イナズマイレブン 宇宙人(仮)でも護りたい (夜十喰)
しおりを挟む

プロローグ

以前から書いてみたかったイナイレ小説をようやく書くことができました。
拙い文ではありますが、楽しんでいただけると嬉しいです。


 

「ねえ!まってよ〜…!」

 

「おっせーぞ!はやくこいって!」

 

「そうだ。はやくしろ」

 

「ハァ…ハァ…ふ、ふたりがはやすぎるんだよ〜……」

 

 

 ここは何処か、具体的な場所の名前までは分からない。あるのは小さな丘とその上にそびえるかの様に生えた一本の巨大な樹。風に吹かれながら揺れる枝葉からはザワザワと心地の良い音が響く。

 そんな枝葉の揺れる音とは別に、地面に生えた草や土を踏み締め駆ける音が聞こえてくる。その音の主は小さな子供たちだった。

 

 子供たちの内、いち早く大樹の元にたどり着いたのは赤い髪の活発そうな少年と白い髪のクールそうな少年の2人。彼らは大樹の太い幹にタッチするとすぐに振り返り、自分たちが走って来た方向に視線を向ける。視線の先にはもう1人、こちらも赤い髪をした少年が顎を上げ、大きく息を乱しながら2人の元へ辿り着こうと必死に走って来ていた。

 

 やっとの思いで2人の元に辿り着いた少年は両膝に手をつきながら乱れた息を整える。汗が皮膚から離れ、雫となって地面にポタポタと滴り落ちている。

 

 

「ったく、おまえはほんっとなさけないなぁ!」

 

「まったくだ」

 

 

 気づけば先行していた2人は大樹を軽々と登り、太く伸びた枝に腰を降ろしたまま遅れて来た少年を見下ろしながら挑発とも煽りとも取れるような言葉を投げかける。

 

 

「うぅ....」

 

 

 2人の言葉に少年は瞳を潤ませ今にも泣き出しそうだ。溢れそうになる涙を必死に抑えようと歯を食いしばりズボンの裾をこれでもかと力強く握る少年。しかし、少年の抵抗も虚しくその瞳から大粒の涙が溢れ落ちる...正にその時だった。

 

 

「もう!ふたりともそんなこといっちゃ、め!だよ!」

 

 

 3人の頭上、つまり大樹に登り、枝に腰掛けていた2人の更に上から聞こえて来たのは大きく力強い()()()の声だった。

 

 声を聞いた3人が同時に顔を上に向ける。しかしそれと同じタイミングで何かが大樹の枝から飛び降り、下方の枝に腰掛けていた2人の視界を通り過ぎたかと思えば、地面にいた少年の目の前に突然現れた。

 

 3人の視界に現れたのは彼らと同じくらいに見える少女だった。煌びやかな銀の髪を頭の後ろ辺りで一本に結ったその少女は、見事な着地を決めて大きく手を広げながら涙目の少年を守るように立った。そして少女はその夜空をそのまま入れたように煌めく瞳を大樹の枝に座る2人に向ける。

 

 

「な、なんだよ!おまえはこいつのみかたすんのかよ!」

 

「みかたをするとかしないとかじゃないよ!なんでそんないじわるするの!」

 

「い、いじわるなんてしていない。そいつがよわくてなさけないからおれたちがしゅぎょうをつけてやってるんだ!」

 

 

 少女が2人に向けて否定的な行動をとると、慌てた様子で反論しながら枝から飛び降りた。少年少女たちの距離が一気に縮まり、少女はグイッと2人に自分の顔を近づけた。迫る少女の顔を見て2人は少し頬を赤く染めるとバツが悪そうに少女から顔を逸らした。

 

 

「しゅぎょうでもなんでも、ほんにんがいやなことをむりやりさせることをいじわるっていうの!」

 

 

 男子2人に対しても強気な少女に2人は圧倒され、その頬に冷や汗がスーッと一筋垂らした。そんな彼らに少女は更に詰め寄る。

 

 

「ほら!ふたりともあやまって!」

 

「わ、わかったよ...わるい...」

 

「おれたちがわるかった...」

 

 

 少女の強気に気圧され、2人は慌てながらも渋そうに少年に対し謝罪をするのだった。いや、するしかなかった。何故なら彼らは少女に嫌われたく無かったから。ただそれだけである。罪悪感ももちろん多少はあっただろうが、それよりも彼らにとって大切なのは彼女に対する好感度だったと言わざるを得ない。

 

 

「う、うん。もういいよ」

 

「うん!じゃあさいごにこれで・・・はい!なかなおり!」

 

 

 少年はもちろんその事に勘づいていたが、特に指摘することも無く謝罪を少年が受け入れた。すると唯一2人の謝罪の真意を理解していない少女は、満面の笑みを浮かべながら3人の手を取り強引に握手をさせるのだった。その行為に3人は驚きながらも少女の勢いについて行けずされるがままであったが、3人の握手する様子を見た少女の笑顔を見てむず痒そうに微笑むのだった。

 

 

 大樹の根元で4人の子供たちの無邪気な笑い声が響き渡る。大樹の周りをぐるぐると駆け回って鬼ごっこをしたり、だるまさんが転んだをやったり、もう一度大樹の枝に登って遠くの景色を眺めたり、その日4人は日が落ちる寸前まで遊んだ。その際に顔や身体のあちこちが土や草で汚れていたが、4人にはそれは些細なことでしか無く、彼らは今正に自由を謳歌していた。何者にも縛られず、何者にも支配されず、ただ純粋に、遊ぶ事だけを考えて。

 

 

「おーいお前たち!そろそろ帰るよー」

 

「あ、おとうさんだ!みんな、はやくいこ!」

 

 

 夕日が空の下に消え始めた頃、遠くから4人を呼ぶ声がした。少女は声の主を“おとうさん”と呼び、嬉しそうに向かって行った。それに続くように少年たちも彼女と同じように嬉しそうに“おとうさん”と呼びれた男の元へ駆け出した。

 4人が男の元へたどり着くと、男は4人をその大きな腕と身体でギュッと抱きしめる。4人はそれをとても幸せそうに受け入れ、自分たちも男を強く抱きしめた。

 

 

「さぁ帰ろう。みんなまっているよ」

 

「「「「うん!」」」」

 

 

 子供4人と男を含めた5人はそう言って歩き出した。途中、少年たちは男の手を誰が握るかで揉めたりしていたが、その様子を男は微笑ましそうに見守るだけだった。

 

 

 

 

 

   ***

 

 

 

 

 

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・!!」

 

 

 激しい呼吸と共にドタドタとテンポの速い大きな足音が夕日に染まった校舎の人通りがほとんど無くなった廊下に響く。音の主は中学生くらいの少女だった。緑がかった黒髪に今正に彼女照らしているのと同じ橙色のジャージを身に纏った彼女は、息が上がりながらもその足を休める事なく視線を左右上下に向けながら、何やらただならぬ様子で学校中を走り回っていた。

 

 ここは福岡県陽花戸中学校。かつて伝説と言われた雷門中サッカー部、通称『イナズマイレブン』を率いた“円堂大介”が通っていた学校である。

 しかし、今はそんな事はどうでもいい。重要なのはここが何処かと言う些細な物では無い。少なくとも()()()()にとっては・・・・

 

 

「みんな大変ッ!!」

 

 

 彼女は校内を隈なく駆け回った後、グラウンドに出てある場所を目指した。そこは青い素体に黄色のイナズママークが入った大きなキャラバン。そこは彼女たちの重要な拠点であり、少女はそのキャラバンの扉を勢いよく開けて中に入った。

 

 

「一体どうした。そんなに慌てて」

 

 

 中にいたのは多くの少年少女たち。彼らは普通では無い慌て様で入ってきた少女に視線を向けた。ドレッドヘアーを後ろで一つにまとめ、ゴーグルとマントをつけた少年が少女に対し何があったのか尋ねるが、先ほどまで全力疾走を続けていた少女はすぐに言葉を返す事ができず、その場で膝に手をつき、咳き込みながらもなんとか息を整えようとしていたり

 

 

「ハァ・・・ハァ・・・・・ゴホッ・・・ゴホッ」

 

 

 息を整えた少女が顔を上げる。その顔は全力疾走の影響で全体が赤くなっており、瞳には今にも溢れてしまいそうなほど涙が溜まっていた。その表情を見て中にいた者たちはただ事ではない事を悟る。

 

 少女は必死にその場で叫ぶ。その一言に全員が言葉を失い、その表情に少女と同じ焦りと不安の色が強く現れる事になった。

 

 

「円堂君が....円堂君がいなくなっちゃったの!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わりここは陽花戸中から少し離れた場所に位置するとある港近くの防波堤。目の前には広大に広がる水平線。まるで絵の具で塗りつぶしたようなあざやかな橙色の空。その光に照らされ煌めく海。自由気ままに吹く潮風。海の上を走る船。それらが一気に一望できるこの場所に、1人の少年がいた。

 

 頭にオレンジのバンダナをつけた少年は、何をするわけでも無くただ水平線を眺めながら、立てた膝に組んだ腕を乗せ、その腕に顔の下半分を埋めた状態で防波堤の端に座り込み佇んでいた。

 

 

 少年の名は“円堂 守”。弱小と呼ばれた雷門中サッカー部を短期間で全国制覇まで導いた正に伝説とも呼べる男だ。

 決して揺るがない彼の信念は味方に勇気を与え、決して最後まで諦める事の無い彼のプレーは味方を鼓舞し、決して尽きない彼のサッカーに対する熱意と愛は敵味方問わず魅了する。

 そんな彼の姿に心打たれた者は数えきれぬほどいるだろう。彼がこれまで積み上げてみたものはそれほどまでに揺るぎなく強固なものなのだ。

 

 

 しかし、今の彼の姿はそんな面影を一切感じられぬほど陰鬱な雰囲気で満ちていた。その瞳には光が灯っておらず、表情は生気が抜け立てたようなに暗く沈んでいる。

 

 

「・・・・・」

 

 

 波のさざめきだけが辺りに響き渡る中、夕焼けの水平線に彼は今日までの出来事を映し出して思い返していた。

 

 

 彼がこの場所へ至るまでそれはもう様々な事があった。中学生サッカー日本一を決める大会『フットボールフロンティア』。その大会で彼の率いた雷門中イレブンは見事優勝し、初の全国制覇を成し遂げた。が、優勝の余韻も冷めないまま雷門に戻った彼らを待っていたのは、絶望的で、圧倒的で、果てしない理不尽なまでの“強さ”と“悪意”だった。

 

 

───“エイリア学園”

 

 

 突如現れた彼らは自らを“宇宙人”だと名乗り、自分たちは地球侵略を目的としてこの地に来たと言った。彼らが侵略の手段として選んだのは“サッカー”。彼らの持つ黒いサッカーボールはその圧倒的な破壊力で雷門中の校舎を破壊し、あっという間に円堂たちを恐怖と絶望へと叩き落とした。

 

 

 彼らはそんな圧倒的な存在に果敢に立ち向かった。何度も惨敗し、それでも諦めずに立ち上がり、また負けて、また立って、負けて、立って...

 

 その途中、彼らは何度も失う事を経験した。初めてエイリア学園と戦った時には仲間の多くが怪我によりチームを離脱。その後、地上最強チームを作る為に新たな監督である“吉良 瞳子”と共に雷門イレブンは日本全国へと旅立ったものの、旅の最初の目的地となった奈良では、円堂の大親友であり、雷門の10番を背負い幾多の試合を共に戦ったエースストライカー“豪炎寺修也”までもを失う結果となってしまった。それでも彼は必死に前を向いた。顔を上げ、親友の帰る場所を守ると別れたその日自らの心に誓った。

 

 それから雷門イレブンは日本各地を巡り、エイリア学園に対抗できる能力を秘めた人材を次々と集めて回った。その旅の道中では円堂にとって信頼できる()()にも巡り会う事が出来た。そんな出会いと別れを繰り返す中で彼らは飛躍的に成長し、そして遂にはあのエイリア学園を倒すまでに至った。

 

 それでもまだ全てが解決した訳もなく、喜びも束の間、次から次に新たな敵が彼らの前に立ち塞がった。それでも彼らは壁にぶつかる度に強くなり、敵と戦う度に選手として、そして人として、大きな成長を遂げていった。

 

 ここ福岡にも彼らは新たな成長のヒントを求めてやって来た。円堂守の祖父、円堂大介が残したとされる『究極奥義の記されたノート』。それを探しに来た陽花戸中で彼は更なる衝撃的な出会いを果たした。彼が出会った人物は“立向居勇気”、その少年は円堂守の代名詞とされる必殺技『ゴッドハンド』を独学で習得した男だった。ノートと、そして彼との出会いで円堂はまた1つ大きく成長し、新たな一歩を踏み出そうとした正にその時、彼の前に現れたのはこの旅の途中で彼が出会い、そして友となった───“吉良ヒロト”だった。

 

 円堂たちの前に現れた彼は仲間たちと共に雷門中とサッカーをしに来たと言った。それはもうごく自然に。まるで友達を遊びに誘うような感覚で。

 彼は自分の正体を円堂に明かした。自分はエイリア学園最強のチーム『ジェネシス』のキャプテン“グラン”であると。試合の申し込みを受けた円堂たち、彼らはその時今の自分たちならエイリア学園最強のチームにも勝てる。そう思っていた。

 しかし彼の、彼らの力はこれまで円堂たちが戦って来たエイリア学園のチーム、『ジェミニストーム』『イプシロン』の2チームとは比べ物にならないほど異次元の強さだった。その圧倒的な力の前に、円堂たちは無残な敗北を喫した。

 

 

 そしてその試合を機に、彼を更なる悲劇が襲う。

 

 雷門中サッカー部として、はじめての試合から共に戦って来た彼の大切な仲間が1人、そしてまた1人と続け様にチームを離脱したのだ。“風丸 一郎太”そして“栗松 鉄平”、この2人の離脱は円堂の心に深い傷を残した。

 それだけではなく、地上最強チームを作る旅の中で出会った新しい仲間、“吹雪 士郎”が抱える問題に気付きもしなかった事も、キャプテンという立場である自分自身が強く責め立てた。

 

 

「半田...マックス...影野...少林...宍戸...豪炎寺...染岡...風丸....栗松....」

 

 

 円堂が口にしたのはエイリア学園との戦いの中で別れる事となった仲間たちの名前だった。自分が守れなかった者たち、そして抱えていた不安、悩み、葛藤、それらに気づかず分かってやれなかった者たちの名前。

 フィールドでボロボロになって倒れている彼らの姿を、次第に遠くなって行く背中を、円堂は今でも鮮明に覚えていた。

 彼らだけでは無い。破壊されて行く校舎も、泣き崩れるいろんな学校の生徒たちも、サッカーで傷つき倒れて行く人たちも、それら全ての悲しみが今、円堂に重くのしかかっていた。

 

 

「(吹雪....俺はあいつの事を何も知らなかった。分かった気でいただけだった...あいつがあんなにも苦しんでたのに....)」

 

 

 頭の中で後悔を綴る。一度溢れ出した後悔は止まる事を知らない。円堂の心が後悔という闇に支配されて行く。

 

 

「(サッカーを破壊の道具に使うエイリア学園を、俺は許せない。....でも.....それでも....もう...嫌だ.....)」

 

 

 これ以上仲間を失いたくない、ヒロトたちと戦ったらまた誰かを失うかもしれない、もし戦って勝ったとしても、エイリア学園にはまだまだ俺たちの想像を遥かに超える敵がいるかもしれない。そんな考えが円堂の頭の中をぐるぐる回る。

 

 

「(何がキャプテンだ....何がゴールを守るだ....俺は何も守れない...俺は...俺....は.......弱い....)」

 

 

 円堂は立てた膝と体の間に顔を埋めた。心が負の感情に満ちて行く中で、自分の未熟さ、愚かさ、そして弱さを感じながら、彼は静かに涙を流した。

 

 

 

 

 

「────見ないんですか、夕焼け」

 

 

 

 すると突然、隣から声がした。その声は明らかに自分に向けて聞いているのだと円堂は理解し、暗い表情のまま、ゆっくりと顔を上げて隣に視線を移す。

 

 

 そこにいたのは1人の少女だった。潮風に吹かれた長い長い銀色の髪は夕日の光を浴びて燦然と輝いており、その夜空のように深く澄んだ瞳は円堂を真っ直ぐ見つめている。

 

 不思議と円堂はその少女から目が離せなかった。容姿の雄麗さもさることながら、それ以上に円堂が感じたのは少女の持つ異質の雰囲気。初めて会ったにも関わらずどこか懐かしいような、心安らぐような、そんな感情を円堂はいつのまにか心に抱いていた。

 

 

「・・・・・・君は──」

 

「ふふっ、良かった。あまり深刻そうな雰囲気だったから、今にも身投げしちゃうんじゃないかって心配だったんだけど・・・・・うん、大丈夫そうだね」

 

 

 円堂の言葉を遮り、身投げという不吉なワードをあっさりと口に出した少女は、円堂の表情を見て軽く微笑んだ。元々身投げなどするつもりは微塵もなかった円堂ではあったが、それでも何をどう見て大丈夫だと判断したのか円堂には理解して出来なかった。しかし少女の一眼見て、これまで自分の心を支配していた負の感情が無くなっていたのは事実だった。

 

 

「・・・君は一体誰なんだ」

 

 

 円堂のその問いかけに、少女はまた軽く微笑みながら返した。

 

 

「私は君の大ファンだよ・・・・───()()()()

 

 

 少女はまだ名乗ってもいない円堂の名前を口にして、そう答えた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。