この不運な俺に祝福を(切実) (キャド)
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この不運な俺に転生を!

「ようこそ死後の世界へ。鈴木丈士(すずきじょうじ)さん、あなたは先程、不幸にも亡くなりました。非常に悲しいことですが、あなたの人生は終わったのです」

 

 気が付くと俺は真っ白な世界で木製の椅子に腰をかけて、

 何の前触れもなくそんな事を告げられた。

 

 普通に考えれば随分と突拍子もない事だが、

 この非現実的な空間にいるせいかすんなりと理解できた。

 

「私はあなたに新たな道を案内する、女神アクアです」

 

 俺の死を告げた目の前の女性は、この世で最も美しいといっても過言ではなかった。

 美しい青髪をした、だれもが見ほれるであろう美貌を持っていて、今まで見てきた女性が見劣りしてしまうほどであった。

 

「……あの…………ちょっといいすか」

 

「はい、何でしょう?」

 

 本来であれば、このような美女と会話できたことに感激するところだが、確認しておきたいことがあった。

 

「……俺の……死因て何ですか?」

 

「……えっと…………階段から滑って落ちて、頭を打ったのが死因だけど……」

 

 あぁ、うん。俺の記憶通りだ。

 

「………………まっっじか~……」

 

 自身の死因を聞いて頭を抱える。

 今更嘆いたところでしょうがないが、

 健康な男子高校生の死因としては少々情けなく感じてしまう……。

 

「まぁ、そんなに落ち込むことないわよ。転落による死亡なんてよくある話だし。むしろありきたりすぎて、もっと変な理由で死ぬ人出てこないかなぁって思ったくらいだわ」

 

 ……この人、口調が砕けたとたん先ほどまで感じていた女神らしさがなくったな。

 てか、女神という立場でなんてことを言うのだろう。

 

「ま、あんまりくよくよしないことね。まだ、予定だけどお葬式も結構な人数よ。

 家族、友人、親戚、先生。あなたの死を聞いてみんな涙を流してるわ。きっと立派なお葬式よ。

 あなた、かなりいい人生を送れたんじゃない?」

 

 彼女は微笑んで俺に問いかける。

 

 ……確かに、昔から周りと比べて運が悪かったが、それ抜きで考えれば幸せだった。

 やさしい両親に恵まれ、ごく普通の家で暮らし、

 彼女ができたことはなかったが、高校も第一志望の学校に入学できたし、

 好きな漫画のことで語り合える友人もいたし、

 振り返ってみると確かに幸せな人生だった。

 

 ……………………そんな人生の最後が…………。

 

「…………こんな親不孝者のためにわざわざそこまでしてくれたと考えると……」

 

「ああ! もう! くよくよしない! 死んじゃったもんはしょうがないでしょ! 

 こっからは、この先のことを考えなさい! ほら! シャキッとしなさい!」

 

 そういっている彼女は身を乗り出していて、本気で俺を励まそうとしているのが窺える。

 ……先程はだいぶ女神らしからぬことを言っていたが案外立派な女神なのかもしれない。

 

「ありがとうございます、女神様……。といっても、この先って言っても何があるんです? 俺、死んでるわけだし」

 

「……そういえば、まだ説明できてなかったわね。

 ──―改めまして、鈴木丈士さん。私の名前はアクア。

 日本において、若くして死んだ若者たちに新たな道を導く女神よ! 

 

 今貴方には、2つの選択肢があります。1つ目は、このまま天国に行くこと。

 もう1つは、再び地球に赤ちゃんとして生まれ変わること。どちらにしますか?」

 

「天国って、あれっすか。雲の上にあって天使いるみたいな」

 

「それ、あなたたちが想像している天国ね。本当の天国っていうのは、

 本っ当に何もない場所よ。そのうえ魂になったら寝ることすらできないから、

 ただひたすらぼーっとして過ごす場所。それが天国よ」

「却下で」

 

 冗談じゃあない。そんなの地獄と変わらないだろ。

 

「で、もう一つの生まれ変わりなんだけど、当然元の記憶は消すわけだから、

 あなたの今の人格も消えることになるわね」

 

 畜生……さっきはこれからのことについてとか言ってたくせに、

 結局、俺という存在はもう完全に消えることになるじゃねえか……。

 

 うなだれる俺に女神様は、にこにこと笑いながら話しかけてきた。

 

「やっぱりそうよね。今の話を聞いて天国に行こうなんて思うわけないわよね。

 かといってまた赤ちゃんからやり直しっていうのも、あなたという存在が消えることには変わりないんだから気乗りしないわよね!」

 

 何だろう……この女神様、随分とぐいぐい来るな。

 気分的には、押し売りにあっているようだ。

 

「だけど、その2つしか選択肢ないんですよね?」

 

「それがね!! いい話があるのよー! 

 ねぇあなた、RPGゲーム好き?」

 

「ん? えっと……まぁ人並み程度には好きですよ」

 

「そう! ならちょうどいいわ! 実はね、あなた達が生活している世界とは別の世界、

 つまり異世界ではね、まさにRPGゲームみたいに剣と魔法を使ってモンスターと戦っているの! 

 そんな世界に、なんと行くことができるのよ!」

 

 ……。なぜだろう、非常に魅力的な話なのにいまいちピンとこない。

 

「あの、それって許されるんです? 輪廻転生とかいろいろとおかしくなりません?」

 

「えっと……実はね、その世界にはいわゆる魔王軍ってのがいて、人間も何とかその魔王軍を

 倒そうと必死になってはいるんだけど逆にかなりやられている状態でね。

 しかも、魔王軍にやられる人たちはかなり悲惨な最期を迎えるもんだから、

 みんなもうあんな世界はごめんだって言って、生まれ変わりを拒否しちゃっているのよ。

 で、ならほかの世界から人間を送り込んじゃおうっていう話になったのよ。

 しかも、肉体と記憶もそのままで」

 

「いや、そこはありがたいんだけど、そんな世界なら俺、どーせすぐ死ぬと思いますよ。

 てか、たぶん俺じゃなくても、トップレベルのスポーツ選手でも無理です」

 

 俺がそういうと、女神様は鼻でフフンと笑って続けた。

 

「そこで? 異世界に行く人に特典を付けることになったのよ! 

 強力な装備! とんでもない才能! 唯一無二の無敵のスキル! 

 これなら、あっちの世界にとっても即戦力になるし、

 転生する人も特典の力で安全に第二の人生を送ることができる。

 いい話だと思わない!」

 

 なるほど、確かに記憶もそのままで新たな土地で再スタートできるんだ。

 さっきの2つの選択肢を選ぶよりかは、断然こっちだな。

 自然と期待で笑みがこぼれていたのか、俺の反応を見て得意げな顔をした女神様がカタログを渡してくる。

 

「さあ! その中にきっとあなたの気に入るものが見つかるはずよ! 

 あとはそれを特典として選ぶだけ!」

 

 まだ何も言っていないのだが、女神様の中では俺は異世界行き決定らしい。

 しかし、俺自身すでにこのような展開になったことに興奮している。

 もはや異世界行き関しては、決定でいいだろう。

 

 しかし……。

 

 適当にカタログを開いてみる。

≪超魔力≫……≪魔剣・ムラマサ≫……………………≪透明化≫………………。

 

 う~~~ん……。

 なんだろう、どれもあまり惹かれない。

 

「あの……女神様」

 

「特典が決まったかしら!」

 

「あっいえ、質問いいですか?」

 

「なにかしら、できれば早くすましてほしいのだけど」

 

 この女神様、さっきからそうだが本性をあまり隠そうとしないな。

 なんかもう、威厳とかだいぶなくなってる気がする。

 かなりめんどくさそうにしているけど、これだけは聞いておきたい。

 

「特典ってカタログに載ってないやつでもいいですか?」

 

「世界のバランスを大きく崩さないものなら大丈夫よ」

 

「なら! ≪ジョジョの奇妙な冒険≫に出てくる≪スタンド≫って大丈夫ですか?」

 

 ジョジョの奇妙な冒険は俺が子供のころからずっと読んでいた漫画だ。

 もし選べるのであればぜひとも使ってみたい。

 

 しかし、ジョジョに出てくるスタンド能力はどれも強力なものばかりだ。自分で聞いておいてなんだが、あまり期待はしていない。

 

「できなくはないけど「できるんですか!!!!」ちょっと、落ち着きなさい!」

 

 女神様の言葉についつい前のめりになってしまう。

 

「まったく、びっくりしたじゃない。それから、本当ならあっちの世界で受けるはずの説明をこの私が直々にしてあげるんだからその辺もしっかりと感謝することね!」

 

 女神様が胸張り説明をしてくる。少々、態度がでかい気もするがしなくていい仕事をしてくれるようなので感謝しておこう。

 

「ありがとうございます!」

 

「よろしい! じゃあさっそく説明をしていくわね。

 

 さっきも言った通りあなたがこれから行く世界は、まるでゲームのような世界なの。その世界ではレベルっていう生物の強さの目安みたいなものがあってね、そのレベルが上がるとステータスが上がったり、スキルポイントっていうのがもらえるの。

 

 本来ならそのスキルポイントを使って剣を扱えるようになるスキルや、魔法を習得したりできるんだけど、あなたの場合、そのスキルポイントを使ってスタンドを発現させられるっていう特典をあげるわ。しかも、そのスキルポイントがたまれば何回でもスタンドを発現させられるし、一度発現させたスタンドが消えることもないわ」

 

 おぉ! 俺的にはどれか1つ選べればと思っていたが、まさか複数のスタンドを持てるなんて! 

 

 しかし……。

 

「あの……いくらなんでも強すぎません? さっき言ってた世界のバランス崩す力っていうのに該当しそうなんですけど?」

 

「もちろんいくつか制限をつけるわ。

 

 1つ、発現させられるスタンドはランダムよ。強いスタンドが出るかどうかは、あなたの運次第ね。

 

 2つ、同時に複数体のスタンドを使うことも禁止よ。

 

 3つ、世界に影響を及ぼすスタンドはそもそも発現しないわ。

 

 最後に、これは制限というよりも処置といった感じね。使い手のデメリットにしかならないスタンドも発現しないわ」

 

 ふむ……聞く限りだとそこまできつい制限でもない。3つ目の説明的には≪メイド・イン・ヘブン≫とか≪ボヘミアン・ラプソディー≫あたりだろう。正直、自分に使いこなせる気がしないのでむしろありがたいぐらいだ。

 

 最後の説明については、当然感謝しかない。≪チープ・トリック≫とか≪スーパーフライ≫が発現したらと考えるとゾッとする。

 

 どのスタンドが出るか運次第というのが気になるが……まぁ、そう悲惨なことにはならないだろう。

 

「女神様、ありがとうございます。どうかその特典でよろしくお願いします!」

 

 その言葉を聞いて女神様は、満足そうに首を縦に振るとそのまま立ち上がった。

 すると、突然俺の体が宙に浮かび始めた。光が降り注いでいるのを感じ上を見上げると、大きな魔法陣のようなものが光り輝いていた。

 

「さぁ、行きなさい、新たな勇者よ! 魔王を討伐した暁には、どんな願いでも1つだけ叶えてあげましょう! どうかあなたのこれから進む道に、幸多からんことを!」

 

 女神様が言葉を言い終わると俺は魔法陣に吸い込まれていった。

 これからの世界に期待を胸を膨らませ俺は光に包まれた。




第1話、読んでくださり誠にありがとうございます!
ここまでジョジョ要素皆無で大変申し訳ありません!
!次回からスタンド発現しますので何卒宜しくお願い致します!


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この不運な俺にスタンドを!

今回で作者がどんなのを書きたいかがわかると思います。



俺の目の前を馬車が横切っていく。

 

「……ついたのか?」

 

 目の前に、レンガの家が立ち並ぶ、中世ヨーロッパのような光景が広がっている。

 周りを見渡せば獣耳をした人が歩いていたりと、自分が今までいた世界とは違う世界というのがわかる。

 中には剣を背負って、遠くにある門を目指して歩いている人たちもいた。

 

 異世界に来たという事実に胸が踊るが、ここでふとあることに気づく。

 

(……こっからどうすればいいんだ?)

 

 しまった。思い返してみれば、この世界について聞いておくべきことが山ほどあった。

 

(まじでどうしよう……。女神様の説明的には、ギルドとか冒険者組合みたいなのがあるのだろうか?)

 

 とりあえず、この街について通りすがりのおばあさんに話を聞いてみる。

 さっきチラッと見えた、冒険者のような人たちに話を聞くのが最善なのだろうが、ガラが悪いというイメージが強いためやめておいた。

 

「あのー、すいません。この街にギルドってありますかね」

 

「ギルド? それなら、この道を突き当たりまで進んで、右に曲がれば見えてきますよ」

 

「どうも、ありがとうございます」

 

 施設の総称がギルドで助かった。もし違ったら、田舎から来たということにしようとしたけど、その必要もなさそうだ。

 

 おばあさんに礼を言い、教えてもらった道を進んでいく。

 

 

 

 

 冒険者ギルドか……。荒くれ者がいたり、新参者に絡んでくるようなひとがいるんだろうか。

 色々と覚悟を決めて扉を開ける。

 

「あ、いらっしゃいませー。お食事なら空いているお席へ、お仕事案内なら奥のカウンターへどうぞー!」

 

 ウェイトレスのお姉さんが、出迎えてくれた。

 店内は少々薄暗いが、ガラの悪そうな人は見当たらない。

 新参者だからか、視線を向けられるがその程度で安心した。

 チラチラと見られるが、ひとまず視線は無視して奥のカウンターへ向かう。

 

 ひとまず、今日は冒険者になって、泊まれるところの確保のために、今日中に稼ぐ手段を教えてもらおう。

 もしかしたら、初心者が利用できる宿泊施設があるかもしれないが、あまり期待しすぎるのはやめておいた。

 

 カウンターには受付の人が4人いたので、適当に空いてるところに行く。

 

「はい、今日はどうされましたか?」

 

「えっと、冒険者になりたいんですけど、ここでいいですか?」

 

 この世界についてまだ何も理解できていないから、はっきりとものを言えなかったが、受付の人は明るく答えてくれた。

 

「はい、大丈夫ですよ。では、登録手数料をいただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

 …………登録手数料? 

 

 とりあえずポッケを弄ってみる。すると、硬貨が入っていた。

 

「えっと……、これで足りますか?」

 

 見たことのない硬貨だったので、この世界のお金だと思いカウンターに出した。

 

「はい、ちょうどいただきますね。それでは冒険者の説明に移らせていただきます」

 

 とりあえず、問題はなさそうなのでひとまず安心した。

 

 

 

「冒険者になりたいとおっしゃっているのですから、ある程度知識はあると思いますが説明は、必要でしょうか?」

 

「えっと、レベルとスキルポイントぐらいしかわかってないです」

 

「そうですか。では、それ以外についてのことを簡単に説明しますね。……まず、冒険者とは人に害を与えるモンスターの討伐を請け負う人のことです。といっても、今の冒険者はなんでも屋みたいなものです。冒険者とは、それらの仕事を生業とする人の総称。そして、冒険者には、職業というものがあります」

 

「戦士とか、魔法使いとかですか?」

 

「はい、そうです」

 

 ふむ、まさにゲームといった感じだ。

 

「では、こちらの書類に身長、体重、年齢、身体的特徴等の記入をお願いします」

 

 受付のお姉さんが出した書類に、自分の特徴を書いていく。

 身長174cm、体重65kg、年は16、特徴はとりあえず黒髪と書いておいた。

 

「はい、結構です。では、こちらのカードに触れてください。これで、あなたのステータスがわかります。ステータスに応じて、なりたい職業をお選びください。職業によって取得できるスキルが変わりますので注意してください」

 

 もとの世界にはないシステムだからか、内心緊張しながらカードに触れた。

 

「ありがとうございます。スズキジョウジさん、ですね。えっと……筋力、生命力、敏捷性がほんの少し高いですね。あ、魔力が高いです。知力は普通……あれ? 幸運が非常に低いですね。まあ、そこまで重要なステータスでなないので、安心してください。

 

 では、職業の選択を………………あれ?」

 

「どうかしましたか?」

 

 受付のお姉さんが不思議そうにカードを見つめている。

 

「いえ、選択可能な職業の欄に、 スタンド使い という見たことのない職業があったので」

 

「その職業でお願いします!」

 

「えっ! でも、大丈夫ですか? もしかしたら、全く新しい職業かもしれないので、ギルドの人間もアドバイスができないかもしれないのですが……」

 

 お姉さんが心配そうにこちらを見ている。

 しかし、その職業が特典なのだろう。

 

「大丈夫ですよ、実はその職業についての知識を少し持っているので」

 

「そ、そうですか? では、スタンド使い…………っと。よし、ではジョウジさん、ようこそ冒険者ギルドへ」

 

 お姉さんはそう言って、にこやかな笑みを浮かべカードを渡してくれた。

 

「そのカードは、冒険者カードと言ってモンスター討伐の証明や、身分証にも使えます。大切に扱ってくださいね」

 

 カードを見てみるとスキルポイントの欄に5ポイント、習得可能なスキルの欄にスタンド発現5ポイントと表示されていた。

 

「すいません、スキルの習得はどうすればいいですか?」

 

「それなら、カードの習得可能なスキルの欄から、取得したいスキルを選んで触るだけで大丈夫ですよ」

 

 なるほど、なら今は1体のスタンドを発現させることができるのか。

 早速スキルの取得をすることにした。

 

 カードのスタンド発現の部分を触ってみると、5ポイントあったスキルポイントが消費され、残りスキルポイントが0になる。

 

 すると、スキルの欄に少しずつ文字が浮かび上がってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………本当に奇妙な体験だ。ついさっきまでは普通の高校生だったのに、今となってはスタンド使いになっている。

 

 

 

 

 

 これから、多くのモンスターと戦うことになるんだ。

 

 

 

 

 

 これから、たくさんの仲間に出会うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 …………これから始まるんだ。異世界での冒険者生活が! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキル

《 クヌム神 》

 

 

「くそったりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」

 

 俺はカードを床に叩きつけた。




第2話、読んで下さりありがとうございます!
チート無双を期待していた方、申し訳ありません!
今後もこんな感じです!


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この不運な俺にクエストを!

投稿が空いてしまいますすいません!

思ってたよりもたくさんの人に読んでもらい、作者大喜びです!



「ありがとうございます! ありがとうございます! 

 あぁ、そんなにたくさん! 

 皆さん無理をなさらないでください! お気持ちだけで結構です!」

 

 現在、俺は町の一画でパフォーマンスを終えたところだ。この世界に転生して2週間、最初はなかなか声も出せなかったが、今となってはこうしておひねりをもらえるくらいには上達した。

 

 クヌム神を使った芸はかなり好評で、外見のリクエストなんかも受けるようになった。

 

 中でも人気だったのは、ドワーフとエルフを交互に演じながらやった、落語。今寝泊りしている馬小屋の中でこのネタを思いついた時には自分の才能に恐怖したほどだ。

 

 

(もう一度やるのも手か? いや、まだだ、もうちょっと新規の人が増えてからやるべきだ)

 

 

 おひねりを回収しながら帰り支度をする。

 

 こうして稼いだあとは、街の大衆浴場にむかう。日本人としては一日働いた後は熱い風呂に入ってゆっくり体を癒したい。

 

 幸いこの世界の風呂は、元の世界と比べると少々割高という程度で、全く稼げなかった日はあきらめるが基本的に毎日通っている。

 

 さっぱりしたあとは、適当に夕食を済ませる。モンスターの肉を扱っている店は多く、最初は抵抗があったが今となっては、元の世界の肉料理と同じ感覚で食べている。夕食を済ませたらそのまままっすぐ馬小屋へ向かう。

 

 

「おっ、ラッキー」

 

 馬糞がついていないわらを発見したので、シーツを敷いて寝床を作る。あとは、明日のネタを考えて寝るだけ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、ちょっと待て」

 

 ふと冷静になって独りごちる。

 

「あれ? 俺、なに当たり前みたいに芸人やってるんだ」

 

 この世界には冒険者になって、魔王を倒すために転生したのだ。それなのに、なぜこんなことを……。

 

 

 

 この世界は確かにゲームのような世界ではあった。レベルやらステータスとかが存在し、ギルドでクエストを受けてそれを達成してお金をもらう。

 

 その辺は確かにゲームなのだが、そこに行きつく手前で躓いているのが現状だ。

 

 ゲームでよくある初期装備だとか、初心者用のチュートリアルなんてものはない。さらにはモンスターと戦闘しなくてもクリアできるような、薬草の採取クエストなんてのも存在しなかった。

 

 …………よくよく考えてみたら、そんなことで日銭を稼ぐなんて甘い話、あるわけがないのだがそんな現実知りたくなかった。

 

 

 …………いや、違う。《クヌム神》以外のもっと強力なスタンドが出てくれたら、こんなことする必要がなかったのだ。

 

《クヌム神》

 ジョジョの第三部に出てくるスタンドだ。

 

 その能力は顔の造形はもちろん身長、体重、果てはにおいまでも自由に変えることができる。以上。

 

 …………いや、別に弱いとは思わない。実際に漫画のほうでもギャグテイストだったものの、承太郎たちを毒殺の一歩手前まで追い込んでいたり、偶然に偶然が重ねりうまくいかなかったが、承太郎が爆死する可能性もあったわけで、使いようによっては強力であることも理解できる。こと対人戦に関しては暗殺の可能性を考えれば多分こいつはアタリだ。

 

 だがこの世界では強みがマジでない。

 

 モンスターが相手となるとパワー不足だ。

 

 もしかしたら、山賊討伐とかで活躍できるかもと思い、クエストがないか聞いたがどうやらないらしい。

 

 これも考えてみたら当然だった。そんなことしてたら当然町に入れない。そうなると、モンスターが蔓延るこの世界で、わざわざ常に命の危険をさらしながら生活することになる。だから山賊なんて存在はまずいないらしい。

 

 おまけにこの《スタンド使い》という職業もハズレだった。どうやらこの職業、習得できるスキルがマジでスタンドしかない。

 

 例えば、片手剣というスキルを習得すれば、今まで剣を持ったことすらない人でも片手剣の扱いがわかるらしい。冒険者になる人は、そうやって攻撃に使えるスキルを習得して、モンスターを倒し、レベルを上げていく。これが基本だ。

 

 だが俺の場合、攻撃のためのスキルというものが現状ない。一応、食事でもレベルを上げることができるようだが、それじゃあまともなスタンドが出るまで何年経つかわからない。

 

 このままじゃあ、モンスター討伐なんてきっと無理だ。

 

 

 

 

 

 いや、本当にそれでいいのか? 

 

 俺は、一体何のためにこの世界に来たのだ。魔王を倒すためだ。

 

 こうして第2の人生を歩んでいるのも、女神様がチャンスをくれたおかげ。ここでうじうじしてても何も始まらない。

 

 

 今こそ思い出せ、ツェペリのおっさんの言葉を! 

 

 人間讃歌は勇気の讃歌!! 

 人間のすばらしさは勇気のすばらしさ!! 

 

「よし! 明日からやってやる!」

 

「おい、うるせーぞ! 静かに寝ろ!」

 

「あっ、すんません!」

 

 

 

 

 

 

 

 馬小屋でクエストを受ける決心をした次の日、俺はロングソードを購入して、クエストを受けた。

 

 受けたクエストは、ジャイアントトードと呼ばれるモンスターの討伐で、危険なモンスターではあるが、比較的初心者向けらしい。

 

 見た目は、一言で言えば巨大なカエル。金属を嫌うらしく装備の整った冒険者は好んでこいつを狩るらしい。

 

 

「おいっ! おい! やめろ! 危ねえだろ! おいっ、ちょっとま、危ね! やめろつってんだろ!」

 

 現在、逃げ回っている。

 

 昨日は、何が相手でもなんとかなる気がしたが、そんなことはなかった。だいたい、巨大と言っても大型犬ぐらいだろうと思ってたのだ。牛よりでかいとか聞いてない。

 

 

 しかし、俺が捕まることはないだろ。

 

 この2週間、四六時中クヌム神を使ったおかげで、スタンドのシステムはある程度だが理解した。

 

 まず、スタンドを使うためには、魔力が必要だった。クヌム神の場合、変身中に魔力を消費した。

 

 しかし、消費した魔力は微々たるものだ。おそらくだが必要な魔力の量は、スタンドの持続力と関係があるのだろう。クヌム神の持続力はAだ。もし持続力がDやEのスタンドなら使えたとしても一瞬、下手したら使えなかったかもしれない。そういった意味では、最初から使えるスタンドが出たのは幸運だったのかもしれない。

 

 そしてクヌム神に意外な活用方法があった。このスタンド、脂肪量、筋肉量も思いのままだった。運動神経は変わらないし、元の体と違いすぎると動かしかたがわからなかったりと、劇的な変化は望めなかったが、このカエルが相手だったら逃げるのに苦労することはないだろう。

 

 …………逃げるだけなら、だが。

 

(ちっくしょう! こんなん無理ゲーだろ!)

 

 そもそも、人間は素手の状態だと中型犬にすら勝てないらしい。扱ったこともない剣を持ったところで、こんなモンスター相手じゃ意味がない。

 

 ツェペリのおっさんも言ってただろ。強大な敵に立ち向かうことは勇気とは言えない。こんなの相手に挑もうとするやつはノミと同類だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ん? じゃあこいつに一度でも挑もうとした俺はノミと同類ってことか? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げるために必死に動かしてた足を止める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 は? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰がノミだゴラァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ…………はぁっ…………」

 

 目の前には、息絶えたカエルが倒れている。

 なんか頭真っ白になって、はっきりと覚えてないが討伐に成功した。

 

 自分の姿を見てみるとめちゃくちゃボロボロだった。 

 

 

 だが、討伐には成功した。

 

 カエルの舌が触れたところに粘液が付いていたり、返り血でベトベトだが一匹の討伐に成功した。

 

 クエスト内容、三日の間にカエルの五匹討伐のうち、一匹の討伐に成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………残り四匹……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ…………うっ、ゔぇっ……」

 

 返り血で気持ち悪くなって吐いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……ぐすっ………………帰りたい……」

 

 この世界に来て初めて泣いた。

 

 

 

 ………冒険者やめて芸人になろうかな……。




 《鈴木丈士》   16歳
 性格は、知人からはお人好しだと言われるが本人いわく違う。
 目の前で困っている人がいて、それをスルーしたら罪悪感を感じるのが嫌で、助けることが多い。

 基本的に温厚だが、ふとした瞬間(なんか自分一人で勝手に)キレる。
 キレると後先考えずに行動するようになり、そのせいで地域のDQNから(頭のイカレタやべーやつと)恐れられる存在になった過去あり。


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この不運な俺に悪友を!

なんとなく書きたくなったから、書いてしまいました。

今回は原作でもおなじみのアイツが出ます。


 ジャイアントトードを一匹討伐した俺は、一度、大衆浴場に寄った後ギルドに向かった。

 

 今回俺が討伐したジャイアントトードは、肉の買取を行っていて移送サービスを使って、5千エリス手に入った。

 …………正直、芸やってたときのが稼いでいるが、あまり考えないようにしている。

 今はギルドで夕食をとっている。

 

「はあ……」

 

 ため息が漏れる。すると、急に俺の肩に腕が回される。

 

「よう! ジョウジ、何しけた面してんだ!」

 

「…………何だ、ダストか」

 

 俺に話しかけてきたこいつはダスト。

 ドブに落ちて何年も放置された硬貨みたいに薄汚れた性根の持ち主だが、クエストについて教えてもらったし装備の選び方もこいつから教わった。

 

「何だとは何だ。ほれ、言いたいことがあったら言っとけ。今ならたった一杯で聞いてやる」

 

「……いや、そこは先輩としてただで聞いてくれよ」

 

「いやいや、たかれる機会があるんならそれ見逃すわけねえだろ?」

 

「その言い方やめろ、せめて相手を気遣う風だけでいいから。すみませーん、ビール大ジョッキ一つ」

 

「かしこまりましたー」

 

 とりあえず注文だけして話を聞いてもらう。

 

「ま、どんなふうに戦ったか知んねえけどよ、初心者のうちはそううまくいかねえもんだぞ」

 

「でも、ジャイアントトードって初心者向けのモンスターなんだろ。俺めちゃくちゃ苦戦したぞ」

 

「そりゃあ、鉄製の防具をちゃんと用意できてればの話だ。ジャイアントトード相手に苦戦するのは、何もお前だけじゃないぞ」

 

「ふーん、そうなるとしばらく苦戦することになりそうだなー……」

 

「お待たせしましたー」

 

 酒がテーブルに運ばれたので、ジョッキをダストに渡す。

 

「ほらよ」

 

「お、サンキュー。てか、自分で言うのもなんだけどよく俺におごる気になるよな」

 

 そういってジョッキに口をつける。人の金で飲む酒はさぞうまいのだろう。ごくごくと飲んでいる。いい飲みっぷりだ。

 

「ま、お前のおかげで能力の活用方法に気づけたからな。そのお礼みたいなもんだ」

 

「いや、あれマジで怖かったからな。お礼ってか、どっちかっつったら罪滅ぼしだろ」

 

 そう、こいつと出会ったのは冒険者になった日の翌日……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日、俺は冒険者ギルドで朝食をとっていた。

 

「おいおい、お前か? 昨日冒険者になったばっかの初心者ってのは?」

 

「そうだが、何だよ?」

 

 今思い返すと随分失礼な態度だった。

 

 朝から機嫌が悪かったのだ。スキルでハズレを引いたのと、馬小屋で寝るのに慣れていなかったから寝不足になっていたのが原因だ。

 あとは、あれだ。めちゃくちゃ見下されているように感じたからだ。これに関しては、ある程度ダストのことについて知った後ならわかる。絶対見下してた。

 

「おいおい! お前、職員の話じゃ新種の職業になったらしいじゃねえか。言っとくが、あんま調子に乗るんじゃねえぞ!」

 

 絵にかいたようなチンピラだった。すごいな異世界、まさかこんなこてこてのチンピラが本当にいるとは。

 

「んで、てめえいったい何が出来んだよ? もし使えそうなやつだったら、特別にこのダスト様と一緒にクエストを受けてやってもいいぞ」

 

 もはや笑えるレベルの小物だった。出会えてラッキーと思えるほどの。

 

 しかし困った。もう自分のスキルについて話さないといけないのか。ましなスタンドが出てから他の冒険者と交流を持とうと思ってたのだが。

 俺としては、能力についてはあんま話したくなかったが、まあでも、いつか周りにも認知されるんだからと話すことにした。

 

 まあ、すぐに後悔したわけだが……。

 

「……見た目を自由に変更できる」

 

「は?」

 

 何か強力なスキルを持っていると思っていたんだろうか。

 クヌム神の能力を簡潔に説明してやったら、ぽかんと口を開けてフリーズした。

 

「ぷっ、ぎゃはははははは! おいおい何だよそれ! そんなんでどうやってクエストクリアすんだよ!」

 

 だが、それも一瞬のことで今度はこちらを指さして笑い始めた。

 

「あーあ、どんな職業なのかと気になってたが、まさかこんな使えねーやつだったとは」

 

 ひとしきり笑い、こちらを馬鹿にするような言葉を浴びせてくる。

 

(……我慢だ。冒険者になって早々、問題を起こしたら絶対やりずらくなる)

 

 本当だったら一言ぐらい言ってやりたかったが、そこはぐっと耐えた。

 

「あー笑った笑った。まあでも、ここは優しい先輩である俺からアドバイスをくれてやろう。そのスキルの活用方法だ」

 

「……アドバイス?」

 

 自分でもわかっていない、この能力について助言してくれるということで、この人への認識を改める。

 

(……なんだ、ただのチンピラかと思ったら普通にいい人じゃねえか。最初にいろいろ言ってたのも、初心者で何もわかってない俺をクエストに誘おうとしてたってことなのか?)

 

 だがこいつは、俺の期待を平気で裏切る。

 

「美女になってそこらのおっさんの相手でもすれば、いい金になるだろうよ!」

 

 

 

 

 さすがにこの言葉にはプッツンした。

 

 第5部に登場したポルポが言っていた、この世で最も忌むべき行為は『侮辱』することだと! 

 

『侮辱する』という行為に対しては、殺人すらも神は許してくれるそうだ。

 

 思い知らせてやろう。

 

 

 

 

 

「なるほどな、ならさっそく試してみるわ」

 

「は?」

 

 何か言い返してくると思っていたのだろうが、あっさり引き下がる。挙句、侮辱としかとらえるしかないアドバイスを、実行すると言い出し、訝しんでこちらを見る。

 

 だが、そんなのお構いなしに《クヌム神》を使う。どんな姿に変身したいか、明確なイメージを持って顔をこねくり回す。

 イメージするのは妖艶な女性だ。出るところは出て、引っ込むところは引っこんでいる。誘っているのではと思わせるように美しく。肌の色は病的なまでに白く、うるんだ瞳で見つめる。すらりと伸びた、今にも折れてしまいそう腕を使い、長く伸びた黒髪を口元に持っていき、口を隠してミステリアスな雰囲気を醸し出す。

 

 変身能力を目の当たりにしたダストは、呆然と俺を見ている。

 

「ねえ……どお……?」

 

 今にも消えてしまいそうな、しかしどこか耳に残る儚く美しい声で問いかける。

 

「え?! あ、いや……その……」

 

 顔を真っ赤にして、こちらの問に答える余裕はなさそうだ。

 どうやらこいつのストライクゾーンを、うまい具合につけたらしい。

 

「私、綺麗?」

 

 改めて問いかけると、鼻の下を伸ばして答えてくる。

 

「お、おう。すげえ綺麗……です……って、いやいやいやいやいや! 何だよお前! 俺のことおちょくってんのか!」

 

 口では随分と強気だが、どこか緊張している様子だ。

 

 俺は席を立ってダストに近づく。何も言わずに近づく俺に見惚れてか、何も言わなくなってしまった。

 ただし、視線はしっかりと胸元を見ている。

 

 ……男子の視線は女子にバレバレというのは本当のようだ。俺も気を付けよう。

 

「な、なあ。いつまで口隠してんだよ、さっさと顔見せろって」

 

 どうやらダストは、ずっと髪で隠している口元が気になるようだ。

 

 

 ────―なら好きなだけ見せてやろう。

 

 

 ゆっくりと腕を下す。すると重力に従って黒髪がするりと下りる。

 

 さぞかし気になっていたんだろうな。ダストは口のあたりをじっと見つめている。

 

 

 口がみえるようになりダストは──────────

 

 

 

「へ?」

 

 

 

 ──────────()()()()()()()()()()()を見て呆然としている。

 

 

 

 

 

「これでも綺麗?」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、思い返してみればいい思い出だな」

 

 あの時の驚きようは、思い出すだけで笑えてくる。

 

「おい! お前本気で言ってんのか! 俺あのあと黒髪のネーチャンがトラウマになったんだぞ!」

 

 ダストがなんか言ってるが、あれのおかげで《クヌム神》を使った談話を思いついたんだ。もしさっきのクエストだって芸で《クヌム神》を使うことに慣れていなかったら、今頃カエルの腹の中かもしれない。

 

 

 

「はあ、まいいや。んで、どうしたんだ? まあ、おごってもらったからな、話聞くぜ」

 

 そういって俺に話すよう促す。

 

「いや話すけど、たぶん話してどうにかなるもんじゃないぞ」

 

 

 

 

 そして、ダストに今回のことを話す。この職業が取得できるスキルについてだったり、そのせいで苦戦したことなんかだ。

 

 

 

 

「なるほどな。いや、でもそりゃそうなるだろ」

 

「いやでもよう、俺まだこの変身のスキルしか持ってないんだって」

 

 そりゃあ俺だって、好きで剣を扱うスキルもなしに戦ってるわけじゃあない。だが、スタンド使いはスタンドしか習得できないし、レベルアップして新しいスタンドを出さないと、いつまでたっても変わらない。そのためにもあんな風に無茶しなきゃならん。どうしろってんだ……。

 

「だったらよー、パーティーメンバーを募集するのはどうだ?」

 

「……あー、なるほど」

 

 ふむ、確かに仲間がいればこんな無茶をする必要もないかもしれない。単純に数の力というのも偉大だし、もし仲間が了承してくれたら、最後のとどめを俺に譲ってもらって効率よくレベルアップできるかもしれない。

 

「ちなみに、パーティーの人数は4人ぐらいがおすすめだぜ。それ以上増やすとなると、報酬の取り分がだいぶ少なくなるからな」

 

「ふむ……よし、さっそく仲間募集の張り紙を出してくるわ。話聞いてくれてありがとな」

 

 テーブルの上に、自分の飯とダストの酒の代金を置いて席を立つ。

 

「おーう。こっちも、奢ってくれてサンキューな」

 

 募集の張り紙を張った後は、もう夜遅かったから馬小屋に向かった。結果が出るのは明日、果たしてちゃんと人は来るのだろうか。




どうしよう、結局、話進んでない(泣)

次回こそ!次回こそ、進めていきます!


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この不運な俺に仲間を!

 本当にすいません!書いてたら、生まれてました!


 仲間募集の張り紙を出して次の日、朝一番から、もうすぐお昼時というこの時間まで、張り紙で指定した席に座っているが、一向に希望者は現れない。

 別に厳しい条件を書いたわけではない。おそらくだが、俺が今まで見たことのない、スタンド使いという職業なのが問題なのだろう。一応、スタンド使いという職業の説明も記載しておいたが、果たして意味はあったのだろうか。

 

(やっぱ、その辺もゲームと違うんだな)

 

 あくまでも冒険者という()()なのだ。軽々しく適当な人と組んでクエスト失敗なんてのは誰だっていやだし、当然命を落とす危険だってあるのだ。なおさら、得体のしれない奴と組もうとはしないだろう。

 

(やっぱ自分からいかないとダメか)

 

 募集はあきらめてどこか他のパーティーに自分を売り込みに行こうとしたとき、

 

「失礼します。あの、スズキジョウジさんは貴方ですか?」

 

「えっ……あ、はい!」

 

 後ろから声をかけられたので振り向くと、そこには気品あふれる少女が立っていた。

 俺よりも1つか2つ年下だろうか。

 キラキラとした金髪をボブカットで整え、うつくしい碧眼。

 身につけている防具は、ほとんどが革製の軽装であるが、武器の方は立派なものを装備していた。腰に下げている剣は少々大きく、一見少女には似合わないものだが、彼女の気品がそうさせているのだろうか。格式ある女剣士を彷彿とさせる。

 

 

「あの……?」

 

「あっ、はいそうです。俺がスズキジョウジです」

 

 年下なのだろうが、つい見惚れてしまい反応が遅れた。

 

「よかった。では、失礼しますね」

 

 そういって彼女は、申し訳なさそうに頭を下げて、俺の向かいの席に座る。正直、ここまでの美少女と出会ったことがないので緊張してしまう。

 

 …………一応、死んだ後に出会った女神様も美人ではあったが、あの人はノーカンでいいだろ。最後のほうは威厳も気品も偉大さもなかったからな。

 

 しかし、このまましばらく無言というのも、彼女が機嫌を損ねるかもしれない。必死すぎるかもしれないが、こちらとしても早く強くなりたいのだ。

 

「いやぁ、助かります。もう誰も来ないんじゃないかと不安になっていたので」

 

「でしたら、もう少し早く来るべきでしたね。あ、敬語じゃなくて結構ですよ、おそらく私のほうが年下ですし」

 

「そうか? だったら、そうさせてもらうわ。なら、そっちもため口でいいぜ」

 

「いえ、私はこのしゃべり方が染みついているだけですので」

 

 随分としっかりした人だ。正直、冒険者に似つかわしくない。どっかの国のナイトとかのほうがよっぽど彼女に似合うだろう。

 なぜ冒険者になったのだろう? 

 

 

 

 

「では、自己紹介から。私はシャーリーと申します。職業はソードマスターです」

 

「はあ!?」

 

 驚きの声を上げる。少し大きな声を上げてしまい、彼女はそんな俺を見て不思議そうに首をかしげる。

 

「? どうかしましたか?」

 

 なぜ驚いているのかわからない、という顔をしている。しかし、どちらかというと、俺のリアクションのほうが正しいはずだ。

 

 ソードマスターは上級職だ。上級職になるには必要なステータスが非常に高く、上級職になるころにはかなり高レベルになっているはずだ。もちろんそんな人は、固定のパーティーを組み優遇されていのが基本だ。

 

「あの、悪いんだが冒険者カードを見てもいいか?」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

 案外素直に渡してくれた。このカード、スキル取得を本人じゃなくても、このカードがあればできるため、普通なら不用意に渡したりしない。

 

 信用されているのか? いや、彼女とは初対面なはずだ。きっと人を疑うこと知らないのだろう。

 

 カードを確認してみると、確かにソードマスターだった。しかもまだレベル3。つまり、最初からソードマスターの適性を持っていた、いわゆる天才ということになる。

 

 そんな人とパーティーを組めるかもしれないというのは、大変うれしいのだがこうなってくると疑問しか浮かばない。

 

「なあ、なんで俺のところに来たんだ? 正直、俺と組んでもだいぶ不釣り合いな気がするが」

 

「えっ!? えっとそれは……」

 

 彼女が困ったように視線を動かす。

 

「えっと、その……何というか…………もう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 驚いた。なんかすごい熱意を持ってくれていた。なぜだろう? 彼女とはこれが初対面のはずだが。

 新種の職業として書いた、スタンド使いに引かれたんだろうか? いろいろと疑問は残る。

 

(でも、このチャンスを不意にするのはもったいない)

 

 ここまで強い人が入ってくれるなんて、思ってもみなかった。パーティーを組んだとしても、地道にやっていくしかないと思っていたが、彼女の力があれば楽にレベルアップできるかもしれない。

 

「まあ、とにかくよろしくな。知ってるだろうが、俺はスズキジョウジだ。早速で悪いんだが、これからジャイアントトードの討伐クエストを手伝ってもらってもいいか?」

 

「え!?」

 

 彼女から驚きの声が上がる。

 

「もしかして、この後すぐは都合悪いか? 一応、期間は明日まで大丈夫だから、無理しなくていいぞ」

 

「あっ、いえ大丈夫です! はい、あの……大丈夫です! やってみせます!」

 

 彼女はそう言って、覚悟を決めたかのような表情をして立ち上がる。

 

 ? まあ、やる気があるのいい事か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日と同様、ジャイアントトードのいる平原に来た。すでにジャイアントトードは発見しているし、あっちは俺たちに気づいていない。少々距離はあるが絶好のチャンスだ。

 

「じゃあせっかくだし、あの一匹を任せてもいいか?」

 

 先陣を女の子に任せるのは、情けないが上級職がどれくらい強いのか気になった。

 

「は、はい! やってみせます!」

 

 そういって彼女は剣を抜き、構えをとる。

 やけに緊張しているようだがどうしたんだろう? 彼女の力をもってすればカエルなんて容易いはずだ。

 

 いや、よくよく考えてみれば、彼女も経験の数で言えば、俺とそう大差ないのだろう。レベル的にもモンスターを討伐しことは1回か2回のはずだ。

 

(やっぱ強くても緊張とかすんだな)

 

 一人で勝手に納得していると、彼女が地面を蹴って走り出す。

 剣を持った状態での走りだというのに、ぐんぐんとカエルとの距離を縮める。

 

(速っ!!)

 

 驚いた。上級職の動きは、常人と比べると雲泥の差だというのは聞いていたが、まさか走るだけでもここまで違うとは思わなかった。何も持たずに全力疾走したら、ボルトより早い。たぶん。

 

 一瞬でカエルの背後にまで迫った彼女は、大上段の構えをとる。

 

 この状況になってもなお、カエルは彼女に気がつかないでいる。

 

 

 

 

 

 俺があんなにも必死になって倒したカエルを、彼女はこうもあっさり倒せてしまう。もはや嫉妬や妬みすら感じず、尊敬してしまう。

 

 そして、今俺の心を満たしているのは希望だけだ。昨日まで感じていた不安なんてものは、彼女が一瞬で取り払ってくれた。

 

(いける! いけるぞ! 彼女の力があれば俺のレベルアップなんてすぐだろうし、魔王討伐だって夢じゃない! 

 

 きっと、これから始まっていくんだ! 夢に満ち溢れた冒険者生活が!)

 

 

 

 

 彼女は剣を振り下ろし、カエルを切る──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────ことなく、彼女の剣はカエルにあたる直前でピタリと止まる。

 

 

 

「は?」

 

 彼女は振り下ろす姿勢をとったまま全身を細かく震わせ、一歩も動かない。

 

 カエルはようやく気付いたのか、ゆっくりと向きを変えて彼女と向かい合う。

 

「やっ……」

 

 それでもなお動かない彼女目掛け、カエルはくち開いて近づく。

 

 

 

「やっっぱりむりぃぃぃ……ふみゅ…………!?」

 

 

 

 そういって、すすり泣きながら、カエルの腹へと消えていった……。

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待てええええええ!」

 

 俺はロングソードを持って駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、今回もだめでした……」

 

 俺の目の前には、カエルの粘液でねちょねちょになって、いわゆるorzのポーズをとっている彼女の姿。

 その隣には、息絶えたカエルが横たわっている。

 

 カエルが捕食中は、動かないことが大きかった。

 でなければ前回のように、倒すのに相当手間取ったはずだ。

 

「な、なあ。なんで切らなかったんだ? あそこまでいったら、もう振り落とすだけだろ?」

 

 俺が質問すると、彼女がビクリと体を揺らす。

 

「えっ…………えっと……その、実はこれ……だいぶ昔からなんですけど……その……」

 

 かなり言うことをためらっている。もしかしたら、深い事情があるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……生き物を殺すの……可愛そうで無理なんです…………」

「おいちょっと待て」

 

 ……は? おい冗談だろ…………。

 

 

「おまえ、冒険者だよな?」

「はい……」

 

「バリバリの戦闘職だよな?」

「はい……」

 

 

 

「なんで冒険者やってんの?」

「ふぐぅ……!」

 

 俺の言葉を聞いて縮こまった。

 

「あっ、あのー……それにはちょっと事情がありまして……って、それはあなたには関係ないですね……。

 

 ごめんなさい…………パーティーの件も忘れてください」

 

 そう言って頭を下げる。

 

「お役に立てず、ごめんなさい……」

 

 そのままの姿勢、ずっと彼女は辛そうに頭を下げている。

 

 そうしている彼女の姿を見ていると非常に胸がいたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやいやいやいやいやいや、落ち着け。

 

 うん、無理だ。いくらなんでも、パーティーなんて絶っっ対に無理だ。

 

 何やらワケアリっぽいし、優しいだけの彼女がこうやって苦しんでるのは、たしかに気の毒だが、こっちにだって生活がある。

 

 冷たい言い方をしてしまえば、もし仮にパーティーを組んだら、彼女にだって報酬を渡さなきゃならん。そんなの我慢ならない。

 

 きっと他のパーティーにも断り続けられたんだろう。

 

 何度も何度も、勇気を振り絞ってクエストについていって、そしてきっと、毎回こうやって、申し訳なさそうに頭を下げて…………。

 

 

 

 

 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、無理無理無理無理。

 

 なんとかしてあげたい気持ちもそりゃあるけど、うん、無理d「ぐすっ……」

 

 ……………………。

 

「ひっく…………うぅ……」

 

 

 

 ………………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あああああああああああああ、クソっ!!!!!」

 

「ひぃ!」

 

 大声を出した俺にシャーリーが驚く。

 

「おい! いいか! まずはっきりさせときたいことがあるからこれだけは言っとくぞ!」

 

「ご、ごめんなさい! もう二度とあなたの前に姿を見せないので、どうか」

 

「俺は面倒な金銭トラブルが嫌いだ! クエストの報酬はメンバー全員に均等に分配! これについて文句はあるか!」

 

「どうか許してくだ、……へ?」

 

 不思議そうにこちらを見てくる。何を言ってるのかわからない、という表情だ。

 

「おい、どうなんだ?」

 

「あっ……えっと、文句……ない……です」

 

 随分と答えるのに時間を使っているが、この際いいだろう。

 

「よし、ならそこは問題ないな。だがなあ! 俺は金銭トラブルは嫌いだが、給料泥棒はもっと嫌いだ! 囮、荷物持ち、道具の整備! 報酬分の仕事はちゃんとやってもらうからな! 覚悟しとけ!」

 

 俺の言葉を聞くと、目を見開いてこちらを見てくる。

 

「あっ、あの! てことは私、パーティーのメンバーに……」

 

「サボってると判断したら即解散だからな」

 

 別に同情して入れるわけじゃない。次の希望者がやってくるか、わからないから、ひとまず組むだけだ。

 

「はっ、……はい! どうかよろしくお願いします!」

 

 そう言って、満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

 ……まあ、この顔が見れたんだ。今回はラッキーとしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全身ぬちょぬちょだけど。

 




 第5話、読んで下さりありがとうございます。

 そして、すいませんでした!書き始めた頃と色々と考えが変わり、タグに無いのにも関わらず、オリジナルヒロインが登場してしまいました!

 オリジナルヒロインが苦手という方に、大変失礼な形となってしまいました。

 途中でタグを増やすことになってしまい申し訳ありません。今後は、こういったことのないようしていきますので、どうかこれからもよろしくお願いします!


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この不運な俺に同郷を!

感想、お気に入り登録等々、皆さん本当にありがとうございます!


 ジャイアントトード、2匹目の討伐を終えた俺たちは、ひとまずギルドに戻るために帰路に就く。まだ昼を少し回った程度だし、俺としてはクエストの期限が明日までというのもあり、急ぎたい思いもある。しかし、戦力が実質俺一人なのだ。ここで急いでも、いい結果にはならないだろう。

 

 歩きながら、今後の予定をシャーリーと決めいていく。

 

「とりあえず、明日はパーティー参加希望者を昼まで待つぞ。それまでに来なかったら、あきらめて2人で行く。そん時は、マジで囮役をやってもらうからな」

 

 女性への要求としては最低レベルだが、シャーリーは特に不満を言わない。

 

「はい! 了解です、リーダー!」

 

 どちらかというと喜んでいる。

 あれだろうな、今まで仮パーティーしか組んだことないから、テンションが上がってんだろうな。先程から、機嫌よさそうに鼻歌まで歌ってる。

 

 正直、こうして楽しそうに笑っている分には、俺としてもうれしい。最初の申し訳なさそうな態度よりも、断然こっちのほうが素敵だ。

 だが、今後のためにもいくつか言っておこう。

 

「おい、そのリーダーって呼ぶのやめろ」

 

「えっ!? あっ、すみません……。迷惑でしたよね……」

 

 そういってさっきの元気はどこへやら、顔をうつ向かせ始める。

 

「おい、やめろ。お前、俺が嫌がることをやる天才かよ。そんな落ち込むな。別に嫌だったとかそうゆうわけじゃあない」

 

「えっと………じゃあ、どうしてダメですか?」

 

 どうやら彼女はわかっていないようだが、そんなの決まってる。

 

「単純に小っ恥ずかしいんだよ、そうゆうの。あと、別にリーダーをやる気もないしな」

 

 昔からキレると自制が出来ずにいた。直そう直そうと思っているが、未だにこの癖は抜けない。ジョジョ4部の主人公、仗助みたいに強かったら問題ないんだろうが、俺はむしろ弱い部類だ。誰かが上にいて、制御してもらってたほうが、ちょうどいい。

 

 もっとも、シャーリーはそんな風に思っていないようで、

 

「でも…………私は、ジョウジさんがリーダーになったら、素敵なパーティーになると思いますよ」

 

 そう言って満面の笑みで俺を見る。

 

 ………………。

 

「なあ、お前のそれって天然? それとも狙ってる?」

 

「へ? えっと……何がですか?」

 

「あっ、いいやなんとなくわかった」

 

 シャーリーはこちらの質問の意図に気づかず、首をかしげて不思議そうにしている。

 

 この子、あれだ。男だろうと距離を詰めてやさしく接して、そういう態度をとられるもんだから「あれ? ひょっとしてこいつ、俺のこと好きなんじゃね?」と、勘違いさせるタイプだ。実際、俺も中学生ぐらいだったら勘違いしてた自信がある。

 

(まっ、性格に問題のあるやつよりかはずっとましか)

 

 これが金にがめつかったり、欲望に忠実だったりしたらパーティーは、絶対に組まなかった。そうこうしているうちに、アクセルが見えてくる。

 

 

 

 

「ひとまず、シャーリーはその汚れを落としに、風呂に行ってこい。その間にカエルの買取は済ませておく」

 

 町を入って早々に、シャーリーと別れる。未だにカエルの粘液は全身についたままだ。この状態で街を歩かせるのは、女の子には酷だろう。俺も何か言われるかもしれないし。下手したら変態扱いだ。

 

「お気遣いありがとうございます。では、また後程」

 

 シャーリーも特に異論はないようで、速足で去っていく。

 

 

 

(しかし、これからどうしたもんか)

 

 ギルドに向かう途中でいろいろと考えてしまう。

 現状、問題は山積みだ。シャーリーのことは、戦闘については問題ない。あの性格なら、活躍の場面は少なくてもお荷物になることはないだろう。

 

 正直、どちらが足を引っ張るかと聞かれたら、現状俺のほうだ。シャーリーが今回カエルに食われたのだって、無理に攻撃をしようとしたからであって、逃げに専念してくれれば、あの足の速さだ。やられることはないだろう。

 

(そうなってくると、やっぱ俺のレベル上げが急務だよな)

 

 俺が強いスタンドを発現させる、つまり使える奴だという証明ができれば、希望者だって殺到するはずだし、レベル上げも楽になる。

 

 …………さすがに本人の前では言えないが、シャーリーが入ったことで希望者はますます来なくなるだろう。単純に報酬も減るし、一人楽をしているようにも見られるかもしれない。

 やはりここは、俺がもっと強くなるしか希望者は来ない。

 

 当初の『レベル上げのためにメンバー追加』から『メンバー追加のためにレベル上げ』と、目的が逆転しているがしょうがない。これも、魔王討伐に向けて必要なことだ。

 

 

 

(しかし、まさかこんなにも苦労することになるとは)

 

 転生してから2週間程度しかたってないが、ここまで想定と現実の差が大きいと、流石に凹む。

 本来であれば、こんな思いしないですむ特典を持っているため、なおさらだ。

 

 …………まあ、誰が悪いかとなれば、運の悪い俺なのだが。

 

 こんな強い特典を貰っておいて、未だ進展なし。やはり、女神様も怒っているのだろうか。別に心の底からあの人を信仰している訳ではないが。

 ただ、こうやって第2の人生を謳歌するという、本来ありえない体験をしているのは、紛れもなく、あの女神様のおかげなのだ。

 

 あの時、早く済ましてほしいとか言っていたから、仕事でやっていただけなんだろうが、こんな機会をくれたんだ。恩返しはちゃんとしたい。

 

「とは言っても、今は直接会って、謝罪したい気分だ」

 

 叶わぬと知りながら口に出す。もし会えるとしたら、俺が死んだときだろうか? 

 

 一体それは、いつになるのだろうか…………。

 

 

 

 

 この調子なら、案外早く出会ってしまいそうだ………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ……」

 

 いや、確かに直接会いたいとは願ったけども、

 

「ああああああああああああああああああああーっ!!」

 

「お、おいっ! ちょっ、やめろ! 離せ!」

 

 

 目の前で、男につかみかかる女神様を見て、困惑するしかなかった。男のほうはジャージ姿だし、おそらく俺と同じ転生者だ。

 

 だが、なぜ女神様も一緒にいるんだ? 

 2人は大声で言い合うものだから、会話は自然と聞こえてくる。

 

「わかった! わかったから離せ! じゃあもういいよ、あとは一人で何とかするから。お前はもう帰っていいぞ」

 

「ちょっとあんた、何言っちゃてるのよ! 帰りたくても帰れないから困ってるんでしょ! ああ、もうどうしよう……。これからどうしたらいいのよ……」

 

 座り込んで子供のように泣き始めた。どうにも女神様がここにいるのは、本意ではないらしい。もっとも、あの男が何か非道な行いをしたというわけでもなさそうだが。

 本来、こんな道の往来で叫んでる人間なんて声をかけたくないが、今回はそういうわけにもいかないだろう。

 

「あの、すいません。ちょっといいです?」

 

 俺に気づいたジャージ姿の男がこちらを見てくる。女神様は、今も膝を抱えて泣いたままだ。

 

「ん? えっと……どちら様ですか?」

 

「すいません、突然。ただその、こっちの女性と話がしたくて」

 

 俺が女神様を指さしてそういうと、男も察したらしい。

 

「もしかして、あんたも日本人か?」

 

「はい。女神様、お久しぶりです」

 

 女神様は俺の言葉を聞いて、顔を上げてこちらを見る。こっちをじっくりと見て数秒。

 

「…………あんた誰?」

 

「えぇ……」

 

 2週間ほどしかたっていないのにもう忘れられていた。

 

「あの……俺です俺。あなたに特典でスタンド能力もらって転生した、スズキジョウジです」

 

 女神様は立ち上がり俺のほうをじっと見てくる。…悔しいがやっぱり美人だこの人。

 

「……? …………あっ、ああいたわねそんな人。ごめんなさい、すっかり忘れてたわ!」

 

 一瞬キョトンとしたが、思い出したらしい。俺を送り出したときは勇者扱いしていたが、あれも適当に言ってただけなのだろうか。

 

 ……やっぱこの人、敬う必要無いのかな。

 

「…………まあ、思い出していただいたようでよかったです。それで、女神様はいったい何でここにいるんですか?」

 

「そお! それよ! ちょっとあんた聞いてよ! このヒキニートが、どれだけひどいことを私にしたか!」

 

「おい、やめろ! 初対面の人にわけわからん造語を使って話すな! あっ、えっと、俺が説明するよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は男から死んでから転生するまでの話を聞いた。

 

「なるほど、つまりこの人を特典として連れてきたと」

 

「まあそうだけど、……何だよその目」

 

 しまった。ついじろじろと見てしまった。しかし、別に悪い意味で見てたわけじゃあない。

 

「いや、素直に感心してるんだよ。その発想は思いつかなかった」

 

「ちょっと、あんた! なに感心してるのよ! 私無理やり連れてこられたんですけど!」

 

 まあ、女神様の主張ももっともだ。正直、俺がそれやられたらキレまくって何回か殴ってる。しかし、どうにか気を静めてもらえないだろうか。さっきから通行人にちらちら見られてる。

 とりあえず、話をそらすのが手っ取り早いだろう。俺のことも忘れてたし、案外この怒りもすぐ忘れるだろ。

 

「まあまあ、落ち着いてくださいよ。そういえば、ちゃんとした自己紹介をしてなかったな。俺はスズキジョウジだ。おなじ転生者同士、仲良くやってこうぜ」

 

 そう言って男に右手を出して握手を求める。初対面で少し慣れ慣れしいかもと思ったが、男も右手を出す。

 

「おう、俺はサトウカズマだ。よろしくな。早速で悪いんだが、ギルド的なところに案内してくれないか」

 

 すごいな、俺がこの世界に来たときは、本当にギルドがあるかどうかも不安だったが、カズマはあるのが当たり前という風に聞いてきた。

 どうやらこういう世界観については、ある程度理解があるようだ。見たところ不安がってる様子もないし、もしかしたら俺より知識があるかもしれない。

 

「いいぜ、じゃあついてきてく「ジョウジさーん!」れ、って」

 

 後ろから名前を呼ばれたので振り向くと、シャーリーが小走りでこちらに来ていた。

 

「よかった……間に合った…」

 

 俺のそばまで来ると、立ち止まり、膝に手をついて息を整え始める。どうやら急いできたようだ。

 

「シャーリー、そんな急いでこっち来なくてもよかったぞ」

 

「いえ、せっかくなら一緒にギルドに報告したいじゃないですか! 私たちパーティーの初クエストなんですから!」

 

「いや、まだクリアしたわけじゃないから。ただの買取だから」

 

 さっきからずっっっとパーティーについて強調してくるなこの子。果たして何回パーティー加入を断られたんだろう……。

 

「あっ、紹介するよ。この子は俺のパーティーメンバーのシャーリーだ」

 

「はい、ジョウジさんと()()()()()()()()()()()シャーリーです」

 

 強調するのやめろ。みっともないから。ドヤ顔もするな。別にパーティーを組むことなんて珍しい事でもないんだから。

 

 「で、こっちがさっき出会ったばっかなんだが、俺と同郷のカズマだ」

 

「よろしくな」

 

「んでこっちが……………………えっと…」

 

 ここでふと、女神様をなんて紹介すればいいか疑問になる。仮にも女神という存在だ。もしかしたら、この世界ではアクアという名前も伏せたほうがいいのだろうか? 

 自分で答えを出せそうにないので、女神様とアイコンタクトをとる。

 

「ちょっと、何よさっきからこっちのことじろじろ見て。この女神アクアに向けてそんな視線を送るだなんて、すごく失礼なんですけど」

 

 うん。だめだこの人、せっかくこっちが気を利かせて女神のこと黙ってやったのに。

 

「……女神?」

 

 ほら、やっぱり。女神という言葉を聞いて不思議そうにしている。どう誤魔化そうかと考えていると、カズマが女神様に聞こえないように答えてくれた。

 

「気にしないでやってくれ。自分のことを女神と勘違いしてるかわいそうな子なんだ。たまにこういった事を口走るけど、そっとしてあげてくれ」

 

 その説明を聞いたシャーリーは、ひどく憐れんだ目を女神様に向けた。

 シャーリーは女神様…………もうアクアでいいな。呼び間違えたら面倒だし。アクアに近づいてやさしく語り掛ける。

 

「初めまして、アクアさん。あなたに何があったかは存じませぬが、大丈夫です。ゆっくり治していきましょ」

 

「ちょっとあんた!? なに患者を見るような目で見てくるのよ! 私、本当に女神なんですけど!」

 

 どうやらアクアの治療に取り掛かったらしい。まあ、本気で女神だと思って騒ぎにでもなれば面倒だしな。あの性格と口調じゃあ、ばれることもないだろう。

 

「おい、やっぱりすごいな異世界」

 

 二人が話しているのを見てると、カズマが小声で話しかけてきた。なぜ小声なのかわからないが、俺も小声で会話をする。

 

「なにがだよ? 地毛が金髪の子が当たり前にいることがか?」

 

「いや、まあそれもそうだけどよ、お前のことだよ」

 

「は、俺?」

 

 何なんだろう? 別にまだ能力も見せてないし、この世界について教えてやったわけでもない。特に感心されるようなことなんてないはずだが。

 

 

 

 

「お前、もうハーレムの1人目確保してんじゃん。しかも、あんなかわいい子。やっぱり、異世界ってこうゆうもんなんだよな」

 

 ん? 

 

「いやー俺も楽しみだぜ。これから俺、チートに目覚めたりしてさ。んで、お前みたいに、かわいい女の子たちとパーティー組んで、冒険とかしちゃったりするんだろ。マジ楽しみだぜ!」

 

 そう言って、カズマは嬉しそうにこちらを見てくる。

 

 どうしよう……。こいつ、この世界にめちゃくちゃ期待しちゃってるよ。えぇ……どうしよう、教えてやったほうがいいのかな。何かと世知辛いこの世界について。教えてやったほうがいいんだよな。

 

 …………でも楽しそーだな、こいつ。

 

 ……。

 

 

「ん? どうしたジョウジ、俺の肩に手、置いて」

 

「……………………気をしっかり持てよ」

 

「は?」

 

 どうせすぐわかるんだ。もう少し夢を見させてあげよう……。

 




まえがきでも書きましたが、皆さん本当にありがとうございます!

感想の方ですが、優しいコメントばかりで、私としても嬉しい限りなのですが批判でもバッチコイです!ぜひこの作品に対して思ったことを自由に書いてください!

投稿ペースも、もう少し早く投稿できるよう頑張っていきますので、今後もどうかよろしくお願いします!


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この不運な俺に変わり者を!

「ほら、この奥のカウンターが冒険者が利用する受付だから、基本、俺たちはここな」

 

 俺は今、シャーリーと一緒にギルドの案内をしている。

 アクアのほうは特に目を引かれるものはないのか、黙ってついてきているが、カズマは視線をあちこちに向けて目を輝かせている。

 

「うおー、すげえ! まさにゲームの世界って感じだな! やべえ、ワクワクしてきた!」

 

 ……さっきからこの調子だ。どうやら元の世界では、なかなかのゲーマーだったようでファンタジー世界の道具や人種を見るたびに大喜びしている。俺もこの世界に来たときは興奮したが、ここまでではなかった。カズマはこういった世界の知識があるから、より一層心躍るのだろう。

 

 ちなみに、シャーリーに異世界だのなんだのを聞かれたらまずいのではと思ったが、さっきから温かい目で見るだけで何も言ってこない。

 …………どうやらアクアと一緒に、カズマもかわいそうな人認定されたようだ。カズマには悪いが、そっちのほうが都合はいいので黙っていよう。

 

「ほら、さっさと済ませようぜ」

 

 まだ昼過ぎだが、クエスト2日目、シャーリー加入、カズマとアクアに出会ったりと、もうすでに疲れた。

 早く買取を終わらせようと、カウンターの空いてるところに行こうとしたら、カズマはわざわざ列に並んだ。

 

「おーい、別にどのカウンターでも大丈夫だぞ」

 

「いや、ここに並ぶべきだ」

 

 カズマに教えてやったのだが、カズマ曰くその列がいいらしい。てっきりどこに行けばいいのかわからず、一番人のいるところに行ったのかと思ったが、どうやらわざと並んだようだ。

 

「ちょっと、カズマさん。もしかして受付が一番美人だから並んでるの? いくら憧れの異世界に来たからって、その考えはドン引きなんですけど」

 

 アクアのその発言で、受付の人を見るとルナさんが対応していた。ルナさんは、ウェーブのかかった金髪をした巨乳の女性で、受付時にも笑顔で接してくれたり、男性冒険者に非常に人気の人だ。

 

 …………正直、カズマの行動が理解できてしまった。ここまであからさまな行動はしたことないが、俺だって全部の列が空いてたら、美人の人を選んでしまう。

 

 カズマの行動に納得したのだが、カズマが言うにはそういうわけでもないらしい。

 

「あのな、美人の受付のお姉さんってのは、いろいろなフラグがあったりするんだよ。元凄腕冒険者だったり、めちゃくちゃ身分が高かったり、あっと驚く隠し展開が待ってるって訳だ」

 

 やけに自信満々に言うカズマ。確かにそういった設定はゲームだとありがちだ。ゲームならだが。

 

 カズマのその発言にシャーリーがカズマ達に聞こえないよう小声で聞いてくる。

 

「あの、本当にそんなことあるんでしょうか?」

 

「いや、たぶんないと思うぞ。てか、もしそうだとしてもルナさん若すぎんだろ」

 

 別にルナさんの年齢は知らないが。しかし、アクアはどうやら納得したようで、

 

「……確かに、ゲームとかでもそういった展開があるわね。ごめんね、素直にここに並ぶことにするわ」

 

 ……神でもゲームとかするんだな。

 

 アクアを味方につけたカズマの意志は固いようで、その列から動こうとしない。

 

 …………まっ、本人が並びたがっているのだし、別にルナさんも悪い人ではないのだから大丈夫だろう。

 

「じゃ、こっちは先に済ませちまうから、またあとでな」

 

 とりあえず、カズマに一言言って買取の手続きを済ませる。買取の手続きは残ったモンスターの死体の、大体の位置を伝えるだけなのですぐに終わる。

 

 …………途中でシャーリーが「私たち2人でやりました」とかそんなことを、ドヤ顔で言うもんだから、ちょっと時間使ってしまったが……。

 受付の人、若い人なのに孫娘の話を聞くおばあちゃんみたいになってるのが気なる。やめろ、やさしく笑いかけるな。俺は別に保護者でも何でもないんだ。

 

 報告を終えた後、俺たちは近くのテーブル席に座りカズマのほうを見ると、ちょうどこれから説明を受けるところだった。

 

「カズマさんって、ジョウジさんと同郷って言ってましたけど、出身ってどこなんですか?」

 

 ……しまった、シャーリーに聞かれたが何と答えればいいのだろう。正直に言えば日本だが、言っていいのだろうか? 異世界の地名なわけだし、やはりここは黙っていたほうがいいのだろうか? 

 

「えっと……まあ、この辺の人じゃ知らないような辺境の田舎だよ」

 

 意味ないのかもしれないが黙っておいた。後々調べられて、存在しないとわかったら不審に思われるかもしれない。

 

「へ―、でも最近は魔王軍の活動も活発化してきて、そういった辺境の村は壊滅しているのがほとんどですけど、ジョウジさんの故郷は大丈夫だったんですか?」

 

 …………やっぱ変に隠そうとしないほうがよかったか。

 

「いや、俺の故郷のほうはたまたま魔王軍に狙われなくてな、なかなか連絡取れてないけどたぶん大丈夫だろ」

 

 とりあえず誤魔化せただろうか? 昔からこういう嘘ついたり誤魔化したりというのは苦手だった。

 

(やっぱり、俺には頭使ったりっていうのは向いてねえや)

 

「なあ……ジョウジ…………」

 

「おお、カズマ。やけに早かったな、って、どうした?」

 

 カズマに声を掛けられこれで話を逸らせれると思い、嬉々として振り向いたのだが、顔をうつ向かせ意気消沈といった様子だった。

 

「いや…………登録手数料が払えなくてな」

 

 そういえば、俺も最初に払ったな。確かに俺も、そんなものなくても登録できると思ってたから面食らったのを思い出す。

 

 しかし、払えなかったというのはどういことだろう? 

 

「それなら、たぶんズボンのポケットに入ってると思うぞ」

 

「え!? ………………いや、入ってないぞ」

 

 カズマは必死にポケットをまさぐったが本当にないようだ。どういうことだ? 確かに俺の時にはちゃんと千エリス入っていたのに。

 

 俺とカズマはこの中で唯一、転生事情を知ってるアクアに目を向ける。

 

「なによ? 一応言っておくけど私のせいじゃないわよ! 転生の時に担当者が変わるなんて初めてだったんだから、不備があったってしょうがないじゃない!」

 

 カズマはその言葉に不満そうな表情を浮かべたが、思うところがあったようで何も言わなかった。暗い表情でうつむいているその姿は非常に不憫だった。

 

 …………こいつも、俺と同じで不運なのかな。

 

「………………あー、クソ。ほらよ、これでちょうど二人分だ、返さなくていいぞ」

 

「え?」

 

 カズマの視線の先には、俺が出した二千エリスが置いてある。確か一人千エリスだったからこれで足りるはずだ。

 

「いやいや、いいのかよ!? 大体俺たち、今日初対面だぜ? こんなことする必要ないだろ」

 

 カズマはどうやら俺の行動が理解できなかったらしい。まあ、俺がされても同じ反応するだろうが。

 

「うっせえ。お前、あいつ大丈夫だったかな、とか考えて夜寝付けなくなるだろうが。黙って受け取れ」

 

 そもそもさっき会った時、仲良くしようぜとか言ったしな。そんな奴が無一文でスタートすら切れないとか、心配しちゃうだろうが。

 

「…………ほんとにいいのか?」

 

「俺は黙って受け取れって言ったぞ」

 

 その言葉でカズマもようやく理解したようで、深く頭を下げる。

 

「…………本っっっ当にありがとう! 助かった! あと、絶対に返すから!」

 

「……黙って受け取れって言ったただろうが、この馬鹿」

 

 どうやらカズマは人の話を聞かないらしい。あと、アクアも聞かないらしい。

 

「ちょっと、何よ! 出してくれるならさっさと出しなさいよ! あんた、なかなか見どころあるわね! いいわ、特別にこの私自ら、私を崇める信者になることを許可し、痛い!」

 

 カズマがアクアの後頭部を叩く。

 

「やめろ、この馬鹿! これ以上ジョウジに迷惑かけんじゃねえ! ほら、とっとと行くぞ!」

 

「ちょっと、何すんのよ!? ちょっ、痛い! わかったから、引っ張るのをやめて!」

 

 カズマはアクアの腕をつかんでカウンターの方へ向かっていった。……やっぱり、アクアを女神として敬う必要はないな。てか敬える点が全くない。

 

 結局、俺とシャーリーの二人に戻った。視線を前に戻すと、シャーリーが優しげな視線で俺を見てくる。

 

「…………何だよその目」

 

「いえ。ただ今日一日で、ジョウジさんが優しい人というのがわかりました」

 

 そう言ってシャーリーは笑う。

 なんだこいつ? 囮で使ってやるとか言ってる奴を、何でそんな風に評価できんだ。

 

「何だよ急に。言っておくが、俺はやるといったらやる男だからな。そうやって褒めてれば、もしかしたら優しくしてくれるかも、なんてクソみたいな考え持つんじゃねえぞ」

 

 妙なことを考えないよう、くぎを刺す。そもそも優しい人っていう評価も間違ってるが。

 

「大丈夫ですよ、最初からそんな風には考えていないので。あと、照れると口が悪くなるのも気づきました」

 

「……クソが」

 

 こいつ、だいぶ遠慮がなくなりやがった。

 

 

 

 

 

「というか、本当にジョウジさん達ってどこから来たんですか? 千エリスも持っていないなんて」

 

「うっ」

 

 カズマのおかげで話をそらせると思ったのだが、結局、疑問が増す結果に終わってしまった。

 

 物価の多少の差はあれど、この世界では一エリス一円換算で千エリスは千円相当ということだ。元の世界基準だが、千円なんて小学生でも持っていたくらいだ。そこそこ成長した男女が持っていないというのは、かなり違和感があるのだろう。

 

(やべぇ、今度こそどうやって誤魔化そう)

 

 もういっそのこと、本当のこと話してしまおうかと思ったが、

 

 

 

「あのー……パーティーメンバーの募集って……まだやってます?」

 

 

 

 後ろから話しかけられた。

 

 振り返ると弓と矢筒を背負った女性が立っていた。黒髪をまとめた長いサイドテールと、赤い瞳が特徴的で、女性としては高身長でおそらく170センチほどだ。身を縮こませて話す様子から、どこか幼い印象を受ける。だが、整った顔とモデルのような体系から、大人の色香を感じる。おそらく、二十歳前後の美女がそこにいた。

 

 女冒険者は美人じゃないとなれないのだろうか? 正直、アクアやシャーリーで美人に慣れていなかったら、この人とまともに話せている自信がない。

 

 ……いや、正確には今もつい見惚れてうまく話せない。

 

 幸いにも、シャーリーが彼女の相手をしてくれた。

 

「はい! まだまだ募集中です! ささ、どうぞこちらにお座りください!」

 

「へ!? あの……はい、よろしくお願いします……」

 

 シャーリーは女の人にぐっっと距離を詰めて話しかける。あまりの勢いに女の人も引き気味だ。……やはり、こういったところは直していってもらおう。そのうち余計なトラブルを作りそうで怖い。

 

 女の人が席に着いたところで、シャーリーから名乗り始める。

 

「初めまして! 私、シャーリーと申します! 気軽に呼び捨てで結構ですので! 末永くよろしくお願いします!」

 

 ……さっきから圧がすごい。なんというか、この辺もパーティーを組めなかった原因ではと感じてしまう。

 

「えっと……俺はジョウジって言います。現段階では、一応俺がリーダーってことになってます」

 

 出来れば誰かに代わってほしいが。というか、もしこの女の人が入った場合、リーダーをやってもらうのも考えている。おそらく年上だし、やっぱり経験を積んだ人にやってもらうのが一番だろう。

 

 

 

 

 

「えっと…………………………()()()()と申します……」

 

 

 

「おい女、合コン行きたきゃよそ行け」

 

「えぇ!?」

 

 随分驚いた様子だが、なんでだ? まさか今の名乗り、本気でやったのか? だとしたら随分とコケにされたな。

 

「ちょ、ちょっとジョウジさん! なんてこと言うんですか!」

 

 シャーリーに責められたがそんなん知るか。俺は間違ってねえ。

 

「うっせえ! いきなりあだ名、名乗るような頭アッパラパーな奴に使う時間はねえ! だいたい、何だくーたんって! せめて身の丈に合った、あだ名にしろ!」

 

 なんだ、()()って。間違ってもぱっと見20前後の人間につけるあだ名ではねえだろ。

 

「ち、違うの! 私、本当にくーたんって言うの!」

 

 この女、まだ言うか。いっそのこと《クヌム神》でビビらせてやろうか。百々目鬼あたりなら、なんとか再現できるしな。

 

 顔に手を当てて《クヌム神》を使おうとしたら、シャーリーから待ったがかかる。

 

「ジョウジさん! 多分この人()()()です!」

 

「……紅魔族?」

 

 なんだそれ? シャーリーはそう言うが、俺はこの世界については全く分かっていない。

 

「すまん、紅魔族ってなんだ?」

 

「あれ、ご存じないです? 紅魔族っていうのは、生まれつき高い魔法使いとしての適性を持って生まれる人たちです。特徴としては、紅い瞳と変わった感性を持っていて、えっと…………独特な名前をしています。ですが、それも一族特有のものです。決してふざけているわけではありません」

 

 …………日本人と外国人で文化が違うみたいなもんか。まあ、世界が違うといっても、そりゃ文化の違いぐらいあるわな。

 

 

 

 

 ……………………つまり俺は自分とちょっと違うというだけで、人の名前を勝手にふざけていると判断して貶したのか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に申し訳ありませんでした…………」

 

「えぇ!? ちょっ、ちょっと!? やめて!」

 

 くーたんさんが土下座をする俺に驚いている。やめるようにも言ってきてるが駄目だ。そんな簡単に許されちゃあいけない。

 

「本当にすいません……。どうぞ好きなだけ蹴ってください……」

 

「お願いだからやめて! ね、もういいから! シャーリーさん、何なんですかこの人!」

 

「あはは……。すみません、ちょっと感情の起伏が激しい人で」

 

 くーたんさんとシャーリーは、もう気兼ねなくコミュニケーションできている。そりゃそうだ。シャーリーはずっと丁寧な態度だったしな。

 

 それに引き換え俺は……。

 

「お願いします、蹴ってください……。踏んでください……。あなたにそうしてもらわないと、俺はこの先、生きていけません……」

 

「ちょっと、もういいから! お姉さんもう気にしてないから! さっきから周りから変な目で見られてるから! お願いだから顔を上げて!」

 




更新が遅れてしまい、本当に申し訳ありあせんでした!

これも全て、評価バー赤色となり作品更新するのに緊張してしまった、作者のクソ雑魚メンタルが悪いのです!本当に申し訳ありませんでした!

別に書くことをやめるわけではありませんので、応援してくれていた方々は、できれば今後も楽しみにしていてください!

どうかこれからも、よろしくお願いします!


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この不運な俺に戦力を!

お気に入り登録、感想等々、本当にありがとうございます!




「本当にいいんですか? もう土下座しなくて」

 

「だ、大丈夫だから! それに、私たち紅魔族がちょっと変わってる、ていうのは重々承知よ。だから、さっきのことはもう気にしないで」

 

 そう言って、くーたんさんが俺に笑いかける。

 

 …………なんていい人なんだ。あれだけ酷いこと言われたんだ。再起不能になるまで殴ってもおかしくないのに、何も言わないどころか俺を許してくれるという。

 

「…………?」

 

 感動している俺の横でシャーリーは不思議そうにくーたんさんを見つめている。

 

「どうかしたか、シャーリー。俺が言えたことじゃねえけど、あんま見つめるのも失礼だぞ」

 

「いえ。ただ、聞いてた話と、少々印象が違ったので」

 

「ん? くーたんさんって有名なのか?」

 

「あっ、いえ、そちらではなく紅魔族についての方です」

 

 びくりとくーたんさんが体を震わす。 

 

「その……聞いてた話では、紅魔族の人は大仰なポーズを取りながら名乗ると聞いていたので」

 

「なんだそれ? そんなわけわかんない人間の集まり、あるわけないだろ」

 

 そりゃあ独特な名前を付ける種族みたいだけど、そこまでずれることはないだろう。

 だが、改めて彼女を見ると、先程の説明とは違う点が見つかる。

 

「そういや、さっきの説明だとみんな魔法使いっていう風に聞いたけど、見た感じ魔法使いって感じでもなさそうだな」

 

 彼女が背負っているのは弓と矢筒で、魔法使いが使う杖の類は持っていないように見える。装備を見る限りでは、魔法使いではなくアーチャーといった感じだ。別にアーチャーでも特に問題ないのだが、先程の説明と違っていて疑問に思う。

 

「えっと…………実は私、いわゆる()()()なんだよね……。期待を裏切る形になるんだけど、職業もアークウィザードじゃないんだ……」

 

 アークウィザードというのは魔法使い系の上位職で、先程のシャーリーの説明だと、どうやら紅魔族はアークウィザードであるのが普通のようだ。だが、くーたんさんは違うらしい。そのことを告げる彼女の表情は気まずげで、どこか愁いを帯びている。

 

 …………シャーリーもそうだが、この人も訳ありらしい。

 

「…………まあ、アークウィザードじゃないことは気にしなくていいですよ。正直、どんな人でも入ってくれるだけで十分ですから」

 

「大丈夫ですよ、絶対私のほうが問題児なので」

 

 今言ったことも別に嘘ではない。この際、多少の欠点も気にしないし、シャーリーが言ったのもその通りだ。こんな地雷人間、そうそういてたまるか。

 

「それに、アーチャーだって十分戦力になる職業だって聞いてます。聞いた話だと、狙撃だけでなく偵察もできるとか」

 

 このパーティー、形だけ見れば前衛職2人という構成だったんだ。後衛職の冒険者が入ってくれるならバランスも良くなる。さらに偵察も可能となれば安全にクエストを進められるし、いざという時、弓矢による援護があると考えれば頼もしい。

 

「あっ、職業なんですけど、アーチャーじゃなくてスナイパーです」

 

「えぇ!?」

 

 シャーリーから驚きの声が上がる。より正確に言えば、ただ驚いているというより信じられないという様子だ。

 

「なあ、シャーリー。スナイパーってどういう職業なんだ?」

 

 冒険者になるうえで、ある程度の職業は受付の人に聞いていたのだが、スナイパーという職業は聞いたことがなかった。

 

「ス、スナイパーはアーチャーの上位職なんです! しかも、他の上位職と違い、スナイパーになれる人はほんの一握りです! まだ具体的な条件がはっきりとしていないんですが、単純にステータスが高ければいいという訳ではなく、そもそもの適性がなければなれない、珍しい職業なんです! 習得できるスキルもかなり強力らしく、即戦力間違いなしです!」

 

 シャーリーは興奮した様子で説明をする。どうやらかなりレアな職業らしい。その上、非常に強いときた。

 もしシャーリーの言っていることが本当なら、ありがたい話だ。俺が望んでいた強いパーティメンバーが入るわけだからな。

 

 …………だがなぜだろう? なぜか不安を感じている自分がいる。

 

「あ、あの! 念のため冒険者カードの確認をしてもいいですか?」

 

「え、えぇ。もちろんよ」

 

 カードがシャーリーに渡されたので、俺も確認をしてみる。どうやら嘘はついていないようで、職業の欄にスナイパーと記載されてある。

 

 ………………あれだ。シャーリーという前例があるもんだから不安になるだけだ。こんな問題抱えてる奴が何人もいるわけない。大丈夫、ただの杞憂だ。

 

「あの、なぜくーたんさんは、私たちのパーティーに入りたいと思ったんですか!?」

 

 シャーリーが詰め寄って質問する。そりゃそうだ。さっき説明的にも、彼女なら引く手数多のはずだ。

 

 ……………………正直、いやな予感しかしないのだが、まだ決まったわけじゃない。きっと大丈夫だ。

 

 

 

「え!? えっと……あの…………その、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ………………………………。

 

 

 

「お、おお! まさかそこまでの熱意をお持ちとは! これはもう、我々のパーティーに加入ということ「ちょっと待て」で、って、どうしたんです、ジョウジさん?」

 

 シャーリーが不思議そうこちらを見てくる。シャーリーとしては、彼女のパーティー加入に一切のためらいはないようだ。

 

 だが、くーたんさんの視線は先程から泳ぎっぱなしだ。

 

「なあ、くーたんさん」

 

「な、何かな? あ、別に敬語じゃなくていいよ。私のほうがお姉さんだけど、気にする必要なんてないからね」

 

「じゃあお言葉に甘えて。なあ、くーたん」

 

 別に何もないならそれでいい。だが、確認だけはしておかなくてはならない。

 

「なんか()()()()()()とか持ってたりしないよな」

 

「うぅっ!?」

 

 身を縮こまらせて下を向く。……この反応、まさか本当に何かあるのか? 

 

「ちょっとジョウジさん、失礼ですよ。言っておきますけど、上位職で問題抱えてる人なんて、私ぐらいのものです」

 

「おい、そんなこと胸張って言うな。というか、お前みたいなやつがいるから疑うんだろうが」

 

「大丈夫ですよ、そもそもスナイパーだって適性がないとなれない職業なんですよ。スナイパーになれている、それだけでエリートの証なんです。問題なんてあるわけないですよ。ですよね、くーたんさん」

 

 くーたんの方に視線をやると、いまだにうつむいたまま体を震わせている。

 

「あ、あれ? くーたんさん、どうしました?」

 

 

 

 

 

 

「当たらないです……」

 

 

「ん? 何ですか?」

 

 くーたんが何か言ったが、えらくか細い声で聴きとれず、シャーリーが聞き返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ…………()()()()()()()()……です………………」

 

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

 

「………………………………えっと、狙撃スキルのような攻撃系のスキルは取ってますよね?」

 

「はい……取ってるけど当たらないです」

 

「えぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………よし。

 

「さようなら、またどこかで会いましょう」

 

「ちょっと待って! 最初に言わなかったのは謝るから、お願い! どうか話だけでも聞いて!」

 

 席から離れ立ち去ろうとしたが、腰に手を回ししがみついて止めにきた。

 

「おい、やめろ! 離せ! これ以上悩みの種を増やしてたまるか! だいたいお前が入ろうもんなら、いよいようちのパーティー冒険者もどき集団だろうが!」

 

「お願い! お姉さんを見捨てないで! なんでもするから! このままじゃ、実家への仕送りもまともにできないの!」

 

「ジョウジさん! 話だけでも聞いてあげましょうよ! それに、さっき言ってたじゃないですか! どんな人でも入ってくれるだけで十分だって!」

 

「うるさいうるさいうるさい! 仮にこいつ入ろうもんなら一体どうなる! 方や攻撃できない前衛! 「うぅっ!」 方や攻撃当たらねえ後衛! 「ひぐぅっ!」 なんだお前ら! まともなのは俺だけか!」

 

「うわあああん! スキル! スキルだけはちゃんとしたのあるから! お願いだから話だけでも聞いてえ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 くーたんが言うには、攻撃できなくても役立つスキルがあるという。

 

「で? 要はその『万里眼』と『行動予測』のスキルがあれば、偵察なら完璧と」

 

「そお! だからお願い! 役に立って見せるから!」

 

 万里眼は、アーチャーが習得できる『千里眼』の上位スキルで、千里眼よりもさらに遠方の視認が可能らしい。さらに暗視も可能になり、薄い壁であれば透視も可能になるというスキルらしい。

 行動予測は、敵が次にどのように行動するかわかるスキルだと言う。あくまでもある程度というだけで、一挙手一投足完璧にというのは無理らしい。

 

 確かにこれだけ聞けば、非常に優秀なスキルがそろっている。

 

「もちろん報酬も少額でいいの。メンバーなんて思わず、便利な望遠鏡ぐらいに思ってくれていいから。だからお願い! どうかこの通り!」

 

 そう言って深々と頭を下げるくーたん。

 

 ……実際のところどうなんだろう? シャーリーと違い、まだ彼女が戦っている姿を見ていないため、正確な評価ができない。

 というか、いろいろと疑問が残る。

 

「なあ、なんでスキル取ってるのに攻撃当たらないんだ? はっきり言って信じられないんだが」

 

「私も、なぜスナイパーになれたのかが気になります。そもそも、スナイパーという職業は、適性があって初めてなれる職業だと聞いています。スキルなんて関係なしに、弓矢の扱いにおいて類稀なる才能を持っているはずです。そんな人がどうして」

 

 俺とシャーリーが疑問を口にする。さっきのシャーリーの説明とくーたんの言っていることがあまりにも違いすぎるのだ。

 

「え、えっと…………実をいうと、私が弓矢の才能もないのにスナイパーになれている理由には心当たりはあるの。でも……ごめんなさい。

 

 そのことについては、絶対に言えないし、言いたくありません」

 

 そう言って、くーたんは再度頭を下げた。

 

「大事なこと秘密にして、パーティーに入れてほしいなんて、虫のいいお願いなのはわかってる。でもまさか……私もこんな風になるなんて……思ってなくて…………」

 

 …………結局理由はわからなかったが、少なくともくーたんがこの状況に不本意なのはわかった。さらに言えば彼女が何かしらの苦悩を抱えているのも察することができた。

 

 なぜそんなになってまで冒険者を続けているのか? 言えないし、言いたくない、どちらか一方だけでもいいはずなのに、この二つを同時に出した理由は何なのか? こんな風になるなんてと言ったが、一体彼女はこれまで何をしていたのか? いろいろと聞きたいことはあったが、彼女が話す時に見せた、あの辛そうな表情を見ると追及できずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まっ、だからといって彼女をパーティーに入れるかどうかは、また別の話だ。スキルが優秀なのは理解した。彼女が何も好き好んで問題を抱えているわけではないというのも分かった。

 

 だけど、攻撃が当たらないってのはどうよ。そんな奴は一人で十分だろ。できれば一人もいない方がいいけど。

 

 それに、もうしばらくしたら冬が来るらしい。馬小屋で寝泊まりしている駆け出し冒険者も、さすがに冬の間は宿に泊まるらしい。そのためにも金をためておく必要がある。いくら偵察できるからといって、攻撃できないやつを入れるのは無理だ。このままじゃ、俺の負担はそのままに取り分だけ減っちまう。そんなの絶対に許せない。

 

 だいたい、彼女がどれだけ苦しもうが俺には関係ないしな。うん、そうだよ、最初っから突っ撥ねてればよかったんだ。別に誰かのために自分を犠牲にする必要ないしな。

 

 

 

 

 そう、俺は自分のためなら鬼畜にも外道にもなれる。そういうやつだ。やっぱりここは諦めてもら 「ひっく…………」 ……………………え? 

 

 

 

「うぅ……わたしは……なんであのときあんな……ひっく…………うえぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………………………………………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あークソ。わかった、わかったよ」

 

「ぐすっ……え?」

 

 マジで女ってずるいと思う。

 

「明日、ジャイアントトードの討伐クエスト、10時にここ集合な」

 

「え? ……えっ、えぇ!? いいの!?」

 

 くーたんが立ち上がって俺に詰め寄ってくる。

 

「勘違いすんなよ。明日、試しでクエストやってから判断するってだけだ。もし使えねえ奴って判断したら、パーティーに入れないからな」

 

 そう、別に焦る必要だってない。こいつのスキルがどれだけ優秀なのか判断してからでも遅くない。そう、ただそれだけ。俺ってマジ合理的。

 

「うん、うん! わかった! 本当にありがと! お姉さんの力、見せてあげるから明日はよろしくね! またね、シャーリーちゃん、ジョウジ君!」

 

 そういって、さっきの沈み具合は何だったのか、嬉しそうに走り去っていった。

 

「……あいつ、ちょいちょい年上ぶりやがって」

 

 やけにお姉さんアピールするもんだから、めんどくさいったらありゃしない。

 

「あっ、一人で勝手に決めて悪かったな。そういうわけだから明日はあいつと、って何だよその顔」

 

 途中から、シャーリーの意向も聞かずに勝手に決めたことを謝ろうと振り向いたら、気色悪ぐらいニコニコしてこっちを見ていた。

 

「いえ、やっぱり優しいなと」

 

 ……こいつ、まだ言ってやがる。

 

「あのなー、何回も言うが俺は優しくねえ。今回のパーティーだって一時的なものだし、そもそもお前がいたら、まともに人が集まらないと思ったんだ。だったらたとえどんな奴だろうと、頭数増やそうって判断だ。はぁーあ、なんでこんないろいろ考えなくちゃいけないのかね。あーあ、ポンコツがいるでせいでマジで疲れるわー」

 

 …………しまった、ちょっと言いすぎちゃったかな? 

 そう思ったが、シャーリーはいまだニコニコしたままだ。

 

「……なに笑ってんだよ。人の話聞いてたか?」

 

「はい、そんなポンコツを見捨てようとせず、面倒を見ようとする優しいリーダーの話。ちゃんと聞いてましたよ」

 

「…………クソが」

 

 




読んでいただき、本当にありがとうございます!
話の進みが悪く大変申し訳ありません!

作品の悪い点については、可能な限り改善していきます!
まだまだ稚拙な作品ではありますが、よろしくお願いします!


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