こえ無き声を届けたい (hirag)
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プロローグ

始めての方初めまして。そうじゃない方はこんにちは!

投稿者のhiragです。前回アンケート結果が多かったAftergrlowメインの作品が出来ましたので、スローペースですが投稿していきます

それでは本編どうぞ


名前 笹野 庄司 (ささの しょうじ)16歳

 

 

僕は小さい頃から歌うことが好きだった。

 

お母さんはピアノを弾き、僕とお父さんが歌う。よく近所のお店とかで歌っていた。

 

昔はよくテレビの取材とか受けたりしたことがあった。この幸せがずっと続くと信じていた…

 

15歳の時、お母さんが事故で、いなくなったそのことがきっかけでお父さんは壊れた。

 

酒に溺れて…暴力を振るうようになってきた。ごはんも碌に与えられず。ごみを漁りいつ死ぬかもしれない状態だけど、何とか食いつないできた。

 

近所の人に匿ってもらったこともあったけど直ぐに居場所がバレて、連れ戻され暴力を振るわれた。

 

父「これだけしか稼げなかったのか‼おい!」

 

庄司「ご、ごめんなさい」

 

ライブハウスで歌い続け、お金を稼ぐ毎日。この一年ばかりは学校にも通っていない。

 

いつか元のお父さんに戻ると信じてこの生活を続けている。

 

父「ちっ!!使えない奴だ…明日は、これの倍は稼いで来い。じゃないとお前の腎臓を売り飛ばす」

 

自分の耳を疑った。この人は自分の事しか見えていないこのままだと殺される…

 

逃げなきゃ…逃げなきゃ…早くこの地獄から抜けださないと…

 

父「あ!こら待て――!」

 

父が物を投げつけてくる!必死に躱すが頭にビール瓶が当たった…

 

庄司「――っ!」

 

視界がかすむ。けど逃げないと…もうあれはお父さんじゃない!あれは人の皮を被った悪魔だ!

 

僕は家を飛び出し、走り続けた。1月の寒い夜、雪が肌を伝い、足がかじかむそれでも僕は全身の力を振り絞り走り続けた。

 

もっと遠く、誰にも見つからない場所に!お父さんに捕まらない場所に逃げないと―――!

 

_________________

 

~蘭side~

 

 

ひまり「今日も寒いね~」

モカ「確かに~」

蘭「急に冷え込んできた…」

 

あたしたちいつも通りバンドの練習を終え、家に帰ろうとしていた

 

巴「だなそれにしても、来週から学校か~」

 

つぐみ「そうだね。冬休みの宿題もそろそろ終わらせないと…」

 

モカ「モカちゃんはとっくに終わてるよ~」

蘭「あたしは少し残っているかな」

 

巴「アタシも数学だけだな。よし!じゃあ、いつも通りつぐのところで勉強会だな」

 

ひまり「…」

 

ひまりが黙り込む。もしかして…

 

ひまり「わ、わすれてた~」

蘭「やっぱり…」

 

ひまり「ど、どうしよう。全然手を付けてないよ」

巴「流石にそれはヤバいじゃないか!」

 

モカ「ひ~ちゃんは通常運転だね~」

つぐみ「そ、そうだね。あれ?」

 

巴「どうかしたのか?つぐ?」

つぐみ「あそこの人、ふらついてない?」

 

つぐみが指をさした方を見ると、確かにふらつきながら歩いている人がいた

 

モカ「酔っ払い~?」

蘭「それにしてもなんかおかしくない?」

 

ふらついていることもそうだけど、この寒い日に合わない服装をしていた

 

巴「あぁ、こんな寒いのに半そでに短パンだ」

つぐみ「それに裸足じゃない?」

ひまり「どうしてかな?あっ!!」

 

あたしたちが様子を窺ているとその人は倒れこんだ

 

つぐみ「大変!ひまりちゃん!救急車を呼んで!!」

ひまり「う、うん!」

巴「こ、これは…」

モカ「どうかしたの?――っ⁉」

蘭「これは酷い…」

庄司「は――ぁ――は――ぁ――」

 

倒れた人を見ると…そこら辺と変わりない普通の男の子だった。

でも…全身が痣だらけで頭から血が流れていた。

これがあたしたちと彼の出会いだった――

 

 




いかがでしたか?
誤字脱字があれば連絡お願いします。感想もお待ちしております。


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1話

夢を見た…

 

あの懐かしき頃の夢を…お母さんがピアノを弾いて、僕が歌う。周りにはお客さんがいっぱいいる。楽しかったあの風景が…

 

 

_________________

 

~⁇~

 

目を開けるとそこには知らない天井と消毒液の臭い…僕は生きているのか?

 

庄司「ッ!」

 

全身に痛みが走る。触ると布の感触がある。

 

⁇「失礼するよ」

 

医者が入ってきた。でも少し暗い顔をしていた…

 

冨田「私の名前は冨田(とみた)一応、君の担当医だ。よろしく…あぁ私の言葉は理解できるかい?」

 

庄司「…!」

 

冨田医師に返事をしようとするが声が出ない!

 

冨田医師「あぁ、言い忘れていた。君は脳出血を起こしていたが、それの治療は成功した。でも、

残念なことに後遺症として失声症(しつせいしょう)を発症してしまったようだ。

本当にすまない…だが言葉は分かるようだね?」

 

僕は頷く。これが僕に出来る精一杯の返答…

 

冨田医師「じゃあ、ここにスケッチブックを置いておくけど書けるかな?」

 

スケッチブックとペンに手を伸ばし、震える手で『はい』と書いた。

 

冨田医師「よかった。えっと…君の名前を教えてくれるかな?あぁ、最初の部分だけでいいよ」

 

『ささの』とへたくそな字で書いて見せた

 

冨田医師「ささのくんね。遅くなったけど君の状況を詳しく説明するね」

 

冨田医師曰く、どうやら道で倒れていたところを女子高生に助けられ、ここ東京の病院に運ばれたらしい。

そして僕は1週間ぐらい眠り続けていたみたい。

 

冨田医師「君はここから離れたところから逃げて来たんだね?」

 

『どうしてわかるのですか?』

 

冨田医師「どうしてか…君の痣や頭の外傷や足を観ればわかったよ…君が虐待を受けていたことも。

足の裏がそこまで血まみれになるってことはかなりの距離を移動してきたのだろうね。まぁ今後の事はリハビリをしながら、考えてようか?」

 

僕は頷いた。今後のこと…またあの場所に戻されるのかな?もしそうだったら今度は確実に殺される。

それだけは嫌だ

 

ガラガラ~

 

冨田医師「おっと…来たみたいだね。」

 

 

蘭「先生、容体はどうですか?」

冨田医師「いま、起きましたよ」

つぐみ「良かった…」

モカ「安心しました~」

 

女性の声が聞こえる。この三人が助けてくれたのかな?

 

冨田医師「ちょっと待っててね。笹野くん大丈夫かい?」

 

OKのサインを頑張って作って見せた

 

冨田医師「どうぞ」

 

冨田医師が声をかけ三人の女性がカーテンのめくり入ってきた。

 

一人は赤いメッシュが入っており、少し怖い。

 

もう一人は白髪で少し気が抜けたような感じがした

 

最後は茶髪でショートヘアの人。この人はすこし優しそう

 

つぐみ「始めまして。羽沢つぐみです。」

蘭「美竹蘭…」

モカ「青葉モカで~す」

蘭「後二人来ていないけど、一応紹介しておく」

 

後二人、上原ひまりさんと宇田川巴さんとこの三人が僕を助けてくれたらしい。お礼をしなきゃ…

 

ペンを取り、文字を書く

 

モカ「およ~なに書いているのかな?」

蘭「えっと…『助けてくれてありがとう』だって」

つぐみ「えっと…大丈夫?すごく手が震えていたけど」

冨田医師「あぁ笹野くんは…」

 

冨田医師が詳しいことを説明してくれた

 

つぐみ「そんな…ことが…」

モカ「声が出ないなんて…」

蘭「酷すぎる…そんなの親じゃない…」

 

どうして今出会ったばかりの僕にこんな心配そうな顔をしてくれるのだろう?

 

巴「悪い遅れた…」

ひまり「巴…急に走らないでよ…」

 

赤髪の背の高い人とピンクの髪であれがでかい人が入ってきた

 

蘭「巴。そんな急がなくてよかったのに」

巴「いやぁ~この前助けた人が起きたって聞いて、いてもたってもいられなくてな」

 

赤髪の人が宇田川さんとなるとこっちの人が上原さんかな?

 

ひまり「えっと…この子何も話さないけど、どうかしたの?」

モカ「それはね~」

 

今度は青葉さんが二人に説明をしてくれた。

 

ひまり「そんなことが…」

巴「酷いことする奴だな!」

 

この人達もだ。どうしてここまで心配してくれるのだろう?

 

冨田医師「すまないが今日の面会はここまで」

 

蘭「そうですね。笹野さんも起きたばっかりで、少ししんどいでしょう」

 

巴「そうだな。じゃあ、笹野さんまた来るからな」

つぐみ「今度はまたゆっくりお話ししましょうね」

ひまり「お大事にね」

モカ「バイバ~イ」

 

こんなに賑やかなのはいつぶりだろう?あれ?また来る?そう言っていたか?

 



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2話

どうも皆さんhirag(ひらぐ)です

前回あとがきに乗せるのを忘れていましたがアンケートを募集中です。
もう何人かには協力していただいていますが、今後のストーリー展開に重要な事なのでここで告知しておきます。

締め切りは来週の水曜日までにします。


~翌日~

 

病院生活1日目

 

朝食は栄養バランスを考えられたものが出された。

大抵の人から病院食は不味いと聞くがゴミを漁っていた頃に比べれば、とても美味しかった。

 

酒井「おはよう、笹野くん。朝食を取ったばかりだけどリハビリに行こうか」

 

車いすに乗り、看護師の酒井(さかい)さんとリハビリルームに向かう

 

酒井さんは良く僕に話をかけてくれる。頷くことしかできない僕にいつも楽しそうにいろんな話をしてくれた。この前は、ライブに行ったらしい。

 

酒井「はい、到着!まずは指を動かす練習をしようか」

 

リハビリは文字を書くことを考えて、指を動かす練習を優先的に取り組むことになった。

 

4時間後

 

リハビリを終え、昼食の時間だ。栄養の事を考えたバランスのいい和食が出てきた。

 

今日の予定は昼食の後に冨田医師とのコミュニケーションぐらいかな…それにしても昨日の人たち本当に来るのかな?

 

 

昼食後

 

 

冨田医師「やぁ、気分は大丈夫かな?」

 

『平気です』

 

冨田医師「それは良かった。さて、君にいくつか聞きたいことがあるけどいいかな?」

 

聞きたい事?何だろう。取り敢えず頷いた

 

冨田医師「まず、君の出身は何処かな?」

 

『千葉県の船橋市です』

 

冨田医師「船橋市⁉そんなところから逃げてきたんだ!すごいね。大したものだよ」

 

冨田医師はメモ帳に何かを書いている。

 

冨田医師「次は君の年齢は?」

 

『16です』

 

冨田医師「16歳ね」

 

またメモ帳に書き込む。こんなやり取りを一時間ぐらいした。

_________________

 

~夕方~

 

冨田医師とのコミュニケーションを終え、酒井さんから貸してもらった小説を読んでいた

 

小説の内容は恋愛のもだった。本を読んでいてこんな人生なんてありえない。そう思いつつも続きが気になる、複雑な気持ちだ。

 

 

ガラガラ…

 

蘭「こんにちは」

モカ「ちは~」

 

美竹さんと青葉さんが来てくれた。背中には何か大きなものを背負っている

 

『本当に来てくれたんですね』

 

蘭「近くを通っただけですから…」

モカ「とか言いつつ気になっていた蘭であった~」

蘭「モカ!」

モカ「さーせん」

 

賑やかな人たちだな。そうだ…

 

『ここで話すより、談話室に行きましょう』

 

蘭「うん。分かった」

モカ「りょうか~い」

 

美竹さんと青葉さんの手を借りながら、車いすに乗る。

 

蘭「軽っ!」

 

車いすに乗せてもらった時、美竹さんはそう言った。

 

モカ「しっかり食べていますか~」

 

『今日ようやくまともな食事をとることが出来ました。それまでゴミを漁っていましたから』

 

モカ「っ⁉ご、ごめんなさい…」

 

『別にいいですよ』

 

蘭「優しいですね…」

 

そんなやり取りをしていると談話室に到着した

 

『後の三人は…』

 

モカ「ひーちゃんとトモちんは部活で少し遅れてくるよ~」

蘭「つぐみは生徒会で後から来ますよ」

 

部活と生徒会…久しぶりに聞く単語だ。

 

『聞きたい事があればどうぞ』

 

蘭「じゃあ、年齢は?」

 

『16』

 

モカ「モカちゃん達と同い年ですな~」

蘭「年上だと思ってた…」

 

『敬語は使わなくていいですよ』

 

モカ「りょうか~い」

蘭「笹野さんがそう言うなら…」

モカ「次は、えっと…あぁ~好きな食べ物は?」

 

食べ物か…う~ん…

 

『リンゴ』

 

蘭「意外と普通…」

モカ「モカちゃんはパン!」

 

ひまり「こんにちは!」

巴「笹野さん来ましたよ!」

つぐみ「元気そうですね」

 

そんな会話をしていると上原さん達も到着した

 

あれ?どうして談話室にいるってわかったんだろう?

 

モカ「モカちゃんが知らせておいたよ~」

つぐみ「あれ?モカちゃんどうして敬語使ってないの?」

蘭「笹野はあたし達と同い年だから」

巴「年上だと思ってた…」

ひまり「それでいまはどうゆう状況?」

モカ「質問中~」

 

『何でも聞いていいよ』と書いて見せた

 

巴「じゃあ、出身は!」

 

冨田医師に聞かれたのと同じ内容だから、出身を書いたページを探し出す

 

つぐみ「え⁉ち、千葉から!」

ひまり「ちょ、ちょっと待ってよ」

 

上原さんがスマートフォンで何かを調べている。しばらくすると…

 

ひまり「ええええ⁉」

つぐみ「どうかしたの?」

ひまり「笹野さんの出身から私達が出会った場所の距離を調べたんだけど…」

モカ「どれどれ…おぉ~これはすごい距離ですな~」

蘭「22km…‼」

巴「マジかよ…」

 

そんなに移動してきたんだ。逃げることに夢中で気にしていなかった。でも、ここまで逃げればお父さんにも捕まらないはずだ。

 

楽しい時間はあっという間に過ぎ、この日の面会時間は終わった。

 



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3話

アンケートにご協力ありがとうございました。

近いうちに次の話を投稿できればいいな~


あたし達があの人…庄司を助けてから1週間が経った…

 

初めは言葉を話せないことに驚いたけど、彼はとても優しい人だとわかった。

 

でも、偶に悲しそうな顔をする時がある。その時はバンドの話をしているとき

 

退院出来たらライブに招待する話もあったけど、あたしは反対した。

 

庄司の過去になにがあったのかは知らないけど。あの悲しそうな顔が頭から離れない…

 

_________________

 

~羽丘女子学園~

 

友希那「美竹さん」

蘭「湊さんどうかしましたか?」

 

Roseliaのボーカル、湊さんが校門前で待っていた

 

友希那「貴女が最近病院に通っているって聞いたわ。何かあったの?」

 

湊さんの言う通り、ここ最近は練習が終われば庄司の様子を見に行っている。

 

蘭「ご心配なく…友達が入院しているだけですから」

友希那「そう、なら良かったわ。呼び止めて悪かったわね」

 

蘭「いえ···これから練習がありますので···」

_________________

 

~つぐみside~

 

今日も練習が終わり、庄司くんがいる病院に来ていた。

 

初めて会ったときは、怖がっているような顔をしていたけど、ここ最近彼はよく笑うようになってきた。

 

普段はニコニコ笑いながら話を聞いてくれるけど。バンドの話をすると彼から笑顔が消えた。

特にキーボードの話をすると、とても辛そうな顔をしていた。

 

ひまり「庄司くんやっぱり辛そうな顔していたね…」

モカ「バンドより音楽事態に嫌な思い出があるのかも」

巴「本人に聞こうと思ってもな~」

蘭「調べてみる?」

つぐみ「それはちょっと…」

 

庄司くんの過去になにかあるのが気になるけど…それはすこし悪い気がする

 

巴「何も話さなかったら大丈夫だろ」

つぐみ「それもそうだけど…」

蘭「やっぱり、本人が話すまで待ってみよう」

モカ「さんせー」

 

 

_________________

 

~庄司side~

 

食事を終え、ベットに座りすっかり暗くなった外を眺める…

 

彼女達はAftergrlow…の名前でバンド活動をしているらしい

バンドか――もし声が出るのなら僕はボーカルかな?

 

もしそんなことが叶うのならお金のためじゃなく、自分のために歌いたかった…

 

こんな願いを祈ったとしても返ってくるのは残酷な現実だ。

 

歌うことも人と話すこともできない…こんな僕に生きている意味なんてあるのだろうか?

 

僕はベットから立ち上がり、気分転換で外の空気を吸うため、ふらつく足で病院から抜け出した

 

 

_________________

 

病院から抜け出し、近くにある公園でボーっと空を眺めていた

 

星を見ようと思っても僕が住んでいたところと違って周りが明るすぎて見えない…

 

ふと、お母さんの言葉を思い出す――

 

『悪いことの後にはきっといいことがあるわよ』

 

本当にそうなのかな?お母さん……

 

お母さんの口癖を思い出していると――

 

⁇「こんなところで何しているのですか?」

 

声がする方向に顔を向けると真面目そうな女性がいた。

一瞬、病院関係者に見つかったのかと思いドキッとした。

 

⁇「隣いいですか?」

 

コクリ

 

⁇「失礼します」

 

女性は僕の隣に座り、美竹さんや青葉さんが持っていたものと同じようなギターケースを降ろした。

 

この人もギターを弾くのかな?

 

………

 

しばらくの間沈黙が続いた

 

話しかけようと思ってもスケッチブックを置いてきてしまったので、どうすることもできない

 

⁇「寒くはないのですか?」

 

女性は聞いてきた。今は1月の下旬、寒さが厳しい時期だ。

 

僕は首を横に振った。でも正直な事だけど少し寒い――

 

⁇「その状態だと風邪をひきますよ。せめてこれを――」

 

女性は自分が巻いていたマフラーを僕の首に巻いた。

 

温かい…この人もどうして僕にこんなことをしてくれるのだろう?

 

⁇「お姉ちゃ~ん!!」

⁇「私はもう帰りますが貴方も早く帰った方がいいですよ。今日は冷え込むので」

 

そういって女性は公園の出口に向かって行った。出口には手を振っている女性と帰っていった…

 

この後、大人しく病院に戻り寝ることにした。

幸いなことに僕が抜け出したことは誰にもバレてなかった

 

 



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4話

酒井「笹野くん朝食の時間ですよ」

 

いつも通り…決まった時間にご飯を食べ、決まった時間にリハビリに向かうはずだった…だが今日は違ていた

 

珍しく冨田医師が僕のところに来ていた

 

冨田医師「笹野くん、いいことと悪いことがある…落ち着いて聞いてね」

 

コクリ

 

冨田医師「まずいいことは、リハビリも順調だからいつでも退院出来るよ」

 

良かった。多少ふらつくこともあるけど、なんとかなったみたい

 

冨田医師「悪い話はこの前、君に教えてもらった住所に行ったけど…」

 

冨田医師が言葉を詰まらせた。家に何かあったのかな?

 

冨田医師「売却物件になっていたよ。つまり…()()()()()()()()()()()になる」

 

家が無くなった…唐突な出来事で何も考えられなかった

 

冨田医師「これから君はどうする?このままだと孤児院に行くことになるよ…それが嫌なら一応当てがいるけど…まぁ、あと一週間…ゆっくり考えなさい」

 

 

冨田医師はそう言い残し去っていった…

 

 

_________________

 

翌日

 

昼食を食べた後、僕はボーっとしていた。

 

家が無くなったってことは、お父さんはどうなったんだろう?

 

それに…あれはどうなったんだろう?

 

孤児院はなんか嫌だし…かと言って先生にこれ以上迷惑をかけるわけには……

 

冨田医師「やぁ、笹野くん いま大丈夫かな?」

 

冨田医師が訪ねてきた。どうかしたのだろうか

 

冨田医師「君を引き取りたい人が会いに来たんだけどいいかな?」

 

コクリ

 

冨田医師「大丈夫だ。中に入ってくれ」

 

冨田医師の口調が変わった。それにしても見つかるのが速いような……

 

⁇「久しぶり、笹野君」

 

そこにはガタイがいい男性が立っていた。

 

冨田医師「この人は羽沢、僕の高校時代からの友人だよ」

 

はざわ……?最近聞いた名前だ。でも、あの子とは苗字が同じなのかもしれない

 

羽沢「前に君のお母さん…美智子(みちこ)さんとは幼馴染で小さい頃よく会いに来てくれたけど覚えているかな?」

 

この人はお母さんの事を知っているみたいだけど記憶にない……

 

冨田医師「こいつは君のお母さんに告白したけど、振られたんだよな」

 

羽沢「あの話は堀り返すな!それより、君の話を娘や冨田から聞いた…災難だったね」

 

怪しい···本当にお母さんのことを知っているのかな?

 

そうだ!試してみよう。スケッチブックとペンを手に取り、文字を書き込む

 

 

『お母さんの口癖は?』

 

 

本当にお母さんのことを知っているなら分かるはず……

 

羽沢父「美智子の口癖? 確か…『悪い事の後には良い事がある』 だったっけ?」

 

昔よくお母さんが落ち込んでいるときに言っていた口癖だ。どうやら本当にお母さんの事を知っているみたいだ……この人は信用できる

 

冨田医師「本題に入ったらどうだ?」

羽沢父「そうだな、庄司君…家に来ないか?」

 

え⁉ この人は何言っているだろう?

 

羽沢父「君のお父さん…正明(まさあき)の事は良く知っている、今頃君を探し回っているだろう。それにもしものことがあっても俺が君を守ろう」

 

確かに()()は今頃、僕の事を探しているだろう。孤児院に行けばほかの子たちを危険にさらすかもしれない…かといって――

 

『僕を殺しに来るかもしれないのですよ?』

 

そう。僕が恐れていることは、僕がいることで羽沢さんに迷惑がかかること···

 

羽沢父「関係ないさ、さっきも言ったが何があっても君を守り通すよ」

 

羽沢さんが手をさし伸ばしてきた。

 

不思議な感じ。

 

さっきまで怪しい人だと思っていたのにいまはそう感じない、それどころかむしろ安心する。

 

羽沢父「これからよろしく庄司くん。いや、庄司」

 

さし伸ばされた手に僕はそっと手を置いた。

 

よろしくお願いします――羽沢さん

 

 



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5話

遅くなり申し訳ございません。リアルが少し忙しいので投稿が遅れました。

それにガイドラインについて気になり、投稿するかどうか悩みましたがハーメルン自体は様子なので出来るところまで投稿続けます


羽沢さんはあの後、僕を引き取る手続きをしに行った。その間僕は出て行く準備をしていた

 

そこまで荷物は無いし、持っていくものはあの時貸してもらったマフラーぐらいかな……

 

羽沢父「準備できたかい?」

 

コクリ

 

羽沢父「よし!じゃあ行こうか」

 

僕たちが病室を出ようとした瞬間――

 

冨田医師「はぁ…はぁ…ま、間に合った」

酒井「冨田先生遅いですよ」

 

看護師の酒井さんと冨田医師が待ち構えていた

 

冨田医師「すまない…事前に健診の時間を遅らせとけばよかった」

 

酒井「それより、庄司君。退院おめでとう」

 

冨田医師「そいつのところが嫌だったらいつでも頼ってきていいよ。いつでも歓迎するよ」

 

『お世話になりました』

 

酒井「無理しないようにしてね。じゃあ、元気にね」

 

二人に見送られながら僕たちは病院を後にした

 

_________________

 

20分後

 

羽沢父「ここが今日から君が住む家だよ」

 

羽沢珈琲店……看板にはそう書かれていた。

 

羽沢父「こんなところで話してないで中に入ろうか」

 

コクリ

 

羽沢父「ただいまー」

 

羽沢さんが先に建物に入る、すると――

 

つぐみ「あ、お父さんお帰りどこ行っていたの?」

 

聞き覚えのある声だ。やっぱりつぐみさんの家だったか···

 

羽沢父「あぁ、少しばかり用があってな…ほら、おいで」

 

手招きをされ、それに従い建物に入った

 

つぐみ「え⁉庄司くん⁉ど、どうしてここに?」

 

羽沢父「今日から庄司も家の一員だから、面倒を見てやってくれ」

 

つぐみ「ええ⁉何も聞いてないよ!」

 

羽沢父「ちょっとしたサプライズだ!それにつぐみも気になっていただろ?彼の事」

 

つぐみ「そ、それもそうだけど……」

 

『よろしく、つぐみさん』

 

つぐみ「う、うん。よろしくね!庄司くん」

 

賑やかな家族だ、この先上手くやっていけるかな?

 

_________________

 

 

その夜――

 

僕は食卓に座っていた。いや…正しくは座らされた

 

お義父さんとお義母さんが料理を作って、つぐみさんが食器を運んでいる。

 

僕も何か手伝おうと思って行動しようとしたけど、お義母さんに……

 

羽沢母「大人しく座ってなさい。まだ病み上がりなんだから」

 

―っと言われ、大人しく待つことになった。

 

羽沢母「つぐみ!これ運んで」

つぐみ「うん!」

羽沢父「こっちも出来たぞ」

 

流石親子、すごい連携だ。食卓には数々の料理が並んできた

 

ハンバーグにポテト、コーンスープ等々

 

羽沢母「これで良し、さぁ食べましょう」

羽沢父「いただきます」

つぐみ「いただきます」

 

手を合わせて少し頭を下げた。まずは、ハンバーグに手を付けた

 

――!! 美味しい!!病院食とは比べられないほど美味しい。こんなにおいしいものを食べたのはいつぶりだろうか。それにこんな懐かしい雰囲気は何だろう…

 

羽沢父「口に合うかな?」

 

コクリ

 

羽沢母「良かった~」

 

食卓にスケッチブックを持ってくることが出来ないから、頷いて返事をする

 

つぐみ「庄司くん!涙が…」

 

つぐみさんに言われて頬を触る…すると冷たいものが伝った

 

羽沢母「大丈夫?」

 

 

どうしてだろう?涙が止まらない――

 

羽沢父「この子は厳しい環境で育ってきたんだ。恐らく美智子たちと食事をしていた頃を思い出しているんだろう」

 

羽沢母「そう…美智子ちゃんの子だったのね。辛かったのね」

 

つぐみ「庄司くん…もし辛いことがあったらすぐ話してね。私達は家族だからね」

 

家族 あぁ、これが家族か…そんなことも忘れていたんだ…僕は――

そうかこれが家族のぬくもり…

 

結局、食べ終わるまで涙は止まらなかった

 

 



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6話

リアルが少し忙しいので来週のこえ無きの投稿をサボらせてもらいます。


羽沢家に引き取られて1日が経った。つぐみさんは学校に行き、お義父さんとお義母さんはお店の方にいる。

 

僕は部屋にあるベットの上で横になっていた。

 

暇だ…ただただ暇だ…

 

このままでいいのかな?ただ、この家で何もせず暮らしていくのは気が引ける…

 

せめて何か手伝えることはないか聞きに行ってみよう…

 

 

~羽沢珈琲店~

 

お店に降りてみると、お客さんがそこそこ入っていた。

厨房に向かいお義父さんに聞いてみた。

 

『何か手伝うことありませんか?』

 

羽沢父「手伝うことねぇ~う~ん」

 

羽沢母「ちょうどお客さんの注文も区切り着いたし、コーヒーの淹れ方を教えたら?」

 

羽沢父「そうだな!良し、じゃあ早速やるか」

 

コーヒーのマグカップを並べ、お義父さんの指示を待つ

 

羽沢父「よし、まずは豆を挽く工程から行こうか」

 

専用の器具にコーヒー豆を入れ挽いていく

 

思った以上に難くて動かない

 

羽沢父「思った以上に力がいるだろう?」

 

 

コクリ

 

 

羽沢母「美智子も最初は苦戦していたわね」

 

『お母さんもやっていたのですか?』

 

羽沢母「えぇ、美智子は元々この家の近くに住んでいてよく手伝いに来てくれていたわ」

 

お母さんもここで働いていたんだ。初めて知った

 

羽沢父「ほら、手が止まっているぞ」

 

お義父さんに指摘され、再び豆を挽き始める。これは大変だ

 

 

_________________

 

~つぐみside~

 

まさか、庄司くんが家族になるなんてビックリしたな

 

つぐみ「は~」

蘭「つぐみ、どうかしたの?」

つぐみ「え⁉」

 

知らない間にため息をついていたみたい

 

モカ「つぐがため息とは珍しいですな~」

巴「どうかしたのか?」

 

ひまり「悩みがあるの?」

つぐみ「ううん、なんでもないよ」

 

庄司くんが家に住んでいる なんて言い出せないよ

 

巴「そうか、それならいいだが…」

蘭「それより、今日はどうする?」

モカ「しょ~くんのところは別にいいんじゃない?」

 

巴「だな、偶にはゆっくりしてもらった方がいいだろうし」

 

そっか。まだみんな、庄司くんが退院したこと知らないんだ

 

ひまり「あ、それなら久しぶりにつぐのところ行かない?」

 

つぐみ「え⁉」

モカ「いいですな~」

蘭「悪くないね」

巴「よし、決まりだな」

 

ど、どうしよう…庄司くんがいるなんて益々言いにくくなったよ

_________________

 

 

~庄司side~

 

羽沢父「もう少しゆっくり全体的に真ん中から外側に注ぐこと」

 

豆を挽き終え、今度はすりつぶした豆にお湯を注いでいた

 

思っていたよりコーヒーを入れるって難しんだな

 

羽沢母「じゃあ、次は風味を出すために少し多めに注いでみて」

 

指示道理、少し多めに注ぐ。すると中央に小さな円が出来てきた。見ているだけでも面白いな~

 

羽沢母「ストップ!膨らんだのが収まるのまで少し待って」

 

ケトルを元の位置に戻し、少し待つ。心なしかコーヒーのいい香りが漂ってきた

 

羽沢父「そろそろかな?中央がくぼみ、表面の泡の層が崩れないうちにさっきと同様に注ぐ」

 

お湯を注ぐとさっきとは違い白い泡が立ってきた

 

羽沢父「よし、そんなもんだな。ドリッパーを外してカップに注ごうか」

 

ドリッパーを外し、温めておいたコーヒーカップに注ぐ、コーヒーのいい香りが店全体に広がる。

 

そこでお義母さんがタイマーを止める

 

羽沢母「3分30秒…まぁまぁの時間ね」

羽沢父「そうだな。でも、初めてにしてはいい時間だな」

 

何の事だろう?首を傾げていると――

 

羽沢母「コーヒーを入れる時間よ。大体は2分半から3分までがいいのよ」

 

羽沢父「このまま練習すれば、うまいこと行くだろう。よし、庄司はしばらくの間コーヒーの練習をしなさい」

 

 

 

つぐみ「ただいま」

 

つぐみさんが帰ってきたようだ。時間を見るともう15時半だった

 

羽沢父「早速だな。ほら行ってこい」

 

叔父さんに背中を押されて、厨房を出る。すると――

 

蘭「え⁉」

モカ「なになに?おぉ~」

巴「な、なんで庄司が…」

ひまり「此処にいるの⁉」

 

美竹さん達は驚いている。どうやらつぐみさんは僕がここにいることを伝えていなかったようだ

 

つぐみ「庄司くん⁉その格好は…」

 

僕の服装は部屋着に羽沢珈琲店のエプロンを付けている状態

 

羽沢父「庄司がどうしても手伝いたいって言ってな」

つぐみ「そうなんだ」

 

蘭「それより、どうして庄司がここにいるの?」

巴「そうだ!どうゆうことなんだ?」

つぐみ「えっと…」

羽沢父「俺が説明するよ」

 

つぐみさんにはまだ詳しいことも話していないから説明できないよね

 

 

5分後~

 

 

ひまり「そういう事だったのですね…」

モカ「ちなみにしょーくんのお母さんは…」

 

『一年前の事故で亡くなりました』

 

つぐみ「だから、お父さんは庄司くんを引き取っただね?」

 

羽沢父「あぁ、この子は今まで辛いことがあり過ぎた。だからその分幸せにしてあげたいんだ。だからみんなこの子と仲良くしてくれないか?」

 

 

蘭「大丈夫ですよ…庄司はもう友達ですから」

 

巴「蘭の言う通りですよ。庄司はもうあたし達の大切な友達ですから」

 

 

友達――懐かしい響き。僕には友達と呼べる人が少なかった

 

羽沢父「良かったな!庄司!」

 

あの地獄のような生活から一ヶ月、あの生活が嘘のようだ。

 

今の僕には本当の家族と友達がいる。この大切な二つを失わないようにしないと···

 

『さぁ、ご注文は?』

 

蘭「あたしはコーヒー…ブラックで」

ひまり「私はコーヒーとパンケーキ」

 

モカ「あたしもひ―ちゃんと同じので~」

巴「アタシもコーヒーで」

つぐみ「すぐ用意するね…って…え⁉庄司くん?」

 

つぐみさんを椅子に座らせる

 

つぐみさんは帰ってきたばっかりだ。さすがに無理させるわけにはいかない

半年ほど前に倒れたって聞いたし、また倒れたら大変だ

 

蘭「座っていろってことじゃない?」

 

 

コクリ

 

 

つぐみ「でも…」

巴「まぁ、折角だから言葉に甘えればいいじゃないか」

つぐみ「じゃあ、お願いするね」

 

厨房に戻り、先ほどの手順を思い出し、手を動かす

 

僕は昔から覚えることが得意だ。特に体を動かすことについてだけど……

 

仕上げにカップにコーヒーを注ぐ。

 

羽沢母「3分ジャスト…すごいわね。うん!さっきより上手になっているみたいね。じゃあ、あの子たちに出してきなさい」

 

羽沢父「運べるか?」

 

 

コクリ

 

 

羽沢母「あまり無理しないでね」

 

トレーにコーヒーカップ5つ、パンケーキ2つ乗せて運ぶ

 

みんながいるテーブルに近づくと宇田川さんとつぐみさんがコーヒーカップとパンケーキを取り並べ始めた

 

つぐみ「乗せ過ぎだよ」

巴「ただでさえ病み上がりなんだから無理はするな」

 

またみんなに心配をかけてしまったようだ。それより

 

『ありがとうございます。コーヒーどうですか?』

 

蘭「うん、悪くないね」

モカ「もしかしてしょーくんが入れたの~」

 

『そうです、初めての淹れてみました』

 

ひまり「全く気が付かなかったよ」

つぐみ「うん!香りもしっかり出ているし、美味しいよ」

 

上手くいったようだ。よし、この調子で頑張るぞ

 

 



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7話

皆さんお待たせしました。リアルが忙しかったり、新作作ったりして遅くなりました


つぐみ「こっちの服はどう?」

ひまり「こっちの方が絶対似合うよ!」

巴「男の子だからこれもいいんじゃないか?」

 

いま、僕は着せ替え人形になっている…どうしてこうなったかというと――

 

僕が着ている服は、お義父さんのお古。僕はお義父さんみたいにガタイが良くないから、少しぶかぶか

 

それを見かねたお義母さんが服を買ってくるように少しお小遣いをくれた。

 

僕は服のセンスもよく分からないからつぐみさん達に手伝ってもらうことに…

 

モカ「ひーちゃん生き生きしているね~」

 

ひまり「だって、男の子の服を選ぶことなんて滅多にない事だもん!」

 

蘭「つぐみも意外とノリノリだし…」

つぐみ「この前も転びそうになっていたし…危なそうだから…」

 

確かに、この前コーヒーを運んでいる時に転びそうになったっけ

 

巴「それにこんな機会滅多にないからな。ほら!蘭も選んでやりなよ」

 

蘭「確かにそうかも…でもあたしこういうの苦手なんだけど…」

モカ「これなんてどう?」

 

青葉さんが持ってきたのは、パンの柄がいっぱい入ったTシャツだった

 

ひまり「それ。モカが好きそうなの選んできただけじゃん!」

 

折角持ってきてもらったし、着てみようかな?

 

巴「うん?それ着るのか?」

 

コクリ

 

試着室のカーテンを閉める

見た目もそこまで酷くないし、着心地もいい。室内着にはいいかも

 

つぐみ「もう大丈夫?」

 

僕だけじゃなくみんなに意見を聞かないと――

 

モカ「おぉ~なかなか」

蘭「意外と似合っているし…」

巴「小柄だからか?」

ひまり「着心地はどう?」

 

『意外と心地いいよ』

 

つぐみ「室内着としていいかもね」

蘭「じゃあ、こっちは――」

 

美竹さんからはネイビーシャツとグレーパンツ。これは外出時にいいかも…

 

着替え中~

 

 

つぐみ「今度は大人っぽくなったね」

ひまり「いろんな服を試してみたけど…」

 

巴「これが一番似合っているかもな」

モカ「しょーくん感想は?」

 

『出かけるときにピッタリかも。それに』

 

蘭「それに?」

 

『いろんな服を着たけどこれが一番しっくりくるよ。ありがとう』

 

少し美竹さんの顔が赤くなったような

 

モカ「良かったですな~」

蘭「気に入ったのなら良かった」

つぐみ「そろそろお会計に行かないとね」

 

コクリ

 

_________________

 

 

服を買った後、ノートを補充するために文房具店に来ていた

 

巴「さぁ、着いたぞ」

 

流石東京いろんなものが置いてある

 

蘭「どんなものを買うの?」

つぐみ「やっぱり今と同じスケッチブック?」

 

持ち運びを考えるとメモ帳の方がいいかもしれないけど、文字の大きさを考えるとやっぱりスケッチブックかな

 

『メモ帳かスケッチブックか悩みます』

 

ひまり「持ち運びを考えたらメモ帳がいいかもね」

モカ「それだと見せるのに苦労しそう」

 

巴「そうだな、いちいちノートを取り出すのも面倒そうだもんな」

蘭「スマホとか持ってないの?」

 

つぐみ「そう言えば庄司くんがスマホを持っている所見てないような…」

 

『持ってないですよ。実家に置いてきたので』

 

「「「「「・・・」」」」」

 

 

 

蘭「その…なんか…ごめん」

 

『大丈夫ですよ』

 

巴「つぐのお父さんに頼んでみたら?」

 

『これ以上迷惑をかけるには…』

 

ひまり「でも、持っておいて損はないと思うよ」

つぐみ「うん!お父さんに話してみようよ」

 

う~ん、なんだか複雑な気分だけど仕方ないかな…

 

モカ「しょーくんこれなんてどう?」

 

青葉さんが持ってきたのは持ち運び用のノートセットだった

 

モカ「もしものことを考えて持っていたらいいと思うよ~」

 

サイズはB5のルーズリーフ。それにノートを閉じればハンドバックみたいに持てるみたい。うん、これなら良さそうだ

 

巴「買うのかそれ?」

 

『持ち運ぶことを考えたら丁度いいので』

 

ひまり「替えも買っておいた方がいいと思うよ」

つぐみ「でもこれ結構枚数あるよ」

 

蘭「えっと…100ページと付箋付き…え⁉なにこれ…普通に欲しいんだけど」

巴「値段は――」

 

値札を見ると1万円と書いていた

 

つぐみ「足りる?」

 

服で結構持っていかれたけど何とかなりそうだ

 

『買ってきます』

 

 

その日の夜、お義父さんにスマホの話をするとすんなりOKをもらった

 



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8話

~3日後~

 

「パンケーキとアップルティ-ひとつ」

「アタシは…今週のラテアートは何ですか」

 

庄司『今週は菊になっております』

 

「じゃあそれとアップルパイをお願い」

 

庄司『かしこまりました』

 

ふぅ~このスマホを買ってもらい、音声アプリを使って接客が出来るようになったけど、

操作がまだ覚束ない···けどそれはこれから何とかしよう。

 

幸いお客さんも何も聞いてくれないから正直助かる。

 

イヴ「お疲れ様です。ショウジさん」

 

今日は珍しく若宮さんがバイトに来てくれた。

初め会ったときは忍者みたいって言われて少し戸惑ったけど、話してみれば仲間思いのいい人だ

 

イヴ「ショウジさん!用意出来ました」

 

ラテアートは実際に描いた絵をお義父さん達に見せて練習をする

 

何回も練習し過ぎてつぐみさんに怒られたこともあったけど、完璧にできるようになった

 

よし!出来た後はこれを運んでもらうだけ

 

庄司『イヴさんお願いします』

イヴ「お任せください!」

 

イヴさんは本当に元気な人だな、さて僕も負けないように頑張らないと

_________________

 

~CiRCLE~

 

♪♪♪♪~

 

庄司くん大丈夫かな?

 

お店手伝いをしてくれるのはうれしいけど無理してないかな

 

蘭「つぐみ、少し遅れてる」

つぐみ「う、うん」

 

今は演奏に集中しないと…

 

巴「つぐどうかしたのか?」

つぐみ「え⁉」

モカ「もしかしてまたしょーくんの事?」

つぐみ「うん、実は…」

 

 

ひまり「う~んなるほどね」

巴「庄司が接客か~あんまり想像できないな」

 

蘭「つぐみ、心配し過ぎ。庄司ならしっかりやってると思う…」

モカ「蘭の言う通りだよ~しょーくんはしっかり者だからね」

 

つぐみ「そうだけど…」

 

蘭「そんなに心配ならあと一回通して終わろうか」

モカ「さんせー」

ひまり「じゃあ、速くやっちゃおー」

つぐみ「え⁉えっと…みんな」

蘭「巴!カウントとって」

巴「おう!」

 

あれ?これってもしかしてみんな心配してるのかな?

 

_________________

 

イヴ「あ!千聖さんいらっしゃいませ」

千聖「イヴちゃん…あまり大きな声で呼ばないくれないかしら?」

 

千聖どこかで聞いたような…どこだったっけ

 

千聖「あら、新しいバイトさんかしら?」

イヴ「ハイ、訳アリのショウジさんです」

 

訳ありってもっとほかの言い方あると思うのに…

 

千聖「訳あり?」

庄司『イヴさん席に案内してください』

イヴ「そうでした!こちらの席にどうぞ」

 

どうして奥の席に案内したのだろう?やっぱりさっきの会話からして有名人なのかな?

 

イヴ「ショウジさん!ショートケーキとアップルティーお願いします!」

 

_________________

 

あの人何処かで見たような…気のせいかしら

 

千聖「ねぇ、イヴちゃん。あの人の名前はなにかしら?」

イヴ「ショウジさんですよ」

 

千聖「そうじゃなくて上の名前よ」

イヴ「う~ん…ワカリマセン」

 

名前を伏せているなんて何か理由があるのかしら?

 

庄司『お待たせしました。ショートケーキとアップルティーです。ごゆっくりどうぞ』

 

千聖「ありがとう。少しお話しないかしら?」

庄司「?」

 

そう言うと彼はイヴちゃんの方を見ていた

 

イヴ「大丈夫ですよ!ショウジさん!お任せください」

 

彼と二人きりになり、アップルティーを一口飲む

 

千聖「あら?いつもと風味が違うわね」

 

『お口に会いますか?』

 

千聖「うふふ…漢字、間違えてるわ」

 

彼からペンを受け取り、誤字を直す

 

千聖「 会う はこっちじゃなくってこっちの 合う よ」

 

『すみません。学校に行けてないので変な間違いをしてしまいました』

 

学校に行ってない?やっぱりイヴちゃんの言う通り何か訳があるみたいね

 

『厚かましいと思いますが僕に勉強を教えてくれませんか?』

 

千聖「え⁉そうね…」

 

最近はお仕事も落ち着いてきているし、学校の課題もやらないといけないし。なにより――

 

千聖「少しだけなら、教えてあげてもいいわ」

 

少しほっておけない気がするわ

 

つぐみ「ごめん!遅くなっちゃった」

イヴ「つぐみさん!お帰りなさい」

 

つぐみ「あれ?庄司くんは――」

千聖「こっちよ。つぐみちゃん」

 

つぐみ「こんにちは 千聖さん 庄司くんが何か失礼なことしましたか?」

 

千聖「いえ、面白い子だから少しお話をしただけよ」

つぐみ「よかった~」

 

『二人は知り合いなの?』

 

つぐみ「うん!この人はアイドルバンドPastel✽Palettesの白鷺 千聖さん。よく家に来てくれるの」

 

改めてあいさつされると恥ずかしいわね

 

つぐみ「千聖さん、こっちは最近家に来た。さ…じゃなかった!羽沢庄司くんです」

 

『気軽に庄司と呼んでください』

 

千聖「えぇ、よろしくね 庄司くん。さて、お仕事があるから失礼するわね」

 

つぐみ「またのご来店お待ちしております」

庄司「お待ちしています」

 

本当に面白い子ね。あ!連絡先交換するのを忘れていたわ

 



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9話

 

~CiRCLE~

 

えっと…どっちに行けば…

 

⁇「こっちだ」

 

庄司『ありがとうございます。美竹さんのお父さん』

 

美竹父「おじさんでいいよ。庄司君」

 

いま僕は、美竹さんのお父さんと一緒にライブハウス CiRCLEに来ている。

 

~少し前~

 

お義父さんから息抜きしてくるようにライブチケットをもらった。あまりライブに行きたくないけど…

もらったからには行かないと失礼な気がする

 

準備をし、お店から出ると――

 

⁇「君が庄司君かい?」

 

そこには現代では珍しく、着物を着ている男性が立っていた

 

え、えっと…ど…どうすれば…ま、まずあいさつしないと…

 

お義父「あぁ、美竹さん。こんにちは今日はよろしくお願いします」

美竹さん「こんにちは羽沢さん。この子がそうですか?」

 

お義父「はい…まだ、ここにきて間もないので…いろいろ教えてあげてください」

 

美竹さん「お任せください。私も分からないこともありますが出来るだけ教えてあげたいと思います」

 

 

てことがあって、美竹さんのお父さんとライブハウスに来ていた

 

美竹父「まだ時間があるな。少し話をしないか?」

 

コクリ

 

美竹さんの家系は代々華道を引き継いできたらしく、半年ぐらい前に美竹さん…蘭さんに華道の後継ぎにするため、バンドを辞めさせようとして、喧嘩をしたらしい。

 

でも、青葉さんや幼馴染のみんなが協力して、バンドを見てもらっておじさんを納得させた。それからライブがある日は絶対見に行っているみたい。

 

肝心な蘭さんは嫌がっているらしいけど…おじさん曰くただの照れ隠しらしい。

 

この二人実は結構似ているかも…それに…

 

それにこの人は顔が怖いだけで優しい人だ。()()と比べ物にならないぐらいだ。

 

美竹父「そろそろだね。中に入ろうか」

 

どうやらライブが始まるみたい。スマホの電源を切っておかないと…

 

_________________

 

うわ~すごい人気だな、見渡せば、大半が女性ばかり

 

蘭「こんにちは!Afterglowです」

 

「「「キャーキャー」」」

 

普段と違う衣装…みんなカッコよく凛々しいな

 

蘭「まず一曲目、That Is How I Roll!」

 

♪♪♪♪~

 

これってロック?同い年なのでこんな力強い演奏するなんてすごいよ

 

美竹さんは声も透き通ているし、ギターを弾きながら歌うなんて難しそうなのに

 

青葉さんはギターを力強いく演奏してる。普段、フワフワした感じなのにまるで別人だ

 

上原さんも楽しそうに演奏している。多分この人がチームを引っ張ているのかな?

 

宇田川さんは普段と同じ感じ。楽しそうに叩いている

 

そして羽沢さん、普段大人しそうな感じなのに全然違って、難しそうなのに難なくこなしている。

 

 

蘭「ありがとうございました」

 

気が付いたらもう演奏が終わっていた。楽しいことはあっという間に終わっちゃうな

 

美竹父「私は帰るが…君はどうする?」

 

『みんなと一緒に帰ろうと思います』

 

美竹父「そうかい。それならこれを持って行ってくれないかな?」

 

おじさんから袋を受け取りる。中を見てみるとクッキーの詰め合わせみたい

 

『分かりました。おじさん今日はありがとうございました』

 

美竹父「こちらこそ、気が向いた家に来なさい。今度は君の話を聞かせてくれ。では」

 

さて、おじさんも帰ったことだし、これを届けないと…あ、スマホの電源を入れておこう――

 

「Roseliaの演奏最高!」

「あのボーカルの子いいよね」

 

Roselia?まだ、こっちの事には詳しいくないし、美竹さん達に聞いてみた方がいいかな

 

_________________

 

~控室前~

 

Afterglow…Afterglow…あ、あった!この部屋みたい

 

コンコン

 

モカ「は~い あ!しょーくん」

巴「おぉ~!来てくれたんだな!!ここではなんだし中に入りなよ」

 

宇田川さんに促され、中に入るとみんな着替えが終わっていた。

 

蘭「庄司。来てくれたんだ…」

庄司『美竹さんのお父さんと一緒に聞いていました』

 

ひまり「やっぱりそうだったんだ!!」

つぐみ「でもどうしてライブに来てくれたの?」

 

庄司『お義父さんに気分転換にってチケットをもらったので…』

 

そうだ。おじさんの贈り物を渡さないと…

 

蘭「それは?」

庄司『おじさんから皆さんに、差し入れ』

 

ひまり「あ!これ。この前、駅前に出来たカフェのクッキーだ!!」

つぐみ「確かあそこ、朝早くから行かないと売れきれになっていたよね」

 

モカ「蘭パパが朝早くから並んでくれたんだね~」

蘭「そうかもね。庄司、あんたも食べる?」

 

庄司『僕はいいです。それは皆さんが食べてください』

つぐみ「折角なんだから、一つぐらい食べた方がいいよ」

 

ひまり「そうだよ!この機会を逃すと食べられなくなるかもしれないよ」

蘭「モカが全部食べる前に食べた方がいいよ」

 

みんながそこまで言うなら一つぐらいでいいかな…

 

_________________

~帰り道~

 

庄司『美竹さん、Roseliaって知っていますか?』

蘭「知ってるけど…どうかしたの?」

 

庄司『さっき、控室に行くまでに色々聞いたのでどんなバンドかなって』

モカ「一言で言うならライバルかな?」

ひまり「Roseliaはね――」

 

Roseliaは高い技術を誇る本格派ユニットで、美竹さん達と同じ高校生。

 

最初は最悪な関係だったけど、色々あって何とも言えない関係に落ち着いたらしい

 

蘭「来週、ライブあるらしいから行ってみる?」

庄司『美竹さん達がそこまで言うなら聞いてみようかな』

 

モカ「じゃあ、リサさんにチケットもらっとおくね~」

 

Roselia どんな感じか楽しみだ

 



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10話

皆さんお久しぶりです。

はい……仕事が忙しくてこっちの方サボってました


~羽沢珈琲店~

 

ライブから二日…僕はいつも通りお店の手伝いをしていた。

 

今日はカフェごはんの練習、オムレツにナポリタン、フレンチトーストなどいろいろある。

 

今日はその中で、難しそうなオムレツからやってみようかな

 

 

二時間後

 

 

あれ?おかしい…全然卵が上手いことまとまらない。

 

つぐみ「調子はどう?」

 

僕は首を横に振った。予想どおりとはいえこんなに難しいとは思わなかった

 

つぐみ「ま、まぁ練習すればそのうちうまくいくよ!なんとかなるなる‼」

 

何とかなるかな?取り敢えずこれを食べようかな

 

⁇「こんにちは」

 

あれ?この声はもしかして…

 

つぐみ「紗夜さん!いらっしゃいませ。いつものでいいですか?」

紗夜「えぇ、お願いします。羽沢さん」

 

やっぱりあの時の人だ!そうだマフラーを返さないと…

 

僕は急いで二階に駆けあがり、あの人に貸してもらったマフラーを取りに向かった

 

紗夜「あら?あなたはあの夜に出会った…」

つぐみ「庄司くん。紗夜さんといつ出会ったの?」

 

えっと…どこから話したら…

 

紗夜「どうかしましたか?」

つぐみ「あ、紗夜さん。庄司くんは…」

 

つぐみさんが僕の声が出せないことやここで居候していることを話してくれた

 

紗夜「そうだったのですか…辛かったですね」

つぐみ「紗夜さんはRoseliaギターをやっているんだよ」

 

Roseliaのギター?この人が…そういえば、あの夜もギターケースを持っていたっけ

 

紗夜「自己紹介がまだでしたね。私は氷川紗夜です。先ほど羽沢さんが言った通りRoseliaのギター担当をしています」

 

庄司『羽沢庄司です。今は事情があり、本名は明かせませんがよろしくお願いします』

 

紗夜「えぇ、よろしくお願いします」

つぐみ「二人はいつであったのですか?」

 

紗夜「あれは…確か二月前半の寒い夜でしたね」

つぐみ「あれ?確かその時って、庄司くん病院にいたはずだけど…」

 

あ! バレた

 

紗夜「病院?そう言えば、あの公園の近くには病院がありましたね」

つぐみ「もしかして…庄司くん。病院から抜け出したの?」

 

コクリ

 

紗夜「だから寒そうな恰好をしていたのですね」

つぐみ「後ですこし、お話しようね…庄司くん」

 

笑顔なのに…目が笑っていない。すごく怖いよつぐみさん···

 

『あの夜、誰かと待ち合わせをしていたのですか?』

 

紗夜「えぇ、妹と待ち合わせをしていました」

 

『妹?』

 

つぐみ「紗夜さんは双子の妹さんがいるの」

紗夜「羽沢さん、日菜は迷惑をかけていませんか?」

つぐみ「はい…大丈夫ですよ」

 

――?

 

つぐみ「あ!ごめんね…分からないよね。」

紗夜「私の妹…日菜は――」

 

二人の話を聞いて分かったことは…

 

紗夜さんの妹、日菜さんはつぐみさんが通っている学校の一つ上の先輩で、よくつぐみさんに絡んでくることが多いらしい。

 

少し前まで、姉の紗夜さんと関係が悪かったみたいだけど、今は仲良くなっているらしい

 

天才か~本当にそんな人がいるんだな。

 

紗夜「もし、日菜が来たらその時はよろしくお願いします」

 

『はい』

 

つぐみ「あ!紗夜さんまた今度、お菓子作り教室をするので、ぜひ来てくださいね」

紗夜「はい。その時はまたよろしくお願いします」

 

へぇ~この人もお菓子作りするんだ。そう言えば、お菓子教室の時、僕はどうしようかな?今度、お義母さんに話してみよう

 

そういえば…作ったことはなかったな。これを機に僕もやってみようかな

 

紗夜「では、そろそろ時間なので失礼しますね」

つぐみ「はい!またのお越しをお待ちしております」

庄司『お待ちしております』

 

つぐみ「庄司くん?どうかしたの?」

 

『この町にはいろんな人がいますね』

 

つぐみ「そうだね!まだまだ、庄司くんに紹介したい人がいっぱいいるよ」

 

『いろんな出会いがあるから、この町には飽きそうにないですよ』

 

つぐみ「それなら良かった。さて、すこしお話をしようね」

 

あ!忘れてた

 




今更ですが、

庄司『こんにちは』は音声アプリで会話しており、
『こんにちは』これはメモで会話してます

使い分けはお店とかだと音声アプリ、プライベートはメモ会話しております


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11話

~羽沢珈琲店~

 

昨日はRoseliaのライブがあった…うん、最高のライブだったけど

 

蘭「…」

 

美竹さん、少し苛立っているようなに見える。

実は···少し問題が起こったそれは――

 

_________________

 

~CiRCLE~

 

『すごい演奏でしたね』

 

つぐみ「お客さんを引き込むのと盛り上げるのをやってるんだよ、すごいよね。蘭ちゃん」

蘭「まぁ、確かに…」

 

巴「スッキリしない言い方だな」

モカ「そうだよね~湊さんは蘭のライバルなんだもんね」

 

『ライバルなんですか?』

 

蘭「そんなんじゃないから!あたしはただ、あたしたちの方が盛り上がるライブにできるって――」

 

それをライバルって言うのでは?

 

蘭「聞いてる?」

 

コクリ

 

友希那「Afterglowが私達よりも盛り上がるライブを?」

 

Afterglow「――!」

 

この人、確か…Roseliaのボーカルの…後ろには紗夜さんやほかに三人のメンバーがいる

 

ひまり「友希那さん!それにあこたちも、終演後フロアに来るなんて珍しいね?」

 

あこ「みんなが来てくれてるから、ライブの感想聞こうかなーって」

リサ「微妙なタイミングで来ちゃったみたいだね~」

 

つぐみ「えっと…ご、ごめんなさい!私達そんなつもりじゃ…」

 

どうしよう?この空気…

 

友希那「自分たちが1番ライブを盛り上げることが出来る。誰しもそう思って当然よ。私達は気にしてないから、謝らなくていいわよ」

 

すごい堂々としている。良かったこれで喧嘩になりそうにな――

 

蘭「それって、あたし達の事は眼中にないって意味ですか?」

 

こ、これは不味い。と、止めないと…

 

『美竹さん、落ち着いて!』

 

蘭「アンタは関係ないでしょ!入ってこないで!」

 

美竹さんに突き飛ばされ、体勢を崩しそうになる

 

モカ「おっとと…大丈夫?」

 

コクリ

 

ひまり「ちょ、ちょっと蘭!」

蘭「比べるまでもないってことは、RoseliaがAfterglowより上だと思っていることですよね?」

 

友希那「それは…」

蘭「何その微妙な返事。それなら湊さんは、いったい――」

巴「それはどう言う意味ですか?」

 

え⁉宇田川さんまで!

 

紗夜「そのままの意味だと思いますが…」

蘭「やっぱり、Roseliaはあたし達を下に見ていることじゃないですか」

 

モカ「おぉー。ヒートアップしてますな~」

つぐみ「蘭ちゃん!お、落ち着いて」

蘭「あたしは落ち着いている」

 

あれ?よく考えたら、美竹さんは誤解しているような…

 

友希那「貴方達は、なにを言っているの?」

紗夜「こちらの意図が伝わっていないんじゃないですか?」

 

やっぱり、少し誤解してるみたいだ。

 

燐子「ご、誤解を…解かないと…」

 

蘭「もういいです。Roseliaがあたし達の事どう思っているか、よくわかりました。言葉だけじゃ説得力無いですね。だったら――2マンライブで勝負しましょう」

 

巴「ガツンとぶちかましてやろうぜ!」

 

もう止められそうにないな。これは…

 

リサ「ちょっと待ってよ!ライブ自体は楽しそうだけど、勝負って…」

 

紗夜「落ち着いてください。こちらはそんなつもりは…」

 

友希那「受けて立つわ」

リサ「友希那、ただ誤解されているだけなんだから、説明すれば…」

 

友希那「必要ないわ。彼女たちはライブで決着を望んでいる。それなら受けるのが礼儀よ」

 

_________________

 

――ってことがあった。

 

些細な誤解がこんな大事になるなんて、思ってもいなかった。

 

蘭「庄司…ちょっと来て」

庄司『注文ですか?』

 

蘭「そうじゃない。その…昨日はごめん…急に突飛ばしたりして…」

 

昨日の事気にしていたみたい。あの後はみんな各自で帰っていったから、話すタイミングがなかったから仕方ない

 

庄司『気にしてないので、大丈夫ですよ』

蘭「アンタが良くても、あたしが悪い…」

 

庄司『じゃあ、今度作品をスケッチさせてください』

 

蘭「それぐらいの事ならいいよ」

 

昨日は少し苛立っていただけなんだから、仕方ないと思う。

 

それに、今回の事はAfterglowとRoseliaの問題だから部外者の僕がとやかく言うことはないと思う

 



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12話

~商店街~

 

 

今日は天気がいいから、お義父さんから少しだけ外出の許可を得て、散歩をしている

 

そういえば、Roseliaの人ついて全然知らない。誰かから聞いてみないと…

 

⁇「あら?貴方は…この前の…」

 

振り返ってみると意外…Roseliaのボーカルの湊さんが話しかけてきた

 

友希那「こんにちは」

 

僕は軽い会釈をすると――

 

友希那「貴方のことは紗夜から聞いているわ。しゃべれないのでしょ?」

 

コクリ

 

友希那「この後、少しいいかしら?」

 

庄司「――?」

 

_________________

 

~カフェエリア~

 

「ご注文のコーヒー二つです」

友希那「ありがとう」

 

(*- -)(*_ _)ペコリ

 

「ごゆっくりどうぞ」

 

えっと…どうしてここに連れてこられたんだろう?

 

友希那「飲まないの?」

 

そう言いながら湊さんは、大量の砂糖をコーヒーに入れている。すごく甘そう…じゃなくて!

 

『僕に何か用ですか?』

 

友希那「そうね。少し話をしたいだけよ。()() ()()()君」

 

――⁉どうしてこの人は僕の名前を知っているんだ

 

友希那「昔、テレビや雑誌に取り上げられていたわね」

 

コクリ

 

友希那「それで知っていたのよ」

 

だから僕の事を知っていたのか…ビックリした。あれの追手かと思った

 

友希那「それで有名なボーカリストの貴方がどうして声を失ったの?」

 

『チャットで話してもいいですか?』

 

友希那「えぇ、構わないわ」

 

湊さんとアドレスを交換し、僕が声を失った原因を話した

 

『以上です』

友希那『そうだったのね…辛いことを聞いたわね』

 

『別に構いません。一つだけお願いがあります』

友希那『何かしら?』

 

『僕の本名とこの話を誰にも言わないでくれますか?』

 

友希那『えぇ、分かったわ。ここでの会話は誰にも言わないわ』

 

『ありがとうございます』

 

友希那「そろそろ練習の時間だから失礼するわね」

 

『コーヒー、ありがとうございました』

 

友希那「気にしないで…あ、言い忘れていたわ」

 

席を立った湊さんが僕の耳元でこう囁いた

 

友希那「貴方の声は個人的に好きだったわ」

 

え⁉それは――

 

友希那「できれば、もう一度その声を聴きたかったわ。次はライブで会いましょう」

 

湊 友希那――なんていうか不思議な人物だ。

 

紗夜さんもそうだけど、Roseliaは怖そうな人に見えて、実は優しい人たちなのかな?あと三人会ってみないと分からないけど…

 

えっと…湊さんと氷川さん。あとは…今井さん、白金さんに宇田川さん…あれ?宇田川さんって姉妹かな?今度聞いてみよう

 

――っとそれより今日はもう帰らないと。

 

お義父さんに出かけるときはすぐ帰ってくるように約束しているんだった

 

_________________

 

笹野君…いえ、庄司君。彼とは面識はなかったけど…昔よく、テレビや音楽雑誌で目にすることがあった。

 

そんな彼と出会ったのはこの前のライブ、美竹さん達と一緒にいた。

 

雑誌では一年前のライブを最後に姿を消した…彼は本来、千葉県にいるはずなのに…

 

どうしてここにいるのか知りたかった。

 

話を聞くと彼は()()()使()()()()()()()()()()、歌えなくなったからこの町に引っ越してきたらしい

 

友希那「あの話が本当ならどうして自分の名前を偽っているのかしら?」

 

蘭「ギリギリまですみません。撤収終わったので…って湊さん⁉」

 

友希那「美竹さん お疲れ様。次入らせてもらうわ」

蘭「今から練習なんて、余裕ですね。あたしはもっと早くから練習していましたよ」

 

友希那「練習時間は関係ないんじゃないかしら?」

蘭「熱意があるなら、少しでも多く練習すると思いますが…」

 

友希那「今日は外せない用事があったのよ。練習時間はいつもより倍に取っているといえば納得するかしら?」

 

蘭「なっ!…あたしも追加で二時間やります」

 

彼は美竹さん達と一緒にいたってことは、美竹さんは彼についてどこまで知っているのかしら?

 

庄司…彼には何かありそうね



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13話

湊さんと出会って数日間、他のメンバーの人と会話をすることが出来た。

 

初めは演奏の時みたいに、常にクールでカッコいいイメージが強かったけど、話をしてみると意外と面白い人たちだった。

 

それに皆さん、僕が声を出ない事に同情や励ましの言葉をくれた。そんな皆さんに一つだけお願いをしてみた。

 

~羽沢珈琲店~

 

蘭「はい…これ今日のライブのチケット」

 

美竹さんからチケットを受け取る

 

蘭「後で感想聞かせて…今日は最高のライブにするから」

モカ「おぉー今日は一段と燃えてますな~」

 

青葉さんの言う通り、今日の美竹さんは一段と気合が入っているように見える

 

蘭「茶化さないで!それより庄司。この前、湊さんと何話してたの?」

 

『ライブが終わってからのお楽しみです』

 

蘭「ふ~ん…じゃあ、あたし達先に行くから…モカ」

モカ「じゃあね~しょーくん」

 

さてさて…美竹さんどんな反応してくれるかな?楽しみだ

 

_________________

 

~CiRCLE~

 

ガヤガヤ…ガヤガヤ…

 

うわぁ~なんだかこの前来た時より人が多いような…

 

そう言えば、勝敗の付け方が盛り上げた方って言ってたけど、見ただけでわかるのかな?

 

投票とかも無いし、どうやって決めるんだ――

 

「「キャーキャー」」

 

先に出てきたのはAfterglowの皆さんだ

 

蘭「こんにちはAfterglowです!聞いて下さい!―Y.O.L.O!!!!!」

 

 

~1時間後~

 

友希那「ありがとう」

 

Roseliaの演奏が終わったけど…う~ん…どっちもいい演奏だったから優劣つけがたい…

 

どう答えらいいのかな?さて、外で待っておこう

 

_________________

 

~控室~

 

勝敗は引き分けになり、今日のライブは終了した

 

蘭「では、湊さん先に失礼します」

友希那「美竹さん、待って」

 

蘭「まだ何か…」

友希那「スタジオで待っていてくれるかしら?そこに彼もいるから」

 

彼?庄司の事…?でも、どうして庄司がスタジオに

 

ひまり「どうして庄司君がスタジオに?」

紗夜「それは彼に聞いてみてください」

 

モカ「じゃあ、先に行ってますね~」

リサ「すぐに行くから待ってて」

蘭「分かりました…」

 

Roseliaの控室を後にし、スタジオに向かう

 

巴「庄司は何考えてんだ?」

 

待ち合わせをするなら外のカフェエリアで待っていればいいのに…

 

つぐみ「そう言えばこの前、友希那先輩と何か話していたね」

モカ「ほぅ~私達に内緒とは少しお話しないとね~」

 

そんな会話をしていると、スタジオに着いていた

 

蘭「入るよ」

 

中に入ってみると庄司がRoseliaの楽器をセッテイングしていた

 

巴「なにやってんだ?」

 

『皆さんお疲れ様です。準備をしているので少し待ってください』

 

ひまり「何か手伝うことある?」

 

『この楽譜をセットしてくれますか?』

 

つぐみ「うん!任せて」

蘭「あたしは何したら…」

モカ「ら~ん。これ見て」

 

この詩は――あたし達が演奏しようとしていたカバー曲⁉

 

蘭「どうしてアンタがこの曲の事を知ってるの?」

 

『この前、店に置いてたので…』

 

蘭「やっぱりあの時に…他に見てないよね?特に最初の方とか…」

 

コクリ

 

庄司は軽く頷いてるけど、怪しい…

 

蘭「まぁいい…歌う準備をすればいいんだよね?」

友希那「話はついたかしら?」

 

ひまり「準備できました」

つぐみ「こっちも準備できたよ」

 

紗夜「ありがとうございます。羽沢さん」

あこ「お姉ちゃん、ありがとう」

巴「頑張れよ!あこ」

 

友希那「美竹さん、準備はいいかしら?」

蘭「はい、いつでもいいですよ」

 

 

_________________

 

♪♪♪♪~

 

五日前、羽沢珈琲店にて…

 

美竹さんのノートを見て今度のライブで 革命のディアリズムを演奏することを知った。

 

そこで事前に湊さん達に曲名を伝え、美竹さんとデゥエットをお願いしたが…初めはそう簡単に行かなかった

 

あこ「面白そう!!やりましょーよ!」

友希那「いくらあなたのお願いでも…」

紗夜「承諾しかねます」

 

っとまぁ…反対意見があったけど

 

リサ「まぁいいじゃん!蘭とツインボーカルって貴重じゃん!」

燐子「練習が…間に…合い…ますか」

 

『ライブではなく、スタジオで演奏していただきませんか?』

 

友希那「場所の問題じゃないのよ。私達はやるからには最後まで妥協は許さないの」

紗夜「先ほど白金さんが言った通り、練習時間がありませんって聞いてますか?」

 

コクコク

 

頷きながら湊さんには猫、紗夜さんには犬のラテアートを提供した。

 

友希那「にゃんちゃん」

紗夜「~~///」

 

燐子「すごい…」

リサ「もう二人の扱いになれてるし…」

あこ「庄司さん、恐ろしい人だ」

 

『引き受けてくれますか?』

 

友希那「えぇ、引き受けるわ」

紗夜「湊さんがそこまで言うのなら」

 

こうして湊さん達を説得することに成功した。

 

_________________

 

蘭「……」

友希那「……」

 

演奏が終わり、スタジオは静寂に包まれていた

 

『二人共どうでした?』

 

蘭「不思議な感じ…湊さんとこうしてデュエットするなんて」

友希那「中々楽しかったわ。美竹さん。庄司、今回はありがとう」

 

『すごく良かったです、やっぱり二人共似た者同士ですね』

 

蘭「はぁ!!あたしと湊さんのどこが似た者同士なの⁉」

友希那「全く同意意見よ」

 

同じことを思っている時点で似たもの同士じゃないのかな?

 



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14話

帽子…良し!カバンも良し!

 

今日は青葉さんに誘われて出かける準備をしている

 

しているけど…

 

つぐみ「モカちゃん遅いね」

 

そう…約束の時間なのに青葉さんが姿を現さない

 

何かあったのかな?

 

モカ「ごめんごめん~寝坊した」

つぐみ「モカちゃん、庄司くんずっと待っていたのよ」

 

モカ「おぉ~嬉しいね~モカちゃん感激。しょーくん、()() 用意してくれた?」

 

僕は青葉さんに親指を立てる(`・ω・´)b

 

モカ「ありがとう~じゃあ、つぐ。しょーくんを借りていくね~」

つぐみ「うん…庄司くん無茶しないようにね?」

 

コクリ

 

_________________

 

~商店街~

 

モカ「ふふ~ん♪」

 

今日の青葉さんは機嫌がいいみたい。そう言えば今日は何処に行くんだろう…

 

『どこに行くのですか?』送信っと

 

モカ「今日はね、モカちゃんのお気に入りのところに連れて行くよ~」

 

お気に入りの所?

 

 

 

 

 

 

~山吹ベーカリー~

 

沙綾「いらっしゃい!待っていたよ。モカ」

 

連れてこられたのは山吹ベーカリー

 

この前に千聖さんが持ってきてくれたのも、ここのパンだったような…

 

モカ「今日はよろしくね~沙綾」

沙綾「うん。それで、そっちの子がこの前言っていた」

 

モカ「しょーくんだよ」

 

それって…紹介出来てないような…

 

『羽沢 庄司です』

 

沙綾「山吹 沙綾、ガールズバンドPoppin'Partyのドラム兼ここ山吹ベーカリーの手伝いをやっている。よろしく、庄司」

 

山吹さんと握手をした

 

沙綾「さて、早速始めようか」

 

始める?何を始めるのだろうか

 

モカ「あぁ、しょーくんにはまだ話してなかったね。今日はね~」

 

青葉さんは腕を大きく広げこう言った

 

モカ「今日はパンを作ろうと思います」

 

え?

 

~厨房~

 

沙綾「どんなパンを作りたい?」

モカ「塩パン」

 

『クロワッサンとか?』

 

モカ「あと…しょーくんが持ってきてくれた。あれ?」

 

カバンからあれを出す

 

沙綾「それって…ジャム?」

モカ「フフフッ···これはしょーくんが今日のために作ってくれたんだよ~」

 

昨日、お店に出すため試作したリンゴジャム

 

青葉さんに頼まれてもう一瓶作って持ってきた

 

沙綾「へぇー味見していい?」

 

コクリ

 

モカ「アタシも……こ、これは…」

沙綾「美味しい!ねぇ、このジャム…家の分も作ってもらっていい?」

 

そんなの美味しくできたんだ…良かった良かった

 

『つぐみさんと話してからでいいですか?僕一人で判断できないので』

 

沙綾「うん、いいよ。そうだ!いっそのことコラボ食品でも出しちゃう?」

 

それもいいかも…でもやっぱり僕一人では決められないな~

 

沙綾「まぁ、つぐに伝えておくね」

 

コクリ

 

沙綾「さてと、モカ。何時まで舐めているの?」

モカ「いやぁ~美味しくて…つい」

 

三分の一ぐらい減っている。

 

沙綾「じゃあ、モカの塩パンから作ろうか」

モカ「あいさ~」

 

パンをこねるのにスマホもスケッチブックも使えない

 

ジェスチャーで何とかするしかないか

 

沙綾「さて、まずは…」

 

小麦粉、砂糖、イースト菌 今回は塩パンだから塩を少し多めに…

 

軽くなじませて、水、牛乳を入れてこねる

 

モカ「ベトベトしてる~」

沙綾「まだゲルテンが繋がってないからね」

 

ゲルテン?あとで調べてみるかな?

 

沙綾「台にこすりつけるようにこねていくといいよ」

 

モカ「おぉー」

沙綾「庄司くんの方も大分いい感じになってきたね」

 

ベトベトしていたのが段々まとまってきてモチモチしてきた

 

沙綾「じゃあ、今度はこの生地を叩いていくよ」

 

叩く? 取り敢えず、麺棒で生地を……

 

沙綾「あぁ!麺棒で叩くんじゃなくて…こうするの」

 

山吹さんは生地を台に叩きつけ、手前から奥に生地をこねる

 

モカ「しょーくん、猟奇的だね~」

沙綾「やってみようか」

 

コクリ

 

暫く生地をこねくり回し、発酵させる

 

発酵させている間に、Poppin'Partyの話や、普段僕が何をしているか話や、山吹さんの妹さんたちと遊んで時間を潰した

 

~二時間後~

 

沙綾「あとは焼き上げるだけだね」

 

僕のリクエストのクロワッサン。青葉さんの塩パンを焼き上げる

 

焼いているパンたちが膨らんだり萎んだり繰り返している。

 

これは…見ているだけで楽しい!

 

モカ「しょーくん、オーブンずっと見ているね」

沙綾「生地が膨らむところが面白いからね。さてそろそろ…」

 

チン!

 

沙綾「出来たみたいだね」

 

山吹さんが焼きたてのパンを取り出す

 

モカ「さてさて、お味は…」

 

美味しい!焼きたてのパンって初めて食べた

 

沙綾「うん。美味しくできたね」

モカ「ここにしょーくんのジャムを乗せて…う~ん!美味しい!」

沙綾「どれどれ…うん、酸味が効いてて美味しいね」

 

確かに、塩とジャムがいい感じに組み合わさっている。

 

そうだ!お義父さんたちの分も持って帰ろう

 

_________________

 

1時間後

 

『山吹さん今日はありがとうございます』

 

沙綾「ううん、こっちこそジャムありがとうね。今度はライブ見に来てよ」

 

コクリ

 

モカ「じゃあね、沙綾」

沙綾「またのご来店お待ちしています」

 

 

 

『青葉さん今日はありがとうございます』

 

モカ「つぐに頼まれたからね~しょーくんにいろんなところに連れて行ってって」

 

つぐみさんが…この町に来てつぐみさんに助けてばっかりだ

 

モカ「それに…あたしもしょーくんとお出かけしたかったし」

 

悪戯っぽく青葉さんは言った

 

モカ「じゃあ…またねー」

 

僕は手を振り、青葉さんを見送った

 

 

~羽沢珈琲店~

 

つぐみ「お帰り!庄司くん」

 

ふと…山吹さんの妹たちを思い出す。

 

つぐみさんは僕の事をどう思っているんだろ?

 

年齢的には同い年だけど···この家に来たことを考えると···弟になるのかな?

 

つぐみ「どうかしたの?」

 

僕は首を振り、ただいまの挨拶した

 

 



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15話

蘭「もうちょっと上の方に…そう…そこの方がバランスいいと思う」

 

ラテアートのバリエーションを増やすため、僕は美竹さんの家にやってきた

 

華道って意外と難しんだな…おっと、それよりスケッチ取らないと…

 

 

数分後

 

ヒナゲシと牡丹…あ、大きく過ぎた。う~ん…

 

蘭「調子はどう…何か描けた?」

 

美竹さんに描いた作品を見せてみる。

 

蘭「絵うまっ!」

 

『そんなことないですよ』

 

スケッチブックの前のページに描いてた絵を見せる

 

蘭「こんなにたくさん…」

 

一枚目は、人に見せられないほど下手くそな絵

 

気に食わなくて破り捨てた…それが数枚ほど

 

蘭「その絵をラテアートにできるの?」

 

『練習してみないと分りません』

 

よし!十分に描けたし、早速家に帰って練習しよう

 

蘭「帰るの?」

 

コクリ

 

蘭「じゃあ、送っていくよ。あ、」

 

外を見てみると大雨が降っている。どうしよう…傘持ってきてないし困った

 

蘭「この雨中帰らすには悪いし…」

 

走って帰ればなんとかなると思うけど…スケッチブックが濡れちゃう

 

美竹父「泊まっていきなさい」

 

え⁉

 

蘭「お父さん⁉」

美竹父「流石に、この雨の中に帰すわけにはいかないだろう?」

蘭「それもそうだけど…」

 

『いいのですか?』

 

美竹父「あぁ、羽沢さんには私から伝えておくよ」

 

こうして、一泊美竹の家に泊まることになった

 

_________________

 

~羽沢珈琲店~

 

『そんなことがあって、美竹さんの家に泊まることになります』

つぐみ『分かった…くれぐれも蘭ちゃんに迷惑かけないようにね』

 

ビデオ通話で庄司くんとやり取りをしている

 

『分かっています』

 

つぐみ「帰ってこないと思ったら、庄司くん傘忘れていったんだ」

千聖「つぐみちゃん、どうかしたのかしら?」

花音「何かあったの?」

 

つぐみ「あ、千聖さん、花音さん。実は、庄司くんが――」

 

数分後

 

千聖「そうだったのね」

花音「心配なのね。つぐみちゃんは」

 

つぐみ「花音先輩は庄司くんのこと知っているのですか?」

花音「千聖ちゃんから聞いたよ。かわいい教え子が出来たって」

 

千聖「ち、違…もう花音…///」

つぐみ「教え子?」

 

千聖「本人から頼まれたのよ。学校に行けないから勉強を教えてって」

つぐみ「そう言えば、この前教科書を貸してって…でも、どうして私に何も聞いてくれないのかな?」

 

花音「つぐみちゃんは忙しそうにしているから遠慮してると思うよ」

 

偶には頼ってくれていいのに…

 

花音「その子はどんな感じなの?」

千聖「呑み込みが早いわね…基礎を教えると応用問題も難なくこなしているわ」

 

つぐみ「あれ?でも庄司くんは私達と同い年なのに、どうして千聖さんに…」

千聖「確かにおかしいわね…今度聞いてみようかしら?」

 

_________________

 

~美竹家~

 

どうしよう…気まずい…

 

庄司はさっきから絵を描いているし、話しかけにくい…

 

美竹父「失礼するよ…庄司君。羽沢さんから、明日の朝に迎えに来るって」

 

『分かりました』

 

美竹父「遠慮することはないから、今日はゆっくりするといい」

 

『はい わかりました』

 

美竹父「それとこの和菓子を二人で食べなさい。あと私は今から出かけるから後は蘭。頼んだよ」

 

蘭「ありがとう…え⁉いまなんて?」

 

美竹父「明日は、京都で仕事があるからね」

 

(*- -)(*_ _)ペコリ

 

父さんは和菓子を置いて部屋を後にした

 

蘭「取り敢えず…食べようか?」

 

コクリ

 

へぇ~ウサギと桜の練りきり…

 

蘭「悪くないね」

 

庄司を見てみると…目を輝かせながらスケッチを取ろうとしていた

 

蘭「早く食べた方がいいからこれは没収…」

 

ペンを取り上げると落ち込みつつ、渋々食べ始めた

 

ホント勉強熱心だね。そう言えば――

 

蘭「庄司、勉強はどうしているの?」

 

『千聖さんに歴史や語学を教えてもらっています』

 

蘭「数学とかは…」

 

『お店でレジ打ちしているので、特にやっていません』

 

蘭「そうだよね…」

 

『語学よりも料理の勉強を中心にしていますよ』

 

蘭「最近、つぐの所の料理が好評なのは庄司が作っているから?」

 

『多分そうだと思います。もしよければ、晩御飯作りましょうか?』

 

蘭「いいの?」

 

『今日泊まらせてもらうので、そのお礼に』

 

蘭「じゃあ、お願いしようかな」

 

_________________

 

 

さてと、美竹さんからリクエストは…カフェ料理

 

そうだ!この前出来るようになったオムライスにしよう

 

~数十分後~

 

さて、チキンライスも出来た。一番難しい卵の焼き加減…

 

手首を動かすタイミングが遅れば、卵が固くなってしまい。お客さんに出せなくなる

 

ここが腕の見せ所…

 

1…2…3ッ!!

 

フライパンをひっくり返す。卵の繋ぎ目を上になるようにする

 

よし!成功だ!お皿に乗せたチキンライスに先ほどの卵を乗せる

 

後は、ナイフとフォークを添えて完成!

 

蘭「すごい…」

 

美竹さんの前にオムライスを置き、椅子に座る

 

『冷める前にどうぞ』

 

蘭「いただきます…うん、美味しい!」

 

よかった…しっかりできた。さて僕も食べよう

 

 

~数時間~

 

食後、僕は客室で寝ることになった。それにしてもよく雨が降っている

 

そういえば、お母さんが亡くなった日も今日みたいに雨が降っていたな…

 

どうしてだろう…なぜか嫌な予感がする

 

蘭「庄司…どうかしたの?」

 

首を横に振る

 

蘭「もう夜も遅いからもう寝たら?」

 

コクリ

 

そんなわけないよな、いまの僕には美竹さん達がいる。悪いことは起きないはず…

 

 



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16話

翌朝

 

ふわぁ~よく寝た…

 

時間を確認すると、7時…雨は…まだ降っている。

 

気のせいかな?昨日より雨が強くなっているような···

 

そうだ!今日のお昼ぐらいにお義父さんが迎えに来るんだった

 

着替えないと…

 

 

蘭「おはよう…よく眠れた?」

 

コクリ

 

少々迷いながらも何とかリビングにたどり着いた。

 

蘭「さて、庄司も起きてきたし朝食にしようか」

 

コクリ

 

ドゴーン!!

 

近くに雷が落ちたみたい。つぐみさん大丈夫かな?

 

つぐみさんの心配をしていると――

 

パチンッ

 

蘭「あっ!」

 

急に部屋の中が真っ暗になった。

 

ブレーカーが落ちたみたい。どうにかしないと…

 

ブレーカーは確か洗面台にあったような

 

暗闇の中歩き出すと何かにぶつかった

 

蘭「うわぁ!」

 

――!

 

蘭「お、驚かさないでよ!」

 

なぜか美竹さんは涙目になっている。

 

僕がその場を後にしようとすると――

 

蘭「ちょ、ちょっと!置いて行くつもり!」

 

美竹さんが腕を掴んできた。えっと…もしかして美竹さん。暗いの苦手?

 

~数分後~

 

何とか美竹さんと一緒にブレーカーを戻すことが出来た

 

蘭「……」

庄司「……」

 

気まずい…

 

蘭「ねぇ…さっきの事なんだけど…その…」

 

美竹さんがもじもじしている

 

蘭「忘れて…」

 

首を傾げると――

 

蘭「だから!さっきの事は忘れてっ!」

 

コクリ!

 

 

~数分後~

 

 

食後再び美竹さんと静かな時間を過ごしていると

 

蘭「ねぇ、アンタは昔の話をしないね」

 

『興味あります?』

 

蘭「‘ない’…って言ったらウソになるね。アンタはあたし達のこと聞いたでしょ?」

 

いつか、誰かに話そうと思っていた···でも、話せなかった

 

僕にとって、嫌な思い出しかないから

 

 

『先に言っておきます。美竹さん、あなたは幸せ者ですよ』

 

_________________

 

まずは僕の生い立ちからですね。

 

父さんはボーカリスト…母さんはピアニスト

 

僕はそんな音楽一家の笹野家で生まれた。

 

二人が仕事の時は、おじいちゃんにいつも会場まで連れてきてくれた

 

母さんのピアノと父さんの声。とても綺麗で優雅だった。僕はそんな二人に憧れた

 

これが僕と音楽の出会い…

 

それから僕は5歳の時から歌い始めた。

 

ピアノは僕には少し難しかった…だから、歌うことだけ専念した

 

小学校になってから、僕の歌は人気だった。

 

でも、人気があるとその分。嫉まれることもあった。

 

俗に言うといじめですね

 

いじめがあるたびに母さんと父さんが励ましてくれた

 

母「悪い事の後には良い事がある」

 

これが母さんの口癖です。

 

いつもこの口癖と共にピアノの聴かせてくれた

 

10歳になると僕も二人と一緒にステージに立った

 

僕の歌でお客さんが喜んでくれてうれしかった。

 

お客さんにも僕の事を評価してくれたり、他にもテレビに出たりした

 

でも、そんな日々は続かなかった。一年前の夜…あの日も今日みたいに雷雨だった

 

僕と母さんの二人で買い物に出かけている最中にある一台の車が走ってきた。

 

そして僕の目の前で母さんが車に轢かれた…

 

犯人は飲酒運転で母さんは即死だった…

 

初めは犯人を憎んだよ。でも、そんな暇なんて僕にはなかった

 

あの地獄の日々…

 

母さんを失ってから父さんの心は荒んでいった

 

そして、その荒みは暴力に変わった。勿論、その標的は僕になった

 

毎日、暴力…暴力…

 

偶には、足を折られたり、腕を折られたり…苦痛が毎日続いていた。

 

それでも、僕は信じていた。いつか…元の父さんに戻ることを

_________________

 

『それから先は美竹さん達に助けられました』

 

蘭「そんな過去が…」

 

『歌うことはもうできないけど。今の生活が充実して満足していますよ』

 

蘭「…」

 

『だから、美竹さんは幸せ者ですよ。親とケンカしても直ぐに仲直りが出来る』

 

そんな家庭が僕にはもうない…

 

蘭「ごめん…聞かなかったら良かったよね…」

 

『別に構いません…誰かに知ってもらった方が僕も気が楽になりますので…』

 

蘭「この事、つぐみは…」

 

僕は首を横に振る…

 

つぐみさんにはまだ話したくない…

 

だって…あの人の音は……

 

 

 

死んだ母さんの音と似ているから…

 

_________________

 

~羽沢珈琲店~

 

庄司くん。蘭ちゃんに迷惑かけてないかな…

 

母「つぐみ、そろそろ庄司くんを迎えに行くよ!」

つぐみ「うん!おとうさん!お酒もほどほどね!」

 

父「わがってるよ~」

 

おとうさんは、昨日やってきた人お客さんとすごく揉めていた。

 

そのストレスで今はお酒を飲んでいる

 

おとうさんがこんな状態だから、今日はお店を休みにすることになちゃった

 

 

~美竹家~

 

母「待たせてごめんね」

つぐみ「ごめんね蘭ちゃん」

 

蘭「ううん。庄司にはご飯を作ってもらったから」

つぐみ「どうだった?」

 

蘭「美味しかったよ。つぐみも負けてられないね」

つぐみ「うん!」

 

庄司くんはどんどん料理の腕を上げている。私も負けてられない…

 

『美竹さん、お世話になりました』

 

蘭「また、明日みんなと行くから」

 

『お待ちしております』

 

つぐみ「じゃあ、またね。蘭ちゃん」

 

 

~羽沢珈琲店~

 

家に帰ってみるとお父さんがまだお酒を飲んでいる

 

つぐみ「もう!お父さん。お酒もほどほどにしてって言ったのに!」

父「今日ぐらい~いいだろぉ~」

 

母「全く…ごめんね。庄司くん…庄司くん⁉」

 

お母さんが慌てる声が聞こえ振り返ってみると…庄司くんが目を見開いて驚いている

 

つぐみ「庄司くん?どうしたの?」

 

酷く震えている…

 

父「庄司?どうかしたのか~」

 

お父さんが庄司くんに手を伸ばす。すると――

 

庄司「――ッ!!」

 

つぐみ「庄司くん!!」

 

庄司くんがおとうさんの腕を振り払って一目散に二階に駆けあがっていった

 

_________________

 

お店に入った途端、あの嫌なにおいが…

 

 

あぁ…!!なんで!なんで…あいつがこんなところに!

 

僕の目の前には、あの悪魔が居た!

 

どうして此処が!?

 

つぐみ「庄司くん?どうしたの?」

 

つぐみさん!早く逃げないと!

 

父「庄司?どうかしたのか~」

 

く、来るな!ぼくに…近づくな!!

 

僕は一目散に自分の部屋に隠れた…

 




さて、物語も中盤に入ってきました。

それでは、終盤に向けてアンケートを募集します。

内容は、誰と恋仲になるかです。
票が多い順に作って行くのでよろしくお願いします


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17話

みなさんどうもhiragです。
さて、物語も中盤に差し掛かってきました。
それに伴って次回作について少しアンケートにご協力お願いします。

アンケート内容は次回作のメインヒロインについてです。
期限はつぐみ編が終わるまで募集しようと思います


~羽沢珈琲店~

 

庄司くんが部屋に引きこもって3日経っている…

 

部屋の前にご飯を置いても、全然手を付けていない…

 

ひまり「つぐ…どうなの?」

つぐみ「今日もダメみたい…」

 

巴「いったいどうしちまったんだ?庄司の奴」

モカ「この前まで特に何もなかったけど…」

 

蘭「つぐみが迎えに来てから様子がおかしくなったんだよね」

つぐみ「うん…急にお父さんを見た途端に怯えてて…」

 

巴「う~ん…そうなると…」

つぐみ「お父さんが悪いことになるよね」

 

モカ「でも、どうしてつぐパパを見て、怯えたんだろうね~」

蘭「……」

 

ひまり「蘭?どうかしたの?」

蘭「庄司は過去に酔っ払った親に虐待されていたのをこの前聞いて…」

 

虐待…確か庄司くんは親の虐待でここまで逃げてきたんだった

 

つぐみ「あの時、お父さんはお酒を飲んでいたよ。もしかして…」

モカ「‘フラッシュバック’だね」

 

ひまり「フラッシュバックってなんだっけ?」

巴「確か…あれだろ?辛い体験を思い出すやつだろ?」

 

蘭「対処法は?」

モカ「えっと…薬で抑えたり…気持ちを切り替えさせた方がいいみたい」

 

つぐみ「薬…他に方法は?」

モカ「あとは…安心できる人に話を聞いてもらったり、環境を変えてみたりした方がいいみたい」

 

安心できる人…庄司くんにとって安心できる人って誰だろう…

 

ひまり「安心できる人って…それってもう…つぐの事じゃん!」

つぐみ「え⁉」

 

モカ「もう3ヶ月ぐらい同じ屋根の下で住んでいるし~」

つぐみ「ちょっとモカちゃん!わ、私と庄司くんはそんな…仲じゃないし…」

 

巴「それを言うなら、蘭も庄司を一日家に泊めたよな」

蘭「まぁ、そうだけど…」

 

ひまり「その時、変な様子じゃなかった?」

蘭「変かどうか分からないけど…あの日の夜雨が降っていたでしょ?」

 

ひまり「うん」

蘭「つぐみに聞くけど、雨の日。庄司は外の様子を見ていた?」

 

雨の日…確か庄司くんは、雨の日には外の様子を見ていたような…

 

巴「何か関係あるのか?」

蘭「あいつは、雨時には母親が死んだ日を思い出すって言ってた」

 

モカ「どういう事?」

 

蘭ちゃんから庄司くんの過去をきいた

 

ひまり「そうだったんだ…」

巴「でも、つぐも知らないことがあったんだな」

 

つぐみ「う、うん。本人から無理やり聞き出すは…」

モカ「抵抗あるよね~」

 

蘭「……」

ひまり「蘭。まだ何かあるの?」

 

蘭「ううん…なにもない」

 

ドゴーン!!

 

二階から大きな音がした…

 

巴「今の音は何だ⁉」

つぐみ「丁度、真上の階は庄司くんの部屋なの…」

 

ひまり「見に行った方がいいんじゃ…」

つぐみ「見に行っても鍵がかかって中に入れないの…」

 

モカ「合鍵ないの?」

つぐみ「あるけど…」

 

蘭「なら!直接行けば…」

つぐみ「ダメだよ!」

 

ひまり「つぐ⁉」

つぐみ「今はそっとしておいてあげた方が…」

 

巴「そうだな…あいつが一番苦しんでんだ。アタシ達に出来るのは待つだけだな」

_________________

 

□□□□□□□□□□□□

「おい!金を出せ!」

 

庄司「はい…父さん」

 

「これっぽちか…何してる!早く稼いで来い!」

 

庄司「もう喉が……そろそろ水を……」

 

「お前なんかに飲ませるものなんてねぇよ!ほらぁ!さっさと行けよ!!」

 

庄司「グフッ!」

 

体中を殴られて、喉が熱い…

 

「二度と俺に口答えするな!」

 

庄司「どうして…」

 

「所詮お前は金蔓…俺のために生きればいいんだよ!」

 

 

□□□□□□□□□□□□

 

庄司「……ッ‼」

 

また、あの夢…

 

――ッ⁉

 

全身が痛いし、気持ち悪い…

 

空腹感がある。あるけど胃が受け付けない。胃に何か入れないとダメなのは分かっている。分かっているけど…

 

そんな気分じゃない…時間は…15時…今日こそ外に出ないと

 

ドアノブに手を付けるが――

 

庄司「――⁉」

 

強い吐き気が襲う。昨日もそうだ。部屋から出ようとするたびに身体が拒否反応を起こす

 

外に出れば、また…

 

ドアノブから手を離し、後退りし破り捨てた紙に足を取られ転倒する

 

ドゴーン‼

 

そのまま這いずり布団に包まる

 

ここに居れば、殴られることもない…あいつも入ってこれないはずだから…

 



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つぐみ編
1話


~CiRCLE~

 

昨日も庄司くんは姿を見せなかった。

 

つぐみ「このまま庄司くん出てこなかったらどうしよう…」

紗夜「羽沢さん?どうかしたのですか?」

 

つぐみ「紗夜さん。実は…」

 

紗夜さんにここ最近の出来事を話してみた

 

紗夜「なるほど…最近、庄司さんを見かけないのはそんなことが…」

つぐみ「どうすればいいのか分からなくって…」

 

紗夜さんは少し考え込んでいる

 

紗夜「こればっかりは本人の心の整理が必要だと思います」

つぐみ「心の整理…」

 

紗夜「はい。今の庄司さんは精神的に不安定になっていると思います。ですのでまずは、話を聞いてみた方がいいかもしれませんね」

 

つぐみ「分かりました。ありがとうございます!紗夜さん」

 

話をするためには、まずは庄司くんを部屋から出す必要がある。でも…どうしたらいいのかな?

 

_________________

 

~羽沢珈琲店~

 

つぐみ「ただいま」

母「お帰りなさい…」

 

つぐみ「お母さん、庄司くんは?」

 

お母さんが首を横に振る。今日もダメだったみたい…

 

父「このままだと、死んじまうぞ」

つぐみ「でも、どうしたら…」

 

「羽沢さん!調律終わりました~」

 

調律屋さんが私のキーボードを持ってきてくれた

 

つぐみ「ありがとうございます」

母「せっかくだから、何か弾いてみたら?」

 

考えても仕方ない何か弾いてみよう

 

_________________

 

家族…僕はそんな幻想を見ていた…

 

僕は義父さんを…羽沢さんを拒絶してしまった…

 

羽沢さんにはこれ以上迷惑をかけられない

 

どんな顔をして会えばいいのか分からない…

 

段々、こんな自分が嫌になってくる…もう何もかもどうでもよくなってきた

 

♪♪♪♪~

 

 

この曲は青い栞…

 

よく母さんが弾いてくれた曲……

 

音の正体が気になった僕は、部屋から出る

 

_________________

 

今度のライブに向けて少しでも練習しないと…

 

あ!間違えちゃった…いつもここで間違えちゃう。今度こそ!

 

♪♪♪♪~

 

もう一度、弾こうとした瞬間、階段の方から視線を感じ振り向いてみる

 

服の裾が少し見えている

 

つぐみ「庄司くん。あ!」

 

声をかけると庄司くんは二階に逃げて行った

 

父「あとすこしだったな…」

母「ようやく出てきたのに」

 

その後、同じ曲を弾いてみたけど庄司くんは部屋から出てくることがなかった…

 

~翌日~

 

 

巴「出てきたのか⁉」

つぐみ「うん!でも、あと一歩のところで…」

 

ひまり「逃げられたの?」

つぐみ「うん」

 

蘭「つぐみ、なにをしたの?」

つぐみ「えっと…確か曲の練習をしていただけだよ」

 

ひまり「何の曲を練習していたの?」

つぐみ「“青い栞”だけど…」

 

巴「モカ。さっきから黙っているけど、どうかしたのか?」

モカ「いやぁ~なんで練習中に出てきたんだろう」

 

ひまり「確かに…」

巴「取り敢えず、今日こそ出てきてもらわないとな」

 

つぐみ「うん。みんな少し提案があるんだけど…」

 

 

_________________

 

~羽沢珈琲店~

 

…今日も嫌な雨が降っている。

 

声が出ないのは分かっているけど…あの歌を口ずさむ

 

やっぱり、聞こえるのは窓を叩く雨の音だけ

 

はぁ…僕はどうしたらいいんだろう…

 

♪♪♪♪

 

またあの曲……今度は誰かが歌っている

 

 

その声に導かれるように部屋を出て下の階に降りていくと――

 

巴「よし!捕まえたぜ!っておい!大丈夫か?」

 

巴さんに捕まってしまった。5日間飲まず食わずのため抵抗する力は僕に残っていない

 

ひまり「ちょっと!顔色が!」

蘭「すぐ病院に連れて行こう!」

 

つぐみ「う、うん。お父さん車を早く!」

父「お、おう!」

 

少しふらつくだけなのにみんな大げさ…

 

モカ「しょ~くんちょっとおでこ触るよ~。う~ん…少し熱いね」

ひまり「熱もあるみたい!急がないと!」

 

_________________

 

~病院~

 

医師「栄養失調に脱水症状ですね…」

つぐみ「そうですか…」

 

医師「今は点滴で栄養補給をしています。ご両親少しこちらに…」

 

先生とお父さんたちが病室を後にして、私と庄司くんの二人きりになった

 

庄司くんの手を握るといつもより細く、所々傷ついていることに気が付いた

 

そっと袖をまくってみると…切り傷や痣が残っていた。

 

つぐみ「辛かったね…こんなに状態になるまで必死に耐えて…」

 

結局、庄司くんは目を覚ますことはなかった

 



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2話

~翌日 病院~

 

モカ「しょーくん。目を覚まさないね…」

巴「医者によると、命を落とす寸前だったらしい」

 

ひまり「5日間も食べていないからね」

蘭「どうしてそこまで思い詰めていたのだろう?」

 

つぐみ「わからない…けど。こんな体になるまでずっと耐えてきただし精神的にも追い詰められていたんだと思う」

 

モカ「この傷跡は酷いね…」

蘭「早く目を覚ましてほしいね」

 

巴「だな。待つことしかできないのが心苦しいが…」

つぐみ「庄司くん。お客さんも紗夜さんや沙綾ちゃん…みんな庄司くんが帰って来るのを待っているんだよ。だから、目を覚まして…」

 

□□□□□□□□□□□□

 

息苦しい…まるで水の中にいるみたいだ。

 

それに何も見えない…真っ暗だ

 

暗闇の中で微かにピアノの音が聞こえる…この弾き方は――母さん?

 

いや、母さんにしては少しミスがある。

 

それに、あの時と同じ音…

 

必死に手を動かすが何もつかめない。でも音に交わりながら微かに声が聞こえる

 

『みんな…庄司くんが帰って来るのを待っているんだよ』

 

みんな…そうだ…お店の常連さん。Roseliaのみなさんに山吹さん、千聖さん。

 

それに…Afterglowのみんな。

 

この町で出会った人たちが僕の帰りを待っているんだ

 

□□□□□□□□□□□□

 

目が覚めると夜になっていた。わずかな月明かりが部屋を照らしここが病院だと分かった

 

右腕には点滴。左手には――

 

つぐみ「スゥー…スゥー…」

 

つぐみさんが手を握りながら眠っている。周りを見渡すとお見舞いの品がたくさん置いてある

 

スマホの電源を入れて日付を確認する。

 

6月30日の19時…

 

僕が寝込んで3日は経っていたみたい。

 

つぐみ「う~ん。眠ちゃってた…あれ?庄司…くん…」

 

ギュッ!

 

つぐみ「心配…したんだから…///」

 

声を押し殺しながらつぐみさんは少し涙目になりながら、僕に抱き着いてきた

 

あぁ…こんなにも心配してくれる人がいるなんて…

 

僕があの時アイツが見えたのは幻影だったのだろうか…

 

明日、羽沢さん達に僕の過去を打ち明けよう。打ち明けてこのうやむやな気持ちを晴らそう

 

仮に声が戻った時のために口を動かす練習をしよう

 

_________________

~翌日~

 

医師「体温と血圧ともに正常だね。この様子だと明日には退院できるでしょう」

 

点滴の針を抜かれて普通のごはんをまた食べれるようにみたい

 

義父「良かった…」

 

医師「今回は奇跡的に助かりましたが、二度とこんなことはしないように」

 

コクリ

 

医師「お義父さんも庄司君の事を考えて行動をしてください」

義父「はい…気を付けます」

 

医師はそう忠告してからカーテンを閉め病室から出て行った

 

義父「すまなかった。お前を守るって言ってたのに逆に追い詰めちまった」

 

義父の肩に僕はそっと手を置き、首を横に振る

 

[大丈夫です]と口を動かし伝えるが…

 

義父「え⁉なんて?」

 

伝わらなかったみたい…

 

義父「おっと…もうこんな時間。すまない、そろそろ店に戻らないと…あ!これお前宛てに封筒が入っていたからここに置いていくぞ」

 

コクリ

 

 

そう言い残し義父も病室を出て行った

 

封筒の中に鍵と手紙が入っており見てみると…実家が取り壊されると書いている

 

一週間待つから最後に見に来ないか?っとも書かれている。

 

この前の僕ならこの手紙を捨てていたと思う。

 

コツコツ…

 

足音が複数聞こえる。――4…5人かな?

 

つぐみ「庄司くん?」

巴「お!本当に起きているな!」

 

モカ「久しぶり~」

蘭「顔色は良くなっているみたいだね」

 

ひまり「本当に良かった~!」

 

Afterglowのみんながやってきた

 

つぐみ「はい、これ」

 

つぐみさんからスケッチブックとペンを受け取り、謝罪の言葉を書き皆に見せた

 

ひまり「もう!本当に心配したんだから!」

蘭「あの時は本当に焦った…」

 

巴「まあまあ、生きていたんだし良かったじゃないか!」

モカ「一番心配していたのはつぐだったけどね~」

 

つぐみ「ちょ、ちょっとモカちゃん!」

ひまり「ずっと手を握っていたもんね」

 

つぐみ「ひまりちゃんも⁉」

 

つぐみさんがそんなに心配してくれたんだ…

 

紙とペンを横に置き、口を動かしある言葉を呟く

 

モカ「お?しょーくんいまなんて?」

巴「うん?なんだなんだ?」

 

もう一度口を動かすと――

 

ひまり「さい…え?もう一回!」

 

再度、口を動かす

 

蘭「ごめん…全然分からない」

 

やっぱり、誰にも伝わらないか…そう思い肩を落としていると・・・

 

つぐみ「ありがとう?」

蘭「え?」

 

どうやらつぐみさんだけには伝わったみたい。

 

巴「本当にそう言ったのか?」

 

コクリ

 

モカ「おぉー!流石つぐ。ずっと一緒に居るから分かるんだねぇ~」

つぐみ「そ、そんなことないよ!私だってさっき分かったばっかりだし…」

 

蘭「ところでいつ退院するの?」

 

『明日のお昼には退院の予定です』

 

ひまり「もう退院なの?少し早くない?」

巴「確かに…あ、でも5日間も点滴で栄養摂取していたからそんなもんじゃないか?」

 

モカ「そんなものかな~」

ひまり「ねぇ、退院したら何処か行かない?」

 

『遊園地、行ってみたいです』

 

巴「遊園地か…いいんじゃないか?」

蘭「うん。悪くないね」

 

モカ「何時にする?」

ひまり「来週はテストがあるから再来週かな?」

 

つぐみ「庄司くんはそれでいい?」

 

コクリ

 

しばらくみんなと楽しい時間を過ごした

 

結局、この手紙の事を何も話せなかった

 




次回作についてですがテーマは「表と裏」です
主人公とヒロインは表では関りが少ない感じだが裏では…

ような感じで書こうと思っています。

投票の参考になれば幸いです


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3話

退院してから三日後の週末…

 

―午前5時―

 

昨日は、退院祝いをして義父も義母。つぐみさんも眠っている

 

僕はあの場所向かうために準備をする。

 

お金に水、精神安定剤をカバンに入れ一階に降り、店の出口に向かう

 

つぐみ「何処に行くの?」

 

振り向くと私服姿のつぐみさんが立っていた

 

口を動かし訊ねる。

 

つぐみ「どうしてって…退院してから様子がおかしかったから…」

 

観念してつぐみさんに手紙を見せる

 

[今から実家に向かいます]

 

つぐみ「大丈夫なの?」

 

[不安ですが、僕は行かないと…]

 

つぐみ「私も付いて行く!もし庄司くん一人だと何かあったら…」

 

嬉しくて口元が緩む。そして口を動かし伝える

 

[行きましょう]

 

つぐみ「うん!」

 

といったものの…逃げるのに必死で道すら覚えていない…

 

住所は手紙に書いてあるが…

 

つぐみ「その手紙貸してくれない?」

 

つぐみさんに手紙を渡す。するとつぐみさんはスマホで何か調べ始めた

 

つぐみ「ここから1時間半ぐらいでたどり着けそうだよ」

 

と言っても駅までの道もあまり覚えていない…

 

つぐみ「道順は…こっちみたい。ついてきて!」

 

_________________

 

~1時間半後~

 

目的地周辺の駅に着いた。ここまで来ると家までの道のりが分かる

 

つぐみ「静かな町だね…」

 

コクリ

 

僕の実家は首都から離れた少し田舎寄りの場所にある

 

見慣れた街並み…懐かしい香りがする

 

一歩一歩前へ…あの家に向かって進む

 

ある建物の前に足を止めた…

 

つぐみ「ここは…」

 

『MCF…かつて僕が歌っていたライブ会場。もう二度と来ることはない場所だと思っていた』

 

つぐみ「歌えなくても庄司くんは庄司くんだよ。それは何があっても変らないよ」

 

僕は僕…そうだね。声がなくても僕の事を理解してくれる人が傍に居る

 

こんな嬉しいことはない…

 

 

~笹野家~

 

家の前に着いたけど、少しボロボロになっている

 

手足が震え、呼吸が荒くなり頭が真っ白になる

 

つぐみ「大丈夫。私が付いているから」

 

コクリ

 

つぐみさんはそう言い手を握ってくれた。そのおかげで手足の震えも呼吸も落ち着いてきた

 

覚悟を決めて鍵を差し込み捻る。扉を開け中に入る――

 

つぐみ「酷い…」

 

中は逃げてきたときと何も変わっていない…

 

臭いこそ無いが所々見ると嫌な思い出が蘇る…

 

玄関の血の跡。これは、逃げ出した時に頭から流した血

 

壁に空いた穴。アイツが怒った時に投げつけてきた包丁が刺さった跡

 

他には床のへこみ。破れたカーテン…二階に続く階段の傷。

 

二人で二階に上がり自分の部屋に入る

 

つぐみ「この部屋は…」

 

[僕の部屋です]

 

この部屋だけは荒らされていなかった。

 

タンスの奥に隠してあったはずのあれを探す

 

あった!

 

つぐみ「それは…懐中時計?」

 

コクリ

 

傷だらけの懐中時計を開き確認する

 

母さんが死んだあの時から針は止まっている

 

蓋の裏に張っている写真は傷がついていなかった

 

つぐみ「それは?」

 

[家族の写真です]

 

母さんが生きており、あいつも狂い始める前に時に撮った唯一の写真…

 

時計いじりが好きな叔父さんが作ってくれた僕の宝物…

 

どうしてだろう。この写真をみてから涙が止まらない…

 

つぐみ「庄司くん…」

 

つぐみさんに抱き付き泣き続けた

 

 

 

~数分後~

 

 

 

つぐみ「大丈夫?」

 

コクリ

 

恥ずかしい…///

 

つぐみさんに泣きついてしまった

 

取り敢えず、僕の宝物は回収した。もうこの家に思い残すことはない…

 

[さようなら]

 

そう呟き僕たちは家を後にした

 

つぐみ「庄司くん帰ろう。私達の家に」

 

つぐみさんが手を差し伸べる。あぁ、逃げて正解だった…

 

あのまま、あの家に居たら絶対この人に…手を指し伸ばしてくれる人に出会えなかった

 

手を握り歩き出す。僕たちの家に向かって――

 

 

~羽沢珈琲店~

 

義父「うおぉ~庄司!心配したんだぞ~!」

 

店に入ってみると義父が駆けつけてきた

 

義母「何の連絡もなしで出て行くなんて。悪い子ね」

義父「そうだ。お前に知らせることがある。いいか?落ち着いてきくんだ」

 

真剣な目をして義父は言った

 

「正明…お前の実の父親。亡くなったって…」

 

あの家が売却から取り壊しになった時点で薄々そうだと思っていた…

 

はは…いい気味だ!今まで散々やってきたことの報いだ!

 

もう追われることはない。隠れて過ごす日々は終わった。

 

けれど……

 

けれどなんだろう?嬉しいはずなのにどうして心がざわつくのだろうか

 

懐中時計を握りしめる。

 

つぐみ「庄司くん…辛いのは分かるよ。だけど、どんな酷い人でも親は親だよ」

 

親は親…

 

父「つぐみの言う通りだ。アイツは親としてやってはいけない事をやった。だが、その前のアイツはお前の事を愛していたはずだ…お前の母、美智子と同じく」

 

本当にあいつは…父は…

 

父「お前はもう既に俺の息子だ。お前の苦しみも俺に分けてくれないか?」

 

え?

 

父「支えあってこそ家族だ。そうだろう」

 

コクリ

 

いま気がついた。僕が求めていたものはもうこんな近くにあったことを…

 

前の家族はこの時計に…この写真に…

 

もう義理の家族じゃなく。本当の家族がここに…

 

 



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4話

~羽丘女子学園 屋上~

 

ひまり「はぁ~ようやく終わった~」

巴「今回のテストどうだった?」

 

蘭「いつも通りかな?」

モカ「あたしも~つぐは?」

 

つぐみ「私はそこそこかな…」

 

ひまり「それより来週から夏休みだね!」

巴「だな~ひまり。去年みたいに参考書を忘れるなよ」

 

ひまり「分かっている。それよりつぐ、庄司君と何処まで進展したの?」

つぐみ「え⁉進展って…」

 

モカ「キスとかした?」

つぐみ「キ、キス⁉そ、そんなことしてないよ!それに、庄司くんはどう思っているか分らないし…」

 

ひまり「庄司君も鈍いね…」

巴「まぁ!庄司もいつか気が付くかもしれないし」

 

モカ「蘭~?なにみているの~」

蘭「いや、あそこにいる人。庄司に似ていると思って…」

 

モカ「お?噂をすれば…どこどこ?」

 

蘭「あそこ正門近く」

つぐみ「あ!」

 

確かに正門の近くに庄司くんがいた。しかも、私達を見つけて笑顔で手を振っている

 

巴「どうしてこんな所に…てか、外に出てきて大丈夫なのか⁉」

ひまり「とにかく下に行こう!」

 

 

~校門前~

 

つぐみ「庄司くんどうしてここに?」

 

口を動かし訳を伝える

 

蘭「なんて?」

つぐみ「“散歩していたらここにたどり着いた”って」

 

ひまり「さ、散歩って…そんなのんきな…」

巴「それより、外を出歩いて大丈夫なのか⁉」

 

コクリ

 

モカ「その前に早くここを離れた方がいいかも」

 

周りを見渡すと女子生徒たちが集まり始めていた

 

蘭「取り敢えず、庄司はCiRCLEで待っててあたし達もあとで行くから」

 

コクリ

 

_________________

 

~CiRCLE~

 

羽丘女子学園を後にした僕はCiRCLEのカフェエリアに設置されていた。足湯で寛いでいた

 

テストの最終日だからてっきりお昼に終わると思っていた

 

せっかく試作品のお菓子を持ってきたのに…これじゃあ直ぐ痛んじゃう

 

⁇「あら?庄司くん?」

 

振り向くと千聖さんが後ろに立っていた

 

千聖「隣いいかしら?」

 

コクリ

 

僕が頷くと千聖さんは靴を脱ぎ足湯に足を入れる

 

千聖「身体は大丈夫?」

 

コクリ

 

千聖「そう。良かったわ。倒れたって聞いた時みんな驚いたのよ」

 

Pastel*Palettesの人たちにも心配をかけたみたい。そうだ!

 

『千聖さんこれどうぞ』

 

つぐみさんたちに持ってきたお菓子を千聖さんに渡す

 

千聖「これは?」

 

『お返しです。心配をかけた事と勉強のお礼を込めての』

 

千聖「別にいいのに…へぇ~羊羹」

 

『僕が作った試作品です。良ければ試食していただけますか?』

 

千聖「えぇ、あら?かわいらしい模様ね」

 

長方形の形をしている羊羹を頑張って菊の形に整形してみた

 

ここ最近、気温が上がりお客さんも冷たいものを欲しがっていた

 

特にご老人たちにも食べよいものを考えた。

 

そのヒントになったのは、美竹さん家で食べた“ねりきり”と華道の作品

 

保冷材でガチガチに冷やしたから痛んでないはず…

 

千聖「美味しいわ。甘さも控えめなところがいいわね」

 

甘さを控えめにしたのはダイエットに必死な上原さんを思って作った

 

千聖「でも…」

 

でも?

 

千聖「喉が渇くね。冷たい緑茶が欲しいわね」

 

そうなると思って冷茶とコップを取り出し注ごうとした瞬間――

 

千聖「あ!」

 

よそ見をしていて間違って羊羹が入っている容器に冷茶を注いでしまった

 

どうしよう…

 

千聖「これはこれで美味しいわ」

 

あたふたしている間に千聖さんは冷茶入りの羊羹を食べていた

 

千聖「あなたも食べてみたら?」

 

一口食べてみると…ひんやりしていて羊羹の甘みもしっかり残っている

 

これもありかも…よし!これで出してみよう

 

つぐみ「庄司くんー!」

巴「待たせたな」

 

Afterglowのみんながやってきた

 

千聖「私もそろそろ行くわね。じゃあ、庄司くん次はお店で会いましょうね」

 

コクリ

 

_________________

 

~羽沢珈琲店~

 

蘭「そうなんだ…」

モカ「お父さん亡くなったんだね…」

 

巴「まぁ…これで良かったんじゃないか?もう怯えて暮らすこともないことだし…」

ひまり「ちょっと巴!」

 

『そうですね』

 

苦笑いをする。追われる必要がないか…

 

蘭「大丈夫?」

 

コクリ

 

『それより、試作品の冷やし羊羹はどうですか?』

 

つぐみ「美味しいよ」

蘭「この菊の模様って…」

 

『この前、美竹さんの家で模写したものです』

 

蘭「参考になったなら良かった」

ひまり「もう一つ食べたいけど…」

 

モカ「ひーちゃん、すぐふとっちゃうよ~」

ひまり「言わないで!!」

 

『糖質は低めにしているので、もう一つぐらいなら大丈夫だと思いますよ』

 

ひまり「じゃあ…もう一つ」

モカ「私も~蘭は?」

 

蘭「あ、あたしも…」

 

[畏まりました]

 

巴「なんて?」

つぐみ「“かしこまりました”だって」

 

モカ「お~もうすぐに分かるんだね~」

ひまり「完全に通じ合っている感じだね」

 

つぐみ「べ、別に…そんなことないよ///」

蘭「これで進展がないって…」

 

巴「あぁ…相当鈍いよな。お前」

 

――?何の事を話しているのか分からない

 

取り敢えず、次の試作品を出すとしよう

 



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5話

帽子…良し!カバンも良し!時計も…

 

壊れた懐中時計を懐にしまう。

 

この時計を手にして以降、不思議なことにパニック障害を起こすことは一度もなかった

 

父さんが何度もこの時計を直そうと提案してきたけど僕は断った。

 

これは僕にとっては両親の形見…針もあの日…あの時間を忘れないようにしたかった

 

部屋を出て、扉にかけているホワイトボードに“お出かけ中”と書く

 

これで良し!これで父さんと母さんが心配しないと思う

 

つぐみ「庄司くーん!準備できたー?」

 

下の階からつぐみさんが呼んでいる

 

懐を触り、しっかり時計が入っていることを確認して下の階に降りる

 

蘭「あ、降りてきた」

ひまり「準備はできた?」

 

コクリ

 

巴「よし。じゃあ、早速行くか!」

 

_________________

 

~電車内~

 

夏休みのシーズンだから電車内はそこそこ席が埋まっていた

 

つぐみ「中々、席空かないね」

モカ「どこも夏休みだからね~」

 

蘭「お店の方は大丈夫なの?」

巴「言われてみればそうだな…」

 

『大丈夫ですよ。助っ人呼んでいるので』

 

「「「「助っ人?」」」」

 

 

―羽沢珈琲店―

 

イヴ「イラッシャイマセ~」

紗夜「い、いらっしゃいませ」

 

リサ「あれ?紗夜。何やってるの?」

紗夜「庄司さんに頼まれたので…」

 

友希那「外せない用事ってこれだったの?」

紗夜「すみません…」

 

リサ「まぁまぁ、別にいいじゃん!」

友希那「そうね。何かおすすめはあるかしら?」

 

紗夜「新商品の冷やし羊羹はいかがですか?」

リサ「何それ美味しそう。じゃあアタシはそれを一つ」

 

友希那「私も同じものを…」

紗夜「かしこまりました」

 

_________________

 

~遊園地~

 

ひまり「ついた~!」

巴「さて、楽しむぞー!」

 

つぐみ「まずは何から行く?」

蘭「混んでいないところから行こう」

 

モカ「さんせ~い。しょーくんもそれでいい?」

 

コクリ

 

パーク内の地図を見た感じだとジェットコースターが一番近い

 

絶叫系…なんだか面白そうだ

 

『あれに乗りませんか?』

 

巴「あれか…」

モカ「いいね~」

 

蘭「あたしはここで待ってるから…」

 

ジェットコースターを指さした時から少し青ざめている

 

モカ「あれ~もしかして蘭ビビってる?」

蘭「はぁ~!!ぜ、全然ビビってないし」

 

モカ「じゃあ、乗れるよね~」

蘭「の、乗れるし…」

 

ひまり「じゃあ、早く行こう!」

つぐみ「うん」

 

コクリ

 

―15分後―

 

「次、6人どうぞ」

 

巴「ようやくだな」

つぐみ「蘭ちゃん。大丈夫?」

 

蘭「だ、大丈夫だから…」

 

そう言いつつ美竹さんの足が震えていた…

 

「荷物はこの中に入れてください。貴重品はこっちに」

 

箱の中にカバンと懐中時計を貴重品ボックスに入れる

 

時計を預けてからなんだか少し不安になってきた…

 

ひまり「そう言えば、ペア分けしてなかったけど…」

巴「適当でいいんじゃね?」

 

僕の座席は一番先頭、隣には――

 

 

 

 

つぐみ「一番前だね。あはは…」

 

後ろには美竹さんと宇田川さん。青葉さんと上原さんのペア

 

「では、いってらっしゃい!」

 

係員の言葉を合図にジェットコースターは動き出した。

 

段々、上に向かって行く。不安になり咄嗟に羽沢さんの手を握った

 

つぐみ「ちょ、ちょっと庄司く…きゃあぁぁー」

 

_________________

 

 

モカ「面白かった~」

巴「大丈夫か?蘭」

 

蘭「全然、大丈夫じゃない…」

ひまり「つぐ。顔が赤いけど大丈夫?」

 

つぐみ「う、うん…大丈夫…」

巴「あれ?庄司も顔が赤いぞ」

 

結局、最後までつぐみさんと手を繋いでいた

 

でも、不思議だ。時計を手放してからあった不安を感じられなかった

 

それより、違う感情が…この気持ちは――

 

蘭「大丈夫?まさかまた⁉」

 

僕は首を横に振った

 

ひまり「よーし!次行ってみよう!」

モカ「次はあれかな?」

 

青葉さんがコーヒーカップを指さした。

 

あれって確か、回るやつだったような…組み合わせによっては地獄を見そう…

 

 

―数時間後―

 

 

あの後、宇田川さんとコーヒーカップに乗り、高速で回されて吐きそうになったり

 

お化け屋敷を入ろうとしたときは、青葉さん以外全然乗り気じゃなかった

 

特に美竹さん…

 

結局、全員で入ることになり終始美竹さんが僕の腕をガッチリホールドして歩きにくかった

 

宇田川さんは最初の方は大丈夫そうだったけど、最後は上原さんと一緒に先に走っていた

 

うん。去年の夜の学校に忍び込んだ時がどんなに大変だったのか、身をもって知った

 

 



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6話

脱出迷路から出てきたら、いつの間にか夕方になっていた

 

ひまり「もうこんな時間だね」

巴「あっという間だな…」

 

蘭「次のアトラクションで最後にしようか」

モカ「あたしはもう一回ジェットコースターに乗りたいなぁ~」

 

つぐみ「みんな。最後は庄司くんに選ばせてあげたら?」

巴「だな。今回は庄司のリクエストだったしな。庄司どれに行きたい?」

 

『みなさんが行きたいところでいいですよ』

 

蘭「遠慮しなくていいから」

モカ「どれでもいいよ~」

 

どれでも…周りを見渡してまだ乗っていないアトラクションを探す

 

それにしても絶叫系ばっかり乗ったからゆったりした物は…

 

そして僕が選んだのは――

 

_________________

 

~???~

 

つぐみ「どうして観覧車なの?」

 

『ゆっくり景色を見たかったからそれと…』

 

つぐみ「それと?」

 

僕はジェットコースターで思ったことをつぐみさんに伝える

 

つぐみ「そうだったのね。だからあの時手を…」

 

そして、あの時の感情は――

 

『つぐみさん。僕は――』

 

残りの言葉を口を動かしこの感情を伝えた

 

つぐみ「――⁉それ本当?」

 

コクリ

 

つぐみ「実は…私も…庄司くんの事が――」

 

そこまで言い切ると、つぐみさんは僕と同じように言葉を発さず口だけを動かす

 

――⁉はは…なんだ僕たちはお互いに同じ思いだったんだ

 

つぐみさんの顔がみるみる赤くなった。

 

僕とつぐみさんはジェットコースターの時みたいに手を握った

 

後ろを振り向くと上原さんと宇田川さんが見ている。

 

上原さんにいたってはスマホを構えている

 

手遅れかもしれないけどスケッチブックで顔を隠して僕たちは顔を近づけた

 

 

―数分後―

 

ひまり「もう!庄司君なんで顔を隠しちゃったの!」

巴「あともう少しだったのに」

 

なんでって…それは見られたくなかったから

 

モカ「え?なに~?何かあったの~?」

蘭「ひまりがまた何かやろうとしたことだけは分かった。で、二人はいつまで手を繋いでいるの?」

 

つぐみ「え?こ、これはその…///」

 

美竹さんに指摘されて急につぐみさんは手を離した

 

モカ「ふ~ん成程…取り敢えず、おめでとう。つぐ~」

蘭「その様子から見て、うまくいったみたいだね」

 

ひまり「ようやく思いが伝わったんだね…」

巴「おめでとう二人共」

 

みんなが僕たちの事を祝福してくれた

 

蘭「庄司。今更あんたに言うことじゃないと思うけど、つぐみを泣かせたら許さないよ」

 

コクリ

 

こうして僕はつぐみさんと恋人関係になりました

 

 

ひまり「はぁ~キスの瞬間撮れなかったし…」

つぐみ「え?私達キスはしてないよ」

 

巴「でも、二人共顔を近づけていただろ?」

つぐみ「あれは…///」

 

『つぐみさんの顔が赤かったから、熱があると思っておでこを引っ付けていました』

 

「「「「はぁ~」」」」

 

なぜかみなさんがため息をついた

 

蘭「まぁ、これはこれで…」

モカ「しょーくんらしいね」

 

_________________

 

~電車内~

 

ガタンガタン…ガタンガタン…

 

帰りの電車内では僕たち以外は乗っていなかった

 

「スゥー…スゥー…」

 

つぐみ「みんな寝ちゃったね」

 

コクリ

 

みんな遊び疲れたのであろう。肩を寄せ合ってスヤスヤ眠っている

 

そして僕たちは再び手を握っていた

 

[父さんにはなんて言ったら]

 

つぐみ「それは大丈夫だと思うよ。お父さんもお母さんも薄々分かっていたと思うし」

 

そうかな…でも、養子と実子って憲法的に結婚できるのかな?

 

つぐみ「庄司くん。一つお願いしていいかな?」

 

――?

 

つぐみさんはスマホを取り出した

 

つぐみ「遊園地で、写真が撮れなかったから今撮っていいかな?」

 

コクリ

 

僕はスマホを受け取り、つぐみさんは皆さんの傍に座った

 

一枚写真を撮る。この写真もAfterglowのみんなにとって大事な思い出…

 

スマホを返そうとすると――

 

つぐみ「庄司くんもこっちに来て」

 

疑問に思いつつ指示通りつぐみさんの隣に座る

 

つぐみ「ううん…もう少し引いて…」

 

スマホを上に掲げ自撮りモードで撮影しようとしている

 

でもなかなか収まりきらない。だから、つぐみさんの肩を引き寄せた

 

つぐみ「しょ…庄司くん⁉」

 

引き寄せた事で枠の中に納まりシャッターを切った

 

撮れた写真は顔を赤くして驚いているつぐみさんと眠っている4人。僕は笑顔で写っていた

 



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7話

~羽沢珈琲店前~

 

モカ「じゃあ、また明日~」

つぐみ「うん。またね」

 

青葉さん達と店前で別れた。さて、いよいよだ…

 

父さんたちに僕たちが付き合うことを伝える

 

なんだかすごく緊張してきた。

 

つぐみ「大丈夫だよ」

 

意を決して扉を開けて中に入る

 

母「お帰りなさい二人共。あら、手なんか繋いで」

父「ハハハ…まるで恋人みたいだな。なんてな…」

 

一瞬、もうバレていたのかと思いドキッとした

 

つぐみ「えっと…お父さん、お母さん。私達…その…」

父「うん?どうかしたのか?」

 

つぐみ「私達付き合うことになりました!!」

 

つぐみさんも緊張していたのか、敬語でそう言った

 

父「…はは。そうか!うん、めでたいことだな!」

母「そうね。今日の晩御飯は豪華にしないとね」

 

あれ?意外とすんなり事が済んだみたい。てっきり反対されると思っていたけど…

 

つぐみ「え?それだけ?反対とかは…」

父「反対なんてしないさ。庄司は生活もしっかりしているし礼儀正しい」

 

母「唯一のダメなところは黙って何処か行っちゃうことだけだね」

 

うぐぅ…言い返す言葉がない…

 

つぐみ「てことは…」

父「あぁ、別に構わないぞ。つぐみ、いい恋人が出来たな」

 

つぐみ「うん…」

母「庄司君。これからもつぐみの事よろしくね。直ぐに無理しちゃうからしっかり支えてあげてね」

 

コクリ

 

つぐみ「もう!お母さん!」

 

 

_________________

 

~庄司部屋~

 

今日の晩御飯はいつもより豪華だった

 

それほどお父さんもお母さんも喜んでくれたんだな

 

これからか…

 

将来僕はどうなっているんだろう?

 

お父さんのお店を継ぐのか。それとも違うことをするのか…

 

違う事って言っても。ううん…

 

考えるのはまた今度にしよう。

 

まだ九時だけど今日は疲れたしもう寝よう

 

布団に潜り込み目を閉じじっとしていると――

 

コンコン

 

誰だろう…外のホワイトボードには“睡眠中”って書いてるのに…

 

つぐみ「庄司くん…もう寝てる?」

 

つぐみさん⁉返事する前にもう部屋に入ってきてるし!

 

『つぐみさん。どうしてここに?まさか夜ば』

 

つぐみ「ち、違うよ///!」

 

頬を赤くしている。

 

つぐみ「そうじゃなくて…」

 

ゴロゴロ…

 

つぐみ「ひゃ!」

 

外を見てみるといつの間にか雨が降り、雷が鳴っていた

 

気が付かなかった

 

つぐみ「それでね。鳴りやむまで一緒に居ていいかな?」

 

コクリ

 

椅子を出しつぐみさんに座るように誘導するが…

 

なぜかつぐみさんは布団に座っていた

 

どうしてだろう。それより···

 

つぐみさんが部屋に入ってから胸の高鳴りが止まらない

 

つぐみ「しょ、庄司くん⁉なにを…んぅ⁉」

 

つぐみさんの肩を掴み、口づけをした

 

_________________

 

~少し前~

 

う~ん。巴ちゃんからもらったこのお香…使ってみようかな

 

巴『この香にはリラックス効果があるんだ。これを庄司と一緒に嗅いで心を休めるといい』

 

薔薇のいい香り…心も癒されるし緊張も和らいできた…

 

ゴロゴロ

 

つぐみ「ッ!」

 

強い雨が降っているのは知っていたけど。まさか雷までなっているなんて…

 

そうだ!庄司くん!雷雨の時にあの時を思い出すって

 

心配になり私は庄司くんの部屋までやって来た

 

ホワイトボードには“睡眠中”って書いているけど…本当に眠っているのか。前みたいになっているかもしれない

 

ノックをしてみる。

 

・・・・・・・・・

 

物音がしない…気になり部屋の中に入ってみると、ベットの上で仰向けで寝転がっていた

 

つぐみ「庄司くん…もう寝てる?」

 

慌てた庄司くんはスケッチブックに文字を書いている

 

『つぐみさん。どうしてここに?まさか夜ば』

 

つぐみ「ち、違うよ///!」

 

こんな時間に訊ねて来るのは確かにおかしいけど…

 

そんなやましい気持ちなんて…

 

つぐみ「そうじゃなくて…」

 

ゴロゴロ…

 

つぐみ「ひゃ!」

 

また雷が鳴っている

 

つぐみ「それでね。鳴りやむまで一緒に居ていいかな?」

 

コクリ

 

反応から見た感じ大丈夫みたい。良かった…

 

庄司くんは椅子を出し指を指すけど、私はもう少し傍に居たいと思った

 

そして私は布団に座った

 

座った瞬間、庄司くんは私の肩を掴んできた

 

つぐみ「しょ、庄司くん⁉なにを…んぅ⁉」

 

唐突のことで数秒間、理解できなかったけど私は庄司くんとキスをしている!?

 

キスが終わると糸が切れた操り人形のように庄司くんはベットに倒れ込んだ

 

唐突のことでビックリした

 

つぐみ「お返しだよ」

 

 




ちなみに薔薇のお香にはリラックス効果があるみたいですが、人によっては高揚効果が見られるそうです。

こわいですね~


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8話

チチババ…チバチバ…

 

うぅ~雲雀の鳴き声が聞こえる。もう朝みたい…

 

いつの間にか眠っていたみたいだ…

 

昨日は何かあったけ…微かに部屋中に薔薇の香りがする。たしか…これは…

 

――///⁉

 

どうして僕はあんなことをしたんだーー!!

 

ご、強引にキスをするなんて…どうしよう…つぐみさんになんて顔で合えば…

 

コンコン

 

――⁉

 

つぐみ「庄司くん…起きてる?」

 

つ、つぐみさん⁉えっとえっと…まずは謝らないと

 

僕はスケッチブックに謝罪を書きつぐみさんの前で土下座をした

 

つぐみ「だ、大丈夫だから顔上げて…ね?」

 

顔を上げると少し頬を赤くしていた

 

つぐみ「こ、今度…///キスするときは事前に言ってね…///」

 

少し照れながらつぐみさんはそう言った。

 

コクリ

 

つぐみ「じゃあ、下で待っているからすぐに着替えてね」

 

コクリ

 

切り替えていこう。切り替えていこう…

 

さて、今日の日程は開店準備と山吹ベーカリー用のジャムを作るのと紗夜さんに昨日のお礼と…

 

あ、紗夜さんが来る前に数学の勉強もしないと…えっと…紗夜さんが来るのは午後の二時…

 

多分、日菜さんもやってくると思うから余分に作っておこう

 

_________________

 

~二時間後~

 

母「庄司君。こっちの方は大丈夫だからやまぶきベーカリーさんのジャムを作ってあげて」

 

コクリ

 

要望は500mlの瓶詰め×50個ほど

 

えっと…前回2160gで10個出来たからお店で使う分も考えたら一箱分使った方がいいかも

 

さて、まずはイチゴのヘタを取るのだけど、数が多い。これは長時間かかりそうだ…

 

つぐみ「庄司くん手伝うよ。すごい量だね。これ全部使うの?」

 

コクリ

 

つぐみさんとヘタを切る作業はすぐ終わった

 

よし!後はこれを砂糖と一緒に鍋に入れて軽く潰して、二時間火をかける

 

二時間後は8時…それまで勉強しよう…

 

 

 

~1時間後~

 

えっと…式の展開は

 

やっぱり数学は難しいな…

 

(x+2)(x²-2x+4)=ⅹ³+2³=x³+8

 

(3a-b)(9a²+3ab+b²)=27a³-b³

 

まぁ、これぐらいなら簡単な方かな

 

次は…2x²+3x-9/x²+x÷2x²+x-6/x³-x

 

これは…えっと…

 

つぐみ「調子はどう?」

 

『少しつまずいています』

 

つぐみ「少し見せて…あ、これ少し前に習ったところだよ。この問題の解き方はね…」

 

ふむふむ…÷では反転させてから計算するのか…よし!この調子ならテストも何とかなりそう

 

 

_________________

 

―さらに1時間―

 

煮込んだ後はレモン汁を加えて煮込む、30分間偶に混ぜながら様子を見る

 

同時進行で瓶も熱湯で消毒しておく。一瓶大体5分ぐらい

 

そして、出来たジャムを熱いうちに瓶に詰めて軽く蓋をして水で一分ぐらい冷やす

 

その後に蓋をしっかり閉めて逆さまにして冷まして完成。

 

時間は9時…

 

開店まであと一時間。まだ時間はあるし朝風呂で軽く汗を流すとしよう

 

 

~風呂場~

 

汗をかき過ぎて下着がビチョビチョ…

 

汗を流し、鏡に映った自分の姿を見る

 

う~ん…髪を少し切ろうかな。伸ばし過ぎもよくないし、それにもう少し体を鍛えた方がいいかな?

 

運動となると…上原さんか、丸山さん…

 

何時か二人と運動してみるのもいいかも

 

あれ?横っ腹の辺りに見慣れない傷が…

 

何これ?大きさ的には、小指程度の大きさ…

 

昨日、何処かにぶつけたのかな?あとでみんなに聞いてみよう

 

 

風呂場を後にし、瓶を確かめると程よいぐらいに冷えている

 

後はこれを箱に詰めて…

 

庄司「――ッ!!」

 

くしゃみが出た

 

つぐみ「そんな恰好だと風邪ひいちゃうよ。箱詰めは私がするから着替えてきて」

 

コクリ

 

二階に上がる前に振り向いてみると、つぐみさんの耳が赤くなっていた。

 

何かあったのかな?

 

 

―二時間後―

 

つぐみ「はい。注文のイチゴジャム50個です」

沙綾「いつもありがとうね。このジャム結構評判がいいんだよね」

 

『それは良かったです』

 

沙綾「あ、そうだ。丁度さっき出来たこのジャムのスフレどうぞ」

つぐみ「わぁ~美味しそう!ありがとう沙綾ちゃん」

 

沙綾「お礼を言うのはこっちの方だよ。じゃあ、またね」

 

山吹さんを見送り、いただいたスフレを一口含む。

 

うん、美味しい…

 

_________________

 

つぐみ「庄司くん!コーヒー3つ」

 

コクリ

 

イヴ「ショウジさん!こっちにはラテアートをお願いします」

 

夏休みの所為だろうか、いつもよりお客さんが多い…

 

全然追いつかない。人手が足りないよーー!!

 

モカ「おぉ~今日も人がいっぱいだね~」

ひまり「どうする?」

 

巴「手伝った方がいいかもな」

蘭「おじさんに聞いてみようか」

 

Afterglowの皆さんも手伝ってもらうことになり、厨房には羽沢家。ウェイターは美竹さん達でそれぞれ分担して乗り切った

 

 

ひまり「疲れた~」

モカ「もうヘトヘト~」

 

巴「注文取るのも大変だな」

つぐみ「みんな、手伝ってくれてありがとうね」

 

みんなにいつもの注文するコーヒーを置いていく

 

蘭「ありがとう」

ひまり「そういえばさっき厨房を覗いてみたけど、連携ピッタリだったね」

 

つぐみ「え?」

 

巴「あぁ、庄司調理する手を止めていたら、つぐがすぐに皿を渡している辺りとか」

モカ「それは凄いですなぁ~」

 

あ、そういえば…

 

『皆さんに見てほしいものがあって』

 

蘭「見てほしいもの?」

 

コクリ

 

僕は服をめくり傷の事を聞いてみた

 

ひまり「何の傷なんだろ?」

巴「さぁ~アタシは知らないな」

 

モカ「あ~これは…」

蘭「モカ。何か分かるの?」

 

モカ「つぐも大胆だね~こんなところにキスマークを付けるなんて」

つぐみ「~~!!///」

 

キスマーク?

 

モカ「他の誰にも取られにようにする。マーキングみたいなものだよ」

巴「いつの間にかそんな仲になっていたんだな」

 

どのタイミングでこれを付けたのだろう?

 

日菜「庄司くん~」

紗夜「こんにちは、庄司さん」

 

氷川姉妹がやって来た。

 

つぐみ「庄司くんこっちはいいから紗夜さんの方お願い」

 

コクリ

 

他の皆さんから少し離れた奥の席に案内し、対面に座る

 

『まずは、紗夜さん。この前はありがとうございました』

 

紗夜「いえ、私にも事情がありましたので」

 

『今井さんへのプレゼントを買えましたか?』

 

紗夜「はい。皆さんで素晴らしいエプロンを買うことが出来ました」

日菜「お姉ちゃんも楽しそうに働いていて、るんっ♪ってきたよ」

 

るんっ♪か…この人も面白い人だ

 

二人分のお礼のケーキを出す

 

季節のデザート。今シーズンはミカンとヨーグルトのムースケーキ

 

日菜「綺麗!」

紗夜「これは…芸術みたいですね」

 

『オレンジの断面を外にしてゼラチンで固めているので、ツルっと食べれます』

 

紗夜「なるほど…鮮やかで食べるのが勿体ないです」

日菜「お姉ちゃんが食べないなら、あたしが食べるよ!」

 

紗夜「自分のがあるでしょう。これは私の分よ」

日菜「ちぇ~」

 

クスッ

 

本当に仲のいい姉妹だ。

 

かつて紗夜さんが日菜さんの事を嫌っていたなんて思えない

 

この二人が末永く仲のいい姉妹でありますように

 



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最終話

今回の話でつぐみ編は終了いたします。
それにつきまして、アンケートの方は三日後に締め切らせていただきます。

本編どうぞ


ふむ…こんな感じかな?

 

つぐみ「庄司くん?少し休憩しない」

 

ペンを置き背伸びをしているとつぐみさんがやって来た

 

コクリ

 

つぐみさんの後に続き、下の階に降りて少し休憩を入れていると――

 

モカ「しょーくん、お疲れ様」

蘭「執筆するのはいいけど。つぐみに負担掛けてないよね()()?」

 

コクリ

 

今日も美竹さん達は勉強会をしに来ていたようだ

 

ひまり「調子はどう?」

 

『大方出来てきましたよ』

 

あの遊園地の件から5年。

 

僕は羽沢珈琲店で料理の腕を上げ、父さんの助手として働いている

 

そして先ほど美竹さんが言ったように、僕は合間合間にしがない小説を書いている。

 

題材は僕の人生。登場人物は名前を少し変えているけど、容姿は皆さんと同じだ

 

息抜き程度で書いているけど。世の中に出してみるのもいいかも。そう思った

 

さて、話は変ってつぐみさんはみなさんと同じ大学に行く、と思っていたけど…

 

つぐみさんだけはお菓子専門学校に通いつつ音楽活動も続けている。

 

いつも授業で作ったお菓子を持って帰ってくれるのはいいけど…

 

最近体重が増えてきた事が最近の悩みかな?今度上原さんとジョギングでもしよう

 

巴「少し読ませてくれないか?」

モカ「もかちゃんも気になりますな~」

 

蘭「あたしも…」

 

8割位完成した物を皆さんに渡す

 

蘭「ねぇ、このカトレアってあたしの事?」

 

コクリ

 

カトレアは美竹さん下の名前と同じ“蘭”の花と違う呼び方から

 

モカ「アタシは…“ブレット”?」

 

青葉さんはパンが好きだからこの名前に

 

巴「アタシは“ソル”か…ひまりは“ソレイユ”」

 

宇田川さんはいつも熱い感じがしているから太陽を連想した。

 

上原さんは下の名前の“ひまり”から向日葵を連想して、その向日葵のフランス語読みでソレイユ

 

つぐみ「私のは…あれ?そのまま?」

 

つぐみさんはカタカナで“ツグミ”のまま…この人の名前は。最愛の人の名前は変えたくなかった

 

父「庄司!少し手伝ってくれないか?」

 

コクリ

 

_________________

 

 

庄司くんの小説は私も初めて読む。

 

普段は大事そうに机の引き出しにしまっているし私も勉強に忙しかったから読む暇がなかった

 

それに…小説は完成してから読みたかったから、あえて読める日まで待ってみた

 

内容は私達との出会いから始まっている

 

私こと“ツグミ”が主人公の庄司くん…“ショウジ”を見つけるところから

 

巴「懐かしいなぁ~」

ひまり「あの時はつぐがいち早く気が付いたよね」

 

モカ「あの時、血塗れだった少年が今ではつぐの夫だもんね」

つぐみ「気が早いよ!モカちゃん!」

 

蘭「でも、式はもうすぐだよね?」

つぐみ「そ、そうだけど///」

 

初めは偶然だった。あの子…庄司くんを見つけたのは本当の偶然だった

 

今考えるとあれも運命だったのかもしれない

 

普段から困っている人をそっとできない性格だけど

 

あの時はいつもの癖で直ぐに体が動いちゃった

 

蘭「おじさんの初恋が庄司のお母さんだったんだ」

ひまり「写真で見たけど、庄司君のお母さんすごく美人だったよ」

 

お父さんも私と同じく困っている人をそっとできない性格。

 

そんなお父さんが庄司くんを引き取ってから私達の生活が変わった

 

庄司くんが家にやって来た時も私はしっかりしないと思っていた

 

“義姉”として庄司くんの事を世話を…支えてあげないと思っていたけど···

 

庄司くんは益々成長していった。いつの間にか私が支えられる方になっていた

 

彼が部屋に塞ぎ込んだ時、彼の過去を聞いた時も唯一の心の拠り所になろうと思った

 

そしていつしか私は…気づかない間に彼の事を好きになっていた。

 

病院で彼が目覚めた時、口パクだけでも何を言っているのかすぐに分かった

 

みんなは庄司くんの口パクを解らなかったのが不思議に思った

 

庄司くんの家…笹野家に行くときは、前日の退院祝いだったのに庄司くんは暗い顔をしていた。だから…庄司くんの事だから朝一に家を出て行くと思っていた

 

あの家に残っていた跡から庄司くんがどれほど辛い目に遭ったのか直ぐに理解した

 

そして遊園地では、ジェットコースターの時に急に手を握ってきた事はビックリしたけど···

 

頼ってもらった事がうれしかった。ようやく義姉らしいことが出来たと思っていた

 

だけど直ぐに“義姉”から“恋人”になっちゃった

 

でも、恋人になったからって普段の生活と何も変わらなかったけどね

 

_________________

 

 

[どうですか?]

 

厨房の方は一段落して、つぐみさん達に軽いお菓子と飲み物を運ぶ

 

ひまり「わぁ!美味しそう」

 

蘭「悪くないね」

モカ「でも、まだ途中みたいだね」

 

巴「タイトルとか決めてるのか?」

つぐみ「あ、ペンネームとかは?」

 

それを聞いた僕はペンを取り、いつも通りスケッチブックにペンを走らせる

 

この物語、生きる希望(声と家族)を失った少年が自分の道と理解者を探す物語

 

これを読んで自分の道に迷っている人を僕も救いたい。

 

かつて僕を救ってくれた彼女達のように…

 

僕には恋人(理解者)と呼べるつぐみさんがいる。

 

そしてこれを読んでいる人もいつか僕みたいに笑って幸せになれるように願う

 

 

 

 

この小説のタイトルは――

 

 

 

 

 

『笹野庄司 作 こえ無き声を届けたい』

 




以上つぐみ編でした。いかがだったでしょうか?

蘭編は一週間後ぐらいに投稿していきたいと思っています。



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蘭編
1話


今回からは蘭編です。
製作の段階でつぐみ編より長くなりそうです

本編どうぞ( ゚д゚)ノ


~美竹家~

 

美竹父「どうした?今日は出来が悪いぞ」

蘭「……」

 

美竹父「蘭?」

蘭「え!?な、なに……」

 

美竹父「いや、何でもない。庄司君の事が気になるのか?」

蘭「べ、別に…」

 

あいつが引き籠ってもう4日経つ…

 

つぐみによれば食事も碌に摂っていないらしい

 

美竹父「お前らしくないな。取り敢えず今日はもうここまでにしよう」

蘭「うん…」

 

_________________

 

~蘭の部屋~

 

ここ最近、作曲も華道もやる気が起きない……

 

気が付けばいつもあいつの事ばかり考えてる

 

外を眺めると雨が降っている

 

そう言えばあいつは雨が嫌いって言ってたっけ…

 

蘭「らしく…ないか……」

 

それに心に靄がかかったみたいで嫌な気分になる

 

助けてあげたいけど…あたしには何が出来るの?

 

Pipipi…

 

リサさんからだ

 

蘭「もしもし…」

リサ『もしもし!蘭。最近元気ないけど、どうかしたの?』

 

蘭「実はあいつが…」

リサ『あいつ?』

 

リサさんに庄司の現状とあたしの気持ちを話してみた

 

リサ『ふ~ん…そんなことがね…』

蘭「どうしたらいいのか分からなくて…」

 

リサ『その気持ちは蘭自身で気が付かないとね。アドバイスするなら偶には力ずくで解決するのもいいと思うよ』

 

蘭「力ずくですか?」

リサ『蘭の気持ちを伝えればきっと何とかなるよ』

 

 

気持ちを伝える……

 

蘭「わかりました」

リサ『また今度、話を聞かせてね☆』

 

あたしはあいつの話を聞いておかしいと思った…

 

庄司はあたしのことを“幸せ者”って言った

 

それと同時に“自分も生活が充実している”って

 

生活が充実しているならあたしの事を“幸せ者”なんて言わないはず…

 

 

_________________

 

~羽沢珈琲店~

 

つぐみ「蘭ちゃん…本当にやるの?」

蘭「うん…このままにしていられないから」

 

あたしはつぐみのお父さんから庄司の部屋の鍵をつかった

 

部屋の中は真っ暗…それとビリビリに引き裂かれたスケッチブックが散らかっていた

 

部屋の隅には布団に包まっている庄司がいた

 

蘭「あんたはいつまでそうしているつもり?」

 

庄司はあたしをみているけど、少し怯えている

 

つぐみ「庄司くん…外に出ようよ」

庄司「──ッ⁉」

 

つぐみが手を指し伸ばすと庄司はその手を払った

 

蘭「つぐみ!」

 

蘭「大丈夫?」

つぐみ「う、うん…」

 

_________________

 

頭が痛い···気持ち悪い。吐きそうだ

 

立ち上がろうとしても手足に力が入らない

 

目も霞んできた···

 

意識が朦朧としたその時──

 

美竹さん達が部屋に入ってきた

 

あいつに見つからなかったのか。二人共暴力を受けた形跡がなかった

 

蘭「あんたはいつまでそうしているつもり?」

 

いつまで…僕はもう一歩も外に出ないつもり…

 

つぐみ「庄司くん…外に出ようよ」

庄司「──ッ⁉」

 

羽沢さんが手を指し伸ばしてくる…でも、その手を僕は振り払った

 

蘭「つぐみ!」

 

その手を掴めば…あいつの所に連れていかれる!もう痛いのはイヤだ!

 

蘭「大丈夫?」

つぐみ「う、うん…」

 

もう…嫌なんだ……僕は、生きていても何の意味もない…

 

蘭「庄司…」

 

美竹さんが声をかけてくる……

 

蘭「あんた…外の世界が怖いの?」

庄司「──ッ⁉」

 

僕は顔を上げた。そこには怒りではなく…少し寂しそうな顔をしていた

 

蘭「この前、あんたはあたしの事を“幸せ者”って言った。あんたはどうなの?」

 

僕は……

 

蘭「声が出せなくても今の生活が充実しているのでしょ?」

 

そんなことはない……僕の生活はまやかし…幸せなんてない

 

蘭「なのにどうして…あんたはあの時、泣いていたの?」

 

え⁉僕が泣いていた?

 

蘭「人には幸せになる権利がある。あんたにも勿論その権利はある」

 

幸せになる権利…

 

近くにある紙に文字を書き美竹さんに見せる

 

『声が出せないこんな僕に幸せなんて…』

『僕にとって歌うことが幸せだった』

 

声が出ない僕にはもう何もない…

 

蘭「だったら、あたしがあんたを幸せにしてあげる」

つぐみ「ら、蘭ちゃん⁉」

 

え⁉

 

蘭「あんたが幸せに思えるその日まであたしが導いてあげる。だから、あたしを信じて…」

 

美竹さんは真っ直ぐな目をして、僕に手を指し伸ばしてくる

 

僕を導いてくれる その言葉をもう一度信じてみよう

 

 

蘭「下の階に行こう。みんな待ってるし、それに…」

 

ぐぅぅ~

 

つぐみ「お腹も空かせているみたいだね」

蘭「四日間も食べていなかったらそうなるよ」

 

二人に手を引かれながら部屋の外に出る…

 

下に降りると、あの臭いもあいつの姿もない。居るのは……

 

モカ「おぉ~しょーくん久しぶり~」

巴「ようやく出てきたな」

 

ひまり「心配していたんだからね!」

義父「庄司…すまなかった……」

 

お義父が頭を下げている…僕には何故頭を下げているか分からない…

 

ここにあいつが居たはずでは……

 

つぐみ「もう!これに懲りてお酒も控えてね!」

義父「そうします!」

 

ぐぅぅ~~

 

義母「あらあら…直ぐに用意するわね」

蘭「ここにはいないけど、湊さんや沙綾、千聖さんに沢山の人があんたの事を心配していた。それに…」

 

それに?

 

蘭「あんたがいて、あたしたちのいつも通りなんだから…そのことは忘れないで…///」

 

最後も部分は聞き取れなかったけど美竹さんの頬が少し赤かった

 

後日、メンタルケアのために病院に通い…羽沢さん達に僕の過去について事細かく伝えた

 

結局、僕が見たアイツは…過去の状態と重なり僕は幻覚を見ていたことを知った

 

 

_________________

 

おまけ

 

~???~

 

???「Guten Abend(こんにちは)ドクターマシャコフ…」

マシャコフ「おぉ!どうしたんだい?ドクター」

 

禿げた頭を掻く老人と白髪の青年が会話をしている

 

???「諸事情で母国に…()()に帰ろうと思います」

マシャコフ「ふむ…そうか…いずれその時が来ると思っていたがこんなに早いとは」

 

老人は少し物寂しそうにそう言った

 

???「申し訳ございません…」

 

マシャコフ「謝らなくていいよ。君はこの7年わたしの傍で腕を磨いてきた。その腕を今度はここ”()()()()()()”でなく日本で振るうといい」

 

???「感謝します!」

マシャコフ「出立はいつかね?」

 

???「明後日にしようと思っています」

マシャコフ「そうか…寂しいな。患者のみんなになんていえばいいのかな?」

 

???「すでに伝えています」

マシャコフ「相変わらず手際が良いの~()()()()()()()

 

???「その呼び方は辞めてください。でも、本当にお世話になりました」

 

マシャコフ「こちらこそわたしは君のような弟子を取ってよかったドクター」

 

???「ありがたいお言葉です。Auf Wiedersehen(さようなら)、偶には日本に来てください」

 

マシャコフ「ハハハ…それもいいの~その時は案内頼むよ。そうだ!」

 

老医師は立ち上がり青年に一冊の本を渡した

 

マシャコフ「わたしの本をあげるよ。これで…」

???「”学びは怠るな”ですか?」

 

マシャコフ「その通りだ。怠けは腕を鈍らせる。精進したまえ」

???「ありがとうございます」

 

青年は軽くお辞儀をしてその場を後にし、携帯を取り出した

 

???「あぁ、俺だ。そっちの状況は?」

『特に問題なしだぜ相棒。いつ帰れる?』

 

???「そっちに到着するのは来週あたりになりそうだ」

『了解、”井ノ島”付近で合流でいいか?』

 

???「そこでいい」

『ところで腕の方はどうだ?』

 

???「大分馴染んできた。心配は無用だ。じゃあな」

 

ピッ・・・

 

一方的に電話を切り、青年は外を眺めながらこう呟いた

 

???「7年ぶりの日本だ。元気にしているかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──蘭。

 

 

 

 

 




ここでお知らせです

蘭編限定のオリキャラを二人追加予定です。勿論物語に大きく関係することになります

ドクターブルー?義手?っといろいろ気になるキャラに仕上がっています。次回をお楽しみに!!


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2話

あの日から一ヶ月…外も一気に暑くなり始めた事

 

僕は普段と変わらない…‘いつも通り’の生活を送っていた

 

そんなある日――

 

巴「いやぁ~庄司が元通りになってよかったな」

蘭「症状は?」

 

つぐみ「うん。最近は収まってきているみたい」

ひまり「良かった…」

 

つぐみ「でも、たまにあの時みたいじゃないけど怯えて…」

モカ「やっぱり嫌な思い出は抜けないよね。蘭~何とかしてあげたら?」

 

蘭「な、なんであたしが……」

モカ「しょーくんを導いてあげるんでしょ~」

 

蘭「うぅ…確かにそういったけど…」

つぐみ「こればっかりは、庄司くん次第だよ」

 

ひまり「ねぇ!みんなで井ノ島に行こうよ!今度は庄司も連れて!」

 

『僕も?』

 

モカ「そう言えばしょーくんは行ったことなかったよね」

巴「偶には息抜きは必要だと思うし、いいんじゃないか?」

 

つぐみ「そうだね!海に連れて行くには…庄司くんの身体の傷が目立つと思うし」

蘭「それを考えると…井ノ島の方がいいと…うん、悪くないね」

 

井ノ島…確か、水族館とかあったような。あと名物は何だったけ?

 

ひまり「じゃあ、決まり!みんな着替えを用意しておくように!」

 

 

 

―翌週―

 

 

つぐみ「庄司くん大丈夫?」

 

コクリ

 

時刻は午前6時…少し早いけど集合場所の駅に待っている

 

蘭「おはよう二人共」

つぐみ「おはよう蘭ちゃん!」

 

『おはようございます』

 

蘭「今日は大丈夫そうだね」

 

コクリ

 

蘭「あ、襟が曲がっている。これで良し!」

 

美竹さんが服装を正してくれた。でも、さっきまで襟なんて曲がってなかったはずなんだけど…

 

ひまり「みんなー!おはよう!」

 

巴「もう来ていたか!」

 

上原さん達も到着したみたい。あれ?青葉さんは…

 

モカ「Zzz……」

 

宇田川さんの背中で眠っていた。

 

蘭「モカは相変わらずか…」

巴「だな。そろそろ行くか」

 

コクリ

 

~数時間後~

 

ひまり「うーん!!とうちゃーく」

 

井ノ島駅に到着した。ほのかに潮の香りがする。

 

モカ「まずは何処から行く~?」

蘭「前と同じルートでいいんじゃない?」

 

ぐぅぅ~

 

つぐみ「あれ?庄司くん。朝食食べたよね?」

 

コクリ

 

巴「先に軽く食べに行こうか」

ひまり「さんせ~い!丁度気になっていたお店が近くにあるのよ」

 

コクリ

 

行く先は逆方向だったから振り向いた瞬間――

 

ドンッ!

 

「おっと!」

 

茶髪でボサボサ頭の男性とぶつかってしまった

 

つぐみ「す、すみません。怪我はありませんか?」

「大丈夫ですよ。こちらこそよそ見をしていた。すまない」

 

男性は頭を軽く下げる。僕もそれにならい頭を下げた…

 

「あ、そうだ。お嬢さん達、観光もいいけど荷物はしっかり持っとくように。ここは人が多いからで盗難に遭わないようにね」

 

巴「確かにこの前来た時より人が多いな」

蘭「はい。気を付けます」

 

「じゃあ、気を付けてね。少年」

 

男性はそう言い残しこの場を去っていった。

 

モカ「あの人何者なのかな?」

つぐみ「さぁ?でも、悪い人じゃなさそうだったね」

 

コクリ

 

それから僕たちは上原さんの後についていき、家とは違うスイーツを食べお腹を膨らませた

 

_________________

 

~水族館~

 

人生初の水族館…大きな水槽にいろんな色をした魚が泳いでいる。

 

ツボから長い首を伸ばしている魚?これは見た目からして蛇?

 

とにかく、見たことがない魚がいっぱいいて面白い…スケッチしたいが動きが速くて中々描けそうにない…

 

写真も撮りたいけど…

 

つぐみ「写真は撮ったらダメだよ」

 

『なぜですか?』

 

ひまり「なんでって…」

蘭「魚の中には、ライトでビックリして死んじゃうのもいるらしい」

 

モカ「おぉ~蘭って物知りだね~」

蘭「いや、ここに書いてるけど。庄司?」

 

知らないとは言え僕は魚を殺してしまうところだった…

 

人だろうと魚であろうと同じ命…申し訳ない気持ちでいっぱいだ

 

巴「蘭」

蘭「なに?」

 

巴「しばらく庄司と二人で回ってきたらどうだ?」

蘭「はぁ?どうしてあたしが…」

 

モカ「いまのしょーくんには蘭が必要だからね~」

つぐみ「蘭ちゃん。私からもお願い…」

 

蘭「わかった…庄司いくよ」

 

コクリ

 

_________________

 

写真のことを伝えてから庄司は顔色が悪くなったけど…

 

蘭「あ、ま、待って…」

 

あたしが連れ出してからまるで子供みたいにはしゃぎまわっている

 

でも…庄司の暗い顔に比べたら、笑っている顔の方があたしは…好きだ

 

ほどなくして興奮が収まったのか。庄司はゆっくり息を吸い始め、ペンを構える

 

蘭「しょ…」

 

声をかけようとした瞬間――

 

彼はスケッチブックにペンを走らせた…

 

その様子は家で絵を描いている時同じく真剣な眼差しだった

 

あたしはそれを見守ることにした。

 

―数分後―

 

庄司「――!」

 

絵が完成したらしく。庄司はスケッチブックを高く掲げあげた。

 

蘭「出来たの?」

 

コクリ

 

庄司は満面の笑みを浮かべあたしに絵を見せて来た。

 

蘭「これって…クマノミ?」

 

コクリ

 

蘭「あんたって絵のセンスあるよね」

 

スケッチブックの中身を遡り、絵を見ていくと改めてセンスを感じた

 

先ほどのクマノミや犬、猫。花やラテアートで見たことがある絵が描かれていた

 

最後のページを見ると人型骨組みが描かれていた

 

蘭「これは…」

 

この絵について尋ねようとした瞬間――すごい勢いでスケッチブックを取り上げられた

 

どうやらまだこの絵は見てはいけなかったみたい

 

「ただいまよりイルカショーが始まります。ご覧になる方はK―12までどうぞ」

 

アナウンスが館内で鳴り広がった。それは巴たちと合流の合図でもある

 

蘭「庄司、そろそろ行くよ」

 

コクリ

 

_________________

 

イルカショーは僕にとっては初めて見るものだった。イルカが飛んだり跳ねたり。ボール遊びをして面白かった。

 

最後の大ジャンプで最前列の人たちはびしょ濡れになっていた。

 

 

 

つぐみ「蘭ちゃん。ありがとう」

蘭「別に…あたしも退屈しなかったし」

 

モカ「偶に見かけたけど子供みたいにはしゃいでいたね」

巴「水族館のチョイスは良かったかもな」

ひまり「じゃあ、次はお土産見に行こう!」

 

 

お土産屋さんでいろんなものが売っている。煎餅に饅頭。ぬいぐるみなど。

 

なぜか?タコのフード付きのパーカーがあった。

 

折角だし美竹さんに…

 

蘭「またタコ…」

モカ「お!しょーくんもそのパーカーを選んだんだね」

 

蘭「だからなんでタコなの?」

 

『赤いメッシュが入っているから?』

 

蘭「モカと同じ理由…」

モカ「しょーくん、アタシと息が合うね~」

 

他にも色々売っていたけど、みんなお土産物を買っていった

 

巴「なぁ、今回もあそこに行かないか?」

モカ「さんせ~い」

 

ひまり「夏だと違う景色が見れるかもね」

つぐみ「確かにあの時と違うかもね」

 

あそこ?…景色?なんのことを話しているのか僕にはわからない

 

蘭「付いてくれば分かるよ」

 

~数十分後~

 

巴「ここだ」

 

やって来たのは砂浜…夕日が海を照らしていた

 

つぐみ「やっぱり綺麗だね」

蘭「うん。ここから見た景色は格別だね」

 

美竹さんの言う通り、普段の夕焼けとは全然違ってとても綺麗だった

 

この景色は普段見られるものではない。

 

僕は少し下がり、シャッターを切った

_________________

 

おまけ

 

「悪い悪い···道に迷った」

??「Das ist doch totaler Unsinn 人の義妹に手を出しといて何が道に迷っただ」

 

「え!?誰がそうだった?」

??「あの赤いメッシュがそうだ」

 

「ありゃーそうだったか~もっと見とけば良かった」

??「絞めるぞ」

 

「ひぇ~おっかねぇ」

??「早く行くぞソーボウ」

 

「その呼び方はやめてくれ!」

??「お前は変わらないな」

 

「それはどうゆう意味だ?」

??「そのままの意味だ」

 



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3話

~羽沢珈琲店~

 

珈琲の香りが漂う羽沢珈琲店…ここの看板には注意書きが書かれている

 

◎言葉を話せない従業員に対する誹謗中傷を禁止

◎従業員に対するSNSの投稿を禁止する

 

など

 

どれも追われている僕を守るためお義父さんが作った。お約束だった

 

ここに来てくれるお客さんは、この事理解してきてくれる

 

たまに厄介なお客さんがやって来ることもある…

 

 

つぐみ「庄司くん!6番テーブルお願い!」

 

義父「庄司!2番テーブルのオムライス出来た」

 

今日は休日の所為か。人が多い…

 

義母「厨房の方頼めるかしら?こっちは私が」

 

コクリ

 

お義母さんと入れ替わり厨房でお義父さん手伝いをすることになった

 

―数分後―

 

大半のお客さんが帰り、ようやくお昼ご飯を食べれそうだ

 

義父「よし、これを持って行ってくれたらお昼休憩入れようか」

 

コクリ

 

ミートスパゲッティを持ち、お客さんの元に運ぶ

 

庄司『お待たせしました』

 

???「おや?少年また会ったね」

 

この前会ったボサボサ頭の男性だった

 

???「ここで働いていたんだね。てことは看板に書いている喋れない従業員は君だね」

 

この前会った時には、僕が喋れないことは話していないのにどうしてわかったんだろう?

 

???「おっと冷めてしまっては台無しだな。折角少年が作ってくれたんだからな」

 

「おい!このトースト作ったやつは誰だ!」

 

何か問題があったのか。お客さんの元に駆け付ける

 

『何かありましたか?』

 

「お前が作ったフレンチトーストに髪の毛が入っていたんだよ」

 

髪の毛…たしかにフレンチトーストに黒髪の毛が入っていた

 

だけどおかしい。お義父さんもお義母さんも髪は茶色っぽい色、僕の髪は灰色の髪をしている

 

『失礼ですが、その髪はお客様のものだと思いますが』

 

「なんだと⁉そんな証拠何処にあるんだよ!大体お前なんだよカンペみたいに紙に文字を書いて俺をバカにしているのか⁉」

 

つぐみ「も、申し訳ございません。当店では喋ることが出来ない従業員がおりまして…」

 

「そんなこと知るか!お前取り敢えず謝罪しろよ。しっかり言葉でな!」

 

そんな無茶な…どうするか悩んでいると――

 

蘭「いい加減にして!!庄司は話すことが出来ないってそこの紙に書いているでしょ⁉」

 

美竹さんのいう通り、店内にもそこの看板と同様の注意書きが書かれている

 

「そんなこと知るか!どうせコミュニケーションが出来ないガキだろう!」

 

巴「黙って聞いていれば!アタシたちの仲間に馬鹿にしやがって‼」

 

宇田川さんが男性に怒鳴る。お互い一触即発の状態…

 

???「そこまでにしてもらおうか」

 

先ほどのボサボサ頭の男性が僕たちの間に入ってきた

 

「な、なんだよ!お前」

 

???「俺?俺はこういった者だ」

 

胸ポケットが手帳サイズあるものが出てきた。

 

 

???「どうも、警察の者です。これ以上騒ぎを起こすなら威力業務妨害で逮捕しますよ」

 

「う、ぬぬぬ…」

 

???「この少年が話すことが出来ないのは事実だ。俺はこの子のように不自由な人をいたぶる奴は大っ嫌いなんだ!」

 

「うぐぅ···」

 

先程まで怒鳴っていた男性は大人しくなった

 

つぐみ「あ、ありがとうございます」

 

???「なに、礼を言われる必要はないさ。さっき言ったとおり、この少年のように理不尽な目に遭う子をそっとできないんだ。俺は“武崎 宗太”(たけざき そうた)」

 

ひまり「じゃあ、この前あそこに居たのは…」

 

宗太「あぁ、あれはただの休暇だよ。今日はたまたまここに来ているけどね」

 

モカ「なるほど~うん?蘭どうかしたの?」

 

蘭「宗太…何処かで聞いたことがあるような気がして…」

 

宗太「あぁ、それはたぶん…」

 

???「おい。何をしているんだ。馬鹿宗太」

 

声がした方向を見ると白髪の男性がいた

 

宗太「おぉ!来てくれたんだな相棒!」

 

???「誰が相棒だ。こっちは折角の日本に帰って来たばっかりでゆっくりしたいのに···」

 

白髪の男性は髪を掻きながらそう言った。

 

ひまり「あの…その人は?」

 

白髪の男性について上原さんが訊ねると…

 

宗太「あ、こいつは俺の相棒の…」

 

 

 

 

 

 

蘭「義兄さん?」

 

モカ・巴・ひまり・つぐみ「「「「え、ええええええ⁉」」」」

 

義兄さん?美竹さんの?

 

???「7年ぶりだな。蘭。その子たちが…手紙に書いていた子か?」

 

白髪の男性は青葉さん達に指を指し確認をする

 

???「おや?君は···」

 

蘭「うん。後で紹介するよ」

 

???「あぁ、頼む。俺の名前は“美竹 蒼(みたけ あおい)”」

 

蒼「そこにいる。美竹蘭の義理の兄だ。ここの近くにある病院に転勤してきた医者だ。そこの馬鹿ともどもよろしく」

 

(*- -)(*_ _)ペコリ

 

つぐみ「ご、ご丁寧にどうも…」

 

蒼「さて、コーヒーをブラックで頼めるかな?」

 

コクリ

 

 

~数分後~

 

 

蒼「ふむ…いい香りだ。君が淹れたのかい?」

 

コクリ

 

蒼「なるほど。お見事だ!蘭が夢中になるわけだ」

 

蘭「ちょ、ちょっと!義兄さん」

 

蒼「ははは…冗談だ。そう怒るなよ」

 

冗談を言う蒼さん。先ほどの威圧を感じられない…

 

蒼「さて、俺と蘭の関係は義理の兄妹。蘭は宗家。俺は分家の子。まぁ、なんやかんやあって、今は医者として働いているけどな···ハハハ」

 

カチャカチャ…

 

蒼さんの左手が動くたびに、金属音が聞こえるような

 

つぐみ「何か音が聞こえない?」

 

ひまり「確かに…金属が擦れるような…」

 

モカ・巴「「コクコク」」

 

どうやら音は僕以外にも聞こえていたみたい

 

蘭「……」

 

蒼「あぁ、この音か?それはこれだな」

 

そう言い蒼さんは手袋を外し、腕を捲る。そこには白い腕が現れた

 

一目見ればわかる。これは義手だ。

 

蒼「もう十年ぐらい前かな?」

 

宗太「あぁ…それぐらいだな。だがその話はまた今度にしよう」

 

蒼「そうだな。ところで羽沢君、君は冨田医師の事は知っているかい?」

 

コクリ

 

宗太「何か詳しいことは知らないか?」

 

武崎さんが食い入るように聞いてきた

 

僕は首を振る。冨田先生と別れてから数か月経っている

 

宗太「そうか…」

 

つぐみ「その…冨田先生がどうかしたのですか?」

 

蒼「いや、何でもない。その富田に代わり俺がやって来たわけだ」

 

巴「ってことはしばらくこっちに住むってことになりますよね」

 

蒼「あぁ、そうだな。また本家に住むことになるな」

 

蘭「それって本当?」

 

蒼「あぁ、ここに来る前に叔父様に話は通している。嬉しいか?」

 

蘭「べ、別に…嬉しくなんかないし…///」

 

そう言いつつ美竹さんは頬を赤くしている。本当は嬉しいみたいだ

 

蒼「さて、俺はそろそろ…」

 

つぐみ「もう行くのですか?」

 

蒼「あぁ、蘭の顔も見れたし仕事に戻らないとな。お前もな宗太」

 

宗太「ハイハイ。仕事に戻りますよ。あ、義妹さんこれを上げよう」

 

武崎さんが美竹さんに渡したのはお守りだった

 

蘭「これは…」

 

宗太「なんの変哲もないお守りだ。その少年を守ろうとした覚悟に感服した」

 

蒼「受けととっけ。深く考えるな」

 

蘭「わかった。ありがとうございます」

 

_________________

 

あの二人がお店を出てから、僕たちは蒼さんについて聞いてみた

 

巴「蘭、義兄さんについて教えてくれないか?」

 

モカ「まさか。蘭にお兄さんがいるなんてね…」

 

つぐみ「ビックリしたね」

 

ひまり「どうして何も言わなかったの?」

 

蘭「どうしてって…何も聞かれなかったから」

 

『あの人はどうして左腕がないのですか?』

 

蘭「あたしもよく知らない…けど事故で無くなったとしか…」

モカ「そうだったんだ…」

 

 

ひまり「宗太さんについては?」

 

蘭「義兄さんの幼馴染としか知らない」

 

巴「あまり知らないんだな」

 

蘭「義兄さんが家を出て行ったのはあたしが10歳の時だったから」

 

つぐみ「そうだったんだね。あ、庄司くんの担当医になるって言ってたね」

 

コクリ

 

丁度、僕の定期健診は来週にある。その時に色々聞いてみよう

 

_________________

 

蒼「あの子がそうか?」

 

宗太「あぁ、おそらくあの子が笹野庄司だ」

 

蒼「そうか。早く何とかしてやらないとな」

 

宗太「そうだな。お前の義妹あいつに恋しているんだからな」

 

蒼「お前が早くアイツを見つければいいのだがな」

 

宗太「ど、努力します…」

 

蒼「恋愛か…もう25の俺たちに縁がない話だな…若いっていいな…」

 

宗太「寂しいこと言うなよ…年寄りじゃあるまいし」

 

蒼「ふん。そうだな」

 




はい···謎の二人は諦めた夢をもう一度に出てきた二人でした

※これはIFの世界線です。設定も色々変わっています


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4話

あの日から一週間経ったある日。それは僕にとっては悪夢の始まりだった

 

~正午~

 

いつものように注文を取り、それを厨房の義父に伝える。偶に厨房の手伝いをする

 

宗太「やぁ、少年。いつもの頼むよ」

 

そして武崎さんはほぼ毎日のようにお店にやって来てコーヒーとミートスパゲッティを頼む。

 

でも、どうしていつも奥の席に座っているのだろうか?

 

まぁ、あそこは日当たりがいいし日光浴にはいいかも

 

そう思い厨房に戻ると――

 

カランカラン

 

ベルが鳴り来客を知らせる。厨房から入り口を見ると…

 

???「よぉ!羽沢」

 

この声!あの姿!どうしてアイツが!僕の父が――!!

 

義父「正明…5年ぶりだな。何の用だ?」

 

義父が奥に隠れるように目で訴えかけてきた。その指示に従い厨房の奥に逃げた

 

宗太「少年こっちに…」

 

なぜか武崎さんも厨房にいた。ともかく武崎さんの傍により聞き耳を立てる

 

正明「人を探してな。俺の息子だが…」

 

やっぱり僕を探しに来たみたいだ…

 

義父「息子?お前に息子なんていたか?」

正明「なんだもう忘れたのか?庄司だよ庄司。俺の可愛い息子だよ」

 

可愛い息子?酒の飲み過ぎで頭がおかしくなったのか?こんな体にしたくせに

 

宗太「少年。彼は君の父親かい?」

 

コクリ

 

宗太「そうか…」

 

武崎さんは僕の頭を抱え、フロントの様子を伺う。そんな中でも話が進む

 

義父「で?その子がどうしたんだ?」

 

正明「家出したんだって!それで探してんだ!千葉で見つかんないからこっちに逃げてきたはずだ!」

 

 

義父「知らないな。千葉からここまで何キロあると思ってるんだ?それにお前家出でここまで逃げてくるのは無理だろう?」

 

 

そう。普通なら無理な話だ。傷だらけの身体なら尚更…

 

 

宗太「俺はあいつを追いかけてこっちに来た。君の捜索願を出され少々素性を調べさせてもらった」

 

僕のいない間に何があったのだろうか…

 

宗太「近所の人に君の事。そして虐待の事も。――ッ!動かないで!」

 

正明「お前が暇していることは新人でも雇っているのか?」

義父「まぁな。そんなところだ」

 

正明「ふぅ~ん。ちょっと見ていいか?」

義父「別に構わんぞ」

 

アイツがこっちに来る!どうしたら…

 

宗太「ここは任せて」

 

武崎さんはそう言うとコック帽を被り、僕のエプロンを身に着けてお玉を手に持ち立ち上がる

 

宗太「ど、どうも…新人です~」

正明「ふぅ~ん。変わったやつだな」

 

義父「そ、そうだな」

 

お義父さんも想定外の出来事のようだった。

 

正明「まぁ、頑張って」

宗太「はい」

 

義父「帰るのか?」

正明「あぁ、急いで息子を探さないといけないからな」

 

カランカラン

 

義父「しのげたか」

宗太「そうみたいですね。すいません勝手に厨房に入っていしまって」

 

義父「構いません。庄司を守っていただきありがとうございます」

 

宗太「まだ、安心できません。アイツはまた来るかもしれません。用心してください」

 

義父「何とかならないんですか?」

宗太「現時点で警戒対象ですから、勝手に捕まえることが出来ないのです」

 

義父「そうですか…」

 

二人の話を聞いた限り、アイツがここを去るのを待つしかないみたいだ

 

宗太「それより、暫く外出を控えてもらった方がいいでしょう」

 

義父「そうですね分かりました。庄司すまないな」

 

僕は静かに首を横に振る

 

分かっている。アイツがいる以上僕が外に出ることは命取りになる。

 

それならば部屋で暫くジッとしていた方がいいみたい

 

_________________

 

つぐみ「そんなことがあったんだね」

巴「益々外に出られなくなったな」

 

コクリ

 

『しばらくこの部屋に出られませんね』

 

モカ「早く帰ってくれたらいいけど…」

ひまり「あ、そうだ!蘭の家で匿ってもらえれば?」

 

蘭「はぁ⁉な、なんであたしの家に⁉」

 

モカ「おにいさんが家にいるし、その親友の宗太さんも場所が分かってて安心じゃない?」

 

つぐみ「確かにその方が安心かも…」

 

確かに青葉さんのいう事にも一理あるでも、美竹さんに迷惑をかけるわけには……

 

巴「そういえば蒼さんは普段何やってんだ?」

 

蘭「義兄さんは普段から難しそうな本を読んでる。偶にあたしも手伝っているけど…」

 

『手伝いって何を?』

 

蘭「声だしたり、腕を動かしたり。あたしには何の意味があるのか分からないけど」

 

モカ「う~ん…謎だね~」

 

ひまり「それで…庄司君の事をどうするの?」

蘭「どうするって…お父さんに聞いてみないと…」

 

_________________

 

~夜~

 

まさかアイツがこっちにまで探しに来るとは……

 

今日は武崎さんが居たから何とかなったけど、次からはどうにかしないと…

 

本当にここに居てよかったのかな?美竹さんの所に行っても迷惑になるだけなのに…

 

コンコン

 

誰か来たみたいだ。体を起こし扉を開ける。

 

つぐみ「庄司くん。少しいいかな?」

 

コクリ

 

つぐみ「蘭ちゃんがお父さんとお義兄さん話した結果、しばらく引き取ってくれるって」

 

まさかの回答だった。

 



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5話

 

~翌日~

 

スーツケースに必要なものを詰め込む。

 

服や薬、本にスケッチブック等々、病院を出るときに比べたら荷物が多くなっていることに気付いた。

 

服も本も、みんなと買ったもの…この一つ一つに大切な思い出がある

 

みんなといるここが僕の居場所…

 

お義父さんに内緒で買った。スタンガンと小型の催涙スプレーを懐に忍び込ませる

 

準備ができ、部屋に飾っている一枚の写真を見つめる

 

退院した時にAfterglowのみんなと撮った写真とこの前、井ノ島で撮った写真

 

ここに帰って来るのはいつになるか分からないけど

 

僕は絶対に帰って来る。その時、笑って帰ってこよう

 

_________________

 

 

義父「美竹さん、息子の事をよろしくお願いします」

 

美竹父「お任せください。出来るだけのことはやってみましょう」

 

蒼「もしもの時はお任せください」

 

義父「先生にもそう言っていただけると安心できます」

 

蘭「早く車に乗った方が…」

美竹父「そうだな。蒼、運転頼む」

 

蒼「了解。叔父様…」

 

荷物を詰め込み、車に乗り込む。

 

蒼「シートベルトは絞めたな?よし、出すぞ」

 

コクリ

 

蘭「……」

美竹父「……」

 

蒼「……」

庄司「……」

 

き、気まずい…車の中では会話がない。聞こえてくるのはニュースぐらい

 

『先ほど○○遊園地で観覧車が落下する事故が発生しました』

 

美竹父「とんでもないことが起こったな」

蒼「あぁ、もしかしたら…」

 

Pipipipi…

 

唐突にカーナビに着信が表示された。

 

蒼「すまない。少し出るよ」

 

車を路肩に止め、蒼さんが電話に出る

 

蒼「はい」

 

『先生!今どこに居ますか?急患です!酷い出血で!』

 

蒼「遊園地の件だな?」

 

『はい!他の先生にも手伝ってもらっていますが人手が足りません!』

 

蒼「分かった直ぐに向かう!」

 

ピッ!

 

蒼「ってことだ。すまない。叔父様後は頼みます」

美竹父「あぁ、行ってこい」

 

蒼さんは車を降り、走って病院に向かって行った

 

蘭「昼も夜も関係なし。いつも電話が来たら直ぐ走っていく。医者も大変だね」

 

『寂しいのですか?』

 

蘭「そ、そんなことは無いけど。偶にはゆっくり休んでほしい。そう思うだけ…」

 

なんでだろう?すごくもやもやする。この気持ちは何だろう?

 

 

 

~美竹家~

 

美竹父「蘭の隣の部屋が開いてるからそこを使うといい」

 

コクリ

 

蘭「足りないものがあったら取って来るけど?」

 

『ハンガーをお願いします』

 

蘭「わかった」

 

部屋の中はこの前使った部屋より少し広い、スーツケースを部屋の隅に置き窓の外を眺める

 

_________________

 

 

庄司を家で暫くの間預かることになった。最初はお父さんが反対すると思っていたけど…

 

意外と乗り気だったことに驚いた。

 

蘭「庄司。ハンガー持ってきたよ」

 

部屋に入ってみると庄司は外を見ていた。ここからだと病院と学校しか見えないのに

 

蘭「何か見えるの?」

 

庄司は首を横に振る

 

『この前は良く見えなかったので…』

 

蘭「そう…何かあったら遠慮なく呼んで、隣の部屋にいるから」

 

コクリ

 

踵を返し、部屋を出ようとすると──

 

蘭「え⁉ちょ、ちょっと!」

 

庄司があたしの服を引っ張ってきた

 

『もう少しここに居てくれませんか?』

 

追われていることや不慣れなことばかりで不安なんだろう

 

蘭「すこしだけなら…いいけど」

 

しばらく庄司と一緒に居たけど、偶にチラチラこっちを見たと思うとペンを動かしていた

 

そんなこと気にせず、あたしは作詞をすることにした

 

_________________

 

 

ー数分後ー

 

 

蘭「う~ん…違う…こうじゃない」

 

美竹さんは作詞をしているけどなかなか思いつかないみたい

 

そうだ!美竹さんに聞きたいことがあるんだった

 

『美竹さんあなたはどうして音楽を続けるのですか?』

 

蘭「なんでって…「いつも道り」であり続けるため」

 

『いつも通り?』

 

いつも通り…美竹さんの口癖の“いつも通り”それにはどんな意味が込められているのだろう

 

蘭「庄司は変わることが怖くない?」

 

『変わること…』

 

蘭「あたしは怖かった。変わらない、変えたくないものが多すぎて。皆とぶつかることも逃げていた。何もかもこのままの方がいいって…」

 

庄司「……」

 

蘭「でも、ケンカして本当の意味でみんなの事を信頼できた。Afterglowは『変わらない』ことの証であり、『変わることが出来る』証。5人でいられる大切な居場所だからあたし達は音楽を続けてられる」

 

5人でいられるための居場所…

 

蘭「それがあたしにとって“いつも道り”」

 

『僕は変れますか?』

 

蘭「それは分からない。でも、あたしはまた変わることが出来た」

 

──!?

 

美竹さんは僕に抱き付きこう囁いた

 

蘭「あたしはあんたの事が好き…この世の誰よりも…」

 

こ、これって告白⁉ど、どうしたら…

 

蘭「そ、そういうことだから···返事は今じゃなくていいから…///」

 

そう言い残し、美竹さんは逃げるように部屋を出ていった

 



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6話

みなさんお久しぶりです。

現在、募集中のアンケートはある話に関連するものになっているので、投票がまだの方はよろしくお願いします


 

変われない証と変わることができる証…

 

 

僕は縁からボーっと外の景色を見ていた

 

 

美竹さんの回答を聞いてから2週間。

 

 

告白の事も含めて…いまだに僕は答えを見つけることが出来ていなかった

 

 

 

蒼「おや?庄司君。丁度良かった」

 

リビングから蒼さんがやって来た

 

蒼「少し付き合ってくれないか?」

 

――?取り敢えず、蒼さんの後ろをついていった

 

 

 

~蒼の部屋~

 

 

蒼「さて、定期健診をしようか。口を開けて」

 

言われたまま口を開ける。蒼さんは長い管みたいなのを僕の口の中に入れた

 

 

嗚咽しそうなのをじっと我慢した

 

 

蒼「声を出してみて」

 

声を出してって言われても出ないんですが…

 

言われたように声を出すふりをする

 

蒼「OK~じゃあ、今度は息を吸って…はい、息を吐いて~」

 

息を吸い吐く。管が喉にあたって気持ち悪い…

 

蒼「はい。もう十分だよ~ふむ…声帯は異常なしっとなると脳の方に問題があるのか…」

 

今の行為にいったい何の意味が…

 

蒼「もしかしたらだけど、声を取り戻すことが出来るかもしれない」

 

『本当ですか?』

 

蒼「あぁ、喉にある声帯には異常がなかったし、原因は脳の中にあると思うから精密検査をしないと…」

 

本当にもう一度声を出すことが…

 

蒼「病院に行く必要があるが…それは君の父親が去ってからにしよう。いいね?」

 

コクリ

 

蒼さんの部屋を後にし、自分の部屋に戻ると

 

蘭「おかえり」

 

『どうして美竹さんがここに?』

 

蘭「いたらなにかまずい?」

 

僕は首を横に振る

 

蘭「義兄に何されたの?」

 

蒼さんにされたことや僕の声が戻る可能性があることを美竹さんに伝えた

 

蘭「よかったじゃん」

 

『もし、声が戻ったら初めは美竹さんに聞いてほしいな』

 

蘭「そ、そう…楽しみにしとく///」

 

そう言いつつ美竹さんはノートで顔を隠した

 

ノートを見ると作詞用の赤いノートだった。こういう時は話しかけるのは良くなさそうだ

 

そう思い僕は部屋を後にした

 

_________________

 

~キッチン~

 

 

そろそろ何かお菓子作りたくて身体がうずうずしてきた…

 

幸い、美竹さんのお母さんに台所を使うことは許されている

 

そうだ!クッキーでも作ろう

 

 

数分後

 

 

生地も出来たし、後は焼くだけ…

 

電子レンジに生地を入れて30分待つ

 

さて、完成したら美竹さんに…

 

あれ?

 

 

 

どうして僕は美竹さんのためにクッキーを焼こうと思ったんだろう

 

 

最初はただクッキーを作りたいと思っただけなのに。声の件もそうだ

 

 

どうして一番に美竹さんに聞かせようと思ったんだろう?

 

 

それに美竹さんのことを考えると心が···

 

 

蒼「いい香りがすると思ったらクッキーか?」

 

匂いにつられてまた蒼さんがやってきた

 

『お仕事は大丈夫なのですか?』

 

蒼「あぁ、今日は幸いながら休みだよ」

 

食卓に座りながら蒼さんは左腕を小刻みに動かしている

 

蒼「こいつが気になるかい?」

 

コクリ

 

蒼「そうだな。君には話しておこうか…」

 

 

□□□□□□□□□□□□

 

 

十年前、当時の俺は15歳で父親の言いなりで華道を無理やりやらされていた

 

そんなある日、俺は息抜きに散歩をしていた。その時、公園から歌声が聞こえてその方向に足を進めた

 

公園には父親らしき人物と女の子が二人、銀色の髪の子が歌って、父親がギター。もう一人の子が小さなベースを弾いていた。

 

不思議なことに俺はその声に聞き惚れた。

 

その日から俺はその子の歌を聞くために公園に行くようになった。

 

そんなある日に、何が原因だったか忘れたが…銀髪の子が車に轢かれそうになってた

 

俺の身体は自然とその子に向かって走った

 

 

□□□□□□□□□□□□

 

 

蒼「それで気が付けば俺は病院に居た。左腕がない状態でな…」

 

『その女の子は無事だったのですか?』

 

蒼「その子は無事だったらしい。まぁ、結局その子とは直接話をすることは無かったがね」

 

庄司「……」

 

 

蒼「それで、腕がない俺に新しい腕をくれた恩人がいた。俺はその人の元で人を助ける術を教えてもらった。つまり…誰かに助けてもらった者は誰かを助けたくなるってことだ」

 

 

助けてもらった者は誰かを助けたくなる……

 

 

『立派な考え方ですね』

 

 

蒼「そうでもないさ。この理想は正直に言うと夢物語に過ぎない…どんなに苦労しても助けられない命がある」

 

 

庄司「……」

 

 

蒼「30人…この数だけは忘れられない。俺が執刀中に命を落とした人の数…俺に腕があればもっと助けられたはずだった…」

 

 

 

ピーピー

 

 

蒼「っと···湿っぽい話はここまでだ。クッキーを蘭に持って行ってやるといい。俺はまた少し散歩に行こう」

 

この人は自分で生き方を変えることが出来た人。

 

華道を辞め、医者として生きることが出来た強い人

 

僕もこの人みたいにできるだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時、僕は気が付いていなかった。

 

ある残酷な運命が迫っていることを――

 

 

_________________

 

~公園~

 

蒼「この公園も久しぶりだな…」

 

蒼は事件の日と同様にベンチに座って公園の全体を見渡していた

 

蒼「十年前とそんなに変わらないな…うん?」

 

一匹の猫が足元にすり寄ってきた。

 

蒼「おぉ、どうした?悪いが飯は持ってないぞ~」

???「にゃんちゃん…」

 

蒼「うん?」

 

声がする方に顔を向けると銀髪の少女が猫を見つめていた

 

蒼「き、きみは⁉」

 

 

 

 

 



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7話

残り3話 終わりが見えてきました


酒井「じゃあ、リラックスしてすぐに終わるからね」

 

看護婦の酒井さん言葉と同時に台座が動き出す。

 

吸盤が頭に集中的に張り付いて身動きしにくい

 

 

いま、僕はCT検査を受けている。

 

僕が早く声を取り戻したい事を蒼さんに懇願したら、その翌日、直ぐにCT検査を受けることになった

 

おじさんや美竹さんが反対していたけど、蒼さんだけは賛同してくれた

 

過去に検査データもあるけど、蒼さんは自分の目で確かめたかったらしい…

 

そう言えば、この前から蒼さんの様子は少し変だ。普段は休みの日は家にいるのに、最近は何処かに出かけている

 

帰ってきたと思ったら、すごく上機嫌な様子だった。一体何があったのだろうか…

 

酒井「はい、終わりましたよ。結果は後日美竹先生から聞いてね」

 

検査が終わり後はお金を払って家に帰るだけになった。

 

 

~数分後~

 

 

支払いを済ませ、サングラスと帽子をかぶり病院を出ようとした瞬間――

 

宗太「よぉ!少年」

蘭「…」

 

珍しい組み合わせの二人が向かに来ていた。

 

武崎さんは恐らく、蒼さんが呼んだと思うけど美竹さんはどうしてきたんだろう?

 

宗太「彼女とはすぐそこで出会った。ね?」

蘭「うん…」

 

まぁ、この人がいれば帰りは安心だと思う…

 

宗太「検査の結果はどうだったかな?」

 

『後日、結果が出るそうです』

 

宗太「そっか…いい結果だといいけどね」

蘭「声が戻ったら何したいの?」

 

声が戻ったら…そういえば考えてもいなかった

 

『まだ考えていません』

 

宗太「まぁ、君はまだ若いんだから焦らなくていいよ」

 

焦らなくていいか…

 

暫く三人で歩道を歩いていると

 

巴「よぉ!二人共!」

モカ「久しぶり~しょーくん」

 

つぐみ「本当に久しぶりだね」

ひまり「早くこっちにおいで!」

 

久しぶりにつぐみさん達を見た気がする

 

宗太「流石にみんなと居れば安心だな。じゃあ俺はここで…」

 

武崎さんが来た道を引き返していった

 

さて、帰ったら完成したあの絵を

 

蘭「ねぇ、庄司。そろそろ…あの時の答えを聞かせて」

 

コクリ

 

あの告白の答え…

 

 

 

僕は美竹さんの事が――

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、思っていないことが起こった

 

 

目の前に黒塗りの車が止まり、中から男が5人ほど出てきた

 

蘭「あ、アンタたちなに⁉」

男1「構わん!連れていけ!」

 

男たちが一斉に襲い掛かってきた!

 

蘭「いや!は、離して!!」

巴「蘭!」

 

宇田川さんが駆けつけるも男につかまる

 

男たちの隙間をかいくぐり美竹さんを捕まえている男に隠し持ったを催涙スプレーをかける

 

男2「グワーッ‼」

男4「このガキ!」

 

――⁉

 

頭部に激しい衝撃が走った

 

蘭「庄司!」

宗太「しまった‼」

 

頭を殴られて倒れ込む、視界が暗くなってきた…

 

男5「おい!何している!その女ごと連れて行くぞ」

 

だ…めだ…美竹さん…だけでも…にがさないと…

 

_________________

 

 

~???~

 

「おい!起きろ‼」

 

男の怒号と同時に水をかけられた

 

目を開けると憎むべき奴!笹野正明が目の前に立っていた

 

天井から伸びた縄で腕を縛られて身動きが出来ない…

 

正明「やっぱりこの町に逃げていたな!このガキ!」

庄司「――⁉」

 

腹部に打撃を受ける

 

正明「あぁ?呻き声もあげねぇのか?」

 

コイツは僕が呻き声をあげるのを楽しんでいた。今もそれは変らず…

 

それより美竹さんは、手足と口を縛られ横たわっていた

 

見た感じ外傷は見当たらなかった。宇田川さん達の姿は見えないってことは逃げ切ったのだろう

 

正明「まぁいい…せいぜい楽しませてもらうとしよう」

 

僕が苦しむだけで済むのならいくらでも苦しもう…

 

だけど、彼女だけは手を出さないでほしい···

 

言葉が出ない僕はそう思うことしか···

 

_________________

 

 

~別サイド~

 

蒼「バッカ野郎!!どうして目を離した!!」

宗太「返す言葉がない…」

 

蒼「蘭まで攫われたとは……」

 

蒼は頭を抱える

 

モカ「早くしょーくんたちを助けないと!」

巴「そうです!早くしないと」

 

蒼「そうだな。宗太、場所の目星はついているんだろうな?」

 

宗太「あぁ…お守りの中にある発信機は…ここは…廃工場に反応がある」

 

ひまり「じゃあ、そこに二人共!」

つぐみ「庄司くん…蘭ちゃん…」

 

蒼「可能性は高い。宗太早く人を…」

宗太「もう向かわせている」

 

蒼「頼む!二人とも無事でいていくれ…」

 

 



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8話

正明「おら!」

 

もうどれぐらい殴られ続けたのだろう……口の中の血の味も分からない

 

もう何も感じなくなってきた。

 

縄が食い込みも腹部の痛み……太股に刺さったナイフも潰れた右目の痛みすら気にならなくなった

 

 

正明「ふぅ~少し一服でもするか……」

 

そういいアイツは部屋を出て行った

 

蘭「庄司……」

 

声が聞こえ顔を上げてみると美竹さんは目を覚ましたみたい……

 

心配そうに僕の事を見ている。心配をかけないように僕は笑顔を見せた

 

連絡手段もなし、出口はあの扉……どうにかして刺さったナイフを抜いて美竹さんの縄だけ切って逃がさないと……

 

腕を下の方に、足を上げ、足掻いてみる……

 

ギシギシッ! ……ポタ……ポタ……

 

赤い滴が絶間なく滴り落ちるだけでビクともしない

 

蘭「──ダメ! それ以上動いたら──」

 

死ぬかもね。でも

 

僕の命はどうせ助からない……それなら、この事を誰かに伝えることが出来る彼女を逃がせば……

 

美竹さんは助かるし、アイツも捕まる。

 

ダメだ全然……緩まない……どうしたら

 

⁇「あぁ~大分酷くやったものだね」

 

聞き覚えがある声が聞こえてきた。確かこの声は……

 

冨田「やぁ、久しぶりだね。笹野君」

 

冨田先生⁉どうしてここに……

 

正明「遅いぞ冨田」

 

冨田「すまない。警察の追手を巻くのに手がかかってね」

 

警察? 

 

どうして冨田先生が警察に……そしてコイツと一緒にいるんだ

 

冨田「にしても……派手に痛めつけたね」

 

冨田医師が僕の身体を隅から隅まで診ている

 

正明「これはあくまで教育だ。コイツをどうしようと俺の勝手だろ?」

 

冨田「その辺はどうでもいいが……あまり体を傷つけないでくれないかな? 売れなくなっちゃうだろ?」

 

売る? この人は何を言っているんだ? 

 

冨田「さて、正明。今回はご苦労様」

 

正明「おう! 早く金をくれ! そこの女の分も合わせてな」

 

冨田「はいはい……全く君はせっかちなんだから、褒美を上げるよ──

 

 

 

永遠の眠りをね──」

 

 

 

 

 

 

大きな音が部屋全体に響き渡った。音の正体は冨田医師の右手に握られていた拳銃だった

 

正明「お……ま……え……どういう……つもりだぁ……⁉」

 

冨田「どういうつもり? これは私の計画だよ! 君を殺すことがね!!」

 

どういうことなのか僕には分からない。どうして冨田医師がアイツを殺そうとしているのか

 

正明「貴様──!!」

 

アイツが冨田医師に殴り掛かる──が

 

冨田「おっと! 危ない!」

 

軽やかに躱し、冨田医師はアイツの両足を撃ち抜いた

 

正明「あがぁぁぁぁ!!」

 

悲痛な叫びが聞こえる。冨田医師が僕の方に向き直り話始めた

 

冨田「君は運がなかったね。こんな奴の子供として産まれてね。君の母、美智子もこんなバカより私を選べばあんな目に遭わなかったのに……」

 

あんなこと? どういうこと? 

 

正明「お前……まさか……」

 

 

冨田「僕は美智子を愛していた。この手にいれたかった、ふと僕はこう思った。手に入らないなら奪えばいいとね。僕が治療しこんな男を捨てさせようと···」

 

 

この人の言っていることがわからない

 

冨田「でも、誤算だった···彼女が死んでしまうなんて思わなかった。庄司くん、君は美智子とよく似ている。その目に髪、顔は整形すれば何とでもなる」

 

 

今わかることは、この男が冨田医者が···イヤ、冨田がお母さんを殺した!! 

 

正明「お前……! 美智子を創る気か!」

 

 

 

冨田「ククッ! そうだとも! 美智子の生き写しがそこにあるならどんな手を使ってでも手に入れるさ! 性別はこの際目に瞑ろう……あの時、羽沢が来なければ君は私の物になったのに……さて、仕上げをしよう。もう一度君を僕の手に!」

 

 

 

く、狂ってる……コイツは私利私欲のためにお母さんを殺し、僕たちを不幸にした

 

今すぐに殴り掛かりたでも、動けない……

 

冨田「さて···」

 

カチャ!! 

 

蘭「──ッ⁉」

 

庄司「──!?」

 

冨田は美竹さんの方に振り向き歩み寄る

 

冨田「君には怨みは無いが、知ってしまったには消えてもらうよ」

 

拳銃が美竹さんの頭に突きつけられる

 

動け……

 

動け……動け……

 

どうしてこの体は動かない! 守りたい人が···大切な人が目の前にいるのに! 

 

 

動け動け……動け! 

 

 

 

 

 

 

 

 

動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け──! 

 

 

 

 

 

また僕は大切な人を失うのか···

 

 

 

 

 

 

 

諦めかけたその瞬間──

 

風を切る音と固いものが壁に当たる音が、聞こえ顔を上げると縄が切れていた。

 

周囲を見渡すと、あいつが···父が血塗れになりながら僕を見ていた

 

『ありがとう。お父さん』

 

口でそう伝え、太股に刺さったナイフと抜き、最後の力を振り絞り冨田に向けて投げる! 

 

 

 

冨田「うぐぅ! なんだと⁉」

 

投げたナイフが放物線を描きながら冨田の背中に刺さった

 

「警察だ!」

 

宗太「冨田直樹 傷害、人身売買、臓器売買の罪で逮捕する!」

 

冨田「っく! こんなはずでは……」

 

冨田は手錠をされ連行され、美竹さんは解放された

 

蘭「庄司!」

 

宗太「早くタンカーを! 救命医も呼んで来い!」

 

「はい!」

 

警官が部屋を出て行き、宗太さんは父を見にいく

 

宗太「こっちは手遅れか……」

 

蘭「庄司! 庄司!」

 

 

ああ……美竹さんの声が聞こえる……よかった……無事みたい

 

ひどい顔だ···涙の所為で折角の美人が台無しだよ……

 

蘭「死なないで! まだアンタから答えを聞いてないのに!」

 

こたえ……ああ……そういえば伝えられなかったっけ

 

右手に付いた血で床に文字を書く

 

 

 

【すきだよ】

 

 

 

 

夕日が僕たちを照らす。ああ……綺麗だ……僕が最後に見る景色

 

ああ……もうだめだ……眠たくなってきた。

 

これでぼくもお母さんのところに家族の元に逝ける

 

もう思い残すことはなにもない……

 

 

 

 

美竹さんと向き合い、感謝の思いを口に出す

 

[ありがとう。こんな僕を好きになって···く···れて···]

 

蘭「え···いまなんて? 庄司? ねぇ、目を開けてよ! 庄司──ッ!!」

 

 

 

 

 



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最終話

今回の話は前回の後日談になります


あの事件から7年……

 

あたし達はあの日から何か物足りない毎日を過ごしてきた

 

あいつが写った写真を見れば···あの日のことを思い出す

 

_________________

 

~7年前 病院~

 

 

蒼「損傷が酷すぎる···生きているのが奇跡だ……だが、今の医学だと助けられない……」

 

つぐみ「そんな……」

 

蘭「どうにかならないの⁉ねぇ、義兄さん!」

 

巴「落ち着け蘭」

 

蒼「その子の言う通りだ。落ち着け蘭。俺は”()()()()()”だと助けられないって言っただけだ」

 

蘭「え···」

 

モカ「それってつまり……」

 

 

ひまり「まだ助かるの!?」

 

蒼「あぁ、幸いにもこの病院には冷凍カプセルがある」

 

酒井「先生それは無理です! あれには莫大な維持費が……」

 

蒼「維持費ぐらい俺が何とかする。これ以上あの子を苦しめるわけにはいかない。俺はもう目の前で誰かが死んでいくのは見たくない!」

 

 

酒井「……分かりました。急いで装置を起動させます」

 

蒼「あぁ、頼んだ……」

 

蘭「どれぐらい時間が掛るの?」

 

蒼「分からない。一年かもしれないし最悪もっと掛かるかもしれない」

 

つぐみ「待ちます。私達は庄司くんが帰って来るのを待ちます」

 

巴「つぐの言う通りです。どれだけ時間が掛ろうと蒼さんを信じます」

 

ひまり「蒼さんならきっと庄司君を助けてくれますよね」

 

モカ「蘭」

 

蘭「義兄さん。お願い。彼を……庄司を助けて」

 

蒼「あぁ! 必ず救って見せよう何があっても」

 

_________________

 

~美竹家~

 

 

美竹父「蘭。またお見合いの話が……」

 

蘭「断っておいて」

 

美竹父「お前もそろそろ相手を……」

 

蘭「あたしが結婚する相手は決まってる。それ以外の人と結婚する気はない」

 

美竹父「そう言ってもう7年だ。彼が帰って来る可能性は低い」

 

確かにあいつが帰ってくる可能性は低い。

 

あいつが入っている冷凍カプセルは一般人が立ち入ることが出来ない病院の奥にある。

 

それに義兄さんも中々家に帰ってこないから会話する暇もない

 

だから生きているかどうかあたし達は知らない

 

だけど、あたし達は生きていると信じている

 

 

美竹父「よく考えなさい。彼と結婚することは彼をこの家の掟に縛ることになる」

 

蘭「それは分かってる。けど、あいつにそんな重荷を背負わせない」

 

あいつには自由に生きてほしい……それを邪魔するならだれが相手でもあたしは容赦しない

 

 

 

 

Pipipi……

 

 

蘭「もしもし……」

蒼『やぁ、久しぶり♪』

 

今日の義兄さんは少し機嫌がいいみたい

 

蘭「機嫌良さそうだね。何かあったの?」

蒼『まぁ、いいことはあったかな』

 

蘭「──?」

 

蒼『ところで今日13時、羽沢珈琲店に来てくれないか? もちろん他のみんなを呼んで』

 

蘭「湊さんも?」

 

蒼『いや、呼ばなくていいよ。ってかなんでそこで友希那の名前が出るんだよ』

 

蘭「別にいいの? 恋人なのに」

 

蒼『いや、そうだけど……ってそんなことより13時にみんなと羽沢珈琲店に集合! いいな?』

 

蘭「分かった」

 

ピッ

 

_________________

 

~商店街~

 

約束の時間まで少しある。少し花屋でも覗きに行こうかな……

 

「あの……そこの人」

 

蘭「あたしですか?」

 

振り返るとフードを被り、車いすに乗っている青年がいた

 

「そう、貴女です。ここら辺に羽沢珈琲店という喫茶店があると聞いたのですが……」

 

見るからに怪しい人はそう言った

 

蘭「あそこの角を曲がってまっすぐ進めばあります」

 

「これはご丁寧にありがとうございます」

 

青年は震える手でハンドリム(タイヤの近くの持ち手)を回して進もうとする

 

どうしてか分からないけど···

 

何故か懐かしい感じがした

 

蘭「押しましょうか?」

 

「あぁ、ありがとうございます」

 

あたしは青年の車いすを押す。すると青年は──

 

「はは……」

 

蘭「どうかしましたか?」

 

「いえ、こんな風に誰かが車いすを押してくれたのが少し懐かしくて」

 

蘭「懐かしい?」

 

「えぇ、もう7年前です。当時僕はある理由で入院していたのですよ」

 

7年前……丁度あたし達がアイツと出会った時と同じ……

 

でも、この青年は7年前ってことになると恐らく小学生くらいだろう

 

「って今日、退院したばっかりですけどね……信じられないと思いますが、昔僕は声が出せなかったのです」

 

蘭「え?」

 

「声が出ない僕に優しく接してくれた人や羽沢珈琲店で働かせてくれた人。その中で僕が恋した人もいました」

 

蘭「庄司?」

 

「え? どうして僕の名前を……」

 

7年前に車いすを押してくれた、声が出せなかった。

 

羽沢珈琲店で働いていた。これらの条件が一致するのは一人しかいない……

 

蘭「覚え……てる? あたし……だよ……」

 

涙が溢れてくる。あたしが……あたし達がずっと帰って来るのを待っていた人。

 

 

 

 

──笹野庄司

 

 

 

庄司「美竹···さ···ん?」

 

蘭「待って……たよ。あんたが···帰って……来るのを……」

 

庄司「ただいま……戻りました。美竹さん」

 

蘭「生きてた……本当に……」

 

庄司「簡単に死ねませんよ。言ったじゃないですか。声が戻ったら最初に声を聞かせるって」

 

蘭「変わらないね……アンタは……」

 

庄司「まだ目が覚めて数日しか経っていませんから、そんな直ぐに変わりませんよ」

 

_________________

 

 

~羽沢珈琲店~

 

つぐみ「あ! 蘭ちゃんいらっしゃい! その人は……」

 

蘭「あとで紹介するよ。他のみんなは……」

 

ひまり「蘭~こっちこっち!」

巴「遅かったじゃないか」

 

モカ「あれ~? もしかして蘭~泣いてた?」

蘭「な、泣いてないし///」

 

「ブラックコーヒーを頼めますか?」

 

つぐみ「は、はい。分かりました」

 

つぐみさんは相変わらず元気みたいだ。

 

もちろん、他のみんなも

 

ひまり「蘭。その人誰なの?」

 

蘭「ちょっと待って。つぐみが戻ってきてから話すから。それより義兄さんは?」

 

「先生は急患で来ることが出来なくなりました」

 

巴「医者だから仕方ないよな。庄司の件といい忙しいもんな……」

 

当の本人は目の前にいるけどね……

 

モカ「しょーくん。早く帰ってこないかな~」

 

ひまり「心配だよね……あれからもう7年か……」

 

つぐみ「ブラックコーヒーです……」

 

つぐみさんは少し警戒した様子で僕の前にコーヒーカップを置いた

 

仕方ない。フードを深くかぶった人が目の前にいるから怪しく思うでしょう

 

つぐみ「みんなお待たせ」

 

巴「つぐも座ったことだし、蘭……その人誰なんだ?」

 

美竹さんを見ると軽く頷いた。

 

「みなさん久しぶりですね」

 

その言葉と同時に僕はフードを取った

 

巴「お、おまえは⁉」

 

モカ「……!」

 

つぐみ「庄司くん⁉」

 

ひまり「本当に……庄司⁉」

 

庄司「えぇ、正真正銘の笹野庄司です」

 

 

蘭「その目は……」

 

庄司「あ、これですか? あの事件でもう駄目になっていましたので、義眼を入れました。変ですか?」

 

つぐみ「そんなことないよ……片目がなくても庄司くんは庄司くんだよ」

 

巴「つぐの言う通り。どんな姿になってもお前はアタシ達の仲間だ」

 

蘭「アンタとあたし達は揺るがない絆で結ばれてる。声がなくても……目がなくてもそれは変らない」

 

ひまり「でも、どうしてその色にしたの?」

 

モカ「普通は黒とか……もう片方と同じ色にするよね?」

 

庄司「僕は井ノ島で見た景色。あの夕日の色が忘れなくて···」

 

僕の義眼は赤色……

 

あの夕日の色も赤

 

庄司「それに僕が恋をした人の髪に入れている。同じ色です」

 

蘭「──⁉///」

 

モカ「おぉ~蘭の顔が真っ赤かだ~」

 

庄司「こういうところは変ってませんね」

 

蘭「う、うるさい!」

庄司「ハハハ……僕が失ったのは目だけではありません」

 

つぐみ「え⁉」

 

テーブルから少し距離を空け、足に指をさす

 

モカ「足……」

 

庄司「そうです。足はありますが動きません。手はリハビリ中です」

 

巴「だから車いすに乗ってんだな」

 

ひまり「庄司君、実はね···」

 

 

上原さん曰く、あの事件の後

 

父が死に、冨田は無期懲役になったらしい。

 

 

 

でも、喜ばしい事に蒼さんと友希那さんが近々結婚するみたい

 

 

ー数時間後ー

 

 

庄司「さてと……」

 

つぐみ「何処か行くの?」

 

庄司「えぇ、少し町を探索に···美竹さん」

 

蘭「うん、行こう」

 

ひまり「私達も一緒に···」

 

モカ「ひーちゃん、それはやめた方がいいよ」

 

巴「だな。二人の邪魔をするわけにはいかないだろ?」

 

 

~高台~

 

 

羽沢珈琲店を後にした僕と美竹さんは高台にやって来た

 

庄司「さて、美竹さん。僕に何か隠していませんか?」

蘭「え、どうして……」

 

庄司「分かりますよ……なんとなくですが……」

蘭「なにそれ……実は……」

 

どうやら美竹さんのお見合いの話が進んでいるらしい。

 

おじさんは僕の事を考えて話を進めているみたい

 

 

蘭「ねぇ、庄司はいまでも……その……あたしの事好き? ///」

 

頬を赤くしながら美竹さんはそう問いかけた。僕の答えは──

 

庄司「昔から変わりませんよ。僕は美竹さんの事が……蘭の事が大好きです」

 

蘭「そう……///ありがとう……でもこれ以上庄司には……」

 

庄司「掟に縛られる事、僕は気にしませんよ」

 

蘭の言葉を遮り、僕の本音を言葉で伝える

 

庄司「前に体験した時からやってみたいと思っていたし、何より蘭と一緒に居ればどんな困難だって乗り越えられる」

 

失った物は数知れない……声……父……母……目、そしてこの足……

 

それとより多くのモノの僕は手に入れた。

 

僕を受け入れてくれた羽沢夫妻、信頼できる友達、僕を救ってくれた武崎さんと蒼先生

 

 

そして……僕を愛してくれた人。

 

 

この人がいれば今更なにがあっても恐れはしない

 

庄司「見てください……あの夕日を」

蘭「庄司もこの風景が気に入ったんだ」

 

蒼先生からこの高台からの景色は格別と聞いていた。それなら夕日も見えるだろうと思った

 

庄司「そういえば蘭。美人になったね」

蘭「な! 何言っての! まだ子供のくせに///」

 

庄司「身体は17のままだけど心は蘭と同じだよ」

蘭「でも、結婚できるのは18歳以上のはず」

 

庄司「それ本当ですか⁉」

蘭「ホント……」

 

迂闊だった……現代社会をもっと勉強しておくべきだった……

 

蘭「ねぇ、こっち向いて……」

庄司「え? ──⁉」

 

唐突の事で数秒間。頭が回らなかったけど……柔らかいものが唇にあたっている

 

庄司「蘭⁉な、なにを……」

 

蘭「先約。あたし以外の女に浮気したらただじゃおかないから」

 

庄司「大丈夫。僕は蘭以外に恋心を持たないよ」

 

蘭「そ、そう……///な、ならいいよ……こっちに来て」

 

ベンチに蘭が座り、膝を叩いている

 

庄司「なんですか?」

 

蘭「さ、察してよ///」

 

 

ああ……膝枕かな。車いすを蘭の横に移動させ、蘭の膝の上に頭を乗せる

 

こうして蘭の膝に頭を乗せているとあの時を思い出す…

 

あの時と違うのは、蘭が笑っている事と身体の自由が利くこと

 

 

蘭「ねぇ、庄司は今何を考えているの? あたしは7年前の事件の事を思い出していた。庄司が命がけであたしを守ってくれたこと」

 

 

庄司「僕も同じ事を思い出していたよ。あの時、僕は生きることより蘭を助けることで精一杯だった。まさかこんな日が来るとは思っていなかったよ」

 

 

蘭「あたしも…もう庄司が帰ってこないとずっと思っていた。でも、こうして同じ景色を見ることができるなんて思っていなかった。ねぇ、あの時何って言ってたの?」

 

 

蘭と向き合い、頬に手を当て誤魔化す

 

 

庄司「その言葉はいま言うには少し早いかな」

 

 




蘭編最終回、ご覧いただきありがとうございます。

次回からは最後のヒロイン。モカ編がスタートします

モカ編はどんな感じになるか執筆してないので分かりませんが、ボチボチ書いていこうと思っています



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モカ編
1話


皆さん!非常にお待たせしました。

迷走しまくっていたらいつの間にか前回の投稿から数ヶ月経っていました





ザーザー・・・ザーザー

 

今日も部屋には窓を叩く音だけが響いている

 

雨か・・・しょー君大丈夫かな…

 

この前の物音も気になるし、蘭もつぐもみんな最近調子が良くないみたいだし…

 

モカ「あたしには何もできないし…どうしたら…」

 

ぐぅぅ~

 

モカ「お腹空いたし取り敢えず、パン買いに行こう」

 

 

~山吹ベーカリー~

 

 

沙綾「いらっしゃいモカ!今日もよく降ってるね」

 

モカ「そうだね~梅雨の季節だからね」

 

沙綾「最近、庄司くん来てないけど元気にしてる?」

 

モカ「……」

 

沙綾「モカ?何かあったの?」

 

モカ「実は…」

 

あたしはしょー君とみんなの様子について沙綾に話した

 

沙綾「そうなんだ・・・だから最近Afterglowのみんなが元気ないのはそんなことがあったからなんだね」

 

モカ「うん。特につぐと蘭が少し深刻な感じかな・・・」

 

沙綾「つぐは彼の事を実の弟みたいに大切にしていたもんね」

 

つぐはしょー君の事を沙綾が言う通り実の弟のようにしょー君のこと気にかけている

 

蘭は多分・・・しょー君の事が好きなんだと思う・・・

 

 

 

pipipi・・・

 

スマホを確認すると蘭からメッセージが届いていた

 

『明日、つぐみの所に来て庄司を引きずり出すから』

 

 

_________________

 

~翌日 羽沢珈琲店~

 

巴「本当にやるんだな?蘭」

 

蘭「うん・・・このままだとアイツは苦しんだままだし、誰かがアイツを支えないと・・・」

 

蘭の言う通り、こうして話をしている間もしょー君は苦しんでいる

 

ひまり「ねぇ!本当にやるの?無理やり引っ張り出すのはちょっと・・・」

 

ひーちゃんの言う通り、無理無理しょー君に酷だと思う

 

蘭「じゃあ!どうするの⁉このままアイツを苦しんだままにするつもりなの‼」

 

蘭の気持ちはよくわかる。しょー君の心の事も心配だけど・・・多分しょー君はここ最近何も食べていない

 

そんなんじゃあ、心より先に身体に限界がきてしまうと思う

 

ひまり「――⁉」

 

つぐみ「私も最初は反対だったけど・・・もうこれしか方法はないと思う」

 

モカ「でも、どうやってしょー君をあそこから出すつもり~?」

 

蘭「あたしとつぐみでアイツの部屋に行く。そこからよく考えてないけど・・・多分、話をすればアイツは出てくると思う」

 

つぐみ「もし、無理だったら巴ちゃん」

 

巴「おう!アタシが力ずくで引きずり出せばいいんだな」

 

ひまり「わ、私とモカは?」

 

モカ「ひーちゃん、果報は寝て待てだよ・・・」

 

しょー君は多分対人恐怖症も発症している可能性がある。だから、大勢で押し入るのも良くないと思う

 

モカ「蘭」

 

蘭「なに?モカ」

 

モカ「しょー君のことよろしくね」

 

あたしは待つだけ・・・蘭達がしょー君を連れてくることを・・・

 

三人は階段を上っていく、あたしとひーちゃんはその姿を見つめていた

 

モカ「ひーちゃん。あたしたちは座って待っていようか」

 

ひまり「う、うん・・・」

 

あたしとひーちゃんはカウンター席に座って待つことにした

 

巴「た、大変だ!」

 

暫くしてからともちんが慌ててあたしたちの所に来た

 

ひまり「ど、どうしたの⁉」

 

巴「庄司が・・・」

 

モカ「しょー君が?」

 

巴「庄司が消えたんだ!!」

 

あたし達は急いでしょー君の部屋に向かった

 

 

部屋の中にはしょー君の姿はなく、破れた紙と画面が割れたスマホ

 

そして開いている窓からじめじめした空気が部屋の中漂っていた

 

 

つぐみ「庄司くん・・・どうして・・・うぅ・・・」

 

つぐは泣き崩れている

 

蘭「この手紙が机に・・・」

 

あたしはしょー君の手紙を蘭から受けとり目を通した

 

その手紙には吹込んだ雨のせいか、またはしょー君の涙か分からないけど

 

手紙には、所々濡れた跡があった

 

 

『この手紙を読んでいるってことは、僕はもうこの町にはいないでしょう。

僕はもう生きていることに疲れました。もう皆さんの迷惑にならないように消えます。サヨウナラ』

 

 

巴「なぁ・・・これからどうする?」

 

ひまり「どうするって!探すに決まってるじゃん!」

 

蘭「探すって・・・どうやって探すの?」

 

ひまり「そ、それは・・・」

 

彼を探す・・・何処にいるかもわからない彼をどうやって探すか・・・

 

あたしは唐突の事で理解が追い付かなかった

 

でも、これだけわかる

 

またあたしは何もできなかった・・・

_________________

 

~少し前 庄司部屋~

 

ああ・・・苦しい・・・息が出来ない・・・

 

胃の中から熱いものが口から出そうになるが何とか耐える

 

この場所がアイツにバレたならここに閉じこもっても・・・

 

もうつぐみさんに迷惑をかけられない

 

 

逃げよう・・・そうだ!逃げよう。ここから、この町から・・・

 

逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて

 

誰もいない所に・・・でも、何処に逃げよう。ああ、もう行き先なんてどうでもいいや

 

自分の足が持つまで歩けばいい

 

最後に手紙を残し財布と靴を身に着け、シーツを梯子代わりにして羽沢珈琲店を出て行く

 

 

おじさん、おばさんお世話になりました・・・つぐみさん、みなさん。

 

ありがとうございました。そして・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

さようなら

 



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2話

冷たい雨が体を冷やす・・・僕はもう帰れない。もう彼女たちの迷惑になるわけには・・・

 

???「あら?あなたはつぐみの所の子じゃない!」

 

黄色い傘を持った金髪の少女ともう一人の少女が僕の前に立ちはだかる

 

???「こんなところで何してんの?」

 

庄司「・・・・・・」

 

???「ねぇ!美咲。この子どうして何も話さないのかしら?」

 

美咲「確か・・・病気で声が出せなかったような?」

 

二人の会話を聞き流し、再び歩み始める

 

美咲「待って!この雨の中何処に行くの?」

 

どこってどこでもいい

 

こころ「黒服のみんな」

 

金髪の少女がそう言うと黒服の女性が僕を囲むように現れた

 

そして、リムジン?

 

大きな車に乗せられた

_________________

 

 

夢を見た。

 

もう十年以上前の出来事なのに・・・

 

あれは夏休みの出来事だったけ・・・

 

あたしは蘭達と遊んだあと家に帰る途中だった。あたしはふと・・・河川敷をみる

 

そこには河川敷で一人の男の子が座り込んでいた

 

男の子「あれ・・・何処に行ったの・・・?」

 

男の子は草むらを搔き分けながら何かを探していた

 

もか「どうしたの~?」

 

あたしはその男の子の近づいて聞いてみた

 

男の子「おとうさんと・・・おかあさんの・・・写真を落としたの・・・」

 

男の子は泣きそうになりながらそう言った

 

もか「もかちゃんも探してあげる」

 

あの時のあたしはどうしても男の子の事を放っておけなかった

 

しばらく探しても写真は見つからなかった。そして――

 

「繧キ繝ァ繝シ縺上s。こんなところで何してるの?」

 

母親らしき人物があたし達に近づいてきた

 

男の子「おかあさん・・・しゃ、しゃしんが・・・」

 

母親「うんうん・・・失くしちゃったんだね。でも大丈夫。また一緒に撮ればいいから」

 

男の子は母親に泣き着いていた

 

そして、母親はあたしの頭を撫でながらこう言った

 

母親「あなたも一緒に探してくれたのね。ありがとうね、お礼にこれあげるね」

 

あたしは男の子の母親から飴を貰った

 

母親「じゃあね。行くわよ、繧キ繝ァ繝シ縺上s」

男の子「うん・・・」

 

親子は河川敷を後にしていった。

 

_________________

 

目を覚ますと全身汗だくになっていた

 

モカ「どうして今になってこんな夢をみたんだろう・・・それにあの子は誰だったんだろう?」

 

しょーくんが行方不明になってもう3日経った

 

警察に捜索願を出そうと提案したが、しょーくんの父親の件もあって話し合った結果出さないことなった

 

でも、あたし達は探し続けた。リサさんや沙綾・・・ポピパやRoseliaにパスパレとハロハピのみんなにもしょーくんを探すのを手伝ってもらった。

 

でも、ハロハピの美咲ちんだけは・・・なにか違和感を感じた

 

 

美咲「あ、おはよう・・・青葉さん」

モカ「おはよー美咲ちん。」

 

美咲「えっと・・・探してた子見つかった?」

モカ「ううん・・・まだ」

 

美咲「そう・・・あの、青葉さん。放課後あたしの家に来てくれない?連れて行きたいところがあるから・・・」

 

モカ「?」

 

 

~放課後~

 

美咲「あ、こっちこっち」

 

放課後、バイトも練習もなかったからあたしだけ美咲ちんの所に向かった

 

モカ「美咲ちん。何処に連れて行くの?」

美咲「こころの所です」

 

 

黒服「こちらの部屋です」

美咲「ありがとうございます」

 

黒服の人はあたし達を一つの部屋の前に案内し終えるとどこかに去っていった

 

モカ「美咲ちん。この部屋は?」

美咲「青葉さん、もしもの事があるのであたしから離れないでください」

モカ「?」

 

美咲ちんが扉を開けるとしょーくんが大きなベットに眠っていた

 

モカ「しょーくん⁉」

美咲「あ、青葉さん!」

 

美咲ちんの言葉を無視しあたしはしょーくんの傍に駆け寄る

 

しょーくんは汗をかいて顔が少し赤かった

 

美咲「黙っててごめんなさい。彼をここに匿ってからしばらくの間、黒服やあたし達を拒絶してて危なかったから黙っておくことにした・・・」

 

モカ「顔が赤いけど・・・しょーくんに何かあったの?」

美咲「あたし達が出会った時、その子は傘を持ってなくて雨に濡れてたから多分風邪をひいてるだけだと思う」

 

モカ「しょーくん・・・」

 

あたしがそう呟くと、しょーくんは目をうっすら開けあたしを見つめてる

 

[髱定痩縺輔s?溘←縺?@縺ヲ縺薙%縺ォ?]

 

しょーくんはあたしに向かって何か言ったけど解らなかった

 

モカ「しょーくん・・・ねえ、美咲ちん一つお願いしてもいいかな?」

 

_________________

 

~翌週~

 

あたしとしょーくんは皆には内緒で密会をすることになった。その理由は・・・

 

モカ「ヤッホー!しょーくん元気にしてる~?」

 

扉を開けてみるとしょーくんは部屋の隅でうずくまっていた

 

モカ「大丈夫~?」

 

この状態でみんなと会ったらどうなるか分からない

 

あたしは後ろから抱き着く。冷たい・・・布団に包まっているのにしょーくんの身体はとても冷たかった

 

モカ「大丈夫・・・大丈夫だよ・・・」

 

[縺溘☆縺代※縺斐a繧薙↑縺輔>縺斐a繧薙↑縺輔>]

 

しょーくんは譫言のように口を動かしていた

 

あたしは強く…強くしょーくんを抱きしめた

 

数分後

 

しょーくんの身体の震えが収まった

 

モカ「落ち着いた?」

 

コクリ

 

冷静になったしょーくんは静かに頷いた。その次にしょーくんは空を見ていた

 

 

 



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3話

ーある日の休日ー

 

この日、あたし達はいつも通り練習を続けていた

 

そして、練習が終わりいつものように片づけをしていた時――

 

ひまり「ねぇ、この後みんなでつぐの所に行かない?」

 

庄司がいなくなってからつぐの所に行くことが少なくなっていた

 

あそこに行けばあいつがいる。そう思って足を運ぶがあいつは何処にもいない。それがとても嫌だった。だから、行くことが少なくなった

 

蘭「あたしはパス…」

モカ「ごめん~あたしもパスかな~あ、もう時間だからお先に~」

 

そういうとモカは足早にスタジオから姿を消した

 

巴「なぁ、モカについてなんだが最近すぐにいなくなるが、何か知らないか?」

つぐみ「そういえばこの前、こころちゃんのお家の近くを歩いているところを見かけたよ」

 

蘭「なにそれ。モカがあたしたちに隠し事をしているってこと?」

ひまり「たまたまなんじゃないの?」

 

巴「たまたまって言ってもな・・・最近あそこらへんにモカの気が引くものなんてあったか?」

つぐみ「わからないけど・・・取り敢えずこっそりついて行ってみない?」

 

 

______________________

 

つぐみの提案でモカの後をついて行ったけど、音楽店に寄ったり山吹ベーカリーに寄ったり・・・

 

いつもと変わらない様子だった

 

巴「なんだか・・・いつも通りの感じだな」

つぐみ「気のせいだったのかな?」

 

蘭「あ、出てきた」

ひまり「なんかいつもより多く買ってない?袋パンパンだけど・・・」

 

???「おい!そこの君たち!」

 

男の声が聞こえ、あたし達は振り返ってみるとスキンヘットに巴の身長を優に超える大男がいた

 

ひまり「わ、わたし達ですか?」

大男「そう 君たちだ。君たちはこの子を知っているかな?」

 

大男は一枚の写真を見せてきた。そこには小さな男の子と女の子が写っていた

 

つぐみ「この写真は・・・」

大男「男の子のほうを探しているのだが、何か知らないかね?名前は笹野庄司」

「「「「――⁉」」」」

 

あいつを探している。この人もしかして・・・

 

巴「し、知らないですね。なぁ?みんな」

ひまり「う、うん」

つぐみ「私も知らない」

 

大男「むぅ・・・ここも空振りか。ありがとう君たち」

 

そう言い残し、大男は去っていった

 

つぐみ「お、大きな人だったね」

巴「あぁ、2mぐらいありそうだったな」

 

蘭「あの人、庄司を探していた」

ひまり「そ、そうだよ!これって警察に知らせたほうが!」

 

巴「あぁ、それにさっきの写真。あの女の子って・・・」

 

あの写真に写っていた女の子は――

 

つぐみ「あ、いたよ!」

 

つぐみが指をさす方向をみるとモカが大きな屋敷に入っていた

 

ひまり「ここって・・・」

つぐみ「こころちゃんのお屋敷だよね?」

巴「どうしてモカがこんなところに・・・」

 

こころ「あら?蘭じゃない?それにみんなも!どうしたの?」

蘭「こころ・・・モカが屋敷に入っていったけど・・・」

 

こころ「今日も彼に会いに来ていたんだね」

蘭「彼?」

 

こころ「あれ?知らなかったのかしら?庄司がここにきて2週間ほどずっと来ているわよ」

 

つぐみ「え⁉」

巴「いまなんて・・・」

 

ここに・・・庄司が・・・いまそう言った

 

こころ「2週間ほどずっと来ているわよ」

ひまり「そうじゃなくて!庄司くんがここにいるの⁉」

 

こころ「ええ居るわよ!会いたいのならいいわよ。わたしはいまから笑顔を届けにいくから」

 

こころは足早にあたしたちの前から去っていった

 

ひまり「どうするの?」

蘭「会いに行くに決まってる」

巴「聞きたいこともいっぱいあるしな」

 

あたし達は黒服の人に付いていき中庭にたどり着いた。そこには――

 

モカ「そうそうーそこはそうして・・・おーやればできるじゃ~ん」

 

中庭にはモカと勉強をしている庄司がいた

 

つぐみ「庄司君!!」

庄司「――!」

 

つぐみの声に驚いた庄司はあたし達を見て俯いた

 

つぐみ「ずっと心配してたんだよ。どうして何も連絡してくれなかったの?」

 

巴「町のみんなが必死に探していたのだぞ」

ひまり「でも、無事でよかった!」

 

蘭「モカ。ちょっとこっちに来て」

モカ「はいはーい~」

 

あたしはモカを連れて4人から見えないところに移動した

 

蘭「モカ、どういうことなの?どうして何も話してくれなかったの?」

モカ「モカちゃんも偶然ここにいるのを――」

 

蘭「とぼけないで!」

モカ「――⁉」

 

蘭「さっき、こころから聞いた。2週間ずっと来ているって、どうして黙っていたの?」

 

モカ「蘭に隠し事はできないね~」

 

蘭「そんなにあたし達を信じられなかったの⁉あたし達を頼りなかったの⁉」

モカ「・・・」

 

つぐみ「蘭ちゃん!モカちゃん」

ひまり「二人ともやめて!」

 

巴「庄司から話は聞いた」

 

つぐみ達が庄司を連れてきた

 

『美竹さん。心配をかけました』

 

ひまり「モカは庄司君のメンタルケアをしていたの!」

モカ「しょーくんは熱を出すし、物を投げてくるしホント手間がかかったよ~」

 

『ごめんなさい』

 

モカ「そんな状態のしょーくんにみんなと合わせるわけにはいかないでしょ~」

蘭「・・・ごめん。モカ・・・」

 

巴「とにかく無事だとわかってよかった」

ひまり「私、みんなに連絡してくるね」

 

モカ「じゃあ、しょーくんの勉強の続きをしようか」

つぐみ「そういえばどうして庄司くんは勉強をしていたの?」

 

モカ「ああ、それはね。しょーくんも学校に通うことが決まったからね」

巴「ヘェーよかったじゃん」

 

蘭「ここら辺って女子高しかないけど・・・どこの学校に行くの?」

 

庄司は紙に学校名を書き始めた。そして、書き終えた紙をあたし達に見せる

 

 

『羽丘女子学園』

 

 

巴「は、羽丘!」

つぐみ「どうして羽丘なの?」

 

『数日前に羽丘女子学園の校長先生に誘いを受けました』

 

モカ「あれだよ。少子高齢化ってやつ~?生徒数が少なくなっているから試験的に編入しようと思っているみたい」

 

巴「なるほど・・・」

モカ「さてさて、そろそろ時間だから帰ろうかな~」

 

ひまり「お待たせー!みんなに伝えてきたよ。えっと・・・どういう状態?」

蘭「帰りながら話す・・・庄司帰ろう」

 

あたしの言葉を聞いた庄司は驚いていた

 

『帰っても大丈夫なのですか?』

 

つぐみ「お父さんもお母さんも、みんな庄司くんが帰ってくるのを待っているよ」

 

蘭「多少、怒られるかもしれないけど、誰もあんたを殴ったりしない」

 

ひまり「そうそう。だれもなぐ・・・あ!そういえばあの大男!」

 

巴「そうだった!なぁ、庄司。2mぐらいの大男がお前を探していたけど誰か知っているか?」

 

庄司は首を傾げて深く考えていた。しばらくすると庄司は首を横に振った

 

______________________

 

~羽沢珈琲店前~

 

つぐみ「大丈夫だよ・・・」

モカ「いつも通りの感じで入ればいいんだよ」

 

店の前まで帰ってきた庄司の手は少し震えていた

 

蘭「開けるよ」

 

あたしが店の扉を開けると――

 

中にはさっき会った大男がカウンター席に座っていた

 



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4話

 

宇田川さんから聞いた大男が僕たちの目の前、正確に言えばカウンターに座ってお義父さんと何か話している

 

そして、大男は僕たちに気が付き振り向き目を見開く。

 

大男「おお!庄司ー!」

 

大男は近づいてくる。僕と大男の目の前に美竹さんたちが間に入った

 

大男「む・・・君たちはさっきの・・・」

蘭「庄司は渡さない!」

 

美竹さん達は大男を睨むが、大男は茫然と佇む

 

大男「何か誤解しているみたいだ」

義父「まぁまぁ・・・みんな取り合えずこっちにおいで。それと庄司・・・」

 

お義父さんに名前を呼ばれビクッとした

 

義父「お帰り・・・それとすまなかった。お前のことを考えず酒に吞まれてしまった」

 

頭を下げるお義父さんすると大男はお義父さんの頭に手を置く

 

大男「お前がやったことはもう取り返せない。これからは庄司のために色々してやることだな」

 

巴「あんた何者なんだ?庄司のことを知っていたり、つぐのお父さんと親しい感じだし・・・」

 

大男「おっと!名乗り忘れていたな。俺の名前は尾上 雄二。そこにいる庄司の伯父だ」

 

雄二伯父さん。3年前に比べて凄く痩せてるような・・・

 

蘭「伯父・・・」

つぐみ「庄司君本当なの?」

 

僕は静かに頷いた

 

雄二「久しぶりだな、庄司」

 

伯父は屈み僕の髪をわしゃわしゃと撫でてきた

 

雄二「さてと、羽沢。俺はもう帰る」

義父「もう帰るのですか?」

 

雄二「あぁ、甥の顔を一目見ただけで満足だ。あぁ、言い忘れていた。あいつはもうお前を追ってこない。安心しろ。あとこれ渡しておく」

 

伯父さんから一枚の紙を渡された。紙には住所と電話番号が書かれていた

 

雄二「何かあれば連絡してきな」

 

伯父さんは店を出て行った。その後、時間も遅いため美竹さん達も帰っていった

 

伯父さんはいったい何をしに来たのだろう?

 

______________________

 

迷惑をかけた人達に謝りって、三週間が経った。僕は特別編入の形で羽丘に入学する事ができた

 

担任『みんなー静かに!多分さっき校長先生から聞いたと思うけど、我が校初めて男子高生がクラスの一員になります。じゃあ、羽沢君入ってきて!』

 

教室の扉開ける

 

教卓の前に立ちクラスを見渡すとつぐみさん達の姿を見つけた

 

担任「彼が羽沢庄司君。試験的に1年と半年しかいないけどよろしく」

 

ヒソヒソ・・・

 

クラスのみんなに向かって軽く会釈をした

 

担任「静かに!羽沢君はある事情で話せなくなっちゃて…みんな。羽沢君が何か困っていたら助けてあげてね」

 

「はーい!」

 

担任「じゃあ、席は・・・青葉さんの隣が開いているわね」

 

青葉さんの右隣の席に着いた

 

モカ「これからよろしくね~しょー君」

 

『こちらこそよろしく。青葉さん』

 

担任「じゃあ、夏休み開けて早々だけど課題を提出してね」

 

こうして僕の学園生活が始まった。1年と5か月しかいられないけどこの青春を満喫しないと

 

 

ー放課後ー

 

ひまり「庄司くん。お疲れ!どうだった?」

 

『みなさん。いい人でした』

 

蘭「いい人って、質問攻めされてしんどくなかったの?」

 

『賑やかなのはいいことです』

 

去年と比べたら楽しい時間に感じた

 

モカ「リサさん達が来るとは思わなかったねー」

 

お昼休み、みんなと屋上でご飯を食べていたら今井さんと湊さんまでやってきて、和気藹々と食事を楽しんだ

 

巴「なぁ、アタシたちはいまから練習に行くけど、庄司はどうするんだ?」

 

モカ「そういえば、しょー君はあたし達の練習しているところ見たことないよね?」

 

練習しているところは見てみていたけど・・・ちょっと疲労感が・・・

 

つぐみ「でも、庄司君は編入初日で色々あって疲れているんじゃないかな?」

 

こくり

 

巴「確かにそうかもな。じゃあ、また後でな」

モカ「じゃあね~」

 

みんなとそれぞれ別れの挨拶を済まし真っ直ぐ羽沢珈琲店に向かう

 

ふと思えば、一人でこうして昼間を歩き回ったのいつぶりだったかな?

 

いままでアイツの存在にビクつきながら街を歩いていた

 

⁇「庄司!」

 

誰かに呼ばれて振り向くと雄二伯父さんが買い物袋を両手に抱えていた

 

雄二「いま帰りか?お疲れさん。よかったら家に来るか?この近くなんだが・・・」

 

伯父さんとは3年ぶりだし、色々聞きたいことがいっぱいある

 

『5時までなら』

 

伯父「おう!わかってる。お前と二人きりで話したいことや渡したいものもあるし」

 

僕はお義父さんにメールを送信して、伯父さんの家に向かった

 

 

ー雄二宅ー

 

雄二「さぁ、上がってくれ!」

 

リビングには二人用のソファーに大型テレビ、食卓も綺麗に整頓されていた

 

雄二「まぁ、取り合えずコーヒーでも飲め」

 

伯父自ら惹いたであろうコーヒー。苦みが強い・・・香りが薄い・・・

 

雄二「さてと・・・お前に渡すものがまずはこれ・・・」

 

懐中時計・・・僕が家に置いてきた物だ

 

蓋裏には家族の写真が入っていた

 

雄二「あの野郎をぶん殴りに行ったときに回収してきた」

 

伯父は力こぶを見せつけてくる。3年前の伯父に比べるとかなり筋肉質になっていた

 

『この3年、何していたの?』

 

伯父「ちょっと自衛隊に入っていた。まぁ、小似合わず辞めちまったがな」

 

『今の仕事は?』

 

雄二「今か?近々バーテンダーとして働こうと思ってんだ。良かったらお前も来いよ」

 

『まだ未成年だよ』

 

雄二「こまけぇ事はいいんだよ」

 

全然細かくないと思うけど

 

雄二「あぁ、忘れるところだった。コイツを渡すの」

 

伯父は戸棚から二枚の五線譜を取り出した

 

五線譜に書かれていた曲は・・・

 

雄二「こいつは言わなくても分かるな?」

 

この曲はよく母さんが聴かせてくれた曲

 

雄二「俺が持っていても意味がねぇからよ。お前が持っていた方が美智子も喜ぶだろう。それとこれはおまけだ」

 

今度少し分厚い本が出てきた。題名は「初心者でも分かるピアノの引き方」

 

雄二「時間が掛かてもいいから、1回だけお前の手でこれを奏でてくれないか?」

 

これを僕が・・・

 

とにかく鍵盤の押し方はつぐみさんに・・・いや、これはこの前迷惑かけてお返しの為に秘密にしておこう

 

雄二「ふむ、やっぱりアイツみたいに美味しくないな」

 

伯父は顔を顰めた

 

『今度、お店の方にきてくれたら美味しいコーヒーを淹れるよ』

 

雄二「楽しみにしとくよ。さて、そろそろ帰さないと羽沢に怒られそうだ。特に青葉って子がな」

 

青葉さんが?どうして・・・

 

雄二「うん?どうしてって顔をしているな。忘れていても仕方ないか。お前は小さかったからな…」

 

伯父は僕の顔を見て、何かを察していた

 

雄二「あの子は…」

 

伯父が何か言いかけたがインターホンが鳴りだした

 

伯父がのぞき窓から外を見ると――

 

雄二「お迎えが来たようだ。さぁ、今日はもう帰りな」

 

伯父の家を出てみると青葉さん一人だけここに来ていた

 

モカ「しょーくん。迎えに来たよ~」

 

『青葉さんがどうしてここに』

 

モカ「雄二さんから連絡が来たからね。あたし~しょーくんのコーヒーが飲みたいな~」

 

相変わらずこの人はマイペースだなぁ~

 

『とびっきり美味しいの淹れますよ』

 

 



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5話

 

伯父から五線譜をもらってから二週間が経った。

 

僕はつぐみさん達に隠れてキーボードを弾きに来ていた

 

曲も比較的スローテンポで、指の動きにも慣れてきた。後はリズムを乱さないように…

 

ピピピピ・・・

 

休憩時間を知らせるタイマーがけたたましく鳴る

 

いいところだったのに…

 

一度フロントに戻って自販機で缶コーヒー買いソファーに座り込む

 

まりな「お疲れ様庄司くん。思い出の曲は弾けた?」

 

まりなさんが僕の隣に座り訊ねてきた。僕は首を横に振る

 

まりな「そっか・・・まぁ、練習すればいつか演奏できるよ」

 

カランカラン

 

来店を知らせるドアベルが鳴る

 

ひまり「こんにちはー!まりなさん!」

 

やってきたのは上原さんだった

 

まりな「いらっしゃい。あれ?今日ってAfterglowの予約してたっけ?」

ひまり「え!?一昨日に予約を入れていたのですけど・・・」

 

まりな「え⁉ちょっと確認するね!」

 

まりなさんは急いでカウンタ―に戻り、パソコンを操作している

 

ひまり「あれ?そういえば、庄司くんはどうしてここにいるの?」

 

えっと・・・なんて答えよう…唐突過ぎて言葉が思い浮かばない

 

蘭「ひまり?まだ時間かかりそうって・・・なんでアンタがいるの?」

巴「店にいないと思ったらこんなところに居たんだな」

 

美竹さん達もやってきた。どうしよう・・・

 

まりな「みんな!ごめん!予約入れ忘れていたみたい・・・」

ひまり「えー!!どうしよう・・・」

 

つぐみ「今日がダメなら明日にすればいいよ」

モカ「まりなさん。明日、何時ぐらい空いてますか?」

 

まりな「えっと・・・言いにくいんだけど・・・明後日まで予約が埋まってて・・・」

モカ「あちゃー・・・ひーちゃんやっちゃったね」

 

みんなが困っている。僕の予約時間はあと二時間ほどある

 

『まりなさん。僕の部屋を上原さん達に譲りたいのですが、できますか?』

 

まりな「できるけど・・・いいの?まだ二時間もあるけど・・・」

つぐみ「あれ?どうして庄司君がここにいるの?」

まりな「思い出の曲を練習しに来ていたんだよね?」

 

まりなさん・・・どうして言ってしまうのかな・・・

 

ひまり「思い出の曲?」

巴「それは後で聞こうぜ。せっかく庄司が譲ってくれたのに時間が無くなっちまう」

蘭「いいの?あんたが予約していたのに?」

 

『僕が予約したんです。どう使っても僕の自由でしょう』

 

つぐみ「そうかもしれないけど・・・」

巴「まぁまぁ、庄司がこう言っているんだし、言葉に甘えて使わもらえばいいじゃないか!」

 

みんなとスタジオに入り、自分が使っていたキーボードを部屋の隅に移動させた

 

ひまり「じゃあ、時間もあまりないし早く始めよう」

 

 

ー1時間後ー

 

♪♬♪♫~

 

モカ「ふぅ~そろそろ休憩しない?」

つぐみ「確かにちょっと休憩したほうがいいかもね」

 

巴「だな。それにアタシは気になることがあるんだが・・・」

蘭「あたしもずっと引っ掛かりことがある」

 

ひまり「私も・・・」

 

え?なに?なんでみんな僕の事を見ているの?

 

モカ「ねぇ、しょー君どんな曲弾いていたの?」

 

『昔、母が聞かせてくれた曲です。まだまだ全然弾けませんが』

 

蘭「ちょっと・・・聞いてみたいかも」

ひまり「私も!」

 

『羽沢さんに比べて僕は下手だよ』

 

つぐみ「下手でも庄司くんが引く曲聞いてみたいかな?」

巴「ほら!弾いてみなよ!」

 

宇田川さんにキーボードまで誘導された

 

腹をくくり五線譜を置きキーボードにそっと指を置く

 

♪♪♬♪♫~

 

さっきと同じように指を運ばせる。しかし、視線のせいか上手く弾けない

 

チラッとみんなの方を見ていると美竹さんと宇田川さんは腕組みをしていて、羽沢さんと上原さんはハラハラしながら見ている。

 

だけど青葉さんが微かに口を動かしているように見えた

 

曲を弾き終え、一息つく

 

ひまり「この曲・・・どこかで聞いた覚えがあるんだけど・・・」

巴「う~んどこで聞いたんだっけ?つぐは知ってるか?」

 

つぐみ「私も何処かで聞いたことあるけど・・・曲名までは・・・」

 

蘭「聞いた感じだと子守歌みたいだけど・・・モカは何か知ってる?」

 

モカ「う~ん・・・聞いたことないかな~」

ひまり「ああ!もうこんな時間!急いで片づけないと」

 

巴「もうそんな時間か。あんまり時間がなかったけど庄司が予約してくれていて助かったぜ」

モカ「ひーちゃんは今度はしっかり予約しておいて~」

 

ひまり「う~返す言葉がないです・・・」

蘭「じゃあ、あたしと庄司は予約入れてくる」

 

つぐみ「うん。掃除の方は私たちで済ませておくよ」

 

僕と美竹さんはスタジオを出て、次の予約をするためにカウンターに向かう

 

まりな「お疲れ様!どうかしたの?」

 

蘭「まりなさん。予約を入れたいのですがどの日が空いていますか?」

 

まりな「ちょっとまってね・・・あ、ちょうど明後日の5時の予約が取り消しになったからその時間帯だ空いているね」

 

蘭「じゃあ、その時間帯お願いします。あんたは?」

 

予約が埋まっているのならまた空いている日にすればいいし、急いでいるわけでもない。僕は美竹さんとまりなさんに予約をしないことを伝えた

 

まりな「OK!しっかり予約入れたからね」

蘭「ありがとうございます」

 

まりなさんに頭を下げ、スタジオに戻ろうとしていたが・・・

 

蘭「ちょっとこっちに来てくれる?」

 

僕は頷き、美竹さんの後ろに付いて行きソファーに座った

 

蘭「あんた、最近あの男の人の所に行っているけど大丈夫なの?」

 

あの男?伯父の事を言っているのだろう。確かにあの日以降たびたび伯父さんに会いに行っている

 

蘭「唯一残された親族って言うのは分かるけど・・・あの人あまりいい気がしなんだけど」

 

確かに伯父さんの見た目は怪しいけど・・・みんなそんな風に思っているのかな

 

『怪しいですがいまは頼れる身内です。心配いりません』

 

蘭「それならいいけど・・・」

ひまり「二人ともー」

 

巴「そろそろ帰ろうぜ」

 

美竹さんと会話をしていると片づけを終えたみんながスタジオから出てきた

______________________

 

つぐみ「じゃあ、みんなまた明日ね」

巴「また、学校でな。庄司」

 

羽沢珈琲店の手前の十字路でみんなそれぞれ帰路につく

 

そして僕は来た道を引き返そうとする

 

つぐみ「今日も伯父さんの所に行くんだね?遅くなるようだったら連絡入れてね」

 

つぐみさんが家に入るのを見届けて伯父さんの家に向かう・・・その途中で

 

「しょー君~」

 

何処からか声が聞こえてきた。見渡してみるが僕を呼ぶらしき人が見当たらないけど・・・脇道から手招きをする手だけが見えた。不思議に思いその方向に足を進める

 

脇道に差し掛かった瞬間腕を引っ張られた

 

声の正体・・・腕を引っ張ってきたのは青葉さんだった

 

モカ「えへへ~びっくりした?」

 

ビックリしすぎて固まってしまっていた

 

モカ「今から伯父さんの所に行くんだよね。あたしも一緒に行ってもいいかな?」

 

『伯父さんの所行っても、今日の出来事を伝えるだけですよ』

 

モカ「いいよ。ほら、早くしないと日が暮れちゃうよ」

 

青葉さんに腕を引かれたまま、伯父さん家に向かった

 

______________________

 

雄二「そうか・・・等々バレちまったか。まぁ、隠し事はあまりよくないし仕方ない」

 

僕たちの話を聞きながら、伯父さんは苦いコーヒーを注いていた

 

雄二「それでモカちゃんは演奏を聴いてどう思った?」

モカ「中々様になっていたよ。それに・・・」

 

雄二「それに?」

モカ「ううん…何でもないです~う~ん・・・このコーヒー美味しくないね~」

 

青葉さんが誤魔化すように伯父さんの淹れてくれたコーヒーの感想を述べる

 

驚いた様子の伯父さんが慌ててカップを確認する

 

雄二「おっと!俺のと間違えたようだ!すまねぇ・・・っておい!庄司!何してんだよ!」

 

試しに伯父のコーヒーを飲んでみたが、なんだろう…すごく甘い。甘すぎてじゃりじゃりしてる

 

モカ「雄二さん。もしかして甘党ですか?」

雄二「あはは・・・お、おっと!もうこんな時間だ!ささ、もう帰りなさい」

 

伯父さんは少しはにかんだが、僕たちに帰るように促してきた

 

時計を見てみるともう17時を過ぎていた

 

モカ「そうだね。そろそろ帰ろうか。しょー君」

______________________

 

青葉さんと二人夕暮れを背に歩く。もうすぐ羽沢珈琲店の近くにきた

 

モカ「いのちの名前」

 

青葉さんが足を止め振り返ると同時に言葉を漏らした

 

モカ「さっきしょー君の弾いていた曲は『いのちの名前』だよね」

 

確かに僕が引いた曲は「いのちの名前」どうして青葉さんがこの曲の名前をしているんだろう

 

『どうしてこの曲の名前を?』

 

モカ「どうしてでしょ~?それより、来月の文化祭に何しようね~」

 

青葉さんに誤魔化された。結局その後、お店の前で文化祭の話をするだけで曲の事は分からず終いだった



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6話

久々の投稿になります。仕事とかいろいろ忙しくて中々作成時間がありませんでした。


あの日から2カ月が経ったある日の教室内にて

 

「では、文化祭での出し物を決めたいと思います。どんどん発言していって下さい」

 

「お化け屋敷」

「わたあめでしょ!わたあめ」

 

今日は文化祭の出し物を決める日。各々自分が何をやりたいか提案をしている

 

僕にとっては初めての文化祭。出し物が何になってもいい気がしている

 

ひまり「男装喫茶!」

巴「おお!いいかもな・・・いや、ちょっと待てよ」

 

「それだと羽沢君はどうするの?女装でもするの?」

ひまり「いいんじゃん!それ賛成!」

 

蘭「ちょっと!ひまり!」

つぐみ「ひまりちゃん。ちょっと・・・」

 

つぐみさんが上原さんに耳打ちをする

 

ひまり「その・・・さっきの案はなしで・・・」

「えーいいじゃん!やってみようよ!」

 

他の生徒を中心に男装喫茶を賛成する声が大きくなっていく

 

-数分後-

 

「お化け屋敷、綿あめ屋、男装(女装)喫茶ほかに提案ありますか?」

 

他にも、輪投げに迷路と射的など色々な出し物が出てきた

 

僕は女装以外だったら何でもいいような気がしていた

______________________

 

時間が進み屋上でみんなと昼食を摂っていると先ほどの文化祭の話になった

 

ひまり「ごめん!庄司くん!あたし何も考えてなくて・・・」

つぐみ「もう!ひまりちゃん!前にも言ったよね!庄司君の身体はー」

 

つぐみさんがここまで激しく怒る理由は、ある日に起こった出来事がきっかけで・・・

 

その日は、羽沢珈琲店にて勉強会をやっていた時に宇田川さんがこぼした紅茶が服に掛かった。

 

その時に僕は二階に着替えに行こうとしていたが、青葉さんと美竹さんに火傷した確認の為に無理矢理に服を捲った時に腹部と腰の切り傷を見られてしまった。

 

後日、みんなで露出が少ない服を着るように話し合った。

 

今回の男装女装喫茶は露出度の高い服を着れば、クラス中のみんなや来てくれた人に傷だらけの身体を見られてしまう。 

 

折角の文化祭なのに来てくれた人の気を悪くしてしまうかもしれない

 

それ以前に恥ずかしい

 

蘭「クラス中では男装女装喫茶の賛成の声も大きいし、これはもう・・・」

巴「諦めた方がいいかもな・・・なぁ、モカ。さっきから何を調べているんだ?」

 

モカ「露出の少ないメイド服を探しているけど・・・」

蘭「普通にあるじゃん。何に悩んでるの?」

 

モカ「あるにはあるけど・・・色々迷っちゃうな~しょーくんが気に入るかな」

 

あ、僕の拒否権は無いのですか。そうですか…

 

巴「まぁまぁ・・・アタシ達が一緒に選ぶから安心しなよ」

蘭「それにまだ女装喫茶になるとは限らないし・・・」

モカ「そうだね。結論をつけるのは早すぎるかも」

 

確かに美竹さんが言う事も一理ある。まだ、女装喫茶になるって決まったわけじゃない

 

もっといい案を出せば何とかなるはず・・・

______________________

 

時間は過ぎて放課後。美竹さん達は各々用事があり直ぐに帰っていった。一人を除いて・・・

 

モカ「しょーくん?そろそろ行くよ」

 

カバンに教科書を詰め込んでいると青葉さんがいまかいまかと待っていた

 

忘れ物がないこと確認し、青葉さんに準備ができたことを伝えた

 

モカ「じゃあ行こうか」

 

行くといっても今日は何処に行くのか何も聞かされていない

 

モカ「ふんふ~ん♪♪」

 

なんだか青葉さんは気分がいいみたい

 

『どこに行くのですか?』

モカ「それは付いてからのお楽しみ~」

 

青葉さんの後ろに付いて行くとショッピングモールにたどり着いた

 

モカ「さてと、先ずは服を見に行って・・・後は文房具だね」

 

『服?誰のですか』

 

モカ「もちろん。しょーくんの服だよ。文化祭の衣装を探さないとねぇ~」

 

あ~もうこれは手遅れかっと・・・思っていると青葉さんに腕を引っ張られて服屋さんに連れていかれた

 

モカ「先ずはメイド服から」

 

それから僕は青葉さんの着せ替え人形になった。しかし、スカートにYシャツとかニットパンツにパーカー等色々と着せられた。

 

モカ「う~ん・・・全然いい服が見つからないね」

 

『今日はあまり服も置いていなかったし、仕方ないかもしれないですね』

 

1時間ほど店の中の服を着てみたが、僕に会う服は見つからなかった。

 

今日は諦めてまた後日、美竹さん達と見に行くことにした。

 

衣服店を後にした僕たちは文房具店に移動した

 

普段のコミュニケーションに授業のノート等・・・ノートの消費量が多くなっていた

 

あとペンの類も少なくなってきている。あ、白い柄にボタンが黄緑している鮮やかなペンがある

 

モカ「それって最近流行っている。蛍光ペンだね。えへへ~実はモカちゃんも持ってんだよね」

 

蛍光ペン?その割にはキャップもないし・・・すぐに乾いて使い物にならないのでは?

 

モカ「キャップがないから手が汚れないし、重ねて書いても変色しないし便利だよ」

 

青葉さんがそこまで言うなら一本試しに買ってみようかな

 

モカ「しょーくんはつぐと一緒でしっかり書いているよねー」

 

言われてみれば、高校に入ってから色々書くことが多くなったような・・・

 

昔の僕は書くことが嫌いだったのに・・・これもつぐみさんの影響かな?

 

 

モカ「あ、これは!!」

 

青葉さんの目先にはパンの形をしたペンケースがあった

 

珍しいペンケース。見たことがない

 

モカ「これはモカちゃんの為にあるはず!ちょっと買ってくるね!」

 

そう言い残すと青葉さんは足早にレジに向かった。

 

こいうところは変わらないな。

 

うん?翌々考えれば変だ。いつもの青葉さんだったら、僕の為に服を見たり文房具を見に行くことなんてしないはず・・・

 

モカ「買っちゃった。うん?そんなに見つめてどうかしたの?ふふふ・・・もしかして超絶美少女のモカちゃんに見とれちゃった?」

 

ペンケースを買ってきた青葉さんがいたずらっぽく言った。ずっとからかわれているし、少しやり返してみようかな

 

『はい。青葉さんは美人でギターも弾けてホント、才色兼備って感じですね』

 

モカ「えへへ・・・そう言われると少し照れちゃうな~///」

 

青葉さんは頬を赤くしている。あれ、してやったって・・・思ったのだけどなんだか罪悪感が・・・

 

モカ「しょーくんがそんなこと言うとは思ってなかったよ~お詫びにパンでも買ってもらおうかな~」

 

いつも通りの青葉さんだ。財布・・・持つかな・・・

 

______________________

 

モカ「はぐほぐ・・・む~やっぱり山吹ベーカリーのパンは絶品ですな~」

 

今日も昨日も青葉さんにパンを買って、僕の財布はボロボロ…

 

はぁ~バイト掛け持ちしようかな…

 

「あははー」

「僕にもふうせんちょうだい!」

 

「はいはい…順番に並んでね」

 

僕たちの目の前で、小さな子供たちがピンク色の熊から風船をもらっていた

 

あれは・・・奥沢さん?あ!

 

僕は彼女を見て妙案が思いついた。

 

モカ「しょーくんどうかしたの?」

 

『少し買い忘れがあります』



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7話

 

10月の中旬。普段の校内と違い、今日は鮮やかな飾り付けがされている

 

そんな中、僕は体育倉庫で前日に持ち込んだ衣装に身を包む

 

少し体が…特に頭が重たい気がするけど…まぁ、仕方ない

 

壁とか人にぶつかりそうになりながら教室に戻ると、皆が似たり寄ったりの執事服を着ていた

 

モカ「みんな中々似合っていますな~。あ、しょーくん。こっちにおいでよー」

 

蘭「さっき、見かけた着ぐるみ。あんただったんだ」

ひまり「でも、どうして着ぐるみなの?」

 

モカ「ひーちゃん。ここは女子高だよー」

巴「あー言われてみれば、女子高なのに男子生徒がいたら変だもんな」

 

蘭「そう考えれば、着ぐるみなら男だと分からないし、呼び込みにもいいかも…でも、なんで黄色い猫?」

 

『なんとなく』

 

本当は伯父さんが猫の頭部を勝手に作って、材料が無くなっただけ・・・

 

モカ「いい考えでしょう~それに文化祭にマスコットは必要でしょう」

 

青葉さんは何故か得意気に胸を張る。僕が考えた案なのに…

 

「はいはい!美竹さんと羽沢君は準備に取り掛かってください」

 

教室の隅にある看板を手に美竹さんと教室を出ようとするが、突っかかって出られない

 

蘭「アンタってホント手間がかかるんだから!!」

 

美竹さん達が押してくれている。入るときはスッと入れたのに――

 

巴「看板を一回下ろせば出れるんじゃねぇか?」

 

看板を下ろそうとするがつっかえてどうしようもできない

 

つぐみ「あれ?どうゆう状況なの?」

 

廊下からつぐみさんが変なものを見たような眼をしていた

______________________

 

蘭「だ、男装喫茶~!こ、コーヒーにパンケーキ・・・」

 

校内を歩き回って1時間が経った。美竹さんははにかみながら呼び込みを続けていた

 

多くの人から視線を感じるけど、特に3年生の教室前を通ると異様な感じがする

 

リサ「あ、蘭じゃん!」

蘭「リサさんに湊さん」

友希那「・・・・・・」

 

何故か、湊さんが僕の事をずっと見ている

 

蘭「湊さん?」

友希那「は、あら、美竹さん。いらっしゃい。中々似合っているわね」

 

蘭「あ、ありがとうございます・・・」

 

美竹さんを見てみると頬を赤らめて何とも言えない複雑な顔をしていた

 

リサ「この着ぐるみよくできてるじゃん!誰が入っているの?」

蘭「秘密です。リサさんの所は何をやっているのですか?」

 

リサ「あたし達のクラスはチュロスを売っているの。二人はどう?」

蘭「いただきます。あんたは?」

 

右手を上げて欲しい合図をする

 

蘭「じゃあ、二つお願いします」

リサ「まいどあり~。友希那~紙袋二つ用意して」

友希那「・・・・・・」

 

湊さんはまだ僕の方を見て呆けていた

 

リサ「友希那~」

友希那「な、なに?」

 

リサ「紙袋を二つ用意して」

友希那「わかったわ」

 

リサ「はい。二人合わせて300円ね」

 

左ポケットに入っている財布から300円を取り出し、穴が開いている目の部分か腕を伸ばそうとした

 

蘭「ここはあたしが払うから!」

リサ「み、見てないから。な、何もみていないからね」

 

何故か慌てた美竹さんが支払いを済ませて、支えられながら二人で屋上に向かった

 

蘭「ほら、ここなら人も来ないし、頭取れば」

 

頭を取り、タオルで額の汗を拭く

 

『どうしてさっきは止めたのですか?』

 

蘭「さっき目の部分から腕伸ばそうとしていたでしょう。トラウマになるからやめて・・・」

 

確かに…着ぐるみの目から腕が生えたら…うん、怖い

 

だからリサさんがすごい顔をしていたのか。

 

蘭「ねぇ、あんた。モカの事をどう思っている?」

 

『どう…とは?』

 

蘭「モカの事…好きなの?」

 

青葉さんの事は好きかどうか言われても、僕は分からない

 

人を好きになったことがないから分からない…このモヤモヤした感じはなに?

 

蘭「あんたがどう思っているのか分からないけど…後悔だけはしないように選択して」

 

後悔しない選択…

 

______________________

 

~教室内~

 

つぐみ「モカちゃん」

モカ「う~ん?なに?」

 

つぐみ「昔、家でやっていた演奏会のこと覚えている?」

モカ「うん。覚えているよ~ぼんやりだけど」

 

つぐみ「雄二さんに教えてもらったのだけど、昔は庄司くんの両親を呼んだりして賑やかだったんだって」

モカ「へぇ~でもモカちゃん的には、今の方が静かでいいけどね~」

 

つぐみ「でも、一日だけお店で演奏会してみたいね」

モカ「おお、それなら雄二さんのお店でやってみたいね~」

 

つぐみ「そうだね。あ、庄司くんも一回だけお店で演奏していたらしいよ」

モカ「知ってるよ。確かその時に弾いていた曲も・・・」

 

あたしは知っている。あの時の男の子が彼だってことも…

 

つぐみ「うん?モカちゃん?」

モカ「なんでもないよ~ねぇ、つぐはしょーくんの事どう思ってるの?」

 

つぐみ「ど、どうって…」

モカ「好きかどうかって事だよ」

 

つぐみ「庄司くんの事は…す、好きだよ…でも、私は庄司くんが幸せになってくれたら、私はそれでいいよ」

 

モカ「…つぐってるね」

 

つぐの言う通り。あたしは彼が蘭と一緒になって幸せになってくれたらそれでいい

 

あたしのこの気持ちはずっと胸の内に秘めておく



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8話

 

つぐみ「昨日より人が多いね。庄司くん。逸れないようについてきてね」

 

一日目と同じように看板を持ち、校内を歩く

 

「懐かしいね」

「何も変わってないね。あ、なにこれ可愛い!」

 

卒業生らしき二人組の女性が僕の方に向かってきた

 

「ねぇねぇ、この子と写真撮っていい?」

つぐみ「は、はい。どうぞ」

 

「へぇー男装喫茶ねー」

「丁度、喉乾いていたし行ってみようか」

 

写真を撮った後、まるで嵐みたいに二人は去っていった

 

つぐみ「すごい勢いだったね。あ、足元気を付けてね」

 

つぐみさんの手を借りながら、一階に降りて行った。

 

「羽沢先輩!」

 

一人の生徒がつぐみさんに駆け寄り何か話をしていた

 

しばらくすると――

 

つぐみ「庄司君。ごめんね。生徒会の方で少しトラブルがあって…」

 

話を詳しく聞いてみると校内放送をする子が風邪をひいていないらしい。

 

それでつぐみさんに話が回ってきた。もちろん、つぐみさんは断れない性格

 

『わかりました。気にせず行ってきてください』

 

つぐみ「直ぐに終わらせてくるからね!」

 

つぐみさんはその場から去っていった

 

「……」

 

モカ「おやおや~こんなところで何やっているのかな?」

 

店番の青葉さんが何故か僕の前に現れた。

 

モカ「うん?店はどうしたって?大丈夫だよ~ほら、しょーくん早くいこう」

 

青葉さんに腕を引っ張られ、ある教室に着いた

 

モカ「これに着替えてきて」

 

青葉さんに手には白いワイシャツにジーンズと来客用のバッチ

 

モカ「昨日はしょーくんずっと歩き回ってて、文化祭楽しめてないでしょう?今日ぐらいはいいんじゃない?」

______________________

 

モカ「じゃあ、早速行こう~まずは…あそこかな?」

 

根負けして青葉さんの後ろを付いて行った。辿り着いたのは調理実習室。ここは確か…

 

「焼き立てのパン!各種200円だよ~」

 

料理研究部が開いているパン屋だった。昨日は準備中で空いていなかったがらかかなりの人が並んでいた

 

これは時間がかかりそうだ

 

===================

 

10分ぐらいかかり、何とかパンを5種類購入することができた

 

購入したパンは湯気が上がっており、出来立てだと一目でわかった

 

モカ「いただきま~す。ハフハフ~これはなかなか…」

 

青葉さんがクロワッサンを一口頬張りながら美味しそうに食べていた

 

僕は彼女を眺めながら一口かじる。山吹ベーカリーに及ばないが、中身がふわふわしてて外側もカリッとしていた

 

モカ「あ、しょーくん。頬についてるよ」

 

彼女は僕の頬に着いたパンくずを取って口に入れ、いたずらぽく微笑む

 

モカ「次は何処に行こうかな~しょーくんはどこか行きたい所はあるかな?」

 

『アトラクション系はどうですか?』

 

モカ「う~ん・・・じゃあ、お化け屋敷に行ってみようか」

 

僕たちは2階奥の教室に向かった

 

看板にはべっとりと血糊が付いており、中々雰囲気があった

 

「お二人にはこの手紙を奥のポストに入れてきてください。では、中へどうぞ」

 

手紙を受け取り、中に入ると薄暗く不気味なほど冷たかった

 

モカ「中々、雰囲気がありますな~」

 

適当に積み上げられた机。壁には所々不気味な光にオブジェクト。そして、不穏なBGMが流れている

 

順路をゆっくり進むと足を掴まれたり、白い煙が顔に当たったりビックリ用が多々あった

 

「ひゃん!」

 

急に可愛らしい声が聞こえて振り向いてみると、青葉さんが太ももを押えていた

 

モカ「な、なんでもないよ…ほら、早くいこう」

 

何もなかったように青葉さんは奥まで進み、僕もその後ろに付いて行く

 

奥に進むと不気味な血みどろの人形の前にポストが置いていた

 

よく見てみると人形から扉手前までレールが引いている

 

モカ「これだね。よっと…」

 

青葉さんが手紙をポストに入れると”ガガガ…”っと変な音が聞こえた

 

その方向を見てみると不気味な人形の目が赤く光り動き出した

 

咄嗟に青葉さんの腕を掴み、出口に向かって走った

 

出口を出て息を整えていると――

 

モカ「最後はビックリしたな~・・・しょーくん。手が痛いよ」

 

慌てて青葉さんの手を離そうとするが・・・

 

モカ「もう少しこのまま繋いでてもいいよね・・・」

 

______________________

 

しばらくの間、青葉さんと手をつないだまま校内を見て回った。

 

そして時間は進んで17時過ぎ、文化祭も終わり他生徒たちがちらほらと帰っていた

 

その中、僕は青葉さんに誰もいない屋上に連行された

 

モカ「今日は楽しかった?」

 

屋上の扉を閉めながら、彼女はそう訊ねてきた

 

(こくり)

 

モカ「ねぇ、しょーくんは誰かに恋しているでしょう?」

 

(こくり)

 

モカ「そっか…ねぇ、あたしだけに誰か教えてくれる?」

 

僕の心は決まっていた。逃げ出したときに彼女が直ぐ駆けつけて励ましくれたこと。

 

いつもいたずらっぽく微笑む顔がとても愛おしく感じていた。

 

僕の答えは――

 

 

『ぼくは青葉さんの事が好きです。』

 

・・・・・・

 

長い沈黙が続いた。沈黙を破ったのは彼女だった

 

モカ「ねぇ…知ってる?屋上でキスをするとその二人は結ばれるって」

 

そんな話聞いたことは――

 

モカ「”そんなこと聞いたことがない”って思ったでしょう。でも、あたしたちがそのきっかけになればいいんだよ」

 

そういうと彼女は僕の方に振り向き手を伸ばす

 

モカ「こんなあたしとでも付き合ってくれる?」

 

彼女の手を取ると引き寄せられて抱き着く形になり、お互いに唇を交わす

 

一瞬、たった一瞬だけだったのに長く感じた。

 

唇を離してお互いに顔を見つめる。なんだか少し…恥ずかしい気がしてきた

 

モカ「本当は…あたしもしょーくんの事が好きだった。昔と相変わらずだね。しょうくん」

 

しょうくん。僕の事をそう呼んでくれた人が昔どこかにいた。もしかして君は――

 

モカ「ふっふっふ・・・これからはいろいろ大変かもね」

 

『どういう意味?』

 

モカ「だって…」

 

そう言うと青葉さんが屋上の扉を開けると美竹さん達がなだれ込んできた

 

巴「いててっ…みんな大丈夫か?」

蘭「ひまりが押すから・・・」

 

ひまり「蘭だって押してきたじゃん」

つぐみ「えっと・・・モカちゃん。庄司くん。ごめんね」

 

僕たちの告白はみんなに見られてみたい

 

つぐみ「モカちゃん。庄司くん。おめでとう。二人ともいま幸せ?」

モカ「うん。幸せだよ。ねぇ、しょうくん」

 

青葉さんと同じく僕は幸せだ

 

巴「二人ともおめでとう。これからつぐの家でパーティー開こうって話していたが・・・」

蘭「もちろん。来るよね?」

 

モカ「もちろん行くよ。ねぇ、しょうくん」

 

彼女が手を指し伸ばす。僕はその手を取り屋上を後にした

 

 



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