変革の剣神ー欠落の剣士は救世主ー 世界存亡の危機とかどうでもいい最強剣士、嫁さんのために世界を救う。 本編完結 (キン肉ドライバー)
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本編
※簡単な登場人物紹介(後から登場人物を追加してますので、たまに見返してね♡)


 

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 デュラン・ライオット。

 とある理由から剣を極めるために旅をしている人族の剣士でとても強いが人の感情がよく分からず、それによってトラブルを起こすことが多々ある。

 

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 アリス・リーフグリーン。

 特殊な生まれから様々な悪意を向けられながらも真っ直ぐに育ったハーフエルフの少女、自己評価が低く自分の安全を考慮していない無茶な行動が多い。

 

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 ヴィンデ

 デュランを育て上げた妖精の少女。デュランの手の平ほどの大きさしかないにも関わらず、自身より大きいリボルバーを自由自在に使う。デュランには自身のことをほとんど話していない。

 

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 荷車

 デュラン達の荷物を預かる縁の下の力持ち。本当はデュランが引くための取っ手がついてるのだがAI君が描いてくれないので泣く泣く断念。頭の中で付け足しといてください。

 

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 黒神(こくじん)

 デュラン達が倒している魔物を生み出してるやつ。

 

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 リーベ

 体が金属で出来ている機人族の男の娘。

 

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 ルイス

 ドワーフ族の男性。熱血漢。

 

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 ノア

 ドワーフ族の女性。優しい。ルイスのことが好き。

 

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 クラウン

 体が木で出来ている木人族の男性。王族

 

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 ウロボロス。

 魔物が進化して大魔王になった。見た目は見上げるほどでかい蛇。人型になると小さくなる。

 名前を思いついたら書いとく。

 

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 天晴(てんせい)

 デュランの相棒の刀。刀のイラストを本当は本編に貼りたかったがAI君が日本刀を描くのが下手なので断念。

 というわけで私物の模造刀の画像を貼っときます。脳内で刀身を黄金色にしてください。

 

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 光竜ライオード。

 大樹ユグドラシルの番人。デュランと死闘を繰り広げた後に天晴の材料を渡した竜、デュランのことを心配している。

 

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 大樹ユグドラシル。

 一度崩壊しかけた世界を救ったすごい木。

 

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 切り札である天下無双を使ったデュラン、目の色はAI君が変えてくれなかったので脳内で銀色に変えてください。

 

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 天晴の付喪神形態。

 

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 アルム。

 ドワーフ族の男性。頑固一徹という言葉がピッタリの天晴を鍛錬した鍛冶師。

 

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 蝙蝠(こうもり)の魔王である吸血鬼の男性。名前は考えてない。

 

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 優しい女性を変身の能力で(だま)してから血を吸うのが好きな蝙蝠の魔王である吸血鬼の少女。名前は考えてない。カス。

 

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 アグリ。

 美しい少女の悲鳴をBGMに洗脳(せんのう)の能力で洗脳した後で犯すのが好きな蝙蝠の魔王である吸血鬼の男性。カス。

 

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 ストロング。

 最強の能力持ちであるゴリラの大魔王。強い!(小並感(こなみかん)

 

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 かつて存在した巨人族の神であるオーディンを再現して作られた機械の巨人。

 

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 かつて存在した機人族(きじんぞく)の神である天使ガブリエルを再現して作られた天使。

 

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 人族の力を他の多種族並に上げるパワードスーツ。

 

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 グリード王国の王。

 多種族の幼い奴隷を壊してから犯すのが好きな人族の男性。カス。

 

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 守天(しゅてん)

 かつて存在した鬼人族(きじんぞく)乱神(らんしん)酒呑童子(しゅてんどうじ)と同じシュテンの名前を持つ天才、一族の秘宝である()壊震(かいしん)を使うことができる。

 

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 アーロゲント・アイディール。

 アイディール神国を治めている法王、強いがデュランよりは弱い。

 

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 魔導鎧(まどうよろい)

 科学と魔法を融合させて創り出されたパワードスーツ。

 

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 機神(きしん)ガブリエル。

 かつて存在した機人族の神、強い!(小並感(こなみかん)

 

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 N〇Rが好きそうな顔という失礼な理由で顔をデュランにコピーされた一般人。ちなみに本人は奥さん一筋の愛妻家(あいさいか)

 

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 ヘルト・ライオット。

 デュランとアリスの間に生まれた男の子、十歳。父親であるデュランのようなかっこいい剣士になるのが夢。

 

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 杏香(きょうか)

 守天の娘であり、パパが世界で一番強いと信じてる鬼人族の少女。

 

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 厄災(やくさい)宝玉(ほうぎょく)

 クソ野郎の魂が宿った宝玉。

 

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 青葉(あおば)

 守天の奥さん。

 

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 酒呑童子(しゅてんどうじ)

 鬼人族の神。カスでクズ。

 

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 ステラ・リーフグリーン。

 デュランとアリス間に生まれた女の子、零歳。デュランとアリスが大好き。

 

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 ヘルト・ライオット、二十歳。強くなった。

 

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 グラビティ。

 重力の能力持ちである(かめ)の大魔王。大技に頼りがち。

 

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 サウンドソング。

 音の能力持ちである白鳥(はくちょう)の大魔王。綺麗(きれい)()きで面倒くさい奴。

 

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 ディザスター。

 災害の能力持ちである(なまず)の大魔王。汚い沼が大好き。

 

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 フェーブル。

 最弱の能力持ちである(ねずみ)の大魔王。()臆病(おくびょう)なのだが結果的に相手の油断を誘うことができる。

 本人以外は臆病な性格は演技だと思っている。能力がマジでヤバイ。

 

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 レスレクシオン

 復活の能力持ちである鹿(しか)の大魔王。能力がマジでヤバイ。

 

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 ファンシー

 空想の能力持ちである(ドラゴン)の魔王。能力がマジでヤバイ。

 

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 ステラ・リーフグリーン、十歳。まだまだ未熟だが結構強い。

 

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 杏香、二十歳。強くなった。ヘルトのことが好き。

 

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 ルビ-。

 吸血鬼なのに優しい異端(いたん)の魔王。




何故か簡単な登場人物紹介のアルムのとこだけ消していたので再度掲載しました、申し訳ございません。


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忌み子

 少女は忌み子(ハーフエルフ)である自身のことが大嫌いだった。

 エルフ族の族長(ぞくちょう)の娘として生まれた少女の母親は、族長の娘として厳しく育てられた影響かおてんば娘で人一倍冒険心が強く。

 外の世界は危ないから決して森の外へ出てはいけないという(おきて)を破り、彼女は閉鎖的な大森林を飛び出した。

 

 エルフ族は精霊(せいれい)の声を聞くための長く尖った耳を持ち、精霊の力を借りることで強力な魔法を使うことができる種族だが。まだ子供である彼女にはそこまでの力はなかった。

 結果として人さらいに捕まった彼女は奴隷(どれい)として人族(じんぞく)の権力者の持ち物となり、助け出された彼女は心を(こわ)されて人形のようになっていたが。

 皮肉にも死んでいた彼女の心を生き返らせたのは身ごもっていた権力者の子への母性本能であり、母親としての愛だった。

 

『やぁっ! 私の赤ちゃん、とらないでっ!』

 

 彼女は権力者への憎悪と善意から自身の子供を魔法で()ろそうする大人達に衰弱(すいじゃく)しきった身体で抵抗し、子供を守り切った。

 しかしエルフ族は人族から一方的な宣戦布告で国を滅ぼされて隠れ潜むようになった過去があり、可愛がっていた族長の娘が無理やり身ごもらされた子供。ましてや相手は憎悪の対象である人族の指導者である。

 生まれた子供に悪感情が向かってしまうのも無理はなかった。

 そうして複雑な心境の大人達の見守る中で短く尖った(・・・・・)耳を持つハーフエルフの少女は生まれた。

 

 大人達の多くは生まれた子供に罪はないと憎悪を抑え込み、まだ子供である彼女の子育てを手伝い少女の成長を見守っていたが。裏で一部の大人達が少女のことを()()と呼んで嫌悪していた。

 そのためある意味当然ではあるが大人でも抑えきれない憎悪をエルフ族の子供達が抑えれるはずもなく、少女は他の子供から様々な暴言、暴力を受けることになったが。

 自身の生まれと子供達が少女の父親の手で理不尽に家族を奪われたことを知ってしまった少女は反撃することもできず、やがて忌み子(ハーフエルフ)である自身は生きていてはいけないのではないかと思うほど追い込まれてしまう。

 

『ごめんなさい、私が森の外に出さえしなければっ。私が全部悪いのッ!

 アリスに罪なんてないのよ! だって、あなたはこんなに優しいじゃない!!』

 

 やがて母親へ『僕は死んだ方がいいのかな、お母様』と()いてしまった少女は涙を流しながら己を抱きしめてそう言った母親の姿を目の当たりにして強く後悔し、確かな母親からの愛情を感じた少女は生きようと自然と思った。

 自分自身に価値を感じることができず、生きていていいのかまだ分からないけど。それでも母親の泣き顔は二度と見たくないと思ったのだ。

 

 それから少女は変わった。今まで一方的に暴力を受けるだけだった状況を変えるため、子供達と向き合い殴られながらも心の傷が少しでも治ればいいと子供達の親代わりをしようとした。

 そんな少女の姿は親を(うば)われた子供や人族との戦いで子供を亡くした親の心を(くも)らせていた憎しみを晴らし、自分自身の心へとしっかりと向き合わせる。

 本当はみんな分かっていたのだ。こんなものは八つ当たりにすぎないと、亡くなった家族が生きていたのならばこんな幼子(おさなご)に何をやってるんだと怒るのだろうと。

 

『ごめん、なさ、いッ! 本当はわかってる、あなたに罪がないことも。こんなことをしたってしょうがないってこともッ!! 

 だけど許せなかった! 母様はあの人族に殺されたのに!! なんでその娘が生きてるのよッ!l 返して、私の家族を返してよっ』

 

 少女は子供達の中で一番年上の女の子が叫んだ言葉に対して最初反応できなかった、それほどの衝撃だった。

 頭では分かっているつもりだったのだ、己の存在の罪深さを。しかし現実は少女の想像を超えていた。

 目の前の女の子は当たり前のように母親を持つ子供だったのだ(・・・・・)

 その日人族が攻めてさえこなければきっと、今日も母親と共に笑っていた。こんな悲しみを背負うこともなかった。

 気が付けば少女は女の子を抱きしめていた。まるで女の子が愛する我が子かのように優しく、女の子へあなたを愛している人が少なくともここに一人いると伝わるようしっかりと。

 

『ごめんね、僕はお母様のために生きるって決めたから死ぬことはできない。

 それでもあなたの悲しみを受け止めることくらいはできると思うんだ、こんな僕でも』

 

 少女は泣きじゃくる女の子の頭を静かに撫でながら己の罪を(つぐな)おうと密かな決意をした。

 母親のために死んで逃げることはできないからせめて、目の前の女の子のような人を死ぬまで救い続ける(・・・)のだと。

 それがアリスと名付けられた少女が己の魂に刻んだ(ちか)いだった。だから僕は後悔しない、絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 魔物(まもの)。魔法などに使用される生命エネルギーである魔力の湧き出る竜穴(りゅうけつ)と呼ばれる場所が死の属性である闇属性の魔力で汚染され、周囲の動植物が(へん)じた動く災害。そんな存在の群れがエルフ族の里を襲った。

 アリスは里の外れで先生として魔法を教えていた子供達を逃がすため、力の限り闘ったが逃げ遅れた子供をかばったことで致命傷を負ってしまった。

 何とか魔法で治療することで闘い続けようとしたが、やはり傷口から流し込まれた毒が治療を許さなかった。視界が回り、もうこれ以上闘うことは無理だと悟って覚悟を決めた。

 

「アリスお姉ちゃん! 逃げてっ!」

 

「大丈夫、君を絶対に死なせやしないさ」

 

 ――例え、僕がここで死ぬことになってもッ!!

 

 そう心の中で呟いた後、アリスは最後の力を振り(しぼ)って己の生徒である少女を風属性の魔法で里の中心部へ向けて吹き飛ばす。

 これで少女の命は里の大人達が守ってくれると安心したアリスは毒が回ったのか、立っていることができなくなり崩れ落ちた。

 

 ――ごめんね、お母様。もう泣かしたくなかったのに僕、もう死んじゃうや。

 

 アリスは人のため生きた人生に悔いなどなかったが、母親は己が死んだ後大丈夫だろうかと少し不安だった。

 忌み子(ハーフエルフ)である自分のことを愛情を持って育ててくれた程優しい母親だから、きっと僕なんかが死んでもショックを受けるのだろう。

 そうならないためにもまだ生きていたかったが、もう指一本動かなかった。

 

 ――そう言えばもっと自分を大切にするよう言われたばっかりだったけ。僕は僕なりに体調管理しっかりしてるんだけどなぁ。

 

 少し前に『睡眠は一刻で十分だしあまり食べ物を食べなくても周囲の魔力だけで一月は生きていられる!』と胸を張って言い切ったアリスに対して烈火(れっか)(ごと)く怒っていた母親の顔を思い出して幸せだったと苦笑し、それと同時に死にたくないと強く思ったが。その願いが叶わないことはアリスが誰よりもよく理解していた。

 

「――まだ、生きていたかったなぁ」

 

そうして人生で初めての()がままをこぼした後、アリスは目を閉じて最後の時を待つ。

 

「グガァッ!!」

 

「えっ、何っ!?」

 

 しかしいつまで待っても死は訪れず、何故か魔物が悲鳴を上げた。

 何事かと目を開けたアリスの視界に映り込んだのはまるで太陽のような輝きを放つ人影だった。

 もう一度よく見てみると人影は耳がハーフエルフであるアリス以上に短く、獣の特徴なども持っていなかった。

 

「……どういう風の吹き回しよデュラン、あなたさっきまでエルフ族を食べて強化された魔物と闘いたいなんて最低なことを言ってたじゃない。

 急に飛び出すなんて正義の心にでも目覚めたの? だったら嬉しんだけど」

 

「……分かんねぇ、分かんねぇけど。体が勝手に動いたんだよ」

 

 アリスは挿絵(さしえ)でしか見たことのない人族の特徴をもった少年と青年の中間くらいの男性に目を見開いて固まっていたが、聞き流せない言葉が聞こえて我に返った。

 声の聞こえた方へ視線を向けると何故か巨大な鉄の塊を(・・・・)抱えている妖精がジト目で人族の男性を見ていた。

 男性は先程の言葉に対する返答なのか、妖精から目をそらしながらそう言った。

 

「ったく、手を出しちまったもんはしょうがねぇ。()るか」

 

 人族の男性は腰にある刀の(つか)へと手をかけて鯉口(こいくち)切ると金色の(・・・)魔力を体に(まと)い、黄色の着物の上から羽織(はお)っている黒い羽織(はおり)が揺れたかと思えば一瞬で姿が消えた。

 

「えっ、何処に――」

 

「……やっぱ、手応えがねぇな」

 

「――はっ、えっ?」

 

 気が付いた時。人族の男性は魔物の群れを斬り殺し終え、アリスのとなりに座り込んで大きな欠伸をしていた。

 その光景を目の当たりにしたアリスはまるで伝説の剣神(けんじん)のようだと思い、そんなことはあり得ないと即座に己の考えを否定したが。ふと、人族の男性の髪と瞳の色が金だったことを思い出して固まる。

 何故なら金色の魔力、光属性の魔力を持っている証である金色の眼と(かみ)は七大竜王のリーダーである光竜(こうりゅう)ライ・オードしか持たないはずだからです。

 

「……そこの綺麗(きれい)な女、肩の傷と体の毒を消してやるから動くなよ」

 

「えぇっ! 魔物の毒を消せるウゥッ!?」

 

 そして希少な薬草を(せん)じた薬でなければ取り除けないはずの魔物の毒をこの場で消せるという人族の男性の規格外の言葉に驚き、思わずアリスは体を動かそうとしたが毒の影響で体中を激痛が走って涙目になった。

 人族の男性はそんなアリスの行動に優し気な笑みを浮かべながら手をかざし、金色の光が手の平から放たれアリスの体を優しく包み込んだ。

 光が収まると本当に体から毒がなくなったのか、体の痛みのほとんどが消えた。

 

「これでよし、里まで連れてってやるからじっとしてろ」

 

「だ、大丈夫です! もう動けますから!!」

 

 そのまま放心しているといつの間にか人族の男性の腕の中に納まっており、その態勢(たいせい)がお姫様抱っこだと気が付いたアリスは顔を真っ赤に染め上げた。

 なんとか腕の中から抜け出ようと体を動かしたが肩口から痛みが走り動きを止めた。

 

「暴れんなまだ応急処置しかしてねぇんだから、そのまま大人しくしてろ」

 

「えっ、な、なんでッ!?」

 

 そしてアリスは人族の男性が体の一部を抑えたことで完全に動けなくなってしまう。

 アリスの知るよしもないことですがこの時、人族の男性は体を麻痺させ動けなくするツボを魔力で効果を高めながら押しており。後一時間は動くことができないようにされていました。

 しかしながら里の仲間達にお姫様抱っこを見られるという羞恥(しゅうち)プレイを受けている最中のアリスには関係のない話でしょう。

 

「……もしかして、デュラン。あの子に一目ぼれした?」

 

 普段と違いすぎる人族の男性の行動に固まっていた妖精はそう呟きながら一筋の涙を流すのでした。

 これが後に世界を救う少年と少女の始めての出会いであり、またとある妖精の受難の始まりでしたが。そんなことはまだ、誰も知る(よし)もありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 この世界にはかつて剣神(けんじん)(たた)えられた剣士がいた。

 剣士は十二の神が唯一神(ゆいいつしん)の座を巡り争ったことで荒廃(こうはい)した世界を救うため、新たに生まれ落ちた十三番目の神である起源神(きげんしん)ワールドと同道して旅立ち。長い旅の末に起源神ワールドと共に十二の神を討ち果たして争いを終結させた。

 そして争いを終結させ、神を打倒した剣士は剣を極め神の領域へと至った者――剣神と呼ばれた。

 そんな偉業をなしとげた剣神はやがて姿を消し、共に世界を旅した起源神ワールドは世界を見守る存在として七体の竜王を生み出した後。荒廃した世界を支える大樹ユグドラシルに姿を変える。

 

 世界中のありとあらゆる種族が姿を消した剣神を探したが見つかることはなく、剣神は伝説になった。

 これはそれから数百年後。好きな女のために世界存亡の危機へと立ち向かった――新たな剣神の物語である。



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「おぉ~、すごい数の魔物の群れだな。あれは斬りがいがありそうだ」

 

 エルフ族の里がある大森林へ押し寄せる魔物の大群を上空から(・・・・)見下ろしている男はそう(つぶや)いた後、腰に差してある刀の(つか)へと手をそえようとしたが。途中であることを思いついて止めた。

 

「でもエルフ達を食った後の方が魔物(あいつら)は強くなるんだよな、能力が使えるようになる奴がいるかもしれねぇしな。

 よし決めた! 闘うのはエルフ達が全滅してからだ!!」 

 

「よし、じゃないでしょうがアァツ!!!」

 

 ――バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バアァンッ!!

 

「うんっ? 危ねぇだろ。何するんだよ、ヴィンデ」

 

 これは素晴らしいアイディアだと思っていそうな顔で魔物の様子を見学し始めた男の背後で五発分の発砲音が(ひび)き渡り、その音に少し(おどろ)きながらも男は振り向くことなく腰の脇差(わきざ)しで飛来した鉛弾(なまりだま)を全て受け流した。

 

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 普通の拳銃の倍近く長い銃身の側面に500 S&W MAGNUMと刻印(こくいん)されたリボルバーへ弾を再装填(さいそうてん)していた花の妖精は自身の方へ振り向きながらそう言った男の姿に心底腹が立ち、その長い銃身で男を殴ろうとするが。

 

「だから危ねぇって、俺は攻撃してきた相手へ反射的に攻(・・・・・)撃する癖(・・・・)があるって知ってるだろヴィンデ。怪我させたくねぇんだよ」

 

「だからッ! いつもそうだけどッ! 私に対する優しさの半分でも他人へ向けなさいよ!! エルフ族の里にはたくさんの子供達がいるんだからッ!!」

 

「うんっ? 親であるヴィンデと顔も知らない他人じゃ、接し方が違うのは当たり前だと思うんだが。

 そもそも此方(こちら)が悪いとはいえ人族ってだけで襲ってくるからなエルフ族(あいつら)、そんな奴らの子供を何で俺が助けないといけねぇんだ? 意味が分かんねぇな」

 

 振りかぶったリボルバーの銃身を男の手でつかまれて動かすことができなくなった花の妖精は男を言葉で説得しようとしたが、予想通り男へは通じず逆に正論を返された。

 確かに男の言う通り、男の種族である人族が仕掛けた多種族(たしゅぞく)への侵略(しんりゃく)戦争のせいで男は人族を嫌悪する多種族にしか()ったことがなかった。

 しかしそれはここ百年程の話でそれ以前の多種族と人族の関係は良好であり、良き隣人として共に暮らしていたのだと反論したが。男は過去は過去だと言って話を打ち切ってしまった。

 

「――あれはっ、クソッ!」

 

「デュラン!? 待って! どうしたのよっ」

 

 それでも何とか男を説得しようとしていた花の妖精は魔物の群れの様子を眺めていた男が目を見開き、魔物の群れへ向かって突撃していったことに驚愕(きょうがく)しながら視線を男が向かった方へ向けた。

 するとそこには魔物の群れから必死の表情で逃げているエルフ族の子供達の姿があった。

 

 恐らく里の外れで魔法の練習か何かをしていたのだろう、子供達が逃げてくる反対の方向に壊された結界が見えた。

 それが上空からの索敵(さくてき)邪魔(じゃま)したのだろう、結果として子供達の存在に気が付くのが遅れた。

 

「子供に(おそ)い掛かってんじゃないわよ!!」

 

 里へ魔物の群れが到達する前に男を説得すればいいと考えていたため、予想外の事態に混乱しながらも子供達を追う魔物の群れではなくその進行方向の森の木々を銃弾で破壊して()く手を(ふさ)ぐことで(わず)かな時間を稼ぎ。

 稼いだ時間で魔物へ目の前にある物がエルフ族の子供に見えるようになる水属性の幻惑(げんわく)魔法を使うと魔物は目に見える様々な物へと噛みつき、最後には魔物同士で食らいあうことでその大半が二度目の死を迎える。

 残った魔物も花の妖精の手で眉間(みけん)に銃弾を撃ち込まれて死亡した。

 

「子供達は無事に逃げ切ったみたいね、デュランは他に逃げ遅れた子を助けに行ったのかしら?」

 

 花の妖精は口ではそう言いながらもどうせ強い魔物でもいたのだろうなと予想していた。

 良くも悪くも感情的な行動ができない(・・・・)男は理性的に考えて行動するのだから、助ける利点のないエルフ族を助けるとは思えないからだった。

 故に男がエルフ族の少女を守るために魔物を斬ったと思われる光景を見た時、花の妖精は目を見開き固まった。

 

「……どういう風の吹き回しよデュラン、あなたさっきまでエルフ族を食べて強化された魔物と闘いたいなんて最低なことを言ってたじゃない。

 急に飛び出すなんて正義の心にでも目覚めたの? だったら嬉しんだけど」

 

「……分かんねぇ、分かんねぇけど。体が勝手に動いたんだよ」

 

 その後。花の妖精は思わずそう嫌味(いやみ)を言ってしまったがそれに対する男の返答はいつもと違い、(わず)かとはいえ確かに感情がこもっていた。

 普段と違う男の行動から彼がエルフ族の少女に恋をしたのだと悟った花の妖精は茫然自失(ぼうぜんじしつ)となり、二人のやり取りをただ見守るしかなく。

 そのまま花の妖精を置いてエルフ族の里へと向かった男の姿に深い悲しみと喜びの正反対の感情が同時に()け巡り、男への恋情(れんじょう)を胸の内に抱え込んだ花の妖精は少し経ってから男達を追いかけた。

 

 

 

 

 

 デュランは里の入り口まできた時、まだ己が抱えている少女の名前を知らないことに気が付いた。

 

「なぁ、綺麗(きれい)な女。お前の名前を教えてくれねぇか」

 

「ぼ、僕の名前はアリス。アリス・リーフグリーンですっ、それよりも速く下ろしてください!!」

 

「そうかいい名前だな、俺の名前はデュランだ。ライオットって苗字(みょうじ)はあるが適当に考えたやつだから覚えなくていい。

 それと下すわけねぇだろ、お前そんなちいせぇ体であんなに血を流してたんだぞ。アリスはまだ歩けねぇよ」

 

 ()いてみるとアリスという名前であることが分かった。

 それからアリスに下ろしてくれと言われたが彼女がまだ出血の影響(えいきょう)で歩くことができる状態ではないため断り、少しでも早く完全な少女の治療(ちりょう)をするため里の中心部を目指して慎重(しんちょう)に歩く。

 そして里の中心部へたどり着くと集まっていたエルフ達にアリスと肩口が破けて血がついている服を見せ、回復魔法の得意なエルフがいるか訊いてみると何人かいたため彼女の治療をお願いした。

 

「……お主人族じゃろ、なぜアリスを助けてくれたのじゃ。

 人族は(みな)、ワシらのことを下等生物だと下げずんどるもんだと思っておったのじゃが」

 

「……あぁ、その考えに間違いはねぇよ。俺は捨て子で親がおせっかいな花の妖精だからな、ちょっと他の人族(やつら)より特殊(とくしゅ)なのさ。

 とはいえ俺もアリスが子供を守るために自分を犠牲(ぎせい)にするようなやつじゃなかったら助けなかったさ、俺は親と違って薄情(はくじょう)なんでな」

 

 デュランはエルフ族の女性に怒られながらも無事でよかったと抱きしめられているアリスが泣いている光景を見つめ、胸が熱くなるのを感じ驚いたが。何故か悪くないと判断してそのまま見守った。

 そうしていると里の長だろう高齢(こうれい)のエルフに話しかけられ、何故アリスを助けたのかと訊かれて少しの間悩み。分かる範囲(はんい)で答える。

 本当はもっと何か別の理由があると己の直感が告げていたが、それが何なのか分からなかったため高齢のエルフには言わなかった。

 

 ただ――

 

『大丈夫、君を絶対に死なせやしないさ』

 

 毒の影響で立っていることすらできず、痛みから脂汗(あぶらあせ)を流しながらもそう言い切り。エルフ族の少女を守り抜いたアリスことを(うつく)しいと思い、デュランは息を()んだ。

 それから気がついた時にはアリスを食らおうとする魔物を斬り伏せていた。

 何故助ける利点のないエルフ族のそれもハーフエルフ(両種族の地雷)であるアリスを助けたのか、何度考え直しても答えは出なかったが。もしかしたらこれがヴィンデが言っていた愛や好きって感情なのかもしれないと一時的な答えを出した。

 

「――なるほどのぅ。アリスの相手をどうしたものかと、悩んでいたのじゃが外からきよったか」

 

「はぁっ? 何が言いてぇんだ(じい)さん」

 

今宵(こよい)(うたげ)ということじゃッ! 皆の(しゅう)飲むぞォッ!!」

 

 ――ウオオオオオオオォォォォォォッッッ!!!!!!!!!!!

 

 しばらくすると何故か納得した高齢のエルフが訳の分からないことを言い出した。

 思わず訊き返すと高齢のエルフは宴だと言い、周囲のエルフ達もその言葉を合図に雄叫(おたけ)びを上げる。

 やはり訳が分からず首を傾げていたデュランはいつの間にか追いついていたヴィンデから「私たちの旅にこれからはあの子も加わるってことよ」と言われ、よく分からないながら仲間が増えるのはいいことだなと納得した。

 

 

 

 

 

 ――ぼ、僕があの人と!? い、(いや)じゃないですけど急すぎでしょう!!

 

 宴の最中。デュランと結婚するよう母親と里の長から言われたアリスは(ほう)を赤らめながらそう言い返したが、母親の真剣な表情に息をのんだ。

 それから好きな相手と一緒になれるのは当たり前じゃないと言われてアリスは母親が女として当然の幸福を得られなかったことを思い出し、軽はずみな考えで言い返したことを(あやま)ったたが。母親は苦笑しながら首を横に()った。

 

 ――だけどね、私は不幸じゃないのよ。だって私には世界一可愛(かわい)くて(やさ)しい自慢(じまん)の娘がいるんですもの!

 

 そのまま抱きしめながら伝えられた母親の(言葉)は自己嫌悪(けんお)で黒く()まっていたアリスの心にしみわたり、自分の正直な気持ちへ向き合うことができた。

 アリスはあったばかりの無茶苦茶(むちゃくちゃ)で言葉(づか)いの(あら)い、忌み子(ハーフエルフ)である自身を真っ直ぐ見つ(・・・・・・)めてくれる(・・・・・)デュランのことが好きなのだと自覚して顔を真っ赤に染め上げた。

 

 ――分かりましたお母様、僕も覚悟を決めます。

 

 能天気(のうてんき)なデュランの後ろでそんな会話を()り広げる親子のことも親代わりの花の妖精の涙の後にも気が付かず、デュランは宴の料理に舌鼓(したづつみ)を打ち。満足するまで料理を食べます。

 そうして宴を楽しんだデュランは何故かアリスと同じ部屋で(ねむ)ることになり、首を傾げていましたが。

 

「デュラン、僕は君のことが好きだ。あったばかりでこんなことを言うのは変だと思うかもしれないけど、本当に君のことが好きなんだ。

 だから、僕と結婚してください」

 

その場でアリスから愛の告白をされて目を見開くのでした。



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結婚

 僕は普段はしない余所行(よそゆ)きの化粧(けしょう)を顔にし、白いワンピース(ランジェリー)姿でデュランを待ち。部屋の中へ入ってきたデュランをベッドに三つ指をつきながら会釈(えしゃく)で迎えた。

 

「デュラン、僕は君のことが好きだ。あったばかりでこんなことを言うのは変だと思うかもしれないけど、本当に君のことが好きなんだ。

 だから、僕と結婚してください」

 

 そして変態だと思われてないかと不安に思いながらも魔物から助けてくれたことに対する感謝を動揺するデュランへ伝えた後。貴方のことが好きだと、結婚してほしいと頭を下げた。

 

「……俺なんかに(・・・・)そんなことを言うなアリス、俺はこの里を自分の都合で見捨てようとしたんだぞ。エルフ族を食べて強くなった魔物と闘いたいがためにな」

 

「ッ! それはちが――」

 

(ちが)わないさ。過去にエルフ族がヴィンデを攻撃してきたという理由だけで、俺はこの里を魔物の強さを上げる道具として消費してもいいと思ったんだ」

 

 僕はデュランが自虐(じぎゃく)気な笑みで己を否定する言葉を口にしたのを聞いた後、それでも君は助けてくれたじゃないかと言い返そうとしたが。

 その上から(かぶ)せるように皮肉(ひにく)気な笑みを浮べながら自己否定を続けるデュランの姿を目の当たりにした僕は、何でか彼が泣いているように(・・・・・・・・)感じて混乱(こんらん)した。

 

「最低だろ、俺。アリスが命を()けて仲間を助けようとしている時にそんなことをしてたんだ。

 だから俺にはアリスの気持ちを受け取る資格なんてな――」

 

「――そんなことはない! この里を救った君は僕にとって救世主(ヒーロー)なんだ!!」

 

 いや違う(・・・・)、彼は泣いている。顔には涙なんて流れてないけどデュランは心の中で泣いている。

 昔の僕と同じだ、何もかも自分が悪いと決めつけて周りが見えていないんだ。

 きっと今のデュランにどんな言葉をかけても意味がない、彼自身が受け止めることができない。だから――僕も一緒(・・・・)に泣こう(・・・・)

 

「――魔物に殺されそうになった時、僕は(こわ)かった。

 死ぬことがじゃない! もう誰も守れなく(・・・・)なってしまう(・・・・・・)ことが恐かった!!」

 

「……アリス」

 

 僕は母親にも言ったことがない弱音をデュランへ向かって吐き出した。

 デュランが(おどろ)いたように目を見開いて僕の方を見ているのを見つめ返しながら何故か涙が出てくる。

 僕は今から言うことでデュランに失望されるかもしれないことが恐くて泣いているのだと、(おく)れて理解して。我ながら骨抜きにされたなぁと小さく笑みを浮べた。

 

「だってそうだろ! 誰も守れなくなった僕に何の価値あるッ! 僕が死んだ所で悲しんでくれるのはお母様だけだ!!

 僕は誰かを助けることでしか自分の価値を示せない! なのに死んだら誰も助けられない!! 僕はまた無価値な忌み子(ハーフエルフ)に戻ってしまうッ、だから死ぬのが恐かっんだ!!!」

 

「そんなの、当たり前だろ……誰だって死ぬのは恐い。それでも守るためにアリスは魔物に立ち向かったんだ、立派じゃないか」

 

「立派? 分かったようなことを言わないで!!」

 

 言葉を選びながら(なぐさ)めようとしてくれたのだろう、立派だと言ってくれたデュランの優しさが小躍(こおど)りしたくなるほど嬉しかった。

 だけどそれを表に出さないようにしながらデュランを怒鳴(どな)りつけた。

 

「僕が人助けをするのはそうしないと誰も僕を見てくれないからだ! お母様は僕へ罪悪感を抱いているし、他の大人達も僕の父親への憎しみを隠しきれていないっ」

 

「……アリス、もういい」

 

「分かるかい、僕は自分のために人助けをしていたんだよ。なのにそんな僕が立派? 笑わせないでくれよ! 僕は一度だって誰かを助けたくて助けたことなんか――」

 

「――もう()めろ、アリスッ!!」

 

 デュランはそう言いながら僕を抱きしめた。

 その(ぬく)もりに甘えてしまいたい気持ちを抑えつけて、僕はデュランを突き飛ばそうとしたができなかった。

 何故なら真剣な表情のデュランに――(くちびる)(うば)われたから。

 

「う? ……!!?」

 

 僕は抱きしめられたままベッドに押し倒されて足を魚のようにバタつかせたが腕力(わんりょく)で押さえ込まれ、顔を(そむ)けることもできず。()げ句《く》の果てに舌まで入れられて無茶苦茶(むちゃくちゃ)にされてしまった。

 そのまま僕は何度も絶頂(ぜっちょう)させられて、全てが終わったときには文字通りの虫の息だった。

 

「な、な、にを……するん、だ、よ」

 

「何って、こういうことを期待してそんな格好をしてたんだろ?」

 

「なっ」

 

 デュランの言葉に僕は真っ赤に()まった顔を隠そうと体の力を振り(しぼ)ってうつ伏せへ体勢(たいせい)を変えたが、デュランに手を差し込まれてひっくり返されてしまった。

 とっさに顔を腕で隠そうとしたがデュランが両手を顔の横で押さえ込んだせいで隠せなかった。

 こうなると僕にはデュランを(にらみ)みつけることしかできなかった。

 

「可愛いなアリス、とても可愛い」

 

「……僕以外の女性にもそう言ったことがあるのかい、デュラン? さっきの口づけも(ふく)めて、何か手慣れているように感じたんだが」

 

 僕は赤い顔を見られた仕返しに少しでもデュランを困らせてやろうと気になっていたことを訊いたが、言ってからもしかしたら自分が初めての相手じゃないのかもしれないと思って泣きそうになった。

 そうしてうっすらと涙が出そうになった時、デュランはあっさりと返事をした。

 

「いや、こうやって一緒に寝るのはアリスが初めてだ。だから上手く出来ているか不安だったんだが、その様子なら大丈夫そうだな。

 やり方を教えてくれたヴィンデには感謝しなくっちゃな」

 

「はっ、初めて?」

 

「おう、初めてだぞ」

 

 僕はその言葉が(うれ)しくて涙を流すのと同時に戦慄(せんりつ)した。

 つまり口づけだけで僕の体力を限界近くまで削り取ったあれはあくまでも様子見だったということだ。

 そう考えると僕はこれから先ほど以上の快楽(かいらく)を味わうということであり、正直耐えられる自信がなかった。

 

「ありがとうなアリス、俺なんかのために弱音を吐いてくれて嬉しかった。

 そして――それと同じくらいムカついた」

 

「――ひっ」

 

 デュランはそう言うと先ほどまで浮べていた笑顔を消して真顔になった。僕はそんなデュランが恐ろしくて何とか逃れようとしたが無理だった。

 

「俺があんな腑抜(ふぬ)けたこと言ってたから、アリスに言わなくてもいいことを言わせちまったと思うと俺は自分が許せねぇ」

 

「な、何のことかな?」

 

 僕はそうやって必死にとぼけながらも冷や汗を流していた。

 何でか分からないけどデュランは僕のさっきまでの弱音がデュランの(・・・・)ためのもの(・・・・・)だと気がついている。

 もし認めてしまったら何かとんでも(・・・・)ないこと(・・・・)をされそうな気がして目をそらしたが、やってしまってからそれが遠回しな肯定(こうてい)だと自覚して青ざめた。

 

「アリス、俺はヴィンデの言うような愛とか好きっていう感情はまだよく分からねぇけど。それでも、俺のためにあんな弱音も吐いてくれるお前のことを愛したいと思った」

 

「は、はい……」

 

「だから結婚しよう。俺はアリスの全てが()しい」

 

 僕はデュランがそう言うのを聞きながらこれから何回絶頂させられるのか分からず、恐怖(きょうふ)しながらもどこか歓喜(かんき)している自分がいることに気がついて苦笑した。

 

「はい! 不束者(ふつつかもの)ですがよろしくお願いします!!」

 

「うん、よろしく。

 俺達は訳あって一カ所に(とど)まらないよう旅をしてるから子供が出来るようなことはしないけど、それ以外は全部やるから覚悟してね――アリス」

 

 そう言った僕は恐怖心を押さえ込んでデュランの方へ視線を向けたが、それは間違いだったかもしれないとどこか冷静な部分が判断した。

 何故なら(こちら)を見るデュランの眼が獲物(えもの)()らえた(ライオン)の目をしていたからだ。

 

「さてアリス、今夜は寝れると思うなよ?」

 

「あはは、お手柔らかに」

 

 それから朝までイカかされ続け、全てが終わった時にはベッドは僕から出た液体でグチャグチャになっていた。

 ベッドを片付ける人へ申し訳なく思いながらも掃除(そうじ)する余力などなく、僕は夢の世界へと旅立つのだった。

 

 翌日、僕とデュランは里の住人が見守る中で婚礼(こんれい)()()り行い、正式に夫婦となったが。

 お尻がヒリヒリと痛んで座ることが出来ないため、笑顔のデュランにお姫様抱っこされたまま僕は式へ参加することになりました。

 とても恥ずかしかった――デュランのばかっ!



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黒神

「――よかったのデュラン、結婚したばかりのアリス(奥さん)をおいてきて。初夜でしょ」

 

「もう昨日ヤってる、それに良いも悪いもないだろ。竜穴の浄化はいつもやってることだし、早く浄化しないとエルフ族の里(・・・・・・)が危険だろ?

 まったく普段は早く浄化しろと俺を急かすのに今回はやけに消極的(しょうきょくてき)だな、何か思うところでもあるのか?」

 

 ――思うところがないと言えば嘘になる。

 彼を親として愛そうと決めて覚悟もしていたはずなのに、彼が愛する相手を見つけたのだと気がついた時。私は涙を流してしまった。

 そんな自身の弱さが何よりも(みじ)めで、許せなかった。

 私のそんな弱さが彼を   のだから。

 

「思う所なんてないわよ! 奥さんを大事にしなさいってだけよ!! 

 あんないい子をデュランがお嫁にもらうチャンスなんて、これが最初で最後なんだからね!!!」

 

「それもそうだな、気をつける。ありがとう」

 

 だからこの嘘は弱い私への罰だ。二度と忘れないように胸の奥へ深く突き刺し、彼の親のヴィンデに戻らなければならない。

 そして彼が  を取り戻し、私を殺すときが来たのならおとなしく殺されよう。それこそが私の受けるべき(むく)いなのだから。

 

「そんなことよりも色ボケてやられたりしないでよ! 相手は魔物なんだから!」

 

「分かってる、俺はアリスをおいていったりしねぇよ」

 

「っ――あ、当たり前でしょ! 私が一緒にいるんだから!」

 

 その言葉を聴いた私は動揺から一瞬反応が遅れてしまい、彼に気づかれたかと思ったが竜穴の魔物の方へ意識を向けているので大丈夫だったようだ。

 やはり  を失っても彼は彼なのだと嬉しくなったが、同じ言葉を言われただけでここまで動揺するなんて。本当に私はどうしようもない。

 

「気配を探ってみたが強いのは少ないけど千体はいるな、もしかしたら能力持ちもいるかもしれねぇ。

 幻惑(げんわく)魔法を常に使っておけよ、突っ込むぞ!」

 

「分かってるわよ!」

 

 彼へそう返事した後、言われたとおりに幻惑魔法で私とデュランの位置を誤認するようにした。気休め程度にしかならないけど大丈夫だろう。

 魔物達の能力は対象を認識して発動するものが多いので効果はある。

 中には空間そのものへ発動する能力持ちも中にはいるが彼が全て斬るだろうし、そもそも能力を発動する(すき)を与えないだろうから。

 

 

 

 

 

 

 (ほの)かな月明かりが照らす山の上、魔物の養殖場(ようしょくじょう)である竜穴を守るため配置しておいた千体の魔物が瞬く間に殺戮(さつりく)されるという。

 悪夢のような光景を目の辺りにした巨大な(へび)はエルフ族の里に現れた花の妖精を連れた剣士のことを要注意人物だと判断し、めぼしい魔物達を竜穴から移動させておいて正解だったと冷や汗を流した。

 

「――千体の魔物達が瞬殺(しゅんさつ)とは、能力持ちはいませんがそれでもなお異常な強さ。

 単純な強さだけならもしかしたら黒神(こくじん)様を超えているかもしれません、恐るべき剣士ですね」

 

 (わたくし)は魔物が数多の生命を食らい尽くした末に進化した大魔王(だいまおう)と呼ばれる存在であり、その中でも各地の竜穴の汚染と魔物の育成を(まか)されているほど優秀(ゆうしゅう)な個体ですが。

 あの剣士相手ではただの蛇のように殺されるだけだと再認識した後、別の竜穴へのワームホールを(つく)り出した。

 

「竜穴を一つ失ったのは痛手ですが、エルフ族の精霊魔法でも体を硬質(こうしつ)化させた魔物ならそこそこ戦えることが分かっただけでも収穫(しゅうかく)としては充分。

 とはいえあの剣士のような相手には通じないですし、殺された後。爆発して周囲へ毒をまき散らす魔物でも作ってみましょうかね?」

 

「――その前にもう一度死ね」

 

 私はそう言いながらワームホールで移動しようとしたが、背後から殺気を感じてとっさに体を小さな人型へと変化させる。

 その次の瞬間、移動のために使おうとしていたワームホールは横一文字に斬られてその姿を消した。

 

「何故、この場所が分かったのですか? ここは大森林の竜穴から三千メートルは離れているはずですが」

 

「あれだけ大規模な空間のねじれなんざ目を閉じてても分かる、どれだけ離れていてもな」

 

 蛇の頭がついた人型へ変化した私が時間稼ぎのため、どうやって自身を見つけ出したのか()いてみたが。剣士が口にしたのは空間ねじれを感じ取ったというふざけた答えだった。

 13ある種族の中でも平均的な能力しか持たず、科学という外付けの力以外たいしたことのない人族がそんなことが出来るなど信じられない。

 しかし目の前の剣士ならあり得るかもしれないとも思う。ただの人族ならばどうすることもできないワームホールを斬ったのだから。

 

「それでさっきお前が言っていた黒神様ってのはなにもんだ? お前みたいな魔物の親玉なのか??」

 

「……黒神様は恒久(こうきゅう)的な世界平和を目的に我ら魔物を生み出している御方です。

 (みにく)い争いを続けている旧人類全てを浄化し、(わたくし)のように魔物の進化した新人類だけが暮らす理想の世界を(つく)るのを目的に活動しています」

 

 私は剣士の質問に答えながらもう一つの能力を発動するため魔力を練り、剣士が此方を殺す決断をするのを遅らせるため。仕方なく黒神様の情報を渡して時間稼ぎをします。

 そうして時間を稼ぎ終わった後は能力を発動するため、一瞬の隙を作り出さなくてはいけません。

 

(わたくし)はこれでも忙しいのです、乱れた世界で苦しんでいる人々を救うという使命があるのでね!!」

 

「ほう、救うね。なら俺がお前やその黒神ってやつをその使命から救ってやるよ、死は救済とも言うだろ?」

 

 これまでの意趣返しに私は歪んだ笑みを浮べて剣士へと手を振り、異空間へのゲートを刃のようにした物を大量に剣士へ飛ばし。それを剣士が斬っている間に能力を発動させた。

 

【挿絵表示】

 

「『(わたくし)がここで殺されるなどありえない(・・・・・)、何故なら(わたくし)ここには(・・・・)いないのだから(・・・・・・・)』」

 

「――消えたッ!?」

 

 能力現実改変(げんじつかいへん)を発動させた蛇の大魔王がいた空間を剣士の放った斬撃が通り抜け、剣士はその光景に目を見開きましたがなんてことはない当たり前の理屈です。

 蛇の大魔王など最初から(・・・・)ここにはいないのだから、斬撃が当たるはずもない。それだけの話だった。

 

 

 

 

 

 

 デュランは名前も知らない蛇の魔物が目の前からいなくなった後、しばらく周囲を探ってみたが蛇の魔物の気配は何処にもなかったため。仕方なく竜穴へ戻ることにした。

 

「どうしたのよデュラン、竜穴の浄化が終わった途端(とたん)に飛び出して。何かいたの?」

 

「……あぁ、大規模な空間のねじれを感じ取ったから見に行ったら巨大な蛇が居た。

 多分魔王だと思うんだが、仕留(しと)めきれなかった。どんな能力かは知らないがかなり厄介そうなやつだ」

 

 デュランは不思議そうな顔で此方を見ているヴィンデに対して大規模な空間のねじれを感じて突撃したことと、取り逃がした相手が魔物から進化した魔王かもしれないことを伝えた後。

 今までの魔物発生事件に黒幕がいたことをヴィンデへどう伝えようか悩んだが、めんどくさくなったので簡潔(かんけつ)に説明した。

 

「そう言えば今までの魔物騒ぎ、黒幕がいるみたいだぞ。たしか名前は黒神様だったけな。

 まあ、そんなのはどうでもいいか。早いとこアリスのいる里へ帰ろうぜヴィンデ」

 

「――ちょっと待ちなさい!!」

 

 説明が終わった後、デュランはそのまま里へ向けて走り出そうとするとヴィンデに呼び止められた。

 デュランは何故呼び止められたのか分からずヴィンデの方へ顔を向けたが、彼女は頭を抱えて考え込んでいたので椅子(いす)を創って(こし)かけ。そのままヴィンデの顔を眺めていると、突然(かみ)をかきむしりながら叫び声を上げた。

 

「詳しく説明しなさい! 一から十まで全て!!」

 

「うんっ?? よく分からねぇけど、分かった」

 

 デュランは何故ヴィンデが叫び声を上げたのかよく分からなかったが言われた通り、蛇の魔王との会話を一から十まで全て説明する。

 正直早くアリスの元に返りたかったが経験上、こういうときは口答えしない方がいいと知っているので黙ってヴィンデの質問へ答え続ける。結局里に戻れたのはそれから一時間ほど経ってからだった。

 

 お説教を長時間されて気疲れしたデュランは里に帰った後、アリスと一緒に寝て気持ちをリフレッシュした。

 翌日。アリスが腰砕(こしくだ)けになって出発が遅れそうになったので魔力で補助しながら全身マッサージをし、何とか昼頃にエルフ族の里を出発することが出来たのだった。



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「アリス、旅をする中でやりたいことは何かあるか? あるんだったら言ってくれ」

 

 真上から照りつける日差しの下、次の目的地であるドライ王国を目指しながら荷車を引いていたデュランはふとアリスへ旅の目標を話していなかったことを思い出した。

 それと同時にアリスがやりたいことは何かあるのか気になったので()いてみた。

 

「……やりたいこと、ですか? 考えたこともなかったです。ちょっと時間をください」

 

「分かった。ゆっくり考えてくれていいからな」

 

 アリスがそう言ったので考えやすいようにアリスが乗っている荷車の速さを少し落とすと、ヴィンデへ目線でアリスが考える手伝いをしてくれるよう頼む。

 すると何故かヴィンデがジト目をこちらへ向けてきたので早く行けと目配せをし、荷台からリンゴを取り出して食べた。

 

「――アリス、やりたいことって突然言われてもピンとこないわよね。

 私とデュランが旅の目標にしてることを言うからそれを参考に考えてみて」

 

「分かりました! よろしくお願いします!」

 

 デュランはアリスがヴィンデの言葉へ満天の星空のような笑顔で返事をしたので、可愛くて頭をなでそうになったが考える邪魔をしてはいけないと自重した。

 

「我ながら曖昧(あいまい)な目標だけど、私のは旅をする中で困っている人を助けるって感じね。こんなご時世(じせい)だからこそ、少しでも助け合わなくちゃね。

 デュランは強い相手と闘って剣技(けんぎ)を極めるって感じかしら? いずれ伝説の剣神を超えるのが夢らしいわよ」

 

「とっても素敵な目標だと思います! それからデュランの夢は妻である僕の夢でもあります! 夢を現実にするお手伝いがしたいです!!」

 

 ヴィンデは興奮気味なアリスに迫られて少しびっくりしていたが「その前に自分の目標を考えなさい」となだめ、水が欲しくなったのか荷台から水筒を取り出した後。

 アリスを見守りながら水分補給し出したので、小さく切ったリンゴをヴィンデへ渡した。

 

「あまり難しく考えるなアリス、あくまでも目標だから実現不可能そうなものでもいいんだぞ。

 何なら世界中のおいしい物を食べるみたいなのでも大丈夫だからな」

 

 しばらく待っているとアリスは考えがまとまったのか一度デュランの方へ視線を向けたが、何故かまた悩みだしたのでこちらから話を振ってみた。

 

「そうですね――一つだけ頭に浮かんだのですが目指していい目標なのか分からないんです。

 この目標を叶えるには()えなければいけない壁が多すぎますから」

 

「分かった。取りあえず聴いてから判断する、話してくれ」

 

「はい、僕は――」

 

 そうしてアリスが話し始めたのは世間一般で夢物語と言われるようなものだったが、

 

「――戦争を終わらせたいです。もう、親を亡くして泣く子供や子供を亡くして泣く親がこれ以上増えないように」

 

 同時にとてもアリスらしい素敵な目標()だとデュランは思った。

 デュランは戦争を終わらせるためにはどうするのがいいのかと一瞬考えた後、戦争の原因である考え方を広めた教団とその本拠地である国を潰せばいいと結論(けつろん)づけた。

 

「よし、分かった。

 ヴィンデ、起源(きげん)統一(とういつ)教団をぶっ潰すぞ!! 最終的な目的地はアイディール神国だ!!」

 

「……それが出来たら苦労はないって言いたいけど、デュランなら出来ちゃいそうよね。

 仕方ないわね、私も付き合うわよ。いくらデュランでもアイディール神国を一人で相手するのはきついでしょうから」

 

 なのでヴィンデへとそう言うとアリスは目に見えて表情を崩し、焦りながらデュランを止めにかかってきた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!? そんな簡単に決めていいんですか!! 相手は国を消せる兵器を持っている超大国なんですよ!!!

 デュランがいくら強くても危険なんですからもっとしっかり考えてください!!?」

 

「よく考えたぞ、考えた上で潰すって言ってるんだ。アリスの夢は夫である俺の夢でもあるからな」

 

 デュランに自分の言葉をそっくり返されたアリスは一瞬固まったが、二人の無茶な戦いを止めるために言葉を続けた。

 

「じゃあもう一度よく考えてください! 彼らは多種族を助けたという理由で人族の国であるウィンクルム連邦国さえも消したのですよ!!

 デュランが人族でも彼らは容赦(ようしゃ)なんかしませんよッ!?」

 

知ってるよ(・・・・・)、前にヴィンデと一緒にいるからって理由で教団の連中に襲われたことがあるからな。まぁ、うるさいから斬ったが(・・・・)

 

「えぇっ! 教団員を斬ったアァッ!?」

 

 しかし衝撃的なことを言われたことでアリスの頭は真っ白になり、今度こそ完全に固まった。

 そのまま動きを止めていたアリスはいつの間にか荷車を引くのを止めていたデュランに荷台から引っ張り出された。

 

「なっ、何を」

 

「アリス、分かったか? 俺はもう教団に喧嘩(けんか)を売ってるんだから今更過ぎるんだよ、そんな心配。

 それと一回しか言わねぇからな、今からいう言葉をよく覚えておけよ」

 

 デュランはお姫様抱っこしたアリスへ微笑みかけた後、

 

「――俺の名前はデュラン・ライオット! 剣神を超えて世界一の剣士になる男だ!! だから!!! だから――妻の願いを叶えるなんて朝飯前だ。

 遠慮なんかすんな、お前は俺の妻なんだろ?」

 

 そう宣言しながら不敵な笑みを浮べた。

 その言葉を()いたアリスは顔を真っ赤に染め上げて何も言えなくなり、(くちびる)()ばわれて黄色い声を上げた。

 

 

 

 

 

 

「アリス、暗くなってきたから今日はここで野営(やえい)しようぜ。アリスは食べたい料理とかあるか?」

 

「わ、分かった。ぼ、ぼぼ、僕は天幕(てんまく)を張るね! 料理はなんでもいいよ!!」

 

 デュランがそう言いながら天幕の部品を取り出しているとそれを取り上げるようにアリスは持ち、少し離れた所で天幕を組み始めた。

 その行動にデュランが疑問符を浮べていると何故かまたヴィンデがジト目をこちらへ向けてきたので考えるのを止め、料理の準備のため荷台からレンガを出して即席の(かま)を作った。

 

「アリスは何でもいいみたいだし、取りあえず野菜と薫製(くんせい)肉のスープでいいか。

 新鮮な肉があったらステーキも用意できたんだが手持ちがないしな、デザートはリンゴの蜂蜜(はちみつ)()けにするか」

 

「でゅ、デュラン。天幕を張り終わったよ」

 

 大鍋(おおなべ)でスープを作っていると天幕が組み終わったのか、こちらへきたアリスが少し緊張(きんちょう)気味に近づいてきたので味見をお願いしてみたが。

 満面の笑みを浮べたので味は悪くないようだった。

 

「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」

 

「うんっ? 何だ?」

 

 窯の火を消して皿へ盛り付けようとしていると、叫び声が上から聞こえてきたので視線を向けたデュランは翼の生えた恐竜のような怪物(モンスター)――ドラゴンがこちら目がけて突っ込んできてたので斬撃を飛ばして片翼(かたよく)を斬った後。

 (とど)めを刺すため、デュランは地を蹴って飛び上がった。

 

「アリス! 晩飯にドラゴンステーキも追加だ! (うま)いぞ!!」

 

「当たり前のように空を飛ばないでくださいッ!?」

 

「――グギャッ!?」

 

 アリスがそう言った次の瞬間、ドラゴンは空中で真っ二つになり。文字通り体をバラバラに解体された。

 

【挿絵表示】

 

 その後ドラゴンは見事ステーキへと生まれ変わり、デュラン達の晩飯として食べられるのでした。

 晩飯として食べようとした相手に食べられるとはこの世は弱肉強食とは言え、何とも可哀想(かわいそう)なドラゴンですね。南無(なむ)




 宴の後書きに置いておいた※簡単な登場人物紹介を小説の一番上に移しました。



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デート

 

【挿絵表示】

 

「アリス、これが今向かっているドライ王国だ。ドライ王国は一応立場としては中立の国だがな。

 人身売買や違法薬物取引などが当たり前のように行われてる国だから俺の側を離れるなよ、危ないからな」

 

「な、何ですかこれ!? もしかしてこれは()ですか! 僕、こんなの初めて見ました!!! すごいです!! すごい!!」

 

「……話、聞いてないな」

 

 晩飯を食べ終わった後。デュランはアリスへドライ王国がどんなところなのか教えるため、前滞在(たいざい)したときに()った写真を見せながら説明したのだが。

 どうやらアリスは写真そのものを初めて見たようでかなり興奮していてうさぎの様に飛び()ねている。大変可愛いがこれでは俺の話など右の耳から左の耳へ抜けてしまうだろう。

 

「というわけで――アリス、今から回るぞ!」

 

「えっ、何のこと――ひうっ!?」

 

 なので飛び跳ねているアリスを捕まえてから腹にしっかりと腕を回して拘束(こうそく)した後、その場で独楽(こま)の様に高速で回転して小さな竜巻となり。空中へ飛び上がってからアリスの拘束を解いた。

 そのままアリス独楽は空中できりもみ回転していたが、しばらくすると落ちてきたので受け止めてから落ち着いたか訊いてみることにした。

 

「フフッ、落ち着いた?」

 

「おひふひまひは、ずびばべん」

 

 どうやらとても落ち着いた様なので頭を撫でながらアリスが回復するのを待っていると、ヴィンデがこちらを「何はしゃいでんの、子供か」とか思っていそうな顔で見ていると気が付き。

 何でか腹が立ったので空気をデコピンで飛ばし、弾丸と化した空気をヴィンデに命中させた。

 

「アリス、もう一度言うけどこれが今向かっているドライ王国だ。ドライ王国は一応立場としては中立の国だがな。

 人身売買や違法薬物取引などが当たり前のように行われてる国だから俺の側を離れるなよ、危ないからな。分かったか?」

 

「分かりました、さっきはごめんなさい」

 

 今度はきちんとアリスが返事を返したので気にしてないと伝えるため、頭を撫でてから写真はプレゼントとしてあげることにした。

 それからヴィンデが怒りながらこっちに来ようとしていたので、五指全部で空気を飛ばして打ち落としておいた。

 

「基本的な方針としては奴隷(どれい)や中毒者には関わらないぞ、切りがないからな。

 それでも助けたいやつがいたら俺に言え、何とかしてやるから」

 

「分かりました! しっかり言います!!」

 

 デュランは自分で説明しながらヴィンデのせいで絶対面倒ごとに巻き込まれるだろうなという確信があったが、アリスを置いていくという選択肢は無かった。

 ヴィンデの幻惑魔法も一定以上の実力者には気が付かれるため、絶対ではないのだから。

 それと幻惑魔法まで持ち出して大人げなく反撃してこようとしたヴィンデを両手の乱れ打ちで対処し、全ての分身を消して本体を弾き飛ばした。ほら、絶対じゃない。

 

「それじゃ、そろそろ寝るぞ。アリス。

 そう言えばさっきのはこのカメラって道具で撮ったやつだからこれ、やるよ」

 

「わぁっ! ありがとうございます!!」

 

【挿絵表示】

 

 就寝準備をしながらアリスへカメラと説明書を手渡してみると予想通り、目をキラキラと輝かせて喜んでいた。

 そのままアリスを見守っているとヴィンデが戻ってきたが、もう仕掛けてくる気はないようで(ほう)(ふく)らませて怒っていた。

 ご機嫌取りにリンゴを一個渡した後、船をこぎ始めていたアリスを天幕へと運んだ。

 

「……ヴィンデ、起きてるか」

 

「起きてるわよ。何、デュラン」

 

 旅の疲れからか今日は相手をしてくれず眠ってしまったアリスを見守りながら見張りをしていたが、やはり謝っておくべきかと思いヴィンデに話しかけ。

 侵略戦争へは基本的に介入しないとデュランの方から言ったにも関わらず、前言(ぜんげん)撤回(てっかい)したことを謝った。

 

「何よ、そんなこと? 別にいいわよ。

 私も侵略戦争を何とかしたかったからね。」

 

「それと何でか最近、前の俺ならやらないようなことを何でか分からんがしちまうんだ。けど、俺はそれを悪い物だとは感じてないんだ。

 もしかしてこれが前ヴィンデが言っていた愛や好きって感情ってなのか?」

 

「えぇ、そうよ」

 

 ヴィンデから許された後、ずっと気になっていたことを訊いてみると肯定されたデュランは何とも言えない感情に支配されたが。

 一生縁がないと思っていた結婚をして奥さんが出来たんだから今更かと考えを打ち切り、刀を抱え込みながら目を閉じた。ヴィンデの流した涙を知らぬまま。

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 翌朝。ドライ王国へつくとデュランは髪を赤く染めて瞳には赤いコンタクトレンズを入れて変装し、アリスへ白いローブを着せてから門まで歩いた。

 荷車を幻惑魔法で隠してきたため持ち物は毛皮類と刀しかないが、旅人など珍しくも無いため動物の毛皮を見せながら売りにきたと伝えれば問題なく門を通過する。

 ここが起源統一教団の支部がある場所ならアリスを通さなかったかもしれないが商人の国であるドライ王国では特徴さえ隠せば、暗黙の了解として多種族の出入りを黙認している。親切心からではないが。

 

「アリス、おどおどせずに堂々としてろ。その方が目立たない」

 

「わ、分かりました」

 

 そう伝えても周囲の人族が恐いのか目を閉じて俺の右手に抱きついてきた。

 ……これはこれで悪くないのでこのままにしておこう。

 買い取り所で状態のよかった魔物の毛皮やドラゴンの爪や牙などを売り払い、ある程度の金が手に入ったため表通りから裏通りに入った。

 そこら中に浮浪者(ふろうしゃ)がいて環境は最悪だがあいつらは殺気を飛ばせば散るので気にせず進み、デュランの財布をすろうとした子供の財布を逆にすり返し。嫌がらせで中身をばらまいたりしていると目的地に着いた。

 

「ここが目的地だ、この店の中じゃフードをとってもいいぞ」

 

「分かりました」

 

 アリスは怯えながらフードをとると目を開けて店内を見渡し、着物などが丁寧に畳んである光景からここが服屋だと判断したのか。デュランに触ってもいいか訊いてから服を見始めた。

 そのまましばらくすると(やなぎ)色の着物を手に取ってからカウンターへ向かおうとしていたが、デュランが咳払(せきばら)いしたことで自身が金を持ってないことを思い出したようで。赤面しながらデュランの側にやってきた。

 

【挿絵表示】

 

「これがドラゴーネ金貨だ、これ一枚で一月くらいは暮らせる。買ってきな」

 

「でゅ、デュラン、僕。実際にお金を使ったことがないんだけど大丈夫かな?」

 

「いいよ、口止め料も兼ねてるからそのまま渡してくれ」

 

 デュランがそう言うとアリスは安心したのか三着の着物を持ってカウンターへと向かい、金貨を手渡して着物を買った。本当は大銀貨でよかったのだが、いい物を見られた礼なので構わないだろう。

 そのまま再びアリスへフードを被せてから外に出ると目の前をドワーフ族の男女と木人族の男性が走り抜けていった。

 

「デュラン、今のは」

 

「姿をさらけ出してるってことは奴隷商人から逃げてきたな、まあよくあることだ。気にするな」

 

「……分かりました」

 

 目の前を棍棒を持って怒りながら通り過ぎていった人族の親父に視線を向けながらそう言うと、アリスは思うところはありそうだったが飲み込んで何も言わなかった。

 しかし嫌な予感がしたデュランは懐に目を向けてからため息をついた。

 ヴィンデがこちらを睨んでいるのでやはり助けなければいけないようだ。アリスみたいに少しは遠慮してくれ、母さん。

 

「少しここで待っててくれ、アリス。すぐ戻る」

 

「分かりました!」

 

 町中で魔力を体へ(まと)うと衛兵(えいへい)に見つかるのでデュランは荷物をアリスへ預けてから身体能力のみで通行人の視界から消え、屋根伝いに移動して奴隷商人を七つ先の通りへ置いてきた後。

 一瞬で三人組近くへ移動してから殴り倒し、ロープでグルグル巻きにして袋小路(ふくろこうじ)へ叩き込んだ。

 そうして三人組を逃げられなくしてから元の通りに一度戻り、アリスへ今から三人に尋問(状況確認)するけどどうするのかと()くと同席したいと言ったので二人で袋小路へ入った。

 そしてデュランは気絶している二人(・・)を見ながら

 

 ――デートの邪魔してんじゃねぇよ、死にてぇのか?

 

 と思いながらも三人組にその場で創り出した海水を被せるのだった。

 

 

 

 

 

 

「うぅ、何が起きたのですわ」

 

「俺が嫌々助けたんだよ、お前らをな。今からいくつか質問するから正直に答えろ」

 

 頭から海水を被って(いそ)の香りを(ただよ)わせている三人組のドワーフ族の女の独り言に対してそう返した後、刀の鯉口(こいくち)を切ってから刀の(つか)へと手をそえ。嘘を言えば斬るとデュランが(おど)すと。

 ロープで縛られている状況ということもあり色々と素直に答えた彼らの話を聞いてまとめてみたが、奴隷商人は悪いやつではない可能性が高いということが判明した。

 

「なるほど……故郷(こきょう)を追われ放浪(ほうろう)の旅をしてたが途中で食料がなくなり、動けなくなっていた所を人さらいに捕まってドライ王国まで連れて来られた。

 自分達を買った奴隷商人に飯は充分食わされてたが売却日が決まり、二人はそれで離れ離れになることが決まったと。

 それが嫌でそこの女ノアが泣いていたら、そこの木人族クラウンが助けてくれると言ったから。そこの男ルイスと共に話に乗ったと」

 

 奴隷制度は本来理由があって身売りするしかなくなった人々への救済措置(きゅうさいそち)だったことを思えば、この商人の姿が戦争になる前の正常な奴隷商人の姿なのだろう。何せこんなご時世(じせい)だ。

 態々(わざわざ)多種族の奴隷に健康を維持できる以上の食事を与えるなど余程のお人好しか、常識知らずのアホしかいないのだから。

 まあ、人族は皆邪悪(じゃあく)人非人(にんぴにん)しかいないとでも思っていそうなドワーフ族の男女にそんなことを言っても信じないだろうが。

 

「お願いします。私に出来ることなら何でもしますので他の奴隷の方達も助けてください!!」

 

「待てノア! 人族にそんなことを言ったら何をされるか分からないだろッ!?」

 

「だけどルイス!!!」

 

「我が輩は何でもいいよ、面白そうだし流れに身を任せるわw」

 

 ……というか理解しているのだろうかこの馬鹿女は。何でもすると言うことはこの場で対価として首を斬られても文句が言えないということを、アリスがいるからやらないけど。

 木人族の男性はそれを理解していそうだが口を出す気配はない。コイツだけ攻撃を受け流していたし実力からくる慢心(まんしん)だろう、恐らく。

 

「木人族の男……確か名前はクラウンだよな、助けて欲しいって言うならお前は手をかせ。それとお代はお前ら三人の残りの人生だ。

 何か言いたそうなそこの二人は寝とけ、ヴィンデはこの二人を見張っておいてくれ。最悪殺してもいい」

 

 アリスのいる場所に実力者であるクラウン残していくのはよくないと判断してアリスと共に移動して裏通りで宿を取り、アリスとヴィンデ。ついでに眠らせたドワーフ達を宿に置いてきた後。

 クラウンに裏通りで買った汚いローブを着させてから奴隷商人の店まで案内させ、二人で天井裏からしばらく様子を見ていたが予想通り。この奴隷商人は善良だったようでドワーフ達のことを普通に心配していた。

 ……クラウンに店の一部を破壊されているのにこれとか、コイツ何で奴隷商人なんかやってんだ。

 

「さっきは悪かったな、今一事情が分からなかったもんでな」

 

「ッ!? ――先ほど拙者(せっしゃ)を連れ去った御仁(ごじん)ですな、いえ拙者こそ先ほどは見苦しい所を見せて申し訳ありませんでした」

 

 そうして謝るこちらへ奴隷商の言葉に嘘はない、心からの謝罪だった。

 デュランは正直ドワーフ達よりもこの奴隷商人の方が好感が持てるなと思いながらも気を取り直し、三枚のドラゴーネ金貨を見せながら会話を始めた。

 

「さて、突然の話で申し訳ないが俺はここから逃げた三人からの依頼でここまできた。

 話を聞いてくれると嬉しい」

 

「ルイス達からですか、分かりました。聴きましょう」

 

 そうしてドワーフ達の言っていたことをそのまま話すと奴隷商から自身の不手際でデュランへ迷惑をかけたことを謝罪されたが、気にしてないと返してからクラウン達を身請(みう)けするための三枚のドラゴール金貨を手渡して三人を奴隷商人から購入した。

 まあクラウンに関しては正直放っておいてもいいのだが店の修繕(しゅうぜん)費込みで渡し、他の多種族の奴隷達へ故郷に帰りたい者がいるかを訊いて希望した奴隷の分の金を払い。夜になるのを待ってから店を出た。

 

「クラウンお前は奴隷達を木材の(おり)で囲え、俺はお前とその檻を持つ」

 

「分かったでござるw、それではお願いするでござるデュラン殿ww」

 

 そのまま全員を連れて旅をするのはだるいので故郷の場所を訊いてその場所へ夜の間に超速で送り届け、最期に残った機人族の男の娘以外は全員故郷へ送り届けた。

 デュランは唯一残った機人族のリーベにどうしたいか訊くと旅についてきたいと言ってきた。理由は俺達の旅の行く末が気になるからだそうだ。

 ……奴隷になっていたのも奴隷の知識を知りたかったのでわざと捕まったと言うし、知識欲に狂ってる気違いのようだ。

 

「分かった、ついてきてもいいから一端これを着ろ」

 

「分かった。これが人族のローブ、興味深い」

 

 クラウンと同じ様にリーベにも汚いローブ渡してみると予想通り、しばらくローブを観察してから身に纏った。

 そのままアリス達のいる宿へ戻った後。四人の奴隷紋(どれいもん)を起動してもらい、デュラン・ヴィンデ・アリスに不利益を発生させないことと危害を加えるのを禁止することで二人の安全を確保する。

 ……恐らくクラウンには効果がないので彼に関してはデュランが見張るしかないだろう。

 

「ヴィンデ、俺はクラウン達と天幕や食料品を買って荷車に積んでくる。人数が一気に増えたからな、そう言えばリーベお前普通の食料は食えるのか?」

 

「我が輩が家などはその場で作れるので天幕はいらないでござるよw、その分の金で風俗(ふうぞく)へ行きましょうぞww

 我が輩、いい所を知ってるのでござるよw」

 

「食べられるよ、鉱物から肉、野菜でも何でも。それと風俗だが私も興味がある、一緒に行かないか?」

 

 取りあえずクラウンは余計なことを言ったので片手で物理的に()めてからそのまま連れて行き、リーベは普通の食料を食べられる様なので裏通りで買ったリンゴ飴を与えておいた。

 そして様々な消耗品や天幕等を買い込み、翌朝ドライ王国を出発し次の目的地であるプライド王国を目指して旅立つのだった。

 

 ちなみに人数が増えた影響でアリスが恥ずかしがって夜の相手をしてくれなかったため、デュランは八つ当たりで一晩でドライ王国近辺の魔物を刈り尽くし。

 しばらくの間、ドライ王国には平穏が訪れるのでした。



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天晴

「おい、お前ら自己紹介しろ。自身がどういう人間なのか、何が出来るのか、全部話せ」

 

 青々とどこまでも続く草原の中、デュランは荷車を引きながら横を走る木製の馬車のクラウン達へ自己紹介するよう命令した(・・・・)

 

「私の名前はノア、亡国であるスミス王国の元姫ですわ! 見ての通り髪と目が茶色なので土属性の魔法が使えますの、土属性は癒やしの属性ですので回復魔法が得意ですわ。

 他の人には優しいとよく言われますが私にはよく分かりません、後ルイスのことが大好きですわ! って何を言ってるんですの私は!?」

 

「俺の名前はルイス、亡国であるスミス王国で王族の護衛をしていた元親衛隊(しんえいたい)隊長だ。

 もっとも貴様ら人族相手に部下も主である王も守れなかった敗北者だがな!! 俺は目と髪が赤色だから火属性を使うことができる。

 火属性は強化の特性を持っているので自身の体と武器を強化して敵陣へ突っ込むなどの戦法が得意だ、俺もノアのことが好きだ! ――やっぱり人族はクソだな」

 

「我が輩はクラウン。木人族の国であるフォレスト王国の王族ですなw、ただ継承権は十三位なので大したことないでござるよww。

 そこのお嬢さんと同じように髪と目は緑色なので風属性が使えますなw、風属性は補助の特性なので魔法自体は戦闘に向いてませんなww。

 木人族が全員持っている特性として体の木で色々できるでござるが、我が輩は弱いので守って欲しいでござるよw。

 所でお嬢さん、同じ属性を持っているよしみで今晩どうでござるかw、我が輩はテクニシャンでござるよww」

 

「名前はリーベ、種族は機人族だが残念ながら私は一般人だ。目と髪は紫色なので雷属性が使えるな、雷属性は付与の特性を持っているから道具を使って闘うのが得意だ。

 最近のお気に入りは人族の兵士から(うば)ったこの光波ブレードだな、後は体を改造しているからこんな感じに腕を飛ばすことも出来る――あぁ、これは素晴らしい技術だ。人族はやはり最高だな!」

 

【挿絵表示】

 

 奴隷紋(どれいもん)は力で劣る人族が多種族を奴隷にするため科学と魔法を組み合わせて開発した物であり、紋章(もんしょう)を刻まれた本人の意思を無視して命令通り動かすことができる代物だ。

 命令権を持つのは本来持ち主であるヴィンデだが「私の命令と平行してデュランとアリスの命令を絶対遵守(じゅんしゅ)すること」と命令されているので、クラウン達はデュランの命令にも従わなければならなかった。

 

「僕の名前はアリス! エルフ族の里の――あうッ!?」

 

 取りあえずクラウンを絞めるため荷車の隣を走っている木製の馬車へ乗り込もうかと思ったが、アリスが話す必要のない情報を話そうとしたのでとっさに口付けで口を封じた。

 ……目を白黒させているアリスが可愛かったので今回は止めておこう、というか先ほどのクラウンの挑発と徹夜(てつや)した影響で昂奮(こうふん)してもう辛抱(しんぼう)ならねぇ。

 そのまま荷車の中に入って布団をしいてから()(ぱじ)めることにした。

 

「クラウン達はそこで待機してろ。荷車の中を絶対に(のぞ)こうとするな、見ようとしたら殺す。

 特にクラウン、分かってると思うが俺は殺すと言ったら確実に殺すからな」

 

「我が輩はそんなことしないでござるよw、実に情熱的でござるなデュラン殿は! 心配しないでも先程のは冗談でござるよww。

 我が輩は胸がでかい女が好みでござるからなw」

 

「はいはい、私は銃のメンテナンスをしてるからお二人でゆっくりどうぞ」

 

 クラウン達に釘を刺した後、アリスをゆっくりと布団の上に下ろしてから「アリス、ごめん。我慢できない」と言ってから彼女の服を脱がした。

 するとアリスが(ほお)を赤らめながら首を縦に振ったので前戯(ぜんぎ)をきちんとしてからアリスと一つになり、楽しい時間を過ごすのだった。

 

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「そう言えばデュラン、僕の見間違いじゃなければいつもデュランが使っている属性は光属性だよね?

 光属性は七大竜王のリーダーである光竜(こうりゅう)ライオード以外持ってないと昔読んだ本に書いてあったんだけど。どうしてデュランは光属性が使えるの??」

 

「……う~ん、そうだなぁ。少し長くなるぞけどいいか?」

 

 一時間ほど経ち。楽しい時間を過ごして満足していたデュランは突然されたアリスからの質問に少しの間考え込んだ後、答えだけを話しても返って分かりづらくなると判断して一から十まで全て話すことにした。

 長くなっても大丈夫か訊いてみたがそれでもいいと言われたのでヴィンデに拾われた時の話から語り始める。

 

「俺はアイディール神国のスラム街に捨てられていた捨て子でな、偶然(ぐうぜん)通りがかったヴィンデに拾われたんだが。その時には生死の境を彷徨(さまよ)っててな。

 アリスが言うように黄色の髪をしていた俺は光竜ライオードと同じく光属性を持っていたんだが、これがよくなかっんだ」

 

「……どうして?」

 

 少し不安そうにしているアリスの頭をなでて落ち着かせてからデュランは続きを話した。

 

「そもそも光属性と闇属性が混ざり合ってるものを魔力って本来いうんだけど、俺は誰でも持ってるはずの闇属性への耐性(たいせい)を持たずに生まれてきた身障者(しんしょうしゃ)だった。

 だから周囲の魔力を代謝で取り込むたびに体が弱っていき、本来ならそこで死んでいたはずなんだが。

 俺を見つけたヴィンデが、闇属性を通さない結界を()ってくれたから俺は生き残ったんだ」

 

「そんな――うぅっ」

 

「ッ!? ――こうして生きてんだから気にすんなってアリス! 取りあえず(あめ)、いるか?」

 

 泣きそうになっているアリスの姿に慌てたデュランは荷物から出した飴を渡し、抱きしめて背中をとんとんと叩いていると涙が引いてきたので。続きを話した方がいいか訊いてみると首を縦に振ったので口を開いた。

 

「どんな生き物でも一つだけ持っている属性は火・水・風・土・雷の五種類があるがあれは万象(ばんしょう)(つかさど)る光属性と幻想(げんそう)を司る闇属性の比率によって決まっているんだ。

 だから髪と目の色は五種類しか無いんだけど、光竜ライオードと闇竜(あんりゅう)ファフニールは光属性と闇属性が意思を持った特別な存在だから平気なんだけど。魔物も恐らくこれに近い存在なんだと思う」

 

「では、デュランは今どうやって闇属性を吸収しないようにしているのですか?」

 

 アリスからの質問に少し考えた後、デュランは見せた方が早いと判断して手の平へ普段は散らしている闇属性を集めた(・・・・・・・)

 

「こうやって光属性だけ体に取り入れてるんだ、ただ闇属性だけを抽出(ちゅうしゅつ)すると危ないから普段は残ったものは散らしてるけどね。

 ちなみに魔力がないと魔法は使えないから本来俺は光属性で物を創ったり、魔力で体や刀を強化する魔術しか使えないけど。体へ闇属性を無理矢理取り込むことで奥の手(魔法)を一時的に使うことができるんだ。

 ……まあ、最低でも丸一日は寝込むことになるから使いたくないけど」

 

「……どういう理由でそんなことをしたんですか、理由によっては怒りますよ?」

 

 デュランは可愛い顔で(すご)まれても正直甘やかしたくなるだけであまり効果はないと思ったが、その顔をまだ見ていたかったので指摘(してき)せずに話を続けた。

 

「もちろん最初からやろうと思ってやったわけじゃない、命がかかってるからな。

 ただ光竜との闘いで余裕がなくなって気が付いたらとっさに闇属性を取り込んでたんだ」

 

「そうですかよかった――って、光竜との闘いッ!? なんですかそれは!!」

 

 デュランの言葉を聴いたアリスは安心したのか表情を(やわ)らかいものにした後、光竜との闘いという単語に驚愕(きょうがく)して目を見開いている。

 デュランは何でアリスが驚いたのかよく分からなかったが、取りあえず質問に答えることにした。

 

「……当時の俺は武器である刀に満足できず悩んでたんだよ、光属性だけの特殊な魔力の全力を受け止める器が刀の方になくてな。

 それで光属性を唯一扱っている光竜ライオードの爪をへし折って刀の材料にしようと思ってな、大樹ユグドラシルを訪れて光竜ライオードに喧嘩を売っ(・・・・・)たんだ(・・・)

 

「そうだったんですか、なるほど――って、なるわけないでしょう!? なんで喧嘩売ってるんですか!! 普通にお願いすればいいじゃないですか!!」

 

 デュランはアリスからのツッコミに目を()らしながら言い訳を考えたが、特に思い浮かばなかったので口を開き。

 

「いや~、いい修行になるかなと思って闘いを挑んだんだけど、思ったより強くて死にかけたんだ。

 恐いよね、若さゆえの(あやま)ちって!」

 

「このおバカ!」

 

 正直に言ってみたが許されなかった。

 そのまましばらくの間お説教をされたが、怒っているアリスもとっても可愛いなと思いました。マル。

 

 

 

 

 

 

「ハアッ、ハアッ、少しは反省しましたか? デュラン」

 

「はいっ、反省しました! 続きを話してもいいでしょうか!」

 

 そう言って返事をしてみるとアリスは呆れながらも許可をだしてくれたので続きを話すため、布団の近くに置いていた刀――天晴(てんせい)を抜いた。

 天晴は黄金色の(つば)と刀身を持っている刀で全長は2尺4寸5分であり、鮮《あざ》やかな木目(もくめ)小波(さざなみ)のように走っている(さや)()は加工などは一切(ほどこ)してない自然な美しさを持っている自慢の相棒だ。

 

「もらった砂鉄の鉱床《こうしょう》とへし折った光竜ライオードの爪を使って鍛錬(たんれん)した刀で名前は天晴だ。心鉄(しんがね)には闘いで折れた前の刀を使用してるからある意味生まれ変わりだな。

 ()(さや)には光竜ライオードからもらった大樹ユグドラシルの枝木を使ってるんだ、綺麗(きれい)だろ?」

 

「はいっ、とっても綺麗です! ……もしかしてですけど大樹ユグドラシルの砂鉄って近くの川から少量しか取れない、伝説の金属であるオリハルコンじゃないですかね。

 その鉱床とかとんでもない価値があるのでは?」

 

 デュランはオリハルコンのことを知っているアリスに感心しながらも「もらった物だから金銭に()えようとかは思わなかったな、なんならまだここにあるぞ」そう言って奥の方に置いてあったオリハルコンのインゴットを持ってきた。

 

【挿絵表示】

 

「なんで荷台に野ざらしで置いてるんですか!? 仮にも伝説の金属ですよ!!?」

 

「伝説といっても大樹ユグドラシルの下にいっぱいあったし、そこまでするほどの物でもないだろ?」

 

「何言ってるんですか、ありますよ! 取りあえず僕の袋の中に入れときますからね!」

 

 アリスからすごい剣幕(けんまく)でそう言われたので大人しく渡してから、取りあえず色々な液体でグシャグシャになった布団を片付けるかと着替えて外に出た後。

 手から出した真水で布団を洗ってからルイスに乾かすよう命令して荷台へ戻り、アリスの着替えを手伝ってからもう一本の(わき)差しもオリハルコンで出来てることを説明した。

 

 するとアリスから光竜ライオードとの闘いの詳細を知りたいと言われたのでデュランは当時の闘いを思い返し、闘いの始まりは『光竜ライオードその爪、俺がもらうぞ』だった。と言葉にして笑みを浮べると。

 あの時のように鯉口(こいくち)を切り、天晴の刃を見せながら続きを話した。




挿絵をハーメルンの物に変えるのを忘れていましたごめんなさい。
注※直しました。


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光竜

 

【挿絵表示】

 

「光竜ライオードその爪、俺がもらうぞ」

 

 天高くそびえる大樹ユグドラシルの根元で光竜ライオードと向き合いながらそう言ったデュランは鯉口を切り、刀を水平に()かせてから体を光属性で強化して突っ込んだ。

 そのまま光竜ライオードがこちらへ向けて振り下ろした爪の軌道(きどう)を完璧に読み切り、後の先を取ることで相手の力も利用して爪を斬り裂こうとしたが。その攻撃では小さなかすり傷を与えるので精一杯だった。

 

「……お主とんでもない腕前だな、ただのミスリルで出来た刀で我が爪に傷をつけるか! 

 面白い、お主はその剣で何を目指す。救世主か、それとも覇道(はどう)か!!」

 

「……俺は昔から自分の心も他の人の感情もよく分からない。心が揺れ動くのは剣を振っている時だけだ。だから俺は救世主なんて器じゃない、例え死体を見ても何も感じないのだから。

 剣を振るうたび心が揺れ動く、剣が好きで修行して、剣の腕を高めるのが楽しいと俺は言える(・・・)――心の底から言えてしまう(・・・・・・)

 だから俺は誰よりも強くなって好きや愛って感情を知りたい、誰もが当たり前に持っているそれを」

 

 デュランの言葉を聴いた光竜ライオードはひとしきり笑った後、口から光属性のブレスを吐いてこちらを狙ってきた。

 その砲撃(ほうげき)の流れを読み切って回転しながら刀で(からめ)め取ったデュランはそのまま相手の元に送り返し、瞬時に地面を二十回()りつけて光竜ライオードの死角へ入り込むと。そのままもう一度爪を斬りつけようとしたが読まれていた。

 目の前には光竜ライオードの顔があり、その口元は再び光属性のブレスの発射準備を終えていた。

 

「クソッタレが!」

 

「ガアッ!?」

 

 とっさに光竜ライオードの(あご)を蹴り上げてブレスを口内で爆発させ、相手が(もだ)えている間に先程斬りつけた所を寸分違(すんぶんたが)わず斬り続けることで爪を斬ろうとしたが。

 切り口が爪の半分ほどの位置に差しかかった頃、回復した光竜ライオードが周囲へ衝撃波(しょうげきは)を放ったことでデュランは吹き飛ばされた。

 

【挿絵表示】

 

「なるほどよく分かった、どうやら手加減はいらないようだ。ここからは本気で行くぞ!」

 

「くっ、こんちきしょうめ!」

 

 体に(まと)った光属性の魔力を流動させることで衝撃波の大半は受け流したが一部の衝撃が内臓を貫き、デュランは口から血を吐き出した。

 しかし即座に自身の体を操作することで治すと、大樹ユグドラシルの(みき)を蹴りつけて再び光竜ライオードの元へ向かっていった。

 

「クソッ!」

 

「我が爪をここまで斬るとは見事! だがしかし、得物(えもの)がそれではもう闘えまい。

 降参するのであれば見逃してやるぞ?」

 

 しばらく攻防が続き、決定的な一撃を放った後。

 光竜ライオードの爪を斬れる寸前の状態に出来たが、やはり無理をさせすぎたのだろう。刀身が中程から折れてしまった

 格上を相手に闘い続けたデュラン自身も疲労がたまり、今にも崩れ落ちそうな状態だった。

 

「降参? 冗談を言うなよ――俺の名前はデュラン・ライオット! 剣神を超えて世界一の剣士になる男だ!!」

 

 デュランの言葉に光竜ライオードはニヤリと笑みを浮べた後、雄叫(おたけ)びを上げた。

 

「その覚悟よし! ならばもし、我が爪を斬れたのならばオリハルコンの鉱床と大樹ユグドラシルの枝木もやろう!! 行くぞォッ!!」

 

「――ぶった()る!!」

 

 一瞬の交差(こうさ)の後、倒れたのはデュランだった。

 そしてその胸には四本の(・・・)(あと)があった。

 

「ふっ、フハハハッ――見事!」

 

 光竜ライオードは自身の胸に深く刻まれた傷跡を見つめた後、背後のデュランへ振り返った。

 それから少し遅れてデュランが斬った爪が地面へ落ちたのを見届けた光竜ライオードは、花の妖精が必死で包帯などで応急処置をしているのを尻目にその場を立ち去り。約束の物を取りに行った。

 

「さすがはあの方のう――いや、これは口に出すべきではないな。どこで誰が聴いているか分からん」

 

 そう言いながら最期のあの瞬間、光竜ライオードは自身の爪が斬られたことに一瞬気がつくことが(・・・・・・・)できなかった(・・・・・・)ことを思い出して笑った。

 見失うほどにデュランの剣の速度が上がった訳ではない、斬撃(ざんげき)から極限まで無駄がなくなったことで視界へ入っているにも関わらず認識できなかったのだ。

 そうあの時デュランは無意識の内に魔力をそのまま体へ取り込んで魔法を使い――剣神になっていた。

 

「あやつにとって普通の魔力は毒その物、それを取り込んだのだ。三日は目覚めまい。

 無意識下でも光属性だけを体内に取り込めるようだし、問題はないだろうがの。

 いや、問題と言えばどうやってデュランにあの魔法の使用を禁止するかの? 困ったのぉ」

 

 その三日後、目覚めたデュランへ光竜ライオードはあの魔法を使わない方が体を隅々(すみずみ)まで鍛えられるなどと言って説得を試みたが。

 案の定言うことを聞かなかったので仕方なく魔法の安全装置である詠唱(えいしょう)を考え、これを詠唱してからあの魔法を使うように言い含めてデュランと別れた。

 約束を守ってくれるか不安だったが、大樹ユグドラシルの番人としてこの場を離れるわけにもいかない光竜ライオードにはデュランを信じることしか出来なかった。

 ちなみにこの不安は後に的中することになるが、それはまた別のお話である。

 

 

 

 

 

 

「こんな感じの闘いだったな、最期の一撃を避けられなかった時は死んだかと思ったが。生きてるんだから運がいいよな~、もうけもうけ」

 

「もうけもうけじゃありません、絶対に光竜さんとの約束を守ってくださいよね! 僕とも約束です」

 

 そう叫ぶアリスと約束した後。再び荷車を走らせて昼頃にデュラン達はプライド王国へと辿り着いたが、そこに広がっていたのは地獄のような光景だった。

 山よりも大きな蜘蛛(くも)の魔物とその手下である小蜘蛛から人族達を守るため、闘いの騒乱に乗り込んだデュラン達は再び現れた蛇の大魔王の(わな)にはまる。

 

【挿絵表示】

 

 奥の手(魔法)を使うしかなくなってしまったデュランは剣神となり。

 アリスとヴィンデを守るため、全力を出せる十秒に己の全てを()けるのでした。

 

()()(つるぎ)となりて(てき)()つ――天下無双(てんかむそう)っ」

 

 そして――(つるぎ)は解き放たれた。




 今日は14時と15時に後一話ずつ更新します。


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十秒

 

【挿絵表示】

 

 プライド王国へと到着したデュラン達は起源統一教団の思想に染まった国の見学という当初の目的を果たすことができないことを悟り、どうするか相談していた。

 

「ったく、またこれかよ。どうするヴィンデ? 助けに入るか?」

 

「それはもちろん――って、言いたいんだけど(みょう)なのよね。

 さっきからあの蜘蛛の魔物達は逃げる人族を襲わず建物を壊してるだけ(・・・・・・)、まるで誰かを待ってるかのようだと思わないかしらデュラン?」

 

 デュランはヴィンデの言葉に以前竜穴で逃がした蛇の魔王が脳裏(のうり)をよぎり、嫌な予感がしながらも助けに入りたそうなアリスの顔を見つめてからため息を吐き。

 そしてアリスの決断次第では死地に飛び込む覚悟を決め、口を開いた。

 

「助けたいのか、アリス」

 

「えっ、いや、そのぉ……」

 

 正直、プライド王国の住人なんぞどうでもいいとデュランは思っている。

 何せ起源統一教団の支部を自国に置き、多種族を(しいた)げることしか考えていないような奴らだからだ。

 きっとここで助けに入った所で受け取れるのは罵倒(ばとう)だけだろう、だが。

 

「前にも言ったが遠慮なんかすんな、どんな無理難題でも俺がいる。必ずアリスのやりたいことを実現してみせる。

 アリスはどうしたい? ゆっくりでいいから言ってくれ」

 

「ぼ、僕は――」

 

 それじゃアリスの心が守れない。

 デュランにとってプライド王国の住人は無価値だが、アリスの笑顔を守れるのならばそれだけで助ける価値が生まれる。

 旅を共にする中でアリスの存在はそれほどまでにデュランの中で大きくなっていた。

 

「――助けたいです! きっと罠だって、デュラン達を危険にさらすって、分かってるのにっ!!

 ……それでも助けたいんです、僕も死の怖さは身にしみて分かるから」

 

「分かったアリス、あの蜘蛛共を俺達でぶっ(つぶ)そう!」

 

 抱きしめることでアリスの涙を隠しながらそう言った後、デュランは天晴を抜くとその(さや)をアリスに預けた。

 

「デュラン、これは?」

 

「大樹ユグドラシルの枝木で作った鞘だから、持ってれば少しの間なら守ってくれる」

 

 アリスは鞘を見つめながら少し考え込んだ後、ポシェットから出したひもで鞘の両端を結んで肩から下げるとデュランを睨み付けた。

 

「……分かりました。その代わり、デュランも無理はしないでください。

 何か不測の事態があったらみんなで逃げるんです。約束ですよ、分かりましたか!」

 

「ああ、約束するよ。心配しないでも無理はしない、何かあったらみんなで逃げよう。

 ヴィンデは全員に幻惑魔法をかけながら周囲の警戒と援護! ルイス、ノア、リーベはアリスを死んでも守れ! クラウンは俺と一緒に親蜘蛛を()るぞ!!」

 

【挿絵表示】

 

 デュランは指示を出し終わると山のように大きな蜘蛛へと視線を向け、あいつを最優先抹殺(まっさつ)対象に定めながら光属性の魔力で体を強化した。

 そして逃げようとしたクラウンの首を掴んでからアリスに向き直った。

 

「デュラン、僕は!」

 

「アリスは回りの小蜘蛛を頼む! 無理に殺そうとしなくてもいい。人命救助優先だ、分かったな!!」

 

「うんっ!」

 

「よしっ、いい子だ! では行くぞぉッ!!」

 

 デュランはそう言ってから三秒ほどで親蜘蛛の元に着くと、クラウンを親蜘蛛の顔目がけて投げつけることで強制的に闘わせながら足を一本斬った。

 しかし斬ったはずの足は次の瞬間には元通りとなり、親蜘蛛は二匹に増えていた。

 

「何っ! 消えた!?」

 

 そして目の前から突然消えた親蜘蛛にデュランは驚きから声を上げたが、背後へ気配が突然現れたことに気が付いてなんとか攻撃を避けれた。

 しかし親蜘蛛はその巨体に似合わぬ速さを持っていたようで風圧までは避けきれず、クラウン共々吹き飛ばされた。

 

「クソッ、即時の再生と転移に加えて超スピードだと!? どう考えても俺対策だろ、コイツ!!」

 

「――ご名答(Exactly)、その通りでございます」

 

【挿絵表示】

 

 思わずデュランがぼやいているとそれに対する返答が背後から聞こえてくる。

 親蜘蛛をバラバラにしながら後ろへ視線を向けると、前逃がした蛇の魔王の姿が空中に投影されていた。

 

「どうしたよ、こっちには来ないのか卑怯(ひきょう)者!」

 

「ええ、まだ(わたくし)は命を落とすわけにはいかないのでね、それともう一個プレゼントを今(おく)りましたのでお楽しみください」

 

「プレゼントだと、それはなん――何ッ!?」

 

【挿絵表示】

 

 バラバラにしても再生することでその数を更に増して復活する親蜘蛛に苦戦しながら蛇の魔王と会話をしていると、突然上空に巨大な山が現れた。

 それもただの山じゃない、汚染された竜穴(りゅうけつ)の気配を感じる。あの山からッ!

 

「もうお分かりかと思いますが、あれは汚染した竜穴を内包した山です。

 そして今から三十秒後に爆発します、早めに逃げた方がいいですよ? ふふっ」

 

「このクソ野郎め!」

 

「ほめ言葉ですな、ありがたくいただきましょう。ではごきげんよう」

 

 そう言い残して消えていった蛇の魔王を心の中で徹底的(てっていてき)罵倒(ばとう)した後、様々な可能性を考えたがどれも時間が足らず出来そうになかった。

 結論は出た、アリスの願いを叶えるためには奥の手(魔法)を使うしかない。それも十秒しか持たない短縮詠唱(たんしゅくえいしょう)で!

 やれるのかと一瞬自問してから、アリスのために闘う俺に不可能はないと笑みを浮べた。

 

()()(つるぎ)となりて(てき)()つ――天下無双(てんかむそう)っ」

 

 そして――(つるぎ)は解き放たれた。

 

『十秒』

 

 脇差しも抜いて二刀流になったデュランは周囲の親蜘蛛をほぼ同時に蹴り上げて空中へ移動させた後、二本の刀を巨大化させて空間ごと斬る(・・・・・・)ことで(・・・)親蜘蛛を削り殺し(・・・・)。削りきってから空気を足場に山へ向かって加速した。

 

『九秒』

 

 山を全力で蹴り上げて空の彼方(かなた)目がけて吹き飛ばしてからもう一度空中で追いつくと、二本の刀で十文字に山を切り分けたが爆発しない。……ブラフだったようだ。

 山の中心部にあった魔力の渦へ突っ込み、内部からの浄化を試みる。

 

『八秒』

 

 体が荒れ狂う魔力でずたぼろになりつつも何とか浄化し終わったので、残りの破片を追いかけて再び加速した。

 刀のままだと山を削りきるのに時間がかかるので巨大な刀身を嵐のように荒れ狂う魔力の刃に切り替える。かつての光竜のブレスのような刃は厚く、これならさほど時間をかけずに山を壊し切れそうだ。

 

『七秒』

 

 追いつくと両手の刃を全力で振るいつづけて山を粉々にした後、デュランは時間切れで動けなくなる前に下の小蜘蛛を殺すため。速度を上げて落下する。

 

『六秒』

 

 何故か地面に埋まっていた小蜘蛛も含めて、全ての小蜘蛛を念のため親蜘蛛のように削り殺した後、アリスとヴィンデを連れて荷車へ連れて行って二人の安全を確保し。プライド王国まで急いで戻った。

 その際、アリスから約束を破ったことを怒られたが、なんで泣いているのか分からなかった。

 だが蛇の魔王のせいなのは間違いないので、奴は絶対に殺すと決意した。

 

『五秒』

 

 蛇の魔王が追加で転移させてきた親蜘蛛と同じ大きさの魔物を再び巨大化させた二刀で削り殺した後、もうこれ以上この場所へ転移させることが出来ないようにプライド王国周辺の空間の(つな)がりを全て断ち切った。

 ……時間がもう残り(わず)かだが、これで終わりだろう。なんとか全治四日ですみそうだ。

 

『四秒』

 

 そんなことを思っていると空中へ再び現れた巨大な山の姿にデュランは驚愕(きょうがく)しながら蛇の魔王の能力を勘違いしていたことを悟り、それへの対処のため一か八か先程と同じように創り出した魔力の刃を不安定にしてから飛ばして山の近くで爆発させた。

 気配通り、今度はただの山だったようで何事なく消えたことに安堵しながら極限まで集中した。

 

『三秒』

 

 そしてこちらへ干渉しようとしている意識を見つけ出すと空間を切り裂き、蛇の魔王(クソ野郎)の元へ直通の通路を創り出した。

 ――これで終わりだッ! 残りの体力全部くれてやらぁ!!!

 

『二秒』

 目を見開く蛇の魔王(クソ野郎)が能力を発動するよりも早くその体を斬り刻み、親蜘蛛と同じように空間ごと斬って削り殺してやった。(ざま)()やがれ!

 

『一秒』

 

 蛇の魔王(クソ野郎)の仲間が通路を利用できないよう空間の繋がりを断ち切った後、アリス達の元に戻った所でデュランは限界を迎えて口から血を吐いた。

 もうすでに限界を超えていたが最後の力を振りしぼり、アリスへ血がかからないよう口を手で押さえたが。それで精一杯だった。

 

『零秒』

 

 そのまま倒れたデュランを中心に赤い血だまりが広がった。

 

 

 

 

 

「素晴らしい――素晴らしい強さだ! まさか筆頭(ひっとう)を殺せる者がいるとは思わなかったぞ。

 筆頭の報告を聞いて威力偵察(いりょくていさつ)を命じたが、どうやら正解だったようだな」

 

 部下であった蛇の大魔王の視界を通して剣士の男の危険度と厄介さを目の当たりにした黒髪黒目の男――黒神(こくじん)は立ち上がり、計画を見直すため。近くの部下に各地へ散らばる幹部の招集を命じた。

 

「さあ、恒久(こうきゅう)的な世界平和のため! ゲームメイクを始めよう!!」

 

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 そう言いながら笑みを浮べた黒神は腕を振るい、その場から消えるのだった。



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戦闘潮流

「助けたいのか、アリス」

 

「えっ、いや、そのぉ……」

 

 デュランにそう言われた時、魔法で心の中を見られたのかと僕は一瞬思った。

 それほどまでに完璧にデュランは僕の願望を言い当てていた。

 

「前にも言ったが遠慮なんかすんな、どんな無理難題でも俺がいる。必ずアリスのやりたいことを実現してみせる。

 アリスはどうしたい? ゆっくりでいいから言ってくれ」

 

「ぼ、僕は――」

 

 見捨てるべきだと(・・・・・・・・)何処か冷静な部分が、理性的に判断しているのを感じる。

 僕はその結論を全面的に肯定したい――だってデュランは始めて手に入れた(・・・・・・・・)僕だけの宝物だから。けど、だけど、それでも僕は!

 

「――助けたいです! きっと罠だって、デュランを危険にさらすって、分かってるのにっ!!

 ……それでも助けたいんです、僕も死の怖さは身にしみて分かるから」

 

「分かったアリス、あの蜘蛛(くも)共を俺達でぶっ(つぶ)そう!」

 

 彼らを見捨てることが出来なかった。

 何故なら今の彼らはデュランに助けられる前の、死を怖がる僕自身だったから。

 

「デュラン、これは?」

 

「大樹ユグドラシルの枝木で作った鞘だから、持ってれば少しの間なら守ってくれる」

 

 僕はデュランから渡された鞘を見つめながら少しでも勝率を上げるため返すべきじゃ無いのかという言葉が脳裏(のうり)をよぎったが、こうしないと弱い僕を気にしてデュランは全力で闘えないのだと理解して自身の弱さに歯がみした。

 それでも僕は僕にでも出来ることをするため、表情を引き締めた。

 

「……分かりました。その代わり、デュランも無理はしないでください。

 何か不測の事態があったらみんなで逃げるんです、分かりましたか!」

 

「ああ。心配しないでも無理はしないよ、何かあったらみんなで逃げよう。

 ヴィンデは全員に幻惑魔法をかけながら周囲の警戒と援護! ルイス、ノア、リーベはアリスを死んでも守れ! クラウンは俺と一緒に親蜘蛛を()るぞ!!」

 

 ヴィンデさん達へ指示を出したがその中に僕に対する指示が無かったことへの不満を言おうとした瞬間、デュランはこちらへ優しげな顔を向けてきた。

 

「デュラン、僕は!」

 

「アリスは回りの小蜘蛛を頼む! 無理に殺そうとしなくてもいい、人命救助優先だ、分かったな!!」

 

「うんっ!」

 

「よしっ、いい子だ! では行くぞぉッ!!」

 

 そう言って飛び出していったデュランを見送りながら僕自身も足の裏から風属性の魔力を放出することで移動速度を上げ、プライド王国へ急いで向かった。

 ヴィンデさん達がつかず離れずの距離で着いてくるのを見ながら安心した弱い自分を罵倒(ばとう)しながら僕はデュランが現れた瞬間、建物の破壊から逃げる人々に狙いを変えた小蜘蛛の集団を風属性の精霊(せいれい)魔法で吹き飛ばした。

 

「大丈夫です! 貴方達は僕らが守ります!!」

 

「下等種族共が何を言っている! 貴様らに助けられるくらいなら死んだ方がマシだ!!」

 

 僕目がけて助けた人族の男性がそう叫んだ。――分かっていたことだ、そう言われるのは。

 それだけ人族と多種族の間にできた(みぞ)は深い。けど、そんなことで(ひる)んでなんかいられない! 僕のわがままのため、デュラン達は命を()けてるんだから!!

 

「だったらこの場を切り抜けた後で勝手に死んでください! 貴方達がなんと言おうと僕達には関係ない!! 僕達は自分自身の心に従ってここにいるんだから!!!」

 

「なんだと! 貴様、(ほこ)り高き人族である我らに自殺しろと言うのか!! この無礼も――ガハァッ!?」

 

「えっ」

 

 僕の言葉を聴いてこちらを睨み付けてきた人族の男性をルイスさんが殴り倒した。な、なんで!?

 

「お前を守れってのがデュラン(アイツ)の指示だからな、だったらその心を守るのは(・・・・・・・・)当然だろ?」

 

「あっ、そっか!」

 

 そう納得した僕の目の前で赤い炎を体に(まと)い、丸い小ぶりの盾と(つるぎ)を構えながら何故かルイスさんは僕へ頭を下げた。

 

「それと今まですまなかった! 俺はお前達を誤解(ごかい)していた! ここからはこのルイス、全力で闘わせてもらうッ!

 ――元スミス王国親衛隊(しんえいたい)隊長ルイス! ()して(まい)る!!」

 

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 僕へそう謝ってからルイスさんは近づいてきていた小蜘蛛を炎を宿した剣で溶断(ようだん)し、そのまま盾で殴りつけて吹き飛ばした。

 そして小蜘蛛が即座に再生して二匹へ増えたのを目の当たりにした後は剣をしまい、上から盾を叩きつけて小蜘蛛を地面へ埋めてしまった。――すごい。

 

「重傷者は手を上げてください! どんな怪我でも治します!!」

 

「興味深い。すさまじい回復能力だが、それはこうして光波ブレードを通して雷撃を流し続けても機能するのか試してみよう。

 ――さあ、実験の時間だ!」

 

【挿絵表示】

 

 その近くではノアさんが怪我をしている人々の治療を行い、リーベさんが光波ブレード? を小蜘蛛に突き刺して雷撃を流し続けていた。

 ぼ、僕も負けてられない! と決意を新たに小蜘蛛を吹き飛ばして一点へ集めた後、ルイスさんがやったように魔法の竜巻を叩きつけて地面へ埋めた。

 

『クソッ、即時の再生と転移に加えて超スピードだと!? どう考えても俺対策だろ、コイツ!!』

 

『――ご名答(Exactly)、その通りでございます』

 

【挿絵表示】

 

 そうして闘い続けているとデュランの声と知らない誰かの声が国中に(ひびき)き渡り、驚きながら視線をデュラン達が向かった方へ向けるとそこには巨大な蛇の顔が空中に浮かんでいた。

 

『どうしたよ、こっちには来ないのか卑怯(ひきょう)者!』

 

『ええ、まだ(わたくし)は命を落とすわけにはいかないのでね、それともう一個プレゼントを今(おく)りましたのでお楽しみください』

 

『プレゼントだと、それはなん――何ッ!?』

 

【挿絵表示】

 

 そんな会話の後、僕は突然真上に巨大な魔力の塊を感じて視線を上へ向けるとそこには絶望があった。

 

『もうおわかりかと思いますがあれは汚染した竜穴を内包した山です。

 そして今から三十秒後に爆発します、早めに逃げた方がいいですよ? ふふっ』

 

『このクソ野郎め!』

 

『ほめ言葉ですな、ありがたくいただきましょう。ではごきげんよう』

 

 あんな巨大な山を三十秒以内になんとかするなんてデュランでも無理だと僕は一瞬思ったけど、もしかしたら魔法を使ったのならなんとか出来てしまう(・・・・・・)かもしれない(・・・・・・)という事実に気が付いて戦慄(せんりつ)した。

 もしもなんとか出来るのならデュランは僕のため(・・・・)魔法を使うだろう、夫婦だから分かる。

 でもそんなことをしたらデュランが死んでしまう(・・・・・・)かもしれない(・・・・・・)、嫌だ、それだけは嫌だ!

 

()()(つるぎ)となりて(てき)()つ――天下無双(てんかむそう)っ』

 

「――皆さん今すぐ撤退(てったい)です! 急いでッ!?」

 

 デュランが約束を守り、僕達と一緒に逃げてくれる可能性へ賭けた僕の祈りとは裏腹にデュランは魔法を使った。その次の瞬間、僕はとっさにそう叫びながら逃げ出した。

 僕がわがままを言ったから僕の心を守るためにデュランは魔法を使ったにも関わらず。

 今度はあれほど救いたがっていた人々を見捨ててデュランの命を優先している――ああ、僕はなんてマヌケなんだ! 今になってデュランが死ぬかもしれない可能性に気が付くだなんて!!

 

『短縮詠唱じゃ十秒しか持たねぇ、ゆっくり浄化してる時間はねぇんだ! 悪いな!』

 

「皆さん撤退中止! 周囲の人々を助けつつこの場で待機!!」

 

 そうして後悔している僕の耳にそんなデュランの言葉が聞こえてきたのとほぼ同時、真上から感じていた巨大な魔力の塊の気配が消えた。

 僕はそのことに気が付くと逃げるのを止め、周囲の人々を守りながら上空で瞬く間に消えていく山を見上げていた。

 何故なら――

 

「――刹那(せつな)一条(いちじょう)。アリス、無事でよかった」

 

「約束を破るなんてデュランのおバカ!! なんで逃げないのよ!!」

 

 ――事態の解決が終わったのならば僕とヴィンデさんの安全を確保しようとするのが分かったいたから。

 

【挿絵表示】

 

 目の前に現れたデュランの髪と眼は灰色になっていて、見てるだけで僕は()れ直してしまった。

 それでもデュランへ対する不満を告げてしまう僕自身の弱さに絶望で涙を流してしまう。

 予想通りデュランは僕とヴィンデさんを荷車まで連れて戻った後、再びプライド王国へと戻って行った。

 

「ヴィンデ様、治療用具は何処に置いてありますか!」

 

「そこの一番奥よ! それと包帯と血液パックをありったけ持ってきなさい!! ありったけよっ!!」

 

 僕は急いで荷車から治療用具を取り出して治療の準備を始める。デュランには回復魔法が使えないと前聴いていたからだ。

 そうして万が一ないよう祈っていた僕の前で、帰ってきたデュランは口から血を吐きながら倒れた。

 

「僕が絶対にデュランを死なせないから! だからもう一度目を覚まして! デュランッ!」

 

「可愛い奥さんを泣かしてんじゃないわよデュラン! このまま死んだら冥界まで殴りに行くからね!!」

 

 僕とヴィンデさんで必死に治療を行い、なんとかデュランが死ぬのを回避することができた。

 それから一週間後。目を覚ましたデュランに僕は泣きながら謝ったのだが、なんでか僕は押し倒されて丸一日デュランとつながることになった。

 

 なんで? でもデュランが元気になってよかったぁ。



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閑話 残り火

『どうして僕ら人族と多種族は争っているの? 同じ人間なのに。なんで仲良く出来ないの父さん』

 

 それは物を知らぬ無知な子供だったからこその質問だった。

 そして父親にこっ(ぴど)(しか)られて回りの友達からも多種族(あいつら)は同じ人間なんかじゃない、ただの下等生物だと言われている内。自分の方がおかしいのかもしれないと己の胸へしまい込んで忘れてしまい。

 何時(いつ)しか今の状況は間違っているのではないかと思いながらも何も出来ない、そんな大人になっていた。

 

「下等種族共が何を言っている! 貴様らに助けられるくらいなら死んだ方がマシだ!!」

 

 だけど、そんな大人になってしまった(・・・・・・・)俺だからこそ。人族(俺達)を守るため闘っている多種族(彼ら)の姿を目の当たりにして強く感情を()さぶられた。

 起源統一教団の支部があるこの国へ立ち入るということの危険度は彼らとて理解しているはずだ、現に今も助けた者達から罵倒(ばとう)され石まで投げつけられている。

 それでも彼らは折れず曲がらない一本の刀のように強い意志を持って闘っていた。

 

「だったらこの場を切り抜けた後で勝手に死んでください! 貴方達がなんと言おうと僕達には関係ない!! 僕達は自分自身の心に従ってここにいるんだから!!!」

 

 どうして闘えるんだ――人族(俺達)多種族(君達)にたくさん酷いことをしたのに。

 そうして戸惑(とまど)う俺の目に入ってきた少女の姿は俺達人族の語る仮初(かりそ)めの(ほこ)りなんか陳腐(ちんぷ)に感じてしまうほど誇り高く、何者も汚すことが出来ない宝石のよう意思を持っていた。

 その後彼らは俺達を死の危険からあっさりと救った上で礼の一つさえも求めずにその場を去ってしまった。

 そうして激動の夜が明けた後、俺は本来は護衛対象である王族相手に手を上げる決意をした。

 

忌々(いまいま)しい下等種族共め! あのような屈辱(くつじょく)を与えるとは絶対に許さんぞ!! 

 そこのお前! アイディール神国へ連絡して奴らを指名手配するのだ!! 早くしろ!!!」

 

「――貴様には恥という物はないのかッ!! 俺がその(くさ)りきった性根(しょうね)を叩き直してやる!!!」

 

 目の前で彼らを口々に罵倒(ばとう)する男のことがどうしても許せず、この国の王族であるのを承知の上で思いっきり顔面をぶん殴った。

 

「な、何を!? あんな下等種族共の味方をするなど気でも狂ったか、貴様!!?」

 

誇り(プライド)の欠片すら見当たらない貴様が正気だと言うのならッ! 俺は気狂(きちが)いでいい!!」

 

「なんだと!? 放せ、放すのだこの化け物!! 早く助けるのだ、衛兵共!!!」

 

 慌てて目の前の王族(カス)を助けようとする衛兵達だったが俺はこいつらの隊長だ。部下の力も技も知りつくしている。

 炎属性の魔力で強化した身体能力で全員を鞘に入れたままの剣で殴り倒し、怯える王族を睨み付けるとそのまま王族の全身の骨を殴り(くだ)いていく。

 そしてただでさえ脂肪だらけで汚い体が()れ上がって丸いボールのようになったのが目に入り、俺はやっと我に返った。

 

「や、やっちまったァッ!?! どうしよこれ!?」

 

 そう言って頭を抱える男はこれもいい機会だったと開き直って起源統一教団の教祖も含めて不穏分子(ふおんぶんし)を全て殴り壊して再起不能にしてから、昨日の闘いを見ていた子供達を中心に彼ら(多種族)は起源統一教団が言うような(おろ)かな下等種族などではないことを教育していき。

 少しずつ国を変えていった男はハーフエルフであるアリスを起源神ワールドの生まれ変わりである聖女として崇拝(すうはい)し、その考え方を広めていった。

 

 やがて神聖プライド王国と名を改めたこの国の王に男はなり、世界存亡の危機である事変が起きた際。

 現場にデュラン達の味方として駆けつけ、アリスからお礼を言われたことで死にかけることになるのだが。それはまだ未来の話である。



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弟子入り

「そう言えばアリス、俺の天晴(てんせい)は何処だ? 見当たらないんだが??」

 

「ああ、そう言えばまだデュランは知らないんでしたね。呼んできますので(・・・・・・・・)少し待っててください」

 

 デュランはプライド王国での闘いからもう一週間と一日も経っていたことに驚きながらも様々な疑問点をアリスへと訊いていると、相棒である天晴の姿が近くにないと気が付いた。

 何処にあるのか訊ねてみると、なんでか呼んでくるという(・・・・・・・・)謎の言葉を残してアリスは部屋を出て行った。

 

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 混乱しつつ待っていると扉が開くと同時に入ってきた黄色の髪と眼の少女が、デュランへ抱きついてきた。

 

「ご主人様~、よかったぁ! 目を覚ましたんですね!! 私は天晴です!!!

 ご主人様の使った魔法の影響で私は付喪神(つくもがみ)になったんです!! これからもよろしくお願いしますっ!!」

 

「なんだって!? それは本当かアリス!!」

 

 そして抱きついてきた少女の正体が天晴だというとんでもないことを聴いてアリスへ確認してみると、彼女は首を縦に振って肯定した。

 実際に少女の魔力を探ってみるとそれは驚くべきことにデュランの魔力そっくりだった。

 ……どうやら確かにこの少女は俺の相棒()である天晴のようだ、認めがたいが。

 

「……取りあえず天晴は刀の姿に戻れるのか? それと今まで通りに使っても大丈夫なのか?」

 

「もっちろんです! 私は貴方の刀の天晴ですから!! 後これからは私も夜の相手が出来るのでもしアリス様が妊娠(にんしん)されても安心ですよ!!!

 私がアリス様が相手できない間はご主人様と交わるのでッ!!! 私は物なので妊娠はしないので安心ですッ!!!!」

 

「――まてまてまてっ!?」

 

 デュランは天晴へ気になっていたことを()いてみたが、何故かとんでもないことを言い出した天晴に焦りながら彼女の肩を掴んで制止(せいし)した。

 というかアリスも顔を真っ赤に染め上げてないで止めるのを手伝ってくれ! 頼むから!!

 

「お前は俺のことを毎日女とつながってないと満足できない(けだもの)か何かと勘違いしてないか! そんなことは――」

 

「えっ、だってご主人様、ドライ王国でアリス様ときん――」

 

「――ごめんなさい、俺の負けです! ですからそれ以上言わないでくださいッ!!」

 

 デュランはなんとか天晴を説得しようとしたが血迷(ちまよ)ってとんでもないことを叫びまくったドライ王国での話をアリスの前でされそうになり、即座に負けを認めて土下座した。

 ――なんで当時の俺は魔物を倒しながらアリスとしたいプレイ内容なんか叫んでんだ!? クソッタレめ!!

 

「わぁっ、土下座なんて()めてくださいご主人様! 私ならどんなぷ――」

 

「そうかぁ!? 外に遊びにいきたいかぁっ!!? じゃあなアリス、ちょっと行ってくるッ!!!」

 

 デュランは慌てて天晴の口を手で(ふさ)ぐとそうアリスに告げてから外へと飛び出した。

 病み上がりの体が悲鳴を上げるが無理矢理押さえつけて走る――何故ならデュラン自身の夫としての尊厳(そんげん)がかかっているのだから!

 

 その後、なんとか説得と口止めを終えたデュランはアリスの元に戻ったがその顔色は真っ青だった。

 ちなみに結局天晴とはアリスが妊娠したらその際は交わることになりました。

 ――俺も所詮はただの()だったよ、トホホ。

 

 

 

 

 

 

「そう言えばデュラン、あの時言ってた――刹那(せつな)一条(いちじょう)ってデュランのもう一つの魔法なの?」

 

 説得と口止めをなんとか終えて、燃え尽きていたデュランにアリスはそう話しかけてきた。

 デュランはあれは魔法である天下無双を使った俺が刹那の間に敵を一条の光になって斬るという動きへヴィンデがつけた名前であり、魔法なんかではないが。

 せっかく母親であるヴィンデからもらった名前だがら、余裕がある状況で敵を斬ったらそう言っているだけであることを説明する。

 

「そうなの? だったら僕もデュランの剣技に名前をつけたい! そう言えばあの大きい魔力の刃と空間を斬った技の名前は決まってる?」

 

「いや、まあ、決まってはないが……」

 

「じゃあ、僕が名前をつける!! う~んと」

 

 デュランは別に名前なんかいらなくないかと正直思ったが、何はともあれアリスからもらえるプレゼントなので大人しく受け取ることにした。

 それにしても真剣な表情で考え込んでるアリスは可愛いなぁと思っていると、考えがまとまったのかアリスがこちらへ視線を向けてきた。

 

「――魔力の刃は嵐流刃(らんりゅうじん)なんてどうかな、(あらし)のように(なが)れるとてつもない力がこもった(やいば)って理由でつけたんだけど。どう、デュラン?」

 

「嵐流刃……うん、気に入った。これからはあの技の名前は嵐流刃だ! 素敵な名前をありがとう、アリス!」

 

 デュランの返事を聴いたアリスは嬉しそうに微笑みながらもう一つの技名を話しだした。

 

「空間を斬る技は界破斬(かいはざん)なんてどう? 世()の境界を()壊する()撃で界破斬! かっこよくない♪」

 

「かっこいいかは置いておくがいい名前だな。また素敵な名前をありがとう、アリス」

 

 そうして無事に名前が決まり、和気あいあいとした空気が流れる中。

 アリスは何故かデュランの元まで近づいてきて「それと僕、お願いがあります!」と言った後。深々とデュランに頭を下げた。

 

「デュラン、僕は夫である君の足手まといになりたくない! 今回みたいなことはもう嫌なの!! だから僕をデュランの弟子にしてください!!!」

 

「――マジで!? と、取りあえず顔を上げてくれ、アリス」

 

「嫌です! 弟子にするというまで顔を上げませんッ!」

 

 デュランは弟子にしてくれというアリスの言葉で、大好きな剣の修行をアリスと二人で出来るという誘惑(ゆうわく)へと負けそうになったがなんとか持ち直し。

 とにかく頭を上げるようデュランは言ったがアリスの覚悟は固いようで、弟子にするというまで顔を上げないと叫んだ。

 

「分かった、弟子にする! でも優しいアリスに刀は似合わないから教えるのは棒術だ! この条件が飲めないなら弟子には出来ない!」

 

「それで大丈夫です師匠! これからは弟子としてもよろしくお願いします!!」

 

 デュランは悩みながらもなんとか妥協案(だきょうあん)を出し、それをアリスが受け入れたことで彼らは夫婦でありながら師弟(してい)でもあるという不思議な関係となったのでした。

 

 

 

 

 

 

 見晴らしのいい荒野の中、デュランは木刀をアリスは木製の長い棒を持ちながら向き合っていた。

 

「ぐ、ぐぬぬぬっ」

 

「これが橋かかりという状態だ。長物はリーチが長く刀相手には有利だがこうなったらおしまいだからな、こうならないよう使う際は気をつけるんだぞ!

 一応魔法などを使えばここからでも対処は可能だが、橋かかりできるほどの腕の相手だからな。当然そんな(すき)は与えないだろう。

 ……とはいえアリスは精霊魔法を使えるから大丈夫だろうが、危険なことには変わりない。気をつけろよ」

 

「――はい!」

 

 アリスの持つ棒を上からデュランの木刀が押さえつけており、なんとかその状況を打開しようとするアリスだったが。それは(かな)わず、木刀を胴体に当てられて倒れた。

 それでもすぐに立ち上がるとアリスは「師匠! 今日もご指導ありがとうございました!!」と頭を下げてから朝食の準備のため、天幕(てんまく)目がけて走っていくのだった。

 

「師匠か、今だにアリスからそう言われるのは()れないな。

 最近ご飯はずっと朝昼晩とアリスに任せっきりだし落ち着かん、もう少し素振りでもしてるか」

 

 師匠が弟子へご飯を作るのはおかしい! というアリスの言葉はたしかに正論だが、これだと端から見たらデュランは食材の狩猟(しゅりょう)だけして後は修行三昧(ざんまい)のダメ夫じゃないかと思ったが。

 想像以上に自身へのダメージが深かったのでそのことをについて考えるのを止め、せめて少しでもお金を稼ぐため天晴と共に近くの鉱脈を探し出し。地下三千メートルの位置にあった金を掘り出すのだった。

 

「デュラン、ご飯だよ~。って、その金塊(きんかい)はどうしたの?」

 

「うん、これか。近くで拾った」

 

「そんなわけないでしょうがっ! このおバカ!! そこに正座(せいざ)しなさい!!!」

 

 そしてその場で金塊にした物を持ち帰ったが、何故かアリスから正座するように言われてこんこんと説教されたのだった。……な、何故っ?

 こうして後に聖女(せいじょ)と称えられることになる少女は己の弱さと向き合い、また一段と成長したが。

 それに対してデュランは相変わらずアリスに怒られているのでした。マル。

 




 この作品に今のところ登場してる全ての敵の中で、最もデュランを追い詰めてるの相棒の天晴なの草


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這い寄る絶望

 トライデント王国の王都ベルメーア

 極大(きょくだい)の山脈を天然の城壁とした地形と南部に広がる海が特徴的なこの都市は、外部からの攻撃や侵入を防ぎやすく、水質資源が豊富なため。

 他国との交易が盛んに行われており、別名・水の都とも呼ばれている大都市である。

 

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 またトライデント王国はアイディール神国を明確に敵視している数少ない国の一つであり、ウィンクルム連邦国が消された今となっては世界で唯一多種族と人族が共に暮らす国となっている。

 デュラン達は天晴を鍛錬(たんれん)した鍛冶師(かじし)であるアルムにアリスの武器を作ってもらうため、ベルメーアの工房(こうぼう)を訪れていた。

 

「デュラン、アルムさんってどんな感じの方なんですか? 僕の棒を作ってくれる人なんですよね」

 

「昔ながらの頑固一徹(がんこいってつ)な鍛冶師って感じの人だよ、ちなみに俺の刀である天晴と脇差(わきざ)しを打ったのもアルムだ。

 性格に難ありだが、腕は本物だからそこに関しては安心していい」

 

 デュランがアリスからの質問にそう答えていると、肯定するように腰の天晴がカタカタと(ふる)えたので慌てて()を握りしめて大人しくさせる。

 そうしていると目的地である工房に着いたので三回ノックしてから中へ入り、いつも通りの鉄を叩く音を聞きながら大声でアルムを呼んだ。

 しかし呼んでも来なかったので、椅子を二人分創ってその場で待つことにした。

 

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「……(なつ)かしい声がすると思ったら天晴を打ってやった小僧(こぞう)じゃねぇか、どうした。天晴が刃こぼれでもしたのか?」

 

「いや違う、今日はこのアリスの武器を作ってもらいたくて来たんだ。

 材料はこの風竜シエルの爪とミスリルで四尺くらいの長さの棒を作ってくれ、(さや)は大樹ユグドラシルの枝木で背負う感じで頼む。値段は言い値で大丈夫だ」

 

「僕からもお願いします、アルムさん。お手伝いできることがあったらなんでもしますので!!」

 

 デュランが渡した材料をしばらく(なが)めていたアルムは納得したように頷くと、アリスの手の長さなどを測ってから材料を持って作業場の方へと歩き出した。

 

「手伝いはいらねぇが、この依頼は引き受けた。三日後に取りに来い」

 

「分かった、じゃあまた三日後にくる。頼んだ」

 

「失礼しました!」

 

 デュランはそう言ってから外に出ると一瞬ヴィンデ達の待っている宿へ帰ろうか悩んだが、せっかくアリスと二人きりだしデートすることに決めた。

 

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 そして裏通りから表通りのメインストリートへ戻るとアリスが(やり)を持ったじいさんの石像に視線を(うば)われていたので、かつて唯一神(ゆいいつしん)を目指して争った十二の神の一柱であるポセイドンであることを教えると。

「おぉ~」と目を(かがや)かせたので少し面白くないと思ったが、可愛かったので取りあえず頭をなでてから近くの屋台でリンゴ(あめ)を買って渡した。

 

「ありがとうございます! そういえばデュラン、この神様は強かったんですか?」

 

「あぁ、強かったらしいぞ。この国の名前にもなっているトライデントっていうあの(やり)を使って津波を起こしたりとか出来たらしい。

 今でもこの国の王族がトライデントをどこかに隠し持ってるって(うわさ)だ、本当かどうかは知らないがな。」

 

 そう言葉にしながらも恐らく本当の話だろうと内心で結論づけた。

 起源神ワールドと剣神を(のぞ)いた他神のことを()み嫌う起源統一教団(クソ共)が、海神(かいしん)ポセイドンを信仰するトライデント王国へ喧嘩(けんか)を売ってないのが何よりの証拠だろう。

 まあ、この国が攻めずらい地形なのもあるとは思うが。

 

「そんなことよりもそこの喫茶店(きっさてん)へ入らないか? 少し小腹が()いてな」

 

「そうですね! 僕はパンケーキがいいです! 美味しそうです♪

 それとお金について教えてください、何時までもデュランに頼り切りはいけないと思うので!!」

 

 デュランはそうしたらまた一つ俺の仕事がなくなるんだが! と思ったが、アリスの意見を否定するのはありえないので泣く泣く話し出した。

 

「世界中で使われている主流な硬貨(こうか)はユグドラシル硬貨とドラゴーネ硬貨の二種類だ。

 他にもその国独自の硬貨なんかもあるが、大体この二つのどちらかを利用してることが多いからこの二つだけ覚えればいい」

 

「ドラゴーネ硬貨は見たことありますが、ユグドラシル硬貨は見たことないです! どうしてですか、師匠!」

 

「ああ、それはユグドラシル硬貨が使えるのはあの(・・)起源統一教団がある国だけだからな。

 今まで見せる機会がなかったんだ、実物はこれだ」

 

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 デュランはそうしてユグドラシル金貨を見せながらどちらの硬貨も大金貨が一番価値があり、大金貨→金貨→大銀貨→銀貨→大銅貨→銅貨の順で価値が下がっていくことを教えた。

 ただ買い物をする際はその国で買おうとしている物がどれくらいの価値を持っているのか知っていなければいけないため、買い物はゆっくり覚えていくことになった。……助かった。

 その後は屋台で買い物をしながら宿へ向かって歩いていたが、途中で宝石店を見つけたのでちょうどいい機会だと判断し。アリスに指輪でもプレゼントするかと店へ入ると、ばったりとデート中のルイス達に出会った。

 

「……指輪でも買いにきたのか? 一応金は渡してるが金額的に足りてるか。

 足りないんだったら追加で金をやるぞ、今俺はアリスとのデートで機嫌がいいからな」

 

「いや、もう買った後だし、そんな高いのを買ってないから大丈夫だ。こういうのは値段じゃないからな。

 そう言うデュランの方こそアリスに結婚指輪を買ったらいいんじゃないか、エルフ族とはいえハーフなんだ。しきたりをそこまで気にする必要もないだろう?」

 

「ああ、元からそのつもりだ。アリスへのプレゼントはいくらでもあっていいからな」

 

 デートという単語で(ほお)を真っ赤に染め上げたアリスは目をキラキラと光らせているノアからの矢継(やつぎ)(ばや)の質問攻めで羞恥心(しゅうちしん)が振り切ったのか、顔をデュランの体に押しつけて隠してしまった。……可愛い。

 何時までもその状態のままでいる訳にもいかないのでもう指輪を買っているルイス達には先に店を出てもらい。アリスの薬指の大きさを測り、適切な大きさの指輪を買ってプレゼントした。

 

「こんな綺麗(きれい)で素敵なプレゼントありがとうございます、デュラン。とっても嬉しいです!」

 

「……アリスのが綺麗だと思うんだが、まあ気に入ってくれたのならよかった」

 

 買ったのは青味がかった緑色のエメラルドの指輪だ。

 アリスの色なのと宝石言葉が気に入ったから買ったのだがこの様子からしてどうやらアリスは宝石言葉を知らないのだろう、元々結婚指輪を(おく)る風習のないエルフ族出身だから当たり前だが。

 欲を言うのならば左手の薬指へ着けたかったが戦闘する際危ないので、シルバーのチェーンを買って首から下げることにした。絶対に戦闘中、指輪が落ちないようチェーンは頑丈な物を選んだ。

 

「それじゃあアリス、そろそろ宿に帰ろうか」

 

「うん、そうだね。帰ろう、デュラン」

 

 そう言って歩き出そうとした二人は突然床がなくなったような感覚と共に――下に落ちた(・・・・・)

 

「何ッ!? なんだこれは!! アリス、俺の手を放すなよ!!!」

 

「う、うんっ、分かった!」

 

 とっさにアリスの腕を掴んだデュランはそのまま自分の方へと引き寄せようとしたが、地面から飛び出した棍棒(こんぼう)に腕の骨を(くだ)かれたことでアリスの手を放してしまった。

 

「おおっと、そうはいきやせん。用があるのはこちらのお(じょう)さんだけなんでねぇ」

 

「グガァッ!? テメェッ!!!」

 

「デュランッ!? だいじょ――」

 

 アリスは全力で手を(にぎ)っていたが、棍棒を持った蝙蝠(こうもり)のような羽を生やした男の吸血鬼に無理矢理腕を放され。デュランを心配しながら影の中に(しず)んでいった。

 デュランはそのことに怒り狂いながら砕かれてない方の手で脇差(わきざ)しを抜き放ち、そのまま回転しながらの三連撃で棍棒ごと吸血鬼を斬ろうとしたが。怒りで我を忘れた攻撃は簡単に受け流されてしまった。

 

「――殺す」

 

「おぉ~、おっかないね~。でもいいのかい? まだ周囲に闘えない一般人がいるけども」

 

「関係あるか、死ね」

 

 デュランは脇差しを納刀(のうとう)しながら即座に砕かれた腕を治して天晴を抜き放つと、空中を強化した身体能力で移動し。吸血鬼の男を両断するのでした。

 

 

 

 

 

「いててて、ここは何処だろう? デュラン、心配してるだろうし早く合流しなくちゃ」

 

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 アリスは影の中を抜けて気が付けば見知らぬ洞窟(どうくつ)の中にいた。

 なんとか辺りを見回して出口を探していると痛そうに体を抱きしめて倒れている少女の姿が目に入り、もしかしたら一緒に巻き込まれて影の中に落ちたのかもしれないと思って助け起こすことにした。

 

「君! 大丈夫!! どこか痛い所とかない?」

 

「――そうね、実は痛い所があるの」

 

「だったら僕が魔法で治してあげるよ、どこが痛いの?」

 

 顔を(うつむ)かせたまま痛い所があると返事をしたので、アリスは体を少女の方へと(かたむ)けて魔法を使おうとした。

 すると次の瞬間――

 

「えっ――ああああああああああああああああああああああッッッ!!!!」 

 

 ――少女はアリスの首筋に牙を突き立てて彼女の血と魔力を根こそぎ(うば)い取ろうと吸血を始めた。

 そのまま弱っていくアリスの無駄な抵抗を楽しみながら吸血を続けた少女は彼女が意識を失うと、そのまま両腕で抱きかかえてから翼を広げた。

 そしてこの状況に強い愉悦(ゆえつ)を覚えた少女は表情を歪めながらお人好しなハーフエルフ(忌み子)のことを(あざけ)り笑った。

 

「純粋な女の子を(だま)すのは何回やっても本当に心が痛むわぁ(・・・・・・)、クヒヒヒ」

 

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 そうしてアリスを手に入れた吸血鬼の少女は自身の主に彼女を献上(けんじょう)するため、洞窟の奥へと進むのだった。



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覚悟完了

 

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「両断とはやってくれるねぇ~、流石は筆頭大魔王を殺した化け物だ~ね。

 でもあっしの能力影の支配者(シャドウルーラー)は影そのものを実体とする能力、あっしを殺すのなら例の天下無双とやらを使わないと無理だね~。

 もっともそんな隙を与えるつもりはないけどねぇ」

 

 魔王にとって猛毒(もうどく)であるはずの光属性を(まと)った天晴で何回斬っても目の前で我が物顔で再生していく吸血鬼の姿に、このまま斬り続けても時間の無駄(むだ)だと悟り。デュランは奥の手(魔法)をもう一度使う決意をした。

 使えば死ぬかもしれないことは誰よりも分かっていたが、影の中へ消えていったアリスを助けられるのならば死んでも(かま)わなかった。

 

「よくさえずる蝙蝠(こうもり)だな、アリスが消えてからもう二分は経っている。

 楽に死ねると思うなよと言いたかったがもういい。貴様の言う通り、使おう」

 

「使うって例の魔法をかい、だからそんな隙は与えねぇって――グゲェッ」

 

 ただし短縮詠唱ではアリスを探し出してから助けに行くまで時間が足りないため、完全詠唱を使う必要があると判断し。脇差しも抜き放って二刀流になり、詠唱が終わるまでの時間を耐え忍ぶ体勢を取ったが。

 目の前の吸血鬼へ対しては()さが溜まっていたので影から新たに現れた百体の吸血鬼の男全てへと高速の斬撃を飛ばして切り裂き、バラバラになった男の間抜け面を(にら)み付けながら詠唱を開始した。

 

「――勝利(しょうり)だけを(ねが)うなら(つるぎ)(きば)と変わりなし、(つらぬ)(がた)(じん)(みち)(まも)()くもの(ひと)という」

 

「あっしらよりもあんたの方が化け物じみてるねぇ~、でも魔法は使わせないよ~」

 

 そこまで詠唱したところで再び足下から現れた吸血鬼の男に襲撃を受けたが、棍棒へタイミングを合わせて蹴りを放つことでその一撃の勢いを完全に殺し。そのまま男の棍棒を足場に空高く跳躍して影から距離を取った。

 

()()無辜(むこ)(たみ)がため、(つるぎ)となりて(てき)()つ 」

 

「影から距離を取ろうったって無駄なんだよねぇ~、影の世界(シャドウワールド)!! 串刺(くしざ)しになっちゃいなよぉッ!!!」

 

 吸血鬼の男がそう言うと一瞬でデュランを囲むように(やり)が配置されており、世界の時が止まったのかとデュランは錯覚(さっかく)して焦ったたが。もう一度よく観察したことで吸血鬼の男が何をしたのか分かった。

 男は影から影へ槍を移動させることで殺人的な加速を成功させ、それを銃の弾丸のように全方位から発射することでこの絶体絶命の状況を作りだしたのだろう。

 再生任せのカスかと思ったがそれなりに闘いを理解しているようだ。

 普段のデュランならここで死んでいただろう、しかし――

 

「ただ一筋(ひとすじ)閃光(せんこう)を、(おそ)れぬのなら()るがいい――天下無双(てんかむそう)

 

 ――剣神と化したデュランを殺すにはいささか速度が足りなかったようだ。

 斬撃を飛ばしたのでも魔法を使ったのでもない、ただの技量のみでデュランが空間を斬ったことで全ての槍と吸血鬼の男は同時に斬り捨てられたが。

 吸血鬼の男は何度斬られても再生するのだがら無意味だと笑おうとして失敗した(・・・・)

 

「バカ、な。そんなバカな! ありえな――あぁ」

 

 何故ならデュランの斬撃(ざんげき)は男の本体である影を斬り捨てており、存在しないはずの実体を(とら)えられた男は絶望しながら灰になって消えた。

 デュランはそんな男の最後に注意を払うことなく魔力で五感を極限まで強化してありとあらゆる情報を得ると取捨(しゅしゃ)選択し、やがてアリスの上げた悲鳴で居場所を突き止めると。

 空間を斬って創り出した穴で洞窟の最奥へと辿り着き、アリスを犯そうとしていた(みにく)い吸血鬼の男を殴り飛ばした。

 

「死ねええええええッッッ!!!l」

 

「――グガバァッ!!!?? き、貴様は剣神! ど、どうやってここまできた!!!」

 

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「大丈夫かアリス! 怪我とかはしてない――グッ!」

 

 そんな吸血鬼の言葉を無視したデュランは急いでアリスを助け起こし、そのまま彼女が無事か確認しようとしたが。

 周囲の警戒はしても救助対象であるアリスへの警戒(・・・・・・・)(おこた)ったその代償としてデュランは、魔物の毒が大量に付着(ふちゃく)したナイフで脇腹(わきばら)を刺し貫かれた――アリスの手で。

 

「――アグリに手を出すなんて絶対に許さない!! 死んで!!! ここで死になさいよ、このクズ!!!」

 

「ごめんな、アリス。助けにくるのが遅れて。今、ゲホッ、アイツを倒してやるからな」

 

 完全詠唱に成功してもこの魔法を使っていられるのは三分が限界な上、魔力の制御が繊細(せんさい)で難しいため。普段のように魔物の毒を無毒化することができない。

 本来ならばアリスを連れて逃げるべきだが、デュランをナイフで刺して罵倒(ばとう)しているのにも関わらず。止めどなく涙を流しているアリスの姿を見た瞬間、逃走という言葉はデュランの中から消えた。

 アリスの腹を殴ることで彼女を眠らせてベッドへ優しく寝かせた後、殺意の感情に支配されたデュランが人間とは思えない咆哮(ほうこう)を上げた。

 

「――貴様らには地獄の苦しみを与えてから殺す」

 

 そうして睨み付けられた吸血鬼達は醜い争いを繰り広げだしたが、その全てを無視したデュランは天晴と脇差しを納刀して(こぶし)(にぎ)った。

 

「わ、私はアグリ様が彼女を欲しがったから手を貸しただけよ。ゆ、ゆるし――」

 

「ふざけるなァッ、私は貴重な洗脳能力持ちだぞ!! お前は盾にな――」

 

 ――ドガンッッッ!!!!

 

 二人の吸血鬼はデュランに拳で(あご)を破壊されて洞窟の天井を突き破って星になったが、即座に追いついたデュランは宣言通り拳で体を解体(かいたい)していく。

 そして吸血鬼達の再生を許さず、殺すこともできるのにデュランはあえて再生能力を封じず。再生する吸血鬼達の体をそれ以上の速さで破壊して魔力がなくなるまで拳のみで追い詰めると。

 拳にアリスが嵐流刃(らんりゅうじん)と名付けた技を使い、すでに瀕死(ひんし)の二人の吸血鬼へ向けてその拳を解き放った。

 

「「た、たすけ、て」」

 

「――嵐流刃(らんりゅうじん)ッッッ!!!!」

 

 その一撃は二人の吸血鬼を文字通りに(ちり)へと変えた。

 

「ゲホッ、ゲホッ――まだだ! まだ仲間がいるかもしれない、これは(・・・)解除しない」

 

 デュランは口から血を吐きながら落下していったが気合いで体勢を立て直し、アリスの元まで戻って彼女にかかっていた洗脳を解いた後。

 もう一度集中して辺りの意識を探ったが、こちらへ悪意を向ける意識はなかったので空間を斬った。

 

「どうしたの貴方達ッ!!? 大丈夫ッ!!!」

 

「町中で魔王に襲われた。敵は倒したから後は頼む、ヴィンデ」

 

 そうしてできた穴を通ってベルメーアの宿へ戻った後、空間の繋がりを断ち切り。アリスをベッドへ寝かせてから魔法を解除して魔物の毒を無毒化したが、やはり遅かったようだ。

 毒その物は無毒化できても傷ついた体を元に戻す余力はなく、そのまま倒れたデュランの元まできたヴィンデの姿を目の辺りにしながら「違う、俺はいいからアリスの手当を」と言いたかったが。

 その言葉を口にすることはできず、深い暗闇の中へとデュランの意識は吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

黒神(こくじん)様よかったのですか、素行に問題があったとはいえアグリ達は魔王です。

 剣神の底を見るため(・・・・・・)に使い潰して(・・・・・・)

 

 そう言われた黒神は歪んだ笑みを浮べながら「我々の目的はあくまでも、恒久(こうきゅう)的な世界平和なのだということを忘れるな。制御できない(こま)はいらないのだよ」と(きび)しい口調で言った後。

 

「もちろん、彼らが勝ったのならば約束通り彼らの罪は許すつもりだったのだが。

 まさかあのアリスという少女にあそこまでこだわるとはな、やはり彼らは(おろ)か者だ。

 しかし、剣神の手の内を(あば)いたのは彼らの功績(こうせき)だ、ならば吸血鬼という種族自体の存続を私は認めよう。王としてな」

 

 そう言ってから黒神はその姿を消した。

 

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 最強の能力持ちであるゴリラの大魔王は吸血鬼(羽虫共)の生存が確定したことに舌打ちしたが、大魔王筆頭亡き後のリーダーとして表情を引き締め。自身も黒神と同じようにその姿を消すのだった。



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洗脳

「……こ、ここは、ど、こ、にげ、な、きゃ」

 

 助け起こした少女の不意打ちで僕は魔力のほとんどを奪われて気絶してしまい、次に目を覚ました時。どれだけの時間が過ぎたのか分からず。

 それでも早く逃げなければと四肢(しし)を動かそうとしたが。ガチャンッ、という金属音共に僕は四肢を(くさり)で縛られていることに気が付いて絶望した。

 

「ようこそ、聖女よ。私の物になりに来てくれて嬉しいよ」

 

「ぼ、くは、おま、え、の、ものじゃ、ない」

 

「今はそうだな、だがこれからそうなるのだよ。私の能力、洗脳によってね!」

 

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 僕は洗脳という単語を聞いて恐怖した。

 何故ならもし、この背中に蝙蝠(こうもり)の羽がある男が言っていることが本当なら、彼は意思も思いも無視して僕を自分の物にできてしまうということに気が付いたからだ。

 

「い、いや、だ。でゅら、ん――た、た、すけ、て」

 

「助けなんてこないわよ、おバカさんね」

 

 僕は必死でこの場にいないデュランへ助けを求めたが、それを嘲笑(あざわら)蝙蝠(こうもり)の羽を生やした少女に再び首筋を()まれた。

 すると次の瞬間。僕の体は僕の意思を無視して発情し、(また)からはいつもデュランと寝る時のように液体がダラダラと()れだしてしまう。

 

「魔力を少し返してあげたわ、発情する媚毒(びどく)入りだけどね。

 弱り切った体じゃ、アグリ様の太くて長~い物を入れても反応が(うす)くてつまらないですもの」

 

「よくやったぞ、()めて使わす。では、これより洗脳を始める。

 具体的にはデュランとやらへの感情を全て、この私アグリへ向けるようになるのだ! 嬉しいだろう、聖女よ!!」

 

「い、イヤァッ!! お願いやめてェッ!!!」

 

 そう叫ぶ僕を無視してアグリは僕の頭の上に手を置くと洗脳能力を使い始めた。

 すると僕の中のデュランへの思いも感情もアグリという魔王の手で全て()()えられていく、アグリのことが好きで好きでたまらなくなっていき。デュランとの大事な思い出はアグリとしたことになっていく。

 

 ――ごめんね、デュラン。僕は君のことを忘れるなんてこんなの耐えられない、だから僕はここで死ぬ(・・・・・)

 

「やめて!!! デュラン、助けてッ!!!!」

 

 婚礼(こんれい)()前夜に初めてデュランと一緒に過ごした夜も、里の仲間達に祝ってもらった思い出の式も、ドライ王国で綺麗(きれい)な着物を買ってもらったことも。

 何もかもがデュランとの思い出ではなく、アグリとの思い出だと記憶を(ゆが)められる。

 

 ――僕はここで死んじゃうけどできるなら、僕のことを覚えておいて欲しい。

 

「イヤアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」

 

 そうして記憶が塗り替えられていく中で僕はデュランに助けを求めたが、それでも間に合わないことは僕自身が誰よりも理解していた。だから。

 

 ――さよなら、デュラン。

 

 そう心の中で呟いた後、僕は残った魔力を暴走させて自爆した――

 

 

 

 

 

 

 ――はずだった(・・・・・)

 

「死なせる訳ないじゃない、おバカね」

 

 ――えっ

 

 決死の思いで暴走させた魔力は何者かの手で元の状態に戻っていく。

 

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 僕はこちらをバカにしたような顔で見ながら笑う少女の顔を目の当たりにし、自爆できなかった理由を悟った。彼女に魔力を返された時、何か細工されたんだ。

 けど、それが分かった所でもうどうしようもなかった。

 

「――アグリ、今日は僕の処女(しょじょ)をもらってくれるって本当?」

 

「ああ、本当だとも。何故今までこれほど上物(じょうもの)の処女を(うば)わなかったのか。

 私は今までの自分自身に(・・・・・)対して(・・・)理解に苦しむよ(・・・・・・・)

 

 もう僕の体に僕の意思はなかった。

 四肢の鎖はもうないけど僕の体は完全に洗脳されてしまい、アグリに向けて満面の笑顔を向けている。

 心の片隅(かたすみ)に正気の僕がいるけど、もう指一本動かすことができなかった。

 

「――嬉しい! 僕ね、ず~~とアグリに処女をあげたかったんだ!! だけどアグリったらお尻でいつも満足しちゃうんだもの。遠慮なんてしなくてもいいのに。

 忘れられない夜にしてね、アグリ!!!」

 

 僕の体はアグリの物を迎えようと股を開いた。――ああ、最悪だ。

 

「グフフ、まかせてお――」

 

「死ねええええええッッッ!!!l」

 

「――グガバァッ!!!?? き、貴様は剣神! ど、どうやってここまできた!!!」

 

 そうして僕が全てを(あきら)めようとしていると、ここにはいないはずのデュランの声が聞こえてきた。

 

 ――デュランだ! 助けに来てくれたんだ!! 大好き、愛してる!!!

 

 そうして無邪気(むじゃき)に喜ぶ僕の目の前でデュランは、魔物の毒が大量に付着(ふちゃく)したナイフで脇腹(わきばら)を刺し貫かれた――僕の手で。

 

「――アグリに手を出すなんて絶対に許さない!! 死んで!!! ここで死になさいよ、このクズ!!!」

 

 洗脳された上での行動とはいえ、とんでもないことをしてまった僕は僕自身のことが許せなかったが。指一本動かせない体じゃあ、自殺もできない。

 お願いデュラン、僕を殺してと心の中で涙を流していると。

 

「ごめんな、アリス。助けにくるのが遅れて。今、ゲホッ、アイツを倒してやるからな」

 

 という声と共にデュランが僕の体を気絶させたのだろう、心の世界が消えていく。

 そして世界ごと僕の意識が消えるまで、僕はデュランに(あやま)り続けるのだった。

 

 

 

 

 

「――デュラン! 分かっているの!! 貴方の(たましい)はもう、限界なのよ!!!」

 

「……分かってるさ」

 

 目を覚ました僕の耳にそんなヴィンデさんの声が聞こえてくる。……どうしたんだろう?

 そう思いながらなんとなく話しかけている方へ視線を向けてみると、そこには心臓付近を押さえてうずくまるデュランがいた。

 

「デュラン? ――デュラン!!! どうしたの、胸が痛いの!!?」

 

「たく、よりにもよってこんな時に起きるなんて、運が悪いな。

 大丈夫だからなアリス、心配すんな。――ヴィンデ、余計なことは言うなよ」

 

 デュランはそう言って何事もなかったかのように立ち上がって部屋を出て行ってしまったが、僕にはとてもじゃないけど大丈夫だとは思えなかった。

 だけど素直にデュランへ(たず)ねたとしても絶対に答えてくれないのは分かってたので、ヴィンデさんの方へ顔を向けて頭を下げた。

 

「お願いします、お母様! デュランに何が起きているのか教えてください!!」

 

「……言うなっていわれたけど、いいわよ。正直私ももう隠し通せないと思ってたしね、全てを教えてあげる」

 

 そうしてヴィンデさんが話してくれたのはデュランが魔法を使うたび、反動で自身の魂を傷つけて寿命(じゅみょう)を削っているという事実だった。

 ヴィンデさんの見立て通りならもう二年分の寿命がデュランから失われており、二度と元には戻らないと断言された。

 

「な、なんで隠してたんですか!! お母様!!!」

 

「……貴方に教えたら私と同じように魔法を使おうとするのを全力で止めたでしょ、だから言わなかったのよ」

 

 僕はその言葉に当たり前でしょうと返事をしようとして――

 

「それでもデュランは止まらないからせめて、アリスには絶対の味方であって欲しかったの」

 

 ――ヴィンデさんの顔を目の当たりにして息を飲んだ。

 

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 その壮絶(そうぜつ)笑みはヴィンデさんの決意を表しているかのように綺麗で美しく――そして何処までも狂っていた。

 デュランのためなら彼女は文字通りなんでもするのだろう、そんな自身との違いを感じ取って一瞬気圧(けお)されたけど。だったら僕は僕でもできることをするとその場を後にしてデュランのことを探し回っていると。

 宿の(うら)側にある空き地でデュランの姿を見つけた僕は、まずは誠心誠意(せいしんせいい)謝るのが先だとその場で頭を下げた。

 

「デュラン、洞窟(どうくつ)では本当にごめんなさい。能力で洗脳されていたとはいえ、取り返しのつかないことをデュランに!! 

 お願いします!! 何でも言うことを聞くから僕のことを嫌いにならないでください!!!」

 

「大丈夫だって、あんなのかすり傷だったからな!! あの後だってちゃんと怪我を治してから闘ったから勝てたんだしな。

 だから大丈夫、あれくらいでアリスのことを嫌いになったりしないよ」

 

 その言葉がくるのを僕は分かったいた僕は涙を流しながら――

 

「だったら僕の処女をもらってよ、デュラン!!!」

 

 ――そう叫んだ。

 

「えっ、アリス? どうしたんだ?」

 

「僕は後もう少しでデュラン以外の人に処女を奪われる所だったんだよ。それもあんな気持ち悪い人に!

 だから他の誰かに奪われる前にデュランのおちんぽで、僕の処女を破り捨てて欲しいの!!」

 

 その言葉でデュランの目つきが変わったのを見ながら僕は勝利を確信し、上目遣(うわめづか)いでトドメの一撃を放った。

 

「デュランが手を出さないなら棒を使って自分で破るか――」

 

「――俺を元気づけるためにこんなことを言ったんだろうが、相変わらず詰めが甘いな。最後まで気を抜いちゃダメだよ」

 

「――ら、って、えっ」

 

 気が付いたら僕はいつの間にか空き地に()かれていた布団の上へ寝かされ、衣服を脱がされた上でデュランにマウントポジションを取られていた。

 そしてデュランを元気づけるという本来の目的が何故かバレているのを理解して冷や汗を流したが、結果的に目的を果たせそうなので黙り込んだ。

 

「前アリスには訳あって一カ所に(とど)まらないよう旅をしてるから子供が出来るようなことはしないって、言ったけど。あれ半分は嘘なんだ」

 

「う、嘘とは」

 

「俺のちんこはちょっとデカすぎるんだ。だから、アリスの体を開発(かいはつ)して入れられるようになるまでずっと我慢(がまん)してた」

 

 僕は目的を果たせそうなのになぜ冷や汗を流したのか、デュランのおちんぽを視界に入れて理解した。

 つまり信じたくない真実だけど、いままでデュランは一度たりとも僕と寝る際、おちんぽを勃起(ぼっき)させてなかったんだ。

 ――あの時目に入ったアグリの物の倍以上長いおちんぽへ対して、僕は恐怖を覚えながら無意識に後ずさった。

 

「でゅ、デュラン、始めてでそれはちょっと入らないと、僕は思うんだけど」

 

「入るよ、そのために毎日アリスを開発したんだから」

 

 僕はそのデュランの言葉で全てを諦めると、せめて少しでも優しくしてもらおうと笑顔で「初めてなので、優しくしてください」とデュランに言ったが「悪いけど、今日は優しくできない」と満面の笑みを浮べたデュランにそう返されたので。

 僕はもう液体がダラダラと流れ始めている股を自分で広げて、大人しくデュランのおちんぽを待った。

 

 そうしてその日僕の処女はデュランに奪われたのですけど、気持ちいいとか痛いよりも。あのデカいおちんぽが全部入ってしまった自分の体への恐怖の方が強かったです。

 ただ最後には気持ちいいしか分からなくなったので、僕はきっとデュランに一回(こわ)されてしまったのだと思います。――気持ちよかったぁ♡



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対談

 目を覚ましたデュランが感じたのは全身を炎で焼かれ続けているかのような想像を(ぜっ)する痛みだった。

 それは体や内臓(ないぞう)が痛むような普通の痛みではなく、デュランという存在の(かく)である(たましい)が傷ついたことによって発生した物であり。さしものデュランでもどうしようもなかった。

 だが下手をすれば死にかねなかったことを思えばただの激痛で()んだのは幸運だったとデュランは判断したが、それはそれとして痛みだけで死んでしまうのではないかという激痛で声にならない悲鳴(ひめい)を上げ。ベッドを思い切り殴りつけたことで右手の手首を()った。

 

「――デュラン大丈夫ッ!! (せん)じた痛み止めの薬草を持ってきたわよ!! ないよりはマシだから()みなさい!!!」

 

「……アリスは、大丈夫、か」

 

「えぇ、無事よ! だから一先(ひとま)ずは自分のことに専念(せんねん)しなさい!!」

 

 その言葉を()いてようやく安心できたデュランはもらった痛み止めの薬草を飲み込んで使った器をヴィンデに返そうとしたが、感覚の麻痺(まひ)した左手では持ち続けることができず。ベッドの上に取り落としてしまった。

 落とした器を拾おうか悩んだが今のまま持とうとすると(こわ)すのが目に見えていたため、大人しくベッドへと横になった。

 せめてヴィンデへ一言告げてから寝ようと思ったが痛みで気絶してしまい、次に目を覚ました時。とっぷりと日が暮れていた。

 

「ヴィンデ、アリスはどこにいる?」

 

「……本当に変わったわね、デュラン。案内するからついてきて」

 

 デュランは痛みがマシになっていたのでアリスの所へ行こうと思い立ち、ヴィンデへどこにいるのか()いてみると案内してくれることになったので大人しくついて行った。

 案内された部屋は新しくとった部屋だったようで番号が知っている物ではなかった。――元々アリスとは同じベッドで寝ていたのだから当たり前の話だが。

 

()()(つるぎ)となりて(てき)()つ――天下無双(てんかむそう)

 

 アリスが(おだ)やかな表情で眠っているのを目にしてデュランは安心したが(ねん)のため、魔法を使ってからアリスの頭へ手を置いて体の隅々(すみずみ)まで調べたが。異常はなく、ただ眠っているだけだと分かった。

 

「よかった、もう大丈夫みたいだな――ッ!」

 

 そうして安心していると心臓付近で(するど)い痛みを感じたことで立っていられず、デュランは木製(もくせい)の床へ頭を打ち付けてしまった。

 二秒程度でこの(ざま)とはどうやら相当弱っているようだと、デュランが他人事のように考えていると小さい手でビンタされ。顔をそちらに向けると涙目のヴィンデがこちらを(にら)み付けていた。

 

「――デュラン! 分かっているの!! 貴方の(たましい)はもう、限界なのよ!!!」

 

「……分かってるさ」

 

 そんな会話をしているとアリスが起きてしまたので思わず運が悪いとぼやいてしまったが、アリスに寿命(じゅみょう)の件を知られると心配をかけてしまうのでデュランはヴィンデへ何も余計なことを言うなと言ってから部屋を出た後。

 心臓が落ち着くまで空き地で休んでいるとアリスの声が聞こえてきたため、(おどろ)きながらも表情を取り(つく)ってアリスと会話していたが。

 デュランのことを元気づけようとするアリスの姿に別の物が元気になって(・・・・・・)しまい(・・・)、そのまま朝日が見えるまでぶっ通しでヤリ続けてしまった。

 

「もう朝か。そろそろ宿に帰るぞアリス、アリス? ……幸せそうな顔で気絶しているな。

 このまま寝かしておこう、天晴! こっちに来い!!」

 

「ひぅっ!?」

 

 デュランはそんなアリスの姿を誰にも見られたくなかったのでこのまま空き地へいることにし、体が冷えないよう()け布団を創り出し。アリスへかけてから近くでデュランの護衛(ごえい)をしていた天晴を呼んだ。

 

「ご、ごごご、ご主人様。私のこと、いつから気が付いてた、ですか?」

 

「最初からだ。アリスが最優先だったから指摘しなかっただけだ、素振りをするから刀になれ」

 

 最初に目を覚ました時から天晴が護衛していたのは気が付いていたがアリスの無事を確認するのが先決だったため、指摘しなかっただけだと伝えてから素振りがしたいと言うと。

 天晴は急いで刀になったので、そのままアリスの寝顔を見ながら素振りを始めた。

 

「――ッ!」

 

 しばらくそうして素振りしていると背後に突然見知らぬ気配が出現したので、天晴でその気配を斬ろうとしたのだが。受け止められてしまった――指一本で(・・・・)

 

【挿絵表示】

 

「――病み上がりでこの反応速度は素晴らしいな、だが突然背後に現れたからと言っても斬りかかるのはやりすぎでは無いか? もしも一般人だったらどうするのだ?」

 

「……一般人は突然背後に現れねぇだろ、だからお前は斬っても問題ない」

 

「ハハハッ、確かに!」

 

 そう言いながらも目の前の男を斬ろうと力を込め続けても天晴はまったく動かなかったので蹴りで体勢(たいせい)を崩そうとしたが、まるで巨大な山を蹴ったかのような感触(かんしょく)を足に感じた。

 微動(びどう)だにしない男の姿はかなり不気味だったがそれでもアリスへ危害を加えさせないため、魔法抜きの全力で殺そうとしても。男には何一つとして通じなかった。

 

「お前、どんな能力を使ってやがる。光属性がまったく効かないなんて、今までなかったぞ」

 

「何、私の部下の能力である最強の能力(・・・・・)というやつだ。面白いだろう?」

 

全然(ぜんぜん)面白くねぇよ、クソが」

 

 デュランはそう言いながらもこのまま闘えば敗北するしかないと悟って冷や汗を流していた。

 いつもならば魔法を使えるから勝ち目もあったかもしれないが、今魔法を使うのは文字通りの意味で自殺行為だった。

 それでもアリスを危険にさらすよりはいいと一か八か魔法を使おうか悩んでいると、男は闘う意思はないと言うかのように手の平をこちらへ向けた。

 

「おっと、そんなに覚悟を決めた顔をするな。今回は(・・・)ただ話をしに来ただけだ」

 

「……信じられると思うか? お前、魔物を生み出している黒神(こくじん)って名前のやつだろ」

 

 デュランがそう言って(かま)をかけてみると肯定するように男は笑みを浮べた。

 

「そこまで分かっているのならば話は早い、だったら今のお前を殺すのに態々(わざわざ)こうして姿を現す必要がないことくらいわかるだろう? 剣神」

 

「……プライド王国の時みたいにこの国ごと吹き飛ばすと言いたいのか? だがあの蛇の魔王、いや大魔王はもう俺が殺している。同じことができるのか?」

 

「逆に()くが、部下である大魔王にできることが。私に出来ないとでも?」

 

 黒神はそう言いながら蛇の大魔王と同じようにデュランの頭上へ小石を出現させて見せた。

 集中していたため。この小石は転移などで空間を跳躍(ちょうやく)させたのではなく、元々デュランの(・・・・・・・)頭上には小石(・・・・・・)があった(・・・・)と現実を()()えたのだとハッキリと分かったが。

 分かったからと言ってそう簡単に対処できる能力ではないと、デュランは顔をしかめながら小石を拳で(はじ)いた

 

「なるほどな、よく分かった。それでどんな話をするんだ、黒神」

 

「そうだな、では今までのことは全て水に流して手を組まないか?」

 

「寝言は寝てから言え」

 

 デュランはそう言い返しながらも万が一にもアリスへ手を出させないよう集中していたが先程言った通り、今回は話をしに来ただけなようでただ肩をすくめるだけだった。

 そして「これは手(きび)しい、それでは本題を話すとしよう」と言いながらこの大陸で一番大きい起源統一教団の支部があるグリード王国の写真をこちらへと見せてきた。

 

【挿絵表示】

 

「今から三日後にこのグリード王国へ鳥人族(ちょうじんぞく)鬼人族(きじんぞく)巨人族(きょじんぞく)竜人族(りゅうじんぞく)機人族(きじんぞく)獣人族(じゅうじんぞく)馬人族(ばじんぞく)木人族(もくじんぞく)の八種族からなる連合軍が戦争を仕掛けるそうだが、どうするのだ剣神」

 

「……そんなことを教えて俺達にどうして欲しいんだ黒神、それと前の蝙蝠(こうもり)も言ってたが剣神って俺のことか?」

 

「あぁ、敬意を込めてそう呼ぶよう私が魔王達に通達した。

 それとこの話を伝えた目的だったら観察(かんさつ)するためだ、実に簡単な話だろう?」

 

 デュランは黒神の話した内容が予想外の物だったので思わず(まゆ)をひそめながら聞き返してしまったが、それに対して黒神は観察するのが目的と言い放ち。

 何らかの装置を取り出し、スイッチを押して空中へと映像を投影した。

 

『よし、分かった。

 ヴィンデ、起源統一教団をぶっ潰すぞ!! 最終的な目的地はアイディール神国だ!!』

 

『……それが出来たら苦労はないって言いたいけど、デュランなら出来ちゃいそうよね。

 仕方ないわね、私も付き合うわよ。いくらデュランでもアイディール神国を一人で相手するのはきついでしょうから』

 

『ちょ、ちょっと待ってください!? そんな簡単に決めていいんですか!! 相手は国を消せる兵器を持っている超大国なんですよ!!!

 デュランがいくら強くても危険なんですからもっとしっかり考えてください!!?』

 

『よく考えたぞ、考えた上で潰すって言ってるんだ。アリスの夢は夫である俺の夢でもあるからな』

 

『じゃあもう一度よく考えてください! 彼らは多種族を助けたという理由で人族の国であるウィンクルム連邦国さえも消したのですよ!!

 デュランが人族でも彼らは容赦なんかしませんよッ!?』

 

『知ってるよ、前にヴィンデと一緒にいるからって理由で教団の連中に襲われたことがあるからな。まぁ、うるさいから斬ったが』

 

『えぇっ! 教団員を斬ったアァッ!?』

 

『なっ、何を』

 

『アリス、分かったか? 俺はもう教団に喧嘩けんかを売ってるんだから今更過ぎるんだよ、そんな心配。

 それと一回しか言わねぇからな、今からいう言葉をよく覚えておけよ』

 

『――俺の名前はデュラン・ライオット! 剣神を超えて世界一の剣士になる男だ!! だから!!! だから――妻の願いを叶えるなんて朝飯前だ。

 遠慮なんかすんな、お前は俺の妻なんだろ?』

 

 そしてその映像の内容がかつてエルフ族の里を出た直後、アリスとデュランが約束をするまでの会話だったことにデュランは目を見開きながら固まったが。

 その頃から何らかの手段を使ってこちらの情報を得ていたのだと理解すると同時、この前斬り捨てた影を支配する能力を持った吸血鬼の男の気配に襲撃されるまで気がつけなかったことを思い出し。コイツだろうと思ったが、黒神へ一応確認することにした。

 

「……俺が斬ったあの蝙蝠の能力か、これは」

 

「その通りだ、そして私の最終的な目的も起源統一教団を潰すことでね。ここは一つ情報を与えてみようと思ったのだ。

 仮に起源統一教団を潰せず、戦争も止められなかったとしても魔物にできる死体を大量に手に入れられるのだ。利用しない手はなかろう」

 

「クソ野郎めッ! 死にやがれ!!」

 

 自身の予想通りだったことに舌打ちしながらもデュランは黒神へ中指を立てて罵倒(ばとう)してから納刀すると、アリスを抱き上げて宿の部屋に戻るため歩き出した。

 そうして宿に戻ろうとするデュランへ手を振りながら黒神は声をかけてきた。

 

「それでは楽しみにしている、剣神」

 

「クソくらえだ! 必ず殺してやるから覚悟しとけ、黒神」

 

 最後にそんな会話を交わした両者は空き地を立ち去り、その場には布団だけが残るのだった。

 

 そしてその二日後。体の回復とアリスの武器である棒の鍛錬が終わったデュラン達はアルムへお礼をしてからグリード王国を目指して旅立ち、様々なことがあったベルメーアを()ったがその際。

 デュランが荷車を持ち上げてからすさまじい速度で走り出したので、荷台のアリス達は恐怖のあまり悲鳴を上げることになるのでした。チャンチャン♪



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宣誓

 黒神から伝えられた三日後までに間に合わせるためデュランは全力で走り、連合軍が戦争を仕掛けるよりも早くグリード王国へと着くことができたが。

 かつてグリード王国から一方的な侵略を受けて愛すべき家族や故郷を(うば)われた多種族(彼ら)復讐(ふくしゅう)を止めるべきなのか、また仮に止めるとしてもどうやって止めればいいか方法が分からなかったため。

 グリード王国の近くにて天幕を張り、幻惑魔法で見つかりづらくしてから中で会議をしていた。

 

「……グリード王国へ戦争を仕掛けてくる多種族は皆、起源統一教団の被害に()っている被害者だ。

 人族である俺が戦争を止めるよう言っても逆効果だろうし、何よりも止まれないだろう。大切な仲間や家族の命を(うば)われてるのだから」

 

「そうね……私もそう思うわ、相手が大切なものを奪ったのに復讐(ふくしゅう)しちゃダメなんて言えないものね。

 戦争を止めるのが本当に正しいのか、なんて誰にも分からないもの」

 

「――それでも! 僕は戦争を止めるべきだと思います!!」

 

 デュランとヴィンデが戦争を止めるべきなのかという根本的なことについて悩んでいると、アリスがそれでも戦争を止めるべきだと叫んだことで全員の視線がアリスへと集まった。

 

「連合軍の多種族の皆さんにもグリード王国の人族の皆さんにも家族がいます!! 亡くなっている方も今生きている方もきっと、彼らが幸せになることだけを願っているはずです!!

 なのに戦争で殺し合うなんて家族が悲しみます!! だから一人でも彼らのために泣く家族を減らすため、この戦争は止めるべきだと思いますッ!!」

 

「そうは言うがなアリス、デュラン達の言うとおり彼らも元は被害者だったんだ。

 止めると言ってもどうやったって遺恨(いこん)が残る。また戦争が起きるのを先延ばしにするだけじゃないか? 

 実際、俺だって姫がいなかったら復讐しようとしてただろうし。何よりも俺と違ってもう守るものがない者達が大半だろう? 止めるのは難しいんじゃ……」

 

 ルイスはアリスへ対してそう反論したが、次の瞬間。アリスが放った言葉で絶句(ぜっく)することになる。

 

「人族も多種族も全員殴り倒してから説得します! そして説得が相手に通じるまで何度でも殴り倒すし、ぶっ()ばします!! 戦争なんて絶対にさせません!!!」

 

「なっ!? そ、えっ」

 

 それは説得というにはあまりにも荒々しいやり方であり、言ってしまえば脳筋(のうきん)戦法と言っても過言(かごん)ではないものだった。

 しかしその言葉を聴いたデュランは目から涙を流すほど呵々(かか)大笑(たいしょう)した後で「よし分かった。アリスの作戦、全員右ストレートでぶっ飛ばすで行こう。オー!」と言って会議を終わらせた。

 アリス以外の全員はそんな作戦で大丈夫かと思ったが、いつも通りデュランならなんとかしてしまうのだろうと溜息(ためいき)をついてから同じように「オー」と棒読みで声を上げました。

 

 なお。肝心(かんじん)のデュランは「オーッ!」と言いながら拳を突き上げているアリス可愛いなぁ、と考えながらこの戦争を止めるためにある(うそ)をつく決意をしていました。後でアリスから怒られるのを承知の上で。

 

 

 

 

 

 会議から三時間後、グリード王国を四方から取り囲むように現れた連合軍と迎撃のため出てきた王国軍の前にデュラン達は立ち(ふさ)がってた。

 

「悪いが奴隷紋(どれいもん)のせいでデュランの命令には逆らえないんだ、全力で闘うが恨むなよ。

 ――元スミス王国親衛隊(しんえいたい)隊長ルイス! ()して(まい)る!!」

 

「私は光波ブレードしか手持ちの武器がないんだ。だから申し訳ないがしばらくの間、そうして(しび)れておいてくれ。

 正直、多種族の体はもう調べ()くしていて興味がないからね」

 

「私は元姫ですから闘いは不得意ですの! ですからゴーレム様、後は頼みましたわ!!」

 

 東側では予め強化魔法で身体能力を限界以上に高めたルイスが(さや)に入れたままの剣で連合軍をちりのように()い上げ、自身よりも大きな巨人族(きょじんぞく)さえも吹き飛ばしている。

 そしてルイスの手が回らない場所はリーベが散布した痺れ薬とノアが魔法を使って創り出した巨大なゴーレム達が対応し、連合軍をなんとか押さえ込んでいた。

 

()(はい)、奴隷紋のせいで命令に逆らえないでござるww、すまないでござるがここは通さないでござるよww」

 

 西側では巨人族の十倍ほどの大きさの巨大な木製の巨人をクラウンが数十体創り出し、巨人族以外の多種族を戦闘不能にしてから木製の巨人が持つ檻の中へ次々と放り込んでいき。巨人族は巨大な木製の竜に飲み込まれて動きを完全に封じられていた。

 

「復讐がしたい連合軍(貴方達)の気持ちも分かりますが、貴方達の亡くなった家族と今も生きている家族のため! この場は全力でぶっ飛ばします!!」

 

 南側では新たに手に入れた武器である棒――春風(しゅんぷう)を手にアリスが連合軍と向き合い、春風と風属性の精霊魔法でその場の全員をぶっ飛ばしていた。

 

「悪いけど、私の武器は銃だから手加減できないの。だから、そこで眠ってなさい」

 

 北側ではヴィンデの全力の幻惑魔法を使ったことで連合軍は全員夢の世界へと旅立っていた。

 

「テメェら今まで好き勝手やって来たんだろうが、今日で終わりだ。

 ぶっ(つぶ)してやるから、かかってこい」

 

 そして連合軍を迎え()とうと出てきた王国軍はアリスのためやる気MAX(マックス)のデュランの殺気で大半が気絶し、残った者達も死の恐怖に震えて動けなくなっていましたが。

 彼らの創り出した巨人と天使はロボットであるために(ひる)まず、デュランを排除するためその武器を向けました。

 

【挿絵表示】

 

 かつて存在した巨人族の神であるオーディンを再現して作られた機械の巨人一万体は光波ブレードを手にデュランへと同時に斬りかかりましたが。

 それよりも速く飛ぶ斬撃(ざんげき)で光波ブレードを持っている両手を斬り飛ばされ、その光波ブレードに体を斬られたことで半分の巨人がスクラップになりました。

 

【挿絵表示】

 

 次に機人族(きじんぞく)の神である天使ガブリエルを再現して作られた天使百万体は包囲してから、光波ブレードと同じエネルギーの(たま)を飛ばす光線(こうせん)銃でデュランを狙い()ったが。

 その全てを寸分(すんぶん)(たが)わずに返され、自身の撃った弾でその身を貫かれた百万体の天使は再びデュランを銃で狙おうとしていましたが。弾を返すのと同時に放っていた飛ぶ斬撃でこちらも同じくスクラップになりました。

 

「ば、化け物だアアアアアアアアッッッッ!!!!」

 

【挿絵表示】

 

 人族の力を他の多種族並に引き上げるパワードスーツ(まと)った王国軍はその光景で心を折られ、その強化された身体能力で我先にと逃げ出しましたが。

 すぐに残りの五千体の巨人を斬り終えたデュランが追いつき、天晴の(みね)四肢(しし)の骨とパワードスーツを破壊されてしまい。そのあまりの激痛に王国軍は全員あっさりと意識を手放しました。

 

「これでよしっと、後はこの国の王と連合軍だけだな」

 

 そうつぶやいたデュランが四方を見渡すと連合軍は全員が生き残ったまま(・・・・・・・)壊滅(かいめつ)していました。

 作戦が上手くいったようで安堵(あんど)していたデュランはまだ終わってないと、この国の王であり――アリスの父親でもある男をぶっ飛ばすため。遠目に見える変なデザインの城目がけて空中を移動するのでした。

 

 

 

 

 

 

 守衛(しゅえい)をぶっ飛ばしながら城を破壊して王の居場所を探していたが面倒くさくなったので城(じゅう)の気配を探り、ようやく隠し通路を使って逃げようとしている王の気配を見つけたデュランは隠し通路の出口で待ち構えることにした。

 そして安心しきった顔で隠し通路を出てきた汗だらけの背中を天晴の(みね)()り倒し、その顔が恐怖で染まったのを確認してから天晴の峰を(ひるがえ)し。首元へ天晴の刃を突きつけた。

 

「よう王様アァ、俺はず~~とテメェをぶん殴りたかったんだ! やっと殴れるぜェッ!!」

 

「ヒィッ、ま、待てっ。お主が何者かは知らぬが、金ならいくらでもやるぞ!! どうだ、それで手を打たないかッ!!」

 

「ほう、そいつはありがたい話だな――」

 

 その言葉を聴いたデュランはニッコリと笑顔を浮べながら汚い汗を創った布で()いてから天晴を納刀した。

 その光景を視認した王は助かったとでも言うかのように目を輝かせたが、デュランが拳を(にぎ)ったことで(ほお)を引きつらせた。

 

「――だが断る! テメェだけはぶん殴らねぇと気が()まねぇ!! 死ねええええええッッッ!!!l」

 

「や、止めろオオオオオオオオオオオォォォッッッッ!!!!!!!!!!!」

 

【挿絵表示】

 

 そうして王の無駄に(ととの)った顔を破壊した上で四肢をへし折ったデュランはその首を掴み、王国軍と連合軍がいる外まで持って行き。嵐流刃(らんりゅうじん)で頭上の雲を全て散らしてから声を張り上げた。

 

「――俺の名前はデュラン・ライオット! この戦争を見かねて介入した者であり、剣神の生まれ変わりだ(・・・・・・・)!! 起源統一教団は俺が必ず潰す!!!

 だから各種族は自身の家族の元へと帰るがいい!! お前達の無念は必ず俺が晴らす!! この剣に(ちか)ってッ!!」

 

 ――ウオオオオオオオォォォォォォッッッ!!!!!!!!!!!

 

 デュランは自身の宣誓(せんせい)で喜びに()く多種族達の姿を目に入れつつも、こちらを(にら)みつけているアリスへ後で土下座しようと心の中で決意した。

 そして残っていた王国軍がこの宣誓で戦意を失って投降(とうこう)したことで、グリード王国での戦争は始まる前の段階で完全に終息(しゅうそく)したのだった。

 

 なお。アリスへ相談せずにこの宣誓を行った(ばつ)としてデュランは一週間程アリスと寝ることはおろか会話さえしてもらえず、泣きながら土下座し続けたことでなんとか許してもらえたのでした。マル。




 この話を見返していたらノアとリーベを描写するのを忘れていたので慌てて書き直しました。
 この二人は正面戦闘得意じゃないからどうしようかなぁ、と悩んでて結局描写を入れるのを忘れてました。すいません。
 ちなみに他にも手直ししてますがいつものことなのでどこを直したかは書きません、というか全部の話に(改)って書いてあるから今更だしね(笑)


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百花繚乱

 

【挿絵表示】

 

 グリード王国は空飛ぶ車やリニアモーターカーなどの乗り物があるアイディール神国の次に高度な科学文明を持った国であり、その恩恵(おんけい)で普通の国よりも国土が広大であるため防衛を苦手とする弱点があった。

 十数年前その弱点を突いてエルフ族がグリード王国を急襲して自分達の姫を奪い返したのを手本にし、我々連合軍も連携して東西南北からグリード王国を襲撃することを決めたがかつてと違い。

 今のグリード王国は周囲を一万体の機械の巨人と百万体の機械の天使に守られている鉄壁(てっぺき)要塞(ようさい)となっていたが壁で王国自体を囲っている訳ではないため、連合軍の大半は死ぬだろうが一部でも王国へ侵入して国民を一人でも多く虐殺(ぎゃくさつ)出来るのであれば本望(ほんもう)と。

 全員がその覚悟で決死の戦いを仕掛けにきた連合軍は現在足止めを食らっていた。

 

「アリスと言ったか、女子(おなご)であれど(あなど)りがたし。我が闘うしかなさそうだ」

 

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 その中でも南側の連合軍の大将である鬼人族(きじんぞく)の守天《しゅてん》は一族に代々伝わる秘宝である金棒(かなぼう)――()壊震(かいしん)を手に持ち、それをその場でアリスが闘っている方向へと振り下ろした。

 すると金棒を振り下ろした先から衝撃波(しょうげきは)が発生し、守天からアリスへ向けて一直線に走り抜けた。

 衝撃波が命中する寸前。アリスは風の(よろい)を身に(まと)いながら衝撃波に逆らわず、むしろ自分から後ろへ飛ぶことでダメージを最小限にとどめた。

 

「――危なかった! あの鬼おじさん、強いッ!!」

 

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 アリスは春風(しゅんぷう)を手の平で回してから背負っている大樹ユグドラシルの枝木でできた(さや)に入れ、周囲の精霊へいつもより頑張ってとお願いして普段とは比べものにならない規模の精霊魔法を発動した。

 

「全力でいくよ! スカイジャッジメントッ!!」

 

 アリスがそう言うと(言っても言わなくても威力は変わらない)天空から目に見える程圧縮された巨大な空気のハンマーが落っこちてきた。

 

「あれはまずい! せめて威力を落とさなければ! ――玉砕(ぎょくさい)ッ!!」

 

 守天はあのハンマーがそのまま落ちてくれば南側の連合軍は全滅しかねないと判断し、全力で金棒と自身を火属性の魔力で強化しながら山脈すらも一撃で破壊できる技である玉砕を放ったが。相殺することはできなかった。

 それでも半分ほどの面積は散らすことができたにも関わらず、連合軍はその一撃で半壊(はんかい)していた。

 その光景を目にした守天はもはや軍としてこれ以上の戦闘続行は不可能だと判断し、金棒を地面へと刺してから両手を上げた。

 

「降参だ!! 我らはもうグリード王国を攻めない!! ここで手打ちにしてくれないだろうか!!!」

 

「分かりました! そちらがグリード王国を攻めないでしたら、ここで手打ちにします!! 負傷者は僕の所へ連れてきてください!! 回復魔法で治療します!!!」

 

 守天は会敵(かいてき)当初にアリスが言った戦争を止めにきたという一筋の希望(言葉)へ全てを()け、最悪は己の首を差し出すことで温情を得ようかと考えていたが。

 どうやらアリスという少女は本当に最初から戦争を止めるため動いていたようで降伏を受け入れてもらうことができた。

 親友や仲間の命を守るため死を覚悟して今回の戦争に参加したがどうやら生き残れるようだと、ため息を吐きながらその場へと座り込んだ。

 故郷で待つ娘と妻のことを思えば相手がグリード王国ではなくこのアリスという少女でよかったのかもしれないと、復讐(ふくしゅう)のためここまできた親友が聞いたら怒るだろうことを考えていると。突然グリード王国の方から大きな音が聞こえてきた。

 

「なんだ! この音は!!」

 

 守天が混乱しながらグリード王国の方へ視線を向けると、上空で大小様々な形の花が咲いていた。

 

「――あれは僕の夫が、最強の剣士デュラン・ライオットが王国軍を倒した音だよ」

 

「なにっ!」

 

 その光景を目の当たりにして口を大きく開けているとアリスの言葉が耳へ入り、目を魔力で強化してからもう一度視線を向けると。花の正体はあれほど対処に悩んだ巨人と天使のロボットであることが分かった。

 そしてその電気の火花の奥で守天はかつて母親から寝物語に聞かされた伝説の剣士――剣神を見つけた。

 聴いていた姿とは違うし、剣神にしては若すぎたが(・・・・・)理屈でなく魂で分かった。

 ――あの剣士(御方)は間違いなく、己が子供の頃から憧れ続けた最強(剣神)だと。

 

「おな――いや、お(じょう)さん、図々(ずうずう)しいお願いなのは分かっているが。全てが終わってから剣神さ、じゃない! デュラン・ライオット殿と会うことはできないだろうか?

 もし、会えるのであれば我にできることならばどんなことでもする!!」

 

「えっと、鬼のおじさんデュランに会いたいの? 別にいいよ。ただ、なんでもしてくれるって言うのなら一つだけお願いがあるの」

 

「勿論大丈夫だとも! 我は力自慢の鬼人族の中でも一番強い!! 家族とこの秘宝()壊震(かいしん)に関すること以外ならなんでも言ってくれ!!」

 

 守天が食い気味にそう言うとアリスは少し引きつつも、口をモゾモゾとさせてから顔を赤く染め上げながら頭を下げて大きな声で叫んだ。

 

「ぼ、ぼぼぼ、僕と! ――お友達になってくれないでしょうかッッッ!!!!」

 

「えっ、勿論構わないが、そんなことでいいのか? 我の持っているお宝をやってもいいのだぞ?」

 

「ぼ、僕、ずっとエルフ族の里を出たことがなかったから同族以外のお友達がいなくて!! ずっとお友達が欲しかったんです!! なのでお宝は大丈夫です!!

 それに――金銭のやり取りでつながるのはお友達じゃないので!!!」

 

 アリスの言葉を耳にした守天はひとしきり笑った後、「我の名前は守天。それじゃあ、これからよろしくなお嬢さん」と言いながらその小さな手を優しく(にぎ)った。

 

 こうして守天と友達になったアリスはすぐにでもデュランへ紹介しようとしたが、突然聞こえてきたデュランの宣誓(せんせい)に怒り狂い。先程使ったスカイジャッジメントをデュラン目がけて発動しようとするのを守天が慌てて止めたことで、二人は友達になって早々(そうそう)に喧嘩をするのでした。

 そしてこの十年後。守天の招待(しょうたい)大江(おおえ)山の中にある鬼人族の里をデュラン達は訪れるのですが、そこである事件に巻き込まれます。

 それから戦いを経て過去の遺物をデュランが(ほうむ)るのですが、そんなことは怒り狂っているアリスには関係のないことでした。今はまだ。

 

「――デュラアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッッ!!!!!!!」

 

「落ち着くのだアリス!! 後で一緒に話を聞きに行こう!! だから今は落ち着けッ!!!」

 

 ――何アリスに羽交(はが)()めしてんだあの野郎、後で殺すッ!!

 

 そしてデュランはそんな二人に嫉妬(しっと)しつつも位置が重なっているため、守天を殺すことができないと怒りで震えているのでした。……似た者夫婦!



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歌舞伎者

 グリード王国での戦争を阻止してから一週間、新しくグリード(・・・・・・・)王国の王になった(・・・・・・・・)デュランはその強権を存分に利用して様々な改革を行っていた。

 グリード王国では奴隷制度は完全に廃止となり、そのルールを破った者へ行う拷問(ごうもん)を大量の政務(せいむ)でストレスが溜まったデュラン自身が広場で実行し。ルール違反者は上半身(はだか)にした上で国民の前でその背中を百回以上(むち)で打った。

 他にも不正や賄賂(わいろ)などに手を出していたバカへはそれぞれデュラン自身が罵倒してストレス発散した上で、その罪に相応しい罰を与えた。

 

 奴隷紋(どれいもん)の廃止や各種族へは前王の隠し財産を全て吐き出してできる限り失ったものを取り返す手伝いをしたり、各種族への国民の意識改革と教育、グリード王国内の起源統一教団を潰す、王国軍と模擬戦(もぎせん)をして奴らの自尊心(じそんしん)を徹底的にすり潰す、杜撰(ずさん)すぎる前の法律を廃止して新しい法律を作る、守天を殺そうとするもアリスに友達だと紹介されて泣き寝入りするなど。

 これらのことをアリスへ相談もせずにあの宣誓(せんせい)を行った罰ばつとしてデュランはこの一週間、アリスと寝ることはおろか会話さえしてもらえない状態で行っていましたが。

 流石に1週間目の今日でもう我慢も限界を超え、デュランは今現在アリスへと泣きながら土下座していました。

 

「あ゛り゛す゛う゛ぅ゛~~こ゛め゛ん゛な゛さ゛い゛。

 ほ゛ん゛と゛う゛にこ゛め゛ん゛な゛さ゛い゛、は゛ん゛せ゛い゛し゛た゛の゛て゛ゆ゛る゛し゛て゛く゛た゛さ゛い゛!」

 

「……可愛い、なんかすごい可愛い! デュランその涙を()めてもいい!! 舐めさせてくれるのなら許す!!!」

 

「は゛い゛、あ゛り゛か゛と゛う゛こ゛さ゛い゛ま゛す゛ッ!!!」

 

 そうしてデュランに許可を取ってから大量に流れ続ける涙の一部を舐めたアリスはその背徳感(はいとくかん)絶頂(ぜっちょう)し、(ほお)をだらしなく歪めています。

 もしかしたらアリスの性癖(せいへき)が歪んだかも知れませんが、この後一週間ぶりにつながることができたデュランが歓喜(かんき)と共に三日間アリスを監禁(かんきん)調教(ちょうきょう)したので多分大丈夫でしょう。

 ちなみに結局アリスは別方面のそれもMな方の性癖を開花させてしまい、デュラン専用の肉便器(にくべんき)となりました。……やっぱり大丈夫じゃないかも知れません。

 それから話は変わりますが、二人がしたプレイは囚われたエルフ族の姫が人族の王に目隠し緊〇耐久〇ッチをされるという内容でした。A〇撮影でもしてんのか、こいつら。

 

 

 

 

 

 

 グリード王国での大立ち回りから一週間と三日後、デュラン達はグリード王国の新たな王の代理(だいり)となったルイスとノアと握手(あくしゅ)を交わしながらグリード王国を旅立とうとしていた。

 

「俺が戻るまでこの国の王は任せたぞ、ルイス、ノア。そしてできればそのままお前らが王様になってくれ」

 

「ハハハッ、何を言ってるんですか。俺達は王代理で精一杯ですよ。

 この国の本当の王は貴方なんですからねデュラン(・・・・)、貴方こそ全部終わったら必ず戻ってください!!」

 

「そうですわ! 必ず戻ってくださいまし!! 戻らなかったら許しませんわ!!!」

 

 デュランへそう言うルイスの目はまったく笑っていなかった。

 そして自身がグリード王国の新たな王となったという目を()らし続けていたかった内容を()し返されたデュランは、耳栓(みみせん)を創って耳を(ふさ)ぎながらそのまま荷車を走らせようとしたが。

 ルイスに荷車の正面へと回り込まれてしまったので、大人しく「……はい」と返事をしてからトボトボと荷車を引き始めるのだった。

 

「デュラン、諦めなさいな。貴方もうこの国の王としても剣神としても国民達から信仰されているのよ。

 大体こうなることは分かっていたでしょうに」

 

「……そうは言うがなぁ、あんだけ多種族を嫌悪(けんお)してた奴らが俺が多種族への差別は止めろって言った途端(とたん)。手の平返したかのように行動を改めたんだぞ。

 メッチャ気持ち悪かった。そんな中で真面目に王として一週間も振る舞ったんだからむしろ()めて欲しいくらいだからな、正直」

 

 デュランはそう言いながらこちらへ大きく見開いた目をグルグルとさせていた大臣達と、その性根を叩き潰すため始めたはずの訓練で大喜びしていた王国軍の姿を思い出して鳥肌(とりはだ)を立てた。

 ……これが今まで感じたことのなかった恐怖(きょうふ)という感情なのだろうか、知りたくなかった。

 

 ちなみにアリスの父親でもある前王はエルフ族の里へと届けた後、自身がグリード王国の新たな王になったことを伝えた上で「殺さなければ何をしても大丈夫!」と言ってから置いてきた。

 他の人族や多種族には一応生きているが地獄の苦しみを味わっていると伝えてある。

 どうなったかは一年くらい経ってから確かめようと思っているが、もしかしたら確認(・・)するのを忘れるか(・・・・・・・・)もしれない(・・・・・)。ケド、ワザトジャナイカラシカタナイネ。

 

「おまけに一週間もアリスと話すことすら出来なかったものね、デュランが泣くとこなんて初めて見たわ」

 

「――それは言うなって! やっと許してもらえたんだから()し返すな!!」

 

 デュランは正直狂信者共の相手をするよりもアリスと一週間も会話できないことの方が辛かったと思い返し、泣きながら土下座するという情けない行動をやったことでようやく許してもらえたのに。話を蒸し返そうとするヴィンデへと思い切り怒鳴(どな)り返してしまった。

 幸いアリスは三日間の監禁調教で疲れ果てて荷台で寝ていることは分かっていたが、それでもあの一週間の(つら)さを思えば怒鳴らずにはいられなかった。

 

「……クスッ、まあいいわ。それで次はどこを目指すのよデュラン、アイディール神国へもう直接乗り込んじゃう?」

 

「そうしたいのは山々なんだがな、黒神の野郎が今回何もしてこなかったことを思えばかなり危険な行動な気がするんだよなぁ。

 黒神は最終的な目的は俺達と同じく起源統一教団を潰すことだと言っていたが、あれは(うそ)くさいし」

 

「あら、そうなの? じゃあ、本当の最終目標ってなんなの」

 

 デュランはヴィンデからの質問に「まだ、予想でしかないからな」と前置きをしてから、世界中のありとあらゆる生物を魔物へと変えた後。

 その魔物達を何らかの方法で全て魔王や大魔王に進化させることで、争いの起こらない新世界を創り出すのが最終目標じゃないかと考えているとつぶやいた。

 

「……もしその予想が正しいんだったら大問題よ、デュラン。

 私達が起源統一教団を叩き潰して戦争を終わらせることができても結局、最後には黒神がひっくり返すことになるし。黒神はそうする方法を知っていることになるわ」

 

「ああ、分かっている。だから悩んでるんだが、どうするのが正解なのか正直分からん。

 あれから影とかの元から闇属性が多い場所でも、何かが潜んでたら気がつけるよう常時周囲の気配を全力で探ってるから見張られてないのは分かるんだ。

 だからこそどうすればいいのか困っちまってな、せめて黒神達がどんな手段を使おうとしてるのか分かればいいんだが――ッ!」

 

「――相変わらず容赦(ようしゃ)ないな、剣神」

 

 そうしてヴィンデと二人で相談していたデュランは突然アリスの寝ている荷台に黒神の気配が現れた(・・・・・・)のを感じ、即座にその首を天晴で落とそうとしたがやはり人差し指で受け止められた。

 それでも死にかけだった前回と違い万全だった今回は黒神の人差し指の中程まで斬りながら吹き飛ばすことができたが、黒神は何事もなかったかのようにケロリとしていた。

 舌打ちしつつ大量の飛ぶ斬撃を放ったが、同じように放たれた飛ぶ斬撃で相殺された。

 

「何のようだ、黒神ッ!!」

 

「そう邪険(じゃけん)にするな、剣神。お前が知りたがっている最終目標を教えにきたのだ。

 知りたいだろう、我々の最終目標。恒久(こうきゅう)的世界平和の実現方法」

 

 情報は戦場において一番重要な物だ。情報の取り扱い方を間違れば万の軍勢が三千ほどの軍との戦いで敗れることもあるくらいの代物である。

 だからこそデュランが知りたがっている最終目標を話すという黒神へ違和感を持ち、その狙いが何なのかを考えたが分からなかったため。取りあえず聴いてから判断することにした。

 

「……分かった。じゃあ、話だけ聞いてやる。ただし、話が気に入らなかったらお前を斬る」

 

「――そうか、では教えてやろう。我々は全ての竜穴とつながっている大樹ユグドラシルを汚染することで全ての竜穴で魔物を誕生させるつもりだ。

 その上で近くの国を襲わせることで魔王や大魔王に進化させようと思っている、こうすれば争いを起こす旧人類も一掃(いっそう)した上で私の命令に絶対服従(ふくじゅう)の新人類だけが生きる新世界が出来上がり! 恒久(こうきゅう)的な世界平和が実現する!!

 ……これが私の本当の最終目標だった(・・・)

 

「――だった? 過去形だな、何でだ」

 

 そうして黒神が語ったのはやはりデュランが想像していたとおり、無理矢理今の人類を滅ぼして平和な世界を創るという物だった。

 世界とか正直デュランはどうでもよかったがアリスの愛する(・・・・・・・)世界を破壊するなら敵と判断し、天下無双の詠唱を始めようとする寸前。黒神の言う最終目標が過去形であると気が付いて質問することにした。

 

「そうだな、簡単に言うと私は悩んでいるのだ」

 

「悩んでいる、何を」

 

「世界平和の()し方を、だ。私のやり方のように無理矢理世界を変えるのでなく、お前達のように今の世界へ変革をもたらす方がいいのではないかとね」

 

 デュランはその黒神の言葉を聴いて正直言って呆れた。

 何故なら――

 

「そんなもん、やってみなきゃ分かんねぇだろうが。考えるだけ時間の無駄なんだよ」

 

「ハァッ!?」

 

 ――そんなことに時間を使うだけ無駄だからである。

 そもそもデュラン自身。世界を救おうとか高尚(こうしょう)な考えを持って行動してきたことはなく、アリスに出会うまでは気に入らない奴をぶっ飛ばしたらそいつが悪党だっただけなのだから。

 つまり善だろうと悪だろうとデュランは昔は自分のため、今はアリスのために邪魔(じゃま)な奴を消しているだけなのである。

 黒神もあの愚民(ぐみん)共もこんな自身へ何で見当違いの感情をぶつけてくるのか、デュランにはまるで分からなかった。

 

「世界平和だろうが世界征服だろうが知ったことかよ! んなもん勝手にやってろ!!

 そしてどうすればいいか分からないんだったら、俺達の戦いをその目玉(めんたま)をしっかり開いて見てろ。

 自分勝手で嫁さんのことしか考えてないような滑稽(こっけい)な男が――世界を変えちまうところをな」

 

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 デュランはそう言った後、黒神への興味をもう失ったのか荷車を引いてその場を去った。

 黒神は少し時間が立ってからそんなデュランの言葉に立っていられないほど笑い出し、それが落ち着くと涙を拭いながら「――だったら私はお前の敵になろう、剣神」と呟いてその姿を消すのだった。

 

 この二十年後。剣神と黒神(この二人)は世界を賭けて闘うことになるのですが、今はまだその時ではないのでした。



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機神

 

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 アイディール神国。

 今や世界中へ支部を持つ起源統一(きげんとういつ)教団の本拠地として人々に知られているこの国は、他とは比べものにならない強大な科学力を使い世界各地で多種族をずっと蹂躙(じゅうりん)してきたが。

 今までの行動の()けが回ってきたのだろう、今日は逆にアイディール神国がたった一人の剣士によって襲撃(しゅうげき)を受けていた。

 その剣士がアイディール神国の防衛戦力であるロボットも駆けつけた守備隊も全て一刀の元に斬り伏せた後、ゆらりと刀を動かしたかと思えば固唾(かたず)()んでその様子を見ていた住人は全員が気絶した。

 

 殺気を乗せた一閃(いっせん)によって剣士を見ていた人々は傷一つないはずの体を斬られて死んだと錯覚(さっかく)し、一人を除き全員が例外なく意識を失っていた。

 ――そんな(はな)(わざ)をやってのけた剣士の名前はデュラン・ライオット、宣誓(せんせい)通りこの国をぶっ潰しにきた剣神(けんじん)の名を(かた)る悪党である。

 

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「……実物は映像で見るよりも更に数倍恐ろしいな、初めまして剣神殿。私の名前はアーロゲント・アイディール、この国を治める法王だ。

 そして愚問(ぐもん)かも知れないが一応()いておこう――俺様の国へ何しに来た。理由によっては殺すぞ、剣神(化け物)

 

 デュランはその言葉を耳にするとアーロゲントへ馬鹿(ばか)を見ているかのような視線を向けてから、これ見よがしにため息を吐いた。

 

「――もしも、この国をぶっ潰しにきたと言ったところで剣神()を殺せるのか。神の寄生虫(宗教国家)の王様は」

 

「――殺せるに決まってんだろ、人族の科学力を()めんじゃねぇッッッ!!!!」

 

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 そんな会話を交わした後。アーロゲントの体へ一瞬で機械の鎧が装着(そうちゃく)され、デュランの予想を上回る速さで光波ブレードを叩きつけてきた。

 以前闘った巨大な蜘蛛(くも)並のスピードは目を見張るものがあったが、あれからも毎日修行を続けて強くなっていたデュランは簡単に受け流し。その(こぶし)で鎧をあっさりと破壊した。

 

 ――これがデュランという男の恐ろしさだった。

 デュランは闇属性の耐性を持たない都合上、呼吸や筋肉の動き、そして魔力を取り込む際は光属性だけを取り込むなどの無意識下での行動も含めて体の動きを全て完璧に制御することができる。

 そして筋肉が破壊と再生を繰り返してより強靱(きょうじん)になることをデュランは知っていたため、普段生活をする時やアリスと性活(せいかつ)をする時、はたまた寝てる時も含めて丸一日中筋肉の破壊と再生を繰り返えし。常に強くなり続けているのだから敵対者はたまったものではなかった。

 

「そ、そんな馬鹿な! 科学と魔法を融合(ゆうごう)させた魔導鎧(まどうよろい)がこうもあっさりと!! やはり、本当に、コイツは剣神の生まれ変わりなのか!!?

 ――だが、例えそうだとしても最期に勝つのはこの俺様だッ!!!」

 

 そんなことを知る(よし)もないアーロゲントは(あわ)れにも真っ正面から戦いを挑んでしまったため、いとも容易(たやす)く敗北してしまいました。

 しかしその口から血反吐を吐きながらも笑みを浮べたアーロゲントは雷属性の魔力を手刀に宿してからそれを突き刺した――自身の胸へと。

 

「な、何を!?」

 

「……一度負けたのならアイディール神国はもう終わりだからな、多種族がこの国を許さんだろう。二百年間守り続けてきた人族の平和が崩壊するところなど俺様は見たくないんでね。

 俺様が死ぬのと同時に宇宙の衛星(えいせい)から光の柱が落ちてくる、この国をまるごと消すくらい巨大な物がな。

 これで国民は幸せなまま死ぬことができる――再び多種族に(しいた)げられることもなくな」

 

「どういう意味だ、それは!」

 

 デュランはまるで最初は人族が多種族から侵略を受けていたかのようなことを言うアーロゲントを問いただしたが、アーロゲントはただ笑みを浮べながらデュランの背後を指差した。

 そのアーロゲントの行動でようやくデュランは何者かが背後へいることに気が付いたが少し遅く、なんとか天晴で防御したが。信じられない力で近くのビルに吹き飛ばされた。

 

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機神(きしん)ガブリエル。再現して作った偽物じゃない、本物を俺様達人族が発掘して再生した物だ。

 仮に貴様が本物の剣神だとしてもこの機神を相手取りながらこの国の破壊は防げまい、もう一度言うぞ――俺様の勝ちだッ!」

 

「ッ!? ――勝利(しょうり)だけを(ねが)うなら(つるぎ)(きば)と変わりなし、(つらぬ)(がた)(じん)(みち)(まも)()くもの(ひと)という」

 

 デュランは全身を走り抜ける激痛を無視しながら天下無双の詠唱を開始し、転移したかのような速さで目の前に現れたガブリエルの光の刃を天晴で受け流そうとしたが。

 力の差がありすぎて無理だと瞬時に理解し、あえて体から力を抜くことでガブリエルの手で遠くへと運んでもらった。

 

()()無辜(むこ)(たみ)がため、(つるぎ)となりて(てき)()つ 」

 

 それでも再び目の前に現れたガブリエルの連撃をなんとか紙一重で回避し続けたが、最初の一撃の影響で足を取られて体が空中に投げ出された。

 とっさに界破斬(かいはざん)で空間を切り裂くことでガブリエルの攻撃を素通りさせてなんとか事なきを得たが、まだ危機的状況なのは変わらない。再び迫る光の刃を天晴で迎撃してあえて吹っ飛ばされた。

 

「ただ一筋(ひとすじ)閃光(せんこう)を、(おそ)れぬのなら()るがいい――天下無双(てんかむそう)ッ!」

 

 そうして時間を稼いだことでなんとか天下無双の詠唱を終わらせることができたが、それでもなおガブリエルの方が速く先手を取られた。

 

「界破斬――(だん)

 

 しかし普段だったら使うことのできない巨大な界破斬でガブリエルを飲み込み、上空から迫っていた光の柱の前に放り出した。

 そして全力の嵐流刃(らんりゅうじん)を地上から放ち、(はさ)()ちにしたことで機神ガブリエルは完全にこの世から消滅した。

 

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「クソッタレめ! 完全に押されてる!!」

 

 しかし上空で迎撃することができた光の柱は出力をどんどんと上げてきており、このままだと押し切られかねなかった。

 正直アイディール神国には思い入れもクソもないので消滅してもらって構わないが、あんな物が落っこちてきたら間違いなく他の場所にも影響がでる。

 それがアリスへ不利益をもたらす可能性があるし、何よりもアイディール神国からそれほど離れていない位置にアリスが眠る荷車があることを考えれば逃げることはできなかった。

 

「――デュラン! 大丈夫!!」

 

 それでも打開策が思いつかず徐々に押し込まれていたデュランはもう一条の光の柱が地上から伸びたと思えば聞こえてきたアリスの声で(おどろ)いたが、その声はデュランへ信じられないほどの力を与えてくれた。

 しかしアリスがここにいるのは想定しうる最悪の状況だった。

 

「なっ、アリス!? こんな危ない場所に何で来たッ!!!」

 

「――僕がデュランの家族だからだよッ!!! 家族だから心配なのッ!!! 分かりなさいよバカアァッ!!!!」

 

 こうならないためアリスが寝てる中一人で全てを終わらせるのを狙って仕掛けたのに、という思いからつい怒鳴(どな)ってしまったが。

 返された言葉で一瞬頭が真っ白になり、デュランは呆然(ぼうぜん)となりながらアリスの方へと視線を向けた。

 

「デュランが僕を危険な所へ行かせたくないのと同じくらい、僕だってデュランのことが心配で心配で堪《たま》らないんだ!

 ……だから僕を一人にしないで、置いていかないでよぉ」

 

 そしてデュランは静かに涙を流しているアリスのことが視界へ入り、首の皮膚(ひふ)をかきむしりたくなるほどの後悔をすることしかできなかった。

 

「アリス……ごめんな、俺が間違っていた。アリスのことが大切だったら隠すんじゃなくて守るべきだった。

 ――だからここからは一緒に闘おう、力を貸してくれアリス!!」

 

「――デュラン! うん、分かった!!」

 

 思えばあの時ベルメーアでアリスを目の前でさらわれてからずっと焦っていたのかも知れないと、どこか冷静な部分が思うのを感じながらデュランは正直な気持ちをアリスへ伝えた。

 そしてアリスと二人で息を合わせて光の柱を少しずつ押し返したが、光の柱の出力は強くなり続けていて押しきることができなかった。

 

「クソッ、押し返しきれない! どうすればいいんだ!!」

 

「デュラン! 界破斬であの大っきいのを飲み込めないかな!!」

 

「いや、無理だ! 界破斬は一時的に空間を斬っているだけだから、相手の攻撃を飲み込み続けることはできない!

 ――飲み込み続ける? そうか! その手があった!!」

 

 デュランは光の柱を押し返しきれずどうすればいいか悩んでいたが、アリスの言葉で界破斬と嵐流刃を組み合わせれば相手の攻撃飲み込み続けながら上空の衛星をなんとか破壊できるかも知れないと思った。

 できるかどうかは分からなかったがアリスが隣にいるのだ、できなくてもやらなければならない!

 

「――これでどうだァッッッ!!!!」

 

 そうして放った一撃は光の柱を飲み込みながら上空へと昇っていき、最期には衛星を飲み込んで完全に破壊した。

 それを見届けたデュランは天下無双をその場で解除し、道路の上に仰向(あおむ)けで倒れた。

 

「アリスが来てくれなければ危なかったかも知れない、ありがとう助かった」

 

「ふんっ、家族だから助け合うのは当たり前のことだもん! お礼なんかいらない!!」

 

 デュランは心の底からお礼を言ったが、アリスは少しむくれてそう言うとそっぽを向いてしまった。

 デュランはそんなアリスのことをとても愛おしく思いながら笑顔で言葉を続けた。

 

「……そうかお礼に今夜はアリスと二人で新しいプレイをやろうと思ったんだけど、いらないのかぁ。

 それじゃあ仕方ない。今夜は天晴に相手してもらおうかな、アリスがよかったんだけどしょうがないなぁ……」

 

「――! 嘘っ、お礼いる!! だから今日も一緒に寝るの!!!」

 

「分かった、じゃあ今夜も一緒に寝ような。アリス」

 

 こうして純粋(じゅんすい)な少女を自分色に染め上げた悪党のデュランは今夜もこうしてアリスとつながり、その体を堪能(たんのう)するのでした。

 ちなみにプレイの内容は疑似(ぎじ)N〇Rセッ〇スをしながら相手役のデュランがアリスを言葉(ことば)()めするという物になりました。……うん、実に変態(へんたい)ですね!



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嵐流界刃破

 アイディール神国が陥落(かんらく)したというビッグニュースは千里を駆け巡り、世界中のありとあらゆる国々が知るところとなった。

 多種族の国や国を人族に滅ぼされて隠れ里を創って隠れ過ごしていた者達は剣神へと深く感謝し、逆に今まで多種族を(しいた)げてきた人族の国は反逆の恐怖と信仰対象である剣神から牙を()かれたことで大混乱へと陥った。

 デュランは丸一日ほどかけてそんな世界の国々を回り、起りそうになっていた報復(ほうふく)戦争を未然防止(みぜんぼうし)したことで文字通り戦争を終わらせた。

 

 こんな驚天動地(きょうてんどうち)の出来事がアリスというハーフエルフのためだけに起ったことを知れば、多種族と人族という種族の垣根(かきね)を越えてどちらも同じ反応をするだろうが。

 幸いなことにデュランは剣神として世間一般のイメージを崩さないよう立ち回ったので、この実体が人々に知られることはないだろう。

 ――そんなデュランは現在。他人の顔のマスクを被り、アリスを言葉責めしながら犯していた。

 

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「おいおい、いいのかよ。お前あの剣神の奥さんだろう、俺なんかに犯されて感じててよォッ!!」

 

「イヤァッ! ――助けてデュランッ!! 助けてェッ!!!」

 

 声だけを聴けば完全にN〇Rの事件現場であり。

 もしこんな出来事が起ったのならばその相手はデュランの手で八つ裂きにされてから地獄の拷問を受け、絶望しながらこの世を去るのだろうが。

 幸いなことにこの相手役はデュランなので、犠牲者(ぎせいしゃ)はでないだろう。

 ……いや、やっぱり疑似(ぎじ)N〇Rセッ〇スとか頭がおかしいと思う。マジで。

 

「助けてって言う割には気持ちよさそうじゃねぇか!! 俺のをしっかりくわえ込んで()なさねぇもんなァッ!! オラッ!!!」

 

()めてお願い!! デュランの物以外で感じたくない!! ()めてエェッッッ!!!!」

 

 ※この二人は夫婦なので問題ありませんが、N〇Rは最低の行為なので絶対にしないようにしましょう。

 

「それじゃあ、出すぞォッ!!! 一番奥でしっかり受け止めろよ!!! 聖女様ァッ!!!!」

 

「それだけは止めて!!! 赤ちゃんが出来ちゃうッ!!!?」

 

「俺が知ったことかよ!! オラァッ!!! (はら)みやがれエェェェッッッッ!!!!!!!!」

 

「――イヤアアアアアアッッッ!!!!!!!!!」

 

 ※繰り返しますがこの二人は夫婦なので問題ありません、あくまでも疑似N〇Rプレイですので安心して下さい。

 

 こうして一晩中愛し合った二人は翌日。

 一緒の食事中にアリスが食事を吐いてしまうという事件が起ったことで、二人で大混乱することになりましたが。

 起きてきたヴィンデがそれってつわりじゃないの? と言ったので、慌ててデュランがアリスのお腹へ手を当てて調べてみると。確かにお腹の中でアリスの物ではない魔力が動いているのを確認して二人で大喜びしました。

 そして複雑そうな顔をしているヴィンデに気が付かないままデュランはアリスを抱きしめ、二人で熱烈な口付けを交わすのでした。

 

 

 

 

 

 

「デュラン、そう言えばアイディール神国で最期に放った一撃って何をしたの?」

 

「うんっ? ――あぁ、あれか。あれは界破斬(かいはざん)嵐流刃(らんりゅうじん)を組み合わせて放ったんだ。

 あの一撃でなんとか衛星を破壊できたけど。ぶっつけ本番だったから成功するか正直不安だった、なんとかなってよかったよ本当」

 

 デュランがアリスのお腹の中にいる赤ちゃんの名前を考えているとアリスからあの時アイディール神国で放った一撃のことを()かれ、界破斬と嵐流刃を組み合わせて放ったことをアリスへ教えると。

 アリスから「僕があの技の名前も考えていい?」と言われたので大丈夫だと返し、しばらく赤ちゃんの名前について考えて男なのは分かったいたのでヘルト、レウス、フォルテの三つまで候補を絞り込み。その中のどれにするか悩んでいるとアリスが突然抱きついてきた。

 

「デュラン、デュラン! 嵐流界刃(らんりゅうかいじん)()なんてどうかな!! 二つの名前も合体させてみたの!!!」

 

「……アリス、とてもいい名前だと思うけどな、大きくなった胸を俺に押しつけるな。

 万が一俺がアリスを襲うのを我慢できなかったらどうするんだ」

 

 アリスはデュランがそう言うと不思議そうな顔をしながら「お尻でやればいいじゃん、デュランも天晴じゃなくて僕と一緒に寝ようよ」と言い、その体をデュランへ押しつけながら上下に()らしてきた。

 デュランは我慢できなくなる前にアリスの抱擁(ほうよう)から抜けだすと「俺ちょっと嵐流界刃破の試し打ちをしてくる! じゃあなアリス!!」と言い残して天幕を飛び出した。

 

 そしてアリスのせいで高揚(こうよう)したまま天下無双を使い、嵐流界刃破をよく考えもせずに水平へ放ったことで森を一個消してしまい。これはよっぽどの事態じゃない限り使わない方がいいなと、この技を封印することになりました。

 

【挿絵表示】

 

 こうして苦い経験をした半月後、二人の子供である男の子は無事生まれ。デュランはこの子へ英雄(えいゆう)のように立派な人間へと成長して欲しいという願いを込めて、ヘルトと名付けます。

 ――それから九年半の月日が流れてデュラン達は親友となった守天(しゅてん)招待(しょうたい)大江(おおえ)山の中にある鬼人族の里を訪れることになりましたが、そこで嵐流界刃破を使わざるおえない事態へと巻き込まれることになるとは知る(よし)もなく。旅行気分でヘルトを連れて行ってしまうのでした。



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火の国

 ()の国。

 デュランが使っている刀や着物が初めに創り出された国であり、妖怪として火の国の住民から恐れられつつも多種族が暮らしている国の一つだったため。

 本来ならば今頃はアイディール神国の手で滅ぼされていたかも知れなかった国だが。

 この国を守護している炎竜(えんりゅう)フラムバーンが起源統一(きげんとういつ)教団の信仰対象である七大竜王の一匹だったことと、(さむらい)という頭のおかしい戦闘狂(せんとうきょう)集団が国を守っていたことが一因(いちいん)となってこの国は無事だった。

 

【挿絵表示】

 

 デュラン達はグリード王国とアイディール神国の新しい王が決まった後、生まれたばかりのヘルトを連れて世界各地を旅していたがどこにいっても剣神、剣神とうるさく。家族の時間を邪魔されたため。

 鎖国(さこく)国家であり、剣神が再び現れたことを知らない火の国で家族仲良く暮らしていた。

 そして今日は十歳の誕生日を迎えたヘルトへとデュランは誕生日プレゼントとしてアルムの作った刀を渡した後、火の国の道場でそれぞれが木刀を手に向き合っていた。

 

「父上! 今日こそは父上に一撃入れて見せます!!」

 

「いや、それ多分無理だからね。俺をこの場から一歩でも動せたらにしようぜ。

 それでもちゃんとお菓子(かし)を買ってあげるからね? ねっ?」

 

【挿絵表示】

 

 デュランはそう言いつつも負けず嫌いの俺とアリスの息子だし、絶対素直に聞き入れないだろうなぁと思っていると(あん)(じょう)ヘルトは(ほお)(ふく)らませながら木刀をぶんぶんと振った。

 危ないなぁと思いながらも「……俺の息子、可愛いなぁ」とデュランのようなかっこいい男を目指しているヘルトが聞いたら怒るだろう(ひと)(ごと)を小さな声でつぶいていると、立ち直ったヘルトが真剣な表情で刀を晴眼(せいがん)に構えた。

 

「私だって父上の二番弟子なんです!! それくらい出来ねば母上に笑われますッ!!」

 

「いや、多分笑わないと思うけどね。

 ――分かった! じゃあ、疲れるまで付き合ってあげるから俺に一撃入れてみろ!!」

 

「はいっ! 行きます!! やああああっ!!!」

 

 デュランはヘルトが魔力で体を強化しながら十回ほど床を蹴り、この(とし)にしては速すぎるくらいの速度で突っ込んできたことが嬉しくて笑みを浮べたが。

 今は修行をつけている最中(さいちゅう)だと表情を引き()め、迫る木刀を完璧に受け流し。一回転したヘルトは顔面から床へと叩きつけられた。

 

「ぐっ、まだまだァッ!! たあっ!!」

 

(りき)みすぎてる、そんなんだとこうやって簡単に受け流されるぞ!」

 

「――あああああああああああああっっっ!!!!!!!!!」

 

 再び向かってきたヘルトの木刀をデュランはあっさりと受け流し、ヘルトは自身の勢いのまま天井に叩きつけられた。

 

「くそっ! やああああっ!!!」

 

「動きが直線的すぎる、もっとフェイントを入れろ!」

 

「――うぎゃっ!??」

 

 それでも天井の板を蹴り、こちらへ向かってきたヘルトの一撃をデュランはまた受け流し。その進行方向に木刀を置いておくとヘルトは木刀へと頭をぶつけた。

 そのまま目を回すヘルトの脳天目がけてデュランは木刀を片手で軽く振り下ろしたが、ヘルトはなんとか反応して避けて見せた。

 

「よく避けたと言いたいところだが、甘いわッ!」

 

「――きゃんっ!?」

 

 デュランは自信の一撃を避けるためとっさに横へと飛んだヘルトの服を手で掴み、勢いよく壁に投げつけた。

 ヘルトは流石に反応しきることが出来ず、壁へとそのまま叩きつけられた。

 

「……痛いっ」

 

「――闘っている最中に動きを止めるな! 馬鹿(ばか)たれがッ!!」

 

「うわぁっ!!? ――あぎゃっ!!!?」

 

 デュランは壁の下で涙目で動きを止めるヘルトに容赦なく三つの飛ぶ斬撃で追撃をかけると、ヘルトはなんとか反応してその攻撃を避けたかと思ったが。

 ブーメランのように帰ってきた斬撃が体を打ち、床へと叩きつけられた。

 それでもなんとか立ち上がると燃える闘魂(とうこん)をその目に宿し、自身も飛ぶ斬撃をデュラン目がけて放った。

 

「格上相手に遠距離(えんきょり)で闘うな! こうして返されるぞ!!」

 

「あぎゃんっ!!!? ――まだまだァッ!!!!」

 

「――そして無闇矢鱈(むやみやたら)に突っ込むな、今日はここまでだな」

 

 自身が放った数十の飛ぶ斬撃をそのまま返されてその体を滅多(めった)()ちにされたヘルトは一瞬気絶したが、すぐ立ち上がると再び突っ込むもその先へとデュランが木刀を置き。自身の力が乗った一撃を頭へと食らったことでヘルトは今度こそ完全に気絶した。

 デュランはそんなヘルトの姿にこんな世界じゃなければもう少し優しく教えてやれるのになぁと思いながらもヘルトを治療してから背負い、今日は頑張っていたので羊羹(ようかん)栗饅頭(くりまんじゅう)を買ってから家へと帰り。

 後から起きたヘルトにお菓子を食べさせようとしたが、誰へ似たのか受け取ろうとしないヘルトの口に栗饅頭を入れようと格闘していると。手紙を持ったアリスが部屋へと入ってきた。

 

「デュラン、守天さんからの手紙だよ! 今度家族で鬼人族(きじんぞく)の里へ遊びに来ないかだって!! ヘルトも連れて遊びに行こうよ!!!」

 

「そうか、それじゃあ家族全員で遊びに行くか。最近スミス王国を再興したルイス達も連れて」

 

「――も、もががっ!??」

 

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 デュランは頑固なヘルトの口に栗饅頭を詰め込みながらそう言うとアリスを抱きしめ、再び大きくなり始めたそのお腹をなでてから立ち上がり。ルイスとノアへの手紙を書くのでした。

 ちなみにクラウンとリーベはヘルトの教育に悪いからという理由でハブられました。……うん、色々な意味で仕方ないね!



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厄災の宝玉

 

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 デュラン達はかつて乱神(らんしん)と呼ばれて恐れられていた酒呑童子(しゅてんどうじ)が根城にしていた大江(おおえ)山の中にある鬼人族の里を守天の招待(しょうたい)で訪れ、剣神がきたと大喜びの住民から熱烈な歓迎を受けた。

 ――どこに行ってもこうなるのかよ! と内心愚痴(ぐち)りながらも家族の前なので見栄(みえ)()り、サービスしていると囲まれて身動きを取れなくなったのでアリス達全員を抱き抱えて高速で移動し。守天(しゅてん)のいる屋敷までなんとか辿り着くのでした。

 ちなみにアリスとヘルトはそんなデュランのことをかっこいいと思いながらその体にしっかりと抱きついていました。……親子ですねぇ。

 

「……相変わらずスゲー人気だな剣神様? 本当のお前の性格を知ったらあいつら幻滅(げんめつ)するんじゃねぇか――って、痛ッ!? 何するんだよノア!!!」

 

「ルイスこそデュラン様をからかうんじゃないですわ!! 親しき仲にも礼儀ありですわ!!」

 

「ちぇっ、悪かったよ。ごめんなデュラン……」

 

「分かればいいですわ!!」

 

 デュランはそんなルイス達の姿を見ながら本当にまだこいつら結婚してねぇの、これで? と思ったが。それに関しては本人達の問題なので思考を打ち切り。

 近くで真新しい刀を見ながらニヤニヤしているヘルトの頭をなでてから屋敷の中へと入った。

 

「守天いるか~~、いなくても勝手に入るけど」

 

「勝手に入るのは()めてくだせぇデュラン殿、まだ青葉(あおば)の奴の準備が終わってないんです。

 すっぴんを(あこが)れの剣神様に見られたと言われて我が後でボコボコにされてしまいます、本当にお止めください」

 

「へぇ、だったら庭の方で模擬(もぎ)戦しようぜ。お前また強くなったみたいだからな」

 

「少しだけですからね、デュラン殿」

 

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 デュランは守天とそんな会話を交わしつつも相手の実力をしっかりと見極め、油断すれば負けかねないことを悟って笑みを浮べながら庭まで来ると天晴の(みね)(ひるが)し。片手で天晴を構えて突っ込んだ。

 そして守天がデュラン目がけて振り下ろしてきた金棒(かなぼう)()壊震(かいしん)を紙一重で回避すると、四肢(しし)の全てへ高速の一撃を入れたが。守天が即座に後ろへと飛んだことでダメージは最小限に抑えられてしまった。

 

「やっぱり強い奴との闘いは楽しいなぁ――なあ守天ッ!!」

 

「……我は楽しいなんて思う余裕はないです、やっぱり強すぎでしょうデュラン殿。ついていくので精一杯ですよ」

 

 守天はそんなことを口では言いつつもその顔は満面の笑みであり、この模擬戦を楽しんでいるのは明らかだった。

 今度は守天が金棒を振るって衝撃(しょうげき)()をデュランの方へ放ってきたが、デュランはその攻撃を上空へと受け流し。

 お返しに魔力を乗せてないただの飛ぶ斬撃を守天へと放ってみると、再び衝撃波を放って相殺されたが。

 舞い上がった砂埃(すなぼこり)を目隠しに守天へと接近し、そのまま脇差しも抜いて二刀流の連撃を仕掛けた。

 

「やっぱり速いッ!!」

 

「そう言うお前は(たく)みだな、守天ッ!!」

 

 しかしその全てを紙一重で受け流し、回避して見せた守天の技量にデュランは正直舌を()く思いだった。

 なので少し本気を出し。金棒を(はじ)いてから足下を破壊することで体勢を崩し、そのまま天晴を振り下ろしたがこれも守天は対応して見せた。

 

「本当に強くなったな守天、もうアリスは接近戦じゃ勝てないかもな!!」

 

「ちょっ、余計なことは言わないでくだせぇ!! アリスのあの一撃は今だに我のトラウマなんですから!! 後ろを見てくだせぇ、アリスがスゲぇ顔してますから!!!」

 

「うんっ? 確かに可愛い顔だが、それがどうかしたか??」

 

「デュラン殿は相変わらずアリスに激甘ですなぁっ!??」

 

 そんな会話を交わしながらも模擬戦を続けていると後ろの方からヘルトと知らない誰かの言い争いが聞こえてきたため、お互いに動きを止めて顔を見合わせると。言い争いが聞こえる方へと歩き出した。

 着いてみるとヘルトと知らない女の子がアリスと知らない女性(恐らく守天の奥さんである青葉さんだろう)にそれぞれ体を押さえられながら言い争っていた。

 もう一人の子供は恐らく守天の子供だろうと思って隣を見てみると頭を抱えていたため、どうやら間違いないようだ。

 

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「――だからッ! 剣神だかなんだか知らないけど私のパパの方が強いの!! 貴方の父親なんかすぐけちょんけちょんに()されてちゃうんだから!!! この田舎者!!!!」

 

「――最強の剣士である剣神を知らないなんて君の方こそ田舎者じゃないか! 父上はそのパパもいる戦場で無双したんだぞ!!! 私の父上の方が絶対に強いもんね!!!」

 

「まあまあヘルト、相手は女の子だしここで終わりにしましょう。大人げないわよ」

 

杏香(きょうか)も止めろ、前にも言ったがデュラン様は剣神と呼ばれる最強の剣士なんだ。また友達に笑われるぞ」

 

「「――絶対にイヤッ!!!」」」

 

 アリスと青葉さんが説得しても(なし)のつぶてのようだったため、守天と(しめ)し合わせてからそれぞれ自分の子供を抱きかかえた。

 

「ヘルト、アリスの言うとおり大人げないぞ。相手は女の子なんだからここは(ゆず)ってあげないとな」

 

「だって、守天おじさんよりも父上の方が弱いだなんて言うから……」

 

「いや、実際に単純な力に限れば守天の方が上だからな。そう考えると確かに守天の方が強いかも知れないぞ?」

 

「だって、だって! 父上は最強だもん!! 弱くないもん!!! ――うわああぁぁぁんッ!!!!」

 

 デュランはそう言ってなんとかこの場を治めようとしたが、逆効果だったようでヘルトは涙目になり。焦るデュランの前で泣き出してしまった。

 後ろの方からも泣き声が聞こえてきたため向こうも説得に失敗したようだと判断し、とにかく離れた方がいいと空へと飛び出した。

 そのまましばらくヘルトと二人で空中散歩をしてなんとか落ち着かせることが出来たが、これでは守天の屋敷に泊まることは出来ないと。青葉さんへ挨拶してから大江山を下山した。

 

 そしてデュランは料理だけを守天に届けてもらい、大江山の(ふもと)へと天幕を張ってそこでしばらく生活することにしたが。この時デュラン達は無理矢理にでも守天の屋敷へと泊まるべきだった。

 何故なら守天達鬼人族がかつて恐れた乱神、酒呑童子が復活しようとしていたのだから。

 その(かぎ)を握る少女杏香(きょうか)は昼間の出来事で機嫌を悪くして夜になると家を飛び出し、秘密の遊び場である古代遺跡へと来ていた。

 

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「なんなのよパパもママも!! あっちの肩を持つなんて!! パパよりも強い人なんている訳ないじゃない!! 

 それもあの弱っちい人族だなんて!!! みんなどうかしてるわ!!!!」

 

 そう言いながら杏香は鬼人族特有の怪力で遺跡の一部を破壊した。

 そうすると破壊した遺跡の中から水晶玉のような者が出てきたため、興味を持ってそれを持ち上げてみた。

 

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「何かしらこれ、水晶玉??」

 

『――こんな小娘(こむすめ)の体でも、ないよりはマシか』

 

「えっ――イヤアアアアアアアアッッッ!!!!」

 

 杏香は水晶玉から声がしたかと思えば自分の中へ何かが入ってこようとするのを感じ取り、悲鳴を上げながら水晶玉を投げ捨てようとしたが。

 手の平に吸い付いているかのように離れず、そのまま心を完全に支配されてしまった。

 

「ふむ、小娘にしては中々の肉体だな。どれどれ、少し記憶を(のぞ)いてみるか。

 ……なるほどな、(わし)と同じ名前を持つ鬼人族の娘か。守天とやらの肉体は実にいい、手に入れたいものだな」

 

 そうつぶやいた酒呑童子は邪悪な笑みを浮べながらその場から姿を消したかと思えば守天の屋敷の前に現れ、その拳で入り口を破壊した。

 

「守天とやらは出てこい! 娘の命が()しければな!!」

 

 そして守天の肉体を手に入れるため、そのまま娘である杏香の命を人質にして行動を開始するのだった。

 ――長い夜が、始まろうとしていた。



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乱神

 

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「どうしたんだ杏香(きょうか)、一体何があったんだ?」

 

「――青葉(あおば)近寄るでないッ! こやつは杏香じゃない!!」

 

 青葉は突然入り口が破壊されたかと思えば自身の娘が訳の分からないことを言っているのを聞き、混乱しながら杏香に近づこうとしたが。守天(しゅてん)から近寄らないよう言われて動きを止めると守天の方へと振り向いた。

 杏香の体を乗っ取った存在はそんなあからさまな(すき)を見逃してくれる相手ではなかったようで、青葉の背中を手刀で(つらぬ)こうと襲いかかってきた。

 

「何者だ貴様!! 我の娘に何をしたッ!!」

 

「中々の反応速度だな、それでこそ(わし)の肉体に相応(ふさわ)しい」

 

「――ッ!? 体を(うば)い取ることが出来るというのか!! 杏香の体から今すぐ出てけッ!!」

 

 即座に青葉を抱きかかえて後ろへ跳躍した守天の姿を目にして気分をよくしたのか、杏香の体を乗っ取った存在は自身の正体をベラベラとしゃべりだした。

 

「貴様が(わし)に肉体を大人しく渡すのならば出て行ってやるとも。

 それと儂の正体が何者か知りたいのかだったか? ならば宿賃(やどちん)の先払いとして教えてやろう。

 儂はかつて起源神(きげんしん)ワールドとかいう小娘と、あの忌々(いまいま)しい剣士に破れた酒呑童子(しゅてんどうじ)という者だ。

 奴らさえいなければ唯一神になっていただろう神である。鬼人族の中には(わし)乱神(らんしん)と呼ぶ者もいたな」

 

「……乱神は悪逆(あくぎゃく)の限りを()くし、それに激怒(げきど)した剣神の手で滅ぼされたはずだ。生きているはずがない」

 

「……剣神? それがあの剣士のことならばその通りだとも、(わし)の肉体は完全に破壊されて消滅した。

 ――しかし(わし)はその寸前、自身の魂を宝玉の中へ閉じ込めて逃すことに成功したのだ!! そして今夜貴様の体を手に入れて完全復活を()たすというわけだ!!!」

 

 酒呑童子の言葉を耳にした守天は鬼人族(きじんぞく)をかつて恐怖で支配していた乱神を復活させないため、最愛の娘である杏香を手にかける決意をした。

 

「そんなことをさせるものか! 杏香を犠牲(ぎせい)にしてでもここで貴様は倒すッ!」

 

「ほう? 貴様に最愛の娘を殺せるのか?? 大人しく体を渡せばこの娘の命だけは助けてやるぞ」

 

「貴様のことは昔話でよく知っている!! 約束を守るわけがないッ!!」

 

 酒呑童子はその言葉を聞くと守天のことを嘲笑(あざわら)いながら手刀を振り下ろした――杏香の首へと(・・・・・・)

 

「――杏香(きょうか)ァッ!!?」

 

 その光景を目にして思わず杏香の腕を止めてしまった守天は飛んできた宝玉を避けることができず、その体の中へと入り込まれてしまった。

 

「――ガアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!」

 

『クハハッ、やはり子ども思いの親相手はこの手に限るな!! この間抜けめ!!! ――むっ』

 

 まんまと守天の体の中へ入り込むことができた酒呑童子は守天を馬鹿(ばか)にしたが、身動きが取れないことに気が付いて驚いた。

 

「ひ、卑怯者(ひきょうもの)の貴様のことだ、隙を見せれば必ず乗ってくると思っていたぞッ!

 青葉!! 今のうちに杏香を連れて逃げろ!!!」

 

「分かった、剣神様を呼んでくるから待っててくれ!!」

 

 青葉が杏香を抱きかかえながら山を駆け下りていったのを見届けた守天は魔力を限界以上に高め、一分でも多く酒呑童子復活を遅らせるため。全力の抵抗を開始した。

 

『貴様!! まさか最初からこれを狙って!!!』

 

「違う、貴様を杏香ごと殺せるのならば殺そうと本気で思っていたとも。ただ貴様の卑劣(ひれつ)さに対応できると思うほど自惚(うぬぼ)れてもいなかっただけだ。

 不本意だが、貴様はデュラン殿に倒してもらうことにする。

 だがな酒呑童子! この体、そう簡単に奪えると思ったら大間違いだぞ!

 ――家族のために闘う父親の底力(そこぢから)!! ()めんじゃねぇッ!!!」

 

『き、貴様アアアアアアッッッ!!!!!!!!!』

 

 それから五分間。守天は神である酒呑童子を相手に耐え抜いて見せたことで青葉達を逃がしきることができたのだった。

 酒呑童子はここまで手こずった事実にプライドを傷つけられたが、何はともあれ最高の肉体が手に入ったことを喜んでいるとデュランとアリスの二人が姿を現した。

 

「――守天! クソッ、遅かったかッ!!」

 

「……そんな、守天さん」

 

「貴様が剣神とやらか! もう一人が誰かは知らぬが、どちらもこの場で(ほうむ)り去ってやろう!!」

 

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 こうして完全復活を果たした酒呑童子とデュラン達は戦闘を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 デュランは風で()れる草原の中、胡座(あぐら)をかいた足の上にヘルトを乗せて月を見つめていた。

 

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 そしてヘルトが自分の意思で口を開くまで待っていると着物の(そで)を小さな手が掴んだのを感じ取り、デュランは優しそうな笑顔を作ってからヘルトに問いかけた。

 

「……どうした、ヘルト。何か言いたいのか?」

 

「……父上、昼間は申し訳ございませんでした。

 私のせいでせっかくの旅行を台無(だいな)しにしてしまいました、本当にすいません」

 

 デュランはそう言って小さくなっているヘルトの頭をなでてからその体を抱きしめ、自己評価が低いのはアリスそっくりだなぁと思いながら正直な気持ちを伝えることにした

 

「いや、俺は逆に安心したぞ? ヘルトは今までがいい子すぎたからな、あれくらいの()がままは可愛いもんだ。

 むしろもう少し我がまま言ってもいいのになぁって、よくアリスとも相談してたしな」

 

「えっ、で、でも親友である守天おじさんと一緒に過ごすのを楽しみにしていたのではないのですか? それを台無しにしたんですよ、ここは怒るべきではないのですか??」

 

 ヘルトが戸惑いつつもそう言ったのを聞くとデュランは思わず腹を抱えて笑ってしまった。

 そして目を点にしているヘルトを抱き上げながら立ち上がり、そのまま肩車してから天幕の方へ向かって歩き始めた。

 

「なあヘルト、お前は俺のことを世界が荒れてるのを見過ごせずに介入した立派な人間だと思ってる(ふし)があるがな。

 俺が世界を変えたのは一から十までアリスのためだ。

 俺にお前とアリス以上に大切なものはないし、世界がお前らを排除(はいじょ)しようとするのなら逆に世界を滅ぼすくらいのことは平気でやるぞ?」

 

「えっ、でも普段はそんな感じじゃ……」

 

「それは当たり前の話だ、そうしないと俺みたいなのは排除しようとするのが人間だからな。

 よく覚えておけよヘルト。自分よりも強い存在を怖がる(くせ)して排除せずにはいられない、人間はそんな矛盾(むじゅん)した生き物をなんだ」

 

 デュランは報復(ほうふく)戦争を止める中で嫌でも垣間(かいま)見ることになった人間の闇をヘルトへ伝えたが、やはりまだよく分からないようだった。

 それでも魔法で削られていく己の寿命(じゅみょう)を考えれば伝えずにはいられなかったと、どこか冷静な部分が判断してるのを感じながらデュランは後どれくらい生きていられるだろうかと考え。縁起(えんぎ)でもないと思考を打ち切った。

 

「――アリスさん、剣神様はどこにいるんだ!! 頼む守天を、私の夫を助けてくれッ!! 頼む!!!」

 

 そうして歩いて天幕まで着くと同時にそう叫けぶ青葉さんの声が聞こえてきた。

 デュランは何か異常事態が起きたのだと理解し、ヘルトを地面へ下ろしてから青葉さんに話しかけた。

 そして数百年前に剣神の手で滅ぼされたはずの酒呑童子が(よみが)ったという話を聞き、一分一秒を争うとその場で打って出ることを決めた。

 

「ルイスとノアはこの天幕とヘルト達を守ってくれ! ヴィンデと青葉さんは里の住人の避難を!! そして酒呑童子の相手は俺とアリスでする!!!」

 

「デュラン、そうはいってもアリスはまだ動けるけどお腹の中に赤ちゃんがいるんだぞ? アリスが留守番で俺達が出た方がよくないか??」

 

 ルイスがそう言うのを聞くとデュランは首を振り、この配置になった理由を話し出した。

 

「いや、ダメだ。前アイディール神国が再生した機神を相手取ったことがあるから分かるが、ルイス達じゃ力不足だ。

 俺も不本意だがアリスの手を借りるしかない状況だからな、仕方ない」

 

「うんっ、僕も闘うよ!! 親友の守天の為だものッ!!」

 

 そうして話を終わらせた後、デュランとアリスは守天の屋敷まで急いだがその頃には酒呑童子が守天の体を乗っ取り終わっていた。

 デュランは相手の気配の強大さに容易(たやす)い相手ではなさそうだと、天下無双を使う覚悟を決めるのだった。



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卑怯者

「まずは剣神貴様からだッ!!」

 

「――ッ!」

 

 デュランはそう言いながら目の前に迫っていた酒呑童子の金棒(かなぼう)が途中で進行方向を変え、隣のアリス目がけて振り抜かれたのをなんとか受け流した後。

 陽動(ようどう)四肢(しし)の全てへ高速の一撃を入れると――それらはあっさ(・・・・・・・)りと命中した(・・・・・・)

 

「グワァッ!??」

 

「――勝利(しょうり)だけを(ねが)うなら(つるぎ)(きば)と変わりなし、(つらぬ)(がた)(じん)(みち)(まも)()くもの(ひと)という」

 

 デュランは陽動だったはずが余裕(よゆう)で命中してしまって動揺したが、例え(わな)だとしても絶好(ぜっこう)の機会を逃してなるものかと天下無双の詠唱を開始した。

 そして痛みから体勢(たいせい)を立て直せていない酒呑童子の目を斬り裂き、返す刀でその首を狙ったが。その一撃は大きく後ろへ距離を取ることで避けられてしまった。

 

()()無辜(むこ)(たみ)がため、(つるぎ)となりて(てき)()つ 」

 

「ガアァッ!! ――貴様アアアアアアッッッ!!!!!!!!!」

 

 ただあまりにも(すき)だらけだったので詠唱を続けながら首へ数十の飛ぶ斬撃を放ってみると、びっくりするほど簡単に酒呑童子は激怒した。

 そして地面が陥没(かんぼつ)するほどの()み込みで一瞬でデュランの前へ現れ、その金棒を振り抜いたがやはり技術が未熟(みじゅく)容易(ようい)に受け流せたため。

 天晴を上空へ投げて酒呑童子の意識をそちらに向けさせてから脇差(わきざ)しを抜き放ち、両手で先程斬りつけた目の傷へ深々と突き立てた。

 

「――グワアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!」

 

「ただ一筋(ひとすじ)閃光(せんこう)を、(おそ)れぬのなら()るがいい――天下無双(てんかむそう)

 

 脇差しを酒呑童子の目から抜くと同時に天下無双の詠唱が終わり、落ちてきた天晴を受け止めて二刀流になると。脇差しで金棒を(はじ)き飛ばしてから天晴で胸の宝玉(ほうぎょく)を貫こうとしたが。

 本能からか宝玉目がけて突き出した天晴を酒呑童子は拳で弾いてから距離を取った。

 

奥義(おうぎ)――()界殺(かいさつ)ッ!」

 

「ッ!? ――嵐流界刃(らんりゅうかいじん)()ッ!!」

 

始源(しげん)魔法――ハードプロテクションッ!」

 

 そして全身の筋肉を隆起(りゅうき)させながら金棒を上段に構えた後、酒呑童子はそう言いながら金棒をデュラン目がけて振り抜いた。

 デュランは周囲を破壊しながら迫ってくる一撃へとっさに嵐流界刃破を放つことでなんとか相殺することができたが、その影響で発生した二次被害までは防げなかった。

 しかしアリスがこの十年で新たに開発した始源魔法でなんとか余波を封じきり、大江(おおえ)山が崩壊するのは防ぐことができた。

 

冥界(めいかい)亡者(もうじゃ)共よ、今こそ(よみがえる)り。現世(げんせ)を飲み込め!」

 

「なっ!? ――嵐流界刃破ッ!!」

 

「始源魔法――シューティング・スターレインッ!」

 

 デュランは酒呑童子が金棒を天高く(かか)げてそう言うと同時に地面を突き破りながら現れた亡者の群れへ動揺したが、それよりも酒呑童子を殺すのが最優先だと判断し。アリスに視線で亡者の対処を頼んでから嵐流界刃破を酒呑童子目がけて放った。

 

【挿絵表示】

 

 そしてアリスは流星を()した一撃の雨を(・・)放ち、亡者の群れを飲み込んで消滅させた。

 

「奥義――破界殺ッ!!」

 

始源(しげん)魔法――ハードプロテクションッ!」

 

 しかし酒呑童子が再び破界殺という技を放って嵐流界刃破を相殺されたたが、余波はアリスがなんとかすると信頼していたので。

 間髪(かんぱつ)入れずに空間を斬ることで酒呑童子の核であるを宝玉を斬ろうとするも、酒呑童子は分身することで斬撃を交わして逃げ出した。

 

「あの野郎! 逃げやがった!! ――アリス、大丈夫かッ!??」

 

「デュランッ!? あっちはヘルト達がいる天幕の方向だッ!! 僕はいいから速く追いかけて!!!」

 

「――クソッタレめッ! そこで動かず待ってろよ!!」

 

 デュランは大量の分身を出しながら逃げ出した酒呑童子を追いかけようとしたが、脂汗(あぶらあせ)を流しながら座り込んでいるアリスを心配して足を止めた。

 だがアリスからヘルト達が危ないという事実を知らされ、苦虫を()み潰したかのような表情でアリスを置いていく決断を下し。じっとしているよう言ってから酒呑童子を追いかけた。

 

「剣神!! 死ねぇ!!!」

 

邪魔(じゃま)だァッ!! そこをどけェッ!!!」

 

「「「グワァッ!??」」」

 

 そうすると酒呑童子とまったく同じ姿をした分身達がデュランを取り囲み、本体を追いかけさせまいとしていたがすぐに全員殺すと空間を斬り。

 天幕の近くへと移動しようとしたが、地面の中に隠れていた分身の手で邪魔されてしまった。

 

「ウザいんだよッ!! とっとと死ねぇ!!!」

 

「「「グワアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!」」」

 

 再び空間を斬って移動しようとしてから邪魔されたら時間を(かせ)がれてしまうと考えを改め、全力で走り出したがやはりまだ分身はいたようで足止めしようとこちらへ攻撃してくる。

 しかし一歩も止まらず斬り殺し続けているとやっと天幕に着いた。

 するとそこには――

 

「――お前は黒神!? なんでお前がここに!!」

 

「……遅かったな、剣神。私がいなければやばかったぞ」

 

 ――ヘルトを抱きかかえながら酒呑童子と対峙(たいじ)している黒神がいた。

 そして黒神はため息交じりにそう言うと後方で倒れているルイス達を指差(ゆびさ)した。

 デュランはその光景を目にして黒神から助けられたことを理解すると、ため息を()きながら「助かった、ありがとう」と短く言いながら酒呑童子へと斬りかかった。

 

「ま、待てこの体は貴様の親友の物だろう! 助けたいとは思わないのか!!」

 

「あぁ、思うね」

 

「だったら取引をしよう。(わし)を見逃してくれるのならばこの体は――」

 

 その一撃をなんとか避けた酒呑童子はデュランの怒りに気が付かず、なんとかこの場を乗り切るため口を回したがいつの間にかその体を唐竹割(からたけ)りに斬られていた。

 酒呑童子は親友をあっさりと手にかけたデュランへ恐怖し、無駄(むだ)なのが分かりつつも無事(ぶじ)だった宝玉を守天(しゅてん)の体から外に出した。

 

『覚えておれよ、いつか新たな肉体を得て復讐(ふくしゅう)してや――何ィッ!??』

 

 そうして守天の体から出た酒呑童子が目にしたのは恐ろしい光景だった、なんと驚くべきことに無傷(むきず)で草原に転がっていたのだ――守天の体が(・・・・・)

 

「――今まで貴様が見ていたのは俺の殺気が見せた(まぼろし)だ、やはりその体は貴様のような雑魚(ざこ)には上等(じょうとう)すぎたな」

 

『や、止めろ!! (わし)は鬼人族を創造(そうぞう)した神様だぞ!! 消していいと思っておるのか!!!』

 

 デュランはこの()(およ)んで情けない命乞(いのちご)いをしてくる水晶玉の声を無視して周囲の魔力を取り込んで力をため、今までの怒りと共に上空の水晶玉へと解き放った。

 

「嵐流界刃破ッ!!!! ――死にやがれええええええッッッ!!!l」

 

『イヤじゃ、死にたくない! せっかくよみが――』

 

 こうして乱神(らんしん)酒呑童子(しゅてんどうじ)は完全に消滅し、二度と復活することは出来きませんでした。……あまりにも情けない死に方ですね! (みじ)め!!

 

 その後酒呑童子に体を乗っ取られていた守天の体をデュランが詳しく調べましたが、デュランが斬りつけた目と四肢の傷も含めて酒呑童子の力で治っていました。

 ただ神である酒呑童子に体を乗っ取られた代償(だいしょう)として二十年分の寿命を削られてしまい、それは天下無双状態のデュランでもどうしようもありませんでした。

 

「……すまない守天、俺がもっと速く()けつけられていればこんなことには」

 

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「デュラン殿は精一杯やってくれた! 気にしないでくれ!!

 そんなことよりも酒呑童子を倒してくれてありがとうデュラン殿! 鬼人族を代表してお礼申し上げる!!」

 

「――あぁ」

 

 デュランはそう言って親友である守天へ謝ったが逆に感謝されてしまい、どうすればいいか分からなくなり。そう返事をしてから部屋を出て庭へきた。

 そして自身の弱さを恨みながら拳を血が出るほど握りしめ、今よりも強くなることを(ちか)い。止血してから修行を開始するのでした。



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HERO

「ルイスがいるとはいえ、神様が相手だから何が(おこ)るか分からない。

 何かあったらお前がこの場所を守るんだ、自分の身を守りながらな――できるか、ヘルト」

 

「父上、私は――」

 

 私は父上の言葉を聞いて緊張(きんちょう)から息を飲んだ。

 何故ならそれは神様が何かをしてきてノアさんや杏香(きょうか)に危険が迫った時、刀を手に闘えるかと私へ覚悟の有無(うむ)を問いかける言葉だったから。

 まだ子供だから無理だと言っても恐らく父上は否定しないのだろうと思ったが、私の答えは初めて父上の闘いを目にした時から決まっていた。

 

「――闘えます(・・・・)、まだ未熟(みじゅく)なので父上の言うようにできるかは分かりませんが。

 私は最強の剣士デュラン・ライオットの二番弟子! 必ず父上の期待に答えて見せます!!」

 

 そう言うと父上は(うれ)しそうに笑みを浮べた後、私の頭をなでてから背中を向けた。

 

「無理はするなよ、ヘルト――俺は天幕やルイス達よりもお前の方が大事だ。

 守り切れないと判断したら、何もかも捨てて逃げろ。約束だぞ」

 

「――はいっ!!」

 

 私へ最後に父親としての言葉を残した後、父上は先に大江(おおえ)山へ向かった母上の背中を物凄(ものすご)いスピードで追いかけだした。

 今の私では残像(ざんぞう)しか見ることができない父上の全力を目に焼き付けながらいつか超えてみせると決意をすると鯉口(こいくち)を切り、いつでも刀を抜けるようにしてから周囲の警戒(けいかい)を始める。

 

「イヤァッ! ――私の中に入ってこないでッ!! お願い()めてェッ!!!」

 

「ッ!? ――もう大丈夫だから!! だから深呼吸をして!!」

 

 私が()れない警戒をし続けたことで大量の汗をかき、緊張しすぎて死にそうになっていると杏香が悲鳴(ひめい)を上げた。

 私は警戒をルイスさんに任せてから杏香へ()け寄ると、震える背中を優しくなでながら声をかけ続け。

 震えが止まるまでそうしていると、五分ほどかけてなんとか杏香は落ち着きを取り戻した。

 

「ハアッ、ハアッ――名前はヘルトだったわよね。今、どうなっているの?」

 

「……それは、その」

 

 私は何かを悟っているような表情の杏香に本当のことを言おうか悩んだが、言わなくても思い出すかもしれないと考えて口を開いた。

 

「――守天(しゅてん)おじさんは君が拾った宝玉に体を乗っ取られた、それをなんとかするために父上と母上が向かったけど。今どうなっているかは分からない」

 

「……そう、なの。ありがとう、教えてくれて」

 

 そう言った私はもしかしたらまた泣き叫ぶかもしれないと思って身構えたが予想とは違い、杏香は声を上げず静かに涙を流した。

 私はその姿を目の当たりにして稲妻(いなづま)が体を貫いたかのような衝撃を受けた――そして杏香のため何かをしてあげたいと思ってその体を抱きしめた。

 

「なっ、何すんのよヘルト!! (はな)しなさ――」

 

「悲しい時は思いっきり泣いていいんだ! 無理して自分を押さえ込むな!! 君が落ち着くまで私はここにいる!!! ――だから、安心してくれ」

 

「――い、って、えっ」

 

 私は父上から剣を習い始めたばかりの頃。何時まで経っても父上の剣技を身につけることができず、よく物置(ものおき)へ閉じこもっていた。

 そうしていると迎えに来た母上が私を抱きしめながら言ってくれたことをそのまま杏香へと言ったが、私の抱擁(ほうよう)で落ち着かせることができるかは分からなかった。

 だが理屈を頭が考えるよりも速く体が動いてしまったため、もうこうなったらヤケクソだと思いながら杏香の背中をなでた。

 

「……パパ、ごめんなさい。私のせいで――うわああぁぁぁんッ!!!!」

 

「……酒呑童子(しゅてんどうじ)、許せない」

 

 ヘルトは大声を上げて泣き始めた杏香の姿に怒りを燃やしたが、今の自身ではどうすることもできないと理解していたため。己の弱さを恨みながらその拳を握り()めた。

 そうして杏香を抱きしめていると強い気配を感じ取り、杏香を背中にかばいながら刀を抜いた。

 

「――なるほどな、あの剣神の子供だけあって勇気があるな。だが、勇気だけでは力の差はどうしようもないぞ?」

 

「……ヘルト、逃げろ。お前じゃ、どうしようも――ガアッ!?」

 

「フハハッ、負け犬は黙っていろ」

 

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 気配の正体が酒呑童子だとその姿を目にして悟ると、何時(おそ)いかかってきてもいいよう構えを取ったが。

 その行動を見た酒呑童子は(はな)で笑い、足下で逃げるよう言っているルイスさんを踏み潰した。

 

(わし)はただ剣神への人質が欲しくてここに来ただけだ、抵抗しなければ痛い目に合わなくてすむぞ?」

 

「……例え力で(おと)っていても私も剣士、守るべき人がいる状況で(あき)めることはできないッ!!」

 

「守る? この(わし)を相手に?? クハハッ――生意気(なまいき)な」

 

 私がそう返事をすると酒呑童子は青筋を立てながら姿を消したが、残像と気配だけを頼りになんとか振り下ろされた金棒(かなぼう)を受け流したが体勢を崩されてしまった。

 それでも諦めず再び振り下ろされた金棒へ刀を振るったが吹き飛ばされてしまい、(たな)に体を叩きつけられた。

 

「ッ!? ――ゲホッ、ゲホッ」

 

「その年頃にしては中々やるが、これで終わりだ。あっけな――何ィッ!?」

 

 全身が燃えているかのような痛みで私は止めどなく涙を流しながらも(さや)を支えにして立ち上がり、震える体で刀を構えた。

 

「――まだだッ! まだ私は闘えるぞッ!!」

 

「クソ生意気な小僧(こぞう)め! 次で終わりにしてやる!!」

 

 巨大な砲弾のように見える金棒が迫ってくる中、私は先程の攻撃を一応は受け流せたことから酒呑童子は技術が自身よりも未熟ではないかと思い。震える体で金棒を受け流してからその勢いを利用した反撃を(こころ)みた。

 するとその一撃で酒呑童子の腹を切り裂くことができたのを目にし、私は後の先が取れるのならばなんとかなると判断し。挑発(ちょうはつ)のため(たん)を酒呑童子の顔へと飛ばした。

 

「――かかってこい!! 酒呑童子ッ!!」

 

「き、貴様アアアアアアッッッ!!!!!!!!!」

 

「……すごい」

 

 そうして酒呑童子の攻撃を受け流し続けていたが、やがて体力の限界がきて天幕の外に吹き飛ばされた。

 意識が飛びそうになりながらもなんとか体勢を立て直そうとしていると、誰かが私の体を受け止めた。

 

「――あっぱれ見事と言うしかないな、よくここまで頑張った。後は任せろ」

 

「……はい。お願い、します」

 

 受け止めてくれたのは知らない人だったが何故か悪い人ではないと感じ、優しそうなおじさんにを後のことを任せて私は意識を手放した。

 ――守りたいものを守り切れた事実を()み締めながら。

 

 

 

 

 

 

「――何者だ貴様は!! その小僧をよこせ!!!」

 

「断る。私はお前のような卑怯者(ひきょうもの)に息子を人質に取られて剣神が負けるなどという、つまらん結末は遠慮(えんりょ)したいんでね」

 

 黒神はそう言いながら優しげな笑顔を浮べ、自身ができなかったことを()()げたヘルトを心の底から尊敬(そんけい)していた。

 そして水を差すようにヘルトを(うば)い取ろうと飛びかかってきた酒呑童子を重力で()ち落とし、そのまま動きを封じた。

 

「な、なんだこれは!?? ――まさか重力をッ!!!!」

 

「そう、(あやつ)っているとも」

 

 黒神はそう言いながらも十年後、恐らくこのヘルトという少年も己の前に立ち(ふさ)がるのだろうと予測して気持ちが高ぶった。

 ウィンクルム連邦国が(ほろ)ぼされてからここまで気持ちが高ぶったことはなかったため(おどろ)いたが、あまりにも愉快(ゆかい)で悪くない気分だった。

 

「――お前は黒神!? なんでお前がここに!!」

 

「……遅かったな、剣神。私がいなければやばかったぞ」

 

 少ししてデュランが来ると黒神はそう言いながら酒呑童子を重力から解放し、その後の一部始終(いちぶしじゅう)を見届けてからヘルトをデュランへと手渡した後。

 その場を去ろうとしたが「待てッ!」と呼び止められたため立ち止まった。

 

「なんだデュラン、見て分かる通り。私はその子に危害を加えてないぞ? 」

 

「あぁ、分かってる。そんなことよりもどういう風の吹き回しだ、ヘルトを助けるなんて」

 

 黒神はその問いへどう答えようか悩んだが、簡潔(かんけつ)に言うのが一番だと判断して口を開いた。

 

「……十年後、私は今の世界に戦争を仕掛(しか)ける。その時闘う人間は一人でも多い方がいい、そう判断しただけだ」

 

「俺の前でそんなことを言うなんていい度胸してるじゃねぇか……今回だけは見逃す、だが次はない。

 この世界を、いや――アリスの愛する(・・・・・・・)世界を壊そう(・・・・・・)ってんなら、死ぬ覚悟をしろ」

 

 黒神はその言葉を聞いて思わず高笑いしそうになったがなんとか耐え、再び歩き出した。

 

「ではまた十年後によろしく頼むよ、剣神」

 

「……一昨日(おととい)()やがれ、黒神」

 

 そう短く言葉を交わした二人は別々の方向へ向かって歩き出すのだった。



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武闘会

 酒呑童子が起こした事件を父上が解決してから三日後、復興(ふっこう)祝いの武闘会が開かれることになった。

 私は最初は出ないつもりだったが、決勝戦の勝者には剣神である父上とのエキシビションマッチがあると知って参加を決めた。

 そして力自慢の鬼人族を相手に私はなんとか決勝戦まで勝ち進み、武闘会の会場で父上の刀である天晴様と向かい合っていた。

 

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「天晴様! 今日は胸を()りさせてもらいます!!」

 

「借りるほどないけどいいよ~~、ご主人様と闘う前のウォーミングアップだから優しくしてあげるからね」

 

 私は天晴様がこの決勝戦を勝ってから父上と闘うことしか考えていないその言動に青筋を立てたが、それくらいの実力差があるのだと頭を冷やしてから拳を構えた。

 

「――刹那(せつな)一条(いちじょう)

 

「ぐっ、だりゃッ!!」

 

 天晴様の姿が消えたとしか思えない正拳(せいけん)()きを両手で(つか)み取り、天晴様の体を引っこ抜くように勢いを流し。

 そのまま床へ叩きつけようとしたが、天晴様は空中で体勢(たいせい)(ととの)えてあっさりと着地してしまった。

 

「ッ!? ……流石はご主人様のご子息(しそく)、やりますね」

 

 ――パンッ

 

 私は天晴様の賞賛(しょうさん)に返事をしないまま天晴様の目の前で手の平を打ち()らした。

 

「えっ、あれ?」

 

「――やああああっ!!!」

 

「うわぁっ!!? ――ゲホッ、ゲホッ」

 

 私は天晴様が猫だましで体勢を崩したのを目にするとすぐさま正拳突きを放ち、天晴様の胴体を打ち抜いた。

 元々は刀である天晴様も息はしていたようで息を荒げている中、二発目の正拳突きを放ったが避けられてしまった。

 

「……すいませんヘルト様、どうやら貴方を(あなど)っていたようです。ここからは本気でいきます」

 

「――こい! 勝つのは私だッ!!」

 

 私に対してそう言った天晴様の言葉は事実だったようで手足で同時に(・・・)闘いを仕掛(しか)けてくるその連撃は残像(ざんぞう)すらも(とら)えることが出来なかったが、気配と本能だけでなんとか()わし続けるも一瞬の(すき)を突かれて吹き飛ばされた。

 

「ぐっ、まだまだァッ!! だあッ!!」

 

界破斬(かいはざん)――(だん)

 

「――えっ ガッ!???」

 

 それでも空気を蹴って突撃しながらもう一度天晴様へ攻撃したが確実に命中したと思った攻撃はすり抜けて(・・・・・)しまい(・・・)、無防備な背中への攻撃で私は床に叩き落とされた。

 

「おぉ~と、これは勝負ありかァッ!」

 

「――まだだッ! まだやれる!!」

 

 (すさ)まじい痛みで私は少しの間気を失っていたが実況の声で目を覚ますと、負けん気だけで立ち上がって拳を構えた。

 

「そうですか、では終わらせましょう――嵐流刃(らんりゅうじん)

 

「ッ!? ――嵐流刃ッ!!」

 

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 私は天晴様が放たれた嵐流刃を嵐流刃で押し返そうとしたが力の差がありすぎて無理だったため上側になんとか流したが、そのエネルギーは天井付近で爆発し。天井の一部を吹き飛ばした。

 

「――刹那一条。楽しい闘いをありがとうございました、ヘルト様……また今度、やりましょうね」

 

 私は嵐流刃を受け流すのに精一杯だったため天晴様の攻撃へ反応できず、体を袈裟(けさ)()りに斬られて倒れた。

 自身の血が勢いよく傷口から(あふ)れ出るのをどこか他人事のように見ながら「父上と、闘いたかったなぁ」とつぶいた後、私の意識は暗闇(くらやみ)に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 意識を取り戻した私が一番最初に視界へ入れたのは、こちらを心配そうに見つめる杏香(きょうか)の顔だった。

 

「……杏香? そうか、私は負けたのか。杏香はどうしてここに」

 

「べ、別にヘルトが心配で看病(かんびょう)しに来たんじゃないわよ! ただ無様(ぶざま)に負けたことを笑いに来ただけなんだからね!! 勘違いするんじゃないわよ!!!」

 

「そうか、看病してくれたのか。ありがとう、杏香」

 

「///~~ッ!??」

 

 私は手ぬぐいを持っている杏香の姿を目にして看病してくれたのだと悟り、お礼を言ったが何故か杏香は顔を真っ赤に染め上げて固まってしまった。

 なんでそうなったのか私には分からず思わず首をかしげてしまったが、私は勝者である天晴様を称えるため急いで会場へと戻ることにした。

 

 するとそこには――

 

「――やだやだやだァッ!!? 私がご主人様と闘うの!!! 反則なんてしてないもん!!!!」

 

「しょうがないだろ、お前は人間の姿をしていても武器なんだから。それにこの大会は武闘会だ(・・・・)

 出来るからって手刀で相手を斬ったらダメだろ、常識的(じょうしきてき)に考えて」

 

「そ、そんなぁ――うわああぁぁぁんッ!!!!」

 

 ――何故か審判(しんぱん)である父上へすがりついて泣き叫ぶ天晴様の姿があった。

 訳が分からない状況の私がしばらく固まっていると、耳に入ってきた二人の会話で天晴様が私を斬ったことで反則負けになったのだと理解した。

 私は反則負けになった天晴様が審判である父上へすがりついて泣き叫んでいるのを複雑な感情で見ていたが、負けは負けだと己を納得させてから父上の元に向かった。

 

「父上ッ!! 少しよろしいでしょうか?」

 

「うんっ? どうしたヘルト」

 

 父上がこちらへ視線を向けたのを確認すると大きく息を吸ってから叫んだ。

 

「この武闘会は! 武器の使用を制限するルールはあっても手で相手を斬ることは禁止されては(・・・・・・)いません(・・・・)!! ですので天晴様と闘ってあげてくださいッ!!!」

 

「……お前はそれでいいのか、ヘルト」

 

「――はいっ!!」

 

 私が面白そうに笑っている父上へそう言うと、父上は私の頭をなでてから天晴様の勝利を宣言した。

 そして天晴様に向き直ると構えを取らず、ただの気合(きあ)いだけで天晴様を吹き飛ばした。

 

「それじゃあ天晴、かかってきな。少し遊んでやるよ」

 

「はいっ! 胸を()りさせてもらいます!!」

 

 天晴様がそう言うと同時に正拳突きを放ったが再び気合いだけで相殺されたかと思えば父上がその手を掴み取り、片手で投げ飛ばしてしまった。

 天晴様はなんとか体勢を整えようとしたが気合いで動きを(ふう)じられ、そのまま床に叩きつけられた。

 

「ッ!? まだですッ!!」

 

「そうだなまだだ(・・・)。俺が掴んだのだから、お前に体の自由はない」

 

 天晴様はそれでも諦めずに立ち上がろうとしたが父上の手で動作を起こす前の段階で封殺され、立ち上がることすらできなかった。

 しばらくそうして二人が繰り広げていた見えない攻防は天晴様が体から衝撃波(しょうげきは)を放ったことで終わりを告げ、なんとか天晴様は立ち上がることができたが。

 私には見えないどころか音すらも聞こえない父上の連撃で天晴様は倒れ()し、しばらく時間が経っても立ち上がらなかった。

 

「……(たぬき)寝入(ねい)りなのは分かっている、時間の無駄(むだ)だから早く立ち上がれ」

 

「……ご主人様、私はこれでも結構意識を失っていましたからね。狸寝入りじゃないです」

 

 私は中々天晴様が立ち上がらないので心配していると父上がそうつぶやき、それに答えるかのよう天晴様は立ち上がった。

 それから三十分間。父上の一方的な攻撃に天晴様は何度も床へ倒れましたがその度立ち上がり、徐々に倒れる回数が少なくなってきた頃。

 父上は唐突に「面倒くさくなってきたし、そろそろ終わらせるか」とつぶやき、何をしたのかは分かりませんでしたが天晴様が刀の姿へ戻るほどのダメージを与えました。

 

「――き、決まったァッ!! 勝者は剣神デュラン・ライオットッ!!! 最強はやはりこの人だアァッ!!!!」

 

 私はそんな実況の叫び声を聞きながらいつか父上に勝ちたいと思いましたが、父上へ育ててもらった(おん)を返すため。

 勝ちたいでは(・・・・・・)なく勝つんだ(・・・・・・)と決意を新たにし、(くや)し涙を流しました。



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始源魔法

 鬼人族の里で起きた事件から半年後。

 一ヶ月前に可愛い女の子を出産したアリスの産後(さんご)肥立(こだ)ちが良さそうだったので、久しぶりに模擬(もぎ)戦をやりたいというアリスの願いを叶えるため。デュランは荒野へアリスと共にくると戦闘を開始した。

 ちなみに女の子の名前はステラです。星のように誰からも愛される人間へなって欲しいという願いを込めて、デュランが名付けました。

 

始源(しげん)魔法――シューティング・スターレインッ!」

 

嵐流刃(らんりゅうじん)――(らん)ッ!」

 

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 デュランは流星を()した一撃の雨を(・・)嵐流刃の乱れ打ちで()ち落としながらアリスが開発した始源魔法は厄介すぎるとため息を吐き、天晴の(みね)(ひるがえ)してから無防備なアリス本体を斬るため突撃したが。

 ()詠唱(えいしょう)で展開された三重のハードプロテクションで防がれ、再び降ってきた流星を避けるため距離を離すしかなかった。

 

「……やっぱり無詠唱が出来るんだし、詠唱いらなくね? (すき)を作るだけだよ、アリス」

 

「――いいのっ! 詠唱はロマンだもん!! なんでデュランは男の子なのにこのロマンが分からないの!!!」

 

「いや、ロマンは分かるんだけど勿体ないと思ってな……余計なお世話だった、ごめん」

 

 デュランは正直そんなことを言われてもと思ったがアリス相手なので飲み込み、嵐流刃で自身へ迫る流星だけを破壊しながら素直に謝った。

 

「いいよ許す、でも模擬戦は僕が勝つ!! 始源魔法――ジャイアント・アースクエイクッ!!」

 

「マジで勘弁してくれ――ハァッ!! やっぱりダメか!!? 嵐流刃ッ!!」

 

 デュランはまるで巨人がその腕を振り下ろしたかのように地盤そのものがめくり上がって迫ってくるのを気合(きあ)いで吹き飛ばしたが、分厚すぎる土石の津波は一部が吹き飛んだくらいではビクともせず。仕方なく嵐流刃で通り道を作って通り抜けた。

 

「始源魔法――スーパーノヴァッ!!」

 

「ちょっ!?? それは反則だろ!!!」

 

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 しかしアリスが起こした小型の超新星(ちょうしんせい)爆発(ばくはつ)を天下無双を使っていない状態では()けることも防ぐことができず、とっさに大樹ユグドラシルの枝木で作った(さや)を前へ(かか)げて結界を()ることでなんとか防ぎきった。

 

「――勝利(しょうり)だけを(ねが)うなら(つるぎ)(きば)と変わりなし、(つらぬ)(がた)(じん)(みち)(まも)()くもの(ひと)という」

 

「デュラン!! 天下無双は使っちゃダメって言ったでしょッ!!」

 

 デュランはだったらジャイアント・アースクエイクとかスーパーノヴァは止めてくれよと言いたかったが詠唱中のため反論できず、詠唱を邪魔されないためアリスから全力で離れた。

 

「天下無双を使うつもりなら、無理矢理でも詠唱を止めるよ!! 始源魔法――コメットチェイサーッ!!」

 

()()無辜(むこ)(たみ)がため、(つるぎ)となりて(てき)()つ 」

 

 するとアリスはシューティング・スターレインの流星群を一つに収束(しゅうそく)させて巨大な彗星(すいせい)を創り出し、それをデュランへ向けて放ってきた。

 デュランはとんでもないスピードで追いかけてくる彗星に冷や汗を流しながら逃げ続けたが、追いつかれてしまったので鞘で結界を()ることでなんとか受け止めた。

 

「ただ一筋(ひとすじ)閃光(せんこう)を、(おそ)れぬのなら()るがいい――天下無双(てんかむそう)

 

界破斬(かいはざん)で防ぎきった!?? だったら!! 始源魔法――コメットチェイサーレインッ!!」

 

 デュランは結界を貫きそうになっていた彗星を界破斬――(だん)で異空間へ送ることで防ぎきったが、そんな異常な威力の彗星が雨のように襲いかかってくる光景を視界へ入れて思わず遠い目をした後。

 

嵐流界刃(らんりゅうかいじん)()ッ!! ――刹那(せつな)一条(いちじょう)

 

「う? ――!!?」

 

 彗星の雨を嵐流界刃破でなぎ払って全て消すとアリスの元へ向かって超スピードで一直線に進み、三重のハードプロテクションを全て破壊した。

 そして(くちびる)(うば)いながら体中の性感帯(せいかんたい)(いじ)くり回し、アリスを絶頂(ぜっちょう)させてからそのまま空中で(おか)し始めた。

 至近距離すぎたため魔法を()てば自身もタダではすまないのと、連続絶頂で思考をかき乱されて魔法を使えなくなったアリスはなんとかしようと抵抗を続けたが。

 魔法が使えないアリスに反撃手段はなく。

 

「~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡♡♡♡!!!!!!!!」

 

 結局絶頂させられ続けたアリスの心臓の鼓動(こどう)極大(きょくだい)快楽(かいらく)で止まり、海老(えび)反りになりながら白目を()いてデスアクメしたことで模擬戦の勝者はデュランへと決まりました。……エッロ。

 

 

 

 

 

 

 ――アリスが新たに習得した始源魔法はデュランの天下無双を見本として完成したものであり、魔力を体外で(ひかり)属性(ぞくせい)(やみ)属性へ分けてからもう一度合成(ごうせい)することで魔法そのものを天下無双状態のデュランが踏み込んでいる神の領域に届かせたものだ。

 それ故に始源魔法は空間へ干渉したり自然現象の再現などができるのだがアリスはハーフエルフ、精霊と思念(しねん)で会話ができる彼女は詠唱を必要と(・・・・・・)しない(・・・)。これが何を意味するか分かるだろうか。

 つまりアリスは魔力がなくなるまで――自然災害級の(・・・・・・)攻撃を使い放題(・・・・・・・)なのだ(・・・)

 

 そのため神の領域に踏み込んだデュランか、本物の神しか彼女を害することはできないため、今最強なのはアリスだと言っても過言(かごん)ではなかった。

 ……タイトル変えないとまずいかと思ったけど、エロエロ攻撃でデュランが勝ったのでギリギリセーフ! よかった!!

 

「……冗談抜きで始源魔法は色々と反則すぎないか、アリス。

 あれは天下無双を使わないとどうしようもなかったぞ?」

 

「アハハッ、ごめんなさい。久しぶりの模擬戦で盛り上がっちゃって、つい……

 だ、だけどあんな攻撃は反則! ()ずかしい!! 死ぬかと思った!!!」

 

 デュランはそう言いながら顔を真っ赤に染め上げているアリスの頭をなでると、ため息を吐いてから正直な感想を話し出した。

 

「しょうがねぇだろ、俺はアリスを傷つけたくないんだから。

 あの状況だとああするしかなかったんだ、それに――気持ちよかっただろ??」

 

「本当に死ぬほど気持ちよかったよッ!! あれのせいで一瞬心臓止まったもん!!!」

 

「大丈夫だったろ、俺がすぐ動かしたし」

 

「――それはそうだけどッ!!! 納得いかない!!!!」

 

 アリスはそう言いながら発散できない怒りに頭を抱えた後、手をブンブンと振ってデュランに抗議(こうぎ)してきました。……可愛い。

 

「はいはい、分かったよ。それじゃあステラをヘルトに任せきりにはできないし、さっさと帰ろう」

 

「――はいはいじゃない! 反省しろ!! このエロエロ星人(せいじん)ッ!!!」

 

 デュランがそう言ってからアリスをお姫様抱っこすると、アリスはポコポコとデュランの胸を叩いたが。このエロエロ星人にそんなことをやっても無駄である。

 愛する者であるアリスがやることなすこと全部が愛おしいと、デュランは本気で思っているのだから。……こいつ無敵か?

 

「――あーあっ!!」

 

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「可愛いなぁ、ステラは。ヘルト、どうだった留守番中は?」

 

「ステラは泣くこともなく、静かに待っていましたよ。とってもいい子でした」

 

 そんな会話をヘルトと()わした後。デュランはいい子に待っていたご褒美(ほうび)としてステラと一緒に空中散歩をしようとしましたが、ヘルトも着いてきたいと言ったので背中へしがみつかせてから今度こそ空中散歩に出かけました。

 

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 そしてヴィンデとアリスも空を飛んで一緒に来たため親子全員での空中散歩となり、みんなで笑いながら風景を楽しみました。

 これはデュラン達家族が黒神の手で起った世界存亡を()けた戦争が起る前のもっとも幸せだった時期でした、そしてこの九年半後。一夜にしてアイディール神国は滅びました。



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亡国

 男は愛する仲間共に創った国が好きだった。

 表通りを歩く者達からは()()めとさげすまれるスラム街の仲間達と共に誰もが幸せに生きられる国を創り出すのだと一から努力し、(きず)き上げた血と汗と涙の結晶であり。男と仲間達の(きずな)そのものだったから。

 そうして順風満帆(じゅんぷうまんぱん)に国を運営していた男はある時、多種族のことで悩んでいた。

 

 スラム街の悪童(あくどう)にも()き出しなどの支援をしてくれた起源(きげん)統一教団(とういつきょうだん)が彼らのことを()(よう)に言っていたため、それを何も考えず受け入れて今まで()ごしてきたが。

 一国の王として多種族の者達と関われば関わるほど彼らもただの人間なのだと知り、非道な扱いを受ける彼らのことを見て見ぬふりをすることが出来なくなってしまった。

 そして真の意味で誰もが幸せになれる国だと言うのならば、彼らも受け入れるべきなのではないかと思うようになっていった。

 ……しかし彼らを助けると言うことは、超大国であるアイディール神国を敵に回すことを意味する。

 助けるというのならば仲間と共に創り出した国を滅ぼされることになるかも知れないと考えた男は仲間達を集め、自身の覚悟を語ってそれでもついてきてくれるかと問いかけた。

 

『――お前達! 無謀(むぼう)な挑戦だと分かっていても私はもう見て見ぬふりは出来ない!! この国の王位を退(しりぞ)くことになったとしても私は多種族(彼ら)を助ける!!! ついてきてくれるか!!!!』

 

『『『『『――当たり前だァッ!!!!』』』』』

 

 そうして男の国――ウィンクルム連邦国は多種族と共に数々(かずかず)の困難な道を歩み、他の国々の多種族へ対する扱いを変えてしまうほどまでに大きく力強い国へと成長した。

 多種族は男の国を最後の楽園と(ひょう)してウィンクルム連邦国へと集まって人族と共に暮らし、アイディール神国でさえも無視できない存在となった。

 だが人間という者は正義(正しさ)という凶器を手にどこまでも残酷(ざんこく)なことができる生き物である――ウィンクルム連邦国はアイディール神国の放った百発の核ミサイルによって一夜で滅ぼされた。

 

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 最新鋭の技術を使って創り出された小型の核ミサイルは一発一発が太陽並みのエネルギーを秘めており、男の仲間や国民である多種族と人族を吹き飛ばし。

 運良く生き残った者も重度(じゅうど)放射線(ほうしゃせん)被爆(ひばく)したことで苦しみもがいて死んでいった。

 光属性に耐性を(・・・・・・・)持たなかった男は(・・・・・・・・)幻想を司る闇属性の力で生き残ったが、目の前で自身よりも幼い子供が、友が、愛する国民が。死んでいくのを何もできずに見守ることしか出来なかった。

 

『――ウワアアアアアアアアァァァッッッ!!!!!!!!

 死ぬなお前達!!!! お願いだから死なないでくれェッ!!!!』

 

『おう、さま、あり、がと、う……ぼく、たち、を、しあ、わせ、に、して、くれ、て』

 

()めてくれェッ!!! お前達を助けることもできない私を――そんな目で見ないでくれェェェッッッ!!!!!!』

 

 この日。全ての者達が自身へ口々に感謝をしながら死んでいくのを()いていることしかか出来なかった男は己の無力さを呪い、復讐(ふくしゅう)の鬼となったが。

 国民達の感謝がただアイディール神国を滅ぼすという愚行(ぐこう)に走るのを止め、恒久(こうきゅう)的な世界平和を創り出すのだと。それだけを目標に生きてきたが。

 男は剣神という真の英雄と出会ってしまい、彼が世界を変えてしまうところを目にしたことでアイディール神国への怒りを抑えられなくなった。

 ――それ故に今夜、アイディール神国は滅びることになる。

 

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 そして男――黒神ナイト・エンペラーはアイディール神国の上空であの日と同じ百発の核ミサイルを現実改編で創り出し、アイディール神国の全国民へ聞こえるように空間を(つな)げた上で叫んだ。

 

「――アイディール神国の国民達よ、私はウィンクルム連邦国の王だ!! この百発の核ミサイルが見えるかァッ!!! あの日お前達が私の国であるウィンクルム連邦国に()ったのと同じ物だ!!!!

 お前達にも愛するものを奪われる気持ちを味わせるために三十年待った!!!

 あの時の私と同じ地獄に苦しむがいい!!!! 死ねエエエエエエエエッッッ!!!!!!」

 

 そんな黒神の言葉を耳にしたアイディール神国の国民は全員が例外なく、あの日のウィンクルム連邦国の国民達のように苦しみもがいて死んでいった。

 

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 そして黒神の言葉を宣言通りにしないため大樹ユグドラシルで待機していたデュラン達が事態(じたい)へと気が付き、デュランとアリスの二人がアイディール神国に着いた時。アイディール神国はもう既に黒神の手で滅ぼされていた。

 だがかつてアイディール神国の国民だった魔物を従えながらデュラン達を待ち受けていた黒神は、何故か(・・・)配下の大魔王や魔王を連れていなかった。

 

「来たか、剣神。悪いがもう少しだけ感傷(かんしょう)にふけらせてくれないか。

 やっと三十年かけた復讐が終わった所なんだ」

 

「……お前の叫び声が大樹ユグドラシルまで届いてきた。

 その様子だとお前は本当にウィンクルム連邦国の王だったんだな、なんで俺を待っていた」

 

 デュランがそう言うと黒神は笑みを浮べながら「まあ、そう焦るな。すぐにでも話してやるから」と言った後、デュラン達を滅びた国には不釣り合いなほど綺麗なテーブルとイスへと案内した。

 デュランは怪しく思いながらも何を企んでいるのか分からなければ対処のしようがないと考え、アリスと共に大人しく座った。

 

「さて、何から話せばいいか考えるのに時間を使ってもいいのだが。客人相手にそれは失礼だろうからな、結論から話そう。

 ――私の名前はナイト・エンペラー。このアイディール神国に滅ぼされたウィンクルム連邦国でかつて王をしていただけの、つまらん男だ」

 

「……ウィンクルム連邦国は百発の小型の核ミサイルで跡形もなく吹き飛んでた。それは旅の途中立ち寄った僕とデュランも見ている。

 ナイト・エンペラー、君はどうやって生き残ったんだい?」

 

 そうアリスが言い返すと黒神はその言葉を予想していたのか「簡単な話だ、私も生まれつき。剣神と同じ体質だったのだよ」とつぶやき、それを耳にしたデュランは驚きのあまり固まったしまった。

 

「もっとも、私の場合は光属性の方に耐性がないのだがね。それとなんで待っていたのかか?

 それに関しては簡単な話だよ、私は今の世界はこのままで本当に恒久(こうきゅう)的な世界平和が実現できるのか悩んでいる。

 だから剣神と闘って見極めようと思うのだ、今の世界は存続するべきなのかをね?」

 

「……俺にあの時最終目標を教えたのは確実に復讐を遂げるためだったんだな、アイディール神国がそれほど憎かったのか。黒神」

 

 その言葉を聴いた黒神は拳でテーブルを叩き割りながら「当たり前だ! 憎いに決まっているだろう!! 奴らは私から全てを奪ったのだから!!!」と叫んだ。

 

「……だが、私はお前と――剣神と出会うまで、復讐を()げることが正しいのか分からなかった。

 そのために己の憎悪を押さえ込んで戦争のない恒久的な世界平和を創るのだと、彼らの感謝へ(むく)いるため走り続けてきたが。

 剣神が世界を変えてくれたことで私は復讐に走ることが出来た、感謝する」

 

「黒神、お前は――」

 

 デュランはその言葉を聴いて何かを言おうとしたが、黒神はもうお(しゃべ)りは終わりだと言うかのように腰の刀を抜き放ちながらイスから立ち上がった。

 

「――私達の因縁(いんねん)を終わらせよう、剣神」

 

「……俺は世界が滅ぼうが存続しようが正直どうでもいい、だがなッ!! アリスの、いや――俺の大切な者達が愛する世界を壊そうとするのならば!!! 容赦(ようしゃ)しないぞ、黒神ッ!!!!」

 

「デュラン、僕が援護するから全力で闘って!!! 始源(しげん)魔法――シューティング・スターレインッ!!」

 

 こうして決戦の火蓋(ひぶた)は切られ、世界存亡をかけた闘いが始まるのでした。



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鳳凰剣

 アイディール神国で決戦の火蓋(ひぶた)が切られたのと同時刻、大樹ユグドラシルでも闘いが始まろうとしていた。

 ゴリラの大魔王ストロングをリーダーとした大魔王五人に魔王三十人が魔物の軍勢百万と共に大樹ユグドラシルを急襲(きゅうしゅう)し、今の世界を終わらせようとしていた。

 

「――大魔王共、お前らの相手はこの私だッ!」

 

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 そんな彼らは七大竜王のリーダーである光竜ライオードではなく、たった一人の人族の剣士を相手に攻めあぐねていた。

 転移などの能力を(もち)いてもまるで背中へ目が着いているかのように反応して斬り()せ、対象を認識して発動する能力の魔物は残像(ざんぞう)すらも(とら)えることができず。そのまま断ち切られる。

 

「それ以上やらせるものか!!! 死ねェッ!!!!」

 

「――刹那(せつな)一条(いちじょう)

 

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 かつて筆頭大魔王が目にしたのと同じ光景を見せつけられたストロングは戦力をこれ以上減らさせないため、その拳を握って襲いかかったが。

 瞬時に反応した剣士――ヘルト・ライオットの一刀でその体を斬られた。

 

「……流石は剣神の二番弟子、強いな。だが我の能力は最強の能力、その程度の一撃で倒せはせんぞッ!!」

 

「最強の能力か、確かに父上の言っていた通り。まるで巨大な山を斬ったかのような手応えだ。

 だがお生憎様(あいにくさま)だったな、私もなれるんだよ! 最強に!! ――鳳凰剣《ほうおうけん》ッ!!」

 

「な、何ィッ!? そ、そんな虚仮(こけ)(おど)しが我に通じるか!!!」

 

 それでもヘルトの一撃では小さな傷跡をつけるのが精一杯だったという事実でストロングは勝利を確信して笑みを浮べたが、ヘルトの全身の筋肉と魔力が鳳凰剣と言った同時に(ふくれ)れ上がったのを感じ取り。

 そのあまりの力に恐怖して一瞬足を止めてしまったがなんとか己を鼓舞(こぶ)してヘルトへと襲いかかるも、その体を真っ二つに斬られて即死し。二度目の死を迎えた。

 しかしヘルトはそれでも(よみがえ)ってくる者がいることを知っていたためその体を(さい)()(じょう)に斬り刻み、嵐流刃(らんりゅうじん)で消し飛ばした。

 

 ――鳳凰剣は天下無双をどうしても使えなかったヘルトが開発した技であり、デュランが一日中やっている筋肉の破壊と再生を超高速で繰り返えし。強くなり続けるという奥の手だった。

 破壊と再生を繰り返すことから不死鳥とも呼ばれる伝説の霊獣である鳳凰の名前を取り、鳳凰剣と名付けた技である(・・・・)

 技、つまり技術であるという特性上魔法とも併用(へいよう)ができるという恐ろしい事実もあり、エルフ族の血を受け継いでいるヘルトは当然のごとく精霊魔法が使えるため。ストロングを消滅させた後はアリスの魔法であるスカイジャッチメントを魔物の軍勢へと振り下ろした。

 

 ……ちなみに本来鳳凰剣と叫ぶ必要はないが、デュランの天下無双に憧れているヘルトは技を使う際は必ずそう叫んでいた。

 

「――ストロングが倒されただと!?? とんでもない奴だな、次世代の(・・・・)剣神は(・・・)

 だが、これならばどうだッ!!!!」

 

「次世代の剣神?! ――って、しまった!??」

 

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 ヘルトはそのまま別の大魔王へと襲いかかったがその相手から言われた次世代の剣神という言葉が嬉しくてつい動きを止めてしまい、(かめ)の大魔王グラビティが能力を発動する(すき)を与えてしまった。

 ヘルトはグラビティに三百倍の重力波を上空から叩きつけられ、一気に地下三千メートルまで送られてしまった。

 

「クソッ、脱出できない。ならばッ!! 奥義(おうぎ)――嵐流界刃(らんりゅうかいじん)()ッ!!」

 

 重力波から自力で脱出することができず、そのままだと冥界(めいかい)まで直送されてしまうと判断したヘルトは嵐流界刃破で斬り返して脱出した後。

 超スピードで地上へ戻るとストロングと同じようにグラビティを賽の目状へ斬り刻んでから嵐流刃で消し飛ばした。

 

「ぐ、グラビティまでも、ば、化け物め!! 音でその体を粉々に(くだ)いてやるッ!!」

 

「刹那一条――紫電(しでん)ッ!!」

 

【挿絵表示】

 

 ヘルトは白鳥の大魔王サウンドソングが放った耳で聞き取ることができない超音波による攻撃を本能で察知(さっち)すると、雷のようなとんでもない軌道(きどう)で移動する刹那一条で回避しながらサウンドソングを一刀両断し。賽の目状へ斬り刻んでから嵐流刃で消し飛ばした。

 

「――サウンドソングッ!? だったら災害はどうだ!!! 死ねェッ!!!!」

 

界破斬(かいはざん)――(だん)ッ!! 刹那一条ッ!!」

 

【挿絵表示】

 

 地震や雷、津波などの災害が(なまず)の大魔王ディザスターによって放たれ、その軌道の先へ大樹ユグドラシルがあるのを視認したヘルトはその攻撃を避けず。

 巨大な界破斬で地震以外の全てを飲み込んで大樹ユグドラシルに被害が出るのを防いでから刹那一条でディザスターを斬り、賽の目状へ斬り刻んでから嵐流刃で消し飛ばした。

 

「ヒィッ! ば、化け物だ!! こ、恐いよぉ……」

 

「嵐流刃ッ!! ――何ィッ!??」

 

【挿絵表示】

 

 ヘルトは最初に感じた五つの強大な気配の持ち主の最後の一体である(ねずみ)の大魔王フェーブルを斬ろうと近くまできたが、自身へ(あわ)れに思ってしまうほど怯えているフェーブルの姿を見つけてしまい。

 気のせいだったかと思いながら嵐流刃で消滅させようとするもフェーブルの体へ当たった嵐流刃は(きり)のように散ってしまい、ヘルトはその光景を視界へ入れたことで思わず動きを止めてしまった。

 

「ッ!? ――誰だッ!!」

 

「……なるほど(わたくし)の完璧な奇襲(きしゅう)を避けますか、これは大魔王七人で(・・・)相手しなければなりませんね。

 レスレクシオンッ!! 復活させなさい(・・・・・・・)!!!」

 

【挿絵表示】

 

 そんな一瞬の(すき)を逃さずにヘルトを背後から奇襲したのは、かつてプライド王国の闘いでデュランの手で完全消滅したはずの筆頭大魔王――ウロボロスだった。

 そしてウロボロスはそうつぶやいた後、隣へ立っている鹿の大魔王レスレクシオンにそう命令した。

 

「――了解しました、ウロボロス様」

 

「させるかッ! 刹那一条――紫電ッ!!」

 

「『おや、見当違いな方向(・・・・・・・)へ急に進みましたね(・・・・・・・・・)。どうしたのですか剣神殿?』」

 

【挿絵表示】

 

 ヘルトは復活というのが何を意味しているのか分からなかったが本能的にさせてはならないと判断し、レスレクシオンを斬るため刹那一条を使って近づこうとしたが。

 ウロボロスの現実改編で見当違いな方向に進んでしまい、慌てながらもう一度突っ込んで斬ろうとするも横から飛んできた重力波で(・・・・)阻止(そし)された。

 

「申し訳ございません、筆頭。我は貴方からリーダーの地位を(たく)されたにも関わらず、醜態(しゅうたい)をさらしました。

 この闘いが終わったら如何様(いかよう)な処分でも受けます」

 

「いえ、次世代の剣神が相手では無理もないことでしょう。

 剣神に敗北したのは(わたくし)も同じですしね、ここからは大魔王一丸(いちがん)となって闘いましょう」

 

「おぉ、やはり貴方こそが筆頭大魔王。完璧な策士、我を(こま)としてお使いください」

 

 ヘルトは先程殺したはずの大魔王達全てが復活しているという悪夢のような光景に目を見開いたが、復活したのならばレスレクシオンとか言うのを殺してからもう一度全員殺すと覚悟を決める。

 

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 しかしヘルトは大魔王七人と共に気が付けば黒一色の不思議な空間へと連れて来られていた。

 

「よくやりました魔王ファンシー、後は見物でもしていてください」

 

「……言われずともそうさせてもらう」

 

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 ヘルトは新たに現れた(ドラゴン)の魔王ファンシーとウロボロスの会話を聞いたことで、ここはファンシーの能力で創り出された空間だと知ることができたが。

 この空間は空気がなくて呼吸ができない上に充満(じゅうまん)する闇属性のせいで魔力の回復もできないため、魔力で呼吸するための空気を創り出しても鳳凰剣へ魔力を使っていた影響(えいきょう)でそれほど持たない。

 

 ――その時間は約一時間、それがこの空間でヘルトが生きていられるタイムリミットだった。

 

「『おっと。見当違いな方向へ(・・・・・・・・)剣を振ってどう(・・・・・・・)したんだい(・・・・・)、剣神殿?』」

 

 そう悟ったがそれでもこの七人を引きつけていれば大樹ユグドラシルを防衛できる可能性が上がるため、ヘルトは全力で闘ったが連携する大魔王の力は脅威的(きょういてき)であり。徐々にヘルトは追い詰められて行った。

 それでもタイムリミット寸前まで全力で抵抗したが、ついに魔力が(そこ)()いて大魔王達の攻撃で吹き飛ばされた。

 

「――やっと倒れましたか、(まった)()っててしぶとかったですね。

 ですが貴方が死ねばとても強い魔物へ生まれ変わるでしょう!! ですのでこれからは(わたくし)達の仲間として歓迎(かんげい)しましょう!!!」

 

「……にん、げん、を。なめ、る、な、よ」

 

「おや、まだ(しゃべ)れるのですね。敵としてあっぱれです……このまま死ぬのを待ってもいいですが何かを仕掛けてくるかも知れませんね。

 ――ここは貴方を押し(つぶ)して確実なる安全としておきましょう!!」

 

【挿絵表示】

 

 ヘルトは落ちてくる巨大な山をみながらここで自身が死ぬことを悟り、目を閉じた後。周囲の闇属性の魔力(・・・・・・)を取り込みながら(・・・・・・・・)立ち上がった。

 そして最後の力を振り(しぼ)って嵐流界刃破を放ち、七人の大魔王達をなぎ払った。

 

「ちち、う、え、はは、う、え……ごめ、ん」

 

 ヘルトは最後の最後まで未熟者(みじゅくもの)だった己を()じながら涙を流し、空間の崩壊に飲み込まれていった。……そして誰もいなくなった。



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存亡の秋

始源(しげん)魔法――シューティング・スターレインッ!!」

 

「『おや、随分(ずいぶん)見当違いな方向へ(・・・・・・・・)攻撃したね(・・・・・)。聖女様に剣神様』」

 

 アリスの放った流星の雨は黒神と魔物達を同時に狙った物だったが、黒神の現実改編で誰にも当たることなく地面や建物へ落ちた。

 デュランも黒神の首と魔物達を飛ぶ斬撃で同時に狙ったが見当違いな方向へ飛んでいったため、遠距離攻撃は決定打にならないと判断して突っ込んだ。

 

「ッ!? だったら!! 始源魔法――コメットチェイサーレインッ!!!」

 

「なるほど自動追尾(ついび)(だん)か、それは厄介だ。それではこうしよう」

 

 アリスはすぐに相手を自動追尾する彗星(すいせい)の雨へと攻撃を切り替えたが黒神は彗星を一カ所に集めた後、重力(じゅうりょく)()を当てることでかき消してしまった。

 

刹那(せつな)一条(いちじょう)――紫電(しでん)

 

「どんな小さな(すき)でも見逃さない、流石だよ剣神――だが! 今は私の方が強いッ!!」

 

 デュランは雷のようなとんでもない軌道(きどう)で移動する刹那一条で彗星を回避しながら黒神へ斬りかかったが、黒神にあっさりと受け流されてしまった。

 そして隙のできたデュランの首を狙った黒神の一撃が予想以上のスピードで迫るのを目にしてもデュランは動揺せず、回転しながら受け流すことで再び黒神の首を狙った。

 しかし目に見えない何かへ衝突したことで攻撃を(はば)まれ、本能で危険を察知したデュランは一万倍の(・・・・)重力波をなんとか回避したが。そのあまりの威力に冷や汗を流した。

 

「――勝利(しょうり)だけを(ねが)うなら(つるぎ)(きば)と変わりなし、(つらぬ)(がた)(じん)(みち)(まも)()くもの(ひと)という」

 

「――勝利(しょうり)だけを(ねが)うなら(つるぎ)(きば)と変わりなし、(すくい)(がた)(ひと)(みち)(ただ)(みちび)くもの(かみ)という」

 

 デュランは今のままだと太刀打ちできないと悟って天下無双の詠唱を開始したが、黒神も同じように詠唱を始めたことで目を見開いた。

 そうしているとアリスを重力波で黒神が狙ったため界波斬(かいはざん)――(だん)で防ぎ、お返しに黒神を気合(きあ)いで吹き飛ばした。

 

()()無辜(むこ)(たみ)がため、(つるぎ)となりて(てき)()つ 」

 

()()(すべ)ての(たみ)がため、(つるぎ)となりて(ひと)(さば)く――ッ!?」

 

 それでもダメージをまったく受けてない黒神の様子から恐らく重力の(よろい)を身に(まと)っているのだろうと予測し、飛ぶ斬撃を黒神へ向けて放った。

 黒神は何故今更こんな攻撃とでも言うように無視して詠唱を続けたが、その体を浅く切り裂かれて(おどろ)きながらも他の斬撃は回避した。

 

「ただ一筋(ひとすじ)閃光(せんこう)を、(おそ)れぬのなら()るがいい――天下無双(てんかむそう)ッ!」

 

世界(せかい)(おお)暗黒(あんこく)は、(おそ)れる(もの)(すく)うだろう――天下無双(てんかむそう)

 

 斬撃はブーメランのようにもう一度黒神へと迫るも、重力波で迎撃(げいげき)されてかき消された。

 

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 そしてお互いに天下無双の詠唱を終えると、超高速の戦闘が(まく)を開けた。

 

「さっきは驚いたよ、まさか重力の鎧を突破されるとは……何をしたんだい、剣神」

 

「ただの手品だ、分かったら大人(おとな)しく死ねッ!」

 

「……答えてないじゃないか、まあいいが」

 

 デュランは別に誤魔化(ごまか)したつもりはなかったが黒神へは上手く伝わらなかったようだった。

 詳しく説明するか悩んだが態々(わざわざ)敵に教えることもないかと考え、そのまま黒神の首を狙った。

 ちなみに何をやったかと言うと斬撃を高速で回転させながら黒神の全身を巡る重力の流れに乗せるという、曲芸(きょくげい)と言っても過言(かごん)ではない方法だった。……絶対に手品ではない。

 

「デュラン、僕が合わせるから全力で行って!!!」

 

「あぁ、頼んだぜ――アリス!」

 

「――やっぱりお前達は強いな、正直(うらや)ましいよッ!!! 私は一人だからね!!!!」

 

 デュランはアリスが移動先へ()るハードプロテクションを足場として使うことで更に速度を上げて黒神を連続で斬りつけたが、その猛攻(もうこう)すらも黒神は最弱の能力を使って防ぎきった。

 しかし徐々に黒神の体へ傷が増えていき、最後には左腕を斬り飛ばされた。

 それでも現実改編を使ってその負傷を周囲の魔物へ押しつけ、戦闘を続行する黒神の姿にこのままだと勝てないと悟ったデュランは最後の切り札を切った(・・・・・・・・・・)

 

「持ってくれよ、俺の体ッ!! 鳳凰剣(ほうおうけん)だァァッッッ!!!!」

 

「何ィッ!? ――ガアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!」

 

「デュランッ!??」

 

 鳳凰剣を使って更に攻撃速度を上げたデュランの手でとてつもないスピードで体を斬り刻まれ、何もできない黒神は現実改編で周囲の魔物へ負傷を押しつけ続けたが。

 やがて周囲の魔物がいなくなったことで黒神は目で(とら)えることすらもできない攻撃を防ぐことができなくなり、魔力で復活し続けることでなんとか生きながらえていたが。魔力が底を()くのも時間の問題だった。

 

 ――いてぇなクソッ、意識がぶっ飛びそうだ。

 

 とはいえデュランの方も同じように限界が近づいていた。

 元より体と魂に負担を強いる天下無双へ更に鳳凰剣の重ねがけをしているのだから当たり前のことだが、普段天下無双を使っている時以上の痛みが全身を走り。

 今にも意識を失ってしまいそうな状態だ、長くは持たない。

 

「「――アアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!」」

 

 だからこそ。ここからは意地と意地のぶつかり合いであり、耐え抜いた方がこの闘いの勝者となる。

 けれど――

 

「始源魔法――ヴィクトリーソングッ!! 今だデュランッ!! ()けェェェッッッ!!!!!!!」

 

「ッ!? ――愛してるぜェッ!! アリスゥゥゥゥゥゥッッッ!!!!!!!!」

 

 ――黒神は一人きりだったがデュランにはアリスがいた、それ故にこの闘いの勝者はデュランである。

 アリスの始源魔法で肉体を更に強化されたデュランは黒神の魔力を削りきり、黒神へ(とど)めを()した。

 

 

 

 

 

「――ゲホッ、ゲホッ、ありがとう。アリス」

 

「――デュランッ!! 僕が治療するから(しゃべ)らないで!!!」

 

 デュランがズタボロの体をなんとか治そうと四苦八苦していると近づいてきたアリスが光属性で治療を開始したのでお礼を言ったが、涙をボロボロと流しているアリスの顔が視界に入ったデュランは目を見開いて固まった。

 

「後でたくさんお説教するんだからッ! なんであんな無茶したのか問い詰めてやるんだからッ!! だからッ!!! だから……お願い、死なないで。

 デュラン――僕の側からいなくならないでよぉ」

 

「……ごめん、アリス」

 

 デュランはそう言いながら自身の体へしがみつくアリスにそうつぶやくのが精一杯だった。

 何故ならもう己の命が長くないことは誰よりも一番分かっていたから、死なないとは口()けても言えなかった。

 何よりもアリスはハーフエルフ(・・・)。人族の数倍の寿命を持つエルフ族であることを考えれば、寿命の問題がなくても結局人族であるデュランはアリスをこの世に残して旅立つのだ。

 この問答(もんとう)を軽々しく(あつか)うことなど出来なかった。

 

「――見事だ、剣神。よくぞ、よくぞ、私を倒してみせた。

 この闘いの映像は私の力で世界中のありとあらゆる国々へ届いている、これならば確実に世界は変わるだろう」

 

「……お前。やっぱり負けるって分かっていて闘ったんだな、最初から」

 

 体が崩壊(ほうかい)していってるにも関わらずまるで倒されるのが目的だったとでも言うかのような黒神の口ぶりから、デュランは闘う前感じた違和感の正体を悟ってそう問いかける。

 黒神はその言葉を耳にすると涙が出るほど笑った後、優しげな笑顔を浮べた。

 

「あぁ、その通りだ。お前達を見ていて私はやり方を間違えていたことを悟った――しかし、もうその頃にはたくさんの命を(うば)ってしまっていた。

 だからこそ、死ぬ前に何かを()さなければいけないと思った。このままでは死んでも死にきれなかったからな」

 

「……それでアイディール神国の連中を皆殺しにして後戻りできなくしたのか、己の退路を断つために」

 

 デュランは今自分がどんな表情をしているのか分からなかったが、こちらを見ている黒神が(ひど)く驚いているのを目にし。

 きっと辛気(しんき)くさい(つら)をしてるんだろうなと(さっ)してため息を吐いた。

 

「そんな顔をするな剣神、馬鹿(ばか)な男が自業自得(じごうじとく)で死ぬだけだ。思いっきり笑った方がいいぞ?」

 

「笑えるかよ、バカじゃねぇの。お前」

 

「デュラン、まだ立っちゃダメッ!! 死んじゃうよ!!!」

 

 デュランはそう言ってから心配するアリスをなだめながら黒神の元までいくと己が魔力を吸収する際、あまった残りカスである闇属性の魔力を黒神の体へと少し流し込んだ。

 そしてマヌケ面をしている黒神を一瞥(いちべつ)してからアリスに大樹ユグドラシルへ連れて行ってくれと頼んだ。

 

「待て剣神! 何のまねだこれはッ!! 万が一私が貴様を殺そうとしたらどうするつもりだったのだ!!!」

 

「うるせぇなっ! 同情したんだよ!! 悪いかッ!!!」

 

「なっ!??」

 

 デュランは正直やってからやっちまったと思ったが、もう黒神は死ぬのだと開き直ってそう叫んだ。

 

「……自分でも意味不明な行動してるのは分かってるけどよ、どうせお前はもう死ぬんだ。

 最期くらい。苦しまなくてもいいだろと、思っちまったんだよ」

 

「――馬鹿な男だな、お前は。私なんかに同情するなど」

 

「もう知っとるわッ! 大人しくそこで死んどけ、バーカッ!!」

 

 黒神はそう言いながら自身の息子を助けるため、アリスと共に飛び立ったデュランを見送り。少しの間笑った後、安らかな顔であの世へと旅立った。

 ――こうして死んだ国民のため走り続けた男は、最期にほんの少しだけ救われて死んだ。



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約束

 

【挿絵表示】

 

 アイディール神国からデュラン達が飛び立った頃、大樹ユグドラシルではヘルトが異空間(いくうかん)へ連れ去られた影響(えいきょう)で彼が()い止めていた魔王三十人と数百万の魔物が大樹を目指して()()れ込んできていた。

 光竜(こうりゅう)ライオードとクラウンの創り出した数十体の巨大な木製の巨人が中心となって対処(たいしょ)していたが、数の暴力で押し切られるのも時間の問題だった。

 

(まった)くもって()りがないないですなw、このままだと()(はい)達の魔力が先に底を()いてしまうでござるよww」

 

「クラウンッ! 無駄(むだ)(ぐち)叩いてないで闘うのに専念(せんねん)しろ!! このままだと押し切られるぞ!!!」

 

「相変わらずルイス殿は頭カチカチでござるなw、どの道デュラン殿が片付けるのですから我々は時間稼ぎと()り切った方がいいでござるよww。

 一生(いっしょう)懸命(けんめい)やっても疲れるだけでござるからなww」

 

【挿絵表示】

 

 東側ではあんまりなクラウンの言葉に青筋を立てながらルイスが魔物を剣で溶断(ようだん)してその数を少しずつ減らし、盾で魔物を吹き飛ばすことでなんとか魔物の注意を己へ向けさせている。

 しかし魔物の軍勢に突っ込んで闘っているため能力持ちの魔物から何度も()(ひど)い反撃を受けており、いつ力()きてもおかしくない状態だが。根性(こんじょう)だけで闘い続けていた。

 

「お婆様(ばあさま)幻実(げんじつ)魔法を使います! ()わせて下さい!!」

 

「何度も言うけどお婆様は止めて!! お願いだからッ!!」

 

【挿絵表示】

 

 西側では十歳になったステラとヴィンデが実体のある幻を創り出す幻実魔法で巨人族の手足を空中へ出現させて魔物の軍勢を叩き潰している。

 それでもまだ十歳のステラと妖精であるヴィンデの二人は魔力量が少ないため長時間は闘えない、魔力が底を突けばその命が危なかった。

 

「アワワッ、杏香(きょうか)ちゃん。無理しちゃダメですの! 危ないですわ!!」

 

「これくらい平気! それよりノアはちゃんと足場を創りなさい!! 危ないでしょ!!!」

 

「うぅ~、ごめんなさいですの……頑張(がんば)るから怒らないでください」

 

【挿絵表示】

 

 南側では二十歳となり守天(しゅてん)から受け()いだ破壊震(はかいしん)を手に杏香が闘っており、ノアが創り出した土壁の足場を使っての連続攻撃を魔物の軍勢へ仕掛(しか)けている。

 杏香はまだまだ余裕があったが徐々に杏香のスピードへノアが追いつけなくなってきているが、高速で移動している杏香の速さに魔物が追いつき始めてきていたため。スピードを(ゆる)めることはできなかった。

 

「興味深い。素晴らしい強さだ、この闘いが終わったらその体を調べさせてくれないか光竜様――解剖(かいぼう)はしないと約束するから」

 

「……そんな約束をしなければいけない相手に体を預けたくない、悪いが他を当たってくれ」

 

【挿絵表示】

 

 北側ではグリード王国から盗み出した光線銃でリーベが援護しながら光竜ライオードが闘ってブレスや牙で魔物の軍勢を倒し続けているが、正直光竜は魔物の軍勢よりも背後で目を(かがや)かせているマッドサイエンティストの方が恐かった。

 

始源(しげん)魔法――シューティング・スターレインッ!!」

 

嵐流刃(らんりゅうじん)――(らん)ッ!!」

 

 そんな感じでそれぞれが限界を迎えようとしていた時、デュランとアリスが戻ってきた。

 

「デュラン! 待っていたぞ!! よく戻ってきた!!!」

 

「光竜? 何で涙目なんだ?? まあいいか――それよりも光竜! ヘルトはどこにいる!!」

 

「あぁ、そのことなのだが。実は――」

 

 光竜は威厳(いげん)もクソもない姿を見せてしまったことにとても落ち込んでいたが、デュランからそう言われると気を取り直して説明を始めた。

 そしてヘルトがなんらかの能力で異空間へ連れ去られたことを教えると、デュランは見たこともないほど殺気(さっき)()ち。この場をアリスに任せて飛び出していった。

 

「……あれは大魔王達は恐ろしいめにあうのう、桑原(くわばら)桑原(くわばら)

 

「アホなこと言ってないで闘ってください!!」

 

「あ、ごめんなさい」

 

 光竜はあれと(・・・)対面(たいめん)する大魔王達はどれほど恐ろしいのだろうかと考え、敵である大魔王達へ思わず同情してしまっていたが。アリスから怒られたので真面目に闘い始めた。

 一方デュランは異空間のヘルトの気配を見つけると空間を斬り裂き、ヘルトの嵐流界刃(らんりゅうかいじん)()を上空へ移動することで()けた大魔王達の首を()ねていた。

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

「ヘルト、よく頑張(がんば)ったなぁ。後は(とう)ちゃんに(まか)せとけ」

 

「……ちち、う、えぇ」

 

 目を覚ましたヘルトはあの黒一色の不思議な空間から現実の草原へ戻ってきていることに目を丸くしていたが、己を力強く抱きしめている人がデュランだと気が付くと涙を流し。強い安心感からそのまま眠ってしまった。

 デュランは()布団(ぶとん)を創り出してその上にヘルトを寝かせた後、レスレクシオンの能力で復活した大魔王達を(にら)()けた。

 

「――殺す」

 

「こ、これはまずいですね。(みな)さん、()げま――」

 

 デュランは逃げだそうとした大魔王達を一瞬で斬り殺し、レスレクシオンを起点(きてん)に復活するのを確認するとレスレクシオンだけを斬り続けてその魔力を削りきった。

 そうしてレスレクシオンを殺して復活できなくすると残りの大魔王達も斬り殺したが、現実改編でレスレクシオンへその負傷を押しつけることで残りの大魔王達は生き残った。

 

「――鳳凰剣(ほうおうけん)

 

 しかしデュランは一人たりとも逃がすつもりがなかったため鳳凰剣を使うことで更に攻撃速度を上げ、逃げ出した大魔王達全員を殺しきった。

 今だ回復しきっていない体で鳳凰剣を使ったため口から血を吐いたがなんとか治し、ヘルトを抱きかかえて大樹ユグドラシルまで戻るとアリスがもう全ての魔物を片付けていた。

 

「デュラン! ヘルトは大丈夫だった!!」

 

「あぁ、この通り無事だ。アリス、もう残ってる魔物はいないか?」

 

「うん、これで全部だと思う」

 

 デュランがその言葉を聴いてやっと全部終わったと安心し、アリスとこれからのことについて会話をしていた時。突然(とつぜん)大樹ユグドラシルが()れた。

 

【挿絵表示】

 

「クソッ、やられた。大魔王達も含めて全部囮かよ(・・・・・)、あの(へび)野郎(やろう)めッ!!」

 

「デュラン! どうしよう!! このままだと大樹が!!!」

 

 デュランは眠るヘルトとアリスの顔を見つめた後、覚悟を決めるとヘルトをアリスに預けた。

 

「デュラン?」

 

「俺が竜穴に飛び込んで中から浄化してくる、アリスはここで待っていてくれ」

 

「やめて!! 今そんなことしたらデュランが死んじゃう!!!」

 

 デュランは必死に己を止めようとするアリスのことが好きだと心の底から思い、だからこそ逃げることはできなかった。

 ――死ぬことになると、分かっていても。

 

「アリスが生きていてくれるのなら、俺は死んだっていい」

 

「なっ、何をバカなこと言ってるの!! そんなこと、絶対に許さな――」

 

「――だけど(・・・)

 

 デュランはそう言ってからヘルトごとアリスを抱きしめ、心からの笑顔を浮べた。

 

「俺はまだアリスと一緒に生きたい、だから必ず戻ってくる。信じてくれ」

 

「……バカ」

 

 そしてデュランはそうつぶやいてからただ涙を流すアリスの頭をなでた後。

 

「お前が俺のものになるのなら――世界くらい救ってやる」

 

「――はいっ、よろしくお願いします」

 

 かつてエルフ族の里で結婚の約束をした時のように約束を交わし、暴走する竜穴の中へと飛び込んでいった。

 それから半年、今だデュランはアリスの元に帰ってきていなかった。



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後悔

 デュランが大樹ユグドラシルの竜穴へと飛び込んだ後、あれほど荒れ狂っていた竜穴の魔力は一際(ひときわ)大きな爆発のような音がしたかと思えば静まり帰り。枯れてしまっていた大樹ユグドラシルも徐々に元の姿へと戻っていっています。

 こうして黒神達の引き起こした世界存亡の危機はデュランの手で全て阻止(そし)されましたが、その一部始終(しじゅう)は小型のドローンを通じて世界中の国々へ映像として流れていました。

 

 アイディール神国での黒神の復讐をする瞬間から始まり、僕達と黒神との会話、そして黒神との闘いとその決着、そして十年前の黒神とデュランの会話が流れた後。

 ヘルトが異空間へ連れて行かれるまでの闘い、ヘルトがいない状態で大樹ユグドラシルを守ろうとルイス達が奮闘(ふんとう)する光景、異空間に連れていかれたヘルトと大魔王達の闘い、この二つの闘いをデュランと僕が終わらせた光景、そしてデュランが暴走する竜穴へと飛び込んでその暴走が収まっていく光景。

 これら全ての映像が音声付きで世界中の国々で流れて大混乱が()こったが、映像を目にして大樹ユグドラシルでの闘いへ援軍(えんぐん)として()けつけてくれた神聖プライド王国の王様がしてくれた演説(えんぜつ)のおかげで混乱による被害は最小限で()んだ。

 

 それから一ヶ月の間。僕達はルイスさんのスミス王国で(さわ)ぎが沈静(ちんせい)()するまでお世話になりながらデュランが帰ってくるのを待っていたけど、デュランが戻ってくることはなかった。

 それでもどこかできっと生きているはずだと信じて家族でスミス王国を旅立ち、世界中の国々や竜穴を回ってデュランを探し続けても見つからず。気が付けばデュランがいなくなってから半年が経っていた。

 もしかしたらデュランはもう死んでいるんじゃないかとこの頃には思い始めていたけど、それでも(あき)めきれなかった僕はデュランを探し続けて――ある竜穴でボロボロになった彼の上着を発見した。

 

 それを見つけた僕はもうデュランに会えないのだと悟って一晩中泣きじゃくり、たくさんのことを後悔した。

 その中でも一番後悔したのはデュランに愛しているとちゃんと言っていなかったことだ

 いつも()ずかしくて面と向かって大好きなんて言えなかったけど――こんなことになるのなら大好きって、きちんと言っておけばよかった。

 

 

 

 

 

 

(となり)(すわ)ってもよろしいでしょうか?」

 

「えっ、あ、はい。大丈夫ですよ」

 

【挿絵表示】

 

 僕はベルメーアの浜辺(はまべ)にあるベンチへと座ってボーとしていたが、木製の杖を()いているお兄さんからそう声をかけられて気のない返事をした後。

 ベンチの真ん中へ僕が座っているから杖のお兄さんが座れないのだと気が付いて少し(あわ)ながら(はし)によると、お兄さんは苦笑しながらベンチへと(こし)かけた。

 

「どうやら(おどろ)かせてしまったようで、もう少し気を遣えばよかったですね。すいません」

 

「と、とんでもないです。僕の方こそベンチを占領(せんりょう)してご迷惑(めいわく)でしたよね、本当にごめんなさい」

 

 僕がそうして誠心(せいしん)誠意(せいい)謝罪(しゃざい)すると、何故かお兄さんは(おお)袈裟(げさ)に首を振った。

 

「迷惑だなんてとんでもないッ!! 私は正直貴女(あなた)のあまりの美しさに少しの間()()れていしまっていたくらいですから――まるで一枚の絵画(かいが)のようでした」

 

「アハハッ――ありがとうございます」

 

 僕のことをストレートに()めるお兄さんの姿はまるでいつものデュランのようで少し悲しくなり、涙が出そうになったが。

 お兄さんの前で泣くわけにはいかないと服の(そで)で目を(ぬぐ)い、褒めてくれたお兄さんへお礼を伝えた。

 

「そう言えばどうして貴女のような綺麗(きれい)な人が、こんな所で(もの)(おも)いにふけっていたのですか? いや、答えたくないのであれば答えなくても大丈夫ですよ。

 ――ただ気になっただけですから」

 

「そうですね……では少しの間、お話ししても大丈夫でしょうか?」

 

「えぇ、大丈夫ですよ」

 

 僕はお兄さんの返事を聞くとデュランとの出会いから話し始め、デュランはとてもメチャクチャな人で僕の暗くて苦しい人生を光り(かが)くものへ変えてしまった大好きな人だと言った後。

 エルフ族の里で結婚してから一緒に旅をしながら様々な場所で人助けをしたことを言い、最期はこの世界を救って死んでしまったことを伝えた。

 

「……立派な人だったんですね、そのデュランって人は」

 

「うん、僕の大好きな人。自分勝手で、優しくて――そんなデュランと一緒(いっしょ)だったから楽しかった」

 

「お(じょう)さんッ――泣いて」

 

「えっ」

 

 僕はお兄さんからそう言われたことでようやく目から()めどなく涙があふれ出していることに気が付いた。

 なんとか止めようと袖で拭い続けたが涙は一向(いっこう)に止まらず、服の袖が涙で変色(へんしょく)してしまった。

 

「こ゛め゛ん゛な゛さ゛い゛、お゛に゛い゛さ゛ん゛」

 

「……」

 

 どうしても涙を止めることのできない僕はお兄さんへ必死に謝ったが、お兄さんはそんな僕の姿を見つめながら頭をかいた後。

 

「――あぁ、もう()めだ()めだ。アリスを泣かせるなんて、何をやってんだ俺は(・・)

 

 そう言いながら頭に片手を置いてから、そのまま上に引っ(・・・・・・・・)張った(・・・)

 

【挿絵表示】

 

「あぁ、そのアリス。(だま)したような形になってごめ――」

 

「――デュランッ!!!」

 

「――イタァッ!??」

 

 僕は一瞬固まってからお兄さんの正体がデュランだったことに気が付くとそのまま抱きつき、デュランをベンチの上へと押し倒した。

 するとデュランが痛そうな声を上げたので、慌てて離れた。

 

「ご、ごめん。だ、大丈夫……デュラン」

 

「だ、だだ、大丈夫だからそんな顔すんなアリス。アリスを泣かせたことを思えば、こんな痛みはなんてことないから」

 

「――やっぱりどこか痛むんじゃない! 今すぐ治療するからそこで待ってて!!」

 

 僕はそう言いながら急いでデュランの所へ行こうとしたが、デュランは何故かかなり慌てながら両手を前に突き出して制止(せいし)した。

 

「……アリス、俺の魂はもうボロボロでさ。闇属性どころか光属性での治療も今はできないんだ、ごめんな」

 

「どうして、そんな」

 

 僕はデュランの話した内容に絶句(ぜっく)していると、デュランは(ふる)える体で杖を持ち上げた後。あの暴走する竜穴の中で何があったのか、僕に教えてくれた。

 

「――竜穴に飛び込んだ後、俺は竜穴を汚染していた百足(むかで)の化け物を倒して竜穴を浄化しようとしたんだが。

 汚染が予想以上に深刻(しんこく)で普通のやり方じゃ間に合わないと判断した俺は自分の体をフィルター()わりにすることでなんとか浄化を終わらせたが、流石にもう限界で動けなくてな。竜脈(りゅうみゃく)の中を流されて海底の竜穴から放り出されたんだ」

 

「それで、どうなったの」

 

 僕がそう聞くとデュランは僕の頭を優しくなでた後、続きを話し始めた。

 

「これはもう死んだって正直思ったんだが、天晴(てんせい)に助けられてなんとか近くの無人島へ辿り着くことができたんだ。それからいつものように魔力で体を治そうとしたら激痛が走ってな。

 天晴に見てもらったらもう魂が傷つきすぎていて魔力を使うのは止めた方がいいと言われてな、この半年間。体が治るまで無人島で暮らしてたんだ」

 

「……体は治ったの」

 

「あぁ、ただ無茶しすぎたのか手足がこんな状態でな。こんな姿をアリス達に見せたくなかったから天晴にこのマスクを創ってもらって別人として会いに来たんだ。

 ……本当にごめんな、騙したような形になって」

 

 デュランはそう言いながら頭を深々と下げていたけど、僕は生きて帰ってきてくれただけで嬉しいとデュランに伝えてから覚悟を決めた。

 

「デュラン、僕ずっと君に言いたくて、でも言えなかったことがあるんだ」

 

「うんっ、何を?」

 

 不思議そうにこちらを見ているデュランの方を見ながら僕は全力で叫んだ。

 

「――デュラン大好き!! 愛してる!!!」

 

 叫んでから僕は赤くなった顔を隠すためにデュランのお腹へ全力で抱きついた。

 デュランは目を丸くして少しの間固まった後、笑みを浮べて「俺もだアリス、愛してる」そう言ってから僕を抱きしめた。

 ――デュラン、おかえりなさい。 



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魔人

「デュラン、貴方が生きていられるのは後十年が限界よ。死ぬまでの間に何をするか、今のうちに考えておきなさい」

 

「やっぱりそんくらいか。ヴィンデ、見てくれてありがとう。

 それと死ぬまでに何をするかはもう決めてあるんだ、少し話を聞いてもらってもいいか」

 

「……いいわよ」

 

 デュランは自身でも恐らく十年以上は生きられないと思っていたのでヴィンデの言葉を素直に受け取り、十年という短い時間の中で何を残すのか(・・・・・・)ヴインデヘと()げた。

 するとヴィンデは目を見開いて一瞬固まったがすぐに立ち直り「デュランらしいわね、そんなものを残そうとするなんて。きっとアリス達もその話を聞いたらあっと(おどろ)くわよ」と言ってから外で待っているアリス達を呼びに行った。

 

「デュラン!! 体は大丈夫だった!!!」

 

「あぁ、どうやら安静(あんせい)にしてれば一月ほどで(つえ)がなくても歩けるようになるそうだ。

 ただ、俺が生きていられるのは後十年が限界らしい。あれだけの無茶をやったんだから寿命が十年も残ったのは運がよかった。

 ……アリス、泣かないでくれ。俺はアリスの泣き顔も好きだけど一番好きな表情は笑顔なんだ、だから最期(さいご)までアリスには笑顔で俺のことを見送って欲しいんだ。

 ――ごめんなアリス、愛してる」

 

「――うん。僕も、愛してる」

 

 デュランがそう言うとアリスは服の(そで)涙を()いてからそう短く返事をすると、デュランの体を強く抱きしめた。

 アリスと一緒に部屋へ入ってきていたヘルトはそんなデュラン達の姿を目にすると一筋の涙を流してそれを拭ってから、意味が分かっていないステラを連れて部屋の外へ出て行った。……どうやら気を(つか)わせてしまったようだ。

 

「なあ、アリス。今日は騎乗位(きじょうい)でアリスが攻めてくれないか、俺自身じゃろくに体を動かせないから」

 

「ぼ、僕がデュランの上に乗るってことl? 僕、そんなことやったことないし、できる自信がないよぉ……」

 

「大丈夫、俺も手伝うから一緒に頑張(がんば)ろう」

 

 デュランはそうしてアリスを説得した後、(はだか)になるとベッドへ寝転んでアリスが攻めてくるのを待っていたが。

 アリスはもう(すで)勃起(ぼっき)して臨戦態勢(りんせんたいせい)(ととの)えているちんこを見ながら(やす)(うけ)け合いしたかも知れないと、少し後悔していた。

 

「……でゅ、デュラン、やっぱり半年間もしてないから()まってるの?」

 

「うん、溜まってる。そう言うアリスはどうなんだ、浮気(うわき)とかして溜まってないのなら相手を殺すから。しっかり言ってくれ」

 

「僕も溜まってるけど、デュランほどじゃないよ」

 

 浮気を(うたが)われたアリスは少し面白くなさそうに(ほお)(ふく)らませていたが、その場で着物とオムツを(・・・・)()ぎ捨ててからビショビショ(・・・・・・)()れているオムツをデュランへ()(わた)した。

 デュランはそのオムツを少しの間(なが)めた後、ニヤリと笑いながら「オムツを一日中()けているなんてまるで赤ちゃんだな、俺が毎日オムツを()えてあげようか?」と言った。

 アリスはその言葉を聴くと顔を真っ赤に()め上げてからデュランの上へ乗ってちんこに狙いをつけた後、「デュランが僕の体をそんな風に開発したんだろうガァッ!!!」と(さけ)ながら思い切り(こし)を振り下ろした。

 

「えっ、なんで」

 

 するとデュランのちんこはアリスの体の中へと吸い込まれていったが、アリスが覚悟していたような気持ちよさは感じず。目をぱちくりとさせて戸惑(とまど)っていると。

 デュランが悪魔のように(ゆが)んだ笑みを浮べているのが視界へ入ったことで嫌な予感がし、(あわ)ててちんこを抜くために立ち上がろうとしたが。

 途中で腰が抜けてしまい――もう一度ちんこがアリスの体へと突き刺さった。

 

「あ、れ」

 

 アリスは少しの間きょとんした顔で固まっていたが、この時ようやく己の体が小刻(こきざ)みに(ふる)えていることに気が付いた。

 そして快感(かいかん)を感じなかったのではなく、感じすぎて脳が(・・・・・・・)感覚を麻痺させて(・・・・・・・・)いたのだと(・・・・・)理解したが。もう遅かった。

 

「デュラ、ン……たす、け」

 

「ヤ~だよ♡」

 

 アリスはデュランに助けを求めたが、とてもいい笑顔でデュランは(こと)ると。下からアリスの体を突き上げ始めた。

 その次の瞬間。脳で止められていた快感が――アリスの全身を()(めぐ)った。

 

「ほんぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛アアアァァァッ~~~~~~~~♡♡♡♡♡♡♡♡!!!!!!!!」

 

 アリスの体はメチャクチャに(あば)れながら快感から逃れようとしていますが、デュランは今出せる全力でアリスの腰を押さえながら突き上げ続けており。当分アリスを絶頂地獄にいさせるつもりのようだ。

 ……女性の絶頂(ぜっちょう)は男性の一過性(いっかせい)の絶頂とは違い、行為(こうい)()めなければいつまでも続きます。優しい男性の諸君(しょくん)は必ず女性を休ませるようにしましょう。

 

 それから丸一日(おか)され続けたアリスは「デュランの、(うそ)つき」と後でデュランに抗議(こうぎ)しましたが、火事場(かじば)馬鹿力(ばかぢから)だと言われてしまい。反論が思いつかず、ふて寝するのでした。

 

 

 

 

 

 

 

「ここがウィンクルム連邦国の跡地か、本当にバカでかいクレーターがあるだけだな――うん?」

 

【挿絵表示】

 

 デュランはアリス達に己が死ぬ前にやりたいことを伝えてみると賛成(さんせい)してもらうことができたので、創る場所の候補の一つであるウィンクルム連邦国の跡地へと家族全員で来ていた。

 そして巨大なクレーターを眺めていたデュランは何か違和感を感じ、少し真剣に気配を探ってみたが何も感じなかった。

 

「ヘルト、何か違和感があるんだが。分かるか?」

 

「……何かクレーターの中から感じます、父上」

 

 デュランは自分の感覚がバカになっている可能性もあると判断し、ヘルトへ(たず)ねてみるとクレーターの中から何かを感じると言ったため。クレーターの中へ入ることを決めた。

 ウィンクルム連邦国に落とされた核ミサイルはラドン222を使った物なので三十年経った今はもう安全だろうが念には念をと、アリスに前アイディール神国へ行くときに使った放射線(ほうしゃせん)(はじ)障壁(しょうへき)を張ってもらい。

 クレーター内部へと突撃しようとしたが家族全員から止められたので、仕方なくヘルトに偵察(ていさつ)をお願いした。

 

「――父上! クレーターの中に街があります!!」

 

「何ッ!? 本当かッ!! それじゃあ全員で見に行こう!!!」

 

 デュランはその言葉を聴くとそう言ったが、(けわ)しい顔をしたアリスが無言で首を振った。

 

「ダメ、デュランはステラと留守番(るすばん)。ヘルトはデュラン達の護衛(ごえい)をお願いね」

 

「そんな~、そりゃないよアリス……」

 

「ッ!?? ――そんな顔してもダメな物はダメッ!! ヴィンデ様、一緒に行きましょう!!!」

 

 アリスは捨てられた子犬のような顔で自身を見てくるデュランに一瞬負けそうになったが、なんとか持ち直してヴィンデと二人でクレーターの中へと進んでいった。

 

【挿絵表示】

 

 するとクレーターの中にはかなり大規模な街が存在していて驚いたが予想外の事態はもう慣れっこなので冷静に視力を強化し、暮らしているのが誰なのか見てみると――なんと魔王達だった。

 

「えぇッ!? ヴィンデ様!! ここに住んでいるのは全員が魔王です!!!」

 

「大樹にきた人型の数が少なかったからどこかにいるとは思っていたけど、まさかこんな所にいたとはねぇ。

 私が姿を見えなくするから、しばらく近くで観察してみましょう」

 

 それからしばらくの間暮らしている魔王達を観察してみると、まるで人間のように暮らしている魔王達の姿ばかりを見つけてしまい。

 魔王=危険な存在という前提(ぜんてい)条件がガラガラと音を立てて崩れていくのを感じてアリスは頭が痛くなったが。

 話の通じそうな相手なら偏見(へんけん)の目で見てはいけないと自身へ言い聞かせ、アリスの分の魔法だけを解除してもらい。蝙蝠(こうもり)の羽を背中から生やしている少女に話しかけた。

 

「……あ、あの。お話ししても、いいでしょうか?」

 

「えっ……せ、聖女様!?? も、もしかして、ぼ、ボク達を殺しにきたんですかッ!!! ボクの命は取ってもいいので他のみんなの命は取らないで下さい!!!!  お願いします!!!!!

 みんなボクの友達なんです――本当にお願いしますッッッ!!!!!!!!」

 

【挿絵表示】

 

 アリスの顔を見つめて少しの間固まっていた少女はアリスの正体を理解するとすぐに石造りの道の上で土下座(どげざ)し、仲間の命乞(いのちご)いを始めた。

 アリスはなんとか少女を落ち着かせようとしたが混乱の()只中(ただなか)の少女を落ち着かせることはできず、周囲の魔王達も集まってきて大騒(おおさわ)ぎになってしまうのでした。

 

 こうして長い付き合いになる魔人(まじん)の少女ルビーと出会ったアリスは、魔王(あらた)め魔人達が自身を取り囲んでいる光景へ冷や汗を流していましたが。必死の説得でこの場を(おさ)めることに成功するのでした。



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建国

「……つまり、君達は魔物から魔王に進化したけど。もうそれ以上誰かの命を(うば)いたくなくて黒神へ直談判(じかだんぱん)したら、それを許された魔王達の集まりってことでいいのかな」

 

「は、はい、そうです。先程はボクの勘違いで迷惑をかけてしまいました、すいません。

 ボクの名前はルビー、蝙蝠(こうもり)の魔物が進化した吸血鬼という種族です。

 それと聖女様達はスピネルおじさんと闘ったんですよね? どんな感じの最後を迎えたか、教えてもらってもいいでしょうか??」

 

「……スピネルおじさん? よく分からないから、もう少しどんな感じの人なのか説明して」

 

 アリスはなんとか落ち着かせることができた吸血鬼の少女ルビーから話を聞いておおよその事態をはあくしたが、この魔王達はもう普通の人間と言っても過言(かごん)ではない存在であり。どうするか一人では判断できなかった。

 そのためデュランを呼びに行こうか悩んでいるとスピネルおじさんという謎の人物が話に出て来て詳しく話すようお願いして話を聞いてみると、あの時ベルメーアで自身を誘拐(ゆうかい)した魔王の名前であることが分かり。ヴィンデ様へ目配せで合図をしてデュラン達を呼んできてもらうことにした。

 そしてデュランが到着してスピネルおじさんの最期について()くとデュランは困った顔をした後、あの時は誘拐されたアリスを助けるため急いでいたからあまり詳しく覚えてないがそれでもいいかと言ってきたのでそれで大丈夫だと返事すると。あの時のことをデュランは語り始めた。

 

「――アリスが誘拐されて焦っていた俺は天下無双を使ってからそのスピネルってやつの実体を斬った。

 その後はアリスの居場所を探ってる時に『バカ、な。そんなバカな! ありえな――あぁ』っていいながら灰になったのは見ていたが、そいつがいた場所にこのロケットペンダントがあったくらいだな。

 最後の最後まで握りしめていたようだったから一応回収しといたんだ、お前にやるよルビー」

 

「……スピネルおじさん」

 

【挿絵表示】

 

 デュランが渡したロケットペンダントには笑うルビーの写真が入っており、写真を外して裏側を見てみると『幸せになってくれルビー、愛している』と自身への短い愛の言葉が書いてるのを目にしたルビーはポロポロ静かに涙を流し続けた後。

 ロケットペンダントを両手で大事そう抱え込みながらデュランへ『ありがとうございました剣神様、このペンダントを持ち帰ってくれたことを感謝します』そう言いながらしっかりと頭を下げた。

 

「……いいのか俺に頭を下げて、俺が殺さなければそのスピネルおじさんはまだ生きていたかも知れないんだぞ? 復讐(ふくしゅう)したいとは思わないのか、今の俺は抵抗することすらできないぞ??」

 

いいえ(・・・)、剣神様を恨む気持ちがあるのは事実ですが。あくまでも加害者(かがいしゃ)は我々吸血鬼なのです、それを(たな)に上げて復讐することなどボクにはできません。

 ――それに願われましたから」

 

「……何を」

 

「ボクが幸せに生きることを、なのでボクはこの復讐心も愛も一生抱えて生きていこうと思います。

 死人であるボクがどれだけ生きるのか分かりませんけど、スピネルおじさんの分まで」

 

 デュランはそう言いながら真っ直ぐこちらを見てくるルビーの姿があの時のアリスを重なって少しの間笑った後、ルビーへ「なあ、ルビー。お前、俺が創ろうとしている国の住人第一号にならないか」そう言ってから手を伸ばした。

 

「――えぇッ!? なんでかつての敵であるスピネルおじさんと関係があるボクを(さそ)うんですか!!? 後で気が変わって寝首(ねくび)()かれるかも知れないんですよ!!!! 分かってるんですかッ!!!!」

 

「それでいいんだよ、俺が創ろうとしている国は差別が存在しない! 誰もが幸せに生きることができる国だ!! だからこそルビーのような人間が(・・・)俺の国には必要なんだ。

 多くの痛みを抱えているだろう人々が耐え忍び、それでも手を取り合ってよりよい国にしていく。それが俺が創ろうとしている国だッ!!!」

 

「誰もが、幸せに生きることが、出来る国……剣神様、ボク。決めました」

 

 ルビーはデュランの話を耳にすると目を見開きながら少しの間考え込んでいたが、スピネルおじさんの愛の言葉が視界へ入ると決断を下した。

 そしてデュランの足下へ(ひざまず)きながら心臓へ手を当て「王様(・・)、ボクの命。ご自由にお使いください」そう言うと、デュランは天晴を抜いてとルビーの肩へ天晴の(みね)を乗せてから「ルビーの忠誠(ちゅうせい)を受け取る、これからは我が臣下(しんか)として(はげ)め」そう返した。

 

 こうして一人目の国民(けん)臣下であるルビーを手に入れたデュランは他の住民も国民か臣下のどちらかで手に入れた後、全員でウィンクルム連邦国跡地の開発を一から始め。三年後には魔王(まおう)から()人族(じんぞく)と名前を変えた彼らの協力のおかげでデュランの国を建国することが出来た。

 国の名前は黒神の国であるウィンクルム連邦国の名前を借りることにし、ウィンクルム連合王国と名付けた。

 そしてそれからも活動を続けたデュランは魔人族達を正式に十四番目の種族として世界へ認めさせることに成功し、その影響で世界中から様々な多種族が集まった。

 

 そうして残り(わず)かな人生を精一杯生き抜いたデュランは建国から七年後の現在、立っていることすらも出来なくなり。ベッドの住人となっていた。

 

 

 

 

 

「王様、お薬です。()んでください」

 

「止めてくれ、ルビー。一日中寝ている俺はもう王様ではない、今の王様はヘルトだ。

 俺の看病はいいからヘルトの仕事を手伝ってやってくれ」

 

 ルビーはデュランがそう言うと無言で首を振った。

 

「これは王太后(おうたいごう)様から命令されて王妃様とヘルト様にお願いされた正式な任務です、デュラン様の命を狙う者達から貴方を守る護衛(ごえい)()ねています」

 

「今更こんな半死人を狙うやつがいる分けねぇだろ、相変わらず過保護(かほご)だな。アリスは」

 

 ルビーはデュランがそうぼやくのを耳にすると「王様、貴方は自分の影響力を忘れてしまってるんですか? これは頭も診察しなければいけないかも知れませんね」そう辛辣(しんらつ)な言葉を吐き出してくる。

 デュランはヴィンデに()てきやがったと思いながらため息は吐き、理解していることをルビーへ伝えた。

 

「本当に理解しているのですか? 種族間戦争を終わらせて世界存亡の危機も救ってしまわれた救世主である剣神様??」

 

「……少なくとも俺はアリスと出会わなければそうしてはいなかっただろうよ、それは家族のついでで(・・・・・・・)助けられたお前らが(・・・・・・・・・)一番分かっていることだろう?」

 

「そうですね、いつも救世主だと言われると()(かく)しにそう言っていることはよ~~く知っていますとも。ボクは貴方の臣下ですから」

 

 デュランはそうして痛い所を突かれたためなんとか反論しようとしていると口から血を吐き出して意識がなくなっていくのを感じ、今日が己が旅立つ日だと悟るとルビーにアリス達を呼んでくるよう頼んだ。

 そして涙を流しながら飛び込んできたアリス達の姿を目にして笑顔を浮べた後、最期の力を振り(しぼ)って上半身を起こした。



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継承

「ガフッ! ――ゲホッ! ゲホッ!」

 

「デュラン! 大丈夫ッ!!」

 

 デュランは部屋に入ってきたアリスが魔法で治療を(ほどこ)すために近付いてくるのを手で制した。

 するとアリスは一瞬驚愕(きょうがく)の表情でこちらを見たかと思うと、大粒の涙を流しながらその場にへたり込んだ。

 母親であるヴィンデや最愛の家族であるアリスとステラ、息子であるヘルトの奥さんになってくれた杏香(きょうか)、そして十年間臣下として助けてくれたルビーに感謝の言葉を伝えた後。

 泣きそうな顔でこちらを見ているヘルトの頭をもうあまり力が入らない手でなでた。

 

「……死ぬのですか父上」

 

「……あぁ。魔力を周囲から取り込んでも次の瞬間にはごっそりと抜けていきやがる、どうやら今日が寿命(じゅみょう)みたいだ」

 

【挿絵表示】

 

 ヘルトは顔を(ゆが)めて息を()んだ後、一筋の涙を流しながら無言でデュランの隣へと腰を下ろした。

 デュランはヘルトが取り乱していないのを確認すると、寝床の近くに置いておいた天晴(相棒)を手に持った。

 

「これは俺が光竜ライオードからもらった砂鉄の鉱床《こうしょう》とへし折った光竜ライオードの爪を使ってドワーフ族の鍛冶師であるアルムが鍛錬(たんれん)して作り上げた俺の刀――天晴(てんせい)だ。

 そしてこれからは剣神の名を受け()ぐお前の(相棒)となる、じゃじゃ馬だから扱いに困るかもしれんが。

 俺の知る限り最強の剣だ、必ずお前の助けになってくれる」

 

「父上ッ! これは――――」

 

「すまないな、これから剣神として生きていくお前へ死ぬ前に何か物を送ろうと考え抜いたのだが。

 ……俺にはこれくらいしか思いつかなかった」

 

 デュランはヘルトに天晴を手渡すと重荷を背負わせることになるのを承知で剣神の称号を引き継がせた。

 なぜならデュラン亡き後の世に平和の象徴となる剣神の名を継ぐものがいなければ未だに遺恨(いこん)を残す者達が再び戦争を起こし、第二第三の黒神を生んでしまうのが分かり切っていたからだ。

 それでも一人の親として子供へ危険な役目を残してしまうことが心配だったため、デュラン以外には決して使われないとごねる天晴を必死に説得して息子であるヘルトは例外で助けてくれることになった。

 

「世界を剣神(おれ)から託されるというのに、少しも動揺(どうよう)しないか……流石は自慢の息子(ヘルト)だ。

 だからこそ、そんなお前だからこそ、俺の全てを渡せる(・・・・・・・・)――手を(にぎ)ってくれ」

 

「――はい、分かりました」

 

 デュランはこれほどの大事を任せられたにも拘わらず、凛とした表情でこちらを見ているヘルトの姿にどうしようもなく安心した。

 そして周囲から魔力その物を(・・・・・・)体の中に取り込み続け、もう限界だった魂が悲鳴(ひめい)を上げるのを無視(むし)して大量の魔力を体の中へ()め込むと。突然の自殺行為に目を見開いているヘルトの手を掴んだ。

 そのままつながる手を通じて全ての魔力をヘルトへと渡し――力尽きて倒れた。

 

「父上ッ!!?」

 

 ヘルトの悲痛(ひつう)(さけ)び声を耳にした次の瞬間、デュランの意識は煙のように薄まっていった。

 

「後は任せたぞ――二代目剣神ヘルト・ライオット」

 

 そして、ヘルトへ激励(げきれい)の言葉を伝えたのを最期(さいご)にデュランは四十五年の人生へ(まく)を下ろし――この世を去った。

 

 

 

 

 

 

 この世を去った、はずだった(・・・・・)

 永い眠りから覚めたデュランが最初に感じたのは、目に()みるほどの強烈(きょうれつ)な光と体を包む人肌の温もりだった。

 

「――アギャッ!」

 

 突然の出来事に狼狽(うろた)えながらも周囲の様子を確認しようとしたが、目を開けるどころか指一本動かすことも出来なかったため。

 周囲の確認を(あきら)めて体内へ意識を向けるとヘルトに全て渡した筈の魔力が(わず)かながらも存在し、動けこそしないが体の調子もまるで若返ったかの(・・・・・・)ようによかった(・・・・・・・)

 

「あらあら起きちゃったのね、デュランちゃん。

 もう少しでご飯だから――ちょっとだけ待っててね?」

 

「あぅっ? ――あぅッ!!?」

 

 右も左も分からない状況に少し恐怖を感じていると何故か涙があふれ出してしまい、なんとか涙を止められないかと四苦(しく)八苦(はっく)していると頭上から声が聞こえてきた。

 デュランは聞き覚えのない声の主が親し気な口調で話し掛けてきたことを不思議に思い、質問をしようと口を開いたが赤ん坊じみた(・・・・・・)うなり声しか(・・・・・・)でなかった(・・・・・)

 それが引き金となって無意識に目を()らしていた疑問が次々と浮かび、それらを整理したことで一つの答えへと辿り着いた。

 

「ご飯の時間よ、私のデュランちゃん」

 

「……ぁう」

 

【挿絵表示】

 

 ――どうやら俺は赤ん坊に生まれ変わったようだ。

 

 3204236415211492 2103240412339385 2115338592

 

 

 

 

 

 

 剣神デュラン・ライオットが死んでから数日後、ヴィンデはデュランの墓の前で殺気(さっき)()ちながらクラウンと向かい合っていた。

 

「……デュランの墓へ何をしにきたのよ、このクズ。答えによってはその頭を()ち抜くわよ」

 

「魂のない(抜け殻)しかない場所へ()が輩が出向くなど墓参り以外にないでござろうw、ヴィンデ殿は年を取り()ぎて頭がおかしくなったでござるかww。

 ――まあ確かにその後でデュラン殿の肉体を(うば)うつもりではあるでござるがなww、お墓は元に戻しておくので安心するでござるww」

 

 ヴィンデは世界をこんな風に(・・・・・・・・)した元凶が(・・・・・)何を言ったのか一瞬理解できなかったが、意味を頭が理解すると怒りで顔を赤く()め上げながらリボルバーの引き金を引いた。

 

 ――バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ

 

 しかし穴だらけにしてやったクラウンの体は(またた)く間に元へと戻り、リボルバーへ弾を再装填(さいそうてん)しようとしていたヴィンデを掴んで石床(いしどこ)に叩きつけた。

 そのまま21240432030169934504の()(しろ)である花の妖精ヴィンデを破壊(殺害)し、邪魔者(じゃまもの)がいなくなった後は墓参りをしてからデュランの遺体を取り出して歩き出した。

 

「まったくヴィンデ殿はしつこいでござるなw、そんなんだから好きな男に振り向いてもらえないんでござるよww」

 

「……どうせ、デュランはもう転生させてるんでしょ。

 なのに遺体も持って行くなんてろくでもないことに使うつもりなのは分かってる! そんなの絶対に許さない!!」

 

「――絶対に許さない(・・・・・・・)、だと」

 

 クラウンはそんなヴィンデの言葉に腹を抱えて笑った後、いつものふざけた態度を止めて真顔(まがお)でヴィンデの方へと振り返った。

 

「まるで我が輩を止められるかのようなことを言うじゃないか、剣神(けんじん)一条(いちじょう)刹那(せつな)をどんな形でもいいから助けてくれと願ったのは誰だったかなぁ――負け犬」

 

「――そ、それは」

 

「それと何か勘違いしているようだが、お前が我が輩のゲームに介入できるのはあくまでも主人公であるデュランの母親としてだけだ。

 21240432030169934504としての情報を使うことは許可していない、消えたいのならばこ(・・・・・・・・・)の場で消しても(・・・・・・・)いいのだぞ(・・・・・)?」

 

 クラウンはそうヴィンデを(おど)しながら手の平をヴィンデの方へ向けてきた。

 

【挿絵表示】

 

 ヴィンデはクラウンが本気で自身を消すつもりだと理解すると、悔しさで顔を歪めながらその場を無言で立ち去った。

 

「次のゲームできっと彼は(・・)我が輩に追いついてくる、あぁ――とても楽しみだ」

 

 ヴィンデが立ち去ったのを確認すると、クラウンはデュランの遺体を抱きしめてその(ほお)へ舌を()わせながらその場から消えた。……キモい。



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後書き+番外編のリクエスト募集板

 私の小説である変革(へんかく)剣神(けんじん)をここまで読んでくださってありがとうございます。

 実はこの変革の剣神は三部作の第二部であり、私が次の作品である再臨(さいりん)剣神(けんじん)を早く書きたくて変革の剣神はかなり話のテンポが速くなってしまったのは反省点だなとおもっております。

 

 さて校長先生のお話のようにあまり長々と自分語りをすると読者様がページを閉じてしまうかも知れないので、本題に入るのですが。

 実は次の作品である再臨の剣神も小説家になろうとハーメルンの方でまた話数をためてからカクヨムへ1月1日の18時から投稿し始めようと思っているのですが、それまでカクヨムへお話を投稿しないとカクヨムでの評価が下がってしまうのでカクヨムには変革の剣神の番外編を12月7日から毎日投稿しようと思っているのですが。

 12月7日から12月31日まで一日一話となると合計25話も必要になってしまいますので話のネタを考えるのも大変です。

 

 そこで読者の皆様から番外編のリクエストを募集したいと思いますッ!

 この時どんな会話をしたのか知りたいとか、ここでカットしたエッチ描写を詳しくとかでもいいので。軽い気持ちでリクエストしてください、募集期限は無期限です。

 ただ次のお話である再臨の剣神優先なので25話を超えたらそこから先の番外編は不定期更新になりますので、そこはご承知ください。

 それではリクエストしてやるよ! と言う優しい読者様は下記のURLからリクエスト募集のページへ飛んでください。

 

https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667988891833

 

 そしてもしよろしければ次回作である再臨の剣神も読んでくだされば幸いです。

 それではここまで読んでくれてありがとうございました!! 

 

 

 

 

 

 あ、これだと文章が少なすぎてハーメルンの文字数制限に引っかかるのでああああと入れておきます。

 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ



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番外編
出会いと別れ


 ある時。ただの蝙蝠(こうもり)汚染(おせん)された竜穴の影響(えいきょう)で一匹の魔物となり、多くの命を()らったことで魔王へと進化した。

 そして同時期に魔王となった二人と手を組んで数々の国を(ほろ)ぼし、(うま)い酒を()みながら(つか)まえた女を(おか)したり、的当てゲームと(しょう)して逃がした国民へナイフを投げて殺したりなど。様々な悪事(あくじ)を働いていたがどこか()たされず。

 何故満たされないのか分からなかったが、それでも仲間である二人と一緒に悪事を働くのはそこそこ楽しかったため。悪党として悪逆の限りを()くし続けた。

 

 そんな日々を送っていると仲間である二人からせっかく魔王へと進化したのにも関わらず、もう命を(うば)いたくないという(こし)()け共が集まる場所があるということを仲間に教えてもらい。そんな腰抜け共を笑ってやろうと思ってその魔王――スピネルはウィンクルム連邦国の跡地を訪れた。

 そうしてスピネルは跡地に住んでいる魔王達を嘲笑(あざわら)いながら見て回っていたのだが、そこで餓死(がし)しかけている吸血鬼の少女――ルビーと出会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい大丈夫かい! あっしの声が聞こえるのなら返事をしろ!! 何故魔王であるお前が餓死しかけている!!!」

 

「……ぼくは、もう、な、にも、うば、わな、い」

 

 スピネルは流石に同族である吸血鬼の少女が死ぬのは見て見ぬふり出来なかったため、道の上へ倒れている少女に話しかけたが。

 返ってきたのはよく分からないうわ(ごと)とだけであり、もう一刻の猶予(ゆうよ)もないと悟ると人族の国から(うば)った輸血パックに穴を開けてから少女の口の中へ血を流し込んだ。

 そして周囲の魔王達へ頼み込んで近くの住居に入れてもらい、少女を寝床へ寝かせると仕方なく少女が目覚めるまでワインを飲みながら待つことにした。

 

「……ここ、は」

 

「あっしが倒れていたお前に血を与えてこの建物へ運んだんだ。

 なんで餓死しかけていたのか知らねぇがな、お前さんも吸血鬼の一人なら血くらい自分で手に入れろ。落ちこぼれが」

 

 それから半日が経ち。少女が目覚めたのを見届けるとスピネルはそう()き捨てながらその場を立ち去ろうとしたが、少女がちっとも嬉しそうにしておらず。

 どちらかというと殺意(さつい)をもってスピネルを(にら)んでいることに気がついてその足を止めた。

 

「かって、なこ、とを、ぼく、は、しの、うと、して、た、ん、だ」

 

「ハァッ!? バカかお前は!! 死んだら旨い酒も飲めねぇだろうがッ!!!

 人間共の宗教にでも影響されたのかも知らねぇがな、死んだってあっしらは天界(てんかい)とやらへは行けねぇんだぞ!! この世を楽しまないでどうする!!!」

 

「そ、れ、で、も、ぼく、は」

 

 スピネルはそう言って少女を説得しようとしたが、少女の意思は固いようで自殺するのを止めさせることは出来なかった。

 スピネルは仕方なくしばらく少女と一緒に暮らすことを決め、嫌がる少女へ血を与え続けて少女が回復するまで共に()ごした。

 

「――貴方は何でボクが死のうとするのを邪魔(じゃま)するの、ほっとけばいいのに」

 

「……あっしはただ同族が(みじ)めに餓死するのが嫌なだけだ、それよりもお前。

 生き物を殺すのが嫌だったら(ぶた)でも牛でもいいから家畜(かちく)を飼って死なない程度に血を吸えばいいだろう、なんで死のうとする」

 

 そうしているとスピネルは回復した少女――ルビーから自殺の理由を聞かれて言葉に()まり、取りあえずの答えを返してから自殺しようとする理由を(たず)ねたが。

 本当は何故ルビーを助けようとしているのか、スピネル自身分からなかった。

 分からなかったがルビーと一緒にいるのは嫌いではなかったし、何よりもルビーと一緒に過ごしていると今まで満たされていなかった何かが満たされていくのを感じて悪くない気分だった。

 

「……殺したから」

 

「うん? 殺したからって、どういう」

 

「幸せそうに過ごしていた家族の命を、ボクがこの手で奪ったんだ。

 ただの蝙蝠だったと時――死にかけていたボクを助けてくれた人達を」

 

 スピネルはそんなルビーの話を聴いて絶句(ぜっく)してしまって「……その時はまだ理性のないただの魔物だったんだから、仕方ないだろ」と言うことしか出来ませんでした。

 するとルビーが無言で泣き出してしまったため、スピネルは困り果ててしまいましたが。ルビーが泣き止むまでただ一緒にいました。

 そんなルビーの姿に何か感じるものがあったのかスピネルはルビーのために人間の国から家畜を奪ってきて牧場(ぼくじょう)を作り、慣れない建築(けんちく)作業を能力でごり押して終わらせてルビーと二人で住む家まで作りました。

 そうして奇妙な共同生活を続けてルビーからスピネルおじさんと親しみを込めて呼ばれるようにまでなっていた頃、スピネルの元へしばらく会ってなかった仲間から『すぐに来てくれ』とだけ書かれた手紙が伝書鳩(でんしょばと)で届けられた。

 

 そしてルビーへ仲間に呼ばれたから行ってくるとだけ伝えて急いで仲間の元を訪れると、黒神様からデュラン・ライオットという人族の魔法を(あば)かなければ仲間達とスピネルは今まで国を滅ぼしすぎた罪で殺されることを知らされた。

 だが。自身の死よりもスピネルが恐れたのはもしスピネル達が任務に失敗した場合、吸血鬼という種族そのものが不要だと判断されて処分(しょぶん)されるという事実だった。

 もしかしたらウィンクルム連邦国の跡地で暮らしているルビーは処分を(まぬが)れる可能性があると思いたかったが、それならば種族そのものを処分するという言い方はしないだろうと。どこか冷静な部分が判断した。

 

 ――ルビーが生き残るためには、この任務を成功させるしかない。

 

 そう理解したスピネルは全てをルビーへ話してから自身が闘うことを伝えたが、ルビーからは一緒に逃げようと言われた。

 だが黒神の強さとその目的を知っていたスピネルはルビーを気絶させて他の魔王達にルビーのことを頼んでから二人で過ごした家を出るとロケットペンダントを開け、ルビーの写真を見つめてからその場を立ち去った。




 ちなみに一応書いておきますがルビー以外の吸血鬼はみんなクズばかりなので吸血鬼という種族そのものが欠陥品(けっかんひん)だと黒神は判断し、吸血鬼という種族を処分することに決めました。
 ルビーは元々特例として処分の対象から外されていましたが、スピネルの処分は決まっていたので結果は変わりませんでした。
 改心しても悪党は悪党だから仕方ないね♡


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悪党

 

【挿絵表示】

 

「両断とはやってくれるねぇ~、流石は筆頭大魔王を殺した化け物だ~ね。

 でもあっしの能力影の支配者(シャドウルーラー)は影そのものを実体とする能力、あっしを殺すのなら例の天下無双とやらを使わないと無理だね~。

 もっともそんな隙を与えるつもりはないけどねぇ」

 

 スピネルはそう言いながらも新たに創り出した(・・・・・・・・)分体(ぶんたい)を何度でも殺してしまうデュランへ恐怖を抱き、魔法なしでこれならば魔法を使わせたらベルメーアの影の中に隠れ潜んでいる自身の(かげ)を斬られてしまうかもしれないという根拠(こんきょ)のない恐怖がスピネルを支配していた。

 一応魔法を(あば)かなくてもデュランを殺せた場合でも黒神様は吸血鬼という種族は処分をしない仲間達へ約束したらしいが、目の前の剣士には切り札である影の世界(シャドウワールド)を使ったとしても対処すると確信できてしまう(すご)みがあった。

 スピネルの本能がここで逃げ出さなければ確実に殺されると全力で警鐘(けいしょう)()らし、恐らくこのままだとその通りになるとどこか冷静な部分が理解していたが。

 スピネルの悪党としての矜持(きょうじ)とルビーへの思いが、ギリギリで逃げ出そうとする己を押さえつけていた。

 

「よくさえずる蝙蝠(こうもり)だな、アリスが消えてからもう二分は経っている。

 楽に死ねると思うなよと言いたかったがもういい。貴様の言う通り、使おう」

 

「使うって例の魔法をかい、だからそんな隙は与えねぇって――グゲェッ」

 

 魔法を使うというデュランの言葉に(あせ)って不測(ふそく)事態(じたい)が起きた時のため待機させていた百体の分体を出してしまい、デュランが魔法を詠唱するための時間を(かせ)がせてしまった。

 このままだと魔法を使われてしまうと判断したスピネルは分体ではなく、魔王として全力で闘う時だけしか使わない本体を出した。

 影を何らかの方法で直接破壊でもされない限り再生できるとは言え本体が万が一破壊(殺害)されればしばらくの間は弱体化(じゃくたいか)余儀(よぎ)なくされるため出したくなかったが、魔法を使わせたら影を何らかの方法で攻撃してくると確信していたスピネルは仕方なく本体で攻撃を仕掛(しか)けた。

 

「――勝利(しょうり)だけを(ねが)うなら(つるぎ)(きば)と変わりなし、(つらぬ)(がた)(じん)(みち)(まも)()くもの(ひと)という」

 

「あっしらよりもあんたの方が化け物じみてるねぇ~、でも魔法は使わせないよ~」

 

 しかしデュランは棍棒(こんぼう)へ蹴りを入れて動きを止めると、そのまま棍棒を踏み台にして天高く跳躍(ちょうやく)してしまった。

 まるで(きわ)まった曲芸(きょくげい)()のサーカスでも見ているかのような気分になったスピネルは思わず本音を()らし、改めてデュランの底知れぬ実力を感じて冷や汗を流したが。

 棍棒を武器として使っているのは相手を吹き飛ばすことが(・・・・・・・・)できる武器だからである。

 そうして吹き飛んだ敵を切り札である影の世界(シャドウワールド)で攻撃するのがスピネルの必勝パターンの一つだった。

 デュランに通じるかは分からなかったが、空へ逃れたのならばもしかしたら殺せるかもしれないとスピネルは思った。

 

()()無辜(むこ)(たみ)がため、(つるぎ)となりて(てき)()つ 」

 

「影から距離を取ろうったって無駄なんだよねぇ~、影の世界(シャドウワールド)!! 串刺(くしざ)しになっちゃいなよぉッ!!!」

 

 影の世界(シャドウワールド)は影から影へ槍などの武器を移動させることでどんどんと武器を加速させ、最後には殺人的な加速をした武器を影から放って相手を攻撃する切り札であり。今までこの攻撃で死ななかった相手はいなかった。

 しかし――

 

「ただ一筋(ひとすじ)閃光(せんこう)を、(おそ)れぬのなら()るがいい――天下無双(てんかむそう)

 

 ――剣神と化したデュランを殺すには、いささか速度が足りていなかった。

 

 スピネルは放った武器全てが同時に切断された光景を視界へ入れると魔法を使ったデュランを殺すのは不可能だと理解し、すぐに逃げ出そうとしたが体が動かず。自身の体へ視線を向けたことで本体も両断されていることに気が付いた。

 それでも本体が斬られても再生できるためスピネルはなんとか生き残れたと笑みを浮かべ、ルビーの元へ帰ったら何をしようかと考えたところで――絶対に攻撃されては(・・・・・・・・・)ならない影も斬られて(・・・・・・・・・・)いるのを(・・・・)理解して青ざめた。

 

「バカ、な。そんなバカな! ありえな――あぁ」

 

 スピネルはなんとか影を元へ戻そうとしたがどうすることもできずに絶望した。

 

 そしてこの時になってようやくスピネルは今まで殺してきた者達がまだ死にたくないと言っていた気持ちが分かり、今までの自分自身がどれほど(ひど)いことをしてきたのか分かった。

 だがどれほど後悔したところで過去には戻れないし、やったことは変えられない。

 だったらせめてルビーへの思いをこの世に残して死にたいと思い、ルビーの写真の裏側へメッセージを残した。

 

 ――あっしはたくさん人を殺した悪党だけどよ、ルビーお前は違う。だからお願いだ、幸せになってくれ。

 

 スピネルは最期にもっと早くルビーと出会いたかったと、一筋の涙を流しながら死んだ。



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昔話

「えっ――ボクとスピネルおじさんの話を聴きたい、ですか? どうしたんです、急に??」

 

「いや、俺が殺した人間の(・・・)ことくらい知っとくべきかと思ってな。もう最近はヘルトがほとんどの業務こなしてて(ひま)だろ?

 それにもう俺はいつ死んでもおかしくないし、臣下(しんか)であるルビーのたった一人の家族(・・・・・・・・・)なんだろ(・・・・)。だったら話くらい聴かせてくれ」

 

 デュランはそう言いながらも王としてやらないといけない書類とかもう俺ほとんどやってないからヘルトが実質(じっしつ)的な王だし、ルビーと出会った九年前に聴いとくべきだったろ。などの様々なことを思いながらルビーが話し始めるのを待った。

 

「……王様って。普段(ふだん)(しゃ)(かま)えた言動してる(くせ)に、無駄(むだ)責任感(せきにんかん)強いですよね」

 

「……うるせぇな」

 

 デュランはルビーに痛いところを()かれてなんとか反論したかったが、これからデリケートな話題を聴こうとしているのだからと己へ言い聞かせて押し(だま)った。

 するとルビーは何故か笑顔になりながらスピネルおじさんとの日々を話し始めた。

 

「そうですねぇ、じゃあまずはボクが自殺しようとしていたことから話始めないとですね」

 

「いきなりえげつねぇ所から話すな、まあいいが。それで、何で自殺しようとしてたんだ」

 

「まあ、簡単に言うとボク食い殺しちゃったんですよ。死にかけてたボクを助けてくれた家族を」

 

「……マジでえげつねぇな、ルビーの過去。お前よくそこから人間になれたな」

 

 デュランは思った以上に重い話題(わだい)飛び出してきて(おどろ)きながらも、目の前で話しているルビーは元々ただの魔物だったのだ思えばありえる話だと納得(なっとく)した。

 そして軽口を叩きつつ思ったことを正直に言うとルビーは「エヘヘッ、スピネルおじさんのお(かげ)です!!」と言いながら()い胸を()った。

 ……もう死んでいるから一生成長しないと思うと、かなり可哀(かわい)そうである。

 

「それでボク自殺しようとしたんですけど、吸血鬼(きゅうけつき)ってかなり再生力がすごい種族で中々死ねなかったんです。

 そこで餓死(がし)しようとしていたボクを助けたのが通りかかったスピネルおじさんでした」

 

「ほ~ん、じゃあ自殺するのは止めにしたのか?」

 

「いえ、それからも自殺しようとしましたよ?」

 

「――なんでだよっ!?」

 

 デュランはてっきりそこで自殺を止めて家族になると思ったためつい突っ込んでしまい、ルビーから「いや、冷静に考えて欲しいんですけど。助けてくれたからってすぐ家族になる訳ないでしょ?」と言われた。

 俺とアリスはすぐに家族になったぞッ! と言おうかと思ったとが、よくよく考えたらデュラン達の方が世間一般では普通じゃなかったと目を反らし。ルビーはそんなデュランの行動を不思議がりながらも話を続けた。

 

「それからも自殺の邪魔(じゃま)をされ続けて我慢(がまん)の限界だった僕は業火(ごうか)なることが(・・・・・)できたので、それで攻撃したんですが影を支配するスピネルおじさんには通じませんでした。

 それでたくさんのスピネルおじさんに血を飲まされ続けて自殺は一旦(いったん)(あきら)めて、自殺の邪魔をする理由を()いたら『ただ同族が惨みじめに餓死するのが嫌なだけだ』って言われました。ちょっと(ひど)い理由だと思いません」

 

「……そうだな」

 

「そうですよね! 酷いですよね!!」

 

 ルビーの話を聴いたデュランは恐らくもっと別の理由があったんじゃないかと思ったが、今となっては本当の話を知りようもないためルビーに話を合わせて(うなず)いた。

 そうしているとルビーは「ただその後、スピネルおじさんがそんなボクのせいじゃないってくれて(うれ)しかった。だから、生きようと思った」と自殺を止めた理由を語った。

 

「それからはスピネルおじさんがボクのために牧場(ぼくじょう)や家を作ったりしてくれて、一緒に()ごしていたらスピネルおじさんがのことを家族だと思うようになっていた。って感じですかね」

 

「そうか……話してくれてありがとう。これからもよろしく頼む、ルビー」

 

「はいっ! 王様!!」

 

 デュランはこんな純粋(じゅんすい)なルビーをたぶらかした俺は、天界(てんかい)へはいけないだろうなと思いながら仕事に戻った。



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お姫様

「僕は何をされてもお前なんかに(くっし)しないぞッ!!」

 

生意気(なまいき)なお姫様だな、だがそんなお前を()とすことなど造作(ぞうさ)もない。

 その強気な顔が快楽(かいらく)(ゆが)むのが楽しみだ」

 

「やれるものならやってみろッ!! ――なっ!?」

 

 完璧(かんぺき)にエルフ族の姫へとなりきっているアリスは人族の王として自身の体を押さえつけているデュランを(にら)みつけながらそう言いましたが、目にも止まらぬ速さで服を()がされたかと思えば(しば)り上げられて()ずかしい体勢(たいせい)のまま固定されてしまいました。

 アリスはなんとか体を縛るロープから逃れようと体を動かしてもがいているとロープが体へと食い込み、どんどんと気持ちよくなっていきます。

 

「な、なん、で――ンアァッ!??」

 

「そのロープは抜け出ようともがくほど体に深く食い込んでいく、お前は自分で自分の体を攻めているのと変わらない。

 更にこうして視界を(ふさ)いでしまえばお前はもう逃れることはできん」

 

「や、()め~~~~ッ♡♡♡♡!!!!!!」

 

 アリスは()(かく)しをしようとするデュランを涙目で静止(せいし)したが聞き入れてはもらえず、視界が真っ暗へなったのと同時に感じる快感が倍増(ばいぞう)し。一瞬気絶していましたがデュランがお腹を叩いたことで目を覚ましました。

 そのままデュランが耳元で「負けを認めるのなら、優しくしてやるぞ?」とささやいてきましたが今のアリスはエルフ族のお姫様、そう簡単には負けを認めず「ね、寝言は、寝てから、言えば」とデュランを挑発してそこから(おか)され続けたことで心を徹底的(てっていてき)()られましたが。

 それでも負けを認めずに涙を流しながら攻めに()えていると、デュランは突然動きを止めてアリスを解放しました。

 

「な、なんで」

 

「お姫様があまりにも負けを認めないんで攻め方を変えようと思ってな――ここからは本気で(こわ)しに行くから覚悟しろよ」

 

 それからアリスは体をいじられましたけど絶頂はさせてもらえず、切ない気持ちで胸がいっぱいになってデュランへ犯してくださいとひたすらに懇願(こんがん)しましたが負けを認めなかったので犯してはくれませんでした。

 そのまま体をいじられ続けたアリスは最後には負けを認めました。

 

「うんっ、今何か言ったか?」

 

「――もうボクの負けです!! なんでもするので犯してくださいッ!!」

 

「ほう、なんでもすると(・・・・・・・)。じゃあ今すぐ絶頂しろ(・・・・・・・)

 

「そ、そんなことできるわ――ッ!??」

 

 アリスは目隠しをされたままデュランへ頭を下げてそう(さけ)びましたが今すぐ絶頂しろと言われ、そんなことできるわけないと言おうとしましたがデュランの言う通り体は絶頂し。信じられない快感(かいかん)が全身を()(めぐ)りました。

 

「バカなお姫様だ。負けを認めまいと今まで耐えてきたのだから、それを認めてしまえば反動でこうなることも分からないとはな。

 無様(ぶざま)な姿で楽しませてくれたお礼にお(のぞ)み通り犯してやろう」

 

「……でゅ、でゅあん、や、め」

 

 アリスはあまりの気持ちよさにロールプレイをかなぐり捨ててデュランへ許しを()いましたがそのまま丸三日間犯され続け、デュラン専用の肉便器(にくべんき)となることを強要(きょうよう)されて受け入れました。

 ……こうしてアリスの性癖(せいへき)は破壊されたのでした、()(わい)そうに。



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五歳

 見晴らしのいい荒野の中、人族の子供と妖精の二人組に目をつけた盗賊団(とうぞくだん)(かも)(ねぎ)背負(せお)ってきたと大喜びで襲撃(しゅうげき)()()けた。

 しかし人族の子供の手であっさりと返り()ちにされて全員がのたうち回っていた。

 

「何でこいつらを殺しちゃダメなんだヴィンデ? 生かしておいてもまた悪さするよ、こいつら」

 

「デュランに人を殺して欲しくないだけよ、こんなの殺してもしょうがないわ」

 

「ふ~ん、分かった」

 

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 デュランは盗賊団の一人を殺そうとしたがヴィンデに止められたため、首を(かし)げながら殺すのを止めた。

 ただ後から復讐(ふくしゅう)をされても面倒なので盗賊団一人一人の頭へ手を置いてデュランとヴィンデに関する記憶を消し、盗賊団へ最低限の治療を(ほど)してからその場を立ち去ろうとしたが。

 やっぱりこいつらをこのまま放置するのは悪いことだなと思い、盗賊団の両手を切り裂いてから不完全な治療をすることで両手を動かせなくしていった。

 

「デュラン、こういう奴らを普通だと思っちゃダメよ」

 

「よく分からないけど分かった」

 

「まあ、今はそれでいいわ……」

 

 ヴィンデはデュランの教育をどうしようか頭を抱えていたが罪悪感なしで人を斬っている時点でもう手遅れかも知れないとため息を吐き、道徳をデュランへ教えるために次の国で絵本でも買うことを決める。

 そして人族の国を訪れるとデュランへ指示を出して絵本を買ってもらおうとしたが、人族の国ではヴィンデのことを(しゃべ)ってはいけないと口止めするのを忘れていたため人族の国でヴィンデの存在がばれてしまった。

 

「そこの少年! 今すぐその下等種族(かとうしゅぞく)を渡しなさい!! そうすれば君には手を出さない!!!」

 

「下等種族って、ヴィンデのことを言った? 死にたいの――お前ら」

 

「デュラン待って、起源統一教団はまずいわ!! 逃げましょう!!!」

 

 ヴィンデはなんとかデュランを説得して一緒(いっしょ)に逃げようとしたが近づいてきた教団員をデュランが斬り捨ててしまい、仕方なく教団員と闘い始めた。

 体格差から教団員から吹き飛ばされながらも体のどこかしらを持って行くデュランの姿にヴィンデは彼の将来が心配だったが、そんなことを考えている場合じゃないと幻惑(げんわく)魔法で教団員を同士討ちさせつつ銃で()ち殺した。

 それからも二人は死にかけながらもなんとか教団員を殺し()くして逃げ出した。

 

「デュラン!! 何で逃げなかったのよ!!!」

 

「だって、あいつらヴィンデのことをバカにしたんだぞ。殺さなくちゃダメだろ」

 

「……そんなんだと結婚できないわよ、デュラン!!」

 

「俺は結婚したくないし、別にいいや」

 

 こんな会話を交わした十年後。まさかデュランが一目ぼれすることになるとは、二人とも思ってもいなかったのでした。



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告白

「――結婚してください! お父様!!」

 

「ステラ。何度も言っているが火の国を(ふく)めたほとんどの国で親子(おやこ)(こん)は禁止されているし、俺はもうアリスと結婚しているからステラと結婚するのは無理なんだよ」

 

「じゃあ結婚できる国へ行きましょう!! お母様とは離婚(りこん)すればいいですわ!!」

 

「ステラのことも大好きだけど、俺はそれ以上にアリスが好きなんだ。だから結婚は無理だ、(あきら)めてくれ」

 

 ――困った顔のお父様も素敵(すてき)ですわ!! でも結婚してくれないお父様は(きら)いですわ!!!

 通算(つうさん)千回目の告白をデュランに(ことわ)られたステラは作戦を変更し、早起きして作ったサンドイッチと蜂蜜(はちみつ)クッキーが入ったバスケットを取り出してデュランへ差し出した。

 

「サンドイッチとお父様の好きな蜂蜜クッキーですわ!! 一緒に食べましょう!!」

 

「今日のお弁当もボリュームがすごいな、アリスの晩飯(ばんめし)が食べられなくなりそうだ」

 

「食べなくていいですわ!! お母様の料理なんて!!!」

 

「……とうとう言ったね、ステラ」

 

 思わず口から本音が飛び出してしまったステラは内心(あせ)ったが、まあ言ってしまったものはしょうがないと笑って誤魔化(ごまか)した。

 デュランはそんなステラの態度(たいど)に娘の将来が心配になりながらもサンドイッチを食べてみると、やはりデュラン(この)みの味つけだったため。思わずため息を吐いた。

 

「お父様!! おいしくなかったですかッ!!!」

 

「いや、とってもおいしいよ。ステラ」

 

「それならよかったです! たくさんあるのでもっと食べて下さい!!」

 

「そ、そうだね、アハハッ」

 

 ステラの誕生日プレゼントとして前々からお願いされていた二人きりのデートを軽い気持ちで引き受けたのは失敗だったかも知れないと、デュランは思いながらも大量のサンドイッチを食べてから体内で魔力に変えてアリスの料理が入るスペースを確保していた。……このアホも大概(たいがい)である。

 

「お父様! 今日は私に剣を教えてくださるのですよね!!」

 

「まあ正直言うと俺としては女の子であるステラには棒術の方を教えたいんだけどな」

 

「私は剣がいいですわ!!」

 

「分かってるよ、ステラ」

 

 デュランは何故剣術を教えるのがデートになるのか理解できなかったが、ステラのお願い通りその日はずっと剣術の修行をステラへとつけてあげた。

 ただステラは剣術の才能がとても高くて下手(へた)するとヘルトへ教えていた時以上に(きび)しくなってしまうのがとても悩ましく、女の子だからと少しでも手を()こうとすると見抜かれてしまうので仕方なく全力で教えていたが。

 いつもボロボロになったステラの姿を視界へ入れてこのままでいいのかと心の中で何度も自問自答(じもんじとう)していた。

 

「お父様! 今日もありがとうございました!! 明日もお願いしますわ!!!」

 

「あぁ、剣術の修行はな」

 

 しかし全身ボロボロでもステラは(うれ)しそうにしているため問題ないのだろうと判断し、ステラをお姫様抱っこしてからアリスの待つ自宅を目指して移動し始めた。

 ステラは二人きりの空中散歩を満喫(まんきつ)しながらいつかデュランと結婚してみせると決意を新たにし、翌日も早起きして料理を作るのでした。



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監禁

「今日こそは結婚してもらいますわよ、お父様ッ!!」

 

「はいはい、今はちょっと(いそが)しいから後にしてくれ」

 

「……王様、いくらなんでもその態度(たいど)(ひど)いと思う」

 

【挿絵表示】

 

 デュランは執務室(しつむしつ)飛び込んできてそう宣言したステラを(つと)めて無視(むし)しながら仕事を続けようとしたが、臣下(しんか)であるルビーにそう言われて仕方なくステラへと向き直った。

 

「何度も言っているが結婚はしない、もうアリスと結婚しているからな」

 

「私の方が胸が大きいですわ!! 側室(そくしつ)でもいいので愛して下さい!!!」

 

「無理、俺はアリス以外と結婚するつもりはない」

 

 デュランは何万回したか分からないやり取りを終えると再び書類に目を通し始めた。

 しかし視線を()らしたためステラが始源(しげん)魔法を使おうとしていることに気が付くのが(おく)れ、ステラの創り出した()空間(くうかん)へと連れ去られてしまった。

 

【挿絵表示】

 

「始源魔法――ドリームワールド。

 今のお父様には脱出できないこの空間の中で、お父様の子種(こだね)をもらいますわよッ!!」

 

「おいおい、流石(さすが)に今回は洒落(しゃれ)になってねぇぞ」

 

「えぇ、私は本気ですもの」

 

「……やるしかねぇか」

 

 デュランは今の自由に動かない体では天賦(てんぷ)(さい)を持つステラへ太刀(たち)()ちできないのはよく分かっていた。

 けれど娘に自身の子供を産ませるつもりはなかったので天晴を抜いて全力で抵抗したが、三分ほどで天晴を(はじ)き飛ばされてしまった。

 しかし刀を納刀(のうとう)してデュランを押さえ込もうとしたステラの力を利用して逆に()げ飛ばし、そのまま力()くで押さえ込んだ。

 

「ステラには教えてなかったが俺はこういう小技(こわざ)も使えるんだ、悪いがアリス達が来るまでこのままでいてもらうぞ」

 

「お父様にこうしてもらえるのはとっても素敵(すてき)ですが今日は目的が違うのでご遠慮(えんりょ)します」

 

「何をするつもりか分からねぇが、絶対に(はな)さねぇぞ」

 

「えぇ、そうでしょうね」

 

 ステラは真剣な顔で自信を押さえ込んでいるデュランの姿へ昂奮(こうふん)しつつも残念そうにそうつぶやいた。

 デュランはその言葉を聴くと更に力を入れて押さえ込んだが――突然天地がひ(・・・・・・)っくり返った(・・・・・・)

 

「――何ィッ!??」

 

「お忘れですかお父様!! ここは私が創り出した異空間!!! 天地をひっくり返すことなど造作もないのですわッ!!!!」

 

「く、クソッタレめッ!!」

 

 デュランの今の身体能力では空中では身動きが取れなかったため巨大な石を創り出し、足場(あしば)として使って全力でステラから逃げたが空中で追いつかれて(つか)まってしまった。

 そして手足をステラが創り出した十字(じゅうじ)()(しば)()けられてしまい、完全に抵抗することができなくなってしまった。

 

「クソッ、動けねぇ」

 

「それじゃあお父様、私と一つになりましょう♡♡♡」

 

「――いや、もう時間切れみたいだぞ」

 

 デュランは動けないことに一瞬(あせ)ったが世界へ亀裂(きれつ)が入ったことで安心し、目にハートを浮べているステラへとそう()げた。

 そして世界が(こわ)れた次の瞬間――ステラは風属性の魔法で吹き飛ばされた。



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お仕置き

「デュランになんてことをするのこのバカ娘!! いい加減(かげん)にしなさい!!!」

 

「私はお母様の娘である前に一人の女ッ!! 絶対に(あきら)めませんわ!!!」

 

「……困ったな、今の俺じゃ止められねぇ」

 

「……ですね、王様」

 

 ウィンクルム連合王国の上空で全力の魔法をぶつけ合っているアリスとステラにデュランは困り果てていたたが、取りあえずアリスの顔が()いてある団扇(うちわ)を創ってからルビーと二人でアリスの応援(おうえん)を始めた。

 そうしていると心なしかアリスの方が押し始めていることに気が付き、思わず首を(かし)げながらもアリスの応援を続けた。

 

「――何の(さわ)ぎですか!! 父上!!!」

 

「うん? あぁ、ヘルトか。話すと長くなるんだが、実はな――」

 

 しばらくそのまま応援しているとヘルトが()けつけたのでこうなった経緯(けいい)を話すと頭を抱えてから「何をやってるんだよ、ステラ」とぼやくと、デュランへこの場所に()るよう言ってから飛び出していった。

 それをデュランは笑顔で手を振って見送ると新たにヘルトの顔が描かれた団扇を創り、ルビーと二人で応援を続けた。

 そうして二対一になってもしばらくの間ステラは()えていたが本気で怒ったヘルトの嵐流界刃(らんりゅうかいじん)()()けたことで(すき)ができ、魔法で拘束してからアリスが(なぐ)り飛ばしたことで親子喧嘩(けんか)は終わり。

 ステラはほぼ全ての魔力をアリスに(うば)われてから何もない空間へと叩き込まれた。

 

【挿絵表示】

 

「……少しは反省した、ステラ」

 

「いいえ――ウグッ!」

 

 三日後。アリスは四肢(しし)(くさり)(しば)り上げられたステラを底冷(そこび)えするほど冷たい目で見ながらそう質問したが、返答から反省していない判断して鎖でステラの背中を打ち()えた。

 

「反省するまでその鎖はステラを打ち据えるから、反省したら言ってね」

 

「するわけないですわ、このぺちゃぱ――ガァッ!!!」

 

 アリスは自身のコンプレックスである胸の小ささをバカにしようとしたステラを無理矢理(だま)らせ、ステラが声を出せなくなるまで鎖で打ち据え続けた。

 それでも反省してない様子のステラにアリスはため息を吐き――ステラの首へと鎖を()きつけた。

 

「――ッ!??」

 

「僕が浮気したらその相手を殺すって言ってたデュランの気持ち――今はよく分かるなァッ!!!」

 

 そのままステラの首の骨をアリスはへし折ったが、アリスが創ったこの空間では死んでもすぐに生き返る。

 アリスは殺し続けて心を折ろうとしても変わらず自身を(にら)みつけ続けるステラの姿に舌打(したう)ちし、前気持ち悪い魔王からされたのと洗脳(同じこと)をしようか悩んだが。

 流石(さすが)あれは(・・・)あんまりだなと己を落ち着けてから「反省できないのなら、デュランが死ぬまでここにいてもらうよ?」とステラの耳元で()げた。

 

 反応は劇的(げきてき)であり、目を見開きながら(うなず)いたステラの首から鎖を外した。

 そして涙目のステラと魔法の契約を交わし、デュランが死ぬまでデュランの一メートル以内に近寄(ちかよ)れなくしたアリスは満足げに笑顔を浮べるのでした。……鬼かな。



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惚れた弱み

「アリス、どんな感じだい。魂が抜けて(・・・・・)いく感覚は(・・・・・)

 

「へ、変な感じ、これを出したら終わっちゃうって分かってるのに――ウグッ! 僕、昂奮(こうふん)して、る♡」

 

「そうなんだ、可愛いな♡」

 

「――あっ」

 

 デュランの思いつきでアリスの魂と精神を始源(しげん)魔法でスライムうんちに変えさせてみると、思っていた以上の効果があったようでアリスはお(しり)を押さえながら昂奮しています。

 デュランはお尻を押さえているアリスのことがとても可愛くていじめたくなり、アリスの両手を掴んでからロープで(しば)り上げてしまいました。

 

「い、今すぐ(ほど)いてよデュラン!! このままじゃ僕ッ、出しちゃう!!!」

 

「出しちゃいなよアリス、我慢(がまん)なんてしてないでさッ!」

 

「――ングッ!??」

 

 デュランはそう最低(さいてい)なことを言いながらアリスの(くちびる)(うば)い、アリスがお腹へ力を入れるように仕向(しむけ)けましたが。アリスはピクピクと(ふる)えながらも耐えていました。

 

「~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡♡♡♡!!!!!!!!」

 

 しかしデュランが更に(おか)し始めたことで耐えられなくなり、アリスはお尻からスライムうんちを出しながら白目を()いています。

 

「まだまだ終わらせないよ、ア~リス♡」

 

「や、()め――んッお゛お゛~~~~~~~~ッ♡♡♡!!」

 

 なんとデュランはお尻から出たスライムうんちを無理矢理押し戻すとそのまま(こし)を動かし始めました。

 そしてそれを繰り返してアリスの反応を楽しんだり、魂と精神がなくなって動かなくなったアリスの体を犯してからスライムうんちを戻して()まった快感(かいかん)を味合わせるなどをして朝日が見えるまでアリスと愛を深めたのでした。

 

 

 

 

 

 

「デュランッ! あれはもうやらないからね!! 僕死んじゃう!!!」

 

「そうか? 俺はアリスの死に顔も大好きだぞ」

 

「……本当に死んじゃうから、たまにだよ」

 

 翌日アリスは目を覚ますと烈火(れっか)のごとく怒ったがデュランからそんな姿も好きだと言われたことで心が()らぎ、(ほお)を真っ赤に()め上げながらそっぽを向いてからそう言った。

 

「あぁ、分かった。愛してるぜっ、アリス」

 

「ふんっ、いつも変なことばかりして、デュランのバカッ!!」

 

 するとデュランが嬉しそうに自身を抱きしめてきたため、アリスはそうして(にく)まれ(ぐち)(たた)いたが。

 なんだかんだ言いながらもいつも最終的にはデュランの言うことを聴いてしまうため、これがお母様が言っていた()れた(よわ)みと言うものなのかなとため息を吐いた。

 

「うん? どうした、アリス??」

 

「何でもない、そろそろヘルトを起こさなきゃと思っただけ」

 

 それでも今の生活が心の底から幸せだと感じてしまうのはデュランのことを愛しているからなのだろうと考えてから思考を打ち切り、口に出すのは()ずかしかったのでデュランの質問を誤魔化(ごまか)しながら立ち上がった。

 ……そのことを後々後悔することになるとは、この時は欠片(かけら)も思っていなかったのです。



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ゆっくり

「えっ、今日はもっと優しくして欲しい?」

 

「うんっ、たまにはゆっくりデュランとつながっていたいんだ。……ダメ、かな」

 

「――ッ!?? 全然大丈夫だぞ、それじゃ今日はゆっくりしようか」

 

 デュランは上目(うわめ)(づか)いで自身を見つめるアリスの姿に一瞬で陥落(かんらく)し、今日はスローセッ〇スでゆっくりとすることを決めました。

 まずアリスの(かみ)の毛、顔、(かた)から(うで)、指先の順番で数分ずつ時間をかけて優しく()でた後、同じように脇腹(わきばら)から(こし)、背中、肩甲骨(けんこうこつ)をの順で時間をかけてデュランは愛撫(あいぶ)していきます。

 

「あっ♡、ふぁっ♡♡」

 

 そしてお尻を撫で始めた頃にはもう女の子のスイッチが入って全身が敏感(びんかん)となっていたアリスはエッチな声を上げていますが、まだ絶頂(ぜっちょう)まで辿(たど)り着いてません。

 アリスの反応からそのことを見()いたデュランはこのタイミングでおっぱいへ手を置き、人差し指と中指で円を描くように愛撫すると気持ちよさそうな声を上げました。

 

「いつもより、き、気持ちいい♡♡♡」

 

 そうして体の準備が(ととの)ったのを確認するとデュランはアリスとゆっくりと一つになっていき、一番奥まで着くとアリスのことを抱きしめて二人でリラックスします。

 アリスの体がまだ少しリラックスできていないのことに気が付いたデュランは頭を撫でて安心させてあげました。

 

「はー、あっ♡、んあっ♡」

 

 それからはたまにゆっくり動いたりする以外はまったりとしていくだけですが、アリスの体はずっと小さな絶頂を感じ続けています。

 

「しあわせぇ~♡、でゅあんらいすき♡♡、あいひてる~♡♡♡」

 

「ッ!? ――あぁ、俺もだ」

 

 そのためゆっくりデュランが動いたことでアリスの体全体を今までにない快感(かいかん)()(めぐ)り、思考をドロドロに()かされたアリスは普段(ふだん)なら言えない本音を口からこぼしてしまいました。

 デュランは(おどろ)きのあまり目を見開きましたが幸せそうなアリスの顔を視界へ入れると優しげな顔で微笑(ほほえ)み、アリスが覚えてはいられないことを理解しながらもそう返事しました。

 

「……何をしてるのですか? 父上、母上」

 

「え、え~とな。二人で愛し合ってたんだ」

 

「そうなのですか、私もやり方を知りたいです!!」

 

 それからも夜が明けるまでそのままゆっくりと()ごした二人でしたが、デュランから修行をつけてもらうため早起きしていたヘルトにつながっている所を見られてしまいました。

 デュランは急いで布団でアリスと自身の体を隠しながら下手な言い訳をしても無駄(むだ)だと判断し、曖昧(あいまい)な表現で誤魔化(ごまか)そうとしましたが。逆に興味を引いてしまったようでヘルトから知りたいと言われて困っています。

 ……皆さんはスローセッ〇スする時は時間を気にしながらしましょう。



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若者

 拙者(せっしゃ)はあの方と共に創った国を今でも愛している。

 奴隷(どれい)として火の国から拙者を連れ出した奴隷商人の元から(いのち)辛々(からがら)逃げ出して辿(たど)り着いたスラム街の仲間達と共に誰もが幸せに生きられる国を創り出すのだと一から努力し、(きず)き上げた血と汗と涙の結晶であり。死んだ仲間達(・・・・・・)との(きずな)そのものだから。

 

 そうなった()()けが何だったのか今となって分からないが、()いて言うのならアイディール神国の国民の正義(せいぎ)感だろう。

 彼らが信仰(しんこう)する起源(きげん)統一教団(とういつきょうだん)が下等種族と(さげす)む多種族を国民として向かい入れた拙者達の国――ウィンクルム連邦国はアイディール神国の放った百発の核ミサイルによって一夜にして滅ぼされた。

 アイディール神国に使者(ししゃ)として出向いて(つか)まっていたため拙者の命は助かったが、映像でウィンクルム連邦国の最期を見ることしかできなかった拙者は絶望し。大人しくアイディール神国で処刑されるのを待っていた。

 しかしアイディール神国のやり方をよく思っていなかった一人の若者に助けられて何の因果(いんが)か命を(ひろ)ってしまった。

 

 涙を流しながら『これ以上この国の犠牲(ぎせい)になるな!!!』と(さけ)んで拙者を逃がしてくれた若者のことを思えば自殺することもできず、困り()てた拙者は王と共に目指した誰もが幸せに生きられる国という理想を一人でも追い続ける覚悟を決めて奴隷商人となった。

 昔の拙者のような立場の奴隷を優先して買いつけてできる限り奴隷達が幸せになれる主の元へ送り出す、そんなことをし続けていたが十分な食事を奴隷達に与えていたため奴隷商人一本だけではとても()っていけなかった。

 それでも奴隷達へ最低限の食事しか与えないという選択は拙者にはできなかったため、夜は酒場の店主として店を切り()りしてなんとかその日暮らしができていた。

 そんな生活を続けて三十年近くの時間が流れた頃、拙者は一人の若者と出会った。

 

『さっきは悪かったな、今一事情が分からなかったもんでな』

 

『ッ!? ――先ほど拙者を連れ去った御仁(ごじん)ですな、いえ拙者こそ先ほどは見苦しい所を見せて申し訳ありませんでした』

 

 その若者はやる気のなさそうな目をしていたが、どこか拙者達の王を思わせる不思議(ふしぎ)雰囲気(ふんいき)をしていた。

 

『さて、突然の話で申し訳ないが俺はここから逃げた三人からの依頼でここまできた。

 話を聞いてくれると嬉しい』

 

『ルイス達からですか、分かりました。聴きましょう』

 

 そして明らかに多い金額を支払って奴隷の大半(たいはん)を買って故郷(こきょう)へ帰りたい者達は全員故郷へ帰すと約束している若者の姿を目の辺りにし、失礼だと分かっていても拙者はウィンクルム連邦国の王であるナイト・エンペラー様を重ねずにはいられなかった。

 拙者は思わず涙を流してしまい、若者――デュラン・ライオット様を困らせてしまったりしながらもなんとか見送ることができた。

 それから小さくなっていくデュラン様の姿を目へ焼けつけて決意を新たにした後、拙者は酒場を開けるため城壁をよじ登ってドライ王国へと戻った。

 

 ――これは拙者が臣下としてデュラン様に仕えることになる二十年前の出来事である。




 ちなみに拙者の人を逃がしてくれた若者は拙者の人の代わりに処刑されました。


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傍観者

『――アイディール神国の国民達よ、私はウィンクルム連邦国の王だ!! この百発の核ミサイルが見えるかァッ!!! あの日お前達が私の国であるウィンクルム連邦国に()ったのと同じ物だ!!!!

 お前達にも愛するものを奪われる気持ちを味わせるために三十年待った!!!

 あの時の私と同じ地獄に苦しむがいい!!!! 死ねエエエエエエエエッッッ!!!!!!』

 

「ない、と、さ、ま」

 

 拙者(せっしゃ)がいつものように奴隷達へ与えるための食事を作っているとあの日死んだと思っていたナイト・エンペラー様の姿がドライ王国の上空に投影(とうえい)され、怨嗟(えんさ)の声を上げながらアイディール神国を(ほろ)ぼす瞬間を全ての国民が目撃(もくげき)した。

 拙者は今すぐにでもナイト様の元へ()けつけて自身の無事を伝えたかったが、アイディール神国はドライ王国から向かうにはだいぶ距離がある。

 どう考えても拙者がアイディール神国へ着いた頃には全て終わっていると、かつてドライ王国で出会ったデュラン様とその奥方(おくがた)であろう女性が到着(とうちゃく)したのが視界へ入ってそう思った。

 

『――私達の因縁(いんねん)を終わらせよう、剣神』

 

『……俺は世界が滅ぼうが存続しようが正直どうでもいい、だがなッ!! アリスの、いや――俺の大切な者達が愛する世界を壊そうとするのならば!!! 容赦(ようしゃ)しないぞ、黒神ッ!!!!』

 

『デュラン、僕が援護するから全力で闘って!!! 始源(しげん)魔法――シューティング・スターレインッ!!』

 

 そして拙者が様々なことを考えていても事態(じたい)は止まらずに動いていく、会話を終わらせた二人の闘いがどうなっているのか目で追うことすらできないため分からなかった。

 拙者には声で状況(じょうきょう)を判断することしかできなかったが最後のデュラン様の(さけ)び声が聞こえたかと思えばナイト様は倒れ伏し、デュラン様達が勝ったのだとそこでようやく理解できた。

 しかし世界が救われたと言うのに歓声(かんせい)を上げる者達はいなかった、全ての国民が二人の会話を固唾(かたず)()みながら見守っていた。

 

『……自分でも意味不明な行動してるのは分かってるけどよ、どうせお前はもう死ぬんだ。

 最期くらい。苦しまなくてもいいだろと、思っちまったんだよ』

 

『――馬鹿な男だな、お前は。私なんかに同情するなど』

 

『もう知っとるわッ! 大人しくそこで死んどけ、バーカッ!!』

 

 周囲で映像を見ていた人々がどんな顔をしているのか、涙で前が見えなく(・・・・・・・・)なってしまった(・・・・・・・)拙者には分からなかったが。

 耳へきこえてくる声から拙者と同じように泣いてくれている人もいるのだと嬉しかった――ナイト様の人生には意味があったと肯定してくれている気がしたから。

 

 こうして様々な人々が泣いている中、ナイト様はあの世へと旅だった。

 せめて最期はデュラン様の言うとおり苦しまずに旅立てたことを、傍観者(拙者)は願わずにはいられなかった。



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「……あの時の奴隷(どれい)商人だよな、ドライ王国でルイス達を買った。俺の臣下(しんか)になりたいってどういうことだ?」

 

「言葉の通りでございます、拙者(せっしゃ)はこのウィンクルム連邦国跡地に国を創ろうとしているデュラン様を臣下として支えたいのです」

 

 デュランは目の前で自身の臣下になりたいと言いながら(ひざまず)いている()奴隷商の男をどうするか(なや)()いてから、色々と面倒(めんど)くさくなってもう全部話す決意をした。

 

「確かに俺は今このウィンクルム連邦国跡地の開発をして国を創ろうとはしているがな、まだまだ国と呼ぶには不十分な状態だぞ。

 物を売りに来るのなら分かるがな、臣下にしてくれってのはマジで意味が分からん」

 

「――拙者はウィンクルム連邦国の生き残りです(・・・・・・)、ナイト様と共に一から国を創った経験があります。

 これから新しい国を創るのでしたら拙者は必ず役に立てると思います」

 

「ッ!?? ――もしも本当なら頭の上に手を置いてもいいか、それで本当のことを言っているか分かる」

 

「構いません」

 

 デュランは元奴隷商の男の言葉を耳にしてそれが本当なら是非(ぜひ)とも手元へ置きたいと思ったが、それなら何で今頃になって表舞台へ出てくることを決意したのか分からなかった。

 そのため目的がなんなのか知るため頭へ手を置いてもいいかと(たず)ねたが、()を開けることもなく返事をされて逆にデュランの方が戸惑(とまど)ってしまった。

 しかし臣下として(つか)えさせるのだったらどの道知らなければいけないと覚悟を決めてその過去を調べさせてもらったが、想像以上の内容にデュランは目を見開いた。

 

「お前はもう充分(じゅうぶん)すぎるほど頑張(がんば)っただろ、そろそろ自分の幸せを考えてもいいんじゃないか」

 

「拙者には()ぎた言葉をありがとうございます、デュラン様。

 しかしもう一度デュラン様のような方へ仕えることが拙者の幸せなのです、ですからお願いします。拙者を臣下にしてください」

 

「……そうか、分かった。お前のことをなんて呼べばいい」

 

 デュランはその過去を知って同情してしまって元奴隷商の男へ自分の幸せを追いかけろと(がら)にもないことを言ってしまったが、そう返されてしまったので自身の臣下にすることを決めた。

 そして奴隷商の男の名前は過去を見たことで知っているが男へあえて名前を聞いた、すると男は「(あるじ)であるナイト様を守れなかった拙者に名前など贅沢(ぜいたく)すぎます」と話した後。

 

「ですので拙者のことは(それがし)と呼んでください、拙者の呼び名などそれで充分です」

 

 そう言ったのでデュランは笑顔を浮べながら某と握手(あくしゅ)を交わした。

 それから「某か、それじゃ今日からよろしく頼む」と某へ伝えた後、デュランは無理のしすぎでぶっ倒れた。

 

 この一時間後、デュランは無理して魔力を使ったことをアリスに知られてメチャクチャ怒られるのでした。……自業(じごう)自得(じとく)である。



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アリスの過去とその原因であるクソ野郎について

「……デュランさん、でいいのですよね。今回は私の娘を――アリスを助けてくれてありがとうございました。

 アリスの過去とある人物に関する話がしたいんですが、よろしいでしょうか?」

 

「……あぁ、大丈夫だ。食事しながら聞く」

 

「アリスの父親で私を一時は廃人(はいじん)にまで追い込んだグリード王国の王に関するお話とアリスが昔この里で虐待(ぎゃくたい)を受けていたことについてです」

 

「ッ!?? ――(くわ)しく話を聴かせてください」

 

【挿絵表示】

 

 宴の料理を食べていたデュランは背後で先程までアリスと話していた彼女の母親から話をしたいと言われ、軽い気持ちで大丈夫だと返答したが。

 (おだ)やかではない母親の言葉に食事するのを()めて彼女の方へと向き直り、真剣に話を聴き始めた。

 何故こんなにも必死(ひっし)なのかデュラン自身よく分からなかったが、強く知らなければならないと思ったため。母親の話へと耳を(かたむ)けた。

 

「六十年前、私は閉塞的(へいそくてき)なこの里での生活に嫌気(いやけ)がさして外の世界へと飛び出しました。

 ですがご(ぞん)じの通り外の世界では私達エルフ族は(さげす)まれる差別(さべつ)対象、当時まだ子供だった私は人族の奴隷(どれい)商人に捕まってしまい。奴隷(どれい)(もん)(きざ)まれて最高級(さいこうきゅう)奴隷としてグリード王国の王宮へと献上(けんじょう)されました。

 それでも当時の王である先王(せんおう)から気に入られて王専属(せんぞく)のメイドとなったことでセクハラをされながらも一定の暮らしは出来ていました――四十年前、今の王に(だい)()わりするまでは」

 

「それで、どうなったんですか?」

 

「代替わりするとすぐに王は私の役職を王専属のメイドから娼婦(しょうふ)へと変えてからある部屋に監禁しました。

 それから私は五年間ありとあらゆる屈辱(くつじょく)(はずかし)めを味合わされて廃人にされてしまいましたが、里の大人達が私の()場所(ばしょ)を見つけてグリード王国を襲撃(しゅうげき)したことで助け出されました。

 大人達はもう私は元に戻らないと思っていたそうなのですが、あの王の子供でもあるアリスを大人達が()ろそうとしてるのを視界へ入れて私は生き返り。なんとかアリスを守り切ることが出来ました。

 ですけど私から得た情報を元にグリード王国の王はこの里を襲撃(しゅうげき)して様々なものを(うば)ってしまいました。

 そのため彼の子供であるアリスは本来仲間であるはずの里の子供達から(ひど)い虐待を受けることになりました――全部私が原因なんです」

 

「……それならアリスはどうしてあんなにも()()(てき)なのですか? そんな過去があるのなら、里の子供など本来は憎悪(ぞうお)の対象でしかないはずなのに。アリスは守り切って見せました。

 何故あんなにも誰かのために生きられるのか、俺には理解できません」

 

 デュランがそう()くと母親は(ほこ)らしげな微笑みを浮べながら「あの子は強くて、優しいんです。私なんかよりもずっと」と言った。

 その笑顔を目にしたデュランはいつも自身へヴィンデが向けてくるのと同じ笑顔だと思い、何故そう思うのか分からなかったがそんな母親の笑顔は美しかった。

 だけどアリスの時とは違って何でもしてあげたいとは思わなかったため、何故なのか考え込んだが答えは出なかったので思考を打ち切り。母親の話に集中した。

 

「――そうしてあの子は変えたんです。

 (にく)しみと(かな)しみで止まってしまっていたこの里を、たった一人で(・・・・・・)

 

「誰かのために生きる、か。俺にはとても無理な生き方だな、アリスはすごいですね」

 

 アリスの過去を聴いたデュランは素直にアリスのことを尊敬(そんけい)してそう言い、母親はそんなデュランへ対して「えぇ、自慢(じまん)の娘です」と返した。

 そうしてアリスの過去を知ったデュランはこの後、アリスから愛の告白をされて目を見開くことになるのですが。この時のデュランは知る(よし)もないのでした。



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首絞め

「ご主人様! 今日はたくさん(まじ)わりましょう!!」

 

「……天晴(てんせい)、あまりデカい声を出すな。アリスが起きるだろ」

 

「うん? 何でアリス様が起きたらまずいのですか。私は物ですからオ〇ホでオ〇ニーするのと同じですよ」

 

「例え物でも体は本物の女だ、アリスからしたら浮気されてるみたいで気分悪いだろ」

 

【挿絵表示】

 

 デュランは目の前で「そう言うものなのですか、勉強になります!」と言っている天晴の姿を目に入れながら浮気されてるみたいではなく、冗談(じょうだん)()きで浮気じゃないかと思ったが。

 天晴と寝る許可をアリスからもらっているためアリス公認であるため浮気じゃないかと思考を打ち切り、ベッドの上で手足を広げている天晴へと前戯(ぜんぎ)し始めました。

 

「ご、ご主人様、く、くすぐったいです……どうし、て」

 

「そりゃそうだろ、天晴は初めてなんだからいきなり気持ちよくなったら(こわ)いだろ。すぐに気持ちよくしてやるからそのまま我慢(がまん)してろ」

 

「は、はい」

 

「じゃあ、ここからは本気で行くからな」

 

 デュランはしばらくの間ゆっくりと天晴の体中を(さわ)り、天晴が感じやすい場所を探し出すとそう言ってから本気で()め始めた。

 

「ッ!?? にゃに、これっ!!! にゃに、これぇぇぇっ!!!!」

 

 天晴は一瞬体の感覚がなくなって目を見開いたが遅れて全身を()け抜けた快感に体を()()らせ、何が起きているのか分からないという顔で(さけ)び声を上げた。

 デュランは天晴を絶頂(ぜっちょう)させ続けて充分に()れてくると、天晴へ休みを与えずにそのまま(おか)し始めた。

 

「もうだめっ♡ だめだめだめだめッッ♡♡♡ もうだめなのぉ~~ッ♡♡♡♡!!!!!!」

 

「何がもうダメだ! ダメかどうかは俺が決めるんだよ!! このバカ女!!!」

 

「や、やめ~~~~ッ♡♡♡♡!!!!!!」

 

 天晴はもうそれ以上気持ちよくして欲しくないとデュランへ訴えたが逆効果だったようで更に激しくなったことで視界が真っ白となり、海老(えび)反りになりながら白目を()いて意識を手放しましたが。デュランの一撃(いちげき)で目を覚ましました。

 

「うわああああぁぁぁぁぁぁ――――――んんんッ♡♡♡♡!!!!!!」

 

「さっきからうるせぇな――首を()めるか、()まりもよくなって一石二鳥(いっせきにちょう)だしな」

 

 いい加減(かげん)天晴の声が(わずら)わしくなったデュランは元々は刀だし大丈夫だろうと天晴の首を(うで)で締め上げ、天晴が声を出せなくしました。

 いくら刀の付喪神(つくもがみ)とはいえ今はただの女、首を締め上げられて天晴は白目を()きながら絶頂し続けました。

 

「~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡♡♡♡!!!!!!!!」

 

 幸い本体が刀であるため死ぬことはありませんでしたが天晴は生死の境を往復(おうふく)するのが大好きになってしまい、様々なハードプレイをデュランへお願いすることになるのでした。

 ……こんな可愛い子をドMにするとか調教師(ちょうきょうし)かな。



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