ゲームの中でコスプレしても問題ないよね? (メンツコアラ)
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ニューゲーム

前に投稿していた物のリメイク…て言っても、ほとんど変わりません。
それではどうぞ。


 白峯 龍騎には理沙という一つ年下のの妹がいる。父の再婚相手の子供ゆえ、血の繋がりは無いが、仲は良い方だろう。勉強を教えたり、一緒にゲームをやったり、一緒の布団で寝たりと……まあ、そんな感じだ。

 

 なに? いい歳した兄妹が同じ布団で寝るのはおかしいだと? 確かにそうかも知れないが、それを本人たちに言うと、

 

『妹に一緒に寝よ?、って頼まれて断る兄がいるか?』

 

『兄妹なんだし、別にいいでしょ?』

 

 こんな二人に両親も若干心配しているが、血の繋がりは無いし、別に大丈夫か、と静観しているのが現状だ。

 

 

 

 

 とまあ、こんな仲のいい二人なのだが……今日は理沙がかなり荒れていた。

 

「なんで龍兄(たつにぃ)だけなのッ!? 納得出来ないんですけどッ!」

 

「仕方ないだろう? 成績を落としたお前が悪い」

 

「だからって、龍兄だけNewWorld Onlineするのズルくないッ!?」

 

 『NewWorld Online』。通称『NWO』。ほんの少し前に発売されたVRMMOゲームだ。その人気は凄まじく、予約しても買えるか分からないほどだった。

 ゲーマーである理沙が絶対に面白いと言うので共にこのゲームのプレイしようと兄妹仲良く買ったのだが、ゲーム三昧で成績を落とした理沙に母親が噴火。結果、理沙は成績が戻るまでゲームを御預けになったのだ。

 勿論、龍騎もそれなりに趣味人なのだが、彼は所謂『器用貧乏』というやつで趣味も勉強もそつなくこなす為、成績は中の上である。

 

「ああぁもうッ! わーたーしーもしーたーいーッ!」

 

「我が儘言っても結果は変わんないぞ。しっかりと勉強しなさい」

 

「……龍兄は今から何するの?」

 

「無論、NWOだ。せっかく買ったのにプレイしないのは損だろ?」

 

「酷いッ! 可愛い妹が必死に我慢しているというのにッ!」

 

「自業自得という言葉を知っているか、マイシスター。俺はお前の邪魔にならないように自室でしてくるから、すぐに追い付けるように勉強がんばれー」

 

「うわぁぁぁんッ! 龍兄の裏切り者ぉぉぉッ!」

 

 理沙の泣き言を聞きながら部屋を去り、自室に入った龍騎は早速ハードを起動させ、ゲームを始めていく。

 

「初期設定完了、と……それじゃあ、早速ダイブ開始ッ!」

 

 ハードを装着し、電脳世界へダイブする。

 意識が引っ張られるような感覚を楽しみながら、修まったところで目を開けてみるとそこは既にゲームの世界だった。と言っても町ではなくてキャラメイクの場所だけど。

 

「それじゃあ、早速ネームを考えるか」

 

 理沙が後から始めるのを考えると分かりやすい名前がいいと判断した龍騎は自身の名前を弄って『タッツン』というキャラ名にした。

 次に初期装備だが、剣に大盾、杖に弓、斧とか。意外に種類がある。

 

「さて、どうしたものか……」

 

 それなりに運動神経は良い方だが、剣とかは使ったことがない。大盾は癖が強そうに見え、慣れるのに時間が掛かるだろう。PS(プレイヤースキル)を考えると遠距離系の弓や杖になるんだが───ん?

 

「これって、銃か?」

 

 偶然にも視界に入ったそれは男のロマンとも言える武器『銃』だった。

 リロードの際、銃弾によってMP消費が変化するが、高い攻撃力を誇る武器。両手銃、片手銃の二種類があって、どちらも弓系に分類される。

 その説明に『あれ? これってファンタジー系のゲームだよね?』と疑問符を浮かべながらもそれを選択する。

 

 次にステ振りだが、先程の説明文を思いだし、龍騎はMPを少し多めにして振ることにした。

 

 

===========

 

 NAME:タッツン

 

  Lv.1

  HP:35

  MP:30《+10》

 

  STR:5

  VIT:10

  AGI:20

  DEX:25《+5》

  INT:10

 

 装備

  頭:空欄

  体:空欄

  右手:初心者の両手銃《DEX+5、MP+10》

  左手:装備不可

  足:空欄

  靴:空欄

  装飾品:無し

 

 

 スキル:無し

==========

 

 

 ステ振りが終わると、次はキャラの髪色と瞳の色を変更するかどうか問われる。リアル割れを防ぐ目的で、念のために髪色を銀髪にし、瞳も赤く設定する。これで漸くすべての設定が終了した。

 

「それじゃあ───ゲームスタートッ!」

 

 

 

 

 

 

●●●●●●●●●

 

 

 

 

 

 

 小鳥の囀りや人々の話し声が聞こえる。目を開けてみると、龍騎改めて、タッツンは活気溢れる街の中心にある噴水の前に立っていた。

 

「おお……流石、今流行りのゲーム。賑わってるなぁ」

 

 何処を見回しても人、人、人。服装もファンタジーの世界らしい物ばかり。

 いよいよ始まる新世界での冒険にドキドキ10%、ワクワク90%なタッツンは早速モンスターを狩りに向かう。

 

(それにしても───)

 

 ふと視線を横にずらしてみれば、すれ違う人々が此方を……いや。正確にはタッツンが肩にかけている銃を見ていた。

 

(良く見れば、銃を装備している人が居ないけど……まさか、不遇装備扱いだったりする?)

 

 向けられる視線に疑問符を浮かべながらも店でMP、HPポーションを買い揃え、森へ向かうタッツン。

 

 

 

 

 

 

 

 暫くして、タッツンは漸く視線の理由を理解した。

 

「なるほど。これは不遇装備だな」

 

 この銃、どうやら射った時の反動でブレが生じるらしく、先程からモンスターに向けて射撃するが、その反動で思う様に当たらない。しかもリロードに入ると何も出来なくなってしまい、敵に近づく隙を与えてしまう。

 

 モンスターから逃げ、草木に身を潜めるタッツン。一旦町に帰り、装備を買えるべきかと頭を悩ませるが、現在の所持金は1354G。他の武器を買う余裕なんて無く、諦めて銃を使い続けることにした。

 

 それから銃で射ち続けること一時間。タッツンの頭の中に音声が流れた。

 

『スキル【狙撃補正 Ⅰ 】を取得しました』

 

 

「ん?」

 

 一旦射撃を辞め、獲得したばかりのスキルを確認してみる。

 

 

『スキル【狙撃補正 Ⅰ 】

 狙撃する際のズレを減らす。

 

取得条件

 一定時間内に両手銃、片手銃のどちらかで銃弾を100発消費する』

 

 

「ズレを減らす?」

 

 試しに20メートルほど離れた場所で呑気に草を食べているリンゴウサギを射ってみると、先程なら外れていたものが見事に命中……とまではいかないが、ズレが確かに小さくなっていた。

 

「と言うことは───」

 

 タッツンは銃を射ち続ける。すると時間が経つに連れて、彼の狙い通りに強化版スキルが手に入っていく。

 

 

『スキル【狙撃補正 Ⅱ 】を取得しました』

 

 

『スキル【狙撃補正 Ⅲ 】を取得しました』

 

 

『スキル【狙撃補正 Ⅳ 】を取得しました』

 

『スキル【狙撃補正Ⅳ】が【狙撃手】に進化しました』

『スキル【鷹の目】を取得しました』

 

 

『スキル【狙撃手】

 狙撃の際に生じるズレを無くし、対象を見ることで着弾予測を確認することが出来る

 

取得条件

 【狙撃補正Ⅳ】を取得した状態で一定時間内に両手銃、片手銃のどちらかで銃弾を200発消費する』

 

『スキル【鷹の目】

 MPを消費し、対象を拡大して見る。透視も可能。

 

取得条件

 一定時間内に両手銃で一定距離離れたモンスターを50体撃破する』

 

 

「お、嬉しい誤算来たッ! 早速使ってみるか───【鷹の目】ッ!」

 

 銃を構え、スキルを発動してみれば、遠くのモンスターや木の実、プレイヤーがはっきりと視認でき、同時に着弾予測点と思われる蛍光レッドの×印も確認できた。試しにとタッツンが引き金を引けば、弾丸は×印の中心に吸い込まれるように飛んでいき、見事ターゲットに命中する。頭を狙えば、皆等しく一撃必殺(ワンショットキル)

 

「中々良い武器を選んだな。理沙にも教えよぉ」

 

 一通り遊んだタッツンはログアウトボタンを押し、ゲームを終了するのだった。

 

 

 

 




御読了、ありがとうございます。
感想、評価、お気に入り登録は作者のヤル気をアップさせてくれるので、心からお待ちしております。


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初めてのダンジョン

連続投稿。


 ゲーム開始から三日が経過し、現在のタッツンのステータスはこうだ。

 

 

 

==========

 

 

NAME:タッツン

Lv.15

 HP:75 

 MP:139《+15》

 STR:23

 VIT:21《+6》

 AGI:33

 DEX:37《+15》

 INT:12《+7》

 

装備

 頭:レザーハット

 胴:革の鎧

 右手:アイアンショット《DEX+15》

 左手:装備不可

 足:革のズボン

 靴:アイアンシューズ  

 装飾品:フォレストクインビーの指輪《VIT+6》

     ゴーグル《INT+7、MP+15》

 

スキル:【属性弾・火】【属性弾・水】

    【属性弾・風】【属性弾・岩】

    【属性弾・光】【属性弾・闇】

    【パワーアックス】

    【パワースマッシュ】【バーンスマッシュ】

 

    【狙撃手】【鷹の目】【気配察知Ⅲ】

    【気配遮断Ⅲ】【体術Ⅲ】

    【リロードⅣ】【静音Ⅱ】

    【両手銃の心得Ⅲ】【片手銃の心得Ⅱ】

    【斧の心得Ⅰ】【棍棒の心得Ⅰ】

    【一撃必殺】【採掘Ⅱ】【採取Ⅱ】

    【料理Ⅳ】【麻痺耐性・小】

    【毒耐性・小】

    【武具達人】【跳躍Ⅰ】

 

 

==========

  

 

 スキル【一撃必殺】は低確率でクリティカル率とクリティカル威力を三倍にするスキル。取得条件は同じ場所を一ミリのズレも無く射ち続けること。タッツンはこれをそこら辺に生えている木を射ち続けることで取得した。

 ……さて、それよりも注目するべきなのは他のスキル。このステータスを見て、多くの者は『何故銃使いなのに斧や体術系のスキルを持ってるの?』と疑問符を浮かべるだろう。実は彼、両手銃以外にも斧や片手銃、体術で戦っているのだ。

 事の始まりは数日前、モンスターを狩っている途中にMPを切らしたタッツンは回復ポーションを持っていなかった為、弾切れになった長銃を棍棒代わりにして狩り続けてみた所、スキル【棍棒の心得Ⅰ】を取得。それ以降、タッツンは両手銃をメインに、斧、片手銃、棍棒を状況に応じて使い分けるようになったのだ。

 それによりゲットしたスキルが【武具達人】。武器によってステータスのどれかに50%の補正がかかるという、名前はともかく便利なスキルだ。

 

 

 

 そんなスキルを手に入れた彼は今日もモンスターを狩りに行くために、街中にある生産職プレイヤーの店を訪れていた。

 

「イズさん、いますか~?」

 

「いるわよ。今日はどうかしたの?」

 

 カウンターの奥から蒼い長髪の女性プレイヤー『イズ』が姿を現す。

 タッツンは斧のメンテを頼みたいとストレージから自分が使っている『アイアンアックス』を取り出した。

 

「オッケー。ついでだし、銃のメンテもする?」

 

「なら、お言葉に甘えて。今日は北東の森を散策するつもりなんで念入りにお願いします」

 

「だいたい5分くらいで終わると思うから」

 

 タッツンから武器一式とドーナッツを受け取り、メンテに取りかかるイズ。待ち時間の間、タッツンはイズとお喋りをすることにした。

 

「そう言えば、妹さんとは仲直り出来たの?」

 

「何とか。一週間一緒に寝るのと今度の休み、デートに連れていくので許して貰えました」

 

「ちょっと待って? 一緒に寝る? 妹さん、今幾つ?」

 

「俺と一つ違いですけど?」

 

「……ごめんなさい。ちょっとゲームをログアウトするわ。警察に貴方の事を通報しなくちゃ」

 

「なんでッ!?」

 

「冗談よ、冗談。でも、年頃の兄妹が一緒に寝るのっておかしくないかしら? まさかとは思うけど、手を出したりしてないわよね?」

 

「手を出す? いやいや。俺たちは普通の兄妹ですよ。そんな漫画みたいな展開あるわけ無いですよ」

 

「普通の兄妹なら一緒に寝ないと思うわよ……と。はい。メンテ終わり」

 

「ありがとうございます。これ、代金と新作のドーナッツです」

 

「あら~美味しそうじゃない。どうせなら店でも開いちゃえば?」

 

「一応考えてますよ。それじゃあ、行ってきます」

 

 

 

 

 

 

●●●●●●●●●●

 

 

 

 

 

 

 静かな森の中で乾いた音が響くと同時にモンスターが撃破される。立て続けに鳴り響く音に比例して、次々と撃破されるモンスターたち。音源はただ一人、二丁拳銃で舞うように引き金を引き続ける。

 

「これで最後……ッ!」

 

 タッツンの放った弾丸が蜂の頭部を撃ち抜き、蜂はエフェクトとなって姿を消す。【気配察知Ⅲ】で周りのモンスターを一掃したことを確認した彼は二丁拳銃を仕舞い、再び森の奥へ進み始めた。

 

(やっぱりソロだとキツいな。パーティー組んでもいいけど、不遇扱いの銃使いと組むような物好きは居ないか)

 

 別に寂しいって訳じゃ無いんだからね、と誰に需要があるかもわからない言い訳をしながらタッツンは歩み続けるが、

 

 ────ズボボォッ!

 

「は───はにゃあああああああッ!!?」

 

 突如出現した謎の落とし穴。彼は回避することも出来ずにそのまま穴の底へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一分程経っただろうか? 何とか着地に成功……という訳にも行かず、頭から落ちて犬◯家のように腰から下を残して地面に突き刺さってしまい、何とか脱出に成功したタッツンは現状を確認する。

 

「いつつ……何処だ、ここ?」

 

 遥か上に見えるのは自分が落ちたと思われる穴。自身のすぐ横には、明らかに怪しげな一本の横穴があるだけ。

 

「跳躍を使いながら壁を蹴って上るって方法もあるけど、先にMPが尽きるな……仕方ない。こっちに行くか」

 

 何が出てきても良いようにストレージからアイアンメイスとバックラーを装備し、横穴の奥に進んでいく。だが、どういう訳か、モンスターが現れる事は無く、暫く歩いた所で大きな扉が姿を現した。

 

「……まさか、ボス部屋?」

 

 いやいや。そんなまさか、とマップで自分の現在地を確認してみるのだが、そこは紛れもなく立派なダンジョンだった。

 

「《戦虎の洞穴》ねぇ。情報が一切無いってことは新発見のダンジョンかッ!?」

 

 それが分かった瞬間、誰もクリアしていない未知の存在にタッツンの気分は高揚する。クリア出来れば、ユニーク装備が手に入る確率が高い。

 すぐさま武器やHP、MPをチェック。問題ない事を確認し、武器をメイスから両手銃に変更。意を決して扉を開ける。

 

 

 

 

 

 

 そこは何もない空間だった。あるのは四方を囲む岩壁と洞窟の暗闇を照らす光る苔。自分の考えすぎだったか? そう思ったタッツンが前に一歩進んだ……その瞬間だった。

 突如として、部屋の中心に巨大な火柱が立ち上がる。その火柱の中でソイツは鋭い眼光を見せ、雄叫びを上げた。ガキンッと牙を鳴らし、猛虎は焔を払い、その姿を見せた。

 

 焔を携えた尾。苔の光を反射する美しい毛並みとその身を守る蒼の鎧。凛々しく、雄々しく輝く黄金の双角。その眼光は正しく戦国の世を駆け抜けた武将の如し。

 

 初めて対峙するボスモンスターに額から冷や汗が流れるのが感じる。それほどまでに、そのボス……『戦国猛虎』の迫力は凄まじい物だった。

 

「これ、初心者が挑んでいいダンジョンじゃないだろ……ッ!」

 

 だが、逃げはしない。

 タッツンが武器を構えれば、戦国猛虎は雄叫びを上げ、襲い掛かってくる。今まさに戦いの火蓋が切って落とされたのだ。

 

 

 

 

 虎のモンスター……『戦国猛虎』は雄叫びを上げ、タッツンに襲いかかった。

 【跳躍Ⅰ】を使い、横に飛んで回避したタッツンは挨拶代わりに引き金を引く。放たれた銃弾はまっすぐ戦国猛虎に命中するが、表示されているHPバーは8ミリ程しか減っていない。

 

「だったら──【属性弾・水】ッ!」

 

 火には水。その考えから放たれた水属性の弾丸は僅かとはいえ、先程の弾よりも十分な効果を見せた。

 

「MPポーションもあるし、このまま押しきれたらいいんだけど───」

 

 だが、現実はそう甘くはない。戦国猛虎の双角に稲妻が走り、次の瞬間、タッツンに向かって雷炎が放たれた。タッツンは先程と同様、【跳躍Ⅰ】を使い右に飛ぶのだが、それを読まれていたのか、戦国猛虎の鋭利な爪がタッツンを襲った。

 

「が───ッ!?」

 

 ガクッと減っていくHP。何とか体勢を建て直したタッツンはすぐさまHPポーションで回復し、武器を斧に変更。【武具達人】によりSTRに50%の補正が掛かった。

 またも飛び掛かってくる戦国猛虎。タッツンはその動きに合わせて体を捻り、上手く懐に入り込むとカウンターとして大斧の一撃を腹に容赦なく繰り出した。

 

「お返しだッ! 【パワーアックス】ッ!」

 

 強力な一撃が戦国猛虎の防御の薄い場所に命中し、HPを先程の2倍ほど削る。怒ったのか、戦国猛虎は雄叫びを上げ、雷炎を乱射。タッツンは武器を二丁拳銃に変更して、AGIに補正。上昇したスピードで雷炎の隙間を縫うようにかわし、【属性弾・水】を戦国猛虎に数発撃ち込む。両手銃程の攻撃力は無いにせよ、連射性はこちらが上。先程よりも早いペースでHPが削れていくのを確認出来る。

 

「ボスだから結構ヤバいのを覚悟してたけど……」

 

 実際に戦ってみれば、予備動作が大きく、動きもそこまで早くは無い。攻撃力は高いが、それさえ気を付ければ十分対処できる。強い事には強いが、それでもボスと呼べるほどではない。

 その事から考えられる可能性はいくつかある。

 単純に弱いモンスターなのか。

 本当はボスではなく、真のボスモンスターが奥で待ち構えているのか。

 それとも───

 

「出来ればその可能性だけは無いと思いたいんだけど───」

 

 だがしかし、そんな時に限って物事は当人の起こってほしくないと願う方向に進んでいく。

 

 

 

 戦国猛虎が雄叫びを上げた。攻撃かと身構えるが、次の瞬間にタッツンが目にしたのは攻撃ではなく、天井を砕き、天から落ちてきた一つの炎。

 そこから姿を現したのは全身から刃を生やした黒鎧を纏う獅子。

 新たなモンスターの登場に驚くタッツンだが、一対多はまだ想定内。気持ちを切り替えて挑もうと武器を構えるのだが、そこから更に彼の予想外の事が起き始める。

 

 咆哮する猛虎と獅子を業火が包み、二匹は猛炎の球体となって天に舞い上がったかと思えば、二つの炎球は宙でぶつかり、一つの焔となって地面に落ちてくる。

 焔が霧散し、そこから姿を見せたのは獅子の黒鎧を身につける戦国猛虎……いや。刀将猛虎だった。

 

 

 

「よりによってパワーアップとか、ふざけんなッ!」

 

 想定した中で嫌な可能性の一つが当たり、悪態をつくタッツンだが、逃げることは出来ない。

 まずはどれ程のものか知るために先程と同様、【属性弾・水】を放つのだが、命中してもHPの減りを確認することが出来なかった。

 

 お返しだ、と言わんばかりに刀将猛虎が雷炎と共に無数の火炎弾を放ち、同時に召喚された焔で象られた三頭の寅がタッツンを襲う。

 

「いやッ! いくらなんでも鬼畜過ぎるだろッ!!」

 

 弾幕の密度も違えば、威力も違う。その光景は例えるなら焔の嵐。しかも、刀将猛虎は時折放ってくる破壊光線を放ってくる。

 立ち止まれば、すぐさま火だるまになること間違いなし。攻撃する暇があるのなら、死にたくないのなら逃げ続けるしかなかった。

 

「難易度上げすぎだろぉぉぉぉッ!?」

 

 右へ、左へ、時には跳び跳ねて、時には斧でガードして、とにかく回避だけに専念し続ける。隙はないか、何とか攻撃出来ないかと集中力を高める。

 

 だが、いくら集中力を高めようとちょっとした切っ掛けで人の集中力は切れる。

 

 5分くらい避け続けた時だろうか? ピロリンッと脳内にスキル獲得のアナウンスが流れる。それがタッツンの意識を引き寄せ、集中力も途切れてしまう。

 

(しま───)

 

 気づいた時には既に遅し。足元にあった石ころに躓いてしまい、火炎弾の一つがタッツンに直撃してしまう。

 たった一撃で2/3ほど削れるHP。

 刀将猛虎はトドメと言わんばかりに咆哮と共に雷炎を纏った強力な破壊光線を放ち、タッツンの視界は白く染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 必殺の一撃によって大きく抉られた地面。それを一瞥した猛虎は鎧を解除し、召喚した炎寅を消してその場を去ろうとする。

 

 ───だがしかし、

 

「───【パワーアックス】ッ!!」

 

 猛虎の脳天を予想外の一撃が襲う。見れば、猛虎の一撃で死んだ筈のタッツンが大斧を手に居るではないか。

 

(まさか、手に入れたばかりのスキルを早速使うことになるとは思わなかったけど、これで漸く勝つ道が見えて来たッ!)

 

 

 

『スキル【緊急回避】

 相手の攻撃を低確率で自動回避する。回避した後の移動先はランダム』

 

 

 

 自動的に発動された【緊急回避】で戦国猛虎の頭上数メートルに移動したタッツン。

 彼の放った、自身の中で最も攻撃力のある一撃は落下の勢いと脳天に命中した事、更に【一撃必殺】によって大きなダメージを与えることが出来た。

 

(次はないッ! ここで倒すッ!!)

 

 地面に着地した彼は二丁拳銃に切り替え、一気に肉薄。すぐさま武器を斧に変更し、足に【パワーアックス】をお見舞。よろついた所を狙ってもう一度【パワーアックス】を繰り出し、横腹を大きく抉り取る。その瞬間、またも【一撃必殺】が発動。派手に飛び散るダメージエフェクトに確かな手応えを感じる。

 

 悲鳴を上げる猛虎は暴れまわるが、大斧を盾にして被ダメージを回避。耐久限界を迎え、大斧が壊れてしまったが、今はそんな事を気にしている場合ではない。

 猛虎は怒りを込めた眼光を向け、その双角に雷炎を纏わせる。

 距離を置いたタッツンは両手銃を装備。

 狙うのは戦国猛虎の頭部。

 スキルをフル活用し、この一発に賭ける。

 チャンスは一回。

 外せばHPの保証はない。

 

 戦国猛虎が突進してくる。

 残り距離7m……6……5……4───

 

 

「───今ッ!」

 

 

 

 引き金が引かれ、一発の弾丸がまっすぐ猛虎の眉間に飛んでいく。

 猛虎は避けず、その身に纏う炎で焼き消そうとするが、タッツンが放ったのは【属性弾・光】。光を焼く事など不可能であり、弾はそのまま猛虎の眉間を貫く。

 ほんの一瞬。されど、タッツンにとっては永遠にも思える時間。

 

 猛虎の体がタッツンに迫り、その双角が彼の体を貫かんとする。

 

 だが、その直前……タッツンの体と猛虎の双角が触れるまで僅か数ミリとなった瞬間、猛虎の姿は光となって消滅した。

 目の前の出来事に呆けるタッツン。しかし、彼が猛虎に勝ったのだと理解するのに、そう時間はかからなかった。

 

「~~~ッ! よっしゃああああああああああッ!!!」

 

 歓喜の叫びと共に地面に大の字になって倒れる。

 初めてのダンジョンで初めてのボス攻略。色々改善すべき点はあったが、それでも自分なりによく勝てたと誉めてやりたい気持ちで一杯だった。

 

 

 ピロリンッ♪

 

『レベルが29に上がりました』

 

『スキル【大物喰らい(ジャイアントキリング)】を取得しました』

 

『スキル【戦国猛虎】を取得しました』

 

『スキル【一撃必殺】が【戦国猛虎の魂】に進化しました』

 

 

「お? 新スキルか?」

 

 体を起こし、パネルを操作して獲得したスキルを確認する。

 

 

 

 

『スキル【大物喰らい】

 HP、MP以外のステータスのうち、4つ以上が戦闘相手よりも低い値の時にHP、MP以外のステータスが二倍になる

 

取得条件

 HP、MP以外のステータスのうち、4つ以上が戦闘相手であるモンスターの半分以下のプレイヤーが、単独で対象のモンスターを討伐すること』

 

 

『スキル【戦国猛虎】

 MPを消費することで戦国猛虎の魔法を使用することが出来る。ただし、このスキル以外でのMP消費量が3倍になる

 

取得条件

 戦国猛虎を初回戦闘かつ、単独で撃破すること』

 

 

『スキル【戦国猛虎の魂】

 HP、MP以外のステータスが一つでも戦闘相手より低いとき、30%の確率でVIT無視の大ダメージを与えることが出来る

 

取得条件

 【一撃必殺】を取得した状態で戦国猛虎を討伐すること』

 

 

 

「【大物喰らい】はちょっと微妙だなぁ……ステ変動系のスキルは持ってるけど、相手によって変化するんじゃ逆にやりづらい。だけど、他の二つは使えるな。一つはMP消費が難点だけど……」

 

 しばらくはMP強化かなぁ、と今後の事を考えるタッツンだが、そんな彼の前に大きな宝箱が現れた。

 間違いなく、クエストクリアの報酬だろう。一体どんな物だろうと嬉々として宝箱に近づき、その蓋を開けてみる。

 

「おおおおぉぉぉぉぉ─う?」

 

 歓喜の声を上げたかと思ったら声のトーンが変わり、最後に疑問符を浮かべているタッツン。

 その原因は宝箱の中に入っているアイテム。

 

 中に入っていたのは武器と防具だった。

 

 

 

『多重砲身変換銃【虎皇】《MP+70、STR+20》

 【砲身変換(チェンジリング)

 【破壊不可】

 【スキルスロット空き有り】』

 

 

『戦国猛虎の装い《HP+50、VIT+90、

         STR+80、AGI+55、

         DEX+30、INT+10》

 【猛虎顕現】

 【纏刀将鎧】

 【破壊成長】

 【他装備不可】

 スキルスロット:2

 

※この装備を纏っている限り、頭、脚、靴の装備を装備することは出来ない』

 

 

『スキル【砲身変換】

 砲身を射程距離の長い「スナイパー」、連射性が最も高い「ガトリング」、攻撃力が最も高い「バスター」の3つに変換することが出来る。ただし、砲身によって弾数、リロード時間が異なる』

 

『スキル【猛虎顕現】

 HP最大値が1000になる。[STR]、[AGI]が60増える。

 HP0になるとスキルが解除され、発動前のステータスに戻る。

 ゲーム内時間で1日1回しか使用出来ない。使用中、名前に[戦国猛虎]を含むスキル、スキル【纏刀将鎧】しか使用出来ない』

 

『スキル【纏刀将鎧】

 [AGI]が10減る代わりに、[STR]、[VIT]、[DEX]が50増える。

 ゲーム内時間で1日1回しか使用出来ない』

 

 

 

 武器は虎を模した銃器だった。現在、銃身は大口径のバスターだが、スキルを使う事で状況に応じた戦いをすることが出来る。

 防具も凄まじい物で、最初からスキルが2つ付与されており、しかも1日5回もMP消費を0にするスキルスロットが2つもある。

 

 こんなブッ壊れ装備と言ってよい装備を序盤で手に入れるなんて、本来なら大喜びする所なのだが、タッツンは相変わらず渋い表情を浮かべていた。

 その理由は『戦国猛虎の装い』の()()()にあった。

 

「……いや。これ装備するの? マジで?」

 

 その防具の見た目は、男性が身に付けるにはあまりに抵抗があり、もし着ければ、一瞬の内にスレの晒し者になるだろう。だが、この装備はあまりにも魅力的過ぎる。

 

 羞恥心を棄てるか、装備を棄てるか……。

 

「ぐぬぬぬぬ……いや……でもぉ……~~~~ッ」

 

 悩みに悩んだ末、タッツンが出した答えは────

 

 

 

 

 

 

●●●●●●●●●●

 

 

 

 

 

 

 

『戦国猛虎がやられたッ!』

 

『お。遂にやられたか。倒したのは何処のパーティーだ?』

 

『パーティーじゃねえッ! ソロプレイヤーにやられたッ!』

 

『はあッ!? あれはソロだと絶対にキツいだろッ!』

 

『やったのは誰だッ!? まさかペインかッ!?』

 

『タッツンだッ!』

 

『タッツン……ああ。銃使いながら斧とか使うアイツか』

 

『不遇扱いの銃を使い続けながら他の武器も使うアイツか』

 

『【器用貧乏】のアイツだよ』

 

『おいおい。それよりもソロで倒したってことはユニーク装備がタッツンの手に渡ったって事だよな?』

 

『お前の言いたい事は分かる。プレイヤーから問い合わせが来るだろうな』

 

『誰だよ? あんな装備を考えたの』

 

『冗談で考えた物がまさか採用されるとは思わないだろッ!』

 

『とりあえず、俺たちはタッツンの動きを見守るしかない。何も起きないことを願おう……』

 

 

 

 

 

 

 

 

●●●●●●●●●●

 

 

 

 

 

 

 

 その日、第一層の街で奇妙な物が現れた。

 

「な、なあ……あれ、なんだ……?」

 

 プレイヤーの一人が『()()』を指差し、思わず呟く。

 モッキュ、モッキュと足音を鳴らしながら歩く『()()』は自然とプレイヤー達の視線を集めていく。

 モンスターかと思い、運営に問い合わせてみるが、その運営からプレイヤーであると教えられる。だが、それでも本当かどうか疑う者達も多かった。それほどまでに『()()』の見た目が奇っ怪な者だったのだ。

 

 歩く度にユラユラと揺れるしっぽ。

 思わず抱き付きたくなるようなモフモフの黄地に黒縞の体の上に纏う青い鎧。

 頭部にはデフォルメされた顔と二本の角。

 

「あれって……虎、だよな?」

 

「ああ。虎のキグルミだな」

 

「なんであんなの装備しているんだ?」

 

 プレイヤー達が疑問符を浮かべるなか、『()()』……虎のキグルミはモッキュモッキュと街を歩いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ていう話がスレで上がってるんだけど、どう思う? タッツン(本人)さん?」

 

「やっぱりそうなりますよね~……」

 

 クエスト終了後。例の虎のキグルミにしか見えない『戦国猛虎の装い』を装備したタッツンはイズの店に訪れ、カウンターで項垂れていた。

 

「それにしても本当に凄いわね。敵には回したく無いわ」

 

「自分でもそう思いますよ……あ、すいません。斧壊しちゃいました」

 

「別に良いわよ。その子で頑張ってくれたんでしょ? なら、何も言わないわ」

 

「ありがとうございます……しっかし、これからどうしよう……」

 

「いっそのこと、そういうキャラ作りしてみたら?」

 

「キャラ作り?」

 

「ここはゲームなんだし、そういう風に振る舞っても誰も文句は言わないわ。試しに今からやってみましょう」

 

「え、いや……でも……ちょっと恥ずかしいですし……」

 

「そういうキグルミ着る時点で羞恥心は捨てたんでしょう?」

 

「そうですけど…仕方ない、か。まあ、ゲーム中だけどコスプレしていると思えばいっか」

 

「頼んでくれたらコスチューム作るわよ」

 

 

 これの瞬間、後に『破壊のキグルミ(デスプレイヤー)』と呼ばれるプレイヤーが生まれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




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キグルミとトレインと出会い

 第一層の南東のエリア……虫系のモンスターが中心のこのエリアは上級者向けとなっている。

 何故、上級者向けなのか。

 別にモンスターが強いわけではない。ボス級のモンスターが居ない訳では無いのだが、出会う確率は低い。だが、それ以外のモンスターの遭遇率が異様に高いのだ。

 もし、ソロで向かえば一瞬の内にモンスターの大群に囲まれるだろう。それでもチャレンジ精神から南東のエリアにソロで挑むプレイヤーも多い。

 今日も一人、ソロで南東のエリアに挑むプレイヤーがいるのだが……

 

「あぁもうッ! どんだけ居るのよッ!」

 

 南東エリアの奥……深い森の中で、トッププレイヤーの一人である魔法職の少女『フレデリカ』は窮地に立たされていた。

 彼女の周辺を囲むのは100体以上はいるであろうモンスターの大群。しかも倒した所でまた別のモンスター達が彼女を襲ってくる。

 普段の彼女ならこうなる前に撤退するのだが、これには訳があった。

 

(ほんと最悪ッ! まさかトレインを押し付けられるなんてッ!)

 

 トレイン……逃げるプレイヤーを次から次へとモンスターが追いかける現象。本来ならそのような事が起こった場合、他の者達に告知するのがマナーだが、中には黙ってそれを他人に押し付け、PK(プレイヤーキル)を狙う者達もいる。

 フレデリカに押し付けてしまったプレイヤーはそんなつもりは無いだろう。しかし、それを彼女が知る術はない。

 

「久しぶりのソロだからって、気分転換に来るんじゃなかった……ッ」

 

 自身の行動に後悔するが、今さら後の祭り。

 

 【多重炎弾】でモンスターを駆逐するが、あまりの数に接近を許してしまう。

 

「しま───」

 

 気づいた所で時既に遅し。カマキリ型モンスターの一撃がフレデリカの小さな体を殴り飛ばす。

 地面を転がる彼女の体。そこに我先にと押し寄せる蜂型や蜘蛛型、カマキリ型、蟻型などの多種多様なモンスターたち。その光景は年頃の女性の恐怖心を煽るのには十分だった。

 

「あぁもうッ! 次にあったら絶対に復讐してやるんだからぁッ!!!」

 

 涙目になりながら自分にモンスターを押し付けたプレイヤーを恨むフレデリカ。来るであろう痛みに固く目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 ───が、彼女が痛みを感じることは無く、代わりに無数の銃声が彼女の耳に入った。

 

 

 

 

 

「───はえ?」

 

 恐る恐る目を開けてみると眼前まで迫っていたモンスター達が光のエフェクトとなって消滅する姿が写ったではないか。

 

「えッ!? これ、どうなってるのッ!?」

 

 驚くフレデリカを他所に遠方から放たれ続ける無数の弾丸。音が徐々に大きくなっている事から音源が近づいて来るのが分かる。

 フレデリカは気になり、音のなる方向を見てみると……

 

「───……え? なにあれ?」

 

 彼女が見たのは、無数の弾丸を放ち続ける虎を模した武器を手に此方に向かって走ってくる虎のキグルミ。こんな危機的状況には似合わない光景に思わず目を疑うフレデリカ。

 

 彼女が呆けている間にもモンスター達は音に驚いたのか、一目散に逃げていく。代わりにフレデリカの元に近づく虎のキグルミ。

 フレデリカは何時襲われても良いように臨戦態勢を整えるが、虎のキグルミは彼女に対して行ったのは気遣いだった。

 

「大丈夫だったかニャア? HPポーションいるかニャア?」

 

「え?」

 

「見たところ、モンスターの大群に襲われていたようだがニャア、トレインでもされた「ちょ、ちょっと待ってッ!」ニャ? どうかしたニャ?」

 

「えっと、もしかして……プレイヤー?」

 

「そうだニャア。名をタッツンって言うニャ。そういう君は?」

 

「フ、フレデリカ───って待ってッ!? まさか、『破壊のキグルミ』のタッツンッ!?」

 

「破壊のキグルミ? それってトラの事ニャ?」

 

「銃を使ってあらゆるものを破壊していくキグルミ着たプレイヤーなんて他にいるわけ無いでしょ……」

 

 そう言って、フレデリカは目の前のキグルミを着たプレイヤー……タッツンにある掲示板を見せる。それは彼について取り上げられた物だった。

 

「『銃で破壊していく謎のキグルミ』『銃使うモンスター』『目の前のものすべてを壊す破壊のキグルミ現る』……なんニャ、これ?」

 

「全部君の事だよ」

 

「トラの知らぬところでこんな事が……」

 

「というか、なんで噂の虎さんがこんな所にいるのかな?」

 

「トラは食材の採取ニャ」

 

 聞けば、ここは果実系の食材アイテムが多く、お菓子作りに最適なんだとか。

 それでいつものように採取を行うため、スキルで周囲を索敵してみれば、モンスター達が一ヶ所に集まっていくのを確認。気になってマップを見たらモンスター達の進行方向にプレイヤーが一人いるのを見つける。ピンチだと思ったタッツンは慌てて助けに来たという事らしい。

 

「いやぁ。それにしても助けたのがトッププレイヤーのフレデリカとは。不思議な事もあるニャねぇ。あ、これどうぞニャ」

 

「(それはこっちのセリフなんだけど……)これは?」

 

 タッツンから受け取ったのはワインレッドの液体が入った瓶。蓋を開けて匂いを嗅いでみると柑橘系の爽やかな香りがフレデリカの嗅覚を擽った。

 

「トラ特製のポーションジュースニャ。HPとMPの回復と一定時間INTが上昇するニャ」

 

「特製って、あなたが作ったの?」

 

「そうニャア。【調合】と【料理】を最大限上げることで手に入る【必殺調理師】で作れるようになったニャ。店でも出してるし、味は保証するニャ」

 

「店?」

 

「虎の料亭ニャア。見たことないニャ?」

 

「ああ。あの謎の店ね」

 

「謎の店とは失礼ニャッ! ちゃんと料亭って書いてるニャッ!」

 

「だって、普通ゲーム内で料理屋する人いる?」

 

「それはトラの自由ニャッ! バカにするならそのポーション返すニャッ!」

 

「いーやッ! 貰った物は返さない主義なんだよね~」

 

 モンスターが近くにいるかもしれないという状況で、女の子と虎のおいかけっこが五分ほど続き、どういう流れか、フレデリカとタッツンは互いにフレンド登録するのだった。

 

 

 

 

 

●●●●●●●●●●

 

 

 

 

【NWO】『謎のキグルミ3』

 

 

 

 

1:名無しの大盾使い

 

 タッツンが女の子と歩いてた

 

 

2:名無しの弓使い

 

 kwsk

 

 

3:名無しの剣使い

 

 kwsk

 

 

4:名無しの槍使い

 

 kwsk

 

 

5:名無しの大盾使い

 

 街歩いてたらタッツンが金髪の女の子と歩いているのを見た。装備からして魔法使いだと思う。

 

 

6:名無しの剣使い

 

 金髪の魔法使い……まさか、フレデリカか?

 

 

7:名無しの大盾使い

 

 詳しくは分からん。

 

 

8:名無しの弓使い

 

 女の子と一緒に歩くキグルミ。これ、通報した方が良くね?

 

 

9:名無しの剣使い

 

 >8

 意義なし。

 

 

10:名無しの大盾使い

 

 >8

 リアルなら間違いなく通報案件www

 

 

11:名無しの槍使い

 

 なんか、南東の森で出会って、流れで一緒に街に戻ったんだとよ

 

 

12:名無しの剣使い

 

 なんで知ってんの?

 

 

13:名無しの槍使い

 

 今、聞いた。虎の料理旨し

 

 

14:料理人

 

 毎度、ありがとニャア

 

 

15:名無しの弓使い

 

 本人見てたwww

 

 

16:名無しの大盾使い

 

 ある日 森の中 虎さんに出会った

 

 

17:名無しの剣使い

 

 そこは熊にしておけwww

 

 

 

 

 

 

●●●●●●●●●●

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───という事があってな」

 

「ふーん。良かったね、可愛い女の人と仲良くなれて」

 

「別にそんなんじゃないって。ただのフレンドだよ」

 

「どうだか」

 

「なあ。どうやったら機嫌を治してくれるんだ?」

 

「……ハグ。ギュッてして」

 

「……はいはい」

 

 可愛い妹、理沙の要望で彼女の後ろからギュッと……所謂『あすなろ抱き』というものを行い、理沙は大変御満足したようだ。

 

「そうだ。龍兄、ちょっとお願いがあるんだけど」

 

「なんだ?」

 

「実は近い内に楓がNWO始めるの。私はまだ出来ないからサポートしてくれない?」

 

「了解。楓ちゃんも俺のもう一人の妹みたいなもんだ。ちゃんと補佐してあげるよ」

 

「言っとくけど、(もう一人の妹)に構いっきりで(可愛い妹)を疎かにしないように」

 

「分かってるって。理沙は相変わらず寂しがり屋だな」

 

「龍兄がそうしたんですぅ」

 

 二人は仲良く談笑する。

 そんな中、部屋の外から母親の声が聞こえた。

 

『二人とも、仲が良いのはいいけど、早くお風呂から出てきなさい。後がつっかえているんだから』

 

「「はーい」」

 

 

 

 



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トラとパーティーと料亭

 トッププレイヤーの一人、フレデリカとフレンド登録してから現実で2日。

 タッツンはあるパーティーと組んで、牛や猪などのアニマル系モンスターが多数出現する東の大平原に来ていた。

 

「のどか二ャねぇ」

 

「のどかだねぇ」

 

「お前ら、のんびりしすぎだろ。モシャモシャ」

 

 地面の上に畳シートを引き、頬を優しく撫でるそよ風を感じながら茶を飲むタッツンとフレデリカ。その横でタッツンが持ってきた薄皮饅頭を頬張るのは大斧を肩に担いだガタイの良い男性プレイヤー『ドラグ』だった。

 

「そう言いながらドラグも十分のんびりしてるじゃない」

 

「これは戦の前の腹ごしらえって奴だ。タッツンのお陰でSTR上昇しまくりだぜ」

 

「後でしっかり代金請求する二ャ」

 

「おいおい。食材採取の手伝いをしてるんだからチャラにしてくれよ」

 

「報酬はもう払っている二ャ。それに団子はみんなで食べる為に作ったもの二ャ。ペインもドレッドも釣りから帰ってきて二ャいのに、お前が全部食べきるつもりか二ャ?」

 

「一つ二つ多く食ったっていいじゃねえか」

 

 そう言いながらも饅頭を頬張るドラグ。何度言っても聞かない彼に諦めたタッツンはこの場には居ないパーティーメンバーの為にいくつか取っておいて良かったとため息をつく。

 

 そんな中、ピロリン♪とメッセージ受信を告げるアナウンスが流れた。

 

「そろそろ来るみたいだ二ャ」

 

「ほら、ドラグ。準備準備」

 

「分かってるよ」

 

 シートや茶碗、饅頭を仕舞い、各々の武器を構える三人。少しして、彼らは視線の先に土煙を確認した。タッツンはスキル【鷹の目】でその土煙を詳しく見る。

 

 見えたのは赤毛の牛型モンスター『レッドブル』の大群とそれらの先頭を走る二人の男性プレイヤー。

 一人は白銀の鎧を纏う金髪の男性プレイヤー。彼の名は『ペイン』。このNWOで最強と呼ばれているトッププレイヤーである。

 もう一人は深緑のマントをたなびかせるレンジャーのような服装の黒髪プレイヤー。ペイン程ではないにしろ、彼も『神速』の二つ名を持つ立派なトッププレイヤーであった。

 

 様子を伺う中、ドレッドが前方に使い捨てアイテムの投げナイフを投げ、約五メートル先の地面に突き立てる。それは攻撃の合図。

 

「ッてえええええッ!」

「【グランドランス】ッ!」

「【多重水弾】ッ!」

 

 ペイン達が大地を蹴って飛び上がり、次の瞬間には無数の弾丸や水弾、地面から飛び出した岩がレッドブル達に次々と命中。三十体近くいた群れは瞬く間にドロップアイテムの山となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───てなわけで、クエストお疲れニャアッ! 乾杯ッ!」

 

「「「「乾杯ッ!」」」」

 

 場所は変わって、街の中心近くにある虎の看板が目印の建物。

 あの後、アイテムをすべて回収したタッツンは報酬としてペインたちに料理を振る舞おうと、自分がゲーム内で経営する『虎の料亭』に案内していた。

 ペインたちをカウンターに座らせ、自身はキッチンに立ち、注文されたドリンクを差し出す。

 

「それじゃあ、報酬としてドラグ以外は全品半額。デザートは無料ニャ」

 

「ちょっと待てッ!? なんで俺だけ報酬なしなんだよッ!」

 

「そりゃあ、俺たちの分まで饅頭を食べたからだろ」

 

「まあ、タッツンが作る料理はどれも旨いからね。ついつい食べてしまう気持ちも分からなくはないよ」

 

「それよりも早く注文しましょうよ。あ、牛肉のジェノベーゼパスタとトマトのまるごとマリネをお願い」

 

「俺は牛タンのネギ塩を頼む」

 

「じゃあ、俺はヒレステーキで頼む」

 

「はいニャア。ほれ、ドラグも報酬無しにされたくなかったらさっさと注文するニャ」

 

「よしッ! そうこなくっちゃなぁッ!」

 

 ドラグはメニューから牛カツ串を頼み、タッツンは自分の技術を駆使して料理を作っていく。スキル【必殺調理師】によって時間は短縮されているため、さほど時間はかからない。瞬く間にペインたちの前に美味しそうな料理が並び、彼らは喜んで出された料理を頬張った。

 

「しっかし、スキルの補正があるとはいえ、本当にタッツンの料理はウマイな」

 

「だねぇ。毎日食べても飽きないよ」

 

「それはおすすめしないニャ。特にフレデリカ」

 

「ん? なんで?」

 

「ほら。VRMMOの料理って、味は感じるけど満腹感は感じられニャいでしょ? そのせいで現実に戻ったとき、その満腹感を満たそうと食べ過ぎて、またVRMMOで食べて現実で食べ過ぎての負の連鎖が始まって、徐々にブクブクと───」

 

「やめてぇぇぇッ!? それ以上言わないでぇぇぇぇッ!!?」

 

「確かにフレデリカにはオススメ出来ないな」

 

「だな」

 

「あ、それと明日は用事で店を貸し切りにするから来ても料理を振る舞うことは出来ないニャ」

 

「知り合いでも来るのかい?」

 

「ニャア。リアル妹の親友が始めるからそのサポートを頼まれたニャ」

 

「新人がまた一人増えるのか。それで? その子は可愛いのか?」

 

「ニャハハハ……ドラグ。その子はトラのもう一人の妹みたいなものニャ。手を出すなら容赦なくその眉間をぶち抜くぞ?」

 

「マジトーンで銃をこっちに向けるなッ!」

 

 冗談ニャ、とタッツンはドラグの眉間に押し付けた銃を仕舞う。そんなとき、ふとフレデリカがジト目で睨み付けていることに気づく。

 

「どうかしたかニャ、フレデリカ?」

 

「べっつに~? それよりもおかわり頂戴」

 

「いや。だからゲームで食べ過ぎるのは「いいからおかわりッ!」は、はいニャ……」

 

「ほほ~ん」

 

「…………なによ?」

 

「べっつに~? なあ?」

 

「とりあえず、その態度、スッゴく腹立つからキルしていい?」

 

 

 

 

 

 

 

●●●●●●●●●●

 

 

 

 

 

 

 

 

「いよいよ明日だなぁ」

 

「そう……んッ……だね……」

 

「しっかし、楓ちゃんはどんなステータスにするんだろうねぇ」

 

「楓の…あぁッ……こと、だし……多分、天然が……んふぅ……」

 

「あぁ。確かに極振りとかしそうだよなぁ。

ところで妹よ。そんなに気持ちいいのか?」

 

「だって…龍兄……ん…気持ちいい、もん……あぁッ」

 

「そうかそうか……だからって、肩揉みで喘ぎ声は止めない? この前、お父さんが般若の顔で入ってきたの忘れたか?」

 

「何も悪いことしてないし、良いんだもん」

 

「さいですか……」

 

 

 



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新人とフレンドとペンギン

 木々や草原に囲まれた、ファンタジー感溢れる街。NWOを始めるプレイヤーの全てが最初に訪れるこの街には、中心に大きな噴水がある。

 

 そんな場所に大盾を持った一人の初心者プレイヤーがログインし、姿を現した。

 

 少女の名は『メイプル』。リアルネームは『本条 楓』。

 リアルでは理沙の親友であり、龍騎のもう一人の妹的存在である。

 普段、彼女はVRMMOといったようなゲームはあまりしないのだが、理沙の薦めもあって、お試し感覚で始めてみたのだ。しかし、彼女は初心者。本来なら理沙から色々と学ぶつもりだったのだが、当の彼女はゲームのしすぎで落とした成績を戻すために日々奮闘している。

 故に、今回は既にプレイしている龍騎……タッツンに教えてもらうのだが、正直なところ、メイプルにとってはその方が嬉しかったりする。何せ、理沙には負けるが、彼女もお兄ちゃんっこなのだから。

 

「さてと。待ち合わせの『虎の料亭』は……」

 

 辺りを確認してみるが、それらしいお店はない。仕方ないので、近くの道行く人に訪ねる事を選んだメイプルは、今さっき目の前を通った魔法使い風の金髪少女に声をかけた。

 

「あ、あの、すいません」

 

「まったく……タッツンの奴、今頃かわいい子といちゃこらしてるんだろうなぁ。別に? 私はどうでもいいけど。今から突撃してやろうかしら───」

 

「あ、あのッ!」

 

「──ん? ……あぁ、私? どうしたの?」

 

「え、えっと……虎の料亭っていうお店を探していて」

 

「……なんですって?」

 

 メイプルの言葉に、少女が片眉をあげる。

 

「……ねぇ。なんで虎の料亭に行きたいの?」

 

「じ、実は私、初心者で……それで龍n──タッツンさんに色々教えてもらおうと思って……」

 

「なるほどねぇ……いいよ。案内してあげる」

 

「ありがとうございますッ! あ、自己紹介が遅れました。私、メイプルって言います」

 

「私はフレデリカ。よろしくねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 ……ゲーム内時間で数十分後。

 

「つ、着いたぁぁぁ……」

 

「ご、ごめんなさい。態々、私の歩くスピードに合わせてくれて」

 

「あ、いや。謝って貰う必要とかないから気にしないで。しっかし、まさかのAGI 0とは……」

 

「ごめんなさい……」

 

「だから気にしなくていいって。でも、これからはステータスについて余り話さない方がいいよ。そのせいで面倒事に巻き込まれたりするから」

 

「はいッ! 気を付けますッ!」

 

「元気があっていいねぇ」

 

 フレデリカがドアノブを掴み、いつものように扉を開けるのだが、

 

「いらっしゃ──って、フレデリカじゃないか。今日は貸し切りって言ってたろ?」

 

「──誰?」

 

 店の中で料理を並べる人物に疑問符を浮かべるフレデリカ。

 まあ、無理も無いだろう。そこにいたのは、何時もの虎ではなく、ペンギンだったのだから。

 

「いや。誰って─……ああ。そう言えば、何時もは虎だもんな」

 

「……まさか、タッツン? なんでペンギン?」

 

「そりゃ「うわあッ! ペンギンさんだッ!」……これが理由」

 

 フレデリカの後ろから覗き、ペンギンのキグルミを着たタッツンを見て、大喜びでフレデリカを押し退けて抱きつくメイプル。VIT極振りでSTRが低いはずなのに、この強さは一体どこから出てくるのだろうか……もっとも、彼女のステータスを知らないタッツン達に原因が分かるわけないのだが……

 

「えへへ~♪ ペンタン♪ ペンタン♪ モッフモフ~♪」

 

「よしよし。どうやら本人で間違いなさそうだな」

 

「貴方は龍兄さんで間違いないよね?」

 

「そうだぞ。だが、ここではタッツンと呼べ。リアルバレは避けたいからな」

 

「分かりましたッ! なら、私はメイプルでお願いします」

 

「おう。それじゃあ、早速歓迎会だ。好きなだけ食べろ」

 

「やったぁ♪」

 

「フレデリカ。お前も食べていいぞ」

 

「うん。それは遠慮なくいただくけど……キャラ、変わってない? まるで某ブラック企業で働くペンギンみたいな……」

 

「キャラ作りだ」

 

「あ、そう……」

 

 その後、フレデリカも含めてタッツンの料理を口に運びつつ、プレイングコンセプトとステータスを説明するメイプル。

 

「なるほど。痛いのが嫌だからVIT極振りと。流石メイプルだな」

 

「えへへ~♪」

 

「タッツン、そんな事を私のまえで話しても大丈夫なの?」

 

「大丈夫だろ? お前はそういう事をしない奴だしな。しかし、極振りか…」

 

「ダメなの…?」

 

「いや、そういう訳じゃないんだが……」

 

 涙目になるメイプルに言葉を探すタッツン。だが、彼女は妹的存在故に、下手な事を言ってしまえば泣かせてしまいそう…という心配からただ唸るだけになってしまっている。仕方なくフレデリカが説明することとなった。

 

「ぶっちゃけて言うとデメリットしかない。それがどういった結果を起こすかはその人の運次第だし」

 

「そんな~…」

 

「まあ、とりあえずはそれでプレイしてみたら? アカウントの作り直しなんてよくある事だし」

 

「フレデリカさん…ありがとうございますッ! わたし、頑張りますッ!」

 

「メイプルちゃんってゲーム自体初心者よね? なら西の森が最初のレベル上げに丁度いいかな?」

 

「はいッ! 早速行ってきま「ちょっと待て」へ? どうしたのタツn─タッツンさん?」

 

「タツ兄でいい。PN(プレイヤーネーム)とそこまで変わらないしな。西の森に行く前にフレンド登録をやろう」

 

「じゃあ、私もいいかな?」

 

「大丈夫ですッ!」

 

 こうして無事にタッツンと合流し、初日でトッププレイヤーである二人とフレンド登録したメイプル。このあと、まずは一人でと西の森でモンスター狩りに行動するメイプルが、僅か数日でトップに躍り出て来るなど、本人を含めた三人は思いもしなかった。

 

 

 

 

●●●●●●●●

 

 

 

 

(くそッ…くそッ…!)

 

 南東エリアの奥。木々が生い茂るエリアを駆ける一人の男がいた。男はNWOにおいてトレインPKとして、それなりに危険視されていた。今日も手頃な獲物を見定め、何時ものようにトレインPKを狙ったのだが、

 

(なんなんだよ、あの技ッ?! ()()()()()()()()()()なんて──)

 

 突如、男の膝に軽い痛みが走り、盛大に転ける。何事かと見てみれば、男の膝から下が綺麗に無くなっていたのだ。

 

「──迷惑なんらよね~。弱いからってセコい真似をする奴。まあ、ジョーカーちゃんの敵じゃあなかったけどね」

 

 次の瞬間、男の胸に深々と刃が突き刺さる。HPが全損し、朧気になってくる意識の中で男が最後に見たのは大きな鎌と小さな女の子だった。

 

 

 




タッツンの本日の装備
『テ◯◯ウペンギン《HP+99, VIT+99, STR+20, MP+43》
 【ガッツ】
 【全状態異状耐性・中】』
イズに頼んで作って貰ったコスプレ衣装の一つ。名前とは違い、見た目はアデリーペンギン。モデルとなった某企業のペンギンに似せるため、ある程度の状態異状耐性を持ち、一度だけどんな攻撃でもHP1で耐える【ガッツ】が付与されている。
制作費 100,000,000G





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道化少女は◯◯◯

 メイプルがゲームを始めた日の翌日。タッツンは一人、西の森を必死な形相で全力疾走していた。

 

(ちぃッ! まさか、こんな事になるなんて──)

 

 突如感じる首への悪寒。咄嗟に地形を利用し、枝を掴んで首に迫っていた刃を回避する。刃はそのまま木を捉え、ブッシュ・ド・ノエルを切り分けるがの如く両断する。

 

(あっぶねぇッ!? もうちょっとで首チョンパされてたッ!)

 

 最悪の結果を想像し、強制ログアウトされる一歩手前まで心拍が上昇。現実(リアル)では冷や汗をダラダラと流している。そんなタッツンの心情を微塵も知らず、刃を振るった本人は気軽に。そして、僅かに怒気を含んだ声で語りかけてきた。

 

「流石は破壊のキグルミ(デスプレイヤー)。ここまでジョーカーから逃げるなんて、新参者にしてはやるねぇ」

 

「まさか『死神(デスサイス)』から褒められるとはニャ」

 

 そう言って、タッツンは道化師を思わせる黒と黄色を中心とした装いと血色の刃を持つ大鎌を装備した少女を見据える。

 彼女はPN『ジョーカー』。NWOのトッププレイヤーの一人にして、『死神(デスサイス)』の二つ名を持つ少女。その鎌に狙われた者は数多く、生き残ったのはペインやドレッド、ドラグなどのトッププレイヤーでも上位に位置する一部の者たちだけ。

 何故、タッツンがそんな彼女に狙われているのか。それは彼の持つアイテムに原因があった。

 

「さあッ! さっさと『ロイヤルフォレストハニー』を寄越すのらッ!」

 

「断るッ! トラがゲットしたんニャからトラの物ニャッ!」

 

「うるさいッ! ジョーカーの獲物を横取りして手にいれたくせにッ!」

 

 『ロイヤルフォレストクインハニー』。フォレストクインビーを討伐した際に極僅かな確率で手に入る激レア食材アイテム。料理に使ってもよし。そのまま食べてもよし。甘さや舌触り、風味等、蜂蜜に必要な要素がパーフェクトなその味わいは一度食べたものを虜にしてしまうのではとネットで話題になるほどに。

 今日、タッツンは西の森で偶然見つけたフォレストクインビーを遠距離から討伐。その際に偶然ドロップしたロイヤルフォレストクインハニーにウハウハ状態。早速持って帰ってパンケーキにでも、と考えた所で待ったの声。それが彼女、ジョーカーだったのだ。聞けば、何日もフォレストクインビーを狩っていて、今日もいざと獲物を見つけたが遠距離から横取りされ、しかもお目当てのアイテムまで取られたらしい。故にロイヤルフォレストクインハニーを譲渡、もしくは共有して欲しいとタッツンに頼んできたのだ。

 しかし、ジョーカーの話は本当だったのだが、タッツンがそれを確認する術はない。

 彼女の話を信じず、嫌だと断るタッツン。それでも目の前の激レアアイテムを諦めきれないジョーカーは何度も頼み込む。そのしつこさにタッツンも知り合いを重ねてしまい、ついつい言ってしまったのだ。

 

『やらないって言ってるニャ。小学生ニャ? まあ、その身長ならそうだろうニャ』

 

『───は?』

 

 知らずしてジョーカーの地雷を踏み抜くタッツン。結果、今の状態に至るわけだ。

 

「乙女が気にしていることを堂々と言いやがってぇ…ッ!」

 

「うぉッ!? あっぶねぇッ!?」

 

 彼女の振るう鎌を【虎皇】で受け止める。【虎皇】のスキルのこともあって、防御には成功しているが、盾ではないので衝撃ダメージが僅かに通る。さらに、

 

「(さっきよりもダメージ量が多い。しかもステータスが少し下がっている…)てめぇ、何をしたニャ?」

 

「およ? ようやく気づいた? まあ、今さら遅いけどッ!」

 

 またもサイスの連続攻撃。何とか刃がかする程度に抑えるが、徐々にジョーカーの与ダメージ量と攻撃速度が上がっていく…いや。()()()()()V()I()T()()A()G()I()()()()()()()()

 

(やっぱり、ダメージを与える度に相手のステータス低下かッ! このままじゃあ捕まるのも時間の問題。なら──)

 

「そこ──ッ!」

 

 回避したばかりのタッツンの足を払い、そのまま押し倒したジョーカーはタッツンの首に刃を添える。

 

「さあ。さっさと寄越すのら」

 

「ちッ! 顔に似合わず、随分と手洗い真似をしてくれるニャ。正直、こんな出会いじゃなかったら仲良くニャれただろうに…」

 

「…それはこっちの台詞のら。今度、お前の店にも惜しいってやる」

 

「それは感謝。それじゃあ、最後に一つだけいいかニャ?」

 

「おやおや? 遺言ってやつかな?」

 

「そんな奴ニャ。トラの装備にはちょっとしたスキルがあって、あるモンスターの能力が使えるニャア。そいつは炎の虎で、確認したら()()()なんて物もあったニャ」

 

「ふーん。自爆技ねぇ………え?」

 

 青ざめるジョーカー。だが、もう遅い。タッツンはスイッチを押すように右手の親指を動かした。

 

 

 

 

 

「ふんふんふ~ん♪」

 

 東の山の麓にあるダンジョン『毒竜の迷宮』からU装備を手に入れたメイプルが出てくる。初めてのダンジョン攻略にカッコいい装備入手。ご満悦状態の彼女はスキップしながら町に戻ろうと足を運ぶのだが、突然遠方から爆発音が聞こえてきた。

 

「あれ? あっちって西の森があったよね? 何かあったのかな?」

 

 そう言いながらキノコ雲が上がる西の方向を眺めるメイプルだった。

 

 

 

 

 

●●●●●●●●●

 

 

 

 

 翌日、龍騎は自転車を押しながら理沙と共に通学路を歩いていた。

 

「はぁ……」

 

「龍兄、ため息ひどいよ。いい加減に元気出しなよ」

 

「そうは言うがな、myシスターよ。昨日はさんざんな目にあった挙げ句、自爆で落としたアイテムがまさかのロイヤルフォレストクインハニーだぞ? せっかく入手した激レアアイテムを落として、落ち込まない訳がない」

 

「仕方ないなぁ。なら私が無事にNWOを始めた暁にはそのジョーカーさんをコテンパンにやっつけるのを手伝ってしんぜよう」

 

「是非頼むわぁ」

 

 少しして、二人は分岐点を訪れる。

 

「じゃあ、私はこっちだから」

 

「おう。楓ちゃんによろしくな」

 

「了解ッ! …あ、龍兄ッ! 今日も会うだろうけど、あの人を後ろに乗せないでねッ! そこは私の特等席なんだからッ!」

 

 じゃあ、行ってきます、と手を振って楓が待っているであろうバス停に向かう理沙。龍騎も理沙が見えなくなるまで手を振り返す。彼女を見送り、さあ高校へと自転車に跨がるのだが、ふと違和感を感じる…いや。違和感とは言えないだろう。何せ、その感覚は龍騎にとって慣れたものだったのだから。

 

「乗せるなって言われると余計に乗りたくなるよねぇ」

 

「マコ、急に乗るなって言ってるだろ? 転んだらどうする?」

 

「気づかないタツキチが悪いのらぁ」

 

 そう言って、ふふんと鼻を鳴らすのは龍騎と同じ高校の制服を纏う小柄の少女。

 彼女の名前は『御来屋(みくりや) 真湖子(まここ)』。見た目だけなら小学生と間違えてしまいそうだが、実際は龍騎の同級生にしてクラスメイト。そして、もう一人の幼馴染みである。ちなみに彼女に対して身体の事は禁句である。

 

「さあ、きびきび漕ぐのら」

 

「今日は機嫌悪そうだな。何があった? また(あね)さんにBLを押し付けられたのか?」

 

「昨日、ゲームしてたら欲しかったアイテムを目の前で横取りされたのら。どうしても諦め切れなくて頼み続けたら、ソイツが私のかららの事でバカにしてきて」

 

「………ん?」

 

「ムカついたからキルしようとしたら自爆したんらよッ! お蔭でデスペナとアイテム消失ッ! 本当に嫌になっちゃう──て、どうしたのら?」

 

「マコさんや。ちなみに聞くが、何のゲームかな?」

 

「NWOらよ。最近w「昨日のお前かぁぁぁぁッ!!?」うひゃあッ?! き、急にどうしたのr──て、まさかぁぁぁぁッ!!?」

 

 ここで二人は気づいてしまった。昨日、エンカウントしたプレイヤーが互いであったのだ。

 

「バカキチッ! よくも昨日はやってくれたなッ! お蔭で手持ちのポーションが全部パァらッ!」

 

「それはこっちの台詞だッ! お前とせいでロイヤルハニー落としたんだぞッ! どう責任取ってくれるッ!」

 

「知るかッ! 大体、バカキチがマコをバカにしたのが悪いのらッ! 自業自得らッ!」

 

「うるせぇッ! さっさと降りろッ!」

 

「はあッ!? ここは詫びとして校舎まで乗せるべきのらッ!」

 

「それこそ知るかッ!」

 

 このあと、口喧嘩を続けた二人は仲良く遅刻し、理由を話すと教師に大きな雷を落とされるのだった。

 

 

 




御来屋 真湖子【ジョーカー】
龍騎と理沙のもう一人の幼馴染みにして、龍騎と同い年の少女。最近の悩みは姉がBLの沼に引き寄せようとすることと成長期が来ないこと。ニックネームは『マコ』。理沙とよく火花を散らしているが、その理由は当人たちしか知らない。




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第一回イベント・開始

僅か数日でメインを差し置くスピードに人気が出ていることに驚いているメンツコアラです。
なんでぇ……?




 第一回イベント『バトルロワイヤル』。

 運営から発表された、文字通りの集団乱闘イベント。特設フィールドに転送された参加者が他のプレイヤーを倒し、その撃破数をポイントとして競い合う今回のイベント。十位以内に入ったプレイヤーには限定アイテムも授与される。

 イベント当日。街の中心に生えた水を生み出す樹『水樹』の広場に集まった参加者たち。各々が思い思いに会話したり、上位に入りますようにと手を合わせる中で、タッツンとメイプル。そして、ジョーカーは並んで開始を待ち構えていた。

 

「もうすぐだね、タツ兄ッ! ジョーカーちゃんッ!」

 

「ニャア。ここは一つのターニングポイント。ここの結果で名を示す事も出来るから、皆が気合いを入れてるニャ」

 

「しっかし、君までこのゲームに参加するとは。世の中、何が起こるか分からないのら。あと、ちゃん付けはやめろ」

 

「私もここでマk…ジョーカーちゃんに会えるなんて思ってなかったよ」

 

「らからちゃん付けはやめろ。ジョーカーが年上ら」

 

 楽しそうに会話する三人。それを見ていた周りのプレイヤーはあの『死神(デスサイス)』と『破壊のキグルミ(デスプレイヤー)』が共に並んでいる事は勿論、別々の意味で有名人な二人に挟まれても動じていない少女に戦慄していた。

 そんな周りの反応も露知らず、三人の耳が運営からのアナウンスを捉えた。

 

『ガオ~ッ! それではNew World Online 第一回イベント、開始するドラッ! 

 制限時間は三時間ッ! 場所はイベント専用マップッ! ちなみに、ボクはこのゲームのマスコット、ドラぞうッ! 以後、よろしくドラッ!

 それではカウントダウンッ!

 

 ──3ッ!』

 

「戦場じゃあ、全員敵ニャ。手加減はしねぇニャア」

 

『──2ッ!』

 

「それはこっちの台詞ら」

 

『──1ッ!』

 

「目指せ、上位ッ! みんな、頑張ろ~ッ!」

 

『──0ッ!』

 

 次の瞬間、その場に集まったプレイヤー全員が光の粒子となって消えた。

 

 

 

 

●●●●●●●●●

 

 

 

 

 第一回イベント。多くの者たちが参加する中で、この男も参加していた。

 

「ここがフィールドか…」

 

 光が収まり、ようやく周りを確認出来たレンジャー系装備の男…ドレッドは自身の現在地を確認。今いる場所が木々が生い茂る森の中だと確認する。

 

(このまま誰かとエンカウントするのを待つか、自分から行くか…まあ、考えるまでもないな)

 

 自身のプレイスタイルから必然的に後者を選んだドレッドは獲物を探そうと動き出し。そして、胸を貫かれて死んだ。

 

「──は?」

 

 状況が理解できないドレッド。しかし、無慈悲にも彼のHPは全損しており、ドレッドはそのまま粒子となって消滅。イベント開始から僅か十五秒でドレッドの記録に死亡一回が刻まれたのだった。

 

 

 

 

 

「さあ、スタートのら」

 

 転送によって、どこかの森に転送されたジョーカー。周りに気を配るが気配は無い。どうやら近くに転送されて居ないようだ。

 

(なら、さっさと探すのが一番)

 

 こういったイベントの場合、自分から探すか、待ち伏せするかの二択になるのだが、彼女は前者を選び、且つ相手にバレないように暗殺することを選択する。

 

(それじゃあ、哀れな子羊を探すとs──)

 

 次の瞬間、彼女の頭部に攻撃が命中し、HPが0になった。

 

「──はえ?」

 

 死亡による消滅からリスポーンまで三十秒。彼女はリスポーンした瞬間、すぐさま近くの茂みに身を潜めた。

 

(今の攻撃、間違いなく遠距離からのッ! こんな事が出来るのはアイツしか居ないッ!)

 

 

 

 ジョーカーがリスポーンした頃、偶然にも彼女と同様に近くの樹に隠れたドレッド。彼も自分のデスした原因の目星をつけていた。

 

(おいおい、勘弁してくれよ。開始早々に奴に見つかるなんて。バレないくらいの長距離攻撃なんてお前しか出来ないよな?)

 

 

 

((──タッツンッ!))

 

 

 

「まずは二人…次の獲物は誰かニャ?」

 

 森の中心部。二人を撃ち抜いた無慈悲な狙撃手(スナイパー)はスコープ越しに次の獲物を探していたのだった。

 

 

 

 



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第一回イベント・遭遇

【NWO】第一回イベント観戦チャット

 

203:名無しの観戦者

 誰か、あの子をどうにかしろwww

 

204:名無しの観戦者

 誰を?

 

205:名無しの観戦者

 あの遺跡にいる大盾の子

 

206:名無しの観戦者

 どゆこと?

 

207:名無しの観戦者

 ・どんなに攻撃受けても弾き返してる

 ・触れると一撃でヤられる大盾

 ・毒と麻痺を撒き散らす

 

208:名無しの観戦者

 は?

 

209:名無しの観戦者

 は?

 

210:名無しの観戦者

 >207

 ジーマーで?

 

211:名無しの観戦者

 ジーマーで。一応、運営に確認したけどチートじゃないみたい

 

212:名無しの観戦者

 マジかw

 

213:名無しの観戦者

 まさか極振りか?

 

214:名無しの観戦者

 あり得なくもないというか、考えられるのがそれしかない。

 

215:名無しの観戦者

 倒せる?

 

216:名無しの観戦者

 モーニングスター頭で弾いてるから無理w 

 

217:名無しの観戦者

 可能性あるならペインやドラグ

 

218:名無しの観戦者

 その人たちは別のエリアで稼ぎ中w

 

219:名無しの観戦者

 そういえば、タッツンはどうした?

 

220:名無しの観戦者

 それなんだが、これを見ろ

 URL:********

 

221:名無しの観戦者

 なにこれ?

 

222:名無しの観戦者

 別の視点カメラ?

 

223:名無しの観戦者

 ──は?

 

224:名無しの観戦者

 え?

 

225:名無しの観戦者

 人が急にヤられた!?

 

226:名無しの観戦者

 今の何かに撃ち抜かれたような倒れ方したけど…

 

227:名無しの観戦者

 矢は見えない、魔法でもない…

 

228:名無しの観戦者

 間違いなく銃。確か、銃持ちは今のところタッツンしか聞いてない

 

229:名無しの観戦者

 一人だけ違うゲームしてるwww

 

 

 

 

 チャットで話題になってた頃。森の中で一人一人とプレイヤーが倒れる中、開始一分足らずでワンデスを貰ったジョーカーとドレッドは出来る限り潜伏しながら森を駆けていた。

 

(上からの狙撃らと、葉っぱが邪魔で私たちを視認することは難しい。なら、バカキチはこの中にいる)

 

(矢や魔法と違って視認出来る速度じゃないが、他のプレイヤーが倒れた向きや弾痕で軌道は予測できる)

 

((タッツンの居場所はそこから導き出せるッ!))

 

 タッツンの位置をある程度予測した二人は彼の後ろを取るように移動。道中でしっかりとポイントを稼ぎつつ、タッツンを探し、そして見つけた。

 

(いたッ! あそこッ!)

 

(ご丁寧に全身や装備を緑色にしてッ! だが──)

 

「「──貰ったぁぁぁッ!!」」

 

 ドレッドのククリナイフが、ジョーカーの大鎌がタッツンの首を捉える…がしかし、

 

「えッ!?」「はあ?」

 

 ドサリと地面に落ちるタッツンの首。光となって消滅し、ポイントが入るかと思えばその様子がない。まさか、あっちがと見るが、互いが顔を上げたことでそうで無いことが分かる。

 では何故か? 

 

 答えは簡単。

 

「──今のはデコイニャ」

 

「「──ッ!?」」

 

 タッツンの声にその場から飛び退こうとした二人だが、時既に遅し。二人の頭は撃ち抜かれ、光となって消滅するのだった。

 

 

 

 

245:名無しの観戦者

 何が起こった!?

 

246:名無しの観戦者

 見えない何かが攻撃した

 

247:名無しの観戦者

 おい。何もない所からタッツンが現れたぞ!?

 

248:名無しの観戦者

 まるで透明人間!?

 

249:名無しの観戦者

 マジのチーターじゃんwww

 

250:名無しの観戦者

 確認した。運営曰く、『潜伏』ってスキルらしい。

 一応、能力を開示しておくぞ。

 URL:*******

 

251:名無しの観戦者

 >250

 お疲れ( ´_ゝ`)ゞ

 

252:名無しの観戦者

 これ、どうなん?

 

253:名無しの観戦者

 スキル発動後に指定範囲内を出なければ姿を消せるって所は遠距離職からすると万々歳だけど…

 

254:名無しの観戦者

 MP食い過ぎw しかも一日一回w

 

255:名無しの観戦者

 弓矢使いには無理だ

 

256:名無しの観戦者

 魔法職も無理www

 

257:名無しの観戦者

 銃も無理じゃね? 確か、魔弾系スキルにMP使うし。

 

258:名無しの観戦者

 他の武器も使ってたし、極振りではない

 

259:名無しの観戦者

 あとはスキルスロットか

 

260:名無しの観戦者

 答えは本人しか知らない…

 

 

 

 

 

 皆がチャット内でタッツンのプレイを検討している中、イベント内でアナウンスが流れる。

 

『ガオ~ッ! 中間発表~ッ!』

 

「ニャ? もうそんな時間かニャ」

 

『残り時間は一時間。現在、三位はメイプルさん。同率二位でドレッドさんとジョーカーさん。同じく同率一位でペインさんとタッツンさんドラ』

 

「マジでッ!? まさかのメイプルちゃん三位かニャ…まあ、あのVITとスキルを考えると納得。しかし、今回は順位が飛んだりはしないのかニャア」

 

『これからは三位以内のプレイヤーを倒した際、得点の三割が譲り渡されるよ。五人の位置はマップに表示されるドラッ!』

 

(なるほど。なら潜伏の意味は無いな。ついでに他の皆の位置も確認しとくか──て、あれ?)

 

 マップを開くと自分のもの以外にも表示される四つの赤点。そこまでなら良かったのだが、一つだけ。たった一つだけがタッツンの位置から異様に近い。しかももう既に接触する位置。

 

(やば──ッ!?)

 

 咄嗟に赤点が標示されている場所に向かって虎皇を盾にする。タッツンの予想通り、虎皇に剣が当たり、ノックバックで数歩分後ろに押されたが、防御が間に合った事によりダメージはない。しかし、状況としては最悪だった。

 

「まさか、お前が来るニャんてニャ…──ペインッ!!」

 

「予想外だったかな?」

 

 そう言って、剣先を向けるペイン。さすがのタッツンもペインがこの段階で来ると思っておらず、しかも彼は自身を狙っているなんて考えてもいなかっただろう。

 

(不味いな。この距離じゃあ、虎皇は使えない…仕方ないか…)

 

 虎皇を仕舞い、イズに特注で作って貰った籠手を装備するタッツン。ステータスが武器にあった数値へ変動するが、それでも勝てるかどうかは怪しかった。

 

「トラを狙って来るなんて、何か酷いことでもしたかニャ?」

 

「いや。君にはいつも世話になりっぱなしだよ」

 

「じゃあ、意味もなく攻撃したと? 傷ついちゃうニャア…傷ついちゃおっかニャアッ!」

 

「意味はあるさ。一度でいいから、本気で君と対戦したいと思ってた」

 

「こっちはお断りニャア」

 

「それは出来ない相談だ」

 

 

 

 

 

 

301:名無しの観戦者

 ヤバいよヤバいよヤバいよ

 

302:名無しの観戦者

 騎士vsキグルミ

 

303:名無しの観戦者

 構図がすげぇwww

 

304:名無しの観戦者

 これ、タッツン終わったな

 

305:名無しの観戦者

 そんなこと無い

 

306:名無しの観戦者

 >305

 お?

 

307:名無しの観戦者

 >305

 ん?

 

308:名無しの観戦者

 タッツンは絶対に負けない!

 

309:名無しの観戦者

 謎のタッツン推しw

 

310:名無しの観戦者

 いやぁ。流石に無理があるって

 

311:名無しの観戦者

 私は信じてる。絶対に負けないって

 

 

 

 

●●●●●●●●●

 

 

 

 

 残り時間30分。茂みに隠れていたフレデリカは目の前で行われている激戦を観戦していた。

 

(いやぁ。まさか、ペインがタッツンに挑むなんてねぇ)

 

 ペインが振るう聖剣を巧みに避けるタッツン。所々に傷があるが、現時点最強とも言えるプレイヤー相手にその程度で済んでいるのは流石と言うべきか。

 

「どうしよう…漁夫の利を狙ってたんだけd「これは無理らね」うh「静かにしろ」ムグッ!?」

 

 突然の声に悲鳴を上げそうになり、何者かによって口を塞がれるフレデリカ。見れば、その犯人はいつの間にか左側にいるドレッドであり、自身の右側にはジョーカーもいた。

 

「~~~ぷはぁッ?! ちょっとドレッドッ! 何すんのよッ!」

 

「悪いな。声を出すと二人にバレるからな」

 

「本当ならバカキチを倒すのはジョーカーの務めらけど、相手がペインだから諦めて観戦してるのら」

 

「あ、そう…それで? アンタたち、狙われているんじゃないの?」

 

「それがそうでも無いんだよな」

 

「今、ここには赤点が四つ。つまり、強いプレイヤーが集まっているのら。もしかすると戦闘してるかも知れないけど、なら四人も集まることはない。共闘しているのではと大体の奴は考えるのら」

 

「なら一人でいるメイプルちゃんを狙おうって事か。まあ、そうじゃなくても来た所でって感じよね」  

 

「だな。俺たちは一位を諦めて、ここでゆっくり観戦させてもらうよ」

 

 

 

 

 

 近くでフレデリカたちが観戦する中、そんな事も露知らずに二人は戦闘を…いや。ペインからの一方的な攻撃をタッツンが捌いていた。

 

「どうしたッ! もっと攻めて来たらどうだッ!」

 

「うるせぇニャッ!」 

 

 光を纏った刃を、闇を纏ったで受け止め、すかさず拳を繰り出すもバックステップで威力を軽減される。だが、これで距離は開いた。

 

「【戦国猛虎・火炎ノ咆哮】ッ!!」

 

 右手を突き出し、雷を纏いし金色の炎の砲撃を放つタッツン。だが、それでもペインは顔に驚愕を浮かべるだけ。体を傾けて回避。右肩を焼いたもののダメージは最小限に押さえられてしまった。

 

「今のは危なかったッ!」

 

「避けたくせに良く言うニャッ!」

 

「だが、今の攻撃ッ! そう何発も撃てないだろうッ!」

 

 ペインの言う通り、スキル【戦国猛虎】はスキルスロットに入れているため、五回はMP消費無く使えるが、戦国猛虎で使える魔法にはそれぞれリキャストタイムがある。先ほどの一撃はイベント中にはもう撃てない。つまり、ペインを確実に倒す可能性の札が無くなってしまった。

 手の内がバレた事で焦りが出ていたのだろう。ペインはその隙を突き、肉薄する。

 

「しま──」

 

「遅いッ! 【聖剣ノ一撃】ッ!」

 

 ペインの一撃を諸に食らってしまったタッツンの体は斬られた衝撃で後ろに翔び、近くの木に叩きつけられる。

 VRMMOが故に襲ってくる二つの痛み。恐らく、現実では苦悶の表情を浮かべているだろう。

 

「…これで終わりだ。楽しませて貰ったよ」

 

 止めを差しに歩み寄ろうとするペイン。

 だが、その足はタッツンが動き始めた事ですぐに止まる。

 

「いつつ…やるじゃねぇか、ペイン。正直、あと少し、剣がもう1cm深く切り裂いてたら負けてた」

 

「いつものロールプレイは良いのかい? 語尾が抜けてるよ」

 

「今からマジになるんだ。語尾なんて気にしてられるかよ」

 

「(まだ闘志は衰えていない、か…)じゃあ、どうする? 言っておくが、先ほどの砲撃はもう効かないよ」

 

「だろうな。あれは当たれば確実に倒す為の一撃だ。避けられたら終わり。()()()()()()()()()()

 

「…どういう意味だい?」

 

「このスキルはまだ使った事が無いんだよ。だからこそ賭けるッ!」

 

 次の瞬間、タッツンの体が焔に包まれた。

 自滅技か?

 そう考えたペインは巻き込まれる前にと聖剣を振るう。

 

「【聖光斬】ッ!」

 

 聖属性を秘めた強力な一撃がタッツンに向かって放たれ、爆発が起こる。

 モウモウと立ち込める煙。倒したかどうか分からない以上、油断は出来ないと武器を強く握りしめるペイン。だが、煙から出てきた()()はペインを容赦なく殴り飛ばし、聖剣を盾にしたというのに少なくないダメージをペインに与えた。

 

「く──ッ!」

 

 すぐに立ち上がり、煙から出てきたそれを見据えるペイン。

 黒と赤に彩られ、所々に営利な刃を携えたアーマー。頭部は獰猛な虎、両肩の肩当ては燃え盛る焔を模している。

 先ほどまでのデップリとしたキグルミでは無く、何処か特撮ヒーローを思わせるスラリとした出で立ちに、チャットでは大盛り上がりを見せていた。

 

 

 

756:名無しの観戦者

 トラ系ヒーロー来たあああああ!!!

 

757:名無しの観戦者

 ちょっと待って何が起こったwww

 

758:名無しの観戦者

 ありのまま今起こったことを話すぜ! ペインの攻撃でキグルミが爆発に巻き込まれたと思ったら煙の中からアーマーヒーローが出てきた! 何を言ってるか分からねーと思うが俺も分からなかった!

 

759:名無しの観戦者

 普通にカッコいい

 

760:名無しの観戦者

 乱入者? それともタッツン?

 

 

 

 

 アーマーの正体が議論に上がった所で、それが声を発する。

 

「【纏刀将鎧(まといとうしょうがい)】。一日に一回しか使えない奥の手。使ったのは今日が初めてだが、中々に良いじゃないか」

 

「その声…まさかタッツンかッ?!」

 

「驚いたか? まあ、俺も驚いているよ。何せ、キグルミから特撮ヒーローに大変身だもんな。

 

 ──さて。残り時間は10分。第二ラウンドといこうじゃねぇか、ペインッ!!」

 

 

 




本日出てきたオリジナルスキル
【潜伏】
 1日1回MP1000を使用し、他から姿を視認出来なくする。使用地点から半径1.0m外に移動すると強制解除される。

【戦国猛虎・火炎ノ咆哮】
 【戦国猛虎】によって使用できる魔法の一つ。15時間に1回対象に攻撃力×5倍の火・雷属性の魔法攻撃を放つ。


【聖剣ノ一撃】
 対象に攻撃力×1.5倍の光属性の物理攻撃を与え、一定時間の間、通常攻撃に光属性を付与する。

【聖光斬】
 半径10m以内の対象に攻撃力×1.5倍の光属性の魔法攻撃を与える。


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第一回イベント・決着

「紅蓮を纏えッ! 【戦国猛虎・焔大傾奇(ほむらおおかぶき)】ッ!」

 

 全身に焔を纏い、【纏刀将鎧】で変化した拳で殴りつけるタッツン。鋭利な爪で刺し、肉を抉り取ることに特化した籠手は僅かにかするだけでも痛手を負わせるだろう。

 更に…

 

「オラッ! オラオラッ! オラオラオラオラッ!」

 

「く──ッ!?」

 

 タッツンのラッシュを避けるペイン。しかし、タッツンの纏う炎が、彼のアーマーの節々に生えた鋭利な刃が追い討ちをかける。僅かに触れただけで肌を焼かれ、鋭利且つ高熱の刃がペインの体を焼き切り、その痛みに気を取られるとタッツンの拳が深々と刺さる。

 だが、ペインだって負けては居ない。タッツンの攻撃の合間を狙い、的確に剣を当ててくる。【纏刀将鎧】によってVITが上がっているとはいえ、先ほどまでのダメージがある。わずかなダメージも今のタッツンには致命傷に成りかねない。

 

「やっぱり強いなッ! だが、俺だって負けたくないッ!」

 

「それは俺の台詞だッ!」

 

 先ほどまでペインの一方的な戦闘が一転して互角の戦いに。チャットやゲーム内の観戦者たちはその熱戦に昂りを覚えていた。

 

 

 

 

 

1420:名無しの観戦者

 ヤベえ!

 

1421:名無しの観戦者

 負けるなタッツン!

 

1422:名無しの観戦者

 ジーマーでバイヤー過ぎるでしょw

 

1423:名無しの観戦者

 これ、どうなる!!

 

1424:名無しの観戦者

 分からん

 

1425:名無しの観戦者

 よっし! そこを右! 次に回し蹴り!

 

1426:名無しの観戦者

 >1425

 謎のタッツン推し、まだいるwww

 

1427:名無しの観戦者

 聖剣のペイン 破壊のキグルミのタッツン

 マジでどうなる!?

 

1428:名無しの観戦者

 正直なところ、今はタッツンの攻撃が多いけど、さっきまでのダメージがあるから五分五分

 

1429:名無しの観戦者

 行っけぇぇぇ! タッツン負けるなぁぁぁ!!

 

1430:名無しの観戦者

 いい加減誰? このタッツン推し

 

 

 

 

 ちょうどその頃、イベント時間は残り5分を切っていた。互いのダメージ量からして、恐らく次が最後の攻撃になるだろうと考えた二人は互いに距離を取る。

 

「流石だな、ペイン。その強さに思わず敬服するぜ」

 

「ありがとう。だけど、最強の名を持ってしても俺はまだ勝ちたい…まだ足りないッ!」 

 

 光輝く剣を構えるペイン。己の欲望を満たすために。

 

「溢れんばかりの我欲ッ! 衝動ッ! だけど、それはゲーマーなら誰しもそうだッ!」

 

 スキルで紅蓮に燃える刀を生み出すタッツン。己が勝利を掴み取るために。

 

「NWOをッ! 俺が一番好きなんだとッ!」

 

「NWOでッ! 俺が一番上手いんだとッ!」

 

 

「「──この拳ッ! 空高く掲げる為にッ!!」」

 

 

──【戦国猛虎・火炎烈破斬(かえんれっぱざん)】!!

 

──【断罪ノ聖剣】!!

 

 

 紅蓮の炎が、聖剣の輝きが辺りを塗り潰し、二人の姿を隠す。近くで見ていたフレデリカたちは勿論、遠方にいたメイプルたちでさえ、その光を確認することが出来た。

 チャットやゲーム内で何事かと騒ぐ者たち。

 光が収まると、そこに立っていたのは互いに武器を振り抜いた状態で背を向ける二人。結果はどうなったのかと固唾を飲んで見守る観戦者たち。僅かな静寂の後、先に膝を着いたのは…

 

 ──タッツンだった。

 

「やっぱり、強いな、ペイン……」

 

「……ありがとう」

 

「次は、負け、ねぇ…ぞ……──」

 

 地面に倒れ、光の粒子となるタッツンの体。観戦者たちはやはりペインが勝ったか、と健闘したタッツンに拍手を送る。

 

 

 

 

 ──筈だった。

 

 

 

 

「それは、こっちの台詞、だ……──」

 

 ドサリと崩れるペイン。先ほどのタッツン同様に消える彼に、観戦者たちは何が起こったのかと目を見開く。

 

 

 

 

1910:名無しの観戦者

 ペインが倒れた!

 

1911:名無しの観戦者

 この人でなし!

 

1912:名無しの観戦者

 誰かの乱入か!?

 

1913:名無しの観戦者

 いや、その様子はない

 

1914:名無しの観戦者

 つまり、相討ち?

 

1915:名無しの観戦者

 ジーマーで?

 

1916:名無しの観戦者

 お前ら静かにしろ。今から結果発表だ

 

 

 

 

 

『ガオ~♪ 終了~♪ 

 みんな、今日は楽しんでくれたかな? それでは結果発表ドラ!

 三位 メイプルさん!

 二位 ドレッドさんとジョーカーさん!

 そして、栄えある一位!

 

 ──ペインさんとタッツンさんドラ!』

 

 

 

 

1936:名無しの観戦者

 ウオオオオオ!!

 

1937:名無しの観戦者

 ウオオオオオ!!

 

1938:名無しの観戦者

 スゲエエエエ!!(゜ロ゜ノ)ノ

 

1939:名無しの観戦者

 マジかΣ(゚◇゚;)

 

1940:名無しの観戦者

 あのペインと相討ち、だとぉ!?

 

1941:名無しの観戦者

 流石タッツン! 好き!

 

1942:名無しの観戦者

 二人の健闘に敬礼(*`・ω・)ゞ

 

 

 

●●●●●●●●

 

 

 

 運営の予想以上の盛り上がりを見せた第1回イベント。メイプル、ドレッド、ジョーカーの順で今回のイベントの感想を言い(※ドレッド&ジョーカーは『タッツン後で覚えてろ』とコメント)、遂にペインとタッツンの番が回ってくる。

 

『それでは今回のイベントで最高の戦いと昂りを与えてくれた二人に最後のコメントを頂くよ♪ ペインさん、タッツンさん、振り返ってみてどうだったドラ?』

 

「今回は第1回のイベントという事もあって、いろんなプレイヤーと戦うことが出来たよ。だけど、目立ちすぎた俺たちは運営から目をつけられるだろうね」

 

「そもそもトラはペインが襲ってきた事に驚きニャ。心臓に悪すぎるニャア」

 

「それは隠れて射撃した君が言えるかな?」

 

「それが銃って奴ニャ。まあ、最後に一つ。

 ──ありがとうございました。いいバトルでした」

 

「──こちらこそ」

 

 固く握手をかわす二人。観戦者たちは二人のプレイヤーに盛大な拍手を送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【オマケ】

 

 

「よっしゃああああッ! 見たか、ペインッ!」

 

 白峯家の一室。勉強の息抜きで観戦していた理沙は思わずシャドーボクシングをするほど興奮していた。その昂りは戦っていた本人たち以上かもしれない。

 

「はあ…やっぱり龍兄はカッコいいなぁ…」

 

 物心着いた時にはいた最愛の兄。血の繋がりがないせいか、兄弟以上の愛が無いと言えば嘘になる。だが、自分達は兄弟でいい。兄弟だからこそ、妹という特権を使って名一杯甘えられるのだから。

 

「よっしッ! それじゃあ勉強を再開しますかッ!」

 

 全ては大切な親友と遊ぶ為、最愛の兄と遊ぶ為、絶対に明日の実力テストで高得点を取ってやる、といつも以上に勉強に精を出す理沙だった。

 

 

 

 

 



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妹、参戦

こんかい。完全にネタへ走ります。


 午後8時。夕食も終わり、白峯家のリビングは静寂に包まれていた。テレビを背に並んで正座するのは白峯兄妹。対面のソファに座る白峯母の手には今日返ってきた理沙の実力テスト。隣の食卓では彼らを優しい目で見守る父の姿あり。

 重苦しい空気が流れる中、漸く母が口を開く。

 

「5教科で349点。悪くは無いけど、私が出した条件はなんだったかしら?」

 

「合計で350点……」

 

「母さん、理沙だって頑張ったんだし、今回くらいは多目に見ても「貴方は黙ってて」はい……」

 

「あの、義母さん。これからは俺も理沙の勉強を見るようにするから、何卒御慈悲を「貴方は甘やかすことしか出来ないでしょう」是非もナシ……」

 

(お義父さんッ! 龍兄ッ! もう少し頑張ってッ!)

 

 容易く轟沈する白峯男衆に内心涙目となる理沙だが、相手は家内ピラミッドの頂点に立つ母。今回ばかりは相手が悪すぎた。例えるなら◯Hで裸装備と初期武器&アイテム無しで古龍を狩りに行っているようなもの。

 もうダメか…とクエストリタイアを選択しようとする理沙だったが、母もそこまで鬼ではなかった。

 

「……次、落としたら許さないからね」

 

「──え? それって…いいの?」

 

「あら? 禁止にした方が良かったかしら?」

 

「嫌ですッ! ありがとうございます、お母様ッ!」

 

 こうして、理沙は漸くゲーム解禁を許された。

 その日の夜、仲良く一つの布団に入った龍騎と理沙は夢に旅立つまでの間、今後の事について語り合っていた。

 

「VIT極振りと特殊攻撃…龍兄に至ってはMPとDEX中心のオールラウンダーか。二人に追い付くのは大変そうだなぁ」

 

「理沙はどうするんだ? 楓ちゃんのことを考えると後衛職だけど──」

 

「ノンノン。それじゃあ、面白くない。だからこそ、私はAGI重視の回避盾になるつもり」

 

「その心は?」

 

「私とメイプルのパーティーはどんなときでもノーダメージ。何時だって無傷とか、カッコいいでしょう? それに、これなら龍兄と組む時も問題ないしね。私が敵を引き寄せて、龍兄がメインの銃で敵を蹂躙する。最高のコンビじゃない」

 

「なるほどな。でも、それだけじゃないだろう?」

 

「バレてた? まあ、AGIが高いと銃弾を避けることも出来るだろうしね」

 

「俺と戦うため、か?」

 

「私たちの勝敗は100戦中40勝40敗20引き分け。ゲーマーたるもの、やっぱり身近、なライバルと、は競い、合い、た…い………」

 

「……俺もだよ、理沙」

 

 己の腕を枕にして眠る最愛の妹に対し、龍兄は額にそっと口付けをするのだった。

 

 

 

●●●●●●●●●

 

 

 

 翌日。NWOに新たなプレイヤーが参戦した。

 新人もとい理沙を見つけたメイプルは早速声をかける。無論、リアル割れを避けるため、事前に教えられたプレイヤーネームで彼女を呼ぶ。

 

「おーいッ! サリーッ!」

 

「私の名前を呼ぶってことは、貴女がメイプルね」

 

「うんッ! やっと一緒に遊べるねッ! ……所で、タツ兄さんは? 一緒にログインしなかったの?」

 

「あー…それなんだけどね。私たち、VRMMOをするときは離れてやろうって事になってるの」

 

「そうなのッ!?」

 

 理沙、改めてサリーの言葉に驚くメイプルだったが、無理もないだろう。物心着いた時からいつも一緒にいる二人が離れてゲームをするなんて、彼女らを知っているメイプルには想像も出来ないのだ。

 

「実はさ、私ってVRだとよく動く方なの」

 

「それがどうかしたの?」

 

「前に私たち、サッカーゲームをやっててね。ついつい熱くなって周りが見えてなかったの。そしたら…その…龍兄の龍兄を蹴り飛ばしちゃって……」

 

「タツ兄さんのタツ兄さん…?」

 

「メイプルは分からなくてよろしい。とにかく、お互いに怪我を避けるため、VRMMOは離れてやろうって決めたの」

 

「そうなんだ。てっきり喧嘩でもしたのかと思ったよ」

 

「喧嘩したくらいで離れないわよ。さて、そろそろ龍兄と合流しましょう。確か、噴水前で合流だったわよね?」

 

「うん。こっちだよ」

 

 もう一人の待ち人の元へ二人仲良く向かうメイプルとサリー。だが、噴水に近づくにつれ、二人の聴覚が曲を捉えるのだった。

 

「これ、何の曲だろう?」

 

「普段から流れないの?」

 

「うん。私も初めて聞いた」

 

 そうこうしている内に噴水のある広場へ到着する二人。そこには既に小さな人だかりが出来ていた。集まっている人々の視線の先。そこに居たのは

 

 意気揚々と踊る特撮ヒーローと四人のプレイヤーたちだった。

 

「なにあれ?」

 

「うわぁ…ッ!」

 

 思わず口に出すサリーと感嘆の声を上げるメイプル。そんな事は露知らず、ゼン・ゼン・全力全開と曲に合わせて踊る白いヒーローとプレイヤー。曲が終わり、躍りも終わったかと思えば、ヒーローが突然名乗りを上げる。

 

「秘密のパワーッ! ゼ◯カ◯ザーッ!!」

 

「聖剣パワーッ! ペインッ!!」

 

「地割りパワーッ! ドラグッ!!」

 

「し、神速パワー。ドレッド…」(/-\*)

 

「ま、魔法パワーッ! フレデリカッ!!」(///∇///)

 

「五人揃ってッ!」

 

「「「「「機界戦隊ゼンカイジャーッ!!!」」」」」

 

 三人はノリノリで、一人は赤面、一人はやけくそで決めポーズを取り、共に彼らの後ろで起こる爆発エフェクト。観客たちは拍手や笑い声、指笛で答え、一方のメイプルたちはポカンと見つめていた。

 

「ねぇ、サリー。もしかして、真ん中の人、タツ兄さんかな?」

 

「多分、そうだと思う…というか、このNWOであれは大丈夫なのかしら?」

 

 ※一応、NWO運営に問い合わせて許可を貰ってやってます。

 

 十数分後。虎の料亭ではゼ◯カ◯ザーのコスプレから何時もの虎のキグルミに戻ったタッツンがドレッドに卍固めを食らっていた。

 

「ギブギブギブギブッ!!!?」

 

「そうか? なら、もっと強くしないとなぁッ!」

 

「のぉぉぉッ!?」

 

 一方、傍らではペインたちも含め、サリーの歓迎会を行っていた。

 

「それじゃあ、新たな友に乾杯ッ!」

 

『──乾杯ッ!』

 

「まさか、トッププレイヤーの皆さんに祝って貰えるとは…」

 

「これも今回の報酬さ。まあ、目立つために踊らされるとは思ってなかったけどね」

 

「いいじゃねぇか。うまい飯が只で食える上に多額の報酬も貰えるんだ。楽しんだもの勝ちだよ」

 

「フレデリカちゃん、カッコ良かったよッ!」

 

「やめて。あれは一時の気の迷いなの。だから、そんな純粋な目で見ないでッ!」

 

「ちょっとぉぉッ!? 主催者を放っておいて、始めないでぇぇぇッ!?」

 

「に げ ん なぁぁッ!!」

 

 ──ゴキュッ。

 

「NOOOOOOOOOOッ!!?」

 

 小気味いい音と共に響く絶叫。

 後日、彼らの勇姿(笑)はSNS上に取り上げられ、トレンド入りを果たすのだった。

 

 

 

 




今回の装備
【ゼ◯カ◯ザー】
 イズが運営に問い合わせ、ネタで作った装備。ただ形だけの装備なため、ボーナスは発生しないが、人々には大盛況。SNSの反響を見て、ニヤニヤしていたとか…


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