ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン 常怠常勝の智将と戦場の幽霊(ゴースト) (naosi)
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プロローグ

初めまして、naoshiと言います。前から創作していた物を投稿しようと思い、投稿しました。アルファポリスでも投稿しています。よろしくお願いしています。


 僕の周りには、いつも死体が並んでいた。殺さなければ自分が殺される。だから戦い続けた。

 それを救ってくれた人がいた。その人は敵だったが銃を向けずに手を差しのべてくれた。その人は、傭兵団のリーダーだった。女性ながらも男集の傭兵を率い?彼等と共に幾つもの戦場を駆け回り、何十年続いた戦争を終わらせたり、テロリスト集団を壊滅させたりした。

 その間に色々なことを教えてくれた。他国の言葉や文字、武術に情報戦、医療術に薬学、毒学など、ありとあらゆる分野を身に付けことができた。

 だが、傭兵団は突如解散となった。

 各国の政府が強くなりすぎた力を恐れて、解散命令を出してきたためだ。

 勿論無用な争いを嫌う団長はそれに従ったが、条件として団員達のその後の生活の保証と身の安全を条件に出した。

 各国の政府もそれに従い、快くその条件を受け入れた。

 ほとんどの団員達は、自分の国に帰り新な生活を手に入れた。一部の団員は団長と行動を共にし、民兵による殺戮やテロリストによる誘拐、人身売買などから人々を救うために新な組織を築き、活動しいった。勿論俺のことを助けてくれた団長に俺はついて行った。

 ある日、娘を攫われた両親からの依頼で攫われた少女の救出任務を僕ともう二人の仲間共に中南米に潜入し、現地の案内人に案内してもらい、アジトに向かって夜のジャングルを歩いていると虫や鳥の声が聞こえなくなったのに気づいた。

 鳥や虫が鳴かない理由は一つしか無い。何かしら警戒すべき何かがいるため、鳴くのを止めて逃げる。

 それが何を表すのか、この場では1つしか無い。

 案内人を後ろから襲い、盾にするようにして手に持っていたサブマシンガンをジャングルに向かって適当に撃ちまくった。僕の意図に気づいた仲間もすぐに倒木や木に見を隠した。それと同時に前方から閃光と見えて撃った場所目掛けて、いくつも銃弾が飛んで来た。

 

「ちくしょう!やっぱり、罠か!?」

「どうするんだゴースト?」

 

 遮蔽物に隠れながら撃ち返しつつ、仲間の二人が聞いてきた。

 

「ジョン、マック、二人は合図をしたらここから離れてくれ」 

 

 僕の言葉を聞いて、二人は目を大きく開いた。

 

「レイ!てめぇまさか!?」

「レイ、本気なのか?」

「死ぬつもりは無いよ。ここじゃ無線は繋がらないし、全員で逃げるには無理がある。誰が足止めしないと」

「だからってお前がやる必要無いだろ!それなら俺が・・・」

 

 その言葉を言わせる前に首を降った。

 

「二人共僕が主にどこで戦っていたかは知ってるでしょ?だから僕に任せて」

 

 僕の言葉に二人は黙った。

 確かにジョンは、傭兵部隊が出来た当初からいるベテランだがこう言う撤退時の足止めが出来るだけの能力が無い。何より頭に血が登りやすく、すぐに冷静差を失ってしまうけどそれに何度か助けられた経験もある。でも今回はそんな事でどうにかなる状況ではない。

 マックもスナイパーとして優秀でも木や背の高い草、木から垂れ下がる蔓からあってはその真価も発揮出来無い。

 僕の場合は、遮蔽物の多いジャングルや市街地、ほとんど無い、サバンナや山岳地帯、でも経験がある上に隊長に拾われる前はジャングルで戦っていたので戦い慣れている。

 その事は二人も知っているがまだ、十五の子供に任せるべきではないと思ってしまっているだろうけどそれが現状一番成功率が高い。

 

「分かった。必ず帰って来いよ!」

「おいマック!?」

「悔しいがレイの言うとおり、俺やお前ではここでの足止めは向いて無い。無理に残ってもすぐに殺られる。それなら成功率が高く、同時に生存率も高いレイが残るべきだ」

 

 真向から言われた言葉にジョンは返す言葉に困り、黙ってしまう。

 

「分かった。必ず帰って来いよ!」

「うん!!」

 

 ジョンの言葉に大きく頷いた。

 二人を逃がすために裏切った案内の口をテープで塞ぎ手を結束バンドで後ろ手に縛り、ケツにフレアを付けて放り出した。

 光りで暗闇にシルエットが浮かび、敵がそれに注意を向けている内にマックとジョン下がり、フレアの明かりが消えたと同時にワザと発砲して敵の注意を引いた。逃げながらこっちに注意を引いて、ブービートラップや簡単な蔓を貼った罠を仕掛けて足止めを繰り返したが照明弾が打ち上がり、敵の銃弾が太ももを貫いがた。

 止血ベルトで止血してそれでも反撃したけれど後ろから右肺を数発の銃弾が突き抜けた。

 その事により、僕は口から血を流して倒れた。

 マフィアの連中は、警戒することもなく近づいて僕の生死を確認に来た。

 

「お前は何者だ?」

 

 一人の男が聞いてきた。

 

「幽霊(ゴースト)だ!」

 

 そう言いながらベストに入っていた手榴弾と焼夷弾のピンを四つ見せた。

 それに気づいた連中はすぐに逃げ出したが時すでに遅く、集まっていた十数人を巻き添えにした。

 それから数時間後、本部に連絡したジョンとマックは、3機のヘリと共に戻ってきた。

 二人はそこで大きく燃えた木々と多数の焼死体を見つけた。3機の内の一機が着陸し、ジョン共にマックが降りてきて、レイの遺体を探した。まだ、燻り煙が上がる中二人は自分達を逃してくれた少年を必死に探した。

 そして中心部で最も損傷の激しい死体に気づいた。それがレイだと二人には分かった。なぜなら奇跡的にドックダクが残っていたからだ。

 二人はひと目をはばからず涙を流しながら出来る限りの遺体を死体袋の中に入れて本部に持ち帰った。

 それを聞いた隊長は死体袋を抱きしめながら涙を流した。

 そこでレイと言われた少年の人生は終わったはずであった。

 

 

 

 

 

 

 風が頬を撫でる感覚と木々の葉が擦れる音や鳥の囀りが耳に残る入ってきた。

 薄っすらとめを開ける木々の間から太陽の光が差し込む森の中に寝ていた。体を起こして辺りを見渡すと遠くに住居らしき建物が見える。

 

「おかしい。確かに僕はあの時に死んだはずだ」

 

 立上り体を触ったりしながら受けた筈の傷が無いことからなぜ無傷のまま、森の中に横たわっていたのか、どうしてここに居るのか分からなかった。

 持ち物としては、最後に装備していたP90とファイブセブン、小太刀にカラビットナイフ、M67手榴弾にM14特殊焼夷弾、等と何故か見覚え無いタブレットがあった。

 電源を入れて見てみるとありとあらゆる兵器が移し出された。

 銃はもちろん、戦車に航空機、艦船に剣や槍など古い物も乗っていた。試しに隊長の祖国である日本刀を押してみると目の前に現れた。地面現れたそれを手に取り、鞘から抜くと太陽を反射させ、光輝く刀身が姿を表した。

 

「本物だ、何故こんな物がここに?」

 

 刀を鞘に戻し、腰のベルトに結び付けいると後ろから足音が聞こえて来た。振り返ると十代位の黒髪の少年と赤髪です腰にサーベルとマンゴーシュを持った少女が現れた。

 

「こんにちは!君は誰?どうしてこんな所にいるの?」

 

 これが後に常怠常勝の知将と呼ばれるイクタ・サンクレイと白兵戦の鬼と言われたヤトリシナ・イグセムと帝国の幽霊(ゴースト)と呼ばれた。レイ・サンクレイとの出会いであった。

 

 

 

 

 

 




次回からアルデラミン後に原作の方に入っていきます。


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第1話 旭日連隊(グラ・メストエリ)

イクタの案内で彼の父が司令官を務める旭日連隊(グラ・メストエリ)の駐屯地に向かっていた。

 

「そう言えば、君の名前をまだ、聞いてなかったね?」

「レイだ」

「年齢は?」

「15歳」

 

 そう短く答えた。

 

「何であんな所に寝ていたの?」

「分からない。胸を打たれて死ぬ間際に自爆した筈なのに気が付いたらあの場所に寝ていた」

「ちょっと待って!貴方今話が本当なら何で今生きているの!?」

「分からない、本当に分からないんだ」

 

 そう言うしか無かった。

 自分でも何故無傷のままここに居るのか分からなかったから。

 

「ヤトリも落ち着いて、取り敢えず軍医に見てもらってからにしよう」

 

「ごめんなさいイクタ。少し驚いてしまって」

「気にすることは無いよ。僕も内心は驚いているから」

 

 あの森で寝ていた訳を話しながら歩いてあると旭日連隊(グラ・メストエリ)の駐屯地に着いていた。そのまま、医務室に案内してもらい簡単な診察を受けたが怪我をした場所は見当たらなかった。

 持っていた装備は、警備兵の人に預けてきたのでこの場には無い。無くても徒手格闘が出来るから問題はない。

 医務室を出ると目の前にイクタとヤトリが立っていた。

 

 

「レイ君には父さんに合ってもらうよ」

 

 イクタの案内で兵舎の一番奥にある部屋に案内された。中に入るとイクタと同じ黒髪の男性が机に座り、机の上に山積みになった書類と格闘していた。

 

「連れてきたよ父さん」

「おお、イクタかちょっと待ってくれもう少しで切りがつく」

 

 そう言って書類後に山を終わらせた。

 

「初めましてだな、イクタの父親で旭日連隊(グラ・メストエリ)司令官のバタ・サンクレイ大将だ」

「レイです。名字は無いです」

「そうか、早速で悪いんだが君の持っていた装備について聞きたい。あれは何だ?」 

 

 やっぱり聞いてくるか。

 

「あれは銃です」

「銃?あれがかい?見たところ精霊を入れる場所が無いように見えるけど」

「その精霊と言うのが分かりませんが間違いなく銃ですよ。証明しましょうか?」

「そこまで言うなら訓練所で確かめ見るか」

 

 そのまま大将の案内で訓練所に歩き出した。

 

「そこの台に君の装備を置いてある。使って見せてくれ」

「分かりました」

 

 台に置かれたP90を手に取り、マガジンを外し残弾を確認してから装填しコッキングレバーを引いて始弾を装填した。

 

「バタ何してんだ?」

「大将何事です?」

「坊主何の騒ぎだ?」

 

 白衣を着た老人と将校2人が近づいて来た。

 

「息子が連れてきた少年の装備の確認を・・・」

 

 ダンッ!ダンッ!ダンッ!

 ダダダダダダダダ!!

 

「「「「っ!?」」」」

 

 何か話しているようだけど撃っていいよね?

 などと思いながらセレクターをセミオートにして、およそ15の的に3発的に打込んだ。

 次にフルオートにして並んでいた5つの的を全て撃ち抜いた。足元には空薬莢が散乱し、空になったマガジンを変えて、台に置いた。

 次にファイブセブンを取り、スライドを引いて装填して1つの的に20発撃ち込んで素早くマガジンを変えた。

 

 後ろを振り向くとそこにいた全員が固まっていた。

 

「どうかしました?」

「な、なな、な何だその武器は!?」

「こんな物が戦場に出たら戦場そのものが変わってしまうぞ」

「騎兵隊の未来はな無くなるだろう。イグセムの様に突っ込むのも同じだ」

「これは下手に世に出す訳にはいかないね?」

 

 ファイブセブンを置いて、次にM67手榴弾を手に取り、投げる前に離れる様に言った。破片が当たる事は無いと思うが万が一が行けないので。

 

「もう少し、離れて貰うか遮蔽物の後ろに隠れて貰っていいですか?」

「何をするんだい?」

「爆発物を投げるので、もしかしたら破片が飛んできて怪我をする可能性があるので」

 

 そう伝えると向かい側の射撃レーンの土嚢の裏側に移動していた。

 全員が移動したの確認して、安全ピンを抜いて安全レバーを外して投擲した。真中の的に当たり、地面に落ちた2秒後に爆発し、爆発音と共に5つの的を粉々に吹き飛ばした。

 

「もう出て来て大丈夫ですよ!」

 

 土嚢の裏から白衣を着た老人が勢いよくこちらに向かって来て、

 

「何なのだあの銃達は!?それにさっきの爆発物は!?」

 

 両肩を掴まれ、興奮した様子で聞かれた。

 

「博士!落ち着いてまずは、自己紹介して」

「おおと、すまんすまん、イクタ。わしはアナライ・カーンと言う。科学の研究をしとる者だ」

「ハザーフ・リカンだ。よろしくレイ君」

「クバルハ・シバじゃ!よろしくな坊主」

 

 はじめに白衣を着た老人がその次に中年の将校が名乗り、その隣にいた初老の将校が名乗った。

 

「レイです。よろしくお願いしています」

「レイか、さっきの武器達は一体どのような仕組みで動いているのだ?」

「博士、取り敢えずここから移動してから話そうよ?」

 

 アナライ博士が質問してきたがイクタがここで話すよりも何処かの部屋に行ってからの方が良いといい、バタの執務室に向かった。

 

「さて、話してもらえるかな?君が使っていた武器について」

「おおまかにで良いのなら説明出来ますが」

「それで構わない」

「でしたらこれを見ながら聞いていた方が分かりやすいと思います」

 

 机の上に種子島、フリントロック式、パーカッション式、ドライゼ銃、Kar 98、M1ガーランド、M1A2、STG44、AK47と黒色火薬、雷管、紙薬莢、薬莢を置いた。

 

「これは?」

「初期の銃から僕の時代の銃を出しました。これから説明しています」

 

 まず、火薬について説明して、その火薬の爆発のエネルギーで鉛の弾を飛ばすと言うことを説明したら

「なら何故連射できるのか?」

と言われたので、爆発のエネルギーでピストンと言われる部品を動かし、次の弾を装填する仕組みだというと驚かれた。

 

「この火薬と言うのは我々でも作れるのか?」

「作れるのか作れないかで言えば、作れます。材料さえあれは」

「それは追々アナライ博士にやってもらうとして、今は君をどうするかだ。そこで提案何だが俺の息子にならないか?」

「・・・え、それって・・」

「まぁー、イクタの兄にあるってことだ」

「僕としては大歓迎だけどいいの?」

「それはレイが決めることだ」

 

 家族と聞いて、思い浮かべるのは僕を拾ってくれた隊長や仲間の顔だった。本当の家族とは違ったけれどみんな僕に良くしてくれた。また、会いたいけれど2度と合うことは無い。そう思うと悲しくなってくる。でもバダさんなら父さんと思える気が心の何処で感じていた。

 その心に従って自然と言葉が出ていた。

 

「よろしくお願いします。お義父さん」

「おう!」

 

 そう言うと頭を雑に撫でられたが自然と心地良かった。

 周りの人達はニコニコしながらその様子を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回から原作に入っていこうと思います。原作を改変していく予定でいますのでよろしくお願いします。


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第2話 原作開始前

 原作を変えるための伏線です。


それから1年ほど旭日連隊(グラ・メストエリ)の駐屯地で過ごした。父さんは実の息子の様に接してくれるし、イクタもレイ兄と読んで慕ってくれている。

 ユーカさんも僕の身の上話を聞いて母親になると言って、父さんと同じ、実の息子として接してくれた。

 その時間は、かつての傭兵団と過ごした日々と同じに感じほど幸せだった。イクタのイタズラに付き合ったり、アナライ博士と一緒に様々な物を作ったり、実験したり、シバおじさんやリカンおじさんに戦術を教えたり、チェスをしたりした。

イクタが鍛錬をしていたのを見て、剣術習いたいたいと言ってきたので、防御とカウンターに優れた小太刀術と体格差があまり出ない柔術を教えた。すると何処からか聞いたのか、一部の兵士たちが教えてほしいと言ったので、ナイフによる近接格闘術と古武術を教えた。

それを聞いた兵士たちが更に来て、ほぼ全員が来たので、父さんから教官として週何回か教える事になり、それに伴い、少尉の階級も貰った。それから兵士たちの間では師匠や少尉と呼ばれたりした。

 

 でも、そんな日々は突如終わりを迎えた。父さんが命令違反を侵したとして、投獄された。

 旭日連隊(グラ・メストエリ)は解体となると言う話が聞えてきた。その話を聞く前に父さんが投獄された監獄に急いで向かった。

 見張りの兵を潜り抜けて父さんの牢屋の前に着いた。

 

「父さん!」

「その声・・レイ!?」

 

 備え付けのベッドで横になっていた父さんが飛び起きて、鉄格子に近付いてきた。

 

「お前どうやってここ来た?」

「バイクでここまで飛ばしてきてから見張りにバレない様に潜り込んで来た。ここから出よう?父さんはこの国必要な人だよ?」

「残念ながらそれは出来無い。俺がここから逃げれば、ユーカやイクタに危害が及んでしまう」

「それなら大丈夫!前持ってソルヴェナレスさんに匿ってもらえる様に頼んできたから!」

「お前いつの間に!?」

 

 父さんの顔が珍しく驚きに染まる。

 

「ヤトリと別れる際に無線機を渡しておいたんだ。急いで連絡を取って匿ってもらえる様に手配した」

「本当にいつもぶっ飛んだ事をしやがる。でどうやって出るんだ」

「それなら心配ないよ?ネズミを始末したから父さんの服をそういつに着せて焼身自殺した様に見せかけるから」

「サラッとエグい事やるな」

 

 父さんが出発する数日前から不審な気配がしていたから調べてみるといかにも表の人間では無い人物がいたので、捕まえて自白剤で情報を取ってから始末してここに運んで来た。

 

「で、どうやってここから出るんだ?」

「この服に着替えて」

「これはここの兵士の服か」

「煙で大まかにしか顔を見ない筈だからその間にここを出ていく。シンプルで簡単な作戦」

 

 死体に父さんが着ていた服を着せて、うつ伏せに寝かせ、その下にテルミットを仕込んでから灯油をかけた毛布を上から掛けて火を着けた。それと液体発煙弾を数個床に投げて煙幕を起こして叫んだ。

 

「火事だ!火事だ!」

「バダ・サンクレイの牢から出火だ!!」

 

 その声と煙で警備兵が集まって来た。

 

「急いで水持ってこい!」

「水の精霊持ってる奴はすぐにこい!」

「窓を開けろ!」

 

 その隙に2人で警備兵に紛れ込んで、監獄を出て隠してあったバイクまで向かった。

 父さんを後ろに乗せ、走り出した。

 

「レイここから何処に向うつもりだ?」

「前もって作っておいた秘密基地に行ってもらうよ?一部の信頼できる人達はすでに集まっているから」

「いつの間にそんなもんを!?」

 

 半年程経ってから海岸近くの入り江を改造して、崖の様にドックへのハッチを取り付け、中には潜水艦が4隻入るれる様に作ってある。それ以外に工作室や医務室、食堂に訓練所等を作ってある。さらにこの基地周辺には自然物に偽装された監視カメラや動態感知機をあちらこちらに設置してあるので、この基地を攻撃しようとしても基地の入り口を探している間に脱出でき、その際に基地は跡形も無くふき飛ぶ位の爆薬を用意している。

 

 バイクでしばらく走り続けて海に面している崖までやって来た。その一角にバイクを止めて、無線機を取り出し合図を送ると地面の一部が沈んだ。その場所に入って行った。

 

「ここがレイの言っていた基地か?」

「うん。父さんを慕う退役軍人や怪我や病気で退役した兵士とスラムの子供達を中心に各国の情報収集を主に行っているんだ。破壊工作は人員の関係で行えてないげとね」

「それでも十分すぎる」

 

 バイクを止めて父さんを会議室に連れて言ってとあるお願いをした。それが終わったらここの隊長に父さんを任して、とある場所に向かった。

 

 貴族や将校の住宅地となっている区画にやってきて、1つのの屋敷に忍び込み、目的の人物を探した。

 数分探し、何やら書類を見ている後ろの窓に近づくと

 

「誰だ!」

 

 椅子からすぐさま立上り、近くに置いてあったサーベルをこちらに向けて来た。

 父さんと同い年位の赤髪の人だった。

 

「夜遅くに失礼します。ソルヴェナレス・イグセム陸軍元帥ですね?バダ・サンクレイ大将のメッセージを届けにきました」

 

 部屋に入れてもらい、持ってきたタブレットを取り出して父さんのメッセージを流した。

 

『ソル久しぶりだな?これを聞いてる頃には俺はこの世にいないだろう。お前にどうしても頼みたい事があってこのメッセージを残す。ユウカとイクタ、そこのレイの事を頼む。状況は少し前にヤトリちゃんから聞いたと思う。こんな事になって申し訳無く思うがこんな事を頼めるのはお前かテル位だ。それじゃあなソル。楽しかったぜ!』

 

 数分程のメッセージが終わるとソルヴェナレス元帥はサーベルを下げてこう聞いてきた。

 

「あいつは、バカだ、本当のバカだ!何かやらかすなら少しは相談しろ!」

 

 うつむくソルヴェナレス元帥の肩は少し震えていた。

 

「それでは、私は失礼します。他にも伝えないと聞けないので」

「ありがとう。バダのメッセージを届けてくれて。ユウカ達の事は任せてくれ」

 

 僕の方に背を向けたままだったがお礼を言ってきた。その声ははじめと比べるとたいぶ優しく聞こえた。

 

 再び目的の屋敷を探し、同じ様に目的の屋敷を見つけてメッセージを届ける人物を探した。

 先程の様にならないように窓をノックした。

 

 こちらを見た人物は少し驚いていたが警戒しながら窓の鍵を開けた。

 

「だ、誰だ!?」

「夜遅くに失礼します。テルシンハ・レミオン陸軍大将ですね?バダ・サンクレイ大将からのメッセージを伝えにきました。こちらをご覧下さい」

 

 ソルヴェナレス元帥に見せた。

 

『ようテル。久しぶり、これを見ている頃には俺はこの世にいないだろう。ソルにも伝えたがユウカ達の事を頼む。それと旭日連隊(グラ・メストエリ)の面倒を見てくれると助かる。レイとアナライ博士のせいで他の部隊より試作の兵器をわんさか装備しているからそれは、自由に使ってくれ。それじゃあな、テルとソルの時間はいい思い出だ。あとは任せた』

 

 父さんからのメッセージを見たレミオン大将は人目を気にせずに涙を流していた。

 

「ありがとう。戦友のメッセージを届けてくれて、旭日連隊(グラ・メストエリ)の事は任せてくれ。私の名誉にかけてなんとかする」

 

 その言葉を聞いてから来たときと同じように窓から出て、イクタ達の元へ向かった。

 

 

 その後、無事にイクタと母さんを暗殺者から守り抜き、ソルヴェナレス元帥が到着したのを確認してから別れた。

 イクタと母さんは名前を変えて、ソルヴェナレス元帥の助けを受けながら生活を始めた。イクタは僕が教えた小太刀術と柔術の特訓のためにソルヴェナレス元帥の屋敷で一緒になって訓練を受けている。

 母さんには何かしたいことは無いか聞くと医術を学びたいといったので、秘密基地に案内して現代医療を学んでいる。

 僕は、ソルヴェナレス元帥とテルシンハ大将の元、帝国国内、キヨカ共和国などの情報収集を行うために動いている。一応軍での階級は中尉となっている。本部所属なので下手な士官よりも命令権がある。

 国内、国外を忙しく動いているので家族に会えるのは数年に数回しか無いが会えないよりはいいのでがんばれている。

 

 




 次回から原作に入って行きます。内容が変わって行くのでよろしくお願いします。


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第3話 たそがれの帝国にて

 原作の文を少し変えて、投稿していきます。


カトヴァーナ帝国の領土には、基本的に四季が存在しない。熱帯なのだ。

 春も、夏も、もちろん冬もない。夏将軍が本気で攻め込んで来る時期と、ちょっと手を緩める時期があるだけだ。帝国の歴史の半分は、この猛暑との戦いの歴史と言っても差し支えない。

 なので、すらりと背の高いフタバガキの木の間―――吊り下がったハンモックに体を預けて、ぐぅぐぅ熟睡している誰かの姿は、夏将軍に対する人類の勝利の形と言えなくもなかった。

 

「イクタ。起きてください、イクタ」

 

 寝息に合わせて上下する誰かの胸に、小さく愛らしい人型をした「何か」が乗っかって、懸命に身体を揺さぶっている。大きな頭と短い手足、丸っこいフォルム、胴体に備わった『光洞』。その姿は人類の善きパートナーたる四大精霊の一柱、光精霊のものに間違いない。

 

「・・・・・んうぅ・・・なにさ、クス・・・卒業式は寝飛ばすって言ったじゃないか・・・」

 

 日除けに顔を覆っていた防止を取り払い、誰かはクスと読んだ光精霊を両手に抱き上げる。眠たげな目をした黒髪の少年だ。身にまとったシャツと紺色のズボンは、見る影もなく着崩れているが、帽子と合わせて何らかの制服にように思われる。

 

「ですから、終わりました」

「・・・・・・ん?」

 

 抱き上げた精霊を上下で見つめ合いながら、寝ぼけ眼の少年、イクタは首をかしげる。

 

「進行が予定通りなら、つい先ほど帝立シルガ高等学校の第131期卒業式は終了し、今は卒業生と保護者を交えた会食に移っているはずです。ここで食事を摂っておかないとまずおのでは?」

 

 言われてイクタは兄に貰った懐中時計を懐から見ると正午を過ぎていた。

 

「確かに、こりゃ大変だ。せっかくのご馳走を食べ逃してしまう。レイ兄の料理ほどじゃないけど」

 

 ハンモックから体を下ろし、地上に立ったイクタは大きく伸びをした。ボキボキと背骨がなり、眠っていた意識が目覚めた途端、空腹と喉の乾きがいっぺんに襲ってきた。

 

「うっ、頭痛がする・・・。軽い脱水症状かな?」

「この暑さの中で、長い時間眠っているからです。まずは井戸に寄って水を補給しましょう」

 

 そう忠告したクスの身体を、イクタは自分の腰に備え付けられた専用のポーチへ両手を持っていき、そこにすっぽり収めてやった。足が遅い精霊にとって、それが移動時の定位置なのだ。

 

「いや、少しだけがまんしようか。ぬるい水で喉を潤すのはもったいないかなね」

 

 手早く木の幹からハンモックを回収し、近くに立て掛けて置いた打刀と脇差を腰に携え、頭痛に顔をしかめながらも、イクタは意気揚々と林の中を走り出した。

 

「体育教諭のヤーグだ、卒業おめでとうミス・イグセム。高等士官試験も目の前に近づいてきたな。君ならば合格間違いないと思うが、ゆめゆめ油断してくれつなよ?」

「ご忠告ありがたく承ります、ヤーグ教諭。ここで学んだことを本番に活かそうと思います」

 

 卒業式の終了後、猛暑とがっちり手を組んだ学校長の長口上が、実に8人もの生徒を医務室に送り出していた。ようやくスケジュールは大天幕の下ので会食に移ったものの未だに彼女―――ヤトリシノ・イグセムはろくに食事も取れず、優等生ならではの煩わしさを味わっている。

 

「おお、ヤトリシノくん、卒業おめでとう。生活指導のコバックだ。主席とはさすがだな。高等士官試験でも同じ結果を期待しても?」

「ありがとうございます、コバック教諭。期待に沿えるように全力を尽くしたいとおもいます」

「それにしても君の婚約者でもあるイクタ・ソロークはどこで何をしているのか、全く、成績は良くても普段の態度が」

 

  イクタ後で覚えておきなさい、絶対にこの恨みをぶつけてやる!

 卒業式をさぼり、何処かで寝ている婚約者の姿を想像し、表情に出さないように心の中で怒りを燃やしていた。

  あんたたちに言われなくても主席は獲るっていうの。だからもう私を解放しなさい!

 スキのない対応を続けながら、実のところ、彼女は心の中でそればかり繰り返していた。

 卒業祝いに来るだけならまだいい。教師たちが祝の言葉の後、いちいち自分の名前を付け加えるのが、彼女には不愉快で仕方がない。しかもその手の輩は大抵、今までの学校生活でヤトリとの関わりが薄かった連中なのだ。

 忘れられるのが怖いから、最後に少しでも印象を残そうとする。馬鹿馬鹿しいことだ。それでも知勇に品性を兼ね備えた主席卒業生として、彼女はレイを尽くした態度を取らねばならない。

 

「おっ、よっしゃあ!氷菓のお代わりが来たぞ!」

 

 すぐ近くで他の生徒が叫んだ内容にヤトリの耳がピクリと動いた。―――氷菓!

 帝立高等学校での卒業祝いだけあって、会場のテーブルにはそれなりに見栄えする料理が並んでいる。たっぷりの香辛料をまぶした魚の丸揚げ、山ほどの香辛料で煮込んだ肉のスープ、死ぬほどの香辛料と一緒に炊き上げた混ぜご飯。消毒、味付け、代謝の促進を目的とした香辛料での味付けはカトヴァーナのお国柄だ。それ自体にヤトリもなれているし、構わない。

 しかし、今は校長の長口上を乗り越えたばかりだ。汗なんてとっくに出尽くして、唇はカッラカラのカサカサ、体温だって平熱を軽く二度は超えている。こんな時までスパイスたっぷりの料理を食べて代謝を促進、汗をかいて涼を得る、なんてまだるっこしい工程を踏んでいられない。もっとダイレクトな「冷たさ」を、ヤトリの身体は欲している。

 どうにかキリの良いところで教師たちとの会話を打ち切り、彼女はさっきの声の方向に向かって早足で歩き出した。氷菓―――それはこの国では誰にとっても最高に魅力的な響きに違いない。雪どころか霜さえ降りることのないカトヴァーナにあって、氷という名の宝石を作り出せるのは水精霊たちだけ。それも一度にたくさんは作れず、大半は冷却材に回されてしまう。「氷を食べる」贅沢は、特別めでたいことがあった日だけの楽しみなのだ。

 案の定、大皿に山ほど盛り付けられていたのだろう氷菓は、ものすごいスピードで人々の手に渡り、残りのは風前の灯火のようだった。走り出したい衝動を辛うじて堪えながら、自分の分残っていることを祈りつつ、ヤトリは皿の前にたどり着く。

 手を伸ばそうとした瞬間にその僅かな量は見知った人物に取られてしまう。

 

「やぁ、ヤトリ。卒業おめでとう。主席とはさすがだ。次席としては少し悔しいな」

 

 空々しい惨事を述べながら皿に取った氷菓を口に運んだ。

 それと同時にイクタの背後から誰かが切りかかった。それに気がついていたイクタは持っていた皿から手を離し、素早く刀を抜き、相手の刃を受け止めた。

 それに気づくのが遅れたヤトリも同じようにサーベルとマンゴーシュを抜いたが切りかかってきた人物を見て警戒をといた。

 それ以外の人々は、いきなり卒業生に切りかかった人物に驚き、困惑していた。

 

「イクタ。訓練はサボってなかったみたいで安心したぞ?」

「サボったらレイ兄に殺されるって、分かっているからね?」

 

 イクタに切りかかったのは、カトヴァーナ帝国の軍服を着た白髪で褐色の肌をした青年だった。イクタの義理の兄であり、イクタに様々な武術と学問を教えたもう一人の師匠でもある。レイ・ソロークだった。

 二人はしばらく鍔迫り合いをするとお互いに距離を取った。それとほぼ同時にレイが風銃を抜き、イクタめがけて引き金を引いた。銃口から飛び出て銃弾をイクタはそのまま真っ二つに切り裂いた。それを確認したと同時に二人は刀をさやに戻した。

 

「皆様驚かせてしまって申し訳ありません。私の義弟の腕が落ちていないか確認するためにこのような事をしました。そのことについて謝罪させていただきます」

 

 突然現れた軍人が卒業生に切りかかり、風銃まで撃って、本気の殺し合いかと思った周囲の人々はその言葉を聞いて安堵の息を漏らした。

 

「イクタ。僕が見にきているのによくサボろうと思ったな?」

「いやぁ、・・それは・・その・・・・」

 

 必死に言い訳を考えるイクタだったが思いつかずに本心を結果的に喋り、レイに拳骨を貰っていた。

 

「ヤトリも悪かったなこんな弟で、これはお詫びと卒業祝いだ」

 

 そう言うと肩にかけていたバックからアイスを取り出してヤトリに渡した。

 氷菓がイクタに目の前で食べられたヤトリは、アイスが乗った容器を受け取った。

 

「・・・ん〜〜〜〜〜〜っ」

 

 口の中に広がる冷たさと甘さ、鼻から抜けるシナモンの香り、体温で溶けた氷が喉へと滑り落ちていく感触。それらの官能にヤトリは思わずスプーンをくわえたまま身震いした。

 

「生き返るわ。やっぱり最高ね、レイさんの作る料理は」

「褒めてもらえて嬉しいよ」

「レイ兄、僕の分は?」

「ちゃんとあるから慌てるな」

 

 保冷仕様のカバンからもう一つのアイスを取り出し、イクタに渡すと直ぐに食べ始めた。

 

「3年ぶりのレイ兄の料理だ。やっぱり美味い!」

「そこまで美味しそうに食べるなら作りがいがある」

 

 2人が幸せそうな顔をしながら持ってきたアイスを食べるのを見ながらイクタにとある事を聞いた。

 

「イクタ、帝国の状態はどう思う?」

 

 その質問にイクタは、顔つきを変えて答えた。

 

「年々味が落ちてる。品数も減ってるし、氷菓に使われてるミルクと蜂蜜の値段も高騰している。戦線が危うくなっているんだと予想できる」

「あたりだ。東域鎮台の戦線では天空兵による攻撃で補給基地や拠点、村や穀倉地帯が攻撃され、避難民にも物資が何とか行き割ったいるのが現状だ。対物エアライフルの試作品で何とか凌いでいるが持って、2ヵ月が限界だ」

「さすがレイ兄。情報収集はお手の物だね」

 

 東域鎮台の状況をイクタに求めたところ的確に戦線の状況を予想してみせた。その情報はレイが調べた限りではイクタが言った予想とほとんど一致していた。

 

「それよりもイクタ。もうすぐある高等士官試験は大丈夫か?ヤトリの婚約者なら落ちないようにしろよ」

「分かっているって。間違いなく合格してみせるよ」

「イクタに落ちられたら私にも迷惑がかかるわね」

 

 高等士官試験についてイクタに聞くと自身があるようで笑いながら答えたがヤトリに突っ込まれて苦笑いを浮かべていた。

 その後、しばらくイクタとヤトリと話した後、レイは会場から離れて言った。それとほとんど同時に2人も会場から退場し、高等士官試験に備えた。

 

 

 

 

 




夢中で書いていたら4000文字超えてました。


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第4話 嵐の邂逅(1)

 アニメ版の第1話に入っていきます。原作を参考に書いているので、二部制にしながら書いて行くかもしれませんが、よろしくお願いします。


卒業式の数日後、イクタとヤトリは高等士官試験の会場に来ていた。

 高等士官試験―――それは学習内容に幼年軍事訓練課程を含む所定の教育機関を終了してきた者だけが受けられる関門であり、幹部候補生、いわいるエリート軍人となるためにくぐらねばならない最初の試練だ。

 一兵卒=二等兵として軍に入った場合、実戦でよっぽどの大戦果でも上げない限り、その出世は下から7番目の階級である下士官「曹長」が限界となる。しかし、高等士官試験は将校の候補者選抜を目的として作られたもので、この試験に受かった者は最初から「曹長」よりもひとつ上の階級である「准尉」の地位を得ることができる。ただし、1年に一度、受験は3回まで。

 もちろん倍率もバカ高い。試験全体を通して400倍を切ることはまずないし、一次試験だけでも二十倍をくだならい。しかしカトヴァーナ帝国の人々には軍人を英雄視する傾向があるだけで、これに合格した者は憧れの的になる。地位と名誉を一度に得るチャンスなのだが・・・・。

 

「んー、国家戦略論。だるいわー」

 

 目をぎらつけせて答案用紙と向かい合う受験生たちの中にあって、あくび混じりに鉛筆を走らせるイクタの存在は、もうびっくりするほど浮いていた。そのくせ回答自体は妙にサラサラと進んでいるものだから。周りの受験生たちは揃って鼻白むしかない。

 

「あー、軍事行政学。ぬるいわ―」

 

 その姿ときたら夏休みの課題を無理やりやらされている子供と同じだ。頬杖を突いて唇をへの字に曲げて、目なんか死んだ魚のよう。で、各科目の解答が終わった瞬間に突っ伏すと、そのまま見直しもせずに解答用紙の回収までピクリとも動かない。

 

「げー、アルデラ神学。ウザいわ―」

 

 試験を見守る教官の性格よっては、それだけで退出を命じられない不真面目さだったが、どうやら悪運に恵まれたらしい。

 そして迎えた試験二日目、最後の科目は「軍事史」だった。

 

「これが最後の、これが最後・・・・ん?」

 

 ほとんど生きた屍のような状態で機械的に答案を埋めていたイクタの手が、ふいに止まる。用紙の最後に記された記述問題のテーマが、彼の目を捉えて放さなかった。

 ―――前キオカ戦役において「戦犯」とされた帝国陸軍の元大将バダ・サンクレイについて、思う所を自由に述べよ。

 

「・・・・・・・」

 

 試験が始まって以来初めて、イクタにとっては意表を突かれる出題だった。「自由に述べよ」という解答の形式からして軍の設問らしくない。型に嵌めようとする意志が見えないからだ。

 ――でも、この文面からは、もんの少しだけ懐かしい匂いを感じる。

 思わず真面目に答えたくなったイクタだが、まさか高等士官試験の答案用紙に帝室への批判を書き連ねるわけにもいかないので、すでに他の教科で点を稼いでいる自信もあり、こう短く答えるに留めた。

 ―――あらゆる英雄は過労で死ぬ。

 午後七時二十分をもって各会場での一次試験は終わり、六千人からいた受験生は、例年通りに三百人以下まで絞られた。

 イクタの近くで試験を受けていた受験生は、イクタに対して、「「「こっちは真剣に取り組んでいるのにだるそうな発言するなぁぁぁ!!」」」とイクタに対して憎悪を燃やしていた。

 

 そんな一次試験の終了から、およそ一ヶ月後。イクタとヤトリは旅の荷物を背負った姿で、それぞれの精霊と共に港から海を眺めていた。二次試験は帝国南方のヒルガノ列島で行われるため、現地に向かう送迎船に乗りに来ていたのだ。

 

「ここまでは順調ね。イクタが落ちたらどうしようかと考えていたわ」

「イグセム家にはお世話になっているからね。受からない訳にはいかないからね、授業をサボって勉強してたかいがあったよ」

 

 あくび混じりにイクタが答える。

 その時、後ろから気配もなく手が伸びてきてイクタの頭を掴んだ。その事に気づいたイクタは一瞬体を震えさせ顔を引き攣らせて、冷や汗を滝のように流した。

 隣にいたヤトリも驚き、振り返りイクタの頭を掴んだ人物を確認すると警戒をといた。

 

「イクタ・・・・今のはどう言う事だ?」

 

 その声と共にイクタの体をレイは自分の方に向けさせた。

 

「2年前にあった時は真面目に講義を受けていると言ってたよな?あれは嘘だったのか・・・」

「い、いや、それ・は・・・・その・・・」

 

 今までの態度が嘘のように大人しくなり、必死に言い訳を考えていた。その様子をヤトリは笑いを堪えながら見ていた。

 

「今は説教はなしにしてやる。説教は船の中でゆっくりしてやるから覚悟しておけ・・」

「そ、そんな・・・うん?・・・船の中?」

 

 イクタはレイの一言に疑問感じ、小さく呟いた。

 

「そうだ。ヒルガノ行きの送迎船には僕も乗る。ちょっと野暮用があってね」

 

 その言葉を聞いてイクタは、絶望したようで膝を突いて地面を向いた。

 ヤトリは納得してイクタの肩を叩いた。

 

「イクタ落ち込んでいる所悪いですが、船が来ましたよ。ヤトリとシアとレイも行きましょう」

 イクタの腰に収まった光精霊クスに言われ、3人は並んで船の方に歩いていく。その際にレイは懐からサングラスを取り出して掛けた。

 港に接岸した中型船から一目で軍人と分かる水夫たちが降りてきて、イクタとヤトリの全身をじろじろと値踏みした。

 

「受験票を」

 

 2人の受験票を確認してから水夫は無言で2人に乗船を促した。次にレイに視線を向けて話しかけた。

 イクタとヤトリは船に乗り込みながらその様子を見ていた。そしたら何かを確認した水夫を慌てて敬礼をして船への道を開けた。

 レイはイクタとヤトリに追いつき、船に乗り込んだ。いざ乗り込むと、軍の艦船らしく無駄な装飾がないが、全体的に整備の行き届いた清潔な船だ。彼らが案内された客室には、狭いながらも三段重ねの寝台が左右に一つずつあり―――しかも、そこには先客がいた。

 

「・・・・あ、こんにちは。ひょっとして、あなた達も受験生ですか?」

 

 緊張と安心が混ざった表情で話しかけてきたのは、淡い水色の髪を持った長身の女性だった。膝の上にはパートナーの水精霊が乗っている。毅然としたヤトリとは対象的に柔和な印象だ。

 

「そうみたいね。私はヤトリシノ・イグセム。帝立シガル高等学校の第131期卒業生よ。パートナーは火精霊のシア。こっちは婚約者でもあるイクタ・ソロークと光精霊のクス。後ろの軍人は、帝国陸軍中央司令部所属でイクタの義理のお兄さんで、レイ・ソローク少佐よ。あなたは?」

 

 ヤトリが口にしたイグセムの姓に、女性は少し驚いた様子で、すぐに自己紹介を返した。

 

「て、丁寧にありがとうございます。えと、帝立ミン・ミハエラ看護学校の第11期卒業生、ハローマ・ベッケルという者です。この子はパートナーの水精霊ミル。イグセムさん、ソロークさん、えと、少佐さん?よりしくお願いします」

 

 ハローマの向かい側の寝台に腰を下ろして、ヤトリは柔らかい口調で言葉を重ねた。

 

「姓で呼ばれるのは落ち着かないの。ヤトリで結構よ」

「どうか親しみを込めてイッくんと読んで下さるように」

 

 芝居がかった口調でふざけるイクタの態度に、ハローマが小さく笑みをこぼす。

 

「これの冗談は無視してくれて結構よ、ベッケルさん。相手にするとすぐ調子に乗るわ」

「そう、こいつは直ぐに調子に乗って女性を口説きに行くから調子に乗せないように」

「くすくす・・・・3人とも仲が良いんですね?じゃあ、よかったらわたしのこともハロと呼んでください。知り合いは皆そう呼びますから」

「お言葉に甘えるわ、ハロ。・・・パートナーが水精霊で、あなた自身も看護学校の出ということは、志望兵科は衛生兵かしら?」

「仰るとおりです。これで恥ずかしながら三度目の受験でして、今回始めて筆記試験を通りました。最後のチャンスなだけに、なんとか活かせるといいんですけど」

「衛生兵科は他に比べて競争率が低いし、じゅうぶん希望はあるわよ。競い合いになってたら手加減できないけれど、もし協力できるようなら力を合わせて行きたいわね」

 

 口調も表情もにこやかなヤトリだが、その内心は本音と打算が半々。この時点ではもう、勝負は始まってるどころか序盤戦まで終わっている。イクタがレイから学んだ学習方法は少ない時間で記憶することが出来たのが最初の戦果で、ここからは協力者を現地調達するフェイズだ。

 

「そうできたら心強いです。イグセム家の長女―――ヤトリさんの噂は聞いていますし、その婚約者でヤトリさんと同レベルの剣術と素手でそれ以上の強さを誇るイクタさんの事は来てますし」

「あら光栄ね。噂の半分ほども実力が伴うと良いけれど、イクタの噂まで知れ渡っているとわね」

「そこまで知れ渡っているとわね。僕もびっくりだよ」

 

 3人が謙遜混じりの社交を始めた頃、船室のドアが開いて新たな乗客が姿を現した。ぽっちゃりした小太りの身体に丸い顔をのっけた少年だ。彼はざっと室内を見渡して、ある一点でぎょっと目を丸くした。

 

「イクタ・ソローク・・・・?ど、どうしてお前がここにいるんだよ!?」

「おお、我が友マシュー!君も受かっていたか、いやぁ嬉しいなめでたいな!」

 

 寝台から立ち上がったイクタに抱きつかれて、マシューと言われた少年はめちゃくちゃ嫌そうな顔をした。

 

「いきなり何してるんだお前は・・・」

 

 必死に突き放そうとする後ろからイクタにレイがため息を付きながら近づき拳骨を落としてから襟を掴んで離した。

 イクタが離さていくのを見ながら、彼の視線が今度はヤトリに注がれた。

 

「っ、ヤトリシノ・・・やっぱりお前もいたか」

「一月ぶりね、マシューくん。会えて嬉しいわ。そっりはそうでもなさそうだけれど」

「当たり前だ。お前が一次試験でずっこけていれば、おれはどんなに痛快だったかわからない。それとそこの軍人は誰だよ?」

 

 マシューは壁に持たれているレイを指差しながら聞いた。

 

「初めまして、イクタの義理の兄で帝国陸軍少佐のレイ・ソロークだ。よろしく」

「その年で少佐かよ!?何処の所属だよ?」

「中央司令部所属だ。少々機密に入るからこれ以上は言えない。これもそのためだ」

 

 自身が掛けているサングラスを指しながら答えた。

 

「レイさん、彼はマシュー・テトジリチ、パートナーは風精霊のツゥ。私とイクタの同輩よ。レイさんもハロもテトジリチって家名に聞き覚えがあるのなら言ってあげて。彼、とっても喜ぶと思うから」

「どういう紹介だよ!?誰に覚えがあろうがなかろうが、テトジリチ家は帝国国内でも屈指の旧軍閥名家だ!イグセムやレミオンにだって勝るとも劣るもんか!」

「て、テトジリチ・・・・ですか?ええと、聞いたことがあるような、ないような・・・すいません、喉まで出かかっているような気がしないような・・」

 

 ハロが無意識に失礼なことを言うので、マシューは地団駄を踏んで歯軋りした。そのタイミングでイクタが慰めるように、というかおちょくるように、彼の肩をぽんと叩く。

 

「いいじゃないか、マシュー。そのメジャーマイナーくらいの知名度こそが君のポジションだ。別に全ての芸人が全国区である必要はない。君のローカル路線で地道に頑張っていくんだ」

「誰が芸人だっ!あぁもうっ、何でもいいから、とにかくお前は離れろよ!」

「イクタお前もいい加減にしろ」

 

 背後霊のようにイクタに付きまとわれたマシューは、そのまま船室の床に肩膝を抱えて座り込んでしまった。その様子を見て笑みを浮かべているイクタの顔面をレイが掴んだ。

 

「イクタ?友達もできて楽しく過ごしていると言って言ったのは嘘か?」

「イタタタ!!レイ兄!?割れる!割れるって!」

 

 イクタの身体が宙に浮く程の力でイクタにアイアンクローを食らわせながら質問をするレイ。それを見て腹を抱えて笑うヤトリ。状況を理科できずにあたふたするハロ。その状況でもふさぎ込むマシュー。中々カオスな惨状ができていた。

 ふと、そこで再び船室のドアがゆっくり開いた。遠慮がちに顔を出したのは、ハロよりもさらに背の高い美男子だった。住んだ翠眼をもち、薄い緑色を帯びた髪が肩口まで伸びている。腰のポーチにはマシューのツゥと同じ風精霊の姿があった。

 

「ええと、入っても大丈夫かな?何だか取り込み中のようだったから」

「入って良いよ。トルウェイ」

 

 入ってきた人物の方を見ることなくイクタを持ち上げ、背を向けた状態でレイが返事をした。

 

「そ、その声は・・・」

「久しぶりだなトルウェイ。随分背が伸びな?」

「痛って!」

 

 イクタを離してからレイはトルウェイの方を向いた。

 

「とりあえず僕以外に自己紹介をしたほうがいいと思う」

「ぼくはトルウェイ・レミオン。帝立エルミ高等学校の第82期卒業生だ。この子はパートナーの風精霊サフィ。どうかよろしく、みんな。難しい試験だけど合格まで、一緒に頑張っていこう」

  

 青年がそう名乗った瞬間、部屋の隅でうずくまっていたマシューの上半身がガバっと起きた。同時にヤトリの両目も見開いている。静かな興奮から、彼女の唇は自然と釣り上がっていた。

 

「そう。あんたがレミオンの」

 

 帝国においてイグセムと並び立つ旧軍閥の名家・レミオン家の三男坊。今期の高等士官試験での合格最有力候補。最大のライバルが目の前にいる。そう理解したヤトリは、何度目かの深呼吸をして心を落ち着かせると、それを宣戦布告に代えるような勢いで名乗りを上げた。

 

「ヤトリシノ・イグセムよ。この子はパートナーのシア。身の上なんて言うまでも無いわね?」

「・・・ヤトリシノ!?そうか、その炎髪、イグセム家の!ああ、なんてことだ!」

 

 相手の名前を聞いた途端、トルウェイは憧れの英雄を見るように目を輝かせた。それまで滑らかに回っていた口も急にぎこちなくなって、意味のない呟きばかりを繰り返している。

 

「トルウェイ、落ち着て深呼吸して話したいことをゆっくり話せ」

「は、はい。すー、はー、その、ミス・イグセム。ぼくは」

 

 レイに落ち着かせて貰ってから何かを口にしようとした瞬間、その間にマシューが割り込んできた。トルウェイとヤトリに小太りのテトジリチ家長男坊が声を荒げる。

 

「イグセムの白兵戦術は当然として、レミオンの戦列銃兵戦術だってとっくに最先端じゃない。お前らはもう戦場の先駆けでも無ければ花形でもない。名家の係累と言うだけで、でかい顔はさせないぞ」

「ええと、君は?」

「マシュー・テトジリチだ。この名前、忘れるんじゃない。レミオンの末っ子」

 

 ほとんど宣戦布告のような剣幕で名乗ったマシューだが、それを聞いたトルウェイは相手とは正反対に人好きのする笑みを浮かべた。

 

「人の名前を覚えるのは得意なんだ。一緒に頑張って合格しようねマシューくん」

「ふん、おためごまかして油断させようたって無駄ぞ」

「マシューくん、マシューくんか、うーん、マーくんと呼んでもいいかな?」

「はぁ!?」

 

 いきなり愛称を付けられて、マシュ―が目を丸くした。一方、ライバルとの会話を邪魔されたヤトリは、ため息を付きながら彼の身体を押しのける。

 

「私達の祖先の戦術が、廃れていくのは当然よ。過去の栄光にいつまで縋るつもりは初めからないわ。その上で言わせてもらうとね、マシュ―」

「くっ!」

 

 マシュ―は悔しそうな声を上げた。

 そうこうしていると不意に足元がグラっと揺れた。

 

「どうやら船が出港したみたいだな」

「自己紹介も一通り終えたし、皆、とりあえず腰を落ち着かせましょうか。ヒルガノ列島まで風に恵まれても2日近い長旅よ。向こうについてからのために体力は温存しましょう」

 

 それぞれベットの位置を話し合いながら場所を決め、眠りについた。

 

 

 




 投稿遅れました。年度納でいつもよりハードなスケジュールで動いていたので少しづつしか、書けませんでした。


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