二度目の人生をリリカルで (D,J)
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プロローグ「クソみたいなこの人生」

 「つまり俺は、あんたのミスで死んでしまった、と?」

 「せやで」

 

 突然だが、彼「高尾拓海(たかお・たくみ)」の30年に渡る人生は、壮絶な形で幕を下ろした。

 

 重い肥満体の身体を引きずっての仕事帰り。

 今月発売のピ○ッツを買おうと街の本屋に向かっていたその時。

 

 偶然、地元を勢力圏に置く二組の暴力団………つまりはヤクザの抗争が、あろう事かその街中で勃発。

 銃弾と罵声が飛び交い、双方のヤクザが放った数十発の銃弾の軌道上に運悪く逃げ遅れた自分がいて………という事だ。

 

 だが、これは本来彼が辿るべき運命では無かった。

 何故そんな事が解るかって?

 

 ………目の前に、いるからだ。

 ちゃぶ台を挟んで向こう側に、どこぞの幻惑宇宙人がごとく。

 拓海にこんな理不尽な運命を課せて「しまった」、張本人の姿が。

 

 「人間かてミスはするやろ?神様も同じなんや、やから許してください!何でもしますから!」

 「………何でもするとは言ってない」

 「おお、解っとるやんけ」

 

 この、妙に馴れ馴れしい関西弁で喋る、鳥と人間を混ぜ合わせたような全裸の男。

 彡(゚)(゚)という顔文字で表す事ができる、つまる所の某やきうの兄ちゃんのような姿をしたこの男は、信じられない事だが神様である。

 

 なんでも、この神様が魂の管理を酒を飲みながら適当に行った結果、本来拓海の辿るべきではなかった運命に、拓海を放り込んでしまったらしい。

 なんという理由だ。

 おまけに、笑い話をするようなこの態度。

 全くもって度しがたい。

 

 が、不思議と拓海は怒りを感じる事は無かった。

 現実味が無さすぎて死んだ実感が持てなかったというのもあるが、神様というのはそんな物だろうと、なんとなく思っていたからだ。

 

 「さて、こっからが本題や」

 「本題、何の?」

 「知っての通りニキはワイ将のミスで死んだ、せやからお詫びとして好きな世界に転生させたるわ」

 

 なんとも、テンプレート通りの展開である。

 それがファンタジー異世界か人気のアニメかは解らないが、仕事の合間に呼んだネット小説から、拓海には大体の予想はついていた。

 

 ………そして、たまにいる「ひねくれもの」が、楽園と称して地獄に転生者を叩き込む作品もちらほらあった事も。

 

 「転生って、どんな世界に?」

 「ニキの望む世界や、望むなら英雄にもなれるで」

 「なれると称して地獄に叩き込んだりしない?」

 「するかいや!そんなんしたらお詫びにならんやろ!………まあニキがそれを望むなら話は別やけど」

 「ヒロインが自我に目覚めたと称して俺を殺しに来たりしない?」

 「ニキはそうなりたいんか?」

 「いや全然」

 「じゃあそうはならん」

 「転生した瞬間俺調子のってめっちゃ性格悪くなったりしない?」

 「それはニキ次第や、そこまではワイ将の管轄とちゃう」

 

 ………どうやら、ここの作者は欲望に忠実らしいと、拓海は安堵した。

 だが。

 

 「………このまま成仏って出来ますかね?」

 「おん?」

 

 改めて拓海の出した質問に、神様は怪訝な顔を浮かべた。

 

 「まあ出来ひん事もないけど………ええの?折角転生してウハウハ出来るチャンスなのに」

 「えっと、そういうのはもう学生時代に卒業したっていうか………あはは」

 

 もし、色々と盛んな中学生時代だったなら、喜んで好きなアニメの世界に飛び込み、剣を片手に大活躍する展開を夢想したであろう。

 だが、それを楽しむには拓海はもう歳を取りすぎている。

 カッコいい決め台詞も、こっ恥ずかしくて言える自信がない。

 それに、自分が主人公をやれるタマではないのは、折られた自尊心と共に身に染みて理解している。

 

 だから拓海は、他の死者と同じくちゃんと成仏し、その上で次の生を始める………はずだった。

 

 「………年齢の問題とちゃうで」

 「うぇっ!?」

 

 気がついたら、眼前に神様が居た。

 何故かどの角度から見ても変わらない二つの飛び出た目で、拓海の目を覗きながら。

 

 「ほんまに、このまま成仏でええんか?」

 「は、はい………?」

 「今の………じゃなかった、前回の人生が満足のいくもので、未練は無いか?って聞いとるねん」

 

 そう、問い詰めるように話す神様の声を聞いていると、拓海の頭の中に、これまで過ごした高尾拓海としての人生の記憶が、ふつふつと甦ってきた。

 

 

 ………大人しく絵を描くのが好きだったばかりに、クラスメートの悪ガキ共に目をつけられて、描いた絵をビリビリに破られて大泣きした小学生時代。

 泣きべそをかいていると「男が泣くな!」と父親に殴られ、無理矢理泣き止まさせられたのを覚えている。

 

 ………本格的に虐めが始まり、毎日憂鬱だった中学生時代。

 ゴミを投げつけられ、毎日殴られ煽られて恐怖を味わったのを覚えている。

 学校側や両親に相談したら「いじめられる方にも原因がある」というトンデモ論が帰ってきた。

 実はこの時初恋もしたのだが、その時送ったラブレターは黒板に張り出され、晒し者にされた。

 相手は拓海に好意を持たれていた事に対して泣き出してしまい、拓海は「彼女を泣かせた罰」として、虐めの主犯のヤンキーに顔が変形するまで殴られ、前歯を折られた。

 相手はその三日後、虐めの主犯とキスしていた所を目撃されたらしい。

 

 ………ようやく地元から離れられたと思ったら、前と同じような輩ばかり集まってきてまたも地獄を見た高校時代。

 輩から逃げる為に運動部に入らなかった自分に「そんなんじゃ青春出来ないぞ!」とガハハと笑った父親に、初めて明確な殺意と失望を感じたのもこの時だ。

 

 ………大学進学を「お前はバカだから無理」と言って断念させ、半ば誘導尋問同然に、両親に介護の専門学校に入れられた専門学校時代。

 毎日が楽しくなかったが、留年など許されないので、いつも恐怖を感じながらつまらない授業にしがみついた。

 夢のキャンパスライフ?あるわけないじゃん。

 ちなみに、二歳下の妹は都会の大学に進学させてもらいました。

 

 ………無事専門学校は出たが、県内に技術を活かせる仕事はなく、なんとか市内の中小企業に就職した卒業後。

 しかしそこは苛烈なブラック企業。

 激務に苦しみ、とうとう身体を壊して辞めた自分に父親は、一枚の紙を手渡して「自分の何がいけなかったかを書いてまとめろ」と言い放った。

 父親への失望は、これが二回目だった。 

 

 ………県外に条件のいい仕事が見つかり、面接も合格し、今度こそ新しい人生の幕開けだ!

 と思った直前、両親が倒れて介護をやらされる羽目になった現在。

 当然、その仕事は辞退して、地元でスーパーのレジ打ちをしながら両親の尻を拭いている。

 介護を雇う金などなく、長くも働けないので、給料の殆んどを介護に使う費用に取られながら、貧しい生活を続けている。

 

 自分の青春を踏みつけにした輩達は、拓海が苦しんでいる間に恋愛し、結婚し、家庭を持って幸せに。

 最後まで味方になってくれなかった両親は、すっかりボケて拓海にした事を忘れて、ニタニタと笑いながら糞尿を垂れ流している。

 妹?拓海に介護を押し付けて逃げました。

 

 当の拓海はどうか?

 安月給と介護の二重苦で、趣味も持てず、将来の不安に怯えながら、無味無臭の日々を無心で過ごす毎日。

 当然、結婚所か恋人なんて持てる余裕も無ければ持つ事も出来ないので、日々の合間にピザ○ツのエロマンガで自慰にふける日々。

 

 そして最後は、ヤクザの抗争に巻き込まれて死亡。

 

 果たして、これが満足のいく人生と言えるのだろうか。

 これで、悔いはないので成仏しますと胸を張って言えるのか。

 

 「………いや、よく考えたらクソむかつく」

 

 答えはNOだ。

 拓海には自分の顔は見えなかったが、眼前の神様の若干引いた様子から見るに、酷い怒りの形相を浮かべている事は解った。

 きっと、どこぞのとびっきりのクソ四コマの丸い方のような。

 

 「神様ッ!!」

 

 ならばもう、拓海に迷いはない。

 イチオシの特撮ヒーローの真似をして、ここに宣言する。

 

 「転生一つ、頼みます!」

 「おっしゃ!それでこそ男や!」

 

 神様も、それに答えた。

 瞬間、辺りを目映い光が包む。

 意識と肉体が光の中に飲まれてゆく感覚を味わい、拓海の意識は、そこで一旦途切れた………。



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第1章「ああ幸せなニューライフ?」
第1話


 さて、そんなこんなで神様の力による転生を果たしてから、9年の月日が流れた。

 

 今日もまた、朝が来た。

 前世とは違う、希望の朝が。

 

 「はぁ………すっきり」

 

 現在の肉体になってから早9年は経つが、それでも前世で染み付いた寝ても取れない疲れと眠気を知っていると、この目覚めの良さはたまらない。

 

 「あぁた~らし~い朝が来た~………っと」

 

 すっかり上機嫌になり、朝食を食べに向かう。

 誰もいないリビングはがらんとしていたが、特に寂しいとかの感情は沸かない。

 逆に、気を使う必要がないので気楽でもある。

 

 今日の朝食は、マヨネーズを塗ったトーストとココアだ。

 これ位パパッと食べられて尚且つ味が濃い物が、目覚めには丁度いい。

 

 朝食を終えれば次は洗顔だ。

 食器を片付けた後、洗面台に向かう。

 子供用歯ブラシで歯を磨き、うがいの後に顔を水で洗う。

 

 ふと、鏡に自分の顔が写った。

 

 当然だが、そこに見慣れた醜い自分の顔はない。

 だが、そこに写る顔は間違いなく自分のそれである。

 幼少時代の自分………まだ回りから可愛い可愛いと言われていた時代の自分の面影が、それを思わせるのだ。

 運動不足といじめのストレスを由来とする過食で醜く太らなければ、こうなっていただろうなと思わせる。

 

 まさに、自分の「IF」の姿と言えるだろう。

 

 「………ま、完全な他人だと色々混乱するからな」

 

 朝の一連のルーティーンを終えた、9歳の高尾拓海は、着替えを終え、学校へと向かった………。

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 転生と聞くと、自分の魂を持ったまったく別の人物になる事を想像するだろう。

 だが、拓海の経験したそれは、少し違っていた。

 

 別人ではなく、パラレルワールドの自分と入れ替わったと言えば解るだろう。

 名前から血液型に至るまで同じなのに、テレビのニュース等で見る現代世間が自分の知っているそれと微妙に異なるのだ。

 

 ちなみに、今の拓海は9歳ながら独り暮らしをしている。

 と、いうのも、彼の両親は拓海が小さい頃に交通事故で死んでいるのだ。

 

 ………この世界線における両親、つまり前世の両親の「平行世界の同一人物」がどのような存在だったかは、はっきり言って覚えておらず、確認しようにも知人に話を聞く以外では確かめようがない。

 が、前世の両親が自分にしてきた数々の所業を考えると「ざまあみろ」と黒い感情が沸き出してくるのも、また事実。

 

 とはいえ、仮にも9歳の子供を普通に独り暮らしさせる訳にもいかないので、ある協力者が、拓海の生活をサポートしてくれている。

 

 その協力者については後で話すとして、拓海はバスに乗って、目的の学校へとやってきた。

 無論、9歳の拓海が通うので、そこは小学校である。

 

 校門の前に立つと、自分達と同じような学校指定の白い制服を来た少年少女達が、互いに挨拶をしている姿が見える。

 そして、校門に刻まれたこの学校の名は。

 

 私立聖祥大付属小学校。

 

 拓海は、この小学校の名前に見覚えがあった。

 何よりも、今自分が着ている制服にも見覚えがあった。

 もっと言うと、今自分が住んでいるこの町も、この学校における「ある生徒三人」についても、前世の頃から知っていた。

 

 「(………ここ、リリカルなのはの世界だよなぁ)」

 

 ここは、海鳴市。

 前世の拓海にとっては、この町の全てがフィクションの存在だった。

 

 だが、二度目の人生をここで過ごす事になった拓海からすれば、既にこれは自分にとっての現実、つまりリアル。

 

 拓海は、転生したら「魔法少女リリカルなのは」の世界に来ていたのである。

 

 

 

 

 ………さて、聡明な読者諸君にとっては、もう説明するだけ野暮かも知れない。

 が、運悪くこの駄文で転生物に初めて触れる事となってしまった皆様の為に、「リリカルなのは」が何なのかを解説しようと思う。

 

 魔法少女リリカルなのは。

 

 それは、PC恋愛ゲームの「とらいあんぐるハート」を原作とする、スピンオフ作品。

 本来スピンオフでしかなかったそれは、絶大な人気を獲得し、何度もシリーズが作られ、ついには映画にもなった。

 

 ストーリーは、ざっくりと言うとこんな感じだ。

 

 主人公の少女「高町なのは」が、魔法(と言ってもかなりSF味が強いが)の世界からやってきた、フェレットに変身する「ユーノ・スクライア」少年を助けた事で魔法の力を授かり、次元(平行世界のような物)を股にかけた事件に巻き込まれて行く。

 

 という、魔法少女物の定番のような物。

 

 従来の魔法少女物と比べて、ガンダム等のロボットアニメに例えられるやけにメカニカルでSFチックな魔法の描写や、

 少年漫画を思わせる熱い展開等から、それまでの魔法少女物の概念を覆す程の人気を博した。

 

 ………もっとも、一部ファン層の素行の悪さや、シリーズが進むに連れて設定の粗さやご都合主義が目立ってくる等、

 手放しで誉められる作品という訳でもないのだが。

 

 

 

 

 

 拓海も、最初は何かの偶然で似たような名前の地名なだけだと思っていた。

 が、調べれば調べる程、ここがリリカルなのはの世界だとしか思えなくなった。

 キャラクターの一人である「八神はやて」が入院していた「海鳴大学病院」も、

 作中で何度か出てきた「海鳴臨海公園」も、

 なのはの実家である喫茶店「翠屋」も、拓海の目の前に実在していた。

 

 何より、拓海は原作キャラの何人かを、その目で見ている。

 その全てが、劇中と同じ声、同じ仕草を発しているのだ。

 ここまで見てしまえば、もう信じるしかない。

 

 ただ、上記のユーノと、後に物語に関わってくる「フェイト・テスタロッサ」や「ヴォルケンリッター」等の人物の姿は見ていない。

 なのはと、その周りにいる数名の人物だけだ。

 

 おそらく「本編」が始まるより少し前の時代なのだろう。

 そんな事を考えながら歩いていると。

 

 「おはよ!拓海!」

 「あっ」

 

 不意に声をかけてきたのは、金髪の少女。

 拓海は、彼女を知っている。

 「アリサ・バニングス」。

 リリカルなのはにおいて、なのはの学校での友達。

 実家はお金持ちで、いわゆるお嬢様というやつだ。

 

 ………そして、なのは共々「とらいあんぐるハート」にも登場しているのだが、そのあまりにもエグい出生については、今は伏せておく。

 

 声優がツンデレキャラで有名な事や、作中での強気な性格から、よくツンデレとして扱われる。

 が、実際関わってみるとそうでもない。

 拓海のような庶民にも、分け隔てなく接してくれる優しい性格だ。

 

 ………まあ、拓海が「そういう対象」として見られていないだけでもあるだろうが。

 そもそも、ゲームの趣味で少し親しいだけである。 

 

 「じゃあ、またね」

 「うん、また」

 

 教室の近くで、拓海とアリサは別れる。

 通う教室が別の為だ。

 

 見れば、アリサが歩いて行った先で、二人の少女と話している。

 一人は、彼女の友人で紫の髪をした「月村すずか」。

 そして、もう一人は。

 

 「………主役と同じ学校に通ってるなんて、びっくりだよなぁ」

 

 茶色い髪をツインテールにした、ぱっちりした紫の瞳の少女。

 この、魔法少女リリカルなのはにおいて、主人公の位置にいる少女・高町なのはである。

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 本編中語られる事はないが、聖祥大はいわゆるエリート学校であり、通える子供も限られている。

 なのはのような庶民も少なくないが、基本的に中心になるのは、アリサやすずかと言ったお嬢様や、お坊っちゃま。

 

 拓海も、入学の際は色々苦労した。

 小学校なのに、受験や面接があるのかと、驚いた事もある。

 が、学費を払うと言ってくれた「協力者」の為にもと努力したし、何より前世の仮にも30年生きた知識の詰まった脳は、受験にも面接にも役立った。

 

 そして今、拓海は二度目となる小学三年生時代を過ごしている。

 エリート学校なだけはあり、先生の授業は分かりやすく、そして楽しい。

 

 親に怒鳴られながら分数を解いていた前世の小学生時代を思い出すと、まるで天国である。

 

 先生が、歴史についての授業を進めている傍ら、拓海はふと、考え事をしていた。

 

 

 ………ここが、リリカルなのはの世界。

 これから近い将来、アニメ本編のような事件が起きる事は解っていた。

 

 が、9年暮らしていて解った事がもう一つある。

 ここは、拓海の知っている「リリカルなのは」と比べると、かなり違うという事だ。

 

 まず、年表を調べていて驚いた。

 

 20世紀の終わりかけた1999年。

 アメリカはマンハッタンに「カマキラス」と呼ばれるカマキリのような巨大生物が現れた。

 カマキラスは摩天楼をいくつも切り裂き、最後は米軍のバスターアンカーを三発浴び、ようやく倒された。

 

 2002年には、パリの地中から「マグラー」と呼ばれる巨大生物が出現。

 凱旋門を破壊した後に行方を眩ませ、今も行方は明らかになっていない。

 

 同年、パプアニューギニアからは「バルゴン」という冷凍ガスを吐く巨大生物が出現。

 ニューギニアに雪を降らせる程の寒波を呼び、最後は水が弱点である事が判明し、軍により海に誘い込まれて倒された。

 

 確かに、リリカルなのはには希に魔導生物に代表されるような、巨大怪獣のような敵が現れる。

 が、この三体はリリカルなのはの世界観に登場する生物ではない。

 

 カマキラスは「ゴジラ」の。

 マグラーは「ウルトラマン」の。

 バルゴンは「ガメラ」の。

 いずれも実写特撮作品に登場する怪獣である。

 無論、これらの作品はリリカルなのはとはコラボしておらず、劇中には登場しない。

 

 それだけでなく、テレビの中や、町を歩いていても、リリカルなのはにもとらいあんぐるハートにも登場しない人物を見かける事がある。

 

 この間は「えみ屋」という個人経営の飲食店を見つけ、もしやと思って中を覗いてみると「Fate/stay night」の主人公「衛宮士郎」が厨房でせっせと料理を作っていた。

 そして何より、自分と一番近くにいる「協力者」も、その一人である。

 

 確かに、ここはリリカルなのはの世界である。

 が、「純粋なリリカルなのはの世界」というワケではなさそうだ。

 

 リリカルなのはをベースに、いくつかの作品の人物・生物を放り込んだ世界。

 幸い、今のところ世界の危機のような事は起きていないし、原作通りの超人のような力を持っているような人物も見ていない。

 巨大怪獣だって、出現も散発的であり、基本的に現れるのは海外だけだ。

 

 だが、この状況はまるで。

 

 「闇鍋、か………」

 

 拓海には、こう言い表す他なかった。

 

 今のところは何も起きていないが、この先もそうとは言い切れない。

 せめて、自分が死ぬまでは平和であって欲しい。

 そう願いながら、拓海は先生の授業内容をノートに書き綴るのであった。



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第2話

 学校が終わった。

 キーン、コーン、カーン、コーンとチャイムが鳴り、生徒達に下校を呼び掛けている。

 クラブ活動をする生徒は残ったが、そうでない者は素直に下校している。

 

 「じゃ、また明日」

 「じゃあね」

 

 拓海は、下校する側だ。

 学校の友人達に手を振り、下校ルートを歩く。

 登校の時のようにバスに乗り、自宅の近くまできた。

 

 バスから降り、自宅まで徒歩で帰ろうとする。

 すると。

 

 「おかえりなさい、たっくん」

 

 外だというのに飛んで来た、おかえりの挨拶。

 自分をあだ名である「たっくん」と呼ぶのは、拓海の知る限りでは一人しかいない。

 それは、現時点では拓海にとって唯一の「家族」と呼べる人物。

 それは。

 

 「あっ、言姉ぇ!」

 「ふふふっ、途中まで一緒に帰りましょうね」

 

 彼女は「桂言葉(かつら・ことのは)」。

 近所に住んでるお姉さんで、「私立聖祥大学付属高校」に通う女子高生。

 独り暮らしをしている拓海の世話をよく焼いてくれている。

 

 そして………拓海が独り暮らしできるよう手を回してくれた「協力者」。

 そう、彼女は本来リリカルなのはの世界には居ない人物なのだ。

 

 本来の彼女が登場するのは「School Days」というアダルトゲーム。

 及びそのメディアミックス作品。

 

 彼女は、攻略対象であるヒロインの一人として登場した。

 ………のだが、彼女が劇中で歩んだ道は、恋愛ゲームのヒロインが歩むには過酷すぎるものだった。

 

 主人公と付き合い始めるも友人に横取りされるわ。

 自分に横恋幕していた相手に無理やり犯されるわ。

 ほぼ全てのクラスの女子からイジメを受けるわ。

 と、ここまで踏んだり蹴ったりという言葉が似合うヒロインも居ないんじゃないかと言う程、散々な扱いを受けている。

 

 その最後も、飛び降り自殺するわ、主人公の生首を持って海に消えるわと、悲惨な結末が多い。

 

 よくファンからは「ヤンデレ」の代表格のように扱われている。

 が、そもそも彼女が病んだのは愛ゆえにではなく、上記の生き地獄からなので、厳密にはヤンデレではないという説も出ている。

 

 その証拠に、上記のような生き地獄を経験していない彼女は、病んでいるような雰囲気はない。

 拓海からすれば、優しく接してくれる頼れるお姉さんである。

 

 そして。

 

 「(………やっぱでかいなぁ)」

 

 彼女のバストは、とてもとても豊満であった。

 胸、というよりは乳。

 巨乳、爆乳、ロケットおっぱい。

 そんな言葉が似合う程に。

 

 言葉は、原典においてはバスト102cmのJカップという、作中トップクラスの巨乳の持ち主である。

 聖祥高指定のブラウスを着ているものの、歩く度に「ゆさっ」と揺れる様が見て取れた。

 

 しかも、それでいて可愛いのだ。

 元がエロゲのキャラクターである事を差し置いても、性格も優しくて一途で、黒髪ロングに白い肌と、男の好む美少女の要素をふんだんに盛り込んでいる。

 

 こんな美少女が自分の世話を見てくれていると考えると、拓海は何度も飛び上がって喜びたくなった。

 

 と、同時に、こんな事も考えていた。

 ………おそらく、原典でのイジメの原因となったのは、彼女の美貌への嫉妬だろう。

 インタビューか何かで「現実を参考にしている」と監督だか脚本家だかが語っていた為に、あり得ない話ではない。

 当時のオタクの価値観から見た「リアルな学校」という、バイアスのかかった物である事は、頭の片隅に置いておくべきだろうが。

 

 二次元のキャラクターが現実で生きていけるかどうか。

 School Daysという作品は、当時基準でのそのシミュレートとしての一面もあったのかも知れない。

 

 「んっ?どうかしましたか?」

 

 そんな事を思いながら言葉を見ていたら、どうやら気づかれたようだ。

 

 「なっ、なんでもないっ」

 

 いくら9歳とはいえ、中身は30歳の童貞おっさんだ。

 美少女を見つめていた事が気付かれるという事には、本能的に危機感を覚える。

 故に拓海は、そう言って誤魔化した。

 

 「ふふっ、そうですか………」

 

 だが言葉には、それが小学生特有の照れ隠しに見えたらしく、優しく微笑むのであった。

 

 

 

 

 

 言葉が作ってくれた晩御飯を食べた後、学校で出された宿題を終え、拓海は風呂に入り、一日の疲れを癒した。

 何年も一緒に居てようやく気付いたが、原典と違い言葉が芋料理以外も作れるようになった事には、驚きを隠せない。

 

 「………幸せだなぁ」

 

 夜のルーティーンを終えて、拓海はパジャマ姿でベッドに横になる。

 寝る前には、いつも自分がいかに幸せかを噛み締めているのだ。

 

 思えば、拓海は転生させられる歳に、はっきりと「リリカルなのはの世界に行きたい」と願ってはいない。

 ただ「幸せに生きていける世界に行きたい」と、なんとなく考えていただけだ。

 

 それで、リリカルなのはの世界に転生したのは何故か?と考えていたが、今なら理解できる。

 

 リリカルなのはの登場キャラクターは、それこそStrikerSに登場したスカ博士のような大悪党でない限りは、善人ばかりである。

 

 どうやらそれは、モブキャラクターにも適応されるらしい。

 

 学校で前世のように絵を描く事が多い拓海だが、前世の小学生時代のように「ウェイウェイウェーーイwww」とウザ絡みをしてくる奴はいない。

 絵を取り上げて破るような奴もいない。

 露骨な悪意で自分を傷つけようとする奴にも、今のところ出会っていない。

 

 イジメという概念事態が存在しないのでは?と言いたくなるようなホワイトっぷり。

 それ所か、アリサのように親しく接してくれる美少女もいて、言葉のような優しいお姉さんが面倒を見てくれる。

 

 前世とは雲泥の差所か、比べ物にならないような幸せっぷりだ。

 

 拓海は、頑張れば頑張った分だけ幸せになれる的な精神論は信じていない。

 が、今こんな幸せを噛み締めていられると思うと、30年にも渡る地獄のような前世も、無駄では無かったと思える。

 

 ………まあ、この転生は「間違って死なせてしまった事へのお詫び」であり、前世の事はあまり関係ないのだが。

 

 とはいえ、ここまで自分に加害のない社会なら、前世と違う人生は歩めそうだ。

 少なくとも、病んだ子供部屋おじさんにはならずに済む。

 

 「明日も、いい一日だといいな………」

 

 明日もきっと、変わらない暖かい一日になるのだろう。

 そう考えながら、拓海は瞼を閉じ、夢の世界へと旅立った。

 

 ………その願いと平穏が、明日いきなり破られるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、学校にて。

 言葉が作ってくれたお弁当を食べ終えた拓海は、残りの昼休みを屋上で過ごそうと歩いていた。

 

 現実とアニメの違いとしてよく出される「生徒に解放された学校の屋上」だが、

 そういえば今まで行ってなかったなと思い立ち、向かってみる事にしたのだ。

 

 その、道中にて。

 

 「おやっ?」

 

 廊下に、人だかりが出来ていた。

 何だろうと思い見てみると、そこには拓海の見知った顔が。

 心配そうに見つめるすずかと、アリサ。

 風邪で休んでいるらしい、なのはの姿は見当たらない。

 

 そして。

 

 「てめぇ!何様のつもりだっ!」

 

 茶髪の、活発そうな少年。

 名を「佐藤セント」。

 アリサ共々拓海のゲーム友達で、この三人にすずかを加えて、よくゲームの話題で盛り上がっている。

 海鳴のサッカーチームに所属しているらしい。

 

 そんなセントと相対しているのは。

 

 「言った通りだが?雑種、お前が近くにいると俺の嫁達が汚れる、汚ならしい者は汚ならしい者らしくしていたらどうだ?」

 

 この、明らかに鼻につくような態度の少年。

 窓から差し込む太陽光を反射してキラキラ光る銀の髪に、左右で色の違う瞳………オッドアイ。

 美形に分類されるのだろうが、どことなく嫌な雰囲気というか、昔の学園ドラマの恋敵や、平成仮面ライダーの初期の作品に出てくる嫌な奴のような雰囲気を感じさせる。

 

 なのはを初めとするリリカルなのは世界の子供は、年齢の割に大人びた考えをするパターンが多い。

 が、それを考慮しても、不自然に大人っぽいというか、子供の身体に大人の精神が入っているような、不自然さを感じる。

 

 ………まあ、それに関しては拓海も人の事は言えないが。

 

 拓海も5年間この学校に通ってはいるものの、あのような生徒は見た事がない。

 転校生だろうか。

 

 「何だよ嫁って!マセてんじゃねーよ!」

 「フンッ、頭がガキの雑種には解らんか」

 「んだとォ………?!」

 「文句があるならかかってきたらどうだ?雑種」

 

 気がつくと、セントとオッドアイ男子の空気が徐々にピリピリしてきた。

 オッドアイ男子の挑発で、セントの怒りが煽られているのだ。

 

 周りの生徒も「どうする?」「誰か先生呼びに行ってよ」とザワザワと騒ぎ立てていた。

 辺りを、険悪なムードが支配していた。

 そして。

 

 「だったらお望み通りにしてやるよ!!」

 

 セントの拳が、怒りと共に飛び。

 

 「ははっ!来い!」

 

 オッドアイ男子の蹴りが、嘲笑と共に飛んだ。

 

 そして、拓海は。

 

 「っ………!」

 

 ………前世なら、見て見ぬフリをして逃げていただろう。

 当然だ、喧嘩には関わらないのが、雑魚として生きてゆく中で身につけた常識であり、自衛手段だ。

 

 けれども、拓海は「あれを止めなければ」と、駆け出していた。

 それが、何故か。

 

 9年に渡る暖かい生活のせいで、調子に乗っていたのか。

 子供の喧嘩なら、すぐ止められると見くびっていたのか。

 前世で受けたイジメのトラウマが、暴力という行為事態に対する忌諱感情を呼び覚ましての結果か。

 

 何が原因だったかは解らないが、駆け出した拓海は両者の間を塞ぐように飛び込み。

 

 ………ボグシャア

 

 セントの拳を顔面に。

 オッドアイ男子の蹴りを背中に。

 それぞれ、直撃を食らってしまった。

 

 「げっ?!」

 「………フンッ」

 

 意図せず親友を殴ってしまった事に、驚きと罪悪感の混ざった表情を浮かべるセント。

 対するオッドアイ男子は、眉一つ動かさない。

 

 「あ………が………」

 

 そして拓海は、ふらりと体制を崩し、ばたりと倒れ込んだ。

 

 「た、拓海ーーーッ?!」

 「ちょ、ちょっと!」

 

 直ぐ様、倒れた拓海に駆け寄るセントと、アリサとすずか。

 

 「お、おい大丈夫か拓海?!それとごめん!そして何やってんだよ!?」

 「け、喧嘩はダメだから………」

 「そんな事言ってる場合か?!」

 「とりあえず、すずか先生呼んできて!」

 「う、うん!」

 

 感情の整理が追い付かないセントと、あわあわしているアリサ。

 しかし、そんな中にあっても、すずかに先生を呼びに行かせる辺り、まあまあ肝は座っているように感じる。

 

 そして、そんな拓海を前にオッドアイ男子は。

 

 「………フンッ、雑種が」

 

 そんな拓海をゴミを見るような目で見下し、やれやれと言うようにその場を去ろうとした。

 

 「待ちなさいよ!」

 

 そんなオッドアイ男子を、見逃すアリサではない。

 

 「あなた、拓海やセントに言わなきゃならない事があるでしょ?!何勝手に帰ろうとしてるのよ!?」

 

 アリサの怒りは、ごもっともである。

 友人の一人を怒らせ、さらにもう一人の友人に怪我をさせられたのだ。

 それで謝りもせずにその場を去ろうものなら、怒るのが当然だ。

 

 だが、オッドアイ男子はアリサの剣幕に怯む様子も見せない。

 それ所か。

 

 「まったく、アリサはツンデレだな、こんな雑種にまで優しいなんてな」

 

 キザな言い回しで、これである。

 呆れを通り越して何も言えないアリサだが、さらに怒っているのは表情で解った。

 

 「だが、相手は選んだ方がいい、でなければそこの雑種のように勘違いする奴等が出てくるからな」

 「ちょ、待ちなさいよ!」

 

 オッドアイ男子はそう言って笑いながら、拓海達を置いて去って行った。

 痛みに悶える拓海は気づかなかった。

 そのオッドアイ男子が、明らかな殺意を込めた目でこちらを見た事に。

 

 

 

 

 

 

 

 「………おー、いてぇ………」

 

 その日の放課後。

 拓海は赤く膨れた頬と、見えないが恐らく赤くなってる背中の痛みを感じながら、帰り道を歩いていた。

 

 同時に、なんであんな事しちゃったのだろうと思いながら。

 悪い気はしなかったが、今度から控えようとも思っていた。

 

 セントはお詫びに、週末の休みにジュースを奢ってくれると言っていた。

 小学生らしい謝罪の仕方だが、週末が楽しみである。

 

 「あいつ………鎌瀬(かませ)とか言ったか」

 

 あのオッドアイ男子………曰く「鎌瀬有斗(かませ・ゆうと)」というらしい。

 

 なんでも金持ちの家の息子で、アリサやすずか、なのはに対して「俺の嫁達」と呼んで馴れ馴れしく接したり、周りの男子を「モブ」だの「雑種」だのと馬鹿にしたりして、問題ばかり起こしているらしい。

 

 おまけに、アリサ達に対してセクハラ染みたボディタッチを繰り返す等、彼女達からの評価は最悪の一言。

 けれども、家の圧力のせいで問題は揉み消されてしまい、先生さえも彼には逆らえないという。

 

 こんな濃すぎるキャラがいて、何故今まで自分の耳に入ってこなかったのだろう?

 と、拓海は考える。

 そして、ある事に気付いた。

 

 「………あんな奴、原作にいたか?」

 

 あれだけ見た目もキャラも濃い人物が居たなら、記憶に残るハズだ。

 けれども、拓海の知る限りではあんな人物はリリカルなのはの作中には出てきていない。

 

 セントには失礼だが、彼のような本編に登場しないモブキャラクターなのでは?とも考えたが、あの濃さでモブはあり得ない。

 少なくとも悪い意味で、視聴者の記憶に残るキャラクターになっているハズだ。

 

 「もうちょっとちゃんと見ときゃよかったかな………」

 

 そもそも、拓海はリリカルなのは自体が、前世の10代の頃に無印とAsを見たっきりで、細かい設定までは覚えていない。

 その事を少しだけ後悔しながら歩いていた。

 すると。

 

 「おい」

 

 不意に、声をかけられた。

 誰だろうと思い、振り向くと、そこには………。



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第3話

 「おい」

 

 不意に、声をかけられた。

 誰だろうと思い、振り向くと、そこには………。

 

 「あ………鎌瀬、くん?」

 

 噂の、鎌瀬有斗が立っていた。

 明らかな敵意と怒りを込めた目で、こちらを睨んでいる。

 

 昼間の報復である事は、見てとれた。

 運悪く、拓海がいるのは帰宅ルート上で、人通りが少ない場所。

 助けを呼んでも、誰も来ないだろう。

 

 「………貴様、誰の許可を得て我が嫁達の近くにいる?」

 「いや、趣味が合うだけって言うか………あっちから近くに来てるって言うか………」

 

 なんとか弁明する拓海だったが、それは鎌瀬の怒りに火を注ぐ結果にしかならなかった。

 鎌瀬は目尻をヒクヒクさせて、怒りの感情を見せつける。

 そして。

 

 「どうやら………殺されたいらしいな?!」

 

 そう言って鎌瀬が取り出したのは、何かの機械。

 中心に丸いパーツがあり、さながら、特撮ヒーローの変身ベルトのよう。

 

 「あれはっ?!」

 

 ………いや、ベルトの「よう」ではない。

 拓海は、それを知っている。

 一瞬玩具かと思ったが、鎌瀬がそれを自らの腰に当てると、途端にベルトが伸びて腰に巻き付く。

 

 『サウザンドライバー!』

 

 音声が流れる。

 自動で腰に巻き付くシステムは、玩具にはない。

 よほど拘る人が玩具を改造したのか。

 そうでなければ、まさか………。

 

 「………ゼツメライズキー」

 

 次に左手に握るのは、ティラノサウルスが描かれたカセットのような物。

 

 「………プログライズキー」

 

 右手には、ライオンが描かれたカセットのような物。

 

 「………変身」

 

 鎌瀬は、その二つをベルトに差し込んだ。

 すると。

 

 『ゼツメツEvolution!Gate of babylon!Perfect rise!!』

 

 ベルトの中央が開かれ、光輝く。

 突如現れる、機械で構成された半透明のティラノサウルスと巨大なライオン。

 驚く拓海の眼前で、二体は粒子状に分解され、鎌瀬の身体を包む。

 そして。

 

 

 『When the storage of treasure of the hero is opened, golden King Hideo descends!』

 

 光に包まれた鎌瀬は、小学生から一気に大人の体格へと背が伸び、その身体に黄金の鎧を纏う。

 頭から伸びた五本の角。

 紫色のバイザーか複眼のような目。

 

 『………Presented by ZAIA.』

 

 それは、拓海が前世でよく見ていた、あるヒーローそのものの姿をしていた。

 その、ヒーローの名は。

 

 「か………仮面ライダー?!」

 

 仮面ライダー。

 それはまさしく、仮面ライダー。

 それも、平成以降に登場する、メタリックでヒロイックでスタイリッシュな。

 

 似ている?

 いや、あのベルトで仮面ライダーに変身するのは当然である。

 何故なら、あれは実際に番組の中に登場した物だ。

 

 「仮面ライダーゼロワン」に登場する強敵の一人が「仮面ライダーサウザー」に変身する為に使われる、「ザイアサウザンドライバー」。

 

 しかし、それを使って鎌瀬が変身した姿は、サウザーではない。

 サウザーと同じ意匠はあるが、その上から黄金の鎧を着せたような姿をしている。

 

 そもそも、使っている「プログライズキー」と「ゼツメライズキー」が、サウザーが使うそれとは違う。

 つまりあれは、仮面ライダーサウザーではない。

 なら、あれは。

 

 「仮面ライダー………ギルガメッシュだ」

 

 鎌瀬………否「仮面ライダーギルガメッシュ」が手を翳すと、空中に金色の水紋のような波が現れる。

 そして。

 

 「死ね」

 「うわっ?!」

 

 突如、拓海に向けて光線が放たれる。

 寸前の所で拓海は避け、光線は地面に直撃………

 ………した事でようやく解ったが、放たれたのは光線ではなかった。

 

 剣だ。

 古代の西洋で使われていたような剣が、地面に突き刺さっていた。

 光線でなくとも、当たれば即死である。

 

 「うわ、わあああ?!」

 

 細かい状況は理解できなくとも、自分が殺されようとしている事は拓海にも解った。

 故に、目の前の驚異に対して、一目散に走り出し、逃げていた。

 

 「逃げるか………惨めな雑種が」

 

 仮面ライダーギルガメッシュは、そのまま浮遊し、逃げる拓海を追い回す。

 

 拓海には、あれと戦う手段はない。

 たとえ惨めと言われようと、身を守るには逃げるしかないのだ。

 

 「なんだよあいつ………っ!少なくとも原作には居ないよな?!」

 

 拓海の知る限りでは、公式の展開でリリカルなのはと仮面ライダーがコラボした事はない。

 あれは、本来ならリリカルなのはの世界には存在しない物のハズだ。

 

 じゃあ、あれは何だ?

 自分を追いかけ回している、あのサウザーもどきは一体なんだ?

 

 「っていうかあのキャラ、どっかで見た事あるよな………?!」

 

 そして、今思えばあの鎌瀬の尊大な態度やキャラも、考えてみればどこかで見た事がある。

 たしか、何だったか。

 

 そんな事を考えながら逃げる拓海。

 だが。

 

 「………嘘だろ」

 

 ふと、空を見上げてみて唖然とした。

 

 あの、剣を放出した水紋が、空にいくつも浮いていた。

 まるで空が黄金になったかのような錯覚を覚えさせる。

 

 そして、水紋からは剣や槍が顔を出し、拓海一人を狙っていた。

 あれが、一斉に自分に降りかかる。

 それを考えると、拓海の背筋がゾッと凍る。

 

 ハリネズミ所の騒ぎではない。

 あれが降りそそけば、拓海は肉片一つすらこの世に残らないだろう。

 

 そして、運悪く拓海の背後は行き止まり。

 これ以上は逃げられない。

 「詰み」である。

 

 「い………やだ………!」

 

 拓海は、一度死んだ身である。

 けれども、目の前に明確な「死」が迫ってくるというのは、とてつもなく怖い。

 

 何より、ようやく手に入れた幸せな生活と、その先に待っている未来を失うのが怖い。

 アリサやセント、言葉と離ればなれになるのが怖い。

 

 嫌だ、死にたくない。

 恐怖のあまり口すら開かなかったが、拓海は全身全霊で、死にたくないと訴えていた。

 

 だが、それが水紋の雨の中心で、こちらをゴミを見るような目で見下ろしている鎌瀬=仮面ライダーギルガメッシュに伝わる事はなかった。

 いや、伝わっていたとしても、鎌瀬がこの死刑執行を取り止める事はないだろう。

 

 彼にとって、自分と「嫁達」以外の命は、道端の石に等しいのだから。

 

 「………王の財宝(ゲートオブバビロン)

 

 限りなく無慈悲な一言と共に、無数の剣が、槍が、拓海目掛けて降り注いだ。

 それは大地を穿ち、建物を破壊し、拓海諸共海鳴の一角を破壊し尽くした………。

 

 

 

 ………砂塵が立ち込め、爆発が響く。

 攻撃範囲内に、ガスタンクがあったらしく、それが更なる爆発と破壊を呼んだ。

 

 おおよそ、この爆発の中で無事な人間はいないだろう。

 

 「どれ、雑種の死体の確認でもしてやるか………」

 

 だが、自分を怒らせた相手がどんなに無様で無惨な死に様を晒しているかは、鎌瀬も気になった。

 拓海の死体を確認するために、空中から降りようとする。

 

 「………チッ、もう来たか」

 

 その時、遠くからサイレンが聞こえてきた。

 見れば、パトカーと消防車、救急車が向かって来ている。

 

 まあ、あれだけ派手な破壊を繰り広げたのだから、当然と言えば当然である。

 とはいえ、この姿を人に見られるのは色々と面倒だ。

 

 鎌瀬=仮面ライダーギルガメッシュは、拓海の死体を確認する事を諦め、去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【転生者名鑑】

 ・鎌瀬有斗(かませ・ゆうと)

 私立聖祥大附属小学校に通う少年の姿の転生者。

 その性格は典型的な踏み台転生者そのものであり、自分と美少女キャラ以外の人間を見下している。

 なお、この姿は変身魔法によるものらしく、本来の姿は別にあるらしい。

 

 ・転生者特典:仮面ライダーギルガメッシュ

 原典:仮面ライダーゼロワン

 鎌瀬が「ザイアサウザンドライバー」と「ゴールディングライオンプログライズキー」と「ティラノゼツメライズキー」を使って変身した姿。

 外見こそ「仮面ライダーゼロワン」に登場する「仮面ライダーサウザー」のようだが、

 能力自体は「Fate」シリーズに登場するサーヴァント「アーチャー/ギルガメッシュ」に酷似している。

 必殺技は、無数の剣や槍を呼び出して相手を攻撃する「王の財宝(ゲートオブバビロン)」等。




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第2章「魔法少年誕生」
第4話


 「ほんッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッまにすまん!!!!!」

 

 久々に顔を合わせた神様は、頭が地面にめり込むんじゃないかと思うような勢いで、スライディング土下座をかましてきた。

 

 拓海は呆然としたまま、「仮にも神様が自分なんかに頭下げていいのか?」とか考えていた。

 

 「ワイも知らんかったんや、どうやら、お前以外にも何人もあのリリカルなのはの世界に転生させられた奴がいたようなんや、それもえげつない強さを持って!」

 

 この神様の話によると、彼とは別の神性(神、またはそれに近い存在)が、今拓海のいるリリカルなのはの世界線に、拓海のように別世界の人間を転生、または転移させていたというのだ。

 それも転生者特典と称して、本編に登場したキャラクターを凌駕する程の力を付加させて、何人も。

 

 その中には、リリカルなのは本編に登場した技術や法則に当てはまらない物もある。

 拓海を攻撃した鎌瀬=仮面ライダーギルガメッシュも、そもそもリリカルなのは世界には存在しない「仮面ライダー」に変身し、

 同じく他作品のキャラクターである「ギルガメッシュ」の持つ宝具を使っていた。

 

 おそらく、鎌瀬も転生者の一人だろう。

 だが、拓海にとって重要なのは、そこではない。

 

 「それで………もしかして俺、また死んじゃったんですか?」

 

 それだ。

 再び、自分は死んでしまったのか。

 再度転生させてくれるは知らないが、あの幸せな生活を手放さなくてはならないのか。

 それが、拓海にとっての重要な事。

 

 出来れば、そんな事にはなりたくない。

 だが、鎌瀬のあの攻撃を受けて、無事で居られるとも思えない。

 そもそも、目の前に神様がいるのだ。

 きっと、死んでしまったのだ。

 そう考えていると………。

 

 「いや、死んでへんで」

 「嘘ォ!?」

 「昏睡状態にはあるけどな、命に別状はあらへん」

 

 思わず変な声が出てしまった。

 いや、死んでいないのは嬉しいが、あの剣と槍の雨霰を浴びて生きているのは、どう考えてもおかしい。

 どういう事なのか。

 

 「………実を言うとな、もしもの事を考えて、お前の中にリンカーコアを埋め込ませといたんや、それで無意識の内に魔力バリアが形成されて、あの英雄王もどきの攻撃を軽減したんや」

 

 リンカーコア。

 それは、リリカルなのはの世界における、魔法の資質を持った者の体内に形成されるという、魔力の源。

 空気中の魔力を吸収して蓄積し、体外へ魔法として放出する為に必要な、言ってみればエネルギータンクだ。

 

 拓海が転生の際に願ったのは、あくまで「幸せな生活」のみ。

 しかし、転生先が「リリカルなのは」という、かなり身近に魔法と戦いが存在する世界において、それに巻き込まれる確率を0にする事は出来ない。

 

 故に、神様は拓海にリンカーコアを持たせた。

 あくまで、もしもの時の為の自衛手段としてだったが、まさかこんなに早く使う事になるとは。

 しかも、ギルガメッシュの能力を持った仮面ライダーという、想定外の敵を相手に。

 

 「せやけど、こんな事になってしまったなら、もう今まで通りにというワケにはいかへん」

 

 神様は、真剣な話をしている。

 のだが、外見が外見の為、どうしてもそうとは思えない。

 

 「じゃあ、どうするんですか?」

 「デバイスを送る」

 「デバイスを?」

 

 デバイス。

 それは、リリカルなのは世界の魔導師が魔法を使う際に使うアイテム。

 呪文をインプットさせる事で魔法の発動をスムーズにする為の物で、いわゆる「魔法の杖」だ。

 

 「もっとも、既存品な上に、お前のリンカーコアや魔導師の資質に合わせた物やから、あの英雄王もどきのベルトみたいな物は期待すんなよ」

 「ええ、はい………」

 

 神様の言葉からしてそこまで強力な物ではないそうだが、自分用のデバイスが貰えるとなると、拓海の心は踊った。

 前世30年と今世9年を合わせると39歳になる拓海だが、やはり心は男の子である。

 ………まあ、子供部屋おじさんと罵声を飛ばされるのが、世間の常識だろうが。

 

 「そろそろ、タイムリミットみたいやな」

 「へっ」

 

 気がつくと、回りが眩しくなってくる。

 昏睡状態になっている肉体の方が目覚めようとしている事が、何となくであるが拓海には解った。

 

 「詳しい事は明日届くデバイスの方に聞いてや、じゃ、そういう事で!」

 

 感覚が途切れる直前、神様はそう言って手を振っていた。

 拓海は、薄れ行く視界と眠気の中で、意識を手放した………。

 

 

 

 

 

 

 「………くん………たっくん………」

 

 暗闇の向こうで、自分を呼ぶ声が聞こえる。

 目覚めのような感覚の中で、拓海の視界がクリアになってゆく。

 

 「たっくん!」

 

 拓海が目覚めて最初に見たのは、泣きそうな顔で自分を抱き抱えている桂言葉。

 そして、真っ白な知らない天井。

 

 「………言姉ぇ?」

 

 ぼんやりとした意識の中で、なんとなくここが病院で、自分はそのベッドで横になっている事に気付いた。

 見れば、言葉以外にも病院の医師らしき白衣の人達が、ベッドの周りにいる。

 

 「たっくん!」

 「わっ?!」

 

 言葉が抱きついてきた。

 むにゅうっ、という豊満な乳房が押し付けられる感覚が、拓海に襲いかかった。

 

 「よかった………よかったぁ………本当に………!」

 

 抱きしめられていた為に顔はよく見えなかったが、声が震えていた事から、言葉が泣いていた事が解った。

 

 自分を心配して泣いてくれている。

 そう思うと、拓海は今まで感じた事のない感情に襲われた。

 が、嫌な気持ちはしなかった。

 むしろ、心がほんのり暖かくなった。

 

 

 ここは、海鳴大学病院。

 「A's」に登場する八神はやてが、通院している場所だ。

 

 拓海は医者から、自分がガス爆発に巻き込まれたが、奇跡的に助かったのを聞かされた。

 駆けつけた消防団員が、意識を失って転がっている自分を見つけたという。

 

 爆心地に近い所に居たにも関わらず、大きな怪我をしていない事を不思議がられた。

 文字通り、奇跡でも起きたのではないか?とも言われた。

 

 ………が、拓海は知っている。

 あれが、ガス爆発による事故ではなく、人為的に行われた攻撃である事も。

 まあ、鎌瀬が死体の確認をせずに去ってくれた事は、奇跡と言えるかも知れないが。

 

 しかし、どう見てもガス爆発で起きる規模の破壊ではないのに、消防はガス爆発と発表している。

 もしかしなくとも、鎌瀬が手を回しているのだろうが、随分な情報規制っぷりである。

 

 

 結局その晩はもう時刻も遅く、運良く個室が一つ開いていた事から、病院に泊まる事になった。

 

 「本当に一人で大丈夫ですか?私がいなくても怖くないですか?」

 

 言葉は、拓海を置いていくのが心配だった。

 が、明日は言葉にも学校があり、準備も持ってきていないので病院に泊まるわけにもいかない。

 

 「心配しないで、俺は大丈夫だから」

 「そう………?」

 

 大丈夫だという旨を伝える拓海だが、言葉はやはり心配そう。

 なんと優しいのだろうか。

 今回も拓海が事故(本当は事件だけど)に巻き込まれたと聞いて、学校を放り出して真っ先に飛んできたというから驚きだ。

 

 こんな優しい娘が原典であんな扱いになるのだから、当時のオタクが想像した「リアルな学校」がどれだけ色眼鏡で見ていた世界かよく解る。

 

 ………まあ、色眼鏡無しに見ても、クソな学校は存在しているのだが。

 

 「何かあったら連絡してくださいね、すぐ来ますから」

 

 そう言い残し、言葉は名残惜しそうに部屋を後にした。

 

 さて、拓海は個室に一人取り残された。

 病院には、拓海以外にも様々な病人達が入院している。

 流石の鎌瀬も、無関係な人達ごと拓海を始末しには来ない………はずである。

 

 携帯もゲームも持ってきていないとなれば、やる事は一つ。

 睡眠だ。

 

 「ま、細かい事は明日起きてから考えますか」

 

 今日は、色々あって疲れすぎた。

 これからの事は明日考えよう。

 そう思い、拓海は目を閉じた………。

 

 ………………

 

 拓海は、病院の個室で2時間ねむった

 

 そして、目をさましてからしばらくして、

 言葉の乳房の感覚を思い出し、抜いた。



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第5話

 

 さて、朝が来た。

 拓海が病院で目を覚ますと、そこには。

 

 「あっ、たっくん、おはようございます♪」

 

 個室の机の前で、笑顔でしゃりしゃりと果物ナイフでリンゴの皮を向いている言葉の姿。

 時刻は、朝の6時だ。

 早朝である。

 普段なら、拓海はもちろん彼女も家にいる時間。

 そんな時間に、彼女はこんな所で何をしているのか。

 

 「あの、何してらっしゃるので?」

 「朝ごはんの準備です♪」

 「そうじゃなくて、なんでこんな早い時間に」

 「たっくんが一人だと、寂しいかなって♪」

 

 そう、爽やかな笑顔で言葉は微笑みかける。

 やはり可愛い。

 この微笑みを前にすれば、早朝から病室に来ているヤバさも、果物ナイフとはいえ刃物を持って外を出歩いた事へのアレな感情も気にならなくなる。

 

 転生して9年経つが、やはり美少女にお見舞いしてもらうのは、やはり幸せに感じる物である。

 

 

 

 

 

 朝食のリンゴとパンを頂いた後、言葉に手を引かれて拓海は我が家に戻った。

 

 何度も手を握った事はあるが、言葉の手は柔らかく、そしてさわり心地がいい。

 若干気持ち悪いが、前世の中年童貞人生を考えると、仕方のない事でもある。

 

 「じゃあ、私は学校に行きますね、何かあったら携帯に電話してください」

 「わかったよ、言姉ぇ」

 「それじゃあ………」

 

 その日、拓海は学校を休む事にした。

 表向きは「あんな事があったから一番日休みたい」という理由だが、神様から届くデバイスを受けとる為というのが、本当の理由だ。

 

 言葉は一人で家に居させる事が心配そうだったが、彼女も彼女で学校がある。

 なんとか説得して、学校に行ってもらう事にした。

 

 「………さて、どうするか」

 

 家に一人。

 まずは、この世界について改めて何か調べてみよう。

 

 ………と、思ったが。

 

 「………うう」

 

 股の間が軽く痛い。

 そして思い出すのは、言葉の手の柔らかさ。

 女子高生特有………かどうかは知らんが、化粧品売り場でするような、甘い香り。

 

 子供に幻想を抱く者は多いが、10代近くと言えば色々と盛んな時期。

 そこに、言葉という劇薬がいれば………。

 

 ………。

 

 拓海は、とりあえずベッドに向かった。

 そして言葉を思いだし。

 

 抜いた。

 

 

 

 

 

 改めて、この世界について調べてみる事にした拓海。

 そんな時に役立つのが、パソコンである。

 デスクトップタイプの、大きなパソコンだ。

 

 リリカルなのはの時代設定は、アニメ第一期の時点では放送時期と同じ2004年。

 拓海の居た世界ではゴジラシリーズが一旦幕を下ろし、様々な深夜アニメがいい意味でも悪い意味でも隆盛を極めた活気のある時代だ。

 

 ガラパゴスケータイと呼ばれるタイプの携帯電話はあるが、スマートフォンはない。

 言葉が連絡手段として拓海に渡した携帯は、既に小さなパソコンと言える機能を持っていたが、調べ物とゲームをするにはやはりパソコンである。

 

 拓海はパソコンを起動すると、インターネットの検索サイトを開く。

 そこから、ニュースサイトや、ネットの掲示板等に目を通してゆく。

 

 「………やっぱり、話題にはなってるか」

 

 調べてみて解ったが、やはり海鳴市に奇妙なニュースが集中しているように思える。

 やれ、UFOを見たとか、巨人を見たとか。

 原因不明の爆発事故や、ビルの倒壊等。

 

 おそらく、これらは全て転生者による物だろう。

 鎌瀬の襲撃を受けた今なら、それが実感を持ってよく解る。

 

 さらに調べてみると、その類いのニュースは1970年代………拓海がこちらの世界で生まれるよりも前から起きている事が解った。

 

 「………俺以外にも、転生者がいるんだ」

 

 自分以外にも、別の世界から来た転生者がいる。

 それも、鎌瀬=仮面ライダーギルガメッシュのような、もしかしたら本編の魔導師よりもずっと強い力を持った存在が、何人も。

 

 そう考えると、拓海の背筋が凍る。

 まさか、自分の立っていた日常が、幸せが、こんなにも危険な存在の中にあったなんて、と。

 

 本来の主人公であるなのはともあまり関わってはいないし、第一魔法の素質もない………と思い込んでいた事もあり、戦いは遠い世界の出来事なのだと考えていた。

 だが、現実は違った。

 戦いは、自分のすぐ側に存在していたのだ。

 

 ………ピンポーン

 

 その時、玄関のベルが鳴った。

 

 「すいませーん、シロネコムサシですー」

 

 宅急便だ。

 勿論、拓海が頼んだ訳ではない。

 だが、神様からは「既存品のデバイスをどうにかして送る」とだけ言われている。

 なら、何が来たかは安易に予想できる。

 デバイスだ。

 

 「はーい!」

 

 拓海は、ハンコを片手に玄関へと向かった。

 ようやく、自分にも「力」が手に入ると。

 

 

 

 

 

 宅急便で届けられた、小さな箱。

 段ボールで作られた箱には、拓海に向けられた宛名はあるが、送り主はいない。

 

 「………ゴクリ」

 

 この中に、自分のデバイスがある。

 そう思うと、拓海は緊張してしまい、どういう訳か箱を前に正座していた。

 まるで、表彰状を授与される時のような緊張感が、拓海を包んでいる。

 

 「それじゃ………」

 

 箱を縛っていたナイロン製のヒモは既に切っている。

 後は、箱を開くだけだ。

 

 そっ、と箱に手をかけ、持ち上げるように開く。

 開かれた箱の中にあった物は。

 

 「………ブレスレット?」

 

 クリスタルが一つついた、ブレスレットが入っていた。

 梱包材に包まれたそれは、どことなく高級感を感じさせる。

 

 デバイスのセーブモードとしては、ありきたりと言えるだろう。

 例えば、なのはの持つ「レイジングハート」は、赤い宝石で、普段はペンダントにして持ち歩いている。

 いつ、どこで敵に遭遇するか解らない事を考えると、持ち運びしやすい姿である事は色々と有難い。

 

 「でも………どうやって動かすんだ?これ」

 

 当然ながら、スイッチのような物は付いていない。

 記憶が確かなら、なのはがレイジングハートを起動する時には呪文らしき物を言っていたが、神様からそれらしい事は聞いていない。

 

 どうした物かと、拓海はブレスレットに手を伸ばす。

 その指がブレスレットに触れた。

 すると。

 

 『接触、確認』

 「うわっ?!」

 

 突如、ブレスレットからエフェクトのかかったような機械音声が流れる。

 男の声だ。

 

 拓海が驚いていると、ブレスレットはふわりと浮き上がり、拓海の目線で停止した。

 

 『あんたが我がマスターでございますね?私は「ストレイジ」と申す、インテリジェントデバイスなんだぜ!』

 

 ブレスレット………「ストレイジ」は、拓海に対して自己紹介をする。

 意思を持って話す様子から見るに、本人(本機)の言うように「インテリジェントデバイス」に分類されるタイプだろう。

 レイジングハートと同じだ。

 

 日本語を話すデバイスと言うと違和感があるように感じるが、「ミッドチルダ」側にも「StrikerS」のナカジマ家のような日本人の一族がいる事を考えると、別に日本語を話すデバイスが居てもおかしくはない。

 

 おかしくはない、の………だが。

 

 『私がいれば、何が来ようとリリカル問題ナッシング………とまではいかないかもですが、マスターの十分な力になるでありますよ!』

 

 拓海は、思わず言葉を失い、なんとも言えない表情を浮かべている。

 

 『………言葉通じてる?』

 「いや、通じてるんだけど………言葉遣いがちょっと変って言うか………」

 

 言おうとしている事は解るのだが、日本語がおかしい。

 まるで、英文を翻訳にかけたか、怪しい通販サイトのようだ。

 

 『え、マジで………まいりましたなぁ、地球の言葉はリリカル難しいぜ………』

 

 ストレイジも、言葉遣いに自信はあったらしく、困惑気味。

 まあ、そもそも日本語という言語自体が、地球に存在する様々な国の言語の中でもかなり複雑な部類に入るので、仕方ないと言えば仕方ない。



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第6話

 

 言葉遣いは置いておいて、ストレイジは自分の事について、拓海に話した。

 

 曰く、ストレイジは元々は「時空管理局」の次期主力デバイスの試作品として作られたらしい。

 それに、神様がちょいちょいと手を加えて、拓海に合わせた調整と、拓海をサポートする為の記憶をインプットさせた。

 ストレイジという名前も、開発者が勝手に呼んでいたあだ名のような物だ。

 

 次期主力なのにインテリジェントデバイスという高級品なのは、使える機能を詰め込んだ故の結果らしい。

 まあ、確かに試作機で高性能なのは、ロボットアニメではよくあるパターンである。

 ………これ、魔法少女物だけどね。

 

 「………でも、どうして次期主力デバイスの試作品を、ウチに宅配で届けられたんだ?次元違うぞ?」

 

 拓海が疑問に思ったのはそれだ。

 今拓海のいる地球と、ストレイジの作られた世界「ミッドチルダ」は、次元の海を隔てた異次元の世界だ。

 管理局の目を掻い潜って、こちらに宅配で送られたのは何故か。

 

 おおよそ、神様が一枚噛んでいるのは予想が出来たが、理由はもう一つあった。

 

 『それは………管理局の方針であります』

 「管理局の?」

 『はい、優秀な魔導師を探す為の』

 

 ………リリカルなのはに関わる重要な組織である「時空管理局」。

 この組織に関する詳しい事は後々話すとして、魔導師を中核とするこの組織は、万年人手不足の状態にある。

 

 そこで、魔法の素質のある人物を見つけては、デバイスを送って魔導師としての覚醒を促し、最終的には戦力としてスカウトしようという動きがあるのだ。

 その際に使われるのは、簡単に作れる安価な物から、研究の過程で生まれた試作品まで様々。

 

 無論、これは今拓海のいる世界線での時空管理局の方針だ。

 本来のリリカルなのはに、そんな設定はない。

 

 ………もしかすると、これも転生者が一枚噛んでいるのかも知れない。

 そのもっと上の、件の神様と同じような神性も。

 

 しかしまあ、全てを知っているであろう転生者からすれば時空管理局に否定的な感情を抱く理由になり、

 大義名分を背に管理局に対して戦争を仕掛けようと企んでいる転生者も、居るとか、居ないとか。

 

 「………なんか、随分きな臭い話だね」

 『自分もそう思うでございます、マスター』

 

 なんだか暗い話になってしまったが、このままじっとしている訳にもいかない。

 仮に、管理局関係のゴタゴタが起きるとしても、それに備えて力を付ける必要がある事には変わりがない。

 

 『よし!じゃあ特訓に参るぞマスター!』

 「へっ?」

 『私の試運転でございますよ!』

 

 するとストレイジは、拓海の左腕にふよふよと飛んできて、カチッとはまった。

 

 『さあGOでありますよマスター!ジーッとしててもドーにもならへん!』

 「ちょ、ちょっと?!うわああ!」

 

 こんなブレスレットの何処にそんなパワーがあるのか。

 ストレイジは拓海を引っ張って、家の外へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 さて、ストレイジに拓海が連れて来られたのは、家から離れた場所にある小さな公園。

 

 平日の昼間なので、誰も居ない。

 2004年なので、今のようにあちこちに監視カメラがある訳でもない。

 民家も少なく、誰かに見つかる心配は無い。

 

 『よーし!では早速始めましょうか!マスター』

 「お、おう………」

 

 しかし、このストレイジの熱血ぶりは、拓海からすると少々疲れる。

 

 まあ、前世で嫌という程嫌な目に逢わせてきた、精神論を振りかざして牙を向くバカに比べれば、遥かにマシだが。

 第一、連中と違ってストレイジには悪意も加害もない。

 

 「じゃあまず、何をしたらいい?」

 『決まってるでありますよ、私をセットアップしちゃいなさい!』

 

 当然と言えば当然だ。

 「Foce」の「スティード」のような非戦闘用デバイスではなく、ストレイジは持つ者に力を与える戦闘用デバイス。

 だが、デバイスとして起動………セットアップしなければ、ただの喋るお洒落なブレスレットである。

 

 「たしか、セットアップには呪文が必要だったよね、何て言えばいい?」

 

 おぼろげな記憶の中の、なのは第一話を思い出しながら、拓海が尋ねた。

 すると。

 

 『まずは私が「ご唱和ください、我の名を」と言います』

 「言います」

 『その後にマスターが「ストレイジ、セットアップ!」と叫べば、セットアップが完了するでございます!』

 「………そんだけでいいの?」

 

 レイジングハートの時のような、不屈の心がどうたらこうたらと言った長ったらしい物を想像していたが、手短で済みそうだ。

 まあ、仮にも次期主力デバイスの試作品として作られたのだから、そこら編は合理的にしてあるのだろう。

 

 『そんじゃ、リリカル気合い入れていくぞマスター!』

 「う、うんっ!」

 

 ストレイジからかけられた発破に、拓海も覚悟を決める。

 気合いを入れて、意識を集中。

 そして。

 

 『ご唱和ください!我の名をッ!』

 

 ストレイジが叫ぶ。

 そして。

 

 「ストレイジ!セーーットアーーーップ!!」

 

 恥ずかしかったが、気合いを入れて叫ぶ。

 意味は無いのだが、ストレイジを巻いた腕を上空に突き上げて。

 ………まるで、某人気俳優のデビュー作となった、宇宙ロケットモチーフの仮面ライダーのように。

 

 瞬間、ミッド式魔法の魔方陣が広がり、光が拓海の身体を包む。

 変身が始まった。

 

 光の中で拓海の着ていた服は、黒いインナーシャツへ。

 ズボンは、半ズボンへと変異し、靴は装甲のついた仕様に。

 そして、なのはのそれに似た上着を惑い、強化服………「バリアジャケット」の展開が終了する。

 

 次は、ストレイジだ。

 ストレイジは光に包まれ、その姿を大きく変質させる。

 取っ手を中心に、六角形を上に薄く引き伸ばし、先端に穴を開けた二枚の刃がつき、そこに宝石が埋め込まれたナギナタのような近接武器形態。

 

 そして左腕にも装備が現れる。

 平たい菱形に青白く輝くクリスタルが嵌め込まれたそれは、盾だ。

 拓海の9歳の身体からすると大きめの盾が、ストレイジを握った手と逆の方に握られる。

 

 最後に、凸を逆向きにしたような形の緑色のゴーグルが拓海の目を覆い、変身が完了した。

 

 「お………おおう、これが………!」

 

 変身を完了した拓海は、一種の高揚感にも似た感情を抱く。

 そりゃそうだ。

 古来より仮面ライダーやウルトラマンに代表されるように、変身というイベントは男の子なら誰しもが夢見るシチュエーション。

 

 拓海の変身した姿………魔法服「バリアジャケット」は、衝撃や温度から装着者を守る、いわば防護服だ。

 明らかに布が及んでいない、顔や手足も守ってくれる優れもの。

 

 デザイン面から見てみると、一番近いのは「StrikerS」の「エリオ・モンディアル」のバリアジャケットだろうか。

 あれのインナーシャツを黒くして、上から同じくStrikerSの「スバル・ナカジマ」の初期のジャケットを羽織らせたようなデザインだ。

 

 なるほど、ストレイジが次期主力デバイスの試作品だった故に、後々に登場する物に繋がる、ミッシングリンク的な物を感じさせる。

 

 「でも………これは?」

 

 もう一つ気になるのが、左手の盾と、頭のゴーグル。

 「Foce」に出た「ACE装備」のような追加武装と思われるが、一体どんな機能があるのだろう。

 

 『よし!その編についても私がレクチャーしちゃいましょう!』

 

 これについてのレクチャーも、ストレイジはやってくれるらしい。

 まるでなのはに対するユーノのような、よき先生ぶりである。

 

 ストレイジによると、ゴーグルは「ジャミングゴーグル」。

 盾は「ラウンドブロッカー」と言うらしい。

 

 ジャミングゴーグルは、名が示す通り認識障害機能を持ち、これをつけている限り相手は自分が高尾拓海だと認識できない。

 他にも、脳に働きかけて反射神経や射撃の補助を行うといった機能も搭載されている。

 

 ラウンドブロッカーは、簡易型のストレージデバイス………意思を持たない分、扱い易いデバイス………とも言える武装。

 構えるだけで、自動で防御魔法を展開し、さらには装着者の意思により範囲を拡大する事も出来る。

 また本体自体もかなり硬く、ディバインバスターの直撃にも耐えうるとの事。

 

 「おお………なんか凄いな………」

 

 魔法の経験のない拓海に合わせたと聞いていたが、初心者が持つには破格の装備。

 拓海の心は、僅かに踊った。

 

 『………ムムッ!』

 

 その時、ストレイジがビビビと何かを感じ取った。

 

 「………どったの?」

 『あっちのコンビニで銀行強盗が起きてるでございますよ!』

 「そんな事解るの?!」

 『ああ!コンビニの監視カメラにハッキングしてみたであります!』

 「なんて事してんだ?!」

 

 さらっとすごい事をやってのけたストレイジ。

 すると、拓海の身体がふわりと浮き上がる。

 またストレイジが操作しているのだ。

 ほんと何なんだこのデバイス。

 

 『試運転には持って来いでございますよ!さあ、リリカル初陣だッ!』

 「ちょっと待って!う、うわぁーーーーーーッッ?!」

 

 ぎゅいーん、と、ストレイジに引っ張られて拓海は空に舞い上がる。

 彼の初めての飛行魔法経験は、そんな感じだった。

 空を飛ぶという、人間なら誰しも思い描いた体験だが、それを感じる余裕はない。

 

 今から、コンビニを襲った強盗と戦わなければならないのだから。



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第7話

 リリカルなのはという世界は、基本的には善人が多い。

 が、それでも管理局を初めとする治安維持組織が必要な事からも、所謂「やさしいせかい」ではない事がわかる。

 

 そして地球の、海鳴においてもそれは変わらない。

 

 「一歩でも近付いてみろ!この女ブッ殺すぞォ!!」

 

 バラクラバで顔を覆った男が、コンビニの前で店員の女性に拳銃をつきつけ喚き散らしている。

 誰の目にも見て解る、強盗である。

 

 「くっ、どうすれば………」

 「皆さん下がって!もっと下がって!」

 

 警察に取り囲まれているが、人質を取られている為にどうにも出来ない。

 集まっている野次馬も含めて、ピリピリした空気が辺りを支配していた。

 そこに。

 

 ………………ずどぉぉん!!

 

 

 轟音と共に、強盗の前に何かが落下してきた。

 否、違う、着地したのだ!

 

 図らずも、所謂「ヒーロー着地」をしてしまったのは、ストレイジをセットアップし、バリアジャケットに身を包んだ拓海。

 

 「な、なんだテメェ!どっから現れた?!」

 「え………えっと………」

 

 興奮し叫ぶ強盗と、呆然としている警察と野次馬達。

 拓海には勿論そんな気は無いのだが、端から見れば完全にヒーローのそれである。

 

 『さあマスター!初陣でございますよ!ビシッと決めちゃいなさい!』

 「ええっ?!俺攻撃魔法も知らないんだぞ?!」

 『大丈夫です、私が脳にチョチョイのチョイしますから!』

 「しれっと恐ろしい事しようとしないで?!」

 

 とはいえ、拓海は今まで魔法なんて使った事がないし、ストレイジがやろうとしているのも何だか怖い。

 そんなこんなで言い争っていると、強盗の方がイラつき初めて………。

 

 「テメェ!なめてんのか!!」

 

 強盗が店員につきつけていた拳銃を、拓海に向けた。

 拓海が気づいた時には、男は拳銃の引き金に指をかけ、引いていた。

 

 ガウンッッ!!

 

 弾丸が放たれる。

 それは無慈悲に、拓海の胸を貫き、赤い血を散らす………

 

 ………事はなかった。

 

 「へっ?」

 

 咄嗟に身構えた拓海は、カランと潰れた銃弾が落ちた事に気付く。

 彼の着ているバリアジャケットには、傷一つない。

 まるで某アメコミヒーローの映画のワンシーンがごとく、銃弾を弾いたのである。

 

 『銃弾ごときでこのバリアジャケットは破れませんよ!』

 

 と、自慢するように言うストレイジ。

 

 確かに、ストレイジの生まれである時空管理局は、同じ技術系統の魔法は勿論、次元世界に存在する他文明の系列の魔法や、それに準ずる様々な兵器。

 「A´s」で「シグナム」が戦ったような怪獣染みた巨大原生生物と敵対するリスクを、常に背負っている。

 

 バリアジャケット一つにおいても、地球のような………悪い言い方をすれば「劣った」文明の武器ごときでダメージを与えられる訳がないのだ。

 ましてや、次期主力デバイスとして試作されたなら、なおのこと。

 

 「ひ、ひいい~~っ!何だテメェ?!」

 

 そんな拓海に、恐れおののく強盗。

 銃弾を弾く相手を前にすれば、自然な反応である。

 

 『さあマスター!こちらのターンでございますよ!』

 「ッ!?」

 

 瞬間、拓海の頭に思考が走った。

 基本的な魔法の使い方が、感覚のあれこれからデバイスの構え方に至るまでが、拓海の思考に刻み込まれてゆく。

 

 ストレイジにつけられた機能の一つである、教育システムによる物だ。

 万年人手不足の時空管理局にとって、人員の育成期間の短縮化もまた必須。

 ある程度の基本的な事は、ジャミングゴーグルから伝わる電気信号を使って、使用者の脳に記憶させる事が出来るのだ。

 

 ………そして、これがストレイジの高コスト化を呼んだ事と、後に予定されていた量産品=ストレージデバイスでは出来ない事だったが為に、ストレイジは試作品止まりで終わった。

 

 「………食らえ!」

 

 拓海がストレイジを構える。

 すると、先端の穴に青白い光がチャージされる。

 そして。

 

 ………バシュウッ!

 

 形成された魔力の光弾が吐き出される。

 ミッドチルダ式射撃魔法の基礎「シュートバレット」だ。

 

 「ぐえっ?!」

 

 それは、強盗の腹に直撃し、吹っ飛ばす。

 非殺傷設定な上に威力も最低である為に、死ぬ心配は無い。

 

 人質は解放され、手にしていた拳銃も落としてしまう。

 そして倒れた強盗を前に、警官は唖然としていたが。

 

 「か、確保!!」

 

 直ぐ様自らの使命を思い出し、強盗を取り押さえに走る。

 事件解決だ。

 

 「………じゃ、俺達は帰ろっか」

 『そうでありますな』

 

 拓海の「初陣」は終わった。

 これ以上ここに居ても、面倒なだけ。

 

 シュートバレットと一緒にインプットされた飛行魔法を応用し、空に舞い上がる。

 今度は、自分の意思による飛行魔法だ。

 

 「あっ、待ってくれ!」

 

 聞き取りをしようとした警官の眼前で、拓海は空の彼方へと消えていった。

 その様は、まさしくヒーローのそれであった。

 

 ………この事件が切っ掛けとなり、謎の少年ヒーローは海鳴を少しだけ騒がせるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 桂言葉は、急いでいた。

 拓海が家に一人で待っていると思うと、急がずには居られなかった。

 

 もとより、友達と呼べる人物も少なく、放課後に時間を取られるのが少なかったのもあるが。

 

 ………よくよく考えれば、これでイジメが起きないのだから不思議である。

 

 「うう………また大きくなったかな」

 

 早歩きでも、だぷんだぷんと揺れる、自分の胸にぶら下がった脂肪の塊二つと、そこに感じる窮屈さと息苦しさに、言葉は顔をしかめる。

 

 クラスメートの女子からはうらやましがられているが、小学生の頃から膨らみだしたこの乳房に、言葉はあまりいい印象を抱いていない。

 

 小学生の頃は心ない男子から「ホルスタイン」「妖怪牛女」とからかわれたし、今でも何かと目立ってしまい恥ずかしい。

 おまけに、今でも少しずつ成長しているので、月のお小遣いもブラ代がかかってしまう。

 当たり前だが走ると痛いので、通学電車に乗り遅れそうになった時等、どうしても走らなければならない時は邪魔になる。

 

 ………唯一、よかったと思えるのは、この胸で拓海を抱き締める事ができた事だろうか。

 今は恥ずかしがって離れてしまうが、昔はよく自分の胸に甘えてくれていた。

 

 そうこうしていると、高尾家が見えてきた。

 早く、寂しがっているであろう拓海に会わなければ。

 そう考えながら、言葉はドアに手をかけた。

 

 「たっくん、ただいま!」

 

 極力、焦りとストレスを感じさせないように、明るく挨拶する。

 すると。

 

 「おかえり、言姉ぇ」

 

 返事が帰ってきた。

 そこには、言葉を出迎える拓海の姿が。

 それを見ると、さっきまで感じていた乳房への苛立ちも、何もかもがスウッと消えるのを感じた。

 

 「ちゃんといい子にしてましたか?」

 「うん」

 「ふふっ、よろしい♪」

 

 見れば、左腕にはブレスレット………ストレイジが巻かれている。

 プリント等を届けに来たクラスメートから貰ったのだろうか?と考える言葉。

 

 ………まさか、女子から?

 そんなはずはない、と、言葉は自分の中に浮かんだ黒い考えを振り払う。

 

 「さあ、今日はたっくんの好きなたらこスパゲティですよ♪」

 「たらこスパ!?やったぜッ!」

 

 思わずガッツポーズを取る拓海を前に、言葉はにっこりと微笑むのであった。

 

 「………念話については明日から練習しよっか」

 『そうでございますね』

 

 小声で、こういう時に念話………魔法によるテレパシーが使えないのは不便だよねと話す、拓海とストレイジには気付かずに。

 

 

 

 

 

 ………その夜。

 

 人知れず海鳴に散らばった、魔法科学により生まれし、災厄を呼ぶ21個のロストロギア「ジュエルシード」。

 

 その暴走を止めるべく、一人の少女が魔法の力を手にした。

 少女の名は「高町なのは」。

 魔法の杖「レイジングハート」を手に、彼女はジュエルシードの封印に成功する。

 

 この日、「魔法少女リリカルなのは」の物語が始まった。

 それと同時に、各地に潜伏していた転生者達もまた、動き出そうとしていた………。

 

 

 

 

 

 

 

【ガジェットファイル】

 ・ストレイジ

 分類:インテリジェントデバイス

 原典:なし

 元は時空管理局が次期主力デバイスの試作品として作ったらインテリジェントデバイス。

 神様の手により記憶を埋め込まれ、拓海の元へと送られた。

 セットアップすると両刃のナギナタか棍棒のような姿になり、認識障害を起こす「ジャミングゴーグル」と、堅牢なシールドの「ラウンドブロッカー」を展開する。

 なお、言語学習が間に合わなかった為か、奇妙な日本語を話す。




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第3章「セントの初恋」
第8話


 

 それから、数日の時が流れた。

 拓海は、手に入れたストレイジによる魔法の特訓を兼ねて、海鳴市やその周辺で起きる犯罪と戦っていた。

 

 凶器を持っている者も少なくなかったが、いずれもバリアジャケットやラウンドブロッカーを貫通には至らず、よき練習相手となった。

 

 運良く他の転生者が介入してくる事もなく、拓海は少しずつ実戦経験を積み重ねていった。

 

 だが。

 

 「………Cランク?」

 『はい、Cランクでございます』

 

 リリカルなのは世界の魔導師には、大体の強さに合わせてSS、S+、S、S-、AAA+、AAA、AA+、AA、A+、A、B+、B、C+、C、D、E、Fのランクが存在する。

 たとえば、「A´s」で明らかになった時点では、「なのは」と「フェイト」がAAA。

 

 当然、SSに近づくにつれて強力かつ強大な魔導師であるが、

 拓海のランクは、その中でのCランク。

 リリカルなのは内で例えると、「StrikerS」の「キャロ」と同じランクだ。

 

 ………「無印」の時点で(描写的に)一番弱く見られている「ユーノ」ですらAランクである事を考えると、その弱さが解るだろう。

 ストレイジが神様から聞いた話では、転生者の多くは、劇中で最強クラスであるなのは以上の力を持っている。

 その中で、Cランクでやっていけるかと思うと………。

 

 「結構、強くなったと思ったんだけどなぁ………」

 『エースへの道はリリカル遠いでございますな』

 「いや、別にエースになりたい訳じゃないんだけどね」

 

 とはいえ、流石の海鳴も常に犯罪が起きている訳ではない。

 訓練量を増やしたくても、相手である犯罪者の数は限られてくる。

 とはいえ他の転生者や、現時点の地球での魔導師であるなのは達を相手に戦う訳にはいかない。

 どうしたものか。

 

 そんな事をストレイジと話ながら、通学路を歩いていると。

 

 「拓海おはよーッ!」

 「あっ、セント!」

 

 後ろから走ってきたセントに声をかけられた。

 その隣には、アリサの姿もある。

 

 「聞いたか?昨日また出たらしいぜ、謎のヒーロー!」

 

 セントのみならず拓海の周りでは、この所海鳴を犯罪から守っているという、謎のヒーローの話題で持ちきりだ。

 

 「昨日は銀行強盗を捕まえたんだって!」

 「素顔を隠し、町の平和の為に戦う正義の味方!あこがれちゃうなァ~!」

 

 いくらエリートのお嬢様お坊っちゃま学校に通ってるとしても、アリサもセントも小学生。

 やはり、謎のヒーローには憧れるものである。

 

 「そ、そうだね………あはは」

 

 けれども、拓海はそんなに乗れていない。

 当然だ。

 その謎のヒーローは、拓海なのだから。

 

 魔法の特訓であるという理由は置いておいて、素顔を隠して犯罪者を相手に戦う拓海は、何も知らない市民達からはヒーローとして見られていた。

 日本的な価値観からすれば違和感を感じるだろうが、アメコミのヒーローは犯罪者やテロリストを相手にする事が多く、あれに似た感覚だと言えば分かりやすいか。

 

 確かに、ヒーロー願望が完全に無いと言えば嘘になる。

 が、拓海は別にヒーローになるつもりはない。

 そもそも魔法の特訓を始めたのも、自分の身を守る為だ。

 

 けれども、ヒーローとして尊敬されるのは、嫌な気分ではない。

 自然と、笑みが溢れてしまう。

 そこに

 

 「朝から能天気だな?雑種」

 

 そんな楽しい朝に冷や水をぶっかける声が飛んで来る。

 見れば校門の前でこちらを睨んでいる男子が一人。

 鎌瀬だ。

 

 あれから、鎌瀬が再度襲撃してくるような事は無かった。

 が、自分の攻撃を受けて死ななかった事を不愉快に思っているらしく、事ある事に、拓海にネチネチと絡んでくるようになった。

 

 「そのヒーロー気取りもそうだ、犯罪者を生かしておいて、そいつがまた誰かを傷つけたらどうするんだろうか?」

 

 何故自分の攻撃を受けて死ななかったかと問い詰められた拓海は、咄嗟に件の謎のヒーロー………鎌瀬は拓海が変身してる姿という事には気づいていない………に助けて貰ったと返した。

 その為か、鎌瀬は謎のヒーローに対しても悪く言うようになった。

 

 間接的に自分を悪く言われてるような物なので、拓海も少し凹んでしまう。

 

 「その犯人は警察に突き出してるだろうが、何の問題がある」

 

 そんな鎌瀬に、セントが拓海を庇うように睨みを効かせる。

 

 「………行こうぜ」

 「う、うん」

 

 今だにこちらを睨んでくる鎌瀬を無視し、セントとアリサ、拓海は学校へと向かう。

 

 『(………何だか嫌そうな人でございますね)』

 「(ああ、そして………あいつも転生者だ)」

 

 ストレイジから見ても失礼に見えた為か、念話で愚痴る。

 

 「………雑種共が」

 

 スタスタと進む拓海達を、鎌瀬は憎たらしそうに睨んでいた。

 

 

 

 

 

 

 今日は拓海の苦手な英語の授業があった。

 今世を含めて39年生きた拓海であるが、英語は前世の頃から苦手。

 とはいえ、テストに出る為に無視も出来ず、拓海は必死に取り組んだ。

 

 そして、お昼休みの屋上にて。

 

 「………それじゃ、もう一度シミュレートするわよ」

 「おう」

 「うん」

 

 アリサを中心に、セント、拓海、そして今日は珍しくなのはとすずかが集まり、何やら会議をしていた。

 

 アリサもそうだが、すずかもなのはも近くで見ると可愛らしい。

 前まではあまり注目していなかった拓海だが、改めて、美少女アニメで主役を張れるだけの逸材だなと感心していた。

 

 「いい、よく聞きなさいよセント」

 「お、おうっ」

 

 が、今回は彼女達は関係ない。

 今回の会議は、セントの為の物だ。

 セントも、気合いを入れて聞いている。

 

 「シミュレートって………プレゼント渡すだけだよね?」

 「何言ってんのよなのは!!」

 

 その時、なのはが不意に溢した一言に、アリサが思わず立ち上がる。

 

 「セントの一世一代の告白なのよ?!そんな適当でいいわけないじゃない!!」

 「ご、ごめん………」

 

 アリサの気迫に若干引きつつも、きちんと謝るなのは。

 なるほど、「リリカルなのは」の主人公なだけはあり、素直でいい子だ。

 

 ………だが、その年頃の女の子としては異常な恋愛感情への鈍感さは、どうにかするべきではないだろうか。

 「リリカルなのは」の客層を考えると、そうも行かないだろうが。

 

 この後の事をただ一人知っている拓海は、頭の中で呟くのであった。

 

 

 この屋上会議の理由。

 それは、なんとセントに好きな女の子ができたという事だ。

 

 確かに、セントは聖祥大というお嬢様お坊っちゃま学校に通ってはいるものの、メンタル的には一般的な小学生男子だ。

 色語彙沙汰よりも、自分が出るサッカーの試合や、アニメや漫画、ゲームの話題に夢中な、そんなホビー少年である。

 

 そのセントから「好きな子が出来た」と聞かされた時は、アリサも拓海も何かの冗談かと思った。

 だが、セントの態度や真剣さから、それが嘘ではない事は一目瞭然であった。

 そもそもセントは冗談は言っても、嘘をつくような人間ではない。

 

 協力を申し出たのは勿論アリサ。

 原作者が「恋愛のドロドロが嫌だ」という事から恋愛沙汰は避けられるリリカルなのはだが、

 彼女は年相応に色語彙沙汰への興味はあるようである。

 

 「じゃあ、まず私を相手だと思ってプレゼントを渡す練習!」

 「おうっ!」

 

 緊張しているのか、セントもさっきから「おう!」としか言ってない。

 アリサとセントは立ち上がり、対峙する。

 

 まるで、荒野の決闘がごとき空気が流れる中、ゴクリと息を飲んで見守るなのは、すずか、拓海、そしてブレスレットのストレイジ。

 

 『(………これ、告白の練習でございますよね?やけに緊張感があります)』

 「(それだけ真剣なんだよ)」

 

 そんな、念話による拓海とストレイジのやり取りの後、セントは。

 

 「………ごめん、アリサが相手だと全ッッ然緊張できねぇ」

 「それどういう意味よォ?!?!」

 

 セントが根をあげ、アリサが怒り、なのはとすずかと拓海はズッコケた。

 

 告白の練習は昼休みが終わるまで続いたが、最後までグダグダっぷりは続いたとさ。

 

 告白は今週の土曜日。

 こんなんで果たして上手くいくのだろうか………。



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第9話

 

 「………って事があったんだ」

 「へぇ、最近の小学生って進んでるんですねぇ」

 

 その日の晩。

 拓海は、言葉と一緒に晩御飯を食べつつ、今日学校であった事を話していた。

 今日の晩御飯は八宝菜。

 前世において、言葉の同期というか便乗で作られた、オレンジカラーの妹を思い出したが、今は置いておく。

 

 言葉からすれば、最近の小学生の、それも男子が恋愛に対してここまで真剣になっている事が驚きだ。

 胸のせいでからかわれるという小学生時代を経験したから、なおの事。

 

 「そこでだけど言姉ぇ、なんかそこら編のアドバイス無い?」

 

 拓海は、前世を30年生きていた。

 が、それは所謂陰キャや子供部屋おじさんと、社会から後ろ指を指される人生である。

 

 中学時代の初恋も、好意を寄せた相手にはキモいと泣かれ、女の子を泣かせたクズとして殴られるという、最悪の結果に終わっている。

 故に、拓海には恋愛面で役立つ知識など一つもない。

 

 その方面は女子高生である言葉なら詳しいのでは?とも思ったが。

 

 「そう言われても………私も恋とか恋愛とかはちょっと………」

 

 そもそも、桂言葉という人物は恋愛にそこまで積極的ではない。

 原典でも、主人公から告白される形で恋愛を始めていた。

 

 おまけに、ここは状況も環境も違うリリカルなのはの世界。

 本人の性格も相まって、そっち方面は知識としては知っているが、恋愛とは無縁の日々を過ごしてきた。

 

 故に、彼女もそっち方面では宛にできない、という訳だ。

 

 「困ったなぁ………」

 「困りましたねぇ………」

 『(リリカル困るぜ………)』

 

 八方塞がりの状況に、二人と一機は困り果てるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、時間は流れた。

 ついに約束の日が、土曜日が来たのだ。

 

 その間、何度も告白の練習と会議は繰り返したが、結局の所行き着いた答えは。

 

 当たってぶつかれ!(byアリサ)

 

 であった。

 まあ、小学生四人と精神的な中年童貞一人が知恵を絞った所で、浮かんだ「ロマンチックな告白の仕方」などたかが知れているが。

 

 

 そして、ここは海鳴臨海公園。

 リリカルなのはの一期最終回にて、なのはと後に登場する「フェイト」が、再開を誓い合う場所。

 海に面した公園で、告白をするにはもってこいの場所だ。

 

 「大丈夫かな………」

 「上手くやりなさいよ、セント………!」

 

 そんな臨海公園のベンチの影に隠れて、公園に一人立つセントを見守るアリサと拓海。

 すずかはバイオリンの稽古が重なり、なのはは急用が出来たと言って来れなかった。

 

 ………まあ、なのはの場合はジュエルシードの回収である事は、拓海にはなんとなく察する事が出来た。

 

 「………あっ、来た!」

 

 アリサと拓海が影から見つめていると、ついにそのセントの恋の相手が現れた。

 

 セントに呼び出され、歩いてくる一人の少女。

 長い黒髪をサイドテールにした、ぱっちりした目の優しそうな少女。

 

 まれにアニメのモブキャラクターの少女が、ネットで「以外にかわいい」と話題に登る事があるが、そんな感じの子だ。

 

 彼女は「大野美空(おおの・みそら)」。

 遠見市にある「私立ローウェル学園」に通う小学生女子生徒。

 

 セントとは、以前にセントの所属している少年サッカーチームとの交流試合で知り合った。

 そしてセントは………彼女に一目惚れしたのだ。

 

 彼女がマネージャーをしているローウェル学園のサッカー部が、セントの所属チームと交流がある事から、何度か会う機会があり徐々に親しくなっていった。

 そして、今日ついにセントは、秘めたる思いを伝えるのだ。

 

 「(落ち着け!練習した通りにやりゃいいんだ………!)」

 

 セントの手に握られているのは、ラッピングの施された小さな箱。

 中身は、ゲーム用に貯めていたお小遣いを叩いて買ったアクセサリー。

 アリサやすずかのアドバイスを得て買った、少なくとも女子ウケはいい物だ。

 

 ようはプレゼント作戦である。

 物で吊る、というと若干聞こえが悪いが、

 ついこの間恋愛に目覚めたばかりの小学生男子と、原作者の都合で恋愛とは無縁の星の元に生まれたリリカル少女三人と、元子供部屋おじさんにしては、まあまあいい考えである。

 

 「あの、私に用って何ですか?」

 「あっ、ええと………だなっ」

 

 セントも、アリサも、拓海も同じだった。

 緊張感のあまり、言葉も出ず、ドクンドクンという心臓の鼓動が聞こえていた。

 

 だが、見守っているアリサと拓海ならまだしも、セントは何もしない訳にはいかない。

 目の前にいる美空に告白しなければ、今ここに立っている意味がない。

 

 ジーっとしてても、ドーにもならないのだ。

 

 「………あのさっ!」

 

 意を決し、プレゼントを渡そうとした。

 その時。

 

 

 ………がぎゃっ!ぎゃぎゃぎゃぎゃっ!

 

 突如響く、金属で地面をえぐるような音。

 何事か?と、美空を含めたその場にいた全員が、声のする方を見た。

 そこには。

 

 「………ケッ、ガキがサカリやがってよぉ」

 

 黒い靴に備え付けられたスパー………西部劇物のカウボーイが着けているような滑車で、地面を削る一人の男。

 

 「な、なんだよテメェ………!」

 

 美空を庇うように立つセントに、その不審な男は近づいてくる。

 

 目は虚ろで、髪はボサボサ。

 真っ黒な服に、ジャラジャラと鳴るチェーン。

 この時代の………2004年前後に注目を集めた「ワル」のお手本のような、アウトロー的な男だ。

 

 「お前らがイチャイチャする裏でよぉ、どれだけの人間が傷ついているか………考えた事あんのかよ、ん?」

 

 謎のイレギュラーの登場に、セントや美空は勿論の事、拓海とアリサもどうしたらいいか解らない。

 

 「ど、どうする?!警察呼んだ方がいい!?」

 「あ、あわわ………」

 

 そんな中でも常識的な対応を取ろうとする辺り、アリサはしっかりしていると言える。

 いや、「リリカルなのは」では、そうした大人っぽい思考の子供は珍しくないのだが。

 

 『(マスター!あの男、おそらく転生者でございますですよ!)』

 「(嘘ォ?!)」

 『(本当だ!現にリリカル異常な数値の魔力を関知できました!)』

 

 一方で、ストレイジはそのアウトロー男が何者なのかを関知したが、時は既に遅かった。

 アウトロー男は、懐からある物を取り出した。

 

 「(ジュエルシード?!)」

 

 ジュエルシード。

 

 「リリカルなのは」の物語が始まった原因であり、集めた者の願いを叶えるとされている、既に無き古代文明が産み出したオーパーツ。

 

 そして、この地球を滅ぼす程の力を持った超急の危険物………時空管理局的に言うと「ロストロギア」と呼ばれる物の一つ。

 

 それが、何故あの男の手元にあるのか?

 いや、奴が転生者である事を考えると、別にジュエルシードを回収できてもおかしくない。

 

 むしろ、今重要なのはそれではない。

 奴は、あれで何をするつもりなのか。

 

 「お前も………地獄に落ちようぜ?」

 

 アウトロー男は、それを美空向けて投げつけた!

 

 「危ない!」

 

 咄嗟に、セントが美空を守るように前に出た。

 

 ………セントは、その怪しく光る結晶体が何か知らない。

 だから、美空の盾になったのだろうか?

 いや、仮にそれがいかに危険な物か知っていたとしても、彼は美空をかばっただろう。

 

 「ぐぅああああ?!?!」

 「えっ?!きゃああ!!」

 

 しかし、今回のその選択は完全に裏目に出た。

 ジュエルシードが発動し、セントと美空を怪しげな雷のような光が包む。

 そして暴れ出る魔力は、二人を中心に異形の怪物の姿へと変貌した。

 

 「な、何よコレ………?!」

 

 アリサがつぶやく。

 現れる瞬間、臨海公園の一部を陥没させたそれは、巨大な爬虫類………とりわけ、ワニそのもののような姿をしていた。

 

 だが、その身体を構成しているのは、黒い金属質の骨格と、紫色の強固な装甲。

 瞼の無いギョロリとした赤い目で、地上の人間達を睨み付ける。

 

 機械で構成された巨大なワニ。

 それが、その怪物の第一印象である。

 

 拓海は、それが何なのかを知っていた

 名を「ガブリゲーター」。

 この時代からすれば未来のアニメである「ゾイドワイルド」に登場するゾイド………生物の特徴を持った生きた機械の一体であり、

 見た目から解るように、古代ワニ・サルコスクスの特徴を持っている。

 

 が、ガブリゲーターは劇中の設定では全長10mほどしかないハズ。

 なのに、このガブリゲーターは40mあり、それこそこの世界に存在している、怪獣達と同レベルだ。

 

 「か、怪獣だァッ!」

 「逃げろ!!」

 

 突如現れた巨大ガブリゲーターは、臨海公園の外にいた人々の目にもついた。

 その外見から、人々はそれを「怪獣」と認識し、逃げ惑う。

 

 「に、逃げるわよ!」

 「でも、あれは………!」

 「私達じゃどうもできないでしょ?!今は命を守らなくちゃ!」

 

 アリサも、眼前でセントと美空が巨大ガブリゲーターに変えられる姿を見ていた。

 友人を見捨てるような形になるのは気が引けたが、今の自分達にはどうも出来ないのもまた事実。

 

 拓海の手を引き、巨大ガブリゲーターから離れてゆく。

 

 ………ギシャアアアアアア!!

 

 巨大ガブリゲーターが、天高く咆哮する。

 そして、その巨大な足で町に向けて進撃し出した。



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第10話

 臨海公園より現れた巨大ガブリゲーターから、逃げ惑う人々。

 アリサは、その中に居た。

 

 とりあえず、家を通じて自衛隊に問い合わせ、巨大ガブリゲーターへの攻撃を止めてもらうように言わなければ。

 

 「拓海!アンタも………ええっ?!」

 

 一緒に来ているハズの拓海には、自分と一緒に来て貰おう。

 そう思い振り向いたアリサは、思わず声をあげた。

 

 なんと、そこには拓海の姿が無かったのである。

 

 「………ごめん、俺行かなきゃ」

 

 自分が居なくなって右往左往しているアリサに、拓海は遠目から謝る。

 使命感やヒーロー願望も少しだけあった。

 

 だが、今の拓海を動かしているのは「友達を助けたい」という強い意思。

 前世なら、こんな事すら思わなかっただろう。

 

 だが、今の拓海には「戦うための力」がある。

 たとえ、「Cランク」の力しかなくとも、それを振るうのに躊躇はない。

 

 「友達を助けたいんだ!力を貸してくれ、ストレイジ!」

 『そういう事なら、リリカル協力するでございますよ!マスター!』

 

 上手く死角になっている路地裏に隠れ、拓海はストレイジを天に掲げる。

 

 『ご唱和ください!我の名をッ!』

 「ストレイジ!セーーットアーーーップ!!」

 

 閃光が走る。

 変身………セットアップを終えた拓海は、特訓の中で覚えたおぼつかない飛行魔法を使い、飛翔する。

 

 巨大ガブリゲーターにされてしまった友を………セントを救う為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 地を這い、ゆっくりとだが町に迫る巨大ガブリゲーター。

 「ゾイドワイルド」劇中では、搭乗者の腕前もあるが、町一つを単体で壊滅させた。

 

 それが、4倍近く巨大化した事を考えると、海鳴市がどうなるかは最早言う間でもない。

 

 ………グルルッ?

 

 巨大ガブリゲーターが、それに気付いた。

 はるか空高くから巨大ガブリゲーターに向けて飛来する、バリアジャケット姿の拓海だ。

 

 「まずは進行方向を反らさないと………!」

 

 拓海が空中でストレイジを構える。

 すると、その周囲に青白い魔力の弾が四つ現れた。

 

 「アクセルシューターッ!!」

 

 魔力弾が、巨大ガブリゲーター向けて発射される。

 なのはも使っていた、魔力の誘導弾「アクセルシューター」だ。

 

 ストレイジのレクチャーと特訓によって身につけた、誘導式の魔力弾。

 それは拓海の念に従い、巨大ガブリゲーターの目の上に命中する。

 

 パチン、パチンッという風船が割れるような音と共に、命中した魔力弾が弾けた。

 相手が大きすぎる為にダメージこそ与えられない。

 が、気は引けたらしく、巨大ガブリゲーターが拓海の方をにらむ。

 

 ギシャアア………!

 

 こちらを見て、威嚇するように唸る巨大ガブリゲーター。

 

 「さあ、ついて来いッ!」

 

 わざと巨大ガブリゲーターの周りを旋回し、中尉を引き付け、沖の方へと誘導する。

 巨大ガブリゲーターは誘いに乗り、拓海を追って沖の方へと向かう。

 

 「このぉ!」

 

 その後も、シュートバレットで攻撃を試みる拓海。

 しかし、アクセルシューターがそうであったように、巨大ガブリゲーターには通じていない。

 

 「ぐうっ、もっと強力な魔法があれば………!」

 

 ジュエルシードの変異体である巨大ガブリゲーター。

 その核であるジュエルシードを切り離し、封印するには、まず変異体にダメージを与える必要がある。

 

 だが、40mの巨体を持つ巨大ガブリゲーターからすれば、拓海の魔法など豆鉄砲にしかならない。

 もっと強力な魔法………それこそ「ディバインバスター」のような魔法さえ使えればいいのだが、今の拓海にはアクセルシューター程度が精一杯だ。

 

 『なっ、リリカルまずいでございますよマスター!』

 「えっ?」

 

 そしてもう一つ、最悪のニュースが飛んできた。

 

 『今調べてみたが、セント君達の生命エネルギーをジュエルシードが吸収してるでございますよ!』

 「なんだって?!」

 『このままでは、二人は生命エネルギーを吸い取られて、死んでしまうでございますよ!』

 

 なんという事か。

 セントの命も危ないと聞いては、なんとしても巨大ガブリゲーターを倒し、ジュエルシードを封印しなくては。

 

 だが、拓海の魔法はいずれも巨大ガブリゲーターには通じない。

 拓海には、どうにも出来ないのだ。

 

 ギシャアアアアアア!!

 

 そうこうしていると、巨大ガブリゲーターが先に動いた。

 その伸びた顎を天高く振り上げて、拓海に叩きつけた。

 

 「うぐぁああああ?!」

 

 どごぉん!

 

 叩き飛ばされた拓海は、近くにあった海岸に激突する。

 砂埃が舞い上がり、いかに強い衝撃を受けたかを物語る。

 

 「うっ………ぐっ………」

 

 バリアジャケット越しだというのに、全身がズキズキと痛む。

 なんという攻撃力だろうか。

 

 ギシャアア………!

 

 攻撃対象を拓海に変えた巨大ガブリゲーターが、ザバザバと波を掻き分けて拓海に迫る。

 封印所ではなく、拓海とガブリゲーターの間には、大きな差があった。

 

 「何も………できないのか?!俺は………!」

 

 こうしている間にも、巨大ガブリゲーターの中枢に居るセント達は、生命力を吸い取られている。

 このままでは、ストレイジが言ったようにセントの命が危ない。

 

 このまま、何もできないのか?

 死にゆく友を、見殺しにするしかできないのか?

 

 無力感と絶望。

 前世の学生時代にイジメを受けながら感じた感情を久々に感じながら、項垂れる拓海。

 巨大ガブリゲーターは、そんな拓海を嘲笑うように迫ってくる。

 

 

 ………奇跡という物は、そう都合よく起きるものではない。

 現に、前世の拓海を退屈から救いだしてくれるヒーローは現れなかったのだから。

 

 だが、拓海は9年の今世で忘れていたが、この世界の基本は「リリカルなのは」というアニメの世界。

 

 奇跡も、魔法も、存在するのである。

 

 

 「………シューート!!」

 

 直後、巨大ガブリゲーターに降り注ぐ、桃色の魔力の光弾。

 拓海のそれとは比べ物にならない威力のそれは、巨大ガブリゲーターに確かなダメージを与えていた。

 

 「………あっ」

 

 拓海は、それを撃ったのが誰かを知っている。

 

 風に靡くハニーブラウンのツインテールも。

 真っ直ぐ前を見据える紫の瞳も。

 金の輝きを放つ魔法の杖も。

 聖祥の制服から派生したような白いバリアジャケットも。

 肩に乗る、翠色の目をしたフェレットのような動物(実は人間)も。

 

 彼女こそが、後の時代に語り継がれる無敵のエース・オブ・エース。

 悲しみを撃ち抜く魔法を持つ、この「リリカルなのは」における、主人公。

 

 「………なの………は………」

 

 「高町なのは」。

 白き砲撃手が、今ここに降臨した。

 

 

 

 ジュエルシードの強い反応をキャッチし、なのはは急いで駆けつけた。

 そこに居た巨大ガブリゲーターの姿に一瞬驚いたが、直ぐ様冷静さを取り戻す。

 

  「………どうやら、あの巨大ワニは人間を取り込んでるみたいだね」

 

 フェレット………の姿になっている少年「ユーノ・スクライア」の分析は的確だ。

 一目見ただけで、あの巨大ガブリゲーターの中に捕らわれているセント達に気付いた。

 

 「早く助けてあげよう!」

 「わかった!行くよ、レイジングハート!」

 『Ok my master』

 

 流暢な英語を話す、なのはのデバイス「レイジングハート」が輝き、なのはの周りに10個の魔力の弾が現れる。

 アクセルシューターだ。

 

 「アクセルシューターッッ!」

 

 なのはがレイジングハートを振るうと、アクセルシューターは全弾が巨大ガブリゲーターに向かい、飛来する。

 

 ギシャアア?!

 

 拓海と同じ魔法だが、威力もテクニックも桁違いだ。

 

 巨大ガブリゲーターの巨体を支える四足の足に向けて飛来し、ダメージを与える。

 その際に起きる爆発や、巨大ガブリゲーターの苦しむ様を見ても、拓海との差は歴然だ。

 

 ギシャ………ギシャアアアアアア!!

 

 だが当然、巨大ガブリゲーターもやられてばかりではない。

 その40mの巨体をあろう事かジャンプさせて、なのはを丸呑みに………ガブリゲーターには物を食べる機能が無いので「丸噛み」と言った方がいいだろうか………しようと迫る。

 

 だが、なのはは逃げずに、逆にレイジングハートを構える。

 

 レイジングハートの先端が魔法のステッキ然とした円形から、槍を思わせる尖った姿へと変形。

 なのはの足元に、ミッドチルダ式の魔方陣が出現し、魔力のチャージが始まる。

 

 ………ギシャッ?!

 

 巨大ガブリゲーターが気付いた所で、もう遅い。

 巨大ガブリゲーターは、口の中………つまり、装甲に守られていない脆い部分を相手に晒していたのだ。

 

 そして、魔力のチャージが終わる。

 放たれるは、高町なのはの代名詞とも言える、砲撃魔法。

 

 その名は!

 

 「ディバイィィン………バスタァァァーーーーッッッ!!」

 

 大気を震わせ放たれる、桃色の破壊の奔流。

 彼女の代名詞とも言える砲撃魔法「ディバインバスター」である。

 

 それは巨大ガブリゲーターの口内に直撃し、内側から粉砕する。

 いくら強固な装甲に守られていようと、体内から破壊されたのではどうにもならない。

 

 ギシャアアアアアア!!

 

 断末魔の叫びと共に、巨大ガブリゲーターは桃色の光に包まれ、やがて消滅した。

 

 「………やっぱ「本物」はすげぇや」

 

 最後までいいとこなしだった拓海は、眼前の「真の主人公」を前に、自嘲するように呟いた。

 

 さあ、見つかったら色々と面倒だ。

 急いでここを離れないと。

 

 

 

 

 

 

 ………なのはの活躍により、セントと美空は救出された。

 その時の事をセントは覚えていない。

 どうやら、拓海やなのはの姿を見ているという事は無いようだ。

 

 ………さて、諸君。

 なのはの暴れっぷりに気を取られて、何か忘れていないだろうか?

 

 セントの初恋である。

 あの後セントは改めて美空に告白し、想いを伝え、プレゼントを渡した。

 

 その、結果はと言うと………。

 

 「げ、元気出しなさいよセント」

 「そうだよっ!きっとまたいい人に出会えるよ!」

 「おう………」

 

 アリサとすずかという二大美少女に元気付けられているにも関わらず、セントの表情は暗く、目に見えて落ち込んでいるのが解る。

 

 ………結論から言うと、告白は失敗した。

 セントは失恋したのだ。

 それも最悪の形で。

 

 セントが美空に告白した直後、横から彼女と同じ学校の制服を着た女子が、セントに蹴りを入れてきた。

 

 私立ローウェル学園の女子サッカー部のエースストライカー「萩原(はぎわら)」だ。

 

 「何するんだ!」とセントが怒ると「それはこっちの台詞だ!」と萩原はもっと怒った。

 

 ………美空には、既に付き合っている相手が居た。

 あろう事か、それは萩原であった。

 

 流石のセントも、またもや裏から見守っていたアリサ達もこれには驚いた。

 美空に彼氏が居ないというのはアリサの情報網で明らかになっていたが、まさか「同性の恋人」という伏兵が居たとは。

 

 萩原はセントの眼前で美空を抱き締め「アンタの事は私が守る」「男は皆ヘンタイだから、こんな奴に呼び出されても行っちゃダメ」と、見事な王子様ムーヴをかましていた。

 美空も、そんな「王子様」に対して、完全に顔を赤くして乙女モード。

 

 完全に忘れられたセントは、ようやく自分が百合色の愛を前に無様に叩き潰される当て馬になっていたのに気付いた。

 

 こうして、セントの初恋は無惨に散った。

 百合の当て馬という、最悪の伏兵によってもたらされる形で。

 

 「なんだよ女同士って………ふざけんなよマジで………」

 

 少女達の愛の前に、無様なピエロとして敗北する男。

 悪い意味で「リリカルなのはらしい」形で、セントの初恋は終わりを告げたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

【転生者名鑑】

 ・アウトロー男

 自らを負け犬と称し、あらゆる事に対して斜めに構え、冷笑する男。

 幸せにしている人間が大嫌いで、見つけると引きずり下ろそうとする。

 前世ではトラックの運送をやっていたが、ある時居眠り運転で女子高生を轢いてしまい、社会から弾劾され尽くした後に自殺した。

 

 ・転生者特典:オーバーSランク

 原典:魔法少女リリカルなのは

 読んで字のごとく、オーバーSランクの魔導師としての力。

 その力は常時バリアジャケット(あのワルファッション)を展開し、ロストロギアであるジュエルシードを完全に制御下に置く程。

 スパーのついた靴がデバイスらしいが、名前はついていない。

 

 

 

【レジェンド列伝】

 ・高町なのは

 原典:魔法少女リリカルなのは

 「リリカルなのは」における本来の主人公。

 心優しく、困っている人を放っておけない、魔法少女の鏡のような性格。

 「ユーノ・スクライア」より受け取ったデバイス「レイジングハート」を愛機としており、「ディバインバスター」等の砲撃魔法を得意とする。

 その後、次元を揺るがす様々な事件に挑み、管理局最強の魔導師の一角としてその名を轟かすのだが、それはまだ先の話。




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第4章「野獣と化した転生者」
第11話


※注意
今回の話はかなり「きたない」のでご注意ください


 「ふぅ~!トイレトイレっ!」

 

 今、トイレを求めて全力疾走しているこの青年は、私立聖祥大学に通うごくごく一般的な大学生。

 

 強いて周りと違う所を挙げるとすれば、同性に興味がある所………つまりはホモである所ぐらいだろうか?

 

 名前は「道下(みちした)」。

 

 そんなこんなで、今彼は大学からほど近い場所にある公園のトイレにやってきたのだ。

 このまま、公園で用を足して帰ろう。

 道下はそう考えていた。

 

 だが、この公園には道下の運命を大きく変えてしまう出来事が待ち構えていた。

 それは………。

 

 「………んっ?」

 

 ふと道下が何者かの視線を感じ、横を見る。

 そこには、トイレの近くにあるベンチと、そこに座る若い男の姿。

 

 端麗でありながら、男らしい「ハンサム」とでも言うべきな顔立ち。

 青いツナギに包まれた身体は、鍛えられたがっしりした物。

 総評的には。

 

 「(ウホッ!いい男………)」

 

 道下のタイプの「兄貴」であった。

 彼のような男に責められたら………そう思うと、道下の尻の奥が疼く。

 

 だが、今まで自分のタイプの男性はよく見たが、自分のようにホモだった事は一度もない。

 この人もきっと、彼女か何かとの待ち合わせなのだろう。

 そう思いながら、道下がとぼとぼトイレに向かおうとすると。

 

 「ッ!?」

 

 あり得ない事が起きた。

 男は道下に微笑みかけると、自分の着ていたツナギのホックを外し始めたではないか。

 

 ツナギに隠されていた、雄々しくがっしりした肉体が露になる。

 

 まさか、そんな。

 こうも自分に都合のいい事が起きるものなのか?

 道下が混乱していると、男はホックを全て………股の所まで下げ、こう言った。

 

 「やらないか」

 

 ツナギから覗く男の「ブツ」も、臨戦態勢であった。

 

 ※ご覧の作品は「魔法少女リリカルなのは」の二次創作です。

 

 

 

 

 

 

 

 巨大ガブリゲーター戦からしばらくして、セントの調子も戻った頃。

 

 「(どうしよう………本当に………)」

 

 相変わらず拓海は悩んでいた。

 あれから、犯罪者を相手にした「特訓」は続けていたが、どうもこの所海鳴市から犯罪が激減している。

 

 拓海の特訓により、治安がよくなっていると考えれば喜ばしいが、特訓の相手が減るのはよくない。

 ランクも、あれから変動はなくC止まりだ。

 

 「(………なのは、強かったなァ)」

 

 思い出すのは、巨大ガブリゲーターを一撃の元に葬り去った、我等が魔法少女高町なのは。

 拓海が手も足も出なかった物を、彼女は陽動のアクセルシューターと、ディバインバスターの一撃で。

 

 そして、今の海鳴、ひいてはこの地球には、それさえ上回る力を持った転生者達がゴロゴロいる。

 そんな中で生きていくには、今の拓海は弱すぎる。

 

 ………転生者が、アリサ達のような善良な者達ばかりではないのは、学校の鎌瀬やあのアウトロー男を見ていれば一目瞭然だ。

 もしそんな奴等が、自分や、ひいてはアリサ達や言葉に危害を加えようとしているなら………。

 

 「拓海、拓海」

 

 考えただけでも、拓海は気が気ではない。

 今の幸せな日常を失うのは嫌だ。

 なら、それを守るだけの力が必要だ。

 だが、それを身につける為の手段は………。

 

 「拓海………拓海ってば!」

 「うぇっ?」

 

 思考から現実に呼び戻された拓海は、思わず間の抜けた返答をセントに返してしまう。

 

 「何ボーッとしてんだよ、アリサ達が待ってるぜ」

 「あ………うん、そうだったね」

 

 また、ボーッとしてしまっていた。

 この所、そんな事が増えた気がする。

 しっかりしないと、と、拓海は自分に言い聞かせ、アリサとすずか………そして昨日暴れている様を見たなのはの待つバス停へ急いだ。

 

 

 しばらくバスに揺られ、学校の近くについた。

 これが、拓海達のいつもの登校風景だ。

 ………いや、その日によってバラバラだったりする事を考えると、いつもとは言えないか。

 

 そして、校門の前に近づいてきたその時、拓海達はおぞましい物を見る事になった。

 それは。

 

 「僕の可愛い子猫ちゃん………」

 

 ケツアゴで角刈りの、ジャージを着た筋肉ダルマのガチムチ体育教師「有丼(あどん)」。

 

 「ああっ、なんて逞しい筋肉なんだ………!」

 

 教育実習生の、名も知らぬ優男。

 

 その二人が、校門の前で抱き合っていたのだ。

 男と男が。

 目と目を見つめ合って。

 濃厚な「男の世界」を展開しながら。

 

 「やおい」や「ボーイズラブ」の事は、拓海も前世で知識だけはあり、これといって嫌悪感も偏見もない。

 だが、眼前のそれはその手の愛好家でさえも、目を背けるとも思えた。

 

 腐ってすらいない。

 ガチのそれなのだ。

 

 周りには、そんな男達の濃厚な世界に生理的嫌悪感から距離を起き、怯えている生徒達。

 仮にも子供を預かる教師が子供を怖がらせていいのかと、拓海は心の中で突っ込んだ。

 

 「なのはちゃん………何あれ………」

 「わかんない………わかんないよ………」

 

 なのはとすずかも、言い知れぬ恐怖と嫌悪感で、顔を青くしていた。

 

 「うえぇ………」

 「ば、ばっちぃ………」

 

 二人と比べて「ませた」子供であるアリサとセントは、素直にそれが自分達ノーマルの基準で「気持ち悪い」と判断し、態度に表す。

 

 いくら、LGBTに理解を示す事が大事とはいえ、朝っぱらから小学校の校門の前でベタベタされるのは、逆に教育によろしくない。

 そもそも、今は2004年。

 「フォー!」と言いながら腰を振る芸人がブレイクした時代を過ごした小学生がわんさかいる時代。

 同性愛に対する理解すら無い同然の時代に、こんな事をされても………である。

 

 「怖がる事は無いんだよ………さあ、力を抜いて」

 

 そして運悪く、有丼達には周りが見えていないようだ。

 ダンディボイスと共に、優男のパンツに手をかける。

 そして………。

 

 「朝っぱらから何しとんじゃおんどりゃアアアアアアア!!!」

 

 ………ぼぐしゃあッ

 

 寸前の所で、なのは達の担任の先生が鉄拳の一撃で阻止。

 子供達に一生消えぬトラウマが刻まれる事は、なんとか未然に阻止できた。

 

 

 

 

 

 

 

 有丼先生がそういう趣味………つまる所ホモである事は、以前から有名であった。

 本人も隠す気は無かったし、何より節度は守る男だった為、問題になった事は一度もない。

 

 それが何故、今日に限ってあんな事をしていたのか。

 その理由は。

 

 「八点公園に怪人が出るぅ?」

 「そうなのよ」

 

 知っていたのは、勿論アリサ。

 いつものお昼休みの屋上にて、三人娘にセントと拓海を加えたお弁当タイムで、その話が出た。

 

 ………なんでも、私立聖祥大学の近くにある「八点公園(はってんこうえん)」に、ホモの怪人が出るという噂だ。

 怪人は好みの男を見つけると、ノンケでも構わず食ってしまうらしい。

 

 「それで、有丼先生も怪人に襲われて、元よりホモだったのが更に酷くなっちゃった、って事よ」

 「うわぁ………なんか汚い怪人だな」

 

 アリサとセントは興味津々で聞いているが、なのはとすずかは「二人は何を言ってるんだろう?」と言うようにポカンとしている。

 そのピュアさを忘れずに成長して欲しい。

 拓海には、そう願わずにはいられない。

 

 『(………マスター、もしかしてだけど)』

 「(ああ、俺もそう思ってた所だ)」

 

 そのホモ怪人。

 もしや転生者かも知れない。

 

 まるで昭和の特撮のようなガバガバな考えだが、これまで転生者の起こした事件に二度も巻き込まれた事を考えると、そうも思えてくる。

 それに転生者も三者三様。

 ホモの転生者が居てもおかしくはない。

 

 「………それにしても、拓海」

 

 そんな事を考えていると、ふとアリサが。

 

 「そのお弁当、いつもそんな感じよね?」

 「んっ?」

 

 拓海のお弁当。

 言葉の手作りのそれには、リンゴで作られたウサギやら、桜でんぶで作られたハートマークやらと、やけに凝った作りである。

 

 「たしか、親戚のお姉さんが作ってくれてるんだっけ?」

 「そうだよ、いつも凝ったの作るし、何より美味しいんだ」

 「ふーん、そう………」

 

 拓海は単に「凝ったお弁当」としか認識していないようなので、アリサは胸中で突っ込んだ。

 それは最早、愛妻弁当ではないか?と………。



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第12話

※注意
今回の話はかなり「きたない」のでご注意ください


 ホモ怪人の噂が流れてから、しばらく。

 事態は収まる所か、更なる悪化を見せていた。

 

 ある日は、ある生徒が学校の帰りの途中、川の土手の下で茶色い何かを塗り合う全裸の親父達を見たという話を聞いた。

 

 ある日は、スポーツジムで筋肉ムキムキの外人の男達が互いのパンツを奪い合うレスリングのような光景に出くわしたという話を聞いた。

 

 ついには、留学生の「朴秀(ぼく・ひで)」少年が、下校中におじさんに捕まり、虐待の末に性的暴行を受けたなんて話も。

 

 海鳴市の至る所で、ホモが盛るという異常事態が起きていたのだ。

 警察も犯罪でなければ動けないし、時系列的にもまだ登場してない時空管理局に助けを求める事もできない。

 他の転生者も、ホモ怪人を恐れているのか動きを見せない。

 

 ので。

 

 「結局、俺達が行くしかない、と………」

 

 噂の場所である八点公園の前に立つ拓海は、ゴクリと息を飲んで呟いた。

 

 学校の人達の安全を考慮すると、もう拓海が動くしかないのだ。

 

 ホモ怪人………転生者と思われるそれとの戦い。

 初の対転生者戦という不安はあったが、それでもやらなければならない。

 

 『危険だと判断したら、すぐに逃げるでございますよ!』

 「わかった、それじゃ………」

 

 覚悟を決める、拓海とストレイジ。

 そして。

 

 『ご唱和ください!我の名をッ!』

 「ストレイジ!セーーットアーーーップ!!」

 

 ストレイジをセットアップし、いざホモ怪人退治に。

 まあ、掘られるのは嫌なので、危なくなったら逃げるんですがね。

 

 

 

 

 

 

 

 八点公園は緑が多い場所でも知られている。

 だが、それ故に薄暗く、死角が生まれ易い。

 

 なるほど、怪人の隠れ家にはもってこいである。

 

 全身の神経を集中し、辺りを見回しながら進む拓海。

 ストレイジも、ジャミングゴーグルを通したセンサーにより、辺りを索敵している。

 

 すると。

 

 『………マスター、見つけたでございますよ』

 「本当か?」

 『ええ、左の方に二人、男が居ます!』

 

 ストレイジが早速見つけたようだ。

 身を隠し、ストレイジの言った方向に目をやる。

 そこには………。

 

 

 

 

 

 

 

 ………道下は、幸せだった。

 

 大学に入ってから、自らがホモである事も相まって、寂しい日々が続いていた。

 どういう訳か海鳴はどこもかしこも美少女だらけで、彼好みのいい男は見当たらなかったからだ。

 

 だが、それももう終わった。

 ようやく、自分好みの「兄貴」に出会えたからだ。

 

 「所で、俺のムスコを見てくれ、こいつをどう思う?」

 

 目の前で逞しきモノを見せつけている、この男。

 名を「阿部(あべ)」というこの男は、ツナギ姿から解るように、普段は自動車整備工をして働いているらしい。

 

 あの日、彼に「やらないか」と誘われた事から、道下はこの八点公園のトイレが海鳴に住む数少ないホモ達の出会いの場………つまる所の「ハッテン場」だという事を知った。

 そして、トイレではじめて男同士でサカリをした事で、道下の文字通り薔薇色の日々が始まったのだ。

 

 ………まあ、その「はじめて」の内容事態は、気持ちはよくともグダグダというか、なんというか「くそみそ」な結果に終わったのだが。

 

 「すごく………大きいです………」

 「嬉しい事言ってくれるじゃないの、それじゃ、とことん楽しませてやるからな」

 

 今日は、道下の提案で野外で楽しむ事になった。

 阿部の阿部はガッチガチ。

 さっそく、大自然でのジョイント・ゴーをしようとした。

 

 「………と、その前に」

 

 だが、その直前阿部はジョイントをやめてしまう。

 どうしたのだろう?と道下が不思議そうな顔をしていると、阿部は背後に向けて一言。

 

 「隠れてないで出てきたらどうだ?」

 

 まさか?!

 気配を消していた拓海は、阿部に感付かれたと気付いた途端に、冷や汗が出てきた。

 

 自分の隠れ方が未熟なのもあるが、まさかこの男は転生者なのか?

 

 ………ならば。

 

 「………っだぁぁぁぁぁ!!」

 

 もうヤケクソである。

 ストレイジを振りかざし、阿部に向けて飛びかかる。

 

 非殺傷設定ではあるが、気絶ぐらいはいけるだろう。

 そう思い、何の迷いもなく振り下ろした。

 

 が。

 

 「ふんっ!」

 「な………ッ!?」

 

 拓海は、目の前の光景を疑った。

 阿部は、なんと素手でストレイジの一撃を受け止めたのだ。

 非殺傷設定とはいえ、魔力で強化された一撃を。

 

 「受け止めた!?何者だアンタ!」

 「ただの………自動車整備工さ!」

 

 バキィンッ!

 

 金属音………平成仮面ライダーで剣と剣がぶつかった時のようなあの音と共に、拓海は弾き飛ばされた。

 

 「くっ!」

 

 なんとか体制を崩し、地面に着地する。

 その睨む先では、道下を庇うように立った阿部が、不敵な笑みを浮かべながらツナギのホックを元に戻していた。

 

 「熱烈なアプローチをありがとう、でも、俺は子供には興味ないんだ、大きくなってから出直しな?」

 

 阿部はあくまで余裕の表情。

 デバイスでの攻撃を防いだ事を考えると、やはり転生者か?

 拓海は、そう結論付けた。

 

 「見境なく男を襲うのは止めろ!皆ホモが増えて怖がってるんだぞ!」

 

 相手は恐らく転生者。

 けれども、拓海はただでは引かない。

 ホモを相手にするのは怖かったが、自分の周りの幸せが破壊されるのはもっと怖かった。

 だから、生身でデバイスの攻撃を受け止める相手でも果敢に立ち向かうつもりでいた。

 

 「おい、ちょっと待て、見境なくとはどういう意味だ?」

 「へっ?」

 

 だが、阿部のストップが入る。

 

 「いやあんた………ノンケでも構わず食っちまうんじゃなくて?」

 「バカな事を言うな!俺はそんな強姦魔のような事はしない!」

 

 怒った阿部は、嘘を言っているようには見えなかった。

 噂と食い違う意見に、拓海は少々混乱しているようにも見えた。

 

 ………じゃあノンケかどうかを確認せずに道下にやった「やらないか」はどうなるんだとも思うが、それはそれ、これはこれだ。

 

 

 拓海は、阿部と道下にいきなり襲いかかった事を謝罪した。

 そして、今海鳴で起きている事と、人々を騒がせているホモの怪人の事についてを話した。

 

 「ノンケさえも襲うなんて、なんて奴だ!」

 「ただでさえホモは偏見で見られやすいのに、許せませんね」

 「ああ!そんな奴はホモの風上にも置けないな」

 

 阿部と道下は、ホモの怪人の悪行に怒りを燃やす。

 二人はホモだが、悪人では無さそうだ。

 

 「あなた達以外に、この公園で誰か見かけませんでしたか?」

 「そうだな、うーん………」

 

 拓海からの質問に、ここに来るまでの事を考える阿部。

 ホモの怪人が八点公園に出るなら、何か手がかりがあるかも知れない。

 

 「………そういえば」

 「そういえば?」

 「俺達の他にもう一人、公園に駆け込んできた男が居たな」

 「他には?」

 「いや、会ったのはそいつだけだ」

 

 ようやく手がかりらしい手がかりを見つけたと、拓海は喜んだ。

 だが。

 

 「でも、そいつは違うと思う」

 「えっ?」

 「だってそいつは、何か逃げているみたいだったからな」

 

 阿部の話によると、道下と今日のプレイの事を話しながら公園を目指して歩いていると、八点公園に駆け込んでくる一人の若い男を見たという。

 

 自分達のようにホモの相手を探しているのか?とも思ったが、どうも様子がおかしい。

 何かに怯えるような、もっと言えば何かから逃げるような表情を浮かべていたという。

 

 「でも、もしかしたらその人が、怪人の何かを知ってるかも………」

 「流石は道下、鋭い指摘だ」

 「えへへ………」

 

 阿部に誉められ、嬉しそうな道下。

 たしかに、あからさまに怪しいその男なら、ホモの怪人の何かを知っている可能性がある。

 その男を探そうと拓海が考えていた、その時。

 

 

 「ンアーーッ!!」

 

 

 突如響く、甲高い男の悲鳴。

 ここには、拓海と阿部と道下、そして件の男しかいないハズ。

 なら、あの声は。

 

 「あの男が走っていった方角だ!行ってみよう!」

 「はい!」

 

 まさか、今度こそホモの怪人が?

 拓海達は、声のする方へと駆け出した。



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第13話

※注意
今回の話はかなり「きたない」のでご注意ください


 男の名は「遠野(とおの)」と言う。

 このリリカルなのはの世界ではありふれた、転生者の一人である。

 

 生前彼は、水泳部の先輩………それも男からストーキングを受けていた。

 そのせいで、周りに自分までホモだという風評が広がり、人が離れていった。

 助けを求めようにも、誰もいない状態になったのだ。

 

 ある日、水泳部の先輩は遠野の水筒に睡眠薬を入れ、彼を眠らせてから犯そうとした。

 寸是の所で目を覚ました遠野は、無我夢中で逃げ出した。

 

 そして道路に飛び出し………黒塗りの高級車に跳ねられてしまった。

 

 その後遠野は、謎の空間で神様を名乗る「GO」なる人物に出会い、転生させてもらった。

 あの先輩から逃げられるなら、チートもハーレムもいらない。

 とにかく、ホモの少ない世界にと願い、ここに来た。

 

 ストーカーの連続で精神を追い詰められていたのもあるが、あの先輩の居ない日々は、清々しい物だった。

 あいつがいないだけで、こんなに気が楽なのかと。

 

 「せ、先輩!何してるんですか!やめてくださいよ?!」

 

 だが、平穏は長くは続かなかった。

 「あいつ」は、この世界にまで遠野を追ってきたのだ。

 

 「逃げるなよ!逃げるな………!」

 

 ギラついた目、ノンケは勿論ホモですら滅多にしない目で遠野を見つめる、筋肉質で日に焼けた肌をした、色々と「きたない」印象を与える野獣のような男。

 

 「田所(たどころ)」だ。

 転生を果たして逃げた遠野を、自殺して転生する事で追ってきたそいつは、生前と変わらないステロイドハゲだった。

 

 「遠野、お前の事が好きだったんだよ!」

 「俺は嫌いです!」

 「そんな事言うなよー頼むよー」

 

 はっきりと自分は嫌だと伝えても、これである。

 田所には、一般的な常識は通じないのだ。

 自分の価値観こそが絶対であり、それを平気で他人に押し付ける。

 誰かが言っていたが、まさに「人間の屑」を体現したような人物である。

 

 「もう他の男を襲うんじゃ満足できねぇんだよ………!」

 「く、来るな………!」

 「ヤメロォ(建前)ナイスゥ(本音)」

 

 じりじりと、田所が近づいてくる。

 もうだめだ。

 遠野が諦めそうになった、その時。

 

 「やめろ!その人嫌がってるじゃないか!!」

 「ファッ!?」

 

 背後から飛んできた、田所を咎める一言。

 田所が驚き、遠野が振り向く。

 そこに立っていたのは、ストレイジを構えた拓海の姿。

 

 前世でも来てくれなかった助けがようやく来た。

 遠野は、嬉しさから泣きそうになる。

 

 「男同士のサカリを邪魔するなんてガキでも許せませんねぇ!頭いきますよ………!」

 

 だが、野獣もただ転生してきただけではない。

 確実に遠野をモノにする為に、その為の障害を排除する為に、必要な力を神様から………GOと名乗った男から授かってきたのだ。

 それは。

 

 「………ババゾンッ!!」

 

 田所の目が野獣のように鋭くなったと思うと、その身体から黄土色のガスのような物が噴出される。

 

 屁?とも思ったが、そもそも屁に黄色いイメージがあるのはアニメ的デフォルメの産物だ。

 そもそも屁に色はない。

 それに………この臭いは屁ではなく、大便のそれに近い。

 

 「く、臭………ッ!」

 

 あまりにもの悪臭に、鼻を覆う拓海。

 そしてガスの噴出が終わった後、田所はその姿を大きく変えていた。

 

 「オォン………アォン………」

 

 全裸の田所をベースに、狼男のように各部に毛を生やし、筋肉と犬歯を発達させた、爪を鋭くしたような姿。

 下半身は相撲取りがするようなふんどしに覆われていたが、股の部分がもっこりとしており、嫌悪感を感じさせた。

 

 「………なるほど、こいつがホモの怪人か!」

 

 まさしく「野獣と化した先輩」とでも言うべき田所………というか「野獣」の姿に、拓海は息を飲む。

 

 無論、リリカルなのはの世界に、こんな汚い存在はない。

 忘れそうだが、相手は転生者。

 気は抜けないのだ。

 

 「はあっ!」

 

 まずは先制攻撃だ。

 野獣に向けて、シュートバレットを放つ。

 が、野獣はジャガーのように飛び上がり、それを回避。

 

 「だったらこうだッ!」

 

 だが、それも計算内。

 即座にアクセルシューターを五発展開する。

 

 野獣がいるのは空中。

 見た所相手には翼のような機関はない。

 なら、空中で攻撃を回避するのは不可能なハズだ。

 

 「行け!」

 『アクセルシューター!リリカル飛ばすぜ!!』

 

 アクセルシューターが、野獣目掛けて飛来する。

 これだけの数を浴びればひとたまりもない。

 そう、思われたが。

 

 「カスが効かねぇんだよ!!」

 「なッ!?」

 

 なんと野獣は、身体を回転させてアクセルシューターを全て弾き飛ばしてしまった。

 なんという身体能力だろうが。

 

 「アォン!」

 「ぐうっ?!」

 

 そして野獣は、拓海に尖った爪による一撃を浴びせる。

 寸是の所でラウンドブロッカーによる防御に成功したが、野獣の一撃は強烈で、拓海は少し後ずさってしまう。

 

 「ホラホラホラホラ!」

 「ぐううっ!」

 

 野獣の攻撃は続く。

 ラウンドブロッカーには、何発も野獣の爪による攻撃が叩き込まれる。

 防御魔法越しだというのに、その衝撃は拓海の腕にビリビリした感覚と共に伝わってくる。

 

 こちらの反撃の隙はない。

 防戦一方の拓海。

 

 「オォン!」

 「わっ!」

 

 そして隙をつかれた拓海は、防御魔法ごと蹴飛ばされる。

 拓海の身体は宙を舞い、そのまま近くに生えていた木に激突する。

 

 「俺と遠野の間を邪魔するのは許せないって、それ一番言われてるから」

 「ぐうっ………!」

 

 バリアジャケットに守られている為、重症にこそならない。

 が、それでも野獣の力は強烈だ。

 腐っても………というか、臭くても転生者という事か。

 

 このままでは勝てない。

 どうする?

 拓海の中に焦りが生まれた、その時。

 

 「………なるほど、そいつがホモの怪人ってわけかい」

 

 野獣と拓海の戦いに、割って入る男………否、「いい男」が一人。

 他でもない、阿部だ。

 

 「阿部さん?!危険です!下がってください!」

 

 いくらデバイスの攻撃に耐えたとはいえ、阿部は一般人。

 転生者を相手にしては、勝つ所の話ではない。

 

 「へっ、俺は自分が不利と解っていても立ち向かうような男なんだぜ」

 

 だが、阿部はやる気だ。

 目の前の野獣と戦うつもりでいるのだ。

 デバイスはおろか、魔法すら使えなさそうなのに、だ。

 

 「誰だか知らんが、邪魔をするなら容赦しませんねェ!」

 

 野獣はというと、完全に阿部をナメてかかっていた。

 当然だ、転生者である自分に対して、阿部は魔力も転生者特典も持ってないように見える、ただの一般人。

 それが、転生者である自分に喧嘩を売るなど、お笑いだ、と。

 

 「試してみるかい?ケダモノ」

 

 一方の阿部は、相変わらず不敵に笑っている。

 

 普通考えれば無謀な挑戦でしか無いのだが、その不敵な笑みを見るに、阿部には何か「秘策」があるのではないか?

 それこそ、転生者を相手に戦えるような。

 

 根拠はないのだが、拓海にはそう思えて仕方がない。

 

 「………ホォォォォォ………モッ!」

 「?!」

 

 そう考えていると、阿部が何やら奇妙なポーズを取り、奇妙な呼吸を始めた。

 

 太極拳や、何かの健康法………マンガ的には、吸血鬼や究極生命体と戦う奇妙な冒険や、鬼と戦う大正時代の剣士達を思わせる、深い呼吸。

 

 そして、ポーズはというと、腰を突き出したり股を開いたりと、まるでポールダンスかストリップショーだ。

 綺麗なお姉さんがやるならまだしも、筋肉質の男である阿部がやっても、気持ちが悪いだけだ。

 

 一見するとふざけたような行動だが、どういう訳か拓海も野獣も、そして離れて見ている遠野と道下も、謎の威圧感を感じて固まってしまっている。

 そして。

 

 「秘技・新日暮里妖精呼吸法!」

 

 カッ!

 

 瞬間、阿部がツナギのホックを勢いよく下ろす。

 するとどうだろう。

 阿部の股間が光輝き、まるでフラッシュか閃光弾かのような輝きが、辺りを包んだ。

 

 「こ………これはッ!?」

 

 光の中で、遠野が、野獣が、道下が、そして拓海が見た物。

 それは………。



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第14話

※注意
今回の話はかなり「きたない」のでご注意ください


 はらり。

 と、脱がされたツナギが地面に落ちる。

 

 光の中から現れたのは、一糸まとわぬ全裸の阿部。

 ただし鍛えられた逞しい肉体はうっすらと輝きを放ち、

 股間には彼のブツを隠すように、赤いバラのようなエネルギー体を纏っている。

 

 野獣を「汚物」とするなら、阿部はその逆の「美しい」姿をしていると言っていいだろう。

 

 「ストレイジ、あれは?」

 『リリカルわからんぜ!魔力は放っていないから、魔法ではないでございますが………』

 

 ストレイジも知らぬ、阿部のあの姿。

 魔法でないなら一体何なのかと、拓海が混乱していると。

 

 「あれは………新日暮里拳?!実在していたなんて!」

 

 道下が、興奮気味に叫んだ。

 

 「知ってるんですか?道下さん」

 「ああ、新日暮里拳は………」

 

 

 

 

 新日暮里拳(しんにっぽりけん)。

 

 それは、キリスト教の迫害を逃れて、古代の日本に逃げてきたゲイ達が、外敵から身を守る為に産み出した拳法の一つ。

 妖精呼吸法と呼ばれる特殊な呼吸法により自らの筋肉を活性化させ、短時間であるが常人の数倍の身体能力を発揮させる。

 その際に身体が光輝く様から、幽霊や妖怪に見間違われたと云われている。

 また、ゲイ達が隠れ家としていた場所は現在の日暮里であるが、その由来がこの拳法から来ている事は言う間でもない。

 

 ────民明書房刊「LGBTと格闘技の以外な関係」より抜粋。

 

 

 

 

 ………つまり、今の阿部はその呼吸法により、身体エネルギーにブーストをかけた状態である。

 股間のバラも、体外に放出される余剰エネルギーによって作られた物だろう。

 

 「ふん!そんなハッタリで勝てるなんてありませんねぇ!」

 

 だが、野獣は恐れない。

 勇気がある………と言うよりは、単純に阿部を見下しているだけである。

 

 「遠野、今からこいつをボコボコにしてやるから、見とけよ見とけよ~?」

 

 しかも、遠野に自分の強さを見せつけようと、阿部に向かい襲いかかる。

 鋭い爪が、阿部の白い肉体を切り裂こうとした。

 

 が。

 

 「ファッ!?」

 

 振り下ろされた爪を、阿部はゆらりと避けてみせた。

 回避できないスピードだったハズなのに。

 

 「ホッ………ホラホラホラホラホラホラホラホラッッ!!」

 

 ならばと、野獣は拓海にも行った連続攻撃を行う。

 鋭い爪を次々と繰り出すも、阿部は必要最低限の動きでそれを交わしてゆく。

 まるで、蝶が舞うように。

 

 「すごい!あれが新日暮里拳なのか!?」

 

 阿部の恐るべき力を前に、拓海は主人公なのに解説モードになってしまう。

 

 「な………何者なんだよーお前よー」

 

 何度攻撃を仕掛けるも全て交わされ、野獣がどんどん消耗してゆく。

 

 「………ただの自動車整備工さ!」

 

 そして、阿部はそれを見逃さない。

 浮遊するように、スラリと野獣の背後に回り込む。

 

 「ファッ!?何すんだよーお前よー」

 「そんなにホモがしたいなら、俺が相手になってやる!」

 

 阿部が野獣のふんどしを下ろすと同時に、阿部の股間を覆っていた薔薇の花が散り、ギンギンになった「ブツ」が丸見えになる。

 そして………。

 

 

 

 

 

 ※※※ここから先のシーンはあまりにも汚いので、音声のみお楽しみください※※※

 

 

 

 

 

 「は、入りました………!」

 

 「ンアッ!アアッ!」

 

 パンパンッ!パンパンッ!

 

 「いいぞっ!よくシマッて吸い付いて来やがる………!」

 

 「オォン!アォン!」

 

 「和三盆………」

 

 「グノシー………」

 

 「むっきゅん!(承諾)」

 

 「デバイスしゃぶらせて下さい(混乱)」

 

 「シンボラー!(マジックガード)」

 

 「きしょい………(本音)」

 

 「声出してみろよ(健康観察)」

 

 「うるせえんだよお前らよぉ(理不尽)」

 

 「行く!パパも!(おまじない)池ー?(自問)池ー!(自答)行くー!(決意)」

 

 「パパの砲撃魔法入ってる~♪(絵描き歌)」

 

 「狂いそう………!(静かなる怒り)」

 

 「お前重いんだよ!(過去)」

 

 「もっとカードリッジ舐めてぇ~(挑発)」

 

 「やば………やば………わかんないね………(白坂小梅)」

 

 「魔力もリンカーコアもでけぇなお前(褒めて伸ばす)」

 

 「気持ちいいって言えよ(趣旨崩壊)」

 

 「お前の封印魔法気持ちいいよ!(褒める)」

 

 「いっぱいいっぱい、入れてください(説明口調)、リンカーコアに(季語)」

 

 「母が生意気になって………(自我の芽生え)」

 

 「(青筋が)ヒクヒクしてる…!」

 

 「^~↑~^~↓^~」

 

 「リリカルマジカル^~(挨拶)」

 

 「狂うぅ^~~~」

 

 「む゛う゛う゛ん………(男泣き)」

 

 「ぷももえんぐえげぎおんもちょちょちゃっさ!」

 

 「おっp………おっぱげた………!」

 

 「ロストロギア………(新挨拶)」

 

 「NA・NO・HA(陣取り成功)」

 

 「(そんな実力なら)やめてください!(辛辣)」

 

 「(四肢を)バラしたいなって………」

 

 「ゴマちゃん………(防衛達成)」

 

 「キャベジン…(薬違い)」

 

 「わざわざ田舎から・・・(余計なお世話)」

 

 「な、なんか………(こいつ)駄目だな………」

 

 「それがお前の望みなら………アアッ゛↑」

 

 「手を入れる(絶望)専門家も呼んであるからな(準備万端)」

 

 「(制裁の)鞭が入るぞ鞭が」

 

 「はぁぁあああっ………!!(畏怖)」

 

 「ユニゾンが気持ちいいです………(煽り)(ユニゾンガキモチ・・・)」

 

 「あ^~もう糞が出る^~」

 

 ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!

 ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!!

 

 「ゼェハァ…ゼェハァ(ホォン!)…アアッ!ハァッ…ハッ イキスギィ!(ホォン!)イクゥイクイクゥィク…アッハッ、ンアッー!!アァッアッ…アッ…ハン、ウッ!!…ッア…ッアァン…ッアァ…アァ…ッア…」

 

 ………スン、スンッ、ポッ、チョッ、ポッ、ジョボジョボジョボジョボジョボジョボボボボッ!ベチッ!ギュッ、ブヂュィ↑ニュポンッ!

 ブッチッパ!(迫真)………ピトン………ポチョン………

 

 

 

 

 

 

 ※※※ここから前のシーンはあまりにも汚いので、音声のみお楽しみください※※※

 

 

 

 

 

 

 拓海は、今日ほどジャミングゴーグルの存在に感謝した日はない。

 視界に入ってくる情報を完全にシャットアウトし、眼前で繰り広げられている汚ならしい制裁♂から目を守ってくれたのだから。

 

 ただ、音に限っては完全に防げず、八点公園に響き渡る阿鼻叫喚のアエギに耳をやられてしまったが。

 

 「………もう終わった?」

 「終わったよ」

 

 遠野に確認を取り、拓海はジャミングゴーグルのシャットアウト機能を切る。

 

 視界が戻ってくると、そこには道下と、またツナギを着た阿部が抱き合う姿。

 そして遠野と、野獣から元の人間の姿に戻り、全裸でうつ伏せになって痙攣している田所の姿。

 

 ここで何が起きていたか。

 拓海は、考えたくもなかった。

 

 この後、阿部達は田所を警察に突き出し、海鳴市を騒がせたホモ怪人騒ぎは幕を閉じた………。

 

 

 

 

 

 

 その日の夕方。

 拓海は、今までの戦いの中で一番疲れを感じながら、我が家に帰宅する。

 

 あれだけ汚い物を体験したのだ、無理もない。

 

 「………ただいまぁ」

 

 前世で感じた以上の疲労感を感じながら、拓海は自宅のドアを開ける。

 すると。

 

 「あっ、たっくんお帰りなさい♪」

 

 制服の上からエプロンを着た言葉の姿。

 晩御飯の準備中のようだ。

 

 「もうすぐ晩御飯できますから、手を洗って待っててくださいね」

 

 見慣れた、いつもの光景。

 だが、ホモ同士の汚い戦いに巻き込まれた後だと、巨乳美少女女子高生である言葉はあまりにも眩しすぎて。

 

 「あらっ?」

 

 気がつけば、抱きついていた。

 女の子特有の甘い香りと、おっぱいの柔らかい感触に包まれる。

 

 「………ごめん、何も言わないで、しばらくこうさせて」

 

 セクハラがどうとか関係なかった。

 とにかく、記憶に焼き付いたホモ達をなんとかして上書きしたかった。

 故の行動だった。

 

 「………もうっ、今日は甘えん坊さんですね」

 

 言葉もそれ以上何も言わなかった。

 ただ拓海を抱き締め、頭を撫でてあげるだけだった。

 

 

 その後拓海は、夕食と風呂を終え、二階の自室に向かった。

 そしてやはり、言葉の香りとおっぱいの感覚を思い出し。

 抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【転生者名鑑】

 ・遠野

 生前に下記の田所から執拗なストーキングを受けており、逃げる最中に黒塗りの高級車に跳ねられて死亡。

 GOと名乗る神性によって、この世界に転生してきた。

 また、田所から逃げる事のみを願った為か、転生者特典や魔法の素質は持っていない。

 

 

 ・田所

 上記の遠野を追い、GOと名乗る神性によってこの世界に転生してきた。

 容姿、性格、行動に至るまでどれもがきたない。

 八点公園に潜み、手当たり次第に男を襲ってはホモにしてきたが、阿部さんの活躍によって成敗♂された。

 

 ・転生者特典:野獣と化した先輩

 原典:真夏の夜の淫夢

 「ババゾン」の掛け声と共に悪臭のするガスを放ち、獣人の姿に変身する。

 身体能力が爆発的に向上し、鋭い爪や牙を使った、野獣のような戦闘スタイルを取る。




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第5章「秘密基地へようこそ」
第15話


 ある日の、ある晩。

 いざ寝ようとした直前、拓海はストレイジに呼び止められた。

 

 『マスター、私はこれまでの戦いを見て思うでございますよ………失礼ですが、マスターは転生者基準では、リリカル弱い』

 「………まあ、事実だしなぁ」

 

 耳が痛いが事実である。

 現に、以前の巨大ガブリゲーター戦や田所戦も、前者はなのはの、後者は阿部の介入があって解決はできた。

 が、拓海単体で戦って勝てた事は一度もない。

 

 あれから、海鳴市の治安もよくなり、犯罪も激減。

 特訓の機会もほぼ無くなってしまった。

 

 だというのに、あれから魔導師ランクはCから微動だにしない。

 これで、この先数多の転生者達や、もしかしたら原作の魔導師とも対峙するかも知れないと考えたら………。

 

 『そこで、私なりに考えたでございますよ』

 「何かいいアイデアあるの!?」

 

 だが、ストレイジには何か考えがあるようだ。

 拓海としても、この状況を打開できるアイデアがあるなら願ったり叶ったりだ。

 

 ストレイジの提案したアイデア。

 それは!

 

 『他人のフンドシを借りるのです!!』

 

 ………直後、しばらくの沈黙が流れた。

 

 当然である。

 状況を打開できるアイデアとして「他人のフンドシを借りる」と言われても、いまいちピンと来ない。

 

 拓海も「何言ってんのお前」と言いたげに、ストレイジを見つめていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 月は4月後半。

 「リリカルなのは」の物語も中盤に差し掛かった頃。

 

 「いってきまーす!」

 「いってらっしゃ~い」

 

 桂家庭にいる言葉に挨拶して、拓海は外へと出掛けてゆく。

 

 部屋で絵を描いているかパソコンをしているばかりだった拓海が、最近はよく外に出掛けている。

 少し寂しいが、いい事だ。

 

 そう思いながら言葉も、先週レンタルショップで借りたスプラッターホラー映画のDVDを返しに、拓海とは逆方向の道へと出掛けてゆくのであった。

 

 

 ………言葉には騙しているようで悪いが、拓海は単に遊びに行ってるのではない。

 なら、何をしに行っているのか?

 

 答えは「宝探し」である。

 

 

 田所戦の後、ストレイジは遠野から聞いた事があった。

 

 実は、彼のように転生者特典も魔法の素質も持たずに転生してくる者は多く、そうした者は他の力を持った転生者から狙われる事が多くなった。

 

 と、いうのも、以前より転生者同士で水面下で潰し合いが行われていたらしい。

 なんでも、互いに「この世界で自分達の邪魔になるから」との事。

 

 遠野のような無力の転生者も、力を持つ前に潰そうという機運が高まってきた。

 その為、無力の転生者達は自衛の為にある事を行う事にした。

 

 それは、持ち主の居なくなった………戦いに敗れ、海鳴を去ったり、または死亡した転生者達の持っていた武器やアイテムを探し出し、武装する事だった。

 

 やはり「リリカルなのは」の舞台なだけはあり、海鳴は他と比べて転生者が集中している。

 故に、少し探せばすぐに見つかるのだ。

 墓荒しをしているようでアレだが、命がかかっている事を考えると、背に腹は変えられない。

 

 それを聞いた拓海は、それに便乗する事にした。

 転生者の「忘れ物」を使い、自身の戦力を上げようと言うのだ。

 

 道具で得られる力など本当の力じゃないと言われそうだが、遠野の話通りに、転生者同士の潰し合いまでやってると聞いては本当とか嘘とか言っていられない。

 

 それに、拓海は主に「特訓」のせいで何かと目立ちすぎた。

 いつ、他の転生者に目をつけられてもおかしくないのだ。

 

 「ほんとに見つかるの?」

 『リリカルまかせてくれ!私のセンサーを使えば………』

 

 少し前にストレイジが何か強力な反応をキャッチしたという場所に向かい、内蔵したセンサーを頼りに辺りを散索する。

 しばらく歩いていると。

 

 『………むむむっ!この反応!』

 

 ストレイジが反応をキャッチした。

 

 「場所は?」

 『南西を真っ直ぐ!リリカル急いでくれ!』

 

 ストレイジに言われた通りに、拓海は進む。

 路地裏を。

 交差点を。

 地下道を。

 そして、回り回って歩み続け、今。

 

 「………ここに、その転生者のアイテムがあるの?」

 『はい!ここからリリカルやばい反応をビンビンに感じるでございますよ!』

 

 拓海がストレイジの誘導に従い向かった先にあったのは、海鳴の外れにある山だ。

 特に登山で賑わうワケでも、木材が伐採されるワケでも、そして誰かが保有しているワケでもない。

 

 山岳地帯にある、何の変哲もないただの山だ。

 ピーヒョロロと鳶が鳴く声が聞こえる程に、のどかな。

 

 「………ほんとにここにあるの?」

 『何もいうでありますか?そんなに私が信用できなくて?』

 「いや、なんというか………すごい武器とかがある割には、のどかだなって」

 

 そんなこんながありながら、拓海達はこののどかな山に自ら足を踏み入れた。

 

 ………までは良かったが、ものの数分で拓海は普段からもっと運動しておけば良かったと後悔した。

 

 「ぜえ………ぜえ………」

 『だ、大丈夫でございますかマスター?!』

 「こ、これが大丈夫そうに見える………?」

 

 誰かの私有地になっていないという事は、舗装すらされていない自然のままの姿である。

 当然、誰かが通る事など想定されていないので、拓海は、険しい山道をゼエゼエと肩を切らしながら探索する事になっていた。

 山がのどかなのは外見だけだ。

 

 「………所でさ、ストレイジ」

 『何でございますか?』

 「これ、セットアップしたら体力消耗が抑えられるとかない?」

 『ううむ………バリアジャケットにそんな機能は無いですね』

 「そう、かぁ………」

 

 とにかく、これ以上は歩けそうにない。

 転生者も、よくもこんな所にアイテムを隠してくれた。

 そう思いながら、拓海は一休みしようと山の中にあった切り株にもたれかかった。

 

 「………あれ?」

 

 ふと、違和感を感じる。

 切り株のさわり心地が何かおかしい。

 なんというか、中身が空洞のような感じがするのだ。

 

 『どうしました?マスター』

 「いや、この切り株………なんか、ヘンだぞ?」

 

 中身が腐ってるとも思ったが、だったらもたれかかった瞬間崩れるハズだ。

 試しに叩いてみると、コンコンと、ポリバケツか何かを叩いたような音がする。

 

 それで気付いたが、これは自然の切り株ではない。

 プラスチックか何かだ。

 

 「なんだ?これ………」

 

 立ち上がった拓海は、ふと切り株を上から覗き込む。

 

 「………空気を、吸い込んでる………?」

 

 切り株の、切断面。

 年輪の間から、空気が切り株の中へと流れてゆく感覚を感じた。

 

 この中に「何か」あるのか?

 

 拓海が、切り株に手をかける。

 すると………。

 

 ………バキィッ!!

 

 不運だった事は、三つある。

 一つは、その「切り株」が、人が体重をかけて上から座る事を想定して作られていなかった事。

 もう一つは、その「年輪」が、申し訳程度の偽装として、薄く脆く作られていた事。

 

 そして最後に、その「切り株」が拓海のような人間の子供一人が、すっぽり入れるような直径をしていた事。

 

 「う、わあああ?!」

 『マスタぁああ!?』

 

 切り株が砕け、拓海の小さな身体はその先にあった穴へと転がり落ちた。

 

 その「穴」は長く、自然の山と違ってプラスチックのような人口物で作られていた為、拓海はどこにも引っ掛かる事なく「穴」の中を転がり落ちてゆく。

 

 穴は長く、もしかした地球の底へと続いているのでは?と思わせる。

 だが、終わりはその次の瞬間見えてきた。

 それは。

 

 「あっ!」

 

 プロペラだ。

 拓海の視線の先に見えてきたのは、この「穴」と、その先に続く「終点」とを区切る、金属製のプロペラだった。

 

 プロペラは高速回転しており、もし、生身の人間である拓海が突っ込んだなら………。

 

 考えただけでもゾッとする。

 言葉がよく見ているスプラッターホラー映画よりも凄惨な事になるのは見るに明らかだ。

 

 「ま、まず………ッ!」

 

 勢いは収まらない。

 プロペラが迫ってくる。

 もうだめだ。

 

 ………バキィッ!!

 

 哀れ。

 拓海は金属製のプロペラに切り刻まれ、ミンチより酷い状態に………

 

 「ラウンドブロッカー!」

 『リリカル間一髪だぜ!』

 

 ………は、ならなかった。

 

 プロペラと接触する間一髪で、ストレイジをセットアップ。

 ラウンドブロッカーによる防御魔法を展開し、逆にプロペラを叩き割ったのだ。

 

 「………ねぇ」

 『何でございますか?』

 「いつも言ってる「ご唱和ください!」無しでも変身できるじゃん………」

 『あれは気合いを入れるために必要なんでございますよ』

 「次から無しじゃダメ?」

 『リリカルダメです!』

 

 浮遊魔法を利用して着地し、そんな事を話す拓海とストレイジ。

 ふと見上げると、自分が落ちてきた穴が見える。

 

 「ここから落ちてきたのか………」

 

 見回すと、そこには同じような「穴」が、天井に一定感覚でいくつも空いていた。

 

 さらに言うと、その体育館ほどの大きさの「そこ」は、床も天井も、人工的な金属で作られており、

 緑色の小さな証明の光に照らされ、全体的に薄暗い。

 まるで、昔YouTubeで見たメタルギアソリッドのプレイ動画を思い出す。

 

 「………どうやら、ストレイジの勘違いってワケじゃなかったみたいだな」

 『えっへん』

 

 自慢気なストレイジであるが、拓海は辺りを見回して警戒している。

 こんな感じの「秘密基地」には、侵入者を排除する為の「敵」が仕掛けられているのが常だからだ。

 

 そして………。



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第16話

 

 見ると、薄暗い部屋の奥から何かがこちらに向かって来ていた。

 どうやら、拓海の予想は当たっていたようだ。

 

 「秘密基地にようこそ………って、歓迎してくれるワケじゃなさそうだ」

 

 ガシャン、ガシャンと音を立てて現れた物。

 それは、一見すると鎧を着た人間だ。

 だが、9歳の拓海と比較しても、かなり大きく見える。

 各部も、中に人が入る事を想定してないような形状をしている。

 

 そんな形の鎧が三機ほど、剣と盾を装備して拓海の前に現れる。

 

 一見すると、何らかのロボットアニメに出てきそうなデザイン。

 これも、本来なら「リリカルなのは」には登場しない存在………ではない。

 

 「傀儡兵」と呼ばれるそれは、物語の終盤に、敵の首魁が根城とする「時の庭園」において、侵入してきたなのは達を迎撃するべく大量に出現した。

 資料によっては「人型機械」とも紹介されており、ロボットアニメに例えるのもあながち間違ってはいないように思える。

 

 「リリカルなのは」劇中においては、なのはの仲間である「クロノ」を初めとする登場人物達に次々と破壊されており、役割的にはいわゆる「ザコ」である。

 

 しかしそれは、なのは達Aランク以上の魔導師を相手にした時の話。

 そして拓海は、それよりずっと弱いCランク。

 しかも相手は三体。

 仮に、アニメ本編に登場したそれと同性能だとすれば、十分に驚異である。

 

 

 傀儡兵のバイザー状の目が「ギンッ」と輝く。

 そして剣を構え、三機が一斉に拓海に向け迫る。

 

 「来た!」

 

 飛び上がって回避も間に合わない。

 拓海は咄嗟にラウンドブロッカーを構えた。

 

 バキンッ!

 

 ラウンドブロッカーは、そこから展開する防御魔法により、傀儡兵の攻撃を防いだ。

 が、衝撃までは防げず、拓海は防御魔法ごと後ろに吹き飛ばされる。

 

 「このぉ!」

 

 だが、吹き飛ばされた勢いを利用して空中へと飛び上がってみせた。

 

 「シュートバレット!」

 『リリカル撃つぜ!』

 

 そして空中から、シュートバレットによる攻撃に移った。

 拓海が原作を思い出す限りでは、たしか羽根のついた傀儡兵は空を飛んでいたが、そうでない物は飛んでいなかったハズ。

 だから、空中から一方的に攻撃すれば勝てるのでは?という、拓海なりの考えであった。

 

 「………やっぱ効いてないかッ」

 

 シュートバレットを撃ちながら、拓海は苦虫を噛み潰したように表情を歪めた。

 

 着眼点は、まあ良かった。

 しかし、拓海のシュートバレットでは、傀儡兵に傷はつけられない。

 

 もし、拓海が「ディバインバスター」のような強力な魔法を使えたなら違っただろうが、現実は厳しい。

 

 次の瞬間、傀儡兵は空中の拓海に盾を向けてくる。

 なんのつもりだろう?と思う拓海。

 すると。

 

 ………ビシュウッ!

 

 「わあっ?!」

 

 なんと、盾に埋め込まれた宝石のような発光体から、魔力ビームを放ってきた。

 

 「あんな機能あったか?!」

 

 「リリカルなのは」について、大昔に一度見ただけという状態である事に対し、拓海は何度目かわからないが後悔していた。

 

 「くそっ!もっと真面目に見てりゃよかったよ!!」

 

 原作を改めてちゃんと見ておけば、何か対策を練られたかも知れない。

 だが、その「リリカルなのは」の世界に転生してしまった今となっては、最早確認は出来ない。

 後の祭りである。

 

 地上から撒き散らされるビームを回避、または防御しながら、拓海は飛び回る。

 

 その時、三機の傀儡兵の内の一体が動いた。

 ビームの放射をやめ、ガシャンガシャンと駆け出したのだ。

 

 そして、ビームを避け続ける拓海の真下近くに来たかと思うと。

 

 ………ズオッ!

 

 飛んだ。

 飛び上がったのだ。

 まるで、ウサギかバッタのように。

 

 「飛んだァ?!」

 

 驚き、目を見開く拓海。

 傀儡兵は拓海の眼前まで来ると、手にした剣を拓海向けて振り下ろす。

 

 ど、ご、ぉ、っ!

 

 「ぐわ………ッ!」

 

 傀儡兵の手にしていた剣は、斬り裂くよりも叩き斬る事に特化した西洋剣。

 バリアジャケットが守ってくれたので斬り裂かれる事は無かったが、衝撃は容赦なく拓海を襲った。

 

 ずどぉっ!

 

 まるでバレーボールか、バスケのダンクシュートのように、傀儡兵の一撃を受けた拓海は地上に叩きつけられた。

 

 「ぐ………ッ!」

 

 バリアジャケットが衝撃を吸収してくれたお陰で怪我はない。

 が、完全に無事とはいかず、よろよろと立ち上がる身体は各部がズキズキと痛んでいる。

 

 だが、傀儡兵が許してくれる気配はない。

 再び三機のフォーメーションを組んだ傀儡兵が、盾を構えて迫ってくる。

 

 奴等は機械だ。

 降参を受け入れてはくれない。

 この施設に侵入した者を排除するという、プログラムしか無いのだ。

 

 「………機械?」

 

 ふと、浮かんだ。

 確かに、奴等はプログラム通りにしか動かない。

 だが、そのプログラムに細工をしてしまえば………?

 

 「………ストレイジ」

 『何でございますか?』

 「この施設にハッキングをして、奴等のコントロールを奪う事って出来る?」

 

 ストレイジは黙ってしまう。

 確かに、試作品であるストレイジは、技術者が調子に乗ったのか様々な機能が搭載されており、その中にはコンピュータへのハッキング機能もある。

 

 現に、情報収集と称してパソコンに無線で繋いでいた事もある。

 古いデスクトップタイプの、マウスすら有線式のパソコンに、だ。

 

 『………できない事はないでございます』

 「じゃ、出来るって事でいいんだ?」

 『ハッキング中はシュートバレット以外の攻撃魔法は使えないぞ』

 「時間が来るまで逃げ続けりゃいい」

 

 そもそも攻撃魔法自体、アクセルシューターとシュートバレットしか使えないし問題ない。

 と、言おうとした拓海だが、悲しくなるので引っ込めた。

 

 逃げ切ると言っても、ついさっき傀儡兵に追い付かれて撃墜されたじゃないか、という事も。

 

 不利な博打であったが、今はこれに賭けるしかない。

 

 『………ハッキング、開始!』

 「よし!」

 

 ハッキングが始まり、ストレイジの発光体が赤く点灯する。

 と、同時に、拓海は飛行魔法を展開し、空中に飛び上がる。

 

 傀儡兵達は、先程と同じように盾から魔力ビームを放つ。

 拓海は、それを空中でラウンドブロッカーを使って防ぎ、回避が可能なら逃げ続ける。

 

 傀儡兵の魔力ビーム自体は威力が高くない。

 重装甲や剣を装備している事から解る通り、近接戦闘タイプなのだろう。

 魔力ビームは、あくまで「保険」のようだ。

 

 しかし、三機が弾幕として放つ魔力ビームは、なのは達ほど素質もなく、魔法にも不馴れな方の拓海からすれば、十分に驚異である。

 

 「くっ!このぉ………!」

 

 並んで、先も述べた通り傀儡兵達は機械。

 当然整備しなければガタは来るが、人間が疲弊するよりも長いスパンで高度できる。

 

 「ストレイジ!あとどれぐらいかかる?」

 『もう少しです!』

 「それさっきも言ったよね?!」

 

 かれこれ30分は、拓海は飛び回った。

 アニメの大体一話分に当たる時間だ。

 

 その間、拓海は疲弊していった。

 元より慣れない山道で体力を消耗していたのだ、無理もない。

 

 そして、傀儡兵も自らの電脳による分析で拓海が消耗していると知り、最後のトドメを刺すという手段に出た。

 三機の傀儡兵が結集し、同時に盾を構える。

 

 「やばっ………!」

 

 拓海が気づいたと同時に、三機の傀儡兵は、拓海に向けて一斉に魔力ビームを放つ。

 収縮された事で、魔力ビームは軽い砲撃魔法並みの魔力の塊となり、拓海に迫る。

 

 「ラウンドブロッ………かぁぁぁっ?!」

 

 回避は間に合わない。

 咄嗟にラウンドブロッカーを構えたが、魔力の奔流は拓海をラウンドブロッカーこと押し飛ばし、壁に激突させる。

 

 「ぐううううっ!」

 

 ラウンドブロッカーを構えたままだが、ラウンドブロッカーから展開する防御魔法越しに、収縮魔力ビームの衝撃をビリビリと感じる。

 

 恐るべき威力である事は、よく解る。

 純粋に侵入者の排除を目的とした傀儡兵が、非殺傷設定で魔法を使ってくれているとは考えられない。

 故に、この防御魔法が破られればどうなるか………考えただけでも背筋が凍る。

 

 だが、現実は拓海の都合とは逆に進んでいた。

 ラウンドブロッカーから展開した防御魔法に、バキバキと亀裂が走る。

 魔力ビームの出力を前に、破られかけているのだ。

 

 「もう………ダメだ!」

 

 魔力がガリガリと消費される感覚を感じる。

 けれども防御魔法の修復は間に合わず、亀裂は広がってゆく。

 

 もうダメだ。

 防御魔法が破られ、自分はあの破壊の光に飲み込まれる。

 拓海が諦めかけた、その時。

 

 「………え?」

 

 最後の時は訪れなかった。

 

 防御魔法が破られようとした、その直前。

 魔法ビームが次第に弱まっていき、やがて放出が止まった。

 

 呆然としている拓海の前で、傀儡兵達は糸が切れた人形のように、その場に倒れた。

 動きが止まったのだ。

 

 魔力ビームから解放された拓海は、ふよふよと地上に降り立つ。

 見れば、ストレイジの発光体が、赤から元の姿に戻っている。

 

 『………リリカル間に合ったぜ』

 「し、死ぬかと思った………」

 

 ハッキングは成功した。

 ようやく緊張感から解き放たれた拓海は、力なくその場にへたり込むのであった。



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第17話

 疲れ切り、拓海はしばらく休んだ。

 その間を利用して、ストレイジはこの施設へのハッキングを続行する。

 

 「これ以上は無理そう?」

 『はい、この階層までが限「界そう」でございます」

 「はい」

 『アルトじゃーないと!』

 

 そんな下らないやり取りを終え、拓海は立ち上がる。

 

 とりあえず、今自分のいる第一フロアのトラップやその他ロック等は解除され、少なくとも傀儡兵に襲われるような心配は無くなった。

 ので拓海は、何の心配をする事なく、この施設を調べる事が出来る。

 

 「さてと、お宝探しに行きますか!」

 

 見れば、この部屋の端にあったシャッターの扉が開いているのが見える。

 きっとこの先に目当ての「お宝」があるハズだ。

 まだ見ぬ謎を求め、拓海は扉の奥へと足を踏み出した。

 

 

 ………………

 

 

 ハッキング時にストレイジが入手した地図をたよりに、しばらく歩いた。

 結果、この階には色々な設備がある事が解った。

 

 まず、拓海が最初に落ちてきたあの部屋は、訓練ルーム。

 先程は侵入者を排除する為に傀儡兵が現れたが、本来は訓練用のドローン………「StrikerS」に登場する「ガジェットドローン」とは別物………を相手に、各種戦闘トレーニングを行う。

 

 続いて、食堂。

 数十人が一度に食事が取れるようなスペースと座席。

 そして、対応するスイッチを押せばドローンが料理を運んでくる、自販機のような機械。

 バックヤードには料理を作る数機の自立型ドローンと、膨大な量の食品を冷凍保存してある冷凍庫があった。

 

 次に見つけたのは居住区。

 部屋は、大昔に見たSF物の洋画で、宇宙船だか基地だかにあった部屋を思い出す。

 ベッドに机、そしてテレビとパソコンと、クローゼット。

 それが、マンションかホテルの廊下のように、番号が割り当てられていくつも並んでいた。

 

 あるのでは?と予想はしていたが、傀儡兵の格納庫。

 未起動の傀儡兵が、機能を停止した状態で何体も並んでいる。

 その内三つだけ空いている場所がある。

 あの傀儡兵はここから出撃したのだろう。

 

 

 以前、管理局に戦争を仕掛けようとする転生者がいると聞いた事がある。

 するとここは、その為の基地として作られたのだろう。

 

 ストレイジが調べたが、この基地に生命反応は無く、また一年近く誰も訪れていない事が解った。

 

 この基地を作った転生者がどうなったかは解らないが、こんなにいい物が転がっているなら、使わせて貰うだけだ。

 

 「最後はこの部屋か………」

 

 拓海は、ある部屋の前に居た。

 この階にある部屋は、これが最後。

 何故かハッキングでもここだけ開かなかった。

 ストレイジが調べた地図の情報では「格納庫」とあるが、武器でも入ってるのだろうか。

 

 なら、是非とも貰いたい所だ。

 もっとも、開かなければどうしようもないのだが。

 

 『どうやら、合言葉が必要でございますね』

 「合言葉?」

 『はい、扉のスイッチを押してその言葉を言わないと、開かない仕掛けになってるであります』

 「ウウム………」

 

 設備のハイテクさに比べて随分とアナログだなと、拓海は唸った。

 作った本人はお遊びのつもりだったのだろうか?

 

 「合言葉は何か解る?」

 『勿論、リリカル解析済みだ!早速そこのスイッチを押します!』

 「押せってことね」

 

 とりあえず、ストレイジの言う事に従い、拓海は扉のスイッチを押した。

 すると、ストレイジは。

 

 『FF外から失礼するゾ~(謝罪)このツイート面白スギィ!!!!!自分、RTいいっすか?淫夢知ってそうだから淫夢のリストにぶち込んでやるぜ!いきなりリプしてすみません!許してください!なんでもしますから!(なんでもするとは言ってない)』

 

 ………うん、まあ2004年の時点では誰も知らないコピペであるから、合言葉とするにはうってつけとも言える。

 

 しかし、この少し前にホモまみれの汚い事件に………

 

 ………もっというと、このコピペのアイデア元であるゲイ向けアダルトビデオに登場する、くさくてきたなくてくさそうな24歳学生も居た気がする………

 

 ………関わっている身からすると、事件の事を思い出してしまい「勘弁してくれ」と思ってしまう。

 汚い記憶を、言葉の事を思い出して中和していると、プシュウと扉のロックが解除される音が聞こえた。

 

 さて、この中には何があるのか。

 気を取り直して、拓海は扉の向こうに向かう。

 

 そこには………。

 

 「………マジかよ」

 

 その様を見た途端、拓海は言葉を失った。

 

 無理もない。

 拓海が想像していたのは、個人が持つ用の銃や大砲。

 大きくても、せいぜい戦車や軍用バギーといった物が格納されてる光景。

 

 無論、それもあったのだが、拓海の目を引く「それ」は、拓海の想像していた「兵器」のカテゴリーから、大きく外れた物だった。

 

 人の形をしていたのだ。

 頭があり、五本指のある腕が生え、二本の足で地面に足をつけている。

 その上で、18m前後の巨大さを持つ。

 

 機械仕掛けの巨人。

 巨大ロボット、としか表現できない。

 それこそ、ロボットアニメに登場するような。

 

 『マスター、これは………』

 「間違いない………角はないし色も違うけど、こいつは」

 

 拓海は知っていた。

 これが何なのか。

 

 拓海は世代ではないが、リブート作品とも言える漫画が、前世で愛読していた雑誌に掲載されていたのを覚えている。

 それ以前にも、ゲーム等でメディアに登場したり、再販されたプラモデルがあったりと、外伝作品の出身ながら、その知名度は高い。

 

 「こいつは………「ガンダム」だ………!」

 

 名を「ガンダムジェミナス」。

 

 漫画作品「新機動戦記ガンダムWデュアルストーリーG-UNIT」に登場した、人型戦闘兵器「モビルスーツ」。

 

 その中でも、特に強力な性能を持ち、漫画では「自由の象徴」「コロニーの味方」と称された「ガンダム」の一体である。

 

 

 

 

 

 「今日も色々大変だったなー、ストレイジ」

 『そうでございますねぇ、マスター』

 

 その日の夕方。

 帰宅した拓海は、自室で今日の事を振り返っていた。

 

 今回の調査は、豊作所か二倍のお釣が来るほどの結果だった。

 

 勝手に「ユニオンベース」と名付けたあの基地には、現在解放されている第一フロアだけでも、ちょっとした軍隊並みの戦力がある。

 戦車等の一部の有人兵器も、傀儡兵の回路を応用すれば無人運用が可能との事。

 転生者相手にどこまで有効かは解らないが、戦力としては申し分がない。

 

 移動も、ストレイジに内蔵した転送魔法で出来るようになっている。

 これで、何時でも何処でも、ユニオンベースに向かえる。

 

 「に、しても………ガンダムかぁ」

 

 おまけに、あそこにはガンダムまであった。

 

 まあ、いくら高性能とはいえ、人型兵器たるMSがこの「リリカルなのは」の世界でどれだけの優位性が持てるのかは解らないし、

 あのジェミナス自体も動力炉が魔力炉心になっていたり、目玉である「PXシステム」が搭載されていない等、本家とはほぼ別物と言っていい。

 だが、やはり手元にガンダムがあるというのは、男としては心が踊るものである。

 

 いっそ、設備もあるのだしあのジェミナスを自分専用カラーにでも塗ってやろうか?

 そんな事を考えていると………。

 

 「たっくーん、お風呂上がりましたよー」

 

 一階から、言葉の声が聞こえてきた。

 ドキッとして、部屋から一階を見ると、長い黒髪をタオルで拭いている言葉の姿が見えた。

 

 言葉は今日は帰りが遅くなったので、晩御飯を作るついでに高尾家でお風呂を済ませる事になったのだ。

 

 「わ、わかった!今行くー!」

 

 踊る心を抑えつつ、拓海は部屋に戻り、服と下着を取り出しに向かう。

 ほんのりとシャンプーの香りがする、気がした。

 

 

 

 ………そして拓海は、お風呂に入った。

 そして、ここに言葉が入っていたのを思いだし。

 

 抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

【ガジェットファイル】

 ・量産型ジェミナス

 分類:モビルスーツ

 原典:新機動戦記ガンダムWデュアルストーリーG-UNITOG

 漫画作品「新機動戦記ガンダムWデュアルストーリーG-UNITOG」に搭乗するMS………なのだが、

 実際に存在するMSではなく、コロニー「ガリアレスト」で発見された多数の「ガンダムジェミナス」のパーツとデータバンクについて聞かされた主人公が、ジェミナスの量産型を想像した際にイメージとして登場した。

 「ユニオンベース」に格納されていた機体は、動力を魔力炉心に置き換えられる等、元のジェミナスとは外見が似ているだけの別物となっている。




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第6章「さらば優しき日々よ」
第18話


 

 「さよならー」

 「ばいばーい」

 「またねー」

 

 今日も学校での一日が終わった。

 それぞれ下校してゆく生徒達の中に、拓海も居た。

 

 「でさー、その子にヨシ!って言っても寝転がっちゃうのよ」

 「なにそれ!」

 「おっとりしすぎだろー!」

 

 帰り道も、アリサやすずか、セントとなのは達と一緒。

 いつもそうだ。

 この仲良し四人グループで下校している。

 

 ………実はこの所、鎌瀬が学校に来ていない。

 そのお陰でアリサ達と話していてもいちゃもんを付けられる事も無いし、他の女子達も「セクハラ野郎が居なくて安心!」みたいな雰囲気だ。

 

 とはいえ、鎌瀬が転生者である事を考えると、何かよからぬ事を考えているのではないか?と、拓海は心配になってしまうが。

 

 「じゃあまたねー!」

 「また明日!」

 

 やがて、彼等はそれぞれの家へと帰ってゆく。

 拓海も自宅へと向かう………の、だが。

 

 「………よし、ここでいいか、ストレイジ」

 『リリカル待ってたぜ』

 

 人気のない場所で、辺りを見回す。

 そして、ストレイジを起動した。

 

 ストレイジに記録させた転移魔法を使えば、わざわざ遠い通学路を歩かずとも、すぐに自宅に帰れる。

 

 ………のだが、ストレイジを取り出したのは、帰宅の為ではない。

 

 『転移魔法!座標、ユニオンベース!』

 

 淡い光が拓海を包み、やがて通学路から姿を消した。

 転移魔法で拓海が向かった先。

 言う間でもなく、秘密基地・ユニオンベースである。

 

 

 

 

 

 

 

 訓練ルーム。

 相も変わらず薄暗いそこには、赤い一つ目のついた丸い機械が浮遊している。

 なんとなく、後の時代の「ガジェットドローン」を彷彿とさせるそれは、5機ほどで編隊を組み、ストレイジをセットアップした拓海を取り囲んでいる。

 

 『5、4、3、2………』

 

 ストレイジが数字をカウントしている。

 拓海は神経を集中し、体内の魔力を練る。

 丸い機械………トレーニング用の「ドローン」も、赤い一つ目のカメラで、拓海をじっと見つめている。

 

 まるで、西部劇の一幕。

 早抜き勝負をするガンマン達のような緊張感。

 そして。

 

 『1………0!』

 

 カウントがゼロになる。

 瞬間、ドローンに白い………無色の魔力が集中し、拓海に向けて放たれる。

 

 「はあっ!」

 

 瞬間、拓海は飛び上がり回避。

 瞬発力と飛行魔法の応用による、高高度ジャンプだ。

 

 そして、ドローンがこちらを向くより早く、地上にいるドローンを見据え、頭の中で術式を高速展開。

 

 「アクセルシューター!」

 

 構えたストレイジより魔力の弾が浮かび、誘導弾・アクセルシューターとして地上のドローン達へと放つ。

 

 ………ガシャンッ!

 ………バキィッ!

 

 大気を切り裂いて飛んだ魔力弾は、5機のドローン全てを正確に撃ち抜き、破壊。

 破壊力も、誘導性も増している。

 かつての、巨大ガブリゲーター戦。

 相手が巨大すぎた事を考慮しても、まったく通じなかったあの頃と比較すると、かなりの違いである。

 

 だが、これで終わりではない。

 また、新たなドローンが4体、こちらに向けて迫る。

 

 一見すると、拓海は冷静に見えた。

 だが、その胸の内には警戒と、わずかな緊張感があった。

 無理もない。

 今から出そうとしている、「その魔法」は、何度か失敗している魔法だ。

 

 ストレイジを構え、意識を集中する。

 距離は十分ある。

 構えたストレイジに、魔力が集中し、四つの魔方陣がストレイジを中心に展開する。

 そして。

 

 「………ディバインッ!」

 『バスターーッ!!』

 

 ドゥゥゥッ!

 

 放たれる、青白い魔力の奔流。

 それは四機のドローンを纏めて飲み込み、完全に破壊する。

 

 「ディバインバスター」。それは「リリカルなのは」において、主人公「高町なのは」の代名詞とされている、強力な砲撃魔法。

 

 続編の「StrikerS」においては教え子の「スバル」が、

 さらにその続編である「Vivid」においては義娘の「ヴィヴィオ」が、

 それぞれ受け継ぐ形で使用している。

 

 拓海も、なのはから教わらない形ではあるが、ストレイジやこの施設のコンピュータを使った教習により、なんとか身に付けた。

 

 ………の、だが。

 

 「………ぐっ」

 

 ディバインバスターを撃ち終わった拓海を、疲労が襲う。

 拓海にとっては、まだ、ディバインバスターは覚えたばかりの魔法。

 一度の発射にも、かなりの魔力と体力を消費する。

 

 『大丈夫ですかマスター?!』

 「へ、平気だよ………前よりはマシだ」

 

 それでも、一晩寝れば回復する。

 小学生特有の体力回復の早さに感謝しながら、拓海は地上に降り立った。

 

 途端に、膝をついてしまう。

 特訓を重ねたものの、身体はまだ慣れていない様子。

 これをバカスカと撃てる「なのは」が、いかにえげつないかが、改めて解った。

 

 

 ユニオンベース発見より数日。

 課題であった、特訓についての問題はクリアした。 

 この訓練ルームにおいて、拓海は魔導師としても適切な訓練を受ける事が出来た。

 犯罪者相手の実戦よりも、冷静で的確である。

 

 そして、学校帰りに特に用事が無ければ、拓海はこのユニオンベースの訓練ルームにて、少しずつ特訓するというのが日課になっていた。

 

 魔導師ランクも、CランクからBランクに上がった。

 これは、「StrikerS」における「スバル」や「ティアナ」、そして「エリオ」と同格である事を意味する。

 

 ………もっともこれは、ストレイジによる分析による物であり、正確にそうであるかは時空管理局の正式な試験を受けて確かめる必要があるが。

 

 「今日はこれ位でいいかな」

 『お疲れ様でございます!マスター!』

 「うん、ストレイジもお疲れ様」

 

 ストレイジと互いに労い合い、拓海はセットアップを解除する。

 

 そろそろタイムリミット、特訓は終わりだ。

 これで自宅の近くに転移して貰えば、いつも家に帰るぐらいの時間になる。

 これで、言葉にも怪しまれずに済むという訳だ。

 

 「………と、その前に」

 

 転移魔法で家に帰る前に、拓海はユニオンベースの格納庫に向かった。

 訓練ルームから近く、時間はかからない。

 

 プシュー、と、格納庫の扉が開く。

 プログラムを書き換えた為、もうあの合言葉を言う必要はない。

 

 「………やっぱ、いいなあ、自分専用機」

 

 拓海の眼前では、あの時見つけた量産型ジェミナスが、ドローンによって改修を受けている途中であった。

 ………と言っても、僅かな調整と強化、並びにカラーリングの変更が行われている程度だが。

 

 『そん何いいでございますか?』

 「うん、とっても」

 

 拓海は、前世ではロボットアニメも嗜んでいた。

 ガンプラもいくつか作った事がある。

 眼前のジェミナスのカラーリングも、その時の「自分専用カラー」として設定した物を再現している。

 

 「………そんじゃ、そろそろ帰ろうか」

 『おう!』

 

 そして今度こそ転移魔法を発動し、拓海はユニオンベースから姿を消した。

 

 これ以上遅くなると言葉が心配するというのもあるが、明日………休日である土曜日には、外せない用事があるのだ。

 それは………。



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第19話

 ………ピピピピ、ピピピピ。

 

 時刻は、朝の5時。

 早めに設定していた目覚ましが鳴り、拓海は目を覚ます。

 

 「………むう」

 

 そして、自身の「ムスコ」も起き上がるという、男子特有の朝の挨拶をしている。

 ので。

 

 「ハァハァ………言姉ぇっ………言葉姉ぇっ………ウッ!」

 

 案の定、拓海は言葉の事を思い出して、

 抜いた。

 

 そして………。

 

 「………俺、言姉ぇの事好きなのかな」

 

 賢者モードに入り、拓海は布団の上でそう考える。

 

 たしかに、桂言葉という女性は、恋愛ゲームのキャラクターなので当然と言えば当然だが、異性としては申し分ない。

 

 優しく、家事も出来、それでいて一途。

 おまけに、Jカップ102cmの巨乳で、今でも成長しているというから驚きだ。

 そりゃ、原典で女子生徒の嫉妬を買い、いじめのターゲットにもなる。

 

 もし、街をゆく男性に「彼女とお付き合いできたらいいか?」と聞けば、ホモか何かでもない限りはOKを出すのではとも言える。

 

 だが。

 

 「………だとしても、子供はそう見てくれないよなぁ」

 

 一番の問題があった。

 自分と言葉の年齢差である。

 

 拓海の肉体年齢は、現時点では9歳の高校生。

 対する言葉は、16歳の高校生。

 

 普通、高校生は小学生を恋愛対象としては見ない。

 そりゃ、ロリコンやショタコンやペドフィリアという例外はあるが、少なくとも言葉にそんな兆候はない。

 

 ………自分の周りに女子が多いと知って少し嫌そうな顔をしたり、アリサから毎日の弁当を「愛妻弁当」呼ばわりされた事もあったが、きっと気のせいだろう。

 

 拓海は、前世を含めて39年生きてきた。

 当然、性欲や恋愛に悪い意味で振り回された男が、ろくな末路を辿らない事も知っている。

 というか、それで中学時代にラブレターを黒板に張り出された過去もある。

 

 だから。

 

 「………ま、無理だよな」

 

 諦める事が出来た。

 言葉にとって自分は、弟のような目線でしか見られてないのだ。

 同人誌やエロマンガじゃないのだから、自分が思いを伝えた所で「ぬいぐるみからチ○ポが生えてきた」と拒絶されるのがオチである。

 

 確かに、毎日性欲の捌け口というか、オカズにはしてきた。

 だが、それはそれ、これはこれだ。

 

 そんな事を考えていて、ふと見れば目覚まし時計は5時半を指している。

 まだ時間はある。

 ので。

 

 「ハァハァ………言姉ぇっ………言葉姉ぇっ………ウッ!」

 

 もう一度言葉をオカズにして、抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日拓海は、アリサとすずか、そして保護者役を買って出てくれた言葉と一緒に、海鳴市にある「八幡水族館(やはたすいぞくかん)」に遊びに行く。

 この八幡水族館はシャチによるショーが有名だったり、シャチの研究に大きく貢献したりと、何かとシャチに縁がある。

 今回もそのシャチに感謝してのビッグイベント「ビッグシャチ祭り」がある。

 

 ………はて、どこかで聞いたフレーズであるが、今は置いておく。

 

 そして来てみれば、そりゃあ凄いのなんの。

 右を見てもシャチ。

 左を見てもシャチ。

 どこもかしこもシャチまみれ。

 

 伊達に「ビッグ」は名乗っていない、一面のシャチ尽くしである。

 

 「んん~っ!このシャチアイス最高!黒ゴマの所とかたまんないわ!マジで!」

 シャチショーの会場でもある巨大水槽の前の座席にて、会場限定販売のシャチアイスを前にご満悦のアリサ。

 黒ゴマアイスとバニラアイスで、シャチを再現したソフトクリームだ。

 

 「なのはちゃんやセント君も行けたらよかったんだけどね………」

 

 対するすずかは、少し残念そうだ。

 セントは隠していた赤点が親にみつかり、なのはは外せない用事が出来たからと、今回のビッグシャチ祭りには不参加だ。

 

 セントはともかく、なのはは多分ジュエルシード関係だなと、拓海はなんとなく察した。

 なのはが海鳴の平和の為に身体を張っているのに、自分達は遊んでいるというのは、少々罪悪感を感じてしまう。

 

 「………たっくん、どうしました?」

 「へっ?」

 「どこか具合でも悪いんですか?」

 「い、いや何も………」

 

 それを言葉に気付かれそうになり、拓海はなんとか誤魔化す。

 流石、設定上は剣の心得があるだけの事はある。

 勘も鋭い。

 

 「それでは皆さんお待ちかね!シャチショーの始まりです!」

 

 いよいよ、メインイベントであるシャチショーの始まりだ。

 

 ………思えば拓海は前世ではこの手のイベントに来た事がなかった。

 両親は生まれたばかりの妹に夢中で、自分をあまり見てくれなかったからだ。

 

 そんな事を考えていると、アリサとすずかがある物を取り出した。

 それは。

 

 「………何してんの?」

 「見て解らない?雨合羽よ」

 

 ビニールで作られた雨合羽だ。

 アリサとすずかはそれを着込む。

 シャチショーが始まると、水が飛んで来る事がある。

 その予防である事は、拓海にも解るのだが………。

 

 「ちょっと警戒しすぎじゃない?」

 「何言ってるのよ!拓海も言葉さんもビッグシャチ祭りは初めてだから解らないだろうけど、結構水飛沫来るのよ?!」

 

 たしかに、この手のイベントで水飛沫はあるあるだ。

 だが、シャチのいるプールからかなり離れているし、そんな事はないと拓海はタカをくくっていた。

 

 だが。

 

 

 ………ざばぁ

 

 

 一瞬の出来事であった。

 プールにいる5頭のシャチが一斉に飛び上がり、空中で交差した後、着水。

 

 ざっぱぁぁぁぁん!!

 

 まるで隕石が激突したかのような衝撃は、座席に座っている拓海達にも伝わった。

 そして巻き上げられた水飛沫は、津波のように座席に襲いかかる。

 そして。

 

 「………しょっぺぇ」

 

 雨合羽を被っていたアリサとすずかは大丈夫。

 が、何の対策もしていなかった拓海は、豪雨に晒されたかのようにびしょびしょだ。

 

 そして。

 

 「うわぁ、びしょびしょになっちゃった………」

 「!!!!」

 

 隣に座っていた言葉も、水飛沫の餌食となった。

 ただ、水飛沫を浴びる事は想定していたのか、事前に白シャツ一枚に着替えてきていた。

 

 それが、問題であった。

 水を浴びた事により、濡れたシャツが肌にぴったりと張り付き、Jカップの巨乳がこれでもかと強調され、それを包む特注のブラジャーが透けて見えている。

 

 ようは濡れ透けである。

 大変エロい。

 

 「こ、これは………」

 「すごい………」

 

 アリサとすずかも、思わずこの超級質量兵器に見入ってしまう。

 ビッグシャチ祭りの「ビッグ」はそういう事かと、二人の脳裏に浮かぶ。

 

 「………あの、言姉ぇ」

 「なんですか?」

 「………胸、透けてる」

 「えっ………あっ!きゃあっ!!」

 

 拓海に言われて、自分が今どうなっているかという事。

 そして、それが会場の人々(主に男)の注目を集めてしまっている事にようやく気付き、顔を赤くして胸を隠した。

 

 ………今晩の「オカズ」はこれにしよう。

 拓海は、心の中で決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんながありながらも、拓海達はビッグシャチ祭りを心ゆくまで楽しみ、楽しい一日を過ごした。

 

 そして、その帰り。

 

 「いやー、今年も盛り上がったわね!ビッグシャチ祭り!」

 

 お土産のシャチシャツ、そして夏に使う用のバルーンシャチを買って、アリサはご満悦。

 すずかも、シャチぬいぐるみを買った。

 

 「毎年こんな盛り上がるんだ………」

 「そういや拓海は初参加だったわね」

 

 拓海と言葉は、濡れてしまった服の着替え用に買った、シャチシャツを着ている。

 

 のだが、拓海はともかく、言葉はシャツに描かれたシャチが、乳房のせいで引っ張られてダックスフンドのようになっている。

 おまけに見事な乳袋まで形成され、歩く度にゆさっゆさっと揺れている。

 

 なんというか、この時空の言葉はどんな服を着てもエロくなってしまう運命の星の元に生まれているのか?

 拓海は、思わず勘ぐった。

 

 「来年も一緒に行きましょ!」

 「うん!」

 

 アリサの誘いを快く受ける拓海。

 生まれ変わってから、こんなにもよくしてくれる人が増えた事を心の底から感謝しながら、拓海はこの幸せを噛み締めていた。

 

 ………故に、拓海は後ろから迫る一台のハイエースに気付かなかった。

 

 「………んっ?」

 

 気付いた時には、拓海達の隣に来たハイエースの扉が勢いよく開かれ、そこから男達の手が伸びる。

 

 「きゃっ?!」

 

 一瞬の出来事だった。

 咄嗟の事に、アリサも、すずかも、そして言葉も、男達の手に捕まれ、車の中に引きずり混まれた。

 

 「言葉姉ぇッ?!」

 

 拓海は反射神経が働いたように、言葉達を取り返そうと手を伸ばした。

 だが、男達の内の一人が、拓海にある物を突き立てた。

 

 スタンガンだ。

 

 「があっ?!」

 

 走る電流と痺れ、そして痛み。

 どさりと拓海が倒れると同時に、男達はドアを閉め、車を出す。

 

 「たっくん?!」

 「大人しくしろ!」

 「ん、んんんっ!?」

 

 叫ぶ言葉達にタオルを噛まして黙らせ、男達は倒れた拓海を尻目にハイエースで走り去っていった。

 

 嵐のような、数秒の出来事である。

 

 哀れ、倒れた拓海は身体が痺れて何も………

 

 「………ギリギリセーフ」

 『リリカル危なかったぜ………』

 

 ………出来ないワケではなかった。

 

 寸前の所でストレイジが防御魔法を展開した事で、大したダメージは入らなかった。

 まあ、完全に防げたというワケではなく、スタンガンを突き付けられた右手の付け根辺りが、まだ痛むのだが。

 

 ハイエースは既に走り去っていた。

 が、問題はない。

 

 「ストレイジ、奴等がどこに行ったかは解るか?」

 『ばっちり!寸前の所で奴等の車に発信器を付けておいたでありますよ!』

 

 まったく、いくら次期主力として作られたとはいえ、どこまでも優秀なデバイスである。

 

 辺りに人通りはすくない。

 なら、やる事は一つだ。

 

 『ご唱和ください!我の名をッ!』

 「ストレイジ!セーーットアーーーップ!!」

 

 光に包まれ、拓海は変わる。

 そして光の軌跡を引きながら、ハイエースの後を追った。



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第20話

 

 海鳴市郊外。

 どことも知れぬ廃墟に、言葉達は連れて来られた。

 そして縄で縛られ、動けなくされた状態で放置されている。

 

 「うう………」

 「だ、大丈夫ですよすずかちゃん、私がついてます………」

 

 不安げなすずかを、言葉はなんとか励ます。

 だが、この状況でそれが意味を成さないのは、言葉にもすずかにも解っていた。

 

 「(ぐううっ………フレイムアイズさえあれば………!)」

 

 アリサは、そしてすずかは、いつもならこんな事でやられる人間ではない。

 こんな連中………見た所ではただの人間である男達など、簡単に蹴散らせるだけの「力」を持っているのだ。

 

 だが、不幸が一つあった。

 彼女達の持つ「力」は、現在ちょっとした不具合が発生しており「彼等」に預けているのだ。

 つまり、今の彼女達は、ただの子供同然なのだ。

 

 「子供を必死にあやすお姉さん、いいねェ~感動的だねェ~」

 

 そんな言葉達を見下ろすのは、彼女達を誘拐してこんな所に連れてきた、誘拐犯の男達。

 目に見えてガラが悪く、アウトローな雰囲気を感じさせる。

 

 専門用語で言う所の「DQN」………いや、見ての通り誘拐という目に見えて解る犯罪に手を出している時点で、もはやDQNの範疇ではないだろう。

 

 「にしても、ガキ二人拐うだけで五千万も貰えるなんてボロいよなぁ!」

 「ああ、それにこんな上玉までついてくるなんてなァ………!」

 

 男達の、言葉の胸や太ももに集中するギラついた視線を前に、言葉は悪寒を感じた。

 この胸のせいで嫌な視線を向けられる事は日常茶飯事だったが、ここまで露骨な物は初めてである。

 

 「ひひ………ひひひ………!」

 

 その中に、ただ一人違う男がいた。

 肥満体のその男は、アリサやすずかを見ていたのだ。

 

 「なあ、いいだろう………?俺我慢できねぇよ………!」

 「ああ、俺達もそろそろやろうと思った所だ」

 

 アリサはそれを見て、世の中には未成熟な少女にしか興奮できない「ロリコン」なる変態がいるという事を思い出す。

 つまり、こいつも………。

 

 「ぐひひ!楽しもうぜェ~!アリサたんっ!!」

 「やっ!やめなさいよォ!」

 

 肥満体男は、アリサとすずかに襲い掛かる。

 そのソーセージのような腕で、二人の足を掴み、ベロベロと舐め回す。

 

 「アリサちゃん!すずかちゃん!」

 「おっとぉ?テメーの相手は俺達だぜぇ?」

 「嫌ぁぁ!」

 

 残りの男達は、言葉に向けて殺到する。

 乱暴に乳房を掴みながら、カチャカチャとベルトを外そうとしている。

 

 何をされるか理解できない程、理解できない程言葉は子供ではない。

 だから、抵抗した。

 当然だ、こいつらに汚されるのは嫌だからだ。

 

 それに………彼女が純潔を捧げたい相手は他にいる。

 

 「ひひひ!暴れんなよ!」

 「ウッヒョ~!この乳たまんねぇ~!」

 

 しかし、いくら剣の心得があるとしても言葉は女子高生。

 簡単に組伏せられ、身体をまさぐられる。

 

 「(だっ………誰か助けて………!)」

 

 恐怖の中で、心から願った。

 助けてくれ、と。

 

 そんな、彼女の願いが通じたのか。

 「救世主」は現れた。

 

 「アクセルシュータァァーーーッ!!」

 

 バリン!と廃墟のガラスが割れ、飛来した魔力弾が男達を弾き飛ばした。

 

 「あべしっ!」

 「おげぷっ!」

 

 吹き飛ばされ、倒れる男達。

 何が起こったのか唖然とする言葉達の前に、その救世主は現れる。

 

 「あ、貴方は………!」

 

 魔力弾でガラスが割り、言葉達と男達の間を遮るように降り立つのは、度々海鳴で語られる、謎のヒーロー。

 

 ………つまる所の、ストレイジをセットアップした拓海である。

 言葉達には、ジャミングゴーグルのお陰で、拓海とは認識できないが。

 

 「お前ら………よくも………よくもやってくれたな………!」

 『ま、マスター………?』

 

 拓海も、無論中身は30の子供部屋おじさんの為、言葉達の服や髪型の乱れを見れば、何が行われようとしていたか位は解る。

 故に、怒りの感情を見せるのは当然である。

 

 しかし、ストレイジはここまで怒りを露にした拓海を知らない。

 さっきのアクセルシューターは非殺傷設定だったが、今度は、物理破壊設定を施した魔法………つまり、殺人を行える魔法を叩き込むのでは?と思わせるような怒りを、ストレイジは感じ取った。

 

 「ちッ!想定より早く来やがったか………!」

 「仕事は果たした!逃げるぞ!」

 

 拓海の登場を前に、男達は迷う事なく逃げ出そうとする。

 どうやら、拓海を誘い出すのが目的だったようだが、今の拓海にはそんな事はどうでもいい。

 

 「逃がすか!!」

 

 怒りのまま、ストレイジの矛先を向ける。

 そしてシュートバレットを放とうとした………が。

 

 「がふっ?!」

 

 それよりも早く、虚空から現れた槍や剣が、男達の頭を貫いた。

 

 どさり、と男達は倒れる。

 正確な、ヘッドショットの一撃だ。

 倒れた男達が再び立ち上がる事は、最早無いだろう。

 

 ………そして、そんな芸当が出来る奴と言えば。

 

 「お勤めご苦労、休暇は地獄で取るがいい」

 

 カシャン、カシャンと鎧を揺らしながら、そいつは何の前触れも無く現れた。

 

 「お前は………!」

 

 鎌瀬有斗。

 またの名を、仮面ライダーギルガメッシュ。

 

 3月のあの日。

 まだ力を手にする前に攻撃を受けて以来の再開である。

 

 「………まさか、お前は俺を呼ぶ為に、この人達を誘拐させたのか?」

 

 そして、今死体になった男達の会話と、鎌瀬が男達にかけた言葉から、拓海はある事を推測する。

 

 それは、鎌瀬が自分を呼ぶ為に、言葉達を誘拐させたのか、という事。

 そんな事の為に、言葉に、アリサに、すずかに、純潔を奪われかけるという怖い思いをさせたのか、という事。

 

 「ああ、そうだが?」

 

 鎌瀬は、仮面ライダーギルガメッシュは言った。

 詫びる様子も、悪いとも思わず。

 

 「なら………許さない!」

 『ああ!リリカルぶっとばしちゃいましょう!』

 

 そんな相手に拓海からする事は、一つしかない。

 ストレイジを構え、飛行魔法の応用によるブーストをかけ、突き飛ばされるように仮面ライダーギルガメッシュに向けて翔ぶ。

 

 「来るか雑種ゥ!」

 

 対する仮面ライダーギルガメッシュも、「王の財宝」として取り出した剣を手に、それを迎え撃つ。

 

 「だあっ!」

 「ふんっ!」

 

 ガキン!と、音を立て、剣とストレイジがぶつかり合う。

 

 「このぉっ!」

 「雑種がァ!!」

 

 一度ならず、二度も。

 三度、四度。

 剣とストレイジがぶつかる度に、金属のぶつかるガキンという音と、火花が散る。

 

 ………その接戦ぶりを前に、アリサは不謹慎ながらも「日曜日にやってる特撮ヒーローのようだ」とも思った。

 

 

 「(こいつっ!?な、何なのだ………?!)」

 

 対する仮面ライダーギルガメッシュこと、鎌瀬は、拓海の持つ意外な強さを前に内心慌てていた。

 

 第三者な上に戦闘に関しては初心者であるアリサ達には解らないが、実際は拓海が押している状態である。

 

 ………理由は簡単だ。

 

 知っての通り、拓海はユニオンベースで魔法の特訓を重ね、推定Bランク程の魔導師にまで成長した。

 その特訓の中で、拓海は対鎌瀬………対仮面ライダーギルガメッシュを想定した特訓も行っている。

 

 初対面時に一方的に叩きのめされたというのもあるが、鎌瀬の性格から考えても、いずれ再戦を挑んでくると考えたからだ。

 流石に、完全に対抗できる、とまではまだ至ってないが、ある程度の対策は出来ている。

 

 この、ゲートオブバビロンを使わせない為に近接戦闘を仕掛けるのも、その一つ。

 怒りに燃えてはいるが、結構考えて行動しているのだ。

 

 「(ふ、ふざけるなっ!我は転生者だぞ?!神様に最強の力を授かったのだ!それがこんなモブに!!)」

 

 対する鎌瀬はどうか。

 

 己の、仮面ライダーギルガメッシュとしての能力を使うにしても、広範囲攻撃によるゴリ押し戦法に使うばかり。

 それか、自分から見て格下の相手をいたぶるばかりで、自らを鍛える事も、努力もしていない。

 オーバーSランクの魔力にタカをくくっているだけである。

 

 ………それが理由で、ついこの間「執務官」に負けたばかりだ。

 

 少しでも強くなろうとする拓海と、強さにあぐらをかいている鎌瀬。

 どちらが勝つかは、最初からわかりきっていた。

 

 

 ………ガキンッ!

 

 

 そうこうしている間に、ストレイジの一撃が、仮面ライダーギルガメッシュの持っていた剣を弾き飛ばした。

 

 剣は持ち主の手を離れ、空中でクルクルと回った後、落下。

 ざくり、と廃墟の床に突き刺さった。

 

 「終わりだァァ!!」

 

 武器を失った仮面ライダーギルガメッシュを前に、拓海は全力でストレイジを振り下ろした!



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第21話

 

 剣を失った鎌瀬=仮面ライダーギルガメッシュに、拓海が全力でストレイジを振り下ろそうとした。

 その時。

 

 「それ以上やったらあの女は死ぬぞ!!」

 

 鎌瀬が叫ぶ。

 そして、拓海の手はピタリと止まった。

 

 見れば、言葉の頭上にあの水紋が浮かび、頭に矛の切っ先を突き付けていた。

 それが何を意味するかは、拓海にだって解る。

 

 『人質かよ?!リリカル汚いぜッ!!』

 

 拓海の憤りを、ストレイジが代弁する。

 デバイスから見ても、鎌瀬の、仮面ライダーギルガメッシュの取った手段は許せる物とは言えないようだ。

 

 「ククク………よし、そうだ、デバイスを下ろせ」

 

 だが、これで状況は相手側が優勢になった。

 言葉を人質にされたとなっては、こちらも従うしかない。

 拓海は、振り上げたストレイジを下ろし、後ろに下がる。

 

 「………そうだ、そしてセットアップを解け」

 「なッ?!」

 「嫌とは言わせんぞ、あの女の命を我が握っている事を忘れるな………?」

 

 ストレイジのセットアップを解除するという事。

 たしかに、鎌瀬なら言うという予想は出来ていた。

 

 反撃を防ぐ為。

 無防備になった相手を叩きのめす為。

 大方、それが理由だろう。

 

 だが拓海にとっては、自分の正体が言葉達に知られるという危険もあった。

 それは、この生活の………幸せな人生の終わりにも繋がるのだ。

 

 『ま、マスター………!』

 

 心配そうなストレイジ。

 

 「ククク………どうする?あの女を串刺しにされたいか?」

 

 仮面ライダーギルガメッシュという仮面の下で嘲る鎌瀬。

 

 そして、拓海は。

 

 「………解った」

 『マスター?!』

 「ごめんストレイジ………これ以外にいい手が浮かばない」

 

 脳内で、術式を念じる。

 今までに、何度もやった事だ。

 簡単である。

 

 ぱぁぁ………

 

 暖かな光に包まれ、フェードアウトするように拓海のバリアジャケットが消滅。

 代わりに、それまでに着ていた服が形成される。

 ラウンドブロッカーも、ジャミングゴーグルも光子に分解され、ストレイジ共々ブレスレットにまとまる。

 

 「え………ッ?!」

 「嘘………!?」

 

 その時の、アリサとすずかは、驚きのあまり思考がフリーズした。

 感情が追い付かなかった、とも言えるだろうか。

 

 当然だ。

 今まで海鳴を犯罪から守り、何度も噂に出た謎のヒーロー。

 その正体が、自分の知人………それも、この場に居ないなのはやセントと合わせて、いつも一緒にいる友人なのだから。

 

 「………たっくん?」

 

 言葉もまた、愕然となった。

 

 ジャミングゴーグルによって遮られていた素顔が露になり、拓海の顔を隠す物は無くなった。

 

 アリサにも、すずかにも、そして言葉にも。

 その素顔は晒された。

 

 謎のヒーローの正体は拓海だった。

 自分達の知っている男の子が、魔法を使って戦っていた。

 今まで知らなかった秘密を、言葉達はようやく知ったのだ。

 

 そして、鎌瀬も………。

 

 「………なるほど………貴様か………」

 

 鎌瀬が「謎のヒーロー」に固執した理由は、拓海の「謎のヒーローに助けてもらった」を素直に信じたからだ。

 だが実際は、その正体は拓海であった。

 

 殺したい相手と消したい相手が同一人物だった。

 なら、その殺意は倍になり。

 

 「ならば殺す事に迷いは無いわァァ!!」

 

 仮面ライダーギルガメッシュが腕を伸ばす。

 仮にも、ヒーローである仮面ライダーが生身の子供に手をあげるという、酷く冒涜的な絵面になっているが、鎌瀬に迷いは無い。

 むしろ、「首の骨が折れる音」の再現をしてやろうとも考えていた。

 

 だが。

 

 「………そこだ!」

 

 鎌瀬が思っている以上に、高尾拓海という人間は用意が良く、それでいて狡猾であった。

 

 その直前、鎌瀬はようやく気付いた。

 自らの腹。

 腰に巻いた「ザイアサウザンドライバー」の位置に現れた、魔力弾を。

 

 これは、アクセルシューターの応用であり、通常数発で放つ魔力弾のエネルギーを、一つに収縮させている物だ。

 セットアップ無しで?と思うが、「リリカルなのは」劇中でなのはがそうしたように、別にセットアップせずとも簡単な魔法………「範囲」の定義はは個人によるが………なら使える。

 

 鎌瀬が勝利を確信し、満身し切っていた故に、罠を仕込むのは簡単だった。

 某漫画にあるように「相手が勝ち誇った時、そいつは既に敗北している」なのだ。

 

 

 ばきぃんっ!!

 

 

 激しい音を立て、圧縮アクセルシューターはザイアサウザンドライバーを穿つ。

 同時に、ベルトを破壊するだけの衝撃は、鎌瀬自身にも襲いかかった。

 

 「が、はぁっ………!」

 

 ベルトが半壊し、言葉に突き付けられていた矛が消滅。

 変身も解除される。

 仮面ライダーギルガメッシュの姿が分解されるように消失し、元の鎌瀬の姿に戻る………だけでは無かった。

 

 「な………ッ?!」

 

 今度は、鎌瀬の身体がまるでバグが起きたかのようにザザザと歪み、別の姿へと変わる。

 

 その姿は、まさに「醜悪」としか言い様がなかった。

 相撲取りのように突き出た腹、そばかすと出来物まみれの顔、ボサボサでフケまみれの髪。

 典型的な「引きこもりニート」を形にしたような、醜く、異臭のする男が、そこに居た。

 

 「鎌瀬じゃない?!」

 

 鎌瀬に化けた別人だと思った拓海だが。

 

 『いや、あれは鎌瀬でございますよ』

 

 すぐにストレイジが否定した。

 

 「いや、でも………」

 『鎌瀬のあの姿は変身魔法、あれが真の姿でございますよ………常々魔力の「におい」を感じてはいたが、これでリリカル納得だぜ』

 

 よろよろと立ち上がる鎌瀬は、その身体の重みで、自らの変身魔法が解けていた事に気付く。

 

 「ああ………あ、あああああっ!!」

 

 まるで癇癪かパニックを起こしたかのように、高音の悲鳴をあげる鎌瀬。

 

 「うわあ!見るな!見るなぁぁぁ!!!」

 「ちょっ?!」

 

 鎌瀬は逃げるように走り出し、廃墟の窓に体当たりし、飛び降りる。

 ここは地上三階。

 魔法も無しに飛び降りれば無事では済まない………の、だが。

 

 「うおおっ?!」

 

 突如、黄金の巨大な翼が現れ、空に舞い上がる。

 運良く「Fate/zero」を知っていた拓海が、それが「アーチャー」が空中戦に使った飛行船「ヴィマーナ」である事が解った。

 

 地上に鎌瀬の姿はない。

 あれに乗って、逃げ出したのだろう。

 

 『ベルトを破壊しても、あれを呼び出す力は残ってたのか………!』

 

 空の彼方へと消えてゆくヴィマーナ。

 ストレイジの言う通り、転生者の力の凄まじさはかなりの物だと、拓海は改めて思い知った。

 

 「………さて、と」

 

 驚異の去った廃墟にて、拓海は縛られたままの言葉達の前に歩みより、魔法で彼女達を縛る縄を切り落とす。

 これで彼女達は自由の身だが、これで何の問題もなく終わり、という訳にはいかない。

 

 「た、たっくん………今のは………?」

 

 言葉達の見ている前で、拓海は素顔を晒し、魔法を使った。

 何より、彼女達を戦いに巻き込んでしまい、今まで自分だけ知っていた「非日常」を知られてしまった。

 

 これでは、もう誤魔化しも隠しも効かない。

 

 なんとなく、いつかはこんな日が来ると思っていた拓海だったが、まさか今日だったとは。

 

 「………言姉ぇ、皆………俺はね、この世界の人間じゃないんだよ」

 

 震える声で、覚悟を決めて、拓海は言った。

 

 「こことは別の世界から来た、転生者なんだ!!」

 「ええっ?!」

 

 驚く言葉に、拓海は語った。

 自分が何者で、この海鳴がどんな状況にあるのかという事を。

 転生者の事。

 魔法の事。

 そして………自らの前世の事も。

 

 「そんな………そんな事が………」

 

 狼狽える言葉。

 そんな、転生や魔法がオカルトかフィクションでしか知らない人間としては妥当な判断だ。

 だが、否定しようにも、目の前で起きた事を考えると、そうでないとも言えない。

 

 「………今まで騙してて、ごめん……それと………」

 

 拓海が、転送魔法を起動した。

 彼の身体が透明になってゆく。

 

 「………さよなら、今まで楽しかった!」

 「た、たっくん?!」

 

 言葉が手を伸ばす。

 だが、もう遅い。

 

 拓海は魔方陣を展開し、光に包まれて弾けるように消えてしまった。

 

 「た………たっくん………」

 

 その場には、呆然とする言葉と、アリサとすずか。

 そして、廃墟の静けさだけが残された。

 

 

 ………それから、高尾拓海という人間は、彼女達の前から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

【転生者名鑑】

 ・鎌瀬有斗(真)

 変身魔法によって姿を変えていた鎌瀬の、真の姿。

 元の性格が形になったような醜男であり、デバイス代わりでもあるザイアサウザンドライバーが損傷した事で、初めてその姿を表した。 

 この状態でも転生者特典である「ギルガメッシュの力」はある程度使えるようだ。



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第7章「転生者大戦」
第22話


 

 よくある転生物では、生まれ出た赤ん坊の状態で意識がハッキリしている場合が多い。

 だが実際の赤ん坊に自我と呼ばれる物が生まれ、意識がハッキリするまでは時間がかかる。

 

 拓海の場合は、その定義に当てはまったらしい。

 どう考えても、3歳より前の事を思い出せないのだ。

 

 

 ………そして、今眼前で繰り広げられているのは、転生してから覚えてる中で一番古い記憶。

 

 眼前には棺。

 そして、花に囲まれた両親の写真。

 顔は若かったが、間違いなく自分の両親である事は解った。

 

 周りでは、自分のように黒服を着た大人達がいて、その多くが泣いていた。

 そこで拓海はようやく、両親が死んだ事と、自分が今その葬式にいる事に気付いた。

 

 正直、生まれ変わってからの両親の事については覚えていない。

 声所か、生きた状態で対面した事すら覚えていない。

 

 故に、この世界の両親は、もしかしたら「まともな親」だったかも知れない。

 少なくとも、イジメで苦しむ子供に「悔しさをバネにして頑張るんだ!」と的外れな事を言うような人間ではなかったのかも知れない。

 

 けれども。

 彼の「前世」の記憶が。

 こいつらを含む世界全てから、人生と尊厳を踏みにじられ続けたという記憶が。

 拓海の中の黒い感情を誘い出す。

 

 「ざまあみろ」、と。

 

 

 「………大丈夫、ですよ」

 

 ふと、黒い感情に飲み込まれそうになった拓海を、暖かい感覚が包む。

 

 振り向けば、そこに一人の少女が居た。

 たしか桂心だったか………?

 と、思ったが違う。

 それは妹だ。

 ここに居るのは。

 

 「大丈夫ですよ、たっくんの事はお姉ちゃんが守ります」

 

 桂言葉。その人である。

 たしかスクイズのヒロインで、だとか。

 あの頃のヤンデレブームの火付け役で、だとか。

 10歳にしては胸が育ちすぎ、だとか。

 そんな感情よりも先に、込み上げてくる物があった。

 

 「………う………ああ………」

 

 涙だ。

 両親が死んだ悲しみではない。

 

 初めてだった。

 誰かに、優しく抱き締めてもらえたのは。

 

 前世では、こんな事はなかった。

 いくら辛い目に逢っても、踏みにじられても拓海は「キモくて金のないおっさん」でしか無かった。

 誰も助けてはくれなかったのだ。

 

 その拓海を、言葉は優しく抱き締めてくれた。

 「お姉ちゃんが守ります」と言ってくれた。

 

 「うう………ああ………あああ………」

 「よしよし、大丈夫大丈夫」

 

 きっと、言葉は自分が親を失った事を悲しんでいるのだという事は、拓海にも解った。

 言葉を騙している形になったが、それでも涙はボロボロとこぼれ落ち、嗚咽は止まらなかった。

 

 そして言葉はその言葉に嘘をつく事なく、9年の間拓海に愛情を注ぎ、30年の月日で凍てついた拓海の心を溶かしてくれた。

 今の拓海が居るのは、間違いなく彼女のお陰だ。

 

 それが、拓海が前世を含めた39年の人生で、初めて誰かの優しさに触れた記憶である………。

 

 

 

 

 

 

 

 「………あっ」

 

 気がつくと、薄暗い天井が目に入った。

 同時に、線香の香りも、自分を抱き締めていた言葉の温もりも消え失せ、無機質な部屋が広がっていた。

 

 ユニオンベースの個室だ。

 

 「………また、あの夢」

 

 この所、昔の夢を見る事が多くなった。

 脳が彼女の、言葉の温もりを求めているのだろうか。

 けれども、拓海はもう帰れない。

 

 「………はあ」

 

 時刻は朝。

 だというのに、拓海は一日を終えたかのような倦怠感を感じながら、立ち上がる。

 下は反応していたが、正直抜こうとも思えなかった。

 

 

 このユニオンベースに引きこもるようになって、一ヶ月前後の時間が流れた。

 外はどうなっているのだろうか。

 

 聞いた話ではあるが、「リリカルなのは」一期は、僅か二ヶ月の間に起きた出来事という。

 そろそろ、なのは達は時の庭園に乗り込んだ頃だろうか。

 それとも、全てが終わってなのはとフェイトが互いのリボンを交換し終えた後だろうか。

 

 何より、アリサ達は、そして言葉は無事だろうか。

 そんな事ばかり考えてしまう。

 もう、自分には関係ない話だというのに。

 

 

 ………拓海が言葉達の前から姿を消した理由は、二つある。

 

 一つは、転生者達との戦いに彼女達を巻き込まない為。

 

 転生者というものは何故か美少女は攻撃対象外と、ストレイジから聞いている。

 少なくとも鎌瀬も、自身が追い詰められない限りは言葉に矛を突き立てなかった。

 

 

 もう一つは、自分にその資格がないからだ。

 

 言葉達は、拓海がただの9歳の子供だと思って接していた。

 だが、実際は30の子供のようなおっさんだった。

 

 それが、彼女達にとってどれだけ不愉快………いや、言葉にできぬ程の嫌悪感を感じるかは、想像するに容易い。

 拓海も拓海で、それをいい事に彼女達を利用して自分が癒されようと考えていた所もある。

 

 そんな自分に、今まで通り彼女達の側にいる資格など、あるワケがない。

 

 「………いただきます」

 

 今日も、がらんとした食堂での朝食。

 今日のメニューは、マヨネーズを塗ったトーストと、コーヒー牛乳。

 いつもの朝食だ。

 けれども、いつもと違う。

 

 サク、サクという、焼けたトーストを齧る音が寂しく響く。

 食事が終わった後、空になったトレイとコップをドローンが片付けていった。

 

 

 食事を終えた拓海は、モニタールームへと向かった。

 そこは所謂前線指令室とでも言うべき場所で、このユニオンベースのある山の各部に仕掛けた監視カメラの映像が映し出されている。

 

 そして、ユニオンベースのメインコンピューターに接続できる場所でもある。

 ストレイジは普段はここで、基地の全機能を解放しようと、システムへの接続・ロック解除を試みている。

 

 「どう?ストレイジ」

 『リリカルダメです、どうやっても第二フロアから先には進めません』

 

 今の所解放されているのは、今拓海達がいる第一フロアの下の、傀儡兵の製造工場がある第二フロアのみ。

 そこから先のロックは、未だ解放されていない。

 

 来るべき転生者との戦いに備えて、戦力を増強する必要がある。

 傀儡兵は強力だが、それでも転生者を相手にするには心許ない。

 

 「………まあいいや、トレーニングに行こう」

 『わかりましたであります』

 

 とりあえず、一度ハッキングは中断し、ストレイジと拓海は訓練ルームへと向かった。

 

 このユニオンベースでの生活が始まってから、拓海は日々の訓練を欠かした事はない。

 彼が相手をする転生者は、「リリカルなのは」本編に登場するAランク魔導師よりも、ずっと強いのだ。

 少しでも訓練を積み、魔導師ランクを上げなければ。

 

 けれども、いくら鍛練を重ねても、拓海の魔導師ランクは、一向にBから動かなかった。

 

 食事、訓練、食事、訓練。

 

 気付けばそれが、拓海のユニオンベースにおける日々のルーティーンとなっていた。

 最初の内はパソコンでネットサーフィンをしたりもしたが、拓海の心を埋めるには至らなかった。

 

 心に空いた穴を埋めようとする………いや、見ないフリをする為に、拓海は訓練に没頭した。

 規則正しい、とは言えない。

 彼の心の穴は、塞がっていないのだから。

 

 

 そうして、一日の終わりが来る。

 がらんとした食堂で、拓海が食べるのはたらこスパゲティ。

 よく言葉が作ってくれた、拓海の好物だ。

 

 「………うん」

 

 美味しい。

 美味しい、はずなのだ。

 けれども拓海にはまるで、味の無くなったガムを噛んでいるような、虚しい感覚を覚えさせた。

 

 「………なんだよ、こんなの、元に戻っただけじゃないか」

 

 そう、こんな事は慣れっこだ。

 むしろ、そんな状態の方が30年続いたのだ。

 その状態に戻っただけだ。

 拓海は、必死にそう自分に言い聞かせた。

 

 「………うっ………うう………」

 

 自分に、その資格がないのは解っている。

 けれども、心が、理性とは別の本能的な部分が、ありし日のぬくもりを求めてしまう。

 

 「………言姉ぇ………言姉ぇの作ったパスタが食べたいよ………」

 

 理性では押さえられなくなった涙が、嗚咽が、ぬくもりを求める心が溢れだす。

 けれども、いくら言葉の名を呼んだとしても、帰ってくるのは静寂のみ。

 

 空調の効いた場所で心を凍えさせ、拓海は泣き続けた。

 「男が泣くな」とビンタが飛んでくる事はなかったが、ある意味では、それよりも辛いと言えた。



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第23話

 

 その集団が、多く仕掛けられた監視システムに引っ掛かる事なく「そこ」に気付けたのは、持てるチート能力の為に他ならない。

 

 「あそこか………クソが………!」

 

 最早鎌瀬有斗も、かつてのように英雄王を真似る余裕も無くなっていた。

 その胸中にあるのは、自分の計画を台無しにした高尾拓海への憎悪のみ。

 

 

 ………そもそも彼がこの「リリカルなのは」の世界に目的は、自らの性欲を満たす為という本能的な物だ。

 

 前世にて、女子小学生の着替えを盗撮し、ネットで売り捌いたが為に社会から制裁を受け、鎌瀬は一度自殺した。

 

 その後、神様にあった鎌瀬は、自分を転生させてくれると聞いて、真っ先にリリカルなのはの世界を希望した。

 

 素晴らしい少女達のいるあのアニメは、多くのロリコン達から支持を受けていて、鎌瀬もその一人だったからだ。

 彼女達を組伏せる為の「仮面ライダーギルガメッシュ」というチート能力と、魅了する為の外見への変身という転生者特典を貰った彼は、意気揚々と海鳴に転生した。

 

 だが、彼がアニメで見た知識を真似ても、誰一人彼に振り向く者はいなかった。

 鎌瀬は憤った。

 俺は強いのに。

 神様から主人公と言って貰えたのに。

 何故、思い通りにならないのだと。

 

 そんな中で、彼の前に現れたのが拓海である。

 自分とセントの喧嘩に割って入っただけでなく、アリサやすずかと一緒におり、おまけに桂言葉という美人のお姉さんと同居している。

 

 腹立たしかった。

 そこに居るべきなのは自分なのに、と。

 

 そして鎌瀬は、拓海を抹殺する事を決定した。

 「ラブコメ展開の邪魔になる」という理由で転生先の両親を殺した時のように、拓海を仮面ライダーギルガメッシュの力で抹殺した………はずだった。

 

 拓海は生きていた。

 それと同時に、現れた「謎のヒーロー」と、邪魔者はどんどん増えていった。

 

 そして「リリカルなのは」の物語が進み、鎌瀬が作中において「ユーノ」と並んで嫌悪する程嫌いな「執務官」が現れた。

 今までの苛立ちの憂さ晴らしをする為に「彼女達の戦いを邪魔するなKYめ!」と適当な理由をつけて叩き潰そうとして………………逆に叩き潰された。

 

 何故だ?理解できなかった。

 自分は主人公のハズ。

 それなのに、なんであんなマックロクロスケに負ける?

 

 ………今まで「王の財宝」による力押ししかしてこなった鎌瀬には「経験と努力の差」という発想は浮かばなかった。

 

 そして、「執務官」に手を出してしまった鎌瀬は、時空管理局から追われる立場となってしまった。

 無論、学校に通っている余裕も無くなった。

 

 そして、それらの元凶であると決めつけた謎のヒーローを誘いだし、殺そうとして、今度は逆にザイアサウザンドライバーを破壊されてしまう。

 完全破壊とまではいなかったが、半壊したザイアサウザンドライバーは力の供給が不安定になり、鎌瀬は変身魔法が………少年の姿への変身能力を失い、醜い元の姿を晒す事となった。

 そして鎌瀬には、ザイアサウザンドライバーを修理するだけの技術は、ない。

 

 鎌瀬は何もかもを(自業自得で)失ったが、収穫が無かった訳ではない。

 件の「謎のヒーロー」の正体が、拓海だという真実にたどり着いたのだ。

 そして調査の末、行方を眩ませた拓海が根城にしている山を探し当てた。

 

 「あそこがあの野郎のハウスか!」

 「俺のアリサを………許せん!」

 「ハーレム野郎はぶち殺す!」

 

 ここに居るのは、自分と志を同じくする転生者達。

 皆、拓海の事を知るや否や集まった。

 無理もない、本来自分達が受けるべき(と、思い込んでいた)立場に、Bランクの雑魚魔導師………彼等基準で言う「モブ」が居るのだから。

 

 「さあ………殺せ………殺せぇぇ!!」

 

 鎌瀬の叫びと共に、その悪意の群れは放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 ………ズドンッ!!

 

 枕を涙で濡らして眠っていた拓海は、突然の爆発音と地震のような振動、そしてけたたましいサイレンによって目を覚ました。

 

 「な、何ッ!?」

 

 飛び起きた拓海は、急いでストレイジの居るモニタールームへと駆け込んだ。

 

 『リリカルやばいでございますよマスター!転生者達の襲撃です!』

 「なんだって?!」

 

 モニターには、このユニオンベースを取り囲む無数の人影の姿。

 その様は多種多様であるが、いずれもが高い魔力やその他エネルギーを発し、攻撃を仕掛けて来ている。

 

 そして、転送魔法以外では唯一の侵入ルートである物資搬入口の偽装も見破られたらしく、警備用ドローンが戦闘している様も映っている。

 突破されるのも、時間の問題だろう。

 

 「………とうとう、か、もう少し遅ければよかったんだけど」

 

 いつか来るとは思っていた、転生者との大決戦。

 まだ、準備も出来ていない。

 そして、それでも相手は待ってくれないのは承知の上。

 

 「………ストレイジ、ドローンと傀儡兵を全て実戦モードで出撃させて、攻撃レベルは最高設定で!」

 『リリカルわかったぜ!』

 

 ストレイジが指令を飛ばすと、格納されていた全ての傀儡兵・戦闘用ドローンが起動。

 ユニオンベース最深部の「炉心」からエネルギーを受け取り、出撃してゆく。

 

 いずれもが、拓海の訓練で得たデータから、より戦闘に適したプログラムがされている。

 それも、転生者の前ではただの案山子に過ぎないだろうが………。

 

 「ストレイジ、俺達も行こう、今切れる最高のカードを切る」

 

 そう言って、拓海はストレイジを右手にはめる。

 実戦でこれを使うのは、鎌瀬戦以来か。

 

 『………と、言うことは、出すでございますね?』

 「ああ………」

 

 そしてもう一つ。

 ユニオンベースには「切り札」と言うべき物がある。

 それは。

 

 「………俺は「ガンダム」で行く!」

 

 

 

 

 

 

 

 警備用ドローンが、また一機落ちる。

 物資搬入口を発見した転生者達は、邪魔にやるドローンをあらかた撃ち終えた後、増援を待っていた。

 運悪く、彼等の魔法やチート能力は、物資搬入口を破壊するような、パワーに特化した物ではなかったからだ。

 

 「早くしろよ!クソッ!」

 

 転生者の一人が悪態をつく。

 他の転生者も、ドローンの排除に手間を取られているようだ。

 

 性能自体は大した事はないが、嫌にすばしっこく鬱陶しい。

 まるでハエか何かだ。

 時間稼ぎが目的なのだろうか。

 

 「拓海の野郎、卑怯なやり方で俺達を足止めしやがって!」

 「ヘタレ野郎のくせに美少女に囲まれてるというのも気に食わん!」

 「そんな男の風上にも置けないような野郎、俺の拳で叩き直してやる!」

 

 口々に、恨み節をぶつける転生者。

 一人に寄って集って攻撃してる時点で彼等も人の事は言えないのだが、どうやら彼等は気づいていないようだ。

 

 「………ん?」

 「どうした?」

 「いや、アレ………」

 

 見れば、なんと固く厚い扉で閉ざされていた物資搬入口の扉が、ゴゴゴと音を立てて開いてるではないか。

 

 「お前なんかやったか?!」

 「何も触ってないぞ!」

 「じゃあ、何で………!?」

 

 口々に驚く転生者達。

 その時、物資搬入口の奥の暗闇が、うっすらと光った。

 そして。

 

 

 ………ドシュウウウッッ!!

 

 

 刹那、彼等から見た場合の強烈な光の奔流が、物資搬入口から飛び出した。

 

 「おい?!」

 「何だアレ!!」

 

 それは、鬱陶しいドローンと必死に格闘していた他の転生者の目にも入った。

 

 唸る閃光が収縮した後、「それ」は物資搬入口から、その巨大な姿を現した。

 それは………。



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第24話

 

 「反応、キャッチしました!」

 「なんて魔力反応………?!」

 

 「彼等」は、本来ならその「事件」が解決した後に、この世界から去るハズであった。

 だが、この海鳴付近に集結している不自然かつ異常な魔力の反応が、それを許さなかった。

 

 「ロストロギア級の魔力がゴロゴロと………」

 「わ、私達、あんなのが沢山いる町に住んでたんだね………」

 

 「彼等」の使命は、この地球を含めた「次元世界」の平和を守る事。

 故に、「あれ」を無視する訳にはいかない。

 たとえ、「傲慢で腐った強盗組織」と呼ばれようと。

 

 「魔力反応………ありました!」

 「拓海がいるの?!」

 「わっ、あれ………ガンダム?!」

 

 何より「彼女ら」が探していた人物がそこにいる。

 それも、あの恐ろしい連中の、悪意の坩堝の中で。

 

 「クロノ、座標が整いつつ、出撃して頂戴、拓海くんを助けるわよ」

 「はい!」

 「ドク、「サンダーボルト」の準備は出来てるかしら?」

 『OKです提督!命令があればいつでも!』

 

 ならば、彼等がやるべき事はただ一つである。

 少女達の友情と、次元世界の平和の為、その「少年」は駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 ………さて、「リリカルなのは」の世界において、基地から巨大な何かが現れたと言えば、何を想像するだろうか。

 よくて、時の庭園に出現した巨大傀儡兵だろう。

 

 当然だ。

 「リリカルなのは」は描写や設定こそメカメカしいが、番組タイトルにある通りジャンルは「魔法少女」だ。

 世界観に合わせた巨大ボスや戦艦、と考えるのが普通だ。

 

 だが。

 ユニオンベースから現れた「そいつ」は。

 「魔法少女」というジャンルの外から来たと言っても過言でもない姿をしていた。

 

 「嘘だろ?!なんでガンダム!?」

 「せめて世界観守れよな………!」

 

 お前らも人の事言えないぞというツッコミを入れたくなるような反応をする転生者達。

 当然だ、今まで「リリカルなのは」らしいドローンを相手にしていたら、いきなり巨大ロボットが………それも「ガンダム」が現れたのだから。

 

 

 名を「ジェミナスTS(タクミスペシャル)」。

 ユニオンベースにあった量産型ジェミナスをベースに、カラーリングや一部パーツの変更等を行った機体。

 原型機譲りで汎用性に優れているが、それ以外は何もない。

 換装する事でパワーアップするのも原型機と同じだが、換装パーツが無い。

 

 無い無いずくしの本機であるが、それでも、高速で動く18mの人型というだけで、転生者達にとっては驚異………

 ………いや、これでやっと互角である。

 

 「うっ………かなり不可がかかるな、これ」

 

 飛び出すだけでかなりGがかかる。

 ストレイジをセットアップし、バリアジャケットに身を包んだ状態でも、晩に食べたたらこスパゲティが逆流しかける。

 また拓海も、これが初操縦の為か、苦しそうだ。

 

 ジェミナスが右手に握った「アクセラレートライフル」は、出力を調整する事で威力が変わる。

 今のは「ハイパーショット」による、最大出力の物。

 

 もっとも、放つビームは魔力ビームであり、本体内部が傀儡兵やデバイスの延長線上で作られているので、魔法のように非殺傷設定を使う事が出来る。

 物資搬入口に居た転生者達も、よく見れば気絶しただけだ。

 

 「非殺傷設定か………まったく、殺す覚悟も無しに戦場に出るなど、貴様も戦士なら覚悟を決めたらどうだ」

 

 だが、それが他の転生者は気に入らなかったらしく、拓海の行動をあげつらう。

 

 『お生憎様、俺は戦争をやっているつもりは無いし、戦士になるつもりも無い!』

 

 だが、そんな「殺す覚悟」なんて物は拓海からすれば、前世を含めて見たインターネットの創作物で腐る程見た説教であるし、拓海からすれば「いちゃもん」の域を出ない。

 むしろ、拓海の居た時代では「時代遅れ」扱いされている物である。

 

 「とうとう出やがったか!ゴミクズめ!」

 「なのはの隣はお前の居ていい場所じゃねえんだよ!」

 「フェイトは俺の嫁だ!近付かれる前にぶち殺せ!」

 「ハーレム野郎は許すな!殺せ!」

 

 口々に、ジェミナスを取り囲む転生者達が、中にいる拓海に向けて罵詈雑言を飛ばす。

 が、その内容は拓海基準で言うとどこか古臭く、まるで昔の某掲示板にいるようだ。

 

 思えば、拓海が前世で生きた最後の時代では「リリカルなのは」は映画化こそ果たしたものの、周囲の扱いとしては既に過去の作品であった。

 それを考えると「リリカルなのはの世界に転生させろ」と言う世代も、限られてくるのではなかろうか。

 

 「君らがどう思おうが………関係ないッ!」

 

 だが、そんな事は今はどうでもいい。

 目の前の転生者達が自分を殺そうとするなら、自分もそれなりの答えを返すまで。

 

 『傀儡兵全機出撃!リリカル出番だぜ!!』

 

 ストレイジが飛ばした号令により、物資搬入口から傀儡兵やドローンがわらわらと出てくる。

 まるで、「リリカルなのは」の「時の庭園」のよう。

 

 数では、拓海の方が勝っている。

 だが、眼前の有象無象はその一つ一つがオーバーSランクの魔導師か、そうでなければロストロギアレベルの驚異。

 いくら数で勝り高性能な傀儡兵とはいえ、彼等からすればただの的に等しい。

 

 「全軍………突撃だぁぁ!!」

 

 けれども、最早拓海に退路はない。

 ジェミナスが、アクセラレートライフルのように魔力で構成されたビームソードを引き抜き、突撃。

 無数の傀儡兵とドローンの大群を率いる姿は、まるで無双ゲームの将軍にも見えた。

 

 「うわああ?!」

 「なんだこいつ………ひぎゃあ!!」

 

 転生者達は、ジェミナスを見くびっていた。

 いくらガンダムとはいえ、小回りの効く自分達の敵ではないと。

 

 だが、拓海はこのジェミナスTSを対転生者用の機体として完成させていた。

 バルカンを含む全ての武装を魔法に適応させている。

 並べて、ストレイジによる操縦サポートや、傀儡兵と同じようにユニオンベースの地下の「炉心」からエネルギー供給を受ける事によるパワー。

 

 並べて、転生者側が満身しきっていた事もあり、ジェミナスによる所見殺しは成功した。

 ビームソードを一振りしただけで、何人もの転生者がバリアジャケットを破壊される程のダメージを受け、落下してゆく。

 無論非殺傷設定の為、相手が死ぬ事もなく、「V」のネネカ隊のような悲劇も起こらない。

 

 「やれる………!」

 

 ………この時、拓海は気付くべきだっただろう。

 今の自分が、彼等のように慢心していた事。

 そして慢心は、敗北に繋がると。

 

 『んなワケねぇだろイキリがァ!!』

 

 瞬間、上空より降り注ぐ槍と光線。

 咄嗟にストレイジが、リアクティブシールドで防御。

 拓海が攻撃されたと気付いたのは、それからだった。

 

 「あれはッ!?」

 

 見上げる。

 その先にあったのは「Fate/zero」で一躍有名になったアーチャー・ギルガメッシュの数ある宝具の一つ・ヴィマーナ。

 そして拓海からすれば、鎌瀬が逃走に使ったアイテムであり、やはりそこには………。

 

 「鎌瀬か!懲りもせずに!」

 「うるせぇ!俺の人生を台無しにしやがって!」

 

 やはりそこには、鎌瀬が乗っていた。

 そのオークかトロールを彷彿とさせる醜悪な外見で、美しいヴィマーナに乗っているのはシュールの極み。

 だが、それよりも拓海の目を引き付ける物があった。

 

 それは、一見すると何かのオブジェのようにも見えた。

 だが拓海は知っている。

 ヴィマーナを囲む四つの宇宙船が、何なのかを知っている。

 

 「合体開始だァ!!」

 

 ヴィマーナが、宇宙船の一つに吸い込まれる。

 そして宇宙船を中心に、他の宇宙船が合体。

 

 腕が広がる。

 足が飛び出す。

 頭こそ無かったが、それは明らかに人の形をしていた。

 まあ、当然である。

 「それ」を作った「宇宙人」は、設定が変わりつつも人の形をしていたのだから。

 

 その、黄金に輝くペダニウムのボディを持ったロボット怪獣は、地響きを立てて大地に降り立った。

 

 「そんな………あれと、キングジョーと戦うのか!?」

 

 名を「キングジョー」。

 初登場作品の「ウルトラセブン」より、ゼットンと並んで強豪怪獣の代表としてその名を轟かせるロボット怪獣。

 

 鎌瀬が、拓海を殺す為に用意した最終兵器。

 そして拓海の前に立ちはだかった「最後の壁」は、あまりにも強大であった。



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第25話

 

 ぐしゃあっ!!

 

 ジェミナスの右腕が引き抜かれた。

 まるで、幼子が虫の足を引きちぎるかごとく、キングジョーはジェミナスを弄び、破壊する。

 

 やがて、達磨にされたジェミナスは乱暴に地面に叩きつけられた。

 

 「うぐあっ!?」

 

 強烈な振動に襲われ、コックピットに全身を叩きつけられる拓海。

 四肢を失い、バックパックも潰されて身動きの取れないジェミナスを、転生者達は見逃さない。

 

 「今だ殺れェ!!」

 

 鎌瀬の号令と共に、転生者達はジェミナスに対して攻撃を浴びせる。

 実刀が、光が、次々とジェミナスに襲いかかる。

 

 「うわあああ?!」

 

 咄嗟に、拓海はラウンドブロッカーで防御した………が、あの日の鎌瀬戦とは違い、ラウンドブロッカーは拓海を守りきれなかった。

 拓海が披露していたというのもあるが、降り注ぐ攻撃を前に魔力バリアはバリンと破れる。

 そして、ラウンドブロッカー自体もヒビが入り、砕けた。

 

 「ぎゃあっ?!あ、がががっ!?」

 

 守るものの無くなった拓海に、転生者の攻撃は容赦なく襲いかかる。

 コックピットに向かってきたビームがコックピットハッチを破壊し、拓海に突き刺さる。

 激しい痛みと衝撃が、全身を打ち付けた。

 

 そして………それでも拓海は死ななかった。

 奇跡が起きたのではない。

 転生者達は、拓海を楽に殺そうとはしていなかった。

 今までアリサ達美少女の寵愛を受けていた(ように見える)相手だ、なるべく苦しめて、なぶり殺しにしようとしていたのだ。

 

 「あ………う、ぐ………」

 

 ジェミナスは、意気揚々と物資搬入口から現れた勇ましい姿が、嘘に思える程痛ましい姿をしていた。

 四肢を引き抜かれ、全身から血のようにオイルを吹き出している。

 

 引き裂かれたコックピットから覗く拓海の姿も、また痛ましい。

 

 もはやバリアジャケットはその機能を失い、ボロボロになったインナーとズボンを残し、消滅。

 ラウンドブロッカーは破壊され、ストレイジもひび割れている。

 そして拓海は、全身の傷の痛みを感じながら、虚ろな目で上空を見上げていた。

 

 操縦桿を握る所か、ストレイジを振るい戦う事さえ難しいだろう。

 

 「(………まるで、マジンガーZの最終回だな)」

 

 眼前に写る、こちらを取り囲む転生者の集団を前に、拓海はそんな事を考えていた。

 

 アニメ「マジンガーZ」の最終回。

 無敵のスーパーロボット・マジンガーZは、新たなる敵・ミケーネ帝国の戦闘獣を前に完膚なきまでに叩きのめされ、破壊されてしまうのだ。

 それまで無敵のヒーローだったマジンガーZの敗北は、当時の子供達にトラウマと衝撃を植え付けた。

 

 だが、新たなるヒーロー「グレートマジンガー」が現れ、マジンガーZのピンチを救うというのが、アニメの流れ。

 だが、拓海の味わっている「現実」はというと。

 

 「(グレートマジンガーは………来てくれそうに無いな)」

 

 どうやら、白馬の騎兵隊は駆けつけてくれそうに無い。

 このまま、拓海は自身がなぶり殺しにされる未来を予見した。

 

 『………マス………ター………』

 「ごめん………君を遠くに転送させるのも無理そうだ」

 

 ストレイジも、発する声にノイズが混ざっている。

 ストレイジを逃がす事すら出来ない拓海は、ふうとため息をつき、空を見上げた。

 

 「………楽しい、9年間だったな」

 

 思い浮かぶのは、記憶がはっきりしてからの思い出。

 いつも拓海の面倒を見てくれた言葉。

 かけがえのない友達である、アリサ達。

 

 彼等のお陰で、30年間の灰色の記憶が嘘のように、幸せな日々を過ごす事が出来た。

 キモくて金のない子供部屋おじさんには、贅沢すぎる程に。

 

 「だから………もう、十分だよ」

 

 今なら、拓海は胸を張って言える。

 満足のいく人生だったと。

 幸せな人生だったと。

 9年間も幸せでいられたなら、十分過ぎる程だ。

 今なら、死も怖くない。

 

 眼前でキングジョーが、頭部にエネルギーを溜める。

 本来は対怪獣・ウルトラマンに使われる光線「デスト・レイ」を放つつもりだ。

 

 通常の人間なら消し炭になるが、奴等がそんな楽な死に方を与えてくれるとは思えない。

 

 自分は苦しみ抜いて死ぬ。

 それが解っていても、拓海は心穏やかでいられた。

 

 「………みんな、ありがとう」

 

 ゆっくりと、拓海は目を閉じる。

 これまでの幸せな9年間に、感謝を込めて。

 

 その瞼から一筋の涙が流れ、デスト・レイが放たれようとした、その時。

 

 

 

 「ストップだ!!」

 

 

 

 がつんっ!!

 

 「それ」は、キングジョーの頭部に殴り付けるように激突し、その巨体を倒す。

 「雷」がごとき閃光を引いて、「それ」は、破壊されたジェミナスを庇うように、大地に降り立つ。

 

 「あれは?!」

 「あいつ!来やがったか!!」

 

 転生者達が、口々に騒ぐ。

 憎しみを込めて、嫌悪感を露出させ。

 

 「あれ………は………?」

 

 拓海も、その登場には驚いていた。

 キングジョーの攻撃を妨害し、自分を守るように立つという、どう見ても援軍としか思えない存在の登場に。

 

 ………一瞬、ジェミナスと同じガンダムかと思ったが、それは違う。

 前に突き出た二本の角と、バイザータイプのカメラが輝く頭部。

 

 拓海は、それを知っていた。

 少し前に話題になった、中国で作られたロボットゲーム「ハードコア・メカ」に登場する「メカ」の一体。

 主人公の操る「サンダーボルト」だ。

 

 そして、そのパイロットは。

 

 『いつもいつも肝心な所で邪魔しやがって!クロノ・ハラオウンッ!空気が読めんのかてめえは!!』

 

 立ち上がったキングジョーから、鎌瀬が口汚く罵る。

 

 『生憎、悪党の空気なんて読まないものでね』

 

 だが「彼」は、そんな鎌瀬をスマートにあしらう。

 

 彼の名は「クロノ・ハラオウン」。

 「時空管理局」の執務官であり、「アースラ」チームの切り札。

 「リリカルなのは」においてはメインの美少女達の影に隠れがちだが、「なのは」「フェイト」と並んで、管理局最強の魔導師とも云われている。

 

 そして………故に、なのは達を好きにしたい、鎌瀬達転生者達からすれば、憎しみを向けられる相手だ。

 

 「KY死ねよやァ!!」

 「お前はここにいちゃいけないんだ!!」

 

 転生者達が、サンダーボルトに向けて殺到する。

 

 「………S2U」

 『OK』

 

 だが、クロノの判断は早かった。

 相棒でもあるストレージデバイス「S2U」の操縦サポートを受けつつ、操縦桿を前に倒す。

 

 なんという動きだろうか。

 サンダーボルトより遥かに小さい転生者達の攻撃を、クロノはまるで舞うかのように回避してゆく。

 力任せにビームソードを振り回していた拓海とは、えらい違いだ。

 

 雑魚には興味がない。

 そう言うかのように、サンダーボルトは転生者達の攻撃を掻い潜り、再び立ち上がったキングジョーに飛びかかる。

 

 「はあっ!」

 「ちいっ!」

 

 ばちぃぃっ!

 

 サンダーボルトのエナジーブレードが、キングジョーの拳とぶつかり合う。

 サンダーボルトはキングジョーより遥かに小さいが、押されているのはキングジョーの方だ。

 

 『おのれKYがぁぁ!!』

 『犯罪者が言えた口か!』

 

 かつて一蹴され、それでも懲りない鎌瀬に、クロノは呆れるように言い放った。

 

 「KY野郎が気を取られている隙に!」

 

 他の転生者達は、キングジョーと交戦中のサンダーボルトに、攻撃の矛先を向けた。

 味方の鎌瀬を巻き込む事になるが、それでもクロノを始末したいという思いの方が勝っていたし、何より鎌瀬とは拓海抹殺の為の一時的な同盟であり、死んだとしても何も思わない。

 

 だから、何の躊躇いもなく引き金を引こうとした。

 

 「あがっ?!」

 

 その時、転生者の一人が切り裂かれた。

 

 「非殺傷設定よ、感謝なさい!」

 

 気を失い落下してゆく転生者を前に、「彼女」は言い放つ。

 

 「え………ええ?!」

 

 拓海は驚いた。

 無理もない。

 そのピンクを基調としたバリアジャケットを身に纏い、炎を放つ剣型のデバイス「フレイムアイズ」で転生者達を切り裂くその魔法少女の姿は、どこからどう見てもアリサそのものだったからだ。

 

 「なんでアリサがここに居るんだ?!」

 「とにかく止めろ!早く………」

 

 対処しようとする転生者達だが、彼等は次々と氷に包まれてゆく。

 5月だというのに、まるで真冬のような冷たさ。

 

 その超低温の中心にいる者。

 それは………。

 

 「………バイオリンを引くように、と」

 

 月村すずかだ。

 アリサと対になるような寒色のバリアジャケットに身を包み、手袋の形をしたデバイス「スノーホワイト」で魔法の冷気を巧みに操り、転生者達の動きを止めていった。

 

 何故、アリサとすずかが?

 何故、デバイスを?

 何故、ここにいる?

 

 色々な感情で頭がかき回された拓海は、こちらに近付いてくる転生者に気付かなかった。

 

 「高尾拓海死ねよやァ!!」

 「あっ!」

 

 転生者は、物理破壊設定にした魔力弾を拓海に放とうとする。

 バリアジャケットが破損した拓海には、それから身を守るだけの力は無い。

 

 「させねーよ!」

 「がぶあっ?!」

 

 が、その転生者は横から飛んできた爆発に吹き飛ばされた。

 見れば、こちらに向かってくる、ジェミナスより少し小さめの機体が一つ。

 

 「機動戦士ガンダムUC」に登場する、キャタピラのついた足を持つ小さなMS「ロト」だ。

 そして、コックピットから顔を見せたのは。

 

 「無事か拓海?!」

 「セント………!?」

 

 やっぱりと言うか、そこから顔を出したのは佐藤セントだった。

 一般武装隊のそれをベースに、スカートを短くしたバリアジャケットに、頭にジャミングゴーグルに似たゴーグルを被っている。

 

 「武装隊の皆さん!お願いします!」

 「任されよう!」

 

 ロトは、内部に人員を乗せるホバートラック代わりにもなる。

 中からゾロゾロと管理局の武装隊が出て来て、ジェミナスから拓海を連れ出した。

 

 「なんで、ここに………?」

 

 弱々しく、拓海は訪ねる。

 するとセントは、迷う事なくこう言った。

 

 「決まってんだろ!助けに来たんだよ!」

 

 それを聞いた瞬間、拓海は自らの意識を手放した。

 気を失う寸前、クロノのサンダーボルトが鎌瀬のキングジョーを撃破するのが見えた、気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 【ガジェットファイル】

 ・ジェミナスTS

 分類:モビルスーツ

 原典:新機動戦記ガンダムWデュアルストーリーG-UNITOG

 「量産型ジェミナス」をベースに拓海が改修を加えた機体。

 とはいえ、武装をオリジナルと同様にした事と、カラーリングの変更ぐらいしか行われていない。

 TSは「タクミスペシャル」の略。

 

 

 ・キングジョー

 分類:宇宙ロボット

 原典:ウルトラセブン

 「ウルトラセブン」と、以降のウルトラシリーズに度々登場する、「ペダン星人」が作り上げた侵略ロボット。

 鎌瀬が最後の切り札として用意していた。

 オリジナル同様の恐るべきスーパーロボットだが、性能に頼りきった鎌瀬はその実力を発揮できず、下記のサンダーボルトに一方的に叩き潰された。

 

 

 ・サンダーボルト

 分類:メカ

 原典:ハードコア・メカ

 ゲーム「ハードコアメカ」に登場する、地球軍の試作メカ。

 元は転生者が転生者特典として持ち込んだ物を時空管理局が接収・魔法に対応させた上で運用している。

 パイロットは主にクロノ・ハラオウンが務め、彼の専用機として扱われている。



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最終章「二度目の人生をリリカルで」
第26話


 

 「これ以上は手ぇ貸せへんねん」

 

 久々に白い空間で会った神様は、申し訳無さそうに拓海に謝った。

 邪悪の化身とも言うべきなんJ民の姿で陳謝されるのは、かえって不気味に見えてしまう。

 

 「ごめんな、ほんま」

 「いえ、神様のお陰で助かりましたよ、ストレイジにも出会えたし」

 

 神様の話によると、他の神様との会議の結果、一部の神性の拓海のいる「リリカルなのは」の世界に対する干渉を禁止するという事が決まった。

 その中に、この神様も含まれていた。

 

 「こっから先はニキ一人の手で頑張らなあかん………神様がこんな事言うのはあかん事やけど、応援しとるで」

 「………ありがとうございます」

 

 また、視界が目映くなってゆく。

 この神様と会うのもこれで最後だと思うと、どこか寂しい………気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拓海が目を覚ました時、そこから見えたのは宇宙空間だった。

 

 「おっ、気がついたか」

 

 セントに声をかけられ、自分がロトの中にいる事を思い出す。

 

 「セント………俺は………」

 「何も心配はいらん、あの人達は味方だよ」

 

 やがて、「その船」が見えてきた。

 が、原作と比べるとやや大きく、見慣れないユニットが増設されているのが見える。

 

 

 次元航行艦「アースラ」。

 クロノの母親である「リンディ・ハラオウン」提督が艦長を務める、時空管理局の誇る巡航L級8番艦・次元空間航行艦船だ。

 

 が、原典のそれよりも大型化しており、魔力ビーム砲等の原典にはないユニットが増設されている。

 拓海は「元からガンダムの戦艦っぽいと思っていた物が、本当にガンダムの戦艦になった」とも思ったりしていた。

 

 

 ………ここで、今まで度々名前の出た「時空管理局」について、軽く触れておこう。

 

 「リリカルなのは」の世界においては、超古代に次元世界間の魔法文明による戦乱の時代があった。

 それが終わった後に、未だに残る「ロストロギア」の総称で呼ばれる、様々なオーパーツや危険物の管理と、次元世界の平和維持を目的として作られた組織である。

 中心となったのは、戦乱の時代の後に台頭してきた新興勢力である「ミッドチルダ」であり、本部もその世界にある。

 

 が、戦乱の負の遺産・ロストロギアは様々な世界に潜んでおり、発動すれば次元世界一つが消し飛ぶような物がほとんどである。

 それに対処するのが管理局だが、ただでさえ次元世界は多く、その為に万年人手不足に悩まされている。

 

 ………その為か、拓海のストレイジの入手経緯等、キナ臭い事もやってたりする。

 まあ、大きな組織というのはそういう物なのだろう。

 

 

 やがて、拓海達はアースラのカタパルト………原典には無い場所にたどり着いた。

 拓海達の乗っていたロトと、クロノのサンダーボルト。

 そして、サンダーボルトに抱き抱えられている、半壊したジェミナスTSがアースラに降り立った。

 

 「肩貸すぜ」

 「あ、ありがと………」

 

 セントの肩を借り、拓海はロトから降りる。

 見れば、管理局の局員達が、ジェミナスに集まっていた。

 

 流石に修理は無理そうだが、何かの資料にでもするのだろうか?

 拓海が、そんな事を考えていると。

 

 「拓海ッ!」

 

 声を荒げ、拓海の名を呼ぶ強気な声。

 アリサだ。

 不安そうなすずかと共に、カツカツと靴音を立ててこちらに近付いてくる。

 

 「あ、アリサ………!」

 

 拓海は、アリサに聞きたい事があった。

 一つは、何故管理局にいるのか。

 一つは、何故デバイスを持っているのか。

 

 「リリカルなのは」において、アリサは後になのはが魔法少女である事を知るのだが、彼女自身は魔法に関わる事はない。

 ましてや、なのはのようにデバイス片手に魔法を使う事もない。

 

 それが、何故デバイスを手に魔法を使い、なおかつ時空管理局にいるのか。

 それを聞こうとした拓海だったが。

 

 「このッ………バカ犬!!」

 「べぶっ?!」

 

 ガスゥッ!!

 

 それより早く、アリサの手刀が拓海の脳天に叩き込まれた。

 「ああやっちゃった!」と言うように顔を手で覆うすずか。

 真横に飛んできた鋭い手刀に、目を見開いて驚くセント。

 そして、脳天に手刀を浴びた拓海は。

 

 「な、何するんだよ?!」

 

 こっちは怪我人だぞ?!と突っ込みを入れようとした拓海だったが、アリサは早かった。

 

 「アンタ、私達がどれだけ心配したと思ってんのよ?!」

 「ッ!」

 

 アリサの気迫に、拓海は出かけた突っ込みを引っ込める。

 

 「大体何よ?!自分は転生者だから私達の前から消える?!そんな理由で納得できるワケないじゃない!!」

 「で、でも………」

 「それに、前世に後ろめたい事があったから何?!そんなの関係ないじゃないの!じゃあ前世占いでトリケラトプスだった私は草食べなきゃならないの!?違うでしょ!!」

 

 ひとしきり叫び終えた後、ゼェゼェと息をするアリサ。

 その目は潤み、涙が浮かんでいる。

 そして、拓海の両肩を掴み、話を続けた。

 

 「アンタは………高尾拓海は、私達の同級生で、大事な友達なの………だから………頼りなさいよ、私達の事………!」

 

 やがて、アリサはグズグズと泣き出した。

 

 拓海は、前世において父親の説教で殴られる事があった。

 だがそれは、暴力で従わせる為の手段であり、説教の内容も形だけの薄っぺらい物だった。

 

 だが、アリサは違う。

 可能は本気で拓海を心配し、心の底から想っていた。

 そもそも、そうでなければオーバーSクラスの巣窟である転生者の群れの中に、飛び込んでいこうとは思わない。

 

 「………アリサの言う通りだぜ、拓海」

 「そうだよ、前世がどうあっても、私達は友達なんだから」

 

 セントもすずかも、想いは同じ。

 そしてここには居ないが、きっとなのはも。

 

 「み、皆………!」

 

 途方もない、途方もない友情の中に拓海は居た。

 それは、孤独な人生を過ごしてきた拓海には、想像もつかない程の温もりと、安心と、感動をもたらした。

 

 「………あの、そろそろいいかな?」

 「おわっ?!」

 

 突然、背後から声をかけられたアリサが、猫のように飛び上がった。

 そこに居たのは、クロノ・ハラオウン。

 

 彼等が友情を確かめあってる所に割り込む形になってしまい、バツが悪そうだ。

 

 「高尾高尾君、だね?」

 「は、はい」

 「初めまして………と言っていいかは解らないけど、時空管理局の執務官、クロノ・ハラオウンだ、よろしく」

 「こちらこそ………」

 

 クロノの握手に、拓海は素直に応じる。

 煮え切らない様子なのは、拓海が転生者………既に「自分の事をテレビアニメのキャラクターとして知っている」状態だと考えている事だろう。

 

 そして拓海も、クロノの事を知っている。

 彼が、心優しい人物だという事も。

 

 「まずは医務室で怪我を治してくるといい、その後、話をしよう」

 「話………ですか?」

 「君のこれからについてだ」



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第27話

 

 怪我の治療は、直ぐに終わった。

 治癒魔法を浴びせただけで怪我が塞がってゆく様子を見ると、ミッドチルダの技術はやはり地球を上回っていると、改めて感じる。

 

 そして、ストレイジも。

 

 『ストレイジ!完全復活でございます!』

 

 こちらもすっかり元通りに治してもらい、ご機嫌だ。

 

 「やけに騒がしいな、君のデバイスは………」

 「あ、あはは………」

 

 今拓海は、クロノに連れられてアースラの通路を歩いていた。

 応接室にて、艦長………言う間でもなく「リンディ」と、これからの事について話す為だ。

 

 アリサ達は、今日の所は自宅に帰る事になった。

 寸前まで、アリサは拓海に「もう無茶はするな」と口を酸っぱくして言っていた。

 

 「………んっ?」

 

 ふと、通路の向かい側から他の局員が歩いていた。

 制服ともバリアジャケットとも違う、防護衣に身を包み、名札には「カブラギ」と書いてあった。

 

 そして、その局員はいくつもの結晶体が入ったカプセルを乗せたワゴンを、ガラガラと押している。

 ジュエルシードか?とも思ったが、明らかに21個以上ある。

 

 「あの、何です?あれ」

 

 興味本位で拓海が聞いてみると。

 

 「あれ?転生者」

 「………はい?」

 「君が戦った転生者達だ」

 

 何の事だか解らない。

 そう言いたげな拓海に、クロノは解説をしてあげた。

 

 

 ………時空管理局が転生者を確認したのは、今から20年前の事である。

 

 最初の転生者は時空管理局に対して「他次元を支配しようとする悪の組織め!」と攻撃を仕掛けた。

 管理局側はなんとか説得しようとしたが、結果は二つの艦隊と魔導師を失い、転生者を撃破したというものだった。

 

 その後も転生者による攻撃は続いた。

 そのいずれも、オーバーSランクの魔力か、そうでなければロストロギア級の力を持った存在であり、管理局は苦戦と戦力の損失を繰り返した。

 希に逮捕も出来たが、どんな監獄に押し込んでも、しばらくすれば監獄を破壊して出てきてしまう。

 

 そんな転生者に対する最も有効的な逮捕・無力化手段として確率されたのが「圧縮冷凍封印」である。

 封印魔法を応用したその魔法は、対象の思考を凍結させ、小さなクリスタルの中に圧縮封印するという物。

 

 あのクリスタル………転生者「だったもの」は、この後次元監獄へと転送されるらしい。

 この魔法には解除の手段は現在無く、転生者達はおそらく未来永劫あの姿で眠り続けるのだろう。

 

 そう思うと、拓海は少し可哀想に思えた。

 しかし、彼等のもたらす被害を考えると、致し方あるまいとも言えた。

 ………実際、自分もそれで殺されかけたし。

 

 「ついたぞ、ここだ」

 

 そんな事を考えていると、応接室ドアの前に来ていた。

 

 「クロノ・ハラオウン、及び転生者・高尾拓海、参りました」

 『どうぞ♪』

 

 おっとりとした女性の声が帰ってくる。

 そして、プシュウと音を立てて扉が開く。

 

 「(………ああ、やっぱり)」

 

 そこは、SFチックなこれまでの風景と違い、和風チックな雰囲気が広がっていた。

 畳に鹿威し、それに座布団と抹茶に和菓子の茶道セット。

 

 アニメで見たまんまの光景に感動を覚えつつも、ある女性が拓海を出迎えた。

 

 「初めまして高尾拓海さん、このアースラの艦長の、リンディ・ハラオウンです」

 

 青い制服に身を包んだ、どこか某名作ホラーSLGのヒロインの一人に似た外見の女性。

 彼女がこのアースラの艦長にして、クロノの母親「リンディ・ハラオウン」である。

 

 ………拓海の前世の時代では、いわゆる「美少女ヒロイン」の扱いを受ける母親キャラクターが居るのは珍しくない。

 だが、ロリコン全盛期の時代において、クロノという15の子供のいる母親・リンディを美少女ヒロインとして出した「リリカルなのは」は、色んな意味で凄いと、拓海は考えた。

 

 「さあ、立ち話も何だし、座って頂戴」

 「あ、ども………」

 

 リンディの誘いを受け、座布団に腰かける拓海とクロノ。

 そこに、もう一人。

 

 「(………泉こなた?)」

 

 リンディの隣にもう一人。

 見知らぬ人物がいた。

 

 青い髪に眠そうな目。

 服装こそ白衣だが、それは「らき☆すた」の主人公である「泉こなた」にそっくりであった。

 

 無論「リリカルなのは」と「らき☆すた」は、年代が近い以外は何の接点もない他作品であり、泉こなたはリリカルなのはには登場しない。

 

 拓海が、そのこなたモドキについて気になっている事に、リンディが気付く。

 

 「こちらは、このアースラチームで技術長官をなさっている………」

 「プロフェッサーイズミ、気軽にドクと呼んでくれたまえよ」

 「ああ、どうも………」

 

 こなたモドキ………もとい「プロフェッサーイズミ」は、気さくに挨拶する。

 そして。

 

 「それにしても、ジェミナスだっけ?君のあのガンダム、すごいね、フレームからして傀儡兵の発展で作ってるというのが凄いよ、是非研究を………」

 

 典型的な科学者タイプだったようだ。

 拓海に、ジェミナスの事について畳み掛けるように聞いてきた。

 

 「ドク、ストップストップ」

 「へっ?」

 「拓海が困ってる」

 

 そしてクロノにストップをかけられ、大人しく引っ込んだ。

 

 そして状況が落ち着いた所で、リンディが一言。

 

 「では、拓海さんがこれからどうするかについて、話し合いましょう」

 

 カコーン。

 と、鹿威しが鳴った。

 

 

 リンディが拓海に対して示した選択肢は、二つに一つ。

 これから、民間協力者として時空管理局に関わるか。

 ストレイジを返却し、全てを忘れて一般市民に戻るか。

 どちらを選んでも、しばらくは監視と安全の為に、管理局から見張りがつくとね事。

 

 乱暴に聞こえるだろうが、拓海は転生者。

 これから先の未来に何が起こるかを、ある程度知っている人間だ。

 それは、やり様によっては世界を滅ぼす事も出来るのだ。

 管理局としては、当然の判断だろう。

 

 これに対する、拓海の答えは決まっていた。

 

 「………前者でお願いします」

 「………言っておくが、本来なら君は民間人だ、無理に協力する必要はない」

 

 クロノがそう言うが、拓海の意思は変わらない。

 

 「あなた方時空管理局には助けてもらいました、その恩返しもしたいですし、それに………ストレイジも大事な仲間です、離れるなんて出来ませんよ」

 『ま、マスター………!』

 

 デバイスは泣いたり笑ったりを表現する事は、あまりない。

 けれども、この場にいる四人には、ストレイジがぱああと笑顔になる様が見て取れた。

 

 『リリカル嬉しいぜマスター!俺も管理局には助けて貰った身だ!恩返しに付き合うぜ!!』

 「あ、ありがとう、ストレイジ」

 

 ストレイジの感激っぷりに若干引きながらも、拓海は嬉しそう。

 彼の得た「仲間」は、人間だけでは無かったのだ。



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第28話

 話を終えた拓海は、そのまま、海鳴の一角へと転送して貰った。

 ストレイジも一緒だがジェミナスだけは、アースラに置いて行った。

 プロフェッサーイズミが詳しく見たいらしい。

 

 あとクロノから「転生者の事については内密に」と伝えられた。

 原作「リリカルなのは」を知っている転生者には転生者の大体の見分けはつくが、原作の人物達はそうではない。

 それによる社会の混乱を防ぐ為との事。

 

 なるほど、漫画「デビルマン」の終盤のようになっては大変である。

 

 「………帰ってきたんだね」

 『そうでございますな』

 

 外はもう真っ暗だ。

 街頭に光が灯り、夜の闇が広がる静かな街。

 とても、あんな戦いがあった後とは思えない。

 

 帰りの道筋は知っていた。

 いつものルートを、いつものように歩き、我が家にたどり着く。

 

 家には、明かりが灯っている。

 きっと「彼女」だ。

 自身の正体を知り、軽蔑されると思ったが、それは杞憂に終わったようだ。

 待っていて、くれたのだ。

 

 がちゃり、扉が開く。

 

 瞬間、いつも拓海を包んでくれた甘い香りが、彼を出迎えた。

 そして、拓海の視線の先には。

 

 「………おかえりなさい」

 

 柔らかな笑顔で、拓海を待っていた桂言葉が、いつもそうするように拓海を出迎えた。

 

 「………ただいま」

 

 心の底からの、ただいまだった。

 もう一度、この暖かい場所に帰ってくる事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 言葉が聞いた話によると、アリサ達は拓海のようにデバイスを管理局から送り付けられ、ある時期からなのはと共にジュエルシードを巡る戦いに身を投じていたらしい。

 

 友達に秘密を隠していた事になるが、拓海もそうである為に、どうこう言える立場ではない。

 

 久々に食べた言葉のたらこスパゲティは、心の底から「おいしい」と言えた。

 拓海が帰って来た時の為に、言葉が用意していた物だ。

 

 ユニオンベースで一人食べた物とは違う。

 あたたかく、心の底から安心できる味が、そこにあった。

 

 「………おいしいね」

 「………そうですね」

 

 会話こそ少ないが、そこには間違いなく安心と、幸福があった。

 幸福とたらこを噛みしめ、拓海は久々の幸せを感じていた。

 

 ………自身を見つめる言葉の、何かを含んだ視線に気付かずに。

 

 

 

 

 

 

 

 久々の食卓を囲み、風呂を浴びた拓海。

 後は、明日に備えて寝るだけだ。

 

 明日からまた学校だ。

 そんな時、拓海はパソコンの前に置いたストレイジと、何やら話をしている。

 

 「………そういや俺、一月近く学校行って無いんだよな」

 『そうなるでございますな』

 「勉強の遅れ、大丈夫かなぁ………」

 

 気分が沈んでいて忘れていたが、そういえば拓海は一月近く学校に行ってない。

 その分勉強も進んでいる事を考えると、憂鬱な気分である。

 

 『まあいくら聖小とはいえ小学校だし、リリカルなんとかなりますよ!』

 「ストレイジぃ………お前他人事だと思って………」

 

 そんな能天気なストレイジに対し、呆れるように唸る拓海。

 まあ、実際他人事であるが。

 

 「………たっくん、ちょっといいですか?」

 「んっ?」

 

 その時、ノックと共に扉の向こうから言葉の声が聞こえてきた。

 はて、お休みの挨拶はもうしたし、何の用事だろう。

 

 「はーい、何です?」

 

 拓海が、自室への入室を許可した。

 がちゃり、と部屋の扉が開かれる。

 

 「な………ッ!?」

 

 思わず、拓海は目を見開いた。

 ドアを開き、そこに現れた言葉の姿。

 

 それは、下着姿の上からベビードールを着た、酷く扇情的な姿だった。

 薄く透けたベビードールから、みちみちに詰まった乳肉が見え、頬を赤らめている言葉も相まって非常にセクシー………というか、エロい。

 

 まあ、スクイズの公式から出た立体クッションでしていた格好なので、拓海にも見覚えはあった。

 だが、同時に前世ではかなりの比率で「オカズ」にしたイラストであり、目の前に本物として現れたそれのいやらしさは、イラストやクッションの比ではない。

 

 「こっ、こここ言姉ぇ?!その格好な、何ッ!?夏はまだだよ?!」

 

 混乱の中、そんなとんちんかんな事を口走ってしまう拓海に、言葉はじりじりとにじり寄る。

 

 一歩近寄られる度に、白粉とミルクが混ざったような甘ったるい香りが鼻をつく。

 それがエロマンガやエロ小説で言う所の「メスの香り」だという事に気付いた時には、もう拓海はベッドの側にまで追い詰められていた。

 そして。

 

 「………えいっ♡」

 「わぶっ?!」

 

 言葉は、拓海を優しく押し倒した。

 ベッドの上に倒れ込む二人。

 

 ………むにゅん♡

 

 「言姉ぇっ?!ちょっ!?おっ、おぱぱぱっ?!」

 

 ベビードール越しの乳房に挟まれ、拓海は甘い香りを直で吸う事になった。

 夢にまで見たJカップの巨乳だが、いざ対面となるとどうしてもパニックを起こしてしまう。

 

 というか、言葉はどうしたと言うのだろうか。

 彼女は恋愛には奥手なハズ。

 そもそも、自分はそういう対象として見られていないのでは無かったハズだ。

 それが、これではまるで………。

 

 「………あれから、ずっと考えてたんです」

 「へ、へっ?」

 「この、私の心に渦巻くモヤモヤの正体と、これからどうするべきなのかを………」

 

 いつもと変わらぬ声色で、なおかつ頬を高揚させながら、言葉は自身の胸の中に顔を埋める拓海に語りかける。

 

 「………思えば、最初からこうするべきでした………」

 

 吐息が顔にかかり、言葉の身体と密着した拓海の分身が隆起する。

 

 「もっと強く、私に繋ぎ止めておくべきでした………これで、周りが女の子だらけでも、安心です」

 「な、何を言って………?」

 

 何を言っているんだ。

 そう言おうとした拓海だったが、次の瞬間、拓海の口は言葉の唇に塞がれた。

 

 「んむう………ッ!?」

 「んちゅううっ♡♡」

 

 前世を含めても、これが拓海のファーストキスであった。

 

 「………私は、もう我慢しません♡」

 

 優しく、言葉がズボンを下ろす。

 その瞳は、原典のようにほの暗く濁る事こそ無かったが、代わりにハートマークが刻まれているような気がした。

 

 「………たっくん、大好きです♡」

 

 再び、唇と唇が重なりあう。

 言葉の一言で、どうやら拓海もタガが外れたようだ。

 次の瞬間、男と女と化した二人は、互いの唇を貪りあい、ベッドの上で絡み合う。

 

 二人の夜は、始まったばかりだ。

 

 

 ………翌日、破瓜の血でベッドが汚れてしまい、洗濯に苦労する事になるのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

きっと、彼等の日常はこれからも続いてゆく。

 けれども、この物語の幕は、ここで一旦閉じる事にする。

 また、会う日まで。

 

 

 

 

 

 

 

 【転生者名鑑】

 ・高尾拓海

 絵に書いたような負け犬人生の後、この「リリカルなのは」の世界に転生してきた転生者の一人。

 当初は平穏に過ごしていたが、鎌瀬の襲撃によって平穏は破られ、転生者達との戦いに身を投じる事となる。

 人並みに優しく、人並みに勇気もあるこれといって特徴のない性格。

 巨乳好き。

 

 ・転生者特典:魔力

 原典:魔法少女リリカルなのは

 有事に備えて「神様」が持たせていた、魔法の才能。

 あくまで自衛の為の物であり、飛び抜けて強いワケではない。




応援ありがとうございました
本日で最終回となります
好評なら続編やる予定です


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