いこの森は、

この世のものではない存在…

幽霊が出るともっぱらの噂だった。

 

 

マサラ大国北部、黒の森。

 

 

ここに来るのは、よっぽどの物好きか

トレジャーズキャンプを目指しているものの、

道を間違えた者のどちらかだ。

 

「ほっ…ほらっ…!

 ミーを、守るデス!!

 男の子なら、ちゃんと先導するデス!!」

ほら…はやく行くデス!!

 

「後ろからおっ…押すなよ!!

 オイラだって怖いんだぞ!!」

やめっ…!

分かった、分かったから押すなって!!

 

「…不気味ですね…この森。」

行方不明者などが、続出する中で…

この三人は…紛れもなく後者である。

 

 

国を飛び出して来て、早数日…

とりあえず情報収集の為に

北部のトレジャーズキャンプを目指そうと

なったはいいものの。

 

「ミーに任せるデス!!」

 

…。

シェイミの勘というよく分からないものに

振り回され続け、

あっちに行ったり…こっちに行ったり…。

 

そして、三人がたどり着いたのが

ここ、というわけだ。

「この道で、本当に合ってるのか…

 オイラ、心配だぞ…。」

…絶対、大丈夫なんだ…よな…?

 

「絶対に合ってるデス!!

 …きっと。」

 

ガサッ…!

ひぃっ…!!

 

カァーカァー!!

…っ!!

 

 

薄暗い森の様子にビクビクしながら

躊躇いがちに進んでいくゾロア

そして、その後ろにぴったりと

張り付くようにして

傍を離れないシェイミ。

 

二人の身体は縮こまり、

小さな音にも

敏感に反応しながら、進んでいる。

 

「…ここが…王子様の言っていた…。」

逆にイーブイは、

キョロキョロとはしながらも

別に怖がる様子はなく、

歩きながら森の様子を窺っていた。

 

[…なぁ、見たか?]

[…見た見た…また3人のお客さん…

迷ったのかなぁ…

それとも望んできたのかなぁ…?]

 

…どっちにしても…。

 

[…まずはボスに報告…

その後…いつも通り…

冥界(アジト)へごあんなぁ~い!!]

紫の影と、

いびつな…どこかで見たことがあるような

ポケモンのような影

そして、パタパタと飛ぶ

小さなコウモリのような影が

ニヘラと闇の中で、笑みを浮かべていた。

 

 

「はぁぁ…。」

一方、黒の森の別方向にて…

パタパタと森の中を飛びながら

ため息をつくポケモン…ペラップ

 

「親方様はまた勝手に

 どこかに行っちゃうんだから…

 もう、めんどくさいなぁ…

 何故私がこんな事を…ほんとにもう…」

ブツブツ…

 

「いくらこの森に誘拐犯罪者…

 ドガース、スカタンク、ズバット達が

 いるとしたとしても…

 親方様一人で十分とはいえ

 勝手な行動は慎んでほしいもんだよ…」

ほんとにもう…。

 

ペラップの後ろから近づく二つの影…

「で…?

 だぁれが、一人で充分だって…?」

「…っ!?」

急いでペラップは振り返る…

 

「スッ…スカタンクっ…!

 それにドガースも…!!」

 

「よおよお…黙って聞いてりゃ…

 随分と勝手なことを

 言ってくれるじゃねぇか…?」

あぁ…?

 

「それにこいつ…仕えるべき主人の

 悪態までついてましたよ…!!」

どうしようもない奴ですよね…!

 

ペラップにメンチを切るスカタンク

そしてその横で

ヘラヘラと笑っているドガース。

 

「…おっ…お前ら…!

 おっ…親方様を待つ必要などない…!

 わっ…私だけで、倒してやる…!!

 お縄につけ…!!」

字面だけでも十分分かるとは思うが、

構えてはいるものの、腰が引けて

更に小さく震えているペラップだった…

 

「…へっ…。

 なら…

 …やってみろよ…!」

スカタンク達はペラップの言葉に

全く怯えていない

平然とペラップを睨みつけている

 

「こっ…後悔するなよ…!!」

わっ…私だって…!!

 

 

トウッ…!

 

…。

 

 

ポカッ…。

……

………。

 

ノーダメージ。

振るわれたペラップの軽い攻撃は

スカタンクにダメージすら与えられない。

 

「…お前…なめてんのか…?」

「…っ!!

 あっ…あぁっ…!」

分かりきっていたとはいえ

どうしようもない状況に戦慄するペラップ

 

「ドガース…」

「はいっ…」

 

「…やれ。」

「はい。」

 

「うっ…うわぁああああ…っ!!」

ペラップは叫びながら

敵前逃亡をする。

 

「…っ!?

 逃げんなっ…!!

 追え、ドガース!!」

「了解です、アニキ…!!」

待て!!

 

「親方様…

 おやかたさまぁああああ…!!」

どこにいったんですかぁああああ…!!

 

「へっ…けったいな叫び声まで上げて…

 何が後悔するなよ、だ。」

ドガースとペラップの後ろ姿を見ながら

呟くスカタンク。

 

「ボス~!」

「…?

 …おぉ…お前らか…

 どうした?」

そこに、また三匹のポケモンが現れる。

 

ズバット、ゲンガー、そしてミミッキュ。

 

ゲンガーとミミッキュは

元々この森の支配者だったものの

スカタンクと決闘ののちに敗北

今はスカタンクがこの森のボスだ。

 

「またこの森に来客です!!

 三人のポケモンが入ってきました!」

ズバットが報告する。

「今回の奴は弱そうで

 それでも生きがよさそうだぜ…!

 脅かしがいがあるってもんさ」

ゲンガーが笑い、ミミッキュが頷く

 

「よし、なら引き続き

 今この森に入ってきてる

 探検隊の隊長に警戒しつつ

 その三人を捕まえろ!」

 

「了解っ…!」

そう言って、

ゲンガーとミミッキュは

森の奥へと入っていく。

 

 

「あれっ…そう言えば…

 ドガースはどこへ…?」

「あぁ…ドガースなら雑魚狩りだ。

 心配しなくても、

 すぐに帰ってくると思うぞ。」

「…了解、んじゃぁ、アニキ

 アジトに戻りましょうぜ」

「そうすっか…」

 

 

ぎゃぁああああ…!

 

 

「…?」

「…わっ…!

 危ないから

 急に止まらないでほしいデス!」

「今…叫び声みたいな…

 声が聞こえたような…?」

 

「…きっと気のせいデス!

 いいから急ぐのデス!

 こんな場所からは、

 ミーは一刻も早く離れたいデス!」

ほらっ…!

早く行くデス…!!

 

「おっ…おうっ…!

 分かった。」

シェイミの横暴に

少しだけ腹が立ったゾロアだったが

一刻も早くここから離れたい気持ちは

一緒だったのでその怒りを抑える事にした。

 

「…?

 待って、二人とも!!」

「ふゃうっ…!?

 きゅっ…急に大きな声は

 やめてほしいデ…!!」

イーブイが叫んだことに

振り返りながら頬を膨らませるシェイミ

 

ガサガサッ…

ひぃっ…!?

 

茂みが揺れ…

そして…

 

「邪魔だ、どけぇ!!」

「ひっ…ぎゃぁああああああ!!」

 

木のようなポケモン…

オーロットが飛び出してきた。

 

飛び出し際の剣幕にシェイミ達は驚き

声を上げる

 

「まてまてぇ~!」

オーロットの背後から

小さな声が聞こえてきた。

 

「げっ…!

 やばいっ…!!」

なにか慌てた様子でオーロットは

この場から走り去っていく。

 

「一体…なんだったの…?」

イーブイが首を傾げる。

 

…確かにこれは王子様が

恐がるのも頷ける…。

と心の中でそう思った。

 

「おっ…おいっ…シェイミ!!

 急に寄り掛かるなよ!

 重い…重いってば…!!

 …って、あれ…?

 シェイミ…?」

「…。」

シェイミは答えることなく

ただ白目をむいている。

 

…どうやら気絶してしまったようだ。

 

「ちょっ…シェイミ!!

 なんで気絶してるんだよ!

 起きろっ…起きろってば!!」

「姫様っ…?

 大丈夫ですか…?」

 

 

「あれっ…?

 君たち…ここで何してるの~?」

「…っ!?」

先程オーロットが出てきた方角から

また新たにポケモンが現れる。

 

「さっきポケモンが

 すごい剣幕で出てきて…

 それに驚いた仲間が気絶しちゃって…」

事情を説明するゾロア

 

「ポケモンって…

 もしかしてオーロットだったりする?」

「そうです。」

今度はその問いにイーブイが答えた。

横でシェイミを支えながら頷くゾロア

 

「あ~らら…

 どうやらボクのせいで

 驚かせちゃったみたいだね…。」

ちょっと、反省かな…

と苦笑いを浮かべる。

 

「一体何が…?」

「ん…?

 ボクが彼をスカウトしようとしたんだよ。

 珍しいし…カッコよかったからね

 それで、声をかけたら

 突然相手がボクを襲ってきて

 バトルになって…

 返り討ちにして

 仲間に入ってもらおうって

 近づいたら彼、

 逃げ出しちゃってさぁ…」

だから、追いかけてたんだよ。

 

「…そうなんですか…。」

何故かイーブイには、

目の前のポケモンが

只者ではないような…

そんな予感がした。

 

「あぁ…そうだったそうだった…

 仲間を気絶させちゃった

 お詫びをしなくちゃね…

 この先にひらけた広場があるから

 そこでその子の目が覚めるまで

 待った方がいいと思うよ

 今から案内するよ」

「あっ…ありがとうございます…。

 あのっ…

 でも、失礼ですがお名前は…?」

 

頭を下げ、お礼を言うイーブイ。

しかし、不気味な森で

急に現れたこの人物に疑いがあったため、

とりあえず、名前を聞くことにした。

 

「あっ…そうだね!

 自己紹介をしなくちゃね。」

その人物…

飄々とした雰囲気を漂わせている

ピンク色のポケモン…

 

プクリンは笑顔で二人に宣言する。

 

「ボクらはとある所では

 ちょっと有名な探検隊さ。

 よろしくね!!

 改めまして、ボクはプクリンだよ!!」

 

 

 

一方その頃…

 

「…。

 ふぅ…」

「…失礼いたします。

 ガブリアス殿…

 見張りからの連絡によりますと

 どうやら

 我々が通ってきた海岸の洞窟が

 崩落したようです。

 これで、しばらくは

 マサラへの連絡の通行手段は

 完全に途絶えたかと…。」

水の都領内…

見渡す限りの大平原に

陣を構えるガブリアスのもとに

黒いポケモン…ハブネイクが

床を無音で這いながら報告に現れる。

 

「…へぇ…なるほど。」

ガブリアスは、その報告を流した。

 

いずれそうなる事が、

ガブリアスには分かっていたからだ。

 

ガブリアスは

単に扱いにくかったが故に

カブトプスを手放したわけではない。

 

ガブリアスの真の目的は

あの洞窟の封印…

マサラへの連絡手段の完全な遮断…

そして。

 

「なら逆に考えれば、だ。

 あの“化け物”を倒して

 水の都に入ってきた奴がいる、

 という事になるな。

 まぁ…相打ちかもしれないが。」

 

そう。

それでも乗り越えて来るであろう

強敵の…そしてその背後にいる

マサラ軍の早期発見である。

 

あの洞窟は

構造上から見ても崩れやすく、

それに洞窟というだけあって狭い。

中で派手に暴れようものなら

たちまち岩なだれが襲うだろう。

 

であるとして。

 

いくら歴戦の手練れであったとしても

少数でしか攻め入って来れないはず。

更に洞窟の内側には

殺人目的の生物兵器がいるという二段構え。

 

それを乗り越えてくるという事は

よほどの戦士であると見てまず間違いない…。

 

「…それで…

 ”こっち側”に

 入ってきた奴はいるのか?」

 

「はい…三人ほどが…。」

 

「…三人?」

「はい…ですが、

 誰もが重傷を負っており、

 動けるものが

 実質一人だけであるとの…報告が」

 

「…ん、あぁいや

 俺が聞きたいのはそういう話じゃない。

 その三人の見た目は、分かるか?」

 

「少々お待ちください…」

 

その部下ポケモンは

そう言うと、一瞬で姿が溶ける。

 

カランッ…と音を立ててボールが床に落ち

黒ずんだ液体のようなものが床を漂っていた。

 

「あくまでも、

 イメージでしかありませんが…」

そう言うが早いか。

 

その黒ずんだ液体は姿を変え、

ウーラオス、ガーディの姿を順に形作った。

 

「犬…は、見覚えがないな…誰だ?

 まぁ…警戒しておくか…。

 だが、最初の奴は知っている…

 水の都の元将軍 ウーラオス、か。

 祖国の為に戻ってきた、

 という口だろうな…。」

なるほど…確かにそれなら

カブトプスがやられたのも頷ける…

 

「そして…」

 

最後に黒い液体はルカリオの姿を

ガブリアスの前に現した。

 

「おぉ…これはこれは…」

ニヤリ、とガブリアスが

不気味な笑みを浮かべる

 

「まさか、王子自らが参戦してくるとは…

 面白い…

 水の都の滅亡を阻止しよう、

 というつもりだな…?」

…さて、出来るかな…それは?

 

 

「いずれ、王子達はここに来るんだろ…?」

 

黒い液体は再びボールを飲み込み、

数秒の時を得て、部下の姿へと変わった。

「はい…現在は傷の療養中とみられますが

 いずれ必ず…。」

 

「…せっかくの王子様の来訪なんだ…

 手厚いおもてなしをしてやる。」

 

「では…もう少しここで

 お待ちになりますか…?」

「そうだな…。

 まだダークライ様の狙いの精霊の一人…

 アグノムの居場所も割れてねぇし…

 俺たちの中に紛れ込んだ

 水の都の“ネズミ”が分からねぇ…

 それに…」

「…?」

「マサラの王子がここに来たとなれば…

 その“ネズミ”も

 動かざるを得ないだろうさ…

 どうせ俺たちが

 マサラに関連する者ではなく

 水の都の敵であることは…

 初めからバレてるんだろうしな…。」

その為の、“ネズミ”だろう…

 

「まぁ今は…気長に待とうや…

 事態が急に動き出す…その時までな。」




間話 ~勇ある者の試練~ その1

マサラの東…
波打ち際。
目の前に広がる大海、
そして大海に抱かれた三つの島を
一望出来るこの場所に
訪れた二人のポケモン

「…この先に、
 俺達の時代で
 手を貸してもらったポケモン…
 ルギア様が居る。」
「肝心なのは…
 ちゃんとこの時間軸でも
 力を貸してもらえるか、という事ね。」
「それについては、正直賭けだが…
 まぁ、本人に会って
 掛け合ってみるしかないだろうな…。」
ジュプトルと、セレヴィだった。

「ねぇ…ジュプトル…
 あなたに一つ…
 言っておきたいことがあるの…。」
「…どうした…?
 改まって…。」

「この時代は…いいえ、この世界は…
 時の神ディアルガだけでなく、
 空間の神パルキアの影響を受けて
 開かれたワープトンネルを
 抜けた先の世界…。
 私たちの世界とは違うもの…
 一種の
 パラレルワールドのようなものだと思うの。」
「…?」
セレヴィの言っている意味が分からず、
困惑の表情をしながら
首を傾げるジュプトル

「つまり…いくら
 この世界を変えたとしても
 私たちの時代には
 何の影響もなくて…
 この世界は、私たちの時代と
 同じ未来をたどる可能性は
 限りなく低いと思うの。」
まず、世界自体が違うから…

「…なるほど、な。」
ようやく話を少しだけ理解し
そう、声をこぼす。

「…でも、この世界には
 俺たちの世界のダークライがいる。
 奴がいる限り、
 俺たちの世界と
 同じ未来を辿らされかねない。
 だからこそ、俺たちが止めるんだ。」
…そうだろ、セレヴィ?
「えぇ…そうね。」

「それに…ルギア様に
 余計、この世界を守る為に
 力を貸してもらう理由が出来た…
 この世界の事については…
 この世界の住人にも責任はあるはずだ。
 …さあ、行こう。
 伝承された祠は
 もう、すぐそこのはずだ」

再びジュプトル達は歩き出した。



静かに波は一度…二度…と
大地に押し寄せては戻る。
その音を
耳に入れながら、二人は歩いていた。

「…?」
その波打ち際に
倒れている小さな人影が一つ…。
「ジュプトル…あれっ…!」
「あぁ…分かってる!」

ジュプトルはその影に
死人ではないか…と
疑いながら近づいた。


…まだ息がある。



「おいっ…!
 大丈夫か…」
それが分かった時、
すぐに声をかけた。

「…海に…危険が…。
 早く…助けを…」
まるでうわ言のように呟いている
その青いポケモン。

ジュプトル達には
まだ見たことのないポケモンだった。

「なぁ、セレヴィ
 この子を治療出来るか?」
「出来るわ!
 早く安全な場所へ…!」

「んんぅ~やだなぁ…。」
「…っ!?」
急にする声を聴き、
その方角を見る二人

そこにいたのは、
ピンク色の身体に
巻貝のような王冠を付け
海をそののんびりとした目で
じっと見つめる…ヤドキングだった。

「海の神様の力が乱れ…
 荒れておる…
 それに世界のどこかに
 一人しかいないはずの
 ルギア様の気配を感じる…。
 あぁ…ルギア様は二人に…何故…?」
「…一体、何を…言って…?」
うわ言のように
呟いているヤドキングを見て
敵か味方か分からず、
様子を見ながら
ただ困惑するジュプトル。

「お客人、
 その怪我をしておられる方を
 こちらへ…。
 まずは怪我の治療を。」
「…っ!?
 あっ…あぁ…
 だから安全な場所へ…」
「我らが海の祠へ…
 案内してしんぜよう…
 そこでゆっくりと休ませればよい…
 そなたらの目的も分かっている。」
「…っ!
 なるほど、
 あなたがこの世界の
 “祠の守り人”ですか…。」

「左様。
 我が三つの島からなる
 この祠の管理者
 ヤドキングである。」

続く。


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第二章 帝国の脅威 その10

お待たせしました
ではお楽しみください。


「…姫様…

 シェイミ姫様…」

…声が…聞こえる…

 

…そうだ…確かあれは…。

 

 

「…姫様!!

 まだ授業の途中でござましょう!」

 

「うぅ…。

 うるさいデス…ミーは眠いデス…」

目をこすりながら

小さくあくびをするシェイミ

 

「姫様…だからと言って

 授業中に寝るのは…。」

ガーディが首を振り

あたふたとしながら言う。

 

「姫様!

 そんな事では、いつまで経っても…!」

コンコンッ…

 

シェイミを叱りつける

教育者…フーディンの声の合間に

ドアを叩く小さな音が割り込む

「はい…どうぞ。」

 

「…一体何の騒ぎですか…?」

部屋の温度が、少しだけ下がった気がした。

 

「…これはこれは…

 キュウコン将軍…」

フーディンが、礼儀正しく頭を下げる。

 

そこにいたのは純白の毛を持ち

背中に剣を背負った四つ足の騎士

キュウコンだった。

 

彼女はその剣の才を認められ

20の時より女王バンギラスに仕えていた。

 

バンギラスの下には彼女の他に

もう一人、騎士がいたのだが…

今は行方不明となっている。

 

「あっ…キュウコン将軍!

 丁度良かった…!

 ミーにも剣術を教えてほしいのデス!!

 歴史や地形学…帝王学は

 つまらなくて、

 面白くないデス…!!」

 

「シェイミ姫様…!

 つまらないとは…!」

また、フーディンの怒りに火が付きかける…。

 

「…フーディン。」

「…すみません…。」

それを、キュウコン将軍は一言で諫めた。

 

「シェイミ姫様…

 確かに、わたくしめが貴女様に

 剣術をお教えするのは光栄にございます…」

「…っ!

 …なら、早速…!!」

 

 

「…ですが。」

 

 

「貴女様はバンギラス女王様の後を継がれ

 後の世でこの国を率いられる存在…

 わたくしめはその手足に過ぎませぬ…。

 それは剣術とて同じ事。

 シェイミ姫様…

 そのお身体、知性は

 この国の宝にございます…

 そしてそのお身体を傷つける事は、

 わたくしめにとっては

 主に剣を向け、国に反旗を翻す程

 あってはならない事…!!」

そっと、キュウコン将軍は

シェイミに頭を下げる。

 

 

「わたくしめに

 この国を守る使命があるように…

 貴女様は…貴女様の使命がございます。

 ペンは剣よりも強しという

 ことわざにもある通り

 どうか剣術ではなく、

 学問を磨いては頂けないでしょうか…?」

…わたくしめよりも…強くなるために。

 

「…ミーが強くなったら…

 いつか戦ってくれるんデスか…?」

「えぇ…勿論!

 その時は全力でお相手いたします!」

優しい微笑を浮かべながら、

頷くキュウコン将軍。

 

「分かりました…!

 しょうがないから…

 今は勉強するんデス!!」

…その代わり、絶対約束は守りなさい!!

 

「…ははっ…肝に銘じておきます。」

…では、失礼いたします。

 

そっと、部屋を出るキュウコン将軍

「では、姫様…

 この本のここまで、お読みください…」

そう言って、

フーディンもまた部屋を出る。

 

扉の向こうで、

何度もお礼を言う声が、聞こえた気がした…

 

 

ふぁああああ~…

 

 

「…でも…やっぱり…

 眠いデスね…。」

はやく…強く…なりたい…デス…。

 

パタッ…

 

 

……

………。

 

 

 

森の中で。

はっきりとは分からないが、

確かに今も感じる事がある…。

 

…なにか…肌寒いような…

恐いくらいの大きな力を感じる…

 

 

気のせいだろうか…?

 

 

この森に入ってきて…

色々な不安要素が一気に広がった事で

私の心が乱され始めているのだろうか…?

 

…。

 

でも…やっぱり…感じる…。

 

 

森の下…

私たちの足元のさらに下の方で…

 

何かがうごめいているような…

そんな気配が。

 

 

…こわい…。

身体が、小さく震える。

 

……

…王子様…。

 

 

「ねぇねぇ…どうしたの?

 顔色があんまりよくないみたいだけど?」

「…っ!?」

ぴょこぴょこと耳を動かしながら

私の顔を覗き込む、プクリンさん

 

「…だいじょうぶです」

 

今、私たちはプクリンさんに案内され

森の開けた場所にテントを設け、

シェイミ姫が目覚めるまで、

休憩を取っていた。

 

 

…シャッ…。

 

 

木の枝の間を飛ぶように移動し、

広場にゾロア君が戻ってくる。

 

「ダメだった…

 この森、変な植物ばっかりで

 食べられそうなものが

 一つもなかったぞ…。」

 

「んん~、だろうね…

 この森の近くには

 “ダンジョン” があるし、

 その影響を受けているのかなぁ…?」

 

「あの…」

私はプクリンさんに

ずっと聞きたかった事があった。

 

「ん…?

 なんだい…?」

真っすぐで、

綺麗すぎる程の青色の瞳が私を見る。

 

「どうしてプクリンさんは

 この森に居るんですか…?」

 

「あぁ…それはね…」

 

それから私たちは

プクリンさんから色々な事を聞いた。

 

誘拐犯、スカタンク一味の事

この森の事…

 

そして、トレジャーズキャンプの事。

 

「でね…この森の奥にある洞窟が

 奴らのアジトみたいなんだけど…

 ちょっといきなりそこに突入するのは

 避けたくてね…」

「どうしてですか…?」

色々な事を聞いてなお、

プクリンさんの話は終わらなかった。

 

「奴らのアジトは、特殊でさ。

 この森自体も

 そうと言えばそうなんだけど…」

あ、そういえば…

 

「ねぇ、君たち…

 ダンジョン、って知ってる…?」

 

 

「ダンジョン…ですか…?」

イーブイはゾロアを見る。

 

ゾロアはイーブイの顔を

見返して静かに首を振った。

 

 

「そっか…

 あのね…まぁ、僕にも

 よく分かってない事が多いし…

 種類も結構あるみたいだから

 何とも言えないけど

 ダンジョンっていうのは

 そうだね…

 不思議なことが起こる洞窟…

 っていう感じかな?」

 

「不思議なことが起こる洞窟…。」

 

「そうそう。

 世界には

 そういう洞窟がいっぱいあるんだ!

 その洞窟の中では

 同じはずの場所が違っていたり

 洞窟内に長く居続けると

 体が巨大化したり…

 僕たちが知っている姿

 ではない姿になったり…

 僕たち探検隊が狙ってるような…

 すんごいお宝もあったりするんだよ!」

えへへと楽しそうに笑いながら

そんな事を話すプクリンさん。

 

あぁ、本当にこの人は

楽しんで探検隊をしているんだ、と

そう思った。

 

「…まぁ、だから今

 スカタンクを捕まえるために

 手を焼いてるんだけどね…」

ペラップともはぐれちゃったし…。

 

今度はがっくりと

残念そうにしながら肩を落とす。

 

 

「でも、君たちを巻き込むつもりはないよ。

 誘拐犯のスカタンクも

 まだ見つかってないし…

 ここまできたら、森の出口…

 トレジャーズキャンプに続く道に

 つくまでは一緒に居てあげるよ!」

 

「あっ…ありがとうございますっ!!」

 

とても、心強い。

プクリンさんは森を歩いている中で

何度か戦いになる事もあったのだが

その中で、私たちとの力の差を見せられた。

 

だからこそ、

その提案はとてもありがたかった。

 

「でも、君たち…特に君は、

 この森を抜けるには

 僕が居なくてもいいくらい

 充分に強いと思うけどね!」

「…オイラをそんなに褒めても、

 何も出ないぞ!」

 

ゾロア君に微笑みかけるプクリンさんと

それを少し照れながら受け取るゾロア君。

 

 

「んっ…んん…?」

シェイミ姫が、目を覚ました。

 

 

「おはよう、気分はどうだい?」

「…っ!?

 なっ…だっ…誰ですか…あなたは!!

 ミーに名を名乗るのデス!!」

 

「え?

 あぁ、ボクはプクリンだよ!!」

「プク…リン…?」

 

「えっとですね、姫様…」

それから…

これまでのいきさつは、私が説明した。

 

「なるほど。

 つまりこの森を抜けるまで、

 ミーの4人目の家来という事デスね!!」

「ははっ…。

 そうですね…」

 

「おいっ…!

 オイラは家来なんて

 なった覚えはないぞ!!」

 

「家来かぁ~、面白いし

 ま、それでいいかな!」

 

シェイミ姫の言葉に対し、

反応は様々だった。

 

「さて、それじゃあ

 充分休憩も取れたと思うし、

 行こうか!」

 

号令とともに。

森を進む四人。

 

…また暗闇の中で

何かの笑い声が聞こえた気がした…

 

 

 

ドンッ…!!

ドドンッ…!!

 

「オラオラァっ…!!

 逃げてばっかりか…!?」

「ひっ…!」

 

 

<<ヘドロばくだん>>

 

 

轟音とともに

地面を溶かし崩す程の毒が走る。

 

ドガースがペラップを

着実に追い詰めていた。

 

「うぅっ…

 おやかたさまぁああああ…!!」

ペラップは叫びながら逃げる。

 

「はぁ…つまんねぇなぁ…。」

よっしゃ…

もう決めるか…。

 

「ふんっ…!!」

<<ヘドロばくだん>>

 

「…っ!?」

今までのヘドロばくだんの精度とは

比べ物にならないほど的確に。

 

その爆弾の破片は爆発した後

ペラップの羽を射抜いた。

 

「がふっ…!」

そのまま地面に

叩きつけられるペラップ

 

「…っ!!」

戦慄した表情を浮かべ、

迫りくるドガースから

それでも逃げようとする。

 

…が、腰が抜けていて

思うようには、逃げられない。

 

地面を這うように移動し、

遂にその背は木の幹についた。

 

…完璧に、追い詰められた。

 

「いっ…いいのかっ…!!?

 わっ…私を殺せば、

 おっ…親方様が

 黙っていないぞ…!!」

 

「へっへっへ…そうかいそうかい…」

 

 

シュゥウウウウウ…

 

 

 

「ほっ…本当に良いんだな!!!?

 ぜ、絶対に後悔するぞ…!!

 やめるなら、いまのうちだぞ!!」

ひぐっ…うぅっ…!!

 

涙ながらに。

それでも、虚勢を上げるペラップ

 

「分かってる、分かってるって…」

 

ドガースが身体に力を込めると

身体に開いている無数の穴から

黄色のガスが

空気中に放出され漂い始める。

 

それは、風下にいるペラップを

包み込むように移動し

周囲の森の木々を枯らしていく。

 

…間違いなく。

 

ドガースの放っている霧は毒ガスだった。

 

 

「それじゃあ…死んでもらおうか…。」

 

 

ドガースが動いたと同時に。

 

 

ペラップを毒ガスが包み込んだ

 

 

毒ガスから外に出るドガース。

 

 

「うっ…

 うわぁああああああああ…!!!」

大粒の涙を流しながら

もがくように

羽をはばたかせるペラップ。

 

ドガースの笑み

 

 

…次の瞬間。

 

ペラップの羽ばたきに合わせて、

周囲に追い風が吹き荒れた。

 

「なっ…なにっ…!?」

 

驚くドガースだが

ペラップの追い風は止まらない。

 

ドガースの放った毒ガスを

ペラップの周囲からはねのけ

逆に、それでドガースを包み込んだ。

 

「やべぇ…!!」

 

思わぬペラップの反撃に

焦りながら

毒ガスの中を抜けようとするドガース。

だが、毒ガスは追い風に乗って

追いかけてくるので

逃げても逃げても

抜けられる気配がなかった。

 

 

…やべっ…意識が…

…くそっ…なんで俺が…

…こんな…こんな奴に……っ!!

 

 

「…っ!」

ドガースは意識を失い、

その場に倒れこむ。

 

ゴトンッ…と重い音が鳴った。

 

 

「うわぁああああああああ…!

 しっ…死にたくないっ…

 死にたくないぃいいい…!!」

…?

 

「…って…あれ…?」

ペラップが

ドガースが倒れていることに気付いたのは

それから数分経っての事だった。

 

 

「わっ…私だって…

 やっ…やれば出来るんだ…!!」

ハーハッハッハッハッ…!!

 

…はぁ…。

 

 

「ん…?」

森を歩きながら

ふと、立ち止まるプクリン

 

「どうかしたんですか?

 プクリンさん」

 

「いや…何か…

 ずっと視線を感じるんだよ。

 悪意のこもった視線をね…。」

目を凝らして自分たちが来た道…

森の奥の暗闇を見つめるプクリン。

 

 

…居た!

 

 

「やいっ!!

 そこに居るんだろ!

 …出てこい!!」

 

プクリンが叫ぶ。

 

視線の先で。

薄暗い炎がゆらゆらと燃え始める。

 

「ひっ…人魂ぁっ…!!?」

「…っ!!」

イーブイが怯え、小さく震える。

そしてシェイミが驚き、叫んだが

その中でもプクリンとゾロアは

睨みをきかせ臨戦態勢を崩さなかった。

 

ぐるり…と四人を取り囲む人魂

 

「プクリン…これって…!」

「あぁ…。

 間違いないよ…これは…

 人魂なんかじゃない…」

 

 

「<<おにび>>だ!!!!」

 

 

 

刹那

 

強風がその場に吹き荒れ

鬼火がかき消える。

 

[やれやれ…バレちゃあしょうがない…]

[フフフッ…]

 

暗闇の中で、声が響く。

 

 

「どこだっ…!!」

 

 

[俺様がどこにいるか、だって…?]

[クスクス…]

 

 

[決まってるだろ…]

…声が、一気に近づいた。

 

…プクリンたちの背後。

 

 

…四人の真ん中に。

 

 

「 こ こ だ よ 」

 

 

「…っ!?」

バッ…!!

 

背筋に悪寒を感じ、

急いで振り返るプクリン達

 

その四人の視線が交わる先に…

 

 

…堂々と立っていた。

 

 

「俺様がこの森の、元支配者…!

 恐怖を支配する地獄の帝王

 ゲンガーだ!!」

 

紫色のずんぐりとした身体

相手を見つめる怪しい瞳

 

ヘラヘラと笑う、そのポケモンが。

 




今回は間話はありません。


では、次回 帝国の脅威 その11を
お楽しみに!!


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第二章 帝国の脅威 その11

お待たせいたしました
では、お楽しみください。


「じごくのていおうげんがー

 …だってぇ?」

 

プクリンは、

確認するように

相手の言った言葉を復唱する。

 

その、笑顔を崩さない

気楽で、どことなく

楽しそうな表情からは、

相手を見定めるような様子が見て取れる

 

本当にこのゲンガーというポケモンが

地獄の帝王と呼ぶに

ふさわしい実力があるのか…

 

 

 

誇張か、はたまた事実か…

 

 

 

「そうだ、その通りだ」

クスクス…

 

真意は予想できない。

 

ゲンガーの表情にもまた、

プクリンのそれとは違う、

不敵な笑みが浮かぶ。

 

 

冷静に考えてみれば。

 

一探検隊のトップを

務めているというプクリンの

警戒心が誰よりも強いはずのその人物の

背後を取れた、という事。

 

その事実は、ゲンガー…

彼の強さの証明には

十分な判断材料だった。

 

 

「…。」

…今動くわけにはいかない。

…こいつ…絶対になにかある…

 

 

故にゾロアは動かない。

ただ、今は黙って

プクリンの、そしてゲンガーの。

 

双方の様子を注意深く見ていた。

 

 

…プクリンを見る目は、

攻撃開始の合図、

指示を見逃さないように。

 

そして

…ゲンガーを見る目は、

攻撃の気配を

いち早く察知し、防御出来るように。

 

「…。」

緊張感を持って、その場に待機していた。

 

 

「ゾロア君

 そんなに緊張しなくってもいいよ~

 リラックス、リラックス~」

「へっ…?」

おもわず気の抜けた声が出てしまった。

 

予想に反して

プクリンはこちらを見て、微笑む

 

「じごくのていおうげんがー君…

 だったよね?

 さっき、どうしてボクたちに

 悪意のある視線を向けてきたのか

 教えてくれないかな…?」

 

プクリンはゲンガーに

先程のような敵対の表情ではなく

まるで近所の人と世間話をする時のような

雰囲気を出しながら話しかける。

 

「…。」

ゲンガーはプクリンのテンションに

呆気にとられたのか

不敵な笑みではなく微妙な表情をしながら

黙って聞いていた。

 

「あっ…!

 もしかして、

 じごくのていおうげんがー君は

 さっき、

 この森の元支配者って言ってたから

 ボクたちがこの森に無断で入ってきた事に

 怒ってるのかな…!?

 そうだったらごめんね!

 ボク達さぁ…」

 

話を続けるプクリンに。

 

 

「…っ!?」

 

<<シャドーボール>>

 

 

ゲンガーは攻撃を繰り出す。

 

プクリンの顔面に近づいた

黒い球体が爆発し

顔の付近に黒煙がまとわりつく。

 

 

「プクリンさん!!」

イーブイがプクリンに近づく。

 

「…?」

ゾロアたちはプクリンの様子を伺っていた

 

 

「大丈夫だよ

 心配してくれて、ありがとうね」

少しして、黒煙が晴れた時

プクリンはイーブイに自身の無事を告げた。

 

…。

 

 

「…痛ったいなぁ…

 …なにすんのさ、いきなり。」

 

 

どうやらプクリンは

話の途中に中断させられたため、

口の中を切っているようだ。

 

それ以外は特に外傷などはない

 

プクリンの口の端から

一筋の血が流れる。

 

 

そして、そんな事は

どうでもいいと思える程に

先程とは明らかに違う点は。

 

 

「へぇ…能天気な馬鹿かと思えば…

 そんな顔も出来るのか…」

 

プクリンのゲンガーを見る表情や雰囲気だ

 

「…。」

ゆったりとした雰囲気はとうになく。

今のプクリンはキッ…と

ゲンガーに睨みをきかせ、

不服と言わんばかりに頬を膨らませていた。

 

一瞬、和やかになりかけた雰囲気が

また戦いの前の

張り詰めた空気感に逆戻りした。

 

 

「もう、十分に分かっただろ…?

 俺様はお前たちを

 この森から返す気はない。

 だからと言って勿論

 呑気にお喋りをするつもりもない。」

 

 

「さぁてと…始めようぜ…

 闘いだよ、た た か い…!」

 

 

「さっきから聞いていれば、

 ミー達になにをするんデスか!!

 控えるデス!!

 ミーは…!!」

 

「待った!!」

 

今にも

戦闘が始まってしまいそうな雰囲気の中、

プクリンがシェイミを手で制し

言いかけた言葉を中断させる。

 

「あんまり自分の事を

 ひけらかさない方がいいよ…

 こいつは善人ではないって事は

 明らかだからね…。」

 

こいつが何をしでかすか、

全く分からないから…。

 

 

「うぅっ…

 それもそうなんデス…」

 

「へぇ…?」

 

 

<<さいみんじゅつ>>

 

「…っ!?」

イーブイ、シェイミ!!

あいつの目を見ちゃだめだ!!

 

攻撃の気配を察知し、

ゾロアが二人を見た時には、

時すでに遅し。

 

ゲンガーが

シェイミとイーブイを睨みつけ

目が怪しく光ったような気がした後

イーブイとシェイミの二人は

パタリとその場に倒れてしまう。

 

 

「うっ…!

 くそっ…!!」

ゾロアが二人を起こそうと近づくものの

それよりも先に

ゲンガー達の技が発動した。

 

<<ゴーストダイブ>>

 

倒れた二人の近くに

ゲンガーが現れたかと思えば

地面がどす黒く染め上がり

それに伴い

二人の身体が地面に沈み込み、消えていく

 

「させないよ!!」

 

<<マジカルシャイン>>

 

影には光。

 

プクリンの身体が光を持ち

一気にその光を解き放つ。

 

 

「遅い」

 

しかし、タッチの差で

二人が影に取り込まれる方が早く、

影の出入り口がプクリンの技で消えた時

ゲンガー達の姿はそこにはなかった。

 

 

「くっ…!

 連れていかれちゃったか…!!」

 

「ふっ…

 そういう事だ。」

 

「…っ!!」

 

ゲンガーは二人から離れた場所に現れ、

次の瞬間に、消えたかと思えば

また目の前に現れる。

 

「どうやら、あの二人は

 身分が高いみたいだったからなぁ…

 誘拐させてもらった。」

 

 

「くっ…!」

プクリン達が焦りの表情を浮かべ

臨戦態勢に入る。

 

 

「さて…お前たちはどうやら

 少しは出来るようだからなぁ…」

 

ゲンガーは

言いながら大きく息を吸い込む。

 

「俺様直々に地獄へご招待だ!!」

 

 

はじめようぜ!!

 

 

 

<<ほろびのうた>>

 

 

「…っ!?」

 

まずいっ…!!

 

「ゾロア君…!!

 急いで耳を塞いで!!」

 

この歌を聞いちゃだめだ!!

 

 

「…っ!?」

ゾロアはプクリンの言う通り

急いで耳を塞ぐ。

 

 

――――――――――。

 

 

 

 

自分の心音だけが聞こえる

無音の空間になった。

 

 

ゲンガーの周囲で

周期的に草木が揺れている。

 

それは森の雰囲気と現状が相まって

ゲンガーに付き従うように

森が意思を持って、

自分たちを地獄に引きずり込もうと

こちらに手招きをしているように見えた。

 

 

恐怖から一瞬目を逸らすように

プクリンの無事を確認するゾロア

 

「…。」

 

プクリンもまた両手で耳を塞ぎ、

歌を聴くことから逃れたようだった。

 

…きっとまだ、歌は鳴り続いている…

 

 

身体全体が、

周りの空気から

超音波のような微振動を受け

かすかに震える…

 

更にゲンガーの面白くはなさそうな…

だが、どこか不敵な

不気味すぎる程の笑みが

その予感を確信へと誘う。

 

 

改めて指示を仰ぐため

プクリンをもう一度横目で見るゾロア

 

 

…っ!!?

 

 

幼いながらも

戦場で暗部として鍛え上げられた

ゾロアの目

 

その眼は敵の気配を見逃さなかった。

 

プクリンの背後…

風船のようなその大きな身体から伸びた

地面に走る影、暗闇から。

 

ゆっくりと気配を殺して出現し、

標的の背後に忍び寄るもう一人の敵…

 

 

―“ ミミッキュ ” の姿を。

 

 

…どうして今まで

気が付かなかったんだろう…

 

自分たちポケモンは

技を4つまでしか使えない。

そして、ゲンガーが現れてから今まで

自分たちが目にしてきた敵の技は

 

<<おにび>>

<<シャドーボール>>

<<さいみんじゅつ>>

<<ゴーストダイブ>>

<<ほろびのうた>>の5つ。

 

つまり。

…ゲンガーの他に

“ 確実に一人は仲間がいる ”、と

予想できたはずなのだ。

 

ゾロアは焦る。

 

「危ないっ!!」

 

ゾロアはそれの出現を

プクリンに伝えようと

声を張り上げて目一杯叫ぶ。

 

 

――叫んだ瞬間、またハッとした。

 

 

今自分達は、耳を塞いでいるのだ。

 

 

――届かない。

 

 

歌も森のざわめきも、

背後から忍び寄る敵のかすかな音も

そして自分の叫び声も。

 

 

――音が、何もかも届かない。

 

 

瞬間

 

 

 

 

ミミッキュの身体から

いくつもの黒い触手のような手が伸び

 

プクリンの腕や体に絡みついた。

 

…っ!?

 

 

急に背後に現れた思わぬ敵に

驚愕し目を見開くプクリン

 

 

黒い手の力は思ったよりも強力なようで

更に不意を突かれた事により

プクリンの手は

簡単に耳から離れてしまった。

 

まだ歌は鳴り続いていた。

 

「…っ!?」

一瞬プクリンの身体が震える。

 

 

プクリンはゲンガーの歌を聞いてしまった。

 

 

「…っ!!」

 

だが、プクリンはすぐさま

キッ…とゲンガーたちを

睨みつけるように表情を変え

 

そのやわらかな体の特性を

十二分に発揮するように

空気を吸って、

身体を何倍もの大きさに膨らませる。

 

 

<<ハイパーボイス>>

 

 

直後、先程感じていた

空気の微振動よりも強い衝撃波を感じた。

 

 

振動が止んだ…

 

――歌が止まった!

 

 

「…っ!!」

 

ゾロアは塞いでいた耳を開放した

 

 

―――――世界に音が戻ってくる。

 

 

 

…今度は、もう失敗しない!!

 

 

ゾロアは地面を蹴り、

一気にプクリンを拘束している

ミミッキュに近づいた。

 

「放せ!!」

 

ゾロアの一撃は

ミミッキュの顔面を的確にとらえる。

 

 

 

 

………?

 

手ごたえがない。

 

あまりにも

攻撃したという感覚がなさすぎる。

 

…これは、そう。

 

…敵に身代わりを使われた時の感覚…!!

 

 

 

 

「まだ…!!」

 

顔を上げ、視界に入れたミミッキュは

頭と思われる部分が

直立を続けている身体に反し

ペタン、と力なく横に倒れた。

 

その状態でなお、

プクリンを拘束し続けている。

 

 

あの顔は本体じゃない…!!

 

 

「ぐっ…!

 くそっ…!!」

 

急いで体勢を立て直し、

追撃を与えようとするゾロア

 

 

「…さてと、まずは一匹。」

「…っ!?」

 

 

だが、急に自身の眼前に出現した

ゲンガーによって進路を塞がれる。

 

 

目の前で、

うずうずとしたどす黒い塊が蠢き

形を形成しながら、より大きくしていく。

 

 

いまさら、避けることは出来ない。

 

 

 

<<シャドーボール>>

 

 

「がっ…!!」

 

ゾロアは身体に

シャドーボールをもろにうけ

吹き飛ばされ、近くの木の幹に衝突した。

 

傷は深くない…

だが、身体が動かない…。

 

 

「…ミミッキュ、

 もうこれぐらいでいいだろう。」

耳が、ゲンガーの声を聴いていた。

 

「…少しくらいは楽しめた。

 …。

 俺様たちが手を下さずとも

 もうこいつらは

 放っておいてもじきに死ぬ。

 それに…」

身体が…動かない。

 

「思わぬ収穫があった…

 これで俺様たちは

 もっと悪に近づいたわけだ…!!」

笑い声が遠のいていく。

 

「くっ…このっ…待てぇ!!」

プクリンの声が聞こえて、

また…遠のいていく。

 

 

…だめだ…

意識が…薄れて…

 

 

 

 

「…大丈夫かい、ゾロア君?」

その声を聴いて、

意識が完全に闇に溶けてしまった。

 

 

 

 

 

…オイラ達、困ってるんだぞ…。

 

薄暗い、暗闇の中

誰かの気配を感じる…

それが誰なのかまでは分からない。

 

だが、味方ではあるようだ。

 

…助けに来いよ…。

 

 

自身の身体に流れる気を集中させ、

練り上げ、球体を形成する。

 

そして、それは

攻撃手段として有効なものになるはずだ。

 

一度目の前で戦いを見ていたから分かる。

身体の動き、筋肉の癖

気の流れに至るまで…

 

 

この動きが得意な人物は…

 

 

…ルカリオ…。

 

ゾロアの頭に浮かんだのは、

ルカリオだった。

 

 

…いや、違う…。

 

しかし、ゾロアは

すぐさま自らの思考をかき消す。

 

…誰が、あいつなんかに!!

 

それは、心の底からの、叫びだった。

 

 

 

「はっ…!?」

 

次にゾロアの目が覚めた時、

丁寧に寝かされ治療をされていた。

 

…ここは…

 

起き上がり、キョロキョロと辺りを見回す。

 

「ゾロア君、調子はどうだい?」

 

「あっ…」

自分はプクリンに助けられたのだと

すぐに理解したゾロアは、

まずお礼を言う。

 

 

そして、あの戦いを振り返り

何があったのか、を確認する。

 

「あのじごくのていおうげんがーが

 歌った瞬間に、僕の大声を

 最初から使えばよかったんだけどね…

 えへへ…ちょっと油断しちゃった…。」

 

あの後、すぐにプクリンは

二人を追ったらしい。

姿は、

<<ゴーストダイブ>>などがある以上

頼りにならなかったので、

気配を探って森を歩き回ったのだという。

 

「やっぱり、あいつらも

 スカタンクのアジトに入っていったよ。

 どうやらあいつらもスカタンクと

 関係があるみたいだね…」

森の中を、生ぬるい風が通り抜ける。

 

「彼はさっき元支配者、と言ったじゃない?

 って事は

 他に支配者が居るって事だよね…?

 …この森にボク達が追っていた

 おたずね者がいる…

 そしてさっき襲ってきた彼は元支配者…

 つまり、考えられるのは…

 今、この森を支配しているのは…

 おたずね者 スカタンク

 じゃないかなって思ったんだ」

 

「…。」

プクリンの発言を受け、

ゾロアが一瞬沈黙する。

 

「…多分、その通りだと…思うぞ。」

そう言いながら、頷く

 

…となるとシェイミ達は、

 早く助けないと、誘拐犯の一味に…

…。

 

「…。」

思い出し、悔しそうに眼を閉じるゾロア

 

「…それと…

 ボクにはあんまり時間が

 残されてないみたいだしね…」

ほら…これ。

 

「…?」

ゾロアが目を開き、顔を上げる。

 

見えたのはプクリンの腕

そこには文字と数字が刻まれており、

“ 残り2 ”となっていた。

 

「奴らを追って森を走ってる時に

 この数字がある事に気付いてさ。

 最初は3ってなってたんだけど

 君を介抱してたりした途中に

 2に切り替わったんだ…」

あれから二時間ぐらいたった時かな…?

 

プクリンは話を続ける。

 

「多分、このタイマーが0になったら

 ボクは

 地獄に連れていかれるんだろうね。

 二時間で一減るんだから

 あと残りは…」

 

「四時間もない…」

プクリンの言葉の先を、ゾロアが埋めた。

炎はゾロアとプクリンの間で

静かに燃えている。

 

「…そうなっちゃうね。」

少しだけ、悲しそうにプクリンは笑う。

 

「…解除方法なんて分からないけど…

 …多分

 あのじごくのていおうげんがーを

 気絶させれば、いいんだと…思う。

 こうなっちゃうと、

 連れてかれちゃった二人の事もあるし

 トレジャーズキャンプに戻って

 援軍なんて呼んでる暇はないね…。」

トレジャーズキャンプのある方角を見ながら

プクリンは呟いた。

 

「…じゃあ、どうすれば…?」

ゾロアの問いに合わせて

炎が小さく揺らめく

 

「決まってるじゃないか…」

 

その返答は、すぐだった。

 

プクリンはにっこりと笑う。

 

 

大丈夫、と

まるで泣きじゃくる自分の子どもを

安心させる母のように。

 

そして、勇気を無くした人を

勇気づけ、

再び立ち上がらせる勇士のように。

 

そしてまた、

追い詰められてなお希望を失わず、

夢を追い求め続けるという

絶対の心構えを無くさない探検家として。

 

「もう突撃するしかないじゃない…

 奴らのアジトに、

 ボクと君の二人でさ!!」

 

 

そう、言い放った。

 




間話 ~勇ある者の試練~ その2

ジュプトル達は
潮風が吹く
海岸沿いの断崖絶壁に存在する
長い階段を上り終わった先の場所

祠にたどり着いた。

「ここは祭壇…
 勇ある者の試練を受ける者が
 最初に訪れる場所であり、
 そしてまた全てを終えた時
 意味を成す場所でもある。」
あの長い階段を上ってきたというのに
話を始めたヤドキングの息は
全く乱れていない。

「…勇ある者の試練…?」
少し、息を乱したジュプトルが
海岸で助けたポケモンを
優しく抱えながら
ヤドキングに聞き返す。

「…それについての説明は
 またにしよう…。」
さて…こっちだ。

ヤドキングは二人の間をすり抜け
崖際に移動する。

振り返るヤドキングを見る
ジュプトル達の視界の先には
崖の内側に入るための
丁寧に装飾が施された扉が見えていた。


キィ…と音をたてて扉が開いた。


その後、崖の内部にて
いくつかの部屋が存在していたが、
その内の一つ
ベッドの置いてあった
客室と思われる部屋に
マナフィと呼ぶのだという
このポケモンを運び、治療をする。

「うむ…あとの治療に関しては
 そちらのお客人の方が
 詳しいだろう…
 ここは任せるとしよう。
 この祠にある治療薬などは
 すべて使ってよい。
 先程、教えた場所にある。」
「…はい、任せてください」
ヤドキングは
マナフィとセレヴィを見つめ、
一つ頷く。

「さて…お客人
 そなたには話したい事がある。
 付いてくるのだ」
「はい…」
ヤドキングは次にジュプトルを見た後
その部屋を出る。

ジュプトルは
部屋を出る前に
セレヴィに一声かけて

ヤドキングが
自分に話したい内容は
勇ある者の試練の事だと思いつつ
そして
ルギア様に関する情報を聞くという
当初の目的を忘れないとも
思いながら
ヤドキングの背を追った。


「ふむ…」
ヤドキングが向かった場所は
先程ジュプトル達も訪れた場所
祭壇だった。

海が荒れ、波が大地に叩きつける。
その波音を足元よりも
さらに下に感じながら、
ジュプトルはヤドキングを見つめる。


「祠の管理者…いや、ヤドキングさん
 俺達がここに来た理由は、もう…」

「あぁ…ルギア様に会いに、であろう。」

「…。」
ジュプトルはヤドキングと話をしながら
いままで知ってきた情報。
そしてある程度の予想から推測する。

ルギア様…
三つの島からなる祠の管理者…
そして、勇ある者の試練…

…。

…それは、たった一つの可能性を示した。


「俺が、その勇ある者の試練というものに
 合格さえできれば…
 ルギア様に
 会う事が出来る…んですか?」

「ふむ…お若いの
 随分と頭が切れるようだ…」
…だが、その前に。
そう、急がれるな…

そう言いながら、
ヤドキングはもう一度海を見つめる。

「お若いの。
 我らの海の祠…
 ここが持つ伝説は知っておるか?」
まずは、ここについて
知っておくとよい。

「えぇ…小さい頃、
 そういった世界の伝説については
 よく教えてもらいましたから…」
確か…。

ジュプトルはガルーラから教わった
海にまつわる伝説を振り返る。


火、雷、氷…
三羽の大いなる鳥が守りし
三つの宝玉が揃いし時
癒しの笛の音が鳴り響き
海流と共に眠る案内人が目を覚ます。


…その案内人
海の王子に選ばれし者をのせ
偉大なる水神が護りし
王冠が眠りし場所
祝福の楽園、海の都へと導かん…。


「…だったと思います。」

「左様。
 …そしてその伝説が生まれた場所は
 紛れもなくここだ。」
ヤドキングは祭壇に置かれていた
小さな祠に近づく。

「ルギア様に会うための試練
 勇ある者の試練とは
 その伝説の冒頭を模したものでな…
 この祠にそれぞれの島にいる
 強者の護る宝玉を
 捧げる事が必要なのだ…」
それが、ルギア様との
唯一の交信手段なのだ。

…でもなぁ…と
ヤドキングの表情が曇る。

「今は、三つの島も
 海や影による世界の崩壊を察して
 緊張状態…
 ルギア様を召喚するための
 三つの宝玉を手に入れたくば、
 これまで以上の力を
 要求してくるであろう…。」

…。
「いいです。
 俺が力を認めてもらい、
 手に入れてきます。」
ジュプトルは頷き、拳を固める。
それなりの決意はしてきた。

ダークライを倒す

その為には
力が必要なのだと分かっている。

ルギア様の力にだけ頼るのではない
…自分自身の力もまた
磨かなくてはならないのだ。


…ワカシャモ…ヌマクロー…
…。

…後の事は…任せた…ジュプトル…

…あぁ…分かってるさ…。


一段と、ジュプトルの目に強い光が宿る


「ふむ、そなた…
 腕っぷしだけはそれなりに
 自信があるようだな…。」
ヤドキングはジュプトルに向かい合い
その様子を見て、小さく息を吐いた。


長年に渡り
いくつもの名のある挑戦者が
ことごとく失敗してきたこの試練…
そしてその挑戦者たちの全てを
見送ってきたヤドキング

その挑戦者たちと、
いま目の前にいるジュプトルを比べる。

「もしかすると、この勇ある者の儀も
 そなたになら…。」
あるいは…?

「必ず、成し遂げます。
 …そうしなければ、
 俺が生き延びた意味がない。」

「ならば
 お主の恐れを知らぬその勇気…
 どこまでやれるか…試してみよ」
ふふっ…

ヤドキングの顔には
いつの間にか
小さな笑みが浮かんでいた。


「“船”は既に手配してある…
 それに乗り、荒れ狂う波間を抜け
 三つの島…その始まりの地
 日の島に向かうが良い。」
試練の詳しい内容については、
道中で改めて案内人が教えてくれるだろう。

「船…?
 船なんてどこに…」
ジュプトルが海の方角を見る。

「お主たちと初めて会った場所…
 そこにもうついている頃だ…」

「…分かりました。
 …では、行ってまいります。」
ジュプトルはヤドキングに
敬意を持った深いお辞儀をし
階段を下りて海岸に向かっていく。

「…願わくば、
 彼の旅路、その勇気に
 海の光明があらんことを…」
ヤドキングは
再び荒れゆく海を見つめながら
そう呟いた。


海岸を歩くジュプトル
その視界に、映るポケモンが一匹

「…?」

海の青に似たコバルトブルーの身体
そしてその背にあるのは灰色の殻

のりものポケモン ラプラスの姿が。

「初めまして。
 あなたが、勇ある者の儀の挑戦者ですね?」

「ジュプトルです
 よろしくお願いします」
頷き、一礼するジュプトル

「私は島までの案内をさせていただく
 ラプラス、と申します。
 では早速まいりましょう
 ジュプトル様
 私の背に乗ってください」

― 勇ある者の試練が、いよいよ始まる。


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