アディウム帝国召喚 (汁だく茶釜)
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アディウム帝国異世界へ

初めての投稿です。
需要少ない気がしますが、よろしくお願いします。


クワトワネ公国 政治部会

 

「報告します‼︎」

 

国の代表者が集まるこの会議で、外交部の若手幹部が、息を切らして入り込んでくる。

通常では考えられない。明らかに緊急時だった。

 

「何事か!」

 

外務郷が声を張り上げる。

 

 

若手幹部が報告し始める。要約するとーーー。

 

クワ・トイネ公国の北側海上に、100m近い大きさの肉で構成された超大型船が現れた。

 検問を行ったところ、アディウム帝国という国の大使がおり、敵対の意思がないことを伝えてきた。

検査を行ったところ、下記の項目が判明した。

 

 

 ○ アディウム帝国は、突如としてこの世界に転移してきた。

 ○ 同国はヤルダバオートと呼ばれる神格の力を断片的に取り込み、国力にしている、しかし、この神格を信仰している訳では無い。

   哨戒活動の一環として、貴国に進入しており、その際領海を侵犯したことについては、深く謝罪する。

 ○ クワ・トイネ公国と会談を行いたい。

 

 突拍子もない話、政治部会の誰もが、信じられない思いでいた。

国ごと転移など、神話に登場する話で、現実にはありえない事だ。しかしまずは特使と会う事にした。

 

 

 

中央暦1639年3月22日午前―――

アディウム帝国が転移してから、2ヶ月が経とうとしていた。

彼らと国交を結んでから2ヶ月、クワ・トイネ公国は、今までの歴史上最も変化した2ヶ月であった。

2ヶ月前、アディウム帝国はクワ・トイネ公国と、クイラ王国両方に同時に接触し、双方と国交を結んだ。

アディウム帝国からの、家畜の買い付け量は異常な程までだったが、家畜を育てる肥料が多くあるクワ・トイネ公国は、アディウム帝国からの受注に応える事が出来た。どうやら、ハルコストと呼ばれる生命体を創造するのに必要らしい。

 一方、アディウム帝国はこれらをもらう変わりに、ハルコストや異常な魔術を輸出してきた。

 人間の限界を超えた寿命の獲得、疾病からの保護、回復能力の底上げができる特殊な寄生生命体である「アクロス」と呼ばれるもの。また上記に出ていたハルコストと呼ばれるものだ、これは建築材料や兵力、労働力などに活用されてるそうだ。しかもその労働効率は人間の比にはならず、兵力として活用する場合も、人間の兵士数十人分はあるだろう。

 

 

「すごいものだな、アディウム帝国は・・・。特にハルコストと呼ばれるものは、あの国の強さの根幹なのだろうな」

 

 クワ・トイネ公国首相カナタは、秘書に語りかける。

 

「はっ。しかし、彼らが同盟を結んでくれて助かりました。もしあの力が、我が国に向けられたらと考えるとぞっとします」

 

「そうだな、アディウム帝国はロウリア王国に攻め入るらしいからな、我が国の悩みが一つ減ると言うものだ」

 

 

カナタはうっすらとした笑みを浮かべた。



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動乱

ロウリア王国 王都 ジン・ハーク ハーク城 御前会議

薄暗い部屋の中、王の御前でこの国の行く末を決める会議が行われていた。

 

 「ロウリア王、準備はすべて整いました」

 

 白銀の鎧に身を包み、黒髭を生やした30代くらいの男が王に跪き、報告する。

 彼の名は、将軍、パタジン

 

 「2国を同時に敵に回して、勝てるか?」

 

 34代ロウリア王国、大王、ハーク・ロウリア34世はその男に尋ねる。

 

 「一国は、農民の集まりであり、もう一国は不毛の地に住まう者、どちらも亜人比率が多い国などに、負けることはありませぬ。」

 

 「宰相よ、1ヶ月ほど前接触してきたアディウム帝国の情報はあるか」

 

  アディウム帝国はロウリア王国にも接触してきたが、事前にクワ・トイネ公国と、クイラ王国と国交を結んでいたため、敵性勢力と判断され、ロウリアには門前払いを受けていた。

 

 「奴らは我が部隊のワイバーンを見て、初めて見たと驚いていました。竜騎士の存在しない蛮族の国と思われます。情報はあまりありませんが」

 ワイバーンの無い軍隊は、ワイバーンの火力支援が受けられない分、弱い。

 空爆だけで、騎士団は壊滅しないが、常に火炎弾の驚異にさらされ続けるため、精神力が持たない。

 

 「そうか・・・。しかし、ついにこのロデニウス大陸が統一され、忌々しい亜人どもが、根絶やしにされると思うと、私は嬉しいぞ」

 

 「大王様、統一の暁には、あの約束も、お忘れ無く、 クックック」

 

 真っ黒のローブをかぶった男が王に向かってささやく。気持ちの悪い声だ。

 

 「解っておるわ!!」

 

 王は、怒気をはらんだ声で、言い返す。

 

(ちっ、3大文明圏外の蛮地と思ってバカにしおって。ロデニウスを統一したら、フィルアデス大陸にも攻め込んでやるわ)

 

 

 

 

 

 

 

 

アディウム帝国、首都ーーーーアディトゥム。

 

 「ロウリア王国と戦闘が始まった様ですね......」

 

クラヴァガル・サァルンは自らの主に説明する。

彼女率いる偵察隊ーーーーもとい暗殺部隊はクワトイネとロウリア国境にて、ロウリア王国の兵力が集結しており、戦闘が近いと判断した。

 

 

「確か、クワトイネ公国から援軍を送る様に要請が来ていたな」

 

 

崇高なるカルキスト・イオンはそう呟いた。

黒衣の衣装に身を包み、長杖を持った彼は中性的な顔立ちの人物だった。

 

 

「結局のところ援軍は送られるのですか?」

 

「勿論そのつもりだ、この世界で私たちの力が何処まで通用するか試したいしな」

 

「忌まわしきメカニト共がいないこの世界では私達は無敵でしょう」

 

 

しかし、サァルンの発言に対してイオンはそうでもない、と言い返す。

 

 

「私達は鉄を精製する技術すら無いのだ......この世界では鉄は一般的だ、前の世界ならメカニトとヒッタイト王国のみの技術だったが」

 

「おっしゃる通り、油断はできませんね」

 

「兎も角、クワ・トイネに援軍を送ることは決定だ、宜しく頼む」

 

「はっ、今すぐ軍の招集を......」

 

 

サァルンはそう言うと、イオンの前から立ち去った。



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ギムの悲劇

中央歴1639年4月12日早朝―――――――――

国境から20kmの町、ギム

 

 

 

そこでは、大量のワイバーンの対地支援により、クワトイネの騎士団は大打撃を受けていた。

 すでに戦力の3分の1が失われている。そこへ、ロウリア先遣隊歩兵、重装歩兵合わせて2万5千がなだれ込む。

 30分で、クワトイネ騎士団は壊滅、動く者はいなくなった。ギムは、すでにロウリア先遣隊により包囲されている。

 

 

「ふっ、弱い。所詮はこんなものか......これより、ギムへと攻め入る、住民は好きに殺せ」

 

 

ロウリア先遣隊副将アデムは、嘲笑を浮かべた。アデムは軍を進軍される様に部下に命令した。

しかし動き出した軍勢は直ぐに止まる事になった。

 

 

「アデム様、大変です‼︎アディウム帝国軍がギムを飲み込んで正面から向かってきています‼︎」

 

 

一人の部下が、顔を青ざめながらアデムに必死に伝えてきた。

 

 

「アディウム帝国はワイバーンすら無い蛮族の国だろう? それにギムを飲み込んだとはどう言う意味だ?」

 

「そのままの意味です‼︎ ギムの町全体が異形の化け物に群れに飲み込まれたんです‼︎ しかも、明らかにその数が増えていて......」

 

 

アデムは彼の言っている事は理解できなかったが、彼の必死さからして嘘では無いのだろう。

 

「わかった、ならば魔獣を投下しよう」

 

「魔獣でどうにかなる相手ではありません、今すぐ撤退を‼︎」

 

 

アデムは暫くして彼の言っていたことを完全に理解することになった。

 

 

 

 

その頃、ロウリア先遣隊の先頭では地獄が形成されていた。

 

 

「こ、こっちに来るな、化け物‼︎」

「逃げろ‼︎」

「た、助けてくれ‼︎」

 

 

体長4.5mの目のない巨人がまたひとり、ロウリア兵を持ち上げ食い殺す。

身体全身をキチン質の鎧に覆われた人型の怪物にロウリア兵は切り刻まれていく。

ゼリー状の肉の塊が、ロウリア兵を飲み込んで、限度無く大きくなっていく。

地面から無数の触手が飛び出し、ロウリア兵を地下深くに引き摺り込んでいく。

 

 

ロウリア兵を襲っていた化け物達の、大半は元ギムの住民達だ。

このギムの住民だけの犠牲があれば、ロウリア王国は赤子の手を捻る様に滅ぼせるだろう。

 

 

少なくとも、この光景を後方で見ていたカルキスト・ザァラはそう思った。

 

彼女は自分の耳をふと触ってみる。

人の耳と比べて細長い耳は、自分にあの憎むべきダエーワの血が流れているのだと思った。

オジルモークとクラヴィガルを両親に持つ彼女の実力は他のカルキストとは一線を隔てている。それどころかクラヴィガルに匹敵しているまであるくらいだ。

 

 

カルキスト・ザァラは、ロウリア兵に群がるハルコストの群れを見ていると、段々と戦列が崩れ、敗走を始めた。

彼女が片腕を宙に掲げると、肉の壁がロウリア軍の周辺を囲み、ロウリア兵は退路を絶たれる。

 

 

そこからは一方的な虐殺だった。

本来、虐殺する予定だったギムの住民の成れの果て達に食い殺されていく。ワイバーンも対地攻撃を行うが焼け石に水でしかない。その光景はこの地獄を創り出したカルキスト・ザァラですら嫌悪感を覚える程だ。

 

 

 

アディウム帝国ーーーーーーーー。

 

 

その国の軍勢は、攻めるところ必ず勝てるから戦術は要らない。更には死体を戦力にできるので補給すら要らない。

 つまるところ人間の軍ではなし得ない無敵の軍勢。異形の神と契約を交わし、手に入れた反逆の力。世界の全てを敵に回してまで、抑え込めなかった忌み嫌われし帝国が異世界で初めて牙を向いた瞬間だった。




ダエーワの個人的イメージはエルフっぽい感じです。

祖国と家族と白き山
http://ja.scp-wiki.net/scp-1903-jp


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ロデニウス沖大海戦

ギムでロウリア先遣隊が、殲滅されたと同時刻頃。

 

ついに、ロウリア王国が、4000隻以上の大艦隊を出向させたという情報が伝えられ、マイハーク港に基地を置く、クワトイネ公国海軍は艦船を集結させていた。

各艦は、帆をたたみ、港に集結し、きたるべき決戦の準備をしていた。

 艦船の数はおよそ50隻。

 

 

「壮観な風景だな」

 

 提督パンカーレは、海を眺めながら、ささやく。

 

「提督、海軍本部から、魔伝が届いています」

 

 側近であり、若き幹部、ブルーアイが報告する。

 

「読め」

 

「アディウム帝国の軍船8隻と巨像が援軍として、マイハーク沖合いに到着する。彼らは、我が軍より先にロウリア艦隊に攻撃を行うため、観戦武官1名を彼らの旗艦に搭乗させるように指令する

 

・・・との事です」

 

「何!?たったの8隻だと!!??800隻か80隻の間違いではないのか? それに巨像とはなんだ⁈」

 

「間違いではありません、巨像は恐らく何らかの兵器かと」

 

「やる気はあるのか、彼らは・・・。しかも観戦武官だと?8隻しか来ないなら、観戦武官に死ねと言っているようなものではないか!」

 

「・・・私が行きます」

 

 ブルーアイが発言する。

 

「しかし・・・。」

 

「私は剣術ではNo1です。一番生存率が高いのは私です。それに、あの化け物達を操るアディウム帝国の事です。もしかしたら勝算があるのかもしれません」

 

「すまない・・・。たのんだ」

 

「はっっっ!」

 

 

 

 

その日の夕刻。

 

 

ブルーアイは、目を疑っていた。

 その船は、彼の常識からすればとてつもなく大きかった。アディウム帝国との接触の際に、100mクラスの船を臨検したという話を聞いていたが、嘘をついていると思っていた。

 彼が見ている船は、肉と骨に覆われており、遠くの沖合いに停泊しているにも関わらず、かなり大きかった。

 それ以上に驚く事に、真鍮らしき材質の巨大な鎧が肉造船の後について来ていた。海面から身体の半分以上が出ており、推測するに、これも100m近い大きさがあるのだろう

 

(いったいなんだ!この大きさは。それに肉で出来ているのか? 兎も角、これだけ大きければ乗組員が多いのだろう、ならば移乗攻撃は有利なのだろうな......それにあの馬鹿でかい鎧の様なものはなんだ? あれが巨像と言うやつなのだろうか)

 

 

ブルーアイは唖然としながらも、船の中に入っていった。

 

 

彼はやがて艦長と思わしき人物に出会う。

 

「この隊を率いている、カルキスト・トゥンダスです」

 

「クワトイネ公国第二海軍観戦武官のブルーアイです。このたびは、援軍感謝いたします」

 

「さっそくですが我々は、明日の朝出航し、巨像により攻撃を行います」

 

 

トゥンダスは巨像を使う事に疑問を感じていた。

この真鍮の悪魔は、アディトゥムの大部分を焼き払ったメカニト共の醜悪な機械のうちの一体だ。しかし、アディウム帝国がこの世界に転移した事により、孤立した巨像群は瞬く間に制圧・鹵獲したが、クラヴィガル・ナドックスの命令により、戦力として再利用する事になった。

 上が決めたとは言え、多くの同胞を焼き払ってきたこれを使うのは嫌悪感があった。

 

 

「とりあえず、それまではゆっくりしていてください」

 

 

トゥンダスはひとまず、心を落ち着かせると驚愕していたブルーアイに話しかけた。

 



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ロデニウス沖大海戦2

ロデニウス沖大海戦2

ロウリア王国東方討伐海軍 海将 シャークン

 

「いい景色だ。美しい」

 

 大海原を美しい帆船が風をいっぱいに受け、進む。その数4400隻がマイハークに向かっていた。

 

 パーパルディア皇国からの軍事援助を経て、ようやく完成した大艦隊。これだけの大艦隊を防ぐ手立ては、ロデニウス大陸には無い。

 いや、もしかしたら、パーパルディア皇国でさえ制圧できそうな気がする。

 彼は、一瞬出てきた野心の炎を理性で打ち消す。第3文明圏の列強国に挑むのは、やはり危険が大きい。

 

 彼は東の海を見据えた・・・・。

黄色に光り輝く真鍮の巨人が迫って来ているのを確認する。

 

 

 見たことの無い物体が、海を切り分けて迫ってくるのは異様な光景であり、わずかに恐怖の心が芽生える。

 

 

こちらは4400隻、あちらは見える範囲で一体のみ、シャークンは攻撃を命令した。

船から一斉に、火矢が、巨像を襲う。

しかし、金属製のそれにはダメージが通ることはない。

続けて、バリスタから槍の様な弓矢が放たれるが、こちらも巨像の装甲の表面を傷つけるばかりで、大したダメージにはならない。

 

 

巨象が右腕を振り上げると、腕の先に搭載されたノズルから火が噴き出す。

幾千ものハルコストーーーー。果ては幾数のカルキストでさえ焼き払ってきたギリシアの火がロウリアの大艦隊を襲う。

巨像を取り囲んでいた、200隻もの軍船は、瞬く間に燃え上がり、海の中へと沈んでいく。

 

 

次に巨像は左腕を掲げた。

財団の研究ではそのヒューム値は70、存在するだけで、辺りの空間を歪める現実改変兵器は4200隻の大艦隊に向かって放出された。

その攻撃を避けれる筈も無く、現実改変砲は直撃した。

ロウリア王国東方討伐海軍の半数にあたる2000隻が異世界へと吹き飛ばされる。

辺りの海も同様に転移した影響で、海水が消え失せ、空いた空間を埋める様に海水が流れ込んでいく。

 

 

 

「悍ましい......我らの同胞もああやって消されたんだろうな」

 

 

 

肉造船の上でブルーアイと共に、その光景を見ていたトゥンダスは虚無に呟いた。

ブルーアイもその余りにも現実離れした光景に、驚愕していた。目の前でロウリア艦隊の半数が突然として消えたのだ、無理も無い。

 

 

やがて、援軍として、ロウリア王国軍のワイバーンが350騎が到着するが、ワイバーンに「アクロス」を搭載した改造ワイバーン100騎により、壊滅させる。

 残った2000隻は撤退を始めたが、あらかじめ、周辺に配置していた水生ハルコストにより、じわじわと被害を受けていく事になる。

 

 

こうして、ロデニウス沖大海戦はアディウム帝国の完勝で終わった。




SCP-2406 - The Colossus
by Metaphysician
http://ja.scp-wiki.net/scp-2406


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エルフの村

ギムの東へ約20km、ある名も無き小さなエルフの村、外界からの交流は少なく、ギムでの出来事の報が来るのが遅れた。

 にわかに信じがたい話ではあるが、ギムの住民達が異形の化け物と化して、ロウリア軍を飲み込んだらしい。

 彼らはむやみに動くのは得策では無いと判断し、村に留まっていた。

 

 

その村に、ロウリア軍の残党、100人がやってきた。

彼らはギムでの戦いの生き残りだ。しかし誰もが発狂状態で、まともに会話が成立する様な状況じゃ無い。

 

 

「この村の住人を生贄として捧げます‼︎ あはははあぁ‼︎」

「この村の人間からしたら俺ら助かるんだ‼︎」

「あ? あぁ...」

 

 

彼らは、村人たちを殺そうと突っ込んでいった。

 何故自分達だけが、こんな目に遭わなければいけないのだと。微かに残った理性が怒りを増幅させた。

 

 

村人たちは元から警戒していたのもあって、速やかに避難できたが逃げ遅れた50人ほどが切り殺された。

 村人たちは次々にロウリア兵に捕まり、殺されていく。彼らは狂気的な高揚に包まれた。

 

 

村人たちはもうダメかーーーーそう思った時だった。

 

 

地面から突き破って姿を現した触手に身体を掴まれ、ロウリア兵達は地面に引きずり込まれていく。

100人ほどのロウリア兵は瞬く間に全滅した。

 

 

「これで最後だと良いんだけど......」

 

 

カルキスト・ザァラはそう呟いた。

ギムでの戦いで、殺しきれなかった集団はこれで最後の筈である。ひとりひとり、ばらばらに逃げ出した者は相当量いるだろうが、そこまではカバーは仕切れない。

 

 

ザァラは村の家屋へと目を向ける。

窓の隙間から、此方を怯えた表情でじっと見ているエルフ達の姿があった。彼らの瞳には恐怖の色が宿っていたが、まぁ仕方が無い。

 エルフと言う種族は、ダエーワと同じ様な見た目をしている。ザァラはダエーワの血を4分の3を引いている訳で、外見は彼らとかなり似通っていた。

 しかし、エルフはダエーバイト由来の魔術や植物操作術が使える訳でも無いらしい。見た目は似ているが根本的に種族としては別の存在なのだろう。

 

 

村人達はザァラが同族だと勘違いしたのか、少し恐怖が薄まるのを感じた。

 やがて、暫くすると村長らしき人物が此方に歩み寄ってきた。

 

 

「助けて頂きありがとうございます......それで何が対価でしょうか? やはり生贄ですか?」

 

 

村長はかなり怯えた様子だった。

 彼女の権能ーーーーサーキックの異常能力を見れば、そうなるのも理解はできる。

 とは言え、対価としては求めるものは何も無い。自分がギムの住民をハルコストに変えた事実が仮に広まっていれば、そう言う考えにもなるだろう。

 

 

「特に私が貴方達に求める事はありません。私はただ任務できただけです」

 

 

村長は何処か安堵した表情を浮かべた。とは言えザァラを完全に信用した様子でも無かった。

 

 

「私はこれで帰りますので、そう怯えなさらないでください」

 

 

ザァラはそう言い残し、その場から去ろうとする。

 

 

「少しお待ちください! 助けてくださった恩人を礼もせずに返すわけには行きません」

 

 

村長はそう言ってザァラを引き止めた。

 そうして、後にエルフの村とアディウム帝国は交友を深める事のきっかけとなった。



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ロウリア王国の終焉

数日後――――――。

 

ロウリア王国軍は迫り来る肉の軍勢により、壊滅的な被害を受けていた。

 更に各地で未知の伝染病が蔓延し、多くの人間が死んでいるらしい。その症状も様々で口から血を吐いたり、皮膚が黒ずんで死んでいったり多岐にわたる。

 そう言った者たちへの差別も深刻であり、国内に大きな亀裂を産んでいた。

 

 

 

 

 その頃、ロウリア王国首都 ジン・ハーク ハーク城。

 

 

 

 6年もの歳月をかけ、ようやく実現したロデニウス大陸を統一するための軍隊、錬度も列強式兵隊教育により上げてきた。

 資材も国力のギリギリまで投じ、数十年先まで借金をしてようやく作った軍、念には念を入れ、石橋を叩いて渡るかのごとく軍事力に差をつけた。

 圧倒的勝利で勝つはずだった。

 だが、アディウム帝国の宣戦布告により、保有している軍事力のほとんどを失った。

 あのとき、アディウム帝国の使者を、丁重に扱えば良かった。もっとあの国を調べておくべきだった。

 ワイバーンのいない蛮国?

 ワイバーンの代わりに最も悍ましいものを使役する異能力者の集まりだ。

 軍のほとんどは肉の怪物に飲まれた。船団も殆どが壊滅した。国民の5割は怪物と同化した。

 こちらの軍は壊滅的被害を受けているのに、アディウム帝国はどんどん国力を高め、戦う度に軍勢は成長していると言う有り様だ。

 もしかしたら列強国を相手にしても、アディウム帝国は勝利するかもしれない。

 

 

 敵は、首都の近くまで来ている。

 

 

 もう、どうしようもない・・・。

 

 

 

 

ハルコストと化した元国民の群れに首都の辺りは完全に包囲されている。

 なんとか、水際でハルコストの進軍を止めることには成功しているが、それも長くは持たないだろう。

 唯一の救いは火が有効的であると判明した事くらいだ。とは言っても焼き石に水でしか無い。

 

 

 

その時だった。

 

巨大な何が迫ってくる地鳴り、そして肉を貪り食う咀嚼音、それと同時に近衛兵の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

それから、間も無くして王の謁見の間に、1人の女が入ってくる。両脇には全身をキチン質で覆われた人型の怪物が居た。その背後には無数の、尚且つ多種多様なハルコストが列を成していた。

女は武器らしい武器は持っていない。俗に言う肉操作魔術師(カルノマンサー)だろう。

 王の脳裏に、古の魔法帝国軍、魔帝軍のおとぎ話が浮かぶが、全く別のベクトルの悍ましい存在であると認識する。

 

「ま、まさか魔帝軍か......⁉︎ いや、なんだ、なんなんだ‼︎」

 

 ハーク・ロウリアは恐怖に慄き、尋ねる。

 

 女は王に迫る。

 

「魔帝軍というのは、よく解りませんが・・・。私はカルキスト・ハリーナ・イエヴァ......降伏勧告に来たものです」

 

「降伏勧告だと...?」

 

「はい、もう勝ち目がない事は分かった筈です。ならばこれ以上被害が広がるのは嫌でしょう?」

 

 

それは願ってもない事だが、何を要求されるのか、それがひたすらに怖かった。

 

 

「その降伏の対価は?」

 

「温存している全てのワイバーンの引き渡しと、国土の7割の割譲です、それ以外には特には求めません。まぁ本国としては求めるものは大半は手に入りましたし......」

 

 

カルキスト・ハリーナ・イエヴァは自身のハルコストに目を向ける。

やはり、自分のハルコストに、魂が加わっていく様は気分がいいものだ。

 ハリーナ・イエヴァは邪悪な笑みが一瞬、浮かぶがこれは行かないと即座に思い、表情を引き締める。

 

 

「それでどうしますか? これを受け入れるか、滅ぶか」

 

「分かった......条件を飲もう、これ以上の虐殺を辞めてくれるなら構わない」

 

 

 

こうして、ロウリア王国はアディウム帝国に降伏した。




ハリーナ・イエヴァちゃんは絶対可愛い(確信)

"ハルコストに、また一つの魂が" : http://scp-jp.wikidot.com/another-soul-joins-the-halkost. Licensed under CC-BY-SA.

カルキスト・ハリーナ=イエヴァ、またの名を”爪先を求む母”
http://scp-wiki.wikidot.com/mother-who-demands-ones-toes


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ネオ・サーカイト召喚

「うぐぐっ......ここは何処だ?」

 

 

異形の姿のーーー強いて言うならグレイ型宇宙人の様な姿をした元人間は辺りを見渡し、呟いた。

SCP-2480-1として収容されていたカルキスト・カルバシュの此処に来る前の最後の記憶は財団の収容施設で拘束され、インタビューを受けていた所までだ。

 辺りを見渡したのだが、そこは辺り一面が森で此処が何処なのか全く記憶に無い。

 

 

「財団から解放されたのは良いが......」

 

 

カルバシュは溜息を吐いた。

 此処は地球なのか、異世界なのか、過去なのか、未来なのか、何故収容施設外に出れたのか検討が付かない。

 とりあえず、喜ぶべきなのだろうか......。

 

 

「我らの父、イオンが助けてくださったのだろうか......そう言うことにした方が気分も良いし、そうしよう」

 

 

カルバシュは自分の中で自己解決する。

 

 

「お前もナルカか?」

 

「誰だ?」

 

 

カルバシュが後ろを振り向くと、そこにはアジア系の男性の姿があった。

 彼の背後には無数のハルコスト蠢いていた。彼の腕は赤く染まり、この場でハルコストを生成したのだろう。

 

 

「俺はカルキスト・ヴァルザスクだ」

 

 

男はそう名乗った。

 ヴァルザスクは財団の機動部隊の襲撃に遭い、異空間へ逃亡を測ったのだが、辿り着いた世界が此処だったと言う訳だ。

 勿論、帰る手段も無いので、とりあえず自分の手先を増やしていた時にナルカらしい、異形の男へと出会ったのだ。

 

 

「私はカルキスト・カルバシュだ......同胞よ、此処が何処なのか知っているか?」

 

「此処は地球では無いのは確かだな」

 

「そうか......」

 

 

ヴァルザスクはカルバシュはこれまでの経緯と、お互いの持つ情報を交換した。

 

 

「つまり、そのハルコストは近くの村の人間を変貌させたと......そして財団やメカニトもこの世界には居ないと来た......」

 

 

カルバシュは口角が異常な程まで曲がる。普通の人間だったら、千切れてしまう程だ。

 

 

「欲望は万物の尺度である。道徳の鎖に縛られるなかれ。望む事を、望む相手に成すが良いっ‼︎ 正しくこの教義を実行するに適した世界ではないか‼︎ 良い、実にいいぞ‼︎」

 

 

カルバシュの邪悪な笑い声が辺りに響きた渡る。

 

 

「しかし、それに代わる団体はいるかも知れんから、注意は必要だな。しかし、文明レベルは低い様だが......」

 

 

ヴァルザスクが襲った村は中世レベルの生活をしていた。

 恐らくこの世界はその程度の文明レベルなのだろう。ヴァルザスクの脳内には日本で流行っていた異世界転生モノが浮かんだ。

 

 

その時だった。

 目の前から更に二人の人物が此方に歩み寄ってきた。そのうち一人は異形頭の男で、彼がナルカだと瞬時に分かった。

 

 

カルバシュは、その異形頭の男に見覚えがあった。

 彼はコーネリアス・P・ポドフェル3世ーーーー通称カルキスト・スルキスクだ。彼と直接的な面識は無いが、彼の放棄したポドフェル邸を中心に財団の機動部隊相手に対抗したのだ。

 そう言う事もあってか、少しだけ親近感を覚えていた。しかし、もう1人は見覚えは無いのだが。

 

 

「我はカルキスト・スルキスク......その気配からして貴方達もナルカだろう?」

 

「私はカルキスト・イアヘルと言う」

 

「これは良い冗談だな、こんな辺鄙な異世界にカルキストが4人も集結したんだからな」

 

 

カルキスト・ヴァルザスクはそう言い放った。

 こうして、四人の立ちの悪いカルキスト達は異世界の地にて集結した。ここまで都合良く人が揃っているのだから、他の同胞達も来ているの可能性があるため、ヴァルザスクはハルコスト辺りを偵察する様に命じた。

 しかし、ヴァルザスクの予想は外れ、ナルカらしき人物は見当たらなかった。しかし、代わりに近くに人間の街らしき物を確認した。

 

 

この時はまだ、トーパ王国に魔物以外の脅威が迫っているのは誰も気付いていなかった。

 




SCP-588-JP - 超次元壁尻~俺たちの宇宙に突き出すカルキストのケツ~
http://scp-jp.wikidot.com/scp-588-jp

SCP-2480-未完の儀式
http://ja.scp-wiki.net/scp-2480


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ネオ・サーカイト召喚-2

 トーパ王国 王都 ベルンゲン

 

 中世のヨーロッパのような城と静かな城下町、悪く言えば田舎の王国であり、良く言えば趣のある王都ベルンゲン。

 町を行きかう人々は、人族もいれば、獣人族、エフルなどで3人のカルキストにとっては新鮮な光景だった。

 

 

「にしても本当に異世界なんだな......」

 

 

行き交う人々を横目にカルキスト・ヴァルザスクは呟いた。

 日本人(?)である彼にとっては、何処かで見たことあるような光景だった。

 

 

他の2人であるイアヘルとスルキスクも興味深そうに辺りを見渡している。スルキスクの異形の頭は肉操作魔術で本来の人間の顔に戻っていた。

 ちなみに、カルバシュに関しては姿形が完全なる異形の為、近くの森でハルコストと共に留守番することになった。

 

 

「にしても、古臭い街だな......財団やメカニトが居ない分マシだが」

 

 

スルキスクはそう呟いた。

 

 

「なんか俺達目立ってないか?」

 

 

イアヘルはそう言って辺りを見渡した。

 確かに、イアヘルとスルキスクは宗教的な文様があしらわれたローブを着ている。

 はたから見れば、怪しい宗教団体、若しく危ない魔術師集団と思われてるかも知れない。

 もっとも間違いは無いのだが。

 

 

そもそも、ヴァルザスクに関しては、ジーパンを履いているのだ。

 この世界にジーパンは存在して居なそうなのでかなり目立っている気がする。

 ちなみに、ジーパンを履いたヴァルザスクが空間転移に失敗し、下半身からハンケツを覗かせている姿は別の世界では有名だったりする。

 

 

四人のカルキスト達はこの世界への情報を集める為、近くの酒場までやってきた。

 段々、夕刻という事もあり、酒場はそれなりに賑わっていた。

 

 

酒場は何処か暗い雰囲気で、酒を飲んでいる者達の表情も良いものとは言えない。

 

 

「魔物の群れが近隣まで近づいてきているらしいぞ」

「おいおい、それってマジかよ⁈ 逃げた法が良いんじゃないか⁈」

「逃げるったって何処にだよ、噂じゃ既にベルンゲンは包囲されているらしいぞ」

 

 

ヴァルザスクはこの世界には、魔物もいるのかと感心に思う。

 王道な剣と魔法の世界なのだろうか。それにしてもかなりひっ迫した状況らしい。

 

 

「大変だ!」

 

 

その時、1人の男が焦った様子で酒場へと入ってきた。

 

 

「王都に、魔物が攻め込んできたぞ!」

 

 

酒場に動揺が走ったのがカルキスト達は理解した。

 

 

「見た事もない魔物に、灰色の肌をした異形の人間が先頭に居たそうだ」

 

「なんだそれ? 聞いた事ないな」

 

 

彼らがカルキスト・カルバシュが暴走したと気付くのは少し先である。



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