この偏執病的世界の共産主義者に祝福を! (ささささささ)
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偏執病な共産主義者の末路
1話はほぼほぼアルファポリスでのデブリーフィングですよ。
飛ばしても問題はないですが、完璧な市民なら読み飛ばすことなどしませんよね?
「市民、今回のミッションは失敗だ。なんで完璧であるはずのお前らが失敗したんだ?
目の前の画面の中で偉そうに椅子に腰掛ける青いジャンプスーツ、セキリュティクリアランス
「お許しくださいブルー様!今回のミッションの失敗には並々ならぬ事情があったのです!」
「ほう、市民Grimm、それは一体?」
「実はこの中にコミーな反逆者が潜んでいたのです!反逆者による妨害のせいで失敗してしまったのです!」
クソがっ!先手を取られた。いまGrimmのやつはコミーな反逆者と言った。つまり矛先が向くのは確実に自分。このまま行けば俺の処刑は免れないだろう。そうすればクローンナンバーが6な俺は次の自分が送られることはない。クローン・テンプレートは消去され、存在抹消されること間違いなしだ。
「市民Grimm、そのコミーな反逆者とは誰か言ってみろ」
「はい!ブルー様!ミッションの妨害をしたコミーとは市民Rayです!証拠はこちらのマルチコーダーです!この中には市民Rayの反逆的な演説が記録されています!」
セーフ。それはとっくに対処済み、むしろ提出したGrimmの首が飛ぶ代物だ。記録媒体持ちを真っ先に潰しておかない筈がないだろう。
「なるほど、面白いデータだな市民Grimm」
「さあブルー様!反逆者の処刑をお願いします!」
処刑されるのはお前だよ、馬鹿Grimm。こんなアホはいいとして、真に警戒すべきは何を考えているのか黙っている3人。いや、黙っているのは俺以外にも4人だが、リーダーのSmithは幸福薬で
「ああ、処刑をしようか市民Grimm、お前のな」
「ど、ど、どういうことですか!ブルー様!コンピューター様!」
「どうもこうもねぇよ。コンピューター様によれば、この中にお前の共産主義についての演説が入ってたんだとよ。死ね!反逆者!!」
「ZAP!ZAP!ZAP!>>市民Grimm」
Grimmは塵一つ残さず消滅したがまあここは予定通り。問題は次、自分から攻めるべきか擦り付けられる責任を押し付けるか、そのどちらで動くのが最善か。…よし、とりあえずは衛生担当官を犠牲にするように動こう。
「さてと、反逆者は一人始末したが、まさかたった一人の反逆者ごときの妨害で失敗をする訳がないよな?もしそうであるなら、お前らは完璧な市民ではないということになる。まあ6人中4人が反逆者だったというなら理解できるが…」
「勿論です、ブルー様。嘆かわしいことに今回のトラブルシューター内に反逆者が多数潜んでいました。その一人が市民Stellaです。彼女は衛生担当官でありながら不衛生な人物を見落としています」
「その不衛生な人物とは誰だ?」
「市民Hildeです。彼女は告白室に入る前、懐から黒色のペンキを取り出し、おもむろに自身の背中に塗っていました。あぁ、なんという不潔!なんという反逆!リーダーともあろうものが!」
「確かに市民Hildeの背中は汚れているな。市民Stellaなにか申し開きは?」
「私が告白室に入る前まではそのような汚れは存在していませんでしたわ。リーダーは私達に先に告白室に入るように命令していたので、私が入った後にそのような反逆的行為に及んだに違いないですわ。市民Rayが見ていたということは順番的に市民Luxも目撃していますわ。彼は通信記録担当官なので、そのような反逆的行為の瞬間は彼のマルチコーダーでしっかり、ばっちり撮影されてるに決まっていますわ」
「ならば市民Luxは早急にマルチコーダーを提出しろ」
「ブルー様、俺は市民Rayが唐突に市民Hildeに幸福薬を打ち、その上で自分の背中にペンキを塗れと命令しているのを目撃したぞ。だから市民Rayは嘘をついている、よってアイツが反逆者だ」
「ほう、ならば証拠のマルチコーダーを出せ。それともマルチコーダーを出せない理由があるのか?」
「マルチコーダーはミッションの途中でコミーでミュータントな反逆者に破壊されてしまったんだ、ブルー様!だから提出は出来ない、でもアイツが反逆者なんだ!」
「それは本当か?市民Hilde」
「あははははは!幸福幸福幸福幸福です!こうふくー!幸福ぅぅ!こ、う、ふ、く!こーふくー!!!」
「証言はないな。よって市民Luxの証言は証拠として扱うことは出来ない。それに仮に本当であったとしたら、通信記録担当官はそれを撮影するべきだろう。そのために見逃したかもしれない興奮すべき瞬間を再現させる権限を与えている。自費でマルチコーダーを買うなり、どこかから調達するなり方法はあったはずだ。そもそもシーンの取り逃しは反逆、つまりお前はどうあがいても反逆者だ、市民Lux」
「いや、でも、」
「黙れ反逆者!死ね!」
「ZAP!ZAP!ZAP!>>市民Lux」
「ZAP!ZAP!ZAP!>>市民Hilde」
よし、予定とは違うが2人消えた。幸福薬のおかげで身代わりに出来るようになっていたHildeを使ってしまったが、どうせここで使わなければ他の奴に身代わりにされていた可能性が高い。それとクソブルーの言葉から推測するに後1人を処刑しなければ全員が反逆者扱いだ。次はどうするべきか。
「ところで市民Ray、市民Luxの言葉がもし正しければお前も反逆者ということになるが?」
「まさかブルー様が反逆者ごときの戯言に耳を貸すなど!果たしてそんなことがあるだろうか?いや、ない!それに私は、この上なく完璧で、最も幸福な市民であります!コンピューター様に対する反逆など、たとえアルファポリスの天蓋と地がひっくり返ろうとも、コミーでミュータントな反逆者がアルファポリスで支持されようとも、
「いやに大仰だな。まあいい、それで他に反逆者はいないのか?」
なんとかなったか。あと残っているのは装備屋の市民Michaelと衛星担当官の市民Stella、後は幸福担当官の俺だ。よし、ここは下手に動かずに流れに合わせるか。
「もうコミーでミュータントな反逆者はいないのか?それとも全員が完璧な市民ではない反逆者なのか?……おい、さっきから一度もしゃべっていないお前、何かやましいことでもあるのか?だから話さず下を向いているのか?」
よし、矛先はMichaelに向かったか。正直、隊長と忠誠担当官と衛生担当官にしか仕込みが出来なかったから助かった。通信記録担当官のマルチコーダーを破壊したのは十中八九装備屋だろう。あいつは
「偉大なるコンピューター様、ブルー様。わたくしめは市民Rayと市民Stellaがポケットに何かを隠しているところを目撃しました。ひょっとすると、彼らは何か不都合な物を隠し持っているのかも知れません。ぜひ彼らの持ち物を改めてください」
「よし、分かった。コンピューター様、彼らの所持品の検査をお願い出来ますでしょうか」
『市民Arnoldの要請を検討………受諾。命令:市民Ray、市民Stella、不必要な身動きを禁止します。繰り返します。命令:市民Ray、市民Stella、不必要な身動きを禁止します。』
ブルーに話しかけられて顔を上げたMichaelは何故か笑っていた。それも口の端を歪めて。ちっ、あいつに何か仕込まれていたか?デブリーフィングが始まる前に確認をしとくべきだったか。コンピューターの目の前で何かをする訳にもいかないし、これは仕込まれたモノによっちゃあ詰む可能性が高いな。最後にアレに賭けてみるとするか。よし、やるか。
「Ray-R-NFV-6さん、あなたは…………えっ、ちょ、ちょっと待って。あれ、え、あなた日本人じゃないでしょ!」
ここはどこだ?黒く、そして見渡す限り目の前の椅子以外は何もない部屋。いや部屋と呼ぶべきではないかもしれない。そこには壁もなく、天井もなければ天蓋もない。ぼんやりとした白い煙だろうか、白いもやがうっすらと膝辺りの高さまで掛かっているようだ。いや、考えるべきはここの様子についてではない、いま自分がどうなっているかだ。最後に何があった?確か持ち物検査をされたあと…
「ちょっと聞いてる!?あなた何人なのよー!日本人しか呼ばない主義なんですけどー!あとあなたの記録に名前以外なにも書いてないんですけどー!!」
そうだ、持ち物検査で破片手榴弾が見つかったんだったか。Michaelが使ったのか思っていたが、ずっと前からこっちに仕込んでたらしい。そしてそのあと爆発したんだったか。……ならばなぜ生きている?他の反逆者が告白室を襲撃したついでに助けたのか?いや、それはないだろう。俺だったら目撃者はその場で殺す。俺でなくても誰でもそうするだろう。ならなにか?結社が救出してくれたのだろうか?確かに俺はプロパガンダの技能に秀でている。そして市民の「感染」も洗脳もかなりやっているだろう。結社の中でもそれなりの地位に就いていたのは自覚している。しかしそれでも告白室までは救出に来ないだろう。いやしかし…
「ねえ!さっきから水の女神である私が話かけてるのよ!?」
コミュニストによる救出はないな、確実にない。他の結社に救出された可能性もない。コミーを好きな奴なんていない!が口癖なインフラレッドがいた気がする。それぐらいコミーは嫌われている。いや、待て、そんなことより俺は今誰かに話しかけられなかったか?
「あっ、やっと気づいたのね。コホン、私は水の女神アクア、日本で若くして死んだ人の案内をしています。」
恐る恐る横へと目を向ける。そしてそこには青い服を来た女がいた。そう、
「申し訳ありませんブルー様!どうか御慈悲を!ペロペロペロ!!」
俺は全身全霊でブルーの靴を舐めた。
市民、あなたは靴舐めを知らないのですか?
靴舐めは相手の靴を舐めることで媚びを売る技能ですよ。
成功すれば相手に良い印象を与え、便宜を図って貰えたり、粗相を許してくれたりしますよ。
失敗した時はどうなるのか、ですか?
完璧な市民は失敗などしないでしょう。
失敗するのは完璧でない反逆者だけです。
反逆者の末路など考えるだけ無駄ですよ、市民。
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コ「マルクス万歳!レーニン万歳!」
他のゲームは楽しくない。
パラノイアを買いなさい。
(パラノイア【トラブルシューターズ】 裏表紙より)
引かれた。かなり本気で引かれた。どうやら天界には上位者の靴を舐めて媚びへつらう文化が存在しないらしい。天界ではどうやって上の相手を動かすのだろうか?やはり金か、金。全員が秘密技能として賄賂を持っているのか。そこまで来るともはや秘密も糞もないと思うが。
それはさておき、目の前のブルー、否、女神アクアによればここはアルファポリスでも、
女神アクアが「空間とか時間軸とか色々めちゃくちゃになってるじゃない!うわぁぁぁぁぁぁん!仕事がーーー!」と叫んでいたが強く生きて欲しい。そのあと「そうよ!適当な後輩に押し付ければいいじゃない!まあエリスでいいわね!」と呟いていた気もするが。
まあなんにせよそのエリスとやらには頑張って頂きたい。その女神アクアの後輩が異常の修正と調査を頑張れば、アルファポリスの方についても色々と分かるようになるらしい。コンピューターの下から逃げることが出来たためアルファポリスなんぞに戻りたいとは思わないが、今回のミッションのデブリーフィングがどうなったのかについてはぜひ知りたい。具体的にはクソMichaelが結社に処刑されたかどうかとか。
「それで転生先の異世界っていうのは、まあそうね、ラノベとかゲームみたいな感じよ。ほら、魔王が国を脅かしてうんたらかんたらー、みたいなやつ」
「アクア様、私にはそのゲームとやらが分からないです」
「そうね、ゲームっていうのは…」
それにしてもこの女神アクアは素晴らしい。引かれはしたが、おそらく靴舐めが成功したというのもあるのか、聞けば大体のことは答えてくれる。アルファポリスの上位クリアランスどもにも見習ってほしい。なーにがブリーフィングだ、ほとんどミッションの内容については話さないじゃねぇか。靴を舐めても、賄賂渡しても、煽てても、何しても追加情報は少ししか渡さねぇ。ただほんの少し靴を舐めただけで、ここまで細かく説明をしてくれる女神アクアは控え目に言って最高だ。心の中でも様付けしたっていいレベルだ。
「で、異世界に行く時なんだけど、折角送り出した人がすぐに死んじゃうのは問題だからひとつサービスしているのよ。転生特典、つまりチート……ええと、まあすごい力が貰えるって感じでいいわ。で、これがその貰えるすごい力の一覧よ」
渡された冊子を見る。冊子にある特典の能力系は《怪力》だの《超魔力》だのなんかすごいということだけは分かるが実感は全く湧かない。神器系の特典も便利そうなことは分かるが、R&Dの製品のようにすぐ爆発するみたいな罠がありそうで正直気が乗らない。これなら
「アクア様、アクア様!突然ですが平等ってどう思います?少し自分の思想に悩んでしまって…」
「平等?まあいいんじゃないかしら。アクシズ教はどんな考え、どんな趣味嗜好であろうとも、悪魔とアンデッド以外だったら赦すわ」
「なんと!アクア様ならそう言ってくださると思っていました!いやーありがとうございます!それででしてね、ここだけの話なんですが偉大なるアクア様にお聞きなさって欲しいことがありまして…」
「偉大なる…偉大なる…いいわよ!水の女神アクアの名において、汝が話をすることを赦すわ!」
「本当にありがとうごさまいます、寛大なるアクア様!それでですね、話なんですけど…」
一端言葉を区切る、煽てて上手くこちらの場に引き込めた。この話を聞くのに
「アクア様、平等って素晴らしいと思いませんか?平らで等しい、つまり高い低いがなく完全に同一、全てにおいて皆が同じように振る舞える。身分もなく格差もなく貴賤もなく君臣もなく貧富もなく差別もなく性差もなく尊卑もなく差異もなく主従もなく社会的地位もない!完全なる平等とは素晴らしいと思いませんか?全ての人民が互いのために団結し、協力し、いがみ合うことなく社会が回る。そんな世界についてどう思いますか?なんて感動的な社会だと思うでしょう?かつて尊きマルクスはこう唱えました。労働者階級の人民、彼らプロレタリアートが、彼らを搾取する憎きブルジョワジーに反旗を翻し、悪たるブルジョワジーの手から政治的権利を奪い、そして工場などの生産手段、それを社会全体の財として共有すれば、いずれ階級社会は滅びると。そう!この忌々しく、人々を分け隔てる、不要で無用で非生産的な格差が消滅するのです!そうして初めて、私達は知的生命体らしく生きることができるとは思いませんか?ええ、アクア様。日本という枠組みよりも遥かに大きい、地球という枠組みがあるそうですね。そしてそこには沢山の問題がある、そうおっしゃっていましたね。でもそれをこの共産主義は解決できるんです!そう全てが等しく分け与えられるこの共産主義ならば!不平等もなく不公平もなく不均一もなく不条理も不合理も不公正も不均等もない、この、共産主義なら!この汚く、穢れ、薄汚れ、汚染され、腐敗し、悪臭を漂わせる、ゴミ同然で、無価値で、悪質で、存在するに値しない唾棄すべき社会、それすらも美しく豊かに華々しく豪華に優雅で素晴らしい社会に作り替えることができるのです!これはアクア様が不満を述べていた天界でも同様のことが言えるでしょう!共産主義が掲げる平等!真の平等!そう!これこそが私達が真に望むべきことではないでしょうか、同士アクア!」
共産主義を受け入れろという説得……成功。共産主義を素晴らしいと思わせる暗示……成功。コミュニストプロパガンダ……成功。詐術か暗示のどちらかが失敗してもいいように二重で掛けたが両方成功か。これならば要求はほぼ確実に通るな。
「平等って素晴らしいわね!同士Ray!」
「ええ、そうでしょう、同士アクア」
俺は同士アクアの前に右手を突き出す。
「握手をしましょう、同士アクア。コミュニストである証明としての握手の方法を教えます」
同士アクアは俺の手を握った。そして俺はその手を上下に3度振り、2回強く握りしめた。次は宣誓だがここにも異世界にもコンピューターはいない。まあこれは教えなくてもいいか。
「同士アクア、これがコミュニストであるサインです。これなら周りに気づかれることなく、共産主義者であることを相手に伝えられるでしょう?」
「ええそうね、同士Ray。ところで特典は選び終わったかしら」
「その特典なんですが、こちらが頼んだものをお願いするということは出来るでしょうか?アルファポリスで利用していた道具を用意して欲しいのですが…」
「そのくらいだったら大丈夫よ。それで何が欲しいのかしら?」
「クローンタンクにメモマックス回路を取り付けたものを用意して貰えるでしょうか?それと管理が大変なので管理もそちらでお願いできませんか?あともう1つお願いしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「くろーん?タンク?の用意ね。分かったわ。でもエリスにアルファポリスの方まで調べさせてからになるから一週間ぐらい時間は掛かるわよ。それともう1つってなにかしら?」
「ええ、それなんですが、私はアルファポリスの方で一時期日常的に薬を服用していました。なのでアルファポリスの物を自由に取り寄せるというのを追加の特典として用意して欲しいのですが」
「薬なら持っていかなくても大丈夫よ。体に問題があるなら治してから送ってるわ。それと特典を2つ持たせるのは無理よ。私が怒られちゃうわ」
「いえ、薬は精神的な物なので体の方を治してもらっても必要なんです。なのでお願いします!」
「そう言われても出来ないわよ。私が怒られちゃうじゃない。規則を破ると減給されたりして色々大変なのよ」
「そこをなんとか!ほら私、アルファポリスにいたせいで他の転生者よりも異世界についての理解が劣っているでしょう?知識だって重要な道具です。それが私にはないということは平等ではないということになってしまいます、同士アクア!」
「そうね、確かに平等ではないわね」
「なので特例としてお願いします!」
ここまで来て詐術や靴舐めで交渉するのは失敗した時が怖い。土下座をしながら頼み込みつつ、平等の理念でごり押せばなんとかなるだろう。
「平等のため、どうかお願いします!!」
「分かったわよ…2つともエリスに用意させるわ。アルファポリスの道具の利用って曖昧にしておけばなんとかなりそうね。それと両方の用意するなら12日は掛かるわよ」
「ありがとうございます、同士アクア!」
「それじゃあ異世界に送るわよ。同士Ray、あなたが数多いる勇者候補の中から魔王を討伐することを祈っています。」
最後はなんか真面目になったな。あっ、やべ、共産主義の布教を頼むのを忘れてた。ヤバい、間に合うか?
「最後に同士アクア!同士の知り合いにも共産主義を教えてあげてください!」
それだけ叫び、俺の体は光に包まれた。
「おお…おお……」
「あの、ゼスタ様。なに震えてるんですか?正直見てて気持ち悪いですし、掃除の邪魔なので引っ込んでてくれませんか?」
女性は箒で白髪の初老の男を掃きながら言った。いつもであればその男は喜び感謝するのだが、その日は違った。
「おお…なんと……」
「あーゼスタ様?ゼスタ様?」
女性は男に呼び掛けながら箒でつつく。もっとも、つつくといっても実際には箒の穂先で顔を軽くはたいているのだが。
「ゼスタ様?大丈夫ですかゼスタ様?」
女性のつつきは激化していく。穂先で顔をぶん殴り、箒を槍のように構えて柄の先端で乱れ突きを放ったり、箒を剣のように振り下ろしたり、ありとあらゆる攻撃を放っていく。しかし、いつもであれば興奮のあまり絶頂するはずのゼスタは無反応。いや、感極まった顔をし、涙を流しているのだが攻撃には無反応なのだ。
「みんな!ゼスタ様が…ゼスタ様が…ゼスタ様がおかしい!」
女性は慌てて叫ぶ。しかし返ってきた声は非情だった。
「ゼスタ様がおかしいのはいつものことだろ」
「おかしくないゼスタ様などゼスタ様じゃない」
「おかしいからこそゼスタ様だ」
「ゼスタ様がおかしいことを気にするなんてエリス教徒か?」
誰もがゼスタは異常なのが普通であると答える。そう、おかしいというのはゼスタに対する一般認識。なにがどうおかしいのかを説明して初めてやっと異常なゼスタの更なる異常が伝わる、常軌を逸した異常者、それがゼスタであった。
「違うのみんな!ゼスタ様を箒で掃いても、突いても、殴っても、肛門に刺しても、何をしてもゼスタ様が勃起しないの!」
「「「「「な、なんだってー!」」」」」
そもそもそれに興奮することがおかしいことには誰一人気づかず、ただゼスタの異常に驚く。そして、彼らは周りにそれを知らせながらゼスタのいる場所へと集まっていった。
「ゼ、ゼスタ様!どうなされたんですかゼスタ様!もうお尻には興味がなくなってしまったんですか!」
少年はゼスタに縋り付く。そのゼスタの肛門には3本の箒が刺さっていた。
「ゼスタ様……もうSMプレイには興味をなくしてしまったのかしら…ふふ、ならもう一度教えてあげましょうか?」
ゼスタの耳元で囁く艶かしい肢体を持つ女性。そのゼスタの顔には蚯蚓腫れが出来ていた。
他にも数々の老若男女がゼスタの下に集まり、そして思い思いの行動をしながら、おかしくなってしまったゼスタに言葉を掛ける。
「おお……分かりました、アクア様」
このタイミングでゼスタが「おお」と「ええ」と「なんと」以外の言葉を発した。そしてゼスタは目を開けて言った。
「『汝、共産主義について学びなさい。平等について理解することは素晴らしいことです』、これが神の…アクア様の御告げです。皆さん、共産主義について学びましょう」
海の様に広く寛大な教義で、様々なモノを受け入れてきたアクシズ教、そしてそのアクシズ教の本拠地アルカンレティア。アクシズ教が崇める神によってもたらされた異世界の赤き一滴の雫はどのような化学変化を起こすのか。それは神のみぞ、いや、神すら分からなかった。
市民、コミーは共産主義について深く知っている訳ではないですよ。だから例え共産主義についてコミーが捏造していたとしてもパラノイアではセーフです。GMが認める限りは。
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